メキシコ混迷の一途 麻薬撲滅作戦
メキシコのカルデロン大統領が進める大規模な麻薬撲滅作戦が、麻薬組織側の反撃によって
混迷の度を深めている。5月には首都メキシコ市で麻薬取り締まり担当高官が暗殺されるなど、
連日のように流血の事態が続いた。野党側からは、投入した軍の引き揚げを要求する声も
出始めたが、麻薬流入を懸念する米国との関係を視野に政権側は一歩もひかない構えだ。
昨年12月の就任とともに、カルデロン大統領は長年にわたって国家的課題だった麻薬組織の
撲滅を宣言。警察に加え、史上初めて軍を取り締まりに投入し、2万5000人に及ぶ兵士や
警察官を動員した。
政府側によると、当局はアジトとして使用されていた首都のマンションを急襲して2億ドルに
上る不正資産を押収し、麻薬組織側の1000人以上が死亡した。
しかし、組織側の反撃も春ごろから激化。5月には、任命されたばかりの麻薬取り締まりに
関する情報機関の長官が、首都を移動中に射殺される事件も発生した。
フランス通信(AFP)によると、麻薬問題での組織側の反撃による犠牲者数も今月11日までに
1382人に達し、衝突の深刻さは過去数年では例がない事態となっている。うち134人には
拷問された形跡があり、警告のメッセージが遺体に残されるケースも多数あった。
殺害の場面はインターネット上で流され、政府高官は「麻薬組織が国際テロ組織アルカーイダの
手法に学んだことは明らかだ」と強い懸念を示している。
こうした状況に、革命民主党(PRD)など野党は16日、「軍を投入しての作戦は逆に被害を
拡大させる結果につながっている」と批判、軍の引き揚げを要求した。
AP通信によると、メキシコの麻薬組織全体の収入は、約240億ドルと推定され、同国の原油
輸出高(05年は283億ドル)にも匹敵する。米高官は同通信に対し、「米国境での麻薬押収量は
過去半年で2〜3割増加した」と懸念を強めている。
米テキサス州に近いメキシコの町フアレスで5月31日、大麻栽培を取り締まるメキシコ軍兵士(AP)
http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070626/wld070626001-1.jpg メキシコ麻薬戦争に関するの一連の動き
5月 9日 観光地アカプルコ付近の町で警官に変装した犯人によって地元警察幹部が射殺される
11日 北部ヌエボ・レラドの寺院で、手錠をかけられたまま射殺された2人の遺体が、麻薬組織の
メッセージとともに発見
13日 米国境沿いティファナ郊外で包装紙に包まれた男性の死体が見つかる。麻薬組織
特有の拷問の跡
14日 麻薬取り締まりに関する情報機関長官がメキシコ市で移動中に待ち伏せされ射殺される
16日 北部ソノラ州で麻薬シンジケートと軍、警官隊が衝突、双方で22人が死亡
21日 数百人の警官が身辺保護の強化と手当の増額を求めてスト
24日 ソノラ州の新聞社が極度の治安悪化を理由に休刊
6月 2日 シナロア州で、麻薬取り締まりにあたっていた軍部隊が、民間車両に発砲し、5人が死亡
http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070626/wld070626001.htm