1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
ワアァァァァァ……!
「大番狂わせが起こったぞ!」
「ひっ! ひぃぃっ! たっ、助けてくれぇっ!」
「しょせんはこの程度か……」
「俺が相手になってやる」
「お前のせいで大損だ! 命で償ってもらうからな!」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:15:00.14 ID:IWTz0UoZ0
うわあ・・・・・
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:15:10.88 ID:Y4YoRtRb0
…
……
………
弟子「師匠、村がありますよ!」
師匠「おう」
弟子「ただ、仕事がもらえるような感じではないですね」
師匠「まぁいいさ。さびれた村はそれだけ宿代も安いからな。
しばらく滞在するのも悪くないだろ」
弟子「前の町での用心棒の仕事で、けっこう稼げましたからね」
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:15:41.92 ID:5EZZMjFE0
?
・・・・ん?
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:16:14.96 ID:Zg3e+E1+O
ドモンと東方不敗だな
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:18:10.78 ID:Y4YoRtRb0
村の中──
村娘「やめてったら!」
チンピラ「ちょっと一緒に茶を飲むくらい、いいじゃねえかよ」グイッ
子分「悪いようにはしないっすから」
村娘「イヤだってば!」ブンッ
村娘のパンチは、チンピラにあっさり受け止められた。
チンピラ「へへへ、無駄な抵抗はやめとけって」
村娘「くっ……このぉっ!」
ガンッ!
村娘の蹴りがチンピラの股間に当たった。
チンピラ「あうっ!」
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:18:43.17 ID:sT/YGfttO
……
………
弟子「師匠、ピンサロがありますよ!」
師匠「おう」
弟子「ただ、ポン引きが言ったような感じではないですね」
師匠「まぁいいさ。さびれたピンサロはそれだけ安いからな。
しばらく滞在するのも悪くないだろ」
弟子「前の町でのピンサロ、けっこう当たりでしたからね」
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:21:29.67 ID:Y4YoRtRb0
チンピラ「や……やりやがったな!」グオッ
チンピラが村娘の胸ぐらを掴む。
師匠「そこまでにしときな」
弟子「やめるんだ!」
チンピラ「なんだ、てめぇらは……?」
師匠「嫌がる女を力ずくでどうにかしようとする……。
世間では、お前のようなヤツをロクデナシっていうんだ」
チンピラ「なんだとぉっ!?」
弟子(師匠、かっこいいです!)
チンピラ「俺とやろうってのか? いっとくが俺は村で一番喧嘩が強いんだぜ?」
師匠「村で一番……ねぇ」フッ
チンピラ「あっ、笑いやがったな! くそっ、やってやろうじゃねぇか!
子分、お前はあっちのガキをやれ!」
子分「へいっ!」
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:24:11.03 ID:Y4YoRtRb0
チンピラと子分が襲いかかってきた。
師匠「ちゃんと手加減してやれよ」
弟子「はい!」
弟子は子分のパンチをかわすと、後頭部に拳を軽くぶつけた。
子分「うぐぅっ!」ドサッ
師匠に殴りかかるチンピラ。
チンピラ「おりゃあっ!」
ドガッ!
師匠はチンピラのパンチを、あえて腹で受け止めた。
チンピラ(ビ、ビクともしねぇ! どんな鍛え方してやがんだ……!)
師匠「こっちの番だな」
ガスッ!
師匠の右ストレートで、チンピラもノックダウン。
チンピラ「あがぁっ!」ドサッ
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:28:29.86 ID:Y4YoRtRb0
チンピラ「お、覚えてやがれっ!」スタタタッ
子分「夜道には気をつけるっすよ!」スタタタッ
弟子「さようなら!」
師匠「大丈夫か?」
村娘「う……うん」
師匠「俺たちは旅の格闘家だ。俺が師匠で、こっちは弟子」
師匠「しばらくはこの村に滞在するつもりでいるから、
あのバカどもがまたなんかやってきたら、遠慮なくいってくれ」
村娘「ありがとう」
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:34:23.17 ID:Y4YoRtRb0
村の宿屋──
弟子「えいっ、せやっ!」ブンッ シュッ
師匠「こんなところでも修業か。宿屋なんだから、あまりうるさくするなよ」
弟子「はい、すいませんっ!」
弟子「でも、ぼくは師匠の一番弟子として恥じない強さを身につけねばなりません。
体も大きくないし……せめて技を磨かないと!」
弟子「ぼく、師匠を誰よりも尊敬してるんですっ!」
弟子「ぼくの父も格闘家でしたが……まったく尊敬できない人間でした」
弟子「母はぼくが物心つく前に父のひどさに思い悩んだあげく病死し、
姉に至っては賭けで失ったと笑っていました」
弟子「しかも、父自身も裏社会の賭博格闘技に参加していた……。
金持ちの賭けの対象にされた格闘家同士が、
どちらかが動けなくなるまで戦う……。想像しただけでヘドが出ます」
弟子「そして……仮面をつけた格闘家と戦い、命を落としたと聞いてます」
弟子「一人ぼっちになったぼくを、師匠は弟子にして下さいました」
弟子「このご恩は、すごい格闘家になることでお返ししますから!」
師匠「………」
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:38:38.79 ID:Y4YoRtRb0
コンコン
弟子「ん? だれか来たみたいですね」
弟子「はい」ガチャッ
村娘「あの……」
弟子「あ、さっきの……」
師匠「どうした? まさか、あのチンピラどもが──」
村娘「いえ、そうじゃなくて……」
師匠「?」
村娘「あたしを弟子にして欲しいの!」
師匠「なに?」
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:43:27.10 ID:Y4YoRtRb0
師匠「……どういうことだ?」
村娘「あたし、これでも武道の本を読んだり、練習したりしてて……。
喧嘩なら男にだって負けない自信があったの」
師匠(たしかに……さっきチンピラに放っていた突きや蹴りは、
素人にしてはキレイだったな)
村娘「でも、結局チンピラにすら歯が立たなかったわ」
村娘「あたし、悔しくって……。あなたたちの強さが羨ましくて……」
村娘「あたしも弟子にしてもらえたらって……」
師匠「話は分かった」
師匠「だが、弟子にすることはできない。
俺たちは旅をしながら、修業や用心棒などをして生活している」
師匠「こんなヤクザな生活に、
村で平和に暮らしている女の子を巻き込むわけにはいかないからな」
村娘「………」
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:49:30.35 ID:Y4YoRtRb0
師匠「だが、まぁ……」
師匠「俺たちがいなくなった後で、
さっきのチンピラどもがお前に復讐してこないとも限らん」
師匠「俺たちがこの村にいる間だけ、ということなら……稽古をつけてやってもいい」
村娘「ホント!?」
師匠「俺たちは一、二ヶ月は滞在するつもりだ。
それだけあれば、さっきのチンピラくらい楽に倒せるようになるだろ」
村娘「ありがとう!」
師匠「しかし、問題は場所だな。
まさかこの宿屋で稽古をするわけにはいかないし……」
村娘「それなら大丈夫、村の外れに空き家があるの。
けっこう大きいし、仮の道場にするには最適のはずよ」
弟子「あなたは強くなることができ、ぼくたちも修業場所が確保できる……。
なるほど、これはいいかもしれませんね」
師匠「じゃあ、さっそく明日の朝から修業を始めるぞ。
7時に空き家に集合だ、いいか?」
村娘「はいっ!」
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:52:33.32 ID:Y4YoRtRb0
翌朝、宿を出た師匠と弟子は空き家に向かった。
村娘「おはよう、二人とも」
弟子「ずいぶん早いですね。7時までには、まだ30分もありますよ?」
村娘「初日から遅刻したら、まずいじゃないの」
師匠「張り切るのはいいが、張り切りすぎてバテるなよ」
村娘「分かってますって!」
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:55:27.26 ID:Y4YoRtRb0
師匠「とりあえず、実力を知りたい。弟子、相手してやれ」
弟子「ぼくがですか?」
師匠「ああ、ただし反撃するなよ」
師匠「村娘、お前はとにかく攻めて攻めて、攻めまくれ。
ただし目玉と金玉はナシ、だ。特に金玉は未使用品だからな」
弟子「し、師匠……」
師匠「じゃあ、準備はいいか?」
弟子&村娘「はいっ!」
師匠「始めっ!」
村娘「たあっ!」ビュオッ
弟子(けっこう速いな……)サッ
この村で最初の稽古は、村娘の右ストレートから始まった。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 19:59:20.54 ID:Y4YoRtRb0
村娘は必死に攻撃するが、全て弟子にサバかれてしまう。
村娘「はぁっ、はぁっ……」ヨロッ
師匠「よし、そこまでだ!」
村娘(強い……!)ドサッ
一発も当てられぬまま、村娘はぐったり倒れ込んでしまった。
師匠「どうだった?」
弟子「はい……。突きも蹴りも速いですし、力も女性にしてはですが、あります。
これなら、きちんとしたフォームを覚えれば昨日の二人ぐらいには
すぐ勝てるようになるかと……」
師匠「俺もだいたい同意見だ。
普段の野良仕事や自己流の練習で、基礎体力は身についているようだ」
師匠「ただし、攻めは単調だし、無駄な動きも多い。
だからこんな短時間であんなにバテてしまう。
10のスタミナを使って、2の動きしかできていないってことだ」
師匠「これで課題はハッキリしたな」
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:05:35.07 ID:Y4YoRtRb0
村娘が休んでいる間、師匠と弟子は組み手を行っていた。
弟子「せりゃあっ!」ビュッ
師匠「甘いっ!」サッ
ドガッ!
弟子「ぐぅっ……!(フェイントを見切られた上に、カウンター……!)」
弟子の動きは、村娘を相手にしている時よりずっと速かった。
しかし師匠の強さは弟子を全く寄せつけない。
足払いで転倒した弟子の顔面に、拳を寸止めする師匠。
弟子「ま、参りました……!」
師匠「ふぅ……。だいぶ腕を上げたな、少し本気になってしまった」
弟子「いえ……師匠には到底及びません」
村娘(この二人、本当にすごい……!)
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:11:37.89 ID:Y4YoRtRb0
呼吸が整った村娘に、突きや蹴りのフォームを教える師匠。
師匠「この体勢のまま、まっすぐ拳を突き出すんだ」
村娘「えいっ!」ブンッ
師匠「そう」
村娘「あ、なんだかすごく楽にパンチを打てる。
でも本で読んだのとずいぶんちがうけど、あの本間違ってたのかな」
師匠「いや、本のフォームもおそらく間違ってはいなかっただろうが、
他人に見てもらってなかったんだろう?」
師匠「だから練習をするうち、本人も気づかないうちにフォームがずれてしまい
どんどん我流の突きや蹴りになってしまったんだろうな」
村娘「なるほど〜」
弟子(さすがは師匠、教え方もうまいなぁ……)
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:18:35.35 ID:Y4YoRtRb0
師匠「よし、さっきと同じ修業だ。
村娘は攻めまくれ。弟子は反撃せず全てサバいてみせろ」
村娘&弟子「はいっ!」
村娘の攻撃は、先ほどとは見違えるようであった。
シュッ シュシュッ!
弟子(おっと、さっきとは全然ちがうや)
村娘(ホントだ。10のスタミナで10の動きができている、って感じだわ)シュッ
攻撃を当てるまではいかなかったが、師匠と弟子は村娘の才能に驚いていた。
師匠「そこまでっ!」
村娘「はぁ、はぁ、またダメだったわ……」ドサッ
弟子(さっきとは比べ物にならない動きだった。すごいな……)
師匠(ふ〜む、まさかここまでやるとは……)
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:20:43.56 ID:Y4YoRtRb0
夜になり、師匠と弟子は宿に戻った。
師匠「あの村娘、どうだった?」
弟子「すごいですよ。今日一日だけであんなに上達するなんて……」
師匠「ああ、格闘家の娘なのかもしれないな」
弟子「そういうわけでもないみたいですよ」
師匠「なに?」
弟子「村娘さんは、この村の村長の娘さんと聞いてます。
村長は特に格闘技はやっていないらしいですし……」
師匠「ということは、彼女自身が優れた才能を持っていたということか」
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:25:59.05 ID:Y4YoRtRb0
空き家が道場になってから、一週間が経った。
村娘(ここで、フェイントッ!)ヒュッ
弟子(しまっ──!)
村娘「ていっ!」
ガッ!
村娘の拳が、初めて弟子に当たった。
村娘「や、やっと当てられた……」ハァハァ
師匠「ほう、よくやった」
村娘「やったぁ……!」ドサッ
弟子「あ、倒れてしまいましたね」
師匠「やれやれ……」
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:31:26.02 ID:Y4YoRtRb0
師匠「さて、じゃあ技の伝授でも始めるか」
村娘「技?」
師匠「あまり大げさなのを期待するなよ」
師匠「特に流派を名乗ってるわけじゃないが、一応俺たちも独自のスタイルを持っている。
村娘にもそれを覚えてもらう」
師匠「弟子、やってみろ」
弟子「はいっ!」
弟子「ちょっと緊張しますね」ドキドキ
村娘「失敗したら笑ってあげる」
師匠「失敗したら破門な」
弟子「プレッシャーをかけないで下さい!」
弟子「師匠の拳法は、川の流れをヒントにして編み出されました。
──すなわち」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:37:05.65 ID:Y4YoRtRb0
弟子「清流のように穏やかに……」ユラ…
ゆるやかな、舞いのようなフットワーク。
弟子「激流のように力強く──」バババッ
一転、すばやく拳足を繰り出す。
弟子「そして──」
弟子「滝のような一撃を!」
ズバッ!
虚空に鋭い突きを決め、弟子が一礼する。
弟子「ど、どうでした……?」
村娘「すっご〜い、かっこよかった!」パチパチ
師匠「とりあえず、破門は免れたな」
弟子「今の動きが基本となります」
弟子「この基本の動きを身につけたら、あとは自分で技を磨くというのが
師匠のスタイルなんです」
弟子「ぼくと師匠の戦い方は、他の人から見たら流派が同じなのに
全然違うと思うかもしれませんが、根っこのところは同じなんですよ」
村娘「ふぅ〜ん」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:42:18.92 ID:Y4YoRtRb0
修業開始から二週間が経った。
村娘「清流のように穏やかに……」ユラユラ
村娘「激流のように力強く……」パパパッ
村娘(そして滝のような一撃を!)
村娘「はぁっ!」
パシュッ!
弟子「すごいです!」パチパチ
師匠「ぎこちないところはあるが、及第点だな」
村娘「あなたたちの教え方が上手いからよ」
師匠「さて、そろそろお前も腕試しがしたくなってきただろう。
しかも、俺たちではない相手と」
村娘「まぁね。でも、あなたたち以外に相手なんて──」
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:47:36.73 ID:Y4YoRtRb0
師匠「相手は俺が用意した」
村娘「え?」
師匠「入ってこい」
空き家に入ってきたのは、チンピラと子分だった。
チンピラ「よう、久しぶりだなぁ」
子分「久しぶりっすね」
村娘「あ、あんたたちは……!」
師匠「村娘、今からこいつらと試合をしてもらう」
チンピラ「もし俺らが勝ったら、てめぇら二人を存分に殴っていいんだよな?」
師匠「ああ」
弟子「二人って、ぼくもですか!?」
師匠「なんだ、妹弟子を信じられないのか?」
弟子「村娘さんの方が多分年上ですけど……信じますよ、もちろん」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:53:21.97 ID:Y4YoRtRb0
師匠「じゃあ、まず子分とからだ。両者、前へ!」サッ
チンピラ「女だからって加減しなくていいんだぜ」
子分「兄貴が出るまでもないっす!」
村娘(修業の成果を見せてやる!)
師匠「始めっ!」
子分「うりゃっ!」ヒュッ
村娘は子分のパンチをかわすと、ミゾオチに拳をぶつける。
ドスッ!
子分「ぐえぇっ……!」ガクッ
腹を押さえ、うずくまる子分。
師匠「勝負あり、だな」
チンピラ(な、なんだとぉ……!?)
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:56:54.34 ID:Y4YoRtRb0
子分「すんませんっす、兄貴……」
チンピラ「油断してかかるからだ、バカ!」
師匠「始めっ!」
チンピラ(少しは強くなったのかもしれねえが、しょせんは女だ。
力比べに持ち込めば……!)
掴みかかるチンピラ。が、村娘はひらりひらりと回避する。
村娘(清流のように穏やかに……)ヒラリ
チンピラ「ちょこまかと……!」
村娘(激流のように力強く!)
ドガガガガッ!
チンピラ「──うがぁっ!」
村娘の連打で、チンピラが怯んだ。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 20:59:40.27 ID:Y4YoRtRb0
村娘が腰を落とし、呼吸を整える。
村娘(滝のような──)
村娘「一撃をっ!」
ドゴッ!
村娘の右ストレートが、チンピラにクリーンヒットした。
チンピラ「ち、ちくしょう……!」ガクッ
村娘「か、勝った……?」ハァハァ
師匠「よくやった。勝負あり、だ」
弟子「やりましたね!(よかった、殴られずに済んだ……)」
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:05:26.78 ID:Y4YoRtRb0
チンピラ「次は負けねぇからな!」スタタタッ
子分「俺らは執念深いっすよ!」スタタタッ
弟子「さようなら!」
師匠「……どうだ、強くなった気分は?
二週間前には歯が立たなかった相手を、打ち倒した気分は?」
村娘「もちろん気分はいいわ。あいつらのこと嫌いだったし。だけど……」
師匠「だけど?」
村娘「同時に恐ろしさも感じてるわ。
まるで、この両手足に凶器が宿ってしまったように思えて……」
師匠「その通りだ。敵を倒すという喜び、同時に敵を倒すという恐ろしさ。
どちらも格闘をやる人間にとって必要なものだ。絶対に忘れるな」
師匠「もし、これらがない格闘家がいるとしたなら……。
そいつはもう人間じゃない。畜生以下の危険物質だ」
弟子「はいっ!」
村娘「分かったわ!」
師匠(しかし……俺にこんなこという資格はあるのだろうか……)
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:11:04.13 ID:Y4YoRtRb0
やがて、師匠と弟子が村に滞在してから二ヶ月近くが経とうとしていた。
空き家──
師匠は不在であるが、熱心に稽古をする弟子と村娘。
弟子「はぁっ!」ビュッ
村娘「う……く、参ったわ!」
村娘の実力は、弟子と本格的な組み手ができるほどになっていた。
弟子「すごいです。村娘さんは本当に強くなりましたよ。
ぼくもうかうかしていられませんね」
村娘「ううん。あたしはたしかに強くなったけど……
強くなったらあなたたちとの差も分かるようになったわ。私なんかまだまだよ」
村娘「でも、寂しいな。もうすぐあなたたちは旅立っちゃうんでしょ?」
弟子「えぇ、ぼくも寂しいです……」
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:16:16.80 ID:Y4YoRtRb0
村娘「あれだけの腕があれば、道場を開くこともできると思うんだけど、
どうして旅をしてるの?」
弟子「師匠がいうには、こういう暮らしの方が性に合ってるからだそうです。
未知なる強敵に出会える可能性もありますしね」
村娘「あ〜あ、あたしも許されるなら、正式に弟子入りして旅をしたいなぁ」
村娘「でも格闘技を習うだけならともかく、さすがにそれはムリよね……」
弟子「失礼な質問かもしれませんが、自分の娘が格闘技をやることに
村長さんは何もいわないんですか?」
村娘「……あたしね、本当は村長さんの娘じゃないの」
弟子「え?」
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:21:19.44 ID:Y4YoRtRb0
村娘「あたしさ、小さい頃にお父さんにここに預けられたの。
お父さんは格闘家で、いつ死ぬか分からないからって……」
弟子「そうだったんですか……」
村娘「もちろん最初は恨んだわ。なんて無責任なんだろうって」
村娘「でもある日、村長さんからお父さんが遠い地の格闘技の試合で
亡くなったっていう話を聞いて……なんだか憎めなくなっちゃった」
村娘「あたしをここに預けたのも、お父さんなりの愛情だったのかなってね。
あたし、この村が好きだし」
弟子「そうだったんですか……」
村娘「でもね、心残りもあるんだ」
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:26:10.23 ID:Y4YoRtRb0
村娘「あたし、弟がいたの。お互い小さかったうちに別れちゃってね」
村娘「あたしでさえほとんど覚えてないくらいだから、
向こうはあたしの存在を知っているかも怪しいんだけどね」
村娘「この村は大きくないし、村長さんの家も家計は苦しかったから……
あたししか預けられなかったみたい」
村娘「今でも生きてるといいんだけど……」
弟子「大丈夫です。きっとたくましく生きてますよ」
村娘「うん、ありがとう。弟子君はホント優しいねぇ」
弟子「ど、どうも……」カァ…
村娘「──ところで、なんか外が騒がしくない?」
弟子「本当だ。どうしたんでしょうか」
ワイワイ…… ザワザワ……
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:29:29.46 ID:Y4YoRtRb0
村の入り口付近には、村長を始めとした村民が集まっていた。
やっかいな来訪者があったのだ。
村長「ムチャなことをおっしゃる! ワシらにこの村を立ち退けなどと!」
豪商「だからいってるじゃないですか。それに見合うだけの金は支払うと」
村長「いくら積まれても、ワシらはここを出ていく気はない!」
豪商「この土地は無限の可能性を秘めているのです。
あなたたちの存在は、その可能性を狭めてしまっているのですよ」
「俺たちを障害物扱いする気か!」 「ふざけるな!」 「帰ってくれ!」
豪商「……やれやれ、あまりコトを荒立てたくはなかったのですがね」パチン
体格のよい黒服が、村人たちの前に出た。
豪商「どうやら、あなたたちはまだ寝ぼけているようですからね。
少し痛い目にあえば、目を覚ましてくれるかもしれません」
村長「なっ……!」
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:33:22.87 ID:Y4YoRtRb0
弟子「待って下さいっ!」
村娘「待ちなさいよっ!」
豪商「なんですか、あなたがたは?」
弟子「えぇ、と……。この村の用心棒だっ!」
村娘「お、同じくっ!」
村長「な、なにを……(まずい、この二人が敵う相手ではない!)」
豪商「ほう……。ではお手並み拝見といきましょうか」パチン
黒服A「ガキめ、ひねり潰してやる」ズイ
弟子「来いっ!」
黒服B「いっとくが女でも容赦しねぇぜ」ズン
村娘「望むところよっ!」
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:38:30.88 ID:Y4YoRtRb0
黒服A「どりゃあっ!」ブオンッ
弟子「おっと」パシッ
黒服Aの大振りなパンチをサバき、弟子は顎に拳を当てた。
黒服A「ぐぁ……!」ドサッ
「おおっ!」 「す、すごい!」 「たった一撃で!」
黒服B「ちっ、あんなガキになにやってんだ、バカが……せりゃあ!」シュッ
黒服Bの蹴りをかわし、村娘は伸びきった膝にヒジをぶつける。
黒服B「──いでえっ!」
村娘「はぁっ!」
村娘はボディに二撃喰らわせ、顎に掌底を叩き込んだ。
黒服B「ぐおっ……!」ドサッ
「村娘ちゃんもすげぇ!」 「あんなに強くなってたのか!」 「やったぁ!」
村長「おおっ……!」
豪商「ほう……」
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:44:14.34 ID:Y4YoRtRb0
豪商「これは驚きました。すばらしいですね」
豪商「分かりました。お二人の奮闘に免じて、今日は退くとしましょう。
また明日、同じ時間にうかがいますので」
豪商たちは村から退散した。
「やったーっ!」 「ざまあみろってんだ!」 「二人とも、すごかったぞ!」
村長「村娘と弟子さん、おかげで助かったわい」
弟子「いえ、当然のことをしたまでです」
村娘「倒せてよかったわ……」
村長「あれほどの恥をかかされれば、いくら豪商とてムチャは通せんはずじゃ。
二人のおかげで村は救われたんじゃよ」
二人に感謝しつつ、村人たちも解散する。
弟子「いやぁ、今日は師匠が留守でしたから、ちょっと不安だったんですが
なんとかなるもんですね」
村娘「えぇ」
すると、物陰からチンピラと子分が現れた。
チンピラ「なんとかなった、だぁ? 全然なってねぇよ」
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:45:08.19 ID:ddbapjz40
久保帯人かと思った
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:48:20.36 ID:Y4YoRtRb0
村娘「なによ、やる気!?」
チンピラ「お前ら、とんでもないことをしちまったんだぜ」
弟子「どういうことです?」
チンピラ「おい、このノーテンキどもに分かりやすく説明してやれ」
子分「へいっ!」
子分「あの豪商は、ただでさえムチャな商売をやるヤツって知られてるっす。
でも、もっと恐ろしい裏の顔があるんすよ」
村娘「裏の顔……?」
子分「えぇ、金になることなら何でもやるってハナシっす。
麻薬密売、人身売買、挙げ句の果てには殺し屋の斡旋もやってるらしいっす」
子分「しかも、あの豪商は格闘技に目がないらしく、
賭博格闘技にもしょっちゅう参加してるみたいっす」
子分「武術の達人をスカウトして作り上げた、
自分のための殺し屋部隊を持っているっていうウワサもあるくらいっす」
子分「そうやって蓄えた金で、ヤツはどんどんのし上がったっす。
ヤツの影響力は今や貴族や王族にまで及ぶ、ともいわれてるっす」
子分の説明を聞くうち、弟子と村娘は青ざめていった。
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:51:23.79 ID:Y4YoRtRb0
チンピラ「分かったか? お前らはとんでもない相手に喧嘩を売っちまったのさ。
あのまま村のヤツらがボコられてれば、豪商も気分よく帰ったってのに
余計なことしやがって……」
弟子「でも、不当な暴力に晒されている人々を見過ごすなんてできません!」
村娘「そうよ! それに今の話だって、ほとんどが“みたい”“らしい”じゃない!」
チンピラ「火のないところに煙は立たないっていうぜ」
チンピラ「拾った孤児を殺し屋に育て上げる。逆らった村を丸ごと焼き払う。
商品である刀剣の性能を試すために拉致した一般人同士を殺し合わせる……。
黒いウワサが絶えねぇ」
弟子「で、でも……ぼくらには師匠だってついてます!」
村娘「そうだわ、師匠さんは強いんだから!」
チンピラ「ケッ、人に頼るんなら最初から喧嘩なんか売るんじゃねぇよ」
村娘「あんたにいわれたくないね、そういうセリフ」
チンピラ「ちっ、まぁいいや。豪商がこの辺の土地なんかどうでもいいやって
なるのを祈るんだな。あばよ」
子分「あばよっす」
弟子(ぼくは、間違っていたんだろうか……)
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:51:53.52 ID:pHzpKwIX0
こういう厨二臭いの大好きだ
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:54:24.20 ID:Y4YoRtRb0
夜になり、出かけていた師匠が宿に戻ってきた。
弟子は師匠に、今日あったことを全て打ち明けた。
弟子「──というわけなんです。もしこれで、村に迷惑がかかったら……」
師匠「ふぅん」
師匠「よくやった」
弟子「え?」
師匠「お前には人を守れる力がある。この村には守るべき人がいる。
それだけで格闘家が戦う理由としては十分すぎる」
師匠「賭博格闘技、とかいったか。あんなヤツら何人来ようと俺の敵じゃない。
ルール無用、といえば聞こえはいいが、ルールがある中じゃ戦えないほど
頭の悪い連中だってことだからな」
師匠「もしもチンピラのいうことが事実なら、明日豪商は“連れて”くるはずだ。
俺だけでも大丈夫だろうが、一応お前も戦う心構えをしておけ」
弟子「はい、分かりました!」
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:56:18.49 ID:Y4YoRtRb0
弟子はベッドの中で感激していた。
弟子(師匠、ありがとうございます……)
弟子(本当はぼく、不安で仕方なかったんです。
もしかしたらぼくは間違っていたのでは、と……)
弟子(でも、師匠が“よくやった”といってくれたおかげで、救われました)
弟子(よかった。ぼくは正しいことができたんだ、と)
弟子(だけど、こんな形で尻ぬぐいしてもらうことになってしまい、
本当に申し訳ありません。師匠……!)
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 21:59:09.78 ID:Y4YoRtRb0
翌日、師匠たちはいつものように稽古をしていた。
村娘「とぉーっ!」バッ
弟子「はっ!」ビュバッ
師匠「よし、そこまでっ!」
昨日と同じように、外が騒がしくなる。
ザワザワ…… ガヤガヤ……
師匠「どうやら来たようだな。行くぞ、二人とも」
師匠「弟子を戦わせるかどうかは俺が決める。村娘は戦うな。
ただし、村人に危害を加えてきたら守ってやれ」
弟子「はいっ!」
村娘「分かったわ!」
46 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:05:18.77 ID:Y4YoRtRb0
村の入り口──
数名の黒服を引き連れ、豪商がやって来ていた。
村長「……だから、我々の返事は変わらんというに!」
「そうだそうだ!」 「力で訴えても無駄だぞ!」 「帰れーっ!」
豪商「気のせいか、皆さん昨日よりも強気ですね。
あの頼りがいのある用心棒さんたちのおかげでしょうか?」
豪商「昨日はとんだ恥をかかされたのでね。今日の私は少し本気ですよ」
村長「なんじゃと?」
豪商「来なさい」パチン
豪商の“本気”が、姿を見せる。
村長(な、なんじゃ、アイツは!?)
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:06:48.28 ID:xa/YRtNQ0
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| ^ ^ | ,..、
| .>ノ(、_, )ヽ、.|′ _,,r,'-ュヽ どうしても私を本気にさせたいようだな・・・
ビ リ ! ! -=ニ=- ノ! ,イ彡く,-‐' ゙i,
__,,, :-―,ァ''" \`ニニ´/゙ア´ ̄`ゝニ'ィ,〉
,:f^三ヲ,r一''^ニ´、、__ l ! ィ彡,ャァ'" ,,..,,、 /lトィヘ
ノ ニ、゙リ ,..,, ``''ヽ,,, ''"´ ゙''ヾミ,r/:.l:.:し′
,ィテ'J´,,..::;;゙i, ,;,, ;;; ,,;; ,frア:.l:.:ヾ
リ:.:.:.{'" ,ィト. ';;;;;;;;;;;' ,!;V:.:.ノ:.:.:.:
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:.:ト:.トミ:.:ヽ:.:.:.:.:ト-―テ" ⌒ `ヾj ::;;;;}/:.:.:.:/:/ ヽ:.:
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48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:06:57.48 ID:HJ4wjPLN0
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:07:58.74 ID:Y4YoRtRb0
ザワザワ…… ドヨドヨ……
「なんだよアレ……」 「なんて気味の悪い……」 「やばいよ、アイツ……」
まもなく、師匠たち三人が駆けつける。
弟子「あそこにみんな集まってますね」
村娘「また村を立ち退け、とかムチャな要求してるのよ。きっと」
師匠(村人のざわつき方が妙だな。なんというか、怪異に遭遇したような感じだ)
三人は村人の群れをかき分けると、先頭に立った。
すると──
師匠「!」
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:09:21.30 ID:ltcQvxaN0
しえんだ
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:12:47.09 ID:Y4YoRtRb0
不気味な仮面をつけた男が立っていた。
しかし、村人たちは仮面だけに怯えたのではない。
男から発せられる存在感そのものに、恐れを抱いていたのである。
弟子(仮面をつけた男!? しかも、明らかに格闘技をやっている体つきだ……!)
弟子(こ、この人は……)
弟子(この人はまさか……!)
弟子(父さんの仇っ!?)ザッ
師匠「……よせ」サッ
弟子を制止する師匠の手は震えていた。
なぜなら仮面の男にもっとも怯えていたのは、他ならぬ師匠だったからだ。
仮面「久しぶりだな。まさか、また会える日がくるとはな」
師匠「あ、あぁ……(覚えていやがったか……!)」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:18:05.78 ID:Y4YoRtRb0
豪商「お知り合いですか?」
仮面「えぇ、あなたもご覧になったはずですが……印象に残らなかったのでしょう。
あまりにも弱すぎて」
弟子「なにっ!?」バッ
師匠「よせっ!」
弟子「し、師匠……?」
師匠「………」ハァハァ
仮面「なるほど、昨日黒服たちをのしてみせたのはお前の弟子かなにかか。
どうやらお前、この村で道場でも開いているようだな」
師匠「ち、ちが……」
仮面「安心しろ」
仮面「お前を雇っていたヤツらは、すでにあの世に送られている。我々の手でな……」
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:21:29.79 ID:Y4YoRtRb0
仮面「せっかくの再会だ。ここは一つ、正々堂々と試合で決着をつけないか?」
村娘「試合ですって!?」
仮面「今、豪商様はこの村の近くにある屋敷を拠点として商売なさっているが、
そこには私を含め五名の腕利きがいる」
仮面「この村にも道場があるということは、五人くらいは戦える人間がいるはずだ。
団体戦といこうじゃないか」
豪商「ククク……なるほど、面白い」
豪商「もしあなたたちが勝てば、私はこの村から手を引きますよ。
我々は数で訴えることもできるんです。
絶望的な戦いに、少しだけ勝機を与えたのです。悪い話じゃないでしょう?」
弟子(たしかに、師匠がいくら強くても……豪商の私兵全てを相手にするのは厳しい。
でも試合なら勝ち目はある!)
師匠「………」
仮面「勝負はキリよくちょうど一週間後、としておこうか」
仮面「せいぜい腕を磨いておけよ」
54 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:26:39.09 ID:Y4YoRtRb0
村を去る豪商たち。
村長を始めとした村人たちも、師匠らに礼をいうと解散した。
村娘「よかった、出てってくれた……」ホッ
弟子「試合か……緊張しますね」
村娘「でも、五人っていってたけど、こっちの残り二人はどうしようか?」
弟子「う〜ん……」
師匠「……おい、二人とも」
弟子「はい?」
師匠「今日はもう、稽古はやめとこう。先に宿に戻っているぞ」
弟子「はい、分かりました!」
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:29:07.78 ID:Y4YoRtRb0
物陰にいたチンピラと子分。
子分「なんか、とんでもないことになったっすね!
でもたしかに試合なら、あいつらでも勝てるかもしれないっす!」
チンピラ「子分、今のうちに村から引っ越す準備をしといた方がいいぜ」
子分「えっ、どうしてっすか!?」
子分「あいつら、すげぇやる気じゃないっすか!
こりゃあもしかすると、もしかするかもしれないっすよ!」
チンピラ「たしかにやる気だ」
チンピラ「一人を除けば、な」
子分「一人……?」
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:32:54.04 ID:Y4YoRtRb0
夜になった。
宿屋──
弟子「すいません、師匠。とんでもないことになってしまって……」
弟子「でも、ぼくたちならあんなヤツらに絶対負けませんよ!
村娘さんもずいぶん強くなりましたしね」
弟子「問題はあと二人をどうするか、ですよね……。
すぐ降参してもらうことを前提に、村の人から出てもらうしかないですかね?」
弟子「それにしても、あの仮面をつけた男は只者ではありませんね。
ぼくの父の仇……なんでしょうか?」
師匠「……弟子」
弟子「はい、なんでしょうか?」
師匠「準備をしろ」
弟子「なんの準備ですか?」
師匠「この村を出る準備、だ」
弟子「え……?」
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:36:12.49 ID:Y4YoRtRb0
弟子「一週間、どこかで武者修行をするおつもりですか?」
師匠「いや、もうこの村には戻らない」
弟子「ま、待って下さい。どういうことですか、師匠!」
師匠「もうすぐこの村に滞在して二ヶ月になる。
そろそろこの村を発つ時期になったってだけだよ」
弟子「それはつまり……豪商や仮面から逃げる、ということ、ですか……?」
師匠「………」
弟子「昨日、ぼくにいってくれたじゃないですか!
守る力があって、守る人がいれば、格闘家が戦うには十分な理由だって!」
弟子「あれはウソだったんですか……!?」
師匠「ウソじゃない」
師匠「だがな、戦いってのは自殺じゃないんだ。自殺は戦いとはいわない」
弟子「自殺?」
師匠「自殺行為ってことだ。勝てるわけねぇんだよ、アイツに……!」
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:40:35.42 ID:Y4YoRtRb0
師匠「絶対に勝てない……!」
弟子「アイツって……あの仮面ですか?」
弟子「師匠は過去に仮面と戦ったことがあるんですか!?
もしかして、ぼくの父を殺したのもアイツなんですか!?」
師匠「………」ガタガタ
頭を抱え、震える師匠。武者震いでないことは明らかだ。
弟子(こんなこと、思っちゃいけないのかもしれない。でも思ってしまう──)
弟子(こんな師匠は見たくなかった……!)
師匠「俺だ……」
師匠「俺なんだよっ! お前の父親を殺したのはっ!」
弟子「え……?」
59 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:43:24.51 ID:Y4YoRtRb0
師匠「うぅ……うぐぅ……!」ガタガタ
弟子「師匠、大丈夫ですか!? 今、水を持ってきます!」
師匠「いや……聞いてくれ」
弟子「えっ!?」
師匠「今までお前は、俺のことを格闘家の見本だと信じてきただろう。
俺もそのつもりだった。そうなりたかった」
師匠「だが俺は、全然そんなんじゃねぇんだよっ!」
師匠「俺がちょうどお前ぐらいの年頃の時……」
師匠「俺は薄汚い金持ちどもの娯楽、賭博格闘技の選手だった」
弟子「!」
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:46:31.85 ID:Y4YoRtRb0
師匠「当時の俺はある大地主に雇われ、賭博ファイターをやっていた。
いい収入だったよ」
師匠「自分でいうのもなんだが、俺は強かった。
ひとたび試合場に立てば連戦連勝、スター選手だった──」
〜
ワアァァァァァ……!
「すっげぇぞ、ガキ!」 「また勝ちやがった!」 「強すぎる!」
青年(ったく、この程度で大騒ぎしやがって)
青年(俺はいずれ世界最強の格闘家になるんだ。
こんなクズどもの掃き溜めで手こずってられるかってんだ)
拳を天に掲げ観客にアピールしつつ、試合場から立ち去る青年。
ワアァァァァァ……!
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:50:22.51 ID:Y4YoRtRb0
大地主「よくやってくれた。またお前のおかげで大儲けができたよ。
ほれ、今日のファイトマネーだ」ドサッ
青年「ども」
大地主「これからも勝ち続けろよ。
勝ち続ける限り、お前は金の卵を産むニワトリなんだからな」
青年「分かってますよ」
青年「だいたい、この俺が負けるはずないでしょう。
喧嘩しかやってこなかったような三流ファイターどもに」
大地主「ふふ、たしかにな」
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:54:27.80 ID:Y4YoRtRb0
選手控え室──
拳法家「よう、どうだった?」
青年「楽勝ですよ。ら、く、しょ、う。
たまにはもっと骨のあるヤツと当たりたいですよ、まったく」
拳法家「若いのに大したもんだ」
拳法家「だが、気をつけろよ。
大地主は冷酷なヤツだ。勝ち続けているうちはいいが──」
青年「心配無用、俺が負けるわけありませんよ」
拳法家「………」
拳法家「ところで、お前さんはなんでこんな世界に足を踏み入れたんだ?」
青年「別に足を踏み入れたつもりはないですけどね。
トレーニング代わりですよ。あと、いい小遣い稼ぎになるし」
青年「拳法家さんこそ、どうしてなんです?」
63 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/03/13(火) 22:57:57.75 ID:0AixK2vYi
龍が如くのクロヒョウを思い出した
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
拳法家「金を稼ぐため、だ」
青年「ハハハ、俺と一緒じゃないですか」
拳法家「もっとも、お前さんとちがって俺のように勝ったり負けたりじゃ、
ファイトマネーは知れてるがな」
拳法家「といっても、俺はこれしか稼ぐ方法を知らない」
拳法家「俺には娘と息子がいてな。姉と弟さ」
拳法家「娘は信頼できる人に預けた……。
こんな世界じゃ、いつ俺が死ぬとも分からないからな」
青年「へぇ……。じゃあ息子さんは?」
拳法家「さすがに子供二人は預けられないからな、俺が育てている」
青年「奥さんは出産の時に亡くなったんでしたっけ?」
拳法家「息子には、母親は俺のせいで病死、姉は賭けで失ったって話してある。
アイツはどうも優しすぎる……俺を憎むぐらいはできないとな。
いずれ真実を話し、再会させてやるつもりではいるが」
拳法家「俺が甲斐性なしなばかりに、幼い姉弟を離れ離れにさせちまった……」