1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:
元ロケット団の三人組が見舞いに来てから三日後の朝、
花瓶に瑞々しい花を生けながら、看護婦さんはまだ微睡みの中にいる僕に語りかけた。
「あともうしばらくで、サカキ様がお見えになります。
今のうちに準備をしましょうね」
「ピィカ……」
身体を起こしてもらい、濡れたタオルで身体を拭かれる。
口を開く。舌下に体温計を添えられる。口を閉じる。
やがて電子音が鳴り、看護婦さんが体温計の指数を確認する。
体温計を取り出すときにさりげなく頬をつままれたことは、眠気もあって不問にする。
彼女は点滴の薬液パックを手際よく交換し、調節弁に微妙な加減をする。
僕は余計な身動きをせずに、彼女の動きをじっと眺める。
この三日間の間に、僕は彼女を信頼できるようになっていた。
彼女が非常に優秀なポケモン医療従事者であることは明らかだった。
ただ、患者への献身的姿勢が倒錯的な保護欲に繋がることが間々あり、
その所為で僕は彼女に見守られながら午睡したり、
なんとか一人で食事ができるほどに回復しているのにも関わらず、
ポケモンフードの一粒一粒を彼女の手で食べさせてもらわなければならなかった。
このままでは怠け癖がついてしまう。
そう分かっていても、面と向かって彼女の『医療行為』を拒否できない。
「ピ、ピカチュ」
やれやれ、いつから僕はこんな優遊不断な性格になってしまったんだ?
「もう少し眠っていてもかまいませんよ」
看護婦さんが僕の口元まで毛布を引き上げてくれる。
お言葉に甘えて二度寝しようかと考える。
検索かけたタイミングでスレが立ったようだ
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 20:05:28.13 ID:IUE3SkNuO
待ってた!
しかしその試みは中断を余儀なくされた。
皎潔の密室が開け放たれ、臙脂色のスーツを着こなした杖突の男が入ってくる。
サカキだった。
入れ替わりに看護婦さんが退室するのを、僕は薄く開けた目で見送った。
サカキに忠誠を誓い絶対の信頼を置きながらも、
僕のことが心配でたまらないという風な二律背反の瞳が印象的だった。
「起きているな」
とサカキは言った。ここに来て分かったことだが、
多くの支配者がそうであったように彼もまた無駄を嫌い極力省く性格をしている。
何故ノックをしなかったのかと非難の視線を浴びせても、
『事前に看護婦を通して伝えてあったのだ、問題はあるまい』と切り替えされるのがオチだ、
僕は毛布から首を出して答えた。
「ピィ」
起きているとも。
「今日この場に訪れたのは、昨日一昨日のような見舞いめいた容態確認のためではない。
お前と対話するためだ。来い、ペルシアン」
優雅な足運びで現れた白猫は、サカキの傍らで彼を仰いだ。
「翻訳しろ。一字一句、可能な限りな」
「ニャー」
その従順な様に、僕はこのペルシアンがかつてムサシとコジロウの間に収まっていたニャースの進化した姿であることを忘れそうになる。
「ピーカ?」
君は本当に元ニャースのペルシアンなのか?
「失礼だニャ。ニャーはニャーであってそれ以外の何者でもないニャ!」
サカキは穏やかな笑みで静かに言った。
「"翻訳"しろと言ったはずだが?」
「ニャッ……すみませんニャ。ピカチュウはニャーが、その、
昔ピカチュウを追いかけ回していたあのニャースと同一のポケモンかどうか尋ねてきたんですニャ」
「なるほど」
サカキは感慨深げに言った。
「ピカチュウが覚醒してからお前と話すのはこれが初めてだ。
お前が現在私の手許にいることについて違和感を感じるのも無理はない。
そうだな?」
「そ、その通りですニャ」
ペルシアンは誰の目に見ても明らかなくらいに狼狽えている。
サカキはペルシアンが秘密で僕に会っていたことを知った上で、あんな質問をしているのだ。
「ピカピーカ」
意地の悪い性格をしているな、まったく。
「ニャ、ニャーにそんな翻訳は出来ないニャ!」
「全て翻訳しろ。どんな内容であれ仲介のお前に責任はないのだからな」
よほど主を貶す言葉を口にしたくなかったと見える、ペルシアンは口をモゴモゴさせた後、
「ボスは意地悪だと言っていますニャ」
と苦しそうに言い、拳骨が飛んでくるのを怖がるみたいに頭を抱えた。
サカキは愉快そうに言った。
「いかにも、私は意地悪だ。
しかしお前にそれを指摘されたところで、だから何だというのだ?」
……ただの感想だよ。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 20:18:17.89 ID:YICxTDW40
「なら胸に仕舞っておくことだ」
サカキはそう言うと予め用意されていた椅子に腰を下ろし、
これから話すことについて思いを巡らすように細長い息を吐いた。
あるいはただ単に足が楽になったからかもしれないが。
そういえばサカキが杖を突いている理由は聞いていなかったな、と僕はふと思い出した。
しかし今尋ねるべきことではないと思い直し、サカキが口火を切るのを待った。
ペルシアンが手持ち無沙汰そうに髭を撫で始めた頃、サカキは言った。
「私が知りたい情報は非常に限定されたものだ」
支援INトイレ
支援
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 20:42:36.86 ID:YICxTDW40
僕はここで初めて目を覚ました時のことを思い出す。
記憶にまだ障害が残っていた僕に、サカキは落ち着き払った口調ながらも、
しきりに最終実験の相手ポケモンについて情報を引き出そうとしていた。
「私は恐らくお前の質問にほとんど対して明確な回答ができる。
しかし、私が未確認かつ、早急に事実確認せねばならない事項が一つある。
察しの良いお前ならもう分かっているだろう。
お前が私の部下から脱出される直前に相対していたポケモンについて、子細に説明してもらいたいのだ」
「ピ、ピカチュ?」
いいだろう。
でも、それを語り終えた後は僕が抱えている膨大な質問に答えてくれるね?
ペルシアンを通した僕の願いに、サカキは「約束しよう」と断言してくれた。
僕は勿体ぶらずに言った。
「ピカピーカ、ピカ、チュ」
「ニャ、ニャんですと!?」
ペルシアンが己の役目を忘れて唖然とする。
ゆっくりと言い直す。
ペルシアンはそれでも半信半疑な様子で口をパクパクさせていたが、しかしサカキに睨まれ僕の言葉を翻訳した。
「ピカチュウはあの場所で、ミュウツーと戦ったと言っていますニャ」
私怨
わーい 今日も楽しみにしてるぜ☆
ミュウツーは無事なんだろうか・・・?
ほ
「やはり完成していたか」
僕はその反応から、サカキがあの施設、延いてはその背後に潜む何か巨大な陰謀の核に触れていると推測した。
この世には伝説のポケモンが存在する。
火の神、ファイアー。
雷の神、サンダー。
氷の神、フリーザー。
自然を司るとされているこれら三鳥は
その中でも特にポピュラーな伝説ポケモンだが、
幻ポケモン・ミュウの世俗的認知度には劣るだろう。
人々に知られ噂されているのに幻のポケモンとは矛盾しているように聞こえるが、
その二つ名は事実に基づいて名付けられており、目撃例は前述の三鳥よりも遥かに少なく証言も曖昧だ。
だからミュウは永い間、世界を旅するポケモントレーナーが描いた空想の産物だと言われていた。
しかしとある探索チームが持ち帰った資料からミュウの遺伝子が発見されたことにより、
一部の研究者の中で、ミュウは現実に生きるポケモンとして認められた。
ミュウの遺伝子は当時の遺伝子工学の粋を結して研究された。
研究者たちが考えたのは、全てのポケモンの遺伝子を併せ持つミュウのそれから、最強のポケモンを作り出すことだった。
うーうー保守
ポケモン屋敷での記述は当時スルーしてたな…
支援
ほっしゅほっしゅ
結果的にその試みは成功した。
名も無き孤島の、名も無き研究所で。
莫大な資金援助によって用意された最新の研究設備と優秀な研究者たちは、
世界中のどんなポケモンよりも強いポケモンを創り出した。
その名を「ミュウツー」という。
しかし喜びも束の間、代償として支払われたのは研究者たちの命だった。
ミュウツーは自分を創った人間を怨んだ。根因であるミュウを憎んだ。
自分がクローンであることに劣等感を抱いた。
そうして彼は、人間に復讐することを決めた。
優秀なポケモントレーナーを孤島に集め、
彼らが持つポケモンのクローンを創り、
それとオリジナルを戦わせることで優劣をつけようとした。
そのポケモントレーナーとして選ばれたのが、サトシだった。
クローンとオリジナルが互角の戦いを繰り広げ、消耗し、倒れていく中で、
ミュウツーと、ミュウツーの存在に気付いて現れたミュウだけが不毛の争いを続けていた。
サトシにはそれが我慢ならなかったのだろう、
自分の身体を以てミュウとミュウツーの争いを仲介しようとした。
それは失敗に終わった。彼は死んでしまったかのように思えた。
だが、彼の行動はオリジナルとクローン両方の心を打ち、争いは終わった。
サトシは回復し、改心したミュウツーはミュウやクローンポケモンと共にどこかへ去っていった。
その後の彼らの消息を、僕は知らない。
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 21:41:07.33 ID:YICxTDW40
ミュウツーの逆襲の設定流用してるので
興味がある人は映画みてみてね
我ココ…何でもないです
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 21:42:43.85 ID:Tzh31nlX0
あれはいい映画だったよな
むしろミュウツーの逆襲見てない人なんているのか
我が家にビデオあるけどもう何回見たか分からないレベル
あーるーきーつーづーけて
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 21:51:40.39 ID:1PVqT9/WO
そういやサカキのペルシアンはどこいったんだ
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 21:55:21.45 ID:YICxTDW40
だから僕はサカキにこう付け加える。
「チュウ、ピカチュ」
僕があの地下研究施設で相対したポケモンは、ミュウツーであって、ミュウツーじゃない。
強化骨格の合間に見えた体表が漆黒であったという外見的な差違は関係なく、
生きることの意味を見つけようとしていたあの悩み多きミュウツーと目の前の人形のようなポケモンはは決定的に違うと、
鍔迫り合いながら確信していた。
風呂
1時間くらいで
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 21:58:50.41 ID:F+JvWLcJ0
サカキがミュウツーでシゲルをフルボッコにしてた気が・・・おじさま
ミュウツーといえば
相手にされなかったから自分からボールに入ろうとする4コマがあったなぁ
またsage忘れた・・・スレが変わる度にこれだ
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 22:04:35.98 ID:dqHawT4s0
無理にsageる必要は無いと思うよ
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 22:08:59.00 ID:IUE3SkNuO
保持数減ったんだしage進行でいいだろ
ほっほー
うーうー
下手にageて荒らしきたらたまったもんじゃない
ほしゅ
>>29 より使える部下に居場所を取られたんですねわかります
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 22:36:34.31 ID:shkW6RvIO
>>40 確かに人語を使いこなすポケモンなんてレア中の超レアだよな。常識的に考えて
>>40 実は涙の別れが・・・いや、ないかな・・・
じゃあミュウツー手に入ったらお別れだな
実は老衰
ほす
ほ?
ほ
48 :
◆ihjpPTk9ic :2009/01/19(月) 23:18:52.86 ID:YICxTDW40
遅れてすまない
ちなみに明日明後日は所用があるので書けない
次は三日後の木曜の夜20:00から再開する
な、なんですとー!
サカキは険しい表情で続きを促した。
僕は戦闘中に感じたある違和感や、記憶の整合性を取り戻してから思い出したマサキの話について語ることにした。
「ピカ、ピカピーカ、チュウ」
僕は本物のミュウツーと戦ったことがある。
そしてその時の記憶は今も鮮明に残っている。
彼は最強の名に恥じぬ、圧倒的な力を持っていた。
それに比べて僕があの地下研究施設で戦ったミュウツーは、今から思えば弱すぎた。
「というと?」
彼は、過去に彼が得意としていたサイコキネシスやテレポートといった技を使わなかったんだよ。
それは意図的に封印しているというよりは、使いたくても使えない、というような印象を受けた。
なんとなくだけどね。
おかえりー
木曜日までのんびり待ってるよ
木曜日か…
待ち遠しいな
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/19(月) 23:47:50.95 ID:YICxTDW40
「なんとなくでも構わん。
あの場にいたお前だけが知っていることが、他にもあるはずだ」
「ピカ、チュウ」
君の部下が僕を助けに来てくれた時――正確には突入する際に地上で混乱を巻き起こした時――実験は突然中止された。
といっても、中断のアナウンスが流れたわけではなく、
ミュウツーの姿形をしたそのポケモンが停止したことによって実験の中止を知ったんだ。
このことから伺えるのは、彼が完全に研究者たちの管理下に置かれていたということだ。
彼に自由意志はなかった。
といっても、強制的に命令に従わせられているわけではなく、
彼には命令を吟味する思考そのものが無いようだった。
いうなればポケモンという名の機械人形だよ。
激しく眠い
それではまた三日後の木曜日に
おつだよ
まとめってどうなってんの?
おつ!
風邪とかインフル流行ってるから気をつけろよー
乙
>>56 管理人が忙しくて、しばらく更新が停止してたっぽい
昨日から更新を再開したようだから、しばらくしたらピカチュウの
方も更新されると思う
乙でした木曜日楽しみにしてる!
木曜日までワクワクテカテカしてるぜ!!
乙
おつかれさんでした 楽しみにしてるよ
乙
ぁ、落としていいのか