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>>1からつづき)
ただサムスンは現在でも多大な時間とコストを要する「開発設計(科学技術の開発)には力を入れておらず、その部分は先行メーカーを
キャッチアップすることで補っている」(吉川氏)。何年もかけて生まれた新技術でも製品化されるものは少なく効率が悪いためだ。日本企業の
開発設計レベルは高く、ここに日本人技術者が必要とされる意味がある。技術者1人を引き抜いても開発が進まないことも多いため、
開発チーム丸ごとを引き抜くケースもあるという。ロイターはサムスン側に同社の人材引き抜き戦略について問い合わせたが、広報担当者は
コメントを控えている。
<次の10年を生き抜く種>
今やサムスンは薄型テレビで世界トップの座を不動のものにし、NANDやDRAMといった記憶用半導体でも首位。リチウムイオン電池では
昨年四半期ベースで日本勢が長年守ってきた首位に浮上、年間でのトップも射程圏に入れた。スマートフォン販売台数でも昨年は世界
首位。
携帯電話全体でも1―3月期には、14年間首位のフィンランドのノキア(NOK1V.HE: 株価, 企業情報, レポート)を初めて抜く見通しだ。
その勢いはとどまるところを知らない。サムスンは「次の10年を生き抜くための種」(吉川氏)として過去も今も人材を引き抜いている。
サムスンの引き抜きが強まっている背景には金融業界の凋落も間接的に影響している。先のヘッドハンターによれば、一般的に転職者の
契約年収の30%前後がヘッドハンティング会社の成功報酬で、これまでは億単位の年収がザラだった金融業界の人材紹介で稼いでいた。
仮に2億円プレーヤーが動けば、ヘッドハンティング会社には紹介料として6000万円が入る計算だ。だが、リーマンショック以降こうした景気の
良い話はすっかり減り、代わりに年収の良いサムスンなどへ積極的に人材を紹介する傾向が強まりつつある。
一方、サムスンでは、すでに年収アップを狙う転職者も現れている。実際、韓国では転職者による技術流出が今月発覚した。現地の警察
当局は5日、サムスンの有機EL技術を流出した疑いで、LGディスプレーに転職した元サムスンモバイルディスプレー研究員の逮捕状を請求
した。中国企業に同技術の製造工程に関する極秘資料を提供した疑いだ。有機EL技術はテレビなどに使われる次世代ディスプレーとして
サムスンが強化している。吉川氏は、転職者が増えているサムスンが「10年後、生き残っているかどうかわからない」と危惧する。関係者の
間では、サムスンの日本人技術者引き抜きにはそうした事情もあるとみられている。
<手薄な日本勢の人材戦略>
「リストラの嵐」が再び吹き荒れている日本の電機業界。2008年秋のリーマンショック後に1万6000人の人員削減を実施したソニーは
12年度中に1万人削減に踏み切る。パナソニックは三洋電機とパナソニック電工の完全子会社化に伴い、10―11年度の2年間で3万人
以上を削減した。再建に向けて事業の選択と集中はやむを得ないが、「優秀な人材まで敵に流れることにはならないか」(業界関係者)との
懸念も出ている。
先のヘッドハンターは、「その場しのぎのリストラは自らの首を絞めかねない。やむを得ず手放す技術者でも、せめてグループ内の子会社や
サプライヤーに再配置するなど自社に利益を還元できる場への移籍にとどめるべきではないか」と話す。経済産業省・知的財産政策室の
石塚康志室長は「今は自分たちに必要なくても、競合にとって価値ある技術を持つ人材かどうかを分析するなど、日本企業は目に見えない
人的資産の棚卸をもっと緻密にすべきだ」と指摘する。
サムスン経営陣がスピード感のある意思決定やマーケティング戦略を実践しているのに対し、日本にはそうした経営者が少ないと話すのは、
経営コンサルティング大手アーサー・D・リトルの川口盛之助アソシエート・ディレクター。技術力があっても、米アップル(AAPL.O)が創り出す
ようなヒット商品に結び付けられないところが今の日本の電機メーカーの問題点であり、日本企業が優先すべきは「技術をうまくビジネスに
育てる能力に優れた人材の発掘だ」と提言している。
(以上)