http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1189433427/714 ふと見覚えのある姿が目の端に止まったような気がして、三橋は岩場の影から身を乗り出した。
ここよりも陸に近い場所で見られればはっきりとわかるかもしれない。
けれどこの姿を衆目に晒せるほどの勇気はまだ三橋にはなかった。
もっとよく見ようと身を乗り出してもすぐに限界が見えてくる。
もう諦めようかと小さく溜息をついた時、忙しなく動いていた姿がゆっくりと浜辺に近付いてくるのが見えた。
慌てて海の中に飛び込むとぱしゃん、と大きく水の跳ねる音がする。
どうやらその音は彼にも届いてしまったようで、ちらりと視線がこちらに飛んでくるのが見えたが、すぐにふいと顔を余所に向けてしまう。
魚にしては少々大きい水跳ねの音だったが、なにやらぼんやりしているようで、そのせいかそこまで考えが及ばないようだった。
「あの人……」
じっと目を凝らして見詰めてみる。
遠目から見れなかった時は確信が持てなかったが、この距離ならばはっきりと顔も見えた。
間違いなく、あの嵐の時に助けた人間だ。
あの夜見た時と同じ、上等そうな服を身につけている。
彼はさっきまで忙しそうに動いていたのとは対照的に今はぼんやりと海の向こうを見詰めていた。
三橋も海の中、岩場の影からそんな彼の姿をそっと覗き見る。
視線が交わることはなかった。
空が赤く染まり始めた頃、浜辺から立ち去る姿を確認してから三橋も海の底へと帰る。
田島の姿はもう見当たらなくて、帰ってきてからうっかり置いてきてしまったのか、それとも置いていかれてしまったのか、そのどちらかであるということに気付いた。
慌てて田島の姿を探すと彼はもうとっくに帰ってきてしまっていたらしい。
三橋があまりにも熱心に浜辺の人間を見詰めているものだから声をかけることができなかったのだそうだ。
「そ、そんなにオレ熱心に眺めてた……?」
「うん、すっげー集中力だった」
「そ、そう、そうなんだ……」
ぷく、と小さな泡が立ち昇り消えていく。
弾けていく泡を眺めながら、明日もあの場所へ行こうと三橋は小さく決心した。