◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう32◇◆◇◆

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1名無し草
ここは一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」が好きな人のためのスレッドです。

前スレ 
◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう31◇◆◇◆
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1208092572/

お約束
 ■sage推奨 〜メール欄に半角文字で「sage」と入力〜
 ■妄想意欲に水を差すような発言は控えましょう
*作品への感想は大歓迎です。作家さんたちの原動力になり、スレも華やぎます。

関連サイト、お約束詳細などは>>2-6の辺りにありますので、ご覧ください。
特に初心者さんは熟読のこと!
2名無し草:2008/06/26(木) 01:34:03
◆関連スレ・関連サイト

「有閑倶楽部 妄想同好会」 http://houka5.com/yuukan/
 ここで出た話が、ネタ別にまとまっているところ。過去スレのログもあり。
 *本スレで「嵐さんのところ」などと言う時はココを指す(管理人が嵐さん)

「妄想同好会BBS」 http://jbbs.livedoor.jp/movie/1322/
 上記サイトの専用BBS。本スレに作品をUPしにくい時のUP用のスレあり。
 *本スレで「したらば」と言う時はココを指す

「有閑倶楽部アンケート スレッド」
 http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/1322/1077556851/
 上記BBS内のスレッド。ゲストブック代わりにドゾー。

「画像アップロード用掲示板」
※これまでの競作などに使用した暫定的な掲示板です。
途中で消えることもあり。
http://cbbs1.net4u.org/sr4_bbs.cgi?user=11881yukan2ch
3名無し草:2008/06/26(木) 01:34:29
◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)

<原作者及び出版元とは全く関係ありません>

・初めから判っている場合は、初回UP時に長編/短編の区分を書いてください。

・名前欄には「題名」「通しNo.」「カップリング(ネタばれになる場合を除く)」を。

・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。

・連載物は、2回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」という形で
 前作へのリンクを貼ってください。

・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。

・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
 確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。

・作品の大量UPは大歓迎です!
4名無し草:2008/06/26(木) 01:34:57
◆その他のお約束詳細

・萌えないカップリング話やキャラ話であっても、 妄想意欲に水を差す発言は
 控えましょう。議論もNG(必要な議論なら、早めに別スレへ誘導)。

・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすいように、
 なるべく名無し(作家であることが分からないような書き方)でお願いします。

・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など自由です。

・970を踏んだ人は新スレを立ててください。
 ただし、その前に容量が500KBを越えると投稿できなくなるため、
 この場合は450KBを越えたあたりから準備をし、485KB位で新スレを。
 他スレの迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。

※議論が続いた場合の対処方法が今後決まるかもしれません。
 もし決定した場合は次回のテンプレに入れてください。
5名無し草:2008/06/26(木) 01:35:23
◆初心者さんへ

○2ちゃんねるには独特のルール・用語があるので、予習してください。
 「2ちゃんねる用語解説」http://webmania.jp/~niwatori/

○もっと詳しく知りたい時
 「2典Plus」http://www.media-k.co.jp/jiten/
 「2ちゃんねるガイド」http://www.2ch.net/guide/faq.html

○荒らし・煽りについて
・「レスせずスルー」が鉄則です。指差し確認(*)も無しでお願いします。
 *「△△はアオラーだからスルーしましょう」などの確認レスをつけること

・荒らし・アオラーは常に誰かの反応を待っています。
 反撃は最も喜びますので、やらないようにしてください。
 また、放置されると、煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります。
 これらに乗せられてレスしたら、「その時点であなたの負け」です。

○誘い受けについて
・有閑スレでは、同情をひくことを期待しているように見えるレスのことを
 誘い受けレスとして嫌う傾向にありますので、ご注意を
6名無し草:2008/06/26(木) 01:35:44
◆「SSスレッドのガイドライン」の有閑スレバージョン

<作家さんと読者の良い関係を築く為の、読者サイドの鉄則>
・作家さんが現れたら、まずはとりあえず誉める。どこが良かったとかの
 感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば作家さんは次回も気分良くウプ、住人も作品が読めて双方ハッピー。
・それを見て自分も、と思う新米作家さんが現れたら、スレ繁栄の良循環。
・投稿がしばらく途絶えた時は、妄想雑談などをして気長に保守。
・住民同士の争いは作家さんの意欲を減退させるので、マターリを大切に。

<これから作家(職人)になろうと思う人達へ>
・まずは過去ログをチェック、現行スレを一通り読んでおくのは基本中の基本。
・最低限、スレ冒頭の「作品UPについてのお約束詳細」は押さえておこう。
・下手に慣れ合いを求めず、ある程度のネタを用意してからウプしてみよう。
・感想レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが、宣伝や構って臭を
 嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・作家なら作品で勝負。言い訳や言い逃れを書く暇があれば、自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。
 レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られても、興奮してレスしたり自演したりwする前に、お茶でも飲んで頭を
 冷やしてスレを読み返してみよう。
 扇りだと思っていたのが、実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら、素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
 目指すのは神職人・神スレであって、議論厨・糞スレでは無いのだろう?
7名無し草:2008/06/26(木) 01:50:30
新スレ乙&おめでとうございます。
保守がわりに小噺でもupしたいけどネタがない…
8名無し草:2008/06/26(木) 02:10:28
それじゃ、私が妄想でも。

野梨子の両親って、
どちらが元々白鹿姓で、どちらが嫁入りor婿入りしたのか謎なんだけど、
私はやっぱり清洲さんが元から白鹿姓で、お母さんが嫁入りだと思う。

で、お母さんはもともと白鹿流のお弟子さんで、
家に出入りしているうちに清洲さんと恋に落ちたりして。

でもって、晩生でうじうじしている清洲さんを見かねたのと、
まったく茶の道に進むつもりのない清洲さんのかわりに、野梨子のお母さんを家元にすべく、
当時の家元(野梨子の祖父?)が、愛弟子と息子の結婚をちょっと強引にまとめちゃったのかなと。

もちろん勝手な妄想です。
9名無し草:2008/06/26(木) 03:37:24
>1乙
即死判定はいくつぐらいなんだろ。

>8
私は清州さんが婿養子だと思ってた。
本当はどっちなんだろね。
10名無し草:2008/06/26(木) 08:08:49
>>1 乙です。

>>8
最初は私も>>9みたいに思ってたんだけど、何年か前のこのスレで
清洲さん婿養子説を読んで、>>8に近い考え方になった。

清洲さんも次期家元として一通り以上の技術を身にはつけてるんだけど、
本当は絵を描く方が好きで、ずっと描き続けてる。
絵の方の評判も高まる一方で、大枚払っても欲しい人が増え続ける。
そして、まだ若いお母さんと恋に落ち結婚。
お母さんが家元になるだけの技量を身につけたのを見届けて、
清洲さんは絵の道へ専念する。
で、面倒な集まりはお母さんに押し付けて、自分はスケッチ旅行、と
(家元殺人事件の最初にお母さんが愚痴ってたみたいに)。

勝手な妄想ですとも。
お母さんに名前があればいいのにな。
11名無し草:2008/06/26(木) 13:14:06
>>1乙でした。

清洲さん、素敵だよね。
清洲さん初登場のシーンで可憐がハート飛ばしてたけど、自分もこういう人だったらうんと
年上でもいいなと思ったな。
野梨子ママンは若くて美人さんだし、お似合いの夫婦だ。
あと、清四郎のママンがなにげにかわいいと思う。

12名無し草:2008/06/26(木) 13:14:34
ゴメン。あげちゃった・・・
13名無し草:2008/06/26(木) 18:04:05
清州さんの年齢設定は、たぶん年齢若いと貫禄出ないからなんだろうな。
若くして日本画家のトップて雰囲気出ないし。

自分は>>8と同じで清州さんが白鹿姓と思ってた。
画家だったら若いうちに名前を売る為に、色んな人に名前覚えてもらわないとダメだし、
本名で画家活動してる中で結婚を機に途中で姓を変えるのは、リスクありそう。
14名無し草:2008/06/26(木) 18:36:18
>>10
> お母さんに名前があればいいのにな。

野梨子母と清四郎母、可憐父は名前不明なんだよね。
特に可憐父は故人で登場すらしてないから、どんな人だったのか気になる。
15名無し草:2008/06/26(木) 18:38:10
清州さん、婿養子説?は考えたことがあったけど、
私も清州さんが白鹿姓だと思う。

野梨子ママとは年の差婚だから、清州さん自身は晩婚だよね。
結婚した頃には、すでに名の通った画家だったろうから
やはり清州さんが白鹿だった方が自然だし、そうであってほしい。

茶道家元の家に産まれたけど、家業を継がないで
画家を志しちゃったってことで。
なれ初めは考えたことなかったけど、>>8タソのレスを読んで、
父親のところの若くて美しいお弟子さんと
恋に落ちた説に傾きました。

で、清州さんって芸術家だし、ハンサムだから
若かりし頃(結婚前)は、きっと恋多き男だった思うw
美童とは少しタイプが違うかもしれないけど、たらしと言うか
実は意外と女を泣かせてた人のような気がする。
16名無し草:2008/06/26(木) 20:16:32
私は貧乏画家と、茶道家元の娘の熱愛説を押すw

野梨子ママは順風満帆、あとは家柄が釣りあう適当な
婿を取るだけの女性だったのだけど、貧乏な家の出で、
未だ芽が出ない清州さんと出会って身分の差がある恋に落ちてほしい。
両親の激しい反対に合いながらも恋を貫きとおし、ようやく親が折れて
結婚。清州さんが婿養子に入ってのち画家として大成、みたいなドラマを希望。
17名無し草:2008/06/26(木) 20:29:42
>>15
自分は>>10タソと似てて、恋愛そっちのけで
絵ばっかり書いてて嫁もらうの遅くなったような気がしてならないw
20代で画家が職業じゃ、まだ不安定すぎる収入で
養う力がなく結婚出来なかったんじゃないのかな。
御大、親の事まで深く考えてなさそうだが、
男が画家で結婚遅かったって言うのは、結構つじつま合うと思う。
18名無し草:2008/06/26(木) 20:38:35
どの説も萌える。
19名無し草:2008/06/26(木) 21:04:43
>>11
清四郎のお母さん、いくつになっても清楚って感じに見えそう。
清四郎の父親とはお見合い結婚で、でもラブラブって感じ。

>>16
それもいいな。
清洲さんってどこか飄々としているけど包容力があったりして、
プライド高そうなずいぶん年下のお嬢さん(野梨子のお母さん)を落としてしまったというのも萌える。
20名無し草:2008/06/26(木) 21:42:17
実は野梨子の両親は二人とも元から白鹿姓で親戚同士だったりしても
面白いかも、なんて思ってしまった。
野梨子ママが家元の直系で、清州さんは一族の内の一人とか。

でもあれだけ歳の差があると、子供の頃からお互いに知っているという
シチュエーションは流石にちょっとキツいかな……。
21名無し草:2008/06/27(金) 22:01:13
前スレ703乙!

22名無し草:2008/06/27(金) 22:19:46
絵をかくことが好きだった。しかし家を継ぐのは自分だとわかっていた。
小学生の女生徒が青洲の絵をみて「青洲さんは字がお上手ね。絵描きになるの?」と無邪気に聞き
青洲は絵の道に進むことを決意する。
最初は可愛い女の子だと思っていただけだが、日増しに美しくなる娘に段段惹かれていった。
そして高校生になった娘にプロポーズ。
「私は小さい頃から青洲さんと、青洲さんの絵が大好きでした」
23名無し草:2008/06/27(金) 22:28:34
>>20>>22を読んでいて
光源氏&若紫(紫の上)パターンも面白そうだと思いました>白鹿夫妻
24名無し草:2008/06/27(金) 22:50:02
>>22
野梨子ママ30後半くらいかな。
美童が若くていいな、みたいなこと言ってるし。
何と無くこの当時の親世代だと、家元だったらつぐ為に大学行ってなさそうな気もするし、
高校卒業後すぐ結婚はありえそう。
20年上との結婚は、普通はたいてい反対されるだろうなあ。
2522:2008/06/28(土) 01:08:10
dでも間違いをしてたので訂正。
2行目で上手なのは字ではなく絵です。なぜこんなことに。
26名無し草:2008/06/28(土) 03:05:54
ぜんぜん関係ないんだけど、
「清洲」って、いままでずっと「きよす」だと思っていたよ……。
さっきwikipediaを見に行ってきがついた。

そんな私は、清洲城(きよすじょう)の近くに住んでいる。
前スレ671より

【act.1】中2冬 ⇒ 【act.4】中3夏 ⇒【act.7】高3・夏その1 ⇒【act.8】高3・2月

⇒今回【act.10】

⇒【act.5】大3晩冬⇒ 大4春【act.2】⇒ 大4梅雨【act.3】
⇒【act.9】大学卒業+1ヶ月その1 ⇒【act.6】大学卒業+3ヶ月
【act.10】 高校三年生・三月

 菊正宗清四郎という男は、どこに出しても恥ずかしい立派な変人である。
 日常茶飯事となった奇行のせいで、私はついつい忘れていたのだ。
 変人は変人でも、その方向性が変わった日があったことを。 

                       ※

 あっという間に高校生活が終わってしまった。
 嬉しいことも悲しいことも、全ては宝石のようにキラキラと輝いてこの胸にある。

 ――待ち合わせの生徒会室前に立ちながら、物思いに耽っていた私を現実へ
引き戻したのは美童からの電話だった。
 いくつか言葉を交わした通話を切った後、私は名残惜しいような気がして
制服のスカートのポケットに触れた。贈られたばかりの宝物がちゃんとそこにある
のを確認すると、胸が温かいもので満たされる。
 そうするうちに、自然と物思いにけりがついていた。特に感傷を引き摺るでもなく
存外さっぱりとしている自分に気がつくと、今度こそ私は歩き出した。

 清四郎と連絡が取れないから私にも探してほしい、というのが美童の用件だった。
 新生徒会主催の追い出し会が控えているというのに、どこへ行ったのか。
 校内は考え得る限りをあたってみたが、いずれも空振りに終わったため、外に出た。
 二月の峻烈な寒気は和らいだとはいえ、まだまだ外は冷たい風が吹いている。
 正門前には別れを惜しむ生徒たちの集団が出来ており、私にも声がかけられた。
卒業式という免罪符もあってか、いつもより執拗な誘いを捌きながら、清四郎の
姿を探すと、視界の隅に校舎裏へ歩いていく詰襟の後姿が引っかかった。
 途中で見失ってしまったものの、大体の場所に検討をつけ、私は校舎裏を歩いた。
壁沿いに歩いていると、広大な敷地内のこと、しだいに人気もなくなってくる。
 見間違いだったかもしれないと考えながら角を曲がろうとした、そのときだった。

「……してっ お願い、菊正宗さま……っ」
 切羽詰ったような少女の声がして、私は反射的に立ち止まった。
 いけないと本能的に悟りながらも、誘惑に抗えずに角の奥を覗いた私の視界
に、何か茶色いものが棚引いた。
 ――髪だ。
 丁寧にカールが巻かれた長い髪をなびかせ、見知らぬ少女が、清四郎へと
足を踏み出した。
 映画のワンシーンのように美しく涙を溜めた少女が、踵を浮かせると背伸びをし、
ゆっくりと清四郎に口づけるのを、なすすべもなく私は呆然と見つめていた。
 清四郎は受け入れることもなく、かといって突き放すでもなく、どこか投げやりな
態度で、自分に口づける少女を眺めている。

(――っ!)

 考えより以前に、足が動いていた。
 こんな場合だというのに、咄嗟に冷静な行動をとった自分が可笑しい。私は
出来る限り息を殺して、音を立てないように背を翻した。
 清四郎たちからずいぶん遠くまで離れた私は、しかし生徒たちが大勢いるところ
に帰る気にもなれず、校舎裏にある花壇の隅に腰を下ろした。
 制服が汚れてしまうが、気にする余裕はなかった。どうせ今日限りのことである。
 そうして一息つくと、瘧のように手が震えていることに遅ればせながら気がついた。
 冷静であるつもりであったが、そうではないことを端的に示す自分の身体は、
なんて正直なのだろうか。
 私は無意識に、もう一度ポケットに手を入れて、宝物の存在を確かめていた。
 彼が――魅録が私にくれた、聖プレジデントの高等部校章。

                       ※

『詰襟だから、第二ボタンは無理だけど』
 そういって彼がそれを差出し、私が受け取ったのは、わずかに引きずっていた
恋の名残りをお互いに懐かしみつつも、断ち切るためだった。
 ――あの夏の日、一冊の学校図書から始まった恋のつぼみは、いまにも綻び
そうな程に膨らみきって、けれどそのまま咲くことはなかった。
 図書の最終返却日の前日、魅録から誘われたドライブ。無論、デートと言える
ほどのものではなかった。恋の告白する程には成熟した想いではなかったし、緩やか
に関係が深まっていくことに居心地よさを覚えていた私は、急ぐつもりがなかったのだ。
 それは穏やかで優しいものであり――だからこそ今でも私は不思議なのだ。
 何故あの瞬間、私たちの恋は実ることなく醒めていってしまったのか。
 私の心は間違いなく魅録へ向かっていたし、彼もそれを知っていた筈だ。けれど、
肩を触れ合わせ埠頭を眺めていたそのとき、清四郎からかかってきた電話に、何故
か私たちは我に返ってしまったのだ。
 理由など分からない。清四郎だって、用件のみの自分の事務的な電話が、受話
器の向こうの私たちに、そんな影響を与えていたなど想像もしないだろう。私たちが
密かな恋を育てていたことも、その日出かけていたことすら彼は知らないのだから。
 理屈の及ばぬところで、幼い恋は摘み取られた。誰に知られることもなく。


 そんな恋の形見のようなポケットの中の校章を握りながら、私は途方に暮れた。
 自ら口づけをした女生徒の積極性も、応えるつもりがないくせにそれを拒まなかった
清四郎の不実も、眩暈がするほど私の世界からは遠い。
 何故魅録との恋が終わったのか分からないのと同じように、何故その後清四郎を
好きになったのか、私には分からなかった。
 だがひとつだけ気づいたことがある。
 私が好きになったのは、自分の足で立つことも出来なかった頃の自分が執着して
いた幼馴染ではない。
 仲間たちと出会って私が変わったように、いつの間にか清四郎は変わっていた。
 そして私自身気がつかぬ間に、この身はじわじわと彼の浸蝕を受けていたのだ。

                       ※

 清四郎の変人ぶりが深刻さを増す遠因は、医学部入学がきっかけだと思っていた。
 しかし実際には、原因はもっと以前の些細な出来事にあり、そしてその引き金が
この卒業式の日にあったことを、後に私は知ることになる。
                                        act.11へ 
31名無し草:2008/06/28(土) 20:25:07
みろくー
32名無し草:2008/06/28(土) 20:33:13
みろくー

だいじなことなのでにかいいいました
33名無し草:2008/06/28(土) 21:20:37
>不感症男
待ってました!
今回、清四郎がプロポーズの時、なぜ不機嫌だったのか、ちょっとわかった気がします。
高校3年の夏と新婚初夜のその2も早く読みたい。
楽しみに待ってます。
34名無し草:2008/06/28(土) 21:51:03
梅雨だから明るい話が読みたいな!
35名無し草:2008/06/28(土) 22:16:47
>不感症
待ってました!
このシリーズ、本当に野梨子が野梨子らしい。

新婚の日の話に繋がるのかな?
とにかく楽しみにしてます!
36名無し草:2008/06/28(土) 23:55:39
>不感症男

「何処に出しても恥ずかしい立派な変人」の一文で、もう掴まれましたw
最初読み間違えたのかと思ったw
図書館の後あれっきりと思ってたら、魅録とはこういうやりとりも
ひそかにあったんですね。
清四郎は全く知らなかったのかな。
それにしても清四郎、女生徒にモテてるなあ…本当は朴念仁なのにw
今回もおもしろかったです。
37名無し草:2008/06/29(日) 00:54:43
>不感症男
新スレでもさっそく読めて嬉しいです。
このシリーズ、ほんとに面白い。
今回は魅録と野梨子のやりとりにもキュンとしました。
変人・清四郎の秘密が徐々に暴かれていくのが楽しみですw
38名無し草:2008/06/29(日) 01:29:52
もう終わっちゃったけど、「ラストフレンズ」ってドラマが面白かった。
現代の若者たちの話しなんだけど、有閑で例えると

美知留→野梨子
宗介→清四郎
瑠架→悠理
タケル→魅録
エリー→可憐
おぐりん→美童
ってかんじだなぁと思った。
まぁ清四郎は違う部分も大きいけどw
瑠架→悠理はピッタリだとオモ。
39名無し草:2008/06/29(日) 02:02:50
うじうじした野梨子なんて嫌だ
DVなんかしたらやり返すよ
40名無し草:2008/06/29(日) 03:43:04
>>38
同じこと思ってた人がいたんだ!w
自分も、全員同じ組み合わせで有閑に例えられるなー、って思ってたよ。
ハードな二次創作を見てるみたいだった。
ただミチルのキャラは少し苦手だったな。
でも、有閑3人娘で例えるなら女の子らしい雰囲気から野梨子だなと思う。
エリ→→可憐は悠理と同じピッタリだと思ったなァ。
41名無し草:2008/06/29(日) 19:19:03
自分はドラマあんまり見ないから分からないけど、
全員の性格も魅力も別々のところにあってキャラが立っているという面白さが、
ドラマに合うのかもね。

でも有閑キャラにひゃ二面性あるというか、
単純なようで結構複雑な性格付けされているから、
やっぱり別作品に当てはめにくいな。

可憐の自信家であり、ロマンチストかつ意外と常識人なところとか、
悠理の人情味があるところと、結構ドライなところがあることとか。
42名無し草:2008/07/01(火) 22:10:57
川 ・ε・ 川 

びっくり
どうしてぼくはこんなに
うつくしんだろう
ぐもんかな
らぶにいきるため
んー、でも
まごころもあるけどね
にっかのでーと
えいえんに
43名無し草:2008/07/01(火) 23:14:49
>42
最後の二行が好きw
44名無し草:2008/07/02(水) 22:39:11
>42
かなり好きw
かわいすぎ。最後の二行ィイーねっ!
45名無し草:2008/07/03(木) 18:50:20
奥田雅人
46名無し草:2008/07/03(木) 23:16:22
このスレも終わりだな
47名無し草:2008/07/04(金) 16:07:57
小ネタ
有閑倶楽部メンバーを四字熟語に表してみた。

清四郎→冷静沈着、文武両道
野梨子→才色兼備
悠理→焼肉定食


魅録は難しいなぁ…。
可憐と美童は………?
48名無し草:2008/07/04(金) 17:37:25
乗ってみる。

可憐→豪華絢爛
美童→眉目秀麗

う〜ん。見た目ばっかだな…
魅録はパッと浮かばなかった。
49名無し草:2008/07/04(金) 19:47:50
みろく人心収攬
50名無し草:2008/07/04(金) 20:55:21
さ行までで

有閑倶楽部 合縁奇縁

清四郎 石部金吉
野梨子 一張一弛
悠理 怪力乱神
可憐 狷介孤高
美童 光彩陸離
魅録 人心収攬

清四郎と野梨子で管鮑之交
51名無し草:2008/07/04(金) 22:25:45
四文字熟語便乗して考えてみたけど、魅録が一番難しい。
他の5人みたいに個性が偏ってないからか。
欠点らしい欠点もないし。
悠理は天衣無縫かな。
52名無し草:2008/07/04(金) 23:02:54
ここは知識披露のスレになりました
53名無し草:2008/07/05(土) 17:20:04
なぜ誰も悠理の『焼肉定食』に突っ込まないんだww
54名無し草:2008/07/05(土) 18:22:08
焼肉定食って、悠理に4字熟語言わせたらかえってきそうな返事だなw
悠理は食べ物関連で、美童や可憐は愛と美関連で
面白い返事がかえってきそうだ。
55名無し草:2008/07/05(土) 20:53:36
ここは小ネタの質も落ちたスレになりました。

SSの質も落ちたスレだったけど。
(それ以前にSSの投稿自体もう無いかw)
56名無し草:2008/07/05(土) 22:28:17
四字熟語は浮かばないのでMY萌えセリフを。
裕也の話で無線機を機械ってみんな同じに見えるって言った野梨子に対して
「女ってこれだからな」って言った魅録のセリフ。
女を小ばかにしたセリフにも聞こえるんだけどなぜか萌える。
57名無し草:2008/07/05(土) 22:30:54
魅録ってそういうキャラだよね
58名無し草:2008/07/05(土) 22:39:23
あ、会話止まった。
59名無し草:2008/07/05(土) 22:57:43
3レスお借りして、コネタ投下します。
60大切なこと (1):2008/07/05(土) 23:06:58
「野梨子、遅くなってすまん!」
よほど急いで来たのだろう、夫の声は少しかすれていた。元々、出産に立ち会うつもりで
予定日前後に休暇を取っていたのだが、出産が予定日より3週間近く早くなったため、
出産当日どころか翌日の今になるまで、駆けつけることができなかったのだ。
「お前そっくりの、きれいな髪だな」
野梨子が腕の中の娘を夫によく見えるように抱き直すと、夫は恐る恐る娘の頭に触れた。
それからぷっくりとした頬に触れ、小さな鼻を摘み、最後に人差し指で手のひらを
突っついてぎゅっと握らせた。野梨子は娘を少し持ち上げ、夫に『抱いてみる?』と
目で聞いたが、夫は首を振って『今はいい』と答えた。娘はさっきおっぱいを飲んだばかりで、
今はぐっすりと眠っていた。
「うちの親たち、うるさくなかったか?」
夫は左手で近くのスツールを引き寄せ、軽く腰掛けてから言った。何せ、子供に関心がなさそうに
見えた夫の両親が、野梨子の妊娠がわかるやいなや周囲が驚くほどの変貌を遂げたからだった。
「いいえ。お二人とも、目を細めてとてもいとおしそうに見てらっしゃいましたわ」
野梨子は、夫に微笑みかけながら首を横に振った。
「そっか、ならよかった」
夫は安心したように言い、座っているスツールを引っ張ってより野梨子の側に近づいてから囁いた。
「ありがとな」
61大切なこと (2):2008/07/05(土) 23:09:34
夫が帰った後、野梨子は病室で窓の外を眺めながら、これまでのことを思い返していた。
―これで、よかったんですわ―
自らに言い聞かせるように、野梨子はひとり呟いた。高校、大学と共に過ごした夫と結婚し、
忙しくはあるが何不自由ない日々を過ごしながら、胸の奥にはいまだ亡くなった前夫への想いが
息づいていた。
―裕也さん、私は、魅録と再婚して娘にも恵まれました―
ちょうど10年前、野梨子は金沢市内のアパートで前夫の帰りを待っていた。少し前に妊娠が
わかったばかりで、幸せの絶頂にいた。それなのに、深夜に突然電話がかかってきて、
全てが崩れてしまった。そんな時、東京から何度も金沢に足を運んでくれ、必要に応じて
仲間と一緒に野梨子を支えてくれたのが今の夫だ。そして、亡くなった前夫の7回忌を終えた後、
野梨子はこれからも生き続けるために、今の夫からのプロポーズを受け入れたのだ。
62大切なこと (3):2008/07/05(土) 23:11:50
「野梨子、入るわよ」
声と同時にドアが開き、可憐が入ってきた。宝石商の母親の仕事を手伝っていて
多忙ながらも、大事なところでは必ず駆けつけてきてくれた。
「新生児室で、ガラズ越しだけど、見させてもらったわよ。生まれたてなのに
黒い髪はふさふさだし、色白だし、あんたに似るのかしらねぇ」
可憐は、さっきまで夫が座っていたスツールに腰掛けた。仕事を終えて直接
こちらに来たのだろう、服装は黒の上下のスーツだった。
「さあ、まだわかりませんわ。でも私は、魅録に似てくれた方が、と思ってますの。
だって、女の子は父親に似るといいって言いますでしょう」
野梨子はそう言って、可憐に微笑みかけた。夫からのプロポーズを受けて
戸惑っていた時、背中を押してくれたのは可憐だった。『あんたが裕也さんを
忘れることができないことくらい、ヤツはわかりきってるわよ』と言って。
「可憐」
「何?」
「ありがとうございます」
野梨子は蒲団の上に軽く手を付き、可憐に頭を下げた。可憐は急に改まった
野梨子に少し驚いてスツールから腰を上げ、野梨子の頭を上げさせてから言った。
「何よ、急に」
「だって、全ては可憐のお陰ですもの。あの時―」
「あたしだけじゃないわよ、野梨子。アイツらにも感謝してやってね」
その時、ドアをノックする音がして、看護師が病室に入ってきた。授乳の時間だという。
「それじゃ、あたしは行くわ。また来るから」
野梨子は可憐を見送ってから軽く髪の毛をひとつにまとめ、ベッドから起き上がって
病室を出た。廊下を歩いて一つ目の角を左に曲がってすぐのところに新生児室があり、
野梨子はいくつかならんだベビーベットのひとつで目をパチリと見開いている我が娘を
そっと抱きあげた。それから併設してある授乳室に行き、ソファに座って娘に乳を含ませた。
「ちゃんと生まれてきてくれて、ありがとう」
63名無し草:2008/07/05(土) 23:12:40
以上です。ありがとうございます。
64名無し草:2008/07/06(日) 06:15:35
>大切なこと
GJです。
裕也との子は生まれてこなかったのかな。
魅録、優しいパパになりそうですね。
65名無し草:2008/07/06(日) 10:04:09
ツマンネ
66名無し草:2008/07/06(日) 10:51:43
>大切な
何だか優しい気持ちになりそうな話しでした。
魅録の優しそうな父親ぶりも良かったです。
可憐の職業も気になるなー。
67名無し草:2008/07/06(日) 16:48:07
カプぐらい書いてください
お約束も読めない人間にGJつける奴も自重
68名無し草:2008/07/06(日) 17:52:49
このスレは腐り
腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り
腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り
腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り腐り
69名無し草:2008/07/06(日) 18:23:40
トロッケンベーレンアウスレーゼ
ソーテルヌ
トカイ
70名無し草:2008/07/06(日) 21:20:09
>大切なこと

切ないながらも、今は野梨子が幸せそうでよかった。
野梨子を受け入れた魅録もいい男だ。
こういう話が読めて嬉しい。
71名無し草:2008/07/06(日) 21:58:44
>67に同意
でも今度からは気をつけて頂ければいいことです。

連載陣の続きが気になるよ〜 お待ちしております

72名無し草:2008/07/06(日) 22:00:36
カプ表記なんてそこまでこだわらなくても。
そんなこと気になるならここ見る資格なし。
73名無し草:2008/07/06(日) 22:25:46
いままでだったら、カプ表記くらい一言やさしく注意で済んでたことなのにね?w

>大切なこと
カプ表記はしてくれた方がありがたいです。
でも他に言われてることは気にする必要ないですし、次も投下してくれれば幸いです。
74名無し草:2008/07/06(日) 22:27:24
何だか、あの入れ替わりネタリレーや、三題噺競作の頃が懐かしい……
75名無し草:2008/07/07(月) 00:16:47
新生児でそんなにフサフサになるか?
76名無し草:2008/07/07(月) 01:24:47
ルールを守らない人が擁護されて
注意するほうが叩かれるならそのうちgdgdになるだけじゃん
77名無し草:2008/07/07(月) 15:12:08
ガイドラインもルールの1つでは?

◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう32◇◆◇◆
http://anime3.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1214411470/

こちらで他板に誤爆されたスレがそのままになっておりますが
残念ながら自然にはなかなか落ちませんので、削除依頼をお願いします。
78名無し草:2008/07/07(月) 22:45:07
今日は七夕か。
79名無し草:2008/07/08(火) 00:44:15
>>78
そうだよ。七夕なんだよ。
聖プレジデントでは何か行事はあるのかな。

ということで妄想したのでコネタ投下します。
日付が変わってしまったけどw

可憐→魅録で2レス使います。
80願いを込めて 1/2:2008/07/08(火) 00:45:08
 7月7日、可憐はいつになく早く登校した。運動部の早朝練習に参加する生徒達が登校し
始めるまで、まだ少し余裕がある。
 校庭の片隅で微風に揺れる笹を眺めた。生徒からの要望で生徒会が1週間前に設置した
ものだ。設置当初は役員が作った飾りが数枚吊るされただけだったが、今では色とりどり
の短冊で元の笹はすっかり覆い隠されていた。
 登校時に、休憩時間に、昼休みに、放課後に、笹の周りには大抵たくさんの女生徒と
少数の男子生徒が居たが、今は無人だ。
 見るともなしに見えてしまう願い事の多くが恋愛にまつわるものなのは、年頃のせい
なのか、七夕が連想させる伝説のせいなのか。
 可憐は、ひと気が無いことを再度確認して、持参した短冊をそっと取り出した。
 口に出せるほど腹を括ったわけではないが、心に秘めるには大きくなりすぎた想い。
誰にも言えずに、ただ1枚の紙に託した。
 他の多くの短冊に紛れてしまえばいい。全く同じ願いもたくさんあることだろう。
 それでも、笹に結べば心が軽くなる気がしたから、可憐はこんな早朝に登校したのだ。
 なるべく目に付きにくそうな、程よく上の方で、程よく短冊の密集した枝を選んだ。
 こよりを結んで、小さく溜息をついた。
「こんな早朝に珍しいな」
 息が止まるかと思った。
 振り向くと、今一番会いたくて会いたくない男が立っていた。
「魅録こそ珍しいじゃない。朝帰り?」
「そんなもん。ダチと飲んでて気が付いたら夜が明けてた。部室で着替えて、ついでに
ちょっと仮眠しようかと思って」
「ふうん。ま、身体こわさない程度にね」
 可憐は肩をすくめて、歩き始めた。
「願い事は、やっぱり玉の輿?」
「ま、そんなもん」
 部室に続く廊下を並んで歩く魅録からは、タバコと汗とかすかに酒の匂いがした。
「こういう他力本願な行事に気合入れるなんて、可憐らしくないな」
 魅録が軽く笑う。
81願いを込めて 2/2:2008/07/08(火) 00:46:00
 願いが本当に玉の輿だったなら、可憐は猛反発したことだろう。
 たゆまぬ努力の数々を熱弁したかもしれない。自分にできることを尽くした上で、更に
神頼みまでする己を正当と信じて止まなかったはずだ。つい先日、自分の中にある別の
想いに気付くまでは。
「そうかもしれないわね」
 ちょっと弱気に肯定する可憐に、魅録は意外そうな顔をした。
「もちろん、努力だってするわよ。願いがあるなら、自分の力で勝ち取らなくっちゃ」
 慌てて「いつもの自分らしい」言葉を選びながら、可憐は心からもやもやしたものが
剥がれ落ちていく気がした。
「そう、そうよね、魅録。ありがとう。頑張るわ、あたし」
 魅録の両手を取って握手する。
「特別なことを言った覚えはないけど……。ま、何だか知らないが、それだけ元気があれ
ば大丈夫そうだな」
 おやすみ、と小さく呟いてソファに横になった魅録に、可憐は声には出さず語りかける。
(均衡を崩したくないなんて、恋に尻込みするなんてほんと、あたしらしくないわよね。
覚悟しなさい。可憐さんの本気を見せてあげるから)
 来年はきっと、七夕デートをしよう。もちろん、七夕だけでない。たくさんたくさん
デートをしよう。
 始まったばかりの恋に、可憐の心は弾んでいた。

Fin.
8278:2008/07/08(火) 12:58:15
>願いを込めて
おもしろかったです。
呟いて良かったw
やっぱり可憐は前向きなのがらしくていいですね。
83名無し草:2008/07/08(火) 18:43:55
クオリティ低。
ここの住人は二人だけか?wwww
84名無し草:2008/07/08(火) 22:01:44
このスレオワタな\(^o^)/
85名無し草:2008/07/08(火) 23:49:01
86名無し草:2008/07/09(水) 00:08:16
訂正

>>57>>58
のまちがい。
57さんスマヌ
【act.1】中2冬 ⇒ 【act.4】中3夏
⇒【act.7】高3・夏その1 ⇒【act.8】高3・2月 ⇒>>27【act.10】 高3・3月
⇒【act.5】大3晩冬⇒ 大4春【act.2】⇒ 大4梅雨【act.3】
⇒【act.9】大学卒業+1ヶ月その1 ⇒【act.6】大学卒業+3ヶ月
【act.11】 高校三年生・夏その2

「もし過去に戻れるのなら、私は繊細で可憐な少女だった頃の私に言ってあげ
たいですわ。――あの男だけはやめておきなさいって」
 珈琲の香りが客間の中に広がっている。
 気怠い夏の午後だった。遊びに来ていた大学時代の友人に請われるまま、
他愛もない恋の履歴について渋々ながら話していた私は、その台詞を最後に
話を締めくくろうとし、――ある記憶がふと脳裏を掠めた。
(……え?)
 まさか。
 そして私は唐突なその思いつきが恐らく事実であろうと確信し、愕然とした。
 今にして思えば、あの馬鹿馬鹿しい一幕でさえも、この物語を構成する
1ページであったのではないか、と。
 ――そう、あれもまた今日のように夏の盛りの出来事だった。

                      ※

 高校三年の夏。期末試験を翌日に控えた七月の第一日曜日のことだった。
 昼前になって、剣菱悠理が我が家へ突然訪ねてきたかと思うと、彼女はその
零れんばかりの大きな目に涙をにじませ、私に訴えてきた。
「野梨子! あのサドをなんとかしろよ!」
 これまで受けてきた一学期のテストがことごとく破滅的であった悠理は、自由
な夏季休暇を勝ち取るために、一週間前より菊正宗邸にて清四郎に試験勉強の
面倒を見てもらっていた。そして今日は最終日であり、山場の筈であった。
 それが何故、悠理は私の目の前にいるのか。
 私は半目になって彼女へ問いかけた。
「つまり、悠理は清四郎のサドっぷりに根を上げて脱走した、と」
「あたいもう耐えられんない〜」
 肯定の返事の代わりに、うわーんと声をあげて泣く悠理へ、私は優しそうに
見えるように計算した微笑みを投げかけて言った。
「自業自得じゃありませんか。第一、厳しい指導は清四郎の友情でしょう」
「――友情?」
 ぴたっと涙を止めた悠理は、非常に疑わしそうな様子で低く呻った。
 目の下に隈が出来ており、怨念の篭り方も気合が入っている。
「だってあいつ、酷いんだよお! 居眠りとかならまだしも、腹の虫が鳴った
だけで『集中してない証拠です』とか言って、コレ使うんだ! ぎゃくたいだ!」
 悠理は顰め面をした清四郎のモノマネ(ただし似ていない)をしながら、頭に
嵌った、例の孫悟空の輪を指し示した。
「んまあ」
 私はそれを聞いて、はじめて悠理に同情した。
 悠理は頭を使うと、いつもより更に食欲が倍増する。この万年欠食児童の
ような彼女に十分な栄養を与えないなんて、さすがに可哀想ではないか。
「他にもいろいろアイツ変なんだよ。休憩時間に電話で魅録とバイクの話を
してただけで、すげー睨んできたりさ。あいつ最近妙に苛ついてて、あたいの
勉強にかこつけて鬱憤を晴らしてるとしか思えない!」
 私もまた清四郎らしかぬ態度に首を傾げた。ともあれ、清四郎がサディストで
あろうとなかろうと、勉強しないと困るのは悠理自身である。
 私が指導係を代わってもいいが、一通り話を聞いた限り、どうやら清四郎は
悠理の迷惑にも省みず、興が乗っている様子だ。途中で獲物を横取りするような
真似をすると、余計に臍を曲げてしまいかねない。
 少し考えた後、今日のところは様子見をすることにし、悠理に食事とデザートを
振舞って気を落ち着かせた後、説得して隣家の門前まで悠理を送り届けた。
(さてどうなることかしら)

                      ※

「野梨子! あの唐変木をなんとかしてよ!」
 悠理が去ってからしばらくは静かであったが、そのわずか一時間後、再び私は
自宅に客を迎えていた。しかし今度の相手は悠理ではなく、黄桜可憐である。
 『サド』に引き続き『唐変木』と罵倒される我が幼馴染に、可笑しくも呆れる。
「清四郎がどういたしまして? 悠理も脱走したようですけれど」
 悠理と同様に、可憐も清四郎の指導を受けるため菊正宗邸へ行っていた
筈である。とはいっても、今回赤点が危ぶまれたのは英語のみであったため、
一日中拘束されている悠理とは違い、途中からの参加だったようだ。
「悠理が脱走するのも当たり前よ! ああもうあの口を縫ってしまいたい!
 んもう〜〜思い出すだけで腹が立つ!」
 興奮する可憐は珍しくないが、机をどんどん叩いて悔しがる乱暴な所作は
彼女らしいとは言えない。そうとう悔しい思いをしたのだろう。
 喚く可憐の要領を得ない断片的な話をつなぎ合わせると、こういうことだった。
 遡ること三十分前、菊正宗邸へ到着した可憐は、清四郎を見るなりすぐに、
彼の虫の居所が悪いことに気がついた。藪を突いて蛇を出すことはない。余計な
ことは言わず大人しく文房具を広げた可憐の努力を、清四郎自身が反故にした。
 彼は開口一番こう言ったらしい。
『そんなに目元を真っ黒に塗りたくると、パンダか夜のお姉さんみたいで下品
ですよ』
 可憐は、今夜恋人と食事をする予定だったため、服装もメイクも気合を入れ
ていた。清四郎はそれを揶揄したらしい。
 そうなると売り言葉に買い言葉だった。
 互いの恋愛遍歴の弱点を嘲笑う段になって、清四郎よりも先に可憐は少し冷静
になった。こういう下らない言い争いをいつまでも続ける清四郎に不審を覚えた
のである。彼と厭味の応酬をすることはあっても、口喧嘩にまで発展することは
滅多にない。清四郎は、過ぎる程に口達者な男なのだ。いつもであれば、可憐は
軽くあしらわれた筈であった。
 何か彼にあったのだと察して、なんとか気を鎮めて一旦引いて『あげた』可憐
であったが、まるで尻軽な女であるかのようにあげつらわれた怒りまで鎮まる
筈もなく、荒れた感情の捌け口を求めて、隣に住む私のもとへ来たらしい。
「野梨子も腹立たない!? なんか最近のあいつ、感じが悪すぎ」
 可憐も悠理と同じく、まるで周知のことのように清四郎の機嫌の悪さを口にした
が、私にはピンとこなかった。
 ――そうだったかしら。
 最後に会った一昨日の金曜日の様子を思い浮かべて見たが、正直心当たりが
ない。先週は、私自身が少しばかり、自分のことだけで精一杯だったせいもある
かもしれない。私の目に、清四郎は普段と何ら全く変わらないように見えた。
 ひとしきり私を相手に文句を言って、多少はすっきりしたらしい。可憐は気を
取り直した様子で立ち上がった。
「突然来てごめん。これから彼とデートだからもう行くけど、清四郎を頼むわよ」
「はあ」
 気の抜けた相槌を打った私に、可憐が唇を尖らせた。
「はあ、じゃないわよ。あんた『清四郎係』でしょ!」
「なんですのそれ」
「あの変人の手綱取れるの、野梨子ぐらいじゃない。だから清四郎係」
「そんな妙な係になった覚えはありませんわ」
 当然私は抗議したものの、気にかかったのは事実だったため、結局は清四郎
と話をすることにした。

                      ※

 口を濁しても仕方がないため、私は単刀直入に問いかけた。
「――というわけで清四郎、あなた最近評判悪くてよ」
 勉強会が終わったことを見計らって、私は菊正宗邸を訪ねていた。
 久しぶりに足を踏み入れた清四郎の部屋は、住人の几帳面な気質を表して、
相変わらずきちんと片付いている。
「そうですか」
 取り付く島もないとはこのことだろう。清四郎の返答は無愛想を極めていた。
 ――確かに二人が異口同音に言ったとおりであった。
 何が気に障っているのか知れないが、はじめは業とらしいくらいにこやかに話を
していた清四郎が、悠理たちの話題を出した途端、苦々しい表情を浮かべた。
 清四郎もこのように気持ちが乱れることもあるのか。彼も同じ高校生なのだと
私はどうでもいい感想を持った。
「とにかく悠理も悠理で悪いですけど、勉強中の間食ぐらい認めてあげてください」
「分かりました」
 話しかければきちんと返答があるものの、砂を噛むように何か空しい心地となる。
そういえば先ほどから目が合っていない。そっけない態度の端々から、彼が私を
疎んじて、早く部屋から追い出したがっているのは分かったが、しかし引き下がる
わけにも行かず、尚も食い下がった。
「あと、可憐に謝ってくださいな。女性に対してあまりに失礼ですわ。それにお化粧
のことだって、可愛い女心じゃありませんの」
 そう言った途端、清四郎は実に厭な表情を浮かべると、大人気なく鼻を鳴らした。
「君こそ男心が分からないくせに、僕へ女心を語りますか」
 瞬間的に、私は顔へかっと血を昇らせた。
 言われた内容よりも、人を小馬鹿にするような態度が私の神経を引っ掻く。
 清四郎は昔から、私を苛立たせるのが天才的に上手いのだ。
「将来清四郎のような殿方と結婚する女性は、随分と寛容なことでしょうね!」

 ――――ああ。どうか笑わないでほしい。
 後から振り返るに、これほど滑稽な台詞もなかったのだが、無論のこと私は
真剣だったのだ。このときの私は、自分の中に眠っている清四郎への想いに気づ
いてなどいなかったのだから、仕方がないではないか。
 兎にも角にも、肩を怒らせてそう言い放った私に、清四郎は相変わらず何を考えて
いるのか分からない表情で、こう言ったのだった。
「そうであればいいですね」
 そう――まるで他人事のような声音で。

                      ※

「まあ、私も若かったですし」
 考え得る『ほぼ』すべてを語った後、私は気まずさを誤魔化すように、なるべく
平常心を装ってそう言った。
 友人――成美さんは、直接清四郎と親しいわけではない。だからこそ仲間内では
言えないことも、問われるまま打ち明けたが、さすがにこれ以上は恥ずかしい。
 しかし私の内心などお見通しの成美さんは、揶揄うように言った。
「頬が赤いわよ、野梨子」
「放っておいてくださいまし! ――ともかく、これで終わりですわ」
「終わり、ねえ」
 話を打ち切ろうとした私に、案の定というか、成美さんは意味深に笑った。
「まだ聞いてない大事な話があるじゃないの――ほら、新婚初夜の翌日、とか」
 頬が更に赤くなるのを感じ、私はとうとう顔を俯かせた。
 
                          The final actへ続く
93名無し草:2008/07/09(水) 10:33:25
>不感症男
レスのボリュームが増えてて嬉しいです。諦めずに待ってて良かった。
清四郎の期限の悪さの原因は、時系的に見ていくとあの事なんだろうかと
掠めつつも、まだ清四郎の事だから想像の斜め上を行ってしまわないだろうかと
思ってしまったりもw

だけど次がFinal Actなんですね…。
もう少し読めるかな、と思ってしまっていたので
淋しかったりします。
Final act期待しております!
94名無し草:2008/07/09(水) 12:32:20
名前だけのオリキャラSSもやっと終わるのか
重畳重畳
95名無し草:2008/07/09(水) 12:47:14
>>94
同意!清四郎はそこまで情緒障害者じゃないって思う。
改悪しすぎて不愉快!!
96名無し草:2008/07/09(水) 13:27:13
板移動していたの気がつかなかったw

>不感症〜
次ラストなんですね。寂しい……。
清四郎の抱えているらしい謎が解き明かされるのでしょうか。
97名無し草:2008/07/09(水) 16:30:30
>不感症
今回も面白かった!
次が本当に本当に楽しみです。
次で終わっちゃうのは悲しいですが、待遠しさと板挟みです。
野梨子と清四郎の関係の謎を解けるのをわくわくしてますね。
98名無し草:2008/07/09(水) 19:54:00
>不感症

次回ファイナルアクトとのことで、気になる点があるのですが、
(act7)高3夏その1と、(act9)大学卒業一ヶ月その1は
どちらもその2があるものだと感じていたのですが、
どちらかのその2はもうないのでしょうか(続きが気になってたもので)。
作家さんの考えであったり、私の思い違いでしたら、すみません。
99名無し草:2008/07/10(木) 00:06:27
ただの回想でよかったのでは
野梨子が人にペラペラ喋るとは思えない
100名無し草:2008/07/10(木) 02:35:24
ちょっと見てなかった間に2つ投下あってうれしい。

>願いを
魅録に珍しいと言われるけど、短冊に願いを託そうとするのは
ロマンチストとこがある可憐ならありえると思いました。
最後の恋愛に自信ありげな可憐が魅力的で好きです。
来年は魅録とたくさんデートできてるといいなあ。

>不感症男
乙です。
喧嘩の言い合いで、野梨子より清四郎の方が一枚上手な所に何か萌えでした。
カッとさせる術を知ってるのは、裏を返せばお互いをよく分かってるからだと思うんで
こういう描写を読むのは好きです。
続き待っています。
101名無し草:2008/07/10(木) 16:41:37
>>99
同意。下品な野梨子と阿呆な清四郎でウザかった。
さっさと最終回を投下して〆てくれ。
102名無し草:2008/07/10(木) 19:14:04
>>77
その偽スレまだ落ちてないね。
よく見るとテンプレを2以降コピペもしてないし、
いつも通り難民板じゃなく漫画板にたててるから
わざと重複するように誰かがたてたんだろうけれど
今覗いてきたら保守までしてあるな。
削除依頼はまだされてないのかねえ。
103名無し草:2008/07/11(金) 00:43:57
>>102
このスレの2分前に立ってるみたいだし、単に>>1さんが誤爆したのでは?
104名無し草:2008/07/13(日) 11:25:17
あ、誤爆してもすぐスレ立てできるんだ。
2ちゃんとPinkだからかな?
自分も以前他のスレを立てる時に他板に誤爆して(恥)
続けて立てようとしたら規制ではじかれた。
105名無し草:2008/07/14(月) 10:55:27
清野が読みたい。清→野っぽい感じのが読みたい。
106名無し草:2008/07/14(月) 22:56:33
>>104
いや、漫画・小説板はPINKではなく、難民と同じ2ちゃんねる。
今見てみたら77のスレ落ちてた。
レス少なくて自然に落ちたか、報告があったか知らないが
報告してくれた人がいるならGJ。
107名無し草:2008/07/15(火) 09:29:08
>>105

このスレにそんなこと期待しても無駄。
108名無し草:2008/07/15(火) 10:42:03
109名無し草:2008/07/15(火) 18:02:07
すっかり過疎っちゃったね、このスレ。
110名無し草:2008/07/15(火) 19:30:14
自演荒らし厨の注意テンプレの話しが前スレに出てたけど、やっぱり作っておいた方がよかったかもね。
111名無し草:2008/07/15(火) 22:50:06
粘着の荒らし報告した方がいいかな。
112名無し草:2008/07/16(水) 21:46:52
久々に漫画を読み返してみた。
みんな漫画って持ってるのかな?
113名無し草:2008/07/16(水) 22:16:46
文庫版だけど持ってる。
私も読み返してるよ。
前スレの最後の点呼で萌え美悠シチュが出てたから、ホテル相部屋の所
読み返したけど、まんまと嵌まった。
114名無し草:2008/07/16(水) 23:12:25
御大はもう書く気はないのかねぇ。
今の絵よく知らないけど、昨年の絵の有閑男性陣の童顔ぶりに衝撃受けたが。
115名無し草:2008/07/17(木) 10:46:10
曜変天目割った場面の清四郎なんてまことちゃんかと思ったもんな。
もうこのまま終わりでいいと自分は思う。
116名無し草:2008/07/17(木) 18:15:12
それにもう必要以上の魅録マンセーっぷりは見たくない
117名無し草:2008/07/17(木) 18:35:56
違うよ。御大は今、美童マンセー。ドラマ化前のインタビューでハッキリ言ってた。
それまでは確かに魅録が好きだったとも言ってたけど、今は美童がかわいいって。
だからこれからは、漫画描くことがあったら美童マンセーが続くんじゃないの。
118名無し草:2008/07/17(木) 19:08:47
魅録よりはまだ美童の方がいいな。
魅録マンセーだと、話のバランスが崩れてクソつまらん。
119名無し草:2008/07/17(木) 21:12:09
>>115
まことちゃんフイタw
そんなに清四郎子供がえりしてたんだ?
このまま終わりでいいと思うに同意。
やる気なさそうな感じするし。
120名無し草:2008/07/18(金) 00:59:33
絵が変わるのはどんな漫画家でもあることだから
しょうがないんだろうけど、それでも一番最近のあの有閑メンバーの絵は辛かったな
121名無し草:2008/07/18(金) 10:44:09
そう考えると美内すずえはすごいな。
30年以上、絵が変わってないなんて。(良いか悪いかは別として)
携帯電話すら、昔のアイテムに見えてくる。
122名無し草:2008/07/18(金) 12:53:01
>>121
70年代のみうっちの単行本を読み直してみるといいよ。
今の絵柄も古いのは同意だけど、それなりに変化してるからさ。

やっぱり長年描いてると変わらないということは無いと思うよ
(それが良いか悪いかはともかく)。
王家もクリドラもエロイカもパタリロもあさりちゃんも、
ゴルゴや美味しんぼやこち亀ですら初期とは変化してるんだよ。

ほとんどが実家にあるとはいえ、これらの資料wを持ってる自分も
どうかと思うがorz
123名無し草:2008/07/18(金) 17:00:51
自分の一番好きなころの絵で妄想するほうが楽しい。
>>122
いいなぁ。自分は全部捨てちゃったよ。
有閑だけ文庫版で買いなおした。
124名無し草:2008/07/18(金) 18:40:38
>>123
すごくわかる
というかSSも脳内で自然に好きな頃の絵柄で変換されてるなw
125名無し草:2008/07/19(土) 23:24:16
漫画読み返してて思ったんだけど、美童ママって理知的なかんじだよね。
美童も結構、将来、ああいうママみたいな人と結婚するのかな。
126名無し草:2008/07/20(日) 00:27:04
女の子は男親、男の子は女親に似た人に惹かれるらしいからね。
となると魅録は千秋さんだから、確実に可憐だなw
悠理はどうかな〜…万作さんのあの明るさは美童のような…
127名無し草:2008/07/20(日) 08:29:34
>>125
たしかに千秋さんと可憐て似ているよね。
でも嫁姑争いが凄いかも。見てみたいな〜

>>126
悠理は結婚するなら自分より強い人って言ってたから、
美童はなさそう。魅録か清四郎っぽいけどな。
128名無し草:2008/07/20(日) 09:46:43
好みじゃないのに惚れてしまう、という妄想も楽しいよ。
129名無し草:2008/07/20(日) 10:54:20
チチから可憐にいくと見た目にはこだわらないことに
悠理が自分より強い人といったのは結婚したくないから、
難しい条件をだしただけだと思ってた
130名無し草:2008/07/20(日) 18:32:27
>>126
野梨子父は美童?
美童母、清四郎母も可憐かな。
豊作さんは野梨子だねw
131名無し草:2008/07/20(日) 20:46:46
野梨子父、美童かな?
自分は全然そんな感じしないや。
かと言ってあとの二人ともまた違うけど。

ゆりこさんは誰かと言ったら野梨子かも知れんけど、野梨子はキレるタイプじゃないし
あそこまで怖くないと思う。
132名無し草:2008/07/20(日) 21:20:51
清四郎のお母さんはおっとり系で超やさしそう、
百合子さんはある意味有閑倶楽部一恐い人で両極端だな。
百合子さんは大好きだけれどさw、129の例えは何だか、
優しい→可憐、恐い→野梨子みたいで少し悲しくなった。
母世代は情報少ないから、やっぱり例えるのは無理があるかも。
133名無し草:2008/07/20(日) 21:36:59
野梨子はまだ18歳だから、そりゃ百合子さんには負けるよw
でも百合子さんみたいになる素質はあると思うんだけどなあ。
肝も据わってるし、蛇の回で啖呵切る野梨子は格好良かった。

優しいというか、清四郎の母みたく「普通」に近いのは可憐
美童母みたく「大人の女性」の風格あるのは可憐かなと思って
130で例えてみました。まあ御大が描く女性は可憐タイプが多いってだけなんだけど。
134名無し草:2008/07/20(日) 22:50:12
まぁ、1人1人のただの妄想だから意見違って当然だよね。人それぞれってことで。

他人の誰の母に似てるか、って話から逸れてごめんだけど、私なんかは
野梨子は顔が瓜二つでイメージも野梨子母に似てる
から野梨子母の様になると思うし
可憐も性格が可憐母に一番似てると思う。
結局は母に似ると。悠理は多分万作さん似だけども。
千秋さんは可憐と姿が似てるけど、もっと情がなさそうで要領がいいイメージがある。
清四郎母は小さいコマ1つ(覚えてない)しか登場してないから正直分からない。
135名無し草:2008/07/20(日) 23:03:04
みんな感じ方が違っておもしろいw
清四郎と和子さんの姉弟は外見は似てるけど、両親にはあんまり似てないかんじ。
性格は和子さんは修平さん似かな?
136名無し草:2008/07/20(日) 23:10:18
和子さんの初恋は隣の家の清洲さん


と、妄想した事があった・・・w
理論家で凡庸な容姿の修平さんとは真逆なだけに
芸術家でロマンスグレーな清洲さんに憧れを抱くんじゃないかと
137名無し草:2008/07/20(日) 23:47:23
清四郎の両親は謎すぎる。はっきりいって似てるとか判断すら難しくない?
人によって妄想が大分違いそうだ。
清四郎一家また出してほしかったし、可憐の父親もどんな人だったのか。
清州さんは好みだからまた見たい。
138名無し草:2008/07/20(日) 23:52:52
>>136
そのネタ初めて聞いたけど、面白いねw
清州さん、あんなステキな父親だったら
ファザコンになる人の気持ちが分かるかも…

そういえば、以前に清四郎→野梨子母のSSがあったよね。
あれも新鮮だったなー
139名無し草:2008/07/21(月) 04:07:38
>>133
百合子さんはキャラクターが強烈だからなあ
格好良いけど、恐妻家ですごい剣幕で怒ってる場面が多いからその印象が第一に焼き付く。
百合子さんに丸いところが結構書かれてたらまた違うんだろうけどね
個人的には百合子さんはオンリーワンかと
140名無し草:2008/07/21(月) 07:20:00
百合子さんは昔穏やか(?)なキャラとして描かれてたことがあったね。
万作さんが警視庁を爆破する話ではかなりうろたえていたが
いつの間にか本人がダイナマイトや機関銃をぶっ放すキャラにw

それと気になったのが、千秋さん初登場よりかなり前に時宗さんが
「うちの奥方もすごくてな」と言ってたこと。
御大の脳内には既にあの千秋像があったのか、それともただの偶然か?
141名無し草:2008/07/21(月) 08:48:03
清四郎一家は曜変の話で結構出てるけど、清四郎母がみんなのお母ちゃんたちの中で
一番普通の人っぽいかんじする。

>>136
和子→清洲いいね。和子×美童も好きだけど。
142名無し草:2008/07/21(月) 10:31:47
清四郎母は容姿が穏やかに見えるけど、実は意外と積極的だったりするんでは。
この人は想像するしかないけど、株に手を出してる部分が
穏やかな中にもちゃっかりした和子さんぽい部分がありそうなカンジがする。
143名無し草:2008/07/21(月) 10:52:36
野梨子はファザコンの上にブラコンなのか。

清四郎の「清」は隣に住む清洲さんから一字取ったのだったりして。
144名無し草:2008/07/21(月) 15:40:11
一連のレスを読んでいて、倶楽部内メンバーを千秋さんや百合子さんたちに
当てはめるのは、ぶっちゃけ無理があると思ってしまった。

主役級メンバーは出番がおおいから、より性格づけが細分化されていて
良点欠点の二面性が全員にあって、一言で言い表せるような性格づけじゃなく複雑だから。
魅録や悠理の両親だけじゃなく、他の両親は性格づけから詳しく設定されてないから
どのメンバーに近いと言うのは当てはまらないと思った。
145名無し草:2008/07/21(月) 23:07:38
親に似たタイプに惚れるより自分と逆のタイプのほうが面白い
146名無し草:2008/07/22(火) 13:24:11
小ネタふっても盛り上がらない

↓↓↓↓↓↓↓↓



このスレめでたく





終了――――――――――――――――――!!!!!!!wwwwwww
147名無し草:2008/07/22(火) 16:06:58
いつもの自演厨はこのスレの全員にいやがられてるから
恨まれてせいぜい規制されないように気をつけたほうがいいだろうね。
148名無し草:2008/07/22(火) 22:32:25
>このスレの全員にいやがられてるから

プッwwwww
「全員」??wwwww

誰と誰?
たかだか2、3人だろ?wwwww
149名無し草:2008/07/23(水) 10:15:04
素朴な疑問なんだけど、こんなに過疎ってるスレで
粘着荒らしとか認定されるもんなの?

月日は流れて、1月1日。
白鹿家での新年会に6人が集まった。あれ以来予定がつかなくて、約一週間ぶりの再会である。
形通りの挨拶の後に、清四郎は当然のことのように言った。
「僕と野梨子は、正式に婚約しました」

あの後―…魅録に送り届けられた白鹿家で、清四郎は白鹿夫妻に頭を下げた。
今回のことは自分たちの不徳のせいで―――これからも変わらず、…生涯、野梨子を守っていきたいと。
それで納得して貰えるとは思ってもいなかった。
聞かれれば、全てを語る覚悟もあった。
しかし清四郎の誠実さが伝わったのか…清州はすべてを不問に処す、と言ってくれたのだった。
そして、これからもよろしくと。

「まーじーかーよっ!!」
「おめでとう!」
素直な祝福が、苦難を乗り越えた二人に送られる。
「お二人さーん、プロポーズの言葉は何ですかぁ?」
「『野梨子の面倒を見れるのは僕だけですよ』…そのままです」
「まーあんたたちらしい…」
可憐の苦笑い。
「清四郎の親父さんも喜んだろ」
「和子さんも喜びそうだね」
「…喜んだどころじゃないですよ」
実際、白鹿家への挨拶を終えた二人を菊正宗家で待っていたのは、まずは和子の熱い抱擁だった。
「おかえり!」…可愛い弟、ではなくその恋人への。
婚約したことを告げると、これ以上の相手はいない!と手放しでの大喜びだった。
「清四郎、よくやった」
全身から喜びのオーラを発する修平に、その妻は優しく微笑んだ。
「嬉しいわ。野梨子ちゃん、これからもよろしくね」
それから、菊正宗家で両家揃っての宴会となったのだが、兎にも角にも修平の喜びようは半端ではなく、酒も入って豪快な笑い声が絶えない宴だった。

「結婚はいつ?」
「とりあえず大学を出てからですね。学生の身分では、まだ」
「でもさぁ、大学4年間だろ?長いよなぁ」
「要するに早く捕まえときたかったんだろ」
「キャンパスで悪い虫がつかないように?」
「左手薬指の指輪は効くよね〜」
野梨子はそっと左手の指輪を撫でる。
冷たい金属のはずなのに、じんわりと暖かく感じた。

「………あいつ、どうしてるかなぁ」
ふいに魅録が呟く。
「霞さんも。そういえば、まだ謎が残ってるよね?なんで最後のパスワードが【KASUMI】だったのか。可憐、本当にあれ、勘?」
「………そのことについては、お話があります」
野梨子が取り出したのは、一通の手紙。差出人は久保田霞だった。
「あの後、手紙を書いて……久保田さんからお返事を頂きましたの。―――全部、ここにありましたわ」

―――――白鹿 野梨子様
手紙をありがとう。あれからの光一は意外な程に落ち着いて、前向きに治療に取り組んでいます。
あなたに出会う前………健康だった彼よりも、今のほうが生き生きしているくらい。
あなたのことは、今、あの子は口にしないわ。
頭の中はあなたでいっぱいのくせに、無理に幼い頃の思い出話を掘り出したりしてるのよ。馬鹿よね、本当に…

あなたに本当の事を話そうと思うの。
知りたくなければ読まなくてもいい。私と光一と…それから、光一の両親の話。
私があなたを放っておけなかったのは、ただの同情心からじゃないの。
あなたと私は同じだったから。

私が氷結エンターテイメントに入社したのは22の春。
地方から上京して来て、なんとか大手に就職できたんだけど…現実は甘くなかった。
元が要領の良い方じゃないから、簡単なミスやつまづきも多くて。
そんな時、いつも庇ってくれたのが社長…真一さんの奥様の弥生さんだったの。
何の取り柄も無かった私を、何故か弥生さんは気に入って下さってね。よく食事や買い物にも連れていってくれたわ。
弥生さんも昔、別の会社の秘書課にいたらしいから、昔の自分に被ったのもあるんでしょうね。

弥生さんは私を信頼して、色々なことを話してくれたわ。昔、流産して子供の産めない体になった事も。
でも、それでも幸せだって言ってたのよ。
その幸せを壊したのは、私なの。
弥生さんのお宅にお邪魔することも多くて、そこには当然、真一さんも居た。
会社で見せない砕けた表情に、私はどんどん惹かれていった。
勿論、許されないことだ分かってたけど…想うだけなら、どうせ叶わないからって。
でも…ある日真一さんは言ったの。『君と二人で逢いたい』って。
私の想いなんて、とっくに彼には解ってたのね。

それから、秘密の会瀬を重ねる内に深い関係にもなって…
私は何一つ弥生さんに勝てることなんてなかった。
だけど真一さんは好きだって言ってくれた。…私はどんどんハマってっちゃったの。

でもね、ある日子供が出来たの。許されるはず、ないのに私――…嬉しいと思って、この子だけは絶対に守りたいと思った。
誰にも言わずに会社を去って、1人故郷の秋田に帰ったの。両親は既に他界してたけど、本当に1人で育てようと思って。
もうわかるでしょう?その子供が、光一なのよ。
「は…!?」
ぽかんとする悠理をさしおいて、手紙の文字は綴られていく。

――産まれた男の子…私は地位も権力もないけど、どんなに苦しくても、この子を育てていこうって決めたのよ。

だけどね…一月ぐらいした頃かな。真一さんが急に訪ねてきた。
そして…彼は光一を奪っていった。私には育児能力がないから、とかなんとか。
そこでやっとわかったの。
真一さんが欲しかったのは子供で…私なんか初めから眼中になかったって。

馬鹿らしくて、もう争う気にもならなかったわ。
…結果的に、私は光一を捨てたの。

死のうと思った。
だけどね、結局それも失敗に終わった。死ぬ前に発見されて、自殺未遂。かっこ悪いでしょ?
そこで私は思ったの。いつか絶対、光一に会いに行こう。実の母だと名乗ることはできないかもしれない。
だけど母親として恥ずかしくない人間になろうって。

仙台のそこそこの企業に再就職して、私は仕事に燃えた。
取れる資格は手当たり次第取って、キャリアアップが生き甲斐だった。
毎月、真一さんは1人には十分すぎる金額を振り込んで来たけど、私はそれを使うことはなかった。
いつか纏めて、札束を彼に突き返してやるって思ってたから。

それから、十年経った頃かしら…専務の長嶋さんから、真一さんの死と弥生さんの発狂を聞いたのは。
『あなた宛に手紙がある』そう渡された手紙には、しつこいくらいの謝罪と、光一のことが書き連ねてあった。
『本当に勝手だけど、光一の母親は君だ。君に傍にいてやってほしい』
今更、氷結なんかに戻れない。だけど―――………光一に、会いたかった。
私は真一さんのお金で顔を変えた。全部を作り替えることに決めたの。
自分の中で唯一好きだった二重の目も、切れ長の一重に整形して。
『長嶋さんの奥様の妹』ってありもしない設定を作って、『久保田霞』も全くの偽名。
本名はね、『高倉明日香』なの。
―――そう。裏切り者の明日香は私。
『久保田霞』は氷結光一の世話役・長嶋専務の秘書。そしてゆくゆくは光一の秘書として会社に入社した。
十年の間に高倉明日香のことを知る者は減って、まして私が明日香だなんて疑う人間はいなかった。
そうよね。ドジでおどおどした不貞の女が、キャリアアップして帰ってくるなんて。そんな事、あり得ないものね。

光一を見てまず思ったのは―――整形して、良かったってこと。
目だけは私にそっくりだったの。真っ暗な色をしていても、その目はあたしの目だった。
「はじめまして。氷結光一です」
そう微笑んだ暗い瞳に、涙を堪えるのに精一杯だった。

それから、ずっと光一といてね。一定の線以上に、光一が心を開くことはなかったけど……実の息子といられるだけで、私は幸せだったの。
野梨子さんが現れた時…嬉しかった。光一が人並みに喜んだり笑ったりすることが。

でもね、あなたがここに来て、その表情を見て思ったの。
『あぁ、この子は私と同じだ』って。
愛する人を、実質的に奪われたあなた。私の光一を奪われた時の顔にそっくりだった。
死に逃げることもできず、ただ人形みたいに笑ってたあなたを、他人だとは思えなかった。

日記を見た時に確信して、どうしても真実を彼らに知って欲しくなった。私と同じ道を歩ませたくなくて。
だから、あんなに勝手なことしたの。…あなたを救いたかったんじゃない。古い記憶の中の私を助けたかったの。

どうして、光一が私の名をパスワードにしたのかはわからない。もしかしたら、母親代わりくらいには思ってくれてたのかもしれないわね。
生涯、光一に母親とは名乗れないと思う。
だけど穏やかな光一を見てるとね、あの子が産まれた頃みたいな、涙が出るほど幸せな気持ちになれるのよ。
あなたに出会わなかったら、光一は多分世界の全てを恨みながら朽ちていった。
だけどあなたに会えたから、あの子は世界に光を見つけられたと思うのよ。
きっと暖かい光の中なら、死ぬことも怖くないと思う。

光一にやさしい光を見せてくれてありがとう。

あの子には名乗れないけれど、私はあの子の母親だから。

母としてお礼を言います。本当に本当にありがとう。
手紙を読み終えた場に、なんとも言えない空気が流れる。
「じゃあ結局、『明日香』は久保田さんだったんだね」
「…言わないのかな。自分が母親だって」
「言えないわよ。多分一生、秘密にするわね。――あたし、母子家庭で、ママに愛されてるのはすごくよくわかってたから…」
「…だから可憐には分かったのかもしれないね。最後のパスワード。」
「でも…なんだかなー…。これからも言えないまま、か…」
しんみりとする空気を、魅録の言葉が歯止めをかけた。

「でもさ、これでよかったんだよ。…お前ら、幸せになれよな」
清四郎が答えた。
「言われなくても。」

「な、呑み直そうぜ!」
悠理の明るい言葉に、全員が笑った。
あたたかいひかりは、確かにここにあるのだ。
あたたかなひかりが差し込む白い廊下を、1人の女がカツカツと歩いてゆく。
花束を抱えたその女は、目を細めてガラス越しの空を見上げた。
(5年…………)
変わらないように思える景色も、やはりゆっくりと変化していた。
窓から見えていたベンチがなくなり、新しく花壇が出来ている。
目的の部屋のドアをノックして開けた。中の人物は柔らかに微笑む。
(5年が、過ぎた)
5年間で、彼は変わった。新しい薬の副作用で髪の毛は抜け落ち、闘病生活で窶れてしまった。
医者に言わせればこの命は『奇跡』。
確かに疲れは感じさせるものの、瞳にはまだあたたかな光が宿っている。

「起きていて大丈夫なの?」
「うん。今日はとっても気分がいいんだ。それより、買ってきてくれた?」
「えぇ。急に電話してくるからびっくりしたわ。これでいい?『おもいっきりハッピーな絵の絵葉書』」
女の手渡した葉書の束を、彼は受け取り、慎重に見ていった。
そして一枚の葉書を抜き取る。
男の子が女の子にキスをしている、可愛らしいイラストのものだった。

「…うん。これに決めた」
男は枕元のレターケースを開けた。薄桃色の封筒がぎっしりと詰まっている。
『氷結光一様』
几帳面な綺麗な字だ。

「結局一度も読んでないのね。せっかく送ってくれてるのに」
「…うん」
「読んで返事も書けばいいじゃない」
「だめだよ。『清四郎には愛想が尽きました。光一さん、迎えに来て!』…なんて書いてあったらどうするの」
「ふふふ、大丈夫よ、ないから。」
大袈裟な手振りに、女は思わず笑ってしまった。
「………でも、もし本当にそう書いてあったら…あなた、行く?」
「………行くよ」
光一が窓の外、空を仰いだ。
「髪もなくなって、格好良くない僕だけど、………野梨子が呼んでるなら、どこだって。
泣いてる野梨子を抱き締めて、言ってやるんだ。『彼の所に帰れ』って」
「…そう」
5年の歳月は彼を大人にしたらしい。年相応というには、やはり少し幼いけれど。時を経て、変わっていないのは自分だけかもしれないと、女は感じた。
「ねぇ久保田さん、宛先書いてくれない?これには返事したいんだ」
彼が寄越した一枚の葉書。『結婚しました』
幸せそうな花嫁姿。女は目を一瞬丸くした。
「そう……そうなの。もう5年、だものね」

女がさらさらと宛名を書き終えると、彼は葉書とペンを受けとる。暫く余白とにらめっこをして、ゆっくりとインクを走らせてゆく。
『おめでとう。光一』
決して美しい字ではない。けれど彼には精一杯の祝福の詞だ。

「出してきてくれる?」
それに了承して席を立つ。その背後で、彼は言ったのだ。
「大女優だと思わない?」
女は立ち止まり振り向く。
「…野梨子さんのこと?」
「違うよ」
彼は優しい顔をしていた。
「僕の母さんのこと。30年以上も他人のフリ、なんて並大抵のことじゃないよね?」
「―――――!」
…知っていた?どうして。
胸から一気に熱いものが込み上げて来た。大きく息を吸って、なんとか熱さを内面に留めた。
「………これ、出してくるから」
踵を返した泣きそうな背中に、また、声が飛んできた。
「いってらっしゃい。…………母さん」
病院の前のポスト。
手に持った絵葉書。おめでとうの文字、余白。
胸から出したボールペン。
創られてゆく詞。
『お幸せに。明日香』
本当の名前で光一と並べた。
ありがとう、………ありがとう。

ポストに吸い込まれる、大切な詞の乗った舟。
女は―――久保田霞、いや高倉明日香はポストに背を向けたが、2、3歩んで振り返る。
そして美しい唇が動く。

晴れた日だった。
暖かな日だった。
世界は光に満ちていた。

「二人に、幸あれ」

―――――大女優は『幸あれ』と言った。


終わり
長い間お付き合いありがとうございました。

160大女優は『幸あれ』と言った:2008/07/23(水) 20:43:45
最後の最後にすみません。
30スレの414からの続きです。
161名無し草:2008/07/23(水) 21:09:25
大女優キテルー!
まだ読んでないけど、すっごい驚いた、うれしい!
162名無し草:2008/07/23(水) 21:10:54
>大女優〜
ずっと待っていたので最後まで読めて嬉しいです。
光一、亡くなってしまうと思っていたので助かってほっとしました。
そしてまさか、「幸あれ」のセリフが彼女のものだったとは。
素敵なラストをありがとうございました。

163名無し草:2008/07/23(水) 21:26:38
>大女優

あっ目から汗が…。
すごくいいラストでした。
ありがとうございました!
164名無し草:2008/07/23(水) 21:34:44
>大女優
乙です、ビックリしましたよ。
帰ってきてくれるのをお待ちしていました。
最終回感動しました。
大女優と言うのは野梨子のことだと思っていたけど
野梨子以外にも大女優はいたんですね。
光一も魅力的なキャラクターで好きでした。

長編お疲れさまでした。
またぜひSS書いてください。
165名無し草:2008/07/23(水) 22:45:31
>大女優
読むのが遅い私は30分以上も掛かってしまいました。
大女優を待っているジレッタイ気持ちが、今日一瞬で飛んでしまいました。
この作品の野梨子が健気で可愛くて大好きだった。
ハッピーエンドで良かったです。有難うございました!
166名無し草:2008/07/23(水) 22:57:01
>大女優
待ってました!最終回読めて感激です。
光一と久保田さんのことが気になってたので、みんなが幸せなラストで
とっても嬉しかったです。
お疲れ様でした!
167名無し草:2008/07/24(木) 00:50:58
>大女優

続きをずっと待っていました。
タイトルの「大女優」はもう一人いたんですね・・・。

このスレで、最初から最後までリアルタイムで読み続けた初めての長編だったので
完結は個人的にも感慨深いものがあります。
本当にお疲れ様でした。そして、素敵なお話をありがとうございました。
168名無し草:2008/07/24(木) 08:00:54
>大女優
完結、お疲れ様でした。
最後にこんなひとひねりがあって驚きでした。
読めて嬉しかったです。
169名無し草:2008/07/24(木) 19:08:31
>>167
私も数年前からこのスレにいる途中参加ですが、ここまで長い長編を
最初から全てリアルタイムで読んだのは、大女優が初めてでした。
ホントに感慨無量ですね。
170名無し草:2008/07/25(金) 13:01:45
大女優もやっと終わったことだし、このスレも終わらせようよ。
もうこのスレにSSを望むことは無謀。
【act.1】中2冬 ⇒ 【act.4】中3夏
⇒【act.7】高3・夏その1⇒>>88【act.10】高3・夏その2 ⇒【act.8】高3・2月 ⇒>>27【act.10】 高3・3月
⇒【act.5】大3晩冬⇒ 大4春【act.2】⇒ 大4梅雨【act.3】
⇒【act.9】大学卒業+1ヶ月その1 ⇒【act.6】大学卒業+3ヶ月
【act.11】 大学卒業+1ヵ月その2

 ――私たち夫婦の、滑稽なまでの擦れ違いぶりを話すのには、今でさえも
相当の勇気が必要である。
 つまりは、笑われる覚悟が。

                       ※

 恥ずかしくも結婚式翌日。
 目が覚めたとき、全身を違和感が包んでいた。
 新品独特の硬さの残る布団のカバー。新しい畳の匂い。鈍い重さの残る体。
 ――背後から抱きしめるように回された腕。
(……っ!)
 一瞬混乱したが、視界の端に映る袖の縞柄は、結婚準備として私が清四郎へ
準備した和式寝衣に違いない。
 起き抜けの鈍い頭でも、ひとつのことに思い至ると、連鎖的にいくつものことが
思い出される。もともと寝起きが良い私は、現在自分が置かれている状況を認識
した瞬間、あっという間に目が醒めてしまった。
「……起きましたか」
 大げさに身体を強張らせたせいだろう。
 背後から清四郎の涼しげな声がした。
「お、おはようございます、清四郎」
「おはようございます、野梨子」
 私たちは何故か互いに、過ぎるほど生真面目な表情で、朝の挨拶をした。
 それからどちらともなく起き上がって、無言のまま布団を上げた。
 どこかギクシャクしてはいたが、私はあまりそれが苦痛ではなかった。
 時計を見ると十時を回っていた。
 いくら昨日の結婚式で疲れており、また今日が日曜日であるとはいっても、寝坊
しすぎだ。
(……待ってて、くれたのかしら)
 どうみても清四郎はとっくに覚醒済みであった。そして、彼がだらだらと二度寝を
する習慣があるとも思えない。とすると、やはり私が起きるのを待ってくれていたの
だろう。
 彼なりにこの結婚生活を大切にしようとしてくれているのかもしれない。
 私は昨晩、電気を消した後の清四郎を思い出して少し顔を赤らめながら、そう
思った。


 ほとんど昼に差し掛かっていたため、朝食はブランチに変更となった。
 差し向かってお味噌汁を飲みながら、ふたりの間に流れる優しい空気に
酔っていた。
 清四郎はここしばらく見たことがないほど機嫌が良く、いつも落ち着きのある彼
とは少し違って、言葉の端々に弾むような明るさがあった。そのことが私を有頂天
にさせた。
 起床時にも思ったことだが、彼はこの新しい生活を楽しみにしてくれていたのかも
しれない。そう思うと、婚約時代に抱いていた惨めな想いが、すっかり自分の中
から消えていくように感じていた。
 明らかに私たちは、昨日以前の私たちではなかった。
 少なくとも他の女性とは違い、私は清四郎から妻として尊重されているのだと
いう自信が私の中に生まれていた。 


 ブランチの後は、それぞれ新居の荷物を片付けることにした。
 とはいっても大まかな荷物はすでに片付いているので、あとは細々とした個人的
なものだけである。
 幸いこの離れは部屋数だけはあったので、夫婦の寝室の他に、私たちはそれ
ぞれ個室を持っていた。
 清四郎は医学生であり、卒業後も論文や何やらと机の前に座ることが多い
だろうことが予想されたし、私は私で次期家元として、大事に管理すべき書類や
お道具といったものがあったからである。
 自室に一人きりになって整理をしていると、どうしても懐かしい思い出の品に
手が止まってしまう。
 アルバムや手紙、旅先からいただいたお土産。いずれも大切な宝物である。
 そして私は、一冊の文庫本を手に取った。
 ――『ブラウン神父の童心』
「懐かしい」
 私は微笑んだ。
 高校時代、チェスタートンによるこのブラウン神父のシリーズ全てを図書室から
借りて読破したが、それに飽き足らず、私は自分で全てを買い揃えた。
 もちろん内容自体も傑作ぞろいの短編集だったが、それ以上にここに詰まる
思い出に心惹かれたからである。
 魅録との恋はたった一週間足らずであったが、間違いなく私の青春時代の
象徴である。
(そういえば……)
 魅録からもらった学年章は、確かあのオルゴールの中に……あった。
 小さなそのピンバッチを手に、私はくすりと笑った。
 あのとき真剣にこれを渡してくれた魅録も、大学に入ってすぐに悠理と付き合い
だし、私といえば、今こうして清四郎と結婚している。
 お互い、別の道を歩きだして後悔はしていないけれど、それはそれ、これはこれ。
 思い出はいつでも美しい。

 ひとしきり眺めた後、学年章を元の位置に戻し、私は作業に戻ろうと――、
 ――作業にもど、ろう……と。

「ひっ!」

 何の気配もなかった筈の部屋の入り口に、静かに佇む不気味な人影が目に
入り、私は思わず悲鳴を上げた。
 果たして、それはどことなく冷たい眼差しでこちらを睥睨する我が夫であった。
「せ、清四郎。脅かさないでくださいな。――どうかいたしまして?」
 いまだバクバクと痛いほど脈打つ心臓を服の上から押さえて、私はなんとか
尋ねた。
 しかし清四郎はちらりとこちらに流し目をくれただけで、「いや……」と呟くと、
ついと視線をそらし、部屋から出て行こうとした。
(あれは絶対、なんでもない、という顔じゃありませんでしたわ)
 なんてあてつけがましい、とは思いつつ、私はどうしようかと考えた。
 いつもこうだ。歩み寄ったかと思えば、突然清四郎は、目の前でシャッターを
落としてしまう。私の気持ちを知っているくせに、最後の最後で拒むのだ。
 鬱陶しがられるのが怖かった私は、だからずっと言いたいことを飲み込んできた。
 だが今の私は違った。
 唐突に、そして強く、私は胸中で強く清四郎に反発していた。
「清四郎、どうしましたのっ!?」
 呼びかけても清四郎は振り返らない。私はあわてて立ち上がると、彼を追い
かけ部屋を出る。そして廊下で彼に追いつくと、その背中に手を伸ばした。
「清四郎、何が――きゃっ」
 次の瞬間、くるりと振り返った清四郎に、反対に手首を取られ、壁に押し付け
られていた。
「本当に分からないというのですか、君は」
 驚くほど暗い表情だった。
 今まで見たことがないくらい、温度のない瞳で清四郎は私を見ていた。
 私は知らず、身体を震わせていた。清四郎の怒りそのものよりも、このことに
よって、最終的に彼から疎まれてしまうことを、恐れずにはいられなかったのだ。
「わ、分かりませんわ、清四郎」
 握られたままの手首が痛い。それ以上に彼の視線が痛い。
(……どうしてこんなことに)
 清四郎と結婚して、抱かれた私は、何か勘違いしてしまったのかもしれない。
 一瞬でも、自分が彼にとって特別な人間だなんて。
(莫迦な勘違いを)
 つつ、と涙が頬を伝った。
 それを見て、はっとしたように清四郎から勘気が薄れた。彼はしばらく唇をかみ
締めたかと思うと、溜め息を吐いて、さきほどまでぎゅうぎゅうに握ってきていた
手首を開放した。
「――どうして、君は」
 苦悩に満ちた清四郎の声は、恐れを抱くのと同時に、どこか見ているものを
惹き込むような色気があり、私は彼を凝視した。
「……清四郎?」
「どうして君は、魅録が忘れられないままだというのに、僕と結婚なんかしたんです」



「……は?」


 離縁だの、家庭内別居だの、そういう殺伐としたことを考えては恐れていた
私は、耳に入ってきたその言葉が当初飲み込めなかった。
 後で振り返ると、相当間抜けな顔をしていたに違いなかったが、清四郎は
私の様子に気がつかず、話を進める。
「君が僕を好きでないことは分かっています。いやむしろ君は魅録との仲を引き
裂いた僕を恨んでいるのかもしれませんね。けれど僕と結婚したのだから君は、
ちゃんと僕に向き合う責任が――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいな、清四郎」
 私が清四郎を好きでないって、え、え、ええ、だって清四郎はとっくに私の
気持ちなんて。
 それに、魅録との仲を引き裂いた?
 思考が乱れ、ろくに情報が纏められない。
 うろたえた私は、とりあえず質問した。
「……魅録に何かなさったの? というか、魅録とのこと、知ってましたの?」
 清四郎は、何を今更、といった顔をした。
「魅録が君と別れ、悠理と付き合いだしたでしょう。あれは僕が悠理と魅録を
そそのかしたからです」

 魅録と私の間にちょっとした色めいた思い出があったのは、四年以上も前の
ことである。私からしてみれば、遠い遠い昔の話で、新婚二日目に夫と角突き
合わせて話さなければならない話題では到底なかった。
 しかし清四郎は本気で、とっくに埋まった思い出を掘り起こそうとしているのだ。
 うすうす、いろいろ悟り始めた私は、眩暈を覚えた。

 ――この男は何か、壮絶な勘違いをしている……様な気がする。

「……ふたりが付き合いだしたのって、大学に入ってからのことでしょう。私が
魅録を好きだったのは高校三年生の頃の、それもほんの短い間のことで、
大学の頃はとっくに、魅録のことはただの友達にしか思ってませんでしたわ。
――だいたい、私と魅録がいつお付き合いをしたというのです」
 震えそうになる言葉をなんとか押させつけて、なるべく冷静になるよう私は
言った。
 すると清四郎はいかにも不可解といった表情で眉をひそめた。
「付き合っていない……? 君は高三の夏から魅録と付き合いだしたのでは」
「一体誰がそんなデマを」
 溜め息を吐いた私に、更に清四郎は困惑の色を強めた。
「し、しかし君たちはデートしていたでしょう」
 ……思い当たる節がなかったわけではない。つまり私たちが隠しきれていた
と思っていた、たった一週間の恋を、清四郎は嗅ぎ付けていたのだろう。
 あれが最後のデートだとは気づかぬままに。
 私は少し面倒になって、結論だけを言った。
「とにかく付き合っていません」
「しかし学年章をもらっていたでしょう、卒業式で」

 ――なんてタイミングの悪いんですの!?

 この場合、タイミングが悪いのは私なのか、清四郎なのかは分からないが、
私は運の悪さに思いをはせて、思わず額に手を置いて、呻いた。
 言いようのない倦怠感に襲われていたが、説明しないわけには行かない。
「思い出に貰っただけですわ。――そのとき、私はすでに別の殿方が好き
でしました」
 そう言うと、清四郎は少し焦ったように、身を乗り出してきた。
「別の……? 誰ですか、初耳ですよ」
「清四郎以外の、誰がいると言いますの」

 そう言った瞬間の清四郎の表情は見ものだった。
 はじめはまるで時が止まったかのように硬直し、まるでリトマス紙の変化の
ように、染め上がって最後には耳まで真っ赤になった。
「の、野梨子、まさか」
 ああ。
 私はその反応だけで彼の気持ちを悟り、幸せで胸が一杯になっていた。
「好きじゃない殿方と結婚したりなんか、しませんわ」
「しかし君は、僕に何の興味もなかったではありませんか」
「それは清四郎の方でしょう。大学時代、清四郎がどなたともお付き合い
しなかったとは言わせませんわ――まあ、清四郎も誤解なさっていた
ようですけれど」
 思わせぶりに言うと、清四郎はあからさまにぎくりと身体を強張らせていた。
 ――もう私には分かっていた。
 昨夜、私を抱いているときに清四郎が若干挙動不振になった理由を。
 彼は私がすでに処女ではないと勘違いしていたのだ。
「野梨子、もう、なんと言ったら……」
 羞恥と喜びが綯い交ぜになった複雑な表情をした後、清四郎はその
まま絶句した。そのまま彼はどうしていいのか分からないといった様子で
壁に寄りかかって顔を覆った。

 こんなに焼餅焼きで、こんなに不器用で、こんなに可愛い人だったなんて。

 二十年来の幼馴染だというのに、初めて知る彼の一面に、私はますます
彼への想いを募らせた。
 普通はここで、愛の告白返しなり、抱擁なりをするものなのだろうけど、
自分への自己嫌悪で身動きの取れなくなっている彼の気の利かなさも、
今ならなんでも愛せそうな気がする。
(たぶん、後ですごく苦労するでしょうけれど)
 清四郎はひとしきりそこで百面相をした後、ようやく私の存在を思い出した
らしい。
 赤面は押さえ込んだらしいが、緊張した面持ちで、こわごわと私を抱き
しめた。その真面目くさった手つきは、昨晩の彼の姿と重なった。
 ――そうか。昨日、私だけでなく清四郎も緊張していたのね。
 腕の中、私はくすくすと笑う。
 清四郎は私の様子に一瞬仏頂面を見せたものの、すぐにそれを収めると、
硬い声ではあったが、ようやく私にその言葉を言った。
「野梨子、君が好きです」
「ええ、私もです」
 なんてムードのない告白だろうかと私は思ったが、しかしそんなことはどうでも
いいくらいに、私は幸せだった。
 やがて髪の毛に、そして屈んで唇にキスが振ってくる。
 次の瞬間、息が詰まるほど強く抱きしめ返されて、うっとりと酔いながら
私は目を閉じた。

                      *

*オマケ*

「ずっと不思議だったんですけど、どうして在学中に婚約を?」
「高校三年生のときに不本意ながら君を好きになりました。それから三年経った
ので、もう諦めようと思って、大学三年生のときに君へプロポーズを」
「え?」
「ですから。成就の見込みがないため、気の迷いだと自分に言い訳して忘れよう
としていたです。ですが三年経っても諦め切れなかったんですよ。諦められない
なら、手に入れるしかないじゃないですか」
「……どうして『三年』ですの?」
「野梨子、知っています?
 一時的なPEAの分泌で起こる恋の寿命は、たった三年なんだそうですよ」

                     The End (or .....to be continued...?)
ありがとうございました。

一応これで本編らしきものは終わりましたが、
全体の流れとは関係ののないふたりのまったりとした日常やら、
清四郎視点での話の裏側など、
思いついたら、番外編で投下したいと思います。
181名無し草:2008/07/26(土) 00:57:32
>不感症
リアルタイム遭遇ですごく興奮しています。
いや、楽しみにしていましたが期待以上の可愛いラストで凄く嬉しいです。
何を考えているかわからなかった清四郎のほんとの気持ちが解ってニマニマしましたw
連載乙でした!
182名無し草:2008/07/26(土) 02:22:50
>不感症男
お待ちしてました!
大女優に続いて、こちらもラストを読めることができて嬉しいです。
不器用な清四郎と野梨子が大好きで毎回、楽しみにしていました。
ネタバレ、お見事です。
3年間も自分の気持ちを確かめてた清四郎、とても可愛いですねw
何だか彼らしいかも…と思いました。
本心が分かった上で、もう一回読み返してみたくなりました。

連載お疲れさまでした。
番外編も楽しみにしています。
183名無し草:2008/07/26(土) 07:04:55
>不感症男
今までの清四郎の態度や、野梨子の回想での愚痴からは考えられないくらいの展開に、
自分が蕩けそうになりました
普段はポーカーフェイスを気取るのに、隠し切れず純粋な反応を返す
清四郎が愛しくてたまらないです。

不感症ファンなので、また清四郎視点の裏側からの
SSを見れるとは、スレを見る楽しみが倍増です。
またSS期待していますw
一先ずはおつかれさまでした。
184名無し草:2008/07/26(土) 09:26:23
>不感症男
すごくおもしろかったです。
清四郎、なんて純なんだ。
ずっとお互いに片思いで結婚してから両思いの恋が始まるなんて、素敵だなぁ。

二人の日常や清四郎視点の話も読みたい!
連載、乙でした。また楽しみにしています。
185名無し草:2008/07/26(土) 11:13:59
>不感症男

お疲れ様でした。
嫉妬する清四郎が好きなこともあり、
ドキドキワクワク大変楽しく読ませていただきました。
挙動不審になる清四郎も可愛い。

番外編めちゃめちゃ楽しみに待ってますね。
186名無し草:2008/07/26(土) 13:14:35
>不感症男
清四郎はとっくにPEAを体感していたんですねw
全編通して、とても楽しく読みました。
この清四郎は、ちょっと不器用で変態で可愛いです。
番外編、wktk待ってます+(0゚・∀・) +
187名無し草:2008/07/26(土) 17:25:32
>不感症男
朴念仁で掴みどころのなかった清四郎が
最後には可愛く描かれていて萌えましたw
清四郎視点での物語も楽しみにしています。
188名無し草:2008/07/26(土) 22:40:40
>不感症男
本当に楽しく読ませてませていただきました。
次回作も期待しています
189名無し草:2008/07/26(土) 22:42:12
×読ませてませていただきました
○読ませていただきました

慌て過ぎました
190驟雨に叫ぶ:2008/07/28(月) 17:03:19
中編を連載させていただきます。

・魅←可と、清×可。
・物語の都合上、可憐が女性としてかなり辛い目にあっています。
 そういうのが苦手な方は、スルーお願いします。
・魅録が損な役回りです。
 魅録ファンには面白くないかもしれません。
・昼ドラ的かもしれません。
・最後はハッピーエンドです。
191驟雨に叫ぶ (1):2008/07/28(月) 17:04:36
 ――カラン。
 グラスの中、琥珀に溶けた氷が崩れ落ち、涼しげな音を立てる。
 窓辺の客席に、魅録と向かい合って座った可憐は、先ほどまで凝視し続けた
手元のアイスコーヒーからようやく目を離した。
 梁が剥き出しのウッディな天井に、ゆったりと回る天井扇。都心にあるとは
思えない広々とした空間のあるこのカフェは、魅録の友人が経営している。
 付き合ったばかりの頃に『オレの取っておき』という笑顔とともに教えて貰っ
て以来、今では可憐にとっても居心地の良い店となっていた。店自体の魅力も
さることながら、魅録のテリトリーに入ることを許されたという喜びが、可憐
の足を頻繁に運ばせる理由となった。
 けれど――もう来ることはないだろう。

「もう別れても、いいわ」

 終わりにしましょう。
 途切れないように、震えないように、可憐ははっきりとした発音で、その言葉
を唇に乗せる。柔らかとさえ言えるその声音で告げられた別れの台詞に、魅録
ははっと目を瞠った。
 困惑。安堵。罪悪感。安堵。悲しみ。安堵。寂しさ。安堵。
 大学を卒業した春から数えて二年の間、恋人として過ごした男の精悍な顔に
浮かんだのは、なんとも言えぬ複雑なものであった。真夏の太陽のような快活な
笑みが似合う彼にそんな表情をさせている自分という存在が、可憐にはたまらなく
厭わしかった。
(……安堵!)
 致し方ないものであるとは分かっていた。むしろ魅録は怒ってもいいぐらいだ。
 それぐらい彼へ迷惑をかけた自覚はある。だが別れを決意した今でさえなお、
可憐には割り切れぬ思いがあった。
 可憐は冷静さを装いながら、頭を下げた。
「ごめんなさい。――もうあたしたち、無理だってことはちゃんと分かっていた
のに、駄々を捏ね続けて」
192驟雨に叫ぶ (2):2008/07/28(月) 17:12:19
 魅録から別れ話を切り出されたは二ヶ月前のことだったが、それ以前から
実のところ可憐自身でさえ、ふたりの仲がもはや修復できないところまで破綻
していることを悟っていた。そのため、別れ話をされた瞬間、可憐の胸に去来
したのは驚きや怒りではなく、とうとう切り出されてしまった、という嘆き
だった。
 抵抗したところで、もうどうしようもないことは初めから知っていた。
 魅録は気まぐれな性質ではない。彼がそれを決めたのなら、もう覆らない
ことは、予想できることだった。
 だからこそ自尊心を守るのであれば、黙ってそれに頷き、美しい別れ際を
演出すべきだということは分かっていた。
 しかし理性と感情は別物だった。当初、可憐は自分でも説明しがたい激情に
駆られ、過去に彼から貰った愛の言葉を盾に、別れを拒否した。みっともなく
彼に縋りついたかと思えば、彼を悪し様に罵り、さぞかし醜かったことだろう。
そうやって別れ話から一ヶ月間ほど、まさに可憐は聞き分けのない子供のよう
に振舞った。
 そして、その後一転して、今度は彼からの連絡一切を断ち切った。


 成人した大人の女性とは思えぬ引き際の悪さに、魅録は随分困ったことだろう。
 正直可憐自身でさえ、自分がこのようにプライドのない振る舞いをするとは
思ってもいなかった。
 しかし魅録は可憐を詰ることも蔑むこともなかった。一方的に可憐を捨てる
ことも出来た筈なのに、何度でも呼び出されては応じ、別れたくないと泣いて
訴える彼女の言葉をただじっと聞いて、ひたすら詫びるばかりだった。そうして
彼は、可憐が別れを受け入れるのを待ってくれていたのだ。
 やがて可憐の方から連絡を断ち切った後も、魅録の方から連絡を何度もくれた。
 可憐は卑怯にも、電話やメールをことごとく無視しただけでなく、魅録が訪れ
ることを恐れて、借りている部屋をしばらく空けた。それでも魅録は可憐を見捨て
たりはしなかった。メールは毎日来ていたし、職場や実家にも顔を出してくれた
ようだ。しかし可憐はどうしても魅録と顔を合わせることができなかった。母親
に事情を打ち明けて協力を得て、今日この日まで魅録との対面を拒絶し続けて
いたのだ。
193驟雨に叫ぶ (3):2008/07/28(月) 17:14:59
 久しぶりに見る魅録は、まるで彼の方が失恋したかのように、どこかやつれて
いた。魅録は何も悪くないが、彼の性格を考えれば、それも当然かもしれない。
「……ごめん」
 やがて魅録は肺から息ごと搾り出すように、重たくその言葉を吐き出した。
 謝らないで!
 叫びそうになる衝動を可憐は押し殺さなければならなかった。
 ――堪らなかった。
 これ以上はどんな言葉も聞きたくはない。可憐は遮るように、言った。
「魅録のせいじゃ、ないわ」
 これは魅録を慰めるために出した上辺だけの言葉ではなく、真実だ。彼は
何も、浮気などの不誠実な理由で別れを告げたわけではないのだ。――恋心が
醒めてしまったというのは、彼自身どうしようもない理由だろう。いくら魅録
自身が可憐のことを大切にしたいと思っていても、心ばかりは制御できるもの
ではない。
 曖昧にして誤魔化して、惰性で付き合いを続けるよりはむしろ誠実だろう。
 他に好きな子が出来るまで傍にいて、という可憐自身の卑屈な申し出にも
魅録は頷かなかった。
「でも」
「さんざん我が侭を言ったけれど、本当は分かってたの。あたしたち、縁が
なかったのね」
 ゆっくりと淀みなく言うと、可憐は不自然にならないよう心がけながら
そっと彼から視線を背け、窓の外を眺めた。
 陽炎が煙るアスファルト上を、暑さに顔をゆがめた人々が足早に歩いている。
 場違いなほど良く晴れた日だった。灼熱の太陽の下、目に痛いほどのコント
ラストで黒と白の世界が広がっている。夏空に立つ雲の高さは、初めてふたり
きりで行った海を思い起こさせた。
 砂浜に城をつくる家族連れの姿を見て、魅録は子供はふたりほしいと呟いた。
 あのとき、どうしてすぐさま微笑んで頷かなかったのだろう。少女の頃に
思い描いた華やかな未来とは少し違ったものの、彼と結婚し、子供を生み、
緩やかに老いていくのは、幸せな人生だと今では思えるのに。
 好きだった、好きだった、好きだった。
194驟雨に叫ぶ (4):2008/07/28(月) 17:17:28
 好きだったわ、魅録。
 でももう開放してあげる。
「あたしたちは恋人としては縁がなかったけど、親友よね」
 そう言うと、可憐は視線を窓から魅録へと戻した。彼は驚いたように可憐を
見ていた。
 笑え。笑うのよ、可憐。
 誰よりも幸せなふうに、輝くように、強く笑え。
「じゃあ、この後に約束があるから先行くわね」
 可憐はそう言って、コーヒー代を伝票の上に置いて立ち上がった。
 もう彼に奢ってもらう理由もない。だって彼は、魅録は、恋人でもボーイ
フレンドのひとりでもなく、気の置けない親友なのだから。
「可憐……っ」
 背筋をぴんと伸ばして、立ち去ろうとする可憐を、何かに衝き動かされた
かのように魅録が呼び止めた。
 一瞬の逡巡を経て振り返った可憐を前に、しかし魅録は咄嗟に呼び止めた
ものの何を言えばいいのか分からないといった様子で絶句する。
 周囲の客の視線を集めたまま固まった魅録に、可憐は今度こそ演技ではなく
自然な――おそらく彼から告白されたときよりも上等な――飛び切りの笑顔で
言った。
「今までありがとう!」
 半ば呆然とした魅録をおいて、今度こそ可憐は背を向けた。



 店の外に出ると、激しい夏の陽光が可憐を突き刺した。
 まぶしさに手で日除けを作り、歩き出そうとしたところで、路肩に見慣れた
車が停められているのを見つける。
 清四郎の愛車であるセルシオだった。
 笑っていいのか泣いていいのか分からず、可憐は表情を崩れさせると、
そのまま車に近づいた。
 挨拶もなく助手席に滑り込んできた可憐に、清四郎もまた何も声をかけない。
無言のまま彼女がシートベルトをするのを待って、セルシオはそのまま走り出す。
195驟雨に叫ぶ (5):2008/07/28(月) 17:20:45
 車内はよく冷房が効いていたにもかかわらず、可憐はわざわざ窓を全開にした。
耳を割る蝉の大音声とともに車内へ入り込んでくる熱風が、今日の別れのために
念入りなセットがされていた可憐の髪を、無遠慮に浚う。
 フロントガラスからは眩しい夏の日差しが降り注い眼裏を灼くので、彼女は
目を伏せた。そしてシートにぐったりともたれかかった。


 あてどないドライブをやめ、清四郎が車を停めたのはそれから二時間後のこと
だった。
 横浜まで足を伸ばし、湾岸沿いをしばらく走らせた後、路肩に車を停めた
清四郎は、はじめて可憐の方を向いた。
 経営者としての道を歩み始めた清四郎の眼差しは、十代の頃よりも更に鋭さ
が増したというのに、不思議な包容力があった。繊細なラインを描く頬には
甘さの欠片もなかったが、その代わりに揺るがない落ち着きがあった。

「ジョーカーを出さなかったんですね」
 清四郎の第一声がそれだった。
 彼らしい直裁な言葉は一見冷たく響いたが、どんな柔らかな言葉よりも優しい
ことを可憐は知っている。
 むしろ労わりの言葉の方が今は痛い。
「あんなの切り札なんかじゃないわよ」
 そう答えると、可憐は目元をハンカチで拭う。べっとりと付着した黒い
マスカラが惨めだった。
 普段よりも装いには気合を入れて、今日という日を迎えた。メイクだけでは
なく、爪先から頭の天辺まで念入りに自分を飾り立てたのは、すでに地に落ちて
いたプライドの中からかき集めた最後の矜持だった。
 しかし魅録との別れを済ませた今、さぞかし自分は見るに耐えない顔をして
いるに違いない。
 ――あたしは酷い女だ。
 魅録には笑っておいて、清四郎には涙を見せる。
196驟雨に叫ぶ (6):2008/07/28(月) 17:23:31
「ごめんね」
 ――そして。
 魅録の謝罪に傷つき、憤っていたくせに、自分もまた清四郎に謝罪するのだ。
(あたしは今から清四郎を利用する)
 頭を下げた可憐に、清四郎は冷笑を浮かべて見せた。それは可憐が彼の親友
のひとりでなければ真意が見抜けず、上辺の言葉通りに受け取ったに違いない
程に、堂の入った露悪であった。
「なぜ君が謝るんです? ――僕は君を脅したんですよ」
「嘘。いくらあたしだって分かってるわよ」
 可憐は頭を横に振ってみせた。
 

『秘密を守る代わりに、僕と付き合いなさい』
 そう清四郎が可憐に脅しつけたのは、二週間前のこと。魅録から逃げ回って
いたときだ。
 確かそう、夏特有の激しい驟雨が窓を叩く、夕方のことだった。
 とても病室とは思えない、柔らかなピンクの壁紙で覆われた個室で、
彼は今のような冷笑を浮かべて、力なく病床に横たわる可憐へ言った。
『どうせもう、魅録とは別れるつもりなんでしょう。ちょうどいいじゃない
ですか』
 最初は清四郎の言葉が信じられなかったが、やがて彼が本気だと悟ると、
可憐は真っ青になって激しく抵抗した。
 魅録には言わないでと懇願し、脅すなんて卑怯よと罵倒した。清四郎が自分
のことを女として見ていること自体、非現実的だった。元から情緒不安定に
なっていたこともあり、可憐はほとんど八つ当たりとも思える言葉さえ投げ
つけて清四郎を詰ったが、それでも彼は前言撤回しなかった。
197驟雨に叫ぶ (7):2008/07/28(月) 17:26:22

 けれど冷静になった今であれば、それが清四郎の欲望から出た台詞など
ではないことは、あまりに明らかだった。
 ぼろぼろになった可憐が、遠慮なく清四郎甘えられるようにするための
方便に違いない。


「全部あたしのためだって、ちゃんと分かってる」
 可憐が清四郎の瞳を真正面から見据え、きっぱりと言うと、彼はその秀麗
な横顔を歪め、低くうめくように吐き出した。
「――君は馬鹿だ……!」
「……そうね」
 清四郎が詰ったのとは違う意味ではあったが、確かに自分は馬鹿だ、と
可憐は自嘲した。
 そしてこんなに酷い女を好きでいてくれる清四郎こそが一番の馬鹿だと思った。
 可憐はもう、悲劇のヒロインぶって泣くことはやめ、唇をかみ締め、ただ彼
の愛情にできるかぎり報いよう。
 涙でもなく、魅録に見せたような偽りの微笑みでもなく、可憐は瞳を閉じて
素直に清四郎から伸びてきた手の虜になる。鍛え抜かれた腕による抱擁は、
しかしすぐに払いのけられる程に優しい拘束だった。
 キスのひとつもあるかもしれないと覚悟もしていたが、彼は肩を抱いた
だけだった。
 
 自分のような打算まみれの馬鹿な女を、彼は何も知らない乙女みたいに丁寧
に扱った。
 それが可憐には嬉しくて、切なかった。


 続く。
198名無し草:2008/07/28(月) 22:08:36
>驟雨に叫ぶ
新連載、嬉しいです。
大人〜な雰囲気がいいですね。
可憐、入院していたらしいってことは・・・なのでしょうか。
続き楽しみにしてます。
199名無し草:2008/07/29(火) 00:13:26
>大女優
かなり亀ですが、最終話読ませていただきました。
こんな話読んでみたいなと思っていたお話でしたので、本当に大好きで
連載中はいつもわくわくしてました。最後まで読ませて頂けて幸せでした。
これからもまた良かったら新作楽しみにしてます。
連載お疲れ様でした。亀レスすみません。
200名無し草:2008/07/29(火) 01:30:01
>驟雨〜
素敵です。
続き楽しみに待ってます!
>驟雨
新連載嬉しいです。なんだか大人なメンバーたちですね。
清四郎いい男だ。
続きを楽しみにしています。
202名無し草:2008/07/29(火) 19:08:53
↑失礼しました
203名無し草:2008/07/29(火) 20:44:45
わざとらし。
204名無し草:2008/07/29(火) 21:02:15
>>202
ドンマイです。

ところでお誘いなんですが、
8月1日から8月31日まで、住人みんなで毎日、有閑日記的な投下しませんか?
いわゆるリレーじゃなくて、小ネタ集的な。
日付は必ずSSを投下した日にすることで、確実に8月31日には終わりますし。
あとカップリングなしで。

たとえば

○月○日悠理
夏休みの宿題をみんなでした。
清四郎と野梨子がはりきりすぎて怖い。

とか。
205名無し草:2008/07/29(火) 21:04:51
同じ日に、同じキャラの日記は禁止で、別キャラの日記は○。
有閑日記全体を通して、矛盾なく同じ世界観・時間軸になるように、
先に投下された小ネタの内容を尊重する。
後から投下する人のために、むやみに壮大なネタは振らない。

とか、制約をきめて。
206名無し草:2008/07/29(火) 21:32:07
>>204
おっ、初めての試みでおもしろそうですねえ。
自分はSS書いたことないから多分書けないんだけど、
もしやるなら楽しくロムらせてもらおうかな。

>>201
気にスンナ つ旦~
207名無し草:2008/07/29(火) 21:50:44
>204
楽しそう。
たまに1レスだけのSSにもならない小ネタ書いてるので、
そういう企画なら積極的に参加したい。
208名無し草:2008/07/29(火) 23:11:46
>日記

面白いかも。
その例文もたいに数行でもいいなら参加したいな。
209驟雨に叫ぶ (8):2008/07/30(水) 01:11:37
>>190続き

 魅録から、ここ数日可憐と連絡が取れないと清四郎が聞いたのは、今から
二週間前のことである。
 そこで初めて、彼らの間に別れ話が持ち上がっていることを知った。
 傍目からみても近頃あまり上手くいっていないのはなんとなく察して
いたものの、事態はそこまで進んでいたとは思わず、清四郎は動揺した。
 魅録が言うには、別れ話をしてからしばらく、可憐はずっとそれを拒み続け
ていたらしい。しかし一ヶ月が経とうとする頃、急に連絡が取れなくなった。
 彼女の借りる部屋や実家、職場を訪ねても、可憐の姿はなかった。
 可憐は母親の経営するショップの店長をしていた。その彼女が出勤していない
となると、もちろん母親がその理由ないし居場所を知っている筈であったが、
口止めされているのか、断固として口を割ることがなかった。
『……俺が悪いのは、分かってる。いつか結婚しようって約束していたのに、
一方的に別れようとするなんて。でも』
 受話器の先、憔悴したような声で言う魅録に対し、無駄とは知りつつも清四郎
は聞いた。
「やり直すことは出来ないんですか」
 その言葉は、魅録には酷だっただろう。それでも彼はしばらく沈黙した後、
言葉を選ぶようにゆっくりと吐き出した。
『――俺は可憐が好きだったし、可憐も俺のことを好きでいてくれたけど、俺と
可憐の間には、いつもどこか距離があったよ。自分の愛情がいつも可憐を擦り
抜けていくような気がずっとしていた。正直、別れ話に可憐がこうして抵抗する
こと自体、俺は驚いている』
「なら」
 お互いの愛情が上手く伝えられなかったことが原因なら、望みがある。そう
思った清四郎を制するように、魅録は続けた。
『無理だ。俺だっていろいろ考えたし、可憐に伝えてきた。でも俺たちは、
お互いの見る未来が違いすぎる。俺はあいつの望む男にはなれないし、あいつも
俺が望む女にはなれない。それが分かってしまったら、今までどおりあいつを
愛するのは無理だ』
 静かな親友の言葉に、それ以上清四郎は何も言えなかった。
210驟雨に叫ぶ (9):2008/07/30(水) 01:13:13
 魅録との電話の後、清四郎はためしに可憐へ連絡を取ってみようと試みたが、
案の定、携帯は繋がらなかった。
 魅録だけでなく、他の仲間まで避けるということは、本格的に可憐は姿を
消そうとしているのだ。
 そうなると、かえって可憐とどうしても話をしなくては、という気がしてきた
清四郎は、翌日、会社を休んでジュエリーショップ・アキの本店に向かっていた。
可憐の母親であるY子は、貴腐層の得意先に営業に出ている以外は、だいたい
いつも本店に詰めていると聞いていたからである。
 あえて、前もって来意を告げることはしなかったため、無駄足になることも
予想していたが、清四郎はそこで思わぬ情報を得ることになった。
 もうすぐ店に着くというあたりまで近づいたとき、タクシーを呼び止めている
Y子を見つけたのだ。
 清四郎はあわてて追いかけた。
 Y子は清四郎に気がついた様子もなく、停まったタクシーに行き先を告げ
ながら、乗り込んだ。
 ――Y子が口にしたのは、都内でも有名な産婦人科専門病院だった。


 可憐の母親が産婦人科病院へ向かうからといって、全てを可憐に繋げるのは
飛躍しすぎだとは分かっていた。
 それでもどこかへ姿を隠し、突然連絡を絶った可憐と、それについて口を
閉ざし続けるY子。
 確かめないわけにはいかなかった。
 ――そして清四郎は、可憐の望まぬ妊娠と流産を知る。
211驟雨に叫ぶ (10):2008/07/30(水) 01:18:56
 可憐が魅録へ別れを告げた日の夜、横浜へのドライブを終えると、清四郎
は彼女を自分の借りているマンションへ連れていった。
 可憐が自分の庇護を受け入れた今、彼女をひとりきりの部屋に帰すつもり
はなかった。大体、彼女は退院したばかりである。しばらくは彼女をここへ
泊めて面倒を見るつもりだった。
 幸い、清四郎は会社員ではなく、小規模ではあったが一企業の経営者で
あり、時間に多少の融通は効く。仕事は自宅ですればいい。
 ――自分が魅録の代わりになれるとは思ってはいない。
 それでも可憐が自分の目の届かぬところで、ひとりで泣くことを想像する
と、清四郎は堪らなかった。
 何も出来なくとも、せめて自分の傍にいてほしい。そんな自分中心の考え
で可憐を無理やり拘束しようとする自分は、彼女が言うようには優しくなど
なく、むしろエゴの塊なのだろう。


 帰宅後は居間のテレビの前で、言葉少なに宵を過ごした。
 清四郎も可憐も、お互いの態度を決めかねるような、そういった戸惑いが
あった。――当然といえば当然だった。
 普通の恋人同士のように自然と育った関係ではなく、本来ならばただの
親友だった筈の自分が、可憐の弱みに漬け込み、強引に彼女を『恋人』という
鋳型に押し込めようとしているのだ。
 しかし今更、彼女を手放すつもりはなかった。

 互いに入浴を済ませた後、寝台を別にするつもりはないことを告げると、
多少は予想はしていたようだったが、それでも流石に可憐は少し怯んだ。
 しかし否やを言うことはなく、おずおずと布団の中へ入ってきた。
「おやすみなさい、可憐」
「……おやすみ」
 腕の中、しばらく肩を強張らせていた可憐が、ようやく力を抜いたのを
確認してから、清四郎もまた目を閉じた。
212驟雨に叫ぶ (11):2008/07/30(水) 01:22:24
 深夜、震える気配に気づいて、清四郎は目が醒めた。
 後ろから抱え込むように抱きしめた腕の中、可憐が声を噛み殺して泣いて
いた。――いつものように。
 ちらりとサイドボードのデジタル時計に目をやると、まだ午前三時である。
 遣る瀬無い胸の裡に衝き動かされるようにして、清四郎は彼女に優しい言葉
を投げかけようとしたが、しばらくの逡巡の後に思いとどまった。
 傷ついた彼女を慰めれば、自分の気持ちは満足するかもしれない。けれど
一方の可憐は、その本心はどうであれ、慰めの言葉に報いようとして、無理
してでも笑うだろう。
 ならば自分の行動は自己満足でしかない。
 寝たふりを続けることを選んだ清四郎は、その代わりに心持ち彼女を抱き
しめる腕に力を込める。暑い夜のこと、ますます寝苦しくなるだけかもしれ
なかったが、眠ることが出来ない自分たちには今更だろう。こうして触れ合う
ことで、二重の喪失感に泣く可憐にせめて人肌を分け与えたかった。
 ぴくりと可憐の身体が動いた。自分を抱きしめる男が目覚めていることに
気づいたのかもしれなかったが、彼女は何も言わなかったし、清四郎も無言
を貫き通した。

 小一時間もする頃には、泣きつかれたかのように可憐は眠りへ落ちた。
 せめてこの眠りが安らかなものであってくれと、清四郎は祈るように願った。
 そしてこの夜が彼女にとって長く、深くあらんことを。

 朝になれば、彼女はまた、険しいだけの現実と立ち向かわなければならない。


 続く。
213名無し草:2008/07/30(水) 11:30:05
>驟雨
可憐がボロボロに傷ついていて辛いですね。
清四郎の腕の中でゆっくり元気になっていってくれればなと思いました。
214名無し草:2008/07/30(水) 23:43:56
毎日暑いねー。
野梨子とか可憐とか、あまり髪の毛あげてないけど、暑くないんだろうか。

たまに二人が髪の毛をアップにしてると、萌える。
215名無し草:2008/07/30(水) 23:46:34
可憐や美童はたまにあげてるけど、野梨子はほとんどないよね
前髪がペターと張り付いたり、襟足が暑くないんだろうか
216名無し草:2008/07/30(水) 23:56:04
剣菱家の事情での野梨子の着物での髪の毛アップは、普段は髪の毛まとめない分貴重だったね。
しかもえっらい可愛くて、あの絵はお気に入りだった。
可憐の髪の毛アップは珍しくないんだけど、お洒落さも手伝っていろんな髪型を楽しめていい。
大人っぽい夜会巻きもいいし、千秋さんバースデイの回のお団子も可憐にしては珍しくて可愛い。
217名無し草:2008/07/30(水) 23:59:03
美童の一本おさげとか結構好きだな。
218名無し草:2008/07/31(木) 07:15:28
美童には高校卒業したらロングヘアを杏樹くらいまで切って欲しい。

野梨子は高校卒業したらちょっとだけ髪の毛伸ばしそう。
あとの4人はそのままの長さ髪をキープしてそう。
219名無し草:2008/07/31(木) 09:46:35
髪切った美童って想像つかないけど、見てみたい。
御大、一度書いてくれないかなw
野梨子はいずれ母親みたいに伸ばして日本髪を結い上げる気がする。
あとの4人は私も変わらないと思う。
220名無し草:2008/07/31(木) 12:22:42
>>219
つ【きぬばあさんの初恋の人】
221名無し草:2008/07/31(木) 13:45:41
>>219
つ【美童の祖父(母方)】
222名無し草:2008/07/31(木) 16:10:32
可憐もいずれ社会人になったら、ママみたいに髪の毛結い上げると思う。
で髪の毛につけるアクセサリーなんかに拘りがあったり。
見た目的に出来る女系。
野梨子はしっとり系。
母親に近くなるのかなあ、2人とも。
223名無し草:2008/07/31(木) 16:23:56
どっちも母親が美人だし近くなっても良いよね
悠里はボーイッシュなまんまでいいや
224名無し草:2008/07/31(木) 17:27:07
一世一代の『本気の失恋』をしてばっさりショートヘアにした可憐を想像したら萌えた。
なんかそういうことしそうだし、ショートにしても似合いそう。

髪を伸ばした悠理と違う髪型の清四郎はイメージできないなあ。
225名無し草:2008/07/31(木) 17:58:57
ショートの可憐いいなあ。悠理とはまた違ったクセ毛のショートカットを見てみたい。

悠理はまあ、ボーイッシュでなくなったら悠理ではなくなっちゃうからね。
スポーツ好きで、派手な動きに髪の毛長いのはうっとおしいだけだから
のばす事はないだろうね。
226名無し草:2008/07/31(木) 23:14:30
髪型といや、スパの清四郎と魅録は楽しかったな。
あらためて、ふたりとも綺麗な顔してんだ、と思った。
(美童は綺麗さを前面に押し出してるけど)

特に魅録。
227名無し草:2008/07/31(木) 23:20:36
悠理が伸ばすとしたら、シティハンターの香みたいな感じかな
228名無し草:2008/07/31(木) 23:47:36
>>226
綺麗だったけど清四郎と魅録の女装は女装として見るときつかったな。
魅録の髪型は女では変な感じしたし、
清四郎のおかっぱは楠田えりことだぶってしまった。
美童はやっぱり慣れてるだけあって、違和感もなく綺麗だった。
229名無し草:2008/08/01(金) 01:11:00
野梨子は長いの似合うと思うけど、
より少女らしさというか、日本人形らしさを見せるには、
やっぱりおかっぱ最強だな。

可憐は大人になったら、
ストイックなスーツ+ぴったりと撫で付けた短い髪で、
仕事できる女、というのも似合うかもしれない。
もちろん、格好はストイックなんだけど、だだもれの色気込みで。
230名無し草:2008/08/01(金) 07:45:16
総合カプスレの方だって、サイト持ちの作家はいるでそ。
でも別に問題になっていない。

なんで問題になってんの?
231名無し草:2008/08/01(金) 07:45:38
ごめん誤爆。
232名無し草:2008/08/01(金) 07:52:46
わざと?w
233名無し草:2008/08/01(金) 07:59:39
ww
234名無し草:2008/08/01(金) 11:23:55
隔離スレのことなんてどうでもいい。
235名無し草:2008/08/01(金) 17:23:53
8月1日 野梨子
お茶会等の行事がひととおり済んで、
やっと夏休みに入った気分になった。

でも、疲れがとれない。
清四郎はまだ合宿から戻ってないかしら??
236名無し草:2008/08/01(金) 17:32:37
>>235
お、日記だ。
楽しみです。
237名無し草:2008/08/01(金) 18:08:31
>>235
ktkr
今日、日記のことみんな忘れてないか気になってたw
夏休みだからたくさん遊んでほしいな。
238名無し草:2008/08/01(金) 18:22:59
8月1日 魅録
今日はダチとツーリングへ行った。
悠理も行きたいとぶーたれてたけど、あいつは今日補修だ。
かわいそうだが、つきあっちゃられない。

もっとも清四郎たちの特訓のおかげで、赤点はひとつだけだったから、
もうすぐ補修期間もおわりだ。
終わったら、倶楽部の全員でまたどこかへ行こうか。

そういや、おふくろ……じゃなかった、千秋さんめ、
やっぱりモルディブでの滞在期間延ばしやがった。
親父このこと知ったら泣くだろうな。
239名無し草:2008/08/01(金) 20:07:23
8月1日
素敵な指輪発見!
これはまるであたしのためにあるような指輪ね。
左手の薬指は大切にとっておくとして、恋人募集中のしるしに左手の小指にはめようかしら。
それにしても綺麗だわ〜。満足満足♪

あ、そうだわ!
確か今日は美童のノーデートデーだから、これから美童に自慢しに行こうかしら。
240名無し草:2008/08/01(金) 20:07:43
↑可憐です。
241名無し草:2008/08/01(金) 21:27:13
>238
半泣きの時宗さんが想像できるw
時宗さんは夏休みとれるんだろうか。

>239
美童は夏休みデート三昧だろうな。
宿題も彼女をあてにしてたりしてw
242名無し草:2008/08/01(金) 21:27:27
8月1日  美童

久しぶりにデートの予定を入れずに買い物へ
秋の新作を見ていたら素敵なお姉さんがお店のカタログに
メルアドのメモをはさんで近づいてきた
ラッキーと思ったのも束の間、携帯が鳴って通話ボタンを押したとたんに
「美童!!今どこにいるの?お茶しない?」

…声、大きすぎるよ可憐…
243名無し草:2008/08/01(金) 21:59:42
ワロタw
244名無し草:2008/08/01(金) 22:00:20
>>239 >>242
上手い!!
245名無し草:2008/08/01(金) 22:27:29
そっか…世の中夏休みだったんだ。
万年高校生の倶楽部のみんないいなあ。
246名無し草:2008/08/02(土) 01:09:36
私もうらやましい。
皆で旅行とか行くのかな。
優雅でいいな。
247名無し草:2008/08/02(土) 15:01:52
8月2日 悠理
今日は土曜日だったので、補修はなし。
うちのプールが今日から水が張られてたので、
初泳ぎした。
気持ちいい。
可憐が水着買ったって言ってたし、今度呼ぼうかな。
でもあいつ、プールに来ても泳がないからなあ。

補修ももうすぐ終わるし、やっと夏休みだって気がしてきた。
248名無し草:2008/08/02(土) 15:06:40
名前に日記とだけでも書いたほうが
後で抽出したりできて見やすい気がする
249名無し草:2008/08/02(土) 15:52:27
たしかに。
名前に日記は入れたほうがいいね。
250有閑夏休み日記企画:2008/08/02(土) 16:06:18
有閑倶楽部の夏休みを想像して、日記を書いてみませんか。

【期間】 8/1 0:00〜8/31 23:59の1箇月

【投稿方法】

☆共通ルール
・投稿の時は、名前欄に“日記【○月○日】キャラ名” と入れてください。
 例: 日記【8月1日】野梨子

・カップリングは禁止。
 ただし、当然原作内にあるカップリング(夫婦など)は禁止しません。
 ※もし、有閑日記から派生したカプ話が思いついた場合、
   有閑日記から妄想した、という添え書き付で単独のSSとして投下してはどうしょうか。

・レス制限はありませんが、あくまで日記としてありうる程度の分量で。

・同じ日に、同じキャラの日記は禁止(別キャラの日記は○)

・有閑日記全体を通して、矛盾なく同じ世界観・時間軸になるように、
 先に投下された小ネタの内容を尊重してください。
 ただし、先発の小ネタに乗っかって、あたらしい小ネタを出すのはOK。

・後から投下する人のために、むやみに壮大なネタは振らない。

☆イラスト(絵日記)形式
http://cbbs1.net4u.org/sr4_bbs.cgi?user=11881yukan2chに直接ウプしてください
 (投下した人は、本スレで告知してください)
251名無し草:2008/08/02(土) 16:07:19
上みたいに纏めてみました。
どうでしょう?
252名無し草:2008/08/02(土) 17:30:47
イイと思います。
イラスト投下もあると嬉しい。
253日記【8月2日】美童:2008/08/02(土) 19:07:40
道を歩いていたら、夏休みのためか幼稚園児や小学生がたくさんいる。
将来の美女と思しきちっちゃい女の子が、
金髪が珍しいのか、ときおりびっくりしたような顔で
僕を凝視してくることがある。
可愛いなあ。

二十年後に出会ったらよろしくねと、にっこり笑って手を振っておいた。
254名無し草:2008/08/02(土) 22:03:08
>253
乙。

美童は、お父さんと同じように、いつまでもモテる中年になるのだろうか。
でもちょっとお父さんとは違う路線なんだろうけど。
255名無し草:2008/08/02(土) 23:46:28
うん、なんだかちょっと違う感じするね。
個人的に、同じプレイボーイでもお父さんのほうが堂々としてそう。
美童のほうがやさしそう。
256名無し草:2008/08/03(日) 00:11:57
>253
なんか妙に小さい子に注目される人っているよねw
しかも子供って堂々と人のこと見つめるから。
美童なんて目立ちそうだから、すごく見られてそう。

ヴィヨンさんはモテるだろうね。
可愛いオジさんで、でもオジさんらしくちょっとズルそうでw
257日記【8月4日】野梨子:2008/08/04(月) 17:12:41
悠理からプールの誘いが来た。
もう、補習は終わったのかしら?
まぁ、真面目に行ってたとしても身についてるとは思えないけれど。

浮き輪はどこにしまったかしら??
258日記【8月4日】清四郎:2008/08/04(月) 19:28:52
僕だって日記は書きます。
259名無し草:2008/08/04(月) 19:35:22
え?それしか思いつかないのに書いたの?
内容が書けないのに参加だけしたいのかよ
260名無し草:2008/08/05(火) 21:58:11
何も噛み付く事はないだろ。
いつも清四郎だけ日記の内容がないのだったら、それは困りものかもしれないが。
清四郎が日記書いてるの妄想するのは難しいし、これはこれでありだと思ったよ。
261名無し草:2008/08/05(火) 22:02:44
フツーに無いでしょ
262名無し草:2008/08/05(火) 22:07:32
自分は有りでも無しでもどっちでもいいけど
怒るほどでもないのに怒る短気レスはKYだと思うから、普通にスルーでいいかと。
263名無し草:2008/08/05(火) 22:14:21
日記として成立してないからナシだと思う
264名無し草:2008/08/05(火) 22:21:27
じゃ、次から気をつけるということで、
このあたりでもういいんじゃ?
265日記【8月5日】清四郎:2008/08/05(火) 22:39:16
天候、雨 合宿所にて

本日、雨天の為屋外における鍛錬は中止。
道場での修練を増やし、総合的には晴天時と変わらぬ運動量を確保。
午後は、和尚と師範代による模範演技が行われた。
模範演技自体は珍しいことではないが、和尚が行うのは久し振りだ。
普段の様子からは想像もできぬ気合と、無駄の無い動きに、新弟子達は感嘆の表情で
見入っていた。
意気も揚がることだろう。

俗世間から隔離された空間は心地良いが、そろそろ日常が懐かしくなる。
今夜あたり、野梨子にでも電話して倶楽部の連中の様子を聞いてみようか。
266日記【8月5日】 野梨子:2008/08/05(火) 23:41:39
夏らしく蝉の声がよくきこえるようになった。
みーん みーん みーん りーん
あら、電話だわと出れば清四郎の声が聞こえてきた。
夏バテはしていないか、水分をよくとるようにと先ず言われた。
近況として悠理達とプールへ行くと言えば浮き輪をもっていくように、日焼けに注意などと言われなくてもすることばかり言う。

蝉の声 清四郎の声 やかましい
267日記 8月5日 美童:2008/08/06(水) 00:16:40
昨日はなんだかんだ予定が合わなかったので、可憐とのお茶は今日になった。
倶楽部のみんなは誰と話しても面白いけど、恋愛や流行の話題なら断然、可憐だ。

喫茶店でも案の定そんな話題で盛り上がり、僕たちはお互い買い物をしたばかりなのに、そのままショッピングへ赴いた。

1人の時とは違う楽しさで、似合う服を見立てあったりでとってもいい買い物ができた。

さすがに女の子に連絡先を渡されることはないけど、代わりに男たちの羨望の視線が気持ちいい。
可憐もそれは同じようだった。

目立ちたがりというか、目立ってしまう宿命の僕ら。

倶楽部の旅行には何を着ていこうかな。
268名無し草:2008/08/06(水) 00:19:18
>>265
清四郎らしい日記だね。

>>266
野梨子ってばw
269名無し草:2008/08/06(水) 00:28:39
>>266
野梨子ひでえええw
>>267
あの2人が連れ立ってるとすごいサマになるね
270名無し草:2008/08/06(水) 11:30:02
>>262
禿同w
271日記【8月7日】 魅録:2008/08/07(木) 20:25:18
今日、珍しく千秋さんから俺に電話があった。
「モルディブの和貴泉リゾートを使ってもいいわよ」と。

モルディブの滞在を延ばして親父から解放されたのはいいが、
そのせいで俺は夏休みに親父の面倒を見る羽目になった(まあいいけど)。
それを千秋さんなりに悪いと思っての事だろうか。

ちょうど、旅行の行き先をどうするか決めかねていたところだ。
モルディブなら海も綺麗だしコテージは静かだ。
みんな喜んでくれるだろうか。
272名無し草:2008/08/07(木) 20:26:07
>>271
いいね、旅行!
273日記【8月8日】 可憐:2008/08/08(金) 01:14:49
魅録からのメールでこんなに喜んだことはないわ。
やるじゃない、あいつ!
ちょうどこの前の美童とのショッピングでカワイイ水着を買ったし、
超イケメンのセレブを射抜いてやるんだから!
…泳ぎもしないのに水着なんか着るなーって、悠理は言うだろうけど。

旅行の準備をしなくちゃね。また買い物に行かないと!
274名無し草:2008/08/08(金) 01:57:58
>>273です。
>>247で既に可憐は水着を購入済みだったのを読み飛ばしてました。
もう一着買ったって事で置換お願いします、スイマセン。
275名無し草:2008/08/08(金) 02:57:35
可憐なら滞在日数だけ水着あっても納得できるw
276名無し草:2008/08/08(金) 04:03:47
可憐はむしろ数時間置きに変更するのも有り得そうw
勝負水着沢山持参で
277日記【8月8日】野梨子:2008/08/08(金) 16:59:11
悠里の誘いでプールに行く。
剣菱家のプールは屋根付きだから
日差しをきにしなくてよいのがうれしい。
悠里が無理矢理、泳ぎの特訓を強要しなければ
とても快適にすごせるのに。

弥勒からのメールで倶楽部の旅行先が
モルディブに決まった。
準備をしなければ。
可憐に日焼け止めのよい商品を教えて貰おう。
278日記【8月8日】悠理:2008/08/08(金) 20:09:55
野梨子がでっかい浮き輪片手に泳ぎに来た。
そんなのに頼ってるからいつまでも泳げないんだ、と特訓しようとしたけど
あっさり断られた。泳げるようになりたい、って言ってたのにあきらめたのか?

魅録にモルディブってどこにあんの、って聞いたら呆れられた。
この間のテスト範囲に入ってたって。知るかっつーの。

打ち合わせを口実に明日うちでバーベキューすることにした。楽しみ。
ついでにモルディブでどんなうまいものが食えるかあいつらに教えてもらおう。
279名無し草:2008/08/08(金) 23:26:51
登場人物の誤字は勘弁して欲しい
280名無し草:2008/08/10(日) 19:40:03
有閑メンバーも、五輪見てるかな
281名無し草:2008/08/10(日) 23:18:47
悠理は見に行きそうだね。
282名無し草:2008/08/10(日) 23:20:37
剣菱グループが五輪のオフィシャルスポンサーやってそう
283日記【8月10日】清四郎:2008/08/11(月) 01:52:06
昨日は悠理の家でバーベキューを楽しんだ。
そういえば、休みが始まってから皆と顔を合わせたのは初めてだ。
魅録は少し日焼けしていた。毎年のように仲間とツーリングの日々を送って
いたらしい。

モルディブへは剣菱専用ジェットを使わせてもらえるものの、空港や現地での
混雑を避けて来週18日の朝に出発する事となった。
可憐達は荷物の準備に意気込んでいたが、男の荷造りは楽でいい。
着替えの他に詰める物は読みかけの小説だけだ。
…尤も、どうせ悠理が水泳の競争をしろだのと言い出すだろうから、読む時間は
ないかもしれないが。
284名無し草:2008/08/11(月) 16:44:14
オリンピックの競技もし出るとしたら、清四郎は柔道なのかな。
魅録は海パンが似合いそうだから水泳。
美童はスキー(冬)。
285日記【8月11日】 野梨子:2008/08/11(月) 22:06:48
18日から旅行に行きますと家族に告げると
母様が「お盆にお家にいてくださるなんて助かるわ」と満面の笑み。

うっかりしていましたわ、お盆は大忙し間違いなしですわね。
でもお盆の支度って風情があって嫌いではありませんの。
野菜に手足をつけながら、子供の頃を思い出すのは悪くありませんわ。
今年は久しぶりに清四郎にも手伝っていただこうかしら。
286名無し草:2008/08/12(火) 01:08:45
全然脈絡のない妄想だけど、倶楽部のメンバーが高校の教師だったら、のネタ。


保健の黄桜先生の所には、空き時間は常に男子生徒殺到w
しかし授業時間には意外にも保健室登校の内気な女の子の話し相手や恋の相談も。
実は影で女子からは「黄桜先生に相談すれば恋が叶う」なんて尊敬されてたり。たま〜に「松竹梅先生が空きなんです…」なんて子が来たりしてwニヤニヤ


体育の剣菱先生は、男子も敵わぬ運動能力で、結局毎年体育祭の主役で変わらず女子から大人気。もちろん、バレンタインもw
さらに毎年各部は顧問争奪戦。
「剣菱先生となら、全国制覇も夢じゃない!」


国語(現、古含)の白鹿先生は男子生徒の憧れ。保護者の受けもばっちり。
補習はわざと低得点を取った男子でいっぱいだとか…w

だけどはっきり恋愛的な好意をアピールする生徒は少ない。
「白鹿先生にアタックすると、何者かに消されるって噂だよ」

なんて。
287名無し草:2008/08/12(火) 21:28:49
高校教師ネタに便乗。

英語の美童先生(母国語じゃないけどやっぱり英語かな)の授業はちょっと話が脱線するけど高校生の興味をしっかり押さえてて
おもしろい。もちろん女子にはとっても優しい。
白鹿先生同様、補習を受けたくて赤点を取る女子生徒が多いのが悩みの種?

松竹梅先生の数学のテストは数学の苦手な女子も密かに頑張って、「おう、今回はよく頑張ったな」とのさわやかなお褒めの言葉を
もらおうと必死。美童先生ファンの女子のように目立たないけど、本気率が高い。
男子にも信頼が厚く、いろいろと相談されることが多い。

化学の菊正宗先生は厳しいことで有名。
授業は常にピリリとした緊張感がある。でも実はM気質の女子生徒たちから熱い視線が送られていることに全く気がついていない。
そしてなぜか男子生徒からの熱い視線も多数。

288名無し草:2008/08/13(水) 08:04:43
メンバーのような顔がいい先生はあまりいなかったけど、
上の美童のような、ちょっとだけ授業を脱線して面白い話をする先生って人気あった。
美童のような甘いマスクだったら大人気だろうな。
289日記【8月15日】可憐:2008/08/15(金) 02:09:45
今日の昼、野梨子と悠理と一緒に旅行の買出しに行った。
あたしはもちろん、SPF値の高〜い日焼け止めとか、普段使わないような
POPなカラーのネイルカラー、その他色々ゲット!旅行のたびに新しいのを買っちゃうのよねぇ。

一方で、野梨子は薄手の使いやすそうなワンピースを一枚買っただけ。
洋服以外の荷物は毎回ほぼ同じものを持っていく野梨子。
新しいものを買うときは、その後の事をきちんと計画立ててから買うらしい。
…う〜ん、見習わないといけないわね。
問題はもう一人の方。
無人島で半年暮らすつもり?って位の食料を買い込んでるんだから呆れるわ。
食欲も凄いけど、あれだけ食べても全く太らない体も凄いわね。

あ、そうだ…楽しい気分旅行を目の前に、楽しくない企画が発表された。
夏休みの宿題を済ませてしまえ!だって。
清四郎と野梨子は全部、魅録もほぼ終わらせたらしい。あいつらいつの間に…!
あたしの分は魅録が数学、野梨子が古文を看てくれる事になった。
あ〜ん!憂鬱だわぁ!
290名無し草:2008/08/18(月) 21:32:00
日記中断してすみません。
ちょっと思い付いたので、「ガラスの仮面」キャラを有閑メンバーに当てはめてみましたw

マヤ……野梨子
亜弓さん……可憐
速水真澄……清四郎
桜小路くん……魅録
月影先生……百合子さん

…どーしよ。悠里と美童が思い付かない……
291名無し草:2008/08/18(月) 21:43:48
悠理は麗しかないw
292名無し草:2008/08/18(月) 21:58:11
麗って誰か知らなかったからwiki見たけど確かに。
男装が得意なボーイッシュって、マンガだと本当に多いね〜。
293名無し草:2008/08/18(月) 23:05:02
>>290さんに便乗して、私も「ベルサイユのばら」キャラに有閑メンバーを例えてみました。

オスカル…悠里
アンドレ…清四郎
アントワネット…可憐
フェルゼン…美童
ベルナール…魅録
ロザリー…野梨子

オスカルを口説くジェローデルは澤乃井くんでw
294名無し草:2008/08/19(火) 00:19:17
アンドレって黒髪という点では清四郎だけど、
性格とかトータルで見ると個人的に魅録にしか見えない
295名無し草:2008/08/19(火) 01:04:09
ベルバラ読んだ事ない
296名無し草:2008/08/19(火) 01:06:31
>>294
清四郎みたいな完全無欠な嫌味キャラじゃないしね

清悠ならやっぱり孫悟空が一番w
297名無し草:2008/08/19(火) 09:46:54
>>294
じゃあ清四郎がベルナール?
……いや、それはないかw
298名無し草:2008/08/19(火) 10:06:27
>>296
孫悟空ぴったりだけど、清四郎をお釈迦さまにするか三蔵法師にするかで迷うw
299名無し草:2008/08/19(火) 10:07:19
ゴメン。
ageてしまったorz
300名無し草:2008/08/19(火) 11:10:05
>>296
むしろベルばらで完全無欠なのはオスカルだから
清四郎がオスカルなら完璧かもしれん。
301名無し草:2008/08/19(火) 18:29:24
>>300
ワロタww
しかし、嫌味なオスカルになりそうだw
302名無し草:2008/08/19(火) 22:26:54
頭の中で清四郎にオスカルのカツラをかぶせてみた。うぅ〜ん・・・
303名無し草:2008/08/19(火) 22:30:14
アンドレ魅録「うぅーん」
304名無し草:2008/08/19(火) 22:45:45
魅録は陽の人で、アンドレは陰の人。
魅録はベルナールでいいと思う。
清四郎アンドレでいいと思うけれど、ロベスピエールでもいいかも。

305名無し草:2008/08/20(水) 00:30:08
自分の率直なイメージは、

清四郎=ナポレオン
魅録=アラン
美童=サンジュスト

女性陣は>293と同じイメージ。
306名無し草:2008/08/20(水) 08:09:17
ベルばらで当てはめるならロザリーだけど
他だと野梨子は性格が初期宮崎アニメのヒロインっぽい。
307名無し草:2008/08/20(水) 08:28:55
>>304
魅録のキャラは陽のイメージはないな…。
どちらかというと陰か中間のイメージ。
308名無し草:2008/08/20(水) 11:54:08
自分は魅録は陽でも中間でもどっちでも想像できる。
清四郎は完全に陰のイメージ。
309名無し草:2008/08/20(水) 11:56:01
美童を忘れてたw
美童は陽だな。
310名無し草:2008/08/20(水) 13:21:13
でもルパンに例えられると魅録は次元だとよく言われてるよね。
次元は影ポジション。
311名無し草:2008/08/20(水) 14:23:55
>>306
トトロは万作さんで
312名無し草:2008/08/20(水) 21:13:58
ルパンで陰は五右衛門。
次元は中間。
313名無し草:2008/08/20(水) 23:33:45
ルパンの女に弱いところは美童。
頭脳明晰なのは清四郎、メカに強いのは魅録。

う〜ん。誰かに当てはめるのは無理そう。
五右衛門もやっぱり無理だ。
314名無し草:2008/08/21(木) 02:00:53
普通に
ルパン=美童、次元=魅録、五右衛門=清四郎
で良いではないか
315名無し草:2008/08/21(木) 02:02:15
んでもって
不二子ちゃん=可憐、クラリス=野梨子、銭形=悠理

ダメっすかw
316名無し草:2008/08/21(木) 15:05:07
>>313
それを言ったらベルばらに当てはめるなんて、もっと無理やりな気がw

ルパンはまだ有閑に当てはめやすいから、ぜひともコスプレで見たい気がする。
ルパンは美童でも悠理でもどっちでもいい。
どっちもあのコスが似合いそうだしね。
317名無し草:2008/08/21(木) 22:28:53
美童が魅録や清四郎に対して主導権を握ったり
振り回すのは想像できないからやっぱり悠理かな

でも、「誘拐」キャラはルパンでは五右衛門だねw
318驟雨に叫ぶ (12):2008/08/23(土) 07:47:25
>>212

 優しく肩を揺り動かされて、可憐は重たい瞼を開いた。
「可憐、そろそろ起きませんか」
「ん……今、何時?」
「七時半ですよ」
 ということは、すでに清四郎は早朝ランニングと朝のシャワーは終えたと
いうことだ。
 可憐が清四郎の部屋へ連れてこられてから一週間が過ぎたが、清四郎はこの
健康的な習慣を一度も欠かしたことがない。聞けば、ランニングの途中で公園
に立ち寄って、雲海和尚直伝の拳法の型を確認がてら、身体を動かしている
のだというから、恐れ入る。
 布団が恋しいながらも、可憐は起き上がって、洗面所で顔を洗った。
 
 清四郎の基準でいえばだらしないのだろうが、気にせずにパジャマのまま
リビングへ行くと、カウンターキッチンの奥から声をかけられた。
 どうやらコーヒーを淹れているらしい。
「おはよう、可憐。よく眠れましたか」
「ええ」
 確かに良く眠れた。
 ここへきた当初は、眠りが浅かった。清四郎がベッドから起き上がれば、
同時に可憐も覚醒していた。しかし今日は、清四郎に起こされるまで一度も
目覚めることがなかった。それだけ深く眠れていたのだろう。心なしか、身体
もすっきりしている。
 清四郎はキッチンから出てくると、ソファに座った可憐にグラスを差し出
した。
「どうぞ」
「ありがとう」
 ミルクと砂糖がたっぷり入ったアイスコーヒーに、可憐は内心で苦笑し
ながらもありがたく受け取った。
319驟雨に叫ぶ (13):2008/08/23(土) 07:49:38
(うーん、毎度のことながらカロリー満点)
 実のところ可憐自身の朝の定番は、濃く淹れたストレートの紅茶である。
清四郎のセレクトは、ボディラインの維持だけでなく、目覚ましの効果と
いった点から考えても、あまり適当ではないと思えた。
 しかし今は休暇中である。朝早くから頭を動かす必要はなく、だらだら
過ごしても誰に咎められることもない。そんな怠惰な朝に、彼が手ずから用意
したこの甘ったるいアイスコーヒーを飲むことは、不思議と可憐の心に優しく
作用した。


 パンを焼いただけの簡素な朝食を終えると、清四郎は再度ノートパソコンに
向き直った。
 清四郎は現在、大学時代に投資で稼いだ資金を元手に、いくつかのレスト
 ランを経営している。
 大学時代、投資にのめり込んでいた彼を知っているだけに、可憐はそのまま
彼が投資家になるのだろうと思っていた。それが彼に不似合いなサービス業
――それもレストラン業界に足を踏み入れたと聞いたときは驚いたものだった。
 しかし経営しているといっても、店の運営はほとんど雇った店長に任せて
いるらしい。
 彼自身の言によると、現在は起業について学んでいる最中であり、試験的な
運営とのことだったが、上手くいっていることは、彼が借りているこのマン
ションの広さからも伺えた。


 清四郎が仕事に集中しだすと、途端に居間は静まり、キーボードを叩く音が
だけが響く。
 テレビや音楽を流すことは遠慮して、本棚から適当に引き抜いた画集を手に、
可憐はソファーに寝転んだ。
 この部屋へつれてこられた当初は、せっかく立派な書斎があるのだから仕事
はそこですればいいのにと思っていた。
 しかしすぐにそれが清四郎の気遣いであることに気がついた。彼は、ひとり
になると言い様もない喪失感に襲われる自分を慮ってくれているのだ。
320驟雨に叫ぶ (14):2008/08/23(土) 07:53:33
(清四郎は優しい。こんなあたしにも)

 仕事をする清四郎の背中を見つめながら、可憐はこっそりと溜息をついた。
 時折、彼がこっそりと母親と電話で連絡を取っているのを知っている。
 傷ついた娘に対して、酷く過敏になっている母親の対応を清四郎が一手に
引き受けてくれているのだ。
 母親からすれば、流産したばかりの娘が実家に顔も出さず、子供の父親でも
ない男性の家に泊まっているというおかしな状況を不安に思うのは当然だろう。
 しかし母親の労わりの態度が、今の可憐には苦痛だった。そんな自分を察し
て、清四郎はこちらへ顔を出したいという母親の申し出を、断ってくれている
のだ。
 それだけではない。
 流れてしまった子供の父親――つまり魅録がその事実を知らないということ
を不満に思っている母親を、清四郎は宥めてくれているのだ。

(ごめんね、ママ)
 
 本当は自分の口から本当のことを母親に言うべきなのだ。そうすれば母親
も魅録をなじることはやめるだろう。
 魅録に責められる落ち度などひとつもなく、すべては自分の自業自得なのだ。
望まぬ妊娠でさえも彼の落ち度ではない――彼はいつも避妊していたのだから。
 けれど今は、真実を言う勇気がない。それを口にすればきっと娘の馬鹿な
行為に、母親は落胆するだろうから。
 本当のことを知るのは清四郎だけだ。自分の馬鹿な振る舞いを、最初から
最後まで全部、彼だけが知っている。

 この一週間、可憐は産着に包まれるかのようにゆったりとした時間を過ご
していた。
 穏やかな会話、居心地の良い部屋、何にも煩わされず、何にも傷つけられ
ない静かな時間。
 暖かな笑顔で朝を迎え、夜は温かな腕の中で眠りにつく。
 久しぶりの平穏は、すべて清四郎によってもたらされたものだ。
321驟雨に叫ぶ (15):2008/08/23(土) 07:55:29
 気の置けない親友、性別を越えた友情は、今や見る影もなかった。
 今の自分は、清四郎が差し出してくれる甘い甘い手によって、一方的に庇護
されるだけの脆弱な存在となってしまった。
 しかし自分の弱さを蔑んでも尚、彼の手を跳ね除けることは、もう可憐には
できそうになかった。
 

           *   *   *


 昼休みになって、職場の同僚たちが全員昼食に出かけたのを確認した後、
魅録はプライベート用の携帯電話を取り出した。
 何度も繰り返したため、今では無意識にでも出来る動作で、画面に呼び
出した黄桜可憐の文字。

 ――可憐と付き合いだした頃は、毎日が幸せだった。
 お互い気心が知れた友人であったから、付き合い出してから幻滅するという
こともなく、すぐに仲は深まった。
 けれど付き合いだしてから一年を過ぎる頃、魅録は違和感を覚え始めたのだ。
 きっかけはおそらく、将来について語り合ったことだったと思う。
 いずれ可憐と家庭を持つことを意識していた自分と、それがはるか遠い未来
のように感じているらしい可憐。
 玉の輿を狙っていた昔と違い、可憐は仕事が楽しくて仕方がない様子だった。
独身の生活を楽しみ、毎日身軽に交友関係を広げていた。結婚のことなど
まだ考えられないのは当然かもしれなかった。
 ありがちと言えばありがちな話であり、それらは長く付き合っていれば自然
と収まるところに収まる筈の話だった。
 自分自身、それほど結婚に焦っているわけでなく、可憐がまだ遊びたいの
ならと、鷹揚に構えるつもりだったのだ。
 ――そう、可憐に対して何か不満に思ったことなどなかった。
 だからこそ今でも不思議でさえある。
 あれほど好きだったのに、どうして気持ちが醒めてしまったのだろうかと。
322驟雨に叫ぶ (16):2008/08/23(土) 07:57:19
 別れを切り出すまでの半年間は、自分の気持ちに抗う日々だった。
 こんなあやふやな状態で、将来を誓った可憐を裏切るわけにはいかない。
 そう思ってはいても、彼女に対する気持ちが恋から友情へと戻っていくのを
魅録自身どうしようもなかった。あけすけな話をすると、肉体的な欲望も
もう彼女には覚えなくなっていたのだ。
 可憐自身、それを肌で感じていたのだろう。別れを告げたとき、彼女は
驚かず、ただ泣いた。
 あたしの何が悪かったの。
 そう問われても、魅録には答える術がなかった。

(今更、可憐と連絡を取って、何を言おうってんだ)
 しばらく魅録は携帯の画面を見つめ、通話ボタンを押すか押すまいかで
悩みながら、結局押せずに、溜息をついてフリップを閉じた。
 そして大きく溜息をついて目を閉じると、事務用の椅子に大きくもたれ掛
かった。
『今までありがとう!』
 別れ際の可憐の笑顔が眼裏にこびりついて、薄れようとしない。
 鮮やかで、晴れやかな笑顔。
『あたしたちは恋人としては縁がなかったけど、親友よね』
 その台詞が、別れ話を切り出した直後に出されたものであれば、自分は素直
に安堵しただろう。
 けれど実際には、別れ話は二ヶ月間もの間、拗れた。しかもその期間の半分
は、彼女は行方をくらまして、連絡が取れなかったのだ。
 その後での、その台詞。
 ――離れていた間に、彼女に何があったのだろう。
 あれほど別れることを泣いて嫌がっていたのに、どうして最後に会ったとき、
彼女はあんなに綺麗な笑みを浮かべることが出来たのだろう。

 魅録はじわじわと胸を侵食する不安に、手の中の携帯を無意識にぎゅっと
握り締めた。

                              続く
323名無し草:2008/08/23(土) 11:11:59
>驟雨に叫ぶ
続き待ってました。
可憐が清四郎によってだんだんと癒されていく様子にほっとしました。
魅録が自分の気持ちの変化に苦しむのも誠実な彼だからこそで、彼もつらかったのだろうなと
思いました。
続き楽しみに待ってます。
324名無し草:2008/08/23(土) 19:58:44
このスレまだあったんだ
うざー
325名無し草:2008/08/25(月) 07:20:52
>>317
遅レスだけど、ルパンは美童と悠理を足して2で割れば最高だ。
銭形はなんか時宗さんとキャラが被ってる。
326名無し草:2008/08/26(火) 00:08:46
美童と悠理じゃ知能が足りんのよ…
327名無し草:2008/08/26(火) 08:16:30
>>326
じゃ、美童と悠理と清四郎を足して3で割ればイイ!
328名無し草:2008/08/28(木) 18:56:26
はいからさんが通るを当てはめてみたら、

紅緒    悠理
忍(少尉) 清四郎
蘭丸    美童
環      可憐
鬼島    魅録
忍の祖父 時宗

ぴったりだと思うんだけど、野梨子が浮かばない。
う〜ん、ラリサかな。
329名無し草:2008/08/28(木) 21:42:56
紅緒なら外見ならのりこピッタリでは?
330名無し草:2008/08/29(金) 11:56:28
>328
ぴったり!
ほんと野梨子が思い浮かばないね。
なんかラリサじゃ野梨子がかわいそうな気がする。

>329
本当に外見だけなら 野梨子は蘭丸だと思う。
ストレートの黒髪、大きな黒目がちの目。

331名無し草:2008/08/29(金) 12:07:32
古い漫画が多いな。わからない。
332名無し草:2008/08/29(金) 12:29:00
有閑は有閑だから、例えはもうそろそろいいんじゃないか。
違う漫画に例えても多少みんな性格や外見が違ったりするし、ラリサもさすがにないと思うし、
みんなが納得できるぴったりな答えなんて出ないな。
333名無し草:2008/08/29(金) 17:05:58
でも倶楽部内メンバーが当てはめられてるのは何かとよく見る

昨年のドラマ化前にドラマ板やブログを見たけど
俳優女優の当てはめレスのオンパレードだった
あれも原作ファンが披露する配役ですら
俳優女優のイメージが人によってバラバラで笑ったけど
334名無し草:2008/08/29(金) 18:07:38
出るかw
伝家の宝刀、禁止!お約束ww
335名無し草:2008/08/29(金) 18:09:31
話したい人がいるなら、話を続けていいんじゃないかなー。
その話題に興味ない人は別の話題を振ったらいいんだし。
336名無し草:2008/08/29(金) 18:44:33
ここまで読んでて正直な所ルパンはかなり良いと思う。
ルパンは恋愛物じゃなく、ストーリーより面子の個性、役割ありきな所が同じで
面子自身も近いものがあるかなと。
全員似た系統がいるのもポイント高い。
337名無し草:2008/08/29(金) 20:15:08
>>333
ドラマはもっと、顔や雰囲気や全体の身長や体系のバランスを
大切にしていたら、演技力が糞だとしても見ていたかも。
ドラマじゃなくアニメだったら作画が酷すぎない限り見てた。
338名無し草:2008/08/29(金) 23:10:05
アニメ見たいけど近くのレンタル屋にもないし、
宅配サービスもないんだよなあ
339名無し草:2008/08/30(土) 01:24:07
流れ読まずに投下します。
魅録×悠理で小ネタです。
340overdrive(1):2008/08/30(土) 01:26:06
快晴に恵まれた連休の午後。
二人を乗せた車は高速道路を山に向かっていた。
暦の上では秋だというのに、夏の名残を強く思わせる陽射しがフロントガラスを挟んだ視界を映している。

助手席の彼女が窓を全開にした途端、強烈な風と轟音が彼を襲った。
自分がスピードを出している所為かその勢いがいつもにも増して強烈に感じる。
「おい」
運転席の彼は視線を前方に向けたまま呼びかけた。二度三度繰り返して名前も呼ぶ。
彼は眉を顰め、微かに視線に動かすと、声を張り上げた。
「おい、悠理!!」
「あ?」
漸く彼女が振り返る。
「悪いけどさ、窓閉めてくれよ。耳がどうにかなりそうだ」
「えぇー」
不満を露にした顔と声。
「なんでだよ。そんなに暑いわけでもないのに」
「そうだけどー。何か退屈なんだもん。魅録ちゃんもさっきからだんまりで遊んでくれないしさー。つまんねつまんねつまんねー半分はおまえのせいだ」
駄々っ子めいた叫びが車内に響いた。幾度となく通った上に、左右を高い壁に阻まれた灰一色の単調な道程の所為か。
無論ここまでの会話は全て通常比数割増の大声である。
刺激があった方が魅録ちゃんも退屈しないだろーと思ったのに等々、駄々っ子めいた彼女の呟きを押さえ、どうにか窓を閉めさせる。
「じゃあそこにあるCD、どれでもいいからかけてくれよ。俺も何か音があった方が退屈しねぇし」
一変晴れやかな表情になった彼女が、後部座席のケースからランダムに選んだCDを数枚カーステレオにセットし、設定を始めた。
341overdrive(2):2008/08/30(土) 01:27:29
――何枚目かのアルバムは、奇妙な懐古趣味と甘ったるさに満ちたものであった。
古今東西の王道ラブソングばかりを集めた、いかにも女性好みの選曲だ。彼女が、空ケースに入っていたメッセージカードらしきものを読み上げる。
「“星空と夜景、そしてそれより美しい君に捧げる珠玉の……”ってなんだよこれ。まさか魅録のじゃないよな」
相当引き気味な表情で彼女が訊ねる。
「当たり前だ。…………あいつなんでこんなもん忘れてったんだよ」
暫く思考していた彼がため息混じりに呟く。さして興味も無さそうに耳を傾けていた彼女が、ふと何かを思い出したような目になり、悪戯っぽく笑った。
「ねえ。この歌の続き知ってんだろ」
瞬間、彼は何を言われたのか解らなかったが、流れる曲に気付いた途端、胸がドキリとした。
「せっかくなんだから言ってみてよ」
「あほ。誰がそんな歯の浮くようなこと言えるか」
「いーじゃん別に。だっておまえがあたいにそれらしいこと言ったの一回しかないだろ」
ともすれば肌寒いくらいの季節にも関わらず、彼は全身から汗が滲むような熱さを覚え始める。
「俺、そんなこと言ったかな」
余裕を装い、片手でハンドルを捌きながら答えた。
「言ったって。ほらあの時。最初にき――」
「ーーーーーー!!」

「……悪ふざけもたいがいにしろよ。ったく――」
ハンドルを握り直し、こっそり呼吸を整える彼を意に介さずに彼女は続ける。
「付き合ってるんだしたまにはいいじゃん。じゃなきゃ可憐や野梨子に言っちゃうぞ。魅録はあの時」
「おっ、おい!!」
彼は慌てて遮った。一年近く経ったとはいえ変化の欠片も無い自分と彼女の力関係を痛感し、心中で嘆息する。
カーステレオはそんな彼を嘲笑うかのようにラブソングを流し続けている。
「……わかったよ。一回だけだ。ちゃんと聞いとけよ」
342overdrive(3):2008/08/30(土) 01:28:38
微かに意地悪そうに笑い、一つ息をついた後、軽く吸う。
次の瞬間、運転席の窓が開き、車内の全ての音が掻き消された。音楽も、彼の一言も。
世界が戻ってもなお、彼女は呆気にとられた顔をしていたが、彼の意図に気付いて絶叫した。
「あぁあー!! ずるいぞこのやろー!!」
「今度はそっちの番だからな」
してやったりといった彼の横顔を悔しそうに睨み、
「あたしは、いつも言ってるからいーんだよ」
仕返しのつもりかよ、という言葉を飲み込み、さも優位に立ったと言わんばかりの語調で返したが、
「なら平気だろ。ほら」
「〜〜〜!!」
逆に言質を取られ、今度は彼女の頬が秋色に変わった。両拳を握り締め、さらに彼を睨み続けるがこたえた様子は見られない。
ようやく彼から目を逸らし、散々考えた後、彼女はすっと真顔に戻り、改まった口調で呼びかけた。
「魅録」
「あ?」
――次の言葉は、声もなく唇だけで呟いた。
前を見たまま運転している彼が、怪訝そうな表情になる。
「……? 聞こえねぇんだけど」
「言ったぞ」
暫し沈黙した後、今度は彼が叫んだ。
「あーっ! てめーこそずるくねぇか?」
「見てなかったのが悪いんだよ。それにそっちだって」
頭の後ろで手を組んだ格好の彼女が楽しげに笑う。
「言葉が違ってたじゃんか。自分は“好きだ”って言ってたくせに」
頬を紅潮させて言葉に詰まった彼を横目に、ほんっと往生際の悪いヤツ、と続けながら彼女が助手席に凭れる。

――いつの間にか外は薄灰色の空間を抜け、黄昏色に染まり始めた山々へと変わり、
助手席側のサイドミラーには、窓外を眺めながら幸せそうに微笑む彼女が映っていた。
343名無し草:2008/08/30(土) 01:29:32
終わりです。有難うございました。
344名無し草:2008/08/30(土) 06:03:13
>overdrive
かわいい二人ににまにましながら読んでしまいました。
二人は何の曲を聞いてたのかなー。
345名無し草:2008/08/30(土) 08:49:39
>overdrive
GJ〜〜〜!!
テンポの良い二人の会話がイイ。
346名無し草:2008/08/30(土) 09:10:10
>OVERDRIVE

GJです
なんだか魅悠の、お互い照れ屋なのに相手に言わせようとするかんじが凄く可愛いなぁ。
爽やかで素敵なお話をありがとうございました。
今後の彼らも見てみたいです。
347名無し草:2008/08/30(土) 11:08:11
言葉が音で聞こえないって、魅録も悠理もやりそう!

このCDって誰が置いていったんでしょうか?
「あいつ」って誰だろう?と思ってしまった。
348名無し草:2008/08/30(土) 13:14:48
世界の恋人
349驟雨に叫ぶ (17):2008/08/31(日) 06:45:40
>>318

「そろそろ仕事に復帰しようと思うの」
 可憐が清四郎にそう告げたのは、この部屋に連れてこられてから十日目の
朝食時のことだった。
 八月に入り、世の学生たちは夏休み期間である。お盆も前にしていること
から、業者とのやり取りなどもあり、いつまでも仕事を休んでいるわけにも
いかなかった。いくら社長の娘であり、多少の我侭が許される立場とはいえ、
一店舗を任されている可憐は責任ある身である。
「そうですか」
 清四郎は少しだけ何かを考えるような顔をしたものの、反対も賛成もせず、
淡々とした調子で頷いただけだった。
 彼は色々な面で木目細かく可憐の面倒を見ていたが、その反面、彼女の
行動に対して何か意見を告げることもなかった。そもそも二人はあまり話を
しない。悲しみも喜びも同じように遠く、感情の起伏が乏しい静謐な空気の
中で、ただ一緒に暮らしている。


 その日の夕方、いつものようにパソコンの前に座っていた清四郎がふいに
振り返って言った。
「これから夕食の買出しに行こうかと思うんですが、一緒にどうですか?」
 一見、何の含みもなさそうな、何気ない誘い文句だったため、断ることも
出来た。しかし彼が細心の注意をもってその言葉を口にしたのだろうことは
想像に難くない。
 可憐はこの部屋に足を踏み入れてから、必要な荷物を自分のアパートへ
取りに戻る以外に外出をしたことがない。家事は手伝っていたものの、暗黙
の了解で食材の買出しは清四郎の担当となっていた。
「そうね。一緒に行こうかしら」
 可憐は明るい笑顔を作って、頷いた。
 仕事の復帰も決めた。ならば、いつまでもこの優しい箱庭の中に留まって
いるわけにはいかないのだ。
350驟雨に叫ぶ (18):2008/08/31(日) 06:49:26
 部屋着のままであったため、ジーパンとTシャツというラフな格好に着替
えると、可憐は洗面所の鏡の前に立って、久しぶりに化粧をした。
(あたしってば、すっかり清四郎に甘えてるわね)
 魅録と付き合っていたときはこうではなかった。
 何度も魅録と夜を過ごしたが、朝起きて一番初めに可憐がすることは化粧
であった。もともと長い付き合いの親友であったものの――いや、だからこそ
かもしれない――可憐は魅録の前でいつも新鮮な女でいたかった。
 だからこんなふうにだらしなく、油断したことなどなかったのだ。
 このぬるま湯のような清四郎との時間は、どんどん自分を堕落させていく
かのようだった。
 

 時刻はすでに午後六時を過ぎていたが、夏真っ盛りの今、空はまだ明るい。
 一番暑い時刻を過ぎた夕方の風は生温いが、不思議と水っぽく清涼な香り
がする。
 それまでの気怠さが嘘のように、身体がすっきりとしている。
 やはり部屋に篭りきりというのは良くないのだろう。
 近所のスーパーへの道すがら、清四郎と肩を並べて歩きながら、可憐は
久しぶりに吸う外の空気を満喫していた。
「今日はお祭りのようですね」
「え?」
 ふと清四郎の台詞に気を引かれて周囲を見渡すと、まだ明かりは灯って
いないものの、電柱と電柱に紐が渡され、提灯が吊るされている。さらには
浴衣を着た小さい子供たちが、親に連れられて大通りから路地を曲がって
行くのが見えた。
「このあたりに神社があるの?」
「ええ。ただ僕も祭をやっているとは知りませんでした」
 おそらく小さな自治会規模の夏祭りなのだろう。
 ぼんやりとそう思っていると、清四郎がふいに立ち止まった。
「行ってみますか?」
 大して興味はなかったがその場の雰囲気に押されてなんとなく頷くと、
彼は少し笑って手を差し出した。
351驟雨に叫ぶ (19):2008/08/31(日) 06:52:19
 彼らしくない柔らかな笑みは、どこか不器用な硬さがあり、可憐は少し
どきりとしながら、その手を取った。
 ――皮が硬く、大きな手。
 清四郎は男なのだと、当たり前のことをいまさらながらに可憐は思った。


 祭囃子が聞こえる。
 路地を曲がると、途端に濃密な祭りの空気に包まれた。
 はしゃぎ回る子供たちの色鮮やかな浴衣や、甘いりんご飴の匂い。
 日本で生まれ育った者であれば、誰しも郷愁を誘うだろう祭りの光景は、
日本の夏の原風景なのかもしれない。
 先ほどまでさほど気乗りしていたわけでもなかったのに、不思議と気分
が高揚してきた可憐は、繋いだ清四郎の手を無意識にきゅっと力を込めて
しまった。するとあっと思う間もなくやんわり握り返され、なんだか
気恥かしくなって視線を下に落とした。
 清四郎は今、どのような顔をしているのだろうか。
 可憐の脳裏に、先ほどの不器用な笑みが浮かんでは消えた。

 そのまま二人は無言のまま庭場をそぞろ歩く。
「おいしいたこ焼きはどうですか!」
「ビール冷えてますよ!」
 小規模な祭りのため、参道に並ぶ露店も極道絡みの的屋ではなく、地元の
商店街の有志一同のようだ。自治会主催だと思ったのは正解で、どうやら
どちらかといえば地域の子供たちのための祭りらしい。少しばかり周囲から
浮いていることに気がついて、清四郎と可憐は顔を見合わせて苦笑した。
352驟雨に叫ぶ (20):2008/08/31(日) 06:56:40
 小さな子供たちに混じって、射的や輪投げなどを楽しんだ。
 はっきり言って、清四郎の能力は野暮というより、ほとんど反則である。
気持ち悪い程決まるダーツに、可憐は笑いながらも店主たちが気の毒で
ならなかった。
 結局、玩具類などの使う宛てのない多くの戦利品は店へ返した。

 散々遊んだ後、ふたりは夕飯の代わりに焼きそばやたこ焼きなどを買い、
手ごろな高さの石垣に腰をかけた。
 少し汚れるが、ふたりして、いつにないラフな格好だったのが良かった。
 清四郎に頷きながら、熱気に包まれた人の流れを眺める。
 日が落ちてすぐの薄ぼんやりとした明るさを残す空の下、笑いさざめき
ながら、ささやかな祭りを人々は楽しんでいる。
 子供を肩車する父親の姿や、それを微笑みながら眺める母親の姿。
 選ぶ道を間違えずにさえいたら、それらのありふれた日常はこの手に
あったのだろうか。 
「なんだかこういうのも懐かしいですね」
 ぼんやりとしていたところに話しかけられ、可憐ははっとした。
(……しっかりしないと)
 埒もない考えに囚われるところだった。
 可憐は紙コップに入ったビールを飲み干して気分を入れ替えた。
「うん。お祭りなんて久しぶり。それどころか、良く考えたら今年は全然
夏らしいイベントに参加してなかったわ」 
 例年なら夏にはたっぷり予定を組んでいる。しかしここしばらくは色々
あったため、暑さ以外に夏を感じることもなく過ごしてしまっていた。
 そう考えると、清四郎の誘いに乗ってよかったと思えてきた。
「そういれば倶楽部のみんなで最近旅行に行ってないですね」
 清四郎もまたどこか遠くを見つめて言う。それぞれが自分のことで忙しく、
六人全員の予定を刷り合わせるのはなかなか難しいことになっていた。
「今度時間作って行く?」
「そうですね」
 きっとそのころには時間が全てを洗い流してくれているだろう。
 魅録への未練も、この喪失感も。
353驟雨に叫ぶ (21):2008/08/31(日) 07:00:46
 行きと同じように、手を繋いでふたりは岐路につく。
 少しずつ遠ざかっていく祭囃子を背に、可憐はゆっくりと息を吐き出した。
 すっかり暗くなった参道を祭提灯が淡く彩る様子は、幻想的でいて、少し
だけ不安を催すものである。
 無言に耐え切れなくなり、ちらりと清四郎の横顔を伺っても、この薄暗さ
ではよく見えない。
 今、清四郎が何を考えているのか知りたい。
 けれど、問いかけたところで、あの彼らしくない優しげな笑みを不器用に
返されるだけだと分かっていた。 
 眼を伏せた可憐は、清四郎の手を強く握ってみると、期待したとおり、
今度も清四郎は、やはりきゅっと握り返してくれた。
 清四郎の大きな手は、何か幸せのようなものと哀しみのようなものを
同時に可憐に与える。

 ――今、ひとときだけ。

 この清四郎が作ってくれた繭を出るそのときまで。
 夜におびえる子供みたいに、清四郎へ甘えることを自分へ許した。


                                          続く
354名無し草:2008/08/31(日) 10:29:22
>驟雨に叫ぶ
清四郎の淡々としていながら考えつくされた優しさが可憐を癒していく様子がよくわかります。
清四郎、いい男だなぁ。
続き楽しみに待ってます。
355あの時もし:2008/09/03(水) 20:33:31
小ネタです。
可憐→魅録
2スレです。
356あの時もし(1):2008/09/03(水) 20:34:23
「本当に好きだから、あの時好きと言えなかった。」
そう言って、魅録は笑った。
雛壇の上で。
隣の席の初々しい新婦がお色直しでいない時に。

それって、何ていう罰ゲーム?
あたしは彼を恨んだ。
正直に言えば済むと思ってる男のお気楽さを。
自分の気持ちを楽にするために正直になってるだけ、と気が付いてないところを。
自分の心情を吐露したことによって、相手がどう考えるかなんて考えてない。
時として、真実は人を傷つける。
それも、かなり手ひどく。
目に見えない傷から真っ赤な血がドクドクと流れ出て、そして…
あたしはその血の上でのたうち回りながら一生を終えるだろう。
あの時、もし。
そんな陳腐なセリフがあたしの中で渦巻く。

あの時、もし勇気を出してたら、今が違ったの?

声に出して聞くことが、もう出来ない。
357あの時もし(2):2008/09/03(水) 20:35:54
「何言ってるのよ、今さら。」
あたしは口に手を当てて笑う。左手の薬指にある婚約指輪が鈍く光る。
その指輪を見上げながら魅録が言う。
「次は可憐の番だな。」
「う〜〜〜んんっとゴージャスな式にするつもりよ。」
あたしは笑顔で言った。
言えたと思う。
心の底からおめでとうが言えると思ったのに。
あたしは下唇を噛んだ。

あの時もし勇気を出してたら今が違ったの?

答えは永久に出ない。
そしてわかってることが一つだけ。
これからあたしは修羅場を迎える。
婚約を解消するために。
彼を超えるくらい好きな人と出会うために。
自分を欺かないために。

あの時もし。

解ってるのは、あの時になんて戻れないこと。


・おしまいです。
358名無し草:2008/09/03(水) 23:08:14
>あの時もし
魅録ずるい!と思わず思ってしまいました。
花嫁は誰なんだろう?
可憐、魅録を奪うつもりなのかと一瞬思いましたが違くてよかった。
359名無し草:2008/09/04(木) 00:37:49
>あの時もし

切ないっ!
でも凄いよかったです。
360名無し草:2008/09/04(木) 13:32:20
>あの時
ちょっと切ない可憐ですね。
じんわりと切なくなりましたがおもしろかったです。
361不器用だから(1):2008/09/06(土) 02:01:37
ちょっとしたお話投下します。魅→可なのですが、
>>356>>357さんと似てますね。気づかずに書いたのですが、すみません。。


「可憐、遅いですわね。」

今日の主役の花嫁がもうすぐ式が始まるというのに現れない。
念願の玉の輿にのった彼女は何をしているのか。

「俺、ちょっと控え室見てくる。」

ついつい出てしまった言葉。
可憐が結婚すると倶楽部のメンバーに言ってから2人になることがなくなった。
だから、最後に可憐と2人で話したい。
そんな想いから出た言葉。
こんなに未練がましかったっけ、俺。

控え室のドアの前。
純白の豪華なウェディングドレスに身を包み、
鏡の前で最終チェックでもしてるのだろうか。

ドアのノックして部屋に入った。

「おい、可憐。どうし・・・」

俺は可憐の姿を見て言葉を呑んだ。
笑顔だと思っていた彼女は椅子に浅く腰掛け、寂しげな表情。
さっきは『式の主役は私よ』とはりきってた可憐。なんでそんな顔してるんだよ。

「あっ、魅録。」

俺の存在に気づいて顔を上げた時には既に笑顔に変わっていた。
362不器用だから(2):2008/09/06(土) 02:04:14
「やばっ。もう時間?」
「もう行ったほうが良いぞ。」
「ありがとね。」
「あ・・・」
彼女は笑顔のまま俺の横を通り抜けた。いつだってこうだった。
表面的にはいつも笑顔で明るい可憐。たまに見える彼女の影を俺は気づいていた。
なのに、可憐は俺にその影に一寸のところで触れさせようとしない。
触れようとすると、すっと逃げる。
支えたいと思う気持ちを、可憐はまるで知っているかのように逃げる。
そんな可憐を不器用な俺はつかまえられないでいた。
でも、今つかまえなきゃもう次はない。
そう思うのと体が同時に可憐を追っていた。可憐の腕をつかんで俺は初めて彼女をつかまえる。

「そんな顔したまま結婚なんかするな。」

俺は今、どんな顔してこれを言ってるんだろうか。
ただただ、目の前には今にも泣きそうな顔の可憐が見えるだけ。

「魅録・・・。ごめんね。」

そうだ。
今さら可憐をつかまえたところで何も変わらない。遅すぎだ。

-----「魅録、遅いよ。」

美童が俺をみつけて手招きしている。
「ちょっとな。」
あいまいに答えて美童の横に俺は座った。
そしてすぐに剣菱のおっちゃんとバージンロードを歩く可憐。
そんな可憐の姿を見て、そっと下を向いた。誰にも顔を見られないように-----。

おわり。
363名無し草:2008/09/06(土) 02:35:02
>不器用だから
切ない二人ですね。
この後、可憐は幸せになれたのでしょうか・・・?

ほぼリアルタイムで読めました。
この二人が一番好きなので、嬉しいです。
有難うございました。
364名無し草:2008/09/06(土) 07:03:41
>不器用だから
可憐の本当の気持ちはどこにあるのだろう。
花婿さんでもなく、魅録でもなく、なのかなと想像しました。

最近、おもしろい短編が多くて嬉しいです。
作家さんたち、GJです!
365名無し草:2008/09/06(土) 09:55:13
可憐のお相手は豊作さんですかね。
「そんな顔のまま結婚するな」と腕を掴むシチュに萌えてしまいました。
こういうシチュって切ないけど好きです。
魅録がかわいそうでしたが、切なくていい話でした。
366名無し草:2008/09/06(土) 19:14:31
魅録、未練タラタラだけどカックイイ
自分が言われたいわ…
367名無し草:2008/09/08(月) 23:08:30
本音チェッカーしてみた。
可憐主人公のSS書こうと思って、何かネタになるかなと思って。

ttp://flashgame.rounder-s.net/honne.cgi?rs=y&p5=%E6%82%A0%E7%90%86&cp=%E5%8F%AF%E6%86%90&p3=%E7%BE%8E%E7%AB%A5&p6=&p1=%E6%B8%85%E5%9B%9B%E9%83%8E&p4=%E9%87%8E%E6%A2%A8%E5%AD%90&dr=Both&p2=%E9%AD%85%E9%8C%B2

魅録と美童へひどいよ、可憐w
野梨子の本音も笑ってしまう。さて悠理とはどうしたものか。
368名無し草:2008/09/08(月) 23:31:35
本名でやったらこうか・・・。

http://flashgame.rounder-s.net/
honne.cgi?rs=y&p1=%E8%8F%8A%E6%AD%A3%E5%AE%97%E6%B8%85%E5%9B%9B%E9%83%8E&p5=%E7%99%BD%E9%B9%BF%E9%87%8E%E6%A2%A8%E5%AD%90&dr=Both&p6=&p4=%E5%89%A3%E8%8F%B1%E6%82%A0%E7%90%86&cp=%E9%BB%84%E6%A1%9C%E5%8F%AF%E6%86%90&p2=
%E6%9D%BE%E7%AB%B9%E6%A2%85%E9%AD%85%E9%8C%B2&p3=%E7%BE%8E%E7%AB%A5%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%8B%E3%82%A8

可憐・・・orz
369名無し草:2008/09/09(火) 15:48:39
ttp://yunbymunch.web.fc2.com/img/2007/yukan.jpg
ジョジョ風有閑倶楽部
370名無し草:2008/09/09(火) 16:46:24
>>369
悠理はかっこいいけど、野梨子と清四郎がw
371名無し草:2008/09/09(火) 17:20:41
野梨子はよーく見てみると顔が丸くて幼すぎな所以外は普通だが
……モルダビアかと本気で思ったよ清四郎(;;´;ё;`;;)
372名無し草:2008/09/09(火) 17:37:17
>>369
美童が強そうに見えるね!
373名無し草:2008/09/09(火) 18:47:04
ジョジョのような個性的な絵の漫画家が描く
倶楽部内メンバーを一度見てみたいもんだ。
374名無し草:2008/09/11(木) 18:19:32
おもしろ小ネタプリーズ
375名無し草:2008/09/11(木) 21:55:15
夏休みオワタ
376名無し草:2008/09/12(金) 02:08:00
そういえば日記、モルディブ編がなかったねー。残念。
水着の絵日記も見たかった。

剣菱家のプールといえば、犬猫誘拐の話だけど
ラストで野梨子が悠理にスパルタ特訓されてるシーン。
あの後、後ろで見ていた魅録がおぼれかけた野梨子を
飛び込んで助け、「教え方ってもんがあるだろーが」と
手とり足とり、優しくコーチしてあげたんじゃないだろうか。
でも結局泳げるようにはならなかったっぽいがw
377名無し草:2008/09/12(金) 17:25:04
アニメでもあったな、ラストシーンで。
最後野梨子がプールで逃げ惑ってる所で終わってた。
野梨子も悠理も本当に能力が極端だよなあ。
378名無し草:2008/09/12(金) 22:03:15
>>369
遅レスだけど個人サイト貼るなカス
379名無し草:2008/09/13(土) 00:27:12
>>376
「なんだよ、魅録」と拗ねる悠理と、
「野梨子のどこ触ってるんですか」と青筋立てる清四郎を想像して萌えたw
380名無し草:2008/09/13(土) 11:13:55
>>379
えっ?あの場所に清四郎いなかったよね。
悠理と野梨子と魅録だけだったと思うけど!
381名無し草:2008/09/13(土) 11:51:54
>>379
萌えて思わず漫画読み返してしまったw
382名無し草:2008/09/13(土) 12:46:44
ミロクマンセーーーーー
383名無し草:2008/09/13(土) 12:50:36
魅録大好きwwww
あとは死ね。
384名無し草:2008/09/13(土) 17:00:26
約4分差w
385名無し草:2008/09/13(土) 17:55:02
>>376
野梨子は多分この先も泳げることは、ないかもなぁ。
努力してもスポーツは駄目だとクイズの時に言ってるし、何より漫画のネタ的にもw
全員の水着絵見たかったね。
386名無し草:2008/09/13(土) 22:10:17
北海道温泉の回も浮き輪持ってたしね
387名無し草:2008/09/14(日) 11:06:15
男山とタマフクが誘拐された事件で
水圧でドアを破るところで、どうしても清野に萌えてしまう。

個人的に
野梨子が溺れて…ってシーンを少し期待した。
誰が人工呼吸しても萌えるが、やはり清四郎がもっていくんだろうなww
388名無し草:2008/09/14(日) 11:24:27
水圧でドアを破るところもそうだし、可憐とカサル王子の回で
美童の運転する車から脱出するときも、
野梨子は清四郎に抱きついてるよねw
清四郎を男として見てないという象徴なのかもしれないけど、
清四郎に人工呼吸されても、やっぱり平気なのか
確認してみたくはあるw
389名無し草:2008/09/15(月) 09:18:44
驟雨に叫ぶ、これ、いただくわ、病院坂、お待ちしています。
390名無し草:2008/09/15(月) 11:21:48
>>388
清四郎に人工呼吸されるより魅録に人工呼吸された方が
野梨子は意識するような気がする。
作者も魅×野をほのめかしているし。
391名無し草:2008/09/15(月) 11:27:44
美童だとビンタされそう
「ひどいっ。助けてあげたのに!」と涙目になる様子が想像できる
392名無し草:2008/09/15(月) 12:07:34
>>388
その後の野梨子の反応は一時的に、清四郎には幼馴染だからこそ変によそよそしくなってしまい、
魅録には普段からあまり怒るような部分が見当たらないから、怒ることもなくよそよそしくなるかも。
美童にはエロい人という意識が多少あるから、たとえ人口呼吸でも納得いかず口聞いてもらえないかもしれない。
393名無し草:2008/09/15(月) 12:19:25
美童カワイソス。人工呼吸の相手が可憐なら、
「意外に頼りになるじゃない」くらいは言ってくれそう。
394名無し草:2008/09/15(月) 13:04:04
>>393
可憐なら言ってくれそう。

空港で、時宗さんのパスポート盗んだ犯人捕まえる時、可憐が美童に
「なんて役立たず」(だっけ?今、手元に本が無いからちょっと違うかも)って
言うシーン、好きだった。
あれで美童と可憐のコンビ(カップルに非ず)に開眼した。
395名無し草:2008/09/16(火) 20:59:18
ミロクマンセーーーーーーーーー

あとは死ね。
396名無し草:2008/09/16(火) 23:12:39
悠理と美童のコンビ(カップルに非ず)も結構好き
美童が頼りない分、女子の強さがクローズアップされるんだよね
野梨子とは演劇のときに少し絡んだ程度なのが残念だ
397名無し草:2008/09/16(火) 23:28:07
美童は可憐とは踊って初期はペンパルしてるし、
悠理ともテニスでペア組んだり、寝室一緒だし女子全員とちゃんと絡んでるよ。
他の2人と比べて自分は、野梨子との絡みが一番少ない印象を持つくらい。
398名無し草:2008/09/17(水) 00:13:56
杏樹話をもう1回やってくんないかなー原作。
兄より弟の方がヤンチャで活発な感じがして好き(美童も好きだが)。
兄よりモテて、キラキラな美少年で自信満々な毒舌キボン。

御大に有閑を書く余力は残ってない気もするが。
399名無し草:2008/09/17(水) 13:34:52
杏樹とか和子さんの話があったらおもしろそうだよね。
でもがっかりしそうだから脳内妄想でいいかも。
400名無し草:2008/09/17(水) 15:19:11
みろくだいすき。

御大もみろくちゃんが大好きだから、アンジュの話なんて書かないよ。
401名無し草:2008/09/17(水) 21:11:54
そういえば、1巻くらいで美童のこと「大使の一人息子」って
言われてなかったっけ?杏樹の存在は予定されてなかったのかな。
それとも、美童は学校の女の子たちには弟の話してないから、
勘違いされているのか。。
402名無し草:2008/09/17(水) 22:42:48
御大自身がその事は謝ってた
403名無し草:2008/09/17(水) 23:00:39
その設定は忘れてたらしいよ。
うっかり弟出してしまったとか。
結構漫画家でこういううっかり設定は見る。
404名無し草:2008/09/17(水) 23:01:44
編集が気づいてあげられれば良かったのにね
405名無し草:2008/09/18(木) 03:19:16
連載も長いしキャラも多いから、覚えてるのも大変だろうな
406名無し草:2008/09/18(木) 12:26:58
そうだったのか。御大のうっかりだったのか。
美童は学校の女の子との約束がかぶった時、
「妹との約束があったんだ」とか言って言い訳。
その結果、一人息子と勘違いされたと妄想してた。馬鹿だなorz
407名無し草:2008/09/18(木) 17:23:35
>>406
妄想力逞しいなwいい意味で
408名無し草:2008/09/19(金) 00:16:37
>>399
豊作さんのことも少しでいいから(ry
409名無し草:2008/09/19(金) 14:43:46
ミロク以外の話はここでしちゃだめ!
ミロクの良さについてみんなで語ろうよ☆
410名無し草:2008/09/20(土) 21:50:46
入れ替わりリレーの続きが読みたい。
411名無し草:2008/09/21(日) 04:02:07
自分は作家じゃないから書けない…。
SS読みたいな。
412名無し草:2008/09/21(日) 09:07:15
過疎。
413杏樹くんの憂鬱1:2008/09/21(日) 09:13:11
>>398 さんの杏樹で妄想。

僕の不幸の始まりは、兄よりも全てにおいて勝ってる、という点だ。
いや、兄が美童グランマニエだ、という点かもしれない。
たまに、あんな奴が兄だということ自体が情けなくなるし。
兄の、唯一尊敬できる点は、…点は……?だめだ、思いつかないや。

僕はため息をつきながら課題を見つめた。
「家族について」
一体何を考えてこんな課題を先生は出すのだろう。
ファミリーツリー作成なんて、もっと幼い子供がするもんだろうと思ってたのに。
幸いなことに、僕は兄と同じ学園じゃない。
なので僕の学校の連中は兄のことを知らない。
あぁ、この兄と違う学校に行きたい、という希望を聞いてくれた両親には何度感謝したことだろう。
両親についてはどうにか書けるだろうが、兄についてなんて、何を書けばいいのだろう?
兄は、女性にだけはマメです。
だめだ、1行で終わってしまう。
いっその事、兄はなかったことにしてしまおうか!?
僕はソファで横になりながら熱心に携帯をいじってる兄を見る。
その視線に気がついたのか兄が顔をあげる。
「何だよ?僕の顔に何かついてる?」
兄が髪をかきあげる。
兄に夢中な人から見たらアンニュイな感じにでもなるんだろうか?
…その長い髪、うっと〜しんだよ、いつの人間だよ、お前。
今は爽やかなほうがもてるんだよ!
もちろん賢明な僕はそんなこと口に出して言わない。
「課題がでてるんだ、家族についてっていう。ファミリーツリー作成もあるからね。
っていうか、珍しく家にいるね。予定はないのかよ?」
414杏樹くんの憂鬱2:2008/09/21(日) 09:17:14
「僕に予定がないって????フハハハハハ、馬鹿なこと言っちゃぁいけないよ杏樹クン。お兄ちゃんはもてるんだからね、わかる?」
しるかよ、そんなん。
「あ、そ。」
勝手にやってろ。

「今日はみんなが来るんだよ、あ、ほら。あのバイクの音は魅録だ」
しばらくして居間に魅録さんと悠理さんが来た。
「久々だな、杏樹」
さわやかな笑顔だ。あ〜ぁ、僕にこんな兄がいたらなぁ。あんなんじゃなく。
「魅録のバイクで来たんだけどさ〜、こえ〜の、こいつ。首都高タンデムなんてするもんじゃないよ、ったく。っと、お、杏樹、元気?」
悠理さんはメットでボサボサになった髪を直しながら笑ってる。
「あ、そうそう。はい、これ。」
悠理さんが思い出したようにクシャクシャの封筒を僕に渡す。
「美童が杏樹、シェリルが好きだって言ってたから。ほいよ、日本ツアーのチケット。」
無造作に渡されたチケットは、シェリルの日本ツアー、プラチナ・チケットだ。1週間後のチケット売出日前夜に徹夜で行こうかと悩んでたもの。
「あ、ありがとう、悠理さん」
僕は感激のあまり、久々に心から兄にも感謝した。
「かわいい弟のためにお兄ちゃんが頼んでおいたんだからな、感謝しろよ、杏樹。あ〜、僕ってなんて弟思いの優しい兄!」
出たよ、この恩着せがましい発言。これさえなけりゃなぁ。
「ありがと」
不承不承にも一応兄にも礼を言う。
その後、可憐さん、野梨子さんと清四郎さんが来た。みんな、とても魅力ある人たちだ。
ある程度の雑談のあと、僕は部屋から出た。
兄は確かに情けなく、頼りがいが全くない男だけど。
友達を見る目だけは、あるようだ。

美童グランマニエ (兄)
兄は、友達思いの優しい人間です。
色々と問題もありますが、僕の大切な兄です。

終わり
415名無し草:2008/09/21(日) 10:58:54
>杏樹くん〜
乙!
小生意気なところがよく出ていて、可愛かったです。
でも結局2行なのねw
416名無し草:2008/09/21(日) 11:38:38
おお、杏樹主役だー!
杏樹がかわいいです。
最後はちゃんと、美童のことを大切な兄と思ってるところが良かったです。
話も原作の番外編みたいで楽しめました。
417驟雨に叫ぶ:2008/09/21(日) 16:50:41
>>349の続きです。
今回、少し生々しい描写があります。
(R指定するほどではない生描写と、流産に関して)
418驟雨に叫ぶ (22):2008/09/21(日) 16:54:33
 悠理から電話があったのは、夏祭りの翌日だった。
 彼女は魅録と可憐が別れたことを知り、ことの真偽を確かめるために
連絡をとってきたのだ。
 良い機会だと思い、可憐は清四郎とのことを伝えることにした。
 いつかは仲間たちにも言わなければと思っていたのだが、気まずい
気持ちもあり、なかなか自分から行動に移れなかったのだ。

『もー、びっくりした!』
 全てを話し終わったあと、悠理はそう叫んだ。
「声大きいわよ」
 いつものように居間で仕事をしている清四郎に気を使って、可憐は
寝室で話をしていたのだが、そうでなければ清四郎にも悠理の声が
聞こえただろう。
 しかし悠理は可憐の言葉にかまうことなく、相変わらず大きな声で
何度も「びっくりした」と繰り返した。
『ほんとびっくりした。魅録と別れたかと思ったら、いきなり今度は
清四郎と付き合うだなんて、話題に事欠かないな、可憐も』
 聞こえてくる悠理の声音は明るいが、仲間内の出来事に、内心では
複雑な思いをしていることだろう。
 申し訳ないような気持ちになりながらも、可憐は笑い声を作った。
「あたし自身、なんでこんなことになっちゃったのかなって不思議なのよ。
なんというか成り行き? 魅録と別れて寂しかったところに口説かれて、
つい絆されちゃったというか」
 そう言いながら、可憐は自分と清四郎の関係って何だろうと自問した。
 悠理には、清四郎と付き合っているのだと伝えた。他に言い表す言葉
を思いつけなかったからである。
 だがその言葉を受け入れるには、違和感がついて回った。

『まあ、うまく言ってるんなら、それでいいけど――あ、雨だ。
 今年は本当によく降るよな』
 悠理の声につられるようにして、可憐は窓の外を見た。
419驟雨に叫ぶ (23):2008/09/21(日) 16:55:25
 彼女の言う通り、夕暮れの空の中、細い雨がきらきらと銀糸のように
輝いていた。
 束の間、無言で見入っていた可憐は、不審げな悠理の声で我に返った。
『―――可憐?』
「あ、ごめんごめん。そろそろ電話切るわね」
『もうこんな時間か。んじゃ、また連絡すんな』
「ん。じゃあね」

 通話を着ると、寝室内にはまた静寂が満ちた。
 可憐の視線は、やはり窓へ固定されたままだった。
 悠理の言う通り、今年はよくにわか雨が降る。
 
 ――全てを失う代わりに、清四郎が差し伸べる手を掴んだあの日も
また、今日のような雨が降っていた。


          *   *   *


 ――それは魅録から別れ話を切り出されたばかりの頃だった。
 決して別れることを承知しない可憐に対して、それでも魅録は常に
理性的かつ誠実な態度で接していたけれど、内心ではひどく追い詰め
られていたのだと思う。
 その日は週末で、彼らしくもなく泥酔して部屋に帰ってきた。合鍵で
中に入って待っていた可憐は、苦悩に満ちた彼の様子に、胸が締め付け
られた。
 彼がこのように遅くまで酔っ払って帰ってくるのも、部屋に帰れば
可憐が待っているだろうこともプレッシャーに故だったに違いない。
 それにしてもその日の彼は正体不明になっていて、ベッドへつれて
いくのも困難なほどであった。
 彼と知り合ってもう長いが、魅録のそのような態度を見たことが
なかった可憐は、本当にもうダメなのだということを悟って、泣いた。
420驟雨に叫ぶ (24):2008/09/21(日) 16:57:45
 泣きながら、浅ましく――彼の体温を求めた。
 もう抱きしめてもくれない彼の腕が、それでもほしくて、ほしくて、
服を脱がせて彼に跨った。
 彼は酔っ払っていただけでなく、ほとんど眠りかけていた。よくも
あのような状態で繋がれたものだと思う。
 そしてよくも――あんな状況下、しかも逆レイプのように奪った
最後のセックスで、妊娠したものだ。
 それだけ可憐は彼の縁(よすが)がほしかったのかもしれない。
 避妊しなかったことに他意はない。
 あの夜はただ彼の熱がほしいという一心で、避妊具を探すとか、
そういったことに考えが至らなかったのだ。
(全部、あたしのわがまま)



 妊娠を知ったのは、流産と同時だった。
 痛みはなかったが、明らかに月経とは違う出血があり、産婦人科へ
受診した可憐は、気遣わしそうな表情の医師に事実を告げられた。
 いっきに血の気が下がり、診察室の椅子から立ち上がった瞬間、
自分はそのまま卒倒したのだ。

 不完全流産であったということで、その後も処置のため入院していたが、
その時期のことはあやふやであまり覚えていない。
 ただ母親の泣き顔だけが記憶にやきついている。

 ようやく現実を受け入れることが出来るようになったのは、病室に清四郎
が出入りしはじめてからのことだった。
『いつまでそうしているつもりです』
『………』
 心を閉ざしたままで病室の天井を眺めていた自分に、清四郎は嘲るような
言葉を投げかけた。
421驟雨に叫ぶ (25):2008/09/21(日) 16:59:46
『良かったですね? これで魅録とよりを戻せますよ。責任感の強い
男ですからね』
『――そんなこと……』
 それまでぼんやりと清四郎の言葉を聞き逃していた可憐は、はじめて
窓辺に立つ彼の方へ視線を向けた。
 鮮やかな夕暮れの赤を背景に、清四郎はこちらがたじろぐほどの
怜悧な眼差しを投げかけていた。
『だって君はそれを望んでいたのでしょう』
『……もうアイツに何も言えやしないわよ……っ』
 あのセックスは、可憐のエゴで、愚かさで、魅録のあずかり知らぬ
ところで行われた一方的な暴力だった。
 にもかかわらず、この事実は魅録の人生を歪めかねない。
 彼は責任感のある男だからだ。
 この事実を盾に復縁を迫ったら義務感だけで従っただろう。こちらが
それを求めなかったとしても、自分の方から認知や援助といった係わり
合いを持とうとするだろう。
 それだけではない。
 将来、彼が本当に愛する人に出会ったとき、それが重荷になること
を可憐は恐れた。
 そんなことには耐えられない。

 突如、雷鳴が轟き、にわか雨が降り出した。
 それでも世界を染める赤色の鮮やかさに変わりはなく、その逆光は
可憐の目から清四郎の表情を覆い隠した。
 ただ、鋭い瞳だけは炯々と、可憐を射抜いていた。

『秘密を守る代わりに、僕と付き合いなさい』


 ――それは清四郎が用意した、取引という名の建前であり「許し」だった。

          *   *   *
422驟雨に叫ぶ (26):2008/09/21(日) 17:05:58

「悠理から電話来たから、あたしたちのこと言っちゃった」
「そうですか」
 軽い調子を装った可憐の台詞に、清四郎は平坦な返事を返したが、しかし
内心では少しだけ安堵していた。
 自分からこの関係を仲間に公開する勇気はなかったのだ。自分がこんなに
臆病でずるい男であるということを清四郎は初めて知った。
 ――そもそも、恋人同士とは言えない関係だ。
 言葉の上では自分たちは付き合っており、夜も同衾している。
 だが自分の間には肉体関係はおろか、純粋な恋心さえない。
 あるのは約束だけだ。
「あとね。――明日はもう出社することにした」
「――分かりました」
 
 
 夜、清四郎はいつものように可憐を抱きしめてベッドに入った。
 滝のように波打つ彼女の髪を梳きながら、物思いに耽る。
 ――今まで付き合ってきた女性たちが今の自分を見ると、驚愕するだろう。
 あるいは嘲笑するだろうか。
 女性に対してこのように甘ったるい態度を取るなど、自分でも少し驚いて
いる。
 可憐がこの行動をどう好意的に解釈しようと、清四郎自身にとってすれば
優しさなどではなく、単なる独占欲だ。

 ――可憐への想いを自覚したのは、彼女が魅録と付き合いはじめた後だ。
 遅すぎた自覚に、一度は諦めた恋だった。
 親友同士の恋愛を祝福したのも本当なら、彼らの破局を食い止めたかった
のも事実だ。
423驟雨に叫ぶ (27):2008/09/21(日) 17:09:28
 それでも、可憐の身の上に降りかかった不幸な出来事を悲しみながら、
同時に仄暗い喜びを一片たりとも覚えなかったと言えば嘘になる。
 可憐がどれほど後悔し、傷ついたか知っているにもかかわらず。
 自分の醜い執着心を自覚しながらも、しかし蹲ったままの可憐の傍にいる
役目を人に譲る気にはどうしてもなれなかった。
 
 可憐の眠りはここ最近なかった程に静かで、それがゆえに清四郎はまんじり
ともせず、夜が明けるまでその寝顔を見つめ続けた。
 柔らかに波打つ髪を手繰り、そっと唇を落とす。
 蝶が木の葉の間に雨宿りするように、今、彼女はこの腕の中にいる。
 けれど傷を癒して飛び立った後の彼女は、果たしてこの手に戻って
来るのだろうか。



「じゃあ、行ってくるね」
 翌朝、可憐は笑顔を浮かべて玄関に立った。
 きっちりと施したメイクに、ダークブラウン中心のスーツ。今から
出勤するのに相応しい、TPOに合わせた隙のない格好だ。
 眼にも力があり、最近のぼんやりとした表情とは打ってかわった、可憐
らしいものだった。
「無理しないように」
「ん。ありがとう」
 玄関の扉の先、盛夏の激しい朝の光に包まれる彼女を眩しく見送ると、
清四郎は長く貼り付けていた笑顔の仮面を剥がした。
 一人で立とうとする可憐へ、大きな安堵とともに、拭い去れない喪失感
を覚えて、瞳を閉じる。


 蜜月のときは過ぎ去った。

                        続く
424名無し草:2008/09/21(日) 17:23:27
>驟雨〜
リアルタイムでドキドキしながら読んでしまいました。
続き待っていたので嬉しいです。
可憐も魅録も清四郎もせつないですね。
特にひたすら大きな手で彼女を包み込もうとしてる清四郎が・・・
二人の関係がどう変化していくのか楽しみです。
425名無し草:2008/09/21(日) 18:56:14
>驟雨に
待ってました!
すごく切なかったです。
これからどう清可になるのか楽しみです。
426名無し草:2008/09/21(日) 22:51:18
>驟雨に・・・
ずっとずっと待っていました!!
可憐も清四郎も切ないですが、続きが読めて嬉しいです。
蜜月の後、一体どうなるのか。。。
続きをお待ちしております。
427名無し草:2008/09/22(月) 12:14:44
せいゆうき読みたい
428名無し草:2008/09/22(月) 12:47:38
止まってる連載もカモーンщ(゚Д゚щ)
429名無し草:2008/09/22(月) 20:32:30
病院坂カムバック
430名無し草:2008/09/23(火) 02:28:53
>驟雨に
待ってました!
これからの2人が気になります!
清四郎の気持ちが切ないですね。続き楽しみにしています。
431名無し草:2008/09/23(火) 14:56:44
>杏樹くん
面白かったです。杏樹くん目線での美童が新鮮でした。
ほのぼので読んでいて和みました〜。
432名無し草:2008/09/23(火) 14:58:37
>杏樹くん
生意気で自分の杏樹のイメージどおりです。
もうちょっとしたら美童よりも女の子を泣かせそう。
GJでした!

433名無し草:2008/09/23(火) 14:59:49
>>431
432です。びっくらしたw
434名無し草:2008/09/24(水) 09:42:26
>杏樹くん
テンポ良く、とっても面白かったです。
原作では杏樹くんの出番が少ないので、こういう場で
読めて嬉しいです。
435名無し草:2008/09/25(木) 11:49:01
保守
436名無し草:2008/09/27(土) 09:23:42
ホッシュ
437〜Graduation〜:2008/09/29(月) 13:54:32
小、中編が第一話〜第十話位続く連載をさせていただきます。

・ 高三の二学期から高校卒業までの学園生活中心のプラトニックなお話です。
・ 野梨子→魅録がベースですが、悠理→魅録、清四郎×野梨子、美童×可憐風味もあります。いずれも薄口です。苦手な方、興味の無い方はスルーお願いします
438〜Graduation〜第一話 new term(1/13):2008/09/29(月) 14:16:48
「では、行って参ります。お父様、お母様。」
玄関先で丁寧に両親に挨拶すると、野梨子は弾む足取りで外に飛び出した。
今日は二学期の始業式。しかし、いつもの場所に馴染みの人影はまだなかった。
「早すぎましたかしら・・・?」
野梨子は小首をかしげて、菊正宗家と白鹿家の中間の木陰にそっと佇んだ。
9月に入ったとはいえ、残暑は年々厳しくなる一方で、さすがに蝉の声こそ
聞こえないものの、日差しは既に強く、顔を上げれば、もくもくとした白い
入道雲が、我が物顔で青い空を埋め尽くしていた。今年はこの入道雲のお蔭で
何度も突然の雷雨に襲われたので、雷が心底苦手な野梨子は罪のない蒸気の塊を
恨めしそうに軽く睨んだ。
(子どもの頃は、入道雲が大好きでしたのに・・・。清四郎と、いつかあの雲に
乗ろうねって約束しましたわ。なめたらどんな味がするか言い合って、
わたくしが綿菓子のような甘い味だと言ったら、清四郎は桃のシャーベットの
ような味だと言って、二人で喧嘩になったこともありましたわ。)
野梨子が懐かしく、そして少々甘酸っぱい思い出に顔をほころばせた時、清四郎が
出て来た。
「お早うございます。」
「お早うございます。今日は早いですね、野梨子。」
野梨子は朝の日差しの中、眩しげに清四郎を見た。清四郎はこの一週間、
雲海和尚の所に行っていたので、家が隣とはいえ、会うのは久し振りだった。
この暑さだというのに、清四郎はいつもの通り、夏服の白シャツの袖をきっかり
手首まで下ろしている。襟元も第一ボタンまではめ、蝶ネクタイをきりりと締めていた。
その姿は、真夏の和服姿の女性のように潔く、かえって涼しげに見えた。
あ、うんの呼吸で一緒に歩き出すと、清四郎のさっぱりとした襟足から、ぷうんと
石鹸の香がした。
「早く皆に会いたくて、出て来てしまいましたの。」
少し恥ずかし気に野梨子が言うと、清四郎が優しい眼差しで野梨子を見ながら言った。
「ほう。奇遇ですね。僕もですよ。新学期が待ち遠しいとは、僕等は幸せですね。」
「本当にそうですわ。」
439〜Graduation〜第一話 new term(2/13):2008/09/29(月) 14:26:39
二人は並んで歩きながら、夏休みの事、二学期の事、そして友人達の事等を
あれやこれやと楽しく話し合った。
行きと帰りの二人だけの時間は野梨子にとって、単なる習慣以上のものであった。
何しろ幼稚舎時代から15年間、学校のある日は毎日一緒に登下校して来たのだ。
大学生になったら、例え同じ大学とはいえ、今までのようには行かないであろう。
野梨子は、頭では分かっていながらも、それがあと数ヵ月後の確かな現実であるとは、
とても実感出来なかった。

「夏休みのハワイ旅行は楽しかったですわね。悠理の別荘は相変わらず常識を
超えていましたけれど、おじ様やおば様、それに途中から時宗のおじ様とおば様も
いらっしゃって。豊作さんまで来られた時には本当に驚きましたわ。」
「7月中に皆で宿題を片付けてしまって、その後悠理の為にお盆にかけて日本を
脱出したのが正解でしたね。」
「ええ。今回は特にハラハラドキドキの旅行ではありませんでしたけれど、
わたくしはこういう方が好みですわ。」
野梨子は満足気に微笑んだ。
「否定しませんね。」
清四郎も口角を上げ、眼を軽くまたたいて、野梨子に同意を示した。
そして、右手を顎に当ててちょっと考えるように言った。
「二学期といえば先ず文化祭ですが、文化部長としては、按配はいかがですか?」
「学校全体としては、一学期中に大体のめどはついていますわ。むしろ問題は
わたくしたちの出し物・・・。」
「ふむ・・・。」
ハワイ旅行中に、有閑倶楽部での文化祭の出し物を何にするか、何度も話し合いが
行われたが、いかんせん、個性の強いメンバーである。高校最後の文化祭と
言うことで、思い入れも強いのか、結局話がまとまらないまま夏は終わったのだった。
「早急に対策を立てねばなりませんね。」
二人は真顔で頷き合った。
440〜Graduation〜第一話 new term(3/13):2008/09/29(月) 14:51:21
「それはそうと、清四郎は進学先はやはり医学部に?」
二学期の中間テスト前に提出する大学の進学希望学部についても、旅行中皆で色々
話合ったのだった。
「はい。皆に話した通り、今の段階では興味のある事が多すぎて、必ずしも医者になると
決めたわけではないですが。でも、父の仕事で環境的にも恵まれていますし、まずは
一通りその世界を覗いて見ようと思います。」
そう話す清四郎の顔は、己の力を肯定している健全な若者らしい自信に満ち溢れていた。
清四郎ならどの分野でも難なく頭角を現すであろうが、医者の家族の一員である
彼に慣れ親しんで来た野梨子としては、彼のこの選択に一人密かに安堵していた。

「野梨子の文学部はそのままですか?」
「ええ。専門は国文か英文かで迷っていますけれど、多分、国文にすると思いますわ。
茶道にいかす為に、日本の古典をもっと学びたいと思いまして。英語は英会話教室でも
習えますものね。」
野梨子は大学卒業後は正式に白鹿流茶道家元の時期後継者として母親を助け、幹部と
して仕事をして行く。白鹿流は最近、海外での活動も盛んになっており、語学力に長けた
人材の育成が早急に必要となっていた。
「魅録は工学部、美童は政経学部、可憐は芸術学部、悠理は国際文化学部。皆、全然
何も考えていないように見えましたけれど、結局は落ち着く所に落ち着きそうですわね。
・・・悠理は別として。」
清四郎は難しい顔をした。
「ハワイで、悠理は体育学部がいいとわめいてましたね。別名国際マナー教室である
国際文化学部に入れたいのはおば様の意向ですから・・・。」
「別荘でもひと悶着ありましたけれど、その後どうなりましたかしら?」
剣菱母娘の物凄いバトルを思い出した野梨子はぶるっと震えた。もちろん、その場では
母親の圧勝だったのだが。野梨子はその事に納得が行っていなく、不満気に赤い唇を尖らせた。
「おば様のお気持ちも分かりますけれど、悠理にはやっぱり、マナー教室で窮屈な
思いをするよりも、体育学部で生き生きとしていてもらいたい気がしますわ。」



441〜Gradutaion〜第一話 new term(4/13):2008/09/29(月) 14:59:37
しかし、清四郎は思いの他、明るく言った。
「ふむ。まあ、いずれにせよ、出席日数さえ足りていて、素行に特別な問題が
なければ、内部生は全員大学へ進学できるわけですから。我々は恵まれていると
考えなければいけませんね。特に赤点だらけの悠理に関しては。」

ああだ、こうだと話しているうちに、二人はもう高校に到着し、校門の前で丁度
反対側からやって来た悠理と魅録に出くわした。
「よおっ、元気か?!」
清四郎と野梨子を発見すると、悠理がすごい勢いで飛びついて来た。
「おーーすっ。」
魅録がその後ろでニコニコしている。いつもの光景だ。
「お早うございます。二人とも、今日は早いですね。」
「お早うございます。魅録、悠理。悠理は今日は車ではないんですの?魅録はバイクは?」
「うーーん、バイクは、今日はちょっと修理中。帰りに引き取りに行くんだ。」
魅録は面目なさそうに頭をかいた。
「えへっ、あたい、何か早く皆に会いたくてさー、めずらしく早く家出たら、そこで魅録が
見えたもんで、車から降りて一緒に来たんだ。こういうのもたまにはいいなっ!」
悠理は夏休み中にかなりの充電をしたらしく、体中からエネルギーがほとばしっていた。
「悠理、ご機嫌なのはいいですが、真っ黒じゃないですか。ハワイでもこんなに焼けて
いませんでしたよね?」
清四郎が医学的見地から眉を寄せて神妙な顔で質問した。
「ああ。帰って来てからも、魅録と海行ったり、プール行ったり、遊園地行ったり
してたんだいっ!」
悠理が満面の笑顔で、指でVサインまで作りながら嬉しそうに答えた。
清四郎と野梨子が半ば同情したような顔で魅録を振り向くと、彼はがっくり
首をうな垂れた。
「そういえば、魅録も・・・。」
「黒い・・・ですわね・・・。」
442〜Graduation〜第一話 new term(5/13):2008/09/29(月) 15:06:49
魅録はばっと顔を上げて説明しようとした。
「そうだよ、こいつが、毎日毎日メールで、電話で、遊べ、遊べ、どこへ連れて
行けってうるさくってさ・・・。こいつのこの化け物パワーだぜえ?!この暑さだし、
俺もバイクも終いにはヘタッちまったよ。」
野梨子は、顔を赤くしている魅録を下から見上げて、長い睫の下からいたずらっぽく笑った。
「うふふ。相変わらず、悠理に優しいですわね。」
魅録は何のことか分からず、はあっ?というような顔をした。
(何やかんや言っても、あの悠理のハードスケジュールに付き合うっていうのは、
とても嫌では出来ない事ですわ。)


「ところで、悠理。志望学部は決まりましたか?」
突然の現実的な質問に、悠理の髪は逆立った。
「えっ・・あっ・・・(さすが、清四郎、会うなり一番嫌なとこついてくんな!)、
うん、結局母ちゃんに押し切られそうだよ。マナーの勉強なんてあたい、ぜんっぜん
興味ないのにな。」
「でも、おまえには必要なんだって。何度も言ってるだろ。何たって、おまえは剣菱の
ご令嬢なんだからよ。」
「分かってるよ。」
悠理はちょっとイライラしたように魅録から顔を背けた。

昇降口の脇の掲示板に、黒山の人だかりが出来ていた。
「何ですかしら?」
掲示板を見ていた美童が四人に気が付き、日光に透ける金色の髪をなびかせて走ってきた。
緑濃い学園を背景にしたその姿は、確かにちょっとした絵になっていた。
「お早うございます、美童・・・。」
しかし、肩で息をしている美童はその先を言わせなかった。彼は、四人の顔を見比べた後、
悠理に視点を定め、青い目を光らせながら一気に言った。
「大変だよ、悠理!今年度の内部進学者について張り出されてて、それによると、
成績の悪い者は大学に進めないってさ!落第、つまり留年で卒業できないんだよっ!」
                              
                                続く
443名無し草:2008/09/29(月) 15:44:40
>Graduation
楽しみな連載がきたなー。
桃のシャーベットに例える清四郎がかわいすぎました。
彼にもこんな素直な時代があったのね。
話の展開がわかりませんが、次も期待しています。

444名無し草:2008/09/29(月) 17:51:28
新連載乙です、嬉しいです!
魅録の矢印が誰にも向いてないところが今から気になります。
悠理の卒業もw
445名無し草:2008/09/29(月) 21:07:28
>Graduation
おおっ!新連載がきてる。
プラトニック好きなんで楽しみにしてます。
446名無し草:2008/09/29(月) 22:25:56
>Graduation
わー連載だ
つっこんで言いのか迷いどころですが、
野梨子の´何やかんや´って台詞がちょっと面白かったw
次回の話を楽しみにしています。
447〜Graduation〜第一話 new term(6/13):2008/09/30(火) 08:45:43
>>437の続きです。今回ちょっと説明の部分が多いです。

 その日は始業式だったので、学校そのものはすぐに終わったが、有閑倶楽部の面々は
生徒会室に集まっていた。始業式にて、突然の内部進学制度の改定の報告はあったが、
その理由と過程についてはどこか不明瞭さが残った。
当然の事であるが、朝の上機嫌はどこへやら、悠理は荒れに荒れていた。

「ばっかやろう!!いったいあたいが何したっていうんだよっ!話が違うじゃないか!
聖プレジデントは下からずっとエスカレーターのはずだろっ?それがどうして、
よりによって、今回から変わるんだよっ!」
野梨子と可憐は、貯蔵していた、できる限りの食料を悠理に与えたが、それでも悠理の怒りは
静まらなかった。
ガチャッ。
清四郎と魅録が神妙な面持ちで入ってきた。二人は生徒を代表して、校長に詳しい説明を
求めに行っていたのだ。
「清四郎、魅録、何か詳しいことは分かりまして?」
二人は黙って顔を見合すと、先ずいつもの自分達の席に着いた。残りの4人も固唾を飲んで席に着いた。

「ふむ。つまりですね、我が聖プレジデント学園は、今までならば出席日数が足りていて、
素行に特に問題がなければ、成績に拘らず、そう極端な話オール0点でも、落第することなく
聖プレジデント大に進めた。元々この学園は、いわゆる就職する必要のない家の子ども達用で、
すなわち、家業を継いだり、代々の資産があったりということですが、殆どの生徒がそうだった
時代には大学まで文字通りエスカレーターでも良かった。幼少時から人の上に立つべき帝王教育を
受けられるのがこの学園の魅力であり、学生時代は勉強にしばられず、少し位はめをはずした
くらいの人物の方がその後大成する、という太っ腹な親御さんに支持されていた。実際、遺伝子と環境の
相互作用で、聖プレジデント大の卒業生は入学時の偏差値以上の活躍を社会でしているといえましょう。」

448〜Graduation〜第一話 new term(7/13):2008/09/30(火) 08:57:07
清四郎は続けた。
ところが、この少子化で最近は事情が変わり、下からも一般サラリーマンの子ども達が入って
くるようになって来た。ブランドに憧れて子ども達を入れたものの、その子たちはいずれは
就職しなくてはいけないのだからそれなりの学歴が必要となります。それで今初等部、中等部は
高等部以上の大きな変革を迫られているらしいです。もっと勉強に力を入れて欲しいという要請が
多く、学園はその対応に大変らしい。大学は外部受験させるつもりの保護者も多く、そうすると、
眼の前に、いくら成績が悪くても入れる大学があるというのは、子どもの勉強のモチベーションを
下げると言うんですね。大学自体も少子化の影響を受けており、下から誰でも入れる大学というのは
イメージが悪いらしく、高等部は、大学側と小、中等部側の両方から今回の変革を強要されたらしいです。」


一同はシーンとした。沈黙を破ったのは悠理だった。
「で、でも、幾ら何でも急過ぎるぞ!そういうのは学年の切れ目とかに変えるもんだろっ?
だいたい、ミセス・エールはどうしたんだよ?ミセス・エールならこんな無茶許すはずないぞ!」
「そこなんだよ。」
魅録が気の毒そうに悠理に顔を向けた。
「ミセス・エールが家の事情でイギリスに行って、その後本人の意思とは逆に中々日本に
帰って来られないのは知ってるだろ?ピーターもイギリスに帰っちまったし、まあ、いても
あまり役には立たなかっただろうけど。で、ミセス・エールはまだしばらくは日本に帰れそうも
ない、すると学園側に迷惑がかかるからという理由で、この夏に自分の権限を半年という条件で
校長に委託したんだ。だから、学園側は、ミセス・エールのいないこのチャンスにサッサと
改革をしてしまおうとしたわけさ。」
「随分強引ですわね。」
野梨子が眉をひそめた。
「でも、こんなやり方じゃ、一部の保護者からクレームがつくんじゃないかな?
例えば、悠理の・・・。」
449〜Graduation〜第一話 new term(8/13):2008/09/30(火) 09:07:44
美童が言いかけた言葉を悠理がもの凄い勢いで遮った。
「そうだ!そうだ!こんな話、父ちゃんと母ちゃんが許すはずないぞ!いったい今まで
幾ら聖プレジデントに寄付して来たと思ってんだよ!」
「それが・・・、おじさんとおばさんはもう知っているんですよ。」
清四郎が言いにくそうに横目で悠理を見ながら言った。
「へっ?」
悠理の目が点になった。
「実は、学校側はあらかじめ有力父兄にはこの話を打診していたらしいんだ。」
「じゃ、じゃあ、父ちゃんと母ちゃんは反対するに決まってる・・・。」
「おじさんは言ったらしいです。『んだ。学生たるもの、勉強が本分だ。実力がないものを
大学に行かせることはないだ。卒業できる学力がないのなら落第するのは当然だ。』とね。」
「何―!」
悠理は今にも泡をふいて倒れそうだった。
「『悠理にはこれからしっかり勉強させるだ。死にもの狂いでやれば出来ない事はないだ。』ともね。
校長の話では、大方の保護者達は同じ意見で、この機会に子どもにがんがん勉強させたいと思っているようですね。」
「どうでもいいけど、清四郎、おじさんの物まねが上手いね。」
美童が傍らの野梨子にそっと囁いた。
「わたくしも同じ事を思ってましたわ。また趣味の幅を広げたのですかしら?」


「う・・・ひっく・・・。」
悠理は怒りが頂点に達した後、今度は悲しみにかきくれ出した。
「だからって・・・だからって・・・、せめて、来年からにしてくれれば良かったのに・・・
何でよりによって、あたいの年から何だよ・・・。」
さめざめと泣き続ける悠理に魅録がティッシュを渡し続けながら励ました。
「ようは、二学期の中間テストと期末テストで赤点を取らなきゃいいんだよ。おじさんじゃないけど、
死ぬ気で頑張れよ、悠理。」
「ぐっ・・・、中間と期末でいったい幾つテストがあると思ってんだよ。一つも赤点取らないなんて
あたいにゃできっこないよ。」
「ごくり。ぼ、僕も・・・ちょっと怖いな。」
美童が古典と地理を思い出して口元を引きつらせた。
450〜Graduation〜第一話 new term(9/13):2008/09/30(火) 09:16:35
清四郎が咳払いした。
「今回の内部進学制度について、復習しましょう。志望学部に入れるかどうかは、中間と期末両テストの
合計点によって決まります。先ず、中間テスト前に志望学部の事前調査があります。中間テスト後に
各学部の志望人数と自分の成績を考慮して、期末テスト前の本調査で志望学部を変更することも可能です。
予定を上回る志望者が出た場合は成績上位者から順に合格となりますからね。ただし、期末テスト後に
結局第一志望に進めなくなっても、第二、第三、と志望学部は制限無く書けますから、落第しない限り、
どこかの学部にはひっかかって、大学へは進めます。ただし、どうしても第一志望に進みたいならば、
この時点で内部進学の資格を放棄して、一般受験者と一緒に、二月に入学試験を受けることになるということです。」
魅録がひじをつきながら天井を見上げてしみじみ言った。
「工学部なんて、ここの連中にとっちゃほとんど興味ない学部だろうから、俺はラッキーだけど、
清四郎の医学部とか美童の政経、なんかは倍率高いだろうな。清四郎の心配は問題外だけど、美童だって、
二科目頑張ればいいんだし、な。野梨子の文学部と可憐の芸術学部は人気は高いけど、人数も取るし、
まあ大丈夫だろう。」
「何だよ、それじゃ、やっぱ、あたいだけじゃんか。大学行けないかもしれないの!」
悠理は二箱目のティッシュボックスを魅録から受け取った。


その時、今まで沈黙を守っていた可憐がカタリと立ち上がった。六人の中でもひときわ饒舌な彼女が
今まで黙っていたのは考えて見れば不思議であった。
「あたしもいるわよ。」
可憐はそう言って、悠理の頭をそっとなでた。
「可憐?でも、可憐は特にひどい不得意科目はないですし・・・英語は会話は苦手でも
ペーパーはそこそこですし、芸術学部なら安全圏ではないですか?」
野梨子が顎に人差し指を当てながら考えるように言った。
「うん・・・。それがねえ・・・。」
可憐は言いにくそうに、柔らかい巻き毛を右の小指に巻きつけながら、すっと深呼吸すると
覚悟したように大きな声ではっきりと言った。
「あたし、学部変えたのよ。経営学部をめざすわ。」
451〜Graduation〜第一話 new term(10/13):2008/09/30(火) 09:22:52
「え―っ!?」
経営学部といえば、経営者のジュニアが多いこの学園である。倍率を考えると、医学部よりも難易度は高いといえよう。
皆が一同にびっくりしている中で、美童だけが顔を輝かせて、嬉しげに可憐に言った。
「可憐・・・、じゃあ、決めたんだね。」
「ええ。決めたわ。」
可憐はにっこりと華やかな笑顔を美童に向けた。
「こほん。何ですか。二人だけの内緒話ですか?」
可憐は清四郎を振り返り、そしてゆっくり皆を見回しながら続きを話した。
「ハワイから帰って来てからのことよ。ある事があって悶々としてた時に、偶然美童に会って、
それから夏休み中、色々話を聞いてもらってたの。」
「俺たちには言えない話かよ。」
魅録がちょっと口を尖らせた。可憐は優しい眼差しを魅録に向けた。
「ううん。どっちみち、あんたたちには今日話そうと思ってたのよ。こんな状況で話すことになるとは
思ってなかったけどね。」
可憐はまた椅子に座り直して、ちょっとはにかんだように言った。
「つまりね、あのう・・・、あたしのママが再婚することになったの。」
「え―っ!」
一同は今日二回目の興奮に包まれた。
「お、おめでとうございます。お相手はどんな方ですの?」
「デザイナーの東郷心。」
「ええっ!東郷心って、パリと東京で活躍している有名デザイナーの「シン・トーゴー」のことですか?」
「日本人でありながら、オートクチュールを得意としていると聞いていますわ。ヨーロッパやアラブの王族も
顧客に入っているとか。」
「写真見たことあるけど、品があって、結構格好いいおじさんなんだよね。」
「うちの母ちゃんもファンで、結構ドレス持ってるぞ。この前魅録の母ちゃんと一緒にパリに買い物に行ってなかったか?」
「まさか!オートクチュールって、一着何百万もすんだろ?親父が聞いたら卒倒するぜ。」
452〜Graduation〜第一話 new term(11/13):2008/09/30(火) 09:29:00
「で、その世界的デザイナーが可憐のおばさんと結婚・・・ですか・・・。」
さすがの清四郎も目を丸くして息を整えていた。
「そう。ハワイに行く前から何かママの様子がおかしいなとは思ってたのよね。帰りが遅かったし、
妙に明るいかと思えばいきなりふさぎ込んだり。携帯をじっと見つめてたりしてて。ハワイから
帰って来て、ママにフレンチレストランに誘われたのね。珍しいこともあるもんだわって思ったけど、
ママと二人で外で食事も久し振りだったから嬉しくてね。そしたら、こういう話だったの。
春に、シン・トーゴーのドレスとジュエリーのコラボのショーが東京であったのよ。その時に
知り合ったらしいわ。」
「・・・とにかく、おめでたい話ですね。良かったじゃないですか、可憐。おばさんが今まで以上に幸せになって。」
清四郎が、可憐の様子を探るように言った。
「そうね。聞いた当初は、やっぱり、何ていうか、こう・・・正直言うとショックでね。ほら、あたしたち、
友達みたいですごく仲良しだったじゃない?子どもっぽいんだけど、何かママを取られちゃうような気がしてね。
それにあたし、ママに楽させてあげたくて玉の輿目指してたのに、もうその必要なくなっっちゃった。ママは自分で
玉の輿に乗ったんだもの。何だかあたし、わけがわかんなくなっちゃって、そんな時美童に会ったの。」
「そして、優しい王子様は悩める美しい姫君のナイトになったってわけ。」
美童はウインクした。


「ちょっと待てよ。そこまでは分かったけど、それでどうして可憐が経営学部を受ける話になんだよ。
可憐は芸術学部へ行って、自分の好きな宝石デザインの勉強をすんだろ?」
悠理が先を急がせた。
「・・・続きがあるのよ。東郷氏はママに首ったけでね。なるべく早くママと結婚して、その後はママに仕事を
辞めていつも自分と一緒にいてもらいたいらしいの。本店はパリだから、パリに来てもらいたいのね。彼も初めの結婚をして
すぐにフランス人の奥様を亡くされているのだけれど、その後ずっと男一人でやって来て、やっと再び愛せる女性が現れた。
彼ももう50歳だし、これからはママと一緒の生活を楽しみたいらしいのよ。」
「なるほど・・・。」
先が全て読めたと、清四郎は一人頷いた。
453〜Graduation〜第一話 new term(12/13):2008/09/30(火) 09:46:02
「で、あたし、ママに言われたの。ジュエリー・アキを継いで欲しいって。元々いつかはそうなる
はずだったけど、それはあと何十年もしてママが年齢的に引退してからの話だと思ってた。でも、こうなった今、
ママはあたしが大学を卒業したらすぐバトンタッチしたいみたい。もちろん、信頼できる幹部はそのまま残って
くれるからさし当たっての心配はないけど、でも、経営者となるからには、経営の事を何もしらないのはまずいと思うのよ。」
一同が再びシーンとなった。今回沈黙を打ち破ったのは美童だった。
「この間話した時には、可憐、学部のことまだ決めてなかったんだよね。あの後どうして決まったの?」
「東郷氏には一人娘のソフィーがいて、まだ28歳なんだけど、もう結婚して子どももいるの。だんな様はフランス貴族の血を
ひくらしいわ。それだけでもすごいのに、ソフィー自身も、「シン・トーゴー」のブレインとして大活躍中なのよ。
デザイナーではなく、ビジネス向きだったのね。で、彼女がこの間日本に来て、色々話を聞いたの。彼女、日本語も出来るのよ。
何か、格好良くてね・・・。好きな仕事をばりばりやって、素敵なだんな様に愛されてて子どももいる・・・。ママもそうだけど、
ソフィーにしても、好きな仕事を一生懸命やっている姿を見初められたのね。あたし、今までの自分の玉の輿願望が虚しく
なっちゃって・・・。これからは生き方を変えてみようって思ったの。玉の輿にのる、なんていう他力本願じゃなくて、とにかく
自分で何かを一生懸命やってみようって。それで今回の話をチャンスだと思って、前向きに考えてみたのよ。」
そう語る可憐は、夏の名残のとろりとした金色の日差しの中、とても美しかった。

「とは言ってもねえ・・・。」
可憐は天を仰いだ・
「うちの学校、今まではよっぽどひどい成績でなければ経営学部に入れたのにねえ。あたしの成績じゃあ芸術学部ならともかく、経営学部は難しいわあ。」
「でも、もう決めたんだろ?」
と魅録。
「そっ。決めたの。取り合えず、日々の勉強を頑張りながら、中間テストの結果を見るわ。余りにも絶望的だったらまた考え直すかも
しれないけど。ね、悠理、あたしもあんたと同じでしょ?一緒にがんばろ。」

454〜Graduation〜 :2008/09/30(火) 09:49:01
すみません。13回で終わる予定が、少しのびました。(恥ずかしい!)
455〜Graduation〜 第一回 new term(13):2008/09/30(火) 09:57:30
「ほら、悠理。」
魅録がドンと、呆けたほうに突っ立っている悠理の背中を叩いた。
「いい話じゃないか。可憐と一緒にやるだけやって見ろよ。俺たち皆応援すっから。」
「そ、そうか・・・?」
悠理が強張った顔を皆に向けた。
「もちろんですわ。」
「入る大学は皆一緒だよ。」
野梨子と美童がにっこり笑い、清四郎がこの上なく暖かい眼差しを悠理に向けて言った。
「不可能を可能にするのが、有閑倶楽部ですよ、悠理。」
悠理は、涙に潤んだ目を大きく見開いてしばらく皆をじっと見つめていたが、ようやく鼻を啜りながら、今日、掲示板を見て以来、
初めての笑顔を出した。
「へ・・・へへ・・・ありがと。皆。やっぱ、持つべき者は友達だな。何か、出来そうな気がしてきたよ。」


帰り道、二人切りになると、野梨子は早速清四郎に尋ねた。
「先ほどはああ言いましたけれど、実際のところ、どう思います?悠理と可憐。」
色々な見解があるだろうが、野梨子は、特別なコンピューターを頭に内臓している清四郎の意見を是非聞きたかった。
「蒔かぬ種は生えないって言いますからね。」
清四郎は目を細めて微笑んだ。
「やるしかありませんね。可憐の場合は学部変更は中間テストの後でもできますし、指し当たっての問題は悠理ですが、
悠理もあのおじさんとおばさんの娘だ、尋常じゃない運を持っている。一般の常識は彼女には当てはまりませんから。」
「では・・・希望が持てますのね。」
野梨子はサラリと髪の毛を振り上げて、嬉しそうに傍らの頼りになる幼馴染を見上げたが、思いがけない彼の表情に
はっとした。清四郎は親友たちの今後を憂うというよりはむしろ、何かとてもやりがいのある目標を見つけたかのように、
生き生きとした目をして、不敵な笑みを浮かべていた。そして言った。
「まあね。何と言っても、僕がついていますからね。」
(まあ、相変わらずの自信家ですわね!)
清四郎のこういう面には慣れっこであったが、野梨子にはその度に鼻についた。
456〜Graduation〜第一話 new term(14):2008/09/30(火) 10:07:06
「どうしました、野梨子?」
「清四郎ったら、こんな事態なのに、水を得た魚のように見えますわ。まるで楽しんでいるみたいですわよ。」
野梨子は思いっきりツンと顎を上げた。
「それは心外ですね。僕はあくまでも前向きに事態を考えているんですよ。設定された目標に向かって
まず計画を立てることは、闇雲に心配ばかりして何もしないよりよほど建設的だと思いますけどね。」
「それはまあ、そうですけれど・・・。」
清四郎の言う事はもっともであったが、まだ何となく気のすまない野梨子は歩きながらふと空を見上げた。
白く大きいはちきれんばかりの雲が青い空を覆っていた。9月初めの昼下がりの住宅街は人気もなく
二人の他に動いているものといえば、生暖かい微風に生垣の木々が葉を揺らしている程度だ。
アスファルトに二人の影が色濃く映っている。

(覚えていますかしら・・・?)
野梨子がチラリと清四郎を挑戦的な目つきで見た。
「清四郎。」
「はい。」
「入道雲って舐めたらどんな味がすると思います?」

みーん、みーん、みーん・・・。
季節外れの蝉が一匹鳴き出した。

蝉の音の途切れるのを待って、平然と清四郎が答えた。
「桃のシャーベットの味に決まってるじゃないですか。」

数秒後、二人の笑い声が、15年間の歴史を刻む通学路に優しく響いた。

                     第二話 festival!に続く
457名無し草:2008/09/30(火) 10:36:27
>Graduation

1レス1レスの投下時間間隔の長さから、投下しながらリアルタイムで書かれているのかなと思ったのですが、
もしパソコンからの投下でしたら、投下の前に一度メモ帳になどにあらかじめ全部書きあげたものを、
コピー・ペーストして投下してくださると助かります。

なぜなら投下に長く時間が掛かってしまうと、別の作家さんと投下する時間帯が
バッティングする可能性があり、後から投下する作家さんは
先の投下した作家さんの投下終了まで、長く待つことになる可能性も否定できないので。


連載を読めるのはうれしかったので、おまちしています。
458〜Graduation〜 :2008/09/30(火) 11:40:09
作者です。ごめんなさい、時間のこと、気になってました。ペーストしてるのですが、
本文の長さと改行の仕方で書き込み時に引っ掛かってしまい、やり直しすることが続きました。
(それで、回数も変わってしまいました。)なるべく、1レス分を短くしてみます。
皆さんにご迷惑おかけしたくないので、お手数ですが、また何かありましたらご指導お願い
できたら嬉しいです。
459名無し草:2008/09/30(火) 12:17:30
>Graduation
学校側の事情に、ふむふむと頷いてしまいましたw
進路を考え直した可憐が格好良くて、応援したくなります。


1レスの分量についてですが、難民板では2048バイト(全角1024文字分)、
32行までということになります。
単純計算すると32文字×32行になりますが、途中改行や空白行を勘案すると、
35文字〜40文字×32行という形式での書き込みが無難かと思います。
実際、過去連載でもそれくらいの分量が多いようですし。

新連載楽しみにしていますので、第二話お待ちしています。
460〜Graduation〜 :2008/09/30(火) 13:02:35
作者です。早速のご丁寧なご指導、どうも有難うございます!
とても助かりました。
過去作品を色々研究はしたのですが、つめが甘かったです。
461名無し草:2008/09/30(火) 18:30:17
>Graduation
前向きな可憐が良いですね。
ジュエリーアキを継いでる可憐って妄想できます。
そして最後の清四郎がいいなあ、小さい頃の事ちゃんと覚えてたんですね。
462酔いの夢(前編):2008/09/30(火) 19:06:01
素敵な連載が始まった後に小話投下は申し訳ないですが、投下します。
前編後編で、今回は前編です。
ネタ元はエロパロ板のほうからお借りしましたが、18禁になりません。
魅&可です。
463酔いの夢(前編)1:2008/09/30(火) 19:06:55
ある日の平日。
悠里と遊んで家に帰ると可憐がいた。
「可憐!?」

俺は驚いて、可憐の姿を確認した後、可憐とお茶を飲んでる親父の姿を目にした。
ははん、何となく分かった。オフクロはここ2,3ヶ月家に帰ってきていない。

「いや、そこで可憐ちゃんと会ってな。」
照れたように少し頬を赤らめて言う親父。
「恥ずかしながら、後姿を見た時に千秋ちゃんだと勘違いしてしまって。」
「あの時はビックリだったわ。」

ニコリと微笑む可憐。
やっぱりなと俺は心の中で笑う。オフクロと可憐の後姿は似ている。
オフクロに会いたがってた親父が可憐の後姿を見て勘違いしてしまったのは容易に想像がつく。

「可憐ちゃん、申し訳ない。良かったら夕飯を一緒にどうかね。」
「あら、良いんですか。」
「そうだよ、夕飯食ってけよ。」
俺も可憐を夕食に誘った。
寂しいなんて思ったことはないけど、俺の家では夕飯は2人か、
親父の仕事が忙しければいつも1人で食べてる。飯は大勢で食べたほうが美味しいに決まってる。

「じゃあ、夕飯の準備1人追加してもらうように言ってく・・・」

俺の言葉を遮るように清子(家政婦さん)の声、足音が聞こえてきた。
464酔いの夢(前編)2:2008/09/30(火) 19:09:16
「旦那さま!!奥様がさきほど日本に帰られたようですよ!」
「なにーーーー!!」

親父の大音量の声に俺と可憐は耳をふさいだ。

「それで、それで千秋ちゃんは今どこにっ!!」
「えっと、とりあえず都内のホテルで一泊してから帰・・・」

清子さんの言葉が終わらないうちに親父は姿は既に家から消えていた。
おいおい・・・、親父。オフクロの泊まるホテルどこか聞かずに飛び出してどうするんだよ。
はぁとため息をついて目の前の可憐のほうに視線を向けた。
可憐も同じように思ったみたいだった。
「おじさま、大丈夫なの?どこのホテルか聞かずに行っちゃって。」
「まぁ、何とかするだろ。親父なら。」
「それにしても、千秋さん良いわよねー。あんなに愛されて。」
「・・・そうか?」

目をキラキラさせて言う可憐に俺は苦笑するしかなかった。
あの夫婦を見ていると、なんというか普通の一般的な夫婦が分からない。
あれが普通だとは俺は思わない。俺は親父のようにはならないだろうなと思う。
(というか、まずオフクロのような女はなかなかいない)
ここまで考えて可憐の家庭は母子家庭だということを思い出した。
可憐にとって理想の家庭とはどういうものなのか。

「とりあえずさ、夕飯食ってけよ。」
「ありがと。」

清美さんの作る料理は美味いと思う。
可憐も作り方教えて欲しいと言いながら食べていた。
清美さんの夕飯を食べていたら飲みたくなってきた俺は親父のお気に入りの日本酒をテーブルの上に置いた。
465酔いの夢(前編)3:2008/09/30(火) 19:10:28
「飲むの?」
「なんかさ、飲みたくなって。」(注:未成年の飲酒は禁止です)
「私ももらおうかな。」

注いだ酒をそっと口に運ぶ可憐の姿を見て俺は酒を一緒に飲むなら可憐だなとか
馬鹿なことを考えてた。
本当に馬鹿だ。今日の俺はこの辺りから雰囲気に酔ってたのかもしれない。

悠里は酒の質はどうでもよくて、とにかく量メインなんだよな。
美童とはしっとり酒が飲めそうだ。でも、何というか美童は洋酒ってイメージなんだよな。
日本酒と言えば野梨子や清四郎だけど、野梨子はあんまり酒に強くない。
清四郎は結構強いけど、飲みながら薀蓄を横で言われると頭が痛くなる。
その点、可憐とならどんな酒でもしっとり飲めそうなんだよな。

良い気分になってきた俺は他にも親父の秘蔵の酒なんかをあけて可憐と飲んでいた。

「これも美味しい。飲みやすいじゃない。」

可憐も良いペースで酒を飲んでいた。
俺も可憐も酒には強いはずだけど、日本酒ってのは意外とア」」ルコール度数が高い。
やべぇかもと思った時には遅かった。

「そういえばさぁ、魅録は家でも制服なの?」
そう言われて気づけば、俺は家に帰ってからもまだ制服を着ていた。
今日は帰ったら可憐がいたから着替えていないというのもあるけど、
基本的に俺は家でも制服だ。上着は脱いでも、シャツのボタンをとって脱ぐのが面倒だから。
466酔いの夢(前編)4:2008/09/30(火) 19:11:27
「制服って脱ぎにくいだろ。」

俺はそう言うつもりだった。本当だ。

「制服って脱がせにくいだろ。」

なんて、本当に言うつもりはなかった。
しかし、俺の口から出てきた言葉は紛れもなく後者だった。
一瞬の沈黙。
そして可憐の笑い声。
俺は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしてしまった。顔が熱い。

「私、別に魅録の制服脱がして襲うつもりなんてないわよー。」

ケラケラ笑う可憐に始めは恥ずかしがっていた俺もだんだん悔しくなってくる。くそっ。
なんつーか、男女のことに関しては可憐のほうが俺より優位っていうイメージがあるから、
俺も何となく対抗しにくい。
しかし、このままでは男として悔しい気もする。
そして、さらに追い討ち。

「でも、魅録が脱がされる方とはねー。」

さらに笑う可憐。可憐も酒が入ってるからこうなのは分かっている。
いつもなら、こんなこと言う奴じゃない。

「可憐は経験豊富だろうからな。」

今の俺の精一杯の嫌味を言ったつもりだが、なんつー情けない言葉だ。
俺は自分に涙が出てきそうだった。
しかし、可憐の口から出た言葉は予想外だった。
467酔いの夢(前編)4:2008/09/30(火) 19:12:05
「私、経験なんてないわよ。結婚するまでね。」

口に含んでた酒を俺は噴いてしまった。マジかよ!?
俺の衝撃に気づかないのか可憐は変わらず酒を口に運んでいる。
急に可憐がいつもと違うように見えた。俺が可憐を意識してるからかもしれない。

「何よ?何か文句ある?」
「べ、別にねぇよ。」

俺の気持ちに気づいてか可憐は慌てて顔を赤くして反論する。

「だからって、私が野梨子みたいなタイプってわけじゃないんだからね。勘違いしないでよ!」
確かに野梨子とは違うだろうな・・・。
「あと、男と遊んでるほうが楽しい魅録よりは私のほうが・・・」
俺の耳にその後の可憐の言葉は入ってきてない。
可憐が急に俺より小さく見えるというか、何というか。
さっきまで俺のことを笑ってた可憐に少しお返しをしたくなった。
ほんのちょっとした俺の悪戯心。

「俺はさ、制服は脱がされるより脱がす方が得意でね。」

ニヤリと笑って可憐の方を見た。反撃開始だ。

(後編に続く)
468酔いの夢(前編):2008/09/30(火) 19:23:43
すみません。家政婦さんの名前が途中で変わってますね。
清子が清美に・・・。申し訳ないです。清子です。
469名無し草:2008/09/30(火) 19:28:23
おお、エロパロでかなり萌えた話だ!
続き楽しみにしてます。
470名無し草:2008/09/30(火) 20:55:12
>Graduation
可憐がかっこいいですね。
頑張る悠理もみたい。続き待ってます。

>酔いの夢
魅録がかわいい。
反撃楽しみにしてます。

471Graduation:2008/10/01(水) 09:21:25
>>447 第二話は長くて全部で43レスの予定です。今回6レスいただきます。
472Graduation第二話festival!(1):2008/10/01(水) 09:25:18
その日の昼休み、野梨子はいつものように倶楽部の皆と昼食をとることは
せず、教室に残って一人で軽く持参のお弁当を食べ、その後直ぐに仕事に
没頭していた。文化部長である野梨子は、9月下旬に開かれる文化祭のプロ
グラムの最終チェックをして、今日の放課後には印刷に出さなければなら
ないのだ。チェックは順調に進んで行き、今、野梨子は高校三年の各クラス
の出し物に取り掛かっていた。倶楽部のメンバーは、清四郎はA組、魅録と
悠理はB組、野梨子はC組、美童はD組、可憐はE組だったが、各クラス
の出し物は、各メンバーの好みが色濃く表れていて、野梨子は口元を緩めた。
(3Aは、「聖プレジデントの野望―学園の歴史と未来への展望―」・・・
清四郎らしいですわね・・・。本当は「裏歴史」をやりたがっていましたけど、
結局校長からOKが出なかったのですわ。3Bは「お化け屋敷」。ふふ、これも
魅録と悠理らしいですわね。あら、でも、悠理はお化けは苦手でしたわよね。
自分がなるなら良いのかしら?でも、本物を呼んでしまったら困りますわ。
近づかないようにしましょう。3Cはバザー。派手さはありませんけれど、皆
良い品を出しますから、毎年とても盛況で、実質的な貢献度は一番大きいですわ。
D組とE組は合同で、「白馬の王子様喫茶」と「深窓の令嬢喫茶」・・・。美童
と可憐・・・見たいような見たくないような・・・微妙なラインですわね。
いっそ、「日本男児の室」とか、「大和撫子の室」とかどうでしょうか?・・・
もっと怪しいですかしら?)

ここで、野梨子はふとペンを置き、昨日の事を思い出した。
悠理と可憐は、早速清四郎が作って来たスケジュールに従って、勉強を開始す
るように彼から言い渡されたのであった。
473Graduation第二話festival!(2):2008/10/01(水) 09:28:51

「まだ、一日の分はそう多くはありません。段々と量を増やし、質を高めて行
きましょう。今大事なのは、毎日勉強する習慣をつけることです。」
スケジュール表を見た悠理の目は点になっていたが、何しろ今回は大学進学が
かかっているのだ、文句のつけようがなかった。
「とにかく、中間テストで少しでも高得点を取っておくことです。テストの範
囲は決まっているんですから、一般の入試と比べればずっと楽ですよ。その為
には、その日授業で習った事はその日のうちに復習すること。これにつきます。
悠理、何か言いたいことでも?」
「うぐぐ・・・。あ、ありましぇん・・・。」

清四郎の行動は素早く、あっぱれとしか言いようがなかった。「とにかく勉強し
なければならない。でもどうしたらよいのか?」という漠然とした切迫感が、
スケジュール表という具体的な形をとることによって消滅し、テストに向けて
の勉強という現実的な行為に変わり、それによって、当事者たちを初め、他の
皆の気持ちもかなり安定したのであった。野梨子は結局清四郎の手腕を認める
しかなかった。

(いけませんわ。今は文化祭の事に集中しなければ!)
野梨子は首を振って、再び資料に向かった。次は、各クラブの出し物だ。文化
部は自分達の日頃の成果を披露すれば良いから特に問題はない。注意すべきは
運動部の出し物だが、野梨子はふと思いついて、文化部の中のあるクラブを探
し出した。
474GraduationGra第二話festival!(3):2008/10/01(水) 09:33:52

『聖プレジデント秘宝館―学園内の数々のお宝写真を大公開―』
野梨子は眉間に大きなしわを寄せて、微笑みながらも赤い唇を僅かにゆがめた。
(ふっ・・・。新聞部と写真部のコラボですわね。去年も似たような事をやっ
ていましたわ。これは、検閲を厳しく入れなければ!)

数々のお宝写真のほとんどが、有閑倶楽部のメンバーの写真であることは言う
までもなかった。去年の出し物は野梨子は時間がなくて見なかったのだが、聞
くところによると、ほとんどは好意的な他愛ない写真ではあるものの、中には
遠目ではあるが、野梨子の体操服姿もあったらしい。ナルシストの美童と可憐
はこの手のものはむしろ歓迎していたし、魅録と悠理は逆にてんで興味がなく、
清四郎は、「有名税だと思ってあきらめるんですな。」等と達観していたが、野
梨子は自分の知らないうちに取られた写真を(それだけでも嫌なのに)、大勢の
人に見られるなんて考えただけで虫唾が走った。

ただ、自分達生徒会そのものが「学園の言論の自由」を謳っているので、よっ
ぽど問題のある写真でない限り、禁止するわけにも行かないのだった。それに、
実際、新聞部も写真部も、完全な隠し撮りについては禁止されており、生徒の
写真を公に撮るのが許されるのは体育祭や文化祭、球技大会等のイベント時に
限られていたから、これ以上文句を言うわけにもいかなかった。

野梨子は大方のチェックを済ませてしまうと、最後に、自分達―有閑倶楽部の
出し物に目を向けた。
『 有閑歌劇団―That’s Entertainment !― 』
中々意見がまとまらなかったものの、最終的に落ち着いたのが、この大講堂を
使っての舞台公演だった。悠理は最後まで「大食い競争」をやりたがったし、
清四郎と野梨子は共同戦線をはって「聖プレジデントアドベンチャークイズ」
を支持したのだが、くじで外れたのだった。
475Graduation第二話festival!(4):2008/10/01(水) 09:37:12

舞台公演をしたがったのは美童と可憐だったのだが、それが決まってからもメ
ンバーの反応は様々で、
「あたしは、歌って踊りたいわ!とにかく、派手にねっ。なんたって、高校生
活最後なんだからっ!」
と可憐が鼻息荒く言えば、
「僕は歌はだめだけど、ダンスは任せてよ。もちろん芝居だっていけるよ。」
と、美童が金髪をかきあげる。
「わたくしも歌はちょっと遠慮致しますわ。お芝居なら良いですけれど。後、
ダンスは無理ですが、日本舞踊なら・・・。」
野梨子が遠慮がちに言うと、
「俺は、歌も芝居もダンスもできねーよ。・・・でも、楽器だったらやってもいいぜ。」
と、他の切り口を持ってくる魅録。
「僕は何でも良いです。」
多趣味の清四郎は自分には出来ない事はないのだと言わんばかりに余裕綽々で
すまして言ったが、その言葉は次の悠理の叫び声にかき消された。
「あたいも何でもいいぞ!ただし長い台詞はごめんだかんな!それと、舞台中に
大食い競争の場面は入れられないのかっ!?」

悠理の大食い競争のリクエストは別にして、他の皆の希望を考慮した結果、
メインのショーは3つに分けられる事になった。つまり、第一部が可憐と美童の
歌とダンスのショータイム。第二部が魅録のピアノ伴奏で野梨子の創作日本舞踊。
そして第三部が清四郎と悠理のミュージカルだ。それにオープニングと
フィナーレがつくことになった。衣装や小道具、大道具等はほとんど演劇部に借り、
また本番中の裏方の足りない人手も演劇部にお願いした。その他細かいことを
言うと、監督は清四郎、演出は美童、音響、照明は魅録で、衣装、メークは可憐、
野梨子は会計、スケジュール管理で、悠理は・・・お弁当係りとなった。
476Graduation第二話festival!(5):2008/10/01(水) 09:39:54

野梨子は資料をパタンと閉じ、窓の外を見た。野梨子の席は窓際の前から二番
目で、教室は二階であるため、窓の向こうに丁度校庭の桜の木の緑が目に入る
のが嬉しかった。しかし、今日野梨子は揺れる桜の青葉を見ながら、ぼんやりと
考えていた。舞台の組み合わせが決まってから何となく心にひっかかっている事があった。
(魅録と・・・上手く出来ますかしら?)

ピアノ曲を伴奏に日本舞踊を舞うというのは、野梨子にとっても興味深い試み
であった。しかし、日頃バイクに代表される男っぽいイメージのある魅録とピ
アノというのはどうもピンと来なかったし、大体、魅録がピアノを弾けるとい
うのも初耳だった。しかし、それは皆同様だったようで、悠理でさえ、驚いて
こう言っていた。
「何だよ、魅録、ピアノ弾けんのかー?聞いた事ないぞ。」
「小学生の頃、な。なぜか、あのおふくろがピアノだけはうるさくってよ。
すっげー厳しい先生に習ってたんだ。結局中2で止めちまったけどよ。」
(相手が清四郎でしたらもっと気が楽だったんですけれど・・・。)
野梨子はそっと小さなため息をついた。

昼休みも残り少なくなり、教室には少しずつ生徒達が戻り始めていた。皆それ
ぞれの場所で他愛のない会話をかわしていたが、ふいに、ざわっとした雰囲気
が流れた。野梨子も気が付き、何事かと周囲を見回すと、魅録が片手をドアの
上部につきながら、片手をズボンのポケットに入れて、C組の入り口から中を
伺っていた。清四郎ならともかく、魅録がC組に来ることはめったにないので、
一般生徒達は驚いたらしい。倶楽部の皆は各自独特の強いオーラを放っている
が、魅録は高校から入って来たこともあり、学園のカラーからもっとも外れて
いるのと、その強面の外見から、日頃接触のない生徒達は彼独特のオーラに一
瞬ひるむらしい。もっとも、ちょっと話してみれば、彼が実はメンバーの中で
一番常識人であることが分かるのだが。
477Graduation第二話festival!(6):2008/10/01(水) 09:42:29

魅録は野梨子を探し当てると、ズカズカと教室に入り、教壇の前を横切って、
野梨子の前の席の椅子に跨るようにしてどっかと座り、背もたれに顎を乗せた。
「へえ、窓際か。いいな。」

魅録は、すっきりした切れ長の目を細めて窓の外を見た。魅録はいつもそうだ
が、今も夏服の白シャツの袖を肘の上まで捲り上げており、日に焼けたしっか
りした腕がむき出しになっていた。いつも手首まできちんと袖を下ろしている
清四郎と比較して、野梨子は一人心の中でふっと微笑んだ。

しかし、魅録のこの突然の訪問は3Cの生徒達の好奇心を呼び寄せ、周囲が自
分達に注目、少なくとも耳がダンボになっているのは間違いなく、不条理では
あるが、野梨子はこのような状況を作り出した魅録を少々憎らしく思った。野
梨子は、おもむろにプログラムの資料を手に持ち、トントンと机に打ちつけて
整理をしている風を装って言った。

「魅録が、わたくしの教室に来るなんて珍しいですわね。何の用事ですの?」
(あら、わたくしの口調、ちょっととげとげし過ぎましたかしら?別に魅
録は何も悪くないのに・・・。)
「あ、ああ。」
魅録は思い出したように窓の外から視線を戻して言った。
「本当は、昼飯ん時に話そうと思ってたんだけど、野梨子、中々来ないだろう?
清四郎に聞いたら、今日は教室だっていうから、慌てて飛んで来たんだ。」
(飛んで来るような話って何ですかしら?やはり文化祭・・・?)
しかし野梨子の思考はここで途切れた。魅録が野梨子の方に体を伸ばし、手の
平を添えながら自分の口元を野梨子の耳元に近づけ、囁いたからだ。
「あのさ、今日の放課後、空いてないか?」
478名無し草:2008/10/01(水) 11:18:28
>Graduation
「続く」という文字がないですが、毎回最後に書いておいた方がいいですよー。
いつも書かれてるので、忘れられただけだと思いますが。

ピアノが弾ける魅録に思わず萌えてしまいました。
こういうギャップに萌える。
あと清四郎がいちばん早いクラスなのと、魅録と悠理が
同じクラスなのは自分の妄想と似ていて少しにんまりしましたw
続きも気になるので、楽しみです。
479名無し草:2008/10/01(水) 15:24:52
>Graduation
自分もピアノが弾ける魅録は新鮮で萌えます。
文化祭も時期ですもんね、懐かしいなぁ。
今回、魅録をちょっと意識してる野梨子の描写があって、どうやって野→魅になっていくのか
楽しみです。
あと、とても読みやすくなりました。
480名無し草:2008/10/01(水) 18:19:01
>Graduation
魅録、機械弄りでふしのゴツゴツした手でピアノを弾くんですねと、妄想の世界に突入しました。
教室の一コマは、他の生徒の反応がリアルで学生時代を思い出しました。

次もお待ちしています。
481名無し草:2008/10/01(水) 20:17:20
>Graduation
43レスということはもう完成済みなんでしょうか?wktk
大量うp期待してますw
482名無し草:2008/10/02(木) 00:45:57
>Graduation
魅野、好きなのでこの後の展開をwktkしながら待っています。
文化祭の有閑歌劇団、第三部の清四郎と悠理のミュージカルって
いうのがとても気になりました!題材なんだろう〜。
続きを楽しみにしています。
483Graduation:2008/10/02(木) 10:03:24
>>472 今回8レスいただきます。前回「続く」は入れ忘れです。以後気をつけます!
484Graduation第二話festival!(7):2008/10/02(木) 10:05:25

バサバサッ。
手にしていた資料が床に落ちた。
野梨子は、普段、魅録とこんなに接近した事はなかったし、ましてや、耳元に
息づかいまで感じて、一瞬、思わず身を引いてしまったのだった。
「い、いやですわ。わたくしったら・・・。」
野梨子は赤くなった。
「手伝うよ。」
ゴン。
野梨子と魅録は資料を拾い集める為に同時に屈み込んだが、その拍子に、今度
は二人の頭と頭がぶつかった。
「きゃあっ!」
「ってー・・・。」
二人は頭を抑えてしばらく床に座りこんでいたが、お互いのびっくりした顔が
目に入ると、どちらからともなく笑い出した。

「すげー音だったなー。ゴンっていったぜ、ゴンって。大丈夫か、野梨子?」
「大丈夫ですわ。魅録こそ、たんこぶできてません?」
結局二人とも大した事はなかったが、結局この他愛ない事件のおかげで、
さっきまでの野梨子の妙な緊張感は解きほぐされた。
(この頭ゴン事件が明日には学園中に広まっているでしょうけれど、もうどう
にでもなれですわ。)

野梨子は椅子に座りなおして、しゃんと姿勢を正した。
「何のお話でしたっけ・・・?そうそう、今日の放課後でしたわね。特に予定
はありませんけれど、何ですの?」
485Graduation第二話festival!(8):2008/10/02(木) 10:07:59

魅録は声のトーンを落として決まり悪そうに言った。
「文化祭の件なんだけどよ。俺、ピアノ、長いこと弾いてねえから、一刻でも
早く練習したいんだよ。だから、早く曲決めたいんだ。今日、使えそうな楽譜
幾つか持って来たから、一緒に相談して選びたいと思ってよ。」

「まあ・・・。」
野梨子の胸がチクリと痛んだ。自分が魅録とのコンビを少々負担に思って、でも
何もしないでいる間に、魅録はもう色々考えて準備さえしてくれていたのだ。
野梨子は自分の幼さを恥じた。
「もちろん、いいですわ。今日の放課後やりましょう。」
「良かった。」
魅録はほっとしたように見えた。
「じゃ、実際に曲弾いてみたいから、今日の放課後音楽室が使えるかどうか、
ちょっと行って見てくるよ。」
用は済んだとばかりに、魅録がガタッと立ち上がった。
「わたくしも行きますわ。魅録ばかりにお願いしては悪いですもの。」

音楽室は遠い。昼休みの時間が残り少ないせなのか、それともこれが普通なのか、
大股で足早に歩いて行く魅録に、野梨子は半ば走るように必死にくっついて行った。
廊下は昼休みを終え、教室に戻る生徒で一杯だったが、皆、野梨子と魅録を見ると、
何事かという好奇の目を向けた。野梨子はその視線に辟易しながらもふと思った。
(これが、わたくしと清四郎、魅録と悠理の組み合わせなら、皆何とも思わな
いのでしょうね。わたくしと美童、魅録と可憐ならどうですかしら?)
486Graduation第二話festival!(9):2008/10/02(木) 10:09:55

美童も可憐は異性と一緒にいるのが珍しいことではない。とはいえ、相手がそ
れぞれ野梨子と魅録だったら、それはそれなりに人目を引くだろうと思われた。
やはり「男嫌い」のレッテルが貼られている野梨子と、「女に興味がない」と思
われている魅録のキャラが関係しているのだと野梨子は一人納得した。

魅録について、階段を上って、降りる。
(つ、疲れましたわ・・・。音楽室ってこんなに遠かったですかしら・・・?
もう限界ですわ。)
「ふう・・・。」
ついに野梨子が大きなため息をついた。
それまでひたすら前を歩いていた魅録がピタリと立ち止まり、すごい勢いで後
ろを振り向いた。壁に手をついてはあはあと肩で息をしている野梨子を見ると、
魅録はびっくりした顔をして、次に真っ赤になった。

「ごっ、ごめん、野梨子・・・。俺、つい、悠理と同じつもりで歩いちまって・・・。
ついてくんの、しんどかっただろ?ホンッとごめん!」
おろおろと慌てふためく魅録に野梨子は苦しいながらも笑顔を出した。
「い、いえ・・・、大丈夫ですわ。わたくしが歩くのが遅いんですのよ。時間
もありませんし。どうぞ、先に行って下さいな。」
まだ呼吸の荒い野梨子を見ながら、魅録は自分の気の利かなさを嘆いた。

(清四郎はいつも、野梨子の歩く早さに合わせてやってんだよな。美童だって、
絶対こんな失敗しないぜ。それに比べて俺ときたら・・・!)
音楽室まではあと少しだった。残り数メートルを、野梨子に合わせて魅録はゆ
っくり歩いた。
487Graduation第二話festival!(10):2008/10/02(木) 10:13:20

結局、その日の音楽室は5時から6時までしかとれなかったので、野梨子と魅
録は生徒会室で皆と練習した後、音楽室へ行く事にした。しかし、野梨子はそ
の事を清四郎に言いそびれていた。昼休みはもう時間がなく、放課後プログラ
ムを印刷に出した後、生徒会室に行った時にはもう全体の練習が始まっていた
からである。

可憐と美童の方は問題なかったが、悠理は自分の役に文句を言い出していた。
「何だよ、これ、あたい、まるでバカみたいな役じゃんか。」
「『マイ・フェア・レディ』だよ。イライザは悠理にぴったりだと僕、思うんだけどな。」
脚本を持って来た美童が得意気に言った。
「どこがだよ。なんか、このヒギンズって奴にいびられてばっかいるじゃないか!」

「ほんと、清四郎もヒギンズ教授がはまり役だわ。」
可憐も人選の妙に感心して言った。
「台詞もけっこうあるし・・・あたい、台詞が多いのは嫌だって言ったろ?」
「台詞と言っても、・・・ほとんど『地』でいけますわよ。」
野梨子も台本を読んで納得している。
『マイ・フェア・レディ』と聞いても悠理同様ピンと来ていなかった魅録も、
台本を読み終わると、晴れ晴れした笑顔で悠理の肩を叩いた。
「皆の言っている意味、分かったわ。おまえと清四郎ならぶっつけ本番でも
できっかもな。くっくっくっ・・・。」
「魅録、てっめー・・・。」
悠理はものすごい形相で、笑いを隠さない魅録を睨み付けた。
そんな悠理を納得させるのにこの日は時間を使い、気が付けば5時になっていた。
488Graduation第二話festival!(11):2008/10/02(木) 10:16:09

「では、今日はここまでにしましょう。野梨子、帰りましょうか?」
清四郎のこの言葉に野梨子は慌てた。
「あ、あの今日は・・・。」
(いけない!清四郎に話してませんでしたわ!)
「何だよ、野梨子。言ってなかったのか?」
思いがけない魅録の言葉に清四郎の目がキラリと光った。
「何のことです?」
「これから、6時まで野梨子と音楽室で曲決めすんだよ。」
「・・・聞いてませんね。」
清四郎は無表情に野梨子を見た。
「きょ、今日のお昼休みに急に決まったんですの。」
(嫌ですわ。わたくしったら何をあせっているのかしら?あら、汗が・・・。)
「俺が、少しでも早くピアノの練習したいから、野梨子に無理言ったんだ。」

それは真実ではあったのだが、話の流れから、まるで魅録が野梨子をかばって
いるかのように皆の耳には聞こえた。
「・・・ですから、今日はお先に帰って下さいな・・・。」
清四郎はゆっくりと窓の外を見た。
「でも、もう暗いですし、一時間位なら僕も付き合いましょうか。」
「野梨子なら、俺が送ってくから、安心しろよ。」
「・・・。」
清四郎がはてどうしたものかと思案している時、ひょんな所から助っ人が現れた。

「あ、あたいも、魅録のピアノ、聴きたいぞ!一緒に行く!」
「え?」
魅録と野梨子が顔を見合わせた時、続けて可憐と美童の声がした。
「あら、あたしだって聴きたいわ!気になってたのよ。」
「じゃあ、皆で行こうよ!」
「ふむ。」
489Graduation第二話festival!(12):2008/10/02(木) 10:19:00

 特に反対する理由もなく、結局六人全員が音楽室へ移動した。六人が着くと、
前に使用していた合唱部のメンバーがざわめいた。六人が一緒にいる所を間近
に見る機会など、一般生徒達には滅多になかったのだ。
「あ、あの・・・鍵をどうぞ。」
合唱部の部長が赤くなりながら、美童に鍵を渡した。
「うふん、有難う。」
きらきらっ。
美童の自称王子様の笑みは確かに効果があったらしく、合唱部の女性徒達は
「きゃー」
と歓声を上げながら転がるようにその場を去っていった。

魅録がピアノの椅子に腰掛けると、その周りをぐるりと五人が取り囲んだ。5人は
それぞれ真剣だったり面白がったり、様々な表情を見せており、魅録は一瞬
(うへえ)
とひるんだが、カタリとピアノの蓋を持ち上げると、顔がほころんだ。
「ピアノに触るのも久し振りなんだ。何か、懐かしいな。」
魅録は使い古した、まさに手垢のついた古い楽譜を何冊か出した。
「日本舞踊だから・・・しっとりした、ノクターンとか・・・叙情的なのがい
いよな。ショパンが一般的だけど、リストとか、ドビュッシーもいいのがある
し・・・。」
皆が見守る中、魅録はハンカチで鍵盤をそっと拭いた。

「早く、何か弾いてみろよ。」
悠理が待ちきれない様子で、鼻息荒く言った。
「ああ。俺がいいと思う曲で、とにかくも弾けるのを幾つかさわりを弾いてみっから、
意見聞かせてくれ。」
皆は(早くしろ)と思いながら、うんうん、と頷いた。
490Graduation第二話festival!(13):2008/10/02(木) 10:21:48

魅録は弾き出した。恐らくクラシックに暗いものでも、どこかで聴いた事のある、
馴染みのある曲ばかりだった。時折ひっかかるものの、魅録は目を半ば閉じて、
口元に笑みを浮かべながら、軽やかに弾き鳴らしていた。
「リストの『愛の夢』、メンデルスゾーンの『歌の翼に』、ショパンの『ノクターン
9番』に、『別れの曲』。ほう、サティの『ジムノペティ1番』も・・・。
やりますね、魅録。」
清四郎が目を見開いて、感に堪えない様子で身を乗り出した。もちろん、
彼の多趣味の一つにクラシックが入っていないわけがなかった。
「あら。」
「まあ。」
「へえ。」
可憐、野梨子、美童もそれだけ言うのがやっとだった。
悠理にいたっては口をぽかんと開けたままだった。
叙情的な曲を弾いていた魅録だが、興がのって来たのか、ある楽譜を探し出した。

「そうだ、えっと・・・、あの曲どこにあったかな。ああ、これだ。中二の最
後の発表会で弾いたんだ。ずっと好きな曲でさ、これを弾けるようになったら
ピアノ止めようって思ってたんだ・・・。」
魅録は周囲に人がいるのを忘れてしまったらしく、頬を紅潮させ少し眉を顰め
ながら、熱に浮かされているように力強く、激しく弾き始めた。それは、今ま
でのとは傾向の異なる、非常に男性的な激しい曲だった。

「ヒュウ。」
美童が口笛を吹いた。
「な、何だっけ、この曲。知ってるぞ。」
悠理が可憐の腕をゆすって聞いた。可憐は眉間にしわを寄せて真剣に考えた。
「有名な曲よね。確か、ショパンじゃなかった?えと・・・。」
491Graduation第二話festival!(14):2008/10/02(木) 10:24:39

「ショパンの『英雄ポロネーズ』ですわ。」
野梨子が助け舟を出したが、その声は震えていた。野梨子も清四郎に負けず劣
らずクラシック好きで、その中でもショパンは大のお気に入りで多くのピアニ
ストの演奏を聞いていた。魅録の演奏は、もちろんプロとは言わないまでも、
素人の腕前としては相当なものだった。野梨子はピアニスト達の華麗な指の動
きに目を奪われるのだが(清四郎からは『指フェチ』と言われていた。)、今も
魅録の華麗な指さばきから目が離せなかった。

魅録の指は、男らしく筋張ってしっかりしていながらも、物作りが得意なだけ
あって、長くて器用そうで繊細さがあった。また、野梨子自身も茶道や日本舞
踊という美意識の研ぎ澄まされた世界の住人であるだけに、絵画であれ、彫刻
であれ、音楽であれ、自分の感性に合う芸術に出会うといつでもしばし恍惚感
に浸ってしまうのだが、今もそうだった。

魅録の演奏はどう贔屓目に見たところで、芸術というにはおこがましいもので
はあったが、彼の真っ直ぐな気質が反映されてか、ピアノは力強いながらも混
じりけのない清く澄んだ音色を奏で、そして彼の外見とピアノという組み合わ
せの意外性が、アーティストに必要な一種独特の色気を演奏に与えていた。

続く
492名無し草:2008/10/02(木) 11:01:21
>Graduation
マイ・フェア・レディって、自分の中ではずっと美童と悠理がぴったりだと思ってたけど
清四郎と悠理もおもしろいかもですね。
あとピアノだからというのもありますが、普段ロッカーな魅録の選曲が意外でした。
クラシックも弾く魅録、すごく格好よかったです。
493名無し草:2008/10/02(木) 16:52:28
>Graduation
野梨子ってば指フェチだったのですねw
自分も魅録の指がピアノを弾くところを想像して萌えました。
続き楽しみに待ってます。
494名無し草:2008/10/02(木) 19:13:30
>Graduation
野梨子に意外なフェチがwでも気持ちはわかるw
指フェチが清四郎にバレた時の状況も気になりましたw
関係ないけど、作家さんはクラシック音楽好きなのかなと
読んでて思いました。
続きが気になります。
495名無し草:2008/10/02(木) 19:32:36
>Graduation
魅録がピアノを弾くとなると、ジャズをイメージしてしまうけど
クラシックが弾けるとはまた意外で萌えました。
しかし、中二で英雄ポロネーズが弾けたとは凄い腕前だ!
相当弾き込んでたんだろうな・・・。
496Graduation:2008/10/03(金) 08:45:22
>>484 今回6レスいただきます。
497Graduation第二話festival!(15):2008/10/03(金) 08:49:58

演奏が終わるや否や悠理が魅録に飛びついた。
「すっげー!すっげーよ!おまえ!」
悠理は興奮のあまり、魅録の胸ぐらをつかんで前後にぶんぶんと揺さぶった。
「ぐえっ・・・。ちょ、ちょっと、悠・・・!」
ふいをつかれた魅録は片手で悠理を制しようとしたが、感極まっている悠理は、
今度は魅録の背中をばんばんと叩き出した。
「全く、おまえにこんな特技があったとはなー!ここまでやるとは思ってなかったぜ!」
腰に両手をあて、カカカと高笑いする悠理。どうやら嬉しくって仕方がないらしい。
「ゴホッ、ゴホッ・・・。そりゃ、どうも。」
言いながら魅録は、悠理に次は何をされるのかと身構えていた。

そこへ、控えめな、ぱちぱちぱち・・・という音が響いた。
野梨子が頬を赤く染めて、胸の前で小さく、しかし力強く拍手を送ったのだ。
野梨子から始まったそれは、可憐へ、そして清四郎と美童へと広がった。
「本当よお、すごかったわ、魅録。男の人がピアノ弾くのってぐっと来るわ〜!
あんた、まじで格好よかったわよ!」
可憐が腰をかがめ、人差し指を唇にあてて、魅録に大げさにウインクした。
「そ、そうかあ?・・・可憐に褒められるなんて珍しいな。サンキュ。」
思わず照れて頭をかいた魅録に悠理がすかさず足蹴りを入れた。
「何だよ、でれでれしやがって。あたいだって、褒めただろっ!」
「いてっ・・・!悠理、いいかげんにしろよ!」
「ちぇっ、魅録のばかっ!」
「何だと〜!?」

(本当に小学生レベルの会話だな。)
美童がやれやれと二人を制した。
「まあまあ、二人とも、喧嘩してる場合じゃないだろ?演奏は本当に良かったよ。
正直、魅録がここまで弾けるなんて思ってなかった。見直しちゃったよ。女の
子だったら惚れ直すってとこ?ね、清四郎。」

498Graduation第二話festival!(16):2008/10/03(金) 08:53:53

「ふむ。僕は、楽器は一通り弾けますが、ここまで極めたものはありませんか
ら、素直にかぶとを脱ぎましたよ。はい、惚れ直しました。」
清四郎は軽くため息をつくと、賞賛を込めた少しいたずらっぽい目で魅録を見
ながら、その肩にぽんと手を置いた。

「やめろよ。清四郎まで。」
魅録は本気で嫌がっているように顔をしかめた。
「だから、嫌なんだよ。ピアノ弾くの。昔っから、いっつも周りにあーだこーだ
言われてさ。よっぽど俺とピアノって組み合わせが似合わないらしくて、それ
が面白いらしいんだな。」
「いいじゃないですか、悪い事ではないんですから。それはそうと、野梨子、
使えそうな曲はありましたか?」
清四郎が魅録をなだめるように言いながら、話題を変えた。野梨子は小首をか
しげて答えた。
「ええ・・・。どれもこれも良くて・・・。選ぶのが難しいくらいですわ。」
「良かった。野梨子のイメージで曲選んだんだけど、日本舞踊って俺よくわか
んねえからちょっと心配だったんだ。でも、できれば、今決めちまいたいんだ
けど。皆、協力してくれよ。」
魅録がこの仕事を一刻も早く終えてしまいたいのは明らかだった。

船頭多くして船山に登る、とは良く言ったもので、永遠に続くかと思われた曲
決めは、果たして野梨子の鶴の一声で決定した。
「ドビュッシーの『月の光』か・・・。」
「『月の精』をイメージしやすいですわ。」
「『間』をとるのが難しくないか?」
魅録が楽譜を見ながら心配そうに言った。
「確かに。でも、その『間』がかえって、日本舞踊に合うと思いますの。呼吸を
合わせるのに、入念な打ち合わせは必要ですけれど・・・。魅録が負担に感じ
るのでしたら、他の曲にしましょうか?」

499Graduation第二話festival!(17):2008/10/03(金) 09:04:14

「いや、いいよ。せっかく野梨子がやる気になってるんだ。やってみっか。」
魅録は覚悟を決めたらしく、楽譜をピンと指で弾いてニヤリと笑った。
「宜しくお願い致しますわ。」
野梨子はぺこりと頭を下げた。

計算してみると、文化祭までに放課後に音楽室を使えるのはあと7回しかなかった。
昼は生徒会室を使うとしても、防音になっている音楽室を使うのはとても大事だ。
魅録は音楽室の予約表を睨みつけながら言った。
「放課後の音楽室は皆で使うことにして、俺たちは朝練しようぜ。でなきゃ、
どう考えても本番までに間に合わねえよ。朝、来れっだろ、野梨子?」
「もちろんですわ。あ、でも・・・。」
野梨子は探るようにして視線を清四郎に飛ばした。
「ああ。」
魅録が頷いた。

「清四郎、心配だったら、俺が野梨子を迎えに行ってやるよ。それなら問題ないだろ?」
声の調子から、魅力が何のくったくもなくそう言ったのは確かだったが、それ
でも一瞬、音楽室内はシーンとなった。皆が清四郎を注目した。清四郎は目を
瞑り、額に片手を当て、口角を少し上げながら言った。
「こほん。もちろん、野梨子は朝練すべきです。それに異議は全くありません。
でも、わざわざ魅録が迎えに来る必要はありませんよ。」
ほっとした空気が室内に流れた。
「そうよねえ、野梨子だって、いくらお嬢様といったって、もう19歳なんだし。
朝なら一人で大丈夫よ。」
しかし。




500Graduation第二話festival!(18):2008/10/03(金) 09:06:36

「僕も、朝練に参加します。」
「えっ!?」
「第三者の意見があった方が良いでしょう?野梨子の他に日本舞踊について多
少なりとも分かるのは僕くらいの者ですからね。監督という立場からも、僕も
行きます。美童も演出する者として、やはり参加した方が良いと思いますよ。」
清四郎はにっこりと笑った。
異論を唱える者は、もちろん誰もいなかった。

有閑倶楽部の文化祭の練習が本格的に始まった。蓋を開けてみれば、清四郎の
言い分は正しかったようで、野梨子の経験と感受性、美童の想像力と美的セン
スに清四郎の知識と冷静なものの見方が相まって、思いの他早く、創作日本舞
踊「moon light」の振り付けは一通りの形が出来た。振り付けに関しては魅録
はまるで出番がなかったが、本人は全くそれを気にする風ではなく、かえって
物事がスムーズに運んだ事を心から喜んでいた。
「それじゃ、俺は、あとはひたすらピアノを弾けばいいわけだな。助かったよ。」
野梨子も、初めの不安はどこへやら、今はすっかりこの創作舞踊に夢中になって
いて、練習するのが楽しくて仕方がないほどであった。

本番まで残り一週間を切ると、野梨子は打ち合わせの為、学校で魅録と二人で
話しをする時間がぐっと増えた。休み時間には魅録が野梨子の教室に入り浸って
いることが多く(それは、野梨子が魅録の教室に行くと、悠理が何やかんやと
ちょっかいを出して来て話が出来ないからであったが。)、3Cの生徒達もすっかり
その光景に慣れっこになっていた。もちろん魅録との会話のほとんどは文化祭
に関することだった。しかし時には話が脱線することもあり、それらは天気と
か、食べ物とか、ごく他愛ない話ではあったが、今まで魅録と二人っきりで話
しをする機会がありそうでなかった野梨子は、自分がこの時間を密かに楽しん
でいることに驚いた。そして、練習を始める前に、魅録とのコンビを負担に思って
いた事を思い出し、一人小さく笑った。

501Graduation第二話festival!(19):2008/10/03(金) 09:08:33

「おい、魅録、行くぞ。」
帰りのホームルームが終わると、悠理が魅録のところにやって来た。今日の放
課後は音楽室での最後の練習があり、明日はもう大講堂でのリハーサル、そし
てあさっては本番だった。廊下に出ると、いつもはお行儀の良い生徒たちが、
走ったり、大声を出したりしており、普段とは違う光景が見られた。文化祭が
真近にせまり、学園中が祭りの前のそわそわとした、落ち着かない、特別な雰囲気に包まれつつあった。

いつものように並んで歩きながら悠理が機嫌良く言った。
「なあ、魅録、文化祭終わったら、久し振りにツーリング行かないか?」
「はあっ?。そりゃ、行きたいけど、けど、おまえ、文化祭終わったらいよい
よ中間テストだぞ?ツーリング行ってる場合じゃねーだろ。」
魅録はあきれたように悠理の顔を見た。
「う・・・。それはそうだけど、1日や2日平気だよ。」
「悠理・・・。」
魅録は立ち止まり、今度は露骨に眉をひそめた。そして、悠理に正面から向き
合うと、彼女の肩を両手でがしっとつかみこんだ。

「なっ、何だよっ。」
「今度のテストがどんなに大切か、おまえ本当に分かってんのか?結果次第じゃ
大学に進めなくなるかもしれないんだぞ。」
「わ、わかってらい、そんなこと。」
悠理はさすがに声を小さくし、顔を赤くして口を尖らせた。
「じゃあさ。遊ぶ事ばっかり考えるなよ。ツーリングは中間テストが終わるま
でおあずけだ。」
魅録はピシリと言い切って、また歩き出した。
502Graduation第二話festival!(20):2008/10/03(金) 09:12:26

「じゃ、じゃあさ、何か美味いもんでも食いに・・・。」
悠理が後を追いかけかけたその時。
「あ、野梨子。」
「え?」
「わりぃ、悠理、ちょっと野梨子と打ち合わせしたい事あっから、先に行って
てくれ。あいつ、今日一日忙しくって、捕まんなかったんだよ。」
魅録は、数メートル先の人ごみの中に野梨子の後ろ姿を見つけると、悠理を置
いて行ってしまった。

「・・・。」
一人になった悠理の目に、野梨子の細い肩を軽く叩き、嬉しそうに話しかける
魅録と、それに笑顔で答える野梨子の姿が、大勢の生徒たちの中でそこだけ浮
かび上がって見えて、そして消えた。

                続く

503名無し草:2008/10/03(金) 12:47:36
>Graduation
毎日読めてうれしいです。悠理がセツナス。
魅録の描写がかっこいいし、全員のセリフもみんなそれっぽくて
読んでいて楽しいです。
月の光に日本舞踊、想像してみたら案外あいそう。
504名無し草:2008/10/03(金) 13:42:33
>Graduation
同じく毎日読むことが出来て嬉しい。乙です〜。
悠理の魅録の思いも最後伝わってきました。
だけども最後の悠理視点は切ない。
メンバー達が、友人から序々にそれ以上の思いに変わりつつありそうで、わくわくしてきました。
505名無し草:2008/10/03(金) 19:42:53
>Graduation
魅悠が保護者のような親友のようなかんじで萌えた。
文化祭も気になるけど、みんなが色恋沙汰になってしまうのか
やっぱり気になりますw続き楽しみにしています。
506名無し草:2008/10/03(金) 22:01:22
>Graduation
清四郎の保護者っぷりがおもしろかったです。
魅録と野梨子の距離が縮まっていく様子もよかったです。
でも悠理はせつないですねー。
続き楽しみに待ってます。
507名無し草:2008/10/04(土) 04:22:41
驟雨に叫ぶの作者です。
諸事情で2chに投稿できないので、
嵐さんのところの「妄想同好会BBS」内の長編UP専用スレッド2に
投稿させてもらいました。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/1322/1065614482/147-165


(携帯リンク)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/movie/1322/1065614482/147-165
508名無し草:2008/10/04(土) 06:22:03
>驟雨に叫ぶ
お待ちしておりました!!
清四郎の思いが伝わってきてまたまた切なくなりましたが
ついに心が通じ合い始めましたね。
続きを楽しみにしております。
509Graduation:2008/10/04(土) 07:23:05
>>497 今回7レスいただきます。(やっと文化祭・・・。)
510Graduation第二話(21):2008/10/04(土) 07:28:25

いらいらいら。
「一体全体悠理はどうしたんですか?」
清四郎が何度目かの時計を見た。今日音楽室を使える時間は2時間。各ステー
ジの練習に30分ずつ、オープニングとエンディングの練習に30分を割り当
ててある。既に可憐と美童の練習は終わって、魅録と野梨子の第二部の練習が
始まっていた。美童は現場での最終チェックに余念がなかったので、清四郎の
声は傍らで一休みしている可憐にだけ聞こえた。

「本当。もう40分も過ぎてる。いくら何でも遅いわよね。あの子が一番心配
だっていうのに。美童が嘆いてたわよ。悠理がどうもやる気がないようだって。
大丈夫なの?」
清四郎は椅子に座って、顎の下で両手を組みながら苦笑いして言った。
「・・・悠理のセリフは極力減らして、ほとんどないも同然なんですけどね。
美童の脚本は原作とは大幅に変わっていて、設定だけもらっているようなものですし。
最大の見所は、最初と最後の悠理の変身具合で、衣装は演劇部に借りて完璧ですしね。
ただ、もう一つの山場である、歌とダンスがまだ・・・。」
可憐が髪を揺らして首をかしげた。
「あの子、そういうの得意じゃない。ロックとかガンガン英語で歌ってたし・・・、
意味は分かってないだろうけど・・・あの運動神経だからノリもいいし。」
清四郎は彼にはめずらしく大きなため息をついた。
「まあ、最初から悠理はこの役には不満でしたからね。いまいち、のり切れな
いんでしょう。初めに悪乗りした僕等も悪かったと思いますが・・・。」
「そうね・・・。」

目の前では、無心にピアノを弾く魅録と、制服のまま優雅に踊る野梨子がいた。
ところどころに美童の注文が入る。魅録と野梨子は決して接触しているわけでは
なかったが(それを言うなら、手直しを入れる美童と野梨子の方がよっぽど接
触していたのだが)、しかし二人の息がとても合っているというのは傍からも伺えた。
511Graduation第二話festival!(22):2008/10/04(土) 07:30:08

「へえ、あの二人もいい感じに仕上がって来たじゃない?」
「・・・。」
可憐がふと気が付くと、清四郎の組んだ足が小刻みに震えていた。
(あ、あら、清四郎ったら・・・。へえ、相当頭に来てるんだわ、この男。でも、
何に?悠理に?それとも・・・?)
「あたし、悠理探して来るわ。」
可憐は、明るく清四郎に言うと、長い巻き毛をふわりとなびかせて音楽室を出て行った。

悠理は直ぐに見つかった。聖プレジデント学園の敷地は広大であったが、その
中で裏山と呼ばれている鬱蒼とした小高い丘の一角に、悠理と魅録が授業をさ
ぼって昼寝したり、また魅録が一服したりする、二人の秘密の場所があった。
その場所を二人は他の倶楽部のメンバーにも教えなかったが、皆大体の見当は
ついており、その辺をうろうろしている時、悠理がガサッと藪の蔭から現れたのである。

「ぎゃっ!」
「何だ、可憐か。良く分かったな、ここが。」
「ああ、びっくりした。ちょっと、悠理、探しに来たのよ。もうすぐあんたた
ちの練習の番よ。早く行きなさいよ、清四郎、かんかんよ。」
「魅録は?」
「今、練習中よ。」
「ちぇっ・・・。探しにも来ないんだな。」
「何言ってるのよ。練習中なんだからしょうがないでしょ。」
「あたい、行かない。」
「はあっ!?」
「練習には行かない。」
「そっ、そんな我が儘許されると思ってんの!?」
「・・・。」
512Graduation第二話festival!(23):2008/10/04(土) 07:32:18

サワサワサワ・・・・・。
風が吹き、悠理の亜麻色のねこっ毛と、可憐の茶色の巻き毛をフワリと吹き上げた。
チチッ。
小鳥が鳴きながら頭上を横切り、二人はしばし青い空を仰ぎ見た。二学期が始
まった頃には残っていた入道雲も、今はもう姿を消していた。
悠理はハーッとため息をついた。

「嘘だよ。言ってみただけ。今から行くよ。」
可憐はほっとして肩の力が抜けた。二人して丘を下り始めた。
「けど、ほんっと、かったるいなー。」
「清四郎が、悠理の気持ちを考えないで役を決めちゃって、悪かったって言ってたわよ。」
「ふうん。」
悠理はちょっと驚いたような顔を見せた。そして、そのまま少し黙って歩き続
けたが、地面まであと1メートルという時、突然ざざっと下へ飛び降りた。
そして、びっくりしている可憐に向かって、大きく手を振り、
「あたい、先に行くよ。これ以上待たせたら悪いからな!迎えに来てくれてサンキュ!」
と大声で叫ぶと、すごい勢いで走って行った。


少し遅れて可憐が音楽室に戻って見ると、悠理は声高らかに歌い、踊っていた。
「ブラボー!いいよ、悠理、昨日までとは別人のようだよ!」
美童が大喜びで手を叩いた。
「へへっ。あたいだって、やれば出来るんだよ。」
悠理は嬉しそうに鼻の下をかいた。
「あ、それから、悠理。実は、昨日までの悠理見てて心配だったから、ちょっと
脚本変えたんだ。僕と魅録も出ることになったから。」
「へっ?」
「つまりね、清四郎の友人役として、僕と魅録が出るの。」
「えーっ、また新しい台詞、覚えんのかよ?」
悠理が顔をしかめた。
513Graduatifon第二話festival!(24):2008/10/04(土) 07:35:08

「いや、増える台詞は僕等のだけだから。悠理はただ黙ってつったって、『有難
う』だけ言えばいいのさ。」
「・・・そんならいいけど。」
「ったく、悠理のせいで、俺が芝居しなきゃならなくなったじゃねえか。」
魅録がやって来て、悠理のほっぺたを軽くつねった。魅録が芝居を本気で嫌がって
いるのを知っていた悠理は、瞬時に申し訳なさそうな顔をした。
「悪かったな、魅録。台詞、多いのか?」
「多くはないけど・・・。これ、本当に言わなきゃいけねーの?」
魅録が情けなさそうな顔で美童を振り向いたが、美童は澄ました顔で言った。
「ここまで言った方が、インパクトあるだろ?」

* * *

文化祭当日はこの上ない晴天であった。聖プレジデント学園の文化祭のチケット
は予め生徒一人一人が申請した分しかなく、それも家族の分を除けば一人3枚
まで、と決まっていたから、その金銭的価値は天井知らずだった。また、普段
屋台での立ち食いを禁止されている生徒達もこの日ばかりは無礼講なので、あ
りとあらゆる種類の屋台が、華やかな飾りつけも目に眩しく、学園の広大の敷
地内を色鮮やかに染め上げていた。

文化祭は中等部と高等部の合同で行われたが、幼稚舎や初等部の生徒たちも多
数遊びに来ており、幼い子ども達が制服姿でうろちょろしている姿は見た目に
も可愛らしく、華を添えていた。初等部の一年生らしい、きりっとした男の子
と三つ編みの女の子が一緒に金魚すくいをしている姿を発見した野梨子は傍ら
の清四郎の袖を思わず引っ張り、夢見るような笑顔で言った。
「見て下さいな。まるで昔のわたくし達のようですわ。」
「・・・そうですね。でも、あの女の子の方が金魚すくいの才能はありそうですよ。」
「まあっ!」
514Graduation第二話festival!(25):2008/10/04(土) 07:37:32

野梨子は顔を真っ赤にした。運動神経のにぶい野梨子はその昔、やはりここの
文化祭で金魚すくいをして、10回も試みたにもかかわらず、結局一匹も取れ
ずに、泣きながら清四郎にわけてもらったのを思い出した。野梨子のセンチメ
ンタリズムはぶつっと途切れ、握っていた清四郎のシャツをぱっと放すと、足を速めた。
「そういえば、わたくし、文化祭実行委員長に用がありましたわ。では、後ほど、また。」

野梨子が静かな怒りのオーラを発しながら去って行こうとした時、手に食べ物
を一杯持ってご満悦の悠理を発見した。
「悠理!」
「あ、ふがほ。」
野梨子に気がつくと、悠理は嬉しそうにぴょんぴょん飛びながら側にやって来た。
右手にフランクフルト、いか焼き、綿菓子、べっ甲アメ、等棒物を持ち、左手
には焼きそばとお好み焼きと磯辺焼きのトレイを持っている。そして腕でベビー
カステラと今川焼きとポップコーンの袋を胸に押し付けて抱えていた。口にく
わえているのは、大きさから考えてどうやらスモモ飴らしい。

「す、すごいですわね。」
野梨子は悠理のこのすさまじい有様に驚愕し、清四郎に対する小さな怒りはす
っ飛んでしまった。
「一人ですか?」
清四郎が聞くと、悠理はフガフガと言いながらやって来た方を指さした。する
と、果たして魅録がこれも食べ物を一杯持ちながら現れた。
「ふー、悠理、やっとたこ焼き買えたぞ。あ、清四郎、野梨子。」
魅録は二人に気が付くと、決まり悪そうに少し顔を赤くした。手には、焼けた
ばかりらしく湯気をたてているたこ焼きと、おでんと、広島風お好み焼きのト
レイを持っていた。
515Graduation第二話festival!(26):2008/10/04(土) 07:40:02

「サンキュー!魅録ちゃん、愛してる!」
スモモの種を出し、やっと話せるようになった悠理が魅録に飛びついた。
「わっ!待てよっ!食い物が服につくだろうがっ。」
「あっ、クレープだ!行くぞっ、魅録!」
「げっ、アホ悠理!もう何にも持てねーよ!」
次の標的を見つけて、走って行く悠理の後を魅録が慌てて追いかけて行った。

再び清四郎と二人になると、野梨子はぷっと吹き出した。
「相変わらずですわね、あの二人。」
しかし、清四郎は顎に手をやり、眉を顰めていた。
「あんなに・・・食べて、大丈夫ですかね、悠理は?」
「いやですわ、清四郎。いつもの事ではないですか。」
「いや、舞台の衣装の事ですよ。悠理が今日着るメインのドレスはコルセット
つきのかなり細身の物だと聞いていましたから。」
「そういえば・・・。」
二人は思わず顔を見合わせた。

案の定、悠理が数々の戦利品を持って生徒会室へ意気揚々と引き上げると、既
に来ていた可憐が血相を変えて怒り出した。
「悠理!あんた、何こんなに食べてんのよっ!これからあんたが着るドレス、
きちきちなのよ、分かってんのっ?!」
しかし、悠理は何処吹く風で答えた。
「大丈夫、大丈夫。昨日のリハでも、全然問題なかったじゃん。あたい、細い
のだけは、自信あるからさ。これ位食ったって、平気だよ。」
516Graduation第二話festival!(27):2008/10/04(土) 07:42:09

「これ位たって・・・。」
可憐はテーブルの上に置かれた、文化祭の屋台全種目制覇の食べ物を見て、げ
んなりした。可憐の怒りの矛先は共犯とみなされた魅録に向けられた。
「魅録、全く、あんたがついていながら、何で止めなかったのよっ!」
「お、俺、知らなかったんだよ。悠理のドレスがそんなにきついなんて・・・。」
魅録は可憐のど迫力に押され、顔をひきつらせながら、両手を振って懸命に弁
明した。可憐はこの二人相手に何を言っても無駄だと判断し、腕を組んで自ら
解決案を考えた。

「仕方ないわね。じゃ、これは全部昼休みに皆で分けて食べましょ。そうすれば丁度いい量だわ。」
可憐が名案を思いついたとして、一人頷いていると、悠理が言った。
「あ、昼飯は五代に頼んどいたから。」
「えっ?」
可憐は再び美しい眉を寄せた。
「五代に、12時に特上うな重6人前ここに持って来るようにって頼んどいたか
ら。だって、あたい、お弁当係りだろ?」
「う〜ん・・・。」
額に手をやり、倒れかけた可憐は、魅録によってかろうじて助けられた。

続く
517名無し草:2008/10/04(土) 07:43:49
>Grajuation
リアルタイム遭遇ラッキーです。
早起きするもんだw
学園祭の様子、はるか過去を思い出してワクワクしました。
続きお待ちしてます。
518名無し草:2008/10/04(土) 09:02:49
>驟雨に叫ぶ
待ってました!
優しすぎるぐらい優しいのにまわりくどい表現しかできない清四郎が愛しいです。
それに対してストレートな可憐がいいですね。やっと可憐らしさを取り戻してくれて
嬉しいです。続き楽しみに待ってます。

>Graduation
学園祭の様子が懐かしくて読んでてわくわくします。
すねてる悠理がかわいい。
はたして舞台はどうなるのか楽しみです。
続きお待ちしています。
519名無し草:2008/10/04(土) 11:25:46
>>Graduation
毎日の楽しみになってますw
ところどころに入る野梨子と清四郎の昔のエピソードが
それっぽくていいな。

ところで驟雨の感想とかはアップされたところに
書いたほうがいいんじゃないかな。
520名無し草:2008/10/04(土) 11:40:45
感想はここでもいいんじゃないかな。
元々このスレに投下したくて投下されてたし。
でも感想を向こうに書きたかったら向こうでもいいし
これは個人の判断でいいんじゃない。
521名無し草:2008/10/04(土) 12:12:15
自分もどっちでもいいと思う。
ただしたらばに感想書く場合は、
投下された長編スレッドではなく、感想専用スレッドに。
522名無し草:2008/10/04(土) 12:41:11
>>519
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/1322/1065614482/1

>Graduation
描写が生き生きしていていいですねー。
悠理にイライザのマーメイドなドレスはすっごく似合いそう。
清四郎の言動がパピィ入ってて笑えます。
523名無し草:2008/10/04(土) 12:48:03
新しい作家さんが来てくれたから、何気なくお約束読んでたんだけどさ。

>>3のところに、
「最終レスがわかりやすいように、”完”や”続く”あるいはそれに類似した表記をしてください」
って入れた方がいいなじゃないかな。
暗黙の了解になってるし。

あと新しい作家さんのために、1レスの容量制限も織り込むと親切かもしれない。
自分も経験あるんだけど、投下中に
何回も「改行が多すぎます!」だの「本文が長すぎます!」だのエラーメッセージが出まくって
焦ったことがあったから。

まあお約束増やしすぎるとわずらわしいかもしれないけど、一意見として。


あと
「他スレの迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。」
ってなってるけど、
このスレの>>1って普通に10行越してるよね。
前スレも含めて。

スレ引越し前に書くべきだろうと思ったけど、
なんか忘れそうなので書いてみた。
524名無し草:2008/10/04(土) 13:15:20
病因や此れ板の投下がないのは、秋と同じようにどっちも規制中だったりして。

ところで携帯からの書き込みの人も規制中だったり?
このスレじゃ携帯は結構珍しいから。
525名無し草:2008/10/04(土) 13:17:01
誤爆
526名無し草:2008/10/04(土) 13:40:02
527名無し草:2008/10/04(土) 15:50:59
>Graduation
食べ物いっぱい持ってる悠理可愛いですね。
幼い頃の清四郎や野梨子も。
本当に昔の文化祭が蘇ってきそうな楽しげな様子が
うらやましくなりました。
528Graduation:2008/10/05(日) 08:11:40
>>510 今回5or6レスいただきます。
529Graduation第二話festival!(28):2008/10/05(日) 08:14:17

有閑倶楽部の出番は午後の最終回だったので、午前中は皆、各クラスの出し物
の手伝いをしたり、校内を回ったりした後、昼に全員生徒会室に集まって、最
後の打ち合わせをした。文化祭は大盛況だったが、午後も時間が押してくるに
従って、異様な雰囲気が全体を包み始めていた。生徒達は皆、「有閑歌劇団」を
心待ちにしており、仕事が手につかない生徒も大勢いた。混乱を避ける為、大
講堂の観客席は予め抽選で座席ナンバーまで決められていたが、抽選に漏れた
生徒たちの要請にこたえて、「映像研究会」が自主的に舞台を小型テレビカメラ
で撮り、それを外に設置したスクリーンに映し出すということになっていた。

開場一時間前から、大講堂前は席が決まっているにもかかわらず、待ちきれな
い生徒たちが行列を作っていた。どこでどうしたのか、一部の熱狂的なファン
たちは、それぞれ「菊正宗」「松竹梅」「紅蘭磨丹江」「剣菱」「白鹿」「黄桜」と
黒黒と書かれたお揃いのハチマキとハッピを身に着けていた。ちなみに、生地
の色は、菊正宗が紫、松竹梅が緑、紅蘭摩丹江が青、剣菱が赤、白鹿が白、そ
して黄桜が金であった。

「アイ・ラブ、アイ・ラブ、アイ・ラブ・ユウリ、ハイッ。」
お揃いの振り付けの練習をしているグループもあった。

「ペンライトは持っていらっしゃいました?」
「いけない、忘れてしまいましたわ。どうしましょう?」
「あそこで、無料貸し出しされてますわよ。まだ間に合いますわ。」

「こ、こういう格好、初めてだけど・・・、思ったより、楽しいな。」
「う、うん。皆でやると恥ずかしくないもんだね。」
「さあ、練習しよう。か、れ、ん―!」
「負けるもんか!の、り、こ―!」
「・・・楽しいな。」
「・・・楽しいね。」
530Graduation第二話festival!(29):2008/10/05(日) 08:16:31

開演30分前。ついに、大講堂が開場された。
「キャー!」
席は決まっているにも拘らず、生徒たちは日頃のお行儀の良さはどこへやら、
文字通り、会場になだれ込んだ。
「きゃあ、何をなさるの!」
「押さないで下さいませっ!」
「そちらこそ、早くおどきになって!」
「メ・・・メガネ、メガネ・・・。」
これまた、どこでどう話をつけたものやら、会場の後部座席は見事に六つの色
に分かれていた。

「すげー騒ぎだな。」
幕の後ろから覗き見ていた魅録がごくりと唾を飲んだ。その下から覗いていた
悠理が顔を抑えた。
「うわっ、父ちゃんと母ちゃん、もう来てっぞ!」
「俺の親父とおふくろも・・・。」
貴賓席のど真ん中に、剣菱万作と百合子。その隣に松竹梅時宗と千秋が、もの
すごいオーラを放って座っていた。

「悠理が『マイ・フェア・レディ』の主役だなんて、本当に女の子に産んだか
いがありましたわ。」
百合子は悠理がオードリー・ヘップバーンの役をやるのが嬉しくてたまらない
らしく、扇子を振りながら満面の笑みである。
「何だがや?母ちゃんがさっきから言ってる、そのマイ・フェ・・・フェ・・・?」
531Graduation第二話festival!(30):2008/10/05(日) 08:18:35

一方時宗は千秋の真っ赤な胸元の開いた服が気になってたまらないらしい。
「千秋ちゃん・・・、やっぱり、その服、ちょっと派手じゃないかい?ちょっ
とな、ちょっと・・・。」
案の定、千秋はじろりと時宗を睨んだ。
「ふん。魅録がピアノを弾くっていうから、わざわざミラノから戻って来たの
よ。せっかく今回はしばらく東京にいようと思ってたのに・・・。ぐだぐだ言
うと、またどっか行っちゃうからね。」
「ち、千秋ちゃ〜ん・・・ぐすん。」

剣菱&松竹梅夫妻の前列には、菊正宗家と白鹿家が勢ぞろいで、家族ぐるみで
仲良く談笑していた。
野梨子が清四郎の腕を引っ張った。
「お父様、来られてますわよ。」
「ふむ。仕事でどうなるか分からないとは言ってましたが・・・。あっ!姉貴
まで来てる!」
和子を発見するや否や、清四郎の顔が一瞬青くなった。

(うう・・・。姉貴のことだ、帰ったら、ああだこうだと笑いのネタにされる
に違いない。正直、突っ込みどころは満載ですし。)
一方、和子は思っていた。
(ふーん、この講堂も懐かしいわねえ。あたしも昔は生徒会長としてしょっちゅう
ここの壇上に上ったものだわ。清四郎が卒業したら、しばらくはここへ来る機
会もないわね。それにしても、あいつ、意外と人気あるのね。あんな難しい男
のどこがいいんだろう?知らぬが仏ってやつだわ。あとで思いっきりからかって
やろっと!)
532Graduation第二話festival!(31):2008/10/05(日) 08:20:15

剣菱&松竹梅夫妻の後列には、グランマニエ家がこれまた特別のオーラを放って
座っていた。インターナショナルスクールの制服である、エンブレム付きの紺
色のブレザーを着た杏樹の所へは、ひっきりなしに中等部の女性徒がやって来
ていたし、ヴィヨン氏は、さすがに真理子夫人が隣にいるので表立ってはいな
いものの、美しく着飾った妙齢のご婦人たちからの熱い視線を存分に楽しんでいた。

(ううっ、杏樹、僕のファンをとるなよーっ!)
幕をにぎりしめながら美童がわなわなと震えていると、可憐が後ろから
「あっ」
と声を上げた。
「どうしたの、可憐?」
「東郷氏が・・・来てる・・・。」
可憐は瞬きもせず、じっと貴賓席を見つめていた。
東郷がこの時期にちょうど東京に来ているとこは知っていたのだが、何しろ忙
しい彼のことだ、一応チケットは送ったものの、来てもらえるとは到底期待し
ていなかった。しかし、今、母と連れ立って、ロマンスグレーの、品の良い、
どこか日本人離れした紳士が、グランマニエ一家と挨拶をかわし、その隣に座っていた。
「素敵な方ですわね。それに、おば様、とっても綺麗になりましたわ・・・。」
野梨子が感嘆した。
「良かったね、可憐。」
美童がそっと、可憐の肩に手をかけた。
「うん・・・。」
可憐はそっと人差し指で涙をぬぐった。

「って、待てよ。あれ見ろ、悠理。」
魅録がぎょっとしたように悠理に言った。東郷氏に気が付いた百合子と千秋が
後ろを振り向いて興奮して何かを話している。周囲はびっくりしてそれを見ていた。
「・・・ドレスの注文してんだよ、ありゃ。」
「・・・ああ。」
悠理と魅録は顔を見合わせてがっくりうな垂れた。
533Graduation第二話festival!(32):2008/10/05(日) 08:26:14

ついに、幕が開いた。
舞台は真っ暗。
そこへ、ぱっと、スポットライトが一つついた。照らし出されたのは、グラン
ドピアノに座る黒い燕尾服姿の魅録。
「きゃ―っ、松竹梅さま―っ!」

続いて、パッと舞台の反対側にスポットライト。チェロを抱えて座っている美
童が、金髪をさらりとかきあげた。やはり黒の燕尾服を着ている。
「きゃ―っ、美童さま―っ!」

そこへ、スポットライトと共に黒の燕尾服を着た清四郎が舞台のそでから現れ
て、中央に進み、台に上がると、タクトをふって、魅録と美童をたたせ、それ
から三人で会場に礼をした。
「ぎゃ―っ、菊正宗さま―っ!」

その後、清四郎の指揮に合わせて、魅録と美童が演奏を始めると、パッと舞台
全体が明るくなった。舞台の正面には、演劇部から借りた宝塚ばりの大階段が
設置されており、その一番上に、黒い燕尾服とシルクハットを身に着け、ステッキ
を持った悠理が両手を上げて飛び出して来た。


534Graduation第二話festival!(33):2008/10/05(日) 08:28:43

「きゃ―っ、悠理さま―っ!」
そこへ、左右から野梨子と可憐が現れて、悠理をはさむようにして立った。
二人は、お揃いの黄色い袖なしのドレスを着ていて、腕には長い同色の手袋を
はめていた。膝下までのたスカート部分にはパニエがたっぷり入ってふんわり
と膨らんでおり、下ろした髪には幅広の黄色いリボンを下からぐるりと巻いて、
トップで大きな蝶結びにしてあった。
「か、れ、ん! か、れ、ん!」
「の、り、こ!の、り、こ!」

三人は、悠理が両脇の二人の腰に手を添えるようにして大階段を降りて来た。
真ん中にスタンドマイクが二つ用意してあり、可憐と野梨子が振り付けを入れ
て「恋のバカンス」を歌い出した。悠理はそのまま一人下まで降りてきて、舞
台中央のスタンドマイクに走り、シルクハットを振って、大声で叫んだ。

「今日はみんな来てくれてどうも有難うっ!!あたいたちも頑張っから、みん
な楽しんで行ってくれ―っ!」
「ぎゃ―っ!!」
続く
535Graduation:2008/10/05(日) 08:32:00
作者です。舞台のオープニングで魅録と美童の演奏する曲でこれ!
というのが浮かびませんでした。
宜しかったら、皆さんのお好みの曲で妄想して下さい。
536名無し草:2008/10/05(日) 10:18:16
>Graduation
詳しい描写で学園祭の様子がよくわかります。
普段おしとやかで上品な生徒たちがはめをはずすのがおもしろかったです。
悠理の変身ぶりが楽しみ!
続き楽しみに待ってます。

537名無し草:2008/10/05(日) 11:19:44
>Graduation
毎日お疲れさまです。さくさく読めて快適です。

ファンのハッピのカラー分けがそれらしいな〜。
和子さんが生徒会長っていうのも、らしいですね。
文化祭の様子は絵や漫画でみてみたいと思いました。
衣装やパフォーマンスが華やかで眼福だろうな〜。
538名無し草:2008/10/05(日) 20:32:13
>Graduation
今回なんだか賑やかですね。メンバーを応援する生徒達が激しいw
悠理の楽しんでってくれーは、読んでる側も何を見せてくれるのか楽しみですw
次回もお待ちしています。
539名無し草:2008/10/06(月) 15:19:13
>Graduation
文才ない。
今時「!マーク」を二つ以上つけるとか馬鹿でしょ。
こんな文章、毎日よく飽きずに投下できるね。尊敬するよ。
540名無し草:2008/10/06(月) 15:35:39
KYが
541NAIVE:2008/10/06(月) 20:13:10
短編です。魅*悠ですがあまり二人の絡みはありません。
3レスほどです。
542NAIVE 1:2008/10/06(月) 20:14:26
こんなにも切ないのは、自分だけじゃない。
季節の移り変わりも、そして変わっていく自分達も。
変わらないままでいたいという思いと、変わりたいと思う矛盾した思い。
実際に時は容赦なく過ぎていくのだ。
出先でみかけた、ひねた眼をした少年がいた。
彼の、その純粋そうな、そしてそれをひた隠すようにわざとひねたような眼をしてる所が、
なぜか無性に自分の胸をついて心から離れない。
あぁ、そうだ。
俺はとっくに少年という年齢じゃない。
だから、彼に目がいってしまったんだろう。
もう戻れない時間に生きている彼に。

そんなことを思うのは親父の証拠だと悠理は笑うだろうか。
今日は久々にみんなが集まる。
個々では会ってたりはするものの、6人全員が集まるのは久しぶりだ。
半年振りだろうか。
いや、1年ぶりか。
可憐や野梨子は元気だろうか。
清四郎は2か月前にあったが、相変わらず忙しそうだった。
美童が一番会ってないな。まぁ奴は自国に帰ってしまったんだから当然か。
少年の、ひねた眼を思い出す。
あの頃が一番だった、とは言わないが彼の眼は確実に俺を郷愁の思いに誘った。
一体どうしたんだ、俺。
軽く頭をこづく。
約束の時間が近づく。少し足早になった時に野梨子の声が聞こえた。
「魅録じゃありませんの?」
振り向くと野梨子がほんの少し早足になって俺のほうに駆けてきた。
「久しぶりだな、野梨子。」
「本当に久しぶりですわ。魅録も元気そうですわね。もしかして、同じ電車でしたのかしら?
もう少し早くに着く予定で家を出たのですけど、渋滞にはまってしまって。途中で降りて電車で来ましたの。」
「大変だったな、今日は首都高ででかい事故があったからその影響だろ」
「運転手さんもそう言ってましたわ。」
543NAIVE 2:2008/10/06(月) 20:15:23
ふ、と心の中で何かが緩む音がした。かたく張りつめた糸が緩むような、スポンジに水が吸い込むような。
「おめでとうございます、魅録」
野梨子が微笑んで言う。俺は軽く頷く。
店のドアを開けるとき、俺は少し躊躇した。野梨子はそれを良心的に解釈をしたようだ。
「緊張してるんですの?」と、野梨子が悪戯っぽい顔して言ったからだ。
苦笑いをしてドアを開ける。
「おっせぇよ、魅録」
もう一人の今日の主役である、悠理が俺に蹴りを入れてきた。
「おめでとう!魅録、悠理」4人が口々に言う。
俺と悠理は顔を見合わせてから4人の顔を見る。照れてるのか悠理はいつも以上に乱暴で、
しかも今の段階でもかなり酔っ払ってそうだ。
「悠理を扱えるのは魅録か清四郎だけだと思ってたよ」
そう言って美童は笑った。清四郎は少しばつの悪い顔をしていた。あの婚約騒動でも思い出してるのだろうか。
「ねぇねぇ、どっちがプロポーズしたの?やっぱり魅録からよね?あの子ったらそ〜ゆ〜色っぽい話、一切しないんだもん。」
可憐が女性レポーター顔負けに身を乗り出して聞いてきた。
「え・と」
俺が何を言おうか考えてる間に、口を開いたのは悠理だった。
「あたいからだよ。」
酔っぱらってるように見えたのに、口調は意外としっかりとしていた。
「え?あら、そうでしたの?」
野梨子も意外そうな顔をして俺を見る。
「え〜、ダメじゃん魅録!相手がいくら悠理だからって!女性には優しくエスコートしなくちゃ」
美童が素っ頓狂な声を出して俺を抗議する。
「いいんだよ、美童。あたいが突然言ったの。魅録と結婚したいって。」
そうなのだ。
つきあってもいないのに、2か月前、ツーリングの帰りに突然脈絡もなく悠理が俺にプロポーズしてきたのだ。
魅録と結婚したい、と。たぶん、あの時の俺は鳩が豆鉄砲でもくらったかのような顔をしていただろう。
悠理は、あのアイス食べようぜ、という感じのままでその台詞を言ったのだ。
「ツーリングしていて、楽しくて。この楽しいのが続くといいなって思ったんだよ。んなら、結婚すりゃいいじゃんってことになっただけだよ。」
「おい、それって魅録の気持ちは無視かい!」
可憐や野梨子が一瞬同情したような眼をして俺を見る。
「だって、イヤだったら断ればいいんじゃん」
544NAIVE 3:2008/10/06(月) 20:17:14
美童と悠理は漫才のようになっている。
俺はそれを横目で苦笑いしながら見ていた。
バーボンを口に含むと同時に清四郎が肩を叩いた。
「おめでとうございます、魅録」
2か月前、このことを一番に相談したのは他でもない清四郎だった。
一瞬驚いた顔をしたものの、清四郎はいいキッカケじゃないですか、と笑って言ったのだ。
そう、いいキッカケだったのだ。
猫のようにまとわりついていた悠理を愛しいと思っていたのは事実だった。
俺はずっと動けないでいた。何かが変わるような気がして。
実際は、何も変わらなかったのだが。
ストン、と何かが入った。
俺は、動けなかった情けない自分が嫌だったのだ。何かが変わるかもと怯えてた自分が。
あぁ。俺は清四郎の顔を見て言った。
「ありがとう。清四郎。」
立ち上がり、グラスをチンチンと鳴らす。5人の視線が俺に集中する。
「今日は俺達の婚約祝いのために集まってくれてありがとう。俺は悠理を幸せにするから、皆、よろしく」
今まで積極的な言葉を悠理にしてきてなかったものだから、突然の宣誓に婚約者である悠理が一番キョトンとした顔をしていた。
そして大輪のひまわりのような笑顔で抱きついてきた。
「魅録ちゃん、愛してる〜」
そのあとは、飲んで歌っての大宴会だった。
場所を移して飲んで寝て。まるで学生時代に戻ったかのような錯覚に陥る。
あの、ひねた眼をした少年を思い出す。
子供だったのは、俺のほうだったのかもしれない。
目の前にきた幸せを、素直に喜べなかった自分。
きっかけを探してたのは自分だったのに。
あの頃の幸せとは違う、今の幸せを俺は初めて心から喜べた。
昔と同じように雑魚寝しているみんなの寝姿を見ながら、
俺は突然のプロポーズいらい初めての安らかな眠りについた。

終わり
545名無し草:2008/10/06(月) 20:50:23
>NAIVE
悠理からのプロポーズが新鮮でいいですね。
魅録視点がおもしろかったです。

546名無し草:2008/10/07(火) 00:47:29
近頃投下が無いみたいですが、イラストを描いたので投下させてください。
Graduationの金魚が取れなかった小話が可愛かったので、
ストーリーとは直接関係はありませんが、小道具で使わさせてもらいました。
イラストは単体の野梨子です。苦手な方はスルーお願いします。

ttp://cbbs1.net4u.org/sr4_bbs_img/11881yukan2ch/28_1.jpg

***嵐さん、妄想同好会へこれは載せないでください、お願いします***
547名無し草:2008/10/07(火) 00:50:33
>>546
うまー!いいもん見させてもらった、ありがとー
548Graduation:2008/10/07(火) 09:58:48

>>529 今回、5レスいただきます。

いきなりの連続投下でしたので、スルーされたい方々の中には、目障りに
思われた方もいらっしゃったかもしれませんね。(第二話がまた特別長かったので。)
「!」の使用法については勉強させて頂きました。気になる方は気になります
よね。この手の掟破りは多々やってしまっていると思いますので(馬鹿という
より無知の為)、不快に思われる方はお手数ですが、スルーお願い致します。

また、自分の拙い文章にもかかわらず、暖かいレスを下さる方々には、いつも
とても嬉しく、励まされており、感謝しておりますこと、ここに御礼申し上げます。

>>546
作品の小話を小道具に使ってもらって、本当に嬉しく思います。
ただ、非常に残念な事に、何故かイラスト画面を開くことが出来ません!
よって、今の時点で感想を書けなくてごめんなさい。素敵なイラスト
との事、是非拝見したいので、もう少し色々試してみます。
549Graduation第二話festival!(34):2008/10/07(火) 10:00:54

第一部『True Love』
幕が開く。

第一場面
大階段の上部に、燕尾服のままで片手を胸に、片手に赤いバラを手にしている
清四郎、魅録、美童が片膝を立てた状態で座っている。
と、階段の最上段に、モンローそっくりの、光沢のある濃いピンク色の、肩の
ない、体にぴったりしたドレスをまとい、肘の上まである同色の手袋と豪華な
ダイヤモンドの首飾りをつけた可憐が、扇子を持って現れる。
映画「紳士は金髪がお好き」の『diamonds are girl’s best friend』の曲が流れ
る中、可憐は男性陣を上から見下ろしながら、にやりと笑った。

(ぞくっ。)
三人は嫌な予感に襲われたが、そこは舞台の上。予定通り皆彼女に赤いバラを
ささげる。果たして可憐はまず、一番先頭にいた清四郎の頭を
「No!」
と言いながら、閉じた扇子で思いっきりバシッと叩いた。
(可憐! れ、練習の時よりずっと痛いじゃないですか・・・。)
(あー、いい気もちっ。こんな事できるの最初で最後だもんね。)
可憐は心の中で舌を出しながら、続いて、魅録の頭をバシッと叩いた。
(てっ!可憐のやつ〜、舞台の上だと思って・・・。)
(か、可憐・・・僕には優しくしてくれるよね?)
可憐はわなわな震えている美童に優しく微笑んだ。
(最近、美童にはお世話になってるから、本当は見逃してあげたいんだけど、
一人だけ特別っていうのもね。)
次の瞬間、
「No!」
という掛け声とともに扇子は無常にも美童の金髪に振り下ろされた。
550Graduation第二話festival!(35):2008/10/07(火) 10:02:21

曲がボーカル部分に入ると、可憐は歌って踊りながら、セクシーポーズのサー
ビスを存分に入れて、階段を一段一段下りて来る。途中、男性陣が何度も先回
りして求愛しては、何よりもダイヤモンドが好きな可憐に再び振られるという
構図である。可憐はのりまくっており、本物のモンロー顔負けに愛嬌と茶目っ
気たっぷりに健康なお色気を振りまいたので、会場は男女を問わず、その華や
かな魅力に陶酔した。ちゃっかり屋の可憐は、歌の途中、宝石店の名を連呼する
箇所で「ジュエリー・アキ」の名を入れる事をもちろん忘れなかった。

第二場面
舞台の照明がぱっと落ちた後、今度は薄ピンクの照明の下、階段の中央に腰を
下ろしている可憐の膝に、少し下段に片膝をついた美童が頭を持たせ掛けてい
る。映画「お熱いのがお好き」から『I wanna be love by you』を、可憐が美童
の頬を両手ではさみ、お互いの鼻と鼻がくっつく程に接近させて歌い出す。目
を半ば閉じ、口を横開きにして、ねっとりと、からみつくように、甘い吐息混
じりに歌う可憐が、時折美童の長い金髪を手で優しくかき乱すと、客席からは
声にならないため息が漏れた。ダイヤモンドしか興味がなかった可憐はついに
本当の恋をしたらしい。

第三場面。
照明が明るくなり、可憐は美童の手をとり、二人は踊り出す。『tonight I
celebrate my love for you』の曲が流れる中、社交ダンス部の二人はここぞとば
かりに華麗なステップを踏む。そして終盤。ついに可憐は美童からの赤いバラ
をついに受け取り、髪にさし、真実の愛を勝ち得た喜びに顔を輝かせ、首から
ダイヤモンドのネックレスを引きちぎると、それを思いっきり放り投げた。
幕。
551Graduation第二話festival!(36):2008/10/07(火) 10:04:09

「ブラボー!」
大歓声の中、ひときわ大きな喝采が貴賓席から湧き上がった。東郷氏とヴィヨ
ン氏が共に立ち上がって、手を叩きながら「ブラボー」を連呼していた。
「可憐は全く素晴らしい!彼女がパリに来たら直ぐに社交界デビューだ。マスコミが放っておかないよ。パパラッチに狙われるのを覚悟しておくんだね。」
東郷氏は手放しで喜びながら、隣の婚約者にウインクした。
一方ヴィヨン氏も満足そうに顎を撫でていた。
「う〜ん、美童くん、やりますね。しかし、ああ、できるものなら僕が代わり
たいものだ・・・。」
杏樹くんは自分なりの楽しみ方を見つけていた。
「けっ。そりゃ、兄貴がダンスが上手なのはみとめっけど。・・・それより、可
憐さん、色っぽかったなー・・・。」

その頃、楽屋では、丁度野梨子が身づくろいを終えたところだった。
トントン。
「野梨子、用意はいいか?」
「ええ。」
魅録の呼びかけに、野梨子が扉を開けて出て行った。
「・・・!」

野梨子は自前の白い着物に白い帯を緩やかに締め、髪を耳の前に少し残して後
ろを首の付け根で一つにたばね、そこに長いつけ毛をつけて根元に大きな白い
リボンをつけていた。小作りな顔全体に白粉をはたき、眉と目の周りはくっき
りと黒く、目元と頬には薄っすらと紅をはき、そして唇は小さく、しかし鮮や
かな真紅に塗られていた。頭から透ける薄物をベールのようにかけている儚げ
なその姿は、そこにたたずんでいるだけで、月の精を彷彿させていた。普段か
ら魅録にしてみれば、着物をまとった野梨子は侵しがたい気品さが勝り、少し
近寄り難い感があったのだが、今は、野梨子のその現実離れした怪しい美しさ
と、予想を上回る圧倒的な存在感に、一瞬言葉を忘れてしまった。
552Graduation第二話festival!(37):2008/10/07(火) 10:06:19

「どうしました?」
魅録は野梨子の言葉に我に返った。
(いけねえ、いけねえ。俺がしっかりしなくてどうすんだよ。)
魅録は落ち着きを取り戻すと、正面から野梨子の目をしっかりと見ながら、真
面目な顔で言った。
「文化祭の練習、俺、すげー楽しかったよ。野梨子と一緒にやれて良かったと
思ってる。」
「わたくしも・・・。」
「これで、最後だ。思いっきりやろうぜ。」
「ええ。」
(最後・・・。)
ちくり。野梨子の胸にかすかな痛みが走ったが、今はそれについて考えている
時間はなかった。
二人は頷きあい、舞台の上手と下手に分かれて行った。

第二部『Moon Light』
幕が開く。

幻想的な青白い照明の中、どこからともなく、ピアノの音が聞こえてくる。曲
は『月の光』。初め小さく、段々大きくなってくる音色。スポットライトが舞台
をあちらこちら探した末に、グランドピアノを弾いている魅録を映し出す。舞
台は森の情景で、空には満月が浮かんでいる。
と、そこへ、ピアノの音色に誘われた一人の月の精が真っ白い着物に身を包み、
頭上でベールをたなびかせながら現れる。満月と自分の誕生日が重なった日だ
け、特別に地上に降りることが許されるのだ。
553Graduation第二話festival!(38):2008/10/07(火) 10:07:50

初めはおっかなびっくり、ベールで顔を覆いながら慎重に地上を歩き回ってい
た月の精。やがて慣れて来ると、この初めての冒険を楽しみ出し、ベールを取
って、今度は扇を使って明るくのびやかに舞い始める。
途中、ふと見かけた人間の男性に恋をする。初恋の喜びに胸ときめかし、思い
のたけ一杯に力強く舞う。しかし夜が明ければ月の精は月に帰らなければなら
ない。もう一生彼に会うことはないだろう。
舞台が明るくなって来る。もうすぐ夜明けだ。月の精は自分のベールをふわり
とピアノに飛ばし、そして美しい思い出を胸に静かに月へと帰って行った。


しーん・・・。
パチ、パチ・・・。
徐々に起こった拍手はついには嵐のようになった。
「う、美しかったですわね・・・。」
「ええ。ピアノの調べと舞が一体となって・・・まるでこの世のものとは思わ
れない幽玄の世界でしたわ。」
「忘れていた何かこう・・・純粋なものを思い出しましたわね・・・。」
すすり泣いている女性も少なくなかった。

が、そんなしっとりとした雰囲気の中、貴賓席では一人気を吐いている男がいた。
「でかした!魅録、さすがわしの息子だわい!がっはっはっ!」
(・・・ブラボーとか言えないのかしら、この親父。それにしても、やるじゃ
ない、魅録。あーあ、青春っていいわねえ・・・。)

一方、野梨子の両親は静かに手を叩いていた。
「あなた、今日の野梨子はどこかいつもと違うとお思いになりませんでした?」
「うむ・・・。」
芸術家である清洲の目が何かを見透かすようにきらりと光った。
                              続く
554名無し草:2008/10/07(火) 13:30:41
>>546
素敵なイラスト、ありがとうございます。
この金魚も清四郎にとってもらったのか、それとも魅録?と考えて萌えました。

>Graduation
女王様な可憐、かっこよかったですw
可憐も野梨子も個性を生かしててさすがの舞台ですね。
第三部も楽しみに待ってます。

あと、荒らしはスルーしたほうがいいですよ。
続けて読めて楽しませて頂いてます。
555名無し草:2008/10/07(火) 14:30:39
>NAIVE
自分の心に素直な悠理が可愛かったです。
こんな風に自然に結婚できたら幸せだろうな。
556名無し草:2008/10/07(火) 16:40:30
>546
素敵でした……!
可愛いですねー。
たまに投下してくれるとうれしいです。
557名無し草:2008/10/07(火) 18:35:04
>イラスト
野梨子可愛い〜。
素敵な絵をありがとうございます!
558名無し草:2008/10/07(火) 19:09:53
>Graduation
毎回美しい文章に目を奪われています。
恋愛とはまだ程遠いところにいる6人がじれったいですがw
festivalが終われば変わるのかな?
続き期待しています。
559名無し草:2008/10/07(火) 21:40:53
>NAIVE
悠理のプロポーズはそれとなく天然で言いそうだと思っていました。
魅録と幸せになってほしいです。

>イラスト
絵はめずらしい〜。
夏祭り後の野梨子みたいですね。
カプでも見たいな。

>Graduation
舞台のようすが分かりやすかったです!
野梨子の佇まいもうまくて浮かんでくるようでした。
560Graduation:2008/10/08(水) 10:11:27
>>549 今回7レスいただきます。加筆したので、結局45レスになりました。
今後、第三話autumn wind、第四話beside her、第五話date、第六話タイトル
未定、第七話seesaw game、第八話eve、第九話タイトル未定、第十話storm
第十一話last dance、最終話graduationと続く予定です。(あくまで予定。)
こう書くとボリュームがありそうですが、いずれもそんなに長い話ではないです。
(小話もありますし。)
561Graduation第二話festival!(39):2008/10/08(水) 10:16:05
第三部『My Fair Lady』
幕が上がる。

第一幕
汚いぼろぼろの服に身を包み、顔にも思いっきりススを塗った悠理が、花を売っている。
「えー、花はいらないかー。綺麗な花だぞー。一本100円だぞー。ちぇっ、
誰も見向きもしねえや。」
そこへ、灰色のフロックコートを着て、ステッキを持った清四郎が現れる。
「ふむ、これは面白い。ちと実験してみよう。君、君、名は何という?」
「何だ、てめえは。あたいの名は、イライザってんだよ。それがどうした?」
「イライザとやら、私が君を素晴らしいレディに変身させてあげよう。しばら
く、私の家に来て暮らすがいい。空いている部屋を使いなさい。」
「けっ!レディになんか、なりたくないやい!薄気味悪い野郎だな〜。あっち行け!」
悠理は思いっきり顔をしかめて、舌を出して見せる。
(いいですよ。悠理。思いっきり下品にやって下さい。今が下品なら下品であ
るほど、変身後が引き立ちますから。)
「私の家にきたら、毎日素晴らしいご馳走が食べられますよ?」
「えっ?食い物?行く行く、絶対行く―っ!」

幕の後ろでは野梨子と可憐が頷き合っていた。
「何回見ても・・・演技とは思えませんわね。」
「全部、地よぉ。」

客席では、万作が百合子に囁いていた。
「母ちゃん・・・わし、ちょっと恥ずかしいだがや。」
「ほほほ。私、この話は全部知っていますわ。最後までご覧になって。」
という剣菱夫人の扇子を持つ手もふるふると震えていた。
562Graduation第二話festival!(40):2008/10/08(水) 10:18:56

第二幕
舞台では、ヒギンズ教授のレディ教育が始まる。教授の友人役の美童と魅録が
舞台袖から覗いている。
「ひどいな、ありゃ。あれでも女か?」
「ヒギンズの気まぐれにもあきれたものだ。」
「フフ。見ていなさい。このイライザを、君たちが思わず結婚を申し込みたく
なるような素晴らしいレディにして見せますよ。」

楽屋では、悠理の最初の衣装替えが行われた。顔のススを落として真っ白なレ
ースつきのネグリジェに着替えた悠理は、いかにもこざっぱりと、可愛く見えた。
「ヒギンズ教授への初恋に気が付いた、夢見る乙女になって踊ってらっしゃい!」

第三幕
可憐にそう送り出された悠理は、『I could have danced all night』を舞台全体を
使って思いっきり歌って踊った。この場面は今回の舞台の中で唯一悠理の気に
入っている部分なので、彼女の本来の太陽のような正のエネルギーがほとばしり、輝いた。

「母ちゃん、ちょっとましになって来ただ。」
「まだまだ、見せ場は最後ですわよ。」

最後の衣装は演劇部から借りた物で、映画でオードリー・ヘップバーンが着て
いる白黒ストライプのドレスをそっくり模したものであった。
「ぐえっ・・・、き、きついよっ!」
可憐は目を吊り上げた。
「だから言ったじゃない!食べすぎだって!絶対着てもらいますからねっ!」
「昨日は余裕で入りましたのにね・・・。やはり、今日の屋台食が・・・。」
野梨子は半ば同情するような顔を見せたが、しかし、どうあっても悠理にはこ
のドレスを着てもらわねばならなかった。
可憐と野梨子が顔を赤くしてぎゅうぎゅうコルセットを締め付けた。
「お・・・鬼・・・。」
563Graduation第二話festival!(41):2008/10/08(水) 10:21:30

ドレスに合わせて、今回は化粧も入念に行われた。
「ひー、こんなに塗るのかよ!?臭いよ、勘弁してくれよ―!」
「リハーサルの時逃げるから、こういう事になるのよ!動かないで、マスカラ
が上手くぬれないじゃない!」
「こんなん、二回も出来るかよ!一回で沢山だ!」

第四幕
ヒギンズ教授とその友人二人が歩いている所に、レディに変身したイライザが現れる。
可憐の手により、完璧な化粧を施されたイライザは、白黒ストライプの大きな
リボンのついた、体の線が全て出るようなマーメイドラインの白いドレスをま
とい、これまた大きなリボンと羽飾りのついた巨大な白黒ストライプの帽子を
かぶって白いパラソルを持っている。その華やかな艶姿は、オードリーをも上
回る程のインパクトがあった。

「おおっ!」。
会場の大きなどよめきをキャッチした清四郎は心の中でガッツポーズをとった。
(フフ・・・。これでこの芝居は成功ですね!)

「か、母ちゃん・・・。あれは悠理だがや?」
「そうですわ!まあ、なんて綺麗・・・。さすが私の娘!」

豪華なドレスに身を包み、フルメークをしたイライザは確かに美しかった。コ
ルセットとタイトなスカートにより、身動きが取れないため、おぼつかない足
取りで頼りなく歩いてくる姿は、まさしく貴婦人めいていた。
友人二人は足を止めた。
「あ、あの美しい貴婦人はどなたですかっ?」
「しょ、紹介して下さいっ!」
二人はイライザの左右に分かれると、それぞれ、膝をついて片手を取りながら言った。
564Graduation第二話festival!(42):2008/10/08(水) 10:26:29

「おお、あなたのように美しい女性は見たこともない。あなたこそ、僕の理想
の女性だ。僕と結婚して下さい!」
と美童。イライザの目を切なげにうっとりと見つめ、金髪をさらりとかき上げ
る姿は絵になった。
しかし魅録は往生際が悪かった。
(ちぇっ、美童の奴、良くこんな臭い台詞言えるな・・・。相手は悠理だぜ?
ああ、もうやぶれかぶれだ!)
「おお、あなたこそ、僕のずっと捜し求めていた永遠の美女だ。やっと見つけ
た。僕と結婚して下さい。一生幸せにします!」
魅録が目を瞑って少しぶっきらぼうに一気に台詞を言った。
(ふー、やれやれ、これで終わった。ん?次は悠理の台詞じゃなかったか?
何やってんだ、こいつ?)
魅録が怪訝な顔で目を開けると、果たして、悠理は固まっていた。

「悠理、台詞、台詞・・・!」
美童と魅録がつっつきながら小声でささやくが、悠理は微動だにしなかった。
清四郎がさっとやって来て、悠理の腰を抱くと、手をあげて勝ち誇ったように言った。
「ふふふ。私の大切な友人たちよ。実はこの貴婦人こそ、君たちが最初笑って
いたあのイライザなのだ・・・!」
清四郎は、何とかごまかして幕を一旦引かせた。

「どうしたんですか、悠理、大丈夫ですか?!」
パチパチと悠理のほっぺたを叩くと、悠理はやっと現実に戻った。
「あっ・・ああ・・・。あたい、ごめん・・・。」
「まあ、真っ赤よ。コルセットがきつすぎるんじゃない?自業自得とはいえ
可哀想ね。少し緩めてあげる。一応ドレスは着られるわね。だけど、
コルセットしてないとドレスに負担がかかるから、あんまり激しい動きはしないでね。」
可憐がコルセットを緩めると、悠理ははーっと息を吸った。
「ああ、生き返るよ。死んじまうかと思った。じゃ、行ってくる。」
悠理は元気を取り戻し、舞台に戻った。
565Graduation第二話festival!(43):2008/10/08(水) 10:28:46

第五幕
友人二人と仲良くするイライザを見て落ち着かないヒギンズ。彼は自分のイラ
イザへの思いに気付く。そして、イライザに愛の告白。
「わたしは、もうあなたなしでは生きていけない。ああ、イライザ、あなたを
愛しています!結婚して下さい!」
階段の上部にいるイライザに向かって、ヒギンズは階段下から身を投げ出した。
(さあ、悠理、最後の台詞ですよ。この芝居はこの台詞にかかっているんです!)
イライザは一言、一言を丁寧に確かめるように、ゆっくり発した。
「わたくしも・・・あなたを・・・愛して・・・いますわ・・・。」
(言えた!言えたぞ!)
そして、イライザはヒギンズに向かって、階段をよろよろと下り始めた。
その瞬間。
ビリッ。
「!」
「!」
コルセットを緩めていたため、ドレスの方が動きに耐え切れなく、背中が大き
く破れた。ヒギンズは慌てて階段を上り、二人は見詰め合った。

(どうしよう、清四郎!もう一歩も動けないよ!)
(わかりました。何とかします。悠理はもう何もしないでいて下さい。)
(わ、わかった!)
ヒギンズは、ふわりとイライザをお姫様抱っこした。
「う、うわっ!」
巨大な帽子でバランスをくずし、思わずヒギンズの首に両手を回してしがみつくイライザ。

「きゃー!」
ヒギンズに抱きかかえられた状態で、イライザは笑顔で客席に手を振り、そし
て大きな拍手の中、幕は閉まった。
幕。
566Graduation第二話festival!(44):2008/10/08(水) 10:30:14

「悠理、最高だがや!さすがわしの娘だがやっ!」
万作は立ち上がって、両手に持った扇子を振り回して大喜びだ。
「ああ、女の子を産んで良かった・・・。」
百合子はとめどない喜びの涙を流している。

一方、菊正宗家は・・。
「清四郎と・・・悠理ちゃんがねえ・・・。」
「まあ、一時は婚約までした仲だからな。」
和子は目を細めて口をすぼめていた。
「・・・結局、美味しいとこ持って行くのよね。」


フィナーレ

ボーイズ・タウン・ギャングの『君の瞳に恋してる』のイントロが流れる中、幕が開く。

舞台は既に明るく、大階段が飾りつけられており、その上にはミラーボールが
回っている。そして、曲にのって、まず美童と可憐が大階段の一番上に、左右
から手を振りながら笑顔で現れた。二人ともお色直しをしており、美童は真っ
白なタキシードで、胸元にはシャツのフリルがこぼれんばかりに覗いていた。
可憐は左肩から右脇下まで斜めにカットされた大胆なデザインの、真っ赤なロ
ングドレスだった。左肩には大きなバラの花がつき、スリットの入ったドレス
の裾は足首の少し上でヒラヒラと揺れていた。髪は耳の前に少し巻き毛を残し
てアップにしてあり、やはり赤いバラを耳の上に差していた。中央で軽く二人
でダンスのステップを踏み、決めポーズをつけて二人一緒に腰に手を回しなが
ら降りて来る。
「キャー、美童さまーっ!」
「か・れ・ん!か・れ・ん!うおーっ!」
567Graduation第二話festival!(45):2008/10/08(水) 10:37:30

大歓声の中、続いて魅録と野梨子が登場する。魅録はグレーの極力装飾のない
シンプルなタキシードで、シャツもやはりボタンの見えないすっきりしたデザ
インだった。野梨子はフレンチスリーブの、彼女にしては襟が大きくくれたデ
ザインの、膝丈までのこれも赤いドレスで、首には赤いリボンをチョーカー風
に巻き、パニエで膨らんだスカートの上部の左ウエスト部分に大きな赤いバラ
の花があった。おかっぱ髪には幅広の赤いカチューシャをしていた。中央で、
魅録が野梨子を手を広げて観客に紹介し、野梨子がバレリーナのように優雅に、
スカートを少し持ち上げてお辞儀をした。そして魅録が野梨子の右手をとり、二人で下りて来た。
「松・竹・梅・さまーっ!」
「のーりーこーっ!のーりーこーっ!」

宴もたけなわ、曲がさびの部分に差し掛かるとき、清四郎と悠理が登場した。
「ぎゃーっ!せ・い・し・ろ―!」
「アイ・ラブ、アイ・ラブ、アイ・ラブ、ユ・ウ・リ!」
清四郎はクラシックな黒いタキシード姿だったが、悠理は袖のない、後方が長
くなった真っ赤な開襟のロングベスト、真っ赤な超ミニのショートパンツに
真っ赤なロングブーツといういでたちだった。頭にはこれまたふさふさした羽
飾りのついた赤い帽子をかぶり、赤い手袋をはめ、赤いバラを右手首に結んであった。
悠理はやっときつい衣装から開放された喜びからテンションが最高潮に上がっ
ており、曲に乗って飛び跳ねるように中央に来ると、会場に大きく手を振った
後、清四郎と腕を組むや否や、彼を引っ張るようにして下まで一気にドドドと駆け下りた。

六人が舞台に勢ぞろいすると、男女ペアでパートナーを順番に変えながら踊り、
最後に六人皆で手を繋ぎながら、右へ左へ、中央へと移動して客席に礼をして回った。
突然パン!と天井から大量の紙ふぶきが舞い降りた。
ペンライトの光が客席で回り続ける。観客の興奮がヒートアップし、曲がガン
ガン大音響で流れ続け、ファン達がメンバーの名前を半狂乱でコールする絶頂
で、ついに舞台の幕は閉じたのである。
第三話 autumn windに続く

568名無し草:2008/10/08(水) 16:04:40
>Graduation
魅録のセリフに固まってしまった悠理がかわいかったです。
みんなの衣装の描写が詳しくて想像しやすいのもよかったです。
第三話も楽しみにしています。
569名無し草:2008/10/08(水) 18:24:07
>>Graduation
自分も服の描写がこまかくて想像しやすいなと思ってました。
悠理は役得だなぁ、うらやましい。
全十二話の題名を見ていると、どんな展開が待ってるのかワクテカです。
570Graduation:2008/10/10(金) 11:11:52
>>561 第三話は全部で22レスの予定です。今回7レスいただきます。
571Graduation第三話autumn wind(1):2008/10/10(金) 11:13:12

文化際の後、それまでの忙しさの反動から、野梨子は気が抜けたようになり、
しばらくの間何事にも力が入らなかった。しかしそれは他のメンバー、いや
生徒たち皆同様で、しばし学園全体が祭りの後の、幸せなけだるさに包まれていた。
しかし、そこは高校生である。一週間も経たないうちに、本格的な秋の訪れと
共に、皆、再び本来の活気を取り戻した。文化祭の余波として、ささやかな変化と共に。

その日、珍しく清四郎、魅録、美童が朝の昇降口で一緒になった。
「うわっ!」
バサバサッ。
「何、魅録?」
美童がひょいと振り向くと、魅録が背中を向けて屈みこみ、足元に散らばった
何かを懸命に拾い集めていた。
「な、何でもねーよ。」
魅録は拾った物を素早く鞄に仕舞いこんだが、その耳が心持赤くなっているの
を美童の青い目は見逃さなかった。
離れた所にまだ一枚落ちていたそれを、一瞬、魅録より早く美童が拾い上げた。
「あっ。」
「ふ〜ん。松竹梅魅録様へ・・・か・・・。」
「返せよっ。」
無視して、美童はくるりと封筒を裏返し、差出人の名前を見て、顔をしかめた。
(この子、僕のクラスじゃないか。しかも、すごく真面目だけど、けっこう可愛い・・・。)
文化祭での魅録のピアノ演奏は、それまでミーハーな事には興味のなかった、
お堅い系女子達のハートを見事にさらっていったのだった。
「返せよ、美童。」
魅録がもう一度言った。
「いいよ。ほら。」
美童は真っ白い封筒を魅録の胸につきつけた。魅録はそれをつかみ取ると、さっさ
とその場から立ち去った。
572Graduation第三話autumn wind(2):2008/10/10(金) 11:17:01

(まあ、魅録は女の子の扱いなんか知らないから、このブームも一過性のもの
だと思うけど・・・。)
美童が自分の下駄箱のふたを開け、今日のラブレターの数を確認した。
(ほっ。僕の分に特に影響が出ているわけじゃなさそうだ。ニーズが違うんだな。)
美童が安心し、小さく舌を出してにっこり笑った時。

「うわっ!」
バサバサッ。
(何だよ、今度は清四郎か?)
美童が再びピクリと肩を震わせて後ろを振り返ると、果たして清四郎が屈んで
何かを拾っていた。
(やれやれ、清四郎もファンを増やしたのか。やっぱりあのお姫様抱っこがき
いたのかなあ・・・。)
美童が黙って自分の近くに落ちた封筒を拾おうとした時、バッとすごい勢いで
手が伸びてきて、清四郎がそれを奪い取った。
「なっ・・・何・・・?」
思わぬ迫力に、美童が思わず腰を引くと、清四郎は真剣な顔でゼーゼー言いな
がら封筒を鞄にしまった。
「いや、お気遣い有難うございます。では・・・!」
そう言い残すと、清四郎はバタバタと教室へ走って行った。
(全く・・・。どういうことですかね?文化祭後にファンが増えるのは別に構
いませんが、どうして、それが、男子生徒ばかりなんでしょうね?しかも皆一
様に「僕も菊正宗さんにお姫様抱っこされたいです。」なんて書いてある・・・。
なぜだ?なぜなんだ!?)
573Graduation第三話autumn wind(3):2008/10/10(金) 11:18:31

また別の日、悠理と可憐と野梨子が昇降口で一緒になった。
「うわっ!」
バサバサッ。
「あ〜ら、悠理、あんたも文化祭後、えらいラブレターが増えたわね。って、ええっ!?」
悠理の下駄箱からすべり落ちた大量のラブレターを何気なく拾い上げていた可
憐は顔色を変えた。
「どうしましたの?可憐。」
野梨子が心配した顔で覗き込む。
「見・・・見て・・・これ・・・。」
可憐が震える手で封筒の差出人の名前を指さした。
「大道寺小太郎。まあ、悠理が殿方からラブレターを!」
口を押さえてびっくりしている野梨子と可憐を尻目に、悠理は平然とした顔をしていた。
「そうだよ。文化祭以来、ちらほら男からも貰うんだよ。もっとも、あたいの
事を良く知らない、中等部の奴等とか、外部の奴等が友達に頼んで入れたり、
とかだけどな。」

なるほど、と納得しながらも、可憐は嬉しそうだった。
「まあ、細かい事は気にしないで。大事なのは、あんたが男からラブレターを
貰ったって事よ。これであんたも女として目覚めるかも知れないわ!」
可憐は、今は勉強が第一ではあったが、恋愛至上主義の癖はすぐには取れなかった。
しかし、悠理はうるさそうに眉を顰めた。
「興味ないよ。そんなに欲しかったら、可憐にやるよ。ほら。」
「では、わたくしも。」
バサッ。バサッ。
悠理と野梨子から彼女達宛のラブレターを山盛りに渡された可憐は顔を真っ赤
にして叫んだ。
「あっ、あんたたちっ!うっ、恨まれても知らないからねー!」

574Graduation第三話autumn wind(4):2008/10/10(金) 11:21:08

というわけで、六人を取り巻く状況に少々の変化はあれど、彼等自身は再び
平穏な毎日に戻っていた。悠理と可憐は清四郎の計画に従って、彼女達なりに
忠実に勉強を続けていた。中間テストまでは三週間あったので、いずれはそう
なる事が分かってはいても、まだせっぱつまった状態ではなく、嵐の前の静け
さなりに日々を楽しんでいられた。

文化祭が終わってみると、野梨子と魅録の会話は極端に減った。いや、文化祭
の前は特別だっただけで、元に戻っただけなのだが、最初、野梨子はそこはか
とない物足りなさを感じずにはいられなかった。自分から話しかけてみようと
思う事もあったが、皆でいる時は大抵魅録は誰かと話していて、中々そういう
機会もありそうでないのだった。そして、そのうち、野梨子自身もまた以前の
習慣になれてしまい、物足りないという気持ちもいつしか消えてしまった。
この、野梨子の胸に密かに蒔かれた小さな、小さな種は、その後何も起こらな
ければ、そのまま風化してしまったであろう。そして、六人はこのままの均衡の取れた友情関係を保ったまま、無邪気に残りの高校生活を謳歌して卒業を迎えたであろう。
そして、事は起こった。

その日、野梨子はいつもと同じく6時半きっかりに目を覚ました。寝巻きの襟
を整えながら部屋の雨戸と窓を開ける。
「!」
今日から10月とはいえ、この時間の外は既に明るく、夏の名残を十分に感じ
る。しかしその中に、野梨子は昨日とは異なる空気を発見した。
「風が・・・変わりましたわね。」
野梨子はうっとりと、青く澄み渡った空を見上げた。彼女は暑い夏が苦手で、
毎年秋が来るとほっとした。夏の激しさはいつも元気な悠理や魅録にこそ相応
しく、反対に背筋が延びるような秋や冬は、自分の出番という気がした。
575Graduation第三話autumn wind(5):2008/10/10(金) 11:22:30

「もっとも、悠理にとっては、これまた「食欲の秋」ですけれど。」
野梨子はそう思って一人くすりと笑った。凛とした秋風を思いっきり吸い込む
と体中にエネルギーが沸いてくる気がした。野梨子はぶるっと軽い武者震いを
し、きらっと目を輝かせて微笑んだ。
「きっと、今日は何か良い事がありますわ。」

7時半きっかりに家を出ると、もう清四郎が数メートル先に本を読みながら立っ
ていた。清四郎は久し振りに見る詰襟姿であった。今日から制服は衣替えにな
り、男子は白シャツプラス蝶ネクタイから紺の詰襟に替わっていたが、野梨子
は毎年この変化にしばらくの間面食らうのだった。女子の制服は袖の長短しか
変化がないが、詰襟になると男子は急に大人びて見える。いかにも賢そうな形
の良い額に、きりりとした男らしい眉、常に落ち着いている揺らぎのない黒い
瞳。いかにも日本男児の清四郎にこの制服は非常に似合っており、清四郎が本
に夢中なのをいいことに、野梨子は一歩一歩近づきながら、清四郎に見惚れていた。

「おはようございます。野梨子。」
急に清四郎が顔を上げて野梨子を見た。
「・・・!おはようございます。あら、清四郎、気が付いていましたの?」、
「強い視線を感じたものでね。僕に何かついてますか?」
にっこり笑って野梨子の顔を覗き込む。
(いやですわ。わたくしが自分に見惚れていたって分かってるんですわ。全く、
油断できませんわね。)
野梨子は顔が赤くなるのを気合で止めようとし、何とか成功した。

「いいえ、清四郎はいつでもどこでも完璧ですわよ。ご安心なさって。わたく
しは、今日読んでいる本の題名を知りたかっただけですわ。」
つんとして野梨子は先に歩き始めた。清四郎はやれやれと言った風にふっと笑
うと、野梨子の隣に並んだ。野梨子はせっかくの朝のいい気分を害されて、必
要以上に、怒っているオーラを清四郎に発していた。
576Graduation第三話autumn wind(6):2008/10/10(金) 11:25:07

(また余計な事を言ってしまいましたか・・・。野梨子が怒ると、長くなるの
でちょっと面倒ですね。ここは一つ機嫌でもとりましょう。)
「おっ、野梨子、その紙袋は何ですか?」
「えっ?あ、ああ、これは・・・。」
野梨子は学生鞄の他に、白地に青い花模様の入った光沢のある紙の手提げ袋を
持っていた。中に長方形の青い包み紙が見える。野梨子の顔がぱっと輝き、上
がっていた眉根が下がった。

(やった!一発目で大当たりでしたね。)
清四郎が笑いを噛み殺して、尚も質問した。
「見覚えがあるような気がするんですが、教えてもらえますか?」
「あら・・・。どうしようかしら?」
「お願いしますよ。何だか、気になるんです。」
「・・・そうね、もう見てしまったんですものね。清四郎には教えて差し上げ
ますわ。でも、他の皆には放課後まで内緒ですわよ。特に悠理には。」
野梨子は人指し指を唇に立てて片目をつぶった。
(と、いう事は、中身は食べ物ですね。)
「良いですよ。さあ、教えて下さい。」
「ふふ・・・。覚えてません?○○堂のブランデーケーキ。」
「えっ!ああ、あのブランデーとドライフルーツがどっさり入った汁気たっぷ
りのあの○○堂のブランデーケーキですかっ!覚えてますよ、もちろん。以前
野梨子が頂物といってお茶に持って来てくれましたね。いやあ、実に美味しかった。」
清四郎は珍しく食べ物に関して軽く興奮した。脳細胞は野梨子のご機嫌取りを
忘れて、味覚の記憶を呼び起こすのに奔走していた。
「美童はともかく、あの甘いもの嫌いの魅録まで上手い上手いってお代りまで
しましたよね。あれですか、あのブランデーケーキ・・・。しっとりとしてジ
ューシーで、深みのある、それでいてくどくない甘さ・・・。いや、絶対悠理
には言ってはいけませんよ。放課後になる前に無くなってしまいますからね。」
577Graduation第三話autumn wind(7):2008/10/10(金) 11:27:11

野梨子は清四郎の反応に十分満足し、花丸をつけていた。そう、清四郎がこれ
ほど興奮するほど、このブランデーケーキは前回、美食家ぞろいの有閑倶楽部
にセンセーションを巻き起こしたのだ。
「このケーキに良く合う紅茶も用意しましたのよ。一人にたっぷり2切れはあ
りますから、お昼は少なめにして下さいね。」
今や自分の優位を確信して、今度は野梨子が清四郎に大輪の花のような微笑みを見せた。

放課後、野梨子はうきうきと一人生徒会室へ向かった。昨日、母の愛弟子から
久しぶりにこのケーキを貰った時からずっと、今日のお茶で皆が喜ぶ顔を脳裏
に描いていたのだ。一番乗りで部屋に入り、給湯室へ飛び込む。ふと、開けっ
放しだった窓から秋風がひゅうと舞い込み、野梨子の鼻腔をくすぐった。
「また、魅録か悠理ですわね。まだ時々虫が入るから網戸を忘れないようにと
あれほど言っていますのに。」
しかし、朝と同じくさわやかなそれは野梨子の五感を刺激し、野梨子のテンション
をますます高くした。ふんふんとお気に入りの歌を口ずさみながら、てきぱき
とお茶の準備をしていく。
(やっぱり、秋はわたくしの季節ですわ。お茶の準備のし甲斐もありますもの。)
世界中を駆け回る冒険とスリルの生活もたまには良いが、気の置けない友達と
美味しいお茶とお菓子を頂きながら会話を楽しむ・・・そんな地に足のついた
楽しみが自分には合っているのだ、と野梨子は満足して思っていた。
続く
578名無し草:2008/10/10(金) 11:34:08
>Graduation
リアルタイム遭遇でラッキーです。
ブランデーケーキに興奮する清四郎が珍しくてかわいかったです。
この後、なにが起こるんだろう?
続き楽しみに待ってます。
579名無し草:2008/10/10(金) 18:22:11
第二話終わってしまいましたね。
清四郎に見蕩れてた野梨子ですが、男前なのでそりゃ仕方ないと思いました。
ていうかケーキ美味しそう。
メンバーのブルジョワなおやつタイムっていいですよね。

どうなるか全く分からないので、続きが楽しみです。
580名無し草:2008/10/10(金) 23:12:32
「酔いの夢(後編)」
続きをお待ちしております・・・
581名無し草:2008/10/10(金) 23:36:05
>Graduation
清四郎はカッコイイ所を見せてもやっぱり男にもててしまう運命なのかw
魅録のあとに清四郎のラブレターでオチたのはおもしろかったw
女性陣のほうのラブレター話(可憐の叫び)もおもしろかったです。
582名無し草:2008/10/10(金) 23:38:41
>>Graduation
それぞれの状況の変化に笑ってしまいました。特に清四郎w
あと美童の「ニーズが違うんだな」が何故かツボってしまったw
原作の絵柄ですんなり想像ができて楽しいです。

>>580
私も続きが読みたくてお待ちしてます>酔いの夢
583Graduation:2008/10/11(土) 10:22:03
>>571 今回7レスいただきます。
584Graduation第三話autumn wind(8):2008/10/11(土) 10:24:20

「いないと思ったら、早いですね、野梨子。」
「うーっす。」
「腹減ったーっ!」
「あら、いい香り。」
「本当だ。いったい今日は何が出るの?」
次々と愛する仲間達がやって来た。可憐と美童が早速給湯室に入って来た。
「あっ!これ、あの美味し・・・・ぐがごごっ!」
美童の口を瞬時に可憐が手でふさいだ。
「ばかねっ、そんな大きい声で言ったら悠理に聞こえるじゃない。ちゃんとテー
ブルに出すまではあの子には知られちゃだめよ。あっという間に皆食べられちゃうわ。」

まだ夏めいているとはいえ10月なので、野梨子はクロスの選択をちょっと迷ったが、
結局自分の好みでテーブルには深いブルーのクロスをかけ、水色のティーマッ
トをしいた上にロイヤルコペンハーゲンのフルレースの茶器を揃えた。中央に
は、来る途中思いついて校庭で摘んだ桔梗の花が活けられている。テーブルセッティング
そのものには興味のない悠理は、例の窓辺で魅録と今日習った数学の復習を健
気にもやっていたが、紅茶とブランデーの香りに気が付き、ぱっと顔を輝かせるや否や、
「魅録、勉強は後だっ、食うぞっ!」
と一足飛びに席に着いた。やれやれと後を追って来た魅録も美しく整えられた
テーブルを見ると途端に表情を緩めた。
「何か、すげえじゃん、今日。これ覚えてるぞ。あのすげえ上手いケーキだろっ?
おい、悠理、先に食うなよ!」
「うーん・・・。」
悠理は目をこらして、皿にもられたケーキの切り身の厚さを測っている。
「大丈夫ですわ。定規で測りましたから。皆均等ですわよ。」
「冗談じゃないのよ。本当よ。あたし、野梨子が測ってるとこ、見たわ。」
可憐が美童にささやいた。
結局悠理に一番初めに好きな皿を取らせた後、皆が席に着き、ケーキとお茶も
行き渡った。野梨子がこほんと立ち上がった。

585Graduation第三話autumn wind(9):2008/10/11(土) 10:25:29

「昨日○○堂のブランデーケーキを頂きました。皆さんの大好物ということで、
今日はちょっとお茶に気合を入れてみましたわ。それでは、皆さん召し上がって・・・。」
「いっただっきまーっす!」
野梨子の語尾は悠理の大声にかき消されたが、それでも野梨子のうきうきした
気分は台無しにされることはなく、熱い紅茶を口に運びながら、暖かい満ち足
りた気持ちで目を細めて皆を見回した。甘い物好きの美童と可憐は勿論のこと、
そうではない清四郎と魅録も嬉しそうにケーキを頬張っている。悠理ときたら、
もう一切れ目のほとんどを食べてしまっている。野梨子は自分の大好きな皆の
この幸福を自分が作り出したと思うと、例えようのない喜びに包まれた。皆の
笑顔が自分の幸せだと思った。誰か一人でも欠けてはいけない。悠理と可憐に
は是が非でも勉強を頑張ってもらって、皆同じ大学に行けば、六人の絆はまだ
まだ続く。いや、永遠に続くのだ、と野梨子は確信に近く思っていた。

和やかに会が進む中、琴の音が鳴った。
「母からですわ。」
野梨子は言って、携帯を持って給湯室へ行った。皆声をひそめる。
「ちょっ、悠理、何だよこのフォーク!」
「だって、魅録、甘い物好きじゃないだろ?」
「これは別だって知ってんだろっ?何だよ、もう全部食っちまったのかあ?」
「うー。」
もう何ものっていないお皿を悠理がかじりつく。
それを見て、皆取られまいと食べる速度を上げた。そうこうしているうちに、
野梨子が戻って来た。
「めずらしいですね。おば様から、何の用ですか?」
「ええ・・・。」
野梨子がとまどっているのは誰の目にも明らかだった。
「今日、白鹿の若い方対象の研究会が開かれるのですけど、指導役の方がお一
人急病で来られなくなったそうですの。それで、代理の方がどうしても見つか
らなくて、わたくしに手伝って欲しいということですわ。」
586Graduation第三話autumn wind(10):2008/10/11(土) 10:26:59

野梨子は今までもこのような代理は何度かしたことがあったので、慌てている
というわけではないが、このゆったりとした皆との至福の時間から、自分だけ
切り離されてしまうようで、それがひどく寂しかった。
「せっかく素敵なティータイムにしてもらったのに、肝心の野梨子がいなくな
るのは残念だな。」
丁度良いタイミングで、美童が、はあっとため息までつけながら言った。
「もう三時半だけど、何時からなの?あと場所は?」
野梨子はめずらしく美童に最大級の笑顔を送りながら答えた。
「4時から。場所は六本木ですわ。あの、新しく出来たミッドシティのイベント
ホールですの。」

一瞬しんとなった場に、悠理のよく通る声が響いた。
「六本木って・・・確か、魅録も今日六本木に行くって行ってなかったか?」
なごりおしいらしく、まだフォークを口にくわえている。
「ああ、丁度そのミッドシティに、カーマニア向けの小さいけどいい店があるって聞いて、
一度行ってみたいと思ってたんだ。ここからミッドシティまでだとバイク飛ばしてけば15分位で着くんだぜ。」
ミルクが苦手な魅録は紅茶をストレートで飲んでいる。
また、場がしんとなった後、また美童が金髪をさらりとなびかせて言った。
「じゃ、野梨子、魅録に乗せてってもらったら?」

野梨子はかすかに眉を顰めて、そっといぶかしげに美童を見た。
(美童ったら、どういうつもりでこんな事言うのかしら?)
しかし、美童が青く澄んだ瞳で野梨子の目を見つめ、先程の笑顔のお返しに
「うふん」
と自分のご自慢の流し目を送って来るのを見ると、
(・・・何も考えていませんわね。)
と、肩を落とした。
587Graduation第三話autumn wind(11):2008/10/11(土) 10:28:13

魅録や悠理がバイクに乗っている姿は見慣れていたが、それは自分には全く関
係のない物だった。野梨子にとってバイクとは、黒光りのする、何だか得体の
知れない大きな鉄の塊としか思えず、あの騒音もスピードも正直野梨子は怖かった。
魅録を始めとする、一部の男性たちが、何であれほどバイクに夢中になるのか、
さっぱり理解できなかったし、また理解しようとも思わなかった。ましてや、
自分がバイクに乗るなんぞ、想像だに出来なかった。野梨子は、この提案を無
視という形で否定しようとした。
そう、この時までは。

「きゃはははっ!やーねー、美童、運痴の野梨子がバイクに乗れるわけないじゃいの!」
可憐が美童の背中をばん!と叩きながら大笑いを始めた。
(むっ)
「でも、自分で運転するわけじゃないだろう?」
よほど痛かったのか、口を尖らせながら美童が背中をさすった。
「ばっかだなー!すっげえスピードなんだぜえ、無理、無理、野梨子なんて一秒も
経たないうちに吹っ飛んじまうよ。」
悠理が目を瞑って、頭と手を両方左右に振っている。
(むむっ)
「そうよっ!子供用のジェットコースターすら乗れない野梨子よ、目が回って
気絶しちゃうわよっ。」
可憐が今度は腕を組んで、頭をうんうんと上下に振っている。
(むむむっ)
「・・・そうですね。確かに、野梨子がバイクに乗っている姿を想像するには
余程の努力が必要ですね。くくっ。」
清四郎のしのび笑いはとてもとても小さいものであったが、今や感覚が最大
に鋭敏になっている野梨子の聴覚はそれを捕らえた。
(むむむむっ)

588Graduation第三話autumn wind(12):2008/10/11(土) 10:29:25

「ああ、そういえば、そうだよね。あはは、僕、馬鹿なこと言っちゃったな。
じゃ、やっぱりタクシー呼んだ方が良いよね。」
美童が携帯を取り出そうとした時、野梨子がゆらりと立ち上がった。
「その必要はありませんわ。」
「え?」
「わたくし・・・」そこで、野梨子はすうっと一呼吸した。
「魅録に送ってもらいますわ。」
「えーっ!」

一息置いたあと、皆が一斉に野梨子の説得に努めだした。
「ちょ、ちょっと野梨子、何言ってんのよ、止めときなさいよ!」
「そうだよ、まじ、事故ったら、死ぬんだぞっ!」
清四郎も、組んだ手の上に顎を乗せ、真っ直ぐに野梨子を見て、今度は真顔で言った。
「そういう態度は野梨子らしくないですね。一時の勢いで本意でない決断をす
るのは軽はずみですよ。はっきり言います。野梨子には無理です。」
野梨子と清四郎の視線がぶつかり合った。
先程までの和やかな雰囲気はどこへやら、今や一触即発の緊張感に部屋は包まれた。
「大丈夫ですわ。魅録はバイクの運転が上手でしょう?きっと、わたくしに合った
運転をして下さいますわ。」
野梨子は黙っている魅録の方を向いて微笑んだ。
(何ですかしら・・・以前にも確かこんな状況になったことがあった気がしま
すわ・・・?あの時は確か・・・。)
「馬鹿だなあ〜!だから、いくら運転が上手くても、乗ってる方が手を放せば、
事故るんだよっ。分かるだろ、それ位?んっ?ぐぐっ?」
悠理の口に、ひょいとケーキの塊が投げ込まれた。

「そういうことなら」
次の瞬間、投げ込んだ人物ががたっと立ち上がった。
「早い方がいい。急ぐんだろ?バイク取って来っから、野梨子は裏門で待ってろ。」
589Graduation第三話autumn wind(13):2008/10/11(土) 10:30:49

そして、あっけに取られている悠理に向かって言った。
「悠理、メットあるだろ?野梨子に貸してやれよ。」
「で、でも魅録・・・。」
納得が行かない悠理は助けを求めるように皆の顔を見回した。魅録は唖然とし
て座っている皆の顔を順々に眺めていって、最後に清四郎に視線を合わせ、ゆ
っく
り、しかしはっきりと言った。
「野梨子が、俺の腕を信頼するって言ってくれてるんだ。こたえなきゃ男じゃ
ねえよ。大丈夫。心配すんな。野梨子に合わせたスピードで走るよ。絶対に野
梨子を危険な目には合わせないから、安心しな。」
魅録の目には己の能力と技術に対する揺るぎない自信の光が満ちており、口元
には笑みさえ浮かんでいた。清四郎はまだ何か言いたそうではあったが、結局、
「魅録を信頼しないわけには行きませんね。」
と、目を瞑って首を振った。

「野梨子、ケーキ上手かったぜ、サンキュ。」
魅録が足早に出て行くと、悠理がロッカーから自分の真っ赤なヘルメットを出
して来た。悠理は少しの間、愛しそうにそのつややかな表面を撫でていたが、
ふいにポンと、それを野梨子に投げつけた。そして、
「大丈夫!それつけてて、怖い目に合った事ないから。」
と言って、にっと笑った。野梨子は、思っていたよりもずっと重い、そのつる
りとした金属の塊を手に取って、
(何でこんな事になってしまったのですかしら・・・?)
と、つまらない意地を張った事を早くも後悔していたのだった。目の前を見れ
ば、兵どもの夢の後ではないが、先程までの幸福の名残がテーブルの上に見え
る。
590Graduation第三話autumn wind(14):2008/10/11(土) 10:32:10

(本当ならまだここで何杯目かのお茶を飲んでいるはずでしたのに・・・。お
母様、お恨み致しますわ。)
野梨子はちらりと清四郎を盗み見た。しかし彼は視線を合わそうとはしなかった。
野梨子の子供じみた振舞いを怒っているのは明らかだった。
「さあさあ、後片付けはあたしがしとくから、野梨子はもう行きなさいよ。あ
たし達も後から追いかけるわ。」
「お願いしますわ、可憐。清四郎、鞄を持って帰って頂けます?」
「いいですよ。」
清四郎はやはり目を上げずに冷たく言った。
野梨子は誰の目にも明らかに、しょんぼりと赤いヘルメットを抱えたまま生徒
会室を出て行った。
可憐がやれやれと席を立った。がちゃがちゃと食器を片付けながら、
「全く、あんたが余計な事言うから。」
と、美童を睨みつけた。
「野梨子、今頃すごく後悔してるわよ。勢いでああ言ったに違いないんだから。」
「・・・!だって、野梨子にああ言わせたのはいったい誰なんだろうね?可憐
たちがあんなに野梨子の運痴をばかにしなければ・・・。」
「あらっ、あたし達は本当のことを教えてあげただけよ、ねえ、悠理。」
「何か・・・こういう事、前にもあったような気がするんだけど・・・?」
悠理がケーキのかけらを集めながら頭をかいた。
「そん時も確か最後に魅録が出てきて・・・」
「!」
清四郎と美童と可憐が一斉に叫んだ。
「世界一周アドベンチャークイズだ!」
                            続く
591名無し草:2008/10/11(土) 12:56:05
>Graduation
魅録のバイクの後ろに野梨子が乗るっていうシチュはすごく好きなんで、思わず美童GJ!と
思ってしまいましたw
でも野梨子、子供用のジェットコースターも乗れないのですね。
どうなるのか続きが早く読みたいです。

592名無し草:2008/10/11(土) 19:10:46
>Graduation
野梨子の携帯の着信音が野梨子らしいですねー。
魅録のバイクの後ろにのっけてもらえるなんて、いいなあ。
ただ清四郎が怒ってしまってるので、仲直りできるかも気になります。
593名無し草:2008/10/11(土) 20:03:20
>Graduation
魅録マンセーな展開が気になる。御大と一緒ですか?
荒らしじゃないけど、もっと他のメンバーの株を下げることはやめてほしい。
594593:2008/10/11(土) 20:04:15
もっと、は取り消してください
595名無し草:2008/10/11(土) 20:52:54
>Graduation
メンバーを大切にしてるんだなと、野梨子の気持ちを読んでいて和やかな気持ちになりました。
あとの4人もからかいながらも心配してるし(清四郎はちょっと違うけど)やっぱり良い人間なんだな。
恋愛以前に友達なんだなと、そういう所が良いんですよね。
こういう場面が読めて良かったです。



596名無し草:2008/10/12(日) 02:00:19
主役をマンセー呼ばわりされたら何も書けないと思う
597名無し草:2008/10/12(日) 11:19:42
>>593
>御大と一緒
不覚にもワロタwww

マオタイ炎の復讐の巻からの後半の御大の魅録びいきは、目に余るものがあるからね(怒)
後半の清四郎なんてただのタカビーで嫌味なオッサンだし
美童なんてテニスの時のかっこよさはどこへやら。ヘタレすぎるし。
二人のいい所を全部魅録に持ってかれたって感じ。

「紳士は美少年がお好き」は、魅録でしゃばりすぎだし、パソコンで調べ物してるし。
今までならパソコンは清四郎が得意だったはずなのに。
しかも魅録の絵カットほしいからって、時宗との携帯エピソードとかいらんでしょ。

「時をかける恋」は、放火発見が魅録で、清四郎と美童が地味に消火活動とか、ないでしょ。
こういうときこそ、美童に放火発見の役回りをあげてもよかったんじゃないか?

「君に愛の花束を」とか、すでにこの話が魅録のためじゃん。時宗と千秋さんとかいらんし。
美童おんぶとか、何?美童の株下げて魅録の株UPですか?

「雛人形は眠れない」は悠理を助けにいく魅録とか、なんでわざわざって感じ?
初期なら絶対清四郎がいってたよね。
丸1P使って魅録を廊下ですべらせてみたり、他のキャラの顔面は崩れてるのに魅録の作画だけ
やけに気合入ってますね〜って感じ。

「玉の輿料理天国」とか、無意味に魅録のアップが多すぎ。冒頭の千秋さんとの2ショットとかいらんでしょ。

「初恋の鎮魂歌」は火葬のところ壊しにいくところの流れは魅録においしい役回りのために
強引すぎてありえない。
つまりは清四郎に「魅録くん、ナイスです」と言わせたかっただけなんだろ。
598名無し草:2008/10/12(日) 11:40:10
ここからは重症。

「ウエディングエクスプレス」は、御大の魅録マンセーが全面に出た話だよね。
わざわざ別行動させてさ。
犯人逮捕も、犯人への紙切れ渡すのも、全部魅録の手柄とか、ありえない。
その反面、他のメンバーは地味に水中で逃げてるとか、もう哀しすぎるね。

「人生、いつでも勝負!」は、何で名人のいかだに乗るのが魅録なわけ?
俺乗りたい!とか、どんだけおいしい役回りなんだよ。
他のメンバーただの観客だし。

「菊正宗清四郎、一生の不覚」の巻は、これぞ清四郎の株大暴落のうえで魅録の株UPの話だよね。
清四郎→顔面崩壊、無意味な知識披露、嫌味
魅録→清四郎に頼まれる、有閑倶楽部を呼び寄せる、絵に気合入ってる
ここまでやられると、もう苦笑いしか出ない。
しかも、やけにでしゃばりすぎ。可憐はあんななのに。
「おじさんたち帰ってくる前に早く戻しとけよ」とか、わざわざ魅録に言わせなくてもいいじゃん。

「マオタイ、炎の復讐」これも最悪。
「清四郎、早くマスクつけろよ」「五代のやつ!おばさんにしゃべりやがったな!」←お前何様だよ?な発言と、異常な絵カットの多さ。
極みは、「汚ねえ手で触んじゃねえよ!」とか、魅録をかっこよくみせたい御大の狙い丸見え。
魅録は基本パンチなのに、ここでは蹴りだし。おいしく見せたいあまりに強引すぎる。
しかも「清四郎は冷たいところがありますもの」とか、清四郎の株下げる発言野梨子にさせて、
しかもヘリ奪回の失敗の責任はみんな美童になすりつけ。
この2人の扱いひどくない?
ヘリ奪回の時だって、運転席に乗り込むのはなぜ魅録?
あと、可憐に対して「あいつこの状況わかってるのかよ。幸せなやつだよな」とか
「可憐たちはここにいろよ」とか、異常なセリフと絵カットの多さ。
わざわざ魅録に言わせることないじゃん。
あと、敵を殴って居場所を吐かせる役回りも、なぜか武術家の清四郎じゃなくて魅録だし。
魅録を目立たせたい御大の意図が明らかすぎて、ひく。
599名無し草:2008/10/12(日) 11:44:26
597、598にこそひいた。
600名無し草:2008/10/12(日) 11:55:38
>>597>>598を読んで魅録が嫌いになった
601名無し草:2008/10/12(日) 11:57:32
またか
602名無し草:2008/10/12(日) 12:03:35
普通におもったんだが、気にいらないなら原作読まなければいい話じゃね?w
603名無し草:2008/10/12(日) 12:24:29
>>597>>598
魅録を愛している人じゃないと、そこまで深く原作読めませんね
すばらしい!
普通はそこまで誰も思ってないw
604名無し草:2008/10/12(日) 12:26:16
>>596,599,602
言いたいことはすごく解るしその通りだと思うが、いつもの荒らしにはスルーでよろ。

作家さん達も作品に対して「苦手だったらスルーしてください」と連載開始前に前置きをしてあるにもかかわらず、
そこで文句つけたり、文句に乗ったりする時点で荒らしって解るんだからさ。
まあ前置きしてなくても、理不尽な文句つけたら普通に荒らしって思うだろうけどな。

作家さんがたは気にせず投下してくださいな。
605名無し草:2008/10/12(日) 12:26:51
ごめん、あげちゃった
606名無し草:2008/10/12(日) 14:28:06
魅録好きだったのに・・・
>>597とか読んでたらかっこいい魅録の後ろに、「かっこいいだろ〜」とニヤニヤ笑いを浮かべる御大の顔が見えてきて
今はちょっと複雑な心境だ・・・
607名無し草:2008/10/12(日) 14:47:59
>>604
都合の悪いレスはみんな荒らし認定
608名無し草:2008/10/12(日) 15:07:37
>597
あ、熱いwプ

つか『妄想』で語るスレなのにマンセー禁止ってwww

自分はむしろ台詞も行動も原作っぽくて素敵だと思ったけどな。
ぶっちゃけ昔の作品もメインキャラは株上げされてるしね。
大女優〜…とか、すっごく野梨子野梨子のお姫様ポジションで、自分はそっちのが気になったかな。

graduationの作者さん応援してますー!
609名無し草:2008/10/12(日) 15:19:02
>>608
あ〜あれは痛かったw
610名無し草:2008/10/12(日) 15:23:44
>>605から約2時間経ってからの、相変わらずの集中的な粘着自演書き込みフイタw
611名無し草:2008/10/12(日) 15:53:16
>>610
オマエガナ〜wwwwwwwwwwwwwwwww
612名無し草:2008/10/12(日) 16:37:15
作家叩きと本スレ荒しは、大体の人が知ってるように同一人物だし、
荒しの特徴のテンプレでも作ってスルーを決め込んだ方がいいと思う。
613名無し草:2008/10/12(日) 16:47:12
でも今回の荒らしの人はだいぶ原作を読み込んでいる気が……
614名無し草:2008/10/12(日) 16:51:53
はいはい
615名無し草:2008/10/12(日) 17:48:18
>>614←ミロクの非を認めたくない人
616名無し草:2008/10/12(日) 22:48:46
ふと思ったのだけど、メンバーを巻き込む「犯人(犯罪者)」が
有閑の話にはよく出てくるよね。
でもその犯人達に対して6人は割とドライというか、激しく怒ったり
憎悪する事は少なかった印象がある。(事情によっては寛大だったし…)

でも、仲間や家族をひどく中傷する(←しかも殆ど言い掛かり)人間が
いたら本気で憤るだろうし、その人間の事は心底軽蔑するだろうと思う。

悠理は素直に怒るだけでなく、中傷された仲間の為に本気で悔し涙を
流して、なかなか泣きやまなそうなイメージがある。
中傷された張本人の方が先に冷静になって、悠理をなだめに行きそう。

可憐も本気で怒ったり泣いたりするけど、ひとしきりそうした後は
現実的にどう対処するかを考え始めそう。可憐はあの面子の中では、
色々な人の陰湿な「負」の面を比較的多く見てきている感じがするので…。

野梨子は怒りや涙をあまり表さずに唇を噛む感じで、冷たい怒りを持続。
中傷された仲間に対しては、その仲間の良い所を率直に褒める事で
立ち直りのきっかけを与えそうなイメージ。

清四郎は冷静だけど、その人間を一番冷酷に精神的に切り捨てると思う。
自分が普段、他の5人に皮肉を言ったりするのは仲間に対するある意味
愛情表現だけど、部外者が仲間を不当に貶めるのは許さない感じ。

魅録は、怒鳴ったりはしないけれどストレートに怒りそう。陰湿な悪意に
対処するのは苦手そうだし、最初はかえって相手の思うツボにはまったり
してしまう事もあるかも。でも最後にはきっちり落とし前をつけそう。

美童は、自分や周囲の人間がそういう陰湿な悪意にさらされる事に対して
割と慣れているんじゃないかと思う。もちろん本気で憤ったり悔しがったり
するけれど、「怒りに囚われる」事の虚しさを知っている感じがする…。
617名無し草:2008/10/12(日) 23:58:19
ぶったぎりすみません。

>>2の画像アップロード掲示板の管理人さん、
記事を投稿しようと思ったのですが、IDが無効ですと出て投稿することが出来ません。
何度か試みてみたのですが無理の様です。
管理人さんの方でも、掲示板の状態を確認して頂けないでしょうか?
よろしくお願いします。
618名無し草:2008/10/13(月) 00:18:18
>617
管理人です。
試してみたところ、自分の環境では投稿できました。

一時的なサーバー側のトラブルかもしれません。
もしまだ投稿できないようでしたら、

1.ファイルサイズが250KB以下か
2.拡張子がjpg, gif, jpeg, mid, pngのいずれかか
3.指定された半角数字4桁の「投稿キー」を入力したか、
  また余計な空白などは含まれていないか
4.passを半角4桁の数字で入力したか
  また余計な空白などは含まれていないか

以上を確認して、再投稿を試みてもらってもよろしいでしょうか。
619名無し草:2008/10/13(月) 00:26:31
ありがとうございます。お手数かけます。

1〜4まで全てクリアはしてるのですが投稿出来なかったので
サーバートラブルかもしれませんね。
もう一度試してみます。
620名無し草:2008/10/13(月) 09:34:16
>>616
621Graduation:2008/10/13(月) 10:30:43

作者です。スルーした方が良いのかとも思いましたが、今後のこともあるので、やはり、
はっきりさせておいた方が良いと思いました。

この作品における魅録マンセー問題(原作の方は自分とは関係ないので。)
ですが、連載開始時にお知らせしましたように、このお話は、野→魅がベース
で、それに悠→魅、清×野風味があります。ネタバレになるのでストーリーに
関してはあまり書きたくないのですが、話の展開上、

1.魅録のプラス描写は今後も多いです。そうしないと、野梨子の心の動きが
かけません。
2.他メンバーを下げたつもりはこれまでもなかったし(今までの部分でそう
思わせてしまったのは、自分の力量不足です。ごめんなさい。)、これからも
そうするつもりは全くありませんが、今後は話の展開上、「他メンバーの格好いい
場面しか見たくない。」という方々には面白くないと感じる場面もあるかと思います。
(ずっと、それが続くのではなく、そういう場面もある、という事です。)

以上、1、2のいずれかでも拒否反応を起こされる方々は、御自分の心の安定の
為にも、この作品はお手数ですがスルーされた方が良いかと思います。

待って頂いている方には申し訳ないですが、作品の続きはもう少し様子を見て
投下したいと思います。
また、さりげなく作品を擁護して下さった方々、お心遣い感謝しております。

622名無し草:2008/10/13(月) 11:11:28
>>621
昨日の魅録マンセー云々の人は、前からいついてる荒らしで一人何役もで書きこんでます。
特に野梨子が主役の話の時に出没するので、読んでる人は新規の人意外はわかっていると思います。
土曜に種をまいて昨日は8〜9レスは一人でしていると思われます。
たぶんこれからもくると思うのでスルーするしかないと思います。
作品、楽しみにしているので続きは気長にお待ちしています。
623名無し草:2008/10/13(月) 11:35:24
>>621
丁寧に説明などする必要ないですよ、連載開始前の時に説明されてるし。
554タン622タン初め、数人の人が言われてるように、一人でやってるのは分かっているのでスルーするべきです。

暇があれば、http://houka5.com/yuukan/index6.html
にある、◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう28◇◆◇◆の、レス>504あたりから順を追って読み返すのをお勧めします。
叩くカプや特徴が同じなので、答えはおのずと見えてくると思われます。
624名無し草:2008/10/13(月) 11:54:05
わたしは以前はこの作品が好きだった。
だけど、御大のこの作品に対する愛のない発言をきいて一気に冷めた。
作者のやる気のなさが、ありありと伝わってくる話だ。
625名無し草:2008/10/13(月) 14:20:39
まぁ御大は有閑倶楽部嫌いだから。しょうがないさ。
いつも「あれは私の王道作品じゃないのよ。こんなのも書けるのよ〜って書いてたら
なぜか人気が出ちゃっただけなの。私の代表作はデザイナーやプライドよ」って言ってるしねw
御大は女のどろどろものが好きらしいしww
626名無し草:2008/10/13(月) 20:38:43
>>621
続き待ってますね。

>>616
清四郎が一番容赦ないのは間違いないと思うw
清四郎の中ではいい人間と悪い人間を白と黒に分別されてて、
グレーとかなさそう。
だから悪い人間と判断したら、スパッと切り捨てそうな感じがあるのかなと思った。
627名無し草:2008/10/13(月) 22:15:15
>>618
きのうはありがとうございました。

画像掲示板に今日も投稿を試みてみましたが、やはりできませんでした。
別画面に飛ばされ、レンタル掲示板のIDが無効です。の一文と下に広告が出てくるのみです。
ブラウザのセキュリティを落としたり、別のパソコンからも試してみましたが上記と一緒の画面でした。
やはり投稿出来ないのは、自分だけでしょうか。
すみませんが管理人さん以外の方で、画像掲示板の投稿テストをして頂けないでしょうか。
628名無し草:2008/10/13(月) 22:29:31
まぁ御大は有閑倶楽部嫌いだから。しょうがないさ。
いつも「あれは私の王道作品じゃないのよ。こんなのも書けるのよ〜って書いてたら
なぜか人気が出ちゃっただけなの。私の代表作はデザイナーやプライドよ」って言ってるしねw
御大は女のどろどろものが好きらしいしww
629名無し草:2008/10/13(月) 22:49:51
>>627
試してみたけど自分もダメだった。
630名無し草:2008/10/13(月) 23:17:28
たびたびすみません、掲示板の管理人です。

私自身、昨日は投稿できたにもかかわらず、
なぜか今日は投稿できなくなっていたため、
一旦、掲示板の設定をリセットしてみました。

それでもしばらく書き込めなかったのですが、
さきほどなぜか再び急に書き込めるようになりました。

書き込めなかった理由も、書き込めるようになった理由もわからないのですが、
とりあえず今は書き込めるようです。

掲示板の不安定が続くようでしたら、移動も考えてみます。
631名無し草:2008/10/13(月) 23:35:37
お二方ともありがとうございます。

管理人さんの投稿からテスト返信を何度かしましたが、やはりダメです。
レンタル掲示板のIDが無効ですの一点張りです。

管理人さんや>>629さんも、投稿出来なかった時は
レンタル掲示板のIDが無効です、の一文でしたでしょうか。
632名無し草:2008/10/13(月) 23:53:17
>631
同様の一文でした。

うーん、理由が不明ですね。
新しい掲示板探してみます。

本当にお手数をおかけしています。
633名無し草:2008/10/14(火) 00:33:41
>>621
いつまでも待ってます。
あとここは上でも言われてますように、野梨子が気に入らないで荒らす人がいるので
目につくかもしれませんが、どうかそういったレスはスルーしてくださいませ。
634Graduation:2008/10/14(火) 09:09:13

>>546 落ち着きましたね。この辺はあまり間を空けると話の勢いが弱まり
そうなので、投下します。今回8レスいただきます。

また、ご丁寧なアドバイスを下さった方々、本当に有難うございます。
今後は華麗なスルーを目指します。

>546 やっと拝見することが出来ました。ほんと、可愛いですねー!
他のメンバーも見てみたいです。
635Graduation第三話autumn wind(15):2008/10/14(火) 09:11:12

その頃、野梨子も思い出していた。
(そう、世界一周アドベンチャークイズですわ。あの時は確か、私たちが始め
ての内部分裂をしたんでしたわ。清四郎たちが、私の運動音痴と悠理のお馬鹿
加減をばかにしたから、魅録が怒ったんでしたっけ。)
野梨子は当時を懐かしく思い出し、一瞬心が和らいだが、すぐにまた現実に呼び戻された。
(魅録はいい人ですけれど、もう一歩わたくしの気持ちを読んで下されば、わ
たくしが本当はバイクに乗りたがっていないことが分かりそうなものですのに。)
全て自分が悪いと分かっているからこそ、敢えて何の罪もない魅録に八つ当た
りしたくなった。
(魅録の気が変わって、やっぱり止めようって言ってくれませんかしら?それ
か、バイクが故障していたりとか、ああ、先回りして、タイヤに穴を開けるこ
とが出来たら・・・!清四郎も悠理も、あと一回引き止めてくだされば、わた
くしも「そこまでおっしゃるなら・・・」と言えましたのに。皆、諦めが良さ
過ぎますわ。)

考えながら、全く、100パーセント勝手な言い分だと野梨子は自嘲していた。
そうこうしているうちに、裏門が見えてきた。魅録がもう、バイクに寄りかかって
待っていた。そこへふっと例の秋風が吹いて来て、野梨子は思わず足を止めた。
野梨子から見て、魅録は横向きに、少し俯いて、ズボンのポケットに手を突っ
込んで立っていた。清四郎の詰襟姿も天下一品だが、魅録のそれも全く違う趣
で、負けていないと思った。魅録の不良っぽい雰囲気と詰襟のストイックさが
相まって、彼独特の男の色気を放っていた。加えて、バイクという男臭さ極ま
れりといった小道具もあり、野梨子は魅録から目が離せなく、自然と歩みが遅
くなった。考えてみれば、文化祭が終わってから二人になる機会は初めてだった。
野梨子は急に顔が熱くなってくるのを感じた。
636Graduation第三話autumn wind(16):2008/10/14(火) 09:13:02

「早く来いよ。」
ふと、魅録が顔を上げた。
「はっはいっ!」
(清四郎じゃあるまいし、まさか、わたくしが見惚れていたことなど、気が付
いていませんわよね。)
秋風に、ほてった顔を冷やしながら野梨子は小走りで駆け寄った。しかし、バ
イクに近づくと、野梨子の顔はみるみる強張っていった。

(おっ・・・大きいですわね。)
バイクは頭に描いていたよりもずっと大きかった。
(こっ・・・これにわたくしが・・・?)
「時間がないな。取り合えず、メットなしで乗って見ろよ。」
「ど・・・どうやって乗るんですの?」
「またがるんだよ。届かないか?野梨子はちっちゃいからな。ほらよ。」
「きゃ!」
魅録はひょいと野梨子を抱きかかえると、後部座席に座らせた。一瞬の事であったが、
丁度其のとき、後から走って来た仲間達がその場面を目撃した。
「あっ、あらあ」
「ひゅう」
可憐と美童が嬉しそうに顔を見合わせた。
思いがけず抱きかかえられたショックに加え、いつでもどんな時でも膝頭を付
けて置くようにと教えられて育った大和撫子にとって、スカート姿でその体勢
を取らされて、野梨子は小さなパニックを起こしかけていた。
(はっ・・・恥ずかしいですわ。)
しかし、スカート丈が長いのとプリーツなのとで、露出度は高くない。プリー
ツを上手くたくしこみ、足で押さえつければ、スカートが捲り上がる心配もなさそうだ。

637Graduation第三話autumn wind(17):2008/10/14(火) 09:14:34

「大丈夫そうだな。」
魅録が頷いて、自分も前座席に跨った。開けていた視界が一気に紺色一色にな
り、続いて魅録のうなじが目の前に現れ、野梨子はぎょっとした。
「つかまれよ。」
野梨子はきょろきょろ辺りを見回した。
「どっ、どこにですの?」
魅録は一瞬言葉を飲み込んだ後、大声で言った。
「ばっ、ばかっ!俺にだよっ!」
野梨子は今度こそ、カアアと赤くなった。顔を上げると、魅録の耳とうなじも
赤くなっている。
数メートル離れた木の陰では、可憐と美童がきゃあきゃあ盛り上がっていたが、
清四郎と悠理は無言だった。

「こっ・・・こうですか?」
野梨子がおずおずと魅録の腰に手を回した。しかし、まだ二人の間には大きな空間がある。
「いや・・・もっと・・・。」
そういう魅録の声が心なしか小さく聞こえる。
「これ・・・くらい?」
「いや・・・もう少し・・・。」
魅録の首が益々うな垂れる。
「こう?」
「いや、もっと・・・。」
「これでは?」
「いや・・・。」
野梨子も魅録も気が付けば、はあはあ言いながら、汗をかいている。
永遠に続くかと思われたこの問答は、しかし、その時、悠理のとてつもない大
声によって終止符を打たれた。

638Graduation第三話autumn wind(18):2008/10/14(火) 09:15:53

「真面目にやれよっ!二人ともっ!そんなんじゃ走って直ぐに振り落とされっぞ!
野梨子、もっとしっかり魅録に抱きつくんだよっ!ぎゅーって!ぴったり!絶
対離れないって気持ちで、体ごと魅録にしがみつくんだっ!」

何事かと、下校中の生徒たちが集まって来た。
「何の騒ぎですの?」
「剣菱さまのお声のようでしたけれど。」
「まあ!白鹿さまが松竹梅さまの・・・!」
「こんなの見たことありませんわっ!」
「菊正宗さまはどこですのっ!?」

「は・・・白鹿さんがバイクに乗っている!」
「うーん、このアンバランスさがたまらん・・・。」
「あの恥ずかしがっている様がまた・・・。」
「しかし、菊正宗くんはよく許したな・・・。」
「いや、松竹梅くんの強行突破かもしれんぞっ!」

そんな事にはお構いなく、尚もまくしたてようとする悠理に、魅録はようやく
顔を上げて視線を送った。
「悠理・・・。」
「なっ、なんだっ、魅録っ?あたい、少しは役に立てたかっ?」
名前を呼ばれて、嬉しそうに近づいて来る悠理に、魅録は今や真っ赤な顔を上
げ、ほとほと情けなさそうな顔で悠理を見つめた。そして、息も絶え絶えに、
やっとのことで、言った。
「お願いだから・・・それ以上・・・言うのは・・・止めてくれ・・・。」
639Graduation第三話autumn wind(19):2008/10/14(火) 09:21:26

可憐と美童は今や二人して大笑いしていた。
「きゃははは・・・!あー可笑しい!見、見たーっ?魅録のあの顔!」
「野梨子もね。二人して真っ赤になっちゃって、可愛いよねー。だけど、野梨子に
真剣にしがみつかれたら、魅録、耐えられるのかな?」
「そうねえ、今まで後ろに乗せた女の子なんて、悠理くらいだものね。しかも
魅録にとって悠理は女って言えるかどうか疑問だし。でも、ま、ある意味、野
梨子も悠理も同じようなもんよ。」
可憐は自慢の胸を誇らしげにそらして見せた。
「物理的な意味ではね。でも、精神的な意味ではどうかなあ?あ、魅録がバイ
クから降りたよ。何処行くんだろう?」
「ああん、校舎の影に隠れちゃったわ。美童、見てきてよ。」
数秒後。
「魅録、何してた?」
「膝抱えてうずくまってた。」

一方、バイク上に取り残された野梨子は降りることも出来ずに、途方に暮れて
いた。そこへ、清四郎がやって来た。
「野梨子、本当に大丈夫ですか。」
今や、清四郎の目は真剣に野梨子を心配しているように見えた。
(ああ、今、清四郎の隣にいられましたら!)
野梨子は今ここで白旗を揚げてしまおうか迷った。そして、
「清四郎、わたくしが間違っていましたわ。降ろして下さいな。」
と言おうとしたその時、悠理がヘルメットを野梨子に手渡した。
「かぶってみなよ。勇気でるから。」
野梨子は断る術もなく、機械的に真っ赤なそれを頭にかぶってみた。
すると・・・。
自分の顔が隠れているという安心感からか、野梨子は、今まで感じたことのな
い力が沸いてくるのを感じた。それは、自分が別人になったような感覚だった。

640Graduation第三話autumn wind(20):2008/10/14(火) 09:26:48

そこへ、またふっと秋風が吹いた。
(できる・・・。わたくしにはできますわ・・・。)
そこへ、クールダウンしたいつもの魅録が戻って来た。魅録はメットを付けて
いる野梨子を見て、ニヤッと笑った。
「お、やる気だね。」
そして、自分もシルバーのメットを付けて、バイクに再度またがり、清四郎をの方を向いた。
(大丈夫。おまえの大事な野梨子に傷一つつけねえよ。)
(頼みましたよ。魅録。)
男二人は頷き合った。

魅録はエンジンをかけ始めた。ブロンブロンブロン・・・。
野梨子はもう後には引けないことを悟った。
「野梨子、さっき、悠理が言ったことは本当だ!俺にしっかりつかまれ!そう、
そうだ。休み休み行くけど、俺が完全にバイクを止めるまで、絶対に手を放す
な!何かあったら、手に力を入れろ。直ぐに止めるから。スピードはそんなに
出さないから安心しろ。おまえなら出来る!」
(こうなったのも何かのご縁ですわ。魅録、宜しくお願い致しますっ!)
魅録は、野梨子の手が魅録の腹部で一層硬く合わされたのを確認すると、
「行くぜっ!」
と一声上げた。次の瞬間、すさまじい爆風,爆音と共に、二人は消えていた。

「きゃーっ!」
事の成り行きを固唾を呑んで見守っていた女生徒達は黄色い悲鳴を上げた。
「す、素敵ですわーっ!まるで姫君をさらって行く盗賊のようでしたわ!」
「わたくしには、姫君を助け出した騎士のように思えましたわ!」
「どちらにしても」
「素敵ですわーっ!」
物見高い観客たちも、一人また一人と減り、数分後、その場には倶楽部の4人が残った。


641Graduation第三話autumn wind(21):2008/10/14(火) 09:28:59

「あ〜あ、行っちゃった。」
可憐が、半ばあきれたように、半ば面白そうに、半ば心配そうに呟いた。
「本当に大丈夫なのかしら?」
傍らの美童を長い睫の下から仰ぎ見ると、美童は安心させる様に優しく微笑んだ。
「大丈夫さ。野梨子は、芯は強いし気も強いから、実力以上の力を出して、死
んでも手を放したりしないよ。そして、手が放れない限り、魅録に限って事故
なんてありえないよ。」
「それもそうね。」
可憐はほっとしたように納得して、笑顔を返した。
「あ〜あ、生徒会室に戻ったら、後片付けしなくちゃ。あのお茶会から随分時
間がたったような気がするわ。」
「僕も手伝ってあげるからさ。」
「何にも出ないわよ。」
二人は笑い合いながら、生徒会室へ戻って行った。

一方、悠理は、魅録と野梨子が消えていった方角を見つめながら呆けたように
立ちつくしていた。清四郎はしばらくその姿を見つめていたが、ついに悠理に声をかけた。
「悠理、野梨子は大丈夫ですよ。さっき、美童が言っていた通りです。あと数
分もすれば、無事に着いたと連絡が入りますよ。さ、戻りましょう。確か、野
梨子がケーキを半分残していたはずですよ。」
「ん・・・そうだな。」
悠理はめずらしく食べ物の話を出しても上機嫌にはならなかった。清四郎と目
が合うと、決まり悪そうに笑って言った。
「よーし、そのケーキはあたいのもんだ!」
しかしその言葉にいつもの元気が見られないのを清四郎は見逃さなかったが、
何も言わなかった。彼もまた、自分の気持ちの動きを整理するのに大忙しだったのだ。
642Graduation第三話autumn wind(22):2008/10/14(火) 09:38:50
二つ目の角を曲がった所で、魅録はバイクを止めた。
「野梨子、大丈夫か?」
「は、はい・・・。」
「無理すんなよ。地下鉄の駅はあそこだから、ここで降りるか?あいつらには
黙っててやるよ。」
メットで、魅録の顔ははっきりとは見えなかったが、声は優しかった。地下鉄
のことは、最初から考えていたのだろう。野梨子はさっきいらいらして心の中
で魅録にあたったことを、心から恥じた。やはり、魅録は野梨子の本当の気持
ちを分かってくれていた上で、野梨子の味方をしてくれていたのだ。

メットに自分の顔が隠れているのを良いことに、野梨子は心からの笑顔を魅録
に向けた。そして考えた。実は、ここまで走ってくる間、予想していた恐怖感
は意外なほどなかった。むしろ、初めて経験する、わくわくする様な感覚を味
わった。そう、野梨子の大好きな今年初の秋風を全身で思いっきり感じること
が出来たのだ。音が大きいのがたまに傷だったが、ヘルメットのお蔭で我慢で
きた。それより、自分も風になったようなあの不思議な感覚・・・。



643Graduation第三話autumn wind(23):2008/10/14(火) 09:40:23

恐らく、魅録のバイクに乗るのは、これが最初で最後であろう。それを思うと、
ここで降りるのはもったいない気がした。

「もし、よろしかったら・・・。」
メット越しにおずおずと野梨子は答えた。
「ん?」
「今日はこのまま送って下さいます?」
魅録はこれを聞くと、嬉しそうにニコーッと笑った。
「んじゃ、しっかりつかまってろよ!」
「はいっ」
(今朝、感じた今日起こるいい事って・・・この事でしたのね。)
野梨子は謎が解けた気がした。

魅録がエンジンをかける。
野梨子が魅録に回した手に力を込める。
そして秋風の吹く街の中、二人はまた走り出した。
第四話beside herに続く
644名無し草:2008/10/14(火) 11:40:11
>gladuation
なにこの照れシチュエーション。
バイクの所は、読んでるこっちが恥ずかしかったですw
続けて読めて嬉しいです。
645名無し草:2008/10/14(火) 12:06:16
>Graduation
初々しい二人がかわいかったです。
悠理も複雑な心境だろうにいい子ですね。
魅録のバイクの後ろに乗せてもらうって大好きなシチュなので読めて嬉しかったです。
第四話も楽しみにしています。
646名無し草:2008/10/14(火) 18:43:04
>Graduation
恥ずかしい話ですね。相変わらずのミロクマンセーですこと。
647名無し草:2008/10/14(火) 18:55:20
>Graduation
バイクのくだりは読んでいてキュンキュンしましたw
いいなぁ、こういうの。
すぐに続きが読めて嬉しかったです、ありがとう。
648名無し草:2008/10/14(火) 21:11:50
>Graduation
かわいいけど、ちょっと魅録は純情杉かなー。
彼には野梨子の腕をぐいっと自分の身体に巻きつけるくらいしてほしい。
って、けちつけてごめん作者さん…

美童と可憐の息のあった会話がいい雰囲気で、微笑ましかったです。
次回も期待してます。
649Graduation:2008/10/16(木) 10:39:55
>>635 第四話は12レスの予定です。今回6レスいただきます。
650Graduation第四話beside her(1):2008/10/16(木) 10:41:11

習慣というのは恐ろしいもので、睡眠時間を大幅に下回ったにもかかわらず、
翌朝、野梨子は6時半きっかりに目を覚ました。そしてのろのろと、いつもの
様に雨戸と窓を開けた。今日も秋晴れで、東の朝日を浴び、一層透き通った秋
の風を身に受けていると、ようやく少しずつ頭と体が覚醒して行った。野梨子
は何か大事なことを思い出そうとして、視線を部屋の中にゆっくりと戻した。
途端に目に飛び込んで来たのは、机に置かれた、真っ赤なヘルメットだった。
(!)
野梨子は残っていた眠気が一気に吹っ飛んだ。昨日の出来事がありありと脳裏
に蘇って来た。

六本木には順調に着いたものの、時間ぎりぎりだったので、魅録とは礼を言う
とすぐに別れ、野梨子は現場へとひた走った。
「清四郎には俺が連絡しとくから、安心しろ!」
野梨子は了解の意味で後ろに手を振り、丁度来たエレベーターに飛び乗った。
その後は、代理の指導員としての役割に翻弄され、勉強会の後の懇親会やら後
片付けやらで、母と家に帰って来たのは12時前だった。それからやっと魅録に
お礼のメールを送ったが、返事はなかった。手早く宿題と風呂を済ませ、1時に
は布団に入ったものの、体は疲れているのに、頭は冴えて、野梨子は中々寝付
けなかった。明日のことを考えると寝なければと思うものの、どうしても野梨
子は学校から六本木への15分間を思い出してしまうのだった。自分が自分でな
くなったような、そう、風そのものになってしまったような不思議で魅惑的な
感覚。しかし同時に野梨子の五感は他のものも覚えていた。そう、魅録の背中
の熱さとタバコの匂い、制服のウールの少しざらっとした肌触り等を。そして
この事は野梨子をとまどわせた。
651Graduation第四話beside her(2):2008/10/16(木) 10:43:00

(いやですわ。わたくしったら、何だか、はしたないですわ。)
野梨子は風になった気分だけを取り出して反芻したいと思うものの、それは上
手くいかなかった。携帯を確認したが、誰からのメールも入っていなかった。

結局、その朝野梨子は少し遅れて家を出た。清四郎は今日も本を読んでいたが、
野梨子の家の玄関が勢い良く開くやいなや、この日は顔を上げた。
「ごめんなさい。お待たせしましたわ。」
「いいんですよ。昨日は慣れない事をして疲れたでしょう。良く眠れましたか?」
慣れない事というのが、母の手伝いの事を指しているのか、魅録のバイクに乗
った事を指しているのか分からなかったが、野梨子は
「え、ええ。」
と曖昧に答えるだけにした。二人は並んで歩き出したが、いつになく寡黙だった。
(?)
かすかな違和感を覚え、野梨子は清四郎の顔を下から盗み見た。ひきしまった
形の良い口元の隅を少し上げた、見慣れたポーカーフェイスだ。しかし野梨子
と二人の時はもっと気の置けない清四郎だ。野梨子は昨日の事の顛末を清四郎
に話したかったが、とてもそのような雰囲気ではなかった。かといって、全く
その話をしないというのも不自然なので、しばらく相手の出方を待ったが、清
四郎はたまに口を開いても全くその件には触れなかった。それが却って、彼が
この件をひどく意識しているという事を物語っていた。居たたまれなくなった
野梨子はついに思い切って聞いてみた。
「昨日の事・・・お聞きになりませんの?」
「昨日の事?」
清四郎は目を細めて首をかしげた。
652Graduation第四話beside her(3):2008/10/16(木) 10:45:31

「昨日の事というのは、それは、もしかして、たまたま同じ場所に行く予定の
あった魅録のバイクに危険を承知しながらも乗っけてもらっておば様の手伝い
に六本木まで行った事ですかね?」
「・・・ま、まあ、そういう事ですわ。」
「無事に着いたという連絡は昨日魅録からもらっていましたし。皆、安心して
いましたよ。野梨子は何か、その件について特に話したい事でも?」
ここで、この日初めて清四郎は野梨子の目をじっと見た。思いがけない清四郎の
漆黒の眼の力強さに、野梨子は意味もなくたじろいだ。
「いえ・・・。ただ、随分心配をかけたのではないかと思いまして・・・。」
(清四郎、やっぱり今日は何だか意地悪ですわ!)

数秒の間の後、清四郎は野梨子から視線を外すと、少しくぐもった声で言った。
「それで、魅録にはもちろんお礼のメールを入れたんでしょうね?」
「ええ、昨晩、遅いとは思ったのですけれど・・・!?」
野梨子ははっとして、清四郎の顔を振り仰いだ。耳がこころなしかピンクに見
えるのは気のせいだろうか?
(いけない!わたくし、清四郎に安否の報告メールを入れるのを忘れていましたわ!)
野梨子の脳裏に、昨日バイク上の野梨子を心配そうに見つめる清四郎の顔が蘇った。
野梨子は、恐らく昨晩遅くまで自分のメールを待っていてくれたであろう幼馴
染の気持ちを量り、たちまち、すまないという気持ちで胸が一杯になった。

「ごめんなさい、清四郎。魅録が清四郎には自分から連絡しておくと言ってい
たものですから・・・。メールを待っていて下さいましたのね。」
「そういうわけではありませんが。保護者代わりとしては、直接本人から無事
を確かめたい、というのはありますね。」
顔を、思いっきり空に向けて見られないようにしている清四郎に対し、野梨子
はまるで拗ねている子どもに対する母親のような愛しさを感じた。先程までの
緊張感がゆっくりと溶けて、二人の間の空気はいつしかまた元の穏やかさを取
り戻していた。
653Graduation第四話beside her(4):2008/10/16(木) 10:47:05

その日は朝礼があったので、朝、生徒会室に寄る時間はなかった。野梨子は魅
録からの返信がないのがずっと気になっていた。
(面と向かってお礼を言わないと落ち着きませんわ。)
朝礼の時、B組の列の中に魅録の姿を探したが、見つからなかった。中休みに
魅録と同じクラスの悠理が3時間目の体育の為、とりまきに囲まれながら廊下
を通り過ぎるのを教室から見かけたが、魅録の姿はなかった。窓側の席の野梨
子は授業中何度も校庭を覗いたが、男子は体育館なのか、校庭には悠理を中心
にバレーボールで盛り上がっている女子の姿しか見えなかった。野梨子は途方
に暮れ、ますます落ち着かなくなった。

ようやく昼休みになったが、野梨子は先生に頼まれて書類を片付けていたので、
生徒会室に行くのが遅くなった。ようやく用事を済ませ、足早に目的地に向か
い、ドアのノブに手をかけた。
(とくん)
心臓が小さく波打った。
一瞬躊躇した後、すぐにドアを開く。いつもとほとんど変わらぬ情景がそこに
あった。テーブルで、悠理と美童はファンからの差し入れの弁当を一つ一つ物
色しているし、清四郎は新聞を広げている。お茶当番の可憐が艶やかな笑顔を
振りまきながら入れたての日本茶を配っている。
・・・だが、野梨子の探している姿はそこにはなかった。魅録はどうしたのか
真先に聞きたかったが、何故だか躊躇われた。
「はーい、野梨子、遅かったわねえ。また先生に捕まっちゃったの?全くとろ
とろしてるんだから。でも、丁度良かったわ。今、お茶が入ったところよ。」
可憐が屈託なく笑いかけ、野梨子を席にいざなった。テーブル上に湯のみが5
つしか出ていない事に野梨子はその時やっと気が付いた。
654Graduation第四話beside her(5):2008/10/16(木) 10:48:41

「・・・。」
「魅録は今日は休みだよ。」
まるで、野梨子の心を見透かしたように、いきなり悠理が口を開いた。今日は
まず、手作りの松花堂弁当を一番に食することに決めたようだ。
「え、そうですの・・・?でも、昨日はあんなに元気そうでしたのに。」
悠理は勢いよく弁当を頬張りながら説明した。
「昨日行った店のオーナーと意気投合して飲みすぎて、二日酔いだってさ。ま
あ、ありがちだよ。あいつの場合。」
「・・・まあ。」
病気ではなくてほっとしたが、しかし直接会ってお礼を言おうと張り切ってい
た野梨子にとって、これは相当ショックだった。野梨子が手を洗って、思い足
取りで席に着くと、早速美童が明るくウィンクして聞いて来た。

「で、昨日はどうだったの?無事に着いて良かったけどさ、どんな気分だった?
聞きたいな、野梨子の感想。」
「あたしもよ。初体験でしょ。魅録、優しかった?それとも怖かった?」
可憐の声色に、清四郎と悠理が思わずお茶を噴出しそうになった。
「何よお、バイクの話よ、バイクの。初めての野梨子に合わせて、ゆっくりリード
してくれたんでしょう?彼、上手そうだもんねえ。」
「かっ・・・可憐、その言い回しは止めてもらえませんか?」
清四郎が眉間にしわを寄せながら、白いハンカチで額の汗をぬぐった。
「なーに、考えてんのかしら、やーねえ。」
可憐が水をさされてぷんと美しい巻き毛を振り払って美童に同意を求めた。
「そうだよね、魅録って、相手の事、第一に考えそうだよね。ムフ。」
「ねっ、そうでしょう。そーよねえ。」
可憐と美童は本人がいないのをいいことに、言いたい放題だった。
655Graduation第四話beside her(6):2008/10/16(木) 10:51:05

野梨子は味のしない弁当を機械的に口に運びながら、ポツンと主の欠けた席を
眺めた。彼女は今まで感じた事のない寂寥感を味わっていた。昨日からもう何
度思い返したことであろう。あの音と風と匂いと手触り。
「優しかったですわ・・・。」
野梨子は夢うつつで呟いた。
「へっ?」
「えっ!」
「あら。」
「・・・。」
ふと、野梨子は自分の箸が止まっていることに気づき、4人の目がじっと自分を
見ているのを肌で感じて慌てた。

「バ・・・バイクは思ったよりもずっと楽しかったですわ。もちろん、怖いこ
とは怖かったですけれど。あの音といったら・・・。でも、多分、かなりスピード
を落としてくれたのですわね、風がとても心地良くて・・・。もっと乗ってい
たかったですわ。結論を言うと、とても楽しい経験をさせて頂きましたわ。今
日は直接魅録にお礼を言いたかったのですけれど、会えなくてとても残念ですわ。」
そして、可憐に向かってにっこり笑って言った。
「可憐も今度乗せてもらったらいいですわ。」
「そうね、野梨子が乗れたんだもの、そんなに気持ち良いなら、あたしも乗せ
てもらおうかな・・・。」
「だから、可憐は無理だって。魅録の方が・・・。」
可憐が目を輝かすと、美童が可憐の胸元に目をやって、すかさず囁いた。

続く
656名無し草:2008/10/16(木) 14:24:29
>Graduation
可憐の言い回しワラタw
なんでそんな誤解されそうな言いかたなのw
でも心配してたのにメールを忘れられてた清四郎が切ないっていうか可哀そうでした…。
657名無し草:2008/10/16(木) 16:50:59
>Graduation
自分も可憐に笑いました。
可憐がバイクの後ろに乗ったら確かに運転に集中できないかもw
清四郎とのやりとりも生まれたときからの幼馴染って複雑でせつないなぁと思いました。
続き楽しみです。
658名無し草:2008/10/16(木) 18:13:03
>Graduation
お待ちしてました。
前回のドキドキの展開から、さっそく続きが読めて嬉しいです。
可憐の言い回しは、ほんとに面白いですねw
心配してメールを待っていた清四郎と
初体験wに舞い上がって忘れてしまった野梨子ですが、
互いにを顔を見て話すだけで相手の気持ちが分かったり
すぐに理解しあえるのが、幼馴染ならではって感じで
いいなぁと思いました。続きを楽しみにしています。
659名無し草:2008/10/16(木) 18:17:08
>Graduation
>昨日の事というのは、それは、もしかして、たまたま同じ場所に〜

この部分が、イヤミもほんのちょっと含んだ清四郎っぽさが出てますね。
前回と同じく、悠理と似た反応をする清四郎が気になっています。
保護者意識なのかハタマタ?微妙なカンジがするけど、どうなんだろう。
可憐美童風味もこれから序序にあるのかこっちも気になります。
いろいろ待ち遠しいです。
660名無し草:2008/10/16(木) 20:29:42
>Graduation
いつになったらこの話終わるんですか?
もうこのスレが作者さんの所有のごとく占拠されているんですけど・・・。
おもしろい話を書いてくれるのはありがたいんだけど、このスレは個人の所有物じゃありませんから・・・。
661名無し草:2008/10/16(木) 20:35:30
>Graduation
みなさんと同じく可憐の思わせぶりな言い方にwww
主役の野梨子だけでなく、キャラ全員が生きるような描き方が
好きです。みんなそれぞれ(・∀・)イイ!!
毎日読めるのが嬉しくて、楽しみです。
662名無し草:2008/10/16(木) 21:44:19
感想はみんな自演なんでつよ。
663名無し草:2008/10/16(木) 23:03:58
文字数をきめて改行してるのかな
そうじゃなきゃ区切り方が変だよね
664名無し草:2008/10/17(金) 02:18:10
イラストを投稿させてください。
倶楽部内全員ですが、絵柄や顔かたちはアレンジ寄りなので、苦手な方はスルーしてください。
ttp://cbbs1.net4u.org/sr4_bbs_img/11881yukan2ch/42_1.gif
イラストの補足を、画像掲示板に記載しています。

*画像掲示板の管理人さんへ、今の掲示板になんとか投稿出来ました。
 ご迷惑おかけしました。
 くわしくは画像掲示板の方に書いたので、読んでくださると嬉しいです。

*嵐さんへ、こちらの絵も同好会へは載せないでください。
665名無し草:2008/10/17(金) 12:11:06
>>664
GJ!
664さんのテイスト、大好物です
666名無し草:2008/10/17(金) 14:52:44
>664
う〜ん、いいですねえ。何度も見返してしまいました。
表情、ポーズ、衣装、各自の個性が出ていて皆素敵ですね。
特に中央でタクトを握る端正な清四郎と、魅録の耳から顎のラインがツボです。
667名無し草:2008/10/17(金) 15:39:31
>>664
思わずかっこええ・・・とつぶやいてしまいました。
清四郎、指揮者がぴったりですね。
自分は美童の表情がツボでした。
668名無し草:2008/10/17(金) 17:56:20
では自分は、賢げな美少年ぽい悠理とロリな雰囲気の野梨子に萌え。
あ、もちろん色っぽい可憐ねーさんもイイ。
前イラとともに保存して、眺めさせて頂きます。壁紙にしよーw

ちなみにオーケストラなら、
清四郎=指揮
美童=バイオリン
野梨子=クラリネット
魅録=トランペット
可憐=ハープ
悠理=シンバル
かなと妄想したことがあります。ガイシュツだったらスマソ
669名無し草:2008/10/17(金) 18:12:30
>>664
超GJです!
全員素敵ですが、特に上目遣いの美童と、下目遣いの魅録。
ともに目元の色気にやられました。
あと、可憐の腰のライン。
格好良さと萌えと共に堪能しました。
670名無し草:2008/10/17(金) 18:31:50
>>664
セクシーな可憐と魅録にやられた…!超GJ。
671名無し草:2008/10/17(金) 20:07:44
ぷぷぷwwwwwww
672名無し草:2008/10/17(金) 21:05:41
楽器のセレクトがそれぞれらしくて、ほほえましいです。
筆がむきましたらまたぜひ。
673名無し草:2008/10/17(金) 21:49:18
うめぇー。
野梨子の小さい帽子が似合いますねぇ。
野梨子と可憐がかわいい。
674名無し草:2008/10/17(金) 21:54:30
>>664
吉住渉の四重奏なんちゃらの漫画を思い出した。わかる人いるかな。
主人公を野梨子
もう一人の女の子は可憐と悠理をかけあわせ
と脳内変換した。
675名無し草:2008/10/17(金) 21:55:56
カルテットゲーム。
覚えてるわー。
676名無し草:2008/10/17(金) 22:43:32
>>674
漫画持ってるw
主役じゃない女の子は不良っぽくて
バイクに乗ってて女版魅録みたいなかんじだった。
吉住渉は新人だったけど上手かったから連載してた当時もよく覚えてる。
677名無し草:2008/10/18(土) 12:41:30
>664
うまいなあー!きれいだなあ。
眼福です。
ありがとう絵師さん!
678名無し草:2008/10/18(土) 16:13:01
まぁ御大は有閑倶楽部嫌いだから。しょうがないさ。
いつも「あれは私の王道作品じゃないのよ。こんなのも書けるのよ〜って書いてたら
なぜか人気が出ちゃっただけなの。私の代表作はデザイナーやプライドよ」って言ってるしねw
御大は女のどろどろものが好きらしいしww
679名無し草:2008/10/18(土) 19:29:33
>>675,676
覚えてる人いたー
あれ新人時代だったんだ。凄いな。
すれ違いスマソ
680驟雨に叫ぶ:2008/10/19(日) 10:30:15
681名無し草:2008/10/19(日) 11:27:09
>驟雨に叫ぶ
二人の思いが通じてほんとによかった。
穏やかで、広い心で包み込んでくれる清四郎がいいですね。
あとは魅録かな?彼にも幸せになってほしいです。
続き待ってます。
682名無し草:2008/10/19(日) 13:27:27
>>678
そんなの知ってます。
御大がいくら有閑を嫌っていても、私たちは有閑が好きなんです。
683名無し草:2008/10/19(日) 18:03:30
>驟雨
読んでいて、ほっこりとした気分になりました。
684名無し草:2008/10/19(日) 19:57:44
>驟雨に叫ぶ
毎回、流麗な文章が素敵です。自分も魅録の落ち着き先?が気になります。
続き楽しみにしています。
685名無し草:2008/10/20(月) 00:50:11
>驟雨に叫ぶ
続き待ってました!
今までは可憐と清四郎のことが気になってましたが、
魅録の気持ちも気になります。
686驟雨に叫ぶ:2008/10/20(月) 09:49:25
続きうpしました。
最終回です。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/1322/1065614482/176-186
687名無し草:2008/10/20(月) 16:15:09
>>686
どんまいどんまいどんまいどんまい
688名無し草:2008/10/20(月) 20:37:15
>驟雨に叫ぶ
続けて読めて嬉しかったです。シャワーの場面はドキドキしました。
可憐も辛かったけど、清四郎にこんなに愛されて羨ましいです。
一度とことん傷ついた分、今度はきっと幸せになりますね。
大人の雰囲気の素敵な作品を有難うございました。
次の作品も読めたら嬉しいです!
689名無し草:2008/10/20(月) 21:47:13
>驟雨に叫ぶ
清四郎が泣き叫ぶ場面って初めてなのでなんだかドキドキしました。
お互いのいろんな面を少しずつ見せていって、素敵な夫婦(まだ結婚してないけど)になっていくんだ
ろうなと思いました。
連載乙でした。
690名無し草:2008/10/21(火) 01:05:15
>驟雨に叫ぶ
大好きな作品でしたので、終わってしまったのが正直残念でした。
落ち着いた大人の文章で、本当に大好きでした。
作家様、本当に有難うございました。
また素敵な作品が出来ましたら、是非宜しくお願い致します。
691名無し草:2008/10/21(火) 11:47:17
Graduation、酔いの夢
お待ちしてます。
692名無し草:2008/10/21(火) 23:50:44
>酔いの夢
私もお待ちしております。
693Graduation:2008/10/22(水) 08:35:48
>650 今回6レスいただきます。
694Graduation第四話beside her(7):2008/10/22(水) 08:38:41

「・・・で、野梨子、メットは?」
悠理が2つ目の弁当に取り掛かりながら顔を上げずに聞いた。
「あ・・・。ごめんなさい、忘れましたわ。明日必ず持って来ますわ。」
「ちぇっ、しょうがないな。今日はどうせ使わないからいいけどよ。明日は必ず
返してくれよ。大事な物なんだ、あれ。」
「分かりましたわ。」
野梨子は胸が疼いた。忘れたというのは嘘だ。本当は覚えていた。でも、直ぐに
返してしまいたくなかったのだ。既に全てが過去のものとなってしまった今、
あの時間が幻ではなかったという証はあのヘルメットだけだったのだから。

美童と可憐は教室に帰る道々話していた。
「思ったより、もりあがらなかったわね。」
「うん。野梨子は、つっつけばもっと一杯話しそうだったけどね。何か、とっても
楽しかったんだろうなって気がするよ。けど、あの二人に遠慮して話さなかったん
じゃない?」
「あの二人ねえ・・・。どう思う?二人ともあからさまに機嫌悪かったわよね。
清四郎なんかいつもの倍くらいポーカーフェイスだったし、悠理ときたら食べ
るだけ食べたらさっさと出て行っちゃうし。そういえば、文化祭の練習の時、
悠理が突然来なくなっちゃった事があったじゃない。あれって今思うとやきも
ちだったのかしら?」
「あの時は確かに魅録と野梨子の息が凄く合ってたからね。でも、今はまだ二
人ともそういうんじゃないと思うけどな。悠理は、多分、自分以外の女の子が
魅録のバイクに乗るなんて想像もしてなかったから、単純に動揺しているんだ
ろうし、清四郎は野梨子の事が本当に心配だったんだろうと思うよ。だから、
もうこの件については話したくないんじゃない?」
695Graduation第四話beside her(8):2008/10/22(水) 08:41:43

「それで、野梨子が、『やっぱり止めておけば良かったですわ』じゃなくて、
『もっと乗っていたかったですわ』って目を潤ませているんだものね。あーあ、
これからどうなるのかしら?」
「思うに、この先、何も起こらなければ、しばらくはギクシャクするかもしれ
ないけど、結局は元に戻るんじゃないかな。可憐は、どうなって欲しいの?」
美童の問いかけに可憐は足を止め、昼下がりの陽だまりの窓辺に寄りかかると、
穏やかな、少し夢見がちな優しい表情を顔に浮かべた。
「あたしは・・・ずっとこのままでいたいわ。六人全員いつまでも仲良く、バカ
やって、ケンカして、泣いて、笑って・・・。皆幸せで・・・。」
一語一語かみしめるように語る可憐からは倶楽部の皆への愛情が滲み出ており、
美童は思わず二度見返した。そして優しく微笑むと、そっと可憐の肩を抱いた。
「そうだね。きっと、皆も一緒だよ。」

一方、最後になった野梨子と清四郎がドアに鍵をかけ、並んで教室に戻ってい
る時、裏庭で一人、バスケットのゴールにボールをシュートしている悠理を見かけた。
それは、暇があるとよく、バスケ好きの魅録が悠理とが遊んでいる場所だった。
ジャンプするたびに悠理のプリーツスカートが翻るので、いいかげんにしろよ、
と魅録は時に悠理をたしなめていたが、もちろん、悠理は聞く耳持たなかった。
今日も悠理は一人とはいえ、周りが目に入らない様子で一身腐乱にボールをシュートしていた。
亜麻色の髪を風になびかせ、長い睫に縁取られた濃いトパーズのような大きな
目を光らせて、細い体をしなやかに動かしている悠理は、まるで美しい血統書
つきの豹のようで、見る者の目を奪った。

「悠理、綺麗ですわね。」
「・・・否定しませんね。」
しかし、今日は調子が良くないらしく、悠理はしばらくすると、シュートを止
めて、ボールを地面に置き、そこに腰を下ろして座り込み、膝の上でひじを折
って両手の平にあごを乗せ、ぼんやりと空を見上げた。その姿は打って変わって
打ち捨てられた子猫のように弱弱しく見えた。清四郎と野梨子はどちらからとも
なく顔を見合すと、何を口に出すわけでもなく、静かにその場を立ち去った。
696Graduation第四話beside her(9):2008/10/22(水) 08:43:32

5時間目が始まってすぐ、野梨子は廊下を一人歩いて教室に向かう悠理を自分の
席から目撃した。顔はまっすぐに前を向き、口元を一文字にひきしめ、手をこ
ぶしに握りしめながら、カツカツカツと足早に歩いて行く。野梨子は今日一日、
何度か悠理を見かけたが、その都度感じた違和感の理由に今やっと気がついた。

(魅録が傍にいないんですわ・・・!)
有閑倶楽部はもちろん6人全員仲が良いが、その成り立ち上と各人の趣味嗜好
から、清四郎と野梨子、美童と可憐、そして魅録と悠理がつるむことが多い。
特に魅録と悠理は同じクラスなので、学校ではとりわけ一緒に行動することが
多かった。しかし、いつも常人を超えた元気さを誇る悠理が、親友とはいえ一
人の男友達がいないというだけで、あんな別人のような表情を見せるものなの
かと、野梨子は心が乱れた。

そして、6時間目。今日は生徒総会の日だった。大講堂に高等部全員が集まる。
聖プレジデント学園の生徒総会は活気に満ち溢れていた。なぜなら、有閑倶楽
部の6人が勢揃いで、一般生徒達の前に顔を出すからである。一人とでも同じ
クラスの生徒は大変な幸せ者だったし(特にごひいきのメンバーと同じクラス
の場合)、堂々と取り巻きになり、お弁当を食べて貰える者は実際には限られた
人数で、大方の生徒達は、彼等に憧れながらも、自分とは縁がないと人々と悟っており、
今日は○○さまと階段ですれ違ったとか、○○さんと学食で隣になった等の小さな
幸運を大切にしているのだった。それが、生徒総会の間は思う存分、彼等の一
挙一動を眺めることができた。しかも、○○さまと○○さんが今日はあまりお話に
ならなかったのは何故だろう?○○さまが○○さんにあの時笑いかけていた意味は?等、
閉会後に仲間内でああだ、こうだと妄想するのがまた極上の楽しみでもあった。
697Graduation第四話beside her(10):2008/10/22(水) 08:45:53

壇上の向かって右手、一番手前に生徒会長、その横に副会長、その横に会計。
反対側の一番前に文化部長、隣に運動部長、最後に書記の席が並ぶ。早く着い
た野梨子は、文化部長の席について、今日の資料を確かめた。今日の議題は来
月行われる球技大会についてだった。文化部関係の野梨子には直接関係がない
のだが、運動部長の悠理を手伝って、資料を作ってあった。
うつむいてファイルをがさがさと開けていると、ふっと人の気配がした。
つんとしたかすかなタバコの匂い・・・。
「!」
顔を上げると、そこには今日はいないはずの短髪の男子生徒が微笑みながら自分を
見下ろしていた。

「みっ、魅録っ!どうしてここにっ?」
野梨子はすごい勢いで立ち上がり、その瞬間に椅子が後ろにガタンと転がった。
「そ、そんなに驚くなよ。」
野梨子の驚きが相当だったのだろう、魅録はぎょっとしたように顔を赤くして手をふった。
「今日は休みではありませんでしたの?」
野梨子も顔を赤くしながら、がたがたと椅子を起こした。
「へへ、悠理から聞いたろ?昨夜、飲みすぎただけだから。ざまーねえや。昼
過ぎにはもう良くなってて、どうすっかなーって思ったけど、生徒総会で発表
もあったし、それに・・・。」
ここで魅録はちょっと頭をかいた。
「野梨子のことも心配だったしな。あの後大丈夫だったか?」
野梨子の胸に暖かいものが広がっていった。今日一日の胸のつかえがすーっと
とれていく。ああ、自分は今日一日、どんなに彼に会いたかったことか。野梨子は
その思いの大きさに、今更ながら驚いた。
698Graduation第四話beside her(11):2008/10/22(水) 08:48:09

「大丈夫ですわ。メールにも書きましたでしょう。本当に楽しかったですわ。
有難うございます。」
しかし、野梨子はその後に、『また、乗せて下さいますか?』と聞くのを躊躇った。
「そ。良かった。メールはごめんな。内容は確認したんだけど、もうへべれけ
で、返信できなかった。どっちにしても、会って顔見て確認したかったんだ。」
「わたくしもですわ・・・。」
野梨子の蚊の泣くような声は魅録の耳には入らなかった。
「野梨子、相当無理してたんじゃないかって、後から思ってさ。ちょっと、いや、
かなり強引だった気がしてさ。」
「そんなことありませんわ!」
今度は野梨子の声ははっきりと魅録の耳に届いた。
「わたくし・・・魅録や悠理がバイクに乗りたがる気持ち、わたくしなりに分かった
気がいたしますわ。まるで自分が風になったようで・・・、上手く言えません
けれど・・・とっても素敵な気持ちでしたわ。」
「そう?」
野梨子の熱っぽい口調に真実を感じ、魅録の切れ長の目がキラッと嬉しそうに輝いた。
「俺、バイクが大好きだから、他のやつがバイク、好きなってくれると、それも
本当に嬉しいんだ。」
699Graduation第四話beside her(12):2008/10/22(水) 08:51:52

「魅録!」
その時、悠理の大声が大講堂中に響き渡った。
「おう。」
魅録は反対側から壇上に上がって来た悠理に笑って手を振ると、野梨子を振り
返って素早く言った。
「じゃな。また、その気になったらいつでも乗せてやるよ。」
魅録がきびすを返すや否や、悠理が飛びついて来た。
「何だよ、おまえ、来たのかー?!もう6時間目だぜっ!」
ぽかぽかっと悠理の細腕が魅録の頭を優しく叩く。
「来ちゃ悪いかよ。」
魅録もにやりと笑って悠理の猫っ毛をくしゃくしゃとかき回す。
「えへへー。」
魅録の左腕にしっかりと両腕でしがみつき、彼の顔を見上げながら上気した顔
で嬉しそうにしゃべりまくる悠理は、もう捨てられた子猫ではなかった。

(良かったですわね、悠理。)
野梨子はまだ少しぼうっとした頭で、でも素直にそう思った。
ふと気が付くと、いつの間にか清四郎が隣に立っていた。やはり悠理と魅録を
見つめている。清四郎はあごに手を当て、口元を緩めて目を細めた。
「全く、悠理はわかり易いですね。」
その声は飽くまで暖かかった。今来たばかりの美童と可憐が魅録と悠理と一緒に騒いでいる。
また六人の幸せな時間が戻って来た。同時に、野梨子の頭を形のない問いが過ぎった。
(悠理の傍には魅録、可憐の傍には美童。そして・・・?)
清四郎は、野梨子の問いかけるような視線に気が付き、穏やかな微笑みを彼女に向けた。
「何ですか?野梨子。」
数秒の間。しかし結局、野梨子は返事の代わりにそっと笑って見せただけだった。
何を問うているのか、自分自身でさえ分かっていなかったのだから。

第五話dateに続く

700名無し草:2008/10/22(水) 09:36:05
>Graduation
お〜、帰ってきてくださった!有難う。
ほぼ毎日読めてたから、ちょっと心配してしまいました。
バイクのことを語る少年っぽい魅録が可愛かったです。
清四郎も悠理の心情に気づいたってことなのかな。続き待ってます。
701名無し草:2008/10/22(水) 11:37:07
>Graduation
自分の気持ちに気がつく前の微妙な心の揺れがいいですね。
次の5話のタイトルも気になります。
続き楽しみに待ってます。
702名無し草:2008/10/22(水) 15:36:20
703名無し草:2008/10/22(水) 18:41:06
>Graduation
早いな、もう次は5話なんですね。
野梨子のウブさもそれらしくてかわいらしいし、魅録と悠理がじゃれ合う姿も萌えるし和みました。
2人がじゃれ合う姿を見ていた野梨子の気持ちもなんとなく分かります。
惹かれてるけどでもどっちも仲間、みたいなカンジなんだろうなと思いました。
704名無し草:2008/10/22(水) 18:46:53
>Graduation
早く終わらないかとわくわくしながら待っています。
ほぼ毎日スレを占領されるのは嫌なものです。私物じゃありませんしね。
一刻も早い休載を待ってます。
705名無し草:2008/10/22(水) 20:43:59
>Graduation
楽しみにしていた続きが読めて嬉しいです。
悠理の心情も野梨子の心情もなんだか判る気がして
見ていて微笑ましいです。
そして野梨子を心配する清四郎がなんとも可愛かった!
続きも楽しみにしております!
706名無し草:2008/10/22(水) 21:44:34
豹って血統書ついてんの?
雑種とかいるわけ?
707名無し草:2008/10/23(木) 00:22:21
他の作品も楽しみに待っています。
こちらの大長編が始まってから、他の作品の投下がなかなか無くて
寂しく思っています。
作家さん達、どうぞいつでも帰っていらして下さい!
708名無し草:2008/10/23(木) 02:15:18
喧嘩に強い
貧乏なんて無縁
身体能力抜群
幽霊をみることができる
理性より本能
709名無し草:2008/10/23(木) 04:00:14
>Graduation
野梨子の言う通り、悠理の表現が綺麗でした
みんな今回は楽しそうで良かった

これからも気にせず書きたい物をたくさん投下してくださいな
楽しみにしています
710名無し草:2008/10/23(木) 18:01:29
↑は、おせじwwwww
711名無し草:2008/10/25(土) 20:31:39
どのカプでもいいから甘い話が読みたいです。
712名無し草:2008/10/25(土) 22:37:02
「Graduation」みたいなクソつまらない話ではなく、他の人のおもしろいSSが読みたい。
Gra(略)(吐)は気持ち悪いしいらない。
713名無し草:2008/10/25(土) 23:19:47
いい加減にしろや
714名無し草:2008/10/26(日) 01:55:56
小ねた
美野で付き合いはじめくらいで、美童→野梨子な感じで

美「たまには野梨子の口から好きって聞きたいなあ」
野「私はどこかの誰かみたいに大切な言葉を安売りしませんの」
美「それは聞き捨てならないな。大切な言葉を何度も口にすることで、想いが強くなるんだよ?」
野「あちこちにばらまくなら風の前の塵と同じことですわ」
美「手ひどいな、じゃあ野梨子はどうして僕と付き合ってくれてるんだい?」
野「それは…」
美「好きでもないのに一緒にいるなんて、言葉の安売りより性質が悪いよね」
野「っ……(息を呑んで顔を赤くする) 言わなきゃ分からないなんて美童はまだまだですわね」

急ぎ足で歩く野梨子の少し後ろをわざとゆっくり歩いておいつかない美童の視線だけで
顔まっかっかの野梨子を妄想して楽しかったので書いてみた
715名無し草:2008/10/26(日) 03:35:16
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1208357681/l50
悠理以外のカプを見たくないなら、↑で思う存分悠理マンセーしてればいいのに。
大好きな清悠がたくさんあるよ?
716名無し草:2008/10/26(日) 03:55:19
>>714
美可と美悠も見てみたい。

>>715
そのスレ落ちてるよ。
てか隔離スレと本スレは無関連なのでリンク貼らなくていい。
717名無し草:2008/10/26(日) 06:36:44
>>714
乙です
ツンデレな野梨子がかわいい
718名無し草:2008/10/26(日) 23:09:40
寒くなってくると美童の季節だなぁと思う。
真っ白なコートや毛皮なんかもエレガントに着こなしてしまうし
クリスマスやイルミネーションも華やかでよく似合う。

初期の悠理もいい意味で軽薄で、豹柄の毛皮やや宝石が
ロックっぽくて似合っててカッコ良かった。

でも清四郎は除夜の鐘のイメージで、クリスマスは程遠いな。
719名無し草:2008/10/26(日) 23:35:18
 確かに、初期は悠理や美童を始め、メンバー全員がゴージャスだったよね。
メンバーに似合う宝石を考えてみる。

 悠理  トパーズ
 清四郎 ラピスラズリ
 野梨子 サファイア
 魅録  エメラルド
 可憐  アメジスト
 美童  ルビー

野梨子や清四郎は翡翠や琥珀でもいいかもしれんが。
 
720名無し草:2008/10/27(月) 03:38:18
宝石いいね。
自分のイメージは

悠理 トパーズ、キャッツアイ
清四郎 琥珀、煙水晶、翡翠
野梨子 真珠、アメジスト
魅録 ダイア
可憐 ルビー、ピンクサファイア
美童 サファイア、エメラルド

かなー。
721名無し草:2008/10/27(月) 10:48:53
私は美童や可憐はルビーでもスタールビーのイメージがあるな

あと番外で
モルダビア モルダバイト
722名無し草:2008/10/27(月) 10:57:35
悠理 明るいオレンジ 黄色
野梨子 白 水色
可憐 紫色 深い赤 
美童 ピンク 薄い色全般

宝石だけじゃなく色のイメージだけだと自分はこんな感じかな。
ピンクサファイヤは美童のイメージっぽい。
可憐はガーネット。
723名無し草:2008/10/27(月) 15:06:34
宝石なんてどうでもいい。
724名無し草:2008/10/27(月) 16:09:00
みんな宝石のイメージいいねー。
725名無し草:2008/10/27(月) 20:23:08
のっとり作者(Gra…何だっけ?w)消えたね!よかったよかった♪
これでこのスレも平和だぁ(^^)
726名無し草:2008/10/27(月) 21:15:32
>714
いいねー
冬場は妄想シチュいっぱいで、このスレ的にも美味しいかもしれない。

作家さんが来るまで、
それぞれのとっておき冬デートシチュを聞いてみたい。
清四郎×野梨子で参詣デートとか。
魅録×悠理で、冬に一緒にコンビニの前で肉マン食べたり、
美童×可憐で、クリスマスのゴージャスデートとか。
727名無し草:2008/10/27(月) 22:01:56
清四郎と野梨子は美術館めぐりとか第九を聴きに行ったりとかかなー。
悠理と魅録はルシアンのカウントダウンライヴとか。
可憐と美童はナイトクルージングとかパーティーのイメージ。
728名無し草:2008/10/27(月) 22:30:19
美悠で、遊園地デートとか。
まだ口説いている最中で、付き合っていなかったりしたら萌え。

魅野でバイクデートもいいなあ。
729名無し草:2008/10/27(月) 22:46:14
>Graduation
作者様、いつまでもお待ちしていますよ〜。
メンバーの言動がそれらしくって、愛情に溢れていて大好きです。

冬デート、美童と女性陣で妄想してみる。
悠理とは、ディズニーランドでのクリスマスや大晦日のイベントデー。
アトラクションに、パレードに、フードにと、はしゃぐ悠理の後ろを
やれやれ、と微笑みながら、歩いて行くのっていいな。

野梨子なら、クリスマス前後に教会でのコンサートや、バレエを観劇。
もちろん、アフターディナー付き。珍しく興奮気味に感想を話す野梨子
の表情に見惚れる。

可憐は<726<727タンと同じく、ゴージャスなパーティのイメージだなあ。
「君が一番きれいだよ」とか言って、思い切り周囲に見せつけてほしい。
730名無し草:2008/10/27(月) 23:41:23
>Graduation
私も待っております。
ぜひ最後まで書いてくださいね。
731名無し草:2008/10/28(火) 02:16:53
清四郎と野梨子なら、デートとは少し違うけど、
年末年始は炉開きとか初釜とか、茶事も多ぃから、
逃げた清州の代わりに、清四郎が駆り出されてそう。
男手が足りなくて、清四郎が白鹿家の大掃除を手伝ってたりとかもいい。

魅録と可憐がクリスマスにクロム・ハーツのシルバーアクセを
プレゼントしあったり、お揃いで付けたりとかもいいなぁ。
可憐ならオリジナル1店モノも作れるし。

悠理と美童はやっぱりディズニーランド!
可愛い二人にぴったりだw
732名無し草:2008/10/28(火) 07:59:44
>Graduation
私もお待ちしてます!

>清四郎が大掃除の手伝い、萌えますねw
お礼は野梨子の特製おせち。
「たんと召し上がってくださいませね。黒豆、お好きでしたでしょ?」みたいな。
733名無し草:2008/10/28(火) 16:41:33
>>731
自分も清四郎が大掃除の手伝い、に萌えてしまった。
「僕は甘い卵焼きは苦手なのですが、なぜか野梨子の作ったこの伊達巻だけは
毎年食べたくなるんですよね」とか。
734名無し草:2008/10/28(火) 17:48:00
作者の自演なら世話ないな。
735名無し草:2008/10/28(火) 18:17:52
清野の年越しはふたりで茶室で過ごして欲しい。
736名無し草:2008/10/28(火) 21:52:57
可憐と美童はパーティーのイメージだけど、別荘で二人で料理とかもいいかな。
737名無し草:2008/10/28(火) 23:00:55
>>735
そのまま年越しエチーへなだれ込みそうな美味しいシチュですねw
738名無し草:2008/10/28(火) 23:25:16
>>733
萌えるw二人で甘い時間になりそうだ
739名無し草:2008/10/29(水) 20:34:04
過疎
740名無し草:2008/10/30(木) 02:24:23
>736
可憐も美童もお料理プロ級に上手そうだ。
美童がスウェーデン料理を教えてそう。

悠理と美童なら、一緒にお風呂に入って、
悠理の髪をトリートメントしてあげてたら萌える。
百合子さん趣味のお姫様なバスタブを泡風呂にして。
741Graduation:2008/10/30(木) 10:09:24

第五話の前に、番外編の小話を二つ投下します。全部で9レスです。
今回は小1の清四郎と野梨子の文化祭の金魚すくいのお話で、淡々としたほのぼの系です。
苦手な方、興味のない方、本編嫌いの方はお手数ですが、スルーお願い致します。

>本編を読んで下さっている方々へ。
今後の投下について考えていました。
私もこのスレが大好きなので、自分の投下によってスレに迷惑をかける可能性が
あると考えるのはとても辛いです。一方、今まで読んでくれている方々には、
書き始めた以上、最後まで読んで頂きたい気持ちで一杯です。今は、なるべく
スレに迷惑をかけないように、投下のペースに配慮して、何とか最後まで投下
できればと思っています。それでもスレに迷惑をかけてしまった場合はまた考えます。


742Graduation番外編goldfish(1):2008/10/30(木) 10:11:42

僕の名前は菊正宗清四郎。聖プレジデント学園初等部の一年生だ。一年生とは
いっても、おそらく初等部では僕を知らない人物はいないだろう。自分で言うのも何だけど、
僕は頭が良くて、運動も得意、礼儀正しくて気も付くし、育ちもいい。
おまけに顔だって悪くない。
周りの大人達は僕を神童と呼ぶ。だけど僕は知っている。子供の頃のちょっと
した才能なんて、たまたま天から贈られたもので、その子が偉いわけでもなんでもない。
幸運にも持って生まれたその才能を、その後のたゆまぬ努力によって磨き続け、
大人になって世のため人のために使ってこそ意味があるんだ。
ラッキーな事に、僕は勉強とか研究とか、あと努力をして、出来ない事が出来る
ようになったりする事にとても喜びを感じるタイプだ。
だから、大人になってもきっと大丈夫だと思う。

僕には自慢の幼なじみが一人いる。名前は白鹿野梨子。女の子だ。きれいな名前だろう?
本人も、お人形さんみたいに可愛いんだ。黒くてまっすぐなおかっぱの髪は、
僕の顔が映りそうなくらいつやつやのキラキラだし、はだは真っ白で、漫画に
出てくる女の子みたいにすっごく大きな目と、ちょこんとした、さくらんぼみたいな
小さな赤い口をしている。
野梨子ちゃんがゆっくりまばたきをすると、長いまつげが、ふぁさふぁさと音を
立ててゆれる。(ように僕には思える。)
そのまつげの下から大きな黒い瞳でじっと顔をのぞきこまれると、僕はいつも、
野梨子ちゃんのためなら何でもしてあげたくなってしまうんだ。

才色兼備の野梨子ちゃんには実は弱点が一つある。それは、運動能力が極端に
劣っているということだ。この事は本人も周囲も良く分かっているから、体育や
運動会の際は、皆それなりの心の準備と配慮をしている。ただ、困るのは、日常の、
思いもしない状況でその能力が必要とされることが、時にあるということだ。
743Graduation番外編goldfish(2):2008/10/30(木) 10:13:08

その日は中、高等部の文化祭で、一年生になった僕たちは、去年までの保護者
同伴ではなく、自分たちだけで回るお許しを得て、とてもワクワクしていた。
僕と野梨子ちゃんは、親からもらった百円玉五枚をそれぞれポケットに入れて、
さて何に使おうかとお店を物色して回った。
野梨子ちゃんは、さっそく、ピンク色のふわふわした綿菓子の前で立ち止まったけど、
人さし指をあごにあてて可愛らしくちょっと考えた末、
「今買うとじゃまになるので、最後にしますわ。」
と賢明な決断をした。

僕たちは主にヨーヨーすくいや、スーパーボールすくい、輪投げ、的あてなど、
ゲームを検討して回っていた。途中、同じ学年の剣菱悠理が、後ろに五代と呼ばれる
おじいさんを引き連れて、両手を食べ物で一杯にしてご機嫌で歩いているのを見かけた。
向こうもこっちに気付くと、声を出さずに口だけ大きくパクパクさせて、
(キ、ン、ギョ、の、フ、ン!)
と言うと、とどめにアッカンベーをして去って行った。

しかしこの頃には、すでに僕は彼女のこういった行動には慣れっこになっていたので、
(やれやれ、またか。)と思っただけだったが、野梨子ちゃんは違ったようだ。
野梨子ちゃんは剣菱悠理の去って行った方を仁王立ちになって睨みつけると、
「本当に、下品な方!」
と、ぴしゃりと言い切った。

僕たちは、お店めぐりを再開した。まだ少しプンプンしていた野梨子ちゃんも、
次第に機嫌が直ってきて僕はホッとした。
ふと、野梨子ちゃんが立ち止まった。
「きれい・・・。」
見ると、小さめの水そうの中に、赤いのや、まだらなのや、花びらのような金魚たちが
ゆらゆら泳いでいる。まだ少し汗ばむ季節の中、金色の光を吸い込んだ涼しげな水の中で、
さまざまな模様を織りながら気持ち良さそうに泳いでいる金魚たちは僕も気に入った。
744Graduation番外編goldfish(3):2008/10/30(木) 10:14:56

野梨子ちゃんは座り込んで、じっと金魚たちを見つめていた。野梨子ちゃんの
大きな目に、赤い金魚が映ってゆれていた。よっぽど気に入ったのだろう。
野梨子ちゃんは僕に赤い顔を向けると、ちょっと興奮気味に言った。
「清四郎ちゃん、わたくし、まず、金魚すくいをしますわ。」
僕は思わず目をつぶった。
(お願いだ、野梨子ちゃん。ここで「清四郎ちゃん」はやめてくれ!)
僕は、幼稚舎のとき剣菱悠理にバカにされて以来、「ちゃん」付けで名前を呼ぶのは
やめてほしいと、ずっと野梨子ちゃんに言い続けているのに、野梨子ちゃんは
ふとした時に昔のくせが出るんだ。二人だけの時はそれでもいいけど、学校では
絶対に呼んで欲しくなかった。特に剣菱悠理のいる場所では。
僕は祈るような気持ちで回りを見たが、幸い、知っている顔は一つもなかった。

さて、僕たちは、係りのお姉さんたちに50円ずつ払い、真っ白い紙がピンとはられた
すくい網と、小さな銀色のボウルを受け取った。
スーイスイ。
一匹、スマートだが、ひときわ大きくて立派な、真っ赤な金魚がいた。泳ぐスピードも
速くて、他の金魚たちは皆、この金魚の後にくっついて行っているみたいだった。
きっと、こいつがリーダーだ。でも、そいつはとても取るのが難しそうだったので、
僕は次に目についた、もう少し小ぶりでヒラヒラしている、かれんで可愛らしい
感じの金魚に狙いを定めた。
集中。上に浮いてきた。今だ!
「やった!野梨子ちゃん、取れたよっ。」
僕が嬉しくて横を振り向くと、ちょうど野梨子ちゃんの一枚目のすくい網の紙が
破れたところだった。

「あー、残念だったね。もう一回やる?」
お兄さんが二枚目のすくい網を手に持ってヒラヒラさせている。野梨子ちゃんは
黙ってうなづくと、スカートのポケットに手を入れた。

745Graduation番外編goldfish(4):2008/10/30(木) 10:16:11

僕は、水そうに向き直り、二匹目の金魚を値ぶみし出した。すくい網にはって
ある紙は一回目でだいぶ弱っている。後はもう大物を狙わず、水そうの角に集
まっている大群の中から上の方にいるやつに照準を定めた。赤くて小さいのを、
ひょい、ひょい、と二匹続けてすくったところで紙が破れた。
「あ〜あ。」
僕は、すくい網を右目に持っていって、紙の破れたすきまから野梨子ちゃんの
様子をうかがった。そして、大変なことになっていることに気がついたんだ。

野梨子ちゃんの足元には、もう四本もの紙の破れたすくい網が落ちていた。銀色の
ボウルには透明の水がきらきらしているばかり。
そして、野梨子ちゃんは震える手で、次の五十円玉をお兄さんに渡していた。
「がんばってね!」
「次は絶対大丈夫よ!」
「ほら、角に集まっている、小さいのを狙うといいよ。」
「すくい網はこう持ってみたら?」
係りのお兄さん、お姉さんたちは、何とか野梨子ちゃんの役に立とうと一生懸命だった。
野梨子ちゃんは黙ってコクンとうなづくと、左手に銀のボウルをかかえ、右手に
すくい網を握りしめて、水そうに身を乗り出した。
網を水に入れる。水中で網を動かす。金魚が逃げる。
ドロリ。水にぬれて破れた紙がたれさがる。

6本目・・・7本目・・・8本目・・・9本目・・・。
今や、賑やかな文化祭の中で、この一角だけ、異常な緊張感に包まれていた。
係りのお兄さん、お姉さんはいわずもがな、ただならぬ気配に何事かと集まってきた
やじ馬たちも、皆、一様に眉間にしわを寄せ、奥歯をかみしめ、肩に力を入れ、
こぶしを握りしめて、野梨子ちゃんと金魚の行方を見つめていた。もちろん僕もだ。
僕らの思いは一つだった。
(どうか、神様、この小さな女の子に、一匹でいいから金魚をすくわせてあげて下さい!)
746Graduation番外編goldfish(5):2008/10/30(木) 10:18:46

僕らの願いが通じたのか、10本目のすくい網に、小さな、小さな金魚が一匹のった。
しかし・・・。
「とれましたわ!」
野梨子ちゃんは喜びのあまり、すごい勢いで立ち上がってしまい、その拍子に
金魚はぴょんと飛びはねると、まるで野梨子ちゃんをあざ笑うかのように、紙に
穴をあけて仲間のもとへ帰って行ってしまった。
パシャン・・・。

誰も何も言わなかった。
野梨子ちゃんは立ちつくしたまま、穴のあいた最後のすくい網を見つめていた。
いつまでも、いつまでも見つめていた。

そして、ついに、誰もが危惧していた展開になった。
つまり、一匹も金魚をすくえなかった可哀想な女の子は静かに泣き出したのだ。
野梨子ちゃんの泣き方は全く見事だ。野梨子ちゃんは泣く時に決して顔をぐしゃぐしゃに
したりしない。小さい鼻の頭だけをほんのり赤くそめ、口元はきゅっと引きしめている。
そして、肩が少し上下したかと思うと、突然、本当に突然、大きな目に涙が浮かび
あがってきて、そう、真珠の涙って言うのかな、その涙は玉になって、ポロポロポロッて、
ほおをこぼれ落ちて来るんだ。しかもその間、目を大きく開いたままで。

ポロポロポロポロ・・・。
野梨子ちゃんはまだ穴の開いたすくい網を見ていたが、ついに声を発した。
「まだ・・・綿菓子も食べてないのに・・・。お小遣いなくなってしまいましたわ・・・。
そして、金魚は一匹も取れてない・・・。」
ポロポロポロポロ・・・。
玉となった涙の粒は、前よりも一層激しく野梨子ちゃんのほおをこぼれ落ちた。

747Graduation番外編goldfish(6):2008/10/30(木) 10:20:11

僕は、楽しいはずの文化祭で突如僕らをおそった、この予期せぬ事態に今だ呆然と
しながらも、それでも何とか事をおさめようと行動を起こし始めた。
「の、野梨子ちゃん、ほら、僕、金魚3匹とれたんだよ。良かったら、僕のを
分けてあげるよ。それと、綿菓子、僕のを半分あげるからさ。僕、好きなんだけど、
全部は食べきれないんだ。」
本当のところ、僕は綿菓子には全く興味がなかったのだけど、野梨子ちゃんのプライドを
刺激しないで納得させるにはこう言うしかなかった。
野梨子ちゃんは、涙に煙る目でゆっくりとこっちを向いた。
「ほっ、ほら、野梨子ちゃん、どれがいい?」
僕は、金魚の入った透明のきんちゃく袋を、良く見えるように高く持ち上げた。
野梨子ちゃんが素直に金魚をながめ始めたので、周囲からはほっとしたため息がもれた。

「これがいい・・・。」
「・・・。」
幼なじみの間に「遠慮」という文字はない。野梨子ちゃんが指差したのは、僕の
お気に入りのヒラヒラ金魚だった。しかし、僕は男らしく、その金魚を野梨子ちゃん用に
分けてくれるよう、お姉さんに頼んだ。お姉さんはとても嬉しそうにニコニコして
その仕事をしてくれた。
「はい、どうぞ。きれいな金魚ね。」
野梨子ちゃんは口元にかすかな笑みを浮かべて、今や自分のものとなったヒラ
ヒラ金魚を袋ごしに見つめていた。これで全ては解決したと、誰もがやれやれ
と思ったとき、野梨子ちゃんが口を開いた。
「でも・・・一匹じゃ、可哀想ですわ・・・。」
僕はため息を飲み込んで、言った。
「じゃあ、僕のをもう一匹・・・。」
「でも、そうしたら、清四郎ちゃんの金魚が一匹になってしまいますわ・・・。」
確かにそうだった。
「それじゃあ、僕がもう一回やって、新しいのを野梨子ちゃんにあげるよ。
どれがいい?」
748Graduation番外編goldfish(7):2008/10/30(木) 10:22:28

僕としたことが、全く余計なことを言ったもんだ。どれがいい、なんて聞かなければ、
さっさと手ごろな金魚をすくってあげられたのに。
しかし、野梨子ちゃんはもう品定めに入っていた。
「これ・・・これがいいですわ・・・!」
僕は思わず顔をしかめた。それは、さっき僕が取るのをあきらめた、あのリーダー
金魚だったのだ。
「野梨子ちゃん、これは大きくてすばしっこいから・・・。」
「・・・無理・・・ですの?」
野梨子ちゃんの顔がたちまちくもった。そしてその時、僕は周囲の視線が全部
僕に集まっていることに気付いて、顔が熱くなった。
その視線は皆こう言っていた。
(男だろ。何とかしろよ!)
そう。こうなった以上、僕がこのリーダー金魚をとらない限り、野梨子ちゃんに
心の平安は訪れないだろう。
「大丈夫。僕にまかせて。」
僕は、自身ありげに大きく笑って胸をそらせると、お兄さんに50円玉を渡した。
僕の態度は本当に立派だったと思う。だけど、心の中はビクビクだったんだ。

その時、いつからいたのか、やじ馬の中に、剣菱悠理の姿を見つけた。べっこう飴を
なめながら、面白そうにこっちを見ている。全く、やりにくいったらありゃしない。
真新しいすくい網とボウルが手渡され、7歳の僕はたった一人でこの思いがけない
試練に立ち向かった。何十人もの目が僕を凝視している。僕の耳は燃えるように熱く、
赤かっただろうけど、顔の方は真っ青だったはずだ。実際、僕は今までこれほど
緊張したことはなかったし、これほど責任を感じたこともなかった。

リーダー金魚は相変わらず元気一杯、誇らしげに水そうの中を泳ぎまわっている。
(この金魚がいなくなったら、残りの金魚たちは寂しがるだろうな。)
何て考えがふと頭に浮かんだ。でも全ては野梨子ちゃんのためだ。
悪いな、金魚くんたち。
749Graduation番外編goldfish(8):2008/10/30(木) 10:23:59

僕は再び集中した。僕は集中するのが得意だ。雲海和尚に習っているからだ。
リーダー金魚が、他の金魚とぶつかって、一瞬、水の表面に浮かんで来た。
今だ!
「おおっ!」
次の瞬間、金魚は僕のボウルの中にいた。周囲から大きな拍手がおこった。
「やったな!ぼうず!」
「頑張ったわね。えらいわ。」
「いや、ほっとしたよ。」
「君、かっこよかったわよ!」
今まで受けたどんな賞賛よりも、この時のほめ言葉は嬉しかった。そして、
ヒラヒラ金魚の入っている袋にリーダー金魚を移してもらうと、なんだか二匹が
喜んでいるように見えた。

「はい、野梨子ちゃん。」
僕は、男としての誇らしさで胸がいっぱいになりながら、野梨子ちゃんに袋を手渡した。
野梨子ちゃんはまるで宝物であるかのように、大事そうにそうっとひもを指に
かけて袋を受け取った。そしてしばらく黙って、仲良さそうによりそう二匹の
金魚を見つめた後、僕に目をうつして、まるでつぼみがゆっくりと花開いてい
くように表情を変え、ついには満開の牡丹の花のような艶やかな笑顔を見せた。
「おおっ。」
再びここで、周囲から拍手がわきおこった。

「清四郎ちゃん、ありがとう!ありがとう、清四郎ちゃん!」
野梨子ちゃんは、何度も「清四郎ちゃん」を繰り返してくれて、僕はその気持ちは
嬉しかったけど、とても剣菱悠理の方を見る勇気はなかった。
これでもう大丈夫、とやじ馬たちは一人去り、二人去りしていった。
750Graduation番外編goldfish(9):2008/10/30(木) 10:25:51

剣菱悠理が通りすがりに、僕の肩をたたいて言った。
「やるじゃん。」
僕がびっくりして振り返ると、彼女はニヤリと笑って、こう叫びながら走り去った。
「とれて、良かったな。せ・い・し・ろ・う・ちゃん!」

その三十分後、僕と野梨子ちゃんは一本の綿菓子をなめなめ、校庭の隅に座っていた。
野梨子ちゃんはとてもおいしそうにピンク色の綿菓子をほおばり、そして時々、
自分の透明の袋を日に透かしてみて、二匹の金魚を確認すると、こぼれんばかりの
満足そうな笑顔を浮かべた。僕は、そんな幸せそうな野梨子ちゃんを見ながら、
この笑顔を守れたことを心から神様に感謝していた。

野梨子ちゃん、僕は一生懸命勉強して、これからもっともっと賢くなるよ。
世界中の誰よりも賢くなるんだ。
野梨子ちゃん、僕は雲海和尚のところで修行しているから、これからもっともっと強くなるよ。
剣菱悠理よりも、いや世界中の誰よりも強くなるんだ。

だから、困ったことがあったら、僕に言って。
いつだって、僕が助けてあげるから。

The end
751名無し草:2008/10/30(木) 10:47:06
>Graduation
リアルタイムで読むことができてラッキーです。
金魚すくいの話に萌えたので、番外編で読むことができて嬉しいです。
小1の清四郎、かわいすぎます。こんな小さなときから野梨子のことを見守ってきたのかと
思うとなんだかせつなくなってしまいました。

作者さまの投下によって迷惑なんてかけてないですよ。
投下のペースも、昔のように他の作品の投下とサンドイッチ状態になるようなこともないので
毎日でも全然気にしなくていいと思うし、むしろ自分はさくさく読めて感情移入しやすかったし。
前にも書きましたが、荒らしてるのは恐らく一人の荒らしで、主に野梨子が主役の話のときに出没しています。
毎日粘着してるので、間をあけようがなんだろうがいなくならないと思うし、自分(荒らし)の投下によって
こういうやりとりがされるのもしてやったりだと喜ばせることになると思います。
なので完全にスルーしていきませんか。
もうひとつの番外編も楽しみにしています。
752名無し草:2008/10/30(木) 11:49:11
>Graduation
お待ちしてました。番外編も楽しかったです。
幼馴染ならではのエピが可愛いですね。

一部の荒らしのレスを気にされているようですが、
作家さまが投稿マナーを守っていないわけではないですし
そもそも自分の嗜好に合わない作品なら読み手がスルーすれば済む話なので
気にやまれたり責任を感じたりする必要はないと思います。

>>751さんと同じく私も完全スルーに賛成なのですが、作家さまのご苦心も分かるので
どうしても気になる時は、テンプレ内の専用BBSに投稿されてみてはいかがでしょう。
753名無し草:2008/10/30(木) 12:10:19
>>752
>テンプレ内の専用BBS
作家さんが荒らしのために本スレから移動となると、結局荒らしの思うつぼになってるんじゃ。
それで、いくらか作家さんの気分が和らぐならそれでもいいけど。

作家さんはぜんぜん気にする事はない。
前からいる清×野嫌いの荒らしで、「大女優は幸あれと言った」の作家さんも1人でひどい粘着攻撃を受けた。
荒らしてるのは1人で、住人は全員分かってるから気にするだけ無駄です。
754名無し草:2008/10/30(木) 13:14:40
荒らしの削除依頼も出されてますね。
行ってくれた方ありがとう。

スルーしてほしいのは山々ですが、直接攻撃を受けてるのは作者さんなので
IDが出るしたらばでのうpもアリかなと思います。
作者さんが気にしてる様子があると、荒らしは喜んでますます暴れるだろうし…
今日も夕方以降になったら、嬉々として書き込みに来るでしょう。

番外編ほんとにかわいかったです。
第5話の「date」が誰と誰なのかとても気になってますので
早めに読めると嬉しいです。連載頑張ってください。
755名無し草:2008/10/30(木) 16:35:49
私も毎日楽しみにしています。
このスレの約束事(1-6)を守らず迷惑をかけているのは荒らしの方です。
荒らしはスルー(荒らしは反応を待っている)というのも約束事(5)ですので、
いちいち反応したり考えすぎたりせず、テンポよく掲載してもらえればいいな、と思います。
荒らしと分かっていても攻撃されれば気になるのは分かるので、無理にとは言えませんが、
楽しみに待っている人達のためにもぜひ。
756名無し草:2008/10/30(木) 18:26:05
>goldfish
清四郎も野梨子もヤンチャな悠理もかわいい!
キュンとして、いいSSでした。
だけどここから今のGraduationにつながって行くと考えると、切ないなあ。
757名無し草:2008/10/30(木) 18:46:01
>Graduation
>幼なじみの間に「遠慮」という文字はない
に笑ったw
清四郎も大変だなぁww
でも二人とも凄く可愛かった。


私はしたらばではなく、本スレに投稿してほしいです。
758名無し草:2008/10/30(木) 23:38:15
>Graduation
お待ちしてました〜
有閑倶楽部結成話の悠理、清四郎、野梨子の絵がそのままあてはまって
しまうような、素敵なエピですね。もう一つの番外編も、本編も楽しみに
待っています。
759名無し草:2008/10/31(金) 01:11:52
子供とはいえ二人にはもっとクールでいてほしい
760Graduation:2008/10/31(金) 10:11:38

番外編です。今回は中一の悠理と魅録の出会いです。本編に入れようか迷ったのですが、
文体が異なるので番外編にしました。四話が終わった頃の、悠理のモノローグです。
苦手な方、興味のない方、本編嫌いの方はお手数ですが、スルーお願い致します。
761Graduation番外編a・i・tsu(1/6):2008/10/31(金) 10:14:27

あいつとの付き合いは、実は有閑倶楽部の他の誰よりも長い。
知っている、という意味では、幼稚舎から一緒の清四郎や野梨子の方がずっと
長いが、あいつらと仲良くなったのは中等部も後半になってからだから、中一で
知り合って、直ぐに意気投合したあいつには全然かなわない。
思えば、「友達」なんてものも、あいつが初めてだった。「とりまき」は一杯いたけど、
友達はずっといなかった。その点では、野梨子のことをとやかく言えないな。
むしろ、野梨子は清四郎がいた分、あたいより恵まれていた。小さい頃、あいつらに
からんだのも、二人の仲の良さが羨ましかったのかもしれないな。
へへ、こんな事考えられるなんて、あたいも大人になったもんだ。

幼稚舎に入った時から、あたいは特別だった。
「剣菱の娘」という肩書きは確かに目立ったが、そうは言っても、周りは名家の
子ども達ばかりだったから、原因はそれだけじゃなかった。どうも、あたいの
言葉使いや振る舞い、両親ゆずりのこのエネルギーが、お嬢様、お坊ちゃま受け
しなかったらしい。初等部の低学年までは、あたいは皆に相当怖がられていたと思う。
車で来て、車で帰っていたから、下校時に誰かと遊ぶなんてこともなかったし、
こんなもんだと思っていた。

高学年になると、何かと目立つうちの学校と、他校との小競り合いがぼちぼち
出て来たから、あたいの出番が回って来た。もちろん、うちの生徒たちはいつも
いちゃもんをつけられる側で、この学校の生徒達で喧嘩なんて出来るのはあたい位の
ものだったから、事が起こる度に、あたいが助けに行ったんだ。そのせいか、
この頃から、ませた女の子達から「悠理さま」なんて呼ばれだし、その子たちから
ラブレターなんぞを貰い出した。

762Graduation番外編a・i・tsu(2/6):2008/10/31(金) 10:17:13

喧嘩の機会は、中等部になって外部生が入って来ると、人数が増えたこと、
行動範囲が広がったこと、そして男女関係なんてややこしい問題が出て来たりで、
益々多くなった。正直またか、と思う事もあったけど、生来喧嘩好きだし、他に
面白い事もないしで、あっちこっちへ出向いたっけ。何しろ、聖プレジデントの
制服は目立つし、可愛いお嬢様が多いから、狙われやすかった。

その日は、日曜だったけど、街で買い物している時、たまたまうちの制服の女生徒が
他校の不良共にからまれているのを見つけたんだ。ラケットを持っていたから、
クラブ活動の帰りだったんだろう。相手は2人。2年生で、体格は結構良かった。
でも、2人位なら何とかなるだろうと思った。場所を変えようというので、近くの
土手に行ったら、他に同じような奴等が3人位いた。謀られた、と思ったけど、
ぎりぎり何とかなるかも、と思って始めちまった。今ならともかく、中一のあたいに、
体の大きくなってきた野郎5人はきつかった。生まれて初めて、喧嘩で「やばいな」って
感じた時、あいつが来たんだ。

びっくりしたよ。
疾風のように走って来て、あっという間に女性徒を捕まえていた奴に一発お見舞いして、
倒しちまったんだから。女生徒を逃がすと、あいつはこっちを振り向いて、
まだ声変わりしていない、女の子みたいな高い声で叫んだ。
「加勢するぜ!」
あたいと同い年位なのか、細っこくて、まだ男の子って感じだった。でも、
喧嘩慣れしているらしく、次々とパンチが決まり、動きも良かった。あたいも
俄然勢いづいて、結局二人で中二5人の野郎たちをやっつけちまった。
763Graduation番外編a・i・tsu(3/6):2008/10/31(金) 10:19:16

「5人対1人なんて、ひきょうな喧嘩すんじゃねーよ!」
やつらが退散していく後ろ姿に悪態をつくと、あいつがくるっと振り向いてニヤッと笑った。
夕陽の中、初めてはっきりと見る顔は、日に焼けた浅黒い肌、茶色っぽい、ばっさばっさで
目に覆いかぶさっている髪の毛、その前髪をあいつが後ろにかき上げると、
いたずらっぽそうな光を放っている、涼しげな切れ長の眼と、それとセットの
ようなつり眉が現れた。怖い者知らずそうな口元は面白そうに笑みを浮かべていた。
「おまえ、この辺で見たことないけど、誰だ?」
「けんびしゆうり。助けてくれて、サンキュ。おまえは?」
「しょうちくばいみろく。北中1年。北小で番はってた。中学でもそうなんのは
時間の問題だな。この辺は北中と花園中の間でしょっちゅう小競り合いが起きてんだよ。
さっきの奴等は花園中なんだ。おまえ、この辺の奴じゃないな。」
「聖プレジデント学園中等部一年。」
あたいが胸をはって答えると、あいつはうえっと口を押さえた。
「何だ、それ。変な名前。」
今まで、学園の名前を言うと、
「まあ、お嬢様なのねえ。」
「いい学校ねえ。」
等の褒め言葉しか聞かなかったあたいは、あいつの反応に、何だか嬉しくなって、頭をかいた。
「そうか?そういや、そうだよなー。へへへ・・・。」
「何、にやにや笑ってんだよ。雨、降ってきたぜ。カサは・・・持ってるわけないよな。
俺もだよ。そうだ、こっち、来いよ。」

764Graduation番外編a・i・tsu(4/6):2008/10/31(金) 10:20:37

あいつはあたいの手を取ると、ぱっと走り出した。次第に強くなり、周りの景色が
煙って見えなくなった雨の中を、あたい達は手を繋ぎながら走り抜けた。
ぬかるみの泥がびちゃっびちゃっと足に跳ね返る。喧嘩の傷に雨があたってひどくしみた。
シャツは雨でぴたっと体にはりついている。でも、新鮮な雨と緑の匂い、そして
思わず繋がれた手の熱さ。あたいをひっぱって走って行くあいつの後ろ姿を見ながら、
あたいは何か、嬉しいような、悲しいような、甘酸っぱい不思議な感覚を味わっていた。

「あ、ここだ。」
土手の下方に、ちょっとした横穴があって、丁度人二人分くらい座れそうだった。
あたいたちはそこに肩を寄せ合ってもぐり込むと、ふう、と落ち着いた。
「しっかし、おまえ、強いなー。」
髪からぼたぼたと水をしたたらせながら、あいつが感心したようにあたいの顔を覗きこんだ。
「今まで、相当やって来ただろ?」
「ああ、まあな。おまえも、だろ?」
「へへっ。俺達、いい友達になれそうだな。よろしな、ゆうり。」
「うん。みろく。」
あたいは何だかもうとっても嬉しくなって、そういうのがやっとだった。
あたい達はお互いに顔を見合わせて、ニヤッと笑った。あいつのあの笑い顔は
今でも全然変わっていない。あたいはあの笑顔に本当に弱いんだ。
あたいの心に暖かいものが広がっていった。目の前のこいつは、あたいの、皆が
一番困っている部分を受け入れてくれた。それは、初めての事だったんだ。
765Graduation番外編a・i・tsu(5/6):2008/10/31(金) 10:22:13

「みろくー、どこーっ?」
女の子の声がした。あいつは狭い横穴の中で飛び上がった。
「しまった!俺、デート中だったんだ!」
「何っ!おっおまえ、彼女がいるのかっ!?」
あいつは思いっきり顔をしかめた。
「ちげーよ、あいつが何だか、ぎゃあぎゃあうるさくって。一度でいいからデート
してくれたらもう追いかけないって言うから。とにかくしつっこいから、一度
だけだぞって。ああ、女って、ホント面倒くせえよ。で、土手をブラブラしてたら、
おまえらを見つけたってわけ。すっかりあいつの事、忘れてた。はは・・・。」
「・・・行ってやれよ。可哀想じゃんか。」
「・・・まあな。そいじゃ、悪いな、お先。またどこかで会えるな、きっと。
そんな気がすんだ。」
「うん!」
あいつはVサインを作って再び雨の中へ出て行った。ちょっとして外へ出てみると、
土手の上で、雨の煙る中、髪の長い女の子の差し出す赤い傘に、あいつが
うろたえながらも、一緒に入って帰って行くのが見えた。

(あいつとは、またきっと会える。)
あたいは、灰色の雨の世界に、次第に小さくなって消えて行く赤い傘を目に焼き
付けながら、そう確信した。

確信は現実になり、その後、何度もあたい達は喧嘩場で鉢合わせした。
言いたかないが、知り合って、三ヶ月位も経ったある日、制服姿のあたいを初めて見て、
あいつは絶句した。
「おっ・・・おまえ・・・女だったのか・・・・。」
それまではいつも、ジーンズとかショートパンツだったから、分からなくもないけど、
でも、あいつは心底驚いたみたいだった。つまり、あいつにとってあたいは最初から
「男ともだち」だったんだ。そしてそのままここまで来ちまったんだな。
766Graduation番外編a・i・tsu(6/6):2008/10/31(金) 10:24:36

あの日から、あたいはあんまり変わらないのに、あいつはどんどん変わって行った。
可愛い声は声変わりし、思った以上に低くなった。あたいと同じ位だった背は
ぐんぐんのびて、今では見上げる程だし、ばっさばっさの髪はいつの間にかばっさり
切られてツンツンし始め、しまいには薄いピンク色になっちまった。

初めて他の4人に会った時、野梨子のことを既に知っていたのには驚いたけど、
その時はあんまり気にしなかった。最近になって気になるのは何でだろう?
でも、その時は何よりも、皆にあたいのことを「気持ちのいい奴だ。」と言って
くれたのが嬉しかった。

高等部になって、あいつが聖プレジデントに入って来た時は、最高だった。
清四郎、野梨子、美童、可憐、そして・・・魅録。
こいつらは皆あたいの宝だ。誰も失いたくない。
もちろん、これから皆大学へ進んで、社会に出て、今までのようなわけには行か
なくなってしまう。

皆に会えなくなったらどうしよう?
魅録に会えなくなったらどうしよう?

一日会えないだけでも変な気がするのに・・。

こんな事を考え始めると、あたいは何だか胸が苦しくなっちまう。
だから、あたいの頭はいつもここまでで考えるのを止めちまうんだ。

The end
767Graduation番外編a・i・tsu:2008/10/31(金) 10:26:35
最初に書き忘れましたが、魅録の髪型、原作の子供時代のイラストとは変えてあります。
妄想ってことで。
768名無し草:2008/10/31(金) 11:54:47
>Graduation
魅録と悠理の出会い、素敵でした。
声変わりしてなくて細っこい魅録って新鮮でした。
そうか、悠理も魅録が大人の男へ変わっていく様子をみてきたんだなーと改めて思いました。
これまたせつないですね。

続きを楽しみにしています。
769名無し草:2008/10/31(金) 15:04:03
>Graduation
番外編第二作、さっそく読めて嬉しいです。
前回に続いて、こちらの子供時代も楽しく読ませて頂きました。
いつも思いますが、心理描写が丁寧で好きです。
今回も悠理のモノローグにキュンとなりました。切ないですねー
本編の続きも楽しみにしてます。
770名無し草:2008/10/31(金) 17:45:42
>Graduation
魅録の声変わりをそばで見てたら、絶対ドキドキするだろうなあw
同じくきゅんっとせつなくなる番外でしたが、よかったです。
最後の2行が印象的でした。
771名無し草:2008/10/31(金) 22:21:40
>Graduation
GJです!確かに悠理と野梨子って、方向性は違えど他を寄せ付けない
雰囲気というか、孤高性があると思う。野梨子はいわずもがなだけど、
悠理も生命力とパワーが強くて、普通の人間なら取り巻きにはいるのが
精一杯じゃないかな。
清四郎は、自ら孤高の極みを目指している感じはあるけど、後天的なものだから
存在感とはちがうし、魅録・可憐・美童は、有閑倶楽部外での交友関係の存在が、
容易に想像できる社交性がある。
772名無し草:2008/11/01(土) 22:02:49
清四郎もESP研究会やらの先輩たちからかわいがられてそうだったけど、
同級生や年下からは一目おかれてるんだけど、近寄りがたいと思われてそう。
あとは憧れられてるかw

773名無し草:2008/11/02(日) 22:41:56
保守
774Graduation:2008/11/04(火) 12:21:44

>>694 今回7レスいただきます。第五話は28レス前後の予定です。

尚、遅くなりましたが、読んで下さっている皆様には色々ご心配おかけしまして
申し訳ありませんでした。
出来る範囲で、なるべくテンポ良く投下できればと思っております。
775Graduation第五話date(1):2008/11/04(火) 12:23:07

生徒総会の翌日、野梨子が借りていたヘルメットを返した時、悠理はとても大事そうに
それを受け取り、宝物でもあるかのように愛しそうにそれを撫でた。
「とても大切にしていますのね。」
野梨子が微笑むと、悠理は頭をかいて、はにかんだ様に言った。
「へへ・・・。これ、魅録があたいの誕生日にくれた物なんだ。」
「まあ・・・。そうでしたの。大切な物をお借りして悪かったですわ。」
「いいんだよ。野梨子なら。」
悠理は野梨子にまだ少し照れの残った笑顔を見せると、自分のロッカーに彼女らしからぬ
丁寧さでヘルメットをしまった。野梨子はそんな悠理をとても可愛いと思いながらも、
悠理と魅録の親密さを改めて見せ付けられた気がして、それ以上何も言えなかった。
とはいえ、バイク事件以来、野梨子は魅録との距離がわずかではあるが再び近く
なったように思っていた。二人だけの体験をしたという共犯者意識からか、皆でいる際に
ふと二人目が合って軽く微笑み合う、という些細ではあるが以前にはなかった事が続き、
そんな時、野梨子は胸が何とも言えずほっこりと暖かくなり、それがあっという間に
全身に広がって行くのを感じていた。

しかし、そんな平和で暢気な時間は短かった。中間テストまで2週間。
ついに、テストの日程と範囲が発表になり、高等部三年は皆、一気に勉強モードに突入した。
生徒達の勉強に対する温度がこれほど高くなった事は、聖プレジデント学園の
歴史上かつてなかった。
有閑倶楽部では、まず、教師達のお気に入りである清四郎と野梨子が、何かと
理由をつけて職員室に出入りしては、教師達との会話や、彼等の机に広げられた資料等から、
巧みにテスト内容に関する情報を仕入れていた。そして、その情報に基づき、
各教科毎の傾向と対策を考えた清四郎の指揮の下、彼等の勉強は本格的に始まった。
776Graduation第五話date(2):2008/11/04(火) 12:24:42

「僕と野梨子は毎日復習をしていますから、今更特にあせる必要もなく、皆の
勉強の手伝いをする余裕があります。僕が主に悠理の勉強を見て、野梨子が可憐の
勉強を見ます。魅録と美童は自分たちの不得意科目の攻略に専念して下さい。」
そして清四郎は教科書を口にくわえて縮こまっている悠理を見ながら続けた。

「僕と野梨子の集めた情報によれば、学校側もなるべく落第者は出したくないようです。
よって、テストはかなりサービス問題が出ると予想されます。悠理は赤点を取らなければ
良いというスタンスにして、比較的易しい問題のみに的を絞って勉強し、それらを
取りこぼしのないようにしましょう。何、僕の予想する問題だけやっていれば大丈夫ですよ。」
清四郎はかなり自身があるようで、にっこり笑った。
「ふぇ〜い。」
悠理は力なく、しかし了解の意味で右手を上げた。

清四郎は次に可憐の方を向いた。今度は少しひきしまった表情だった。
「点が取りやすいという事は、出来る生徒達は皆高得点を上げてくるということです。
経営学部はハイレベルの争いですから、こちらは油断は出来ませんよ。」
「O.K.。望むところよ。」
可憐は、最近かけ始めた、先の少し尖った黒ぶちのメガネの柄を華奢な指でつまんだ。
可憐は最近視力が落ちたとかで、勉強中だけメガネをかけていたのだが、今や
起きている間はいつでも勉強タイムなので、結局かけっぱなしになっていた。
「テストが終わるまでね。かけてると、気が引き締まるのよ。」
あっけらかんとそういう可憐は、自慢の長くウェーブのかかった茶色い髪を、
ざっくりと惜しげもなく首の後ろで一つに束ね、化粧っ気もすっかりなくなって、
まるで別人のようだった。髪の結び目に飾られた黒いカメリアの花や、大きな
リボン型のバレッタが、唯一以前の華やかさを彷彿とさせた。とはいえ、そんな可憐は
決して前と比べて魅力が劣ったわけではなく、もともと艶やかな美しを持つ彼女が
洒落っ気のない格好で、額に手をあて、口元を引き締めて、メガネ越しに教科書を
睨みつけている様は、どこか謎めいた翳りのある美しさを醸し出し、謀らずも
逆に女っぽさを強調する結果となっていた。
777Graduation第五話date(3):2008/11/04(火) 12:26:15

「可憐の目標はオール100点です。」
「ちょ、ちょっと清四郎、幾らなんでもそれは無理・・・。」
予想を超えた清四郎の目標設定に、やる気満々の可憐もさすがにたじろいだ。
しかし、清四郎はあくまでも落ち着いていた。
「目標は高く設定しておかないと。最初から80点でいいと思っていたら、80点も
取れないものです。可憐は100点目標くらいで丁度いいんですよ。」
というわけで、6人の試験勉強は本格的にスタートした。平日は全員生徒会室に集まって、
清四郎と野梨子のヤマをかけた箇所を、各教科徹底的にマスターし、土、日は、
清四郎は悠理の、野梨子は可憐の家庭教師をしてやった。

野梨子が驚いた事に、可憐は元々勘がいいだけあって、その気になると、知識の
吸収が素晴らしかった。そして、その事を素直に本人に告げると、可憐はメガネ越しに
目を細めて、嬉しそうに笑った。
「ふふん。あたし、今まで勉強に興味がなかっただけなのよ。でも、今回目標を持って、
真剣に勉強してみたら、結構面白いものねえ。日々、新しい発見がいっぱいあるわ。
ああ、これって、こういう意味だったのかって、自分がどんどん賢くなって行くようで、
その気分が好きなの。あんたや清四郎の気持ちが少し分かったような気がするわ。」

このように、可憐の場合は、生まれて初めて芽生えた知的好奇心が功を奏していたが、
悠理の場合は少々違った。
ある月曜日、清四郎と野梨子は前日の悠理と可憐の様子を報告し合いながら通学していた。
「可憐は本当に良くやっていますわ。飲み込みが早い上に、努力していますから、
二度同じ問題を間違える事はまずありませんの。積み重ねがありませんから、
試験範囲が決まっていない一般入試はやはり難しいでしょうけれど、範囲の決まっている
中間、期末テストならば高得点が期待できますわよ。悠理の方はいかがですの?」
清四郎は、可憐の報告に少々興奮気味の野梨子を、笑みを浮かべて見下ろした。
778Graduation第五話date(4):2008/11/04(火) 12:27:31

「・・・ようやくエンジンがかかったらしく、実に良くやっていますよ。何しろ、
体力だけはありますから、その気になれば無理がきくんですよ。いや、大したものだ。」
「まあ、良かったですわね!」
野梨子は、胸の前で小さく手を叩いた。
「悠理は先週まで、一人だけ勉強にあまり乗ってなかったようでしたから、
心配していましたの。やはり、可憐と同様に、勉強が面白くなったのですかしら?」
「・・・そう思いたいですけどね・・・。」
「あら、何か他の理由がありますの?」
清四郎は顎に手をあて、思いっきり苦笑いをした。
「・・・金曜日の晩に、魅録が、テストが終わって赤点なしだったら、ツーリングに
連れて行くって約束したらしいんですよ。ですから・・・。」
「まあ・・・。」
「悠理にとっては、大学進学よりも、目先のツーリングの方が美味しい人参だってわけですね。」
「・・・。」

そして、ついに中間テストは始まり、怒涛の一週間はあっという間に過ぎて、
成績発表となった。成績は朝一番に掲示板に張り出された。個人データは別途
各自に配布される予定だった。
「あ、あたい・・・だめだ・・・。とても見に行けないよ・・・。」
悠理は、幽霊に遭遇した時の様に、歯をガチガチならし、腰を引いて魅録の上着の裾を
固く握りしめていた。
「・・・自己採点したら、大丈夫だったんだろ?自分で言ってたじゃないか。」
「だ、だけど、書き間違えってこともあるし・・・。」
「ったく。らしくねーな。」
魅録は動くことも出来ず、困ったように頭をかいた。
「み、魅録ちゃん、見て来て〜。」
「自分で見なくていいのかよ?」
悠理はぶんぶんと頭を立てに振った。
779Graduation第五話date(5):2008/11/04(火) 12:28:33

しかし、去っていく魅録の後姿を目で追っているうちに、心細くなったのか、
「ま、待って!やっぱりあたいも一緒に行く〜!」
と叫ぶや否や、悠理は魅録の後を追い出した。
一方、悠理とは違って、少なくとも落第の可能性はほとんどない可憐はまだ余裕があった。
「とにかく、この結果を見ないことには、先へ進めないわ。」
と言い切ると、清四郎、野梨子、美童を置いて、さっさと掲示板へ向かって歩き出した。
3人は慌てて後を追いかけた。結局、6人皆一緒になり、皆息を飲んで掲示板を見つめた。

1番  菊正宗清四郎
4番  白鹿野梨子
19番  松竹梅魅録
27番  美童グランマニエ
35番  黄桜可憐

160番 剣菱悠理

「やったわ!35番、35番よ!今までずっと2桁の終わりだったのに!」
可憐は頬を紅潮させ、目を喜びに輝かせて、傍らの美童に飛びついた。
「良くやったね。僕も嬉しいよ。」
美童は、久し振りにおろしてある可憐の柔らかい巻き毛を満足そうに撫でたが、
しかし悠理の結果がまだ分からないので、二人とも喜びは一旦おあずけにした。

「180人中、160番っていうのは分かったけど・・・。赤点はどうなんだ?」
悠理は不安そうな顔で魅録の袖口を引っ張った。魅録は尚も掲示板を睨みつけていたが、
ふいに悠理に顔を向けると、張り紙の隅を指差しながら言った。
「一番最後、見てみろよ。」
悠理が恐る恐る目をやると、そこには黒くはっきりとした文字でこう書いてあった。
『尚、今回の試験で赤点の該当者は無し。』
「やったー!」
780Graduation第五話date(6):2008/11/04(火) 12:29:35

皆、第一関門突破ということで、本来ならばここで祝宴でもあげたい所ではあったが、
それは期末テスト後まで取って置く事にして、今回は生徒会室で反省会という名の
お茶会をするに留めた。
上機嫌の可憐が入れてくれた珈琲は何時にも増して見事で、そのアロマの香に酔いながら、
野梨子は湯気越しに仲間達を満ち足りた気持ちで眺めていた。
メガネを外し、以前の華やかな雰囲気を再び身につけた可憐は美童と、最新の
お店の話で盛り上がっていたし、悠理と魅録は早速、ツーリングの予定を立てていた。
(本当に良かったですわ。この調子で行けば、皆絶対に聖プレジデント大へ進めますわね。)
しかし、野梨子が珈琲を一口啜って何気なく清四郎を振り向いた時、彼が一人
難しい顔をしているのに気が付いた。清四郎は、一瞬、何か言おうと口を開きかけたが、
敢えて言葉を飲み込んだ気配があった。

帰り道、野梨子は聞いてみた。
「先ほど、皆に何か言いたげでしたけれど、結局何も言いませんでしたわね。
どうしてですの?」
清四郎はちょっと驚いた様に野梨子を見たが、次にはホッとしたように表情を緩めた。
「野梨子には見破られていましたか。」
「皆良い成績を取って、万々歳ですわ。このような時に清四郎が難しい顔をする
理由が分かりませんわ。」
野梨子が眉を少しよせた。清四郎は少し言いにくそうに口を開いた。
「取り越し苦労だと思ったので、言わなかったのですが・・・。正直言うと、
悠理と可憐に関しては、今回のテストはもう少し点が低い方が良かったと思っているんです。
赤点では困りますがね、もちろん。」
野梨子は清四郎の意表をつくコメントに言葉もなかった。
781Graduation第五話date(7):2008/11/04(火) 12:31:30

「驚きましたか?簡単に言えば、今回予想以上に点が良かった為に、期末テストを
甘く見てしまわないか、そこが心配なんです。特に可憐。今回成績が振るわなかった
生徒達は、それこそ死に物狂いで期末テストには臨んでくるでしょう。それに
比べてビギナーズラックで有頂天になっていると、痛いしっぺ返しをくらいますよ。
今のままのテンションを保てれば大丈夫でしょうが、今日の様子を見ていると
ちょっと心配になりましてね。」
視線を足元に移し、野梨子はなるほど、と考えた。
二人はしばらく無言で歩き続けた。しかし、野梨子が今後の対策について彼女
なりに考えをめぐらせていると、突然清四郎が大きな声を出した。

「あっ!」
「な、何ですの?」
冷静沈着な清四郎が大声を出すことは滅多にないので、野梨子は心の底から驚いて胸を押さえた。
「いや、先ほどの話は忘れて下さい。杞憂ですよ、杞憂。それより、野梨子。
こんな物があるんですが。」
「?」
清四郎が鞄からゴソゴソと取り出した物を見ると、それは何かのチケットだった。
清四郎は、心なしか早口に説明した。
「銀座の○○デパートで催されている「中国の至宝展」のチケットを2枚貰ったんですが、
野梨子、行きたがっていましたよね?今度の日曜日までなんですが、テストも
終わったし、一緒にどうですか?」
野梨子の顔はみるみるうちに輝き出した。
「あら、もちろんですわ。とても見ごたえがあるとの評判ですわよね。是非、
ご一緒させて頂きますわ。」
野梨子は迷うことなく承諾し、清四郎と顔を見合わせて笑った。テストの事は
気になるが、先はまだ長い。気晴らしも必要だ。共通の趣味を持つ清四郎と数々の
至宝を鑑賞するのはさぞかし楽しいだろう。恐らく彼は自分のうんちくをとことん
語り尽くすだろうが、美術展においてはそれは決して迷惑ではなかった。
「中国の至宝展」は一人でも見に行こうと思っていたが、清四郎と一緒なら、
ああだこうだと会話も弾み、一層楽しいだろうと胸が弾んだ。
782Graduation:2008/11/04(火) 12:33:40
続く。(入れ忘れました。すみません!)
783名無し草:2008/11/04(火) 17:33:48
>Graduation
デート、てっきり魅録と野梨子かなと思っていたのですが、ひょっとして清四郎と野梨子、魅録と悠理
なのかな?どういう展開になるのかドキドキします。
続き楽しみに待ってます。
784名無し草:2008/11/04(火) 19:22:00
有閑倶楽部がまだ連載されてたら、たしかに可憐はカメリアつけてそうだなあw
美術展デートも清四郎らしい。
次回のデートの展開?も楽しみです。
785名無し草:2008/11/04(火) 22:27:42
>Graduation
本編お待ちしておりました〜
魅録とのツーリングの為に頑張った悠理がいじらしいなあ。
野梨子と清四郎の二人のやりとりも好一対で素敵です。
あと可憐の頑張りに拍手をw

何気に野梨子の上の成績優秀者二人が気になる…
786名無し草:2008/11/05(水) 00:36:54
>Graduation
確か10話くらいまであるんでしたよね。
番外編とかも間に追加されてますし、一体何スレほどあるのでしょうか?
他の作家さんの作品が無いかチェックしてるんですけど
あまりの長さに、スルーするのも大変なんですが・・・
787名無し草:2008/11/05(水) 00:43:08
紀子は2位
微動と可憐はもっと下だな
788名無し草:2008/11/05(水) 09:10:16
>Graduation
可憐が化粧っ気もなく髪を無造作にまとめて黒縁眼鏡かけてたら
すっごい色っぽいだろうなぁ。
とりあえず中間、みんな目標達成でよかったです。
789Graduation:2008/11/05(水) 12:50:50
>>786 今回7レスいただきます。

スルーされている方々へ

話が長くてお手数をとらせ、申し訳ないです。作品の長さは気になっているのですが、
読んで下さっている方々もいらっしゃるので、投下のペースに配慮しながら、
最後まで書きたいと思っています。ある程度まとめて投下した方が、早く終わるので、
その点ご了解頂ければ嬉しいです。

それと、もちろん私も他の作家さん方の作品が読みたいです。
楽しみにしております。
790Graduation:2008/11/05(水) 12:53:07
ごめんなさい。>>775のまちがいでした。
791Graduation第五話date(8):2008/11/05(水) 12:54:40

当日は素晴らしい秋晴れだった。新鮮な朝の空気を思いっきり吸い込みながら
野梨子はご機嫌だった。
「まさに、デート日和ですわね。・・・あらっ、わたくし、今、なんて?」
野梨子は自分の言葉にポッと頬を染めた。
「こほん。ま、まあ、広い定義から言えば、これは確かにデートの範疇に入りますわね。」
野梨子は今日の天気と気温を確認し終わると、クローゼットを開けた。衣替えを先日終え、
中は春夏の白やブルー系から、温かみのある、こっくりした色合いに変わっていた。
小首をかしげてちょっと考えてから、野梨子は赤葡萄酒色のAラインのワンピースを手に取った。
薄手のウールで、一枚で着るには今が絶好の季節だった。襟ぐりはスクエアに程よく開き、
白襟と、袖にも白いカフスが付いていて、落ち着いていながらも華やかさを醸し出している。
裾はひざの少し下でサラリと揺れ、前身ごろには生地と同色の小さなくるみボタンが
縦に並んでついてアクセントになっていた。薄手の黒いタイツを合わせ、姿見で
全身をチェックする。

(・・・胸元が少し寂しいですかしら?)
野梨子は赤い牡丹の模様のついた黒い漆の宝石箱を開けた。数は多くないが、
今までの数々の記念日に、両親を初めとする大切な人々から贈られた貴重な
品々が光を放っていた。野梨子は思いついたように、一つのペンダントを選び出した。
それは、シルバーの細いチェーンの先に小さなリボンのヘッドが付いたもので、
昨年の誕生日に清四郎から贈られたものだった。いつも、本とかステイショナリー等の
実際的な贈り物が多い清四郎から、小さな品の良いブルーの小箱を渡された時は正直驚いた。
よっぽど顔に出ていたのだろう。清四郎は何やかやといいわけらしきものを、
独り言を装って(しかし野梨子に聞こえるように)ぶつぶつと言っていたが、
その内容は全然覚えていない。ただ、野梨子が
「有難うございます。大切にしますわ。」
と、ペンダントをつけて微笑んだ時に清四郎が見せた、幼い少年のようにはにかんだ笑顔が
脳裏に焼きついていた。
ペンダントは大切に宝石箱に仕舞われたが、その後中々表舞台に立つ機会がなかった。
(清四郎に敬意を表する意味でも、今日はこのペンダントしかあり得ませんわ。)
792Graduation第五話date(9):2008/11/05(水) 12:55:53

次に、華奢な黒いバックルのついた靴を用意し、黒の小ぶりなハンドバックと
その中身を点検し、髪の最終チェックをすると、一仕事終えた気分になって、
ほっとして窓辺の椅子に腰掛けた。清四郎は10時に向かえに来る事になっていた。
彼のことだから、きっと10時きっかりに呼び鈴が鳴ることだろう。
「あと、5分ですわね。」
その間、何か雑誌でも捲ろうかと想い、周囲を見回した時、窓の外でキーッと
車の止まる音がして、バタンと扉の開く音に続き、菊正宗家の呼び鈴が鳴る音が聞こえた。
「あれは・・・剣菱の車?」
窓から身を乗り出して眺めると、菊正宗家の前の道路に今やもう見慣れた剣菱マークの車が一台。
(ざわっ)
野梨子の体を悪寒が走ったのと同時に携帯が鳴った。
震える手で開く。
「もしもし・・・?」

約30分後、野梨子は一人で銀座にいた。彼女は怒っていた。
「すみません、野梨子。弁解の仕様もありませんが、今日は一緒に行けなくなりました。」
「!どういうことですの?」
「話せば長くなるので、結論だけ言うと、悠理の勉強を見ることになりました。」
「!?悠理の家庭教師という役どころは理解できますけれど、それが、今日、
そして今、というのが分かりませんけれど?」
「僕も5分前まではこんなことになるとは、これっぽっちも予想していなかったんですよ。
悠理のおばさんからいきなり電話があったんですが、今朝、悠理が隠していた
先週のテストを見つけたらしいんです。どれもひどい点で、零点まであった。
しかも週明けに追試があるらしい。中間テストが終わった途端これでは先が心配だ、
何とかして欲しい、と泣きつかれましてね・・・。」
「・・・あのテストは確かに抜き打ちでしたわね。平均点もそう高くはないはずですわ。
でも、あれらは進学には関係ないのでは?」
793Graduation第五話date(10):2008/11/05(水) 12:57:04

「直接的にはね。ただ、何かの時には、普段の小テストの出来が良い方が有利に働くでしょう。
とにかく、おばさんは、あれだけやっても悠理がまだこんな点を取るというのは、
結局、僕には教える能力がないのではないかと詰め寄りましてね。」
「今回のは、中間テストの範囲外でしたから・・・。それに、問題は清四郎の能力ではなくて、
悠理の能力だと思いますけれど?(・・・何だか、先が読めてきましたわ。)」
「それは分かっていたのですが、僕としたことが、おばさんの迫力につい対抗
意識を燃やしてしまい、いや、そんな事はない、菊正宗清四郎がその気になれば
出来ない事はない!と・・・。」
「・・・後はもう売り言葉に買い言葉ですわね。・・・まんまと相手の術中に陥りましたのね。」
「・・・お恥ずかしい話ですが、そういう事です・・・。あ、チケットは家の
郵便受けに入れて置きますから、良かったら使って下さい。終わったら連絡します。」
恐るべし、剣菱百合子。さすが世界の剣菱万作の妻である。
野梨子は一呼吸おいた後、これ以上はない位の明るく優しい声で言った。
「分かりましたわ。悠理によろしく。」
プツッ。

一分後、菊正宗家から人が出て行く気配がした。また窓から覗こうかどうか迷ったが、
きっと清四郎はこちらを見上げるだろうから、ここは敢えて無視して、厳罰を
加えてやろうと野梨子は身動きしなかった。車が出る音が聞こえ、清四郎は剣菱邸に
向かって消えて行った。
野梨子はすっかり興をそがれて、このままふて寝してしまいたい気分だったが、
今日出かけることは両親も知っているし、準備も出来ているので、気分は重かったが、
やはり至宝展へ行くことにした。途中可憐に連絡してみたが、今日は都合が悪いということだった。
(中間テスト明けのこんなデート日和に、可憐が空いているわけありませんわよね。)
野梨子は自嘲した。
794Graduation第五話date(11):2008/11/05(水) 12:58:36

電車の中も街の中もカップルで一杯だった。野梨子は今まで特に恋人が欲しいと思った事はないので、
普段、他のカップルを見て羨ましいと思う事はなかったが、今日に限っては、
秋晴れの日曜日に、たった一人で「中国の至宝展」を見に行く自分が何だか哀れに思えた。

日曜日の人気デパートは、思った以上に混んでいた。野梨子は9階イベントホールへ
行くための高層階用エレベーターを待っていたが、10階に映画館も入っているためか、
かなりの人数が集まっていた。やっとのことで地下から上ってきたエレベーターに
乗ろうとすると、既に大勢の人数が乗っている中に、どっと一階からの待ち人が乗り込んで、
すごい有様となった。野梨子は前の方に並んでいたが、後ろから突き飛ばされるように押されて、
もみくちゃになりながら奥へ奥へと押されて行った。
「ブー」
有難いことに、エレベーター自身が「もうこれ以上は無理ですよ」と意思表示してくれたお蔭で、
三分の一の待ち人は乗るのを諦めた。「ちぇっ」という声があちらこちらで聞こえた。
野梨子はエレベーターの真ん中で人と人とにつぶされたまま、息もつけない状態だった。
野梨子は小柄なので、顔がちょうど誰かの白いTシャツの胸元に押し付けられていて、
軽くぬってきた色付きのリップクリームがついたら申し訳ないと気が気ではなかったが、
このエレベーターは9階に直行なので、我慢するしかなかった。

(やっぱり、一人で来るんじゃありませんでしたわ!)
ようやく9階に着き、扉が開くや否や、殆どの乗員がはきだされるかのように表に飛び出した。
野梨子も人の密度が急に低くなった反動で、外に弾き飛ばされそうになったが、
Tシャツにリップクリームがついていないかだけ確認したく、少し離れた距離から
白い生地を密かに点検した。真っ白い無地のそこには、薄ピンクの唇型がかすかについていた。
(どっ、どうしましょう!)
そこで初めて野梨子はその人物を見上げた。
「!」
「のっ、野梨子っ・・・。」

そこには、薄ピンクの短髪の、良く見慣れた顔が目を丸くして立っていた。
795Graduation第五話date(12):2008/11/05(水) 12:59:39

スーッ、パタン。
結局、野梨子は9階で降り損ね、二人は驚きのあまり口も聞けず呆然と見詰め合ったまま、
10階まで行き、一緒に降りた。10階は映画館で、丁度今は上映中らしく、空いていた
エレベーター付近のソファに二人は腰を下ろした。
「驚きましたわ、魅録。こんな所で会うなんて。」
野梨子はハンカチで汗を拭った。
「俺もだよ。本当、偶然だなあ。」
今日の魅録は高校生らしく、白無地のTシャツに、お気に入りなのであろう、
かなり色あせたジーンズと、スニーカー、そしてカーキ色のブルゾンはおっていた。
愛用の黒い丸型のサングラスがブルゾンのポケットから覗いている。
魅録は、濡らしたハンカチでごしごしTシャツを拭いていたが、やがて諦めたように言った。
「油分は無理だ。いいや、元々こういうデザインってことで。」
「本当に申し訳ないですわ。」
しょんぼりする野梨子を励ますように、魅録は野梨子の肩をポンと叩いた。
「野梨子のせいじゃねえよ。気にすんなって。へへ、これ、野梨子のファンには高く売れるな。」
「いやですわ。」
野梨子は優しく魅録を睨んだ。
二人は改めて、ソファに並んで座り直した。

「今日は、お買い物ですの?」
「いや。ここ・・・。」
魅録は目の前を指さした。野梨子は頷いた。
「お一人で?」
「うぐぐ、それが・・・。」
魅録はソファーにズルッと沈み込むと、長い足を前に投げ出して声を絞り出すようにして言った。
「ドタキャンされたんだよ。アホ悠理に。」
796Graduation第五話date(13):2008/11/05(水) 13:00:56

「まあ・・・」
野梨子は清四郎のキャンセル理由を思い出した。
「そもそも、あいつの方から誘って来たんだぜえ?!指定席が2枚あっからって。
なのに、もう出かけようって時になって、ごめ〜ん、赤点のテストが母ちゃんに見つかっただの、
母ちゃんがカンカンで、今日は一日勉強だの、家庭教師がこれから来るだのって・・・。」
「・・・その家庭教師って、わたくし知っていますわ。」
「へ?」
「わたくしも。」
野梨子はにっこり微笑んだ。
「出る5分前に清四郎にキャンセルされましたのよ。」

20分後、野梨子と魅録は一緒に至宝展を観ていた。チケットは2枚ずつあったので、
それぞれ代役を務めようということになったのだ。先に至宝展を回り、間にランチを入れる為、
魅録は映画の指定席の本来の回を午後に変更してもらった。

「素敵ですわ・・・。」
野梨子はため息をついた。水墨画、書画、陶磁器、印鑑、彫刻、宝飾品・・・
選りすぐりの美術品が集められていた。さすがに好評を博すだけのことがある、
やはり来て良かった、と野梨子は機嫌が直ってきた。
しかし、人気美術展の最終日とあって、会場はかなり混んでいる。日本人はこんなに
中国の芸術に造詣が深かったかと疑問を抱きたくなるほど、またもや人、人、人の波であった。
野梨子は一つ一つをゆっくり見て回りたかったが、とてもそんな余裕はなく、
流れにのってどんどん進まされた。たまに立ち止まる人物がいても、周囲からの殺気にいたたまれず、
苦笑いして先へ進むのがおちだった。人ごみに辟易し、それでも野梨子がある
陶磁器を懸命に睨み付けている時、ふとガラスのショーケースに映った自分と、
その背後にいる魅録の姿が目に入った。

797Graduation第五話date(14):2008/11/05(水) 13:02:26

魅録がもともと美術品に大して興味がないことは分かっていた。今日はおつきあいで
一緒に入ってくれたのは承知していたが、今や魅録はここでの自分の役割に徹していた。
つまり、小柄な野梨子の体を守って、包み込むようにたち、黒サングラスをかけて
口をへの字に曲げ、野梨子のボディガードをしていたのであった。魅録の長身、
黒サングラス、つり眉、不敵な口元は、「近づいたらやばいぜ」オーラを周囲に撒き散らし、
お蔭で野梨子は予想外に満足に美術品を堪能することが出来た。

しかし、一方、次第に野梨子は落ち着かなくなって来た。触れはしないものの、魅録に包み
込まれている感覚は、忘れかけていたバイクの15分間を突如思い出させた
人ごみによって上がった体温による、汗とタバコの混じった匂いのせいかもしれなかった。
一旦意識し始めるともうだめで、ドキドキし始めた心臓はいつまでもその勢いを緩めなかった。
息が苦しい。
(わ、わたくしったら、どうしたのですかしら?)
野梨子を気づかっていた魅録が野梨子の異変に気が付いて耳元でささやいた。
「野梨子、こりゃちょっとすげーよ。さっさと見て終わらせるんじゃだめか?
じっくり見たいなら付き合うけど、おまえがしんどそうだからよ・・・。」
魅録の息づかいを耳に感じた野梨子は思わず震え上がった。
「そ、そうですわね・・・。」
しかし、会場は一方通行で、後半になるほど進みは遅かったので、二人が出口に
たどり着いたのは、結局30分近くも経ってからのことだった。

続く

798名無し草:2008/11/05(水) 13:23:16
>Graduation
GJ!
嫌味はスルーした方がいいですよ。
799名無し草:2008/11/05(水) 14:28:42
>Graduation
 毎回楽しみにしてます
 デート日和という野梨子の発言が可愛かった!
 続きお待ちしてます
800名無し草:2008/11/05(水) 20:52:25
>Graduation
清四郎がペンダントをあげた時の様子が微笑ましいですね。
偶然デートすることになった魅録と野梨子の様子も気になります。
続き楽しみに待ってます。
801名無し草:2008/11/05(水) 20:57:32
>Graduation
楽しみにしてました。
ボディーガード魅録かっこいい!さり気ない優しさが好きです。
野梨子も可愛いですね。
エレベーターのアクシデントは、私も背が低く似たような経験があるので、すごく頷けましたw
Dateの続き、楽しみにしてますね。

これまでの経緯でお気づきかと思いますが、ここのスレには常駐してる荒らしがいます。
野梨子アンチで、主に清×野について出没します。
これからも自演したり、あれこれ戦法を変えて、言いがかりをつけてくると思いますが
真摯に対応されると、ますます増長するだけなので
これに限らず理不尽なレスは、ぜひスルーして欲しいです。
802名無し草:2008/11/05(水) 23:22:18
え?わたし野梨子安置じゃありません。
むしろ一番好きです。
803名無し草:2008/11/06(木) 23:59:50
>Graduation
なるほど、こういう流れで魅録と野梨子がdateになるのですね。
GJ!続きが楽しみです。

男慣れしてなさそうな野梨子だけど、賀茂泉くんには普通に優しかったよね。
蛇様のお話の「守さんと呼んでよろしいかしら」の顔が、とても可愛くて
好きだ。
他には、修学旅行で悠理とつかまって、「野生のカンにききたいですよ」
発言の時の髪の乱れた清四郎とか、それぞれのキャラのお気に入りの顔が
あるんだけど、皆さんどうですか?


804名無し草:2008/11/07(金) 17:26:10
>803
自分は美童はテニスの話のめったにださない根性ふりしぼって女たらしの意地を見せてやるぞ、
の顔。
悠理は学園がのっとられそうになる話の大阪のおばちゃんに「あんたカッコええなあ」って言われてるところ。
清四郎は裕也の話で「異性として見るのなら反対するって言ってるんです」の顔。
魅録は美童がモデルの代理をする話でバイクに乗ってて「悪いことすると天罰がくだるよ」のシーン。
野梨子はアドベンチャークイズの話で雪道を登っていくときに「がんばります」ってつぶやいてるところ。
可憐はカサル王子の話で松の木に玉の輿を誓っているところ。かな。
805名無し草:2008/11/07(金) 22:53:37
>804
自分と似ていてびっくりしました。
悠理と魅録は同じ。(振り向きざまの悠理が素敵。魅録の方は族をバックにしている前のコマも好き。)
野梨子はほとんど同じで、雪道を「きゃあ」と引きずられている所。(おでこが見えてて可愛い。)
あと、池の鯉事件で、後輩の女の子に悠理と可憐と花束を持って行ってる時の着物姿。(大人っぽい。)
清四郎は結婚騒動の時に魅録に図星を言われて「嫌な奴」と言っている顔と、スパの時の前髪下ろしてる所。
可憐はダンスの回で、女の子に「私の口紅を分けてあげる」と言ってる表情。
美童は夢であいましょうの回で、悠理を「昨日、どんな夢見たんだよ」と、シリアスに問い詰めてる所。
(すごく男っぽい。)あと、南海の秘宝の洞窟で、白目になって、四本指を口にくわえて
「あわわわ」って怯えてる表情が、小さい絵なんだけど、何かツボで笑ってしまう。




806803:2008/11/08(土) 00:43:15
>804>805
レスdです。
確かに姫桜安奈も裸足で逃げ出すほど、あの悠理はかっこいい!普段ギャグ顔が
多い分、シリアス顔の美形度が際立ちますね。自分は、テニスの回で怪我した美童を
気遣って、「まかせとけ」とウィンクする顔。仲間思いの悠理がいい。
魅録は、おまる持って「ギブアップだよ」のアップ顔。物凄くかっこいいのに、持つは
おまるw 南海の秘宝は、全編通してかっこいいけど。
美童は、ミュスカ姫に惚れて、毛布にくるまって鏡に映った自分を見ている姿が
かわいい。テニスで「わざとじゃないならいい」って言う、男らしい顔もいい。
可憐は、やっぱり口紅(と下剤)の口移しが、すごく綺麗だし、カサル王子の時の
「天皇陛下だってチョロイものよ」(今は「国王陛下」になっている?)も好き。

番外で、ロクサーヌ野梨子と、マルガリータの身代わり美童は、絶品。
807Graduation:2008/11/08(土) 07:46:43
>791 今回7レスいただきます
808Graduation第五話date(15):2008/11/08(土) 07:48:27

「ふーっ!酸素、酸素!野梨子、大丈夫か?」
会場で、背の高い魅録はそれでも呼吸には苦労しなかったが、野梨子はその体格上、
後半はもうばてばてだった。結局、魅録に抱きかかえられるようにして最後は外に出て来たのだが、
野梨子がかなり疲れているのを見てとり、魅録は彼女を屋上広場へ連れて来たのだった。
屋上は緑化されていて、頭上には木々がこんもりと茂り、地面には芝生が敷き詰められていて、
ちょっとした公園のようだった。野梨子がベンチに腰掛けて息をついていると、
魅録が自動販売機からお茶を買って来て野梨子に渡した。野梨子は飲み物をペットボトルから
直接飲むのは苦手だったのだが、喉が渇いていたし、何より魅録の気遣いが嬉しくて、
こくりと一口飲んだ。
「はあ・・・。生き返りますわ。悪かったですわね、魅録。あんなに混んでいる場所に連れて行って。
わたくしも、知らなかったんですのよ。」
「かまわねえよ。けど、清四郎は知ってたのかな?もしかして、わざと混んでいる日を選んだとか。
あいつも結構むっつりだからな。」
「まあ・・・。」
顔を赤らめる野梨子を、魅録はいたずらっぽく見つめた。
「俺の方は、映画だけど・・・。冒険アクション物で、怖い場面も出てくるぜ。
どうする?止めてもいいけど。」
「せっかくだから、行きますわ。でも、その前にお昼を頂かないと・・・。」

ふと見ると、周りは家族連れが多く、芝生にシートを広げてお弁当を広げている光景が目につく。
野梨子はふと、あるアイディアが頭に浮かんだ。
「わたくし、いい事思いつきましたわ!ちょっと待っていて下さいな!」
魅録が答える間もなく、野梨子は駆け出していた。
「何だ・・・?あいつもわっかんねーな。ま、いいか。」
809Graduation第五話date(16):2008/11/08(土) 07:49:56

魅録は芝生に移ると、そこにごろりと寝転がった。目を瞑ると、周囲の親子達の声が聞こえてきた。
「ほら、野菜も食べなさい。」
「もう食べたもん。」
「こんなに残っているじゃないの。」
「もうお腹いっぱーい。ねえ、パパ、ボール投げやろう。」
「ちょっと待ちなさい、このビールだけ飲んでから・・・。」
魅録はそっと微笑んだ。

どの位時間がたったのだろう。
「・・・ろく、みろく。」
「!?」
慌てて跳ね起きた魅録は、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
青い空、白い雲。緑の空間。金色の明るい木漏れ日。そよ風。
しばし、ぼーっとしていると、目に一人の少女が目に入った。緑の黒髪のおかっぱ頭に
途方もなく大きい目。小さくて赤い唇。落ち着いた濃い赤のワンピースが良く似合っている。
「まだ寝たりません?」
「のっ、野梨子!」
魅録はやっと全てを思い出した。
「やべっ!俺、いったいどん位寝てたんだっ!?」
「ふふ。一時間位ですかしら。」
「そんなに!す、すまねえな、野梨子。」
魅録は決まり悪そうに顔を赤くして頭をかいた。
「いいんですのよ。丁度お昼の準備が出来たところですわ。」
「おおっ。」
810Graduation第五話date(17):2008/11/08(土) 07:52:19

改めて見ると、芝生には青いピクニック用のシートがしかれ、上にはスライスされたバゲット、生ハム、
スモークサーモン、カマンベールチーズ、そしてきゅうり、トマト、りんごが紙皿に置かれ、
そして缶ビールも1本置いてあった。魅録の好きな辛口だ。
「野菜と果物はそこの水道で洗ってきましたわ。ナイフも買ってしまいましたの。」
野梨子は楽しそうに笑った。
「バゲットにお好きな具をのせてオープンサンドにして召し上がって下さいな。
あ、その前に手を洗っていらして下さいね。」
水道から戻って来た魅録は黙ったまま、生ハムときゅうりをとってパンに乗せ、一気に頬張った。
「上手いっ!」
今や完全に目の覚めた魅録は、めずらしく悠理にも負けないほど、この思いがけない
ピクニックランチに興奮していた。2枚目のオープンサンドを頬張りながら、またもや言った。
「上手い!野梨子がこんなに料理が上手なんて知らなかったぜ。」
「そんな・・・材料を買ってきて、洗って、切っただけですわ。」
「関係ねーよ。うまいったら、うまい!」
魅録はご機嫌で食べ続け、紙皿はあっという間に全部空になった。
「ふー、食った、食った。」
魅録はブルゾンを脱ぐと、気持ち良さそうに缶ビールを飲みながら、またごろりと横になった。
「俺さ。」
ごくりとビールを一口飲む。
「おふくろが、あんなんだろ?実は、「手作り」ってのに憧れててよ。どんな簡単なもんでも感動すんだ。」
「・・・。」
「あ、でも別に俺のこと「可哀想」なんて思わないでくれよ。そういうんじゃないんだ。
おふくろの愛は十分感じてるぜ、俺。」
「そりゃあ、そうですわ。でなければ、魅録がこんなに良い方であるわけありませんもの。」
「よせよ、何も出ないぜ。」
魅録は声高らかに笑った。
「・・・。」
811Graduation第五話date(18):2008/11/08(土) 07:53:57

魅録とは趣味が合わない。今日の至宝展だって、魅録は全く興味がなかったはずだ。
他にも、自分の好きな日本の古典芸能、古今東西の文学などには、彼は興味はないだろう。
反対に、自分は、魅録の大好きな車やバイク、機械いじり、お酒、タバコ、夜遊びなどには
全く縁がなかった。更には怖いお兄さんたちとも交流のある魅録。ある意味、
自分たちは対極に位置している、と野梨子は思っていた。
それが、文化祭でペアを組み、更にバイクに乗せてもらったことで、急に親近感が増し、
何のご縁か、今こうやって二人でいる。そして、自分はもちろん、恐らく魅録も、
その様子からこの時間をとても楽しいものと思っているだろうと推測された。

青空の下、緑の芝生に無防備に寝転がる魅録は、ラフな格好のせいか、年相応に、
いやひょっとしてそれ以下に幼く見えた。たまに見る、夜のディスコで酒を飲んで踊ったり、
大勢の仲間を率いて夜にバイクを走らす人物とはとても思えなかった。
「おっと、デザート、デザート。ビタミンCを取らなくっちゃな。」
ふいに魅録が身を起こしてりんごを一つ掴み取り、丸ごと噛み付こうとした。
「あ、ちょっと待って下さいな。」
「へ?」
野梨子は魅録の手からりんごを取ると、器用な手つきでナイフで皮をむき始めた。
「へえ・・・。上手いもんだなあ。」
気が付くと、目の前にりんごのウサギが6つ並んでいた。魅録は固まっている。
「?」
ほんの茶目っ気でやった事だが、魅録の様子に野梨子はとまどった。
(わたくし、余計な事しましたかしら。魅録のようなタイプはりんごのウサギなんて
バカバカしいのかも・・・。)
「ずずっ。」
野梨子はただならぬ気配に顔を上げた。

812Graduation第五話date(19):2008/11/08(土) 07:55:25

見ると、魅録は赤くなった鼻をすすっていた。
「すまない・・・。俺、これ、りんごのウサギっつーの?これ、食うの初めてなんだ。
フミさんは料理上手だけど、こういう遊び心はなくて、幼稚園の頃、皆がりんごのウサギだの、
ウインナーのたこだの、ああいうの持って来てて、口ではバカにしてたけど、
内心いつも羨ましくってよ・・・。何か、思い出しちまった。」
しゃりしゃり音を立てながら、りんごのウサギを嬉しそうに頬張る魅録が、
生意気な顔をした、やんちゃな5歳の小さな男の子に見えて、野梨子の母性本能が
たちまち風船のように膨らみ出した。
(りんごのウサギでよろしければ、これから幾らでもわたくしが作って差し上げますわ・・・。)

サワサワサワサワ・・・。心地よい風が二人の間を通り過ぎた。
ランチタイムも過ぎて、周囲はまた買い物に戻ったのか、家族連れも減り、静かになっていた。
午後の穏やかな日差しの中、後片付けをしながら、野梨子はふと、魅録の視線を左頬に感じ、
密かに焦った。片付けの動作に紛らわせながら、垂らした髪の毛越しに様子を
伺うと、魅録は寝転がったまま、妙に真面目な顔をして、目線だけをこちらに向けていた。

ドキドキドキドキ・・・。
野梨子の心臓はまたその存在を示し出し、野梨子は気をそらす為、早回しの人形のように
せっせと働いた。魅録は本人が気が付いているとも知らず、そんな野梨子を
盗み見ながらぼんやりと考えていた。
(・・・前から思ってたんだけど、野梨子を見てると、時々思い出すんだよな。
あの・・・姫さんを。目が大きくてちんまりした口とか、艶々した真っ黒な髪とか、
小さくて細っこいところとか・・・。でも、顔そのものは似てないし、性格も
野梨子の方がずっときっついけど。気品とか誇りの高さとかっていうのかな。
どこの姫さんもこんな感じなのかな・・・?)

813Graduation第五話date(20):2008/11/08(土) 07:57:28

後片付けを終えてしまった野梨子は手持ち無沙汰になり、しかし魅録がまだ自分を見ているので、
視線を合わせないまま、言葉を発した。
「何か、わたくしの顔についています?」
「!」
(やべえ、こいつ、俺が見てるのに気が付いてたんかな?野梨子に見惚れてたなんて、
清四郎にばれたら腕の一本も折られちまうぜ。)
「あっ・・・いやっ・・・。そっ、そのペンダント、そう、そのペンダントが
ゆらゆら揺れてて・・・綺麗だなって・・・。すごく似合うぜ。」
魅録は咄嗟に目に入った野梨子の首元に光っている、シルバーのリボンを話題にした。
「ああ、これ・・・。」
野梨子はちょっとほっとしたように一息おいて、白くて細い首のちょうど窪みに
おさまっているペンダントトップのリボンを右手でなぞった。野梨子はそれについて説明するのを、
自分でも分からず何故だか一瞬躊躇したが、その時悠理のヘルメットの事を思い出した。
「清四郎が昨年のお誕生日にくれましたの。」

意外な事に、野梨子のこの返事に対し、魅録は思っていた以上に驚いた顔をし、
瞬間ではあるが傷ついたような表情さえ見せた。そしてその事に対し、野梨子はひどく混乱した。
(わ・・・わたくしったら、余計な事いいましたかしら?でっでも、魅録だって
悠理にヘルメットのプレゼントをあげていますし、個人的なプレゼントといっても、
そんなに大げさなことでは・・・?)
「そりゃ、」
魅録は勢い良く芝生から跳ね起きた。
さっきまでの二人のまどろみの時間がブツッと切れた音がした。
「お仲のよろしいこって。お、もうこんな時間だ。映画、もう始まってるぜ。行くだけ行くか?」
「ええ・・・。」
野梨子はかろうじて声を出した。

814Graduation第五話date(21):2008/11/08(土) 07:59:36

「重いだろ。荷物貸せよ。」
魅録はぱっと野梨子から買い物袋を取り上げると、すたすたと足早に歩いていき、
途中ゴミ箱にゴミを捨てると、振り向いて野梨子を呼んだ。
(でも、少なくとも、映画を観ている間は一緒にいられますわ・・・。)
秋の太陽は傾くのが速い。二人の時間がもうそろそろ終わりに向かっているのを感じ、
野梨子は突然激しい寂寥感に襲われたが、むりやり笑顔を作ると、野梨子は
魅録へ向かって走って行った。

映画は始まって30分経っていた。指定席なので、暗い会場を真ん中まで歩いて
行かなければならない。魅録は先ほどまでかけていたサングラスをはずした。
「暗闇に目を慣らしといたんだ。急に明るい所から暗い所に行くと目が見えないから。
俺が誘導すっから、しっかり付いて来いよ。」
野梨子は魅録のブルゾンの裾を握って頷いた。前かがみになって進む二人。
「あ、段があるから気を付け・・・。」
「きゃ!」
魅録に言われるや否や、座席の間の最初の階段で野梨子はもう転がった。
(何だこいつら遅れて来やがって。迷惑なんだよ)
無言のプレッシャーを体中に受ける。
「仕方ねえな。野梨子、ちょっとすまない。」
次の瞬間、野梨子の体中に電撃が走った。
魅録は野梨子を起こすと、ぐいと野梨子の体を自分に引き寄せ、両肩を自分の
両手で抱きかかえるようにして、足並みを揃えて一歩一歩用心深く階段を降りていった。
「あった。ここだ。」
二人の席は指定席ゾーンの真ん中で、ぺこぺこ頭を下げながら席まで進んでようやく落ち着いた。
スクリーンではイントロ部分が終わり、ハリソン・フォードが既にアクションを始めていたが、
野梨子は隣の魅録を意識して、中々映画に集中できなかった。しかしさすがに
映画は良く出来ていて、しばらくするとストーリーと迫力ある画面に引き込まれ、
終わった時には大満足していた。

続く
815名無し草:2008/11/08(土) 08:31:33
>Graduation
朝から読めて嬉しいです。野梨子のランチ素敵ですね。
うさぎりんごに感動する魅録がかわいいw ギャップに萌える。
ふたりとも歳相応に初々しくて、爽やかでいいな。
816名無し草:2008/11/08(土) 08:56:24
>Graduation
りんごのうさぎに感動する魅録がかわいかったです。
自分も生ハムのオープンサンドが食べたくなってしまったw
野梨子はいつ自分の気持ちをはっきり自覚するのかな。
続きが楽しみです。

817名無し草:2008/11/09(日) 00:05:58
>酔いの夢
作者様、続きをお待ちしております・・・
818名無し草:2008/11/09(日) 18:52:43
鯖移転したばかりで何だけど、今のスレの容量が465KB。
500KB越えると書けなくなるから、そろそろ次スレの相談を。

>>1-6のテンプレ、>>1の前スレのリンク以外で直すところあった?

ちなみに、1レスの投下量にもよるけど、作品10レスで8〜12KB位
だったかと思うので、あと2回位の投下は大丈夫かと。
819名無し草:2008/11/09(日) 19:20:06
>>523であがってる指摘はどうする?
820名無し草:2008/11/09(日) 19:35:56
無知でごめん

> 他スレの迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。
これって何が問題なの?
ググったけど分からなかった。
821名無し草:2008/11/09(日) 23:05:00
>>820
何故迷惑になるのかは自分も知らないんだが、
確か>>1を10行以内にするのが難民板のルールだっていう話で
テンプレに加わったんだよね。
そのルールって今も生きてる?
いくつか他のスレを覗いてみたら、10行オーバーしてる所結構あるけど。

つーか、ここの>>1って10行だよね…?
>>523は空白行か、名前欄の行を含めて数えてる?
822名無し草:2008/11/10(月) 12:03:08
こういう場合って、普通カラ行もカウントするんじゃないの?
823名無し草:2008/11/10(月) 20:53:54
>>1のテンプレを作り直した時(ログ見たら6年前)
これでおkだったんだから、含まなくていいのでは?

現在でも10行以内が推奨されているのか
板住人に質問してみようと思ったんだけど
今って自治とか案内所とかのスレが無いのね〜
どこで聞けばいいんだろう。
824名無し草:2008/11/11(火) 00:31:22
>>820-823
昔はIEで見ている人が多かったから、その言葉を入れていた。
誰かがスレを上げてこのスレが難民板の上位10位以内に入った時、
以下の2つの問題が起きたから。

1.1レス目が長いと板のTOPに表示されるスレが、(本来は10スレ
 なのに)10スレ未満になってしまい、他スレに迷惑をかけていた。
2.1レスが11行以上あると11行目以降が省略されてしまい、
 一度で読んでもらえなかった。

でも今は専用ブラウザで見る人が増えたし、2の問題も16行位
までは表示されるようだから、お約束から取ってもいいと思う。

>>523の残り2つの指摘も入れて>>3-5の叩き台を作ってみたので、
3レス使ってこの下に投下するね。
〓のところの数字は、いくつにすればいいのかな?
825>>3の叩き台:2008/11/11(火) 00:32:04
◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)

<原作者及び出版元とは全く関係ありません>

・初めから判っている場合は、初回UP時に長編/短編の区分を書いてください。

・名前欄には「題名」「通しNo.」「カップリング(ネタばれになる場合を除く)」を。

・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。

・最終レスに「完」や「続く」などの表記をしてもらえると、読者にも区切りが
 分かり、感想がつけやすくなります。

・連載物は、2回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」という形で
 前作へのリンクを貼ってください。

・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。

・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
 確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。

・作品の大量UPは大歓迎です!
826>>4の叩き台:2008/11/11(火) 00:32:52
◆その他のお約束詳細

・萌えないカップリング話やキャラ話であっても、 妄想意欲に水を差す発言は
 控えましょう。議論もNG(必要な議論なら、早めに別スレへ誘導)。

・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすいように、
 なるべく名無し(作家であることが分からないような書き方)でお願いします。

・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など自由です。

・970を踏んだ人は新スレを立ててください。
 ただし、その前に容量が500KBを越えると投稿できなくなるため、
 この場合は450KBを越えたあたりから準備をし、485KB位で新スレを。

※議論が続いた場合の対処方法が今後決まるかもしれません。
 もし決定した場合は次回のテンプレに入れてください。
827>>5の叩き台:2008/11/11(火) 00:33:20
◆初心者さん・初投下の作家さんへ

○2ちゃんねるには独特のルール・用語があるので、予習してください。
 「2ちゃんねる用語解説」http://webmania.jp/~niwatori/

○もっと詳しく知りたい時
 「2典Plus」http://www.media-k.co.jp/jiten/
 「2ちゃんねるガイド」http://www.2ch.net/guide/faq.html

○荒らし・煽りについて
・「レスせずスルー」が鉄則です。指差し確認(*)も無しでお願いします。
 *「△△はアオラーだからスルーしましょう」などの確認レスをつけること

・荒らし・アオラーは常に誰かの反応を待っています。
 反撃は最も喜びますので、やらないようにしてください。
 また、放置されると、煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります。
 これらに乗せられてレスしたら、「その時点であなたの負け」です。

○誘い受けについて
・有閑スレでは、同情をひくことを期待しているように見えるレスのことを
 誘い受けレスとして嫌う傾向にありますので、ご注意を

○投下制限
・1レスで投下出来るのは〓行以内、1行が〓文字以内です。また〓レス以上を
 連続投下しようとすると、規制に引っかかりますので気をつけてください。
828名無し草:2008/11/11(火) 00:36:43
投下制限の情報は「お約束」ではないと思ったので、敢えて>>3
>>4には入れず、5に入れてみた。
829名無し草:2008/11/11(火) 01:43:19
>>824、叩き台、乙です。
テンプレに関しては、自分はそれで大丈夫だと思うが、他の人の意見も待ってみよう。

〓の数字に関してだけ、現在の難民板のSETTING.TXT読んでみた。

・1レスの制限は32行、2048バイト(全角1024文字)、1行の文字数制限は無し。
 >>459でも書き込んだんだが、単純計算だと32文字×32文字ってことになるが、
 中途改行や空白行を考えると、1行当たり35文字〜40文字くらいが無難なところかな。
 でも、それに関しては個々の作家さんの好みで良いと思う。

・連投規制は、最新150レスの内、15レスを同じIPで書き込むとはじかれる(●持ちは別)。

ので、ちょっと改変させてもらって、

○投下制限
・1レスで投下出来るのは32行以内、全角1,024文字以内です。
 また●を持っていない人は、最新150レスの内15レス以上を同一IPアドレスから
 書き込もうとすると、規制に引っかかりますので気をつけてください。

くらいで、どうだろう。
今後SETTING.TXTが変わったら、また変更するということで。
もうちょっと初心者にもわかりやすくしたいんだけど、IPアドレスが変わるタイミングは、
接続形式やプロバイダによって違うから、ちょっと一概には言いにくい。

もっとうまい言い方があれば良いんだが。
830名無し草:2008/11/11(火) 02:45:12
>>829
具体的な数字をありがとう。
念のため確認。
1.難民の鯖がjfkに変わっても、設定は>>459の時と変わらないのかな?
2.他板で作品を投下した時、1行の文字数制限もあったんだけど、
 難民板は無いのかな?

それと、いきなり●と言われても初心者には分かりにくいだろうから、
●の件は後回しにしたらどうだろう。

○投下制限
・1レスで投下出来るのは32行以内、全角で1,024文字以内です。
 また、最新150レスの内の15レス以上を同じIPアドレスから書き込もうと
 すると、規制に引っかかりますので気をつけてください(●持ちを除く)。
831名無し草:2008/11/11(火) 03:17:58
>>830
1.さっき書き込む前に確認しに行ったけど、変わっていない模様。
 SETTING.TXTの確認の方法については以下参照↓
 ttp://kobe.cool.ne.jp/r_030/2ch_jikken/SETTING.htm
(SETTING.TXTの中身は、jane Doe Styleだと書き込みタブの右から見ることもできる。
他の専ブラはわからん)

2.こちらは、自分の確認ミスだった。ごめんなさい。
 今確かめてみたところ、1行につき128文字までは書き込めた。

●に関しては、確かに初心者にはわかりにくいと思うから、後回しに賛成。
ので、こんな感じ?

○投下制限
・1レスで投下出来るのは32行以内、1行は全角128文字以内ですが、
 1レス全体では全角1,024文字以内です。
 また、最新150レスの内の15レス以上を同じIPアドレスから書き込もうと
 すると、規制に引っかかりますので気をつけてください(●持ちを除く)。
832名無し草:2008/11/11(火) 08:01:51
いいんじゃないかな。
まとめ乙!

SSはあと2本くらい投下できそうな感じだね。
833名無し草:2008/11/11(火) 16:06:43
おお、もう新スレか。
このスレも前スレ同様、充実してたな。
834名無し草:2008/11/12(水) 00:05:41
>>831
調べてくれてありがとう。
投下制限の項目も、>>831の書き方でいいと思う。

ということで、次スレはこんな感じかな。
>>1 前スレのタイトルとURLのみ変更
>>2 変更なし
>>3 >>825に変更
>>4 >>826に変更
>>5 >>827のうち、投下制限の項目は>>831の下5行に差し替え
>>6 変更なし

今473KBで、>>832さんの言う通りSSをあと2本位は投下出来そう
なんだけど、作家さんからするとどうなのかな?
容量を気にしながら投下するより新スレの方が投下しやすいなら、
先に新スレを立ててしまい、今のスレは雑談や点呼などで2〜3日
かけて埋める方法もあるけど。
835名無し草:2008/11/12(水) 02:10:43
>>834
まとめ乙
次スレ立ては、お約束の485KBか1回分の作品投下があるまで待ってもいいんじゃないかな?
SS1本相当なら容量は心配ないし、1回投下があれば自動的に485KBに達するだろうし
そのタイミングでスレ立てでも間に合うと思う。

前にも、次スレは485KBでも早くない?って意見があったよね。
今立てて作品うpを新スレに誘導しても、
残りをそれ以外で埋めるにはちと早い気がするけど、どうだろう?
836Graduation:2008/11/12(水) 09:52:13
>808 今回7レスいただきます。
837Graduation第五話date(22):2008/11/12(水) 09:53:57

デパートの一階の、歩行者天国の道路沿いのオープンカフェでほっと一息つきながら、
野梨子と魅録は映画の感想を言い合って盛り上がった。野梨子はストーリーそのものや、
登場人物の台詞回し等を考察し、魅録はもっぱらアクションシーンや特撮、CGに
ついてうんちくを語っていた。
気が付くと、そろそろ赤くなりつつある空を背景に、街のシンボルである時計台が5時を告げた。
「もう、5時か。あいつら、まだ勉強してんのかな?清四郎から何か連絡来たか?」
「いいえ。今のところは。終わったら連絡するとは言っていましたけれど。」
「そっか。悠理もだよ。ちょっと様子見に行ってみるか?」
「いいですわね。」
「あ、でも、俺、今日バイクで来ちまった。」
魅録がしまったという顔をしたが、野梨子は逆にぱっと顔を輝かせた。
「あら、是非乗せて下さいな。」
「今日はだめだ。」
間髪入れず、強い口調で断られて、野梨子の表情はたちまち曇った。魅録は慌てて、
「今日は、野梨子の分のメットがないからよ。野梨子を危ない目には合わせられないからな。」
と、付け加えた。
「ああ・・・。」
野梨子は一瞬納得しかけたが、次の瞬間両手を打ち合わせて嬉しそうに顔を上げた。
「わたくし、ヘルメットを買って来ますわ!」
「へっ!?」
魅録がぎょっとして野梨子を見る。
「ここはデパートですもの。ヘルメットくらい売ってますでしょ?」
「あああ・・・。でも、マジで?」
「行きますわよっ。」
野梨子は自分のカフェオレの分のコインをテーブルに置くと、さっさと売り場案内図を見に行った。
「いいのかよ〜。」
魅録はあたふたとレジで会計を済ませながら、冷や汗をたらしていた。

838Graduation第五話date(23):2008/11/12(水) 09:56:10

6時。剣菱邸。
「全問正解!もうこれ位で良いでしょう。明日の追試は僕が保証します。
今日は本当に頑張りましたね、悠理。」
清四郎がついに赤ペンを置いた。
「当ったり前だ!もう金輪際、こんなことやんねーぞ!」
今や二人の勉強部屋と化している剣菱邸の書斎の一つの入り口には、剣菱百合子が微動だにせず、
ずっと座っていたが、清四郎の言葉についににっこりとした。
「二人とも、良く頑張ったわね。二人の努力は私が確かに見届けました。
清四郎ちゃん、どうも有難う。お礼と言っては何だけれど、今晩はうちで食事
でもしていかないこと?」
剣菱家の晩餐がいかに豪勢であるか一瞬脳裏を横切ったが、しかし清四郎は今日が
どういう日であったかを直ぐに思い出した。
「いえ、お誘い頂いて大変嬉しいですが、予定がありますので、今日はこれで
失礼致します。」
「あら、そうお。残念だわ。じゃ、また次の機会にね。あら、悠理、何処行くの?」
「ダチんとこ。多分、夕飯いらないから。」
「・・・せっかく今日は賑やかに食事が出来ると思ったのに。また万作さんと
二人になっちゃったわ。」
百合子がそう呟いてため息をついたところに、丁度豊作が通りかかった。
「母さん!僕がいるじゃないですか!」

清四郎と悠理は並んで表玄関へ向かった。
「悠理、今日は昼間、予定があったんじゃないですか?」
「え?何で?」
悠理がきょとんとして傍らの清四郎を見上げた。清四郎はにやりと笑った。
「めずらしく、女っぽい格好をしているじゃありませんか。」
悠理の装いは、山吹色のとろりとした柔らかいニット・スーツだった。
セーターは襟ぐりがゆったりと開いて、左の首下でリボン結びになっており、
ボトムはミニのラップキュロットで、後ろから見るとキュロットだが、
正面から見るとミニスカートに見える物だった。
839Graduation第五話date(24):2008/11/12(水) 09:57:27

「やめろよ。それを言うならおまえこそ。」
清四郎は明るいブルーのシャンブレーのシャツにダークブルーのコットンの
丸首セーターを重ね、ベージュのチノパンを合わせていた。ちらりと覗く靴下の色が
襟と同じ明るいブルーの所に、気の使わせ方が伺えた。
「いつもより、爺臭く見えないぜ。」
悠理はそう言って、清四郎に向かってぺろりと舌を出して見せた。そしてそのまま
清四郎の「むっ」をものともせず、玄関で茶のスウェードのブルゾンをばさっと羽織ると、
星の数ほどあるかと思われる靴の中から同色,同素材のロングブーツを選んだ。
「車で送らせるよ。」
「いえ、寄るところがありますから、いいです。」
二人は長い長いアプローチを過ぎて、剣菱邸の門の外へ一緒に出た。
悠理はそこで立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「待ってんだ。」
「誰を?ああ、先ほど言ってたダチですか。」
「うん、さっきメールしたからもう直ぐ来ると思う。」

悠理の表情はとても柔らかかった。顔が心なしか紅潮しているように見えるのは
落ちる寸前の夕日のせいだろうか。ふわふわの猫っ毛が日に溶けてしまいそうで、
清四郎は眩しげにそれを見つめた。悠理はふと、気が付いたように言った。
「おまえも、ごめんな。約束あったのに。母ちゃんに強引に引っ張られて来たんだろ?
これからどうすんだ?」
「・・・僕も、さっきメールしました。ここに来るって返事がありました。」
「ここに来るって・・・。誰だよ、相手は。」
悠理はめずらしく、野生の勘ではなく、女の第六感を使った。
「もしかして、野梨子?」
「・・・はい。」
840Graduation第五話date(25):2008/11/12(水) 09:59:16

ほんの少し躊躇いがちに、でもはっきりと、しかも微笑んで答える清四郎を、
悠理は目を見開いて「へえ。」と眺めた。
が、次の瞬間ガハハと嬉しそうに笑って清四郎の背中をドン!と叩いて言った。
「そ、そっかー!そいじゃ、言うけど、あたいの相手は魅録だよっ。お互い、
あいつらには悪い事したなーっ!」
悠理は魅録が一人でブツブツ言いながら面白くなさそうに映画館でポップコーンを
頬張っている姿が目に浮かんだ。
「全く、その通りですね。」
うんうんと頷く清四郎には、たった一人で所在無げに中国の至宝を見て回っている
野梨子の姿が見えていた。
(本当に野梨子には可哀想な事をしました。お詫びに、これから飛び切りの
ディナーに連れて行ってあげましょう。)
(魅録、怒ってんだろうなー。今日は食い放題は止めて、あいつの好きなもん、
食いに行ってやるか。)
二人が、それぞれ自分たちの世界に浸っていると、かすかに音が聞こえてきた。

ブロロロロ・・・!
「魅録!」
あっという間に到着したバイクに向かって悠理は駆け寄って行ったが、途中で
ピタッと立ち止まった。
(何だ?後ろに誰かいるぞ。)
悠理の全身の毛が逆立った。その人物は、悠理の見たことのない、シルバーピンクの
ヘルメットを被っている。
「よお。勉強、終わったか?」
魅録がバイクから降り、ヘルメットを取って、悠理にウィンクした。
(何だよ、機嫌いいじゃん、魅録のやつ。)
悠理は混乱した頭で、後ろを指さした。
「おっ、おい、魅録、誰だよ、その後ろの・・・。」
841Graduation第五話date(26):2008/11/12(水) 10:01:10

悠理が言うより早く、魅録が背後の人物をひょいと持ち上げて、バイクから降ろした。
その人物は華奢な両手でヘルメットをはずした。
「のっ、野梨子っ!」
悠理と、そして今度は清四郎の声が夕暮れの超高級住宅地に反響した。
野梨子は真新しいヘルメットを大事そうに胸に抱え持つと、少し頬を赤くして、
恥ずかしそうに微笑んだ。
「へへ、何故俺達が一緒にいるか聞きたいだろ?」
魅録が得意気に胸をそらした。
「俺が悠理と観るはずだった映画と、野梨子が清四郎と観るはずだった美術展が、
同じデパートでやってたんだよ。それで、そこで鉢合わせしてさ。俺が清四郎の
代りに美術展を観て、野梨子が悠理の代わりに映画を観たってわけ。色々あったけど、
ま、楽しかったな。」
後ろを振り向いて、堂々とにっこり笑いかける魅録に対し、野梨子はうつむき加減で、
こっくりと頷いた。
「そ、そのメット、どうしたんだよ・・・。」
悠理が、野梨子のヘルメットを指さしながら、恐る恐る聞いた。
まるで嫌なことは早く済ませてしまいたいとでも言うように。
「気が付いたら、買ってしまっていましたの・・・。」
野梨子はますます顔を赤くした。
「野梨子の行動力には驚いたぜ。メットがないからバイクはダメだっつったら、
あっという間に買っちまいやがんの。」
そういう魅録はしかし嬉しそうだった。

悠理はポカーンと口を開け、目を丸くしていたし、清四郎は暗くなったのを良いことに、
おもむろに眉間にしわを寄せ、口元を引き締めて、顎に手をあてていた。
とにかく四人の内、二人が、剣菱夫人の監視下で、充実した学生の本分に勤めていた間、
残りの二人が青春を謳歌していたのは確からしい。
842Graduation第五話date(27):2008/11/12(水) 10:02:11

悠理は戦力にならないと悟った清四郎は、一人でこの状況を打破しにかかった。
「野梨子。本当に今日はすみませんでしたね。今思うと、例えどんな理由があろうとも、
約束をキャンセルするべきではありませんでした。」
それは、心からの真実であった。
「みっ、魅録も悪かったな!」
悠理が現実に引き戻されたように慌てて言った。
「ああ、始めはそりゃ、頭に来てたけどよ。けっこう楽しかったし。な、野梨子?」
明るく笑いながら野梨子の方に顔を近づける魅録に、野梨子はまた可愛らしくコクンと頷いた。

(・・・。)
清四郎と悠理はどっと今日一日の疲れが押し寄せてきた。
「やはり、今日はちょっと疲れましたね。では、帰りましょうか、野梨子。」
「ええ・・・。魅録、送って下さって有難うございました。とても・・・楽しかったですわ。」
野梨子はゆっくりとバイクから離れ、清四郎の傍らの定位置についた。
「魅録も今日は、野梨子のボディガードを有難うございました。」
陽は完全に落ちて、そう言う清四郎の表情は見えなかった。
「おうっ!」
大きく手を振る魅録を背後に、清四郎と野梨子は並んで帰って行った。
843Graduation第五話date(28):2008/11/12(水) 10:03:31

「さて。」
魅録は振り返って悠理を見た。
「俺達はどうする?飯でも食うか?」
「うんっ!」
悠理の目がハートになり、ぴょんぴょん飛び出した。
「じゃ、早くメット取って来いよ。」
「O.K.!今日は魅録の食いたい物でいいよ!」
「へえ、めずらしいな。」
魅録は肩をすくめた。

悠理がヘルメットを取りに戻っている間、魅録は、薄闇の中、寄り添うように
並んで歩いて行った清四郎と野梨子の後ろ姿を思い返していた。
(やっぱ、お似合いだな。あの二人。)
バイクに体をあずけた状態で、魅録は顔を夜空に向け、しばし真顔で、白く輝く月を眺めていた。
が、ふっと微笑むと、何かを吹っ切るかのように頭を振った。

「おまたせーっ!」
悠理のとびきり元気な声が耳に飛び込んで来た。魅録は頷くとバイクに跨り、
自分もヘルメットをつけた。すかさず、悠理が飛び乗り、腰に手が回った。
「よし、いいか?」
「もちろん!」
「飛ばすぜ!」
「O.K.!」
魅録と悠理は、先ほどの二人とは反対の方向に、大音響を残しながら消えて行った。

第六話 crescendoに続く
844名無し草:2008/11/12(水) 11:54:50
>Graduation
続きキタ────!
乙です。
意外と行動派の野梨子可愛い。
悠理切ないなぁ。
845名無し草:2008/11/12(水) 13:13:48
>Graduation
素直に楽しかったと笑う魅録の笑顔が頭に浮かびました。
悠理と清四郎は複雑だろうなぁ。
六話も楽しみにしています。
846名無し草:2008/11/12(水) 13:43:09
>Graduation
>悠理はめずらしく、野生の勘ではなく、女の第六感を使った。
ここ好きです。悠理らしさが出てるし、なおかつ微妙な感情の動きが
わかりやすくて、うまいなと思いました。
魅録の方は、まだまだ恋という所までの気持ちではないみたいですね。
次回のタイトル予告があると、ついつい続きを妄想してしまい楽しいです。

>新スレ
テンプレ練り直しとまとめて下さった方、本当に乙です。
前スレの終わりを読み返してみたら、>>4のテンプレの485KBを
490KBに直した方がいいという意見が出ていました。
毎回埋め立てのためにけっこうレスを費やしてますので、
そこも修正した方がいいと思います。
847名無し草:2008/11/12(水) 17:49:06
>>846
それでいいと思う。
なかなか埋まらないものだし。
848名無し草:2008/11/12(水) 20:37:45
まとめてくれた方たち、乙でした。
自分も>>846に賛成です。
849名無し草:2008/11/14(金) 17:21:38
スレ止まっちゃってますねー。
そろそろ490KBだし、新スレ立ててもいいですか?
850名無し草:2008/11/14(金) 18:38:11
>>849
お願いします。
851名無し草:2008/11/14(金) 18:54:49
>>850
では立てに行ってみます。少々お待ちください。
852名無し草:2008/11/14(金) 19:04:36
立てました。
確認したので大丈夫だとは思いますが、テンプレ間違いあったらすみません。

◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう33◇◆◇◆
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1226656641/
853名無し草:2008/11/14(金) 19:43:23
>>852
スレ立て、乙です
854名無し草:2008/11/14(金) 23:59:25
>>852
乙です。
このスレうめなきゃですね。
855名無し草:2008/11/15(土) 00:07:03
二人でピクニック状態は非現実的
856名無し草:2008/11/15(土) 00:18:57
あと12KBあるね。
埋めがてら過去作への感想を書いて、みんなで作者さんカムバック!を
叫んでみるとかw
857名無し草:2008/11/15(土) 00:21:38
Graduationの作者さんにはこれからもコンスタントな
投下をお願いしたいです。楽しみにしてます。
858名無し草:2008/11/15(土) 00:26:58
美童は女装と並んで、そっくりさんエピが何気に多いよね。ミュスカ姫、きぬさんの恋人、
母方の祖父など。あんなキレイな顔が、何人もいたら凄いけど。

メンバーの家族は除き、脇やゲストキャラで一番の美形って誰だろう。成長した真澄ちゃんは
凄い美人だったが(お母さんも美人)。
859名無し草:2008/11/15(土) 00:31:21
幽霊の高臣さん?
860名無し草:2008/11/15(土) 00:33:38
>>859
あ〜あの人は美形だった
大好きで何度も繰り返し読んだな
861名無し草:2008/11/15(土) 00:35:22
>856
流れ豚切りして、スマソ。

檻・病院坂・恋チカ・これ、いただくわ ←特に、檻のラストは気になる。
あと、四季シリーズも。いつまでもまってます!
862名無し草:2008/11/15(土) 11:07:05
檻           あの冬の日の出来事ってなんだ!っていまだに気になる。
恋チカ        野梨子がバイクの免許を取るところを読んでみたかった。
時代劇編      ううっ。こんないいところで中断なんて殺生な…
愛の形       すごく面白そうなはじまりなのにぃ。
SPOUSE     インパクトのある始まりで続きが是非読んでみたい。中年のおじさんは誰なんだ。
病院坂        野梨子がボロボロのままもうすぐ1年が…最後まで読みたいよぉ。
これ、いただくわ  独特の発想でアクションも有閑らしくて好きな作品。続き読みたい。

863名無し草:2008/11/15(土) 12:12:25
檻、暴走愛、病院坂、憂鬱な雨の午後に、想い出がいっぱい

これらの作品の続きがずっと気になっています。
作家さん達、いつまでもいつまでもお待ちしていますので
どうぞ宜しくお願いします。
864名無し草:2008/11/15(土) 18:26:02
みんなが気になってる作品、ほとんど自分と一緒だ
いつかまた戻ってきて下さることをお待ちしてます

もちろん新作や新人さんの作品も楽しみにしてます
次スレもたくさん作品が読めますように…
865名無し草:2008/11/15(土) 22:56:13
酔いの夢、不感症男の番外編、突発的なの続きも待ってます!
866名無し草:2008/11/15(土) 23:06:19
『恋のチカラ』は魅録の描写がめちゃくちゃかっこよかったんだよね。
『Graduation』読んでいると、『恋チカ』がすごくよみたくなる。
もちろん、『Graduation』の続きも楽しみにしていますよ〜
867名無し草:2008/11/16(日) 14:10:18
白鹿野梨子の貞操を狙え!、暴走愛の続きも気になります。
868名無し草:2008/11/16(日) 21:43:05
>>862
読みたい作品一緒だわw
869名無し草:2008/11/16(日) 23:48:10
完結した作品だけど、椿三夜は、ストーリー、描写力ともに凄かったなー。恋愛ものもいいけど、
たまに冒険譚やオカルト的なものも読みたくなる。
870名無し草:2008/11/17(月) 01:58:45
埋め草として。

昔、りぼんで御大が「有閑ができるまで」を2ページの漫画風に描いたことがあって
内容はよくインタビューで答えてるのとほぼ同じなんだけど
ふと思い出したので、記憶に残ってる部分を書き出してみます。覚えてる人いる?

「久々にアクションコメディを描くことに。昔の『こいきな奴ら』が4人組だったので
 今度は男女三人ずつの六人でと思ったが」
「ど〜しよ!六人も出すなんて自殺行為だー!!漫画は主人公だけじゃ描けないのに」
  ↓
六人の性格を考える御大。
「ケンカが強くて元気な子。これ女にすると面白いな」
「頭のいい子。男かな」
「やたら色っぽいのもいるといいな」
「プレイボーイも好きだ」
「メカに強い子。こりゃ男だな」
「まじめでかたい子。女にしよ」
  ↓
そして使えそうな親の職業を考え、性格と組み合わせる。そこに自分の好みを混ぜた。
「プライドが高いのが好きだ」
「当たり前だが美男美女が好きだ」
「お酒好き!!」
871名無し草:2008/11/17(月) 02:07:21
つづき。

描いてるうちにどんどん変わってくるんだよねぇ。一番変わったのは悠理くんだな。昔はあんなにバカじゃなかった」
「悪かったな。食い意地がはってるところはお前にそっくりだろーが」
「こんな風にだんだん地が出てくる。恐ろしいことに全員どっか私に似てるんだよね」
  ↓
「一番普通に近い可憐さん」
「当然!ボンノーは人間の証」
「一番動かしやすい美童くん」
「最初はかっこよかったのに、だんだんアホみたいな役ばかりになった」
「一番性格がいい魅録くん」
「ヘアスタイルが少しずつ変わってるんだぜ」
「だんだんと皆の性格にそまってきた野梨子さん」
「もっと面長で上品でしたわ」
「一番性格の悪い清四郎くん」
「みかけは一番まともですよ」

だいたいこんな感じ。掲載されたのは4〜5巻あたりを描いてた頃だったかなー
872名無し草:2008/11/17(月) 02:18:04
もっと面長に吹いたw
873名無し草:2008/11/17(月) 22:02:00
みかけは一番まともという清四郎に私は吹いた。
すだれ頭の高校生がどこがまともだw
874名無し草:2008/11/18(火) 12:09:22
>>873
自分もw
すだれ頭の高校生って初め見たとき衝撃的だった。
悠理は最初の頃はほんと、かっこよかったよなー
もう漫画は未完のままでいいからいろんなSSが読みたい。
875名無し草:2008/11/18(火) 13:49:56

6人が他の学校だったらと、つらつら考えてみた。

清四郎・・・慶應(幼稚舎からずっと主席で、大学は成績トップで慶應医学部へ。
中学からだったら筑駒。でも、清四郎の場合、小学校公立は想像できないな。)

魅録 ・・・公立小学校から麻布(優秀だけど個性的な生徒が多そう。)
または、学習院(旧華族出の母親つながりで小学校から入れられるも、喧嘩好きで問題児に。
でも、「あの和貴泉千秋の息子だからしょうがない」って学校側もあきらめ顔。)

美童 ・・・青学(キリスト教信者だからミッション系で、共学を選びそうだから。
立教もあるけど、立地からすると青学かな。小学校から大学まで、華やかな学園生活を満喫しそう。)

野梨子・・・聖心(清四郎と一緒に慶應もいいけど、ここは深窓の令嬢のイメージで。
お嬢様+知性だったら四谷ふたば。黒リボンに黒ストッキングのストイックなセーラーが
野梨子の美貌をひきたてそう。)

可憐 ・・・東洋英和(六本木にあって、華やかなイメージ。制服も金のラインに
ガーネット色のスカーフの大人っぽいセーラーが可憐に似合うと思う。
近所の麻布に通う魅録とは、通学途中で出会う気になる存在とかいいな。
でも、美童と同じくやっぱり共学を選ぶかも。その場合はおしゃれ系の青学か成蹊。)

悠理 ・・・白百合(本当は自由な学校が合うんだろうけど、百合子さんの好みで、
清らかなお嬢様になる為、校則の厳しいカトリック女子校に入れられてしまう。
で、そこの問題児になるけど、サウンド・オブ・ミュージックのマリアのように
シスター達には怒られながらも愛されている。もちろん女性徒たちにも大人気。)
876名無し草:2008/11/18(火) 23:22:30
>>875
悠理に白百合かぁ。
でも確かに悠理も公立のイメージないな。
877名無し草:2008/11/19(水) 12:44:51
個人的に、公立もありかなーと思えるのが魅録と可憐だけだ。
(可憐も中学以降は聖プレジデントでなくても私立を選びそうだし)
ただ、清四郎は大学で難関国立を狙ってもいいかなー。
878名無し草:2008/11/19(水) 15:14:45
野梨子はお茶の水女子、なんてのもいつか読んだ覚えある。
清四郎は解けないテスト問題なんてない気がするが
夜神ライトばりに全国模試トップなんだろうか?w

あといくら裏口入学とはいえ、あの悠理が成績自慢できる生徒が
何人かいる聖プレジデントってどうなのよw
879名無し草:2008/11/19(水) 23:26:25
リアルで読んでた当時、万年最下位の米鶴ってどんな顔だろう?、と気になった
んだよね。母親はかなりの肝っ玉だったし。悠理はともかく、男性陣も「さん」付
してないところをみると、男子だよね。
880名無し草:2008/11/20(木) 01:13:52
個人的には米鶴は眼鏡かけてる痩せ型の男子か不良男子だと思った。
前者なら母親に溺愛されてて(裏口入学するくらいだし)、後者なら母に似てる悪と予想してみる。
881名無し草:2008/11/20(木) 10:32:26
しかし、ただ1人満点とれるくらい頭いいのに、裏口で落とされた比良泉(だったけ)君、
カワイソス。教頭も、もっと微妙なラインを落とせば良かったのに。
聖プレジデントの偏差値がどの程度か想像つかん。慶應みたいに、途中から入るのは難しい、
てことなのかな?だとしたら、幼稚舎からの悠理はともかく、米鶴はバレバレだろうw
882名無し草:2008/11/21(金) 14:03:13
確かに。満点取るような子を落とさなくてもねぇ。
私立だし、お金持ち学校だし、家柄や寄付金の有無とかが関係したのかな。
883名無し草:2008/11/21(金) 22:53:25
中学は公立みたいだから、家柄や寄付金の関係ってのもありえるね。自殺したのは、聖プレジデントに
落ちたのがショックなのか、絶対受かるとおもってたのが卑怯な手で落とされたのが絶望になったのか…。
実は有閑倶楽部の誰かの熱烈ファン、という筋書きもありだったかもね。
あの話のオチはおもしろかったな。「掛け値なし、正真正銘の馬鹿ですな」が忘れられないw
884名無し草:2008/11/22(土) 09:01:14
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         ゙i   /  /イjゞ'-―-ヾ   ィ'匹フ;ミニヾミ   ノ ノ八
         |ハ.  (  ./ ∧ ~        ´~~.`  ハ l /ハ!,r'~} ~`ー-、
        ノ ハ ヾヽ ヽ l .ハ      _  _      ./ノ / ..y'7. | __.ヽ.  l
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  l    .| i  !        ヽ.    ヽ-。-'~ { ,!    / ( l   ヽ{(   )  \
885名無し草:2008/11/22(土) 09:02:27
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886名無し草
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