ラーメンズ編いきます。
ただ無言だった。
谷井の暴走、片桐の負傷、片桐の死と遺言。
これらを告げても小林は、無表情にうなづくだけだった。
今、片桐の死体は小林の背に移っている。今立はラーメンズの代表作「現代片桐概論」を思い出すともなく思い出す。
小林が彼らの想像以上に冷静であることは、逆にある種の恐怖を覚えさせる。
(こいつは狂っているのか?)
片桐のズボンの端から覗く脛には少しではあるが死斑が浮んでいる。
ふと、今立の心の中に恐ろしい想像が湧き上がる。
(まさか本当に片桐を標本にしちまうわけじゃないだろうな)
あるコントの中で小林が片桐に言わせた台詞がある。
『俺、中身に興味ないから』
今立は小さく頭を振った。そんなことはありえない。
彼の額から流れる汗は、暑さのためかそれとも冷や汗か。
山根は今立も気づいていない、ある事実が気がかりだった。
ちょうど今立の死角になる位置にぶら下げられた小林の武器、フェンシングの剣。
その柄に血がこびりついているのを山根は見逃さなかった。
(小林さんは誰かを殺しているのかもしれない。でも…)
強い日差しに、ぼうとする頭で山根は考える。
(あの顔が演技だとはとても思えない…)
少しずつ道が拓けてくる。遥か遠くまで日の光を映して輝く海が彼らの目の前に見えてきた。
横浜生まれの小林にとって、海は身近なものだった。
少し足を伸ばせば、すぐに汽笛を鳴らす大きな船も、夏の太陽を反射する海も見ることができた。
海は太古からこの地球に存在し、何億年もの間変わらぬ姿で地球を覆ってきた。
だが、今小林の目に移る海は懐かしくも温かくもない、ただの灰色に揺れる大きな水溜りだった。
小林は肩口に液体がこぼれたような気がして、首を回す。
彼の服に一滴だけ、片桐の耳からこぼれたどす黒い血が付着している。
(まあ、いいか)
彼はあまり頓着せずに歩いていく。
片桐とは学生時代からの付き合いだ。服を汚されたくらいでは腹も立たない。
小林は、片桐の血から漂う腐敗臭に気づくことができない。
ただ、鼻の奥に粘つく真夏の磯の匂いが疎ましいかった。
「小林」
片桐の異変に気づいた今立が声をかける。
「片桐…痛んできてないか?」
小林は足を止めるが振り向かない。彼は立ち止まってしばらく何かを考えているようだった。
軽く目線を上に向け、流れる雲を見ているようにも見える。
「…『九相詩絵巻』」
やっと小林が口を開く。
「流石にあれは嫌だからなぁ…」
独り言のように呟くと、小林はまた歩き出した。
「雨が降ったら嫌だなぁ」そんなつまらない世間話をするかのような、何気ない口調だった。
【エレキコミック 今立進
所持品:スタンガン
第一行動方針:片桐を海に運ぶ
基本行動方針:危険があったら逃げる。人は傷つけない。
最終行動方針:ゲームの終了
現在位置:森の終わり】
【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:今立の手伝い
基本行動方針:怪我をした人を助ける
最終行動方針:死は覚悟している
現在位置:森の終わり】
【ラーメンズ 小林賢太郎
所持品:フェンシングの剣
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:
現在位置:森の終わり】
【8/16 06:15頃】
【投下番号:176】
乙です。
小林の胸の内はいったいどうなってしまってるんでしょうか。
どうにも辛いなあ。しかし今後の小林が気になります。
にしても最後犬に食われて蛆だもんな…>絵巻
それはたしかに嫌だ…。
しかし昨日から今日にかけて三作品とは盛況ですね!
嬉しいことだ。
乙です。
冷静な小林も、それはそれで怖いな……。
>>82-94 Am I buying the stairway to heaven or hell?
自らに問い掛けても応えなど出るはずもない。塵芥のように零れる言葉は蒸した大気に霞んでいく。
如何にしようもない、独りきりの道程ならば。
生い茂る草を踏みしめる音が空気を揺らして存在を叫ぶ。
柳谷にとって特に行く当てがある訳もない。本来ならば居るべき場所から逃れてきた立場だから。
少なくとも一昨日までは存在していた自らを縛る結託感。
今であってもそれは有意義と他の人間なら考えるはずのものだった。
然し、降り積もった疑念。そして疑念が確信と凝り固まり息が苦しくなってしまっていた。
無論、屋外に出たからといって楽になる部類のものではなく。
思い返せば合流したことが間違っていたのだろう、狂気を帯びた義務感を所有していた鈴木。
自らの意志で抑圧しつつも漏洩する殺人さえも正当化する思想は近寄る者に圧迫感を与えていた。
そして当人は気付いていたのか、首筋に分かり難く付着していた血痕。
誰もが気付きつつも指摘しないでいた、名簿の前後の人間達の大量死。
鈴木に関しては疑念でも疑惑でもなく、元々疑いは漆黒であったとしか言いようがなかった。
灘儀は普段一緒の仕事が一番多く人柄も穏やかであればこそ信頼し易かった。
然し信条を頑なに守るからこそ恐怖に負け他人を殺めた柳谷を許すことは恐らくなく…
久馬は同じ劇場の同僚の、しかも柳谷の友人と分かっている人間をあっさり侮辱するような言葉を吐き…
浅越は柳谷の死を前提とした未来を理想と語り…
グルグルと思考回路を支配するのは離脱した言い訳か自らを正当化しようとする防衛本能か。
どちらにしろ行く先が在るのなら示して欲しい、そんな切なる願いを呟かずには居られなかった。
目覚めても悪夢は続いていた。
都会の倦怠感に満ちた喧騒とは違う、恐怖と緊張感に溢れた静けさ。
灘儀は寝たままの姿勢で傷が疼かないように慎重に伸びをした。
汗を吸って布団は少し湿り気を帯びていて、少し不快感を感じさせる。
灘儀自身余り長いこと寝ていた自覚はないものの、意識はだいぶはっきりしていた。
気合を入れて起き上がり、眼鏡を掛けると窓辺で折り紙をしていた久馬と視線がぶつかった。
吐く息が陽炎のように立ち上がって、消えていく。
「飽きたん?」
灘儀の問いに久馬は曖昧な笑みで応えると、折り上げた小さな紙飛行機を窓枠の下に置く。
白い紙飛行機をキラキラと陽光が照らして、ふと灘儀の頬を緩ませた。
「ギブソン、何処ほっつき歩いとんのかな・・・浩志も鈴木も無茶せんとええけど」
灘儀は向かいの壁に意識を集中させる。コンクリートの剥げ落ちた跡は打ち捨てられた側の寂しさを感じさせている。
「あ・・・」
壁から意識を逸らして何となしに見かけた窓の外には、鬱蒼と広がる緑の中にふと赤い色が混じっていた。
ちらちらと木々の合間から覗くその色は、柳谷が着ていたTシャツの色と非常に似通っている。
高さからも余り背の高い人影ではなく、灘儀の心は少し逸った。
「ちゃうんやない?返り血かもしれんし」
しかし不謹慎なことを呟く久馬に、そうかもしれない、今更近くに居る訳はないと
灘儀は深く溜息を吐くと日に照らされた白い布団の上に胡座をかく。
「見つかったらシバいたらな」
灘儀は精神的な疲れを見せながらも、その顔は笑っていた。
目尻の皺は疲れのためか陰影を深くし、濃くなってはいたが、引き攣ることはない。
この場所だけは穏やかに、ただ穏やかに時間は流れていく。
だから彼らの居住している空間を見つめる視線があったことには気づく事はなかった。
先程から効率的に探すために、と1時間ごとに合流地点を決めながら浅越とは別行動をとっていた。
「僕の視線が気になって鈴木さんが思い切った行動とれなくなるかもしれませんし」とは浅越の弁だ。
鈴木の行動様式は見透かしているとでも言いたげな余裕。
それを隠そうとする可愛げのある行動をとることもない。
こういう場合の浅越の性格は苦痛ではないけれども嫌いだと思いながら歩みを進めていると、
見渡す限り緑だった森に、束の間茫洋とした空間が広がっていた。
鈴木は顔に掛かる葉を左手で除けると一歩その空き地に足を踏み入れる。
履き古した運動靴が枯葉を踏みしだく音が響く。
銃撃戦が行われたのか、それとも殺し合いでもあったのか土の上に伏す2つの死体の周辺を弄る人影。
足音に気付いたのか、膝をつきながら手元は死体の所有していたであろうデイパックの中身を探ったまま、
顔を鈴木に向けるその人影は、太いボーダーのシャツを着た竹永(コンマ二センチ)であった。
鈴木の右手は重力に逆らうことなく下に垂れていたが、
人差し指は常に引き金に掛かっており自然竹永の視線はその手元に注がれる。
この空間には銃弾を遮る物がないと一瞬で判断すると竹永は立ち上がって両手を上げ、
命乞いにも似た弁明を始めようとした。
「あの「うちのヤナギブソン見んかった?」
お前の言葉には芥ほどの興味も持たないと宣言するように、
竹永の言葉に耳を貸すこと なくただ自らの用件を伝える。
予想外の角度から放られたボールに、すぐに反応できるほどの反射神経はなく、
8mほどの空間を挟んで対峙する二人の間に湿度を含んだ風が吹いた。
だがそれでも竹永には鈴木の眉間の皺が深くなる前には質問の意味を理解し、
答えるだけの判断力は残されていて。
「見てません、けど…」
竹永は劇場であれば誰かのくしゃみにさえ掻き消されてしまいそうな細い声を搾り出す。
肌にべったりとシャツが張り付いていたが、背中には止め処なく暑さとは違った汗が噴出していた。
そか、と鈴木は小さく呟くと視点が竹永から斜め下に転がっているデイパックと地図や食料に注がれる。
判断の手がかりをほとんど漏らさない鈴木に、竹永の脳内では葛藤が渦巻いた。
俺見てすぐに殺さなかったんだから、誰でも殺しまわってるわけじゃないよな。
でも俺は死体の荷物漁ってたんだから正義感が強かったら怒っているはずだし何してんだろこの人。
あ、相方さんのこと聞いたって事は探してるのかな、探すの手伝うっていえば逃がしてくれるかな、
でもそれ見つかったら俺お払い箱じゃね?
あーあ、銃良いなあ…持ってるだけで超有利じゃん。でもくれる訳ないしなー。
竹永は口に出さずとも物欲しげな表情をしながら銃を見つめてしまったのだろうか、
鈴木は唐突に全く違った角度から質問をぶつけた。
「武器、あんまよぉなかったん?」
「………え?」
「武器悪かったからええのないか探しとったんとちゃうの?」
この質問にはどう答えればいいのかな俺。
前共演した時には気難しそうな人だとは思ったけどそれだけじゃあーもー!
どう答えればいいんだよー!
「黙秘なん?」
鈴木の声に苛立ちが含まれる。
絶対優位な立場にいてしかも相手は吉本の後輩であると思うと、遠慮もなくなるのであろう。
「違います違います」
大袈裟な程に竹永が両手を振りながら慌てて答えると、
自然と大声になっており鈴木の右手に力が込められる。
「お腹すいたんで!」
武器を探してた、って言ったら危険と思われそうだからな、食料探してたんだったらまだ…
これが一番無難ぽいだろ多分。
たぶ…。
え?なんか大きな音しなかった?なんでだよーちょっと胸の辺りとか熱くない?
竹永は事態が飲み込めなかった。
答えは間違っていたのだろうか、鈴木の銃口は一瞬にして竹永を捉えると、
最初の弾丸は逸れたものの、
次々にマシンガンから撃ち出された弾丸が竹永の内臓を圧迫し切り刻んでいく。
平衡感覚を失い、勢いよく横に倒れる姿はまるでコントのようだった。
柔らかい土に衝撃を吸収され、横倒しになった竹永は、必死に力を振り絞り血を吐きながら
理解出来ないと理由を求めるように竹永の瞳は鈴木を仰ぎ見、血に濡れた右手を差し伸べる。
鈴木は汚物でも見るかのように濁った目で見下すように竹永の手を見ていた。
しかしすぐに興味を失ったのか少し熱をもった銃身を持て余すようにデイパックに突っ込むと、
踵を返して森の中へと戻っていく。
それによって、竹永は訳の分からないまま殺人ゲームに巻き込まれ、
殺されて終焉を迎えることが決定したのだった。
森に踏み入れ、再度顔の高さの葉を払いのけた時に向かいに居たのは浅越だった。
銃声に気付いて駆けつけたのであろう、息を切らしながら額に浮かべて汗をハンカチで拭っている浅越を
鈴木は他人事のように見つめている。
「また誰か殺したんですか」
はーあちー、と手で顔を仰ぎながら軽いノリで訊ねる浅越に、
鈴木も隠し立てをする気を失ったのかあっさりと頷いた。
「一人だけやけどな」
「誰ですか」
訊ねられて、鈴木は名前を思い出せない自分に気付いた。
薄すぎる関係に、鈴木にとっては名前を覚える義理はゼロだった。
「えーとあーコンマの竹…竹…そもそも竹やったっけ?駄目や思いだせん」
「あの人ですか」
名前は思い出せなくても2人の脳裏に浮かんでいる映像はほぼ同じであった。
大声で聞きとれない言葉を叫びながら客を目一杯引かせている、そんな映像。
「何かあったんですか?何か知ってました?」
浅越の質問に鈴木は無言で首を振る。
灘儀が生き残る事を望んでいても、自分の手を汚すことをそこまで率先してやるはずのない浅越に、
また箍を外してしまった本当の理由など伝えてもただ引かれるだけだと思ったからで。
浅越も元より深く追及するつもりはなかったらしく、鈴木が促すようにまた柳谷を探す行程を再開した。
お前なんかが生き残りたいみたいに思うてるなんて有り得へんやん?
いつもガチでスベっとったんやし。
せめてさっき「自殺したいのに武器がなかったから探してたんです」とか言うてくれれば撃たんでも済んだのに。
なあ、竹…竹…竹…あれ何やったっけお前の名前?
【コンマニセンチ 竹永 善隆 死亡】
ザ・プラン9 ヤナギブソン
【所持品:照明弾(4/5) ジッポライター 斧
第一行動方針:落ち着ける場所を探す
基本行動方針:とにかく生き残りたい
最終行動方針:生存】
【現在位置:森の中(C6)】
ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 吹き矢(9/10)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
ザ・プラン9 なだぎ武
【所持品: ダイナマイト1本 短刀(檜)
状態:脇腹に軽傷/肩に銃創
第一行動方針:安静
基本行動方針:人命救助】
【現在位置:建設途中のホテル(C4)】
ザ・プラン9 鈴木つかさ
【所持品:アーミーナイフ ハンマー MP5 9mmパラベラム(277/300) 他不明
第一行動方針:ヤナギブソン捜索
基本行動方針:メンバー生存最優先、積極的に邪魔者排除
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
ザ・プラン9 浅越ゴエ
【所持品:救急セット M24ライフル 5.56ライフル弾(30/30) 他不明
第一行動方針:ヤナギブソン捜索
基本行動方針:メンバーの生存最優先
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
【現在位置:広場(F9)】
【8/16 10:14】
【投下番号:177】
プラン編つまんないから、もう投下しないで下さい。お願いします
江頭の格好良さに泣いた
プラン編乙です。
何か、静かに壊れてる感じの鈴木が怖いです。
続きも楽しみにしてます。
>>402-409 の続き
暗闇に慣れきった島田の目を大滝のライトの光が焼き、視界が真っ白になる。
コントで板付き明転した時に感じる一瞬の違和感…と原理は同じであろうけども。
これがそんな可愛いレベルではない事は、動揺しつつも頭のどこかで冷静にわかっていて。
振り下ろされるスコップによって空気が震える気配に、脳天から叩き割ろうという殺意を帯びた一撃に
反射に…いや、本能的なレベルで島田は上体を反らした。
しかし地面に座した状態で避けようとしても限度がある。
ザリッという不快な音が上がり、島田の額に縦に一筋走る傷が生まれた。
スコップの先端の錆やら何やらで尖っていた箇所が、彼の皮膚に引っ掛かり、引き裂いたようで。
一瞬遅れてくる痛みに島田は顔を更に歪める。
「…大滝さんも」
ゲームに乗ったのですか? 問い掛けたい言葉は島田の喉で詰まった。
光でチカチカする視界の中で、それでも辛うじて、再びスコップを振り上げる大滝の姿が見えたから。
もともと強面の部類に入るだろう大滝の顔が憤怒の色を帯びており、今や眼光の迫力だけでも
圧倒されてしまいそうで。
「………っ!」
菊地の身体を地面に横たえ、水色のリュックサックを右手に掴み、島田は這うように大滝との間合いを広げた。
額から鼻の横を伝うように液体が流れる感覚を意識して気にしないようにしつつ、島田は両足で大地に立つ。
しかしいまいちバランスがとれずふらつく島田の様子に、大滝の口から、ハ、と嘲るような呼気が漏れた。
「僕じゃない…僕が殺したんじゃない。」
「じゃあ誰がやったんだ、菊地をこんな目に遭わせたんだ!」
焦燥しきった虚ろな眼差しを向けながら発される、普段よりも数倍滑舌のよろしくない島田の呟きに、大滝は声を荒げる。
「そ…それは…」
怒気に空気が揺れ、怯えるように一歩二歩と島田は後ずさるけれど、大滝は開いた間合いを逐次詰めていく。
「貴様がやったからだろう! っざけんじゃねぇぞ!」
そのままじりじりと移動する二人に取り残されるかのような形になった菊地に今泉が駆け寄り、
その身体を抱き起こそうとするのを視界の隅で確認すれば、大滝はそう吠えるなり島田の方へ大きく踏み出した。
同時にぶんと空気が震える音が上がり、島田の側頭部をスコップが襲う。
「……ひゃっ!」
反射的にビクリと身体を強張らせる島田だったが、しかし古びた金属片は彼を捉えはしなかった。
スコップはガスッと島田の傍らの樹木の幹に突き刺さり、逆にスコップの柄を通じて
大滝の手首は痺れるような衝撃に見舞われる。
「ちっ…」
カッとなったがために回りの障害物の存在を考慮し損じた自らの失態に、思わず大滝は舌打ちをして
スコップを引き抜こうとするも、木の樹皮も簡単にはスコップを放さない。
「………っ」
やむなく木に脚をかけて強引にスコップを引き抜こうとする大滝だったけれど、さすがに島田も
ぼんやりそのまま突っ立っている程判断力が落ちている訳ではない。
むしろ、逃げ出したいという本能が命じるがまま、脱兎のごとく細身の長身は駆けだした。
藪をかき分け、ハイキングコースに飛び出した島田はそのまま闇雲に下り坂へと足を進めていく。
とはいえ、足場の悪いハイキングコースである。
木の根や路上に露出した石に足を取られ、50mも走らぬ内に島田は盛大に転倒した。
地面に叩きつけられたリュックサックの口から、桃の缶詰が転がり出て一足先に坂を下ってゆき、
あっという間に闇の向こうへと消え去ってしまう。
「……もう、厭だ。」
ぽつりと島田の口から言葉が漏れた。
額はじんじんと痛むし、今転んだ為に手や膝も痛い。
それでも、このまま寝ころんでいたら、スコップを携えた大滝が追ってくるのは目に見えていて。
それはそれで厭なので、渋々と言った様子で島田は地面に手を突き、身体を起こそうとする。
ぽたり。
島田が首をもたげた所で液体が一滴、地面に落ちていった。
その色は闇夜の中でもぼんやりと赤く、この液体は島田の額から流れ出た血であろう。
続けてぽたり、ぽたりと血は滴り、土に染みこんでいく。
「……………。」
無駄に湿度の高い不快な真夏の夜の空気に漂う、湿った土の臭い、ムッとする濃い酸素の臭い、そして血の臭い。
改めて感じる周囲の環境に、今日の昼間に学校にて感じた変な既視感と貧血に似た脱力感が再び蘇り、
島田の全身の感覚がスッと遠くなった。
『防衛軍は…共和国の国民を欧米諸国から護るのが仕事ではないのか!?』
軍靴にて腹を蹴られ地面に倒されても尚、己の我を通そうと屈さない幼い頃の赤岡の眼。
ぽたり。
『我々防衛軍が護るのはこの国土でもお前ら国民でもない…総統閣下を頂点とするこの国のシステム、ただそれだけだ』
少年達に銃口を向け、嘲笑う防衛軍の兵士。
『お前達もいずれわかる筈だ。お前らごときが何をやっても所詮は無駄な事だとな』
銃弾の代わりに発される、呪詛にも似た言葉。
ぽたり。
島田の記憶にある防衛軍の兵士が大きく歪み、別の人物へと姿を変える。
ぽたり。
『……常識とか正義とか法律とか…今更何だってんだ、そんな物!』
銃口の代わりに出刃包丁の刃を目の前に突きつけ、前につんのめっているかのような早口で滑舌の悪い声を
更に聞き取らせにくくまくし立てる、青白い顔の男。
『そっか…最初からこうすれば良かったんだ。ね、島田クン』
続いて浮かんでくるのは彼のどこか歪んだ満面の…そして満足げな笑み。
その色の白い指先は、島田の全力を持ってしてももはやふりほどける物ではなく。
「厭だ、こないで、助けて、ねぇ…もうイヤだ、いやだ、いやだってば……」
連鎖的に思い出してしまう光景に、言葉に、島田は嫌々と拒絶するかのようにかぶりを振った。
けれども辛うじて地面に付き、再び倒れないよう身体を支えている島田の手の平は、まだあの感触を覚えている。
出刃包丁の尖った先端が、生きた人の皮と肉を裂いて突き刺さる手応えを。
傷口から流れ出る液体の生暖かさを。人が死にゆくその工程を。
「……死んで償え。」
ふと耳に届く声は、幻聴だろうか。
いや、違う。これは現実の、大滝の発する低い声。
その証拠に、ちらちらと島田の周囲に大滝のヘルメットのライトの光が向けられているではないか。
「ぼくじゃない……ぼくがころしたんじゃない!」
子供がダダをこねる時のように声を上げ、島田は起きあがるのももどかしく、またもや駆けだした。
全身の感覚は相変わらず不明瞭ながらも、何とか少しは距離が稼げそうであった…けども。
不意に島田のか細い身体は温かく弾力のある何かに包まれ、その歩みは強引に止められたのだった。
「………っ!」
己の行動が阻害された事に気づくなり、島田の身体はみるみるうちに強張り、続いてもがき暴れようとするけれど。
「島秀、落ち着け、島秀!」
囁かれる声に聞き覚えがあり、島田は何とか束縛をふりほどこうと試みながらも声のした方を向いた。
そして今時の若者然とした、どこか軽薄げな…しかしその中にも義を通す見慣れた顔がそこにあると気づけば、
島田の身体の強張りは今度は急速に弛緩していく。
「のむら…くん?」
「おうよ。捜したぞ、島秀。」
確認するように名を呼ばれれば、島田を抱き留めた主…野村はニッと笑みを浮かべてみせた。
自分達…野村と赤岡が山頂を目指すハイキングロードの先から、表面が錆びた桃の缶詰が。
そして続いて見るからに何かがあったと思わざるを得ない危なっかしい足取りで駆け下りてくる人影が見えて。
それが漆黒のスーツを着た長身であるとわかった瞬間、まず赤岡が駆け寄ろうとしたけれど。
……お前が出てくと島田が混乱する。
そう告げて赤岡を制し、野村が先行して島田を掴まえたのだった。
確かに島田と赤岡が別れた原因が二人の間の口論と誤解であるのなら、赤岡が出て行くよりも野村の方が
島田を安心させるには適しているだろうが。
何とも面白くないといった様子で二人を見やりながら、赤岡はゆっくりと彼らとの距離を詰めていく。
しかし、遠目ではわからなかった島田の状況が詳しくわかってくれば、そして島田を追うように
ライトを携えた人影が近づいてくるのが見えてくれば。
島田の額に走る傷やそこから流れる血、そしてスーツの黒が変色している理由も、何もかもまだわからないけれど。
それでも赤岡の内側で何かのスイッチが音もなくONに切り替わる。
「野村。そいつを連れて山を下れ。それとこれ、薬箱。」
さもそうする事が当然であるかのように、野村と島田の横を通り抜け、赤岡はライトの主の方へと歩を進めていく。
「あ、おいっ、赤岡っ!」
「暴力を振るうつもりはない。お前らが逃げ切れたら、頃合いを見て撤退するさ。」
すれ違いざまにデイパックを押しつけられ、野村は赤岡の背中に慌てて呼びかけるけども。
返答としてぼそりと漏れ落ちたのは、相手がどんな武器持ってるかわからないのに大丈夫かよ、とか
三人で一緒に逃げねぇのかよ、といった野村の内心とは食い違う、寧ろ島田を安心させるための言葉。
しかし、それにしては赤岡の双眸には猛獣のそれを思わせる光が湛えられ、その表情も険呑さに満ちていて。
「…お前らをぬけぬけと逃がすと思うか?」
「……逃げ切らせます。」
ライトの主の声に心当たりがあり、一瞬だけハッとするけども。
挑発するかのような大滝のその呼びかけに、赤岡は薄く笑ってマイクスタンドを両手で握りしめた。
【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー マイクスタンド
状態:左腕に裂傷・右頬に軽い火傷・ややバテ気味
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし
第一行動方針:島田達を逃がす
最終行動方針:悔いのないように行く】
【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛 (以下、水色のリュック内) 缶詰2個 シャツ
状態:恐慌状態・額に裂傷
基本行動方針:生存優先・理由はどうあれ暴力イクナイ
第一行動方針:安全確保
最終行動方針:不明】
【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ 缶詰2個 薬箱
状態:ややバテ気味
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:安全確保
第二行動方針:磯山と合流したい
最終行動方針:不明】
【18KIN 大滝 裕一
所持品:ライト付き工事用ヘルメット スコップ
状態:万全・憤怒
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:赤岡の排除・島田への報復
最終行動方針:不明】
【C8・ハイキングコース】
【15日 23:10】
【投下番号:178】
◆8eDEaGnM6s氏のプロバイダーが規制に引っかかったそうなので、代理で投下させていただきました。
◆8eDEaGnM6s氏、新作乙です。緊迫した展開ですね。また続き楽しみに待ってます。
皆さん乙です!
特にプラン編待ってました
友近との絡み楽しみです
プラン編つまんないとか言ってる奴消えろ
てめぇが消えろ
やめれ
久しぶりに覗いたら、wktkしながら待ってた
フット後藤編とプラン編がダブルでキテタ――!!
ありがとうございます。どっちも続きが気になる
このスレ本気で気持ち悪いねwww
ちなみに、ここで書かれてる某芸人もこのスレ見てるよwww
485 :
名無し草:2007/02/03(土) 20:01:45
で?
スレが荒れるのも投下作品が叩かれるのも覚悟の上で、個人的には先細りにならないように芸人板に戻りたい
書き手の総数が少な過ぎると思う
>>462-467 親の死に目に会えないんやったら、その覚悟はとっくにしとる訳で。
やけど芸人仲間の死に目を見ることはまだ覚悟しとる訳やなかった。
やってまだ30そこそこやで。
大きな夢大事に抱え続けた結果がこんなんなんて、なあ?
太陽がほぼ空の天辺へ居座ろうとし始めた時刻、灘儀は三度目の目覚めを迎えていた。
久馬との会話は乏しく沈黙に眠りを誘われていたのか、乱れた布団の上、無理な体勢での睡眠。
血液の循環が途切れていたのかあちこちが自分の体が悲鳴をあげているのに嘆息しつつ、
仰向けに転がり、何度も瞬きをしながら虹彩に光を採り入れていく。
いつ寝たのか覚えていないにも関わらず、きちんとタオルケットが上に掛かっていたのはやはり久馬だろうかと
思い巡らしはしたものの正面切って訊ねるのは気恥しく、心の中で感謝の意を述べるに留めた。
直射日光には溶けるような感覚を覚えるのか久馬は日陰に陣取り、
窓枠を文机にしながら一心不乱に台本を書き進めているようだった。
高所にあるためか定期的に清風が吹き込んできており、
その風が久馬が手帳から破いたのであろう紙屑を揺らしている。
灘儀は邪魔しないようにと緩慢な動きで起き上がり掛かっていたタオルを退かすと
本能に従って食欲を満たすために食料を取り出そうと重い腰をあげようとした時だった。
カツンカツンと、微かにコンクリートと靴が衝突する音。
灘儀はすぐさま顔を上げると、久馬を見つめた。
しかし久馬は気付いていないのか、書き込む手を緩める事はなく。
「久馬、聞こえてへんの?」
灘儀は痺れを切らしたように咎め立てするような声で久馬に呼びかけると
突如掛けられた言葉に久馬は大きく肩を揺らしつつ一瞬にして胡座にしていた体ごと灘儀を振り返った。
「起きてはったんですか」
「ちょい前からな」
問答をしながら、灘儀は物音を立てぬようにと口の前で人差し指を立てると、久馬も首を傾げつつ静かになる。
カツン、カツンと。緩やかなスピードで、しかし確実に足音は上を目指していた。
鈴木のお手製トラップでそれ以上上るのを諦める可能性もあったが、灘儀は何か胸騒ぎを感じていた。
見に行かなければと、何故か胸が逸るような。そして見えない何者かに後ろから罵声を浴びせられているような焦り。
「ちょ見に行ってくるわ」
「危険やないの?」
久馬の言葉が灘儀の心にちくりと刺さる。
単独行動は危険だというのは重々承知していたが、しかし大丈夫だという予感があったのだ。
実際、緩慢に移動している割には気配を消している素振りがないことを考えると敵意がある訳ではないのだろうかと。
怪我人が助けを求めているのでえあれば、応急処置ならばできないこともない。
「多分大丈夫」
腰に守り刀代わりに短刀を刺すと、自分のデイパックを肩に背負って階段を下りる。
慎重に侵入者に気付かれないように接近する。時折肩が痛むがまだ痛み止めが効いていたのか気になるほどではなく。
手摺りに背をべったりと張り付け、顔だけを階下に向けると、そこにいたのは予想外、
しかしずっと頭の隅にからこびりついて離れなかった人物だった。
「友近…!」
灘儀は息を継ぐまもなく全身を目の前に晒す。全身を手摺りにあずけ腰を曲げて、
踊り場で荒い息を吐いていた友近はその声に嬉しそうに顔を上げた。
友近の元気そうな雰囲気に、灘儀も安心する。しかし。
「やっぱり…合ってた…」
友近は破顔しながら曲げていた腰を真っ直ぐにすると、体の正面は鮮血で真っ赤になっていた。
まるで人でも食べたような濃すぎる赤に、灘儀の目は浮遊し、言葉も出ない。
そんな灘儀の動揺をまるで気にしないように友近の口から言葉が零れ落ちた。
「お願いです、死んで下さい…」
全身に浴びた血、手には簪、結い上げた髪から落ちた一房の束が口に入り何とも言えない悲壮感を漂わせていた。
この世のなごり 夜もなごり 死にに行く身をたとふれば、
あだしが原の道の霜 一足づつに消えて行く 夢の夢こそあはれなれ
友近
【所持品:簪(かんざし) 他不明 】
ザ・プラン9 なだぎ武
【所持品:短刀(檜)
状態:脇腹に軽傷/肩に銃創
第一行動方針:友近を落ち着かせる
基本行動方針:人命救助】
ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 吹き矢(9/10)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
【現在位置:建設途中のホテル(C4)】
【8/16 11:45】
【投下番号:179】
何で急に友近?
プラン編新作早っ!!
友近が殺しに来るの意外だった。
昨日ディラン&キャサリン見たとこだから複雑・・・・
戸惑うなだぎも気になるけど、冷静なリーダー久馬がどうでるかも気になる。
続き楽しみにしてます。
何かプラン編ってキモいんだよな
読んでて気分悪くなるし
気持ちはわかるけど、今の芸人板にこのスレの居場所は無いと思う。
(「何で戻ってきてんの?」って反応だとオモワレ。)
だったらラウンジクラシックのパロロワ交流雑談所とかで宣伝するとかの方が
いいんじゃないかな?中々パロロワって理解してもらえない企画だしね。
(特に実在の人物だから風当たりもきついし)まだあっちはパロロワに
興味のある人ばっかりだから荒らされる事もないし。
長文スマソ。
新作早いなーw 乙です。
友近と簪って雰囲気あってますね。
何かついに来たかーって感じです。
また続き楽しみにしてます。
496 :
名無し草:2007/02/04(日) 13:06:49
キモいとか言ってる奴消えろマジで
てめぇが消えろよカス
498 :
名無し草:2007/02/04(日) 18:51:26
つまんねー話ばっか書いてんじゃねーよ
みんなもちつけ
プラン編乙です。
友近は意外だった…!
お前ら煽りに反応すんなー
最近投下多いな…
書き手乙!
501 :
名無し草:2007/02/05(月) 00:49:55
お前ら勝手に人格形成される側の身にもなってみろよ
はっきり言って迷惑
だったら見なきゃいいぢゃん
何を今更。
やってはみたいと思うが、キャラが掴めないのがネックだな…
この人マイナーな若手だけど自分は知ってるぞ、って人がいればどうにかなるんだけど。
自分は江戸の者なんで、西の芸人はよく知っていても手が出しにくいんだよな。
方言が自然に書けないから。何となく西の人が標準語(江戸弁とか栃木弁とかの東の方言は別)で
書くほうが、東の人が西の方言書くよりも上手いこといく気がする。言葉は難しい。
江戸ってw