お笑いロワイアル2006 vol.4

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1名無し草
お笑い芸人を題材としたバトルロワイヤルパロディスレッド
ローカルルールや過去ログ・関連スレッドは>>2以降
まとめwiki
http://www16.atwiki.jp/br_laugh/
2名無し草:2006/11/25(土) 22:14:00
共通用ローカルルール
・死亡した芸人の復活は不可
・あくまでネタスレです。まったりどうぞ

書き手用ローカルルール
・投下する前に過去ログ、まとめwiki(特に必読項目)に目を通す
・投下時に明記すること
  どのレスの続きか(>>前回のレス番号)
  文中で芸人が死亡、同盟を組む、他、重要な出来事があった場合
  所持品、行動方針、現在位置、日付、時間帯、投下番号
・トリップ強制 付け方は名前欄に『#好きな言葉』
・書き手は一つの話に一人だが、以下の場合は引き継ぎ可
  書き手自身が執筆中止を告げた場合
  最終投下から3ヶ月以上経過した場合
・書いた話に不都合があった場合、番外編としても投下可
・2002年ver.の話を投下する場合は文章の最初でその旨明記する
・他、詳しくはまとめwiki参照

読み手用ローカルルール
・書き手に過度な期待、無理な注文をしないようにする
・コメント、感想、要望などはアンカーがついているといいかもしれません
・本スレで言いにくいことはしたらばのチラシで
3名無し草:2006/11/25(土) 22:14:41
4名無し草:2006/11/25(土) 22:17:55
>>1
5名無し草:2006/11/25(土) 22:42:22
>>1

sage進行が抜けてるぞ
6名無し草:2006/11/25(土) 23:04:59
>>1
7名無し草:2006/11/25(土) 23:42:43
まとめサイト入れないい
8名無し草:2006/11/26(日) 07:36:47
ほんとだ。何でだろ
9名無し草:2006/11/26(日) 08:52:02
>>1
まとめサイト見れるよ
10名無し草:2006/11/26(日) 10:25:45
こっちが本スレでいいの?
11名無し草:2006/11/26(日) 12:40:18
うん
12名無し草:2006/11/26(日) 13:27:40
>>1
乙!投下されるのwktkしながら待ってます
13名無し草:2006/11/26(日) 17:28:55
書き手さん、このスレでも頑張って下さい
14名無し草:2006/11/26(日) 20:46:41
>>1乙です
こっちが本スレでいいんだよね?
15名無し草:2006/11/26(日) 21:26:13
そうみたいだよ
16名無し草:2006/11/26(日) 21:50:32
>>1 乙
書き手さんガンガレ
今回もwktkしてます
17名無し草:2006/11/27(月) 14:16:56
乙!
18名無し草:2006/11/27(月) 15:25:24
>>1乙!
19名無し草:2006/11/27(月) 20:23:20
>>1乙!
本スレにも期待wktk!
20名無し草:2006/11/27(月) 20:54:59
あっちの糞スレ立てた奴、早く削除依頼出してこいよ
21名無し草:2006/11/27(月) 23:15:22
心狭っ
22名無し草:2006/11/27(月) 23:30:22
何が?
23名無し草:2006/11/29(水) 12:52:35
24 ◆xCi5vGY7XY :2006/11/29(水) 18:18:30
前スレ >>860-866 続き

 会話だけで浮かぶ情景は生々しかった。中田も勝又も、つい最近まで近くの存在だっ
たせいで、どのように行動していたか安易に予想出来た。嫌だったのは、中田が勝又を
発見した時を想像した時に蝉の鳴き声まで浮かんだことだ。いなくなった当人以外を考
えるようになってしまった新妻は、人が死ぬことに慣れてしまったのだろうか。
 話自体は中田が自覚している以上に単純だった。簡略化すれば、殺される可能性があ
る世界はおかしい、それだけのことである。理論としては正し過ぎるのに驚いてしまっ
た。もとより世界なんざ単純に動いていると証明されたかのような感覚がある。
 新妻の前には深い森が広がっていた。かすかに明るくなってきているのは日の出が近
づいているからか。淡い光と影が三次元を強調して木の質感を伝えていた。血液が通っ
ていない肌は冷たくとも勝又よりは軽い感触なのだろう、想像した新妻は強く目を瞑る。
 つい先程までに似た暗闇が作られた。新妻だけのものだったが、考え事が集束するに
は十分な空間だった。しかし内容は新妻のことではなく、後ろで銃を突きつけている後
輩のことである。コントを託したせいか、残すべき後悔が消えかかっていたのだ。
25 ◆xCi5vGY7XY :2006/11/29(水) 18:19:02
 取り巻く不思議な感情に眉を寄せた新妻は、迷いを打ち消す間を込めてゆっくり目を
開く。当然景色は変わらないが、木々に蔦が巻きついていることに気づいた。例え人間
同士で殺し合おうとも自分達には関係ないと、植物が口々に無干渉を装っている。
 人間である新妻は変わらない目線で悟った。中田は誰よりも。続く思考を止めて、背
中側で表情を無くしているだろう後輩を思う。数秒で気づく事実がある。
 すべての理由はコントのためだった。少なくとも、新妻はそう信じていた。けれど自
身が酷いお人よしだったと仮定したら、切れ切れだった線が一本に繋がってしまった。
第三者からすれば壊れているように言われる中田が、正常であると信じ込んでいたのも。
心の奥底で疑いながらも一緒に行動していた理由も。ただ単に可愛い後輩を救いたかっ
たからではないのか。
 全てが終わってからの後付けに、新妻は苦く笑った。銃を背中に突きつけられている
にも関わらず零れた笑みだった。幸い表情は悟られなかったらしく、銃弾がめり込む感
覚は無い。脳内だけでため息をついた新妻は意識して空を見上げる。白くて薄い絵の具
のチューブを好きなだけ押し出したような、昼間からは掛け離れた空がある。
 雲の上で勝又が見下ろしているならば、今をどのように捉えているだろうか。ひょっ
としたら本当に神様になっていて、新妻と中田を無理やり引き合わせたのかもしれない。
非現実的な空想は、けれど妙に信憑性が滲んで、なぜか悲哀を誘った。ただ新妻は目を
細める。
26 ◆xCi5vGY7XY :2006/11/29(水) 18:19:33
 すべてを任せた新妻にとっての神様を頭に浮かべる。コントはもう、完成しているか
もしれない。どんな結末になっているかは分からないが、少なくとも全てを台なしにす
る展開にはなり得ないことを知っていた。だからこそ安心出来る。
 不意にイメージが変化した。誰よりも知っている顔と、いつもは聞かない怒声が頭を
巡った。最期になるだろう相方の言葉だけは後悔の原料か、頭を振って打ち消した後、
過去の会話で吐き出した本音を反芻する。やらなければいけないことがあった。
 助けなきゃ。
「やっと分かった」
 小さな声だが背中側に届く音量でつぶやいた。黙り込んでいる中田が聞いているかは
分からない。表情を見たいがために、撃たれるのを覚悟して振り返る。新しい衝撃は作
られず、ただ目を落とす中田の存在だけがあった。
 年下の若者を見た新妻は自らの役目を確信する。悲しいことに、全てを解決するには
新妻だけでは足りないだろう。けれど先を促すことは出来る。考えずとも浮かんでくる
言葉を素直に送り出した。
27 ◆xCi5vGY7XY :2006/11/29(水) 18:20:09
「あっちゃんは、やっぱりあっちゃんなんだ」
 小さく目を開いた中田は人間らしい表情で固まる。神様を自称した男は、数年しか違
うにしろ、後輩であり崩れやすいことには変わりが無い。だからこそ現状況が成り立っ
ている。
「俺を殺さないのも、神様になりたがっているのも」
「黙れ」
 先の答えを予想したのだろうか。ようやく口を開いた中田の表情には辛辣さが混ざっ
ていた。毒々しい口調で誰もを傷つける刃に似ていたが、使命に圧された新妻を怯ませ
るには不十分だった。
 大きく息を吸った新妻は穏やかに笑う。
「誰よりも人間らしいからだった」
 強い耳鳴りが新妻を襲った。追って、胸元に意識が集中した。一秒にも満たない時間
で熱を拾った新妻は、無意識に胸を押さえて温い液状の感触を得た。予想はしていた、
むしろ遅すぎた衝撃だったにも関わらず、唐突で痛く脳内では警告が鳴り響く。
 新妻にしか聞こえない耳鳴りはデクレシェンドで遠のいていった。共に、外からの音
もだんだん弱くなっていった。たった一発でも撃たれる箇所が悪ければ死に至る。身を
持って実感した新妻は、それでも目の前の中田に凭れて倒れない。
28 ◆xCi5vGY7XY :2006/11/29(水) 18:20:59
 吹き出た冷や汗は流したままにした。胸の違和感を忘れるために大きく息をして、言
葉を紡ぐ力だけをつなぎ止めた。歯を食いしばって息を吸う。まだ上手く話せる。
「人は神様にはなれないんだよ。さっき小林さんも言ってたじゃん」
「黙れ」
 胸に空いた穴を抉られようとも言葉は止めず、勝又が言いたかっただろうことも代弁
しよう。新妻が担当する仕事は、中田というバトンを次に渡すこと。
「だからさあ。人に出来ることをすればいいよ。きっと、勝っちゃんもそうしたかった
んだ」
 体に流れた血液が気持ち悪かった。臭いが分からないだけいいかもしれない、思考が
嫌に楽観的になってしまうのは、感覚を忘れたいがためだ。傷が何回も抉られないだけ
いい。
 悲しいことに、中田には決定的な非情さが足りないから。だから、息はしずらいが、
すぐには死なないはずだった。
 途切れない新妻の言葉は掠れて小さくなる。
「俺が死んでも気にしないで」
 会話は統一されず四散する。
「珍しく先輩らしく出来たしさあ。最期にコント書けたから、もう、いいんだ」
 これ以上は何時間話しても通じはしない。単純に悟っていた。新妻の役割は、あくま
でバトンを渡すことである。説得はするべく人に任せて、警告だけで止める。
29 ◆xCi5vGY7XY :2006/11/29(水) 18:21:47
「でもあっちゃんは、このまま死んだら絶対後悔するから」
 頭に知った顔が浮かんだ。今の中田にとって一番大切な存在だった。追って、相方の
顔が浮かぶ。もう怒られることもないと知っていた新妻は、だた小さく笑う。
 目が霞んだ。言い残していることは後一言だから、体力が無くとも平気だった。白ん
だ光景は太陽が出てきているからか、さよならの前に朝日が見れたのは幸運かもしれな
い。
 新妻は、自然に零れた穏やかな笑みを隠さずに、中田の背中を二、三叩いて告げた。
「慎吾ちゃんに、会いに行きなよ」
 力が抜ける。





【トップリード 新妻悠太】
所持品:朴刀・ルービックキューブ2個
状態:胸元に銃創
第一行動方針:―
【オリエンタルラジオ 中田敦彦】
所持品:ウォーハンマー、ラドムVIS-wz1935(9/11)(自動拳銃)、ルービックキューブ
状態:良好
第一行動方針:―
基本行動方針:―
最終行動方針:―
【現在位置:F5・森】
【8/16 5:32】
【投下番号:154】
30名無し草:2006/11/29(水) 18:25:26
あっちのスレどーすんの?
31名無し草:2006/11/29(水) 18:52:21
>>24-29
中田編ktkr
新妻は死んでないのか?
32名無し草:2006/11/29(水) 19:21:26
早く完結しろ
33名無し草:2006/11/30(木) 10:41:09
乙です!
新妻……
34名無し草:2006/11/30(木) 12:42:50
このスレも後1ヵ月で終わりだね。
誰が優勝するんだろ
wktkしながら待ってます!
35名無し草:2006/11/30(木) 14:54:57
>>24-29
いつも読み応えのある文章を乙です!
新妻も…おつかれさま。
36名無し草:2006/11/30(木) 17:29:06
新妻って誰?
37114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:35:13
さまぁ〜ず編の挿入で光浦と村上いきます。




目が覚めた。気づいたら昼だった。夜から今まで誰にも気づかれなかったなんて運のいい話。
どうやらまだ自分の首は繋がっている。少し笑って光浦靖子は背筋を伸ばす。身体がだるい。

林の下から見上げる空は晴れている。本日も馬鹿馬鹿しいほどに晴天なり。
真っ青な空には白い月が浮かんでいて、それが目に入ったから、ただ見ていた。
真夏の昼の陽にさらされて暑いはずなのに、それすら何とも思わない。感じない。
青い空も白い月も緑の森も黒い髪も赤い血も、何もかもがただそこにあるだけ。
あたしとは何の関係もない。勝手にそこにあって勝手に色づいている。
何も感情が動かなくなっているのが自分でもわかる。全てのことがどうでもよかった。

…ただ、手のひらだけが痛い。ヒリヒリする。見たら皮がベロリとむけていた。気持ち悪い。
血は出ていないけれど、変なふうに鬱血して、どうにも汚らしいのが嫌だ。

光浦は皮が擦り切れ、醜くはがれた自分の両手を見てそう思った。地面にぐったりと座り込んだまま。
学校からあまり離れていない林の中、投げ出した足の上には長い紐状の物がおかしな曲線を描く。
黒いそれの片側の端には、電源プラグがついている。もう片側にはプラグの挿し口が3つ。
コンセントから遠い電気機器の恋人、延長コードが光浦の膝の上を蛇のようにのたくっていた。
本来の役目などこの林の中ではたせるはずもない。ここではそれは、ただの切れにくい紐だ。
芯があるぶん何かを縛るのには適さなかったが、力一杯人の首を絞めるのにはおあつらえ向き。
とはいえ、素手でコードを握って力をこめて絞めつければ、手のひらが擦りむけるのは無理もない。
38114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:36:03

「延長コードで手の皮を切る日が来るとは…」

光浦はぼそりとつぶやく。やりようによっては笑いにできる話だ。延長コードで怪我しましたなんて。
理由がそれで人の首絞めて殺したからなんていう洒落にならないもんじゃなきゃよかったのに。

「ねー、そう思わん?」

その台詞に答えるものは誰もいない。妙に明るい光浦の声だけが木々の間にこぼれ落ちた。
自分の言葉を拾うものがいない会話の何とむなしいことか。光浦はハァ、と溜息をひとつつく。

「…むらかみー、こらー、返事しーろーよー」

おどけた口調で光浦はななめ後ろを向き、少し離れたところに横たわっている村上知子に呼びかける。
だが、村上は答えない。その丸々とした身体は青草の上、ぴくりとも動かなかった。
いつものようにまとめられていたはずの髪は乱れ、明るい色の衣装は土に汚れている。
だらりと地面にのびている太い右腕の横には、40センチほどの錆びた鉄パイプが転がっていた。
光浦の視線は寝ている村上の顔の上に落とされる。そこに表情と言うべきものはない。
ただ、血液や体液が吹き出してこびりつき、醜く変形した顔面があるのみだった。

「…あーそっか、あんた死んじゃったんだっけ」

39114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:39:18
…そりゃ無理だわ、話すとか。死んだやつが話すわけないし。
光浦の唇から独り言がこぼれる。村上の死をまるで今になってやっと思い出したかのように。
この後輩を死に追いやったのは自分だというのに、何か現実の出来事ではないような気がする。
ヒリヒリと痛む手のひらが証明する通り、自分が村上の命を絶ったのだ。
デイパックの中に入っていた延長コードで、首を絞めて殺した。それは確かなことなのに。
奇妙なほど現実感がなかった。ただ、身体も心もひどく疲れている気がした。
胃のあたりが鉛を飲んだように重い。それに先ほどから覚えのある痛みが下腹部を襲ってきていた。

何もこんなときに来なくてもいいのに。月に一回の憂鬱が、いつもの周期を守らずにやってきた。
鈍い痛みが広がる下腹をさする。もちろん何も準備などしていなかった。気が滅入る。
こんな状況で、別に怪我もしていないのに、こうやって血を流している自分が馬鹿みたいだ。
血液の無駄遣い。まさにそんな感じだ。しかも何とも言えない倦怠感が体中にまとわりついてくる。

「あーあ、最悪…」

ぼそりとつぶやきながら、もう一度光浦は空を見上げた。相変わらず無神経に空は晴れ渡っている。
目に痛いその透き通った色を見つめながら、光浦が思い出したのはここにいない相方のことだった。

空はなんでこんなに青いんだろうねえ、大久保。あたしはここにいて、あんたはここにいない。
芸人としちゃ、あたしの勝ちじゃね? でも今ちょっと人生の総合であんたに負けてる気すんだけど。
だって殺し合いなんかさせられてんだよあたし。こんなんなら、牛の糞でもひっかぶるほうがマシ。
めちゃイケであったじゃん、あんときはあんたと組んだっけか。懐かしい。

ふ、と光浦は小さく笑みを浮かべる。制服を着て皆でやりあったあの企画のことを思った。
そこから、まるで走馬灯のように大久保と一緒にやった仕事の数々が頭をぐるぐる回って切なくなる。
それと同時に、男をとられたことやら何やら、胸糞悪いこともたくさん思い出されて腹も立ってきた。
愛憎相半ばする相方の、目の笑わない笑顔がちらちらと浮かんでは消えていく。
40114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:40:13

なんだろうね、あんたにほんのちょっとでも負けてるってのがむしょうに悔しいんだけどさ。
でも少しだけ、あんたいなくてよかったと思ってるよ。きっと最後は殺し合うことになるから。
弱くてずるくて卑怯になれる、人間らしい人間のあたしたちは、こんなとこで会わないほうがいい。
あんたはせいぜい一人で幸せになったらいいよ。あたしは多分、最後の一人にはなれない。

…そう、自分はきっと最後の一人にはなれないだろう。光浦は思った。
女の自分にこの闘いは不利だ。しかも武器は延長コードと、せいぜい村上の持っていた鉄パイプだけ。
そんなものであの教室に押し込められていたバカみたいな人数を全部片付けられるとは到底思えなかった。
かといってどこかに隠れたまま、最後まで逃げおおせるなんていうのも夢物語だ。
そんなにこのプログラムが甘いものなら、きっと自分は村上を殺したりしないで済んでいる。
最初からそんな夢は見ていない。誰かと一緒に行動できたとしても、裏切られない保証なんてないのだから。
自分がいちばん可愛いから、いざとなったら何とかして全員殺して生き残ってやろうと思っていたのに。
そこまでする体力も気力も、一発逆転の思いつきもない。たったひとり殺しただけでこのざまだ。
光浦は自分が殺した村上にふたたび目をやって、心の中だけで謝った。

ごめんね、村上。すごく綺麗じゃない死に方になっちゃった。
泡吹いて白目で鼻血ダラダラ流してる顔ってさ、多分あんたじゃなくてもブスだよ。松嶋菜々子でもブスだよ。
だから一応さ、あとで隠しといたげるよ顔。見られないように。そのほうがいいよね、女なんだから。

無言の約束を一方的にとりかわし、光浦は膝の上の延長コードを手にとった。
黒いそれを意味もなくぐるぐると左腕に巻き付けてはほどいてみる。
そんな作業をくり返しながら、光浦はぼんやりと村上とのこれまでの道中を思い出していた。
41114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:41:11
…午後四時前に学校を出て、校門の前の死体に怯えて走って逃げて、でもすぐに疲れてしゃがみこんだ。
殺し合いをホントにさせられるんだと思い知って、心底震えた。死にたくなかったから。
でも、震えているだけじゃどうにもならないと思った。簡単に死ぬのは嫌。全力で抵抗してやる。
女一人じゃ大した攻撃もできないから、誰か見つけるまで隠れようと思って、丁度いい場所を探した。
川のそばの、大きめの岩の陰。ここならすぐに見つかることはないから、身体を休められる。
そう思って夜まで岩陰で丸くなってたら、見覚えのある人影が通って、女だったから声をかけた。
女だったら、裏切られても勝てるかもしれないと思ったから。
村上はホッとした顔で近づいてきて、あたしに言った。

「よかった、光浦さんに会えて」

だから信じたのに。しばらくは一緒にいられるって思ったのに。
裏切ったのはあんたのほうだ。あんたがあたしを殺そうとした。殺したのはあたしだったけど。
お互い様だけどひどい女だねあたしら。ほんとひどい女だよ。

昨日の夜中、歩きながら二人で話してるうちに、自分がまだ武器を確認してなかったことに気づいた。
死ぬくらいならみんな殺してやるって思ってたのに、武器も見てなかった自分がおかしかった。
村上も学校を出たあとふらふらと逃げ回ってたみたいで、まだバッグをあけていなかった。

だからここに座り込んで、二人で一緒に、初めてバッグをあけたの。そしたら出てきたのがコレだった。
延長コードと鉄パイプ。あんた、顔色変えたよね。延長コードなんて武器にならないって言って。
あたしもそう思ったよ。延長コードでどう戦えってんだっての。けど、そんなのしょうがないじゃん。
運が悪かっただけだよ。なのにあんたはきっと思ったんだろうね、コイツ、使えないって。
一緒にいても足手まといにしかならないって。そう思ったんだろうね。
急に何だか空気が冷たくなった気がしたよ。あたしから声をかけたのに、あんたが怖かった。
42114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:42:01

もう夜中だったけど、寝ようなんてとても言い出せなかった。寝首をかかれると思った。
寝るどころか背中も見せられない。だからずっとあんたのほう向いたまま起きてたのに、あんた言ったね。

「寝ていいですよ、見張ってますから」

…そんなの信用できるわけがない。だからあたしは、罠をはった。
あんたの言葉に頷いたあと、背中を見せて、デイパックの中を探ってるふりをした。
わざと時間をかけたよ。三分、ううん、五分ぐらいだったかな。あんたが動いたのがわかった。
気配がしたよ。鉄パイプもって近づいてくる気配。気づかれないように、肩越しにあんたをうかがってた。
あんたが鉄パイプをふり下ろそうとした瞬間ふりむいて、土を手でガバッとつかんで目ん玉めがけて投げた。

命中したよ。オーソドックスだけど、土とか砂は目に入ったら絶対痛い。
目をおさえてばたばたしてるあんたを突き飛ばして、マウントとって、延長コードで首を絞めた。
顔を引っ掻かれて髪をつかまれて、袖破られて。散々だったよ。でも、やっぱりマウントとったら強いね。
あんた首太いから時間かかったけど、力の限り絞めたら、これ以上無理ってくらい絞めたら、死んだ。
正直、やっと死んだって思った。何かホッとしたよ。あたしまだ生きてるんだって思ったよ。
だけど、こんなことずっと続けるなんて、とてもじゃないけど無理だって思った。
なんか馬鹿みたいじゃん。こんなことして生きのびんの。あんた一人でもう十分だよ。手ぇ痛いし。

…そう思ってたのに。

43114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:43:40
突然、ザ、と林の下草が揺れる音がした。一瞬あとにズガァン、と響いた銃声。
すごい速さで後ろから来たものが、あたしのこめかみを擦っていく。
痛いより熱くて、ぬるぬるした血がドバって出て。あーあ。女の顔になんてマネするんだか。
銃弾が来た方向をふりむいたら、がくがく震えてる男がいた。

「ぎゃぁああああ!」

人の顔見て叫ぶなんて失礼な。っていうかお前が撃ったんだし。





【森三中 村上知子 死亡】
【光浦靖子】
所持品:延長コード
第一行動方針:なげやり
基本行動方針:なげやり
最終行動方針:なげやりだけど生きてはいたい
現在位置:学校の近くの林(G6)
【8/16 12:15】
【投下番号:】
44114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/02(土) 03:45:09
失礼しました。【投下番号:155】で。
45名無し草:2006/12/02(土) 12:38:49
乙!
情景と光浦の呟きが鮮明に頭の中に広がったよ。
46名無し草:2006/12/02(土) 14:36:42
乙ー!
光浦の冷静さが逆に恐い…
47名無し草:2006/12/02(土) 16:34:52
自演乙
48名無し草:2006/12/02(土) 17:59:48
乙!
続きwktkして待ってます
49名無し草:2006/12/02(土) 23:06:05

光浦の口調がリアルだなぁ
50名無し草:2006/12/03(日) 01:43:59
あぁ。自然に光浦の口ぶりが浮かぶな。
てか続きが気になり過ぎます。誰なんだよ
51名無し草:2006/12/03(日) 11:37:35
乙!!
52名無し草:2006/12/03(日) 13:46:41
乙です〜(*^_^*)
53名無し草:2006/12/03(日) 16:22:04
乙w
54名無し草:2006/12/03(日) 17:40:29
乙でぇーす!続きwktkして待っとります
55名無し草:2006/12/03(日) 19:23:15

こういうの好きっ!
56名無し草:2006/12/03(日) 20:53:56
乙!いいよいいよー
57名無し草:2006/12/03(日) 23:01:43
乙!!
早く続きが読みたい!!
58731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:17:43
前スレ>>744-751の続き、ソラシド編です。緊急二者面談。


森の中で木魂する、獣のような咆哮。
水口は絶望の総てを喉に込めて叫び続けた。
喉が潰れるまで叫べば、この絶望も総て吐き出してしまえると、そう思ったのか。

吐き出してしまえるわけがない。
そんな事で、終わってしまうわけがない。
自分のせいだ自分のせいだ自分のせいだ自分のせいだ!!
あの時、放送で名乗り出た本坊を止めていれば、
あの時、全員連れてゆくと言った本坊を自分が止めていれば、
あの時、自分が自己満足だと認めていれば・・・・・
いや、いっその事、もっと最初の方で誰かに殺されていれば、よかった。


後悔で自分を満たした水口は、その思考を最後に意識を失った。
石田が必死に呼ぶ声も届かない。

59731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:20:21
雑多に置かれた用具の周りには多量の埃が舞っている。
用具をどけた隅の柱に、1人の男が繋がれていた。
216番  本坊 元児。 公式記録で今朝6時に死亡した筈の男である。
今まで行われて来たプログラムの中でも異例の出来事を引き起こした男、
ビートたけしは本坊が目覚めるのを、何をするでもなくただじっと待っていた。

午前8時30分、ようやくその時が来た。
本坊はぴくっと首を動かせた後、眠そうな目を開いて顔を上げた。
たけしはわざと目を合わせるように顔を近くに寄せた。
死んだと思いきや、目覚めたら後ろ手を縛られ、対峙しているのは諸悪の根源。
安っぽい冒険小説のようなシチュエーションだと、この状況を作り出した張本人であるたけしは思った。
ベタな展開なら、あたふたした後「確か僕は死んだ筈・・・・」とかそんな感じか?
「あの・・・・」 お、何か喋った。
「あの〜・・・・、トイレどこですか?」
「・・・・便所?」
「はい、膀胱もう限界なんですけど。」
・・・・・・・こんな状況で小便行きたいのかよ、何だこいつ。
「聞いてます?トイレ・・・・」
「廊下出て右。」
「すんません。・・・・あれ?」
手に縛られている縄に気付いていなかったらしい。
「おーい!」
たけしが呼ぶと入り口に待機していた兵士が駆け足で来た。
60731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:21:30
「どうかされましたか!」
「こいつ小便行きたいらしいから、縄ほどいて便所まで連れてってやってくれよ。」
「便所・・・・ですか?」
命令内容のあまりのくだらなさに、兵士は落胆する。
「お願いします〜。」
当の本人は全く緊張感がない。兵士は更に呆れる。
本坊を拘束した際、所持品は全て没収し、丸腰であるのはわかっている。
だが、想定外の事態続きである事に変わりはない。兵士はたけしに何度も目配せするが、
たけしはあの小馬鹿にした笑みを返すだけだった。
渋々兵士は縄を解き、本坊の両側に付き添い教室を出ようとした。
「あ、ちょい待ち。俺も小便したくなっちまった。」
「えぇ!?」
兵士が思わず声を出す。完全に今までのキャラではない声だ。
「いやぁ、年取ると近くなってきてよ。ついでに行っとくわ。」


かたや、死んだ事になっているプログラム参加者、大阪でも知名度の低い芸人。
かたや、このプログラムの担任教師。世界的に有名な、各方面で活躍するベテラン芸人。
その2人が、隣同士で揃って排泄行為にいそしんでいるという奇妙な光景がそこにはあった。
行為が終わった後、本坊はぼーっとして動かなかった。
「・・・・早くしまえよ」
「あー、えーと・・・・」
「なんだよ」
「いや、僕生きてんのやなーって、漠然とそう思って。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
言い終わるとすぐ、本坊はズボンのファスナーを締めた。
61731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:22:22
教室に戻ると、兵士が7、8人に増えていた。
たけしが先に入ると、兵士が本坊の前でライフルを交差させて道を塞いだ。
「あれぇ!?」
間の抜けた本坊の声を聞いて、たけしはぷっと吹き出した。
きょろきょろし出した本坊の背に、ライフルが突付かれた。
「いったぁ・・・・あんたらそれしかする事無いんですかぁ?」
兵士は、またロボットのように無表情で無口になり一言も話さなかった。
1席分の間隔を置いて、(本坊の背後には兵士が控えていたが)2人は向かい合った。

「何か、俺に聞きたい事があるんじゃねーの?」
「・・・・・・・・水口と石田はどうしたんですか?」
「さぁな、お前が気絶した後学校の外に放り出してた。後は知らねぇ。」
「え〜、そんなん困りますよぉ。やっと会えたのに。」
ライフルを突き付けられても、この男は緊張感が無いようである。
「そんな事言ったって、やったの俺じゃねぇし・・・次は俺な。
 お前、自分が放送で言った事覚えてるか?」
本坊は自分の記憶がどこで途切れたかを思い出した。
「みんなで楽に死にましょう、って言った事ですか?」
「そ、なんかそれがひっかかってなぁ。だから生かした。」
「・・・・最初は殺すつもりやったって事ですか?」
2人の間は徐々に緊迫していった。
「お前が”殺し合いはやめましょー”とか言ってたからな。
 そういう奴は邪魔になるから殺せって上からのお達し。前にどっかの中坊がやったらしい。
 そん時はおんなじ中坊が撃ち殺したらしいけどな。お前もてっきり似たような事言うから、
 ”殺し合いなんて駄目ですー、みんなで生き残りましょー、ここに集まって下さーい”とか
 言うと思ってたら、お前は真逆の事を言いやがった。」
言いながら、たけしは口角を上げて笑っていた。肩がずっと上下している。何が楽しいのだろうか。
「正直、興味があるんだよ。それを聞く為に生かしといてやった。」
笑うたけしと対照的に、本坊の表情はどんどん失われていった。
恐怖により表情が強張ったのではなく、ただ目の前の男を見据えていた。
62731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:23:20
「・・・・・・最初からみんなで一緒に死のうと思ってたわけじゃないですよ。
 スタートする前はみんなで生き残りたいと、そう思ってました。」
「ふーん、・・・・何で変わったんだ?」
「・・・・・・・・・あんたのせいですよ。」
一斉に兵士がライフルを構えた。だが、本坊は微動だにしなかった。
その本坊の態度が気に入らないのか、目前に立ち、眉間に突き付ける兵士もいた。
だが、彼は感情の揺らぎを微塵も見せなかった。
「・・・・・・銃構えられてりゃ、こっちが落ち着かねえな。
 お前ら、ちょっと出てってくれよ。」
たけしの言葉に、兵士は一様に動揺した。
「その様な事は・・・・!!」
「やばくなったら叫ぶ。だからいいだろ?」
たけしが上目遣いでじろりと睨みつけると、1番階級の上であろうその兵士は
苦虫を噛み潰したような表情をした後敬礼し、他の兵士と共に退室した。

教室にいるのは2人だけになった。
本坊の表情は無く、マネキンが座っているようだった。
「で、何で俺のせいなんだよ?」
「あんたが山田さんを撃ったからですよ。だからみんな死ななあかんのです。」
「・・・・・・意味がわからん」
間髪入れずたけしが言った率直な感想だ。
「僕ね、みんな一緒がいいんですよ。」
マネキンの口元が少し綻んだ。
「だからあの時、みんなで生き残りましょうって言うつもりでした。
 でもあんたは速攻で1人殺した。だから、みんなで生き残る事は出来なくなった。」
マネキンは視線をそらして目を伏せた。
63731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:24:15
「ものすご低確率ですけど、あの後全員生き残れたとしても、死んだ山田さんは
 そのままじゃないですか?たった1人でここで腐っていくなんて、
 かわいそうやないですか?そう思ったら、生き残るの嫌になったんです。」
また視線をたけしに移す。
「それによく考えたら殺る気の人も結構いるみたいやったし、生き残るなんて無理やったんです。
 でも、みんなと一緒がいいのは変わりませんでしたから。
 だったら、みんな幸せなるんはみんなで一緒に死ぬ事なんちゃうかなって。
 そしたらみんな寂しないなって思ったんです。」
「でもお前ぇ、全員死んだら優勝者いなくなるじゃねぇか。」
「そう!でもいるんですよ、優勝者!」
「誰だよそいつ。」
「水口です、僕の相方。」
マネキンの表情が人間になっていく。
「あいつね、凄いんですよ。僕の言う事全部わかってくれるんです。
 ちゃんとわかってくれて、僕が間違ってたらちゃんと正してくれる。
 それであいつ、ちゃんとお墓立ててくれるからもう死んだ人も安心出来るし。
 だからみんな死んだ後に、あいつが全員分のお墓立ててくれれば完璧かなって・・・・」
本坊は夢見るように話す。その仕草は無邪気な子供そのものだ。
「・・・・・・・わかったよ。」
そう言って踵を返すと、たけしは後ろにあったデイパックを本坊に向かって放り投げた。
受け取ったデイパックは、本坊のものだった。
「解放してやる。それ持って何処へでも行け。」
「えぇっ?いいんですか?」
「ああ、お前みたいなのがいる方が俺にとっても都合がいいからな。
 それと、どっかでうちの奴等に会ったら宜しく言っといてくれ。」
そう言った後、たけしは手を頭の上でパンパン叩いた。
その合図に合わせて兵士は入室し、本坊の両腕を掴んで退室させた。
64731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:25:11
兵士が退室してすぐ、事務官がやや乱暴に扉を開けて入ってきた。
その表情は険しく、眉間に深い皺が刻まれているのが確認できる。
「・・・・・・勝手な事をされては困りますと言った筈ですが?」
「・・・・・・・・・」
無言のたけしに事務官は小さく舌打ちをした。
「・・・・今回の件は上の方で問題にさせて頂きます。」
「・・・・”今回の件に付きましては、参加者の混乱を招く事でより
 プログラムが円滑に進み、早期終結出来る様に、私が独断で行った事です。
 分不相応な行動を、心から反省致します。”・・・・こんな感じで言っといてくれよ。」
日光が反射した眼鏡越しに、睨んだのがわかった。
事務官は返事もせず、足早に教室を出た。
ひとり取り残されたたけしはため息をついてどかっと座った。
「あ〜・・・・・、早く家帰りてぇなぁ。」


学校から追い出された本坊は、朝日を浴びて目を細めていた。
「・・・・うん、やっぱ生きてる。」
はよ水口に会いに行かな。もしかしたら死んだ思てるかもしれんし。
必ずお前を優勝させるから、だから、


一方、石田は気絶した水口に肩を貸して森を彷徨っていた。
水口さんはきっと本坊さんが死んだんは自分のせいやと思って自分を責める。
それは違うって言えるのは俺しかいいひん。
今休めるいい感じの所探しますから、だから、




待っててな、水口。
待ってて下さいね、水口さん。
65731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/03(日) 23:26:04
【ソラシド 本坊 元児
所持品:コンビニコスメセット
基本行動方針:水口を守る
第一行動方針:水口を捜す
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】

【現在位置:H-6】


【ソラシド 水口 靖一郎
所持品:スコップ、ガム
基本行動方針:遺体を発見時、埋葬し弔う。
第一行動方針:より多くの遺体を埋葬
最終行動方針:未定

【NONSTYLE 石田 明
所持品:オフェンスキープ
基本行動方針:とりあえず病気にならない
第一行動方針:骨とか折らない
最終行動方針:健康でいたい

【現在位置:H-5】

【8/16 08:13】
66名無し草:2006/12/04(月) 00:59:51
乙!

ソラシド編好きだぁ…
67 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 00:59:58
フット後藤編の挿入でピース又吉編、投下します。


何度目になるかわからないため息をつき、ピース又吉は森の中を歩いていた。
陽はどっぷりと暮れ辺りは微かな月明かりに照らされている
どこに行けば、安全なのか、第一安全といえる場所があるのか
今まで校舎を出てから何人かの人間を見てきたがいずれも既に息絶えている人達ばかりだった。
暗闇は人間の恐怖心を煽るという
もの言わぬ亡骸と化した彼らを見るたび、生きている人間が自分しかいないのではないか、
生きていると思っているだけで本当の自分は既に死んでしまっているのではないか、
そんな錯覚に陥ってしまう。

『死ぬんじゃねーぞ、絶対に会おうな』

そんな状況で、ふと出発前に相方である綾部に言われた言葉が蘇る
「そんなん、かっこつけて言うくらいなら待ち合わせ場所くらい決めとけや」
綾部の出発時間が早かった為ろくな会話もできずに別れる事となってしまった
その結果、未だに合流できずにいる。
既に陽も落ち、暗い中の探索ではお互い見つけあう可能性も低く
ひとまず安全を確保できる場所を探し森の中を歩いていたのだった。
生き残れるとは思っていない
しかし、死にたいとは思わない
自分がこの先どうなるかわからないが出発前に相方と交わした約束だけは果たしたかった。
68 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:03:45
そんな中、前方の地面の上に横たわっている男がいた。
天然パーマに細身のその姿に又吉は見覚えがあった。
「家城さん?」
見間違えてなければその人物は東京吉本の先輩、カリカの家城だった。
その姿は今まで見てきた人の様に血まみれでもなく、刃物が刺さっている訳ではない。
「大丈夫ですか…家城さん」
声を掛けてみるも何の反応もない。
「家城さん、家城さんっ」
側に駆け寄り肩を揺すってみるが一向に返事が返ってこない。
「家城さん返事してください、家城さんっ」

既に目の前の先輩もこの世にいないのか…そう思った時だった。
「もう、うるさいよ!」
予想外の怒号に手が止まる。
今まで目の前に横たわっていた人間がゆっくりと体を起こしていく
「あれ?又吉かー元気?」
あくびをかみ殺しながらただでさえまとまりのない髪をボサボサとかいて
家城はいつも通りの調子で語りかけてくる。

「家城さん…生きてたんですね」
予想外の事態に間の抜けた言葉しか又吉は出てこなかった。
「…何の権限があって人を勝手に死んだ事にしてくれてるの?」
「こんな所で倒れてたら誰かて死んでると思いますよ」
「全然、もう絶賛生存中、というか時間考えてよ?もう夜だから寝るのが当たり前じゃん」
「よくこの状況で寝れますね」
「まぁ、寝るというか、現実逃避したかったんだよね。だって俺の現状こんなんだよ」
家城が指差す方を目で追ってみる。
その先にあるのは大型のトラバサミ
それがしっかり家城の左足が捕まっていた。

69 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:05:13
「ものの見事に挟まってますね…罠に」
「これね、見た目以上に重症なんだよ。すっげー痛いし、足の先感覚なくなってるし」
辺りが暗いせいではっきりとは見えないがトラバサミの刃の部分が
家城の足に喰いこんでいるのは間違いない。
「自分なりに必死に努力したんだよ、どーにかして外れないかなって」
「外せないんですね、今でも」
「そうなんだよねー…」
夜の生ぬるい風だけではない妙な空気が二人の間に流れる
あまり多弁ではない故に又吉はこういった時にかける言葉が思い至らなかった。

「きっと綾部がここにいたら『大丈夫っすよ』とか根拠のない事言いますね」
「又吉はそういう事言ってくんないの?」
「じゃあ言いましょうか」
「…お前がそれ言ったら綾部以上の胡散臭さを感じるわ」
「綾部以上に胡散臭い奴いませんよ」
「てか、こんな状態でいない奴の事言ってもどーしよーもないし…この罠からの脱出手伝ってよ」
かろうじて会話のキッカケとして思い出した相方の事を切り捨てられた又吉は
いつの間にか、家城に肩をがっしりと掴まれていた。
「一人より、二人…いやーいい言葉だね」
「その後何か言葉続いていきませんでしたっけ?」
「とりあえずこの罠ひっぱって、力ずくでもいいからこの現状から抜け出したいんだよ」
力ずくとは随分原始的な方法とは思ったが今のところ自分達が取れる手段はそれしかないだろう
70 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:08:52
「そしたら俺が右の方持ちますから、家城さんは左の方を持ってください」
「じゃ、せーので引っ張れよ」
「わかりました」
「せーの!」

「「・・・無理!」」

声掛けからものの3秒
揃ってギブアップ
「何で刃が鋸状なんですか、持つだけで怪我しますよ」
「俺は既にそれに挟まれて怪我してるけど、改めて負傷したいとは思わない」
「安全が第一ですよね」
「現状はとても安全が保証されたものじゃないけどね」
再び妙な空気が二人の間に流れた

「やっぱり、人間なんだから、頭脳、道具これを使わないと、又吉お前なんかいいもん持ってない?」
「本ならありますよ」
又吉が取り出したのは一冊の文庫本だった。
「何?お前の武器本なの?」
「ちゃいます。元々、俺の物です」
「でも、俺らの私物ってタバコとかそんなん以外全部没収されたんじゃなかったっけ?」
「まぁ、純文学ですから愛国者って事で許されたんやないですか」
「ちなみに何の本」
「太宰です」
71 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:10:40
「悪いけど本だけでこの現状が打開できるとは思わないから次行こう、
お前に支給された武器って何?」
「・・・いや、まぁ…大したもんやないんですけど」
「何?」
「…多分、ひきますよ」
「そんなの見ないとわかんないからさ、とりあえず見せて」
「いや、他に使えるもん探した方が…」
「いーから!さっさと武器見せる!ほら早く」
急に歯切れの悪くなった又吉を疑問に思いつつも
彼のデイパックから何が出てくるかの興味の方が家城には勝った。

やがて躊躇いながらも又吉が取り出したのは一丁の拳銃だった
「まっ、ままままま又吉っ!!それっ!それ!」
家城の反応は又吉が予想していた通りのものだった
罠のせいで立ち上がって逃げる事はしないが動ける範囲ギリギリまで後ずさっていく
「撃ちませんよ、もし俺が撃つ気でしたら今頃家城さん死んでます」
「さらりとこえー事言ってんじゃねーよ!」
「説明書によるとコルトシングルアクションアーミー・アーティラリーって銃やそうです。
弾は詰めてないですよ。見ますか?」
警戒を解くために又吉はシリンダー部分を外し、中に弾丸が入ってない所を見せ、家城に手渡した。
「それ別名ピースメーカーって言われてるみたいですよ…何の因果なんか知りませんけど」
「ピースつながり?でも、全然平和的とは言えないでしょう」
「やから絶対に家城さんひく言うたやないですか」
「そりゃ、いきなり銃目の前に出されたら誰だってひくって!説明書読んだって事は…使う気?」
家城はじろじろと色んな角度からその銃を確認しながら又吉に問いかける
「そんなつもりはないです。誰かを傷つけてまで生き残りたいとかは…
説明書を読んだのは…単に活字読んでた方が落ち着くからです」
「何それ?まぁ、又吉らしい理由といえばらしいけど」
「護身用には丁度えぇんです。そういう、家城さんこそ何か使える物ないんですか?武器とか」
「うーん…俺のもある意味ひくような武器だからね。」
72 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:12:05
家城がデイパックから取り出したのは一本の靴べらだった。
「これは、まぁ…」
「いいよ、無理にコメントしようとしなくて…」
遠い目をする家城の顔を見て現実逃避に至った理由の一端を又吉は垣間見た
「あ、でもこれテコの原理でいけるんじゃないんですか?」
「そうか!支点、力点、作用点をフルに使えば脱出できるかもしんない」
微かに差し込んだ希望の光を感じ、家城は足が挟まっている間に
わずかに開いた隙間に靴べらを差し込みその手に力を軽く込めた

ぱ き っ

「・・・・・・・・・・・折れたね」
「・・・・・・・・・・・・・・・折れましたね」
「・・・・・・・・・・脆いねー」
「・・・・・・・・・・・・・一瞬でしたね」
夜の生ぬるい風だけではない妙な空気が三度、二人の間に流れる

「何だよこれ!武器が靴べらってだけでもハズレ感あるのに
こんだけ脆かったらハズレ中のハズレじゃん」
「強度的にいったら100均位やないですか?」
「いや、これは88円均一の品でしょ。音軽すぎ」
「中途半端ですね、値段も、強度も」
「政府…88円均一で済ますなんてそんなに財政難なわけ?」
「国の懐事情嘆いてても仕方ないですよ…根本的に問題はきちがえてません?」
「そうだった、とにかくテコの原理はあきらめた!何か他にいい案ない?」
73 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:13:38
「やったらトラバサミを掘り起こしましょう、
挟まれたままでも自由に動ける分まだマシやと思いますよ。」
「流石に素手で地面掘り起こすのはきつくない?」
「スコップとかあったら便利やとは思うんですけど…代わりになるもんとか持ってませんか?」
辺りを見回してみるがそれに該当するような物は何一つない
あるのは、次の獲物を待つ仕掛けられた罠くらいだろう
「まぁ、あると言ったらこれ位?」
そういって家城は先ほどの折れた靴べらを提示してみせる。
「丁度二人分あるし」
「その為に折れた訳やないと思うんですけど…」
「ないよりは、マシじゃない?」
「これ、罠を掘り起こすのが先か、靴べらだったモノが粉砕するのが先かどっちになるでしょうね」

多少のため息を含ませながら呟く又吉に家城は笑顔で語りかけてくる。
「正直思ったでしょ?面倒くさいって。声かけなかったらよかったて思ったでしょ?」
「思ってないですよ」
「又吉ー先輩の目見ようなー」
顔は笑顔を浮かべてはいるが目は笑っていない。
又吉の両手にしっかり折れた靴べらを持たせ握らせる。
するとものすごい勢いで又吉の足に家城はしがみついた。
その姿に又吉は一時ブームになった井戸から這い上がってくる女の幽霊を思い出した

「逃−がさないわよー」
「家城さん…オカマ口調止めてください」
「お前が自由になるのは私が晴れて自由の身になってから、そう肝に命じておくことね!」
「いや、やからオカマ口調・・・正直不気味なんですよ」
「お前にだけは言われたくねーよ!!!!」
74 ◆Qjkjp/DQVw :2006/12/04(月) 01:15:46
こうして罠の張り巡らされた危険地帯の森の中、オカマと死神という妙なキャラを持つ
二人が一晩を共に過ごすことになった。
微かに土の掘り起こす音とプラスチックの割れる音をBGMにして



【ピース 又吉、カリカ 家城 合流】

【ピース 又吉直樹】
所持品:コルトSAAアーティラリー(24/24)、文庫本
状態:良好
第一行動方針:家城の救出
基本行動方針:相方を探す
最終行動方針:不明

【カリカ 家城啓之】
所持品:靴べら(破損)
状態: 左足を負傷
第一行動方針:罠からの脱出
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明

【現在位置:D6・森】
【8/15 22:12】
【投下番号:157】

>>58-65乙です
ソラシド再合流が楽しみです
75名無し草:2006/12/04(月) 01:18:39
乙です!
ゆるい、何かゆるいよ二人とも(笑)
76名無し草:2006/12/04(月) 02:44:06
ソラシド編又吉編乙
二人のゆるさがイイ(・∀・)!
77名無し草:2006/12/04(月) 07:25:38
乙〜(笑)
78731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/04(月) 08:20:07
時間間違い発覚。
正しくは【8/16 08:53】です。
79731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/04(月) 09:31:25
しかも投下番号も忘れてるし。
【投下番号:156】
gdgdだな自分・・・・
80名無し草:2006/12/04(月) 12:43:45
前から気になってたんですけど、731ってコテ、何か意味あるんですか?
81731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/04(月) 20:58:40
>>80
ここの初代スレに初めて書き込んだ時のレス番号が731だったからです。
別に深い意味はありません。
82名無し草:2006/12/05(火) 12:12:39
前スレ>>932-937

月明かりで出来た影がすっかり短くなっても、暇なく鳴き喚く蝉の声に耳を傾けていた久馬は、
ふと肩を叩かれた感触で反射的に振り向いた。
「顔洗わな荒れますよ」
今肩を叩いていた鈴木の掌には何処から持ってきたのか石鹸が握られていて、久馬は首を傾げた。
支給品にはなかったし、このホテルにも置いてるとは思えなかったのだ。
「病院で取ってきてもうたんですよ」
「あ…けどペットボトルの水限られとるやろ?」
最もな疑問かと思いきや、もう片方の掌には生理用食塩水のパックが握られており、久馬は苦笑した。
両方とも受け取り、石鹸の封を剥がし始める。
「石鹸で落ちんの?」
一部始終を眺めていた灘儀の疑問に、アルコールの染み込んだ消毒ガーゼで全身を拭いていた浅越も顔を上げる。
「久さん"敏感肌用石鹸でも落ちる低刺激日焼け止めクリーム"愛用ですから」
外野からの突然の質問にもあっさりと鈴木が応じると、納得したように灘儀が笑った。
「最初ギブソンと見張りしてますから、ちゃんと寝て睡眠不足にならんようにして下さいね」
向けられた笑顔に嘘は感じられず、
本当に体力のない久馬自身を心配しているのだと分かって、皮肉な笑みが浮かぶ。
鈴木は初っ端から他の芸人を見捨てるところを見られたことに気付いていてはいないのだろう。

久馬にとって、鈴木の歯牙にもかけない他人の痛みには何処までも鈍感になれるところが、
羨ましくない部分もないといえば嘘になった。
83 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:13:35
虫の鳴き声しか響かないような夜には、他人の吐く息の音さえ耳につく。
只でさえ蒸し暑い熱帯夜に、滲む汗は止め処なかった。
「もう寝てもうたん?」
久馬のか細い声に反応したのか、反対側を向いていた浅越が、やはり寝返りをうつ衣擦れの音がした。
「寝れませんか?」
寝てはいなかったのだが、目を閉じてはいたのだろう。細められた瞳が月の光を反射する。
「なあ…お前好きな奴居らんの?」
「はい?」
全く予想外の問いに、浅越は止まっていた空気を揺れ動かすような素っ頓狂な声を出す。
「C組のくみちゃんやで」
ボソリとした呟きは、浅越の隣りに寝ていた灘儀の声で。
それがまるで意外であったかのように久馬は手を口で覆い隠して驚きを表現した。
84 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:15:06
全く心当たりのない言葉に、漸く浅越も2人がボケの掛け合いをしていることに気付く。
「何で知ってるんですか!?」
「俺は分かっとった。最初から知っとったで〜」
浅越は図星を突かれたかの如く勢いよく上体を起こすと、
薄暗い中でも灘儀が満面の笑みを浮かべているのを見た。
「ちょお、俺のくみちゃんやで!」
久馬は真顔で浅越を責める。
つい恥しげに笑いが漏れてしまう灘儀に比べて、
久馬は一度スイッチが入ると、大きくスベりでもしない限りボケモードが解除されることはなく。
「いや、知らんからいくらでも言うたるわ。俺は言う人やで。ゆーゆーゆーの湯名人や」
「灘儀さん!」
厳しい叱責の声と共に飛んできたのは立ち上がっていた浅越の枕であって、
灘儀は反射的に手で顔を守ると自分の枕を浅越に投げつける。
軽く腰を捻って枕を避けると、久馬の顔の横をギリギリのラインで通り過ぎた。
「俺は手出してへんやろがい!」
ああ次はヤクザキャラですか、と浅越が溜息を吐く間もなく久馬の枕は灘儀に投げつけられる。
すぐに伏せた灘儀の頭上を通過した枕は
騒がしい声に様子を伺いにきた鈴木の顔面にクリーンヒットした。
一瞬時が止まり、逆戻りしてやり直しさせてくれないかという3人の願いも虚しく
鈍い音を立てて滑り落ちた枕の向こう側には鬼のような形相が待ち構えていた訳で。
「エエ加減にせえや!!」
85 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:16:00
「大体安全の為に不便なとこ居るのにこんな大声出しとったらすぐにバレてまうやないですか。
頭使うて下さい」
鈴木さんの怒鳴り声が一番煩かったですよ、
なんて言葉はすぐそこまで出掛かっていても言ってしまったら怒りに油を注ぐのは目に見えていたので
雁首を揃えながら鈴木のお説教が途切れるのを待つ。
「特にゴエ。お前止めなアカンとこやろ。考えや」
「すみません」
不満そうに首を数回縦に振りながら浅越は口先だけの謝罪の言葉を述べる。
年上に怒り難いのは分かりつつも、一人だけ責任を押し付けられるのを快く思うはずがない。
「まあエエやんけ。単に死ぬ前にボケ倒さんとって思っとっただけやん」
取り成そうとしたのか、それとも強烈な皮肉か。
場を凍りつかすような久馬の言葉にその場にいた3人ともが顔を背けた。
「そう怒んなや」
駄目出しのように付け加えられて、それ以上の言葉を鈴木が用意できるはずもなく。
唇を噛むと浅越の腕を強く掴んで、廊下に引き立てていった。
少しの間の後、代わりに部屋に戻ってきたのは柳谷で、無言で一番廊下側の布団に潜り込む。
それを確認すると灘儀と久馬も枕の位置を直して寝そべった。
静寂と少々の恐怖が夜空を覆い始める。
86 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:16:51
「何で、久さんも灘儀さんも生き残るつもるないんやろな。
ゴエかて、灘儀さんに生き残って欲しいねやろ?」
浅越は鈴木の諦念の入り混じったような透徹とした視線を向けられた。
針に糸を通すような歯痒い思いをしているのは浅越自身も同じであって。
浅越の無言を同意と捉えた鈴木は、溜まった鬱憤を放出するように大きく溜息を吐くと話を続けた。
「…脱出は無理なん?」
生き残るつもりがないならせめて逃げられたら、と大抵の参加者が辿る路を鈴木も辿っていて。
しかも浅越には普通の芸人よりは有用な情報を持っていることを知っていた上で、水を向ける。
「無理な上に、意味がないんですよ」
浅越はその希望を打ち破るような言葉を、わざと粉々になるまでに打ち砕くようにあっさりと口に出した。
せめてできるだけ長く生き残りたい、
と思ったら下手に可能性は潰しておかねば火事場の馬鹿力が期待出来なくなってしまうためである。
「脱出の可能性もそうですが、それ以上に逃げてどうするんです?
犯罪者扱いですからもちろんテレビにも出れませんし
舞台にも立てません。芸人は続けられませんよ。
もし海外に更に逃亡できたとしても結局世界各地にスパイはいるんですから
ちょっとでも目立った行動をすれば暗殺されるのがオチです。
そうでなくても母国語以外を喋られない人間が
海外行ってまともな生活送れると思いますか?知らない路地の道端で野垂れ死ぬのが精々です。
それでも脱出する意味があると思うんですか?」
丁寧に希望を一つ残らず潰され、鈴木は苦笑しながらその回答をすぐに導き出した事を誉めた。
「せやな。その通りやわ…ここで全員、死ぬねんな」
それでも鈴木は膝を抱えながら傍らの銃を弄っていた。
なんとか打開策が見つからないかと祈りながら。
87 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:18:22
「もう寝てもうたん?」
「寝てへんでー俺は寝ない人やねんで」
先程までの静けさは何処へやら、再び起き上がると久馬と灘儀は掛け合いを始めた。
生き生きとした笑顔は、とてもではないが寝付こうとしていたようには思えない。
「さっき教えてもろたんやけど、ここの女子風呂上から覗けるみたいやで?」
「マジで!?しくってぃー!それはしくってぃーやな!」
声の音量がどんどん上がっていくのを止めようと、柳谷は上体を起き上がらせると一声掛けた。
「鈴木さんにさっき怒られたばかりやないですか」
「そうやで。煩くしとると先生来るで?」
柳谷の注意に久馬はボケで被せて。
そのやりとりで制止することを諦めた柳谷は不貞寝するように元の体勢に戻る。
「久馬明日朝見に行くんやろ?」
「俺はそういうの嫌いやから」
手を振りながら否定をしても、灘儀の追及が止まる訳もなく。
「お前嘘吐きやな。絶対嘘吐きや。うんうんうん。間違いない、…………嘘吐きや」
「何で何回も言うんですか」
テンポを無視するほど溜め込んだ言葉に久馬の拙いツッコミが入る。
小刻みに動く首は完全に舞台上の動きと変わらず、
立ち上がって一人プロレスのような動きに入ろうとした瞬間、灘儀の目に飛び込んでくる風景があった。
「キャンプファイアーや!」
「…え?」
灘儀の言葉に振り返って久馬は窓の外を眺めると、確かに遠くで炎が揺らめいているのが分かる。
爆ぜるような音までは届かないものの、オレンジ色に空が染まり始めていた。
「燃〜えろよ燃えろ〜よ〜炎よ燃えろ〜」
キャンプファイアー定番の曲を灘儀が歌い始めると、同様に久馬も歌い始め、そして鈴木の怒声が響いた。
88 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:19:55
結局久馬と灘儀が寝付くまで鈴木が監視する事になって。
廊下に放り出された形の浅越と柳谷は斜めに向かい合うように座り、
茹だるような暑さをコンクリートの壁に背中を当てる事でやり過ごす。
ふと浅越が顔を上げると、浅越を凝視していた柳谷の視線とぶつかった。
「浅越さんは…」
柳谷はそこまで言うと口篭り、視線を落とし、
先程聞き耳をそばだてていたことに怒りはしないだろうが、聞いてしまっても良いのだろうかと逡巡する。
浅越も特に急かすようなことはせず、耳を澄ませていると鳴子の音は全くせず、
ただ柳谷が口を開いては閉じる音がするだけだった。
「どうしたん?」
どうしても音が耳についてしまい、浅越は仕方なく話を振ってみる。
柳谷は視線を動かしながら漸く続きを紡ぎ始めた。
「浅越さんは、灘儀さんが優勝するのが望みやったんですか?」
もっと重大なことを聞かれるのかと思っていた浅越は少し面食らうと、ゆっくりと頷く。
肯定されてしまったことで柳谷は更に挙動不審な動きをしていた。

最初から自分の死を受け入れていた鈴木と浅越や、
自分の望む通りに生き、死ぬことを考えていた久馬と灘儀には気付けないでいた。
柳谷は、まだ死ぬ運命に抗いたいと思っていたこと。
そして当然のように柳谷自身が未来の死者にカウントされているいることに、不安感を抱いたこと。
4人とも異なった方角を見つつも、歩いている方向は同じであったのに、
柳谷だけは一緒に歩む事に恐怖を覚え始めていたこと。
最も近しい感情を覚えていた浅越にすら、
その生への執着心を見せられないことに落涙することを押し止められそうになかった。
89 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:21:34
「大きすぎやでこれ!」
浅越は夢の中で、懐かしい舞台を眺めていた。
そして何年も前に閉鎖されたその劇場の最後列に座って、舞台の上のコンビを観賞して、笑っている。
舞台の上に立つのは、灘儀と以前の相方。
灘儀な大袈裟な程のツッコミをする毎に大きな笑いの波が起こる客席。
それに同化するように、浅越自身も笑いを抑えきれずにいた。

浅越が初めて二丁目劇場に行った時の記憶。
後に芸人を目指すきっかけになり、そしてツッコミの真似事まで始めるようになった人生が転換する瞬間。
これは何度も見た夢で、オチまで諳んじることが出来るもの、のはずだった。
そのはずなのだが、違和感で肌がむず痒くなるような感触を覚えて、ふと周囲を見回す。
と、斜め前に座っていた女子高生の会話が唐突に耳に入ってきた。
「可哀相やんなあ、芸人皆殺しやて」
「コンビ解散した時に芸人辞めとったらねぇ」
2人ともひそひそと耳打ちしながら、口の端を上げて笑っていて。
90 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:24:10
すると横のカップルもまるで浅越に聞かせるように会話を始めた。
「自分の命が惜しいからって未来ある若者を犠牲にするなんてね…」
言いながら視線は舞台でなく完全に浅越を向いている。
嘲笑と悪意がどんどん自分に集まってくるような感覚を覚えるが、
舞台上では相変わらずネタが続けられていて、笑い声も定期的に響いていた。
浅越はただの悪夢だと自覚しつつも目覚められないことに焦燥感を覚えつつ、
耳を塞いで現状から逃げ出そうとする。
が、声が聞こえなくなったと安心したら、いきなり目の前の客が振り返った。
振り返った2人は、今日浅越が殺した2人で。驚愕の余り、二の句が告げない。
2人は口から血を流しつつ、恨みごとを呟きながら浅越の顔に近付いた。
50cm、30cmとどんどん距離が狭まりながらも、浅越に逃げ場はなく。
「すぐに、僕らと同じようになりますからね」
視界は完全に彼らの顔で遮られ、密着しながら2人同時に浴びせられる言葉に、
反論しようにも喉が言う事を聞かなかった。
2人は浅越に恐怖心を与えている事に、
満足気に笑みを浮かべると追い討ちをかけようと再度口を開く。
「浩志!うっさいわ!」
脈略のない言葉に浅越が考えをめぐらす暇もなく、
強く背中を引かれるような感覚を覚えると、次に目の前にあったのは灘儀の心配げな顔であった。
91 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:25:41
「大丈夫か?魘されとったで」
絶妙とまでは言い難いものの、何とか悪夢から解放してくれた灘儀に浅越は深い感謝を覚える。
どうも太陽が上空に昇り始め、そろそろ起床時刻だと皆を起こしにきた灘儀が、
浅越が魘されているのに気付き、強引に起こしたというのが正解らしかったが。
大丈夫だと浅越が伝えると、灘儀は安心したのか自分の布団に倒れこんだ。
「眠ぅ…」
監視の順番の都合上、深夜に一番眠りの深かった時間に起こされてしまった灘儀は
その後監視で神経が昂ぶってしまいなかなか寝付けず、何度も目を瞬かしては擦っている。
「やから早めに寝て下さいって言うたやないですか」
「そう言われても寝れんかったもんはしゃーないやんか…」
「まあ傷のこともありますし今日は一日中寝てはったらどうです?」
鈴木と灘儀のやり取りに、久馬は皆が起床したことを悟ったのか部屋に戻ってきた。
元々目覚めていた柳谷は荷物を持つと、交代するように部屋から出て行く。
そして浅越ももう寝ていられないと空気を察し、起き上がると大きく背伸びをした。
92 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:26:17
「鈴木、火ぃ持っとる?」
「持ってますけど」
うつ伏せて、顎を枕に乗せた状態の灘儀は、眼鏡のレンズ越しに大き目の蜘蛛の巣を発見していた。
その視線で気付いた鈴木はデイパックの上に置いてあったライターを灘儀に手渡す。
気合を入れながら起き上がった灘儀は部屋の隅の巣の駆除作戦を開始した。
「どんくらい減ってました?」
「意外と少ないんかも」
朝の放送をきちんと聞いていたのは久馬と灘儀だけで。
放送が3回目にもなると、間隔が麻痺し出すのだろうか、不測の事態が起きた事などおくびにも出さず、
名簿と地図の追加情報を鈴木に伝え始める。
3人の動きを横目で見ながら、浅越は剃刀と鏡を取り出して髭剃りを始めた。
生理用食塩水は限りがあるので、消毒ガーゼで肌を濡らしながらあくまでも慎重に刃を動かす。
「あ、ゴエ後で俺も」
ジョリジョリという音に気付いたのか、鈴木は振り返ると浅越に声を掛けた。
目だけで承諾の意を示すと、鈴木は安心したように地図の確認に戻る。
流れるのは大分穏やかな時間で。段々と鮮烈な悪夢の印象が薄れていくのが分かった。
それでも目を閉じてしまうのを彼らが手を拱きながら待っているような予感がして、浅越は二度寝を諦めた。
93 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:26:56
「言われなくてもあと少しで死にますよ。だからそれまで放っておいて下さい」
夢で疲弊させられないならせめて幻聴だけでもと、
際限なく襲ってきそうな亡霊を諭すようにきっぱりと言い放つ。
もちろん彼らを夢の中で悪霊にしているのは彼ら自身の意志ではなく、
浅越の中に存在している罪悪感と不安感であって。
だからこそ強く意志を持たねばと浅越は自分の中の悪霊たちに言い聞かせるように
何度も放っておいてと呟き続けた。

「そういやギブソンは?」
起きてから大分経ち、頭の動きもクリアになってきた頃、柳谷の不在に一番最初に気づいたのは灘儀だった。
廊下と部屋を見て回るが、そこに姿はなく。
大声で呼んでみても、一向に返事はなかった。
「何処行ったんかな?」
不思議がる灘儀とは対照的に、浅越は昨晩の柳谷の不審な言動を思い出していた。
背筋に嫌な汗が流れる。まさかとは思いつつも、
それがまさかとは言えないのはこの現状自体有り得ないことであるからにして。
「もしかしてなんですけど…」
94 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:28:26
「ここまで安全に、って考えた場所をわざわざ逃げ出すんやから、
もう戻って来おへん覚悟は出来とるんとちゃうかな」
浅越の説明を聞いた久馬が、一番最初に出した言葉はそれだった。
可愛さの余り千尋の谷に突き落とすのではなく、ただ冷徹な事実として告げる。
その言葉にもめげず荷物を纏めていたのは鈴木だった。マシンガンの弾薬をデイパックに詰め込む。
「でも5人やないと舞台出来んのは久さんだって分かっとるはずです…
直接説教して連れ戻すしかしゃーないですから、行ってきます」
力強く宣言する鈴木を元より止めるつもりはなかったらしく、力なく手を振ると大きく伸びをして執筆を始める。
一人だけ外界の時間の流れを遮断しているような素振りにだが鈴木は他の行動を望んでいないのも確かで、
酷くもどかしく喉の渇きを覚えた。
「俺も行く」
「傷が癒えてへんでしょう」
灘儀の申し出をにべなく断ると、灘儀は不満そうに濁った瞳を向けつつも、諦めたように息を吐いた。
裏切られたような思いと無力感が交錯しているのだろうか、やけに影を背負っている。
なくなった荷物を調べていた浅越は腰を上げると、日の光を浴びて輝くライフルを手にとった。
様子を伺うように灘儀にまだ使われていない銃を見せると、灘儀は首を振る。
「残してっても使わんで」
自分の血を既に2回も流しているのに、
心の奥底にこびり付くような嫌悪感を覆い隠す事はないのだろう。
浅越は信念だからこそ性質が悪いと思いつつも手早く用意を終えると、出立を促した。
浅越は柳谷を止められなかったことに罪悪感を感じているのだろうと鈴木は察すると、荷物を背負って目配せをする。

勢いよく駆け下りていく足音を遠くに聞きながら、灘儀は眠りにつこうとする。
ただ、晴れぬ思いを胸中に秘めながら。
95 ◆pwreCH/PO6 :2006/12/05(火) 12:29:30
ザ・プラン9 ヤナギブソン 離脱】
【ザ・プラン9 鈴木つかさ・浅越ゴエ 別行動】

ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 吹き矢(9/10)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
ザ・プラン9 鈴木つかさ
【所持品:アーミーナイフ ハンマー MP5 9mmパラベラム(281/300) 他不明
第一行動方針:ヤナギブソン捜索
基本行動方針:メンバー生存最優先、積極的に邪魔者排除
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
ザ・プラン9 浅越ゴエ
【所持品:救急セット M24ライフル 5.56ライフル弾(30/30) 他不明
第一行動方針:ヤナギブソン捜索
基本行動方針:メンバーの生存最優先
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
ザ・プラン9 なだぎ武
【所持品: ダイナマイト1本 短刀(檜) 
状態:脇腹に軽傷/肩に銃創
第一行動方針:安静
基本行動方針:人命救助】
ザ・プラン9 ヤナギブソン
【所持品:照明弾(4/5) ジッポライター 斧
第一行動方針:落ち着ける場所を探す
基本行動方針:とにかく生き残りたい
最終行動方針:生存】
【現在位置:建設途中のホテル(C4)】
【8/16 8:17】
【投下番号:158】
96名無し草:2006/12/05(火) 18:17:27
プラン編、1番ツマンネ
97名無し草:2006/12/05(火) 18:43:13
プラン編乙!
ギブソンどうなっちゃうのかな・・・
98名無し草:2006/12/05(火) 19:45:26
藤森の話どうなった?
99名無し草:2006/12/05(火) 20:45:14
個人的にゴエの夢の描写が好きだ。
作者がプラン好きなのが伝わってくる。
続きが気になります、頑張って下さい。
100名無し草:2006/12/05(火) 20:54:26
乙!
101名無し草:2006/12/05(火) 21:29:25
>>98
時間あくかも、と書いてあった記憶があるが待ちくたびれたな
にしても、書き手が違うのに二人が会う場合ってどうなるんだろ
裏で打ち合わせとかあるんかね
とりあえず期待してますヨロシク!
102名無し草:2006/12/05(火) 21:42:33
>>99
自分は逆にヲタ臭が強すぎて駄目だ
だからプラン編は投下されても読まない
103名無し草:2006/12/05(火) 22:57:05
好きな話を読めばいいさ。
とは言いながら結局全部読んで全部の続きが気になる自分。
2002の方も、途中で終わったチャイマとトータル編の続きが読みたかった。
104名無し草:2006/12/05(火) 23:27:45
チャイマ。・゚・(ノД`)・゚・。
105名無し草:2006/12/05(火) 23:31:20
>>101
書き手間で話し合って会わせてますよ>書き手が違う場合
106名無し草:2006/12/05(火) 23:35:49
藤森編の書き手が現れなかったら続き書こうかな
107名無し草:2006/12/05(火) 23:57:42
工エエェェ(´Д`)ェェエエ工
108名無し草:2006/12/05(火) 23:57:57
書き手さんいないなら藤森編も中田編書いてる人にお願いしたい
109名無し草:2006/12/05(火) 23:58:17
>82 プラン編キター!!
ものすごい楽しみにしてました
シリアスな中での修学旅行ノリ和むw
乙華麗! 続きwktkしながら待ってます
110名無し草:2006/12/05(火) 23:58:20
>>106さんには悪いが
藤森編の作者が現われなくて代打なんてことになったら
中田編の作者さんにお願いしたいな
個人的に
111名無し草:2006/12/06(水) 00:12:05
色々な書き手で話をつなげるのが投下スレの醍醐味
>>106に期待
112 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:43:46
投下番号096の続きです。
だいぶ空いてしまったので軽く粗筋を。

森の中の元町の民家に潜んでいたランディーズ中川は、
麒麟と向の攻防を見てパニックになりそのまま森の中に逃げ込んでしまう。
落ち着こうと腰を据えると、そこにはダイナマイトを持ったつぶやきシローが現れた。
一緒に死のうと詰め寄るつぶやきに、決意を固めた中川だったが
いきなりつぶやきが倒れる。
その向こうにいたのは―――?
113 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:44:44
何が起こったというのか。

つぶやきは前に伏せるように倒れこみ、声にならない声を発しながら小刻みに痙攣し始めた。
今まで中川からは見えなかった背中にはしっかりと矢が刺さっている。
左肩の辺りから白いシャツにジワジワと血の赤が広がっていくのがはっきりと見えた。
そんなつぶやきの向こうに、若い男がいた。
未だボーガンを構えている男に、中川に再び緊張が走る。
しかし男はかなり動揺している様子で、遠目にも肩で浅い息を繰り返しているのが見て取れた。
そして震える手を下ろしたかと思うと、左手でパンツのポケットを探り、矢をもう一本取り出す。
それをボーガンにガチャガチャとぎこちなくセットすると、ゆっくり中川に近づいて来た。
近くまで来るとその表情がはっきりと分かる。
――こいつ…
眼鏡の奥の赤い目は怯えきって涙でいっぱいになっていた。
そしてその今にも泣きそうな表情のまま、ボーガンを構える。
「やめろ、藤森!もう死んではる!」
近くでとどめを刺すつもりだった男を、中川は急いで制止した。
すでに、つぶやきは動かなくなっていた。
藤森は中川の声にビクッと肩を揺らし、理性を取り戻したように腕を下ろした。
114 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:45:53
「中川さん…大丈夫、ですか?」
ボーガンを下ろした藤森は思いつめた表情のまま言う。ほとんど社交辞令のように呟いた。
「大丈夫や…」
礼を言おうとして、中川は言葉に詰まる。
目の前にいる若い後輩はつぶやきから目を離すことも出来ずに小さく震えていた。
『助けてもらったことで、人殺しにしてしまった』
その藤森に対する罪悪感と、自分を襲ってきた男が力尽きたことに、
中川自身、助かったことよりも大きな衝撃を受けていた。
「藤森、と、とりあえず移動しよか…」
「はい…」
つぶやきが目の前にいる状況をとりあえず回避し、自分と後輩を落ち着かせることが先決だと
中川は後輩の手前なのか上ずる声をなんとか落ち着かせ、提案した。
――ヒーローと助けられた少年ってこんなんやなかったやろ…
中川はそう思いながら、すっかり力の抜けていた腰を浮かせようと体に力を入れた。
無理矢理ながらなんとか立ち上がることはできそうだった。
不意に、さっきまで突っ立っていた藤森がしゃがみ込む。
「藤森?…何?」
見ると藤森はつぶやきの肩に刺さっている、自分が放った矢を握り締めている。
「いえ、抜いとこうかと」
中川はその光景と言葉に息を飲む。
先ほどまでの動揺が嘘のように、冷静な藤森がそこにいた。
『本数が限られているから回収できる時は回収する』
そこまで考えて行動する藤森に、恐怖にも似た感情を覚えたのだ。
115 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:47:20
「え?」
不意に、藤森が小さく驚いたような声を上げる。
中川がそれに答えようとした瞬間だった。
死んでいると思い込んでいたつぶやきがすごい勢いで起き上がったのだ。
そして奇声を発しながら、しゃがみこんでいた藤森を下から突き上げる形で近くの木に押し付けた。
「うああああぁぁ!」
ドンっという鈍い音が辺りに響き、少し遅れて上の方で葉が擦れる音が響く。
藤森が手にしていたボーガンがガシャンと地面に落ちた。
中川は急な事態の変貌に付いていけず、呆然と全く動けないでいた。
立ち上がろうとした体勢のまま、下から二人を見上げる。
体全体の力を集結させたつぶやきの手が、藤森の首をきつく締め上げる。
藤森は必死につぶやきを引き剥がそうとするが、凄まじい気迫のつぶやきはビクともしない。
ミシミシと音が聞こえそうな程に首を掴まれている藤森の顔は真赤になり、苦しそうに空気を求める。
普段テレビで見るようなオドオドした面影は全くなく、今の形相はただの狂った殺人鬼だった。
背中に刺さった矢が痛々しく揺れているが、今のつぶやきはそれも忘れてしまっているのだろう。
一心不乱に、ただ、藤森の首を絞め続ける。
見る見る内に、藤森の抵抗が目に見えて小さくなっていった。
自分を苦しめる手を掴んでいた藤森の手は、すでに殆ど力が入っていない。
つい何秒か前まで真赤だった顔が、今度は不気味に青黒く変化してきていた。
不意に藤森の目が中川のそれを射抜いた。そして弱々しく口元が動く。
しかし中川は未だ動けず、その様子を口と目を見開いたまま、ただ見ていた。
『たすけて』と藤森はそう求めていたが、それは中川には届かない。

 つぶやきは死んだはずやろ、なんで生きとるんや、死んだふりか?なんでや?
 なんでつぶやきは藤森を襲っとんや、つぶやきは藤森に殺されたはずやろ、
 いや殺してはなかった、よかった、いやあかんやろ………

中川の頭の中でぐるぐると色々なことが回る。
しかし中川の抜けた腰は藤森を助けるという事まで思い至らない。
116 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:49:15
少しの間、見つめ合っていた中川と藤森だったが、中川は本当に何も見えていなかったのだろう。
藤森の目が変わったことに気付かないまま事態はさらに急変する。

藤森は視線を中川からつぶやきに戻した。
つぶやきは未だに、殺意を隠しもしない眼を藤森に向けている。
この人にも何も見えていない。
藤森は、力の抜けていた右手をゆっくりと持ち上げ、つぶやきの背中に抱きつくように回す。
指先に棒状の物が触れるとそれを握り締め、誰にも分からない程度に笑った。
そして、背中の木と足を支えにして満身の力を込め、それを引っぱった。
つぶやきは一瞬異常を感じた表情を見せたが、すでにそんなことはどうでもいいのだろう。
見開いた目で奇声を発しながら、首を絞めることだけを楽しんでいるようだった。
その間も力の篭った矢は細かく揺れながら徐々に長さを伸ばしていく。
ある程度の距離から撃ったため、そんなに深くはないはずだった。
藤森は顔を顰め歯を食いしばり、その一見細い体からは想像できないような力を発揮する。
ギリギリと10センチほど引っ張ったところで、大量の血と共に勢いよく矢は抜けた。
険しい表情のまま、素早く藤森は順手で持っていた矢を逆手に持ち替える。
そして、その矢を再び強く握り締め、つぶやきのわき腹辺りに振り下ろした。
しかし刺さった感覚はなく、矢はカランと地面に落ちる。
矢が細すぎてうまく力が入らず、更につぶやきの血で滑ってしまったのだった。
藤森には後悔する暇もない。
つぶやきは矢が抜かれたことに動揺し、ますます力気迫を増して来ていた。
藤森の視界も徐々に奪われて、意識が飛び始めていた。
117 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:50:06
その時、背中に棒状の物が当たった。
藤森は自由の利かなくなってきた手で後ろを探り、何かを握り込んだ。
そして、今度こそ最後の力で精一杯振り上げ、自分を貫くほどの勢いで
つぶやきのわき腹目掛けて振り下ろした。
「ぐえっ」
つぶやきの力が一気に抜け、藤森に被さる様に倒れ込む。
藤森は久しぶりに思える空気に咳き込みながらも、自分に向かってきたつぶやきを付き飛ばした。
背中から倒れたつぶやきは、それが傷に障った様子で、先ほどとは違う奇声を発する。
そしてまだ脳内に麻薬物質が出ているのか、背中を血で染めたまま焦点の合わない目でよろめきながら森に消えていった。
緑のドライバーが刺さったままで。
その様子を不安定な呼吸をしながら見ていた藤森は、舌打ちをしながら力が抜けたように座り込んだ。
酸欠でクラクラする頭を抱え、ゆっくりと丁寧に酸素を体中に回すように集中する。
冷たくなっていた手足にビリビリと血が巡るのを感じていた。


中川は、その様子をもはや放心状態で見ていた。
118 ◆a6395KBpd2 :2006/12/06(水) 01:54:38
【オリエンタルラジオ 藤森 】
所持品:眼鏡 ボーガン フライパン キッチンタイマー はさみ 手鏡
第一行動方針:―
基本行動方針:邪魔なものは排除
最終行動方針:誰かがなんとかしてくれる

【ランディーズ 中川】
所持品:おもちゃのナイフ
第一行動方針:目の前の状況を信じたくない
基本行動方針:誰にも会いたくない
最終行動方針:わからない

【つぶやきシロー】
所持品:ドライバー
第一行動方針:錯乱中
基本行動方針:錯乱中
最終行動方針:怖い



【現在位置:森の中 F-6】
【8/15 17:25】

【投下番号:159】


投下期間が本当に空いてしまい、申し訳ありませんでした。
諸事情がありましたので遅くなってしまいました。
今回は前後編のつもりですので近いうちに投下できると思います。
続きを考えて下さった方がいらしたら申し訳ないです。
119名無し草:2006/12/06(水) 03:21:42
乙です、待ってました!
120名無し草:2006/12/06(水) 03:30:28
ヒーローktkr!
なるほどね〜
楽しみに待ってたかいがありました!
121名無し草:2006/12/06(水) 07:07:47
>>118
氏ね
折角続き考えてたのに
122名無し草:2006/12/06(水) 08:22:14
工エエェェ(´Д`)ェェエエ工
123名無し草:2006/12/06(水) 10:24:40
>>118
お、待ってました!
124名無し草:2006/12/06(水) 18:50:59
一つ聞いてみたいんだけれど、完全に細かいプロットまで出来上がってるのに
書く気力が出ない場合ってどうしてる?
理性とモチベーションは違うんですよねえ・・・。
いつでも書くと思うなよ!ともう一人の自分が言ってる(爆)
125名無し草:2006/12/06(水) 20:29:22
にほんごでおけ
126名無し草:2006/12/06(水) 21:11:00
気力が無かったら書かないかなぁ。
気分がのってる時に書いたほうがスラスラいけるし、出来もいい気がする。
そういう自分も充電中だ…。
127名無し草:2006/12/06(水) 21:47:52
書き手さん達も大変なんだな。
ゆっくり充電してくれヾ(´・ω・`)
128名無し草:2006/12/06(水) 22:43:18
気力を奮い起こす努力はするけど
本当に書けないときは無理矢理書こうとしても書けないから難しい。
産みの苦しみというものだな・・・
129 ◆1ugJis83q2 :2006/12/07(木) 01:06:27
ラー、エレキ、アンガ山根編の続き。


静寂がその場を支配していた。
沈黙に空気はよどんでいたが、空はどこまでも濃く澄み渡っていた。
山根も今立も片桐も無言だった。しかし三者の無言はそれぞれ別種のものだった。
山根は、親友を失った今立に掛ける言葉を見失い、
今立は片桐の死を飲み込もうとして黙り込み、
片桐は死の静寂に包まれていた。
木々の間を空気が縫うように動く。風などその程度のものだった。山根は額が汗ばむのを感じた。
そして、どんなに気温が上がっても、もう片桐が汗をかくことはないのだと思った。
「行こう」
今立はしっかりした声で、山根に告げる。
昔より肉のついた背中は、ピンと伸びている。
「ここにずっといたら、片桐との約束を果たせなくなる」
今立は山根を振り返る。
その瞳の中には強い意志と、そして深い悲しみがあった。
「だから、海まで行こう」
大きなものを飲み込んで、腹の奥に落ち着けた今立の、先ほどまでとは全く違う表情に山根はただ、
「はい」
と答えることしか出来なかった。
130 ◆1ugJis83q2 :2006/12/07(木) 01:07:09
小林は森の中を歩いている。
歩いていると言うよりは、何かに無理矢理歩かされているようだった。
深い草むらの茂る森の中、足を引きずりながら小林は進んだ。進んだ先に何があるのかはわからない。
(片桐に見せたいものがある。何故さっき言わなかったんだろう。こんなことになるとは思ってなかったのに。
 全てもう決まっているんだ。後はお前に見せるだけなんだ。俺に資格はなくてもお前にはあるから)
彼の頭の大部分は片桐に話しそびれたあることに支配されている。
それがなければ小林は先ほどの中田たちとの会合の時点で、発狂していたはずだ。
小林のほとんど壊れた精神立った一本の柱が支えている。
そして、狂気に充ちた血走った目には草むらの上を動く沢山の足がうつる。
逃げ惑う怯えた足、へたり込む女の足、獲物を追う足、力尽きてくずおれる足、虚ろに歩く足、横たわり動かない足、足足足。
人間の足は最後までこの世に残っているのだろうかと、小林は特に恐怖を感じることもなく思う。
足の動きには、人間の断末魔がある。死の直前の、限りない不安と恐れの記憶。
この島はこの二日間だけで、どれだけそれを見てきたのだろうか。
突然、木の密度が薄くなり、視界が開ける。人の手のはいらない、自然の道が目の前に現れる。
天道虫が草の先端から赤い羽根を広げて飛び立つ。
小林の脳に、ある日の思い出がフラッシュバックする。

長い長いオフロードコース、あたりに人家はない。
夕方、大学からは、だらだらと居残る学生の大きな笑い声が聞こえる時間だ。
だが、片桐と小林の耳にそれは聞こえない。すさまじいエンジン音、舞い上がる土煙。
『賢太郎降ろして!!降ろして!!』
『全然聞こえませーん』
小林は片桐の悲鳴を無視し、車のスピードを上げる。
片桐の声は車の天井から聞こえる。坊主頭がルーフに必死にしがみ付いている。
金髪の小林は、上機嫌に車をドリフトさせる。
『ぎゃあああ!!ちょっとやめてお願い降ろしてやめて賢太郎!!!!』
片桐の脳裏に死と言う文字が浮び、一層声を張り上げて泣き叫ぶ。
やがて車は急ブレーキの音と共に止まる。
片桐は思い切り前につんのめるが最後の力で必死に踏ん張り、なんとか落ちる事だけは免れた。
131 ◆1ugJis83q2 :2006/12/07(木) 01:08:03
『し、死ぬかと思った…』
屋根から下りた片桐のひざは恐怖でがくがくと震える。
小林はそんな片桐を見て、大笑いをする…。

限りない閑寂の中、黒髪の小林は一人、虚ろな瞳で歩いていく。
一番自由で、一番馬鹿で、一番無敵感にあふれていた時代を心に思い描きながら。
(片桐を驚かせるのは楽しいんだ)
誕生日のサプライズプレゼント、ラジオに予告なしの生電話。片桐はそのたびに律儀に驚いた。
だから、きっと今回の知らせにも彼は驚いていくれるだろう。
驚いてもらわなければ困るとも小林は思う。それが、この戦場に唯一残された日常なのだから。
小林はデイパックに入れておいた、紙の束を心に描く。
新妻に渡されたコントもなくさないようにしまって置かなくてはと考え、すぐに忘れた。そんな余裕は心になかった。
疲れ果てた彼の心は、唯一の楽しみを常に思い描いていないと、簡単に壊れてしまうほどもろくなっている。
紙の束の表紙にはこう書いてある。
「ラーメンズ第16回公演 『TEXT』
 演出:小林賢太郎
 出演:片桐仁 小林賢太郎」


【エレキコミック 今立進
所持品:スタンガン
第一行動方針:片桐を海に運ぶ
基本行動方針:危険があったら逃げる。人は傷つけない。
最終行動方針:ゲームの終了
現在位置:森】

【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:今立の手伝い
基本行動方針:怪我をした人を助ける
最終行動方針:死は覚悟している
現在位置:森】
132 ◆1ugJis83q2 :2006/12/07(木) 01:08:48

【ラーメンズ 小林賢太郎
所持品:フェンシングの剣
第一行動方針:片桐を探す
基本行動方針:ラーメンズに帰る
最終行動方針:ラーメンズを守る
現在位置:森】

【8/16 05:45頃】
【投下番号:160】
133名無し草:2006/12/07(木) 01:23:05
ラーメンズキタ――――(・∀・)―――!!
乙です!
小林…(ノд`)
134名無し草:2006/12/07(木) 03:05:54
ラーメンズ編キタコレ!
小林が片桐の死を知ったらどうなるんだ…。
ていうか、学生時代の小林酷ぇw
135名無し草:2006/12/07(木) 07:00:00
>>132
メ欄キモス
136名無し草:2006/12/07(木) 07:03:37
うめえー!!乙!
小林の行動方針が切ない…
137名無し草:2006/12/07(木) 08:22:20
乙!
ちょwww そのエピソードが出てくるなんてwww
138名無し草:2006/12/07(木) 11:11:33
ラーヲタうざ
139名無し草:2006/12/07(木) 14:05:35
禿同。ヲタ臭強すぎ
140名無し草:2006/12/07(木) 15:04:09
うっせ
141名無し草:2006/12/07(木) 15:47:45
142名無し草:2006/12/07(木) 16:07:23
ダークサイド安部なつみ朝帰り【心の闇】
143名無し草:2006/12/07(木) 16:07:58
誤爆した。すまん。
144名無し草:2006/12/07(木) 16:28:15
都合悪い事があると、すぐ自演って決め付けるよな
145名無し草:2006/12/07(木) 16:59:16
146名無し草:2006/12/07(木) 17:20:46
ラーヲタうざ
147名無し草:2006/12/07(木) 18:30:20
どーでもいい
148名無し草:2006/12/07(木) 19:07:41
149名無し草:2006/12/07(木) 19:16:11
新作乙!作者のラーメンズに対する愛がひしひしと伝わってくる良作でした
そして小林にブチ殺されそうなエレキが心配

>>147
メ欄kimosu
150名無し草:2006/12/07(木) 19:19:25
ラーヲタデシャバリスギ
151名無し草:2006/12/07(木) 19:59:36
ヲタの一言で何でも否定できると思ってる奴がここにも
そういうのは元々荒らしだろうし、書き手さん気にせず頑張って下さい
152名無し草:2006/12/07(木) 20:16:02
意味不
153名無し草:2006/12/07(木) 20:25:58
メ欄がどーのこーの言ってる奴って、わざわざ1つ1つメ欄チェックしてんの?
154名無し草:2006/12/07(木) 20:33:04
2chブラウザ使ってたらチェックしなくてもメ欄見える。
155名無し草:2006/12/07(木) 20:40:42
携帯からだけどチェックしなくてもメ欄見えてるお
156名無し草:2006/12/07(木) 20:57:27
>>152
151は『“ヲタ”扱いすれば、どんな意見も否定〜』の意味だとオモ
157名無し草:2006/12/07(木) 21:06:21
今のつぶやきの状態なのですが、
・8/15 17:25 森の中(F-6)解放
・デイパックなしの手ぶら
・背中の左寄りにボーガンの刺さった痕、大量出血
・背中よりの左わき腹にプラスドライバー(柄が緑)が刺さっている
・上は白いシャツ
・中川を尾行し、心中を謀った
・藤森の首を絞め、逆に刺された
このぐらいの表現をしています。
恐怖から独りよがりになり、精神錯乱状態という具合です。
お願いします。
158名無し草:2006/12/07(木) 21:14:06
したらばでやれ。
159名無し草:2006/12/07(木) 21:18:04
>>158
したらばのコピペ
160名無し草:2006/12/07(木) 21:19:52
え?
161名無し草:2006/12/07(木) 21:23:28
担当して書いてるってことは、
その芸人のヲタ(までいかなくてもファン)ってことだし
細かい描写やコンビ間のエピを挟みたくなるんだよなぁ
でもそれってうざく感じたり、一人よがりに見えるのだろうか?
もっと一般的イメージを先行させておいて「実は…」って書き方がいいかなぁ
162名無し草:2006/12/07(木) 21:26:53
>>160
したらばをコピペしてるバカ荒らしがいるって事
>>157>>161にしたらばのコピペだし
163名無し草:2006/12/07(木) 21:53:57
だから何?
164名無し草:2006/12/08(金) 07:47:43
無視しろってことだよ
165名無し草:2006/12/08(金) 11:02:03
あっそ
166名無し草:2006/12/08(金) 14:49:39
はいはい
167名無し草:2006/12/08(金) 18:20:51
168名無し草:2006/12/08(金) 21:41:00
えーと、過去ログのミラーと関連サイト全て発掘してきましたー。よろしかったら
参考にしてくださいませ。あと次スレのテンプレにも。

お笑いバトルロワイヤル
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1009/10099/1009967966.html
お笑いバトルロワイヤル vol.2
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1011/10111/1011108578.html
お笑いバトルロワイアル vol.3
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1011/10116/1011624868.html
お笑いバトルロワイヤル〜vol.4〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1016703885
お笑いバトルロワイヤル〜vol.5〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1020393595
お笑いバトルロワイアル〜vol.7〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1043249595
お笑いバトルロワイアル〜vol.8〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1069244110
お笑いバトルロワイアル〜vol.9〜
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1095/1095916149.html
お笑いバトルロワイアル〜No.10〜
http://makimo.to/cgi-bin/dat2html/dat2html.cgi?tv7/2/geinin/1114308019/
お笑いバトルロワイアル〜VOL.11〜
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1155/1155627128.html
169名無し草:2006/12/08(金) 21:44:02
続きです。にしても一通り読んでみたけど、フォークダンスde成子坂の村田さんが
ホントに死んじゃうとはね…。

お笑いバトルロワイアル2006
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1157/1157112615.html
お笑いバトルロワイアル2006VOL.2
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1157/1157808776.html
お笑いロワイアル 2006VOL.3
http://makimo.to/2ch/aa5_nanmin/1159/1159607069.html

お笑いバトルロワイヤル感想・要望スレッド
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1011/10111/1011122064.html
お笑いバトルロワイヤル感想・要望スレッド2
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1011833052
お笑いバトルロワイヤル感想・要望スレッド3
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1018708636

まとめサイト及び関連スレ
http://www16.atwiki.jp/br_laugh/
http://obr2ine.fc2web.com/index.html
http://www11.atwiki.jp/row/
http://www.geocities.jp/geinin_battle/
170名無し草:2006/12/08(金) 21:44:44
あと、結末として予想されるのはこんなもん?

・相討ちや大量殺戮が重なり、全員シボンヌ。
・最後の1人が生き残るものの、主催者側の策謀に引っかかり、結果的にこいつもシボンヌ。
・最後の1人が「死んでいった者たちの無念を思い知れ!」と特攻をかけ、主催者もろとも自爆。
 (応用例として、特攻失敗…犬死に・成功…生還)
・主催者側に普通に表彰され、そのまま生還。
・打倒主催者勢力が結集。バトロワを中止し、殴り込みをかける。途中犠牲者は出るものの、
 複数の人間が生還を果たす。

こんな所かな。一番下の結末がグッドエンドといえるか。
171名無し草:2006/12/09(土) 00:34:53
すいません訂正版です(^ ^;)。テンプレにはこっちを使ってください。

お笑いバトルロワイヤル
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1009/10099/1009967966.html
お笑いバトルロワイヤル vol.2
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1011/10111/1011108578.html
お笑いバトルロワイアル vol.3
http://tv.2ch.net/geinin/kako/1011/10116/1011624868.html
お笑いバトルロワイヤル〜vol.4〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1016703885
お笑いバトルロワイヤル〜vol.5〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1020393595
お笑いバトルロワイアル〜vol.7〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1043249595
お笑いバトルロワイアル〜vol.8〜
http://pantomime.jspeed.jp/test/read.cgi?bbs=monament&key=1069244110
お笑いバトルロワイアル〜vol.9〜
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1095/1095916149.html
お笑いバトルロワイアル〜No.10〜
http://makimo.to/cgi-bin/dat2html/dat2html.cgi?http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1114308019/
お笑いバトルロワイアル〜VOL.11〜
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1155/1155627128.html

お笑いバトルロワイアル2006
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1157/1157112615.html
お笑いバトルロワイアル2006VOL.2
http://makimo.to/2ch/tv7_geinin/1157/1157808776.html
お笑いロワイアル 2006VOL.3
http://makimo.to/2ch/aa5_nanmin/1159/1159607069.html
172名無し草:2006/12/09(土) 00:40:13
173 ◆1ugJis83q2 :2006/12/09(土) 01:29:27
>>129-131

【8月16日 05:45】→【8月16日 05:35】
に変更します。
174 ◆hfikNix9Dk :2006/12/09(土) 01:57:07
ダブルブッキング編続き

ダブルブッキングの2人は、そのままその夜を川の辺で過ごした。
1日溜め込んだ疲労のせいで、どちらも知らない内に
かなり早い時間から眠りについていた。
恐らく翌日以降、戦いはより激しさを増す。
そうなれば例え夜であっても、安心して休むことなどできないだろう。
それを惜しむように、蒸し暑い屋外であるというのに
2人は深く深く眠った。

翌朝。強い日差しが瞼に刺さり、川元は目を覚ました。
そして隣で眠っている、ともすればいつまでも眠っていそうな相方を、揺さぶって無理矢理起こす。
寝起きの辛そうな顔を見ると、昨日の彼の苦労が思われて少し気の毒にもなるが、
いつまでものんびりしているわけにもいかない。
他の芸人も恐らく朝から動き出すだろう。いつ何時敵がやって来るか判らない。

川の水で申し訳程度に顔や手足を洗って、
ほとんど手をつけていなかった水と食料で朝食をとる。
これがBRの中でさえなかったら、ピクニックみたいで楽しいのにな、と
黒田はまだぼんやりとした頭で場違いなことを考えるのだった。
175 ◆hfikNix9Dk :2006/12/09(土) 01:58:01
静かな流れを眺めながら、川元がこれからのことについて話を切り出した。
「…今日から、どういう風に行動していきましょうか」
「え、って、昨日できるだけ生き残ろう、って言ってたじゃん」
相変わらずズレたことを言う黒田に、川元は面倒臭げに溜め息をついた。
「そうですけど、具体的な行動の方針です。だから、生き残るためには一体どうしますか?って。
隠れたり逃げたりして、とにかく戦いを避けるって手もあるでしょうし、
敵として向かってくる人とは戦う、というのもある。…あとは、……」
「……誰彼構わず、他の人を殺すとか…?」
黒田の声のトーンが落ちる。口に出すだけでも恐ろしい選択肢。
生き残るため―即ち、本気で優勝を狙いに行くのならば、有効な手段かもしれない。
しかし…

異様な殺気を放ちながら川元に狙いをつける磯山の後姿が
やけに鮮明にフラッシュバックした。

「…流石に、そんなことはする気にはなれませんね」
眉間に皺を寄せて考え込む黒田をなだめるように言葉を返した。
「―とにかく身を守るためには、何にしろ多少戦いも覚悟しなきゃいけませんね、…多分」
無理に話をまとめるように、そして自分自身に言い聞かせるかのように、
川元は静かに呟いた。
川の音だけが、平和そうに流れていく。
176 ◆hfikNix9Dk :2006/12/09(土) 01:59:04
「…そう言えば、ぶんちゃんの支給された武器って何だったんすか」
黒田は忘れていたことをふと思い出す。
川元の武器は、未だにデイパックに眠ったままだった。
朝食のための食料も磯山から奪った方から取り出していたために、まだ未開封のデイパックが1つ転がっている。
「ああ、そう言えば…」
無意識の内に、殺人の道具が入っているかもしれないことが何だか空恐ろしく、
中身を見るのを躊躇し避けてきたのだった。しかしもうそうも言っていられない。
すぐにデイパックを引っくり返して、中身を全部草の上に広げた。

出てきたのは全身真っ黒な、1丁の拳銃だった。
黒田のそれとそっくりな、掌に収まるサイズの小型拳銃。
―しかし、それにしてはやけに軽い。

「……これ、リレーとかで使うやつだ…」
眉元を顰めて川元は呟く。
「マジ?」黒田はその手元を覗き込んだ。
プラスチック製の、よく見ればあまりに簡易な造型。
一緒に入っていた、紙雷管が入っているのであろう小さな箱には運動会の絵まで描かれている。
177 ◆hfikNix9Dk :2006/12/09(土) 02:00:22
「スターターってやつだ。昔体育の授業で使ったな〜」
懐かしげにそれらを眺める黒田とは対照的に、川元はすっかり落胆している。
「…せいぜい使えたとして威嚇程度、と言ったところでしょうね」
「ま〜流石に、2人揃って大当たり、と言うわけにはいかないよ」
「…分かってはいましたけど、できたらもっといいものが欲しかったですね」
口から溜め息ばかりが漏れる。
黒田には命を助けられておいて、自分はその相手を守ることもできないということが
川元にはもどかしくてたまらなかった。―当然、口には出さないけれど。

「大丈夫ですよ!俺の拳銃があるんだし、とりあえずは何とかなりますって。
心配しなくても、頑張ってぶんちゃんも自分の身も守るようにしますから、ね!」
川元の背を叩きながら、黒田は極無邪気な口調で言い放った。
へらっとした笑顔からは、自身の発言に疑念を1つも持っていないことが察せられた。
余りにも適当な態度に川元は呆れながらも、
この期に及んでも屈託なくいられる相方を、妙に羨ましく思った。


【ダブルブッキング 黒田俊幸】
所持品:自動拳銃(ワルサーPPK)
第一行動方針:相方と身を守りあう
基本行動方針:とにかく生き残る
最終行動方針:未定

【ダブルブッキング 川元文太】
所持品:眼鏡、陸上競技用スターター、紙雷管
第一行動方針:相方と身を守りあう
基本行動方針:できるだけ生き残る
最終行動方針:未定

【現在位置:川辺(F5)】
【8/16 6:00】
【投下番号:161】
178名無し草:2006/12/09(土) 10:40:02
パペマペ…
書き手さんの状態が分からないから、催促するのも良くないと思うんだけど
大好きだったから続きが読みたいなあ。
179名無し草:2006/12/09(土) 13:00:08
禿同。続き読みたい
180名無し草:2006/12/09(土) 14:25:56
気長に待ってろ。いちいちウザイ
181名無し草:2006/12/09(土) 15:19:19
コピペにいちいち反応すんなバカ
182名無し草:2006/12/09(土) 16:00:16
お前もな
183名無し草:2006/12/09(土) 19:38:58
ループ&ループ
184名無し草:2006/12/09(土) 20:13:44
なんかカコ(・∀・)イイ!
185名無し草:2006/12/09(土) 20:14:13
何が?
186名無し草:2006/12/09(土) 22:25:37
>>183
アジカン
187名無し草:2006/12/10(日) 07:35:24
だから何?
188名無し草:2006/12/10(日) 10:36:51
スルーしろって事だろ
189名無し草:2006/12/10(日) 12:46:43
(^ヮ^)はい!
190名無し草:2006/12/10(日) 15:11:17
('A`)
191名無し草:2006/12/10(日) 17:00:07
無駄レスするな
192名無し草:2006/12/10(日) 18:27:27
以下ループ&ループ
193 ◆AX43sysEck :2006/12/10(日) 19:01:22
パペマペ書き手です。
ちょっとオフラインで色々あったので短い+遅くなりましたが、投下します。


 ゆっくりと開けたドアの向こうは、薄暗い玄関だった。
電気がついていないことと、人の気配がしないこと以外は、全くもって普通の家だ。
パペットマペットは、ほっと胸を撫で下ろした。
開けた瞬間に罠か何かが作動してナイフが飛んでくるとか、狂った叫び声をあげながら
誰かが襲い掛かってくるとか、そんな事態だって起こり得たのだから。
先客がいなかったのは、ラッキーだったのだろう。

「おじゃまします…」

 ついそう言いながら靴を脱ごうとした自分に気付き、パペットマペットは苦笑した。
おじゃまします、も何もないだろう。
住民もいなければ先客もいないのだから。…多分、いないのだから。


 …あー…緊張するねー、かえるくん…。武器持ってるとはいえ、凄く不安だよ。
 そうだね。ホラーゲームなんかだと、ゾンビが部屋の中からぞろぞろ現れる頃合だしね。
 ……どうしてそう、怖いことばかり言うかなー…。
194 ◆AX43sysEck :2006/12/10(日) 19:02:27
 頭の中でうしとかえるがそんな会話をしていたが、パペットマペットは気にしないことにした。
ゾンビ?ははは、そんなもの出てくるわけないじゃないか。

 ここは、現実だ。
現実に、ゾンビはいない。
現実にいるのは、……いるのは?


 パペットマペットは、ゆっくりと、左手に持ったままの草刈鎌に視線を移した。


 いるのは、そうだ。
生きている、生身の人間。
それを殺してでも生きながらえてやろうと思っている、自分。
殺し、殺され、ゾンビのようになっていく、生身の人間。

 …ゾンビのようになるのか?自分も。


「それは嫌…かな」

 ぽつりと呟くと、薄暗い部屋の中へと、彼は足を進めた。



【パペットマペット
所持品:マペット2体(うし、かえる)、草刈鎌
基本行動方針:生き残る。ただし、積極的なプログラムへの参加はしない。襲われたら反撃をし、後は隠れたり威嚇のみ。
第一行動方針:民家に隠れる。
最終行動方針:生き残る。
現在位置:I-6 民家の中】
【8/15 16:05】
195 ◆AX43sysEck :2006/12/10(日) 19:04:12
投下番号忘れてたorz

【投下番号:162】
196名無し草:2006/12/10(日) 19:52:30
多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」を
勝手にイメージソングにしてしまう。
そういうの書き手さんにもあるんだろうか?
197名無し草:2006/12/10(日) 20:30:19
あ〜、それ何となく解る。
198名無し草:2006/12/10(日) 20:34:59
パペマペ編キタ(゚∀゚)ッ!!
続き楽しみにしてます
199名無し草:2006/12/10(日) 20:39:46
乙!ギリギリだったな
200名無し草:2006/12/10(日) 21:00:10
誰かの願いが〜、ってどんな歌だっけ?
201名無し草:2006/12/10(日) 22:29:42
流れ読まずに質問。
この芸人とこの芸人が絡んでほしい!っていうのある?
自分はラーメンズ小林とプラン久馬。
202名無し草:2006/12/10(日) 22:36:28
空気嫁
203名無し草:2006/12/10(日) 22:39:57
煽りはともかく雑談はこの過疎っぷりだし良いと思うけど
でもラーとプランの書き手はお互い書けるほど知識ないんでは?
204名無し草:2006/12/10(日) 22:48:59
空気嫁
205名無し草:2006/12/10(日) 22:57:06
中田と藤森
206名無し草:2006/12/10(日) 23:34:33
パペマペ編乙!
すごい、文章に引き込まれる…
207名無し草:2006/12/11(月) 16:02:46

208名無し草:2006/12/11(月) 16:02:53
(´ρ`)
209名無し草:2006/12/11(月) 18:10:50
210名無し草:2006/12/12(火) 03:36:11
(*○ж,○)
211名無し草:2006/12/12(火) 12:36:22
352:名無しさん :2006/09/03(日) 22:42:47 [sage]
投下したければすればいいよ
その代わり下手だったらボッコボコに叩かれた上になかったことにされるから
そのつもりでどうぞ
212名無し草:2006/12/12(火) 15:11:21
ナツカシス
213名無し草:2006/12/12(火) 16:30:07
毎日毎日保守ありがとう
214名無し草:2006/12/12(火) 16:35:08
>>213
215名無し草:2006/12/13(水) 09:32:03
今年中には完結しなくね?無理矢理終わらすの?
216名無し草:2006/12/13(水) 11:20:55
うん。その予定。
217名無し草:2006/12/13(水) 12:09:48
今年中に終わらせる決まりってあったっけ?
自分書き手だけど、どう考えても終わりそうにない…
218名無し草:2006/12/13(水) 12:14:48
え、どこで決まったんだ?
219名無し草:2006/12/13(水) 12:32:42
年内に終わらせるなんて決まりは無いでしょ
終わらせたい人はいるみたいだけど
220名無し草:2006/12/13(水) 13:46:26
無理に年内で終らせようとして中途半端な終わり方する位なら
来年・再来年に食い込んでもいいから、
最後まできっちり良いものを書いて欲しい

書き手さん頑張って下さいね
221名無し草:2006/12/13(水) 13:46:49
時間なんかどうでもいいからちゃんとした形で終わらせてほしい。
222名無し草:2006/12/13(水) 14:17:04
そんな事言ってたら、いつまでたっても終わらない
223名無し草:2006/12/13(水) 14:56:34
無理に終らせる必要も無い
224名無し草:2006/12/13(水) 14:58:54
まあ、書き手はゆっくり頑張れってことだ。
225名無し草:2006/12/13(水) 16:27:17
gdgdになりそうな悪寒
226名無し草:2006/12/13(水) 16:34:18
そう思うなら貴方も書いてくださいよ!
227名無し草:2006/12/13(水) 17:20:38
何を?
228名無し草:2006/12/13(水) 18:25:52
書き手は終わらせる気あるの?
229名無し草:2006/12/13(水) 20:04:21
ないです(きっぱり)
230名無し草:2006/12/13(水) 21:15:48
自分はわりと投下してる方だけど、軽く見積もっても
まだ全体の十分の一位しか進んでない。
終わらせるには来年いっぱいは掛かりそうだ。
231名無し草:2006/12/13(水) 21:22:03
早く読めるなら読みたいけど、焦って中身のないもの出されても意味ないし
楽しみにさせて貰ってるから待つよ
232名無し草:2006/12/13(水) 21:32:47
最終的には誰か1人が優勝するの?
233名無し草:2006/12/13(水) 21:37:23
>>220-221 それ言うなら2002年版の方もどーなるのやら…。
あっちの方もちゃんとケリつけてほしいんだが。
234名無し草:2006/12/13(水) 22:08:46
2003〜2005のスレって何で無いの?
235名無し草:2006/12/13(水) 22:40:32
2002から引き続いていたからだろう、多分
236名無し草:2006/12/15(金) 14:43:08
保守
237名無し草:2006/12/15(金) 18:18:28
投下待ち上げ
238名無し草:2006/12/15(金) 22:39:50
上げんな
239名無し草:2006/12/16(土) 21:38:45
こういうのは可ですか?「ある風景」てタイトルで一つ。

この島で命の奪い合いというゲームが始まって、どれくらい経っただろうか。
島の至る所に転がる屍の数々。屍の数はすなわち、これまで奪われた命の数である。
一面の血の海に横たわる、首のない死体や腹から腸や内臓がはみ出した死体。
爆発に巻き込まれたのか、五体バラバラになった死体。
焼き殺されたと思われる、黒焦げの死体。もがき苦しんだ痕跡も垣間見える。
硫酸か何かを浴びたらしい、ぐずぐずに溶け崩れた「おおむね人型」の物体。
その全てが、つい先日まで人間として生きていた者たちである。

これまで、この島でどれだけの屍の山が築かれてきたのか…。
これから先、この島でどれだけの屍の山が築かれるのか…。
そしてこの凄惨な殺し合いの果てには何が待っているのか…。
それは誰にもわからない―。
240名無し草:2006/12/16(土) 21:43:10
241名無し草:2006/12/17(日) 01:03:43
あと少ししたら冬休みに入る人も多そうだけど、投下増えるかな?
自分は出来るだけ増やそうと思うけれど
どうせ暇人さ…
242731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/17(日) 01:54:50
麒麟川島編です。精神分裂。


川島は森の中に落ちていた石に躓いて膝をついた。
しゃがみ込んでようやく呼吸が荒い事に気づく。
森の中にいる事はわかったが、何故森の中にいるのかがわからない。
それ程、彼は無我夢中で走っていたのだ。

「何処やここ・・・・しんど・・・・・」

場所の確認をしようと、デイパックの中のレーダーを探す。
だが、見つからない。当然だ、自分が放り投げてきたのだから。

「うーわ、最悪やぁ・・・・」

ようやく川島は走り出す前の自分の行動を思い出した。
あの放送で本坊の死を知った自分は、殺意に身を任せてここまで来てしまったのだ。
・・・・・"あの声"の言いなりになって。


あー・・・・、ほんま最悪や俺。
あれの思い通りにはならへんて、昨日思ったばっかりやのに。
相方ほっぽって出てきてしもた。なにしてんねん・・・・

川島は太陽を見上げて、自嘲気味に笑った。
照りつける日差しが鬱陶しかった。
243731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/17(日) 01:56:00

怒りに支配されていた感覚が、徐々に正常に戻っていく。
だらだら流れる汗も、それによって生じる喉の渇きも、
汗がべとつく不快感も今になってやっと気付いた。
全ての感覚が戻った後、川島は自分の心の中に空洞があるのを感じた。


本坊を失った事による喪失感である事は、すぐにわかった。


ダン   
 ダ ン   
       ダ ン  ッ  
                ダ   ン   ッ  !!!!

あの時の無機質な銃弾の音が、本坊の命を奪ったのか。
自分は、どうしてそばにいてやれなかったのか。
正義感の強い相方も一緒にいれば、止めてやれたのかもしれないのに。
そうだ、自分は相方を見捨ててきてしまった。
戻ろう、相方のところへ。きっと心配して待っている。


「「 心配せんでも、田村やったら大丈夫やって。レーダーあるんやろ? 」」
244731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/17(日) 01:57:11

聞きなれた声だった。
あの脳を掻き回される様な不快な声ではない、懐かしい声。
それはすぐ後ろから聞こえて、川島はすぐに振り返った。

「本坊・・・・・・・」
いる筈のない親友の姿がそこにあった。
屈託のない笑顔は、いつもと変わらなかった。
いつもと違うのは、体に刻まれた数発の弾痕。

「「 久しぶり、会いたかったげ?  」」
驚きに再び膝をついた川島に視線を合わせ、本坊は笑う。
「本坊、ごめん!助けられんくて・・・・・ごめん・・・・」
笑顔から目を背け、川島は土下座しようとした。
「「 ええんよ、そんなんせんといて。僕は自分の好きなようにしただけやし。」」
「でも・・・・・っ・・・」
「「 うわ今の顔めっちゃ不細工やん。ホンマに男前2位? 」」
人が真剣に謝っているのにこれだ。
だが、川島の怒りの感情は先程の暴走で麻痺しているせいか、
怒りよりも先に何故か笑いが込み上げてきた。
本坊の方も、泣きながら笑う川島の顔が可笑しいのか、つられて笑い出した。

ひとしきり笑った後、本坊が呟いた。
「「 ・・・・・・ほな行こか、あの人のとこ。 」」
「あの人?・・・・ビートたけしの事?」
「「 うん、川島はあの人殺そう思てんのやろ? 」」
胸の弾痕を撫でながら、本坊が言う。
「・・・・・そうや、お前を殺したんやもん。安心し、ちゃんと仇は討つ。」
「「 ありがとう、川島。」」
245731 ◆p8HfIT7pnU :2006/12/17(日) 01:59:24
「いやあぁあああああぁぁあっ!!」

女性の悲鳴。
心なしか、この声も聞いた事があるような気がする。
川島は・・・・いや、川島と本坊は声のする方へ向かった。

「本坊」
「「 何?」」
「ありがとう、お前のおかげでいつもの自分取り戻せた。」
「「 ・・・・・僕のおかげやないよ、きっと。 」」


今の川島は知らない事だが、本坊は生存している。
従って、川島の傍らにいるのは本坊ではない。
彼は川島が自分の心の空洞を埋める為に作り出した幻なのである。
親友の死を受け止められないが故の現実逃避だった。


川島が傍らの親友を、自分に都合のいい幻だったと気付くのはこの後の話である。
その後に、彼の精神が残酷なかたちで崩壊してしまう事を
今はまだ、誰も知る由もなかった。


【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:ビートたけしの殺害
第一行動方針:学校へ向かう
第二行動方針:考えられない
最終行動方針:考えられない】
【現在位置:G-6 】
【8/16 07:15】
【投下番号:163】
246名無し草:2006/12/17(日) 05:58:14
久々の投下で麒麟編ktkr!!!
書き手乙!
247名無し草:2006/12/18(月) 00:56:08

続きがめっちゃ気になる!
248名無し草:2006/12/18(月) 16:12:24

 _  _
(●) (●)
   00
     )
  ̄Ш ̄

 ゴクッ…
249名無し草:2006/12/19(火) 10:29:21

今後が気になる
250名無し草:2006/12/19(火) 15:06:38
>>37-44の続き
さまぁ〜ず編の挿入で、光浦です。




「あ、あ、あ…!」

黒ぶち眼鏡の男が銃をかまえている。怯えていたせいかその銃口は下げられていた。
光浦靖子は自分を撃った男の顔をまじまじと見る。流れ出す鮮血を適当に拭いとりながら。
そうやって手で血液を拭いとることが逆に、自分の顔面を赤く染めあげていくとも知らずに。

こめかみから頬のあたりまで流れ、こびりついた血液で、光浦は顔の左半分を真っ赤に染めていた。
夜中に村上が引っぱった髪はぼさぼさに乱れていたし、ところどころかたまって抜けている。
引っ掻かれた右頬も、光浦は気づいていなかったが、細長い傷をつけられていた。
小さくひびの入った眼鏡のレンズが血に濡れており、曲がったまま鼻の上に乗っている。
そのうえ土で汚れた服は袖から破れてたれさがり、もはや元の形状も残さない。
光浦の姿はすでに、人間というよりは何か悪鬼の類のように思われた。
それがゆらりと静かに立ち上がったのだから、男が怯えたのも無理はない。

しかし、光浦自身は自らの姿の凄惨さなど知らなかった。ここには鏡もなければ水面もない。
林の木々の葉を通して弱められた曇天の陽光に、血染めの女がぼんやりと妖しく浮かび上がるだけだ。

「人の顔見て叫ぶってひどくなーい? 勝手に撃っといてさー」

251114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/19(火) 15:07:18
そう言った光浦の声に男はびくりと一瞬反応したが、返答はしなかった。
いや、返答などできる状態ではなかったというのが正しいだろう。男は小刻みに震えていた。
この夏のさなかに寒いわけもない、どう見ても恐怖に侵されてとり乱している。
そんな男のほうへと光浦は一歩一歩歩んでいく。男が逆にズサ、と後ずさりした。

「何で逃げんのー?」

もう一度声をかけたものの、反応はない。まったくもって腹が立つ、勝手に撃って勝手に怯えるなんて。
曲がった眼鏡のレンズ越しに、男を睨む。自分の顔を見て叫び声をあげた失礼な男の顔には見覚えがあった。

…むこうだって見覚えがあるはずなのにひどい話。つかあたしのほうが芸歴長くね?まあそれはいいけどさ。
お前が撃ったから血まみれなんだって。でなきゃ叫ばれるほどにはひどい面してないし。

頭の中でぼやきながら、光浦はまた距離をつめる。それに反応した男は、また僅かに後ずさった。
黒ぶち眼鏡のこの男は、いつもカメラの前で人のよさそうな笑みを浮かべていたはずだ。
すすんで人殺しになりそうにも思えなかったが、怯えかたを見れば発砲した理由は何となくわかる。
別に殺したかったんじゃない。ただ、殺される前に先手を打とうとしただけなんだろう。
だから背中から撃ったんだ。誰だかわかる前に、相手に自分が撃ったと知られないように。
きっと一発で殺せると思ってたんだろう。残念ながらはずしてしまったわけだけど。

「ねぇ…」

252114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/19(火) 15:08:01
ふたたび男に声をかけようと光浦が口を開いた瞬間、男はもう一度銃を撃った。
ズガァン、と銃声が響く。だが、その銃口は下を向いたままで、むなしく地面の土をえぐっていた。
震える男はもはや、自分がどこにむけて銃を撃っているのかすらわかっていない。
恐れのあまりとにかく引き金を引いただけなのだろう。目も焦点が合っていないようだった。

あーあ。光浦は溜息を一つつく。もうコレ何言っても聞いてもらえないかもしんない。やだねえ。
また殺さなきゃいけないのかな。もう村上ひとりで十分だって思ってたのに。
何でだろうね、人殺してまで生き残るのってめんどくさいけど、ただ殺されんのも嫌だ。
結構わがままな自分に気づいたわ、こんな状況で。とりあえずできるだけ殺す方向で行こう。

明確な殺意を持って光浦は男に近づいていく。不思議なことに、銃を恐ろしいとは思わなかった。
男の震える手では、きっと照準をあわせることなどできないに違いない。
それに、何にせよ光浦は距離をつめなければならないのだ。延長コードは近づかねば使えない。
鉄パイプはまだ村上の横に転がっていたが、それを拾いに行けば男に背中をむけることになる。
後ろから背中を撃たれるのだけは嫌だ、と光浦は思う。逃げてもいないのに背中を撃たれるのは嫌。
それくらいだったら正面から撃たれるほうがまだマシだ。カッコ悪くないから。

腹をくくった光浦はまっすぐに相手にむかっていく。その迷いのない姿は逆に男をさらに怯えさせた。
無理もない。血まみれの恐ろしい姿の女が、銃を持った自分にじりじりと近づいてくるのだ。
男は目に涙を浮かべていた。銃を持ち上げようとするが、半分硬直した腕ではそれもままならない。
がくがくと奇妙なほどに上下に動いているその銃口を見て光浦は、なぜか笑った。
真っ赤な顔面に、緩やかな弧を描いて裂け目ができる。もはやそれは笑顔と呼べるものではなかった。
253114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/19(火) 15:08:45

なんか変なの。コイツあたしのことこわがってんだ。立派な武器持ってんのにさー。
銃と延長コードなんてホントは勝負になんないはずじゃん。なのに今怯えてんのは銃持ってるあんただ。

光浦は唇を奇妙に歪ませながら、男の右肩に左手をのばす。地面に押し倒すために。
その左手はこめかみから吹き出た血を拭ったせいで、赤く染め上げられていた。

「ヒッ、血…!」

男は喉から絞り出したような声でつぶやいて、光浦の手をおかしな体勢で避ける。
そのはずみで男の指がトリガーを引いた。ズガァン、と三発めの銃声が林の中に響く。
飛び出した銃弾は光浦の左脇腹を擦っていったが、不思議と光浦は痛みを感じていなかった。
何かが擦っていった感覚と、一瞬の熱さはあったけれど、痛みなどそこには存在しない。
光浦は興奮していた。殺意にまみれた興奮。光浦を腹の底から湧き出るようなおかしさが襲う。

「…あはは」

不思議なほど感情のない笑い声が唇からこぼれ落ちて、自分でも気味が悪いと思った。
何だろう。おかしいのにちゃんと笑えない。感情と行動がずれてる。変なの。

「あはは、血だってー」

まるで下手な役者のように、光浦は笑った。蒼白な顔で、血まみれの自分の左手を避けた男を。
血。血液。真っ赤な。何が怖いんだろう。あたしは毎月流してる。子供産む予定もないのに。
今だって流してる。無駄な血を。子宮から。血なんて怖がってたら女やってらんないよ。
254114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/19(火) 15:09:47

「あははは」

ぽつりと林の中に落ちた、たった四つの音。空気の中に呑み込めない塊のように沈む。
もうそれは笑いではなく、ただの音だ。悲しいほど無意味に響く、ただの音。
男は、その音を打ち抜くようにトリガーを引いた。むなしく弾丸は光浦の耳の横を飛んでいく。
擦りもせずに、遠くへと飛んでゆく四発めの弾丸。そしてドサリと男が地面に倒れる。
光浦の血まみれの左手が男の右肩を突き飛ばしていた。したたかに腰を打って、男は一瞬動きを止める。
何か地面にあった土くれのようなものに身体が半分、おかしな形でのしかかっていた。

「ばいばい、大木」

ひどく不自然な体勢のまま、ビビる大木は、自分の名前が意味のないただの記号として呼ばれたのを感じた。
背筋を何か冷たいものが走っていく。とっさにトリガーを引こうとして、初めて気づいた。
自分の右手の中にあるべきものがない。銃がない。大木は慌てて逃げようと、地面に左手をつく。
…いや、つこうとした。だがその手は地面ではなく、何が芯のあるぐにゃりとしたものに触れる。
手のひらにぬめる感触。嫌な予感。何か絶対に触ってはいけないものを触った気がした。
意を決して大木は目を動かす。向けた視線の先には人の顔があった。丸く青くふくれた村上の顔が。
大木の左手の下に、鼻があった。大木が手に力をこめたせいでそれはぐにゃりと曲がっている。
その鼻からの流血の痕をとどめたままに赤黒い血液は乾き、細かな粉になって大木の手を汚していた。
255114 ◆4kk7S4ZGb. :2006/12/19(火) 15:10:47

「あ、あ、あああ」

大木の喉は痙攣するように、意味のない音を絞り出す。そしてその喉は静かに絞めあげられていく。
村上の死体の上に乗り上げたままだった大木の身体は、ズルリと地面に滑り落ちる。
光浦は大木の腰の上あたりにドカリと座り込んでその首をコードでギリギリと絞め続けていた。
裂けたこめかみからはまだ鮮血が流れ落ちていて、大木の顔の上にボタボタと垂れてくる。
その滴りのぬめぬめとした生暖かさが余計に気持ち悪くて、大木は泣きそうになった。
だが、あまりの恐ろしさにもはや声も出ない。喉からはヒュウヒュウと空気の音がする。

身体の上で血まみれの女が僅かに身じろぐ。その動きにつられて、女の眼鏡がずるりと落ちた。
カシャン。血の絡まったそれは大木自身がかけていた眼鏡に当たって、地面に滑り落ちる。
大木の眼鏡のレンズに、赤い血が細い線を描いた。それが大木の中の何かをブツリと切る。
光浦の体の下で、大木は足を無理矢理ふりあげた。膝頭が光浦の背中にガツリガツリと当たる。
だがそれはさほどのダメージを光浦に与えることなく、大木の体力を奪うだけの結果となった。
必死にのばした右手で光浦の髪を力任せに引っぱり、左手で首にくい込むコードを掻きむしる。
光浦の首は大木の必死の抵抗に限界まで反り返った。光浦は、ぐ、が、と気味の悪い音を喉から発する。

しかし、それでも光浦は手を緩めなかった。首の骨の軋みすら、今は関係ない。
ただひたすらに黒い延長コードを両手で引っぱり、絞め続ける。先に行動に出たぶん、光浦に分があった。
次第に大木の手からは力が抜けていく。ズルリと右腕が光浦の背中をすべる。ついに大木は動きを止めた。
256名無し草:2006/12/19(火) 16:02:05
キモ
257名無し草:2006/12/19(火) 16:13:13
テス
258代理:2006/12/19(火) 17:31:32
>>255続き

完全なる絶命だった。口から涎と泡を吹き出し、白目をむいて、青くふくれた顔。
そこにあったのは、すぐ近くにあった村上の死体そっくりの、もう一体の死体にすぎない。

大木は最期まで、自分にのしかかり首を絞めたのが誰なのかわからずに逝った。
いや、わかってはいたのだ。頭のどこかでは認識していた。だが、無意識にその認識を拒否した。
自分にのしかかる血まみれの女が誰かなど、大木は知りたくなかったのだ。これは化け物で、人間ではない。
きっと大木はそう思っていたかったのだろう。死人に口無し、真相は尋ねようにも尋ねられないが。

大木を殺害した血まみれの化け物、光浦靖子は、もう一度ふらふらと立ち上がった。
結局また殺してしまった、手のひらが痛いな。血が出たかも。そんなことをぼんやりと思いながら。
殺意を孕んだ興奮から抜けた意識はまた、おかしな具合に醒めてしまって冷静になる。

…そして歩き出そうとした光浦は数秒後、バババババ、という連続した銃声を、左耳で聞いた。

左半身に強烈な衝撃と熱を感じた光浦はそれでも、最後の力をふりしぼって弾の来たほうをふりむく。
まるで人形の首に無理に力を加えて回したように、ギ、ギ、ギ、とぎこちない動きで首が左を向いた。
眼鏡を失い弱まった視力を補うように細められた光浦の目は、最期の瞬間、自分を撃った者の顔を映す。
259代理:2006/12/19(火) 17:32:20
…ああ、アイツはきっと最初から見てた。この下らない闘いに勝ったほうを殺す気だったんだ。
せっかくもう一人殺したのに、横から出てきたやつに撃たれるなんて何て滑稽な。

「つ、ち…、」

光浦はゴフッ、と大量の血を吐き、倒れた。身体は丁度、死んだ村上の顔を隠すように折り重なる。
自分を殺した者の名前。光浦靖子はそれを回らない舌で呟き、濁り血走った目で睨みつけたまま、逝った。




【ビビる大木 死亡】
【光浦靖子 死亡】
【土田晃之】
所持品:MP7 A1(31/40)、控え弾丸(40)、剃刀の刃×5、食料と水3人分
第一行動方針:光浦の殺害(遂行済)
基本行動方針:できるだけ殺して、できるだけ武器をかき集める
最終行動方針:優勝を狙う
現在位置:学校の周りの林(G6)
【8/16 12:22】
【投下番号:164】
260ゅり:2006/12/19(火) 18:47:15
まとめのほうは更新しないの??
261名無し草:2006/12/19(火) 19:30:02
光浦編、乙です!
すげ、壮絶……!
262名無し草:2006/12/19(火) 19:58:55
乙!!!!
土田が殺るとは…
263名無し草:2006/12/20(水) 23:38:25
乙です
光浦はもう少し生き残ると思ってたから意外だった。
土田の今後の動きが楽しみ
264名無し草:2006/12/21(木) 12:09:49
中島_| ̄|○
265名無し草:2006/12/21(木) 17:19:31
ご冥福をお祈り致します…
266名無し草:2006/12/21(木) 19:15:55
え?何かあったの?
267名無し草:2006/12/21(木) 20:28:49
>266
お笑い、カンニングの中島忠幸さん死去 2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/geinin/1166625376/

始めは釣りかと思っていたが…orz
268名無し草:2006/12/21(木) 20:49:23
工エエェェ(´Д`)ェェエエ工
269名無し草:2006/12/22(金) 17:21:43
>>267
釣り乙
270名無し草:2006/12/22(金) 17:26:53
>>269
釣り乙
271名無し草:2006/12/22(金) 21:36:47
>>269
おまえはニュースも見ないのか
272名無し草:2006/12/22(金) 21:38:20
>>271
m9(^Д^)プギャー
273名無し草:2006/12/23(土) 00:49:27
↑何こいつ
274名無し草:2006/12/23(土) 09:19:01
ほっとけ。
275名無し草:2006/12/23(土) 09:58:25
>>273何こいつ
276名無し草:2006/12/23(土) 10:54:06
はじめまして☆
実は、キングコング編を書こうと思っているのですが、
どうしたらいいか勝手が分からず相談しに来ました。
今まで読む側だったのですが、小説を読むうちに
『私も書いてみたいな』と強く思うようになりました。
何か、アドバイスなどありましたらよろしくお願いいたします。
277名無し草:2006/12/23(土) 11:57:10
キンコンの評判を落とそうとしてる人キター
278名無し草:2006/12/23(土) 12:04:43
新参イラネ
279名無し草:2006/12/23(土) 13:00:21
>>276
またしたらばからコピペか。
新参の書き手が増えるのはいい傾向だと思うが。
280名無し草:2006/12/23(土) 13:07:00
>>279
コピペコピペうるせーよ
だから何なんだよ
281名無し草:2006/12/23(土) 13:48:51
どうせ誰かが276を叩くのを期待してたんだろ
282名無し草:2006/12/23(土) 14:35:19
はいはい^^
283名無し草:2006/12/23(土) 19:15:21
すみません。
思い直して、生半可な気持ちではいけないと思ったので
書くのをやめようと思いました。
もうしわけございません。
284名無し草:2006/12/23(土) 19:17:06
>>276の文を書いた者ですが
すみません。
あれから考え直して、取りやめることにしました。
申し訳ございません。
これからも一読者として応援します。
それから、この文を張った方
勝手にこういうことをしないで下さい。
こちらの方が良いのであれば、
そう言ってくれた方が良かったです。

それでは、駄文失礼しました。
285名無し草:2006/12/23(土) 19:51:43
>>284の文を書いた者ですが
すみません。
あれから考え直して、やはり書くことにしました。
申し訳ございません。
これから書き手として頑張ります。
それでは、駄文失礼しました。
286名無し草:2006/12/23(土) 20:41:06
ウザ
287名無し草:2006/12/23(土) 23:18:19
>>284
書くなら書く!やめるならやめる!そんなの自分自身で決めることだからここにいちいち書かなくていいよ。
…書くなら頑張れ!
288名無し草:2006/12/23(土) 23:32:30
書いてもいいが頼むから話を腐女子臭くしないでくれよ。
289名無し草:2006/12/24(日) 09:05:12
腐女子臭くなるよ絶対
290名無し草:2006/12/24(日) 11:23:52
薄暗い小さな納屋の中で、一人の男が縮こまっていた。
線の細い身体はがたがたと震え、俯いた顔は涙と鼻水の乾いた跡で汚れている。
片方の腕で体育座りの膝を抱え、もう片方の手では彼の武器である手斧の柄を固く固く握りしめていた。
もうそろそろ2時間この体勢でいるので、じっとりと汗ばんだ手のひらはもう強張って開かなくなっているが、彼自身はそれにも気づかない。
ハマカーン・神田伸一郎は、ただひたすらに怯えていた。
生来おとなしい彼はこのプログラムに到底向いているとはいえない。
ましてや彼の武器は、刃を含めた長さが30センチほどの手斧1本であった。
これがもっと優れた武器―たとえば銃―であれば、
彼はこのゲームの重圧に負け自分を無くして、ひたすらに狩ろうとする殺人者となっていたかもしれない。
逆にこれがもっとどうしようもない武器―たとえばハリセン―であったなら、
彼はその絶望で自暴自棄となり、ただ狩られるだけの獲物となっていたかもしれない。
どちらでもなかったことはたしかに彼の不幸だったが、また同時に幸運とも言えた。
今や彼を繋ぎとめているのは、理性ではなくただひたすらに恐怖であったのだ。これで人を殺すのが怖い。
遠くからの1発で済む銃と違い、リーチの短い手斧で武器を持った人間を仕留めるには、
よほどの奇襲をかけるか、あるいは血みどろの戦いをしなくてはならない。
たとえ相手が丸腰でも、死ぬ気で反撃されたら神田には確実に勝てる自信はなかった。
しかも相手を殺すその一瞬には生々しい手ごたえがあり、噴き出す大量の血液や、
吐き気を催すような人体の切断面を目にせざるをえない。
291名無し草:2006/12/24(日) 11:25:51
そしてそれだけではなく、もはや彼はこのプログラムの中のすべてが怖かった。
殺すのが怖い。殺されるのが怖い。知らない芸人に襲われるのが怖い。知り合いの芸人が豹変するのが怖い。食料の少なさが怖い。首輪の爆発が怖い。
もはや神田の全身は恐怖に支配され、学校を出てからひたすら全速力で走って
たまたま目についたこの納屋に飛び込んでからというもの、彼は全く動いていなかった。
抑えようとしてもどうしようもない全身の震えを除けば。
神田とて、このプログラムの中でこんな状態でいることがどれほど危険であるかは分かっていた。
支給された武器が使えないものなら、誰かを殺して奪うしかない。
誰かを殺すのが嫌なら、自分が死ぬしかない。
はじめの1日2日はまだ隠れていられようとも、人数が減れば減るほど危険は増す。
それでも今、まだ誰の死体も、何の戦闘も見ていない状態では、彼は決断することができなかった。
殺るか、殺られるかを。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
動いていないのに、極度の緊張から荒くなる呼吸を必死に落ち着かせようとする神田の耳に、
しかしそのとき小さな音が聞こえた。
がさり。
茂みの揺れる音だった。
神田の心臓は一気に跳ねた。
一度きりの風のいたずらであってくれ、あるいはそのまま遠ざかっていってくれ、という願いも虚しく、
がさごそという音は明らかに近づいてきている。もちろん害意のない芸人の場合もあるのだが、
怯えきっている頭にはその可能性は浮かばなかった。
納屋の扉につっぱり棒の一本もしておかなかったことを後悔しながら、神田は目を瞑った。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!俺は殺したくない!死にたくない!だから来るな!
292名無し草:2006/12/24(日) 11:28:35
神田の祈りは天に通じなかった。ひときわ大きく、がさりという音のあとに、軽い調子の声が響いた。
「誰かおる?」
知らない声だった。とりあえずわりと若いということと、関西のイントネーションは聞き取れたが、
今のひとことだけではたとえ知り合いだとしても個人の特定どころか、数人に絞り込むことさえ難しい。
「なあ、ほんま誰かおらんの?おーい!誰でもええから」
神田はそんなことは有り得ないと知りつつも、あまりにもうるさすぎる心臓の音が
外に聞こえてしまうのではないかと恐れながら、ひたすらに息を殺した。
相手は自分の存在に気づいていない。このままじっとしていればそのうちに立ち去るだろう、という
甘い期待の一拍後。
「俺はりあるキッズの長田融希や」
外の相手が名乗ったことに、神田は少し驚いた。姿の見えない敵に、身元を晒してどうするのだ。
そんな彼の動揺に関わりなく、長田と名乗った外の声は続ける。
「危害は加えるつもりあらへんよ、だってそやろ?政府の奴らの思惑に乗ってどうすんねん」
外の声の響きは軽く、陽気だった。神田は頑張って長田の顔を脳裏に浮かべようとしたが、
年齢的には若手でも芸暦はもうけっこうなこの世界の先輩らしい、ということしか
いまいち思い出せなかった。そもそも神田たちは東京、相手は大阪の漫才師で、
一度も絡んだことがないのだから当然と言えば当然の話であるが。
293名無し草:2006/12/24(日) 11:30:15
「俺は人を探しとるんや、相方を。背ぇ高いメガネ見んかった?安田っていうねんけど」
バトルロワイアル中とは思えないような声をかけてくる外の声に、神田の警戒は少しずつ、
ほんの少しずつ緩みはじめていた。それはとても馬鹿げたことだが、なかなかに育ちのいい彼は
人を疑うことがいささか苦手である。なおかつこのプログラムが始まってからというもの、
一度も他人と接していなかった神田は、先程まであれだけ他人を恐れていたにもかかわらず、
人の声が聞けることがほんの少し嬉しかったのだ。
もちろん神田でも1度死体か戦闘を見てさえいたら、ここで長田を信じたりなどしなかったに違いない。
しかし彼はずっとこの納屋に閉じこもっていたために、必要以上の恐怖を感じていたわりにまだ、
今の状況に対する現実認識がかなり欠如していた。
神田はちらりと思ってしまった。
昨日まで普通に暮らしていた人間が、いくらバトルロワイアルだからといって、
そう簡単に人殺しができるわけがない、と。
「もう正直この際、誰でもええわ。俺と一緒に行動してくれんか?俺けっこういい武器持っとるで」
沈黙。
その中で神田はひたすらに悩んでいた。
全然知らない人間を、しかもこの異常な状況の中で信用なんてできるか!と叫ぶ自分と、
今ここで立ち上がらなかったらいつ俺はこの納屋から出られるんだ!と問う自分。
頭の中で2人の自分が怒鳴り合っている。
「…何や、結局誰もおらんやないか。俺アホか」
最後のひとことは今までよりいくらか小さな呟きで、それをしまいにきびすを返して
立ち去ろうとしたらしい長田の背中に、思わず神田は立ち上がって、納屋の格子窓越しに
声をかけてしまっていた。
「あの、」
294名無し草:2006/12/24(日) 11:31:27
長田は素早く振り向いた。その速さに神田は一瞬びくりと反応したものの、
その顔に笑みが浮かんでいることに気づいて再びいくらか警戒を解いた。
久しぶりに声を発した口の中はからからに乾いていて、同じく久しぶりに動かした身体はひどく痛んだ。
特に腰が。
「兄ちゃん、初めからおったなら早よ声かけてやー」
明らかに自分より若い相手に、すいませんとなぜか謝ろうとして、神田はぴたりと動きを止めた。
長田の右手には何か、黒光りするものが握られていたから。
「あの…それ」
おそるおそる、ぎこちない動きで神田はそれを指差した。
信じられないほど静かな3秒が流れ、そして。
「ああ、スマンスマン、俺の武器当たりやったんよ」
明るくそう言って、長田が銃をその場に放り出したその瞬間、神田は彼を完全に信用してしまった。
「こない物騒なもん持っとったら、そりゃ兄ちゃん出てこられへんなあ。でも、まあもう捨てたし、
こっち来てもええんちゃう?」
「…拾って撃つかもしれないだろ」
「なら俺かて兄ちゃんにその隙間から撃たれるかもしれんやん」
「俺は銃なんか持ってない」
「そんなん嘘かもしれん。つーかさっきも言ったやん、俺戦う気ないねん」
交渉ともいえないような杜撰な会話であったが、
その間に神田はもう納屋から出て行く決意を固めていた。
295名無し草:2006/12/24(日) 11:32:58
あの人は普通の人だ。俺を殺したりしない。銃だって護身用に持ってただけだ。
神田はいったんこうと思うとなかなかそれを曲げない性質である。
このときも長田を安全な人間と判断する根拠は何一つなかったにもかかわらず、
彼のその性格が悪いほうに働いてしまった。
それでもやはりいくぶんおそるおそる、神田は納屋の戸をくぐった。
長田は相変わらず、笑いながらこちらを見ている。
そちらに向けて1歩を踏み出そうとしたとき、長田が口を開いた。
「なあ、自分名前何て言うん?知らん顔やなあ」
「…ハマカーンの神田伸一郎…です」
自分よりだいぶ若い相手にそれはどうなのだろう、と一瞬迷いつつも結局敬語で返した神田に、
長田はにやりと笑ってこう言った。
「そうか…ほな神田ぁ、」
「ちょっと死んでくれや」
そこからのすべてはスローモーションのように見えた。
足元の銃に手を伸ばす長田。その心底嬉しそうに笑った顔。ゆっくり自分に向けて上がってくる銃口。
奇襲をかける意志も度胸もまるでなかったけれど、ただお守りのように背中に隠して持っていた手斧は
この距離ではあまりに無力で。投げようかとも思ったがどう考えても弾丸のほうが速い、と
一瞬で理解する。何て自分は馬鹿なんだろう。逃げられない。逃げられない。逃げられない。
父さん母さん姉さん先立つ不幸をお許しください、と最後に考えて、耐えられず目を瞑ったとき。
予想よりも大きな、何かの爆ぜる音がした。
しかし想像していたような熱い痛みは襲ってこなくて、代わりにまぶたに走ったのは強い閃光。
そして叫び声。
「神田さん!」
同時に誰かに腕を掴まれて、神田は目を瞑ったまま否応なしに走り出していた。
296名無し草:2006/12/24(日) 11:46:06
コピペ乙
297名無し草:2006/12/24(日) 11:51:08
スルーしろ、いい加減うざい
298名無し草:2006/12/24(日) 12:06:44
コピペコピペうるせーよ
299名無し草:2006/12/27(水) 16:28:27
保守
300 ◆1ugJis83q2 :2006/12/28(木) 23:41:17
ラー、エレキ、アンガいきます。

今立と山根は無言である。今立の背に負われている片桐と同じくらいに。
草に覆われた地面が彼らの体力を吸い取り、足取りは次第に重くなる。
「お前肥ったなぁ…重いぞ」
その言葉に答える声はなく、うつむいた2人はただ、海を目指す。

小林は足から地面に崩れた。
極度の疲労とストレスが、彼の力を奪い去っていた。
彼は開けた1本の道を見つめる。その先にあるものを渇望して。
小林の手が地面を掴む。武器である剣を地面に立て、彼はまた立ち上がる。
そして、その剣にすがって彼は歩き出す。その背中はゆっくりであるが確実に前に進んでいる。

早朝だというのに、日は燦燦とした光を万物の上に注いでいる。
今、日本は夏休みだ。枕もとにラジオ体操のスタンプカードをおいた少年は、まだ夢の中で駆けずり回り、
誰よりも早く目覚めた祖父が、和室で老眼鏡の目を細めながら新聞を読んでいる。
蝉は恋人を求めて腹を震わせ、どこかの病院で赤ん坊が産声を上げる。
「夏生まれは汗疹で大変よ」
などと言いながら、それでも嬉しくて仕方がないといった顔で初孫を抱く祖母は、幸せに充ちて空を見上げる。
初めての海外旅行に行く学生は、胸を躍らせて空港へ急ぎ。
飛行機は小さな島を気にもかけずに飛び去っていく。
今日はそんな日なのだ。
301 ◆1ugJis83q2 :2006/12/28(木) 23:42:08
小さな飛行機が頭上を通り過ぎたことを、今立も山根も知らない。
どこかに飛び去ってしまえるものなら飛び去ってしまいたいが、それが叶わないことを彼らはよく知っている。
この島で、どんな未来を描くことが出来るというのか。
飛び去った先に待ち受けるものは、すなわち死である。ここでもがいて手に入れるものも同じ死である。
ただ、彼らは死刑に臨んだ囚人のように、死の直前での恩赦の希望を捨てきれないだけだ。
もしかしたら、上層部が何らかの外部圧力によって駆逐されるかもしれない。
もしかしたら、誰かがクーデターに成功するかもしれない。
そんな現実離れした希望にすがって生きていることの空しさに、彼らはまだ気づけていない。
一歩一歩朝日の中を、苦行僧のように重く歩いていく。
「今立さん」
山根が低く呟く。
「小林さんに今会ったら…どうなりますか?」
「…わからない」
後ろからついていっている山根に、今立の表情は見えない。
「でも、よくないことが必ず起こる」
それきり、2人は何も喋らなかった。

小林は時計を見る。6時まであと5分。もうすぐ放送が入るころかと、彼は他人事のように思う。
唯一彼の頭を悩ますのは、その放送が寝不足の頭に暴力的な刺激を与えること。それだけだ。
「ん…?」
小林の右側で、何かが動く音がする。そこまで遠くはない。聞き取れなかったが、話し声も聞こえた。
(人か!)
思わず小林は剣を構え、そしてまだ生き延びたいという欲の残る自分を意外に思う。
道が曲がっているのだろうか。人の気配は少しずつ近づいてくるようだ。
(もしかしたら木々の間から見えるかもしれない)
息を殺し、小林は注意深く相手を見定めようとする。だが、その作業は一瞬でよかった。
負われている人間が、あまりにも特徴的であった。
「仁!」
先ほどまでの殺気はどこかに捨て、小林は張りのある声で相方の名を呼ぶ。
(警戒することなんてなかった。相手は片桐仁じゃないか。仁がいればもう大丈夫じゃないか)
「賢太郎…!」
片桐を負っているのが今立だと気づいたのも、更に小林を安心させた。
302 ◆1ugJis83q2 :2006/12/28(木) 23:42:41
何故そこまで親しくない山根が傍らにいるのかという、当たり前の疑問も払拭させるほどに。
「なんだぁ…お前たち一緒にいたのか…ああ、良かった…」
小林は憔悴しきっていて顔色も悪かったが、その目にはひとつの希望が輝いている。
相方に会えたこと、親友に会えたこと。これが彼岸から小林を引き戻し、彼の表情を柔らかなものにしている。
有頂天の小林は気づけない。今立と山根の暗い表情に。そして、なぜか片桐が身じろぎひとつしないという不自然に。
「賢太郎、あのさ…」
重い口から出た今立の声を、
『全島放送いくぞぉ。今回もいっぱい死んでおります、ハイ』
大きな放送の音がかき消した。
『じゃあ、順番に行くぞ』
次々と芸人の名前が読み上げられていく。知っている人名前もあるが、今立はそれどころではなかった。
最悪の形で、小林が片桐の死を知ってしまう。
『川島省吾…あ、ちなみにこいつ劇団ひとりだから。あとは…』
(言うな言うな言うな!!!)
今立は冷えた心臓が早鐘のように打つのを感じる。いっそそのまま止まってしまえ!とさえ思うほどに。
『片桐仁。ラーメンズ…だな。飛び道具みたいな奴だったが、本当に飛び道具で死んだね』
非情な一言が、彼らの胸に突き刺さった。
今立は小林賢太郎という存在を、視界に入れることができずに目をそらす。
山根は恐怖と不安の中、確かに小林の顔を見た。
しかし、その後何度思い出そうとしても、その時の小林の顔を思い出すことは出来なかった。
笑顔のまま固まった頬の筋肉、見開かれた目、無精髭に覆われた頤。
顔の断片は思い出すことが出来るのに、全体の表情はどうしても思い出すことが出来なかった。
303 ◆1ugJis83q2 :2006/12/28(木) 23:43:39
【エレキコミック 今立進
所持品:スタンガン
第一行動方針:片桐を海に運ぶ
基本行動方針:危険があったら逃げる。人は傷つけない。
最終行動方針:ゲームの終了
現在位置:森の終わり】

【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:今立の手伝い
基本行動方針:怪我をした人を助ける
最終行動方針:死は覚悟している
現在位置:森の終わり】

【ラーメンズ 小林賢太郎
所持品:フェンシングの剣
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:
現在位置:森の終わり】

【8/16 06:00頃】
【投下番号:165】

良いお年を。
304名無し草:2006/12/29(金) 02:40:57
腹減った〜眠い〜
305名無し草:2006/12/29(金) 13:29:54
乙!
小林どうなっちゃうんだろう…
306名無し草 :2006/12/29(金) 14:52:02
乙です。小林の心情は何というか想像もできない…。
これからどうなっていくのか気になります。
307名無し草:2006/12/29(金) 16:31:53
小林こえええええ
308名無し草:2006/12/29(金) 19:24:53
>>306コテハン
309名無し草:2006/12/29(金) 20:03:58
何かすごい所で終わってる!
続きすげぇ気になる……。
310名無し草:2006/12/30(土) 08:23:52
乙ー!
すげえきになるうううう
311名無し草:2006/12/30(土) 20:39:32
乙一
312 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:50:12
>>24-29 続き

 刹那よりも短い時間だけ行動を共にした男は、訳も無い言葉を吐いて崩れた。本来な
ら重力のまま地に伏すはずが、中田の体を支えにしてぶら下がっている。だからこそ、
崩れる、という動詞がもっとも適合した表現に思えた。
 元より無駄な行動を嫌う中田は動かない。肩に無理やり乗せられた荷物を無視して遠
くを眺める。空では太陽が出てきているにも関わらず、光はどこからも差してこなかっ
た。重たい荷物の影が邪魔している訳でもない。木々が太陽の光を遮っているわけでも
ない。しいて言うならば眼球の表面に薄い膜が這っているような不快感が原因かもしれ
ない。
 右手に握られたラドムが溶けている気がしていた。世界に負けかけている男から流れ
出てくる血液が、粘着質にへばりついているからだろう。同時に自らも溶解されるかの
ような錯覚があり、逃れるため小さく右手を引いた。凭れていた違う体が均衡を崩して
落ちる。
 鳴り響いた音は嫌に滑稽だった。鈍く、弱々しく、誰の頭にも響かない。動いていた
存在が固まりになる瞬間など有り触れていて感動を誘わないものだ。少なくとも森羅万
象ほとんどの存在が自覚している無情だった。
 しかし中田は立ち尽くした。何か大切なものを失ったかのように立ち尽くした。全て
を悟った子供に似た表情は酷く残酷で悲哀に満ちていた。目蓋も気力も薄い目を更に細
くして、降り注ぐ朝日を遠く眺めた。体も、顔ですら赤く汚す液体は、光を歓迎するか
のように明るく光っていた。倒れた男を祝福するかのように温かく包んだ。
313 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:51:10
 森が姿を取り戻していく。影に飲み込まれていた植物が形を取り戻す。ほぼ同じ時間
で、中田の黒かった服も輪郭を取り戻した。想像よりも汚れた姿は完璧には程遠く、何
よりも人間臭かった。
 中田は首を振る。すでに目的は決まっていた。自覚してはならない事項は反芻すらせ
ずに、やるべきことだけを使命のように繰り返した。ウォーハンマーの細い柄を左手で
小さく握れば、共鳴した右手が震える位の力でラドムを包んだ。戯れで、大きく両手を
開けば長く伸びる影が森に重なる。大きな影は小さな子供が恐怖する化け物に似る。
 人間以外の何かに焦がれる感情は誰にでもあるだろう。中田の場合、それが人より強
かっただけだ。例え感情を持たない無機質な物でもなり得るなら変わりたかった。誰も
知らない新しい何かへ、変化を歓迎して両手を上げても、降りてくるのは日光と鼻につ
く臭い、たまに聞こえてくる攻撃の音だけだ。
 両手が支えを失って落ちた。ぶら下がる手には二つの武器が確かに握られていた。少
し遅れて目線を落とした中田は、誰よりも太陽に歓迎されている倒れた男を見た。新し
い世界への改革を始めてから唯一行動を共に出来た存在だった。少し疲れたのか、汚れ
を気にする余裕もないまま俯せている。太陽の毛布が心地よいのだろう、寝坊しても咎
めることは出来ない。
 中田は笑うわけでもなく息を吐いた。生温い空気と合わさっているにも関わらず、額
には冷や汗が流れていた。中田自身は気づいていないが、不眠不休で動き続けた体は限
界を追い抜いている。日光を得られないような錯覚も慢性的になった眩暈が原因だった。
 もはや気力だけで立っていた。上半身は揺れるがウォーハンマーで支え、息苦しさは
違う思考で掻き消した。おのずと頭の回転は遅くなる。
314 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:52:09
 目線の端にいる男は、気持ちよさそうに眠りこけている男は。興味を持った存在だっ
たにも関わらず、最後には歯向かって倒れた。彼に関わった裁判官は誰でもない中田自
身であり、過度な判決に自覚症状も無く、遺言になった最後の言葉すら思い出せなかっ
た。けれど溶けきらない錠剤のように喉につっかえる。
 深く重要視すべきだった名前を聞いた気がしていた。おそらくそれは今の神だったの
だろう。思い出す度に霧に紛れたが良く知っている相手だった。誰よりも軽い密度を持っ
た笑顔を持った存在。
 頭に浮かんでいる存在が神であるならば。にやにや、とも言い難い、なにも気にして
いないような純粋な笑みを浮かべた存在は。世界を牛耳るには頼りなく、それこそフィ
ロソフィーやイデオロギーの欠片もない思考回路を持っているのだろう。意志の無い思
考は誰よりも幸福で一番に不幸だ。考えること自体を知らないならば生えている草木と
変わらない。
 すべてが二重に見える視界があった。瞬きをして脱出した中田は、ようやく眩暈を自
覚した。頭の中で笑う意志のない人間を浮かべたまま空を見上げた。青い水飴をぶちま
けた色が広がっているが、所々は綿菓子で装飾されている。
 意志の無い人間を思う。考えること自体を知らない存在が不幸だと言うならば、転がっ
ている石はどうなるか。やっと再確認する、思考は人間だけに許された特権である。な
らば神は人間なのか?
「間違ってはいない」
 言い聞かせるわけでもなく呟いた。次いで、俯せた男を見やった。男は深く眠る前に、
人間は神になれないとうそぶいた。間違いではなかったのだ、もとより神は人間である
なら、人間はすでに神である。だから改めて神にはなり得ない。
315 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:52:43
「ならば神とは?」
 今まで何度となく繰り返した質問だったが、自問するのは初めてだった。
「完璧な人間のことか?」
 ウォーハンマーはステッキ代わりに、汚れを知らない紳士の素振りで首を傾げる。熟
睡した男は返事をしない、当然だ、太陽の毛布はひどく心地良いから起きられないはず
だ。ならば作り遅れた夢見の話を贈ろう。興奮しすぎて目を覚ましても知らない。
 数歩体を引いた中田の視界に、眠る男の全身像が描かれた。どこかで無くした青いペ
ンキを嘆く前に口を開く。
「完璧な人間とは」
 ウォーハンマーを地面に突き刺した。ラドムはボトムスにねじ込んで、赤い右手を自
由に動かせるようにした。話を盛り上げるボディーアクションのため、世界を指示する
指揮を行うため、理由はいくらでもある。
「もとより完璧な人間など存在しない。人間に必要なものは欠陥だ、全てに愛されるた
めには欠陥が必要になる。完璧な存在に浴びせられるものは、妬み、僻み、そこに欠陥
があるからこそ許されるにも関わらず、それですら無かったら道を踏み外したサディス
トの標的、もしくはファシズムの中心にしかならない」
 一息に言いきって息を吸った。肩が大きく上がる。
「完璧な存在は認められないからだ。そしてその時点で、他の全てが完璧だとしても、
完璧はなし得ない。ならば認められない存在は何になるか。誰からも認められず、誰か
らも必要とされる存在はなんだ」
 また大きく息を吸った。同時に目を見開いた。
316 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:53:15
「空気だ」
 意識していないにも関わらず深い呼吸に変わる。二、三、繰り返してから、伏せる男
を観察した。眠っているならば、より贅沢な空気の使い方をしているのだろう。
「完璧は何よりもありふれている。人という概念から外れればどこにでも満たされてい
る。基盤が人ならば完璧にはなり得ないだろう、つまり人間は神になれない」
 眠る男を睨み付けて一転、唇の端を吊り上げる。
「お前の持論とは違う角度から見ても、人は神になれない」
 大きく息を吸った低い声で続ける。
「しかしだ」
 自由に動く右手を大きく挙げて男を覗き込んだ。
「神が完璧だと誰が決めた?」
 中田は空を仰ぎ、青を汚す雲を睨んだ。雨雲には程遠いにしても、なにもなくて当然
である空が汚されていることに腹が立った。世界で極少数、完璧であることを許されて
いる青空が崩れていることが憎らしかった。けれどすぐに自身が汚す運命にあることを
思い出して止める。
「決められていない。神が持っているのは完璧ではなく完全だ。完璧でなくとも崇高さ
れる所以は全てを受け入れる完全さを持っているからだ」
 急な動作で顔を上げた中田は両腕を大きく開く。反応した喉仏が強く盛り上がる。
「なら完全を寄越せ!」
 どこから出ているか分からない、低い唸り声を一つ落とす。野獣よりも大きく口が開く。
317 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:53:48
「全てを受け入れる完全さを寄越せ! 俺が新しい神になってやる、常に第三者として
全てを受け入れてやる」
 目を見開き機械よりも固い動作で辺りを見渡す。また空を見上げる。
「どこかから見ているのは誰だ! 俺という存在はメディアや小説の主人公として扱わ
れているのか。そうやって見ているだけなら受け入れられるだろう、例え実際に起こっ
ているとしても、一枚以上何かを隔てるだけで現実からはかけ離れるからだ! そして
お前らはそれを知ってる、世界で起こる過度なサディズムよりも、小指のささくれの方
が頭の割合を占める」
 言葉には矛盾があった。決して気づいてはいけない矛盾だった。しかし、奥底で悟っ
ていたのか、なにも見つけなかったふりをして、自らが無知であることを認める。ウォ
ーハンマーを強く握りしめた、抱くことはしないが体の大半を支えていた。
「どこかから見ている」
 上半身が揺れようとも首は上げたままだ。掠れた目で見るには広すぎる空がある。
「空気の向こう側にある、完璧の向こう側にある更に、情報世界を超えた先に」
 風が通りすぎる位の間が空いた。高く伸びる木は中田の目に入っていない、けれど森
は中田の表情を見ている。そこには誰よりも人間らしく笑う姿があった、蔑むような目
つきがあった。
318 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:54:21
「なあ神よ。いずれ成り代わる神よ」
 中田は自らの笑顔に気づかないまま続ける。
「そちら側で戦う男が飛行機で向かっているから」
 眼鏡で理知的で臆病で、すでに倒れていた男の姿を浮かべる。
「攻撃を受けて撃ち落とされておいてくれ」
 青い装飾を身にまとって飛んでいく戦友の姿が見える。
「いずれ全てが終わったら、俺の体をジェット機に変えて」
 血液で汚れた顔を伝う何かがあった。
「あんたの残骸を貫いてやるさ」
 冷汗だろうと決めつけて放っておいた。
「そして、俺を見下ろした全ての連中にツバと」
 口に笑みを浮かべたまま空を睨み付ける。
「死骸を浴びせてやりたいよ」
 動かないでいた足を前に出した。ウォーハンマーが支えを失って倒れた。与えられた
二本の足は木の根よりも確立されて、けれど雲よりもあやふやに動く。扁平足の子供よ
りは確かな足どりを高鳴らせて、開いていた両手で空気を邪険に扱った。当然、真空が
作られるでも無く空気は密度を変えない。
319 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:54:52
「最高だろ」
 一瞬だけ両手で頭を抱える。すぐに開いて上げた口元からは一筋の液体が毀れている。
遠くから近づいてくる眩暈から逃げるようにして歩くが、ウォーハンマーを中心に円を
描き続けるだけだった。削れていく雑草の色だけを確認しながら告げる。
「戦士の印もつけてある。青空よりも完璧な青で彩ってある。最高で最低だろ、保護色
で雲を隠すから」
 足の動きが止まる。故意ではない、動かなかっただけだ。けれど中田は遠いどこかへ
歩き続ける錯覚に身を任せていた、遠くより向こう側にある空に到着する予定ですら立
てていた。
「傍観している神よ」
 だから空を見上げる。
「第三者として存在する神よ」
 だから笑みを浮かべる。
「こんな話を始めて俺を出させた神よ」
 ウォーハンマーを失っていた手が支えを探した。当然見つかりはせず、知らないうち
に膝が折れた。けれど中田は進み続けている。中田だけの世界の中で、決して届かない
完璧の向こう側を目指して足を動かしている。
「落ちてくる戦士には、ざくろのように刺激的な口付けを贈ってくれ」
 操る糸が切れて体は崩れていく。
「この世界みたいに」
320 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:55:23
 誰もいなかったなら深い闇に身を任せていたのだろう。倒れかけた目線の先、ジェッ
トコースターより早い視界には確かに人の形が映し出される。無意識で動いた右手が支
えになった、切れていた操り糸が頭の天辺に繋げられる。
 刹那、上げた顔には心底楽しそうな顔が浮かんでいた。迷いをどこかに置き忘れたま
ま、口から毀れる液体は顎髭を伝った。焦点は合っていないが誰かがいるのは分かって、
確かな口調で尋ねる。
「お前が神か」
 相手はその場にへたり込んでガタガタ震えている。壊れかけたロボットでイコール神
ではない。認識した中田は落ちていたウォーハンマーを拾い上げて歩いた。上下に体を
揺らし、様々な液体を零しながら、足を前に出した。
 相手は立たないまま後ずさっている。細い髪を振り乱して、蛾眉を八の字に寄せて泣
き喚いている。酷く汚く思った中田は緩やかな動作でウォーハンマーを振り上げた。青
い空のキャンバスに鎚の黒が描かれる。
「何も聞いてない、私、だから助け」
 言葉が途切れた。女の顔は重い衝撃に耐えられなかったらしく、失敗した陶芸品より
も強く歪んだ。飛び散ったのは泥水ではなく、生きていた存在だけが垂れ流せる液体数
種類で、中田のボトムスをかすかに汚した。比例して苛立ちが募り眉間の皺も増えてい
く。
 女は既に絶命していた。にも関わらず振り落とされるウォーハンマーは本来の色を失っ
て赤く変色していった。鈍くて重い音が鳴り響こうとも、背中側で眠る男は起き上がら
ない。太陽の毛布に包まって夢ですら失っている。
321 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:55:54
 大きく息を吸った。喉仏が異様な動きをした。大きく開きすぎて歯茎すら見える口か
ら、何度も意味が無い言葉を喚き散らした。鳥は逃げただろう、人間も逃げたかもしれ
ない。無意識だが中田も自らの声から逃げるため、声で相殺しようと必死だったのだ。
 やがて声は枯れていく。声が出なくなって数秒してから動きを止める。肩で大きく息
をして、どこの誰かも分からない残骸を見下ろした。残骸に対して腹を立てていた気が
するが思い出せない。考え込もうとすれば忘れていた眩暈が戻ってきて、何度も頭を抱
える。
 ウォーハンマーを支えにして思考を続けた。頭に浮かぶ、意志の無い笑顔を保つ人間
が、少しだけ鮮明になる。女ではなかった、性別が分かっただけでも進歩だった。同時
に、答えを全て持っているはずである男を得る方法を見つけた。
 単純なことだったのだ。探すべき人が減れば減る程、意志の無い男を探す手間は省け
る。男は意志無しだから特に理由も無く動き回っているはずだ、中田はただ減らし続け
ればいい。答えを持つ意志無しを見つければいい。
 意志無しの顔は頭に浮かばなかった。軽過ぎる笑顔を持つ男、それぐらいしか情報は
無かった。減らし続ければ相違点が際だって鮮明になっていくのだろうか、曖昧な仮定
を抱えた中田は歩を進める。
 限界を越した体は不規則な足跡を残した。霞む目で見ているせいか、周囲の森が前の
めりになって襲いかかってくるようだった。錯覚には変わらないが森は中田を歓迎しな
い。これから酷く汚してしまうから当たり前だ。
 演説にもならない世迷い言を聞いた誰かはもういない。新妻がどこまで聞いていたか
も、もはや耳に入っていたかも分からない。今は息絶えていた、死亡時刻は明確には分
からなかった。
 中田が答えを得るまで後数時間。
322 ◆xCi5vGY7XY :2006/12/30(土) 23:56:31
【トップリード 新妻悠太 死亡(銃殺)】
【イー☆リャン 兼重泰子 死亡(撲殺)】
【オリエンタルラジオ 中田敦彦】
所持品:ウォーハンマー、ラドムVIS-wz1935(9/11)(自動拳銃)、ルービックキューブ
状態:疲労
第一行動方針:意志無しの正体を知る
基本行動方針:減らす
最終行動方針:神になる
【現在位置:F5・森】
【8/16 5:54】
【投下番号:166】
323名無し草:2006/12/31(日) 01:08:17
乙!!!
324名無し草:2006/12/31(日) 02:33:46
乙です!
相変わらず気持ちのいい基地外だ…!
325名無し草:2006/12/31(日) 12:05:03
ひょっとして中田編の書き手はピコラーか?
326名無し草:2006/12/31(日) 12:39:23
というかピコラーでなければこれだけ書けないような
表現、エピ諸々含めすばらしい
327名無し草:2006/12/31(日) 14:37:57
ピコラーが何かわからないからググってみたが







KOEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE
328名無し草:2006/12/31(日) 14:39:36
そっとしといてやれ
329名無し草:2006/12/31(日) 15:16:03
>>327
怖いのはピコラーじゃなく中田
330名無し草:2006/12/31(日) 17:06:47
ピコラーキモ
読む気失せた
中田編書いてる奴、もう投下すんな
331名無し草:2006/12/31(日) 17:30:13
>>330
あぼーん機能でスルーしろ

中田編の書き手さん乙
続き楽しみにしてる
332名無し草:2006/12/31(日) 18:04:50
中田編乙!
続きが気になるなぁ
来年も楽しみにしてるよ
333名無し草:2006/12/31(日) 18:24:24
>>331
あぼーん機能でスルーしろ
334名無し草:2007/01/03(水) 01:39:52
やたらこなれた文章書く奴って、普段から同人誌とかネット小説とか書いてんだろうなぁw
335名無し草:2007/01/03(水) 01:52:18
>>334
本気で作家志望も中にはいるかもしれない
自分は某作家(まあそこまで売れてないんだけど)の友人だけど、
デビュー前は小説投稿サイトにちょいちょい投下してはネ申扱いされてた
336名無し草:2007/01/03(水) 09:27:25
で?
337名無し草:2007/01/03(水) 11:55:55
も?
338名無し草:2007/01/03(水) 13:02:34
このスレの2007年用のスレ立てていい?
339名無し草:2007/01/03(水) 13:54:42
え、何で?
340名無し草:2007/01/03(水) 16:39:46
スレタイが2006年だもんな…
341名無し草:2007/01/03(水) 17:02:09
あ、なるほど。
じゃあ、このスレは糸冬了って事でFA?
342名無し草:2007/01/03(水) 18:40:57
物語の中は2006だからこのままでいいと思う。
343名無し草:2007/01/03(水) 19:08:50
え、物語の中は2006年なの?今、初めて知った
344名無し草:2007/01/03(水) 23:18:15
うわ、まだやってたんだこのスレw
腐女子ってほんと死ぬの殺すのって話が好きだよなww
345名無し草:2007/01/03(水) 23:58:10
>>344
そう言いながらもちゃんとsageてるおまいが好きだ


こんなこと言ったら次からageてくるのかなw
346名無し草:2007/01/04(木) 12:15:14
煽るな馬鹿
347名無し草:2007/01/04(木) 13:34:44
>>345も荒らしだろ
348名無し草:2007/01/04(木) 13:35:42
馬鹿が馬鹿を呼ぶこの流れwwwww
349名無し草:2007/01/04(木) 14:10:08
>>1-348=馬鹿
350名無し草:2007/01/06(土) 07:18:05
ほすあげ
351名無し草:2007/01/07(日) 21:37:45
保守
352731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 01:57:04
>>242-245の続き。死者から贈呈。


  パンッ !

アジアン馬場園梓は、この森に来てから何度目かの蚊を右手で潰した。
私物の虫除けスプレーも、時間の経過と共に汗で流れだし効力は失われつつある。
彼女はスタートからずっとこの森に身を潜めていた。運良く誰にも会わずに今に至っている。
はじめは最初の放送までいるつもりが、死亡者を聞いたら足が竦んで動けなくなってしまった。
知った芸人が幾人もいた事もそうだったが、最大の理由はその中に相方の隅田がいた事だった。

不思議と涙は出なかった。実感がないからだ。
誰かがそばにいれば、感情の共有も出来ただろうと思う。
孤独はあったが、得体の知れない恐怖がそれを凌駕した。

そのまま動く事が出来ず、気が付けば2日目の朝を迎えていた。
額にへばりついた前髪を掻き分けながら、のり塩味のポテトチップスをかじった。
スーパーのナイロン袋の中には、板チョコの空き袋が丸めて捨てられている。
彼女の支給品はフーセンガム15個、チョコプレッツェル3箱、ビスケット2袋半(1袋半摂取済)、
ポテトチップス2袋弱(うす塩、コンソメ、のり塩味。のり塩味摂取中。)、グミ5袋、
板チョコ4枚(1枚摂取済)のお菓子の詰め合わせだった。

量が多いとはいえ、貴重で限りある食料である事に変わりはない。
馬場園は1枚のポテトチップスが唾液に溶け込んで完全に液体化しても、
ぼんやりと考え事をしたままで飲み込むのを忘れていた。
353731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 01:57:58

よくいじめられっこの子が言うあれみたいや。
かくれんぼしてて上手く隠れすぎて、友達みんなに忘れられるっていうあれ。
ほんまはみんなもう家に帰ってしもてて、あの放送はだーれもいいひん部屋に
あらかじめ録音したテープが流れてるだけやねん。もしかしたらエリア毎に
ドッキリのプラカード持ったADさんとかが待機してたりとかしてんのかな?
うーわ、そんなんなったらうちいつもよりめっちゃブサイクやん。
隅ちゃんも撮られたやろし、今のうちにドッキリの人さがそか・・・・・・・・


  ザ  ッ   。


馬場園のそのダラダラした思考は1つの足音で霧散した。
プログラム開始の瞬間から、簡単に予想出来ても、考えたくなかった自分の死。
背後の人物が出来るだけ早く終わらせてくれる事を願いながら、
馬場園はポテトチップスと完全に同化した固唾を飲み込んだ。


「・・・・・・馬場ちゃん?」

聞き覚えのある声に一瞬安心したが、すぐに恐怖に凍りついた。
聞こえる筈のない声だったからだ。
聞き間違いかと思って振り返るが、やはりそうではなかった。

「あーーー!やっぱり馬場ちゃんやん!!」
「ぼ、坊ちゃん・・・・・?」
354731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 01:59:33
声の主はソラシド本坊元児。
敵意も殺意も全く感じない。完全に普段通り。
異常なのはたったひとつ。彼がもうこの世にいる人間ではないという事。

「僕ラッキーやなぁ、会う人会う人baseの人ばっかりやし!」
この時自分がどんな表情でどんな事を考えていたのか、馬場園は思い出せない。
おそらく、この状況を現実と認めたくなかったのだろうという事はぼんやりとわかる。
気が付くと本坊は話しかけるのを止めて、馬場園の顔を覗き込んでいた。

「・・・・・・・ひっ!」
「ちょっと、馬場ちゃん聞いてんの?」

2,3センチ先に本坊の顔が迫っていた。
本坊の手が自分の両頬に添えられている。感覚はあった。
だが、それ以上に不快な臭いが鼻を突いた。両手に何かがこびり付いていた。
「坊ちゃん・・・・何か鉄くさいねんけど」
「あれ?何かいっぱい血ついてんねな。まぁしゃあないけど。」
「しゃあないって・・・・・・何?」
「えー?だって・・・・


 ”さっきまで死んだ人と一緒やったし 。」”


・・・・・・・・・・・・・え?

「よかったわ、死んだ人にいっぱい会う事が出来たし。」
「何言って・・・・・・・」
「みんな苦しかったと思う。やりたい事がいっぱいあってまだ死にたくない、って
 顔がぐちゃぐちゃになったりしててもなんとなくわかった。」
本坊の様子は寂しげで消え入りそうに見えた。いつもの馬場園なら、
その本坊を構ってやるのだが、今はじりじりと後ずさりしていた。
355731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 02:00:26
「かわいそうやなって、そう思った。
 でも、納得いかんかったのはあんなんしたんも同じ芸人やって事やねん。
 みんなみんな、人殺しなんてしたくない筈やのに、誰にも誰かを不幸にしていい筈ないのに!」
本坊の声はどんどん涙声になっていった。馬場園にいつもの感情が戻りつつあった。
「殺した人もかわいそう、殺された人はもっとかわいそうなんや。
 殺された人は暗い場所で、今もずっと寂しい思いをしてはる。


・・・・・・・・・やったら、みんなで迎えに行こう? 」


馬場園は本坊の肩に差し伸べた右手をピタッと止めた。
泣いているから肩が上下していると思って見ていたが、さっきとは揺れ方が違う。
本坊は笑っていた。下を向いてうずくまる様に体を曲げて、急に反りかえったと思うと
空を見て声を上げて笑い出した。

「あっはははははははははは!!
 僕アホやなぁ!こんな簡単な事、なんでわからへんかったんやろねぇ?
 かわいそうな子を慰めにいったげる、お母さんの心理?
 あぁ、こういうのって女性の馬場ちゃんの方がわかるんかな??」

「へっ・・・・・、うち!?」
馬場園が思わず自分の方に指差した右手の腕を本坊は乱暴に掴んだ。
握り締めた手に付着した血液は、馬場園の右手にも染みた。
356731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 02:01:40
「いった・・・・・・」
「僕が泣いてた時、馬場ちゃん慰めてくれた事あるやんな?
 あん時僕ほんまにうれしかって、馬場ちゃんの事好きになりかけてんよ。
 あの気持ち、死んだ人にもわかる筈やと思う。
 
 だから馬場ちゃん、一緒にいこ?

 その方がみんな喜ばはるし、ね?

 子供みたいに、手ぇつないで・・・・・・・

 ふふ・・・・あはははははははははははははははははははははは 」


「・・・・・・・いややっ!!」
徐々に近づいてきた本坊の顔が鼻息が感じられる距離まで迫ったその瞬間、
馬場園は力いっぱい本坊を突き飛ばした。
本坊は勢いよく吹っ飛ばされ、派手に尻餅をついた。

「あいててて・・・・・」
馬場園ははっと我に還った。
「ぼ、坊ちゃん・・・・・大丈夫?」

 カ ラン ッ 。

何かが本坊のデイパックからこぼれ落ちた。
本坊はあったあった、と嬉しそうに言ってそれを拾い上げると、
「はい」と馬場園の両手に差し出した。コスメセットの様だった。
357731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 02:03:01
「これ、お化粧セット。僕使わへんから、馬場ちゃんにあげるね。」
「あ、ありがとう・・・・」


”「それなぁ、死んだ隅ちゃんに使うたやつやねん。」”



喉がひくっと鳴ったのがわかった。

「いやあぁあああああぁぁあっ!!」
悲鳴を上げながら、馬場園はコスメセットを本坊に向かって投げつけた。
クレンジングオイルの瓶が顔に直撃した本坊がうずくまってる間に、馬場園は
振り返らずに走った。デイパックの中のお菓子がバキバキと割れる音がした。

うずくまった本坊は、下に散らばったコスメセットを見て困惑した。
「ええ〜・・・・馬場ちゃん喜ぶと思たのにぃ。」
うずたかい積み木をおもちゃ箱に直す子供の様に、本坊は化粧道具を片付けた。
ほぼ全てを回収し、10メートル程先にアイブロウのケースを発見した。
宝探しのゲームを楽しんでいる気分の本坊は、笑顔で駆け寄った。

   パ キ ッ !

アイブロウのケースは、踏まれて蓋のガラスにひびを作った。
宝探しの宝を潰された本坊は、その人物を眉間に皺を寄せて見上げた。

「・・・・・・・・川島?」

彼の親友、麒麟川島明は驚愕の表情で固まっていた。
358731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 02:03:36
アジアン  馬場園 梓
所持品:お菓子の詰め合わせ、生理用品(私物)
基本行動方針:生存最優先
第一行動方針:本坊から逃亡
第二行動方針:不明
最終行動方針:不明】

【ソラシド 本坊 元児
所持品:コンビニコスメセット
基本行動方針:水口を守る
第一行動方針:水口を捜す
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】

【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:ビートたけしの殺害
第一行動方針:学校へ向かう
第二行動方針:考えられない
最終行動方針:考えられない】

【現在位置:G-6】
【8/16 08:43】
【投下番号:167】
359731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 02:11:34
追加事項。
馬場園の所持品に「虫除けスプレー(私物)」追加で。
360731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/08(月) 02:23:26
時間変更。
正しくは【8/16 09:13】です。
361名無し草:2007/01/08(月) 07:56:22

362名無し草:2007/01/08(月) 11:47:12
乙です!
ついに二人が会ったか
続きwktk
363 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:08:41
フット後藤編続き投下します。


なんでや…なんでこんな事になってんのや…
呼吸が次第に荒くなっていく。
体は地面に縫い付けられたように倒れたまま動こうとしない。
腹部には焼けるような熱い痛み。
自分の側にいる男が傷つけたものだ。
その男はゴソゴソと俺のデイパックを漁っている。

「この武器、宍戸梅軒のと同じ奴ちゃいますか?すごいもん当たりましたね小藪さん」
ジャラジャラという音を立て取り出されたのは自分の武器であった鎖鎌。
「ご・・・・とぉ・・・お前っ」
声帯さえも力をなくしたのか声が異様に掠れている。
呼びかけた男、フットボールアワー後藤はこの場にそぐわない笑みを浮かべていた。
「これと食料貰って行きます…もう必要ないですよね?」
残酷な死の宣言。
今更言われなくてもわかっている。
自分が死ぬのは時間の問題だろう。
何故こんなことになったか?
脳内にこの場面に至るまでの事が蘇ったのは走馬灯だったのかもしれない。
364 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:10:09
吉本新喜劇座長、小藪千豊は病院の中にいた。
電気が通っていないのは承知していたが、明かりのない建物というのは不気味な感がある。
それが夜の病院というなら尚更だ。
だが、その不気味さと相成って薬品類などほとんど必要な物を持っていかれているであろう場所に
人はそんなにいないはずだとふんだ所その読みは的中していた。
病院内にほぼ人の気配は感じず、静寂に包まれていた。
とりあえず寝床を確保しようとシーツや毛布があるであろう
リネン室の場所を確認するため病院内の地図を探す。

その時だった。
恐ろしい程の静寂を保っていた病院内でガチャとドアノブの動く音が響いた。
誰もいないと思っていた為、つい条件反射の様に物陰に隠れてしまう。
鈍くドアの開く音と共に何かが倒れてくる音。
次に聞こえてきたのは嘔吐に耐えるかの様なうめき声だった。
恐る恐る音のしたほうを見てみるとそこに蹲っていた男がゆっくりと顔をあげた。

後藤ちゃうんかあれ?なんでこんな所に一人でおるん?
あいつ確かめっちゃビビリやったやん…
そんな奴が暗い病院に一人でいるって…おかしすぎへんか?

そう思いつつもあまりにも普段の後藤の様子と違うこと躊躇ってしまう。
後藤の相方である岩尾が既に亡くなった事を放送で知り気にはなってはいたが
実際にその姿を目の当たりにするとかける言葉が見当たらない。
365 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:11:53
やがてゆっくりながらもおぼつかない足取りで歩き出す後藤。
どうする事もできずその後をつけていったがしばらくしてエレベーターホールの前で突然後藤の足が止まった。
後をつけている事がばれたのかと思い焦ったが、いつまでたっても後藤の視線は後ろを振り向かず、足元を見つめていた。
その視線を追うようにたどると目に入ったのは地面に倒れている人の体。
遠目の上、暗さも手伝ってその人物の誰とははっきりとはわからなかった。
かろうじてわかるのは倒れている人数は二人である事。
そして、既に息絶えているという事だった。
二人の姿に亡くなった相方の事を思うところもあるのかと
小藪が声をかけようと意を決した時、いきなりカチッカチッという音が響く。

その音は後藤がいつの間にか手にしていた銃を物言わぬ2人の死体に向けて何度も何度も引き金を引く音であった。
だが、音が響くだけでその銃口が火を噴くことはなかった。
「弾切れか…どうりでこんな所に捨てていったはずやわ」
一瞥すると後藤は無造作に銃を投げ捨てる。
「後藤、お前っ!何してんねん!」
その行動が信じられずカッとなった小藪は勢いのまま物陰から飛び出し後藤の胸倉につかみかかる。
「小藪さん、こんな所で何してはるんです?」
「それはこっちのセリフや!お前こいつらに向かって今何しとったんや?」

激昂する小藪に対して何の悪びれもなく、まるで信号が青になったから進むかのように当たり前の口調で後藤は話し出す。
「そこに落ちとった銃が使えるかどうか確かめただけですよ?何をそないに怒る必要があるんですか?」
「使えるか、使えんか確認するんにもう亡くなったとは言うても人に向けて撃とうとするなんて何考えてるん?」
「小藪さん何を言うてはるんですか?」
こっちが問いかけているのに逆に質問を後藤は投げかけてくる。
しかも、その真意がまったくわからない。
「今、この島内にある銃は全て、殺し合いのために存在してるんですよ?
そんな重要なもんが無造作に床に転がってたら気にならへんはずないやないですか」
「やからって、こいつらに銃向けるんは別やろ!そんなん死者に対する冒涜や!
最低の行為や!自分何しとん?お前そんなんするような奴やなかったやん!」
366 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:13:53
「死んだからいうて、こいつらが何もしてないとは言い切れないですよね?」
後藤の声のトーンが少し低くなる。
「どういう…ことや?」
「さっきの銃がこいつらどっちかのモンで、その銃で誰かを撃ったとかいう可能性もありますよね?
例えば…どっかのブサイクなハゲとか」
「まさか…まさかお前・・・」
後藤が暗に指すその人物はもうこの世にいない。
悪態はついたりもしているが後藤とその人物がどれだけ仲がよかったのかは周知の事実だ。
もしその人物の為の先ほどの行動だとしたら…
「復讐…やとか、そんなん考えんとんの?」
その問いに返事はない。
ただその口元が歪に笑みを浮かべただけだった。

「アホちゃう?、そんなん殺し合いの連鎖になるだけや!復讐遂げて何になるん?そいつらの相方は?親は?家族は?
俺らは人を笑わす為におるんやで!誰かを悲しませる為におるんとちゃう!」
その言葉に今まで流すように答えてきた後藤の態度が変わった。
「そんなキレイゴト、口だけでは何とも言えますよ!でも実際はそうやない!現に聞いたでしょう第一回の放送。
ぎょーさん人死んで、今この場所でも人が死んどる。それをやったんは他の誰でもない、『人を笑わす為におる』芸人なんですよ?」
「やからってお前まで、そんな奴らと同じ事する必要あらへん!お前が誰も殺さんと、
これ以上誰の犠牲もでんと無事に生き残ってもろうて、幸せに人生送って欲しいってきっと岩尾は願ってるはずや」
小藪の言葉を後藤は鼻で笑う。
「勝手なこじつけやめてください。ほんっま人間て奴は死んだ奴をやたらと美化しますね…
やから、俺は…生き残るんです、何がなんでも…美談なんて知ったこっちゃない!!」
367 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:15:32
「後藤、どないしたんや?冷静になれや、たしかに状況が状況や、混乱するんはわかる、
生き残るって言うんやったら復讐まがいのせんでも…」
「知ってますか小藪さん、人間死んで一番最初に腐っていくん目なんですって。
やから人間死んだ時に目を閉じるんですね。眠るという意味ではなくて、
腐乱していく自分の中身を見せたくないから…こないな風に」

言葉を遮られる様にすっと目の前に掲げられたビン。
その中に浮かんでいるのは二つの眼球。
「うわああああああっ!」
喉に痛みを感じるほどに叫んだ声。
「これも小藪さんにしてみたら『死者への冒涜』ですよね…
結構時間経ってきたんで腐ってきて困ってたんですよ。
まぁ誰もホルマリンなんて持っていきませんし…こうして使わせてもらってるんですけど。
ほんまコイツは死んでも世話のかかる奴や」
声が出なかった。
まるで陸に上がった魚のように口を動かすことしかできない。
思わず後ずさるもすぐに壁に突き当たる
そしてそのまま腰が抜けたようにずるずると座り込んでしまった。
バトルロワイアルによって狂わされた人間の姿を目の当たりにする事はそれほどまでに
小藪には衝撃的だった。

「あ、そうや。小藪さんおもろい事教えたりましょうか?」
ゆっくりと後藤が片手で瓶を弄びながら近づいてくる。
そして座り込んでいる小藪の前にしゃがみこみ耳元に囁くように語り掛けた。
368 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:18:03
「コイツを…岩尾を殺したんは、俺ですよ」
「……は?」


後藤が岩尾を殺した?何で?
後藤が殺したんやったら既に死んでる奴らに復讐まがいの行動とる意味がわからん。
言ってる事とやってる事めちゃめちゃやん。

「ちょっ、それどういう…っ」
混乱する思考を煽らせるような言葉にとまどいながらも
ようやく出た声は腹部を襲った激痛に飲み込まれる。

「どういうも何も言葉のままですよ。俺が岩尾を殺したんです…
自分殺した奴に生きてて欲しいとか願いますか?」
見ると自分の体内にナイフが深々と埋まっていた。
そのナイフの柄を持つのは他の誰でもない後藤だった。
さらにその柄を深く握り必要以上に体内に刃をめり込ませる。

「現に今、この状況で俺の事どう思います小藪さん?」
「どぉ…とか以前に、訳わから…ん」
体から力が抜け重力に任せるまま床に倒れこむ体。
そんな小藪の横に後藤は片膝をつき、刺さっているナイフをジワジワと抜いていく。
「あんまり返り血とか浴びたくないんです…
『相方亡くしたかわいそうな奴』でしばらくおった方が何かと便利なんで」
完全にナイフを抜き取られたその傷口からは絶え間なく血が流れ出ていった。
体がまるで床に縫い付けられたように起き上がることができなかった。
369 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:19:33
下された死の宣言にどうすることもできず、ただ事の成り行きを見守る事しかできない。
だが、さすがに何もしないまま死んでいくのは悔しいのでせめてもの抵抗とばかりに
武器や食料を自分のデイパックに移しかえた後藤にずっと思考を占拠していた疑問に対する自分なりの回答を言ってやる。

「うそ…やろ、お前は…殺して……へん…」
何ら確証はない。
でもそう言える自信がどこかにあった。
「殺してへん…やろ?お前…そん、な奴…ちゃう…岩尾を、ころ、せる…はずな…」
お前さっきから何回か笑ってるけど仮にも俺は新喜劇の座長やで。
本気かそうでないかぐらいわかるわ。
「…俺が、殺したんですよ。」

そう言っている後藤の手が震えている。
図星をつかれて動揺しているのか、自分の目の焦点が合わなくなってきただけなのか
結局後藤の真意はわからずじまいだが、もし前者だとしたら自分のささやかな抵抗は成功といえる。
それに満足して気が抜けたのか咳とともに気道から血がこみあがってきて口から溢れる。
目的の物を移し終えられたデイパックが軽い音を立てて先ほどの銃同様投げ捨てられた。
370 ◆Qjkjp/DQVw :2007/01/09(火) 01:20:41
「お願いですから恨んでても化けて出てこんとってくださいね」
そう言ってこの場から去っていく後藤の後姿もやがて霞んでいった。
引き止めたくとも、もう、指一本動かせず、ついに声を出すこともできない。
何がしたいねんとかやら、お前相変わらずビビリやなーとか
色々と言ってやりたい事があるのにそれさえも叶わない。
聞こえるのは暗い中響く足音と荒い自分の呼吸音。
そして・・・

――――――すいません――――――

誰や今の声?
後藤やない、でも聞き覚えのある…
けどやぁ、人死のうとしてるのにすいませんはないやん
そんなん謝って許されるなら警察も軍隊も保安官のロバートもいらんやん
この痛みはアバラ折れるとかそんなレベルの問題やないんやで
謝るくらいやったら助けてや
俺やない、このまま人殺しとしての道を歩もうとしているあの男を
できるやろ?
やって・・・おま、えは・・・・・・・・・



【小藪千豊 死亡(失血死)】
【フットボールアワー後藤輝基】
所持品:鎖鎌、コンバットナイフ、煙草、ライター 、眼球 、塩酸(瓶入り、残り3分の1)
第一行動方針:不明
基本行動方針:相手を油断させて殺し武器を奪う
最終行動方針:不明
【現在位置:D5(病院)】
【8/15 21:57】
【投下番号 168】
371名無し草:2007/01/09(火) 21:06:52
乙です!
後藤に良心が残ってる事が何か嬉しかった。
続きwktk
372名無し草:2007/01/09(火) 23:43:43
乙!

死んじまったか……
373名無し草:2007/01/10(水) 05:41:59
キーワード【 浅越 久馬 つぶやき 新妻 家城 中田 藤森 】
374 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 16:51:24
ロンブー&くりぃむ編の続きです


ロンドンブーツの2人と合流後、元町に向かって進む上田の足取りは重かった。
住谷に絞められてついた首の痣が熱を持ち、ただでさえ苦しい呼吸を阻む。
一歩進むたびに、打ち付けた背中と首から鈍い痛みが頭に響く。
しかし、陽が落ちきってしまうまでに森を抜け、身を隠せる家を探す……
一刻の時間も惜しいこの状況で悠長に休憩を取っている暇はない。
そもそも、休みを取ったところで打撲の痛みは引かないだろう。

そんな上田の様子に、数歩先を歩く有田が時折心配そうに振り返るが
付いて歩くのに精一杯の上田はそれに気付かない。

「上田、大丈夫か?それ。」
有田が意図的に歩調を緩めて隣に並び訊ねるが、疲労で思考力の落ちている上田には
有田の言う「それ」が何を指しているのか理解できない。

「首だよ。紫になってる。」
喋るのも億劫なのか、僅かに首を傾げて「それ」の説明を求める上田に
何となく呆れた雰囲気の有田がため息混じりに答えた。
上田の首に染み付いた指の痕は、赤と紫の斑模様に変色し僅かに腫れ上がっている。
内出血でもしているのではないかと思うほど、ひどい有様だ。

しかし自分で痣を確認できない上田は、大丈夫と言うように軽く片手を挙げて答えただけだった。
375 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 16:53:44
有田が後ろを気にしていると思ったら急に下がり、なにやら二言三言、上田に声を掛けているようだ。
しかしその内容に耳を傾けるような余裕は今の淳には無い。
恨めしげに、前を歩く亮の背中を見つめる。

「なーんであんなに元気かなぁ…。」
この状況で楽しそう、と表現するのは抵抗があるが、亮は実に楽しげに山を歩いていた。
おそらく彼の脳裏には、「なんだかよく分からないまま島に連れて来られて、
淳やくりぃむしちゅーと一緒に山を歩いている。」程度の認識しか無いのだろう。
天然だからと言ってしまえばそれまでだが、亮がその程度の認識しか持たないよう
影で淳が尽力していた事も大きい。

淳と亮は、教室と校舎を出たところで見た死体の山以外は人の死に触れておらず
自分達が直接標的になった事もない。また、凄惨な殺戮は教室と校舎前という
狭いエリアで集中して起こったため、そこを離れてしまえば現実味はより一層薄くなる。
そして何より、淳が全くの普段通り―この島に来る前と寸分違わず―に振舞った事が重要だった。
亮の中の「日常」に出来るだけ合せる事によって、学校での出来事こそ非現実なのだと
無意識のうちに思い込ませる……いささか現実逃避気味の対処法だったが、
パニックになって訳の分からない奇行に走られるよりはマシ、というのが淳の判断だ。

殺意を持ってこちらに襲い掛かってくる芸人は確かに厄介だが、こちらの対応次第で
どうにかできない事もない。それより恐ろしいのは、パニックに陥って自滅するという展開だ。

今のところくりぃむしちゅーの2人も亮も、パニックに陥るような様子は見られない。
淳の思う当面の危機は去ったと見ていいだろう。
しかし、その危機が去ったことによって発生した、もうひとつの危険には全く気付いていなかった。
376 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 16:55:58
何かしらの危険を残しているとは露知らず、淳は重い足を引きずりながら
島から脱出するための方法を模索していた。

島から出るためには、この首輪をどうにかしなければいけない。
自身の体温と真夏の外気で不快に温まった首輪に指をかけ、色々な案を考えては否定する。
首輪について分かっている事といえば、禁止エリアに入ったり無理に外そうとしたりすると爆発する、という程度だ。
本部の遠隔操作でも爆発させられるという、有難くない情報もあるにはあるが、首輪を外すのには何の足しにもならない。

それと、ある意味爆薬よりも問題なのが首輪に仕込まれているらしい盗聴器。
これがある限り、脱出についての話し合いをする事はまず不可能と言ってもいいだろう。
勿論、しようと思えばすることもできるが、それを聞かれたが為に首輪を爆破されてはたまらない。
くりぃむしちゅーと合流した直後、上田に脱出の計画を話そうとしたのだが、上田は無言で
首輪をつまみあげ、今その話はするべきじゃないとばかりに目配せをしてきた。

その動作だけで大体の事を把握した淳だったが、同時に上田はなぜ盗聴器の存在に気付けたのかが不思議だった。
マイクがあると聞かされた上で調べてみれば、確かにそれらしい、ゴムで防水されたへこみが首輪の上部にあるのに気付く。
しかし、顎の真下にある小さなへこみは当然首輪をつけている当人の目には入らない。

だとすると上田は、偶然に有田の首輪のへこみ部分に気付き、それが盗聴器だと推測したのか
―最初から盗聴器の存在を知っていたかのどちらかだろう。
377 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:00:48
(でもあの人、機械音痴みたいだからなぁ。)
どこで聞いたか定かではないが、上田はビデオの配線すらろくに出来ないらしい。
淳の感覚からすれば、説明書の通りにやれば間違えようもない事を
どうして出来ないのかが不思議でたまらないのだが。
特に頭の回転が悪いわけでも、理解力が足りないという訳でもないから尚更だ。

(亮くんだってビデオの配線くらいは出来る………はず……だと思うけど…。…多分。)
盗聴器について考えていたはずが、いつの間にか亮はビデオの配線が出来るのかという心配に
すり替わっているのに気付き、淳は慌てて思考を盗聴器のほうへ戻す。
そのビデオの配線の話も、いつまで経っても携帯を変えないのも、何かポリシーがあるというより
機械全般の扱いが苦手なためだろう。
そして、大抵の人間は苦手なものに対しては極端に無頓着になる。

(そう考えると、上田さんが偶然気付くってのはありえない。仮にへこみに気付いたとしても
それと盗聴器を関連付けられないだろうから。もしかしたら有田さんが気付いたのかもしれないけど
そんな素振りも無かったし…そもそも有田さんが気付いたんなら、もっと自慢げに教えてくるだろうな。
ってことは。)

上田は最初から知っていた、という事になる。
378 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:02:31
その場合はまた別に、誰から聞いたのか、信頼できる情報なのかという事が問題だが
もし…もしもそれが十分に信用できる情報の場合、これは淳の希望にすぎないが
盗聴器以外の情報も多少は持っていると見て良いだろう。
そして、その情報の量だけ脱出の可能性は高くなる。

「面白いじゃない。」
口元に不敵な笑みを浮かべ、小さく呟く。
奴らの手の上で踊っていると見せかけて、気付かれないように脱出できたら
この上ない意趣返しになるだろう。
安全な場所に逃げた後で、外した首輪を送りつけてやってもいい。
その時の奴らの反応を想像するだけで、もう堪らない。

(まぁ、まずは首輪を外すことが先決だけど。)
楽しい復讐の計画は、無事に脱出できた後の自分へのご褒美に。
そう結論付けていくらか気分の良くなった淳は、辛い山道を歩くことに必死で耐えるのだった。
379 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:03:54
「町や!」
先頭を歩いていた亮が、木々の切れ間から覗く町を見つけ嬉しそうな声を上げる。
後に続いていた3人は亮の声につられて顔を上げた。
西に大きく傾いた太陽が、点在する屋根と荒れた田畑を眩いオレンジ色に染めている。
こんな状況でなければ、その美しい光景に感動したかもしれない。
しかし、4人の心にあったのは目的地に到着したという安心感だけだった。
その気の緩みがいけなかったのか、町をもっと見渡せる所に行こうとした有田の足が
僅かな地面の凹凸に躓いて派手に転倒した。
ぐぇ、と情けない声をあげて転んだ有田の姿に、すぐ後ろを歩いていた上田が苦笑いを浮かべながらひざを折る。
淳は有田を振り返りはしたものの、自身も体力の限界を感じているのだろう。
休憩すると勝手に決めた様子で、手近な木陰によたよたと避難していった。
一人だけ体力に余裕のある亮が、大丈夫ですかと有田に駆け寄る。

「町も見えたしさ、ちょっと休憩にしねぇ?」
息も絶え絶え、といった様子の有田が亮に懇願する。
判断を求められて困った亮が淳に意見を仰ごうと振り返ると、淳は既に木陰で寛いでいた。あまつさえ、
「亮くん、水ちょうだい。」
などと、亮に預けたままにしていたデイパックの中の水を要求してくる。
今まで有田の後ろにいた上田も、だるそうに木陰の下で伸びていた。

「みんな休んでますし、休憩にしてええんとちゃいますか。」
呆れたような亮の声色に有田が周りを見渡すと、だらけきった淳と上田の姿が目に入る。
休憩できると分かって嬉しいはずなのだが、有田は何故か拗ねたような表情で、
立ち上がりもせずにずるずると木陰に潜り込んだ。
亮は歩きながらペットボトルの水を取り出すと、淳に手渡し自分も木陰に入った。
380 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:06:24
暫く無言で―話す体力が無いというのが正しいが―休憩していると、
気に障るノイズと共に場違いなクラシックが辺りに響いた。

18時の放送だ。
淳と上田が慌てて飛び起き、デイパックから地図と名簿を取り出す。
亮はきょとんとした顔で2人の様子を見ていたが、すぐに気が付いたのか、同じように地図や名簿を引っ張り出した。
有田は後で上田に聞けばいいと思っているのか、地面に寝転がったまま上田をちらりと横目で見ただけで
起き上がろうともしない。そんな有田の様子に気付いた上田が、怠ける相方の額をひっぱたく。
渋々起き上がった有田がデイパックの中から地図と名簿を取り出すと同時に放送が始まった。

開始から今までに死んだ芸人の名前が躊躇いなく読み上げられていく。よく知る芸人の名前が呼ばれると、
胸の奥が締め付けられるような感覚が起こる。
自分達が乗る、乗らないに関わらず、着々とゲームは進行しているのだと痛感する。
禁止エリアの発表が終わり、再び耳障りなノイズと共に放送が切れる。
4人は記入ミスがないか、お互いの地図と名簿を見比べて確認していた。

「亮くん、禁止エリア違うよ…。」
「え、ホンマ?どれ?」
どうすれば間違えられるのか分からないといった様子で、淳が亮の地図に記された禁止エリアを修正する。
淳と同じ気持ちの有田と上田も思わず亮の地図を覗き込んだ。

C2がE2になっている。

「………。」
「………。」
「………。」
「…あの、すんません…。」
3人の呆れた空気を感じ取ったのか、亮が謝る。
381 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:07:53
「まぁ、間違えるのも分からんではないけどな。」
半笑いの上田が慰めるように言うが、淳は珍しく厳しい目つきで注意する。

「本当に気をつけなきゃダメだよ。冗談抜きで命に関わるんだから。」
「あぁ、これから気ぃつけるわ…。」
叱られた犬のようにしゅんとしてしまった亮を見て、デイパックに名簿と筆記用具を
乱雑に突っ込んでいた有田がいつもの軽い口調で淳をたしなめる。

「まぁ、そんなに怒るなよ。どうせお前がチェック入れんだろ。」
「そりゃ、こんな事があればチェックせざるを得ないでしょうけど。」
「じゃあいいじゃん。」
有田はにやにや笑いを浮かべながら、隣の上田に同意を求めるように、ねぇ?と軽く首を傾げて見せる。
有田とは対照的に、綺麗に折り畳んだ地図をスーツの内ポケットに仕舞う上田は、
有田の問いかけに軽く笑っただけの曖昧な返事を返す。

「そういうお前も、放送始まったらちゃんと準備しろよな。」
「何で。上田がチェックしてんじゃん。」
「…俺が聞き間違えたらどうすんだ。今は4人いるからいいけど、」
―1人になったら誰も助けてくれないぞ。
溜息と共に言葉を切った上田の心情を、何となく読み取った淳は苦笑いを浮かべた
382 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:10:07
同じ目的の人間が4人集まることができ(亮はおそらく明確な目的として捉えてはいないだろうが)
武器も充実している。脱出の可能性も他の参加者に比べて高いと言えるだろう。
全てがうまく行っているような錯覚に陥りがちだが、それはあくまで現時点での話にすぎない。
例えば、今、攻撃を受けて全滅する可能性だって十分にある。

(全滅ならまだいいけど。)
そう考えて、淳は亮の様子を盗み見た。
淳に叱られたことをもう忘れているのか、即興漫才のようなやりとりを始めたくりぃむしちゅーを見て楽しそうに笑っている。
(亮くんが1人だけ生き残っちゃったら、どうしよう。)
まさか優勝を狙いに行くとは考えられないし、その辺をウロウロして運悪く見つかり殺される…
ということも十分に考えられる。というか、十中八九、そうなりそうな予感がする。
今から人を疑ったり裏を斯く事を覚えろと言っても、性格的に無理だろう。
しかし、まるで地雷原に子犬を放すような不安感を拭うため、あれこれ思案しても
結局自分が引っ張っていく以外の方法が思いつかない。

(―一蓮托生、ってのは好きじゃない。)
「ああ、もう。」
黙り込んだと思ったら急に頭を抱えた淳の姿に、3人が驚いた目を向ける。
「どうした急に。」
「どうしたと言うか…これから大変だなぁって思って。」
「ってお前、気付くのが遅すぎだろ。」
しみじみと呟いた淳に上田が呆れた言葉を返す。
上田の考えていることと淳の考えている大変さは系統の違うものなのだが、それを説明しようとする前に、
亮が何故か楽しそうに口を挟んだ。

「そうだよ、これからまだ山を下らないといけないんだから。」
亮以外の3人はその言葉に一瞬凍りつき、そろそろと町のほうに顔を向ける。
屋根は、まだ小さかった。
383 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/10(水) 17:11:36
【くりぃむしちゅー 有田 哲平
状態:異常なし
所持品: ロープ・投網
第一行動方針:本町に向かう
基本行動方針:脱出の方法を考える
最終行動方針:生存 】
【くりぃむしちゅー 上田 晋也
状態:首に痣
所持品:サバイバルナイフ
第一行動方針:本町に向かう
基本行動方針:首輪を外す方法を考える
最終行動方針:島からの脱出 】
【ロンドンブーツ 田村 淳
状態:異常なし
所持品: 拳銃(コルト45)・携帯電話
第一行動方針:身を隠す家を探す
基本行動方針:首輪を外す方法を考える
最終行動方針:生存 】
【ロンドンブーツ 田村 亮
状態:異常なし
所持品: 油性ペン12色セット・スケッチブック
第一行動方針:淳の言うことをきく
基本行動方針:淳の言うことをきく
最終行動方針:淳についていく 】
【現在位置:元町近くの山の中】
【8/15 18:30】
【投下番号:169】
384名無し草:2007/01/10(水) 22:57:03
中田編の書き手さん、応援してます!!!!
続きwktkして待ってます
385名無し草:2007/01/11(木) 06:01:44
くりぃむ&ロンブー編乙!
386名無し草:2007/01/11(木) 12:23:01
麒麟編1番好きだ
387名無し草:2007/01/11(木) 19:55:02
なんか投下してくれる書き手達がいつも決まった面々になってきたな。
388名無し草:2007/01/12(金) 10:37:13
まだ残ってる方だと思うけどね
期限切れ出した書き手さんって何人いる?
389名無し草:2007/01/12(金) 18:27:37
自分で調べろ
390名無し草:2007/01/12(金) 20:14:07
完結しないまま終わりそうだね
さようなら2ちゃんねる
391名無し草:2007/01/12(金) 22:51:18
え、何?
392名無し草:2007/01/12(金) 23:23:37
ラーメンズ小林どうなるんだよ!
ここからが良い所なのに
393名無し草:2007/01/13(土) 01:13:22
今更ですが、フット後藤編投下楽しみに待ってました
乙です!
394114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 19:53:26
>>250-259のつづき
さまぁ〜ず編挿入で土田編です


特に行くあてがあったわけではなかった。誰も仲間がいないならそれは当たり前かもしれない。
誰かが決めた行き先についていくわけでもなく、誰かと話し合って行き先を決めるでもなく。
すべてを自分で決めて、答えを出して。それだけだ。結果は良くも悪くもすべて自分次第。
つまるところそれはピン芸人としての仕事でのスタンスとあまり変わりない。
もっとも、本当はこのプログラムにおいて誰かと組むことは可能なはずだった。
土田が望みさえすれば、佐藤や藤井、川島とともに動くこともできたのだから。
しかし、今やその後輩たちはみな、もの言わぬ肉の塊に成り下がっている。
せっかく三人に声をかけておきながら、そのすべてを殺したのは他ならぬ土田自身だった。

その結果、土田は次の日の朝、学校の近くの林の中で一人、目を醒ますことになる。
反覚醒のような状態で一夜を過ごした土田の頭は少しばかり重かった。
それも当然のこと、誰かが守ってくれるわけではないのだから、熟睡などできるはずもない。
だが土田の身体はそれに耐えられないほどやわではなかったし、精神もまた同様だった。
そのくらいでへこたれるくらいなら、最初からこんな茨の道は歩かない。
土田はデイパックから乾パンの袋をとり出すと、朝食代わりに数枚を口に放り込んだ。
耳障りな音楽とともに朝の放送が始まる。土田は眉間に皺を寄せつつ名簿と地図をひっぱり出した。
395114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 19:54:56
朝6時の放送を聞き終えて、土田はまじまじと地図を眺めながら行き先を考える。
さて、どこに向かうのが一番リスクが少なくて実入りが多いのか?
島の地図を指先でなぞりながら思う。だが正しい答えなどどこにもなかった。
この限られた空間のどこにいこうと、同じように危険は潜んでいるのだ。

だが、自らの状況から考えると、森の中よりは町や集落の方が危なげがない気はした。
一人でいる以上、隠れる場所はあった方がいいし、隠れてもこちらから周りが見えた方がいい。
それならば、と土田は肚を決める。川沿いに進み、元町を目指すことにした。
出した荷物をデイパックの中に放り込み、口を閉めると勢いをつけて立ち上がる。
あいかわらず暑い夏の日差しが、木々の葉を通して土田の上に降り注いでいた。

それから数時間。土田は川に沿ってゆっくりと元町にむかっていた。
こればかりは変わることのない水の清い流れに目をやりながら、歩みを進めていく。
その右手には川島から奪ったMP7が握られていた。土田の新しい、強力な武器だ。
この武器の存在はもともと落ち着いていた彼をさらに冷静にし、心の余裕を生んでいた。
土田は周囲に気を配ってはいたが、ごくリラックスした状態で林の中を歩いている。
森林浴でも楽しみに来たかのように、さわやかな気持ちでいる自分が可笑しかった。

396114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 19:56:42
その後ものんびりと歩き続けた彼は、12時の放送を聞いた少し後、二人の芸人を見かけることになる。
いや、事実に照らして正確に言うなら、二人の芸人と一つの横たわった死体を見かけることになった。
林の中に座り込んだ光浦靖子と、その後ろの木に隠れて光浦を狙うビビる大木。そして村上の死体。
その状況のすべてが物語っていた。この場所に平和はない。ただ、血の匂いだけがたちこめている。

…ああ、これは戦闘が始まるな。

そのときにはもう、それはほぼ他に選択肢のない未来だった。震える大木の銃口を土田は鼻で笑う。
怖いならわざわざ自分で手を下そうなんて思わなければいいのに。きっと誰かが殺すはずだ。
森の中であんなふうにただ座り込んでる奴なんて、格好の獲物になるに決まってる。
そこに大木がいなければ、自分だってさっさと光浦を殺していただろう。その方が話が早いくらいだ。

だが、土田は手を下さなかった。深い理由はない。ただ単に銃弾がもったいなかったからだ。
どのみち、このまま放っておけば戦闘が始まる。どちらかが勝てばそいつを殺せばいい。
二人とも共倒れならなおさらいい。こちらには何の無駄もなく死体が二つ増えるのだから。
土田は、冷たく醒めた思考で二人の姿を視界に収めたまま、大きな木の陰に身を隠した。
397114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 19:58:27

息を潜めて見物していた男と女の激しい闘いは、血ぞめの光浦に軍配が上がる。
銃と延長コード。武器が良くても持つ人間次第で敗北することもあるのだと土田は知った。
大木の敗因は怯えだろう。それ以外の何者でもない。臆病なのに人を殺そうなんて考えるからだ。
ただ落ち着いて一度引き金を引きさえすれば、勝者は変わっていたはずなのに。

死んでいった臆病者の死体に、何の感慨もなく視線を注いだあと、土田はMP7を構えた。
木の陰から見える光浦は、こちらに無防備な左半身をさらしている。具合のいい的だった。
小気味のいい破裂音がその場に響く。光浦の身体にたくさんの穴があいて、血が噴き出た。

…ああ、この距離ならはずさない。初めて撃つのでも、このくらいの位置ならいいわけだ。

そんなふうに土田は、頭の片隅で分析していた。この分析結果は次に撃つときの位置の目安になる。
すべてを終えて土田は、崩れていく光浦の身体を見ていた。赤く赤く染まった肉の塊。
最後に光浦の首がまるで人形のそれのようにぎこちなくまわり、ぎろりと土田を睨んだ。
その目がどうにも気味悪く、土田は顔をしかめながら銃を降ろす。
彼の身体にも射撃の振動の余韻は残っていた。腕に奇妙な痺れを感じる。初めて撃った機関銃の感触。
何とも言いがたかった。薬師丸ひろ子じゃあるまいし、快感なんて感じない。
むしろ、また何か苦いものを舐めたような気分になって、土田は溜息をひとつついた。
398114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 20:01:07

それから彼は、勝者の権利としてその場にある武器を回収しようと踏み出す。
まず確保したのは大木の持っていた銃だ。荷物の中の説明書によればニューナンブM60。
弾は1発だけ残っていた。デイパックの中を探してみたが、残念ながら控えの弾丸はないらしい。
それでもこれならば十分役に立つだろうと、衣装のパンツの腰の部分に銃を挟み込む。
ベルトで締め付けているので、うまく固定できた。シャツで隠れるのでちょうどいい。
土田は腰のベルトを一度、ポン、とはたいて小さく笑った。なかなかいい感じだ。

次に彼は大木のデイパックの中から鉛筆を失敬した。ちゃんと尖っていてまだだいぶ使えそうだ。
実は先ほど12時の放送を聞いていたときに鉛筆の芯を折ってしまい、その重要性に気づいたのだった。
死者の確認はおいておくにしても、禁止エリアを地図にメモしていくためには鉛筆が絶対に必要だ。
そう思った土田は、光浦と村上のデイパックにも手を出し、鉛筆をとり出して自分の荷物の中にしまう。
光浦の握りしめていた延長コードを頂戴するか否かで少し迷ったが、やめておくことにした。
村上の死体の横に落ちていた鉄パイプも邪魔になりそうなので、そのままにしておくことにする。
三人の持ち物を一通り確認し終わると、また土田は川に沿って北へ北へと歩きはじめた。
この川をたどればそのうち、元町に着く。民家があればそこで少し休もう、そう考えて。

…そうして歩き続けた土田は、道中で次の獲物を見つけることになる。

川の近くに生えている木の下に座り込んでいた男。綺麗に切りそろえられたおかっぱ頭が小さく揺れる。
太めの身体を淡い色のポロシャツに包んだその人物は、バナナマンの日村勇紀だった。
399114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 20:02:11
【土田晃之】
所持品:MP7 A1(31/40)、控え弾丸(40)、ニューナンブM60(1/5)
剃刀の刃×5、食料と水3人分、鉛筆(+3本)
第一行動方針:光浦の殺害(遂行済)
基本行動方針:できるだけ殺して、できるだけ武器をかき集める
最終行動方針:優勝を狙う
現在位置:林(G6)
【日村勇紀(バナナマン)】
所持品:不明
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明
現在位置:林(G6)
【8/16 14:10】
【投下番号:170】
400114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/01/13(土) 21:01:39
>>399土田の状態に一部ミスありました。

【土田晃之】
所持品:MP7 A1(31/40)、控え弾丸(40)、ニューナンブM60(1/5)
剃刀の刃×5、食料と水3人分、鉛筆(+3本)
第一行動方針:日村の殺害
基本行動方針:できるだけ殺して、できるだけ武器をかき集める
最終行動方針:優勝を狙う
現在位置:林(G6)
401名無し草:2007/01/13(土) 21:30:38
乙です!
日村…日村どうなる…!
402 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:05:54
前スレ >>732-738 の続き

若手芸人、そして一部の中堅芸人を巻き込んだバトルロワイアルの最初の夜はふけていく。
島の東の方にあるバトルロワイアルの運営を補助する兵士…の役目を押しつけられた芸人達に
行動の拠点としてあてがわれたプレハブの小屋群の片隅に、一人の兵士が佇んでいた。
野戦服をまとい、ヘルメットこそ目深に被ってはいたが、武器の自動小銃を携えていないのは
今の彼は警備や監視の仕事を夜間シフトの芸人と入れ替わっており、
後はここで朝まで仮眠をとるばかりという状況だからだろう。
「……………。」
真夏の太陽の下、重い武装を携えての野外での行動は、確実に彼の体力を奪っていて。
本来なら他の兵士役の芸人達と一緒に少しでも眠っておくべきなのだろうけども、彼は満点の星々を
ぼんやりと見上げたまま、その場から動く事はなかった。

10分、20分。あるいはもっと長い時間が流れたかも知れない中。
ふと彼の耳に草をかき分けて近づいてくる足音が届き、彼はようやく視線を空から地上へと降ろす。
「…イジリーさん?」
疑問形で投げかけられてきた声の方へ向けた視界が捉えるのは、彼と同じ野戦服に身を包んだ男。
その声は、今日ずっと行動を共にしていた相手の物で。
「あぁ…そうだけど。どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ。なかなか仮眠室に戻ってこないから。」
心配して探しに来たんです。そう答えながら相手はなおも彼…イジリー岡田の元に近づいてきて、
すぐ傍らまで来てようやく立ち止まる。
「…なかなかどうして、眠れそうもなくってね。」
「明日以降も続くんですから。少しでも身体を休めないと。」
柔和なその顔に薄く笑みを浮かべて…しかしそれはどこか痛々しくも見える物だったが…イジリーは男に答え、
すかさず返ってくる男の言葉にわかっていると言いたげにうんうんと頷いて見せた。
「何だかんだでお互いもう若くないんですから………せやけど。」
そんなイジリーの反応に、男は呆れたように軽く肩をすくめて。
「っと違う、それでも…やっぱり気になるんですか? 『親戚の子』達の事が。」
思わず口をついた生来の関西弁を小さく訂正し、男はイジリーに問いかける。いや、問うというよりも
確認するといった口調の方が正しいかも知れないけれど。
403 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:07:20
「……当たり前だろう。」
相手の言葉から僅かに間をおきイジリーは短くそう答えると、ゆっくりと目を伏せた。
今、この瞬間にもどこかで殺し、殺されているかも知れない芸人達。
デビューの頃からその成長を見守ってきた彼らがこれから辿る運命を、じっと眺めている事しかできない
自分達の立場や境遇を、歯がゆく思うのは当然の事であろう。
「あ、いや…別に咎めてるつもりじゃない、です…僕も心配ですし。」
故に、ため息混じりに男が漏らす声も、どこか強張っているように聞こえるだろうか。
「でも。だからといって…どうか余計な事だけはしないでください。
 あなたは必ず生きて還らなきゃいけない人だから。生きて還って、残っている連中をまとめ、
 立派に育てて…あの星の印の旗を再び掲げるべき人なんですから。」
「……………。」
「そして新しく集ってくる若者達にみんなの事を伝えていきましょう?
 だから今はみんなが少しでも悔いなく生く事を信じて…僕らは休みましょう? ねぇ?」
…僕も、僕に赦される範囲で手伝いますから。
かつては共にその星の…ホリプロの印の旗の元に居た男の、慎重に熱を持って紡がれる言葉に
ようやくイジリーは目線をもたげ、男を見やる。

「信じる…か。」
「それしか、できませんから。」
ぼそりと漏れる言葉。添え木のように付け足される、呟き。
その後数秒ほど発生した沈黙を払うかのようにふぅと一つ息を吐き、イジリーはこくりと緩慢に頭を縦に振った。
望む望まざるに関わらず、すでに境界線は引かれてしまった。その決定に抗う事は、即ち死を意味する。

「眠れそうもないけれど…横になるだけでも違うかな。」
「…と、思いますよ。」
もう一度力なくため息を漏らし、イジリーはそう男に告げるとそのままゆっくりと身体の向きを
小屋の方へ向け、一歩二歩と足を動かして帰ろうかというそぶりを見せて。
しかしすぐさま立ち止まると、イジリーは彼に付き従うようにこちらも歩き出そうかとしていた
男の方へと振り向いた。
404 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:08:12
「……どう、しました?」
「あぁ、忘れてたんだけど。」
無理に明るい口調を心がけるような、どこかぎこちない声色でイジリーは男に告げて眼鏡の奥の目を細める。
「何かバタバタしてて当面のスケジュール表の紙、どっかでなくしちゃったみたいでさ。
 明日のいつ出発するか、どこに行くかちょっとわからないから…時間になったら呼びに来てくれるかな。」
いくらか早口気味に一気にそう言い切ると、イジリーは男に背を向け、今度こそ足早に立ち去っていって。
その場にはイジリーの代わりに立ちつくす男が一人残された。
「嘘、やろ?」
呼気と共に漏れ落ちる関西弁を、今度は彼も修正する事をしない。いや、できない。

バトルロワイアルを監視するべく、各所に配置されている兵士役の芸人は、前もって与えられた
スケジュール表に従って移動、行動をしている。
それは適度に監視区域をシャッフルさせる事によって、バトルロワイアルの参加者たる芸人に
誰がどこにいるかを覚えさせないため。
偶然知り合いや先輩後輩に出会ってしまうのは仕方のない事ではあるけれど。
ここには誰がいると知られ、芸人の方から助けを求めて集まってくるような事態になれば、
兵士役としての任務は果たせなくなり、バトルロワイアルの運営にも支障が生じてくるだろう。
それを防ぐためのスケジュール管理であり、スケジュール表であるのだけれど。

その、スケジュール表をイジリーはなくしたと言う。
確かに今日は初日とあって、多少慌ただしかったり混乱したりもあったかも知れない。
それでも。特にド天然というわけでもない彼が、大事な物を簡単になくすとは男には想像できなくて。
思わず、問いかけるような呟きがその口からこぼれ落ちる。
「あなた…ホンマに死ぬ気…なん、ですか?」
今日一日行動を共にしてきて、男が思いつく限りイジリーがスケジュール表をなくす事の出来たタイミングは
昼間、神社の鳥居を警護していた時に、貧血からか気を失っていた赤岡を一人起こしに向かったその瞬間ただ一箇所のみ。
405名無し草:2007/01/13(土) 22:09:04
もしも赤岡がイジリーのスケジュール表に従って助けを求めに来たならば。
イジリーは間違いなく、バトルロワイアルの運営を妨げる存在として殺されてしまうに違いない。
つい数分前に呼びかけた、生き延びるために余計な事をしないように…そんな忠告など実は既に無駄な行為だった。
そこまで瞬時に把握できた所で、男は不意に眩暈を覚えて。
額に手をやったのは、熱帯夜の野外に立ちつくしているからだけではないだろう。





イジリーが、そして男が見上げていた星空の下。
小高い山のハイキングコースは山頂が近づくにつれて足場も少しずつ悪くなってきていた。
ハイキング用のシューズならともかく舞台衣装の革靴では、ごつごつした岩を上り下りするのも一苦労で。
しかもデイパックやらマイクスタンドやらを抱えていると在れば、赤岡の黒いスーツにも
徐々に土汚れが目立つようになっている。
「うぉ! …っと。」
目の前を虫が横切ったか、それとも足を滑らせたか。
不意に野村が上げる声にぴくりと反応し、赤岡は随伴者の方を向いた。
「どうした? 大丈夫、か?」
手の甲で額の汗を拭い、問いかければ。
「大丈夫、何でもない。ただ…本当に生来の都会っ子にはキツいな、これ。」
はふぅと吐息混じりに野村は答え、薄く苦笑いを浮かべてみせる。

「……都会、ねぇ。」
照れ隠しの冗談なのか本心なのかを敢えて聞くのは野暮だろうが、とりあえず温度の低い視線を向け、
赤岡が『下妻』と小さく付け加えれば、野村の顔の苦笑いは俄に色濃くなった。
赤岡と島田の故郷である長野が自然の豊かな場所である事は間違いない事だろうけども。
野村と磯山の故郷である下妻も、それはそれで都会とはほど遠い、のどかな世界であったはずで。
406 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:09:51
「そ…それにしても、随分登ったな。」
慌てて話題を変えるように言葉を発する野村に、赤岡は軽く肩をすくめ、そうだな、と今度は同意の呟きを返した。
街の明かりは電気が断たれているため見る事は出来ないが、それでも木々の枝の隙間の向こうに学校や
その他数カ所でのわずかながら人工的な光を確認する事は出来る。
地上に立っていては決して見られない、いくらか地上よりは高い位置にいないと森に阻まれてしまう物。
それが見られるという事は、即ち高い所に登ってきているという事なのだろう。

「日の出とか、少しは綺麗に見えたりすンのかなーやっぱり。」
「…どうだろうな。」
一息を付いた後にまた闇の向こうへと歩き出して、しばらくの後に。野村がぽつりと言葉を漏らす。
配布された地図で見る限り、自分達のいる場所は、島のようである。
ならば、このまま山の中で朝を迎える事になれば。海から昇る太陽を見る事も出来るのかも知れない。
もっとも、それを見た所でどうなるという話でもないし、まずはそこまで生きていないとならないのだけれども。
「何だよ、せっかく話振ってやってんのにノリ悪ぃの。」
その事について考えていた訳でもないだろうが、半分聞き流しているかのような相槌を打つ赤岡の態度に
野村は軽く頬を膨らませてぼやいた。

「……悪い。何だかこういうシチュエーションに良い思い出がなくてね。」
もっとも、元々マイペースで絡みづらい赤岡相手なのだから、ノリの良さを期待する野村の方が
間違っているのかも知れないが。
赤岡は小声で野村に謝り、ふ、と息を吐いて。
「野村はさ。本物の銃の銃口突きつけられた事ある? 目の前に。」
そのまま何気ない口調で、そう問いかけた。
「もちろん今日の出来事は除いて…だけど。」
「…ねーよ。」
どこか独り言のようにも聞こえる赤岡の言葉に、野村はすかさずそう答える。
「確かに結構ヤンチャしてきたけどよ、さすがにそこまでの目には遭った事ねーわ。」
多分磯山も。そう付け加えた所で野村はハッとした表情を浮かべ、赤岡の方を向く。
赤岡の方も、野村が己の方を向くだろうと予測できていたのか、しっかりとその視線を受け止めて乾いた笑みを浮かべた。
407 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:11:40
「ガキの頃…小学生の時だったかな。今日みたいな夏の夜に…あいつと虫採りに山ン中に入ったんだよ。」
夏休みの自由研究で、標本が作りたくてさ。でかいカブトムシが採れるって近所の虫取り名人の兄ちゃんに聞いて。
我が侭言って自分と島田のトコの親を説得してさぁ……懐かしむように薄く目を細め、歌うように赤岡は言葉を紡ぐ。
「そしたら防衛軍の兵士が山道を封鎖してて…今思うと奥でバトルロワイヤルやってたんだろうな…それで先に進めなくて。
 帰れ、通せ、帰れ、通せで揉めてたらいきなり目の前にガチャ、ってさぁ。」
「……………。」
クスクスと思い出し笑いをしそうですらあるほどに他人事のようなその口調と、語られる内容とのギャップに
野村は何も言葉を挟む事が出来ず、ただ赤岡の顔を見やる。

「子供心に…いや、子供だったからこそショックだったよ。心底、ね。
 大東亜共和国の国民を米帝やら何やらから守るべき防衛軍の兵士がさ、その国民に対して銃を向けてるんだもん。」
何なら仮面ライダーが一般市民にいきなり蹴り入れよーとしたようなモンよ?
胸の奥に溜めていた物を一気に吐き出すかのように彼らしくない饒舌さで語り続けた赤岡は、そこで一つ息をついた。
「全部忘れようとしてたのに…忘れたと思ってたのに。何かすっかり思い出したな。」
殺されるかも知れないという、恐怖。信じていたヒーローに裏切られた、絶望感。
己の目的を果たせなかった事への苛立ち。号泣しながら山を下った、あの惨めさ。
全てが胸の奥で混ざり合う中でぼそりと言葉は漏れ落ち、同時にマイクスタンドを握る手にグッと力が込められる。
「……………。」
その一瞬だけ、普段は飄々としている赤岡の眼差しが獰猛な獣のそれに見えて。野村は思わず息を呑んだ。
赤岡の中で沸々と煮えたぎる昔、そして今もまた自分達の歩む道を遮るこの国…政府に対する怒り。
それが、大抵の物事に対してテンション低く臨む彼をここまで積極的に突き動かす原動力となっているのなら。
その故にいつかどこかで、彼らしからぬ致命的な判断ミスを犯してしまう可能性も高まってくるだろう。
すでに島田相手にそうなっているように、普段の彼らしからぬその態度や姿勢で他の人間に誤解を与える事もあるだろう。
408 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:13:58
「…また、忘れられるさ。こんなくだらねー事さっさとぶち壊して、終わらせて…板の上に立ってれば、よ。」
そう思うと途端に隣の人物が危うい存在のように思えて、野村は宥めるようにそう赤岡に告げる。
「……ありがとう。」
野村からそんな言葉が掛けられるのがよほど意外だったのか、数秒ほど妙な間をおいてから
赤岡は素直に感謝の言葉を口にした。
「良い奴だな、お前。」
「…10年一緒にやってきて、今頃気づいたのかよ。」
本気か冗談かわかりづらい、ぼそぼそとした赤岡の言葉に野村はハハッと苦笑いを浮かべて
赤岡を数歩リードでもするかのように歩みを早め、木の根と土が作る天然の階段をぽんぽんと駆け上がる。

「……………。」
10年一緒にやってきて、死にたくないからと襲ってきたり、逆に逃げ出したりする奴がいれば、
一方でそれでもなお今まで通りの関係が築ける奴もいる。
それがまだバトルロワイアルの初日…何もかもが始まったばかりだから出来得た事なのか、
それともこれは今後も継続していける事なのか。
野村を追いかけながら、赤岡はふと考えようとするけれど。
その分足元への注意が疎かになったか、木の根に足を取られて大きくバランスを崩す。
「……っ!!」
「…何やってんだよ、ったく。大丈夫か?」
何とかマイクスタンドを杖代わりにして転倒こそ逃れるも、呆れたような野村の声が聞こえてきて。
「大丈夫だ。気にするな。」
赤岡は一つ息を深く吐き出すと、今はそれどころではないかと考えを切り替え、また歩き出した。





虫の音、湿度の高い暑苦しい空気、湿った土と濃い酸素と血の匂い。
間もなく赤岡達が辿り着く、ハイキングコースの終点である展望台のほど近くの藪の中で、
島田は木の根元に腰を下ろしたまま、長い間ぴくりとも動けずにいた。
その華奢な腕の中には、元々色素の薄い肌を一層青白くした男の身体が抱えられている。
409 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:14:49
「……………。」
島田と同様に身動きしない彼の腹部からは包丁の柄が生えていて。
彼の衣服、そして島田の黒いスーツを柄の根元から流れ出した液体が濡らし、鮮やかに赤に染めていた。

心底安堵したように目を閉じる男とは裏腹に、島田の顔には頬を伝う涙の線と共に強い怯えが張り付いており。
不意に頭上を走る光、そして草木をかき分ける足音に、彼は思わず身を強張らせた。
しかしその事によって腕の中の人物の存在を再確認させられ、思わず彼の口から悲鳴じみた声が上がる。

「どうした、そこに誰か居ンのか!」
ほど近くから聞こえた声には島田も聞き覚えがあったかも知れない。
それが誰の声かを思い出せないまま、島田は藪の中から発された己の声に導かれるように近づいてくる
相手から逃げだそうと試みるけども。
華奢な足は彼の体重すら支えられず、数mも移動しない内に光の帯が島田とその周辺を直撃した。

「…島田、くん?」
先に聞こえたのとは別の声が、どこか確認するかのような口調で発されたのが聞こえる。
その強張った高音に。腕の中の人物…いつもここからの菊地へと向けられているのがわかる視線の気配に。
彼らが何を問わんとしているかが察せられたか、島田は思わず顔を歪めた。
「僕じゃない……僕は何もやってないっ!」
「…ふざけンな!」
首を横に振りながら上がる島田の叫びをかき消すかのように、ライト…の付いたヘルメットの主、
18KINの大滝は腹からの怒声を発した。
「じゃあその返り血は何だ、その包丁は何だ……貴様が…菊地を………」


菊地を殺したんだろ!


確認するように叫ぶ言葉とは裏腹に、全身から血の気が引く感覚を、間に合わなかったという後悔や怒りを、
そもそもそして目の前に照らし出される光景すらも何とか否定したくて。
大滝は手にしていたスコップを構えるなり最上段から島田の頭をめがけて振り下ろした。
410名無し草:2007/01/13(土) 22:15:52
【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー マイクスタンド 缶詰2個 薬箱
状態:左腕に裂傷・右頬に軽い火傷・ややバテ気味
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし
第一行動方針:島田を探し、誤解を解く
最終行動方針:悔いのないように行く】

【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ
状態:ややバテ気味
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:赤岡と一緒に島田を探す
第二行動方針:磯山と合流したい
最終行動方針:不明】

【C8・ハイキングコース】
411 ◆8eDEaGnM6s :2007/01/13(土) 22:17:23
【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛  (以下、水色のリュック内) 缶詰3個 シャツ
状態:精神的に不安定・恐慌状態
基本行動方針:生存優先・理由はどうあれ暴力イクナイ
第一行動方針:無実の証明・自衛
最終行動方針:不明】

【いつもここから 菊地 秀規】
所持品:出刃包丁
状態:腹部から 出刃包丁が こんにちは。
基本行動方針:周りがどうなっても構わない
第一行動方針:不明
最終行動方針:不明

【18KIN 今泉 稔
所持品:ライター 煙草 三味線の糸
状態:万全・呆然
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:何でこんな事に?
最終行動方針:不明】

【18KIN 大滝 裕一
所持品:ライト付き工事用ヘルメット スコップ
状態:万全・憤怒
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:島田への報復
最終行動方針:不明】

【C8・展望台に近い茂み】

【15日 22:55】
【投下番号:171】
412名無し草:2007/01/14(日) 11:08:01
号泣キタ━━(゚∀゚)━━! 乙!
ちょ、こんにちはって菊地……続き楽しみです
413名無し草:2007/01/14(日) 23:08:23
スレチかもしれないけど、
2ちゃんがなくなっても、まとめでは持続するんでしょうか?
414名無し草:2007/01/17(水) 14:07:37
したらばで続けて欲しいな。
保守
415名無し草:2007/01/17(水) 21:30:13
乙!菊地にいったい何が……!!そして誤解って悲しいなあ。
登場人物それぞれの次の展開がすごく気になります。
416名無し草:2007/01/18(木) 00:32:44
乙!
2ちゃん閉鎖はただの釣りだから心配いらん。
417名無し草:2007/01/21(日) 00:30:17
ほっしゅ。
418 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:04:24
>>374-383の続きです。


日暮れと共に、4人は元町の外れにある古い農家に忍び込んだ。

申し訳程度に掛けられていた南京錠は、上田がナイフを梃子のように差し込んで捻るとあっけなく扉から外れた。
一日中山の中を歩き詰めだった4人は、久々の屋内に声にならない歓声を上げながら、黴と埃臭い畳の上に次々と倒れこむ。
快適とはいえないが、外に比べてひんやりと涼しい室内で横になっていると、どっと疲労感と睡魔が全身を襲ってくる。
淳は一瞬眠りに落ちかけた意識を何とか引き戻し、のそりと起き上がると眠気覚ましに軽く自分の頬を数回叩く。
その音が休憩終了の合図だったかのように、他の3人も疲れきった様子で体を起こした。

「…暗いな。戸、開けるか?」
最初に口を開いたのは上田だった。
陽が落ちても外はまだ少し明るいはずなのだが、4人が入ってきた扉は閉めてしまったため、
明かりが殆ど入ってこない。おそらく家中の雨戸が閉められているのだろう。
脱出の打ち合わせは盗聴器の事もあり、筆談でしようと考えていた淳は当然とばかりに頷く。

「そっすね。ライトがあればいいんですけど…せめてランプとか蝋燭とか。」
「どっかにないか?結構でかい家だし、一応探してみようぜ。」
言いながら、上田が入り口の扉の方向に向かう気配がした。
暗いせいで足元が不確かなのか、何度か足をぶつける音とその度に小さい悲鳴が上がる。
暫くガタガタと板戸を揺らす音が聞こえたかと思うと、重い音を立てて扉が開かれ、弱々しい光が差し込む。
頼りない光量とはいえ、暗闇に慣れた目にとってはそれで十分だった。
ぐるりと部屋を見渡すと、12畳程の部屋の真中に半畳程の囲炉裏がある。
その他に目に付くものと言えば、奥に続いているだろう襖と、壁際に申し訳程度に置かれている小ぶりな戸棚と
腰の高さほどの箪笥、そして足の折れたちゃぶ台がひっくり返して寄せてある程度だ。
上田がいる入り口近辺は土間になっているようで、錆びた農具が雑然と置かれている。
419 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:07:46
「蝋燭とか無かったら、燃えそうな物でもいいよな。」
拾い物には期待できないと踏んだのか、部屋の床に口を空けている囲炉裏に目を向け
ふくらはぎを適当に揉んでいた有田が言う。

「煙が出るのはなるべく避けたいんで、できればライトか蝋燭で。無ければ燃やせる物で
いいですけど。…あ、上田さんは外を見張っててくれますか。」
「ライトか蝋燭ね。」
あるかなぁ…と呟きながら、有田は部屋を横切り奥の襖を開ける。
襖の奥も12畳程の広さのある畳敷きの和室で、こちらの部屋には古い立派な箪笥と
ひしゃげたダンボール箱が数個、そして割れたガラスケースに入っている日本人形が置かれていた。
不気味に佇む日本人形の姿に、有田が中々部屋の中に足を踏み入れられないでいると
不意に亮の声が耳に飛び込んでくる。

「淳、階段腐りかけてるんやけど、どないしよ。」
有田が振り返ると、廊下の様子を見に行っていた亮が困ったように佇んでいる。
言われた淳も、戸棚を漁っていた手を止め思案顔で頭を掻いている。
「階段が腐りかけって、足乗せたら崩れるくらい?」
「崩れはしませんでしたけど、みしみし言いますね。」
有田の問いに、顔だけこちらに向き直った亮が戸惑いながら答える。

「そう…じゃあ、この部屋頼むわ。上は俺が行ってくる。」
「大丈夫なんですか?」
意外な申し出をしてきた有田に、淳が怪訝な目を向ける。
「まぁ、俺らが行った方が早いだろ。腐りかけの床なんてしょっちゅうだったし。」
そう言うと、有田は入り口で見張りをしている上田を呼んだ。
外を見張っていても室内の会話は聞こえていたのだろう、困惑した表情の上田が振り向く。
420 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:10:31
「…2人で行ったら床抜けないか?」
「腐ってるところを避ければ大丈夫だろ。それに2人の方が早く終る。」
上もここと同じくらいの広さがあるだろうし、と言いながら手招きをする有田に
上田は軽く溜息をついて入り口から離れた。

「じゃあ淳、代わりに見張り頼むわ。」
「分かりました。」
上田と有田が暗い廊下に出て行ったのを見届けた亮は、奥の和室で目当てのものを探し始めた。
淳は入り口の扉の影に隠れ、ベルトに挟みこんであった銃を取り出し安全装置を外す。
ずっしりと重い銃を手に、これはなるべく使いたくないなと思いながら、家の周りに不審な人影が無いかを探る。
4人が忍び込んだ家は、元町と山の境界線の少し高い位置にあった。周りには荒れた田畑があり、
適度に開けているため不審な人間がいればすぐに分かる。
淳は何度も不審者の姿を探してみたが、そのような気配は全くなかった。
しかし安心は出来ない。
住人がいないはずの家の扉が開いているということは、ここに人がいますよと言っているようなものだ。
ゲームに乗り気の人間に見つかれば、厄介なことになる。
陽が完全に沈んで採光の必要がなくなるか、目当てのものを探し出してくれるか
そのどちらかの条件が満たされるまでは扉を閉めることは叶わない。
見上げると、空は東の方からとっぷりと濃い藍色に飲まれつつあった。
421 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:12:46
階段は、上に行くほど闇が濃くなっていた。

腐りかけの階段は一段一段確かめるように登っていくうちに、どうやら右側が
特に傷んでいるようだと分り、そこを避けて急いで登りきる。
2階は全く光が差し込んできていなかった。

「うわ、真っ暗じゃん。」
足元どころか、隣にいるであろう上田の姿すら闇に飲まれてしまっている。
手探りで壁を伝って行こうにも、床が抜けるかもしれないという恐怖と相まって中々一歩が踏み出せない。

「あ、そうだ。確かライターが…。」
言いながら有田はポケットを探り、タバコと一緒に入っていたライターを取り出した。
ジュ、とライターを擦る音と共にオレンジ色の小さな光が灯され、有田はそのままライターの火を翳して廊下を照らす。
板敷きの廊下の右側に、扉が3つ。
廊下の窓は雨戸が閉められているのか、ガラス戸の外に板が貼り付いているのが見える。

「ライターあるなら、下でも火を熾せば良かったのに。」
ゆらゆらと揺れる小さな炎を眺めながら、上田がどことなく恨めしそうに呟く。
ぶつけた足が痛いのかな、と、若干の後ろめたさを感じながらも有田はいつもの調子で答える。

「煙が出るのはダメって淳が言ってたから、火は熾せないでしょ。それに、これもあんまり残ってないんだよね。」
そう言うと、有田は指を少し開いて100円ライターを上田に見せる。
薄い黄緑色をしたプラスチックケースの中のオイルは5、6ミリ程度しか残っていない。
422 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:13:56
「じゃあ、それもあんまり使えないな…とりあえず窓開けるか。」
探し物をしている間中ライターを点けていては、すぐに使い物にならなくなってしまうだろう。
火種はなるべく残しておきたい。

「窓開けて大丈夫かな?」
「どうだろな。もう結構暗くなってきてるし、灯りを点けてなければ外から見ても分からないと思うけど。」
不安げな有田の口調に、上田の目にも迷いの色が浮かぶ。
しかし、探し物をするには室内は暗すぎる上、頼りのライターの燃料にも不安があるのでは天然の光に頼るしかない。
手近な扉を開け、上田1人で床の軋みを確かめながら窓に近付きガラス戸を開ける。
雨戸に手をかける前にライターの火を消すように指示し、灯りが消えたのを確かめてから雨戸をゆっくり開けると
青白い光がするりと室内に忍び込んだ。

「…やっぱり暗いな。」
火を消したライターを片手で弄びながら、薄明かりの差し込んだ室内を見渡した有田が呟く。
この部屋には押入れやクローゼットのような物も、家具やダンボール箱も一切見当たらなかったが
仮にそういう物があったとしても、更に深い暗がりの中の物の判別など出来るのだろうか。

「贅沢言うな。そのうち目が慣れるさ。」
窓を開けて幾分明るくなったお蔭か、足元を気にすることなく上田が廊下に戻ってくる。
厚く積もった埃の上に規則正しく残された上田の足跡を眺めていた有田は、そうだなと言いながら首を掻いた。
423 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:15:42
2階に上がっていった有田の代わりに、亮は1階の奥の部屋を捜索していた。

淳が見張っている扉からうっすらと光は入ってくるものの、箪笥やダンボール箱のシルエットが
ようやく分かる程度だったため、手探りで目当ての蝋燭を探す。
家具はいくつかあっても中身は殆ど残されておらず、箪笥の引き出しの中には古い新聞紙が敷かれているだけだったり
ざらついた木屑が薄く積もっているだけだったりして、目あての物の気配すらしない。
部屋の隅に放置されているダンボール箱の中身を引っ張り出しても、虫に喰われてぼろぼろになった洋服や
カーテンのような一枚布が何枚か出てきただけだった。

「アカンなぁ。何もないやん。」
ぶつぶつと箪笥に文句を言いながら、探し終えた引き出しを元に戻す。
他に探せる所はないかと辺りを見渡すが、今までうすぼんやりと見えていた部屋の奥も、既に闇と同化している。
仕方なくざらざらした土壁に手を突いて奥へと辿って行くと、部屋の一番奥まった部分の壁が突如障子紙の感触に変わる。

「何や、襖か?」
しかし横に引いてもびくともしない。亮は首を傾げながらぺたぺたと謎の壁を触って確かめていると、
取手らしき物が手に触れた。取手があるのなら開くのだろう。
そう思った亮が取手を何度か押し引きしていると、不意に目の前の壁が左右に開いた。
424 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:18:00
「おお、やった。」
少しばかりの達成感に、小さく歓喜の声をあげる。暗くて分からなかったが、観音開きに開いたスペースは
過去に仏壇が置かれていたのだろう。うっすら残る線香の香りが亮の鼻を掠めた。
反射的に今は何もない空間に手を合わせた亮だったが、ふと、今開いた空間に違和感があることに気付いた。
身を屈めて目を凝らせると、大きな空間が空いているその下に、小さな棚のようなものが作りつけられているのが
うっすら見える。空けて中を探ると、小学校の頃に使っていた筆箱のような大きさの紙箱が手に触れた。
もしやと思い箱を開けて僅かに光のある場所に戻って見ると、箱の中には中指ほどの大きさの蝋燭が3本と線香が一束
そして小さなマッチ箱がひとつ入っていた。
マッチ箱を手に取り軽く振ってみると、からからと軽い音が聞こえる。
嬉しくなって開けてみれば、数本のマッチが赤い顔を覗かせた。

「淳!ローソクあったで!」
奥の部屋から嬉しそうに飛び出してきた亮が、淳に得意げな顔で報告をする。
亮の声の大きさに驚いて跳びあがった淳が、静かに!と身振りで伝えると、亮は慌てて自分の口に手を当てる。

「蝋燭あったの?じゃ、点けてくれる?」
外を念入りに確認しながら、淳が囲炉裏を指して言う。
分かった、と答えて蝋燭を一本取り出し、マッチをする音が聞こえた所で淳は木戸を閉めにかかった。

闇に目が慣れていたせいだろうか。
完全に沈んだ太陽の代わりに現れた月が辺りを照らしていたのに、淳はその時気付いた。
425 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:19:17
2階の3部屋あるうち、目立った収納があるのは一番奥の部屋だけだった。
障子は外から入ってくる僅かな光を遮ってしまう上に、物を探すには邪魔なので取り払ってしまってある。
壊れて動かなくなった子供のオモチャや古い衣服が散乱する部屋の中で、有田は最後に残った紙袋を漁っていた。

「何かあるか?」
押入れから埃の被っていない座布団を引っ張り出した上田が、念入りに紙袋の中身を確認している有田に問いかける。
「何もねーよ。結局2階にあったのは座布団だけか。」
紙袋を壁際に押しやり、悔しそうに有田が呻く。
「これ以上探しても無駄だな。下に戻ろう。」
薄い座布団を2枚有田に渡した上田が、自らも2枚の座布団を抱えて立ち上がる。
日は完全に落ちており、室内を照らしているのは太陽に代わって夜空に上がった月の明かりだけだった。

「上田、ちょっと待て。」
上田に続いて立ち上がった有田が、開きっぱなしになっている窓の外に気付いて足を止める。
呼び止められた上田は訝しげな表情で、窓辺の有田の横に並ぶ。
「何。気になる物でも見つけたのか?」
「あれ見ろよ。森の向こう。」

座布団を小脇に抱えた有田が指し示したのは、森の向こう。
島中の電気が消えている中で、そこだけ異質で人工的な光が上空の雲や周りの森を照らしているのが見えた。
426 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:20:33
「…学校だな、多分。」
光を目にした上田が無機質な声で呟く。
ライフラインが断絶されていることは、元町を一望できるこの場所から見れば一目瞭然だった。
家の明かりは勿論のこと、街路灯すら灯りが落ちている。方向からしても、光の規模からしても学校に違いない。

「何であそこだけあんなに明るいんだ?…こっちは蝋燭探して誇りまみれになってるってのに。」
「発電機でも持ち込んでるんだろ。まったく、憎たらしい限りだ。」
そう言うと、上田は有田の腕を引っ張った。早く下に戻るぞ、という合図だろう。
しかし有田には、どうにも引っかかる事があった。
何かは分からないが正体の分からない違和感に、学校の灯りから目が離せない。
そんな有田の様子に、上田も視線を学校の方に戻す。

喉の奥まで答えが出掛かっているのに出てこないもどかしさに、有田が眉間にしわを寄せて考え込んでいると
それを邪魔するかのような亮の声が階下から響いてきた。

「…蝋燭が見つかったみたいだな。」
亮の声を聞き取った上田が、淳が扉を閉める音を聞き流しながら呟いた。
「…そーだな。戻ろうか。」
すっかり気が逸れてしまった有田が、座布団を抱えなおしてのろのろと廊下に向かう。

上田は一度だけ学校の方を振り返り、有田の後に続いて部屋を出た。
427 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:23:00
1階の囲炉裏の中、灰の上に置かれた小さな陶器の皿の上に一本の蝋燭が灯されていた。

それぞれ囲炉裏の傍で座布団に腰掛けた所で、淳が時計を見ながら話し始める。
「今、8時前ですね。0時の放送まで、交替で休みましょうか。」
「1時間交替か?」
「いえ、2人1組で2時間交替がいいですね。」
「そっか、じゃあ」
「最初に俺と上田さんで見張りますから、亮くんと有田さんは休んでてください。」
有田と上田に言葉を挟ませない勢いで、淳が提案する。
あまりにも一方的な物言いに、有田が一瞬怪訝な表情を浮かべたものの、淳が上田に差し出した
マジックを見て何となく状況を理解した。それは上田も同じだったようで、目を擦りながら、そうしよう、と頷く。

「じゃあ10時になったら交替ってことで。…あ、亮くんコレ使わせてもらうね。」
淳は亮のデイパックの中から、「武器」として支給されたスケッチブックを引っ張り出した。
亮は、ええよ〜と、あくびをしながら座布団を枕代わりにして早速畳の上に寝転がる。
有田もネクタイを緩めて畳に寝転がった。

「2時間しかないのは厳しいな。」
寝転がった2人を羨ましそうに眺めながら、上田が呟く。
「2時間あるって考えましょうよ。」
マジックの蓋を外して、淳が笑いながらスケッチブックに何やら書き込む。
筆談なら隣の方がいいかと思った上田が淳の横に移動し、スケッチブックに書き込まれた文字に目を通す。

『この首輪について、何か知っている事はありますか?』
上田は少し考え、渡されたペンの蓋を外した。
428 ◆U2ox0Ko.Yw :2007/01/23(火) 11:24:04
【くりぃむしちゅー 有田 哲平
状態:異常なし
所持品: ロープ・投網 ・タバコ・ライター
第一行動方針:寝る
基本行動方針:脱出の方法を考える
最終行動方針:生存 】
【くりぃむしちゅー 上田 晋也
状態:首に痣
所持品:サバイバルナイフ
第一行動方針:首輪を外す方法を考える
基本行動方針:首輪を外す方法を考える
最終行動方針:島からの脱出 】
【ロンドンブーツ 田村 淳
状態:異常なし
所持品: 拳銃(コルト45)・携帯電話
第一行動方針:首輪を外す方法を考える
基本行動方針:首輪を外す方法を考える
最終行動方針:生存 】
【ロンドンブーツ 田村 亮
状態:異常なし
所持品: 油性ペン12色セット・スケッチブック
第一行動方針:寝る
基本行動方針:淳の言うことをきく
最終行動方針:淳についていく 】
【現在位置:元町の農家】
【8/15 19:55】
【投下番号:172】
429名無し草:2007/01/23(火) 16:20:46
新作キター!乙です!
家屋の内部の描写がうまいなあと思いました。
何となく間取りが浮かびます。雰囲気が出てる。
ますます続きが楽しみになってきました。
430名無し草:2007/01/25(木) 17:14:14
投下乙!
431名無し草:2007/01/26(金) 00:39:43
もう秋田
432名無し草:2007/01/26(金) 16:37:16
流石に下がりすぎ。
新作投下期待age
433731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/27(土) 23:24:48
>>352-358の続き。麒麟川島・ソラシド本坊編です。
「 鏡地獄 」



「・・・・・・・・川島?」
本坊はすっくと立ち上がった。
身長は本坊の方が川島より4センチ程高いので、川島が少し見上げる格好になる。
「・・・・・・・・?」
本坊は川島に声をかけようとしたが、川島の顔を見てやめた。
明らかに様子がおかしいからだ。本坊を見るなり人形の様に固まったと思えば、
急に黒目が不規則にぶれ出した。怯えている。
本坊が不思議そうに見ていると、見られるのが耐えられないのだろうか。今度は自分の斜め後ろをチラチラ見出した。
「本坊は・・・・・なぁ、本坊は?」
尋ねる様な口調だったが、川島は誰もいない筈の自分の斜め後ろを見ていた。
「? 川島、僕やったらここにおるけど?」
「・・・・・・・ぇ?」
ようやく2人の目が合う。
この時の川島の目は正に「捨てられた子犬」という表現がピッタリで、
ワッ!と大声で驚かせれば簡単に泣きそうだなどと考えた本坊は、思わず吹き出してしまった。
「何がおかしい!!!」
川島は激昂し、拳銃を本坊の胸に押し当てて、本坊の体ごと木に叩き付けた。
「っ・・・・・・・ぁはっ・・・」
本坊の心臓から背中にかけて激痛が走った。
怯えた子犬だった川島の顔は、飢えた野犬の様な凶暴なものになっていた。
川島は本坊の左胸に穴を開けそうな勢いで銃をめり込ませている。
力が彷徨っているのか、右手は痙攣でもしているかのように震えている。
本坊にはそれが何故か、死ぬ直前の虫が体を裏返して藻掻く様に見えてちっとも怖くなかった。
それがまた、川島の癇に障った。自分より相手の方が背が高いのも気に入らなかった。
「お前は・・・お前は本坊やない!いいひんねん、もう本坊はいいひんねん!!
 せっかく俺のところまで来てくれたのに・・・お前が来たから消えた!!
 本坊を返せ!・・・・もう、あいつには会えへんかもしれへんねやっ!!」
434731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/27(土) 23:26:14
本坊は胸に跡が残るな、と心の片隅で考えながら聞いていた。
そう、本坊は激痛を感じながらも心には余裕があったのだ。理由は自分と川島の焦点が合わなかったから。
本坊の目は川島の目を見ている。川島の目も本坊の目を見ている・・・様に見える。
だが、川島が見ているのは自分の目ではないと本坊は思った。
あの凶暴な目は自分ではなく、遠くの得体の知れないものを見ているのだ。
だから今の怒りは自分に向けられたものではない。その結論に辿り着くと、恐怖は霧散した。
それと同時に、込み上げてくる嬉しさもあった。ああ、自分の捜し求める相方は現実を見ている、と。
本坊は決して川島を見下すつもりはない。今の本坊は水口の事を妄信してしまっているのだ。
これ以上川島の言葉を聞くのも無意味だと感じた本坊は、冷めた目で辺りを見回す。

2メートル程先にハンドミラーが見えた。それは本坊の宝探しの最後のピースだ。
鏡は2人の事などお構いなしに、ただ青い空を映していた。

「人間が鏡を見ていない時、鏡には何も映っていない」
本坊がそう言うと、川島の右手から少し力が抜けた。
「それ・・・・ゴーモンの・・・・?」
2人にある記憶が蘇る。麒麟のラジオ「ゴーゴーモンキーズ」で本坊はこの発言をし、川島を困らせた事があった。
本坊は「鏡に何も映ってない時、そこには何が映ってると思う?」としきりに聞いてきた。
その答えは、川島はもちろん本坊にもわからなかったが、今の本坊はその糸口が掴めた気がした。

「鏡は自分自身の視点や目線が合わないと存在し得れない」
これもゴーモンの本坊の発言。
本坊は先程馬場園にしたのと同じ様に、川島の両頬に手を添えて顔を自分に向けた。
今度はちゃんと本坊の目を見ている。それを確認して本坊は語り始めた。
「人は鏡を見ることで、自分の姿を知る事が出来るやろ?つまり鏡がないと人は自分がわからんくなんねん。
 じゃあ今みたいに鏡がない時は、どうやって自分の姿を見たらええ?」
「・・・・・わからへん。ていうか、今鏡なんていらへんやんか。」
435731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/27(土) 23:27:34
「もう、すぐそうやってはぐらかすやろ。真面目に答えてよ。」
「・・・・・・・・・・・・」
「ブー、時間切れ。鏡がなかったら、自分の姿がどんなんなんか他の人が教えたげたらええねん。」
「でも・・・・・俺は自分がどんなんか知ってるし、鏡なんかいらへんよ?」
「違うげ、今の川島にこそ鏡が必要なんよ。」
「俺に・・・・?なんで?」
「今の川島は閉じ篭ってしもて、現実を見てへんもん。僕はここにいて、お前と喋ってる。その現実をちゃんと見てよ。」
「だって・・・・本坊はさっきの放送で撃たれて、・・・・・死んだ、って・・・・
 だから、さっきの本坊もお前も・・・・幻覚なんや。もう本坊はいいひんねや!」
「こうやって、触れられるのに?」
川島ははっとなった。先程から自分の両頬に添えられている本坊の手には体温があり、
親指の下に流れる血の脈動も感じる事が出来る。
「生きてんのか・・・・・・?ほんまに、生きてんのか?」

耳で聞いた遠くの銃声より、やさしくて都合のいい幻想より、
「今ここにいる、触れてる僕を信じてよ。」

   カタンッ  !
川島の手から銃が落ちた。
銃を握り締め汗ばんだ右手と、叩き付けた木の屑がまだこびりつく左手で、
本坊の両腕のかたちを確かめるように触れる。

  ああ、この腕を、自分は知っている。

「僕が、川島の鏡になる。」
そう、本坊は誓った。現実を見据えて進めば、きっと水口にも会える。
そして、早くこのゲームを終わらせる。これ以上悲劇を起こさない為に。
現実と狂気の区別がつかなくなる前に。


だが彼は、自分こそが現実と狂気を彷徨う人間である事に気付いていない。
436名無し草:2007/01/27(土) 23:33:02
【ソラシド 本坊 元児、麒麟 川島 明 合流】
【ソラシド 本坊 元児
所持品:コンビニコスメセット
基本行動方針:水口を守る
第一行動方針:水口を捜す
最終行動方針:水口以外の参加者(自分含め)全員を1度に死亡させ、水口を優勝させる】

【麒麟 川島 明
所持品:ライター 煙草(開封済) 眼鏡 ベレッタM92F 予備マガジン×1
基本行動方針:考えられない
第一行動方針:考えられない
第二行動方針:考えられない
最終行動方針:考えられない】
【現在位置:G-6】
【8/16 09:23】

次回は石田&水口編をお届けいたします。

>>418
乙です!
特に派手なアクションがある場面ではないのに、退屈するどころか引き込まれます。
自然体でありながら細かい描写は自分も見習いたいです。
437731 ◆p8HfIT7pnU :2007/01/27(土) 23:34:38
あ、【投下番号:173】。
何で毎回どっかしら忘れるんだろう・・・・
438名無し草:2007/01/28(日) 01:45:59
乙です!
本坊の狂気の描かれ方は毎度引き付けられます。
これからの展開も楽しみにしています。
439名無し草:2007/01/28(日) 12:50:14
乙です。どちらもいい感じに狂ってますねw
本坊はもう元に戻れないのかな…色々踏み外してる感じがあってすごいです。
また続き楽しみにしてます。
440名無し草:2007/01/29(月) 09:15:00
投下乙です!
441名無し草:2007/01/29(月) 23:06:38
飽きた
442名無し草:2007/01/30(火) 18:36:36
保守
443 ◆Qjkjp/DQVw :2007/02/01(木) 01:42:24
>>363-370の続き投下します。


自分の家ではないのだがその真夜中の訪問者はゆっくりと近づいてくる。
その訪問者はどう考えても寝ている所を起こすのは悪いから音をたてないように移動しています
とかいった親切心溢れるような人物ではないのはわかっていた。
チュートリアル徳井はそれに気づきながらも木に凭れ掛かり寝たふりをしていた。
こんな状況下でいくら疲れているとはいえ熟睡できるわけがない。
誰か連れがいるのなら見張りを頼むなりして眠りにつく事はできるのだろうが
生憎自分は一人だ。
眠るという事はこの上ない無防備であり、さぁ殺してくださいと言ってるようなものだ。
眠っているうちに殺されたのなら苦痛を感じず死ぬことができるかとも思ったが
自分はそれを望んでいない。

手に握るのは支給された武器。
それは到底武器とはいえない代物だが今使えるものはこれしかない。
「さぁ…どぉ出る?」
微かな声で呟き徳井は手の中の武器を確認の意味を込め力強く握り締めた
444 ◆Qjkjp/DQVw :2007/02/01(木) 01:44:57
「徳井…」
背後から語りかけてきた訪問者の声は小声ではあったがその主が一瞬で脳裏に浮かび、
返答しそうになったがそのまま寝たふりを続ける。
やがて、しばしの沈黙が続き完全に寝ていると思われたのだろう。
デイパックが地面に落ちる音の後、呟かれた「じゃあな」という決別の言葉。
その言葉に訪問者がマーダーであることを確信し、
間髪いれずに徳井は握っていた武器を振り向きざまにその顔へ投げつける。

「うわっ!」
バラバラと音をたて地面に転がっていくのは徳井に支給された武器であるビー玉。
完全に寝ていると思っていた相手からの突然の反撃。
しかも夜の闇も手伝い急に目の前に現れたものが何だかわからず条件反射というべきか
訪問者は両の腕で顔を庇う。
その隙をつき獲物がナイフである事を確認した徳井は
それが握られている腕を両手で掴み手放すよう渾身の力を込める。
「くそっ離せ、離せや!」
当然の事ながら訪問者は声を荒げ必死に抵抗する。
腕を掴まれながらもその切っ先を突きつけるべく一歩もひかないという状態だ。

「なんや?お前は殺す側にまわったんか?」
一向にナイフを手放さない上に抵抗を続ける訪問者の腕を木に押し付ける。
向かい合う形ではあるが若干低い位置にある殺意の篭った視線が刺すように徳井を睨み付けてきた。
「離せって言うてるやろ!」
「離したら…即行で殺しにかかってくるやろ?」
「愚問、やな。相手がたとえアンタであっても俺は容赦はせぇへんで」
「言うようになったな…後藤の分際で」
訪問者―フットボールアワー後藤は狂気を滲ませた顔で徳井の顔を見上げている。
445 ◆Qjkjp/DQVw :2007/02/01(木) 01:47:36
「やかましい、おとなしく死ね」
「死ね…言われてもなぁ…少なくともそれで襲われたら死ぬまでめっちゃ痛いやろうし
ごめんやわ」
「確かに切れ味は落ちとるけど…刺すことは可能やで。
即死がお好みやったら一気に心臓ついたってもええけどな」
かたや殺気をむき出しにしている後藤に対してさらりと受け流し涼しい顔をしている徳井。
だが、互いの手は一本のナイフを巡り一触即発の攻防を展開している。

先に行動を移したのは徳井だった。
一瞬手に込めていた力を抜き、均衡が崩れる。
バランスを崩した後藤は前のめりになりつつも耐えるが手にしていたナイフは徳井の手の中に収められた。
「ちっ!」
ナイフをあきらめ先ほど落としたデイパックの中から小藪から奪った鎖鎌を取り出すべく
後逸する。

「あーあ、このナイフ…柄まで血に染まっとるやん。これは確かに切れ味は期待でけへんな」
互いの距離がわずかばかりながらもあるからなのか余裕とばかりにまじまじと
ナイフを物色する徳井の考えが後藤は読めなかった。
確かに切れ味は人間の血や脂によって落ちてはいるものの武器を手にしたのに明らかに
敵意のある自分に対して向かってこようとしない。
「いやー、まさか後藤がマーダーなる思わんかったわ。運動神経鈍いわ、
ビビリやわ、ヘタレやわ、やのに…なぁ」
「冗談やなくて…マジで殺すで」
「まぁ、落ち着けや。お前冗談やとか普段の恨みとかで俺に襲いかかって来た訳やないよな?」
ナイフを弄びながら平然と話しかけてくる徳井の姿は逆に不気味ささえ感じる。
「何が、聞きたいねん?」
「さっきも聞いたやん、お前は殺す側に回ったんかって?」
交わされる会話の間にも後藤はディパックの中の鎖鎌を掴むも
確実に相手を仕留める為、襲い掛かるタイミングを計っていた。
いくら親しかった相手とはいえ今はそんな事は関係ない。
目の前の相手はただの獲物なのだと後藤は自分に言い聞かす。
446 ◆Qjkjp/DQVw :2007/02/01(木) 01:49:20
「俺が…殺す側に回ったんやったら…一体なんやねん?」
「ん?2,3質問。お前が殺す側に回ったんは最後の一人になる為なんけ?」
徳井の質問は後藤の眩暈を誘った。
自分の中で何度も何度も繰り返した自問自答。
それを他人の口から改めて問われるとは思いもしていなかった。
「・・・・・・・そうや」
その言葉は徳井の問いに対する答えでもあり…
「それは、何があってもその決意は絶対に揺るがへんか?」
「あぁ、言うたやろ。邪魔するんやったら例えアンタが相手でも容赦せーへんて」
そして改めて自分への誓いの言葉でもある。

「そっか、そっか…あー、ある意味お前でよかったわ」
その答えに何故か一層の笑みを浮かべた徳井の考えが相変わらず読めない。
「何やねん?さっきからごちゃごちゃと…何がしたいねん?」
「ん?俺がしたい事?まぁ、まずは改めて…」
徳井がナイフの持つ手を広げまるで英国の紳士の様に会釈をしながら
発せられた言葉は予想もつかないものだった。

「いらっしゃいませマーダー様、お待ちしておりました。」

「はぁ?」
後藤の声が裏返る。
相変わらず徳井の顔に浮かぶのは涼しげな笑み。
だが後藤は気づいた。
その笑みに潜んでいる自分と同じモノ――すなわち狂気に

「手伝ったるわ後藤…お前の事を、な」
447 ◆Qjkjp/DQVw :2007/02/01(木) 01:50:25
【フットボールアワー 後藤輝基】
所持品:鎖鎌、煙草、ライター 、眼球 、塩酸(瓶入り、残り3分の1)
第一行動方針:不明
基本行動方針:相手を油断させて殺し武器を奪う
最終行動方針:不明

【チュートリアル 徳井義実】
所持品:コンバットナイフ、ビー玉(43/50)、煙草、ライター
第一行動方針:不明
基本行動方針:不明
最終行動方針:不明

【現在位置:D5(森)】
【8/16 00:45】
【投下番号 174】
448名無し草:2007/02/01(木) 19:24:26
乙です!
まさか徳井がマーダー待ちとは思いもよりませんでした。
そう来たか…と、意外な展開で続きが楽しみです。
449114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/02/01(木) 22:40:26
さまぁ〜ず編の挿入、江頭編です。


真夏の太陽が空に笑う8月15日午後1時37分。江頭秀晴は一人、暗い森の中で途方にくれていた。
彼の手の中には…というよりも、胡座をかいて座り込んだ彼の膝の上には、大きな金だらい。
そのふちを両手で握りしめながら、江頭は呆然と緑の濃い森の風景を眺めつつ考える。

…金だらい。金だらいなどというものは空から降ってくるべきものではないのか。
その痛みに対してリアクションをとるのが自分の仕事であって、これを握りしめるだけでは駄目だ。
しかし、あの瞬間に一体、どんなリアクションをとれば芸人として正解だったのだろう。
あれからすでに10分は経っているが、いまだに俺は正解を見いだせない。どうすればいいんだ…!

現在、森の中に座り込んだ江頭の脳裏には、芸人として至極真っ当な疑問が渦巻いている。
彼がこの問いに対する正しい答を求めはじめたのは、正確に言えば今から12分前の午後1時25分。
さらにそこから50分ほど江頭の記憶をさかのぼると、彼が荷物を渡されて教室を出る場面に至る。

実は、彼には学校を出た後しばらくの記憶がない。教室を出て廊下を歩き、気づけば森の中だった。
脳の記憶装置が完全に停止していた間に彼がしたことといえば、ひたすら前進することだけだ。
機械のように、右足と左足を止めることなく交互に前に出し続け、彼はただただ進んでいった。
そして薄暗い森の中、蔓草に足をとられて江頭は派手に転ぶ。その瞬間までの記憶が彼にはない。

つまることろ、彼の記憶が復活したのはその転んだ瞬間からで、それ以前はほぼ白紙なのだ。
そして彼が転んだのは今からちょうど15分前のことであったから、話は一旦、そこまで戻る。
450114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/02/01(木) 22:41:06
午後1時22分。転んだせいでしこたま腹と胸を打った江頭は、しばし身体を丸めて痛みに耐えた。
どうにか衝撃と鈍痛が引きはじめたとき、彼は自分の左肩に真新しい小さな傷を見つける。
森の中で、枝やら葉やらに地味な攻撃をされた彼の上半身の、そこかしこに散らばる細かな傷。
こうした傷が増えるのは無理もなかった。江頭の衣装はテレビでもおなじみの露出度の高いものだ。
上半身は裸、下半身は黒タイツ一枚。これこそが彼の戦闘服だといえるだろう…カメラの前でなら。

けれども、彼のいつもの衣装はこのプログラムにおいて、戦闘服にはなりえなかった。
たった一枚の黒タイツ。今が冬ならば凍死していたかもしれない。季節が夏なのは幸運だった。
だが、夏とはいえども、木々や草の繁茂する森の中を歩くのに、江頭の格好は適さない。
このまま進んでいけば、森のもの言わぬ住人たちが、またも彼の身体を傷つけるに違いなかった。

…何か着るものがほしい。

江頭はむせ返る緑の中、そんなことをまず、ぼんやりと思った。

…何か上に着ないとそのうち、漆の木でもあったら困る。かぶれたりすると大変じゃないか。
治療するにも病院はないだろうし、変に痕が残るとよくない。テレビで隠さないといけなくなる。
とにかくまず、何か着るものを探さないとならない。何でもいいから服を手に入れなければ。

実際のところ、それはこのプログラムにおいてまことに重要度の低い、些細なことへの心配だった。
しかし、着るものが欲しいと望んだおかげで、初めて彼は自分が荷物を持っていたことに思い至る。

…そうだ、教室を出るときに渡された袋の中身を確認しよう。あの中にきっと何か入っているはずだ。
451114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/02/01(木) 22:42:00
すぐさま江頭は、転んだときに放り出していた自分のデイパックを、手を伸ばしてたぐり寄せた。
そのとき初めて自分の荷物をよく見た彼は、それがいささかいびつに膨らんでいることに気づく。
何か大きなものが入っているのか、デイパックの布は不自然なかたちに硬くもりあがっていた。
その中身に僅かな期待を抱きつつ、江頭がジッパーを指先でつまみあげた…のが午後1時25分。

そこで場面は冒頭に戻る。彼のデイパック、それこそが彼の脳裏に渦巻く疑問の吹出口だった。

もうお判りだろう。江頭のデイパックの中からひょっこりと顔を出したのは、あの金だらいだ。
コントの小道具としてはベタ中のベタ。実に基本に忠実だ。浅い金色に輝く真鍮の大きなそれ。
無論、たまたまそれを引き当てた江頭のみならず、大半の芸人にとって金だらいは見慣れたものだ。
だが彼はそれを膝の上にのせたまま絶句した。それが上から落ちてこなかったというだけの理由で。
急に現れた金だらいの処置に途方にくれた江頭は、森の中で12分も呆然とするはめになり、今に至る。

意外と繊細な性格の彼は、出てきた金だらいに何のリアクションもとれなかった自分に失望していた。
けれども、さすがにこのままずっとここに座っているわけにはいかないと気づいてやっと立ち上がる。
その右手に掴んだ金だらいが木漏れ日を反射した。長いといえば長く、短いといえば短かった12分。
茫然自失と自問自答が混ざりあったその時間は、身体の傷より幾分癒えにくい心の傷を、彼に残した。

とはいえ、実は彼に非などないのだ。本当は金だらいに反応できなかったくらいで落ち込む必要はない。
志村も加藤も仲本も…長さんですら、落ちてこない金だらいに対する正しいリアクションは知るまい。
それ以前に、バラエティのカメラもまわっていないのに、リアクションをとる必要などありはしない。
452114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/02/01(木) 22:44:18
つまり誰も彼を責めはしないし、責めようもないのだが、江頭は芸人として自分自身を許せなかった。
まるで自らを罰するように、彼は金だらいを両手で持ち上げ、それを自らの頭に強く打ちおろす。
ちょうど自らの手で自らの頭に金だらいを落とすかのようなその動きは、端から見れば異様だった。
グワン、グワ、と強烈な音が森に響く。金だらいの底部が、江頭の頭を何度も何度も激しく打った。
首を伸ばして金だらいに自らぶつかっていくような動きすら見せた彼の目には、薄く涙が浮かんでいる。

「かっ、金だらいはっ、金だらいは、落としてくれよぉ…!」

のどの奥から絞り出すように声をあげ、金だらいを頭上からおろすと、江頭はがっくりとうなだれた。
金だらいの底は、彼の頭に突き上げられたせいで少し歪んでいる。そこを江頭は少し撫でてみた。
もちろんそこには答などありはしない。ただ、彼の頭のかたちに軽くたわんだ金属があるだけだ。
一抹の虚しさをおぼえつつ、いい加減これを中にしまおうと、彼はデイパックの口を拡げて押さえる。

そのとき、彼はデイパックの中に他にも物が入っていることに気づいた。皺だらけの地図が目に入る。
…俺はいったい今どこにいるんだろう。それが気にかかった江頭は地図をとり出し、調べはじめる。
あたりを見回し、何か目印になるものはないかと探す彼の耳に、かすかな水音が飛び込んできた。

その音に導かれるように少し歩くと、見えてきたのは川。二股に分かれて別の方向にむかっている。
一方の流れはもう一方に比べ少し細くなっており、岸をコンクリートで固めて整えてあった。
…こんなふうにわざわざ固めてあるということは、こっちは後から掘ったものなのかもしれない。
江頭がそう予測した通り、それは元町から出て学校方面に流れる川の水を西に引く、用水路だった。
453114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/02/01(木) 22:45:10
彼の手にしている地図に川は二つ描かれており、その二つの間を用水路を示す点線が結んでいる。
元町から出て学校方面に流れる川と、島の中央西寄りの森の中から出て南西の海へと流れる川。
学校からの距離を考えると、前者の川が自分の見ているものだろうと江頭は判断する。
地図上のその川から用水路が出ている地点に彼は視線を注ぐ。学校から見ると北西の位置だ。
…自分は学校を出たあと、北西に向かって進んでいたらしい。そう結論づけて、彼は少し安堵した。

さて一つめの疑問が解決し、次に彼の脳裏をかすめたのは、この先どこに向かうべきかという疑問だ。
地図に示されている建物でいえば、彼のいる場所から一番近いのは、少し東にあるホテルだった。
…このホテルに行くべきか、それとも別の場所か。江頭は地図上のホテルを指でなぞりながら考える。
そのとき、ふたたび彼は上着を探していたことを思い出した。それがありそうな場所を地図で探す。
…このまま川に沿って北に歩けば、そのうち元町に着く。そこの民家なら何か服があるかもしれない。
そう考えて江頭は進路を北に定め、地図を黒タイツの腰にはさむと、金だらいをしまい始める。

しばしの格闘の後、やっと金だらいをデイパックの中に詰め込み、彼はふう、と溜息をついた。
もう一度いびつなかたちに膨らんだデイパックを背負い、江頭秀晴は歩き出す。
迷いのない彼の足どりはしっかりと頼もしく、森の木々すらも彼に道を譲るように見えた。
が、実は、彼はいまだにあの大きな命題に対する解答を探している。存外、真面目な男なのだ。

…この袋から金だらいが出てきたとき、一体俺はどうしたらよかったんだ!

答えられない自分のふがいなさに怒りすら覚えているのか、踏み出す足にまで力が入っている。
だいぶ寂しくなった頭髪を乱暴に掻きむしりながら、江頭はずんずん、ずんずん、前へと進んだ。
踏みしだかれる森の下草。たちのぼる青い香り。彼の前に道はなく、彼の後に道はできる。
誰よりも笑いに真摯な男、江頭2:50。彼を悩ませるこの命題の答はきっと、笑いの神のみぞ知る。
454114 ◆4kk7S4ZGb. :2007/02/01(木) 22:45:48
【江頭2:50(江頭秀晴)】
所持品:金だらい(大)
第一行動方針:デイパックから金だらいが出てきたときの正しいリアクションを思いつく
第二行動方針:上着を手に入れる
基本行動方針:元町を目指す
最終行動方針:まだそこに思い至らない
現在位置:森の中、川から用水路が出る地点(F6)
【8/15 13:42】
【投下番号:175】
455名無し草:2007/02/02(金) 00:03:41
>「かっ、金だらいはっ、金だらいは、落としてくれよぉ…!」
乙ワロス
456 ◆1ugJis83q2 :2007/02/02(金) 01:08:22
ラーメンズ編いきます。

ただ無言だった。
谷井の暴走、片桐の負傷、片桐の死と遺言。
これらを告げても小林は、無表情にうなづくだけだった。
今、片桐の死体は小林の背に移っている。今立はラーメンズの代表作「現代片桐概論」を思い出すともなく思い出す。
小林が彼らの想像以上に冷静であることは、逆にある種の恐怖を覚えさせる。
(こいつは狂っているのか?)
片桐のズボンの端から覗く脛には少しではあるが死斑が浮んでいる。
ふと、今立の心の中に恐ろしい想像が湧き上がる。
(まさか本当に片桐を標本にしちまうわけじゃないだろうな)
あるコントの中で小林が片桐に言わせた台詞がある。
『俺、中身に興味ないから』
今立は小さく頭を振った。そんなことはありえない。
彼の額から流れる汗は、暑さのためかそれとも冷や汗か。
山根は今立も気づいていない、ある事実が気がかりだった。
ちょうど今立の死角になる位置にぶら下げられた小林の武器、フェンシングの剣。
その柄に血がこびりついているのを山根は見逃さなかった。
(小林さんは誰かを殺しているのかもしれない。でも…)
強い日差しに、ぼうとする頭で山根は考える。
(あの顔が演技だとはとても思えない…)
少しずつ道が拓けてくる。遥か遠くまで日の光を映して輝く海が彼らの目の前に見えてきた。
横浜生まれの小林にとって、海は身近なものだった。
少し足を伸ばせば、すぐに汽笛を鳴らす大きな船も、夏の太陽を反射する海も見ることができた。
海は太古からこの地球に存在し、何億年もの間変わらぬ姿で地球を覆ってきた。
だが、今小林の目に移る海は懐かしくも温かくもない、ただの灰色に揺れる大きな水溜りだった。
457 ◆1ugJis83q2 :2007/02/02(金) 01:08:57
小林は肩口に液体がこぼれたような気がして、首を回す。
彼の服に一滴だけ、片桐の耳からこぼれたどす黒い血が付着している。
(まあ、いいか)
彼はあまり頓着せずに歩いていく。
片桐とは学生時代からの付き合いだ。服を汚されたくらいでは腹も立たない。
小林は、片桐の血から漂う腐敗臭に気づくことができない。
ただ、鼻の奥に粘つく真夏の磯の匂いが疎ましいかった。
「小林」
片桐の異変に気づいた今立が声をかける。
「片桐…痛んできてないか?」
小林は足を止めるが振り向かない。彼は立ち止まってしばらく何かを考えているようだった。
軽く目線を上に向け、流れる雲を見ているようにも見える。
「…『九相詩絵巻』」
やっと小林が口を開く。
「流石にあれは嫌だからなぁ…」
独り言のように呟くと、小林はまた歩き出した。
「雨が降ったら嫌だなぁ」そんなつまらない世間話をするかのような、何気ない口調だった。

【エレキコミック 今立進
所持品:スタンガン
第一行動方針:片桐を海に運ぶ
基本行動方針:危険があったら逃げる。人は傷つけない。
最終行動方針:ゲームの終了
現在位置:森の終わり】
458 ◆1ugJis83q2 :2007/02/02(金) 01:09:45

【アンガールズ 山根良顕
所持品:救急セット
第一行動方針:今立の手伝い
基本行動方針:怪我をした人を助ける
最終行動方針:死は覚悟している
現在位置:森の終わり】

【ラーメンズ 小林賢太郎
所持品:フェンシングの剣
第一行動方針:
基本行動方針:
最終行動方針:
現在位置:森の終わり】

【8/16 06:15頃】
【投下番号:176】
459名無し草:2007/02/02(金) 02:27:13
乙です。
小林の胸の内はいったいどうなってしまってるんでしょうか。
どうにも辛いなあ。しかし今後の小林が気になります。
にしても最後犬に食われて蛆だもんな…>絵巻
それはたしかに嫌だ…。
460名無し草:2007/02/02(金) 02:41:14
しかし昨日から今日にかけて三作品とは盛況ですね!
嬉しいことだ。
461名無し草:2007/02/02(金) 15:22:32
乙です。
冷静な小林も、それはそれで怖いな……。
462 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:27:10
>>82-94

Am I buying the stairway to heaven or hell?
自らに問い掛けても応えなど出るはずもない。塵芥のように零れる言葉は蒸した大気に霞んでいく。
如何にしようもない、独りきりの道程ならば。

生い茂る草を踏みしめる音が空気を揺らして存在を叫ぶ。
柳谷にとって特に行く当てがある訳もない。本来ならば居るべき場所から逃れてきた立場だから。
少なくとも一昨日までは存在していた自らを縛る結託感。
今であってもそれは有意義と他の人間なら考えるはずのものだった。
然し、降り積もった疑念。そして疑念が確信と凝り固まり息が苦しくなってしまっていた。
無論、屋外に出たからといって楽になる部類のものではなく。

思い返せば合流したことが間違っていたのだろう、狂気を帯びた義務感を所有していた鈴木。
自らの意志で抑圧しつつも漏洩する殺人さえも正当化する思想は近寄る者に圧迫感を与えていた。
そして当人は気付いていたのか、首筋に分かり難く付着していた血痕。
誰もが気付きつつも指摘しないでいた、名簿の前後の人間達の大量死。
鈴木に関しては疑念でも疑惑でもなく、元々疑いは漆黒であったとしか言いようがなかった。

灘儀は普段一緒の仕事が一番多く人柄も穏やかであればこそ信頼し易かった。
然し信条を頑なに守るからこそ恐怖に負け他人を殺めた柳谷を許すことは恐らくなく…
久馬は同じ劇場の同僚の、しかも柳谷の友人と分かっている人間をあっさり侮辱するような言葉を吐き…
浅越は柳谷の死を前提とした未来を理想と語り…

グルグルと思考回路を支配するのは離脱した言い訳か自らを正当化しようとする防衛本能か。
どちらにしろ行く先が在るのなら示して欲しい、そんな切なる願いを呟かずには居られなかった。
463 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:28:46
目覚めても悪夢は続いていた。
都会の倦怠感に満ちた喧騒とは違う、恐怖と緊張感に溢れた静けさ。
灘儀は寝たままの姿勢で傷が疼かないように慎重に伸びをした。
汗を吸って布団は少し湿り気を帯びていて、少し不快感を感じさせる。
灘儀自身余り長いこと寝ていた自覚はないものの、意識はだいぶはっきりしていた。
気合を入れて起き上がり、眼鏡を掛けると窓辺で折り紙をしていた久馬と視線がぶつかった。
吐く息が陽炎のように立ち上がって、消えていく。
「飽きたん?」
灘儀の問いに久馬は曖昧な笑みで応えると、折り上げた小さな紙飛行機を窓枠の下に置く。
白い紙飛行機をキラキラと陽光が照らして、ふと灘儀の頬を緩ませた。
「ギブソン、何処ほっつき歩いとんのかな・・・浩志も鈴木も無茶せんとええけど」
灘儀は向かいの壁に意識を集中させる。コンクリートの剥げ落ちた跡は打ち捨てられた側の寂しさを感じさせている。

「あ・・・」
壁から意識を逸らして何となしに見かけた窓の外には、鬱蒼と広がる緑の中にふと赤い色が混じっていた。
ちらちらと木々の合間から覗くその色は、柳谷が着ていたTシャツの色と非常に似通っている。
高さからも余り背の高い人影ではなく、灘儀の心は少し逸った。
「ちゃうんやない?返り血かもしれんし」
しかし不謹慎なことを呟く久馬に、そうかもしれない、今更近くに居る訳はないと
灘儀は深く溜息を吐くと日に照らされた白い布団の上に胡座をかく。
「見つかったらシバいたらな」
灘儀は精神的な疲れを見せながらも、その顔は笑っていた。
目尻の皺は疲れのためか陰影を深くし、濃くなってはいたが、引き攣ることはない。
この場所だけは穏やかに、ただ穏やかに時間は流れていく。
だから彼らの居住している空間を見つめる視線があったことには気づく事はなかった。
464 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:30:14
先程から効率的に探すために、と1時間ごとに合流地点を決めながら浅越とは別行動をとっていた。
「僕の視線が気になって鈴木さんが思い切った行動とれなくなるかもしれませんし」とは浅越の弁だ。
鈴木の行動様式は見透かしているとでも言いたげな余裕。
それを隠そうとする可愛げのある行動をとることもない。
こういう場合の浅越の性格は苦痛ではないけれども嫌いだと思いながら歩みを進めていると、
見渡す限り緑だった森に、束の間茫洋とした空間が広がっていた。
鈴木は顔に掛かる葉を左手で除けると一歩その空き地に足を踏み入れる。
履き古した運動靴が枯葉を踏みしだく音が響く。
銃撃戦が行われたのか、それとも殺し合いでもあったのか土の上に伏す2つの死体の周辺を弄る人影。
足音に気付いたのか、膝をつきながら手元は死体の所有していたであろうデイパックの中身を探ったまま、
顔を鈴木に向けるその人影は、太いボーダーのシャツを着た竹永(コンマ二センチ)であった。

鈴木の右手は重力に逆らうことなく下に垂れていたが、
人差し指は常に引き金に掛かっており自然竹永の視線はその手元に注がれる。
この空間には銃弾を遮る物がないと一瞬で判断すると竹永は立ち上がって両手を上げ、
命乞いにも似た弁明を始めようとした。

「あの「うちのヤナギブソン見んかった?」
お前の言葉には芥ほどの興味も持たないと宣言するように、
竹永の言葉に耳を貸すこと なくただ自らの用件を伝える。
予想外の角度から放られたボールに、すぐに反応できるほどの反射神経はなく、
8mほどの空間を挟んで対峙する二人の間に湿度を含んだ風が吹いた。
だがそれでも竹永には鈴木の眉間の皺が深くなる前には質問の意味を理解し、
答えるだけの判断力は残されていて。
465 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:31:25
「見てません、けど…」
竹永は劇場であれば誰かのくしゃみにさえ掻き消されてしまいそうな細い声を搾り出す。
肌にべったりとシャツが張り付いていたが、背中には止め処なく暑さとは違った汗が噴出していた。
そか、と鈴木は小さく呟くと視点が竹永から斜め下に転がっているデイパックと地図や食料に注がれる。
判断の手がかりをほとんど漏らさない鈴木に、竹永の脳内では葛藤が渦巻いた。

俺見てすぐに殺さなかったんだから、誰でも殺しまわってるわけじゃないよな。
でも俺は死体の荷物漁ってたんだから正義感が強かったら怒っているはずだし何してんだろこの人。
あ、相方さんのこと聞いたって事は探してるのかな、探すの手伝うっていえば逃がしてくれるかな、
でもそれ見つかったら俺お払い箱じゃね?
あーあ、銃良いなあ…持ってるだけで超有利じゃん。でもくれる訳ないしなー。

竹永は口に出さずとも物欲しげな表情をしながら銃を見つめてしまったのだろうか、
鈴木は唐突に全く違った角度から質問をぶつけた。
「武器、あんまよぉなかったん?」
「………え?」
「武器悪かったからええのないか探しとったんとちゃうの?」

この質問にはどう答えればいいのかな俺。
前共演した時には気難しそうな人だとは思ったけどそれだけじゃあーもー!
どう答えればいいんだよー!

「黙秘なん?」
鈴木の声に苛立ちが含まれる。
絶対優位な立場にいてしかも相手は吉本の後輩であると思うと、遠慮もなくなるのであろう。
「違います違います」
大袈裟な程に竹永が両手を振りながら慌てて答えると、
自然と大声になっており鈴木の右手に力が込められる。
「お腹すいたんで!」
466 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:32:19
武器を探してた、って言ったら危険と思われそうだからな、食料探してたんだったらまだ…
これが一番無難ぽいだろ多分。
たぶ…。
え?なんか大きな音しなかった?なんでだよーちょっと胸の辺りとか熱くない?

竹永は事態が飲み込めなかった。
答えは間違っていたのだろうか、鈴木の銃口は一瞬にして竹永を捉えると、
最初の弾丸は逸れたものの、
次々にマシンガンから撃ち出された弾丸が竹永の内臓を圧迫し切り刻んでいく。
平衡感覚を失い、勢いよく横に倒れる姿はまるでコントのようだった。
柔らかい土に衝撃を吸収され、横倒しになった竹永は、必死に力を振り絞り血を吐きながら
理解出来ないと理由を求めるように竹永の瞳は鈴木を仰ぎ見、血に濡れた右手を差し伸べる。

鈴木は汚物でも見るかのように濁った目で見下すように竹永の手を見ていた。
しかしすぐに興味を失ったのか少し熱をもった銃身を持て余すようにデイパックに突っ込むと、
踵を返して森の中へと戻っていく。
それによって、竹永は訳の分からないまま殺人ゲームに巻き込まれ、
殺されて終焉を迎えることが決定したのだった。
467 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:33:15
森に踏み入れ、再度顔の高さの葉を払いのけた時に向かいに居たのは浅越だった。
銃声に気付いて駆けつけたのであろう、息を切らしながら額に浮かべて汗をハンカチで拭っている浅越を
鈴木は他人事のように見つめている。
「また誰か殺したんですか」
はーあちー、と手で顔を仰ぎながら軽いノリで訊ねる浅越に、
鈴木も隠し立てをする気を失ったのかあっさりと頷いた。
「一人だけやけどな」
「誰ですか」
訊ねられて、鈴木は名前を思い出せない自分に気付いた。
薄すぎる関係に、鈴木にとっては名前を覚える義理はゼロだった。
「えーとあーコンマの竹…竹…そもそも竹やったっけ?駄目や思いだせん」
「あの人ですか」
名前は思い出せなくても2人の脳裏に浮かんでいる映像はほぼ同じであった。
大声で聞きとれない言葉を叫びながら客を目一杯引かせている、そんな映像。
「何かあったんですか?何か知ってました?」
浅越の質問に鈴木は無言で首を振る。
灘儀が生き残る事を望んでいても、自分の手を汚すことをそこまで率先してやるはずのない浅越に、
また箍を外してしまった本当の理由など伝えてもただ引かれるだけだと思ったからで。
浅越も元より深く追及するつもりはなかったらしく、鈴木が促すようにまた柳谷を探す行程を再開した。



お前なんかが生き残りたいみたいに思うてるなんて有り得へんやん?
いつもガチでスベっとったんやし。
せめてさっき「自殺したいのに武器がなかったから探してたんです」とか言うてくれれば撃たんでも済んだのに。
なあ、竹…竹…竹…あれ何やったっけお前の名前?
468 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/03(土) 01:34:22
【コンマニセンチ 竹永 善隆 死亡】

ザ・プラン9 ヤナギブソン
【所持品:照明弾(4/5) ジッポライター 斧
第一行動方針:落ち着ける場所を探す
基本行動方針:とにかく生き残りたい
最終行動方針:生存】
【現在位置:森の中(C6)】
ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 吹き矢(9/10)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
ザ・プラン9 なだぎ武
【所持品: ダイナマイト1本 短刀(檜) 
状態:脇腹に軽傷/肩に銃創
第一行動方針:安静
基本行動方針:人命救助】
【現在位置:建設途中のホテル(C4)】
ザ・プラン9 鈴木つかさ
【所持品:アーミーナイフ ハンマー MP5 9mmパラベラム(277/300) 他不明
第一行動方針:ヤナギブソン捜索
基本行動方針:メンバー生存最優先、積極的に邪魔者排除
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
ザ・プラン9 浅越ゴエ
【所持品:救急セット M24ライフル 5.56ライフル弾(30/30) 他不明
第一行動方針:ヤナギブソン捜索
基本行動方針:メンバーの生存最優先
最終行動方針:5人で出来上がった脚本を上演】
【現在位置:広場(F9)】
【8/16 10:14】
【投下番号:177】
469名無し草:2007/02/03(土) 10:16:19
プラン編つまんないから、もう投下しないで下さい。お願いします
470名無し草:2007/02/03(土) 12:24:38
江頭の格好良さに泣いた
471名無し草:2007/02/03(土) 12:58:35
プラン編乙です。
何か、静かに壊れてる感じの鈴木が怖いです。
続きも楽しみにしてます。
472◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:12:12
>>402-409 の続き

暗闇に慣れきった島田の目を大滝のライトの光が焼き、視界が真っ白になる。
コントで板付き明転した時に感じる一瞬の違和感…と原理は同じであろうけども。
これがそんな可愛いレベルではない事は、動揺しつつも頭のどこかで冷静にわかっていて。
振り下ろされるスコップによって空気が震える気配に、脳天から叩き割ろうという殺意を帯びた一撃に
反射に…いや、本能的なレベルで島田は上体を反らした。

しかし地面に座した状態で避けようとしても限度がある。
ザリッという不快な音が上がり、島田の額に縦に一筋走る傷が生まれた。
スコップの先端の錆やら何やらで尖っていた箇所が、彼の皮膚に引っ掛かり、引き裂いたようで。
一瞬遅れてくる痛みに島田は顔を更に歪める。
「…大滝さんも」
ゲームに乗ったのですか? 問い掛けたい言葉は島田の喉で詰まった。
光でチカチカする視界の中で、それでも辛うじて、再びスコップを振り上げる大滝の姿が見えたから。
もともと強面の部類に入るだろう大滝の顔が憤怒の色を帯びており、今や眼光の迫力だけでも
圧倒されてしまいそうで。

「………っ!」
菊地の身体を地面に横たえ、水色のリュックサックを右手に掴み、島田は這うように大滝との間合いを広げた。
額から鼻の横を伝うように液体が流れる感覚を意識して気にしないようにしつつ、島田は両足で大地に立つ。
しかしいまいちバランスがとれずふらつく島田の様子に、大滝の口から、ハ、と嘲るような呼気が漏れた。
「僕じゃない…僕が殺したんじゃない。」
「じゃあ誰がやったんだ、菊地をこんな目に遭わせたんだ!」
焦燥しきった虚ろな眼差しを向けながら発される、普段よりも数倍滑舌のよろしくない島田の呟きに、大滝は声を荒げる。
「そ…それは…」
怒気に空気が揺れ、怯えるように一歩二歩と島田は後ずさるけれど、大滝は開いた間合いを逐次詰めていく。
「貴様がやったからだろう! っざけんじゃねぇぞ!」
そのままじりじりと移動する二人に取り残されるかのような形になった菊地に今泉が駆け寄り、
その身体を抱き起こそうとするのを視界の隅で確認すれば、大滝はそう吠えるなり島田の方へ大きく踏み出した。
同時にぶんと空気が震える音が上がり、島田の側頭部をスコップが襲う。
473◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:12:57
「……ひゃっ!」
反射的にビクリと身体を強張らせる島田だったが、しかし古びた金属片は彼を捉えはしなかった。
スコップはガスッと島田の傍らの樹木の幹に突き刺さり、逆にスコップの柄を通じて
大滝の手首は痺れるような衝撃に見舞われる。
「ちっ…」
カッとなったがために回りの障害物の存在を考慮し損じた自らの失態に、思わず大滝は舌打ちをして
スコップを引き抜こうとするも、木の樹皮も簡単にはスコップを放さない。
「………っ」
やむなく木に脚をかけて強引にスコップを引き抜こうとする大滝だったけれど、さすがに島田も
ぼんやりそのまま突っ立っている程判断力が落ちている訳ではない。
むしろ、逃げ出したいという本能が命じるがまま、脱兎のごとく細身の長身は駆けだした。
藪をかき分け、ハイキングコースに飛び出した島田はそのまま闇雲に下り坂へと足を進めていく。
とはいえ、足場の悪いハイキングコースである。
木の根や路上に露出した石に足を取られ、50mも走らぬ内に島田は盛大に転倒した。
地面に叩きつけられたリュックサックの口から、桃の缶詰が転がり出て一足先に坂を下ってゆき、
あっという間に闇の向こうへと消え去ってしまう。


「……もう、厭だ。」
ぽつりと島田の口から言葉が漏れた。
額はじんじんと痛むし、今転んだ為に手や膝も痛い。
それでも、このまま寝ころんでいたら、スコップを携えた大滝が追ってくるのは目に見えていて。
それはそれで厭なので、渋々と言った様子で島田は地面に手を突き、身体を起こそうとする。

ぽたり。
島田が首をもたげた所で液体が一滴、地面に落ちていった。
その色は闇夜の中でもぼんやりと赤く、この液体は島田の額から流れ出た血であろう。
続けてぽたり、ぽたりと血は滴り、土に染みこんでいく。
474◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:13:37
「……………。」
無駄に湿度の高い不快な真夏の夜の空気に漂う、湿った土の臭い、ムッとする濃い酸素の臭い、そして血の臭い。
改めて感じる周囲の環境に、今日の昼間に学校にて感じた変な既視感と貧血に似た脱力感が再び蘇り、
島田の全身の感覚がスッと遠くなった。



『防衛軍は…共和国の国民を欧米諸国から護るのが仕事ではないのか!?』
軍靴にて腹を蹴られ地面に倒されても尚、己の我を通そうと屈さない幼い頃の赤岡の眼。

 ぽたり。

『我々防衛軍が護るのはこの国土でもお前ら国民でもない…総統閣下を頂点とするこの国のシステム、ただそれだけだ』
少年達に銃口を向け、嘲笑う防衛軍の兵士。

『お前達もいずれわかる筈だ。お前らごときが何をやっても所詮は無駄な事だとな』
銃弾の代わりに発される、呪詛にも似た言葉。

 ぽたり。

島田の記憶にある防衛軍の兵士が大きく歪み、別の人物へと姿を変える。

 ぽたり。

『……常識とか正義とか法律とか…今更何だってんだ、そんな物!』
銃口の代わりに出刃包丁の刃を目の前に突きつけ、前につんのめっているかのような早口で滑舌の悪い声を
更に聞き取らせにくくまくし立てる、青白い顔の男。

『そっか…最初からこうすれば良かったんだ。ね、島田クン』
続いて浮かんでくるのは彼のどこか歪んだ満面の…そして満足げな笑み。
その色の白い指先は、島田の全力を持ってしてももはやふりほどける物ではなく。
475◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:14:24

「厭だ、こないで、助けて、ねぇ…もうイヤだ、いやだ、いやだってば……」
連鎖的に思い出してしまう光景に、言葉に、島田は嫌々と拒絶するかのようにかぶりを振った。
けれども辛うじて地面に付き、再び倒れないよう身体を支えている島田の手の平は、まだあの感触を覚えている。
出刃包丁の尖った先端が、生きた人の皮と肉を裂いて突き刺さる手応えを。
傷口から流れ出る液体の生暖かさを。人が死にゆくその工程を。

「……死んで償え。」
ふと耳に届く声は、幻聴だろうか。
いや、違う。これは現実の、大滝の発する低い声。
その証拠に、ちらちらと島田の周囲に大滝のヘルメットのライトの光が向けられているではないか。
「ぼくじゃない……ぼくがころしたんじゃない!」
子供がダダをこねる時のように声を上げ、島田は起きあがるのももどかしく、またもや駆けだした。
全身の感覚は相変わらず不明瞭ながらも、何とか少しは距離が稼げそうであった…けども。

不意に島田のか細い身体は温かく弾力のある何かに包まれ、その歩みは強引に止められたのだった。



「………っ!」
己の行動が阻害された事に気づくなり、島田の身体はみるみるうちに強張り、続いてもがき暴れようとするけれど。
「島秀、落ち着け、島秀!」
囁かれる声に聞き覚えがあり、島田は何とか束縛をふりほどこうと試みながらも声のした方を向いた。
そして今時の若者然とした、どこか軽薄げな…しかしその中にも義を通す見慣れた顔がそこにあると気づけば、
島田の身体の強張りは今度は急速に弛緩していく。
「のむら…くん?」
「おうよ。捜したぞ、島秀。」
確認するように名を呼ばれれば、島田を抱き留めた主…野村はニッと笑みを浮かべてみせた。
476◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:15:04
自分達…野村と赤岡が山頂を目指すハイキングロードの先から、表面が錆びた桃の缶詰が。
そして続いて見るからに何かがあったと思わざるを得ない危なっかしい足取りで駆け下りてくる人影が見えて。
それが漆黒のスーツを着た長身であるとわかった瞬間、まず赤岡が駆け寄ろうとしたけれど。
……お前が出てくと島田が混乱する。
そう告げて赤岡を制し、野村が先行して島田を掴まえたのだった。

確かに島田と赤岡が別れた原因が二人の間の口論と誤解であるのなら、赤岡が出て行くよりも野村の方が
島田を安心させるには適しているだろうが。
何とも面白くないといった様子で二人を見やりながら、赤岡はゆっくりと彼らとの距離を詰めていく。
しかし、遠目ではわからなかった島田の状況が詳しくわかってくれば、そして島田を追うように
ライトを携えた人影が近づいてくるのが見えてくれば。
島田の額に走る傷やそこから流れる血、そしてスーツの黒が変色している理由も、何もかもまだわからないけれど。
それでも赤岡の内側で何かのスイッチが音もなくONに切り替わる。

「野村。そいつを連れて山を下れ。それとこれ、薬箱。」
さもそうする事が当然であるかのように、野村と島田の横を通り抜け、赤岡はライトの主の方へと歩を進めていく。
「あ、おいっ、赤岡っ!」
「暴力を振るうつもりはない。お前らが逃げ切れたら、頃合いを見て撤退するさ。」
すれ違いざまにデイパックを押しつけられ、野村は赤岡の背中に慌てて呼びかけるけども。
返答としてぼそりと漏れ落ちたのは、相手がどんな武器持ってるかわからないのに大丈夫かよ、とか
三人で一緒に逃げねぇのかよ、といった野村の内心とは食い違う、寧ろ島田を安心させるための言葉。
しかし、それにしては赤岡の双眸には猛獣のそれを思わせる光が湛えられ、その表情も険呑さに満ちていて。

「…お前らをぬけぬけと逃がすと思うか?」
「……逃げ切らせます。」
ライトの主の声に心当たりがあり、一瞬だけハッとするけども。
挑発するかのような大滝のその呼びかけに、赤岡は薄く笑ってマイクスタンドを両手で握りしめた。
477◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:16:14
【号泣 赤岡 典明
所持品:MP3プレイヤー マイクスタンド
状態:左腕に裂傷・右頬に軽い火傷・ややバテ気味
基本行動方針:生存優先・襲われたなら反撃もやむなし
第一行動方針:島田達を逃がす
最終行動方針:悔いのないように行く】

【号泣 島田 秀平
所持品:犬笛  (以下、水色のリュック内) 缶詰2個 シャツ
状態:恐慌状態・額に裂傷
基本行動方針:生存優先・理由はどうあれ暴力イクナイ
第一行動方針:安全確保
最終行動方針:不明】

【江戸むらさき 野村 浩二
所持品:浦安の夢の国の土産物詰め合わせ 缶詰2個 薬箱
状態:ややバテ気味
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:安全確保
第二行動方針:磯山と合流したい
最終行動方針:不明】

【18KIN 大滝 裕一
所持品:ライト付き工事用ヘルメット スコップ
状態:万全・憤怒
基本行動方針:生存優先
第一行動方針:赤岡の排除・島田への報復
最終行動方針:不明】

【C8・ハイキングコース】
【15日 23:10】
【投下番号:178】
478◇8eDEaGnM6s氏代理:2007/02/03(土) 13:19:02
◆8eDEaGnM6s氏のプロバイダーが規制に引っかかったそうなので、代理で投下させていただきました。
◆8eDEaGnM6s氏、新作乙です。緊迫した展開ですね。また続き楽しみに待ってます。
479名無し草:2007/02/03(土) 13:32:09
皆さん乙です!
特にプラン編待ってました
友近との絡み楽しみです
480名無し草:2007/02/03(土) 15:58:32
プラン編つまんないとか言ってる奴消えろ
481名無し草:2007/02/03(土) 16:57:35
てめぇが消えろ
482名無し草:2007/02/03(土) 18:29:16
やめれ
483名無し草:2007/02/03(土) 18:39:49
久しぶりに覗いたら、wktkしながら待ってた
フット後藤編とプラン編がダブルでキテタ――!!
ありがとうございます。どっちも続きが気になる
484名無し草:2007/02/03(土) 19:26:56
このスレ本気で気持ち悪いねwww
ちなみに、ここで書かれてる某芸人もこのスレ見てるよwww
485名無し草:2007/02/03(土) 20:01:45
で?
486名無し草:2007/02/04(日) 11:49:06
スレが荒れるのも投下作品が叩かれるのも覚悟の上で、個人的には先細りにならないように芸人板に戻りたい
書き手の総数が少な過ぎると思う
487 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/04(日) 12:00:32
>>462-467

親の死に目に会えないんやったら、その覚悟はとっくにしとる訳で。
やけど芸人仲間の死に目を見ることはまだ覚悟しとる訳やなかった。
やってまだ30そこそこやで。
大きな夢大事に抱え続けた結果がこんなんなんて、なあ?

太陽がほぼ空の天辺へ居座ろうとし始めた時刻、灘儀は三度目の目覚めを迎えていた。
久馬との会話は乏しく沈黙に眠りを誘われていたのか、乱れた布団の上、無理な体勢での睡眠。
血液の循環が途切れていたのかあちこちが自分の体が悲鳴をあげているのに嘆息しつつ、
仰向けに転がり、何度も瞬きをしながら虹彩に光を採り入れていく。
いつ寝たのか覚えていないにも関わらず、きちんとタオルケットが上に掛かっていたのはやはり久馬だろうかと
思い巡らしはしたものの正面切って訊ねるのは気恥しく、心の中で感謝の意を述べるに留めた。

直射日光には溶けるような感覚を覚えるのか久馬は日陰に陣取り、
窓枠を文机にしながら一心不乱に台本を書き進めているようだった。
高所にあるためか定期的に清風が吹き込んできており、
その風が久馬が手帳から破いたのであろう紙屑を揺らしている。
灘儀は邪魔しないようにと緩慢な動きで起き上がり掛かっていたタオルを退かすと
本能に従って食欲を満たすために食料を取り出そうと重い腰をあげようとした時だった。
488 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/04(日) 12:01:19
カツンカツンと、微かにコンクリートと靴が衝突する音。
灘儀はすぐさま顔を上げると、久馬を見つめた。
しかし久馬は気付いていないのか、書き込む手を緩める事はなく。

「久馬、聞こえてへんの?」
灘儀は痺れを切らしたように咎め立てするような声で久馬に呼びかけると
突如掛けられた言葉に久馬は大きく肩を揺らしつつ一瞬にして胡座にしていた体ごと灘儀を振り返った。
「起きてはったんですか」
「ちょい前からな」
問答をしながら、灘儀は物音を立てぬようにと口の前で人差し指を立てると、久馬も首を傾げつつ静かになる。
カツン、カツンと。緩やかなスピードで、しかし確実に足音は上を目指していた。

鈴木のお手製トラップでそれ以上上るのを諦める可能性もあったが、灘儀は何か胸騒ぎを感じていた。
見に行かなければと、何故か胸が逸るような。そして見えない何者かに後ろから罵声を浴びせられているような焦り。
「ちょ見に行ってくるわ」
「危険やないの?」
久馬の言葉が灘儀の心にちくりと刺さる。
単独行動は危険だというのは重々承知していたが、しかし大丈夫だという予感があったのだ。
実際、緩慢に移動している割には気配を消している素振りがないことを考えると敵意がある訳ではないのだろうかと。
怪我人が助けを求めているのでえあれば、応急処置ならばできないこともない。
「多分大丈夫」
腰に守り刀代わりに短刀を刺すと、自分のデイパックを肩に背負って階段を下りる。
489 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/04(日) 12:02:42
慎重に侵入者に気付かれないように接近する。時折肩が痛むがまだ痛み止めが効いていたのか気になるほどではなく。
手摺りに背をべったりと張り付け、顔だけを階下に向けると、そこにいたのは予想外、
しかしずっと頭の隅にからこびりついて離れなかった人物だった。

「友近…!」
灘儀は息を継ぐまもなく全身を目の前に晒す。全身を手摺りにあずけ腰を曲げて、
踊り場で荒い息を吐いていた友近はその声に嬉しそうに顔を上げた。
友近の元気そうな雰囲気に、灘儀も安心する。しかし。
「やっぱり…合ってた…」
友近は破顔しながら曲げていた腰を真っ直ぐにすると、体の正面は鮮血で真っ赤になっていた。
まるで人でも食べたような濃すぎる赤に、灘儀の目は浮遊し、言葉も出ない。
そんな灘儀の動揺をまるで気にしないように友近の口から言葉が零れ落ちた。

「お願いです、死んで下さい…」

全身に浴びた血、手には簪、結い上げた髪から落ちた一房の束が口に入り何とも言えない悲壮感を漂わせていた。


この世のなごり 夜もなごり 死にに行く身をたとふれば、
  あだしが原の道の霜 一足づつに消えて行く 夢の夢こそあはれなれ
490 ◆pwreCH/PO6 :2007/02/04(日) 12:07:04
友近
【所持品:簪(かんざし) 他不明 】
ザ・プラン9 なだぎ武
【所持品:短刀(檜) 
状態:脇腹に軽傷/肩に銃創
第一行動方針:友近を落ち着かせる
基本行動方針:人命救助】
ザ・プラン9 お〜い!久馬
【所持品:ネタ帳 吹き矢(9/10)
第一行動方針:脚本執筆
基本行動方針:各自の行動は我関せず
最終行動方針:バトルロワイヤルを題材にした脚本を書きあげる】
【現在位置:建設途中のホテル(C4)】
【8/16 11:45】
【投下番号:179】
491名無し草:2007/02/04(日) 12:33:51
何で急に友近?
492名無し草:2007/02/04(日) 12:39:05
プラン編新作早っ!!
友近が殺しに来るの意外だった。
昨日ディラン&キャサリン見たとこだから複雑・・・・
戸惑うなだぎも気になるけど、冷静なリーダー久馬がどうでるかも気になる。
続き楽しみにしてます。
493名無し草:2007/02/04(日) 12:45:13
何かプラン編ってキモいんだよな
読んでて気分悪くなるし
494名無し草:2007/02/04(日) 12:51:16
気持ちはわかるけど、今の芸人板にこのスレの居場所は無いと思う。
(「何で戻ってきてんの?」って反応だとオモワレ。)
だったらラウンジクラシックのパロロワ交流雑談所とかで宣伝するとかの方が
いいんじゃないかな?中々パロロワって理解してもらえない企画だしね。
(特に実在の人物だから風当たりもきついし)まだあっちはパロロワに
興味のある人ばっかりだから荒らされる事もないし。
長文スマソ。
495名無し草:2007/02/04(日) 12:53:23
新作早いなーw 乙です。
友近と簪って雰囲気あってますね。
何かついに来たかーって感じです。
また続き楽しみにしてます。
496名無し草:2007/02/04(日) 13:06:49
キモいとか言ってる奴消えろマジで
497名無し草:2007/02/04(日) 15:46:10
てめぇが消えろよカス
498名無し草:2007/02/04(日) 18:51:26
つまんねー話ばっか書いてんじゃねーよ
499名無し草:2007/02/04(日) 21:51:26
みんなもちつけ

プラン編乙です。
友近は意外だった…!
500名無し草:2007/02/04(日) 21:57:32
お前ら煽りに反応すんなー

最近投下多いな…
書き手乙!
501名無し草:2007/02/05(月) 00:49:55
お前ら勝手に人格形成される側の身にもなってみろよ
はっきり言って迷惑
502名無し草:2007/02/05(月) 06:10:46
だったら見なきゃいいぢゃん
503名無し草:2007/02/05(月) 12:10:32
何を今更。
504名無し草:2007/02/05(月) 21:22:07
やってはみたいと思うが、キャラが掴めないのがネックだな…
この人マイナーな若手だけど自分は知ってるぞ、って人がいればどうにかなるんだけど。
自分は江戸の者なんで、西の芸人はよく知っていても手が出しにくいんだよな。
方言が自然に書けないから。何となく西の人が標準語(江戸弁とか栃木弁とかの東の方言は別)で
書くほうが、東の人が西の方言書くよりも上手いこといく気がする。言葉は難しい。
505名無し草
江戸ってw