◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)
<原作者及び出版元とは全く関係ありません>
・初めから判ってる場合は、初回UPの時に長編/短編の区分を書いてください。
・名前欄には「タイトル」「通しナンバー」「カップリング(ネタばれになる場合を
除く)」をお願いします。
・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。
・連載ものの場合は、二回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」
という形で前作へのリンクを貼ってください。
・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。
・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。
・作品の大量UPは大歓迎です!
◆その他のお約束詳細
・無用な議論を避けるため、萌えないカップリング話やキャラ話であっても、
それを批判するなどの妄想意欲に水を差す発言は控えましょう。
・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすい
ように、なるべく名無しで(作家であることが分からないような書き方で)
お願いします。
・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など自由に
お使いください。
・950を踏んだ人は新スレを立ててください(450KBを越えた場合は早めに
スレ立て準備をして、485KB位で新スレを。500KBで投稿できなくなります)。
他スレの迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。
◆「SSスレッドのガイドライン」の有閑スレバージョン
<作家さんと読者の良い関係を築く為の、読者サイドの鉄則>
・作家さんが現れたら、まずはとりあえず誉める。どこが良かったとかの
感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば作家さんは次回も気分良くウプ、住人も作品が読めて双方ハッピー。
・それを見て自分も、と思う新米作家さんが現れたら、スレ繁栄の良循環。
・投稿がしばらく途絶えた時は、妄想雑談などをして気長に保守。
・住民同士の争いは作家さんの意欲を減退させるので、マターリを大切に。
<これから作家(職人)になろうと思う人達へ>
・まずは過去ログをチェック、現行スレを一通り読んでおくのは基本中の基本。
・最低限、スレ冒頭の「作品UPについてのお約束詳細」は押さえておこう。
・下手に慣れ合いを求めず、ある程度のネタを用意してからウプしてみよう。
・感想レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが、宣伝や構って臭を
嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・作家なら作品で勝負。言い訳や言い逃れを書く暇があれば、自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。
レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られても、興奮してレスしたり自演したりwする前に、お茶でも飲んで頭を
冷やしてスレを読み返してみよう。
扇りだと思っていたのが、実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら、素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
目指すのは神職人・神スレであって、議論厨・糞スレでは無いのだろう?
テンプレは以上です。
前スレの残りは感想と雑談に使って、競作などの作品ウプは
こちらにドゾー。
新スレ乙。
このスレもまたーり萌えできますように。
>ダンデライオン
タイトルの意味が分からないけど、
野梨子の葛藤がよく分かりました。
清四郎、罪作り……。
スレたて乙です。
>8
ダンデライオン=たんぽぽ ですよ。
>ダンデライオン
野梨子の微妙な心理描写がいいですね。
嫉妬よりもああいう方向に思考が向くあたり、野梨子らしくて好きでした。
>たんぽぽ
なるほど!
無知な自分に教えてくれてありがとよ
スレたて乙です!
ユーミンの歌でありましたね>ダンデライオン
>11
私も思った。<ユーミンの歌
静謐な雰囲気が似てるかなって。
歌詞はお話の内容とは全然違うけど、(10)で野梨子が悠理のことを
考えているところは「今、素敵なレディになる」の下りを連想した。
私はブランキーを思い出した。<ダンデライオン
>ダンデライオン
めちゃめちゃ好きなお話でしたー!
べったりとした白い汁で象徴される野梨子の心情も、
その思いの拠点として活かされてる倶楽部の人間関係も。
ただ嫉妬して憎いって言うんじゃないのがいいなぁ。
野梨子の潔い清さとか、悠理の伸びやかな煌きとか、
すごく愛を感じました。ほんと良かったです。
新スレ立て乙です。競作参加します。
4レスいただきます。
私は買い物の途中、何と無く紅い林檎が目に入った。
ふっとあることを思い出す。
「両思いになれますように」と心で唱えながら、皮を剥き、煮詰めて、林檎のジャムを作る。使う林檎は赤いもの。
好きな人にそれを食べてもらえば、想いが伝わる。
確かそんなおまじない。
ヨーロッパでは、林檎は恋のおまじないによく登場する。
オーブンからスコーンの焼きあがる香りが立つ。
私は火にかけた鍋から、色が無くなった林檎の皮を取り出す。
砂糖を入れて、私の気持ちも一緒に煮詰めていく。
私の心と同じ、甘酸っぱい林檎ジャムの出来上がり。
彼の髪と同じ、ピンク色の林檎ジャム。
生徒会室で五人を待ちながら、スコーンとジャムと紅茶を準備する。
こんなことで想いが伝わるなら、世の中皆幸せですわね。
自分でもおかしいと思うけれど……。
今はまだ、自分の気持ちを彼に伝える勇気がないんですもの。
生徒会室に皆が揃い、取り留めのない話が始まる。
「魅録の分も頂戴!」悠理の手が勢いよく、ピンクのジャムがのった魅録のスコーンへ伸びる。
「悠理、だめですわ!」私は思わず立ち上がり、叫んでいた。
五人の視線を感じ、気恥ずかしく椅子に戻る。
「皆さんに食べて戴きたくて…。数も少ないですし。悠理には私の分を差し上げますわ。」とその場を取り繕った。
ごめんなさいね、悠理。
魅録が食べてくれないと、作った意味がありませんのよ……。
心のどこかで、おまじないを信じる私。
もし、魅録がそれを口にしたら。
そうしたら、私も心を決めますわ…。
だからどうか、友達思いの彼がいつものように、自分の分も悠理にあげたりしませんように。
桜が散り、葉桜の季節。
人生最大のイベントに向けて、私は毎日忙しい。
もうすぐ私の結婚式。
招待客への挨拶や、ショッピング、ドレスのサイズ直し、エステ。
忙しいけど、不思議と苦にならない。
お肌の調子もいいし、自分でも耀いているって思う。
そんなある日。
美童から結婚祝いが届いた。
何が入ってるのかしら?楽しみに箱を開ける。
そこには―白いレースにブルーのリボンと花飾り―
ガーターが入っていた。
美童ったら一体どういうつもり?男からのプレゼントにしては意味深よね?
これから嫁ぐ女をくどく気?
添えられたカードには、
― 可憐の玉の輿に乾杯!
本当は可憐のことちょっと好きだったんだ。
サムシング・ブルーに使ってくれたら嬉しいな。
美童―
と書かれていた。
ランジェリーショップで、ガーターを選ぶ美童を想像し、おかしくなった。
そして少しだけ、寂しくなって涙が出た。
「ちょっと好き」って、何よ…。
もちろん私は抜かりなく、四つの「サムシング」を準備していた。
サムシング・ブルーは、マリッジリングの内側にサファイヤを秘めてもらって。
だけど、美童の気持ちが嬉しくて彼の期待に応えることにした。
旧伯爵邸での結婚式。
お天気も良くて、広い庭の芝生の緑に、私のドレスの白がよく映える。
神聖な誓いの言葉を交わし、にぎやかなパーティーへと移る。
わたしは仲間の下へ急ぐ。
私の頬に美童が軽くキスをし、「可憐とっても綺麗」と耳元で囁いた。
「美童、あんたにも幸せを分けてあげる。」
私は意味ありげにウィンクを残し美童の傍を離れた。
パーティーの最後。
私は夫となる人に予定外のお願いをした。
それは、ガータートス。
ブーケトスの男性版。
早く美童にも本当に大切な人が見つかりますように。
私は心から、願ってる。
だから美童、ちゃんとガーターをキャッチしてね!
End
以上です。悠理編お待ちだった方、すみません。
彼女のおまじないは「色」が絡まないのでまた今度。
滑り込みでうpさせて頂きます。一応9レスで収まる予定です。長文が多く、必死でシェイプしたのですが、
もしかしたら10レスを超えてしまうかもしれません。もしも超えてしまったらごめんなさい(大汗
清×野です。嫌いな方、スルーお願いします。
あの日、列車に飛び乗ってから、何度も乗り継ぎを繰り返してここまで来た。
ここがなんと言う名前の土地なのか、そしてあの懐かしい東京――彼女が愛しい人々と、まるで砂糖菓子のように、
甘く幸福な日々を送っていたあの街――からどれくらい離れているのかも判らない。
とうとう行き止まったのは島国ならば当然の海辺の町で、けれどどこにいても落ち着かずに、
ホテルや民宿を転々としながら海沿いを行くあてもなく彷徨っている。
こんなシーズンオフにたった一人で宿を求める軽装の少女は、どこにおいても不信の目で見られ、
だからというわけではないが、彼女が落ち着ける場所はどこにもなかった。
居場所を見失い彷徨い続ける少女―――野梨子は楽園を追われた放浪者だった。
だが、そんな彼女にも、少しだけ楽になれる時間というものがあった。
それは夜明け前の日が昇る直前。
今の彼女にとっては明るすぎる太陽が、その輝く姿をあらわす前の、青く澄んだ時間帯。
ようやく彼女は、そこで深い息を吸うことが出来る。
人影はなく、世界は静寂に包まれて、ここには私と、冴え冴えとした青い空があるだけ。
彼女は思う、いつからこうしているのだろうと。
野梨子は、あの日からすでに幾日が過ぎたのかも判らなかった。
野梨子はどこにもいけない怯えた逃亡者だった。
「愛してます、野梨子」
清四郎にそう告げられたのは、心配していた悠理がぎりぎり滑り込みで必要単位を取得した、
すなわち仲間全員が聖プレジデント大学二回生に上がることが決定した記念すべき日だった。
お祝いのあと、いつものようにみんなと別れて、野梨子と清四郎は二人で一緒に帰った。清四郎はいつもより口数が少なかったけれど、
それ以外に特に変わった素振りは見せなかった。
家の前まできて、野梨子は清四郎を振り返った。その時もまだ野梨子は、今日という日が明日もまた同じように続くと当たり前のように信じていた。
野梨子はいつものように「清四郎、また明日」と、そう言った。
にこやかに隣を見上げて、彼女が昔から最も信頼する親友が「また明日」と言ってくれるのを待っていた。
昨日と今日が同じならば清四郎もまた「明日」と言ってくれるはずだった。なのに――。
「愛してます、野梨子。ずっと言えませんでした。でも、もうこれ以上、僕の胸に止めておくことは出来ないんです」
言葉の意味を理解した時、野梨子はぐらりと地面が揺れた気がした。立っている場所が崩れて、体が下に落ちていくような感覚。
不思議なことに、急にひとりぼっちになった気がした。
野梨子は一言もそれに対して返すことが出来なかった。
恥らうことはおろか、喜ぶことも、悲しむこと、怒ることも何も出来ずに、ただ黙って清四郎を見つめていた。私の顔はきっと蒼白だったのだろう、今になって野梨子は思う。
清四郎は不安そうに私の名を呼んだ。野梨子、と、生まれてからこれまで耳にした数え切れない呼び声の中でも、今まで聞いたことが無いくらい哀しい声だった。
なのに私はやっぱり何も言うことが出来なかった。もしかしたら私の目からは涙が流れていたのかも知れない。
清四郎は手を伸ばして、私の頬に触れた。とても優しい感触だったのに、それでも私はやっぱり何も言うことが出来なかった。
そうして長いこと二人は佇んでいた。
やがて耐え切れなくなった清四郎が野梨子の名を呼び、体を引き寄せた。
それは野梨子のよく知る幼馴染ではなく、彼女の知らないひとりの男性だった。「いやっ!」反射的に野梨子は叫ぶと、清四郎の腕を逃れて、家の中に駆け込んだ。
あの日、野梨子はもっとも大切な友達をなくしたのだ。
そしてそれと共に、絶妙のバランスで繋がりあった愛しい仲間をも失ったのだ。
もう、あの関係には戻れない。
野梨子が何よりも守りたかった、かけがえのない世界は崩壊した。
野梨子はその日のうちに、家を飛び出した。
…清四郎、どうして、あんなことを言いましたの?
今さら清四郎とどんな顔をして会えばいいのかもわからず、また、東京に戻って、これから少しずつ変わっていくだろう仲間達との関係を見届ける勇気もなくて、
野梨子はあちらこちらを彷徨いながら、じりじりと時間稼ぎをするように毎日を過ごしていた。
そしてどこにいても明け方になると外にでて、じっと澄んだ空を見つめ続けた。
その日野梨子はいつもより早めに外へ出た。
夜の気配はまだ濃厚で、夜明けまではまだ時間がありそうだった。野梨子は浜辺へと続く階段の途中に腰をおろして、夜が明けるのを待つことにした。
目の前に広がっているはずの広大な海も、今は暗くてなにも見えない。暗闇から聞こえてくる波の音は人の心を不安にさせるものがあり、
飲み込まれそうな漆黒の闇から逃れるように、野梨子は頭上を見上げた。都会の夜とは違って、空は塗りつぶしたような黒ではなくて、
満天の星々が瞬いていた。膝を抱えてぼんやりと、降るような星空を眺めていると、まるで眩暈がするようだ。
明るい星の光に野梨子は目を瞬いた。そして彼女は以前にもこうやって、浜辺で何かを待っていた自分のことを思い出した。
あの日、みんなが時宗さんに千秋さんとの約束を果たさせたくて必死だった。
野梨子はひとりではなかった。隣には可憐がいてくれたし、島の反対側を目指したメンバーも、今は側にいないというだけで、
その存在を感じとることができた。あの時も私は浜辺で待っていたんだわ。野梨子の意識は次第に時間を遡りはじめた。
彼らの道行きが少しでも楽なものになるように、私は星がもっと輝けばいいと願っていた。時間の流れはひどくゆっくりで、
彼らは必ず迎えに来てくれると信じていたけれど、それでもあまりにも遅すぎる待ち人は次第に私を不安にさせた。あの時も潮騒は私を怖がらすかのように響いていた。
夜が更けるにつれて拭えない心細さが募り、可憐がいなければとても耐えられはしなかった。時間感覚が麻痺して、いつからここでこうしているのか、
段々わからなくなっていた。闇は深く、永遠に明けることなどないように思え、私達はみんな、いつの間にかメビウスの環に絡め取られてしまったのかもしれない、
そんな子供じみた想像からなかなか抜け出すことができなかった。
もしも、もう2度と会えなくなったらどうしよう?ほんのさっき別れた皆が懐かしくて仕方なかった。
――みんな今頃、何処にいますの?
――清四郎、早く。早く、迎えにきて。
いつのまにか星がひとつ、またひとつと姿を消しはじめていた。夜明けの始まりだった。
夜空がほんの少しずつ黒から群青へと色を変えていく。
目前ではちらちら踊る白い筋がうっすらと浮かび上がった。それが波の先端だとわかるまでそんなに時間はいらなかった。
それを皮切に風景が次第にその姿を現しはじめた。まるで単色画のような世界。そこに使われている色は、よどみなく澄んだブルー。
ぴんと張り詰めた空気を破って、轟音をまき散らしながら、魅録と清四郎を乗せたモーターボートが到着したのは、まさにそんな時間帯だった。
「悪いな、こんな所で夜明かしさせちまって」魅録はすまなそうに何度も謝った。
「おじさんは無事に花束を渡せましたよ。おはよう、清々しいイヴの朝ですね」
それとは引き替えに、現れた清四郎は笑顔さえも浮かべていた。
どこが清々しいのよ!!清四郎の態度の悪さに可憐が怒鳴る。あまりの悪びれない台詞には野梨子も憤慨して、可憐が苦情を言い終えた後には、
自分も何か一言いってやるつもりで言葉を探した。可憐の文句を背中で受けながら清四郎は野梨子の手を取ると、彼女を助け起こして、
野梨子もかなりご立腹ですね、と笑って言った。野梨子は当たり前ですわと怒って答えた。
野梨子が立ち上がっても清四郎はそのまま手を放さなかった。不思議に思った野梨子が見上げると、清四郎もまた彼女を見つめていた。
その顔はさっきまでのすかした態度とは反対に、いつになく素直な少年めいていた。清四郎はふっと息をつくと、やっと一日終わりました、とまるで独り言のように呟いた。
「長い一日でしたよ。まるで、なかなか目的地に着けなくて、同じ場所をぐるぐる巡る夢を見ている様でした」
清四郎の台詞は、盛大な可憐の声に掻き消されてよく聞き取れなかった。それでも野梨子は自分を見つめる清四郎の目に、彼の言った言葉を理解した。
野梨子はこの時ポーカーフェイスの裏で清四郎もまた彼女と同じように不安だったことを知った。
野梨子の口から憎まれ口はとうとう一言も出てこなかった。
清四郎の声を聞いて、体温を感じて、その目を見つめているうちに、野梨子の気持ちは自分でも驚くほど静かに凪いでしまっていた。
暗闇に取り残された恐怖も、もう会えないかもという不安も、それはもう魔法のように跡形もなく消えてしまった。清四郎が、ただそこにいるというだけのことで。
清四郎はそのまま野梨子を抱き上げた。野梨子は何も言わずに、清四郎の首筋に顔を埋めた。
怪我をしているわけでもないのに、こんなことをされたのは初めてだった。
少し恥ずかしくなって野梨子が顔を上げると、すぐ側に清四郎の顔があった。清四郎はボートを目指してまっすぐ前を向いていた。
よく見慣れた涼しい目元、少し大人っぽい顔立ち。
そしてその向こうには、夜明けの空が広がっていた。太陽が現れる少し前、空はまだ南国特有の濃密な雲も見当たらず、
すっきりと冴えた青色だった。
野梨子はその風景をとても綺麗だと思った。
あぁ、そうだ。どうして気がつかなかったんだろう。
この空は彼に似ている。
「……清四郎」それに気付いたとき涙が溢れてきた。
彼女の楽園をあんな言葉で打ち砕いた清四郎。それを恨みさえしていたはずなのに。
それでも彼女が安らげる場所は他になかった。
彼から逃れようとしながらも、心はこんなにも彼を求めている。
清四郎、恋しい。会いたい。
野梨子は清四郎を思って人目も憚らずに泣きつづけた。
気がつくと夜明けは終わり、海岸には明るい朝日が降り注いでいた。
まだ頬を伝う涙を拭いて、野梨子は立ち上がった。
帰ろう。
彼女の少女時代は終わったのだ。
これから少しづつ、私もみんなも変わっていくのだろう。
この感情を恋と呼ぶのか、愛と呼ぶのか、それとも錯覚と呼ぶのかはまだわからない。
けれど帰ろう。例え楽園が崩壊したとしても、私の帰る場所は彼のもとにしかないのだから。
今ごろ清四郎はひどく後悔しているだろう。
彼にちゃんと伝えないといけない。清四郎は悪くない。傷つけたのは私のほうだと。
ホームはけたたましい騒音に満ちていた。
「…もしもし、清四郎?」
「野梨子、今どこにいるんです?」
「今は遠見台という所ですわ。私、いま駅にいますの」
震えそうな声を押さえて、野梨子は丁寧に話しはじめた。
野梨子、みんな心配しています。そこまで言うと清四郎は言葉を切った。電話の向こうで彼が次の台詞を躊躇っているのがわかる。
「野梨子、僕は――」
清四郎がなにか謝罪や後悔の言葉を言いかけたその前に、野梨子はゆっくりとした口調で話し始めた。
「ごめんなさい。清四郎にも皆さんにも随分迷惑をかけましたわ。――今から帰ります。
私、清四郎にちゃんとお話ししたいことがありますの。夕方にはそちらに着きますから、清四郎、迎えにきてくださる?」
野梨子は詳しい到着時刻を告げると、電話を切り、列車に乗り込んだ。
列車が走りだすと視界が開けて窓の向こうには春の景色が広がっていた。
どうか、まだ間に合いますように。清四郎のいる場所まで続いている青空に向かって、野梨子はそっと小さく呟いた。
おわり
以上です。
なんとか9レスで終わることが出来ました。
どうもありがとうございました。
競作うpします。8レス程使います。
「わたくしには、心に決めた方がいます」
目の前の凛とした表情の彼女に、男は思わず息を呑んだ。
それは、言葉では言い尽くせぬほど美しく
強い意志で満ちていた。
+ + + + + +
その日の空合いは、初夏の季節を表すが如く、蒼穹だった。
白鹿・白菊両家の間で挙行された見合いは
彼女のひとことで、すでに何の意味も成さなくなっていた。
彼女は真の恋をしているのだ。男はそう確信した。
自らの入る隙間など、何処にもあるはずが無かった。
しかし、同時に男の心は些かの嫉妬と好奇心に掻き立てられていた。
知りたかった。白鹿家の後継者として
幼き頃から、世に溢れている穢れも知らず
慈しみ、育て上げられたであろう彼女の心に棲んでいる男の事を。
男がそう思った刹那。突然、襖の扉が開いた。
振り返ると、ひとりの青年が姿を現した。
金色の髪に、深く蒼い瞳。
体にはぴったりとした蒼い袴を纏っている。
そんな彼の姿に、両家は一時騒然となった。
彼女の両親などは、予想もつかなかった人物の姿に
信じられぬと言った表情で、青年の姿を呆然と見つていた。
男は青年を見て、思わず感嘆の声を上げた。
白菊家は、古くから大使として
さまざまな国へ赴いている家柄であり
男自身も、多くの外国人と接する機会はあったが
こんなにも綺麗な客人に会うことなど無いに等しかった。
彼女はその青年の姿を見つけると、
心から安堵したような表情で
白百合のごとく穏やかな笑みを浮かべた。
男は思った。
彼こそ、彼女が心に決めた相手ではないだろうかと。
ふと青年が男の方を見た。
「こんにちは」
青年は流暢な日本語でそう挨拶すると、にっこり微笑んだ。
しかし、その蒼い瞳は水神のごとく挑戦的な色で満ちていた。
「美童・グランマニエです。彼女・・・野梨子とは
聖プレジデント時代からの同級生でした」
彼はその美しい容姿に勝るとも劣らない、
テノール調の声でそう自己紹介をした。
両家の視線は、彼女と彼女の隣に座る彼の姿に集まっていた。
彼の隣に座っている彼女も自分達に注がれる視線に
思わず顔を強ばらせた。
彼は、そんな彼女の肩に優しく手を差し伸べた。
刹那、彼女の硬くなっていた表情は軟らかいものに変化した。
そして、目の前を真っ直ぐに見据えると
穏やかそうな彼女にしては少し強い口調でこう言った。
「わたくしは、彼・・・美童と白鹿流を継承します」
そう言い放った彼女の表情は、凛として美しかった。
最初に立ち上がったのは、野梨子の父・清州だった。
清州は、決心の色に満ちた娘の表情を
しばし黙って見つめていた。
(それは本当なのか?どんな障害があったとしても
己の想いを貫く覚悟があるのか?)
野梨子は、そんな父の無言の問いにも
先程の表情を崩すことは無かった。
彼女の母も、見合い相手である男の両親も
そんな親子のやりとりに固唾を呑んで見守っていた。
彼・・・美童を除いては。
沈黙を破ったのは、父の方だった。
「美童くん、君はどうなんだね?」
美童は清州の方に顔を向けると、静かに口を開いた。
男は思わず息を呑んだ。
「僕・・・いえ私も野梨子と同じ気持ちです。彼女の想いと共に
彼女を、そして白鹿流を守っていきます。
死がふたりを分かつまで・・・」
美童の心には一寸の迷いも無かった。
目の前にあるのは、これから彼女と歩むべき、
ただ一本の道だけであった。
男は、美童の表情に並々ならぬ気迫を感じていた。
それは、彼の蒼い瞳に吸い寄せられそうになる程だった。
「野梨子、美童くん。そこまでの覚悟が出来ているのなら
お前達の好きにしなさい。私はもう何も言わんよ。
「父様?」
「・・・・・野梨子、幸せになりなさい」
清州は美童の話を黙って聞いていたが
そう一言呟くと、白鹿夫人が止めるのも聞かず
見合いの席を後にした。
その後、白鹿夫人の機転もあり、両家の見合いは白紙になった。
しかし、男の心は蒼穹のように澄んでいた。
それから3ヶ月後。
白鹿家では、婚礼の義が滞り無く行われた。
その日の空も、蒼く澄んでいた。
「のりこ、野梨子」
自分を名を呼ぶ声に、野梨子はふと我に返った。
目の前には青い海が広がっている。
「野梨子、どうしたの?気分でも悪くなった?」
今は夫となった男の心配そうな表情を見つめながら
野梨子は静かに首を振った。
「・・・思い出していましたの」
「何を?」
「私と貴方が、本当の夫婦になった日のことですわ」
「そっか。あれから1年も経ったんだね。
魅録と悠理が結婚するくらいだもんなぁ。
清四郎も僕みたいにさっさと決めればいいのに
何やってんだろ?」
「ほんと、美童の言う通りですわ」
野梨子はそう言って微笑んだ。
美童はそんな妻の美しい横顔を眺めながら、
時の流れの速さを実感していた。
今では妻となった彼女の凛とした表情が
まるで、昨日のことのように思い出される。
美童はふと思い出したように呟いた。
「ところで、野梨子。話って何なの?君の方から旅行しようって
言ったのは珍しいなぁとは思ったけど」
「ごめんなさい。もう少し時期が来たらお話することにしますわ」
野梨子の意味深な一言に、美童は暫く考え込んでいたが
答えは容易に見つかった。彼女の様子がおかしかったのも
これで納得が出来るというものだ。
「野梨子!」
「・・・名前は美童が決めて下さいませんか?」
「ふたりの子供なんだし、ふたりで決めようよ」
「ふふっ。そうですわね」
ふたりは顔を見合わせて笑った。
目の前には蒼い海と蒼い空。
そして、これから先、歩んでいくだろう
険しく長い道には、決して変えようのない、
決して揺らぐことのない幸せで満ちている。
そう確信していた。
THE END
オワリです。こちらにアップするのは久々になります。
感想&アドバイスを下さった方々、本当にありがとうございました。
皆様のご意見を元に、これからも精進していく所存でいます。
ありがとうございました。
もう競作週間も終わりですね・・・。サビシイ
>I wish…
愛らしくも小粋な野梨子と可憐のお話でしたね。
ただの甘口テイストではないところがいいです〜。
可憐編もあれで美童にコロッと行ったら「あれ?」ですが
ガータートスとは憎いですね!
>Blue sky
愛を告げられてショックの余り放浪する野梨子ですが
実は清四郎のことは気になっていたわけですね。
ご無事で何よりです。
>蒼穹にて
男にも綺麗と言われてしまう美童。やっぱり綺麗なんだろうなあ〜
三部作の最後(ですよね?)ですが、時間的には一番最初なんですね。
男たちの中で一番最初に決めるとは美童、やるじゃん!
あー、ごめんなさい。やってしまいました。
sageます。
>蒼穹にて
あれ? (6)がdでませんか?
勘違いだったらごめんなさい。
>41
sageを入れても、スレがそこから上には行かないだけで、
下がる訳ではないですよん。
嵐様更新乙です。いきなり引っ越していて驚いた。
さあ、また余韻に浸りにいってきま〜す。
競作おわってしまったかあ〜。
どの作品をどの作家さん(過去にこのスレでうpした事のある人)
なのか、あるいはどの作品が新人さん(といっていいのか?)なのか
大変興味ありますね。
なんとなく作風でこの人かな?というのもありますが、大半は
分からん!
やはり作家さんの自己申告というのはここではタブーなのですか?
>45 まゆこスレで、やらないことになったと思うけど…
>46
45です。そうでしたか。ちょっと残念な気もしますが・・・
よく読んでいなかったので、申し訳ないです。
教えてくださってありがとう。
( ´∀`)<野梨子
終わってしまいましたね…ほぅ。(寂
まさかこんなに沢山の沢山のお話が読めるとは!
有閑を愛す皆さんでお祭りがやれてよかったです。
読み返してこようっと。
連載再開も楽しみだw
妄想掲示板の方で、今回の裏話や新連載がお目見えしてますね。
こちらでも連載再開されるといいなぁ。横恋慕と檻の続きが気になる〜。
横恋慕、そして病院坂…作者さまどうかカムバック…! m(_ _)m
暴走愛作者様、お待ちしてます。
こっちのスレではないが、SF編、作者さま楽しみにしております。
この一週間毎晩ここを彷徨っていたもので、来るのが癖になってしまいました。
はぁ、でもお祭りは終わってしまったんですねぇ…。ああ。
病院坂、横恋慕、SF編、それから新連載・憂鬱な雨の午後に。
作者の皆様お待ちしております。
恋のチカラも熱烈再開希望!
作品を待つ間の小ネタで、悠理のテスト話でも。
その日は音楽のテストだった。問題を眺めながら悠理は口を尖らせる。
殆ど分からない。
(音楽でペーパーテストなんて意味あんのか? 歌を歌えて楽器が演奏
できれば、それでいいじゃん)
実技系の科目で知識を問うテストをされることに納得がいかない悠理は、
ただでさえ分からない試験問題に、真面目に取り組む気にはなれない。
頭の中に清四郎の声が聞こえてくる。
「いいですか、悠理。分からないと思った問題でも、答えを何か書くように
しなさい。まぐれ当たりする可能性だってあります。あなたは勘だけはいい
ですからね。それに白紙で出すよりは、先生の印象が良くなるというものです」
(アイツの言う通りにしとかないと、後でまたウルサイからなー)
ふう、と溜息をつきながら答案用紙に書き込む。
<「運命」を作曲したのでは誰ですか?> ジャジャジャジャーン
<「モデラート」について説明しなさい> モデルが食うジェラート
<リコーダーの穴を半分だけ押える演奏技術の名前は?> ちょっとだけよ
悠理が職員室に呼び出され、清四郎からも小一時間説教されたことは
言うまでもない。
古過ぎるネタでスマソw
連載開始当初に高校生だったなら、これもアリかと思って。
調子に乗って、悠理のテスト話をもう一つ。
今日のテストは現国だった。悠理は何とか答えられそうな穴埋め
問題から取りかかる。
<( )内を埋めて四字熟語を完成させなさい ( )光石( )>
簡単じゃん、と悠理は思う。これは先生のサービス問題だな。
(出)光石(油)。よーし、次行ってみよー。
<一( )二( )>
分かりそうで分かんないぞ……あ、そうか。一(1.5)二(2.5)。
<次の文章の空欄部分に当て嵌まる語句を答えなさい>
何度読んでもサッパリ分かんないや。最初は七文字で次が十文字、
最後のが十五文字。清四郎に言われた通り、何か書いとくか。
七文字の空欄部分「さんまのひらき」、十文字の空欄部分「さんまの
ひらきなのだ」、十五文字の空欄部分「さんまのひらきなのかもしれない」。
悠理が職員室に呼び出され、清四郎からも小一時間(ry
以上、元ネタはこのスレでしたw
生活全般板「学校のテストでの笑える解答」
http://life3.2ch.net/test/read.cgi/kankon/1072245224/
おまけ。
悠理が一番苦手な数学のテストの時間。
<○○が△△であることを証明しなさい> 問題に出てるから
悠理が職員室に呼び出され、清四郎からも(ry
二番煎じは面白くない
ワラタ。吹き出したよ。
こういうの身に覚えがあるw
>56-58
面白かった!
実際に悠理はやってそうですね。
先生と清四郎、二重にお小言をくらうとは気の毒な悠理w
>61
清四郎が悠理の保護者みたいで笑えるよね。
テストで他に面白いネタになりそうなのは、美童と可憐あたりかな。
美童は、日本での生活が短いことからくる勘違い+ナルシストな性格が関係して、
変な答案を書くことがありそう。
可憐は家庭科のテストで、先生の間違いを指摘したり、聞いちゃいねーよなこと
(玉の輿がらみのこととか)まで書いたりしてw
具体的なネタが思いつかないので、誰が思いついたら書いてー
いやぁ、可憐は意外と常識人だからあまりそういうことはしない気がする。
むしろ野梨子のが突っ込み魔のような。
>56-58
ワロタ。悠理のイメージ通りだよ。
書いてそう。
美童もありそうだな。恋愛絡みの言葉で答案
埋まってそう。
競作を堪能したばかりでワガママだけど・・
サヨナラの代わりに、病院坂、 白鹿野梨子の貞操を狙え!
作家さまの御降臨が待ち遠しい〜!!
お待ちしておりますm(_ _)m
>55
恋のチカラ!!私も熱烈再開希望!!
>64
アナタ、相当な野梨子スキーですねw
私の熱烈降臨希望リストとめちゃかぶってます
>65
64です。
そうです、相当な野梨子スキーですw
他のメンバーも大スキですけど、なんか野梨子に弱い(^^;
といいつつ、他カプ作品にもかなりハマテる私(笑
有閑妄想サイコー!作家さま方に感謝w
私も好きキャラとお気に入りカプはあっても
やっぱ有閑メンバー全員好きだしどの作品も楽しい。
妄想同好会&作者さま方様様だ。
そいえば妄想同好会、ウェブ拍手ついたね。
ウェブ拍手っていろんな場所で見かけるんだけど
いったいどういう代物なの?
掲示板より気軽に管理人さんへ応援の気持ちを届けるための物?
一行メッセージも書けるし。
気軽にありがとうを伝えられるよね<web拍手
すごくいいと思うw
出てきたキャラのコメント聞くのも楽しみだし。
>Blue Sky
すごく好きです。
清四郎って変態キャラや意地悪キャラにされがちだけど、
優しい好青年の清四郎、好きです。
ただ、傷ついたまま終わったので、その後が気になってしまう...
続きがあったら読みたいです。
Blue Skyの作者です。
>ただ、傷ついたまま終わったので、その後が気になってしまう...
続きがあったら読みたいです。
え〜と、特に続きは考えてないんですが(笑
話のラストで野梨子の心には、清四郎への恋の芽のようなものが生まれているので、
あの後、野梨子は東京駅に迎えにきた清四郎にその想いを告白して、そこで彼の傷は癒されます。
2人が晴れて恋人同士になれるかどうかは、その後の清四郎の力量次第ですが(笑
まぁ、たぶん大丈夫だと思います。
ハッピーエンドを想定して書きましたので、どうぞご安心を(笑
感想ありがとうございました!
読み返して恥ずかしくなるような教えてちゃんな私に
みなさんすごく親切だ・・・。ありがとうございます。
早速、嵐サンに喝采を送りに逝きます。
ごめんなさい、下げ忘れました!!
お久しぶりです。
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系なので苦手な方はスルー願います。
>>
http://houka5.com/yuukan/long/l-51-07.html 「……野梨子さんを私共長男、清四郎に頂戴できますよう、何卒よろしくお願い申し上げます」
いつになく抑えた低い声で用意した台詞を呟くと、スーツ姿の菊正宗修平は畳に手をつき頭を下げた。
横で同じくスーツを着た息子と薄黄色の色留袖を着た妻も同時に深々と頭を垂れる。
三人が通された白鹿家の客間には時折鹿脅しの音が聞こえる他は、深い静寂が流れていた。
やがて微かに衣擦れの音をさせて清州が静寂を破ると、両手を脇につけ、そのまま膝前にすべらす。
大きく息を吐きながら答えた。
「娘にはもったいないお話。ありがたくお受けさせていただきます」
続けて、野梨子の母が、そして髪を結い上げ振袖に身を包んだ野梨子がゆっくりと頭を下げた。
祝いの膳が運ばれると清州が自ら酒の入った燗鍋(かんなべ)を持ち客人に酒を注ぎに回る。
清四郎の杯にも注ごうとするのを未成年だからと形ばかり断るも、
重ねて勧められたので軽く頭を下げ、清四郎は両手で杯を持ち酒を受けた。
痩せて筋張った清州の手が酒を注ぐ。
澄んだ芳香、わずかに揺れる酒面。
隣では両家の母親同士が結納の日取りについて話合っているのが聞こえた。
顔を上げると清州がじっとこちらを見ているのと目が合った。
清四郎と視線が合うのを待っていたかのように、清州は二、三度まばたきする。
その表情から謝罪の意図を感じ、清四郎は暗黙の内に了解した。
畳に視線を落とした清州は膝に手をつき軽く頭を垂れた。
「よろしく頼むね」
野梨子の父があんなに清四郎を厭っていたものを、なぜに向こうから婚約を持ちかけてきたのか
清四郎は直に確かめたわけではなかったが、この著名な日本画家の心中は大体推し量れるものがある。
首を回して、今さっき結婚の約束を取り交わした恋人を視界に入れる。
清四郎の父と二言三言、言葉を交わす野梨子の姿があった。
野梨子は痩せた。
その余りの肉の落ちように普段顔を合わせることのある清四郎の母はともかく、
久方ぶりで彼女と顔を合わせた修平は少々驚いたようであった。
もちろんそんなことはおくびにも出しはしなかったが。
そして彼にも突然の縁談の理由が納得できたらしい。
穏やかに談笑する清州の顔にもありありと苦悩した影が見て取れた。
日々痩せていく娘を前に、成す術もなかった男親がそんなに相手を恋うるならと、
断腸の思いで菊正宗家に申し込んで来たに違いなかった。
清州の心中を思い、清四郎は目を瞑って酒を飲み干した。
清四郎はすでに諦観していた。
野梨子の気持ちはすでに自分から離れているような気がしなくもないが
この話を断らないのは、やはりまだ自分は必要とされているのかもしれない。
それならば自分に拒否する理由など無い。
彼女に気持ちを確かめてもただ静かに微笑むだけである。
二人の間を風が通り抜けるのを清四郎は感じていた。
嬉しそうでもなく、幸せそうでもなく、ただただ野梨子は漂白されてしまったかのように
感情を表に出さずに黙する。
野梨子は待っている。
やっと清四郎にも彼女の思惑が朧げではあるが読めてきた。
彼女はたぶん待っているのだ。清四郎が自らの口で野梨子に別れを告げることを。
今回の縁談がそのきっかけになればよいと望んでいるのだ。
だが、それを自分から切り出すことに清四郎は躊躇した。彼女の望みは大体理解できた。
過ちを告白し、再び彼女に尽くすことを誓った時は本当に心の底から野梨子を労わりたいと思った。
彼女の傷を癒したいと願ったことは嘘ではない。しかしそれは結局実を結ぶことはなかった。
そして今、清四郎は自分の心の中に可憐が住んでいることをはっきりと自覚している。
自分を慕いつつも常に不信にかられていた野梨子は疲れ果ててしまったのだろう。
彼女にとっても自分にとっても離れることがお互いの為だろうか。
だが清四郎は野梨子に別れを切り出すことを躊躇した。
もし彼女が自分との別れを望んでいなかったら。彼女の望みを理解したというのが気のせいであったら。
更に更に彼女を傷つけるのだとしたら。
散々彼女に背信しておきながら、何を今更偽善的な考えだとは思う。
しかし野梨子を労わる気持ちも偽り無い思いではあった。
彼女の望みがどうあれ、自分が野梨子の側にいれば何彼と世話を焼くことができる。
野梨子が自分から清四郎とは別れたいというのならば話は別だが、それはその時考えればいい。
煩悶し、自問自答を繰り返したあげくに、清四郎は野梨子との婚約を承諾した。
「なぜお受けになったの」
帰り際、背後から投げかけられた言葉に清四郎はゆっくり振り向いた。
すでに父母は家に入り、野梨子と清四郎だけが白鹿家の門前に立っている。
「考えた結果です」
清四郎が肩に手を置こうとすると野梨子はふいと退いてその手を避けた。
彼の言葉に野梨子は苦笑した。
「よろしいんですの。私に気持ちがおありでは無いのに」
「野梨子のことは大事に思っています」
「嘘ですわ」
即座に野梨子は言い放った。そして今度は清四郎に近づくと彼の胸を拳で叩いた。
「清四郎。ここに心はありますの?」
「……ある、と信じたいですが」
野梨子は清四郎から離れ、背を向け苦労して呟いた。
「清四郎が思うより」
ぽつりぽつりと零れ落ちてくる言葉に清四郎はじっと耳を傾ける。
「―――清四郎が思うよりも、ずっと、私は清四郎に夢中なのですわ」
じっと彼の顔を見つめる。
「でも清四郎は、そうではありませんわよね?」
清四郎は答えに苦慮し、やっと返事をする。
「側にいますよ、これからずっと」
彼女は首を振る。
「私が欲しいのは―――あなたの胸の底にあるものですわ」
「生身の僕はいりませんか?」
「あなたの心がついてくるのならば」
「あげますよ、野梨子。全て。僕はあなたのものです」
野梨子は諦めたように微笑むと夜空を見上げた。
そのままいつまでも空を見ているので、清四郎も、これも諦めたように星を数えだした。
続く
>暴走愛
お久しぶりです。待っていましたよ。
日に日に痩せていく野梨子に胸がぎゅっとします。
>暴走愛
待ってました!!!
そうか、婚約もしたんですね…。
このあと二人を襲う悲劇を思うだけで辛くなります。
続きをお待ちしております。
sage忘れ、ごめんなさいです。
>暴走愛
読んでいると胸が苦しい!切ない!ツライ!!でも読みた〜い!
ストーリーの魅力にドップリはまってます。
続きが楽しみです。
>暴走愛
>「あげますよ、野梨子。全て。僕はあなたのものです」
なんか読んでて本気で悲しくなってきちゃった。
清四郎の馬鹿ー。
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系なので苦手な方はスルーお願いします。
>>80 目の前を『聖プレジデント学園・学園祭 社交ダンスパーティー』と大書された看板が通って行った。
学校の大ホールでは学園祭の目玉、社交ダンスパーティーの準備が着々と進んでいる。
もう後三十分もすれば、ここは思い思いのドレスを着た女生徒や慣れない燕尾服もぎこちない
男子生徒で埋め尽くされるはずだった。
舞台の上で監修をしながら物思いにふけっていた野梨子は背後から呼びかける声にぴくりとする。
「来週、結納なんだってな」
艶やかな黒の燕尾服に身を包んだ魅録が立っている。
ポケットに両手を突っ込んだまま、微笑んでいる。
「おめでとう、野梨子。幸せになれよ」
やっと言えた。
自らに課した宿題をやり遂げた事で魅録は肩の力を抜く。
婚約の話を耳にしてからのここ二、三日、魅録は野梨子におめでとうを言おうと決心していたが
いつも彼女を前にすると用意した言葉は引っ込み、他愛の無い話をするしかできなかった。
それがやっと告げることができた。魅録はほっとしていたが、振り向いた野梨子の双眸から
透明な涙が零れ落ちるのを見るに当たり、大いに慌てた。
差し出された真っ白いハンカチに目もくれず、野梨子は見開いた瞳から滂沱の涙を流し続けた。
彼女は生成りのドレスに身を包み、アップにした髪には白の造花を飾っている。
「魅録……私、どうしたらいいんでしょう。どうしたらこの迷路から抜け出せますの?」
「野梨子、どうした? 何かあったのか?」
魅録は辺りを見回すと野梨子の手を取り、人目につきにくい舞台袖へと引っ張っていった。
子供のようにしゃくり上げながら野梨子は魅録に告げた。
「―――清四郎はただ義務感で私と婚約しようとしてるんですわ。私を傷つけたから、償いのために」
驚いたように目を見開くと魅録は野梨子の顔をじっと見つめた。
ピンク色の髪に手をやると、困った顔をする。
「それだけじゃないだろ。野梨子のことが好きだから……」
「私にはわかりますの。清四郎の心の中には他に好きな人がいるんですわ」
手渡されたハンカチを胸に野梨子はひたすら涙を流した。
そんな野梨子を魅録は人目から隠すように立ち、しばらく好きなように泣かせていたが、
やがてこんな風に問いかける。
「それで野梨子はどうしたい?」
野梨子の体がびくりとするのが見ていて判る。
「俺に何かできることがあれば言ってくれ。できるだけのことはするから」
少し沈黙した後、野梨子の小さな声がした。
「……それでは、私にこう言ってくださる?」
「……うん?」
白く華奢な肩が震えていた。
「『野梨子、勇気を出せ。がんばってこい』って……」
魅録は微笑んだ。
「わかった」
自分の肩に温かい魅録の両手が置かれるのを野梨子は感じた。と、同時に両手の体温のように
温かな声が自分の頭上から降って来た。
「『野梨子、勇気を出せ』」
野梨子は再び溢れてきた涙を必死に堪えて答えた。
「……はい」
「『がんばってこい』」
「……は……い」
深呼吸すると、魅録はもう一言付け加えた。
「俺がついてる」
堪えた涙が溢れ、野梨子の頬を濡らした。口元を右手できつく押さえて嗚咽をこらえる。
「……はい。ありがとう、魅録」
小さく礼を言うと、魅録の手をすり抜けて野梨子は走り去った。
魅録は舞台袖の時計を見上げた。あと少しでダンスパーティーが始まる。
「もうすぐ開演ね」
鮮やかなターコイズ・ブルーのドレスに身を包んだ可憐が控え室のソファに体を埋め呟いた。
「これが終われば受験勉強ね、清四郎と野梨子は。あっ、結納が先か」
清四郎の顔を見ると真面目くさった顔をして頷いている。
「そうですね。しばらくお遊びはお預けです。僕らだけではなく、可憐達もがんばるんですよ。
いくら下駄を履かせてくれるとは言え、聖プレジデントも他校の生徒と一緒に入試という形を
取るんですから」
「そういうことは悠理に言いなさいよ」
「悠理の家ほど、寄付金を積めば話は別です」
それもそうね、と可憐はくすっと笑った。
口紅を直すために鏡の前に座りながら何気なさを装って言い出す。
「ねえ、あたしね。大学行くのやめることにしたの」
鏡の中の清四郎が眉を顰めた。
「……やめる? やめて、どうするんですか? 聖プレジデントではない他の大学へ?」
「違うの、勉強しようと思って。笑わないでよ、ジュエリーデザインの勉強。母の知り合いが
開いている教室に何年か通って、いずれは自分のブランドを立ち上げられたらいいな」
「可憐」
清四郎の姿が目に入らないように可憐は化粧直しに専念した。
「ほんとはね、聖プレジデントにこのまま行くのが辛いの。何も環境が変わらないのに、
―――清四郎がいないんだもの」
声が震えて慌ててマスカラを直すふりをする。
穏やかな彼の声がする。
「まだ受かると決まったわけじゃありませんよ」
「何言ってるの。自信満々の癖に」
「自信が無いと言ったら嘘になりますがね。人生どんなアクシデントが起こるかわかりませんよ」
清四郎らしい言い草に可憐はニッと笑うと再びマスカラを使い出す。
「来年の四月になったら、皆別々の場所にいるのねぇ。清四郎と野梨子は京都に。
悠理と魅録、美童は聖プレジデントで、私は小さなジュエリーデザインの教室」
「……可憐」
優しい足音をさせて清四郎が近寄って来た。
可憐は振り向きもせず化粧を続ける。
「そうだ、夏休みにはきっと帰ってくるでしょ? 皆で会いましょうよ。
その時、新しい恋人を皆で連れてくるの。もちろん清四郎は野梨子を連れて来るのよ。
私も皆が目を丸くして驚く位の素敵な彼氏を紹介するわ。社会人かもね」
「可憐、」
「美童は大丈夫として、悠理と魅録には可哀想な企画かしら。いっそのことこの二人でくっついちゃえば
いいのにね……」
「……可憐、マスカラは涙が止まってからつけた方がいいんじゃないですか」
鏡の中の清四郎の姿は歪み霞んでいた。
やがて熱いものが頬を伝うと、両手を腰に当て困ったように微笑む彼が見える。
「困りましたね、もうすぐ開演なのに化粧が取れてますよ、可憐」
清四郎は可憐の前にひざまずくと、ティッシュを取って優しく可憐の涙を抑えた。
「来年の夏、京都からやって来ます……大事な友人に会いに」
それからそっと、
彼女の唇を奪った。
「……口紅取れちゃったじゃない」
「最初から取れてましたよ」
舞台に上がった野梨子にスポットライトが当たるのを魅録は舞台袖から見つめていた。
「――今日この日を迎えることができて、嬉しく思うと同時に淋しい気持ちで一杯です。
なぜなら、この学園祭が終われば私たち三年生を受験勉強という地獄が待っているからです」
観客からわぁとかヒィとかいう歓声が上がる。
その時、エキシビジョンの為に反対側の舞台袖に清四郎と可憐、そして悠理と美童がスタンバイする
のが魅録に見えた。舞台では野梨子の演説が続いている。
「慣れ親しんだ学び舎を去ることは本当に辛く切ないものです。ですが、私たちは明日という希望に向かって
進んで行かなくてはいけません」
野梨子が一瞬、声を詰まらせた。
途端にざわめいていたギャラリーはシンとする。続きを言おうとしたが、中々声が出ないようだった。
魅録は舞台袖で(がんばれ、がんばれ)と心の中から声援を送る。
その時、ふと野梨子が魅録を見て笑ったような気がした。
「皆さん、私たちはきっとここに帰ってきます。成長し、一回りも二回りも大きくなった姿を
皆さんにお目にかける為に。ですが、とりあえず今は私たちを慈しんでくださった方々に
お別れを言いたいと思います」
野梨子は大きく息を吸った
「……今まで本当にありがとう。そして、お別れです」
涙を零し声を嗄らす野梨子の姿を観客は息を飲んで見つめた。
魅録も又、息を飲んで彼女の姿を食い入るように見た。
向こうで清四郎が同じように彼女を見つめていた。
やがて彼は頷いたようだった。
「さようなら……さようなら、本当に……大好きでした。さようなら」
演説者が舞台から去ると、万雷の拍手が彼女のスピーチに送られた。
華やかな音楽が流れ始めた。
( 二章 〜狡猾な愛〜 終わり )
続く
前回うp分の
>>77-80 (125)〜(128)は(126)〜(129)の間違いです。
お詫びして訂正します。
>暴走愛
切ないよ〜
でも続きが気になる!
野梨子、イイ女だな・・・
ってか倶楽部の女性軍、みんないい女だ!
学園から離れた土地などで
3人の素性の知らない男達から見れば
すっごい美人の3人組って印象しかないから
即ナンパするだろうね。
で、後でナイトが3人現れたら、ビビるって退散っと
野梨子は倶楽部の女性キャラで言うと三番目に好きな自分でも(決して嫌いじゃない、
この暴走愛は野梨子頑張れの一言に尽きる・・・。切ない。
>暴走愛
魅録スキーな私としては、清四郎と可憐の関係に早く気づいて
「清四郎なんか忘れろ!」と野梨子を抱きしめてやってほしい・・・。
あぁ妄想が止まらん。
>暴走愛
続けて読めて嬉しいです。
改めて最初から読み直してみて、誰一人(倶楽部内の)想う相手と
結婚していない状況にくらくらしました。
どこまで暴走するのかは作者さんの胸先三寸ですが、最終的には皆納得の
いくような結論が出るといいなあと思います。
でも…どうやって? というわけで、続きを楽しみにしています。
96です。すみません、何だか「皆納得のいくような」の「皆」が、読者を指して
いるようにも思えてきたので補足しておきます。「登場人物皆」=「有閑倶楽部の皆」
という意味です。紛らわしい書き方をしてごめんなさい。
数年前のコーラス最連載が始まる前の有閑スレで、
野梨子×豊作ってカプが出てたけど、この二人の話ってまだありませんよね?
ちょっとリクエストしてみたり・・・・。
あと悠理が倶楽部外の人間に成就しない恋をして大人になるお話も読みたいな。
自分で書けるのが一番なんだが。
ダヴィンチって本で一条ゆかり特集やってたけど、
人気投票(男キャラ)の1位と2位は魅録と清四郎だった。
いつも大活躍だもんね。
あとの4人が清四郎と魅録を助けに行く話とかあったら読みたいです。
野梨子が「清四郎は私が守りますわ」ってかんじで。
野梨子が清四郎を守る(あるいは、助ける)シチュエーションってどんなだろう。
ほかの4人は清四郎にはない別のものをそれぞれ持っているから、そういう面で
助けたり守ったりできそうだけど、野梨子はいろんな意味で小型清四郎のようで
どの能力でも清四郎に劣るように見えるんだよなあ…。
勝てるのは碁……碁で守る、か。
>100
清四郎に政略結婚の話が。
相手は菊正宗病院の弱みを握っていて、断るに断れない。
しかしお相手の女性の祖父が大の囲碁好き。
「どうだね、碁でわしを打ち負かしたなら
この結婚無かったことにしても良いぞ」
そこで立ちあがる野梨子。
「清四郎は私が守ってみせますわ!」
>99
女性キャラクターと美童はどうだったのでせう。
悠里が1位、野梨子が2位。
可憐と美童が3位と4位だったような・・・
99タンではないが、美童は護国寺に負けて4位だったよ…。
女キャラは1位悠理、2位野梨子、たしか3位が可憐だったと思う。
うわ、回答が来てた。重なってスマソ。
香港マフィアに売られた清四郎を
野梨子が奪い返しに行く。
「この子をいただくわ」って感じで。
>103-104
有閑キャラ、強いですねぇ。
美童がちょっと残念。いじけていそう(苦笑)
>107
このスレでは滅茶苦茶いい男なのにねぇ、美童…。
悠理は女子の部ではダントツ人気だった。まあ、これは予想通りかな。
うーん、清四郎でもいいんだけど、裕也でもいいな。
かつての初恋の人が危機に襲われると知って猛然と立ち上がる野梨子と
その余りの勢いについていくのが精一杯な他五人。
>暴走愛
>95 そうか・・・魅録、清四郎と可憐に気付いてないのか。知ったらどうなるんだろ。
それにしても結納を控えているのに、清四郎と可憐、ひどいなぁ・・・。
>98 野梨子が豊作さんと婚約するトラブルありだとオモタよ。悠理と清四郎の
逆パターンのようで。そうなったら各々
清四郎・・・嫉妬して今まで気付かなかった恋心に気付く
可憐・・・玉の輿よぉ!と叫ぶ
悠理・・・あんなある意味コワイ女が義理の姉とは・・・。母ちゃんと結託したら
恐ろしやと青ざめる。
美童や魅録は?だな・・・
そもそも野梨子が豊作さんに惚れるのかという疑問が
豊×可の場合ならまだ玉の輿という状況で乗り気になる可憐もわかる
でも豊作さんは野梨子みたいなタイプ好きそう
>111
豊作は派手なタイプではないけど、誠実で堅実だから、
じっくり知り合えば可能性はあるんじゃないかな?
悠理という共通の話題もあることだし。
何かの切っ掛けで二人で悠理の話をして、「いいお兄様
ですのね」と野梨子が豊作を見直し、「私もこういうお兄様が
欲しかったですわ」と考えるところからスタート、でどうだろ?w
豊作は野梨子みたいなタイプ好きそう、には同意。
ってことは、上に書いたエピソードの後で、野梨子に惹かれた
豊作が控え目にアタック、かな。
案外、美童が応援して、豊作にアドバイスしてたりして。
豊作はもともと野梨子に好意持ってても不思議ではないよね。
で、野梨子は誰か(清四郎とか)の気を引くために軽い気持ちで豊作さんと
デートして、豊作さんはその気になってしまう。
でもそのデートが他の人の気を引くためとばれて「馬鹿にしないでくれ!」
と怒られてガーン!!!
優しいばかりと思ってた豊作が気になりはじめる…みたいなのはどう?
>113
うーん、野梨子がそういう行動を取るとは思えない。
どちらかというと、可憐の行動パターンじゃないかな。
野梨子と豊作さんって結構難しいね。
悠理の兄ということで、他の男よりは警戒心もないだろうけど。
112さんの控えめなアタックとか、気長なアピールとかいいと思うんだけど、
お兄さん的存在って清四郎もある意味そんな感じなのがなぁ。
清四郎が無敵過ぎる、欠点といったら傲慢さぐらい?
豊作さんにはそういったところはないからその辺かな。
清四郎って本当に無敵すぎるよね。
あんな幼なじみがいて幸せなのか不幸なのかって感じ。
>115
清四郎に対しては、同い年・気心の知れた幼馴染と
いうこともあって、時々ライバルみたいに思ってしまう
部分もあると思う。<野梨子
だから、自分をふわっと包み込んでくれるような存在と
しての、「兄」への憧れかなぁと。
>美童が応援して、豊作にアドバイス
しかし途中で気が変わっちゃって美童がかっさらう・・・
の方が野梨子はともかく読者としては萌えるw
だって豊作さんフェロモン出てないんだもーん(・ε・)
>118
気落ちする豊作さんに、可憐の豊満な胸がきゅーん。
母性本能全開で念願の玉の輿に乗りかける。
が、可憐への想いに気付いた魅録(or清四郎)がまたまたかっさらう…
ってことで、どこまでも報われない豊作さんはどうでしょう。
>118
それだと豊作が気の毒過ぎるので、
豊作と恋をしたことで今まで以上に綺麗になってゆく
野梨子を見て、惜しいことをした・・・と悔しがる美童。
ぐらいで許してやってくれw
>美童が応援して、豊作にアドバイス
豊作とは思えないほど巧妙な恋愛テク、口説き文句に
清四郎が一考「フム・・・、恋愛指南役が影にいますね・・・。
こんなセリフを考える男はだいたい想像がつきます」
豊作対清四郎はいつのまにやら美童対清四郎へ・・・
>121
それも面白そう。
本当は美童と清四郎も野梨子に惹かれてたんだけど、
バトルしてるうちに野梨子そっちのけになってしまい、
漁夫の利を豊作さんが得る、とw
魅録でも可w
>>121 それ面白い!!
美童が豊作のブレーンで、清四郎が野梨子を防御の攻防戦。
(フム。そういう手を使ってきましたか)
(ふ〜ん、やるねぇ。まあキャリアで僕に勝てるわけないけど)
>122-123
野梨子にはもっと主体性があると思う(あってほしい)。
美童にも清四郎にも左右されない独立独歩の心。
あっと気付いたときには裕也(or全く他の人)のところへ。
でなければ、雑音に惑わされず豊作ひとすじ。
美童が豊作さんに入れ知恵するなんて、まるでシラノ・ド・ベルジュラックではないですか!
ラブレターを代筆する男(美童)の方が、美女に恋する青年(豊作)さんより
美青年というのはまるっきり逆だけど・・・
ということは、最後はやはり野梨子は美童の手中に落ちるのだろうか。
結果はとにかくとして、とりあえずその攻防戦は面白そうなので見てみたい。
清四郎が恋愛面で美童に勝つのは難しそうだけど、時間の重みとかで
変な自信は持ってそう。
しかし美童が野梨子を愛してなければシラノにはなり得ないような。
漏れはむしろ、常識があって年もかなりイッてそうな豊作が
留年してるとはいえ、高校生に手を出すとは思えないので、
豊作x和子か、豊作x女装美童がいいなぁw
万作も和子ならに「兼菱を安心して任せられる」
と喜んで結婚の準備が猛スピードで進むなか、
街で偶然出会った、物憂げな美女(美童)が忘れられない豊作…
みたいなw
野梨子と豊作の縁談が進んで、
嫉妬する可憐・・・ってのも見てみたいぞ。
野梨子は清四郎への意地からなんとなく縁談を承諾、
最初は究極の玉の輿羨ましい〜、程度だった可憐だが、
あるとき豊作のいい人っぷりに気づいてしまい、
清四郎と可憐が結託して野梨子と豊作の仲をジャマを・・・
なんてね。
悠理もジャマしそうだな。
あんなんが姉ちゃんになったら怖すぎる!って。
もし本気で豊作が野梨子に惚れていたら、どんなに野梨子義姉が嫌でも、
悠理には兄のために応援するぐらいの思いやりある子でいて欲しい。
清四郎が野梨子を好きだ、もしくは好きになるというのが大前提になっているように
みえるんだけど…ここがちょっと不思議。
清四郎が野梨子の恋愛を邪魔するのは当然なのかな。
野梨子の相手が豊作で、お互い思いあってるなら応援するのでは?
実は自分もヒソーカに思ってた。
清四郎の嫉妬が恋ゆえか兄心かは各人次第だけど、
ここ清×野派多いなと改めて感じたよ。
>暴走愛
魅録くん最高です!
野梨子を抱きしめてあげてほしい。
第三章はどこからはじまるのでしょうか?
何にせよ楽しみにしています。
>>129 >豊作x女装美童
ワロタ
豊作から紹介されたときの有利の反応が見物だ
>有利
→悠理
変換ミスったyo
スマソ
豊作が眼鏡とったら、意外にいい男だったとか・・・
>136
オークションに行った時の清四郎みたいな
感じじゃない?可憐も「ゆーりのお兄さんに似てる」
って言ってたし。
自分は明らかに清×野派ではないけど、
ここで邪魔してくれて面白い勝負してくれそうなのは
歪んだ愛情の清四郎クンしか思いつかない。
パワフル可憐もアリかもだけど、一人じゃ負けそうだしなー
好き嫌いは別として、清×野っていじり甲斐があると思う。
同じ気の強い美人キャラでも、豊作さんとは野梨子より和子さんのがコミカルに妄想できるカモ。
結構ドタバタカップルになりそうな予感。しかし、豊作さんって尻に敷かれるのが似合う。
豊作×和子、おもしろいと思います。
和子さんはどこかしら百合子さんに通じるものも感じます。
>139 尻に敷かれるのが似合う
ほんとに!(笑)
原作で和子さんが登場した瞬間、豊作さんの嫁だ!って思った気がする。
清四郎にお姉ちゃんがいてびっくりしたけど、素敵な人で嬉しかった。
それから10ン年…豊作さんは殆ど登場すらせず、
和子さんはただキツいだけの女になってしまった。
せめて妄想の中だけでも、二人を幸せにしてあげたい…。
どなたか素敵なSS書いて下さらないでしょうか。
>暴走愛
遅レスですが、第2章終了、お疲れ様です。
第3章は大学時代編でしょうか?そろそろ豊作さんも絡んできそうですね。
ドロドロにいたたまれない思いを持ちながらも、読まずにはいられません。
続きをお待ちしています。
他の連載も早く続きを読みたくてうずうずしています。
作家様方、是非是非お早いご降臨を…よろしくお願いします!
>142
>ドロドロにいたたまれない思いを持ちながらも、読まずにはいられません。
あまりのいたたまれさに、胃がキューとするので途中でリタイアしました。
全部終わったらまとめて読むよ。
自分がココまで野梨子スキーだと知らなかった…。
>142
和子に豊作との縁談が合ったとして、
清四郎に悠理との縁談が舞い込んだ時、「す、すごい!うんというのよ、清四郎!」
と涙を流して主張していた程だから、最初はけっこう乗り気になりそうな気がする。
だけど豊作がここぞって時にミスってばかりで呆れ果て、
あっさりバイバイ。
ところが豊作はすっかり和子になっちゃって、ストーカーまがいに和子を追いかける。
そんな豊作に腹を立ててガシガシ足蹴にする和子。
落ち込む豊作に百合子が例の金髪美少女の縁談を持ってくる。
それを聞いた和子はほっとするはずが、妙にモヤモヤとした気分になり・・・。
>>144 >ところが豊作はすっかり和子になっちゃって、ストーカーまがいに和子を追いかける。
なっちゃって→夢中になっちゃって
の間違いでした。
>ところが豊作はすっかり和子になっちゃって
訂正入ったけど…ミュスカになりきった美童を彷佛とさせますな。
鏡に映ったヅラの自分に陶酔する豊作を見守る6人。
「あーあー、痛々しいわね」
「役者ですわねぇ、あんなに陶酔できるなんて」
「あの気持ちわかるなぁ、僕」
「にーちゃんが狂った」
「どうにかしてやれよ清四郎」
「どうにもなりませんよ」
うう〜ん、オチがない。
プライドの高い清四郎タイプのライバルもいたら
おもしろいかも。
また間が開いてしまいましたが、「横恋慕」を再開させていただきます。
魅録×悠理×清四郎の三角関係です。苦手な方はスルーして下さい。
前スレ >313の続きです
清四郎は肘をついたまま、顔の前で両手の指を組み合わせた。
「・・・彼女には誠意を持って謝罪しましたし、僕達は元のいい関係に戻りつつあります。
だから、もう口出しはやめてほしいんです」
思いがけない厳しい声に、美童は青い目をぱちくりさせた。
「ちょっ・・・と待て。ちょっと待てよ!?」
目の前の男に向けて両手で待てのジェスチャーをしながら、眉間に縦線を刻む。
「清四郎、さ。そんなに簡単に悠理のこと・・・諦めるつもりか?」
清四郎は無言でグラスを口に運び、噛みしめるように液体を飲み下してから言う。
「・・・面倒事はごめんです。大学に行けば、今以上に忙しくなりますしね」
ほんの数秒、美童はその男を凝視してからため息をついた。
「平気な声でそんな事言うなよ・・・」
もう一度、まだ他の友人と談笑している魅録へ視線をやってから、清四郎は首を振った。
「初めからわかっていた事です。悠理には魅録がいて、僕は必要とされてない」
「悠理がお前を必要としてないって、どうやってそう判断したんだ?あいつに、愛してるって
伝えてもないんだろ?」
「彼女が必要としているのは魅録ですから」
「魅録は関係ないんだよ、お前の気持ちを悠理に伝えろって言ってるんだ!」
美童がバン、とテーブルを叩き、魅録が振り返って怪訝な顔をした。
「僕は、あなたとは違う。下らない感情に振り回されるのはもう嫌なんです」
目の前でいきり立つ親友に向かい、清四郎は感情のない声で言い切った。
目の前にいるはずの二人の声が、ぼんやりとしか聞こえない。
堤防が崩れるみたいに、あたいの中が清四郎でいっぱいになっていく。
「初恋の方と結ばれるなんて、悠理は幸せですわ」
「あ〜、うらやましい!!あたしも胸がキューンとするような恋がしたぁ〜い!」
違う・・・と、首を振ろうとするあたいになんか構わず、二人はさも楽しそうにはしゃぐ。
「悠理ったら、今さら照れることないじゃない」
「まあ、かわいいこと。こんなに想われるなんて、魅録も果報者ですわね」
震える体を必死で押さえるあたいに向かって、可憐はまたにんまり笑った。
「ねえねえ・・・それで?どうだったのよっ」
今度はいきなり肘で小突かれ、あたいは掠れる声を絞り出す。
「・・・・・・な・・・に?・・・何が・・・」
「決まってるじゃない。初体験はどうだったかって訊いてるのよ!その様子じゃ、大騒ぎした
んじゃないのぉ〜〜?」
声を落としもせずに言い、可憐は片目を瞑った。
「か、可憐ったら。はしたないですわよ、そんな大声で・・・」
耳まで真っ赤になった野梨子が周囲を見回している。
俺のこと好きか?清四郎よりも、か?
魅録の切なげな声が聞こえる。愛してる、とはにかんだ笑顔が言う。
「・・・ごめん、あたい・・・帰る・・・」
それだけ言うのがやっとだった。
「下らないって・・・」
「やっとわかりましたよ。似たような立場だと思って、僕に同情してくれていたんでしょう?」
呆然とする美童の前で、清四郎は口元に小さな微笑みを浮かべた。
「・・・僕にとっては、魅録は大切な友人です。あなたにとっても同じはずだ。なのに何故、僕に
ばかり肩入れしてくれるのかずっと不思議でした」
訥々と喋り続ける清四郎に対し、美童は目を閉じ、ただ大きく首を振った。
「説教できる立場じゃありませんし、あなたには何も言いませんけど・・・僕はこういう立場には
不向きな人間だと思い知りましたから、もうやめますよ」
清四郎が言い終わるのを待って大きく息を吐き、美童は髪を掻き上げた。
「・・・・・・わかってないじゃないか、なぁーんにも・・・」
間延びした口調とは裏腹に、その青い瞳を冷たい光がよぎり、すぐに消えた。
無言で自分を見つめる清四郎の前で、美童は大げさに両手を天に向け、肩をすくめた。
「あー、わかったわかったバカバカしい。じゃあ、僕はもうお節介とやらはやめるけど、最後に
これだけは言わせてもらう」
やおら目の前の男の胸先に指を突き付け、美童は強い口調で言った。
「・・・僕とお前さんとじゃ、全然立場が違う。全・然・だ。この意味、わかる?」
その真意を探ろうとし、今度は清四郎が目を細めた。その視線を軽くいなして美童は両手
を頭の後ろで組み、やれやれ、といった風情で天井を見上げた。
「わかんないよね。そうやって安いプライドを振りかざしてる清四郎に、恋をする資格なんか
ないよ。悠理には魅録の方がお似合いだよな、ほんと」
魅録が戻ってくる気配を感じ、清四郎は開きかけた口を閉じた。
「おい、どうしたんだよ美童?さっきなんかデカい声が聞こえたぜ」
上機嫌で友人に別れを告げた魅録が笑いかけると、それまでの会話などなかったかのように、
美童は何でもないよ、と微笑んだ。
本当はきっとわかってた。
あたいが欲しかったのは、この指輪じゃなくて、
あたいが抱かれたかったのは、魅録の腕じゃなかったってこと。
気付きたく、なかっただけだ。
目を閉じると、嫌いなはずの男の声が、表情が、ぬくもりが、あたいの中にいっぱいになる。
いくらあたいがバカだって、もうわかってる。
本当は嫌いなんかじゃなかったってこと。
胸が痛いのは、息が苦しいのは、こんなのは全然・・・友情なんかじゃないってこと。
だけど、どんなに想っても、あいつはあたいを見てくれない。
そのことも、きっとあたいはわかってたんだ。
街灯に手をかざすと、指輪がキラキラ光ってきれいだ。
この指輪を受け取ったのは、あたい。
自分を女だと思ってくれないヤツのことを考えたくなくて、あったかい魅録の腕に逃げ込んだ
のも、あたい。その腕に抱かれることを決めたのも。
それなのに・・・
なあ、清四郎。
お前の名前を呼んじゃったよ。
ずっとずっと魅録を見てたはずなのに、さ。
気付かなければよかった。
あたいたちをつなぐ糸なんか、最初からどこにもありはしないのに。
[続く]
>横恋慕
ついに悠理は清四郎への気持ちに気がついた・・・!
この後、二人の思いは通じ合うんでしょうか・・・
続きお待ちしてます。
>横恋慕
お待ちしてました♪
つなぐ糸はあるんだよ、こんがらがっているだけだよ…君にはほぐせるはずだよ、
と悠理に言いたいです。
ではどうやってほぐすかですが、悠理or清四郎は動けなそうに見えるし、
かといって「横恋慕」の魅録は、自分から身を引いたり悠理と清四郎を
引き合わせたりができないような気もするし…。
美童ちゃん、悠理側からつつくか?
それとも今回ここまでのところ全く鈍い可憐姐さんが名誉挽回か?
野梨子…という線もあるのかなあ。
兎も角、そわそわして次回待っております。
「だから、あれは仕方なかったんです」
人影もまばらな、夕暮れ時の学園の図書室に、感情を見せない冷静な声が静かに響く。
その声を発した本人は、書棚を丁寧に眺めて、読むべき本を物色しているようだった。
もし誰かが通りかかっても、彼が誰かと会話しているようには見えなかったに違いない。
それほど彼のしぐさは淡々としたもので、普段と何も変わらない図書館の夕暮れだった。
しかし、彼の言葉を受けた相手はそうではなかった。
少し離れた棚にゆったりともたれてはいたものの、鋭い目には怒りが見え隠れし、
何よりもそのピンク色の髪がわずかに震えていたのだ。
「じゃぁ、あの約束はなんだったんだよ。
『僕がアイツを守りますから』
おまえは、たしかにそう言ったよな?」
「えぇ、確かにそう約束しました」
「だったら!」
自分の声の大きさにはっとして、ピンク頭はちょっと咳払い一つし、
「だったら、何故あの時アイツを危険な目に会わせたんだ。
お前が…清四郎が一緒だと思ったから、俺はあの日『花咲島』へは
行かなかったんだ!なのに…」
清四郎と呼ばれた生徒は、怒りに震える相手をものともせず
「魅録が居れば、そんな危険な状態にはならなかったと言い切れるんですか?
拳銃も持っていたし、実際打ってきた。それに 自分は何の足場もない海の中、
相手はボートでゴルフクラブですよ。相手を倒すことより、ひとまずも自分達の身を
守れただけでも儲けものだと思ってほしいもんですね。」
「俺が居たら、美童なんかには運転させなかった。だから絶対に振り切ってたサ。」
「それは、”行かなかった”という事実を消すことにはならないんですよ。
もし僕の立場だったら、魅録はあの場で何が出来たか教えてもらいたいものですね。」
>横恋慕
悠理、気付いたならその気持ちの通りに動いてほしいなあ…どうなるんだろう。
でなければ、清四郎、悠理の気持ちに気づけ!気付いて動け!頼むっ!…という気分です。
美童は清四郎に肩入れしているんじゃなくて、悠理に肩入れしているんですよね…。
いい奴だと思います。
展開に目が離せません。
>144
話が作れるってすごいなと思います。書いてもらうとなるほどその通りだ、
自分もそう思う、と思えるんですが、自分で一からやろうとするとえらく
陳腐なものしか出来上がらない…。
どなたかこの筋でお話書いてくださらないかしらん。
>横恋慕
すごく緻密に登場人物の気持ちを追っているのに
いつもとても読みやすくて、本当に文章のつくりが
うまいんだなぁ、と感心してしまいます。
悠理〜(泣
えーっと、>155は・・・
なんかの続き?
新連載?
ネタ?
誤爆?
その他?
某サイトで、
>155
を書いたものです。
どうして突然こんなところにコレが?
もうお話は完結してますので、あしからず。
読んだことのない方は、某所にて公開されてますので
探してください。
土曜の夜の作品アップは…ないかな?
作家様方、お待ちしてます〜。
新作うpさせて頂きます。
長編でカポーは野×魅です。
嫌いな方はスルーして下さい。
有閑倶楽部の面々は、剣菱家で新しく買った別荘のある沖縄に来ていた。
「ゴーヤ・チャンプルーでしょ、ソーキそばにタコライス、ブルーシールの紅芋アイスに
サーターアンダギーも、とーっても美味しいのん!」
悠理は目をキラキラさせながら、沖縄の味覚に思いを馳せていた。
「本当、悠理の頭の中は食べることしかないよね。食べ物の事はそんなに良く知っている
のに、それ以外は全然知らないんだろうな。僕でさえ知っているのに。」
美童の言葉に清四郎も頷きつつ、今更ながら悠理の食欲に呆れていた。
「ま、だから来たんでしょうね、沖縄に。歴史を知っていたら悠理は絶対に来たがらなかっ
たでしょう。」
他のメンバーも悠理に視線を移しつつ、うんうんと頷き合っている。
「要は出そうな所には行かなきゃいいんだろ?喜屋武岬、摩文仁の丘、ひめゆりの塔とか。
俺的には旧海軍指令部壕とかに行きたいんだけどな。」
「私は行きたいですわ。日本人として生まれたんですもの、一度は行ってみたいと思って
いたんですけど…悠理のいない時でないと駄目ですわね。」
野梨子は恨めしそうに悠理を見つめる。
「そうするしかなさそうですね。」
清四郎も野梨子と同じ意見なだけに、残念そうだ。
「あたしは食事も楽しみだけど、琉球ガラスを買わなきゃ。ママに頼まれてるの。」
「私も母さまに紅型を頼まれてますの。あの沖縄独特の模様色染めは、本土ではなかなか
お目にかかれませんもの。でも、それも何か事件に巻き込まれなければの話ですけど。」
そして今回も野梨子の予想通り、事件に巻き込まれるとは思いもしない6人だった。
「あら、平屋造りのいいお宅ですわね。」
レンタカーを駐車スペースに停め、皆は車から降りると別荘を眺めた。生垣にはブーゲ
ンビリアやハイビスカスが咲き誇り、その奥には平屋の2棟を繋げて作った、赤瓦の屋根と白い漆喰の美しい沖縄風の建物が佇んでいる。
「父ちゃんは結構気に入っているみたいだけど、母ちゃんはあんまし好きじゃないって。
家もちっちゃいし、どー見てもリボンとフリルは合いそうもないもんな。」
悠理は両親の趣味に染まっていないこの別荘を、満足そうに見上げていた。
「さっき、連絡しといたから、鍵は開けてあるって。あっ、屋根にシーサーがいるじょ!」
なるほど、悠理の指差した場所には、カッと口を開けたシーサーが睨みを効かせているが、
その姿はなんとも愛らしい。清四郎が腕を組み、そのシーサーを眺めながら解説を始めた。
「屋根や門柱にいるシーサーは雄で、「阿吽(あうん)」の「阿(あ)」を表していると言い
ます。「阿」を発音する時は口を開け、「吽(うん)」は口を閉じるでしょう?ですから、雄
は威嚇して家を守る魔除けとして外に置かれ、雌の「吽」は口を閉じて運を逃さない様に、
守り神として家の中に置かれるそうですよ。」
「神社の狛犬の沖縄版といったところですかしらね。」
「へぇー、ただ飾ってあるだけじゃないのね。」
「守り神って事ぐらいしか知らなかったな。」
「シーサーの世界でも男は大変なんだね。」
「帰りに買っていこうかなー。父ちゃん喜びそう。」
皆がそれぞれの感想を口にしながら、別荘の中へと入っていった。
玄関をくぐり正面のドアを開けると、そこはキッチンと二十畳程のリビングダイニング。そのリビングの大きな窓からは一面の海が広がり、横のドアからウッドデッキへと続く。
「きれーい!」
「デッキの先から海に降りられるみたいだよ。」
「荷物を置いたら、探検だぁ!」
悠理は嬉しくてたまらない様子で、そのまま外に飛び出しかねない程興奮している。
はしゃぐ悠理をなだめつつ、荷物をおく為に皆で部屋を見てまわった。
玄関の右にあったもう一つのドアは隣の棟へと続いており、廊下の先には十畳の部屋が二つと六畳の小部屋が一つ、そして一番奥にジャグジー付きの広いバスルームがある。
「ジャグジーがあるなんて嬉しいわぁ。」
中に入った可憐は大喜びだ。
「それも海を眺めながらだなんて、最高の贅沢ですわ。夕日も見えるのかしら?」
野梨子の言うとおり、バスタブの横には大きな窓があり、そこからも青い海が望める。
「男女でそれそれ十畳の部屋を使いましょう。荷物を置いたらひと泳ぎしますか?」
清四郎の意見に異を唱える者もなく、早速部屋に入ると水着に着替え、部屋を出た。
野梨子は別荘の周りで一人散歩を楽しんでいた。
沖縄の海を堪能した面々は、水着から洋服へと着替え、ウッドデッキで海を眺めながら
オリオンビールを片手に談笑している。アルコール類は別荘に来る途中に仕入れていたも
ので、冷蔵庫の中にはオリオンビールや泡盛までもが、所狭しと収められていた。
元々ビールが得意でない野梨子には、いくら苦味が薄いとはいえ、やはりビールはビール。
半分程飲んだところでリタイアし、水遊びした後の気だるい気分とほんの少しのアルコール
で心が軽くなった野梨子は、ウッドデッキから海岸に降りると、心地よい気分のまま散歩に
出たのだった。
海岸に沿ってしばらく歩いていると、大きな岩の陰に小さな階段があるのを見つけた。
そのコンクリートで出来た階段は、小柄な野梨子には段差が大きく、努めて慎重に登る。
階段の先にあるのは何だろう?野梨子は息を切らしながら、最後の一段を登った。
そこには――何も無かった。その小高い丘の上あったものは、一本のガジュマルの木と
その先に広がる草原。沖縄で『毛』と呼ばれる平らな草原から、野梨子は海辺の景色を眺
めていた。
青い空と海、何も無い贅沢を味わっていた野梨子だったが、そろそろ帰ろうかと一歩足
を踏み出した時、コツンと何かが足元に当たった。
何かしら?叢の中に半分埋まっていた黒い塊。手で触って見ると小さなビンのようだ。
何故か興味を持った野梨子は、手近にあった木の棒で掘り出してみる。
「なかなか取れませんわね。」
ビンが転がっていようと、何時もなら目にも留めないであろう代物なのだが、沖縄のゆった
りした時間とまだほんの少し残っていた酔いが、野梨子の子供のような探究心を呼び起こした。
次第に現れてくるビンの中には、新聞紙と思われる紙が入っているようだ。益々興味を
持ち始めた野梨子は、ビン全体を丁寧に掘り出してゆく。
「やっと、出てきましたわ。」
長い間放置されていた為か、金属の蓋は以外に脆くなっており、野梨子の力でも簡単に
開いた。中の新聞の日付は昭和20年、西暦でいうと1945年、約60年前である。
太平洋戦争の真っ只中、ここ沖縄で地上戦が始まった頃だろうか。
「よく残ってましたわね。」
そんな古い新聞紙に包まれた中には手紙が入っていた。
それは愛しい恋人へ宛てた、届かなかった手紙。
野梨子はその手紙を読んでみた。
―邦夫さんへ―
邦夫さん、私、貴方が好きでした。
手の届く距離にいながら、何も出来なかった私。
そんな自分の勇気の無さが悔やまれてなりません。
貴方に伝えたい、こんなにも伝えたかった想い。
けど、私は貴方の居場所さえ知らない。
いえ、生きているのかも分からない。
邦夫さん、今どこにいるのですか?
私の想いは何処に届けたら良いのでしょう。
だから、私は海に託します。
私は貴方が好きでした。
―範子―
ああ、同じ名前のこの方は、私と同じ思いを抱えている。
私、わかりますわ、この方の想いが。
私、わかりますわ、このかたの切なさが。
範子と野梨子の思いがシンクロした時、それは白い光へと変化していった。あまりの眩し
さに野梨子は目を閉じたが、瞼の裏からも白い世界が脳裏から全身へと覆い尽くし、やがて
意識と供に弾け飛んだ。
【つづく】
>姫百合の願い
これからの季節にぴったりの沖縄の情景と、それを背景に思い思いに動く
6人の様子が目に浮かびます。細部に渡る描写のおかげかな?
続き、楽しみにしてますね。新連載がんばってください。
>姫百合の願い
やったあ!大好きな魅録もの!
作者さま、沖縄に詳しいですね〜。
沖縄の風景が目の前に広がるようです。
旅行して大好きになったのでこんなの読めて嬉しいです。
>姫百合の願い
めちゃめちゃ好きです。
沖縄に行ったことがない私にも情景や雰囲気が
伝わってきました。
これから続きが楽しみです!!
あー、待ち遠しいっ!
他の連載も続きが読みたいよぉ。
作家さま方のご降臨を今か今かと
日々心待ちにしてます。
連載…書かれるのは大変だと思いますが、読む側としては
「今夜こそアレが降臨しないだろうか?」と、
本当に、本当に、毎回祈るような気持ちで更新しております。
全て楽しみにしてますが、特に気になっているのは
”サヨナラの代わりに”と”思わぬ伏兵”と”可憐さん〜”です。
作者さま方ーーーーよろしくお願いしまーーす!
>姫百合の願い
わーい、新連載だ!
雰囲気がとてもいいです。
沖縄が舞台というのも素敵。
これからの展開を楽しみにしてまつ。
思わぬ伏兵!最初に投下された後続きが出てないですよね。
いろんな波乱を含みそうな展開だったので、私も気になってます。
『姫百合の願い』うpします。
>>167の続きです。
野梨子は夢を見ていた。ガジュマルの大きな木の影に、少女が一人立っている。自分よりも
2、3才年下であろうか?彼女は見たことの無い制服を来ていた。
少女の見つめる先には、この丘から海を見下ろす少年。少年も少女と同じ年頃のように
見える。その少年は何かを決意したかのように、強い眼差しで海を見つめていた。
この場所が覚えている記憶なのだろうか?やがて、彼女の声が聞こえて来た。
邦夫さん。
どうして?兵隊さんに志願しちゃうの?
お国の為だから?
そう、それなら仕方ないわね。
お国の為なら喜んであげなくちゃいけないのよね。
なのに、涙が出てきてしまうのは何故かしら。
こんなにも胸が痛くなるのは何故かしら。
私たちは引き止めてはいけないのよね。
おめでとう、邦夫さん…
「野梨子、野梨子、しっかりしろ!」
野梨子を見つけたのは魅録だった。叢の中に倒れていた野梨子を抱き起こし、頬を軽く叩
きながら呼びかける。
野梨子はその声に呼ばれる様に、セピア色の夢から現実の世界へ戻ってきた。
「んっ…」
「野梨子!」
目を開けると、心配そうに覗き込む顔が野梨子の視界に入って来た。
「魅録?」
「大丈夫か?」
「…ええ。」
魅録が手を貸し、野梨子を立たせてやる。
「あんまり脅かさないでくれよな。帰って来ねーし、心配になって探してみたら倒れてるし。」
「ごめんなさい。私も何が起こったのか、あまり覚えていないんですの。」
「大丈夫か?泣いているようだけど。」
スカートを手で払い、汚れを気にしていた野梨子だったが、魅録に言われて初めて自分が
涙を流していることに気付いた。
「少し悲しい夢を見てしまったようですわ。」
でも、あれは本当に夢だったのだろうか?野梨子にとって、目をつぶればすぐにでも思い
出せそうな、切ないセピア色の映像。
「夢?じゃ、寝てたのか?」
「違います!実は…」
野梨子は右手に握り締めていた手紙を見せ、気を失っている間に見た夢のことを話した。
魅録は半信半疑のようである。
「信じてくれとはいいませんけど、同じ名前のこの女性に、なんだか引かれてしまって。」
「まぁいいけどさ、みんなも心配しているだろうから戻ろうぜ。」
そう言って別荘に戻ろうとする魅録に、野梨子は声をかけた。
「魅録。」
「ん?」
魅録が振り返る。
「そういえば私、まだお礼を言ってませんでしたわね。魅録、見つけて下さって有難う。」
でも…と、野梨子が話を続ける。
「私がここにいるって良く解りましたわね?目立たない場所ですのに。」
「ああ、野梨子がこっち方面に歩いて行くの見えてたし、あんまり人が通らないみたいで
足跡が残っていたからな。」
魅録は軽快に、後に続く野梨子は慎重に階段を降りていく。
「結構急な階段だから気を付けろよ。それにしても、野梨子がこんな場所を良く見つけたな。」
「悠理の冒険心を真似てみただけですわ。」
――トンッ、野梨子は最後の一段を両足揃えて飛び降りると、悪戯っぽく微笑んだ。
深夜二時をまわった頃、皆が眠っているはずの部屋の扉がキィと音を立てて開いた。ひたひた
と廊下を渡る音がした後、パタンという玄関の扉が閉まる音が続く。
月明かりの中、裸足のまま玄関から外へ出ると、何かを探すように遠くを見つめながら
その姿は、次第に夜の闇へと消えていった。
【つづく】
>姫百合の願い
読み始めると亜熱帯の雰囲気に包まれるようで、すっとお話の世界に入れますね。
前回の前置きと、今回のつなぎがとても上手くいっているんだなあと思います。
真夜中、外に出ていったのは野梨子…範子憑きの野梨子、でしょうか?
どこへ何をしにいくのか…次回も楽しみにしています。
あ、まだ野梨子とは決まってませんね。
ちょっと先走ってしまいました、スミマセン。
>姫百合の願い
なるほど。オカルト方向だとすると、悠理も活躍するのでしょうか。
続きが楽しみです。
ぶっちゃけ155が気になるのは漏れだけ?
うん、180だけ。
180につられて探してしまったよ。
連載物が載るサイト自体あんまないから、なんとか見つけ切れた。
特定カプのとこだから、嫌いな人もいるだろうね。
有閑キャッツ、再開しないかなあ…。
>183
私も読みたい。自分で書ければ書いてるけど、無理。
せっかく再開して、面白くなった所でまた止まっちゃって
めちゃくちゃ残念です…。
美童と野梨子がお人形さんにされてたはずですよね。
方向的には、可憐ねえさんが颯爽と現れて、窮地の悠理&野梨子&絵を
どうにかして持って(どうやってだ?)脱出するとか、かなぁ?
悠理が霊と対峙して捕まりそうになってるところに、清四郎と魅録が鍵を銃で飛ばして乗り込む
って感じで続いてなかった?自分も書きたいんだけど難しい。
リレーだから少し場面動かせば、また続けてお話が上がってくる気もするんだけど。
リレーといえばホロ苦も読みたいですー
お、絵板に新作が。
三人娘の首から上のみであるにもかかわらず
キャッツアイ編の雰囲気があるように見える…のは、なんでだろ?
ドレスアップさせてもオッケイ、盗賊の装束でもオッケイ。どっちも
頭の中で着せられますね。
んー、無性にキャッツ編読みたくなってきました。
キャッツアイネタに便乗なんだけど、
野梨子以外の武器って決まってたんだっけ?
以前にも案はあったけど。
彼女達が持っている形見が武器になるっていう
展開もありよねえ。って私が書けばいいのだけれど
文章力ないもので、つい人任せに。
実は途中でいくつか話を書かせていただいた者ですが、
正直、次につながるように書くのがすごく難しくて…。
なかなか最初の形見のネタに戻れなくなってますよね。困った。
特に今難航してる一乗寺家のミッション、どうにか終わらせたいといじってみたのですが、
私の頭では、皆さんが納得されるような素晴らしいまとめ方が浮かばないのです。
初期設定された作家さんは、もうカムバックして下さらないのでしょうか??
>>183-189 懐かしいなぁと思い
嵐さんとこ行ってキャッツ読み返したら
また読みたくなったよヽ( `Д´)/ ウワーン
>有閑キャッツ
189さんが「ミッション終わらせようと〜」て書いてるけど、
小ネタ話の段階で清四郎が悠理と戦ったり、魅録が可憐を捕まえたり、
美童が野梨子に逃がしてもらったりというネタが出てたが
そういうのはミッション中で書いたらどうでしょう。
いま、ある1点にメンバーが集まってきてるし、
これから混戦に持ち込めそう。
新しいミッション立ち上げるの大変だし・・・。
>191さんの「そういうのはミッション中で書いたらどうでしょう」は
「そういうの「を」ミッション中で(うまく取り入れて)書いてみると」、
小ネタを取り込めて面白いし、かつ今のミッションにも新たな展開を作れるから
話が進むのではないでしょうか、という提案、ということでいいのかな?
>192
自分のレスを読み返してみたら、わけわかんなかったね。スマソ
いや、実はミッション終わらせないで欲しいんです。
191に書いた「清四郎が〜」などの小ネタ部分はミッション中でしか書けないと思うので。
清四郎が悠理と格闘したり、魅録が可憐を捕まえたりってところを書きたくて
うずうずしてる作家さんは多いと思うが(漏れもその一人)、
そこに行き着くまでが大変で
その作業を皆で四苦八苦して行ってると思うんだけど、どうかな。
とは言え・・・実はこの一乗寺邸始めたの漏れで、皆さんヒジョーに書きにくそうなので
「この」ミッションを続けてほしいというのは言いづらいんですが・・・
適当に終わらせて別のミッションに入った方がいいのかな???
>191
ミッションを終わらせたい書いているのは
場面を切り替えたいからだと思う。
それにこの手のお話って、ひとつのエピソードで
謎やシュチュエーションが盛り込まれてしまったら
つまらないし、さまざまなミッションを経て
ひとつひとつのシーンを盛り込んで行けばいいのでは?
というのは私の考え。
また、これはリレーだからね。191さんが終わらせたくないと
思っても、実際場面を切り替えて別のミッション立ち上げて
それぞれの場面を書きたいって人もいるだろうし。
なんか偉そうな事かいてスマソ。
>193
えー…個人的な意見を言わせていただくと、例えばこのミッションで手がかりを
残しつつ、もう少し、誰でも妄想が膨らみそうな新しいミッションを立ち上げて
みたらどうかと提案したいです。
キャッツがまた『三姉妹』を盗み出すけど、それには新しい謎が隠されていて…とか、
野梨子と悠理を逃がすために、可憐だけ囚われの身になって(他キャラでも可)とか…?
あとは、清四郎が悠理に気付いたっぽいので、逃げられる直前に体に何か痕をつけ、
後日それを確かめに行く…ってシチュを妄想しました(けど、そこまで話を進められず断念)。
>191さん
本人じゃないので確証はないのですが…
>189さんがおっしゃっている「ミッション終わらせようと〜」の主旨は、
ミッションを終わらせるのが目的ということではなくて、
話(ミッションも含めて)を進めることが目的なんだと思いますよ〜。
(その結果としていずれは今のミッションも終わるけれど、
それがいつになるかは進め方次第、ということで。)
ただ、今の場面でしばらくみなさんの筆が止まっていることからして、
今のミッションは進めるのが少し難しいと判断して、何とかはやく話をおさめて、
少し易しめのミッションを立ち上げたい、という意識もあるのかもしれない
ですけどね。
ストーリーを進めるために、>191さんがおっしゃっているような
前に出ている小ネタを取り入れることを考えるのはいいアイディアだと思います。
確かにみんな集まってきているし、話を進める良い手掛かりになりそうな…。
大元になるトリックなり、これまでに描かれた背景を使ったうまいストーリー
展開を作れないと、小ネタの使いようもないわけですが、
それを逆さから考えてみよう、という意味で。
一読者だけど、一乗寺邸の雰囲気好きなんだけどね、
あのミッションひとつにあれこれ積み込まれ過ぎたような気もする。
>195
なるほど。そうなったらいいなと思います。
とりあえず、『三姉妹』をいかに盗ませるかが問題なんですよね…
今のところお人形が2体(ですかね?)、婆ちゃん三姉妹は全員実体なのかどうか、
銃を駆け込んできた清四郎と魅録に何をさせるか…等々。
>197 雰囲気好き、容量オーバー気味(書き手の手に余ってしまうという意味で)
同感です。
>189です。>194、196さんが仰るように、
とにかくリレーが続くようにしたいのです。私もこの話が大好きなので。
もう少し単純なシュチュを皆で考えて、
そこにガンガンと小ネタを盛り込んだらどうでしょう?
>>198 あと野梨子がもう霊か何かに囚われてたよね?
『姫百合の願い』うPします。
>>176の続きです。
>200 お人形2体=美童と野梨子ですよ。
琴子は幽霊ってことでいいんでしょうかね?
老嬢二人の正体は?
でも、やはり一番の懸案事項は「三姉妹」の絵を
どうやって盗み出すかでしょうか。
抱えられるサイズなら、正気に戻った悠理が野梨子を、
可憐が絵を持って逃げるのが妥当かな。
ピピピピピッ。目覚ましの音を止めて時計を見ると、時刻は午前7時を差していた。沖縄の
朝は、柔らかな日差しと爽やかな風が心地良く迎えてくれ、窓から見える空は今朝も真っ青だ。
可憐は上半身を起こし、うーんと伸びをする。ふと横を見ると、野梨も悠理もまだ眠ったままだ。
悠理はともかく、野梨子が目覚ましの音にも起きないなんて珍しい。
「野梨子、そろそろ起きなさいよ。」
可憐は野梨子にだけ声を掛けた。悠理はお腹が空けば、嫌でも起きて来るだろう。
「…もう朝ですの?」
可憐の声で目を覚ました野梨子が、眠そうな声で答える。
「何、あんた、よく眠れなかったの?」。
「夢を見たせいかしら、眠りが浅かったのかも知れませんわね。」
「へぇー、どんな夢?」
「そうですわね…」
野梨子は思い出そうとするものの、頭の中に白い靄がかかっている様で思い出せない。
「残念ながら、思い出せませんわ。」
「なんだ、つまんないの。」
そう呟くと、可憐は布団から抜け出した。
――今日のあたしは、白のホルダーネックのプルオーバーとエメラルドグリーンのラップスカー
トで上品な大人の女をまとうのよ。
毎日の習慣である、いい女になるための魔法を自分にかけて、昨日ハンガーに掛けて置いた
洋服に近づく。すると、ジャリっという音と共に、砂を踏む感触が足の裏から伝わって来た。
案の定、畳の上は砂や乾燥した土などで汚れている。
――まぁったく、悠理の仕業ね。朝から掃除しなきゃいけないなんて、もう!
可憐はさっさと着替えを済ませると、物置へ掃除機を取りに行った。やはり、廊下にも砂が
散らばっている。
可憐は悠理の枕もとに掃除機を置くと、スイッチを入れた。ゴーという喧しい音に、さすがの
悠理も目が覚める。
「なんだよ、うっさくて寝てらないじゃんかよぉ。」
悠理は大きな欠伸をしながら起き上がり、文句を言った。
「一体、誰のせいかと思ってんのかしらねぇ。」
可憐の顔が怖い。
「な、なんだよー。」
「あんたねー、いくら海が近いからって裸足で行くことないでしょう!おかげで部屋や廊下が
砂だらけじゃないの!」
可憐の剣幕に恐れを抱きながらも、悠理が反論する。
「えー、あたい、裸足でなんて行ってないじょ。」
「じゃあ、誰だって言うのよ。」
「何でもあたいのせいにするなよな!」
可憐はまだ納得していないようだが、誰がやったにしろ掃除をしなければならない事に変わり
はなく、ブツブツ言いながら部屋や廊下に掃除機をかけている。
「仕方ないですわ、野生児ですもの。」
いつの間に着替えたのか、野梨子も箒を持って来て、可憐の掃除を手伝い始めた。
「野梨子、顔色が悪いわよ、大丈夫?」
元来色白の彼女の肌が、今朝は一段と青ざめて見え、可憐は思わず声をかけた。
「あまり疲れが取れないんですの。良く眠れなかったせいだと思いますわ。別にどこか悪いわ
けじゃありませんから、大丈夫ですわ。」
「そう?ならいいんだけど。」
「あたいもなんか寒気がするんだよなぁ。」
悠理がぶるっと身体を震わせていたが、可憐は大きく息を吐くと、悠理に向かって叫んだ。
「どうせ、お腹出して寝てたんでしょ。風邪、うつさないでよね!」
朝食後、可憐がまだ部屋にいる悠理を呼びに来た。
「悠理、支度できた?みんな車で待っているわよ。」
その悠理はというと、ティッシュでビービーと鼻をかんでいる。
「やっぱり風邪みたいね」
「ああ、そうかも。」
悠理が鼻を真っ赤にしながら答えた。明らかに鼻のかみすぎである。
「じゃ、部屋でおとなしく寝てる?」
「んなわけないじゃん。あたいも絶対行く!せっかくの海洋博公園で遊ばずにいられるか!」
今日は皆で別荘の近くにある、国営沖縄記念公園へ遊びに行くことにした。その公園は以前
沖縄で万博が行われたことを記念し、その一部を利用して整備されたもので、一日中遊ぶこと
が出来るアミューズメントパークである。
「それだけ元気があれば十分ね。じゃ、行くわよ。」。
可憐は悠理と一緒に、部屋を出た。
「風邪ですか?気分はどうです?」
可憐から悠理が風邪らしいと聞き、清四郎が心配気に顔を覗き込んだ。そういえば、今朝も
ずるずると鼻をすすっていた事を思い出す。
「ん、大丈夫。遊びまくってれば、風邪も吹っ飛ぶだろ。」
「悠理がそう言うのなら大丈夫でしょうけどね。でも、無理はいけませんよ。」
したり顔で話す清四郎に悠理は腹が立ち、ついつい乱暴な口を利いてしまう。
「大丈夫だって言っただろ!相変わらずうっせーヤツ。」
「まぁ、悠理ったら、清四郎は悠理を心配してますのよ!」
聞き捨てならない、とばかりに野梨子が口を挟む。
「わっかたよ!どーせ、あたいが悪いんだよな。魅録!さっさと行こうぜ!」
悠理は助手席へ乗り込むと、バンと音を立ててドアを閉めた。
「…ったく、そういうお前が来ないから待ってたんじゃねえか。」
「そうそう、みんな悠理を心配してたのに。」
「仕方ないじゃない、悠理はあーいうヤツなんだから。いいから行きましょ。」
皆が車に乗り込むと、目的地へと車を走らせた。
「わおー!めっちゃカックイー!!」
今朝の不機嫌さは何処吹く風で、悠理はイルカ達の曲芸に大歓声を上げている。皆は水族館を
見学した後、公園内で行われる「オキちゃん劇場」というイルカショーの会場に来ていた。
イルカ達はスピンや宙返り、大ジャンプを見せては客席を沸かせている。
「こんなイルカショーが無料で見られるなんて、本州では信じられないわよね。」
可憐もイルカ達に惜しみない拍手を送っていた。
「どこの水族館でも、イルカショーを目玉に集客していますからね。」
「海亀館やマナティ館も無料でしたものね。マナティは国内の水族館でさえ、なかなか見るこ
とができませんのに。」
イルカショーも素晴らしいが、野梨子はマナティの愛らしさを思い出して微笑んでいる。
「かといって水族館がチャチなわけでもないしな。馬鹿でかい水槽に、ジンベイザメやマンタ
が悠々と泳いでるんだぜ。」
動物好きにはたまらないものがあるらしく、魅録も興奮しているようだ。
「太っ腹…っていうのもちょっと違うなぁ。そう、大らかなんだよね、沖縄って。」
美童の言葉に、イルカショーに夢中になっている悠理以外の皆も頷いた。
ショーを見終わった6人は二手に分かれ、可憐と野梨子は亜熱帯植物園で美しい花々や海洋文
化館でプラネタリウム等の施設を見て回った。悠理と魅録、美童、清四郎の4人はアクティブ
にニュースポーツ広場でゲームをして競い合ったり、エメラルドビーチでビーチバレーをした
り、透明度の高い美しい海で魚達と一緒に泳いだりと、それぞれが思い思いの時間を楽しんだ。
やがて、合流した6人は、噴水のある広場から伊江島を背景に、大海原に沈む美しい夕日を眺
めていた。美しい茜色の空が海の色をも染め、沈みゆく太陽だけが海と空の境を示す。
そんな雄大な景色に心を奪われた6人は、飽きることなく夕日を眺めていた。
「本当に素敵な所ですわ、沖縄って。」
贅沢すぎる景色や時間に、野梨子は心からそう思った。
その日の夜、魅録は不意に目を覚ました。もう一度眠ろうと試みるものの、妙に目が冴えてし
まい、なかなか眠気が訪れない。眠る事を諦めた魅録は、ポケットにタバコとライターを入れ、
リビングへと降りて行った。
時計を見ると深夜二時、あたりは虫の音と蛙の鳴き声しか聞こえない。
魅録はタバコを取出すと火を点け、煙を肺に落とす。
ふぅーっと大きく息を吐いたその時、虫の音とは違う何かを聞いた。キィという音と共にひた
ひたという足音が続き、その後、パタンと玄関の扉が閉まる音。
――何だ?誰か外へ出たのか?
魅録は玄関の扉を開けて周り見たが、人影は見当たらない。
――気のせいか?
魅録は不審に思いながらもリビングへと戻った。
ピピピピピッ。可憐は手を伸ばして目覚ましを止める。
「うーん、もう少し寝かせてくれよぉー。」
珍しく悠理も目が覚めたらしく、部屋の奥から声が聞こえてくる。
隣を見ると、野梨子はまだ眠っていた。
「野梨子、起きなさいよ。それとも具合悪いの?」
「…今、起きますわ。」
可憐に声を掛けれて目覚めたものの、野梨子は身を起こし、布団の上でボーッとしている。
――野梨子の寝起きが悪いなんて珍しいわねー。昨日の疲れが残っているのかしら?
可憐は起き上がり、昨日同様洋服に着替えようとしたのだが、再び畳の上の砂を見つけて、
はぁーと大きな溜息を吐いた。
「ちょっと、また砂だらけなんだけど。」
布団の中でまだもぞもぞしている悠理を睨みながら、冷たく言い放つ。そんな可憐の言葉が
自分に向けられた事に気付いたのか、悠理がムッとして反撃に出た。
「言っとくけど、あたいじゃないからな。昨日はみんなで公園で遊んだんじゃないかよー。」
そういえば、そうだったなと可憐は昨日の事を思い出す。夕日を眺めた後は、ホテルのレスト
ランで食事をしたんだっけ。別荘へ戻ったのも遅かったし、その後も風邪のはずの悠理が海に
入るとも思えない。
「悠理じゃないとすると、誰の仕業よ?」
「そんなの聞かれてもわかんないやい。それよりも、あたい、まだダルイから寝てる。」
「ちょっと、悠理、大丈夫?やっぱり、昨日遊ばなきゃ良かったかしら?」
可憐は心配そうに悠理の顔を覗き込み、額に手を当ててみる。どうやら熱はなさそうだ。
「昨日は昨日で楽しかったし。多分、寝てれば良くなると思うからさ。」
そんな可憐に、悠理はわざと明るく答える。
「わかったわ、おとなしくしてなさいよね。」
可憐は着替えた後、まだ布団の上でボーっとしている野梨子に声を掛けた。
「野梨子も起きたのなら、早く着替えて手伝ってよね。」
「昨日と同じ。玄関から部屋までよ。」
可憐は砂の散らばっている廊下を眺め、お手上げとばかりに大きく息を吐いた。
「ああ、そうですわね。綺麗にしないといけませんわね。」
着替えを済ませた野梨子が、部屋での会話が耳に入っていたのか、箒を手に廊下へ現れた。
「野梨子、あんたねぇ…。でもさ、悠理はまだダルイって寝ているし、この砂といい、何か変
じゃない?」
可憐の言葉を受け、野梨子も掃除をする手を止めて考え始めた。
「悠理…ですかしらね?」
「また入られたんじゃない?」
「その可能性が大きいですわ。とりあえず、清四郎達に話してみましょう。」
朝食を済ませ、悠理を除いた5人で食後のお茶を飲んでいる時、可憐が話を持ち出した。
「また悠理ですか。次から次へとまぁ…」
「そういえば、夜中に玄関のドアが開く音がしたんだよなー。気のせいかとも思ったんだが、
じゃあ、あれは悠理だったんだな。」
そう言いながらも楽しそうな清四郎と魅録である。そんな二人とは対照的に美童は露骨に嫌な
顔をしていた。
「僕は嫌だな、そういう話。」
「あんたは当てにしていないから、どうだっていいわよ。」
美童に可憐が追い討ちをかける。
他のメンバーの話を聞いていた野梨子だったが、強力な睡魔が彼女を襲い、野梨子はたまらず
口を開いた。
「私、疲れてしまったので、休んでもよろしいですか?」
「大丈夫ですか?顔色も優れないようですね。」
清四郎が野梨子の顔色を見て、少し心配になったようだ。
「昨日、あまり良く眠れなかっただけですわ。横になれば楽になると思いますから。お話中に
ごめんなさい。」
そう言って部屋へ戻ろうとする野梨子に可憐が声を掛けた。
「あれっ、野梨子、あんた怪我してるじゃない。」
「えっ?」
「ほら、左足首に引っかいたような後があるわよ?」
野梨子はサマードレスから出ている自分の足首を見下ろした。可憐の指摘どおり、白い足首と
は対照に赤い線が横にスッと伸びている。
「本当ですわね。どうりで、少し痛いなと思っていたんですの。」
「手当てしましょうか?」
「大丈夫ですわ、自分で出来ますから。それよりも失礼しますわね。」
部屋に戻った野梨子は救急箱を取ると、足首の傷を消毒した。その時気付いた。その目立つ
足の傷の他にも、目立たない無数の小さな傷が手足に付いている。
全く覚えの無い野梨子は不安に駆られるものの、疲れの方が先に立ってしまい、布団に入ると
深い眠りに落ちた。
「あら、野梨子、もう大丈夫なの?」
そんな可憐の言葉にも野梨子は何の反応も示さず、ただ前方を見つめ、玄関へと向かう。
「ちょっと、野梨子、どうしたのよ?」
可憐は野梨子の手をつかもうとしたが、野梨子の冷たい視線に躊躇する。
「野梨子?」
そんな清四郎の呼びかけも無視して、野梨子は扉を開けると玄関の扉へと手をかけた。
「野梨子、あんた、靴は…」
可憐の声よりも先に、野梨子は裸足のまま玄関を開けて外へ歩き出していた。
悠理じゃなかった。野梨子だったのだ。これで彼女の顔色が悪いのも、悠理の具合が悪いのも
全て頷ける。
「ねぇ、どうしよう?」
「とりあえず、後を追います!」
清四郎は立ち上がり、玄関へと向かった。その後を魅録、可憐、美童が続く。靴を履くのも
もどかしく、履き終えると清四郎と魅録は外へ飛び出したが、既に野梨子の姿は見えない。
「悠理じゃなかったのか…」
「悠理の具合が悪かったのも、野梨子が原因だった様ですね。」
「それよりもヤバイぜ。裸足で叢や林の中に入るのは自殺行為に等しい。ハブにやられたら
お終いだ。」
美童と可憐が靴を履き終え、駆け寄って来た。
「ごめん、遅くなって。」
「二手に分かれて探しましょう!」
清四郎と美童、魅録と可憐に分かれ、二組は別々の方向に走り出した
【つづく】
>姫百合の願い
いよいよ動き出しましたね。
美童に追い討ちをかける可憐に笑いました。
魅録が野梨子に気付かなかったのが残念・・・w
野×魅ということは野梨子が攻め役だから、そのうち彼女から
積極的に迫るようになるのでしょうか? 続きが楽しみです。
>
http://houka5.com/yuukan/long/l-49-6.htmlの続きです 夏というには早過ぎて、かといって春というには些か遅いのではないかと思われる、五月の終わり。
『ロミオとジュリエット』のオペラを見に行った帰り、私と清四郎は人影も疎らな公園を歩いていた。
ラストシーンなど目を閉じただけで脳裏に浮かぶ程、私はこの作品を気に入っていた。
五回六回とは言わず、両手の指では数え切れない位、鑑賞していたのは言うまでも無い。
「今日の舞台も、素晴らしかったですわ」
私はこの作品の舞台を鑑賞した帰りは、必ず気持ちが昂ぶっていた。
夜の公園という人気の無い場所なのをいい事に、私は清四郎の数歩前をくるくると踊り子のように廻って、歩く。
「ああいう恋に憧れますか」
スーツのポケットに手を入れ、清四郎は私のスカートの裾が翻るのを、飽きる事無く目で追っている。
「清四郎は、好きではありませんの? ロミオとジュリエット」
私は小走りに清四郎の傍に駆け寄り、彼の腕に自分の腕をそっと絡ませた。
「好き嫌い云々はともかく、ラストの二人の行動には些か疑問を持ちますね。
冷静に状況を見て判断していれば、無難に逃げ切って、他の地で幸せに暮らせていたかもしれない」
リアリストの彼らしい現実的な意見に、私は苦笑した。
「冷静になれないから、恋なのですわ」
「そういうものですか」
五月の生暖かい風が、私達を包んだ。
「あんなに深く愛されて、ジュリエットは幸せ者」
「そんな風に野梨子に崇拝されるロミオも幸せ者ですね」
清四郎はおどけたように笑って、私に歩調を合わせた。
「清四郎」
私は絡めていた腕を軽く引っ張って、彼の体を私に向けた。
冬に起こったあの事件以来、清四郎への想いを認識した私は、日に日にそれを募らせていた。
彼のこめかみの辺りに指を当て、輪郭を確かめるようにゆっくりとなぞっていく。
唇まで到達した指は、それを求めるかのように、そこで止まっていた。
「私のロミオは、すぐ傍にいるような気がしますの」
可憐に話したら一笑に付されるかもしれないが、それは私にとって精一杯の告白だった。
「野梨子――」
清四郎は唇に置かれていた私の手を掴んで、そのまま自分の頬にあてがった。
「好きな人は、いますか?」
予想もしなかった意外なリアクションに、私は驚いた。
今の会話の流れから清四郎は、ロミオはイコール自分だとは思わなかったのだろうか。
「ええ、いましてよ」
『目の前に』とまでは、言わなかった。皆まで言うのは無粋だと思ったからだ。
私は風に舞う花びらのようにふわりと、彼の胸に飛び込んで行った。
これで判らなければ、清四郎は世界一の鈍感者だと思いながら。
ところがまたしても、彼は私を驚愕させる反応を示した。
戸惑いながらも私を抱きしめ、耳元でこう囁いたのだ――。
「君のロミオが、早く現れますように。祈っています」
正体の見えない不安が、私の背後から近寄っていた――。
六月の梅雨のある日、私達は帰り道に激しい雨に襲われた。
スコールのような大雨に辟易しながら清四郎の家の玄関に着いた時には、
雨に濡れて、制服はずっしりと重くなっていた。
清四郎にタオルを借りてお互いを拭きあった後、私は家の中が不自然に静かな事に気が付いた。
「今日は、おじさまやおばさまはいらっしゃいますの?」
尋いた後に、朝、母と交わした会話を思い出す。
今日、菊正宗家は清四郎を除く全員が夜まで不在だと、母は言っていた。
私は瞬時に、突拍子もない事を思いついた。
「シャワーを浴びさせて頂いてもよろしいかしら」
「かまいませんげど・・・・・・。本当に誰も居ませんよ」
清四郎は明らかに困惑し、動揺していたが、私は引かなかった。
「その方が良いですわ。隣に家があるのに、上がり込んでシャワーを浴びるなんて
図々しいと思われてしまいますもの――。我が家の浴室は遠いし、制服が臭くなるのも嫌ですから」
――苦しい言い訳だった。
それでも私は困惑しつづけている清四郎を尻目に、そ知らぬ振りで浴室へ向かった――。
「バスタオルはここに置いておきますから」
見るからに肌触りの良さそうなバスタオルを脱衣籠の上に置き、清四郎は脱衣所から出て行こうとした。
「制服を乾かしておいて欲しいのですけど――。御願いして宜しいかしら?」
清四郎の性格から考えて、入浴中の女性の側に居るなどと不躾な行動は
取らないだろうという事は、簡単に予測出来る。
私は彼をそこへ引き止める為に、それを半ば強引に頼んだ。
「・・・・・・分かりました」
清四郎は自棄気味に溜息を吐き、半分諦めたように制服に手を掛けた。
冷え切った体に、熱い液体が気持ち良く、私を生き返らせた。
ガラス戸を見ると、ドライヤーをかけている清四郎のシルエットが映っていた。
こちらから清四郎が見えるという事は、彼からも私が見えているはずだ。
「清四郎」
私は浴室の中から声を掛けた。
「ここにいますよ」
「上がるまで、そこで待っていて下さいね」
気を利かせて清四郎が脱衣所から離れないように、私は念を押す。
時折脱衣所を気にかけながら、私はわざと時間をかけててシャワーを浴びた。
清四郎がガラス戸を開け、浴室へ入って来てくれる事を期待しながら――。
私は意図的に彼を誘い、試していた。
オペラを観た帰り道に漠然と感じた不安は気のせいなのだと、身を以って証明したかったのだ。
だけど予想通りというか清四郎は、矢張り最後まで浴室の中の私に声すら掛けてはこなかった。
『何故、天使が人間の住む世界に舞い降りているのだろう』
――彼女を初めて見た時、私は冗談では無く真剣にそう考えた。
『羽が生えていないだけの天使』――彼女への第一印象は、その一言に尽きた。
その頃、私の精神状態はもう十二分に不安定だった――。
どの様な心境の変化が、清四郎をそう云う行動に導いているのかは図りかねたが
彼は他の女性に目を向けるようになっていた。
取り分け、身近に居る悠理や可憐に度々軽々しく触れると云う、彼らしからぬ行動には驚いた。
私はその度に、私の存在はもう不要なのだと、目に見えぬよう心の中だけで塞ぎ込んだ。
かと思えば何でもないふとした拍子に、彼の視線を感じる事もある。
だが悲しいかなその視線が、恋情なのか嫌悪なのか非難なのか憐憫なのか――。
その時の私に、正常に判断する能力はもう残ってはいなかった。
そんな私達の見せかけだけの関係に、彼女――久遠寺小夜子の存在が影を差す事は、火を見るより明らかだった。
まるで恋愛小説の王道パターンのように、清四郎が彼女に惹かれていく様が、日を追う毎に如実に表れてくる。
清四郎は必ず彼女を好きになる――今思い起こせば、可笑しいだけの話だが
あの頃の私は、闇雲にそう信じて疑わなかった。
そして忘れもしない九月十四日――。
清四郎が我が家に洗濯機を修理に来た、その日。
行き詰まった私の想いは、私自身が想像もしなかったシチュエーションで、形を成した。
私は何処かで、自分が崩れて行くのを感じていた。
「自分の心を、もう一度見つめ直す事です。野梨子、真実は君の心の中にある――」
見合いの席で清四郎が言ったその言葉を聞いた時、私は初めて現実を認識した。
私が清四郎への想いを募らせるきっかけとなった『あの冬の出来事』は
彼にとっては十字架となり、彼の自我が崩壊するほど、彼自身を壊していた。
私は瞬時に、全てを後悔した。
何故あのオペラの帰り道、好きだと告げなかったのだろう――。
何故あの雨の日、愛しているとその胸の中に飛び込まなかったのだろう――。
傷つく事を畏れ、自分を守る事ばかりに気を取られ、恋と云う甘い戯れに酔いしれながら
心の何処かで駆け引きを愉しんでいた私は、彼の心情を少しも汲んではいなかったのだ。
そして悲しい擦れ違いだけが、私達の間に残った。
「貴方を愛しています」
私は我に返り、私と云う機能を取り戻す。
「僕は綾香さんと結婚します」
私はもう、迷わなかった。
「それでも、わたくしが愛するのは貴方だけですわ。今も、これからもずっと―――」
「あっ」
先頭を歩いていた野梨子が、不意に屈み込んだ。
「どしたぁ、野梨子?」
半歩後ろを歩いていた特攻服姿の悠理が、屈んでいる野梨子を覗き込む。
「うわ」
可憐もつられて覗き込む。野梨子の履いている鼻緒の前緒が、根元から取れていた。
「あっちゃ〜、野梨子、替えの草履なんて持ってきてないわよねぇ」
「ええ――」
替えのハンカチ位ならともかく、草履の替えまではそうそう持ち歩かない。
「これくらいならすぐ直せるよ。野梨子、草履脱げよ」
まーまかせとけ――と、魅録がヤンキー座りで修理を始めた。
「座って待ってなよ」
美童が目立たない所に綺麗なハンカチを引いて、座る場所を作ってくれた。
「ありがとう、美童」
いつもと変わらない日常――。
いつもと変わらないメンバー――。
只そこに、清四郎が居ないと云うだけで。
彼は、檻に入っていた。
私は、その檻の鍵を持っている。
檻の中から彼を救い出せるのは、私しかいない――そう思う。
私は、彼を救い出す。
『あの冬の出来事』という名の、暗く冷たい檻の中から――。
例えば私の、命の灯が尽きたとしても。
本日はここまでです。ありがとうございました。
>檻
少しずつ真相?が明らかになっていく様が、
面白いミステリーを読んでいるようでワクワクします。
すれ違っていってしまった二人、それぞれに自分が
崩れていってしまった二人に、和解の時は来るのでしょうか?
それとも・・・
>檻
初めて「檻」という単語が出てきましたね。
野梨子の想いに、胸が締め付けられる気持ちです。
この作品の野梨子大好き。
>檻
実はどうして檻というタイトルなのかずっと気になっていましたw
今回を読んでなるほど、という感じです。
話の中に謎の部分が沢山ありますが、話が進んでいくうちに
それがどんどん繋がっていくのが面白いです。
本当にミステリーを読んでるみたい。
お互いを想いながらも擦れ違って壊れていく二人が辛いですね。
清四郎を檻から出せるのか、この先の展開が気になります。
「あの冬の出来事」も。
>姫百合の願い
動き出しましたね。
野梨子がどこへ行く気か、魅録がどういう形で追いつくのか、
そこに何があるのか。次回も楽しみにしてます。
ひとり別荘で寝ている(はずの)悠理もどう出るのか気になります
(何せ幽霊話なので)。まさか邦夫さん出てきて憑いたりってことは…
いや、憑くなら魅録ですよねえ…。
>有閑キャッツアイ
可憐、野梨子、悠理が三姉妹なら、一乗寺の婆様sも三姉妹ですね。
何やらいわくありありの親父がいて、良くも悪くもいろいろ遺しているらしい
ことなど、共通点があるように思います。
今キャッツが追っている父親の謎と似たものが
かつての(老)姉妹とその父親との間にもあって、
それを解けなかった(あるいは解こうとしなかった、
もしくは謎自体を意識していなかった)そのなれの果てが現在の老姉妹…
なんていう話は、作れない、で す か ね…
>223 キャッツアイ
三姉妹の絵は本当は悠理達の父親のもので、一乗寺に騙し取られたとか?
絵の裏に彼女達の出生の秘密が…もしくは本当のママの絵が…ってどうでしょう。
元のキャッツはうろ覚えなんだけど、この設定だとかぶるのかな?
とにかくいろいろ語り合っているうちに、誰かがお話にまとめてくれればいいなー、
なんてちょっと目論みつつ、ネタを振ってみる。
ネタ話の途中ですみませんが、
「横恋慕」の続きをウプさせていただきます。
>152の続きです
週末の夜、剣菱夫妻は満面の笑顔で愛娘の親友達を出迎えた。
「みんな揃っただな、さっそく卒業祝いを始めるだ!」
「いらっしゃい!待ってたのよ〜。今夜はみんな泊まって行ってちょうだいね?」
大広間に案内されるなり、満漢全席を模した超豪華料理が次々と運び込まれてくる。
総料理長は、もちろんかの有名な名コック、九江である。
野梨子と可憐は両手を頬に当て、悲鳴を上げた。
「ど、どうしましょう。卒業式前に太ってしまいますわ・・・」
「ほんと・・・!やっぱり来ない方がよかったかしら」
男達は、そんな二人を横目で見ながら苦笑する。
「つい、食べ過ぎてしまうんですよね」
「美食家で小食な僕でさえ我慢できないおいしさ、って罪だよ!」
「なんかヤバい薬でも入ってんじゃねーか、って思うよな」
軽い会話を交わしながら、メイドが引いてくれる椅子へと腰掛けて行く。
「ほら嬢ちゃま、皆様お揃いですぞ、早く・・・」
五代の声が近付いてくると同時に、二人の女が目を見開いた。
「ゆ、悠理、あんた・・・!?」
「まあ、どうしたんですの??」
振り返った姿勢で、魅録は固まった。真っ赤なイヴニングドレスを纏った悠理が、仏頂面で
彼の真後ろに立っていたのだ。
そっけないほどシンプルなデザインが、その華奢なボディラインを引き立てている。
「かーちゃんが、たまにはちゃんとしたカッコしろってうるさくてさ・・・」
慣れないことをしたのが恥ずかしいのか、頬を上気させた悠理は彼の隣に座った。
「ブラボー!すごく似合ってる。素敵だよ、悠理!!」
言葉が出て来ない魅録より先に、美童が、そして仲間達が賛辞を贈った。
「本当、こうして見ると悠理ってやっぱり美人ですわね」
「恋をすると、こうも変わるものかしらねぇ・・・あんた、悔しいくらいきれいよ」
こういう場面でどういった顔をすればいいのかわからないのだろう。ちら、と居心地悪そうに
顔を上げた悠理の視線が、もう一人の男を捉えて微かに揺れる。
どこか遠い目をしていた清四郎はそれに気付き、無言のまま穏やかに微笑んだ。
その瞳は暫く彼女を見つめた後、自然に逸らされた。
「・・・悠理じゃねぇみたいで、落ち着かねーよ」
赤い顔をした魅録は、それだけ言うと悠理の頭を軽く小突き、そっぽを向いた。
「来週はとうとう卒業式ね。今夜は思う存分羽目をはずしてちょうだいな」
彼らをもてなす剣菱百合子は、これ以上はない、というほど上機嫌であった。
女らしさのかけらもなかった愛娘に恋人が出来たし、卒業は決まったし、自分が用意したドレス
を大人しく着て姿を現したのだから、当然と言えば当然である。
そうして、宴は和やかに進んで行く。
その時、可憐がほぅ、と小さく吐息を洩らした。
「どうかした?」
彼女の不審な視線に気付いた美童がさりげなく声をかけると、可憐は少しばつが悪そうに
上目遣いで彼を見た。
そして、仲よさげに寄り添うカップルをそっと確認してから、彼の耳に唇を寄せて話し始めた。
三人で食事をした時、悠理と野梨子をからかってしまったこと。途中で悠理が逃げるように
帰ってしまったこと。そして、今日はいつも通りに見える悠理だが、どこか魅録に対して無理に
親しげに振舞っているように感じられることを。
「野梨子には、あたしがいきなり初体験のことを訊いたりしたせいだ、って叱られたんだけど、
照れてるだけのようには見えなかったわ。あの動揺は只事じゃなかったもの」
そう言いながら、可憐は声を落としていく。
「大体、ほら。あの悠理がドレスを着るなんて怪しいと思わない?絶対、何か無理してるわよ」
黙って彼女の話に耳を傾けていた美童が、軽く眉を上げた。
「でね、あたしが思うに・・・悠理ってば、もしかして・・・」
可憐はまたちらりと周囲を一瞥してから小さく頷き、意を決したように切り出した。
「・・・裕也さんに片思いしてたんじゃないかしら。ね、憶えてるでしょ?」
思いもかけない推理に、さすがの美童も目が点になった。
だが、可憐はそんなことに構わず、真剣そのもので喋り続ける。
「彼の名前を出した後、様子がおかしくなったのよ。ほら、裕也さんってどことなく魅録に似て
たじゃない?気付かないうちに彼の面影を求めてた、ってこともあり得ない話じゃないと思うの。
でも、こんなこと野梨子にも、ましてや魅録にも言えないし・・・ねえ、どうしたらいい・・・」
堪えきれず机に突っ伏して吹き出した美童に、視線が注がれた。
「何だぁ?ずいぶん楽しそうだな」
きょとんとした魅録が声をかけると、美童は肩を震わせながら、ああちょっとね、と手を振る。
「ちょ、ちょっとぉ!何笑ってんのよ、失礼しちゃうわね!?」
美童は涙を浮かべながら、真っ赤になって怒る女の腕をポンポンと叩いた。
「残念ながらそれはないよ、可憐。恋愛の達人にはまだまだ遠いな」
それから真顔に戻るとぽつりと付け足した。
「・・・あいつらのことは心配いらないよ。僕に任せて」
仕事帰りらしい悠理の兄、豊作が広間に姿を現したちょうどその時、剣菱万作がすっくと立ち
上がって宣言した。
「今までずっと悠理の面倒さ見てくれて、みんなには本当に感謝してるだがや。この剣菱万作
から卒業祝いをプレゼントするだよ!さあ、なんでも欲しいものを言うだ!!」
また、嬉しい悲鳴が上がった。
末席に陣取って大人しくしている清四郎を見つけ、豊作は少し意外そうな顔をした。
隣、いいかな?と声をかけた彼に、清四郎はお久しぶりです、とにこやかに応じる。
「珍しいね、君はいつも輪の中心にいるイメージなのに・・・」
そんなことはありませんよ、と、清四郎は軽く躱す。
「お仕事の方は相変わらず忙しいんですか?」
「ああ、そうなんだ。父さんはご覧の通り、遊んでばかりだしね」
久々に顔を合わせた豊作と清四郎は、仕事のことなどで話を弾ませた。
「・・・ところで清四郎くん・・・医学部に進学するんだって?」
ふと会話が途切れた時、思い出したように豊作が言い、清四郎は軽く頷いた。
「ええ、親父の病院を姉貴だけに任せるのはどうも不安で・・・」
気ばかり強くて案外抜けてますからね、あの人は。と、清四郎は大げさに渋面を作って見せた。
皆が遠慮して譲り合っている中、悠理は魅録の腕をぐいぐいと引っぱりながら、
「クルーザーにしろよ、魅録。そんで夏になったら皆で海行こうよ〜」などと言い出した。
かなり酔っているらしく、目がとろんとしている。
遠慮する彼に構わず、万作は秘書に命じてさっそく手配をさせる。
「なるほどね。だけど・・・経営の方には、もう興味はないのかな」
軽く笑いながら問いかける豊作に、清四郎は今度は苦笑しながら首を振った。
「もう、身の丈に合わないことに手を出すのはやめました。あの時、僕が強引なことをしたせい
で、色々とご迷惑をかけてしまいましたし・・・」
「そんなことないよ。清四郎くんのおかげで不採算部門をずいぶん整理できて、すごく感謝して
るよ。父さんとも時々話してるんだ、いつか、また君に剣菱に入ってもらえないだろうか、って」
だが、清四郎は決然とした表情でもう一度首を横に振った。
「やめて下さい。あの時の僕は・・・何でも出来ると思い上がっていただけなんです」
「・・・そうか、残念だな」
本当に諦めきれない様子の豊作は、そっとため息をつく。
「僕は、おばさまのキスが欲しいな」
美童がぬけぬけと言い、青ざめる万作に構わず百合子は彼の頬にキスをする。
「卒業おめでとう、美童ちゃん」
「ありがとう、おばさま。何より素敵なプレゼントだな」
自分の手を取り、優雅に唇をつける美童に百合子は訊ねる。
「他には?」
「じゃあ・・・おまけに、コルベットのコンバーチブルでも頂こうかなァ。初ドライブの助手席に
おばさまが乗ってくれたら最高なんですけど・・・」
ウインクと共に、彼は上手に高級車をリクエストした。
「んまぁ!私でよければ喜んで!!」
年増キラーの美童の前に、万作は言葉もない。
「しかし・・・悠理が魅録くんとつき合ってると聞いて驚いたよ」
妹達の方へ目をやった豊作が、口に拳を当ててくっと笑った。
テーブルの向こう側では、ご馳走にがっついて顎までチリソースだらけになっている悠理に
「ったく、お前は・・・」と呆れながらも、ナフキンを差し出す魅録の姿がある。
いつもの鋭い眼光はどこにもなく、彼はその声や眼差しに甘い優しさを漂わせていた。
「・・・兄貴が言うのも何なんだけど、下心もなしに、あんなじゃじゃ馬とつき合う奴がいるはずが
ない、って思い込んでたものだからね」
清四郎は少し困ったように、口元だけで微笑みを返した。
その表情にハッとした豊作は慌てて手を振った。
「ああ、ごめん。君のことじゃ・・・あの時のことを蒸し返すつもりはないんだ」
「いえ・・・悠理の人生に傷をつけてしまったことを、僕はとても後悔しているんです」
苦々しく言う清四郎に、義兄になるはずだった男が優しい言葉をかける。
「元々うちの両親のわがままが原因なんだから、君が気に病むことは・・・」
清四郎の表情が微かに強ばったことに気付き、豊作は口を噤んだ。
[続く]
>横恋慕
続きが読めて大変嬉しいです。
清四郎…つらいですね。でも諦めないで何とか一歩動いてほしい…。
そして着飾った悠理も。
豊作さんが出てくるとは予想していませんでした。清四郎の中の“何か”に
気付いてくれる…かな?
美童の「任せて」に、とっても力付けられた気分です。
次回も楽しみにしております。
>横恋慕
真っ赤なイヴニングドレスの悠理の揺れる目線、それから逸らされる清四郎の目線。
今の彼らの状況、ですね。どうなっていくのでしょう。
美童の「おねだり」があんまり彼らしくて笑ってしまいました。でも、
>「・・・あいつらのことは心配いらないよ。僕に任せて」
お任せします。よろしくお願いします。m(_ _)m
>横恋慕
美童にしろ、豊作さんにしろ、この作品の男性陣は
原作の彼らの長所をうまく抜き出した感じがして好きです。
みんな幸せになってほしいなぁ…
ものすごーく下らない作品をうPしちゃいます。
短編でカポーは特にございません。
Rではありませんが、下ネタビシバシですので、嫌いな方はスルーして下さい。
11レスお借り致します。
ここ江戸の町にも密かに悪をやっつける庶民の強い味方がいた。その名も「有閑・お仕置き人」。
お金を出せば、憎い奴を闇に葬り去ってくれる。その正体は誰も知らない。
飲み屋『黄桜』のお店に呉服問屋『白鹿』の一人娘、野梨子が遊びに来ていた。黄桜の女主人で
ある可憐は粋な女で、色気たっぷりの美人だ。一方の野梨子は日本人形のような清楚な美しさを
持つ美人で、この二人が一緒ともなると、町の男共が放っておくはずもないのだが、いつも豪華
な仲間と連れ立っているので、中々声を掛けることが出来ない。
その仲間とは、人気役者の剣菱悠理、旗本の息子である菊正宗清四郎、南町奉行の息子「松竹梅
魅録」、そしてオランダ商人の息子である美童グランマニエだ。
そして、この6人こそが、「有閑・お仕置き人」なのである。
「有閑・お仕置き人」の面々は『黄桜』を拠点に動いている。
「野梨子、あんた今回は何もすることがないんだから、囮でもやんなさいよ。」
「ええーっ、私がですの?いつもなら可憐の役目でしょう?」
「あたしは情報収集であちこち走り回ったのよ。それなのに、あんたは何もしてないじゃない。」
可憐の言葉に野梨子は反論できなかった。確かに可憐の言うとおりである。
「それはそうですけど…。だって、今回の殺して欲しい相手は4人しかいませんし、清四郎、
悠理、魅録、美童で終ってしまいますわ。私がやってしまったら、みんなが怒りますでしょ?」
「だからやるんじゃないの!いい、スケベ親父どもを悩殺するのよ!」
「私には無理ですわよ。」
野梨子はた溜息混じりに答える。自分には可憐のような色気などない。
「あたしが教えてあげるから。いい?着物の裾を割って…、違うわよ!こうよ、こう!」
「こうですの?」
野梨子が可憐を真似してしなをつくる。
「もっとよ!」
可憐は野梨子の側へ寄ると、着物の裾を大胆にも太ももまで割った。
「可憐、何なさいますの!」
「いいから、私に任せなさい!後れ毛をほつらせて、胸元の合わせもはだけるの!」
「こうですの?」
野梨子は可憐の剣幕に押され、しぶしぶ合わせを開いた。
「そう、やれば出来るじゃないの!それで、口を半開きにして、上目遣いで見上げるの。」
「こうですの?」
可憐は野梨子の姿を見て、満足そうに微笑む。普段からきちんとした格好しかしない野梨子の
崩れた姿に、色気を感じない男はいないだろう。また、合わせや裾の割れ目から覗く野梨子の
真っ白な肌は、より男心をそそるに違いない。
「こんな格好なんて恥ずかしくて出来ませんわ。」
野梨子はまだ乗り気でない様子だ。
「しょうがないわね、練習するしかないじゃない。あっ!魅録!いいところに来たわ!」
店に魅録が入って来た。
「何だよ、おめぇが呼んだんだろ!」
「いいから、入って。」
「何かあんのか?」
魅録は奥の襖を開けた。そこには着物の裾を大きく割り、合わせをはだけた野梨子が上目遣いで
自分を見上げていた。
「…魅録。」
「おわっ!の、野梨子!」
店にいた可憐は部屋からブーッと吹き出す音を聞いた。
「はい、いいわ。」
部屋から出てきた魅録は手で鼻を覆い、その間からはドクドクと血が流れている。
可憐は袂から南蛮渡来のてぃっしゅを取り出した。
「ちょっとぉ、畳、汚さないでよね。」
魅録はてぃっしゅを丸めて鼻に突き刺すと、右手で首の付け根をトントンと叩いている。
「おまえら、俺を出血多量で殺す気か!可憐も野梨子に何さす気だよ。」
「色気のない野梨子に囮をさせるために決まっているじゃない。まったく、鼻血噴出しといて
何言ってんだか。」
「そ、そりゃー、おめぇー、普段おしとやかな野梨子があんな格好してきたら、なぁ。」
魅録が顔を少し赤くしながら言い訳している。
「可憐、私、やっぱり…」
「何言ってるのよ、野梨子もお小遣い欲しいんでしょ?『たかのふるーつぱーらー』の『ぱふぇ』
が食べてみたいって言ってたじゃないの!」
「そりゃ、食べたいと言いましたけど…」
野梨子は気が乗らない様子だ。
「じゃ、頑張んなさいよ。でも、魅録だけじゃ、ちょっとねぇー。」
「何だよ、俺だけじゃダメなのかよ。」
「だって、あんた純情すぎるんだもん。あっ、清四郎だわ、清四郎―っ!」
可憐が清四郎を呼ぶ声が聞こえた。
「なっ、清四郎にもこんな格好を見せるんですの?」
小さな頃から知っている清四郎に、こんな格好で迫るのはかなり恥ずかしいものがある。
「俺は知らないからな。」
「何いってんのよ、実験台は多い方がいいじゃないの!」
「なんですか、可憐?」
「ちょっと、中に入ってもらえる?」
「何かあるんですか?」
ええーい、こうなったらやけくそだ。野梨子は上目遣いで清四郎を見つめ、名前を呼んだ。
「…清四郎。」
再びブーッという音とともに、鼻を覆った清四郎が出てきた。魅録同様、覆った手の隙間から血
が滴り落ちている。
「はい、OK!」
可憐は魅録の時と同様に袂からてぃっしゅを取り出して清四郎に渡した。
「可憐、僕の大事な幼馴染の野梨子に、何をさせる気ですか!」
「鼻血出しながら喋ったって全然説得力ないわよ。ちょっとぉ、清四郎も、畳、汚さないでよね。」
器用にてぃっしゅを丸めて鼻に突き刺すと、清四郎も右手で首の付け根をトントンと叩いている。
「魅録もですか?」
「俺が第一号だと。」
二人ともてぃっしゅを鼻に突き刺したまま、トントン叩きながら会話をしている。
「あっ、もう一人、美童―っ!」
「またですの?」
「これで最後にするから安心なさい」
「なあに、可憐?」
「ちょっと中に入ってもらえる?」
「いいよ。」
「美童はマズイんじゃないのか?」
「僕もそう思うのですが…」
そうは思うものの、可憐が怖くて口出し出来ない。流石に三人目ともなると野梨子も大分慣れて
きて、自分が相手に引き起こす反応を楽しみながら、三人目となる美童の名前を呼んだ。
「…美童」
しかし、美童の反応は野梨子の予想を遙に超えていた。
「野梨子!ようやく僕に心と身体を開いてくれたんだね。愛してる!」
「び、美童、何で服を脱ぎますの?止めて!きゃーっ!」
「だから言ったじゃねえか!」
「野梨子!」
バン!魅録と清四郎が戸を開けると、そこには真っ裸の美童が野梨子に飛び掛ろうとしていた。
野梨子は両手で目を覆うものの、隙間からちゃっかり覗いている。
(殿方のナニはああなるんですのね。砲筒のように照準がこちらに向いていますわ。あの先から何がでてくるのかしら?一度調べて見たいですわ。)
一方、清四郎と魅録の二人はゲンナリしていた。やる気満々のヤローのすっぽんぽんなんて見た
くない。おまけに美童は北欧系、ナニの大きさも半端じゃなかった。
(ま、負けた…)
美童を取り押さえながら、妙に落ち込む二人だった。
「可憐!危うく美童に襲われるとこでしたわ!」
可憐はケタケタと腹を抱えて大笑いである。
「本番のどすけべおっさん達のいい練習になったでしょ?」
そんな気楽な可憐に、野梨子は大きな溜息を吐いた。
「やっぱり、やらなくてはいけませんの?」
「今回の依頼からすると、どうしても囮が必要なのよ。ま、頑張ってね。」
そこへ悠理がようやく店に入って来た。
「おーっす!」
「悠理、遅いわよ!」
悠理が店の料理をつまみながら、椅子に腰掛けた。
「わりい、出待ちの客がなかなか帰らなくてよ。どうした?魅録も清四郎も鼻に何差してるんだ?」
「なんでもねぇよ。」
「なんでもありません。」
二人同時に声を合わせるが、どうやらまだ落ち込んでいるらしく、元気がない。
そんな様子に全く気が付いていない悠理は、一人足りないことに気が付いた。
「美童はどうしたんだ?」
「隣の部屋にいるわよ。今は…」
ガラッっと可憐の話を最後まで聞かずに悠理が襖を開けた。
「どれ?うわっ!何だよ!おまえ、そんな変なもん見せるな!」
ピシャン!悠理は真っ赤になりながら戸を閉めた。
「今は開けない方がいいって言おうとしたのに、馬鹿ねぇ。」
隣の部屋では、美童が一人裸で精神統一を行っていた。野梨子によってマックスになっていた
ナニは、若さも手伝ってなかなか静まらない。そこで、美童は座禅を組み瞑想を行っていた。
やがてミニマムに戻りつつあったものが悠理の視線に晒され、またもやエクスカリバーと化す。
「はぅーっ!」
美童の雄叫びだけが空しく響いた。
「ひどいよ、みんな、僕を晒し者にして!お婿に行けなくなっちゃったじゃないか!」
美童はカンカンに怒っている。
「何よ、あんたが理性に負けたのが悪いんでしょ?大体、野梨子があんたを相手にすると思って
いるの?」
「いいじゃないか、僕の美しさは世界共通、女性みんなのものだよ。野梨子が僕に惚れたって
可笑しくないだろう?」
「間違っても、それだけはありえませんわね。」
「もう、野梨子ったら、て・れ・や・さ・ん!」
(アホだ、こいつは正真正銘のアホだ。誰かこいつを斬ってしまえ!)
清四郎と魅録が刀に、野梨子が簪に、悠理が懐のヌンチャクを手にしたところで可憐が言った。
「世の中にはこういう馬鹿も必要なのよ、毒にも薬にもならない奴がね。」
皆が納得し、それぞれ手を離した。
今回の依頼は、高利貸しの半三郎、ちりめん問屋の大黒屋主、文蔵とその用心棒佐々木甚之助、
そして代官の飯田忠兵衛を殺して欲しいとの事である。
「近くの長屋のおさよちゃんが、入水自殺をしたのよ。そしたら手紙があって、お仕置き人に
復讐をして欲しいって。どうやらおさよちゃんは、代官の飯田忠兵衛に目を付けられたみたい。」
「あの代官、女好きで有名だもんな。」
「おさよちゃんのおとっつぁんは腕のいい大工の棟梁なのね。で、大黒屋が高利貸しの半三郎と
手を組んで、おさよちゃんの花嫁衣裳代を都合つけてやるって、おとっつぁんに借金させたのよ。
おさよちゃんは弟子の徳治と夫婦になる約束をしていたから。それで大黒屋が紹介するはずだっ
た仕事も、先方の都合でおしゃかになったって突然言って来て、直ぐ返せるはずの借金が返せな
くなったのよ。それで、借金の型におさよちゃんをよこせってね。それだけは勘弁してくれって、
おとっつぁんが頭を下げたんだけど、直ぐ返せ、返せなきゃおさよちゃんをよこせの一点張り。
結局おさよちゃんは連れていかれ、おとっつぁんは首をくくったの。」
「ひどいですわ!」
「それで、徳治さんが大黒屋に乗り込んで行ったら、用心棒の佐々木甚之助って奴に殺されちゃ
ったのね。代官から解放され、長屋に戻ったおさよちゃんがその事実を知り、遊郭に身を売った
お金で復讐をして欲しいって。お金は10両あるわ。」
可憐は飯台の上にお金を並べた。
「あたしと野梨子は1両ずつで、あとの4人の実働部隊が2両ずつってとこかしらね。」
「いいですわ、私、許せませんもの。私は『ぱふぇ』が食べられる程度のお金で結構ですわ。」
「野梨子、『ぱふぇ』の値段知ってるの?」
「いいえ、知らないんですの。足りなかったらどうしようかとドキドキしてますのよ。」
(あんたが家から貰っている小遣いで充分食べられるんだけど、ま、やる気になってるから黙っ
ているのが親切というものよね。)
「あたい、やる!そいつらギッタギッタにしてやるんだ!許せん!」
「俺も。人間として許せねぇよ。」
「僕は女の子の味方だ!」
「世の為、人の為ですな。」
「じゃ、決まりね!」
こうして「有閑・お仕置き人」が動き出した。
「まず野梨子、あんた明日、大黒屋に行きなさい!あたしが仕入れた情報によると、代官がお忍
びで大黒屋へ行くらしいのよ。あんたを目にしたら、絶対手に入れようとするから。」
喜んでいいのか、悲しむべきなのか野梨子には解らないが、可憐から教わったことを実行しなく
てはいけないのだろうか?
「やっぱり、あんなことしますの?」
「店では普通にしてればいいわよ。やるとしたら、代官と二人っきりになった時かしら。」
「おいおい、大丈夫なのか?」
魅録が心配そうに口を開いたものの、すぐに自身に火の粉が降りかかってきた。
「大丈夫よ、あんた達で実験した通りだから。」
「なんだ、実験って?」
「悠理はいいの。まずは野梨子に動いてもらわないとね。」
「これ、大黒屋!店に来ているおなごは何と申す?」
代官が早速店に来ていた野梨子を目に留めた。
「ああ、あの娘は呉服問屋『白鹿』の一人娘でございます。確か名は野梨子と申しましたか。
江戸でも評判の器量良しでございますよ。」
「お代官様もさすがお目が高くていらっしゃいますなぁ。」
高利貸しの半三郎がすかさず合いの手を入れる。
「そうか、そうか。これ、大黒屋、わしはあの娘が欲しいぞ。」
「お代官様もお好きですな。」
「ああ、わしの暴れん坊将軍があの娘が欲しいと騒いどるわ。」
「いつまでもお元気が宜しい事で。私は寄る年波に勝てず、近頃はさーっぱりですわ。」
「その分、お前には儲けさせておろうが。」
「お代官様にはかないませんな。」
はーっはははは、と三人の高笑いが響いた。
パンパンと大黒屋の主人、文蔵が手を鳴らす。
「お呼びでしょうか?」
すかさず使用人が戸をスーっと開けた。
「あの『白鹿』の娘を呼びなさい。極上のちりめんが手に入ったと言ってね。」
代官は野梨子を連れて奥の部屋へと消え、文蔵と半三郎の二人で酒を酌み交わしていた。
「お代官様を味方につけておけば、恐いものなしですな。」
二人が口元に笑みを浮かべた刹那、ヒュッという音と共に、柱に小刀が突き刺さった。
「誰だ!」
文蔵と半三郎が立ち上がり、戸を開けた。
「ひとーつ、人の世の生き血を吸い。」
清四郎が刀を抜いた。
「ふたーつ、不埒な悪行を三昧。」
魅録は種子島(今で言う鉄砲)を構える、そして悠理が懐からぬんちゃくを取り出した。
「みーっつ、みにくい娘とやるときは〜♪」
パシン!可憐が懐から取り出した武器、『はりせん』で悠理の後頭部をブッ叩く。
「何すんだよ!」
「セリフが違う!」
「あっ、ゴメン、間違っちゃった。え〜っと、みーっつ、三日月ハゲがある。」
パシン!再びハリセンが後頭部を直撃した。
「いってぇー。」
悠理は後頭部を抑えてうずくまっている。かなりのダメージがあったらしい。
「わかったよ、ちゃんとやればいいんだろ!えーっと、みーっつ、醜い浮世の鬼を。」
「よし、よし。」
最後に美童が腰から南蛮渡来の武器、さーべるを引き抜いた。
「退治てくれよう、桃太郎!」
「美童、そこまでパクらなくていいのよ!」
「わかった、も1回ね。退治てくれよう、有閑・お仕置き人!」
そんな5人を呆れて見ていた二人が口を開いた。
「漫才はもう終わりか?」
「うん、もういいよ。」
悠理も素直に答える。
「じゃ、いくぞ。皆の者、であえ、であえ!曲者じゃ!」
悠理は嬉々としてぬんちゃくを振り回しては次々と敵を撲殺し、魅録も種子島を打ち鳴らす。
美童も普段の気弱さは何処吹く風、長い金髪をなびかせながら、次々と切り倒して行く。
そして、文蔵、半三郎も既に床に倒れていた。
清四郎は徳治を切ったという用心棒、佐々木甚之助と向かい合っていた。
両者睨みあったまま、ピクリとも動かない。先に仕掛けたのは甚之助の方だった。
いやぁー、という声と共に飛び掛って来た甚之助の刀をかわした清四郎は、振り向きざま胴を薙
ぎ払う。清四郎が刀の血を払い鞘に収めると同時に、甚之助の身体がゆっくりと崩れ落ちた。
「お代官様、何か騒がしいですわね。」
代官と二人、奥の部屋に入った野梨子が口を開いた。
「曲者が侵入したらしいが、甚之助がいれば安心じゃ。これ、近うよれ。」
代官の口元は緩みっぱなしだ。
「何ですの?」
「お前も何でここに居るのかくらい解るだろう?」
とうとう来る時が来た。仕方ない、こうなったら可憐の言うとおり実行あるのみだ。
「ま、嫌ですわ、お代官様のス・ケ・ベ。」
「うい奴よのぉー。」
そう言うと代官は、野梨子の帯を掴み引っ張った。
「あれ、何なさいますの?あれー」
帯が解け、くるくると野梨子の身体が回転した。
既に大方の敵をやっつけた5人は、襖の影から事の成り行きを見守っていた。
片方の襖に清四郎、魅録、美童が、反対側に可憐と悠理が控えている。
清四郎の肩に種子島を置き、魅録は照準を合わせていた。
「いいなぁー、僕もやってみたい…。」
美童が羨ましそうに呟いた。
ゴクッ。清四郎と魅録が唾を飲み込む音が聞こえる。
(男だったら一度はやってみたいよな、お代官様ごっご。)
帯と着物を剥ぎ取られ、緋色の襦袢姿になった野梨子は、可憐の教えどおり着物の裾を太腿まで
はだけ、合わせもわざと緩める。
そして大きな目を上目遣いにし、口を開けた。
「酷いですわ…」
「野梨子よくやったわ!」
「すっげーエロエロ。」
ブゥーッ!!
代官は勿論、清四郎、魅録までもが鼻血を噴出した。
「緋襦袢は反則技だよ。あの真っ白な肌と鮮やかな緋色じゃ理性を保つのは無理だよねぇ?」
美童が二人に振るものの、二人とも鼻を抑えて血をドクドク流している。
「二人とも、そんなに血を流しちゃって大丈夫?」
「お前は平気なのかよ?」
「伊達に数はこなしていないよ。」
そういいながらも、何故か美童は前屈みの態勢を取っていた。
「それよりも、魅録、いいの?野梨子、やられちゃうよ?」
はっと気が付くと、野梨子は鼻血を撒き散らしながらも襲い掛かってくる代官から逃げ回っていた。
「魅録!まだですの?」
なかなか倒れる気配の無い代官に、野梨子が痺れを切らして叫ぶ。
「いけねぇ!」
魅録は種子島を構えた。その顔は真剣そのものだが、鼻の下からは2本の赤い筋が流れている。
照準を合わせようとするものの、代官がちょこちょこと動き回るし、ついついすこーぷの照準は
野梨子の襦袢姿を追ってしまう。
「いやーっ!魅録!」
ついに野梨子が壁に押し付けられて捕まってしまい、その悲鳴で魅録はようやく代官に照準を合
わせ、引き金を引いた。
バン!野梨子からずるずると滑り落ちる代官の手が、襦袢の肩を掴んでいた。
プルンと野梨子の胸が露になってしまった。
「いやーっ!」
素早く胸元を掻き合わせるものの、それをしっかりと見届けた三人は、今日二度目の鼻血を噴出
し、ふぅーっと後ろへ倒れた。
「俺たち、出血多量で死んじゃうかも…」
「み、見ていませんわよね?」
(小ぶりだけど、可愛い胸だったよなぁ。)
(野梨子も成長しましたねぇ。)
(是非、僕がもっと大きくしてあげないと!)
「見てない、見てない。」
魅録、美童、清四郎の三人はブルブルと首を左右に振る。
「三人とも鼻血流したままよ。」
可憐が袂からてぃっしゅを取り出して差し出した。
三人が一斉に丸めて鼻へ刺したかと思うと、上を向きながら右手でトントンと首の付け根を叩く。
「もう、お嫁に行けませんわ!」
「じゃ、この三人の誰かに貰ってもらえば?」
野梨子はプイとそっぽを向いた。
「私、殿方には興味ありませんから。殿方とお付き合いするくらいでしたら、悠理の方が何倍も
ましですわ!悠理、行きましょ!」
「ああ、じゃあな!あたい達、これからデートなんだ、じゃあな!」
がっくりとうなだれている男性陣を、仕方ないとばかりに可憐が励ます。
「何落ち込んでるんだか。違うわよ、あの二人は『たかのふるーつぱーらー』に行ったのよ。」
「そ、そうなのか?」
「当たり前じゃない!そうじゃなきゃ悠理がああ言われているのに、一緒に行く訳ないでしょ?
まぁったく、あんな貧乳のどこがいいんだか。でも、ま、とりあえず恨みは晴らしたし、あたし
たちも『たかのふるーつぱーらー』の『ぱふぇ』で乾杯でもする?」
「甘いものはちょっと…」
「あら、最近は男性客も多いって評判よ。」
「最近流行になっている『へるしー』とか言う奴でしょ?」
「そうだな、流した血の分だけ栄養を取らないとな。」
可憐、清四郎、魅録、美童の4人も笑いながら大黒屋を後にした。
こうしてまた、江戸から悪の手が一つ消え、町は平和な日常を迎えていったのだった。
【終わり】
以上、ホント下らない話で大変失礼しました。
お目汚しスマソ。
>有閑・お仕置き人
わぁ〜、萌えネタ満載(首の後ろをトントン…)!
キャッツで出た小ネタを上手に取り入れてらっしゃいますね。
続編もゼヒ!可憐姐さんの悩殺教室、次回は悠理でお願いしたいです…。
>有閑・お仕置き人
野梨子の姿を想像したらこっちが鼻血出しそうになりましたw
野梨子に緋襦袢は最強ですね。エロエロすぎまつ。
萌えも満載だけど、皆のかけあいも面白くてイイ!
>有閑・お仕置き人
めちゃくちゃ面白かったです!
「ていっしゅ」といい「すこーぷ」といい、ひらがなにしてるとこが
なんかイイ!
面白かったけど、これって野梨子総受けでカプ有りなんじゃないの?
カプ風味程度でも一応書いていただけると嬉しいです、
こだわりがあってそうしてるなら、ごめんなさい。
>250
…野梨子総受け、とは感じなかったけどな?
私は単に男性陣が悩殺されるシーンに爆笑しましたが、
別に三人で彼女を奪い合うわけでなし、美童の「愛してる」も
ネタというか、彼の口癖かなあ…くらいに思いましたよ。
(作者さんでもないのに、出ばってごめんなさい。意見です)
時代劇好きなので、桃太郎や暴れん坊将軍のくだり、最高でした!
また別の話も読みたいと思ってます。<作者さま
悠理に技を伝授するけど、悩殺できたのは清四郎だけで(キャッツネタ便乗)、
自信をなくす可憐さん…とかどうでしょうかw
>お仕置き人
おもしろかったー!野梨子カワイイ!!
可憐姐さんはかっこいいし。
また書いてくれたらうれしいな。
>251サソ
>250サソと同じで自分もそう(野梨子総受けでカプ有り)感じた
一応書いて貰えたら安心できたのにな、残念
そう感じる人もいるって事で、次からは是非おながいしたい
ギヤー あげてしまった
ごめんなさい申し訳ない
カプ有りのような明確な恋愛系ではないにしろ、私も野梨子総受けってのは感じたかな。
最初の鼻血吹きぐらいはあまり頓着しなかったけど、
お嫁に行かないと言われがっくりうなだれる男性陣ってのは、三人→野梨子なのかぁと。
自分はこれくらいでカプ有りの方がチョト違和感かも(別にイヤではないが)
3人とも話の流れ的に野梨子に新鮮なエロチシズムを感じて
ウヒャーッ!となってるだけに見えるけどなー。
このお話の翌日にでもベビードール悠理や女学生可憐を見たら
鼻血噴き出して「萌えーー!!」て言いそうだもん。
普段からの友人としての親愛の情+萌え のノリに見えるよ。
私もこの程度で総受けとは感じなかったな。
感じ方は人それぞれだねえ。
お話自体はすごく面白かったです。
こういうノリ、大好き。
うん、ノリノリで読んじゃった
なんとも言えないバカバカしさが(・∀・)イイ!!
ここは色んな作家タン、色んな読者タンがいて楽しいな〜
突然ですが、小ネタ 逝きます。
「千秋ちゃ〜ん!!」
悲痛なまでの叫び声をあげながら、ドタバタと松竹梅時宗氏は帰ってきた。
バン!ガシャン!! …何かにぶつかり、そして何かを割ったらしい。
そんな父親を魅録はマユを八の字にして出迎えた。
「落ち着けよオヤジ…」
「これが落ち着いていられようかぁっ?! 千秋ちゃんは?!」
「残念、一足違いでまた遊びに行っちまったよ」
「へ?」
「悠理の母さんに誘われて――、オヤジ?」
おかしい、いつもなら間一髪いれずに「そんなぁ、千秋ちゃ〜ん!」と泣き崩れるはずの父親が真っ白になって立ち尽くしている。
「千秋ちゃんは、無事、なのか?」
「無事って?」
「だって、お前、このメール!」
そういって、開いた携帯のメールにはすべてカタカナでこう書かれていた。
――― ハハ キトク スグ カエレ ミロク ―――
「ああ、ちょっと手が離せなかったから、漢字に変換しないで送ったんだよな―、
って、あれ?!これ『帰宅』と打ったつもりが『危篤』になってる!」
「み・・魅録〜!!! この人騒がせなっ!」
落ち着いた趣の松竹梅邸に似合わぬ怒号が轟いた。
「まぁまぁ、よくあるミスだろ。千秋さん相変わらず元気でよかったじゃん」
「そうだ、千秋ちゃ〜ん! せめて一目会いたかった〜!!」
どっちにしても騒がしい松竹梅時宗氏なのであった。
ヲワリ
そっか、松竹梅さんちでは、母帰宅って母危篤に匹敵するくらい珍しい(?)のかも。
キタク→キトクがよくあるミスかどうかはわからないけど。
……わざとじゃないんですか>魅録くん
>260
わざとという可能性もあるね。
有閑のメンバーと賭けをして、何分で帰ってくるか?とか。
案外、千秋さんが胴元だったりしてねw
仕事の邪魔しちゃマズいんで、暇な時期や勤務時間外を
狙ってやったと思うけど。
>259
何を割ったのか、激しく気になる…。
また文さんに文句を言われるんだろうかと思うと、さらに気の毒な時宗。
しかし彼の熱さというか、騒々しさって息子には少しも遺伝してないなぁ。
辛うじてお人好しなところくらいかな…クールな部分は千秋さん似?
>250-251 >253-257
カプ表記や総受け表記の問題について、まゆこスレに思うところを
書いてみました。良かったら、あちらで意見ください。
>259
ワロタ。魅録、わざとやったんじゃないか?w
でも平和だよね、ある意味松竹梅家も。
>262
きっと時宗ちゃんを見ていたから、「ああはならない」と思ったんじゃないかと<魅録
>250
有閑・お仕置き人を書いたものです。
自分の書いたものがお騒がせしてしまい、すみませんでした。
私的には、恋愛とか関係なく単純に馬鹿馬鹿しい話を書きたかったので、
『カップリング』等は全く考えていませんでした。
男性三人がガックリうなだれたのは、一時の気の迷いというか、野梨子の
生乳の迷いといいますか…。
でも、読み手の方がその様に感じられたのでしたら、次回から気を付けたい
と思います。
御指摘ありがとうございました。
この話を作成していた時は、自分でも楽しみながら書かせて頂きました。
余力があったら又、書いてみたいと思っています。
大変失礼いたしました。
>265 生乳の迷いといいますか…
作品につづき、またまた笑わせてもらいました。
そんなもんで迷う男どもって、大変ちゅーか、哀れちゅーか…
いや、大変なものですね。合掌
生乳の迷い(・∀・)イイ!!
しっかり栄養補給してガンガレ3人組。
作品といいコメントといい激ワラでした
お仕置き人の作者タンは面白い人なんだろうなあ
次回作への期待を胸にひっそりお待ちしておりますわ
>有閑・お仕置き人
面白かったです。ぜひまた読みたいです。
絵版にも関連作品が。
母と息子の会話。
「あ、千秋さん?俺。親父のヤツやったぜ、千秋さんのためなら桜田門から9分52秒!」
「ふ〜ん、そう。で?」
「? いや、10分切ったら帰ろっかなって言ってたじゃねーか、帰ってやれよ、
親父泣いてるぜ」
「そうじゃないわよ。時宗ちゃんに何て言ったの、あたしのこと」
「…それが…ゴメン、千秋さん…あの、メールで“ハハ キトク スグ カエレ”
って…」
「……」
「…ゴメン、でもちあ―」
「しばらく百合子と出かけてくるわ。いい?あたしはあんたの母親だけど、
時宗ちゃんまで生んだ覚えはないのよ――」
―――ピッ………。
すみません、>259であははと笑った後、ハタと気付いたんです。
この場合ハハキトクでもハハキタクでもなくて、ツマキタク!なんではないかと。
で、ついついその後を想像してしまった次第です。
元ネタの作者さま、失礼しました。
>269-270
わーい、お話を広げてくださってありがとうございます。
実は地元紙で久しぶりに「ハハキトクスグカエレ」の広告を見つけてこのネタを思いついたんですが、
新聞広告と違ってメールの場合は「妻」にすると発信者である魅録の妻って意味になっちゃうかな〜と
悩みまして、このへんはツッコミが入るかも…と覚悟しながらのupでした。
270さん、小ネタという形でのナイスフォロー、どうもですw
特にこのセリフ↓ サイコーでした!
>時宗ちゃんまで生んだ覚えはないのよ
>檻
今まで読む時間が無くて、スルーしてたんだけど
昨日やっと全部読みました。
面白い。悠里がかわいい。
「あの冬の出来事」っていったい何?
気になって眠れない・・・
http://houka5.com/yuukan/short/cpsei/s14-472.html 野梨子はあたりに誰もいないのを確認すると、
そっとポケットから銀の指輪を取り出し左手の薬指にはめた。
ふっとため息をつく。
「返せだなんて、ひどいですわ清四郎・・・」
その時、ふと清四郎に借りた本があったことに気づき鞄の中から
「食文化・古今東西」という本を取り出すと、隙間からヒラリと1枚の写真が落ちた。
その写真に映った女性を見た野梨子は顔色を変えた。
*********
久しぶりに『いきなりリレー』続けてみましたw
ちなみに、ルールは
↓
===============================
突然こんな書き出しでリレーを始めてみました。
どんな筋になってもかまわないので、
次の人が書きやすいように、
又、多くの人が参加しやすいように
・一回のうpは短かめで
・また登場人物はわかりやすいようにオリキャラはナシ
(本誌に出てくるキャラのみ)
でお願いします。
================================
誰か続きよろしく頼みます!
「こ・・・これは、可憐!?」
少し色褪せたその写真には、煙草をくわえたウェーブヘアの
女性が写っていた。
ややピントが甘いが、ゴージャスないでたちといい、抜群の
プロポーションといい、彼女に間違いない、と野梨子は思った。
どうして清四郎の本の中に、可憐の写真が?
よろめいた野梨子の手から、音を立てて本が落ちた。
手の中で、写真が震える。
「事情が変わったって・・・そういうことですの?」
その時、携帯が鳴った。
ーーーーーーーーーー
乗ってみます。アレが具体的になってきましたね〜。
続きお願いしまーす!
>274
「いきなり・リレー」の続きです。
タイトル抜けました、ごめんなさい!
>>274さんに続けます。
電話は清四郎からだった。
「さっきのアレの件なんですが・・・」
冷ややかな声で野梨子はこう答えた。
「わかりましたわ、お返しします」
野梨子の態度の変わりように清四郎は訝りつつ言った。
「もし魅録がうろうろしていたら、彼に渡してもらえませんか」
「魅録に?なぜですの?」
「渡せばわかってくれるはずです」
(そう、そうですの。もう私の顔なぞ見るのも嫌なんですね)
怒りと屈辱で真っ赤になった野梨子は、その時悠理を見つけた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
つづけてみましたー。続きよろしくです。
短編をうpさせていただきます。魅×悠で後半にRを含みます。
苦手な方はスルーをお願いします。
短編ですが2,3回に分けてうpさせていただきます。
よろしくお願いします。
雨は夕方からずっと降り続いている。
夜の闇の中には、雨の降り続ける音と蛙の鳴き声がどこまでもどこまでも響いていた。
重なり連なるそれらの音は、この目の前に広がる墨染めの空間に
今、自分たちを遮るものは何もないことを悠理にひっそりと教えていた。
足元で、軒先から垂れ落ちた雫が地面で軽やかに弾ける音がする。
不規則なリズムなのに、過ぎてゆく時間を正確に刻んでいるように悠理は感じていた。
雨は一向に止む気配はない。
「全然、止まない…」
誰に聞かせるともなく、悠理はひとりごちた。
古ぼけた木枠の重い硝子戸をゆっくりと閉めると、雨音が少しだけ遠くなる。
振り返り深呼吸を一つすると、部屋中に漂う新しい畳の甘い香りが鼻についた。
身につけた何の飾り気もない白いキャミソールの端を指で弄びながら、若草色の畳の上で
先ほどからずっとバイク雑誌に夢中になっている魅録に近づく。
「なあ、ヒマなんだけど…」
魅録は視線も上げず、青白い蛍光灯の下、うつ伏せになりだらだらと雑誌を見つめている。
「ヒ・マ、なんですけど…」
ごろん、と魅録を足で転がした。
魅録はされるがままに畳の上を転がったが、うつ伏せが仰向けになっただけで
全く雑誌から目を離す様子はない。
「なあってば!相手しろよ」
何度か足で魅録を蹴飛ばすと、やっと雑誌の向こうから悠理を見上げた。
「なんだよ?」
「ひ・ま!」
機嫌の悪そうな魅録の視線にひるむことなく、悠理は強く訴える。
「しょうがないだろ、雨なんだから…」
気だるげにそれだけいうと、魅録はまた雑誌に視線を戻す。
悠理は次第に苛立ちを感じ始めた。
魅録のTシャツを破れるんじゃないかというくらいに力いっぱい自分の方へ引き寄せると、
子供のように口を尖らせてまくし立てる。
「そういうことじゃないだろ!?あたいと話してよ!大体、魅録が今回誘ったんだろ!?
二人が付き合いだしたのは数ヶ月前のことだ。魅録の方から「付き合おう」と告げられた。
悠理は突然の告白にとても驚き、そして同時に恋人となった魅録にどう接していいのか
非常に困惑したが、それでもずっと大切に思っていた親友から愛を告げられたことは
今まで生きてきた中で間違いなく一番嬉しい出来事だった。
親友から恋人へ…。
その変化に二人は戸惑いながら、幾つかの誤解や小さな衝突を積み重ねたけれども
自分たちなりにゆっくりと確実に、二人だけの大切な温かな関係を築き上げてきた。
それからふたりの気持ちはいつも一緒にいる。
他のメンバーには自分たちが付き合っていることを特別公言していない。
別に秘密にしなくてもいいように思われたが、今までの男同士の付き合いから
こんな関係が生まれたことへの恥ずかしさのほうが先にあった。
何を言い出すか分からないメンバーに、敢えてチャレンジすることもなかろう。
最も、恋愛事に聡い可憐や美童あたりは薄々気付いているようだが、未だに言うことができない。
そして今日、二人は初めて二人だけで泊りがけの旅行に来ていた。
今まで何度か二人は一緒の旅行に行ったが、“二人だけ”で行くのは今回が初めてだった。
倶楽部の皆や魅録の走り友達やら、いつも他の誰かが一緒にいた。
誰にもばれないようこっそりと旅行の計画を立てることは、子供時代の秘密基地のように
二人の胸を無邪気に躍らせ、倶楽部が集まるときも二人だけの秘密を思っては
隠れて目をあわせ、暗号のように密かに笑いあっていた。
二人は早くからこの旅行の行き先を剣菱家の古い別荘にしよう決めていた。
派手好きな剣菱家の持ち物にしては随分と落ちついた別荘であり、周りを囲む自然も美しい。
しかも別荘からは山も海も近く美味しいものがたくさんあるという。
魅録と悠理の望むものが一度に手に入る絶好の場所、ということで二人は迷うことなく旅行の行き先をここに決めた。
悠理から別荘使用の申し出を受けた万作は「なんにもなくて恥ずかしい所だがや」と頭を掻いていたが、
魅録の友達たちと行くからそのくらいの方がちょうどいいと悠理は話した。
こんな風に自分も嘘をつくようになってしまったと感傷的な気持ちを感じたが、
一緒に行くのが幾ら両親に信用された魅録でも、二人きりとなれば正直に言うわけにも行かない。
甘い罪悪感を伴った嘘を悠理は初めて両親についた。
しかし、いざ二人だけで来てみると楽しいどころか恥ずかしさばかりが込み上げて来て、
二人はぎこちない会話ばかりを繰り返していた。
鄙びた田舎は緑美しく、ツーリングには最高の所だったが、今の二人には逃げ場がなくて、
時間を持て余すばかりだ。
テレビを見ていても、おやつを食べていても不自然なくらいに余計なことばかり考えてしまう。
“男と女で旅行に行った初めての夜…”
意識するな、といわれてもそれは無理な相談だ。
仲が良すぎていつも忘れかけそうになっていたが、魅録は男で、悠理は女。
いくら淡白な悠理でもこんな夜に二人がどうするのかは安易に想像できる。
ましてや魅録は言わずもがなだ。
しかし気は逸るが、自分自身も初めてだと思うとどのように切り出すのがスマートなのかさっぱり分からない。
自分がリードしてやらねば、とは思うのだが、がっついてしまいそうな自分がいて
悠理を怯えさせ拒まれたらどうしようかと不安になる。
二人とも到着以来一向に落ち着くことができなかった。
悠理は、窓辺と部屋を行ったりきたり、テレビをつけたり消したり、
「別荘の探検」と称してあちこちの部屋に出たり入ったり、外で蛙を捕まえたり…。
そわそわ、ふわふわと初めての場所に落ち着かない拾い猫のように、
頼りない視線を別荘中に漂わせていた。
魅録も同じだった。
この別荘に着いてからというも魅録がしたことといえば点かなくなっていた蛍光灯をかえたこと、
出の悪かった水道を直したこと、雑誌を読み耽ること、の3つだけだった。
その雑誌も、もう何度同じページを読み返したのか分からない。
ラフな格好で部屋をうろうろしている悠理を見て、変な妄想をしてしまう自分に怒りと愛着を感じつつ、
時間が過ぎるのをただひたすら耐えるばかりになっていた。
二人の間には熟しきれていない青い空間があった。
本当はそれを今すぐにでも飛び越えたいのに、躊躇してしまう。
しかしここには二人の背中を押してくれるものは何もない。
自分で一歩を踏み出すしかないが、勇気も持てない。
無言の時間が幾重にも積み重なり、部屋の底にゆらゆらと沈殿していく…。
夕方、タイミングがいいのか悪いのか雨が降り出した。
にわか雨なら、と二人は少しだけどきどきしたが、雨は夜になっても全く止む気配は見せなかった。
これから二人の間に起きることを想い、さっさと逃げ出してしまうきっかけを失った後悔と
それでいて胸の中の鳥たちが羽ばたくような高揚感が二人の心の中に広がる。
もう、後戻りはできない…。
この夜を飛び越えたら、二人はきっと今までとは違う二人になっているんだろう。
それは怖いことなのか、それともとても幸福なことなのか…?
自分自身が変わってしまうかもしれない。
相手も変わってしまうのかもしれない。
これから二人がずっと一緒にいるために今日という夜があるのなら、
一体どうしてこの夜を易々と飛び越えて行けようか?
二人は甘くぎこちない緊張感に包まれたまま、ただ降り続ける雨と無関心を決め込んだ蛙の声ばかりを聞いていた。
「あたいとなんか話してよ。魅録、黙ってばっかじゃんか」
悠理は魅録のTシャツを掴んだままもう一度口を尖らせた。
魅録は一向にそれに答える気配がない。何を考えているのかさっぱりわからない。
苛立ちはやがて寂しさに変わる。
「もう…ヒマでしょうがないよ…」
寂しそうに目を伏せ、悠理は膝を抱えてぺたんとその場に座り込んだ。
長い睫が悠理の顔に影を落とす。影は薄い茶の勝気な瞳から覇気を奪った。
不安げな目線が魅録に向かう。
しかしその視線に気付く前に魅録の目には上質なパイル地のホットパンツからすらりと伸びた白い足が
突然、飛び込んできた。
妙に艶かしいその白さは魅録を甘く誘うように微かに発光さえしているようだ。
思わず目を逸らして、魅録は一人赤くなる。
「魅録、ぜんぜんしゃべってくんないし…」
悠理はそんな魅録の動揺に全く気付いていないのかいじけて下を向いてしまう。
その動きに合わせて柔らかい鳶色の髪がふわりと悠理の腕を覆った。
触れていないはずの悠理の髪に擽られたような気がして魅録は首を振り、暫し強く目を瞑った。
悠理の腕に抱えられた体は硝子細工のように儚く華奢で、まだ彼女が少女であることを確かに語っている。
いまだ全てを見ないその体に触れ、今すぐにでも力の限り抱きしめて自分のものだという確かな証拠を
その体中に刻みつけたい衝動に魅録は駆られたが寸でのところでどうにか堪えた。
悠理は先刻から閑だ、閑だと喚き散らすが、もちろん本当にどこかへ遊びに行きたくて
そんなことを言っている訳ではないことを、悠理も魅録も十分分かっている。
魅録は雑誌を閉じ畳の上に置くと、小さく気合をいれて胡坐をかき座りなおした。
こんな夜に悠理に寂しい思いをさせてしまった自分を恥じる。
自分も不安だが、同じように悠理も不安なのだ。
ここに着てからずっと、拾われた猫のような目で自分を見ていた。
二人きりの時間を悠理なりに理解しているのか…。
もともとこういうことにひどく淡白な悠理にとって女としての自分を受け入れることは
ひどく恐ろしいものに見えているのかもしれない。
なんとなく今まで避けてきたが、ずっとこのままじゃいられない。
でもそれはは自分たちの未来ために必要な大切なことだと魅録は思う。
それを恐怖と後悔で塗りつぶしてしまうようなことは絶対にしたくない。
纏わりつく不安という深い霧を、優しく晴らす術はどこにある?
「そんなすねんなよ」
優しく魅録は言ったが、悠理は無言のままで顔を上げてくれなかった。
「ごめん…」
ぽつんと呟かれた言葉は行き場を失い、空しく消えた。
悠理は相変わらず何も言わず魅録はひどく困ってしまう。
どうしようかとあたりに視線を泳がせ、それでも何か言おうと悠理の顔に向かい手を伸ばしかけた時、
くくくっと悠理の肩が揺れた。
「なんだよ?」
突然笑いだした悠理に魅録は訝しげな視線を送る。
「だって…。くくっ、魅録ここんとこ跡ついてるもん」
言いながら悠理は自分の顎を指差した。「?」と魅録も自分の顎を触る。
微かに凸凹した感触がした。
「畳の跡。ずっとあたい無視して寝てるからだ。まぬけー」
悠理が白い歯を見せて笑った。
見ればうつ伏せの時体を支えていた両腕にも畳の凸凹がくっきりと残っていた。
「魅録、真面目な顔して謝ってんのに、顎ンとこにそんなんついてるから。笑っちゃうよ」
「いーんだよ、これが男の美学なの」
魅録が冗談で返すと悠理はまた「ばっかだなー」と言いながらひとしきり軽やかに笑った。
魅録もつられて一緒に笑う。
少しだけ二人で一緒に笑って、しかしそれからまた一つ大きな呼吸をすると
なんとなくまた沈黙に逆戻りしてしまうのだった。
集中しないと途切れてしまうような男女の会話に二人はまだ慣れていない。
切れ切れの会話を美しいキルトのように縫いとめて行くようなテクニックも、美童ならまだしも二人にはありえない。
気まずい雰囲気が二人の間に漂う。
絶え間なく降り続く雨の音がまた遠くから聞こえてくる。
蛙の声が漆黒の空間を更に広げてゆく。
二人が黙り込んでしまうとこの部屋はこんなにも静かだった。
つづく を入れ忘れました。スマソです。
>夜を越えて
戸惑っている二人の心が丁寧に描いてあって、
最初は覗き見気分で読んでいたんですが、
次第に保護者のような気持ちになってきましたw
このお話の魅録は初めてなんですね。
大丈夫かなぁと心配しつつ、続きを熱烈きぼんです。
頑張れよーw>魅録&悠理
『姫百合の願い』の続きをうPします。
>>209の続きです。
後半には少しグロテスクな表現と内容もこれから先重くなって行きますので、
苦手な方はスルーして下さい。
野梨子の人目を引く容姿のせいで、魅録と可憐は意外と直ぐに手掛かりを掴む事が出来た。
可憐が清四郎達と別れた後、少し走った所で農作業をしている人を見つけ、聞いてみる。
「すいませーん、おかっぱで黒髪の小柄な女性が通りませんでしたか?」
屈んで仕事をしていたおじさんが手を止め、可憐に向かって何やら叫んだ。
「あぬ、てーじちゅらさるねーね、やー?うぬ、ねーねー、あぬやまさあっちょーたん。」
可憐はおじさんの言っている事が、さっぱり解らない。
今までも色々な方言を聞いたことはあるが、沖縄ほど難解なものはないだろう。
「魅録、解る?」
「俺にふるなよ。」
固まっている二人を見て、おじさんの近くにいた奥さんらしい女性が助け舟を出してくれた。
「そのきれいなおねえちゃんなら、あの山の方に向かって歩いて行ったっちゅーとるんよー。」
「有難うございました。」
可憐はペコっと頭を下げると、既に走り出している魅録の後を追いかけた。
「野梨子!」
幸いな事に一本道だった為、二人は迷うことなく野梨子を見つけ、近づいていく。
野梨子は小高い山の斜面を利用して造れた、亀の甲羅のような形をしたコンクリートの建造物
の前で佇んでいた。二人が近寄っても全く意に介さず、野梨子は一点を見つめ、ただ涙を流し
ていた。
「邦夫さん…もうこの世にはいないのですね。」
邦夫?魅録はどこかでその名前を見たことがあった。
――そうだ!野梨子が見せてくれた手紙だ!確かにあそこには邦夫と書いてあったはず。
「範子さん!」
魅録は試しに呼びかけてみる。すると、野梨子はゆっくりと振り向いた。
「範子さんですね。」
「…はい。」
「ちょっと、魅録ったら、一体どういうこと?」
わけのわからない顔をする可憐を、魅録が抑える。
「黙って!」
魅録は話を続けた。
「ここに邦夫さんが眠っているんですか?」
「ここは形だけ…。邦夫さんはいません。いくら探してもいないんです。夜はあまりにも
短すぎて。私は、私は…。」
野梨子が急に倒れようとしたところを、魅録が慌てて受け止める。
魅録の腕の中で野梨子が目覚めた。
「野梨子!」
「…魅録、可憐?」
「気が付いたのね。」
魅録が手を貸し、野梨子が起き上がった。
「私、どうしてここにいるんですの?」
「覚えていないみたいだな。」
魅録と可憐が目を合わせる。
「とても悲しかった事は覚えていますけど。」
野梨子もどう答えていいのか、困っているようだ。本人が覚えていないのならば聞いても仕方
がない。まずは清四郎と美童に知らせてやるのが先だろう。
「可憐、他の奴らに見つけたって知らせてやってくれ。」
「そうね、清四郎と美童はまだ探しているわね、きっと。」
可憐は携帯を取出すと、清四郎に電話をかけた。
「じゃ、僕達も別荘へ戻ります。」
携帯の向こうからも、ほっとしたような清四郎の安堵の声が聞こえてきた。
「こっちはこれでよし…と。ところで私、野梨子の靴、持ってこなかったんだけど。」
可憐は魅録に向き直り、両方の掌を見せた。
「いいさ、俺がおぶっているいくよ。ほら。」
魅録が野梨子に背中を見せてしゃがんだ。
「えっ、でも…」
野梨子は魅録の提案に戸惑う。
「いいから、危ないだろ?」
確かに今まで無事に済んでいたとも思う。そう言われてしまっては反論も出来ずに、野梨子は
魅録の肩に掴まった。魅録はヒョイと野梨子を抱えあげる。
「ごめんなさい、重いでしょう?」
「いや、あんま軽くって驚いた位さ。美童と比べてだけどな。」
「いやぁねぇ魅録ってば、ホント、色気がないんだから。」
可憐が魅録に向かって軽口を叩いた。
「仕方ないだろ?美童しかおぶったことねーし。」
「それが色気もないって言うの!」
野梨子は魅録の背中で、二人の掛け合い漫才のような会話を聞きながら、くすくすと笑って
いる。
「野梨子、首に手を回してろよ。じゃないと、俺、落とすかもしんないからな。」
「悠理じゃないんだから、野梨子は暴れたりしないわよ。それとも…」
可憐がニヤニヤしながら右ひじで魅録のわき腹を小突く。
「背中に野梨子の胸を感じたいとか?」
「バカヤロー、何言うんだよ!」
「可憐たら、何言いますの!」
二人とも顔が真っ赤である。
「何照れているのよ。大丈夫よ、私と違って野梨子ならぺったりくっついたって、胸なんて感
じやしないから。」
「まぁ、可憐たら、失礼ですわ!」
無邪気に笑い合っている二人とは正反対に、魅録は背中で野梨子の柔らかさを感じ、自分の気
持ちを抑える事に必死になっていた。
出会った頃から抱き続け、誰にも告げることなく胸に秘めている小さな想い。それは時折激し
く燃え上がっては胸を焼き焦がし、小さな傷となり、胸の痛みとなり、やがて全身に広がって
いく。今の様に触れる事の出来るほんの一時の喜びと、それと同時に感じる悲しいまでの切なさ。
――いつもなら清四郎の役目…だよな。
清四郎がいない事に感謝すべきなのだろうか?
「フッ…」
淡い期待を抱かずにいられない自分が可笑しかった。そんな自嘲気味の笑いを野梨子が勘違い
したらしく、耳元で拗ねたように呟く。
「魅録まで笑うなんて…ヒドイですわ、もう!」
しかし、上手く言い訳する方法を見つけられない魅録は、一緒になって笑うしかなかった。
「魅録、有難う。疲れたでしょう?」
別荘に着き、野梨子は魅録の背中から降りた。野梨子の言葉に魅録はにっと笑っただけだった
が、Tシャツはかなりの量の汗を吸っている。野梨子はバスルームからタオルを持って来ると、
魅録に渡した。
「サンキュ!俺、ちょっくら着替えてくるわ。」
魅録は部屋へ、野梨子はバスルームで足を洗ってから、皆が待つリビングへと入って行った。
もう既に他のメンバーは別荘に戻っており、悠理も清四郎から話を聞いたのか、ソファーに腰
掛けている。やがて、着替えを済ませた魅録もリビングへと入って来た。
「ご苦労様でしたね。」
清四郎が魅録に声を掛けた。
「今度は野梨子か。」
そう言われても、当人は全く覚えていないので答え様が無い。野梨子はただ困ったような表情
を浮かべるだけだった。
「聞いても無駄よ。野梨子は覚えていないんだから。」
可憐はそう言うと立ち上がり、皆の分のコーヒーを入れ始めた。
「感じるけど、姿は見えないんだよな。見えてたらヤダけどさ。」
皆の会話と悠理の言葉に、野梨子はおおよその見当がついた。恐らく自分とは違う人間がいる
らしい。人間だったと言うべきだろうか。ただ、自分の覚えていない間に何をしていたのか解
らない不安が野梨子に付きまとう。
「一体、何があったんですの?」
そこで、コーヒーが落ちるまでの間、可憐と魅録が事の経緯を説明した。野梨子は驚いていた
が、立ち上がって部屋に戻ると、バッグの中から手紙を持ってきた。
「これですわ。正直いって、この手紙をどうしようか困っていましたの。」
そう言って野梨子は、皆にあの丘で見た夢の話をした。
「もしかしたら、キジムナーが私に見せてくれた夢なのかと思っていましたけど。」
「なんなの、そのキジムナーって?」
可憐がコーヒーを皆に配り、自分もソファーに腰掛ける。
「あの丘には大きなガシュマルの木がありましたの。キジムナーはガジュマルの木を棲み家に
する妖精の名前ですのよ。たまに、人間にもちょっかいを出すらしいそうですわ。」
「そんな事で済めば良かったのですけどね。」
そんな清四郎の言葉にムッとしたが、自分が原因であり、それを解決する為に皆が話し合って
いることを考えて、野梨子は喉まで出かかった言葉を飲み込む。
手紙を手にしている清四郎は、あまりの情報の少なさに溜息を漏らした。
「今解っている事といえば、この手紙を書いた『範子さん』が野梨子の中で眠っていて、野梨
子が眠ると『範子さん』が『邦夫さん』を探しに行くという事位ですね。」
清四郎から美童へ、可憐へと、それぞれが手紙を手に取って読むものの、清四郎の言うとおり
手紙の差出人が範子という名で、思いを寄せていた相手が邦夫という名前しか書いていない。
「あたいにも見せてくれよ。」
悠理がそう言って手紙を手にした瞬間、突然白い光がリビング一面に広がった。
ドーン、ドーン、ババババーッ。
暗い壕の中いっぱいに花火のような閃光が広がった。
防空頭巾を被り、もんぺを穿いた少女達が息を潜め、抱き合うように身を寄せていた。
やがて光が収まると、面を上げた少女達が一斉に声を上げた。
「正子さん!芳子さん!」
一人は全身血まみれで既に亡くなり、もう一人は腹を撃たれ、裂けた腹からは腸が飛び出ている。
「久子さん、範子さん、芳子さんを手術台へ載せるから手伝って!」
まだ意識のある芳子と呼ばれた少女は、自分を取り囲んでいる少女に向かって言った。
「いいよ、みんな、お腹をやられたら助からないって事位私だって知っているから。私はどう
せ死ぬんだから、注射や手術は兵隊さん達にやってあげて。それよりも私、水が飲みたい…」
野梨子に似た少女がためらいながらも、水筒の水を飲ませてやる。
「範子さん、有難う。とてもおいしい…。」
そう言うと芳子は目を閉じて静かに息を引き取り、それを見届けた範子は涙を流していた。
「なんか、変なもんが見えるよぉ。」
悠理が目を擦ったり、閉じたりしている。
清四郎は悠理の能力に感心しながらも、しっかりと記憶に留めるよう集中する。
「悠理の力ですよ。おじさんと一緒に行った東北の処刑場跡で経験したでしょう?あれと同じ
です。まだ続くようですよ。」
「解散命令だ。本日をもって学徒隊を解散する。早くこの壕を出なさい。」
兵隊が壕の中にいる少女達を見渡し、声を張り上げていた。
「解散…って、兵隊さん、私たちは壕を出て何処に行けばいいんですか?それに、重傷の倫子
さんや富美さんもいます。彼女達はどうするんですか?」
「口答えはするな!司令部から解散との命令だ。ここはもう病院ではない。もう患者の世話は
しなくていい。だから、早くこの壕から出て行きなさい!」
残っていた兵に無理やり壕から追い出された少女達は、それぞれ四方に分かれて歩き出した。
範子ともう一人の少女も無言のまま畑の中を歩いている。アメリカ軍との戦闘が激しいこの地
域では、いつもなら背丈以上に伸びているサトウキビ畑も、火炎放射器で焼き尽くされて身を
隠せるところがほとんどない。
頭の中を占めているのは先程まで一緒にいた重傷の二人。その後の事は…考えるのも恐ろしい
ので、無理やり頭から締め出す。
範子と行動を共にしていた少女が、決心したように口を開いた。
「範子さん、今帰仁へ帰りましょう。何日かかるかもわからないけど、家に、家族のもとに帰
りましょう。」
「はい、真知子さん。私も同じ気持ちです。今帰仁へ帰りたいです。」
――私も、家に、家族に、何よりも邦夫さんに会いたい。
二人がそう決心した時だった。
キャタピラの回る音と共に戦車の姿が現れ、ダダダダーッと機関銃による掃射音が鳴り響いた。
隠れる場所も無い二人は折り重なるように倒れ、みるみるうちに着物が血で真っ赤に染まって
いく。
「父さん、母さん…。邦夫さん…」
範子はそう呟くと目を閉じ、やがて首がコトリと傾いた。
【つづく】
>姫百合の願い
焦っている魅録に萌え〜でした。
範子と邦夫のことが少しずつ明らかになってきましたね。
これからどうなってゆくのか、続きが楽しみです。
範子と邦夫が、いい形で巡り会えるといいのですが・・・
>姫百合の願い
隅々まで行き届いた描写のおかげで、私も一緒に悠理の霊感シャワーを浴びた感じです。
範子さんが想いを果たす(であろう)過程と、魅録&野梨子の気持や関係の変化が
どう重なってくるか、いろいろ想像しながら楽しみにしています。
それから沖縄の言葉を書き下したものを初めて読みました。難しそうですね〜。
>姫百合の願い
魅録と野梨子の初々しさが良かったです。出会った頃からなのか・・・
でもそれだけでなく・・・
ほんと、教養を感じます。
>注射や手術は兵隊さん達にやってあげて。
>いつもなら背丈以上に伸びているサトウキビ畑も、火炎放射器で焼き尽くされて
戦中の女学生っぽい名前とか、彼女らが言いそうなセリフとか
背景知識や時代考証まですばらしくて、すごく深い感じがします。
美童×倶楽部外女性 の短編です。
4レスいただきます。
――――それは、ある寒い夜のこと。
世界の恋人・美童グランマニエは一人の少女に出会った。
あきらかに日本人ではない彫りの深い端正な顔立ち。あれは―――、
そうだ、その美しい顔には見覚えがある。しかし、いや、まさか。
逡巡する美童に気づかないまま、小柄な美女が必死にたどたどしい日本語で街行く男達に呼びかけている。
「あの・・・マッチを、マッチを買ってください」
ああ、この声・・・やっぱりそうだ! 美童は確信し彼女に声をかけた。
「プリスカ! 久しぶりだね」
「美童さん!」
「ロシアの誇り・世紀の名プリマドンナがこんなところでいったいどうしたんだい?」
自分を称える賛辞に気まずそうに顔を赤らめた彼女だが、大きくため息をつくと思い切ったように言った。
「見ての通りです美童さん。私、生活の為にマッチを売っているんです」
生活って…、今どきそんなマッチなんか売って誰が生活できるっていうんだ。
昔話の童話の中でだって非常に哀れな末路をたどっているじゃないか。
美童は唖然としつつも寒空に薄着で震えている彼女を気遣い、近くのホテルに誘った。
暖かな部屋で彼女を熱い飲み物を飲ませてあげたかったのだ。…けして下心などからではない。
ホテルと言ってもホテルのカフェなのである。
そうして運ばれてきたコーヒーに口をつけると、彼女はぽつぽつと事情を話し出した。
「私…体重を理由にバレエ団を解雇されてしまったんです」
「何だって?!そんなのアリかよ? だいたい君の何処が太っているって言うんだ!」
「私、筋肉質だから見た目の割に重いんです。それで・・・相手役が私をリフトできないって」
「だったらそんな非力な男を解雇すりゃいいじゃないか!」
自分のことのように憤る美童に力なく首を振り、彼女は悲しげに笑った。
「ダメなんです、だって他の男性ダンサーにも重いって敬遠されていたんですもの」
「そんな―、」
「もう過ぎた話です。それはもういいです。ただ…」
彼女は言いづらそうに目を伏せた。
「バレエ以外に取り得も何もないし、もう、これからどうやって生きていけばいいか…それで私、」
彼女は胸元に手をあてボタンを一つはずすと潤んだ瞳で美童を見上げた。
その瞬間、美童は察知した。
そうか、彼女が売ってたのはマッチではなく―――――-------
「わかった、部屋を取ってくるよ。…僕がマッチを買う。いいね?」
「美童さん…!」
大輪の薔薇が一気に花開いたように彼女の表情は輝いた。
そして美童もこの後の甘く耽美な時間を予感させるように瞳に綺羅星を輝かせた、と、そのときである。
「嬉しいねぇ、今日の客はあんたかい!」
美童の背後で聞き覚えのあるハスキーボイスがささやいた。
硬直する美童を他所にプリスカは喜びに満ちた顔で、現われた姉を迎えた。
「お姉ちゃま、よかったわね! じゃあ、私はもう帰るわね」
「ああ、御苦労だったね。気をつけてお帰り」
「美童さんありがとう、存分に楽しんでくださいね」
そう姉妹は言葉を交わすと妹は美童に飛び切りの笑顔で挨拶して去っていった。
「ど、どういうことですか?! これはいったい」
「どうって、さっきプリスカが言ったとおりさ。華やかな世界ってのはまったく厳しいよ」
「そ、そうじゃなくて何故あなたがっ!」
「いや、私もあの子が娼婦になると言い出したときは驚いたよ、でもあの子は汚れちゃいけないんだよ。
だから決めたのさ、あの子の代わりに私が趣味と実益を兼ねて娼婦をやってやろう、ってね。。
ただ、どういうわけか、なかなか客がつかなくてねぇ。それで『せめてお姉ちゃまのマネージメントだけでも』ってあの子が言うからさ、あの子が契約担当で私が実務サービス担当って具合に分業制にしたんだよ。」
―――これがホントの羊頭狗肉。
早い話が美しい妹をエサに獲物、いや客を捕まえていたわけである。
「さ・・・詐欺だ〜〜〜〜〜!!」
美童はあらん限りの声をあげて抗議した。
しかし敵も慣れたものである。
「何いってんだい、あの子はちゃんと初めから言ってたはずだよ。『マッチョ買ってください』って。
さぁ、今夜はマッチョ女のパワフル絶倫テクをしっかりと堪能させてあげるよ。ふっふっふっふ」
―――そう、彼女が売っていたのはマッチではなく、 マ ッ チ ョ だったのだ!
呆然と立ち尽くす美童の体にモルダビアの力強い腕が周る。
それはもう絶対に逃げることの出来ない鉄格子のように。
美童の脳裏にあの恐ろしい冬山の出来事が甦る。
しかも今度は服をむしられたぐらいでは済まないだろう。
そこまで考えが及んだところで、美童は恐怖のあまりモルダビアの腕の中で意識を失った。
その夜、「マッチョ(が)売りの娼女」が幸福な夢を見ながら昇天できた―――かどうかは、定かではない。
オシマイ。
以上です。
ばかばかしくてすみません。
なんでわざわざ日本語で会話してるんだ、とかのツッコミはナシの方向でお願いしますw
>マッチ。売りのしょうじょ
すごくおもしろかったです。
あ、美童だ! おおっ、プリスカだ!
と、そこにモルダビアお姉さままで出てくるとは!
>「嬉しいねぇ、今日の客はあんたかい!」
ぶふっ・・・!と、文字通り噴き出しました。
言われてみればよくある展開なのに、前半読んでるとき、モルダビアの顔
なんか頭のどこにも出てこなかったです。
美童と同じで、作者さんにころっと騙されました、私。
>―――これがホントの羊頭狗肉
・・・この四字熟語、こういうふうに使えるんですね(笑)
そうだ美童、ほら目さえ瞑っておけば、彼女ら声は似てるっていうし・・・
って、慰めにならないか・・・
>マッチ。売りのしょうじょ
304さん同様、私も見事に騙されました。
これじゃ、美童のこと笑えません(でも思いっきり笑っちゃったけどw)。
体重を理由にバレエ団を解雇って、本当にあった話ですよね。
この姉妹に、このエピソードを使ったところも、うまいなぁと思いました。
モルダビアの妹ということを考えると、プリスカが見た目の割に重いと
いうのもありそうでw
>マッチ。売りのしょうじょ
ワラタ!
最後の1行しばらく考えてようやく意味がわかりました。
ここで言う「昇天」ってアッチの意味なのね。
確かに男がよっぽど頑張らないと女を昇天させられないもんな〜
美童はモルダビア相手に頑張れたんでしょうか?すごく気になるw
それにしても体重の話は切ないよママン・・・・゚・(つД`)・゚・
>マッチ。売りのしょうじょ
アイス大好きの彼女ですね。うまいなぁ。
笑いましたw
>>276さんの続きです。
「よかったぁ、探してたんだよ」
悠理は野梨子に駆け寄り、同時に目当ての本が彼女の足元に
転がっているのを見つけ飛びついた。
「これこれ、読み終わってたら貸して欲しいんだけど」
野梨子は何故か頬を真っ赤に染め、怒っているような顔つきだった。
「どうぞ…それも悠理の手から返してもらった方がいいでしょうから」
冷たく言い放つと、引きとめる間もなく足早に去っていく。
「なんだあ?………あれ、ヘンなモンが落ちてる」
悠理は床の上のくしゃくしゃにしわのよった紙クズに手を伸ばした。
――――――――――――――
続きよろしくお願いしますー。
「どぉわああああ〜〜〜〜!見るな、見ないでくれ、悠理!!」
奇声に気付いた悠理が顔を上げると、一陣の風のように駆け寄って
来た魅録が、すんでのところでそれを横取りした。
「なに?それ魅録の?」
きょとんとする悠理に、魅録は斜めに首を振った。
肯定なんだか否定なんだか、さっぱりわかりゃしない。
「うわ、マズイ、しわくちゃじゃねーか…」
魅録は顔を引き攣らせながら、両手でその皺を伸ばそうとする。
ビリ。
嫌な音がして、それは二つにちぎれた。
人の顔がこんなに真っ青になるなんて初めて見たな。そう思いながら、
好奇心にかられた悠理は、固まっている男の横からひょいと覗き込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
写真の人は誰なんでしょうか、ドキドキ。
どなたかお願いします!
「はぁん。なるほどねー。で、これは魅録ちゃんのなんだ?」
人の不幸は蜜の味、と言わんばかりに悠理は魅録の顔を見上げる。
魅録の顔は普段のポーカーフェイスはどこへやら、見る間に真っ赤である。
悠理はその表情を見て悟った。
「あたい、そいつの写真ならいっぱい持ってるよ。欲しいならいくらでも
やる。急いでるんなら、放課後うち来れば?」
「いや。でもこれはーーー」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
続きお願いします。
「そんなに恥ずかしがることねえじゃん」
「ちがう、悠理、カン違いすんなよ」
悠理がぽんぽん肩をたたくと、魅録は首をぶんぶん横に振り回し、
今さらムダとしか思えない言いわけをしようとしている。
「またまたー、テレちゃってかわいいねえ、魅録ちゃん」
「誤解だって!」
と、その時だった。
「――魅録」
背後から聞こえてきた第三者の声に、悠理は振り返った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
続きよろしくです。
>309
写真の人は誰なんでしょうって、前に出てるでしょうが
読んでないの?
千秋さんかも・・・
個人的には美童の女装写真も考えてた
>311さんの続きです
金髪をたなびかせ、身長182cmの友人が颯爽と姿を現した。
「あー、美童」
「どうしたの悠理?あれ、なんか魅録が鑞人形みたいになってるけど?」
あごに指をあてて首を傾げる美童に、悠理が耳打ちをする。
「魅録の持ってる写真見てみなよぉ、面白いから」
その時、ようやく魅録は美童の存在に気付いた。
「うわ!なんでお前まで…」
破れた写真を背中に隠し、魅録は後ずさる。
「何ィ?僕にもソレ見せてよ」
「だ、ダメだ。勘弁…」
美童の長い手が伸び、魅録の脇腹をくすぐる。
「わはっっ」
フェイント攻撃に魅録はあっさりと陥落し、ヒラヒラと舞った2枚の紙片を
すかさず悠理が拾った。
_______________
写真の人、誰にしましょう…。
続けて下さる方に託します(逃げの姿勢)。どなたかお願いします!
野梨子の唇から滑り出した言葉はにわかには信じられないものでした。
清四郎ははじめ、何かの聞き間違いかと思ったくらいです。
「…僕の聞き間違いですかね?今、野梨子が車の免許を取るとか言ったように聞こえたんですが」
「聞き間違いじゃありませんわ。ちゃんとそう言いましたのよ」
野梨子はさらりと言ってのけました。
言葉に出して言ったことで、本当はまだ半分どうしようかと迷っていた気持ちが定り、すっきりしたのでしょう。野梨子はやけに清々しい顔をしています。
清四郎はぞくっと背筋に悪寒が走るのを感じました。
あの徹底したインドア派で、
機械オンチで、
ましてや運動神経なんてゼロに等しい野梨子が車の免許!?
清四郎は言葉を失いました。頭脳明晰、立て板に水の彼にしてはおよそ珍しいことです。
――発作の余韻がようやく収まったと思っていたのに…。
新たな問題に清四郎の心拍数は再び上がり始めています。
「清四郎が驚くのも無理はありませんわ。私だってこんなことを考えるようになるなんて思いもしませんでしたもの」
二の句のつげない清四郎の態度をどう解釈したものか、野梨子は一人納得して、機嫌よく話しを先に進めます。
「魅録や悠理がよく言っていますでしょ?バイクで風を切って走る時どんな気持ちがするかとか、スピードに乗って視界がぐんぐんと開けていく様がどんなに素敵なものかって」
うっとりと続けます。
「どれも悠理や魅録達が教えてくれるまでは、知りもしなかったお話でしたわ。私、そんな二人の話にとても感動しましたの。
そして悠理達の話を聞く内に、だんだんと自分でもそんな経験をしてみたいって思うようになりましたの。
私も悠理達が言うように車体と一体感を感じてみたり、風になってみたりしたいんですの」
「風、ですか――」
そう、風です。きっぱり言うと野梨子は清四郎を見上げてふわりと微笑みました。
「私、車輪が二つしかないバイクの運転はとても無理ですけれど、でも車なら車輪も四つあって転ぶ心配もありませんし、きっと大丈夫だと思いますの」
いけしゃあしゃあとそんなことを言いっています。
「そ、そうですか?」慌てて聞き返す清四郎。野梨子は力強く頷きました。そう、彼女は一度こうと決めてしまえば、とても強くなる少女なのです。
「それに、車が運転できれば、何かと便利ですわ。あと免許証は身分証明証にもなりますでしょ?持っていて損はありませんわ」
まぁ、持ってる「だけ」ならねぇ……。
清四郎が覗き込むと、野梨子の目はキラキラと輝いています。きっと新しい世界が開けた夢でも見ているのかもしれません。
清四郎は、それは幻だと思うのですが…。
新たな目標に向かって盛り上がる野梨子とは反対に、清四郎はどんどんと暗い気持ちになっていきました。
(よりにもよって、車の運転だなんて…!)
野梨子がハンドルを握って車道を走っている姿など、恐ろしすぎて想像したくもありません。
それでも嫌な考えばかりが頭をよぎり、清四郎は再び眩暈に襲われました。
今度は目の前がブラックアウトです。
体がぐらりと傾きました。
「清四郎!ど、どうしましたの?!きゃあっ!!やっぱり具合が悪いんですのね!」
清四郎は路肩に座り込みました。先程の発作の余韻も手伝って、なんだか疲れが一気にどっと押し寄せてきます。
「大丈夫!?貧血ですの?清四郎。清四郎!」
うろたえた野梨子が隣で彼の名前を連呼しています。
「まったく、もう…」清四郎は組んだ手の中にがっくりと顔を埋めて呟きました。
「人に…心配をかけてるのはどっちですか!?」
「………?清四郎???」
困惑する野梨子の声と、腕を掴む華奢な指の感触が、清四郎のやるせなさに拍車をかけます。
(これは困った事になりましたね…)
一番星の瞬き始めた美しい黄昏時の空の下、こうして清四郎の受難へ続く日々が始まったのでした。
その日を境に、自動車免許に関するHOW TO本を読む清四郎クンの姿が、色々な場所で目撃されるようになりました。
もともと読書家で知られる清四郎クンの熱心に本を読み進める姿は珍しいものではありませんでしたが、
彼の活字を追う目が気軽には声をかけられないほど陰鬱なことや、
ときおり本から目を放してはため息をつき、また諦めたように首を振っては頁に目を落としている様子は人目を引き、重苦しいオーラを放つ彼の動向を周囲の人々は遠巻きに窺っています。
教室では、入学以来クールで穏やかな印象が定着しつつあったクラスメートの眉間に突然現れた深い皺と、運転免許証の関係に様々な憶測が飛んでいます。が、真相を知るものはとうぜん誰もいませんでした。
菊正宗家の夕食時間においても、もちろん彼は本を手放すことはありませんでした。
「清四郎、食事をしながら本を読むのはやめなさい」
行儀の悪い息子を夫人が注意して、菊正宗家の夕食ははじまりました。
夫人の向かいで清四郎は、一応はいとは答えたものの、頁をめくる手が休まることはありませんでした。
「お行儀の悪い……ほら、お父さんもですよ」
言うことを聞かない息子に呆れながら、夫人のお小言の矛先は、清四郎の隣で大きく新聞を広げたこの家の大黒柱・修平さんにも向けられました。
新聞紙の向こうからは、あぁともうむとも取れる声が聞こえてきます。修平さんの姿は新聞紙に隠れてまったく見えませんが、新聞の横から箸を持った手が伸びてきては、
刺身や冷奴など、目当てのおかずを掴みとり、また新聞紙の影に消えていきます。見もせずに、滑りやすい小さな煮豆などを正確に掴むあたりは、さすが天才外科医!手先が器用です。
「まったく、落ち着かない人達ですよ」息子と夫を交互に見比べて、夫人はほうとため息をつきました。
「ママ、この2人にそんなこと言っても無駄よ。一度読み始めると止まらないんだから」
煮物を口に運びながら、冷静に言うのは、菊正宗家の長女・和子さんです。和子さんは大学での教育課程も終り、いよいよ今年から本格的に医学への道を歩もうとしているところです。
清四郎、なに読んでるの?そう言うと和子さんは手を伸ばして弟の本を取り上げ、その表紙を声に出して読み上げました。
「『教習課程に完全準拠・普通自動車教本』――あら、今回は割とノーマルな本読んでるのね。この間までは『検証・キャトルミュティレーション』とか『読み書きしよう!トンパ文字』なんて本、読んでたくせに。なに、あんた免許取る気なの?」
清四郎は顔を上げると少し憂鬱そうにええと答えました。
「今の所、足が無くても不便を感じたことは無いですし、免許を取るのはまだ先でいいと思ってたんですけどね」
「そうよね、あんた、車にはあんまり興味なさそうだったものね。それがどうして?突然気が変わったの??」
和子さんは弟に本を返しながら、興味しんしんで訊ねました。普段は弟の行動にあまりおおっぴらな関心を示すことのない和子さんですが、今回はかつてない食いつきようです。
それもそのはず、車の話題と言えば、彼女には思うところがあったのです。
和子さんははすでに一年前に、車の免許を取得済みでしたが、菊正宗家には無駄な贅沢を嫌う修平さんの方針に基づいて、車は使い込んだオペルが一台きりしかなかったのです。
車が必要なとき、和子さんは修平さんの車を借りることになっていましたが、修平さんは毎日車で病院へと向かうので、はなかなか自由に使えるというわけにはいきませんでした。
清四郎が免許を取って、運転ができる人間が三人に増えれば、念願のセカンドカー購入の許可が出るかもしれない!和子さんは密かに野望を膨らませていたのです。
「じゃあどうして?なにか車が必要な用事でも出来たの?」
和子さんは期待を込めて、たたみかけるように清四郎に訊ねました。すでに頭の中では新車購入へ向けての図式が出来上がりつつあります。
そんな和子さんに清四郎は軽く片眉を吊り上げました。その顔は姉の目ろみに感づいている顔です。
清四郎は気が乗らない様子で言いました。
「野梨子が、車の運転をしたいと言い出したんですよ」
「!!――えぇっ!?」
清四郎が言った一言に平和な夕食は崩壊し、菊正宗家の食卓は騒然となりました。
菊正宗夫人は飲んでいたお茶を気管に入れてむせ返り、和子さんはまだ半分以上中身の入っている味噌汁の器を取り落とし、
修平サンは箸を滑らせて、掴んでいた豆を勢いよく清四郎の額にヒットさせました。豆をぶつけられて親父をじろっと睨む清四郎。
「まぁ大変だわ」
テーブルの上にティッシュの山を築きながら和子さんが叫びました。もちろん味噌汁のことを言っているのではありません。
「そ、そんな、大…」菊正宗夫人が咳き込みながら言おうとした言葉は、修平さんがアレンジを加えて引き継ぎました。
「大丈夫なわけがなかろうっ!!」叫んだ拍子にご飯粒が飛び散って、正面に座る和子さんが悲鳴を上げました。が、修平さんはそれにも気づいておりません。
「清四郎、そりゃいかん!野梨子ちゃんにハンドルを握らすなんてお前、棺おけに車ごと突っ込んだ上に、ご丁寧に火葬場に横付けするようなもんだぞ!絶対阻止せにゃならん!!」
腰を浮かして今にも立ち上がらんばかりの勢いです。
豆が転がり味噌汁がこぼれて、大騒ぎの食卓で、自分のテニトリー内のおかずの安全はしっかり確保して、ひとり食事を続けていた清四郎は、落ち着いてくださいみんなと口を開きました。
「みんなが野梨子の運転に反対なのはよくわかりましたよ。僕もまったくの同意見です。
あんな運動オンチに車の運転なんて任すわけにはいきません。だから、野梨子に運転を諦めてもらうかわりに、僕が免許を取ることにしたんです」
清四郎は本を掲げて見せました。
「野梨子が車に乗りたいと思った時は僕が車を出します。いつでも野梨子が望むとき望む場所に、僕が車で連れて行くと約束をしました」
浮かない顔でしたが清四郎ははっきりとそう言いました。
「…つまり、それはどういうこと?」和子さんが言います。
「じゃあ、野梨子ちゃんが自分で運転することはないってことね?」夫人も念押しするように聞きました。
「ええ、運転は僕がしますから」清四郎は頷きました。
「な、なるほど、そうか」それを聞いた菊正宗家の人々はほーっと胸をなでおろしました。
話の内容を理解して、お隣の大事な一人娘が免許を取らないことがわかったみんなは、一様に安堵の表情を浮かべています。
「――あんたの選択は正しいと思うわ、清四郎」落ち着きを取り戻した和子さんが言うと、修平さんも夫人もそれに同意するように頷きました。
「免許を取りに行ったとしても、合格しないで、永遠に教習所の中だけを走っていてくれれば、それはそれでいいんですけどね。
けれどもし教官が余計な温情でも出して、免許獲得なんて事になればおしまいです。多少めんどうでも野梨子の弔辞を読むよりはましですよ」清四郎は言いました。
「そうだな。病院に担ぎ込まれてくる野梨子ちゃんなんぞ、わしだってぞっとするわい。交通事故の症例はむごいからな。
骨折に内臓破裂、挫滅傷に出血や浮腫。わしは野梨子ちゃんの潰れた臓器なんぞ、胸がつまって診てられん」
描写が妙にリアルで不気味です。みんなご飯を喉に詰まらせました。
「ちょっと、やめてよ!」
「やめてください!」
「お父さんたら、なに言ってるんです!」
「おぉ、すまんすまん、ちょっと表現が過ぎたかのう」
わっはっは。家族のブーイングもなんのその、調子を取り戻した修平さんは豪快に笑って答えました。
(笑うことか…)親父の非常識さに姉弟は揃って非難の目を向けています。
親父はコレだからもう…文句を言いながらも清四郎は食事を再開しました。
秩序を取り戻しつつある菊正宗家。その中で和子さんは何やらもの言いたげに清四郎をじーっと見つめていました。
「……あんたも大変ね。清四郎」
「まったくです。いいとばっちりですよ」本に目を落としながら清四郎はしかつめらしく答えました。
その台詞に、吹きだしたいのを必死でこらえる和子さん。
(何がいいとばっちりよ。いくらお隣の幼馴染でも、あんたがそこまでする必要はないのよ。昔っからそうだけど、この子はほんとに野梨子ちゃんには弱いんだから。
……でもま、言わないでおいてあげましょ)
「ま、頑張んなさい」
そう言うと和子さんは笑って清四郎の頭に手をやり、不審がる弟に構わずにその頭を撫でてやりました。
>清四郎の自動車大変記
待ってました〜!!修平さん・和子さんが大好きなのでウレスィ
豆飛ばすパッパに萌えますた
しかしオペル一台の院長一家っていいなぁ・・・
>清四郎の自動車大変記
保護者ぶりがいい感じですね。
『姫百合の願い』うPします。
>>294の続きです。
今回も後半から内容が重くなり、一部グロテスクな表現等がありますので
苦手な方はスルーして下さい。
「範子さんですわ。」
「まだ、16か17才位よね。楽しい事も、恋も知らずに一生を無理やり断たれてしまうなん
て、可哀想…」
野梨子も、可憐も目に涙を浮かべている。
「青春なんてなかったんだろうね。いくら時代だからといっても、悲しすぎるよね。」
美童も重苦しい表情を浮かべ、魅録は大きく息を吐いた。
「映画じゃなく、現実にあった事なんだよな。今の俺たちには信じられない世界だけどさ。」
しばらく放心していた面々だったが、今考えなければいけないのは野梨子の事である。
清四郎は指でコツコツとテーブルを叩きながら頭を巡らせているが、良いアイデアが浮かばない。
「名前だけでは調べ様もありませんね。野梨子も名前以外は解らないのでしょう?」
「ええ、私が覚えているのは、その手紙を見つけた時に見た夢、あの白昼夢の事だけでです
もの。あの時も名前しか解りませんでしたわ。」
皆でどうすべきかしばらく悩んでいたが、清四郎でさえ良い考えが浮かばないのだ。はっきり
言ってお手上げ状態である。そんな沈黙の中、野梨子が口を開いた。
「あのお墓から何かわかりませんかしら?」
「あれ、お墓だったの?あんな大きいのが?」
可憐は驚いたように呟く。
「俺は遺跡か何かかと思ったぜ。あれが墓だとはな。」
魅録もへぇーという顔で驚いている。
「沖縄のお墓は本州に住んでいる人間にとって、ちょっとしたカルチャーショックですね。」
「そっか、みんなが言うようにお墓があるのなら、何か解るかも知れないよ。」
わずかに見えた手掛かりに、清四郎は少し嬉しそうに、又、美童の声も弾んだ。
「でも、あそこは形だけで、本人はいないって言っていたわよ。」
皆が喜ぶ中、可憐は昼間聞いた範子のセリフを思い出していた。
「沖縄のお墓のほとんどは、父方の一族のものが入ることになっているんです。そこから分か
るかもしれない。調べてみましょう。」
清四郎は大丈夫とばかりに微笑んだ。
皆がソファーから立ち上がり、野梨子も後に続こうと立ち上がった時、不意にめまいを覚えた。
「野梨子!」
なんとか踏みとどまったものの、睡眠不足と疲れからか顔色も青ざめて見える。
「ちょっと、大丈夫?」
可憐は心配そうに覗き込んだが、野梨子は心配を掛けまいと微笑みながら答えた。
「少し、疲れてしまっただけですわ。それに私が眠ってしまうと範子さんが又、邦夫さんを探
しに行くと思いますの。」
野梨子は小柄で元々体力のある方ではないし、睡眠中も範子となって彷徨っていては体力が消
耗する一方だ。一刻も早く邦夫を見つけてやらなくては、野梨子の身体がもたない。
「野梨子はどうしますか?」
心配そうに訪ねる清四郎に、野梨子はキッパリと答えた。
「勿論、一緒に参ります。」
魅録と可憐が道案内を努め、6人全員で野梨子、いや、範子が佇んでいたという墓に行ってみ
ることにした。20分程歩いた頃だろうか、コンクリートで出来たその墓は、魅録の言うよう
に何かの遺跡か小さな要塞のようで、皆が物珍しそうに眺めている。
「でかー。こんなの、本当に墓なのか?」
悠理が見たままの感想を漏らした。まだ墓だという事が信じられないようである。
「表に『泡波門中之墓』ってありましたが、この『門中』とは『一族』を意味しますので、泡
波一族の墓ということになります。ですから、邦夫さんの姓は泡波ということになりますね。」
ようやく手掛かりが形となって現れた喜びに、清四郎は笑みをこぼした。
「でも、面白い形だよね。他にも家みたいな形のもあるし。やっぱり、中国の影響かな?」
美童の言葉を受け、ご機嫌の清四郎が待ってましたとばかりに説明を始める。
「中国華南系墓式の影響だと言われてますね。この亀の甲羅のような形をした墓、通称亀甲墓
(きっこうばか)と呼ばれていますが、女性の出産を表しているともいわれ、両脇に構えてい
る門が足、納骨堂が子宮、出入り口は産道を表しているんですよ。生まれる時と同じ様に、死
後も又女性の胎内に帰っていくという考えですね。」
清四郎の後を野梨子が続けた。
「沖縄のお墓にはこの亀甲墓の他にも、さっき美童が言っていた家の形のようなお墓が破風墓
(はふーばか)と呼ばれるものですわ。戦時中は、お墓が家やトーチカのようにも見えた為、か
なりの数のお墓がアメリカ軍によって攻撃されたと聞いてますし、実際にお墓へ避難したという
話もあるそうですのよ。」
へぇーと可憐、魅録、美童が二人の説明に聞き入っていた。悠理も珍しい墓の秘密を知りた
かったのか、真面目に感想を述べた。
「墓を攻撃するなんてバチ当りだよなぁ。」
「早速、聞き込みを開始しましょう。」
皆で手分けをして周りの家々に聞いて回ったところ、その一族の家が近所にあるということが
解り、一度皆で集まった後、全員でその家を訪れることにした。
「すみません、泡波さんのお宅はこちらでしょうか?」
「ええ、そうですけど、何か御用ですか?」
二十歳位の若い女性が出てきたのを見てとった美童は、すかさず他の5人を押しのけて前へ出る。
薄っすらと日に焼けたその女性は、小柄で目鼻立ちのはっきりした沖縄女性特有の愛らしさが滲
み出ていて、美童のプレイボーイ精神にスィッチが入ったらしい。
「僕、美童グランマニエと言います。沖縄の女性は健康的で美しい方が多いですよね。もちろ
ん、貴方もその一人ですよ。」
金髪をキラキラとなびかせながら極上の微笑みを浮かべ、歯の浮くようなセリフをさらっと口
にする。
「はぁ。」
そんな美童とは対照的に、彼女は突然現れた金髪の美少年に少々戸惑っているようだ。
「美童、お願いですから僕に喋らせて下さい。」
こめかみを手で抑えた清四郎は渋る美童を下がらせ、悠理を呼んだ。悠理は自分を指差して首
を傾げたが、清四郎はお構いなく悠理を隣に立たせる。
自分の名前を名乗っても、相手が取り次いでくれなかったら振り出しに戻ってしまう。唯一残
された手掛かりなので、慎重に事を運びたい清四郎は、先方に不信感を持たせない為に悠理を
紹介しておくことにした。剣菱の名なら知っているかも知れない。
「突然お邪魔してすみません。僕は菊正宗清四郎、そして彼女が剣菱悠理とその友人です。」
清四郎は自己紹介すると、早速用件を伝えた。東京から遊びに来ていた自分達が、偶然「邦夫
さん」宛ての手紙を見つけたこと、色々調べた結果、こちらの泡波さん一族にも「邦夫さん」
と呼ばれた方がいると聞いたこと、知っている人がいたら是非教えて欲しいと彼女に伝えた。
やはり彼女は剣菱の名を知っていたようで、驚きのあまり目を見開いている。
「剣菱って…、あの剣菱グループの?」
「御存知ですか?」
「ええ、私、東京の大学へ行ってますから。今は夏休みで帰省していた所なんです。お嬢様が
誘拐された時もTVで見ていましたし。あっ、そういえば、プロレスデビューもされましたで
しょ?『ハリケーン悠理』でしたっけ?」
その女性はなにやら思い出したのか、くすくす笑っている。
「少しお待ちください。」
女性は当初の硬かった表情を崩して笑みを浮かべると、奥へと消えて行った。
「悠理が有名人で助かりましたよ。」
「でも、笑われていたような気がするじょ。」
悠理は頬をプゥーと膨らました。
ほぅと息を吐きながら緊張を解くものの、まだ取り次いでもらえるのかどうかは解らない。
それでも悠理を知っていたと聞き、清四郎は安堵の表情を浮かべた。
「それにしても、普通に解る言葉で安心しました。」
「沖縄の方言は、さっぱり解りませんものね。」
野梨子の言葉に、可憐もそうそうと頷きながら答える。
「そういえば、野梨子を探しに行った時に農作業していたおじさんに聞いたんだけど、何を話
しているか全然解らなかったもの。」
「へぇ、青森で聞いた津軽弁よりも難しいの?」
以前、青森で聞いた津軽弁も難解だったような気もするが、それ以上を行く沖縄弁に美童は興
味を持ったようだ。清四郎に次いで語学が堪能な彼である。ただし、古典は苦手なのだが。
魅録もおじさんの言葉を思い出していた。
「津軽弁どころか日本語って感じもしなかったぜ。でも、次に現れた人がバリバリの沖縄弁
だったらどうすんだよ?」
「そうじゃないことを祈るだけです。」
先ほどの女性が奥から戻って来た。
「どうぞ、上がってください。今、おばぁが来ますから。」
皆は靴を脱ぐと、6人は通された居間に座った。
「おばぁ?」
悠理が隣の魅録の方を見る。
「おばあさんってことだろ?」
6人が待つ居間に、首にタオルを引っ掛け、おだやかな笑みを浮かべた小柄な老婆が入って来た。
「めんそーれ、よう来たさぁー。」
「めんそーれ?」
悠理は再び魅録の方を見たが、魅録も肩をすくめている。そんな二人をみて、おばぁはひゃっ
ひゃっひゃと笑った。
「いらっしゃい、よー来たねぇと言ったのさ。私は春子。さっきのは孫の夏美。あんた達は東
京から来たのかね?」
「ええ、沖縄は本当に良い所ですよね。僕達、とても楽しく過ごさせて頂いてます。」
「そうかね、それは良かった。」
清四郎の言葉に、春ばぁはにこにこと微笑んでいる。
「さっき、ばあちゃんが方言バリバリだったらどうしようって言ってたんだ。」
悠理が屈託なく喋る。こういう時、悠理の天真爛漫さが周りの空気を和ませてくれる。悠理の
最大の魅力と言っていいだろう。
「ああ、私は学徒隊の生き残りだから、時々修学旅行で沖縄に来た学生さん達に、戦争のこと
を話して聞かせているのさぁ。その為には標準語で話さないと、学生が解らんからねぇ。」
その時、夏美が人数分のゴーヤ茶と皿いっぱいのサーターアンダギーを持って来た。
「春ばぁのサーターテンプラは美味しいですよ。沢山食べてくださいね。」
「いっただきまーす!」
悠理が早速手を出す。
「うんまーい!」
悠理は素早く口に頬張ると、ゴクゴクとお茶を飲んでは又、皿に手を伸ばす。
「もう、悠理ったら!はしたないですわよ!」
野梨子がたしなめるものの、春ばぁは嬉しそうだ。
「美味しく食べてもらうのが一番嬉しいさ。沢山食べてな。いっぱいあっから。」
「はーい!」
悠理が元気良く返事をした。
「ああ、邦夫さんのことだったね?」
「ご存知でしたら教えて頂きたいのですが。」
「確かに、私のいとこで同い年の邦夫さんていうのはいたさぁ。あんた達が探している人と同
じかどうかは解らんけどな。」
春ばぁには野梨子が見た夢や、範子が墓の前で泣いていた事など話していない。どだい、話し
た所で信じてもらえないだろう。しかし、春ばぁの言う邦夫と、自分達が探している邦夫は間
違いなく同じ人物なのだ。
「結構です。知っていることを教えて頂けませんか?」
しばらく春ばぁはどうしたもんか悩んでいたようだが、清四郎の真剣な表情に負けたのか、や
がて口を開いた。
「私の知っている邦夫さんは、17の時に志願して兵隊になったんだ。私も生き残りだからよ
う分かってんけど、ここ沖縄は最悪だったな。少年も少女もお国の為だからって、アメリカさ
んが迫撃砲や艦砲等の砲弾がばんばか落ちて来る中を、少年兵は兵隊さん達のために伝令やら
偵察に行かされてやられたりした。少女達も授業で看護を勉強させられ、戦争がはじまったら
陸軍病院の看護婦さぁ。看護婦ってゆーても、ほとんどが手術の時にローソク持ってたり、手
足を切断する時に押さえつけたりする役目さ。注射、患者の食事の世話や下の世話、切断した
手足の処理や死体運びまで何でもさせられたさ。」
つい先ほどの映像で知ってはいるものの、春ばぁの淡々として語る新たな事実を、六人は黙っ
て聞いていた。
「話によると、徴収されてからまた再教育を受けさせられ、『お国の為に尽くすのは当然』と
誰もが思うようになったとか。」
清四郎の言葉に春ばぁは黙って頷いた。お茶を一口すすり、遠い先を見つめては再び話し始めた。
「従軍看護婦として働かされて、動けない兵隊さんたちを殺す手伝いまでさせられて。友達も
次々やられていった。おまけにな、勝手に学徒隊で徴収しておいて、壊滅状態になったら病院
は解散すると言ってな。軍は私達が足手まといと考えたんだろう。さっさとどっかへ行けって
な具合で、戦場に放り出したのさ。おまけに投降するな、自決しろって手榴弾持たされたのよ。」
春ばぁはふぅと息を吐いた。
「手榴弾の無い子は崖から見を投げてなぁ。おかしな風景さ。崖から身を投げるのに、誰も止
めやしない。止めるどころか、先を争うかのように身を投げていった。何も持っていない少女
達は、ただ逃げるしか死を選ぶしかなかったからな。」
春ばぁの目には涙が光っていた。本当ならば、思い出したくも無い事であり、話すのも辛いの
かも知れない。けれども、語り継がなくてはいけない使命のような強さを春ばぁは持っていた。
「私は運良くアメリカさんに助けられた。さっきまで一緒に死ね話をしていた兵隊さんに、手
榴弾を取り上げられたんだ。あんたらは生き残れとな。若い命が生き残らなくては日本の未来
はないって諭されてな。それで捕虜になったんだ。当時はその兵隊さんを恨みもしたが、今思
えばあの兵隊さんに会わなかったら、私はここにいなかった。」
「やはり兵の中にも戦争に疑問を持っていた人もいたんですね。それで、その日本兵も一緒に
捕虜になったんですか?」
清四郎の質問に春ばぁは悲しい笑みを浮かべた。
「私たちが投降した後に、取り上げた手榴弾で自決したよ…」
あまりの凄惨な事実に、六人はしばらくの間口を開けることが出来なかった。
教科書では習う戦争の話も、春ばぁのような経験者から聞く実体験は、まるで天と地のごとく
かけ離れたものだった。
「…ひでぇ話だよなぁ。」
自分でも意識しないまま、魅録の口からは言葉が漏れていた。
「そんな話、誰も教えてくれなかったぞ!ばあちゃんたちが可哀想じゃないか!」
悠理も両目に涙を溜めて怒っている。
「私の話でそうやって真剣に怒ってくれる人がいると思うと嬉しいよ。」
春ばぁが首に掛けていたタオルで両目をこすった。はぁーと大きく息を吐いて、お茶をまた一
口すすった。
「話がずれてしもうたな。結局、邦夫さんは帰らぬ人となってしまった。国からは名誉の戦死
という報告が入ったらしいが、本当は違う。戦争で戦って殺されたのなら仕方のないことかも
しれんが、怪我して動けないアメリカさんを上官に殺せと命じられたそうだ。それを邦夫さん
は拒んだ。いくら憎い敵国の人間でも、無抵抗の人間は殺せないと拒んだのさ。そしたら上官
に撃たれた。謀反とかって言ってな。生き残った同じ隊の人が教えてくれたよ。」
「殺されたも同じじゃないか!」
美童は、春ばぁの口から聞かされる事実に、驚きのあまり声を張り上げてしまった。
可憐も涙をこぼし、ハンカチを握り締めている。
「…さっきのあれも辛かったけど、そんなに酷い事が実際にあったのね。」
「戦争とはこんなもんさ。理性もまともな精神さえも失ってしまう。本当に正しい、勇気のあ
る者、『戦争反対』と叫んだ人達から殺されていった。時代じゃな。」
「…悲しい時代ですわね。」
野梨子が目を真っ赤にしたままポツリと呟いた。
清四郎は皆が口をつぐんだところで、話を切り出した。
「邦夫さんはどの辺りで亡くなられたのか、ご存知ですか?」
春ばぁはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
「健児の塔は知っとるかね?あそこから海岸におりていけるんだが、確かその海岸のあたり
だったと聞いとるが。」
「ありがとうございました。貴重なお話、有難うございました。」
「あんたらのような若い人達は間違わないようにな。たとえ、誰か間違った道を選択しても、
違うと言える勇気をもっておくれ。」
春ばぁは真剣な眼差しで皆を見つめた。日本のトップグループの令嬢や子息達だと夏美が言っ
ていた。将来、力を持つ人間だからこそ、間違わないで欲しいと言う祈りを込めて。
「はい、肝に銘じます。」
そんな春ばぁの心中を察した清四郎は真剣な眼差しで答えた。
【つづく】
>姫百合の願い
泡波!つい先日、波照間島で買ってきましたよ〜。
作者さんの沖縄通ぶりには毎回うならされていましたが、
”リアルタイム遭遇+泡波”に嬉しくて初カキコです。
6人がちゃんと絡みながら、謎が解明されていく様子がいいですね。
続きを楽しみにしています。
>姫百合
うーん、なんだか作者様が春ばぁに思えて仕方がない(笑)
沖縄の方なのかな?すごく状況がわかりやすく語られてて、
色々考えさせられますね。
これからが楽しみです。
>清四郎の自動車大変記
笑いました。まさに大変記という感じになってきましたね。
ですます調の文体が逆にこのお話に妙にマッチしている気がします。
特に、菊正宗家のやりとりが面白いです。
しかし清四郎の読んでる本って・・・w
>姫百合の願い
原作のような謎解きの展開、面白いです。
本当、作者様は沖縄の方なんでしょうか。沖縄のことにあまり詳しくない
私でも状況を分かりやすく把握できるので、とても読みやすいです。
今後の展開が楽しみ。
>清四郎の自動車大変記
339さんと同じく、私も丁寧な語調とコミカルな展開が妙に
マッチしているのを、面白いなぁと思って読んでました。
菊正宗家の食卓が目に浮かぶような生き生きとした描写も、
とてもうまいと思います。
清四郎の頭を撫でる和子(・∀・)イイ!
>姫百合の願い
現在進行形で、きな臭くなってきているご時世だけに、
春ばぁの話の一つ一つが心に染みました。
特にこの言葉が良かったです。
>「あんたらのような若い人達は間違わないようにな。
>たとえ、誰か間違った道を選択しても、
>違うと言える勇気をもっておくれ。」
あと、頬をプゥーと膨らませる悠理が可愛いw
>清四郎の自動車大変記
前回同様面白かったです。
菊正宗家の描写が好きでした。
>姫百合の願い
読みごたえがあって、個人的には好きな作品ですけど
なんとなく二次創作を利用したプロパガンダっぽく感じてしまいました。
でもたまにはこういうのもいいですね。
有閑な夢を初めて見ました。
魅録が5人の弟妹を持つ、チョト貧乏な大家族の長男になっていました。
「こうするとあったかいんだぜ」と言って、男山に毛布をかけ
皆で「犬コタツ〜」と言って楽しそうに足をつっこんでいました。
『海へ行きたい』という野梨子のリクエストに答えるために、俺は久し振りに実家に
行って4WDを借りてきた。
俺は今、バイクしか持ってない。
悠理と別れてから車に乗ることがなくなって、アルファも売り飛ばしてしまったからだ。
「野梨子、待った?」
「いいえ。ちょうどよいくらいでしたわ」
野梨子が助手席のドアを開ける。
車高が高いせいか、ちょっと乗りにくそうだ。
「大丈夫か?」
「ええ。なんとか」
野梨子はまさに『よじ登る』という感じでようやく乗り込んできた。
早速シートベルトをして、俺を見てニコリと笑った。
「これでいいですわね」
俺はキーを回してエンジンを動かし、ギアをファーストに入れて車を発進させた。
都内を走っている間はまだ何かしら喋っていたが、川を越えて東京を出てから野梨子の
視線は外の景色に釘付けになっていた。
平日のせいか道路も込み合うことなくスムーズに進んでいたので、俺はあえて話し掛け
ないで運転し続けていた。
「魅録、あとどのくらいで着くのかしら?」
野梨子の望む場所まであと100kmほどある。
「そうだな。1時間半か2時間かな」
俺は前を向いたまま答えた。
全く、野梨子の望む方向がこっちでよかった。
反対だと確実に清四郎が今住んでるとこを通らなきゃならない。
そんな可能性は万にひとつもないと思うが、俺は清四郎に会いたくなかった。
今の俺にとっての清四郎は、かつての親友というより野梨子の前夫という存在だ。
俺は何の根拠もないのに、清四郎が野梨子とよりを戻すのではないかということを極端に
恐れていた。
私は不意に目覚めてしまった。
少し身を起こして傍らの時計を見ると、午前4時でしかない。
海辺に立つどこにでもあるようなホテルの一室で、さすがにこの時間起きている人間は
誰もいないのか、微かに聞こえる潮の音以外何も物音はしなかった。
「あと、3時間くらいは寝れますわね……」
私は小声で呟き、寝ようと思ってもう一度横になった。
身体の力を抜いてリラックスし、頭を空っぽにして目を閉じてみる。
けれど、目が冴えてきたらしく、どうにも眠れそうになかった。
それで傍らの魅録に寄り添ってみると、魅録の寝息が聞こえてきた。
起き上がって見てみると、気持ち良さそうに眠っている。
左胸が、心臓の動きに合わせて規則正しく僅かに上下している。
私は思わず見とれてしまった。
魅録の閉じられた瞼に、少し薄い唇に、シャープな顎に、割にしっかりした首に、程よい
厚みを感じられる胸に。
数時間前、確かにこのひとに抱かれていたはずなのに、こうやって改めて見てみると違う
ひとのようにも感じられる。
同じだと確かめたくて、右手で頬に触れてみる。
それから唇へ。
刹那、悠理のことが頭をよぎる。
私はふたりが何故別れたかを知らない。
それは最初は取るに足りないことであったのに、魅録と近しくなるにつれて存在感を
増してくる。
何度追い払っても私の心の中から消えてくれない。
悠理、お願いだから私の前に表われないで下さいな。
今の私にとって悠理は、かつての親友というより魅録の前妻である。
私は何の根拠もないのに、魅録が悠理とよりを戻して自分の元から去ってしまうのでは
ないかということを極端に恐れていた。
野梨子は決して、俺の部屋で泊まろうとはしない。
たとえ夜の11時に俺に会いに来ようとも、必ず適当な時間に帰っていく。
そんな時、俺は玄関のドアを開けてエレベーターへと向かう野梨子を見送るのだが、
これまで何度となく引き止めたいという衝動に駆られた。
だが俺は、これまで一度として引き止めたことはなかった。
野梨子に、そんなことをしてはいけないと思っていた。
「魅録、もう帰りますわ。随分遅いですし」
野梨子が俺の隣から立ち上がった時、時計はちょうど11時を指していた。
「ああ、もう帰るのか……」
俺は続いて立ち上がることなく、テーブルの上に視線を落として呟いた。
野梨子は仕事が終わってすぐこっちに来てくれたから、かれこれ5時間近く一緒にいられた
ことになるのに、何故か俺は野梨子の感触を失った途端急に弱気になってしまった。
「どうしましたの、魅録?」
野梨子が立ったまま、不思議そうな顔をして俺を見つめる。
俺は野梨子の視線を右頬に受けながら、自分のこのもどかしい気持ちをどう伝えれば
いいのか必死になって考えていた。
「魅録、本当に、どうかしましたの?」
俺が黙ったままその場で動かずにいると、野梨子の心配そうな声が耳に入ってきた。
ああ、そこまで言いたいことが見えてるんだけどな。
俺がなおも言葉を出せずにいると、何かを感じ取ってくれたのか野梨子がもう一度隣に
座ってくれた。
俺は右腕をそっと野梨子の腰に回し、ぎゅっと自分に引き寄せた。
「魅録?」
野梨子は一瞬驚いたみたいだが、程なく俺に身体を沿わせてきてくれた。
すると野梨子の体温がじわじわと伝わってきて、気分が少し落ち着いてくる。
深呼吸とまではいかないが、僅かに深く息を吸い込んでから口を開いた。
「野梨子、俺正直言って、いつまでたっても帰られるのって慣れねえ。ずっとこのまま、
側にいてくれればいいのになって思ってしまう」
俺はそこまで言って、自分の頭を軽く野梨子の頭に寄りかからせた。
野梨子の手入れの行き届いた黒髪が、優しく俺の頬を受け入れてくれる。
「こんなの、俺のわがままだってわかってる。けど、これが俺の正直な気持ちだ。野梨子、
俺の側にいてほしい」
俺はようやく、伝えたいことをちゃんと言えたような気がした。
心もち気が楽になったがそれはつかの間で、すぐに野梨子の反応が気になってその顔を覗き込んだ。
俺の顔の動きに合わせ、野梨子の黒い澄んだ瞳が俺の目を捉える。
「魅録、ずっと私の側にいてくださいな。ほかの誰のところにも行かないでくださいな。
……私、不安でしたの。こうやってあなたといても、時々、いつかあなたが悠理のもとへ
戻って行ってしまうのではないかって思ってしまって」
野梨子は、言い終わって微かに俯いた。
俺はその黒髪に軽くキスをして、左手で膝に置かれた野梨子の両手に触れた。
「俺もな、野梨子、清四郎の存在が怖かった。でも、もうそんなことにとらわれるの
止めにする。だから野梨子も。……俺は、ここにいるから」
「母さま、今入ってもよろしくて?」
私は、かなり緊張しつつも母さまの部屋の前に立って言った。
今日母さまに魅録とのことを打ち明けることは、少し前から決めていた。
父さまは先月からスケッチ旅行に出て行ったままだし、普段はいる内弟子さんがみな自宅に
帰る日であるというのがその理由だった。
「お入りなさいな、野梨子さん」
一瞬のうちに、中から普段と変わりない母さまの声がした。
私は引手に手を掛け、襖をそっと開けて中に入る。
すぐに襖を閉めて向き直ると、母さまは部屋の右寄りに敷かれた布団の脇で正座し、
いつもの穏やかな表情で私を見ていた。
「野梨子さん、父さまもいないことですし、ゆっくり話しましょうか」
私が母さまの真正面に腰を下ろすと、母さまはいたずらっぽく微笑んだ。
そんな茶目っ気たっぷりな母さまを、久々に見るような気がしてくる。
緊張は急に解れていき、徐々に言葉が口の端に乗り始めた。
「野梨子さん、近いうちに改めて紹介してくださいね、父さまのいる時に」
私は、自分でも驚くくらいあけすけに、魅録とのこれまでの経緯について母さまに話し
続けていた。
話す前は母さまが動揺しないようにどこまで話そうか散々迷ったのに、一旦話し始めると
母さまが終始落ちついた様子で私の話を聞き続けてくれたものだから、そんな心配も吹き
飛んでしまっていた。
「ええ、母さま」
私はそう言って、チラリと母さまの目覚まし時計に目を遣った。
午前1時10分ちょっと過ぎ。
私が母さまの部屋に入ってから、余裕で3時間は過ぎてしまっている。
「ごめんなさい、母さま。私、話し過ぎましたわ」
さすがに、母さまに休んでもらわねばと思った。
これ以上居続けると、早起きな母さまの寝る時間がなくなってしまう。
「野梨子さん、今日はいろいろ話してくれてうれしかったわ。これからも、いつでも
歓迎ですよ」
慌てて立ち上がる私とは正反対に、母さまは優しく微笑んでおっとりと口を開いた。
私は母さまに『おやすみなさい』と言い、襖を開けて母さまの部屋を出た。
中庭に面した廊下には硝子越しに月明かりが差し込み、静寂が支配する空間を柔らかく
している。
私は足音を立てないようにそろりと歩き、自分の部屋へ向かった。
私がひとり暮らしをしてからもそのままに残されている部屋は、マンションの部屋とは
違った感じで私をホッとさせてくれる。
私はゆっくりとドアを開け、電気をつけないまま部屋の中に入ってベッドに潜り込んだ。
スプリングが程よい硬さで身体を支えてくれる。
早速、明日にでも魅録に電話して、母さまに話したことを言ってみよう。
胸のつかえがなくなったせいか、眠気が急に襲ってくる。
私は目覚ましを確認し、抗うことなく両目を閉じた。
その日仕事を終えてメールチェックすると、美童から『転勤』とタイトルのあるメールが
入っていた。
転勤?
普段俺は履歴のチェックを先に済ませてからひとつひとつ中身を見ていくのだが、さすがに
今回はタイトルのインパクトに負けて速攻でメールを開いてみた。
本文はたったの2行。
『転勤の辞令が出た。来月には大阪に引越し』
俺はそのそっけなさに驚いた。
いつも聞いてもないことをあれこれと書き添える美童が、しかも時々長すぎて本文が途中で
切れてたりすることもあるのに、今回に限って何でこんなに短いのか。
俺はありきたりに返信メールを送って終わりにする気になれず、指はメモリーから美童の
番号を探し出していた。
「魅録がそんなに驚くとは思わなかったよ。……でも、まあ久しぶりに一緒に飲めるのは
悪くないけどね」
ジントニックを片手にカウンターに座る俺の隣に、バーテンダーからスクリュードライバーを
手渡された美童が座った。
「いや、『転勤』なんて言われたら普通、驚くぜ」
俺はグラスを置き、左手で灰皿を引き寄せてから煙草を1本取り出した。
「そうかなあ。でも僕、普通の会社に勤めてるからありえないことじゃないからね」
確かにそれはそうだ。
俺でも、もしかしたら出向という形をとってどっかに行かされるかもしれない。
「で、どれくらいの間飛ばされそうだ? 3年か、5年か、それ以上か?」
「一応、3年は見といてくれって言われてる。長くても、その倍にはならない予定」
美童は何でもないかのようにさらりと答えた。
カランとグラスの中から音がする。
その音で、俺は今更ながら美童が独身でないことに思い至った。
正直に疑問を口にする。
「それで、可憐は?」
「こっちに残るよ。だって、僕が休みごとに帰ればいいわけだし。……可憐はデザイン
だけなら別に東京に居なくてもできるって言ってくれたけどね」
「そっか」
俺には特に、言うべき言葉はなかった。
ただ、美童と可憐の間にある絆の確かさをうらやましく思い、灰皿に置いていた煙草を
掴んで口に持っていく。
ニコチンをゆっくりと吸い込みながら、頭の中で、自然と状況を俺自身と野梨子に
置き換えていた。
【続く】
すみません、ナンバー入れ間違えてしまいました。
351は(66)です。
>サヨナラの代わりに
リアルで遭遇、ラッキーです。
野梨子と魅録の絆が深くなっていく様が愛おしいです。
前のパートナーをお互いよく知るだけに、不安は消せないんですね。
でもこの二人なら、と思わせられます。
>サヨナラの代わりに
お待ちしていました。
野梨子と魅録、それぞれの感じることがよく伝わってきて切なくなりました。
>ギアをファーストに入れて
ファーストではなくてローなのでは…。あるいはドライブか。
>サヨナラの代わりに
静かだけど力強さもあって、このお話の野梨子と魅録二人ともスキ…。
>>354 >ファーストではなくてローなのでは…。あるいはドライブか。
こればっかりはマニュアル車を運転してないと分らないと思われ。
ちなみに魅録の借りてきたのは四駆だし、
彼の趣味からしてオートマ車は選ばない気がする。
・・・と、書いてみる。
>354
マニュアルだったらファーストでOKだよ、多分。
ファースト(でもローって言う教官もいた)→セカンド→サード
→トップ→オーバートップ(5速までの場合)だったと思う。
でも口で言う時って「1速・2速・・・5速」の方が通じやすいのかも。
6速マニュアルだとファースト・・・から続ける時言い方知らないしw
>356様、357様
ごめんなさい。そうでした。
私の車はLと表示されているのでローだと思ってました。
自動車学校はもう遠い記憶になっています。
>サヨナラの代わりに 作者様
よけいなこと言ってごめんなさい。
ちょっと逝ってきます…。
車つながりだけど…なんで原作で魅録は四駆に乗ってるんだろ。
6人乗れるって理由だけなのかなぁ。そんな作者都合だったらつまらん。
もうちょっとこだわった車に乗せてあげて欲しいなあ…。
時宗さんはポルシェ所有してるけど、運転してるとこ見たことないし。
魅録のパパだから上手いんだろうか?
勝手な推測だと、千秋さんがさらっと「ああ、あたしA級ライセンスよ」
くらいのセリフを言いそう。
>360
車詳しくないから車種わかんないけど、
12巻で時宗さんが乗ってる
車も外車(左ハンドル?)かな…?。
>361
あ、ほんとだ。運転してるみたいですね(ハンドル見えないけど…)。
どう見てもスポーツカー(車種わかんないけど…)。
やはり魅録の車好きは、時宗さん譲りという設定なんですかね。
このコマ、見落としてました。ありがとうございました!
…それにしても、この頃の絵柄を見返すと、現在の変わり様にため息が出てしまいます(涙)。
かーわーいーいー ヾ(>_<)ノ゛
>サヨナラの代わりに
この作品の野梨子大好き。もろい所もあって、でも
芯が強くて。2人が少しずつ親密になっていく様子が
丁寧に描かれていてとても好きです。
〃〃∩ _, ,_
⊂⌒( `Д´) < 連載の続きが読みたい!
`ヽ_つ ⊂ノ
ジタバタ
_, ,_
〃〃(`Д´ ∩ < 短編も読みたい!
⊂ (
ヽ∩ つ ジタバタ
〃〃∩ _, ,_
⊂⌒( つД´) < リレーも読みたい!
`ヽ_ ノ ⊂ノ
ジタバタ
∩
⊂⌒( _, ,_) < ウプがないと寂しいよぉ・・・
`ヽ_つ ⊂ノ
ヒック…ヒック…
∩
⊂⌒( _, ,_)
`ヽ_つ ⊂ノ zzz...
>366
某国の皇太子妃を思い起こさせるじゃないかw
『姫百合の願い』うPします。
>>336の続きです。
「ところで、範子さんって名前の女性はご存知ないですか?」
清四郎は野梨子から預かっていた手紙を見せた。春ばぁは手紙を手に取ると、驚いたように
面を上げる。
「邦夫さんと範子さんって…ああ、知ってるとも!範子ちゃんは近所に住んでた子で、私より
一つ年下の、小柄で眼がくりくりっとした可愛い女の子だったよ。そう、あんたみたいに。」
春ばぁは野梨子を指差した。度重なる偶然に皆も驚きを隠せない。
「私?私も野梨子といいますのよ。字は違いますけど。」
野梨子は名前だけでなく、雰囲気まで似ているという範子の存在に運命というものを感じて
いた。あの白昼夢を思い出そうとするものの、顔まではあまりはっきりと覚えていない。
あのリビングで見た映像では顔も汚れ、生気の無い表情は自分と似ているとは思いもしなかっ
たのだが。
「範ちゃんは私にとてもなついてくれたよ。邦夫さんと私は年も同じだったから仲も良かった
し、そこに範ちゃんも加わって三人でよく遊んだもんさ。」
春ばぁは微笑みながら、懐かしそうに呟いた。
「…そうか、範ちゃんは邦夫さんの事が好きだったんじゃね。邦夫さんの戦死の連絡が入る
前に、範ちゃんはひめゆり学徒隊の一人として南風原病院に配属されていたらしいが、その後
アメリカ軍に撃たれて亡くなったと聞いておるが。」
「その通りですわ。」
そう言いきる野梨子を不思議に思いながらも、春ばぁは心からの願いを口にした。
「この手紙、邦夫さんに届くといいねぇ。」
そうそう…と言いながら春ばぁは席を外し、しばらくして一冊のアルバムを持って来た。
「ここに写真があるけど、見るかい?」
春ばぁがパラパラとアルバムをめくっていくのを見て、清四郎が感心したように声を上げた。
「戦火の中、よく写真が残っていましたねぇ。」
「ああ、これは私の宝さ。いつどうなるかわからん世の中じゃったから、写真だけは絶対無く
さないように、お墓んとこに隠しておいたのさ。幸いなことに泡波の墓は無事だったしな。
私の身内や邦夫さん、範子ちゃんらの大事な存在証明みたいなもんだからな。」
春ばぁが手を止め、一枚の写真を指差した。そこには二人の少女と少年が並んで立っていた。
右端の少女は髪を後ろで一つに束ね、切れ長の涼しげな瞳が聡明な印象を持たせる大人っぽい
女性だ。反対に真ん中の少女は、お下げ髪を2本前のほうへ垂らし、ぱっちりとした大きな瞳
とキュッと引き締めた口元が、愛らしさと意思の強さを表している。
「真ん中が範ちゃんで、右端が私。」
へぇーとばかりに皆がアルバムの写真を覗き込んだ。
「言われてみれば野梨子に似てっかも。」
「目の辺りが似ていますね、意思の強そうな所とか。」
「そうですの?自分では良くわかりませんけど…」
悠理、清四郎、野梨子の三人が範子の印象に付いて話していたのだが、可憐と美童の目は
60年前の春ばぁに注がれていた。
「あら、春子さん、綺麗だったのねぇ」
「あー、ホント、ホント。僕、この頃だったら絶対春子さんに声掛けてるよ。」
「おまえらなぁー。」
魅録が取りようによっては失礼な二人を制するものの、春ばぁは全く気にする様子も無く
ひゃっひゃっひゃと声を上げて笑っている。
「そこの色男、今でも私は構わんよ。じいさんは2年前に死んでしもーたし、私は独身だからな。」
「そ、それはちょっと…」
美童は自分で招いた局面に、地蔵の様に固まっている。もしかしたら、人形屋敷のきぬさんの
ことでも思い出しているのかもしれない。
春ばぁの指が左端へ移った。
「で、これが邦夫さん。」
「あら、いい男じゃない!死んでしまったなんて、もったいないわぁ。」
邦夫は可憐も思わず声を上げてしまう程、目鼻立ちの整った美しい少年だった。写真に釘付け
になっている可憐を横目に、悠理が口を挟む。
「可憐、生きてたってばーちゃんと同い年だじょ。」
「おや、悠理、よく気が付きましたねぇ。」
清四郎の言葉に悠理もピクリと反応する。
「やい、清四郎!あたいだってそこまでバカじゃないやい!」
「邦夫さんはもてたもんさ。いつも女学生が噂しとったからな。」
恋愛話に興味が尽きない可憐は、春ばぁに聞いてみた。
「ね、春子さんは邦夫さんが好きじゃなかったの?」
「いとこだったしな。それに私には許婚がおったし。」
可憐も春ばぁの答えは予想外だったとみえ、目をまん丸にして驚いている。
「えー!17歳で許婚?もしかして、それが2年前に亡くなられたご主人ですか?」
「だったら良かったけどな。私が17、あの人が19才の時に兵隊に徴収されて、召集される
前日に結婚式を挙げたんだ。本当に形だけの結婚式だったさ。私は生き残ったけど、あの人は
南太平洋で戦死してしまったわ。」
春ばぁが乗り越えてきただろう数々の困難を思うと胸が痛むようだ。
「…大変でしたのね。」
そんな野梨子の言葉を、春ばぁは再びひゃっひゃっひゃと笑い飛ばした。
「なーに、沖縄ではこんな話は腐るほどあるからな。今の子供達は、再婚した相手の子供さ。
悲しい思いも沢山したけど、子供達も孫も一人前になったし、こうして元気に暮らしている私
は幸せなんだ。だから、今は後世の人に戦争の悲惨さを伝える事が、私の使命だと思っている。
皆も忘れんでおくれよ。」
「有難うございました。春子さんもお元気で。」
「ばーちゃん、またな!」
皆は春子ばぁにお礼を言うと、玄関へと向かった。6人を見送る為であろう、春ばぁと夏美も
後ろに続く。外に出ると沖縄の日差しは強く、突然野梨子の目の前が真っ白になり、強烈な光
と共に意識を手放した。
「野梨子!」
後ろにいた清四郎が慌てて抱き止める。
「大丈夫かね?」
春子ばぁが心配そうに覗き込んだが、野梨子は直ぐに目を覚まして立ち上がった。
「春ねえちゃん、私は大丈夫だから心配しないで。私、邦夫さんとこへ行くの。さよなら。」
野梨子の大きな瞳から涙が溢れ、ポロポロとこぼれ落ちた。
そんな野梨子にあっけに取られていた春ばぁだったが、ふと、ある事を思い出していた。
「私のこと春ねえちゃんって呼ぶのは、範ちゃんだけだったよ。」
「彼女のなかに範子さんがいるんです。それで僕達は、邦夫さんを探して春子さんの所へたど
り着きました。信じるか否かは春子さん次第ですが。」
清四郎の言葉に驚きつつも、春子は再び首のタオルで目を拭い、ポツリと呟いた。
「…信じるよ。」
「バイバイ。」
野梨子は軽く手を振り、春ばぁの家を後にした。
野梨子は真っ直ぐ前を見据え、他など視界に入らないかのように歩き始めた。皆も黙って後ろ
を付いていく。思ったとおり、今日三度目となる泡波の墓の前で足が止まった。
「範子さん、もうお分かりでしょう。邦夫さんはもういませんよ。」
「そうですね。」
「もう気が済んだでしょう?」
そう問い掛ける清四郎に野梨子がゆっくりと振り向いた。
「あなたは恋をしたことがないのですか?」
不意に自分へと向けられた質問に、清四郎は答えることが出来なかった。唯一、彼が答えるこ
とを苦手とする恋愛に関する問題。答えが一つしかない問題ならば全く苦にならないし、自分
にとって答えられない事は恥ずべき事と思う。しかし、多種多様の答えを持つこの手の問題は
非常に難解であり、又、理解に苦しむものだった。
「私が何故この方の中にいるのか、貴方にはわかりませんわね。あちらの方のほうがもっと
霊感がおありのようですけど。」
野梨子はそういいながら悠理の方へ視線を移した。悠理も真剣な表情で見つめ返す。
「私、この方と同調致しました。この方も私と同じ恋心を抱いている。口に出すことの出来
ない思いを抱いているのです。貴方に言っても解らないと思いますが。」
清四郎は範子の言葉に驚いていた。
――野梨子が恋?全くその様な素振りさえ見せていなかったのに?
清四郎は可憐や悠理の方へ視線を走らせたが、やはり同じように驚いている所をみると、誰も
知らなかったのだろう。野梨子の性格を考えると、ひっそりと胸に秘めていたに違いない。
それが皆の知るところとなった今、野梨子が少々気の毒になった。
「切ないものです。恋というものがこんなに切ないものだなんて誰も教えてくれなかった。
これが恋だと知った時にはもう邦夫さんはいなかった。私の思いだけが行き場所を無くした
まま、彷徨っているのです。」
しかし、今は恋がどうこう言っている場合でない。別に自分が解らないままでも構わない。
それよりも野梨子を元に戻す方が先と判断した清四郎は、直接範子に聞いてみることにした。
「では範子さん、貴方はどうしたいのですか?」
「私は…、私はただ、邦夫さんに会いたいだけ…」
野梨子は泣きながら微笑んでいた。
ふと野梨子の足元がおぼつかなくなり、再び倒れそうになった所を清四郎が受け止めた。
「野梨子!」
「…なんですの、清四郎?」
野梨子が戻ってきた。
「あらっ?ここはお墓ですわよね。又、範子さんが?」
皆がコクコク頷いている。
「野梨子、又同じ事を聞くけど、覚えてないのよね。」
「ええ。何かあったんですの?」
「あとで教えてあげるわ。」
可憐と悠理、美童がにやにや笑い、そんな三人を不思議そうに眺める野梨子だった。
「とりあえず、健児の塔に行ってみるか?と言いたいところだが、あそこは南部なんだよなぁ。
車を取りに行って、これからとなると少し厳しいな。沖縄には電車つーもんがねぇから。」
魅録が自分の腕時計を見たが、午後3時を過ぎている。今から車を取りに行っても、丁度那覇
の辺りでラッシュの時間帯にかかりそうだし、健児の塔に着く頃には日が沈んでしまうだろう。
今日は諦めた方がよさそうだ。
清四郎も魅録の話に頷き、大きく息を吐いた。
範子はどうしても邦夫に会いたいという。それまでは野梨子から離れないだろうし、だとした
ら自分達が邦夫の所へ連れて行くしかあるまい。
「今日はとりあえず別荘に戻って、明日行くことにしましょう。」
魅録は眠る事ができず、海岸で海を見ながらタバコを吸っていた。
野梨子が恋をしている。口に出せない思いを抱えている。
今日、範子から聞いた野梨子の思い。それは一体誰に向けられているものなのか?
――俺の知らないやつなのか?それとも、いつも隣にいるあいつなのか?
時々皆で冗談半分にあいつとの関係をからかったりもしていたが、それがもし現実となっ
た時、俺はまだ仲間でいることに耐えられるだろうか?
考え始めたら眠れない、長い夜になりそうだった。
ふと、足音が聞こえた。靴の音ではない。
――裸足?
裸足で来るとしたら一人しかいない。野梨子、いや、範子と言った方がいいだろう。
元々華奢で細い野梨子は、ここ数日まともに休めていない為やつれて見え、月の明かりを受け
て青白く輝くその姿は、まるでこの世のものでないように、とても儚く見えた。
――邦夫さんが亡くなった事を範子さんは知っているはず。何故海へ来るんだ?
そんな魅録には目もくれず、野梨子は真っ直ぐ海へと向かい、躊躇することもなく中へと入って
行った。
「やめろ!」
魅録は砂浜を駆け出し、濡れるのも構わず海へ入って野梨子を後ろから抱きかかえた。
「やめろ!範子さん!」
「放して!私の思いをあの人に伝えたいの。邦夫さんの元へ行かせて下さい!」
野梨子の抵抗は激しかった。
しかし、魅録は野梨子を固く抱きしめたまま、行かせまいと必死だった。
「ダメだ!範子さん、あんたが行きたいのなら行けばいい。でも、野梨子はダメだ。野梨子は
行かせない。あんたも愛する人がいなくなった時の悲しみはよく分かるだろう?俺にも同じ思
いをしろというのか?」
不意に野梨子の抵抗がなくなった。
「明日、俺達があんたを邦夫さんに会わせてやる。だから、もう少し待ってくれ。」
野梨子は立ち尽くしたまま動かない。
「…わかりました。」
野梨子はそう小さく呟き、魅録も抱えていた手を離した。
「あなたはこの方が好きなのね。」
振り返った野梨子が魅録を見つめ、分かりましたと言うように頷く。と同時に、野梨子の身体
の力がガクリと抜け、魅録は慌てて腕に抱きとめた。
範子は約束の明日まで出てこないつもりなのだろうか?
野梨子はよほど参っているのか、一向に目を覚まさない。一瞬死んでいるのか?とも思い、首
筋に手を当ててみると脈はしっかりと波打っており、安心した魅録は野梨子の背中と膝の下に
手を入れて抱き上げると、別荘へと戻って行った。
玄関へ近づくと、脇には可憐が立っていた。
「良かったわ、魅録がいてくれて。」
「お前、もしかして聞いていたのか?」
魅録は全身の血が引き、再び足元から沸騰した血が昇ってくるのを感じた。野梨子を止めることに夢中になり、思わず口から出てしまった本心。まさか他に人がいるとは思いもしなかった。
「さあ、どうかしらねぇ!」
「おい、可憐!」
「魅録が野梨子のことが好きだなんて知らなかったわ。」
可憐はにっこりと微笑んでいる。
「やっぱり聞いていたんじゃねぇか!」
魅録が顔を真っ赤にして怒っている。
「しっ!あんまり大きな声を立てると野梨子が起きちゃうわよ。」
「うっ…」
そう言われると、まともに反撃さえ出来ない。
「じゃ、そのまま部屋に連れてきて。私が着替えさせるから。」
「ああ、頼むわ。」
可憐が先に部屋へ入って布団の上にバスタオルを敷き、魅録はその上に野梨子を横たえた。
「なんなら、魅録が着替えさせる?」
可憐が意地悪っぽくからかう。
「バカいえ!じゃ、後頼むわ!」
魅録は顔を赤くしたまま部屋を後にした。
【つづく】
>姫百合の願い
野梨子の想い人は誰なんだー!
こないだ沖縄旅行でひめゆり記念館行ったばっかなんで戦争話が
超リアル。。。すごい衝撃だったよ、あそこ。
>姫百合の願い
魅録に萌え萌え〜
からかう可憐姐さん、恋のことを聞かれて答えられないでいる
清四郎も、らしくて良かったです。
>>377 同じく。この前の競作の時も恋する清四郎を沢山読んだので、
今回の原作そのままの清四郎の反応がかなり新鮮でした。でも良かった。
>姫百合の願い
シリアスな背景ですが、密かに萌え萌えシーン多いですよね〜
ウレシイ。
魅録が野梨子の首筋に手を当てるところとか、いいですね〜。
原作キャラも生きてるし、御大、このストーリーで漫画描いてくれないかな。
昔の御大の絵はスキだけど、今の絵は…
新開は最上階のスイートに可憐を案内した。
まず、ドアに続くロビースペースであるが、右側には細長いサイドテーブルがあって
置時計とテーブルスタンドが置いてあった。
その奥のリビングスペースへ入って行くと、中ほどにマホガニー製のセンターテーブルが
でんと構え、壁に沿ってダブルソファが置いてあってその両隣にサイドテーブルと
テーブルスタンドが添えられていた。
シングルソファは3脚あり、1脚はダブルソファの左斜め横の配置であったが、残り2脚は
適度な間隔を空けてセンターテーブルを囲むように置かれてあった。
新開は可憐を奥のダブルソファに座らせ、自分は一番手前のシングルソファに座った。
気まずい沈黙が二人の間を流れる。
可憐は新開の顔をじっと見つめ、さっきの清四郎の話に対する新開の説明を待った。
この恋を続けるにも終らせるにも、新開からのちゃんとした言葉が必要だった。
「可憐、これだけは信じて欲しい。僕はあなたを愛してる」
無限とも思えた沈黙を打ち破ったのは、新開だった。
「確かに僕は父を憎んでいた。僕の父は僕が生まれた時は僕に見向きもしなかったのに、
いきなり18年も経ってから僕の前に現れた。しかも、父は僕に『息子』は求めなかった。
父が欲しかったのは、グループを滞りなく経営し得るロボット。だから、何をどれだけ
成し遂げても僕には虚しさしか残らなかった」
ため息とともに一旦言葉を切った新開の顔は、まだかなり青ざめていた。
あの自信に満ちた堂々とした姿は影も形もなかった。
可憐はそれ以上新開を見ていられなくてセンターテーブルに視線を落とし、今まで新開の
何を見てきたのだろうと考え込んでしまった。
今の新開は、ただ可憐に同情を求めているだけのように見える。
問題の核心の、自分を騙そうとしていたかについて否定も肯定もせず、違うことを
持ち出して逃げている新開に可憐は深い失望を覚えた。
可憐の中で、まるで憑き物が落ちたかのように全てが冷め切ってしまった。
「渉さん、やっぱりあたし一緒に行けない。『愛してる』って言葉を疑ってるわけ
じゃないけど、あたし達はいつの間にかすれ違ってしまったと思うの。
………もっと前に、今日の『愛してる』って言葉を聞きたかったわ」
可憐はすくっと立ち上がり、新開が座る反対側を通ってリビングスペースを抜けていった。
去りゆく可憐に対し、新開は可憐を目で追うことしかできない。
可憐は背筋をしゃんと伸ばして振り返りもせず、背中に痛いほどの視線を背中に
感じながらドアまで辿り着いた。
そしてドアのハンドルに手をかけ、わざと勢いよくハンドルを下に動かして扉を開けた。
中途半端ですが、どなたか続きをお願いします。
清四郎×野梨子の短編です。蛇様事件でのお話です。
幼馴染と、それ以上?の境目の二人。本日はとっかかりの2話まで。
遠くから聞こえてきた悲鳴に、清四郎は考えるより先に駆け出していた。
野梨子の声だ。
後ろから魅録が追いかけてくるらしい足音が聞こえるが、今の彼にはまったく耳に入っていなかった。
夢の中で走っているようなもどかしさ、床がねじくれているような感覚。
手入れが行き届き黒く光る廊下を走りながら、ひたすら声のする方向へ急ぐ。
古い日本家屋の、おそらく建て増しを繰り返した為に曲がりくねった廊下が恨めしい。
角を曲がろうとしたところで、反対方向から走ってきたのか悠理とあやうく衝突しかけた。
「うわ!」
「悠理、今の悲鳴は何ですか!なにがあったんです!?」
Tシャツに短パン姿の悠理は「清四郎〜」と半泣きになっている。
青ざめた顔でガタガタ震えながら、
「の、野梨子が、風呂、で、見たって・・・ででででた、って、はやく行って・・・」
そのまま頭を押さえてへたりこむ。
「魅録、悠理を」
それだけを言って、清四郎は風呂場へと駆け込んだ。
脱衣所の扉は開いていて、野梨子が浴衣姿で座り込んでいた。
風呂場へと続く引き戸がきちんと閉められていないのか、湯気が流れてきている。
むわっとした空気のなかで、野梨子の顔は蒼白だった。
ガタガタと震えながら自分の肩を抱きしめるようにして震えている。
そばで野梨子の背を撫でている可憐も、青褪めた表情だった。
飛び込んできた清四郎を見て、そっと横へ退く。
「野梨子」
清四郎は野梨子の前に膝をつくと、その細い身体に腕を回して抱き上げた。
怪我はないようだ。とりあえずそのことに安堵したものの、一体なにがあったのか。
「せい・・・しろう」
細い腕がしがみついてくる。
清四郎、清四郎と小さな声で繰り返しながら彼の胸元に頬を押し付けるばかりで、震えが止まらない。
可憐に問いかけようとしたところで、脱衣所の前に集まる屋敷内の人々に気がついた。
心配する顔、好奇の顔。
「お嬢さん、どうしなすったかね」
と心配そうに問う声がするが、いまは野梨子を落ち着かせるのが先だ。
野梨子を抱いたまま、人々を押しのけるようにして部屋へ向かう。
「休ませます。とにかく部屋へ」
蛇様エピ大好きです。
続きが楽しみだ〜!
蛇様事件は私も大好きだーーー!!
もうそれだけでかなり萌え。
早く続きが読みたいなっ。
『姫百合の願い』うPします。
>>375の続きです。
翌日、睡眠をとることが出来た野梨子は、身体も少し楽になり、顔色も以前に比べてずい分
良くなったようで、可憐が安心したように野梨子へ声を掛けた。
「野梨子、大分良さそうね。食欲もあるみたいだし。」
昨日までは食欲もあまりなかったようだが、今朝はきちんと朝食を取っている。
「ええ、範子さんも昨日はお休みだったようですわ。」
「ああ、そうみたいね。」
可憐が魅録の方へちろっと視線を向けたが、魅録は知らん顔を決め込んでおり、黙々とオム
レツを食べている。
「でも、不思議ですのよ。」
先に朝食を終えた清四郎が、読んでいた新聞から目を離して野梨子の話に耳を傾けた。
「何かあったんですか?」
「ふぉんどはふぁんらよ?」
悠理もバターと苺ジャムをたっぷり塗ったトーストを口一杯に頬張りながら聞いてくる。
「悠理、ちゃんと食べてから言いなよ。」
美童が口の周りをジャムだらけにしている悠理にティッシュを渡した。
「昨日寝ていた時と、今朝起きた時に着ていた服が違うんですの。」
皆は又何事が起きたかと思ったが、あまり大した事でもないと思ったらしく、清四郎は再び
新聞に目を戻し、悠理もトーストに齧り付いている。
未だ首をひねっている野梨子に、可憐が答えを出してあげた。
「ああ、それね。きっと範子さんが気に入らなかったんじゃない?そうじゃなかったら…」
「そうじゃなかったら?」
「キジムナーの仕業ね。」
可憐は笑いながら軽くウィンクした。
今日こそ範子の願いが叶うといい、そんな願いを込めて野梨子は手紙を綺麗に畳むと、ポケッ
トの中に入れ、別荘の鍵を掛けた。既に皆は車に乗っていて、野梨子が来るのを待っている。
「お待たせしましたわ。」
野梨子が乗り込んだところで、魅録は車を走らせた。
今日の天気も見事に晴れ上がり、絶好のドライブ日よりといったところだろうか。
そして、皆には全てが終るという安堵感が広がっていた。
道中、車の外を眺めていた悠理が清四郎に質問をしてきた。
「なぁ、あの道路に立っている石碑みたいなやつ、あれ何だ?」
悠理に言われて、運転している魅録以外の面々が外に視線を移す。なるほど、言われてみれば
所々に石碑のような、プレートのようなものが置いてある。しかも、それらは必ず道路の突き
当りに置いてあった。
「あれはですね、『石敢當(いしがんどう)』と呼ばれる魔除けの一つです。古くから『道の突
き当りには魔が出る』と言われていまして、伝説上の人物である『石敢當』の名前を刻んで魔
除けにしているそうですよ。」
悠理はへぇーと言いながら、右の掌で自分の太ももをパシパシ叩いている。これから全てを終
えると思うと少しは余裕が出てきたらしい。
「何の真似ですか、それは?」
「60へぇ。」
「何ですの?」
「やっぱりなぁ、清四郎と野梨子は解んないと思ったんだ。」
悠理は頭をひねる二人を見て、ケラケラ笑った。
助手席に座っていた美童が、旅行の当初から疑問に思っていた事を口にした。
「清四郎は沖縄初めてだよね?それにしては、何でそんなに詳しいのさ?」
「野梨子もそうよね。」
可憐も同じように思っていたらしい。
「私は映画の『姫百合の塔』を見ててから興味を持ちまして、以前沖縄について調べたことが
ありますの。清四郎はどうしてですの?」
「僕はどこか旅行へ行く時は、その土地の歴史について勉強してから行くんです。その方が何
倍も楽しめますからね。」
清四郎は得意げに話している。そんな清四郎の言葉に魅録が納得しながら言った。
「ま、どーせ清四郎のことだから、そんなとこだろうなとは思ってたけどさ。」
「旅行へいくのに勉強なんて、信じらんねー。」
悠理は、まるで宇宙人を見るかのような目つきで清四郎を見た。
「はい、到着―っと。」
魅録が車を止め、皆がドアを開けて降りた。駐車場には大型バスが2台止まってはいるも
のの、他に止まっている車は皆無と言って良いほどだ。
「なんつーか、地味だよなぁ。」
「『姫百合の塔』の方は大型の売店も沢山あるし、資料館もあるって言ってたわよね。」
「こっちは駐車場と小さなお店がある程度だし。」
「人気もあんまりありませんわ。」
ガイド人清四郎の登場である。
「団体の観光コースでは、麻文仁の丘・平和祈念公園から都道府県の石碑を巡ってこの健
児の塔まで歩いて周ります。なので、この健児の塔は通過点になってしまう事が多いんで
す。先に姫百合の塔へ行く人が多い為、どうしても印象が薄くなってしまうのでしょうね。」
ペラペラと滑らかに説明し続ける清四郎を見て、悠理はよからぬ想像を膨らませていた。
――こいつ、完璧ガイド気分だよなぁ。どーせなら、制服でも着ればいいのに。
悠理は清四郎がバスガイドの制服を着つつ、旗を持ってじじばば相手に説明している姿を
想像していた。
「ぶぅわはははーっ!」
悠理は腹を抱えて爆笑している。
「悠理、何笑ってんだよ?」
悠理は魅録に耳打ちした。
「どぉわはははーっ!お前、変なこと考えるなよ!」
魅録もツボに入ったのか、腹を抱えて笑っている。
「何、どうしたの?」
「どうしたのさ?」
魅録が美童に、悠理が可憐に耳打ちした。
「ププププーッ、ダメ…だよ、悠理、変なこと考えちゃ…プッ」
「きゃーはははー!だめ、あたし頭から離れないかも…」
美童は我慢しているようだが、可憐は無理だったらしい。
「みんな、どうしましたの?」
「何笑っているんですか?ほら、さっさと行きますよ。」
野梨子と清四郎が不思議そうな顔で声を掛けた。
そこには3人の青年が立つ石碑が置かれていた。
「『健児の塔』は男子学徒隊の慰霊碑ですが、横にも壕がありますから降りてみましょう。」
清四郎の言うとおり、石碑の右手横には大きな壕が残っていた。
「この入り口付近に黒い跡があるでしょう?これは、アメリカ軍が火炎放射器で焼いた跡
です。ここも姫百合の塔と同じく、悲しい歴史を語っている場所ですね。」
最初はププッと笑いを堪えていた悠理だったが、戦争の話になったとたん、笑いが収まる。
春ばぁの話がよほど印象に残っているらしい。
「春子さんのいたひめゆり学徒隊は死亡者の数も多く、女子学生の悲惨な出来事として
有名になりましたが、他にも白梅学徒隊、ずゐせん学徒隊、でいご学徒隊などもあり、
ひめゆり学徒隊と同じ道を辿っているんです。」
「ひめゆりだけじゃなかったの?」
可憐の言葉に頷き、清四郎は再び話を始めた。
「そう、そして女子学生だけでなく、男子学生にも同じような『鉄血勤皇隊』というもの
がありました。こちらはあまり知られておりませんが、もっと悲惨です。13歳以上の男
子学生によるものでしたが、主に伝令や通信、切り込みが主たる任務で、その伝令という
のも同じ文書を三通作り、その内一人が伝令できれば良しとしたそうですから。中には急
造爆雷を背負って特攻をさせらたりもしたそうですよ。」
「もう人間扱いされてないじゃん!」
「男子の方がもっと酷いじゃないか!」
悠理と美童が驚きのあまり声を上げる。皆も信じられないという思いでいっぱいだ。
「国全体がおかしくなってた時代なんだろうな。」
魅録の言葉に野梨子も頷いた。
「沖縄に来て色んな話を聞きましたけど…。知らないって、恐ろしい事ですわね。」
「こちらの道から海に出られるようですよ。」
清四郎を先頭に、海岸の方へ降りていく道をゆっくりと進んで行く。周りにはパイナップ
ルのような実を付けるアダンの木や緑の木々が生い茂っており、所々で石灰岩の岩肌が現
れては小さな口のような洞窟が見え隠れしている。
道の先には階段になっていたが半分崩れかけ、その殺伐とした景色がより時間の流れを止
めているかのように感じられた。
皆はゴツゴツした岩場を踏みしめながら、おぼつかない足取りで海岸へと降り立つ。
「清四郎、あたい、ここ、なんか嫌。」
「悠理が嫌がって当然です。この辺りでは何百、何千、いやもしかしたら何万という人々
が『戦争』の名のもとで殺し合いをしていますからね。」
その時、悠理があっ!と声を上げた。
「どうしました、悠理?」
「ばあちゃんの所で見た写真の男だ。」
悠理が指差した方向を見ると、大きな岩の陰から軍服を着た男性が、こちらに向かって歩
いて来るのが、悠理を介して皆にも見える。
「邦夫さん…」
野梨子の口から発せられたのか、本当の範子が発したものなのか、野梨子の身体に春ばぁの
ところでみた写真の少女が重なった。やがてその少女は野梨子から離れ、少年へと向かって
行く。そして、範子の手にはポケットに入れておいたはずの手紙が握られていた。
二人はゆっくりと近づき、波打ち際で向かい合った。
60年目にして、ようやく範子の願いは叶ったのだ。
「範ちゃん…」
少年が範子に向かって微笑んでいる。
「探しましたわ、ずっと…」
「俺も範ちゃんに会いたかった。」
「ずっと言いたかったけど、言えなくて。手紙も邦夫さんには届きませんでした。」
範子は手紙を渡そうとするものの、それはサラサラという音と共にかき消えてしまった。
「範ちゃん、僕はずっと君の側にいるよ。だから、もう手紙はもういらないんだ。」
範子は邦夫の言葉に感激し、その大きな瞳から一筋の涙がこぼれた。そして、ずっと言い
たかったのに言えなかった言葉、ずっと言えなかった事を後悔していた言葉をようやく口
にした。
「私、ずっと貴方が好きでした。」
「僕も範ちゃんのこと、片時も忘れたことは無かった。ここではない僕達のいるべき所へ
一緒に行こう。」
範子の瞳から再び涙がこぼれた。そんな範子を見て、優しく微笑んでいる邦夫。
「ああ、嬉しい。邦夫さんに会えて本当に良かった。私、春姉ちゃんにも会えましたのよ。」
「春子はまだまだ元気だからな。じゃ、行こうか。」
「ええ。」
範子は邦夫の側に寄り添い、二人は海の彼方へと消えて行った。
夏の潮騒だけが辺りに響き、皆を優しく包んでいた。
「良かったですわ。」
野梨子が涙をこぼしながら呟いた。
「あたいも、ちょっとじんと来ちゃった。」
悠理も涙をこらえたせいか、鼻をすすっている。
可憐は二人が消えていった場所を見つめながらしみじみと言った。
「…戦争って何もかも引き裂かれちゃうのね。」
「正しいものまでも見えなくしてしまう。戦争から生まれるのは悲しみだけですわ。」
「人間って愚かだよな。戦争は悪いって分かってても、年中どっかで戦争をやっているも
んな。」
「過去から学ぶことは大切なはずなんですけどね。」
「それでも、愛さずにいられないのも人間ですわ。早く世界中から戦争がなくなって、愛
する者同士が引き裂かれてしまう、そんな事が二度と起こらないように願うだけですわ。」
野梨子は心の底から思った。
別荘についてから、野梨子は全てが終った安堵感からか強い睡魔に襲われ、死んだように
眠っていた。ようやく目覚めた時には翌日の午後になっており、すっかり元気を取り戻し
た野梨子は、何時もの彼女に戻っていった。
可憐と野梨子の二人で夕食の後片付けをしていた時、不意に可憐に声を掛けられた。
「ねぇ、野梨子。」
「何ですの?可憐。」
可憐は聞きたくてうずうずしていた質問を、野梨子に浴びせた。
野梨子は布巾で真っ白い皿を拭いている。
「野梨子の好きな人って誰なの?」
ガシャン。
「あーあ、やっちゃったー。」
可憐が手早く箒と塵取りを持って来て、割れた皿を片付けた。
「い、いきなり、何をいいますの?」
野梨子は真っ赤になってはいるものの、何故可憐が突然そんなことを聞いてくるのか不思
議だった。今まで誰にも話さずに、誰にも気が付かれない様ひっそりと心に留めておいた
のだから。
「私達、範子さんから聞いたんだ、野梨子が口に出せない思いを抱えているって。」
可憐の言葉は、野梨子にとってかなりショッキングな内容だった。
「う、嘘でしょう?」
「野梨子以外、みんな知っているわよ。」
「そんな…」
野梨子は泣きたくなった。
「あんたが恋をしているって聞いて、みんな驚いていたわよ。まだ裕也さんを思い続けて
いるってわけでもないわよね?言いたくなければ、そういうことにしておいてもいいけど。」
まさか自分の意識のないところで皆に知られてしまうなんて。でも、可憐の話ぶりでは誰
に恋心を抱いているのかは知らない様子だ。それでも、自分の心の中に秘めていた事を、
皆に話してしまった範子が恨めしい。
「じゃ、そういうふうに思っていて下さいな。」
とりあえず、そう答えて可憐から逃れた野梨子は、食器を棚に戻してキッチンを後にした。
夕食後、皆で沖縄最後の夜を楽しもうと、海岸で花火をした。
魅録と悠理は打ち上げ花火に片っ端から火をつけ、清四郎はそれを眺めている。
美童と可憐、野梨子の三人は手に花火を持ち、それぞれが違う種類の花火を楽しんでいた。
夜の闇に光る花火。様々な色の光が交錯し、その余韻も残らないうちに消えてゆく。
野梨子は線香花火を手にすると火をつけ、皆から少し離れた岩の上に座った。
ジジーっという音と共に大きな玉が出来た。
やがて火花のような光が出たかと思うと、あっという間に玉が落ちてしまった。
「まるであの二人のようですわね…」
やがて大きくなるはずだった二人の恋は、戦争によって無残にも終わりを強いられ、命ま
でも絶たれてしまった。昨日、60年目にして二人はようやく一緒になることができ、恐
ろしいという思いよりも、自分がそのお手伝いが出来たことを嬉しく思う。
「良かった…」
何気なく口にしたその言葉に、頭の中で返事が返ってきた。
――有難う、野梨子さん…
野梨子は胸がいっぱいになり、込み上げてくる涙を止めることが出来なかった。
「どうした?野梨子、何泣いてんだよ。」
悠理が打ち上げ花火に飽きたのか、野梨子の側にやってきて、涙に気付いた。
「今、範子さんが、有難うって」
「ああ、あたいにも聞こえた。」
「今もあの二人は、海の向こうで一緒にいるのでしょうね。本当に良かったですわ。」
――私は範子さんに教わった。想いは伝えなければ何も始まらないこと。
大切なのは、好かれているかどうかではなく、自分が好きだということ。
何時の頃からだろう?気が付いたら彼の姿を追いかけていた。
でも、私達は仲間。その関係を壊してまで得たいものなのかという疑問もあった。
一緒にいられるだけで、想っているだけで幸せだった。
でも、想うだけで先へ進む事は無い。
今はそれだけで満足かもしれないが、その内望んでしまうだろう。
振り向いて欲しい、一緒にいて欲しい、私だけを見ていて欲しい。
今思えば、裕也さんの時から常に気を配ってくれていた彼。
情に厚くて優しい、そう誰にでも優しくて…
それでも、彼が好き。この気持ちは変わらない。
伝えよう、この思いを。
例えどんな結果が待っていようと、決して恥じるべきものでもないはず。
何もしない後悔だけはしたくない。
野梨子は決心した。
【つづく】
>姫百合の願い
バスガイドの制服の清四郎に笑い、成仏できた二人にしんみりし、
真っ赤になってる野梨子に萌えました。
いよいよクライマックスでしょうか?楽しみです。
>姫百合の願い
範子さん、よかった…
野梨子の隣にやってきた悠理。
この二人の組み合わせ好きなので、花火の情景と
合わせて、なんだか嬉しかったです。
『姫百合の願い』うPします。
>>397の続きで、最終回です。
お昼過ぎまで眠っていた野梨子に、眠気はなかなか訪れなかった。部屋には悠理と可憐の
寝息だけが聞こえる。眠ることを諦め、夜風に当たりたくなった野梨子は、部屋を出て
海岸へと降りて行った。
波打ち際の一歩手前でバックバンドのサンダルを脱ぐと、海水の中に足を入れて波の感触
を楽しむ。海はとても静かで、月明かりの中、浅瀬に突き出ている岩に腰掛け、つま先で
パシャパシャと水を弾いていた。
「野梨子か?」
不意に自分の名前が呼ばれた事に驚きながらも、声のする方へ振り向いた。振り向く前か
ら声の持ち主は解っていたのだが、月の明かりと暗闇に馴れた目にも、まだその姿ははっ
きりとしない。それでも高揚する心を抑え、野梨子は明るく答えた。
「そこのホタルさんは魅録ですの?」
「ホタル?」
「ええ、ここから見るとタバコの明かりだけですわよ。」
「ああ、なるほどね。」
魅録はタバコを携帯の灰皿に入れ、野梨子へと近づくと隣に腰掛けた。
「眠れないのか?」
「ええ、沢山休ませて頂きましたから。魅録は?」
「考え事をしていたら眠れなくなってさ。」
「あら、悩みごとですの?」
「ちょっとな。」
野梨子はあえてそれ以上は聞かなかった。不思議と高揚していた気分も、今は自然と凪いで
いる。
「私、沖縄に来てよかった。あのお二方のお手伝いが出来てよかったと思っていますの。
皆には心配をかけましたけど。」
それにしても…と、野梨子は悪戯っぽく付け足した。
「魅録は最初、信じてくれませんでしたわね。」
「あの時は手紙だけ見せられても、はいそうですか、なんて信じられるわけ無いだろが。」
野梨子に痛い所を指摘され、魅録はあせっているようだ。そんな彼が可笑しくって野梨子
はクスクス笑った。
「邦夫さん、兵隊に志願した理由が範子さん…大切な人を守りたかったんですって。切な
いですわね。それさえ知らずに、範子さんはああして思いを封じ込めていたんですもの。」
野梨子は眠っていた時、二人の夢を見た。それはただの夢とも思えず、その中で邦夫が語っ
ていたのだ。
「世の中には、あんな風に封じ込めている思いが沢山あるのかしら。口に出して言えない
思いがどれだけあるのかしら。言わなくても解るなんて嘘ですわ。言わなければ、口にし
なければ相手には伝わりませんもの。」
野梨子は顔を上げ、真っ直ぐ前を向いて話していた。その横顔は強い意志を持ち、凛とし
た美しさを湛えている。魅録はそんな彼女に見とれていた。
――綺麗だよな。
外見は勿論日本人形の様に美しい彼女だが、それ以上に内面から滲み出る美しさが野梨子
の容姿を際立たせていた。
「私、今回のことで思いましたの。その時思ったこと、感じたことはきちんと相手に言葉
にして伝えようって。未来が何時どうなるかなんて、誰にもわかりませんものね。」
野梨子は気弱になりそうな心を励ますかの様に、自分自身に言い聞かせる。
「ごめんなさい、私ばかりお話してしまって。」
魅録が不意に口を開いた。
「…範子さんが言っていたけど、野梨子に好きなヤツがいるって。」
「ええ。」
野梨子はコクリと頷いた。
「まだ裕也のことが好きなのか?」
野梨子は初恋の相手、裕也のことを思い出していた。淡く幼かったその恋は実ることはな
かったが、人を想うことを教えてくれた彼には感謝の気持ちでいっぱいだ。
「裕也さんは…私にとって大切な思い出の人です。魅録だってチチさんがいますでしょう?」
野梨子は不安を隠せなかった。魅録は裕也のことを聞いてきたが、彼こそチチのことはど
う思っているのだろう?マイタイ王国の王女で美しいチチ。まだ彼女が魅録の胸を占めて
いるのだろうか?
魅録もチチの事を思い出していた。あの時は彼女しか見えなかった。芯が強く、真っ直ぐ
で人を疑うことを知らない純真な王女。彼女が好きだったし、その気持ちに嘘は無かった。
「…俺、自然とチチに惹かれて行ったと思っていた。でも、今思えば昔から抱えていた想い
を断ち切る為に、彼女を好きになろうとしていたのかも知れない。じゃなかったら、どうに
かして彼女に会いに行こうとするだろうし、しないってことはそういうことなんだろうな。」
自分で自分に掛けた恋という魔法。自分の手に届かない相手ならば、忘れてしまった方が
いいし、新しい恋をした方がいい。あの時はそんなふうに思ってしまったのかもしれない。
「ま、今となっちゃ、いい思い出だよ。」
そんな物思いに耽っていた魅録には、野梨子の表情が翳りをおびたことを知らない。
――昔から抱えていた想い?ということは、魅録には好きな方がいる…
「そうですの…」
野梨子は迷った。今、魅録に好きな人がいることを聞かされて、それでも告白すべきかど
うか迷っていた。自己満足かもしれない、自分の気持ちを押し付けるだけかもしれない。
――ダメよ、野梨子。決めたのでしょう?思いを伝えることを。
「裕也じゃなければ…清四郎?」
魅録の言葉で野梨子は我に返った。何故清四郎の名前が出るのだろう?時々皆にもからか
われることがあった。でも、それは冗談だと思っていたのだが、本気だったのだろうか?
「何故、清四郎ですの?清四郎は私にとって大切な人には変わりありませんし、良きライ
バルであり、兄のようであり、又家族のように信頼しています。けれど、それは恋とは違
うと思いますの。私、裕也さんに恋をして、恋がどんなものか知ってしまいましたから。」
魅録の驚いたような顔を見て、野梨子は心を決めた。皆のからかいは半分本気だったのだ。
そんなふうに思われていたのなら、彼には、彼にだけは自分の気持ちを知って欲しい。
「じゃ、野梨子の好きなヤツって…」
――範子さん、私にも勇気を分けて下さい。
今言わなければ絶対に後悔してしまう。野梨子は勇気を奮い起こし、魅録の正面に立つと
真っ直ぐ彼を見据えた。
「私がお慕いしているのは、魅録、貴方です。私、ずっと貴方が好きだった。でも断られ
てしまったら、嫌われてしまったらと思うと言い出せなかった。でも、範子さんが教えて
くれました。きちんと相手に伝えないとダメなんだってこと。思っているだけでは何も始
まらないってことを。」
――野梨子が俺を?
信じられなかった。自分が切に望んだ相手が、望んでも手に入らないと思っていた野梨子
が、自分のことを好きだと告白してくれた。全く予想してなかった事にただ驚き、魅録は
言葉にならなかった。
――強いな、強いよ野梨子は。俺は長い間想いを抑え、悩んでばかりいたのに。
野梨子は真正面からぶつかって来る。そんな強さが眩しく思えた。
その沈黙を否定の意味に取ったのか、耐え切れなくなった野梨子は沈んでいく気持ちを奮
い立たせた。泣かないと決めたのに、目には自然と涙が溢れてくる。
「…ごめんなさい、迷惑でしたら忘れて下さいな。」
――何も恥じることなどないのですから、これで良かったのですわ。
野梨子は両目いっぱいに涙を溜めながら、笑顔を作った。
「魅録の恋が実ることをお祈りしていますわ。」
そう言って踵を返そうとした時だった。魅録が立ち上がって、野梨子の腕を掴む。
「違う、迷惑なんかじゃない。俺も野梨子が好きだ。昔から、ずっと…」
野梨子も魅録の言葉が信じられなかった。失ったと思った恋が実を結んだ嬉しさに、野梨
子の大きな瞳からは喜びの涙がポロポロとこぼれ落ちる。魅録は野梨子の前へ立ち、見上
げるの彼女の涙を親指で拭った。
「ごめん、未だに信じられなくてさ。野梨子が俺なんかを相手にするかって思っていたか
らな。それに、恐かったんだ。口に出したら嫌われるんじゃないか、仲間という関係まで
崩してしまうんじゃないかって。…それに、野梨子の側にはいつもアイツがいたからな。」
「…清四郎のことですの?」
「ああ、いつもお前を守っている最強のナイト…だな。」
「でも、今から魅録が私を守ってくれるのでしょう?」
野梨子は真っ直ぐに魅録を見つめた。自分の気持ちは清四郎ではなく、魅録にあると解っ
て欲しいから。気持ちが通じ合った喜びが野梨子を後押しした。
「ああ、俺以外のヤツに変わってもらうつもりはない。」
魅録はまるで壊れ物を扱うようにそっと抱きしめた。野梨子も目を閉じて身を任せている。
二人はしばらく抱き合っていたが、ふと思いついたように野梨子が顔を上げる。
「魅録の眠れなかった考え事って何ですの?」
今思うと、真剣に悩んでいた自分が可笑しくてたまらない。
「笑うなよ。野梨子が好きな相手って誰なのかなと。だから、笑うなって!」
「ご、ごめんなさい。だって…」
野梨子はクスクスと笑い続けている。
――ああ、私はなんて幸せなんだろう。この沖縄での出来事は生涯忘れられない思い出に
なるだろう、この夜と共に。
やがて、怒っていたはずの魅録も一緒になって笑い出した。
「行くか。」
「ええ。」
魅録の差し出した手に手を重ね、手を繋いだ二人は別荘へ戻ろうと一歩踏み出した。
「ちょっと、何でキス位しないのよ!」
突然、岩陰から人影が飛び出して来た。
「可憐!!」
飛び出した人影は可憐だった。彼女は腰に手を当て、猛烈に怒っている。
「可憐!だめじゃないですか!」
慌てて清四郎が可憐を引っ張る。しかし、彼女は岩の様に動かない。
「だって、今時中学生だってキスくらいしているわよ!」
「そうだ!全然つまんないじょ!」
「ダメだよ、魅録。あそこはキスまで持っていくシュチュエーションだったじゃないか。」
悠理と美童までが出て来て、皆が好き勝手言い放題である。
「お、おまえら、全員で覗いてやがったな!!」
「信じられませんわ!!」
魅録と野梨子も負けじと、顔を真っ赤にして怒っている。
「だって、目が覚めたら野梨子がいないんだもの。又何かあったら大変だと思ってみんな
を叩き起こしたら魅録もいないって。それで覗くなって言う方が無理だと思わない?」
そんな二人に、可憐はにやにやと笑みを浮かべながら言い放った。文句があるんなら言っ
てみなさいよ、と言わんばかりである。
結局は野梨子を心配してのこと、二人はぐっと言葉を詰まらせた。
そんな二人に可憐が追い討ちをかける。
「じゃ、わたしたちは帰るけど、あんたたちはもっとゆっくりでもいいわよ。何だったら
明日の朝でも構わないから。」
「可憐!」
可憐は二人に手をひらひらさせると、清四郎、悠理、美童を伴って別荘へと戻っていった。
それにしても…と、可憐が口にする。
「前回の裕也さんといい、不良とお嬢様、これ永遠の恋愛パターンね。」
「僕はお邪魔虫ですかね。」
清四郎がふてくされたように、けど少し嬉しそうに呟いた。
――魅録と野梨子ですか。ま、お似合いと言えばお似合いなんですがね。少し寂しく感じるのは、僕の気のせいでしょうか?…花嫁の父という心境でしょうかね。
そんな清四郎の思いを悠理の一言が打ち砕く。
「あたいだって遊び仲間をとられたんだぞ!」
悠理は完璧膨れっ面である。
「仕方ないですね、僕が悠理のお相手をしてあげましょう。勉強と稽古ならいつでも付き
合いますよ。」
清四郎は拗ねている悠理を慰めた。ただ、悠理にとっては慰めていると言えるのかどうか
は甚だ疑問ではあるのだが。
「誰がおまえとなんかと付き合うか!遊ばれるのがオチじゃないか!」
悠理は断固拒否するとでも言いたげに、清四郎に向かって両手でバッテンを作った。
そんな二人を黙って見ている美童と可憐ではない。
「でも、じゃじゃ馬で有名な女の子が、自分より強い男が現れて恋に落ちる…っていうの
も恋愛パターンではあるよね?」
「美童、水を差すようで申し訳ありませんが、悠理とは男の付き合いなので、そういうの
はありえないと思いますが。」
「あら、ある日女だったことに気が付く…っていうのも少女漫画のパターンよ。」
「可憐まで何を言うんですか、ほんとに。」
「おまえら、あたいで遊ぶな!」
悠理の雄叫びが星空の中に吸い込まれていった。
二人はしばらく浜辺で固まっていたが、皆の姿が見えなくなってきた頃には、怒りが大分収まってきた。
「しょうがねーよな、あいつらは。」
魅録は笑いながら、野梨子を振り返る。
「俺らも行くか?」
「ええ。」
野梨子はニッコリと微笑む。
不意に魅録が顔を近づけ、野梨子の唇に軽く触れた。
「!」
野梨子は目をつぶるひまもなく、驚いたように目を見開く。
「可憐や美童の言うとおりだと思ってさ。」
野梨子は魅録に向き直ると目を閉じた。魅録は野梨子をもう一度抱きしめ、今度はゆっく
りと唇を近づける。自分の唇に触れる、愛しい恋人の甘く柔らかな唇。
魅録はその感触に溺れそうになる前に唇を離した。
「私、春子さんのこと、範子さんのこと、邦夫さんのこと、沖縄のこと、今日の夜のこと。
私にとって大切な宝物ですわ。」
「ああ、俺にとってもこの沖縄は忘れられない宝さ。」
月明かりに浮かぶシルエットは再び重なり、いつまでも離れなかった。
【終わり】
『姫百合の願い』無事に終わらせることが出来ました。
毎回暖かいコメントをお寄せ頂き、本当に嬉しかったですし、とても励みにもなりました。
シリアスで重いテーマの上、稚拙な文章に最後までお付き合いして下さった皆様、本当に
有難うございました。
>姫百合の願い
連載、おつかれさまでした。
魅録と野梨子の思いが通じ合っただけじゃなく、最後に清×悠風味が絡んで来て
ちょっと意外でしたが、個人的には嬉しかったです。
よかったら、また何かお話書いて下さいね〜。楽しみにしてます。
清×悠風味とも取れるかもしれないけど(私もこのカプ好きですが、
個人的には、残ったメンバーが悠理をからかっておもちゃにして
みんなの笑い声が空にはじけておしまい、っていう
有閑の王道パターンを見ているようでした。
野梨子と魅録の恋以外は、キャラたちが原作に忠実だったように思えました。
日本のしんみりとした夏の匂いを届けてもらった気がします。連載お疲れ様でした。
>姫百合〜
乙でした。感想カキコは初ですが毎回楽しみにしてました。
始めたことを終わらせるのは大変だったと思います。
次回があったらまた是非、よろしく。お待ちしてます。
>姫百合
おわっちゃった〜。
私も二人の恋を除くと、原作に忠実なお話だった
ように思いました。作者さんなら、恋愛抜きでも
いけるかも!いつもうpが待ち遠しかったです。
お疲れ様でした。
>姫百合
お疲れ様でした。
面白かった〜!魅録と野梨子の初々しいカップルぶりが微笑ましかった(w
408タンも書いてたけど、みんなの笑い声が空に響く的なラストがまた爽やかで良かった!
機会があったら次も是非。楽しみにしてます。
美×野ものが読みたいなぁ。最近脳内で大ブーム!
野→美とか書いてくださる作家さんいないかな〜
美×野は私も好きなんだけど、大抵いつも美童から行動して
野梨子が美童の誠実な一面にほだされる展開が多いよね。
野→美って想像しにくいだけに、読んでみたいかも。
>413
>414
ウザイ
何でウザイの??何かお約束に反した書き込みですかね?
いい加減慣れろよ、ここの住民どももw
>415 次からはスルー汁。
正直野梨子メインの話はお腹イパーイだけど、美×野なら、
脇で清×悠と魅×可もおながいしまつ。
特に清×悠を(コソーリw
魅×可好き!
「可憐じゃないと、俺、ダメなんだ」(sway)みたいなw
>420 (・∀・)人(・∀・)ナカーマ
魅×可ってここに来るまで想像しなかったけど
読んだらものすごくグッと来たよ!!
元々魅録スキーなんだがいつの間にか可憐姐さんのファンに・・・
可憐姐さんが大人なのも実は乙女なのもどっちも好きでつ。
どんなカプでもいいので、恋の始まる瞬間の話が読みたいです。
>422
瑠璃子と加茂泉くんとかどうでしょう。(…いや、冗談です)
魅×可で、可憐が攻めのシュチュとか見てみたい気もしますね〜。
色仕掛けにあっさり陥落しそうだな、魅録。
>423
魅録は色仕掛けに一番弱そう。次点で清四郎。
美童は攻撃慣れしてそうだし。
嵐様のとこの絵板が素敵なことになってまつよ。
>425
龍之介の作者サンだね、多分。
き、禁断症状が・・・!!
エビアンの獅堂タソに魅録を重ねてしまった
そんなら清四郎は海老蔵か?美童はオーランド・ブルームか??
キャラネタすんまそ
作家さん連載の続きおながいします〜
すいません、お話うPさせて下さい。
前回カナーリの物議を醸し出した『有閑・お仕置き人』でございます。
短編で12レスお借りします。(長くてすみません。)
又、このお話は下ネタ(エロエロうっふん)と南極の様に寒いギャグで構成されていますので、
嫌いな方、前回読まれて「だめだこりゃ」と思われた方はスルーして下さい。
読まれる方は、頭を柔らかーくしてお読み下さいます様お願いします。
「悠理、次の公演は何をやるの?」
今日も飲み屋『黄桜』にいつもの顔ぶれが集まっていた。
飲み屋の主可憐と人気役者悠理、呉服問屋の一人娘野梨子、旗本の息子の菊正宗清四郎、
南町奉行の息子松竹梅魅録、そしてオランダ商人の息子美童グランマニエの六人である。
この六人、表の顔は江戸の町でも知らぬ者はいない程の美男美女の有名人。
しかし、その裏の顔といえば、お金を払えば代わりに恨みを晴らしてくれるという、その名も『有閑・
お仕置き人』の面々である。そしてここ『黄桜』を拠点に活動していた。
「確かふらんすものだって。毎度の事ながら母ちゃんの趣味なんだよ。」
悠理は野梨子が持ってきた、みたらし団子を片手に持ちながら可憐の質問に答えた。
芝居小屋『剣菱』。悠理の母である百合子が主であり、いつも女性客で満員の人気芝居小屋だ。
夫の万作も大店の主なのだが、百合子の趣味が高じて作られ、悠理は母の命令に逆らえず役者
になったところ、押しも押されぬ看板役者となったわけである。
「さすがおばさん、趣味が徹底してるよな。」
魅録の言葉に美童もうんうんと頷いている。
「それで、何やるの?おば様が好きそうなのといえば、『しらの・ど・べるじぇらっく』とかかな?」
悠理は口一杯にほおばった団子をごくりと飲み込んだ。口のまわりは醤油餡でべとべとだ。
「これから練習すんだけど、確か演目は『べるさいゆのばら』とかっていうやつなんだよなぁ。」
「あれもふらんすものっていうの?」
美童は納得出来兼ねる様子だが、清四郎は特に気にも留めていない。
「さぁ?でも、おばさんが好きそうなことは確かですね。」
「そうよ、悠理にぴったりじゃない!」
「本当に。悠理以外の人には無理というものですわ。」
可憐と野梨子は悠理が演ずるであろう主人公に早くも夢中になっているようだが、何故か悠理は
不服そうな顔をしている。
「何でだよ?」
「間違いなく、一段とあんたの取り巻きが増えるってもんよ。だって、『おすかる』をやるんでしょ?」
「一応、芝居小屋『剣菱』でも一番人気の役者だからな、あたいが主役に決まってるじゃん。」
「いいわよねぇ、おすかる様よ、おすかる様!」
「素敵ですわ!ところで、もう台本は読みましたの?」
「まだなんだけど、あたいだって話ぐらい知ってるぞ。それにしてもよ、何で『あらいぐま』がそんな
に人気あるんだ?」
「あらいぐま?」
悠理の言葉に5人は目を点にしてして顔を見合わせた。もしかしたら…
「…悠理、それは『らすかる』の間違いじゃないですか?」
「違うのか?『らすかる』も『おすかる』も似たよーなもんだろ?ただ食いもん洗って食っている役
じゃないのか?」
皆はがっくりと肩を落としている。あまりといえばあまりの勘違いに呆れて言葉がでない。
そんな無言の皆に悠理が真面目な顔をして考え込んだ。
「そうか、みんなが真剣な顔をして悩む程難しい役なのか、あらいぐまって…」
「違う!」
五人が一斉に声を揃えた。
「さて、早速だけど、依頼があったわ。」
可憐が皆の顔を見渡す。
「今回の依頼人は三郎さんといって、腕のいい海苔職人で彼の作る海苔は浅草一だって言われ
ていたの。あたし、浅草で買い物している時、知り合ったのよね。」
「なんだ、可憐の好みの男だったのか?」
皆が思っていることを魅録が代弁した。
「違うわよ!彼のお嬢さん、美緒ちゃんって言うんだけど、とっても可愛い子なの。その子とお友達
になったのよ。彼が作った海苔を美緒ちゃんが売ってねぇ。とっても微笑ましいものだったわ。」
「どうして過去形なんですか?」
清四郎の言葉に、可憐は悲しげな表情を見せた。
「美緒ちゃん、亡くなったのよ。大八車に跳ねられてね。その跳ねた車は、廻船問屋の『上州屋』の
もので、主人の庄兵衛は商売の邪魔をするのかって、まだ息のあった美緒ちゃんを捨て置いたの。」
「なんだって!」
正義感の強い悠理は、上州屋の仕打ちが許せないらしい。
「結局美緒ちゃんは亡くなってしまったの。あまりの仕打ちに、北町奉行所に訴えたんだけど、
奉行所は『上州屋』の味方だったらしいわ。」
「可愛い女の子が蕾のまま死んじゃうなんて…僕には絶えられない!」
美童がよよよと泣き崩れた。やっぱりこいつには付ける薬はないらしい。
「アホ。」
悠理が団子を持ったまま、呆れたように呟いた。
「北町奉行っていえば、上野備中守だな。今、かなり黒い噂が付きまとっている奴だぜ。」
魅録が何時も懐に忍ばせている手帳を取り出し、パラパラと紙をめくっていく。
「三郎さんの奥さんも元々丈夫じゃなかった所に美緒ちゃんの件でしょ?奥さんも後を追うように
亡くなっちゃったのね。おまけに、それだけじゃなかったのよ!」
可憐がドンッ!と拳で飯台を叩いた。よほど腹に据えかねているらしい。
「廻船問屋が儲ける為には沢山の船が入らないと駄目なわけでしょ?三郎さんの海苔は浅草どこ
ろか、江戸でも評判だったから手出しが出来なかったけど、三郎さんが仕事に手が付かなくなった
とたん、上州屋がやりたい放題。苔の漁場も荒らされ、どんどん船が入り込んでいるらしいわ。」
清四郎は腕組みをしたまま話を聞いていたが、可憐を真っ直ぐ見据えて口を開いた。
「すると、始めから計画的にと考えた方が筋が通るってものですね。」
「それで、三郎さんはどうしたんですの?」
「三郎さん、大分思い詰めちゃって、上州屋に乗り込んで行っちゃったの。でも、美緒ちゃんと同じ
大八車に引かれたわ。庄兵衛がそそのかしたらしいの。三郎さんも始めから仇を討つつもりだっ
たみたいで、家には手紙とお金が置いてあったわ。恨みを晴らして欲しいって。そのお金が八両。
ということで、私と野梨子は一両ずつでいいわよね?」
可憐はお金を飯台の上に綺麗に並べた。その中から野梨子が一両を手に取る。
「ええ、構いませんわ。私、怒っておりますもの。」
「じゃ、あとの四人で一両二分ということでどう?」
「了解!」
「じゃ、いつものように。」
「まかせて!」
魅録、清四郎、美童もそれぞれお金に手を伸ばし、懐へ収めた。
「あたいも頑張るじょ!」
悠理がそう言ってお金を手にした時、可憐はにんまりと微笑んだ。
「悠理、その言葉を忘れないでね。」
悠理は嫌な予感がした。
「悠理、頑張るって言ったわよねぇ。」
可憐の迫力に、悠理はびびっている。
「さっきの言葉、取り消そうかなぁ…」
「何言っているのよ、今回はあんたが囮役なんだからね!」
「何であたいなんだよぉー!」
悠理は本気でべそをかいていた。
「北町奉行、周りには内緒にしているみたいなんだけど、悠理のふぁんなんだって!」
「嘘だろ?」
「本当よ!あんたの浮世絵までもっているらしいわ。お付きの人に聞いたんだから。」
「うげぇーっ!」
「だから、今回はあんたなのよ。じゃ、悠理、頑張ろー!」
可憐はめちゃくちゃ乗り気だった。
「今回は野梨子じゃなくって、あたいかよぉー!」
「ほら、口を半開きにして!」
「こ、こうか?」
悠理は下顎を突き出して、右手を真っ直ぐにすると顎の下に向かって手刀を決める。
そして決めゼリフを一発、
「あいーん!」
「馬鹿!なんで、半開きがあいーんになるのよ!」
可憐の拳がブルブルと震えた。
「やっぱ、悠理には無理なんじゃない?」
ププププッと笑いをこらえながら美童が言った。しかし、指導している可憐のぷらいどが許さない。
「悠理、あんた、あんな事言われて悔しくないの?」
「悔しいに決まっているだろ!もっと、違うネタの方が良かったかなぁ?ネタも古いせいか、笑いが
イマイチだったもんなぁ。」
悠理はそんな可憐にお構いなく、笑いの道をひたすら探求しているようだ。
「違う!!まったく…。仕方ない、今回は声でいこう、声!」
「声?」
「喘ぎ声の練習よ。それだったら、あんたの姿を見なくても、襖一枚向こうの世界を想像することが
出来るってもんでしょ?」
「そうかぁ?」
悠理はあまり納得していないようだが、可憐は俄然張り切っている。逆らわないほうが賢明という
ものだ。
「野梨子、あんた、男三人を連れて隣の部屋にいてよ。」
「何ですの?」
「いいから、ちゃんと襖閉めてね。」
可憐の勢いに押され、三人を隣の部屋に追いやると、野梨子も中に入って襖を閉めた。
「じゃ、いい?よーく聴いてなさいよ。」
可憐は思いっきりせくしーぼいすで喘いだ。
「あっ…あん…。」
「うぉぉぉぉぉーっ!」
魅録が雄叫びを上げ、美童と清四郎は無言のままだったが、着物の前を膨らましている。
「きゃーっ!」
相変わらず野梨子は手で顔を覆っているものの、指の隙間から覗いていた。
(ああ、男性のナニは着物でさえも持ち上げてしまうのですわね。)
「野梨子、どう?」
「どうって、三人とも人間から猛獣に変わりましたわ!」
可憐は満足げにほくそえんだ。
「次は悠理よ。はい、行ってみよう!」
「あっ…」
悠理の意外な声に男性三人も猛獣のままである。
「いいじゃないの、もう一発!」
「あぉーん!」
バシッ!可憐の『はりせん』が悠理の後頭部に命中した。それと同時に男性三人のナニも
ぷしゅ〜ぅと萎んでいく。
「可憐、猛獣が草食動物になってしまいましたわ。」
悠理は後頭部を抱えてうずくまっていた。
「いってぇー!」
「違う!!それは喘ぎじゃなくて遠吠え!このまんまじゃ『お仕置き人』じゃなくって、『野生のえ○
ざ』になっちゃうわよ!あたしゃ、あんたの調教師じゃない!」
可憐の身体がワナワナと震えていた。
「あんたは、何をしようとしてんの?男を誘惑する練習でしょ!」
平静に戻った三人と野梨子が襖を開けて入って来た。
「可憐、人には向き、不向きというものがあるんですよ。」
「ちょっと、このあたしが教えているのに何言ってんのよ。このままじゃ、あたしの名がすたるっても
んだわ!」
清四郎の言葉に可憐は俄然ふぁいとを燃やした。
(清四郎、見てらっしゃい。絶対悠理であんたに鼻血を噴出してみせるわ!)
「みんな、前回は桃太郎侍だったけど、今回は何で行く?」
皆が円陣を組み、真剣に討論していた。
「水戸黄門がいいじょ!」
「悠理、あんた今回はなしよ。」
「えーっ!あたい、毎回楽しみにしてたのにな。」
悠理が頬をふくらます。
「当たり前じゃない、あんたが囮役なんだから」
「やっぱり黄門様は清四郎かな?」
「ま、仕方ないでしょうな。」
清四郎もまんざらではないようだ。
「役柄的に助さんが僕で、格さんが魅録?」
「俺、印籠出すの、一回やってみたかったんだ!」
「そういえば助さんも女好きよね?美童にはピッタリじゃない!」
可憐は見事な配役ぶりに満足そうだ。
「じゃ、あたしが疾風のお娟さん?ってことは、お風呂入んなきゃいけないじゃないの!」
「いや、可憐、そこまでしなくとも…」
そう言いながらも、清四郎の口元が緩んでいる。
「何言ってんの?冗談に決まっているじゃない。」
男性三人の肩ががっくりと下がった。そんな男性陣を冷めた目で見ながら野梨子が言った。
「私は何ですの?」
「そうねぇ、あんたはアキちゃんかな?」
「子供じゃありませんの!」
「だって、あんたにお娟さんは無理でしょう?疾風の名が泣くわ。」
「そりゃそうでしょうけど…。」
「何、不満なの?じゃ、うっかり八兵衛とか?風車の弥七でもいいわよ。」
どう考えてもそれは自分ではなく、悠理の役である。
「…アキちゃんで結構ですわ。」
悠理は可憐に呼ばれ、奥の部屋へと入っていた。後ろから野梨子も続く。
「悠理、これから上州屋に行くわよ。」
「なんで?」
悠理はきょとんとした顔で可憐を見つめた。
「北町奉行がお忍びで上州屋に来る事になってるの。ただ、その前に着替えなくちゃね。」
「何に?」
「何って、あんたに色仕掛けが無理ってことがわかったんだから、衣装で勝負するしかないのよ。
とびきりせくしーならんじぇりーに着替えるんだから!」
可憐は薄笑いを浮かべてフフフッと笑った。めちゃくちゃ楽しそうである。
「あたい、絶対嫌だからな!」
「嫌でもやってもらわなきゃ困るのよ。恨みを晴らすのが仕事でしょ!野梨子、行くわよ!」
「ええ。悠理、お願いですから大人しくしてて下さいね。」
「や、やめろ!何すんだよぉー!」
部屋から悠理の絶叫が轟いた。
上州屋の奥座敷では主の庄兵衛と北町奉行、上野備中守が酒を酌み交わしていた。
「お奉行さま、いつも御ひいき頂き有難うございます。これはほんのお礼でございます。どうかお納
め下さいませ。」
庄兵衛が風呂敷を解き、中の菓子箱を差出した。
上野備中守が早速蓋を開ける。箱の中には菓子の代わりに山吹色に光る小判がぎっしりと詰まっ
ていた。
「わしはこの菓子が好きでのう。」
「お奉行さまが好きなのは、この菓子だけではありませんでしょう?」
庄兵衛はパンパンと手を打ち鳴らした。
「お呼びでしょうか?」
すかさず使用人が戸をスーッと開ける。
「これ、あやつを連れてまいれ。」
「かしこまりました。」
しばらくして使用人が戻ってきた。
「お待たせしました。さ、中へ。」
後ろから現れたのは悠理だった。
「お奉行様、どうぞ、奥の部屋を使って下さいませ。」
「ふっふっふっふ、これで我『上州屋』も安泰というもの。」
はーはっはっはと庄兵衛は高笑いをした。その時、シュッと庄兵衛の脇をかすめ、真横の柱に
カツンと小刀が刺さった。
「何奴!」
美童、魅録、清四郎の三人が現れ、庄兵衛と向かい合った。
「皆の者、であえ、であえ!曲者じゃ!」
バタンバタンとあちこちの障子戸が開き、わらわらと手下が現れた。
「静まれ―!静まれー!」
早速美童が声を張り上げ、魅録もそれに続く。
「頭が高い、控えおろーっ!この紋所が目に入らぬか!」
魅録が懐から取出した物を、皆に見えるように掲げた。
「ま、まさか、このセリフ、もしかしたら…」
度肝を抜かれた庄兵衛は、魅録の掲げたものに目を凝らした。
「一粒300めーとる?何じゃそれは?」
それは、ぐ○このきゃらめるの箱だった。
「知らないのか?銀のえんぜるまーくを五枚集めるとおもちゃの缶詰が当たるんだよ!」
バシッ!可憐のはりせんが魅録の後頭部に直撃した。
「ってー!」
後頭部を抱えて唸っている。
「ばか!それはちょこ○―るでしょ!第一、いつの間にきゃらめるの箱なんか仕込んだのよ!」
「ちょっとした冗談じゃないかよ、そんな怒るなって。」
「じゃ、も一回!この紋所が目に入らぬか!」
「や、やはり…」
今度はちゃんと印籠を取出した。以前に太秦映画村へ言った時のお土産の品である。
「恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀候にあらされるぞ。頭が高い、控えおろう!」
「ははぁーっ!ってわけないだろ!冗談はたいがいにせい!」
「やっぱり、そうよね。変装しているわけでもないし、どう見たって清四郎が黄門様には見えない
もの。それに、三人以外何にもすることないから、つまんないわぁ。」
お娟さんも入浴しーんがなくては、水戸黄門に登場する意味が無い。
「仕方ない、有閑お仕置き人、参上です!」
清四郎は刀を抜いて、キラリと刃を光らせた。
「皆のもの、やってしまいなさい!生きて返すんじゃありませんよ!」
美童はさーべるを片手に、長い金髪をなびかせながら次々と上州屋の雑魚どもを薙ぎ払った。
魅録も種子島を構えて狙いを定めては打ち鳴らし、清四郎は向かってくる敵を肩口からばっさりと
切り付けた。三人が庄兵衛へと近づく度、死人の山を築いていく。
「うぬー!」
手下共が次々とやられてしまい、怒り心頭の庄兵衛に近づいて来る者がいた。野梨子である。
野梨子は頭から簪を引き抜くと、庄兵衛の後ろから盆の窪へブスリと差し込んだ。
庄兵衛の身体が一瞬硬直したものの、やがて力なく前方へ倒れていった。
「相変わらずおっかねぇよなぁ。」
「鮮やかなお手並みでしたね。」
ほとんどの敵をやっつけて、魅録と清四郎が簪を手にした野梨子に近づいていく。
「魅録も清四郎もお気を付けあそばせ。いつでも楽にして差し上げますわよ。」
「野梨子が言うとシャレになんないよ。」
美童が最後の一人を切り倒し、さーべるをカチッと音を立てて納めながら言った。
一方、可憐と野梨子に無理やり着替えさせられた悠理は北町奉行、上野備中守に連れられ、
奥の座敷へと入っていった。
「あたいをどうする気だよ?」
「あたい?」
「ああ。あたいをどうする気だって言ってんの!」
「あたいということは…おぬし、女だったのか?」
「当たり前だい!どこをどう見れば男に見えるんだ!」
「全部に決まっておるだろうが。」
「ぐっ…」
(そりゃ、あたいは女らしくはないけどな。このままじゃ、めちゃくちゃ可憐に怒られるじゃないか!)
「女じゃダメなのかよ?」
「わしは男じゃないとダメなのじゃ。美しい小姓が好きでのう。おぬしを見つけた時には、有頂天に
なってしまったが、女ではいかん、いかんのじゃ。」
ぷるぷると左右に首を大きく振る。
「ほれ、みてみぃ。」
上野備中守はそういうと袴を脱ぎ、着物を両手で掴むと、ガバッと開いた。ミニマムの状態のまま
ぶら下がった自分のナニを眺める。
「なっ?」
(あたいの周りはどうしてこうナニを見せたがる奴が多いんだ?ちくしょーっ!)
「だから、おぬしではだめなのじゃ、残念だったのぉ。」
着物を開き、ブラブラさせたまま残念そうに呟いた。
「うげーっ!今回はあたいじゃなくって、清四郎の仕事だったんじゃないかよ!」
「だとさ。」
「僕はごめんこうむります。」
襖の後ろで控えていた清四郎と魅録が言葉を交わす。左の襖の陰には清四郎、魅録、美童が、
右の襖の影には可憐と野梨子が控えていた。
そして、いつものように魅録が清四郎の肩を借り、種子島の照準を奉行に合わせている。
「僕は清四郎が迫るところが見たかったなぁ。あっ、清四郎!痛い!痛いから止めて!僕が
悪かったって!」
清四郎は真顔で美童の足の上に刀の鞘を置き、体重を掛けていた。
「私たち、着替えさすのにどれだけ大変だったか。」
野梨子は真っ白い手に出来た赤い引っかき傷をさすっている。悠理に付けられたものだ。
可憐の腕にも同様にあちこちに赤い傷が見えた。
「でも、あんなに似合っていたのに、もったいないわよねぇ、誰にも見せないなんてさ。」
(これじゃ、清四郎に鼻血を噴出させるのも無理かしらねぇ…)
無理やり着替えさせられた悠理は、丈が踝まである真っ白いばすろーぶを着ていた。
まるで試合前のぷろれすらーのようではあるが、悠理も相手が女に興味がないとあっては何も
することがない。
「でも、着替えさせたって、ばすろーぶはあまり意味があるとは思えないけど?まさかあの下に何
も着ていない訳じゃないよね?それじゃ、まるっきり変態おやじになっちゃうよ?」
「まさか、いくらなんでもそこまでしないわよ。仕方ないわね、魅録、さっさとやっちゃって。」
「おーけー。」
魅録がすこーぷを覗き、引き金を引いた。
下半身裸の上野備中守の背中がビクンと反り返ったと思うと、右手で空を掴もうと上げた手が目
の前にいた悠理のばすろーぶを掴み、引き降ろした。
「あーっ!」
ばすろーぶがはらりと落ち、悠理の肢体が露になった。
悠理がその身体に付けていた物、それは普段の悠理からは考えられない程せくしーならんじぇり
ーだった。黒のりぼんで編み込みが施され、れーすとふりるをふんだんに使った真っ赤なびすちぇ
に同じく真っ赤ながーたべるとしるくのしょーつ、そして赤のれーすに黒のりぼんが付いた、がーた
りんぐと黒のあみあみすとっきんぐという具合で、すりむな肢体にべすとまっちしている。
「わわっ!見るなーっ!」
その姿を見た瞬間、美童は悠理の足にガシッと飛びついた。
「ぼ、僕の女王様ーっ!」
「やめろ、美童!放せ!」
悠理はしがみ付いて離れない美童を足蹴にしている。
魅録は目を見開いたまま悠理を凝視しているが、その姿勢は前屈みだ。
そして清四郎はというと、一人鼻血をぶわっと噴出し、ふぅーっと後ろへ倒れていった。
「やったわ、悠理!」
部屋には可憐の高笑いが響いていた。
「清四郎、まだ鼻血出てるよ?」
美童がぽけっとからてぃっしゅを取り出し、清四郎に渡した。美童の頬には悠理にやられたに違い
ない手形がくっきりと付いている。
清四郎はくるくるっとてぃっしゅを丸めて鼻に差し込み、トントンと首の付け根を叩いた。
「美童はともかく、どうして魅録は平気なんですか?」
「らんじぇりーってやつか?ま、悠理にしては色っぽかったけど、俺は千秋さんで見慣れてるしなぁ。」
その時だった。
(む、殺気!)
「フムッ!」
清四郎の気合と共に一人の男が悶絶し、倒れた。
先ほど仕留めたはずの男が、どうやら立ち上がって切りかかろうとしたらしい。
刀も抜いていないのに、何故倒れるのか不思議に思った魅録が男に近寄ってみると、男の眉間と
こめかみには何故か赤い斑点が二つ、くっきりと付いていた。側には、半分赤く染まったてぃっしゅ
が転がっている。
魅録が清四郎の方へ振り向くと、鼻の下には赤い線が走り、胸元まで赤く染まっていた。
「清四郎、新しい武器を開発したな。」
「全てが解決しましたし、そろそろ帰りませんこと?」
野梨子が袂からてぃっしゅ差出した。
清四郎は素早く丸めて鼻に差すと、再び首の付け根をトントン叩いている。
そんな清四郎を見て可憐はにやにや笑い、悠理はプンプンとむくれていた。
「清四郎の気合ってすごいよなぁ。」
魅録と美童は清四郎のてぃっしゅ攻撃がかなり受けたらしく、未だゲラゲラと笑っている。
「もう、なんとでも言ってください。」
こうしてまた、江戸から悪の手が一つ消え、町は平和な日常を迎えていったのだった。
【終わり】
下らない話にお付き合い下さいまして、有難うございました。
お気に障った方、ほんっとにスマソ。
懲りない私めをお許し下さいませ。
おお!・・・願いが叶ったのかな?
>有閑お仕置き人
乙です〜
今回もまたムフフ。ムフ。ムフフ。
>有閑お仕置き人
愛する清四郎がすっかりイロモノ扱いだったけど、ばかうけ。
続きをこっそり楽しみにしていたので嬉しかったですよ〜。
懲りないでどんどん書いて下さいまし。
ちょっと読みにくかったけど、おもしろかったですよ。
たまにはこういうのもいいかも。
>有閑・お仕置き人2
話のあちこちに散りばめられたギャグに今回も大笑いしました。
>「ぼ、僕の女王様ーっ!」
には吹き出しましたが、悠理にしがみつく美童に萌えました。
あと、ぐ○こきゃらめるを掲げる魅録がカワイイです。
ホントの水戸黄門をみた時みたいに、読後とてもスッキリした気分になりました。
>有閑お仕置き人2
くー、悠理の色仕掛け見たかったが適わず。
まぁ、霊が取り憑くか、薬でも使わなきゃ無理かー。
あんな状態からも技を編み出せる清四郎が面白かったです。
>>423さんに触発されて思いついたのですが、
賀茂泉守×大山瑠璃子(プラス美×野のカップリングです)ネタうpさせてください。
4レスです。
「白鹿さん……」
賀茂泉守は、中庭で友人と談笑する彼女を見つめていた。
あの夏の日、『守さんと呼んでよろしいかしら』
そう言ってくれた彼女とは、今では言葉を交わすことすらない。
(あのまま、夏が終わらなければよかったのに……)
守は人知れず深いため息をついた。
「美童さま……」
大山瑠璃子は、中庭で友人と談笑する彼を見つめていた。
あの夏の日、瑠璃子が花の操を捧げようと決心したあの日。
背中越しの彼の抱擁を思い出し、瑠璃子はひとり体を抱きしめる。
(おらのこと、いつになったらもらってくれるだ……)
瑠璃子は切ない吐息を吐き出した。
ふたりの熱い視線に気づいているのかいないのか。
予鈴の鐘が鳴り、愛しい人は校舎へと去っていく。
と、何かにつまづいたらしく、彼女の体が前にかしいだ。
(ああっ、白鹿さん!)
その華奢な体を、すかさず金髪の貴公子が抱きとめる。
(美童さま、なにするだ!)
思わず駆け寄ろうとしたふたりだったが、愛しい人に辿り着くことは出来なかった。
互いに、飛び出してきた人影にぶつかってしまったので――。
それが賀茂泉守と大山瑠璃子の初めての出会いだった。
* * *
学園内では、プレイボーイ×大和撫子、交際発覚!?の噂が流れていた。
「あのふたり、やっぱりつきあってるのかな」
「おらには、信じられないだ……」
しかし、それを裏づけるように、中庭では毎日ふたりだけで昼食をとる光景が見受けられる。
ハプニングがきっかけで、互いの想い人を知って以来、守と瑠璃子は
なんとなく一緒に、彼らを観察しつつ、弁当を広げるようになっていた。
はじめこそ、瑠璃子のその個性的な容貌に目を見張った守だったが、
友人としてつきあうのに特に問題はないし、今ではすっかり見慣れてしまった。
「賀茂泉君、今日もコンビニ弁当だべ?」
「うん、実家が瀬戸内だから、一人暮らしなんだ。自炊しなきゃと思うけど面倒くさくて」
「お手伝いさんいないんだべ?」
「前はいたんだけどね。最近、不漁続きで、雇う余裕がないんだ」
「……瑠璃子んちもいねえだよ。おさんどん瑠璃子が毎日してるだ」
「え?」
思いがけない彼女の言葉に、守は驚いた。
「ほら、繊維不足は腸によくねえだ」
瑠璃子は、弁当箱の蓋にきんぴらごぼうを入れ、守の前によこした。
また別の日。
美童グランマニエは白鹿野梨子から玉子焼きをもらっていた。
しょんぼりとその光景を見つめるふたりだったが。
「今日は瑠璃子の弁当と交換するだ」
「え……でも僕、今日はカレーパン一個だけだし……」
「だからだ!しっかり食べないから、そんなひょろひょろやせっぽっちの体になるだ!」
(このくらいが普通だと思うんだけど……)
しかし毎日、瑠璃子のたくましい体を見ているせいか、
きっぱり断言されると、そうかもしれないと自信がなくなってくる。
「ありがとう。大山さん」
弁当は懐かしい家庭の味がした。
守は、目の前の瑠璃子の姿に、自分を育ててくれた女中頭の梅子が
重なるような気がした。
またまた別の日。
美童グランマニエは白鹿野梨子手製の弁当に舌鼓を打っていた。
「野梨子って、料理上手だなあ。この肉じゃがなんて最高だよ」
「まあ。美童ったら……」
ふたりの弾んだ声に守がうつむくと、偶然瑠璃子が作ってくれた
弁当にも、肉じゃがが入っていることに気づいた。
守は黙って弁当を食べていたが、自分と同じ哀しげな顔の瑠璃子に口を開く。
「あのさ、大山さん」
「なんだべ」
「今まで食べた肉じゃがの中で……大山さんのが一番おいしいよ」
「おら、そんなこと初めて言われただ……!」
嬉しそうに頬を赤らめる瑠璃子に、にっこりと守は頷いた。
* * *
学園内では、ある異色カップルの誕生??の噂が密かに囁かれ始めていた。
「あのふたり、つきあってるのかしら?」
「僕には信じられないよ……」
しかし、中庭の木立の影に隠れるようにして、毎日ふたりだけで昼食をとっていることに
少し前から美童と野梨子は気づいていた。
美童は大山瑠璃子から強烈なアタックを何度も受けたことがあったし、
賀茂泉守のついた嘘で、野梨子は婚約者のふりをする羽目になった過去がある。
最初は、ストーキングでもされているのかと思ったが、
ここ最近ふたりからアプローチを受けたことはない。
なにより、楽しげに談笑する彼らの目に、美童と野梨子の姿は映っていないようだ。
そんなある日。
「ねえ、野梨子。これ、受け取ってくれる?」
「なんですの?」
「このお守りを愛する人に贈ると、ふたりは幸せになれるって噂をきいたんだ。
僕、野梨子とずっと一緒にいたいから」
「嬉しいですわ。ありがとう、美童」
野梨子は、美童に微笑みかけ、お守りを受け取った。
「あら、このお守りなんだが見覚えがある気が……」
「ああ、すごく効くって評判だから、結構みんな持ってるんじゃないかな」
だが、流行に敏感な美童もさすがにブームの発端――いちばんはじめにお守りの
効き目が現れた女性が誰であるか――までは知らなかった。
さらにお守りの中に白ヘビのお札がおさめられているなんてことは……。
余談だが、ある女性は、お守りだけでは飽き足らず、
「ハタチまでに絶対玉の輿に乗るんだから!」
と、良縁祈願のため、わざわざ岡山まで足を伸ばしたということである。
おしまい
>カモルリネタ
423さんではないのですが、本当に読めるとは思って
なかったから驚きましたw
意外にもホノボノ話で、こっちもビックリ。
瑠璃子がいい味を出してますね。乙でした!
>カモルリネタ
異色カポー話、乙っす!!
レスが進むにつれて親密になっていく2人が面白かったぁー。
両親があんなことになっちゃった瑠璃子ちゃんには、
つねづね幸せになってもらいたいと思っていたので(W
ハッピー・エンドの話が読めてよかったっす。
でも賀茂泉君のおやっさん、
野梨子の次につれて帰った娘が瑠璃子だった日には驚くだろうなぁ…(W
>カモルリネタ
あの、423です…。
まさかこんなネタでSSを書いて下さる方がいるなんて!
二人とも一人暮し&美×野に片想い…なんて共通点があったんですね。
自分では軽くギャグのつもりで振ったのに、こんなに面白いお話が
生まれるなんて、ビックリ&大感激です。
いや、かなり笑いました。作者さま、ありがとーございました!!
お久しぶりです。
ほんの少しですが、暴走愛うpします。第三章です(長くてすみません)。
>>
http://houka5.com/yuukan/long/l-51-07.html 暴走愛 第三章 〜真実の愛〜
「黄桜さん、お迎えよ。彼氏」
外へ買い物に行っていた先輩が緊張して裏返った声を出している。
マンションのワンルームで開かれているジュエリーデザイン教室に可憐は二年前から
通っている。他の教室は知らないが、少なくとも可憐の通う教室は男っ気がまるでない。
その入り口に絹のように光沢のある金髪をし、絵本から抜け出てきたのかと思う位
美しく青い瞳をした白人の青年が立っていたのだから
女の声が裏返るのも無理はない。
可憐は苦笑いをする。
「彼氏じゃありませんよ、先輩。じゃ、お先に失礼します」
手早く荷物をまとめ、教室のドアをくぐると「彼」と呼ばれた男が廊下で待っていた。
両手に余るほどの真紅の薔薇の花束抱えている。
優雅な身振りで騎士風のお辞儀をすると、花束を可憐に捧げる。
「どうぞ、お姫様」
可憐はため息をついた。
「美童。あのねぇ、もうこういうことはやめてって言ったでしょ、あたしは……」
「誕生日おめでとう、可憐」
美童の言葉に可憐はキョトンとし、ついで慌て出した。
「今日私の誕生日だった?」
「嫌だわ、また一つ年を取るのね」
美童がハンドルを持つプジョーに揺られ、過ぎ行く景色を眺めながら可憐はがっかりした声を出した。
「ますます素敵になったよ」
「……はいはい。で、今日は全員集まるの?」
車線変更しながら頷いた美童はハンドルを切りすぎてあわてて体勢を整える。
「魅録は少し遅れるみたいだけどね」
「て、ことは野梨子も少し遅れるの?」
「たぶん、そう」
可憐は微笑んで呟く。
「あの二人うまくいってるみたいね」
「ほっとした?」
「……そうね」
しばらく車を走らせてた美童がクスッと笑った。
可憐が外を向いたまま聞く。
「何かおかしい?」
「うん。何で聞かないのさ、一言も。気になってるくせに」
素っ気無い返事が返ってくる。
「別に何も気になってなんかいないわよ」
「嘘つきだな」
「嘘つきよ」
原チャリを引っ掛けそうになって美童は冷や汗をかく。
「来るって言ってたよ。電話ではね」
「去年もその前の年もそう言ってたでしょ。でも来なかった。今年もきっと来ないわ」
「可憐が電話したら一発で来るのに」
「……美童、前!!」
白いワンボックスカーが目の前に迫っていた。
慌てて急ブレーキをかける。可憐が悲鳴を上げた。
ぜいぜい言っていた美童が気を取り直して再び車を走らせる。
「電話した?」
「してない」
「一回も?」
「一回も」
「なんで電話しないの?」
「……美童、飛ばし過ぎ」
「あいつが変わっているのが怖い?」
「怖くなんかないわよ。もう関係ないもん……飛ばし過ぎだってば」
車は急に減速する。
「……もうってことは関係あったんだ、前は」
「言葉のあや。何にもありませんでした」
「何でそう隠すかなあ。僕には隠さなくたっていいじゃない」
「隠してないわよ。話す事がないだけ」
そう言うと可憐は目的地に着くまで押し黙った。
美童もそれ以上は追求せず、久方ぶりに友人が集まる店に車を急がせた。
続く
>暴走愛
おおお〜!!!待ってました!!
今って時間軸どのあたりなんだろ?
第二章が凄く濃くって先が気になってただけに、彼らのその後が気になって仕方ないです。
続き、楽しみにまってます。
それは。
足の裏に刺さった小さな棘のような、些細な痛み。
* * *
熱(いき)れを含んだ呼吸を浅く繰り返しながら、坂道を登った。
背中に汗が流れていく。プリーツを保つことに腐心していた制服のスカートも、
とうに撓んでいる。
晴れてはいるものの薄い灰色の雲に覆われた空は蒼弓とは言いがたい。
肺を満たす湿度の高い空気にうんざりとした。
明日、台風が来るのだという。
金持ち学校の宿命か、夏休みを潰してまで勤勉に活動している運動部は
少ない。ただ校門をくぐると、遠くから水の気配とともに、歓声が聞えた。水泳部
だろうか。
校舎に入った途端、肌を撫ぜる空気がひんやりと温度を下げた。授業がない
せいか、冷房は効かしてはいないようだが、炎天下の下歩いてきた身には
それでも十分に涼を感じる。
吐息をついて、私は生徒会室を目指した。
生徒会室には、まだ誰も来ていなかった。
ちらりと壁時計に視線を遣ると、約束の13時には30分も早い。昼間に電車に
乗ることがないため、少し早めに家を出たのが裏目に出たようだった。
私はとりあえず部屋の換気をするために、全てのガラス窓を開け放す。それから
給油室の冷蔵庫に入れっぱなしにしていたミネラルウォーターのペットボトルを
開封してグラスに注ぎ、いっきに飲み干す。玉のような汗がこめかみを伝った。
ひと心地ついたので、手近にあった椅子に腰をかけて、行儀悪く机に寄りかかる。
空気が入れ替わったら、冷房を入れよう。そしたら、みんなが来る頃にはちょうど
よい温度になっている筈……。
「……れん」
心地よい響き。
「……さい、…れん」
午睡みに浸かる思考の中からゆるゆると醒めてゆく。思慮深く知的なテノール。
「起きてください、可憐」
ともすれば実年齢より随分と年嵩に見られる級友であるが、しかしその声は少年
くささを僅かに残している。
この茹だるような暑さの中で、それははっとする程冷たく、ほのかに甘い。
「清四郎」
不思議なほどの幸福感に包まれた私は、それを惜しみながら瞳を開けた。
「この暑い中で、どうして眠ることが出来るんです」
呆れたような顔をした清四郎が、水滴をのせるグラスに映っている。
私は机に寄りかかったまま彼を眇め見た。
――夏服の白いシャツが目に眩しい。
なんだか泣きたい気分になって、私は誤魔化すように身を起こすと、ごく自然に
視線を逸らした。
「みんなはまだですよ」
「そう」
私の中で相反する思いが鬩ぎあった。
早く時間が過ぎてほしい。あるいは――時間よ、止まれと。
「 ――ったく、あれだけ遅刻しないように言ったのに」
13時ちょうどを指す時計を気にしながら、清四郎は言う。それでも台詞ほどに
表情は不機嫌ではなく、むしろ優しさに満ちている。
彼が主に脳裏に思い浮かべる人物があまりに簡単に分かってしまって、私は
少し笑った。清四郎は彼女にしか、そのような言葉遣いをしない。
清四郎と彼女は火と油のようでいて、その実、これ以上息のあったコンビは他に
ないだろう。
「悠理はともかくとして、他の連中は?」
「美童と魅録は十五分くらい遅れるようです。野梨子は夏風邪で欠席」
「なんだ。大丈夫なの」
「ええ」
本人には分からないように溺愛する幼馴染の病気を、それでもそっけなく口に
することが出来るのは、登校前に見舞いを済ませているからだろう。もし何も知ら
ない状態で、突然電話でそのことを告げられたならば、生徒会の用事などそっち
のけで、さっさと帰宅するに違いないのだ、この男は。
兄や父親のように野梨子が彼を慕っていたときは、ときに冷たく感じられるほど
適度な距離をおいていたのに、今ではむしろ過保護すぎるほどである。
たぶん今の姿が、本来の彼らの関係なのだろう。ただ私が出逢ったときに、彼ら
がひどく微妙な時期にあったというだけで。
清四郎に寄りかからなくなった野梨子はひどく綺麗だと、私も思う。逆説的のよう
だが、対等な仲間になった今なら、清四郎も安心して甘やかせるのだろう。
口の端を笑みの形に吊り上げ、穏やかな表情を心がけながら私は立ち上がる。
清四郎に背を向けて開け放したままの窓まで歩く。眼下では無人のグラウンドが
広がっている。太陽が南中しているせいか、酷く影が小さい。熱気がグラウンドから
照り返し、窓側に立っているだけで暑さに中てられそうだ。
少し、風が強い。
ぼんやりと眺めていると、背後からのんびりと清四郎が言った。
「少し曇ってはいますが、いい天気なのに明日は台風なんですね」
「うん。――東京に台風が直撃するなんて、何年ぶりかしら」
「そうですね……僕らが中学生のときに一回、暴風警報のため学校が休みになり
ましたよね」
「そういえば」
自分たちが仲間になったばかりの頃だった。
自分と清四郎は、まだ野梨子を介しての友人に過ぎず、個人的に話したことが
なかった。そんなときに、東京に台風が来たのだ。
清四郎は覚えているだろうか。
五十音順で並べられた緊急連絡網。清四郎が私の家にはじめて電話したのが、
休校のお知らせだったなんて。
思えば、あのときすでに種は蒔かれていたのだ。
誰にも気づかれないまま、六年の歳月を経て、少しずつ少しずつ育っていった。
彼が落ち着いた表情の下に、ひどく青臭くて柔らかな心を持っているってこと。
本当は、誰よりも激情家だってこと。
大切な女の子がいるってこと。
―――その声が、涼やかな色を持っていることを。
もう、私は知ってしまった。
そして私は、芽が出たばかりの想いを、そ知らぬ顔で踏みつけた。
「あの日、悠理だけが連絡が間に合わなくて登校してしまったんです」
背後の清四郎はきっと、微笑んだ。
「だから学級委員の僕も仕方なく登校したんですよ」
「馬鹿馬鹿しいんですけど」
「うちのクラスで登校したのは僕たちだけで」
「ふたりだけで」
「悠理が途中で寝てしまって」
「この頑丈な校舎がガタガタ揺れてね」
* * *
それは。
足の裏に刺さった小さな棘のような、些細な痛み。
終わり
>棘
いきなりの短編投下にオ?って感じでしたが、じっくり読むと面白かったです。
可憐の位置だからこそ見える清四郎と他二人の関係にうんうんと肯いてしまいました。
「そしらぬ顔で踏みつけた」の辺りに、可憐の様々な思いを想像しちゃいますね。
今から王様のブランチに御大がでるよ〜。
有閑ネタあるといいな♪
>466
たまたまTVつけたら、ちょうどコミックスが映っててビックリ。
でもほとんどネタは出ませんでしたね…。
十一巻の神社の絵の資料用写真くらい。モノクロで妙に納得。
「横恋慕」少しだけウプさせていただきます。
>230の続きです
「可憐ちゃんは何にするだ?」
気を取り直した万作が問うと、可憐は「ママと一緒にフランスのスパに・・・」と申し出た。
「それ以上、きれいにならなくてもいいだがや〜」
「きゃぁ、やだわ、おじさまったらぁ〜〜」
じゃれ合う二人の前で、野梨子の皮肉が炸裂する。
「玉の輿の王子様が見つかるまで何年かかるかわかりませんもの。気が抜けませんわよね」
どっと笑い声が上がり、テーブルは楽しい雰囲気に包まれている。
「じゃあ、エヴィアンにある私のスパをあげましょうか?」
百合子の提案に、目をハートにした可憐が大きく頷いた。
「・・・正直なところ、ちょっとだけ残念な気もしてるんだ」
豊作は妹とその恋人を暫く見つめた後、隣で硬い表情を見せている男へとゆっくり視線を移し、
小声で言いながら頭を掻いた。
「もちろん、父さんも母さんも大喜びだし・・・魅録くんに不満があるわけじゃないんだけど、ね」
おどけながらも含みのある口ぶりに、清四郎は彼の真意を汲み取る。
絵に描いたように幸せそうなカップルを一瞥した後、視線を手元のグラスに落として答えた。
「僕はもともと剣菱で腕試しがしたかっただけですし、悠理・・・いえ、妹さんには相応しくありま
せん。魅録は彼女を心から愛していますから、彼に任せておけば大丈夫ですよ」
「・・・そう、かな・・・そうだね」
少し悲しそうに、豊作は微笑んだ。
「悪いね、変なことを言ってしまって。僕が口出しすべきことじゃないのに」
気まずさを覚えるほどの沈黙が、二人の間を流れる。
テーブルの向こうでは、「ずっと欲しかった茶碗がありますの・・・」と野梨子が切り出していた。
皆がとんでもないものばかり平気で貰っているので、遠慮するのが馬鹿馬鹿しくなったらしい。
「ついでに茶室も建てるだか?金でも銀でもプラチナでもええだがや」
調子に乗ってスケッチブックを取り出し、デザインし始める万作と、大慌てで辞退の言葉を
述べる野梨子の様子に、どっと笑い声が上がる。
皆と一緒に大笑いする妹を見るともなく眺めていた豊作は、ふと、隣で作ったような笑顔を
浮かべている、彼女の元婚約者に視線を戻す。
ためらいながらも、彼がもう一度口を開こうとした時だった。
くるりと振り返った母が、いきなりその男を見つめた。
「それじゃ、最後は清四郎ちゃんねっ」
全員の注視を浴びた清四郎は、瞬時にいつもの表情に戻り、にこやかな笑顔を見せた。
「いえ・・・ありがたいお申し出なんですが、お気持ちだけ頂戴します」
その意外な返答に、テーブルを囲む面々が少々不可解そうな顔をした。
野梨子も驚いて彼の顔をまじまじと見る。まさか本当に断るなど、考えてもいなかったのだ。
「遠慮しなくていいだがや。清四郎くんには一番世話になったし、コンピューターでも家でも
茶碗でも潜水艦でも研究所でも、それから・・・えっと・・・」
「そうよ。悠理が卒業できるのも、清四郎ちゃんのおかげだもの。何でも言ってちょうだいな?」
「お世話になったのは僕の方ですから、どうぞもうお気遣いなく」
食い下がる二人に有無を言わせぬ口調で言い切り、清四郎は微笑んだ。
「・・・そう、じゃあ何か思い付いたらいつでも言ってちょうだいね」
仕方なく、夫妻は頷き合った。
その時、ガン、という音がして、悠理が椅子を蹴って立ち上がった。
テーブルに両手をつき、少し体を揺らしながら俯いている。
「・・・・・・だろ」
酔っぱらっているせいか、ろれつが回っていない。
「おい、どうしたんだよ」
心配そうに体を支えようとする魅録の腕を軽く払い、悠理は顔を上げた。
「・・・んで・・・なんで今さら遠慮なんかすんだよ、ダチだろ?」
清四郎は今にも泣き出しそうな悠理を見返し、目を逸らさずにゆっくりと首を振る。
小さな子供に何かを言い聞かせるようなジェスチャーだ。
「遠慮しているんじゃありませんよ。欲しいものがないから、ないと言ったまでです」
しばしの沈黙の後、「そっか、ならいいよ」と呟くと悠理はそのまま席を立った。
どこ行くんだ?と心配する魅録に後ろ手に手を振り、「食べ過ぎたからンコしてくる〜」と叫ぶ。
苦笑の渦の中、素晴らしいタイミングでデザートが供され、話題の中心はまた九江に戻った。
冷たい夜風を頬に感じながら、宴を辞した僕は一人で歩き始めた。
慌てて追って来た五代が「お車を」と言うのを断り、歩いて帰ることにしたのだ。
家までは小一時間。酔い醒ましにちょうどいいだろう。
去り際に口にした「親父の学会資料を翻訳しないとならないので・・・」という言い訳は嘘では
なかったが、実際のところ、晩餐の途中で退席するほど切羽詰まった状況ではない。
「・・・本当に、欲しいものはないのかい?」
ぽつりと訊ねられ、凪いでいたはずの心にさざ波が生まれた。
豊作さんの声は優しく、まるで何もかも見透かされているような気持ちになる。
「ええ。もう・・・」
にこやかに返しながら、退席にふさわしい口実をいくつか思い浮かべた。
「何でも言っていいんだよ。金で買えないものなら、僕が相談に乗ってもいいんだし」
思わせぶりなセリフも、きっと彼なりの心遣いなのだろう。
彼が僕の葛藤に気付いていようはずもない。
ポーカーフェイスを崩さずに丁重に断りを入れ、頃合いを見計らって腰を上げた。
他の男に寄り添う悠理を見ても、僕の心はもう痛まない。
僕が望んだものは、彼女の笑顔と、絶えることのない友情。それだけだ。
欲しいものは手に入れた。一時の感情に搦め取られて自分を見失うほど、僕は弱くはない。
だが、エントランス前の池を渡って門へと向かっていた時、ふと気配を感じて足を止めた。
ゆっくりと振り返った僕は、そこに思いがけない人の姿を認めて立ち竦む。
いたずらを見つかった子供のような表情で、赤いドレスの女が立っていた。
[続く]
>横恋慕
待ってました!
わかってそうな豊作さん、これからどう動くのか気になる美童ですが。
悠理と清四郎の決定的分岐が次回来るのでしょうか。
魅録もどうするのか、とても興味があります。
以前こちらで作品書いたものです。
実はこの度…有閑の二次小説サイト(清四郎×悠理メインv)を
立ち上げることにしました。
まだ、発表済みの作品数点しかアップしていませんが、よろしかったら
遊びに来て下さいませ。
サイト名=Siesta(シエスタ)、管理人=ぽちです。
http://siesta.chips.jp
清四郎×悠理
みたいので訪問しますねー
>474
あ、ぽちさんだw
いつも巡回してます。清四郎×悠理でなかなか面白いですよね〜
本スレでの新作うpもお待ちしてます!
>横恋慕
私も気になっている連載作品のひとつでした。
次回、とうとう動くか悠理?清四郎も早く気づいてくれ。
もどかしい気持ちで見守っております。
>横恋慕
私も超待ってましたー!!
悠理が可愛くて、胸が切なくなります。
>474
これを記入されたのがどういう方なのかわかりませんが、
本人ではありません。
他サイト様への挨拶文をコピーされたようですが…。
無視するべきなのかもしれませんが、他人になりすます方が
いることにちょっと驚いたので、一応書かせていただきますね。
失礼しました。
>479
そ、そーなんですか!?
いや、いろんな人がいるもんですな〜〜(汗
(微妙に清四郎口調になっちった・・・笑)
>479
= >474で晒されているサイトの管理人さん
という解釈でよろしいですか?
ここで晒されるとはお気の毒です・・・・・・
めげずにがんがってください。
ここでサイトの宣伝するなんて大胆だなーと思ってたらそういうことか。
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系なので苦手な方はスルーお願いします。
現在のところ、魅×野で悠→魅です。
>>458 銀座の大通りに面したビルに入り、エスカレータで六階に上がる。きらびやかな装飾が施された入り口が目に入る。
店の前には席を求める紳士淑女が列を成していた。
その横を光沢のあるグリーンのワンピースを着た可憐は美童にエスコートされて通り抜け店内に入る。
美童が支配人に名前を告げるとうやうやしい礼と共に、店内奥に通された。
途中で店外に出ようとする魅録とすれ違う。
久しぶり、と目尻に愛嬌のある皺を作りながら、魅録は嬉しそうに笑った。それから出口を顎で指し示す。
「ちょっと煙草吸ってくるわ」
頷いて席に向かいながら美童が可憐に微笑んだ。
「幸せそうだね、魅録」
通された店内奥のテーブルには悠理が一人で待っていた。
ぽつねんと所在無げにしていた彼女は可憐と美童を見ると大声を出す。
「おーーーーい、ここだぞー」
店内の着飾った男女が一斉に振向き、可憐達は冷や汗をかく。
手の込んだ刺繍が施された真っ赤なチャイナドレスを着た悠理は、頭に大きな赤い花をつけている。
あいも変わらずド派手な衣装だったが、それだけではなく彼女は華やかに見えた。
座ることも忘れて思わず可憐は隣に立つ美童を見ると、彼も同じことを考えているようだった。
「悠理……、ひょっとして化粧してる?」
満面の笑みを浮かべていた悠理の顔が引きつった。
「へ、変だった?」
ばあっと顔を赤くするところが可愛らしい。
可憐は悠理の隣に座りながら首を振った。
「全然変じゃないわよ! むしろ、上手よ。初めての化粧にしては、ね。でもアイシャドウはもう少し
伸ばした方がいいかな」
長い指先が悠理の瞼を撫でる。悠理はこそっと可憐に耳打ちした。
「こ、今度、ちゃんと教えてくれよ」
「OK」
男受けするお洒落にはまるで興味の無かった友人の変化を可愛く思って、可憐は微笑する。
「魅録と一緒に来たの?」
「うん、迎えに来てくれたんだ。野梨子が急用で遅れてくるみたいでさ」
「ふーん」
ペリエを口に運ぶ美童が意味ありげな視線を悠理に送ってくる。
「な、なんだよ」
「いや、嬉しそうだなと思って」
「美童。お前変な笑いすると首絞めるぞ〜」
「冗談だって、あ、来た!」
可憐はびくっとして入り口を振向いた。
清楚な小花柄のネイビーブルーのワンピースが魅録と共に店内に入ってきたところだった。
野梨子は可憐と目が合うと立ち止まり柔らかく微笑んだ。
急に止まった野梨子に後から来た魅録が軽く追突して、よろけた彼女の肩をあわててつかむ。
大丈夫、というように振向く野梨子の姿を照れて見つめる魅録の顔は、誰かどう見ても。
恋する男、か。
美童は嘆息する。
向かいに座る悠理に目を走らせると、諦めた笑いを浮かべている。
が、美童と目が合うと口を尖らせた。
野梨子、続いて魅録がこちらに歩いてくる。その後に背の高い男が続いて歩いてくる。
知らず知らずスカートを握り締めている自分に可憐は気がついた。
途中のテーブルで年配の老夫婦が手を上げて合図を送っていた。
背の高い男は立ち止まって、その席に向かうと椅子を引いて座った。
人のよさげな顔をした地味な中年男だった。
可憐は急にワインリストをつかむと、勢いよく喋りだした。
「ねぇ、野梨子達も来たし、ワイン何にする? 悠理」
「ワインもいいけど、腹減ったよー」
ワインリストを前に大騒ぎする可憐と悠理を美童がたしなめる。
「待ってよ、まだ清四郎が来てないじゃない」
「いいのよ、あいつが来るの待ってたら店が閉まっちゃうわ。先に始めちゃいましょう」
「でも、もう少し待ってみたら……」
美童の声を遮るように涼やかな野梨子の声がした。
「清四郎は来ませんわ」
可憐、美童、そして悠理が顔を上げ野梨子を見た。魅録も驚いたように野梨子を見る。
ほんの少し躊躇った後、言いずらそうに野梨子は話し出した。
「……さっき、家の方に電話がありましたの。どうしても抜けられない事情があって、今日は失礼するって。
皆に行けなくてすみません、って伝えてくださいって」
「なんだ、そうなんだ。がっかりだな」
ため息をついて美童が椅子に寄りかかった。魅録は黙って席に着いたが何か言いたげな顔だった。
ワインリストを振ると、可憐が思い切り明るい声で場を盛り上げるように言った。
「ほぉらね、あたしの言った通りでしょ。じゃあ、今日は清四郎の分も皆で飲んで食べるってことで」
悠理が両手を天に突き上げた。
「よっしゃ、食べるぞーーー」
「ねぇ、シャンパンにしない?」
「あっ、いいね」
楽しそうにワインを選ぶ三人に目をやりながら、魅録は傍らの野梨子の様子を窺った。
彼女も又楽しそうに微笑んでいるだけで、特に変わった様子は見えない。
少しほっとしながらさりげなく声をかけた。
「清四郎から電話があったんだ? いつ?」
「先ほど家を出る前ですわ、魅録」
微笑みを崩さず野梨子は答えた。
「ねぇ魅録、悠理が化粧してるの気がついた?」
美童の声に悠理は真っ赤になった。手に持ったグラスが震え、ワインがこぼれそうになった。
噛み付きそうな顔で悠理は目の前の金髪男を睨みつけたが、美童は知らん顔だ。野梨子がああ!と頷く。
「……そうですわよね、私も何か悠理、いつもと違うと思っていたんですのよ」
目を落ち着かなく動かす悠理を横目で見ながら、美童が魅録に話を振る。
「魅録どう思う、悠理が化粧してるのって」
「え、なんだよ、どうって。いいんじゃん、別に」
素っ気無い言い草に野梨子が魅録をつつく。美童も呆れた顔をした。
「そんな言い方ありませんでしょ、魅録」
「そうだよお、本当にデリカシー無いなあ、魅録は。悠理ががんばって化粧してるんだぞ。もっと褒めてやんなよ」
口々に責められ魅録は両手の平を軽く立てて参った、という顔をした。
「え、何々? 褒めるって言ってもなあ……。悠理、がんばったな! これでいい?」
がったん、という音がして椅子が倒れた。
「ごめん、ちょっとトイレ」
俯いたまま、悠理は風のように去った。
驚いて可憐も席を立ち、後を追っていった。
美童がじぃっと魅録を睨む。魅録は嘆息して天を仰いだ。
「何なんだよ……」
化粧室のドアを押すと、上質な芳香剤の甘い匂いが微かに漂ってきた。
押し殺したようにしゃくり上げる声が一つだけ鍵のかかった個室から聞こえてくる。
可憐はその個室をノックした。
「ちょっと悠理、大丈夫? 気にすることないわよ、魅録の言うことなんか。
あいついっつもあんな感じじゃない。あんまり女の化粧とか服に興味ないのよ。悠理? 傷つくことないわよ」
「……あっ、……そうだよな……うん、……いや別に……大丈夫だよ。ちょっと、あの……ちょっとだけショックだっただけで……」
可憐はノックの手を止めた。
「なんでショックだったの?」
個室から返事は無い。
「悠理……ひょっとして魅録のこと……」
「わかんない」
「でも魅録がちゃんと見てくれなかったからショックだったんでしょ。やっぱり悠理、魅録のこと……」
「ストップ!」
音を立てて個室のドアを開けると、目を赤く充血させた悠理が現れた。
可憐の前をずんずんと横切ると、洗面所の水を出してバシャバシャと顔を洗い出した。
「本当にわかんないんだ。もしかしたら、そうなのかもしれない。でもこういうのって口に出したら何か始まっちゃうような気がしてさ。
嫌なんだよ、女みたいに胸をドキドキさせたり、夜眠れなくなったりプレゼント上げたくなったりするのがさ。
何か自分が変わっちゃうみたいで嫌だ」
ペーパータオルでごしごし顔を拭く悠理に可憐はわかった、と微笑んだ。
悠理の後に続いて化粧室を出ようとした可憐は、突然立ち止まった悠理にぶつかった。
化粧室の前にばつの悪そうな顔をした魅録が壁に寄りかかって待っている。
可憐はにこっと笑うと悠理の背中を叩いて、彼らを後に席に戻って行った。
彼女の姿が見えなくなると、魅録が悠理に向き直りニヤッと笑った。
「よお」
「……よお」
悠理が口ごもっていると、彼女の濡れた前髪に魅録が触れた。
「何だよ、顔洗ってきたのか。せっかく化粧したんだろ、もったいねぇな」
「……だって、似合わないだろ」
彼の指先が額に触れて悠理はドキドキする。
魅録が悠理の顔のまん前に顔を近づけてきたので、悠理は心臓が飛び上がりそうになり横を向く。
眉をしかめて怖い顔をした魅録は言った。
「お前なぁ、似合わないなんて言ってないじゃんかよ、一言も。勝手に拗ねるなよな」
「……ごめん」
悠理が俯くと、魅録がふーっと息を吐いて壁に寄りかかり腕を組んだ。
照れくさそうにピンクの前髪をいじりながら呟く。
「あのさ、良かったぜ、化粧。綺麗になったと思うよ、悠理」
思いがけない言葉に悠理は耳を疑った。
「…………ほ、ほんと?」
「まあ、俺はさお前は素顔でも美人だと思ってたんだぜ、黙ってりゃあな。だから化粧する必要もないと思ったっていうか……」
瞳を潤ませて自分を見上げる悠理を見ると、急に照れくさくなって魅録は悠理の頭を両手でぐちゃぐちゃにした。
「ばーか、言わせんなよ、こんなこと。あー、恥ずかしい。さ、飯食おうぜ」
「うっ、うん!」
頬を薔薇色に輝かせて悠理は魅録の後をぴょんぴょんついていった。
今、何時だろう。
再び上品な甘い香りが可憐を包んでいた。
食事はデザートを残すだけになっている。
勢いよく出した水が銀のボウルの中央に空いた穴に吸い込まれていく。
しこたま体にワインを蓄えた可憐はほてった両手をその水にしばらく晒すことにした。
ふと目の前の大きな鏡に目をやると、野梨子が映っていた。
可憐は一瞬驚いたような顔をしたが、やがてふんわりと笑った。
こちらもまた微笑みながら野梨子はゆっくりと可憐に近づき隣に立つ。
同じように手を洗いながらこう言った。
「残念でしたわね」
可憐は口の中で野梨子の言葉を反復する。やがて口を開いた。
「さあ……うん、そうね。なんだろな、わかんないわ」
大分冷えた、と思った可憐は水をとめ、備え付けの金のボックスに入ったペーパータオルで手の水分を拭った。
「本当は来るつもりでしたのよ、彼」
化粧を直そうと思ったが、化粧ポーチを席に忘れてきた。
することが無くなった可憐は胸の前で腕を組み、野梨子の顔をじっと見る。
「清四郎と話したの?」
「ええ」
どこか体の奥のごく一部が微かに痛んだ。苦く可憐は微笑んだ。
「そう。元気だった、彼?」
「……いえ、あまり元気そうではありませんでしたわ。ここのところ、いつも……そうじゃありません?」
化粧室に沈黙が流れた。可憐が髪をかき上げる。野梨子が彼女の様子を窺う。
「知らないわ。最近彼と話してないし」
ああ、そうでしたの、と野梨子は呟いた。
「少し心配してるんですの、実は。この間京都で会った時も、何だか心ここにあらずと言った感じで……」
野梨子は可憐の表情に気づき、口を噤んだ。
苦しそうに可憐は笑っていた。
「京都に行ったの、野梨子」
「ええ、四月に」
「清四郎に会いに行ったの?」
「……そうですわ」
そう、と小さく呟くと、はっと一つ息をついて可憐は野梨子の横をすり抜けた。
「あの、可憐」
「ごめん、野梨子。その話、もうお終いにしよう」
キィと上品な音を立てて化粧室のドアが閉まった後、野梨子は少し後悔したような顔でうつむいた。
続く
>暴走愛
時系列的がよく分からないのですが、京都という言葉からするに、
大学時代の話でしょうか?
野梨子・清四郎・可憐の関係が、どうなっているのか気になります。
魅録も罪な男ですね。あれじゃ、悠理がその気になるばかりだってw
>491
すみません、三章は彼ら(可憐以外)が大学三年生の夏の話です。
二章の高校三年生の秋から二年と少しが経過している設定でした。
この次のうp分の会話の中で、時間と彼らの現在の関係を徐々に書いていく予定
でしたが、不親切でしたね(汗)
どうもすみませんでした。ご指摘ありがとうございます。
>暴走愛
待ってました!
結局…野梨子と清四郎の婚約は、破談になったのですね。
ここからまた怒濤の昼メロ展開でしょうか、ドキドキします。
魅録って、清四郎と可憐の関係は知らないんでしょうか?
でも、美童は勿論、悠理も三人の関係に気付いてそうですね。
これからの6人のこじれていく様子を思うと辛くなりますが、
楽しみにしております。
>492
こちらこそ、先走ったことを聞いてしまって失礼しました。
でも、次のウプで色々分かる予定と聞けて、ちょっと得した
気分だったりw
次回の楽しみが増えました。
はじめまして。清×悠の短編をウプさせてください。
書き上げたものをコピペで投稿するのは初めてなので
何スレになるかわかりませんが所詮短いです。
次からはじまります。
ぺろん。
清四郎は己の唇の端に触れたものの正体に気づくのに数瞬の時が必要だった。
「悠理?!」
という友人たちの間を置いてからの叫び声でそれが秘密の恋人の舌だったのだと知れた。
「あ・・・」
自分がしでかしたことの意味がわかったのか大胆な行動を取った本人も固まってしまった。
「いや、だって、おいしそうなソースが、ってかこいつも案外子供っぽいっていうか・・・」
しどろもどろに弁解するが他の連中はその衝撃から立ち直ってきたようだ。
「へ〜、おいしそうなソースがね。」
昼食時。いつものように6人で生徒会室で食事を取っている。
今日は雨なので中庭での日向ぼっこはまたの機会だ。
一応清四郎も平静を取り戻しはしたが、次にどういう行動に出てよいものか皆目わからない。
悠理からの求愛に陥落したときに開き直って友人連中にばれるのもよいかなと思っていた。
だが当の悠理が恥ずかしがって絶対に隠し通すことを約束させられたのだった。
二人の努力の甲斐あって、すでに3ヶ月ほど秘密は保持できていた。
「や、だから、これくらいいっつもやってるし、別に後ろ暗いことなんか・・・」
「いつもそんなことしてるくらい仲良しさんなんだ。」
自称恋愛の達人、実は女に遊ばれてるだけなんじゃないかという美童がからかうように言う。
「後ろ暗く思うことなんかありませんわよ。」
とにこやかに言う野梨子の眼が怖い・・・。
なにかよからぬ想像をしていませんか?と清四郎は冷や汗を流す。
「実は清四郎が悠理を玩んでいると言うわけでないのなら後ろ暗いところなんか微塵もありませんわよね〜。」
やっぱりそう思ってましたね。
なんか以前の事件でそういう方面での信用が地の底まで失墜したようですね。と清四郎は頭を抱え込んだ。
「玩ばれてないじょ。あたいが勝手に好きってだけなんだから。」
野梨子への必死の弁明が爆弾発言ふたたびであることに清四郎は頭を抱えた。
ま、それでこそ悠理はかわいらしいんですけど。
事情を知らなかった4人のふたたびのフリーズを溶かしたのは、当事者である二人のラブラブ光線だった。
「悠理。自分でばらしたんですからね。僕のせいじゃありませんよ。」
「なんだよ〜。お前が口元にソースつけてるのがわるいんだろ?」
「何言ってるんですか。ああいう場合はティッシュか指で拭うだけでいいんです。」
「だっておいしそうだったんだも〜ん。」
「自業自得です。」
「なんだかんだとラブラブみたいじゃねえか。」と魅録。
「ねえ、魅録も野梨子も気づかなかったの?」と可憐。
「完全にだまされてましたわ。」と野梨子。
「僕の眼にも見抜かれないとは、案外悠理もあなどれないな。」と美童。
しかし何が驚きって、悠理が清四郎にアタックして陥落したってことだろう。
恋する乙女、恐るべし。
おしまい♪
3スレで終わっちゃいました。
しかもありがちなネタです。すいません。
改行はどうしようか迷った挙句、下手に改行するより
読みやすいかなと。ケータイの方、すいません。
雰囲気なぞあったもんじゃないバカ話で失礼しました。
『サヨナラの代わりに』をうpします。
>351の続きです。
「結婚ってのも、うまくいけば良いもんなんだな」
赤信号で止まった時、不意に魅録が口を開いた。
私はそれまでぼんやりと景色を見ていたのだけれど、その唐突な言葉に思わず魅録の横顔を
見上げてしまった。
これまで、不自然と言ってもいいほど『結婚』という言葉を口にしなかったひとが、何が
あってそう思うのか。
私が、父さまと母さまに会ってほしいと言ったせいなのだろうか。
それとも、魅録の上司か誰かが結婚を勧めているのだろうか。
私は胸の中のざわめきを抑え、屈託のない顔つきをしている魅録に訊いた。
「魅録、どうかしましたの?」
「ああ、美童の転勤話、可憐とかから聞いた?」
大阪。
可憐が私に電話してきたのが3日前だったが、4日前だったか。
美童に、大阪への転勤辞令。
いつかそんなこともあるだろうと頭ではわかっていたけど、実際にそうなるとどうしようも
なく動揺してしまったと、可憐は言っていた。
「ええ、聞きましたわ。一緒に行ってもいいかなって思ってたのに、美童に『ひとりで
大丈夫だ』って言われたって」
私はその時、可憐に『3年も離れていて大丈夫ですの?』なんて意地の悪い質問をしてしまった。
美童の過去を考えると、3年という歳月は美童の“病気”が再発するに充分な気がしたからだ。
けど、それに関しては、私の懸念はあっさりと可憐に明るく笑い飛ばされた。
その自信がどこから来ているのかはわからなかったが、私はそう思える可憐をひどく
うらやましく思った。
「そう、それ。自分は行くけど可憐はこっちに残る。それが何でもないっていうのは、
やっぱ結婚してるからなのかとか思ったりしてな」
魅録は前を向いたまま、考え込むような表情で言った。
ちょうどその時赤信号が青信号に変わり、魅録はゆっくりと車を発進させた。
私だけでなくて、魅録も、先の見えないもどかしさに悩んでいるのだろう。
ひととは欲張りな生き物で、今に満足すると今度は先の保証を求めてしまう。
結婚が、必ずしも美童と可憐の間にあるような確固としたものをもたらすとは限らないと
学んでいるのに、もしかしたらとの思いを捨てきれない。
魅録とこの先も一緒にいるには、結婚という形をとった方がいいのかもしれない。
私はわざと魅録の方を見ずに、冗談ぽく言ってみた。
「魅録、私と結婚してくださいな」
『魅録、私と結婚してくださいな』
野梨子の言葉が俺の心の中に届いた時、俺は嬉しい反面戸惑いも覚えた。
確かに、俺の野梨子への想いには一点の曇りもなくて、今更、野梨子と別れなきゃ
ならないなんてことになったら、どうしようもなく苦しむだろう。
だから野梨子がいない人生は考えられないし、その野梨子が自分と結婚したいと
言ってくれるなんて嬉しくないはずがない。
けれど、どこかで『結婚』というものを恐れているのも事実だ。
『結婚』に安心してしまって、同じ過ちを繰り返す。
気づいた時には修復がきかなくなっていて、全てを失ってしまう。
俺は、振り払えずにそこにある自分の情けなさに目を瞑ることができず、しばらくして
再び赤信号で止まった時、俺は前を向いたまま野梨子に訊いてみた。
「俺でいいのか?」
「……答えになってませんわ」
俺の中途半端な言葉が気に入らなかったのか、野梨子が怒りを含んだ声で言った。
野梨子は続いて何かを言おうとしたが言葉に詰まったらしく、そこで口をつぐんで
黙り込んでしまった。
沈黙が車内を支配する。
ちょうど、タイミングがいいのか悪いのか青信号に変わり、俺はニュートラルにしていた
ギアをファースト、セカンドと動かしていき、徐々に加速をつけていった。
俺は運転に集中しながらも、同時に頭の中で美童の転勤を知ってからの自分の気持ちを、
ひとつひとつパズルを完成させるように寄せ集めていった。
――野梨子と、今だけでなくてこれから先もずっと一緒にいるには――
そこにははっきりと、過去の失敗に捉われて排除していた選択肢が形をとって表れてきた。
俺は、助手席の野梨子をちらりと見遣る。
野梨子は口を閉ざしたまま窓の外を眺めていて、その表情には全く笑みがなかった。
俺が見たいのは、こんな野梨子じゃない。
野梨子だって軽い気持ちで言ったわけじゃなんだから、俺も素直になろう。
「結婚しよう、野梨子。……いや、結婚してほしい、ずっと、一緒にいてほしい」
俺は尚も前を向いたまま、しどろもどろになりながら野梨子に言った。
俺の心臓は、緊張のあまり動悸がこれ以上ないくらいに速くなっている。
恐らく頭に必要以上に血が上って、顔が赤くなっているに違いない。
とてもじゃないが、この状態で運転し続けると事故でも起こしてしまいそうだった。
と、その時、巨大交差点で赤信号に捕まった。
スクランブルの横断歩道なので、普通よりも待ち時間が長くなる。
俺はギアをニュートラルに戻してサイドブレーキを引いた。
ブレーキを引ききった時、俺の左手に野梨子がそっと触れてきた。
これが、野梨子なりの答えなのだろうか。
俺は前が動きそうにないのを確認し、野梨子の方を振り向いた。
野梨子も俺を見ていた。
俺達はどちらからともなく近づいていき、触れるだけのキスを交わした。
【続く】
>サヨナラの代わりに
段々終わりに近付いているのでしょうか…。
続きは気になるけど、終わると寂しいし。
美童の転勤が、二人の結婚のきっかけなんですかね。
美童の病気が再発しないことを私も願います。
>露呈
可愛さに笑いました。
でも。スレじゃなくレスですよ。
>サヨナラの代わりに
続き、待ってました。
魅録が初々しい。
前の失敗があるからこそ、幸せを目指す二人が素敵です。
>506さま
感想ありがとうございます。
そして今更自分がレスとスレを間違えるとは
油断しておりました。
ご指摘ありがとうございました。
>サヨナラの代わりに
大人の魅録と野梨子の心理が丁寧に綴られていて、大好きです。
二人の新婚生活もすごく見たい。
離婚前はお互い、随分淡々とした夫婦生活を送っていたようだし、
魅録と野梨子は情熱的だったり激しかったりすると嬉しいw
>サヨナラ
待ってましたよー!
語り方も登場人物たちも、淡々としているようで
静かな情熱で満ちていて、いつも楽しみに読んでいます。
この作品の野梨子本当に大好き。
>露呈
今まで清×悠は苦手だったけど
ドキドキしちゃいました。
恋する悠里、振り回されるせ清四郎、ツボにはまりました。
個人的には、振られる美童、素直じゃない魅録、ウブな可憐、
乱れる野梨子なんかがツボです。
>>510 うわー、どれも萌えますね。
ウブな可憐激しく見てみたい!
しかし振られる美童は原作でも(ry
>露呈
「あたいが勝手に好きってだけ」
ひゃー、悠理スキーとしては萌え萌えなセリフです。
しかも真正面からしか反応できないのが悠理のいいとこですよね。
可愛い悠理ごちそうさまでした。
あげてしまいました・・・ごめんなさい。
他スレからのコピペですが、気持ちは同じなので。
. ::゜.゜。・゜゜゜゜ .
:::.゜。 ゜・。゜゜. . . . ゚
. : ::.゜ ゜ ゜゜。・。゜.゜.. +
.: ::.゜゜゜゜・
..: :.゜゜。・。゜.゜. ... . .
・ :::.゜。 ゜・。゜゜. . . .
+ : ::.゜ ゜ ゜゜。・。゜.゜.. 。
:::.゜。 ゜・。゜゜. . . .
彡 ミ : ::.゜ ゜ ゜゜。・。゜.゜::::
彡\/ []彡 :::.゜。 ゜・。゜゜. . .
彡 ミ
彡\/ []彡 作者さんと読者さんの願い事が
ミヽU/彡 §
彡[]\U 彡 § 叶いますよーに
ミヽ彡☆. / ミ/ 彡
彡ヽU 彡[]
ミ☆ 彡./ .彡
ミ\Uミ彡[]
U ,,;⊂⊃;,、 ,,;⊂⊃;,、 ,,;⊂⊃;,、
U 》\ ( ,,・∀・) ∩・∀・) ∩・∀・)
U 巛 ⊂(# ⊂)】 (# ⊂ )】 (# ⊂ )】
wjw从w U ヽ(_/ `J`J. `J`J wjv从wvjwjMw
”"""”””””””””""””"””””""""””””””””””””""””””""""”””""""”””””
>514
「DeepRiverの続きが読めますように」
なかなかupが無いので、リレーを思いつきました。
長い、短い、シリアス、コメディ、何でも大歓迎です。
どなたか続きをお願いします。
今考えれば...始まりは悠里のこんな一言だったのかもしれない。
ある日の生徒会室。
「ねぇ、もしさぁ、6人で無人島に漂流して、こん中の誰かと結婚するハメに
なったらさぁ...」
「あんたも単純ねー。昨日ロードショー見たんでしょう。青い珊瑚礁」
呆れる可憐とは逆に、美童は真剣に考え込んでいる。
「この中の誰かと結婚って・・・それってひとりに絞らなきゃいけないんだよねえ」
女性3人を眺め回す美童を、野梨子は冷たい目で見ている。
「美童は真っ先に除外されますわね」
「なんでだよぉ」
「あら、サバイバル生活なんて美童にできますの?
結婚するなら、頼りがいのある殿方でないと」
――――――
続けてみました。どなたか続きをお願いします。
「まあでも、悠理はサバイバルに強いからね。美童、悠理に助けてもらったら?」
「そうなりますわよね。」
「そんなん嫌だよ!悠理のどこが女だ!」
と美童は無礼にも力いっぱい否定する。
「あたいだって嫌だよ!思いっきりあたいより弱い男じゃん。」
と悠理も精一杯否定する。
「でもあたしも野梨子も美童かかえてサバイバルなんてできると思う?」
と可憐が言うと悠理はだまりこんでしまった。
「そういう状況でまで自分より強い殿方を求めますの?悠理」
「だってあたいだってたまには守られてみたい・・・」
と悠理はしおらしく言う。
−−−−−−
頑張って続けましたが全然ロマンチックになりません。
現実的すぎるのはご愛嬌。
「・・・俺じゃ悠理は守れないし、やっぱりここは清四郎かなぁ」
魅録の一言に、清四郎が慌てる。
「僕だって無理ですよ! 第一、サバイバル経験はほとんどありませんし」
「あたいだって清四郎なんてイヤだい! 絶対女扱いしてもらえないもん!」
イーっと顔をしかめる悠理。
「そうなると、やっぱり魅録になりますの、悠理」
「だから、俺じゃ守るなんて無理だって」
「でも、美童もイヤ、清四郎もイヤじゃ、魅録しかいないでしょ?」
「う〜・・・、う〜〜ん・・・」
あまり考えて発言していなかった為、可憐の言葉に詰まる悠理。
「大体さ、野梨子も可憐も、守ってもらうことばかりじゃ、結婚しても長く続かないんじゃないの?」
先程の仕返しとばかりに美童が言った。
−−−−−−
続けてみました。
私もロマンチックになりませんでした。
どなたか、続きお願いします。
「そ、そんなこと…」
「…ないわよぉ」
反論するも、後が続かない野梨子と可憐。
その様子に笑みを浮かべていた魅録が、ふと思いついたように言った。
「でも、無人島生活ってのも面白そうだよな」
「ふむ、たしかに一度経験してもいいですね」
「そういえば最近父ちゃんが買った島で、そんなとこがあったじょ」
3人の会話に、残りのメンバーの顔が青くなる。
「「「まさか……」」」
−−−−−−
どなたか続きお願いします。
「無人島でサバイバルだじょ〜〜!」
「そうなると、やっぱり・・・」
「そうですね。男女ペアで生活してみますか」
「ええ〜〜っ!!」
「せ、清四郎! 私たち、幼馴染ですわよね!? 見捨てるなんて事、なさいませんよね!?」
「(・・・今の野梨子なら一人でやっていけるのではないでしょうかね?)」
鬼気迫る表情で清四郎迫る野梨子に、そう思っても恐ろしくて声できない清四郎。
「魅録〜!! あんた、かよわいあたしを一人にしようなんて思わないわよね!?」
「いや、あの・・・」
こちらも鬼気迫る表情の可憐に、すでに逃げ腰の魅録。
「悠理〜!! 僕を捨てないで〜!!」
「は、離せ〜〜!!」
腰にしがみつく美童に、必死で引き剥がそうとする悠理。
「組み合わせがありきたりでは面白味がありませんよ。不満もありそうですし」
「くじか何かで決めようぜ」
「賛成〜〜!!」
「反対〜〜!!」
反対したのは勿論、美童・野梨子・可憐の三人。
「別に他のペアと助け合っちゃいけないわけじゃないし、くじの方がすっぱり諦めつくだろ?」
魅録の説得に、渋々了承する3人。
「では、男女別々にくじを引いて同じ数字の相手とペア、でいいですね?」
清四郎の言葉に、全員が頷く。
そして、結果は・・・
−−−−−−
続き、どなたかお願いします。
「いやよっ。そんなお風呂もトイレも無い所なんて、絶対いやっ」
「そ、そうですわ」
「無人島っていっても昔はキャンプ場があったんだ。
それから海の側に温泉が湧いてて、それがすごく肌にいいらしいんだ。
母ちゃんにスパを造れって言われて、父ちゃんその島買ったんだ」
____________
続きよろしくお願いします。
重なっちゃいました。ごめんなさい。
スルーしてください。
>無人島リレー
けっこう面白い。
だけど、カプをどうするかで好みが別れそうですね。
案ですが、くじを間違えて男女カプじゃなくなっちゃって、
清&美、魅&野、悠&可とかの、接点があまりない感じの
組み合わせになるってのはどうでしょう?
いきなり、勝手なこと言ってすみません。
ただの意見なので、続ける方が別の展開を考えていらっしゃる
場合はスルーして下さい。
清美イイね・・・ボソリ
個人的に清野 魅美 悠可キボン(笑)。
でも清野だけ男女カプになっちゃうか。
最初、美&悠、魅&野、清&可がいいなーと思ってたけど、
清&美でもいいなぁ。
美童が清四郎にウザがられるのみたい(藁
>522
520→522→521にすれば問題ナッシングだよ
無人島リレーほんと面白いや。つづき熱烈キボン
野可にして、女の意地サバイバルバトルって言うのも有りだったり(笑)。
野梨子は可憐か美童とがいいな。
他の3人だとどうしても頼る側になっちゃうから、頼りにならない人がいいw
人に依存する野梨子より、アドベンチャーゲームの毒ヘビの時みたいな
開き直って大胆な行動にでる野梨子がすごい好きなんだよね。
でも運痴だから、やっぱりピンチに陥って、
そこへ別チームでも悠理が助けに入るみたいなシュチュが萌えw
清四郎でも魅録でもなく悠理!これだね!
野悠コンビ好きなんですよ、お互いの無いもの補い合ってる感じで。
>>530 人に依存しないいざとなったら踏ん張る野梨子が好きに、はげはげはげ同意。
で美童と組み合わせるなら、そんな野梨子に奮起されてかっこよくなる美童ってのも見たいな。
>530
>531
禿同。
でも、漏れの場合、あえて清四郎と組ませて清四郎のピンチや清四郎が解決できなかったことを
あっさりと大胆な行動で解決して欲しい(w
漏れは清魅、可野、美悠がいいなぁ
男チーム・女チーム・中性チームって感じで。
強い野梨子は原作でもここでも読めるから興味ないや。
むしろ土壇場に強い可憐とか、その強い可憐の気迫に負けて、
生きるために男チームや釣にきた観光客(?)色仕掛けする可野コンビとか見たい。
美悠もスゴクいい!!
悠理と組むことで、美童の知性もいかんなく発揮されるだろうし、
清四郎のように上から物を言わないので、悠理も素直に
「おまえ頭いーなー」と聞き入れそう。
「元は良いんだから手入れしなきゃ」と温泉と美童に磨かれて、無人島生活が
終わる頃には、すっかり女らしく綺麗になった悠理が…!!みたいなw
野悠コンビに期待。
そうなったら清&美、野&悠、魅&可とかかな?
どうでもいいけどつがい(w)の話は別にして、
「サバイバルだけだったら6人で助け合えばいいんじゃ・・・」
というツッコミを入れる清or魅ってのもありそう。
>535
話の発端が、悠理の
「6人で無人島に漂流して、こん中の誰かと結婚するハメになったら」
だったから、カップルになってたわけで。
多分、6人で助け合ったら普段と変わらないんじゃないかな。
でも、男女ペアだったら、そこでカップルになりそうで、
続きを躊躇しますね。
野悠コンビも面白そうだけど、
可野で、他の4人に笑われて、見てなさいよ! みたいに頑張る2人もみたいかも。
う〜ん・・・カップリングだけじゃなく、コンビでも好みがあるから、続きが難しいですね。
これだけ好みが分かれてたら、後に続けるの大変だよね。
誰か彼らに代わって本当にくじ引きしてほしい。
好きな組み合わせのお話を勝手に繋いでいくってのは?
「野&可の場合」とか「悠&美の場合」とか「魅&美の場合」とか
お目当ての組み合わせのにお話を継ぎ足すの。
各自タイトルにペア(あえてカプではない)名を入れる。
でもそうすると「魅&悠ペアがきになる野&清ペア」とか
いうのが書けないか。
自己完結スマソ
「では、みんな紙を開いてください」
「1ですわ」
「1だよ」
「2だじょ」
「2だぜ」
「3よ」
「3です」
_ _ _ _ _
リレーを始めた者です。
とりあえず521さんの流れで男女のカップルにしました。
(勝手にあみだで決めました。すみません)
分岐点にできるように、その1にします。
違う展開にしたい方はその2、その3として自由にお書きください。
そうなんだよねー、自分も三組に分かれるってのを見た時
カプやコンビの好みで意見対立するんじゃないかなぁとおもた。
538タンの言うようにリレー・分岐型としちゃう方がいいかも。
うんうん。同性コンビも良さがあるし、場合わけイイ!!
可野いいな〜
「それでは各自、自分の引いたカプセルの中身を開けてください」
「ピンクですわ」
「えっ!?あたしもピンクよ!」
「僕、あか〜」
「あかだじょ」
「オレ、青」
「青、ですな」
--------------
539さんに続き、
男チーム・女チーム・中性チームでとりあえず作ってみました。
(思いつきで、ガチャガチャのカプセルに色玉を入れて決めた設定にしちゃいました)
男同士、女同士もいいですね。
将来のこと、恋愛のこと、朝まで語ってほしいです。
特に清四郎と魅録。
>542
続き読みたい!
>533さんの可&野のサバイバル色仕掛け作戦も見たいw
>542
凄く続き楽しみ〜
清四郎と魅録には、男子高生らしく、異性経験についても語ってほしいなぁw
男同士で普通にするようなワイ談w
カプは揉めるし、同棲ペア凄くイイと思う。
同性コンビで悠可、清美ペアもみたいなあ。
残りの魅野だけ男女になっちゃうけど、このコンビはスルーでもいいからw
暴走愛うpします。
昼ドラ泥沼系ですので、苦手な方はスルーお願いします。
魅×悠×野。そして清×可です。
>>490 ギャルソンが黄金色のワゴンをしずしずと押して可憐達の席へやってきた。
スクエア型のチョコレートケーキにゆらめく炎は21本。
ぬかりない美童が可憐のために用意したものだった。
歓声が起こる中、静かに野梨子の携帯が揺れる。
そっと席をはずした野梨子は店の入り口付近で携帯を開いた。
「ええ、ええ。……そうですの、やっぱり会ってくださらなかったんですのね。それで……?
えっ、でも……ええ、それはよろしいですけれど……ちょ、ちょっと待ってくださいな、」
清四郎と思わず野梨子が口にした言葉に魅録は足を止めた。
思わず手にしていた煙草を握り締める。
入り口のキャッシャーの陰に隠れるようにして野梨子は話を続けている。
魅録は躊躇ったが、振り切るように彼女を後に席に戻って行った。
「……少しだけでも顔を出せませんの? 可憐きっと待ってますわよ。清四郎? 聞いてますの?」
食事は終盤に差し掛かっている。
「悠理、そういえばレポート出したか?」
「やべ。忘れてた」
「悠理、もう三回生なんですから、少し気を引き締めた方がいいですわよ。一般教養もそろそろ
終わらせないと。毎年同じ授業は飽きますでしょ?」
エスプレッソを口にした魅録が何気なく背もたれに左肘を乗せ大きく寄りかかっている。
そんな友人を横目に見ながらこれもエスプレッソを口に運んだ美童が何気なく切り出す。
「そういえば魅録と野梨子ってさ、つきあってどれくらいになるの?」
さっきまで大笑いしていた悠理の笑顔が固まった。
可憐がちらっと野梨子に視線を走らせる。
野梨子は魅録と目を合わせた後、困ったように紅茶のカップに唇をつけた。
黙って椅子を前後に揺らしていた魅録がぽつっと言った。
「いや。そういう……あれじゃないんだ」
「あれじゃないって?」
無邪気な微笑みのまま追及の手を緩めない美童に野梨子が苦笑する。
「美童。何か勘違いしてますわ。私たち別に……そういうあれじゃないんですの」
「そうだな」
悠理が硬直したままアイスコーヒーを引き寄せると、ガラスの容器に入っていたガムシロップを
全部その中にぶちまけ、音を立てて飲み干した。
そんな悠理に視線を向けながら美童は続ける。
「なんだー。てっきりそういう仲なんだと思ってたけど。よく一緒にいるからさ。
なんだー。そういうあれじゃないんだ。僕の勘もはずれたなあ」
奇妙な間が全員を包む。
微笑んで美童が野梨子の肩に手をかける。
「じゃあさ、今度は僕とデートしようよ、野梨子。魅録に気使って今まで誘わなかったけど」
可憐が目を丸くして美童を睨む。野梨子が驚いた顔をした。
美童があれ?と悪戯っぽく小首を傾げた。
彼女の肩にかけられた美童の白い手を魅録が黙ってはずしにかかっている。
魅録は美童の手をはずし終わると、そっと野梨子の肩を引き寄せた。
悠理のストローがズッと最後の音を立てた。
「さっきのわざとなんでしょ?」
プジョーの助手席に体を埋めながら可憐はハンドルを握る美童を見上げた。
美童は微笑んで黙っている。
「どうして?」
「なんかね。見てられなくって」
「誰? 魅録?」
「ううん、悠理」
可憐は体を美童に向けた。
「悠理は魅録が好きなのよ、きっと」
「だからさ。僕、悠理にはいつもニコニコしててほしいんだ。ウジウジしてる悠理って悠理っぽくない」
ふっとため息をついてハンドルを切る。
「魅録は野梨子しか見えてないだろ。さっさとあきらめればいいんだよ、悠理も」
「……ここで止めて」
突然車を降りる可憐を慌てて美童が追いかけてくる。
「どうしたんだよ、突然。可憐ー」
振返りもせず歩いていく可憐に美童はやっと追いつくと腕をつかんだ。
眉間に皺を寄せた彼女の表情にどきりとする。
つかまれた腕を振りほどいた可憐の声は怒りを含んでいた。
「美童。あの子の気持ちはあの子のものよ。他の人にどうこうする権利はないんじゃない?」
腕を引きながら美童は困惑した顔を見せる。
「だってさ、今のままじゃ蛇の生殺しだろ?」
「それでもいいのよ。自分の気持ちのおさまりがつくまで勝手にさせてやってよ」
「だって……」
「報われなくてもいいのよ。振向いてもらえなくてもいいの。ただ好きな人の顔を見て
声を聞くだけでいいのよ。辛いけど恋って……そういうもんじゃなかった? 美童」
「……そっか。そうだね。忘れてたよ、可憐」
可憐は自分がまくし立てていたのに気づき、頬を赤らめ口を手で押さえた。
美童は両腕を抱えて苦笑していたが、ふと気づいたように可憐の耳に手を伸ばした。
「可憐、左耳のピアスが無いけど落とした?」
あわてて可憐は左耳に手をやる。
自作のお気に入りのピアスを触ろうとしたが、ただ柔らかい耳たぶしかそこには無かった。
「電話したら?」
「掃除の時に捨てられたりしたら嫌だし、自分で探すわ」
美童の車にもピアスが見つからなかったので、二人はさっきの店へ取って返していた。
店の前で美童は車を止めた。
続けて後ろにタクシーが滑り込んだ。
可憐は美童に礼を言うと車から降り、慌ただしく店に向かおうとした。
その時、何かが可憐を引き止めた。
懐かしい気配に声をかけられたような気がして、可憐は振り向いた。
美童の車のすぐ後ろにオレンジ色の車体をしたタクシーが止まっている。
タクシーの後部座席に男が一人乗り込んだところだった。
顔は見えなかったが紺のジャケットを手にした男の半袖シャツからやや筋肉質の腕が
のぞき、その手首にシルバーの時計が光った。
男が乗り込むとすぐにタクシーは走り出す。
道の灯りに暗かった車内が一瞬照らし出され、可憐は息を飲んだ。
長めの前髪が額を隠していたが、その前髪の下に見え隠れする芯の強い瞳。
すっきりと通った鼻梁。薄い唇に指を当てて何かを考えている顔。
あれは。
あれは。
「せ……!」
叫ぼうとして可憐は思いとどまった。
人違いに決まってる。
彼は京都にいるのだから、こんなところで見かけるはずがない。
三年も会ってないのだから、ほんの一瞬で見分けられるはずがない。
そうだ。
きっと彼に会いたい気持ちが私の中で渦を巻いて幻影を見たのかもしれない。
胸が動悸している。額を汗が滑り落ちた。
でも、もしかしたら。
タクシーが走り去った後を見つめる。もちろんタクシーは影も形もない。
もし、あれが清四郎だったら、聞きたいことがたくさんある。
なぜ三年も帰って来ないのか。
なぜ手紙の返事を一つも寄越さないのか。
なぜ私に会いに来てくれないのか。
「もう……忘れちゃった?」
呟く可憐の耳に相棒を無くしたピアスがきらりと光る。
続く
>暴走愛
すれ違いですか…。
いろんな意味ですれ違いがあって、読んでると切なくなってきます…。
>無人島1
父が亡くなった時の事を泣きながら清四郎に話す可憐。
そっと抱きしめる清四郎の姿を偶然見てしまって
なぜか涙が止まらない悠or野っていうのはどうでしょう。
おおそれは恋愛路線まっしぐらですか。
>暴走愛
切なくて切なくてたまりません…えーん
>無人島1
恋愛路線もイイ!かも。ほんとにくじで決めてくれたペアだし。
何気に美野に期待w
うーんと、いきなり恋愛路線って、無人島とかサバイバルの必要まったくないんじゃ…
>542
「まっ、くじも引いたし、これで決まりということで」
しばし呆然とする面々に向かって、魅録は明るく言った。
「どこが男女ペアよ」
「そうですわ。話が違うじゃありませんか」
「悠理がくじを作るハシから箱の中に放り込むからだよ」
「ええっ、あたいが悪いの〜〜!?」
「まあまあ、野梨子も可憐もこれを機に人に頼らずにやってみたらどうです?
なんかありましたら手助けしますし」満面の笑顔で言う清四郎。
「でもっ、」言いかける可憐を制して、野梨子は冷ややかに言った。
「それで結構ですわ」
「僕もいいよ」すっかり悠理に頼るつもりの美童がほいほい賛同する。
「う〜ん、まっ、いっか」と悠理。
これで反対は可憐一人しかいない。
「じゃあ多数決で決まりということでいいですね」
男二人は目配せをし、共犯者の笑みを浮かべた。
--------------
少しだけ進めてみました。
もちろん清四郎も魅録も気付いていてわざと何も言わなかった、と。
で、>536さんのような女性二人の奮闘に繋がるように、野梨子はそれを察知して
ちょっと怒っているという風にしてみました。
どなたか続きよろしくお願いします。
>558
「では、出発は明日の朝9時に」
出発時刻の決定にメンバーが慌てる。
「えー明日!?じゃぁ、今日買い物に行かなきゃ!」
「急だな、あれをダチから借りて、、、倉庫に置いてた奴もあったほうが便利だよな、、、」
それぞれが無人島へと行くための準備を思案している
「そんなに準備していてはサバイバルの意味がありませんわ」
「ちょっと、野梨子ぉ」戸惑う可憐を気に留めず野梨子は続ける
「今日行きましょう」
「お、おい、今日出発じゃ、ろくな準備できねぇぞ」
「・・・」
驚いてる魅録と何やら考え中の清四郎を野梨子は見て微笑み
「あら、準備無しでは、自信がありませんの?」
「ふむ、結構ですよ。明日になったら、誰かさんが怖気づくかもしれませんからね」
「まぁ!」
野梨子と清四郎は、しばらく睨み合い
「じゃぁ、出発は1時間後に」
「悠理、ヘリの用意お願いしますわ」
「わ、わぁった」
「二人とも怖いよぉ」
二人の気迫に、誰も逆らうことはできなかった。
--------------
558さんに続き出発まで繋げてみました。
キャンプ場だとテント?ログハウス?どちらなんでしょう。
>無人島その2
清野の絡み最高!原作のお正月の時の
話を思い出しました♪続きたのしみ〜
>559・無人島その2
とうとう動き始めましたね〜。続きメチャ楽しみです。
通常キャンプ場にはテントとログハウス、
あと備え付けのキャンピングカー(これ、トイレ付いてる。可野はこれを狙った方がいいかも)
なんかが常備品で備え付けられてますよ。
無人島その1バージョンの始動もすっごく楽しみにしてます!
清四郎って無人島でもスダレ頭なのだろうか・・・。
>>
http://houka5.com/yuukan/long/l-29-2-5.htmlより 相変わらず、人々は躍起になってゲームに興じている。司会のアナウンスに耳を
寄せると、どうやら何人かはすでに当たりを手にしたようであった。中でも海外旅行の
豪華旅行を贈られた女性は、興奮のあまりステージ上で顔を真っ赤に蒸気させている。
美童と分かれた後、特にすることもなかった魅録は、とりあえず手元に資料に顔が
載っている人物をそれぞれ確認し、記載されている人柄と見た目の印象が同じである
かどうかを見比べていた。
このパーティーを開いた真意はいくつもある。
まず、反専務派の動向を知るために、彼らの携帯電話細工をすること。
次に、部外者にすぎない魅録が、実際に社内の相関図を目にする機会を作ること。
また、彼らやその秘書たちに接触することで情報収集を図る。
みっつめとして、悠理と今井の会長令息との間に、縁談があるように周囲に錯覚させ、
それによって今井メディカルの動きを鈍くさせること。またこの時期の悠理の縁談は、
剣菱の会長の椅子が豊作にのみ与えられるものではないことを示唆する。このことは、
将来豊作が会長になることに反発し、剣菱精機社長・戸村を新会長に推す人間たちに
とって、ちょっとした揺さぶりとなるだろう。
よっつめとして、剣菱内部で魅録が動きやすくなるために、裏工作をすること。
細かくあげれば、他にもいろいろあるのだが、大まかにはこのようなものだ。それらは
半ば達成することが出来た。後残るのは。
そこまで考えたところで、魅録は見覚えのある人間がいることに気がついた。洒脱な
眼鏡が特徴的な青年――開発部の加瀬である。
白衣姿ではないため気づくのが遅れたが、加瀬だけでなく、室長の高田もいる。
開発棟で研究の方向性について喧々諤々していたのが嘘のように、ふたりは和やか
に談笑していた。後から豊作に聞けば、ふたりは同期なのだという。形としては高田が
室長だが、彼らは上司と部下ではなく、あくまで対等な位置づけにあるそうなので、
仕事を離れると仲の良い友人であるというのも頷ける話だ。
「こんにちは」
魅録が声をかけると、ふたりは驚いたように目を丸くした。
「ああ、君は……髪がピンクになってるから分からなかったよ」
まず室長の高田がそう言った。
「ええ、さすがにピンク頭で会社をうろつくのは豊作さ……専務に悪いと思いまして」
「驚いたけど、魅録君にはこっちの頭の方が似合うよ」
これは加瀬の台詞である。前回会ったときよりも幾分フランクな調子であるのは、
傍に専務である豊作がいないせいか。もともと魅録には、それほど親しくない人間にも
ファーストネームで呼ばせてしまう気安さがある。
加瀬は続けて言った。
「ところで君は何者なんだ? 社内では、君についていろいろな憶測が飛び交っていた
んだよ。まあ俺たちは君が高校生であることを知っているから、会社改革のために派遣
されてきたエージェントとは思わないけどね」
最後のくだりに、魅録は苦笑する。
八代儀一も同じようなことを言っていたが。
「そんな噂があったんですか。残念ながらただの高校生ですよ。今回はただの社会見学」
「コンピューターに詳しいようだが、将来そっちの方面に就職するのかい?」
高田の言葉に、魅録は珍しくも返答に窮した。彼の質問は、図らずも痛いところを突いた
のである。今、魅録は将来自分がどのような道に進むのかを決めかねていた。
このまま聖プレジデント大学にエスカレーター入学し、その後にゆっくり将来について
考えるのも悪くない。だがそれで本当にいいのだろうか? もっと早くから自分の生きる
道を見極め、動き出す必要があるのではないだろうか。
魅録にそういうことを考えさせた切っ掛けはもちろん清四郎である。
「……いや、まだ何も考えていないんですよ」
「まあまだ高校生だしねえ」
高田はあっさりと納得したが、一度曇った魅録の心は、しばらく晴れそうにはなかった。
そこで彼らしくもなく、話を変えるために別の話題を振る。
「それにしても加瀬さん、こんなところで油売っていていいんですか?」
豊作より、カテーテル素材の研究をする許可を得たばかりではあるが、その期間は
半年。研究というものがどれぐらい時間のかかるものか魅録は知らないが、けっして
長い期間とは言えないだろう。
魅録の言葉に、加瀬はうんと頷いた。
「明日から本格的に開発に入るから、しばらくは寝食忘れて研究に没頭することになる
だろうな」
あのとき豊作に向かって熱弁したときとは打って変わり、加瀬は淡々と答える。だが、
その眼差しは真剣である。寝食忘れて、との言葉はけっして誇張ではないだろう。
己の仕事にこれほど打ち込める人間はそういないだろう。自分は彼のようにストイック
に生きることは出来ない。だが、彼のように情熱を燃やすことの出来る仕事を見つける
ことが出来たならどんなにいだろうか。
「頑張れよ。お前は俺たちの期待なんだからさ」
そういう高田も、魅録と同じように羨望の眼差しで加瀬を見ていた。
現状に疑問を持っている人間からすると、加瀬の生き方はひどく眩しい。
そんなふたりの様子に気づかぬ様子で、加瀬ははにかむように笑った。
「何言ってるんだよ、室長のお前に俺こそ期待してんだぜ」
「分かっている。絶対やり遂げないとな」
加瀬と高田は肩を叩き合った。
しっかりと結ばれたふたりの友情を、魅録は羨ましく思った。
ふたりから分かれて、ふたたび魅録は会場内の観察に戻った。
あらかじめ資料から頭にインプットしていた剣菱グループの幹部たちの写真を、実際
の姿と照合しながら、そのひととなりを評価する。
こうやって人込みの中を歩いていると、財界の中で豊作はまだまだほんの若造に過ぎ
ないといことを実感する。剣菱の令息ということでけっして粗略に扱われることはない
だろうが、それでも並大抵の努力では一人前の相手として認めてもらえないだろう。
――なにしろ、一般的な若造としては少々規格外であるあの清四郎でさえも、この
超巨大企業の前にはずいぶんな苦労を強いられたのだから。
だいたいのチェックが終わったところで、ジャケットの内ポケットに入れていた携帯が
鳴った。
「清四郎?」
『とりあえず状況報告。五人の携帯に例のものを仕込みました。ただ携帯を自分で
持ってない人もいて、全員は無理そうですね。ゲームの時間もそろそろ終わり
しょうし』
「十分だよ、それで。お疲れさん」
ただ携帯を盗むだけならともかくとして、盗聴器を仕込まねばならないのだ。結構
大変な作業である。魅録にしたところで、三人上手くいけば十分だと思っていたのだ。
それを五人もやってくれたのならば上等である。
本当は、家で本人が携帯を手放したときに、こっそりと差し替えるのが一番やり
やすい形なのだろうが、さすがに誰かの家に忍び込むにはそれだけのリスクが伴
う。見咎められたら弁解の余地がないだけに、準備もせずにそう何軒も侵入出来る
ものではない。
会社の中での犯行にいたっては、重役の身辺は秘書が固まっており、とてもでは
ないが手を出せるものではないことを前回の会社訪問で確認済みだ。
今回清四郎には、侵入が難しそうな家に住んでいる人間を中心に、携帯を細工して
もらった。取りこぼし分は、これから自分が悠理と一緒に行うことになる。
もう一度礼を言ってから通話を切ったところで、ちょうどゲームが終了したようであった。
人目につかぬ会場の隅での事件は、運良く誰にも見咎められることはなかったらしい。
悠理は、先ほど自分が床に沈めた男を介抱しながら、周囲の様子を伺った。
ゲームに熱中し、脇目も触れずお尻を突き出して紙を捲っている人々は、隅にいる
人間のことなど気にしていない。
安堵の吐息をついて、あらためて今井昇一の方を向く。
「ったく、こんな凶暴なお嬢様なんて聞いたことないよ」
ボヤキながら、今井グループの令息は起き上がった。
うんざりとしながらも、作戦上無碍にも出来ず、悠理は「ごめんなさい」と謝った。
常の彼女なら「わりぃ」と軽く言うだけですますところではあるが、一応(建前としては)
目の前の人間は、自分と縁談が持ち上がっている筈の男である。今のところは大人しく
している必要がある。自由気ままに生きてきたといっても、それぐらいの分別は悠理にも
あった――今更といえば今更であったが。
「あの――ちょっと驚いてさ。つい」
はははと誤魔化すように笑うと、「つい?」と昇一はますますジト目になった。
「君、超巨大な猫をたくさん被ってたね?」
まさにその通り。
返す言葉もない。
ああ、あたいってなんて馬鹿でアサハカなんだろう。
せっかく兄ちゃんや魅録が頑張ってんのに。
自己嫌悪に悄然とした表情をした悠理を見て、丸丸は少し語尾を柔らかくした。
「まあ、君くらいの年の子に結婚話なんかがきたら、嫌なのは分かるけどね。大丈夫、
さっきのことご両親に言いつけたりなんかしないから安心して」
どうやら、落ち込んでいる悠理を見て、同情心が湧いてきたらしい。かなり勘違いをした
ままであるものの。
悪い奴じゃなさそうなんだけどなーと、悠理の方も騙しているという罪悪感がむくむくと
湧いてきた。
「僕も急に迫って悪かったよ――まだ子供である君にいろいろ言ってさ」
猫を被らない悠理のあまりに幼い様子に、昇一はようやく悠理がまだ高校生であることを
実感したようである。情報として知ってはいても、華やかに着飾り、物怖じせず会場に馴染
んでいた悠理を、十分に大人のレディであると彼は今まで認識していたのだった。
「……それにしても困ったな。君も嫌だとは思うけど、形だけでいいからさ、今日のところ
は僕に大人しくエスコートされてくれない? もうあんなことしないからさ」
「なんで? もうあたいと結婚する気なんてなんてなくしただろ? なのにあんまりあたいと
仲いいように見せたら、あとで昇一さんが困るだろ」
もっともな悠理の言葉に、昇一は苦笑した。
彼女自身が言うとおり、こんな元気良すぎる少女を今井の嫁に貰うわけにはいかない。
破談させるには、さっさとその意思表示をするのが一番である。
しかし自分にだって面目というものがあるのだ。
「顔合わせ初日で振られたなんて格好がつかないだろ。何回かデートでもして、円満に
破談にもっていきたいんだけど、僕としては。おいおい両親は僕が説得するからさ
それは悠理にとっても願ったり敵ったりの提案であった。
今井側はともかくとして、剣菱側にとって今回の件は周囲に対する牽制でしかない。ここ
で昇一に本気で結婚を申し込まれても困る。反対に、まったく今井側が剣菱との結婚に
興味を向けないというのも意味のない話なので、渡りに船といったところだ。
単純な悠理は、結局、昇一を言いように利用してしまうことに胸を痛めた。だが、はじめに
卑怯なことをしたのは今井メディカルである。今井メディカルは言うまでもなく、今井グループ
の企業である。魅録あたりに言わせると、自分のところの会社の不始末は、もちろん自分
たちでつけるべきなのだ。
「うん、分かった。昇一さん。そろそろ会場の中心に戻ろう。ゲームが終わったようだし、
父ちゃんたちが待ってる」
”父ちゃん”か――、あまりにお嬢様らしくない悠理の言葉遣いに昇一は苦笑する。
自分の両親は、剣菱との縁談を熱望する反面、「あの成金が」と侮蔑してもいた。
良い家柄ではないが、財力はあるから――そういう汚い打算をし、今回剣菱の招待を
受けたのだ。
昇一自身も、悠理は美しいとは思ったものの、彼女自身よりも彼女の持つバックグラウンド
に惹かれ、両親に唯々諾々として従った。そういう意味で、彼はどうしようもなく大企業の
御曹司である。
だが、成金のお嬢様も存外悪くないかもしれない。
陰湿な自分の姉妹たちを思い浮かべながら、少しそんなことを思う。
「そうですね。そろそろ戻りましょうか」
昇一は着崩れたスーツ簡単に直す。悠理に暴行を受けたため、かなりみっともないことに
なっていたのだ。
「よし、行きますか悠理さん」
身なりを整えて、ようやくいつもの調子を取り戻したと見え、昇一は馬鹿坊ちゃんスマイル
を再び浮かべた。さっきまでの素の表情の方が良かったのにと思いながら、悠理は彼の
傍らに並ぶ。
「ああ……じゃなくって、はい」
ついいつものように返事をしそうになったものの、少し考えて、悠理は言い直した。あくま
で体面を守る昇一に感化されたのかもしれない。
お嬢さんってこんなふうにするんだっけ?
実際、自分で演じてみたことはないが、目だけは肥えている。悠理は自分の周りにいる
数多のお嬢様たちを思い出しながら、彼女たちをサンプルに、自分なりに微笑んでみた。
一瞬にして空気を変えてみせた悠理に、昇一は息を呑む。そんな彼には気がつかない
悠理はそのまま歩きだした。一歩遅れて、昇一も慌てて歩き出す。
ひらひらと深い闇色のドレスの裾が翻っている。大胆なデコルテのドレスは、白い背中を
惜しげもなく晒していた。
風を切る亜麻色の髪、馴れないヒールの不器用な歩調、無邪気な――。
「悠理さん」
「え、」
思わず呼び止めてしまった自分に驚く閑もなく、昇一は無意識のうちにその二の腕を掴
んでいた。悠理の柔肌に、自分の指が食い込むのを呆然と昇一は眺めている。
遠く、人々の嬌声が聞えた。
ゲームは、なかなか招待客に好評だったようだ。
頬を上気させた紳士淑女たちは、冷たいワインでお互いの健闘を乾杯し、無邪気なゲーム
の感想を言い合う。誰も彼も少し疲れた様子ではあるが、興奮が醒めたあとの雰囲気は、
なかなか和やかである。
相変わらず万作は粋がいいというか、豪快である。
どれもこれもが豪華な賞品であり、見事獲得した者も、そうでなかった者も、一様に浮かれ
騒いでいる。
そんな様子を見ながら、魅録は悠理に通信を繋げる。
「おい、そろそろ会場の中心に戻ってこいよ」
だが、待てども返事はやってこない。
もし近くに人がいて声を出せないのならば、ピアスを弾くことで返事の変わりにする約束
である。
ピアスを落としたのか、それとも――。
『 悠…さ……』
聞えてきたのは、悠理の声ではなかった。男の声。音が飛んで、悪い。
他の音は何も拾わないというのに、何故だか異様な雰囲気を感じ取って、魅録は会場を
慌てて見回した。
ツヅク
毎度のことになりますが、更新の停滞申し訳ございません。
(あと大量うpも)
コンスタントな更新をなんとか…頑張ります(汗)
>秋の手触り
お〜!ちょうど嵐さんの所で読み直してたんです。
もう夏になったし、次の秋まで読めないのかと心配しました(w
続き楽しみにしてます!
>秋の手触り
わーい、続きだ!
待ってました。
どうしましょう、悠理ってば貞操の危機ですか?!
間に合うのは魅録でしょうか、それとも・・・
>秋の手触り
本当に待ってました!!(感涙) 秋の手触り大好きなんですよっ
この話の悠理と魅録が特にスキですv
悠理と今井の坊ちゃんはどうなっちゃうんでしょうか。
続き、お待ちしておりま〜す!
>秋の手触り
久しぶりのアプ嬉しいです!
このお話の倶楽部らしさのある企みや動き、非常に楽しんでます。
コンスタントな更新を目指すとのコト、とっても楽しみにしています。
突っ込まれる前に誤字の訂正を(汗)
丸丸=昇一
に脳内で変換しておいてください。
(どこのことか気づかなかった方は、どうかそのままで)
後で訂正するつもりが、漏れました。
いつも誤字多くてすみません。一応推敲しているのですが、うっかり者で。
>>570 「悠理さん」
自分を呼ぶ声に何気なく振り返った悠理は、突然思わぬ力で二の腕を引かれ、目を
見張った。
「なっ」
昇一が真剣な眼差しで自分を見ている。その視線の意味に気づき、悠理は臆した。
普段は自分が女であることを意識することはないが、女の一番弱いところを彼女もまた
身体の中心に抱えているのだ。
――否、数ヶ月前の悠理であれば、昇一が男性性をあらわにすればあらわにする程、
なおのこと、彼を手酷く拒絶したはずであった。
だが今、悠理は抗うことで出来ず、ただ竦むばかりである。
そのときだった。
『おい、そろそろ会場の中心に戻ってこいよ』
場違いに暢気な声が通信機から聞えた。魅録だ。
魅録、と声を出して助けを求めることも出来た。出来たはずなのに、咽喉は干から
びたように何の音も出してくれない。昇一の目に釘付けになってしまっている。
「悠理さん」
もう一度、昇一は悠理に呼びかけた。
今度は無意識ではなかった。彼は衝動的な己の行為に束の間呆然としていたが、
自分なりにその意味を考え、とりあえずの結論を出していた。
「やっぱりさっきの言葉、訂正します」
言葉を選びながら、昇一はゆっくりと言う。
「て、訂正って」
嫌な予感がして、悠理は声を裏返らせる。
「君を今井の嫁に貰うつもりはないって話。やっぱり、もうちょっと時間をくれませんか」
「な、なんで」
「今、ちょっと君と結婚するのもいいかなって思ってしまいましたから」
言ってから、昇一は悠理が怯えていることに遅まきながら気づいた。
どうやら自分は、またもや性急にことを進め過ぎたらしい。
(庶民のように振舞ってるけど、実際にはかなりの純情なのかも)
昇一とてそれほど恋愛経験が豊富であるわけではない。今まで彼に擦り寄ってきた
のは、今井グループ令息であるというだけで媚を売ってくるような女性ばかりであった
し、彼自身もそのことに気づきながら特に不満を持っていなかった。たまには自分から
女を口説くこともあったが、簡単に落ちぬ相手だった場合、大した執着もなく早々に諦
めていた。
女性関係で今まで苦労したことがないツケが、今になってやってきたのかもしれない。
(こんな小さな少女相手に、なんてスマートじゃないんだ、僕は)
それでもスマートな遣り方など、昇一は知らない。
「そ、そんなこと急に言われたって困るってば」
じりじりと悠理は後ずさるものの、二の腕を掴まれてそれ以上は下がれない。まとも
に取っ組み合いをすれば、所詮生っちょろいお坊ちゃまにしかすぎない昇一が勝てる
はずもないのだから、お得意の蹴りで引き剥がせばいいのだ。なのに、いまや悠理は
蛇に睨まれた蛙のように動くことができずにいた。
昇一としても、必死だ。まだ悠理に対して恋だとか愛だとかいう具体的な感情を抱い
ているわけではないが、ここまで気になる異性に出会ったのは初めてのことである。
このまま分かれたくないという思いが先にたった。
「どうして? 恋人はいないって聞いたよ。――それとも好きなヤツでもいるんですか」
「ま、さか。とりあえず、手、離せよ」
無論、離せと言われて離せるものでもない。ここで手を離せば脱兎の如く逃げられる
のは自明の理。その後は避けられて、会うこともままならなくなるだろう。
――ちなみに、他者から見ればどう見ても口説いているというより、脅しているという
方がぴったりくる光景であることに、昇一は気づいていない。
「いないんですね。じゃあ、お試しで僕と付き合ってみるのもいいじゃないですか」
とんでもない。
慌てて悠理は白状した。
「い、い、いるよ!」
「この後に及んでまた……」
「本当だってば、あたいは……っ!」
そう叫ぼうとした瞬間だった。
「悠理、どうしたんですか!?」
揉みあうふたりの間を割るように、凛とした声が響いた。
刹那、悠理の顔が泣き出しそうに歪んだ。
――その表情に見蕩れ、昇一はふと状況を忘れた。
「せ、清四郎っ」
ふと緩んだ昇一の腕から悠理はするりと逃れる。
「あ……」
手のひらが感じる喪失感に、昇一は思わず声をあげた。そうして為す術もなく、悠理
の背中を見詰める。駆けていく悠理のドレスの裾は、恰も黒揚葉蝶のようにひらりひらり
と翻った。
悠理の行く手に、声の主である青年がいた。青年――清四郎は、悠理を庇うように
して立つと、眼光鋭く昇一を射る。
場数を踏んでいる悠理が怯えるなど、よほどのことである。なにやら揉めている様子
だった昇一と悠理を偶然見つけた清四郎は、慌てては駆け寄ったのだ。
「僕の友人とどうされましたか」
突然現れた青年に、昇一はしどろもどろになった。おそらく年下に違いないが、それ
にしてはやけに威容がある。この若さでこの眼光、ただ事ではない。
視線を泳がせた昇一は、ふと悠理に辿りついた。
悠理は清四郎を見ていた。助けて貰って嬉しそうでありながら、それでいて、泣き
出したくてたまらないような。また、どこまでもいとけない少女のような表情にも見え
たし、反面、ひどく大人びても見える。
相反する性質を持つその表情に、ふと昇一は悟った。
この男が。
この男こそが、彼女の。
「
――なんでもないよ。騒いで悪かったね」
とりあえず、昇一は身を引いた。目の前の男とことを構えるのは不味いような気が
したのだ。
そのままその場を立ち去ろうと歩き出す。
――擦れ違う直前、昇一は悠理に囁いた。
「……悠理さん。やっぱりさっきの話、君にとっても悪くないと思うよ」
昇一の言葉に何もかも悟り、悠理は身を強張らせた。
全てを見透かされている。
「一体どうしたんです?」
未だ厳しい眼差しを去っていく昇一の方に向けながら、清四郎が悠理に聞いた。
悠理は安堵と――隠しようのない喜びに瞳が潤んできたのを自覚した。そうして
素直な気持ちで怖かったことを伝えようと――先ほど起こったことを話そうとして。
「何か豊作さんに関係したことですか? 何か今井グループは感づいているのとでも」
――すうっと、心が醒めていくのを、悠理は感じた。
それは春先からは馴染みとなっている感覚であった。
――あたいは馬鹿だ。
あたいは、何を期待して。
何をそんなに期待して。
「なんでもないよ。計画通り。今井は剣菱との結婚にかなり必死みたいだぜ」
なんでもないことのように笑ってみせた。
あたいは、やっぱり女じゃないんだ。
お前の心の中は今でも。
今でも。
『本当だってば、あたいは……』
切羽詰まったような悠理の声に、足が止まった。
そしてそのまま思考までも止まってしまった。
人混みの中で急に立ち竦む魅録に、人々は訝しげな視線を遣る。
不審な目で見られていることを自覚しながらも、しばらく魅録はそのまま無線から
流れてくる音を聞いていた。
息がしにくい。
空気が奇妙なほどに薄い。
それとも、理解不能の感情が胸を塞ぎ、呼吸を妨げているのだろうか。
『せ、清四郎っ』
――お前、そんな普通の女の子みたいな声を出すことが出来たんだな。そんな
声音だけで秘めていた感情の全てを推し量ることが出来るような声を。
魅録は細く息を吐き出し、そうして必死にあの男を見ているだろう少女に思いを
馳せた。
(馬鹿だな、悠理)
ああ……息苦しい。
(あいつに惚れたって、しょうがないだろ)
だってあいつは、今でも野梨子しか目に入っていない。
不毛な恋をする友人を、魅録は苦笑した。苦笑して――天井を見上げる。
高い天井からは豪奢なシャンデリアが無数の光を反射して煌き、目映いばかり
である。
魅録は不可解な己の感情を持て余して、瞳を伏せた。
執拗く付きまとう男に、とうとう野梨子の自制心もぷちんという音を立てて切れた。
「いい加減にしてくださいな!」
普段、滅多に人前で醜態を見せない野梨子であったが、こうも延々と背後から
気障な言葉で口説かれたなら、いかな彼女でも気がおかしくなって当然であった。
「一体どういういうつもりですの!?」
はしたなくも勢いよく振り返る。
眦を吊り上げて八代を睨めつけた野梨子であったが、あまり効果がなかった。
かえってその上気した頬が八代の笑みを誘う。
まだ少女だ。少女だが――十分に女だ。それも極上の。
「だから言ったじゃないですか。家まで車で送らせてほしいってね」
「結構ですわ!」
八代は自他共に認める女好きだが、実のところ誰でもいいわけではない。彼が
かなりの面食いであるのは事実ではある。しかし容姿だけでなく、その気性も好ま
しい相手でなければ声をかけることはない。野梨子は不幸なことに、そんな八代の
お眼鏡に適ってしまったのだ。いや、適うどころの話ではない。
八代儀一(26歳)一生に一度の不覚。
惚れてしまったのだ。
数多の浮名を流し、そのどの女性に対しても「本気で愛してる」などと、たわけた
ことを平気で言い放つ八代であったが、ここまで心を惹かれたのは初めての経験
だった。
この年下の少女に、である。
「うーん、嫌われたものだなぁ」
衆人監視の前で派手に追い回したのだ。自業自得である。
だがどこから見ても完璧無欠のお嬢様である野梨子が取り乱す姿が、成人男子
である八代にはあまりに可愛らしく、嫌われることを理解しつつもついつい突っつ
いてしまうのだった。
だが言っていることは冗談でもなんでもなく事実である。野梨子の方はそうでなく
とも、自分は野梨子に運命を感じたし、感じた以上はこの恋を実らせなければ八代
儀一の名が廃る。
君には迷惑だろうけど諦めてね。
胸の中でそのような勝手なことを思いながら、くすりと八代は微笑む。ますます
憤慨した野梨子が声を張り上げようとしたところを、そっと手のひらで唇を覆った。
「でもね、僕を味方につけておいたら何かとお得だよ。君たちにとってはね」
囁かれた甘い言葉に、はっとして野梨子は押し黙る。
八代の所属するマーケティング部は、部全体が戸村社長派――つまりは反専務
派である。その中でチーフの座にいる八代が自分たちの側についてくれたら、なん
と心強いか。
そして、逆に。
抜け目無さそうな彼が敵に回ったら。
「……どうすれば、豊作さんの味方になってくれるといいますの?」
「ただちょっと僕とお茶したり、お話してくれるだけでいいよ。なんせ僕は恋の奴隷
だからね」
茶目っ気たっぷりに言って、器用なウインクひとつ。
それに甚だ脱力しながら、野梨子は諦めた。
ツヅク
>秋の手触り
二日連続で読めるとは嬉しい!
魅録も悠理も、切ないですね。
野梨子がこの先八代氏をどう転がすのかも楽しみ。
>秋の手触り
がっっっ
や、やられた〜〜〜〜。
まさかそうであったとは……。
ちょっとツボを突かれまくって息も絶え絶えです。
うーん。すごい。ひょっとすると次もすぐうpがあるんでしょうか。
期待大です!
悠理が清四郎を!!?と突然の展開にビックリしたけど、
ちゃんとはじめっから読んだら、ちょこちょこ匂わしてるね。
気づいてなかったり、読み飛ばしてしまってたけど。
続きたのしみ。
>秋の手触り
うーー、こーれはー切ない。女性陣の中で一番恋に縁遠そうな悠理が
完全なる片思いに絶望する様って一番やるせないです。弱いです。
しかもこうもはっきり書かれると、もうもう、涙。悠理幸せになってくれ。
586さんの言う通り「春」の時点から悠理の恋には触れてたんですよねぇ。
ともかく、続きどうぞよろしくお願いします。
なんか悠理マンセーレスになるとスレの活気が止まるよね・・・
>秋の手触り
改めて読み直しました.
原作みたいなストーリーのうえ、所々恋愛もあって
すごく楽しめました。続き楽しみにしてます。
>>588 すみません、、、別に悠理マンセーなつもりはないんですが、
彼女が一番そういった面が脆そうな気がするので。
雰囲気からずれるようでしたら今後こういったレスはやめます。
八代儀一や今井昇一になんだか萌えるのは私だけですか、そうですか。
>592
私も萌えたw 特に八代儀一に。
漏れも八代に萌えたw
清四郎がまだ野梨子スキーだと、八代と野がデートする度にこめかみピクピクさせるのかな?
続きが凄く楽しみだ〜!!
過去ログ読めば一目瞭然だが
ここは野梨子マンセーレスなら大目に見てもらえる。
悠理ファンも可憐ファンもとりあえず自分の推しキャラ以上に野梨子褒めておけ。
そしたらここは荒れない。
>秋
夏の悠理が綺麗で大好きでした。野梨子も。
けれど秋の悠理も野梨子もすごくスキです。
エージェントwのプロジェクトのスリルはもちろん、
それぞれの恋愛が複雑に絡みあって切ないですね。
流れをぶったぎってすみません。
こんなときになんなんですが、
>496-498の露呈の前のお話です。
清四郎←悠理です。嫌いな方はスルーしてください。
今回も3レスかな?
「だーかーら!どうしてそんな間違いができるんだ!そこまで行くと逆に天才ですよ。」
「うるさいな!個性的でいいだろ!」
本日期末試験が終わった。
いつものごとく清四郎に試験勉強を監督された悠理は彼と放課後の生徒会室で答えあわせをしているところだった。
野梨子はというと、他の4人への家庭教師も引き受けていた疲れで先に帰ってしまった。
美童はスウェーデン大使である父の仕事の都合で開かれるパーティーのホスト役に借り出されていってしまった。
可憐は母が風邪を引いて寝込んでいるため看病のためにすっとんで帰っていった。
魅録は悠理いわくの面白いダチ連中と遊びに行ってしまった。他校も今日までには試験が終わっているようで打ち上げだという。
悠理は魅録と一緒に遊びに行きたかったが、清四郎の言うことに逆らうと後が怖いので二次会から合流することにした。
何より、自分はそうして清四郎と過ごすことが自然に思えたから。
時折文句を言いながら悠理の解答を見る清四郎の横顔を悠理はそっと見つめた。
鋭角な顔立ち。
さすが太そうな骨格。
悠理より断然大きい手。
制服に隠れている体躯もほっそりとしているが筋肉質だ。
悠理は頬が赤らんでくるのを自覚した。
どうしよ・・・テスト勉強のときは何とか隠したんだけどな・・・
正直言って清四郎が答案を覗き込むたびに額が近づいて気が気じゃなかった。
でもあの時は試験勉強という集中すべきものがあったから自分をごまかすことができた。
清四郎はあたいが珍しく真面目に机に向かってて驚いたみたいだけど。
だいたい、悔しいじゃん。
いっつもいっつもいっつもいっつもあたいをからかっていじめて。
皆が優しいのをいいことにいっつもリーダー顔していばってて。
自分は完璧ですってな面しやがって。
でも気づいた。そういう清四郎だからこそ悔しいけど頼りになるんだし。
何より、情が薄いけどそれなりに優しいし。いい奴だし。
ときどきマヌケだし。そういう時の清四郎ってすごい可愛いんだよな。清四郎があたいをいじめたくなる心境ってこんなもんなのかな?
あ、どうしよ。いますごおく、いたずらしたい気分。
「そんなに見つめなくても採点するのは各教科担任ですよ。僕じゃありません。」
悠理が自分をじっと見つめるのに気づいたのか清四郎は悠理にいたずらっぽい顔を向ける。
彼女が赤点で追試にならないか心配して自分を見つめているのだと解釈したようである。
もっとも悠理のほうはいたずらしようとしていたのがばれたのではないかと思って少しどきりとしたのであるが。
「そうですね、想像していたよりいい出来ですよ。平均点まではいかなくても赤点は一つもなさそうです。」
「・・・そっか。ありがと。」
清四郎はその悠理の返答に首をかしげた。
いつもの悠理なら涙を流して「やったー!」と即答で飛び上がるはずなのに。
まさかと思うが勉強疲れか?
それにしてはにんまりと何かをたくらんでいるような顔ですね。
「悠理?どうしたんですか?」
と清四郎が問う。
悠理はどうしようかと一瞬迷った。どう考えても恥ずかしいし悔しいし。
「赤い顔してますね。愛の告白ですか?」
清四郎はありえないと思って冗談のつもりでそう言ったのだろう。
悠理だってそれくらいはわかった。
だがそのセリフに心臓が口から飛び出しそうなくらいびっくりした。そして不覚にも首筋から耳まで真っ赤になってしまった。
えい。いたずらにしたかったけど、これじゃばればれじゃん。
清四郎は悠理が真っ赤になったことに純粋に驚いているようだった。
まさか?
「そうだよ。悔しいけど、お前が好きだ。デートしたい!」
そうして悠理君はまんまと清四郎君が椅子からずり落ちるほど彼の度肝を抜いて主導権を握ることに成功したのだった。
ついでに言えば、清四郎君は悠理君の猛アタックに陥落する前にほんの少し抵抗して見せるのだが、それはまた別のお話。
おしまいです。
「また別のお話」を書くかどうかは
妄想の神様が降りてくるかどうかによります。
清×悠しか書けない自分ですが
魅×悠も魅×野も好きです。
実は一押しは美×野。
連続すいません。
読み返してて間違いに気づきました。
野梨子が家庭教師をしていたのは「他の3人」です。
一人増殖させてどうする。
乙です!今回もとっても可愛くって萌えますた
他の4人、には何の疑問も持ちませんでしたw
カメレスで細々と続けている「清四郎の自動車大変記」の続きをうpします。
ストーリー自体は清×野(超ぬるい)ですが、今回はカポネタなしです(はい、言い切りますw)
メンバーのダラダラ話に終始するので、萌えを期待された方スルーお願いします。
作中の語り(?)はですます調を用いています。
「わわわ!ばかっ!!野梨子ぉ、よけろっっっ!!」
ハイウェイにこだますのは悠理の悲鳴。
「えぇっ!?」
野梨子が目を白黒させるヒマもあらばこそ、さらなる悠理の怒声が彼女の判断力をしびれさせます。
「何やってんだーっ!!はやくしろっっ!」
見晴らしのいい直線コースを、猛烈な(と、野梨子には思える)勢いで、車がびゅんびゅんと走り抜けるど真中を競走馬の群れにまぎれこんだ羊のごとく、
いかにも危なっかしいようすでちんたらと走っていた野梨子は、追い立てる悠理の声に慌ててハンドルを切りました。
「わぁーっ、やめろぉー!そっちじゃない!!だめだ!!ぶつかるーっっっ!!」
猛然と突っ込んでくる一台の車がみるみるとバックミラーの中を占領し
(と、言っても野梨子がそんなところまでカバーしてみていたわけはありませんが)
ついで、ドスンという音とともにシートが激しく振動しました。
「きゃあっ!!」
「ぎゃあーっ!!」
2人の悲鳴が重なりました。
同時に野梨子の座っているシートが激震して、耳をつんざく爆音がとどろきました。
思わず身をちぢめる野梨子。目はすでにかたく閉じられています。悠理はまだ隣でなにごとかを叫んでいました。
……――パーパラ パッパパッパ パッパラー パパパラパラー…
やがて振動がおさまるころ、悠理の声をかき消して聞こえてきたのは、高らかなファンファーレ。
「………?」
おそるおそる目を開いた野梨子。と、チカチカと明滅する明かりに目を瞬かせます。
目前のスクリーンには赤信号さながらの光がまるで野梨子をからかうように、気ぜわしくついたり消えたりしています。
浮かび上がった文字は――
『Crush!!』
続いて現れた文字は
『―TIME UP! GAME OVER―』
野梨子はハンドルを握ったまま、呆然と画面を見つめていました。
「だーっ、もう煩いんだよ悠理は!!レーシングゲームくらいで、いちいちそんな死にそうな声だすなよな!!」
コックピットから飛びおりるなり魅録が言いました。
「確かに店中に響き渡ってましたからね」続いてコックピットを降りながら清四郎も同意しました。
6台連結のレーシングマシンにきっちり収まっていた連中がぞろぞろと地上に降りてくる中で、
悠理はまだ狭いコックピットにがんばりながら、ハンドルを握ってじたばたともがいています。
「だぁーって、野梨子の車があたしの進路の邪魔すんだもーんっ!」
「ご、ごめんあそばせ……」
悠理の隣のマシンでは、野梨子が恥ずかしそうに赤面しておりました。
そう、ここはゲームセンター。
高校生活最初の夏を間近にひかえた悪ガキ6人グループは、校則違反もどこ吹く風、剣菱グループの傘下にある、体感型ゲーム機の充実ぶりで有名な
<KENBISHI・GAME・LAND>へときております。
剣菱財閥令嬢の威光をかさにきてロハでハイパーホッケーに興じたり、マラカスを振ったりと存分に道草を満喫しているのでした。
「悠理、アイスは2つまででしてよ!」
放っておいたらどんな注文をするかわからない悠理に、野梨子が機先を制して言いました。
思う存分ゲーゼンを堪能したメンバーは休憩をとるために、店内の一角のカフェテリアに集まって、なにやらわいわいと騒いでおります。
「えぇーっっ!?好きなだけ食っていいんじゃないのぉ・・・!」
アイスクリームの収めてあるショーケースに顔を貼りつけて上機嫌だった悠理が、悲鳴を上げてふりむきました。
むろん彼女は店内のアイス全種類を制覇するつもりだったのです。
「そんなに食べたら、お腹こわしますわよ」野梨子はあっさりと却下しました。
「そんなの、サギだぁ〜〜」情けない声を上げる悠理。まるでお気に入りのおもちゃを取り上げられた子どものようです。
一度はなれたショーケースにふたたび顔を押しつけると、盛大な声で泣きはじめる悠理に、店の人たちが何事かと目を丸くして集まってきました。
そんな店員さんたちに「大丈夫、すぐに収まりますから」と愛想笑いで答えるのは可憐。
そのあいだに魅録が、悠理をうしろから引き剥がしました。「ショーケース食うなって」
「何いってんだよ、サギはこっちのセリフだよぉ。あんなの魅録のためにあるようなゲームじゃないか!」
ぶつぶつ文句をいっているのは美童です。彼はレーシング・ゲームの結果にどうにも納得がいかないのでした。
さほど負けず嫌いでもない美童が珍しく結果にこだわっているのは何故かというと、彼らはレーシング・ゲームに午後のお茶をかけていたのでした。
レースの成績で下位だったもの2名が、6人分のお茶をおごることになっていて、その不名誉な敗者に選ばれたのが、
ほかならぬ美童と、そして野梨子だったのです。
「ゲーゼンと麻雀とボーリングは賭けてやった方が面白いってな。美童に野梨子、悪いけど、ゴチんなるぜ!」
口で言うほど悪いとも思っていない様子で、魅録が嬉しそうに2人の肩を叩きました。
「ねぇ、今度はテニスで勝負しようよ!テニスだったら僕、ぜったい負けないからさ!」
「ああ、いつでも勝負するぜ」
美童は宣戦布告すると、得意分野でのリベンジを考えているようです。
後年、彼はそのテニスで、アイスどころではない深刻な賭けに巻き込まれるのですが……、
神ならぬ美童にそんなことがわかるはずもありません。
「アイスが〜、あたしのアイスが〜」
そんな2人のやりとりなどお構いなしに、あいだを割って入ってくるのは悠理の泣き声です。
彼女はいまだにアイスがあきらめきれずに、ベソをかいてしゃがみ込んでいるのでした。
「もう、悠理ったら」その隣では、野梨子が困ったように彼女を見つめています。
「2つじゃ足りませんの?」
悠理に顔を近づけるとそう訊ねました。
野梨子の表情は困っているようにも見えますが、よく見ると実は、この状況を楽しんでいるようにも見受けられました。
じっさい彼女は、この食いしん坊で小さな子供のようなところのある友達の、笑ったり泣いたり、
その度にくるくるとかわる素直な表情が大好なのでした。
野梨子は口元をほころばせ、愛しいものをみる目で笑って、仕方ありませんわねと口を開きました。
「あと3つたして、アイス5つまではよろしいですわ。でもそれ以上食べると、本当にお腹を壊しましてよ」優しく微笑んでそう付けたします。
「よしっ、5つだな!!」
「ええ、慎重に吟味なさいませ」
完全にとはいわないまでもずいぶんと元気を取り戻した悠理をみて、野梨子は嬉しそうににっこりと微笑んだのでした。
「罰ゲームをくったわりには楽しそうですね、野梨子」
各自が手に入れた注文の品を持ってテーブルについていく中で、清四郎が野梨子に声をかけました。
「えぇ、だって私、最下位じゃありませんでしたもの」
そう言って幼馴染を見上げた野梨子の顔はちょっと得意そうでした。
「並外れた運動神経と反射神経をお持ちのこのメンバーを相手に、私がゲーム初体験だったことを考えれば、善戦した結果だと思いません?」
誇らしそうに言ってみせます。
野梨子のセリフを聞いたメンバーの目が一斉に金髪の友人に注がれました。
「そうなのよね〜」
「世の中、下には下がいるもんですね」
「な、なんだよお!?」
いきなり矛先を向けられて慌てたのは、ゲームでぶっちぎりの最下位を叩きだした美童です。
「あのねぇ、僕は日本車使用の右ハンドルに慣れてなかったの!!」
なんだかんだと苦しい言い訳をはじめました。黙っていれば貴公子然とした、誰もが認める堂々の美少年なのですが、
両手を振り回しながら必死に言い訳をする姿には、それも見る影はありません。
しかしどうやらこちらのほうが、彼の本来の姿に近いらしいことを、仲間たちはうすうす気づきはじめていました。。
「だからさぁ…」
なおも言い募る美童に、可憐がため息をついて、もういいわと手を振って見せました。
「意外といえばお前さんだってそうだよな。俺に続いて2位の成績だったんだから」
そう言って魅録が可憐を小突きました。
まったくそのとおりで、先程のゲームで清四郎や悠理を押さえて2位におどりでたのは、だれあろう可憐だったのです。
突っつかれた本人は特に喜ぶでもなく、退屈そうに片眉を吊り上げただけでした。
「可憐は思い切りがいいからな、運転むいてるよ」
「そんなこと言われても嬉しくないわ」魅録の誉め言葉にも可憐の答えはぶっきらぼうです。
「いいじゃありませんの、可憐。羨ましいですわ」
「そうだよ。可憐、免許とりなよ。その暁には僕が助手席で最高のナビゲーションをしてあげるからさ。
美童グランマニエがお送りする、甘い恋いのカー・ナビゲーション――」
「やーよ!冗談じゃないわっっ!!」
美童の世迷言を遮って、可憐は憤然と立ち上がりました。
「なんで私が運転しなきゃなんないのよ!私は運転するほうじゃなくて、される側!
とびきりいい男が運転する、とびきりいい車の、私は助手席狙いなんだから!!」ものすごい勢いで一気にまくし立てます。
可憐の逆鱗にモロに触れた美童は圧倒されて涙目になってしまいました。
「か、可憐って、コワイ…」
「いい性格だよな…」
「あそこまでハッキリ言われると、かえって清々しいですけどね」男性陣がそれぞれ口にした感想でした。
これから彼女の玉の輿発言を嫌というほど聞かされることになる5人ですが、これはそのプロローグ・前哨戦といえるものだったのかもしれません。
「しかしこのメンバーはつき合うに連れて、意外性があるというか、おかしな部分が色々とみえてくる連中ですね」
清四郎が面白そうにメンバーをそう評しました。
「そう言うお前はどうなんだよ」清四郎の言葉を受けて、魅録が返します。
「お前はこれから、どんなおかしな面がでてくるってんだ?」
「僕にそんな所はありませんよ。僕はいつだって、いたってノーマルでスタンダードですから」
にっこり笑って答える清四郎。
そんな清四郎に魅録が呆れたように笑って言いました。
「何処がだよ!」
「ちぇーっ、2週遅れの野梨子に妨害されなきゃ、もっと上位に食い込めたのになぁ」
黙ってアイスを食べることに熱中していた悠理が、思い出したように言いました。
彼女は清四郎に押さえられて4位止まりの成績だったのですが、それが彼女にははなはだ不満なのでした。
「妨害する気なんてありませんでしたのよ」申しわけなさそう野梨子が言いました。
「例え妨害する気があったって、野梨子に意識してそんなマネはできませんけどね」
すかさずつっこむ清四郎。
そこからの流れで、話は自然と清四郎と野梨子の運転免許証の話へと移っていきました。
おおよそのあらすじ――それはつまり野梨子が免許をとろうとして清四郎に止められたこと、
そして野梨子のかわりに清四郎が免許をとることになったことなどでしたが――それらはすでにここにいる全員の知るところだったのです。
しかし、菊正宗家では全員一致で賛成してくれたことも、友人達の間ではなかなかそうはいきませんでした。
>自動車
読んでいて安心するし、それぞれのキャラが
しっかりたっていて大好き。過去の話、っていうのが
またいいです!続きのんびり待っています。
初めて投稿させて頂きます。
小ネタの「菊正宗清四郎、マン。」剣菱万作編を考えました。
2レス使わせて頂きます。
普段はガリ勉の生徒会長。が、しかし、その実体は……
良い子の味方、
菊 正 宗 清 四 郎 、 マ ン !
助けを求める声を聞きつけては変身して飛んでいく。
今日の助けを求める人は剣菱万作さん(年齢不詳)。
「どうしたんですか!」
「あー、菊正宗清四郎、マン! 母ちゃんが怒って出てっちまっただよー!!! すぐに連れ戻して欲しいんだがやー!!!ヽ(`Д´)ノウワァン」
すると清四郎、マンは、あっさりと言った。
「それは無理ですな」
そんな清四郎、マンに、万作さんは憤り、相手の胸ぐらを勢いよく掴む。
「おめ、『それは無理ですな』って、どういうことだがや!!」
両足をじたばたさせている。さながら『天才バカ○ン』のおまわりさんの如く。ちなみに、今日の万作さんの装いも、農家チックにキマっている。唐草模様のもんぺが、実にキュートだ。
(続きます。)
(続き。)
「だってそうじゃないですか」
清四郎、マンは、目前の壮年男性に対し、当惑の表情で言葉を続けた。
「いくらこの僕でも、あのおばさんを連れ戻すなんて出来ませんよ。諦めてください」
「なぬ!? 諦めろだ!? それでも良い子の味方だかっ!?」
清四郎、マンの顔に、つばきをかけんが勢いの万作さんであったが。
その時、胸のランプが点滅し始めた。
「あ、時間切れです! すみません、おじさん、頑張ってください!!」
そう言い残し、菊正宗清四郎、マンは大空へ向かって飛んでいった。
「ふむっ!!」
一方、地上では、ひとり残された万作さんが絶叫していた。
「この、役立たずが〜〜〜〜〜!!!」
オワリ
>615
ワロタ
清四郎、マン。は清四郎だからこそ面白い。
これが他キャラだったらここまで面白くなかったかも
>清四郎、マン。
彼にも不戦敗の相手がいるとは…。
でも、たしかに。いつも彼女を怖がってますもんねぇ。
万作さんのキュートなもんぺ姿、目に浮かびましたw
不戦敗シリーズで対和子さんも読みたいな。
Deep Riverうpします。
タイムラグが有りまくりですみません。
4レスお借りします。
**********************
ttp://houka5.com/yuukan/long/l-44-2.html (いつも更新有り難うございます。>嵐さん)
**********************
また、夏が来るのか――
悠理はアスファルトの照り返しに軽く舌打ちしながら、歩を進めた。
背中を、一筋の汗が伝う。掌で顔を扇ぎながら、邸宅へ続く大理石の階段を駆け上がった。
ギイイ、という大袈裟な音と共に扉が開かれる。
ひんやりとした空気が悠理の頬を撫でた。
悠理はほっと息を吐きながら、扉を押さえたまま畏まっている使用人に声を掛けた。
「外に魅録の車あったけど、来てるの?」
「はい。昨夜お見えになりまして、そのままお泊りになられたようです」
「そう、ありがとう」
魅録が来るなど、何日ぶりだろう。
最後に会ったのは、確か先週の水曜日だ。
こんなことなら昨夜、可憐の家に泊まらなければ良かった。
魅録も、携帯に連絡ぐらいくれればいいのに――
結婚前からこんなんで、これから先あたいたち上手くいくのかな。
悠理はふとそう思い、そう考えた自分に自己嫌悪を抱いた。
魅録はこの半年というもの、身を粉にして働いている。
他でもない、剣菱を守る為に。
悠理の、為に。
「あたいは魅録の為に、何が出来るのかな……」
呟きは、溜息となって漏れ出でた。
ノックもせずにドアを開ける。
鼻腔を突く酒臭に眉を顰めながら、悠理は部屋を横切った。
手酌で、随分と飲んだらしい。床にブランデーの瓶が幾つも転がっている。
もう幾日も開けられていないであろうカーテンを左右に開くと、射るように陽が差し込んできた。
悠理はカーテンに手を掛けたまま振り返って見たが、魅録は泥のように眠り込んで、ピクリともしない。
窓を僅かに開くと、生温い風が誘われるように入り込み、ベットに横たわる魅録の傍に
放り投げられていた雑誌をパラパラと捲った。
その乾いた音が眠りの妨げになるのを恐れ、悠理は雑誌を手に取った。
普段なら眼を通すこともない経済雑誌だったが、飛び込んできた一文に視線を奪われた。
『剣菱惨敗』
――現代のドッケンミラーは、剣菱令嬢の元婚約者K――
――驚くべきことに、剣菱の次期副総括であり令嬢の現婚約者Sとは旧友であり――
――新旧婚約者対決は、元婚約者Kの圧勝に終わった――
人為的な力で歪められているその頁と、生気の無い貌で眠り続ける魅録を、
悠理は交互に見比べていた。
どんな思いで、この記事を読んだのか。
どんな思いで、この記事を握りつぶしたのか。
兼六との半年にも及ぶ攻防がどれだけ魅録の神経を磨耗させているのか、
悠理が一番良く知っていた。それに追い討ちを掛けるように、
マスコミは挙って剣菱惨敗の戦犯は、Sだと――魅録だと書き立てる。
何も知らないくせにと唇を噛むが、憤る以外に為す術を知らない悠理に、
手立てがあるはずもない。
不意に、携帯が鳴った。
慌てて通話ボタンを押しながら、悠理は声のトーンを落として応える。
「はい。――そう――悪いけど、迎えに来てくれる?
うん……今から直ぐ、行きたいんだ」
携帯を切り、魅録の背中に告げる。
「ごめんな。あたい馬鹿だから、こんなことしか出来ないんだ」
ネクタイを外し、清四郎はソファーに倒れ込んだ。
仕手的な策動は、資金状況や相手方の動向、俵読みなどで神経が休まる時が皆無である。
自室に戻ってきたのも、実に一週間ぶりだった。
着替えるのも面倒で、そのまま横になる。
ポケットに放り込んでいた鍵が腰骨に刺さったのが不愉快で、
清四郎は鍵をガラスのテーブルに思い切り投げ付けた。
ぴしっという音と共にテーブルに罅が入る。蜘蛛の巣のように四方に伸びる亀裂を、
清四郎は何とはなしに眺めていた。
自分は、どうかしているのだろうか。
そう自問するが、答えが出ようはずも無い。
――執拗に剣菱を叩き続けるKの目的は――
帰宅時にタクシー内で眼にしていた雑誌の文章が、脳裏に蘇る。
「目的、ですか」
そう独り言を漏らし、くっと咽喉を鳴らす。
「僕は、ただ――」
清四郎が発した言葉は、来客を継げるインタフォンの音に掻き消された。
のろのろと身を起こし、落ちてきた前髪を掻き揚げる。
来客者を確かめるでもなく玄関へと向かい、鍵を開けた。
清四郎の住処を知っているのは、兼六関係者の中でも極僅かな人間だけだ。
恐らく、急務が出来たのだろう。そう思いながら、ドアを開ける。
と――。
清四郎は思わずドアから手を離した。
閉まりかけたドアを来客者はがっちりと掴んで言う。
「久しぶりだな、清四郎」
挑むような眼で清四郎を見上げているのは、悠理だった。
「よく此処が分かりましたね」
平静を装って言う清四郎に、悠理は硬い表情のまま答えた。
「腕のいい探偵を使ったんだよ。そんなことより、話があるんだ。
入っていいか?」
清四郎は壁際に身を寄せ、悠理が入れるだけのスペースを作ってみせた。
慣れた手つきで珈琲を落とす清四郎の背中を睥睨しながら、悠理は徐に口を開いた。
「何でなんだ?」
清四郎は悠理に背を向けたまま、応える。
「随分、漠然とした質問ですね。答えようがありませんよ」
「はぐらかすなよ。お前が剣菱を潰そうとしていることだよ!」
「ああ、其の事ですか。相変わらず、直球勝負なんですね」
カップを両手に振り返った清四郎の口角は微かに上がっていた。
悠理の前にその一つを置き、もう一つのカップに自らも口を付ける。
「復讐なら、あたい一人にすればいいだろ? 剣菱を――魅録を巻き込まないでくれ」
「何か、誤解しているようですね」
清四郎がわざとらしく肩を竦めて見せる。
「誤解?」
眉を吊り上げて問い返す悠理に、清四郎は笑みを浮かべて応える。
「僕はあなたにも、勿論魅録にも復讐しようなどと思ってはいませんよ。
それとも、僕に復讐されるような心当たりでもあるんですか?」
「ないけど……じゃあ、どうしてこんなことに……」
「……聞かないほうが、知らないほうがいいこともあるんですよ、悠理」
昔に戻ったような、優しい口調で清四郎が言った。
「清四郎?」
「僕はね、悠理。あなたにも魅録にも、勿論可憐や美童や……
野梨子にも……あの頃のまま笑いあっていて欲しいと、願っているんですよ。嘘じゃない。
でも――あなたと魅録が剣菱の人間である以上、僕は容赦しませんよ」
清四郎が腕時計を見つつ、立ち上がりながら告げた。
「タイムアウトです。もう、いいですね?」
有無を言わせぬ口調に、悠理はしぶしぶ腰を上げた。
黙したまま玄関まで送ってきた清四郎が、抑揚の無い声音で言う。
「怨むなら、あなたの父親を怨むんですね」
「――どういう――」
皆まで訊けず、悠理は口を噤んだ。
目の前の扉が、冷たく閉じられた。
<続きます>
>Deep River
ずっと待ってました。続きが読めて嬉しいです。
菊正宗家と白鹿家に何かあるらしいことは分かってましたが、
万作さんも何か関係があるんでしょうか?
上質のミステリー小説を読んでいるようで、続きが凄く
気になります。
魅録が清四郎に勝てれば、少しは清四郎も救われるのかな、
なんて取り留めのないことを考えたり。
>Deep River
帰ってきてくださって、ありがとうございます。
清四郎が兼六側にいて、株式市場で清四郎vs魅録という状態になり、
剣菱を潰そうとしている―これからの展開がいい意味で見えなくて、
どうなっていくのかものすごく気になっています。
>Deep River
ほんとにほんとに待っていました!!
今のこの問題ももちろん気になるし、
底に眠る真実がこのお話をすごく色取っている
と思います。
>Deep River
私も続きをずーっとお待ちしてました!
前回、あまりにもいいところで終わっていたので、続きが気になって。
今回で、また新たに謎が一つできてしまいましたね。万作さんは一体…。
魅録と悠理のお互いを思いやる気持ちも良かったです。
メンバーの関係や魅録と清四郎の対決もそうですが、他にも気になる
部分がいっぱいです。
新作うPさせて下さい。
鬼退治のお話で、長編です。
カポーもなく、恋愛もからまない為萌えどころもありませんが、
読んで頂けたら幸いです。
――千年の時を経て鬼が現れし時、4つの御霊と2つの鏡にて鬼を封じよ。さすれば御霊刀身に
宿り、再びこの世に光溢れん――
「あーあ、せっかくの夏休みなのに、又このメンバーとの旅行だものねぇー。」
可憐は大きな溜息を吐いた。
おまけに暑い都心を脱出したにもかかわらず、ここ新潟も暑さはほとんど変わらない。
ただ、船上の潮を含んだ風が、ほんの少し気分を和らげる程度である。
「おまけに海風で髪はべとつくし、この暑さのせいで日焼け止めだって流れちゃうわよぉ。」
夏の強い日差しを、帽子と日焼け止めでしっかりと防いではいるものの、蒸し暑い気温に気分が
つい、いらついてしまう。
これがバリやタヒチだったら、暑かろうが髪がべたつこうが全く気にならないのだが、有閑倶楽部
一行が向かっている場所は佐渡島だった。
別に佐渡が嫌いなわけでも、嫌な思い出があるわけでもない。
初めは静かで良い所と聞いていたので、行ったことのない可憐は逆に楽しみにしていた位だ。
しかし、新潟に入るまでの高速は事故で渋滞、港に着いてからも夏休みの為フェリーの利用者も
多く、かなりの時間待たされてしまった。
やっとの思いで船に乗り込んだものの、既に船内は人で溢れていた。
そんな些細な出来事とジャンケンに負けて仕方なく付き合っているという思いが重なり、前頭の
言葉となったわけである。
早い話が八つ当たりだ。
――おまけに最近はいい男もいないし。佐渡にいるとも思えないしねぇ。
再び可憐が大きな溜息を吐いた。
何時もの如く、有閑倶楽部のメンバーは夏休みの旅行を何処にするか、ジャンケンで決めること
にした。
そして勝ったのは、またまた悠理。
そんな彼女の口から発せられたのが、「佐渡島に行って、たらい舟と日本海の幸三昧ツアー」。
というわけで、六人は佐渡島行きのフェリーに乗っているのであった。
可憐の言葉を聞きつけ、野梨子がニッコリと微笑みながら言った。
「あら、可憐。いつでも抜けて頂いて構いませんのよ。別に無理にとは言いませんもの。」
「何よ、ただ言ってみただけじゃない。ホント、嫌みったらしいわねぇ。」
可憐はチロっと野梨子に視線を送った。
「仕方ないんじゃない?今更戻れないしね。楽しむしかないみたいだよ、可憐。」
フェリーの女性客の視線が自分に向けられている事に満足しながら、美童も会話に加わった。
「そうね、今更愚痴っても仕方ないのよね。」
可憐は精一杯伸びをして、潮の香りを吸い込んだ。
「楽しむとしますか。」
「あたい、佐渡島って初めてなんだ。日本海の幸があたいを呼んでいるじょー!」
可憐の憂鬱とは正反対に、悠理の頭の中には既に日本海の幸が並べられているらしく、目はキラ
キラと輝いていた。
そんな悠理を美童は呆れ顔で振り返った。
「あーあ、悠理の頭の中は食べ物でいっぱいなんだろうな。」
「あったりまえだい!今なら岩牡蠣でしょ、甘えび、サザエ、イカにもずくに一夜干しするめ!蟹や
かんぱち、寒ブリ、牡蠣や柿も美味しいけど、時期がちょっとなぁ。本当は冬の方が脂がノリノリで
美味いんだけど、冬の日本海は海が荒れるからなぁ。」
悠理は腕を組んで真剣に考え込んでいた。
でも…と、可憐が悠理の話に異を唱えた。
「もずくって沖縄じゃないの?スーパーなんかでも、ほとんどが沖縄産よ?」
「ちっちっち!」
悠理は可憐の目の前で人差し指を左右に振った。
「沖縄のもずくは太いんだよ。市場に出回っているほとんどのものが沖縄だから有名なんだけど、
新潟のもずくは細くて繊細なんだ。佐渡産の岩もずくは太くて歯ごたえがあるけどな。」
ペラペラと滑らかに語る悠理に、魅録が感心したように呟いた。
「お前、食べ物の試験だったら間違いなく満点が取れるぜ。」
「魅録、考えるだけ空しいですよ。」
――食べ物に関しては見事なまでに記憶力や知識を発揮するくせに、何故それを勉強に活かさ
ないのだろうか?
そんなことを考えながら、清四郎はしかめっ面をしていた。
悠理と清四郎の興味の対照が違うだけの事、誰だって自分が興味を持っている事に関しては吸
収するのも早いし、いつまでも記憶に留めているものである。
そうは解っているものの、毎回テスト前になると必ず泣きついてくる悠理が、こうも滑らかに語る姿
を見ると、ついつい一言いいたくなってしまう。
そんな二人に野梨子はクスクス笑いながら言った。
「そりゃ悠理には願ってもいない場所ですわよね。島には海があり、山があり、平地があり、大きな
川も湖もありますでしょ?だから、佐渡島で取れないものは無いと言われていますのよ。」
「そ、そうなのか?」
野梨子の話を聞き、再びじゅるっと悠理が涎を拭いた。
「知っていて佐渡にしたんじゃありませんの?」
「も、勿論知ってるに決まってるだろ!」
その慌てぶりからすると、全く知らなかったようだ。
「ま、いいですけどね。以前から佐渡には興味がありましたから、僕は嬉しいですよ。」
諦めがついたのか、清四郎が悠理から野梨子へと視線を移した。
恐らく野梨子も同じクチだろう、と思ったからだ。
「私も佐渡に決まってから少し勉強しましたけど、古い歴史と美しい自然の残る島ですのね。」
野梨子の返事に満足した清四郎は、微笑を浮かべて機嫌を直した。
「俺もたらい舟には乗ってみたいなぁ。面白そうじゃん。それに朱鷺も見てみたいかな、ここに
しかいないもんな。」
アウトドア派らしい魅録の発言だ。
「たらい舟だったら、小木の方ですよね。今から行くところと正反対ですよ。」
清四郎は頭の中に佐渡の地図を描きながら、魅録の方へと向き直った。
「帰りは小木経由でもいいわけだし、そっちの方で一泊してもいいしな。予定は未定ってことでいい
んじゃないか?」
「そうですね。小木にも見所が多いですし、いいなとは思っていましたからね。」
そんな二人に悠理が笑いながら言った。
「そうそう、お気楽に行こうぜ!」
一行はフェリーから車へと乗り換え、佐渡島へと上陸した。
港の近くは賑わってはいるものの、やがて信号がなくなり、道も大分細くなってきた。
「それにしても対向車がないよなぁ。運転は楽なんだけど、寂しすぎるっていうか、何ていうか…」
今の時期の観光客といえば、ほとんどが家族連れで海水浴目当てである。
その観光客のほとんどが向う場所と正反対の道を走っている為、混雑とは無縁のはずなのだが、
あまりの交通量の少なさに魅録は驚きを隠せなかった。
助手席の美童も、サイドミラーやルームミラーを覗き込んだ。
「前にも後ろにも車がいないよ。」
「大分過疎化が進んでいるらしいですよ。江戸時代の頃は金山によって、かなり繁栄していたそう
ですけどね。」
「徳川幕府三百年の財政の礎が佐渡金山でしたものね。」
早速、清四郎と野梨子が勉強の成果を発揮させた。
「金山っていえば、坑道の中で人形が動いてるって父ちゃんが言ってた。確か、『酒が飲みてぇ』と
か、『馴染みの女に会いてぇ』とか言うんだってさ。」
悠理が面白そうに皆に話して聞かせた。
それを聞いた可憐が笑い声を上げる。
「やだ、おっかしいの!」
「それだけ過酷な労働で、なかなか娑婆には戻れなかったというとですかね。」
清四郎の言葉に、可憐がピタリと笑うのを止めた。
ようやく車は目的地へと入っていった。
――鬼来里(きくり)――
佐渡島の北の先端、弾崎灯台の麓にある小さな集落だった。
三方を海で囲まれ、もう一方には山がそびえている。
「これは完璧、海の幸でしょ!」
そんな周りの風景を見て、悠理は涙を流さんばかりに喜んでいた。
「あっ、あの大きな家じゃない?僕、降りて見てくる。」
集落の中でも一際大きいであろう、立派な日本家屋の前で魅録は車を止めた。
美童が助手席から降りると、風格を漂わせている重厚な門へと向かい、表札を目にして戻って
きた。
「『佐々』(さっさ)って書いてあったから、間違いないと思うよ。」
「了解。」
魅録はスピードを落とすと、ゆっくりと門をくぐった。
正面にある立派な松ノ木から右に逸れると、漆黒の瓦とは対照的な真っ白い壁の美しい蔵が並ん
で建っていた。
その蔵の脇に車が止めてあったので、魅録はその隣に車を止めた。
「いよっと、はい到着!」
サイドブレーキを引いてエンジンを止めると、車に残っていた面々が車から降りた。
「大きなお屋敷ねぇ。」
「いかにも旧家って感じ。」
「素晴らしいですわ。」
可憐、美童、野梨子の三人が屋敷を見上げて感嘆の声を上げていた。
トランクの荷物を出そうとしていた魅録が、門の辺りで自分達を珍しそうに眺めている人々がいる
ことに気がついた。
年配の男性が四、五人、それぞれが何やら大きな長持ちや桐の箱等の荷物を抱えていた。
「ここの家の人かな?」
「聞いてみようか?」
魅録の後ろにいた悠理が、大きな声で叫んだ。
「おーい、おっちゃん達、ここんちの人かぁ?」
突然声を掛けられて、驚いたように悠理と魅録の方へと顔を向けた。
「…いや、わしらは近所のもんっちゃ。この家の衆は中にいるけ、声掛けてっちゃ。」
じっと見ていたことを恥じたのか、男性達はそそくさと母屋の脇から奥の方へと入って行った。
「だってさ。…どうした、魅録?頭でもいたいのか?」
悠理は、こめかみに手を当てている魅録を不思議そうに眺めていた。
「お前なぁ、もう少し聞き方ってもんがあるだろ。」
「別に普通だろ?でも、あのおっちゃん達、何してたんだ?」
「結構でかい荷物を持っていたな。」
不思議そうな面持ちで眺めている二人に、清四郎はトランクから荷物を差し出した。
「そんな事よりも、さっさと中に入って着いたことをお知らせしましょう。」
悠理は清四郎から渡された自分と野梨子のバッグを掴むと、野梨子の方へと近づいて行った。
「野梨子、ここんちの人、中だってさ。」
「…聞こえてましたわ。」
野梨子は大きな溜息を吐いた。
「悠理、もう少し言葉を…と言っても今更仕方ないですわね。」
そんな悠理に呆れたものの、誰に対しても同じ態度で接するのが悠理の良い所だと思い直し、
野梨子は満面の笑みを向けた。
「悠理、バッグを有難う。」
「ごめん下さい。」
ハイという声と共に、お手伝いさんらしき中年の女性が現れた。
「白鹿野梨子と申します。今日からお世話になります。」
「少々お待ち下さい。」
そう言って女性が奥へと戻った。
しばらくして眼鏡を掛けた初老の男性と、一回りは若そうな女性が連れ立って現れた。
「こんにちは、父がいつもお世話になっています。娘の野梨子です。お言葉に甘えて、大勢で押し
かけてしまいました。」
佐渡に行くことが決まった六人は、白鹿家で宿泊先などを決めあぐねていた。
と、そこへ、たまたま居合わせた野梨子の父青洲が、佐渡に行くなら自分が絵を描きに行く時に
世話になっている家があるが、そこはどうかと言ってくれたのだ。
勿論六人に異存は無く、青洲が早速電話で聞いたところ、先方は賑やかになるのは大歓迎だと
まで言ってくれ、その言葉に甘えることにした。
青洲の話によると、平安の頃より代々続く伝統ある家であり、佐渡でも名の通った旧家だそうだ。
主は新潟の大学で郷土の歴史を教えている非常勤講師で、今は佐渡の歴史等を研究しており、
夏休みの今は佐渡の家に戻って研究に没頭しているらしい。
「ああ、貴方が青洲さんのお嬢さんだね?まるで日本人形のように綺麗なお人ですなぁ。私はこの
家の主で佐々(さっさ)義正、隣が妻の志津子です。遠い所よう来なされました。」
義正は笑みを浮かべながら迎えてくれた。
柔和な面差しで物腰も柔らかく、志津子も常に笑みを湛えた優しそうな女性だ。
――父と同じ位の年齢だろうか。
なんとなく父を思い起こさせる義正に、野梨子はにっこりと笑みを返した。
「僕は白鹿のおじさんの隣に住んでいる菊正宗清四郎といいます。」
野梨子の横にいた清四郎が挨拶した。
「ああ、白鹿さんのお隣で、大きな病院の息子さんだね。野梨子君の幼馴染で、スーパー高校生
だと聞き及んでいるよ。」
「大きくて立派な家ですね。何でも、平安の頃から続く伝統ある家とお聞きしましたが。」
「なあに、そんな立派なものでもありませんわ。この佐渡で平安の頃から言うたら、政治犯で京か
ら流されたっちゅうことですからな。」
義正はハッハッハと笑い飛ばした。
千年近い伝統を笑い飛ばす義正に、清四郎は驚くと同時に好感を持った。
他の面々を見渡しても、同じような表情を浮かべている。
普通なら自慢話を延々と聞かされるところだろう。
義正の懐の広さに感心していた。
「あたい、剣菱悠理。おっちゃん、おばちゃん、ヨロシクな!」
次に名乗ったのは悠理だ。
「おや、剣菱というと、あの…」
義正は少し驚いたようだ。
「うん、父ちゃん剣菱万作っていうんだ。」
「やっぱり、あの剣菱グループのお嬢さんかね?」
流石に大学勤めの教授ともなると、時事には詳しいらしい。
「まあね。」
「そうかい、そうかい。でも、家ではお嬢さんだからって特別扱いはしないよ。青洲さんもそうだし、
近所の衆もそうだし、みんな同じ様に佐渡の生活を味わって欲しいからねぇ。」
「もちろんさ!あたい、ご飯さえ腹いっぱい食べさせてもらえば、何でもするじょ!」
そんな悠理の言葉に義正と志津子はニコニコと微笑んでいた。
「俺、松竹梅魅録といいます。お世話になります。」
魅録が軽く頭を下げながら挨拶した。
「というと、君が裏にも詳しい警視総監の御子息ですか?」
「はい。」
「何じゃ、皆さんの方が立派なお家の方々じゃないですか!」
「やめて下さい、偉いのは親父ですから。」
魅録の言葉を聞き、義正は満足そうに頷きながら答えた。
「いやいや、そう言い切る君も立派ですよ。」
「初めまして、黄桜可憐です。」
可憐が魅惑的な笑顔を振りまいた。
「こちらのお嬢さんも綺麗だねぇ。野梨子さんが百合なら、こちらのお嬢さんはカトレアという感じで
すな。貴方が東京で有名な宝石商のお嬢さんだね?」
「はい、お世話になります。おじ様ったら、お世辞がお上手ですね。」
可憐は、カトレアに例えられた事が嬉しくてたまらないようだ。
「そして君が…」
義正が言い終わらないうちに美童が一歩前へ出て名乗った。
「はい、僕が美童グランマニエ、スエーデン大使の息子です。」
「白馬に乗った王子様登場といったところかな。娘がいたら大変なことになっただろうねぇ。」
「お嬢さんがいらっしゃるんですか?残念だなぁ、是非お会いしたかったのに。美しい方なんでしょ
うね、奥様を見ればわかります。」
美童は流石に女性を喜ばせるコツをつかんでいるようで、志津子が嬉しそうに微笑んでいる。
「美津子が聞いたら喜びますわ。」
「君達の家の前では佐々の名も霞んでしまうなぁ。」
義正が笑いながら六人に向かって言った。
「ささ、どうぞお上がり下さい。みなさんもお疲れになったでしょう。賑やかなのは大歓迎です。部屋
だけは沢山ありますから、遠慮なくゆっくりして行って下さい。」
「はーい!」
悠理が元気よく返事をした。
【つづく】
>鬼闇
待ってました、新連載! リアルな描写に物語にするっと入っていけました。
続き楽しみにしてます!(オカルトですか?)
>鬼闇
新連載嬉しいです。
鬼退治という事で桃太郎コスプレする倶楽部の面々を思い浮かべてしまいました。
続き楽しみに待ってまーす。
>>583 詳しい話をするために会場を抜け出した野梨子と八代は、会場の外に出た。
誰か関係者に聞かれると不味い話ではあったが、パーティーが終わりに差し
掛かっている今、あまり会場から離れるわけにもいかない。特に八代は上司と
一緒の参加なのである。さすがに姿をくらませるわけにはいかなかった。
幸いというべきか、八代の女好きは剣菱精機では有名である。野梨子と二人
で話し込んでいたところで、「ああまた女の子を引っ掛けたんだな」としか
思われないだろう。
会場と同じフロアに喫茶店があったため、そこで話をすることになった。
心地よく身体が沈むソファに八代は寛いで座ると、無意識にジャケットの
内ポケットから煙草を出そうとし、そのまま手を止めた。それから何事もな
かったように手を元に戻す。
基本的に八代は女性の前で煙草を吸わない。相手が男性であれば、上司や
取引先の人間でないかぎり、「吸っていいですか」の断りも入れずに火をつ
ける。だがそこはそれ、基本的に女性が大好きの彼のことである。女性のため
に煙草を我慢することは、我慢のうちには入らない。――こうなってくると、
彼にとっての女性とは、日々欠かすことの出来ない煙草以上の嗜好品といえる
かもしれなかった。
ようやく腰を落ち着けたふたりは、自己紹介をはじめからやり直した。
知っての通り、彼はマーケティング部の若きチーフであった。彼自身は誰
にも肩入れはしていないが、マーケティング部全体が戸村社長派である以上、
彼もなし崩しに派閥に組み込まれ、一端を担っている。
豊作ではなく戸村を剣菱の後継者に推すということは、剣菱が株式会社で
ある以上不可能ではない。だが、やり方を間違えた場合、下手をすれば会長
に対する造反行為とみなされ、重役会議にかけられ――出世の道を阻まれる。
それだけではない。よくよく注意して観察してみれば、剣菱精機の上層部
は近頃きな臭い。重役同士の仲に目に見えぬ緊張感が漂っている。さらに、
専務である豊作の動きがなにやら慌しい。
どうやら反専務派の影響力があまり届かない――つまりは豊作がとくに力
を入れている親専務派とも言うべき部署でトラブルが頻発しているらしい。
それが特に顕著であるのは、開発棟。最近、研究職者の退社や、大事なデータ
の紛失・破損が相次いでいるともいう。
間違いない。これまでは水面下で繰り広げられていた抗争が、表面化して
きたのである。
相手のミスを重箱の隅を突っつくように攻撃するといった、今まで通りの
争いならまだ良かった。だがここ一連のトラブルが本当に反専務派の手による
ものであるというのならば、立派に違法行為である。
このままでは、重役たちに利用されるだけ利用されて、不要になれば捨て
られる。手を拱いているわけにはいかない。
自分の身の振り方を考えるために、八代は情報収集に努めていた。――そ
して一昨日。豊作が謎の青年を連れて社内を回っているという情報を得て、
その真意を探っていたのだ。
そこで金持ち高校の生徒会で結成された「有閑倶楽部」なるものの存在を
知ったのである。
あとは野梨子の知るとおり。
「……魅禄あたりは、あなたのことかなり警戒してますわよ」
あたかも敵の頭領のように登場した八代を、警戒するなという方が難しい。
野梨子の言葉に、八代はなぜか嬉しそうな顔をした。
「だって君たち面白いじゃないか。家柄・財力・知名度のどれをとっても申し
分のない各界の著名人の子供たちが、暇つぶしで開いた倶楽部。それが色々
な事件を起こしたり、解決たりと大活躍とくれば。おまけに君たちは眉目秀麗、
頭脳明晰、とにかく派手。ファンレターのひとつ書いてみたいところだね。
お近づきの挨拶ぐらいさせてもらっても罰は当たらない」
芝居っけたっぷりに口にしてから、一言つけたす。
「今ごろ僕みたいな一般人を精一杯警戒しているかと思うと、楽しくって仕方
ないしね」
今更も今更であるが、結構いい性格をしている。
ちょっと魅録に同情してみた野梨子だったが、最大の被害者が自分である
ことに気がつき、もう苦笑するしかない。反対に八代といえば、苦笑とはいえ
彼女を笑わせることに成功し、内心でほくそ笑んだ。
「じゃ、お互いの紹介も終わったし、本題に入ろう。僕は君に情報を、君は
見返りに僕とデート。いいね?」
この後に及んで否やも何もない。頷いた野梨子に満足そうにした八代は、早
速、野梨子に情報を与えるべく口を開き――そしてそのまま口を閉じた。
突然の沈黙に首を傾げた野梨子が疑問に思って口を開きかけるが、八代が一
指し指を唇に持ってきて、「黙って」ということを伝えるゼスチャーをした為、
とりあえずは押し黙った。そのかわり眼差しでその理由を問うと、八代は声に
は出さないまま、耳をとんとんと指差した。
"耳を澄まして"――そう言っているのだ。
取り合えず言う通りにしてみた野梨子は、目を瞠った。
「剣菱の令嬢が今井の――輿入れ……もし、――」
突然、耳に飛び込んできた友人の名前。
頭を動かさないように注意して声の主を探ると、どうやら正面――彼女と向
かい合って座る八代にとっては背後――に座る男性ふたりのうち片方が発した
言葉であったらしい。
声を出した方の男は八代と同年代ぐらい。もうひとりはそろそろ壮年に差し
掛かるか、といったぐらいか。
若い方はどうやら幾分興奮しているようであった。そのため声がこちらまで
届いている。反対に、年嵩の男の声は全くといっていいほど聞こえなかった。
「大丈夫な…ですか、その、僕をひ――という話は」
年嵩の男は頷いたようであった。
若い男はなおも不安が払拭されない様子で、おしぼりでしきりに手を拭く。
「僕には……後がありません」
俯きながらの言葉に、年嵩の男が宥めるように肩を叩く。
そのときだった。
「野梨子」
それまでじっと背後の会話を聞いていた八代が、声を潜めて彼女を呼んだ。
見ると、いつになく厳しい表情をしている。
「君、カメラ付き携帯を持っているかい。――出来たらデジカメの方がいいん
だが、贅沢は言わない」
「携帯ならありますけど」
「それでいい。うしろのふたりを撮ってくれ」
「結構ですけど……撮れば、音が出ますわよ」
「構わない。馬鹿っぷるが写真の取り合いっこしてる振りでもすればいい」
八代の言葉は野梨子にとって甚だ不本意ではあるが、どうやら緊急を要する
らしい。仕方なく野梨子は携帯をバックから取り出した。
「ええ〜、僕を撮るのかい、よしてくれよ」
すかさず八代は明るくそう言う。
「ふふ。いいじゃありませんか。スーツ姿のあなたを見るなんて、滅多にない
んですもの」
カシャリ。
言葉と一緒に野梨子は携帯の真中にあるスイッチを押す。――八代に比べる
と若干大根の感が否めないものの。
運良く、ふたりの男はシャッター音にすら気が付かなかったらしい。
「見せてくれよ。僕、写真写り悪いんだよね」
念のため、演技を継続させながら八代が携帯を覗き込む。そして小さい声で、
知らないやつだな、と呟く。
と、そのときタイミングよく二人の目の前で携帯がメールを着信した。
送信者は魅録で、そろそろパーティーが終わるという知らせだった。
ツヅク
>秋の手触り
連続うpがうれしいです。
八代!
なんかカッコいいですね、八代!まさか味方だったとは。
面白いです。続きを楽しみにしています。
>秋
うん。私も八代かっこいいと思った!
>鬼闇
639さんと同じく、描写がリアルでうまいなぁと思いました。
6人はもちろん、佐渡の人たちの雰囲気やイメージも、目の前で
見ているように伝わってきます。
登場人物が今後どう動いていくのか楽しみ。
>秋の手触り
続けて読めて嬉しいです。
こちらも、野梨子や八代の描写が生き生きとしていて、
自分がその場で見ているような気がします。
混線模様の陰謀が、どういう形で明らかになり決着していくのか、
続きが楽しみです。
>鬼闇
有閑っぽくて、いい感じです!!
どんな展開になるんでしょうか。 期待してます☆
>秋の手触り
ワクワクしますねー、このお話の大ファンなので最近連続UPでうれしいですv
八代なかなかいい味出してますね、カッコいいです。
悠理や魅録の方も気になります〜
>秋の手触り
漏れもだんだん、八代儀一に萌えを感じてきた(笑)
野梨子がかなりの曲者(いい意味で)に成長しそうで、
楽しみです。他のメンバーの動きにも注目してます。
オリキャラでちゃんと名前覚えれたのって、
龍之介と八代儀一だけだ。そういえば。
ぜんぜん脈絡ないけど、夏だね
浴衣とか夏祭りとか海とか花火とか、
萌え要素一杯だよ、夏。
蚊帳の中で一緒に眠る小さなときの野梨子と清四郎とか。
萌え萌えなんですが。
(都会育ちのふたりは、蚊帳なんて入らないのかなー)
こぶたさんの蚊取り線香とか。
子供時代を思い出してる
蚊帳の中の18歳の野梨子と清四郎とか。
蚊帳いいですね。
悠野夏祭りとか読みたいーw
レズはキモいのでいやです。
野×悠編の続きが読みたいなー。
悠理が好き過ぎて訳わかんなくなっちゃってる野梨子、最高!
あれ、何度読んでも吹き出します。
カプなしで、清四郎と魅録が張り合う話とかも興味あり。
恋愛絡みじゃなく、すんごい下らないこと(って何だろ…)
でライバル心剥き出しとか…。
>539
「無理だよ….体力的に…」
「あんまりですわ」
青ざめる美童と野梨子。
「3日間二人きりか…。変な気おこすんじゃないじょ。魅録」
「ばぁ〜か。お前がブルック・シールズに見えるわけな…痛っ!!」
「ちょっとぉ、あんた達今からケンカしてどうすんのよー」
「では、島のログハウスに最低限の物は揃ってるようなので、
明日の朝9時に剣菱邸に集合です」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - -
勝手に3日間にしちゃいました。続きお願いします。
>>655 禿同。
恋にトチ狂ってる野梨子と、分かってない悠理、
とばっちり(?)を受ける人々。
本当に面白かったですよね。
続きが読んで見たい〜。
あんなに面白い野梨子は見たことなかったかもw
私自分がバイでいろいろ辛かったりもするけど
あの作品は笑えるもん。
うわっ。リアルバイキモイ!!
>659
こらこら。確かに658はここでいう事では
ないけど差別はやめなさい。
てことで何もなかったように
↓↓↓↓
夏と言うことで…。
R18の短篇UPします。
全部で5話あります。
悠×魅のR18話なので、苦手な方はスルーして下さいm(__)m
「悠理…恥ずかしがってないで手どけろよ」
目の前に居る少女は、耳まで真っ赤にさせ、渋々手を下ろした。
「あんまりジロジロ見んなよ…
恥ず…っかし…ぃじゃん…かぁ…あっ」
悠理の手が、魅録のピンクの頭を、クシャクシャと撫でる。
魅録の舌先が、尖った乳房の先を這う度に、小さな身体をビクビクと震わせ、誰も聞いたことの無い声を響かせた。
「感じやすいんだな。 じゃあここは?」
魅録は乳房への愛撫を下腹部へと移した。
「だっ…ダメだ…ょ魅録…っ」
悠理はビクビクと身体を震わせると、頭の中が真っ白になった。
まだ頭の中がはっきりしない。
でも…身体が熱い。
魅録が触れる度に、全身が熱くて…
熱くてたまらない。
もっと…あたいに触れて欲しい。
「魅録にも… 気持ち良くなって欲しい。
どうしたらいい?」
瞳を潤ませ悲願する姿は、いつもの悠理には感じさせない、女の色香を感じた。
「悠理…」
たまらなく愛おしい。
魅録は生まれたままの姿の悠理を、ぎゅっと力いっぱい抱き締めた。
「魅録の…コレ…すごくかたくなってるよ…」
そっと悠理は魅録に触れた。
「ッ…!」
その瞬間、魅録から切ない声が漏れた。
「ごめん! 魅録痛かった!?」
ハッと、驚いたように悠理は手を離した。
「違うよ…悠理。 悠理が触ってくれて気持ち良かったんだよ」
舌を絡めてキスをし、驚いた悠理を落ち着かせるように抱き締めた。
「悠理…ここ寂しくないか?」
そう言うと魅録は悠理の中に指を出し入れさせた。
やがて指の本数が増えていったが、悠理は痛がりながらも、潤滑油の量は増え、徐々に魅録の指の動きに合わせ、自ら腰をくねらせていった。
「魅録…あっ…たい…どう…しよう…あぁ…アッ!」
魅録の指にヒクヒクと吸い付くような感触が伝わる。
「あたい…変態だじょ、自分で腰振って喜んでた。 恥ずかしいよ…」
魅録に嫌われる…。
乱れた呼吸が静かになった時、瞳に涙を溜め悠理がつぶやいた。
シーツをすっぽりと被り、背を向けた悠理が、魅録はとても可愛かった。
悠理はくしゃくしゃのねこっ毛を撫でられたかと思うと、次にはすっぽりと魅録の身体に包まれていた。
「魅録…あたいが変態だってわかって…嫌いになった?」
悠理は泣きながら魅録の手を、ぎゅっと掴むと自分の頬へ寄せた。
「もっと好きになっちまったよ」
悠理は驚きながら、くるりと振り返った。
チュッ。
「お前からのキスは初めてだな」
にっこりと微笑んだ魅録の顔は、悠理の心を満たしていく。
「魅録が欲しい…。 魅録とひとつになりたい」
悠理は魅録の上にまたがると、再びキスをした。
「おっ…お前なぁ! そんな事言ったら、もう抑える自信無ないぞ!」
必死に理性を保っていた魅録だったが…
惚れた女に求められては、保てるはずも無かった。
「あたいに馬乗りされて、ジタバタしてる魅録って可愛い。 もう抑えなくてもいいよ。 それに誰かさんのせいで、あたいが我慢出来ないんだよ」
END
どうも。鬼闇、秋の手触り、どちらも楽しみにしてます。
野×悠編。私も好きです。あれくらいのギャグだったら
同性カプもOKです。つか何気に清→悠だもん。あれ。
てことで露呈シリーズの「また別のお話」。
妄想の神様が降臨されました。
需要はありませんけど勝手に供給します。
3レスか4レス程度です。
「なー、せーしろー、面白かったな。」
映画館を去る人ごみの中に二人はいた。
それは悠理が大好きなアクションコメディの映画だった。このあと映画のシーンを真似したいから一緒に東村寺に行こうと言う。
どうせ清四郎はやられ役をやらされるんだろう。
でもおとなしくやられ役を演じてやる清四郎でもなかったのでいつもそこからじゃれあいの喧嘩になるのだった。
悠理からの突然の告白から2週間。
今日は3度目のデートだ。
何を好き好んでデートで暴れまわりたがるのだろう?理解に苦しむ。
もっともデートとは言っても、まだ付き合うという言葉を口に出したわけじゃない。
悠理が清四郎に好きだと言ったのも最初の1回だけ。
あれは単に僕をからかってただけなのかと、清四郎は疑っていた。
ここに魅録を加えて3人で映画を見て、悠理の望むままに映画のアクションシーンを再現して、というのは今までにも何度かあったし。
間違ってもラブシーンの再現などはしたことがなかったし。(3人でそんなんやってられないが。)
と、ここで清四郎の口の端が上がった。悠理は目の端でそれを見た。
「ねえ、悠理。いつもアクションシーンを真似してますけど、せっかく今日は二人きりなんですし、たまにはラブシーンの再現でもしてみますか?」
二人はとうに駅についていて、今はホームに向かって階段を下りているところだった。
悠理が思わず立ち止まるので往来の邪魔になる。
「あ、あぶない。立ち止まっちゃ危ないだろ。」
と清四郎は慌てて悠理を自分の傍に引き寄せた。
「だって急に変なこと言うから。」
と呟く悠理の頬が赤い。
おや、やっぱり意識してくれてはいるんですね。
「やっぱじっちゃんとこ行くのやめ。海に行こう。」
と悠理は彼の腕をぐいと引いた。
暑い日が続いているので海辺には人が溢れていた。
彼らがやってきたのは海水浴場とは少し離れた岩場の多い海岸だった。
しかしここらも涼を求める人たちが思い思いにそぞろ歩いていた。まあ海水浴場あたりに比べれば人気がないといえるかもしれないが。
「ここじゃあ暴れられませんよ、悠理。」
やはり和尚のところとは訳が違う。こんなところでアクションシーンの再現だなんてしたら警察に通報されてしまう。
「だって再現するんだろ?ラブシーン。」
さっきの映画ではコメディシーンの一環として笑えるほどにくさいシチュエーションでラブシーンが描かれていた。
そのうちの一つは、夕焼けの岩場でヒーローとヒロインがキスをして、体が重なって、そこでイケてないヒーローの目が覚めるという所謂夢オチという奴だった。
「途中で目が覚めても知りませんよ。」
と、清四郎は意地悪く笑った。
しかし実際は彼女のペースに押されていたのだ。
今日の彼女は“女の子”を意識したような服装だと、いま初めて気がついた。
ひまわり柄のソフトイエローのタンクトップに白い細身のバミューダパンツ。足元は彼女にしては珍しく2センチほどのヒールのある、プラチナカラーのサンダルだった。
赤い丸いミニリュックを背負う彼女はとても眩しいくらいに“女の子”だった。
青いチェックの半そでシャツを着てオフホワイトのスラックスを穿いた彼と並ぶと、3原色がそろってどうしても人目を引く。
まるで今日の清四郎の服装を見抜いていたかのような彼女の配色だった。
「目なんか覚めないさ。」
と彼女は彼の手をとった。愛しそうにその手に頬擦りをする。
しかしその顔に照れはなく、むしろ視線は挑むかのような光を宿していた。
清四郎はその瞳に引き込まれる自分を感じた。
「悠理、僕なんかのどこがよかったんですか?」
思わず清四郎は尋ねる。悠理に告白されて以来、彼女にペースを握られっぱなしで悔しかったのもある。
悠理は清四郎の手を己の頬に当てたまま、軽く首を振った。
「わかんない。気がついたらお前とこうしたいと思ってた。」
彼女の細い手が清四郎の手から離れる。だが彼は彼女の頬に当てた手をはずすことが出来なかった。
彼の手を解放した彼女の手は、今度はゆっくりと彼の首へと回された。
後頭部の黒い髪に彼女の指が絡まる。
ふと、温かいものが触れ合った。
触れ合ってから、瞼を閉じた。
一度軽く触れて離れたが、またすぐに彼が頬に当てた手に力が篭ったので、今度は長めに触れ合った。
彼の手が頬から離れた。名残惜しく思ったのは一瞬だけだった。
今度はその手を背中に回されて、強く掻き抱かれたからだ。
「ん、ちょ、せーしろ・・・くるし・・・」
唇を割って侵入してくるものを悠理は必死になって押し返そうとした。だがそれは情熱的なその行為への甘い返礼でしかなかった。
「この僕を篭絡させるんですから、あなたも大したものだ。」
耳元で囁く彼の声はとても甘く、悠理の胸は苦しいほどに締め付けられた。
「悔しいから、これくらいの抵抗はさせてくださいよ。」
情熱的な想いの交換の後で、彼は彼女の肩に顎を乗せて言った。
周囲を歩いている人たちからはたぶん、海辺によくいる馬鹿っぷるくらいにしか思われてないんだろうなと思う。
本当、こんなにたくさん人目のある場所で情熱的なファーストキスをするなんて思いもしなかった。
それだけ彼女にペースを乱されている自分がいた。
「お前って案外スケベ。」
「あなたがそうさせたんです。」
やっぱりくすくすと笑う彼女のほうが一枚上手だ。
自分の情けなさが彼女に隠れなく知れてしまったのだが、清四郎はまあ、いいか、と思った。
完敗ですよ。悠理。
おしまい♪
清四郎君、抵抗になってません。
ありがちネタでスレ汚し失礼しました。
>667
>4
>・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすい
> ように、なるべく名無しで(作家であることが分からないような書き方で)
> お願いします。
>673
すいません。読み飛ばしてました。
名無しに戻ります。申し訳ありませんでした。
日付も変わったことだし、ここらで仕切りなおしといきませんか。
↓↓↓↓↓
何事もなかったように、GO
あ〜、日付変わったから今夜は花火大会だ。
女性陣に似合う浴衣の柄ってどんなんでしょうね?
いちおう考えてみた。
悠理は赤や黄色の地の色の浴衣でしょうね。朝顔模様とか。
野梨子は上品に白。古典柄で。
可憐は紫のイメージ。柄はどんなんかな?
男性陣も似合いますね。浴衣。
美童もはしゃぎながら着てそうだ。
考えてみれば、外国人である美童も含めて、メンバー全員浴衣似合いそうだね。
美童には、はじめて間近で見る花火に感動してほしいな。
横でくすりと笑う野梨子がいれば最高。
美童は丈が短すぎてくるぶしが出てるのをキボンヌ
はしゃぐ美童をたしなめつつ着付けてやる清四郎、そんな二人に萌え〜
魅録だと、たもとからタバコ出す仕草なんかがイイと思う
花火、夏祭りは萌えますな〜
ということで、いきなり思いついた小ネタv↓
夏祭り。浴衣姿の女の子三人でいるところをナンパされる。
「ねーねー、彼女たちィ〜あっちで花火でもして遊ばない?」
顔を見合わせる三人、ちょっと悪ノリしてみる。
「どーする〜?」「まあ、別にかまいませんわよ」
「そうねぇ、あと三人いるんだけど、一緒でもいいかしら?」
ヒューッという口笛が響く。
こんな上玉があと三人も?と浮き足立つ男達。
―彼らの背後から、すーっと影がさす。
「あ、来たわ」「遅いですわよ」「わ〜い、かき氷!!」
振り返った男達の目に映ったのは、微笑みを湛えた上玉の「男」三人…。
「わ〜い、花火セットもらっちった〜〜」
「なかなか気前のいい方達でしたな」
「『僕達の連れに何か?』が効いたんじゃないのぉ?」
「たく、ちょっと目ぇ離した隙にナンパされてんじゃねーよ。お前ら」
「まあ、たまにはこういうのもスリリングでいいじゃありませんの」
「へ〜〜、線香花火って風情があっていいねー」
カツアゲした花火で夏の夜を(只で)楽しむ(せこい)有閑倶楽部であった。
―以上。失礼しました。
>676-680
浴衣妄想&小ネタ、どれもこれも(・∀・)イイ!!
浴衣といえば、やっぱり浴衣でHが読みたい!
野梨子が人気なのは誰もが納得だけど、
個人的にはちょっと飲み過ぎて汗ばんじゃってる可憐を妄想。
仲間とはぐれ、魅録と二人きりになる。
「あー、あっついわぁ〜」なんてうなじをはらり。
アルコール大量摂取済みの魅録がたまらず…なんてどうでしょう。
場所は誰もいない河原とか、二人で先に宿に帰って…とか?
どなたか作家さんの萌えを刺激しないかなぁ〜。
もちろん、他カプでもよいので、浴衣の色っぽい話が読みたいです…。
清×可で短編をうpします。
苦手な方はスルーお願いします。
夏休みに入ってちょうど2週間、今日はみんなで花火大会に行くことになっている。
けど、あたしはいろいろあってあんまり気乗りしなくて、朝起きた時から何とか理由を
つけて断ろうとひとりあれこれと考えていた。
あたしはここしばらく、清四郎とまともに口を利いていなかった。
それは決して清四郎が悪いわけじゃなくて、ただのあたしのわがまま。
あたしは、頭では清四郎があたしを大事にしてくれてるってわかってるけど、時々
どうしようもない感情が吹きだしてきて清四郎の本心を疑ってしまっていた。
例えば、夏休み前の期末試験対策で、清四郎が悠理の勉強を熱心にみてたこと。
例えば、7月に入ってからの痴漢騒動で、清四郎が毎日野梨子の登下校に付き合っていたこと。
例えば、雲海和尚の頼みで、小中学生を対象にした夏合宿の世話人をして1週間丸々音信不通だったこと。
他にも取るに足りないようなことがいろいろと重なってあたしはひとり腹を立てていたけど、
あたしのいらいらは何故か、清四郎だけに向かっていた。
気をしっかりもってないと、ひどい言葉とかかけてしまいそうで怖い。
悠理を見ても野梨子を見ても、全然いらつかないのに(もちろん雲海和尚にもだ)。
だからあたしは、自分の気が収まるまで当分清四郎には会いたくなかった。
花火大会に行こうと言い出したのは、夏休みを満喫してるらしい悠理からだった。
ちょうど1週間前で、悠理はどこだかわからない場所から突然電話をかけてきた。
「もしもし、可憐、あたいだけど」
悠理の出だしはいつもこんな感じだ。
「どうしたの、悠理。ちょっと電波悪いんだけど」
受話器から聞こえてくる悠理の声が、雑音のせいで聞き取りにくい。
耳から受話器を離して液晶を見てみると3本ちゃんと立ってる。
悠理のことだからそんなこと確認せずに、思いついたまま電話してきてるんだろう。
仕方ないので、とりあえず受話器をもう一度耳元にあてる。
「・・・・・・・・・花火大会あるじゃん。せっかくだから行こう。予定空けといて」
どうやら、受話器を離している間も悠理はしゃべり続けていたらしい。
前の方をしっかり聞き逃している。
それでも、ここのところ清四郎にほったらかされてるあたしにはありがたい誘いだ。
このまま家でうだうだしてたくなくて、あたしは二つ返事で『OK』と言った。
「サンキュー。うちでいろいろ用意しとくからさ、詳しくはまた連絡する」
悠理の『それじゃ』という言葉を最後に、プチッと電話が切れた。
あたしも携帯の電源を切ってテーブルに置き、ソファに寝転がって目をつぶった。
―あーあ、あたし恨まれるなあ―
頭の中にちらとある男の顔が浮かんだ。
あたしは、ソイツが努力に努力を重ねてようやく悠理を振り向かせることに成功したことを
知っている。
それでなくても、最近の悠理や野梨子は清四郎にほったらかされてるあたしを心配してくれて、
“男達”よりもあたしを優先してくれる。
けどあたしは、ふたりの後ろに見え隠れする男達の視線に気付かないほど鈍くない。
数回、行き当たりばったりの嘘でふたりの誘いを断っている。
けど、花火大会なんてひとつじゃないし、女の子同士で行くのも悪くない。
周りからはつるむ時は6人一緒だって思われてるけど、実際はそうでもない。
特にあたし達3人は、お互いが違いすぎていて結構一緒にいておもしろい。
…『今回も』だけど、いいよね、美童、魅録。
「可憐、花火大会には浴衣を着ていきませんこと?」
野梨子から電話がかかってきたのは、悠理の誘いから2日後だった。
「無謀よ、無謀。あんな人ごみの中で浴衣なんて着てったら、すぐに崩れちゃう」
あたしは間髪入れずに反対した。
これには理由がある。
2年前の夏、付き合い始めた前の彼氏と3度目のデートで花火大会に行った。
あたしは張り切って浴衣を着て行ったんだけど、何せ着慣れてないから着崩れやしないかと
気が気でなかったし、慣れない下駄を履いた足が痛くてちっとも花火を楽しめなかった。
まあ、野梨子は着慣れてるし履き慣れてるからいいけど、問題はあたしと悠理だ。
「大丈夫ですわ。場所は事前に取っておきますし、当日は悠理のうちに全員集合で、車で
送り迎えしていただけることになりましたし。…それに可憐も悠理もずいぶん浴衣を
着慣れてきたんじゃございませんこと?」
全員集合?
野梨子のおっとりした口調に、あたしは危うく聞き逃すところだった。
すぐに問いただしてみる。
「野梨子、全員って、6人でってこと?」
「あら、私、悠理からそのように聞いてますけど。…あれ、違いますの?」
野梨子の声が、不思議そうに尋ねてくる。
「…あっ、そうだ、そうだったわね。うんうん、そうだったわ」
あたしは、野梨子に気付かれないように小さくため息をついた。
まだ、清四郎には会いたくなかった。
続きます。
短編うpします
魅録→清四郎→悠理です
『本日は全国的に30度を越えるでしょう。
6月から本日までの平均気温は例年よりも2.4度高く、
また東京では高気温が30度以上の「真夏日」が65日となり、
現時点で過去十年間で最多記録を更新しています……』
溶けちまいそうに暑い日だった。
巷ではビールが飛ぶように売れ、あまりの暑さに却って海水浴客が減ったなどという
嘆きの声がニュースに流れた。
異常気象なのだという。
毎年、ちょっとでも夏が暑すぎたり寒すぎたりするとキャスターが深刻そうにその言葉を口にするので、
俺はあまり真に受けてはいなかったが、今年の夏に限っては頷かないわけにはいかなかった。
クーラーが必需品となったこの平成の世に、熱中症で死亡する人間が相次ぐなど尋常ではない。
なんせ、都心部では最高潮にまであがった地熱が煙のように立ち上がり、冷房を無効化してしまうのだ。
それでも実家はまだ涼しかったように思う。同じ東京にあるというのに、
建物が密集しているボロアパートと、閑静な高級住宅街にある実家とは別次元のように感じる。
家を出てから3ヶ月。一度だって後悔したことがなかったというのに、
こんな下らない理由で実家に帰りたがっている自分を俺は笑った。
例年であれば、仲間たちと海だバカンスだと浮かれ騒いでいた筈だった。
あの頃の自分は、こんなふうにひとりで夏を過ごすことなど考えもしなかった。
この日々が永遠に続いていくような錯覚を抱いていたのだ。
俺はだらだらと汗を流しながら、シャツ一枚で扇風機の前で寝転んでいた。
ちっとも効かない壊れかけの冷房よりは、扇風機の前の方がまだマシだ。
何もする気がせずに、だらだらと寝そべっていると、玄関のドアをどんどんと叩かれた。
インターフォンがあるのにこんなことをする奴はただひとりだ。
「おーい、魅録、来たよ」
「おー、入れ」
出迎える元気もなくそう声だけで応じると、相手もまた遠慮するふうもなく中に入ってきた。
高校時代の友人の悠理だった。
いくら悠理とはいえ、女の前でタンクトップ一枚とはさすがに不味いかなと思わないでもなかったが、
まあいいやと思い返す。
「差し入れ」
そう言って、悠理はコンビニの袋を俺の目の前に突き出した。
受け取って中を覗くと、炭酸飲料とアイスキャンデーが入っており、
悠理自身はすでにオレンジ色をしたアイスキャンデーをくわえていた。
「さんきゅ」
そう言って受け取ると、俺は言葉少なにがしがしとアイスキャンデーを食った。暑さで頭がどうにかなりそうだったのでありがたい。
食べるそばからキャンデーが溶け出し、手をべたつかせた。
悠理とは、卒業後もちょくちょく会っていた。
高校卒業後、進路の別れた友人同士としては頻繁な方だろう。
それでも、お互いが大学に入ってからまだ5ヶ月しか経っていない。
これが一年と経過すると、お互いの知らない領域での人間関係の比重の方が大きくなり、
会う回数も減るのだろうという確信が俺にはある。
「一人暮らししながら、大学の費用を自分で払うって結構大変じゃねーの」
アイスキャンディーを食べ終わった後、ふと悠理がそんなことを聞いてきた。
今までいろんな人間から飽きるほどされた質問であったが、
一度も悠理がそれを聞いてくることはなかったので、
こいつはそんなことは気にしない人間なのだと思っていた。
それが5ヶ月も経過した今になって、どういう心境だろう。
「まあ、なんとかなってるぜ。バイト三昧だけど」
「うげー、大変だ。勉強もあるんだろ」
「お前、バイトなんてしたことないもんなぁ」
興味本位の短期的なものならしたことがあったが、
長期的で地味なバイトは俺にしたところで初体験である。
そういう意味でこいつほどではないが俺も「金持ちのぼんぼん」として、
少なくとも金銭的には甘やかされて育ってきたのだ。
だがバイトはともかく、勉強の方は苦にならない。
がり勉だなんて俺の性に合わないと思っていたが、何も考えずに好きなことを学び、
無心で打ち込んでいる間は、俺は全てのしがらみから自由でいられた。
「清四郎から手紙、読む?」
出し抜けに悠理がそう言った。
(ああそうか。)
彼女はそれを言うために、今日ここに来たのだ。
白鹿野梨子さまへ、と表書きされたエアメールを差し出された。
「野梨子から預かってきた。――アイスのついた手で汚すなよ」
悠理らしくなく几帳面に封筒をあけると、中の手紙を丁寧に開く。
彼女は笑みに近い表情をつくってはいたが、そこからは何の感情も読み取ることが出来ない。
その瞬間、俺は唐突に悟っていた。
俺に現在の生活を選択させたのは一年前のこいつの涙だったのだ、と。
野梨子以外の誰にも打ち明けずに、清四郎が留学を決めていたことを知ったこいつが、
生徒会室の奥の部屋で、ひとりで声を殺して泣いたのを俺は知っている。
あのときは気づかなかった。
――今なら分かる。俺は全くの無自覚のまま、早く大人になりたいと飢えるように願ったのだ。
清四郎の手紙を読む俺に無関心な様子を装いながら、
それでも微かに強張った肩を抱きしめることが出来るぐらいの大人になりたかった。
「お前の方は最近どうなんだ?」
あえて手紙内容には触れず、そう問いかけた。
悠理は最近大人びてきた眼差しをまっすぐに俺に向けて、「真面目にガッコ行ってるよ」といった。
かつての有閑倶楽部男性陣は全員プレジデントのエスカレーターには乗らなかった。
だが女性陣は全員、学部は違えど、聖プレジデンの大学に進んだ。
「……最近、結婚していない兄ちゃんのパートナー役として、けっこう忙しいんだ」
「へえ」
付け加えるようにして言った悠理の言葉に、俺は少し驚いていた。
本来それは、高校生時代から悠理が果たさねばならない役割だった。
だがあまりに天真爛漫で、どこか幼く、型に嵌らない悠理は表舞台に出すに出せないのだと、
彼女の母親が溜息をつきながら、いつか語っていた。
それがいつのまに。
俺が大人になりたいと願ったように、彼女もまたそれを望んだのだろうか。
誰もが愛しんだ無邪気な少女の殻を脱ぎ捨てて、彼女も大人になってしまうのだろうか。
「ミツルやリョージなんかも、お前と会いたがってたぞ」
「うん」
「久しぶりにさ、ツルんでツーリングでも行かねえか」
「うん」
「ほら、海とか行って泳ぐのもいいしな」
「うん」
「……悠理」
外では喧しいぐらいに蝉時雨が広がっている。
しばらく無言になった俺たちは、それをじっと聞いていた。
こめかみを流れる汗を拭うと、俺はぼんやりと外を眺めている悠理の背中に向かって言った。
「俺は」
悠理は黙って聞いている。
「俺は、お前がそんな顔をして毎日暮らしているのだと思うと、遣り切れない」
悠理は結局振り返らずに。
俺も彼女を抱きしめることはなく。
彼女はボロイ窓のサッシにしがみ付いてひとりで泣き、俺はそれを見守っていただけだった。
扇風機と蝉時雨の音が悠理の泣き声を打ち消した。
やがて泣き止んだ悠理は笑顔で振り返ると、「ごめんな」と言った。
俺はただ頷くと、何事もなかったように立ち上がった。
「ほれ、行くぞ」
悠理は目を丸くして、「どこに?」と聞く。
俺はひどく優しい気分になりながら、「海に」と言った。
俺は再び、潮の匂いと、仲間たち毎年のように過ごした夏の日々を思い出していた。
けれど海に着いたら、昔の話なんてやめて、俺はお前に言うだろう。
お前が好きだ。
終わり
カプ間違ってるよ
>思い過ごし
もどかしい可憐の心理が伝わってきて、清四郎と会った時どんなことになるのか
楽しみです。続きお待ちしてます。
>俺は潮の匂いを〜
どことなく乾いた、それでいて優しいこんなお話大好きです!
>695
ご指摘ありがとうございます。
確かに間違ってます。
正しくは魅録→悠理→清四郎ですね。
申し訳ございませんでした
あと17kbで引越しだね。
ってことは最高で8704文字(原稿用紙20枚ぐらい)
短編1つか2つぐらいで埋まりますね。
ということで、ちょっと早いかもしれないけど、新スレについてまゆこで話しませんか?
>俺は〜
ひとりで泣く悠理にホロリ。
失恋というものは切ないですよねー。
特に仲間内の恋というのは辛いです。
でもさわやかな話にしあがってて、読んでいてあたたかい気持ちになりました。
とりあえず魅録ガンガレ!
>思い過ごし
可憐のもどかしいような気持ち、なんだか共感できます。
怒りが野梨子や悠理にでなく清四郎に向かうのも。
次の回で可憐の浴衣姿が拝めるとおもうと、楽しみ。
このところ季節感のあるネタや短編のうpがあってうれしーです
>俺は潮の匂いを〜
いいですね、切なくて。でも、ハッピーエンドの予感を少々残しつつ・・・
魅悠がめちゃツボなので嬉しいです。
悠理も魅録も切ないけど、清四郎はどう思ってるのかが少し疑問。。
今日は地元花火大会だ!
浴衣Rきぼーん
>703
見てきた光景を妄想モードでSS化しる!<地元花火大会
>>702 留学を野梨子にだけ教えて手紙も野梨子にだけ書いてる辺り、清→野っぽい。
それ踏まえると、
>>699さんの仲間内の失恋が辛いのくだりが更に切ないね・・。
お祭りと花火大会。
可憐と清四郎が初デート。
はじめは少しギクシャクする。
そのうち人込みにもみくちゃにされて浴衣ぼろぼろな可憐。
境内の人目のつかないところで浴衣を直してあげる清四郎。
勿論、可憐の諸肌目にするようなことは自粛して、なるべく密着しない
ようにするんだけど、
それでも近すぎるお互いの距離に、どきどきするふたり。
境内から出るとき、自然に出された手にしがみつく可憐。
ふたりの距離がちょっとまた短くなったとき、夜空に大きな花火が――。
ドリーマーでごめん(笑)
可憐は悠理にシフト可だと思うけど(浴衣が自分で直せない点ね)
自然に浴衣を着こなす清四郎は、やっぱりオイシイと思う。
スレの残りが少なくなってきたときにすいません。
夏っぽい短編投下します。
基本は清×悠。何年後か、未来の話です。
3レスいただきます。
今日も清四郎は遠くを見ている。
「悠理?帰ってたんですか?」
清四郎は責めない。
夜遊びをするあたいを責めない。
「今日・・・さ。野梨子からメールが来てたよ。」
「そうですか。元気そうでしたか?」
「ああ。スウェーデンの気候にもだいぶ慣れました、だって。」
そして最後に書いてあった一文。
───清四郎によろしくお伝えください。
他愛ない一言なのに、あたいはそれを告げることが出来ない。
どうせ清四郎だって野梨子がとる礼儀のことはよくわかってるだろうから、言わなくてもその一文が最後に付け加えられていることを知ってるだろう。
わかってる。今は清四郎があたいを愛してくれているって。
わかってる。今はあたいは清四郎を愛してるって。
だけど、その愛を無邪気に信じていられるほどあたいたちは若くもないし。
その愛を、静かに信じていられるほどにあたいたちは歳をとってもいなかった。
こんな物思い、馬鹿馬鹿しいってのは知ってる。
野梨子に今更嫉妬することがあるなんて、思わなかった。
別に清四郎と野梨子の間になにかあったわけじゃない。二人は幼馴染の域を越えることはとうとうなかった。
むしろ過去があるのはあたいのほう。
あの夏。
花火見て、酔っ払って、盛り上がって。
いつも一緒に遊んでいた男と寝た。
でもそれきりだった。
「悠理。そろそろ結婚記念日ですよ。覚えてました?」
「ばあたれ、いくらあたいでも忘れるわけないだろ。言わずに用意して驚かしてやろうと思ってたのに。」
「そうですか。すいませんね。」
清四郎は笑う。
男にこんな形容詞を使うのはたぶん間違ってるんだけど、こいつはいつもたおやかに笑う。
あたいに対してだけ見せる笑顔。
皆に見せる皮肉な笑顔でも、自信が満ち溢れた笑顔でもない。
愛されている、とわかってる。
愛している、それは間違いない。
だけど、遠くを見る清四郎の視線に嫉妬する。
遠い幼い日の、二人に嫉妬する。
あの日のように何も知らないままだったら良かったのに。
そしたらこんな苦しみも知らなかったのに。
曖昧に笑ったら、清四郎に抱きしめられた。
「今夜は寝かせませんよ。そして明日は二人で昼までゆっくり眠りましょう。」
そしてまた、いつものように笑ってください、と言われた。
今日のあたいが変なのにやっぱり気づいてるみたいだ。
ありがと。清四郎。
二人で前を向いていこうな。明日になったら、いつもみたいに笑うから。
だから、今夜はこの揺らぎを、忘れさせて。
おわり
あとひとつぐらいss投下できる容量はあるので大丈夫ですよ〜
>昔の君
たおやかな笑みというのが想像できて、幸せな気分になります。
清四郎には、昔の恋を切り捨てるのではなく、大切にしながら現在の恋人も大切にしてほしいです。
だって懐の深いひとですし。
少し切なくなって嫉妬する悠理も可愛いです。
さりげなく美野というのがいいですね。
露呈再び!懲りないヤシ…
感想つけてるのはコトー?w
>712
……なんですか? あなたは。
>昔の君
曖昧に笑う悠理を抱きしめる清四郎に萌え〜
突然ですが、姓名判断などやってみました
菊正宗 清四郎
総運 49画 総合 落差の激しい半吉数 /// 未完の大器で終わったらやだよう
天運 24画 先祖運 人と物に恵まれる大吉数
地運 25画 個性 勝気に過ぎて損する半吉数
人運 19画 社会性 未完の大器に終わる半吉数
外運 30画 環境運 試練が盛衰を決める半吉数
総運+人運 28.0 天運+地運+外運 16.3 得点 44.3
黄桜 可憐
総運 41画 総合 賢明な対応で成功する吉数 /// なんとなく納得
天運 21画 先祖運 独立と功名の吉数
地運 20画 個性 破綻と孤愁の凶数
人運 15画 社会性 着々と発展する吉数
外運 26画 環境運 波乱と異変の凶数
総運+人運 56.0 天運+地運+外運 6.0 得点 62
剣菱 悠理
総運 43画 総合 財運に見離される半吉数 /// 納得いかん
天運 21画 先祖運 独立と功名の吉数
地運 22画 個性 無力感に悩まされる凶数
人運 22画 社会性 無力感に悩まされる凶数
外運 21画 環境運 独立と功名の吉数
総運+人運 14.0 天運+地運+外運 12.0 得点 26
松竹梅 魅録
総運 55画 総合 極端にはしりやすい半吉数 /// そんな気がしなくともない
天運 24画 先祖運 人と物に恵まれる大吉数
地運 31画 個性 堅実に成功をつかむ大吉数
人運 25画 社会性 勝気に過ぎて損する半吉数
外運 30画 環境運 試練が盛衰を決める半吉数
総運+人運 28.0 天運+地運+外運 22.1 得点 50.1
白鹿 野梨子
総運 41画 総合 賢明な対応で成功する吉数 /// なるほどね
天運 16画 先祖運 恵まれた境遇を得る吉数
地運 25画 個性 勝気に過ぎて損する半吉数
人運 22画 社会性 無力感に悩まされる凶数
外運 19画 環境運 未完の大器に終わる半吉数
総運+人運 19.8 天運+地運+外運 15.1 得点 34.9
グランマニエ 美童(日本語読みだから姓と名が逆です)
総運 36画 総合 無謀が災いを招く凶数 /// すごい納得
天運 15画 先祖運 着々と発展する吉数
地運 21画 個性 独立と功名の吉数
人運 12画 社会性 意志薄弱で挫折する凶数
外運 24画 環境運 人と物に恵まれる大吉数
総運+人運 7.0 天運+地運+外運 25.9 得点 32.9
http://www.ytakeuchi.co.jp/fortune/index.shtmlより
「可憐ちゃん、可憐ちゃん」
あたしが瞼をゆっくりと開けると、目の前にママが立っていた。
ママの服装は明らかに仕事用で、わざわざお店から抜け出してきたらしかった。
あたしは半分寝ぼけた頭で何があったのだろうと考えつつ、不安げなママの顔を見ながら
訊いてみた。
「ママ、どうかしたの?」
「『どうかしたの?』じゃないわよ。野梨子ちゃんからお店に電話が入ったのよ、あなたと
連絡が取れないって。可憐ちゃん、大丈夫なの?」
ママはあたしの側に来て、ソファの前でしゃがんであたしの顔を覗き込んだ。
本当に心配そうな顔をしている。
「大丈夫」
あたしは首を縦に振って笑顔を作り、ゆっくり起き上がった。
テーブルに投げてあった携帯の電源を入れ、野梨子に電話をかけた。
「ごめん、野梨子。今起きた。……わかってるって、ちゃんと浴衣を着ていくわよ」
すみません。>717は>687の続きです。
結局あたしは、約束の時間より1時間遅れて剣菱が取ってくれてた桟敷に直接向かった。
他の5人はもちろん来ていて、ありとあらゆる食べ物や飲み物が所狭しと置いてある。
あたしは下駄を脱いで桟敷に上がり、入り口の近くにとりあえずは腰を下ろした。
反対側の縁に座って煙草をくゆらせている魅録は振り返って目だけで挨拶してき、
その近くで優雅に団扇を扇いでいる野梨子はあたしを見てにこりと微笑んだ。
真ん中あたりにいる美童はすでに出来上がっているらしく、両手を後ろについて身体を
支え、悠理は缶ビール片手に焼き鳥やらから揚げやらをほおばっている。
「遅いじゃん、可憐。何してたんだよ」
あたしが手近にあったウーロン茶を手に取った時、膨れっ面の悠理が少し非難がましく
言ってきた。
「ごめん、ちょっと寝ちゃった。何か、今日、だるくって」
あたしはほんの僅かだけ肩を竦め、両手を胸のあたりで合わせて『ごめん』と目でも
悠理に訴えた。
右側に視線を感じる。
桟敷に入った途端に感じてはいたけど、あえてそっちを見ないようにしてたけど、
無視するにはあまりにも強すぎる。
あたしはその視線から逃れたくて、その場を離れる口実を見つけるために慌てて桟敷を
ざっと見渡した。
飲み物が残り少ない。
悠理はきっと、そのうち飲み物がないことでグダグダ言いそうだ。
「あたし、何か飲み物買ってくるわ」
あたしはすくっと立ち上がり、下駄を引っ掛けて桟敷を後にした。
「可憐、何を怒ってるんですか?」
ひとり夜店が建ち並ぶ方へ歩いていたあたしを、清四郎が追いかけてきて呼び止めた。
あたしは走って逃げたいところだったけど、浴衣に下駄ではそれは端から無理だった。
あたしは諦めて振り返り、努めて平静を装って言った。
「別に怒ってなんかないわ。だってもう、ほとんど飲むものなくなってたじゃない?
悠理が騒ぎ出すのも時間の問題だと思ったのよ。清四郎、何か特に欲しいのがあれば、
買ってきてあげるけど?」
「話を逸らさないでください。言いたいことがあるなら、ハッキリ言ってください」
「だから、何でもないってば。で、何を買ってくればいいの? 缶ビール? それともお茶か何か?」
「可憐!」
あくまでも白を切りとおそうとしたあたしに清四郎は珍しくも声を荒げ、あたしの腕を
力任せに掴んでぐいと引き寄せた。
振りほどこうにも、力ではとてもかなわない。
だからあたしは、清四郎を見上げてキッと睨んだ。
一瞬、清四郎の表情が歪む。
と同時に、あたしの腕を掴む力が緩んだ気がした。
その隙に腕を清四郎の手から抜き、あたしは清四郎に背を向ける。
あたしの視界に清四郎はいない。
気を取り直して歩き出そうと、あたしはわざとしゃんと背筋を伸ばして右足を1歩前に出してみた。
腰のあたりに、何かがまとわりつく感触がする。
あたしはその感触を振り払おうと、両手を腰のあたりに持っていった。
一瞬、身体が宙にふわっと浮く。
気が付いた時には、あたしは、清四郎に後ろから抱きしめられていた。
背中に心臓の音を感じる。
あたしの精神安定剤だ。
くやしいけど、それまで張り詰めていた神経が一気に緩んでいって、清四郎に身体を
預ける格好になった。
清四郎があたしの耳元に顔を近づけ、いつもとはちょっと違う声音で囁く。
「可憐、ちょっとの間、ふたりでぶらぶらしましょうか?」
あたしには断る理由がなかった。
素直に首を縦に振った。
「ねえ、いい加減買うもの買って戻りましょ」
あたし達は、多分桟敷を後にしてから10分近くも土手をうろうろしていた。
今頃、本当に飲むものがなくて悠理が喚いているに違いない。
野梨子をひとりで買いに行かせるのは危険だし(多分男達に囲まれて帰ってこられないだろう)、
美童はあの様子だと酔いがある程度冷めるまではまともに歩けないだろう。
まあ、魅録が残っているといえばそうなんだけど、悠理を宥めるのに忙しくて桟敷を離れる間が
ないだろうし。
やっぱり、戻らなきゃ。
あたしは清四郎の顔をチラッと見上げ、夜店の方へ向かって歩き始めた。
「可憐」
清四郎はあたしの名前を囁いて、あたしの腰に腕を回してきた。
強引に、身体の向きを変えられてしまう。
あたしは清四郎の導く通りに歩かされ、あたし達は夜店からも桟敷からもどんどん離れていった。
ふと周りを見渡すと、家族連れや友達同士といった感じの人達が姿を消し、カップルばかりが
引っ付きあっている。
立ったままなのも腰を下ろしてるのも、うす暗がりをいいことにいちゃいちゃしている。
たまたま視界に入ってきたカップルなんか、キスどころじゃない状態だ。
あたしは何だか恥ずかしくなってきて、清四郎の浴衣の袖を引っ張った。
「ねえ、清四郎、戻ろう?」
「嫌です」
あたしが言い終わるやいなや、清四郎は立ち止まってきっぱりと言い切った。
と同時に、あたしの唇は清四郎のそれに塞がれる。
軽く触れるだけのキスなんかじゃない。
清四郎の舌があたしの口腔内に入り込んで、あたしの舌を絡めとる。
あたしの身体から、急速に力が抜けていく。
清四郎は右腕であたしの身体を支えながら、左手をあたしの頬から首筋へ、それから浴衣の
上からではあるがふくらみへと這わせていった。
遠くの方でヒュルルルという音が聞こえる。
その数秒後に、ドーンという音。
真っ暗な上空をカンバスにした美しい大輪の花々。
自然と、あたし達は音のする方へ釘付けとなる。
だが、いたずらな清四郎の左手だけはちっともおとなしくはなってなかった。
「清四郎、こんなところでダメだってば」
「どこだったらいいんです?」
清四郎は手を止めることなく、涼しい顔で訊いてくる。
わかってるくせに、意地悪だ。
あたしは清四郎の左手をまずは押さえ、それからきゅっと握って囁いた。
「花火が終わったら、……連れてって」
花火が終わった後、あたし達は一旦桟敷に戻った。
中はすっかり片付いていて、悠理は野梨子の膝を枕にすやすやと眠っていた。
一仕事を終えたらしい男二人は、剣菱の迎えがまだ来ていないこともあって寛いでいる。
あたしは声を出さずに口の動きだけで『ありがと』と言い、一応物音を立てないようにして
下駄を脱いで中に入った。
野梨子の側にサッと寄り、『先に行くわ』と耳元で囁く。
それから寝ている悠理の頭を軽く撫でてみる。
悠理は、無垢な子供のようにかわいらしい。
少しの間悠理を見守ってからすっと立ち上がると、野梨子はあたしの目を見て、『後は
任せてくださいな』という感じでニコリと微笑んだ。
近くにいる男二人は恐らく、入り口で待っている清四郎と目だけで会話したのだろう。
あたしは入り口に戻って下駄を履き、清四郎の手を借りて立ち上がった。
闇がさっきよりも深く濃くなったような気がする。
夜はこれからだと、その色で教えてくれる。
「ねえ、清四郎、これからどうする?」
「どうしたいですか、可憐?」
「意地悪ねえ。……このまま帰った方がいいって言うの?」
「もちろん、それは困ります。せっかく会えたんですから、まだまだ帰しませんよ」
「で?」
「浴衣も着崩れているみたいですし。………僕がちゃんと着せますから」
「もおっ、清四郎のバカ!」
これで終わりです。ありがとうございました。
>思い過ごし
甘えてる可憐が可愛い…。
この二人のカップルって、なんだか大人で、でも可愛いですね。
夏らしい作品乙
もうすぐ新スレを立てる時期です。
まゆこスレにテンプレ案があるので、
出来たら意見ください。
こっちが雑談ですね。オッケーです。
スレ立てありがとうございました。
どうでもいい雑談。
大人になった可憐姐さんの浴衣姿を思い浮かべて
はあはあしてます。
でもあれだけめりはりのある体って和装しにくい。
詰め物つめまくりで暑苦しそうだ。
野梨子も悠理も和服体型なんだけどね。
では私は男性陣でハァハァを・・・
やっぱ一番クるのは魅録の浴衣かなーと。
清四郎は普通に似合いそうでロマンがないし、
美童はしっくりきそうにないし、
魅録みたいなワルい外見の人に着せてみたい。
>730
じゃあ、私は浴衣の袖をがーっと肩までめくり上げて
「あっちーなー」って団扇でバタバタやってる魅録に1票(何の票だ?)
笑いながら麦茶を出してあげる野梨子、
清四郎とはあまりに趣の異なるその着こなしにちょっと胸がざわざわ…。
何げなさを装ってとなりに腰かけるが、
無造作に組んだ脚がはだけた裾からのぞいて、「きゃっ」ってことでv
魅録って夏男!て感じだしね。
夏女はやっぱり悠理かな。
>731
それ、美味しすぎて萌え。
逆に、可憐姐さんの浴衣姿に気もそぞろな魅録が何気に可憐の隣に座って、
何かの拍子に一瞬チラと見えた可憐姐さんの太腿に……ってのも漏れ的に萌え。
魅録はたしかに夏男。
流れ豚桐でスマソだが、ここでひとつ久々に点呼はどうですかみなさん。
魅録と可憐の短編キボンな漏れが点呼1。
野梨子に本気で惚れさせる美童が見たい、2。
美童による悠理@マイフェアレディを読んでみたい 3
ここでキボンしたのが作家さんの萌えを刺激してくれればいいなあ。
悠理にベタボレの魅録と美童のバトルが見てみたい。4!
誰か、美童×可憐でひとつ書いてくれないかな、5。
美×野の本格的Rが読みたい!6
美×悠のほのぼの話が読みたい…7
美童が女物の浴衣で女装する話が読みたいです。9
それいいなと10
おお、美童すごい人気だ。
美童と杏樹の兄弟対決キボン
それから新スレで中断している連載の続きが見れますように 11
魅録と野梨子で、
相手が好きで好きで仕方ないんだけど
お互い意識しちゃっていつもどおりにできなくて
手繋ぎ一つにももごもごしてる、みたいな。
そんなもどかしいラブが読んでみたい……12
本格美×野R私も読みたい13
有閑キャッツの続きを書けたら書きたい。でもムリ。15
清可のすれ違いしっとりラブが読みたい16
周りは巻き込まずに水面下でジタバタする感じキボン
檻の続きが気になる17
私はDeep River気になります。18
魅録ならなんでもいいです。19。
菊正宗一家の日常が読みたいです。20
>753
菊正宗和子の朝はうんと濃いブラックコーヒーで始まる。
…みたいな?(点呼参加済み)
そんな感じでw
あとチュウシャンの中華のごとく悠理に貪られ食い尽くされる男性陣も読みたし。
(こちらも点呼参加済み)
ラブラブエチーが好きなんだけど、自分ではうまく書けなかった・・・
カプには拘りませんので、どなたかよろしくです。21。
病院坂
気になりすぎます。22
>755
いいな、それ読みたし。
だけど・・・パラレルワールドで可憐女王に掴まって奴隷にされ、
鞭打たれる清四郎(要、首枷)が、途中で上手く抜け出して
立場逆転Hになだれ込む、って話がもっと読みたい。
どなたかか書いて下さらんか〜〜〜
(点呼済みにて、こっそりv)
暴走愛の続きを読める事を願いつつ…
23
清四郎の純愛ものが読みたいな。24
ともに佳境の「病院坂」「檻」
つづきが是非是非読みたいです。25
「病院坂」と「横恋慕」…お願いします、作者さま。26
時代劇の続きをいまだに待っています。27
ああ、横恋慕。私も待ってます。(点呼済み)
雑談ついでに小ネタ。
シティーハンターの登場人物にあてはめてみた。
撩=魅録(パイソンぶっぱなしてください)
香=悠理(ハンマー振り回してください)
海坊主=清四郎(破壊魔なあたり百合子さんのほうが合うかも)
美樹=可憐(泣き黒子のコマンダー、海坊主に迫ってください)
ミック=美童(金髪碧眼で香を口説いてください)
冴子=野梨子(ストレートボブの黒髪、撩に色仕掛けしてください)
魅録と清四郎は逆でも可。
魅録なら頭から湯気出して照れてくれるでしょう。
おまけ野上警視総監=時宗さん(まんまです)
槇村兄=豊作さん(眼鏡具合がそっくりです)
正装のまま乱闘して服がキレギレのボロボロになった清&魅に萌え〜
傷だらけの顔と涸れた声で好きな女の名を呼んで(むしろ叫んで)ほしいねぇ・・・
(点呼済み)
いきなりリレー、リレーSSもし無人島にの行く末が気になる28
>>764 有閑倶楽部と同じくらいシティーハンターも好きだからこんなところで
こんなの見られて嬉スィ。
冴子=可憐、麗香=野梨子でも面白そう、29。
有閑キャラにシティーハンターは荷が重いな…
特に魅録=リョウはあんまりだ
銃を振り回せば即リョウってもんではないでしょう…
有閑もCHも大好きだけど、有閑キャラがいかに「ただの高校生」かが
>764さんのレスで浮き彫りになって新鮮でした。
いや、「ただの高校生」は「ただの高校生」なりに面白いから好きなんだけどね。
>768
まあまあ、かたいこと言うなや。
お遊びお遊び。
まあ御大も有閑は高校生以外考えられないって
のたまってましたしね。
個人的には有閑in養老院を読んでみたい。
ところで点呼は29で止まってますね。
新スレしか見てない人もいるでしょうね。
ほな、点呼再開ということで、
有閑子供時代のエピソードが読みたいよぉ 30
新しいのが読みたいよ 御大。。。。 31
暴走愛の続きが読みたくてワナワナ。32
清×可のカプが一番好き。『思い過ごし』楽しませて
頂きました(・∀・)
清×可、美×野が好きです。33
「可憐さんにはかなわない」の続き読みたい。34
病院坂が、野梨子→清四郎→悠理→魅録→野梨子という形になってほしいと妄想。
実際のところは清四郎→野梨子→←魅録なんだろうけどさ。
あの作品の中で、清四郎が悠理をどう思っているのかいまいちナゾで。
ああ、作者さま。
どこまでも着いていくので続きプリーズ
まだ点呼してる?
有閑キャッツの続きが読みたいよ〜!35
魅×野、皆気付かないけど実はずっと付き合ってて、
クールな二人も二人っきりだと結構情熱的、だったらイイネー。
病院坂続き読みたいです!36
清四郎は─┬─野梨子とくっつくよ(幼馴染派)
│ ├─妹みたいなもんだよ(妹属性派)
│ ├─実は異母妹だよ(妄想派シリアス展開型)
│ └─初夜にあんなことこんなことしてほしいよ(親父派)
│
├─悠理とくっつくよ
│ ├─あれだけフラグ立てば確実だよ(妄想派)
│ ├─優等生とお転婆娘は王道だよ( 学園派)
│ └─悠理がもてるなら何でもいいよ(過激派)
│
├─可憐とくっつくよ
│ ├─実は健気な可憐を見守りたくなっちゃうんだよ(見守り派)
│ └―大人な関係なんだよ(シティ派)
│ └─魅惑のボディがたまんない(おっぱい星人派)
│
├─和子とくっつくよ(禁断の愛派)
│ └─最後はふたり駆け落ちして、赤い糸を小指に巻いてふたり死ぬんだよ(妄想派過激型)
│
├─魅録とくっつくよ(やらないか派)
│ └─その様子を野梨子がニヤニヤ眺めてるよ(同人派)
│
├─美童とくっつくよ(コメディー派)
│
├─誰ともくっつかないよ
│ ├─実は童貞だよ(チェリーな清四郎を愛でたい派)
│ └─彼は誰にも心を許さぬロンリーウルフ(情緒障害推奨派妄想型)
│
└─全員とくっつくよ(清四郎バージョン雨熱烈希望派)
ずれちゃいました
清四郎は─┬─野梨子とくっつくよ(幼馴染派)
│ ├─妹みたいなもんだよ(妹属性派)
│ ├─実は異母妹だよ(妄想派シリアス展開型)
│ └─初夜にあんなことこんなことしてほしいよ(親父派)
│
├─悠理とくっつくよ
│ ├─あれだけフラグ立てば確実だよ(妄想派)
│ ├─優等生とお転婆娘は王道だよ( 学園派)
│ └─悠理がもてるなら何でもいいよ(過激派)
│
├─可憐とくっつくよ
│ ├─実は健気な可憐を見守りたくなっちゃうんだよ(見守り派)
│ └―大人な関係なんだよ(シティ派)
│ └─魅惑のボディがたまんない(おっぱい星人派)
│
├─和子とくっつくよ(禁断の愛派)
│ └─最後はふたり駆け落ちして、赤い糸を小指に巻いてふたり死ぬんだよ(妄想派過激型)
│
├─魅録とくっつくよ(やらないか派)
│ └─その様子を野梨子がニヤニヤ眺めてるよ(同人派)
│
├─美童とくっつくよ(コメディー派)
│
├─誰ともくっつかないよ
│ ├─実は童貞だよ(チェリーな清四郎を愛でたい派)
│ └─彼は誰にも心を許さぬロンリーウルフ(情緒障害推奨派妄想型)
│
└─全員とくっつくよ(清四郎バージョン雨熱烈希望派)
うまくいかないなぁ。
スレ占拠スマソ
>778-780
面白かった。
>全員とくっつくよ(清四郎バージョン雨熱烈希望派)
が特に見てみたいw
>778-780
面白いですね、GJ!
・魅録とくっつくよ(やらないか派)
やらないかって・・・w
これって以前どっかのスレで見たことあったんだけど、
元ネタってなんだっけ?
>その様子を野梨子がニヤニヤ眺めてるよ
それ、面白そうw
上手なウソで清四郎と魅録をけしかけて
男二人の戸惑いの行動をメモったりしてて欲しいよ。
>>779 ワロタw
漏れは妹属性派であり、シティ派であるのだなあw
自分の属性が結構はっきりした。
しかし他の属性も捨てきれないw禁断の愛派とか。
いっそ清四郎バージョン雨をキボンw
これ、清四郎が中心になってるけど、
美童とか魅録とかを中心にしてるのもみたい。
>最後はふたり駆け落ちして、赤い糸を小指に巻いてふたり死ぬんだよ
これ、シリアスなはずなのに、想像したら激しくワロタw
漏れも全員とくっつく清四郎が見てみたいw
ところで、妹属性派は
>野梨子とくっつくよ(幼馴染派)
の中に入るのか?
>788
確かに妹属性はくっつかないってことでは・・・
自分は学園派、もしくは情緒障害推奨派妄想型(長い)。
基本的に妄想たくましいので妄想派過激型でもある。
後者二つは清四郎バージョン雨熱烈希望派にも通じる
ブラックな話が思い浮かぶ。
書きてえ!
そして魅録バージョンの樹形図もキボンヌ。
>>789 >書きてえ!
是非書いてください!期待してます!!
>確かに妹属性はくっつかないってことでは・・・
特に疑問を抱かずに見てたけど、そう言われてみるとそうだね。
それはそうと樹形図GJ!
やらないか派にワロタ。あのAAが頭に思い浮かんできちゃったよ。
この中では自分は親父派に属するようです…お、親父かぁ〜w
清四郎は─┬─野梨子とくっつくよ(幼馴染派)
│ ├─妹みたいなもんだよ(妹属性派)
│ ├─実は異母妹だよ(妄想派シリアス展開型)
│ └─初夜にあんなことこんなことしてほしいよ(親父派)
↑こうだったんじゃないの?(これもずれてたらご免)
ずれた……
うーん、基本は幼馴染派だし学園派だしおっぱい星人派かなあ。
でもどこかで、清四郎雨バージョン派を捨てられない…_| ̄|○
>792
それだと、親父派だけがくっつく方に入るんでは?
魅録、美童の樹形図漏れもキボン!
>790
書きました。
次スレにうpしてみました。
では、名無しに戻ります。
妹属性もくっつく方に入れました。
なぜって、個人的に「妹みたいな存在」とかといいつつ手をだす清四郎ウマーなので
清四郎バージョンをかなりパクッて試作品作ってみました。どなたか、
完成させてくだされ。
美童は─┬─野梨子とくっつくよ
│ ├─最初会った時に一目ぼれしたんだよ
│ ├─典型的な大和撫子に憧れているんだよ
│ └─自分の手で少女から大人の女にしたいんだよ
├─悠理とくっつくよ
│ ├─腕のたつ悠理に守ってもらいたいんだよ
│ ├─自分の手で少女から大人の女にしたいんだよ
│ └─逆玉に乗りたいんだよ
├─可憐とくっつくよ
│ ├─実は健気な可憐を見守りたくなっちゃうんだよ
│ ├─大人な関係なんだよ
│ └─魅惑のボディがたまんないんだよ
├─和子とくっつくよ
│ ├─年上の包容力に包まれたいんだよ
│ └─実は、女性の尻に引かれたいんだよ
├─魅録とくっつくよ
│ └─おぶってくれた背中の暖かさに惚れてしまったんだよ
├─清四郎とくっつくよ
│ └─無意識のうちに滲み出るフェロモンに惑わされてしまったんだよ
├─誰ともくっつかないよ
│ ├─実は今まで全部寸止めだよ
│ └─外でもてすぎて、メンバーと口説く時間がないんだよ
└─全員とくっつくよ
ずれてしまって、申し訳ない。
>全部寸止め
禿ワロタ
もうしばらく保守
埋め立て有閑クイズ
原作で、
1.悠理の最後の「あたし」はいつ?
2.清四郎の唯一の「オレ」は?(ガイシュツですね)
3.野梨子の唯一の「わたし」は?
4.魅録の唯一の「ぼく」は?
5.可憐の唯一の「わたし」は?
6.美童の唯一の「オレ」は?
皆の持ってる本によって違ったら御免
>最後はふたり駆け落ちして、赤い糸を小指に巻いてふたり死ぬんだよ(妄想派過激型)
このネタを妄想していた。
なぜか頭の中で、「野梨子を想いながら和子に玩ばれてしまう魅録」
の図が思い浮かんだ。
萌えるのに小説にできない自分に凹んだ。
このスレ、496KB越えてるから、レスが付かないと
dat落ちするかと思ってたら、落ちないんだね。
500KB越えないとダメなのかな?
嵐さんのとこにも載ったから、もう埋め立てして
落としちゃっていいと思うんだけど、どうでしょう?
802さん、クイズの答えを書く?
>804
クイズの答え知りたいです。
1,2,4はすぐにわかったけど、他はわからなかった。
全部読み返す気力はないので、>802さん、お願いします!
6番やっと分かった〜!
でも3、5番がワカラン。
埋め立て有閑クイズ・答え
1.『スポーツマンでいこうの巻』「あとはあたしがなんとかする」
2.PART13(スケコマシ王子)「車をとめろ!!オレが運転する」
3.PART7(有閑結成秘話)「わたしそんなことできません」
4.『香港より愛をこめて』「ぼくが親父のかわりに」
5.『狙われた学園-男ともだち・女ともだち-の巻』「わたしなんか憤死しそうよ」
6.『夢で逢いましょうの巻』「オレのプライドズタズタだぞ」
でした。おそまつ。
>>802=807、乙。
あー
確かにそうだ、バレを貰うとどの台詞も全て記憶にある
でも問題を見てふと思い出そうとしても思い出せないもんだねw
夏まっさかりですね!
というわけで夏っぽく少々清×野っぽいものをうPします。
苦手な方はスルーしゃってください。
「あついあついあ〜つ〜い〜!!」
「そんなに暑い暑い騒ぐからですわよ。」
恥というものを知らない剣菱悠里君は、足をがばっとひろげ、イスに腰掛けている。
それをあきれた目で見つめ、熱いお茶を飲んでいる白鹿野梨子さん。
「こんなに暑い日が続くとだれだって参っちゃうわよ。ねぇ清四郎、どっか涼めて
遊べるところないの?」
いつも元気な黄桜可憐さんもぐだっとした顔をしていた。
「そうですね・・・夏ですし、海なんかどうですか?楽しいと思いますけど。」
メンバーの顔がぱっと明るくなった。
「行く行く行く〜〜!!あたい潜って魚つかまえるんだぁ〜!」
「あほか。どんだけ深いところまで泳ぐきでいるんだよ。しっかし海なんて久しぶり
なんだよなぁ。」
「きっとナイスバディのおねいさまがたいっぱいだよね!たのしみぃ!」
みんなそれぞれの思いを胸にワクワクしていた。
ーーーただ一人、野梨子をのぞいて・・・
「・・・どうしたんですか野梨子浮かない顔して・・・海に行くのはいやですか?」
清四郎が心配そうな顔で自分を見つめている。
「いっ・・いえそんなわけありませんわ。」
「大丈夫よ野梨子!凹凸がさびしいのはみんな知ってるからね。」
「まぁ、いやになったらいつでもいってくださいね。」
清四郎は優しく笑った。
『そんな顔しないでくださいな・・・・』