1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達 4
1 :
名無しのオプ:
赤川次郎 「幽霊候補生」★★★★☆ 「三毛猫ホームズの騎士道」★★★★☆
「幽霊列車」★★★★ 「三毛猫ホームズのびっくり箱」★★★★
「死体置場で夕食を」★★★★ 「華麗なる探偵たち」★★★★
「霧の夜にご用心」★★★★ 「ミステリ博物館」★★★★
「過去から来た女」★★★★ 「沈める鐘の殺人」★★★★
赤羽堯 「カラコルムの悲劇」★★★★
生田直親 「殺意の大滑降」★★★★
井沢元彦 「殺人ドライブ・ロード」★★★★☆ 「暗鬼―秀吉と家康の推理と苦悩」★★★★
「修道士の首」★★★★ 「謀略の首―織田信長推理帳」★★★★
井上ひさし 「十二人の手紙」★★★★☆
逢坂剛 「裏切りの日日」★★★★
岡島二人 「そして扉が閉ざされた」★★★★
海渡英祐 「影の座標」★★★★★ 「突込んだ首」★★★★☆
「閉塞回路」★★★★ 「白夜の密室―ペテルブルグ1901年」★★★★
風見潤 「殺意のわらべ唄」★★★★
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★
「灰色の季節―ギョライ先生探偵ノート」★★★★☆
「リア王密室に死す」★★★★☆
「ぼくの好色天使たち」★★★★ 「鎌倉XYZの悲劇」★★★★
川方夫 「親しい友人たち」★★★★★
日下圭介 「鶯を呼ぶ少年」★★★★☆
「密室(エレベーター)20秒の謎」★★★★☆
「女怪盗が盗まれた」★★★★ 「女たちの捜査本部」★★★★
草川隆 「東京発14時8分の死角」★★★★ 「急行〈アルプス82号〉の殺人」★★★★
小杉健治 「裁かれる判事―越後出雲崎の女」★★★★★
「法廷の疑惑」★★★★★ 「月村弁護士 逆転法廷」★★★★☆
「陰の判決」★★★★☆ 「原島弁護士の愛と悲しみ」★★★★☆
「偽証」★★★★ 「二重裁判」★★★★
小林久三 「火の鈴」★★★★☆
斎藤栄 「死角の時刻表」★★★★ 「方丈記殺人事件」★★★★
「春夏秋冬殺人事件」★★★★
嵯峨島昭 「グルメ殺人事件」★★★★ 「白い華燭」★★★★
桜田忍 「二重死体」★★★★ 「殺人回路」★★★★
笹沢左保 「霧に溶ける」★★★★★ 「招かれざる客」★★★★☆
「求婚の密室」★★★★ 「遥かなりわが叫び」★★★★
「異常者」★★★★ 「眠れ、わが愛よ」★★★★
「さよならの値打ちもない」★★★★
「アリバイ奪取」(「別冊宝石124号」収録)★★★★
佐野洋 「高すぎた代償」★★★★☆ 「脳波の誘い」★★★★
島田一男 「犯罪待避線」★★★★☆ 「箱根地獄谷殺人」★★★★
「去来氏曰く」(別題・夜の指揮者)★★★★
新谷識 「ピラミッド殺人事件」★★★★
蒼社廉三 「戦艦金剛」★★★★
高木彬光 「密告者」★★★★
高柳芳夫 「悪夢の書簡」★★★★ 「奈良-紀州殺人周遊ルート」★★★★
多岐川恭 「異郷の帆」★★★★
多島斗志之 「金塊船消ゆ」★★★★ 「聖夜の越境者」★★★★
陳舜臣 「方壺園」★★★★★ 「獅子は死なず」★★★★☆
「三色の家」★★★★☆ 「枯草の根」★★★★
「長安日記」★★★★
司城志朗 「そして犯人(ホシ)もいなくなった」★★★★☆
辻真先 「紺碧(スカイブルー)は殺しの色」★★★★☆
「迷犬ルパンの名推理」★★★★ 「ローカル線に紅い血が散る」★★★★
津村秀介 「北の旅 殺意の雫石」★★★★☆
「虚空の時差」★★★★ 「瀬戸内を渡る死者」★★★★
長井彬 「北アルプス殺人組曲」★★★★ 「槍ヶ岳殺人行」★★★★
「白馬岳の失踪」★★★★
中津文彦 「特ダネ記者殺人事件」★★★★
中町信 「高校野球殺人事件」(別題・空白の殺意)★★★★
「女性編集者殺人事件」★★★★ 「『心の旅路』連続殺人事件」★★★★
夏樹静子 「蒸発」★★★★ 「第三の女」★★★★
「Wの悲劇」★★★★
「暁はもう来ない」★★★★(「見知らぬわが子」収録短編)
仁木悦子 「猫は知っていた」★★★★☆ 「冷えきった街」★★★★
西村京太郎 「殺しの双曲線」★★★★☆ 「殺意の設計」★★★★☆
「赤い帆船(クルーザー)」★★★★☆ 「消えた乗組員」★★★★
「発信人は死者」★★★★ 「消えたタンカー」★★★★
新羽精之 「日本西教記」(「推理文学」(1971年4月陽春号)収録中編)★★★★☆
伴野朗 「三十三時間」★★★★
「高昌城の怪」(「驃騎将軍の死」収録短篇)★★★★
深谷忠記 「ゼロの誘拐」★★★★☆ 「寝台特急『出雲』+−の交叉」★★★★☆
「津軽海峡+−の交叉」★★★★
松本清張 「点と線」★★★★☆ 「アムステルダム運河殺人事件」★★★★
水上勉 「巣の絵」★★★★
皆川博子 「妖かし蔵殺人事件」★★★★
南里征典 「オリンピック殺人事件」★★★★
三好徹 「疵ある女」(「悪の花園」収録短編)★★★★★
「砂漠と花と銃弾」★★★★ 「天使が消えた」★★★★
「乾いた季節」★★★★
本岡類 「白い森の幽霊殺人」★★★★
森真沙子 「青い灯の館」★★★★
森村誠一 「高層の死角」★★★★☆ 「虚構の空路」★★★★
「致死海流」★★★★ 「腐蝕の構造」★★★★
山村正夫 「大道将棋殺人事件」★★★★ 「獅子」(「宝石」(1957年11月号)収録)★★★★
山村美紗 「花の棺」★★★★
結城昌治 「赤い霧」★★★★☆ 「夜の終わる時」★★★★
「暗い落日」★★★★
アンソロジー「ホシは誰だ?」★★★★ 「鉄道ミステリ傑作選」★★★★
「私だけが知っている−第2集」★★★★
他の方の高評価一覧
岩崎正吾 「風よ緑よ故郷よ」★★★★☆
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★ 「草軽電鉄殺人事件」★★★★☆
「葉山宝石館の惨劇」★★★★ 「清里高原殺人別荘」★★★★
「大臣の殺人」★★★★
日下圭介 「木に登る犬」★★★★★
黒木曜之助 「妄執の推理」★★★★
笹沢左保 「愛人岬」★★★★
佐野洋 「七色の密室」★★★★ 「銅婚式」★★★★
関口甫四郎 「北溟の鷹」★★★★
草野唯雄 「もう一人の乗客」★★★★ 「女相続人」★★★★
陳舜臣 「闇の金魚」★★★★
土屋隆夫 「影の告発」★★★★
南條範夫 「三百年のベール」★★★★
伴野朗 「密室球場」★★★★
檜山良昭 「山之内家の惨劇」★★★★
眉村卓 「消滅の光輪」★★★★☆
結城昌治 「ハードボイルド夜」★★★★☆ 「仲のいい死体」★★★★
麗羅 「桜子は帰ってきたか」★★★★
6 :
名無しのオプ:2010/09/25(土) 07:43:39 ID:nxfN7/DR
サンクス。
前スレは、笹沢左保の時代ものを(「木枯し紋次郎」シリーズ以外にも)、本格ミステリ的要素に
着目して評した、3氏のコメントが興味深かった。
あの続きは、是非お願いしたいものだが・・・
7 :
名無しのオプ:2010/09/25(土) 12:00:37 ID:/R3hZkMt
高評価一覧とかいるの?
たくさん読んでるのはすごいけど評価は極めて個人的なものだと思うよ
いくつか知ってる作品の評価を見るかぎりでは
8 :
名無しのオプ:2010/09/25(土) 16:51:57 ID:t9/FOfxu
別に、評価は違ってもかまわないな。
リストを眺めながら、うん、この高評価は納得、とか、え〜、あれがそんな傑作かい?
と突っ込んだりするのが楽しい。
まあ、大事なのは星印よりコメントだけどね。
未読の作品が、面白そうにガイドされていると、よし、騙されてみるかw という気にな
って、俄然、読書欲をそそられる。
9 :
名無しのオプ:2010/09/25(土) 21:31:13 ID:Uc0U2sNR
>>1乙
レビューされた作品のリストを途中まで作ったけど、面倒くさくなってやめちまった
>>1乙です。
夏樹静子「砂の殺意」(角川文庫)★★★
1971〜73年に発表された初期作品を収めた短編集。
「あちら側の女」は、不倫相手の男が自宅に戻る途中で凍死。事故ではなく本妻が係わっている
のではないかと疑う愛人のお話。凍死に関するアリバイ工作がありますが、ぎこちない感じ。
表題作は、一人息子が工事現場でダンプの捨てた土砂に埋まって死亡。母親は執念で、土砂を
捨てた運転手を捜し求めるのだが・・・。思いも寄らない方向に事態が進んでゆきますが、少々虫の
良すぎる展開ですねえ。
「襲われた二人」は、アベックを狙う二人組に襲われて恋人に幻滅した経験のある女性。今度
は不倫の愛人の本心を確かめようとするのだったが・・・。冒頭にちょっとした仕掛けがあり、なか
なか錯綜した展開を見せ、意外な真相も決まっていますが、短い枚数に収めたため、ややゴチャ
ゴチャしているのが残念。
「面影は共犯者」は仲が冷えた夫が出張先で死亡。妻と夫の弟は事件の真相を探るのだが・・・。
結末はかなり意外なもので、冒頭の描写の技巧なども流石。本編中の佳作でしょう。
「沈黙は罠」は、昔の恋人に脅迫された妻が、その帰りに或る殺人事件の容疑者を目撃してしま
う。目撃したことを夫には知られたくないのだが、その殺人事件で夫に容疑がかかっているこ
とを知り・・・。まあまあ。
「だから殺した」は、婦人警官が主人公。恋人のサラリーマンが殺人事件の容疑者となる。だが
意外にも真相は・・・。
「二DK心中」は団地で母子がガス中毒死。無理心中かと思われたが、それを信じない友人の
女性が真相を探ると・・・。凡作ですね。
「秘められた訪問者」は名士の夫人が夫を毒殺。淡々とした様子で取り調べに応じていたが、
突然、共犯者の存在を暗示するようになる・・・。アリバイ物の変形ですが、出来は良くないです。
全体に、女性を主人公に据えて、その複雑な心理を描き分けようと苦心した作品群が並ぶので
すが、出来は玉石混交。総じて前半の作品の出来が良いですね。
小林久三「喪服の試写室」(角川文庫)★★★
映画物で固めた短編集。収録作の初出が不明ですが、文庫版は1978年初版。
先ずは表題作。銀座のど真ん中で、ビル壁面に予告編を映すという奇想天外な宣伝を行った映画
会社の宣伝マン。だがその最中に彼の上司が殺されてしまう。会社の方針を巡って対立していた
宣伝マンが犯人か、だが彼には映画を映写中というアリバイがあった・・・。アリバイ崩しと見せて
実は・・・、という真犯人の意外性とドンデン返しが鮮やかな佳品です。
「残酷な消印」は人気女優が郵便配達員と無理心中。だが巧妙に偽装した殺人ではと疑う刑事が
追及すると・・・。アリバイ物ですが、トリックよりも、妻が他の男と心中した刑事の微妙な心理
をメインに追求した作品です。
「鬼籍の眼」は奇談風の作品。隠棲した映画監督が、やはり引退して姿を消した幻の名女優を使っ
て新作映画を作っているとの噂を聞いた新聞記者。その映画とは・・・。
「赤い落差」は姉が著名な映画監督に殺されたとシナリオライターに訴える女性の話。果たして
その映画監督の容疑は濃厚だったのだが、彼には鉄壁のアリバイがあった・・・。或る古典的なトリッ
クによるアリバイ工作を打破した後にドンデン返しを迎えます。
「深夜の秘戯」、日本を代表する映画監督が撮影所内で殺される。一緒にいたカメラマンが容疑
者として逮捕されるのだが、実は・・・。
「柩の手紙」は、戦前に活躍した幻の女優のスチール写真を映画会社にリクエストしてきた男の話。
以上、斜陽のドン底にあった当時の映画界の状況を色濃く反映した、この作者らしい作品集。例に
よって作者の映画界へのドロドロした愛憎がムキ出しなので、どれも暗い作品ですが、一応、トリッ
クや犯人当てに配慮した作品も多く、一読の価値はあるでしょう。
赤川次郎「三毛猫ホームズと愛の花束」(角川文庫)★★
1988年のシリーズ第15作、短編集では第5作目。
「三毛猫ホームズの名騎手」は、馬に蹴られて死んだとしか思えない事件が連続。現場は普通の
住宅街で馬が出没するはずはないのだが・・・。序盤の不可解性は良いのだが、真相は尻すぼみで
ガッカリ。
「・・・の夜ふかし」は職人気質の泥棒とその娘の心温まる話だが、事件の謎解きは今ひとつの出来。
「・・・の幽霊城主」はアマチュア劇団のパトロンの大邸宅で起きた連続殺人の真相。これも謎解き
が単純で面白くない。
巻末の表題作は結婚相談所で起きた散弾銃による殺人事件。片山、晴美、石津とホームズの一行は
相談所が主催する合同見合いパーティでひと騒動。果たして真犯人は・・・。これも色々と胡散臭い人
物を配した割りにはトリッキーな真相ではなくガッカリ。
全体的に、謎解きで満足できるレベルの作品はないですね。三毛猫ホームズシリーズも、第1作
からほぼ時系列で読み進めてきましたが、この辺りで限界でしょうか。
佐野洋「I・N・S探偵事務所」(角川文庫)★★★
1963年の表題の連作集に、傑作長編「賭の季節」の原型となった短編「影の女」を併録。
先ずは表題の連作集。基本的に、素行調査、浮気調査などがやがて殺人などの大事件に発展して、
実は真相は・・・、というパターンの作品が多いですね。本格ミステリとして云々するほどの作品は
殆どないですが、まあ楽しめました。
短編「影の女」も、ちょっとしたトリックの引っ掛け方が上手いですね。本格ミステリとしては、
長編化した「賭の季節」の方が上ですが。
笹沢左保「潮来の伊太郎1−大利根の闇に消えた」(徳間文庫)★★★
1973年の股旅物シリーズ、潮来の伊太郎を主人公とした第1作。潮来の伊太郎、橋幸夫の歌で聞いた
ことのある人物ですが、渡世人だとは知らなかった・・・。
内容的には、同時期に発表していた木枯し紋次郎シリーズと同様のもの。渡世人の伊太郎が十年ぶり
に故郷の潮来に帰ってくるも、地元親分の策略により再び当てのない旅に出る。伊太郎は幼馴染みで
利根川で死んだはずのお袖という女性を探しながら、街道筋の道中で事件に巻き込まれてゆく、とい
う形式の一話完結方式で、ミステリ的なドンデン返しの効いた作品も幾つかある、といったところ。
紋次郎シリーズでも多用された、或る傾向のトリックが多いのですが、それが上手く決まった作品は
紋次郎シリーズに比べて少ないように感じられました。あと主人公もやはり紋次郎に比べると魅力不
足か。右手が痺れるという持病を抱えており、いざというときに窮地に追い込まれるなど、工夫はし
ているのですがねえ・・・。
笹沢左保「潮来の伊太郎2−決闘・箱根山三枚橋」(徳間文庫)★★☆
1974年のシリーズ第二巻にして完結編。
「怪談・熊谷宿大黒屋」は、手篭めにしようとして殺してしまった娘が、加害者である商家の旦那
の前に幽霊となって現れる。遂に旦那は恐怖のあまり死に至ってしまうのだが・・・。怪談嫌いの作者
なので、当然、怪談仕立てのまま終るはずはなく、ラストで論理的に解明されます。肝心の描写が
フェアであることに感心しました。
「貸元・鬼神丸の伊蔵」は、隣町の親分に縄張りを荒らされた一家が、復讐のため、一家に草鞋を
預けた伊太郎を差し向ける。だが・・・。意外な真相ですが、これは作者の股旅物では良くあるトリック。
表題作は、伊太郎が町娘と手を取り合って駆け落ち・・・、しかし。まあそんな筈はなく、中盤で引っ
くり返りますが凡作ですね。
「心中・東海道薩?峠」は、心中死した若い男女。片や商家の若旦那、もう一方は同じ町の貸元の
娘。死体を発見した伊太郎は事件に巻き込まれるのだが・・・。これも冒頭の伏線などが上手いですね。
最終話「名月・武州殺生ケ原」で、遂に伊太郎はお袖の居所を突き止める。だが彼女は一足違いで
地元の一家に殺されてしまう。しかし・・・。ラストのドンデン返しはミエミエで、感動の大団円、と
いうには残念な出来栄えでした。
6連投スマソカッタ
高橋克彦「即身仏の殺人」(文春文庫)★★★☆
「パンドラ・ケース」、「南朝迷路」に続く、塔馬双太郎とのその大学時代の友人である、雑誌編集者の
亜里沙、ミステリ作家の長山作治、女優の月宮蛍らが活躍する1990年のシリーズ第三作。
出羽三山の映画ロケ現場で発見された即身仏と思しきミイラ。現場にいた女優の月宮蛍から調査の
依頼を受けて、リサと作家のチョーサクのコンビが山形入りする。発見されたミイラには不審な点
があり、別の場所で発見されたものを、わざわざ埋め戻しておいたものが、またも再発見されたら
しい。更にミイラは何者かによって盗まれてしまう。埋め戻したのは、そして盗んだのは一体誰な
のか。地元出身の映画プロデューサー、彼と反発する地元議会議長、寺の住職など怪しい人物がう
ごめく中、遂に殺人事件も勃発してしまう。チョーサクから話を聞いて現地入りした塔馬双太郎の
推理や如何に・・・。
第二の殺人における「犯人は・・・・・していたのではなく・・・・していた」という意表を突いた真相や、或
る名前についての犯人の錯誤に絡めた伏線など、「本格」の琴線に触れる部分も多く、ミイラを巡る
真犯人の不可解な行動の謎解きも納得できるようになっています。やや強引な部分もありますが、
先ず先ず合格点でしょう。
16 :
名無しのオプ:2010/09/26(日) 18:29:38 ID:fc5uihbV
>>1さんスレ立て乙です。
そして3師も早速のレビュー乙です!
今後とも楽しみにしております
西村京太郎「名探偵も楽じゃない」(講談社文庫)★★★★
1973年のシリーズ第3作。
ミステリ小説マニアの団体「Member of Mystery Manias」、通称MMMの会長・岡部は、自らが経営
するホテルに、ポワロ、クイーン、メグレ、明智小五郎の4大探偵を招待した。ところが懇親パーティ
に、自分こそは現代の名探偵、左文字京太郎と名乗る謎の青年が乱入してきた。その直後、岡部は
シャンパンに入っていた青酸カリで毒殺されてしまう。それを皮切りに、ホテルの最上階を舞台に
MMMのメンバーが相次いで殺されてゆく。4大探偵は左文字京太郎のお手並み拝見とばかり、一歩
退いて彼の推理に注目するのだが、果たして事件の真相とは・・・。
前作「名探偵が多すぎる」が豪華客船という密室内での事件を扱ったように、今回は、殆どの場面
が高級ホテルの最上階に限定されているという凝りようです。あまりにアッケなくバタバタと殺さ
れてゆく中で、名探偵たちが精彩を欠いており、特にクイーンの描き方が全くなっておらず、好い
加減にも程があるのが難点ですが、中盤以降に繰り広げられる、吉牟田警部補の推理、MMMメン
バーの推理、そして左文字京太郎の推理という、3者の推理合戦が一番の読みどころ。シャンパン
の毒殺トリックもなかなかユニークですが、ドアの鍵穴に張られていたガムテープの真相など、細
かい部分のトリックがかなり見事なもの。
なおラストに、4大探偵による最後の推理が出てくるのですが、これは評価が難しいですね。やは
り彼らの推理がないと納まらないし、とはいえ、あのラストの出し方では、どうしても真犯人が容
易に推測できてしまうし、何より、4大探偵の推理が、堅実だけど一番面白くない、というのが一番
の問題ですね。
しかしながら、1970年代に、珍しくも推理の応酬を描いた作品ということで、高い評価ができると
思います。
笹沢左保「寛政・お庭番秘聞」(祥伝社ノン・ポシェット)★★☆
徳川第十一代将軍・家斉に仕える公儀隠密のお庭番・伊吹竜之介を主人公とする、1975年の時代物
スパイ小説連作集。伊吹は「寅」のコードネームを持つ優秀なスパイだが、密命のかたわら、仲間
を裏切って姿を消した実の兄を斬るべく、その行方を捜している、という設定です。
第1話「羽後の国に死す」は情け容赦のないオープニング、任務に背き、秋田の城下で町人として過
ごす隠密の処刑に向かった竜之介。狙う相手が姿をくらましたのだが・・・。作者の時代物ではお馴染
みの或るトリックに、もう一つトリッキーな仕掛けが冴える佳作。
「加賀の国に燃える」は金沢で行方を絶った隠密の捜索に向かった竜之介。前田藩の隠し財産の横領
事件が背後に絡んでいることを知るが・・・。ダイイング・メッセージと暗号解読だが出来は今一つ。
「相模の国に斬る」は肥後から任務を終えて帰任する二人の隠密が箱根の宿で何者かに襲撃される。
同宿の容疑者は四人いるのだが・・・。真犯人の意外性を狙ったものだが、これはバレバレ。
「越後の国へ去る」は、米沢・上杉家の調査に向かった相棒が、竜之介の到着を待たずに不審な行動
を取っているのだが・・・。動機と心情は分かるけど、竜之介の行動と判断は甘いよなあ。
「備前の国は遠く」は、公儀隠密の潜入を恐れる岡山・池田藩、江戸詰め家老の娘が国許に向かう。
彼女の使命は何なのか。竜之介はわざと近づいてきた娘とともに備前への道中を続けるのだが・・・。
「薩摩の国に殪す」は最も警戒厳重な薩摩藩への潜入。現地には情報を握る謎の男がいるという。
そして遂に竜之介は仇の兄に出会うのだが・・・。
全体的に、前半はミステリ的な趣向が活きていますが、後半のエピソードは謎解き的な趣向やドン
デン返しが殆ど消えてしまっており残念な出来です。
「幻影城」誌(1976年9月号)
本号は収録短編が興味深い作品群だったので購入。
先ずは中町信「Sの悲劇」★★☆。本作を表題とする短編集が「フラッシュバック」で紹介されています
が、古書店でついぞ見かけたことがない・・・orz内容は、会社の独身寮の寮母を訪ねてきた妹が殺される。
ダイイングメッセージの「S」は何を意味するのか・・・。この作者らしいのですが、伏線があからさま
過ぎますw
麓昌平「折れた首」★☆。会津の温泉宿で初老の男が心臓麻痺死。同行していた男が何者かから脅迫
を受けるのだが・・・。全くトリッキーでなく、謎解きとしては失格。駄作。
山村直樹「わが師、彼の京」★★★。書道家でもある京都の大学教授が双ケ岡で殺害される。現場に
遺された「西行なけ」のダイイングメッセージの真相とは・・・。結末でひとヒネり加えており、先ず
先ずの出来。
桜田忍「弱者の部屋」★★★。左翼の大学講師が殺される。対立するセクトによる内ゲバか?初老の
刑事は、真相は別にあるとして事件を追うのだが・・・。謎解きとしては評価できませんが、犯人と彼
を追う刑事のうらぶれたキャラとその描写の上手さは群を抜いています。
香住春吾「一割泥棒」★★★☆。大阪・西荻署シリーズの一編、とのこと。1万6千円を盗んだ空き
巣。ところが被害者の中小企業社長は「16万円盗まれた」と供述し、アタマに来た空き巣。再び被
害者宅を襲い、8万7千円を盗むが、今度は「87万円盗まれた」と届け出る。十倍の被害額をデッチ
上げる被害者は何を狙っているのか・・・。これはユーモア・ミステリとして大変楽しめました。さすが
にテレビのコメディ番組だかの実績がある作者だけのことはあります。大阪弁による被害者と空き
巣のボケと突っ込みが最高。今読んでも笑えるユーモアのセンスの高さとテンポの良さ、ラストの
哀愁も上手い。十倍の被害額をデッチ上げた動機も、けっこう意外なところを突いており楽しめま
した。本作がベスト。
藤沢周平「秘太刀馬の骨」(文春文庫)★★★
1992年の長編。
北国の或る藩で、派閥争いを制した家老が、六年前に二代前の家老が暗殺された事件で致命傷を
負わせた謎の剣技「馬の骨」の使い手が一体誰なのか調べるよう、甥の銀次郎と部下の浅沼半十郎
に命ずる。馬の骨を断ち切るほどの剣技「馬の骨」が代々伝わってきた道場で、師匠から伝えられ
たと疑われる高弟は五人。他流試合を禁じている道場の連中の腕前をムリヤリにでも探るべく、
銀次郎は相手のスキャンダルを探っては、試合をせざるをない状況に追い込んでゆく。だが五人の
高弟と試合をしても「馬の骨」の使い手は見つからない。更に藩の派閥争いが再発し、巻き込まれ
てゆく二人。果たして謎の剣法の使い手の正体とは・・・。
これは「犯人当て」のミステリとしても、まあ鑑賞に耐える作品ですね。名探偵役に当たる銀次郎
のキャラも、時には反感を覚えるほど冷酷に描かれるかと思えば、アッサリ試合相手に負けてしま
ったり、剽軽な一面を見せたりと、結構魅力的に描かれています。彼を手伝う浅沼も、ワトソン役
としてなかなかの活躍。
ただ、真犯人は意外ではあっても、肝心の部分の描写がフェアではないし、伏線も不足気味。再発
した派閥争いとの繋げ方も、少々バタバタした感じ。
なお、解説で出久根達郎が指摘している「本当の真犯人」は、確かにそう考えることも可能とは思う
し、ミステリを愛読していた作者なら、その点も計算に入れていたのだろうとは思いますが、本当
に「あの人」が真犯人だと想定していたのなら、幾らでもそれを匂わせる伏線を序盤から張ることが
できたはず、少々考えすぎでは?と思いますけどね。
矢島誠「鎌倉XXの殺人」(天山ノベルス)★★☆
1988年の長編。
妻を亡くして転業を決意していたルポライターの北沢は、友人の婚約者が失踪した事件を追っていた
女性編集者が行方不明になったことから、その婚約者の男と女性編集者の行方を追うことに。だが事
件は鎌倉で起きた鎌倉彫の第一人者の家族を狙った連続殺人事件へと絡んでゆく。母親と兄を相次い
で喪った一人娘の早紀子とともに事件を追及する北沢だったが、最初に失踪した男が残していた謎の
メモ「八八○×」は何を意味するのか・・・。
主人公のキャラに一工夫が見えるし、事件の構成にもヒネりを加えてはいますが、いかんせん謎解き
自体の設定が弱すぎる。「八八○×」の真相がどうにもバカらしくて・・・。特に破綻している訳ではな
いですが、構成もスキが多すぎます。凡作ですね。
和久峻三「魔女失格」(角川文庫)★★
1972〜78年発表の、割と初期の短編集。
表題作は、酒造会社の会長と女性社員の騙しあいの顛末。まあこんなものか。
「尊属殺人事件」は法廷物の佳作。飲んだくれの義父を殺した女性。裁判では一転して無罪を主張する
が・・・。結末の意外性もさることながら、本作が、尊属殺人が無期又は死刑のみと規定されていた時代
の作品であることがポイント。
「淫獣の寺」、「残酷な埋葬」、「残忍な天使」、これらはどれも駄作。
「鸚哥は知っていた」も、或る法律を使ったオチは上手いが、それだけ。
注目すべきは「さそりの女神」。推理作家協会の新年会用の懸賞小説として書かれたもの。選挙で当選
した直後の議員が、室内にいたところを洋弓で射殺される。開いていた窓を通して外部から射られた
ものと思われたのだが・・・。失敗して壁に突き刺さった一本目の矢、という伏線、そして窓が開いて
いた本当の理由が意表を突いており、これは「本格」ミステリの良作として、作者の底力を示す出来栄
えの作品でした。
眉村卓「還らざる空」(ハヤカワ文庫)★★★
主として昭和30年代に書かれたごく初期の作品集。
「準B級市民」は、減少する人口問題を解消するために作られた「政策出生者」という名のロボットたち
が、やがて人口の回復とともに普通の人間たちから弾圧を受ける。主人公のイソミは、妻のマツヤと
ともに収容所送りとなるのだが・・・。トリッキーにヒネッたオチと伏線の張り方は、本格ミステリにも
通じるものがありますね。
表題作もまたトリッキーな作品。巨大なドーム内に作られた都市で、都市を維持する機能が故障する。
都市の技師長であるカートは、必死になって故障の原因を探り、復旧させようとするのだが、実は・・・。
SFでは割とポピュラーなテーマですが、結末の意外性に工夫を凝らした作品。
「表と裏」は、シェクリイの名作短編集「人間の手がまだ触れない」の影響を受けたような作品。探検
隊救助のため緊急出動する宇宙船に、手違いで閉じ込められてしまった士官。宇宙船の人工頭脳は、
彼を救助用ロボットだとしか認識しなかった。主人公はコンピュータを騙し騙し、生き延びてゆく
のだが・・・。これもラストのドンデン返しが効いていますが、暖かい気分とほろ苦さのバランスが絶妙。
「紋章と白服」は、己の能力次第で貴族階級になることができる時代の話。だが実は・・・。
「ゲン」は、宇宙戦争を扱った作品。敵の正体とは一体・・・。
「惑星総長」は、甘いにも従順な原住民の住む惑星でダラケきった地球人らを改革しようと奮闘する
男の話。まあまあ。「時のオデュセウス」、「ある出帆」は、今ひとつ面白さが分かりませんでした。
もちろんSF短編の作品集ですが、「準B級市民」と表題作は、ミステリの構成に従った作品として
評価できると思います。
日下圭介「偶然かしら」(新潮文庫)★★
作者の著作のうち、ブクオフで一番よく見かけるのはコレと「こ・ろ・す・のよ」ですね。1985〜1988年に
発表された作品を収めた短編集。
先ずは表題作。偶然に偶然が重なって殺されてしまった男。だが実は・・・。まあ偶然の積み重ねと、
それをひっくり返すのは簡単なことで、何とでも書けるネタだよなあ。トリッキーな面白さが全く
ない。
「歌で死ぬ」はバーでカラオケの最中に死んだ男。毒殺の容疑が固まるのだが・・・。これも同様。
「透明な糸」も、犯人はバレバレ。
「消えない女」はなかなかの佳作。或る男が旅行先の伊勢湾のホテルで男に出会う。その男が話す奇怪
な話。二十年以上も前に家出した妻に似た女性をこのホテルで時折り見かけるため、毎年ここに来
るのだと言う。今年もまたホテルの送迎バスの中で見かけたのだが、密室状態の車内から突如消え
てしまった・・・。だが聞き手の男にもまた、その女性に重大な関係があった・・・。不可解な発端から
意表を突いた真相まで間然とするところのない構成で、ラストの一行も非常に効いています。
「健康のための殺意」「青い百合」ともに凡作。
「仰角の写真」がベスト。家族のスキャンダルをライバル紙に暴かれた新聞記者。それがデッチ上げ
であることを証明してくれた女性が殺される。新聞記者とその後輩が事件を追うのだが・・・。これは真
犯人の意外性に成功した作品。何気ない会話に含ませた伏線も上手く、フェアであるよう配慮されて
います。
「印画紙の場面」、「長すぎた一瞬間」は、ともに写真や動植物ネタなのだが、かつての初期傑作短編
群における同じネタの扱いに比べると、雑というか散漫な印象の凡作でした。
「消えない女」と「仰角の写真」の2作のみ読む価値があるでしょう。
9連投スマソカッタ
阿井渉介「生首岬の殺人」(講談社文庫)★★☆
「まだらの蛇・・・」「風神雷神・・・」「雪花嫁・・・」に続く、1994年の警視庁捜査一課事件簿シリーズ
第4作。
写真週刊誌専門のカメラマンが偶然撮影した、人間の生首をくわえた犬の写真。一方で、女子銀行
員の誘拐事件が勃発。犯人の要求は、5つの零細企業に融資をしろという風変わりなものだった。
若手刑事の堀と不良中年刑事の菱谷のコンビが捜査を進めるうち、犬のくわえていた生首は、誘拐
事件で融資を受けた会社の社長であることが判明する。二つの事件はどう関わっているのか、堀・
菱谷コンビの活躍や如何に・・・。
相変わらずのキャラの登場人物らに、相変わらずの妙な正義感と人情に満ちた「阿井調」の世界w
メイントリックは、アリバイ工作に関する、かなり大技のトリックなのですが、捜査陣、特に不良
中年刑事の菱谷の手前勝手な「浪花節」全開で、謎解きが全く楽しめませんでした。堀刑事が真相に
気づく場面など、なかなか印象的なシーンで良いのですけどねえ・・・。
26 :
名無しのオプ:2010/10/05(火) 02:14:54 ID:7CV48LS/
今まで流し読みしていたが、良スレ鴨
27 :
名無しのオプ:2010/10/19(火) 22:42:49 ID:NXSKIPaB
「黄金の鍵」
イマイチだったな〜
高木先生には悪いけど
28 :
名無しのオプ:2010/10/20(水) 07:41:49 ID:XuJpfx6T
>>27 「黄金の鍵」がイマイチだったら、あのシリーズ、残りはつらいぞ〜。
最後まで読んで、アノ趣向を確認してほしいけど。
29 :
名無しのオプ:2010/10/20(水) 19:20:14 ID:AkmK/A/2
「黄金の鍵」は殺人事件の謎解きより赤城山埋蔵金に関する解釈のほうが面白かった。
30 :
名無しのオプ:2010/10/22(金) 14:41:25 ID:1sK0tqlW
「黄金の鍵」は確かに事件よりも埋蔵金のネタの方が面白かった。
糸井重里はこの本を読んだことがあるのだろうか?
次作の「一、二、三-死」は案外面白かったよ。
犯人はある程度予想つくけど動機や犯人像が楽しめた。
31 :
名無しのオプ:2010/10/23(土) 08:46:20 ID:8V4ocFnR
>>30 確かに、あの殺人動機は異様だったね。
墨野朧人シリーズは作者の全盛期に完結していたら、と思うと残念です。
栗本薫「伊集院大介の私生活」(講談社文庫)★★★☆
1985年のシリーズ短編集第2弾。「伊集院大介の・・・」のタイトルで統一された作品を収録。
「・・・の追憶」は、伊集院の学生時代の話。ドケチな質店の女主人殺しの真犯人を暴くもの。被害者
の知られざる性格を見抜く腕前は流石だが、ただそれだけ。
「・・・の初恋」は高校時代、同級生らが恋焦がれる女性を巡る事件。或る男には妖艶な美女と慕われ、
また別の男からは清楚な日本風の女性に思われ、また別の男からはアンニュイな大人の女性と思わ
れているその美女の正体とは・・・。文中でも指摘されていますが、チェスタートン流の思い切った着想
が上手いです。
「・・・の青春」は学園紛争の時代の話。伊集院は同級生とともに、活動家の女子大生が何者かによっ
て校舎から転落させられた事件を追及する。事件直後に伊集院が見た「緑色の腕の男」の正体とは・・・。
これはアッサリした凡作。
「・・・の一日」は、山科警部から電話で概要を聞いただけで事件を解決するや、今度はラーメン屋で
見かけた女性のなぞめいた行動からトンデモない真相を引き出す話。
「・・・の私生活」は、毎日、山手線に乗り続け、適当な駅で降りては、キオスクで脈絡もない買い物
を続ける伊集院。山科警部と森カオルのコンビが密かに尾行してみると・・・。これはいわゆる「日常の謎」
系の佳作ですね。後味も良い作品に仕上がっています。
「・・・の失敗」は雪の密室殺人。軽井沢で真冬の別荘を管理するアルバイトを続ける伊集院が隣の別
荘で起きた殺人事件の真相を暴くのだが・・・。密室トリックは、はっきりいってバカミスに近いですが、
これはこれで面白かった。
以上6編、本格ミステリとして詰めの甘い作品もありますが、奇想天外なアイディアと発想の飛躍
は、「新本格」の先駆といって良いでしょうね。
中田耕治「異聞猿飛佐助」(東都ミステリー)★★★
1963年の時代ミステリ長編。
江戸時代初期、徳川と豊臣の対立が決定的となり、風雲急を告げる頃、猿飛佐助は、信州・中仙道
を旅していたが、道中で彼に出会った稲村光秋と名乗る侍から、徳川方から豊臣方に寝返った隠密
の重鎮・郡山帯刀を無事に上方まで送り届けてほしいと頼まれる。稲村は何者かに殺され、その魔
手は猿飛に迫る。更には諏訪藩の奉行・久仁や幕府方の追っ手、高谷左近の一派らが三つ巴、四つ
巴の暗闘を繰り広げる中、佐助は、知り合った謎の女性らを殺した真犯人と、郡山の居所を追求す
るのだが・・・。
錯綜する対立関係と人間関係がやや分かりにくいのが難点ですが、終盤、一連の連続殺人の真犯人
を特定する猿飛の推理や、郡山の居所を暗示する手紙の暗号解読など、謎解きの要素はそれなりに
あり、満足できました。「本格」とは言い難いかも知れませんが一読の価値はあるでしょう。
(番外編・オマケ)
マンガ「新オバケのQ太郎」より、「Qちゃんは名たんてい」の巻
木佐くんが正ちゃんに、貴重なマイクロシールを自慢していたところ、くしゃみでシールが吹っ飛んで
紛失、木佐くんは正ちゃんが盗んだと疑う。憤慨したQちゃんは、木佐くんを正ちゃんの自宅に連れて
きて、部屋じゅう探してみろと言う。だが本当に部屋からマイクロシールが出てきてしまう。Qちゃん
はドロンパとO次郎に探偵になって真相を解明してくれ、と頼むのだが・・・。
ドロンパは明智小五郎、Oちゃんは銭形平次に化けて、シール盗難事件を追及します。結局、Oちゃんが
見つけた或る手がかりから意外な真犯人が暴露されます。ミステリにしてはごく軽いものですが、紛失
直後のコマと、正ちゃんの部屋でシールが見つかる瞬間のコマに、ちゃんと真相を暗示する「もの」が
ハッキリと描かれており、伏線としてもなかなかフェアではないか、と感心しましたw
しかし本編で一番好きなのは、「犯人はこの中にいるっ!」と大見得を切ったドロンパとQちゃんの以下の
やり取りですね。
ドロンパ「正ちゃんが犯人でないとすると、真犯人は外から来たことになる」
Qちゃん「そのとおり」
ドロンパ「しかるに、部屋のふすまも窓も閉まっていた!」
Qちゃん「そのとおり!」
ドロンパ「閉まっていても入れるもの、なあんだ?」
Qちゃん「すきま風かオバケ!」
ドロンパ「(Qちゃんを指差す)」
Qちゃん「なあんだ、そうだったのかあ!・・・・・・・みんな聞いた?犯人はぼくだってよ。
・・・・・・・・・とおんでもない!」
古今東西のミステリにおける密室解明シーンで、これ以上のものはないです。最高w
35 :
名無しのオプ:2010/10/28(木) 10:18:00 ID:GCbjBgVe
ほしゅ
36 :
草間 滴:2010/10/28(木) 19:28:51 ID:zlGb9Vd/
ひょっとして辻真先先生は、>34の密室解明シーンを意識してアノ作品を書かれたんですかね?
山崎洋子「きらきらと闇に堕ちて」(中公文庫)★★★☆
1988年の長編。
富豪の次男ながらも麻薬中毒になった夫・隼人に愛想を尽かし、タイ・バンコクから帰国した妻の
実生。自らもアル中になってしまっていたが、東南アジアに残してきた隼人がマレーシアで何者か
に殺される。死の直後に出した手紙には、珍しい蝶を手に入れて、父親に贈ってほしい、との謎の
メッセージが。実生は隼人の遺言に従って、希少な蝶のコレクションを巡る迷宮へと踏み込んでゆ
く。実生はかつての恋人だった久門草平と再会し、隼人の母親の意を受けて実生を監視する北川に
付きまとわれながらも、事件の真相を求めて、東南アジア各国を旅する・・・。
メイントリックについて、或る人物がなかなか・・・・・・・であったためにバレやすくなっているのが
残念ですが、レッドヘリングが先ず先ず成功しており、真犯人とその動機を気付かせにくくなって
いるのは評価できると思います。隼人の手紙にあった蝶の名前や、序盤の小事件の真相など、細か
い部分の趣向も上手い。
なおヒロインの造型が個人的には好きになれなかったのですが、東南アジアに棲息する希少な蝶と
いう題材も含め、熱帯の毒に魘されたような雰囲気に満ちた作品。傑作とは言えないですが、犯人
当て興味も踏まえた独特な雰囲気の良作でしょう。
夏樹静子「死の谷から来た女」(文春文庫)★★☆
1987年の長編。
高知県の鉱山で夫や両親らを爆発事故で亡くし、東京に出てきてサウナ風呂で働く北村恵は、常連客
の俵と知り合ったことから運命が大きく変わってゆく。俵の知り合いである鉱山会社オーナー相庭に
気に入られ、彼の養女となることに。だが、高知県の廃鉱では、謎の男が転落死を遂げていた。使い
道のなくなった鉱山に拘る恵は、夫の死について何かを知っているのではないか。一方、相庭や俵の
方もまた秘密を抱えているらしい。更に第二の事件も起きるのだが、果たして真相は・・・。
ヒロインの恵、相庭、俵が、それぞれ相手の知らない秘密を抱えており、その三つ巴の暗闘の真相が
ポイントなのですが、どれも途中で薄々と分かってしまうので、結末の意外性に驚きがないのが残念。
構成はしっかりしたものですが、伏線の張り方などに、衰えが感じられます。凡作でしょう。
斎藤栄「湘南海岸殺人事件」(講談社文庫)★☆
1969〜1978年に発表された、湘南・横浜を舞台にした作品を収めた短編集。
倒叙物の「ポケベル殺人」、「殺人者の指」は、一応、一定の水準を満たしていますが、他は駄作ばかり。
ホラー風の「稚児ケ淵の呪詛」、「氷川丸・幻の出港」、「油壺の殺意」は、理屈っぽさがおよそホラーに
合っていないし、「腐った海」、「黒い海の花」は三流アクション。
ベストは、大藪春彦風ながら二転三転する終盤が評価できる「翳りの海」ですが、これは別の短編
集で既読で、以前のスレで紹介済みなので略。
谷恒生「喜望峰」(集英社文庫)★★★☆
1977年のデビュー作の長編。
アフリカ航路の貨物船・白雲丸。モザンビークで正体不明の貨物を預かったことを皮切りに、船の
行く手に暗雲が漂ってくる。南ア・ケープタウンに停泊した白雲丸だったが、一等航海士の稲村は
混血女性のリンを助けたことから、南アフリカの黒人解放運動と、それを弾圧する南ア公安当局の
抗争に巻き込まれることに。折りしも白雲丸には南ア保安局の大物ケインとモザンビークの治安当
局の大物アンタレスが船に乗り込んでくる。モザンビークに向かう彼らとともに再び船に積み込ま
れた謎の貨物の正体は、そして同じく白雲丸に密航を果たしたリンの目的とは・・・。
今読めば冒険小説としてさほど迫力があるとも思えないのですが、1980年代の「冒険小説の時代」を
迎える前の時代にあっては、結構衝撃的だったのでしょう。稲村を助ける甲板長がシブく良い味を
出しています。
本作は飽くまで冒険小説ということで、本スレの趣旨には合わないのですが、実は一点だけ、或る
人物の正体について、「本格」テイストを感じる意外性が隠されており、驚かされました。伏線とい
う観点からは不満がありますが・・・。
高橋克彦「偶人館の殺人」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★
1990年のノンシリーズ長編。
江戸時代に発達した巧緻なメカ・からくり人形のイベントのため、英国育ちのハーフで新進デザ
イナーの矢的遥と知り合った池上佐和子。からくり人形の権威・神楽教授を訪ね、更に彼の義娘
の百合亜や、その兄のロックシンガー露麻雄、からくり人形のコレクターである会社社長の加島
らと係わることに。だが加島の豪邸で起きた毒殺未遂事件を皮切りに、加島の養女が殺される事
件が勃発。加島のもとに届いた「べんきちはゆるさないぞ」という脅迫文の意味するものは・・・。
矢的は、江戸時代のからくり人形師・大野弁吉のパトロンであった加賀の豪商・銭屋五兵衛の莫
大な隠し財産と、二十数年前に宮城県の山奥の洋館で起きた事件が絡んでいるのではないかと調
査を始めるのだったが・・・。
矢的は、マイナーな日本の諺にめっぽう詳しく口癖になっているという、なかなかユニークなキャ
ラで、彼を取り巻く池上や個性豊かな友人たち、からくり人形という題材などからも、どこか泡
坂妻夫作品の雰囲気も感じさせるミステリなのですが、果たして真相は・・・。
うーん、事件を追う側の矢的や友人らの面々は上手く描かれているのですが、対する加島、神楽
教授らの事件の容疑者らの方が描き足らないです。従って、ラストの謎解きがどこか中途半端な
感じ。真犯人の動機についても、今ひとつ納得できないし、二十数年前に起きた事件の不可能興
味も、大した出来ではないです。
ストーリーを彩る、からくり人形や大野弁吉、銭屋五兵衛の話、さらには隠れキリシタンとの関
連など、作者らしい奔放さがあって、その点は満足できましたが、「本格ミステリ」としては不完
全燃焼でした。探偵役の矢的も、なかなかユニークなキャラですが、これ一作のみの登場でしょ
うかね。作者も納得できなかったのかな、残念。
大谷羊太郎「やまびこ129号逆転の不在証明」(立風書房)★★☆
1991年の八木沢警部補ものの長編。
友人がレイプ事件の末に自殺してしまった経験を持つ河西幹子が殺された。別れ話でモメていた恋人
の男が容疑者として浮かぶが、彼には、事件当時、大宮駅で新幹線に乗り込む姿が目撃されていた。
八木沢警部補は鉄壁のアリバイを崩そうとするうち、もう一つのレイプ事件もまた事件に複雑に絡ん
でいるのでは、と疑い始めるのだったが・・・。
アリバイトリックについては、作者が自画自賛するほどには大したトリックが使われている訳ではな
いのですが、まあ、容疑者のアリバイが実は・・・、というアイディアはそれなりに工夫しているので
評価できると思います。しかし二転三転させた挙句のドンデン返しによるあの真相は、一寸どうで
しょうかね。真相とアレが重なったのは、全くの偶然としか思えないのですが・・・。
作者が珍しくアリバイトリックに挑戦した意気込みは買いますが、良作というレベルですらありませ
んでした。
笹沢左保「無宿人御子神の丈吉4」(徳間文庫)★★★
シリーズ第4巻、完結編(1〜3巻は前スレ参照)。
「脇本陣の娘が追った」、誰にでも抱かれる色狂いの娘。その真の動機とは・・・。
「用心棒は裏切った」は、国定忠治をお上に密告した村を忠治が意趣返しで襲撃するとの噂を聞い
た丈吉は、報酬抜きで村の用心棒となる。果たして襲撃者が現れるが実は・・・。
そして最終回「幻の太陽は沈んだ」。街道沿いで弓矢の攻撃を受けて負傷した忠治に出会った丈吉。
実は忠治にはニセ者がいて、そいつこそが丈吉の仇なのだと打ち明けられる。ニセ者が潜む宿場に
向かった丈吉を待っていたのは、更に驚きの真相だった・・・。さほど期待したほどのドンデン返しで
はなかったですが、結末の付け方が作者の作品では結構異色かも。ラストがアレというのは、かな
り珍しいかも。
ということで、御子神の丈吉シリーズ全4巻、先ず先ず楽しめましたね。
笹沢左保「木枯し紋次郎11−お百度に心で詫びた紋次郎」(光文社文庫)★★
シリーズ第11作。
佳作は「白刃を縛る五日の掟」。賭けに負けて、向こう五日間、長脇差を抜かないと誓った紋次郎。
道中で知り合った旅の少女と同行することになったが・・・。可憐な少女の死に、紋次郎の怒り爆発の
一編。あと、紋次郎が唯一、心を許していた亡き姉の墓参りのエピソード「年に一度の手向草」、そ
して第二期シリーズの最終回に当たる表題作など。はっきり言ってミステリ的な趣向は少ないし、
あっても二番煎じと言わざるを得ないのですが、これはこれで面白い。
笹沢左保「木枯し紋次郎12−奥州路・七日の疾走」(光文社文庫)★★
シリーズ第12作は初の長編。
紋次郎は駿河から乗った船が難破して、奥州のはるか奥地、八戸に漂着。大名領の支配が強く、親分
衆が存在せず、渡世人が生活できない奥州からは、一刻も早く脱出しなければならない。だが手付か
ずの奥州を狙う大親分・大前田栄五郎の手下たちと衝突することに・・・。
まあこんなものでしょうか。ミステリ的なドンデン返しが弱いので今ひとつの出来栄えでした。
笹沢左保「木枯し紋次郎13−人斬りに紋日は暮れた」(光文社文庫)★★★
第三期に当たるシリーズ第13作。
佳作は「明日も無宿の次男坊」。十五年前に勘当した次男坊の行方を捜す豪商。懸賞目当てに、次男
坊の特徴を持ったニセ者が続々と現れるのだが、果たして・・・。意外性に満ちた真相は、久々に初期
の秀作を思わせる出来栄え。
8連投スマソカッタ
三好徹「オリンピックの身代金」(光文社文庫)★★☆
1984年のシリーズ第三作。
天才犯罪者・泉とその一派が今回狙うのは、日本でロスアンジェルス・オリンピックを独占放送する
テレビ局NBC。30億円を払わなければ、開会式本番から、全ての中継を妨害すると脅迫。しかも千
円札で30億円を用意しろ、という奇妙な要求だった。NBCの報道局長は彼らの不可解な動機から、
一味を割り出し、放送妨害を防ごうと尽力するのだったが・・・。
今回はトリッキーなヒネり方が余り上手く行かなかったようで残念。テレビ局脅迫の一方、ロスで起
きているもう一つの事件との絡め方が上手くリンクしていません。そっち絡みが真の目的で、テレビ
局の方は実は・・・・なんだな、と簡単に気付かれる一方で、その意外性の出し方に失敗いたような気が
します。思わせぶりな結末の付け方もピントがズレている感じ。凡作でしょう。
45 :
名無しのオプ:2010/10/31(日) 13:58:24 ID:U8Bo7Tsj
今回は凡作が多いっすね。隠れた佳作を探すのはそういうもんでしょうけど…
栗本薫「吸血鬼−お役者捕物帖」(新潮文庫)★★☆
浅草の芝居小屋・初音座の看板役者にして美貌の女形・嵐夢之丞を主役とする1984年のシリーズ
第1作の連作集。
「瀧夜叉ごろし」は、久々に舞台に復帰した女形・嵐采女が芝居の本番中、宙吊りの場面で転落死。
誰も近づいた者はいなかったのだが・・・。第1話としては好調な滑り出し。真犯人の大胆な登場シ
ーンが上手い。
「出逢茶屋の女」は、町で夢之丞を見かけた贔屓の男が尾行してみると、夢之丞は出逢茶屋に入っ
たまま出てこなかった。更に中の部屋では殺人事件が勃発。夢之丞が犯人なのか、そして彼は一体
どこに消えたのか・・・。いかにも役者らしい消失トリックの一種ですが、出来は大して良くない。
「お小夜しぐれ」は醜女をめぐる話で凡作、「鬼の栖」は、年増の莫連女に惚れた商家の一人息子。
彼女は店の金を盗んだ疑いをかけられた末に殺されるのだが・・・。夢之丞が些細な手掛かりから
事件の構図を引っ繰り返す手際が見事。
「船幽霊」、「死神小町」ともに凡作、更に表題作や最終話の「消えた幽霊」に至っては、夢之丞の
生い立ちや前半生を巡る謎へと傾斜して、一話完結の謎解きから伝奇小説へと変貌してしまい、
第2シリーズの長編「地獄島」へと繋がってゆきます。前半の話に見られた謎解き物から離れてし
まったのは残念です。
笹沢左保「真夜中の残光」(角川文庫)★★
1988年の長編。
ユリ、千晶、奈保子はかつて女子高で美少女三人組の親友同士だったが、奈保子がユリの恋人・三宅
を略奪した挙句に三宅を自殺に追い込み、更に奈保子は千晶からも恋人の高見沢をも奪い、ユリと千
晶は奈保子と絶交していた。だが或る日、奈保子が三重県熊野の断崖から何者かに転落死させられる
事件が発生する。旅行に同行していた高見沢の仕業か。だが、憎い奈保子を単なる「被害者」にはした
くないユリは、もっと惨めな真相を信じて、千晶とともに真相を追及するのだが・・・。
作者は、「他殺を装う自殺」、「自殺を装う他殺」といった従来のパターンには属さない、新規の解釈に
よる真相をラストで提示しますが、これはまあ、トリックというよりも、作者の独特の宿命観に基づ
く、「或る人物の虚無的な行動の結果」といった方が良いかなあと思います。初期の良作「暗い傾斜」な
どでも追及されたテーマですが、そっちの方が出来が良いですね。
従って、いわゆる「本格ミステリ」の謎解きを期待すると肩透かしをくらいます。いかにも作者らしい
話ではあるけど、本格ミステリとしては高い評価はできないでしょう。
辻真先「迷犬ルパンと幽霊海峡」(光文社文庫)(採点不能)
1988年のシリーズ第9作の長編。
ルパンと朝日刑事が下宿する家の息子・健が通う中学校のスケ番・檜垣と、対立していた中学校
のスケ番・相場。瀬戸内海への修学旅行先と時期が両校で図らずも一致したことから、あわや旅
行先で衝突か、と思われた矢先、相場が北海道の函館で殺された、という情報が入る。だが肝心
の死体が消えてしまう。彼女の中学校では瀬戸内海と北海道の二手に分かれて修学旅行に向かっ
たのだったが、当日の夕方、四国で朝日刑事と健に目撃された相場が、どうして北海道で殺され
ることになったのか・・・。
四国における肝心の部分の描写が・・・・・・・なので、コレはアレかな、と予想がついてしまい、真
相もそのとおりでした。
しかし、事件の真相よりも何よりも、終盤の解決場面における或る重要人物の壊れっぷりがスゴい。
作者も何を意図して、ここまで感情むき出しになったのだろう?この作品発表時の1988年って、中
学生を巡る重大事件って何かありましたっけ?とにかく何とも言いがたい作品ですね。この作者の
ユーモア・ミステリでは珍しい評価ですが、採点不能、ということで。
笹沢左保「嘉永二年の帝王切開−姫四郎医術道中1」(徳間文庫)★★★
1980年から開始されたシリーズの文庫版の第1作。主人公は野州の医師の三男坊だったが、一家皆
殺しに遭い、更に自分が殺して家に火を放ったと疑われたため、出奔して渡世人となった乙井の姫
四郎、通称・乙姫。医術の心得があり、右手で人を助けながら、左利きの長脇差で人を殺めるはぐ
れ者、という設定。・・・作者も懲りずに色々なキャラの渡世人を作り上げるなあw
「利根川に孤影を斬った」、下総を舞台に先ずは挨拶代わり。ちょっとしたトリッキーな錯誤がミソ
だが、それ以上の趣向はないです。
「天竜川に椿が散った」は、生臭坊主と島帰りの連中に用心棒を頼まれた姫四郎。彼らは地元の材木
商と結託して江戸に大火事を起こし、材木の高騰でひと儲けしようと企む。だが彼らの陰謀を邪
魔しようとする連中が登場する。その黒幕の意外な正体とは・・・。これも作者の股旅物ではよくある
トリック。
「大井川を命が染めた」、姫四郎、帝王切開に挑戦。でも本編よりも、冒頭の何気ないエピソードと、
途中でチラッと出てくるサイドストーリーが、最後にあんな調子で交わる点に意表を突かれましたw
「久慈川に女が燃えた」、水戸藩御用達の名医ですら匙を投げた怪我を、姫四郎が手術で治してしま
うってwしかし、それが一連の事件の動機になっている点や、レッドヘリングの使い方も上手い。
タイトルも上手く、どうしたって別の方向に誘導されてしまうよなあ。
「笛吹川に虹が消えた」は今ひとつの出来栄え。
「吾妻川に憎悪が流れた」は、山間の温泉宿を舞台にした大量殺人事件。突拍子もない連続殺人の真
相に唖然、笑ってしまった。
「千曲川に怨霊を見た」は、幽霊騒ぎの裏の真相と動機に工夫を凝らしています。
股旅小説に、江戸時代の医療の実態をドッキングさせた怪作ですね。むろんミステリ的趣向もなか
なかのものですが、トリック自体には新味はありませんね。
笹沢左保「嘉永三年の全身麻酔−姫四郎医術道中2」(徳間文庫)★★☆
1980年のシリーズ第2作。
「命を競う小田原宿」は、昔馴染みの女に騙されて、武士らに拉致された姫四郎。連れて行かれた
先で待っていたのは、乳ガンに冒され、あちこちの医者から見放された姫君だった・・・。
「女郎が唄う三島宿」は、死ぬ間際の女性から、連れていた姪を母親である妹のもとに届けるよう
頼まれた姫四郎。妹のいる三島宿を訪ねるが、自分の子供に冷淡な態度を取る母親。その真相とは・・・。
「肌が溺れた島田宿」は壺振りの玄人女と関わりになった姫四郎が島田宿で起きた助成の身投げ事
件の真相を追及する・・・。
「波が叫んだ新居宿」、関所の役人のスキャンダルを見た姫四郎を、役人たちが地元の渡世人らを
使って殺そうと企むが・・・。
「夢が破れた岡崎宿」は、窮地に陥った亡き名医の娘を助ける姫四郎。だが彼女には・・・。
「潮に棹さす桑名宿」は、ひょんなことから仇討ちの旅を続ける侍と知り合いになった姫四郎。二
人が助けた娘の住む桑名へと向かうのだが・・・。
木枯し紋次郎シリーズに比べると全体に明るいトーンで、しかも後半の2作など、作者には非常
に珍しい、ちょっと爽やかなハッピーエンドに近いラストで驚きました。ミステリとしては「あの
人物は実は・・・・だった」というパターンが多く、少々飽きましたw
それにしても、ニヒルな渡世人にして神業の腕を持つ名医って、何か「ブラック・ジャック」に似
ているよなあw
別役実「探偵物語」(大和書房)(採点保留)
1977年の連作集。巻頭のエピグラフ「推理小説ではなく、探偵小説であらねばならないと考える、全て
の読者に、これを捧げる・・・・・」、こんな文章を読めば先を読まずにはいられないですね。果たして・・・。
プロローグ「X氏登場」、日本とも思えない、どこにもない町に住むX氏。「事件を解決するから探偵
なのではなく、先ず人は探偵になって・・・」という、ちょっと奇妙な問答。???何だろう、この不思
議な感覚は。安部公房とも違うし、星新一を高級にしたのともちょっと違う、独特の雰囲気です。
「夕日事件」より、X氏の独自の「探偵」がスタート。X氏のもとに届いた白紙の手紙。ハミガキ粉の
臭いを頼りに、手紙の差出人を探すうち、病院に辿り着くのだが、差出人が白紙の手紙を出した理由
とは・・・。うーん、益々分からなくなってきたw純文学なのか、ミステリのパロディなのか、ブラック
ユーモアなのか・・・。
「監視人失踪事件」は、自転車を食べて町の名士となったT氏が、今度はバス食べつくしに挑戦。その
様子を監視していた男が謎の失踪を遂げたため、その行方を調べるべく、X氏が監視人となって乗り
込むが・・・。当然、読者は「行方不明の監視人はT氏に・・・・・」と思うわけですが、まあ、何だろうな
あ、やはり分からん。
「大女殺人事件」、運河沿いの倉庫街で巨大な女の死体を発見したX氏。警察より先に解決すべく、倉
庫番に頼んで、一時的に死体を倉庫に隠したことから事態は紛糾する・・・。これは密室トリックのパロ
ディでしょうかね。でも「物凄い力で絞殺された死体」の真相が、なかなか豪快なアリバイトリック
になっているところは上手い。これは本格ミステリ風の佳作です。
そしてエピローグ「X氏と短提小説」。「ある人物が被害者であり探偵でもあり、そして加害者でもある」、
最も短い探偵小説とは・・・。これは笑った。けどねえ・・・。
それなりに楽しめましたが、こういうハイブラウなお話は苦手ですwでもこんな洒落た本が105円だ
からブクオフは侮れないですね。
×「X氏と短提小説」
○「X氏と探偵小説」
西村京太郎「特急北アルプス殺人事件」(角川文庫)★☆
1984年の十津川警部物の長編。
飛騨高山で起きた殺人事件。女性の死体が水瓶の中から発見され、更に、離れたところでは男の
死体が雪洞に埋まっているのが発見される。地元署の刑事が執念で捜査を続けるが、何者かに殺
されてしまう。十津川・亀井刑事コンビは、一連の事件に東京都の公安委員の大物が関わってい
ることを突き止めるのだが、その男には事件発生時に、飛騨高山を出発する特急「北アルプス」に
既に乗車しており、それを証明する第三者の証人がいるという鉄壁のアリバイがあった。だが職
人気質の刑事を殺されて怒り爆発の十津川は、執念で彼のアリバイを崩そうとする・・・。
苦笑。アレとアレを騙したぐらいじゃ、鉄壁のアリバイ工作にはならないじゃないか。一番の問
題は、特急の車内にはアレとかアレとか、難題が満載でしょう。それらをどうクリアしたのか、
説明が全くないのだから話にならない。駄作。
8連投スマソカッタ
山村正夫「災厄への招待」(角川文庫)★★★
1987年の中・短編集。
中編「崩れた砂丘」△、繊維会社の社長からカネを奪おうとする男女の話。駄作。
短編「狐の穽」○、会社重役の罠にはまって冤罪で逮捕、懲役を済ませた男が出所し、自分をハメた
重役に復讐を開始しようした矢先、敵は何者かに殺されてしまう。彼が追及した真相とは・・・。これ
はアリバイ工作や或るトリックも出てきて先ず先ずの出来。
表題作の中編がベスト、◎。勤務先の社長の息子に娘を見初められ、玉の輿にのった娘と父親。だが
彼女を中傷する男が現れ、やがて娘は東京駅で誘拐されてしまう。社長に反発する派閥の連中や、遺
産を狙う社長の愛人など容疑者が蠢く中、辿り着いた真相とは・・・。これは完全に意表を突かれました。
あの人物のアリバイや行動だけは考慮しなかったもんなあ。
短編「赤い灯台」△、駄作。内容からかなり古い作品と思われるが、ホラーなのか何なのかサッパリ・・・。
54 :
名無しのオプ:2010/11/13(土) 02:03:56 ID:53/9BxaL
西村のトラベルミステリーのおかしなところを指摘した本が昔出てたけど
「北アルプス〜」も取りあげられてたね
まあ鉄ヲタが鉄道ミステリーを読むと、そういうところは必要以上に気になっちゃうんだよね
鮎川作品ですら「それはどうだろう」と思ってしまう点があったりする
出久根達郎「踊るひと」(講談社文庫)★★★★
手紙、インタビュー、交換日記など、叙述形式の様々なテクニックを駆使した作品群を収めた
1994年の短編集。ミステリでない作品も含まれており、また発表年も本スレの趣旨から外れま
すが、これは傑作です。
表題作は、女性記者が半年振りに外国から帰ってみると、学生時代の友人からの手紙が何通も
届いていた。内容は、病死した彼女の姉に義兄が出した手紙が、難病の女性との純愛記録の本
からの盗作であることを告発する手紙だった。一番最近に届いた手紙を記者が読んでみると・・・。
手紙の中で手紙にまつわる奇妙な話が展開、しかもその内容は、その手紙が他の手紙の盗作だ
という、非常に技巧的でミステリアスな作品です。
「立ち枯れる」は、関東大震災の当日に生まれた男が記者のインタビューに答える話。これまた、
その男がかつて知り合った刑務所の刑務官から聞いた話で、その話とは、大震災の当日に刑務
所で起きた事件を、その主人公が語る、という二重、三重の構造になっているところがミソです
が、ホラーにしてはパンチが足りない。
「くっつく」、これは傑作。女子高生の交換日記のやり取りで構成され、二人の間で話題となる
のは薄気味悪い転校生の話。やがて二人は交換日記を誰かが盗み読みし、二人の筆跡を真似て
勝手に書き足していることに気づく、その犯人とは・・・。序盤の何気ない伏線の巧妙さ、ラスト
の二段構えのドンデン返しなど、折原一も顔負けの超絶技巧ミステリ。
(承前)
「花粉症」も佳作。弱小映画プロダクションの助監督が、ロケハンで或る邸宅を訪れる。案内
する不動産会社の男の様子が変で、彼はやがて、この屋敷で起きた殺人事件の話を始める・・・。
騙しあいの応酬は珍しくないが、語り口と盛り上げ方がもう絶妙。
「むだぐち代参」、非ミステリのしみじみした話だが、作者にしては駄洒落のレベルが低すぎる。
「夜の民話」、これはホラーの名品。自称200歳の老人が語る、幼い頃に表具師の男から聞いた、
絶対に他人に話してはいけない恐ろしい話とは・・・。句点だけで言葉を区切った、たどたどしい話
が恐怖感を盛り上げます。それにしてもヤツメウナギって・・・。怖い。
「秘密の場所」は、中学時代の友人三人組が経験した放火魔の事件。数十年後、友人の一人が亡く
なったことから、残された二人が手紙で思い出を語り合うのだが・・・。これも手紙という媒体を活か
した良作。
全体に、凡作が殆どないという高レベル、井上ひさし「十二人の手紙」にも匹敵する短編集。お勧め
です。なお、同じ作者の短編集「猫の縁談」(1989年、中公文庫)、「無明の蝶」(1990年、講談社文庫)
にもミステリといって良い作品が幾つかあり、こちらもお勧めです。
山田風太郎「青春探偵団」(廣済堂文庫)★★★★
たまには「フラッシュバック」掲載作の感想も。本作は1959年の高校生向けジュブナイルの連作集。
北国の高校の寮に暮らす、男子高校生三人組と女子高生三人組が結成したミステリ愛好クラブ「殺人
クラブ」の面々が活躍する、終戦直後の「青い山脈」とも違う、また昭和40年代後半の青春ドラマの
高校生気質とも違う、昭和30年代の高校生の青春群像が描かれた一冊。
先ずは「幽霊御入来」○、雪の足跡トリックだが、これは犯人が限定されてしまうよなあ。
「書庫の無頼漢」◎も密室的な趣向。女子高生の家に押しかけた来た父親の知り合いであるヤクザな
男たちが殺されてしまう。現場を犯人が出入りした状況はなかったのだが・・・。哀しいラストととも
に本編中の佳作です。
「泥棒御入来」○、寮の消灯時間後の外出、人呼んで「脱獄」を起こした直後に逆に泥棒が寮に潜入。
結末は読めましたが着想は面白いです。
「屋根裏の城主」○、寮の天井裏の秘密基地が舎監にバレそうになり、寮生らが取った奇策とは・・・。
「砂の城」△、夏休み番外編。海水浴場で砂浜に死体を埋めた犯人グループと「殺人クラブ」の面々
の微妙なズレ具合が面白いのだが、これは今一つの出来栄え。
「特に名を秘す」◎、ダイイングメッセージをヒネッて、更に裏の裏を読んだアリバイ工作など、トリ
ッキーな趣向が満載の佳作。また、本格ミステリの「論理性」を皮肉った、「事件の真相はそんなに論理
的に解明できるものなのか」という主張は今も新鮮です。本作と「書庫の無頼漢」の2作が双璧ですね。
高橋義夫「武器商人」(徳間文庫)★★☆
1989年の長編。
幕末、戊辰戦争も大詰めの頃、横浜から新潟に進出して幕府軍向けに武器を売る商売を行っていた
ドイツ商人のシュネル。彼の助手を務めていた川上が何者かに切り殺される事件が勃発。やはりシュ
ネルとともに横浜から来ていた商人・海屋の栄三郎が真相を探ろうとするが、薩長軍による新潟攻
撃により、命からがら横浜へ舞い戻る。薩長の支配する世の中になり、無一文となった栄三郎はシュ
ネルの援助で新しい商売を始めつつ、かつての殺人事件の真相を追及するのだったが・・・。
作者は、高橋克彦と同時に直木賞を受賞した作家、しかも幕末に活躍した謎の商人シュネルは、高橋
克彦も某作品で取り上げているという因縁もありますが、果たして本作の出来は・・・。
うーん、確かに事件の真相や真犯人、それらに関する伏線など、ミステリとして評価できる部分もあ
るのですがが、やはり作品のメインテーマは、「幕末・明治維新の動乱の時代における商人たちの生き
ざま」といったような、ミステリとは別のところにあり、本格ミステリの謎解きとして評価するのは
一寸難しいですね。話としては結構面白かったのですが。
高橋克彦「春信殺人事件」(光文社文庫)★★★☆
1991年の浮世絵を題材にしたミステリ、「写楽・・・」「北斎・・・」「広重・・・」の「浮世絵三部作」とも絡まる
番外編といった感じの長編。
仙堂耿介は大学の浮世絵研究室を辞め、行方不明となった浮世絵などを探して日本全国を旅する「探し
屋」稼業を続けていた。或る日、お得意先の藤枝から、鈴木春信の幻の肉筆画の話を聞き、画廊の
女主人・駒井みどりらとともに幻の絵の捜索を開始する。だがその絵の取引を商社に仲介した男が
行方不明となっており、耿介は行方不明の男と絵を追って、ニューヨークへと旅立つ。そこで知り
合った塔馬双太郎とともに、きな臭い絵画取引にかかわる事件の真相を探るのだが・・・。
真犯人と動機の意外性には、上記の浮世絵三部作よりも「本格ミステリ」に近い技巧が施されており、
その点では満足できました。春信の絵に隠された謎の設定自体は、三部作に比べて小ぶりですが、
ミステリとしては綺麗に纏まった良作だと思います。なお、「浮世絵三部作」のネタバレに近い部分
がありますので要注意
60 :
名無しのオプ:2010/12/01(水) 20:20:32 ID:4WAog2Hy
早乙女貢「QE2世号殺人事件」てのが気になるんで誰か特攻してくださらぬか
61 :
名無しのオプ:2010/12/02(木) 16:53:05 ID:+uMXu/sk
>>60 初耳のタイトル。作者名とあわせて、一度インプットされると、強烈w
探してみようか・・・な。
62 :
名無しのオプ:2010/12/05(日) 08:20:14 ID:j1iaOgCm
>>32 >>46と、栗本薫が取り上げられていて、いまどきキチンと読んでくれる人がいるんだ、
とかつてのファンとしては感慨深いものがあります。
デビュー後、数年間(限定)の栗本薫の勢いと輝き(未熟ではあっても、可能性の卵のような
人でした)。
ノン・シリーズでは、ピラミッドで不可能犯罪を演出した『ネフェルティティの微笑』が、
出来はさておき(笑)、哀切なストーリーで忘れ難いですね。
>>62 >ノン・シリーズでは、ピラミッドで不可能犯罪を演出した『ネフェルティティの微笑』が、
>出来はさておき(笑)、哀切なストーリーで忘れ難いですね。
おお、つい先日買ってきたばかり、面白そうですね。
三浦綾子「死の彼方までも」(講談社文庫)★★☆
1973年の短編集。
表題作は、連れ子のある男・俊之と結婚した順子。ある日、俊之の前妻・利加から電話がかかって
きて、ガンで余命幾許もないので、死ぬ前に娘に会いたい、と訴えてくる。順子は悩んだ末に娘を
連れて病院に行くのだが、死に際に利加は、俊之も浮気をしているのだと言う。順子はその相手を
訪ねてみるのだが・・・。
ミステリ風のドンデン返しもありますが、結末にはキリスト教的な教訓めいたものが添えられてお
り、こちらがテーマなのでしょうね。
「赤い帽子」は、幼い息子と二人暮しのシングルマザーの話。隣家の主婦から嫌われているのだが、
或る事件を契機に仲が良くなる。だが・・・。幕切れの凄惨さが印象に残る一編。
「足跡の消えた女」は、札幌の町で高校時代の旧友・津奈子に再会した道代。津奈子は暴力を振るう
夫と別れ、洋裁の仕事をしているという。だが津奈子を相次いで不幸が襲う。実家に置いてきた
息子が病死し、本人は万引きの濡れ衣を着せられ、果ては病気で入院する・・・。しかし、どこか様子
がおかしいと感じた道代は・・・。これも或る人物の登場で全てが引っ繰り返る辺り、ミステリとして
評価できますが、そのドンデン返しがさほど鮮やかに決まらないのが残念。ミステリ・プロパーの
作家なら、ドンデン返しのために書き方を工夫するのでしょうが、まあ仕方が無いか・・・。やはり
小説のテーマは、ミステリとしての話が終わった後、主人公の夫が語る部分にあるのでしょうね。
「走れメロス」の新解釈が面白いです。
「逃亡」は、温泉で知り合った男が語る、戦前の樺太におけるタコ部屋の話。かなり凄絶な描写が
続く、迫力に満ちた作品。
全体に「本格ミステリ」の謎解きとして評価に耐えるかは疑問ですが、表題作と「足跡の消えた女」
はミステリとしてそれなりに面白く読めました。
中津文彦「みちのく王朝謀殺事件」(双葉文庫)★★☆
1989年の歴史ミステリ。
二部構成で、第一部は平安時代の陸奥国を舞台に、清原氏と安倍氏の抗争の後、藤原清衡の妻子が
殺される顛末を追ったもの、第二部で現代に転換し、清衡の妻子殺害の真犯人を追う、という構成
です。
第一部で、前九年の役、後三年の役など余り馴染みがなく、背景の複雑な事件を分かりやすく紹介して
おり、清衡の妻子殺害事件の主犯について、幾つかの手がかりを残したまま謎のまま終了させ、第
二部の現代のストーリーに期待を持たせるのですが、第二部が少々お粗末。
藤原清衡の妻子殺害の真犯人を示した幻の日記「しの憂記」が発見されたという事件を背景に、第一
部の安倍・清原一族の複雑な家系にシンクロしたような複雑な家系をもつ現代の京都の染物商一族
で起きた大学講師殺害事件を追及しているのですが、第一部とシンクロしているのは家系の複雑さ
だけで、他には二部構成にした必然性がなく、遊離してしまっています。第一部が迫力あるだけに
残念でした。
高柳芳夫「日本大使館殺人事件簿」(徳間文庫)★★★☆
長く探していた作品で、久々の高柳作品。本作は1983年の「プラハの花嫁」文庫改題版。在西ドイツ
日本大使館の二等書記官・草葉宗平を主人公とする短編集。
第1話「浴室の告発」、ボンに滞在する日本人女性が密室のバスルームで自殺したかに見えたが、ダイ
イングメッセージらしきものが消された跡や、現場の不自然な状況から他殺と疑われる。草葉が彼女
の背景を調べるうち、自分の上司が彼女と絡んでいることを知る・・・。密室トリックをひとヒネりした
ものです。
第2話「ペーター・ハルチンクの碑」は、オステローデという地方都市が舞台。17世紀に活躍した日本人
とオランダ人の混血の哲学者による世界史を揺るがす古文書が発見され、その遺跡を戦争中に発掘し
たフランス軍捕虜収容所の面々や、古文書を研究する学者、オステローデの市長や大学学長、司教ら
が式典に参加した晩、市長が何者かに殺される事件が発生。草葉は関係者の多くが市長に恨みを持っ
ていることを突き止めるが、容疑者らにはアリバイがあった・・・。機械的なトリックで今ひとつの出来
です。
第3話「アール川峡谷に死す」、日本から来た大蔵省政務次官がクルマごと峡谷に転落して死亡。現場
の状況から単純な交通事故死と思われたのだが・・・。これも機械的なトリック。
第4話「プラハの花嫁」はトリッキーなスパイ小説。年末年始の休暇で、草葉はチェコ・プラハのツアー
に参加。アバンチュールを楽しむうち、仲良くなった老人が船のホテルから失踪、死体となって発見
される。事件の裏で蠢く、チェコを舞台にした東西冷戦の諜報活動の真相とは・・・。長編化できそうな、
なかなかの力作。幾つかのトリックを配して、スパイの意外な正体など盛り沢山の趣向です。
久々の高柳作品、作品の舞台のユニークさもあって楽しめました。
広山義慶「夏回帰線」(角川文庫)★★
1983年の作者のデビュー作。
千葉県で発見された死後三十年以上経った白骨死体。大東亜戦争末期、九十九里浜への米軍上陸に
備えて千葉県に駐屯していた陸軍部隊の兵隊のものではないか、との疑惑が持ち上がる。その最中、
札幌に住んでいた元広告会社の男が倉庫で焼死する事件が発生。被害者は実は白骨死体の忘れ形見
の息子ではないのか。千葉県警の藤代警部と地元新聞の神定記者が、それぞれ謎を追うのが、神定
記者もまた不審死を遂げてしまう・・・。
デビュー作ということで力の入った重厚な雰囲気の作品ではありますが、何というか、松本清張
「ゼロの焦点」、「砂の器」、水上勉「飢餓海峡」などなど、往年の名作のプロットの美味しいところ
だけを摘み出して再構成したような作品で、独創性が殆どありません。藤代警部の丹念な捜査過程
の描写は光るけど、およそ「本格ミステリ」の謎解きになっておらず、意外なところに潜んでいた真犯
人と、少々想定外だった動機の意外性も、伏線が乏しいし、解決の仕方がマズいので評価できません。
これなら後年の作品で以前に紹介した「贋作の神話」の方が上ですね。
志茂田景樹「雪の京都 殺人紀行」(角川文庫)★★
第1作「雨の倉敷殺人紀行」(前スレ参照)に続く、元刑事の高島源太を主人公とする1985年のシリーズ
第2作。
高島は会社のカネを奪って逃げた女性の部下を追って京都にやって来る。京都駅前で遭遇した奇妙な
キセル事件の犯人・亜鈴が遺した謎めいたメッセージに惹かれて、大原・三千院を訪れるや、門前に
死体が空から降ってくる怪事件が勃発。更に亜鈴と待ち合わせた琵琶湖・浮御堂では、殺されていた
亜鈴の死体が、琵琶湖の湖面を歩いて去ってゆくのを目撃。高島は、一連の事件に、京都の闇金融の
帝王や、若狭の漁師の密貿易や莫大な隠し資産などがあることを知るのだが・・・。
ああ・・・。二件の殺人における突拍子もない不可能興味に惹かれて読んだのですが、その余りのバカバカ
しさに苦笑w
まあ、死体投擲や水上歩行の真相には、ちゃんと伏線が張られているし、キセル事件の意外な動機も
あり、一応、結末では錯綜した謎が辻褄合わせながらも全て解決されてはいるのですが、何の必然性
もないトリックではねえ・・・。バカミス・ダメミス好みの方にのみお勧めですが、第1作の方が遥かに
出来が良いです。
森村誠一「霧の神話」(角川文庫)★★☆
1974年の長編。
化粧品会社に勤める魚住は、北アルプスで雪目に悩んでいたときに助けてもらった謎の女性・草野
夕子に似た女・夕紀子と結婚する。だが新婚旅行に行った先で不審な男の影が。妻・夕紀子の秘密
とは一体何なのか。やがて魚住は、夕紀子の過去に関係があったらしき男・家長を見つけ出し、二
人の関係を追及するのだが、その矢先に、新婚旅行先で見かけた男が殺されてしまう・・・。
これは「本格」とは言い難いのですが、そこそこ楽しめました。謎の大部分は中盤までに読者に推測
可能なレベルですが、魚住と相手の家長の双方に関わっている或る「錯誤」が話のミソではないかと・・・。
その後に待ち受ける謎の真相は全く想定内のもので、まあ女性誌に連載された作品だから、こんなも
のではないかと・・・。但し結末には少々驚きましたがね。思い切り残酷にもなれず、かと言ってハッピー
エンドにも出来ない、となれば、あのラストしかないのかも知れません。
7連投スマソカッタ
赤川次郎「行き止まりの殺意」(光文社文庫)★★
1979〜86年に発表された作品を収めた短編集。
先ずは表題作。離婚して父親とともに実家に戻った娘。父親は失意のまま自殺し、祖母も過労で急死。
母親を恨む娘は殺してしまおうと母親を訪ねてゆくが・・・。短編小説のお手本のような、人生の一段面
を鋭く切り取ったシミジミとしたお話。でもミステリとしてはどうかな。
「犬」はホラー調。不動産会社の立ち退きに応じない男。その飼い犬に襲われるが・・・。
「真夜中の電話」は友人宅の留守番を頼まれた女子大生。留守中に、友人の父親の汚職がらみで警察が訪
ねてきたり、さらには愛人が押しかけてくるが、その愛人がドサクサ騒ぎの中、殺されてしまう・・・。これ
が一番本格ミステリらしい作品かな。
「あの人は今・・・」は夫殺しの疑いをかけられて芸能界から消えた女優を探そうとする記者。女優は
今は社長夫人となっていたのだが。まあまま。
「わかれ道」は、ごく普通の主婦がクルマを運転中、道を間違えたことから銀行強盗の片棒を担がされ
て・・・。最初はSFかと思いましたよ。荒唐無稽だけど、どこか心に染み入る作品。
「旧友」はまたも犬を題材にしたホラー。少女が幼い頃に子犬の命を救う。以来、その犬は彼女が危機に
陥るとどこからともなく現れるようになる・・・。オチはミエミエだよ。
「消えた会議室」はオーソドックスなミステリ。会議室で死んでいた謎の男。社員の一人が自殺して解決
かと思われたが・・・。まあまあ。
バラエティに富んだ作品集で、「真夜中の電話」や「消えた会議室」のような謎解きものもあるが、全体に
ホラーに比重が傾いており、ミステリとしての出来は今ひとつでした。
70 :
名無しのオプ:2010/12/14(火) 08:41:12 ID:TYEs8Qkl
津村秀介の「虚空の時差」、「異域の死者」を読んだ。
まず、「虚空の時差」(1981年 エイコー・ノベルズ)
プロローグにあたる部分のせいで、殺人の動機や犯人がすぐ分かっちゃう。
アリバイ崩しの作品でも、大切な部分だと思うけど。
この作品は浦上伸介モノじゃなくて、ふたりの刑事が捜査するんだけど、
この刑事たちが、少し暴走しすぎたように感じた。
津村さんは、取材や聞き込みのシーンの書き方が下手だな。
あと、結末にリアリティーなさ過ぎ
大晦日にトリックが分かって、その日のうちに犯人を捕まえ、元旦に解決って、ありえないでしょう。
初代スレの
>>3氏の評価は「虚空の時差」は★★★★だったけど、私の評価は★★★。
推理小説としての出来はまあまあなんだけど、あまり高い評価はできない。
71 :
70:2010/12/14(火) 08:42:36 ID:TYEs8Qkl
「異域の死者」(1991年 講談社ノベルズ)
作家には関係ないことだけど、表紙が駄目。
被害者や容疑者たちは、かなり入り組んだ人間関係で、犯人もなかなか絞られないのだけど、
表紙で犯人が分かっちゃうよ。
メイントリックは、初代スレの
>>3氏も書いていたように類似のものがあるし、非常に危なっかしい。
でも、小説としては「虚空の時差」よりこっちの方がおもしろかった。
この小説が問題なのは、アリバイを解いただけで終わってるところ。
終盤に共犯者の話が出てくるのに、その話がうやむやだし、犯人のはっきりとした動機が分からないし、
殺人直前の被害者との会話もよく分からないし、かなり尻切れトンボ。
佐野洋氏はアリバイ崩しのミステリーが嫌いだという文章を読んだことがあります。
アリバイが崩れたといっても、それだけで容疑者が犯人であると言い切れないからだそうですが、
この「異域の死者」を読んでいると、そういう考えを持つのも分かります。
(私自身は、アリバイ崩しモノは大好きです。)
この作品は、★★★かな。結末がもっときちんとしてれば☆も付いたのだけど。
(ちなみに、初代スレの
>>3氏の評価は★★★☆でした。)
小林久三「屍体商社」(角川文庫)★★★
1982年の長編。
ヘリコプターによる刑務所脱獄事件が発生し、強盗事件で服役していた吹石が脱走に成功。一方、
日本最大の総合商社の社長が重病で緊急入院した病院で病院ジャックが発生。犯人グループには
脱獄した吹石が含まれているらしい。社長と看護婦を人質にした犯人グループは、商社が保有す
る10億円相当の絵画を要求する。犯人グループの正体と本当の目的は何なのか。警視庁の森警
部らは、商社の社長秘書室の協力を得て、事件の解決を図ろうとするのだが・・・。
中盤過ぎまでは一種のサスペンス物ですが、終盤近くになって、なかなかに派手な不可能犯罪が
立ち上がります。結末近くで犯人の正体に直結するトリックなので、ここに詳細は書けませんが、
作者は、意外と密室的な趣向が好きということもあり、それなりに楽しめます。でも冷静に考え
ると、あの場面であんなことをすれば、却って逆効果のような気も・・・。まあ、警察の包囲から逃
れるには仕方なかったのでしょうが・・・。
なお、意外な動機や真犯人の意外性にも配慮しているけど、やはり残念なのは、最初の脱獄事件
の裏の真相が、説明はされているけど説得力が弱い点ですね。あんな派手なことをする分、足が
つきやすいに決まっているし、必然性も弱い。作者は、ただ派手な、映画的なシーンを入れたかっ
ただけかよ、とも勘ぐりたくなりますね。
高橋克彦「闇から来た少女−ドールズ」(中公文庫)★★
1987年のシリーズ第1作の長編。
盛岡で古書店を営む恒一郎の姪で、死んだ姉の忘れ形見の怜。父親の信司は恒一郎の店の二階で
道楽半分の喫茶店を営んでいたが、或る日、怜は夜中に飛び出し、クルマと接触事故を起こす。
命に別状は無かったのだが、その日以来、怜の様子がおかしい。誰か別の人間が怜に取り憑いて
いるのではないか。恒一郎は友人で医師の戸崎や、仙台の人形作家・香雪らとともに、その正体
を探るのだが、何者かが彼らをひそかに付け狙っていた・・・。
うーん、怜に取り憑いた人物の正体の究明や、それに伴う様々なオカルト関係の事例紹介などに
紙面を費やし過ぎでしょうか。最後になって、序盤の事件の意外な真相が明らかになり、怜や恒
一郎を狙っていた者の意外な正体が判明する謎解きもあるのですが、ホラーとしてもミステリと
してもピリッとせず、バランスを欠いてしまったようで残念です。
高橋克彦「闇から覗く顔−ドールズ」(中公文庫)★★★
「闇から来た少女」に続く「ドールズ」シリーズ第2作、1990年の連作集。主人公の怜が実は・・・だと
いう趣向が自明の前提となっているので、第1作「闇から来た少女」を先に読む必要があります。
第1話「紙の蜻蛉」は、仙台にやって来た折り紙作家を巡る殺人事件。現場には、非常に精巧な蜻蛉
の折り紙細工が遺されていたのだが・・・。ややアンフェアではないかな。
第2話「お化け蝋燭」は、日光江戸村が舞台。怜や恒一郎らの一行は、盛岡の商店街の慰安旅行に参
加して日光を訪れるが、幹事の男性が殺害される。容疑者には事件当時、影絵を上演中というアリバ
イがあったのだが・・・。怜(実は・・・)が或る知識を動員して、奇矯なアリバイ工作を打破する趣向
です。
第3話「鬼火」は、怜が結石で入院。同室の患者は有名な女性篤志家だったのだが、怜は彼女に脅え
ている。果たして殺人事件が起きるのだが・・・。これもアリバイ崩し物ですが、謎解きとしては単純
なもの。
第4話「だまし絵」はタレント霊能者の女性が、怜(実は・・・)が自分の命を狙っていると脅え、
双子の兄に頼んで怜を抹殺しようと目論む。怜は九死に一生を得るが、彼女を狙ったはずの双子の
兄には鉄壁のアリバイがあった・・・。双生児だから・・・、と思わせての意外性もありますが、これも
謎解き自体はごく単純なもの。
全体に、第1作よりも謎解きの趣向に重点が置かれており、ごく軽い本格風謎解きに、ホラーを加
味したもの、といったところでしょうか。読む前は、最近の三津田信三などに先駆けた、ホラーと
本格の謎解きを融合させたミステリかな、と思っていたのですが、厳密には異なるものですね。
本格としての謎解きの切れ味と、ホラーとしての解釈が融合しているというより、ホラーとしての
或る大きな「前提条件」を除けば、起きている事件そのものは極く常識的なもので、謎解き自体も
ごく軽く、不完全燃焼といった感じ。それでも第1作よりもシンプルに、オカルトめいた事件の謎
を解く、という趣向で楽しむことが出来ました。
赤川次郎「三毛猫ホームズの登山列車」(角川文庫)★★★☆
「・・・の騎士道」(傑作)、「・・・の幽霊クラブ」(凡作)、「・・・の歌劇場」(良作)に続く、ヨーロッパ
を舞台にしたシリーズの第4作目、1987年の長編。
スイスアルプスにやって来た片山、晴美、石津、ホームズの一行は、靖子という女性と知り合う。
彼女の姉は結婚式で新郎に逃げられて自殺していたのだが、その相手の男・浅井は別の女性・実穂
と結婚して、アルプスで靖子とばったり出会ってしまう・・・。だが浅井が結婚した実穂もまた、日本
に残してきた父親が殺され、日本を脱出した容疑者の継母と出会うことに・・・。二つの事件が複雑に
絡み合う中、真っ暗なトンネル内で殺人事件が勃発。だが被害者は、一行とは何の関係もないはず
のツアーの添乗員の男だった・・・。
ヨーロッパ四部作の掉尾を飾る本作は、「騎士道」には及ばないものの、思いも寄らないところから
意外な真犯人が現れる点に成功した良作です。伏線にはやや不満があるものの、連続殺人の順番、
特に第一の殺人によって、読者の推理を混乱させるテクニックなど侮りがたい技巧です(但し、その
次に起きた事件については、アンフェアな手段で読者を瞞着しており、これは減点)。
チェスタートンや横溝正史の某作品でも使われた或るトリックのさり気なさも良く、傑作とは思わ
ないが、先ず先ず読めます。この四部作は全体に出来が良い作品揃いですね。
藤原宰太郎「早稲田の森殺人事件」(光文社文庫)★★
「密室の死重奏」、「無人島の首なし死体」(いずれも前スレ参照)に続く、久我京介センセイと大学生の
西川明夫、ガールフレンドの洋子らが活躍する1989年のシリーズ第3作。
明夫の級友・土井が、廃車置場のトランクから他殺死体となって発見される。死体には、死亡推定時刻
をごまかすため、使い捨てカイロが多数貼られていた。更に、土井の恋人である看護婦もまた、自宅マ
ンションで自殺を装って毒殺される。現場は外部への出入りが不可能な密室だったが、階下の部屋に住
む台湾からの留学生の不審な行動は何を意味するのか。また、どうやら土井は誰かを恐喝していたらし
いのだが、果たして事件の真相は・・・。
使い捨てカイロをいっぱい貼って死亡推定時刻をごまかす、って・・・。まあ流石に、そんなしょーもない
仕掛けがメインの謎解きではなく、もうちょっと錯綜した謎が仕掛けられてはいますけどね。でも、
マンションの密室トリックも、何というか、そのトリックを仕掛けている犯人の行動を思い浮かべて
みると苦笑するしかないという代物。どこかで見たようなトリックを幾つか持ってきて、そんなもの
の寄せ集めでミステリを書くとこうなるよ、という反面教師的な作品でしょうかね。
レッドヘリングとかも色々工夫してはいるのですが、どうも安っぽい作品としか思えませんね。
笹沢左保「嘉永四年の予防接種−姫四郎医術道中3」(徳間文庫)★★☆
1980年の文庫版シリーズ第3作。
「水子が騒ぐ追分宿」△、信州で浪人に怪我を負わされた商家の若旦那らを救った姫四郎、若旦那
の代わりに娘を故郷に送り届けることになったのだが・・・。
「仏が逃げた馬籠宿」○、木曽路を荒らす盗賊の首領が殺されるのだが、実は・・・。これはトリッ
キーな味わいの佳作。
「娘が燃えた塩尻宿」△、対立する二つの商家の見栄争いで、江戸から塩尻まで韋駄天競争をする
ことになった二人の奉公人の話。
「炎が仇の松井田宿」△、ニセ者の姫四郎が豪商の娘を誑かすのが、彼らは天然痘に感染していた・・・。
「情が死んだ深谷宿」△、上州を荒らしまわる盗賊の正体とは・・・。
「風が慕った浦和宿」○、本陣で大名から拝領した茶碗が盗まれる。その家の娘は原因不明の病気
に罹っていたのだが・・・。先ず先ずの出来です。
7連投スマソカッタ
笹沢左保「嘉永五年の人工呼吸−姫四郎医術道中4」(徳間文庫)★★★
1981年の文庫版シリーズ第4作。
「昔を売った粕壁宿」○、過去を決して話さないニヒルな渡世人に出会った姫四郎。ミステリ度は低い
のですが、本シリーズのテーマ、作風をコンパクトにまとめた一編。
「息吹が若い鹿沼宿」○、大水で壊滅した村に居残る若い男女。そこには武士が隠した千両箱が埋まっ
ているというのだが・・・。冒頭の事件とのつなげ方が上手いですね。
「音が砕けた梁田宿」△、「涙が散った矢板宿」△、ともに凡作。
「雪が笑った氏家宿」◎、これはシリーズ屈指の傑作。幼い娘が誘拐された商家。地元の貸元が懸賞金
欲しさに行方を捜す中、姫四郎は誘拐された娘と同名の娘を連れている女に出会う。実は・・・。誘拐事件
の真相の意外性もさることながら、作者には全く珍しい、姫四郎の爽やかでイキなお裁きぶりが印象的
な作品。
「掟を棄てた岩槻宿」△、「鬼の兄弟」の異名を持つ盗賊一味が意趣返しに農村を襲う・・・。これは凡作。
次巻で本シリーズも大団円、さて最終回は・・・。
79 :
名無しのオプ:2010/12/29(水) 17:54:22 ID:B/jHeJ8Y
3師とスレ住人のみんな、良い年をお迎えください!
藤丸卓哉「殺人周波(サイクル)」(祥伝社ノンノベルス)★★☆
作者は子供向けの科学読み物なども書いているようですが、本作は1983年のミステリデビュー作の
長編、「新科学推理小説」などと銘打ち、中島河太郎の推薦文まで載せての登場ですが・・・。
通信機器メーカーのビル地下駐車場で起きた爆弾事件。犠牲となったのは社長の娘婿の若手重役だ
った。先代の社長を追い落として権勢を振るう現社長に反対する一派の仕業か、なかでも前社長の
息子に容疑がかかるが、彼には事件発生時、アメリカにいたというアリバイが。爆弾に使われた装
置は、絶対に遠隔操作のできるものではなかった。更に、第二の爆破を予告する脅迫状が届く。警
視庁捜査一課の若手刑事・諌山は事件の真相を追うのだが・・・。
第二の脅迫事件で事件を錯綜させてメリハリをつけたり、主人公の刑事なども丁寧に描かれてはい
ますが、いかんせん謎解きの方が少々お粗末。或る小道具(というか大道具?)の思いがけない役割
などには感心しましたが、それ以上の説明は、作者も出来るだけ分かり易くするよう頑張ってはい
ますが、科学オンチのシロウトには理解不能。ああいったメカニズムが、果たしてミステリのトリ
ックとして妥当なものか疑問ですね。また現代では、本作のメイントリックに関わる分野は、この
二十年ぐらいで驚異的な発達を遂げているので、今読むと何とも古めかしい感じがしますね。
今野敏「茶室殺人伝説」(講談社文庫)★★
最近は「隠蔽捜査」シリーズなどですっかり人気作家となりましたが、本作はごく初期、1986年の長編。
鎌倉にある茶道家元・相山流の本部で起きた不可解な事件。茶室に乗り込んできた男が次期家元の武田
宗順に切りかかったところ、もみ合ううちに自分のナイフで胸を突いて死亡。たまたま茶室の外で手伝
いをしていたOLの紅美子は、同席していた師匠の九門京子と宗順の不審な動きが気になり、宗順の弟
である秋之助とともに真相を究明するうち、相山流創始者と千利休の歴史的な関わり、そして相山流の
知られざる秘密へと迫ってゆく・・・。
文章は読みやすく、ぐいぐいと読者を引っ張ってゆきます。茶道の心得がある作者だけに茶会などの描
写も綿密に描かれております。
でも・・・。謎解きとしてはあまりにもお粗末。何だそりゃ、そんなの知らないよ、というのが正直な感想。
あと、登場人物のキャラの描き方も、通俗すぎるとはいえ、後年の「隠蔽捜査」シリーズの主人公のよう
な、読者一般が持つごく常識的な「道理」に訴えて共感を得るテクニックなどもあるものの、本作では、
「道理」よりも浪花節めいた「人情」に近づいてしまっており、それが残念(まあ「隠蔽捜査」シリーズも、あの
主人公の強烈なまでの筋を通す「道理」と同時並行に見え隠れするのは、真っ当な常識に訴える人情話め
いたものなのですが)。現在の作者の仕事ぶりを考えると、その萌芽のようなものは感じられますが、
まあ凡作でしょう。
生島治郎「兇悪の門」(徳間文庫)★★★
不良刑事の「おれ」こと会田刑事と、その上司である矢部警視が登場する「兇悪」シリーズ、1973年の
短編集。
先ずは表題作。「おれ」は或る刑務所に囚人として潜入、ヤクザの服役囚の信頼を勝ち得るのだが、そ
の狙いとは・・・。序盤からの意表を突いた展開は面白いのですが、真相は在り来たりで残念。
「兇悪の土地」は、ヤクザに殺された大地主の生き別れの息子のフリをした「おれ」が、土地を巡って
対立する二つの暴力団を根こそぎ壊滅しようと図る話。
「兇悪の回路」は、あの浅間山荘事件をそのまま使いつつ、彼らを外部から指示していた黒幕がいた、
という設定の話。「おれ」はその黒幕が潜むスナックを突き止めるのだが・・・。ラストのドンデン返
しが上手い佳作です。
「兇悪な夜の匂い」は中国人娼婦のバラバラ殺人。売春のための密入国組織を突き止めるが・・・。
「兇悪の空」は、民間航空機と衝突事故を起こした自衛隊パイロットを巡る話。
「兇悪の骨」では、「おれ」は厚生省の麻薬捜査官と合同捜査に当たる囮捜査で麻薬受け渡しの現場
を押さえるのだが意外なことに・・・。これも真相の意外性は買えます。
謎解きとして満足できる出来栄えの作品は殆どありませんでしたが、これはこれなりに楽しめました。
浅川純「伊豆大島殺人火山」(大陸ノベルス)★★
1988年の長編。
旅行雑誌編集部に勤める石月冴美は、取材旅行で知り合ったカメラマン北川亜紀が謎の失踪を遂げ
たことを知る。彼女の所属する写真スタジオでは、四ヶ月前に社長の後継ぎの息子が交通事故死し
ているなど、北川の失踪に不審なものを感じた石月は彼女の足取りを追い、三原山が噴火中の伊豆
大島で北川が行方不明となったことを突き止める。いったい大島で何があったのか・・・。
伊豆大島を舞台にした本格ミステリといえば、大谷羊太郎「殺人航路」という佳作があるのですが、本
作は、そうした密室的な趣向がある訳でもなく、謎解きとしては余りにズサン。プロローグはとも
かく、中盤の描写に難あり。一応ラストでは、ヒロインによる真犯人特定の推理が得々と語られる
のですが、それを支えるだけの事前の伏線が足りないし、トリッキーな魅力に欠けるので、ああそう
ですか、で終わり。
凡作ですね。それにしてもスゲえタイトルw
若松旺「消えたボーイフレンド」(明治図書)★☆
聞いたこともない作家ですが、本作は1978年の中学生向けジュブナイル長編。
中学三年生の礼一郎は、親友の浩二が体育祭の最中に突如失踪した事件に巻き込まれる。浩二の
父親の医師や医大に通う兄の冷淡さに戸惑う中、誘拐の脅迫状が届く。捜査に乗り出した警察に
協力しつつ、礼一郎は、浩二のガールフレンド・めぐみとともに、事件の真相を追うのだが・・・。
まあ中学生向けの作品に大人気ないことは言いたくないですが、犯人の設定がまるでダメ。そんな
こと知るわけないだろ、と言いたいです。その他、突っ込みどころ満載ですが、まあ強いて長所を
挙げれば、犯人捜査よりも、主人公の二人組と警察の腹の探りあい、相手の出方の推理などが結構
面白かった、という点でしょうか。探して読むような作品ではないですが、作品に漂う1970年代の
雰囲気が何とも懐かしかったです。
6連投スマソカッタ。今年も宜しく。
津村秀介「諏訪湖殺人事件」(光文社文庫)★★★
浦上伸介シリーズにして「・・・湖殺人事件」シリーズの1988年の第3作。
正月の諏訪湖畔で発見された毒殺死体。被害者は妻を殺して指名手配中の犯人だった。浦上は被害者
の身辺を探るうち、横浜の銀行で起きた女子行員横領事件に突き当たる。横領した女子行員は諏訪湖
の被害者の愛人で行方不明となっていたが、やがて遠く離れた愛媛・宇和島で服毒死しているのが発
見される。だが毒を飲んだ飲み物のビンには、諏訪湖の被害者の指紋が遺されていた・・・。
二重殺人で、互いに殺しあったような指紋があるが、遠く離れていて一見不可能にみえる、という作
者の例のパターン。今回も、指紋の不可能性が少々空振り気味。ただ謎を錯綜させているだけで、一
応説明はあるけれど、真犯人の行動や動機が考え過ぎでやや不合理です。
なお、列車を使ったアリバイ工作は、似た前例はあるし、俺も途中で気づいたのですが、それでも発
想の飛躍が必要なトリッキーな仕掛けで、先行の「宍道湖殺人事件」、「猪苗代湖殺人事件」(いずれも前々
スレ辺りを参照)に比べれば出来は良いでしょう。先ず先ずの作品。
森真沙子「見知らぬ扉」(日文文庫)★★★★
1989年刊行、東京郊外のマンションの住人らを巡るホラー風味の連作集なのですが、最後に驚きの結末
が待っています。
各エピソードは、マンション住人であるサラリーマン、大学教授、マンション管理人、看護婦らの主人
公が、怪しい出来事に巻き込まれてゆく、或いは自らが持つ秘密を巡って事件が起こる、といったスト
ーリーで、個々の話のホラー度が今ひとつパッとせず、強烈なオチもなくモヤモヤしたまま終わる話が
多く、ホラーとしてはもう一押し欲しいなあ、というのが正直な感想。
しかし、前半のエピソードが割りと独立した感じの話だったのに対し、中盤辺りから、先のストーリー
に出てきた登場人物が脇役で出てきたり、各々の事件が相互に絡んできたりして、ストーリー全体にま
たがる「何か」が暗示されてゆきます。そして最終話。そういうことでしたか・・・。
各エピソードにおける伏線という意味では物足りない部分もありましたが、それでも、この連作に関す
る或る「形式」については、冒頭でフェアに触れているので良しとしましょう。
まあ唐突と言えなくもないし、全てがスッキリ収まる訳でもなく、謎解きとしても物足りない出来でし
ょう。また、作品全体に関わる「仕掛け」も、「前例多数の使い古された手法じゃないか」と批判されそう
ですが、俺には全く同じ作例は思い浮かびませんでした(折原一のアレともちょっと違うし、夢野久作
のアレとも違うし・・・)。ともかくも、余りにもストレートな割りには驚かされたので、甘めの評価
ですが★4つとしておきます。
宗田理「自殺同盟」(双葉ノベルス)★★
1982〜1987年に発表された作品を収めた短編集。
巻末の「補陀落水行」、これが一番謎解き趣向のある「本格」風の作品。旧友の大学講師から、事故死した
教え子は殺されたのではないか、調べてほしいと依頼された出版社編集部の男。被害者は孤島の網元
の娘だったが、島で今もひそかに行われているらしい、生きた人間を船に乗せて海に流し極楽浄土に
送るという「補陀落信仰」の風習を知ったために消されたのでは、と疑惑を抱くのだが・・・。犯人の
意外性にポイントを置いた謎解き物になっていますが、短編では消化不良、話を膨らませて長編化し
た方が面白かったでしょう。
他の作品では謎解き興味は薄くなっています。表題作は、学校でイジメに遭い、家出して電車に飛び
込もうとする少年。同じく会社でイジメに遭う中年男と出会うのだが・・・。スッキリと描かれてはいる
けど、ミステリというほどの作品ではないな。
「エレベーターの少年」は、心を病んだ母親から暴力を振るわれる息子。マンションの屋上で富士山
を眺めるだけが楽しみだったのだが・・・。暗い題材でバッドエンド。でもどこか淡々とした不思議な
味わいの作品。
「死体泥棒」は、借金の肩代わりで、貸し主の妻を殺すよう要求された男。首尾よく海岸の崖から突
き落とすことに成功したのだが、その死体を発見した謎の男から脅迫を受ける・・・。まあ在り来たりの話
ですね。
「不要品引取ります」は本格ではないが洒落た味わいの良作。何でも処分する「不要品引き取り会社」の
存在を知った女性が、口うるさい姑を合法的に家から追い出すよう、会社に依頼する。姑は自分から
家を出て行ってしまうのだが・・・。星新一ふうのドンデン返しが見事に決まった一編。
「たった一度の冒険」は、窓際社員となった男が、数十年前に一度だけ関係を持ち、その後消息不明に
なった女性から手紙を受取る。だが・・・。意外性はありますが、大したものではない。
以上、全体に読みやすいし、家族関係などのテーマもしっかりとしてはいるのですが、ミステリとし
ては平凡な出来の作品が多く、決して高い評価は出来ませんでした。
本岡類「鎖された旅券」(文芸春秋社)★★☆
1991年のノンシリーズ長編。
英国ロンドンで知り合った日本人女性と結婚した銀行員。妻の郁代は、帰国してからの社宅暮らし
に馴染めず、外に働きに出ることも夫から禁止されてノイローゼ気味になっていた。或る日、夫が
宅配便のケーキに仕込まれていた毒で殺されてしまう。警察の捜査はやがて、毒入りケーキを送っ
たのがほかならぬ妻の郁代であるとの容疑を固め、本人も自分が毒殺したのだと自供する。だが事
件を引き受けた若手弁護士の葉山は、郁代の行動に矛盾を感じ、恋人の住むロンドンに飛び、事件
の真相を探るのだが・・・。
登場人物が少ないこともあってか、ラストのドンデン返しを決めるためとはいえ、真犯人に関する
伏線が事前に書き込めていないのが残念。そのため真犯人の登場が非常に唐突に感じられます。せ
めてドンデン返しのネタである或る小道具ぐらいは、序盤の現場の描写で、ちゃんと描写してほし
かったですね。
まあ意外性はあるし、「海外帰国子女と日本の社会風土」という社会派テーマとヒロインの或る動機と
の結び付け方なども上手いのですが、序盤の描き方に工夫が足りないので、残念な出来になってし
まいました。凡作でしょう。
山崎洋子「タブー」(中公文庫)★★★
1990年の長編。
芸能人ら有名人たちのスキャンダル暴露本を書き、その後アメリカで暮らしていたフリーライターの
有藤久美。日本に帰国してみると、全く無関係の女性が自分の本名・李沙を名乗り、暴露本に取り上
げられていた大学助教授と作家にストーカーじみた接触を図り、挙句にはその女性は何者かに刺殺さ
れていた。一体何の目的で自分の名を騙り、殺される羽目になったのか。久美は、ニセ者の李沙が残
した手記を頼りに、事件の真相を探るのだったが・・・。
とにかく前半の、分裂症めいた禍々しい筆致による手記がもう圧巻の出来栄えで、一体何が起きてい
るのか、後半への興味をつなぐに十分だったのですが、いかんせん、全体のボリュームが短いことも
あって、後半の真相追及が駆け足気味。事件に絡んでくる謎めいた老婆の存在がポイントなのですが、
謎解きとして上手く処理できておらず、意外な動機による事件の真相が尻すぼみに終わった感じです。
それと、例によって例のごとくの、キャリアウーマン崩れのアル中のヒロインという、この作者のワ
ンパターンが、どうも個人的に全く趣味に合わないなあ・・・。前半の迫力に免じて★3つとしておきま
すが。
中町信「四国周遊殺人連鎖」(ケイブンシャ文庫)★★★
1989年の氏家周一郎・早苗夫妻ものの長編。
今回の旅行ツアーは四国・高知、大歩危、金毘羅、松山・道後温泉巡り。参加メンバーに、周一郎の
高校時代の同級生・谷塚とその妻がいたのだが、彼らは娘を誘拐され、犯人から四国旅行中に身代金
を渡すよう要求されていた。だが身代金受け渡し場所に指定された部屋で、ツアーの添乗員が殺され
る事件が勃発。彼女は犯人の共犯者で、仲間割れによって殺されたのか・・・。更に誘拐事件の背景に絡
んでいる同行の仲間たちが次々に殺されてゆく。またも連続殺人事件に巻き込まれた氏家夫妻の活躍
や如何に・・・。
例によって例のごとく、連続殺人事件が起きても中止にならない地獄の団体旅行ツアーw
また、重要人物の何気ない会話に氏家夫妻は引っかかりを覚えるも、真相を明かす前にその人物が殺
される、というのもお約束ですね。今回も、子供の写真などの地味な話題が、終盤、実は別の大きな
意味を持っていた、という趣向ですが、どこか緊迫感に欠けます。登場人物の設定も毎度変わり映え
しないワンパターン、旅行先の描写も上手くはない。でも、やはり「本格」として一本筋を通している
点は評価すべきでしょうか。個人的に、本作を含めこのシリーズ、というか作者の作品の殆どですが、
感情移入できる人物が一人も登場しないのが難なのですがw
91 :
名無しのオプ:2011/02/21(月) 22:29:53.44 ID:M8cTpWCc
あげ
92 :
名無しのオプ:2011/02/22(火) 09:24:52.70 ID:dJbs8gMY
>>90 まだ読んでない作品なんだけど、評価が甘いんじゃないかな。
氏家周一郎・早苗夫妻もので面白い作品に当たったことが無い。
★★★という評価だと読みたくなっちゃうじゃないか。
>真相を明かす前にその人物が殺される、
いつも同行者たちが推理作家ということで氏家周一郎を信用して情報を提供してくれるんだよねえ。
読むたびに「都合よすぎるなあ」と思う。
奥さんもでしゃばりすぎだし。
>例によって例のごとく、連続殺人事件が起きても中止にならない地獄の団体旅行ツアーw
ここは笑った。
確かに、ここが一番不思議なんだ。
誤解されないように言うと、中町信は好きですよ。氏家周一郎ものが嫌いというだけ。
奥只見、自動車教習所、模倣の殺意等は面白く読ませていただきました。
93 :
名無しのオプ:2011/02/22(火) 17:38:51.94 ID:td/kKmvc
『佐渡島殺人旅情』での手掛かりの出し方は巧いと思ったがなぁ>氏家
94 :
名無しのオプ:2011/02/23(水) 14:38:09.28 ID:Roa8G4FQ
>>93 中町信は本格物の作家だから、伏線の張り方なんかは上手いんだけど、
文章がいまひとつだし、
>>90にも書いてあるように魅力的な登場人物がいないんだよね。
95 :
初代スレの>>3:2011/02/27(日) 09:33:59.70 ID:LEmGVHlW
平岩弓枝「やきもの師」(集英社文庫)★★★
1959年の直木賞受賞前の初期作品から1969年までの作品を収録した短編集。ミステリとしては「翡翠」
「華やかな死」の2作に注目。
先ず「翡翠」。これはドンデン返しの効いた良作。美容師見習いの女性がヒロイン。師匠の美容師は
会社社長と不倫関係にある一方、ヒロインの恋人まで横取りする。ヒロインは頭に来て会社社長に
告げ口するのだが・・・。何気ない伏線が効いており、特にタイトルの「翡翠」の小道具の扱い方が見事。
泡坂妻夫の作品を少々通俗的にした感じの佳品。
「華やかな死」はもっとオーソドックスな形式のミステリ。日本舞踊の師匠が舞台で稽古中に毒死し
た真相を追うもの。古典的なアリバイトリックが無造作に投げ込まれているけど、現代の目から見れ
ば、こっちよりも「翡翠」の方が出来が良いかと思います。
その他、ミステリに近い作品としては、「永仁の壷」事件をモデルにした表題作。陶芸界の異端児が、
古いだけで価値があるとする古美術界に反発し贋作に手を染めるが・・・、というお話。関西弁を駆使して
コッテリと異色の主人公を描いており、黒川博行の作品といっても通りそうな良作ですが、ミステリ
的な趣向が弱いのが残念。
あと「離婚契約書」は、ダメ御曹司がバーのホステスと結婚。姑や小姑らは何とかして彼女を追い出し
てやろうと画策するのだが・・・。余りにも唐突なオチに唖然w
その他は非ミステリ作品。「夫婦茶碗」は、仏像修復師と放送作家の夫婦に訪れた危機、「女人高野」も
ただの恋愛小説、「気まぐれな贅沢」は大企業グループ会長の私設秘書に選ばれた女性、艶福家と噂の
ある会長だったが、その意外な素顔とは・・・。
「陽射しの中」は愛人宅に入りびたりの夫を持つ妻の話、「ふたりぼっち」も非ミステリ作品だが、
老女二人の掛け合いが楽しい。その昔、この二人を山田五十鈴と乙羽信子の共演という豪華な組み
合わせでテレビドラマ化したそうだが、見てみたかったなあ。「松風」は能楽師一族の御曹司を映画
出演させようと企む男の話。
ともかくも、「翡翠」「華やかな死」の2作が収穫でしたね。
96 :
初代スレの>>3:2011/02/27(日) 09:38:06.80 ID:LEmGVHlW
笹沢左保「見かえり峠の落日」(講談社大衆文学館)★★★☆
1970年、作者が初めて書いた股旅物の小説集にして、あの「木枯し紋次郎」の原点となる作品集。
先ずは表題作◎、死んだ兄貴分の遺言で、その恩人を訪ねてきた渡世人。相手は既に死んでいたの
だが、ひょんなことから知り合った、旅籠の娘と知り合う・・・。後年の紋次郎シリーズに比べると、
少々ギコチない展開ですが、虚無感に満ちた主人公、色あせ擦り切れて汗じみた旅装束と鉄輪と鉄
鐺で固めた長脇差、他人と関わりを持とうとしないにも関わらず事件に巻き込まれてゆく展開など
など、既に紋次郎シリーズの特徴の殆どが出ていますね。肝心のミステリとしての趣向も、まあ紋
次郎シリーズを読み慣れていればお馴染みのあのトリックで、今更驚くこともないですが、1970年
当時、これを初めて読んだ読者は、かなりビックリしただろうなあ・・・。
「中山峠に地獄をみた」△、義母の策略で商家を勘当されて身を持ち崩し、佐渡送りが決まった息子。
その妻と弟が、佐渡送りの一行を襲撃して奪回しようとする、その計画に巻き込まれた渡世人だっ
たが・・・。これも序盤の描写がギコチなく、せっかくの意外な真相を読者に悟られてしまいますねえ。
「地蔵峠の雨に消える」○、道中で知り合った病気の渡世人の遺言で、上州に手紙を届けようとする
旅鴉。だが向かった先で待ち構えていたのは・・・。「手紙」に込められたトリッキーな仕掛けが冴えて
います。
「暮坂峠への疾走」△、処刑され晒し首になった国定忠治。その首を盗んでくるよう商人に頼まれ、
一度は断った渡世人だったが、やはり忠治の首を奪おうとする女と出会い・・・。これは謎の構成が今
ひとつの出来。
「鬼首峠に棄てた鈴」○、一宿一飯の恩義ある貸元が殺され、その復讐のため旅を続ける渡世人。仇
はめっぽう腕の立つ浪人なのだが・・・。絶対に勝ち目のない決闘で渡世人が用いた奇策がユニークですが、
何よりも、脇役の少女の正体を明かすラスト一行が強烈。
以上、後年の「木枯し紋次郎」シリーズの基本的なパターンが既に出揃っており、当時、リアルタイ
ムで本書に出会った読者は、ミステリと股旅小説の融合に驚かされただろうなあ、とは思いますが、
やはり紋次郎シリーズに慣れた後に読むと、まだまだ展開や構成が甘いですねえ。
97 :
初代スレの>>3:2011/02/27(日) 09:44:24.08 ID:LEmGVHlW
西村京太郎「寝台特急あかつき殺人事件」(講談社文庫)★★☆
1983年の十津川警部物の長編。
不祥事で警視庁捜査一課を退職し、大阪で私立探偵を開業した田辺。閑古鳥のなく事務所にやって
来た老婦人から、その娘で夫に死に別れた身重の女性が、夫の遺骨を佐世保の海に散骨したいので、
寝台車で同行してほしいと依頼される。仕事は無事済んだのだが、いつの間にか、同日に九州・佐賀
で起きていた詐欺・恐喝常習犯の殺害事件の容疑者にされてしまう。田辺は、同行した女性にアリ
バイを証明してもらおうとするが相手は全く知らないと否定し、窮地に追い込まれてしまう。彼女
がウソをついたのは何故か、彼女こそが真犯人ではないのか?元部下の無実を信じる十津川警部の
捜査の行方は・・・。
幾つもの都合の良い状況、特に田辺の筆跡の件など、まあ、これだけ都合が良かったからこそ事件
を起こしたんだろう、ということで納得するとしても、ポイントは、「田辺のアリバイが成立すると
同時に、同行していた真犯人らしき女性のアリバイもまた同時に成立してしまう」という謎解きでしょ
うね。しかし、このアリバイ工作の真相も確実性が欠けていますね。田辺が確実に・・・・・・・・・すると
は限らないじゃないか。まあ、その時は、彼女の方から・・・・・・・・・・すれば良いのでしょうが。それ
に目をつぶっても、まだ時間的な問題などもあるよなあ・・・。凡作ですね。
98 :
初代スレの>>3:2011/02/27(日) 09:58:34.55 ID:LEmGVHlW
笹沢左保「木枯し紋次郎14−女の向こうは一本道」(光文社文庫)★★★
1988年に発表された第四期に突入。紋次郎のライバル、峠花の小文太登場。
全体に、紋次郎が丸くなってしまったような気がします。ニヒルの権化、という訳ではなく、むしろ積極
的に事件の渦中に飛び込んでゆくような話もあり、少々意外。
が、何といってもこの巻の目玉は「黙して去った雪の中」。雪の降りしきる信州・湯田中の旅籠を訪れた
紋次郎。盲目の女主人と一人娘の身の上話を聞くうちに・・・。それほどの意外性がある訳ではないのですが、
雪に埋まる静かな宿場町に読者も閉じ込められてしまうような雰囲気に満ちており、派手な立ち回りが
一切なく、恐らくシリーズで唯一、紋次郎が長脇差を抜かず、殺陣のシーンもない作品ではないかと・・・。
それでも、紋次郎シリーズのテーマそのものが凝縮された雰囲気に満ちた佳作、何故かチャンドラーの
名短編「待っている」を連想してしまった作品。
笹沢左保「木枯し紋次郎15−さらば峠の紋次郎」(光文社文庫)★★☆
シリーズ第15作にして、三十歳前後の紋次郎を描いた最後の作品集。
まあミステリとして言及すべきレベルの作品は特になし。話は面白いが、プロットはマンネリ、たまに
出てくるトリックも二番煎じです。
全15作、これにて読了。次は「帰ってきた木枯し紋次郎」シリーズかあw
でも、ミステリとしては二番煎じが続くからどうもなあ・・・。
99 :
初代スレの>>3:2011/02/27(日) 10:11:52.95 ID:LEmGVHlW
5連投スマソカッタ
島田一男「七色の裸婦」(徳間文庫)★★☆
1978年、老日本画家・高畠春燕とその孫の丈次、霧子のトリオが活躍する連作集。
第1話「血の絆」○、鬼怒川の渓谷で自動車事故死した社長、実は巧妙な殺人だったのだが・・・。血液型
のトリッキーな仕掛けもありますが、妙チキリンな殺害方法が笑えます。でも肝心な伏線はちゃんと
張ってあって感心。
第2話「夜のひるがお」○、これもアリバイ工作物。タイトルに因む植物から事件を解明する手際など、
日下圭介ばりですね。
第3話の表題作◎、これがベストでしょうか。メチャクチャに絵具を塗られた死体。その真相に関す
る伏線の見事さと、喫茶店を舞台にしたちょっとした暗号解読など盛りだくさん。
ただし良作はここまで。
陶器の名品の行方を探る第4話「淫らな青い田」△、第5話「縺れた鎖」△、いずれも大した出来では
無い。第6話「誇り高き娼婦」△も列車に関するアリバイ工作やローマ字に関する手掛かりなど出て
くるが今ひとつ、第7話「悪の起源」△、これも言及すべき出来ではない。
前半の作品は良かったのですが、後半は息切れ気味。また全体に、1970年代の作品とは言え、既に
デビューしていた赤川次郎などと比べると、作者は一生懸命努力したのでしょうが、そのアナクロ
ぶりが無残。一体いつの時代のホームドラマだよ、丈次と霧子の若者二人組の造形など、この時代
ですら絶滅していたような若者像でヒド過ぎる。まあそういった、かつての東京の世相・人情とも
ビミョーに異なる、伝法でお茶っぴいで歯切れの良い捕物帳のようなヘンテコな東京が出てくると
ころが、この作者の魅力でもあるのですが・・・。
100 :
名無しのオプ:2011/02/28(月) 11:18:10.38 ID:7/iHhu3N
ここのスレみて笹沢佐保を(特に木枯し紋次郎を)読みたいと思うのだが、近場の本屋(古本屋含む)じゃ全然置いてない…
101 :
名無しのオプ:2011/02/28(月) 23:37:30.29 ID:Pqq8Aw6W
図書館なら置いてるんじゃないか
102 :
名無しのオプ:2011/03/24(木) 20:57:39.86 ID:zKd4SxAX
3氏は、ご無事でいらっしゃるのだろうか?
ハイ、元気です。計画停電と通勤電車の間引き運転には閉口してますが・・・。
池田雄一「『北斗星1号』DXロイヤルの殺意」(トクマノベルス)★★☆
1988年の長編。
北海道で発生した連続通り魔殺人事件。被害者はいずれも若い女性だった。一方、東京で商社マンの
妻による万引き事件に遭遇した警視庁捜査三課の女性刑事は、事件の背景を調べるうち、北海道の事
件が密接に絡んでいるのではないかと追及を開始した。果たして万引き女の夫が犯人なのか・・・。
うーん、真犯人の隠し方、特に或る人物の思わせぶりな描き方による誤誘導が上手くいっており、ラ
ストでは結構驚かされましたが、どうもストーリーが通俗というか低俗というか・・・。
確かにストーリーの構成上、死角にある真犯人を設定した点は評価できるのですが、何か釈然としな
い思いが残る作品といったら良いでしょうか・・・。
日下圭介「UFOの来た夜」(光風社ノベルス)★★★☆
秋田か津軽と思しき東北地方の小都市で、地方紙「東北日報」の支局に勤める記者・峻を主人公にした、
1977〜79年に断続的に発表された作品を収めた連作集。
第1話「賢者の陰謀」は、老人の団体旅行で、走行中のバスから忽然と姿を消した男の謎。現場には下水
処理場を建設する計画が持ち上がっており、また事件の関係者は、別の詐欺事件にも関わっているらし
いのだが・・・。伏線やヒントがストレート過ぎるので、解決は容易でしたが、消失トリックは納得でき
るよう配慮されています。先ず先ずの作品。
第2話の表題作は、小学生から、山の頂上付近にUFOが飛ぶの見たと通報を受けた峻。隣家の女性も
見たというのだが、彼女は、何かを隠しているらしい・・・。UFO騒ぎを起した真相や動機のヒネり方が
上手いです。
第3話「雪の底から子守唄」は、無医村だった寒村に若い医師が赴任。マタギだった男の娘が襲われるが・・・。
峻が通うスナックに勤める、レギュラーメンバーの利恵が活躍しますが、レッドヘリングの設定が上手く
いっていない。しかし終盤のドンデン返しや些細な伏線はなかなかのもの。
第4話「元気な死者」は、板前が店の常連客に誘われて自宅へいったところ、喧嘩となって相手を殺して
しまう、だが翌日、相手はちゃんと生きていることを知る。果たして幻覚だったのか・・・。これは真相
とメイントリックにやや無理がありますね。どこかでバレてしまうよなあ。
以上、新聞記者だった作者らしい作品ではありますが、やはり記者出身の作家たち、三好徹「天使」シリ
ーズ、伴野朗「野獣」シリーズ、そして中津文彦「三四郎」シリーズなどといったブンヤ物の連作と同傾向
の作品で、特に伴野の「野獣」シリーズとは、同じ東北地方が舞台であることや、バイクに乗って事件を
追うなど、共通点が多いですね。しかも同じ角川書店で出版されていますが、書かれた時期は日下の方
が早いようです。また謎解き趣向としても、日下の方が上でしょうね。
高柳芳夫「京都『時代まつり』殺人事件」(トクマノベルス)★★☆
1990年、推理作家・朝見大介が探偵役となるシリーズの長編。
京都、時代祭の最中に、巴御前に扮した女子大生が謎の毒殺を遂げる。被害者の婚約者は、朝見が
講師を勤める音楽大学の若手理事だった。結婚に気の進まなかった被害者との間に何があったのか、
朝見は不審な言動をみせる理事が犯人ではないかと追及するのだが、彼にはアリバイがあった。更
に、東京に戻った朝見の勤める音楽大学キャンパスで、第二の殺人が起こる・・・。
毒殺トリックなり、大学キャンパスでの死体移動なり、トリックにこだわりを見せるのは良いので
すが、派手さに欠けるというか、解明のプロセスが面白くないというか・・・。終盤の二重のドンデン
返しも滑り気味、おまけにラストの脳天気さは一体何なんだw
朝見が教え子たちに向ける感情も、カタブツの作者のためか抑え気味ですが、絵に描いたような中年
オヤジのスケベ心が隠しきれず、どうにもこうにも・・・。
作者が筆を折る直前の作品のようですが、或いは作者自身も、この手のミステリを書くことに嫌気が
さしていたのかも知れませんね。特にラストの好い加減さは、作者の皮肉なのか、出版社とひと悶着
あった結果なのか・・・。凡作でしょう。
夏樹静子「目撃−ある愛のはじまり」(光文社文庫)★★☆
1975年の初期長編。
桂木麻子は夫の勤める会社の公害問題を調査して会社と対立関係にある医大教授と不倫の関係にあった
が、密会の帰りに殺人事件の犯人らしき男を目撃してしまう。警察に話せば自分の不倫が明るみに出て
しまうというジレンマに陥るが、一緒に容疑者を目撃した少年が襲われたことを知って、匿名で警察へ
投書する。しかし、容疑者とみられる男もまた殺され、その現場近辺にいたことから、麻子は窮地に
陥ってゆく・・・。
うーん、ヒロイン・麻子の周辺の動きと、事件の真相に関わる人間関係との繋がりが上手く融合できて
いないような・・・、って、これは一種のミスディレクションなのかなあ。ヒロインの動きから、当然、事件
の中心には××××が関わっている、と読者に誘導させておいて、実は・・・、という意外性を出そうと
したのか。傑作「天使が消えてゆく」で追及された或るテーマのバリエーションを、今回もまたヒロイン
に託して、と思っていたら・・・、という辺りがポイントということでしょうかね。
でも、いわゆる本格ミステリの謎解きとしてはどうでしょうか。死体処理に関する思い切ったトリック
も使われているけど、その謎を前面に押し出して追及している訳でもないし、どこか冗長になってしま
った印象が否めないですね。但しラストシーンは、この作者の作品中でも屈指の名シーンだとは思いま
した。
横溝正史「魔女の暦」(角川文庫)★★
1959年の金田一・東京ものの通俗長編の表題作に、1958年の中編「火の十字架」を併録。
先ずは表題作。浅草のストリップまがいのレビュー小屋・紅薔薇座で起きた連続殺人事件。三人の魔女
に扮したストリッパーが相次いで殺される。乱脈を極める複雑な人間関係の中、犯行予告を受け取って
いた金田一耕助の推理や如何に・・・。
或る有名な古典作品のトリックをメインに据えて、一人二役やら保険金に関する伏線やら、まあ色々と
トリッキーな趣向もあるのですが、話自体が低俗過ぎるなあ。ただ犯行動機は少々ヒネッており、工夫
の跡は見えると思いますが・・・。
「火の十字架」も似たり寄ったりのお話で、三人の情夫にそれぞれ劇場を経営させている女傑のストリッ
パーがヒロイン。情夫の一人が顔を潰されて殺されてしまう。彼らを恨んでいる復員者の仕業か・・・。
金田一耕助にまたも犯罪予告状が届くが、こちらはバレバレとはいえ、真相に関わる工夫がされています。
またヒネりが足りないとはいえ、いわゆる「顔のない死体」トリックに電話のトリックなど、いくつもトリ
ックは散りばめられてはいます。でも話全体の低俗さが、謎解きの面白さを減殺してしまっているのが
残念。
2作とも、基本的な骨格は「本格」なのですが、ストーリーや題材などに問題があり、凡作としか言えない
でしょう。
108 :
名無しのオプ:2011/04/02(土) 08:57:49.52 ID:YOM0GfaY
3氏、ご無事でなによりです。
すっかり過疎ってしまいましたが、潜在的な住人はいると思うので、今後もお願いします。
東京ものの金田一もの、もし「貸しボート13号」を未読でしたら、試してみてください。
あれは傑作だと思うので。
「貸しボート13号」、懐かしいですね。三十数年前の中学生の時に読みました。内容はほとんど忘れ
ていますが・・・。
島田一男「赤い影の女」(春陽文庫)★★★
1959年の中編2作収録、これは「フラッシュバック」紹介作。
表題作は、新宿駅に婚約者を迎えに行った男がすれ違いで会えず、代わりに知り合ったファッション
モデルをマンションまで送ったところ、殺人事件に遭遇して・・・、というお話。些細な伏線は効いてい
ますが、やはり通俗的なサスペンスといった趣の作品。
もう一編の「山荘の絞刑吏」が、評判どおりの佳作。強盗事件を起こし、海外に逃亡していた男が、時効
まであと十日余りを遺して帰国、信州の山荘に身をひそめる。だが警視庁の警部が山荘を訪ねてくる
ことを知り、実は既に宿泊客に紛れて、警部は来ているのではないか、と疑心にかられた男は、それ
らしき男を射殺してしまう。だがその後、殺したはずの男を見かけたという話を聞いて混乱する中、
第二の殺人が起きてしまう・・・。
犯人による探偵捜しの趣向に、もう一つの事件のフーダニットを絡ませた意欲作です。正体不明の警
部が誰なのかもさることながら、もう一方の事件における犯人の思惑も絡んで、楽しませていただき
ました。話の内容が古めかしいのは仕方のないところでしょう。
アンソロジー「『エロティック・ミステリー』傑作選」(光文社文庫)★★★★
よみがえる推理雑誌シリーズの一冊。1960〜64年に、「宝石」誌から独立して刊行された雑誌「エロ
ティック・ミステリー」誌の掲載作を収録。時期的に、「宝石」誌の晩年期の作家群とダブッており、
なかなか興味深いラインナップです。
収録作のうち、傑作は次の2作に止めを刺しますね。
先ずは、土井稔「青田師の事件」。大阪・泉州の農村で起きた溺死事故。だが村の駐在巡査は他殺なので
はないかと疑う・・・。文章、構成とも、他の作家からは一頭地抜けた上手さ。大阪弁のトボけた味わい、
特に、孫娘に探偵小説を読んでもらっているという婆さんの推理がケッサク。「毛唐の女流作家の作品
に出てくる名探偵・ポン太郎」って・・・、そりゃポワロだw
あと、カナリヤ殺人事件の作家・伴団右衛門・・・。ヴァン・ダインも形無しだな。しかも真相はなかなか
にトリッキーで本格ミステリ短編としての完成度も高い。ベストでしょう。
次いで、奈良時代の風土記編纂に取材した歴史ミステリ、鈴木五郎「童子女松原」も傑作。常陸の国の
風土記を編纂する過程で浮かびあがった伝説の真相。本格ミステリというレベルではないが、この
作品の格調高さは、やはり他の作家の作品からは抜きんでた出来栄えです。
その他、福田鮭三「喪妻記」△、縄田厚「いたずらな妖精」△、はサイコホラー風の作品。この作者
の作品では、「宝石」誌で読んだ「鍾馗殺人事件」の方が良いですね。
藤原宰「キャッチ・フレーズ」○、作者はもちろん、藤原宰太郎。倒叙物ですが、犯人特定の手掛
かりがイヤミなくコンパクトに決まる佳作です。
島久平「怪物」○、伝法探偵もの。消失トリックはバカミスですが、なかなか味わい深い作品。
宮原龍雄「葦のなかの犯罪」△、満城警部ものの作品ですが、この作者にしてはトリッキーな趣向
が弱いですね。
(承前)
後藤幸次郎「湖畔の死」△、アリバイものですが、謎解きよりも、昭和30年代の若者、六本木族の
生態が興味深い。
田中万三記「敗れた生簀」△。天草諸島を舞台にした作品ですが、謎解きとしては弱い。
楠田匡介「湯紋」○、温泉の密室趣向よりも、犯人の意外性がスゴい。
来栖阿佐子「疑似性健忘症」○、物忘れが酷くなり、婚約者と別れた女性。実は・・・。なかなか
シャレた味わいで、当時のサラリーマン社会の一端が興味深い佳作。
会津史郎「私は離さない」○、何よりもオチの凄まじさ、これは予測できなかったw
千葉淳平「静かなる復讐」○、探偵事務所に勤める若い女性が主人公。或る調査を切っ掛けに、思
わぬ事態に巻き込まれる。実は・・・。ラスト、凄惨なオチと見せかけて爽やかに切り抜けるオチ
が見事。事件の真相に関する伏線はダメですが。この作家も「宝石」誌で「13/18.8」と
いう密室物の作品を読んだことがあります
渡島太郎「走る“密室”で」△、走行中のバスで起きた刺殺事件。乗客に不審な者はおらず、バス
の外部から刺すのも不可能。果たして真相は・・・。まあまあでしょうか。
有村智賀志「ライバルの死」△、何と日教組の活動華やかなりし頃の、主流派と反主流派の争いを
題材にした作品。この当時から、組合活動に関するシニカルな視線ってあったんですね。謎解きは、
ちょっとした言葉の手掛かりによるもので、大したものではないです。
全体的に、解説にもあるように、1960年代ということもあって、このシリーズの他の巻と比べると、
今読んでも、それほど古さは感じませんでした。特に、「青田師の事件」と「童子女松原」の短編ミス
テリとしての完成度の高さは特筆すべきもの。この2作を読むだけでも価値があります。
大谷羊太郎「三角形(トライアングル)殺人事件」(トクマノベルス)★★
1982年のノンシリーズ長編。
政治家の屋敷で起きた政治資金強奪事件。三人のガードマンや秘書らで警戒していたにも関わらず、
犯人は袋の鼠のはずの屋敷から不可解な消失を遂げてしまった・・・。
一方、同じ頃に起きた、若い女性ばかりを狙った連続殺人事件。現場には何故か三角形に切り抜い
た紙片が残されていた。被害者は互いに関連がなかったのだが、それぞれの事件の現場等を地図上
で結びつけると、正三角形が描かれるという不可解な謎が。これは犯人が意図したことなのか。だが
事件は迷宮入りとなり、この事件で妹を殺された永田夕紀子は、警察庁の犯罪被害者補償セクション
に転職し、仕事の傍ら、事件の真相を追っていた。やがて六年の月日が経った或る日、やはり事件を
別の角度から追及していた若尾という男が現れ、事件の更に意外な謎を夕紀子に告げる。夕紀子は、
同僚で、暴力行為で捜査一課を左遷されてきた有坂刑事とともに事件の再捜査を始める。だが再び、
無差別通り魔殺人事件が勃発することに・・・。
現金強奪事件と連続殺人の繋げ方が非常にギコチないですね。説明の仕方が余りにもご都合主義とい
うか、中盤も過ぎてからあんなに色々な関係者を出してきて辻褄を合わせても読者は白けるばかり。
一応、ラストでドンデン返しを迎えますが、真犯人だってバレバレ、それしかないだろ、というお粗末。
「フラッシュバック」では、ミッシングリンクと探偵役に関して評価されていましたが、全くダメ。
色々なところに立ち現われる「三角形」の見立ても、作者だけ「スゴいだろ」と力んでいるばかりで、
読者は置いてけぼり・・・。
本作で評価できるのは、真犯人が六年経ってから再び連続殺人を起した動機ですね。これは意表をつい
たもので感心しました。
有馬頼義「四万人の目撃者」(双葉文庫)★★★☆
1958年の探偵作家クラブ賞受賞作長編。
プロ野球チーム・セネタースの四番打者・新海が試合中に頓死。たまたま球場にいて現場を目撃した
高山検事は死因に不審なものを感じ、独自に調査を進めるが、他殺の証拠を掴むことは出来なかった。
だが新海が出資する喫茶店の支配人・嵐鉄平や、新海の死後、レギュラーになった矢後選手、その婚
約者で新海の妻の妹・長岡阿い子らは何かの秘密を抱えているらしい。高山検事は知り合いの笛木刑
事とともに執念深く真相を追及するのだが・・・。
「本格」とは言い難いのですが、カン頼りとはいえ、高山検事の地道な捜査や、登場人物がなかなか魅力
的で面白く、一気に読み通すことができました
全く痕跡を残さない毒殺の真相は肩透かしだし、結末にも意外性はないのですが、本作以前の「本格」と
も、また、その後の「社会派」作品とも違う、どこか変わった雰囲気と魅力を持った良作だと思います。
三好徹「聖母の復讐」(徳間文庫)★★
1983〜87年に発表された、写真週刊誌の契約カメラマンである「私」を主人公とした連作集「聖母」シリーズ
の第1作。名作「天使」シリーズの雰囲気に近いかと期待して読み始めましたが、さて。
先ずは第1作の表題作。芸能界の麻薬スキャンダル。保釈された歌手を「私」は追うのだが、マネージャ
ーが殺されてしまう。真相は意外なことに・・・。意外性はありますが、やや伏線が不足気味。
「聖母の肖像」も事件の解明が余りにも急転直下すぎて・・・。
その他、「聖母の伝説」、「聖母の賭け」、「聖母の悪党」、「聖母の情事」、「聖母の失踪」の全7編。
いずれも意外性のある結末が待っていますが、伏線とか謎解きの手順が粗すぎて、高い評価はでき
ませんね。こうして比べてみると、「天使」シリーズの方は、最低限の「本格」の手順ぐらいは一応
守っていたんだなあ、と改めて思いました。
114 :
名無しのオプ:2011/04/27(水) 18:17:18.37 ID:RoIeQAnV
>>111 シニカルな視線も何も、日教組に反発した保守派の教員組合ができたのは1957年だよ。
その教団連が分裂したのが1960年代なので、主流派と反主流派の争いが描かれていたとしたら
教団連もモデルにしているのかもね。
取りあえず、タイトルと評価だけ記載します。
若山三郎「オフィス殺人事件」(1987年、青樹社ビッグブックス)★
山崎洋子「三階の魔女」(1989年、講談社文庫)★★★★
藤原審爾「ろくでなしはろくでなし」(1974年、角川文庫)★☆
梓林太郎「南アルプス殺人事件」(1985年、廣済堂文庫)★
森村誠一「砂の碑銘」(1976年、廣済堂文庫)★★☆
司城志朗「絶望からの銃弾」(1989年、大陸ノベルス)★★
117 :
名無しのオプ:2011/05/02(月) 21:25:24.51 ID:Put4Vf59
詳細は後日、を期待してます。
山崎洋子の「三階の魔女」の表題作は、昔、アンソロジーで読んで面白かった
記憶がありますが(推協賞の候補作でしたね)、どうやら短編集自体、傑作の
ようですね。捜してみます。
118 :
名無しのオプ:2011/05/06(金) 23:59:46.09 ID:ckl1G1H1
アガサ・クリスティ殺人事件てどう?
119 :
名無しのオプ:2011/05/07(土) 01:22:33.64 ID:fGvWPvX4
河野典生か
120 :
名無しのオプ:2011/05/07(土) 10:37:54.97 ID:9JukE05M
>>118 オリエントの意外な真相っていうのも、新しいミステリを読みなれてると正直拍子抜けで、
そこに至るまでの、ミステリ部分以外の作者のインド語りに付き合うのがしんどかった。
121 :
名無しのオプ:2011/05/07(土) 20:43:41.13 ID:gEZgFKW6
幻影城連載時に読んでいた身としましては
内容よりも掲載誌休刊のショックのほうが大きかった
忘れたころにNONノベルスで出たときは嬉しい驚き
速攻で買って読みましたけどね
読後感は…うーん
河野典生はやっぱりハードボイルドですかねえ
122 :
名無しのオプ:2011/05/07(土) 22:15:17.46 ID:PenPOVKt
>121
同士がいたw
「歌う男」という仮題での予告や、最終号の島崎編集長の、奥歯にもののはさ
まったようなコメントも忘れられない。
作品自体は、まあ・・・ね。
平岩弓枝「釣女」(集英社文庫)★★☆
1965〜1976年に断続的に描かれた、幕府目付・遠山景晋の密命を受けた花房一平の活躍を描く
捕物帳シリーズ。
「花の咲く日」では、瀕死の主人が大事な物をどこに隠したか、というトリックが使われ、表題
作では、京都御所を監督する役所の不正行為を調べるべく花房一平が上洛、そこで出会った謎
の美女の正体は・・・、という意外性が、また、長崎の唐人町を舞台にした「彩舟流し」では、トリ
ック自体は素朴なものですが、その場面の描写で、ちょっとした叙述上の仕掛けがあり、楽し
めます。
但し、残りの「子を思う闇」、「桜の下で」「呪いの家」は、謎解き趣向が弱くて、江戸の風物等の
描写に重点が移っておりミステリとしては薄味になっています。
笹沢左保「まぼろしの旅路」(角川文庫)★★
1979年の長編。
外科医・一ノ瀬の妻・理絵が日本全国を旅行中に福井・若狭湾で自殺。一ノ瀬は9年前に起きた
轢き逃げ事故で病院に収容された縁で理絵と知り合い結婚していたのだが、どうやらそれ以前の
彼女の過去に秘密があるらしい。一ノ瀬は妻の旅行先を訪ねて、自殺の真相を知ろうとするのだ
が、何者かが先回りして、妻の秘密を知る関係者を殺し始める・・・。
うーん、謎の真相が中盤辺りで全て丸分かりになっておしまいました。雑誌「旅の手帖」に連載さ
れたからなのか、一般読者向けというか、旅行好きの読者向けのサービスといった趣きのお話。
一ノ瀬の行動を察知して殺人犯が先回りできた理由も簡単に推測できるし、序盤の或る場面の描
写も空々しいことこの上ないですね。まあ作者も謎解きを志向して書いたものではないのでしょ
うが・・・。
出久根達郎「むほん物語」(中公文庫)★★★
1992年の連作集。
古書業界に突如現れた「笈の角文」という、江戸時代の貸本屋による日記。もしかしたら偽書
ではないのか、二人の古書店主がその来歴を探ろうとするのだが、彼らの調査の行く手には
次々と不可解な出来事が起こる。一体、「笈の角文」に隠された秘密とは・・・。
古書店主二人の軽妙なやり取り、地口、洒落に溢れた日記、古書業界の長老による昔話、電話
の会話のやり取り、痴呆気味の老人による通訳を交えた談話など、様々な文体による作品が展
開され、やがて明らかになるのは、大塩平八郎の乱に絡んだ秘史と、二軒の老舗古書店による
暗闘の歴史。いわゆる「信頼できない語り手」の手法を存分に使っており、「叙述トリック」とは
言えないものの、どこまでが真実なのか、読み終わっても定かではない話が続いた揚句、いき
な読者を外に放り出して終了するという、非常に風変りな作品。その点は楽しめたとはいえ、
やはり「本格ミステリ」とは言い難いですかねえ・・・。
126 :
名無しのオプ:2011/06/25(土) 09:31:19.22 ID:3HJHTogM
平岩弓枝・・・まったく眼中に無い作家でした。
さすがに点数は低いようですが、3氏の探求心には脱帽します。
ところで、「御宿かわせみ」って、ミステリ要素があるんでしょうか?
読んでる人、誰かいます?
127 :
名無しのオプ:2011/06/26(日) 21:31:00.26 ID:VWtQQKjZ
3氏帰還に安心しました
若桜木虔「死者のデビュー曲」(文化出版局ポケットメイツ)★★
1980年の中高生向けジュブナイル長編。
売れっ子作曲家の津田が殺人の容疑で逮捕された。無実を信じる弟子でアイドルの卵・順子は、友人で
弁護士事務所に勤める珠貴に助けを求め、珠貴は師匠の弁護士・長安とともに調査に乗り出す。被害者
は歌手志望の女性で、盛んに売り込みをかけていたらしい。ライバル作曲家やトラブルのあったレコー
ド会社らによる陰謀ではないかとも思われたが、彼らにはアリバイがあった。やがて珠貴らは、被害者
とその姉が世話になった元代議士の一家に疑いを持ち始めるのだったが・・・。
真犯人の意外性と、古典的な或るトリックによるアリバイ工作に挑んでいますが、伏線や手がかりの殆
どが後出しで、「実はこうだったのだ」と言われてもなあ・・・。そもそも、真犯人があんな面倒なトリック
を施した必然性が無いし、無理があり過ぎますね。
評価できるとすれば、被害者の衣服に関する伏線でしょうか。これは読者、特に男性読者の盲点を突く
もので、へえ、そうなんだ、と感心しましたが、感心したのはそこだけ。駄作、と切り捨てるほどでは
ないが、凡作とも言えないでしょう。
129 :
名無しのオプ:2011/07/01(金) 17:43:26.86 ID:/7lWpLFl
まさか馬鹿詐欺作品の感想を読めるとは…ありがたやありがたや
黒木陽之助「逆光のブルース」(春陽文庫)★★★☆
内容から1968〜70年頃の作品でしょうか。当時ブームだったグループサウンズを題材にした芸能界
物の長編。
人気GS、ザ・サイケデリックスのヴォーカリスト・サニーがライブ中に毒殺される。本番直前に
楽屋で飲んだ栄養剤に毒薬が仕掛けられていたらしい。だがその薬は、別のメンバー風見の常用薬
だった。犯人が狙ったのは風見だったのか。学生時代にサックスを吹いていた白石刑事と老刑事・
中島のコンビが事件を追及するのだが・・・。
白石・中島刑事のコンビの設定が意外とシッカリしており、捜査の過程も手堅いし、中盤での毒殺
を巡る刑事コンビの推理合戦なども面白く、こりゃ掘り出し物かな、と思って読み進めましたが・・・。
全体に伏線不足であり、せっかくのラストのドンデン返しの連続が活きていません。とはいえ、スト
ーリーの構成や、刑事コンビの造形が丁寧に作られており、また毒殺の真相の伏線だけはバッチリ決
まっています(バレやすいかも)。傑作とは言い難いですが、一読の価値はあります。
森村誠一「シンデレラスター殺人事件」(双葉文庫)★★
主として中高生向けジュブナイル作品を収めた1970年代の短編集。
「本格」として一応見るべきものは、山岳物で、登山ならではのアリバイ工作を扱った「腐った山脈」、捜査陣
も一緒に豪雪に閉じ込められるクローズド・サークルの変形「雪の湖殺人事件」、鉄道アリバイ物の推理
クイズ「545M列車の乗客」といったところ。
残りの表題作や「殺意の交差路」、「歪んだ構図」は出来が今イチ、というか子供騙しのレベル。
邦光史郎「幻の日本原人」(徳間文庫)★★☆
歴史評論家・神原東洋を主人公とする、1976年の「幻の・・・」シリーズ第5作。
テレビ制作会社のプロデューサー松坂は、日本原人の特集番組を企画していたが、スポンサーの強引な
主張で、当時、広島県・比婆山で目撃が相次いでいた謎の動物ヒバゴンを追う番組に変更させられる。
そのロケの最中に、元モデルの女性社員がヒバゴンらしき怪物に拉致され、心臓発作で死亡する事件が
発生。更にロケに参加していたスタッフが失踪の末、死体で発見される。更に第三の事件が起き、松坂
は事件の渦中に巻き込まれてゆく・・・。
うーん、古典的なトリックによる真犯人の意外性も考慮されていますが、このトリックは法医学的には
無理、バレるに決まっているでしょうね。
ただ、第三の事件、「男女の無理心中と思われるのに、死体が一つしかないのは何故?」で神原が示した
推理とその後の展開など、かなり「本格」を意識した構成にはなっており、凡作ではありますが、切り捨
てるほどではないと思います。
津村秀介「洞爺湖殺人事件」(講談社文庫)★★☆
浦上伸介物にして「湖」シリーズの1989年の長編。
北海道・洞爺湖畔で起きたサラリーマンの刺殺事件。被害者は何者かに電話で呼び出されたのだが、
彼の妹もまた一年前に刺殺され、迷宮入りとなっていた。どうやら、妹の事件の真相を掴んだもの
の、犯人に返り討ちにあったらしい。浦上は、容疑者を二人に絞るのだが、一方の容疑者は事件発
生時、九州におり、もう一方は寝台車「北斗星」で北海道に向かう途中だったという、鉄壁のアリバイ
があった・・・。
いつものパターンである交通機関がらみのアリバイ工作以外に、切り札として、思いきった着想が
用意されており、作者も冒頭の描写などにトリッキーな趣向を凝らしていますが、残念ながら不発
ぎみ。落ちついて良く考えれば、すぐにバレる子供騙しのレベル。浦上や先輩の新聞記者は騙せて
も、警察の前では何の効力もないでしょうね。作者自身も承知の上で、結末で言い訳してはいます
が、やはり冴えているとは言い難いですね。
まあ作者も、いつものアリバイ工作以外に新趣向を、と努力したことは認めますが・・・。
野村正樹「八月の消えた花嫁」(集英社文庫)★★★★
1989年の長編第3作。デビュー作「殺意のバカンス」(★★初代スレ参照)は、全共闘世代の勝手な価値観
を押しつける悪作でしたが(但し、トリックなどは練られていました)、同じ登場人物が探偵役となる
本作は、果たして・・・。
雑誌社の懸賞旅行に当たった加奈子はタヒチへ。ツアーの一行には著名なエッセイスト夫婦、下心のあ
りそうなカメラマン、少女時代に両親が悲惨な死を遂げ、その復讐を誓う女性、更には訳ありの不倫カ
ップルなどもいて、早くも波乱含みの予感。カメラマンの川越が落下したヤシの実に当たって死亡する
事故が起き、エッセイストの妻の溺死事故も起こる。更に帰国したメンバーを狙って、遂に殺人事件が
勃発。加奈子は恋人の速水とともに事件の追及に乗り出したが・・・。
同じ年に出た本岡類「ウブドの花嫁」(★★☆初代スレ参照)もまた、バリ島でのバブルな海外旅行を題
材にしたミステリでしたが、まさにバブル絶頂期、今読むと相当に恥ずかしい場面もチラホラしますが、
それに目をつぶれば、些細な伏線、特にヤシの実殴打事件の凶器や南十字星のエピソードなど、なかな
か侮りがたい出来栄え。またダイイングメッセージのヒネり方や毒殺トリック、ラストのドンデン返し
も計算されており、かなりの良作です。
鎌田敏夫「白い帽子の女」(角川文庫)★
1983年の長編。明治時代、日本最初の女探偵の活躍を描くミステリ。
明治時代末期の東京。浜松から出奔して、私立探偵事務所を営む村木のもとに弟子入りした宮野英子。
謎めいた女性から、浮世絵の春画に描かれたモデルの主を探してほしいとの依頼を受けたことから連
続殺人事件に巻き込まれてゆく。手始めに春画を描いたと思しき画家が殺され、更には関係する戦争
成金らが宴会の最中にフグの毒で死亡し、調理師が逃亡の末、自殺。一体、」事件の真相とは・・・。
うーん、ずいぶんとエログロな描写もあったりして、その癖、謎解きの構成が脆弱ではないかとも思っ
たのですが、結末は・・・。
ああ、ダメだ、こりゃ。謎解きの基本がまるで出来ていない。行きあたりばったりも良いところで、伏
線や推理の要素など殆どない。ただの小説としても非常に貧弱。悪役の程度も低いし、ヒロイン以外
の登場人物の造形もまるでダメ。
一点だけ、「あの犯人はどうやってアレを行えたのか?」に関する物理的なトリックとその伏線に少々
感心しただけ。他は採るところ無し。著名な脚本家なのに、小説はこの程度なのか。駄作ですね。
136 :
名無しのオプ:2011/08/07(日) 15:27:19.45 ID:zTj1Vju8
何だろう、
>>134のタイトルだけはどっかで聞いたことある感は。
ぐぐってみたけどドラマ化されたものも知らないし。
137 :
名無しのオプ:2011/08/07(日) 18:56:06.01 ID:+Kq22EwU
八月の濡れた砂とか
138 :
名無しのオプ:2011/08/07(日) 19:07:19.54 ID:YogFzzw2
皇帝のいない八月?
139 :
名無しのオプ:2011/08/07(日) 19:09:59.78 ID:BMteToM1
「殺意のバカンス」は本田美奈子だな
140 :
名無しのオプ:2011/08/07(日) 19:46:45.34 ID:3FFt6WxL
八月の獲物
小峰元「ヘシオドスが種蒔きゃ鴉がほじくる」(講談社文庫)★★★
1981年の連作集。
兵庫県・宝塚市近郊の宝谷村。地元の高校三年生、「おれ」こと「豪商」、寺の跡取り息子「法王」、芸大
を目指す「画伯」の三人組の身辺で巻き起こる怪事件の数々。三人組を向こうに回して名推理を披露
する「豪商」の祖母、「バアチャン」の活躍や如何に。
相も変わらず、「大人が脳内で妄想した、スレた高校生像」の、同時代からのズレ具合が気になります
が、今回はアクの強いキャラもなく、主人公は「バアチャン」の方なので、違和感は少ないですね。
各エピソードは、アリバイ工作、足跡のない殺人現場と感電死の謎、誘拐事件のヒネッた顛末など、謎
解き趣向の強い作品が多いのですが、各エピソードが短く、伏線があからさまだったりするのは残念で
すね。
とはいえ、この作者の作品では初の、先ず先ず楽しめる作品でした。解説の風見潤も、新本格登場以前
にして、風太郎「おんな牢秘抄」やE・D・ホックに言及したりと、レベルの高いものでした。
伴野朗「暴露(スクープ)」(祥伝社ノンノベルス)★★☆
秋田市と思しき東北の町で新聞記者を勤める「俺」を主人公とした「野獣」シリーズの、主に1989〜90年
に発表された作品を収めた連作集。
「愉快犯」○、町の自動販売機に置かれたドリンク剤に毒が混入され、三人が相次いで死亡。「俺」は
無差別殺人ではなく、隠された真相があるのでは、と疑うが、被害者には何の繋がりも無かった・・・。
トリッキーなのは良いですが、短い枚数では伏線がバレバレだなあ。
「悪夢の殺人」○、就寝中に悪夢にうなされ、隣に寝ている妻を絞殺してしまった男。だが実は・・・。
これもトリッキーなんですが、フェアな描き方のため全て丸分かり。
「背負い地蔵」○、中学生が自殺を装って絞殺される。二人の容疑者はいずれも手をケガしており、被害
者を絞め殺すことは出来なかった・・・。J・D・カーや横溝の某作品にもあるトリックの、ローカルな
ネタが楽しい。
残りの「香水の罠」、「アル中の女」、「危険な心中」はいずれも出来が悪く、△。
巻末には番外編で、作者本人が「俺」に出会うという趣向の「バー『ヘレン』で」を収録。
全体的に、トリッキーな作品も多いのですが、枚数が短いところにフェアに伏線を張ったため、読者に
感づかれ易くなってしまったのが残念。
143 :
名無しのオプ:2011/08/14(日) 15:54:54.95 ID:Srwtu3sb
144 :
名無しのオプ:2011/08/14(日) 16:43:31.17 ID:WIq2gxHY
>>142 3つ目、確か愛川晶にその手口があるので、それ読んでたらタイトルでバレバレな気が・・・
雑誌「幻影城」(1976年5月号)★★☆
「新人賞作家競作」特集では、何と言っても泡坂「右腕山上空」◎。他の作品とレベルが違いすぎます。
説明不要ですね。
筑波孔一郎「懸賞小説」△、作者自身と「幻影城」新人賞そのものを題材にした作品ですが、凝った割
に謎の設定が唐突で粗い。
宮田亜佐「白い釣瓶」△、土地買収に携わる不動産会社社員の死。古臭く、やっつけ仕事も良いところ。
滝原満「旅立ち」△、母親が臨終を迎えようとしている娘が出会った男は・・・。幻想的なホラーの味を
狙ったのでしょうが、素人レベル。
村岡圭三「風紋」○、砂丘で写真のモデルとなった謎の女は、同時刻に起きた殺人事件の容疑者だった
が、アリバイが・・・。ごく単純なトリックですが、前2作に比べればマシ。
あと、書き下ろし中編の、飛鳥高「とられた鏡」○、内ゲバの殺人犯が工事現場の飯場に潜り込むが、
その秘密を知る男に脅迫され、人を殺してしまう。だが死体が消失して・・・。さすがに文章はシッカリ
しており、消失トリックも単純ですが、コンパクトにまとまった良作。
メインの「女流作家傑作集」には、四季桂子「胎児」(1957年)、藤木靖子「女と子供」があるが、ど
ちらも大した出来ではないです。泡坂を除けば、村岡圭三と飛鳥高の作品以外に見るべきものは無い
です。
栗本薫「ネフェルティティの微笑」(中公文庫)★★☆
>>62さんが紹介された作品、1981年のノンシリーズ長編。
失恋の痛手から、エジプトに旅立った秋夫は、カイロで謎めいた女性・小笠原那智に出会う。妖艶な
那智の不可解な行動に翻弄されてゆく秋夫だったが、ピラミッドの石室で、那智が何者かに襲われて
しまう。だが次の瞬間、犯人も那智もピラミッドから消え失せてしまった。何が起こったのか、そし
て那智の秘密とは・・・。
ピラミッド内の人間消失トリックは、はっきり言ってアンフェアというか、最後になってそんなこと
言われてもなあ、というのが正直な感想です。真犯人も、登場人物の少なさから簡単に想定できてし
まうレベル。カイロの街の喧騒に満ちた猥雑な雰囲気や、那智に翻弄され破滅してゆく男たちの心理
などは上手く描かれているとは思いました。
結城昌治「死者と栄光への挽歌」(文春文庫)★★
1980年の長編。「フラッシュバック」紹介作ですね。
先の大戦で戦死したはずの父が今まで生きていて、交通事故死したという。息子の売れない画家・睦男は
生命保険の受取人に指名されるが、納得のできないカネは受け取りたくない。そもそも交通事故死した男
は本当に自分の父親なのか、もしそうだとしても、何故何十年も家族の元に帰って来なかったのか、睦男
は関係者を尋ね歩き、真相を探るが、やがて不可解な事件に巻き込まれてしまう・・・。
ハードボイルドでお馴染みの「失踪人探し」テーマの変形で、父親は本物なのか、本物ならば何故今まで名乗
り出なかったのか、偽者ならば、それは誰か、別人の名を騙った理由は何なのか、というところがポイン
トなのですが・・・。うーん、これを「本格ミステリ」と評価するには無理があり過ぎますねえ。謎解きの核
として、作者は、旧日本軍に関する或る「動機」を持ち出し、父親の真偽と、更に派生して起きた事件の
謎解きを行い、その「非人間性」を告発しているのですが、発表当時の1970〜80年代ならともかく、現代
では読者の支持を得にくいのでは、とも思います。
また「あとがき」のヒステリックな主張は、結城昌治ともあろう者が見苦しいです。こんな調子だから、「真犯
人」に対する主人公の最終的な「処置」が、作者の告発した「非人間性」と同等の仕打ちであることに、主人
公が(すなわち作者が)全く気付きもしないのではないか。今読んでもピンと来ないし、むしろ「真犯人」を
支持する人の方が多くて反感を買いそうな話ですね。
笹沢左保「無情岬」(光文社文庫)★★★
1979年の「岬」シリーズ第3作。
会社の同じ課で立て続けに起きた3件の殺人事件。会社上層部は企業イメージ悪化を恐れて、課長の佐竹
を左遷する。一方、事件は、佐竹の部下・早乙女が失踪し、指名手配されることで解決したかに見えた。
だが佐竹は、真犯人は他にいるのではないかと疑い始める。やがて早乙女の不可解な服毒自殺が発覚した
ことで、早乙女の妻で、かつて佐竹を愛していた律子こそが真犯人なのではないかと佐竹は追及を始める。
だが彼女には鉄壁のアリバイがあった・・・。
「事件当時、容疑者は主人公とともに、現場のはるか沖合の船上にいた」という飛び切りのアリバイが出て
きますが、笹沢左保の先行する某名作が一種のミスディレクションになっているところがミソでしょうか。
作者がどこまで意識してやったかは分かりませんが、その誤誘導される名作は2作あり、俺はてっきり、
どっちかのパターンだろうと思っていたら、まんまと騙されてしまいました。但し、トリック単体の出来は、
先行2作の方が上で、先行作品を知らない読者には効果的なものではないし、本作のアリバイ工作自体、
少々無理があるのでは、と思いますね。
司城志朗「?(はてな)の家族殺人事件」(講談社Jノベルス)★★☆
1987年の長編。
女子大生の小林尚子は、年の離れた弟の幼稚園の友人で大富豪の息子・志麻津雅樹の屋敷に招かれる。
祖父と父母、執事ほかの使用人たちとの晩さん会。だが全員の様子がどことなくおかしい。泊った晩
に廊下に倒れていた家政婦は、翌朝、何ともなく元気だったかと思えば、男の死体は消えてしまうし、
もう一人の家政婦は遠く離れた場所で殺されてしまう。更に町のあちこちで、家族や使用人にソック
リの人間を見かける尚子。一体、この大富豪一族は何者なのか・・・。
メインのアイディアはなかなかトリッキーで面白く、ちょっと似た趣向は、麻耶雄嵩の某作品にも見
られるものですが、これが中盤で明かされてしまい、以降、真犯人捜しに移行してしまうのが残念。
真犯人の意外性だけではなく、このアイディアもひっくるめて、伏線を凝らして、結末まで引っ張っ
てほしかったですね。
なお「スラプスティックス・ミステリ」と銘打っていますが、さほどのドタバタではないのは良いもの
の、いかにも1980年代風といった風俗描写が今となってはイタいw
佐々木淳「消えた共犯者」(祥伝社ノンポシェット)☆
現役の大阪市役所幹部だった作者による1987年のデビュー作。
若手サラリーマンの里見真右エ門は、オーナー会長の孫娘・松平彬が社長を務める子会社に出向した
とたん、彬が一目ぼれし、婚約することに。そんな折、彬の自動車が盗まれ、高速道路で逆走して正
面衝突する事故が発生、だが衝突したもう一方の車もまた盗難車で、両方の運転者が行方をくらまし
てしまった。更に同様の事件が相次ぐ。盗難車を使って正面衝突を繰り返すのは何故なのか。二人は
事件を追及するのだが・・・。
・・・何と言うか、良い所が一つもない、ダメダメのお話。構成もダメなら文章もダメ、登場人物、特に
ヒロインの彬のキャラがもう何というか・・・、こんなバカ丸出しの気色悪い女を描いて、作者は「可愛い
女」だとでも思っているのでしょうか。事件の真相も採るところ皆無。ユーモア・ミステリとのこと
だが、殆ど笑えないアナクロぶり。
作者はミステリファンだというが、一体どんなミステリを読んできたのだろうか?どう考えても、志茂
田景樹ファンとしか思えないレベルの低さ。大阪市役所の現役幹部だった頃に発表しているけど、世間
体というものを考えなかったのだろうか?駄作中の駄作。
151 :
名無しのオプ:2011/09/06(火) 14:23:00.49 ID:OSE/rZv9
倉知淳の本名が佐々木淳じゃなかったっけ。
でも別人か。
152 :
名無しのオプ:2011/10/09(日) 22:29:55.33 ID:cgg/yzD2
ほ
153 :
名無しのオプ:2011/10/11(火) 18:34:39.84 ID:EHOJ0Ov4
3氏お元気ですか?
レビューはいいんで生存報告だけでも
ハイ、元気です。最近ペースが落ちていますが、斎藤栄、松本清張、本岡類、赤江瀑など、紹介したい
作品は未だ未だ控えておりますので(但しこれから読むのですが)、長い目で待っていてください。
草野唯雄「仁衛門島殺人事件」(徳間文庫)★★
1977〜84年に発表された作品を収めた短編集。
表題作は、終盤で「読者への挑戦」のある気合いの入った作品、千葉の仁衛門島でコートの取り違え
から起きた殺人事件を推理するもの。コートを取り違えられた男と友人、被害者の娘の推理合戦がミソ、
伏線なども考えられていますが、所詮、中学生向け雑誌掲載作ということもあって、その程度の出来。
その他、「二億円の嘲笑」は、警官と組んで組の資金を奪ったヤクザ、出所してみると警官の行方が
分からない、持ち逃げされたのか?という話。
「まぼろしの指紋」は、身に覚えのない容疑者が、どうやって凶器に指紋を付けてしまったかを追うもの
だが出来は悪い。
「老人は撃った」、「復讐の導火線」、「みどりという女」などはサスペンス物。
異色作は「罪九族に及ぶ」。文豪・国木田独歩とその関係者たちを相次いで襲った悲劇を、作家が文献
から推理するもので、無論、長編「文豪挫折す」の元作品。但しミステリというには、ただ文献に当たっ
て調査しただけ、という感じが強く、思いきった発想とか着想の飛躍がないので今一つです。
155 :
名無しのオプ:2011/10/13(木) 19:59:30.81 ID:8UKpD8GW
3氏乙でございます
お元気で何より
岩崎正吾「風の記憶」(東京創元社)★★☆
1989〜90年に発表された作品を収めた短編集。
「八ヶ岳南麓・首なし死体」は、小海線で起きた死体轢断事件。初老の刑事が付近の別荘地に住む忘れ
られた往年の流行作家の行動に疑問を抱くが・・・。基本的なトリックですが、まあ短編だし、こんな
ものでしょうか。
「ぼくの愛した少女」は、山梨県の富士川流域を舞台にした青臭い青春小説ですが、奇抜なアリバイ工
作が印象的。
「長崎から来た女」は、作者の学生時代を反映した内容で、ミステリ味は薄い。
表題作も、少年時代に山で迷子になった男たちが、二十数年後、行方不明の仲間を探すために再会
して・・・、というもので、ホラー風でもあるが、本格ミステリではないです。
いずれも、この作者の持ち味が出ているのですが、「風よ、緑よ、故郷よ」や「恋の森殺人事件」(過去
スレ参照)と同様、どこか青臭さが抜けないですね。
斎藤栄「富士山麓殺人事件」(祥伝社ノンポシェット)(採点不能)
1979年の長編。後の小早川警視正シリーズに発展する牧警部シリーズの第1作とのこと。
フランス留学中に牧と知り合った智子は、帰国早々、母親の死に直面した。現場の別荘は密室で
事故死の可能性もあったが、母親の過去と、死の直前に漏らした「富士山麓って良いことがあるわ」と
いう言葉に疑問を持った智子は、牧野の助けを得て調査を開始する。
一方、国会議員・桜内の息子の誘拐事件が勃発。息子は既に成人した医師で、しかも犯人側は身
代金の代わりに桜内所蔵の絵画を要求するなど、不可解な状況だったが、無事、息子は解放され
る。だが、この事件がやがて、智子の追及する事件と絡んでくることに・・・。
うーん、アリバイ工作に密室、不可解な誘拐事件の真相など、トリッキーではあるし、一応論理
的に辻褄が合っているようにみえるのですが、常識的に考えて真犯人の行動が全く必然性ゼロ、
矛盾撞着も甚だしいです。あのアリバイ工作もショボいし、密室トリックも実に下らない。
「富士山麓」の謎は中盤であっけなく解決、むろん謎の核心でもないオマケ程度の謎だが、まあ誰も
が直ぐに思いつくアレですw気付かない方がどうかしている。
一点だけ、或る人物のレッドヘリングとしての使い方は上手く、伏線もあったのに、真犯人を上
手に隠すことには成功したとは思います。でもなあ・・・。
因みに、例のお抱え解説者の某、「トリッカー斎藤栄」とか持ち上げていますが、そりゃ何だ?「トリ
ッキー」とか「トリック・メーカー」とは言うけどねえw(この某、実は斎藤栄本人なんじゃないか?)
あと、
>>115で題名だけ挙げた作品の紹介です。
山崎洋子「三階の魔女」(講談社文庫)★★★★
1986〜1989年に発表された作品を収めた短編集。
「ラブレター」は、同窓会で再会した級友と不倫の関係になった男。相手から借金を申し込まれるの
だが・・・。冒頭の伏線から意外性のある結末までスキがない出来の佳作。
「狼女は眠れない」は誘拐物。祖父母に甘やかされている男児を誘拐した女性。実は・・・。
「いきなりハードボイルド」はユーモア調だが箸休め程度の作品。
「六本木メランコリー」は1960年代末に青春を過ごしたデザイナーの話。不倫の話やら団塊世代の
1960年代のノスタルジックな話で大したことないかと思っていたら、ラストでトリッキーな謎解
き物に変貌する良作。「赤いお月さま」は、モテない男が巻き込まれた罠の話。凡作。
「人形と暮らす女」は、乳母車に乗せた人形を自分の娘だと信じている母親に出会ったヒロイン。
精神病かと同情して彼女の家で家政婦として働き始めるが・・・。ホラーかと思わせて謎解き物に
変貌し、更にラストでは・・・、という凝った作品。
表題作は、カラオケスナックで働くヒロインの隣家に、人質を取って立てこもった男。ヒロイン
の知り合いだと言い、一緒に無理心中してくれないと隣家の住人を殺す、などと無茶苦茶な要求
を突き付けてくる・・・。これも、奇抜な冒頭のやり取りがラストで一転、鮮やかな結末を迎え
る佳作です。
高木彬光「どくろ観音−千両文七捕物帳」(春陽文庫)★★★☆
初出等の詳細は不明ですが、主に1950年代に発表された、白皙の美男子だが女嫌いの千両文七親分
(神津恭介に共通しますね)と、手下の合点勘八が活躍する捕物帳シリーズ。
「天狗の仇討ち」、人間には不可能な状況での怪事件、天狗の仕業かと思われたが・・・。トリッキー
ではあるが、解決がやや唐突かな。
「妖異雛人形」も、駕篭からの人間消失トリックが出てきて期待させるが、真相はあっけない。
その他、「新牡丹燈籠記」では長屋の密室からの消失、「怪談一つ家」はバラバラ死体の謎、「荒寺の
鬼」はアリバイ工作、表題作は作者お得意の刺青ネタに筋書き殺人の変形、更に「離魂病」では
クリスティの超有名作品に挑むなど、トリッキーな趣向がてんこ盛りで、その点は満足できた
のですが、如何せん、文庫版で各編30ページ弱の分量では、伏線や解明手順があっけなさ過ぎ
ますね。
とは言え、全12編、先ず先ずの収穫でした。
松本清張「失踪」(双葉文庫)★★★
これまでに文庫未収録だった1956〜71年までの作品を収めた短編集。
冒頭の「草」が面白い。病院に入院している、出版社の経営者である「私」。病院長と看護婦の駆け落ち
に続いて事務長の自殺など、病院内に怪事件が頻発する。隣室のおせっかいな入院患者の男とともに
一連の事件の真相を探るのだが・・・。後半になって突然、それまでの「私」の語りが変化し、急転直下
の結末に至ります。はっきり言ってアンフェアですが、それでも肝心の部分を登場人物のセリフにす
るなど、地の文と「私」の行動には一応整合性をとって注意を払っており、ラスト一行のセリフも含め、
この作者がこんな作品を・・・、という意外性はあります。
「詩と電話」は、病み上がりで九州の地方支局に異動になった新聞記者が、いつも特ダネにありつく地元
紙の古参記者の秘密に迫る話。特ダネに一番乗りするアイディア、作品の雰囲気なども含め、解説に
あるとおり、時代風俗を無視すれば、横山秀夫の新作短編といっても通りそうな佳作。
残りの「二冊の同じ本」と表題作は全体に消化不良ぎみの凡作。
赤羽建美「彼に殺される!?」(集英社文庫)★
1987年のノンシリーズ長編。
真理子は恋人の進一の不可解な行動に悩まされ、更に、自分が高校生時代に書いた日記の「将来、恋人に
殺されることになる」という記述が現実のものになるかも知れないと怯えていた。ところが、進一が轢き
逃げに遭って死亡する事件が起こる。進一はどんな秘密を抱えていたのか、真理子は調査を進める
うちに知り合った野口とともに事件を追及するのだが・・・。
アハハ、この作家はミステリを全く理解できていない。過去の日記の一節と現在の事件には繋がりは
無いし、進一を轢き逃げした犯人の設定は伏線無しで藪から棒も良いところだし、ヒロインは言い訳
しつつも節操が無い女だし、何より芥川賞候補になったとは信じられないほど文章も幼稚(まあ、芥川
賞受賞作家にも、宇能鴻一郎や菊村到のような例はありますが、彼らの通俗小説は題材が幼稚であっ
ても、流石と思わせる部分もあるのに、この作者と来たら・・・)。
おまけにバブル丸出しで、それも当時の先端を行っていたならともかく、本作より何年も前に出た
「なんとなく、クリスタル」の猿真似に近いとは・・・。
エピローグで、或る人物の思いもよらない真実が明らかになるという意外性もあるのですが、これ
また全体の流れから浮いてしまっており、駄作としか言いようがないですね。
162 :
名無しのオプ:2011/10/24(月) 22:20:35.48 ID:6OgyERPf
光臨していたとは
3氏乙です
163 :
おっさん:2011/10/27(木) 14:55:12.82 ID:7fMkIdm4
>>159 時代ミステリとしての捕物帳に興味があり、未読のものにも少しずつ手をだして
いるところでした。
高木の千両文七ものを具体的に紹介していただき、これは読まねばと、大いに
刺激されました。
>初出等の詳細は不明ですが
「夢現半球」というサイトの、「高木彬光の部屋」に労作の時代小説リストがあり、
そこでかなりの程度、確認できます。ご参考まで。
164 :
名無しのオプ:2011/10/27(木) 21:32:39.53 ID:yqqGKu08
3氏の紹介か知らないけど
アンソロジー「ホシは誰だ?」を入手しました
文庫なんだけど、土屋作品が削られてるみたいですね
5年以内に読めたらな・・・
>>163 サンクスです。
本岡類「窒息地帯」(新潮社)★★
1995年のノンシリーズの長編。発表年代はスレの主旨には合いませんが、文庫化もされていない作品
のようなので、ここで紹介しておきます。
東京の弁護士事務所でイソ弁勤めをしていた夏原は、ボスの急死によって、郷里の水戸に戻って独立、
弁護士事務所を開設する。第一号の依頼者の持ち込んだ事件は、連続放火事件の容疑者として逮捕さ
れた男の弁護だった。ムシャクシャしてボヤを起こした事件は認めたが、それ以外の死亡者を出した
放火事件は全く心当たりがなく、冤罪だと訴える被疑者。夏原は、地元新聞の女性記者・栗田泉とと
もに事件の真相を追うのだが・・・。
放火事件の詳細の描写がおろそかだったり、重要な情報が後出しだったりと、これは到底、佳作とは
言えない出来で残念。法廷の場面も力不足。主人公の弁護士のキャラは力を入れていますが、法廷ミ
ステリとしても、小杉健治には遠く及ばないです。
また真犯人の設定と伏線、その動機に絡む社会的な問題への掘り下げ方も中途半端な感じ。残念なが
ら凡作でしょう。
大谷羊太郎「殺意の交差点」(双葉ノベルス)★
1989年のノンシリーズ?長編。
色男の拝原は年上の女性実業家と結婚、だが女傑の妻に首根っこを押さえられているのを不満に思い、
知り合いの加賀と共謀して彼女を殺そうと企む。加賀が写真を使ったアリバイ工作を用意して、拝原は
自宅へ向かうが、いるはずの妻がいない。それどころか加賀もまた姿を消していた。一方、未解決の
迷宮入り事件を追う沖津警部は、過去の保険金詐欺事件を追っていたが、いつしか拝原の事件へと絡
んでくることに・・・。
ああ、ダメだ。二重、三重に絡み合った共犯関係とその騙し合いを、それを知らない狂言回しの拝原の
視点からだけに絞って描いて、ラストの謎解きで解決すれば、一応見られる作品になったのに、裏の
連中の動向も並行して描いたんじゃ全く無意味。謎解きもヘッタクレもあったもんじゃない。駄作。
笹沢左保「江戸の夕霧に消ゆ 追放者・九鬼真十郎1」(徳間文庫)★★★
江戸の浪人・九鬼真十郎が、裏切った仲間を殺して「重追放」の身となり、犬のシロを連れて諸国を
放浪、他人を一切信じず、関わりを持とうとしないにも拘わらず、様々な事件に巻き込まれては意外
な真相を暴いてゆく、という趣向の、1978年の時代物の連作集、第1弾。
第1話の表題作で、主人公が重追放となる経緯が描かれていますが、この話でも、真犯人の設定にヒ
ネりが加えられています。
「街道の青い鬼」は、信州の街道沿いに出没する鬼の正体と、その黒幕の動機の意外性が上手い。
「地獄の声か娘たち」は旗本の忘れ形見の娘と思われる候補者の娘たちが次々と殺される。容疑者には
アリバイがあったのだが・・・。読者をアリバイ崩しかと誘導させておいての意外な結末。
ベストは「むらさきの姫君」。田舎で暮らしていた江戸の豪商の娘を見捨てて死に至らしめた男たちが
次々と怪死。かつて娘が飼っていた小ギツネの祟りなのか・・・。シロの様子や冒頭の些細な出来事から
事件の真相を見破る真十郎の推理が見事。特に伏線の張り方は非常に巧みで、クリスティの古典的
な趣向まで使って、間然とするところのない佳作です。
その他「さすらいの狼」、「恐怖の村祭り」で全6編。
笹沢左保「美女か狐か峠みち 追放者・九鬼真十郎2」(徳間文庫)★★★★
居場所を定められず諸国を放浪する、重追放の浪人を主人公とする1978年の連作集第2弾。
「師走の風に舞う」○、武士との果たし合いに勝つため、真十郎は天気予報の名人二人に当日の天候を
聞くが、二人の天気予報は全く異なるものだった・・・。片方の予報を信じるに至るまでの、真十郎の逆説
的な論理展開がユニーク。
「雪に桜の影法師」○、飼い犬に大金を持ち逃げされたと訴える盗賊。真十郎はシロを使い、盗賊の犬
が逃げた真相と、裏の真犯人を暴く。
表題作△、峠に三本脚の狐が出没して旅人が相次いで殺される。真十郎の暴いた真相とは。
「禁じられた助太刀」◎、医師の娘にケガをしたシロを助けてもらった真十郎。娘とその父親は、母親
を殺した侍の敵討ちをするという。その助太刀を引き受けた真十郎だが・・・。結末の大ドンデン返しと、
それを支える伏線が実に見事、作者の「本格」魂が炸裂する傑作です。
「死んだ女の用心棒」◎、これも傑作。雪深い信州の宿に閉じ込められた真十郎と五人の男女。江戸で
夫が妾を殺すのを目撃して出奔してきた女が殺される。真十郎、出しゃばり過ぎですが、クローズド
サークルの事件を解決し、さらに江戸で起きた雪の密室殺人まで解決してしまう名探偵ぶりw
「鉄火場に鶯が啼く」△、止むにやまれぬ事情から、賭場で大金を得ようとする名主と出会った真十郎。
壺振りの若者とイカサマの手はずを整えたが・・・。
全体に「木枯らし紋次郎」と異なり、主人公のニヒルぶりが薄れ、むしろ積極的に全国津々浦々で起き
た事件を解決して回っているみたいw、ミステリとしてはこのシリーズの方が面白いかも。特にこの
第2集は「本格ミステリ」として評価できる佳作が揃っており、「求婚の密室」や「岬」シリーズなどの
「本格」の佳作群を書いていた同時期の時代小説として要注目でしょう。
169 :
名無しのオプ:2011/11/22(火) 01:10:10.21 ID:1TrJI+vz
九鬼真十郎、露口茂主演でドラマ化されてるよね
高木彬光「刺青の女−千両文七捕物帳」(春陽文庫)★★★☆
「どくろ観音」(
>>159参照)に続く、千両文七シリーズ第2弾、文七も登場する連作「私版天保六花選」
も併録。
「羽子板娘」△、さる藩のご落胤を探すよう、藩の重役から依頼された文七。折から起きていた羽子板
盗難事件と複雑に絡んでいることを知るが・・・。ご落胤の正体に意外性はありますが、やや錯綜しすぎで
スッキリしない。
「雪おんな」○、祝言間近の娘が雪女に攫われる。雪の現場には、娘の足跡しか残っていなかった・・・。
足跡トリックですが、江戸時代らしいおバカなネタが楽しい。
「阿蘭陀かるた」△、常磐津の女師匠が駕篭の中で殺される。誰も近づいた者はいないのだが・・・。
「白首大尽」△、盗賊上がりの豪商の正体は・・・。
「花嫁の死」△、新婚早々の嫁が実家に帰る途中で殺される・・・。
表題作◎、江戸じゅうの刺青持ちの女を集めた品評会の席上で起きた殺人。彫師の双子の娘に嫌疑が
かかるが、二人にはアリバイがあった・・・。瓜二つの双子の娘、見分ける手段は刺青の図柄の違い・・・、
あの名作のパロディか?と見せてのドンデン返しが面白い。
連作「私版天保六花選」は、江戸の悪党・河内山宗俊と片岡直次郎を主人公にした連作集なのですが、
各エピソードのつなげ方がマズく、全体としては凡作。但し、第1話「直侍雪の夜話」は傑作。江戸
を出奔した片岡直次郎を追って、中山道・深谷宿にやってきた千両文七。宿屋の主人から妻殺しの真
犯人を探してほしい、と頼まれるのだが・・・。結末のドンデン返しと真相に「アンフェアじゃないか?」
と読み返してみたのですが、これが実に見事な書き方。確かに・・・・・・・とは書いていないし、上手く
回避して読者に一杯喰わせており感心。作者の某佳作と同趣向ですが、こんな時代小説で、あのネタ
を使い回しているとは思いもしなかったw
津村秀介「横須賀線殺人事件」(講談社文庫)★★
1991年の浦上伸介物の長編。
横浜を走る横須賀線の列車内で起きた女性の刺殺事件。捜査を進めるうち、被害者は4億円ものサギ
事件に関わっていたことが分かり、サギ師グループの仲間割れかと思われた。更に北海道ではほぼ同
じ頃に、やはりサギ師グループの一員が殺されていることが判明する。やがて浮かび上がった容疑者
には、事件直前に列車から降りたことは間違いないという鉄壁のアリバイが。またどうやって北海道
へ飛んだのか、浦上と助手の美保の活躍や如何に・・・。
「北海道へ瞬時に飛んだ謎」は肩透かし、「いったん降りた列車にどうやって戻ることが出来たのか」も、
手掛かりが出た瞬間に誰でも分かるシロモノで、大したトリックではありません。だいたい、謎の提
出の段階が遅すぎるし、そのため謎解きの興味で引っ張る話になっておらず、凡作でしょう。
笹沢左保「影が見ていた」(徳間文庫)★★☆
1961年発表、自動車セールスマン北川を主人公とした三部構成の連作集。現代物では、「セブン殺人事件」
(過去スレ参照)とともに、作者には珍しい、シリーズ物の主人公が出てくる作品です。
先ず第一部(というか独立した第一話ですね)「もう時間がない」○、セールスのお得意先の有閑婦人が服
毒自殺?北川は、瀕死の彼女が言い遺した「もう時間がない」というダイイング・メッセージの謎を追及す
るのだが・・・。取り立ててトリッキーでもないのですが、冒頭の些細な伏線のさり気なさが上手い。それにし
ても、代官山が「場末」とは、さすが五十年も前の作品w、時代を感じさせます。
第二部「闇の眼」も先ず先ずの出来で○。北川が乗り捨てたタクシーの運転手が殺される。警察から疑われ
た北川は、彼の後に入れ違いでそのタクシー乗った男女二人組が真犯人ではないかと追及するが・・・。古典
的なトリックですが、一応、フェアな描写になっています。
第三部「静寂が来た」は、北川と愛人が旅行先で出くわした新婚旅行中の妻の自殺事件。北川の取引先に絡
んでくるのだが・・・。ミステリとしては大した出来ではないが、ラストは、いかにも笹沢左保らしい結末。
・・・本作は、「真昼に別れるのはいや」、「空白の起点」「泡の女」(いずれも過去スレ参照)といった名作・
佳作群と同じ年に書かれた、ごく初期の作品ですが、やはり上記の名作群と比べると見劣りしますね。
173 :
名無しのオプ:2011/12/12(月) 01:09:37.05 ID:UgZB7+4D
あげ
174 :
名無しのオプ:2011/12/14(水) 15:27:05.54 ID:1E79mKmg
このスレはおもしろいね
175 :
名無しのオプ:2011/12/16(金) 16:58:35.33 ID:2wn7GBbf
原子炉の蟹が復刊されたね
176 :
わふー ◆wahuu..wDY :2011/12/16(金) 17:01:46.73 ID:Ae3vHCvJ
/: : :ヽ: : : : : : : : : : : : : \
/ : : : : : : :ヽ: : : : : : : : : : : : : ヽ
/: : : : : : : : : : :「:` : : : : : : : :\ : ',
!: : : : : :/: : : : : ,!: : : : ト、: : : : : :\:!
|: : : : : /: : : : : / ヽ : : ', \: : : : : ',ヽ─ァ
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ヽ:い-── ヘ イ: : : : : : : : : \ i'
嵯峨島昭「軽井沢夫人」(光文社文庫)★★★☆
1979年、「・・・夫人」シリーズの第3作。
軽井沢の別荘で発見された若い男の死体。友人の別荘に遊びに来ていた酒島警視が捜査本部とは別に
調査を続けるうち、被害者は一年前に軽井沢にやって来た貧乏学生・紫藤純一と判明。関係者を訪ね
歩くうちに分かってくる紫藤の野望と挫折。別荘で暮らす社長夫人・中川佳子に取り入って不倫の恋
に落ち、更に彼女を足がかりにして大臣令嬢を誘惑し、政財界に食い込んでゆこうとする紫藤。夏の
軽井沢で一体何が起きたのか・・・。
例によってベタベタのメロドラマ、今回はヒロインのみ清廉で、相方の主人公はピカレスクな青年で
したが、何とも昭和の香り漂う、古き良き時代のブルジョワ生活の延々とした描写にウンザリ・・・、と
思いきや、終盤では怒涛の謎解きが展開され、二重、三重のドンデン返しの末、意外な真犯人が暴露
され、ひと夏の野望に燃え尽きた主人公は破滅的な結末を迎えます。
しかし・・・、これほどの謎解きがありながら、中盤までの伏線が少な過ぎる。確かに幾つかの点では事
前に示唆されており、この点は良かったのですが、あの真相を支えるには不十分。もっと伏線に配慮
していれば傑作となりえたのに、惜しい作品です。
なお、作中でも言及がありますが、アラン・ドロンの名作映画「太陽がいっぱい」を連想する作品で、
読んでいる間はずっと、「太陽がいっぱい」の、あの何ともやるせない主題曲が流れていましたよ。
これで「・・・夫人」シリーズ、「湘南夫人」、「札幌夫人」(いずれも過去スレ参照)三部作を全て読了。
本作と「札幌夫人」の出来が割と良かったですね。
因みに、この作品、日活で映画化されましたね。高田美和と五代高之が主演。日活映画なので、当然
アレなのですが、当時高校生だった俺は・・・(以下略)。
赤江瀑「金環食の影飾り」(角川文庫)★☆
1975年の長編。
女優の綾野曙子は、亡き姉・姚子の遺した新作歌舞伎「大内御所花闇菱」の上演を見に行くが、劇場で
姉に良く似た女性が何者かに襲われるのを目撃する。曙子は京都で暮らしていた姉の秘密を追及する
のだが・・・。
うーん、好きな人は熱狂的に好きになるのでしょうが、ミステリとしては余りに構成が杜撰。真犯人
の設定や真相には何の意外性もなく、作中作となる「大内御所花闇菱」がもっと本筋に絡んでくるのか
と思ったらそうでもないし・・・。耽美小説としては別の評価があるでしょうが、「ミステリ」としては
お粗末な作品でしょう。
五木寛之「蒼ざめた馬を見よ」(文春文庫)★★★
「さらばモスクワ愚連隊」に続く、1967年のごく初期の短編集で、表題作は直木賞受賞作。約20年ぶりに
読み返してみました。
表題作は、実は「本格」風味を湛えた佳作です。ソ連の老作家による幻の未発表長編大作の存在を知った
新聞記者の鷹野。レニングラードに飛び、ソ連では発禁が予想されるその原稿を入手し、密かに国外
に持ち出し、全世界に発表しようと目論む。老作家は頑として原稿を手渡そうとしなかったが、苦労
の末、ようやく原稿を手に入れることに成功するのだが・・・。同時代の三好徹の作品といっても通りそ
うな国際謀略物の佳作です。三好や高柳芳夫の作品で見かける「裏の裏をかく」ドンデン返しと、或るト
リックが冴えまくっており、そのトリックを使った肝心の箇所も、一応、叙述に配慮してフェアな描
写になっています。これは思わぬ掘り出し物でした。
その他、「天使の墓場」は、高校登山部が冬山登山中、墜落した米軍機を見かけるが、一行は遭難し、唯
一生き残った教師は、墜落事故が隠蔽され闇に葬られる中、精神病院に入院させられてしまう。苦難
の末、墜落現場に戻った教師が見たものとは・・・。これまた、森村誠一作品のような社会派・謀略物ミ
ステリ。ラストは何となく予想できましたが、なかなかにコワいオチです。
残りの「赤い広場の女」、「バルカンの星の下で」は、冷戦下のソ連・東欧を舞台にした作者お得意の作品
ですがミステリ味は薄く、「弔いのバラード」は広告業界の酷薄さを糾弾した作品。
・・・作者には、「幻の女」などの「奇妙な味」系の作品も多く、「カーセックスの怪」など、ヨコジュンも裸足
で逃げ出すバカSFのケッサクもあり、また夢野久作ファンでもあり、傑作「戒厳令の夜」、「ヤヌスの首」
などの広義のミステリともいえる伝奇ふう冒険小説もあるなど、一時期、熱心に読んでいました。
山村美紗「京都鞍馬殺人事件」(徳間文庫)★☆
1985年のキャサリン物の長編。
京都で随一の日本舞踊の家元一族を巡って起きた連続不審死。鞍馬寺近辺で家元夫人が服毒死を遂げた
のが皮切りだったが、自殺とみられ、病気入院中の家元が、呼吸器が外れて死亡した件も事故と思われ
ていた。だが次期家元候補だった息子が舞台の本番で毒殺されるに及んで、ついに連続殺人と判断され、
京都府警が乗り出してきた。次期家元の座を巡る事件とみたキャサリンは、浜口とともに事件を追及す
るのだが・・・。
・・・山村美紗といえば、ベストセラーとテレビの二時間ドラマ・映画化という、ビジネス化した「産業ミス
テリ」(レコードの売り上げとコンサートで莫大な収入を得るためにポップス化し、何の批評性も持たず
にビッグビジネスと化した「産業ロック」(by渋谷陽一)と同様の意味で。邦光史郎らの「産業推理」ではな
いです)の一人ですが、むろん最初からそうだった訳ではなく、初期の作品には良いものもありました。
本作は1985年発表、前年の「京都大原殺人事件」(過去スレ参照。「京都××殺人事件」の嚆矢となった作品)
辺りから急激に発表作が増え、粗製濫造が開始された頃の作品ですが・・・。
冒頭の「自動販売機で何個もジュースを買って、それを置き去りにしてゆく男」など、「掴み」の不可解性
などは面白いのですが、やがてダメダメの展開に。病室の密室トリックも腰砕けなら、舞台での毒殺の
真相も何の伏線もなくただ説明するだけ、自動車電話のアリバイも「だから何?」といったレベル。
それにしても、キャサリンだけ重要な証拠や証言を得ることができて、京都府警が教えてもらう、なん
て、どこまでボンクラなんだ?
181 :
名無しのオプ:2012/01/08(日) 23:18:25.37 ID:Wvlz5vlC
182 :
名無しのオプ:2012/01/23(月) 11:58:06.67 ID:trxqCVbU
梶龍雄、本岡類が読みたくてブコフ巡りをしてるんだが、なかなか見つからないな。
山崎洋子「危険なあなた」(中公文庫)★★★☆
学生時代の友人5人組、卒業から二十年近くたち、結婚や仕事など生活に追われる中、それぞれが遭遇
した事件をロンド形式で描いた、1989年の連作集。
「あじさい色のレディ」△、冴えない中年主婦。母親が臨終の際に、父親は有名俳優だと言い遺したことか
ら起きた事件。主人公の言動にややイライラしましたが、真相は・・・。まあ大した出来ではないです。
「曼珠沙華の夜」○、夫の愛人と共謀して夫を殺そうとするが、実は・・・。ドンデン返しの効いた良作。
「ボニーに首ったけ」○、これも同様で、冴えない中年男に強盗に入られた、喫茶店を経営するヒロイン。
男を説得して、もっと身入りの良い、銀行の支店長を一緒に脅迫しようと持ちかけるが・・・、ラストの
ヒネりが効いています。
「騒々しい悪魔」◎、高校生の息子が妊娠させた年上の女性が息子の自宅に乗り込んでくる。夫と当の
息子が海外留学中、留守の母親は翻弄されっぱなし。女は自分の家族まで呼び寄せて傍若無人な振る
舞いに及ぶが・・・、「銀の仮面」ネタかよ、それにしても好い加減にしろよな、と読者のイライラが頂点
に達したところで、全く予想外の真相へ。この切れ味の鋭さはスゴい。「銀の仮面」ネタを、アレと結び
つけた例は他に知りませんね。
「あなたのいない夜」○、下着会社のキャリアウーマンで部長の要職にある女性。仕事が超多忙なため、
家庭を顧みなくなっていたところ、夫が失踪する、やがて、夫を拉致した犯人と思われる人物から謎
めいた電話が・・・、これも、主人公の傲慢ぶりが頂点に達する寸前でストンと落とし、意外な真相で
着地する作品。
・・・連作集ですが、基本的に各エピソードは独立した内容で、どれも、この作者特有のクセのあるヒロ
イン揃いで、読者はヘキエキするかも知れませんが、それすら演出にして、読者の不快感が頂点に達
する寸前で、ハッピーエンド、とはいかないまでもほろ苦くも暖かい、意外性のある真相を用意した、
なかなかの作品集です。「本格」とは言えないかも知れない内容ですが、作者の本領は長編よりも、
「三階の魔女」(
>>158参照)や本作などの短編にあるようです。
赤川次郎「上役のいない月曜日」(文春文庫)★★
1980年のサラリーマンを主人公とした作品で固めた短編集。過去スレにて、どなたかが推薦されていた
作品ですが、さて。
冒頭の表題作は、色々な人物の思惑や事件が、最後のオチに収斂するまでをスピーディに描いた作者お
得意の作品だが、ミステリ風味は薄い。
「花束のない送別会」は、長期出張から帰ると自分の席が無いばかりか、上司や同僚全員から「お前は自分
で退職届を出して会社を辞めたじゃないか」と言われるが実は・・・、発端からグイグイと読ませるが、後
味は悪い。「禁酒の日」も同様、あのオチは無いだろ?
「徒歩十五分」は、引っ越し早々、終電で帰って来た男、自分の家が分からなくなってしまい迷子になる
が・・・、バッドエンドではなく、先ず先ずの作品。
「見えない手の殺人」は、結婚に反対する恋人の父親が工場に乗り込んできて主人公とケンカしたところ、
父親は内臓破裂で死亡。主人公がちょっと小突いただけなのに何故?まあそんなことも起こり得るで
しょうし、真相を暗示する伏線も巧みだが、これまた後味の悪いことといったら。そういえば、J・D・
カーの短編に、同じタイトルの短編があったと思うけど、比較にもならない。
うーん、全体に謎解き要素は薄いですね。あと、江上剛の解説もピント外れ。認識の甘さと読みの浅い
こと。アンタの銀行員時代の自慢は結構。同じ銀行員出身の池井戸潤の爪の垢でも煎じて飲めば?
185 :
名無しのオプ:2012/01/25(水) 23:55:29.82 ID:LMiWFAOj
赤川次郎ってバッドエンドの名手でもあるよね
豊田行二「スイス銀行日本支店」(廣済堂文庫)(採点不能)
1977年の長編。「ひかり10号殺人事件」(過去スレ参照)のイカガワしさを求めて、「久々に豊田行二でも読む
かあ」と、ブクオフで手にとってみると、「本格長編推理」と銘打たれていたので購入。むろん、1980年代
以前のミステリで「本格長編推理」とあっても全く信用できないのですが、それでも読まずにいられないの
は「性(さが)」なのかw・・・どっちにしろ、こんなタイトルじゃ、ミステリだと思ってくれる人は皆無だろ
うなあ・・・。
国会議員・茅野敬太郎のお抱え運転手が何者かに絞殺される。現場には戦前の郵便貯金通帳が遺されて
いた。被害者の友人もまた殺され、もう一人の友人はKCIAの陰謀だと怯える。彼らの過去に何があ
ったのか。
一方、茅野は、隠し資産を「スイス銀行日本支店」の口座に隠しているというが、その口座の在りかを家
族にも秘密にしていた。スイス銀行の日本支店とは何を意味するのか。長男の太郎は、その秘密を探る
うち、父親の愛人・知佳子と深い仲になってゆく・・・。
「スイス銀行日本支店」の真相である「××貯金制度」の実態がテーマだそうですが、作者は、それでは読
者の食い付きが悪いので「推理仕立てにした」とのこと。ミステリをナメているよなあ(そういう作品は当
時は多かったのでしょうね)。
しかし、そのお陰でw、「××貯金」を巡る政界物プラス官能小説プラス本格ミステリの出来損ない、という
キテレツな怪作を読むことができました。連続殺人の方は、一応、意外な真犯人に関する伏線とか(しょー
もない出来ですw)、事件発生時に主人公と一緒にいたというアリバイ崩しのアキれた真相など、無理やり
にも「謎解き」の趣向を取り入れて、それが官能描写とも、「××貯金」とも、全く相いれない浮きあがった
ものになっているのが何だかオカしくて・・・。
「採点不能」作品が好きな方にしかお勧めできません。
笹沢左保「日暮妖之介 流れ星破れ編笠」(集英社文庫)★★☆
1972〜73年に連載された時代物の連作集。父親を殺して脱藩した大谷伊左衛門を討つべく、但馬・出石藩
の目付の職を投げ打って、敵討ちの旅に出た日暮。ある時、同姓同名の別人を誤って殺してしまったこと
から、その娘に付け狙われる羽目になり、三つ巴の追跡行となるのだが・・・。
どのエピソードも、基本的な「結末の意外性」は持っているのですが、作者の股旅物でお馴染みのパター
ンが多く、いささかマンネリ気味。
強いて一編を挙げるならば、「影に怒る」のエピソード。日暮が道中で出くわした若い武士の敵討ち。若い
武士は討ちそこない、相手に逃げられてしまうが、日暮と意気投合。しかしその武士は近所で起きた殺人
事件の容疑者となる。事件発生時、その武士は例の逃げた武士と最初の斬り合いをしておりアリバイがあ
るという。日暮は逃げた武士を探し出し、その武士も男らしく、敵のアリバイを証明してくれるのだが、
実は・・・。これは結末の意外性、ドンデン返しもさることながら、「アリバイ」物にしては非常にユニー
クな真相で、ごくシンプルなものながら、話の構成上、盲点となる部分を突く見事な出来の作品でした。
なお連作の最後のエピソードにも、シリーズ全体にまたがるドンデン返しが用意されていますが、こちら
は容易に推測できました。
南條範夫「情事の連環」(徳間文庫)★☆
1963年の連作集。
父親の遺した資産で優雅に暮らす尾形康子は、父親の知り合いだという村上信夫と出会い結婚する。だが
村上はとんだ曲者だった。彼女の資産を横取りするため、わざと康子に近づき、見事成功を収める・・・。
だが次の話では、その村上の上前をハネようとする女性が登場し、更に次の話では、彼女もまた破滅に至
る。そして巡り巡って最終話、驚きの真相が・・・。
いわゆる「輪舞形式」というヤツで、当時のミステリでは未だ珍しかったのでしょうが、今となっては、その
先駆的な意義しか評価できないですね。騙した者が騙されて・・・、の連続も、トリッキーな趣向が少ないので
楽しめません。
最終回の驚きの真相も、もう誰でも予想できるレベル、驚きでも何でもなく、ヒネりも無い。ただ読みやす
くて、昭和30年代の風俗を懐かしがって読んでいれば良いだけの話です。
>>115で題名と評価だけ書いた作品の感想を追加しておきます。
藤原審爾「ろくでなしはろくでなし」(角川文庫)★☆
1974年のブンヤ物の長編、短編「新宿西口ビル街殺人事件」を併録。
表題作。スポーツ紙の不良記者・柳井は、他社の週刊誌に雑文を売るなどして不当な利益を稼いでいる
女たらしの新聞記者。知り合いでもあったプロ野球選手・久野が身元不明の女と自動車事故で不審死を
遂げた事件を追及するうち、競馬・競輪の賭博組織が絡んでいることを知る。新聞社内の派閥争いと上
からの圧力にもめげず、柳井は真相を追及するのだが・・・。
典型的な「社会派推理」ですね。不審死の真相に関する謎解きはあるけど、主人公がうろつき回るうちに
都合よく真相が次々と明らかになってゆくだけで、推理の要素は殆ど無し。面白かったのは、悪役のは
ずの主人公のキャラクターが非常にユニークで、どうしようもない悪徳記者なのに、読み進めるうちに
何故か主人公に肩入れしてしまう点で、楽しく読むことができました。でもやはり1974年の作品にして
は古めかしくて、完全に時代から取り残されているなあ・・・。
短編「新宿西口ビル街殺人事件」は「新宿警察」シリーズの一編。新宿西口のバーで起きた殺人事件。店の
常連だった某国の外交官が容疑者として上がるが、彼は鉄壁のアリバイと、外交特権の壁に守られて
いた・・・。アリバイ工作にしても結末の付け方にしても全てピントがズレている駄作。
以前に読んだ、殺意を抱きあう夫婦を描いた長編「贅沢な殺人」(1969年)はまっとうなミステリでし
たが、それでも古めかしさが目立っており、同時代の清水一行、森村誠一らはもとより、1960年代の
松本清張あたりと比べても更に古びてしまっており、既に1970年代初にして全盛期は過ぎていた作家
だったのでしょうかね。
同じく
>>115の作品の感想を。
若山三郎「オフィス殺人事件」(青樹社ビッグブックス)★
春陽文庫の「お嬢さんシリーズ」など知られる作者の、1987年の長編。この投げやりなタイトルからして、
ダメダメな作品だろうな、と危惧していたのですが、果たして・・・。
中堅会社の新入社員・大宿淳吉はサッパリした気性の大男で、色々な女性から言い寄られる果報者だが、
誰にもなびかない硬派の男。またしても、勤務先の元OLだったホステス・春美に付きまとわれるが、春
美は大宿が留守の間にアパートで殺されてしまう。大宿は容疑を晴らすため、親友で同期入社の横村と
ともに捜査に乗り出し、被害者を一方的に慕っていたチンピラやら、かつて関係のあった会社の専務ら
と関わるうち、春美が不倫相手を脅迫していたという事実を知る。更に、第二、第三の殺人が起きるの
だが、果たして真犯人は・・・。
うーん、1987年発表の作品ですが、バブルまっ盛り、国鉄はJRに変わり、「新本格」誕生直前だというの
に、何なんだ、このアナクロぶりはw
ガンコ者の会社社長、蓮っ葉な令嬢とダメ社員、お転婆娘らを向こうに回して、腕っ節の強い明朗な坊っ
ちゃん社員が銀座で大活躍、という、昭和30年代から何も進歩していないストーリー。一応、1980年代の
風俗なども取り込んではいるのですが、時代に取り残されて浮きまくっています。
で、肝心の事件の謎解きは、レッドヘリングなり、アリバイ工作のための小技なトリックなり考えられて
はいるし、最後まで真犯人を隠そうと努力はしているのですが、全くパッとしない出来栄え。特に破綻し
ている訳ではないですが、およそ評価できるレベルではないですね。以前に読んだジュブナイルの「遅すぎ
た殺人事件」とドッコイドッコイの出来のスットコドッコイな駄作ですw
191 :
名無しのオプ:2012/02/11(土) 00:28:08.42 ID:YvWbV2D4
192 :
名無しのオプ:2012/02/11(土) 20:58:27.97 ID:34nmyuf0
>>191 そのブログ、過去の感想を確認、参照したいときなど、たいへん重宝しています。先般も、笹沢左保「眠れ、わが愛よ」
の俺の感想文に間違いがあったので、訂正をお願いしました。
島田一男「社会部長」(青樹社文庫)★★☆
1949〜1956年に発表された、東京日報・北崎社会部長と彼の部下らの新聞記者の活躍を描いた連作集。「特報社会
部記者」(過去スレ参照)と同じシリーズで、スレの主旨の年代からは遡ってしまいますがご容赦ください。
巻頭の表題作は、音楽家が巻き込まれた殺人事件。アリバイ崩しなども出てくるが取り立てて言うレベルで
はない凡作。「三つの仮面」も元華族の男の失踪話だが、ただの人情譚。
「泥濘の町」は、地元業者やヤクザと結託していると噂される新聞記者が殺される。だが真相は・・・。
「女殺陣師」は、部隊の稽古中に小道具の日本刀が本物とすり替えられ、斬殺された女剣劇の座長。果た
して刀をすり替えた真犯人は・・・。
「三行広告」は先ず先ずの作品。宝石店の不可解な募集広告。指定されたとおりのダンディな格好をした
男たちで溢れかえる宝石店。だが、その直後に起きた殺人事件で現場から逃げた男もまた同じ格好をして
いた・・・。広告の真相は、シャーロック・ホームズのアレというより、「ルパン三世」の或るエピソードを
思い出す愉快なもの。
「幻の男」は古典的な或るトリックだが、やはり法医学的にはどうかなあ。
「特ダネ売り」は、謎めいた情報屋から、大学生の殺し屋による殺人計画のネタを買った記者の話。
「アリバイ売ります」も先ず先ずの出来。ミエミエのアリバイ工作が実は逆に・・・、という発想の転換は面白い。
194 :
名無しのオプ:2012/02/27(月) 15:26:05.23 ID:mSbCDoeK
種村直樹の鉄ミスってどうですか?
195 :
名無しのオプ:2012/03/01(木) 23:31:22.12 ID:NzsVfw7B
西海号事件?
>>194 種村直樹は「日本国有鉄道最後の事件」(1987年、過去スレ参照)しか読んでいませんが、通常の「鉄道
ミステリ」とは異なる切り口が新鮮でしたね。
笹沢左保「残照岬」(光文社文庫)★★
1987年、一時中断していた「岬」シリーズの第7作。
蓉子は28歳独身、母親と兄夫婦らと暮らしていた。隣家で、夫が妻を殺して床下に埋めていた事件が、
何者かによる放火で発覚したのを皮切りに、一家にも暗雲が垂れこめてくる。居候していた兄の妻の
妹・真紀が謎の失踪を遂げる。真紀は、隣家の殺人犯の夫と深い仲にあり、放火したのも真紀なので
はないか、蓉子は義妹の疑いを晴らすべく、調査に乗り出したのだが・・・。
うーん、これまでの「岬」シリーズにあった、孤独感、ニヒリズムが消えてしまっており、真紀の行方を
探すヒロインの旅行は、恋人になった男と一緒のノホホンとしたものだし、結末の意外性、皮肉なオチ
は決まっているものの、錯綜した謎の真相が余りにもご都合主義的。ラストも、やや皮肉味が過ぎて、
悲劇性が薄れてしまったように思えます。凡作でしょう。
北杜夫「マンボウ最後の名推理」(青春出版社)★★
1992〜93年に発表された作品を収めた短編集。
「にっぽん丸殺人事件」は、サハリン行きの客船に乗り込んだ作家の「北杜夫」氏。船内で知り合った老人が
身投げしたらしき痕跡を発見、躁鬱病も手伝って、他殺と決めつけ、支離滅裂な推理を展開するのだが・・・。
客船からの消失の真相は肩透かしですが、本作の意外性は、何と言っても、老人と連れの少年の正体・・・。
これには意表を突かれたw
「梅干し殺人事件」は、ドケチの大富豪が変死。そこにやって来た「北杜夫」氏は、大好物の梅干しに毒が仕
込まれていたのではないか、と勝手な推理を展開するのだが・・・。うーん、ユーモアの質も落ちてしまったな
あ。見る影もない。オチも不出来。
「赤ん坊泥棒」は、ブラジルを舞台にしたドキュメント風の作品。収録作では一番手の込んだ作りだが、残念
ながら謎ときにはなっていない。
作者の作品では、以前に読んだ、旧制高校生が北アルプスの登山中に出会った謎の男が結末で実は・・・、とい
うミステリとして非常に出来の良い短編(題名失念)がありましたが、本作は凡作でしょう。
草上仁「市長、お電話です」(ハヤカワ文庫)
1991年のSF短編集ですが、注目すべきはSFミステリ「転送室の殺人」★★★☆。宇宙船内の物質転送装置
内で起きた殺人事件、現場は密室状態だったのだが、真犯人はどうやって出入りできたのか。乗船していた
刑事が突き止めた真相とは・・・。SFならではのトリックではありますが、伏線はバッチリ、真犯人の或る
描写など心憎いほどさり気なくキマッている。「あとがき」で作者は謙遜していますが、これは密室物の佳作。
他の作品はSFですので割愛。
199 :
名無しのオプ:2012/03/08(木) 20:28:48.37 ID:M4SbHskz
河野典生、亡くなってたのか…
嵯峨島昭「グルメ刑事(デカ)」(光文社文庫)(採点不能)
1987年の長編。
無類の食通である西郷刑事は、北大路魯山人を名乗る謎のグルメ男と出会い、恋人の由紀とともに、日本一の
料理人を決めるテレビ番組に出ることに。だが、「怪人百面相」と名乗る脅迫状が届く。日本一の料理人が決ま
り次第、殺害するという。上司の平束刑事も加わって、「怪人百面相」の正体を追いつつ、グルメの旅を続ける
のだが・・・。
出てくる料理は、ステーキ、カレー、鮨、フレンチにラーメン・・・。各料理の名店と料理人を訪ねて日本全国
を旅して回る、という、「美食倶楽部殺人事件」(過去スレ参照)と同様の展開。しかも、「美味しんぼ」にも似た、
もう聞き飽きたフレーズの数々・・・。ミステリとしての筋はかなり好い加減で、実在の名店を連想する店を登
場させ、その味やレシピを、登場人物のセリフを借りて批評しているだけの部分もあり、何というか、まあ・・・、
ですねw
そしてラスト、北大路魯山人と脅迫犯「怪人百面相」の意外な正体が明らかに・・・。魯山人の方は事前にバレバレ
ですが、脅迫犯の方は・・・、これは意外すぎて、というか、「そんなのアリかよ!!」と叫んでしまいました。まあ、
伏線らしきものもあったのですけどねえ・・・。
・・・これで嵯峨島昭作品も、残すは「秘湯ギャル探偵・・・」と「『活けじめ美女』・・・」の2作のみとなったが、1990年
代に発表された上記作品の評判は、・・・だからなあ。どうしようw
201 :
名無しのオプ:2012/03/09(金) 19:39:53.90 ID:rCzuYtci
谷恒生「大暴風(ハリケーン)」(徳間文庫)★★★★
1991年の長編。
鉱油船「ブルーメディア号」号の三等航海士・伍代正之は、南米コロンビアの港町サンクレメンテで、麻薬
を巡るマフィアらの抗争に巻き込まれてゆく。手始めに一等航海士がフィリピン人の下級船員に殺され、
更に、ボーイが行方不明となる。そして伍代が宿泊していたホテルでドイツ人の船長が殺され、地元警察
からも追われる羽目に・・・。日系アメリカ人、チャイニーズ、スペイン人、イギリス人、フィリピン人など、
様々な人種が入り乱れ、一癖も二癖もありそうな船員たち。その中にマフィアの手先、殺人犯がいるので
はないか・・・。
作者お得意の海洋冒険小説ではありますが、連続殺人の犯人を探すフーダニットの基本は守られており、
疑わしい人物のアリバイが吟味されるなど、なかなかに謎解きの要素も充実しています。更に、ストー
リーの流れから、事件の真相を逸らせるテクニックも上手い。ネタバレにならない範囲で書いておくと、
真相は麻薬絡みと思っていたら実は・・・、というもので、コロンビアとくれば、メデジンカルテルで、コカ
インで・・・、と読者を誘導しておいての意外性。真相に係るさり気ない伏線も先ず先ずの出来で、ラストに
は、数々の出来事は実はこういう意味だったのだ、と明かす謎解きもあり、三好徹や伴野朗あたりの謎
解き要素の強いスパイ小説、冒険小説に近いテイスト、「本格」を意識した佳作といえます。あと、主人公
の伍代が冒険小説らしからぬ、やや軟弱な奴であるのもちゃんと意味があり、ラストで決着を付けてく
れます。とにかく面白かった。お勧めです。
・・・但し、この文庫版は、裏表紙の「あらすじ」で、全く許し難いことに、結末の真相、真犯人まで明かし
ているお粗末を演じています。読まれる方は要注意(俺は目も通さずにさっさと本文に取り掛かったの
でネタバレを免れましたが、読了後に読んでみて唖然としましたよ)。
徳間書店の担当者は、ミステリを全く知らないド素人の大バカ者なのか・・・。
山村美紗「京都新婚旅行殺人事件」(光文社文庫)★★★
1985年のノンシリーズの長編。
南田物産に勤める美知子は、独身の部長と結婚、玉の輿に乗るが、同じ日に結婚式を挙げた社長令嬢が
新婚初夜に京都のホテルから飛び降り自殺する事件に遭遇。だが京都府警の狩矢警部らの捜査により、
自殺ではなく他殺と断定される。更に琵琶湖畔に浮かぶ遊覧船の状態の船室で社長が殺される。財産目
当ての後妻の犯行か、或いは会社の人事抗争か。美知子は事件の謎を追うが、実は彼女の夫もまた、以
前に三人の妻を事故死や自殺で亡くしており、彼女とは四度目の結婚だった。夫への疑惑が膨れ上がる
うち、彼女もまた、命を狙われることに・・・。
はい、いつもの「産業ミステリ」ですね(
>>180参照)。テレビドラマ化したときの演出だけを考えたかのよ
うな登場人物、構成ですが、それでも本作は、一応(飽くまで、一応、ですが)、謎解きの過程には、そ
れなりに力を入れており、密室の真相も、作者の作品で良くあるパターンを脱しようと努力はしています。
真犯人の動機には疑問があるものの、レッドヘリングも工夫の跡が見え、終盤まで容易に犯人を割らせま
せん。但し、アリバイ工作の方は・・・、例の電話のアレ、好い加減にしたらどうだ。
以上、陳腐な電話トリックを除いては、かなり努力していますので、決して駄作ではないと思います。少
なくとも、
>>180の「京都鞍馬殺人事件」よりはマシ。
しかし、解説の郷原宏、よくもヌケヌケとこんなことを書いて絶賛できたものだなあ。作者の作品では
使い古された電話トリックを「乱歩の『類別トリック集成』に新しい一項目を要求して恥じない」って一体・・・。
おまけに「名前だけで本を買っても絶対に損をしない」とはねえ・・・。解説者としてのプライドはない
のか?
× 遊覧船の状態の船室で・・・
○ 遊覧船の密室状態の船室で・・・
205 :
名無しのオプ:2012/03/18(日) 05:28:29.00 ID:9z4nyKpY
>>203 ないでしょ
質より量の典型的な提灯解説者って印象
○谷や小○も同じ印象
206 :
名無しのオプ:2012/03/19(月) 14:01:05.86 ID:LiKyEP0B
○谷や小○も、石川真介の「不連続線」の馬鹿詐欺先生の解説には敵うまいw
207 :
名無しのオプ:2012/03/19(月) 15:47:46.32 ID:tDN9bgCM
馬鹿詐欺って解説も書いてたのかw
誰だよ頼んだの
208 :
名無しのオプ:2012/03/19(月) 21:08:40.91 ID:EqakDLkh
○谷や小○って誰のことだ?
209 :
名無しのオプ:2012/03/19(月) 22:01:36.87 ID:LZ+naH6f
郷原の手がけた松本清張事典のような本、実は内容もそこそこ充実していたんだが、
編者郷原ってことでずいぶん評価を下げていたような気がする。
実際、中身を見て郷原もこんなに仕事ができたんだと驚いた
210 :
名無しのオプ:2012/03/19(月) 23:26:17.38 ID:I9BRb0uz
郷原宏は
詩壇の芥川賞といわれるH氏賞を受賞していると知った時には
へ〜と思ったものだが
文庫で書きまくっている解説の中身にはちょっとなんといいますかね
211 :
名無しのオプ:2012/03/20(火) 02:03:32.94 ID:D1xx7znv
伏字にする意味あるの?
212 :
名無しのオプ:2012/03/21(水) 07:56:22.50 ID:ptikKkDT
雑誌「幻影城」(1979年1月号)
本号の作家再評価シリーズは竹村直伸。乱歩の称賛を得てデビュー、短編3本を送ったら3本まとめて
「宝石」誌に掲載されたというエピソードもある作家、本誌には1958〜59年の「宝石」誌掲載作を収録。
「風の便り」★★★☆、デビュー作。子供が風船に付けて飛ばした父親宛ての手紙。殺人容疑に問われ、今
は精神病院にいる父親から返事が届く。離婚して住所を知らせていないし、そもそも風船が父親のもと
に届くことなどあり得るのか、母親は不審を抱くが・・・。語り手の「私」の設定がややアンフェアではあ
りますが、冒頭の一行目など実にシブい。佳作ですね。
「タロの死」★★★☆、3作一挙掲載のうちの1本。これも良作。見知らぬ女性から犬を譲られた少年。
タロと名付け飼おうとするが母親の反対にあう。ガス中毒死した父親の巻き添えで死んだ犬もまた同じ
種類の犬でタロといい、母親は犬を譲った女性に不審を抱くが実は・・・。短編ミステリのお手本のような
作品。ガス中毒と犬の死の真相と、結末の繋げ方が抜群の冴えですね。
「見事な女」★★★、生活を支える妻に甘えて市役所を辞めて靴磨きになった男、妻が失踪した後、花屋
の出店を出した男と知り合う。彼もまた、妻に甘えて花屋に転身したのだが、その妻は靴磨き男の妻
だった。やがて・・・、これも上手いし、結末までグイグイ読ませるけど、真相はちょっとやり過ぎかなあ。
・・・以上3作、1950年代の作品にしてはセンスの良さが光りますね。伏線には不満が残るが、結末の
切れ味は現代でも通じる、独特の雰囲気に満ちた、洒落た短編を読んだな、と満足できます。
その他、書き下ろし作品としては、筑波孔一郎「自殺志願者」★★。六人組グループの一人が語る、不可
解な毒死事件。果たして自殺か他殺か。・・・些細な伏線はともかく、毒殺トリックも陳腐ならドンデン返
しも乱歩の亜流レベル。
日影丈吉「東官鶏」は戦時中の台湾を舞台にした作品、李家豊「深紅の寒流」は冒険小説(田中芳樹「流星
航路」収録、過去スレ参照)。赤川次郎「五分間の殺意」も作者お得意の展開だが後味悪し。
やはり収録作では、連城「桔梗の宿」、泡坂「意外な遺骸」がダントツの出来、説明不要ですね。
214 :
名無しのオプ:2012/03/26(月) 13:54:27.49 ID:+81JQ1hs
竹村直伸はアンソロで読んだ「タロの死」が面白かったから他の作品も読みたいと思ってたんだよな
幻影城捜してみよう
215 :
名無しのオプ:2012/03/26(月) 21:20:48.76 ID:E+Ur0ItW
>>213 >>雑誌「幻影城」(1979年1月号)
懐かしいですね
確かこれ50号記念とか銘打ちながら
この後数カ月休刊してやきもきした記憶があります
復刊後も三号くらいで休刊してジ・エンド
栗本薫・河野典生の長編連載、日影丈吉の長編分載後編があわや幻に…
風見潤「闇の夢殿殺人事件」(天山ノベルス)★★★☆
1989年、「殺意のわらべ唄」(過去スレ参照)に続く、天文考古学者の神堂と恋人の奈々のコンビが活躍
するシリーズ第2作。
奈々は友人の圭子から、姉の玲子が幼い子を置いて失踪した件で相談を受ける。玲子は新興宗教の信
者で、聖徳太子に由来するという教団の、「今太子」とも呼ばれる教祖の御曹司こそが自分の子の父親
であると主張して、教団発祥の地である栃木県の山奥を訪ねたところで行方を断ったらしい。神堂・
奈々コンビは調査に乗り出すが、玲子がついに死体で発見される・・・。
伏線、特に中盤でサラッと触れる小事件が結末でシブく決まっており、その他、アリバイ工作に密室
トリック、或るトリックなど、サービス満点の作品ではあるのですが、いかんせん200ページちょっと
の分量では消化不良ぎみ。特にラストの謎解きが駆け足すぎる。最後に起きた密室殺人は、真相その
ものが犯人特定につながるので、仕方ないかも知れませんが、もっとジックリ謎解きにページを割い
てほしいところ。なかなかの出来だけど、その点は残念。
加納一朗「血の色の冬」(トクマノベルス)★★
1983年の長編。
東京の青山でミニFM局を開局した若者たち。リポーターの坂口光子は、新宿のホームレスを取材中、
大学の恩師がホームレスとなっているのを見かける。だが数日後、そのホームレスは毒殺される。どう
やら大学講師時代の不倫相手と再会した末に、その相手に毒殺されたのではないかとの容疑が濃厚に。
しかし容疑者の女性は、事件発生直後、自動車事故を起こして意識不明の重体になっていた。不倫相手
を殺して自分も自殺覚悟で事故を起こしたのか。そして被害者の大学講師は、ホームレスになるまでに
一体何があったのか。光子は知り合いになった刑事らとともに調査を進めるが、第二の殺人事件が発生
し、全く別の容疑者が浮上することに・・・。
うーん、若者の風俗や刑事のダラダラした捜査にページを使い過ぎ。FM局の連中や若い刑事の心情な
どを丁寧に描写することにはなったけど、事件の展開のテンポが悪くなり、200ページ程度なのに読み
進めにくいことといったら・・・。事件の謎解きは、一つだけ或るトリックが使われているものの、第二の
殺人事件における犯人の動機が納得できない。何で殺す必要があるの?無理がありますね。
218 :
名無しのオプ:2012/04/08(日) 10:45:47.15 ID:KQnWz7pt
あげ
草川隆「寝台特急富士で消えた女」(青樹社ビッグブックス)★★★☆
久々に読む草川作品、これは1989年の長編。
従姉妹どうしで少女マンガを合作する由美と幸子。次々と男を振ってきた由美に間違えられて幸子が
クルマに轢き殺されそうになったのも束の間、大分・別府への取材旅行のため乗った寝台特急「富士」で
遂に殺人事件が勃発。個室寝台に血痕を残して由美が姿を消し、やがて、別府の温泉でバラバラ死体
が発見される。犯人は個室内で由美を殺害、バラバラにして下車したのか、だが該当するような不審者
は全く目撃されていなかった。やがて、同じ寝台車に、由美にフラれたライター・石田が偶然乗り合
わせていたことから、石田は容疑者とされてしまう。身の潔白を証明するため、石田は事件の真相を
追うのだが・・・。
バラバラ殺人と列車のトリックは、作者の独壇場ではありますが、本作のトリックは、まあ傑作とは
言えないものの、先ず先ず面白くはありました。バラバラにした理由も納得できるもの。ただ、捜査
がもっと綿密だったら、これはバレてしまうよなあw
冒頭の大胆な伏線も先ず先ずだが、カンの良い人はこの時点で真相に感づくかも。
笹沢左保「Tの複写」(角川文庫)★★☆
1976年の長編、「13番目の証人」を改題。
旅行代理店に勤める多美子は、上司の市原と不倫関係にあった。だが彼の態度が冷たくなり、その妻・タミ子
が子供を産んだことから二人の仲は決裂、絶望した多美子は市原を殺して自分も死ぬ、と思い詰め、最後の密
会だと男を誘い出して殺そうと計画、果たして市原の刺殺死体が発見され、警察は行方をくらました多美子を
容疑者と断定、その行方を追う。だが同じ日に、市原の自宅では、妻が目を離したスキに、生まれたばかりの
赤ん坊が誘拐される事件が起きていた。多美子の友人だった中曽根京子は、多美子が犯人なら、その場で後追
い自殺するはずだと不審を抱き、伯父で退職した元刑事の栗林に相談したところ、彼を大先輩と慕う、これま
た病気休職中の若い刑事・円城寺と知り合い、失踪した多美子と事件の真相を追及するのだが・・・。
うーん、事件を追う京子と円城寺による、ディスカッションの繰り返しによる推理がミソかと思うのですが、
如何せん、「意外性を求めるなら、アレしかないだろう?」と読者に容易に推測されてしまい、真相がそのとお
りなので、どうも物足りません。あと、誘拐事件の追及がなおざりにされており、後半の解決部分で思い出し
たかのように出してきて、しかも詰らない真相でガッカリ。
力の抜けた凡作としか言いようがないですね。それにしても元題「13番目の証人」って何だろう?題名の由来とな
るような内容は全く無かったようだが・・・。
藤丸卓哉「自衛隊脅迫」(トクマノベルス)★☆
1986年の長編。
防衛庁に届いた脅迫状。自衛隊員の給食の残飯代は換算すれば年間数十億円にも上っており、その分、社会
福祉に回すように要求。一蹴したところ、犯人側は、電力会社のエレベーターを皮切りに、野球場の照明設
備、遊園地の電源を相次いで爆破。死者を出さない巧妙な手口、しかも爆破装置は太陽電池を使ったデジタ
ル装置で、数十年先の日時まで指定して爆破できるもので、いつセットされたかも皆目分からない状況だっ
た。警視庁は福祉関係から容疑者を割り出そうとするが、果たして犯人は誰なのか・・・。
作者が残した2冊のミステリの一冊、もう1つの「殺人周波」は
>>80参照。本作でも、科学者らしく爆破装置
のメカには力を入れて紹介していますが、フーダニットとしては余りに構成がお粗末。一応、レッドヘリン
グも考慮してはいますが、およそ効果が上がっていない。伏線もあからさまというか、ダメ。自衛隊に対す
る問題提起も余りに幼稚ですね。
福田洋「幻の女殺人事件」(光風社文庫)★★
1987年の長編。
東京のマンション駐車場で発見された不動産会社社長の死体。だが事件発覚直後に、盛岡で、会社社長と
偽って大金を引き出そうとしていた男が現れ、緊急逮捕。その男は、「見知らぬ女から依頼されてやっただけ」
と否定するが、警視庁は、その男が殺害犯と断定、起訴する。だが裁判中に、被告が主張する謎の女の存
在が明らかに。面目を失う警視庁。「幻の女」は一体どこに消えたのか。だが、裁判の証人となった探偵事務
所社長が何者かに殺害されたことから、事件は意外な方向に・・・。
序盤・中盤は快調でした。地を這うような捜査の手堅い描写、一向に正体を掴ませない「幻の女」の謎めいた
行動など、興味は後半まで繋がってゆくのですが・・・。ああ、こんな真相じゃダメだ。紆余曲折した挙句の
謎解きがまるでなっちゃいない。伏線には良いところもあるし、構成もシッカリとしており、ふた昔前ほど
の警察小説としては良く出来ているのですが、どうも謎解きにヒネりが足りないというか・・・。まあ探して
読むほどのレベルではないです。
平岩弓枝「ふたりで探偵」(新潮文庫)★★
旅行代理店の添乗員・森加奈子が旅先で出会った事件を、紀行作家である夫の清一郎に話し、その話
だけから解決するという、いわゆる「安楽椅子探偵」物の1987年の連作集。
先ずは第1話「ローマの蜜月」、ヨーロッパのツアーに参加した中年の男が帰国後、不審死を遂げる。旅
行中の様子から、清一郎の示した推理とは・・・。被害者が一人でツアーに参加していた理由などは面白
いのですが、推理が飛躍しているなあ。
「チュニジアの新婚旅行」は、息子夫婦の新婚旅行に同行した母親。気に入っていた嫁が見込み違いだっ
たことが分かるが実は・・・。意外性は十分だが、これまた推理が何の根拠も無く飛躍しすぎ。
「箱根・冬の旅」も結末のヒネりはあるが、清一郎の推理が、どうもなあ・・・。
その他、「スリランカの殺人」、「ロアールの幽霊」、「ハワイより愛をこめて」、「ニューヨーク旅愁」、
「香港の満月旅行」いずれも、オチの切れ味はともかく、探偵が推理して解決するような話ではない。
・・・全体に、探偵役を無理に登場させることは無かったかと思いますね。結末の意外性とオチだけ
で構成した方が良かったかと思います。
笹沢左保「影絵の愛」(光文社文庫)(採点不能)
1989年の長編。
大信田倫子は、スーパーの社長だが学者肌の夫に飽き、私立学校経営者の御曹司・白川との不倫に走って
いた。だが、新宿のホテルで人妻が殺される事件が勃発、あろうことか夫が容疑者として浮かび上がる。
夫は無実を訴えながらも、デタラメなアリバイを申し立て、全て虚偽だと暴かれてしまう始末。夫は一体
何を隠しているのか、倫子は白川とともに事件の真相を追うのだが・・・。
先ず、ヒロインの心理が甚だ不可解、作者はちゃんと説明していますが、どうも理解できかねます。そし
て、「すぐにバレるデタラメなアリバイ」の件は・・・、作者の先行作に、同じ趣向の某名作がありますが、
本作は・・・、うーん、そういうことですか。
しかし、事件の真犯人については・・・、なるほど伏線も巧みで、意外性に満ちてはいるけれど、真相発覚の
手掛かりや、夫が容疑者となった経緯が、余りにもご都合主義的。作者は、そうなる可能性をちゃんと
示唆してはいますが、広い東京で、そんなことが重なることなど先ずあり得ないでしょw
意外性を追求しすぎて、構成の手堅さを無視していますね。開いた口がふさがらない、面白かったけどw
225 :
名無しのオプ:2012/05/10(木) 17:06:36.10 ID:C8wSZuoT
ほ
226 :
名無しのオプ:2012/05/11(金) 09:57:31.75 ID:lW5T9ggf
ま
笹沢左保「文政・八州廻り秘録」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★
1972年の「朝霧に消えた男」文庫改題版。無法状態だった関八州の治安に当たる「関東取締出役」の活躍を
描く連作集。1972年といえば、「木枯し紋次郎」シリーズ等で脂の乗り切った時期、無宿渡世人の敵役に
当たる関八州取締出役を主人公に据えています。
「闇の四天王の罠」◎、上州で一晩のうちに2箇所の商家に押し入った強盗団。十里余りも離れているの
に、2時間足らずで徒歩で移動して強盗することは不可能なのだが・・・。トリック自体はシンプルながらも、
巧妙に仕組まれた不可能犯罪物の佳作。結末のダメ押しも先ず先ず。
「魔性の肌」○、脱走した犯罪者が悪事を再開、野州・小山宿に出向いた関東取締出役。小山には馴染み
の女がいるのだが・・・。これは大阪圭吉のアレと同じ趣向ですね。バレやすいのが難ですが。
「甘い餌」◎、足跡一つ無い雪で覆われた離れでの密室殺人。密室トリックよりも、序盤の些細な言葉の
錯誤が上手い。
残りの「雷神を殺した女」、「女色の代償」、「お旗本の秘め事」は、いずれも出来悪く△。
森村誠一「銀河鉄道殺人事件」(講談社文庫)☆
1985年の長編。
国鉄が主催した、行き先不明の「ミステリー列車・銀河鉄道X号」ツアー。参加者のうち、席を隣り合わ
せた二名の男が、遠く盛岡で殺害される事件が発生。更に相次いで殺人事件が発生する。ミステリー
列車に乗り合わせた乗客たちに一体何が起きたのか・・・。
極めつけの駄作。出だしは快調だったのに、事件の真相は、ただの偶然を積み重ねているだけ。最後
の最後に残った謎解きにやや期待したのですが、これもダメ。こんな偶然こそ在り得ない。
229 :
名無しのオプ:2012/05/15(火) 18:50:58.35 ID:6U744Zz9
中津文彦、亡くなっていたのか…。
吉村達也もスレに該当する世代でしょうか?
230 :
!ninja:2012/05/22(火) 19:58:07.19 ID:1RF01IOC
合掌
「政宗の天下」しか読んだことなかった
積んでる「黄金流砂」「特ダネ記者殺人事件」も読まないとなぁ
大谷羊太郎「華麗なる惨劇」(集英社文庫)★★
1977年の長編の文庫改稿版。
城之内は暴力団を脱退し、芸能界専門の揉め事解決業に従事していた。だが或る時、彼に犯罪予告の電話が
かかってきて、予告通り、人気演歌歌手が殺害される。更に犯罪を予告してくる謎の男。どうやらバックに
は巨大な悪の勢力がついているらしい。また城之内の所属していた暴力団も、ただで城之内を解放した訳で
はなく、何かを画策しているらしい。続けて起こる第二、第三の殺人。犯人の狙いは一体何なのか、城之内
は単身、事件を追及するのだが・・・。
暴力団や裏社会の描き方が、今読むとマンガのようで今一つ迫力に欠けるのですが、それはさておき、殺人
犯の正体を中盤で明らかにしてしまったため、殺人犯を操るバックの勢力の真の動機と、暴力団側の狙いが
何なのかに期待したのですが・・・。
まあ、クリスティのアレの趣向も分からなくは無いですが、効果が上がっていませんね。バックの勢力に対
しても、そんなことのために連続殺人を犯すのかよ、と突っ込みたいです。駄作とはいかずとも、凡作も良
いところでしょう。
小池真理子「あなたに捧げる犯罪」(双葉文庫)★★☆
1989年の短編集。
基本的にサスペンス・ホラー系の作品が多いのですが、火災発生の伏線が巧みな「菩薩の様な女」○、推理
作家協会賞受賞作の「妻の女友達」○、これも序盤の伏線が上手く、ちょっと読者の予想からズレたところ
の真相とオチが決まっています。
あと注目は、割とオーソドックスな倒叙物で、アリバイ工作の手抜かりがどこにあったかがポイントと
なる「セ・フィニ−終幕」○も在り来たりのトリックながら面白い。上記3作くらいが論理的に割り切れる
ミステリとして、それなりに評価できる作品でしょうか。
一番の傑作は「男喰いの女」ですが、これはホラー系で、一応ラストで結論が出るものの、「本当にそう
か?」と一抹の疑惑を残す手際が見事。
残りの「転落」、「間違った死に場所」は水準作といったところ。
233 :
名無しのオプ:2012/06/02(土) 22:34:50.03 ID:TaMjtGIR
3氏殿
久々のアップで嬉しい限りです。
234 :
名無しのオプ:2012/06/03(日) 15:16:42.65 ID:sZ2BwM1t
高柳芳夫の「『禿鷹城』の惨劇」を読んだ
題名の響きと目次におどる密室の文字にワクワクして購入。
……本格魂は感じられるし、どんでん返しをしっかり仕込んであったり、凝りに凝った物理密室トリックなどは良いんだが
小説としてはどうかと思った
登場人物が無暗に多すぎるのと社会派要素と本格要素が分離していた印象
梶龍雄「女たちの復讐」(トクマノベルス)★★★☆
久々に読む梶龍雄作品、これは1986年の長編。
興信所の探偵・真藤は知り合いの由香と鏡子の姉妹に騙され、全裸で監禁されてしまった。彼女らの父親
を殺した犯人が真藤だと言う。実は真藤は裏稼業で殺し屋もしており、確かに或る依頼者から彼女らの父
親殺しを依頼されていたのだが、真藤が被害者の住む熱海の別荘にやって来た時には、相手は既に何者か
によって殺された後だった。それを信じようとしない姉妹に対し、真藤は監禁されたまま、真犯人は誰な
のかを推理し、身の潔白を証明しようとするのだが・・・。
全裸で監禁だの、本筋に関係ないヒャッハー男の乱入など、エロ路線のサービスぶりが鼻につきますが、
のっけから異常な状況で展開する辺り、「浅間山麓殺人推理」に近いテイストで、主人公のキャラも軽ハー
ドボイルド風ではありますが、やはり、数年前に起きてしまった殺人事件を、関係者が説明してゆき、そ
こから真相に至る展開での謎解きには苦労したようで、説明ぶりが何とも渋滞気味で、二転三転する展
開なのに何故か重苦しく、話のスムーズさを欠いてしまったようで残念。それでも、さすがは梶龍雄、ダ
ラダラした説明にも周到に伏線を張っており、或る些細な事実から意外性のある真相を導く手際はなかな
かのもの。佳作というには一寸、ですが、決して凡作ではないと思います。
・・・これで梶龍雄も確か38冊目くらい、残りはあと3、4作くらいかなあ?
船山馨「海の壁」(河出文庫)★★
1959〜63年に発表された2中編&連作の全3本を収録。
表題作は、保険会社社員が出張中に失踪、その妻が単独で夫の行方を追う。やがて神戸港で水死体が上が
り、夫と目されるが、信じ切れない妻は更に事件の真相を追及するのだが・・・。
発表時期からみても、完全な清張の亜流。真犯人の意外性はなかなかのものだが、およそ中編レベルで収
めるには無理があり、伏線が不十分で、真相の解き方に欠点が露わになってしまった。身内が証言するア
リバイを「疑問の余地がない」とする点にも、作者の素人ぶりが如実に現れている。少々ヒネッた構成は良
かったのですが・・・。
「兜町殺人事件」も同様。錯綜した裏の裏の真相、真犯人の巧妙な手口などプロットは面白いのに、謎の隠
し方と解き方が甘い。とはいえ、これは一応水準作でしょうか。
「明日を売る男」は、謎めいた男に会った人々が人生を転落してゆく様を描いた全4話の連作。柴田錬三郎
「幽霊紳士」というか、「わらゥせぇるすまん」に近いテイストか。謎解き物ではないが、この時期にしては
センスの良い連作だとは思います。
林葉直子「気まぐれ天使は夜空がお好き!−恋の事件簿」(学習研究社)★
1992年のシリーズ物?の長編。作者はむろん、あのお騒がせ天才女流棋士、数々のスキャンダルの後、
今はどこで何をしているのでしょうか?
由衣は女子大生、製薬会社の研究者である兄の親友で写真雑誌「マタイデー」記者の大松を憎からず思っ
ているが、会えばケンカばかり。或る時、実験のミスで出来た新薬を飲んで由衣は透明人間になって
しまう。すったもんだの挙句、由衣は兄の会社の専務が絡む麻薬のスキャンダルを知り、大松ととも
に事件の真相を追うのだが・・・。
まあ、こんなラブコメ風ミステリに謎解きを云々するのも大人げないですが、冒頭の小事件が結末に
絡んでくる辺りは、素人にしては、その程度のことは考えているんだなあ、ぐらいは思いました。他に
は言及するようなレベルではないですね。探して読むような本ではないです。
238 :
名無しのオプ:2012/06/17(日) 21:53:57.58 ID:/1qQ6jK0
林葉はついこのあいだ将棋界に復帰したよ
もちろんもうプロじゃないし実力は見る影もなくなってたが
別役実「淋しいおさかな」(PHP文庫)★★★★
1973年の、NHK幼児番組向けに書いた童話集。これは幼児向けにはもったいないほどレベルの高い
童話集で、しかも、発端の面白さと意表を突いたオチが見事な傑作。謎解き風の話もあり、特に序盤
の伏線と「発想の転換」的な結末に、本格ミステリのテイストに近いものがあります。幾つか紹介す
ると・・・。
「煙突のある電車」、乗客ゼロの市街電車。或る日、初めての乗客が乗って来たかと思ったら、この電車
で働かせてほしいという。そういう志願者が続出して・・・。なるほど、結末はこう来るかw
「機械のある街」街の中心に巨大な謎の機械が置かれている。何をする機械なのか誰も知らず、撤去する
ことになったのだが・・・。これぞ発想の転換というか、チェスタートンにも通じるナンセンスな結末が
冴える傑作。
「みんなスパイ」、謎の委員会から、スパイに任命したと手紙が届く・・・。ヒネりにヒネッたフーダニット
物かw
「工場のある街」、煙を出し続ける工場。何を作っているのか、工場で完成した物とは・・・。「機械のある
街」にも通じる逆転の発想が見事。
「穴のある街」、市民みんなで、ひたすら穴を掘り続ける街。七十年以上もかけて掘った穴が完成したと
き、最初に穴を掘ることを開始した市長の手紙が公開される・・・。これも素晴らしいオチ。
どれもこれも、本格ミステリのエッセンス、とまでは行かなくとも、発想のヒントになりそうな話が満載
の全22編、以前に紹介した「探偵物語」のような難解さは無いので、お勧めです。
240 :
名無しのオプ:2012/06/30(土) 23:45:57.73 ID:lLa4412N
age
井口民樹「外科病棟の陰謀」(双葉文庫)★★☆
1984年の長編。
大学病院で出世街道を走る外科医・交野。恩師の教授の娘との結婚で、足がかりを掴むかに見えた
が、悪性の腫瘍により、外科医の命ともいうべき右腕を切断、悲観して飛び込み自殺を遂げる。だ
が彼の恋人と交野の後輩である榊原は殺人ではないかと疑念を抱き、独自に真相を追及する。やが
て、交野を脅迫していた男も殺され、事件は医大の後継者争いにも関わってくることに。果たして
真犯人は・・・。
トリッキーな趣向に乏しいため高い評価はできませんが、地味ながらもフーダニットに徹した作品。
真犯人を特定する伏線が一つしかないのも難点ですが、さり気ない描写がシブく決まっています。
レッドヘリングの扱いにも難がありますが、新本格登場前、同時期の森村誠一や斎藤栄あたりの駄
作に比べれば遥かにマシ。
城島明彦「平家教団の陰謀」(光風社ノベルス)★☆
1986年の長編。
フリーのコピーライター蔵原圭子は、急激に拡大してきた新興宗「平家教団」の謎の女教祖の顔写真を
見て驚愕する。5年前の学生時代、若狭地方を一緒に旅行した時に行方不明になった親友・久江に瓜二
つだった。果たして本物なのか、久江はどういう事情で教祖になったのか、圭子と恋人の山口は教団に
近づくが、彼女らの身辺で連続殺人が勃発。教団幹部・平林の不審な行動の目的とは、そして教祖は本
当に久江なのか・・・。
本筋の殺人事件の顛末はお粗末で、論評すべき出来ではないです。むしろ、平家教団にまつわる、壇ノ
浦における平家滅亡と安徳天皇生存説の方がめっぽう面白くってw
既に知られている伝説の類の寄せ集めではあるし、出所不明のデッチ上げのような説も交じっています
が、読物としては、大変スリリングに、分かりやすく紹介されており、「成吉思汗の秘密」以来の面白さ。
まあ、これを「本格ミステリ」というかは疑問ですが、高木彬光の「・・・の秘密」シリーズふうの構成に
したら結構面白くなったのに・・・。
笹浩平「黒の文化財」(芙蓉書房)(採点不能)
1976年の長編。全く知らない出版社の、全く知らない作家の作品ですが、さて。
塗料メーカーの敏腕研究員・坂口は奈良・秋篠寺の隣に住んでいたが、寺の境内で発生した殺人事件に
巻き込まれてゆく。被害者の若い女性の身元も、また死因についても全く不明で、未知の毒物が使われ
たらしい。やがて坂口は、自分が手がけた海上自衛隊の護衛艦「ゆきかぜ」の塗装に関わって、政財官の
癒着へと巻き込まれ、秋篠寺の殺人事件にも関わって行くことに・・・。
うーん、何なんだこの小説は。塗料・土木業界に詳しいヒトが、当時の塗装業界、文化財保護行政の在
り方に私憤を感じて告発しました、ということか?以前に読んだ北川健「S公団醜聞事件」(過去スレ参照)
に近いテイストか。それにしても、「文化財は最新の技術と安いコストの材料で建て替えることに意義が
ある」とか言って、東大寺大仏殿修復で、屋根瓦を大量生産の安い瓦に葺き替え、木材も安物でOK、最
新技術の東大寺を未来に残そう!とか、この作者、少しイッちゃってますね。
で、肝心の事件の真相と真犯人ですが、何だそりゃ、アホか、といったレベル。検出されない毒物の正
体がアレだというのには驚いたし、一番スゴいのは、オウム真理教事件を二十年近くも前に予言してい
ることでしたが、ミステリとしてはダメダメも良いところ。まあ、オウム事件の手口と動機を完全に言
い当てており、その点にだけは感心しましたけど。でもそれだけ。
山崎洋子「横浜幻燈館−俥屋おりん事件帳」(集英社文庫)★★☆
頃は明治、横浜で家業の俥屋で車夫をしながらフェリス女学校に通う娘おりんと、混血の西洋料理シェフ
留伊の活躍を描く1992年の連作集。
第1話「らしゃめん」、外国人実業家の妾を人力車で送迎して殺人事件に遭遇。容疑者の妾は、おりんの俥に
乗っていたという鉄壁のアリバイがあるのだが・・・。トリックは大したものではないが、伏線にも配慮した
良作ですね。
第2話「薔薇の悲鳴」、女学校の演劇の最中の銃撃騒ぎ。銃声は一発だけだったはずなのに弾丸が二つ見つか
る・・・。凶器の隠し場所に工夫を凝らした作品。
第3話「狂女」は人力車を呼びとめては車夫を襲う幽霊の話。実は・・・。ちょっとした錯誤をメインにした
ものだが今一つ。
第4話「神の邪心」は、犯人の意外性を狙ったものだが、ミステリとしても、また最終回としても、どこか締
まっていなくて、或いは続編を考えていたのかも知れません。
笹沢左保「真夜中に涙する太陽」(廣済堂文庫)★★★
1987年の長編。
作家である「私」こと笹沢左保は、後輩作家・大野木が病気から復活して再度人気を博している中、彼を
怨んでいる連中の陰謀に巻き込まれてゆく。別れた前妻、大野木に盗作を告発され自殺した男の兄・仙石、
スキャンダルを見つけようとする三流ジャーナリストの多田の三人は、大野木の破滅を狙っているらしい。
果たして、大野木は何者かに足を刺され重傷を負い、作家として再起不能の危機を迎える。だが次に殺さ
れたのは、大野木を狙っていたはずの仙石だった。「私」はお気に入りの女性編集者とともに事件を追及す
る。果たして一連の事件の真犯人は・・・。
作家本人が登場し、普段の作家活動を描写しつつフィクションの殺人事件の探偵役になるという、なかな
かユニークな作品ですが、さほどトリッキーなヒネりがある訳ではありません。本作品はやはり、真犯人
の意外性、というか、その動機の特異性にあるでしょうか。余り詳しくは書けませんが、笹沢作品だから
当然、動機は「愛の不毛」絡みだろう、と読者を誤誘導させるシブいテクニック。この動機はちょっと予想も
出来ませんでした。笹沢作品だから・・・、という先入観が邪魔をして、作家の作風をトリックにした、とは
言い過ぎですが、なかなかシブいところを突いてくる作品です。
246 :
名無しのオプ:2012/08/08(水) 03:15:24.66 ID:67+HNQEU
あげ
247 :
名無しのオプ:2012/08/11(土) 13:54:39.51 ID:Gzr2U6AK
2時間ドラマ用量産作家たちの小説。
何も面白くない。
斎藤栄「日本鉄仮面殺人事件」(徳間文庫)★★★
1982年のノンシリーズ?長編。
横浜の地元誌編集部に勤める長谷川の妻が大量の血痕を遺して行方不明に。更に彫刻家の父親も謎の失踪
を遂げ、娘もまた何者かに誘拐される・・・。警察に犯人と目されて逃走した長谷川は、自ら事件の真相を追
及するうち、父親の知り合いの男が浮上、その邸宅に忍び込んだ長谷川が見たものは、鉄仮面を被せられ
た男だった・・・。
序盤から剃毛プレイとは・・・、相変わらず狂っていて安心したw
それはともかく、強引な茶番劇なのに、スイスイと読めてしまうは良いのですが、果たして真相は・・・。なる
ほど、そういうことでしたか。この真相には一寸驚きました。いわゆる「何が起きているのか、何が事件
なのか」という趣向かと思うのですが、現代の作家ほど洗練されてもいなければ、常識的にヘンな言動も
あったりして突っ込みどころは満載。とはいえ、不覚にも結末には驚かされました。よって★3つと、そ
れなりの評価にしておきます。稀にこういう作品があるから斎藤栄は侮れないなw
藤雪夫・藤桂子「黒水仙」(創元推理文庫)★★☆
1985年の菊池警部シリーズ第2作、藤雪夫の旧作「渦潮」の改定作業中の急逝により、娘の桂子が完成
させた作品。
宮城県の地方都市・白山市の地方銀行で起きた支店長殺害・現金強奪事件。事件はやがて、東京で起き
た守衛の密室殺人事件と深いかかわりを持ってくることに。菊池警部ら東京・宮城の刑事らが辿り着い
た真相とは・・・。
うーん、密室トリックが二つとも期待外れも良いところ。機械的トリックなど読者に推理不可能なメカ
だし、初動捜査で全くその疑問にも思われなかったのも、説明はあるけど納得できない。二つの事件を
巡る真犯人の異様な動機も一寸・・・。辻褄は合っており、登場人物の心理も丁寧に追っているが、およそ
謎解きとして納得できる展開にはなっていない。主人公の菊池警部のキャラにもイライラさせられるな
あ。凡作でしょう。
斎藤栄「<悪の華>殺人事件」(徳間文庫)(採点不能)
表題作の短めの長編および4短編からなる1984年の作品集。
表題作、これがスゴい。解説の権田萬治が「異色作中の異色作」、「真犯人の意外性も強烈」と書いているので
オッカナビックリ読んでみましたが・・・。アハハ。序盤から、初夜まで我慢できなくなった新婚旅行夫婦が新
幹線車内でヤラカすなど、C級も良いところ。本筋は、子供を誘拐・殺害された母親の、犯人家族への復讐、
といったストーリーで進んでゆくのですが、探偵役のカップルもヘンタイで、喫茶店でコトに及んだりと、
こりゃどうなることやら・・・、と思っていたら、復讐に燃える母親を操る真犯人の正体にはビックリ仰天。な
るほど、事件への関わりを考えたら、ソイツが犯人であることは納得できるし、ちゃんと伏線も張ってあっ
た。でもなあ・・・。アンフェアというか何というか・・・。C調変態趣味で本格ミステリに挑んだ、ということ
か?これは確かにスゴい作品。
その他の収録作は、「狂気の壺」がSF風ミステリでちょっと面白いが、「二十秒の盲点」、「優しい脅迫」は凡作、
巻末の「青い蜜」は子供の視点で書いたミステリだが、仁木悦子には遠く及ばない俗悪なもの。そういう趣向
が好きな方にはお勧めですが・・・。とにかく表題作が全て。作者の武勇伝にまた一つ汚点が加わったなw
桐生操「血ぬられた法王一族」(福武文庫)★★☆
「本当は恐ろしい・・・」や「やんごとなき姫君の・・・」シリーズなどで知られているコンビ作家の、メジャー
になる前、1986年のごく初期の歴史ミステリ長編。
15世紀末のイタリア。ボルジア家の当主がローマ法王アレッサンドロ六世になり栄華を極めていた時代、
次男のホアンが何者かに拉致され惨殺される。この事件を切っ掛けに、長男チェーザレが妹のルクレツィ
アも使って全イタリアの覇権を目指そうと台頭してくる。実はチェーザレ自身が弟殺しの犯人ではない
のか?事件の真相を究明し、ボルジア家の野望に待ったをかけようと目論むのは、フィレンツェの敏腕
外交官マキアベッリ。彼は天才レオナルド・ダ・ヴィンチの助けも借りて事件を追うのだが・・・。
前編「ボルジア一族の野望」、後編「探偵ダ・ヴィンチ」の二部構成。前半でチェーザレがイタリア制覇に
乗り出すまでを描き、後半で、マキアベッリとダ・ヴィンチによる一連の事件の黒幕・真犯人探しが描
かれるのですが、マキアベッリがワトソン役でダ・ヴィンチが名探偵、という割り振りが余り上手く行っ
ておらず、真相究明に迫力が欠けてしまったのは残念。最後に意外な真犯人の正体が明かされるのです
が、伏線が不十分で、真犯人の言動の「裏」について、事前にもっと踏み込んで描写してもらいたかった
です。
題材や登場人物のユニークさもあって非常に楽しく読むことができましたが、ミステリとしての評価は
また別でしょう。マキアベッリとダ・ヴィンチが、それぞれ探偵役になる海外ミステリ2作は素晴らし
かったのですがねえ・・・。
清水一行「百億円投機」(集英社文庫)★★
1971〜1986年の作品を収めた短編集。一編だけ「犯人当ての本格推理」があるとのことで読んでみま
したが・・・。
その作品「一度の賭け」、会社の絵画サークルの旅行中、幹事夫婦の乗ったヨットが転覆して夫が死
亡。しかし妻は、夫が溺死する前に毒物を飲まされていたのでは?と疑うのだが・・・。確かに、オーソ
ドックスな犯人当て物のミステリですが、毒物の種類がユニークながらも、入手方法などの詳細が
お粗末だし、結末のヒネりも在り来たり。全体に出来が粗くて残念。
むしろ、サラ金会社の重役の娘が誘拐され、身代金支払いに応じた父親だったが実は・・・、という誘拐
物ミステリ「誘拐自由」の方が、二転三転のヒネりが楽しい佳作です。
あと「影の男」は、見知らぬ女性に近づき大金を提供しようと申し出る男、その狙いは・・・。こちらは
ヒネり方が現代のミステリに比べて弱いなあ。
その他は経済・企業小説で、表題作は邦銀ニューヨーク支店の為替ディーラーのお話、当時起きた
大和銀行のスキャンダルがモデルですが、ミステリ味は無し。
「炎の墓標」、デパートのオーナー社長の堕ちた罠。松本清張風の力作だが、これもミステリ味は
薄い。
「巨きな亡霊」、新社長の改革で追放されようとする会長。地位に執着する余り、誇大妄想が広がっ
て・・・、完全な企業小説なのに、何故か最後はホラーで終わるユニークな作品。
253 :
名無しのオプ:2012/09/03(月) 21:36:47.86 ID:qMr2qxyK
いつもありがとうございます
清水一行ってミステリ的観点で言うと
やっぱり協会賞取った動脈列島の一発屋さんなんかなあ
社会派の時代だからミステリに色気出して
たまたま当てたみたいな
あぼーん
255 :
名無しのオプ:2012/09/15(土) 23:49:58.23 ID:t6f7sVzU
ほ
256 :
名無しのオプ:2012/10/06(土) 11:20:08.41 ID:lBIXkAsw
保守
257 :
名無しのオプ:2012/10/08(月) 10:49:34.05 ID:e5BVUD/T
he
258 :
名無しのオプ:2012/10/14(日) 17:53:02.59 ID:hTgNe5vi
>>249 シビアな評価ですね。
「黒水仙」、トリック(おやじさんのパート?)は確かに駄目だけど、動機部分
は印象的でした。娘さんの伸びしろは、こちらにある感じで。
広山義慶「平家物語殺人事件」(祥伝社ノンポシェット)★
1984年の長編。
新聞記者の諏訪は、学生時代の友人で、恋人を奪っていった市島と再会する。「平家物語」に登場する
僧・俊寛に関する歴史を覆す大発見をしたので、情報を買ってくれと頼まれる。諏訪は断るが、数日
後、市島はホテルで殺されているのが発見される。一方、諏訪の見合い相手が謎の奇病にかかり、俊
寛の怨霊に祟られているかのような発作を起こして危篤に・・・。また市島の情報を巡って暗躍する謎
の勢力。諏訪は、元恋人の美也子とともに市島の発見したものと彼を殺した真犯人を追及するのだが・・・。
・・・バケモノが平気で登場するようじゃ話にならんw
それでも、市島殺しの真相はオカルト絡みとみせかけて、ちゃんと人間の意外な真犯人がいたので、
まあ良しとしましょうか。でも意外性はあるけど、およそ謎解きになっていない。しょーもない伝奇
小説に殺人事件の常識的な解決を付けくわえただけ、といった方が正しいか。読む価値なし。
西村京太郎「真夜中の構図」(角川文庫)★★
1979年の長編。
代議士の太田垣は、大臣就任を前に、5人の愛人を整理するよう秘書の早川に命じる。早川は500万円で手を
切るよう愛人を説得して回るが、誰一人応じようとしない。ところが、彼が会った愛人が次から次へと殺さ
れてゆく。容疑者と目された早川は真犯人とその動機を追及するのだが、遂に逮捕されてしまう。彼の言い
分を信じた十津川警部は、早川を罠にはめた真犯人を追及するのだが・・・。
西村作品では珍しい、官能シーン満載の作品。20ページに一回は出てくるぐらいか。一箇所だけ真相に絡
む叙述上の大胆な描写が登場するが、ミエミエで失敗ぎみ、効果が上がっておらず、残りの官能シーンは謎
解きとは関係なし、発表先がどこか知らないが、そこの要請だったのかな?
真犯人と動機の意外性を狙ったのだろうが、或る人物の登場が遅すぎる。もうちょっと早めに登場させ、更
に伏線などを考慮してくれれば一定の出来栄えになっただろうが、これではダメ。
山本周五郎「赤ひげ診療譚」(新潮文庫)★★★☆
江戸時代の療養所、「小石川養生所」の熱血医師「赤ひげ」と、見習い医師の保本登を主人公にした1959年の
時代物連作集。黒沢明の名画でお馴染みの作者の代表作の一つ。ミステリ風の話もあるかと思って読んで
みましたが、さて。
最初の第1話が、或るトリックを使ったミステリ短編で驚き、期待させたのですが、以降の作品はミステ
リ味は薄くなってゆくか全く無しで残念。しかし、普通の小説としても十分面白かったですね(★3つ半
の評価はミステリとしての評価ではないのでご容赦)。
新田次郎「つぶやき岩の秘密」(新潮文庫)★★★☆
1972年の少年冒険小説、NHK少年ドラマシリーズでも映像化された屈指の名作とのこと。・・・最近、
新田次郎の復刊が相次いでいるなあ、と思ったら、今年は生誕100年だったのですね。
・・・これは文句なしの傑作でしょう。ジュブナイルのミステリとしても十分な出来栄え。大人へと向
かう少年の心理を実に細やかに描いた骨太の作品。殺人、謎めいた要塞跡、暗号解読などの趣向も
バッチリ。まあ「本格の謎解き」とは言えないけど、久々に昭和の熱血少年小説に出会えて嬉しかっ
たのでw
262 :
名無しのオプ:2012/10/15(月) 13:51:47.73 ID:Q9S0V7E3
>>261 「つぶやき岩の秘密」なつかしいですね
自分は小学生の時NHK少年ドラマシリーズ版をリアルタイムで見てました
石川セリ(井上陽水夫人)の歌うEDがヒットして当時話題になりましたね
佐野洋「奇しくも同じ日に・・・・・・」(講談社文庫)★★★
1962〜1984年に発表された作品の短編集。
表題作◎、新聞記者を辞めて地元のタウン誌編集長になった「私」。地元の野球強豪校の甲子園出場時の
メンバーが二年続けて同じ日に変死する。部下の記者が疑念に思って調査すると・・・。短いページで、
思い切り意外な真犯人の趣向を活かしています。描き方もフェアな佳作。
「屋根の上の犬」○、向かいのマンションのベランダに放置された犬。そこに住む人間が殺されるが実
は・・・。なかなかユニークなアリバイ工作もの。
「切り抜きの意味」○、恋人からの贈り物を包んでいた古新聞の切り抜かれた紙面が気になり、何の記事
を切り抜いたのか調べた女性。実は・・・。或る有名な趣向なのですが、短い枚数ながらもキッチリと描
かれており、読者の予想を上回るドンデン返しが冴える佳作。
上記3編は秀逸でお勧めですが、残りの6編は、意外性はあるけどミステリの謎解きとしては凡作。
山崎純「死は甘くほろ苦く・・・・・・」(東京創元社)★★
1988年の「鮎川哲也と13の椅子」シリーズの一編、このシリーズなら「新本格(以降)」の括りとは思います
が、一応紹介しておきます。
雑誌のフリー編集者である「私」ことマリ子。フランス人の有名なチョコレート職人の勲章受章パーティ
に取材に行ったところ、チョコレートを食べた料理学校長が毒殺される事件に遭遇。被害者の妻、学校
の副校長、仲の悪い料理評論家などなど容疑者多数のなか、マリ子は雑誌編集長とともに真相を探るの
だが・・・。
・・・、何と言うか、文体そのものが酷い。1980年代後半、バブル真っ盛りとはいえ、この文章は無いだろ。
作者はポン女を卒業してソルボンヌに留学経験があるというのに、その知性を微塵も感じさせない軽薄
きわまる文章。「イヤ〜ン」、「ファ〜イ」、「ショーガナイナ〜」、「センセ、大スキ!」、「あ〜カンチガイ」・・・。
この破壊力は梶龍雄に匹敵するな・・・。
肝心のプロットとトリックはまあまあだし、些細な伏線なども上手いので、「本格」としてそれなりの評価が
出来るはずなのに、文章で全てブチ壊し・・・。
解説の鮎川まで「キャピキャピギャル」って・・・。そこまで軽薄な時代だったとも思えないのですが・・・。未だ
有栖川有栖もデビュー前で、東京創元社も、折原一とともに売り出したかったようですが、この文体はなあ・・・。
山村正夫「陸奥こけし殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
「振飛車殺人事件」でも活躍する女流棋士・小柳カオリを主人公としたシリーズ物の長編で、1982年発表、
講談社ノベルス最初期のラインナップの一冊。
岩手・花巻温泉で起きた興信所の所長殺し。被害者は、十年前に山形県鶴岡のコケシ工房で起きた殺人事件
で無実を訴えながらも有罪となり服役、出所後に行方をくらました男を追っていた。その男の母親とひょん
なことから知り合い、息子は冤罪だと訴えられたカオルは、警視庁の刑事である夫の協力も得て一連の事件
を追及する。やがて十年前の事件の関係者の一人が容疑者として浮かんでくるが、その人物には鉄壁のアリ
バイがあった・・・。
何というか、メリハリがないというかストーリーが停滞しているというか、ちょっと退屈な展開でした。肝心
のメイントリックも、中盤辺りで見当がついてしまい、事件の構図の全てがバレやすくなってしまっており
残念。それに、このシリーズのヒロイン・カオリ自体に魅力が無いのが致命的。被害者が残したダイイング
メッセージが将棋に因むネタで、ヒロインがそれに気付くシーンなど、良い場面もあったのですが・・・。
藤村正太「大三元殺人事件」(廣済堂ブルーブックス)★★★
1976年の長編。この本は作者の死後、1979年にノベルス版で出たもの。
公害防止機器メーカーに勤める梓は自他共に認めるマージャンかぶれの不良社員。だが常務からその勝負強さを
見込まれて、工場の廃液汚染で問題となっている静岡県N市の営業所に異動され、自社の汚染防止装置の売り込み
に躍起となる。マージャンを通じて知り合った監督官庁の役人から、賭け金のカタに、工場廃液の情報を取ろう
と画策するが、その役人が行方不明に。やがて発見された水死体。溺死させられた後、更に濃硫酸で顔を焼かれ
ていたものの行方不明の役人と判明、梓は廃液の情報に絡む或る会社の幹部を疑い、その弱みに付け込んで、自社
売り込みに利用しようとするのだが、その男には鉄壁のアリバイがあった・・・。
どうせ、マージャン命の昭和スチャラカ社員の好い加減な話だろうとタカを括っていたら、けっこう骨太な作品で、
主人公も意外と魅力的でした。メイントリックが弱いのが難点で、真犯人の意外性もあるが、その伏線が足りない
欠点もあり、決して佳作とは言えません。でも、死体に硫酸をかけた真相や、死体のポケットにあったマージャン
牌の件など、小味なサブトリックは先ず先ず評価できます。これは「コンピューター殺人事件」(過去スレ参照)にも
共通する特徴ですね。
あと、各章の間に「断章」として、黒幕らしき者が描かれ、最後の最後に真犯人を操る黒幕の正体が明らかになるので
すが、これは余り効果をあげておらず不発ぎみ。
なおマージャンのルールは全く知らないので、そのシーンは、謎解きには関係しませんように、と斜め読みしましたが、
殆ど影響はなかったw
「コンピューター・・・」と同様、やや甘い評価ですが★3つといったところでしょうか。
笹沢左保「地獄の辰・無残捕物控〜首なし地蔵は語らず」(光文社文庫)★★
1972年の捕物帳シリーズ、主人公・辰造は暗い過去を背負うニヒルな岡っ引き、庶民に嫌われながらも、
長十手で容赦なく江戸の犯罪を暴いてゆく・・・。
表題作は、商家で起きた殺人。客と主人を間違えた人違い殺人かと思われたが実は・・・。単純なアリバイ
工作ですが、ラストのヒネりが上手い。
「夜鷹が水を欲しがった」は、商家の連続殺人。ダイイングメッセージ物だが出来は良くない。
「縁切寺で女は死んだ」は、ちょっとした言葉の齟齬から意外な真相を暴く良作。
以上3編は、謎解き物としてそれなりの水準を保っているのだが、以降の「水茶屋の闇を突く」、「半鐘が
赤い雪に鳴る」、「瓦版に娘が欠けた」、「賽は知っていた」の4編は、辰造の過去の或る事件に絡む話に
移行して、謎解き趣向から離れてしまっており残念でした。
阿井渉介「京都原宿ハウスマヌカン殺人事件」(講談社ノベルス)(採点不能)
1987年のノンシリーズ長編。この素晴らしいタイトルw、「京都」、「原宿」、「ハウスマヌカン」と来て、作者は
阿井渉介とくれば、もうダメ押し。当時ヒットした「夜霧のハウスマヌカン」という一発屋イロモノ歌謡曲
に便乗したのか、三流ダメミス・クズミスの匂いがプンプンしてきて、迷わず購入。もはや性癖だなw
原宿のブティックで働くハウスマヌカンの「わたし」こと小泉祥子。専属モデルやスタイリスト、カメラマン
らと京都へ撮影旅行に出かけたが、独りで寺詣りに行ったところ、謎の男につけ回される。実はその男は
ブティックオーナーの時田好子が男装していたもので、彼女はやがて他殺体となって発見される。現場付
近にいてアリバイのない祥子は京都府警のボンクラ刑事・牛尾から疑われ、自らの潔白を明かすべく、犯人
探しに乗り出すのだが、親友も殺され、窮地に陥る・・・。
文体が少々ヘンでして、主人公の「わたし、・・・・なんです」といった独白体、宇能鴻一郎を少々上品にした
ような感じといったら良いか・・・、辟易しました。
電話のアリバイ工作やら、マンション階段での人間消失トリック、ヒロインのクルマのトランクに死体を
隠したトリックなどなど、トリッキーな趣向もあるのですが、いずれもショボい真相で脱力。但し、その
伏線はキッチリと張られており、「そうか、あの人物のあの言動はそういう意味だったのか」と感心する
ところは一応ありました。
あと牛尾刑事のキャラも類型を破るもので、後年の「警視庁捜査一課事件簿」シリーズの菱谷刑事とは逆の
「陽性な不良刑事」でユニークではありますが、やはり2時間ドラマ臭さが抜けなくて・・・。
なお本書は講談社ノベルス1987年3月刊、あの「十角館・・・」の半年前、日本のミステリ界はここまで混迷を
極めていたのか・・・wまあ、「夜明け前が一番暗い」とも言いますからw
赤川次郎「盗みは人のためならず」(徳間文庫)★★☆
1980年、大泥棒の夫・淳一と、その妻で警視庁刑事の真弓のコンビが主人公のシリーズ連作集の第1作目。
淳一が盗み目的で行動を起こすと、別の事件に遭遇して、その事件を解決する、というパターンです。
第1話「ヴィーナスの腰布」○、二つの事件の絡み具合が上手い。第2話「名画から出て来た女」◎、田舎の駅
で発見された有名画家の幻の作品。そのモデルにそっくりな少女が何者かに襲われて・・・。真犯人に意外性あ
り、伏線も先ず先ず。第3話「C線上のアリア」○、有名なオペラ歌手の警護を依頼された真弓と後輩刑事。
喉を痛めた歌手の代理でやって来た正体不明の男の狙いは・・・。犯人はバレバレですが、歌手の代理の男の謎を
交えてひとヒネりしており、ドンデン返しが冴えています。
ここまでは良かったのですが、第4話以降は、ドンデン返しの連続、被害者が実は加害者とか、善玉悪玉を
ひっくり返す趣向などもあるものの、伏線も無しに強引に話を引っ繰り返す話が多く、高い評価は出来ません
でした。
川上宗薫「寝室探偵(ベッド・ディテクティブ)」(光文社カッパノベルス)(採点不能)
1980年の長編。むろん作者も「ベッド・ディテクティブ」の本来の意味を承知しており、巻頭にわざわざ
解説まで入れて「本書のような間違った使い方は探偵小説を貶めるものだ」という主旨で、茶化してくれ
ています。
官能作家・毛利はフランス・パリで知り合った娼婦が殺された事件に引き続き、帰国早々、同じくパリで
知り合い、一足先に帰国していた女性カメラマンも変死したことを知る。更に自分を狙っている連中の存在
に気付き、自宅に帰らず、秘かにホテルを転々とする生活。だが毛利には、セックスすると頭が冴え渡り
推理能力が発揮されるという特異な癖があることから、あちこちの女性を取っ替え引っ替えナンパしてヤリ
放題で、自分を追っている連中の正体とその目的を推理する。パリの娼婦と女性カメラマン、そして自分が
関わっており、敵が狙っている秘密とは一体何なのか・・・。
・・・・。バカです。これはバカそのものです。まあ「確信犯」的にベッド・ディテクティブなどと称していること
から「冗談」で済ませれば良いのですが、せめて謎解きのレベルは上げてもらいたかった。結末に至っての真相
は脱力の一言。確かに、或る小道具や、真犯人の動機に関する伏線などもありましたが、余りに程度が低い。
以前に読んだ「夏が殺した」くらいにはトリッキーな趣向を取り入れて欲しかった・・・。
官能シーンも、今読むとすっかり古びてしまっており、「構造」とか「名器」などの用語で一世を風靡したのも今は昔、
他の登場人物も、一体いつ仕事をしているのか分からないノンビリした昭和元禄なスーダラ揃い、まあ割り切った
上で、クズミスとして楽しめば宜しいかと・・・。
271 :
名無しのオプ:2012/11/30(金) 17:49:34.39 ID:czxWTDIy
>>268 阿井渉介ってダメミス代名詞扱いなのかw
「鉄道公安官」の脚本家だけあって、国鉄改革前後を扱ったシリーズは堂に入ってると思ってるんだが
272 :
名無しのオプ:2012/12/01(土) 01:54:19.99 ID:Gwotutlp
あげ
島田一男「0番線」(徳間文庫)★★
1962年、鉄道公安官・海堂次郎を主人公とするシリーズ長編。
東京駅に落ちていた寝台券。裏には「助けて・・・殺される」の走り書きが。直後に東京駅近くで起きた
女性の変死事件。更には遠く富山県でも女性の轢死体が。被害者はいずれもチャイナドレスを着て
いたという共通点が。海堂は寝台券の受取人から、元陸軍将校とその娘に行き当たる。元将校は何人
もの愛人を囲っており、一連の変死事件の被害者はその愛人たちであったことが判明。更に愛人たち
を巡って第三、第四の殺人事件が勃発する・・・。
序盤、チャイナドレスを着た複数の女性たちが列車で複雑な動きを見せる辺り、トリッキーなアリバ
イ工作か何かの趣向か、と期待を持たせたのですが、やがて凡庸な真相であることが分かりガッカリ。
トリックも謎解きも中途半端だし真相も在り来たり、動機もなっていない。将校の娘のジャジャ馬ぶ
りだけが面白く読めるお話。
谷恒生「ホーン岬」(集英社文庫)★★☆
1977年のごく初期の冒険小説。
南米航路の貨物船・木星丸。一等航海士が謎の失踪を遂げ、日本から交代要員として招かれた陣内は、
木星丸の寄港地・パナマで日本人商社マンの殺害に巻き込まれ、地元警察の追及を振り払って木星丸
に乗船するも、事務長・山形の謎めいた行動に疑念を抱く。木星丸が秘かに積みだした荷物の中身は
何なのか、その謎を巡って、米CIAやナチス残党、反政府ゲリラなどが暗躍する。陣内が掴んだ真
相は、そして木星丸の運命は・・・。
冒険小説ではありますが、生島治郎などの先例もあるものの、まだ「冒険小説の時代」を迎える以前だ
ったためか、この作者の冒険小説には、まだ謎解きミステリから分かれずに、謎解きの趣向にウエイト
をかけた作品も多いのですが、本作は、謎解きが中途半端に終わってしまった感じ。謎の構成とその
解明が非常に粗っぽく、せっかく意外性のある真相が用意されていて、解明の手順次第では謎解きミス
テリにも成りえたと思うのに、少々残念な出来。むろん冒険小説としては佳作ですが。
斎藤栄「箱根高原殺人事件」(講談社文庫)★☆
1981年のノンシリーズ長編。
亜妃子は婚約者の大伴とともに箱根のペンションに旅行に出かけるが、大伴は一人で外出したまま行方不明と
なり、他殺死体となって発見される。所持品のうち唯一、大伴が付けていた腕時計だけが盗まれるという不可
解な状況。亜妃子は、現場で見かけた謎の女性を突きとめ、追及したところ、思いもよらなかった大伴の別の
素顔が明らかになる。彼は亜妃子と婚約する前、何人もの女性と付き合い、自殺に追い込んだりしたのだとい
う。更に亜妃子にその事実を告げた女性もまた殺される。亜妃子は大伴殺しを追っていた新聞記者とともに事
件の真相を追及するのだが・・・。
うーん、辻褄合わせも好い加減にしろよ、と言いたくなる出来栄えですね。ラストの謎解き場面が非常にバタ
バタしており、しかも、当時最先端だったカシオのメロディアラーム付き液晶腕時計に秘められた謎、って・・・、
たったそれだけの真相かよ。真犯人の意外性は相当なものですが、アリバイの件もお粗末なら、動機の後出し
も良いところ。どこか突き抜けたハジケ方にも欠けており、ごく真面目なストーリーであるが故に全く面白く
ないという、どうしようもない作品。
津村秀介「小樽発15時23分の死者」(講談社文庫)★★
1990年の浦上伸介シリーズ長編。
小樽在住のアマチュア女流画家が、初の個展で買い手のついた作品を売るために札幌に滞在中、ホテルで
殺される。被害者とその夫は莫大な財産を所有していたが、実は他人の財産を騙し取ったという後ろ暗い
過去が。ほどなく絵の買い手で被害者に財産を巻きあげられた男が容疑者として浮かび上がる。北海道旅行
中のアリバイは簡単に崩されたが、肝心の凶器は、犯行以前に宅配便で東京に送られており、現場には無
かったという不可解な状況が浮かび上がってくる・・・。
作中に何度か言及のあるように、クロフツ「樽」や鮎川「黒いトランク」を意識した作品で(そのためか、小樽
とか横浜の樽町など、「樽」に因んだ地名がでてくる)、トランクによる「凶器の移動」が謎解きの要なのです
が・・・、ええと、初心者でなく普通にミステリを愛読する人なら、誰でも先ず最初に「トランクは・・・・・・だった」
と考えますよ、そして真相はその通りでした、と言うんじゃあ・・・。
それでも最後まで「ではトランクをどうやって・・・・・なのか」という謎は残るので、まあ良しとしましょうか、でも
その真相すらもアレではねえ・・・。一点だけ、「トランクの鍵」の小細工がラストで一寸した働きをするのは感心
しましたが。
初心者または二時間ドラマ向けとしか言いようが無いですね。あと、タイトルも意味不明。小樽駅発15時23分
の列車なんて作品中に出てこないし、そもそも掲載されている時刻表にも存在しないような・・・。
笹沢左保「悪魔岬」(光文社文庫)★★★☆
1977年、まだ岬シリーズは第一作の「他人岬」しかなく、「悪魔」シリーズも無かった頃に中絶した作品を、後年の
1985年に復活させ、「岬」「悪魔」両シリーズに跨る題名で発表した長編。
松平の婚約者・美紗は妻子ある男・三条と不倫の末、心中未遂、死体遺棄事件を起こし、松平は婚約解消、そし
て一年後、美紗は失踪し、十和田湖で水死体となって発見される。不倫相手の後追い自殺を図ったのか、だが
美紗の所持品が沖縄で起きた殺人事件の現場で見つかるなど、不可解な出来事が相次いで起こっていた。松平は
三条の未亡人・八千代とともに事件を追及するのだが・・・。
「悪魔」シリーズに書き換えたこともあって、官能シーンも濃厚。結末の「ドンデン返し」に期待したのですが、
なるほど、これはかなりの驚き。序盤の肝心の部分の描写はハッキリ言ってアンフェアだが、その真相を知る
人物のセリフはウソを言っていない。地の文はアンフェアだが、真相を知る人物のセリフはフェアというのは、
ちょっと珍しいかも。
但し、もう一つの事件との絡め方が、どうもアッサリ過ぎて、唐突な感じが否めないです。なお伏線については
可も無く不可も無く、といった出来栄えでしょうか。
傑作とは言い難いが、一読の価値はあるでしょう。
278 :
名無しのオプ:2012/12/30(日) 12:56:24.38 ID:lvsGrFwz
>>277 「他人岬」じゃなくて「他殺岬」だと思ったけど。
>>278 ご指摘のとおり、「他殺岬」が正しいです。お恥ずかしい・・・。
・・・では2013年の第1弾。
曽野綾子「塗りこめた声」(桃源社)★★★
1961年の長編。かの乱歩が「宝石」誌刷新のために一般作家にミステリ執筆を呼び掛けた際、この作者も短編などを
書いたそうで、本書もその影響でしょうか。なお本書は1977年の再刊版。この作者といえば、何と言っても日本
ホラー史上、一、二を争う名作「長い暗い冬」。同作収録の短編集「華やかな手」の他、「消えない航跡」、「夢を売る
商人」などにも「奇妙な味」っぽいミステリ短編はあるけど、このスレで紹介するには難があったところ、ようや
く、フーダニットの基本を踏まえた、「本格ミステリ」の長編作品を紹介することができました(但し出来栄えは、
以下のとおりですが・・・)。
公共放送CBAの地方支局から東京の本局に帰って来た北上。栄転早々、世話になって来た先輩の興津が、スタジ
オで殺される事件が勃発。現場は施錠された完全な密室だった。その謎も解けぬうちに相次いで関係者を巡って殺
人が起こる。CBAの元理事の蓮沼が、そして競馬で一発当てた局員の神部が、そして蓮沼の愛人・敬子も・・・。
連続殺人の真犯人は誰なのか、北上はひょんなことから知り合った早苗とともに事件を追うのだが・・・。
各章には、クイーン、カー、ヴァン・ダイン、ベントリー、C・ブランド、果ては清張や星新一などの作品からの
引用文がエピグラフとして出てきて、何か、作者のやる気が伝わってきそうで、非常に魅力的だったのですが・・・。
うーん、「フーダニットと密室トリック」が出てくるので、出来るだけ高い評価にしたかったけど、肝心の密室トリッ
クがアレではねえ・・・。施錠に関する、或る人物の或る「錯誤」の伏線は上手いのですが、トリック自体はヒドいもの。
また真犯人の意外性についても、最後の事件が非常にジャマで余計なもので、それなりに意外性はあったのに最後
で台無し、「何てことをしてくれたんだっ!」と言いたいです。その他、競馬ネタでのレッドヘリングなども余り効果
は上がらず、一応、「本格ミステリ」の基本は踏まえているものの、決して高い評価は出来ず残念。
高場詩朗「神戸須磨殺人事件」(天山ノベルス)★★★
「神戸舞子浜殺人事件」(過去スレ参照)でデビューした作者の長編第2弾、1990年の作品。
校長と対立して高校教師をクビになり、恋人とも別れてトラック運転手をしている「私」の元に、元恋人が訪ねて
くる。結婚した夫が市会議員殺しの容疑で逮捕されたが、夫のアリバイを証明する東南アジア留学生を探して
ほしいと言う。だが現場は、議員と一緒にいたとされる容疑者以外には、誰も出入りすることは不可能な状況
にあった。「私」は元恋人への未練を断ち切れないまま、報いの無い人探しを引き受ける。だが、真相に近づいた
かと思うと、疑わしい人物は次々と殺されてゆく。一体真犯人は誰なのか・・・。
前作の「あとがき」に出てくる、作者自身の情けない生活ぶりを彷彿とさせる「自己憐憫に酔った似非ハードボイル
ド風の主人公」の情けなさにイライラしましたが、そこは我慢。密室トリックは早々に暴かれてしまい、犯人
探しに移行するのですが、謎の構成にやや難があるものの、伏線なども考慮されていて、ラスト、関係者を
集めての「私」の謎解きも、まあ満足できるものでした。ただ、真犯人があんな厄介なトリックを弄する必要も
なく、もっと別の方法があったのでは?とも思いました。あと、前作でもそうでしたが、警察が余りにボン
クラ過ぎて・・・。こんなマヌケな警察なんかいないよw
南原幹雄「新選組探偵方」(福武文庫)★★
1988年発表、幕末の京都に活躍した新選組を巡る数々の事件の裏の真相を、隊士の沖田総司が、隊の監察を
務める島田魁をワトソン役にして解決する趣向の連作集。
第1話「総司が見た」は芹沢鴨暗殺事件の裏の真相。近藤・土方らによる粛清ではないとしたら真犯人は一体・・・。
まあスタートとしてはこんなものでしょうか。
第2話「残菊一刀流」は山南敬助切腹の真相。まあまあか。
第3話「風雲六角獄」は捕縛された尊王志士たちを惨殺した真犯人は?別に起きた毒薬騒ぎとの絡め方に工夫
が見られる良作。
第4話「祇園石段下の暗殺」は名だたる剣士であった谷三十郎変死の真相。一種の凶器トリックだが、後出しも
良いところ。
その他、第5話「銭取橋の斬撃」、第6話「よく似た二人」、第7話「耳のない男」。・・・新選組のことは余り知ら
ず、詳しい人にとっては「この程度の裏の真相では・・・」と思われるかも知れませんし、「本格ミステリ」の謎
解きを云々するレベルではないですが、実際に起きた数々の事件の史実や通説を引っ繰り返して意外な真相を
明かす、という趣向は大変面白かったですね。
282 :
名無しのオプ:2013/01/11(金) 13:02:21.39 ID:Sgqe7DIy
松尾詩朗以前にも、詩朗という名のミステリ作家がいたのか…
283 :
名無しのオプ:2013/01/13(日) 00:28:20.33 ID:N58O68pE
笹沢左保さんの短編で
皆生温泉の芸者さんの話があったと思うんですけどタイトル分かる方いますか
284 :
名無しのオプ:2013/01/14(月) 14:36:21.92 ID:z4TZZpr0
牛次郎「三千万円の撒餌(こませ)」(祥伝社ノンノベルス)★★☆
1984年の誘拐物ミステリの長編。
一代で中堅サラ金会社を作り上げた男の息子が誘拐され、ワープロによる脅迫状が届く。身代金は1億
3千万円。捜査陣は脅迫状の特徴からワープロの機種を特定し、付されていた文書番号から犯人に肉迫
してゆく。犯人は母親の浮気相手か、恨みを持つ同業者か、それとも・・・。
冒頭、いきなり身代金奪取の場面から始まり、更に誘拐事件と関係ないかと思われた倉庫での変死事件
の顛末が語られ、終盤で二重のドンデン返しを迎えます。この手法はそれなりに効果を挙げており、読
者に先ず先ず驚きを与えてくれるのですが、当時脚光を浴びていたワープロにまつわる蘊蓄が今となっ
ては完全に時代遅れ、というか、捜査に精彩が欠けてしまっており、主人公格の藤堂竜刑事の造形が上
手いだけに残念。その他、文書番号の暗号解読興味や、身代金の半端な金額の秘密などの趣向もあるの
ですが、どうも伏線の張り方というか、どこか綿密さや面白味に欠けます。マンガ原作者としてのキャ
リアを感じさせる、なかなかメリハリのある出来の良い小説ではあるのですが・・・。
斎藤栄「横浜山下公園殺人事件」(光文社文庫)☆
1986年の「白い魔術師の部屋」の文庫改題版の長編。
大学教授の徳井は腎臓の病気で長期入院中、透析を続けなければ明日をも知れない状態にあった。彼に
親切にしてくれた看護婦の早苗は婚約者から謎めいた手紙を受け取り、心配になって郷里の四国に帰る
が、婚約者は密室状態の浴室で殺されてしまう。徳井は、アメリカから導入した最新の携帯透析器の世
話になりながら、事件を追及し、早苗の恩に報いようとする。事件の背景には地元暴力団が暗躍してい
るようなのだが、徳井は友人の水木に協力を求める。だが姿を現さない水木。そして徳井の行動もまた
早苗に何かを隠しているらしく謎めいていた。一体事件の真相は、そして謎めいた徳井の行動の秘密
とは・・・。
・・・ああ、もはや「ミステリ小説」としての最低限の構成の緊張感すら失われてしまっている。どうやった
ら、こんなスチャラカでスカスカなお話を書けるんだ?婚約者が生前に遺した手紙の暗号解読なり、
浴室の密室トリックなり、謎解き興味までは失っていないようですが、オリジナリティはゼロだし、
姿を現さない謎の友人「水木」の正体・・・、って、あんな書き方したら、どんなボンクラでも真相は丸分か
りだろ?本当に作者は、これで正体を隠せた気でいるのだろうか?もしそうなら、もう二十年以上も
前の作品だが、この時点で引退した方が良かったと思う。ここまで駄作だと、書いた当時の精神状態
を疑いたくなるw
斎藤栄のクズミス群、もう止めようとは思うけど、もしかしたら次の作品こそ・・・、と気になって止めら
れないですねえ、って、ひょっとして一種のギャンブル中毒みたいなものなのか、俺?
山村正夫「死体化粧人」(講談社ノベルス)★★☆
監察医務官だったが退職して民間の葬儀会社の遺体修復師になった垂水。持ちこまれる死体の不審な
点から意外な真相を暴く、という趣向の1985年の連作集。
第1話「死体装飾人」は、飛び降り自殺したかと思われた若い女性。その修復を請け負った垂水は、死
体の異様な状態を見抜き、他殺ではないかと疑う・・・。スタートとしてはこんなものでしょうか。真犯人
が死体から或る「もの」を盗んだ動機がヒネッてある。
第2話「髭のある死体」は兵器・火薬工場の爆発事故。だが何者かによる爆弾事件の疑いが濃厚になって・・・。
大した出来ではない。
第3話「眼のない首」、これは先ず先ずの良作。思い切ったトリックを使っており、その必然性は弱くて、
強引な部分もあるのですが楽しめた。
第4話「屍ブローカー」もまた、或るトリックを使っているものの偶然に頼り過ぎ。
第5話「異形のかたみ」も同様のトリックで、そんな都合良く行かないよ。
第6話「指の告発」は意表を突いた真相があるも、やはり同様。
・・・主人公の「死体修復師」という職業を通り一遍になぞっただけで、踏み込んだ話に発展しておらず勉強
不足。また死体修復に絡まず、ただの鑑識の話もあったり、特に後半のエピソードは、どれも或る同じ
トリックの繰り返しみたいなところがあるのが残念。
288 :
名無しのオプ:2013/02/25(月) 23:37:59.44 ID:OFE59h9D
鳴動伝説殺人事件てのどう?
289 :
名無しのオプ:2013/02/26(火) 00:26:04.05 ID:dmAainep
0秒の悪魔
媚香殺人事件
この辺りも気になる
石沢英太郎「唐三彩の謎」(徳間文庫)★★★
1973年の長編。
会社社長の父親の面倒を見ている娘の砂原麻也子、父親が古美術品絡みの殺人事件に巻き込まれて
容疑者となり、香港に逃亡。更に戦争中、日本占領下の北京・紫禁城で起きた不可解な盗難事件と
人間消失事件に関係した男が殺される事件も勃発。麻也子は恋人の菅原とともに父を追って香港に
飛ぶ。北京・紫禁城の盗難と人間消失の真相は、そして玄界灘の孤島・沖ノ島で発見された唐三彩
との繋がりは、謎は謎を呼ぶのだが・・・。
真犯人の設定に甘さが見られるのですが、父親の不可解な失踪事件の意外性とその伏線、人間消失
トリックなど、さほど独創的なトリックでもないですが、なかなか読みごたえのある作品に仕上が
っていました。「カーラリー殺人事件」と並ぶ良作でしょう。
斎藤栄「紅の天城高原」(集英社文庫)★★
1971〜86年の短編を収めた作品集。
「三色の告発」はお得意の囲碁に絡めた暗号解読物ですが、ラストのヒネり方といい、色々と粗い点が
目立つ凡作。
「幻のパンダ」は、動物園が募集した児童の作文の内容に不審なものを覚えた園長。作文を書いた女の
子が誘拐される騒ぎに発展するのだが・・・。突っ込みどころ多数ですが、身代金強奪のトリックや、子
供の作文に隠された謎など、趣向を凝らした力作で合格点。
「二重心中殺人」は、男女の無理心中と思われたガス中毒死事件、現場は内側から目張りした密室だっ
たのだが・・・。真犯人の意外性と密室トリックに挑んでいますが、オリジナリティはありませんね。
「桜咲く殺意の里」は、サラ金苦で心中することを決意して旅行に出た夫婦。夫が行方不明になった後、
殺されてしまう・・・。駄作だが、ラストで妻のとった行動がかなり意表を突いていて驚いた。
表題作は駄作。やはり1970年代に書かれた前半の作品は許せるが、1980年代の後半の作品は、読む
必要がない、というか読むと損するw
日下圭介「ころす・の・よ」(新潮文庫)★★★
同じく新潮文庫の「偶然かしら」と同じく、文庫オリジナルの短編集。1985〜87年の作品を収録。
巻頭の「暗い光」と巻末の「盲点のひと」がベスト。「暗い光」は、浪人生の甥と同居する若妻。田舎
町の暮らしに飽き飽きしていたところ、近所で起きた殺人事件で甥が疑われるが・・・。この作者独特の
暗いムード満点で、やはり作者お得意の或る昆虫ネタと小味なトリック、ラストでハッピーエンド
になる反転の瞬間が素晴らしい。傑作揃いの初期短編群が復活した佳作。
「盲点のひと」は女性刑事・倉原真樹シリーズの中編。会社の保養所で殺された社員。保養所の鍵を
管理するヒロインの女性の証言により、保養所は密室状態にあり、自殺かとも思われたのだが・・・。
題名どおり、いわゆる「見えない人」のトリックで、さほどの驚きはないが、伏線なども上手く
処理されている良作。
その他には、「うぶな娘」の出来も先ず先ず。ヒロインに殺人の濡れ衣を着せようと企む二人組。だが
自らのアリバイ工作が一転、墓穴を掘る結果に・・・。
残りの「バイバイ・アリバイ」、「初恋」、表題作、「阿美の女」などは出来がイマイチでした。
293 :
名無しのオプ:2013/03/14(木) 17:28:37.19 ID:pD0bbYL/
ほ
矢島誠「シンデレラエクスプレス殺人事件」(ハルキ文庫)★★☆
1991年のノンシリーズ?長編。
日曜日最終の新大阪行きひかり号で発見された女性の手首。発見者となった京都のOL・亜紀と範子。
手首を持ちこんだ人物が亜紀の同僚の仁美であったことから事態は更に紛糾してゆく。仁美は何者かに
脅迫されて指図に従っただけだというが・・・。更に現場に居合わせたカメラマンの志麻の撮影した写真に
隠された秘密とは・・・。亜紀は志麻とともに真相を追及するのだが・・・。
特にどこが破綻している、という訳でもないのですが、裏の裏を突いた真相を狙う余り、辻褄合わせに
なってしまった、という印象が拭えません。バラバラ死体にした理由が意表を突いているけど、ちょっと
説得力が弱いというか必然性に乏しいですね。決して駄作という訳ではありませんが、良作とも言えない
レベル。
笹沢左保「魔性の誘惑」(徳間文庫)★★
1969年の「陰獣の血」の文庫改題版長編。
元ホステスの亜衣子は会社社長と知り合い、玉の輿に乗り幸福な生活を送っていたが、刑務所に
服役中の昔の男が出所後、復縁を迫っていると刑務所仲間に脅される。今の贅沢な暮らしを失い
たくない亜衣子は、スナックで知り合った‘サタン’と名乗る謎の青年から「夫を完全犯罪で殺し
てしまえ」と唆される。一方、夫の方も不審な動きを見せてくる。果たして夫殺害は成功するの
か、そして‘サタン’の正体とは・・・。
うーん、‘サタン’がレッドヘリングとして上手く機能すれば、作者が隠したかった真の「秘密」が、
ラストのドンデン返しで大きな驚きを与えられたかも知れないですが、どうも失敗気味。
‘サタン’の秘密も、この作品発表当時ならあまり知られておらず、読者を驚かしたかも知れない
ですが、今となっては、何が意外なのかすらも理解できないでしょうね。作者の意図が上手くいか
ないまま終了、残念な出来でした。
小林久三「夏の秘密」(カドカワノベルズ)★
1982年の、この作者には珍しい青春ものミステリ長編。映画化もされたようで、当時の売れないアイドル
ユニットが主演ですが、原作が以下のような出来栄えもあってか、映画の方もアレのようですw
私立高校の女子高生・ちえみは早朝のプールで担任共振惨殺死体を発見。容疑者かと疑われた親友の佐和子
が失踪の後、海に飛び込み自殺したかにみえたが、ちえみは偽装自殺で、佐和子はどこかで生きていると
信じ、同じ親友の久子とともに事件を追及するうち、一連の事件は、元刑事だった自分の父親が扱った過去
の事件に絡んでいることを知る・・・。
謎解きとしては大失敗じゃないかよw
佐和子が親友たちの前から姿を消して一時間と経たないうちに、遠く離れた場所で自殺した痕跡のみが発見
される・・・、って、それなら偽装自殺(しかも何者かとグルか、或いは本人とは関係ない人物の何かの陰謀か)
に決まっているのに、どうしてそれが‘不可能犯罪’になるんだ?
真犯人もバレバレだし、序盤で重要な立場にあった登場人物がいつの間にかいなかったかのような扱いに
なっているし・・・。好い加減なやっつけ仕事も良いところのダメダメな駄作。この作者がこんな青春ものを・・・、
という意外性はあります。まあ梶龍雄より若者の描き方が上手いのだけが取り柄か。
大岡昇平「夜の触手」(光文社カッパノベルス)★☆
1960年の、作者初の長編ミステリとのこと。
幼馴染で結婚を誓い合った三郎とひろ子。高校卒業時にひろ子が行方不明に。タクシー運転手になった
三郎は銀座でひろ子と再会、だが、間もなくひろ子は殺されてしまう・・・。ひろ子は東京で何をして暮ら
していたのか、何も知らぬまま、三郎は容疑者として逮捕されてしまい、絶望して犯行を自白。だが
所轄署の波多野刑事は、三郎はシロだと判断、執拗な捜査の末に、もう一人の容疑者が浮かぶのだが、
その男には鉄壁のアリバイがあった・・・。
大して巧妙とはいえないものの、如何にもなアリバイ工作が出てくるので、その解明に期待したのです
が・・・。嗚呼、トリッキーな真相など期待した俺がバカだった・・・。終盤には、更に新たな容疑者がもう
一人登場するなどして、ひとヒネリしてはいますが、結局は読者の想定どおりの人物が犯人で幕。
これなら、以前に照会した「歌と死と空」や「最初の目撃者」の方がマシ。本作で評価できるのは、序盤で
姿を消してしまう被害者のひろ子の謎めいて不可解なキャラが、終盤まで深い印象を残し続ける点で
しょうか。この点だけは流石。
・・・番外編。
アンソロジー「0番目の事件簿」(講談社)★★★★
いわゆる「新本格」でデビューした作家およびその影響を受けた新鋭作家らの「デビュー前の習作」を収録した
アンソロジー。収録作の多くが「1987年以前」のため、やや反則ながら紹介します。
有栖川有栖「蒼ざめた星」(1980年)。これは如何にも「大学機関誌に発表しました」風な作品。犯人特定の
詰めに甘さが見られるが、たどたどしい伏線など微笑ましいくらい。作者が言及している「ブラックジャック」
の一件は、コミックス20巻に収録の「台風一過」ではないのかな?
法月綸太郎「殺人パントマイム」(1985年)。真犯人の設定にブッ飛んだwでもその件の伏線が弱い。もっと
髪一重のところまで踏み込んでほしいです。
霧舎巧「都筑道夫を読んだ男」(1984年)。倒叙物。犯人を追いつめる外国人の正体とは・・・。タイトルどおり
のマニアックさもさることながら、犯人の追いつめ方がもう習作とは言えないぐらい堂に入って
いる。
安孫子武丸「フィギュア・フォー」(1984年)。これぞバカミス。「4」のダイイング・メッセージってw
これは俺にも真相が分かった。さりげない伏線がバカバカしくも上手い。
霞流一「ゴルゴダの密室」(1980年)。密室状態の部屋で、ドアに串刺しにされた死体・・・。これもバカミス臭い
が、密室ものとしては十分合格点だと思います。
高田崇史「バカスヴィル家の犬」(1973年)。収録作では最も古い作品、作者は当時中学生。ホームズ物のパス
ティーシュだが、これは一寸ねえ・・・。
綾辻行人「遠すぎる風景」(1984年)。冒頭に明記されているとおり、長編「人形館の殺人」の原型。これって、
当時読んだサークル仲間は、別の作品で、・・・・が・・・・であることに慣れていたので、見事引っかかった、
ということなのでしょうか?
他の収録作は、いずれも1987年「新本格」登場以降、その影響を受けた作家たちの習作なので略。
・・・いずれにせよ、1970〜80年代、一部を除いて謎解き本格ミステリに恵まれなかった時代の学生読者たちの怒り
と熱気が伝わってくる、「先ずは謎解きの本格ミステリ!、日本語の文法や作文の基礎などは後からついてくる!」、
とばかりの、ちょっと青臭いが、とても楽しめる作品集でした。
志茂田景樹「西城家の惨劇」(実業之日本社ジョイノベルス)★★★★☆
1995年の長編。「猟奇ミステリー」とありますが、拾い読みした限りでは、エログロ描写も少なそうだし、終盤では
探偵が謎解きをしているような描写もあり、真っ当なミステリっぽかったので購入。発表年は本スレの主旨から
外れていますが、本作は紹介せざるを得ないケッサクです。
鉄道をメインとする一大財閥を率いる西城家。熱海の岬をまるごと買い取った広大な敷地に当主・龍一を筆頭に
本家の一族が暮らし、後妻親子、執事、主治医、使用人らの家族ともども一大帝国を築いていた。だが使用人が
崖から謎の転落死を遂げたのを皮切りに、茶室の天井崩落、後妻の子供への襲撃未遂などなど、一族の命を狙っ
た不審事が相次ぐ。長女で盲目のピアニスト世志子は、長男で家を飛びしてアメリカで画家・小説家として成功
していた春彦を呼び戻す。十数年ぶりに帰国した春彦と、龍一が雇った香港に住む名探偵・烏丸良輔が一連の事件
を追及するのだが・・・。
何といっても、名探偵・烏丸良輔がスゴい。金髪で黒いソフト帽にカイゼル髭、燕尾服を着て、馬に乗って登場(爆)。
河原町ならぬ烏丸、燕尾服・・・、って、麻耶雄嵩へのカン違い対抗か?
プロットは意外とマトモで、大富豪の遺産相続絡みで進み、終盤、関係者を一堂に会しての名探偵の謎解きもある
王道の展開。しかし、真犯人の意外性を狙う余り、犯人に関する動機や事実関係に後出しが多く、最後になって
そんなこと言われてもなあ、というのが正直な感想。小味なトリックなどもありますが、いずれも高い評価は出来
ません。
しかし、本作がスゴいのは、一連の事件が解決した後のラスト2、3ページ。「エッ!?そうだったのかよ!!」と
大爆笑しました。読み返してみると、確かに伏線はあった。その事実を上手く回避している描写もあり、これに
は降参。・・・しかし、理由は理解できるけど、必然性はあったのかなあ・・・。
ラスト、日本バカミス史上に残る驚愕の真相を笑って済ませられる人にはお勧めの一冊。草の根分けても探し出し
て読むべし。或る意味、麻耶よりもスゴい。烏丸探偵バンザ〜イ!
なお、星4つ半の評価は、バカミスとしての評価ですので念のため。
300 :
名無しのオプ:2013/06/03(月) 05:43:02.43 ID:IL/+ziBM
てすと
301 :
名無しのオプ:2013/06/05(水) 13:28:51.76 ID:cfBv8lwA
あげ
新宮正春「甲子園球場殺人事件」(講談社ノベルス)★★
1984年の長編、講談社ノベルス最初期の一冊。
スポーツ紙記者の笠井は甲子園球場での巨人阪神戦を観戦中に親友の立花を殺されてしまう。笠井の
スタジャンを借りて着ていた立花は自分に間違われて殺されたのではないか、悩む笠井は単身、事件
を追及する。更には恋人の絵梨も殺され、一連の事件は更に、立花の勤務先の大学からの天然痘ウィ
ルス盗難事件にまで発展、警察と笠井らによる犯人追及は意外な方向へと発展してゆくのだが・・・。
うーん、序盤は快調でしたが、途中から、国際謀略物に近いテイストになってしまい、本格ミステリ
から離れてしまいました。謎解きも面白くないし、この作者の長編はこれが初めてでしたが、既に紹
介済みの短編集「後楽園球場殺人事件」、「殺人球場−殺しのトリック・プレイ」の方が「本格」として
は上でしょう。
赤川次郎「駈け落ちは死体とともに」(集英社文庫)★★☆
1980年の短編集。本格ミステリとしては、表題作と「壁際の花」に注目。
表題作はユーモア物。予備校生カップルが駈け落ちして無理心中しようとするが、トランクがすり替えられ、中から
死体が。二人はすり替えられたトランクの行方を追ううち、意外な真相に行き当たる・・・。作者お得意の作風ですが、
伏線の巧みさと真犯人の意外性で読ませます。
「壁際の花」は、高慢ちきなアホ女子高生が密室状態の中で殺される。被害者を恨む者は多数いたが、みなアリバイ
があった・・・。ちょっと類例を知らないユニークな密室トリックが出てきます。
他の作品のうち、「交換日記」は、女性との同棲がバレて退学になった高校生。だが同棲相手の女性が一向に姿を現さな
い・・・。これは真相がバレバレ。
あと「遠い日の草原」もシンミリした良い話だが、ミステリとしては不十分な出来。残りの「善の研究」、「霊魂との約束」、
「二つの顔」、「命のダイヤル」は、ホラー風味などもあって工夫を凝らしているが、大した出来ではない。
304 :
名無しのオプ:2013/08/17(土) NY:AN:NY.AN ID:8hJKcuBv
ほ
305 :
名無しのオプ:2013/08/17(土) NY:AN:NY.AN ID:ed+QKYvW
まあ、ただの不注意だから5か月くらいムショ入りして
終いかな
ちょうどいい休暇くらいだな
そんなに日本は厳しくないよ
306 :
名無しのオプ:2013/09/03(火) 03:27:27.78 ID:cZl8tA04
ほ
307 :
名無しのオプ:2013/09/04(水) 13:43:38.60 ID:vNToEHyA
仕事
ビールがうまい
ドライブするように
308 :
名無しのオプ:2013/10/03(木) 14:39:38.80 ID:9nCLyhWM
保守
309 :
名無しのオプ:2013/10/22(火) 12:06:38.30 ID:uiy0UKZb
連城三紀彦さんに合掌
310 :
名無しのオプ:2013/10/23(水) 11:13:29.77 ID:r/baHKP3
相田
相本
野田
野痴
矢部
311 :
名無しのオプ:2013/10/28(月) 18:42:02.05 ID:pNxvM+U7
風見潤も亡くなってた?らしいな
312 :
名無しのオプ:2013/11/19(火) 20:58:12.22 ID:gsQwaLhy
313 :
名無しのオプ:2013/11/23(土) 08:45:45.82 ID:Ri1anEwU
夏樹静子「蒸発」読んだけど、なんだこの話・・・・・
314 :
名無しのオプ:2013/11/24(日) 09:14:43.78 ID:f/G8x10O
槙野
前田
宇佐美
伊藤
矢野
315 :
名無しのオプ:2013/12/30(月) 01:14:39.65 ID:I2gWIHAk
ほ
316 :
名無しのオプ:2013/12/31(火) 11:19:57.87 ID:KZ7dXBmY
司城志朗の「そして犯人もいなくなった」が
どうしても見つからない…
317 :
名無しのオプ:2014/01/13(月) 22:11:37.72 ID:dUoSvs88
ボウリング殺人事件とか白い森の幽霊殺人とか読むと、ボウリングやスキーがすごい流行ってて時代感を感じる
岡田秀文って面白いね(誰に向かって言ってるんだ?)
大沢在昌「眠りの家」(角川文庫)
1981〜1985年の短編集。
「ゆきどまりの女」★★★★。不要になった殺し屋たちを始末する謎の女性。或る男が掴んだ意外な
正体とは?
・・・最初から最後まで伏線だらけ。ハードボイルドのエッセンスともいえる短い枚数の小品なのに、
意外性に満ちた真相と、それを支える伏線が実に見事。
その他の作品は、いかにも1980年代の軽めのハードボイルド、謀略ものといった感じの作品が並びます
が割愛。
「ゆきどまりの女」だけでも読む価値があるでしょう。
西木正明「凍れる花火」(集英社文庫)
1986〜87年の作品を収めた短編集。
北海道などを舞台にした滋味溢れる作品が並びますが、巻末の「孝行代金」が秀逸。東北の田舎町から
上京した祖父をもてなす孫の男と「わたし」。寿司をとって歓待しているのだが実は・・・。もう冒頭の
一行目から伏線になっており、孫と「わたし」の、どこかズレた会話の真の意味など、素晴らしい、の
一言。20ページ足らずの小品だし、これを「本格ミステリ」といえるか疑問ではありますが、「真相の意外性と、
それを支える伏線」という点ではピカイチの出来栄え。
その他の作品にも、演歌歌手が北海道で無銭飲食し、昔、関わりのあった雑誌記者が引き取りに行くが実は・・・、
という意外な展開をみせる「海鳴り列車」などの秀作もあります。
いずれにせよ、「孝行代金」は、三好徹「疵ある女」、夏樹「暁はもう来ない」、そして先ほどの大沢「ゆきどまりの女」
などに連なる、突出した、単発の「知られざる名品」なので、是非読んでみて下さいね(・・・って、だから誰に向かって
言ってるんだ?)w
書き忘れたけど、「孝行代金」の評価は、無論、★★★★です。
夏樹静子「あしたの貌」(講談社文庫)★★☆
1978〜79年に発表された中編・短編を収めた作品集。
表題作の中編は、スタイリストの姉・麻生の失踪を追う妹のリツ子。姉と恋愛関係にあったカメラマンの
不審な様子に疑いを強めるが・・・。うーん、この枚数で登場人物が少ないから、真犯人はバレバレだし、
アリバイ工作も、やはり少ない枚数では露骨になってしまっており、高い評価ができないのが残念。
残りの短編では、別のアンソロジーで既読でしたが、「陰膳」がベスト。幼い子を亡くし、夫婦関係にも
ヒビが入った主婦が主人公。隣家の仲睦まじい初老の夫婦もまた、子を失っていたのだが、実はこの二人
には・・・。おお、こちらは少ない枚数を活かして、実に不気味な余韻とラストの切れ味の鋭さを磨き
上げた佳作。ひょっとしたら作者の全短編中のベストかも。
あと「遺書二つ」も、不治の病にかかった姉と妹の確執をシャープに描き、ラストのドンデン返しまでソツ
なく構成された佳作。
残りの「ベビ・ホテル」や「ひとり旅」は、オチや真相がバレやすく、在り来たりの結末の凡作。
321 :
名無しのオプ:2014/01/19(日) 12:50:47.92 ID:z3fCEAPP
おお今年初エントリーですね
今年も楽しみにしています
322 :
名無しのオプ:2014/01/20(月) 20:31:54.85 ID:SwA2V3rM
浅川純「死体の壁」(トクマノベルス)★★☆
1990年の長編。
別荘地・霧生湖で発見された女性の死体。湖畔の保養所で、泊りがけのパソコン通信のオフラインパーティ
をしていたグループの一人が行方不明になっていたことから、警察はその女性かと追及するが、別人である
ことが判明。ではその死体の身元は、そして行方不明の女性は何処に?地元署の桐田は、ひょんなことで知
り合いになった引きこもりの少女・深雪からパソコン通信の手ほどきを受け、事件を追及するのだが・・・。
この作者の作品を読むのは「伊豆大島殺人火山」(
>>83参照)以来か。題名のセンスの無さは相変わらず
(というか、この題名がストーリーの何を意味しているのか全く分からない)。おまけに古びてしまった当時
の風俗などが、今読むとイタイタしくて・・・。昔のパソコン通信やオフの話題やらハンドルネームなどは
「時代の制約」として目をつぶるけど、プロローグの或る人物のモノローグが、「やったジャン!」「一発マイ
クタイソンされて」「軽くジャブを具志堅ヨーコーこいたら」「天下の険、カイコーケンの人生訓」・・・、冒頭
からこんなもの出すなよw、梶龍雄を遥かに凌駕する「オッサン勘違いの若者言葉」に頭がクラクラ、作者は、
これで、「軽めの登場人物のジョーク交じりのセリフ」を表現した積りでいるのだろうか?作者の頭の中身が
心配だ・・・。
それはさておき、肝心の小説の中身の方ですが、桐田刑事の地道な捜査過程などは丁寧なんだけど、どこか謎の
構成がスカスカというか、古典的なトリックを使って、被害者の身元と容疑者にヒネりを加えている努力は買う
けど、伏線が上手くいっていないため、トリッキーな謎解きとしては不満足の出来栄え。
あと、プロローグにおける中町信ばりの叙述上の仕掛けも、その人物の登場のさせ方が不味いので不発気味。
やはり同時代の初期「新本格」陣には太刀打ちできないなあ・・・。
鷲尾三郎「過去からの狙撃者」(光文社カッパノベルス)★★★
1950〜60年代に活躍した作者が約20年ぶりに復活した、1983年の長編。「フラッシュ・バック」では題名のみ
紹介されていますね。
神戸の高層ビルで起きた社長射殺事件。銃声の直後に警備員が現場に駆け付けるが、部屋には誰もおらず、
また途中で誰にも会わなかった、と証言、不可解な密室殺人事件となる。兵庫県警の各務警部は、社長の
碇山が戦争中、南方トラック諸島で起きた残虐な部下殺しの犯罪に絡んでいたことを突き止め、その恨み
による元部下らの犯行ではないかと追及するが、その容疑者たちはいずれも、社長射殺前に既に毒殺され
ていたことが判明、事件は暗礁に乗り上げるに見えたが・・・。
・・・密室殺人やら手の込んだ毒殺トリックなどトリッキーな謎解きに拘った点や、登場人物のキャラなどを
手堅くまとめた手腕は評価したいのですが、例えば、密室トリックそのものは、なかなか考えられた手口
で、ちょっとJ・D・カーの中期の良作を連想させる秀逸なネタとはいえ、そのトリックを成立させる点
で幾つか手抜かりがあり、特に「そのトリックの一部始終を知っている第三者がいた」というのは致命的
です。早めにソイツを尋問していればそこで終了、じゃないかよ。毒殺トリックも直ぐに解けてしまうし、
真犯人の隠し方も、現代の読者には直ぐに見当がついてしまうレベル。
別の事件のアレを使って、・・・・した、高層ビルならではの密室トリック、という点は評価したいのですが・・・。
松本清張「紅刷り江戸噂」(講談社大衆文学館)★★★
1967年の時代物連作集。
「七種粥」は正月行事の七種粥にちなんだ毒殺物。江戸時代ならではの七種粥の風習の描写が興味深いが、
トリッキーな趣向も凝らしており、特に第二の殺人における偽装工作などは非常に独創的。でも謎解きの
展開に重点を置いていないのが惜しい。
「術」は、白昼堂々首を切る辻斬りが横行する話。謎めいた浪人が事件を解決するのだが、「被害者は何故、
いずれも抵抗なく縛られて、喜んで首を差し出したのか?」の真相が意表を突いており、これもトリッキー
な一編。「役者絵」も、真犯人に自白させる手段に、或る古典的なトリックを用いているのが面白い。
その他「虎」は渡り職人が自滅する話だが、ただの因縁話、「突風」、「見世物師」も同様で高い評価はできない
です。
山崎洋子「吸血鬼たちの聖夜」(文春文庫)★★☆
1987〜1992年に発表された作品を収めた短編集。
表題作がベスト。何者かに殺された女性の幽霊。テレビドラマを巡る芸能界の醜い足の引っ張り合いの中で、
彼女を殺したのは、果たしてプロデューサーか、シナリオライターか、スポンサー会社の部長か・・・。ラスト
で、或るトリックが出てきて全てを引っくり返す手際が見事。やや伏線不足とも思いましたが、先ず先ずの
良作です。
他には「メランコリーは危険」、事故で記憶を失った女性。夫や娘、妹の話から、自分はかつて、家族を顧み
ずに外国で好き放題の暮らしをしていたことを知り、自殺しようとするが実は・・・。これまた意表を突いた
真相を用意していますが、やはり伏線不足は否めない。
残りの「妖女狂演」、「愛する人に、きらめく死を」、「やさしいだけでは生きられない」は謎解き風味が薄れた
作品で凡作。
日下圭介「負のアリバイ」(徳間文庫)★★
1980〜1991年までの作品を集めた短編集。
表題作は、倒叙形式で、二重のアリバイ工作を企むも、殺そうとした人物ではなく、別の人間を殺して
しまった主人公。だが何者かの動きでアリバイが成立してしまい・・・。偶然頼りでダメだな。
「その時、電話が・・・」は佳作。深夜の電話直後に殺された女性。その女性と話していた連中にはアリバイ
が成立し、被害者の弟が誤認逮捕、のちに釈放された弟は事件の真相を追うが・・・。これは犯人の意外
性と結末の付け方が上手い。
「ゼロの男」も、叙述上の綱渡り的なテクニックで真犯人の意外性を際立たせた佳作。
でもそれ以外には、「十五年目の客たち」が先ず先ずの出来の他は、「窓際のヒマワリ」、「隣室の事件」、「消え
た事情」など、いずれも取るに足りない出来で残念。
328 :
名無しのオプ:2014/01/25(土) 14:27:29.27 ID:EFrhzbNv
昔の週刊文春ベストミステリーを見ていたら、
斉藤栄の方丈記殺人事件に高評価を与えたり、
思ったよりもいい仕事していたんだね。
石沢英太郎「謀鬼」(講談社文庫)★★☆
1969年発表の表題作から、1975年までの中編、全3作を収めた作品集。
先ずは表題作。江戸時代初期に起きた福岡・黒田藩のお家騒動。家老・栗山大膳の遠い子孫に
あたる主人公が子文書に興味を持って調べるうち、栗山大膳が流された岩手県に住む子孫と知
り合う。だが彼は福岡に転勤するとともに会社の合併騒ぎに巻き込まれる。二人が掴んだ黒田
騒動の真相は、そして栗山大膳が起こした謀反の真の動機とは・・・。
歴史ミステリに、主人公が巻き込まれた会社の派閥争いを重ねわせた力作なのですが、中編で
まとめるには枚数不足が露わ。結末の付け方も含め、やや竜頭蛇尾に終わった惜しい作品。
むしろ、長崎・平戸の旅館で見つかった謎の浮世絵を巡る「秘画」の方が、謎解き趣向では優れ
ています。「写楽の正体」という、未だにミステリの題材となっているテーマですが、そこに連続
殺人を絡め、真犯人の意外性とアリバイ工作まで盛り込んだ作品。でも中編ゆえに、アリバイ
崩しや真犯人特定に至る謎解きの部分がアッサリしてしまった嫌いはあります。まあ水準作で
しょうか。
「沖田総司を研究する女」は凡作。新撰組に、過激派の内ゲバを絡める、というのはユニークだ
けど、全くまとまりに欠けた作品。
330 :
名無しのオプ:2014/02/09(日) 02:00:43.55 ID:gmHnVgnY
赤川次郎「忙しい花嫁」(角川文庫)★★★☆
1982年の「花嫁」シリーズ第1作の長編。
女子大生の亜由美は、卒業した先輩・田村の結婚式に招かれるが、式全体の雰囲気がどことなくオカ
しいことに気づく。田村の結婚相手・淑子は、ホテルのオーナー一族の令嬢だったが、田村は亜由美
に、「彼女は良く似ているが別人だ」と打ち明けたまま、新婚旅行先のドイツで行方不明に。一方、日本
でも、田村の同僚がトラックにハネられて殺されかけ、遂には、亜由美と一緒に結婚式に参列した先
輩が、衆人環視下の密室状況にあった大学の部室で刺殺される事件も勃発する。田村の新妻の淑子は
新婚旅行から一人で戻ってきたが、やはり別人がなりすましているのか?だとしたら本物の淑子はど
うなったのか?亜由美は友人の有賀とともに事件を追及するのだが・・・。
・・・真犯人の意外性と密室トリックの謎解きに拘った、なかなかの良作です。特に、ちょっとした
言葉の錯誤による伏線と、密室トリックに関する伏線のさり気ない描写が秀逸。レッドヘリングも絶
妙に効いています。
二か所ほど偶然に頼った部分があり、それが結構重要な場面なので、その点で評価が落ちてしまうし、
回収し忘れた伏線らしきものが放置されているようでもあり、残念ながら「傑作」とは言い難いので
すが、一読の価値がある作品です。
和久峻三「蝮のようなレディ」(徳間文庫)★☆
1987年のノンシリーズ長編。
京都の産婦人科の病院長・本郷は病院敷地内に専用の写真室を増設して、道楽のヌード写真に精を出す
毎日だったが、密室状態の撮影室で殺害される。さらに後妻の愛人が、バカ息子の家庭教師が住み込ん
でいる部屋で発見され、その現場もまた密室状態だったことから、同じ部屋で熟睡していた家庭教師の
女子大生・篠原は逮捕されてしまう。だが後妻もまた密室の自室で殺されてしまう。釈放された篠原は、
自分に罪をなすり付けた真犯人を追及するのだが・・・。
三つの連続殺人が全て密室、ということで読んでみたのですが、やはり好い加減な駄作でした。三つと
も同じトリックというのは仕方ないにしても、オリジナリティはゼロだし、トリックの伏線もあるけど、
その伏線が描写された途端に全てがバレバレ、真犯人の意外性はあるけど、動機や人間関係に後出しが
多すぎて、高い評価はできないです。おまけに本筋に無関係なエロ描写、警察の捜査も好い加減にも程
がある・・・。
ホント、山村美紗と和久峻三のおかげで、京都府警の評判はガタ落ちだよw
由良三郎「13は殺人の番号」(双葉文庫)★★
1987年の長編。
坂巻医院の看護婦・湯田中淳子は、或る時、院長夫婦が舅の前院長を人知れず毒殺しようとしている
話を立ち聞きしてしまう。絶対にバレない毒薬をいつ入手するのかと不安に思っているうちに、肝心
の院長がウィルス性の病気で急死してしまう。死の直前、淳子は院長が「ミミー」と言い残し、また
「13」と書き残したことに気付く。実は病気ではなく、入手した謎の毒薬により、何かの手違いか、
或いは仲間割れで、妻が夫の院長を毒殺したのではないか、或いは後釜を狙う若手医師の仕業か。
淳子はダイイングメッセージの真相と真犯人、そして謎の毒薬の正体を追及するのだが・・・。
ダイイイングメッセージは、読み進めるうちに誰でも気付くネタですが、シェークスピアの有名な
或るネタが出てくるのが一寸ユニークでしょうか。フーダニット物としても、真犯人の意外性は工
夫しているけど、トリッキーなヒネりが足りなく、中途半端なまま終わってしまったのが残念。
334 :
名無しのオプ:2014/03/07(金) 00:07:07.87 ID:RL24nPta
手に入らない名作スレによると
草野唯雄が亡くなってたそうなので、3氏に追悼特集を期待
335 :
名無しのオプ:2014/03/07(金) 03:27:28.73 ID:f6DIROrB
336 :
名無しのオプ:2014/03/22(土) 06:58:13.76 ID:X4toh1A0
最高傑作は『最優秀犯罪賞』だね。
337 :
名無しのオプ:2014/03/28(金) 03:46:28.09 ID:Fx+gmpkA
age
清水一行「銀行員」(青樹社文庫)★★☆
1971〜79年までの作品を収めた短編集。
巻頭の表題作、銀行の支店窓口から、あれよあれよという間に、他人の金を奪って去っていった男。
警備員が後をつけると、何とその男は近所の銀行の銀行員だった・・・。ミステリ味は薄いですが、現代
の池井戸潤の作風を先取りしたような「銀行員残酷物語」といったところ。もう40年以上も前に書か
れた作品ですが、銀行って全然変わってないんだなあ・・・。
「狂気の鎖」、「行方不明になった息子は、最後に会った友人に殺されたのだ」と信じ込み、イヤガラセ
を続ける老母。身に覚えのない友人は、実は溺愛の余り、その老母自身が息子を殺したのではないか
と疑うが・・・。これはヒネりの効いた良作のミステリ短編。真犯人の意外性も十分。しかし惜しい
ことに伏線が足りない。ただ、40年以上も前に正面からストーカーの問題を詳細に扱った先駆性は評
価すべきでしょう。
「走る男」は、健康のため、毎朝出勤前にジョギングを始めた男の話。或る男と知り合いになるが、妻が
男の開いている彫金教室に通うようになり・・・。うーん、意外性はあるけど、ちょっと「本格」とは違う
んだよなあ・・・。
冴えない三流会社員が、間違い電話で先方の犯罪計画を知り、その上前をハネようと企むお話「謀殺計画」
も同様。
あと、「現場消失」は、死体を発見したパトロール中の警察官が、所轄署が別の事件を抱えていて大忙しな
ため、その死体を川に流し、隣の所轄署に後始末をなすりつけたため、犯人にアリバイが成立してしま
うという話。或る古典名作短編と同趣向ですが、死体を流した警察官の行動を、伏線を匂わせるだけで
隠しておき、ラストで真相を明らかにすれば、ちゃんと謎解き物になるのに、最初からモロに全て描写
して、ただの「皮肉の効いたお話」にしてしまうのは勿体ないなあ・・・。
その他「陽気な未亡人」「逃げ水」などは特に論評すべき出来ではない。
・・・全体的に、思いもよらぬ人間関係、裏の共犯関係が浮かんでくるなどして、二転三転した末にドンデン
返しを迎える、というパターンが多く、その意味では真相の意外性に満ちてはいるのですが、一部の
作品を除いて、本格ミステリのテイストは感じられないなあ、というのが正直な感想。
山村正夫「死人島の呪い雛」(角川文庫)★★☆
1985年の、滝連太郎シリーズ第3弾の長編。
三重県・志摩に浮かぶ舟人島こと‘死人島’。古代中国の伝説「徐福伝説」を狂信的に研究していた島の
神主が謎の死を遂げてから数ヶ月後、その神主の遺志を継いで著書を完成させた女医らが主催する出版記
念パーティに招待された滝連太郎。だがパーティ会場のホテルで、密室殺人が勃発。被害者は、死人島の
村長の愛人だった。そして現場付近では死んだはずの神主の姿が目撃される。村長と対立していた今は亡
き神主が実は死んでおらず、復讐を開始したのか?滝は死人島へ向かうが、そこでも不可解な連続殺人が
発生する・・・。
・・・横溝の衣鉢を継ぐ、伝奇的・土俗的な本格ミステリを狙った意図は理解できます。しかし・・・、トリック、
プロットその他、一体どこにオリジナリティを求めれば良いのだろうか?色々と伏線やトリックも配し、
謎解き面の構成も配慮されてはいますが、余りにも分かりやす過ぎて、終盤に入る前に、真犯人もその
動機も感づかれてしまっており、飽くまで、映画・テレビ向け、初級者向け本格ミステリになってしまっ
たのが残念です。
田中文雄「猫窓」(集英社文庫)★★★
1988年のホラー物の長編。
東京・成城の亡父の実家に引っ越してきた若者夫婦。そこで一匹のネコに出会ったことから、身辺に
不審時が相次ぐ。夫に可愛がられるネコは妻に嫉妬しているのか?やがて夫は謎の病気に罹るが、その
時、妻は妊娠していた・・・。
・・・むろん、どうこじつけても本格ミステリとは言い難い作品ですが、ラストで提示される反転のネタ
が、結構、本格ミステリの影響を受けているようにも思えました。そこは「幻影城」出身作家、という
ことかw
ラストには少々驚いたけど、そこに至るまでが、読みやすいけど、ホラーとしても、或る「謎」の一発
ネタとしても、どこかパンチが足りないんだよなあ・・・。
生田直親「K峰(カラコルム)殺人事件」(光文社カッパノベルス)★
1985年の山岳ミステリ長編。
ヒマラヤの未踏峰・Kx峰に挑んだ東方大学山岳部パーティ。だが山頂にアタックした二人のメンバー
は登頂成功の帰りに悪天候の中で遭難、行方不明に。行方不明となった医学生・岩城の父親は、事故の
真相を求めるうちに、意外な事実を知ることに・・・。
・・・うーん、謎解きのミステリとしては余りにも杜撰。遭難事故の意外な真相も、さんざん引っ張りまわ
した挙句、脱力・・・。また、中盤以降で起きる或る人物の不審死と、容疑者のアリバイ工作の謎解きも、
全体の構成の中で浮きまくっている。駄作。
341 :
名無しのオプ:2014/05/14(水) 17:49:10.20 ID:IgIk21Gr
品川の母親が笹沢左保の愛人だったんだって
342 :
名無しのオプ:2014/05/14(水) 22:39:48.20 ID:ztfv2gdK
343 :
名無しのオプ:2014/06/22(日) 18:50:14.36 ID:V9lJO8qV
ほ
344 :
名無しのオプ:2014/07/05(土) 20:44:34.58 ID:kg/KTyly
し
345 :
名無しのオプ:2014/08/05(火) 13:57:54.77 ID:ZWwjB5Sy
ほ
谷甲州「36,000キロの墜死」(講談社)★★★☆
1988年のSFで本格ミステリに挑んだ長編作品。
22世紀の未来、地球周回軌道に浮かぶサイナス市は巨大メーカー・サイナス社が牛耳る工場都市だったが、
サテライトのラボで奇妙な不審死が発生。無重力状態のラボ内で、高所から墜落死したとしか思えない
死体が発見され、しかも事件を通報してきたのは、既に死んでいた被害者自身だった。この謎に立ち向
かうのは、市の保安部に所属するヒロサワ部長、ダグ刑事、新米のエレナ刑事たち。サイナス社と会社の
警備部が権力を振りかざして捜査を妨害する中、やがて容疑者と思しき男が、別の宇宙船で黒焦げの死体
となっていたのが発見される・・・。
・・・「あとがき」によると、作者は本気で「本格ミステリとSFの融合」を目指していたようで、「無重力
状態の墜落死」や「死後の被害者がかけてきた通信」、「軌道計算から証明されるアリバイ」などなど、それ
なりに面白そうなSFならではのトリッキーな仕掛けがあり、その伏線にも工夫の跡が見られます。が、
残念なことに中盤までにほぼ解決してしまい、終盤の展開がやや失速ぎみで、しかも謎解き興味から離
れてしまったのが惜しいところ。
とはいえ、SFで本格ミステリを描こうとした作者の努力は評価したく、その意味で一読の価値はある
かと思います。
小林信彦「サモアン・サマーの悪夢」(新潮文庫)★★☆
1981年の長編。
元恋人の伶子がハワイで自殺。テレビ・プロデューサーの柳井は現地を訪ね、彼と別れて別の男と
結婚するも、離婚してハワイでブティックを経営していたという彼女の死の真相を探るうちに、不
審な出来事に巻き込まれてゆく。ハワイで財を成した素性不明の老人・志水に食事に呼ばれたり、
その顧問弁護士や彼らを追う女性ルポライターに出会ったり・・・。伶子は果たして自殺したのか、
それとも・・・。
・・・「フラッシュ・バック」では、題名のみ紹介されていた作品ですが、なるほど、「本格ミステリ」
の構成に沿ってストーリーは展開し、真犯人の意外性も考慮されており、謎解きに必要な伏線も
無い訳ではないのですが、でも何かが足りない・・・。その「何か」を上手く説明できず申し訳ない
ですが・・・。何だろうな、このスッキリしない気分は・・・。
西村京太郎「ある朝 海に」(光文社文庫)★★★☆
1971年、ごく初期の長編で唯一(多分)、未読だった作品。
フリーのカメラマン田沢は、アパルトヘイトの南アで黒人少年を助けたことから、警察にマークされる羽目に。
そのピンチを救った現地の白人弁護士に誘われ、米国の豪華客船をシージャックするグループの仲間入りする
ことに。グループは乗っ取りに成功、南アのアパルトヘイト政策を批判し、国連に黒人運動家の証人を呼ぶよ
う全世界にアピールする。国連やアメリカ始め各国の思惑が錯綜する中、彼らの要求は通るかに見えたのだが、
船内で殺人事件が勃発する。凶器となった銃を持つ者は乗っ取り犯グループ以外にはいないことから、自分た
ちの身内に殺人犯がいることになるのだが・・・。
非常に読みやすいお話で、まあ国際的なダイナミックな動きの描き方など、現代の国際謀略物に比べると、やや
幼稚な感じがしないでもないですが、もう40年以上も前に描かれた作品なので、その点はご容赦をw
ただ、殺人犯を特定する推理が、伏線が無い訳ではないものの、やや取ってつけたような感じで、全体の流れ
から浮いてしまっているような・・・。
本作は、飽くまでシージャックをテーマにしたサスペンス物として秀逸な出来栄えであり、殺人事件の謎解き
は飽くまで付け足し、と評価した方が良さそうですね。
「別冊『宝石』−新鋭二十二人集」(昭和27年6月)
昭和20〜30年代に活躍した戦後派作家22名の22短編を収録。本スレの守備範囲以前の作品
ですが、内容紹介は珍しいと思うのでご容赦を。
著名な作家では、日影丈吉「天仙宮の審判日」、土屋隆夫「青い帽子の物語」がありますが、残念ながら
出来が良いとは思えません。当時の人気投票は、確か、朝山蜻一「巫女」、狩久「すとりっぷと・まい・
しん」、そして土屋隆夫の順だったと思いますが、これも納得できず、他のマイナーな作品の方に
興味深いものがあると思いました。
まず、埴輪史郎「ヒマラヤの鬼神」は、太平洋戦争中、東京・ベルリン単独飛行中に消息を絶ち、ヒマ
ラヤ山中に遭難した男と地元の娘の出会いを描き、角田實(後の左右田謙)「嫉妬」は、ゴムのチュ
ーブを使った奇矯な絞殺トリックが面白く、島久平「犯罪の握手」は長編「硝子の家」にも登場する
伝法探偵が連続殺人の密室トリックに挑みます。トリックは馬鹿馬鹿しいですが、犯人の意外性がまず
まず。
そして山沢晴雄の「厄日」。この人の作品、僕には非常に難解で、短編「電話」はともかく、「離れた
家」は未だに理解できません。この「厄日」は、推理作家が出会った事件を、彼の作品から心理的に
分析するもので、少々腰砕けですが、それなりに読ませます。
(承前)
川島郁夫(藤村正太)「法律」は、玉川上水での溺死事件を扱い、アリバイ工作は大したことはないです
が、法律の規定を逆手にとった犯人の動機に意外性があります。夢座海二「死の時」は、ラジオの時報を
使ったアリバイ工作と凶器消失による密室構成に工夫を凝らし、坪田宏「俺は生きている」も、外地から
の引揚げに絡む脅迫事件での風変わりなアリバイ工作がユニーク。
一番優れていると思ったのは、宮原龍雄「灰色の犬」と黒津富二「亜流『探偵小説』」の2本。
「灰色の犬」は、場末の工場で起こった人間消失トリックを扱い、埋立地をうろつく野良犬に萩原朔太郎
「月に吠える」の詩が被さる冒頭が上手く、さり気ない伏線も良く、トリックも従来の蒸し返しに近いで
すが無理がなく、傑作です。
「亜流『探偵小説』」は、作家が或る事件をモデルにした探偵小説の構想を友人に打ち明けて、ディス
カッションを進めながら、トリックを組み立ててゆく話。コーヒーの毒殺トリックや、インディアン・
ポーカー風の遊びによって色盲を見破る点など、緻密なロジックの積み重ねが光ります。最後に、作家が
見聞した事件の真相が作家の構想通りだった、というオチがつきますが、タイトルといい内容といい、
横溝正史の傑作短編「探偵小説」に挑戦したものと思われます。この黒津富二ってヒト、どういう来歴の
人なんだろうか・・・?
351 :
名無しのオプ:2014/09/08(月) 20:32:34.43 ID:5KRRoEq2
影山荘一ってなんで斎藤栄の本の解説ばかり書いてるんですか
352 :
名無しのオプ:2014/09/08(月) 20:43:42.03 ID:DkfRwg8W
斎藤栄本人だから
353 :
名無しのオプ:2014/09/08(月) 22:15:39.98 ID:5KRRoEq2
それはもう公然の卑弥津ということでいいんでしょうか
354 :
名無しのオプ:2014/09/25(木) 23:01:05.08 ID:cxhCb0am
わざわざ変名つかって解説書いてるのってどういうこと?
だれも解説を書いてくれる人がいないから自分で書いてるということなのかな。
355 :
名無しのオプ:2014/09/25(木) 23:05:39.96 ID:+FOOl36A
じゃ木村久邇典は山本周五郎の変名か
長尾誠夫「秀吉 秘峰の陰謀」(祥伝社ノンポシェット)★★★★
1988年の歴史ミステリ。
戦国時代、台頭する羽柴秀吉と敵対するも、秀吉勢の前田・上杉に挟まれて苦慮する越中の佐々成政は
起死回生の策に出る。絶対に踏破不可能と言われてきた、真冬の立山・北アルプスを越えて、信濃から
三河に入り、秀吉と休戦していた反秀吉派の筆頭・徳川家康に再決起を促そうという奇策だった。佐々
は、主だった家臣や地元猟師らのほか、かつて謎の敵に襲われていたところを助けてあげた修験者の若
者・武虎をメンバーに加えて出発する。しかし立山の極寒地獄と猛吹雪の中、一人、また一人と脱落し
てゆく・・・。そこに敵方の放った刺客も襲い掛かってくる。果たして佐々成政は無事、立山を越える
ことが出来るのか・・・。
・・・傑作、お勧めです。
佐々成政の立山越えという史実を踏まえつつ、ラストの一発ネタともいえる大ドンデン返しに成功した
作品。そのドンデン返しは、或る人物にまつわる「説」に基づくもので、この頃には結構新鮮だったかも。
正しくは、本作とほぼ同時期に出た或る時代小説作家の有名作により、人口に膾炙したようですが、本
作の作者は「自分の方が先」と「あとがき」で主張しています。
・・・まあどっちが先であれ、本作の「意外な真犯人」には結構驚いた。残念ながら、中盤の無用な描写の
ヒントで、「もしかして・・・」と感づきつつもあったが(俺が戦国史に詳しくないせいかな?この時代に
興味のある人には、この時点で、或いはそれ以前から全てバレバレかも知れませんが)。いずれにせよ、
あの無用な描写さえ無ければ、ミスディレクションは大成功だったはず。
更に、新田次郎の遭難物の登山小説にも匹敵する、荒れ狂う冬山の描写も迫力十分で、冒険小説として
もなかなかの出来栄え。あと、題名もね・・・、或る理由から秀逸ですw
「別冊宝石33号−新人二十五人集」(1953年12月)
本スレの対象からは外れますがご容赦を。
この別冊で一番有名な作品は、白家太郎「みかん山」◎。むろん多岐川恭のデビュー作。旧制高校を
舞台にした密室状況の事件。バカトリックっぽいですが、犯人の動機も含め、全体に漂う感傷的で
ロマンティックな雰囲気が抜群の佳作です。
その他の佳作は以下のとおり。
山沢晴雄「死の黙劇」◎、砧探偵の名刺を受取った男が、その数分後、遠く離れた場所で自動車事故死。
絶対に不可能なのだが・・・。これは面白かった。事故で頓挫した裏のアリバイ工作が秀逸で伏線も先ず
先ず。鮎川哲也の名作「五つの時計」(1957年)に先駆けて、似た趣向のアリバイ工作に挑戦した佳作
です。
吉田千秋「書くに適さぬ犯罪」◎、知られざる佳作です。警察官の兄を持つ妹が勤務先の役所で公金を
紛失。施錠した机の抽斗から金が消えたのは何故・・・。ほんの一寸したトリックですが、小道具の使い
方やその伏線、犯人の動機まで無理なく収まっており、犯人がバレバレなのが難ですが、コンパクトに
仕上がった逸品。
(承前)
次いで良作レベルを。
水原章「日の果て」○、画家の不倫相手の夫の死。被害者は雪に覆われた完全密室状態の自宅の
離れで殺されていた・・・。これはアレしかない真相で、それによって犯人もバレバレですが、雪の
密室トリックに挑んだ意欲は買いたいです。
白井龍三「千秋楽」○、女優が元恋人を客席に見かけるが、その男は直後に殺されてしまう。彼女
が目撃した時間から、容疑者にはアリバイがあるが・・・。ミエミエのトリックですが、法医学者の
探偵役なども配して、この本の中では「本格」味は強い方で満足。
井上銕(てつ)「何故に穴は掘られるか」○、警察署や個人宅に「死体(或いは財宝)を隠している
ので掘り起こしてほしい」という手紙が、あちこちに届く。名探偵・関口十三郎の推理や如何に。
・・・このトリックは見抜けましたが、シンプルながらも面白かった。
渡辺一郎「天意」○、三角関係に悩む女性の養父が密室状態の自室で刺殺される。やがて養女も謎
の死を遂げる・・・。短い枚数でバレバレではあるが、密室トリックとアリバイ工作を盛り込んだ意
欲は買います。
(承前)
大島薫「かげぼうし」○、アメリカ帰りの新進女流作家の服毒死。養女とその婚約者が疑われるが、
現場が密室で、遺書もあるため自殺と判断されるが・・・。遺書の真相や密室トリックも面白く、構成
も上手いが、短編のためご都合主義を平気で取り入れて解決したのが残念。
木島王四郎「ある青春」○、戦争直前、婚約者のいる女性を好きなった男が衆人環視の中、ビルか
ら転落死、自殺として処理される。三人の共通の友人であった素人探偵の木島王四郎は、終戦直後、
その女性と意外な形で再会し、事件の真相を知るのだが・・・。作者と探偵の名が同じで、文中でも
エラリー・クイーンが引用されていますが、事件の真相はバカバカしい機械トリックで萎えます。
でも結構面白かった。
深尾登美子「居眠り天使」○、札幌で暮らす孤児の姉弟。姉がハンドバッグごと給料と指輪を引った
くられる。同じアパートに住む素人探偵・猿山女史に相談、事件現場に行ってみると、住人が謎の
死を遂げていた・・・。トリックは単純で謎解きの過程も素人丸出しですが、猿山女史のキャラがユニー
クだし、いかにも昭和20年代の女性作家の作品らしくて楽しい。
(承前)
次は凡作。
鳥井及策「晴れて今宵は」△、神戸のチンピラ健太。仲間を殺したと訴えるも、アリバイがあると警察に
相手にされず釈放。真相は・・・。車六先生なる名探偵も登場しますが、説明不足の凡作。
隠伸太郎「悲しき自由」△、これも神戸が舞台。港湾労働者の事故死の意外な真相を扱っており、独特の
雰囲気は良いが謎解きとしてはお粗末な出来。
木下義夫「砒素」△、密室状況での砒素中毒死。どうやって服毒させたか?がポイントですが、こんな
知識を持つ読者は稀でしょう。知らんがな。
明内桂子(四季桂子)「伝貧馬」△、病気で殺処分される競争馬が男を蹴り殺した事件にダイヤモンド紛
失事件が絡んできて・・・。うーん、ホームズ物のアレの焼き直しで凡作。
豊田寿秋「月蝕」△、新任の婦人警官がプレーボーイの巡査に誘惑されるが実は・・・。遺書のトリックが
ミエミエでダメ、ピカレスクな結末は良かった。この作者の「草原の果て」は「密室探求・第1集」にも
採られた密室トリックの名作だったけど・・・。
361 :
名無しのオプ:2014/11/05(水) 00:05:25.35 ID:rZD3ijR+
「草原の果て」なつかしいですね
「密室探求・第1集」の中でも印象に残ったほうだ
362 :
名無しのオプ:2014/11/26(水) 03:47:36.20 ID:y6o6eLD6
ほ
363 :
名無しのオプ:2014/12/20(土) 00:45:27.66 ID:oMq4nnhQ
風見潤の死亡がほぼ確実になったらしい
364 :
名無しのオプ:2014/12/20(土) 02:14:11.60 ID:4/51xukW
発覚の切っ掛けが寂しすぎる・・・
365 :
名無しのオプ:2014/12/20(土) 20:06:36.90 ID:vqaIHoFC
kwsk
366 :
名無しのオプ:2014/12/20(土) 20:24:59.19 ID:W/fOYa/v
あーやのツイート
367 :
名無しのオプ:2014/12/21(日) 01:13:14.89 ID:VtLZrjYv
368 :
名無しのオプ:2014/12/21(日) 01:34:07.15 ID:tuiW5mu4
北原のTwitterアイコン見ると吐きそうになる
369 :
名無しのオプ:2015/01/15(木) 15:21:20.15 ID:F2/6GChF
ほ
370 :
名無しのオプ:2015/01/22(木) 19:36:54.36 ID:QxscniGx
陳舜臣 老衰で死去 享年90歳
ご冥福をお祈りします。
「方壷園」読まなきゃなあ……
371 :
名無しのオプ:2015/01/23(金) 02:33:35.35 ID:hRhCX9fo
中公で中国歴史短編全集みたいなの出してるんだな。今後文庫で何か発売されるかも…
372 :
名無しのオプ:2015/01/23(金) 15:57:24.58 ID:cjqYGV7G
とりあえず講談社は初期作品の復刊を
373 :
名無しのオプ:
あげ