◇◆★邦楽バトルロワイヤル★◆◇

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大きな店内に鈍い銃声が響き店の扉が開かれる。銃声は扉の鍵を壊すための物だったらしい。
扉の開かれたそこには、右手にデザートイーグルを携えた桜井和寿が立っていた。
桜井は懐かしげに店内を眺めながら店の奥へと歩を進める。
更にその桜井の後に続く影があった。清春だ。
桜井は無言のまま店内に幾つもある大きな円形のテーブルの一つ近付き、
机の上に逆さまに置かれた椅子をいくつか放り投げた。
そしてできたスペースに清春の方を向いて座り、やっと口を開く。
「ここならいいだろ?話すにしても殺し合うにしても。」
それを聞いた清春は、立ったまま何とも言えないような表情を見せた。

ここで時は少しだけ遡る。

この店の前で清春は以前立ち寄った時を思い出していた。
この中華料理店はよく取り上げられるような有名な店なのである。
「そういやこの店の料理って…」
「高いクセにえらい不味いんだよな。」
「!!?」
誰かの声が背後で自分に合わせた。

全く予期しなかった声に清春は懐からグロック34を抜きながら弾かれるように振り向く。
だが無防備なまま立っている桜井を視界に捉え、グロックは途中で止まった。
自分が生き残るために桜井も殺さなければならないし、当然そのつもりだったのだが
色々思い出していたせいで思わず手を止めてしまったのかも知れない。
そんな戸惑う清春を横目に桜井は扉に向かうと手に銃を持ち店の扉に向ける。
二度の銃声の後、扉が開くことを確認した桜井は清春の方を向き直った。
「清春さん、中入りなよ。」
それだけ言うと桜井は店へ入っていく。
清春は複雑な感情を抱きながらもなんとなく桜井の雰囲気に押されその後に続いた。
一応手持ちの二丁の銃の存在を確かめて。
「で、君何人くらい殺したの?」
桜井は昨日の夕飯の献立でも聞くかのような調子で清春に問い掛けた。
「い、いや、何人ってオレそんなに殺してないよ!」
清春は慌てて否定して見せた。そんな清春の態度に桜井は笑みを漏らす。
「ハハッ、そうやって何人騙したかって聞いてんだよ、役者さん。」
「………やっぱバレてるんだ?桜井さんには敵わねぇなぁ。」
清春はイタズラのばれた子供のような顔を見せた。これも半分演技かもしれないが。
「…知ってる奴の嘘ってのは結構分かるみたいだな……」
不意に桜井は伏し目がちになり呟く。
「何かあったの?」
「……何でもないよ。それで君は誰殺したの?」



「福山?彼もつくづく運が無いヤツだよなぁ…」
清春の報告を一通り聞いて、しみじみと桜井は首を左右に振る。色々思う所があるようだ。
「運って言うか何て言うか(苦笑)ま、あのマヌケな死に方、仮にも福山雅治とは思えなかったけどね。
 それより桜井さんはどんな感じなの?」
福山への一応のリスペクトのせいか清春の言葉を桜井は少しきつい表情で咎める。
「おい『それより』って言い方はねぇだろ。」
「あ、ごめん。いや正直スマンかった(笑)」
桜井は仕方なさそうに小さく溜息をついた。
「…やれやれ、もういいよ。しかしこのゲームで一番元気なんじゃないか?アンタ。」
「かも知れないね。で桜井さんはどうなんだ?」
清春はどんどん調子が上がってきているらしい。
「俺は…」『ギィィ』「!!」
桜井が言いかけたところで店の扉が軋みながら開いた。
二人が反射的に銃を向けたそこには、こちらに銃を向ける桑田佳祐がいた。
「あれえ?桑田さんじゃ〜ん!ホントに生きてたんですね!入って来てくださいよ〜。」
桜井は銃を下ろし、場に似つかわしくない程の笑顔を浮かべて桑田を招いた。
覚悟を決めて店に踏み込んだ桑田は勿論、一緒にいた清春も驚いている。
「ほら、清春さんも桑田さんも銃下ろしましょうよ。たまにはゆっくり話しません?最後になるかも知れないんですし。」

桑田は桜井のマイペースぶりに勧められるまま席に着き2人に松本や宇多田との事を話した。
YOSHIKI達のことは2人に迷惑が掛かる可能性を考え伏せておいた。
「…へぇ〜吉井さんにヒッキーかぁ。」
「やっぱりみんな頑張ってんですね。松岡も動いてるみたいだし。」
「他人事みたいに言うなよ。清春さんも大概だろ?」
「いやそうだけどさ。あ、俺まだ桜井さんの話聞いてねえよ。」
「うるさいな。わかってるよ、次話すって。」
桑田の話に反応した二人のやりとり。まるで下積み時代の音楽談義のようだ。
ふと桑田の脳裏にそんな懐かしさが去来する。口には出さないが桜井も人恋しかったのだろう。
「こんな状況」なら無理も無い………こんな状況?
桑田はやっと現実を思い出す。いま自分たちが巻き込まれているふざけたデスゲーム。
目の前で楽しそうにしている二人はその話をしているのだ。
今生き残っている者は皆人殺しだ。だがそれぞれのスタンスから大別して3種類の人間に分けられる。
シカオの様にこのゲームを真っ向から否定し殺人を拒否しながらもある種の偶然で生き残っている者、
YOSHIKIや桑田の様に否定はするがある部分を受け入れている者、
そして基本的にこのゲームを肯定する者。宇多田、そして目の前の二人のように。

既に懐かしさは影を潜めた。それと同時に懐に挿した二丁の銃が質量を増していく。
「……さん!ねえ桑田さん、聞いてんすか?」
「えっ?…あぁ桜井君、どうしたの。」
「どうしたじゃねぇっすよ。ボーッとして話聞いてないじゃないすか。やっぱ松本君の事思い出した?」
「えぇちょっと、ね…」
(違うんだ、桜井君…オレはこれから君と清春君を…)
「………殺すんだ。」
桑田は銃を抜いた。様々な想いと共に。
場を静寂が支配している。
魂はジョン・レノン、才能はボブディランを自称する男の両手に握られた黒い鉄の塊がそれを強要していた。
塊の先端が捉えた先で二人の男はそれぞれの表情を見せる。
桜井はいくらか驚いた顔をしていた。だが清春の表情には妙な含みがあった。
「随分余裕だな、清春君。」
桑田が口を開く。
「まぁ、ね。昔取った杵柄ってヤツかな?人の表情見るのは得意だし。」
返す清春の顔には笑みが浮かんでいる。銃口を向けられた事に対する緊張も多少はあるようだが。
「…でも桑田さん、それ安全装置外れてませんよ?」

「!」
その言葉に桑田は視線を下ろし清春に向けている銃、マカロフPMを見た。
考えればhitomiの遺体から入手してから一度も使っていない事を思い出したからだ。
しかし安全装置などどうすればいいのか全く知らない。
そこで一つの疑問、清春は本当に銃について知っているのか?答えはすぐに出た。
「桑田さんってほんっとに素直なんだから(笑)」
視線を戻したときには清春も桑田と桜井の両方に銃を向けていた。はめられたのだ。
清春はたっぷりの余裕を顔に出しながら続ける。
「これで桑田さんとは五分ですね。不利なのは桜井さ…アレ?」
いつの間にか桜井と清春の間に大きな銃があった。デザートイーグルだ。
「…バレてた?」
「今のはちょっとな。そんな三文芝居じゃ桑田さんしか騙せねぇぞ。」
それまでのくだけた表情は桜井には既に無かった。
桜井は右手のデザートイーグルを清春、左手にFNファイブセブンという銃を桑田に向けている。
そのことで三人の間にはそれぞれの伸ばされた腕と銃によりいびつな三角形が出来ていた。
店内の空気が張り詰めていく。
今まで無かった、というより全員が隠していた緊張感が一気に噴き出し、
場の空気を目視できそうな勢いで塗り替えていった。
そして耳に痛いほどの沈黙。三人ともが残りの二人に、二人の向ける銃口に目を走らせる。
その状況で清春が口を開いた。

「でもいいのかな?桜井さん。その銃片手で撃てるの?反動スゴイでしょ。」
「……確かにえらい反動だったね、さっき撃ったけど。じゃあ撃てるかどうかお前の身体で試そうか?」
「…………」
そしてまた沈黙が訪れ、誰も動けずにただ時間だけが過ぎる。
店内には時計も無く時間の経過がわからない。
まだ5分も経っていないような、30分以上続いているかのような心地悪い沈黙は続いた。
全員が額から汗を流す。蒸し暑い店内と緊張が余計に発汗を促した。
そんな時に不意に物音が聞こえた。一度だけなら全員が幻聴だと思ったかも知れない。
だが物音は店の奥から確実に三人のいる所へと近付いていた。足音だ。
一番最初に桑田の顔色が変わった。足音の主を見たのだ。
続いて清春。完全に桜井の背後から足音は聞こえていた。
振り向くに振り向けない状態に桜井は苛立つ。
そんな桜井の心中を察したわけではないのだろうが桑田はその人物に話しかけた。
「なんであんたが…ここにいるんだ……民生……。」
707 :02/02/06 01:56 ID:6HSSfpGZ
ついに民生登場!
ある意味一番華のない役だったんでちょっと残念に思ってたんだけど。
ここで出てくるとは、この後に期待。
708名無:02/02/06 01:58 ID:sZy/KgUj
更新されてるウヒャッホイ!おつかれさま!
709名無しのエリー:02/02/06 12:28 ID:5n7xg6I2
更新感謝あげ
710名無し:02/02/06 17:28 ID:kQD9Vy3C
更新感謝。
緊張に次ぐ緊張!!
711名無し:02/02/06 17:55 ID:9BK+ixjq
おお、更新されてる
もうちょいペース早かったら嬉しいんだけどな
毎日更新してくれ

アンチミスチルなんで桜井死んで欲しいな
712 :02/02/06 18:16 ID:kxHKYoKF
>>711
ゼイタクイウナヨ
713名無しの711:02/02/06 19:00 ID:9BK+ixjq
>>712
すまんこ

あくまで希望なんでマイペースでやってくれ、1さん
714 :02/02/06 23:07 ID:GadNHT9o
おもしろい
一気に読んでしまったYO
715名無し:02/02/07 12:37 ID:wapu8hSK
レス数を気にしながらage
716_:02/02/07 13:12 ID:9Eu3E4QH
すげぇな。
桜井好きなんで殺さないでくれー。
(と対立してみる)
717   :02/02/07 13:25 ID:MiB14s29
桜井氏の運命は1さんに任せます……。
(と中立してみる)
桜井は驚きのあまり今の状態も忘れ振り向いた。とはいえ他の二人ももう忘れていたが。
そこには確かに奥田民生が立っていた。迷彩のアーミールックに身を包み粘り気のある笑顔で。
民生の存在を確認した桜井は一瞬間を空けた後言った。
「民生さん何でそんなカッコイイ迷彩服着てるの?なんかベトナム兵を彷彿とさせるんだよなあ、その格好と民生さんの顔がマッチして。」
清春は笑いを堪えきれずに軽く吹き出した。
だがそれでも笑みを崩さない民生に気味悪さを感じ桜井達の表情はやや固まる。
そんな場の雰囲気にも冷静なまま桑田は民生に聞いた。
「なんであんたがここに居るんだ?」
「君らに餌になってもらおうと思ってね。」
「餌?…どういう意味だ。」
「分かりやすく言うと、お前らに死んでもらうって事だ。」

今この場に居ること自体が不思議な男から聞かれた意外な台詞に全員が身構える。
そのまま桜井はデザートイーグルを民生に向けた。もちろん両手で。しかし、
「桜井さん!銃はヤバいって。足元足元!」
清春の声に止められ視線を落とした。そして民生の足元の2つの物体に気付く。
業務用の5キロLPガスボンベ。民生に気を取られ気付いていなかったのだ。
「そうそう、銃はやめといた方がいい。とっくに厨房はガスが充満してるしこっちにも来てる。
 そろそろ匂って来てるだろう。」
桜井は鼻に意識を集中して空気を吸い込んだ。微かに、だが確かにガスの匂いが混じっている。
「チッ、大分前に裏口からでも入ってきてたな。」
舌打ちしながら仕方なく桜井は銃を懐に仕舞った。その様子に民生の笑みが更に粘り気を増す。
「正解。ずっと様子は見てたよ。ガス臭くてちょっとキツかったがね。」
「それよりさっきの死ねってのはどういう事だ。殺し合いをさせてるのはテメェらだろうが。」
桑田が口を挟んだ。民生はそんな桑田を鼻で笑ってから答えた。
「…あのなぁ、お前らの生き死になんざどうでも良くなったんだよ。そんな事より100倍大事な用事ができてな。」
「ハァ?何言ってんのアンタ。つーかアタマ大丈夫?」
清春は呆れ顔で民生を馬鹿にした。だがまるで民生の耳には届いていないようだ。
「『あの男』を殺す為には俺の手にしっかり血をつけとかなきゃダメなんだよ。
 狂気が足りないんだ今の俺には。お前らはそれを補う餌なんだよ、分かるだろ。」
さっきまでは常人の物に見えていた民生の目がみるみる狂気を帯びていくのが分かる。
そしてそれに併せて口元の笑みが亀裂のように広がっていく。

「んなもん分からねぇよ。」
桜井は腰からサバイバルナイフを抜いた。それを見て民生は笑う。
「あぁ、それで拓郎を殺したんだっけな。あと布袋や氷室も殺ったし、恩を仇で返しすぎだろ、全く。」
桜井以外の二人の顔が強張る。特に桑田は驚きを隠せずにいた。
よりにもよって先輩と言える拓郎を桜井が、しかも3人も殺していたことに。更に民生は続けた。
「でもその後がダメだ。ぱったり殺せなくなりやがった、このヘタレが!
 ちょっと優しい言葉かけられたくらいでせっかく貰ったチャンスをドブに捨てやがって。
 お前らがそんなだから陽水さんがゆっくり隠居も出来ない。」
「何言ってんだか。アゴはただのでしゃばりだっつーの。」
不機嫌な顔で清春が言った。その清春を民生は鬼のような形相で睨む。
「お前らは何も分かってない。長年『井上陽水』を見ながら少しも、だ。
 『井上陽水』を超える男が居れば陽水さんははあっさりその座を譲ったんだ。
 だが一向に現れやしない。この先もまるでその気配が無い。どれだけあの人が無理をしているか…。」
民生の眼から涙が溢れた。だが清春はさっぱり理解出来ずに困惑している。
「陽水さんは誰かを、『井上陽水』を殺せる誰かを待っている。
 俺は随分遠回りしたがやっとそれに気付いた。しかし全てが足りない。及ばない。
 神と悪魔の棲む『井上陽水』には。だからこそあの男を超える物が要る。」

「その為に俺たちを殺す事が必要だってことか。くだらねぇ。」
言い終わると同時に桜井は民生との間合いを一気に詰め、民生の胸を目掛けナイフを突き出す。
「少しは理解出来たらしいな…一応天才と言われただけはある。」
だが民生は喋りながら、桜井の突き出した右手を左手の甲で払い
右手の人差し指と中指を桜井の二つの眼球にめり込ませた。
「〜〜〜〜っ!!!!!」
両目を突かれ、桜井は痛みに声すら出せずに地面を転がる。
「狙いはいい。銃もそうだが的の小さい頭部にそうそう素人が当てられるもんじゃないから、なっ!」
続けて民生は、言い終わりに併せ桜井の横っ腹を蹴り上げた。桜井は更に悶絶する。
「ただやはりネックはその膝だな。踏み込みにスピードも勢いもまるで無い。問題外だ。」
民生の表情はいつの間にかこの上なく冷徹に変貌していた。
さっきまで笑い、怒り、泣いていたとは思えない程に。
民生はうずくまる桜井に一瞥もくれずサバイバルナイフを拾い上げた。
そしてポケットから別のナイフを出しその刃の先を桜井に駆け寄ろうとする桑田に向ける。
次の瞬間にはその刃は桑田の腹部に突き立っていた。
スペツナズナイフ――刃の部分を飛ばすことの出来る殺傷能力の高いナイフ――だ。
何が起こったか分からないまま桑田が倒れこむ。
「!!?」
清春も桜井も驚きに固まった。だが民生はさも当然と言わんばかりに吐き捨てる。
「そんなに驚くなよ。その人に支給された武器は青酸カリの毒薬と釣り糸なんだ。
 それでどうやって戦う?必殺仕事人か(笑)
 それに俺の相手にそんなポンコツは要らないから仕方ないだろう。」
「ポンコツ?」
言葉の意味が分からず清春は聞くともなしに呟いた。
「あぁお前らは知らなかったんだったな。その人はどの道もうじき死ぬんだよ、ガンでな。」

「……ガン?」
清春は戸惑う。誰の事だ?桑田?でも桑田はこの間も普通にテレビに出ていたじゃないか。
「表向きは内臓疾患だったな。でも本当はあちこちに転移して手遅れになったガンなんだよ。
 でどうせなら最期までステージに上がりたいなんて言ったらしいぞ。あえて今ソロ活動してるのもそれが理由らしい。
 会社のビクターにとっちゃ迷惑な話だよなぁ。いつ死ぬか分からんのに。でも人気考えりゃそうそう断れんしなぁ。」
清春は桑田を見た。桑田はなんとか起き上がり壁にもたれかかっている。
そのナイフの突き刺さった腹部は絶え間なく血を流し、素人目にはとても大丈夫とは思えない状態だった。
「なぁ清春、hydeの死体から持ってきたポン刀があるだろう。そんな奴はいいから早くかかって来い。」
「…ケッ何でも知ってんだな。でも別にここでやり合う必要はねーんだよ。」
清春は背後にある店の出入り口に目を向けた。そう、外に出ればいい。そうすればガスは関係無くなる。
しかしその考えも見透かしたような民生の笑い声に遮られた。
「ハハハ、そこの扉なら開かないぞ。外から閉めさせといたから。」
「折角高い税金払ってるんだ、使えるものは自衛隊でも使わないと。」
そう言って民生はトランシーバーを手に持って見せる。自分が命令して閉めさせた、と言いたいらしい。
「これで自分の置かれた状況が分かったか?。この店には窓も無い。
 変に高級ぶった店の造りが災いしたなぁ、アハハハ。」
心底楽しそうに笑う民生を尻目に、清春は鬱陶しそうに顔をしかめ舌打ちしながら
デイパックの中の日本刀を一息で鞘から抜いた。
ここまで思い付く限りの策で生き延びてきた清春の考えは全て民生に見抜かれている。
それでも清春の顔はまだ余裕を漂わせていた。
「良かったねぇ、自衛隊をアゴで使えてさ。陽水のおかげだけに(笑)
 でも民生さんさぁ、俺の趣味が『剣術』って知ってた?」
清春は刀を構える。その佇まいから先程の言葉が虚勢でないことは容易に見て取れた。
だがその清春を見て民生はサバイバルナイフを地面に放り捨てた。
そして民生は丸腰のまま、清春に向かって無言の上に薄笑いで手招きをした。

民生の挑発に清春の顔が不快感に歪む。いや正確には『そう見えるように』演技をした。
普通なら清春は挑発する側の人間である。だからこそ冷静に考えることが出来た。
奥田民生という人間は自分と同じく計算高い。それはあの男が今の状況を作り出したことからも実証されている。
つまり何の打算も無く丸腰になるような男ではない。さっきは桜井を素手であしらった。
しかし何か、恐らくスペツナズナイフ以上に性質(たち)の悪いものがあるとほぼ確信していた。
だから敢えて挑発に乗り手の内を探る、その為の演技なのだ。
刀を持つ手に力を込め、冷静さを欠いたフリで民生に走り寄る。
勿論民生に妙な動きがあった時には反応できるよう気配りは忘れずに。
しかしあと2mのところまで迫っても民生は身構え以外の動きを見せない。
清春はそのまま民生に切りかかった。横薙ぎに振られた切っ先が民生のがら空きの脇腹に達しかける。
だが清春はそこで刀の軌道を止め攻撃を突きに切り替えた。
民生が防御すらしないことから清春は恐らく防弾チョッキでも着込んでいると予想した。
そして防弾チョッキの類は刃物で突き刺される場合には殆ど役には立たない。
だからこそこれで民生を殺せる…筈だった。
刀の先端は清春の読みも虚しく民生の大きな腹で止まっている。予測は見事に当たっていた。
ただ惜しむらくは、民生の身に付けた防具は渾身の突きすら通さないほど強力な物だったことだった。

次の動作を起こす前に右手で服の首元を掴まれ思い切り民生の方に引き付けられる。
その次の瞬間には民生の左肘が清春の側頭部を捉えていた。
瞬時に打点をずらした為こめかみには当てられずに済んだが衝撃が側頭部を突き抜ける。
一瞬思考が停止し足が制御を失い倒れそうになる。しかし民生の手は首元を持ったままそれを許さない。
更に膝を地面についた清春の鳩尾に民生は右膝を叩き込んだ。
鳩尾に受けた衝撃で清春の思考が戻る。だがその代わりに訪れた息も出来ない痛みに襲われた。
「…ぅぁぁっ…ぇふ……ぁぐぅ…」
呼吸どころか咳も出来ずに地べたに這いつくばる清春を見下ろしながら民生は満面の笑みを浮かべた。
「…ぐほっ……ゴホッ、ゴホ…てめ……汚ね…ぞ……ぐぁっ!」
ようやく呼吸が戻りだした清春の背中を踏みつけ、民生は再び怒りに満ちた顔になり胸元を親指で指した。
「本当にバカだなお前は。汚い?銃弾も刃物も通さねぇこのスーツがか?騙しなんざやって当然だろうが!
 俺が殺すのは『井上陽水』だぞ?あの男には何でもありなんだ!こんなもんで足りるかよ!」
民生は清春を一喝すると桜井にしたのと同じように横っ腹を蹴り上げた。清春が痛みに転がる。
そして民生は清春に近づき拾い上げた日本刀の先端を清春の肩口にゆっくり押し込んでいった。

「ぐぁあぁっぁぁ!」
清春の肉の感触を刀伝いに右手に味わい、民生の快感は沸点に達する。
「アッハッハッハッ これだよ。俺が欲しかったのはこの感触なんだよ。もっとだ、もっと味わわせてくれ。」
民生は清春の肩から刀を引き抜くと最高の快楽を得るために刀を振り上げた。
「いい加減にしとけこのサド野郎!」
残念ながらお楽しみは突然背後から飛んできた椅子によって阻まれた。民生は前のめりに膝をつく。
怒りの表情で振り返った先で今椅子を投げた桜井が店の出入り口の前に立っている。
そしてその背後の、民生が命令して封鎖させた筈の扉は何故か開いていた。
数分前――――桜井は痛む右膝を庇いながら椅子を支えに立ち上がる。
民生と対峙する清春を手伝わねばと思ったがその前に桑田の様子を窺うために振り返った。
だが桑田はさっきまでの場所にはいない。驚いた桜井がさらに見回すと、
血を流しながらも壁にもたれて立ち上がり、民生に閉ざされた筈の出入り口へと向かう桑田が見えた。
[ さっきの民生の言葉が聞こえなかったのか?腹刺されちゃ仕方ないか… ]
桜井は仕方なく方向転換して右足を引き摺りながら桑田を追いかける。
この時にはさっきまで銃を向け合っていたことなどすっかり忘れていた。
「ねえ桑田さん、ドアは開かないんですよ。じっとしててください。」
ドアの前で桑田に追いついた桜井は声をかける。だが桑田はそれを無視して扉の取っ手に手を掛けた。
「おい!桑田さん…」
「ゴホ…聞こえてるよ…でも口で言ってただけだろう…」
「そうは言っても桑田さん……!」
桜井の口が止まる。桑田が少し押しただけ両開きの扉の間に隙間が出来たからだ。
僅かに出来た隙間から外の光が差し込む。
その縦に真っ直ぐに伸びた線は一ヶ所、真ん中のあたりが欠けていた。丁度表側の取っ手のあたりだ。
この様子から桜井は予想した。この扉の取っ手は太い棒状の物なのだが、
どうやらこの扉は今左右の扉の取っ手に何か棒のような物を渡してあるだけではないかと。
もしそうなら杜撰な仕事だ。まず民生の指示通りではないだろうがおかげでここを出られる。
桜井は桑田を扉の横の壁にもたれさせると、痛みを堪えて距離をとり助走をつけて扉の中央に体当たりした。
何かが弾けるような音が鳴って扉は拍子抜けするほど簡単に開く。
見れば3cm程の太さの細い棒が二つに折れて地面に落ちていた。
棒の残骸を眺め、すっかり民生の口車を信じきっていた自分に桜井は軽く苦笑いした。
「清春、早く来い!ここを出るぞ!」
桜井の声が響く。清春は身体を起こして状況を把握し立ち上がろうとしたが、
既に民生は立ち上がり今にも桜井達の方へ向かおうとしていた。
「ふざけやがってあの(自衛隊員の)ボケが!後でブッ殺してやる。」
だが走り出そうとした民生の右足の甲に痛みが走る。
足元を見ると清春が、さっき民生の捨てたサバイバルナイフを靴の上から突き刺していた。
「ぐぅ……清春ぅぅ…」
「へっ足の先までは着込めなかったみたいだな。とりあえずさっきのお返しさせてもらうぜ。」
清春はナイフを抜こうとしゃがんだ民生の顔面に蹴りを入れ、素早く立ち上がって出口へと走った。
「おい桑田さん、出ますよ。立てますか?」
桜井は桑田を立ち上がらせようとしていた。
桑田の顔色は土色になっており、額には大粒の汗が浮んでいる。
桑田の肩に手を回した所で桑田はかなりはっきりした口調で桜井に呟きだした。
「…なぁ桜井くん…」
「なんですか?大丈夫ですか?」
「布袋らを殺したとき…どんな気分だった?」
桜井は言葉に詰まった。あの時の、布袋と氷室を撃ったときの光景が甦る。
自分たちに銃を向ける桜井に笑いかける二人。身体を気遣ってくれる二人。
あの後から桜井の銃を握る手は明らかに鈍っていた。民生に対してもどこか本気になれない部分があった。
後ろめたさが桑田の言葉でくっきりと浮かんでくる。なんと言えばいいのか答えに窮する。
「二人とも早く、民生が来るって!俺先に出るぜ。」
出入口まで来た清春の声に桜井は我に返った。そしてとりあえず桑田を連れて出ようとする。
だが桜井を真っ直ぐ見る桑田の目は答えを待っていた。それを聞くまで動く気は無いらしい。
桜井は仕方無く溜息をつき呟くように答えた。
「…拓郎さんの時は正直何とも思いませんでした。布袋さんらの時は……最悪でした。」
その言葉を聞くと、桑田は釣り糸と紙切れを桜井に手渡して言った。
「外からこの糸でドアを開かないようにしてくれ。もう裏口は閉めてある。」
言葉の通り、桑田は店に踏み込む前に中の人間を裏口から出られなくするために
釣り糸で裏口のドアノブを近くの電柱と何重にも固く結び付けておいたのだ。
まさか中に民生も居るなどとは知らなかったが。
「ちょっあなた何言って…」
立ち上がった桑田は言葉を待たずに桜井を外へと突き飛ばした。
「おい!桑田さ…」
「うるさいぞ桜井!!オレは桑田だ!オレの死に場所はオレが決めんだ!
 お前は黙って俺の言う事聞けばいいんだよ!分かったか!?」
桑田は桜井の言葉をかき消すように叫んだ。
腹に刺さったナイフを抜き、胸元から出したハゲヅラをかぶって、桜井に背を向ける。
「桑田ぁどけぇ!」
更に走ってくる民生の顔面を拾った椅子で殴り飛ばした。
だがそれと同時に桑田の腹部から勢い良く血が吹き出し、流れ出る血が勢いを増す。
それでも桑田は両足を踏ん張らせて地面に立ち尽くし叫んだ。
「桜井、早く閉めやがれ!ガスが無くなっちまうだろうが!」
桑田の最後の強がりが桜井には余計に悲しく映った。
「………このお人好しのバカオヤジが…」
桜井は苦悶の表情で扉を閉め、震える手で取っ手の間に釣り糸を何度も通し固く縛りつける。
もう眼の痛みなど忘れていた。空はまた雨を降らせていた。
「…これで終わりだな、民生。…ゴホッ」
咳を受けた手の平に血が飛び散る。その手を固く握りもう片方の手で拳銃を天井に向けた。
「桑田ぁ、やってくれるじゃねえかこの死に損ないが!
 それでも俺は死なねぇよ。お前如きに殺られてたまるかよぉ!」
今にも怒り狂わんばかりの形相で吐き捨て、民生は店の奥、厨房の方へと走っていった。
裏口が閉ざされているのも知らずに。
「今度はテメェが焦る番だ。オレが…グブッ…引き金を引くまで精々逃げ惑いやがれ。」
桑田の身体の限界を知らせるかのように銃を持つ手が震え口から血が溢れる。
「…畜生!なんで開かねぇんだ、くそったれがぁ!…」
民生の叫び声が響いてくる。しかしもう桑田の耳には届いていなかった。ガスの匂いももうしない。
明らかに全身の体温が下がっているのが分かる。天井に向けていた腕もいつの間にか下りていた。
目を開けているのも億劫だった。
ぼんやりした意識の中、目を閉じると妻の原由子の顔が浮かぶ。
もう陽水のことも民生のことも宇多田のことも吉井のことも、桜井や清春のことですらどうでもいい。
ただ彼女を置いて逝くことだけが心残りだった。
仕事でも家庭でもいつも一緒だった。
ガンだと宣告されたときも優しく支えてくれた。
そしてが二人の息子達のことも浮かんでくる。
せめて息子達が成人するまでは生きていてやりたい。
でも物心つくまで育ててやれただけよかったのではないか?
でも最初からこんな事に巻き込まれなければよかったんじゃないか?
でも…でも……
もう考えがまとまらない。妻子の顔にも薄い靄(もや)がかかってきた。
三人の顔が消える前にせめて一言言いたい。最も伝わる言葉で。

「…胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ 」
三人が笑ってくれた気がした。そしてふと右腕に感覚が戻る。ちゃんと別れを告げろと言うことなのか。

最期の言葉の代わりに桑田は引き金を引いた。
730:02/02/07 16:27 ID:UWNKVED3
正直、萌えた
731:02/02/07 16:42 ID:WzUu93/P
桑田カコイイ!!感動しました
732名無しの名無し:02/02/07 18:18 ID:H4MhH+eW
「…胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ 」
1さんナイスです!!(w
桑田さん萌えです・・・。
733名無しの711:02/02/07 18:34 ID:9UpgbXpY
更新感謝age

おもしれー
これで7人になるのか?
でも多分民生しぶとく生きてるな・・・で、桜井が敵討ちって感じか?
734ななし:02/02/07 18:43 ID:H7aRWXFW
仕事中だが…泣いた。
桑っちょー!!
735名無しのエリー:02/02/07 20:15 ID:qFchrKbr
桑田カコイイ・・・最高だよ。
プ板の方は見てないんだけれど、ひょっとして桜井=武藤?
だとしたら萌え(w
736名無しのエリー:02/02/07 21:33 ID:gJV9igfn
桑田〜…泣いちゃたYO!(´;ω;`)
死に際にハゲヅラ…!((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル
738名無しのエリー:02/02/07 22:31 ID:07qyWRwi
>>735
プ板のほうは桑田=蝶野なんだよ〜
両方カッコよすぎ。
739名無し        :02/02/07 22:42 ID:DaC/xhDx
く、桑田〜最高だよ、この人!!
740正直、桑田どうでもイイ。:02/02/07 23:36 ID:mraQWwqR
いよいよ吉井かぁ〜〜!?
741名無しさん:02/02/08 00:21 ID:aIrtR1RW
胸元にどうやってハゲヅラをしまっていたのか…。
742名無しのエリー:02/02/08 01:30 ID:Nf28CsZI
うわぁ〜ん、桑っちょー(/_;)
あんた、カッコいいよぉ!!
743emanon:02/02/08 01:58 ID:qRuztRWH
桑っちょ…
布袋&ヒムロックとセッションしてた映像を思いだして泣けた…。

ガンがリアルすぎる…(;゚Д゚)
744名無し:02/02/08 02:41 ID:9njm3Olb
桑田さん…カコ(・∀・)イイ!!
745名無しのエリー:02/02/08 11:08 ID:x0UyU5hK
>>738
マジですか?
やっぱりプ板の方にも逝ってみよう(w

ハゲヅラって、額に「G」とか入っているヤツだよね。
・・・スゲェよ桑田さん。
746:02/02/08 14:20 ID:KDdrwBFt
個人的に、鏡(桑田佳祐『孤独の太陽』より第5番)を献歌させていただきたい!w

俺が死んだら闇の銀河に誰を招待する?
光の中じゃ永遠に嘘はつけない
罪深き胸の人物のために
鏡よ君に語ろう Hey Na Na Na……

お粗末様でした。
747:02/02/08 14:34 ID:KDdrwBFt
すいません、実際問題なんですけど
ホームページサイトに移転するという作業
誰かお願いできませんでしょうか?
ホント厚かましいお願いなんですけれども。
別に編集しなくてもこのスレに直接リンクされるようにすればいいと思います。
748名無し野えりー:02/02/08 19:05 ID:7WK/JjWo
>747
このスレ1000こえたらもう新作うpできないよ?
誰か代行でサイトにうpするとしても、その内容自体1さんしか
知らないわけで。過去ログ保存の手段としてはオケーだけど、
問題はこのスレ以降の新作をどこでどうやって代行人へ渡すかだね。
ま、方法はいろいろあるけど。
749とりあえず ◆nlIuqPGI :02/02/08 20:47 ID:x64Cbjip
>747

作ってみました。

ttp://page.freett.com/jmbr/

まだ途中ですが。
こんな感じでどうでしょう?
750とりあえず ◆nlIuqPGI :02/02/08 20:49 ID:x64Cbjip
オッケーなら、残りも順次うpしますが。
751トルネード:02/02/08 22:35 ID:KplVwV6Q
age
752:02/02/08 22:51 ID:W+FyBt3R
>とりあえずさん

本当にありがとうございます!
もうありがたくてしょうがないですよ!
神降臨です、ホントに!
arigatai!!
753:02/02/08 22:53 ID:W+FyBt3R
>>748
1000いけば『2』を立てればいいだけですからご安心を。
754:02/02/08 23:17 ID:W+FyBt3R
>>ALL

あと一つ、重大な修正をさせていただきたいのですが。。。
最初のシカオvsつんく(つんくが中居を撃つシーン)
あそこのつんくを松岡に変えさせてもらいたいんです。
そうでないと後々のストーリーにつじつまが合わなくなるんです。
元からあそこは松岡の予定だったんですが、何を血迷ったのか
「松岡のシーン多いYO!」って思ってあそこは適当につんくにしちゃったんです。。。
755とりあえず ◆nlIuqPGI :02/02/08 23:46 ID:x64Cbjip
>752
いえいえ。

で。

>754
サイトの方はどうしましょ?
とりあえず、書き換えてみますね。
756とりあえず ◆nlIuqPGI :02/02/08 23:54 ID:x64Cbjip
う…、早速言葉遣いで詰まったYo!
松岡とシカオはどっちが年上?タメ語でもOK?
>>1さん、HELP!!(w
757名無しのエリー :02/02/09 00:18 ID:NgWnPnKC
>>756
1さんじゃないんですけど松岡が30歳でシカオが35歳です。
松岡は関西弁で敬語を使った方がいいのではないでしょうか?
758:02/02/09 00:27 ID:wOr5O2yw
>>756
757さんのおっしゃるとおりでお願いします。
そうそう、そういう微妙な言葉遣いを変えていかなきゃなんないんですよ(ワラ
書きなおす際にいつもやってるんですけれど。


759とりあえず ◆nlIuqPGI :02/02/09 00:42 ID:Mcp5dMZ3
>>757
ありがとうございます。
何とか頑張ってみます。
760名無しのエリーに首ったけ:02/02/09 01:21 ID:TympMFgu
>>759
アンタは えらい!!らびゅううう
761名無しのエリー:02/02/09 03:13 ID:Uzm7dmdI
小室さんは死んでしまってからはもう出ないですよね?なんか怖い役だったし、変なイメージ役でしたが楽しかったです(藁
762名無し:02/02/09 04:58 ID:bbAH+3C+
>>753

642 :名無しの希望 :02/01/28 23:47 ID:GdWWN77e
千スレ逝ったら、無料ホームページサイトに移転しようね。

の意味はここでするなという様にとれるんだが。
763名無しのエリー:02/02/09 05:04 ID:mBDxaOgk
>762
そうとれるよな。俺もそれが気になってたんだ。
764 :02/02/09 15:07 ID:Y73gxmfL
別にパート2スレ立てなくても>>1がとりあえずさんに
メールで送ってサイトにうpすればいいんじゃない
今までここ見てた人たちだったら更新されたか毎日見に行くでしょ
765保守:02/02/10 01:21 ID:fpyTkiAY
保守ります。
766age:02/02/10 13:41 ID:n/SrAa58
ageります。
767:02/02/10 14:35 ID:Mzo15Grd
>>764
正直、このスレ方式を続けさせてもらいたいんス。

ちなみにこれから貼る文章、作者さんのリアル追及と描写の多さが…う〜ん。
いや、こんな事言う資格ないんですけれど。。。
じゃあ貼ります!
昼過ぎから降り出した雨は強弱を繰返しながら続いている。

プログラム開始後、殆どの者が武道館から離れる一方だったが、人数が少なくなった現在、
危険だと判っていても武道館の近くに戻ろうという心理が働き始める。
松岡も例外ではなかった。
立入禁止区域を避け、雨脚の弱くなった隙を縫って少しずつ武道館近辺へと移動していた。

普段なら行き交う車の騒音や排気、隣接する鉄橋を忙しく通過する電車の音で騒々しい場所だが
現在は厚い雲に覆われた天空から堕ちる雨滴だけが、寂しく路上で跳ねている。
当然、普段なら行楽客で賑わう河川敷やサイクリングロードにも人陰はない。
遠くなった雷鳴―――自然の奏でる音だけが、この世界に残されていた。

対岸まで見通せる橋の上を、松岡はゆっくりと歩き始める。
小糠雨に煙る色褪せた景色を眺め、何かに想いを馳せるかのように。
それは春に見た満開の桜並木だったかもしれない。或いはこの地域の夏の風物詩である花火大会…。
どちらも目紛しく過ぎて行く月日に、季節の移り変わりを告げる役目を果たしていた筈である。
しかし本当の処、松岡の眼に何が映っていたのかは…判らない。

―――只、ゆっくりと歩いている。
プログラム開始以来、先制攻撃を常とした事が吉井をここまで生き残らせていた。
その代償として満身創痍ではあったが、精神的な疲労は感じていない。
打たれ強い体質であることに加え、皮肉にも『狂気』が原動力となって吉井を戦へと駆り立てる。

隠れ場所の医院を後にし、豪雨の中を闇雲に徘徊した吉井に天運は味方した。
弱まった雨脚に誘われるように姿を現した松岡を発見したのは一時間も前になる。
その後、隙を伺いながら尾行を続け…漸く機会を得ようとしていた。
武道館の方角に向かって移動する松岡の進路から二子橋を渡ることを推測し、
見失う危険も承知で尾行を解いた。
二子新地駅から東急新玉川線を伝い、隣接する二子橋をじっと凝視める。
雨に打たれるままにした身体の大部分は冷えていたが、
傷口からジワリと拡がる熱と内から滾る心がそれを補う。
普段、滅多に使わない鎮痛剤の効果はまだ持続していたが、念の為、追加した。
武器の確認を済ませ、標的の動向を再確認する。

―――眼下に松岡の姿が見える。
ゆっくりと持ち上げたボウガンの照準が、確実に標的を捉え…狂気の矢は放たれた。
ヒュン―――
背後から一陣の風が耳元を掠めたのと同時に、右頬にカッと熱が拡がる。
松岡は左に飛び退りながら振り返ったが、路上には相変わらず人陰はなかった。
ヒュン―――
ニ度目の飛来物の気配に、反射的にジュラルミンの盾を構える。
ガッと金属を弾く音と衝撃、
その方向に襲撃者を視認すると盾とジュラルミンケースを放り投げ
ベルトに挟んでいたグロッグを抜き2、3発連射する。
弾かれるように倒れた襲撃者の姿は、鉄橋の影に隠れた。
視線を固定したままグロッグを構え、用心深く襲撃者が倒れた辺りまで移動する松岡の顔の皮膚は、
右頬をジンと痺れるような痛みと共に雨とは違う暖かな感触が伝う。

神経を研澄まし気配を探るが、強くなり始めた雨と増水した多摩川の流れる音
そして再び近付いてきた雷鳴が視聴覚を鈍化させていた。
時間の流れが渦を巻くように、緩急の感覚が喪失する。
実際には僅か二、三分の間が、永遠にも思われ…

ヒュン―――
三度松岡を襲ったボウガンの矢が、手元からグロッグを弾き飛ばす。
「―――!」 
予想外の方向から襲撃に、常人なら降り返って相手を確認してしまう所だが
一瞬が命取りになる世界に身を投じていた松岡は、サッと前回転して追撃の矢を避け、
腰から抜いたS&W M629Cを構える。
鉄橋の上を匍匐前進しながら雷鳴の間隔を計り、吉井は光速と音速の時間差を読んだ。
絶好の機会を逃したものの、依然、勝機は自分にあるのだと信じる心が、怯む事のない行動を可能にする。
最接近した部分から二子橋に飛び移るという危険な行為も、その産物である。
雷鳴に合わせて気配を隠蔽し、着地点で転がるように受け身を取って衝撃を最小限に抑えつつ「ある物」に近付いた。
睨むように松岡を見遣り、悟られなかった事を確認した。
松岡は足元に転がったジュラルミンケースを手探りで開いて、『戦利品』の中から手触りだけで目的の物を選び取る。

吉井は無表情のまま、ボウガンを構え、無防備な松岡の側面を突いて攻撃を再開した。
片目という遠近感の狂いを勘で修正し、三本目、続けて四本目の矢を放ち松岡に向かって全速力で駆け出す。
グロッグを弾かれたものの、追撃から逃れた松岡がS&W M629Cを構え、迎撃体勢にあるのを視認すると、
吉井はボウガン本体を投げ付けて銃口を逸らし、一気に間合いを詰めた。

隙を突いて首を捕ろうとした吉井の動きを察し、松岡は寸前に首を抜く。
バランスを崩した吉井の後頭部に銃のグリップを叩き込み、
間髪入れず衝撃に沈んだ身体に膝を突き上げた。
まともに顎に入った蹴りの勢いで仰向けに倒れた吉井を跨ぎ、
松岡は容赦なく引金を引く。しかし寸前に足首を捕られ、体勢を崩した。

路上で跳躍した銃弾―――そこに吉井の姿はない。
揉み合いながら路上を転がる二人は、既にどちらも武器を手放していた。
己の肉体のみで相手に挑む。お互いが忘れかけていた「何か」を思い出しているかのように。
しかし現実は容赦ない。二人を支配しているのは「私闘」。
「トータス松本殺ったんやろ?!」 松岡が叫ぶように問う。
「河村隆一狩りは楽しんだか?」 吉井も叫ぶように問う。
その問いは応えを求めたものではなかった。各々が心に蟠った激情を吐き出したに過ぎない。

そうして死者への手向けのように、再び無言の格闘が始まる。

時間無制限の「死」でしか終わらない闘い。
文字通りの「死闘」はどちらが制してもおかしくなかった。
しかしこのプログラムの本当の終焉を理解していた分、松岡が有利であった。
生き残る―――それが最優先事項。
松岡は隙を突いてジュラルミンケースに駆け寄り武器を取る。
それは皮肉にも河村から奪われた武器、ブッシュナイフであった。素早く死角に入ると、松岡はナイフを降り下ろす。

潰れた右眼の死角を狙った松岡の攻撃は右肩を直撃した。
骨まで喰い込んだナイフの感触は、始めヒヤリと冷たく次の瞬間には燃え上がるような熱に変わる。
吹き出した大量の血は、既に余す所無く濡れていたシャツを染め上げ血塗れにした。
吉井の脳裏に様々な記憶が渦を巻き、膨れ上がった感情が胸を圧迫し…遂に「死」が自分を捉えた事を知る。
吉井は最期に自らを鼓舞させる為、獣の様な咆哮を上げた。
咆哮した吉井が血の吹き出す肩でタックルをかけ、
松岡は欄干に押し付けられた。
圧迫と、激しい雨でさえ流し切れない濃厚な血の匂いに一瞬息を詰まらせながら
横に払い退けると、吉井は無抵抗のまま、勢いで欄干を越えた。
「―――っ!」 反射的に伸ばした松岡の腕を掠め、吉井の身体は墜落する。
その瞬間の表情がどんなものであったのかは判らないが
僅かに口元が微笑していたように見えたのは…気の所為ではない。
その笑みが何を意味していたのかは、最早知る由もないのだが―――。

増水した多摩川の濁流に、吉井の姿は呑まれた。
虚しく宙を掻いた手を…松岡はゆっくりと握り締める。

―――何時の間にか遠離った雷鳴が、弔鐘のように響いていた。
西の空に浮かぶ雲がほんのりと赤らんでゆく…。
日中に降っていた雨はいつの間にかあがり、雲の切れ間から青空が垣間見える。
松岡の疲れは、心身共にピークに達していた。
それでも松岡にはやらなくてはいけない事があった。
――――倒さんと。まず、ヤツを倒さんと。
その一心が、疲れ果てた松岡を突き動かしていた。
約束をしたんや。aikoちゃんと…生き延びる、と。
そして音楽をするんや、と。
「あんたは音楽界に必要なミュージシャンだ」と言ってくれた、友の為に。
そして何よりも…音楽を愛する、自分自身の為に。

今はただ、この無益なゲームを終わらせなければならない。
最初で最後。本気で殺りに行く。ヤツらを殺りに。
まずは宇多田ヒカル…そして、諸悪の根源。井上陽水。
「…誰も殺らないなら、俺が殺ったる!」

とはいえ、宇多田がどこにいるのか全く見当がつかない。
たった一人の人間を探し出すには、このゲームのフィールドはあまりにも広過ぎた。
それに、宇多田を探してる最中に他の誰かに遭遇して戦う羽目になる可能性がある。
そう、今の吉井和哉のように。
無駄な戦いをしてこれ以上体力を消耗するのは避けたいが、相手がその気なら付き合わねばなるまい。
「今生き残ってるんのは…林檎、宇多田、桜井、シカオ、桑田…YOSHIKI…それと清春か」
(夕方6時の放送前なので誰が正午以降死んでいるか把握していない)
自分を入れて、あと8人。林檎、桑田、YOSHIKI、清春には、まだ一度も遭遇していない。
やる気になっているのは、宇多田と桜井。
桑田とシカオは、武道館での様子から察すれば穏健派であろう事がわかる。
YOSHIKIも…たぶん穏健派だろう。林檎はよくわからないが器用に仕事はこなせていないのは確かだろう。
「問題は清春や…」
穏健派の連中には全面降伏すればいいが、やる気なヤツにはそれなりに動かねばならない。
人の事を言えた義理ではないが、清春というヤツは考えている事がサッパリつかめない。
くわえてあの身体能力――――身軽な身のこなしに翻弄される可能性は高い。
…そう考えると、清春にだけは遭遇しない事を祈りたくなる。
そしてシカオ…降伏しても、はたして信じてくれるかどうか?
目の前で中居を殺ったのは自分なだけに…どうなるか。
「どうせ信じちゃくれへんやろな…」
今までの自分の言動のせいだと思うと、松岡は苦笑いするしかなかった。
「ま、最後は自分を信じるしかないわな…」
己の肉体と頭脳、そして今まで負けなかった運を信じて。

松岡は荷物を確認し、銃をベルトに差し直した。
土手に上がってジッと辺りを見まわし、様子を探る。
「――――こっちやな」
松岡は自分の勘を信じ、西に向かって土手を駆け下りていった。
776:02/02/10 14:53 ID:Mzo15Grd
age
エイジ
777名盤さん:02/02/10 15:17 ID:Mzo15Grd
>とりあえずさん

あっ、修正ありがとうございます。
778:02/02/10 15:18 ID:Mzo15Grd
>>777=1です。
779んん?:02/02/10 18:23 ID:ivmR2VgB
吉井死んだの?
780nanasi:02/02/10 19:18 ID:nKmR4LHy
林檎って死ななかったっけ?
781名無しのエリー:02/02/10 19:23 ID:pqaQ1ity
吉井〜(涙
782名無しさん:02/02/10 19:33 ID:qPFmbwQz
吉井いずこへ…
783名無しのエリー:02/02/10 21:23 ID:3lAHiSiQ
>780
夕方6時の放送前なので〜って、>774でフォローしてあるよ。
784 :02/02/10 21:57 ID:nHTFUqoH
文章力高いッスね。
吉井が川に落ちていくとことか最高。
二人の余分な会話がないとこがカッコいいって思います。

あと生き残りは・・・松岡、宇多田、YOSHIKI、シカオ、清春 かぁ
785名無しのエリー:02/02/10 22:27 ID:fkEZ919b
>>784
さ、桜井は?
786名無し        :02/02/10 23:49 ID:XaAcm8xz
松岡は宇多田と玉砕しそうな雰囲気。
787 :02/02/11 02:18 ID:Hdv5yziP
オモシロカタヨ〜
788【現在の生き残り:6人】:02/02/11 02:32 ID:MzgdcJLe

宇多田ヒカル、清春、桜井和寿、
スガシカオ、松岡充、YOSHIKI
(五十音順)

789:02/02/11 06:03 ID:DyGa4lru
清春の番外編として、今まで文章化されてなくて謎になっていた
vsチャゲ、vs西川貴教というのがございます。
タイミングを見計らってうpしますね。
790.:02/02/11 06:40 ID:E7xLRdWX
(・∀・)ii!!
791ななし:02/02/11 13:57 ID:x6J7oK5B
ドキドキage〜
792名無しのナンシー:02/02/11 18:26 ID:lBkquJUR
おつです
ではワクワクage
793名無しのエリー:02/02/11 21:38 ID:tY/q6ohx
age。
ちなみに「グロッグ」ではなく「グロック」です。
794名無しのエリー:02/02/11 23:56 ID:gjcS4VbP
読者の人数を数えるために出欠をとってみましょう
1!
795名無しのエリー:02/02/11 23:58 ID:bQybYwtX
煮!
796名無しのエリー:02/02/12 00:03 ID:wLe5/6ZJ
散!
797 :02/02/12 00:05 ID:G4g5EKul
屍!
798名無し:02/02/12 00:08 ID:KK3wH5x5
参!
799名無しのエリー:02/02/12 00:09 ID:Q1TybYP0
800テトラドトキシン:02/02/12 00:11 ID:umyyZCEq