飯田圭織がそばにいた生活

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1かおりんご
「もうおしまいだと言ったはずだ」

僕はできるだけ平然とそう言い放った。
2かおりんご : 2001/02/19(月) 01:56 ID:FxV9oHGo
圭織は目を伏せてじっとしていた。口を開く様子がなかったからドアを閉
めようとしたら、その隙間に細い手を差し込んできた。

「ちゃんと話し合いたいのよ!」

これだから馬鹿な女は嫌だ。論理的な対応が通用しない。

「近所に迷惑だ。大声を出さないでくれたまえ」

今にもまた叫びだしそうな様子だったから、仕方なく部屋に入れた。
3かおりんご : 2001/02/19(月) 01:59 ID:FxV9oHGo
圭織は床にぺたんと座った。僕は立ったままで、そっけなくこう言った。

「何しに来たんだい。僕たちはもう別れたんだぜ」
「私は別れたくないもの」
「君は本当に頭が悪いんだね。二人のうち、どちらか一方にその気がなけ
 れば、付き合いは成立しないものなんだよ」

圭織は座り込んでうなだれていた。僕はうんざりした。これは完全に時間
と労力の無駄遣いだ。

「仕方ない。では、改めてはっきり言うよ。君はとてもつまらない人間だ。
 僕にとって、君と付き合うメリットは全くない。以上だ。理解したら、
 帰ってくれ」

圭織の顔が歪んだ。ひどく傷ついているのだろう。しかし、立ち上がろう
とはしない。泣き出すんだろうか。
4かおりんご : 2001/02/19(月) 02:01 ID:FxV9oHGo
こいつのペースに乗ったらだめだ、と僕は自分に言い聞かせ、わざと抑揚
のない口調で言った。

「必要なら、もっと説明しよう。君とこうしていることも、僕にとっては
 時間の浪費にすぎない。君から得られる有益な情報は全く何もないの
 だよ。その理由は、スペアの利かない、誰にも真似のできない君だけの
 ものを、君が何も持っていないからだ」
「わけのわからないことを言ってごまかさないで。他に女でもできたのね…」
「君は話さなくていい。なぜなら、君がいくら話しても僕は楽しくはない
 からだ。こんなおしゃれが好きとかこんな人がかっこいいとか、世の中
 がこうなったらいいのに、とか。全部、同じフレーズがテレビや雑誌
 から見つかったよ。つまり君はぺらぺら本当によく喋るけれど、その
 言葉は全部誰かの受け売りだってことだ。全くもって嫌気がさすね」
「ひどいわ。人をさんざんもてあそんでおいて」
「その言葉も借り物なんだろうな。どこかの三流恋愛小説あたりからの」
「そんな……」
「黙りなさい」
5かおりんご : 2001/02/19(月) 02:04 ID:FxV9oHGo
圭織はうっと喉をつまらせ、それきり口をつぐんだ。ショックで喋ることが
できなくなったのなら助かる。しかしまだ理解してくれてはいないようだか
ら僕の方は話を続けることにした。

「言葉だけじゃない。君の容姿もだ。確かに君は女性として美しい方だ。
 付き合い始めの頃は僕も夢中になったものだ。しかし、その顔は君の
 ものじゃないだろう?」
「……」
「人気アイドルを真似たそのメークだって、君が自分で考えたものでは
 ない。ただ流行に乗っかっているだけだ。そう気付いてから僕は、君と
 見つめ合っても君とキスしても、全然楽しくなくなったってわけさ」

見ると圭織は両手で顔を覆っていた。声に続いて顔まで失ってしまった
ような様子だ。僕はその姿に背を向けた。

「服だってそうだよ。そのチェック柄が僕はとても好きだったけれど、
 でもそれも君が作ったわけじゃない。街で、君と間違えて同じ服を着た
 別人に声をかけそうになった時に気が付いた。君の肩を抱く時、君の
 ワンピースの色と手触りを感じて僕は幸せだった。しかし、それは、君の
 ものではなかった。デパートのバーゲンで買えるものだったんだ」

僕は変な気配を感じて振り返った。そこに白いものがあった。圭織の体だ。
服を脱ぎ、顔を覆って横たわっていた。声、顔の次に今度は服が消えたって
わけか。僕はふん、と鼻を鳴らした。

「裸になったって、僕の気持ちは変わらないさ。その体だって君だけの
 オリジナルではない。君と深い関係になってから、僕はずっと勘違いを
 していた。そして女の子の裸なんて、実はみんな同じようなものだって
 ことを知った。お金で、簡単に買えるものだってこともね」
6かおりんご : 2001/02/19(月) 02:06 ID:FxV9oHGo
圭織のすすり泣く声が急に大きくなった。
───しゅう
違う。それは泣き声ではなかった。圭織の体から白い煙が昇っていたのだ。
───しゅう、しゅう
圭織の全身が煙になっていった。そして数秒で消えた。服は床に残っていた。
拾い上げてみる。どこにでも売っているようなチェックのワンピース。
僕はそれをデパートで人目を気にしながら買ったような記憶がある。
いや、そんなはずはない。

ふと振り返るとそこに圭織が立っていた。いや違う。それはポスターだ。
圭織にそっくりな、アイドル。僕はその子の熱狂的なファンだった。

そういえば、ずいぶん長いこと外に出ていない……


=おわり=
7名無し娘。 : 2001/02/19(月) 02:34 ID:t0zPDbeQ
かおりむ・・・・
8名無し娘。 : 2001/02/19(月) 02:40 ID:F/FvwHZA
何か感じさせるものがある・・・と思うのは俺の気のせいか?
9名無し娘。 : 2001/02/19(月) 02:45 ID:G0gCefYI
>>8いや安心してよいですぞ。
10名無し娘。 : 2001/02/19(月) 11:37 ID:U9yWHLC2
age
11名無し娘。 : 2001/02/19(月) 12:28 ID:SwQ.raRk
ううむ・・
12名無し娘。 : 2001/02/19(月) 13:40 ID:iPNHf2aU
辛い・・・
13名無し娘。 : 2001/02/19(月) 13:46 ID:j70sRi7Q
したらかおりんご行くべ
14かおりんご : 2001/02/19(月) 16:51 ID:FxV9oHGo
読んでくれてありがとう!また思いついたら書きます。
15名無し娘。 : 2001/02/20(火) 00:56 ID:9c0RF8Ds
期待age
16かおりんご : 2001/02/20(火) 01:41 ID:LMva8FWA
「おはよう」

床にうずくまっていた僕はその声で目が覚めた。

圭織は、僕の部屋にいた。

「汚い部屋だろう?」
「そんなことないよ。おもちゃ箱みたいで、かわいいよ」

「あのさ、僕のこと……どう思う?」
「大好きよ。当たり前じゃない。私はあなたの物なんだから」

僕は1日に3、4回こんなことを聞く。僕の記憶はとても曖昧
で目を覚ますたびに、自分のこと以外はほとんど忘れてしまって
いる。しかし、圭織やモー娘。のことはおぼえている。

「ごめんなさい私、そろそろ仕事に行かなくちゃならないの」
「え、もういっちゃうの」

話を始めてまだ数分しか経っていないというのに。

「今日は、大事なレコーディングがある日なの」
「僕はそんなにつまらないかい」
「そんなことないけど」
「ふん、芸能人気取りしやがって。お前はどうせ、モー娘。の中でも
 一番人気がないブスなんだろ」
「……。さようなら」
「おい、待てよ」

僕は決心していた。今こそ、ずっと計画していたことを実行する時だ。
記憶の中で忘れていなかったあることを。


=つづく=
17かおりんご : 2001/02/20(火) 01:54 ID:LMva8FWA
すいません。今回はここまでにしときます。
18かおりんご : 2001/02/20(火) 02:57 ID:pRAAi/6Q
>>17訂正。つづきを思いついたのでまた書こうと思います。
19名無し娘。 : 2001/02/21(水) 00:16 ID:d4tOHtXs
>作者さん
小説総合スレッドに載せても良いですか?
20かおりんご : 2001/02/21(水) 02:03 ID:5AqxXDJs
おねがいします。
21かおりんご : 2001/02/21(水) 02:16 ID:5AqxXDJs
>>16
は続きを書くのをやめました。すみませんでした。
22かおりんご : 2001/02/21(水) 18:50 ID:M7OM7xbY
いまから、短編小説を書きます。読んだ感想をまっております!

題名「10年後のかおりんから」
23かおりんご : 2001/02/21(水) 18:53 ID:M7OM7xbY
目が覚めたらベットの上にいた。殺風景な部屋。どこかの病院の一室だろうか。
霞みがちな脳裏の記憶をまさぐる。そうだ。僕は喫茶店にいた。目の前に、
圭織……婚約者がいた。日曜の午後だった。僕たちはお茶を飲みながら、
将来の夢をいろいろと語り合っていた。そこから記憶が真っ白になっている。何が
起こったのだろう。思い出そうとすると頭が痛くなる……。

圭織はどうなったんだろう。僕だけが突然昏倒してここに運ばれたのか。それとも、
大きな爆発事故のようなものがあって、圭織も巻き込まれたのか。
24かおりんご : 2001/02/21(水) 18:54 ID:M7OM7xbY
起き上がり、体を動かしてみる。ひどいケガはないようだ。部屋にはベット
の他には流し台しかない。ドアは一つだけだった。外側から施錠してあるよう
で、動かなかった。大声で呼んでみたが反応はない。僕はだんだんと焦り始め
ていた。ドアを何度も足で蹴り、次に体当たりを試みようとしている時、
リリン、と音がした。
25かおりんご : 2001/02/21(水) 18:56 ID:M7OM7xbY
───リリン、リリン
部屋の隅に電話機があった。受話器を上げる。

「もしもし……」
「君か!」

圭織の声だった。

「今、目が覚めたところなんだ。これはいったいどういうことなんだ。
 君の方は、無事なのか」
「大丈夫。それより、よく聞いて。この電話は10年後からかけているの。
 今、私は29歳になっているのよ」
「おい、何をふざけているんだ」
「本当よ」

圭織の声は真剣そのものだった。
26かおりんご : 2001/02/21(水) 18:58 ID:M7OM7xbY
「じゃ、じゃあ僕は10年間も眠っていたってことか!?」
「違う。こっちの世界でのあなたは、10年間、元気に暮らしてきたわ。
 だから今の私は、あなたのこれから10年間のことを知っているって
 わけなの。あなたは学校を卒業すると、モー娘。商事という会社に
 就職する」

それを聞いて僕は驚いた。圭織は嘘をついていない。僕はプロの
ミュージシャンを目指していた。学校を卒業したら音楽活動に専念する、
そう圭織には言っていた。しかし、最近になって自分の将来に不安を感じて
いたのだ。そして実は先週、モー娘。商事の面接を受けてきた。そのことは、
圭織にはまだ打ち明けていなかったはずだ。

「こっちの世界では、あなたも、もう32歳なのよ。落ち着いて聞いて。
 これは魔法じゃないし、タイムマシンみたいな非科学的な話でもない」

圭織は、10年後の世界から電話をかけてきた!?そこに未来の僕もいる?
……混乱する僕をなだめるように圭織はゆっくりと話し始めた。
長い話だった。
27かおりんご : 2001/02/21(水) 18:59 ID:M7OM7xbY
まず、あなた自身の未来のことを教えてあげる。知りたいでしょう?
22歳のあなたは髪を切って、ネクタイを締めて、働き始めた。そして
私たちはすぐに結婚したわ。でも一緒の暮らしが楽しかったのはそれから
わずか1年足らずだった。サラリーマンになったあなたは、すっかりつま
らない男になってしまったのよ。働きながら音楽は続ける、なんて言って
いたけど、結局ギターに触ることはほとんどなくなった。

仕事の付き合いとかなんとか言って毎晩お酒を飲み歩くようになると、
あなたはすぐに太って、そして性格も考え方も変わっていった。酔っぱらって
帰ってきては、お前のために夢をあきらめたんだ、なんてわめいて私に
八つ当たりした。やがて暴力までふるうようになったの。

ショックだった。私はね、22歳の頃の、そうそこで私の話を聞いてくれ
ているあなたのことが好きだったの。でもその存在は、汚らしい中年サラリー
マンの、ぶくぶくに肥満し膨れあがった肉の内側に埋もれていったのよ。
私は、なんとか昔のあなたを掘り起こして、取り戻したいと思った。
28かおりんご : 2001/02/21(水) 19:01 ID:M7OM7xbY
ある日、私はあなたに頼み事をした。クスリを飲んでくれない、って。
あなたは了解してくれたわ。
面白いクスリが流行っていたのよ。飲むと、過去10年分の記憶が一時的に
消えてしまう、っていう。

それで例えばこんな遊びができる。あなたに、クスリを飲んでもらう。
そこに、私が外から電話をかける。すると、効き目が切れるまでのしば
らくの間、私は22歳のあなたと、またお話ができる……。

でもね、そんなことでは満足できないって、私にはわかっていたの。
せっかく再会できた22歳のあなたが、またすぐに元の醜い中年男に
戻ってしまうなんて、とても我慢できないわ。
人生で一番辛いことは、愛する人と別れることじゃない。その人が、
変わっていってしまうこと。私は10年かけてそう知った。だから決心
した。あなたの時間を永遠に止めてしまおう、って。

だから、特別なクスリを飲んでもらった。
29かおりんご : 2001/02/21(水) 19:02 ID:M7OM7xbY
わかるわね。あなたの10年間の記憶は、もう二度と戻らない。そして
あなたは、その部屋でずっと暮らすの。外に出ることは許さないけど、
食事はドアの小窓から差し入れする。私は毎日電話するわ。
ベットの下にはギターがある。
22歳のあなたが一番夢中だったものよ。存分に弾いて。そして私にも
聞かせてちょうだい。あなたはそこでずっとそのまま、人生の一番美しい
瞬間を生き続けるのよ。


なぜ黙ってるの。あなただって未来に戻るなんて、嫌でしょう?
汚い、情けない、醜い中年男に戻るなんて……。


=おわり=
30名無し娘。 : 2001/02/23(金) 02:09 ID:UdFiROuE
かおりん怖い。でもこれって究極の愛かも。
31名無し娘。 : 2001/02/26(月) 01:53 ID:ow2jE4vs
現実的な話ではないけれど、飯田だったらありそう。
32名無し娘。 : 2001/02/26(月) 04:41 ID:ErJ0xnHU
かおりむになら束縛されたい・・・
33名無し娘。 : 2001/03/06(火) 01:26 ID:6SF.AHhk
次回作期待保全。
34名無し娘。 : 2001/03/06(火) 02:04 ID:ug0FLonY
俺もこの題名で小説書きたいんだけど
ここに書いたら邪魔しちゃうかな?
35名無し娘。 : 2001/03/06(火) 02:10 ID:2N9KrJqY
ファミ通で連載されてた2000年のゲームキッズ(題名違うかも)に、
かなり似てるのがあった。けどそんなことはどうでもよく楽しめたよ。
36名無し娘。 : 2001/03/09(金) 02:29 ID:ODj7RX1k
ageとく
37名無し娘。 : 2001/03/13(火) 01:19 ID:7PczLkwg
保全。
作者さ〜ん、>>34さんに何か言ってあげて。
38かおりんご : 2001/03/13(火) 14:12 ID:w3lLyYYE
>>34さん、書いてもいいですよ。
3934 : 2001/03/15(木) 18:00 ID:x2jPz1ck
ありがとうございます。出来上がったら書いてみます。
40名無し娘。 : 2001/03/18(日) 00:26 ID:RZGHvpC.
ほぜん
41かおりんご : 2001/03/18(日) 02:47 ID:Fe4YwlpY
今から、小説を書きます。
42かおりんご : 2001/03/18(日) 02:49 ID:Fe4YwlpY
題名「アンバランス」
43かおりんご : 2001/03/18(日) 02:51 ID:Fe4YwlpY
飯田圭織は、モーニング娘。に入って、約3年半が経過しようとしている。
世間では、『かおりん』や『ジョンソン』などのニックネームで呼ばれて親し
まれ、人気もメンバーの中では、1番とは言えないが、それなりにあるという
のに、当の本人は元気のない様子だった。

「どうしたんだべさ?カオリ元気ないだべよ」
飯田は今、某テレビ局の歌番組の収録のため、楽屋にいた。その北海道の訛り
がぬけていない安倍の声に反応したかのように、楽屋に置いてあるテーブルに上半身
をまるくし、長い両腕で顔を覆うようにして俯つぶしていた飯田が起き上がった。
「寝てたんやろ。それにしても、これから収録だっていうのに、よく平気で寝て
 いられるなぁ」
「カオリ寝てなんていないもん!」
飯田の正面に座っていた中澤の言葉を否定するように、怒ったような口調で言葉を返す。
その場の雰囲気が少し悪くなった感じだった。
「飯田しゃん、誰かと交信してたのれすか?」
「加護は〜、辻ちゃんの〜言うとおりだと〜思います!」

幼い二人は、場を和ませるためにそう言ったのか?
それとも本当にそう思って言ったのか?
これを書いている私(作者)にもよくわからない。ただ、わかっていることは、
これから私の身に降りかかる不思議な出来事についてだけだった……。
44かおりんご : 2001/03/18(日) 02:53 ID:Fe4YwlpY
モーニング娘。のメンバーは無事、収録を終えて、さっきいた楽屋に戻って来る。
その楽屋に戻る途中の長い廊下で、飯田だけがその場に崩れるようにして倒れ込んだ。
「大丈夫ですかぁ〜。飯田さん」
傍にいた石川が、倒れている飯田を起こそうとしている。それに気付いてか、メンバー
のみんなが、飯田の周りに集まってきた……。

「…さん…飯田さん!」

私は、そのどこかで聞いたことのあるようなアニメ声によって目を覚ました。
「よかったぁ〜。飯田さん、なかなか目を覚まさないから、一時はどうなるかと
 思いましたよ」
目が覚めたら、ソファーの上に横になっていた。
私は驚愕した。心配そうに上から覗き込むようにして私の顔を見つめている
モーニング娘。の石川梨華がいるからだ。
(これは、夢か?)
どうやら私は、この小説を書いている途中で眠ったらしい。そして今、夢を見ているの
だろう。
早くこの夢から覚めて続きを書かなければ、と私は自分の頬っぺたをおもいっきりつねった。
「痛っ…。あれ!?これは夢じゃないのか?」
「何言ってるんですかぁ〜。夢じゃないですよ。寝ぼけているのですか?」
石川が安心したように私に対して軽く微笑んだ。私は、その愛らしい笑顔に一瞬、
胸がときめいた。
45かおりんご : 2001/03/18(日) 02:56 ID:Fe4YwlpY
起き上がり、周りを見回してみる。するとそこは、私が想像していたモーニング娘。の
楽屋の世界があった。それに、テーブルの椅子には他のメンバーが座ってこっちを見ている。
中澤が私に向かって不思議なことを話した。
「さっきは、軽率に寝てるとか言ってごめんな。でも、疲れているのなら休んで
 寝てたほうがええで。飯田は、なんか独りで頑張りすぎや。もっと気を抜いていかな
 あかんで。そのうち気を失うどころか、もっと大変なことになるで」
(さっき?寝てる?それに飯田って…)
私は、はっ、として自分の姿に目をやった。女性物の服装をしている。
まさかと思い、側の壁に備え付けてあった全身を映すことの出来るくらいの
大きな鏡に自分の姿を映した。
そのまさかは的中した。私は飯田圭織になっていたのだ。

私はこの小説を書くことができなくなった。代わりに、誰かがこの続きを書いてくれるだろう。
そしてその誰かが、ちゃんと書いてくれることを願うしかない。
しかし、これを書いていた私が自分の小説の世界に入ってしまうなんて……。
46かおりんご : 2001/03/18(日) 02:59 ID:Fe4YwlpY
私は自分の身に起こったことを理解できぬまま、鏡の前に呆然と立ち尽くしていた。
(本当に、これは夢ではないのか?)
とりあえず、自分が飯田であることを確認するために、両手で顔を触ってみた。
男の顔とは違い、皮膚感がすべすべしている。頬っぺたをもう一度、今度は軽く
つねってみた。もちもちしている。動かしてみる、上下左右。
ちゃんと皮膚がついている。そして、皮下にも肉が。
次に、体を触ってみる。飯田の体で、一際目立つ大きな胸。両方の胸を同時に触ってみる。
服の上からでも、飯田の胸の感触がわかる。やわらかくて、気持ちがいい……。
なんだかこのまま私が飯田でいても、別に良いような気分になってきた。
下半身に手を伸ばす。胸の次は……。

飯田になった彼は、自分の体を弄ぶかのように触っている。
その姿を見て中澤が、
「なにやってんねん。気を失って、頭がおかしくなったんかとちゃうか?」
と、自分の頭に人差し指を一本だけつきさすポーズをとりながらイイダに向かって言った。

その中澤の声を聞いて私は、はっ、と我に返り、メンバーの方を振り返る。
何をやっているのだろう。みんなが私を変な目で見ている感じだった。
恥ずかしくなり、だんだんと顔が赤くなってくるのがわかる……。
「みんな。カオリは疲れてるんだべよ。カオリだけ、昨日の夜から、今日の昼にかけて
 仕事で、徹夜だべ。しょうがないべさ。今日は、この後、反省会だけだし、カオリは
 帰って休んだ方がいいだべさ」
安倍が、私をフォローするかのように、メンバーに言った。
「そうだね。そうするよ」
私はなんとか、この恥ずかしい状況から抜け出すことができた。ありがとう!安倍なつみ。
47かおりんご : 2001/03/18(日) 03:01 ID:Fe4YwlpY
私は、某テレビ局から外に出た。
気になっていたことがあった。そう、これが現実なら元の自分はどうなっているのだろう。
もしかしたら心が入れ替わって、飯田が私になっているのではないのか。
飯田の所有していたかばんに入っていた携帯で、自宅に掛けてみた。
「お客様のお掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめ
 になって、もう一度……」
電話が繋がらない。
私は近くの公衆電話に置いてあった電話帳で住所を調べてみた。たしか、私の名前で登録
されているはず。
必死で探したが見つからない。もう私はこの世に存在しないのか?
私は、自分が住んでいた所までも無くなっているのかを確かめるべく、自宅へと向かった。
48かおりんご : 2001/03/18(日) 03:03 ID:Fe4YwlpY
自宅へ向かう道で、私はあれこれと考え込みながら歩いていた。

もしもこれが、本当に現実だとするならば、人間の心とはなんて不思議なものなんだろう。
私は今、飯田圭織だ。じゃあ、前までの飯田圭織の心はどこにいったんだろう。それに、私の
今まで過ごしてきた人生はなんだったのだろう……。

考えているとなんだか歯がむずむずしてきた。私は前歯を指でつまんでみた。
スポン、とその歯が抜けた。他の歯も、力を入れずに触るだけで、スポスポと抜け落ちた。
私は「うわあ」と声を出して頭を抱えた。すると髪の毛の一部分がズルリ、と抜けた。
何かのバランスが狂い始めていた。私が飯田になったことで体が拒否反応を起こしているのか?
頭がゆらゆらと揺れ、まっすぐ立つのが辛い。
(落ち着け。これは、やっぱり夢なんだ)
私は自分に言い聞かせた。そして、まず落ち着こうと深呼吸をした。しかし、心を
落ち着かせようとしても、体がついていけず、2本で支えている足に力が入らなくなり、
その場に跪く。顎も外れた。大きく開いた口の中から舌がダラーリと伸びてきた。
───バチバチ。プチ、プチ
しつけ糸が切れホックが外れるように、体のあちこちのパーツが緩み、弾け、飛び散った。
目玉の片方もボロンと落ちた。それらをあわてて拾い集めようと手を前に出した。すると
その腕が肘からもげ、地面にドサリと落ちた。
49かおりんご : 2001/03/18(日) 03:04 ID:Fe4YwlpY
自分の身に起こったことの異様さに、私は戦慄した。
それにしてもここは昼間の街のど真ん中の通りだ。誰か、救急車を呼んでくれないか。
そう思って、残った目玉で周囲をなんとか見回したが、通行人はみんな無関心にそっぽを
向いている。
これは、やはり夢なのか?いや違う。はっきりとした現実だ。
全身が積み木のようにガラガラと崩れ落ちていく音。


街角でバラバラになったその無惨な姿は、白い布で野次馬の視線から隠されている。
救急車とパトカーのサイレンの音が辺りに響き渡る中、警官が目撃者に話を聞いていた。
「ええ、私はすぐ近くで見ていました。その男の人、様子がおかしかったんです。
 女装をしていたんですよ。気持ち悪いでしょう。それでなんだか、死にたくて
 しょうがないって感じで…。歩道から、ふらふらと車道に出ていって、そして
 トラックに正面から跳ね飛ばされたんです。一瞬のことでした」


=おわり=
50名無し娘。 : 2001/03/20(火) 02:03 ID:9c0RF8Ds
かおりむ・・・・
51名無し娘。
ほぜむ