チェルシーの象徴が行く。レアルで、ミランで中核を担った男も海を渡る。
日本ではベッカムが加入した時ぐらいしか話題にならなかった米国メジャーリーグサッカー(MLS)が、いよいよ活況を呈してきている。
発足当時、リーグを運営する人たちが神経質なまでにこだわったのは、「コスモスの二の舞いだけはしない」ということだったと聞く。
70年代に隆盛を迎えた北米サッカーリーグ(NASL)は、現在のMLSをはるかに超える注目を集めたが
ニューヨーク・コスモスにスターが集中したことでバランスを崩し、消滅していった。
コスモスの失敗を繰り返さないために、MLSはチームの総年俸額にリミットを設けた。
いわゆるサラリーキャップ制度である。とかく自由競争を重んじるこの国にあって、スポーツだけはなぜか
共産主義的な匂いもするのが面白いところだが、ともあれ、このルールの甲斐(かい)あってか
MLSは爆発的な人気を博することこそなかったものの、着実に市場を拡大していった。
そこにきて、今回の代表チームの感動的な戦いぶりである。信じがたいことだが、メジャーリーグの選手が米国代表のユニホームを
着て試合前の練習をする、ということまであったのだという。4大スポーツの牙城は当分健在だろうが
5番目のスポーツとしてのサッカーが一気にその地位を高めたのは間違いない。
それにしても、サラリーキャップを導入していながら、なぜ導入していない日本にも来てくれないようなスターが
米国には渡るのか。まず大きいのは英語圏である、ということだろうが、もう一つ忘れてはならないのはギャラの問題である。
総年俸に制限をかける一方で、MLSは各クラブに3人までの「指定選手」という存在を認めているのだ。
指定選手とは、つまり例外のこと。彼らの年俸は、どれほどの金額になろうとも約4000万円と計算される。
ちなみに、これは指定外の選手にとってのリミットとなる金額でもある。
今回のW杯で活躍したデンプシー、ブラッドリーといった選手は、指定選手として7億円近い金額を手にしている。
なるほど、これならば世界のスターが海を渡るのも理解はできる。
こうなると、日本はいよいよ苦しい。東南アジアの突き上げがある上、世界最大の経済大国までサッカー界に参入してきた。
世界のスターは来ない。日本のスターは流出していく。
一方で、代表監督だけは平気で2億円もの額を手にすることができる歪(いびつ)さ――。
どんな時代になろうとも、代表チームの力の源は国内リーグである。このままでは、Jリーグは確実に衰退の一途をたどる。
いままでタブーとしていたこと、たとえば企業名の解禁なども含めて、あらゆる可能性を考えなければいけない時代が
訪れようとしている。(金子達仁=スポーツライター)
http://www.sponichi.co.jp/soccer/yomimono/column/kaneko/2014/kiji/K20140705008503060.html