今からネトゲを始めようとしている人を止めるスレ42

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431ネトゲ廃人@名無し
人が求めるのは、キラキラ輝くライフスタイルだけではない。
人によっては、もっと色あせたイメージをまねようとする人もいる。
結局は、さもありなんという結果を招くだけになるんだけどね。
かつて僕が熱望していたライフスタイルは、ヘンリー・ミラーとジム・マリソンを合わせたようなタイプで、国籍をもたない詩人か作家。
社会のはずれで、なんとか食いつないでいるような生き方だ。
僕は、普通の人とは違うライフスタイルを手に入れたかった。
でも、自分のライフスタイルを自分で一からつくりだす気は、さらさらなかった。

というわけで、二、三年前に僕はパリへ行った。
そこで、「絶望的に苦しみに苛まれた芸術家」を演じてみたんだ。
身につけるものは、いつも黒。仕上げに、煙草をくわえてみたりもした。
自分ではこれ以上ないほどシリアスだったよ。
いまになって振り返れば、どれもこれもうわべだけのもので、退屈きわまりないものさ。
でも、この気取った暗い「ふり」のおかげで、とても大きな、そして啓示的な一瞬を体験することができたんだ。

ある日、僕はカフェに座って、ポートワインのグラスを傾けていた。
世の中の倦怠を甘んじて受け入れているというポーズを取って、通りを行き来する人が無意味に働いているのを眺めていたんだ。
僕の心は、深い「実存的絶望」−人生、そして自分の存在自体への絶望−でいっぱいだった。

すると、そこに子犬がトコトコやってきて、カフェの入り口のまんなかに、デンとフンをしていった。
僕にはこれが、まさに日常的存在の汚らしさと退廃を示す、ぴったりの象徴のように思えた。
僕はもう一杯ワインを注文すると、誰かがこのフンを踏んづけるまで、ここに座って見ていてやろうと決めた。
これぞまさに、人間の日常の動きそのものではないかと思えたんだ。
心うきうきと歩きまわっていると突然、なんの理由もなくむかつくような汚らしい排泄物にまみれてしまうということがね。
432ネトゲ廃人@名無し:2006/04/14(金) 07:08:15 ID:???
これは実におもしろい光景で、僕はだんだんワクワクしてきた。次から次へと人が通る。
もうちょっとのところで踏みそうになるが、最後の瞬間に気がついて飛びのく。
気づかなくても、たまたま足の先が危うくズレて、誰も踏まない。
まるで、サーカスの命知らずの若者が綱渡りをしているのを見ているようだったよ。

だんだん僕は楽しくなってきて、にこにこしながら声を出して笑っていた。
煙草に手が伸びなくなっていた。
するとカフェのオーナ −いつもはとてもじゃないけどお友だちになれるような人物には思えなかったんだが−
が、僕の笑い声を耳にして何ごとかとやってきた。

僕らは、哲学からアメリカの野球に関することまで、山のように話をした。
彼は奥さんに僕を紹介してくれた。
そして奥さんときたら、「まあそんなにやせていて」というなり奥のほうへ入り、
これまで食べたことがないほどおいしいポテトシチューを持ってきてくれたんだ。
オーナーのほうは特別のワインを開けてくれ、僕らはこの愉快な宴会を楽しんだ。
この一晩だけで、それまでの五か月間にしゃべった人数より大勢の人と言葉を交わしたよ。

そうこうしているうちに、それまで抱えていた芸術化気取りの苦悩なんか、どこかに吹き飛んでしまった。
別れ際に新しい友人たちに心をこめてさようならをいったあと、僕はうきうきとドアを開けて外へ出た。
そして犬のフンの真上に足を踏みおろしてしまったんだ。
さっきまでワクワクしながら見守っていた災難は、結局、僕の上に降りかかってしまったというわけさ。

僕は一段と大きな声で笑い転げ、自分の笑顔を再発見した。
そして残りの旅の間、それを再び忘れることはなかった。


人生に必要な荷物
いらない荷物
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