1 :
創る名無しに見る名無し:
前スレが容量いっぱいになってたので立てました
お疲れ様です。
一人でスレパンクさせてしまって申し訳なく思います。
容量制限があるなんて知らなかったorz
4 :
創る名無しに見る名無し:2011/03/18(金) 18:06:33.72 ID:vC5bTqce
二次創作というか、既存キャラのオリ展開モノとか、ここに投下しても大丈夫でしょうか?
ぜひお願いします。
>一次、二次SS、絵も可
とあるわけだし、何も問題は無いと思います。
6 :
◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 18:56:08.58 ID:9UeAyvHu
それでは投下させていただきます
・元ネタ「魔法少女まどか☆マギカ」
・今のところほぼ「原作……何それ」状態です。
・つうかぶっちゃけマミさん書きたかっただけ。
・許容できない方はトリップNGしてください。
7 :
魔法少女マミ☆マギカ01-01/10 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 18:58:48.50 ID:9UeAyvHu
───めた」
少女がそう確信した、次の瞬間。
突然、にょっきりと生えたそれが、巨大化しながら迫ってくる。
「え?」
彼女がそれに気付いたときには、それは既に目前に迫っていた。
一瞬、思考が止まる。
それは自らの前で、あんぐりと口を開けて。
僅かな思考停止から復帰したとき、既に逃げる術は無く。
あんぐりと開けられた口の中は、闇の色。
それを見る少女の表情に、心に浮かぶもの。
絶望、恐怖、絶望、恐怖、恐怖、恐怖────
だが、それに対して声を上げる暇すらなく。
彼女の意識は、闇の中に飲み込まれた。
魔法少女マミ☆マギカ
PHASE-01:The day when the world was born
8 :
魔法少女マミ☆マギカ01-01/10 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:05:12.08 ID:9UeAyvHu
がばっ、と先に身を起こしてから、
「っひっ、ぃっ……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
と、肺の空気を搾り出しつくさん限りの勢いで声を上げた。
「なに、お姉ちゃ……むぐ」
「な、なな、なんだ、どうした何があった!?」
少女の大声に、より幼い声が反応したが、それは倒れてきたそれの布に遮られた。
少女よりは一〇は年上そうな青年が、フレームにカーテンの張られたついたてを倒して、少女よりも数段取り乱してバタバタとあたりを見回す。
「えっ、あ、あの……」
ベッドの上の少女が戸惑っていると、倒れてきたついたてががたりとどかされ、その下から、ベッドの上の少女よりいくらか年下の少女が、怒り心頭といった様子で顔を出し、そして、暴れている青年を睨みつける。
「こんの……」
ついたての下敷きになっていた少女は、そこから、上から下へと斜めに突き刺さるドロップキックを放つ。
「ド変態がぁ!!」
「ぐえっ!」
それは青年の延髄あたりに突き刺さる。
青年はその場に突っ伏すようにして床──に敷かれていた敷布団に向かって叩きつけられた。強烈なドロップキックで脳震盪を起こしたのか、青年はその場で昏倒してしまう。
「ったくバカキュウ」
幼い方の少女が、カーテンのついたてを起こしながら、ぶつくさと愚痴るように言う。
次に、やはり床に敷かれた敷布団と掛け布団を直しながら、ひょい、とその枕元に置かれた、ストレートタイプの携帯電話を取り上げると、通話切断ボタンを押し、ディスプレィのバックライトを点灯させた。
「だっ! まだ3時前だし! ったく、近所迷惑もいい加減にしてよね! このゴクツブシ」
ついたての向こう側から返事は無かった。
「で、マミ。ここまでいきなり大声出して飛び起きて、どうしたの?」
「えっ?」
幼い方の少女は、ベッドの上の少女に向かって問いかける。
「あ、うん……少し、恐い夢を見ちゃったみたい」
「どんな夢……?」
決まり悪そうに言う少女に対して、幼い方の少女がさらに問いかける。
9 :
魔法少女マミ☆マギカ01-03/10 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:05:53.32 ID:9UeAyvHu
「えっと……?……うーん、あ、あれ? なんだかよく覚えてない、わ」
「ええーっ、そうなのぉ?」
ベッドの方の少女が更に申し訳なさそうに苦笑してそう言うと、幼い方の少女は口をとがらせ気味にそう言った、
「ちぇっ、夜中に騒ぐから、何かと思って心配したのに」
「ごめんなさい」
幼い方の少女が愚痴るように言う。
すると、ベッドの上の少女は苦笑したまま、再度謝罪の言葉を告げた。
「まだ早いし、もう少し寝ておこっと」
幼い方の少女は、そう言って布団の中にもぐりこんだ。
「マミも、もう少し寝ておいたほうがいいと思うよ」
「え、あ、うん。そうするわね」
ベッドの少女も、そう言って掛け布団を被りなおした。
──なんだったんだろう、よく覚えてないのに、すごく……恐い、夢を見た、気が、する……
少女の意識は、ゆっくりと眠りに落ちていった。
10 :
魔法少女マミ☆マギカ01-04 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:07:38.92 ID:9UeAyvHu
巴家はワンルームに3人暮らし。
数年前、少女達の両親は自動車事故で亡くなった。正確には一家全員が巻き込まれたが、後部座席にいた3人の子供は一命を取りとめた。
近しい親戚は無く、引き取り手もいなかった。幸い、両親がそこそこの資産を溜め込んでいたので、とりあえず3人が学校に通いながら、慎ましやかに生活していく程度にはしばらく困らない額の金銭はあった。
「ふぁぁぁぁ……寝不足」
床に敷かれた敷布団の上に立ち、大あくびをかきながらそう言うのは、長男、巴九兵衛。
歳は21、身長はやや低め。髪をスポーツ刈りにした顔立ちは、整ってはいるがあえて美形と言うほどでもなく、それに目つきも悪い。既に学生の身分ではないが、さりとて定職にもついてない。ニート街道まっしぐら。
「何が。すぐおねんねしちゃったくせに」
やはり敷布団を片付けながら嫌味っぽく言うのは、末子で次女の巴実真(みま)。小学5年生。
やや癖のある強い髪を肩のあたりまで伸ばしたその姿は、素にしていればおっとりして見えるような顔つき。
「おねんねって、気絶したのを放置されてただけだろうが。風邪でも引いたらどうしてくれるんだ」
九兵衛が睨むようにして言い返すが、
「キュウが風邪引くわけないでしょ」
と、実真はさらりと嫌味で言い返した。
「お前な」
九兵衛がさらに凄みかけたとき、
「はいはい2人とも、朝ご飯の準備が出来るから、喧嘩してないで部屋を片付けて?」
キッチンセットの方から、もう1人の少女がやってきて、ぽんぽんと手を叩きながらそう言った。
「ね?」
────長女、巴マミ。
見滝原中学校に通う2年生。
妹である実真と同様の穏やかな容貌を持つが、その見た目通りに穏やかな物腰と、面倒見のよさそうな、ある種の母性を感じさせる雰囲気をまとっている。髪の毛の長さは実真より少し長い程度。ただ中学生としては割合長身で、プロポーションも女性らしい体つきになっている。
「あ、ああ……」
「わかりましたー」
九兵衛が毒気を抜かれたように間抜けな声を出し、実真がおどけたような声で返事をする。
ワンルームの片隅に畳んだ布団を寄せて、代わりに足が折りたたみ式のローテーブルが置かれる。
そこに、マミ手作りの朝食が並べられていった。
「いただきます」
3人は手を合わせた姿勢でそう言ってから、朝食に手をつけ始める。
11 :
魔法少女マミ☆マギカ01-05 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:08:19.15 ID:9UeAyvHu
「それじゃあ、行って来ますね」
制服姿のマミは、ランドセルを背負った実真とともに、マンションの玄関で靴を履いてから、一旦室内側を振り返り、微笑みながらそう言った。
マミは髪の毛をうしろ、やや下の方から縦ロールをかけている。
実真の方は、癖を完全に隠さずにサイドアップにしている。
「ん、行ってこい」
九兵衛はジャージに半纏という、自宅警備員まっしぐらな姿で2人の向かいに立っている。マミの言葉に、穏やかに笑ってそう応えた。
「今日こそちゃんと、職見つけて来いよー」
「うるせー、言われなくても解かってら」
実真の発した憎まれ口に、九兵衛も顔を睨むようにしかめて言い返す
「こらこら2人とも」
マミが、流石に少し呆れたというような口調で、2人をなだめる。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
マミが玄関の鉄製のドアを開け、振り返るような姿勢で再度言う。そして実真とともに玄関を出て、パタン、と静かに扉が閉められた。
「さて、と」
九兵衛は途端にヤル気なさそうな様子になって、だらだらと室内に戻る。
「アリバイ作りに一応ハロワでも行っとくかな……割の良いパートぐらい見つけても良いかも知んないし……」
そう言いつつも、やってることといえば、マミのベッドの下からノートパソコンを引っ張り出し、それをローテーブルに広げて起動する事だった。
♪〜♪♪〜
「ん、電話?」
マウスをその手に握って臨戦態勢に入ったかと思ったとき、携帯電話の着信音が九兵衛の意識を遮った。
転がっていた赤い携帯電話を手に取り、フリップを開ける。
「!?」
その着信相手の情報を見るや、九兵衛の表情が急に強張った。
通話ボタンを押し、ゆっくりとした動作で耳元に受話器を当てる。
「…………もしもし」
九兵衛は重い口調で、送話器に向かって声を出した。
12 :
魔法少女マミ☆マギカ01-06 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:09:08.50 ID:9UeAyvHu
「でしょー、アイツほんっと話し長いよね、それに宿題も多いしさぁ」
「でも、筋の通らない人じゃないし、あまり悪く言うのはどうかなって思うんだけど……」
見滝原中学。
廊下を歩きながら、教師について悪態をつく同級生を、マミはやんわりと諌めた。
まもなく進級を迎えたこの時期になっても、生徒達の様子に特段の変わりはなかった。
もっともマミ達は年度を越えればそうも言ってられなくなるだろうが。
「へいへい、さすが優等生は違いますね、と……」
同級生は肩を竦めながら、からかうように苦笑して言う。
その廊下の反対側から、1人の女生徒が歩いてきた。
学校ならばよくある光景。──そう、そのまますれ違ってしまっていれば。
「巴マミ先輩ですね?」
その少女は、一旦すれ違ったマミに向かって、振り返らずに声だけで問いかけた。
「え?」
喧騒の中、決して大きくはない声で告げられたその言葉は、しかしマミにはやたらはっきりと聞こえた。
マミが驚いて振り返ると、相手もこちらに向かい合っていた。
艶のあるストレートの黒髪を腰の辺りまで伸ばした少女。
美少女といって過言ではないのだが、何処か影がある。表情は僅かに怒気を孕んでいるようにも見える。
「妹さんは……元気ですか?」
「えっ?」
制服は着ているから、同じ学校の生徒なのだろう。
だが、見滝原中学は決して小さい学校ではない。面識のない生徒は、いくらでも居るのが普通だ。
「えっと……実真の知り合いなのかしら?」
マミは、突然のことに加えて、相手の雰囲気に呑まれて、言葉を失い、ようやく搾り出すようにしてそう聞き返した。
「はい、……そのようなものです」
「実真は元気にしているけれど……あの、貴女の名前は?」
マミは逡巡しながら、目の前の少女にそう問いかける。
13 :
魔法少女マミ☆マギカ01-07 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:09:50.21 ID:9UeAyvHu
「今は、まだ……」
少女は無表情にそれだけ言うと、踵を返して、もともと向かっていた方に歩き去ってしまった。
「なにあの子」
マミと一緒に歩いていた同級生が、不快そうな視線で、歩きさっていく少女の後姿を見る。
「1年生みたいだったけど……なに? マミの知り合いなの?」
「私は初めてだけど……実真の……妹の知り合いみたい」
マミは、同級生の険悪そうな様子を和らげようと、柔和な苦笑交じりに、穏やかにそう言った。
「ふーん……それにしたって、あんな態度はないと思うけど」
「多分、なにかあったのよ」
さらに険しい表情をする同級生に、マミはたしなめるようにそう言った。
「はいはい、マミは本当に優しいんだから」
同級生の少女は、もう一度肩を竦めるポーズをとった。
14 :
魔法少女マミ☆マギカ01-08 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:10:32.18 ID:9UeAyvHu
放課後。
「妹さんによろしく……ね」
呟きながら、マミは1人で帰り道を行く。
「おかしいのよね……」
──どこかで会った気がする。
マミは出会った長髪の1年生の姿を思い浮かべながら、引っかかるその違和感に思考をめぐらせていた。
「見つけたー!」
「そう、見つけた……って、え?」
不意にかけられた声に、マミは一旦無意識に反芻してしまってから、ふと顔を上げる。
すると────その視線の真正面に、女性の姿が捉えられた。
その女性の姿は異様だった。
衣装が突飛だというのもある。露出度が高く、そう、ファンタジーで言うところの女悪魔やサキュバスが着ているような衣装に見える。
それだけではない。
女性は小さかった。小柄、身長が低いという意味ではない。文字通り、人形のような小ささだった。
あまつさえ、宙にふわふわと浮いていた。
「え、え、あ、あなた……あなた…………?」
その姿を見て、マミはしかし、そのこと事態には驚かなかった。
ただ、その姿を指差して、口をパクパクとさせながら凝視する。
「やっと見つけたよ。マミ」
「あなたは……」
記憶が蘇る。
「かなえた願いの契約、果たしてもらうよ」
小さな女性は、そう言ってくすりと笑う。
「魔法少女の契約を」
15 :
魔法少女マミ☆マギカ01 ◆WCLv2MGHTTRn :2011/03/20(日) 19:11:16.20 ID:9UeAyvHu
16 :
創る名無しに見る名無し:2011/03/24(木) 23:54:26.92 ID:YpZjPG54
遅ればせながら投下乙です!
今話題のまどかマギカでしかもマミさんのオリジナルストーリーとは期待大です
今後の展開が気になります
17 :
創る名無しに見る名無し:2011/04/03(日) 08:51:25.70 ID:2ZV0ALKL
保守
過疎化している
まだ終わらんよ
20 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:20:24.55 ID:yaCg8JW0
登場人物
如月雫 ……本編の主人公。お嬢様なのに普通の人、と本人は思い込んでいる。オタク趣味。女子高生。負傷により左腕が機械義手になった。
AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』(機体色は赤)の搭乗者。
中盤以降、かなり攻撃的な性格になっており、敵と見なせば容赦なく殺しに掛かる。精神感応力が異常に高い。
如月源八 ……雫の祖父。大金持ちで科学者。シューティングスターの開発・改造に着手する総司令。現在、敵拠点にて軟禁されている。
弥生美香子……雫の友達。おっとり系。雫のことが好き。巫女さん。AMS−RH2870『アルティザン』(機体色は山吹色)の搭乗者だった。
戦闘で受けた怪我で再起不能状態だったが如月邸の襲撃と時を同じくして何者かに拉致された。消息は未だ不明。
密かに精神干渉能力を持っている。
卯月冬矢 ……喫茶店『KAMUI』のウェイター。23歳独身。自作AMS『神威MkV』(機体色は鉛色)の搭乗者。沈着冷静。
最初は難病を煩う妹(香苗)の治療費を稼ぐため裏家業に足を突っ込んでいたが、雫に雇われてからは重要な彼女の右腕となる。
御神楽節子……源八の助手。クールビューティー。なんとかいう武術の達人。ツッコミは鋭い。
黒田さん ……如月家の執事。あらゆる乗り物を運転できる。神出鬼没。忍者の一族として訓練を受けており、暗殺技術は突き抜けて高い。
室畑 ……政府の特務機関Asの局長。冷酷非情。でもマリィ大好きなオッサン。魔装『鬼鴉』の所有者。
柊川七海 ……Asの隊長。元変身ヒロイン。元気だけどおっかない女性。19歳。たいていは海外出張(主に米軍基地)している。
AMS−GTX00/SLI『アレンデール』(機体色は白)の搭乗者。白い悪魔の異名を持つ。
高岡水瀬 ……七海の親友。性格は温厚で生真面目。素性は明かされない。
マリィ ……Asの現場主任。見てくれ15歳の美少女。AMS−X05『ファントムナイト』(機体色は黒)の搭乗者。七海を尊敬している。
M.A.R.Yシステムのコアとして製造された人造人間であり、システム発動中は超次元的な戦闘能力を発揮する。
稲垣孫六 ……Asの隊員。副主任としてマリィの傍に付いている。二十代後半。AMSはJ602『ミヅチ』(機体色は群青色)。
高橋 ……田嶋署の刑事。役職は警部補。定年前の初老だががっちりした体格。下水道内で獣魔に襲われ死亡。
前原 ……同署の刑事。高橋の部下。三十代前半の風貌。体格はもやし。機械系に強い。
クレール=J=サツキ
……元『地獄の壁』の隊長。16歳で階級は准尉。ブロンドのウェーブ髪の少女。A−GMA3『グラディウス』(機体色は黄色)の搭乗者。
捕獲後、強化人間化。ヘルハウンド部隊の指揮官として如月邸を襲撃するものの、戦闘により死亡する。
マリア ……15歳。生き別れの姉を捜している。現在は傭兵部隊『アローヘッド』に所属している。
性格は大人しく、いつも何かに怯えている。でも長距離からの狙撃では神がかり的な命中精度を誇る。
水無月千歳……マリアの同僚で大親友。17歳。クールになりきれない性格。戦場では刀一本を手に突撃する戦闘狂。
一途で思い込みの激しい激情家。かつての同僚である卯月冬矢を今でも慕っている。
キース=ハワード
……同じく傭兵。25歳。老け顔の男。千歳に惚れている。隊内ではサブリーダー的なポジション。
21 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:21:03.65 ID:yaCg8JW0
第17話 「逆襲の朝、悪夢の幕開け」
夜襲に一番向いている時間帯はいつだろう。
陽の出ているときは問題外。夕飯時もいただけないし、だからといって深夜十二時前後も人間の意識は明瞭だ。
ならば何時くらいが好ましいのか。
答えは午前2時から4時まで。いわゆる丑三つ時。
この時間帯は大抵の人間が深い眠りに入っていて、覚醒するまでに時間が掛かる。
しかも一日の中でもっとも外気温が下がっているため、身体能力だって低くなっている。
あらかじめその時間に備えでもしない限りは、状況の変化に対応できないのだ。
そういった理由があって、迫撃砲の轟音が最初に鳴り響いたのは午前2時を過ぎた頃合いだった。
『アローヘッド1より各員へ通達。賽は投げられた。繰り返す、賽は投げられた!』
無線機の向こう側から水無月千歳の声と、これに被せて爆発音が聞こえた。
「お嬢様。降下ポイントに到達しました」
「うん、ありがとう」
その上空800メートル地点には軍事色の輸送ヘリが一台。
操縦桿は万能運転手でもある執事が握っている。
如月雫は次にいつ着られるかも分からない明るいブラウン調のブレザー制服を着込んでいて、しかし腰には控えめに見たって不似合いな鋼色のベルトを巻いている。いや袖から出ている手が同系色だから、ある意味では似合っているのかも知れない。
ヘリの後部ハッチにはパラシュートを据え付けた神威MkVがすでに飛び降りる体勢に入っている。
神威は高々度からの落下には耐えられない仕様上、機械ベルトで空中変身なんて洒落たマネはできないのです。
「冬矢君、フォローはお願いね」
『了解した』
インカムで仲間に告げた後、側面ハッチをスライドさせる。
風がゴウと音を立てて少女の髪をなびかせる。
胸中にあるのは友人を救い出そうとする決意と、あとついでに爺様を奪還したいとかいう願い。
執事をはじめとする他の面々は爺様が最優先なのだろうけれど、代理で後始末を負わされた孫娘としてはむしろ運良く生還することがあったなら一発ぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいだった。
「一緒に頑張ろうね、シューティングスター」
腰に巻いた機械ベルトを指先で撫でて、それから飛び出した雫。
吹き荒ぶ風に身を任せつつ、ベルトの作動スイッチを押す。
「――変身!!」
鉛色の皮膜が少女をプレスする形で出現し、有無を言わせずサンドイッチする。
自由落下で膜を突き破ったその四肢はすでに鋼鉄の塊であり、そこからさらに紅蓮の炎に包まれる。
ドンと大地に降り立った輪郭は見るも鮮やかな紅色に染まっていた。
【網膜照合クリア。声紋認識クリア。脳波パターン正常。
――ジェネレータ駆動値を6に設定。バッテリー残量、97%
――システム・オールグリーン。AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』、起動します】
システムの起動音を聞きながら周囲を見渡す。
それまで見回りをしていたであろう歩哨が数名、何かを叫びながら駆け寄ってくるのが見える。
7メートルほどの高さの鉄塔の上で敵兵が機銃を構えていたが、初弾を吐き出すより先に上空から狙撃されて地面に墜落した。
「さすがね、神威くん」
『褒めるのは生きて帰ってからにしてくれ』
「じゃあ、みんなが無事に帰れたらお祝いにケーキパーティーしましょう」
『どういう理屈だ。というか俺が焼くのか?』
「もちろん!」
『……構わないが、だったら一人で突っ走って怪我なんかするなよ』
「は〜い☆」
22 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:22:41.38 ID:yaCg8JW0
軽口を叩いた後は行き先を真っ直ぐに見据えてバックパックのブースターに火を灯す雫ちゃん。
頼れる味方機はまだパラシュートにぶら下がっていて、着地にはあと数十秒を要するだろう。
神威の射程圏は命中精度込みで70メートルといったところだから、彼が着地するまでにそれ以上距離を開けなければフォローはしてもらえるはず。
基地は森林で囲まれており、ドカンドカンと爆発が起きたって民家に影響は無さそうだ。
「よし。行こう!」
今夜は月が出ていて、そこへAMSに装備されている赤外線暗視カメラを足し合わせれば暗闇など問題のないレベルだ。
後方にある正門付近に目をやると、仲間の傭兵部隊が続々と侵入しているのが見える。
彼らはリーダーである水無月と、キースと、狙撃担当のマリアちゃん以外は防弾チョッキに軍服姿だった。
というか彼らが当初から活動していた中東ではAMSはたとえ旧式の粗悪品であったとしても高級で、そういった事情から扱える人間が少ない。
しかも屋敷に予備の機体が三つしか無くて、だから結果としてこちら側の戦力はAMSが5機と歩兵が6人といった体たらく。
それでも敵を混乱させる事に成功しているのは、彼ら歴戦の傭兵達がドンピシャのタイミングで迫撃砲の弾を着弾させてくれたからだろう。
今作戦での歩兵部隊の役割は初弾により敵部隊を混乱させる事と、そして何より退路の確保にある。
だから人々は本格的な突入をせず、正門付近で弾幕を張りつつAMS部隊が戻ってくるまで粘る。
最新の情報ではこの基地で運用されているAMSは50を下らないし、それらは全て夜間戦闘に特化させたタイプらしいから、全機が出張ってくるとこちらは瞬く間に全滅してしまうだろう。
そうなる前に作戦を完了させなければいけない。
前方を顧みれば建物の窓の隙間から覗いている敵影はまだ少ないし、隣接する倉庫からAMSが飛び出してくる気配もない。
慌てふためき手近にあった小銃を引っ掴んでやって来た敵兵ならば10人だろうが20人だろうが雫ちゃんの敵ではなかった。
「ていっ!」
小銃から吐き出される弾丸を難なくかわして敵陣まで迫ったAMSが、恐怖に目を見開く数名を撲殺する。
トンファーを持つ手に肉と骨とを砕く感触が伝わるけれど、そんな事にいちいち動揺するほどか弱い雫ちゃんではなくて、
障害物をあらかた薙ぎ倒した後はこの頃になってようやく着地した神威君が追いついてくるのを待つ。
神威のさらに後ろには水無月さんが駆るメタリックブルーの機体と黄土色の機体、それから小さな狙撃手が着込むモノトーン・カラーの輪郭がある。
それらは美香子ちゃんの機体『アルティザン』の改良型として量産された機体で、射撃は元より格闘も遠距離狙撃もそつなくこなす万能型だった。
『おい冬矢、お前の雇い主はいつもあんな突っ込んだ戦い方するのか?』
『ああ、だから援護する方も大忙しだ』
『嫁さんにしたくないタイプだな。危なっかしくて見てられねえ』
あとで聞いた話ではチームリーダーが単機で敵集団の中へ突っ込んでいくなんてのは有り得ない話らしい。
そりゃあまあ、指示を出す人間が鉄砲玉みたいなマネしちゃダメなんだろうけれど、これまでのやり方をいちいち変えるのは性に合わないし小細工も苦手なので正々堂々と真正面から殴りかかる雫ちゃんです。
「そこ、くだらないこと言ってないで早く来なさい!」
でもそれを言ったら傭兵達のリーダーだって一番乗りで日本刀振り回す凶暴女じゃない。
男共の談笑に目くじら立てる少女は怒鳴ってやろうかしらとも思ったけれど、前方にAMSの輪郭を見つけて即座に頭を切り換える。
そりゃあ、どんなお粗末な軍事施設であっても敵襲への備えはあるわよね。特に色々と恨みを買っている攻撃基地ともなれば防衛用のAMSだって配備されていて当然。
まあ、雫ちゃんとしては自機の限界を試してみたくてウズウズしているわけだし、後退だとか撤退だとか、そんな単語は思い浮かびもしないのだけれど。
出現したAMSは4体ほど。どれも全身ステルス色で手に歩兵より一回り大きな口径の小銃を装備している。
乾いた唇を舐めてニヤリと凶暴な笑みを浮かべる雫は、機体の駆動力を手動で最大値まで引っ張り上げて、腰を落として突っ込む体勢を整えた。
23 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:23:55.47 ID:yaCg8JW0
『切り込むなら私も手伝うぞ』
「おっけ〜、じゃあ、十秒で片付けるわよ!」
不意に目端に併走する影を見つけて言葉を交わす雫ちゃん。
半歩ほど遅れる格好で追従するのは出撃前に一悶着あった水無月千歳さん。
抜いているのは光学式の刃を持つ刀で、機体とセットで彼女に与えられた代物だ。
紅色とメタリックブルー、二人の少女は凄い早さで敵影に突っ込むと、それぞれ二つずつ、すれ違いざまに撃破する。
まさしく秒殺だった。
後方からの支援射撃を加えればツートップに死角は無い。
「けど驚いたわね。てっきり後ろから斬り掛かってくるものかと思ったのだけれど」
『仕事と私情を分けられないプロフェッショナルはいない。貰った給料ぶんの仕事はするさ』
「そう。じゃあ、期待しておくわ」
軽口を叩きながら施設の玄関口まで辿り着いた二人はそれぞれ周囲を警戒しつつ仲間の到着を待つ。
ややあって追いついた男共を伴い前進、地下へ続く通路を探す。
すぐに見つけたのは機材搬入用エレベータで、迷うことなく全員で乗り込む。
ゴクンッと振動があって、下へと動き始める鉄箱。
爺様がこの施設に捕らわれているという情報はあっても具体的にどの部屋に軟禁されているのか分からない。
それに美香子ちゃんも見つけなければいけない。
そういった理由から地下では二手に分かれる算段だった。
「じゃ、みんな。手はずは分かってるわね?」
とはいえ、たとえ爺様を発見したとしても無線傍受の可能性を恐れて連絡は行わない。
どちらが見つけようと、どちらも見つけられまいと制限時間いっぱいで捜索を切り上げて撤退する。
そうしないと迎撃に出てきた増援に全滅させられるから。
生き残っていれば再度の奪還作戦が立てられる可能性だって出てくるかもしれないワケだし、だからこそ死んではいけない。
全滅は彼女らにとっての完全な敗北を意味するのだ。
「よし、いくわよ!」
開いた扉の向こう側へと決死の覚悟で踏み入る雫ちゃん。
廊下の先に簡易的なバリケードを構築して小銃をぶっ放す輩が幾らかいたけれど、神威が肩に担いでいる携帯ミサイルをぶっ放せばただそれだけで静かになった。
ここに至るまでに時間のロスがほとんどないから目一杯に動けるだろう。
爆炎と黒い煙の渦巻く中を突っ切って、最初のT字路に差し掛かった人々は互いに頷き合ってそれぞれ別の方へと身体を向ける。
狙撃担当のマリアちゃんはここに居座って退路を確保する係。
なので雫と冬矢くん。千歳さんとキースさん。このペアが実働の救出班になる。
「冬矢君、私たちは美香子ちゃんも探さなきゃいけないから、相当にハードよ?」
『承知している』
「よし!」
レーダーを見れば神威が憎らしいまでに正確に距離を開けて追いかけているのが分かる。
幾つかの部屋を見つけて中を確認したけれど爺様の姿も友人の姿も見当たらなくて、かなり焦ってきた頃合いになってから二人は廊下の奥、突き当たりの部屋に足を踏み入れた。
『……どうやら俺達はハズレのようだな』
冬矢君が舌打ち混じりに囁いたけれど、雫ちゃんの耳には入らない。
その部屋はとても気味の悪い空間だった。
やけに天井の高い空間には所狭しと円柱型の巨大水槽が並んでいて、中は緑色の液体で満たされている。
液体の中に浮かんでいたのは、どう考えても人間のものとしか思えない大きさの脳みそ。
脊髄とか神経細胞とか、そういうのをくっつけたまんま人間の脳みそが、全ての水槽の中にあった。
24 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:25:04.55 ID:yaCg8JW0
「っていうかさ、この施設って、ただの攻撃基地じゃなかったの?」
『吐くのは後にしてくれよ』
「大丈夫。吐き気より怒りの方がキテるから」
『いや、気持ちは分かるが、なるべく冷静に頼む』
「うん。できるだけ我慢する」
B級SF映画のワンシーンを彷彿とさせる光景の中を進む二人。
少女の脳裏にとても嫌な考えが浮かんだけれど、すぐさま却下した。
なるべく何も考えないように水槽の部屋を進んでいくと一番奥にさらに鉄製の扉があって、
それはIDカードと指紋・声紋・網膜パターン照合式とかいう近未来的な代物だったけれど、冬矢君が自機から伸ばしたボードを差し込むと途端にブルーランプが灯った。
「え、何やったの?」
『ハッキングした。世の中にはこういう便利な道具が出回っているんだ』
彼の言い分にもツッコミたい所はあるのだけど、どうしたって腹の底まで迫り上がってくる怒りと悲しみとで言葉に出来ない雫ちゃん。
最深の部屋は先ほどとは違って何も無い広々としたフロアになっていた。
壁は何の装飾もないコンクリートで天井には梁のつもりなのか赤っぽいH鋼が走っている。
等間隔にぶら下がっている裸電球が床のコンクリートに光を照り返していて、やって来た侵入者2人の影と、それとは別の影を足下に描き出していた。
『――襲撃部隊の基地に夜襲とは恐れ入るぜ』
野太い男の声が少女の耳に入ってくる。
それは赤銅色のAMSだった。
見るからに重厚そうな装甲。如何にも馬力のありそうな四肢。手には回転式のガトリング砲が握られている。
一見して近接戦闘に長けた機体のように思われる。
肩にはドクロを象った部隊章がペイントされており、目元から覗く真っ青な光が不気味さを醸し出していた。
「……あんたは?」
インカムから声を聞いたと言う事は、すでに無線の周波数を合わせられているということ。
ならば今さら慌てふためく事もない。
雫が尋ねると男の声が落ち着いた音色で返してきた。
『ヘルハウンドの隊長さ。といっても、俺自身は【オルトロス】の隊員なんだがな』
『つまりヘルハウンドは洗脳した兵士による部隊で、それを統括しているのがお前達と言う事か』
『そういうこった』
割り込んできた冬矢君の声はここに至っても冷静だった。
雫ちゃんとしては「とにかくコイツがボス敵なのね」くらいにしか思わなかったけれど、彼の中では色々と真実が見えているらしい。
先ほどの光景から胃に穴が開きそうなくらいムカついている雫ちゃんは、さっさと終わらせようとトンファーを構え直す。
そんな紅機体に、赤銅色はガトリングではなく何も持っていない方の手をかざした。
『ところで、貴様らは魔法というモノを信じるか?』
男が言うと、かざされた掌に光が収束する。
敵機はその光を惜しげもなく放った。
ドカンと爆音を轟かせて、後方の壁がひしゃげた。
でも黒ずんではいなくて、だから銃の類ではないのだろうと察する。
まあ、要するに前回屋敷を強襲した女と同様の手法だということだ。
「……それがどうかしたの?」
『驚かないんだな』
「脳みそぶちまけて死んでしまえば同じ肉の塊でしょ?」
『ああ、そうだ。そうだとも』
肩のドクロを震わせて哄笑する男。
気が違ったのか、そもそも最初からおかしいのかは知らないけれど、ピタリと笑うのを止めた敵機の中の人は、次に手にしたガトリングを少女へと向けた。
25 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:26:22.66 ID:yaCg8JW0
『脳みそに特殊なチップを埋め込めば魔法使いだか超能力者だかにはなる。
でも、それだけなんだよ。実験と戦闘を繰り返して、寝れば悪夢にうなされて。もう5年も続いてる。やってらんねえんだよぉ!!』
怒りに吠えたてる。
そうか。前回のあの女も、この男も、人工的な魔法使いなのね。
ファンタジーではなくてサイエンスフィクションなら遣りようがある。
脳とか心臓とか、致命傷を与えればカタがつく。
雫ちゃんは考えて手合いの攻撃が始まるタイミングを見極める。
飛び道具を持たない少女の必勝パターンは、やはり銃弾をかいくぐって相手の懐に飛び込んでの攻撃。
神威君はその援護に気を回すはずだから、彼から先制攻撃というのは有り得ないだろう。
行く先の軌道を何パターンか考えつつ、雫はさらに腰を落とした。
『貴様らはハラワタぶちまけて死ね! 今すぐに!!』
そして鈍い射撃音が堂内いっぱいに響き渡る。
少女の目は銃口から吐き出される光を捉えていた。
相手の殺意の矛先が、なぜだか白い筋になって見えて、その軸線から逃れるように動けば弾丸は自然と逸れていった。
『当たらねぇ?!』
驚く声が聞こえた。
銃声が、あと五秒で鳴り止む事が分かった。
そして、感じ取ったのと同じ未来が訪れる。
ああそうか。
スローモーションになった景色の中で、敵機めがけて突っ込んでいく中で、不意に悟った。
病院前での事故を予見できたのも、屋敷のゲートをくぐる時に覚えた不吉な感じも。
あれは別に魔法とか特別なものではなくて。
単に『死の臭い』を読み取っていただけなんだ。
だから今、どこに居てどちらに向かえば自分が安全なのか、手に取るように分かってしまう。
今この時。この部屋で最も安全なのは間違いなく敵の懐で、攻撃を繰り出す事こそが自身の生き残る唯一の手段。
だから雫は真っ直ぐに、脇目もふらずに突進すると躊躇うことなく構えていた拳をトンファーごと突き出した。
ベキョベキョ!!
鉄が悲鳴を上げる。
堅い手応えが腕から伝達されてくる。
けれど、まだ浅い。もう一歩踏み込まなければ装甲を抜けない。
「ちっ」
吐き出された舌打ちは誰の物だったのだろう。
突然感じた嫌な気配。見れば束になった銃口がこちらに向けられている。
雫は本能的に仰け反り、その反動で突き立てた得物を引き抜くのと同時に銃口をも蹴り上げる。
ガガガガガッ。
天井を向いた金属筒ががなり立てる音を聞いた。
『だったら、これはどうだぁ!!』
赤銅機械から発せられた雄叫び。
最大レベルの嫌な予感が訪れた。
鋼の輪郭に青白い光が灯ったかと思えば、爆発的な圧力が放出されたのだ。
全身がバラバラになりそうな衝撃を受けながら、シューティングスターが吹っ飛ばされる。
「きゃああぁぁぁ!!」
『雫!』
地面に激突した少女は幾ばくかの間呼吸困難に陥っている。
身体が動かない。どうにか目だけで敵の姿を捉える。
ゴウンッ、ゴウンッ。
援護射撃のつもりなのか、鉛色の神威君がライフルをぶっ放している。
しかし弾き出された弾丸は敵機の十数センチ手前で停止して、それぞれにひしゃげて床に落ちていた。
26 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:27:17.91 ID:yaCg8JW0
『くっ……これも魔法の力か!!』
冬矢の呻き声だ。
敵が赤銅色の面具の裏側でニタリと笑んだ、ような気がした。
『オルトロスの隊員が、雑兵に劣ると思うなよ!!』
それから敵は何も無い掌を天井にかざす。
するとその手の上に無数の黒い筋が収束して、やがてそれは真っ黒で巨大な球になった。
『死ね!! 虫けらども!!』
叫んだ勢いで放たれた黒球。
雫の視界いっぱいに迫る暗黒。
ゾクリと背筋が粟立って、その理由を突き止める暇さえなく少女は暗闇に飲み込まれていった。
+++
真っ黒な世界に佇んでいた。
夢や幻の類なのか、それとも今まさに死の淵を渡らんとする最期の光景なのか、雫には判断がつかない。
ただ、床も壁も天井も全てが真っ黒な中で、微かな浮遊感を覚えながら少女はそこにいる。
【――雫ちゃん】
誰かに呼ばれた様な気がした。
とてもとても懐かしい声。
けれど、どれだけ目を見開いても声の主を見つけ出す事ができない。
ミカ……。
呟いてみたけれど、自分の声が音になっているか自信がない。
と、何かが頬に触れた。
誰かの細くて暖かい手。
するとそれまで真っ暗だった世界に色が現れる。
僅かに光を灯す、友人の輪郭。
長くて艶やかな黒髪が暗黒の中でさえハッキリと見て取れた。
友人は神社の神主さんが着ているような服を着込んでいて、なぜだかその顔には困ったような悲しんでいるような表情が浮かんでいた。
あんた、こんなところに居たの。ホラ、帰るよ。
言ってみたけれど、我ながらとても間抜けな台詞だと思った。
美香子は眼を細めて微笑むと少女の頬に添えた手をそっと離して、こう言った。
【奇跡は、ここにあるんだよ】
キュウゥゥゥゥ――。
どこかで微かな駆動音が鳴り始める。
【MKCデバイスよりドライバの転送を受け付けました。システムの書き換えを実行します……、完了。
脳波リンクを開始します。ジェネレータ駆動値を120に設定。魔力ブースト率を1000倍に固定。
システム、EXPモードに移行します】
聞き慣れたはずの合成音が聞き慣れない言葉を連発する。
このシューティングスターという機体の中には一体何が積み込まれているというのか、パイロットには想像できなかった。
27 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:28:19.35 ID:yaCg8JW0
【あたし達は、ずっと一緒だよ】
反響する声が胸に深く染み込んでいく。
そして視界は再び暗闇へ。
ドクン。
鼓動が一際高く脈打つ。
目を閉じて、開く。
底のない暗闇?
違う。これは単に殺意の具現化をぶつけられた結果。
理解する。
敵から魔法による攻撃を受けているだけ。
防御する手段は?
魔法とは性質を変容させた魔力でしかない。
それなら反する性質の魔力をぶつければ、それは消滅する。
魔力とは自然界に満ちているエネルギーと自分の体内エネルギーとを混合した物。
法則を理解すれば、精神のチャンネルを合わせれば誰でも扱える物。
ならば、私にもできる。
魔法による攻撃は魔法によって弾き返す事が出来る。
だから、私にはできる。
「分かったよ、ミカ。……ありがとう」
呟いて未だ暗闇で見えない手を前にかざす。
恐れも怒りも、如何なる感情も感じなかった。
ただ確信があった。全てが自分の思い通りになるという確信。
「道を開けなさい!!」
腹の底から声を絞り出す。
その言葉に呼応するように、暗闇に盾に一本白い筋が入ったかと思えば、どんどん押し開かれてゆくじゃあないか。
『俺の魔法が破られただと?!』
形作られた道の向こう側に赤銅色のAMSが居た。
相手は焦った声でガトリング砲を持ち直すとこちらに向けて発砲してくる。
しかし吐き出された弾丸の嵐は、紅色の装甲の10センチ手前でひしゃげて停止していた。
『馬鹿な!!』
「こういう事ができるって教えてくれたの、アンタだよ」
そして腰を落とす。
全身の装甲が赤く、もっと紅く、炎のような煌めきを放つ。
【――対象座標を固定します】
合成音が言い終えるのと同時に敵機の四肢に光の輪っかが出現してその動きを封じる。
敵は藻掻こうとするが拘束が解かれる事は無かった。
『バインドだと?!』
【――《聖域》を展開しました。魔力濃度圧縮率、臨界値を越えました。攻撃を開始して下さい】
よく聞くとアナウンスする合成音は友人の声にとてもよく似ていた。
そっか、ずっと一緒に戦ってきたんだね――。
姿のない友人をとても身近に感じる。
優しい手が背中を押してくれたような気がした。
少女はふと微笑んで、身を委ねるように前へと躍り出る。
28 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:29:32.92 ID:yaCg8JW0
「――ゴルディアン・キック!」
真っ赤な光に包み込まれる。
機体そのものが真っ赤な光になる。
身動き撮れない標的が凄い早さで迫ってくる。
勢いを付けて、跳び蹴りの体勢に入った流星。
真っ赤な塊は床と平行にカッ飛んで、ほどなくして敵機を射貫いた。
『貴様……、そうか、あの方と同じ力を……!』
ヘルハウンドの隊長を名乗った男はそれだけを最期に吐き出すと木っ端微塵に爆発した。
敵機を射貫いた後、その背後に着地していた紅機体は肩越しに敵の塵になってゆく様を顧みる。
「少年誌にありがちな台詞を死に際に言わないで。お願いだから」
膝を付く格好だったので立ち上がろうとするけれど、どうしたことか尻餅をついてしまう雫。
モニタを見れば電力残量が底を尽きかけている。
いや、それ以前に足腰に力が入らなくて、駆け寄ってきた神威君に抱えて貰わなければ立ち上がる事さえ出来なかった。
『おい、大丈夫か雫!?』
「うん、なんとか」
『詳しい事は後で聞く。制限時間を切ったから脱出するぞ』
「うん、分かった」
仲間の腕を借りつつ来た道を返す二人。
途中で数名の敵兵に出くわしたが神威に残されていた弾薬でどうにか撃退して進む。
二手に分かれたT字路に差し掛かったとき、雫達は別れた人々と再会した。
「元気な様子じゃの、雫よ」
「クソジジイ……あとでぶん殴る」
そこには捕らわれていた源八爺さんが居た。
どうやら水無月チームは無事に仕事をこなしたらしい。
順調に地上階へと上った面々は大急ぎで建物から離脱する。
目端では格納庫から続々とAMS部隊が出陣するのが見えたけれど、彼らとやり合うつもりなんてさらさらない。
目的は達成されているのだから、あとは一目散に逃げ帰るだけなのだ。
「こっちだ、早くしろ!!」
門の所で粘っていた仲間達が怒鳴っている。
その後方には輸送ヘリが風切り音を轟かせている。
爺様は水無月さんが背に負ぶっていて、しんがりの冬矢君とキースさんが火力で追撃を押さえていた。
+++
こうして、どうにかこうにか奪還作戦を成功させた人々は、輸送ヘリに乗り込んで脱出。
全員無事に半壊した屋敷まで帰還できたのは出来過ぎとしか言い様がない。
しかし如月邸の地下施設に舞い戻った総司令は、全員の労をねぎらうより先に、施設に勤めているスタッフも含めて全員に招集を掛けると会議室に集めた。
29 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:30:13.12 ID:yaCg8JW0
「ワシらはここで決断をしなければならない」
源八総司令は開口一番にそう告げた。
会議室の壇上に巨大なスクリーンを広げて映写機で幾つかの写真を映し出す老人。
時間はすでに明け方になっていた。
しかし詰めかけた人々は不眠不休の作業で疲れ切っていて、どれもこれも目の下にクマを作っている。
源八爺さんの説明は、獣魔と呼ばれる地球外生命体の存在を明かすところから始まった。
全身を堅い甲羅で覆われた、昆虫の形を摸した生き物。
力が強く装甲の厚いクモ型。ステルス性に長けたゴキブリ型。飛行能力を持つハチ型。とにかく大群で押し寄せてくる軍隊アリ型。
他にも亜種なのかオオエンマハンミョウ型やリオック型。サソリ型にムカデ型と多種多様な獣魔が存在するが、全てに共通するのは人間を捕食するどう猛な肉食獣だということだ。
狐につままれた顔のスタッフ一同は、しかし何枚かの写真を見せられるうちに真剣な面持ちへと変わってゆく。
提供された資料ではアメリカ領内に出現したネストを壊滅させるために米軍は大規模な空爆を実施したらしい。
その後、半瓦解した巣に侵入を試みた軍の一個師団が半日を待たずに全滅、再度の三個師団同時投入によりどうにか殲滅する事に成功したという事実を告げたときには総員が真っ青な顔をしていた。
そしてつい先日、監視衛星から送られてきた写真により、日本領の島の一つ、佐渡島に獣魔の巣が形成されている事が判明した。
島内の街はすでに肉食昆虫共の狩猟場と化しており、生存者は皆無。
島への交通はすでに封鎖されていて、海上保安庁の船がガッチリ固めているらしい。
「これが我が国の現状じゃ。米国以外の国は黙りを決め込んでおるが、遠からずどこも同じになるじゃろう。
なにせ相手は今の時点で推定500兆匹、あと十年もすれば地上を埋め尽くすじゃろうからな」
このバカバカしい数字を述べるときだけ老人は憎々しげに口端を歪めた。
「さて、ここでワシらに突き付けられた選択肢がある。
政府は近々、佐渡島ネストの大規模な殲滅作戦を行うらしい。
自衛隊も総動員させる予定じゃ。Asも出張ってくるし、総力戦になるじゃろう。
そんな戦争へワシらは招待されておる。弾薬も装備も人間も、全てが足りない中での招待じゃ。
しかしこの戦で敗れれば遠からず人類は滅亡するじゃろう。そういう戦じゃ。
時間が惜しいので各自早急に決断して欲しい。ワシはこの作戦に乗るつもりじゃが、皆はどうする。
妻子の事もあるじゃろう。命が惜しい者もあるじゃろう。
ワシはそういった者を非難しない。一度きりの人生じゃ。誰にも己の意志に従う権利があるとワシは思う。
故に、一時間だけ待つ。命を捨てる覚悟をするか、この地を去るか。各々、時間はないが慎重に選んで欲しい」
会議は老人の演説で締めくくられた。
思い思いの面持ちで会議室を去ってゆく背中達。
主要な人々だけが取り残される頃になって、孫娘は老人の胸ぐらを掴んで詰め寄った。
「どういうことよ、このクソジジイ!!」
「うお、なんじゃ雫。ついに家庭内暴力か?!」
「落ち着け雫」
「むうぅ!」
冬矢君に制止されて掴んでいた手を離す少女は、しかし鼻息も荒く総司令を睨み付ける。
爺様の説明では、軟禁されたあの朝、彼は普段から懇意にしていた政治家の家に出向いていたらしい。
そのツテを辿らなければ政治の世界に首を突っ込めないからだ。
しかし目的地に到着する間際になって、黒ずくめの集団に拉致されてしまった。
まあ、要するに先手を打たれたということです。
約束を取り付けていた政治家が裏切ったのか、それともすでに動きを察知されていたのかは分からない。
どちらにせよ黒ずくめ達は政府の手の者で、拉致した老人を現首相の前へと引きずり出したのだ。
そこで行われた話し合い。
それは要約すると、政府に協力して兵隊を出すか、もしくは関係者全員を強制収容所送りにするかの二者択一を迫る内容だった。
老人は考える時間を求めたが、その煮え切らない態度に腹を立てた首相が彼を攻撃部隊の駐留所に送り、ついでに屋敷への攻撃命令を出したと。
そんな経緯だった。
30 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:30:46.36 ID:yaCg8JW0
「そのおかげで家は半壊、私は合同葬儀を執り行わなきゃいけなくなったワケね」
「いや、それは本気でスマンと思っておる」
深い深い娘さんの溜息。
「だけど意外よね。自分の家を攻撃されて死人まで出たって言うのに、爺ちゃん、話に乗るんでしょ?」
ここまでやられたら、私だったら意地でも蹴るのだけれど。
特に自分の欲望や嫉妬心には正直な老人なだけに、その決断には信じられないものがある。
ひょっとしてすでに洗脳されているんじゃあなかろうか。
雫ちゃんの疑いを晴らすように老人は飄々と答えた。
「じゃが大切な孫娘を戦地に送るのじゃから、タダでは受けんよ」
どうやらこのジジイ。作戦成功と同時に軍事基地を一つ貰い受ける所存らしい。
独自にAMS開発と量産・運営を執り行う、政治から切り離された軍事組織の設立を軟禁されている中で提示していたのだ。
そして脱出する間際に通信室から『この襲撃は家を狙った事に対するケジメじゃ』と発信しておいた。
こうしておけば今回の奪還作戦が正当化できるし、報復攻撃を心配する必要も無い。
「っていうか、それって私たちが行かなくても普通に帰って来れたってことじゃあ……」
「バカモノ。こちらの実力を見せておかんと今後の遣り取りでナメられるじゃろうが!」
転んでもただでは起きないこの老人。
こちとら水槽漬けの脳みそまで見せられたっていうのに……。
ちょっぴり殺意の芽生える雫ちゃんです。
「それはそうと、美香子のこと、ちゃんと捜索かけておいてよね!」
「うむ、心得た」
だけど肝心の友人の事に関しては、老人は知らないと答えるだけだった。
少なくとも源八爺さんが連れてこられてから今に至るまで、基地に誰かが運び込まれた気配は感じなかったとの事で。
なので今度は政府の目も借りて友人の捜索をお願いしようと画策する雫ちゃんです。
だけど、実を言えば。
友人はもうこの世に居ないのではないかと考えている。
戦いの中で感じた彼女の気配が、それと触れ合った自分の本能的な部分が、密やかに友人の死を直感していたから。
だからあまり期待はしない。
今はただ前だけを向いて進もう。
もしも友人の無事な姿を見る事が出来たのなら、直感とかは気のせいだったで片付けて素直に喜ぼう。
そう、無言のまま決意する。
一時間の後、再び会議室へと集まった人々。
その数は若い工員が幾名か抜けただけで、以前とほとんど代わり映えがなかった。
これが喜ぶべき事なのか、自殺志願者の多さに辟易すべきなのかは分からないけれど。
どちらにせよ爺様のカリスマ性は未だに健在なんだなぁと再認識せざるを得ない雫だった。
おわり
31 :
天使ノ要塞:2011/04/16(土) 16:43:26.17 ID:yaCg8JW0
リアルが忙しくてなかなか手を付けられない状況ですが、それでもどうにか投下です。
容量的にスレを圧迫してしまって申し訳ないです。
投下お疲れさま
33 :
創る名無しに見る名無し:2011/04/23(土) 20:43:20.64 ID:EpdPyuPc
ゲーマーズ作者やまなみ作者はどこに消えたのかな
34 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/03(火) 07:04:08.84 ID:5S9LydUC
魔法少女・アナルと変身ヒロイン・ヴァギナには、何故ちんこがあるのだろうか?
35 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 19:04:46.68 ID:yBR6wGTq
36 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/12(木) 23:35:09.66 ID:PtF3zFl0
てすと
37 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:37:51.10 ID:PtF3zFl0
第18話 「白い悪魔、黒い天使」
その日、As本部の格納庫に二人の女が訪れていた。
一人はAsの部隊章と猫を象ったワッペンをそれぞれに貼り付けたジャケットを着込み、通り掛かるスタッフの方々からいちいち会釈される女性、柊川七海隊長であり。
もう一人は長い黒髪を首元で結わえた女性。
二人は年齢が同じでそれぞれに美人だったけれど、身に付けているのがジーンズやらジャケットやらで、しかも化粧と呼ぶほど大層なメイクも施していないから色気もへったくれもない。
「急に押しかけちゃってごめんね七海」
「タイミングが良かったね。先週だったら出張してたから入れ違いになってたわ」
「出張って?」
「米軍基地。細かい事は言えないけれど、新兵の教育とかしてたの」
「そっか、大変だね。そう言えばリュンクスの人達は?」
「みんなも似たようなものよ。年に数回、本部から招集が掛かったときなんかに会うのだけれど、相変わらず忙しいみたい」
「そっか……、山岸君は?」
「徹は元気だよ。でもって来年くらいに結婚するの」
「そう。式には呼んでね」
「もちろんだよ☆ そういう水瀬ちゃんは? ええと、異世界にあるっていう学校に通ってたんでしょ?」
「うん、卒業してからしばらくの間、色々と動き回っていたの」
「じゃあ今は正式になんとか騎士団の一員なんだ。凄いね」
「女神近衛騎士団。通称でナイツね。けど正式にはなってないの。試験で落ちちゃって」
「あらま。ええと、その、気を落とさないでね」
「落ち込んではいないわよ。もう過ぎた事だし」
二人して笑いながら鉄の臭いが漂う中を進む。
二人は幼い頃からの親友だった。
高校を卒業してからそれぞれに別の道を歩む事になったけれど、こうして再会できた事は素直に嬉しい。
七海の親友は高岡水瀬という名前で、実は戦う変身ヒロインとして一緒に戦った事もある娘さんだった。
とはいえ一時は対立していたし、七海から右手を奪った張本人でもあったりするのだけれど。
それでも今は全ての問題が解決されているし、お互いを親友として認め合っている。
「ずっとこっちに居るの?」
「う〜ん。色々とやらなきゃいけない事はあるけど当分の間は暇だし、しばらくはお世話になるんじゃないかしら」
「そうなんだ。じゃあさ、この後お買い物に行かない? 夏に着る服が欲しいの」
「ええ、いいわよ」
「じゃ、決まりね」
どういう経緯なのかは分からないが水瀬さんはAs局長である室畑氏に連絡を取り、しばらくのあいだ客人として居候させるよう約束を取り付けた。
でもって、客人といえど元、というか現役の変身ヒロインなのだから居る間だけでも働いて貰おうという事になって。
それで彼女専用のAMSを新たに新調する事にしたのです。だから二人して格納庫くんだりまでやって来たと、そういう次第なのです。
いや、まあ。色々と思う所はある。
一台で高級車が何台も買えてしまうようなバカ高い機体を、どうして正規雇用されていない人間のためにあつらえるのか、とか。
これを決定した局長とはどういった関係にあるのか、とか。
そもそも変身ヒロインに機械甲冑であるAMSなど着せる意味があるのか、とか。
だけどわざわざ尋ねようとする勇敢な猛者はいなくて。
七海としても親友に会えたというだけで満足していて詮索するつもりも無いようだしで、真相が暴かれる事は無さそうだ。
そうこうする間に、二人はデッキの前までやって来た。
デッキには見た事のないAMSが据え付けられている。
装甲の淵は金色で、基調になっている漆黒色と所々に走る赤い筋とが絶妙な色加減を形作っている。
見てくれははミリィのファントムをさらにゴテゴテさせた感じだ。
その足下に踞っていた若い工員が二人の気配に気付いて慌てて立ち上がった。
「どうも、お疲れ様っス」
「おつかれさま〜」
「その機体が?」
「……ああ、搭乗される方っスね。この機体がGTX02『プレストニア』。開発局から送られてきた新鋭機っス」
作業していたのは二十代前半の青年で、油まみれの作業服ポケットから紙切れを取り出して何かメモを取っている。
「試験運用は明後日からッス。仕様書には目ぇ通しておいてくださいね。……それにしても凄い機体っス。一体誰がこんなの考えたんでしょうねえ」
38 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:39:07.87 ID:PtF3zFl0
一体誰がと聞かれれば二人が思い浮かべるのは一人きりなのだけれど、それはさておき。
青年工員は今度は七海さんの方に顔を向けるとポケットから布の包みを取り出した。
差し出されたそれを受け取って開いてみると、そこには銀色に艶光る石がある。
GTX00/SLI『アレンデール』の心臓部とも言える石、ラピッドストーンと呼ばれる物質だった。
「七海さんの機体は一週間ほどメンテで動かせないから、石だけ抜いておいたっス」
「え、そんなにかかるの?」
「オイル交換だけじゃあなくて部品もいくつか取り替えなきゃいけないんで」
「もっと早くできないの?」
「そう思うならもっと丁寧に扱って欲しいッス。データを見せて貰いましたけど、七海さんは操作が荒っぽすぎるッス。AMSは繊細なんスよ」
「あうぅ」
苦笑を漏らす水瀬さん。ガックリ項垂れる七海さん。
若い工員は次の仕事があるからと溜息混じりに去っていく。
そそくさ用事を終わらせた二人は、その足で本部から抜け出した。
就業時間まではまだ幾ばくかあったけれど、七海は隊長として街を見回ってくると言えば誰も反論なんてできないし、水瀬に至っては正規の職員ではないからどこに外出しようと本人の自由。隊長さんの付き添いであれば尚のこと文句を言ってくる人間もない。
商店街を練り歩き、ショッピングモールであれやこれやと買い込んで、ケーキが美味しいと評判の喫茶店『KAMUI』でお茶などしていれば、気が付けば午後5時を過ぎていた。
「水着も買ったし、服も買い込んだし、ストレスも発散できたしで言う事無いね☆」
「七海、この季節に水着って、ちょっと早すぎない……?」
「ん、次の出張先は南の島だから、そこで着るの」
「海で泳いだりして腕、錆びたりしない?」
「大丈夫、水瀬ちゃんが居ない間に何度かバージョンアップしていてね。今のは錆びないしパワーも耐久力も抜群だから、今なら戦車と戦っても負ける気がしないよ!」
「いやいや、戦車と勝負することと水着は関係無いから」
「そうじゃなくて、南の島っていうのが武装ゲリラの動きの激しい場所でね。ひょっとしたら本当に素手で戦車に挑まなきゃいけなくなるかもなの」
「……あんたってば、人生サバイバルを地でいってるわね」
「そう? 褒められると照れるな」
「いや、褒めてないから」
喫茶店を出た後は寮でパスタを作ろうということになって、夕暮れ時のアスファルトに互いの影を落とす。
キャッキャウフフと両手一杯に紙袋を提げて家路を急ぐ。
七海は学生時代に戻ったようにはしゃいでいたし、その親友も苦笑は多かったけれど楽しそうだった。
やがて閑静な住宅地を突っ切り、細い裏通りに差し掛かった二人は、そこで日常と非日常の境目に出くわした。
「柊川、七海さんですね?」
黒ずくめの男が5人、二人の行き先を阻む格好で立ち塞がった。
肩越しに見遣ると挟み撃ちする格好でさらに4人。
そのうちの何人かは懐に手を忍ばせていて、拳銃などを隠し持っているのだろうと容易に推察できる。
七海さんは「今日の運勢、悪くは無かったんだけどな」なんて他人事のようにうそぶくと溜息混じりに両手の荷物を落とした。
「あたしが何者か分かって近づいたって事は、もちろん殺される覚悟もできているのでしょ?」
一歩小柄な輪郭が前に出る。
空気が一変し、男達の間に緊張が走る。
しかし彼らは胸元の得物を引き抜くでもなく、一番手前にいた人間が僅かに進み出ると口を開いた。
「我々は政府直属の特殊部隊『オルトロス』から派遣されてきました。貴女を本部まで案内する任務です。
周辺地域への被害を鑑みて手荒な事はなるべく避けたい。黙って付いてきていただけませんか?」
「オルトロス……暗殺専門の外道集団が周りの迷惑を考えるなんて意外ね」
「外道とは心外です。我々も好きこのんでそういった任務に従事しているわけではないのですよ」
39 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:40:40.93 ID:PtF3zFl0
黒ずくめの声は若い。察するに30代前後といったところだろう。
見回してみれば確かに周りは民家で、こんな所で派手な立ち回りをすれば一軒か悪くすれば数件が色々と被害を被る事になる。
素手で戦うぶんには問題無くとも、この人数を相手取るなら攻撃魔法の使用も避けられないだろうし。
七海さんは考えて、だったら相手の拠点で暴れた方が手っ取り早い上に後腐れ無くて良いんじゃあないか、なんて結論に至って地面に落とした紙袋を持ち直す。
隣の親友に目配せすると、彼女は慎重に成り行きを見守っている様子だった。
「あたしは行かない方が良いの?」
「どっちでも良いけど、あたし個人としては一緒に来て欲しいな。そのぶん早く終わるし」
「そんなに頼りにされても困るんだけどなあ……」
ヒソヒソと遣り取りする娘さん方。
水瀬さんが苦笑混じりに返すと相方はニッコリと笑顔で頷いて見せる。
つまり、交戦状態に陥った際には彼女にも手伝えと、そう言っているのです。
「分かったわ。でも、せめて荷物は家まで届けて欲しいな」
「ご安心下さい。こちらで届けておきますので……おい」
「はっ」
男は気が長くないのだろう。女性達のひそひそ話に割って入った後は背を向けて付いてくるよう催促するのだ。
ここで待ったを掛けたのはなぜか水瀬だった。
「ちょっと待って。その前に胸のポケットに何を仕込んでいるか見せて貰えないかしら?」
呼び止められて振り返った男は、少しばかり苛ついたのか荒っぽい仕草で懐に手を入れるとそこに収められていた物品を取り出した。
他の人間達も同様に隠し持つそれを提示する。
彼らの手にあったのは拳銃ではなかった。刃物でもなかった。一様に黒く艶光る塊だった。
異世界でも、こちらでも、ラピッドストーンと呼ばれる代物だった。
「これで満足ですか?」
「……ええ、結構よ」
ラピッドは、本当はAMSに搭載するための部品ではない。
ラピッドは、本来は所有者の魔力を増大させ、魔法を行使するシステムを構築するための演算装置であり。
ようするに戦う変身ヒロイン達が振るう超常の力を、それ以外の人々でも発揮できるようにと開発された工業品だった。
そして、そういった代物を所持していると言う事は、つまりは彼らは全員とも拳銃ではなく魔法で攻撃を仕掛けるつもりだったと、そういうことなのだ。
少しばかり鋭くなった目で黒ずくめ達の後を追う水瀬さん。
「……面白い事になりそうじゃない」
誰にも聞き取れない声量で呟く。
別の観点から見ると、彼らが所属する組織では魔法という物の運用体制が確立されているということになる。もちろん製造も含めての話だ。
七海の所属するAsにしても、このオルトロスとかいう戦闘機関にしたって、現政府内で立ち上げられた組織には違いが無くて。
だからといって表だって魔法の情報を公に開示する事はしてなくて。
それはつまり、政府は魔法を運用する事で影から世界に影響を与えようとしているということ。
いや正しくは、あの科学者が在籍するSXSという組織が、なのだろう。
この先、獣魔の存在により窮地に立たされる事になるであろう人類にとっては、それはもしかしたら良い事なのかも知れない。
けれど、少なくとも愛とか正義とか、そういうものの守護者として君臨する女神近衛騎士団とは全面的な対立を生み出すことになる。
なぜなら騎士団はラピッドを犯罪の発生源、即ち『悪』と見なしているのだから。
悪の産物を扱う人間は悪。悪に組みする者も悪。悪は人間ではなく徹底的に屠るべき敵。敵は全て殺せ。
それが古から今に至るまでの女神に忠誠を誓う彼女らの一貫した考え。
結果として神の代弁者を気取る殺戮者達は、そう遠くない未来でこちら側の世界に宣戦布告することになるのだ。
水瀬はすぐ前を歩く背中達に無機質な視線を投げかける。
40 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:41:40.54 ID:PtF3zFl0
高岡水瀬、かつてミスティアークの名で愛と平和のために戦った女は、とうの昔に絶望していた。
己の信仰のためなら簡単に他者を踏み潰してしまう女神騎士の人々にも。
信者の暴走を止める素振りもせずに力を供給し続ける女神にも。
もちろん己の欲望のためなら躊躇いもせずに悪事を働く人間達は今でも憎らしい。
けれど、それを暴力で押し潰して無かった事にするのは違うと思うのだ。
ましてや神だの仏だのが手を下すなど筋違いにもほどがある。
だから水瀬は、まず女神とその眷属を滅ぼそうと思った。女神という存在を消してしまえば、その恩恵を享受する側もまた消滅する。
人を壊すのは人。ならば人を裁くのも人でなければならない。
それが過去に失われた命と引き替えに得た、たった一つの願いだった。
+++
黒ずくめ達は全部で10人居て、小道から出たすぐ先で停車していた白いワゴン車二台で移動を開始する。
移動していた時間は一時間弱といったところだろうか。
市街地から少し距離を置いた、山道に差し掛かる直前で自動車はエンジンを停止させた。
娘さん二人が拉致されてやって来たのは山の裾野にポッカリと口を開ける防空壕よろしくの入り口で、煌々とコンクリート敷きの床を照らし出す裸電球が奥まで続いている。
「随分と素敵な住処じゃないのさ」
思わず軽口を叩いてしまう七海さん。
黒ずくめ達は依然として緊張の気配を漂わせていて、先ほど言葉を交わした男がここでも先導して二人を案内する。
入り口から十メートルくらいまでは剥き出しのコンクリートだったけれど、そのさらに奥は金属製の通路になっていた。
長い廊下を進むと十字路が幾つかあって、曲がり角など全て無視して直進した団体様はそこに最新式のエレベータを発見する。
AMS一個小隊を運搬することを目的に設計されたエレベータであれば生身の人間12人くらい難なく積載できる。
分厚い鉄製扉から乗り込んだ一行は微かな振動と共に下へと降りてゆく。
「到着です」
やがて開いた自動昇降機の扉。
黒ずくめ男の声が静かに宣言する。
エレベータの向こう側は大きな部屋になっていた。
何も無い、がらんどうの部屋。
部屋の奥には格納庫のハッチを思わせる昇降式の鋼鉄扉があって、その向こう側から低い唸り声にも似た振動が伝わってくる。
中央付近まで押しやられた二人は、黒ずくめから少し待つように言われた。
「……これだけ要塞化されたんじゃ、生半可な攻撃は通用しないわね」
「水瀬ちゃん、気乗りしない様子だったのに今はやる気満々だね」
「そりゃあ、ラピッドを見せられた以上は、ナイツの端くれとしてはやる気にもなるでしょうよ」
「あ、そっか。ナイツって確か、ラピッド狩りもやってるんだっけ」
「そういうこと。といっても正規じゃないから本当はどちらでも構わないのよね。まあ、成り行き次第ってところかしら」
周囲の人々が二人から距離を開けて取り囲んでいる。
娘さん達は小声でお喋りしつつ、新たな登場人物を待っている。
「相手は全員ラピッドで武装した魔法使い。数は、建物の規模から考えて精鋭が200ってところかな。一般兵も含めて1000人くらいを見積もっておいた方が良さそうね」
「それって一個大隊並みじゃない。いくらなんでも多すぎない?」
「でもAsだってスタッフ全員の数を合わせればそれくらい居るでしょ? 同時期に組織された戦闘部隊なのだから均等に割り振られていたっておかしくはないわ」
「だけど、もしそうだったとして一人で500、やれそう?」
「う〜ん。ラピッドを運用する施設なだけに魔力防御も施しているだろうから壁抜きは難しいでしょうね。となると長期戦覚悟で虱潰ししていくしかなくなるけれど、それもたいがいしんどいのよねぇ」
「やろうと思えば出来るみたいな言い方だね」
「アンタはどうなのさ?」
「相手にもよるけどきっと大丈夫」
「そう。だったら問題は無いわね。仕掛けるタイミングには注意なさいよ」
「は〜い」
41 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:44:06.73 ID:PtF3zFl0
余裕綽々の二人だった。時折笑みを零す女性達の姿は、大勢に囲まれている状況の中では奇異な代物でしかない。
しかし、それすら自然と感じさせるほどに、二人は幾多の戦場に身を投じ、骸の山を乗り越えてきているのだ。
そして、そんな異様な空気を察知しているのか黒ずくめ達は遠巻きに固唾を飲む姿勢を崩さない。
しばし待たされて正面奥のゲートが重厚感に満ち溢れたがなり声と共に開かれた。
「ごきげんよう」
やって来たのは年の頃20代前半の、小柄な女性だった。
肩に掛かる長さのおかっぱ髪。服装はカーキ色のジャケット、その下に太ももが見える丈の黒いワンピース。足に革のロングブーツを履いている。
女は口元に笑みを浮かべ、しかしとても暗い目で七海さんを見据えている。
「あなたがAsの白い悪魔、柊川七海さんね?」
「ええ、そういう貴女は?」
「初めまして、私、蒼井聖と申します」
蒼井と名乗った女は含み笑いして見せた。
その独特な、蛇が獲物を狙うかのような雰囲気に七海の背筋が逆立つ。
どうにも生理的に受け付けないタイプの人種なのだろう。
「それでこんな山奥まで連れてきて、一体どんな用件かしら?」
七海が冷静な音色で尋ねると、女は首元を飾る黒いブローチを指で弄びながら答えた。
「私たちは近々、大規模な強襲作戦を行うつもりなの。それであなたにも協力してほしいのだけれど、どうかしら?」
七海さんは相手の言葉を吟味して、やや間を開けて答えた。
「そういう話なら政府側に話を通すのが筋ではなくて? 同じ政府直属と言っても組織としては別枠なのだし」
「そうもいかないの。だって、私たちが攻撃するのは国会議事堂なのだから」
「ああ、つまり、クーデターを起こそうっていう事ね?」
この時点で七海さんの表情は辟易していた。
かつて、クローン技術で戦士を大量生産して全世界に向けて宣戦布告した人々が居たし、そんな彼らの野望を打ち砕いたのは他ならぬ七海だったから。
彼女はポケットから銀色の石を取り出して、指で弄びつつ言葉を紡ぐ。
「参考までに聞いて置くけれど、断ったらどうなるのかしら?」
「もちろん今ここで死んで貰うわ。貴女の大切な恋人にも相応の代償を払って貰うし」
「彼もここに?」
「ええ、どうせ死ぬなら同じ墓穴に入った方が本望でしょ?」
「ご愁傷様」
「どういう意味かしら?」
怪訝な顔の女。反して七海さんはとても愉快そうに笑う。
「水瀬ちゃん。これで私たちの負担は3ぶんの1になったね」
「そうね。帰ってパスタを作る時間までできたわ」
「何を言っているのかしら、あなた達は」
すぐに分かるわ、それまでアナタが生きていられたらの話だけれど……。
それだけを言って、手の中のラピッドストーンを突き出して見せる。
「アレンデール、セットアップ」
【SET UP】
その傍で溜息混じりに菱形の青い石を取り出し、両手で包み込むと祈る仕草で呟く水瀬さん。
「エンジェライズ・リフレクション」
すると彼女たちの輪郭から白と黒、二つの色合いを含む光が放たれ、それぞれに衣服を分解・再構築する。
次の瞬間に同じ場所に立っていたのは、それまでとは違う存在だった。
42 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:45:59.41 ID:PtF3zFl0
「たまにはAMS無しの戦いってのも悪くないわね」
一人は白の闘士。
丈の短い白マント、結わえるのは真っ赤なリボン。
銀色の髪。金属製の靴は白く。長いのと短いの、二種類を組み合わせた複合スカート。
右腕に装着されているのは黄金色の竜頭手っ甲で、竜の顔には白い縁取りがあった。
「それじゃあ、ちゃっちゃと片付けますか」
また、もう一人は黒の騎士。
細い体を包み込む漆黒のマントと同色衣。長い髪はツインテールに結い上げられ、金色に染まっている。
胸元には紺碧色の宝石が装飾金具にはめ込まれる格好で静かに光を放ち。
手には狂おしく身をよじるように捻れた黄金の弓が握られている。
二人は居並んで周囲の黒ずくめ達を見る。
男達は懐からラピッドを取り出して各々に攻撃態勢を整えている。
また、開きっぱなしのゲートからステルス塗装されたAMSが30体、大型火器で武装した歩兵が100人ほど、駆け足でやって来ると女二人を取り囲んだ。
「まだ返事をして貰っていないのだけれど、変身したと言う事は話を断ったと考えて良いのかしら?」
「ええ、大勢で押し包んで力づくで言う事聞かせようっていうその根性が気に入らないわ。話の内容が何であったとしても答えは同じよ」
「せっかく死ななくて済むチャンスをあげたというのに、本当にお馬鹿な子」
「残念だけれど、あんたは根本的なところで思い違いをしているわね」
「どういうことかしら?」
「こういうことよ!」
叫ぶのと同時に白い輪郭が掻き消える。
七海は地面スレスレの跳躍で手近な集団に向けて突っ込むと、そこにいた人間達の首関節をことごとく捻り折る。
ものの十数秒で20以上の骸が、突っ立っている七海の足下に転がった。
「周りが全員敵だと敵味方を区別する手間が省けて楽だわ」
「くっ……!」
女が顔を歪めて舌打ちする。
だが別の方から上がった言葉で我に返った。
「こういう建物の中での銃の使用は自分の首を絞めるだけだって、どうして気付かないのかしら?」
意識が白ヒロインに向いていて、もう一人には全く注意を払っていなかった。
その隙に水瀬は弓に付いていた金具をせっせと外し、必殺技を放つ体勢を整えていたのだ。
金具の取り払われた黄金弓は左右に割れてXの形へと変形する。
そこに光の糸が出現して、指を掛けて引けば巨大な光の矢が出現した。
【FULL CHARGE】
『駆けろ! スプラッシュ・トレイサー!!』
放たれた矢はそこからさらに変形して光の隼へと姿を変えた。
翼を広げた塊は敵集団に直撃する手前で急に旋回して、隊列を真横から急襲する格好で薙ぎ払う。
この攻撃でフロアにいた兵の7割が、AMSやラピッド石の有無に関係無く胴体を引き裂かれて絶命した。
隼は最後に蒼井聖に迫ったが、激突する寸前で彼女が腕を振り抜くと爆発、光は飛散する。
「……やってくれるじゃない」
憎々しげに絞り出された言葉が僅かに反響する。
けれど、その声に反応できる人間は居なかった。
他の誰も彼もが、常識を覆す光景に息を飲むしか知らなかった。
それ以外の人間、つまりは攻撃を行った当人達はそれがごく当然の結果だと言わんばかりの顔で、まだ居残っている敵を見渡す。
「七海、早く片付けたいから二段階目に移ろうと思うのだけれど、アンタはどうする?」
「うん、いいね、そうしよう!」
43 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:47:08.50 ID:PtF3zFl0
弓をコンクリート床に突き立てた水瀬。
彼女はマントの内側から茶色い帯――空手や柔道の胴着に使われているような帯を取り出すと腰を捻る勢いだけで身に付ける。
「リフレクション・ツヴァイ!」
【UP DATE】
やたらと巻き舌な合成音を響かせつつ、いわゆる二段階変身というものが始まった。
背中と肩口をすっぽり覆っていた黒マントが、まるで花開くように二つ対の翼になった。
肩に少しばかり大きめの装甲が出現し、腕には漆黒色のガントレットが生えだしてくる。
またツインテールに結っていた紐が、ブラウン色のリボンに換装された。
そして手には上端と下端にブレードの付いた、接近戦でも凶悪な殺傷能力を発揮しそうな黄金の弓。
神々しさを放ちつつ、黒双翼の天使がそこに居た。
一方の七海は竜頭型手っ甲の上蓋をスライドさせると、そこへ一見して単三乾電池を思わせる物質を挿入。
「カシャコンッ」なんて音と共に蓋を閉めると竜の目に光が灯る。
「もういっこ、変身!」
【COMPLETE】
黄金色の手っ甲が啼いた。
白マントが失われて、引き替えに卵形の塊が背に二つ現れた。
塊は機械的な駆動音を唸らせつつ変形、それぞれ真っ白な光の翼を吐き出す。
マントの無くなった肩口には小さなショルダーパッド。
これが彼女の二段階変身。白い悪魔と恐れられる七海さんの本気の姿。
水瀬さんと七海さん。歴戦の変身ヒロイン二人は一瞬だけ目と目を合わせると、綺麗にハモるタイミングで口を開いた。
「「オーバークロック!!」」
【【Over Clocking!】】
同じタイミングで言ったものだから追随する合成音まで見事にマッチして、それがちょっと面白かったけれど。
ともかく白と黒、二つの輪郭が瞬間的に残像となってフロアいっぱいを駆け巡る。
二人が立ち止まった次の瞬間に、部屋で銃を構えていたはずの兵隊達がバタバタと倒れ込み、残されたのは女だけ。
蒼井聖は二人を睨み付けると「化け物め……」なんて呟くばかり。
死屍累々の中で、しかし女は気を取り直したように含み笑いするとそれぞれに距離を置く二人に言葉を投げかける。
「おかげで貴重な戦力が随分と減らされてしまったわ。一体どうしてくれるのかしら?」
「アンタが居なくなれば全て解決すると思うのだけど」
「ふふっ。そう、私と戦おうと言うのね。面白いわ、素敵なアイデアよ。けれど、上手くいくかしら?」
いちいち鼻につく仕草で胸元の黒い宝石を握り締めた女は、思い切りよく引きちぎってかざして見せた。
女の輪郭からどす黒い光が揺らめき立つ。
「サタナイズ・リフレクション……!」
その刹那、床と天井が真逆になった。
部屋の四方を囲む壁が剥がれ落ちて、その先に気色悪い紫色の空間が広がる。
それまで立っていた輪郭が闇に溶けて、次に巨大な爪が向こう側から闇を引き裂く。
出現した蒼井聖は真っ黒な衣装とオレンジ色の光を放つ金属爪に身を包んでいた。その目が赤く、怒りと憎しみの光を放っていた。
七海は、水瀬も、それを恐ろしい代物だと思った。
44 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:48:23.49 ID:PtF3zFl0
「最初はね、私だって女神に祈りを捧げていたの。けれどアイツは女神なんかじゃあなかったの。
祈りも願いも、何一つ叶えもしないクセに殺せ殺せと囁きかける。だからね、私は祈りも願いも捨てたの」
「そう、堕天使ってワケね」
水瀬が無表情に弓を引き、光の矢をつがえる。
七海の光の翼が一際大きくはためく。
「悪魔に魂を売ったって? それがどうかしたの?」
光の翼が真っ直ぐに伸びて、その身体を前へと押し上げる。
光の矢が無数に増殖して塊へと形を変えてゆく。
そして二人は攻撃態勢に入った。
『撃ち抜け! シューティング・スター・スプラッシュ!!』
『真・アルティメット・ブレイカー!!』
無数の矢がレーザービームのように黒い輪郭へと放たれた。
光の拳が、身体ごと敵めがけて突っ込んだ。
――しかし。
ゴファッ!!
彼女らの中で爆炎が弾けた。
放たれた矢も拳も、手応えも感じさせないままに闇の中へと吸い込まれて、今度は同じだけの衝撃が跳ね返ってくるのだ。
七海が遥か頭上まで吹っ飛ばされて盛大に墜落した。水瀬が体中から血を吹いて床に崩れ落ちた。
「くぅ……、痛いじゃないの」
「本気でマズいかも」
呻きながら、それでもどうにか身を起こす二人。
そんな白黒天使に、堕天使は薄気味悪い笑みを投げかける。
「痛いでしょ? もっと痛くしてあげる。だから、素敵な声で鳴いてちょうだい!」
愉しげに述べてから、お返しだと言わんばかりに爪の付いた腕を振るう。
すると気色悪い背景の向こうから無数のどす黒い塊が飛んできて二人に襲い掛かる。
容赦なく降り注ぐ塊を体一杯に浴びて、悲鳴すら上げられない。
二人はそれぞれに床に這いつくばって、起き上がろうと藻掻いて、黒い塊に打ち付けられてまた倒れるという動作を繰り返す。
やがて疲れたのか、相手は一旦攻撃のを止めて一息吐いた。
「あらあら、地べたを這いつくばって、まるで憐れなウジ虫ね」
いちいち癇に障るぬめり気のある声が、白い悪魔の闘争心に火を付ける。
黒い天使に至っては、頭の血管が「プチン」と音を立てている。
二人はボロボロになりながら、自身から流れ出た血溜まりの中でさえ、どうにか手を付き立ち上がる。
仲間の顔を見て互いにニッと笑んでみせる。
「あたし、全力全開でアイツをぶちのめそうって決めたのだけれど、水瀬ちゃんはどうする?」
「同感ね。こういうのは普通に殺したくらいじゃ死なないだろうし、存在そのものを消し去ってやるわ」
45 :
天使ノ要塞:2011/05/12(木) 23:50:41.48 ID:PtF3zFl0
弓を投げ捨てた黒。
今にも崩れ落ちそうな身体を力ずくで踏ん張って、手を真上にかざした白。
二つの輪郭がそれぞれに金と銀、二種類の光を帯び始めた。
【INFINITY FORM】
黒い衣装が金色へと染まってゆく。
黄金の翼が三対、その背に広がっていた。
肩にあった装甲が割れてスカートよろしく腰に巻き付く。
ツインテールの髪が解けてストレートになった。
それが水瀬の最終形態。神すら殺す破壊者の姿だった。
また一方で、かざした手はどこからか降ってきた巨大な剣を掴んでいた。
剣は見た目ほど重くないのか、持ち主は二度三度と振ってみせる。
すると大型器物の輪郭が緑色の筋を描き出し、やがては同調して銀色に染まってゆく。
【A.M.FIELD ― START UP】
【S.L.I.Count 10 second. Ready――】
巨大な剣を肩に担いで、膝が床に付きそうなまでに腰を落とす銀色の闘士。
合成音の【Go!】という声と同時に彼女は飛び出した。
「これがあたしの、全力全開、だぁっ!!」
みるみる迫る敵影に、渾身のハイキック&ローキック、流れる動作で回し蹴り。さらに上体を捻って浴びせ蹴りへと移行する。
超超高速、いやそれすら生ぬるい神速のコンビネーションだった。
しかし相手は倒れない。腕に装着した金属爪で攻撃をいなし、かわし、防いだかと思えば反撃に突いてくる。斬りつけてくる。
だが七海にとってそれらの攻撃はその全てが囮であり、本命は次の一手にあった。
「いっくぞぉぉぉ!!」
攻撃をかいくぐって懐に入る。
手を伸ばせば届く場所。これが七海さんの射程圏。
左手に持つ巨大な鉄塊は盾でしかなかった。逆手に持っていたのは右手の攻撃を見せないよう壁とするため。
右手の中には火花を散らす天使の輪っか、二つ。
改良を重ね、幾多の戦いの中で編み出した最強の必殺技。
「アルティメット・ブレイカーァァァァ!!」
真と付かないのは、こちらの方が歴史が長いから。
あの頃はまだ輪っか一つしか作れなかったけれど、今は違う。
それに至るまでのコンビネーションも、技そのものだって、無数の修羅場とたゆまぬ修練によって磨きをかけた。
今や、誰にも負ける気がしない。
それがたとえ、神だの仏だのが相手だったとしても。
ドカンッ!!
突き出された掌。
相手に密着した状態から放たれるのは修羅の技。
それぞれ逆向きに高速回転する二つの天使の輪っかが、同時に爆発し、恐るべき破壊力を敵の土手っ腹へと伝達する。
「あがっ……!!!」
女の胴体に風穴が開いて、ねじ切られるように上半身と下半身が別々の方向へと飛んでゆく。
解放された破壊力は敵の体を粉砕するだけでは飽きたらず、飛び散った肉片さえもさらに細かく砕いていく。
七海は背後に仲間の気配を感じて思い切りよく飛び退いた。
46 :
天使ノ要塞:2011/05/13(金) 00:01:54.09 ID:kr+xhkVg
「水瀬ちゃん!!」
十分に距離を開けて仰ぎ見た先には、三対の黄金の翼を広げた天使がすでに攻撃準備を整えていた。
彼女は翼の力なのか宙に浮いていて、じっと攻撃目標を見据えている。
神々しいまでの光をその全身から放ちつつ、彼女は静かに息を吸う。
【Hyper Clocking】
合成音が宣言した刹那、宙を舞っていた敵の胴体が静止する。
何百枚もの魔方陣が、天使とその標的の間に割り込む格好で差し込まれた。
【OVER CHARGE】
「貴女に永久の安らぎを。ディナイアル・インフィニティ ――いきます!!」
回転する方陣を突き破って躍り出た天使は、途中から跳び蹴りの姿勢になった。
背にあった翼が爆発して、急加速。距離の半ばからは凄まじい速度と勢いで突っ込んでいた。
バクンッ。
空中に縫い付けられていた女の上下半身、それぞれに激突して遥か後方に着地したシルエット。
余韻に浸りつつ顧みれば、肉片と化した敵の体が今度はさらに塵へと還ってゆくのが見える。
無限の回数を否定された存在は、いかに強大であったとしても、もはや終焉の刻を迎えるしか手立てが無いのだ。
こうして二人の戦いは終わりを告げた。
+++
この後の事を言えば、拉致監禁されていた七海さんの婚約者が自力で牢から脱出、押し寄せる兵団を根こそぎ薙ぎ倒して二人の元へと駆け付け三人揃って要塞から脱出したわけですが。
ボロボロになっちゃった二人を前に彼は終始呆れ顔だったり。
山道をテクテク歩いて麓の町まで返って、携帯電話で本部に連絡して、迎えがやって来る頃にはすでに翌日の明け方になっていて、思ったより時間が過ぎていた事を知った二人が夕食を食べ損ねたと手近にあった看板やらガードレールに八つ当たり。
器物損壊の罪で御用になって、その流れであとで局長からこっぴどく叱られてしまったり、膨大な始末書を書かなきゃいけなくなったりと、そりゃあもう踏んだり蹴ったりの翌日を過ごす事になる。
しかもこの後、体のあちらこちらを骨折している事が発覚して緊急入院、近々行われるという大規模な作戦に参加できそうもなくて。
結果、病室のベッドの上で二人揃って陰鬱な面持ちを晒す事になるのです。
「七海さんも、自分一人だけの体じゃあないんですから、あんまり無茶しないで下さいね」
お見舞いにやってきたマリィちゃんから呆れ顔で告げられても、「誤解を招く言い方はやめて」と泣きそうな声で返すしか能がありません。
同じように体のあちこちにギブスをはめ込まれている水瀬さんとしては、ここでも苦笑するばかりです。
それはそうと、降伏してAs側からの介入を許した要塞の人々は、オルトロス内にあった研究資料も含めてAsに接収される事になった。
それは政府の判断であり、佐渡島決戦を目前に戦力を一本化しようとする目論見もあったのだろう。
要塞内の別のフロアには液体に漬け込まれた誰かの脳みそが無数にあったが、それも押収されて場所を移している。
その中に最重要機密文書なんて判子の押された書類もあったのだけれど、局の人間は大した吟味もしないまま指示通り開発局に送ってしまった。
『MKCデバイスの研究開発と運用に関する概要』。そのように題された書類。
書類には一枚の写真が添付されており、そこに弥生美香子の姿が写し出されていたのだが、そのことに気付いた人間は居なかった。
おわり
47 :
天使ノ要塞:2011/05/13(金) 00:12:36.42 ID:kr+xhkVg
18話を投下しました。
スレタイに限りなく近い内容ですが、今回だけです。すみません。(話数が余ればまたやりたいですけれど…)
残り話数が徐々に減ってきておりますが、リアルとの兼ね合いもあってあと4ヶ月で終了できれば良いところかと思われます。
49 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/23(月) 06:23:48.33 ID:iAQfgXLn
保守
誰もいない
51 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/10(金) 06:00:28.96 ID:wUuyjOQc
保守
52 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/17(金) 19:49:45.33 ID:AvWR7ZiK
テスト
53 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:51:30.81 ID:AvWR7ZiK
第19話 「部隊編成」
如月邸の地下施設は連日てんてこ舞いの大忙しだった。
佐渡島ネスト攻撃作戦への参加を打診した源八爺さんは保有する資産のほとんどを投げ打って、武器弾薬の調達やらAMSの開発に勤しんでいる。
おかげで騙し騙しで使っていた、いつぶっ壊れてもおかしくない冬矢君の機体は新品同様、というか中の部品をごっそり入れ替えたから別機種になっちゃっているし、アローヘッドの人々だって全員がAMS持ちになっている。
傭兵部隊の人達は、老人救出の後、同じクライアントに雇われ直していた。
任務は孫娘であり如月家の次期頭首でもある雫ちゃんの護衛とかいう名目。
けれど肝心の娘さんが温室育ちのお嬢様どころか戦場ともなれば所構わず突っ走る完全武装の特攻野郎なので、必然的に傭兵達は彼女の後をついてまわる部下同然の扱いになってしまうのです。
そんなワケで再編成された民間の私設軍隊。
部隊名称は当初、「雫ちゃんと愉快な仲間達」なんて考え無しの代物だったけれど、参謀役に納まっている冬矢君と、戦場ではツートップを張る事になる水無月さんとが猛抗議、結局『ティエラ』なんて名前になった。
経緯をかいつまめば。
最初、主要メンバーの名字が偶然なのか暦に対応していて、なのでCalender eraから取ってエーラとしようとしたのだけれど、チーム・エーラと表記する際にTERAとなってしまい、
これを誤読したのが始まりで、だったらスペイン語で地球を意味する『Tierra』にしちゃえということで話が落ち着いたワケなのです。
で、ティエラの面々はもうじき自衛隊駐屯地に集結しつつある攻撃部隊と合流する予定なので、それまでにチームとして機能できるよう戦闘訓練に明け暮れる日々だったりします。
新しくAMS乗りとなった人達にも慣れてもらわないといけないし。
まあ、そんなわけで。如月邸の地下施設では本日も仮想の的を使っての予行演習が執り行われていました。
『前に出すぎるな雫!!』
『んなこと言われたって〜!!』
『まったくこれだから素人は!!』
『なによ、文句あんの?!』
『け、ケンカはダメですよ〜!!』
『いや、どうでもいいけどフォーメーションを崩さないでくれねえか。フォローしきれなくなる』
十人十色の声が司令室のスピーカーから漏れだしている。
源八爺さんをはじめとする司令室の方々も終始苦笑を禁じ得ない。
トレーニングルームの様相を写し出しているモニタの隅っこには的の撃破数が表示されているのだけれど、結果は散々で、単独の方がよっぽど良いんじゃあないかってな出来だ。
だからといって本番で単独行動を許すわけにはいかない手前、どうしてもチームプレイに慣れて貰う必要があった。
まあ、道のりは果てしなく遠そうなのだけれども。
54 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:53:15.38 ID:AvWR7ZiK
彼らが練習している陣形は雫と水無月千歳を先頭に置いた攻撃的なフォーメーションだった。
中盤には卯月冬矢とキースを中央に置いてその両脇を二名づつで固め、後ろに狙撃手とその護衛を配置する。
後ろの人々は前方への支援攻撃を役どころとする事から積載容量いっぱいまで長距離砲とその弾薬を搭載しなければならなくて、ゆえに機動力は極端に落ちる。だから前衛の二人は後続と一定の距離を保たなければいけないのだけど、これがまた難しいのです。
『でもさ、本番の相手は無茶苦茶数が多いんでしょ? 私たち前に出られるの?』
『出来なくてもやってもらうさ。敵の巣で立ち止まれば全滅の危険性が高まる。
それに、弾薬は最初から足りていないのだから全てを相手にする必要もない。ついでに言ってしまうと弾薬を消費すれば機体重量は軽くなる。
奥に行くほどチーム全体の機動性は上がっていくんだ』
弾薬の切れた大型火器はその場に捨ててゆく算段だった。といっても補給を受けられる可能性もあるから軽量なライフル銃は所持しておく。
だから狙撃手は弾が切れた次の瞬間から中盤まで上がらなければいけない。
まあ、最初から最後までトンファーやら刀やらを振り回す女性二人には関係のない話なのだけれど。それでもチームとしての動きを把握しておかないとお話にならないわけで。
取りこぼした敵に関しては後続の部隊が潰してくれるのを期待するしか手立てが無い。
というか、それができないならこの攻撃作戦そのものが失敗に終わる公算が高い。
まだ実感が湧かないけれど、総力戦ともなればそこかしこで敵と味方が入り乱れていて、そんな中に自分達もいかなきゃいけないなんて不条理極まりない出来事が、決定事項として未来に起こるのですよ。
『俺達としてもなるべくペースを合わせるが、運動性も機動力も段違いに劣っている以上どうしたって限界はある。その辺りの事も察してくれ』
『……ごめん、わかった』
冬矢君は周囲の面々にも細々とした指示を与えつつ、全体の動きを調整してゆく。
訓練が終われば技術スタッフに出てきてもらってさらに各々の役割に適した機体調整に掛かってもらわなければいけない。
戦争は兵隊だけが行うものではないのです。
「しかしあの青年。一億円を出すだけの価値はあったようじゃな」
「ええ、まったくです」
司令室でニヤリとするジジイと相づちを打つ御神楽副司令。
シリアスな顔で久しぶりにと節子さんのお尻を撫で回そうとするご老体は次の瞬間に渾身の肘を脳天に貰っちゃったけれど。
それでも孫娘には、どうやら男を見る目があったらしいと笑みを零してしまう。
おかげで訓練中もアレコレ指示を出さなくて済んでいて、それは実戦においては大きなアドバンテージになっていた。
なぜなら、入手した情報では獣魔の巣には無線の電波を遮断する性質をもつ液体が塗布されているらしいから。
『よし、訓練はこの辺で切り上げよう。これ以上は効率が悪い』
やがて、時刻を確認しつつの冬矢君が声を張り上げた。
一様に漏れ出るのは安堵の息。とはいえ訓練の次はAMSについての勉強をしなければならない。
雫ちゃんはもとより元傭兵の方々もAMSについては素人に毛が生えた程度にしか知らなくて、だけどそれじゃあ作戦行動中に自機が故障なんてしちゃったら取り返しのつかない事態に陥ってしまう。そうならないための勉強なのです。
55 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:55:02.85 ID:AvWR7ZiK
『各自、一時間の休憩とする。解散!』
いつの間にか隊長っぽい雰囲気を漂わせている冬矢君。
お嬢様としてはそれが不満ではあったけれど、だったら自分にそれと同じ事が出来るのかと問われれば言葉に詰まってしまうし、それに毅然とした彼の物腰を見るのは決して嫌じゃあない。
っていうか、ちょっと格好良いと思ってしまう雫ちゃんなのです。
休憩の間に備え付けのシャワーで汗を流して、元々は会議室として使われていた部屋を訪れた雫は、すでに折りたたみ机の上で教科書を広げている水無月さんと鉢合わせしてしまう。
目元の吊り上がったチームメイトは一瞥くれただけで再び視線を本へと戻した。
「あんたって、勉強好きなの?」
「うるさい、黙れ」
「なによ。ヒトがせっかく声かけてあげてんのに」
「……その口を閉じろ。殺すぞ」
「これだから戦闘狂は。黙っていればけっこう良いセンいってるのにね」
別に仲良くなりたいわけじゃあない。
単に卯月先生様の講義が始まるまで時間が余っていて、持て余した暇を何かで潰したいと、そう思っただけなのだ。
三番目にやってきたキース君は心底疲れ切った顔をしていて、それがどちらかといえば気苦労から来ているものと察した雫としては声を掛けづらくて。
だからといって次に訪れた狙撃手、つまりはマリアちゃんは小動物よろしくいつもオドオドとしていて愛想を振りまく事すら申し訳なく思えてくる。
一番イキの良い水無月はこんなだし、溜まったストレスを発散する手段が無くて溜息など吐いてしまうお嬢様だったりします。
そうこうしてAMS自作マニアが転じて先生になってしまった冬矢君がやって来て、チーム・ティエラの面々は雁首揃えて彼の授業を受ける事になる。
内容はといえばうろ覚えではあったけれど、最近になってAMS専用の銃が開発されたらしくて、人間が扱う物より口径が大きくなる事に加えてAMS本体とリンクさせる事で自動照準にできたり、逆に手動へと戻したりが出来るって事とか。
今のところ国内で使用されている標準的なバッテリーでは2時間程度の稼働が限界で、軍用の強化仕様で3時間。劣化の激しい物なら30分と保たないから予備の電池は絶対に携行してなきゃいけないだとか。
特に激しい運動が続く前衛ともなれば常に電力残量を気にしてないとダメだとか。
それから雫の機体には無いけれど、アルティザンの後継機であるRH4850シリーズ(傭兵の方々に支給されたのはそういった機体らしい)には標準で簡易的な修理キットが搭載されていて、その使い方もいちいち説明してくれた。
「アルティザン、――ヨンパチの元になっているAMSは多機能に重きを置いた機体だったが、それはあくまで前衛機のバックアップを目的として作られていたからだ。
とはいえアレもコレもと機能を付けたが故に中途半端でよっぽど適性のある人間にしか扱えない機体になってしまった。
装甲に厚みを持たせたもののそれが逆に機動力を落とす結果になったしな。
ま、ようするに器用貧乏は使い物にならないって事だ。
そこで後継機、つまり君らが支給された4850シリーズ、ヨンパチではシステム周りをシェイプアップしてどういった状況でも高いレベルで実力を発揮できる汎用機とした。
とはいえそれだけでは集団戦で突出した戦闘力を期待できなくなってしまうから4パターンの仕様を設定して役割分担できるようにしている。
まず標準的な内部機関と武装、つまりノーマル状態のタイプM。
次に追加装甲とモーターの換装で近接格闘戦に特化させたタイプF。
それからレーダーを積み替えて、同時にミサイルや長距離砲を搭載した狙撃型のタイプS。
カリカリに仕上げたタイプHGというのもあるが、まあ、それは燃費が三倍、稼働可能時間は10ぶんの1とかいう非効率な代物だし
何より中身の方が性能についていけないから深く考えなくて良い。
ヨンパチの説明はそんなところだ」
「質問です」
「む、なんだ水無月?」
「そのヨンパチ、ですが、もっとこう、分かりやすい固有名詞のようなものは無いのですか?」
冬矢君の前だと丁寧でしおらしい声色になってしまう千歳さん。
あからさまに、誰の目から見ても彼を慕っているのが分かる。
この部屋でそれが分からないのは当の本人くらいなものだろう。
「特にコレと言った名前はない。開発者である如月総司令が嫌っていてな。あえて名前を付けなかったらしい。
ヨンパチというのは開発スタッフが勝手にそう呼んでいるだけだ。まあ、名前など、どうでも良い事なのだが」
56 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:56:15.16 ID:AvWR7ZiK
アルティザンは美香子ちゃんの機体で実機は今現在も鉄くずのまんま倉庫で眠っている。
雫は友人を侮辱されたような気がしてムカついたけれど、彼の言い分は確かに的を射ているから反論しない。
アルティザンはその中途半端さのために実力を発揮する事もなく蜂の巣にされたのだ。
少女のやり場のない怒りに勘づいたのか、冬矢君は話題を変えて講義を続けた。
「今回編成されたティエラは雫の機体、つまり最前衛を突っ走るシューティングスターを援護する事を第一目的としたチームだ。
そのために千歳のタイプFは常に彼女の横について、その左側を守備しなければならない。
また中盤の俺とキースはその援護。マリアの狙撃は後続を叩く事で前衛を休ませる意味合いを持つ。
故に中盤の兵士はなるべく激しい動作を控えてバッテリーを温存することになる。前衛を燃料の面でもサポートしなければならない。
もちろんそうなれば前衛への負担は重くなるが、後衛の長距離砲で凌ぐしか手はない。
……作戦としてはそんなところだ。今やっている訓練も、最終的にチームとして機能する事を目的としているわけだしな」
機械の扱いについての話が終われば今度は部隊のフォーメーションについて語る冬矢君。
彼らの部隊名は『ティエラ』だが他部隊と遣り取りする際には『ティエラ00』と呼称し、その隊員については雫であれば『ティエラ01』と呼び習わす事になる。
また『CP』はコマンドポストの事で、つまり各部隊に命令を送っている場所を指しているし。
小隊が集まって中隊。中隊が集まれば大隊。異なる職種の大隊を集めて一連の作戦行動を完結できる規模になれば師団。
複数個の師団を集めて特定地域に戦線を張れる規模になれば旅団とする事とか。
AMS部隊の事は日本では重装歩兵部隊と呼ばれていて、つまりは歩兵の延長的な解釈が行われているけれど欧州などでは人型の戦車として認識されている都合から戦車部隊に属していたりと国によって扱いが違っている事とか。
そんなしょ〜もないウンチクが延々と垂れ流される講義ってどうよ?と思わずにはいられない。
というか軍隊用語が恐ろしく難解だということだけは雫ちゃんにも理解出来た。
「よし、講義はこれで終了とする」
後半は興味を失って夢うつつの雫ちゃんを叩き起こす事にいいかげんウンザリしたのか、冬矢君は渋い顔でそう告げると部屋を去ってゆく。
地下なので陽の傾きが分からないし空調のおかげで外の熱気さえ感じられないけれど、時計を見るに午後の6時を過ぎていた。
+++
訓練を終えた後。
卯月冬矢は帰宅するまでに自機の調整を終えておこうと格納庫に向かっていた。
彼の機体、神威MkWは前々回の戦闘で破損したバージョン3に今度は如月製のパーツを組み込んだ代物で、開発スタッフの話では換装した部品は現時点での最高モデルなのでこれ以上の性能アップは望めないとのことだった。
もちろん如月グループの中には鉄工屋もあればバイクや自動車の製造部門もあるわけだし、そこで最高級と言うのなら少なくとも国内でこれ以上の部品は存在しない事になる。
そして精密機械の分野に関してはこの国のこの企業は世界随一の技術とノウハウを保持しているのだ。
つまり改装を繰り返した彼の機体はこれが最終形態ということ。
もし次にAMSが必要となったときには新規に一から作り直さなければいけないだろう。
そんなことを考えながら廊下を進み、分厚い鋼鉄製の自動扉にIDカードを差し込めば格納庫の全容が眼前に広がった。
「やあ卯月さん、今日も調整かい? 精が出るねえ」
「ああ。こればっかりは俺じゃないと出来ないからな」
フロアに入った冬矢君に声を掛けたのは60歳くらいで白髪も混じっているというのに筋骨隆々の男。
整備・技術班の中では「おやっさん」と呼ばれている人だ。
彼の周囲では若い、といっても全員40代なのだけれど工員達が慌ただしく作業している。
冬矢君は如月家に属しているわけでもなければ整備班に身を置いているわけでもないのでおやっさんとは対等の立場で物を言っている。
57 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:57:19.54 ID:AvWR7ZiK
「ボサッとすんじゃねえ、さっさと終わらせやがれ!!」
「へ〜い!」
まあ、雫お嬢様が現実逃避にやって来たときには余程の事が無い限りは全員作業の手を止めて退室しちゃうのだけれども。
本来はそんな怒声が日常的に飛び交う場所なのです。
「では、俺は勝手にやってるから用があったら声を掛けてくれ」
「ああ、気の済むようにやってくれ!!」
軽く頭を下げておやっさんとすれ違う。
冬矢君は過去の経緯もあって全員から一目置かれていた。
自作AMSで完全オーダーメイドの機体と互角以上の戦いを繰り広げていたのだから当然と言えばその通りなのだろう。
家から持ってきた自前の工具をデッキの底から引っ張り出して機体の前に腰を下ろす。
真っ先に準備するのはB5サイズのノートパソコンで、冬矢は慣れた手つきで機体に接続していく。
各部のモーターも、バッテリーも、油圧シリンダ各種も、物質的な整備は完全に終えていてあとはソフト面での微調整だけだった。
駆動時の微妙な電圧変更やら通常モニタから赤外線暗視装置に切り替える際のタイミングだとか、そういった細々とした仕様変更が後々に戦局を左右するものなのだ。
青年は過去に何度も行ってきた作業を行い、手際よく仕事をこなしてゆく。
いつの間にか背後に忍び寄っていた影に気付いて肩越しに仰ぎ見ると、そこには色を失いつつある顎ヒゲを指で撫でるおやっさんの姿。
「随分と繊細な設定してるんだなあ。そのOSは自前かい?」
「ああ。日本製のOSは貧弱だし、かといって欧州や米国のは大雑把すぎる。柔軟さと緻密さの求められる局面では役に立たない。だから自分専用に作った」
「そのOS、ウチにも欲しいな」
「機体を選ぶ代物だぞ」
「構わんよ。ベースがありゃあ改変はいくらでもできるってもんさ」
「だったらついでに神威の後継機でも作ってもらうとしようか」
「おう、任せな!!」
この遣り取りがのちにMKVと呼ばれる次世代型新鋭機開発の発端になるのだけれど、それはさておき。
技術畑の男は笑顔で離れていった。
それから幾ばくかの間、青年はノートPCを前に悪戦苦闘。
どうにか作業を終えて大きく息を吐けば、周囲にあった喧噪がぱたりと止んでいる事に気付く。
ふと腕時計に目を送れば、針は頂上を指している。
作業員はすでに一日の行程を終えて就寝しているのだ。
これが一般企業ならどれほどの残業代が見込めるのか。いや、この不景気なご時世ならサビ残として処理されるだけだろうな。
なんて考えながら工具を元あった場所に仕舞い込み立ち上がる冬矢。
さて帰ろうと振り返ると、開きっぱなしの扉の向こうから小さな輪郭がやって来るのを見つけた。
「……マリア?」
58 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:58:43.50 ID:AvWR7ZiK
珍しい顔だった。
キースの話ではいつもオドオドしていて、けれど本当はとても人懐っこいという子猫のような少女。
彼女は何か思い詰めた表情で冬矢の元まで近づいてくる。
「どうかしたのか?」
「あの。……私を部隊から外して貰えませんか?」
唐突で突飛すぎる申し出だった。
いや、確かにここ最近の彼女は狙撃の命中精度も落ちてきて調子が悪いように見受けられる。
しかしチームの中にあって協調性に欠けているワケでもなければ問題を起こす事もない。現時点では部隊から外す事など考えられない人材だ。
「理由を聞こうか」
溜息を吐いて一歩進み出ると少女は無意識なのか同じ距離だけ後退る。
マリアはよく見れば手に何枚かを束ねた書類を持っていて、それをおずおずと冬矢に差し出した。
受け取って目を通せば、そこに少なくとも一度は見た事のある名前がご丁寧にも写真添付で描き出されていた。
「クレール=J=サツキ……?」
「生き別れの姉です」
目を伏せてぽつりと告げる少女。
クレールと言えば元米国軍の出身で、黄色い機体A−GMA3『グラディウス』と共に日本へとやって来た女だ。
市街地での戦闘の後、行方が分からなくなったかと思えば今度は暗殺部隊の先兵として如月地下施設を襲撃。雫との戦闘の際に死亡している。
「どこでこの書類を?」
「前の出撃で……」
「ああ、ヘルハウンドの駐留所か」
ヘルハウンドは政府直属の暗殺専門部隊オルトロスの直下にある実験部隊で、脳に何か仕込まれていたり洗脳されていたりでとても真っ当な兵隊とは呼べない代物だった。
感情が無く、痛みを感じない、魔法という特殊能力を使う兵士。クレールはそんなモノに改造された挙げ句、無残に殺されたのだ。
「それで、なぜ俺にその話をした?」
書類にはクレールが改造手術を受けた事と洗脳が施された事。試験運用での成績。そして如月邸の地下施設への強襲作戦に参加した結果、戦死したことが記されている。
A4サイズ5枚に綴られた少女の記録。そんな数奇な運命に翻弄され命を落とした人間の、生き別れの妹は何を思う?
冬矢が目を上げると、自分を真っ直ぐに見つめる瞳とかち合った。
「監視カメラの映像、残ってますよね? ……全部、見せて下さい」
自分の姉の最期を見届けたいのだろう。
そして姉を殺した人物が、姉をどのように殺害したのかを瞼の裏に焼き付けたいのだろう。
部隊の司令塔としてはその願いは絶対に聞き届けてはいけない。そんなことは分かっている。
けれど、年端もゆかないこの少女には、どれだけ重すぎる現実であったとしても知る権利と受け入れる義務がある。
金で雇われた戦士である前に、一人の人間としてそう思った。
「いいだろう。話は通しておく。気の済むまで見ると良い」
「有り難う御座います」
「ただし、その結果としてもしも君が復讐心に駆られたならば、俺は迷うことなく危険分子を排除する行動に出るだろう。それだけは忘れるな」
「……はい」
彼女の姉を殺害したのは雫お嬢様だった。
それも生身の少女に対してAMSで攻撃するなどといった凄惨極まりない殺害方法だ。
けれど、それでも雫は彼にとっての雇い主で、守るべき主なのだ。
先に仕掛けてきたのはあちらで、しかも武装していない家の者まで虐殺されているのだから正当性だってこちら側にある。
しかし、感情は理性に勝る事も知っている。唯一の肉親が酷い殺され方をすれば、その人物がどれほど残忍な所行に走っていようとも一方的な被害者と見なしたくなるのも道理。
ならば。この小さな少女に報復の兆しが見られれば、冬矢は即座に彼女を殺さなければならない。
狙撃手という性質上、土壇場で引き金を引かれたらその時点で全てが終わってしまうのだ。
一礼して踵を返したマリアの小さな背中を見送りながら、青年は平穏のままに解決して欲しいと願った。
+++
59 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 19:59:50.79 ID:AvWR7ZiK
それから数日は平和だった。
訓練して、AMSの勉強をして、他の時間はそれぞれ好きなように過ごす。
佐渡島作戦を目前に如月軍団の移動準備は着々と進んでいて、これまでに掻き集めた武器弾薬は10トントラック5台に満載だし、AMSを整備するための機材だっていつでも搬出できるまでになっている。
戦争は兵隊だけが行うものではない。なので整備班も商売道具一式共々現地に赴くわけだし、仮設のテントや水、食料だってある程度は持っていく手はずなのです。
世間ではエコがどうとか計画停電がどうだとかで盛り上がっている、そんな夏の日の夜。
雫ちゃんは一人、地下のトレーニングルームでサンドバックを叩いていた。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
息は荒く、汗は滝のように流れ落ちている。
それは練習と言っても訓練的なものではなく、普段から溜め込んでいるストレスを発散するための運動。
深夜のアニメを見るにしたって感情を揺り動かされることもなく虚ろな目のまんまで、それじゃあイカンとタンクトップに短パン姿で地下に降りたという次第なのです。
部屋の天井は本当は高いはずなのだけれど、ぶら下がり健康器を思わせる鉄棒だとか吊されているサンドバックやらのおかげで随分と低く感じる。
機械義手は設定を変えて出力が出ないようにしているけれど、それは思い切りぶん殴って備品を破壊してしまわないようにとの配慮からだった。
何度も何度も蹴って殴ってを繰り返す少女。
一心不乱に叩いていると、それまで頭の中で渦巻いていたごちゃごちゃした煩わしさが霧散していくように思われる。
頭の中が空っぽになって、それでも運動を止めない雫は、しかし不意に背中に視線を感じて振り返った。
「あ、ごめんなさい。お邪魔でした?」
顧みた先には小柄な少女、マリアちゃんが深夜だというのに兵隊ルックで突っ立っている。
雫は肩で息を吐きつつ、表情を変えもしないで首を振った。
「どうしたの、こんな時間に? 明日も早いんだからもう寝なきゃダメだよ」
「そういう雫さんだって起きてるじゃないですか」
「私のはストレス発散だから良いの」
マリアちゃんはコロコロと笑う。
雫としても笑顔を返しはしたけれど、どうにも気持ちの良い笑顔にならない。
彼女は顔は朗らかに笑っているけれど、どこか緊張しているように感じられた。目が笑ってないんだ。
「雫さん、せっかくなので、ちょっとだけお話に付き合って貰っても良いですか?」
「いいけど手短にね」
普段は大人しくてオドオドと何かに怯えているような印象を受ける娘さん。
なのに今は、言葉にするのは難しいけれど、その全ての言動に対して何らかの明瞭な意志が含まれているような気がする。
雫はなぜだか今の彼女とはあまり話をしたくないと思った。
マリアちゃんは距離を測るように床を見て、小さく前に出る。
「私には姉が居るんです。もう随分と会ってませんけれど」
「ああ、そういえば身辺資料にそれっぽい事が書いてあったわね」
「それで、随分と探したのですけれど、ようやく見つかったんです」
「そう、良かったじゃない」
「はい、見ますか?」
60 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 20:01:02.34 ID:AvWR7ZiK
マリアは物凄い笑顔で胸元のポケットから写真を取り出して、見せようと近づいてくる。
差し出された写真がよく見える距離になってから、雫は小さく息を吐く。
写真は、監視カメラの映像を切り取った物だった。
真っ赤なAMSにトドメを刺されている少女の絵。
事情を知らない人間が見たら思わず目を背けてしまうような光景が、鮮明に描き出されている。
「これが姉さんの、最期の姿です。もっと見ますか?」
「いいえ、じゅうぶんよ」
持っていた写真がヒラリと床に落ちた。
マリアは同じ手で腰から拳銃を引き抜く。
口元は笑顔を通り越して引きつっていた。目の奥に殺意の光が灯っていた。
雫は死の臭いが間近に迫っている事を悟り、背筋がゾワリと逆立つのを感じた。
「それで、復讐するために、私の前に立ったのかしら?」
「はい。いけませんか?」
銃口は9o、といったところか。
さすがは傭兵らしく両手で銃を構えている。この距離なら外す事はないだろうし、防弾チョッキを着込んでいない生身の体であれば一度きりの発砲であったとしても致命傷を負うだろう。
「悪いとは言わないわ。私が逆の立場でも同じ事をするだろうし」
だけど不思議と恐怖を感じなかった。
水無月さんに斬り掛かられた時もそうだったけれど、死に対して何の感情も抱かなくなっている。
あるいは、ひょっとしたら命の遣り取りを繰り返しているうちに感情が麻痺してしまったのかも知れない。
「だけど、やるなら本気できなさい。私もそのつもりで叩き潰すから」
「余裕なんですね」
「慣れているからね。誰かを殺す事も。大切な物を失う事も」
そう言って雫は僅かに腰を落とす。
全てにウンザリしていた。何とも誰とも関わらず、死ぬまで一人きりで部屋に閉じ籠もってお気に入りのアニメを見続けていたい。そんな欲求がある。
けれど誰もそれを許してはくれない。
だったら、いっそのこと他の誰かに殺されてしまった方が、自分的には幸せなのかも知れない。
問題があるなら生き残った人間達でどうにかすれば良い。
重い十字架は生き残った誰かが背負えばいい。
もう、どうでもいい。
私は他の誰かの手で殺されてしまう瞬間まで、めいっぱいに足掻く、ただそれだけのこと。
生きたいからそうするのではない。義務だから。これまで失われた命達への唯一の贖罪だから。
マリアは少し苦々しげな表情で、けれど銃口を標的から外す事はしない。
「一つ、聞かせて下さい」
「……なに?」
「あなたは、どうして生きていられるの?」
なんとも哲学的な質問だった。
それはきっと「殺し続けてでも生きようとするのはなぜか」という問い掛けなのだろう。
雫は微動だにせずに口を開く。
61 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 20:05:30.82 ID:AvWR7ZiK
「もう居ない人達が、そこに居たって事を証明しなきゃいけないから」
「とても独り善がりな物言いですね」
「もしも私を殺す事ができたなら、今度はあなたが私の背負っている全てを引き継ぎなさい。
拒否は許さない。逃げる事も許さない。他の誰かに殺されるその時まで、足掻いて足掻いて、死んでいった人達の存在を照明し続けなさい」
対峙する少女達はそれぞれに攻撃の姿勢を完成させていた。引き金に掛けられた指が、今まさに飛び掛からんとする肢体が、ピクリと反応する。
――しかし。
「そこまでだ!!」
突然部屋の扉が開いたかと思えば武装したいくつもの影が躍り出てくる。冬矢君がティエラの人々と共に駆け付けてきたのだ。
仲間達の銃口は全てマリアに向けられている。青年はいち早く雫の前に立って、実弾の装填されている自動小銃を小柄な輪郭に向けた。
「銃を捨てて投降しろ」
マリアは小さく息を吐いて、手にあった拳銃を手放す。黒光りする鉄塊がゴトリと音を立てた。
「マリア、……なんでアンタが」
ティエラのメンバーは主に彼女と同じ傭兵部隊で、特に仲の良かった千歳などは銃口を向けながらも信じられないといった面持ちで。
小さな呟きに反応するように、マリアは肩を竦めて見せる。
一方で青年の背中に守られる格好の雫ちゃんは、彼の肩を掴んで押し退けると驚きの表情など無視して前へと進み出た。
「ちょっとアンタ達、人が喋っているのに邪魔しないで貰えないかしら」
「ちょ、雫!!」
呼び止める冬矢君を肩越しに一瞥して、雫はさらにに一歩前へ。驚いたのは他の面々だけでなくマリアも同様だった。
「銃を拾いなさい」
「……え?」
「他の連中は手を出さないで。っていうか、つまんない事をしたら私がこの手で殺します」
言いながら機械義手の駆動力を普段通りに戻しておく。警戒しつつも言われたとおり自分のピストルに手を這わせるマリア。その様相を雫はジッと見据えている。
「アンタは選ばなきゃいけない。私を殺して他の誰かの死を背負って生きるか、それとも私についてくるか。二つに一つ。
私を殺しても罪には問わないし、私がアンタを殺しても誰にも裁けない。条件はこれで全部。文句ある?」
人々が見守る中、マリアは持ち上げた拳銃をゆっくりと構え直す。
その銃口は雫の心臓に向けられていた。この距離じゃあかわす事はできないだろう。
生きるために足掻き続けると言ったそばから何をやっているのだろうと思わなくもない。だけど、ハッキリしないままでは気持ちが悪い。あやふやのまま戦地に赴くなんて出来るはずもない。
引き金を伝う指先が見える。雫は腰を落として飛び掛かる瞬間を待つ。
「――やめておきます」
しかし幾ばくかの緊張の後、マリアちゃんは銃を降ろした。彼女は拳銃をホルスターに収めると、大きく溜息を吐く。
「貴女の背負っている物は、私には重すぎるみたいです。姉さんの事は、憎くないと言えば嘘になってしまうけれど……」
「本当にそれで良いのね……?」
確認の問い掛けにマリアは「はい」とだけ告げた。雫は少しだけ目を閉じて、気分を切り替えて周囲を見渡す。大きく手を叩くと面々の視線が集まってきた。
「パーティはお開きよ。せっかく駆け付けてくれた人達には申し訳ないけれど、今ここで起こった事は他言無用。ただの夢や幻の類と思って頂戴!」
安堵なのか落胆なのかよく分からない息を吐きつつ部屋を去ってゆく仲間達。
彼女がどうして引き金を引く事もなく銃口を降ろしてしまったのか。この短い遣り取りの中でどういった答えを得たのか、雫には分からない。
けれど、これでようやく仲間になれた。そんな気がした。
おわり
62 :
天使ノ要塞:2011/06/17(金) 20:46:33.54 ID:AvWR7ZiK
というわけで19話の投下しました。
まあ、あとは部隊内のエピソードと最終決戦で残り7話を消化する段取りです。
それで2クールに納まるかな、と。そんなところ。(またスレを落としてしまったらゴメンなさい)
64 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 07:12:05.63 ID:SXtMuEdL
保守
65 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:38:35.68 ID:yEbzv0D0
注)突撃陣形
前方
↑ ↑
○(千歳) ○(雫) 前衛:肉弾戦主体・斬り込み担当
○ ○(キース) ○(冬矢)○ 中盤:前衛の援護・前衛への電力支援も兼ねる
○ ○ 中盤:両サイドへの牽制
○ ○(マリア) ○ 後衛:狙撃&中盤への弾薬補給も兼ねる
○ ○ 後詰め:狙撃手の護衛・後方の警戒
第20話 「戦場を征く風」
夏の日差しが一段と強くなった頃。
街ではセミの大合唱がこだまして、道行く人々から汗と体力を奪ってゆく。
見上げれば雲一つ無い炎天下。ニュースでは熱中症や日射病への注意を呼び掛けていたし、それと同時に節電の必要性も訴えかけている。
とはいえ、まあ、犯罪の発生率は低くて強盗事件があっただけで十数台にも及ぶパトカーの大追跡が行われたし、殺人などが起こった日には町をあげての大騒ぎ。
その街は、その日、その瞬間まで至って平和だった。
「え、なにコレ? 特撮?」
最初の犠牲者が放った言葉は悲鳴でも許しを請う嘆願でもなく、そんな間の抜けた台詞だった。
二番目の犠牲者は運悪く通り掛かってしまった主婦で、飛び散って自分の衣服に付着した物が誰かの血液と肉片である事に気付いて悲鳴を上げたその数秒後に首から上を食いちぎられて絶命した。
街のいくつかのマンホールの蓋がひとりでにひっくり返って、真っ暗な縦穴から続々と這い出してきたそれらを目の当たりにした人々は、恐怖の悲鳴を上げる事と全速力で逃げ出す事しか思いつかなかった。
地下からの来訪者達は、その全てが昆虫だった。
人間より巨大な体躯を持つ、全身を堅そうな殻で覆われた、肉食の生き物。
造形的にはアリを模したものが大半で、一部ゴキブリに似たものだとか、耳障りな羽音を撒き散らすハチに似た物があったが、それは逃げ惑う人々やパニックの中でも市民の盾になろうとする勇敢なお巡りさん達にとっては何の慰めにもならなくて。
至る所から這い出してきて人間を生きたまま捕食する虫けらの群はパッと見でも5千を下らない大所帯で。
彼らの胃袋を満足させるためにその数倍の犠牲者が必要とされた。
街は地獄と化していた。
上半身を食いちぎらせた女性の足下には泣き叫ぶ赤ん坊が転がっていたけれど、ものの数秒で昆虫が群がってきてその四肢を残らず咀嚼する。
恐慌状態に陥った若いスーツ男が携帯電話で家族の安否を確かめようとしたけれど、呼び出し音が鳴り止むより先に頭上から覆い被さってきた黒い物に押し潰され、背中や後頭部に牙を突き立てられて男は動かなくなった。
それまでバイクの話に夢中になっていた少年達は自分だけでも生き残ろうと手近に転がっていたバットや鉄パイプで応戦を試みるも、撃退に成功したのは最初の数匹だけで、いくらもしない間に後から後から押し寄せる群に飲まれていった。
街は地獄だった。
なぜそうなったのか。誰がこのような事態にしたのか。そしてどうすれば自分は助かるのか。
誰にも分からなかった。
圧倒的な恐怖が、逆に現実味を失わせていた。
誰一人として助からないのではないか。金切り声を上げて逃げ惑う人々は、一様にそう思った。
救いの手が差し伸べられたのは、それから一時間ほど経ってからの事だった。
+++
66 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:39:37.19 ID:yEbzv0D0
『――CPよりティエラ01へ。状況を報告してちょうだい』
「こちら01、街は壊滅……。生存者は……見当たらない」
ヘリの6機編成でやってティエラの面々。
さっそく襲い掛かってきたハチの飛行編隊をヘリ搭載の掃射機銃により撃退して動線を確保した後は焦り半分にダイビング。
パラシュートを背負った機体12機がアスファルトを多少陥没させつつ地面に降り立てば、広がっていたのは視界の果てまで続く陰惨なる煉獄。
空中で変身して真っ赤な機体に身を包む少女は、ふと足下に転がっていた血みどろのぬいぐるみを見つけて拾い上げる。
それはUFOキャッチャーの景品なのだろう。だけど持ち主の物とおぼしき血液に濡れて、クマの毛並みはどす黒く染まっていた。
「また、誰も守れないのね……」
血塗れのクマを地面に落として呟いた雫。
彼女の腕の装甲が開いてトンファーが飛び出した。
『総員、突撃陣形を取れ! 雫、キレるなよ?!』
「……うん。わかってる」
仲間達が急いでポジションを確保する。
彼らのテリトリーとなった場所に駆動音が鳴り響けば、そりゃあもう団体さんが熱烈歓迎してくれるってもんさ。
数分と待たずに獣魔の群が押し寄せてきた。
路地裏から巨大なゴキブリが顔を出す。
ハチの編隊が距離を測るように上空を旋回している。
今回はヘリにも火器を搭載しているから突撃部隊の直上くらいなら制空権を確保できそうだ。
「みんな、気合い入れて行くよ!!」
何も守れない。誰も笑顔になんてしてあげられない。
ならばせめて、全てを壊そう。
命が枯れるその時まで、壊して殺して踏み潰す悪鬼羅刹になろう。
少女は決意して身を乗り出す。仲間達が後に続く。
虫けらの群が迫ってくるのが見えた。
『一斉掃射、用意!』
冬矢君の声が聞こえた。
射撃音が収まった瞬間に前衛が速攻を掛ける。それがチームの段取りだ。
司令塔の「撃て」の声は、ど派手な銃声に掻き消された。
仲間達の銃口がそれぞれに火を噴く。マリアの機体に搭載されていた収束ミサイルが上空に放り出されて、そこからばらけて敵の群へと降り注ぐ。
ヘリの機関銃が蜂の編隊に鉛玉を浴びせかけていた。
爆音がこだまする。
白煙と火薬の臭いが充満する。
耳を澄ませば薬莢がそこかしこで路面を叩いている。
それは戦争だった。
死の気配が充ち満ちている。
ここでは理性なんてクソの役にも立たない。
自らを傷付けようとする全ての存在が敵で、敵は容赦なく躊躇いなく消し去らなければいけない。
なぜなら、それだけが唯一生き残る手段なのだから。
67 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:40:55.50 ID:yEbzv0D0
『射撃止め。突撃を開始する』
司令塔が冷静に告げて、雫は真っ赤に灼けた弾丸よろしく駆け出した。
目端に影のように付き従うメタリックブルーの輪郭が見えたけれど、彼女に対する配慮なんてこれっぽっちもなかった。
雫ちゃんの頭の中ではすでに血液よりも赤い怒りの炎が渦巻いていたから。
「お前らは、ここで死んでいけ!!」
バクンッ。
少女が叫んで腕を振るえば、機械甲冑の得物が昆虫の頭部に当たって硬い表皮もろとも脳みそをぶち抜いた。
二匹目がやって来て大きな顎で襲い掛かって来たが、軽くジャンプして空中から脳天めがけて膝を落とせば顎も眼球も見境無くひしゃげた。
息絶えた昆虫は痙攣なのか脳を破壊されてもなお攻撃しようと迫ってくる。その胴体を横合いから斬りつけて切断したのは千歳だった。
『コイツらは簡単には死なないらしいぞ! ボサッとするな!!』
無線越しに叱責が聞こえて思わず苦笑いをする雫。
ちょっとだけ冷静になれたような気がする。
そうだ。これは集団対集団の戦いで、雫の存在は立場的に最も重要視されるべきところ。
雫は死んではいけない。でも自らが置かれているのは直接的と接触する最も危険な位置。
だったら、もっと冷静に判断しなきゃいけない。組織的に動かなきゃいけない。
思い至って見上げれば、すでに三匹あまりの巨大昆虫が迫っていた。
「冬矢君、お願い!!」
『承知した』
足裏の車輪で急後退。叫びつつ真横に避けて銃弾の軌道から離れる。
真後ろからプレッシャーがあったかと思えば、突進していた虫けら3匹が体液を吹き上げながら崩れ落ちた。
「そっか、そういうことなのね」
一人で呟いてみる雫ちゃん。
これまで訓練で嫌と言うほど繰り返した組織戦のやり方を、その瞬間になって初めて理解したように思う。
組織戦ってのは、ようするに一本の線を描く事なんだ。
自分達の攻撃が届く範囲を線にして、押したり引いたりしながら敵陣を削っていく。穴が開けばそこから一気に押し広げてより大多数にダメージを与える。
これが戦いの本質。
理解さえできてしまえばあとは応用で何とかなるだろう。
「みんな、私と千歳さんとで仕掛けるから弾幕を集中させて!!」
告げるや否や再び突撃を仕掛けた雫。
彼女の動向に注視して遅れまいと歩幅を合わせる水無月さんに「しっかりついてきなさいよ!」なんて軽口を叩けば、相方は「誰に物を言っている?」
なんて愉しげに応えてくれる。
千歳さんは戦場ではとても頼りになる存在だし、チームというのも悪くないわね、なんて面具の下でニヤリとしてみる雫ちゃんです。
視界の先まで続く虫けら共の輪郭。
対してこちらはAMSが13機と輸送ヘリに搭載された機銃の火力だけ。
圧倒的に不利な状況だった。でも負けられない。引く事さえ許されない。
存在するその全てを薙ぎ払い踏み潰さなければ隣町にも被害が及ぶ。いや、この国が、世界が終わってしまう。
だから振りかざす。だから引き金を引く。
弾倉を使い果たした者は銃をバックパックの底に格納して刀を引き抜いた。
狙撃手は最後の収束ミサイルを射出した後、大型火器をパージして小銃に持ち替えた。
ものの十数分で彼らの周りには死骸の山が築かれていた。
いちいち数えるのも面倒臭いけれど、ざっと見て5000は下らないだろう。
それでも次から次へと果てしなく湧き出してくる肉食昆虫。
人々は徐々に疲弊していった。士気が高いおかげで負ける気はしないけれど、だからといって勝てる気もしなかった。
雫や千歳の動きも少しづつではあるけれど鈍くなっていくのが分かる。
直上では6台あったヘリが、いつの間にか2つに減っている。
緊張の糸が切れてしまったら次の瞬間には全滅するかも知れない。そんな気配が漂い始めている。
68 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:44:39.48 ID:yEbzv0D0
「まだまだぁ!!」
雫が吠えた。
紅色の装甲は所々が剥げ落ちて、面具が半分割れていた。少女の生身の目が外界を睨み付けている。
二人の仲間がこの時点で死んでいたけれど、だからといって彼らの死を悼む事はしない。
今はただ、襲い来る敵を一匹でも多く屠ること。居なくなった人々のために、そしてこれ以上の人々を死なせないために。
「あれは?!」
そんな中で誰かが叫んだ。
彼らの遥か頭上を通り過ぎる影。それは15機にも及ぶヘリの編隊で、そのうち幾つかは輸送用ではなく生粋の戦闘ヘリだった。
輸送用ヘリからいくつもの輪郭が飛び出してパラシュートを開く。その人型には見覚えがあった。群青色の機体は、確かJ602『ミヅチ』。
つまり彼らはAsの攻撃部隊だと言う事だ。
『少し遅刻したようですね。けれど補給物資も持ってきたのだから問題は無いでしょう』
インカムに紛れ込んだ声。目で探すと一つだけ他とは違う漆黒のAMSがパラシュートにぶら下がっていて、そいつは他の機体より先に背負っている物を切り離して地面に着地した。
「あんた、マリィといったかしら?」
『ええ、病院以来ですね。如月、雫さん』
その体躯は漆黒で所々に禍々しさを演出するかのような赤い筋が走っている。
その手には身の丈と同じくらいのランスが握られている。
そいつはシューティングスターのすぐ隣までやって来ると余裕綽々の笑みで彼女を見遣った。
『随分と良い格好ですね。手を貸しましょうか?』
「ふふん。いらないと言っても押しつけるんでしょ? まったく嫌味ったらしいったらありゃしない」
『それだけの軽口が叩けるなら大丈夫ですね。ま、つべこべ言わずに補給は受けておきなさい。どちらにせよ私たちだけでも突破は難しいのだから』
「じゃあお言葉に甘えておくわ。その時間くらいは稼いでくれるんでしょうね?」
『当然』
やや遅れてマリィの部下達が路面に足を付けた。続いて補給物資が積載されているとおぼしき深緑色のコンテナがアスファルトに着地する。
黒い機体は雫を追い越してさらに前へと足を進めると、持っていたランスの柄を路面に突き立てた。
『AMS−X05、ファントムナイト。スターティング・オペレーション。――さあ、虫けらたち。死にたい子から掛かってきなさい!!』
ドドーン。なんて効果音の付きそうな台詞だ。
でも昆虫に人間の言葉が分かるかどうかも疑わしいのに、この子はどうして自信満々でいられるのだろうかと思わずにはいられない。
とはいえ、彼女に付き従う兵士達は素人目に見てもよく訓練されており、瞬く間に陣形を完成させる。
ファントムを先頭に左右に広がる形で展開する様は矢じりのようだ。いや、角度を浅くしているから、いわゆる魚鱗陣形というものだろう。
彼らは真ん中の少女以外銃を構えていて、襲い掛かって来た虫の群を蜂の巣にしつつ前進を始めた。
補給の名目でコンテナ際から眺めていると、ファントムは銃を使わない格闘専門の機体で、だからといって何から何まで相手をするということがない。
かわせる攻撃はかわして始末は後方の部下に任せる。かわせない攻撃が来た時にだけランスを突き立て敵を屠る。
ああ、こういうやり方もあるのね。と感心しつつ見守る雫ちゃん。そんな紅機体の肩を鉛色の手が掴んだ。
『よく見ておくと良い。あの機体、なかなか上手いぞ』
AMSの操り方が上手いだけじゃあない。全体の動かし方が、自分の立ち位置を最大限に活かすやり方が上手いのだ。
冬矢に言われて思わず突っぱねようとする雫ちゃんだけど、でも考え直して頷いてみせる。
「そうね。でもアレと同じ事は私にはできそうにないわ。不器用だから」
『そんな事は全員分かっている。要は最大限、死なない努力をしてくれという事だ』
「ん、努力するよ」
69 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:45:45.86 ID:yEbzv0D0
とか言いながら雫はふと漆黒機体の形が前に見たときと少し違っている事に気付く。
そっか、あの子も乗り換えしたわけね。
前の型の時も動きは秀逸で、飛んでくる弾丸をかわしたりはお手の物だったけれど、今回は加えて安定感がある。
本気を出せばまだまだこんなモノじゃないのよ、とでも言わんばかりだ。
いやいや、動きはこの際どうだっていい。あの特撮にありがちな中盤で寝返って主人公チームに加わる敵側の幹部みたいなフォルムがたまらない。
前回同様に、自分の機体と取り替えてくれないかしら、なんて思っちゃう雫さんです。
ティエラの人々が弾薬補給を終えた頃になると地表に見えていた甲殻昆虫はあらかた片づいていた。
残っていた虫は勝ち目がないと踏んだのか蜘蛛の子を散らす勢いで逃げ出したけれど、上空ですでに蜂の編隊を掃討していた戦闘ヘリから機関銃の掃射を受けて次々と他界してゆく。
せっかく補給してやる気も十分なのに終わっちゃうの、なんてガッカリ感に苛まれたフリをする面々に戻ってきたファントムはこう仰った。
『さて、ここからが本番です。虫が出てきたって事は近くにネストがあるってこと。巣を根こそぎ破壊しない限り何度でも繁殖を繰り返します』
確かに爺様の開いた説明会の中にネストの話があった。
でも、内心ではいい加減おウチに帰りたい心境だったりするので「うへぇ」なんて顔をしかめる雫ちゃん。
そんな彼女の反応に気を悪くしてもマリィは怒ったりはしなかった。
『こちらはAsの攻撃部隊。私は部隊長のマリィ=カンザキです。こちらの話は聞いていましたね?』
いつの間に周波数を合わせたのか、無線で司令室に語り掛けるマリィちゃんはこの後の方針としてネストの探索とその殲滅を打ち出した。
如月邸の人々としても異存はないらしくて、その辺の段取りは全て任せると返してくる。
まあ、提供された資料というのはAsからもたらされた物だし、何より日本国内で初のネスト攻略を成功させたのは他ならぬマリィ率いる攻撃部隊なのだから、これに異を唱える権限など誰一人として持ち合わせていなワケで、しょ〜がないっちゃその通り。
『ではマリィ隊長。ティエラの指揮もお願いできるかしら?』
『分かりました』
『絶対に一人も死なせないで頂戴ね』
『はい』
雫と愉快な仲間達を差し置いて話が進んでいく。
物凄く疎外感、というか節子さんも物分かり良すぎるのよね。
これまで如月組とAsとでイザコザだってあったのだから、もっとこう『ワシのシマで何してけつかるんじゃ!!』くらいの勢いは無いのかしら。
いや、そうなったらそうなったでとてもマズイ事にはなるのだけれども……。
話がまとまって小一時間と待たずにAs隊員が隊長の元までやって来てネスト発見を報じた。
『ご苦労様、苦労ついでに隊員達に補給を指示して下さい。準備が整い次第、突入を開始します』
『はっ!』
稲垣と名を呼ばれた隊員は簡単に敬礼して駆け足で去っていく。
周囲を警戒する兵達に何やら指示を出して交代で補給を受けさせた後は三人一組でネストへの入り口を探索し、それは小一時間ほどで発見された。
そして慎重に行軍して、一行はそれらしき穴の手前までやって来たのです。
『では突入を開始します。各自、爆薬を所持しているか確認して下さい。それが切り札になるので使いどころを間違えないようお願いします。
そしてティエラの皆さん。分かっているとは思いますが援軍はありませんので見かけた獣魔は確実に仕留めて下さい。
……この穴は、いわば地獄の入り口です。ここから生きて帰って来るのは敵を完全に殲滅した場合のみ。撤退は許されません』
逃げ帰って二次攻撃を段取りする余裕は、佐渡島決戦に総力を結集している今の日本にはない。
駐屯地に居残った自衛隊は、そもそも戦力を期待できないから駐屯地詰めなのだし、国道を封鎖したり避難民の護衛が関の山だろう。
だったらここに居る30機余りのAMSとその搭乗者とでどうにかするしかない。
もちろん全滅する事も許されない。
とどのつまり勝って前に進むしか道が無いのです。
マリィはそう言って、人々を見渡した。
悲壮感にも似た覚悟。そういった空気が漂っているのを雫は感じた。
『では。――突撃開始!!』
70 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:47:23.77 ID:yEbzv0D0
ティエラとAs。二つの集団はここで手を取り合って暗がりの深淵へと足を踏み入れた。
最前衛には火炎放射器を構えたAMSが4体。その傍に雫、マリィ、千歳さんがそれぞれ得物を構えて続き。
稲垣さんと冬矢君を頭とする中盤の人々。そして最後尾にはマリアちゃんなどの狙撃手とその護衛、Asの人々。
ネストはその構造上、散開しての攻撃が難しいので、逆を言えば前と後ろに火力を集中させておけばとりあえずの安全地帯は確保できるのです。
道行く中で聞いたマリィの話では、ネストはアリの巣のように各部屋に至る通路はあるけれど、幹線道、つまり卵の孵化場をも兼ねる最深の巨大フロアへは基本一本道なので迷うことなく進んでいけるらしい。
とはいえ各部屋から遅れて駆け付けた敵に否応なく挟撃されてしまうので、これを前提に進んでいかないとたちまち全滅エンドの憂き目に遭うといった事柄です。
『……突破力のある突撃部隊を前と後ろに付けられたらもっと遣り易いのでしょうけれど』
そんなこと言われたって。
ツッコミ入れそうな雫ちゃんなのだけれど、その前にふと気付いた。如月地下施設からの通信が途絶えている事に。
確か、壁に付いている粘液が無線の電波を無効にしちゃうんだっけ。
同じ空間内での会話は出来るけどCPはアテにならない。つまり全ての状況下で自分の判断が優先されると、そういうことなのです。
「ところでマリィ」
『……なにか?』
「あんたって、歳いくつ?」
『なぜそんなことを聞くのです?』
「いや、だってさ。パッと見、私より年下っぽいのに攻撃部隊を指揮してたりだから、どんな生活してたのかな〜って」
『私は……』
軽口のつもりで聞いてみたのに、相手はちょっと考え込んで、悲しそうな音色で答えた。
『学習と戦闘訓練、適度な睡眠と休息。事件が有れば駆け付けて解決する。それが私が繰り返してきた日常です』
「随分とキツい人生歩んでるわね」
『私は戦うために生まれて来ました。お父様がそのように造ったから』
「造った?」
『マテリアルナンバー……、いえ、研究により生成された怪人、私はそういったモノなのです』
「よく分からないけれど、友達とお喋りしたり、オシャレしたりはしないの?」
『友達と呼べる人間はいませんし、オシャレとかはよく分かりませんので』
「寂しいヤツ」
『余計なお世話です』
「けど勿体ないね。せっかく可愛いのに」
『この顔は可愛いのですか?』
「うん、誰が見ても可愛いと思うよ。まあ、その見てくれだと需要は限られるだろうけれど……」
『?』
病院での少女の姿を思い返して苦笑いしてみる雫ちゃん。
確かに彼女の面立ちは美少女と呼んだって差し支えないくらいの代物で、同性としては嫉妬の一つも覚えるというものだけど。
だけど喜怒哀楽に乏しい無機質な面持ちはどこか人形くさくて、機械じみていて、可愛いと愛でられるよりは憐れみの目で見られるかも知れない。
現に雫は彼女からそのような印象を受けている。
「あんたはそれで幸せ?」
なので思わず聞いてみる。彼女がどういった答えを返してくれるのか、ちょっと気になったから。
けれどマリィはその一瞬だけ柔らかな息を吐いて『はい』と答えた。
そっか、本人的には満足してるのね、と納得する雫ちゃん。
丁度良いタイミングで洞穴の向こうからカサカサと無数の蠢きを感じ取って、人々は待ってましたとばかりに臨戦態勢。
そんな中、ふと漏れ出した囁きがあった。
『もうじき三年目になります』
「え?」
『私が産まれてから経過した時間』
悲しみも喜びも感じない言葉を置き去りに、ファントムナイトが銀色ランスを構えて雫を追い越した。
意表を突かれて返す言葉も見当たらないまま、同じく両の手にあるトンファーを握り直す。
戦いが始まった。
71 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:48:15.88 ID:yEbzv0D0
敵は巨大な昆虫で、アリ型やゴキブリ型は元より如何にも堅そうなカブトムシ型もあった。
4つの火炎放射器が水平に炎柱を立てて、迫り来る虫共を焼き払う。
しかし今度は昆虫たちだって怯まない。次から次へと、仲間の死骸を踏み越えて襲い掛かって来る。
カブトムシ型は装甲が厚いためか炎の洗礼を受けても支援射撃の弾丸を食らってもビクともしない。しかし肉弾戦をモットーとする三人が甲殻の継ぎ目に得物を突き立てればたちまち動かなくなった。
どれほど堅い甲羅に覆われていようと、強靱な肉体を持っていようとも、所詮は神ならぬ生き物。
殺されれば死ぬのだ。
だからこそ人々は死に物狂いで前に進む。補給した弾薬がまた尽きて、火炎放射担当の前衛が4人とも五体を砕かれて絶命したが、それでも立ち止まることをしない。
援護の狙撃が途切れて後衛を顧みると、そちらはそちらで予想通りに追いかけてきた敵の増援と必死の攻防を繰り広げていた。
――スプリッド・ダークネス・ブレイク!!
ランスを構えた漆黒機体から灼熱の黒い炎が溢れ出して、数千度にも及ぶ熱量が射線上の敵を吹き飛ばし、焼き尽くす。
彼女の攻撃能力は、こういった限られた空間でこそ発揮されるらしい。
――オーバードライブ!!
合いの手を入れるように雫の超高速攻撃。無数の体躯を縫うように流れるのは紅色の残像。
灼熱の息吹を逃れた虫けらは、今度は鋼鉄のトンファーに打ちのめされて息絶える。
『さすが、と言うべきでしょうか?』
「誰に物を言っているのかしら。こんなものは軽い肩慣らしよ」
熱量を解き放って姿勢を戻した漆黒と、やや先行した敵のただ中にあって余裕の笑みを浮かべる紅色。
張り合っているのか、それとも互いを鼓舞しているのかは当人達にも分からない。
だけど、この圧倒的に不利な状況にあってさえ感じる安心感。
少女達は仲が良いわけでもなく、そもそも会話だって二度か三度しか交わしていない。
でも、この瞬間は互いを信じられる。
彼女に己の確信を認めさせたい欲求が、体を、握り締める手を前へと駆り立てる。
「こんなところでグズグズしてはいられないわ。みんな、私についてきなさい!!」
『随分と勇ましいですね。だけど、貴女は間違っていない。先はまだ長いのだから』
支援射撃が失われた事で逆に気が楽になったのかも知れない。
思い切り殴りつけて、蹴り飛ばして、薙ぎ払う赤と黒は、その他大勢の兵隊達を引率する格好で奥へと進む。
科学なのか魔法なのかも分からない力を振るう二人に敵は無かった。
(……あいつらの方がよっぽどバケモノだな)
千歳は敵の体液に濡れそぼった刀でもう何匹目かになるかも分からない敵を突き殺しているが、そんな彼女の目から見ても二つの攻撃力は異常だった。
今、彼女たちは人外の領域で戦っている。誰も彼もがそう感じ取っていた。
+++
辿り着いたそこは巨大な、球形の空間だった。
壁面はどこもかしこも僅かに発光していて、おかげで面具が割れたままの少女の裸眼でも様子が見渡せた。
中央には巨大な柱が一本あって、部屋の上下を結んでいる。
柱の中心辺りには壁面とは色合いの違うボーリング球くらいの玉があって、柱を支える格好になっている。
床一面に乳白色の塊があって、よく観察してみるとそれは昆虫の卵だった。
今にも孵化しそうな物もあれば、すでに割れて中身の無い殻もある。形状は同じでも産卵時期はまちまちらしい。
そんな、びっしりと産み付けられた卵の隙間を縫うように、黒い点が蠢いている。
『あれは――?!』
72 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:49:12.88 ID:yEbzv0D0
オオエンマハンミョウ型。揺りかごの守護者だ。
しかし過去にマリィが戦ったそれより一回り体格が大きい。
もしかしたらネストの成長に比例して大きくなるのかも知れない。
いやいや、今は理由を考えている場合じゃあなくて、どうやって俊敏性と装甲と強靱さを兼ね備えたガーディアンを殲滅するかを考える方が重要だった。
アリ型ほど多くはなく、かといってハチ型のように空を飛べるわけでもなく、おまけにゴキブリ型よろしくステルス性に秀でているわけでもない。
しかし強い。小さくともクワガタに似た鋏を外殻に持ち、それまでのどの昆虫より一匹当たりの性能が高いそれらは銃で仕留める事は元より肉弾戦ですら倒すのが難しい相手だった。
「くる……!!」
敵の侵入を察知して集まってきたガーディアンは、目視で50程度。レーダーでも似たような数字しか表示されていない。
「シャキシャキシャキ」と顎を擦り合わせ異様な音色を奏でる虫けら共は、しかし尋常ではない速度で攻撃部隊へと殺到する。
最初の十数匹は前衛の3人でどうにかなった。だが弾薬の尽きた状況では、というか銃の通用しない敵が相手では押し返す事ができなくて後退を余儀なくされる。
『クソッタレ!!』
『もうダメだ!! 俺達はここで死ぬんだ!!』
『た、助けてくれ!! うああぁぁぁ!!』
中盤の人々も刀を手に応戦を試みるが、前衛に匹敵するだけのパワーもスピードもない機体では苦戦を強いられる事は請け合いで。
ティエラのメンバー二人とAsの兵隊3名がそれぞれ胴体を引きちぎられて即死した。
『おいAsの嬢ちゃん、もしもここで爆薬を使ったらどうなる?』
そんな中でティエラ隊員のキース君が、やけに神妙な声色で尋ねる。
爆薬はAsから持ってきた物だし、当然ながらマリィはその破壊能力がどの程度かを知っている。
なのでランスを振り回しつつの少女が答えた。
『有効半径は10キロ四方といったところです。あなたの位置で使えば全員が爆風に巻き込まれます。
複雑な電子回路が組み込まれているので投げつけるワケにもいきませんし』
爆薬は、手渡された時に受けた説明では化学反応による起爆方式なので手榴弾のようには扱えないらしい。
しかも時限式の設置型、つまりは壁面や施設の破壊に用いる類の代物だということです。本当に有り難うございました。
キース君はどうやら爆薬の遠投を考えていたようで、残念な回答に舌打ちをよこすだけ。
それでもこの期に及んでどこに隠し持っていたのか、対人用の手榴弾を投げつけて密集していた数匹の足を吹き飛ばす事に成功した。
『こちとら傭兵稼業が長いもんでな、パイナップルの一つや二つは最後まで取ってあるんだよ』
市街地戦でも、ここに至るまでも、彼は温存していたのだ。さすがとしか言い様がない。
元傭兵のグループは、キース君の行動を合図に次々と隠し持っていた手榴弾を投げつけ、それらは致命的とはいかないまでも足や甲殻の一部を破壊、ハンミョウ型の動きを鈍らせる事に成功していた。
「さすがは元アローヘッド。やるじゃない」
『傭兵は軍人と違って自分が可愛いもんさ。だから奥の手はいつだって準備してるんだよ』
トンファーを手に感嘆の息を漏らした雫ちゃん。
キース君はちょっぴり誇らしげだった。
装甲の厚さと俊敏性がウリの昆虫なのだから、その動きを封じれば当然ながら前衛の負担は減る。
一匹に費やす時間と労力が節約できるなら、敵殲滅を達成するまでのスピードだって当然早く楽になってゆく。
気が付けばオオエンマハンミョウ型の虫けらはあらかた片付いていた。
挟撃していた後方の虫たちも、後衛の皆さんの頑張りでどうにか撃退に成功していた。
『……どうやら目的は達成されたようですね』
『そうなって貰わなきゃ困るぜ。こっちはもう手持ちの手榴弾も弾薬もすっからかんなんだからよ』
ふぅ、なんて息を吐くマリィちゃん。相づちを打つのはキース君。
マリィの副官である稲垣さんがなぜだか舌打ちしている。
千歳さんは敵の体液に塗れた刀を地面に突き立てて肩で息をしている。
他の隊員達は両陣営に関わりなく生き残れた充足感にホッと胸を撫で下ろしている。
73 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:50:39.01 ID:yEbzv0D0
『いや、まだだ』
「そうね、まだ死の気配が消えていない。まだ何かが居る」
そんな中で、冬矢君の反応は違っていた。雫の音色も同様の響きを含んでいた。
雫の言葉に慌てて周囲を見渡すのはマリィだった。
少女の目や索敵機では敵の姿を見つけられなかったけれど、それでも雫の警戒は信じられた。
彼女は『死の気配』と表現した。
確かに、そう良いのかどうかは分からないけれど戦場の凍てつくような焼け付くような空気は薄らいでいない。
数秒間、もしくは数分間の沈黙。無線を通して誰かの呼吸音が聞こえる。
前衛が警戒を解いていないのを見てか、部隊全体の緊張感が増してゆく。
やがて、ボコリと地面が盛り上がった。
フロア中央の柱にほど近いポイントだ。
人々が身構える。
盛り上がった土くれから巨大な塊が迫り上がってきた。
それは表面が堅い甲羅で覆われた、他とは比べものにならないまでに巨大な、昆虫の卵。
卵の内側で何かが蠢いていた。
ガパリッと縦に裂ける卵。その内側からにゅっと出来てきたのは人間の造形とよく似た手。
手は、卵の裂け目から腕を突き出すと勢いを付けて左右に押し開く。緑色の液体が地面に滴り落ちた。
『なんだ……コイツは?!』
『ニンゲン? ……にしては大きいぞ』
『違う。人間じゃない!!』
粘液まみれのそれは真っ白な翼を背に生やした人型の生き物だった。
卵から出ようと地べたを這いずるソレは、身長が3メートルにも届こうかという巨人で、翼を持っていた。
産まれたばかりのソイツはヨタヨタと起き上がる。ソイツの頭上に光が収束して、輪っかが出現した。
『天使……?』
『コイツが天の使いだとするなら、俺たちゃ一体何だってんだ?』
『誰か大型銃を持ってないか。ライフルでも良い。誰でもいい。アレを殺してくれ!!』
兵隊達が口々に唱える。
しかしこの時にはすでに弾薬を使い果たしていて、誰一人として銃口を向ける者はいなかった。
ソイツは両足でしっかり床を踏みしめると、背にある翼をばたつかせて、体に付着していた粘液を払い落とそうとしている。
四肢は女性のそれだった。髪は無く、顔はのっぺりとしていて、目は瞳孔がなく真っ黒だった。
皮膚は日光を浴びていないせいか病的なまでに白く、内側の血管がほんのり透けて見える。
その輪郭は淡く白い光を纏っていた。頭上の輪っかが微かに揺れた、ように見えた。
ソイツは恐怖と混乱とで動けずにいる攻撃部隊を見遣り、次に天井を仰ぎ見て、言葉と言うよりは鳴き声に近い甲高い音を発した。
すると隊員達の間に恐慌が起きた。
『レーダーがイカレちまった!!』
『もうダメだ! 俺達ここでみんな死ぬんだ!!』
『か…体が、動かな……』
『ファック!! ファック!!』
無線の電波が荒れているのかノイズが酷い。
とはいえ耳を澄ませたところで人々の混乱具合が聞き取れるだけで有益な情報が入ってくる事はなかった。
『敵が本格的に活動を始める前に仕留めます』
そんな中で呟かれたのはマリィの音色。
囁きほどの声はノイズ塗れであってさえ少し震えているのが分かる。
雫は直感的に彼女の動作を制しなければいけないように思ったが、彼女ならどうにかしちゃうかもという迷いがそれを阻んだ。
74 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 20:52:30.44 ID:yEbzv0D0
【双極魔導動力炉の駆動力を臨界値に設定。
S.L.Iドライバを組み込みました。サイコフレームを展開しました。
A.Mフィールドを展開しました。高次物質化システムの運用を開始します】
カコンッ、とギアの入る音がして、漆黒騎士の周囲に熱風が渦巻き始める。
【アルティメット・フォームを起動しました。残360秒】
機体の装甲が瞬間的に黄金色へと染まった。
背にある発動機は「キュゥゥゥ……ン」と甲高い悲鳴を上げている。
機体の背に後光にも似た光の輪が出現した。
「マリィ!!」
雫がなぜだか分からないままに叫ぶ。機体が手にする得物は、いつの間にか青く巨大な槍へと変化していた。
ファントムは瞬間的に天使だなんて呼ばれたモノの前までやって来ると、巨大なその輪郭に向けて槍を構える。
――スプリッド・シャイン・ブレイク!!
少女の声がそう告げた。光の粒子が集まって、一気に放たれる。
無数の光の筋が敵の体を突き抜け、その裏側にあった柱すら貫通する。また標的に当たらなかった光は部屋に敷き詰められた虫の卵を捉えて破壊する。
彼女にとっての勝負は、その一瞬に凝縮されていた。――しかし。
『うそ……』
光の筋に射貫かれてズグズグに崩れ落ちるはずの肢体。
しかし宗教絵画からコピー&ペーストしたような翼と輪っかを持つ輪郭は、みるみる傷口が塞がっていって、崩れ落ちるよりも先にダメージを完治させてしまったじゃあないか。
これにはマリィも茫然自失で呟くしか手立てが無い。
しかも天使は白翼をめいっぱいに広げると、今見た物をそのまんまお返しするぜとでも言わんばかりの勢いでかざした手の上に光の粒子を収束させ、一気に解き放つ。
まだアルティメット・フォームの解けていない黒機体は吹き飛ばされながらもどうにか耐えきったけれど、後方に固まっていた兵士の数名が光に貫通されて崩れ落ちた。
『くっ……!!』
悔しげに呻きながら、それでもマリィは諦めない。
機体が最大攻撃力を発揮できるタイムリミットは6分間。まだ5分すら切っていない。
その中で少女は槍を振り回す。突いて、薙いで、打ち下ろす。しかし黄金騎士をすでに敵と認識しているのか天使だってただ突っ立っているだけでは済まさない。
欠損した肉体を再生させつつもかざした手から衝撃破を放ち、電波状況や精神に障害を与えるであろう奇声をあげ、翼からは二度目の光の筋を放つ。
守るべき卵を全滅させられた腹いせか、その反撃には躊躇も遠慮も無かった。
マリィは何度か吹き飛ばされ、それでも立ち上がって槍を振るう。しかし何度突いても薙いでも、その度に傷付けられた体は再生された。
やがて少女は疲れ果てたのか、それとも備蓄電力が切れかかっているのか、後方へと大きく飛び退くと装甲の色を明滅させながら膝を付く。
絶望の表情。きっと厳めしい面具の下にはそのような面持ちがあるのだろう。
「あんたさ、人生経験足りてないんじゃあないの?」
そこへ悠々と駆け付けたのは真っ赤な装甲。
雫の操るシューティングスターEXP。
彼女は破損した面具の隙間から覗く目で踞る黒機体を見下ろしていた。
『雫、さん?』
見上げて呟く少女と視線を絡ませる。
雫の瞳には絶望も無く、だからといって希望の光も灯っていない。ただその目には、強烈な闘争心だけが宿っていた。
「後ろを見なさい。大将のあんたが諦めてしまったら、ここまでアンタについてきた人達まで絶望しちゃうでしょ」
頭を巡らせて部下達の姿を探す。
モニタ越しにどうして良いのかも分からずに固唾を飲んで見守る人々が見える。
『私はどうしたら……?』
「こういうときはね。まだ奥の手を隠し持っているんだぞって顔で不敵に笑ってりゃ良いのよ」
75 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 21:42:58.03 ID:yEbzv0D0
ハッと仰ぎ見た先に凛として気高い光を見つけた。
マリィは足元を見て、警戒のためか様子を見ている天使を見て、それから深く息を吸って、槍を杖代わりに立ち上がる。
背負った動力炉が警告文を表示していたが、だからといってフリーズさせてしまうワケにもいかない。
なぜなら戦いは続いているのだから。
そんな少女に差し出されたのは予備のバッテリーだった。
「これでもうひと頑張りできるでしょ?」
『借りを作ってしまいましたね』
「電池は今ので打ち止めだから。……気合い入れて行くわよ!!」
『はいっ!!』
バッテリーをカートリッジ・スロットに押し込んで電力供給の比率を手動で切り替える。
目端に何かが映り込んで顔を向けると、そこにはメタリックブルーの機体。敵の体液を拭い取った刀を握る千歳さんの姿がある。
「冬矢君、アレをやるから、プランをお願い!!」
『了解した』
チーム・ティエラの司令塔に作戦を要求すれば、彼は即座に送ってきた。
きっとマリィが飛び出したときから練っていたのだろう。
雫の言った「アレ」という物も彼は理解していて、その攻撃能力を確実に相手の土手っ腹にねじ込むための作戦が、攻撃に参加する全ての兵士に行き渡った。
その作戦は、じれた敵が再三の光による攻撃を仕掛けてきたときに始まった。
「攻撃開始!!」
所構わず縦横無尽に駆け巡る光の筋。飛び退いて距離を取る雫。
千歳さんはマリィの背に隠れて攻撃をやり過ごす。
後方のメンバーは主要な者以外はさらに後退して巻き添えを食わない位置へと移動する。
そんな中で鉛色の機体、神威MkWが、腕に仰々しい機械を取り付けて前進していた。
『試させて貰う!!』
如月の開発スタッフが造った武器。
試し撃ちなどのデータが出ていないから今の今まで使わなかったが、このタイミング以外に使いどころが無いので解禁した。
電磁投射砲。いわゆるレールガン。AMS専用に開発されたそれを腕に仕込んだまんま冬矢は雫を追い越し、トリガーを引く。
ビィィィ……ゴファ!!
甲高い電気的な音と爆音がこだまする。
30ミリを超える、人間が扱うには少々大きすぎる銃口が控えめな炎を吐き出す。
そして弾丸は天使の肩口を根こそぎ粉砕し、その背後にある柱を僅かに抉った。
『キシャアアァァァ!!』
天使が苦痛の鳴き声をあげた。攻撃が一瞬だけ止まる。
そこへ突っ込んできたのは刀を水平に構えた水無月千歳。
防衛本能のなせる技なのか残っていた腕をそちらにかざした天使型獣魔。
掌から衝撃破が放たれる。だが、それを見越していた千歳は間違いなく肉弾戦のプロフェッショナルだった。
『落ちろおぉぉぉ!!』
シャコン!
ほとんど瞬間的に真横に飛び退くと地面スレスレに跳躍して一気に懐に入り込んだ千歳は、屈んだ体勢から跳ね上げるように切っ先を振るう。
天使の腕と体液が飛び散った。悲鳴を上げる暇もなかった。
そこへ真っ直ぐ突っ込んできたのは漆黒の機体。マリィの操るファントムナイト。
亡霊は持っていたランスで敵の胴体を串刺しすると駆動力を限界一杯まで酷使して標的を持ち上げる。
76 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 21:43:55.49 ID:yEbzv0D0
『AMフィールド全開!! ――スプリッド・ダークネス・ブレイク!!』
黒い炎がランスに灯り、その膨大な熱量と風圧が頭上まで担ぎ上げられた敵をさらに天井近くまで跳ね飛ばした。
そして、両腕をもがれ、土手っ腹に風穴を開けられたまま、それでも肉体修復を行いつつ落ちてくる天使の目に、隊列の一番奥に控える真っ赤な炎が映り込む。
「……ミカ、やるよ!!」
【MCKデバイス発動、脳波リンクを開始します。
ジェネレータ駆動値を120に設定。魔力ブースト率を1000倍に固定。システム、EXPモードに移行します】
その装甲は紅よりも赤く煌めき。
その輪郭は神も魔も見境無く討ち滅ぼすまでに熱い。
その背後で白い巫女装束に身を包む少女が、真っ赤な背中を押している。
【――対象座標を固定します】
光の輪っかが出現して天使を空中に縫い止める。
敵は藻掻こうとするが拘束が解かれる事は無かった。
【――《聖域》を展開しました。魔力濃度圧縮率、臨界値を越えました。攻撃を開始して下さい】
一瞬の出来事だった。
それまでネスト最奥のフロアだったはずの場所が、まるで太陽の表面に降り立ったかのような光景へと変貌したじゃあないか。
至る所で巨大な炎柱がとぐろを巻き、床は流動するマグマの海。天井は底のない暗黒。
そんな光景を前にして身動きの敵わぬ天使は何を思ったのか。
「――ゴルディアン・キィィィィック!!」
声がした。炎の向こうから、さらに熱い塊が飛んでくる。
それは真っ赤な塊だった。
真横から見れば跳び蹴りの格好のままカッ飛んでいる機体を拝む事も出来たのだろうが、生憎と標的にされている天使には塊の真ん中にある靴裏しか見る事ができなくて。
やがて強烈な熱量と衝撃に射貫かれて、天使は再生する間もなく蒸発するしか手立てが無い。
天使の真後ろには柱を両端で支える黒い球体があったけれど、それすら塊は撃ち抜いていた。
+++
77 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 21:44:54.87 ID:yEbzv0D0
こうして戦いは幕を閉じた。
生き残っていた有象無象の虫けらたちは、各部屋に爆薬をセットする間際に殲滅していった。
雫とミリィのバッテリーはほとんど空になっていたけれど、生き残った仲間から分けて貰ってどうにか進む事が出来た。
部隊としての戦力は無きに等しい。それでも敗残兵の処理が出来たのは、ボスを葬ったためか甲殻昆虫たちが活動を停止していたためだ。
冬矢に言わせると、柱にくっついていた黒い球体が恐らくは敵集団の頭脳も兼ねていて、司令塔が破壊されたために末端も動作停止したのではないか、との事だったけれど。
その真偽については偉い学者さん達にでも確かめて貰うとして、まずは自分の任務を完遂する事が先決だとの見解の一致から、行軍中も無駄な議論はなされなかった。
そして、地上まで戻ってきた人々はタイミングを合わせて設置してきた爆薬を起爆。
獣魔の巣を完全に除去することに成功したのである。
「終わったね」
「はい、終わりました。けれど、本番はこれからですよ?」
「佐渡島だっけ?」
「はい、私たちは一足先に駐屯地に戻っています。補給や機体の修理もしなければいけませんので」
「そう、じゃあ私たちはのんびり追いかけるわ」
「遅刻は厳禁ですよ」
「わかってるわよ、んなこと」
兜を脱いだ少女達の会話です。
ティエラが6人、Asが11人、この戦いで殉職している。
生き残った人間としては彼らの葬儀も執り行わなければいけないのだけれども、それにしてもと思うのは前哨戦でリタイアすることの方が楽なんじゃあないか、なんて事だった。
雫は正直、獣魔と呼ばれる存在をナメていた。
単純な腕力の違いに加えて、数の暴力というものがこれほど恐ろしいものだということを初めて知った。
それにマリィが初めて見たという天使型。
あれは他の昆虫型とは明らかに違っていた。
あくまで想像だけど、もしも天使型が昆虫の群で言ういわゆる女王で、オオエンマハンミョウ型が守っている物が他の何でもなく女王の卵なのだとしたら、国内最大規模との情報もある佐渡島にはもっと強力な天使型が存在していることになる。
そうなると何をどうやっても勝てません。本当にry……と言いたくなっちゃう雫ちゃんでした。
「あ、そだ、マリィ!」
「はい?」
待機していた輸送ヘリに乗り込もうとするマリィを呼び止めて雫は言った。
「そっちに行くときDVDプレイヤーも持っていくからさ、一緒に見ようよ、アニメ」
「良いですよ」
なんだか妙なノリで返事をよこした少女は、手を振って雫と別れた。
「……いや、いくらなんでもアニメは無いんじゃないのか?」
「うっさいわね。ヒトの趣味にケチつけないで」
Asが輸送機に揺られて空の人になってから、冬矢が耳元で囁いたけれど雇い主は聞く耳を持たなかった。
おわり
78 :
天使ノ要塞:2011/07/18(月) 21:49:00.58 ID:yEbzv0D0
というわけで20話の投下でした。
ダークな内容でもいいの?
良い
つか見たい
>>81 携帯からなので文章荒くてすまん。
いつも変わらずそこにいる彼女に、私はエリと名付けた。
彼女が女性だと判別出来る理由は、ボサボサに伸びた髪と、白地のワンピース。 ワンピースは嘔吐物やら何やらで、黄色と茶色の斑模様を作っていた。
夏の盛ということもあり、彼女の体は腐敗し、様々な虫達が寄り集まっていた。
夕暮れの、朱い木漏れ日がさす雑木林で、彼女は虫の羽音を唄いながら、ロープに首をかけぶら下がっていた。
私が彼女に出会ったのはつい三週間前だ。
日曜日。梱包用のビニール紐を片手に、私は近所の雑木林へと踏み込んだ。
首を吊れそうな場所を探しているとき、彼女に出会ったのだ。
私は空想の中でいつも彼女と対話した。
最初のころは彼女は、悪い男に騙されて自殺し、私に悪い男に騙されないようにする術を教えてくれた。
「男はセックスのためなら、平気で嘘をつくから気をつけなさい」
五日くらい経って、彼女は仕事を見つからない話をし始めた。
「いい。若いうちに苦労するのよ。若い頃に怠けると、仕事が見つからないわよ」
十日程して、彼女は自分が政府の諜報員で、自殺に見せかけて殺されたことを話始めた。
「これは政府の陰謀よ。私は自殺に見せかけて殺されたの」
二週間後、彼女は自分が未来からやって来たタイムパトロールで、正しい歴史に修正するために死を選んだことを語った。
「世界を救うのは、たった一つの冴えたやり方はこれだけなの」
そして今日、彼女は自分が
魔法少女であることを語った。
続きは!?
遅れてごめん。
>>82の続き
「魔法少女?」
わざと、訝しげに聞き返す。
「そうよ。私は魔法少女だったの。
闇に潜む悪魔達かを滅ぼし世界を守るために選ばれた戦士」
エリは適当なセリフを並べる
ーー私の頭の中の空想だ。今考えた設定なので、
セリフがシンプルすぎた。
私は、この設定に肉付けをしていった。
魔法少女が首吊りにいたる理由を考えた。
「いつも学校でいじめられていた私は、ある日首を吊ろうとして、
山の中で一人の魔法少女にあったの、そしてーー」
そこまで考えたとき、私は虚しくなった。
学校でいじめられているのも、
自殺しに山に入ったのもみんな私だ。
魔法のような万能の力を手に入れて、ーー自分を変えたい。
ーー強くなりたい。
ーーみんなに優しくしてほしい。
ーーあいつらに復讐してやりたい。
ーー何もかも壊してやりたい。
そこまで考えたとき、深い虚無感に襲われた。
頭の中を薄暗い思考が飛び交い、
これ以上生きていくのが嫌になった。
虚無感が心の許容範囲から溢れだし、
胸の中を荒れ狂った。
気持ち悪さが体中を駆け回り、吐き気が込み上げ、
その場にうずくまった。
頭の中で「死にたい」という声が乱反射した。
「私の後を継がない?」
すぐ近くで見知らぬ女性の声。
突然の声に不意をつかれた私は条件反射的に立ち上がり、
声の主をさがした。木の影や、枝の上、
ゆっくりとあたりを見回す。
夕暮れの雑木林はしんとしていた。
静かすぎた。さっきまで空想にふけっていた私は、気にしなかったが、
いつもに虫や鳥の泣き声が、一切止んでいた。
全身から汗が吹出し、
胸の表面を汗の雫が滑っていくのを感じた
「怖がらないで」
また女の声。
やさしげな声が、逃げることより、
声の主を探すことを私に選択させた。
かなり近い距離から聞こえてくるが、どこにもいない。
「私ならあなたの前にいるじゃない」
私はゆっくりとエリの死体に視線を戻した。
85 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/29(金) 23:10:25.14 ID:nVbuUS40
エリの口元を注視する。ネジ曲がった唇から、
舌が飛び出し、口腔の中の柔らかい粘膜には得体のしれない虫が
大量にうごめいていた。
「エリなの?」
私は聞き返した?
「そうよ。いつも話かけていたんだけど、やっと気づいてくれたわね」
口は一切動かず、声だけが聞こえた。
しかし、私にはそれがエリの声だという確信があった。
声の主がわかり、私はほっとした。
同時にうれしかった。この声は私の空想じゃない。
本当にエリが話かけてくれたのだ。
しかし、私はあえて驚いたフリをした。
「し、死体が喋った」
尻餅をつくはずなのだが、服が汚れるのでやめた。
私はエリの腐った顔に期待を寄せた。ーー空想が現実になるかもしれない。
「落ち着いて、私は……」
エリが口ごもる。私はエリの言葉の続きを待った。
「…………。もう話す必要はないわね。あなたの想像通りよ。
悪魔が蘇り、世界を滅ぼそうとしている。
あなたに後を継いで欲しいのよ。あなたは選ばれた。
いいかしら?」
早口な説明すぎた。もう少しやりとりを楽しみたかった。
「いいじゃない、理由なんて。
あなたは力が欲しいんでしょ? 悪魔はそのうち現れるわ。
さ、私の真下を掘りなさい」
私は黙って頷き、エリが吊されている真下を、
あた枝切れで掘り返した。
理由なんてどうでもよかった。
地面から歪んだ黒い金属の塊が顔を出した。
。さらに掘り進めると、それが髑髏の形をしていることがわかった。
二つの眼窩の奥には一つずつ、赤い宝石がはめられていた。
ちょうど拳大くらいの大きさで、ところどころ引っかき傷があり、
銀色の下地が見えていた。
私はそれを両手で掴み、一気に地面から引き抜いた。
全身をねっとりと黒光りさせるそれは、私の身長くらいの長さがあった。
黒い髑髏の先端からは、金属の頚椎が伸びており、先端は鋭く尖っていた。
ちょうど握る部分だけ、円柱状になっており、
私の手にぴったりと収まった。
「さあ、変身して」
私は目を閉じて強く念じた。頭の中にある姿、強く美しい姿。
全身を氷の舌で舐めまわされるような感覚に、私は乳首が隆起していくのを感じた。
冷たい粘膜に体が覆われていき、締め付けられていく圧迫感。
やがて、粘膜と皮膚が同化していくのを感じると同時に、体に活力が注がれていくようなエクスタシーが稲妻のように走り抜けた。
ーー私は、変身したのだ。
瞼を開くと、私の服装は変化していた。
腰までざっくりとスリットの入った、フレアースカート。
中央には大きな髑髏模様が白抜きで入っている。
下着も黒で、柔らかくヒップを包んでくれていた。
ノースリーブのチュニックは大胆に胸が開いており、ウエストが露出していた。
上着には、黒の袖無しハーフコート。
烏のような黒い羽が表面を覆っており、背中に一対の大きな羽がついていた。
裾が、ボロボロに見えるように、ギサギサにデザインされていた。
両手は肘まである厚い布の黒い手袋を装着。
革でできているようであり、手首から肘にかけて、
メガホンのように直径を広げていた。
足元は足首まである黒いブーツ。
地面を蹴ってみると、エンジニアブーツのように硬い。
全身が黒だった。イメージ通りだ。
髪型や顔も変化しているようだった。
私はその場でくるりと一回りした。
「どう、気に入った? さあ、今度は杖を振ってみて」
あたりを見渡し標的になりそうなものを探した。
私は標的を近くにあった太い杉の木に定めた。
「あまり、強くやりすぎないでね」
杖を傾け、杉の木に向けた先端の髑髏に意識を集中させる。
イメージするのは、万物を粉砕する破壊のエネルギー。
ジェット機の気流音のような音を出し、髑髏が青く光りだす。
集中したエネルギーから生じる振動が杖を伝わって、両腕に流れ込む。
ブレを押さえ込み、狙いをつける。
「行け」
瞬間、耳元で大太鼓を鳴らされたような轟音と共に
強烈な反動が腕を通して背中に突き抜ける。
髑髏から放たれた青く光る揺らぎの塊は一直線に向かう。
ミサイルのような爆発音と共に、空中に無数の木片を撒き散らしながら、杉の木はゆっくりと倒れていった。
私の中では1パーセントの力で打ったつもりだった。
「初めてにしては上出来ね」
えりはお決まりの台詞を言った。
「さあ。悪魔と戦うのよ」
「悪魔はいつ来るの?」
「あなたが敵が欲しいと願ったとき、奴らは来るわ」 「それまでは、どうすれば?」
私はエリがなんて答えるか知っていた。
「好きにすればいいわ」
私は狂喜した。私がしたいこと、それはあの忌まわしい学園を粉々に吹き飛ばすことだった。
今一つ文才に恵まれん
>>87 良い感じの変身コスだなと。変身シーンも凝った感じでGJそしてGJ
しかしパラノイアな主人公とかダークというより鬱な感じがしてならないぜ
どう違うのか上手く言葉にはできないがw
>>89 感想どうもです。
コスは適当に考えました。
変身シーンは、正直どう書けばいいのかわかりませんね
>>90 そういう時は変身シーンの方向性を決めるってのは?
例えばエロくするとか、カッコ良くするとか
>>91 なるほど方向性を決めるか。
参考になりました
93 :
創る名無しに見る名無し:2011/08/07(日) 14:33:59.21 ID:aQ+3ojCm
変身シーンはやっぱり全裸だよな
塩野干支郎次のセレスティアルクローズが、現代を舞台に北欧神話の戦乙女が男主人公を自らの鎧として纏う、いわば変身ヒロインものなんだが
惜しい事に変身していく描写が描かれてないんだよね
キスするとかのドラマチックなプロセスも無いし、ロリとショタが一瞬裸で向き合うシーンがあるだけ
誤爆した…orz
96 :
創る名無しに見る名無し:2011/08/09(火) 23:27:14.19 ID:XuvBAIpg
あまり誤爆にも見えんなw
アニメ板の萌える変身シーンスレかと思ったんだよ
あまり苛めてくれるなw
98 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:26:11.22 ID:1YTZ+4ti
第21話 「オモチャの兵隊」
「――相変わらずお強いですね。でも、私だって負けてはいません!」
「こういう時はお姉さんに花を持たせるものなのよ?」
「貴女の妹になった覚えはありません!!」
赤と黒、2つのAMSが対峙していた。
一つは真っ赤な機体、シューティングスターEXP。
ランスを構えるのは漆黒の装甲を持つファントムナイト。
二人は自衛隊駐屯地のグラウンドの隅っこを借り切って、一対一の模擬戦を楽しんでいた。
チチッ。
「おおっと、危ない。ってか乱取りで槍なんか持たないでよ!!」
「使い慣れた武器でないと訓練の意味がありませんから。それに、訓練用の得物では勝てませんし」
「っほんとに可愛げのない!!」
ヒュン!
「そういう雫さんだって訓練用の武器に換装してないじゃないですか」
「私はいいのよ! 単純な打撃武器だし。それに訓練だからって持ち物変えるのは性に合わないのよ」
「こういうときは年下に勝ちを譲るのも優しさですよ?」
「調子に乗せて本番で死なれでもしたら寝覚めが悪いからね――っと」
キュン。
ランスで突かれたお返しに上段蹴りを放つ雫。
マリィはつま先をやり過ごすとランスを回して柄の部分で突いてくる。
追い打ちにと飛んできたトンファーがそれを受け止めた。
雫ちゃん率いるティエラ+スタッフの皆さんが20トントレーラー十台で東北の駐屯地に押しかけてきたのはつい昨日の事だった。
源八爺さんと御神楽女史は如月邸に仕事を残しているとかで、主力を先行させておいて自分達は後から出発する予定になっている。
破損したAMSの修理はどうにかなったのだけれど隊員の補充は誰でも良いというわけにもいかない都合から簡単にはいかなかったけれど。
それでも補修資財や武器弾薬は元より一ヶ月ぶんの携帯食料も持参しているから長期的な籠城戦だって耐えられる。
駐屯地はこれでも政府の管轄下にあるのだから燃料や食料はもちろんスタッフの給料まで出してくれるのだけれど、
やっぱり軍属の群の中に一般企業からの部隊が紛れ込むのだから非常時でも対応できるようにしておこうと、もっと言ってしまえばナメられたくないので自分達で用意できる物はなるべく持っていこうとの思惑があった。
「けれど勿体ないですね」
「なにが?」
「貴女の戦闘能力は一般人のレベルではありません。どうです、私の部下になりませんか? 待遇は保証しますよ?」
「冗談! 私は私のやりたいようにしかやらないわ。ってかなんで私がアンタの部下なのさ?!」
「不満ですか?」
「当たり前じゃない。なんで自分より弱い人間の下にならなきゃいけないのか逆に教えて欲しいくらいだわ」
「言いますね。けれど自分より弱いというのはご自分を過大評価しすぎです」
ヴンッ、とファントムの双眸に光が宿る。
カコンと音を立てたのは出力リミッターの上限を手で引き上げたからだろう。
そして雫ちゃんだって訓練モードから戦闘モードへと駆動力を引き上げていた。
「それを今、証明しましょう!」
「上等!!」
キュン。スパパパッ。ズシャッ!!
ミッターを解いた機体2つは、それぞれに、それまでの生ぬるい訓練形式から一気に離脱する。
周囲で観戦していた他部隊の人々が驚嘆の声を上げる。
そりゃあそうだろう。シューティングスターにしても漆黒機体にしたって、国内外で運用されているAMSとは規格的にも性能的にも大きく逸脱しているのだから。
それらが本気でやりあえば、もはや誰も追いつけない領域へとシフトするのだ。
99 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:37:23.93 ID:1YTZ+4ti
「――スプリッド・ダークネス・ブレイク!!」
「甘いっ!!」
過去に同じ光景があった。あの時は相手の技の性質を知らなかったし、機体性能が雫の望む物に追いついていなかった。
けれど、今は違う。
真っ赤な装甲の内側には無尽蔵とも思えるパワーが駆け巡り、また死の気配を感じ取る事で紙一重の安全圏を見切る事が出来る。
突き出されたランスをトンファーでちょんと叩いて軌道を逸らし、さらに相手の懐へと入り込む。
一撃必殺の間合い。雫の。流星の目に光が宿った。
「沈めっ!!」
「くっ、……AMフィールド!!」
ズズンッ!!
思い切りよく突き出したはずのトンファーが、拳ごと、不可視の壁に押しとどめられていた。
何も無い空間に幾何学的な光の紋様が浮かび上がって、漆黒色の装甲を保護するように揺らめいている。
雫は舌打ちして半歩だけ飛び退くと今度はローキックで責め立てようとする。
「AMフィールドはあらゆる攻撃を遮断します。貴女に勝ち目はありません!!」
「はがゆいねぇ……!!」
放ったキックさえ相手の体には届かなくて、それで仕方なしにと素早く距離を開ける。しかし3秒間の間隙を挟んで思い至った。
もしかして、そのAMフィールドとやらが発動している間は攻撃動作ができない?
前回の天使型獣魔との戦いがフラッシュバックする。
確かに彼女はフィールドを展開させた直後に大技を放っていた。しかし、動作、つまり体勢が整ってからの話だ。
熱量を放つだけならフィールドを展開したままでもできる、けれど物理的な動きは含まれない。
分かりやすく言えば、盾を持っているのではなく、そこに壁があるという状態。攻撃は壁の隙間からということなのだろう。
ということは、あらゆる攻撃を遮断するという盾は、同時に自身の身動きをも封じてしまうのかも知れない。
「やりようは有るワケよ」
フフンと不敵に笑ってみる。
だったらこちらはカウンター狙いの一択で良い。
ヘタを打てば自分がKOされてしまうけれど、上手くすれば一撃必殺。
乗るか反るかの丁半博打。雫ちゃんはそういうのが大好きだった。
「へい、かもーん!」
「カウンター狙いですか。相変わらず勇敢ですね」
「私は白黒ハッキリさせたいタチなのよ。それに、時間切れでエンストなんて格好悪いでしょ?」
「ふふっ」
マリィの微笑む声を聞いた。
雫の口元が少しだけ緩んだ。
そして。
「――いきます!!」
漆黒機体が駆けた。赤い流星が迎え撃つ。
ヒュオ、――ズズンッ!!
白銀のランスが紅機体の残像を射貫いていた。
突き出された拳が、その手にあるトンファーごと腕に絡め取られていた。
もつれ合う二つの輪郭。しかしこの体勢でなお動く事を止めないシューティングスター。
固められた腕をちぎれんばかりの勢いで引き抜くと、その反動を利用して左拳を相手のガラ空きになっていた脇へとねじ込んだ。
ベキョベキョ。そんな鉄のねじ切られる音があって、宙を浮く勢いで真横に吹っ飛ばされたのはファントムだった。
漆黒色の体躯は地べたに激突して、そこから動く気配はなかった。
危険を察知してか救急班の人間が駆け寄ってきて強引に面具を剥ぎ取っている。
「いくらなんでも熱くなりすぎじゃあないのか?」
100 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:41:02.47 ID:1YTZ+4ti
耳元で冬矢君の囁きがあったけれど雫は答えない。
AMSをボタン操作で脱がせて診察するに外傷はなくて、単に受けた衝撃で気絶しているだけとのことで。
ホッと胸を撫で下ろす人々と、その向こうで固唾を飲む野次馬が見えて、そこでようやく勝利を実感する。
けれど同時に、何とも言えない奇妙な感覚に陥った。
(わたし、こんな所でなにをやっているのだろう……?)
空は泣きたくなるほど青い。
本当だったら学校生活があって、家に帰れば完徹でアニメを見たり、そうでなければ美香子ちゃんの強引な誘いで街へと引きずり出されて、
嫌そうな素振りとは裏腹に流行の服を買ってファーストフード店でハンバーガーにかぶりついてみたり、はたまた甘くて美味しいケーキに舌鼓。
そんな日々がずっと続くと思っていた。
頭じゃ大学に行って会社に務めて、他の誰かと恋愛して結婚して子供を作って、そんな未来がある事を知っていたけれど、だけど気持ち的にはずっとこのまま続くと信じたかった。
それなのに、この現実はナニ?
SFまがいの強化服に身を包み、勝った負けたと騒いでる。駆り出されたこの戦争に負ければ未来は無いだなんて言われている。
どうして私はこんな所にいるのだろう?
とても場違いに思える。けれど、振り返ればこれまでもこれからも生死を共にする仲間達が居て、みんなが私を見つめている。
なぜ私なの? 問い掛けても答えは出ない。
+++
本当ならAMSでの格闘訓練だったはずの時間がいつの間にやら決闘じみたガチンコバトルになっちゃったものだから、夕刻ともなれば二人してスタッフの皆さんから叱られてしょんぼり顔で仮設テントに戻ってくる。
ファントムは脇腹の装甲とその内側の電気系、ついでに生命維持などの環境を整える装置が破損していたし。
シューティングスターに至っては腕部の人工筋肉がズタズタで総取っ替えしなきゃいけなかったりで、双方サイドのスタッフは修理に大わらわなのです。
で、そんな状況を作り出した本人達はと言えば同じテントの中、密かに持ち込んだ映像機器でアニメの鑑賞会などを開いていたり。
雫ちゃん秘蔵のコレクションはブルーレイで百本以上。
出撃までの数日間で制覇する段取りだったりする。
「ね、コレ面白いでしょ?」
「話し掛けないで下さい。気が散ります」
「うあ、ハマってるよこのコ」
マリィはこれまでアニメという物を見たことが無くて、興味の範囲外だったらどうしようと不安だったけれど、この尋常じゃない食いつきっぷりを見るに杞憂だったらしい。
というか普段から集中する事に馴れているせいか、瞬きもせずに食い入るように液晶モニタを見つめる少女を見る限りオタクになる要素は申し分無く。
あと数日ほど調教すればよく訓練されたオタクへと華麗に大変身すること請け合いだ。
夕刻からぶっ通しで鑑賞に明け暮れ、気が付けば晩の10時過ぎ。
背後で物音があって振り返ると、そこに二人ぶんの夕食をトレイに乗せてやって来た水無月さんの姿を見つけた。
「晩飯だ。まったくなんであたしが……」
「あ、そこ置いといて家政婦さん」
「誰が家政婦だコラ。ああ、こいつ殴りてえ――!!」
素っ気ない返事にグッと拳を握る千歳さん。
しかしそんな遣り取りさえ完全無視で画面に釘付けのマリィちゃんにほんのり興味を抱いたのか、千歳さんは覗き込むように少女の視線の先へと目をやった。
そこには物語の佳境を迎えた萌えアニメが映し出されている。
「そんなに面白いのか、それ……?」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
いやいや、そうではなくて。
マリィちゃんは二次元の世界にすっかり魅了されいるらしく、彼女のドキドキ感が顔を見なくても伝わってくる。
反して千歳さんはそういうのにあまり興味が無いのかややしらけた面持ちだった。
「ま、早く寝ろよ。明日も早いんだしさ」
「ん、ありがと」
「おやすみ〜」
101 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:42:22.25 ID:1YTZ+4ti
長い黒髪を無造作に掻いて、千歳はどこかバツが悪そうに忠告すると自分の簡易ベッドに潜り込んでしまう。
携行している耳栓を使えばアニメ声に悩まされる事もない。ややあって彼女は安らかな寝息を立て始めた。
ここは乙女達の専用テント。もちろん女性自衛官が寝泊まりしているテントもあるけれど、女性を虫の巣に遣ろうなんて考えが非道と思われている中では極端に少なくて。
なので、ある意味聖域と呼んで差し支えない場所なのですよここは。
とはいえ、もちろん小型ながらも高性能なスピーカーから垂れ流されるアニメの音はテントの外まで響いていて。
周囲の隊員達が色んな意味で寝付けずにいた事など彼女たちには知る由も無く。
そんなこんなで夜は更けていくのです。
+++
深夜。
機体の修理に追われていた整備スタッフ一同が疑獄のようなサービス残業から解放されて寝所へと撤収してしまった後。
それでもドック内には明かりが点灯しており、ガシャリガチャリと鉄を弄る音が響いている。
自機である神威MkWの整備に余念のない卯月冬矢だった。
彼の機体は他の誰も手を付けない。というか搭乗者が指一本でも触れる事を許さない。
OSのログ解析に始まり、機体の各駆動部の微調整、操作から動作までの伝達速度のチェック。故障や誤動作がないかの点検。もちろんオイルは常に新品を流し込んでいる。
そんな冬矢君が顔を上げたとき、背後にはいつから居たのかパジャマ姿の雫ちゃんが立っていた。
「や」
「なんだ。まだ寝てなかったのか」
「うん。モニタをマリィに取られちゃって」
「(会話が成立していない……)アニメなんか見せない方が良かったんじゃないのか?」
「そんなこと無いよ。あの子にも教えてあげたいじゃない、人生の楽しみってヤツをさ」
「随分と偏った人生だな」
冬矢君が「ククッ」と笑う。
雫は「そだね」なんて相づち打って釣られて笑ってみる。
他に人の気配は無くて、当人達以外に物音を立てる存在は居ない。
冬矢は油まみれのツナギを着ていて、首にタオルを巻いている。
雫は近づいたり触れたりはしないけれど、目はずっと見慣れた輪郭を追いかけている。
「ねえ、冬矢君?」
「どうした」
「あんたを雇うときに支払った一億円さ」
「返さんぞ」
「分かってるわよ、んなこと。――ってか、アレっていつまで有効なのかなって思ったのよ」
「いつまで……? 妙な質問だな」
「ほら、あんたって傭兵だったんでしょ? だったら契約とかそういうのにはうるさそうじゃん」
「気にするな。アレはその金額が必要だったのとお前の覚悟が見たかっただけだ」
「そっか」
「妹はお前の家の病院で世話になっているし、AMSの部品は如月重工の方で特注品を作ってくれているから問題もない。金は必要無い」
「じゃあ、ずっと、この先も一緒に居てくれるのかな?」
しんと静まり返ったドックに微かに震える音色が響いた。
冬矢はふと思いついたように立ち上がって雇い主を顧みる。
「この作戦が終わったらさ、如月は基地の名前になる予定なんだよね。爺ちゃんがそう言ってた」
「国連軍所属、如月基地か……。胸が熱くなるな、まったく」
「私ってば孫だからさ、嫌でも関わる事になっちゃうのよね、そういうのに」
「お前が行く場所であれば俺も行くさ。なにせお前は俺のクライアントだからな」
「……そっか」
「安心したか?」
「ん〜、どうかな」
「不満なのか?」
「じゃー、今はそれで良いって事にしておくよ」
「今は?」
「乙女の気持ちを追求しないの」
「了解した。ではその話題には触れないでおくことにしよう」
「あんたが朴念仁だってことは知ってるけど、時々ワザとじゃないかって思えてくるのよね」
102 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:43:40.73 ID:1YTZ+4ti
囁きほどの音色で呟いた雫ちゃん。
けれど言った後でふと思った。
私って、彼の事をどう思っているのだろう?
恋をしているわけじゃあない。愛しているというわけでもない。異性として愛して欲しいとも、さほど思わない。
だったら私は彼をどう思っているのだろう?
友達?
なんか違う。
兄妹的な関係?
いやいや、それは無いですから。
じゃあ何だろうと考えて、考えて、唐突に理解する。
彼は戦友なんだ。
同じ死地に向けて突っ走る、命を預けられる存在。
単純に、純粋に、私が生きていくために必要とする存在。それが彼なんだ。
だったらそれ以上は望んじゃあいけない。求めちゃいけない。
雫は自分の中の気持ちにケリを付けて「フフッ」とつい自嘲的な笑みを浮かべてしまう。
「どうかしたのか雫?」
「ん〜ん、なんでもない。それより冬矢君、雇い主からの命令よ。絶対に死んじゃダメ。生きて帰るのよ」
「俺としてはお前の命が最優先なのだが」
「ナニ言ってるの。そんなの当たり前じゃない。あんたは私を守りつつ、かつ生きて戻ってくるの」
「難しい注文だな」
「出来るかどうかは聞いてないわ。やるのよ、何が何でも!」
「了解した」
冬矢君が肩を揺らして笑う。
髪を掻き上げながら雫が微笑む。
これで良い。
みんなで生きて、生きて帰るんだ!
「じゃ、もう寝るわ。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。良い夢を」
そんな決意じみた空気に背中を押されて踵を返した雫。
油まみれの青年は、そんな背中に何を思うのか瞬きさえせずに見送っている。
「強いな、お前は」
誰も居なくなった夏の夜。微かに空気を震わせる言葉は、しかし誰も聞く者がなかった。
+++
眠ろうと仮設テントに向かう雫は、しかし聞き慣れた声に足を止めた。
【雫ちゃん、雫ちゃん――】
「え、ミカ?」
理由なんて分からない。本物か幻かも分からない。
でも現に、親愛なる友人がそこに立っていた。
白い、巫女服というよりは祝詞を上げる女性神主さんが着込んでいるような厳かさを秘めた装束に身を包む少女の輪郭。
弥生美香子ちゃん。
長くて艶やかな黒髪を靡かせて、彼女は雫に微笑みかける。
【こっち来て】
「なによ、また私を引きずり回す気?」
103 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:44:45.46 ID:1YTZ+4ti
こんな場所でこんなシチュエーションで手招きされたら誰だって訝しく思うだろうし、怖くなって逃げちゃっても誰からも咎められやしないだろう。
なのに雫は、それがごく当たり前の出来事に思えて、いつも通りの呆れ顔で友人の背中を追いかけている。
二つのシルエットは居並ぶテント群を抜け、簡単な雑木林を突っ切って、武器弾薬を保管する壕からほど近い小さな建物のあるところまでやって来た。
建物の傍には5台の20トントレーラーが停車していて、駐屯地の駐車場から距離のある場所にどうしてとも思ったけれど、そんな友人の事なんてお構いなしに先行く美香子では納得のいく返事なんて期待できやしない。
建物の1階には巨大なコンテナエレベータがあって、雫はそれに乗り込む。
友人の言葉に従って最下層へ至るボタンを押すと、微かな地響きを立てながら降下していくのを感じた。
「ねえ、そろそろ聞いても良いでしょ? 私をどこへ連れて行こうっていうの? まさかあの世とかじゃないよね」
音色は冗談交じりに、でも答えなきゃ実力行使で口を割らせるぞ、ってな思惑で尋ねる。
すると神官服の美香子ちゃんはちょっと考える素振りを見せて口を開いた。
【この下にあたしが居るの。雫ちゃんには見ておいて欲しいから……】
「え、それってどういう――」
寄せられた回答に困惑の言葉を重ねようとした雫。
けれどその問いかけを言い終える前に「チンッ」と音があって、巨大な鋼鉄製ドアが開かれてゆく。
「――!!」
突如として現れた光景に、少女は声を出す事も出来なかった。
そこは鋼とコンクリートに覆われた巨大なフロアだった。
縦横無尽に駆け巡っているのは様々なケーブル。
無数の設置型コンピュータが壁際で列を成していて、誰も居ない空間の中で今もカタカタ微かに音を立てている。
部屋の真ん中には台座があって、そこに鉄の塊が鎮座している。
それは白い装甲を持つ、鉄の箱を連ねて鳥の形を摸したような物体だった。
美香子ちゃんは早足で、脇目もふらずにそちらの方へ駆け寄って行く。
遅れまいと続く雫。
遠目に見て3メートルくらいと思ったけれど、近づくにつれもっと大きい物だと思った。
翼のように広げられた鉄箱は端から端まで5メートル以上。
中心部分に鳥の胴体というか、ゴテゴテした装甲に覆われた部分がある。
神官服の友人はそのすぐ目と鼻の先までやって来て、くるりと振り返った。
【これがあたし】
「……は?」
【これが、あたしなの】
104 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:45:34.04 ID:1YTZ+4ti
追いついた雫は頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、どこから突っ込もうかと考える。
しかし何か言うよりも先に、別の方向から声が上がった。
「その機体はX−03γ、コードネーム『アルティール』。半独立機構MCKデバイスを搭載するAMS」
「あんたは?」
ハイヒールの靴音を響かせてやって来たのは年の頃も雫とそう変わらない女の子。
優しそうな面立ちは整っていて、どこに行ってもモテるだろうなとはお嬢様の感想です。
彼女は羽織っていた黒い白衣のポケットから紙タバコを取り出すと口にくわえた。
「……チョコレートよ?」
「いや、誰も聞いてないから」
黒衣の少女は雫の上へと目を移し、そこにあるアルティールと呼んだ物体を愛おしそうに見つめた。
「私は真城ヒカル。SXS……政府の開発機関で局長をやってるわ」
「はあ、そりゃどうも」
顔は優しそうなのに音色はほんのり冷たくて、そのギャップが胡散臭さを醸し出している。
まあ、そういうのが逆に良いって男性も居るのでしょうけれど、生憎と雫ちゃんは花も恥じらう乙女です。
「あなたが如月雫さんね。彼女から聞いているわ」
「え、ミカのこと知ってるの? ……あ、そっか。あなたがミカをさらった張本人というわけね」
「頭の良い子は好きよ?」
この場所で、この状況で美香子の事を口に出来るのは、家族か知り合い。そうでないなら彼女をさらった犯人一味ということになる。
このゴテゴテした機械が彼女のなれの果てだというのなら尚のこと、それを行った本人しか知り得ない。
雫は身構えて、変身用の金属ベルトを持ってこなかった事を後悔した。もちろん拳銃やらナイフやらといった武器など所持しているはずもない。
「それで、私の事も捕まえて酷い事しようっていうのね?」
「あら、それはグッドアイデアね。けれど残念、貴女のために用意する椅子はないの」
「だったら殺すのかしら?」
「それもハズレ。貴女に危害を加えようとすれば、まず私が蜂の巣になるでしょうよ」
だったら何のためにそこにいるのか。
雫が怪訝そうに眉を寄せる。
美香子の幻影に連れられてこの地下格納庫にやって来た事が偶然だったとして、相手としては見るからに国家機密レベルの発明を無関係の人間に知られて無事に帰すとは思えない。
かといって意図的に、例えばCGを駆使して造り上げた幻影でこの場所に少女をおびき寄せたとするならば、その理由が思い当たらない。
相手の腹を探るように、肉体的にひ弱そうな娘さんをどうにか縛り上げる事ができないかしらとすり足で距離を詰める。
すると彼女はどういった手品なのか、ドルイド僧を思わせる杖を空中に出現させ手に掴んだ。
「一応警告しておくけれど、危害を加えるつもりは無くても襲い掛かって来る乱暴者を懲らしめるくらいの事は当然するわよ?」
その杖で引っぱたくというのか。彼女は軽い調子でブンッと振ってみせる。
敵意や殺意は感じられない。
でも、だからといって警戒を解く事もしない。
「話を、聞かせて貰おうかしら」
「そうね、貴女にはその権利と義務があるものね」
慎重に問い質そうとする雫に、ヒカルと名乗った少女は答えた。
105 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:46:47.55 ID:1YTZ+4ti
「少し、長くなるからそのつもりでいてちょうだい。
まず、あなたの後ろにある機械『アルティール』はAMSと銘打ってはいるけれど人間の操縦者を必要としない無人機なの。
分かりやすく言えば、AMS専用のオプション武装といった位置付けね。
本来はファントムナイト、……マリィの機体とドッキングさせる為に作られているわ。
けれど『彼女』がそれを拒絶した。マッチングテストで弾き出された答えがそれだった。
『彼女』が自らの意志で選んだのは、如月雫という名の少女、貴女だったのよ」
「どういう意味……?」
無人機? 彼女?
科学者とおぼしき娘の説明は主語が抜けているように思われた。
そのあるべき言葉を尋ねようとした矢先に背後で『ガコンッ』と音があって、慌てて振り返った先で息を飲む。
白い鳥形AMSの装甲の一部がスライドして、その内部が顕わになっていた。
そこには緑色の液体に満たされた円柱形の水槽がはまり込んでいた。
そこには、誰かの脳みそと脊髄が入っていた。
「……これが、美香子?」
「そう、MCKデバイスのコアとなる部分。被験体2162号、弥生美香子の脳細胞と中枢神経よ」
半ば死んでいるものと諦めていた。
でも、こうやって直接向き合っても、彼女の死を宣告されたって実感が湧かない。
背中越しの言葉からは何の感情も見いだせなかった。
目端に申し訳なさそうに肩を落としている神官服の美香子が映り込む。
現実味のない、雲の上を歩いているようなフワフワした浮遊感に吐き気を覚えた。
「……魔法力運用も含めて、AMSの性能を強化するためには単なる機械では処理能力が追いつかない。
だったら別の人間の脳にやらせれば良い。開発者の考えはコレだった。
そして、実験は大成功だった。未だ実用化の目途が立っていない3コア型のハイパーラピッド・ストーンを凌駕する数値を叩き出したの」
「これを作ったヤツは今、どこに?」
「居ないわ。彼は最後の仕事として自分の体を新型AMSに喰わせたの」
黒衣の女科学者の言葉は冷徹で、しかし嘘を吐いているようにも思われない。
膝の力が抜けて茫然自失に崩れ落ちる雫。
無意識に呟いた「どうして…」という問い掛けに科学者はなおも抑揚のない答えを返してくる。
「全ては人類を滅亡から救うため。
あなた達は佐渡島のネストを攻撃するけれど、その作戦が成功しようが失敗しようが人類が劣勢である事に変わりは無いの。
言うなれば、今滅びるか明日まで生き残るかの違い。地球上に巣くっている獣魔はそれほどまでに強大なのよ」
こんな時に言うのは不謹慎なのだろうけれど。
真城ヒカルは目を伏せて仰った。そんな科学者の対応に怒りが込み上げてくる雫。
ヒカルはさらに口を開いて言葉を継ぎ足してゆく。
「もちろん、だからといって私たちの所行が正当化されることはないわ。
人間を解体して機械の一部にするなんてマトモじゃあない。そんな事は最初から分かっている。
居なくなった彼も、その意志を継いだ私にしたって、ロクな死に方はしないでしょうよ。
けれど、それでも、ほんのささやかな希望であっても残したい。残さなきゃいけない。
それがマッドサイエンティストである彼と私の選択だった」
「あんたの釈明なんて聞きたくもないわ。必要な事だけを言ってちょうだい」
他人の懺悔に付き合う義理はない。
ヒカルは小さく「ごめんなさい」と呟いて、考えをまとめるように深く息を吸う。
106 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:47:37.03 ID:1YTZ+4ti
「アルティールは電波ではなく魔法力で対象を追尾するし、波長の合う人間に限定されるけれど遣り取りを行う事も出来る。
ネスト内でも通用するはずよ。
主機関はL型双極動力炉。これを2基搭載している機体もあるけれど、そちらは改修中で動かす事さえできないわ。
武装は反物質投射砲が1門。電磁速射砲が2門。30o機関砲が4門。追尾式収束ミサイルは4基、実数にすると9000発くらいね。
諸元だけ見ると動く火薬庫だけど、単体での戦闘行動は射撃精度がかなり落ちるからお勧めしないわ。
それから特殊能力としてはAMフィールドの他に魔法の発動と、これを利用した次元跳躍。
これらは演算が重すぎるために単独で行うには無理のある代物よ。
まあ、結論としては呼び出したらすぐさまドッキング・シークエンスに入れってことね」
「呼び出す?」
「最初にも言ったけれど、この機体はAMSのオプション武装として造られているわ。
だから当然、AMSと合体しないことにはフルスペックでの活動はできない。
そして彼女が選んだのは他の誰でもなく貴女。つまり貴女でなければこの機体を動かす事はできないのよ」
ヒカルは幻影の少女を一瞬だけ見て、次に床で踞りながらも肩越しに睨み付けてくる雫へと目を戻した。
「貴女にはこの機体を扱う権利がある。使うも自由、使わないのも自由。けれど、この子が存在しているということは知ってなきゃいけない」
「っこの!!」
美香子は大切な友達だった。それを物のように言われたらムカッとするのは当たり前。
弾かれたように立ち上がってぶん殴ってやろうと詰め寄る雫は、しかし当の本人、実体のない幻の類であったとしても見知った輪郭を持つ友人に進路を阻まれた。
神官装束の美香子ちゃんは、とても悲しそうな目でこう言った。
【この人を責めないで。ね?】
「ミカ……」
それでどうにか気持ちを落ち着けた雫ちゃん。
とはいえこのまま同じ場所に留まっている気にもなれなくて、なので一刻も早く仮設テントに戻ろうと出口へと向かう。
科学者の横を素通りした際に、その声に呼び止められた。
「貴女の機体だけど、MCKデバイスは残っているわね? だったら機体の改装は必要無いわ。
デバイスには高次物質化システムも含まれているからドッキング時に必要なパーツや形状は全て自動生成してくれるわ」
「そりゃど〜も」
「ああ、それから――」
「ナニよ、まだなにかあるの?」
「ご武運を」
エレベータ手前まで戻った雫が怒りにまかせて振り返る。
すると視界に、深々と頭を下げるヒカルの姿が映りこんで、何とも言えない気分になった。
「……」
無言で背を向けた少女がまたエレベータの前に立って、扉の開閉ボタンを押す。
静かに口を開けて、雫をくわえ込んだまま閉じる鋼鉄製の扉。
誰も居なくなった部屋の中で科学者は急に踞って肩を震わせる。
「ごめん。ごめんね……」
ポタリ、ポタリと床に涙の粒が落ちている。
その謝罪が誰に向けられたものなのか。
さらわれた挙げ句に兵器の一部にされてしまった少女に対してか、それとも絶望的な死地に送り込まれようとしている娘に対してか。
それは誰にも分からない。
ただ、物質的に存在すらしない輪郭が袂までやって来て、踞る少女の髪を優しく撫でていた。
おわり
107 :
天使ノ要塞:2011/08/15(月) 20:48:56.61 ID:1YTZ+4ti
21話、投下終了です。
108 :
創る名無しに見る名無し:2011/08/26(金) 14:28:42.13 ID:OIrf0/Px
投下乙です!…ってもう1週間以上経ってから言うのもあれだけどw
投下します。
黒が世界を覆い、地上の光が黒を浸食する。時は24時を過ぎている。
多くの人が寝静まる時間帯。
ビルが立ち並ぶ繁華街。その一つのビルの屋上に一人の男が立っている。
年齢は30位だろうか。特に特徴のない男はただ、黙って屋上から下を眺めている。
いや、男の唇は動きだした。
「……あれか? 今回の標的は」
「うん、そうだね。結構数がいるから大変だけど大丈夫?」
「大丈夫だ。問題ない。……と言いたいが、実際大変だろうな」
一人のはずの男の呟きに答える声があった。
男のそばにはイタチが立っていた。いや、それをイタチとは言えないだろう。
なぜならその背には白い羽が生えていたのだから。
その生き物は日本語を話し、男と意思疎通を測っている。
常識という物があるのなら、それは確実に非常識に当てはまる光景。
だが、そんな光景を男は受け入れていた。
――なぜなら。
「じゃ、それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい」
瞬間、男はビルから飛び降りた。
時間にして10程度で地面に激突する。
その程度の時間の中、空中で男は光に包まれる。
その一瞬で男の姿は大きく変わった。
年の頃は16才。腰まで届く黒髪をポニーテールにし、
白とピンクを基調とした、レオタードのような素材ででき、
スカートのようなヒラヒラのついた衣装をまとった姿があった。
上服はまるで高校生が着るような制服タイプ。
しかし要所が発達した体のラインをはっきり際立たせている。
そんな少女の姿がそこにあった。
そう、彼は魔法少女だったのです――。
魔法少女となった男は、狩りの対象の魔物たちに落ちながら目を向ける。
魔物たちはすでに少女に気付いているようだった。
少女は、両手にH&K MP7を出現させながら、狙いをつける。
同時、サブマシンガンがピンク色の光を纏う。
それは銃の形をしてはるが、立派な魔法だった。
ゆえに、そのサブマシンガンの弾丸は魔法であり、
「マジカルチャージショット!!!」
少女の声に反応するかのように発射された、無数の弾丸は、曲線を描き、
そこにいた全ての魔物に降り注いだ。
まさにピンク色の光の雨が降り注ぎ、少女が地面に着地するころには
全ての魔物たちが消滅していることになる。
しばらく周囲を警戒していた魔法少女はやがて銃を降ろし、息を吐きだした。
「ふう。終わったぞ。リンベル」
「お疲れ、零君。案外簡単に終わったね」
「まあ、不意をついたからな。こんなもんだろ」
リンベルと呼ばれたイタチ型の使い魔はゆっくり零と呼ばれた魔法少女の肩に捕まると、
顔を零へと向けた。
「それじゃ、今回のお仕事はお終いだね」
「おー。そうかそうか。早く寝たいぜ。明日の仕事に響くからな」
そうして二人は歩き去る。
そこには今までなにも起きていないかのような静寂しか存在しなかった。
ただし、二人は気付かない。
「……あの人は……?」
一人の少女の視線がそこにあったことに――
□ □ □
□ □ □
「くああ。魔法少女の後に普通の仕事は堪えるなぁ」
時は次の日の夕方、仕事帰りにビールを買いながら家のアパートに帰る男は
独り言をつぶやいている。
スーツの上着を脱ぎ、肩に掛けながら歩き、家まではもうすぐ。
その後一歩の所で、妙な光景を見つけてしまった。
「……あ? なんで俺のアパートの前に女子高生がいるんだ?」
そこにはアパートの入口の前に立っている女子高生が一人いた。
女子高生だと分かったのは彼女が近所の高校の制服を来ていたからだった。
髪を薄く茶色に染め、肩口まで切りそろえた髪型。
目は比較的ぱっちりとした、まあ可愛いと表現すれば間違いない。
体つきは全体的に細く、胸元も割と残念な感じの幼さが強調されている。
その少女は俺を見つけると、ぱっと花が咲いたように笑い、こちらに向かってくる。
(……なんだ? 俺なにかしたか? まさか痴漢とか言われて冤罪で捕まってしまうとか?)
一瞬そんな考えが浮かび、踵を返そうと足を止める。
だが、すでに時遅く、その少女は目の前までやって来ていた。
そして、男は少女の発言で今度こそ体を硬直させられる。
「始めまして。今は男の格好をしているお姉様!」
その様子をアパートの中で聞いていた使い魔ことリンベルは、
尻尾を使い器用に夜ご飯を作りつつため息交じりに言葉を零すことになった。
「うわぁ。また厄介なことになりそうだなぁ」
と――。
一旦終わり
投下終了です。
創発3周年というわけで、以前なんでも投下スレ避難所で書いた話の続きを投下しようと思ったけど時間が足りず、
とりあえず続きものっぽくなってしまった……。
いつか続き書く予定。
つまり連載開始って事だな。
続きを期待してるぜ。
115 :
創る名無しに見る名無し :2011/09/03(土) 21:49:30.68 ID:izzzpppO
ここだってもうすぐ3周年なんだよなぁ
初期の賑わいが懐かしいぜ…
116 :
創る名無しに見る名無し:2011/09/08(木) 20:48:45.48 ID:2rpzZzzt
まなみ作者やゲーマーズ作者復帰希望
117 :
創る名無しに見る名無し:2011/09/23(金) 07:42:34.76 ID:MhwOI7BU
保守
――某日。
僕の部屋に幼馴染みの同級生、立川柚姫(たちかわゆずき)が上がり込んでいた、
「ケンちゃんの部屋ってゲーム機ばっかりだよね?」
「地下室にはもっとあるけど、それがどうかした?」
「けどソフトって全部女の子が出てくるヤツでしょ?」
「僕はギャルゲ(2D)にしか興味無いんだ。3Dはお呼びじゃないんだ」
「それってヘンタ……」
「おっと、ゲームのヒロイン達をディスるのはそこまでだ」
「ゲームじゃなくてケンちゃんに問題があるんじゃ……」
僕は佐久間ケンイチ。
隣に住んでいる柚姫とは幼稚園からの付き合いだ。
授業中だろうと帰宅中だろうと携帯ゲーム機を手放さず、あまつさえ家の地下には専用のゲーム部屋を設けている身としては当然ながら周囲から白い目で見られているのだけれど、コイツだけは別格で普通に話し掛けてくる。
というか、本音を言えばウザい。
今だって「じゃあケンちゃんチに寄るね」なんてさも当たり前のような台詞を下校間際に吐いたかと思えば、こちらの思惑なんて素知らぬ顔で部屋に上がり込んでいる。
僕は一刻も早く美少女ゲーム、略してギャルゲにどっぷり浸りたいというのに……!!
「ねえ、ケンちゃん」
そんな、幼馴染みの肩書きを利用して他人の楽しみを邪魔するひでぇ女が、ふとした沈黙の後にやけに神妙な面持ちで呼び掛けた。
「あ?」
思わず喧嘩口調で返した僕の心情なんて理解しようともせずに柚姫がズイッと身を乗り出してくる。
「ななな、なんだよお前!」
他に誰も居ない部屋で幼馴染みが息の掛かる距離まで顔を寄せてきたら、そりゃあ誰だって動揺するわな。
それなのにコイツは相手の期待を完全に裏切るような言葉を吐きやがったのさ。
「あたし、魔法少女になっちゃった」
「……はあ?」
ヤバいヤクでもキメてるんかこの女は。
思い切り不審そうな顔でデムパな同級生を見遣る。
すると、そんな僕の態度が不満なのか学生鞄から何やら黒い物体を取り出して見せた。
「妖精さんがくれたの」
見てくれは薄っぺらい菱形の黒い石。
真っ先に思い浮かんだのが教科書で原始人が手にする槍の先っぽにくっついているアレ。
とはいえ表面に電子基板を彷彿させる幾何学的な筋が淡く光を放っていて、その辺のオモチャにしては出来が良すぎるようにも思える。
いやいや、本題はそこではなくて、妖精さんってなんだ!?
ってかオマエは見知らぬ人物から受け取った得体の知れない物体を鞄に入れて持ってくるな!!
「え〜と、それで僕は今からお前のお花畑全開の物語を聞かされる事になるのか?」
「嘘じゃないもん!!」
柚姫は憮然とした顔で、その石が魔法の変身アイテムだと教えてくれた。
僕は何をどう言うべきか悩んだけれど、考えた末に一つの答えに行き着いた。
「よし、じゃあこうしよう。お前が不審人物から貰ったその魔法の石とやらで街の平和を守ろうが欲望の限りを尽くそうが、それはお前の自由だ。
思う存分やってくれ。でも僕を巻き込むな。僕のギャルゲライフを邪魔するな」
119 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/23(金) 22:41:06.36 ID:xwIbLHwB
鋭い目で言い切った。
オレカッコイイ!!
内心で自画自賛しつつ見ると、言い切られた相手は涙目で「む〜」なんて唸っている。
ふんっ。僕のギャルゲ脳が囁いているのさ。
お前が魔女っ子アニメにありがちな『協力してくれる一般人』の役割を僕に押しつけようとしているって事をな!!
だがしかし、そんな使い古された凡作以下のシナリオに乗ってやるほど僕はお人好しでもなければ暇人でもない。
そう、リアルはお呼びじゃないんだよ。わかったか3Dキ○ガイ女めフハハハハッ!!
頭の中に勝利のファンファーレが鳴り響く一方で、現実世界の幼馴染みはすっくと立ち上がると手にあった黒石をこれ見よがしに突き出した。
「せ〜っと、あ〜っぷ!!」
SET・UP?
それが合言葉なのだろう。
柚姫の輪郭が突然光に包まれたかと思えば、次にその姿が変容したじゃあないか。
それまであった学校制服が光の粒になって飛散して、入れ替わりに新しく形作られる衣装。
それは可愛らしいピンク色の、フリルのいっぱい付いた洋服だった。
「ねえ、見た見た? 可愛いでしょ?」
コイツ本当に変身しやがったよ。とか。
その格好で表出歩くのかこの女は。とか。
思う所は色々あったのだけれど、まず口をついたのは次の言葉だった。
「変身するとき一瞬だけ裸になるのは仕様なのか?」
「ばかぁ!!」
ズゴンッ。
衣服が切り替わった時から握り締めていたピンク色のステッキが僕の脳天を直撃する。
でもって、視界が赤く染まる。
あれ……?
意識が遠退いて、視界が真っ暗になっていく。
柚姫の僕を呼ぶ声が遠くで鳴っていたけれど、返事すら出来ないままに意識が落ちていった。
「……っ!!」
意識が戻ってハッと飛び起きたとき。
僕の前には制服姿の柚姫がいて、さっきの事は夢だったんじゃあないかと思った。
けれど、床に敷いてある絨毯に赤い物がべっとりと付着しているのを発見したとき、僕は考えていた以上に深刻な状況に巻き込まれているって事を知ったんだ。
「さっきはゴメンね」
「お前、僕の頭をかち割ったワケか。それから慌てて魔法か何かで治した、と」
とても申し訳なさそうな顔で正座している幼馴染み。
それを見ているとあまり強く非難もできなくて、湧き上がる怒りをどうにか押さえ込む。
そう、次にあった発言さえ聞かなければ、僕は差し障りのない言葉でその場を取り繕っただろう。
「実はケンちゃん、さっきので死んじゃったの。テヘッ☆」
「……なに?」
まて、コイツは一体何をぬかしてやがりますか?
自分の手を見る。いつもの繊細で優美な指が見える。
机の上に置いている鏡を手にとって殴られた部分を見る。
でも決してスプラッタ的な見てくれにはなっていないし、それどころか傷口一つ見当たらない。
怪訝な顔で振り返ると、薄気味悪い表情を顔に貼り付けた柚姫が立っていて、その肩に真っ白い猫なのか狸なのかよく分からないシュールな生き物が乗り掛かっているのが見えた。
「損傷した細胞を魔力で補っているから生きているように見えるけれど、君は生物的には死亡しているよ」
120 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/23(金) 22:42:36.43 ID:xwIbLHwB
「え〜と、この面妖な生き物はなんだ?」
「妖精さん」
「はじめまして。ボクはアーベル=シュタットハイム。彼女をサポートするために派遣されてきたアドバイザーだよ」
まあ、魔女っ子アニメでお馴染みのマスコットキャラ担当なのだろうが、その名称がゲルマン系なのは何か意味でもあるのだろうか。
……それとも、単なる笑いどころなのか?
「いいかい、君は頭蓋骨を割られているし脳の一部も損傷を受けている。
脳細胞が無酸素状態で生きていられるのは3分が限度だから、魔力による生命維持が同じ時間途切れた時点で君の死は確定してしまう。
つまり君は肉体的な損傷が完全に癒えるまでの間、術の施行者である柚姫を守り続けなくちゃいけないんだ」
シュールな生き物が流ちょうな日本語で難解な説明をしている。
だがちょっと待って欲しい。
突然現れた妖怪もどきの言葉をそんなに簡単に信じてしまって良いものか?
絨毯を汚している液体が絵の具の類だったとしたら、そいつの言い分は全てが嘘と言う事になる。
とはいえ真偽を確かめる唯一の方法は魔力供給とやらを切る事なのだが、もしも言っている事が全て本当の事だったとしたら間違いなく僕は死んでしまう。
くそっ。選択肢は表示されていても実際には一択しか無いじゃないか。
そういや前にやったクソゲーにこんな展開があったような……。
「それはどれくらいの期間なんだ? 一生なんて言うなら僕はパスだ」
アーベルなんとかの言葉を信じるとするならば、僕は自分が死んでしまわないために柚姫に協力しなければいけないらしい。
柚姫が死ねば掛けられた魔法も失われ、自動的に僕も死んでしまうからね。
だけど、そのために必要な情報が全く集まっていない現状ではお話にもならない。
最低限、コイツの知っている事全てを聞き出さなくてはいけないんだ。
くそっ。なんでこんな無駄な事に時間を費やさなくちゃいけないんだ。僕がこうしている間にも新作の発売日が刻一刻と迫ってきているというのに!
……いや、いっそのこと死ぬ直前までギャルゲしてようか?
僕の考えをよそに猫だか狸だか知れない生き物が言葉の羅列を吐き出してゆく。
「擬似的にとはいえ生命活動が継続している以上、自然治癒力も失われていない。むしろ代謝は上がっているから、多く見積もっても三ヶ月といったところかな」
「三ヶ月……。それで、その間、柚姫は何をしなければいけない?」
「特に義務は無いよ。データを取るのが目的だからね。ただ、他の魔法少女から攻撃を受ける可能性はあるね」
「まて。それはつまり、石は柚姫だけが持っているってわけじゃないって事か」
「当たり前じゃないか。被験者が一人きりじゃあ意味が無いだろ?」
「全部で幾つだ?」
「3つ。といってもボクがここへ来る直前の話だからまだ増えるかも知れないね」
「つまり、最低でも2人の同類がいるって話か。それで他の魔法少女を倒した人間には何か賞罰があるのか?」
それはとても重要な事だった。
僕のやってきたそういう種類のゲームじゃあ、最後まで残った少女は何でも願いが叶ったり不老長寿の命を得たりと何某らのメリットがあって、だから戦うハメになる。
逆に言えば戦う事にさしたるメリットが無いのであれば交渉することで争いは回避できると言う事だ。
「特にないよ。ただ、戦って勝つということは所持している石を破壊もしくは奪う事を意味するから。石を奪う事に成功すれば同時に複数の魔法を使えるようにもなるし、悪い事は無いだろうね」
「複数の……、どういうことだ?」
「石は一つにつき同時に一つの魔法しか発動できないんだ。そして柚姫の場合、すでに枠が埋まっているから君に対する魔法を一度解除しない限り他の魔法が使えない」
「あ〜、つまり治癒魔法は『治るまで掛け続けなきゃいけない』ってことか」
「そうだよ。君は物分かりが良くて助かるよ」
121 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/23(金) 22:44:12.51 ID:xwIbLHwB
頭を抱えて当の本人を見る。
柚姫はちんぷんかんぷんといった面持ちで僕と妖怪の会話を見守っている。
「分かってて僕を殺害して治したのか?」
一応確認してみるが案の定、幼馴染みはプルプルと頭を振って答えるばかり。
そんな魔法少女に、マスコット役は「聞かれなかったから答えなかったんだ」なんて冷たい言葉で反論を封じた。
「お前の雇い主は僕らに対して何かしてくれるのか?」
コイツはさっき『派遣されてきた』と言った。
それはつまり、コイツには雇い主、いやこの場合は製造した組織・もしくは企業があることを意味している。
石はテスト段階のベータ版。
だからデータを取るために見ず知らずの少女に手渡した。
まあ、話を聞く限り本当に見ず知らずかも疑わしいけどな。
ということは今もどこからか監視されている?
いやひょっとしたらコイツ自体に監視カメラの機能が備わっているのかも知れないが。
どちらにせよデータを取る以上は被験者にイヤと言わせないための役得がなければおかしい。何らかのサポートはあって当然だろう。
ところが白狸は臆面もなく言い放ったのさ。
「そんなの、あるわけないじゃないか」
コイツは……!!
「いいかい? 柚姫は石を手に入れた事で超常の力を行使する事ができるようになったんだよ。
それは普通の人間では絶対にできない奇跡をいとも簡単に引き起こす事ができるという事でもあるんだ。それ以上一体何を望むと言うんだい?」
「じゃあ、巻き込まれた僕はどうなるんだ?」
「君の場合は不運としか言い様が無いね。諦めてよ」
「ダメだコイツ、早く何とかしないと……!!」
拳を握り締めて、この奇っ怪な生き物を闇に葬る手立てを考える。
ごく客観的な物言いをすれば、仮に三人の魔法少女が生き残りを賭けて戦うとかいった設定なら僕と柚姫は素晴らしく不利な立ち位置からのスタートになる。
Q・どうして?
A・魔法が使えないから。
魔法の石1つにつき同時に発動する魔法は一つきり。
しかし柚姫はその手で殺害した僕の肉体を修復するために日常的に魔法を使い続けているのだ。
ならば必然的に僕がブレインになって、柚姫が魔法を使わなくて良い状況に持っていくしかない。
くそっ、現実め!!
どうして部屋に引き籠もってギャルゲ生活を謳歌したい僕の願望を阻害するんだ。
とりあえず、やるべき事は他の魔法少女を見つけ出すこと。
見つかってからの対応では遅すぎるからここは先手が肝心だ。
そしてその個人情報を手に入れて、交渉に持ち込む。場合によっては脅迫してもいい。
こちら側に付ける事が出来れば『魔法が使えない』というハンデはクリアできるわけだし。
と、まあ、プランとしてはこんなところだろうか?
「あと聞いて置きたい事は2つ。一つはその魔法とやらの限界。もう一つはお前から見て柚姫個人の能力がどの程度なのか。
他に知らないで済まされない事があるなら言っておけ」
御伽噺でいう魔法なら何でもできるだろうけれど、現実はそんなに甘くない。
万能ではありえない。
だったら尚のこと、自分の出来る事と出来ない事を把握しておかなければいけないだろう。
なぜなら万が一でも、僕に掛かっている治癒魔法を一時的にキャンセルしなきゃいけない自体が訪れるかも知れないから。
122 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/23(金) 22:45:33.11 ID:xwIbLHwB
「彼女の資質はかなり高いと思うよ。現に君に掛かっている魔法は相当に高度なスペックが要求されるからね」
「もう一つは?」
「それは個人の資質によるだろうね。けれど分かりやすく言って、最低の魔力の持ち主であったとしても民家を破壊するくらいは簡単にできるよ」
ああ、つまり一般人ではどう足掻いても太刀打ちできないってワケか。
もちろん、有り得ない事だが僕が柚姫を守ろうと自らを盾にしたところで全くの無意味。
だが、それは悪くない情報だ。
今こいつは『魔力』という単語を使った。
資質とはこの場合、魔力の量ということだろう。
魔法の石は、要するに電化製品で、魔力という名の電気が無ければこれっぽっちも動かない、そういったものなのかも知れない。
というか、そういう前提でなければコイツの話は筋が通らないのだ。
「だいたいは把握した。とりあえず柚姫、お前はもう帰れ」
「え〜?!」
「僕はこれからギャルゲで忙しいんだ」
壁掛け時計はそろそろ8時に届こうとしている。
隣に住んでいるのだから送り届ける必要も無いだろう。
まだフリフリ洋服から着替えていない幼馴染みにとりあえず変身を解除するよう言ってから、僕は一人部屋を出ようとする。
「どこいくの?」
「下のゲーム部屋」
夕食と言っても冷蔵庫に入っているパンと飲み物だけで済ますつもりだし、その後はシャワーでも浴びてサッパリすればギャルゲ攻略にも集中できるってもんだ。
ところが扉を開けた僕を追い越したのは柚姫で、何を考えたのかコイツは魔法少女ルックのまんま階段に足をかける。
「晩ご飯、あたしが作ってあげる!」
「おい、待て!」
確かに過去に何度かコイツは家にやってきて勝手に晩ご飯を作っていった。
でもそうなると必然的にゲームする時間が削られるわけで。
いやいや、それ以前に、お前その格好のまんま料理するのか。
とか。
冷蔵庫に食材になりそうなものなんてあったっけ?
とか一瞬でも考えてしまったものだから引き留める事が出来なくて、トントンと軽い足取りで階段を降りきった彼女は脇目もふらずにキッチンへと向かう。
「君も災難だったねえ」
「他人事みたく言うな妖怪」
遅れて廊下に踏み入った白狸が、僕の足下でやれやれといった調子の事を言う。
そんな妖怪もどきを今すぐに踏み潰したい気持ちでいっぱいになった。
おわり
投下終了です。
単なる思いつきで書いただけだから続くかどうかは分かりません。
まどマギとカミのみをごちゃ混ぜにしたらこうなった的な話です。
124 :
創る名無しに見る名無し:2011/09/26(月) 12:40:10.70 ID:9sET8NIJ
投下乙
125 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/27(火) 00:05:52.84 ID:hhweQB75
魔法の石は三つ。
一つは脳みそ湧いた幼馴染みが持っている。
名前は立川柚姫(たちかわゆずき)。
コイツに殺された挙げ句に甦らされた僕としてはこのDQNが死のうが何しようがどうでも良い話なのだけど、コイツが死ぬとコイツに魔法を掛けられている僕まで死んでしまうから、イヤでも守らなきゃいけない。
いくら二次元(ギャルゲ)にしか興味のない僕でも二回も殺されるのは御免なのさ。
幼馴染みの隣に現れた不気味なマスコット、アーベル=シュタットハイムの言ったルールは以下の通り。
@所有者は魔法の石一つにつき、同時に一つの魔法しか使えない。
Aしかし他の者から石を奪い取る事で同時に複数の魔法を使う事が出来る。
B柚姫はすでに蘇生の魔法を僕に使用しており、それは継続的な術式なので、少なくとも僕の負っている傷が癒えるまでは他の魔法を使用する事が出来ない。
C魔法の石を発動させると使用者の衣服は戦闘用のコスチューム(ローブと呼ばれるらしい)に換装されるが、これは魔法の残り枠を圧迫しない。
D石の所有者は、たとえ最低クラスの魔力の持ち主であったとしても一般人では太刀打ちできない。
Eそして何より重要なのが、僕に掛けられている治癒魔法を一時的にキャンセルしたとしても、柚姫が自由に魔法を行使できる時間は最長で3分間だということ。
それ以上になると脳細胞が壊死して僕の死が確定してしまうのだ。
と、書き出してみるとかなりマゾい縛りあるルールだと分かる。
ついでに言っておくと、僕自身には何の能力もない。
特別に強いわけでもなく、ありあまる財力を持っているわけでもない。
強いて挙げれば頭がキレるって事くらいだろうか?
と言っても授業中のゲームプレイを教師に認めさせるほど成績は良くないし、同時に12個のゲームを攻略できるほどのネ申でもない。
ようするに普通の人ってこと。
僕は佐久間ケンイチ。ゲームをこよなく愛するギャルゲーマーだ。
「おはよ〜ケンちゃん!!」
「お前はいつでも元気だな」
「それだけが取り柄ですから☆」
柚姫から魔法少女になったことを告げられたのが数日前の事。
あれから僕はギャルゲ攻略に勤しむ一方で色々考えて居た。
「……どうしろってんだ」
126 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/27(火) 00:07:06.73 ID:hhweQB75
柚姫の置かれている立場は非常に危うい。
だから残り二人の魔法少女に対してはこちらから先制して動かなければ勝機はない。
というか戦いに持ち込まれた時点でアウトなのだから、その前に話し合いで解決しなければ明日の日の目を見ることができないのだ。
それなのに、と思う。
一体どうやって相手を特定すればいいんだ?
『私が魔法少女ですよ〜』なんて名札をご丁寧に掲げてくれる魔法少女なんて皆無(というかそんなヤツでは使い物にならない)だろうし、
かといって相手が変身する現場に居合わせるなんて狙って出来る事でもない。
くそっ。今は待ちの一手を決め込むしかないってワケか。
不幸中の幸いは柚姫がまだ誰にもそれを話していないって事だ。
こちらの事を知られていない間は向こうだって動きが取れないだろう。
もちろん『絶対に人前では変身するな』って事は昨日も一昨日も、口を酸っぱくして言い含めてある。
せめて相手が接触しやすい環境に居てくれたらと願わずにはいられない。
「ケンちゃん、昨日のテレビ見た?」
「んあ?」
学校に向けて二人並んで歩く登校風景。
学生鞄を小脇にPSPの四角いモニタを見つめていた僕がふと顔を上げて幼馴染みを見る。
柚姫はどんより曇った天候とは対照的に、ポカポカ陽気な笑顔で僕を見つめている。
くそっ。誰のせいで僕がこんなに悩んでいると思っているんだ。
曖昧な相づちを返しつつ視線を前にやる。
僕らは丁度、大通りに面した交差点に差し掛かっていた。
「……ん?」
その瞬間に見た光景には強烈なインパクトがあった。
ブレーキを踏む様子のないダンプカー。
点灯する赤信号。
歩道橋を渡ろうとするのは幼い女の子。
誰にも入り込めない時間の間隙。
撥ねられる。
そう思った。その幼子の人生はたった数歩で終わってしまう。そうとしか思えなかった。
『トランスフォーム!!』
そんな時に声があった。凛とした音色。
視界の端っこを凄まじい早さで駆け抜ける輪郭。
その輪郭は今まさに轢かれようとする幼子の体を引ったくって向こう岸へと到着した。
遅れてこだまする急ブレーキ。
ダンプカーの影から見えたのは少女だった。
艶やかな髪はダークブラウン。
周囲と比べても「どこの学校のコかな?」って思う程度の、違和感のない制服衣装は全体的に落ち着いたブラウン色が基調になっている。
少女はまだ状況が分かっていない幼女のたどたどしいお辞儀に軽く手を振って、微笑みと共に去ってゆく。
僕はと言えば追いかけようと駆け出すが、もうちょっとで声の掛かる範囲に到着するという頃合いで見失ってしまう。
見上げるとジャンプして建物の屋上に身を隠す輪郭があった。
魔法少女は魔法を使わなくても5メートル以上の跳躍が可能なのか。
新しい情報を得た僕の心境は複雑だ。
攻略すべき相手が願い通り近場にいてくれた幸運。
しかし正体を突き止められなかった焦燥感。
そんなこちらの心情なんてこれっぽちも理解しない幼馴染みが、遅れてやって来て「今の凄かったね〜」なんて脳天気にほざきやがる。
「なんとしてでも突き止めなきゃな……」
周囲に溶け込めるコスチュームであれば、人通りの多い場所でも変身できるってことだ。
そんなヤツに狙われたらひとたまりもない。
一刻も早く排除するか、もしくは味方にしなければいけないのだ。
……っていうか、魔法だの魔法少女だのといったそんな非日常がゴロゴロ転がってる現実ってどうよ?と思わずにはいられない僕だった。
127 :
幼馴染みは魔法少女:2011/09/27(火) 00:08:05.25 ID:hhweQB75
+++
そんな事があって学校に到着した僕と柚姫。
2−Aの教室にはいつもと同じ風景があって、やってきた僕と柚姫を感情のない目で出迎えた。
「おはよ〜柚っち!」
「うん、おはよ〜」
「ついでにオタケンも」
「……僕はついでかよ」
学校じゃ僕はオタケンなんて呼ばれている。
その由来は、想像にお任せするとして、僕は席に着くなりPSPを取り出して電源を入れた。
もちろん入っているのはギャルゲだ。
行きがけにあんな事があったものだから攻略が止まっちゃったのさ。
HRが始まるギリギリまでプレイしてセーブすれば時間の有効活用にもなるし、そんな人間にワザワザ話し掛けてくる暇人も居ないから、
結果として僕は心安らかに朝の一時を過ごす事が出来るのだ。
「ホームルーム始めるぞ〜」
と、そうこうするうちに担任が入ってきて生徒達は起立する。
これもいつもの光景だ。
だが次に起こった現象は僕の知らないものだった。
「喜べ男ども、今日から転入生が来る」
見てくれ冷たい印象を受ける上に乱暴な言葉遣いが玉にキズな女教師25歳がパッと横を見る。
つられて目を扉にやると、そこにオズオズと入ってこようとしている女子生徒の姿。
(……コイツは!!)
僕はこの幸運に感謝した。
転入してきた女子生徒の顔は、朝見た魔法少女のものとほぼ一致したのだ。
「ほぼ」というのは黒髪だったということ。
そっくりな別人さん、という考えも出来なくはないけれど、変身すると髪の色も変わると考えるなら同一人物と見なしても問題無いだろう。
ククッ。
探す手間が省けた。
「今後とも宜しくお願いします」
名前は逢坂恭(あいさか きょう)。
親の転勤の都合で引っ越してきたらしい。
肩に掛かる黒髪を揺らしながら、どこを見ているのか分からない視線でクラスを見回している。
転校生ゆえの緊張なのか、それとも対人恐怖症の気質があるからなのかは分からない。
だが、ベラベラと個人情報を垂れ流してくれるあたり、とても親切なヤツだ。
ふと視線を感じてめを斜め前にやると、幼馴染みから送られてくる視線とかち合った。
(頼むから、ルートを乱すようなことはしてくれるなよ?)
次の授業で使う教科書を引っ張り出しながら僕は策を練る。
どうやって近づくか?
人間は利害よりも感情を優先させる生き物だから、悪い印象を持たれては困る。
かといってギャルゲにありがちな、運命を感じさせる出会いシーンを演出するのも手間が掛かる。
ではいっそのこと「僕の友達が魔法少女なんだけどさ」なんて切り出すか?
いやそれはマズイ。相手との関係が固まっていない時点でこちらの情報を教えれば不利になる。
となると……。
それなら柚姫を使って……、いや、アイツには万が一に備えてスタンバって貰わないといけないから、呼び出す事さえ僕がやらなきゃいけないのか。
まったく面倒臭いことだ。
一通りの作戦を組み立てつつ、しかし表面上は印象に残らないモブキャラ的な存在感で授業風景に溶け込む僕だった。
おわり
とりあえずこんなモンで。
テンポいいね
wktk
130 :
創る名無しに見る名無し:2011/09/28(水) 05:38:55.15 ID:QpP9agUO
131 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/02(日) 07:14:00.41 ID:nPmKn1bs
転校生、逢坂恭(あいさか きょう)はたぶん、ほぼ99%の確率で魔法少女だ。
そう考えた僕は放課後、一階下駄箱で待ち伏せして呼び掛けた。
「やあ、逢坂さん。ちょっとだけ良いかな?」
「えっと、あなたは……?」
「同じクラスの佐久間だよ」
「佐久間くん……。それで、なに?」
靴に履き替えた彼女が振り返り、露骨に警戒した面持ちで僕の顔を見る。
こちらとしては内心で気合いを入れ直して、すでに十手先まで練り込んだ台詞を淡々と吐き出すんだ。
「今日の朝、なんだけどさ。見ちゃったんだ」
「何を?」
「君が車に轢かれそうになっていた女の子を助け出すところ」
その瞬間、彼女の顔から血の気が引いたように思われた。
良い反応だ。まずは『彼女が魔法少女である』という事項が確実になった。
これで本題に入れる。
「人違いです。あたしあんな髪の毛茶色くないし」
「その人が茶髪ってことは知ってるんだね」
「……場所を変えませんか?」
と、逢坂がやや強張った口調で切り返す。
これも想定内だ。僕が彼女の立場だったなら人目に付かない場所まで移動して、相手の真意を探り、こちらに不利益と判断したなら即座に抹殺するだろう。
「うん、そうだね。そうしよう」
身の引き締まる思いとはこの事か。
背筋に冷たい物を感じながら、でも顔には笑顔を貼り付けて応じる。
歩きながら彼女は冷静さを取り戻すだろう。だから拒否はしない。
平和的交渉に持ち込むためにはその時間はどうしたって必要な物だから、移動中はあえて沈黙を貫く。
この時点での僕の動作パターンは完璧だ。
こうしてやってきたのは校舎の裏だった。
放課後だから不良グループも溜まっていないし、告白イベントの為に訪れる生徒も無い。
逢坂はそこまで僕を引っ張ってくると躊躇いがちに振り返った。
「それで、どんな用件ですか?」
「単刀直入に言うよ。君に協力させてもらえないかな?」
僕が彼女の秘密を知っているという情報を与えた。
次に、その人物が彼女にとって有益になる可能性も示唆した。
拒否すれば秘密をバラすぞ的な含みも持たせてある。
とはいえYESとNO、確率は60%と微妙なところだ。
もちろんそのどちらの答えだったとしても僕には対応するプランがある。問題は無い。
132 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/02(日) 07:14:40.95 ID:nPmKn1bs
「協力って、何をしてくれるの?」
そう、確かに彼女は何かと戦っているわけじゃあない。
仮にどこぞの得体の知れない組織やら悪魔的妖怪的な怪物と戦っていたとしても一般人である僕では戦力になどならないだろう。
でも。
「情報を提供するよ」
そうでない平和な現代社会だからこそ、情報の重みは増すんだ。
たぶん彼女の傍にもマスコット気取りのシュールな生き物がついているだろう。
でもヤツらは聞かれなければ答えない生き物なのだから、恐らく今現在の情報量はこちらの方が多い。
とはいえ魔法少女として実際に何が出来て何が出来ないのか僕には分からないから、情報で結びつく事には大きな意味がある。
本当は情報の提供ではなく、交換だった。
「どうして?」
「え?」
「今日会ったばっかりで、お互いの事なんて全然知らないのに、どうして協力しようとしてくれるの?」
「君の事が気になるから」
聞かれたので答えた。なるべく素っ気なく。
本音を言えば5つくらいの項目があるのだが、そういう台詞を吐くギャルゲ主人公はいないのさ。
僕の言葉を聞いた途端、なぜか逢坂の顔に赤みが差した。
「あたし、あなたの事、全然知らないし……」
「それはこれから知っていけば良いんじゃないかな?」
立ち消えそうになる音色とたたみ掛ける言葉。
そうだ、もっと情報をよこせ。
住所も、家族構成も、悩みも大切にしている物についても、お前が知りうる全てを僕にさらけ出すんだ!
逢坂は目を閉じて考え込む素振りをした後、躊躇いがちに口を開いた。
「じゃあ、その、えっと、よろしくお願いしますです……」
「こちらこそ」
僕は握手を求めて手を差し出す。逢坂はそれに応えるようにおずおずと手を握ってくる。
交渉成立だ。
「じゃあ、いつでも連絡がつくように携帯の番号とメアドを渡しておくよ」
「うん」
ここで携帯電話の番号とメアドを走り書きしたメモ紙をポケットから取り出して握らせる。
こちらから聞いても教えてくれるかどうか微妙だったし、何よりこのタイミングで聞くと警戒される恐れがあるから聞かない。
ともかく、こうして第一関門をクリアした。
拒否されてからの巻き返しを期待しなかったと言えば嘘になるけれど、障害は少ないほど良い。
これから彼女が僕を守るよう仕向けていかなきゃいけないし、今もこっそり物陰から覗いているはずの幼馴染みとも良好な関係を築かせなくちゃいけない。
やることは沢山ある。
「じゃ、帰ろうか」
「うん」
あくまで淡々と、楽しげな雑談など一切無く、背を向けて歩き出した僕。
振り返って見ると逢坂は僕から数歩離れた場所を歩いていた。
133 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/02(日) 07:15:16.34 ID:nPmKn1bs
+++
逢坂とは途中で別れて、無事に帰宅した僕。
そんな人間を玄関前で待ち伏せしていた幼馴染みはこちらの顔を見るなりプウッと頬を膨らませた。
「ケンちゃん、良かったね、上手くいって」
「何を言ってるんだ。重要なのはこれからじゃないか」
嫌がらせ程度に頭に手を乗せてワシャワシャすると幼馴染みは髪が乱れるからと嫌がった。
鍵を開けて家に入り、靴を脱いでとりあえず自室に向かう。
幼馴染みはと言えばさも当然といった顔で一緒に上がり込んでいる。
「お前は家の中までついてくんな」
「い〜じゃん、別に」
「いや、良くないだろ、ってか僕はギャルゲするんだから邪魔するな」
制服を脱ぎ捨て、普段着に着替えようとすると後ろで慌てて部屋を出る音があった。
「逢坂さんってさ、可愛いよね」
扉の向こう側からくぐもった声がする。
「可愛い? そうなのか?」
「うん、絶対に可愛いよ。クラスの男子達も騒いでたじゃん」
「他人は他人だよ。それに僕は3D女に興味は無いんだ」
「もっと現実に目を向けた方が良いよ。(…こんな可愛い幼馴染みがいるんだからちょっとは気にしてよね)」
「何か言ったか?」
「い〜え、別に何も〜」
上下セットのジャージに着替えて部屋を出るとすぐ隣に柚姫がいて、何やらつまらなそうな目をこちらに向ける。
そんなことはお構いなしに階段を足に掛ける僕。
「というか僕はゲーム部屋に籠もるわけだけど、お前はどうするんだ?」
「あたし、帰る」
「そっか、じゃあな」
素っ気なく対応して部屋に直行する。
柚姫は隣に住んでいるのだから見送りに出る必要も無いだろう。
やや遅れて階段を降りてくる彼女は、地下へと向かう階段へは足をかけず玄関に向かう。
パタリと扉の閉まる音がしたけれど、僕がそれを気に掛ける事は無かった。
おわり
投下終了です。
何リアルギャルゲやってんだよおおおおお
136 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/08(土) 17:45:06.83 ID:I592c+w4
二人目の魔法少女『逢坂恭』。
彼女への情報提供者としてのポジションを獲得した僕はこれからどうすべきかを考える。
まずこれまでに手に入れた基本的な情報、たとえば魔法の石一つにつき同時に一つの魔法しか使えない事などを実際にこの目で確認しておく必要がある。
アーベルから得られた情報が事実である事を可能な限り実証しておかないと、窮地に陥ったときの対応に困る事になるからだ。
僕はアイツをあまり信用していないのだから。
それはそうと柚姫が同類である事は僕の口からは言わない方が良いだろう。
その情報は柚姫が直接逢坂に伝えなくてはいけない。
いや、本音を言えば幼馴染みの存在そのものを秘密にしておきたいくらいなのだけれど、こうも生活圏が近いと隠し通すのは無理がある。
だから自然な流れで知るよう仕向ける。僕に対して不信感を覚えないように。
それで、これから逢坂をどう使う?
三人目の魔法少女をあぶり出すための釣り針になって貰うのは確定として、その三人目に対して排除と友好どちらの方向でシナリオを進めていくか。
個人的にはつぶし合って欲しい。共倒れなら尚良し。
しかし逢坂は見たところ平和主義者で押しが弱い。
秘密を知っていると言った僕を攻撃しなかったのが証拠だ。
だったら友好路線で行くか?
しかしそれだと何か些細な切っ掛けで衝突する事態になれば、その度に僕は命の心配をしなくてはいけなくなる。
三人目も逢坂と同じような平和主義者とは限らないしね。
だとすると、最初に友情で結びつかせておいて、後から裏切り&同士討ちコンボを仕掛ける作戦が無難だろう。
もちろん柚姫にも働いて貰わなければいけないだろうけれど、上手くいったときには僕の生存確率が飛躍的に上昇するのだ。
そんな事をつらつら考えつつ、PSPのモニタを見つめる。
登校途中の僕。隣にはもうすっかり見飽きた感のある幼馴染みの姿。
同じ制服の生徒達が早足に僕らを追い越していくが気にしない。
そのペースで学校に向かうと、教室に到着してからチャイムが鳴るまで15分と40秒もの時間を持て余してしまうじゃないか。
「ケンちゃん、歩きながらゲームしてると車に轢かれちゃうよ?」
「心配はいらない。心の目があるから。お前の方こそ事故に遭わないでくれよ」
柚姫に死なれると僕まで死んでしまうんだ。
お前のおっちょこちょいに巻き込んでくれるなよ。
「あはは、大丈夫だって。あたしこれでも運動神経良いんだよ」
僕はPSPを掴む手を離すとおもむろに幼馴染みの腕を掴んで引き寄せる。
柚姫は上擦った悲鳴をあげるが、その後ろからギリギリでバイクが通り過ぎたものだから驚きと尊敬の眼差しで礼を言う。
「運動神経があっても注意力がないと死ぬ事になる。これが現実だよ」
現実はクソゲーだ。
セーブもできなければリセットも効かない。
努力したって報われるのはほんの一握りの人間だけ。
どれだけ正しい選択肢を選んでもトゥルーエンドはおろかベストエンディングにさえ辿り着けない。
だから僕は現実に絶望している。
僕に夢と希望を与えてくれるのはゲーム世界のヒロイン達だけなんだ。
いつも通りの通学路を突っ切ると見慣れた校庭と、その奥にある校舎が迫ってきて、僕らはその中へと吸い込まれてゆく。
それはつまり、有象無象のその他大勢の仲間入りを果たすということで。
PSPを仕舞い込んだ僕がやるせない溜息を吐いたとしても、誰も見向きもしないのさ。
+++
137 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/08(土) 17:45:48.63 ID:I592c+w4
その日の放課後。
夕刻間近の教室で僕は逢坂に呼び止められた。
「佐久間くん、一緒に帰りませんか?」
「うん、いいよ」
微笑んで返すと逢坂は恥ずかしそうに俯いてしまう。
その隙を突いて教室の隅っこで歯がみしている幼馴染みにそっと目配せする僕。
しかし妙なのはこのタイミングで下校イベントという事だ。
逢坂恭の僕に対する好感度は10段階で1か2といったところだろう。
ギャルゲじゃあ、女の子からのお誘いなんてそれなりに好感度が高くなければ発生しない。
「佐久間くん、あのね」
下駄箱で下履きに履き替えて二人並んで校門を出る。
ポジション的に彼女を先行させようとしたけれど相手はどうにも前に出るのを嫌がって、結局は居並ぶ格好になる。
ここでもPSPと睨めっこする僕は、しかし相手の挙動に集中しているために全然ゲームにのめり込めない。
道すがら逢坂はポツリと呟く。
「あたし思ったんだけど、佐久間君の周りに魔法少女になった子、いるんじゃない?」
?!
一瞬言葉に詰まった。
なぜコイツがそれを?
それは伝えていない情報なのに。
考えてすぐに思い至る
コイツの傍にいるであろう妖怪が何か吹き込んだんだ。
それに昨日の遣り取りで僕は「情報を提供する」と言った。
それは裏を返せば「魔法少女に関する情報を持っている」ということになる。
無関係な人間にその知識は有り得ないことを考えれば、僕という人間の周囲に同類が存在するという答えが見えてくるだろう。
しかしこの女、意外に頭の回転が早い。受けに回ったらどんどん事態が悪くなる。
手早く考えを整理して言葉にした。
「どうしてそう思うんだい?」
「だって、その、凄く落ち着いているんだもの」
「僕のやってるゲームじゃあ、魔法の力で変身する女の子はザラに出てくるよ」
「あ、げ、ゲームの話?」
「魔法の変身アイテム、持ってるだろ? あとマスコットキャラが居て色々と教えてもくれるだろう?」
「そんなことまで?!」
「ゲームの中じゃあ、そんなの定番中の定番だよ」
もちろんギャルゲの話だけどね。
逢坂は僕の言葉を信じたようで、ただただ驚きに目を丸くしている。
僕は事実しか言ってないのだから疑いようもないのだけれど、とりあえず議題を良い感じに回避できた。
でもせっかくの好機でもあるのだからこの話題を使ってもっと情報を搾り取ろうと思う。
138 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/08(土) 17:46:31.90 ID:I592c+w4
「よく見るゲームの設定じゃあ、現れる魔法少女は三人くらいで、大抵は出会った早々から敵味方に分かれて殺し合っている」
「……」
「それでまず確認しておきたいのだけれど、君は他の魔法少女が現れたとき、どうするつもりなの?」
「どう、って。そんなの分からないわ。あたしはお友達になれたら良いと思うけど…」
つまり友好を選択するワケか。
でも言葉を濁す辺り、場合によってはやり合う事もあると理解している様子だ。
いいぞ、とても良い。僕の計画通りに事を運んでくれそうだ。
「君のマスコット、名前は知らないけれど、そいつは僕のこと何て言ってる?」
ちょっと反応が見たくて素っ気ない態度で聞いてみる。
すると彼女はギクリと表情を強張らせて、取り繕うような笑みを浮かべた。
「特に何も言ってないわ。気をつけろみたいな事は言われたけど……」
分かり易すぎる反応だ。
つまり(逢坂の視点からだと)二人目の魔法少女が僕の影に隠れていると入れ知恵したのは妖怪もどきで確定だ。
「ふ〜ん。ところでそのマスコット同士は連絡取り合ったりはしていないのかい?」
ちょっとした話題転換を装って、実は核心に迫る質問をする。
妖怪同士が何らかのコミュニケーション手段を持っていて、部分的にであれ情報を共有しているなんて話になったらかなり危険な状態になる。
幼馴染みに対しても気を抜けなくなってしまうからだ。
逢坂は考え込むような素振りをした後に答えた。
139 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/08(土) 17:46:58.23 ID:I592c+w4
「知らない。聞いた事も無いわ」
「そう」
「今度聞いてみるね」
問いかけの真意には気付いていない様子だし、単純に「その発想は無かった」とでも言わんばかりの表情だ。
「あ、そうだ。次の日曜日、あいてる?」
「どうして?」
「デートしない?」
「あぅ」
街の輪郭に夕日が差し掛かる頃合い。
横断歩道を渡る最中に僕は囁いた。
逢坂は驚いて、でも即座に否定することもしない。
「もちろん君に憑いているマスコットも同伴で。ソイツと話がしたいんだ」
「ああ、なんだ……」
ホッとした様子で息を吐く逢坂。
それでも頬には少し赤みが差している。
っていうか、僕と一緒に居るのはそんなに恥ずかしい事なのか?
いやいやギャルゲ的に言えば、もしかしたら僕が予想しているより彼女の好感度は高いのかも知れない。
「うん、いいよ」
「待ち合わせは駅前でどう?」
「うん、分かった」
人通りの多い場所なら出会い頭に変身して襲い掛かって来る事もないだろう。
幾つかのシナリオを練りながら、僕はなるべく良い笑顔で彼女の目を真っ直ぐに見つめる。
「じゃあ楽しみにしているよ」
「うん……」
本当に楽しみだ。
それはデートでもなければ座談会でもない。
本当の目的は逢坂の傍にいるマスコットであり、コイツに幾つかの情報と行動指針を与える事。
逢坂はマスコットの事をかなり信用している様子なので、コイツを誘導する事が出来れば計画を次のステップに移す事ができるんだ。
「僕はこっちだから」
「うん、ばいばい」
折良くT字路に差し掛かったので僕は別れの言葉を口にする。
彼女の顔はまだ少し赤らんでいたけれど、それでも笑顔で見送ってくれた。
おわり
投下終了です。
乙
佐久間くん手馴れすぎです
142 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/22(土) 22:15:36.41 ID:jY7pE1+A
約束の日になった。
僕は季節感のないジャケットとジーンズに着替えて駅前に向かう。
準備はできている。
これから僕が行うのはデートではなく、駆け引きだ。
会話内容は何度も何度もシミュレートしている。
とはいえ昨日は眠れなくて気分転換にとギャルゲを始めたら止まらなくなって、結局一睡もできなかったけれど。
それでも大丈夫。なぜなら僕はスーパーギャルゲーマーだから!
道すがら振り返って見ると、100メートルくらいの距離を置いて立っている幼馴染みの姿があった。
「……ついてくるなって言ったのに」
溜息と一緒に呟く。
今回は終始人通りの多い場所で遣り取りする手はずなので、どんな結果になったとしても相手が変身して襲い掛かって来ることはない。
柚姫が居合わせる理由は無いんだ。
それどころか他の魔法少女の存在に勘づかれでもしたらせっかく立てたフラグが全て台無しになる。
なので一昨日は行く行かないで揉めた。
昨日は大人しかったから納得したものと考えて居たけれど、どうやら甘かったらしい。
双眼鏡まで持参してくる辺りヤツの本気度が如何ほどの物か窺い知れるが。
それにしたって上下黒スーツの黒帽子&サングラスなんて格好は逆に目立ちすぎると思うのだがどうだろう?
ってか、どうやってそんな尾行ファッションを入手したのかと小一時間ほど問い詰めたい気持ちでいっぱいだ。
「あ、佐久間くん」
「逢坂、お待たせ」
尾行を撒く事もできないまま、こうして待ち合わせの場所に到着した僕は、シュールな生き物を胸で抱く逢坂と落ち合った。
「え〜と……」
「やあ、はじめまして。ボクはハインケル。魔法少女を脅した命知らずというのは君の事かな?」
ソイツは猫なのか狸なのか、はたまたウサギなのか、幼馴染みの傍にくっついているのと同じような輪郭を持つ生き物だった。
ソイツは感情なんて欠片ほども感じさせない無機質な目で僕を見ている。
「なんか戦闘機みたいな名前だね」
やっぱりコイツもゲルマン系の名前だった。
ということは、コイツらを派遣した人間もしくは組織はドイツが発祥か、そうでなければよほどのドイツ大好きっ子だろう。
っていうか、そもそも少女達を魔法使いに仕立て上げている人間の本拠地についてどうして気にしているのかと言えば、国内組織かそうでないかで状況がガラリと変わってしまうからだ。
たとえば国内にその組織・団体があったとするならば僕が直接コンタクトするなんて事だって可能性として出てくる。
それに、出てくる魔法少女が全部同じ国の人間なら会話だって出来るしね。
日本人的な気質を考えると実験を海外で行うとは考えにくいんだ。
でも国外の組織だったとすれば被験者になった少女達は世界各国に一定数居ると考えた方が良い。最終的に対立させられるなんて目も有り得る。
しかもこちらからのコンタクトは格段に難しくなるしね。
僕が昆虫のような目で妖怪もどきを見ていると、妙な雰囲気に耐えかねたのか逢坂が口を開いた。
「ねえ、佐久間くん。これからどうする?」
「移動しよう。ここじゃあ落ち着いて話しも出来やしない」
言ってから切符販売機に向かう。
そう、ここは駅前で、雑多な人通りのある場所だ。
命の危険を伴う会話は人混みの中で行うのがセオリーだけど、それは裏を返せば無関係な通行人にまで話を盗み聞きされるということだ。
そして彼らが全くの無関係なら問題無いのだけれど、未だ顔も分からない三人目がどこに潜んでいるか分からない現状を考えるとここでの遣り取りは最善とは言い難い。
そこで考えた。
人通りは激しいけれど自分達に注意の向けられない場所を。
それがここだ。
143 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/22(土) 22:16:37.65 ID:jY7pE1+A
「え、遊園地……?」
「うん。何か問題あったかな? えっと、イヤだったら別の場所にするけれど……」
「ううん、全然。あ、でもあたしあんまりお金持ってないわよ?」
「それについては僕が出すよ」
やって来たのは20分ほど電車に揺られた先にある遊園地。
今日は天候的に行楽日和ということもあって家族連れやカップルで賑わっている。
くそっ。
本当は来月に出る新作ギャルゲーのために貯めていたお金なのに、何故リアル女のために使わなければいけないのか。
自分の命が掛かっているとはいえ不条理にもほどがある!!
逢坂は少しばかり顔を赤らめて「じゃあ、思い切り楽しんじゃおっかな」なんて、いけしゃあしゃあとほざきやがったのさ。
チケットを購入してゲートをくぐった僕らは、案内板で巡回コースを模索する。
ジェットコースターを皮切りにティーカップやら観覧車やら、次々とメニューが組み立てられてゆく。
こういう所で実感するものだが。
逢坂は、見た目はトロくさそうな女子だが、ある程度の方向性が定まれば頭の良くキレる性質だ。
しかもメニューの中に休憩や息継ぎの時間を挟む辺り自分の限界もある程度理解しているらしい。
押しが弱いから仕掛けるのは簡単だが、意志が強いだけに後の扱いが難しいタイプ。
言うなれば正統派ヒロイン型。
大抵のギャルゲでそういったキャラはメインヒロインになっている。
……ってか、なんで3D女を攻略しなきゃならんのだ!!
ちきしょう。元はと言えばあのイカレ幼馴染みが僕をぶっコロしたのが悪いんだ!!
「どうかしたの?」
「ん、なんでもないよ」
そういえば尾行グッズに身を包み後方100メートル地点から僕を監視していたはずの腐れストーカーの姿を見かけない。
おそらくゲートをくぐったところで見失ったのだ。
だがそれは僕にしてみれば厄介者が居なくなって心配の種が一つ減ったに過ぎないというだけのことで。
なので笑顔で足を前に出すと逢坂を促した。
「さあ、行こう!」
「うん☆」
……それからの事を述べる。
ジェットコースターで吐きそうになった。
ティーカップで目を回した。
お化け屋敷は寒かった(色んな意味で)。
誰だこんな不愉快なテーマパークを街の中に造ったのは!!
まったく、女の我が儘に付き合わされて散財を余儀なくされる世の男共の気持ちもちょっとは考えろってんだ!!
とはいえ逢坂は楽しんでいるようで笑顔が絶えない。
ギャルゲ一筋の僕でさえドキッとするような微笑みを絶えず向けてくる。
童心に返った瞳で「次あれに乗りましょ☆」なんて言われるとイヤとは言えない。
くそ! 良いじゃないか遊園地!!
144 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/22(土) 22:19:56.59 ID:jY7pE1+A
そんなこんなで昼頃。
僕と逢坂は園内のカフェテラスにいた。
休憩と簡単な腹ごしらえが表向きの理由。でも、僕としてはここが本題。
列を作っている売店の焼きそばが食べたいからと言って並んだ逢坂。
彼女の空席を埋めるためにと置き去りにされた妖怪もどき。
僕が攻略すべき相手は、本当はコイツだった。
「ところでハインケル、だったっけ?」
「なんだい」
「幾つか聞きたい事があるんだけど、良いかな?」
「それは恭が居ない方が都合の良い話なのかい?」
「さあ、それは僕には分からない。でもお前としてはその方が良いかも知れない」
「……聞こうか」
一瞬、ほんの一瞬だけど、無表情のハズのマスコットが心を揺らした、ような気がした。
「まず、お前は逢坂を監視するためにここに居る。そうだな?」
「……やっぱり君の周囲には他の魔法少女が居るんだね?」
「質問しているのは僕だ」
やっぱりコイツ、頭が良い。逢坂以上によく回る。
「……管理も含まれているから正確には観察と呼ぶべきじゃないかな」
「それで、得られた情報をどこに送っている?」
「なぜ、そんなことを聞くんだい?」
「生き残りがかかっているわけじゃない。他の魔法少女を倒しても役得がない。そもそも戦う相手が居ない。
その条件下にも関わらず観察し続けるってことは活動を観察する事そのものに意味があるってことだ。違うか?」
「つまり君はボクらを派遣した組織が何を目的としているのか、真意を知りたいということだね?」
組織……、やっぱり個人ではなく組織・団体ってことか。
それに今コイツ、組織の名称を詮索される事を回避しようとした。つまり、コイツらが他に与える情報は限られているってことだ。
もちろん僕だってこの場でそれが聞けるとは思っていないけどね。
「実験場は日本だけじゃなく、世界各国に一定数あるんだろ?」
「君はなかなか想像力が豊かなようだね。それとも別のTCにでも聞いたのかい?」
TC? 新しい単語が出てきた。
何の略語かは分からないが、少なくともコイツらが同族(?)を指して使う言葉のようだ。
「何度も言わせないでくれないか。質問をしているのは僕の方なんだ」
コイツは明らかに警戒している。だから向こうからの質問は可能な限りシャットアウトする。
ハインケルは無表情を決め込んでいるが僅かな沈黙が頭の中の回転速度を物語っていた。
「君はかなりの情報を有しているようだね」
「少なくとも協力者を名乗り出るくらいのことは分かってるつもりだよ」
あくまで平静を装いつつ、さらっと述べる。
僕がかなりの深度で情報を持っている事を提示した。そしてそんな僕が協力の意志を持っている事も。
危険人物と見なして排除しにかかるか、それとも口車に乗って情報を提供するのか。さあ、どっちだ?
「いいよ。ルール違反にならない程度で君に情報を提供するよ。本来そんな義務は無いんだけどね」
よし、乗ってきた!
心の中でガッツポーズ。でも表面上は関心のない素振りで聞き流す。
ここからが本番だ。気合いを入れ直して取りかかろう。数百もの会話パターンを頭で復唱しつつ、相手の次の一手を待つ僕だった。
おわり
ちょっと日数が開いてしまいましたが投下終了です。
ってか頭脳戦って難しいですねマジで。
146 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/31(月) 19:52:34.75 ID:iIefGEut
「じゃあ、さっきの質問に答えて貰えるかな?」
遊園地のカフェテラス。
逢坂は売店に並ぶ列から帰ってこない。
安っぽいプラスティック机を挟んで言葉を交わす僕とハインケルはここぞとばかりに腹の探り合いをしていた。
「残念だけど、その情報を開示する事は規約に違反するんだ」
「依頼主のプライバシーは守るということか」
「人間の概念で言えば、そうなるね」
情報を提供するよと言いながら、なかなか核心に迫る話は聞けなかった。
ルールとやらを盾にして回答を拒否するんだ。
いくらか予想していたとはいえ、我ながらちょっと選択肢を間違えたかな、なんて思う。
「じゃあ、次の質問なんけど。お前はどれくらい前から逢坂恭に目を付けていたんだ?」
「……随分と前からだよ」
「選別する手段は?」
「生後間もない赤ん坊には病院による検診が行われるだろう?」
「つまり候補のリストはそこで作られていたってワケか」
それは衝撃の新事実と呼ぶには少々実感の湧かない話だった。
ようするに国の医療施設を牛耳っているって事なのだから。
コイツら妖怪もどきを現地に派遣したヤツらが実は裏から世界を操っているような巨大組織でしたなんて、それじゃあ無力な一般人の枠を出ない僕ではどうする事も出来ないじゃないか。
いやいや落ち着け僕。
話が大きくなりすぎているからここでは最小単位で考えよう。
とにかくコイツら、TCだっけ、その後ろには謎の巨大組織Xがついていて魔法少女の観察を命じている。
とはいえ少なくとも魔法少女そのものをどうこうしようといった思惑は無いらしい。
でも、本当にそうか?
組織名称についての返答を拒否したハインケルは、だけど少女の選別に関してはペラペラと喋ってくれた。
それは僕を信用してというよりは、僕に特定の答えに行き着くよう誘導しているように思われる。
そこで追加の質問だ。
「TC同士は連絡を取り合ったり、情報を共有していたりは無いのか?」
「無いよ」
「でもここで得たデータは逐一報告してるんだろ?」
「三日に一回程度だけれどね。
というか、君はもしかしてボクらを派遣した人間が情報を操っているとでも言いたいのかい?
だとしたら勘違いも甚だしいよ。
ボクらに与えられた命令は指定された人間に石を渡し、被験者となったその少女を観察すること。
必要な情報を与えてサポートする事だけ。それ以外には無いんだよ」
「だったら、お前が独自の判断で魔法少女同士を戦わせたいと思ったら、そうなるように誘導するってのも有りなのか」
「本当に君は捻くれた考え方をする人間だね。可能性だけで言えば有り得る話だけれど、だからといって自分の観察対象を危険に晒すようなマネをするはずが無いじゃないか」
147 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/31(月) 19:53:28.90 ID:iIefGEut
確かに同じ程度の力を持った者同士が争うのは危険だ。
だって2ぶんの1の確率で観察対象が居なくなってしまうのだから。
僕はかなり納得した。けれど、幾ばくかの不安が残っている。
「そういえば重要な事を聞いていなかったな。観察が行われている期間は?」
「三ヶ月だよ。もちろんこのまま何事もなく与えられたミッションを終えられたらの話だけど」
ミッション?
また新しい情報だ。アーベルはそんなこと一言も言わなかったぞ。
僕は知ってますよとでも言いたげな顔を取り繕う。
「それで今回のミッションの内容は?」
「銀行強盗を制圧する事」
おいおいおい、えらいハードな内容だな?
制圧する事がではなくて、強盗に押し入られている銀行を探し出す事が。
数秒に一回犯罪が起きているような国と違ってこの街は平和なんだぞ。
「どうやってその現場に遭遇するんだ?」
「探す必要は無いよ。その状況は向こうからやって来るんだ」
ああ、つまり自作自演で組織の誰かが犯人役をやるって事なのか。
しかしそんなことでデータが取れるのか?
「おまたせ〜」
「ああ、うん。時間かかったね」
色々考えて居る間に質問タイムが終わってしまった。
皿に盛られた大盛り焼きそばを大切そうに両手で抱え込みながら、逢坂恭がやってきたのだ。
「ホント、人多すぎよね」
文句を言いながら、だけどニコニコ顔の逢坂。
彼女は僕とハインケルを交互に見つめて「何の話してたの?」なんて聞いてくる。
「ああ、状況の整理だよ。ゲームの設定と現実にどれくらいの違いがあるのかなって」
「……」
ハインケルが感情のない目で僕を見上げた。
「あれ、言わなかったっけ?
僕が持っている情報というのはテレビゲームの中の話なんだよ」
148 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/31(月) 19:54:11.14 ID:iIefGEut
それは『僕の身近に魔法少女は居ない』とも取れる内容だ。
嘘は言ってない。現にこれとよく似たシナリオのギャルゲを何本も攻略しているワケだし。
必要な情報を揃えた僕は頭の中で作戦を組み直す。
『魔法少女には遂行しなければいけない課題が与えられる。』
ミッションを与えるのは恐らく組織X。
そして三ヶ月の期間なのだから、ミッションは幾つもあると考えた方が良い。
だとしたら終盤になって『他の魔法少女を殺害しろ』なんて課題も出てくるかも知れない。
……そうか、アーベルがミッションについて言わなかったのは治癒魔法を使い続けている柚姫には遂行能力が無いからなんだ。
僕の怪我が完治する頃には観察期間が終わってしまうから、予定していたかも知れないミッションを全て無しにした。
そう考えると辻褄が合う。
しかし、それなら尚のこと柚姫の存在は隠し続けなきゃいけない。
僕と柚姫の安全を確保しつつ、二人の魔法少女につぶし合って貰うプラン。
似たようなシナリオのギャルゲは31本。
しかしここからのルートではトゥルーエンドには辿り着けない。
そこであらゆるジャンルのギャルゲからルートの選定を行う。
数秒ほどの思考の末に見つけ出した選択肢は一つだった。
「ところで逢坂。次のミッションには僕も混ぜて貰えないかな?」
「うん、いいけど、危ないよ?」
「別に戦うわけじゃないよ。ただ、ミッションっていうのを直に見ておきたいんだ」
「だったら良いけど……」
逢坂は渋々といったふうに、それでも了解の意向を示してくれた。
「まあ、本音を言えば逢坂をもっと見ていたいからなんだけどね」
「へ、変な事言わないでよ。もうっ」
顔色が一瞬で赤くなった。
よしよし、この反応なら僕に危険が迫っても守って貰えそうだ。
内心でニヤリ、顔はニッコリ。
芝居臭くなってやしないか心配だったけれど、とりあえずは次のステージに向けた足がかりができてホッとした。
「ねえ、次、アレにしない?」
簡単な昼食を終えた僕らが向かった先は遊園地で一際目を引く観覧車だった。
午前中、ジェットコースターなどで吐きそうになっていた僕としては大助かり。
二枚のチケットを購入して、勢い良く乗り込む。
観覧車は一周15分ほど。ちょっとした息抜きといったところか。
「ねえ佐久間くん」
「ん、なに?」
どんどん降りてゆく風景を見つめながら逢坂が口を開いた。
「あなたはこれで良いの?」
「君に協力する立場になったことが、かい?」
「危ない事が無いとは言い切れないし、きっと後悔するわ」
「う〜ん。でも、少なくともその間は逢坂と一緒に居られるワケだろ。だったら別に構わないよ」
それに僕はもう引き返せない所まで足を突っ込んでいるんだ。
だったら最後までやり抜くさ。
逢坂は嬉しそうな、けれどどこか悲しげな顔で僕から視線を逸らした。
149 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/31(月) 19:55:03.67 ID:iIefGEut
ガコンッ。
と、そのとき変な音がした。
観覧車の頂上付近。窓の外には平坦な街並みが広がっている。
「止まった……?」
「故障、かな」
しんと静まり返った密室。
緊張と不安が押し寄せてくる。
耐えきれなくなった逢坂が申し訳なさそうに囁いた。
「ねえ、そっち行って良い?」
「良いけど、あんまり動くと危な……」
「きゃっ!!」
返事を待たずに腰を浮かせた逢坂は、バランスを崩して座っている僕へと飛び込んできた。
咄嗟に抱き止める。
座椅子の上でもつれ合う格好になった二人。
彼女の微かな吐息が聞こえた。
「ご、ごめんなさい!!」
「いや、良いけど。動くと危ないよ」
慌てて立ち上がろうと藻掻く彼女を制するように肩に手を掛ける。
思っていたより軽い。見た目以上に柔らかい。暖かい。
華奢な肩口をしっかり抱き止めて、胸の辺りまで迫った顔を見つめる。
ああ、確かに面立ちがすっきり整っている。男子生徒にもそりゃあ大人気だろう。
だがそれはあくまで3Dの枠内での話だ。
数多のギャルゲヒロイン達と比べるに普通かそれよりちょっと上といったところで、僕のハートを鷲掴みするほどではない。
まあ、全く無反応というワケにはいかないけれど。
そんな事を考えているうちにはたと気付いた。
狭い密室の中に二人きり。しかも相手は超絶的な能力を持つ魔法少女。
それってヤバくないか?
「逢坂」
「佐久間くん……」
こんな場所で敵意を持たれでもしたらそれだけで殺害されるリスクが高まる。
マズイ。ここは相手に何も考えさせないよう攻めの一手しかない。
「少しの間、このままこうしていたい」
「……うん」
「逢坂はさっき、僕に後悔は無いかって聞いたけど。本当に後悔は無いんだよ」
「どうして?」
「君とこうやって言葉を交わすかけがえのない時間を手に入れる事が出来たから」
「……信じても、良い?」
「もちろんさ」
普段なら鼻で笑われるレベルの臭い台詞も、もういう特殊な状況下では効力を持つ。
特に相手がいかにも純情そうな娘さんなら効果は絶大だ。
囁き合って、妙な雰囲気に背中を押されるように自然と唇が近づく。
もう一寸顔を寄せれば触れ合うという時になって、急に音を立てた観覧車。
ビックリして咄嗟に離れてしまう二つの影。
再び回り出した窓の風景はもう止まる事が無くて、おかしな沈黙を保ったまま元来た場所まで戻ってきた。
150 :
幼馴染みは魔法少女:2011/10/31(月) 19:55:35.93 ID:iIefGEut
「故障で止まるなんて思いもしなかったよ」
「そ、そうよね。あはは」
どうにもぎこちない笑みを浮かべたままタラップから降りる僕ら。
逢坂が胸に抱く妖怪は一言も発しないまま。
他にも色々と乗っていく予定だったけれど漂っている空気がそれを許さなくて。
彼女は「帰ろ」なんて呼び掛けるとこちらの事などお構いなしに、早足にゲートへと向かう。
本当はこの後彼女の能力を見せて貰う予定だったけれど、今は無理と悟った僕。
まあ、こちらとしてもギャルゲ購入資金が考えていたほど削られなかったワケだし、まずまずの成果を上げられたから良しとしている。
駅前まで戻って来た僕らはそこで手を振って別れた。
去り際に「また誘ってね」なんて言われると「もちろんだよ」としか答えられない。
彼女とは別の方向へと歩き出した僕は、そこでけったいなシルエットに出くわした。
「ケンちゃあぁぁん」
「……柚姫か」
ふうと溜息を吐く僕とヨレヨレになった黒スーツを着崩して泣きべその幼馴染み。
聞かなくてもだいたい察しはつくけれど、いちおう経緯を聞いてやる。
「途中で迷子になったの。んで、お財布落としたみたいでご飯も食べられなかったの」
お前の迷子は途中じゃなくゲートくぐった瞬間からだろ。とか。
財布落とさなくても大して持ち合わせないだろ。とか。
とりあえず見つからなくて良かった。とか。
思う所は色々あったけれど、どうせここで辛辣なツッコミ入れるとワンワン泣きじゃくって僕を困らせること受け合いなので黙っておく。
僕は再三ため息を吐いて、幼馴染みの背中を叩いた。
「ラーメンくらいならおごるよ」
「ホント? やった〜☆」
ちっ。げんきんなヤツめ。
脳みそ発酵してんじゃなかろうかと思えるまでに脳天気な幼馴染みが、子犬よろしく嬉しそうに腕にしがみついてきた。
おわり
投下終了です。
くそうこやつめえええええ
153 :
創る名無しに見る名無し:2011/11/22(火) 06:05:05.13 ID:PBnYZ0J8
保守
154 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/07(水) 22:57:14.66 ID:kGJYPVsh
保守
155 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/05(木) 19:38:03.15 ID:bumhtGpV
新作祈願
156 :
創る名無しに見る名無し:2012/01/25(水) 21:31:34.41 ID:LVk+HASs
隆盛を極めるところもあれば、一方で閑古鳥が鳴くところもある
昔はそこそこ盛り上がっていたこのスレも、平野同然だな…
まあ、そもそもこのジャンルって魔法(とか特殊な能力)を使ってちゃぶ台返し的に
都合の悪い事象をどうにかするって部分が根底にあるわけだし
だからこそ全体的な組み立てがしっかししてないと読み手(書き手自身も含めて)がしらけちゃう的な所があって
ま、要するに飽きられやすい上に入っていきにくいジャンルなんだと思います。
いや思いつきて言ってみただけだけど。
腰が抜けた青年に、少女は優しく微笑んだ。
「ケガ…ありませんか?」
車が一台、宙に浮いている。
青年はこの車に轢かれかけた。
少女は、杖から放つ波動で車を滞空させ続け、その間に青年を退避させた。
単なる酔っ払い運転だったが、悪は悪だ。
波動を断ち切り、車を着地させるや少女はドライバーを引きずり出す。
「ダゴちゃん、GO!」
「了解しやした姐さんっ!」
少女の傍らにいた、小さな黒山羊。それが巨大化し、ドライバーに襲いかかる。
酔っている事も忘れ、逃げ惑うドライバー。
壁際に追い詰められ、少女に詰め寄られる。
「もう二度としない?」
ふと見れば、先刻の杖は死神の鎌に似た刃を伸ばしている。
必死に頷くドライバーに、少女は満足げに笑い、黒山羊と共に闇に消えた。
漆黒の衣に身を包んだ少女は、人気の無い所でパジャマの姿へ変わる。
「夜ぐらい寝かせてよぉ」
黒山羊、ダゴちゃんに愚痴る少女、夏樹レイナ。
ダゴちゃん、すなわちダークゴートは首を振る。
「ソイツぁ通りませんぜ姐さん!姐さんには魔女の末裔としての仕事をまっとうしていただかねぇと!」
夏樹レイナは、日本人の父とスウェーデン出身の母を持つ。
そしてこの母が、中世の魔女狩りを生き延びた数少ない「魔女」の血をひいていた。
今、レイナが住んでいるこの街には、人の血や恨みを吸って力を増す妖刀「カイ」が眠っている。
邪心を持った人間が力を蓄えた妖刀「カイ」を手にすれば、それは持ち主のみならず、他の人々をも狂気に陥れ、この街を中心に世界中に殺戮を広める。
先に「カイ」を破壊すれば良いのだが、強大な力を恐れた先人により封印されたそれは、この街のどこに眠っているのか分からない。
どこにあるか分からない妖刀は、血や恨みを吸収する。
故にレイナは、この街で悲劇を起こさぬよう、魔女の力を行使して些細な悲劇も食い止めてきた。
とはいえ、眠い。
明日は学校の実力テストだというのに、帰宅したレイナは睡魔に負けた。
翌日、結局一問たりとも自信のある答を書けなかったレイナ。
同級生の神藤 藍司がレイナの肩を突く。
「ダメだったって顔に書いてあるぜ」
「あんたが隣の席だから調子が出ないのよ!」
藍司とレイナは、小学校からの腐れ縁だ。
互いにムキになり一触即発となった瞬間。
「夏樹さん?いいかしら」
担任教師に呼ばれ、ケンカのタイミングを逸した。
159 :
思いつきだけで書いた2:2012/01/29(日) 02:59:32.27 ID:A8IXDfpm
正直、と教師は前置きする。
「テストの結果は良くなかったわ。夏樹さんはいつも真面目に授業聴いてるのにね」
教師は、怒るでもなくただ首を傾げる。
レイナも困る。
まさか、魔女へ変身して街を救ってるせいで寝不足だとも言えまい。
「その…丁度月に一度のアレだったので…」
年若い女性教師は、素直に納得したようだった。
「先生もお見合いの日に丁度アレが来てね。イラついて大失敗しちゃった事があったなあ」
「ミコト先生でもですか?」
魔女である、という宿命を忘れ、夏樹レイナは氷室命教諭としばし談笑した。
帰路は夕刻になった。
自販機のボタンを押すレイナの指から、彼女を姐さんと呼ぶ声が聞こえた。
正確には、縮小し指輪の中に潜むダゴちゃんの声だ。
「どうしたの?『カイ』が見つかった?」
「違いやす。でも、魔界からこちらの世界に侵入者が!」
魔の力を秘めるのは自分だけで充分だ。
レイナは、人気の無い場所へ隠れ、指輪からダゴちゃんを解放した。
湾曲した角より放射される「暗闇」がレイナを包み、黒く禍々しい衣を装着させた。
手には彼女の魔力を引き出すロッドが装備された。
ダゴちゃんが指示する場所へ、空間より呼び出したホウキで飛翔する。
到着したそこは、人通りの少ないうらぶれた路地。
「ねダゴちゃん。魔界の使者ってことは…私、戦わなきゃダメなんじゃないの?」
これまで、他人の命を救う、心を救う任務は遂行してきた。
ただ、厳然と敵が存在し、それと直接戦うなど初めてだ。
その時、レイナの周囲を複数の人影が取り巻いた。
この路地の住人だろうが、総じて白眼をむいており、肩や手足からは異形の触手が垂れ下がり、魔界の神の名を呪文のように唱えている。
更に、全員が何かしらの凶器を携え、レイナを襲う。
「酷い…『魔に寄るを許さぬ!』」
レイナがロッドを突き出し、魔力を込めた波動を放つ。
レイナが最も多用する術であり、対象の活動を封じ込める性質を持つ。
「出て来なさい!」
怒るレイナ。
住人らを半分人外の怪物へ変えた、魔界の使者はどこにいる。
「出て来ればいいのか?」
暗闇から、完全なる異形が現れた、
クモにもアヒルにも似ていた。
おぞましい姿への嫌悪を隠しつつ、レイナは怒声を張り上げる。
「何てコトを!みんなを怪物に変えて…一体何がしたいの?」
「レイナ。君のスカウトさ」
異形は事も無げに言う。
160 :
思いつきだけで書いた3:2012/01/29(日) 03:33:53.30 ID:A8IXDfpm
「私のスカウト…?」
異形は、無数の腕の内、一本のみを人間の形状に変えてレイナを指差す。
「魔女狩りを逃れた幸運な血脈…だが、魔女の魔力を何故、人間のために用いる?」
捕らえられた「魔女」が、如何に残酷な最期を遂げたかは母から幾度となく聞かされた。
「人間はそんなものだ。異端者は排斥され、多数派が正義となり、悪は残酷に死ぬ」
レイナは異端者だ。
そんな事は承知だし、異端者だから人間を救えていた筈。
今更魔界へ帰れなど、人間の中で過ごしてきた自分には耐え難い。
「私は…魔女だけど、人間の世界が好き!帰って!この人たちも解放しなさい!」
異形は笑う。笑うことができた。
「解放してもいいが…ほら」
肩口より垂れ下がった触手が抜け落ちた老人。
だが、そのまま昏倒する。急ぎレイナが抱き起こすも、既に脈は無い。
異形はやはり笑っている。
「言い忘れてたけど、ソイツらは既に全員死体だ。俺が殺してから操ってる」
「…許さない」
レイナのロッドから、鎌が生えた。
そのままロッドを天に掲げる。
「『魔の雷よ!我が道を阻む者を焼き払え!』」
天空よりどす黒い電光が、異形へ降り注ぐ。
だが、堪えた様子は皆無だった。
「妖刀『カイ』があれば、君も俺を殺せるんだろうがな」
言って異形は、クモの脚から爪の弾丸を乱発し、レイナを襲う。
間一髪、魔力の防壁を張るレイナだが、背後からはゾンビ軍団が迫る。
「妖刀『カイ』…それもあなたの狙いなの?」
「魔界全体の狙い、と言った方が正しいな。カイを目覚めさせないために君はこの街を守ってきた。人間のために」
それはその通りなのだが、何故、この異形がそこまで熟知している。
「あなた…誰」
唐突な不安感に苛まれるレイナ。
異形はゾンビらを制止し、脚のみならず全身を人間の姿へ変える。
見覚えがあり過ぎる顔だった。小学校からの腐れ縁。
「…藍司?」
少年は笑った。
これまで、レイナには一度も見せた事が無い黒い笑顔。
「本物は、とっくの昔に殺した。お前に近づくためだが、まさかずっと気付かなかったとはな」
すり替えられていたのか。
レイナは魔女で、魔女は異端者だ。
そしてレイナは、魔女としても未熟だった。
藍司の存在もまた、人間を守る重要な動機だったのに、その藍司は昔から魔界の使徒だった。
意味を為さない絶叫と共に膝を折るレイナ。
藍司は異形へ戻り、やはり笑う。
161 :
思いつきだけで書いた4:2012/01/29(日) 04:08:03.36 ID:A8IXDfpm
戦意を失ったレイナを見下し、異形はゾンビらに目配せする。
「ジャンヌ・ダルクの末路は知っているな?魔女さん」
自分へ群がるゾンビ共。
喉の奥で、潰れた悲鳴をあげるレイナ。
その刹那、鋭い光が一閃した。
ゾンビ一体の首が落ち、断面より生じた炎が首、胴体をまとめて焼き尽くす。
光の方角を見るレイナ。
女が立っていた。
顔は分からない。
もしかしたら覆面を被っていたのかも。
ただ体つきからして女だった。
恐らくは自分より年上の。
自分のように黒い衣。
手に輝く抜き身の刀。
「…『カイ』?」
封印された妖刀を、何故この女が持っている。
「ちょうどいい。その刀を奪え!」
異形の指示を受け、ゾンビ軍団は目標をその女へ変えた。
位置としては、レイナが女とゾンビ軍団に挟み込まれた状態。
だが次の瞬間には、女はレイナを飛び越えてゾンビ軍団の背後に在り、ゾンビ軍団はその一瞬の間に全員が切り裂かれていた。
八つ裂きにされ、断面から発火し、炭化しつつ崩壊してゆくゾンビ軍団。
その中から平然と現れる女。
この速度も、刀の妖力によるものだろうか。それとも。
女はレイナを一切無視し、異形へ刀を向けた。
ようやくレイナは立ち上がり、彼女を制止する。
「待って!確かにアイツは藍司を殺して私を騙してたけど…」
いつ成り代わったのかは分からない。
分からない程に、レイナは未熟だった。
ただ、藍司になりすました異形は、それでもレイナの善きケンカ友達でいてくれた。
自分が魔女である事を知りながら、人間として見てくれたのだ。
「だから…」
懇願するレイナに、女は初めて声を出した。
「罪は罪よ」
レイナが止める間も無かった。
女が投げた折り鶴は、空中で火の鳥と化して異形の腹部へ突き刺さる。
悶絶する異形の眼前から、女が消えた。
否、既に頭上にいた。
妖刀「カイ」を振り下ろす。
声を出さぬ女。声を出せぬ異形。声をあげるレイナ。
僅かな沈黙の後、異形は縦から両に断たれ、やはり断面から炎が燃え広がり、灰燼に帰した。
灰が水滴で固まる。
レイナの涙。それを冷たく見やる女。
「分かっ…てるの。あなたが…正しいって…それでも…」
声を振り絞り、理性的であろうとするレイナ。
女は、黙して物陰に消えた。
壁に寄りかかった女の顔を街灯が照らす。
「ごめんね…夏樹さん」
氷室命教諭だった。
162 :
思いつきだけで書いた奴:2012/01/29(日) 04:09:46.74 ID:A8IXDfpm
唐突に占拠して申し訳ありませんでした。
正直、特に続けるつもりはないですが。
164 :
創る名無しに見る名無し:2012/02/14(火) 17:49:34.97 ID:d5U/X7ax
保守
時間の流れ、早すぎでしょwww
おジャ魔女開始ですら、もう13年前で
最終シーズンがもう10年前で
orz
167 :
創る名無しに見る名無し:2012/05/15(火) 06:00:53.24 ID:dPyk4OkJ
誰もいない
保守
168 :
創る名無しに見る名無し:2012/06/17(日) 09:59:24.97 ID:ZwdDyg9o
保守
169 :
創る名無しに見る名無し:2012/07/17(火) 10:55:55.85 ID:4ax6QpWw
保守
170 :
創る名無しに見る名無し:2012/08/02(木) 02:17:56.09 ID:Fg+flBXY
過疎化しすぎだ
172 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/11(火) 03:37:50.42 ID:lNq53pvs
かつての職人はもういないからな
活性化してないところにご新規様が来る可能性も低いわけで
173 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/11(火) 12:09:27.24 ID:6/xPjBOp
馬鹿設定考えるのタノシス→だめだSS書けNEEEEEEEEE!なので糞設定だけ垂れ流す。
【ジャンル】ハートフル(ボッコ)似非SF変身ヒロイン(ロリ)
【タイトル】真人躯破(トゥルーマン)☆ペロりこン!
【粗筋】
繰世津町(くりよつちょう)のjs、白板(しらいた)りこが、突如飛来した
「ACMEシステムトリガー・自律浮遊行動型(フローター)」の桃ろう太(りこ命名)と共に、
地球を第二の居住星「セカンド・ジャングリラ」にすべく侵略活動する調教部隊グローマゾネス、それを率いる異空侵略教団「GLOW-MAN」と戦う。
【人物・名称説明】
白板りこ
主人公。何の変哲もない(はず)の少女。小2〜3。桃ろう太の協力で「ペロリコン」に変身する。育ちきらない身体が秘かな悩み。生えてない。
桃ろう太(仮称)
所謂、淫獣(メカ型)。ショッキングピンクで掌サイズ。モチーフはネズミ。現代の地球では当然オーバーテクノロジーの産物。
(フォルム自体は地球のいかがわしい小型マッサージ器具にそっくり)
正式名は「アクティブ・チェンジ・メタモルフォーム・イクイップ・システムトリガー」の「自律浮遊行動型(フローター)」。
りこと遭遇した際、密なスポンジ状の緩衝防護被膜(丸みがある逆ハート型、りこ曰く浮遊する大きな桃型風船)
の中から抜け出した時の感じが桃太郎風なのと、カラーリングがピンク色、長い正式名の中で強調した「フローター」、
このトリプルニーミングで桃ろう太(仮称)と、りこ的には決定。本人(本メカ)は納得できず「じまい」。
…まぁ、桃ろう太の装着とかは例のアレに似たり寄ったり。インしたり飛び出たり隠密待機したり。
ただし出入りはワープに近い。隠密待機が「凹みにハマってぴったり食い込む」感じ。
会話は空中浮遊時に「本体を振動させて擬似音声として意志疎通」と隠密時は骨振動(?)しか無い。
どうよ。
174 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/11(火) 12:55:44.90 ID:6/xPjBOp
>>173の続き設定
ペロリコン(トゥルーマンメタモルフォーム)
白板りこの変身後の姿。
ヘルメット+ゴーグル+メタリック絆創膏三点防御+ヌルテカボディ。あとリストバンド・ブーツ位
このメタリック絆創膏を頂点に逆三角の防護バリアーを展開。
(ある程度拡大できるが薄くなる。エネルギー消費増やす事で変身時間を犠牲に強化可)。
リストバンドに移動させて盾やフリスビー風に投てき(当たれば強力な電気的ショックダメージ)
ブーツ下に配置して空中浮遊する足場やスノボのように斜面を滑ったりある程度は滑空も可。要エネルギー。防御力は当然落ちる。
175 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/11(火) 13:22:03.97 ID:6/xPjBOp
>>174続き
基本的に、その攻撃では敵をある程度の間は無力化出来るが決定打にはならない。
フィニッシュブロウはリストバンドに桃ろう太を装着、ランス状のエネルギーフィールドを形成、
敵ウイークポイントにぶちかます「デストラクト・エンド・ニードル」
その追加で変身エネルギー等を全て破壊力として注ぎ込む「マックス・アタック」となる。
無論、使ったら無防備な全裸なので外したら色々大ピンチ。
176 :
創る名無しに見る名無し:2012/09/11(火) 13:29:38.30 ID:6/xPjBOp
…で、ノリノリの設定で力尽きた。グローマゾネスや「GLOW-MAN」、トゥルーマンの意味とか書いてたら全然書ききれないしSSに、なんてむりぽ。
誰かに期待しつつ、さいなら。
177 :
創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 21:15:22.57 ID:E8wUexmA
保守
178 :
わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:52:20.38 ID:TZbzUHG1
スレのみなさん、初めまして。
魔法少女ものを書いてみたので投下します。前編です。
179 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:52:53.84 ID:TZbzUHG1
危機的状況だった。ちょっと昼寝していたら、ぱんつがずり落ちているし!
学校から帰って居間のソファーでごろり。一日の疲れがどっと出たのか制服のまま、わたしはお休みモードに入ってしまったのだ。
誰もが営み続ける真っ昼間、それをも恐れず夢の中へ飛び込む時間は贅沢なもの。誰からも制約を受けることのない快眠タイム。
しかし、需要あれば供給あり、消費あれば生産あり。この世には相対する二つの事象が存在することをわたしは拒めなかった。
拒めなかったことに対するわたしが受ける報復が……ぱんつずり落ちる!いりません!
「ひえーん!誰かに見られたかな……」
とは言え、家族だけど。
わたし、犬見圭(いぬみ・けい)はごく普通の家庭に育ち、ごく普通の人たちに囲まれて、ごく普通の生活をしてきたつもり。
家族だって優しいし、特に不満を感じることはなかった。わたしにとっては、大切な家族。かけがえのない家族。
お友達だっているし……でも、なかなか会えないけどね。
だからと言って、ぱんつずり落ちて太ももでストップだなんていう、実にだらしない格好を晒していいわけではない。
花も実もある『じょしちゅーがくせい』として、れでぃの振る舞いぐらいは心得ています。ずり落ちたぱんつを履き直して、
部屋の隅にある姿見でお色直し。いつ何時、誰がこの部屋に来るのか分からないからだ。ため息をつくと、鏡の中のわたしも
同じようにため息をついていた。黒髪ショートのメガネっ娘は真面目のまー子の証なんですってば!
「……何、これ」
自分のことだから、自分が良く知っているはず……という、自意識を軽く打ち破る、真実の鏡。わたしは部屋にある姿見を
食い入るように見る。人の振り見て、我が振りなおせ。姿見は意志を持って真っ直ぐにこのわたしへと問いかけていた。
「こんな飾り、つけてないし」
まるで、獣のような耳。イヌがはやしているような耳だ。
恐る恐る頭に手を伸ばし、直に触ってみる。
「くすぐったい……し」
何故か感覚がする。抓ると痛いし、塞ぐとどくどくと管を巡る血潮の音が聞こえた。
太ももが寒くなる。またも、ぱんつか?再び履き直そうと姿見を覗くと。
「尻尾?」
ふっさふさ。
ゆーらゆら。
ふりふり。
頭上の耳と合わせると、非常にお誂えなイヌミミ、尻尾の女の子!
ぱんつをずり落としていたのは、すべてこいつのせい!
絶望のどん底、気の動転、冷静さの欠如、どんな表現を使おうともわたしを形容する言葉はそのとき見当たらなかった。
前例もなく、元に戻る見込みのない、ごく普通の世界との決別は、覚悟をする暇を与えてくれずにやって来た。
180 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:53:26.52 ID:TZbzUHG1
「わーん!」
『呼んだ?』
誰もいないはずの部屋から声がする。少年のようなあどけない声。
『ぼくのことを誰か呼んでくれた?』
振り向いても、姿は見えず。空耳にしてははっきりしすぎ。幻聴にしては現実味を帯びすぎ。
わたしの家族は両親とわたしだけだ。弟はいない。ましてや、そんな年頃の親戚や知り合いもいない。
そして、くやしいけれど夢中になれる恋人もいない。お友達はいるけど、同い年の女の子だ!百合百合しちゃう……何を言わせるんだ。
『やっと、会えたね』
「どこにいるの?あなた」
『懐かしいなあ、このソファー。ぼくのお気に入りだったし。おしっこ漏らしてよく怒られてたし』
懐かしい……って。一度はこの部屋に来たことあるような言葉だ。おしっこを漏らしていた……って。
いや、わたしではありませんって!とにかく声の主を手当たり次第に探す。
分からない。どこかからか、わたしの耳に訴えかける男の子の声。耳に入るというよりも、鼓膜を直接揺さぶる感覚だ。
居間中を探し回り、廊下に出て、二階に上がるも、声は続く。しかも、この家を懐かしむような語り口調。
間取りを全て把握しているかのような、そして、声が語る出来事をわたしが全て知っているような既視感。
『圭ちゃん、忘れちゃダメだよ』
わたしの部屋に入ったとき、その言葉は聞こえた。
本だらけのわたしの部屋。いつも扉を開けば、かわいらしい雑貨より、くすぶっている古本が真っ先に目に入る。
『犬見堂古書店』の異名を頂戴してもおかしくもない、わたしの大切な宝物たちが並ぶ部屋。
『ぼくが寂しがってたとき、この部屋で慰めてくれたんだよね』
「ねえ。誰なの?」
『ぼくは……「ふう」』
ふう。誰?きみ?
それでも纏わり付く子犬のように『ふう』と名乗る少年の声はわたしの耳を揺らし続けた。
『ぼくのやり残し』
『ふう』は、その言葉を残して消えてしまった。同時にわたしのイヌミミと尻尾も消えた。
まるでこの出来事がなかったことにしようと言わんばかりに。
181 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:53:57.69 ID:TZbzUHG1
その日の夜。誰もが寝静まるミッドナイト・キングダム。二階、わたしの部屋、別名『犬見堂古書店』のベッドで眼をぱちくり
させながら、枕を抱いていた。明々と光る蛍光灯が憎らしく、小石があれば投げつけたろか?と言いたくなるぐらい、わたしのハートは
ちょっとばかし不安定だった。とにかく昼間の熟睡が祟って眠れないのだ!
眠れない!眠れない!眠れない!
昼間にぐっすり惰眠を貪ってしまっちゃったから、ツケとして良い子は夢で浮かれる時間に、現実に虐げられてるんです。
世の中のバランスは上手く出来てるんだねって、したり顔でわたしのまぶたの上に踏ん反り返る目覚めの堕天使が憎らしい。
時間つぶしに見ていたネット記事はご近所の噂で持ちきり。キャッチーな言葉だったからか『ネコ泥棒』ってなんだよ?って感じだ。
気になって、文字だけの情報に引きずり込まれて、深入りしてしまい、カチカチと時間だけが夜明けに近付いてゆく。
「寝なきゃ、お肌に悪いんだよー」
って、言っても、わたしのお肌を見てくれる男子はいません!と、悲しいわたしは部屋で起きた異常事態に気付いた。
それほどでもないけれど、耳慣れない音が部屋に響いていたのだ。
こん!こん!
冷たく固い音。小さく、昼間の明るさでは波に飲まれる程の音。部屋のガラス窓を外から叩いているようだった。
しかも、人間の手でなく、何かをぶつけるような無機質な音。カーテンを開け、ガラス窓を開け、真っ暗な下界を見下ろした
わたしが目にしたのもの。それは道の明かりに照らされてわたしの部屋の方を見上げる親友の姿だった。
「幸ちゃん?みゆきちゃん、外に出れるの?」
「……」
「そうなんだ」
金色に染めた長い髪の少女はゆっくりと頷いて、わたしの問いに答えてくれた。直接会って話をしたげな幸ちゃんの為にわたしは
音を立てないように外へ出た。不安定だったわたしの精神状態は幸ちゃんのお陰で平常心を取り戻すことが出来た。やったね!
真夜中の親友の顔は白かった。特に体が悪いと言う訳でなく、同い年の幸ちゃんは極端に人と出会うために外へ出ることを嫌う。
そして、その自分の決めた揺るぎない意志の為ならば、義務教育さえも投げ出しちゃう子だ。美人の幸はどんぐりを手にしていた。
早い話、幸ちゃんは。
「わたしが引きこもりでも、きちんと世界の歯車は廻っているんだ」
きっと幸ちゃんはどんぐりをわたしの部屋の窓に投げつけて、わたしを呼んでいたんだろう。
こうすれば、わたしに直接会うことが出来るって。デジタル全盛の時代だというのに、アナログに訴える幸ちゃんがかわいい。
わたしたちは幸ちゃんを全力で受け止める為に、誰もいない真夜中の公園へと移動した。
182 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:54:29.25 ID:TZbzUHG1
公園入口で一匹のネコがわたしたちに擦り寄ってきた。オトナになる前のようで、子ネコとも言いがたい若いネコだ。
幸ちゃんは知り合いかのようにそのネコに手を差し出すと、その子は躊躇うことなく幸ちゃんの手の平に顎を乗せた。
「はなちゃん、かわいいね」
「幸ちゃん、その子『はな』って言うの?」
「うん。元々そんな名前だったのかもね」
『はな』と呼ばれたネコは何度も何度も幸ちゃんの手の平に頭を擦り付けていた。
目を細める姿は愛らしくも、頼る相手がいないことを物語りわたしの和んだハートに針を刺す。
「捨てられたのかな……」
「捨てネコ」
「誰もがこの子を『はな』って呼んでたし。人に懐き過ぎだし」
ネコを平気で捨てる輩の気が知れない。湧き上がる感情を抑えるつもりなのか、闇夜はわたしを冷やした。
真っ暗な公園はわたしたちを無条件に受け止めてくれる。
パステルカラーの遊具も。
捨て猫を止めるように訴える立て札も。
役目を終えた藤棚も。
夜会に耽る野良ネコたちも。
幸ちゃんの足元でくつろぐ『はな』も。
心地よく、わたしたちを受け入れてくれた。わたしはブランコを漕ぐ幸ちゃんと言葉を交わした。
「……圭は信じてくれるかな。今日ね、イヌになったの。お昼ぐらいのころ。『わんわん!』って四本脚で尻尾を生やして」
「いつぐらい?」
「お昼ぐらい」
「そっかあ。わたし、寝たよ。その時間」
「イヌと言えばさ。ここの公園って、『ネコ泥棒』が現れるって噂だってね。捨てネコなのをいいことに、ネコを攫ってゆくバカが」
「……ひどいよね。わたしもそれ読んだ。とくに子ネコが多いんだってね」
「金になるからって、売り飛ばすんだよ。子ネコばかり狙ってってさ、働けっつーの。でも、お金。欲しいよね」
「そうなの?幸ちゃん」
「ネットの情報だから半分半分」
「半分半分」
「でも、『はなちゃん』のことは本当だった。飼いネコだった『はなちゃん』は捨てられたって事実」
防衛本能だ。わざと話をはぐらかせているんだ。その時間の幸ちゃんが自身を思い出したくないと。そして、わたしを試しているんだ。
今の幸ちゃんなら受け入れてくれるかもしれないけれど、今宵の宴は幸ちゃんに杯を支配してもらいたいから、わたしは黙っていようね。
さあ!宴を始めましょう!誰もいないけど、誰も歓談してないけど、わたしたちの賑やかな宴をしましょうね。幸ちゃん。
幸ちゃんの言葉なら、なんでも受け止める自信はあるよ。ほら、『はな』も足に尻尾絡めて背伸びして喜んでるし。
183 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:55:02.92 ID:TZbzUHG1
「やっぱ圭だ。わたしの話、突っ込んだり、揚げ足取ったり、否定しないし」
「だって。幸ちゃんはわたしにとってさ……だからね」
幸ちゃんは白い頬を赤くして、溜め込んだ感情を爆発させながらわたしの顔面、メガネにぶっかけるように真っ白な言葉をぶっかけた。
だらりと垂れた真っ白な言葉は頬を伝わり、息遣い感じるわたしの口へと入る。ほろ苦い、人間の味がわたしの舌の上を駆け巡った。
そして、幸ちゃんの足元に飽きたのか『はな』。ちょっとした隙にすすとどこかへ消えていった。気まぐれはネコの特権。
「聞いてくれる?ねえ!わたしに他人が信じ難いことが降り懸かっても、誰もがわたしの言葉をフル無視するし!!とどのつまり、
わたしなんかいなくていいよって遠回しに言ってるだよ!もう、誰も信じられない!いっそ、獣になりたいよ。生きているだけの」
「そっかー。獣になったら、わたしとお話できないよね。幸ちゃん」
静かな夜中の公園で幸の自傷にも似た言葉がわたしに届いた。楽しそうに夢を見ている遊具たちも幸ちゃんのことを
フル無視しているように見える。ウソでもテレパシーが使えないことに心の底からほっとした。
「わたし。幸ちゃんのそういう所が好きだな。何だかんだ言って、結局わたしの所まで出歩いてるし」
「圭はおかしな子だね」
ブランコで揺れる色白の少女はきっと誰かと関わりたいと思っている。だけど必要以上に傷つくことが怖くて、ガラスの森に
潜んでしまったんだ。ガラスの森は外からも中からも見える不思議な場所だ。ただ、何かの拍子でひびが入ると呆気なく壊れて
しまう上に、幸ちゃんの体を傷だらけにしてしまう。だから、ガラスの森に関わることに臆病になってしまったのだ。わたしが
できることとは、そんな幸ちゃんのことを認めてあげること。わたしの言葉が幸ちゃんを安心させたかのように、夜中の公園は
再び静けさを取り戻した。
「圭はやっぱり、圭だ。圭が友達で本当に良かった」
ぎいいっと、ブランコが揺れる音と水銀灯の明かりは夜が深いことをわたしたちに教えてくれた。
教えるだけなら誰でも出来るが、気付くことは誰にでもで出来やしない。繊細な幸ちゃんは気付いた。
「圭。ちょっと待って」
口元を人差し指で立てに塞いだ幸ちゃんがわたしを引き止める。
夜会のネコたちは一斉に離れ離れになって、がさがさと何かに入れる音がしていた。しかし、『はな』は決して離れない。
「まさか、ネコ泥棒?」
「しっ!圭!」
184 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:55:35.36 ID:TZbzUHG1
幸ちゃんは「とにかく、むやみに手を出さないことだよね」と冷静だった。少し幸ちゃんの落ち着き加減に煽られて飛び出したい
この足を押さえきれなくなったが、何も持たない自分たちでは力はないと分かった。せめて、何か魔法が使えたら……。
「どうする?子ネコ、連れ去られちゃったら?」
「ならば好都合。証拠さえあがれば。逆に何もしないのに騒ぎ立てたらこっちが不利になる」
淡々と幸ちゃんはまるで加担するかのようなことを言うが、事件を解決させる為には仕方がないかもしれない。
わたしたちだけでことを起こすにはハードルが高すぎる。かと言って、公園でのびのびと過ごす子ネコを黙認し、やすやすと輩を
見逃すことがどうにもわたしには押さえられない。相手は野良ネコ。わたしたちが手を出す義理も義務ないと一蹴されても
仕方がないと幸ちゃんはあっさりと言う。ならば、何故ここまでして……。
「なんか、ムカつくから」
幸ちゃんの一言は短くも痛い。刃に毒を塗った短剣のようだ。
子ネコが危険にさらされているのに、証拠がないから一歩出たいのを我慢して、法的措置はオトナに任せて、わたしたちが
輩の起こす一部始終を記憶しようとしたときのこと。
わたしたちにははっきりと段ボール箱に公園に集まるネコを一匹詰め込んだ輩の姿を見た。どうする?幸ちゃん?誰か呼ぶ?
ごそごそと手馴れた手つきで子ネコを箱に入れていた。人に慣れていることをいいことに、か弱き幼獣に対する憎むべき犯行だ。
通報しなきゃ……。と、わたしが携帯を取り出そうとすると、輩は私たちに気付いたのか、ネコを置いて公園から消えた。
どうする?わたしたちはしかと見た。犯行未遂の現場に遭遇した。ネコ泥棒だ。これから起こり得る悲劇を食い止めるべく
わたしたちは一抹の正義を胸に鉄槌を振り下ろすべきなのだろうか。幸ちゃんに相談すると、あっさりと答えが返ってきた。
「取り合ってくれるはずないよ。噂だし」
「本当だったら?」
「誰かが動いてるって。わたしたちが訴えてもオトナは鼻であしらうだけだって」
「それにしても……『はなちゃん』。大丈夫かな」
ブランコを漕ぎながら幸ちゃんはオトナ以上に大人びた言葉でわたしの幼い正義感を脆くも破り去った。
部屋で引きこもっているけど、視野はわたし以上に広いのかもしれない。いや、ネットという感情抜き文字だけの窓口ゆえ、
広いようで醒めているだけなのかもしれない。現に顔を合わせて話すことと、文字だけのやり取りとは感じ方がもろに違う。
わたしたちは外の世界に飽きてきたので、それぞれの自宅に戻ることにした。布団が恋しいからだ。
翌日の放課後、わたしは昨晩の公園に立ち寄った。周りの景色が違うだけで印象が違う。視野が違うだけで感じ方が違う。
遊具も子供たちとの付き合いで活気を戻し、白い雲と青い空、緑の木々といった色彩が公園に精気を与えていた。
「あっ。ネコだ」
芝生でネコがちょこちょこ歩いている所に遭遇したわたしは思わず声をあげた。大きなネコに子ネコ。この公園はいわゆる
『地域ネコ』の溜まり場になっているらしい。そのため彼らの中には人を怖がらない子もいる。逃げない子ネコは子供たちに
囲まれて幸せそうな顔をして、公園での平和な一幕を過ごしていた。そんな子ネコを連れ去ろうとする輩……。
幸せそうな時間を人間と共に過ごす『はな』の顔は言葉が通じないわたしたちでも心地よさそうに見えた。
人間はこの子らの大切な友達。だから、この子らの幸せをにじるようなことは許せない。『はな』の顔を見れば分かること。、
『はな』の肉球からほんのりとかけがいのない暖かさが伝わっていた。
185 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 19:56:06.63 ID:TZbzUHG1
そして。
もしかして。今夜も現れるのかもしれない。いや、分からない。
昼間の幸せそうなネコたちを思い出すと、子ネコを連れ去れるヤツのことが無性に歯がゆくなってきた!
「なんか。人間の勝手だなあ!」と。
そして、今夜。
わたしと幸ちゃんは昼間と同じ場所にいた。言うまでもなく、昨晩と同じ場所。
「幸ちゃん。外に出るようになったんだね」
「今夜だけだって。人がたくさんいる場所はやっぱ苦手だし」
夜中フィルターを差し引いても幸ちゃんは美人に見える。落ち着いた性格の相乗効果もあるかもしれない。
幸はもしかして今夜は来ないかもしれないと不安になった。立て続けに同じ場所に犯人が現れるのは犯人にとって危険すぎるからだ。
そして、幸ちゃんは「わたしだったら、そうするかも」と付け加える。「今日がやばくて、じゃあ間を空けずに翌日にしましょって、
『どうぞ、捕まえてください』って言ってるようなものでしょ」と。ブランコに腰掛けて幸は遠巻きに昨晩の犯行現場を眺めていた。
それに……昨日、あんなに幸ちゃんになついていた『はな』が姿を現さない。不安だ。
結果、幸ちゃんの言うとおりになった。
「圭。少しずつ、ヤツが本性を表すのを待とうよ」
翌晩も、その翌晩もわたしたちは刑事よろしく公園に張り込んだ。理由は後付けで構わない。無邪気に遊ぶ子ネコを思い出す度に
いてもたってもたまらないからだ。歯がゆいことに『はな』はまたしても現れない。わたしたちのことを忘れてしまったのだろうか。
そして、四日目の深夜。輩は段ボール箱を携えてやって来た。
一見、ゴミを捨てに来ているようで(それも許せないけど)、尋問されても証拠を残さないように準備しているのが憎たらしい。
幸ちゃんは用意してきたデジカメを輩に向けて構えた瞬間。
隣にいた幸ちゃんが膝を付き、ゆっくりと倒れ込んだ!どうしよう!どうしよう!
静かに慌てるわたしは……ふと、昼間に聞いた声を再び耳にした。
『ぼくの代わりを出来るのは圭ちゃんだけだ。今、幸の体から抜け出すから。いざ行かん!動物たちの幸せの為に!』
体が軽くなった。
ふわりと太ももに風走る。
頭の中を突き抜ける音。
閉じたまぶたに光射す。
そして、ぱんつが……ずり落ちてない!
その代わりにわたしの尻尾の付け根がゴム紐で締め付けられる感触が!
え?
尻尾?
普段着だったわたしはいつの間にかにメイド服へと着せ替えられて、ついでに獣の耳と尻尾がついていた!
186 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 20:22:15.52 ID:if6/b+On
まるで……わたしは魔法少女。
アニメの中から飛び出した、いわゆる二次元世界のカートゥーン・ヒロイン。
だが、わたしは三次元。尻尾も耳も触ればわたしのものだという感覚があり、切れば血がほとばしる本物の耳だと本能的に理解した。
もしかしてこの事態は理解しようとすること自体間違ってるかもしれない。それを裏付けるかのように、獣のような男が泣いている
子ネコを抱えていたからだ。耳が尖り、まるでオオカミのようながたいのよい男だ。牙がきらりと光る。触れれば、皮膚を裂いてしまう
かもしれない牙が鈍く光っていた。開いた口からは生臭い獣の匂いがして、わたしの鼻を嫌でも刺激していた。
はっはと息遣いが荒いのがわたしの……イヌミミに届いていた。
オオカミ男だ!!!
オオカミ男の腕は子ネコを締め付けていた。子ネコはまるで人間の少女のような姿でネコミミがぴょこんとわたしと同じように
付いていた。一方、オオカミ男は獣そのものの姿で二本足で立ち上がり、はっはと口から荒い息を上げていた。何をしでかすか
分からないヤツに近付けば、ヤツの毒牙に掛かること必至。幸ちゃんの姿はない!どこ行ったの?幸ちゃん!!
返事をしたのは『ふう』だった。
『圭ちゃん!動物たちの幸せの為に……』
「え?どういうこと?」
『圭ちゃんは「イヌ」だよ!動物たちの「イヌ」だよ!立ち向かうんだよ!』
『ふう』の声がわたしを惑わせた。
え?
イヌ?
わたし、人間ですけど?
「おねえちゃん!助けて!」
人間の言葉で子ネコの声が聞こえた。それに対して、ヤツはの慟哭を続けていた。
187 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 20:23:25.82 ID:if6/b+On
子ネコの悲痛な叫び声で、オオカミ男の耳を塞ぎたくなるような言葉で、わたしが持つ人間の理性は全て崩れた。
『アイツは人間が持つ「よくぼう」だ!獣に近づいた人間だ!理性を忘れ、暴虐さだけが体を支配する、ぼくらが憎むべきヤツだ!』
「わたし、どうしたらいいの!!もう!ばかばか!幸ちゃん起きてよ!!」
『幸ちゃんは今、空っぽなんだ。ぼくが離れちゃったから。幸ちゃんは「獣」と「人間」双方を器用に持ち合わせることが出来なかった。
だから、ぼくは考えた。「圭ちゃんに潜り込もう!」。圭ちゃんは「獣」と「人間」双方分かり合える人。それが出来る人なんだ』
「何言ってるの!もう!」
『で、目の前のヤツだ。獣でも、人間でも風上に置けないヤツだよ、アレは。よくぼう」だけで動く、獣……いや、人間以下のヤツだ。
話で解決できればいいけど、ヤツはそうはいかなそうだよ。圭ちゃん!獣の牙を人間の知恵の積み重ねでなぎ払うしかないね!』
え?
ネコ泥棒=オオカミ男ってことですか?
欲望やら、何たらで……。
幸ちゃんよ。これがリアルだよ。現実世界なんだよ。
ってか、幸ちゃん!?
つづく
188 :
わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/06(火) 20:24:51.38 ID:if6/b+On
近日、後半イキます!
また、よろしゅう
189 :
わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:25:02.90 ID:i2mVeFOx
後半、いきます。
190 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:25:40.89 ID:i2mVeFOx
手に魔法のステッキ?イヌの肉球付き?まるでお菓子みたいな色使い!先っちょから舌を絡めてじゅるじゅると舐めてみれば、
甘い味がしそうなキャンディ?いやいやいや!もう、わたし中学生ですけど。とっくに卒業したようなお子様じみたことなんて……。
『「獣」と「人間」を繋ぐ「いぬみみ・すたんぷ」を振ってみて!ぼくの尻尾みたいに!』
わたしは『ふう』に言われるがまま、魔法のステッキ、いや『いぬみみ・すたんぷ』を昔の体温計さながらに振りかぶってみた。
すると、パステルカラー鮮やかなステッキは生身の皮切り裂く、剣へと身を変えてしまったのだ!銀色の鋼が妙に綺麗だった。
『「ドッグ・イヤー・ソード」。コイツの錆になれ!言葉を聞けないヤツは尻尾を振って、切り刻んでやる!』
「わたし、出来ないよ!」
『アイツは「獣」……いや!「ケダモノ」だ!』
「にゃああああ!」
わたしは『ふう』にそそのかされるがままに、剣を構えオオカミ男に立ち向かった。まるで大きな見えない力に楯突くように
無我夢中に踏み込んで、ヤツの胸を狙って剣を振りかざした。剣の心得など持ち合わせぬわたしがヤツなんか……斬れる訳がない。
「わたし、出来ない」
弱気になるぐらいなら逃げ出せばいい。足を公園の外に向けようとしたとき、オオカミ男……輩はわたしの前に立ちふさがった。
やだやだやだやだ!
『アイツはいくら圭ちゃんが逃げても追ってくるよ』
「どうすればいいの?」
『戦うしかないね』
そのとき、わたしの背中を押したのは子ネコの声だった。だけど、動かない脚がやけに怖がって理屈を捏ね回す。
「おねえちゃん!どこかにつれさられるよー!」
「……わたし」
「きゃああ!こわいよ!」
『相手は人間ならば誰でも持ち得る心の隙。動物たちを人間の都合に巻き込みたくないと思う願いがあれば、きっと勝てるはずだよ』
「……」
『付け加えれば……。圭ちゃんにも潜む心の闇はアイツと同じだ。だから逃げられない』
「……」
『圭ちゃんも生きとし生けるもの。心を持つ基本は同じだけど、どこかで間違ってしまったんだ。獣になりかけた人間を救えるのは
言うまでもなく、圭ちゃんだけ。二つの種族と通じることが出来る圭ちゃんだからこそだよ』
191 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:26:11.91 ID:i2mVeFOx
迷った。迷った。でも、迷ってらんないことだってある。
冷静に判断するよりも、無我夢中に体当たりすることがもしかしてわたしに足りてなかったのかもしれない。
剣は狂ったような自意識をわたしに植え付けさせていた。いや、剣のお陰で何かが出来るかもと錯覚に陥っているのかもしれない。
「……」
「たーすーけー」
「……」
『どうする?圭ちゃん』
「……」
『……』
「戦う」
冷静さと我武者羅の二つの武器でわたしは見たことのないような敵に立ち向かう決心が付いた。
輩が子ネコを離せば事態はわたしに好転する。ただ、その確率はゼロに近い。かといって、子ネコを抱く手を剣で狙うのはあまりにも
リスクが大き過ぎる。抜き差しならぬ状況のまま、輩はわたしをじっと狙っていた。そしてことは動き出した。
輩の右腕がわたしを抱え込むように唸り、弧を描き、爪を剥き出して襲い掛かってきた。剣を構えたわたしは身を守るように体を縮める。
手首に重くのしかかる衝撃がまるで電撃が体の中を貫くよう。人間の力では到底耐え切れない衝撃に耐えたのはわたしの中に潜む獣の力かもしれない。
『圭ちゃん。コイツには勝てるはずだよ。きっと』
果して『ふう』の言うことは本当なのか、そして幸ちゃんはどこに消えたのか。不確かなことばかりに囲まれて、わたしが
今出来ることだけに力を注ぎ、きりりと剣を握り締める。
不確かでも、完全に否定しない限り確かなものになると信じ、わたしは足を踏み込んで輩の右脚を狙った。子ネコに危険が
及ばないようにだ。確かに手応えがあった。剣先から滴り落ちる体液が鼻をつく。どす黒いという訳でなく、真っ白な牛乳のような
液体だったが鉄の匂いがした。一矢報いることが出来て、調子づいたわたしはさらにたじろぐ輩の左膝を斬った。
(もしかして、わたし強いのかも)
きっと勝てる気がした。だって、現に目の前に立ちはだかる欲獣に傷を負わせることできたし。攻撃は最大の防御って言うけど、
防御を固めれば怖いものもない!輩が襲い掛かるもの、わたしはまるで小犬のように体が軽く動くし、するすると木の葉のように
攻撃をかわすことだって、快感さえ覚えるようになってきた。
再び獣の脚を狙い剣先かすめると、花びらの散り際かと思わせる白い体液が舞った。体勢を崩した輩は反射的に子ネコを手放し
砂煙上げて尻餅をついた。子ネコはわたしの元に駆け寄るが、傷を負った獣の凄惨な姿を見せたくなかったので離れるよう諭した。
子ネコはわたしに一礼し草むらに姿を隠した。後はアイツだけ。体中にわたしのアドレナリンがみなぎり、頼りになる剣を握り締め、
立て直した体で迎え撃つ構えを取るが、砂煙立ち込める視界が晴れたときには既に輩の大きな爪がわたしの剣をかわしこめかみに
当たる程の近さにあった。
正直、調子に乗っていた。
輩はわたしのイヌミミ狙って鋭い爪生える右手でわたしの腕を薙ぎ払った。同時に振りかざした手を返す際に、わたしのイヌミミを
爪でえぐっていた。脳に届くぐらいの激痛が走り、滴り落ちる真っ白な液体がわたしの頬に、メガネに張り付いて玉のように落ちた。
匂いからしてそれはわたしの血液だと分かった。真っ白な血液。公園の芝生に顔を埋めながらも、今現在、わたしが人間のではない
ことの証であることを身をもって確証したのであった。大地が、地面がこんなに冷たいなんて、生きていて初めて知った。
192 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:26:43.17 ID:i2mVeFOx
痛い。
痛い。
ずきずきする。
死んでしまうかも。
命って、呆気なく消え去るものなんだ。だから、誰もみな大切にしてるんだ。
お互い大切にしているものだこそ、相手を傷つけ、命を奪い、欲しいままにするときは……必死なんだ。わたしの血が全て流れ
地上に注がれてしまうとき、誰かにわたしの命を預けることってことか。でもそんなこと、今はさせて堪るもんか。子ネコの為に。
そうだ。金だ!輩が欲しがるお金だ!アレは従順だからね。アレさえあれば何でも出来るからヤツも欲しがるわけか。堪らないね。
後生です!後生だから、お金、いくらお金を積んでもいいから、手放しかけたわたしの命をわたしに返してくれ。
「幸ちゃん……」
麻痺してゆく体でも、わたしの頭に突き刺さる輩の足の爪と藪に隠れた子ネコの声が届いていた。
ものすごく重い。命の重さだ。その一方、だくだくと血が流れ、体が軽くなってゆくような気がした。
残った力で顔を上げると、何もかものが薄っすらと見えて、公園がまるで黄泉の国のどこかに見えてきた。
真っ黄色の空に真っ黄色の芝生。白く続く一本道の脇でゆらゆらと揺れる真っ黄色の木々。そこに横たわるわたし。
もしかして、二度と幸ちゃんと会えないかも。
幸ちゃんとの別れが気付かないまま過ぎてゆくのはいやだ。
とめどなく流れる血潮。全力で誰かにぶつかれば、自分も傷つく。生きていれば誰もがぶち当たる常識。
でも、ここで死んでしまえば、ヤツの牙に、爪に斃れたら……犬死じゃん。
『圭ちゃん』
まるであの世から聞こえてくるような、天から響く迎えの声。いや……『ふう』だ。
『本当はいけないんだけど……、ぼくの使い果たしていない「命」を分けてあげる。だから、絶対勝って』
「いま、行くよ。花がきれいだよ。きれな……花が。あ……ふう、だ」
『だめ!幸ちゃんも圭ちゃんもまだこっちに来ちゃだめだ!!』
幼い声に揺さぶられ、黄色い世界と灰色の世界を行き来していると、不思議にだんだんと体が軽くなってきた。
『ふう』の言う、「命」を分けてくれたのかもしれない。理屈などどうでもいい。命さえあればなんだって出来るんだし。
「花……きれいだよ。ホント。はな……」
193 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:27:13.94 ID:i2mVeFOx
わたしの何気ない言葉に黄色い大地が消えた。そして、隠れたはずの子ネコは黄色い草木の間からモグラのようにひょっこり顔を出し
じっと目を丸くして地面に伏したわたしを見つめていた。消えゆく命をどうすることも出来なく見届ける幼子。もしかして?え?
「はな……。『はなちゃん』なの?」
『え?ホント?幸ちゃんに擦り寄ってた?あんなに懐いていた?』
「はなーーー!」
子ネコは自分の名前を呼ばれたと思い込み、わたしの声に反応していたのだ!!
遠のいていた意識も戻り、はっきりとした視界が甦り、そして憎むべきオオカミ男と愛すべき子ネコが再びわたしの眼球に写った。
わずかな力で膝付いて立ち上がり、飛ばされた「ドッグ・イヤー・ソード」を拾い握って、ヤツに向かって宣誓した。
「わたし。動物たちの為ならイヌになる!!」
すると。
「ドッグ・イヤー・ソード」から火が上がる!!
めらめらと、立ち上がる焔。オオカミ男と子ネコは恐れ戦いて怯んだ。
『け、圭ちゃん!今だ……よ!』
わたしはヤツの首根っこを狙い燃え盛る「ドッグ・イヤー・ソード」を振りかざした!
火柱が上がり、あたり一面焼き尽くすかのごとくの火炎がわたしの周りに巡っていた。
劈くような轟音が地面に叩きつけられるようで、オオカミ男から傷つけられたときよりも大きな衝撃が身に振りかかった。
さらに焼けるような熱さは直視できず、わたしは身を丸くするしかなかった。誰かを傷つけるときには、自分も傷つく覚悟が
いるんだっけ。と考えられるぐらいに理性と冷静さを取り戻すにはさほど時間は要しなかった。
膝付いて起き上がる。
周りの景色、確かめる。
太ももに付いた砂がこそばゆい。
時計の針はわたしたちが公園に来たときとさほど変わらず。
消えた。
何もかもが消えた。
わたしのイヌミミも、尻尾も。メイド服も、剣も。傷つけられ流れた血も。
わたしに牙を剥いた忌まわしき獣も。
『はなちゃん』も。
そして、あの『ふう』の声も同じように消えた。
194 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:27:44.96 ID:i2mVeFOx
帰ってきたのは幸ちゃんだった。地面に倒れ込んで動かない幸ちゃんに纏わり付く一匹の子ネコが幸せを運んできたかのような。
いまだ深い夜の中、わたしが幸ちゃんの名前を呼び続けると、やがて意識を取り戻し元の美人の顔に戻った。
「……圭だ。圭がいる」
「大丈夫?」
「わたし、圭の体に入り込んだような気がするの」
「え?」
「圭と一緒に何か大きな獣と立ち向かったのかな。爪が耳に食い込んできて、血が顔に……」
およそ綺麗な顔から出てくるようなセリフではないよね?だって、言ってることおかしすぎるし!確かにわたしには『ふう』という、
少年のような声がわたしだけに聞こえたし。でも、わたしに入り込んできた声の主が幸ちゃんってことだって……。そうなるのかなあ?
分かっていることはわたしと幸ちゃんの記憶が同じ時間に重なり合い、体験も痛みも重なり合っていることだ。凄くない?
「じゃあ、わたしも聞いて。『ふう』って言う、男の子のような声が聞こえて……」
「『ふう』?」
「あっ」
思い出した。
わたしが小学校に入るか入らないかの頃までに飼っていた、一匹のイヌの名前。
『ふう』くん。
わたしが幼稚園に入る頃、両親が我が家に連れてきたんだ。「圭も手が掛からなくなったからな」と。
この部屋が古本で一杯になる前のこと、よく『ふう』と一緒に絵本を読んでいたこともあったっけ。
相手は言葉や文字を理解せぬイヌなのに、わたしは大切な家族の一人、出来の悪い弟のつもりでページを捲っていたっけ。
彼の名前を耳にして、口にしたときに、部屋と歩んだ遠い日の記憶が甦ってきた。
しかし、何故。ここに。
どうして、『ふう』と別れたんだろう。
ほんとに短い間だったのに、どうして忘れてしまったんだろう。
わたしたちは本当になにごともなかったような公園を遠巻きに見ながら家路についた。明日が待っている。
幸ちゃんが帰り際に「圭はおかしな子だね」と、にこっと笑ったことがわたしの胸に焼きついた。
195 :
魔法少女イヌミミ系 ◆TC02kfS2Q2 :2012/11/07(水) 19:29:17.41 ID:i2mVeFOx
#
やがて、公園のネコ泥棒の噂は消えた。
子ネコの『はな』も姿を現さなくなった。
人間のやることなすこと全ていい加減なもんで、過ぎ去ってしまったものなど誰も振り替えず、雨後の川のように流れていく。
流行り廃りは激しくて、例えば書店の店頭に並べられた本たちなんかも、時の流れに抵抗できずぐるぐると世代交代してゆく。
だからこそ、わたしはずっしりと構えて古くからわたしをそっと抱いてくれる古書が好きだ。主を一生忘れない忠犬のようだ。
「はなちゃん……元気にしているかな」
ネコ泥棒をとっちめるために証拠写真と勇んで幸ちゃんが持ってきたデジカメには偶然撮っていた『はなちゃん』の画像が残っていた。
深夜、幸ちゃんが呟くネットを介して見せてくれたが、見るのも辛いので画像をスクロールする直前。
「あ。今、ウチの屋根通った!」と幸ちゃんは呟いた。
本当かどうかは幸ちゃんのみぞ知る。
幸ちゃんとネットの上で別れた後、わたしの部屋、人呼んで『犬見堂古書店』で年季の入った本を捲る。真夜中の船に乗ったような
気持ち良さ。ゆーらゆらと月の下でまぶたが重くなるネコのように。わたし、『犬見』ですけどね!やがてわたしは夢心地に吸い込まれ、
安心しきってしると……、過ちを二度も三度も繰り返すのが人間のいいところだと今更気付いた。
わたしは人間ってだけで驕っているのかもしれない。
人間なんかケモノだし、死ぬときゃどんな動物たちと一緒。お手繋いで我ら生き物。いや、こんな考えこそが驕りだろう。
でも、人間しか出来ないことなんかいろいろあるし。例えば、笑うこと。幸ちゃんの「圭はおかしな子だね」という笑顔。
それは幸ちゃんが人間だから出来るのだ。ならば、人間が動物たちの為に出来ることとは……。
イヌだ。
イヌだ。
イヌになれ!
吠えろ。
喚け。
噛み付け。
そうだ。わたし……。
「動物たちの為なら、わたしイヌになる!」
おしまい。
完結です。二夜に渡ってこの場をお借りしました。
投下終了です。
197 :
創る名無しに見る名無し:2012/11/18(日) 17:29:11.99 ID:RAW+1yHp
あげ
198 :
創る名無しに見る名無し:2012/12/12(水) 07:50:32.21 ID:fvfwAOGM
保守
199 :
錯羅:2013/01/09(水) 23:02:56.36 ID:MBUVVbu7
200 :
創る名無しに見る名無し:2013/02/11(月) 23:09:32.99 ID:ETfYqHur
200
誤爆しました
保守
保守
下手ですが書きためたのがあるので
>>205 ナイトメアの設定もいい加減で、別の星から来た謎の産廃業者もどき
音楽が一番大事な上條恭介と、恭介の彼女なのに全然構ってもらえない志筑仁美
二人の仲が破綻した設定で
上條恭介は志筑仁美の心をズタズタにした
仁美のたった一人の親友だった、美樹さやかも行方不明になってしまった
仁美は、さやかと意気投合しかけていた佐倉杏子に近づくが、杏子は仁美に冷たかった
さやかを苦しめた仁美と話す事など無かったからだ
そんな仁美にQBが囁く「僕と契約してくれたら、どんな願いも叶えてあげる」と
仁美はさやかに会いたいとの願いで契約に応じた
>>206 仁美は白夜のような空を見上げていた
「仁美…」
自分を呼ぶ懐かしい声に振り向く
白い服を着た美樹さやかが立っていた
「さやかさん!」
「…ったく、QBの奴ぅ…」
「無事で良かった…」
「いやぁ…無事かどうかは…へへへ…あ、ここで私と会った事は誰にも言わないんで欲しいんだ」
「仁美も大変だよね!あんな無神経な男と付き合っててさ!」
さやかと話し込んで仁美は泣いて笑って元気を取り戻した
「そろそろ時間だね…」
「また、さやかさんに会いに来ますわ!」
「あ、うん…でも決まりとか制約とか色々あるから…そんな顔しないで!いつも私は仁美を見てるから」
「で?さやかには会ったのかい?」
杏子が呟くように聞いてきた
「え?」
杏子「私も魔法少女なんだよ!願い事したんだろ?」
「…」
杏子「は!全部顔に出てるよ!そっか、そっか、さやかに会えたか」
機嫌良さそうな杏子に「この事は黙ってて…」と仁美が言いかけたが、杏子がニヤリと笑った
「分かってるって!」
>>208 冷たい雨が降っていた
空を見上げていた仁美の視界が白い物に遮られた
「もう、普段着じゃここまで来られない」
頭の上から、さやかの声がする
青い衣を着たさやかが少し高い場所に立ち、後ろからマントを広げて仁美を囲んでくれていた
「杏子にバレちゃったね」
仁美はしばらくの沈黙の後、重くゆっくりと「ごめんなさい」 と謝った
さやか、視点が定まらず無表情になる
やがて視線を下に落としたが、明るく「仕方がないよ」「杏子上手いもん」と返した
それからは黙ったまま雨の中を2人で立っていた
「ね、まどか…覚えてる?」
「まどかさん?さあ?存じませんわ」
「そっか…まどかも仁美の心配していたよ」
「また、お会いして下さいます?」
「うん…でも、この世界にもルールがあるから…そんな顔しないで!私はいつでも仁美を見てるから!」
>>209 「円環の理の導き?」巴マミが少し困った顔で聞き直した
「いつかは訪れる魔法少女の運命ね」
「それが希望なのだと信じるしかないわ」
「希望なのでしょうか?」仁美が問い直した
「希望と呼ぶにはふさわしくないと思いますわ」
マミが仁美を見つめる
「なぜ?」
仁美「だって、何もありませんもの!ただただ生きている人間の監視をするだけ!そんな生活ばかり続けていたら気が滅入ってしまうに決まってますわ!」
マミが吹き出した「まるで見てきたみたいね!」
仁美「ええ!だから希望なんだとは思いません!私ならもっと良いルールを考えますわ!」
(ふぅん…)声に出さずマミが呟く
>>210 立っていられないほどの暴風雨
遠くにさやかが立っているのが見える
仁美はさやかに近づこうとするが何かに阻まれて進めない
大声で叫んでも風にかき消されてしまう
さやかは動かずに仁美を見つめていた
「私とさやかさんを阻もむルールなんて!」
「こんなルールを作った奴を絶対に許さない!」
>>211 仁美の姿は次第にぼやけて見えなくなっていく
完全に見えなくなると先ほどまで激しかった雨と風が止んだ
さやかは深い溜め息をついて変身を解き、道の脇の大きな木に向かって声をかけた
「そこに居るのは分かってるよ!シャルロッテ」
「えへへ、アンネも一緒だよ」
「うぅ…ったく…」
木の陰から2人の少女が現れる
「凄い雨と風でしたね」「対敵性侵入者の防衛システムが作動するなんてね」「…」三人で帰り道につく
さやか「まだ仁美には、そんな力は無いけど防衛ラインを突破された時には私は剣を抜かなくてはならない」
「…」「…」
アンネ「あの子が、最初に来た時に着ていた服は学校の制服?」
さやか「うん…で、どこから見てたんだよ?」
アンネ「次に来た時に着ていた服は白だったね」「また!」
シャルロッテ「私達が着てる服の白に合わせたんだよ!きっと」
さやか「でも、あの時すでに私は戦闘体制を取らないと合わせてもらう許可が出なかった」
アンネ「今日は青い服を着ていたね…さやかに合わせたのね…きっと長い時間かけて、おしゃれしてきたのよ」
シャルロッテ「それなのに、あんな泥だらけになって可愛そう」
さやか「…今、一人で泣いてるよ…」
214 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:13:02.01 ID:sygr7Drt
>>213 ちょっと長いかもです
しかも未完かもです
>>212 ほむらとマミと杏子、そして仁美が集まっていた
仁美が口を開く「あなた達は私に嘘をついているのですか?そうでなければ騙されていますわ!」
マミが困った顔で「魔法少女に関する事なら何も嘘はついてませんけど…」と答える
仁美「マミさん、あなたは自分がいつか消え去るのを納得の上で契約したと、おっしゃいましたよね?」
マミ「ええ、そうよ」
仁美「あなたは事故に遭い助かりたいとの願いで契約したのですね?それっておかしいと思いません?いつか消え去るのに?」
マミ「あの時は、ただ助かりたいだけで…」
仁美「絶対絶命の状況の自分が、将来の事を考えたりしますかしら?」
マミ「でも、そう言ったもの…」
仁美「誰かに記憶を変えらた、と思いません?」
マミ「誰に…?」
仁美「まどかですわ」
ほむらが反射的に立ち上がる「いい加減な事を言わないで!」
仁美「どうなさったの?まどかさんを御存知?」
ほむら「知らないわ!」
杏子「嘘…まどかの名前を呼んだじゃん」
マミ「あ…美樹さんが円環された時」
215 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:16:40.94 ID:sygr7Drt
>>214 仁美「今まで確証は無かったけど、まどかが本当に居たのがハッキリしたわ」
ほむら無言
仁美「それも私達のかなり近しい所に居たのね」
マミ「それで、私達の記憶は変えられているって本当なの?」
ほむら「知らないわ」
マミ「私…ずっと自分を責めているのよ…何で家族を助ける事を願わずに、QBと契約の内容なんかについて話あってたんだろう?って」
杏子「あたしだって、自分が消滅するのを受け入れて契約したのが信じられない時がある…だって…自分の家族の事を祈ったんだもん…あたしも家族と一緒に居たいよ」
ほむら表情を変えない
マミ「何か知ってるの?私達は記憶を変えられてるの?」
杏子「何とか言えよ!」
ほむら「知らない物は知らないわ」
杏子「嘘を言うな!まどかって何だ!?あたしに何をした!?」
216 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:24:09.62 ID:sygr7Drt
>>215 ほむら無言
マミ立ち上がる「もう、いいわ」
ほむらを見下ろし「これから私は私の為に戦うだけ」
仁美に体を向けて「これからは仁美さんに協力します」
仁美「ありがとうございます」
杏子「あたしも仁美につくよ」
仁美「うれしいですわ!私の知っている事は全てお話しますから!そして真実をお見せします」
ほむら「死せる者の住む地に行ってはだめよ…生きる気力が蝕まれ、必ず後悔するわ」
マミ「あなたに私達を止める権利は無いの」
杏子「今さら何を言っても無駄だよ!さて、そろそろ帰るわ」
仁美「日時が決まれば私から連絡しますわ」
ほむら「行かせない!絶対に止めてみせる」
マミ「追いかけようなんて思わない事ね…さもないと、私と戦うハメになる」
217 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:27:47.92 ID:sygr7Drt
>>216 古びた壊れかけの教会の前に立つ仁美
「ここが本当に集合場所?」
教会の中から杏子が現れる「よう!入んなよ!マミはまだかい?」
教会の椅子に腰掛け「前から聞きたかったんだけど」と杏子が尋ねる
「さやかと連絡を取れるのか?」
「直接のやりとりは出来ないのですけれど」と、仁美は鍵つきの日記を出す
「これに連絡が書き込まれるの…」
杏子「…?」
仁美「この日あたりに会いに行きたいと書くと、しばらくして返事が書き込まれるの」
杏子吹き出す「プッ…つまり!さやかとの交換日記!?さやかが交換日記!?ギャハハハハ!」
仁美「あ…あら!これは交換日記じゃなくてよ!交換日記もしたけど…」
杏子「あははは!さやかが良く続いたな!」仁美(…そう言えば、交換日記にもう1人参加してたような…)
ガタン!
物音に2人が振り向く
息を切らしながらマミが入ってきた
杏子「お?遅かったな!」
マミ「ちょっとね、暁美ほむらと空中戦をね」
218 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:32:48.61 ID:sygr7Drt
>>217 仁美が日記を開く
「マミと杏子も一緒に会いたい」との仁美の書き込みの下に、時間の指定と意味不明な文字の羅列
マミ「何かしら?パスワード?」
仁美「私も良くわからないけど、今回は三人が手をつないでこの文字を呟けばいいみたいです」
杏子「じゃあ、日記はあたしとマミで持ってあげようよ」
自然と円形になり仁美が呟き始めた
気がつくと風景が変わっていた
教会の中では無い
三人はどこかの野原にいた
少し離れた場所に一人の少女が立っていた
魔法少女の姿をした、さやかだった
219 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:33:51.25 ID:sygr7Drt
>>218 さやかが大きな声で尋ねる「私は、この地の守護を任された者だ!この地へ何の用があって来たか!?」
押し黙る三人
困惑する仁美「え…えっと」
杏子が口を開く「おい!さやかだろ!?私だよ!杏子だよ!」
杏子、さやかに向かって歩き始める
さやか「止まれ!」
剣に手をかける「そこより進むな!」
杏子、一瞬たじろぐが「どうしたんだよ?さやか?さやかだよな?」と笑みを浮かべ
「あたしを忘れたのかよ?杏子だよ」手を広げて前に一歩進む
(ライン突破、抜刀)
さやか剣を抜く
杏子「馬鹿野郎!」変身する「寝ぼけてんのか!てめえ!」
槍を構えた
(侵入者の敵性を確認、これより排除する!)
さやか突っ込んで来る
220 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 12:38:41.42 ID:sygr7Drt
>>219 杏子応戦
だが、さやかは地の利を生かし有利に戦う
ぬかるみに足を取られる杏子
足を滑らせ体勢を崩す
「しまった!」
ダーン……銃声が響き、さやかが倒れた
マミに太ももを撃たれたのだ
さやか体を起こし剣で太ももを切開
傷口に指を突っ込み銃弾を取り出し捨てる
立ち上がるさやか
傷口は見る見るうちに消えていく
言葉を失うマミ
しかし、我にかえり銃をさやかに向けて引き金を引く
カッ
銃への衝撃で射撃が反れる
銃に突き刺さったナイフ
身を引き構えるマミ
跳躍した少女から次々にナイフが放たれてくる
「お前の相手をするのは、このシャルロッテだ!」
222 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 17:46:30.32 ID:sygr7Drt
>>221不慣れですが、よろしく。
>>220 「中距離・接近戦か」慣れない攻撃に戸惑うマミ
「だけど」
飛び跳ねてナイフを投げるシャルロッテのボールのような軌道を読む
「そこ!」着地点に向かって引き金を引く
着地時の地面への銃撃でシャルロッテにスキが生まれた
マミがリボンを放つ
ピシッ!リボンに拘束されるシャルロッテ
銃口を向けるマミ
が、リボンは回り込んできた、さやかに切断された
マミ射撃
さやかは左に、シャルロッテは右に離れる
目標が左右に分かれ後退するマミ
「ヤレヤレ」杏子が後方に下がる
「そろそろ帰ろうぜ」
マミも後退
(ライン外への後退確認)
さやかもシャルロッテも下がった
杏子、チラッとシャルロッテを見る(何だよ…あんな奴と)
仁美「もう時間です…」
三人の姿は霞んで見えなくなっていった
223 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 17:50:58.24 ID:sygr7Drt
>>223 再び教会の中
杏子「あーあ、腹へった!何か食ってこ!」
仁美「ごめんなさい」
杏子「?何を謝るんだよ?こっちは、感謝してるよ」
杏子、出ていく
マミ「私達も帰りましょう」
「む!」「はっ!」マミは歩きながら、さやかの手の動きを真似するかのよう
仁美「楽しそうに見えますわ」
マミ「うふふ…美樹さんらしい、美樹さんだったわね」
仁美「さやかさんとお話させられなくて…」
マミ「言葉のやりとりはしなくても、たくさんの事を伝えてくれたわ」
仁美「はぁ…そうなんですか?」
マミ「でも、ちょっぴり寂しいかな?あのシャルロッテて子が少し羨ましいな」
杏子、1人で歩く
「いいパートナーじゃねぇか…」
目の前に人影
ほむらだった
224 :
創る名無しに見る名無し:2013/05/07(火) 17:58:35.65 ID:sygr7Drt
>>223 ほむらとすれ違う杏子が「希望なんて無かったよ」と言い残す
ほむら無言
振り向いて声をかけようとするが、言葉が出ない(だから言ったのに…)
魔法少女が魔獣を狩らなくなった
それぞれのSGが濁っていく
ほむらは仁美に「さやかに会いたい」と申し出た
仁美はあれから何度か会いに行ったが常に暴風雨なのだと断った
「それでも構わない」と、ほむら
できれば直接、まどかと話がしたかった
いつか、また会えるとは言われていたが…
日記に返事が書き込まれていた
仁美とほむらがさやかに会いに行く
この日は穏やかだった
野原に魔法少女の姿をしたさやかが立っていた
ほむらは「ここに、まどかに会いに来た」と目的を伝える
さやか「まどかは居ない」「私が殺した」
ほむら絶句
事情を聞いて鬼の形相になる
225 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 18:05:14.13 ID:sygr7Drt
>>224 円環された全ての魔法少女が見つめる中、まどかはさやかに首を絞められ殺された
遺体はさやかにより海に葬られた
さやか「皆に向かって、まどかが言ったの」「私を殺して」と
そして魔法少女が集まり殺害方法が協議され実行された
ほむらが鬼の形相で弓を構えて、さやかに矢を放った
矢はさやかの喉に刺さり首の骨を砕き貫いた
さやかの頭が首からグニャリと折れて体が倒れる
後ろにいたシャルロッテが悲鳴をあげて飛びだした
ほむら、仁美を振り返り「帰りましょう」と一言
仁美、自失茫然
ほむら「これ以上、ここにいては危険よ」
やがて2人の体は消えていった
226 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 18:10:22.82 ID:sygr7Drt
>>225 地面に横たわる首の折れたさやか
半狂乱で泣き叫ぶシャルロッテ
アンネが駆けつける「落ち着いて!シャルロッテ!」
「見せて」アンネの横に、もう1人の魔女少女が現れる
「ジャンヌ!」
「首を固定し矢を抜くわ!アンネ、しっかり頭を支えてて」
アンネ、さやかの頭を両手で持つ
ジャンヌは剣で矢を切断し首から抜き出した
「心臓が止まっている…ゆっくりと心臓マッサージをするわ」
ジャンヌ、さやかの服をはだけて胸を露出させる
剣をさやかのみぞおちに突き立て切開
傷口から手を入れ心臓をつかみマッサージを始める
シャルロッテ気を失う
ジャンヌ「あなたも相当な地獄を見てきたのね」
アンネ無言でさやかの頭を持ち続ける
227 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 18:11:24.23 ID:sygr7Drt
>>226 ジャンヌ「心臓が自分で動き始めたわ」
アンネ「間に合って良かった…首の損傷が治ったのね」
ジャンヌ「呼吸を回復させるわ」
ジャンヌが人口呼吸を始める
「ふー…」息を吐き出したさやかが目を開いた
「ジャンヌ?アンネ?」
ジャンヌ「落ち着くまで動かないでね」
アンネ「本当に、さやかの回復力って凄いのね」
やがて、さやかが身を起こす
「何か、手間かけさせちゃったね」
ジャンヌ「軽率よ」
さやか「うん…ちょっと確かめたくて」
ジャンヌ「何を?」
さやか「以前、ほむらに言われたんだ」「殺してあげるわって…本当かなぁ?って」
228 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/07(火) 18:16:16.57 ID:sygr7Drt
>>227 「なるほど」ジャンヌが応える
「さやかに暁美ほむらが自分の本心を語った言葉は『殺してあげるわ』だけなのね」
さやか「あ〜…うーん…他には…」
ジャンヌ「だけど彼女はあなたの言葉を全て信じているわ」
矢を手に取り「信じたから矢を放ったのよ」
さやか「でも殺したの事実なんだし…」
ジャンヌ「…詳しい事は言えないけれど、まどか様の復活はあるの」
さやか「え?」
ジャンヌ「重要なのは、暁美ほむらにまどか様の死を信じさせられた事よ」
さやか「…?」
ジャンヌ「地球でまどか様の存在を知っていた人物が暁美ほむらだけだから」
日は沈みかけて夕日の中を、さやか、アンネ、ジャンヌが並んで歩く
少し離れてシャルロッテがついてくる
シャルロッテ「さやかのバーカ、バーカ、バーカ」
さやか「はいはい、バカでごめんね」
シャルロッテ「謝っても許さないもーん、さやかのバーカ」
さやか「はいはい、私って本当にバカ」
230 :
創る名無しに見る名無し:2013/05/08(水) 00:50:41.22 ID:C6lG/7JK
>>229どもです
>>228 深夜、さやかが物思いしながら原っぱを行ったり来たりしている
「眠れないの?」近づいてきたアンネが声をかけた
さやか振り返って「ちょっと考え事してて…」
「まどかの事を…首に手を当てただけで絞めてないんだ…だけど…」
アンネ、切り株に腰を下ろし「みんな知ってるわ」
さやか「?」
アンネ「あれは必要な儀式だったのよ」
さやかも座り、星を眺める
「儀式?何の?」
「そうね…サナギが蝶になるための…と言えばいいかしら」
「そんな事は誰も私に言わなかった」
「今日のためにね」
「ひどいな!それ」
「ごめんなさい…いずれ、皆からも謝罪があるわ」
「だから、さやかを誰も責めなかったでしょ?さやかも内心は殺してないって思ってたでしょ?」
「うん…」
「まどか様が一部の者へだけど、さやかにその役をして欲しいと言われたみたい」
「…」
「仮死状態だけど、怖かったのかしら?」
あの日、首に手を置かれたまどかは、さやかの腕の中で目を閉じた
231 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:11:44.50 ID:C6lG/7JK
>>230 さやかが風を切り空を飛ぶ
「いつまでも、まどかを冷たい水の中にいさせられるかってんだ!」
ジャンヌ「さやかが水葬した方角へ向かった?それが『自分の持ち場を少し離れたい』と言ってきた理由ね…でも」
アンネ「まどか様が『復活の前に、さやかが迎えに来てくれる』と言われました」「実は昨夜、まどか様の話をしたのですけど」
ジャンヌ「必然も偶然も、それは誰にも分からないわ」
空を飛ぶさやかの姿が目撃された
「さやかだ!」
「いよいよ…」
各地で魔法少女達の歓声が上がる
高度を下げていく
地上、海岸でワルキューレが手を振っていた
着地
ワルキューレ「一緒に行くよ!」
「うん!」
2人で水面ギリギリを飛ぶ
「この辺りだ」
海中に突入
海底の岩場の中に、まどかが横たわっていた
さやかとワルキューレがまどかを引き上げる
海岸まで泳ぎ、まどかを抱きかかえて岸に上がった
「私の家に!」ワルキューレが案内する
まどかをベッドに横たえ「ここは、お客さん用の部屋?」
「うふふ…まどか様専用のお部屋」
「何か、色々と私だけ知らない事があるみたいね」
「私が知ってるのは、さやかがまどか様を迎えに来る事だけ」
さやかはワルキューレの家で仮眠を取った
深夜、気配で目を覚ます
部屋には、まどかが居ない
ワルキューレも飛び起きた
外に出る
232 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:24:52.33 ID:C6lG/7JK
>>231 「さやか!」声に振り返れば、まどかが海の上に立っていた
次の瞬間
さやかの瞳にははじけたように変身する、まどかの姿が写った
まどか「ありがとう」「私が目覚めるまでの時間稼ぎをしてくれて…これで地球へ行けるようになりました」
さやか「地球へ?今から行くの?」
まどか「今すぐには無理だけど」
まどかが空を見上げる「邪悪なナイトメアが地球に現れたの」
「ナイトメア?」
「上條君の姿をして…」
「!?何で恭介の姿を!?」
「仁美ちゃんを取り込むために」「仁美ちゃんを取めば、この世界まで来て私の秘密を探れると考えているみたいなの」
さやか「仁美はナイトメアに抵抗できないの?」
まどか「…たぶん無理…だって1人ぼっちだもん…そこに優しい上條君が現れたら…」
さやか手で顔を覆う
「できる限り早く地球へ…」まどか上昇していく
(でも、蝶になってもすぐには飛べない…)
233 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:31:52.90 ID:C6lG/7JK
>>232 傷とアザだらけの仁美が歩く
ほむらがさやかを殺したかに見えた
逆上した仁美はほむらに戦いを挑んだが、逆に打ちのめされてしまった
公園のベンチに座り込む
「志筑さん?」目の前に上條恭介がいた
「どうしたの?ただ事じゃないね」
「…ほっといて下さい!」
「ほっとけないよ」
「あなたは私の事なんて!」
恭介、仁美の肩を抱く
「今まで悲しい思いさせてごめんね」
「う…」
恭介に肩を抱かれて泣いた仁美はいつの間にか眠ってしまった
恭介、仁美を抱き上げて去っていく
「何だ!?」異様な光景を杏子が目にしていた
仁美を抱き上げ宙に上がる上條
まるで見えない階段を上がっていくかのよう
やがて夜の空に明るい空洞が現れ、その中に上條は消えていった
234 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:35:28.50 ID:C6lG/7JK
>>233 杏子、走りながらマミに電話をかける
「志筑仁美がさらわれた!」
「誰に?」
「わかんねえ!上條恭介の姿をしてたが人間じゃない!」
公園の中を走り抜けた時
ベンチの上に見覚えのある鍵つきの日記を見つけた
「これってあの時の…」
鍵が開いていた
最後の書き込みが目に入る『恭介に気をつけて!恭介はナイトメアよ!恭介に近づくと仁美までナイトメアになる!』
「ナイトメア…?」
235 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:41:26.51 ID:C6lG/7JK
>>234 マミの部屋へ杏子が駆け込む
「見たままの事を話す」
マミ、日記を見ながら呟く「ナイトメア…ね…」
杏子「ところで、さっきから外が騒がしくないか?事故か火事でも…」
杏子、窓際に立ち「マミ!」
「どうしたの?」振り向いて、固まる
窓の外に巨大な手…猿の手のような
手先から肘までが宙に浮いていた
五本の指がマンションをつかんだ
別の場所からもう1つの手が現れマンションに手をかける
肘が曲がり一気に頭まで現れた
マミ「ワァーォ…」
杏子「ワォ…」
マミ「頭は犬…?」
杏子「たぶんダックスフンド…」
胴体は毛で覆われた人間
胸元に何か張り付いている
両手を左右に広げた人間の上半身
「仁美…?」
ハッと我にかえった
「キャアアアアアアアアア!」
236 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:48:52.18 ID:C6lG/7JK
>>235 「マミ!」パァン!杏子がマミを平手打ちする「目を覚ませ!」
「あなたこそ!」パァン!マミが杏子に平手打ちした「目を覚ましなさいよ!」
杏子「よ…よし!とりあえず魔法少女に変身するぞ」
2人が変身を終える
気がつくと巨大な犬がこちらを見ていた(目が会っちゃった)
手が伸びてくる
「えええええ!?」
窓ガラスを巨大な手が突き破り部屋の中をかき回す
「おうおうおうおうおう」
「いてててて…」ぐちゃぐちゃになった部屋で杏子が声をかけた
「マミ…大丈夫?」
マミ「大丈夫…じゃない」
杏子「とりあえず…」身を起こす
目の前に巨大な犬の顔
手が再び伸びてくる
「杏子!槍を出して!」
杏子、槍を出すが
手が手前で止まった
杏子の手前に落ちていた仁美の日記をつまみ、手は出て行った
マミと杏子が部屋から出て非常階段を下りる
「魔獣?違うな…獣人?でもないか…」
立ち止まって胸元に張り付いた仁美を見る
化け物の手は仁美の前で日記を開いている
「あれって、志筑仁美のナイトメア?」
「日記にあったナイトメアかもね…」
仁美は日記を虚ろな目で見ながら何かを呟いている
マミ「きっと、パスワードを呟いているのよ!」
杏子「あいつ!ここから円環の世界に侵入する気か!」
237 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 01:55:19.45 ID:C6lG/7JK
>>236 「行かせないわ!」マミ、銃を取り出し手を撃つ
手に当たり仁美が悲鳴を上げた
杏子、飛び降りる「痛みは仁美も感じるのか」
地面に落ちた日記を拾い上げ、逃げる
「マミ!逃げろ!」
横を走るマミ「もう逃げてるわよ!」
振り向けば耳をパタパタさせながら追いかけてくる犬の顔
「追いかけてくるわ」
「まずい…」
「そうだわ!地下に隠れましょう!」
「地下ってあそこしかないよな…」
川に下りて下水の排水管に入る
「くせ〜」「文句言わない」
239 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 12:20:52.87 ID:C6lG/7JK
>>238まだ3分の1も終わってない状況です
>>237 マミ「ナイトメアが見えるわ」
杏子「ちょっと変わって」
マミ「足もと気をつけてね」
パコン
地上、マンホールがゆっくり開く
「よいしょっと…どれどれ?まだまだ安心できない距離ね」
パコン
キー… マンホールの上に車が止まる
マミ「あれ?おかしいな?開かなくなった」(…でも、こんなの美樹さんの役よね…)
再び下水道を歩く
杏子「まさかナイトメアが、ダックスフンドと猿なんてねー」
マミ「あんな物を相手に私達は戦ったりしないわ」「巨大なのがやっかいなだけで」
杏子「巨大と言えば仁美のオッパイって、想定外の大きさだったね」
マミ「みんなダックスフンドと猿に驚いて逃げてたけど、今後が心配だわ」
杏子「あの仁美がオッパイを放り出して現れるんだもんね」
マミ「…」
杏子(オッパイはスルー?)
240 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 12:24:22.35 ID:C6lG/7JK
>>239 『…見滝原一帯には退去指示が出され…』
「おまたせー!さ、食おうぜ」杏子が背負ったリュックサックを下ろす
「退去指示?みんな見滝原に向かってるよ」
食べ物をマミに渡し街の巨大モニターを眺める
「…仁美のオッパイ見ながら飯を食うのもな…」
「ライブカメラの中継ですって」
「お食事中、失礼します」
声の主を杏子が睨む「…上條恭介…何の用だ?ナイトメア?」
「ハハハ…その通りです」
「話が早い…では、その日記を僕に譲っていただけませんか?」
「イヤだね」
「ハハハ…そうですか、わかりました」
「では、面白い物をお見せしましょう」
モニターを見ていたマミが「動いた!」
巨大な猿の手が紙片をつまみ、仁美に見せている
仁美が何かを呟いた
突然、上空で爆音が走った
「キャ!」「な、何だ!?」
「ロシア軍機ですよ」
241 :
創る名無しに見る名無し:2013/05/08(水) 12:32:51.08 ID:C6lG/7JK
>>240 翌日、見滝原
「ここから先は警戒区域で立ち入り禁止です」
大勢の警察官が動員されて交通が規制されている
「困ったなぁ…」
「おい!アホなナイトメア」
「あ、佐倉杏子…後ろにいるのは巴マミだね」
「ひょっとして、あのダックスフンド猿に近づけなくて、ずっと困ってたのか?」
「実はそうなんだ」
「はぁ…」杏子とマミがため息をつく
杏子「で、どうするんだよ?」
ナイトメア「これからどうなるんですか?」
杏子「警察・消防の合同捕獲作戦が始まるんだよ」
「それなら、勝手に逃げたりしないから簡単に捕まりますね」
杏子「お前、何を落ち着いてるんだよ?捕まってどこに運ばれるかわかんないのに」
「それは昨日に説明した通りどこに運ばれても、見滝原に帰ってきますから大丈夫です」
マミ・杏子「なるほど」
「でもね」とナイトメア
「今日の正午を過ぎれば、自動的に空間操作の作業が始まります」
杏子「…おい!それじゃ世界中で戦争が始まるじゃないか」
「だから近づけなくて困ってるんですよ」
242 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 12:38:45.76 ID:C6lG/7JK
>>241 「とにかく」と杏子
「私達の身の安全に関わる問題だ」
電話をかけ始める
杏子「ほむらと連絡を取ったから、これから会って一緒に対策を考えよう」
マミ「結局、我が身の事にならないと団結できない私達か…」
マミ「これが、その日記よ」
ほむらが目を通す
「要するに、正午までに志筑仁美の呟きを止めればいいのね」
マミ「そうなんだけど…」
ほむら「私達ならできるかも知れない」
マミ・杏子「!?」
杏子「おい!アホなナイトメア」
「あ…話し合いは終わりましたか」
「この日記を仁美に読ませられるか?」
「見せれば自動的に手に取り志筑仁美に読ませますから」
「その場合は仁美に仕込まれていた呟きはどうなる?」
「日記を読んでの呟きが最優先ですので中断されます」
「よし!頼むぞ!さやか」
243 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 12:39:47.55 ID:C6lG/7JK
>>242 杏子「この厳重な警備体制の中、どうやって仁美にたどり着くかだが」
マミ「時間的にも正面突破しかないわね」
ほむら「万が一、途中で妨害されて進めなくなったら」
杏子「接近戦が得意な、あたしが引きつける」
「よし、行くか」
「スタート!」
3人がダッシュする
「おい!止まれ!止まれ!止まれ!」
突破
駐車されていたパトカー、バスに駆け上がって飛ぶ
「3人、中に入った!」
白バイが追いかけてくる
「はい!そこの3人、止まりなさい!道の端に寄って止まりなさい!」
「うるせーな!」
「こっちが近道よ!」
ブロック塀に駆け上がり家の間を抜ける
通りに出て現地警備本部前を走る
「あれは?」
トラックとバスが並ぶ
「そろそろかな?」
機動隊員が盾を並べて道を封鎖していた
跳躍
二重の封鎖
「えーいっ!」杏子体当たりで突っ込む
その上をマミとほむらが飛ぶ
目標が見えた
244 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 12:46:31.28 ID:C6lG/7JK
>>243 装甲車が並んでナイトメアを包囲していた
「物騒な物が並んでいるわね」
「まだまだあんなの可愛い方よ」
「間違って撃ってこないでよ」
ネットとロープが並べられる上を走る
「おいおい」
「こら!近づくな!」
跳躍
足下にたどり着く
日記を取り出す
巨大な手が下りてくる
ページを開いて渡す
仁美の前で日記が開かれる
日記を見た仁美が呟やきかけたが、唇が動かない
やがて、虚ろで半開きの目から涙が流れた
日記の最後の書き込み
『仁美
親愛なる私の心の友
私はいつもいつまでも、あなたのそばにいます
美樹さやか』
新たな一文が加えられていた
目と唇を閉じて涙を流す仁美を、マミが見守っている
ほむらは遠くを見ていた
245 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 12:51:11.61 ID:C6lG/7JK
>>244 杏子は機動隊と戦っていた
「いてーな!このやろ!手加減してやりゃいい気になって…」
ダーン… ダーン…
銃声で機動隊員の動きが止まる
マミが空に銃を放ちながら近づいてきた
「防御!」
隊員が一斉に盾に隠れる
「成功よ!撤収するわ!」
杏子、隊員の間を走り抜ける「覚えてろよ」
マミ「正午を過ぎても動きは無かったわ」
杏子「さて、帰りはどうするか…うっ」
どうっと突風が吹く
「何だよ?今の風…わっ!」
今度は反対方向から吹いた
「…」
駆け足で戻る
見張りをしていたほむらも異変を感じていた
「この感じ…」
「みんな隠れてるじゃん」
現場関係者達が隠れてはいるが、銃口を向けられているのがわかる
「ヤレヤレ…」
2人が帰ってきた時、空に異変が起きた
「空が変な色になってる…」
247 :
創る名無しに見る名無し:2013/05/08(水) 18:10:27.68 ID:C6lG/7JK
>>2461つ抜けてしまいました
>>240 「今の現象について説明しましょう」
ナイトメアが一方的に喋り始めた
「志筑仁美の能力は別次元への移動ではありません」
「2つの空間をつなげる能力です」
「志筑仁美は異なる別の次元の空間同士をも、つなげられる能力があるのです」
「予定されていたコースを飛行していたロシア軍機の、コースの一部と日本上空をつなげたので、日本上空にロシア軍機が出現したのです」
「志筑仁美が呟いていたのは、つなげる空間の座標なのです」
「我々は志筑仁美を支配下に置き、無抵抗でこの作業を行うよう、肉体的に精神的に改造と調教を行いました」
呆然とするマミと杏子
「もし、あらゆる国同士の戦闘機が相互に短期間に領空侵犯を重ねてしまえば…」
「戦争が起きちゃいますよね」
「ま、僕も無理に日記を奪ったりはしません」
「その日記さえ頂ければ、地球で騒ぎを起こしたりしませんから」
「明日の正午まで待ちます」
「僕は志筑仁美のそばに居ますから」
ナイトメアは闇に消えて行った
248 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 18:16:07.31 ID:C6lG/7JK
>>245 太陽とは違う、柔らかな光が空に広がった
その中心から光のかたまりが迫って…
3人は光の中にいた
お互いの顔を見つめていたが、4人目に気づいた
仁美が裸で倒れている
再び凄まじい突風
目を開ける
やはり仁美が倒れていた
杏子が駆けより「仁美!仁美!」頬を叩く
マミ「脈はある」
杏子「よし!とにかく裸じゃ可愛そうだ」何処かへ走っていく
この光を遠くから見ていた人々は、『空から巨大な光る手が降りてきた』と語った
ほむら「あの時もこんな感じがした…」
杏子、救急隊員の白衣を持って帰ってきた
白衣について誰も何も聞かない
仁美に着せてマミが背負い3人は去った
気絶した別の上條とダックスフンドと猿を残して
249 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 19:25:43.54 ID:C6lG/7JK
>>248 ナイトメア社 地球出張所 営業会議
「課長!この光る巨大な手の正体は、まどかですよ!明らかに!」
「おかしいな〜…暁美ほむらの脳内情報では確かに『死んだ』と…うーん…暁美ほむらも、騙されてたのか?」
「課長が、まどかは死んだと言うから、まどか捕獲計画は中止になったんですよ?」
「志筑仁美には逃げられるし」
「まあ、生きてたの分かったから『まどか捕獲計画』は続行だ」
「えー?メチャクチャ進化しちゃってるじゃないですか?今さら無理ですよ」
「逆に考えるんだ!まどかの方から、再び地球に来させるのさ」
「何か良い案でも?」
「地球に未だかつて起きた事が無い大異変を発生させれば、まどかは慌てて来るさ!その準備を今から始めておこう」
250 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 19:42:13.44 ID:C6lG/7JK
>>249 モニターが見える公園のベンチに、暁美ほむらとQBが座る
QB「1人の少女の力によって、世界中が戦争をする寸前にまでなったのかい?」
ほむら「ええ、世界中の空が戦場になろうとしていたわ」
QB「でも…それこそ、いつか君が語ってくれた魔女の能力そのものじゃないか」
ほむら「そうね」
(魔女とは災いを撒き散らす者…)
ほむら「もし…」
(誰かが、大勢の魔法少女を利用するために狙っていたら?)
「…考え過ごしよね」
QB「さっきから、どうしたんだい?」
ほむら「何でも無いわ」
星を眺める
(あの柔らかな光の主は、まどか?生きているの?)
夜空に星のような赤い光が見えている
「…」
その光が次々に増えていく
「!?」
QB「あの赤い光は僕の仲間達さ」
251 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 19:44:40.06 ID:C6lG/7JK
>>250 ほむら「あんなに大勢のインキュベーターが何をしに地球へ!?」
QB「契約のために決まっているじゃないか」
ほむら「契約なんて、そうできるもんじゃないでしょ!?」
QB「ある貧しい国の少女が契約してね…その少女の願いが『軍隊に入り、偉くなれますように』だったんだ」
「…」
QB「願いは叶って、彼女は若くして軍指導部の一員となり、魔法少女による部隊を編成する事にしたのさ」
ほむら空を見上げながら「いったい、どれだけの数の…」
QB「今、ちょうどニュースをやってるね」
街角の巨大モニターに某国の軍事パレードの様子が映っている
QB「これから契約するのは、この少女達…しかし、その一部だ」
数百人の少女達の行進が映っている
号令で一斉に敬礼をした
QB「願い事はあらかじめ決められていて『我が国が世界最強の軍事力を持ち、世界の覇権を握りますように』と願うのだそうだよ」
ほむら慄然となる(…悲しみと憎しみを繰り返すこのどうしようもない世界…)
252 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 19:57:42.60 ID:C6lG/7JK
>>251 ほむら「その契約はいつ行われるの?」
QB「現地時間の今夜0時に一斉に行われると聞いているよ」
ほむら「契約が行われれば、どうなるの?」
QB「世界の様子も人々の記憶も、すっかり変わっちゃうだろうね」
ほむら「そんな事…想像もつかない」
QB「でも、君には改編される前の記憶があるんだろ?」
(ハッ!?)
ほむら「…その記憶改編の影響を受けない手段があるかも…」
その日の深夜、緊急にマミの部屋に仁美・杏子・ほむらが集まった
「こんな事を急に言っても信じられないでしょうけど…」
一通り話が終わって「そこで提案です」
混乱する3人は話の内容が整理しきれない様子
「今から美樹さやかに会いにいけないかしら?」
「え?」と仁美
「次元を越えれば記憶改編の影響から逃れられるかも知れない」
杏子「ん〜…全然話について行けないが、とりあえず避難するんだな?」
ほむら「帰ってくれば世界がすっかり変わってるわけだから、相当な支障が起きる可能性はあるわ」
仁美「その前に、さやかさんから返事が来るかどうか…だって…」
ほむら「ごめんなさい」
杏子「何を謝ってるんだ?」
253 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 20:03:56.45 ID:C6lG/7JK
>>252 「てめぇ!」ほむらを殴りかかる杏子、それを制止するマミ
ほむら「美樹さやかを弓矢で射ったくせに、「助けて欲しい」なんて自分勝手でワガママだと分かっているわ!」
マミ「美樹さんは大丈夫よ!日記に書き込みがあったじゃないの!」
仁美が日記に書き込みをする
(もし、帰ってくれば何もかも変わっているかも…それなら、行かないで私自身も皆と一緒に変わった方が…)
沈黙
仁美が泣き始める
「行きたくない…家族と一緒にいたい…」
杏子「こればっかりは仁美が居ないと話にならないもんな」
マミ「仁美さんには選択の余地が無いものね」
ほむら「2人はいいの?」
杏子「家族いないし」
ほむら「…ごめんなさい」
仁美が日記を開く「返事がきたわ!」
3人が顔を上げる
仁美「行きましょう!泣いてごめんなさい」
仁美「悪い魔法少女に負けてたまるもんですか!」
マンション屋上に上がる
4人が手をつなぎ仁美が呟く
風景が野原に変わった
白い服を着た美樹さやかが近づいてくる
「みんな!よく来たね!」
杏子「この前に来た時と態度が全然違うじゃんかよ」
254 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/08(水) 20:14:34.84 ID:C6lG/7JK
>>253 さやか「今日は避難してきたんでしょ?避難してきた人は無条件で受け入れる決まりなの!」
マミ「私達の事情は分かってくれてるのね」
さやか「はい…帰ってからが大変だと思います…」
ほむら「…」さやか「…」
「グスン…グスン…」一番後ろで仁美が泣いていた
さやか「…今、世界が改編されたわ…」
緊張が走る
1人の黒髪の少女が近づいて来た
「間もなく日本に対して全世界からの一斉攻撃が始まります」
「作戦を伝えます」
「志筑仁美さん」
仁美「はい!?」慌てて涙を拭く
紙片を渡し「帰ったら直ちにこの人物に連絡を取って下さい」「私を信奉する一族の中の魔法少女です」
「紙に中に書かれた文字は暗号名で『自分には、ミサイル及び戦闘機からの防空能力がある』と伝えてくれれば十分です」
「折り返し彼女から連絡があるので、伝えられる座標を南極圏にでもつなげて下さい」
「それで日本に打ち込まれるミサイルや、向かってくる戦闘機の全てを南極圏に放り込めます」
杏子「…誰だよ?あの偉そうなの」
さやか「ヒミコちゃん」
マミ・ほむら「!?」
256 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 02:23:36.37 ID:OF9zkgn2
>>255続きです
>>254 黒髪の少女が向きを変える
「巴マミさん、暁美ほむらさん、佐倉杏子さん」
3人「はい!?」
「あなた方は分散して空中で待機し、業を煮やして直接攻撃をかけてくる、敵・魔法少女群を撃退して下さい」
ほむら「3人で!?」
「十分です」「相手は同じ祈りで契約していますから、戦闘及び攻撃方法は同じです」「そして実戦の経験値は、あなた方の方が遥かに高い」
さやか「そろそろ時間だね…」
「御武運を」
257 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 02:39:40.86 ID:OF9zkgn2
>>256 「全機消失!レーダー画面上から消えました!」
「日本からの攻撃なのか?」
「確認できません」
「司令!空中管制機から連絡が入りました!」
「こちら司令部!状況を報告せよ!現在地は!?」
『こちら空中管制機、全機機体に異常なし、現在地東経138°南緯78°……南極上空です!遥か上空には多数のミサイル出現を確認!どうなっているんだ!?』
某所施設内
各地のレーダーに捉えられる、日本に接近する戦闘機やミサイルの情報が送られ表示される
データをオペレーターが読みあげ、志筑仁美がそれら全てを南極圏に弾き飛ばし続けていた
南極上空に飛ばされた戦闘機はやがて燃料切れになり、パイロットは次々に脱出していく
「制空権が取れない…作戦中止命令を…」
制空権が取れない限り、上陸作戦は行われる事が無い
258 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 02:49:37.02 ID:OF9zkgn2
>>257 「全軍下げろ!我々が出撃する!」
揚陸艦に待機していた特殊部隊、純黒のスーツ姿の少女達が甲板に上がってくる
「本来なら制空権を得ての上陸になるのだが、航空戦力の著しい低下を招く結果となり上陸作戦は延期となった」
「ならば敵の想像を超えた、我々自身が突破口を開く!」
「分隊!前へ」「出撃!」
黒服姿の少女達が空に上がっていく
「来たわね」
高空で待機していた巴マミが銃を展開する
「斉射!」 ドン!
上昇中の魔法少女の集団が上方からの射撃に襲われる
「あんな上から!?いつの間に!?」
「ちっ…高角度で上昇!突撃!」
二度三度と上空からの射撃に襲われる中
「あっ」上部に意識を集中させていた集団のわき腹に杏子が迫っていた
接近戦
護身用の拳銃を抜くが間に合わない
集団は側面から崩されていった
「あいつが親玉か!」杏子、指揮官に接近
「防御!」護衛が盾になる
「あちらへ」指揮官付きが安全な場所へ誘導するが
その先に暁美ほむらが弓を構えていた
冷静に矢を放つ
護衛が盾になるが次々と打たれていく
集団は総崩れになった
「く…一時撤退!体制を立て直す!」
ほむら「戦闘の経験不足ね…大集団が少数に包囲され殲滅する事はあるのよ」
259 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 02:51:49.40 ID:OF9zkgn2
>>258 次々と作戦の失敗が参謀本部に報告される
「あれだけの数がいて、なぜ勝てなかった?」
相手に指一本触れる事ができなかった
「この者に連絡を取りたい」
「…信用できますか?」
「この者と共同作戦を取るつもりは無い」「我々の戦い方を変えるのだ」
ほむら「恐らく次は酷い戦闘になるわ」
数枚の写真を出す
杏子「これは?」
ほむら「かつて、ワルプルギスの夜と呼ばれた物よ」
マミ「具体的な能力とかわかっているの?」
ほむら「異常気象を引き起こし甚大な被害を出すわ」
仁美「なぜ、これを…?」
ほむら「いわば、魔法少女のなれの果ての集合体だから」
集合体で思い当たるものがある
(ナイトメア…)
260 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 03:03:19.89 ID:OF9zkgn2
>>259 「参謀長、ナイトメアの代表団が到着しました…」
「わかった!応接室へ!」
「あの…参謀長…その代表団なんですが…」「?この写真の人物とは違うのか?」
「いえ、同じです…ですが」
「なら問題ない、相手を待たせるな」
早足で応接室に入る
「ようこそ!……」
上條恭介が3人並んでいる
3人が立ち上がり
「初めまして!」
「初めまして!」
「初めまして!」
挨拶をする
「…初めまして…私、今回の作戦を立案した者です…」
名刺を交換し、「どうぞ…」ソファーに座る
「あの、1つお聞きしたいのですが、皆さん大変お顔が似てらっしゃいますが…」
「あ、これは偽装のために実在の人物の姿を写したのです」
(それじゃ、かえって目立って偽装にならんだろうが!)
(おい、こいつ今『それじゃ偽装にならんだろ?』と思ったぞ)
(え?相手を見た目で判断するのは失礼だよね)
(こいつ、偽装の意味がわかってるのか?誰が誰だかわからないようにしてるんだよ)
261 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 03:07:57.60 ID:OF9zkgn2
>>260 「本題に入りましょう…これらの人物ですが」
4人の魔法少女の写真を出す
「はい、良く知っています」
「この他にも2人、行方になってる仲間がいます」
「あ、そうなのですか?」
「我々が追っているのは、その内の1人…殺害されたとの情報を得たのですが…」
「それが、思いもかけぬ姿で現れ、この4名と接触したのです」
「なるほど…我々が倒したいのは、この4名なのです」
「私達ナイトメアとしては、志筑仁美を捕獲すればそれで良いのですが」
「ならば残り3名は倒し、志筑仁美は捕獲するとの方向で」
「それなら協力できます」
「我々の技術を応用すれば…そちらが提案された魔法少女の集合体は理論上では完成させられます」
「何人を集合体としようと考えられていますか?」
「千人を、それを3体」
262 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 03:15:15.83 ID:OF9zkgn2
>>261 (ふっ…ただ一ヶ国、我々に降伏しなかった日本も終わりだな…これで世界は全て我々の物だ)
(こいつ、世界征服ごときが夢だったんだとさ)
(下等な生物は発想が低いねー)
(我々のように、まどかを捕獲し研究して、永遠に生きる方法を開発しようなんて発想は起きないよ)
263 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 03:17:57.61 ID:OF9zkgn2
>>262 真夜中、ウェーク島、グァム島、北部フィリピンに千人の黒服を着た魔法少女が整列した
目の前に明るい空洞が開く
「前進!」号令で列が前に進む
それから数時間後、異様な天気図がテレビの画面に映された
太平洋上、ほぼ同時に3つの台風が発生した
台風の進路は、それぞれ直線で日本を目指している
そして急速に発達していった
「来たわ」早朝、ほむらから連絡が来る
『902hPa、最大瞬間風速75m…』
マミが驚く
「これがワルプルギスの夜…?」
仁美が予想進路の空間を南極につなげたが、それから台風は動かなくなる
4日目、睡眠不足で仁美が倒れた
しばらくして空間は元通りになり、同時に台風の北上が始まる
『890hPa、最大瞬間風速80m…』
「仁美のおかげで時間稼ぎができたんだ…あたし達も避難しよう」杏子が言う
「そうね」マミも同意見だった
ほむら「逃げ場所なんか無いわ」「何もかも破壊される」
杏子「やめとけよ!逃げろ!」
ほむら「私は逃げない!戦うわ」
杏子「…あたしをからかってる…って様子でもないよな…あんた、マジなんだな」
264 :
創る名無しに見る名無し:2013/05/09(木) 08:10:38.66 ID:e4MyB2Px
うむ
投下乙
266 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:18:43.20 ID:OF9zkgn2
>>264>>265続きです
>>263 杏子、苦笑い「仕方がねぇな」
「あら、逃げるんじゃなかったの?」マミも来る
「本当に仕方ないわね」戦闘の準備を始める
ほむら「生き残れる見込みなんて無いのよ」
杏子「どっちにしてもな」
仁美も出てくる「私も戦います」
杏子「あんたは家族と外国にでも逃げな」
仁美「でも…」
杏子「いても足手まといなだけ、なんだよ」
仁美、去って行く
やがて台風接近による猛烈な風で建物が地震のように揺れ始めた
窓ガラスは全て割れ飛んできた石が壁に当たって落ちる
床に這いつくばる3人
マミ「台風の目に入ったら…攻撃開始よ」
風雨が止んだ
建物が倒壊し車が横転している
杏子「あれか」
上空に黒い巨大な人型
3人が飛び上がる
光のつぶてが飛んで来る
攻撃を避けながら接近
マミが射撃を始めた
ほむらが相手の顔面を狙い弓を構えた時
《《《 ア゙ー 》》》異様な声が発せられて体が震えた
光のつぶてが体に直撃する
石に当たるような衝撃を耐えながら、杏子が槍をほむらの弓にすえて弦を2人で引く
「行けぇ!」グン!槍はワルプルギスの夜の目に刺ささった
《《《ガ!》》》声を上げて横転する
巨大な手を避けながらマミがもう片方の目に射撃を集中した
「落ちろ!」杏子が2つ目の槍を胴体に突き立て、そのまま槍で切り裂く
裂け目の中から無数の手が伸びてきた
それをまた切り裂く
「やばい!」捕まった
267 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:22:13.27 ID:OF9zkgn2
>>266 杏子の体が飲み込まれていく
「くそっ」
駆けつけたほむらが手榴弾のピンを引き伸びてくる手の中にねじ込む
「耳をふさいで!」
ドン!爆発で体が吹き飛ばされる
回転しながら落下していくワルプルギスの夜
マミ「方向感覚を失ったのかしら?」
ほむら「一時的にはあり得るかもね」
杏子「地上に落ちればどうなるんだ?」
ほむら「落ちてバラバラになればいいのだけど」
落下
ワルプルギスの夜の姿が消えて行く
マミ「どうなってるの?」
空も晴れてきた
杏子「とりあえず、降りて次に備えるか」
マミ「気象情報はどうなっているのかしら?」ワンセグでチェックする「…そう言う事か…」
杏子「どうした?」
音声を大きくする『本日、上陸した台風は弱い温帯低気圧となりましたが、先ほど南の海上で新たな台風が発生しました』
マミ「無限ループよ!台風の!ワルプルギスの夜は何度倒しても再生して襲ってくるわ!」
268 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:30:22.05 ID:OF9zkgn2
>>267 杏子「無限ループ?」
あきらめた口調のほむら「なるほど、そういう事…それが私とワルプルギスの夜の関係ね」
「これは私の宿命…戦いよ!2人が力尽きるまでワルプルギスの夜と戦い続ける必要なんて無いわ」「…それは私の役なのよ…」
杏子「永久にワルプルギスの夜と戦い続ける宿命?そんなのあるかよ」
再び風が強くなってきた
コンクリートのガレキに座り虚ろな目をした杏子が言う
「今は近づいている2つの台風の事だけ考えようぜ」「続けて2つ来るワルプルギスの事を…」
「どっちから先に叩く?」後ろから聞き覚えのある声
杏子「?…!?さやか!?」マミとほむらも驚いて振り向く
さやか「仁美に連れてきてもらったんだ!」
さやかの横に仁美「日記に美樹さんから『すぐ会いたい』って連絡があって、会いに行って…そうしたら…一緒にたくさんの人が」
さやかが後ろに大集団が並ぶ「みんなを連れて来ました!」
ほむら「みんな魔法少女なの!?」
さやか「さて、今度はこっちが時間制限あるんだから!杏子、槍を借りるね」
「方向は?」「これでいいわ」
手当てしてもらう杏子「あの人たちは2列に並んで何してるの?」
少女が答える「忌まわしいナチスの兵器からヒントを得た攻撃なんですって」
杏子「ナチス?」
「じゃあ、行くよー!」
さやかが槍を持ち、二列縦隊の真ん中を走り抜ける
両サイドの魔法少女は通過するさやかに推進エネルギーを放出し、受けるさやかが加速する
「あの方法で砲弾を150qぐらい飛ばしたそうよ」
269 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:34:52.83 ID:OF9zkgn2
>>268 ヒュン!
高速でワルプルギスの夜に突っ込み、内部を破壊しながら貫通
同時に台風の勢力が急激に弱まった
仁美が手渡された座標を呟く
上空に、大穴が開いたワルプルギスの夜が、さやかに牽引されながら現れた「よーし!かかれーっ!」
「半殺しにして連れてきて、各個体が帰還する前に叩き落とす作戦なんですって」
瀕死のワルプルギスの夜に魔法少女の集団が襲いかかり、空から黒い服を着た少女が落ちていく
「次行こう!次!」
見ていた杏子が立ち上がる「面白そうだな!次は、あたしがやる!」
「あ、まだ傷の手当て済んでないよ!」
「やり過ぎないようにね」
「わかってるって!」
「うおおおお!」杏子加速
「行くぜ!黒い三連星!スカート付き!」
貫通
「やった!」
2体目が現れ、バラバラにされて行く
「3つ目行こう!3つ目!」
「ちょっと遠いな」「大丈夫、大丈夫」
ぼーっと様子を眺めるマミとほむら
手当てをしてくれた少女が包みを広げて「お菓子いかがですか?」と差し出す
マミ「あら、ありがとう」「じゃあ、お茶しましょうか」
ほむら「そうね…手伝うわ…」
「そっち行ったぞー!そっち」「捕まえろー」
日が射してくる
お茶を飲む3人
ほむら「もうすぐ夏ね…」
270 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:40:40.70 ID:OF9zkgn2
>>269 さやか「警察に三千人の不法入国者を捕まえたと連絡しておいたから」
そこにフラリと現れる3人の上條恭介
「またあっさりと倒してくれたな」
さやか「!?」
杏子「こいつらがナイトメアだよ」
さやか「紛らわしいわね!何なの?あんたたち?」
「んー…地球人に理解しやすく言えば産廃業者かな?」
「廃品回収業者と言えばしっくりくるかもね」
クマの帽子を被った魔法少女が口をはさむ「宇宙のあちこちにブラックホールを作って何が産廃業者よ」
「そこに危険な物を捨てているのが我々の3仕事だ」
「ま、今回は廃品回収業者として…いやいやリサイクル業者として複数の個体から1つの集合体を完成させたわけだが」
さやか「まどかが強大な力を持っているとか言うから、どんな凄い奴らかと思えば…」
ほむら「まどか?やっぱり生きてるのね!」
さやか「と…と…」慌てて口をふさぐ
「そんな事なら我々は既に知っているさ」
「どうやら、かなりの進化を遂げたようだな」
「大変に興味深い存在だよ」
さやか「仁美、こいつらが何かしてきたらすぐに逃げてきて」「避難者なら無条件で受け入れだから」
杏子「あら?あたしも、か弱い女の子よ?」
271 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:43:35.35 ID:OF9zkgn2
>>270 さやか「で、2人ともついてきたわけ?」
仁美「ふふ…」
杏子「いやーナイトメアが、おっかなくってさー」
さやか「ちょっとごめん…」「みんなーっ!今日はありがとーっ!」
さやか「さてさて、じゃあ今日は私達の世界を少し案内しますか」
仁美「わぁー!」
杏子「前はいきなり斬りかかってきたと思えば」
さやか「そろそろ時間だね」
仁美「じゃあ、また」
杏子「またな」
手を振る3人
「…」「…」「…」
「?」「?」「?」
仁美「おかしいですね」
杏子「時間オーバーしてるよな?」
さやか「ちょっと待って…」
杏子「どした?」
さやか「あっちの世界…時間が止まってる…」
272 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:47:58.68 ID:OF9zkgn2
>>271 3人が近くの集落に向かう
さやか「集落で宿泊するには、ちょっと手続きあるんだけど」
集落の入り口で簡単な手続きを済ませる
木造の家が並ぶ
さやか「あそこが私の家だ」
「どうぞ、どうぞ」
杏子・仁美「おじゃましまーす」
「おじゃましまーす!」シャルロッテが鍋を持って入ってくる
杏子「あ、あの時の」
シャルロッテ「もうすぐアンネも来るよ!」
仁美「私も手伝いますわ」
シャルロッテ「いいの!いいの!今日はお客さんだから!」
杏子「あれ?さやかは?」
集会所に魔法少女が集まっていた
「時間が止まってる?…地球がブラックホールに飲み込まれたって事?」
「もしくは地球の近くにブラックホールが発生したか…これだけの影響が地球に出ているのだから」
「まさか、太陽が?」「時間が止まるなんて考えられないよ!」
「何にしろ、そんな事をする奴らは」
「ナイトメアね」
273 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 12:51:32.47 ID:OF9zkgn2
>>272 杏子「あー、いいお湯だった」
仁美「近くに露天風呂温泉があったんですね」
さやか「着替え、それしか無くてごめんね」
仁美「ここでは、皆が同じ服装なのね」
「じゃあね」シャルロッテとアンネが出て行く
(何か変…?)
さやかと仁美と杏子が並んで寝る
天井を見るさやかが両手を伸ばし2人の手を握った
「?」
深夜、ベランダでさやかが誰かと話ている
「…私が行くしか無いの…」
「…絶対に罠だよ…まどか…」
杏子も仁美も起きていた(まどか?…)
275 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 17:37:53.04 ID:OF9zkgn2
>>274続きです
>>273 朝7時
さやか「それじゃあ、行ってきます…」
仁美・杏子「行ってらっしゃーい!」
3人の共同生活が始まって、数日が過ぎた
さやかは日々の警備の任務につき
仁美は家事をこなし
杏子は川で魚を取ったり、歌を歌って散歩したり…
「さやかさん!」仁美が追いかけてくる
「お弁当!朝早く起きて作ったの!」
さやか「お昼は詰め所で出るんだけど…あ、いやいや、今日は仁美が作ってくれたお弁当を食べるよ!うんうん」
杏子「あー!さやかだけズルい!」
仁美「ちゃんと杏子さんのお弁当も用意しましたよ!」
(新婚カップルみたいだな)
チュッ「…え?」
仁美、小走りで帰っていく
杏子「こらー!仁美ー!見てたぞー!」
詰め所でジャンヌがさやかに問う
「あの2人は地球の異変に危機感を持っているの?」
さやか「地球の時間が止まっているので、いつまでここに居ても誰にも迷惑がかからないと喜んでる…」
276 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 17:47:27.02 ID:OF9zkgn2
>>275 ジャンヌ「なるほど…では、今回の地球の時間停止の件は何も問題は無い」
さやか「はあ?」
ジャンヌ「何万年か何億年か後に再び地球の時間が動き始めても、人類の大半は時間が止まっていた事すら、わからない」
さやか「あ…頭がおかしくなりそうだよ…」
ジャンヌ「地球の時間停止の観測者になった志筑仁美も佐倉杏子も、この状況を喜んでるなら、第三者の我々が要らぬ御節介するのが間違いだ」
さやか「私はどうなるの?」
ジャンヌ「それは、さやか自身の責任問題」
夜8時
さやか帰宅「ただいま…」
仁美・杏子「おかえりなさーい!」
仁美「ご飯にします?それともお風呂?」
さやか「ご飯…」
食後は3人で風呂に行く
さやか「じゃあ、そろそろ寝ようか…」
…スヤスヤ〜…
仁美「クスクス…さやかさんたら…」ギュ〜
杏子「さやか〜…だっこ…」ギュ〜
(仁美…杏子…重い…)
4円
278 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 17:59:12.00 ID:OF9zkgn2
>>276 シャルロッテがさやかの家に向かう「もう、ガマンできない!」
「あの2人に一言ガツンと言ってやらなくちゃ!」
「こんにちは!」
「は〜い」奥から声
仁美が出てくる「あら、シャルロッテさん」
「さやかの事でお話が」
「主人は仕事に行ってますが…」
(主人て…)
シャルロッテが問う
「あなた達はさやかの何なの!?」
仁美「妻です」
杏子「彼女です」
仁美は「シャルロッテさんは?」
シャルロッテ「友達です!」
杏子「まあ、3人仲良くやってるよ」
仁美「全てを分け合って…ね」
杏子「さやかの右のオッパイは仁美ので、左のオッパイは私のだと言う感じで」
シャルロッテ「じゃあ、私の分は!?」
仁美「残念ながらシャルロッテさんにお分けできる主人のオッパイはありませんが、私で宜しければ」ポロン
シャルロッテ「まあ!」キラキラ
279 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 18:04:35.10 ID:OF9zkgn2
>>278 さやか「ただいま…」
仁美・杏子・シャルロッテ「おかえりなさーい!」
4人並んで寝る
↓
さやか、布団を踏み脱いで大の字になる
↓
大の字に寝るさやかの右手を仁美、左手を杏子、股関をシャルロッテが枕に寝る
(誰か早く地球を元に戻して…)
ベランダから中を覗くまどか
ドキドキ「いったい、どうなるのかしら…」「もう少し様子を見よう…」「頑張って!さやかちゃん!」
280 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 18:24:40.48 ID:OF9zkgn2
>>279 「課長、ナイトメア本社、営業部長からの入電です」
(とうとう来たか…)
『おい、地球からの入金はどうなってるんだ?ワルプルギスの夜とやらを3体作成したんだよな?』
「はっ!入金はまだされていません」
『そりゃ、そうだよな?地球の時間を停止すりゃ入金なんかされないよな…ん?』
「はい、おっしゃる通りでございます」
『この、どアホめーっ!』
「ははっ!申し訳ございません…しかしこれは、まどか誘き出しの為の…」
『まどかは出て来ないじゃないか!一両日中に地球の時間停止を解除して入金させろ!
時間停止など要らん金を使わせおって、このボケーッ!』
「はっ!」
(…何で地球に大異変が起きたのに、まどかは出て来なかったんだろ?)
ヒソヒソ「うちの課長って、やる事が全部裏目に出るんだよな…」
さやか「最近みんな寝相が悪いんだけど」
杏子「そうかな?」
さやか「起きてる人に言っても仕方ないかも知れないけど…せめて、優しくしてね」
杏子・仁美・シャルロッテ「?」
「ハァハァ…」
窓の外には今日も人影
(ハァハァ…)
281 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 18:45:31.47 ID:OF9zkgn2
>>280 物見の丘で警備中のさやか
笑顔で近づいて来る仁美と杏子とシャルロッテ「あなた〜」
(あなたって…)
さやか「警備中である」
仁美「ごめんなさい」
杏子「今日は、お昼をさやかと一緒に食おうって皆で決めて」
さやか「後で詰め所で…」
シャルロッテ「さやか〜ここだよ〜」
さやか「あまり公私混同は良くないよ」
杏子「さやかの性格にピッタリの仕事だな」
仁美「うふふ…怒られちゃった!じゃあ、お昼にしましょう…」
杏子「何でいきなり!?」
仁美と杏子の体が消え始める
さやか「地球が元にもどったんだ」
仁美「やだ…やだ…やだ…」
さやか「また、日記を書くよ」
杏子「さやか…」
シャルロッテ「行っちゃったね」
さやか「このお弁当は皆で作ったの?」
シャルロッテ「そうだよ」
さやか「…おいしいね」
マミ・ほむら「わっ!?」
マミとほむらの前に、いきなり裸の仁美と杏子が現れて
仁美「わ…わ…わ…」
杏子「仁美!とにかく変身だ」
仁美「えっと、今は?」
ほむら「ワルプルギスを倒して皆を送ったところでしょ?」
マミ「美樹さんと、少しは話できた?」
仁美「さやかさん?さやかさんとは…さやかさんとは…」
杏子「あ〜ん…さやかぁ〜…」
仁美「グスン、グスン、グスン」
マミ「どうしたの?」
282 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 18:50:33.63 ID:OF9zkgn2
>>281 マミ「1ヶ月近くも時間が止まっていた!?」
ほむら「確かに、それぐらい髪の毛が伸びているわ」
まだ泣き続ける杏子と仁美
マミ「美樹さんと別れて寂しい気持ちはあるだろうけど、今は大変な時なのよ」
杏子「グス…グス…そんなすぐに頑張ろうなんて気持ちになれないよ」
ほむら「警察が来たわ」
ワルプルギスの夜を構成していた三千人の魔法少女が拘束され移動していく
マミ「きっと、魔法少女を取り返しに来る」
『あの…入金がまだ確認されていませんが』
「今回の作戦の失敗は貴社が作られたワルプルギスの夜に欠陥があったとの結論が出ました」
『いや、我々はそちらの示された企画書通りに作成しましたので』
「欠陥品に対して支払いの義務はありませんね」
『そんな…!』
「今回の失敗で我々は特殊部隊の隊員の大半をも失ったのですよ!この責任を取って頂かないと、我々としましては次の手も打てないわけです」
『責任?何です?それは』
「ワルプルギス作成に要した、我が軍の三千人の魔法少女の返却ですよ」
『返却?捕虜になったんですよね?』
「もし、魔法少女を全て返却できるのなら支払いに応じます」
『うーん…』
283 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/09(木) 18:54:31.67 ID:OF9zkgn2
>>282 『志筑仁美の協力でも得られれば、空間をつなげて簡単に捕虜を奪還できるんでしょうけど』
「そんなに簡単に相手が捕まるか」
「参謀、ナイトメアが志筑仁美を捕獲し連行してきたとの事です」
「な!?」
応接室に座る志筑仁美
その後ろに立つ3人の上條恭介
驚きの表情で参謀が現れる
「なぜ、こうも簡単に?」
「会って事情を説明してみれば、ついて来てくれました」
仁美が手のひらを口にあて、参謀に内緒話があるとのポーズ
参謀「?」
仁美「ボソボソボソ…」
参謀「よく聞こえないが?」
仁美「あなたはバカなのですか?」
気がつけば室内の様子が一変していた
そこはマミの部屋の中だった
285 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:19:58.12 ID:pmEPqbt9
>>284続きです
>>283 部屋の中にはマミとほむらと杏子がいた
マミ「まず靴を脱いでちょうだい」
テーブルにケーキとお茶が並ぶ
ほむら「もう、お終いにしましょう」
「こんな贅沢な暮らしをしている人間には、我々の気持ちはわかるまい」
マミ「何よ!2回も私の部屋をメチャメチャにして!」
「それは言いがかりだ!1回はしぶしぶ認めるが」
マミ、ムッとする
杏子「警察に連絡しておいたから、話はそこでユックリやればいいさ」
ほむら「作戦参謀が日本政府に拘束されてしまうのだから、これで日本への攻撃も起きないでしょう」
「日本への攻撃は私が立案してきたが正直なところ、手詰まりだ…続行される可能性は無いかもな…だが…」
「だが?」
「ナイトメアがどう出てくるかはわからない」
286 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:23:42.65 ID:pmEPqbt9
>>285 杏子、公園でモニターを見ながらパンを食べる
『次のニュースです。最近、世界各地にナイトメアと名乗る謎の団体から意味不明の文章が送られてるイタズラについて。』
「あ?」
『これは、ワルプルギスの夜と呼ばれる兵器を製造した支払いが、地球人類からなされていない事への対処をするとの内容で…』
「どこまでもバカな奴らだな…」
『支払いが一週間以内になされない時には、太陽を差し押さえすると通告していています。』
「やっぱりバカだ…」
『支払い無き場合には、勝手に太陽をブラックホールに変えて、産廃処理場にするとも言っており…』
「…」杏子、口を開けたまま
『今度は本気だ!バカヤロー。との一文で締めくくられているとの事です。』
「貴様ら人類が我々をバカにするからだ」
後ろに上條恭介がいた
「おかげで今期はボーナスも無くなった」
「知るか!」
287 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:31:42.45 ID:pmEPqbt9
>>286 「しかし、時間を止めた我々の恐ろしさをなぜ人類は理解できないんだ?」
杏子「時間が止まっていた事を人類が知らないからだ」
「ふん…つまり、人類はバカなんだな」
杏子「ずっと言ってろ!」
「その内に我々に泣きついて来るさ!金が無いなら地球を担保に銀河銀行で借りてくればいい」
杏子、立ち上がる「もう、会話する気にもならねー」
ナイトメアが後ろでわめいていたが、気にせずに杏子は去る
月明かりの下、立ち止まり後ろを見る(時間を止めるのにかかる経費って、ワルプルギスの夜を作るよりもかからないんだな…)
288 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:34:54.59 ID:pmEPqbt9
>>287 「時間を止める経費?」ほむらが興味無さそうに言う
「そんなの全然かからないわよ」
(円盤の盾を傾けるだけだもの)
ハッと気づいて杏子を見る
杏子「?何だよ?」
ほむら「…何でも無いわ」
(私が失った円盤盾をナイトメアが何処かで手に入れてた!?)
ほむら「ナイトメアって…」
杏子「?産廃業者だっけ?」
(あーっ!しまった!誰かに何処かで拾われて、ナイトメアの手に渡ったんだ!)
ほむら「ナイトメアには会えるの?」
杏子「いや…こっちから会いに行った事は無いな」
目の前を上條が通り過ぎる
「さようなら」
「さようなら」「おう、また明日」
目の前を上條が通り過ぎる
「おい、アホなナイトメア」
「何だよ?佐倉杏子」
「ほむらが話があるそうだ」
289 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:41:40.89 ID:pmEPqbt9
>>288 「話?」ナイトメアが面倒くさそうに言う
ほむら「聞きたい事がある」
杏子「あたしゃ腹へったから先に行くよ」
並んで歩く、ほむらとナイトメア
「上條君と暁美さん?あの2人って付き合ってるの?」
何人かのクラスメートが遠くから見ていた
「時間を止める方法?ブラックホールに吸い込まれる以外には僕は知らないな」
ほむら「役立たずね!」
「悪かったね」
ほむら「もし、知る事があれば教えて」
「あれ見てよ…連絡先を交換してる」
「まだ付き合って無かったのね」
「今日が初デートか」
290 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:45:11.91 ID:pmEPqbt9
>>289 ほむら「もう1つ聞いてもいい?廃品回収すれば仕分けするでしょ?」
「するね」
ほむら「利用価値があればリサイクルするのよね?最近、円盤型の盾を回収しなかった?」
「さあ?それを探しているのかい?」
ほむら「それは私のだから、見つかったら返して」
「ただじゃ無理かもね」
(ちっ…それこそ時間が止められたら奪い返してやるのに)
「何が奪い返すだ」後ろから声がする
別の上條恭介が立っていた
「あれは解析するために本社に送ったよ」
ほむら「私のよ!返して!」
「その発言、君に宇宙道徳があるとは思えないな」
(どこかで聞いたセリフを…)
「どうでもいい」
「上條君が2人?」
「上條君に双子の兄弟いたっけ?」
「ちょっとあれ…」
「えっ…」
3人目の上條恭介が現れた
「あの円盤は時間の操作をする物だったんだね」
「今回の時間停止は、あれを改良した物で行った」
「おい…時間停止?何だよ…それ」
「後で説明してやるよ」
(まずい…)
「まずくない」
291 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 01:54:12.14 ID:pmEPqbt9
>>290 (時を止める能力と思考を読む能力ね…)
「そうだよ」
「…」
「間違っても我々と戦おうなんて思わない事だな」
「わかったわ…」ほむら、背を向る
「ははは!君は、なかなか賢いな!」
3人の笑い声を背中に受けて足早に去っていく
(ダメだ…勝てない)
「そうだよーっ!」
「何?何?」「ダメだ、勝てないと思ったのさ」再び笑いが起きる
「変わったデートだねぇ…」
「いや、変わってる以上に上條君が変だよ」
「上條君の帰る方向が違う…」
思わず上條の後をつける
繁華街の路地に入り建物に入る
「おおーっ」「何と、ラブホテルに!」
後ろから声「おい!」「お前ら何を見てるんだ?」
「えっ!?」
2人の上條恭介がいた
「あーあ、捕まっちまった…」ビルの非常階段から杏子が見ていた「知ーらねっと」
「自業自得よ」頭の上からほむら
「いいのかい?クラスメートだろ?」
(勝手に押し付けられた…)と言いかけて言葉を飲み込む
杏子の脇を通り階段を降りていく
杏子「さて…どうすっかなー」
292 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 02:00:38.45 ID:pmEPqbt9
>>291 警察に通報したが『こちらから確認してみます』とのやる気の無い返事
(どうしよう…)
ラブホテルから出てくる1人の人物
やはり上條恭介
囁く声で「303号室でお待ちしてますよ」
(くっ…)
変身する
建物に入った
誰も居ない
階を上がり303号室を開ける
ベッドに座るクラスメート3人
「暁美さん!」涙目だった
室内には数人の上條恭介
「もうすぐ警察が来るわよ」
「だから?」
気がつくと室内にいるのは自分1人だけ
(時間を止められた)
ドアを開けて出ようとすると、横から手が伸びて邪魔をする
耳元で「他の3人には無事に帰ってもらったから安心して」
飛び下がる
「そんなに怖い顔しないで、カラオケでもやってったらどうだ?」
大勢に囲まれ、自分を笑う声
「何かして、俺らを楽しませろよ」
ほむら「宇宙道徳はどうしたのよ!?」
「道徳に反してラブホテルに入ってきたのは自分だろ?」
爆笑
293 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:31:59.73 ID:pmEPqbt9
>>292 「帰るわ」ドアの方へ向く
だが向いたはずが元の場所にいる
大爆笑
怒りと屈辱で体が震えて、涙が溢れそうになる
「おい、もう1人来たぜ」
ノックする音
ドアが開く
杏子だった「よう」手に袋を持っている
「楽しそうなパーティーだな」
袋の口を開き「プレゼント、持って来たぜ!」ぶちまけた
「ちょ!?」時間を止める
「わあああ!」
カーペットの上に大量のゴキブリと蜘蛛と画びょうが散乱していた
「動くな…」
時間停止でゴキブリも蜘蛛も動かない
「もし体が触ると、時間停止が解除される…」
だが
ちょん…カサカサカサカサ
「ひゃああああああ!足から!」
逃げようとして画びょうを踏んだ
「ぎゃああああああ!」
「動くなって!」…うわああああ!
画びょうを踏みながら風呂に逃げ込む
「水も湯も出ない」「時間停止してるから…」「解除だ!解除」
「杏子?」
「よ!帰ろうか?」
「そうね……きゃああああああ!」
「お?走れるのか?元気、元気!」
294 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:37:28.73 ID:pmEPqbt9
>>293 ほむらと杏子が並んで歩く
杏子「時間を操る能力か…面倒くさい奴らだなぁ…」
ほむら「でも、お互いに合意したわ」「戦わないって」
杏子「まあ、あたしは特にナイトメアに恨みも怒りも無いけど?バカな奴らだと思ってるぐらいで」
ほむら「だから挑発があっても乗ってはダメよ」「無視するのが一番」
杏子「あいつらも金を払わせたいから、色々と挑発してくるだろうな」
ほむら「ワルプルギスの夜の制作費なんて知らないわ」
杏子「こっちは被害者だっつうの!」
ほむらの家の前に、さっきのクラスメートが待っていた
ほむら「…」
杏子「あんた、あの子らのヒーローだな」
ほむら髪の毛をいじりながら「何か苦手…ヒーローは杏子じゃないの」
杏子「私はヒロインだよ」
3人が小走りで近寄ってくる
「暁美さん!」「良かった!」
杏子「じゃあな!」
ほむら「あっ…ちょっと…今日は、ありがとう…」
杏子、笑って手を上げる
3人に囲まれる
今日は疲れたから早く寝たいと言って別れた
ほむらが少し赤くなった顔でドアを開ける
(こんなの私じゃない…)
295 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:42:16.12 ID:pmEPqbt9
>>294 (しつこい奴)
追跡を振り切ろうとする、ほむら
(このままでは自宅に着いてしまう)
相手に自分の居場所を知られるのは避けたい
(よし、一気に!)
駆け出した
振り返る
姿は見えない
素早くドアを開けて家に入る
息を潜める…来た!
「ニャア」
「はぁ…エサなんか与えるんじゃなかった…」
野良猫の溜まり場に新参が1匹増えていた
白い子猫
捨てられて間も無いのか他の猫からイジメられていた
(あの様子では生存競争に負けて死ぬ)
つい、猫のエサを買って与えてしまった
「それが、この結果ね…」
「ニャア、ニャア」
「仕方が無いなぁ…」ドアを開ける「おいで」
飼い続ける自信も無いので、飼い主を探す事にした
仲間の魔法少女にはことごとく断られた
「薄情者…」
後は学校で探すしかない
すぐ見つかった
ラブホテルで助けたクラスメートの1人が快く承諾してくれた
296 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:43:20.60 ID:pmEPqbt9
>>295 「とっても可愛いの!一度見にきて!」
子猫を引き取ってくれたクラスメートに誘われた
「そう…じゃあ」
飼ったのは少しの間だったけど、とても懐いてきた
ゴロゴロ喉を鳴らし、外出時には『行かないで!』と足にしがみつき、帰宅時には出迎えてくれた
手放す時は、ちょっぴり胸が痛んだ
「ただいま!まあ!」
「ニャア!」
「お帰りなさい!を言ってるの!」
(こ…こいつ…)
でも、久しぶりに撫でたくなって手を伸ばす
サッと逃げて行った
「あ…ちょっとビックリしたみたいだね…」
(もう、私を忘れたのか!)
飼い主に撫でられゴロゴロ喉を鳴らしている
(薄情者が…)
ほむら「飼うには家の人は大丈夫だったのかしら?」
「ええ!前にも猫を飼ってたの」「ワクチンも手術も大丈夫よ」
(貧乏てのはガセだったのね)
少し落ち着いた
(でも新しい飼い主に懐いてくれたのは良かったわ)
「名前は何てつけたの?」
「Qちゃん!」
「…そう」
部屋の中を見渡してみる
机の上に自分と並んで撮った写真が飾られているのを見つけた
「あっ、やだ!忘れてた」「へへ…あの3人で、あれからファンクラブ作ったの」
「ファンクラブ?」
「うふふ…暁美ほむらファンクラブ」
「…」
297 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:49:28.68 ID:pmEPqbt9
>>296 まどかと通った帰り道を歩く
(私の、たった1人の友達…)
「暁美ほむらファンクラブかぁ」
「全く、お前ら人類には呆れたよ」目の前に上條恭介
ほむら「こんな所で油を売ってないで、お金の回収してきなさいよ!ナイトメア」
「明日で太陽がブラックホールになるってのに、この一週間は猫だのファンクラブだの」
ほむら「ブラックホールなんか知らないもの」
「なっ…今度は本気だって言っただろ?もう明日からは日の出なんて見られないぞ!?」
ほむら「あなた会社に勤めている社会人でしょ?何をバカな事を言ってるのよ」
「社会人の前に宇宙人だ」
ほむら「なら言ってあげる」「郷に入らば郷に従えと」
「じゃあ、言ってやるよ!井の中の蛙、大海を知らずだ」
ほむら「それ、あなた達よ」
「なんだと!?」
ほむら「まだ次元を越えて円環の世界に行った事ないでしょ?」
「う…」
ほむら「もし、この地球を滅ぼすなら、欲しがってる物は永久に手に入らないわよ」
「ふん!よく喋る女だな」
次の日も普通に太陽は昇った
298 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:51:07.62 ID:pmEPqbt9
>>297 「最近、あの3人と仲がいいんですね」
ベンチに座る仁美とほむら
「一方的によ」
「ふふふ…」
「美樹さやかとの連絡は?続いてる?」
「最近は日記に書き込む回数が減りましたわ…最後のページまで使ってしまうと終わってしまいますから」
(志筑仁美は良い意味で変わった)
「さやかさんは、さやかさんの生活があるし…私には私の生活がある」
「…」ほむらが黙ってしまった
(まどかさんの事を考えてるのかしら…?)
「あの3人に次の日曜日に誘われて…」
「まあ!それは良かったですわ!」
「…」
「おしゃれしなければ」
「本当のところは全てが面倒くさいわ」
「うふふ…変わらなくっちゃいけませんわ!」
(そうね)
「今日はありがとう」ほむら立ち上がる
仁美、微笑む
(まどか、私を見てる?)
299 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:56:37.75 ID:pmEPqbt9
>>298 招待されたのは、猫を引き取ってくれたクラスメートの家だった
あえて地味な格好でほむらは向かった
お茶とお菓子がならんで、まず複数の上條恭介が話題になる
ほむらは話せる事柄だけ話した
「変わった会社ね」
「全員が同じ顔で同じ格好?」
ほむら「顔を他人と同じにしちゃいけない決まりは無いもの」
「そりゃそうだけど…」
ほむらの知識の蓄積は膨大で3人は引き込まれていった
相手が何をすれば喜ぶかまで知っている
それぞれの好みの話題も提供し、それについて深く語って笑わせた
「じゃあ、遅くなるし」ほむらが立ち上がる
(しまった!やり過ぎた!)
3人の顔はファンでは無く信者になっていた
300 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 04:57:47.39 ID:pmEPqbt9
>>299 その帰り道(あの子は何で貧乏ちゃんと呼ばれていたのかしら?)
「それはね」
ほむら「いい加減にウザいわよ!ナイトメア!真面目に仕事しなさい!」
「その仕事の件で君に協力して欲しくて…」
ほむら「ブラックな会社に協力する事なんて何も無いわ」
「何だよ?泥棒のくせに」
ほむら「私が…いつ…いい加減な事を言わないでよ」
「私は相手の思考を読める能力がある」「思考をたどれば過去の記憶まで…ね」
ほむら「証拠も無しに…黙りなさい」
「拳銃、バズーガ、ミサイル、火薬、トラック」
ほむら「うるさいわね!黙りなさい!黙れ!黙れ!黙れ!」
ほむら駆け出す
(全ては、まどかの為だもん)
息を切らして帰宅する
「う…」涙が溢れてくる
(悪い事いっぱいしてきた…泥棒してても悪い事してるって思わなくなってた…)
部屋に駆け込み1人で泣く
手のひらを見つめ(まどかの為なら人を殺す事まで…何とも…)
「いやああああああ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!こんな私なんか嫌いだ!」
投下乙
302 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 23:32:47.10 ID:pmEPqbt9
>>301書き込み規制されてた
>>300 杏子「私だって悪い事は、いっぱいしてきたさ」
ほむら「私は自分が悪い事してるとも思わなくなってた」
杏子「そんな時もあるって」
ほむら「自分がどんな人間だったかもわからない…」
杏子「ん〜…考え過ぎだよ」
ほむら「そうかもね…もう、あまり考えないようにするわ」
(自分の罪を告白したかったけど、全て無かった事になっているし…)
ほむら「行くわ」
杏子「考え過ぎんなよ」
しばらく歩いた所に上條恭介の姿をしたナイトメア
「しつこいのは女の子から嫌われるわよ」
「君は誰から好かれるてるんだい?」
「いちいちウルサいわね」
「私は君を必要としているけどね」
ほむら笑う
「あはは…そんな事を他人から言われるの初めてよ」
(それも、寄りによって正体不明の宇宙人からだなんて)
「君が必要だと言ったのが、そんなに変か?」
「あはははは!笑ってごめんなさい」「話ぐらいは聞こうかしら?仕事ってどんなの?」
303 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 23:35:59.89 ID:pmEPqbt9
>>302 仕事の内容は日本国内に潜伏している国際指名手配犯の捕獲だった
ほむら「警察に通報すれば?」
「偉い人が犯人を本国で身柄を拘束した…つまり手柄にしたいのさ」
ほむら「あなた達では出来ないの?」
「こういう仕事の経験の少なさから、外部の者への委託が決定した」
ほむら「他の魔法少女には頼まなかったの?」
「君が一番の適任者だよ」「作戦には時間停止を使うから」
ほむら「ふうん…」
(私の過去を調べての決定か)「わかったわ」
「やってくれるか!」
ほむら「指名手配されてる犯人が近くにいるのも嫌だから」
ほむらとナイトメアが行動を共にしている噂はすぐ流れた
仁美「マミさんも心配してたけど、暁美さんが良く無い人達と付き合ってるんじゃないかと…」
304 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 23:47:07.79 ID:pmEPqbt9
>>303 ほむら「指名手配されてる犯人を捕まえるのに協力するの」
仁美「危なそうだし、ナイトメアとは付き合わない方が…」
ほむら「指名手配犯が近くに潜んでいるのも気持ち悪いでしょ?」
仁美「…でも」
決行日、張り込みしていた犯人が潜伏先から出てくる
ほむら「行くわ」時間停止し、拘束具を持って向かう
相手に触れないよう拘束具を仕掛ける
捕獲「う?ぐ!」相手は既に身動きできず声も出せない状態になっていた
ほむら「大人しくして」
部屋に引きずり込み連絡を入れる「成功よ」
『了解』ナイトメアは待機していた救急車を発進させる
救急車が到着し、偽装した救急隊員が部屋に駆け込んで来る
「ご苦労、これを着て」ほむらにも隊員の偽装をさせてる
拘束された相手は眠っていた
(注射か何かしたみたいね)
305 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 23:52:43.38 ID:pmEPqbt9
>>304 担架を救急車に運び、ほむらも乗り込む
ほむら「まだ1人、あなた達の仲間が部屋に残ってるわよ」
「だから君が救急車に乗っている」
(頭数を合わせたわけね…部屋で何をしてるんだろ?)
サイレンを流しながら走る
(こうすれば、楽に何処へでも移動できるって事か)
「ここで交代だ」
マンションの前で、救急車から降りる
マンションの一室には全く知らない人間が救急隊員の姿をして待機していた
やがて運転手も部屋に入ってきて全員の交代が完了した
白衣を脱ぐ
報酬を受け取り、用意された車に乗る
(何も考えないわ…)
306 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/10(金) 23:59:42.43 ID:pmEPqbt9
>>305 しばらくして、指名手配犯が本国で逮捕されたとのニュースが報道された
それも別の国の軍隊の突入によって行われた、と
その陣頭指揮を取ったと、大統領の記者会見があった
大統領の支持率は急上昇した
「おかげで我々の評価も急上昇だよ」
ほむら「それは良かったじゃない」
「我々は君の評価をしたい」
ほむら「どういたしまして」
「もうすぐ、夏休みだけど海外に行ってみないか?もちろん仕事だ」
ほむら「海外か…いいわよ」
ほむらにマミが会いに来る
「これ以上のナイトメアとの関わり合いも、危険な仕事も止めなさい」
ほむら「今までも危険な仕事はしてきたわ」
マミ「いいように利用されるだけよ」
ほむら「仕事は仕事、お金はお金でしょ?」
マミ「あなた変わったわね」
ほむら「目標や目的が無くなったからね」
307 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/11(土) 00:01:30.57 ID:+BfzVS37
>>306 ほむらは海外での仕事も成功させた
仕事内容は国際テロ組織の幹部の拘束だった
杏子「危なっかしくて見てらんねー!つうの!」
ほむら「大丈夫だから、ほっといてよ」
杏子「あんたが捕まえた相手どうなったか知ってるか?」
ほむら「処刑されたとの報道を信じているの?本当は監禁されているわよ」
杏子「え?…そうなのか?」
ほむら「これは正義のための仕事よ」
杏子「けっ!良く言うぜ!その仕事の相手先は、あたし達の敵だったんだろ?」
仕事の成功でナイトメアは多大な収入を得、ワルプルギスの夜の作成費もほぼ回収していた
ほむらに『Qちゃんの具合が悪い』と連絡が入る
(猫の事なんて、すっかり忘れていたな)
久しぶりに訪問してみた
「今朝、病院に連れて行ったんだけど」
猫は座布団の上で寝ていた
「あ…いけない!病院に忘れ物してきた」
ほむら「見ててあげるわ」
「ごめんなさい!ちょっと取りに行ってくる」
部屋には、ほむらと猫だけになる
猫が起き上がった
ヨロヨロと近づいてくる
ほむらの膝の上に乗った
308 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/11(土) 00:05:20.94 ID:pmEPqbt9
>>307 (今まで私を無視してきたのに、こんな時だけ寄ってくるの?)
膝の上でションボリしてる猫にムカついたが
(もう…仕方がないなぁ…)背中を撫でてやった
背中を撫でられて猫は静かに目を閉じる
「ただいま…ごめんね」「あら?膝の上に乗っかっちゃったんだ」
ほむら「うん、心細かったのかな?」
再び背中を撫でる「?!」息をしていない
「大変!」
「どうしたの!?」「えっ?まさか!?」
猫は裏庭の木の下に埋めてやる事にした
「ほむらちゃん、ありがとう」
ほむら「助けられなくて、ごめんなさい」
「ううん…おかげで、この子は1人で寂しく死なずに済んだもの…ありがとう」
309 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/11(土) 00:10:18.25 ID:+BfzVS37
>>308 猫が死んでからは、ほむらの方から誘うようになった
自宅に呼んで一緒に勉強したり、4人でお菓子を作ったりした
相手を元気づけようとして、自分が変わっていくのがわかった
そして、そんな自分に迷い始める
このまま、まどかを忘れてしまうんじゃないかと
仁美「暁美さんに新しいお友達ができて良かったですわ」
ほむら「気がついたら、あの子の事を考えている」
仁美「うふふ…危なっかしい事されてたから、このままどうなるのかと一時はハラハラしてましたもの」
ほむら「でも、こんな私でいいのかなって」
仁美「もちろんですわ!」
その後もナイトメアから仕事の依頼が来たが、断った
ほむらの協力も無しに実行したのか、世界的な大物が誘拐されかけたが未遂に終わったニュースが時々流れた
(あのまま仕事を引き受けていたら、エスカレートして、やがて殺人までしてたかも)
それが自分だと思った
投下乙
311 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/11(土) 07:29:27.79 ID:+BfzVS37
>>310続きです
今回で、とりあえずの最終回
>>309 (この子、何で貧乏ちゃんなんて呼ばれていたのかしら?)
一緒に宿題をする横顔を見ながら思う
普通に遊びに行く仲になっていた
(この子がいなかったら、私はダメになってたのかな?)
でも、まどかを… (何なの?私って?)自己嫌悪になりそうになる
「あ〜!やっと終わった」
ほむら「私も…じゃあ帰るわ」
「え?今、お茶を入れてくるよ」
ほむら「構わないで!」
「どうしたの?いつものほむらちゃんらしくないよ」
ほむら「これが本当の私よ」「平気で悪い事をして、残酷で、ワガママで、嘘つきで、人と仲良くできない」「こんな人間と付き合ってはいけないの!だから、ここに来る事も、もう無いわ」
「ほむらちゃ…」立ち上がりかけて倒れた
「呼吸も脈も正常ね」
「貧血かしら?」
倒れていたと思っていた相手がユックリ体を起こす
「この子はね、ショックを受けると気を失う事があるの」
すぐに誰がしゃべっているのか、わかった
「まどか…!」
312 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/11(土) 07:31:23.92 ID:+BfzVS37
>>311 「でも、ほむらちゃんが支えてあげれば大丈夫だよ…ほむらちゃん、知ってるよ」
ほむら、相手の手を取る
「ほむらちゃんが1人で泣いてるのも知ってるよ」
手を握りしめて泣く「まどか…」
「ほむらちゃんは今の自分を生きて…そして」
「そして?」泣き声でほむらが聞く
「そして…いい友達をたくさん作って」
ボロボロと涙が落ちる
「ほむらちゃんとは、また会えるから…」相手から力が抜けた
倒れそうになる体を抱き止めた
「ほむらちゃん?」気がついて身を起こす
「私、気を失ってたの?」
ほむら「うん、もう大丈夫?」
そんなにビックリさせたのかと、ほむらの涙を不思議そうに見つめる
帰り道を途中まで送ってくれた
いきなり、ほむらの手を引っ張った「見て!きれいな夕日!」
2人、手をつないで大きな太陽を見る
ほむら「明日も頑張らなきゃ」
どこからか、まどかの嬉しそうな声
『頑張って…!』
313 :
魔法少女まどか勝手に続編:2013/05/11(土) 07:39:10.75 ID:+BfzVS37
>>312 マミがお茶を入れて運んで来た
「何かまた良からぬ事を考えてるでしょ?」
「え?」杏子が少し驚いた顔をする
「ダメよ!」マミが厳しい顔「ナイトメアにそそのかされちゃ」
杏子「また、儲け話を持ってこられてさ」
マミ「この前なんか『日銀の支店に行って、処分する前のお札もらえないかな?』とか相談しにきたわよね」
杏子「切り刻んで処分するなら、私に譲って貰えないかな?…と」
マミ「いかにもナイトメアが考えそうな事だわ!」
杏子「どうせ要らないなら私にくれよ…って今でも思ってるんだけど」
マミが怖い顔
杏子「わかったよ!それは諦めるよ」
マミ「で?今度は何を?」
杏子「みんなで国を買わないか?と」
マミ、紅茶を吹きかける
杏子「財政危機の国があって、破綻すれば土地が安く買えそうだと…そしたら、国の一部分を独立国家にして、あたしが王様に…そんな怖い顔するなよ!」
― 未完 ―
投下乙
保守
316 :
創る名無しに見る名無し:2013/07/19(金) NY:AN:NY.AN ID:gmeMYo2q
317 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:11V+2HPp
保守
318 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
続きを少し書きました
>>313 数日後
杏子、路上に人が倒れているのを見つける
「なんだ?」
見滝原中学の制服を着た女子だった
呼吸も脈もある「貧血?それとも腹が減って倒れたか?」
「おーい」ペチペチと顔を叩いてみる
「あ…杏子ちゃん…」
杏子「なんだ、ほむらの友達じゃん」(良く、あたしの名前を知ってたな)
「この子はね、ショックを受けると気絶する事があるの…」
杏子「???」(何を言ってるんだ?頭を打ったのか?)
近くのベンチに腰を下ろす
「よっこいしょ…と」
「久しぶりだね!杏子ちゃん」
杏子、全く状況を理解できない
「私、時々この子を助けに来てるの」
杏子「…なら、あんた誰なんだよ?」
「私、まどか!鹿目まどか」
319 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>318 杏子、少し混乱したが気を取り直して
「まどかって、あの、円環される時に現れる?」
まどか「そうだよ」
杏子「い…嫌だぁ!まだ死にたくないよぉ!」
まどか「大丈夫だよ〜」「まだ連れて行かないから」
杏子「できれば長生きしたいんだ」
まどか「考えとくね」
少し落ち着いてきた
杏子「さやかの家に泊まっていた時に、ベランダに来てたの知ってるよ」
まどか「さやかちゃんと仁美ちゃんと杏子ちゃんが寝てるのを、窓の外から見てたの」
「杏子ちゃんの…」
杏子「?何?」
まどか「エッチ!」
杏子「なななな何を言いだすんだ!?」
声がひっくり返る
320 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>319 杏子(こいつ、本当に神なのか?)
まどか「それは置いといて」
杏子を見つめる
杏子(嫌な予感がする…)
まどか「しばらく、こっちの世界に来たいんだけど…この子の中に入りっぱなしなのは無理なの…それでね」
杏子「……ダメ!私はダメ!」
まどか「杏子ちゃーん」まどかが杏子に抱きつく
杏子「うるさい!離れろ!」
「何をやってるの?」ほむらが立っていた
杏子「いや、これは違うんだ!まどかが」
ほむら「まどか?」
杏子「あーっ!もう!」
杏子(ほら!私より、ほむらに頼みなよ)
まどか(だってー 私、ほむらちゃんに用があって来たんだもん)
杏子(知らねーよ!とにかく、あたしは無理!)
ほむら「さっきから意味不明な会話してるけど、私をからかってるの?」
まどか「えへへへ」
ほむら「?」
321 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>320 杏子「とにかく!あたしは、もう帰るから!」
まどか「ま、待って!」
杏子、勢い良く立ち上がって 滑った
ガン!!ベンチに頭をぶつける
ほむら「ちょっと…変な音したわよ?大丈夫?」杏子に走り寄った
杏子「おおおお…だ…大丈夫…大丈夫だよ…」
「あら?ほむらちゃん?」
まどかが入り込んでいた女子生徒が気づく
だが、ほむらは杏子に気を取られていた
「手当てしてあげるから、私の家に寄っていきなさい」
女子生徒に振り向いて「今日はこれで、また明日」
いきなり別れの挨拶されて、ほむらに支えられながらヨタヨタと歩く杏子を見送る
「?」
323 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>322少し書き込みます
>>321 ほむらの自宅に着いた
「散らかってるけど、どうぞ」「まどか」
自宅までの会話の中で相手が杏子では無く、まどかだと理解していた
「怪我の具合は?」
「うん、ほむらちゃんの治療のおかげで、だいぶ良くなったよ」道中、ほむらが魔力を使って怪我した場所を癒やしてくれた
2人が椅子に腰掛けて向かい合う
「あのね、ほむらちゃん、今日来たのはね、単刀直入に言うとね」
まどか顔を上げる
「私の事を忘れて欲しいの」
ほむら、返答に困る
「いきなり、どうしたの?」
まどか「宇宙の統合と改変を進めて行く中で、それを阻む働きがあるの」
「ううん、正確には世界が2つに分かれようとしているの」
「私と、ほむらちゃんの間で、分かれようとしているの」
324 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>323 まどか「ほむらちゃんは、どうして魔法少女になったの?」
ほむら「魔女に襲われた私を、魔法少女になった、まどかと巴マミが助けに来てくれたのが事の始まりじゃないの…」
まどか「ううん、違うの」
「魔女なんて最初から居なかったの」
「魔女が生まれる前に私が消し去ったから」
「全て」
ほむら「それは違うわ!私は確かに!」
まどか「違わない!!」
まどかが発した大声を、ほむらは始めて聞いた
まどか「いくら書きかえようとしても、書きかえられないの」
「そうさせてくれないのが、ほむらちゃんなの」
325 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>324 まどか「ほむらちゃんが改変前の世界の事を誰にも何も言わなくても、ほむらちゃんの周りから世界がズレていくの」
「そして、ほむらちゃんが私を思う気持ちがドンドン強くなってしまって」
「改変前と改変後の世界に大きく分かれようとしているの」
「改変前の世界の中心になっているのが、ほむらちゃんで」
「改変後の世界の中心になっているのが、私なの…だから、ほむらちゃんの思い出の中から私を消して世界を1つに…」
「あなたは」
下を向いて黙っていたほむらが顔を上げる
「まどかじゃない」
326 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>325 まどか「そう言われると思ってた」
「当然だよね、自分が守ってきた思い出が否定されるんだから」
「でもズレていくのは、ほむらちゃんだけじゃない」
「ほむらちゃんを中心に世界が大きくズレていき、この世界にある全てのモノが私を敵だと認識し始めている」
「人も動物も植物も山も川も海も空も、みんな心の底で、私を自分たちの存在を危うくする敵だと思い始めているの」
一呼吸置いて
「私の意志に逆らう必要なんて、何も」
ほむらを見つめる
「無いのにね」
ほむら、いきなり立ち上がって魔法少女に変身する
まどか「何のつもり?」
「この体を借りてきて良かったよ」
杏子の姿が、魔法少女になる
327 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>326 ほむら「杏子のSGを勝手に使ったりして」
まどか「先に攻撃の意志を示したのは、ほむらちゃんの方じゃないの」
ほむら「攻撃の為に変身したんじゃないわ」
「あなたを逃がす為よ」
まどか「何から?」
ほむら「囲まれた」
ほむらの自宅を数人男が取り囲んでいた
まどか「ナイトメアか」
ほむら「奴らには時間停止能力があるわ」
まどか「狙いは、私?」
チャイムが鳴る
まどか「礼儀正しいのね」
ほむら「私とは敵対関係になりたくないみたいだから」
ほむら、ドアを少し開ける「どなた?」
「夜分すみません、ナイトメア社の者です」
まどかが奥から声をかける「用があるのは私?」
まどか、玄関にやって来る
紫煙
329 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>327 玄関の外に立つ上条恭介の姿をしたナイトメア
「おっと…これは、はじめまして」
「お会いできて光栄です、鹿目まどかさん」
ほむら「今日は私のお客様なの」
「お引き取り下さい」
まどか「無理しなくていいよ、ほむらちゃん」
「用は私にあるんでしょ?」
まどか、出ていきかける
「ダメよ」ほむらがドアの前に立つ
「行ってはダメよ」
まどかの両肩をつかみ「行かないで」うつむく
まどか、不機嫌な声「ほむらちゃんのそんなところが」
ほむらの体を押しのけて「今の私を困らせているの」ドアの前に立つ
「私は小さくて弱い、まどかじゃないから」
振り向いて「ありがとう…でも、ごめんなさい」
「私の事は」背を向ける「忘れて」出ていった
ドアが閉まる
「うわあああああ!」まどかの叫び声 激しい戦闘の音
ほむら、座り込む
肩を震わせて泣いた
紫煙
>>328どもです
>>329 まどかはナイトメアの包囲網を突破した
跳躍してビルの屋上に立つ
大気までもが自分に怒りを向けているのを感じた
(これら全てを書き直さなくてはならない)
カラスが怒りの声を上げながら集まってくる
自分たちを消し去ろうとする敵に、本能からの怒りを向けている
まどか、槍を構える
(私は全てを書きかえる)
大気に異変が起きた
竜巻が発生
竜巻は集まってきたカラスの大群を巻き込んだ
そして、まどかも消えた
マミも仁美も突然の竜巻の原因と、起こした者の正体に気がついていた
>>331 ほむらの家のチャイムが再び鳴った
「こんばんは、巴です」「志筑です」
ほむらが応対に出る「どうぞ」
マミから話を切り出す「今日、突然に起きた竜巻だけど」
ほむら、顔を上げずに聞いている
「魔法少女が起こしたのだと思うの」「何かご存知?」
ほむら「波長でわかるでしょ?」「あの巨大な光に包まれた時と同じだったはずよ?」
マミ「まどか…なのね」
ほむら「そうよ」
あの時の力を覚えている
とても対抗できるようなモノでは無い
マミ「なぜ、まどかが被害が出るような力の使い方をしたのかしら?」
ほむら「私のせいよ」
顔を上げる「信じられないかもだけど、全てを話すわ」
話した結果、まどかが更に怒るのは分かっていた
ほむらは自分が契約した時の事
ループを繰り返し時空をさまよった事
まどかが概念化した事を語っていった
>>332 マミと仁美は言葉を失った
自分たちが常識としてきた物の全てが否定されてしまった
マミ「まどかによって歴史のねつ造が行われたの?」
ほむら「ねつ造なんて生易しいモノじゃない」
「全てが作り変えられたの」
「歴史的な証拠や人々の記憶までも」
それは自分たちの体験から理解できる
魔法少女の部隊によって世界が改変された様子を見てきたから
マミ「あなたが話してくれた内容の全ては理解できない」
「でも」
ほむらの目を見る「信じるわ」
ほむら「これで…世界の分裂が進んでしまった」
マミ「新しい理へと導いた創造主が黙っていないって?」
「笑わせないで」
「何の権利があって、そんな事をしたのよ」
ドーン!光と音が一緒になって雷が落ちた
>>333 間近で雷が次々に落ちる
停電になり、暗闇の中で頭を抱え込んだ
ほむらが叫ぶ
「止めて!もう止めて!」
学校の屋上に人影があった
見滝原に落ち続ける無数の雷の光に人影が照らされた
杏子の体を借りた、まどかが街を見下ろす
「怒りを、恐れよ」
「まぁどぉかーっ!」屋外に飛び出したほむらが叫んだ
目の前の道路を水平にイナヅマが走る
横からの落雷を受けた街路樹が折れて車道に倒れた
落雷に襲われる街を見て呟いた
「私のせいだ…こうなったのは、私のせいだ…」
>>334 ほむら、自然とひざまずいて両手の指を組んで握りしめる
「…お許し下さい」
震える声でつぶやいた
激しかった雷がピタリと止んだ
祈るような姿になった、ほむら
それをマミと仁美は見守るしかなかった
2人は外に出た
「どこから見ているの?」
辺りを見渡し警戒する
マミ「神か…なるほど…これが古来から言われ続けた神なのね」その自分の記憶すらも怪しいなと…皮肉まじりに笑った
(神との戦いか)
>>335 マミが座り込んで震えるほむらに手を差し出す
「つかまって」
ほむら、手をほどいてマミの手を握る
マミ「立てるかしら?」
ほむら、よろめきながら立つ
しかし足に力が入らない
倒れそうになるほむらをマミが抱き止めた
ほむら「ごめんなさい…私が悪いの…ごめんなさい」
震えるほむらにマミがささやく
「大丈夫よ」「あなたは何も悪くない」
室内に戻る
停電の中でロウソクに火を灯した
マミ「お茶にしましょう」
ロウソクの灯りの中、3人で紅茶を飲んだ
マミ「次のお休み…明後日、美樹さんに会いに行かない?」
仁美「え…私は、いいですけど」
マミ「美樹さんの所なら、この場所からでもすぐ行けるし」
「暁美さんが、歩くの苦手みたいだから」
クスクス笑う
ほむら「そんな、笑わないで…」
マミ「じゃあ、当日は朝に集合して、皆でお弁当を作って行きましょう」
「仁美さん、美樹さんへの連絡お願いね」
仁美「あ…はい」
337 :
創る名無しに見る名無し:2013/08/24(土) NY:AN:NY.AN ID:ktktw+bv
>>336 「私は、この地の守護を任された者だ!この地に何の用があって来たのか?」
丘の上に立つ美樹さやかが大きな声で訪ねる
マミ「美樹さんとお弁当を食べにきたの」
さやか「もう少しで交代だからちょっと待ってて…」
「いいわよ」さやかの後ろに別の魔法少女が現れる
「ジャンヌ」
「交代してあげるから食べていらっしゃい」
さやか「ありがと!じゃあ、詰め所に行こうか」
仁美「避難してきたわけではないのに、そんな所まで入れますの?」
さやか「書きかえは済んでるから」
(書きかえ?)ほむらが疑問を持った(敵地に来た私たちのために?やったのは、まどかよね…)
詰め所で昼食の弁当を広げる
さやか「わ!フルーツサンド!」
仁美「クリームたっぷりですわ」
さやか「美味しそう!」
紅茶を入れる、マミ
落ち着きなさそうな、ほむら
マミ「では、頂きましょう」
さやか「あ、まどかが後から来るってさ」
さやか以外の全員が吹きかけた
>>337 チリンチリン
自転車のベルの音
さやかが窓の外を見る
「あ、まどかだ」
硬直する、ほむらとマミと仁美
「どっこいしょ」「こんにちは!スイカを持ってきたの」
ほむら、小声で「まどか?…違うわ…」
マミが小声で聞いた「人違い?」
ほむら「まどかのお姉さんみたいな感じ」
さやか「大きいね!まどかが作ったの?」
まどか「そうよ」
ほむら「まどかなんだ…」
>>338 「スイカ、冷やしておくね!」まどかは調理場に入っていった
マミ「美樹さん、まどかさんの事なんだけど…」
さやか「まどか?」
マミ「一昨日、地球に来たのよ」
さやか「は?」3人を見渡す
「何かの間違いだと思いますけど」
「まどかは一昨日は…一日中会議で、ずっと仕事してましたよ」
マミ「夕方から夜にかけては?」
さやか「会議は深夜まで」「私も終わりがけに参加したけど」
仁美「まどかさんは、普段どんな仕事をされてるの?」
さやか「ん〜簡単に言えば、村長みたいな感じ?」
まどかが近づいてくる「ようこそ!皆さん」
立ち上がろうとする3人を手で制して自分も席に座る
「スイカが冷えたら皆で食べましょう」
さやか「その頃には時間切れで、みんな居なくなっちゃうよ」
まどか「そうならないように書きかえておくわ」「皆さんが良ければ、今日はユックリしていって下さい」
>>339 さやか「そっか!私は仕事に戻らないといけないけれど、みんなはユックリしていってよ」
マミ「まどかさんは、お時間は?」
まどか「今日は開けてありますから大丈夫です」
マミ「よければ、お話したい事があるのですが」
まどか「はい、いいですよ」
さやか「何て言うか…聞いてて肩がこる会話だよ」「…と言うわけで、食後にババヌキしよう!」トランプを取り出した
仁美「自転車とかトランプとか、一体どこから出てくるの?」
さやか「へへへ…改変前の世界で言うならオーパーツだよね!あっはっは!」
マミ「オーパーツ?」
ほむら「改変前の世界では、古代の地層から、靴で作った足跡が出たりしたのよ」
「改変されて、そんな説明のつかない物は無くなったけど」
>>340 まどか「改変する前は無数の並行世界が存在していたの」
「ちょっとしたアクシデントがあると、すぐ隣にあった並行世界と一部分が接触して同一化したり、離れたり」
「その時に隣の世界にあったはずの物が、こっちの世界に現れて、そのまま残ったり」
マミ「今は、それが発見されない理由は?」
まどか「改変があって無数にあった並行世界が、1つに統一されているから」
「全てが説明のつくようになり、世界は秩序を取り戻したの」
さやか「じゃ、カード切るね」シャカシャカシャカ…バラバラバラ
「おっとっと」
まどか・仁美「相変わらず下手ね〜」
>>341 マミ「あら!」
さやか「マミさんがババだーっ!」
爆笑
マミ「うっ」
仁美「ご…ごめんなさい」
さやか「泣かないでマミさん」
マミ「泣いてなんかない!」
さやか「私、戻らなくちゃ…じゃ、また後で」
片付けの後
まどか「本題に入りましょう」
「答えは出してきて頂いたのかしら?」
3人の顔色が変わった
(やっぱり…)
マミ「一昨日から、見滝原に来ていたのね?」
まどか「私の意識の一部分だけですけど…ね」
マミ「どうしたいの?世界を?」
まどか、マミを見つめる「自分が正しいと思う事をしているだけ」
「あの時に、私の背中を後押ししてくれた人が『永遠に戦い続ける覚悟があるのか?』と聞いたの」
「私は『ある』と答えたわ」
支援
>>343どもです
>>342 まどか「そして、私は背負ったわ」
「宇宙が消滅するほどの絶望を」
その言葉は、ほむらだけが理解できた
マミ「その後押ししたのは、私ね」
まどか「…凄いな、マミさん…」
マミ「だったら、暁美さんだって自分が正しいと思う事をしていいわけよね?」
まどか「…」
ほむら「まどか…私は…」
まどか「ほむらちゃんは、私との約束を守ってくれた」
「ありがとう…」
マミ「お互いに、歩み寄りは無いの?」
まどか「あるわけ無いじゃないですか」
「ほむらちゃんに言ったのに…『私を忘れて』って」
ほむら「あるわ」
「こうするのよ」
拳銃を取り出し自分の頭に当てた
「さようなら、苦しめてごめんなさい」
マミがほむらに平手打ちした
「ふざけないで!」
>>344 「これは没収させてもらいます」
落ちた拳銃を拾う人物
さやかだった
マミ「気配を消して私達の様子をうかがっていたのね」
さやか「この会談の警備をするのが我々の本当の任務ですから」
気がつくと数名の魔法少女が盾となり、まどかの前に立っていた
どうっと風が吹く
その後、大粒の雨
さやか、窓を閉めながら「対敵性侵入者防御システムが作動したのよ」
「敵性侵入者の動きを鈍らせる仕掛けなの」
さやか、ドアに向かう「送っていくわ」
「これ以上、変な真似をすれば…」
3人を見つめる「いえ…行きましょう…外は大変だけど変身はしないで」
(部外者に、ここで変身されれば剣を抜き戦わなくてはいけない…)
暴風雨の中、さやかが進んでいく
遅れて寄り添いながら歩く3人
その後からも魔法少女がついてくる
丘の上からジャンヌとさやかが見つめている
やがて3人の姿が消えていった
紫煙
>>346どもです
>>345 ほむらの家に帰ってきた
マミ「ずぶ濡れになっちゃったわね」
ほむら「タオルを持ってくるわ」
仁美「美樹さんなら大丈夫ですわ」「怒っていませんから」
マミ「美樹さんには今の立場があるのね」
仁美「ふふ…きっと今ごろは『次はどんな事して遊ぼうか』と考えてますわ」
ほむらが2人にタオルを手渡す
ほむら「割と何でも話し合えたのが意外だったわ」
仁美「改変前の出来事とか…」
マミ「きっと、改変前の記憶を持った人達ばかりが集まっている世界なのね」
ほむら「よく私達が帰ってこれたわ…」「だって、まどかの理屈では私達が帰ってきたら世界の分裂が更に進むじゃないの」
3人が顔を見合わせる(改変前の情報に触れて、自分たちが無事でいられるんだろうか?)
急いでドアを開けて外に出た
マミ「何か変わった事は…」
ほむら「まだ分からない」
仁美「私、これで帰りますわ」「また連絡します」
>>347 仁美「何で?」
自宅に向かう仁美の目の前にいたのは自分だった
もう一人の自分が自宅に入っていく「ただいま」
しばらくして家の中から家族の笑い声が聞こえてきた
後ずさりし、走ってそこから逃げ出す
ほむらとマミは、鍵を開けて入ってきた、もう一人のほむらと対面していた
相手から話かけられる
「ここは、あなたがいる世界じゃないわ」「出ていって」
ほむら「ここは私の家よ!」
マミ「落ち着いて」
マミ「良ければ詳しい事を聞かせて欲しいのですけど」
もう一人のほむらが言う「何だ…あなたも席を外してたのね…」
「神様が並行世界を少し束ね損ねてね、さまよっている同一の個体が、空いてる世界を探している状態なの」
ほむらに近づく
「電車でも席を立てば別の人に座られるでしょ?」
「改変されてからは、そういう状態になったの」
>>348 マミ「でも、以前も同じ事をしたけど何も無かったわ」
もう一人のほむらが言う
「あなた達が、神様を怒らせたんじゃないの」
言い終わるとクスッと笑った
ほむら、椅子に座る
「人の家の椅子に座ってないで、早く帰って」
「あ…」クスクスと笑った
「帰る場所なんて無いんだもんね」
ほむら立ち上がり玄関に向かう
後ろから声「あなたが!」
「あなたが幾つかの並行世界に移動した時に、それぞれの世界に元々いた暁美ほむらを亜空間に弾き飛ばしてるのよ!」「何人も!」
フラフラと歩くほむらの後をマミが追う
2人、出ていった
>>349 外に出たマミが叫ぶ
「出てきなさい!佐倉杏子!いえ、鹿目まどか!」
ほむらは打ちひしがれていた
マミ「相手の意図は分かっている」
「あなたの心を折り、一気に統合と改変を進める作戦よ」
「だから心が負けてはダメ」
「そして、現れたもう一人のあなたは幻覚よ」
ほむら「幻覚?」
マミ「かつて佐倉さんが封印した能力よ!だから…」
「いい加減にして」
佐倉杏子の姿をした、まどかが現れる
マミ「幻覚を使う相手とは、相手が何を言っても本気にしない事が大切よ」
まどか「幻覚を見せる魔法なんか使っていないわ」
マミ「あら、そう」クスッ
投下乙
>>350 「だけど」マミが続ける「暁美さんに『自分の大切な思い』を捨てさせる企てをしたのは間違いないわよね?」
まどかに近づいていく
「あなたの本拠地に乗り込んで良かった」
まどかと向かい合う
「どんな立派な神様かと思えば…」「自分のミスを暁美さんに取らせるなんて、見損なったわ」
「マミさん!」まどかが叫ぶ
「私だって!」
マミ「何?」
まどか「私だって言いたい事はいっぱいあるわ!」
マミ「だから何?」
まどか涙目でマミを睨む
「まどか」ほむらも近づいてくる
「言いたい事を言って」
「会わせたい人がいるの…ついてきて」
ほむら、先に歩き出した
「?」まどかとマミが顔を見合わせて、ついていく
まどか「あれは…」
公園で遊ぶ家族連れがいた
ほむら「私が仲良くしてもらってる鹿目さんの御家族よ」
まどか、立ち止まる「ダメ…」
ほむら、まどかの手を引き歩く
ほむら「こんにちは」
鹿目詢子「あら、こんにちは」「お友達?」
ほむら「はい」
>>351どもです
次に連続で書き込みする時はドタバタのラストになると思います
>>350 ほむら、座って詢子と話す
ほむらの隣にまどか
マミは少し離れていた
ほむら「私の友達が正しい事をしようとしているの」
詢子、ほむらとまどかを見つめて聞いている
ほむら「でも、どんどん状況が悪くなるばかりなの」
詢子「そうなの…でも、それは他人には何も言えないと思うわ」
まどか、うつむいて唇を噛み締めて聞いている
詢子「正しい事をして悪い状況になるなら、思い切って間違っちゃえばいいのよ」
まどかの頬に涙が流れた
ほむら「それは、難しいです…」(最終手段は考えているけど…それは、まだ…)
詢子「だからその前に、上手に転ぶことを覚えるのも大切よ」「さて、そろそろ帰らなくちゃ」
詢子、立ち上がる
立ち上がった詢子の後ろから人がぶつかった
まどかが後ろから抱きついていた
(お母さん…)
>>353 詢子、後ろから回しているまどかの手に触れる
「あなたとは、どこかで会った気がするわ」
まどか回した手をほどく
「いきなりごめんなさい」
詢子がまどかの両肩に手を置く
「元気出してね」
まどか泣き出し再び抱きつく
まどかとほむらとマミが並んで、沈む夕日を見ていた
遠くから走り寄る人影
仁美だった
息を切らしながら言う「…まどかさん…私を連れて行って…」
>>354 マミ「どうしたの?もう一人の自分に会ったの?」
仁美「…そう…そうですわ…」
まどか「仁美ちゃんなら、自分の居場所を取り返しに行くと思ってたんだけど」
マミ「誰のせいかしら?」
まどか「さぁ?誰のせいかしら?」
仁美「そんなんじゃないの…私が男の人とラブホテルから出てきたって噂が…街中に…」
マミ「ほほう…」
まどか「実に興味深い」
仁美「しかも、それだけじゃなくって…凄いポーズしてる私の画像が…」
ほむら「ネットに流れたのね…これね…」
取得した画像を見せた
マミ「ワァーオ」
まどか「ワオ」
仁美「キャーッ!」
>>355 ほむら「自分の画像じゃないんだから恥ずかしがらなくて、いいんじゃない?」
仁美「だって、ソックリですもの!恥ずかしいですわ!」
ほむら「どこが?」画像を拡大する
仁美「キャーッ!」
マミ「なるほど…」
まどか「実に興味深い」
ほむら「とにかく…」
仁美「まず、それを削除して下さい」
ほむら「ちっ…」
マミ「これは、ニセの志筑仁美だって証明しないと」
まどか「そうだよ!逃げちゃダメだよ!仁美ちゃん!」
仁美「マミさんだって、わからないですわよ」
マミ「え?」
>>356 ほむら「巴マミ…あなたニコ〇コ生放送で胸を出してるわよ?」
マミ「え?え?」
『あら?見えちゃった?うふふ…』
マミ「こいつ!他人の部屋で何をやってるのよ!?ざっけんじゃねーっ!」
ほむら「でも、この人は楽しそうね」
マミ「…着信?…担任からだ…」
マミ「はい、巴です。え?『今、何をやってるか?』ですか?散歩しながら先生と電話ですけど?」
「はい。はい。はい。失礼します。」
「全く…何を見てるのかしら?エロ教師」
まどか「これってパンツ…はいてないよね?」
仁美「まぁ…お家ではパンツはかないんですか?」
マミ「ちゃんと付けてるわよ!…また着信…」
>>357 まどか「でも、世の中には自分に似た人が3人いるって言うじゃな〜い?きっと仲良くできるよ〜」「ウェヒヒ」
(うふふ…これで『まどか〜!もう世界を統合して自分を1人にまとめて〜』って、みんな泣きついてくるわ)
ほむら「これは似た人じゃなくて、この世界に自分がもう一人いるって話だから」
まどか「そうだよ!この世界以外に、もっといたんだよ!」
ほむら「それは分かってる」
まどか「世界それ自体は1つに統合されたの」「でも、人は色々と反発があって統合しきれなかったの」
マミ「まどかの願いの結果に、世界が1つになったって事?」「世界を統合したいと願ったんじゃないのね?」
まどか「あ、はい…」
マミ「暁美さんは何人かの私を知ってるの?」
ほむら「魔女に殺された人なら3人、魔女になって私に殺された人が1人、まどかに殺された人が1人」
マミ「わかった!もういいわ」
>>358 仁美「私の中では、もう割り切ってますの」
マミ「この状況を?」
仁美「どの道、魔法少女は円環されるのですわ」「それなら、私が居なくなっても、もう一人の私が居れば…」
ほむら「行方不明になった美樹さやかの家族を見て思うのね」
仁美「はい…あまり家族に心配かけない行動をしてくれるなら」
マミ「これで私たちが居なくなっても、誰にも気づかれない…そう言う考え方もあるわね…」
ほむら「相手が契約していなければ…ね」
まどか「え?…統合に協力してくれないの?もう一人の自分がいるなんて気持ち悪くない?」
マミ「私たち魔法少女からすれば、むしろ好都合だとも言えるわ」「もう一人の自分が変な事さえしなければ」
(まったく、何よ?あの変態は?)
まどか「人間版オーパーツだよー?気持ち悪いって思ってー!」
>>359 まどか「ざ、残念でしたー!実は全て幻覚なのー!」
マミ「はいはい、じゃあ幻覚をずーっと見させていてね」「みんなに」
まどか「マーミーさーん!お願い!みんなで統合に協力してーっ!」
マミ「離れなさい!自分の失敗なんだから自分で解決しなさい!」
まどか「これで解決、これで決まりだと思ってたのにーっ!マミさんのバカーッ!」
ほむら(これで、あの計画を封印できたわ)(最後の手段は用意してたけど、して良い間違いじゃない)
まどかが暴走した場合、銀河の外に自分とまどかを仁美に飛ばして貰い
ナイトメアの手を借りて爆縮…ブラックホールに2人一緒に吸い込まれる計画を立てて、覚悟は決めていた
(もっと上手に転ばなくちゃ)
マミ「とりあえず、今晩は佐倉杏子が寝泊まりしてるホテルに行きましょう」
杏子「え?あれ?あたしは何でこんな場所にいるんだ?」
マミ「あら?元に戻ったのね」
仁美「お疲れ様」
杏子「?」
>>360 まどか「マミさんのバカ…」
さやか「オレンジジュースで酔っ払ってるの?」
まどか「ちょっとね…酔っ払うようにね…書きかえたの…」
さやか「あまり飲みすぎは良くないよ」
まどか「さやかちゃん…」
さやか「何?」
まどか「なでなでして…」
さやか「はいはい、なでなで、いい子いい子」
まどか(スヤスヤ〜)
青空町耳嚢 第13/21話
【証拠写真】
私は魔法使いになったことがある、らしい。
ぜんぜん記憶にないのだが、隣の家の子が写真に撮っていた。
「これがお姉さんが空を飛んでいるところで、こっちが悪の魔道士と戦っているところ」
ちゃぶ台に並べられていく写真には、たしかに私らしき人物がうつっている。
だが。
花びらを模したようなピンクのミニスカート。
セーラー服を改造したかのような、肩まで張り出した濃い桃色の大きな襟に、白いスカーフ。
こんな趣味の悪い服、もってるわけがない。
「お姉さん、忘れちゃったの? 魔力で変身したじゃない」
そうなのか。近所の空き地でバドミントンをやってる最中のことだったから、たしか着ていた服は、だぼだぼのトレーナーと白ズボンだったはずだが。
それがどうしてセーラー戦士のようなメルヘンな衣装になっているのだか。
「ほら、お姉さん、中学生だし。それに魔法少女って、そういうもんでしょ?」
そういうものなのか。
「もしかしたら、この白タイツがズボンのなごりじゃないですか? さすがに花びらスカートだけだとパンツみえちゃうし」
つまりなにか? 着ていたのがスカートだったら、私はパンツを見せびらかしながら空を飛ぶことになっていたのか?
思わず身震いがした。
それにしても、衣装のセンスもずいぶんなものだが、三つ編のおさげが逆立って、顔に奇妙な隈取ができているのも、魔法少女としてどうかと思う。
とくに隈取は、見ようによっては、戦っている相手である悪の魔道士の隈取とおそろいのようで……。
「似てて当然ですよ。だって、そいつの魔法で変身しちゃったんですから」
それは魔法少女とよんでいいのか?
魔法少女といったら、正義のために悪を討つイメージなのだが。
「ちゃんと悪を討ってますよ、ほら」
と見せてもらった一枚には、悪の魔道士をガラス容器に封印して悦に入っている私の姿がうつっていた。
ってことは、この悪の魔道士、自分の魔法で変身させた小娘に負けたのか?
なさけなさすぎる。
まあ、この魔道士、半年ほど前から人間界侵略を宣言して、ちょこちょこ町内にわるさしにきてる有名人だが、今まであまりうまくいったためしがない。
それにしても女子中学生一人に敗れるほどとは。
人間界侵略、無理だろ。あきらめろ。
それはそうと、と今一度写真をじっくり眺める。
封印した悪の魔道士を見下して、せせら笑っている私。
笑顔が……邪悪だ。
なんか、悪を討つには討っているのだが、正義が微塵もかんじられない。
「だってお姉さん、このあと、いつもこの魔道士をやっつけている正義のヒーロー達にケンカうってましたよ」
なんということだ。
それは魔法少女というより、もはや悪魔とか魔女の部類ではなかろうか。
「お姉さん、本当になにも覚えてないんですね。あーあ、残念。魔法少女になったときのこと、いろいろ聞きたかったのになあ」
なにも覚えてなくてよかったと、つくづく思った。
【終】
-------------------------
【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
ttp://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/
9月1日に2ちゃんねるが消滅するとの噂を聞くが
魔法少女は奇跡を起こしてくれると期待している
保守
保守
あけおめ
いきなり寒い
371 :
創る名無しに見る名無し:2014/03/03(月) 14:57:16.65 ID:GW0t5w8I
、
tp://ncode.syosetu.com/n2669by/
プリキュアシリーズオマージュの変身ヒロインモノです。
別サイトに投稿しているものなので誘導リンクになってしまいますが、
もしスレ的に問題あったらスルーしてください。
変身ヒロインの物語に一般人の少年が関わってしまったら……? というコンセプトです。
感想等いただけたら嬉しいです。
こんなの考えてみたが、あとは皆さんが考えてください
メンバー紹介(変身前の名前は全員、名字に武器の名前が入り、下の名前がその武器名の英名になっている)
変身後の名前は全員「○○××(××には下の名前が入る)」
(赤+ピンク)槍村すぴあ/○○スピア 武器:スピアグレイバー(ビームランサー)
(緑+薄緑)斧坂あくす/○○アックス 武器:アックスホーク(スピアグレイバーと合体でアックスハルバートに)
(青+水色)弓矢ちえり/○○アーチェリー 武器:アーチェリーボウ
(黄色+金色)槌沼めいす/○○メイス 武器:メイスパニッシャー(先端にモーニングスターがついている)
(紫+橙)鎌田さいす/○○サイズ 武器:サイズクロー(鎖大鎌から四刃の鉤爪に変形)
(白+銀色+黒)砲堂かのん/○○キャノン 武器:キャノンランチャー(バズーカ級の大型ビームガン)
設定は以上。○○には皆さんの考えたワードを入れてほしいです。(ただしプリキュアシリーズなど既存のヒロイン作品からは遠慮で)
>>373 メンバーは6人か
一人が司令官であとの5人が変身という形がよかったかも
ISやシンフォギアみたいなイメージになりそう
>>373-374 最初は司令官+5人でスタートして1人追加戦士でもいいかも。
槍と同じ長柄の鎌なら、最初ライバルポジションにして激突させてもいい絵になりそう。
>>375 参考までにまどかは弓、剣、槍、銃、その他もろもろ
シンフォギアは槍、刀もしくは剣、矢だけれど銃や砲にも変形、鋸、鎌
槍、刀、弓は確実で残りは鎌と火力系
メイスと鎌と槍はかぶりそう
>>372 プリキュアにハーレムものを混ぜた作品だ
アニメ化したら中の人は決まりだ
プリキュア経験者も3人いる
>>375 五人の合体した武器がカノンランチャーになる設定
保守
>>373 めいすとさいすは分かりにくい
刀剣系を使うキャラクターがいたほうがよい
>>373 このネタを利用したいが彼女たちが変身できるようになった動機付けが難しい
一応主人公と先輩、主人公の同級生か幼馴染までは考えいる
あとめいすとさいすは敵に使いたい
383 :
創る名無しに見る名無し:2014/06/13(金) 17:05:52.40 ID:aL7kagYl
保守
>>373 女子高生か女子大生くらいの少女でサバゲサークルに入っている
変身アイテムは指輪にはめた宝石
そこまで思い付いた
385 :
創る名無しに見る名無し:2014/07/01(火) 01:03:12.40 ID:2z4kkZH2
>>373 鈍器系はライバルの方がいいなぁ。
主人公に片手剣が欲しいな。
レイちゃんがレイピアとか、(当然左利き)
保守
リリなの元にオリ主とテンプレ的な物書いてみては居るが
本編に入る所か入学前で既に2万字越え。
今後推敲で削りもするだろうが
文章を纏めるってのは難しいもんだね
キャラものだと特になー。
素っ気無いあらすじみたいな文章じゃ駄目だけどだらだら展開遅いのも厳しい。
>>372のやつとか雰囲気は好きだけどなかなか話が進まなくて無理だった。
>>390のリリなのがようやく五話相当まで書けた
何度か推敲してんのに14万字越え
Officewordで見ると大分文字数が減るが、それでも12万字
解せぬ
こりゃ最初の方は抜本的に見直した方がいいな
アニメ一作を別視点から丸々文字に興そうとすればこうなるものなのだろうか?
A'sまで書いて完結とか思ってたが無茶だわ
>>392 12万字って文庫1冊程度だし、そんなものだと思うけど
>>393 そっか、こんなもんなのかな?
一冊相当で完結したかったが無理そうなんでちょっと不安だったんだ。
取り敢えず早く書き終えて推敲に入ってから文量は考えることにするわ。
やっとエピローグまで漕ぎ着けた……
OOWで26万字……
OWだと22万字くらいか……?
推敲が大変だ……
時々、即興で投下する人がいるが良く出来るな。
脳内でかなり話がまとまっていて、かつ文章書くことに慣れてなきゃ無理だろ。
>>380>>381 最初2人は敵と戦っていたがその敵の洗脳を受けて敵として登場、
中盤にて洗脳が解除されて仲間に加わるという設定で
>>384 各メンバーの指輪の宝石
すぴあ:ローズクオーツ
あくす:ペリドット
ちえり:ターコイズ
めいす:シトリン
さいす:アメジスト
かのん:パール(真珠)
変身後は指輪が各自の武器に変化する設定も追加で
>>389 剣崎レイは司令官ポジ設定で主人公はすぴあがいいと思う
あと別の作品になるがこんなのも考えてみた
全員名字にモチーフである動物の名前やそれにちなんだ言葉が入っている
赤(+ピンク+桜色):大河(たいが)みこ モチーフ:トラ 小5
青(+水色+藍色):鳥町(とりまち)みつる モチーフ:コンドル 小5
緑(+深緑+若草色):鮫嶋(さめじま)ふみ モチーフ:サメ 小5
黄色(+橙色+金色):猿渡(さるわたり)すず モチーフ:サル 小6
紫(+藤色+銀色):竜波(たつなみ)かげり モチーフ:オオトカゲ 小6
黒+白(+暗灰):猫辺嬢(ねこべ じょう) モチーフ:ヤマネコ 小5
猫辺嬢だけ中盤まで敵の一員という設定で
せっかく色々盛り込みたいアイディアあるなら自分で書いたほうがいいと思うよ。
「いいアイディアを思いついた」だけだと、いくら繰り返しても結局のところ
「こんなの読みたいから誰か書いて」と何も変わらない。
398 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/02(火) 20:12:35.62 ID:8IxMJoCy
>>396 いいかもしれない
めいすとさいす以外の敵の幹部と指令役もしくは幼馴染の少年も用意しないといけない
399 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/03(水) 20:22:16.95 ID:t2jHPXiT
>>396 メインヒロインの武器が槍か
ということはオーディンから渡されたグングニールで戦うのか
変身姿はワルキューレ風
変身アイテムは宝石になるのか
400 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/05(金) 13:08:59.53 ID:5T3glzHr
>>400 探し方が悪いのか、それっぽいのを見つけられない。
まだ掲載されてないのかな?
402 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/08(月) 20:38:18.26 ID:jirZBW5G
>>386 銃はかのんがいるから
>>378の設定は不採用でいいだろ
「銃」も「砲」も同じようなものだし
403 :
創る名無しに見る名無し:2014/09/10(水) 20:37:36.76 ID:gQ7rk0D4
>>402 了解しました
スピア、アックス、チェリー、レイピア、カノンを一人ずつ持つパターンになるのか
>>403 正しくはこうです
最終的にはスピア、アックス、アーチェリー、メイス、サイズ、キャノンの6人チームになり
レイピアはメイスとサイズ加入後に抜けて司令官ポジになり作戦指揮担当の設定
あと
>>389だが
苗字は剣崎より「刀那(かたな)」がいいなと
もう
>>404や405が好きなように小説なり漫画なりにすればいいじゃん
ここは創作発表板なんだから、他人の意見にかぶせてまで自分の考えた設定を主張したいなら、
その設定使って作品発表して納得させるべき。
スレ止まっちゃったじゃないか
409 :
創る名無しに見る名無し:2014/10/07(火) 20:26:43.01 ID:wT/jPZJT
410 :
創る名無しに見る名無し:2014/10/20(月) 20:42:57.08 ID:t4v9/kyD
実際のとこ、この設定使って誰か何か書いてるんだろうか……?
>>373、
>>385-386、
>>396、
>>404-405の以上が設定ベースで考えている
サポートキャラもいるな モチーフには昆虫類を選んでみた
セキ(赤・スズメバチモチーフ・すぴあの相棒)
コウ(黄・タガメモチーフ・あくすの相棒)
シー(紫・チョウチョモチーフ・ちえりの相棒)
アイ(藍・コガネムシモチーフ・めいすの相棒)
コク(黒・カマキリモチーフ・さいすの相棒)
モモ(桃・オニヤンマモチーフ・かのんの相棒)
ハク(白・ヘラクレスオオカブトモチーフ・レイの相棒)
ついでに刀那レイ/○○レイピアの設定も
カラーは灰色と藤色中心、左利きで武器はカタナレイピア(日本刀とレイピアを組み合わせたようなデザイン)
過去に他の6人より前の世代で単独で活動し、現在は6人の司令官ポジションに就いているが、戦闘能力は健在
水を差すようで悪いけど設定だけどんどん増えてくと多分弄り辛くて誰も作品化しないよ。
わかってるかもしれないけど設定を羅列することと作品の形に仕上げることの間の壁は大きい。
ちなみにもし設定を考えて楽しむのが趣旨ならそういうスレもある。
設定だけひたすら作りこんでいくのもも楽しいのは凄くわかる。
414 :
創る名無しに見る名無し:2014/11/07(金) 19:56:57.73 ID:076CiHtd
保守
416 :
創る名無しに見る名無し:2014/11/24(月) 00:56:25.26 ID:HVlpSJ9q
>>416 「設定だけ考えるから誰か作品にして!」
「よっしゃ俺も設定考えるの手伝う!」
「ぼくも!」
「ワイも!」
「おいどんも!」
で、誰も作品にはしてない流れだと思われ。
複数対複数の乱戦を的確に描写するって相当難しいよね。
それなのに魔法少女戦隊みたいなもののキャラ設定だけ手渡されたって、ねぇ?
殺陣を考えながらやらないと収拾つかなくなるよねw
個々の武器の性質に合った間合いで戦闘するシーン
個々の武器の性質に合わない間合いで戦闘するシーン
個別の武器がそれぞれ性質に合った間合いで連携を取りながら戦闘するシーン
個別の武器がそれぞれ性質に合わない間合いで連携を取りながら戦闘するシーン
個々の武器の相性
敵の数、シチュエーション、その他武器性能自体や環境設定上の制約条件
更に言えば、登場人物の空気化させず、それでいて不自然ではない見せ場の創造
これらを人物の数だけ、組み合の数だけ用意する必要がある訳で
それはそれはとっても頭が痛いことかーなって
その手のジャンルが好きで書きたい(描きたい)って人は大抵好きな作品もあって、
そのエッセンス取り入れた自分なりの設定を考えるか、二次でやるかだろうしね。
今年入ってからのレスだと
>>372が前者で
>>390が後者かな。
>>390の書いてたやつは公開しないのだろうか。
422 :
390:2014/12/01(月) 23:22:59.06 ID:gchhZPpx
>>421 ごめん、完成して二次創作サイトに投下していたけど、ここには敢えて報告してなかった。
理由は原作が「リリカルなのは」とは言うものの、内容は男オリ主の一人称だから。
つまりは390のレス自体がスレ違いだったんだが、気付いたのは完結後。
どうしようか色々迷ったんだが、スレ違いの小説を宣伝するのは流石にダメだろうと自重した。
後、文章量が削るつもりで推敲したのに、投稿完了後には約40万字にまで膨らんでいたってのも躊躇した理由の一つかな。
と言うことでスレ違い御免なさい。
あと、相談乗ってくれて有難う。
>>422 ちょっと読んでみたかったから残念。
>>372のも男性主人公視点だし、話の主軸が魔女っ子&変身ヒロインに置かれてるなら
主人公の性別や視点はあんまり気にしなくていいと思うけどな。
まあ無理に公開しろとは言わないので、それっぽいの勝手に探してニヤニヤしとく!
424 :
創る名無しに見る名無し:2014/12/12(金) 15:38:51.56 ID:QtAg1MZp
AGE
425 :
創る名無しに見る名無し:2014/12/17(水) 19:10:05.74 ID:KqimZESn
426 :
創る名無しに見る名無し:2014/12/31(水) 09:47:12.69 ID:gIXsLsUY
>>426 ほんの数レス前見ても理解できないならよっぽど
力自体の設定よりも、その力の由来やら成立の論理的根拠や
それら舞台装置とストーリーとの無理や無駄のない整合性の在る世界観の構築の方が重要じゃない?
力の表層的な強さやら見た目って、正直かなりお話の上では優先順位が低く在るものだと想う。
レイアースにしろスレイヤーズにしろカードキャプターにしろリリカルにしろエコエコアザラクにしろまどマギにしろ、世界観有りき思うし。
>>428 その通りだと思う。
マンガで喩えるなら
>>373は「こんなマンガどう思う? 続き描かない?」って言いながら、
仕上がってないラフイラストを見せてる状態なんだよな。
そのラフイラストがどんなに魅力的だったとしても、そこからマンガの完成形には繋がらない。
そして
>>373へのレスの大半はラフイラストを完成イラストに近づけようとするものであって、
やっぱりマンガとしての完成形には全く向かっていなかった。
>>373て名前が無理有り過ぎな気がするんだよな。
魔法の設定と合わせたいのは判るが、
キャラネーム的に現代日本(的世界)を舞台にしたいのが見える以上、
その舞台に合わない名を付けるのならば、その舞台の上で名の由来を説明する必要が出る。
(作者が設定する際に考えた、とかではなく、物語の上で何故親が子にその名を付けたかの説明)
その由来自体に魔法が関わるのならば、その時点で親はこの能力を見抜いている必要がある。
そうなると、親自体が魔法と何らかの関わりのある存在となる。
五組の親が魔法との関わりがあり、それらが一堂に介する舞台で話を回すのであるのならば、
魔法の存在を公知とするか、最初から組織化して親同士での上方の共有が在る方が自然かね?
まぁ偶然で解決してもいいのかも知れんが、そうなるとこの世界では大部分の人間が武器やら道具の名を持っていそうだな
>>430 何かにちなんだ名前で統一されてる「実際にはありえないネーミング」の作品なんて沢山あるよ。
戦う変身ヒロインとしては中興の祖に位置するであろう美少女戦士セーラームーンだって、
主要キャラは月野・火野・水野・木野・愛野と仕組んだように守護星にちなむ姓に生まれてる。
別にそこには何の説明もなかったけど作品はちゃんとヒットしてるしね。
佐藤敦子だの田中由美だのって名前なら作品が面白くなるわけでもないんだし、
あんまりキャラ名の部分で説明やリアリティを求めても仕方ないと思うけどな。
432 :
創る名無しに見る名無し:2015/01/23(金) 10:01:48.19 ID:Kp1zCn0/
保守
>>396で考えていた別の作品の設定詳細を考えました。
ストーリー概要は、6組12人の親友同士がある日突然選ばれて、世界を救うため戦うことになってしまうというので。
キーアイテム:ギアクリスタル
12人6組の親友同士に手渡された不思議な力を持つ歯車の形の宝石。
スノー(白) ガーベラ(ピンク) ダークスノー(藤色) ダークガーベラ)(黒)
リコピン(赤) ルピナス(紫) セクシー(黄色) ミモザ(オレンジ) リーフ(緑)
ローズ(黒) トワイライト(青) ハイドランジア(藍色)の、全12個が存在する。
普段は所持者がお守り袋に入れて宝物として大切に持っている。
変身アイテム:エトワールーチェ
コンパクト型のアイテム。開くと中央に回転ダイヤルがあり、左右にギアクリスタルをはめるスロットがある。
左右のスロットにギアクリスタルをそれぞれセットし、中央のダイヤルを回し、回転を止めると2人の身体・心・人格が合わさって変身する。
普段は右半身側が持っており、変身後は腰のキャリーに収納される。
中央のダイヤルのギアと左右のギアクリスタルがかみ合い連動して回転する仕組みになっている。
設定・見どころ
2人の親友同士の女の子が変身アイテムを使用して1人の戦士へと合体変身を行う。
さらにキーアイテムを交換し合うことで合体する相手を交代する「乗り換え合体」が可能。
乗り換え合体は右半身側の思考で行われる。変身者2人が合体すると、
両者のいずれとも異なる全く新たな容姿を持った1人の戦士へと変身、
また人格も2者の者を合わせたものに変化する。(従って、全形態ともに2人同時にしゃべる)
>>433続き
変身者は全員小学5〜中学1年生の女の子で、別々のクラスに所属
1人目:スノーガーベラ(ピンク+白) モチーフ:トラ
変身者:大河 みこ(たいが みこ)小5・天雨乃 渦雀(あめの うずめ)小5
2人目:ダークスノーガーベラ(藤色+黒) モチーフ:ヤマネコ
変身者:猫部 嬢(ねこべ じょう)小5・かぐや 月黄泉(かぐや つくよみ)小6
3人目:リコピンルピナス(紫+赤) モチーフ:オオトカゲ
変身者:竜波 かげり(たつなみ かげり)小6・虎碁 りら(とらご りら)小6
4人目:セクシーミモザ(オレンジ+黄色) モチーフ:サル
変身者:猿渡 すず(さるわたり すず)小6・乱 ちゆら(らん ちゆら)小6
5人目:リーフローズ(黒+緑) モチーフ:サメ
変身者:鮫嶋 ふみ(さめじま ふみ)小6・蟠罪 ろれる(わだつみ ろれる)小6
6人目:トワイライトハイドランジア(藍色+青) モチーフ:コンドル
変身者:鳥町 みつる(とりまち みつる)中1・近藤 まじな(こんどう まじな)中1
苗字は『テンカイナイト』の主人公達の名前を見て参考に、ピンクと紫(光系と闇系)が
最初のメンバーになるのは『プリズマイリヤ』を見て参考にしました。
設定だけ考える情熱は手遅れになる前に作品にした方がいい。
設定を作れば作るほど自分の脳内では名作確定の超大作になってく。
で、具体的な作品作りに入った瞬間に脳内と現実のギャップに苦しむことになる。
設定発表
→「作品書け」系の指摘
→黙る
→クールタイム挟んで続きの設定発表
なんかずっとこの繰り返しだな
そこまでするほど大事な設定ならなおさら自分の手で作品化すればいいのに
438 :
創る名無しに見る名無し:2015/02/20(金) 12:58:37.11 ID:lUieOcf9
ここで設定だけじゃなく、いざ作品を形にして投下しても感想は付かず、
お疲れ様しか言われないし、モチベーション上がらないんじゃない
なかなか書けない
>>438 でも設定書いてたらスレ民の食いつきがいいかっていうと別にそうでもないよね
そもそも創作発表してないからスレ違いっていう単純な話では
上手い下手かなんて気にせず、絵でもマンガでも小説でもなんでもいいから「作品」にしよう
上手く作品化できないから設定だけ公開ってつもりかもしれないけど
作品化していかない限りそれは「設定」ではなく「痛い妄想」なんだよ
痛い妄想を垂れ流す恥ずかしさを乗り越えられるなら、下手くそな作品を公開するくらい余裕余裕
人に見せてフルボッコにされるうちに上達するよ
442 :
創る名無しに見る名無し:
保守