★参戦作品別名簿
【Fate/stay night】5/5
○衛宮士郎/○アーチャー/○言峰綺礼/○藤村大河/○間桐慎二
【MONSTER】4/5
○天馬賢三/○ヨハン・リーベルト/○ハインリッヒ・ルンゲ/○ニナ・フォルトナー/●ヴォルフガング・グリマー
【DEATH NOTE】3/5
○L/○夜神月/●メロ/○松田桃太/●夜神粧裕
【未来日記】4/4
○天野雪輝/○我妻由乃/○平坂黄泉/○雨流みねね
【ジョジョの奇妙な冒険】3/4
●東方仗助/○空条承太郎/○吉良吉影/○DIO
【金田一少年の事件簿】3/4
○金田一一/○高遠遙一/●七瀬美雪/○剣持勇
【バットマン】2/4
○バットマン/○ジョーカー/●ポイズン・アイビー/●ジェームズ・ゴードン
【武装錬金】3/3
○武藤カズキ/○蝶野攻爵/○武藤まひろ
【聖闘士星矢 冥王神話】3/3
○テンマ/○杳馬/○パンドラ
【魔法少女リリカルなのはシリーズ】2/3
○高町なのは/●アリサ・バニングス/○月村すずか
【天体戦士サンレッド】2/3
○サンレッド/●内田かよ子/○ヴァンプ将軍
【侵略!イカ娘】2/3
○イカ娘/●相沢栄子/○相沢たける
【MW】2/2
○結城美知夫/○賀来巌
【仮面ライダークウガ】2/2
○五代雄介/○ン・ダグバ・ゼバ
【デュラララ!!】2/2
○竜ヶ峰帝人/○折原臨也
【キン肉マン】2/2
○ロビンマスク/○悪魔将軍
【めだかボックス】1/2
○黒神めだか/●人吉善吉
【仮面ライダーSPIRITS】1/1
○本郷猛
【ウォッチメン】1/1
○ロールシャッハ
【Yes! プリキュア5】1/1
○夢原のぞみ
【Vフォー・ヴェンデッタ】1/1
○V
49/60
★分類別名簿
【正義】15/17
○アーチャー@Fateシリーズ
○衛宮士郎@Fateシリーズ
○L@DEATH NOTE
○金田一一@金田一少年の事件簿
○空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険
○黒神めだか@めだかボックス
○五代雄介@仮面ライダークウガ
○高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○テンマ@聖闘士星矢 冥王神話
○天馬賢三@MONSTER
○バットマン@バットマン
●東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
○本郷猛@仮面ライダーSPIRITS
○武藤カズキ@武装錬金
●夢原のぞみ@Yes! プリキュア5
○ロビンマスク@キン肉マン
○ロールシャッハ@ウォッチメン
【悪役】16/17
○悪魔将軍@キン肉マン
○雨流みねね@未来日記
○折原臨也@デュラララ!!
○吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
○言峰綺礼@Fateシリーズ
○ジョーカー@バットマン
○高遠遙一@金田一少年の事件簿
○蝶野攻爵@武装錬金
○DIO@ジョジョの奇妙な冒険
○パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話
○V@Vフォー・ヴェンデッタ
●ポイズン・アイビー@バットマン
○結城美知夫@MW
○夜神月@DEATH NOTE
○ヨハン・リーベルト@MONSTER
○杳馬@聖闘士星矢 冥王神話
○ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ
【一般】17/26
●相沢栄子@侵略!イカ娘
○相沢たける@侵略!イカ娘
○天野雪輝@未来日記
●アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○イカ娘@侵略!イカ娘
○ヴァンプ将軍@天体戦士サンレッド
●ヴォルフガング・グリマー@MONSTER
●内田かよ子@天体戦士サンレッド
○我妻由乃@未来日記
○賀来巌@MW
○剣持勇@金田一少年の事件簿
○サンレッド@天体戦士サンレッド
●ジェームズ・ゴードン@バットマン
○月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ
●七瀬美雪@金田一少年の事件簿
○ニナ・フォルトナー@MONSTER
○ハインリッヒ・ルンゲ@MONSTER
●人吉善吉@めだかボックス
○平坂黄泉@未来日記
○藤村大河@Fateシリーズ
○松田桃太@DEATH NOTE
○間桐慎二@Fateシリーズ
○武藤まひろ@武装錬金
●メロ@DEATH NOTE
●夜神粧裕@DEATH NOTE
○竜ヶ峰帝人@デュラララ!!
48/60
【実験のルール】
1、【基本ルール】
実験のため強制的に集められた参加者達は、3つのグループに振り分けられ、各々異なる勝利条件を目指し、48時間を過ごす。
・Hor(正義)グループは、Set(悪役)を全て殺すか、Isi(一般)を助け、ロワ終了時まで一人でも生かしておくこと
・Set(悪役)グループは、Hor(正義)に属する者を皆殺しにすること
・Isi(一般)グループは、ただ時間内生き残ること
実験開始時に、これらグループに誰が属しているかは明かされない。
優勝者(たち)には主催の出来る範囲で願いが叶えられる。
2、【首輪】
参加者の首には首輪が装着され、首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
・首輪を無理やり外そうとした場合
・禁止区域エリアに入った場合
・ロワ会場から逃走しようとした場合
3、【放送について】
制限時間は48時間。
6時間毎に途中経過がアナウンスされる。
4、【スタート時の持ち物】
プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は一部を除き没収。
支給品として、2日分の食べ物、水に、地図、名簿、メモ用の紙数枚、小さな方位磁針と時計と鉛筆付きのマニュアル手帳がある。
その他、各作品や現実からランダムに選ばれたもの1〜3個が渡される。
5、【特殊ルール】
・参加者は三人の参加者を排除した場合、特別な報酬を得る権利を与えられる。
・特別報酬は、怪我の治療、物資の補給等の他、他の参加者に危害を加えたり、ロワを棄権する以外の事が出来る。
・詳細は、達成した後に首輪の前の部分を触って確認できる。
【書き手参加ルール】
1.【書き手参加の基本】
・書き手参加をする場合、トリップを使い識別できるようにする。
2.【予約、及び延長期限】
・現時点で予約されていないキャラクター、修正提案期間を過ぎたキャラクターを、SSを書くのに使用したい場合、「予約スレ」にて予約をすることが出来る。
・予約されているキャラクターは、期限内において、予約をした書き手に優先使用権があり、他の書き手がSSに使用したり予約したりすることは出来ない。
・予約期限は 5日間 とする。
・予約期限内に、やむなくSSを完成し投下することが出来ない場合、延長を申請できる。
・延長期限は、2日間 とする。
・予約期限内に延長申請がなかった場合、又、延長期限内にSSを投下できなかった場合、予約されていたキャラクターの予約は解かれる。
3.【修正、修正議論に関して】
・投下されたSSには、24時間の間に、「修正提案」をする事が出来る。内容の不備、矛盾等がある場合、書き手はそれを受けて修正を申請する事が出来る。
・「修正提案期間」の投下後24時間以内は、他の書き手は投下されたSSのキャラクター、展開を引き継いだSSの投下、予約は行えない。
・「修正提案」 が逢った場合、そのSSについて、専用JBBSの「議論スレ」にて、議論を行う。
・「修正議論」は2日間を期限とし、その間に結論が出なかった場合、24時間以内の期限で「トリ出しの書き手による評決」を行う。
4.【その他の留意点】
・序盤など、特に自己リレーは控えるよう気を付ける。
・キャラクターの能力、アイテムなどの制限は、投下されたSS、又はそれらを元にした議論などで決まったものを基準にする。
・みんなで仲良く殺りましょう。
5.【作中での時間表記】
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
>>2参戦作品別名簿でミス
【Yes! プリキュア5】1/1
○夢原のぞみ
49/60
↓
【Yes! プリキュア5】0/1
●夢原のぞみ
48/60
7 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:24:03 ID:7er03E6T
395 :ミッドナイトホラースクール ◆3VRdoXFH4I :2010/11/23(火) 17:55:33 ID:90qctut+
「この事態においてもそんな足手纏いを連れてのうのうと歩いている。相も変わらずの偽善者振りだな」
夜が明ける。
帳は上がり、人の世界に光が満ちる。
1日の始まり。爽やかな陽光が差し込む街中にはしかし、人の姿はなかった。
生の気配がない、沈殿した空間。
それも当然、ここは「実験場」であるからだ。
正しい結果を計るため、確かな成果を得るためには余計な要素は不要だ。
原料と触媒、それにより生ずる化合物こそが研究者の望みなのだから。
正義と悪の正体を。優劣を。是非を問うための試験管。
「――――――蝶野」
フラスコに投げ込まれた素材は、触媒を交えて反応を見せる。
殺し合いという実験場に集められた六〇の生命が、会場のそこかしこに置かれた幾多の施設に引き込まれていく。
そこで起きるのは調和か混沌か。融和か殺戮か。
それを知るのも、また実験の意味。
「……場所を変えよう。言いたいこと、聞きたいことは後で聞く」
「ほう、貴様らしくもない合理的な判断だ。―――まあその顔を見るに酷く頭を冷やされた後のようだが、いいだろう」
では、四人の参加者が集ったこの学校で起きる反応は如何様か。
経過はどうか、その眼で御覧になるといい。
8 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:25:09 ID:7er03E6T
396 :ミッドナイトホラースクール ◆3VRdoXFH4I :2010/11/23(火) 17:57:02 ID:90qctut+
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
休憩を終え民家を出たカズキとすずかはC-1と2の境界にある学校へと向かっている。
カズキの妹であるまひろ、なのはの友人であるなのはとアリサ。
学校という施設は自分達学生にとっては一番馴染みの深い場所だろう。
安全、安心を求めるのならここに向かっているかもしれない。
あまり聡いとは言えない頭なりに考えたカズキの提案にすずかもまた異論もなく進んでいた。
肌を刺すような冷えた―――気温よりも空気そのものが鋭く鋭利な刃物ようだ―――黎明の町は静かに二人を包んでいる。
その足取りは襲撃者を警戒していることを含めても遅いペースだった。その理由は語るまでもなく、月村すずかという少女である。
殺し合いという常に気を張り詰めながらの時間は小学生のすずかには想像だにしない疲労、心労を覚えさせた。
本来なら既に暖かい布団で夢を見ている時分。このまま家で休みつつ歩いていては日が出る頃でも目的地には辿り着けなかっただろう。
「……あの、武藤さん」
だが今はその足取りも軽快だ。その理由もまた、明確。
「どうかした、すずかちゃん?」
すずかは今、カズキに背負われていた。いわゆるオンブというやつである。
見た目よりもずっと大きく感じるカズキの背中にしがみついている姿は身長差もあって旅行用のリュックサックを思わせる。
半身不随なのをいいことに白昼堂々、満員電車、大通り、繁華街をずっとオンブしっぱなしという恥辱で死ねる程の公開処刑を
自分より1つ年上の少女に味あわせた前科のあるカズキだが
幸運というべきか、二回り程年の離れたすずかはそういった念を抱く羽目にはならなかった。
せいぜい見知らぬ人の背中に体を預ける気恥しさと申し訳なさがあるくらいだ。
カズキも、同じように背に負ったかの少女よりもなお軽いすずかの命の重さを噛み締めていた。
「その……大丈夫ですか?武藤さんも疲れて……」
「なんてことないよ。これくらい慣れてるし、すずかちゃん軽いし」
「そう、ですか」
その言葉にすずかは僅かに息を詰まらせる。
慣れている。夜ふかしに対してのではない。それくらいはいずれ誰でも経験することだろう。
傷を負う事、殺し合いという人の命が計りにかけられている状況を経験しているということ。
日常の感覚が麻痺してるわけではなく、なんとなくに出た言葉なのだろう。事実カズキはなにもない日常の世界にいることに幸福を感じている。
自分の知らない裏の世界。知ってはいけない深淵の住人。カズキもまぎれもなくその一面を担っている。
それがカズキを拒絶する理由にはならない。そんな事情を抜きにしてもすずかはカズキの人柄を好いている。
心をざわつかせる場において、初対面でここまで好印象を持たせられる少年というのは人生経験の浅いすずかでも珍しいと思う。
だからこそ、その笑顔に似つかわしくない剣呑な世界に身を置いているカズキが心配だった。
他人のために自分を殺すという意味をすずかは分からない。
分からないが、戦うカズキの姿を想像する時、頼もしさの中に一抹の不安が浮かんでいた。
支援
10 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:26:32 ID:7er03E6T
397 :ミッドナイトホラースクール ◆3VRdoXFH4I :2010/11/23(火) 17:58:51 ID:90qctut+
そうして互いに思うものを秘したまま、二人は『反応』を求められる。
住宅地を抜け山林地帯に差し掛かった所で、カズキの動きが止まる。
「―――ゴメン、すずかちゃん。ちょっと降ろしてもいいかな」
「え?あ、ハイ」
すずかを降ろして正面を見据えるカズキ。
何をしてるか最初は分からなかったすずかだが、自然にその意味が理解できた。
少しずつ耳に伝わっていく足音。露わになってくる輪郭。
前から、誰か来る。
それだけで、すずかの小さな全身が震える。
始めに会ったカズキは優しい人だった。次に会ったのは恐怖が形になったような怪人だった。
前者であるのなら安心できる。だが後者だった場合は……その時の惨状が甦る。
分からないということは、それだけで人を恐怖させる。
同時に、正体が自分を襲うモノだと分かるのが恐ろしいという矛盾。その矛盾にすずかの胸中は苦しめられる。
カズキもまた、身を強張らせている。
それは怯えではなく、戦う意思の備え。
後ろにいるすずかからは見えないが、その顔はまぎれもない戦士の顔をしている。
顔も見えない初対面の人を疑う真似など普段のカズキはしたくない。
だが不幸にも―――あるいは幸運にも―――実験開始間もなく会った男の、あまりの邪悪さがカズキの心を離さない。
誰かを傷付ける相手ならカズキには戦う覚悟がある。
今目の前から来る参加者がそうであるのなら、カズキは前に出なければならない。
どれだけ自分の心身が傷付こうとも、それで誰かを助けられるのなら耐える甲斐があると信じてる。
これから会う人を殺人者と疑う良心の圧責も押し殺し、カズキは左胸に収められた核鉄を握るように拳を固める。
朧げだった輪郭は確かな象を持ちながら近づいてくる。
僅かに昇る太陽が、暗闇に包まれた貌を暴く。
その顔に、カズキとすずかは、お互いに異なる意味で釘付けにされた。
「あ、ようやく誰かがいたよパピヨン君!」
「わめくなヴァンプ、そんなことはさっきから分かってる。ああ、分かってるとも……」
現れた姿は、奇しくもカズキ達同様に二人組みだった。
その内の一人は――――――。
「おーい、ちょっといいですかそこの人〜。あ、安心して下さい。僕たちは怪しい者じゃありませんよ。
ヴァンプっていうんですけど川崎で悪の組織をやっていて……」
創作物染みた造形の頭部。
これもまた一般とはかけ離れた瞳。
ひげ。
たらこくちびる。
どれをどうみても「奇妙」な外見だが、それに反して嫌悪や恐怖の類といった感情は全く湧いてこない。
むしろ親しみすら感じられる、不思議な造形だ。
そしてもう一人は――――――。
支援
支援
13 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:28:27 ID:7er03E6T
558 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:02:27 ID:NnZIJi/c
「黙ってろといったろう。そもそも自分で悪の組織を名乗る意味が分からん。
これは俺の見込み違いだったか?……さて、」
前に分けられた黒髪。
色白、というよりも蒼白に近い肌。
だがそんな特徴(パーツ)は全て後回しにするほどに大き過ぎる象徴(シンボル)の、紫色の蝶々仮面(パピヨンマスク)。
そこから覗く眼は、ドブ川が腐ったように、濁った色。
それにつられた、全身像も明らかになっていく。
指先に至るまで引き締まったエレガントボディ。
その彫像の如き肉体に相応しい、セクシャルバイオレットな一張羅。
そしてはちきれんばかりの胸筋と、ビン☆ビンなゴッサムタワー建設地(仮)。
「―――!?!?!?!?!?!」
確認したか否かの前に、反射的にすずかはすぐさま目を覆った。
思春期すら突入しておらず父親と一緒に入浴していてもおかしくはない年齢であるが、
清純お嬢様なすずかにとっては視覚的に衝撃過ぎる光景だった。
乙女の純潔の守護に腐心しているすずかを尻目に、四人の間の空気は未だ張り付いている。
正確に述べるなら、そのうちの二名のみの間でぶつかる視線が火花を散らしている。
「この事態においてもそんな足手纏いを連れてのうのうと歩いている。相も変わらずの偽善者振りだな」
散歩中に曲がり角で顔を合わせたような自然さで、「宿敵」は相まみえる。
それは偶然と呼ぶべき唐突さであり、それでいて何者かの作意―――運命的な邂逅を感じさせる。
真実そうなのか否かは、ここにいる誰もが知り得ないことであるが。
そんな真偽はよそにして、武藤カズキと蝶野攻爵は早過ぎる邂逅を迎えた。
14 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:30:34 ID:7er03E6T
559 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:03:03 ID:NnZIJi/c
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この実験場の西エリアを占める住宅地で僅かに孤立した施設がある。
森に囲まれたその施設は、地図上では「学校」と銘打たれている。
この実験の参加者には比較的学生が多く、カズキの考えもあながち間違いともいえるものではない。
特に、カズキ当人にとってもそこは重要な意味合いのある場所であった。
私立銀成学園高校。
カズキの帰る場所であり、守る場所。
友達が、妹が、多くの人がいる場所。
そこに迫る危険から皆を守るため仲間と突入した矢先にカズキはここに連れて来られた。
細部はともかく、大まかな造りはカズキの記憶と相違ない形状をしている。
最も大きな違いといえば、そこに溢れてる筈の生徒、教師は一人もいないことだ。
夜の学校。肝試しの代名詞。ここにそんな仕掛け(フィクション)はない。
あるのは純粋な恐怖のみ。ただ空気が違うと言うだけで、馴染みのある建物が悪魔の巣窟かというほどの異彩を放っていた。
その屋上に、錬金の戦士とホムンクルスは向かい合っている。
共に不倶戴天の天敵。個人同士にも因縁が生じている間柄。
蝶野攻爵。有数の資産家蝶野家の嫡子にして稀代の天才児。
将来を嘱望され生まれながら、生来の病魔が彼の人生を蝕んだ。
医者に、クラスメイトに、教師に、実の親すらからも見捨てられた「透明な存在」。それがかつての蝶野攻爵という男の立場だった。
地を這う芋虫の如き運命を脱却し華麗なる蝶への進化を夢見て、男は禁断の秘術を学んだ。
曾祖父が残した錬金術の知識。限りない不老不死、人喰いの化物、ホムンクルス。
ほぼ独学でそれを実戦し得たことは、よほど彼の才覚と、生への執着が強かったことが窺える。
武藤カズキ。何の変哲もない高校生として生を受けた男。
攻爵が産み出したホムンクルスと、それを追いに現れた錬金の戦士、津村斗貴子との出会いが、彼を戦いの世界へと巻き込んだ。
潰された心臓の代用に錬金術の粋を集めた超常の合金、核鉄を埋め込まれて新しい命と、新しい力を手にした。
世界の闇を知った彼は、それにも関わらず少女の助けになることを決めた。
誰かを助ける為に体を張れる。力がない頃から武藤カズキはそういう男だった。
新しい命を得る為に他人を犠牲にした男。
新しい命を得た為に他人を守ろうとする男。
二人の奇妙な因縁は、そこから繋がっていくことになる。
支援
560 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:04:26 ID:NnZIJi/c
「何の感慨も沸かない場所だと思っていたが―――」
手すりに腕をかけ、蝶野―――今は既にその名は捨てたが―――は口を開く。
休み時間の雑談のような気軽さで、何の気もなしに。
「中々いい見晴らしじゃないか。目に障る蟲も、煩わしい雑音もない。」
爽やかな口調の底には、どす黒い感情が煮えたぎり、渦巻いている。
無人の校庭を見下ろす眼の濁りが、一段と強みを増す。
「人のいない学校というものが、これほど心地よいとは思わなかった」
蝶野攻爵だった男は「透明な存在」、誰からも、世界からも必要とされない存在だった。
同様に、蝶野もまた他人を、世界を必要としていない。
ホムンクルス「蝶人・パピヨン」として新生を遂げた彼にとっては、もはや人間にも人間社会にも一切の執着を捨てている。
そんな何の意味も世界、全てまとめて燃やし尽くしてもいいと本気で思っている。
「無人の街に君臨する超人……中々オシャレな響きだな。だがやはりここは―――」
「蝶野」
沈黙していたカズキが声を出す。
その面持ちは神妙にして複雑。
「協力してくれ」
「断る」
即答であった。シークタイムゼロセカンド、脊髄反射の返答だった。
「念のために聞くが、それは単なる意思確認だよな?まさかお前俺が手を取り合って協力しようと頷くと本気で思っていたのか?」
嘲るように、問い詰めるように睨みつける蝶野。
心底見下し、けどそれでいてその言葉に満足してるような表情だ。
「確かに俺を実験体扱いしこんな辛気臭い場所に放り込み、あまつさえ首に鈴まで付けるような奴に尻尾を振る気はない。
主催者とやらの戯言に付き合ってやる義務もなければ義理もない。そして何より俺自身が気に食わない。
ああ実験を壊すという点においては頷いてやる。そう言う意味では他の参加者と協力関係を結ぶこともできよう」
蝶野自身この実験に協力、即ち殺し合いに乗るという発想はない。
自分を虚仮にした相手には相応の報復をするのが彼の信条だ。
今言ったように、他の参加者を従え(あくまで自分が上、という解釈だ)主催に反抗するという意思がある。
「だが、だ。ソレとコレとでは話は全くの別。貴様の慈善事業に付き合う気もまた毛頭ない。
手を取り合う?よりにもよって俺と貴様が?ハッ、そこまでにしておけよ武藤。
いつから俺と貴様はそんな仲良しな関係になったんだ?」
結末においてこの二人のものは同一ではない。
人を守る、という信念の元に動くカズキと違い蝶野が動く理由は主催を殺す、という点。
守る為と、殺す為。
結果として殺し合いを止めることになるかもしれないが、過程においてこれらは相容れない。
「それに……ある意味ではこの状況は俺にとって都合がいい。
ここならあのブチマケ女の横槍が入ってくることもない。『決着』の場としてはおあつらえ向けな場所だ」
そして、蝶野にはもう一つ目的がある。ここに来るよりも前に決めていたカズキとの決着。
超人と化した自分を一度殺し、唯一自分を「蝶野攻爵」と呼ぶことを許した男、それが武藤カズキだ。
その時の敗北が、人を越えた彼の心を縛っている。カズキとの決着を付けてこそ、蝶野の心は羽撃たけるのだ。
支援
18 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:32:53 ID:7er03E6T
561 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:05:46 ID:NnZIJi/c
「蝶野、お前との勝負はちゃんと受ける。けど、それは今じゃない」
それは、カズキもとうに承知している。
自分が切り捨てた命。「偽善者」という名を刻んだ戦いの相手。それが蝶野攻爵だ。
どういう形であれ蝶野との決着を付けるとは既に決めている。
けれどこんな場所で、こうしてる今でも誰かが傷付いてるかもしれないような場所でそちらを先に回すことはできない。
「最後まで他の人には手は出させない。それからこの実験を止めさせる。そして最後に全部終わった後、お前と戦う。
―――決着は、後回しだ」
これは、決して譲らない。カズキの根幹たる信念だ。
どれほど強大な力で打ちのめされようとも、身を裂く思いになろうとも、この心だけは砕けない。
「……ハッ。まあいい。どの道今の俺は核鉄を没収された身だ。取り戻すまではお預けにしといてやる」
厳重に保管していたというのに手癖の悪い奴らだ、と残念そうに股間をモゾモゾとまさぐりながら愚痴る蝶野。
一般人が見れば卒倒ものだが、感性という点でカズキも普通ではなかった。
カズキの言葉に、蝶野は破顔する。
全身に行き渡る感情は不快感、蝶野の一番嫌う綺麗事だ。
それなのに、目の前の男が言ったということだけで胸中に満足感のようなものが宿る。
「さあて、と。協力しないと言ったが今は情報が何より惜しい。ここは情報交換といこうじゃないか」
眼の輝きを収め、先の変態モーションが一変し理知的な一面を見せる。
ここでは情報が単純な能力よりも重要となることをいち早く理解している。カズキもそれには同意だった。
「ではまず貴様からだ。ここまでに見たもの、聞いたもの、その肌で直接体感したことを包み隠さず話せ。
特に、貴様に余計な影を落とさせた奴の事をな」
わざわざ強調させて言ったのはどういう意図だったのか。
本人ですら分からない疑問は、カズキの証言への計算で忘却の彼方へと消えていった。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
支援
562 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:06:56 ID:NnZIJi/c
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
「武藤さん……!」
教室に入って来たカズキに気付いたすずかが駆けよってくる。
その顔には心からの喜びと安心が浮かんでいる。それだけでも、カズキは幾分救われた気になった。
「遅かったねパピヨン君。ところでカズキ君とは決着が着いたのかい?」
「今はNGだ。なあに、そう遠い日ではない。じきにカタがつく」
それに続いて顔を出したのは蝶野攻爵ことパピヨン。
一般人の趣向とはかけ離れたエレガント(本人談)なスーツをすずかはまだ直視できず、カズキの背に隠れるように歩いている。
逆に全く物怖じせず実にフレンドリーに話しかけてくるのはフロシャイム幹部ヴァンプ将軍。
悪の組織の幹部という肩書きにカズキ達は面喰ったが、それと全く釣り合わない人のよさにすぐに毒気を抜かれた。
こちらを油断させる演技かと邪推もしたが、そんな考えが馬鹿らしくなるほどにいい人過ぎたのだ。
元々お人好しと言われるカズキは彼を信じ、すずかも僅かな会話でヴァンプに心を開いていた。
「ありがとうヴァンプさん。すずかちゃんと一緒にいてくれて」
蝶野との「話し合い」のためにすずかはヴァンプに一時預け下の教室に待機してもらっていた。
これは自分と蝶野の問題であり、他の人に聞かせることもないだろうという配慮からだっだ。
「いやあそんな大したことはしてないよ。近所の子供ともよく遊んでるし」
「ヴァンプさん、すごくいい人でした……色んな話を聞かせてくれて、すっごく面白かったです」
「ただの世間話だったのに、いやあ照れるなあ」
はっはっはと朗らかな笑顔(?)を見せるヴァンプ。
すずかを落ちつかせ、安心させようと話しかけるその姿勢はまさに主夫の鏡であった。
ヴァンプとしてはサンレッドとフロシャイムとの激闘の記録を語ったつもりでもすずかは漫才のような感覚で聞いていたのだが、
楽しそうに笑ってるしまいっか!ということで納得していた。
本当に、どうしてこの人は悪の組織に入ってるのだろうか。
カズキとすずかの疑問は尽きなかった。
21 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:35:48 ID:7er03E6T
「放送ではここで待つとして、それ以降の行動を俺と武藤で決めておいた」
からあげのオーロラあえをパクつきながら蝶野はこれからの事を説明する。
カズキと蝶野で決めた今後の行動、結論でいえばやはり別行動だ。
お互いのこれまでの履歴を照らし合わせると、この周囲には他に参加者がいない、ないし少ない可能性が高い。
このまま数を無暗に増やしてフットワークを鈍くするのは下策といえた。
ならば従来通りのペアで別方向に進み情報と仲間を集めた方が効率がいい。
カズキとすずかは南の施設群へ、蝶野とヴァンプは東のコロッセオへ向かう。
合流する時間は三回目の放送前、場所はコロッセオを指定した。
集まる場としても、決着を着ける場としても相応しいと、蝶野は口元を歪める。
「蝶野。約束、ちゃんと守れよ」
「その台詞。一言一句違わず返そう。ただし向こうの方から仕掛けてきたら俺は容赦せんぞ」
先に決めた補足として、二人の間に結んだ決まりがある。
カズキは核鉄を入手し、それを蝶野へ返して決着を着ける。
蝶野はなるべく人を害する真似をせず、戦えない者は保護する。
お互いに納得がいかない部分があるからこその平等な協定だ。
最後に全員の支給品を確認し、あるいは交換し合って、放送までの間は各自自由に動く流れになった。
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563 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:07:59 ID:NnZIJi/c
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カズキは考える。蝶野から伝えられたこの実験における仮説を。
正義と悪の戦い。この実験はその縮図。
まだ少ない情報をやりくりしてでの拙い説だが、カズキの周りの人達から考えてみる。
カズキは正義の味方を自称したことなどないが、人々をホムンクルスから守る錬金の戦士という立ち位置は見る人から見れば正義の味方に見えなくもないだろう。
パピヨン―――蝶野は結果的として自分の目的のために大勢の人を犠牲にしてきた。その点でなら社会的には悪とみられてもおかしくはない。
すずかはその中で守られる側の人だ。一応の辻褄は合っている。
けど、それだけだ。
HorやSetやIsiなんて関係ない。救える命は救い、戦わざるをえない時は自分が戦う。それでよかった。
蝶野にある点を指摘されるまでは。
『崇高な偽善者振り結構。その精神に免じて俺からひとつ有難い講座をしてやろうじゃないか』
これは実験だ。正義と悪の真偽はどうあれ主催者本人がそう称した以上何かの結果を求めてのこの行動だ。
それぞれの陣営に定められたルールを見れば己ずとその性質も見えてくる。
・Horは、Setを全て殺すか、Isiを助け、実験終了時まで一人でも生かしておくこと
・Setは、Horに属する者を皆殺しにすること
・Isiは、ただ時間内生き残ること
中でもSet、不特定多数の陣営の者を殺せなど実質皆殺しに近い。
見境なく襲いかかるような危険人物もいるかもしれない。そしてカズキは既に「それ」と会っている。
「究極の闇」は、誰に命じられるでもなく目に付く人を滅ぼすだろう。
だが、Setに類するとされる参加者が全員そのような化物だとはいえない。
かつての蝶野攻爵のような、生身の人でありながら容赦なく他人を犠牲にする人が潜んでいる恐れもあるのだ。
その時、武藤カズキはどうするのか。
当然、カズキは助けるつもりだ。カズキは人を殺めることを自分にも他人にも許さない。
命の取捨選択、切り捨てるという行為を忌避している。
「化物」であるが故に、カズキはホムンクルスと戦う覚悟が持てている。
人を逸し、人に戻れず、人を喰う魔物であるからこそその槍を貫くことに躊躇しない。
それも、力のなさで一度蝶野を殺したことにも起因しているのかもしれない。
L.X.Eの信奉者早坂姉弟もその輪から抜けださせることができた。
誰かを助けることを最後まで決してあきらめはしない。
それでも、誰かの命が天秤にかけられた時。そうしようもなくその秤の重りを除かなければいけない時。
その相手が人間でも自分は……………………
23 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:37:51 ID:7er03E6T
「はいどーぞ、カズキ君」
思考に割り込んでくる声で視界を前に戻される。
目の前には、濃厚なソースのかかったからあげ。
「腹が減っては戦はできぬっていうしね。今のうちにお腹を膨らませておかないとね」
目を上にあげればそこにはヴァンプ将軍の顔。
確かにここに来てから六時間、食事らしきものをしていない。
好意に甘えてタッパーから肉をつまみあげる。
「じゃあ、いただきます」
口を開け咀嚼する。
肉のうまみ、衣の食感、ソースがそれを引き立てる。
「……うん、おいしい!」
その味に素直に感想を述べる。
口を動かしている内に嫌な考えも吹き飛んでいた。
そんな最悪の状況にならないように自分が頑張ればいい。
結果自分がどれだけ傷付こうとも、それが誰かを助けることになるなら耐えられる。
隣で微笑む小さな命を見て、そう決めた。
************************************************
支援
支援
26 :
代理投下:2010/11/23(火) 23:39:08 ID:7er03E6T
564 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:09:04 ID:NnZIJi/c
無人の校舎。その屋上。さらにそこで一番高い給水塔の上。そこに妖精は立っていた。
花「蝶」風月。世の美しいものの例え。この光景はそれを全て満たしているといっていいだろう。
―――対象は酷く限定されるかもしれないが。
そんな美の象徴たるパピヨン―――蝶野は静かにもの思いにふける。
彼は天才だ。自負もあるし他者も昔はそう評していた。
誰からも見捨てられ、人を越えた今でもその頭脳は健在だ。
そもそもそれだけの頭脳がなければ独学でホムンクルスの研究を修めることもできはしなかっただろう。
今もこうしてこの実験に関する情報、仮説、対策を幾つも構築している。
他の三人はどれも頭が足りない。ならば一人でいたほうが煩わしさを感じずに思考に没頭できる。
その中で、今彼の興味を持つものがひとつある。
「究極の闇、ね」
カズキから聞いたある怪人が名乗った言葉。
その男は章印もなく、人と動物を融合させた姿に変身したという。
その上で、武装錬金をこともなげに受け止めカズキは完敗に追い込んだ力。
明らかに、一般のホムンクルスとは格が違う。
「……第三の存在、か」
それは、己の曾祖父が遺した「友」の称号。
人ともホムンクルスとも異なる上位の種族。
それに蝶野は興味があった。
カズキと別行動を取るのもひいてはその存在に会う機会があると踏んでのため。
己の宿敵を完膚無く打ちのめした力をこの眼で確かめるのも一興だ。
蝶野攻爵の信念は「不可能を可能とすること」。一人でもより高く、より遠くへと飛び立つことこそを掲げる。
この不完全な超人(ホムンクルス)の体を脱ぎ捨て、更なる高みを目指して翔ぶ。
時を知らせる鐘を待ちつつ、蝶はその時を待ちわびていた。
565 : ◆3VRdoXFH4I:2010/11/23(火) 18:10:56 ID:NnZIJi/c
【C-1、2/私立銀成学園高校:早朝】
【武藤カズキ@武装錬金】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:右頬に腫れ
[装備]:すずかのハンカチ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1?(確認)
[思考・状況]
基本行動方針:救える命は一つでも拾う
0:放送を待つ
1:南に向かい、仲間を集める
2:すずかを守る
3:ダグバを倒す
4:まひろのことが心配
5:setが人間でも誰かを傷つけるなら……?
[備考]
※参戦時期は原作五巻、私立銀成学園高校突入直後。
※蝶野と『第三放送前にコロッセオで合流』、『核鉄を入手して蝶野の譲渡する』約束をしました。
【月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:
[持物]:基本支給品一式、不明支給品1?(確認)
[方針/目的]
基本方針:アリサとなのはと会う
0:放送を待つ
1:カズキについていく
2:置いていかれるのが怖い
[備考]
※参戦時期は未定。
【蝶野攻爵(パピヨン)@武装錬金】
[属性]:Set(悪)
[状態]:満腹
[装備]:蝶々のマスク、蝶ステキな一張羅
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針:主催者打倒。その為の仲間集め
0:放送を待つ
1:仲間を集めて主催者の打倒
2:コロッセオへ向かう
3:武藤カズキとは殺し合いで決着をつける
4:主催者や自衛の為強力な支給品を探す。核鉄優先
5:「究極の闇」(ダグバ)に興味
[備考]
※参戦時期はヴィクター戦前くらいで
※カズキと『第三放送前にコロッセオで合流する』、『仕掛けられない限りは無害な参加者は襲わない』約束をしました。
【ヴァンプ将軍@天体戦士サンレッド】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:満腹、少し胸焼け
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、から揚げの入ったタッパー×2、不明支給品2〜3
[思考・状況]
基本行動方針:主催者打倒の仲間集め
0:放送を待つ
1:仲間を集めて主催者打倒。サンレッド、かよ子優先
2:サンレッドと遭遇しだい対決。殺し合いはNG
[備考]から揚げはすべてオーロラ和えにしました
[全体の備考]
全員の支給品を何個か交換しました。具体的な内訳は後の書き手のご自由に。
以上、代理投下終了です。支援感謝します。
改行多すぎのエラーが出たレスでは、こちらの判断で改行詰めたりレスを分けたりしています。
支援
投下&代理投下乙!
一気に時間が進んだなぁ! パピヨンとカズキの情報交換により、ダグバに興味をしめしたか。
ヴァンプ様の子供好きスキルがここで発動!さすが町内会活動全出席しているだけのことはありますな。
あと、すずかにパピヨンの格好は刺激が強すぎですww
もしかして放送目前なんじゃなイカ?
予約来たな
期待
おいおい
本誌の方で杳馬の正体が悪魔将軍並みの大物になっちまったぞw
どうすんだこれww
これまでの原作での杳馬の言動とどうにも齟齬があるから、今後依代になってただけとかあるかもしれないけどね。
35 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/11(土) 13:29:30 ID:rwIlbIIZ
まぁバカチョンカメラは朝鮮人を指してなくても問題のある名称だったと思うがw
イカ娘、高遠遙一、高町なのは、夜神月を投下します。
高町なのはと言う魔導師を知る、しかし彼女自身には親しくない者が居るとするならば
その人物は高町なのはに対してどんな心象を持つだろうか?
それはきっとフィクションに出て来るヒーロー、あるいはそれに敵対する怪物のごときイメージだろう。
その絶大な力と強靭な意思で、如何なる困難も克服する無敵のエースオブエース。
天災のごとき圧倒的な魔力で並み居る敵を制圧する、戦場に君臨せし覇王。
そんな所だろうか。
管理局の白い悪魔。魔王。冥王。
現在も、そして彼女が未だ迎えていない未来においても
なのははその強大な力と苛烈な戦い振りに、様々な揶揄をされたりしてきた。
あるいは現在の彼女から10年は管理局の執務を積み重ねて、心身ともに成長しきったなのはなら
そんな 通り名ですら、決して誇大とは言えないのかもしれない。
しかし今の彼女は、まだ魔導師となって1年も経っていない9歳の子供だ。
この時点でのなのはは、魔法の存在も知ってまだ間もない。
実戦経験といえばPT事件や闇の書事件での数回のみ。
しかもそれらの実戦経験も実のところ、非殺傷設定で守られた生命や肉体の危険の無い戦いがほとんどなのだ。
それらの戦いは字義通りの意味で世界の命運を賭けたものだったが
今の実験ほど、自身の生命の危機に切迫して感じ取れる物ではなかった。
絶大な魔法の才と、年齢に比して強靭な精神力で何とか乗り切ってきたが
それですら友人や家族による有形無形の支えが無ければ、到底為し遂げられなかっただろう。
そう、なのははただ必死だっただけだし、なのは1人の力で問題を解決したわけでもない。
ただただ懸命に目の前の状況を乗り越えようとしていただけ。
そこに無敵のヒーローも強大無比な怪物も居なかった。
そこに大局的な正義も高邁な理想も無かった。
いつも大切な何かを守るためだけの戦いだった。
そうでなければ戦うことは出来なかったであろう。
彼女は魔法を使えるだけの、平凡な9歳の子供なのだから。
友人や家族による支えを無くし、管理局の白い悪魔の虚飾をはがせば
そこには1人膝を抱えて蹲る子供が居るだけなのだ。
それはこの実験が始まってすぐに露呈する。
残虐超人『マキリシンジ』の襲撃を受けた際、なのはは何の抵抗もできなかった。
なのははデバイスが無くとも、魔法弾を撃つこともシールドを張ることもできる。
しかしそれらを使うことをしなかった。と言うよりできなかった。
何故か?
天才的な魔導師と思われているなのはだが、その実危急の事態に対して
敏速かつ的確な判断と対応をとることを、決して得手としていない。
魔導師となったばかりの頃も、ジュエルシードの起こす事件に上手く対処できない場面は多々あった。
フェイト・テスタロッサとの戦いも、最初はまるで歯が立たなかった。
ヴィータとの最初の戦闘時も、反撃することさえできなかった。
これらはなのはが未熟だった所為もあるが、それ以上に不意に敵に襲われるような突発的な事態では
動揺してしまい、沈着な判断が出来ないからである。
なのはがその真価を発揮するには、事態を正確に把握し
自分が何をなすべきかを考え答えを出し覚悟を決める時間が必要なのだ
しかし、すでに実験は始まってしまった。
何をなすべきかも分からないまま。
何の覚悟も決められるぬまま。
たしかに当面の危機は回避できた。
しかしそれは自分の力によるものではない。全てはVの力の賜物だ。
自ら乗り越えていないのだから、なのはの心にあの時の恐怖は残っている。
絶大な魔の力を有しながら、その心は未だ恐怖に捕らえられた子供のまま。
それらがどこに向かうべきなのか、未だ定められていない。
なのははただ殺し合いの暗黒の中を歩いていた――――。
◇
夜はその瞬間を悟られぬ間にすでに明けていた。
木々が生い茂る森の中にも、日の光と温もりは届いて来ていた。
その日の光と遊ぶように白い布が1つ、いや2つゆれる。
スラリと伸びた細い脚が土の上を跳ねるように歩むたび、白いスカートの先が軽やかに翻る。
「なのはー! こっちにもあったでゲソ!!」
白いスカートの主、イカ娘は木陰に駆け寄り
拾った木の果実を天に掲げ、満悦な様子だ。
その手にはもう何個もの同じ果実、どんぐりが握られていた。
「待ってよイカ娘ちゃん。1人になったら危ないってば」
もう1人の白いスカートの主は高町なのは。
私立聖祥大付属小学校の3年生にして歴とした魔導師。本人の言葉を借りれば魔法少女である。
弾んだ足取りでイカ娘の後を追うなのは。咎める言葉とは裏腹に、顔には笑みを浮かべている。
イカ娘と合流した当初のなのはは、それまでの経緯や最初の同行者であるVとの突然の別離などからその様子には陰りが見られた。
それでも今は子供らしい快活さを見せている。
それにはやはりイカ娘の影響が大きかったのだろう。
2人はまだ出会って間もないにも関わらず、イカ娘はすぐになのはに屈託無く接していった。
なのはも最初はイカ娘が、海棲生物の侵略者であることに面食らっていたが
すぐにそんなことも気にしない様子で打ち解けている。
どうもイカ娘が侵略者だと言うことに、あまり実感が沸いていないらしい。
もっとも今の2人の役割は言わば前衛。進行方向に危険が無いか、注意を巡らす役割なのだが
しかしイカ娘の方は見慣れない森の環境で色々物珍しいらしく、フラフラと遊び回っている。
それに注意を促しているなのはも、イカ娘につられてかどこか楽しげだ。
顔を合わせ笑い合う2人からは、今が殺し合いの渦中であることすら忘れていそうだ。
「やれやれ……あんなことがあったんだから、イカ娘ももう少し落ち着いてくれると思ったんだが……」
その2人の後を追うように歩いているのは、整った容姿を持つ長身の青年。
名は夜神月。大学生にしてその知力を買われ、キラ事件の捜査にも協力しているしている人物。
しかし他ならぬ月自身こそが、新世界の創造を志し、その過程で数多くの人間を殺したキラそのものである。
月は和気藹々としたイカ娘となのはの様子を、微笑ましそうに目を細めて見守っていた。
月が求める物、それは自らが認めた真面目で心の優しい人間だけが存在する理想の新世界。
イカ娘の純粋さとなのはの優しさは、月の判断基準において来るべき新世界にふさわしい物と思えた。
全ての邪魔者が排除され新世界が到来した暁には、2人のような人たちが
犯罪に怯えることも無く、幸せに暮らしていけるのだろう。もっとも当の2人の戦力なら、最初からそんな心配は薄いかもしれないが。
だからイカ娘となのはが仲良く笑いあうさまが、月にはまるで新世界のイメージが形象化されたように映った。
取りとめもない感傷だと、冷めて考える部分もどこかにあるが
気の置けない殺し合いの中で2人を、特にイカ娘を見ていると心が安らいでいくのは事実である。
今は殺し合いの最中だというのに、自分まで自然と笑みが零れる。
デスノートを拾って以来学校であろうと、捜査本部であろうと、家族の前であろうと
どこかで偽りの自分を演じ、気の置けない生活を送ってきた月には
こんな穏やかな気持ちになるのは久しぶりのように思えた。
「フフ、しかしなのは君もそれほど気落ちしていないようで何よりです。
これもイカ娘君のお陰と言ったところでしょうか」
横合いから男の声が聞こえてきたので、月は視線だけをそちらに向ける。
そこにはずっと月の隣を歩いていた細面の男、高遠遙一が居た。
高遠もイカ娘となのはを見ながら、穏やかな笑みを浮かべているが
それを観察する月の顔には、僅かに険しさが戻る。
「……高遠さん、もう銃を返してもらっていいですか?」
「ああ、これは失礼」
高遠は素直にニューナンブM60を月に手渡す。
得体の知れない部分もある高遠だが、彼が極めて優れた知性を持つことを疑う余地は無い。
危急の事態にも冷静さを失わず、適切な判断力を示すことが出来る高遠は
月にとっても頼りになる存在と言えるだろう。
少なくとも表面上は……。
月、イカ娘、なのは、高遠の4人が現在向かっているのはエリアで言えばH-4にあるテレビ局である。
元々月たちは、なのはが合流する前からその辺りの施設を見て回る予定だった。
そしてなのはが集団に加わったことによって、さらに戦力が充実した形になった。
テレビ局はその施設の性質から、かなり通信設備が整っていると推測出来る。
さすがに実験の外部と通信を出来るとは考えられないが、実験内なら他の参加者と連絡を取れる可能性は有る。
一方的な放送しか出来なくても、何らかの利用方法は考えられるだろう。
それに同じようなことを考えた参加者が集まる可能性も有る。
無論、危険人物が居る可能性も有るのだが。
現状でイカ娘となのはを擁している月たちの集団は
この実験の中では、戦力的に見てかなり高い位置に居ると推測される。
だからかなり大胆な行動も取れるようになっていた。
仮にテレビ局に危険人物が居たとしても、現有戦力なら制圧することも可能だ。
それでもリスクは有る。しかし危険を恐れていては何も出来ない。
月としては戦力が揃っている今の内に、可能な限り動いておきたかった。
ちなみに後から合流したなのはは、特に異論も無く月たちの行動方針に付いて来てくれている。
「これはなんでゲソ?」
そのなのはは今、イカ娘に自分の支給品を見せているようだ。
なのははイカ娘に、自分の支給品を1つ譲る約束をしていたが
イカ娘が落ち着いたので、やっとその話題に入れたらしい。
なのはが見せている物は、六角形の金属である。
「えっとね……核金って言って、怪我や体力を回復したり武装錬金っていう武器に変形したりできるんだって」
「武装錬金!!」
核金を手渡されたイカ娘は、さっそく掛け声と共に
核金を掲げて、謎のポージングを決める。
しかし核金には、何の反応も起きない。
「変形しないじゃなイカ……」
「えっと…………武装錬金に変形させられるのは、決まった人だけみたい……」
「それじゃ意味ないじゃなイカ!」
頭の頭巾(?)から湯気を出して憤慨するイカ娘に、なのはは説明書を読みながらあははと苦笑いを返す。
そこに後で話を聞いていた月が口を挟んだ。
「それは参加者の中の誰か特定の人物だけが、武装錬金に変形させられるってことかな?」
「参加者の中に居るかどうかはわかんないですけど、私とイカ娘ちゃんにはできないみたいです」
月と高遠も核金を手にとって弄んでみたが、変形が行われる様子は無い。
少なくともこの4人では、核金を武器として使用出来ないらしい。
他に無いでゲソー!? と騒ぐイカ娘に、核金を返されたなのはが差し出したのは
表にサンジェルマンと書かれてある紙袋だった。
中に何かが入っているのは、膨らみ方や重量感から見て取れる。
「これは中に何が入っているんでゲソ? 食べ物でゲソ? エビでゲソ!?」
「説明書が見つからなくてわかんないの……でも香水の匂いがするから、食べ物じゃないと思うよ」
「開けて見た方が早いでゲソ!」
紙袋を開けて中の物を取り出すイカ娘。
出てきた物は、ちょうどイカ娘の手より一回りほど大きいくらいの物だった。
それどころか肌色で先の方が5本に枝分かれしてあり、その1つには指輪まで嵌っている。
しかしそれの根元は誰の身体とも繋がっていない。
つまりそれは、切り取られた人間の手だった。
これはなんでゲソーーー!!? と言う叫び声と共に、紙袋を落としたイカ娘が飛び退く。
なのはは息が詰まり声も上げられないと言った様子で後ずさった。
その足が地面から浮き出た木の根に引っ掛かり、なのはの身体が宙を舞う。
「……っ!」
背後に居た月が、転びそうになったなのはを背中から支えたのは
何の思考も作為も無い、ただ反射的な行動だった。
瞬間。光が生まれた。
なのはの服装が先ほどまでと違い、頭のリボンは白く服のラインが青い物に変化し
持っていたS2Uが杖の状態に変わってそれを自分に向けて構えていることに月が気付いたのは、さらにその次の瞬間。
なのはの突然の変身。それは事前の情報交換で聞いていた、バリアジャケットと呼ばれる防護服だろう。
この場合注目すべき点は、それの展開とS2Uを構える速さであろう。
月自身や高遠だけでなく、イカ娘ですら意表を衝かれたと言う表情をしている。
その反応の早さに、嫌でも確信させられる。
なのはは絶大な魔法の力を持っていると言うだけに尽きない。
その力を戦闘と言う状況で十全に活かせるだけの才能も、センスも、技術も併せ持つ
WARRIOR(戦士)だと言う事実を。
しかし、月が現に注視したのは別の点だった。
その戦闘の才気の片鱗を見せた当のなのはが、顔面蒼白になりながら大きな瞳を震わせている。
そこに宿る色は純粋な恐怖。
不意に多くのことが重なりすぎて、月もなのはも呆然としたまま見つめあう形になった。
気まずい沈黙が流れる。
「…………ご、ごめんなさい……」
「いや、良いんだけど…………確認のために聞くけど、この手は君の支給品なんだよね?」
「……はい」
「誰の手か、心当たりは?」
「ないです……」
気を取り直して、紙袋の中に入っていた手の話題に移る。
なのはは本当に何も知らないようだ。
実際にその手は体温が低下し、切断面の血も乾燥で凝固していた。
医学的な専門知識が無くとも、切断されてからかなりの時間が経過していることが分かる。
強い香水の匂いは、おそらく腐臭をごまかすための物だろう。
「たしかに手の状態から見ても、実験が始まる前に切断された物だと思われますし
なのは君が切断したのなら、あのタイミングで紙袋を出して我々に見せるのも不自然です。
なのは君とは無関係と見て間違いないでしょう」
高遠も瞬時に月と同じ見解に達したらしい。
なのははあらぬ誤解を受けずに済んで、胸を撫で下ろしている。
「ところでイカ娘君は、こちらの手を御所望ではないようですが……」
「そんな物、要らないでゲソ!!」
「なのはさんもあまり御気に召さないようですし、この手は私が預かってもよろしいでしょうか?」
「いいですけど……それ、持っていくんですか?」
「ええ。これが支給品なら、参加者の誰かと関係が有る蓋然性が高い。
ならば念のために持っていれば、何かの役に立つかもしれません」
説明しながら高遠は、なのはから貰った紙袋に拾った手を入れる。
「なんで、誰かと関係あるってわかるでゲソ?」
「あくまで“蓋然性が高い”だけですが、それは他の支給品を見ていれば分かります」
「?」
「イカ娘の支給品のS2Uやなのはちゃんの核金は、支給された当人ではなく、他の限られた者にのみ意味のある物だっただろ?
そのことから支給品は、個々の参加者に関係があった物を、あえてランダムに支給している公算が高いんだ」
意味の分からないらしいイカ娘となのはに高遠が説明を始め、月がそれを引き継ぐ。
同じ推測でも、1人より2人で話した方が説得力を持つ。
大して必要性のあることでもないが、これも集団を円滑に動かすためだ。
「従ってこの紙袋と中身も、他の参加者にとっては我々には分からない意味を持つ可能性もあります。
そちらの公算は、極めて小さいですが」
「なんだかよく分からないけど、とにかくそれは遙一が貰って良いでゲソ……。
なのは、他に何かなイカ?」
「えーっとね……有った! ん…………しょっ、と!」
なのはが如何にも重そうに、バックパックから取り出したのは
左腕に風紀と書かれた腕章のある白い長袖の上着だった。
重そうな取り扱いに反して、イカ娘が着るににちょうどいいサイズだ。
「これ、箱庭学園風紀委員会特服『白虎(スノーホワイト)』のSサイズなの。
1本で5トンの重量を吊り下げられる対圧繊維で縫製されてて、ダンプに刎ねられても平気なんだって」
「ぼ、帽子より立派な防具じゃなイカ……」
「帽子……? でもこれ……ちょっと重いかも」
なるほど。帽子と比較する意味は分からないが、説明書通りの性能なら極めて強力な防具と言える。
イカ娘は説明を聞いて服を気に入ったようだ。
しかし着ている服の上から袖を通すと、重いでゲソーと消沈する。
「そうだ! 私が体重を軽くすればいいじゃなイカ!」
「……え?」
そう言って腕輪を弄った途端、イカ娘は軽やかにはしゃぎ出した。
「これなら、ちょうどいいでゲソ!」
「……体重を変えられるって…………」
「月君……イカ娘君の身体の構造に関しては、もう気にしないことにしましょう」
イカ娘が常識から外れた存在で有ることを、改めて思い知らされた月と高遠。
なのはだけは、イカ娘ちゃんすごーいと素直に賞賛していた。
子供の順応性は侮れない。いや魔砲……魔法少女もまた、規格外の存在ゆえか。
「なのは、この服をもらうでゲソ」
「うん。私には重くて着れないからね。バリアジャケットがあるし」
「あ、何か大きい建物が見えてきたじゃなイカ!? あれが『テレビきょく』でゲソね!」
歩いているうちにすでに森を抜け、市街地に出ていた月たちの前に
外壁がコンクリート製の、一際巨大な建造物が現れた。
「あれはさくらテレビ……」
「月君は、あの建物を御存知なんですか?」
「ええ。……さくらテレビを知らないんですか?」
「いえ」
「……私も知らないです」
「そうですか…………」
月は顎に手を当て、訝しげに立ち止まった。
それに合わせるように、集団全員の足が止まる。
しかしイカ娘は構わず進む。
「何をしているでゲソか、早く行くでゲソ」
「もう、だから1人で行ったら危ない……わ!」
追いかけようとしたなのはが、道路の僅かな段差に転んだ。
転び方から見て大した問題は無いと踏んだが、なのはは辛そうに膝を抱えている。
顔色も心なしか、精彩に欠けていた。
「膝を怪我されたんですか?」
「こ、これは劇場で襲われた時の怪我で……でも、これくらい平気! ですから……」
「君はさっきも転びそうになってたよね? 少し疲れてるんじゃないか?」
言われたなのはは意外そうにしている。
どうやら自分の疲労に気付いていなかったらしい。
誰かとはしゃいでいる時は自覚は無くても、ふとした拍子に疲労が表に出るなどいかにも子供らしい。
しっかりしているようで、まだこんな側面もあるということか。
まだ9歳の子供がこんな殺し合いの中で、山道を歩いてきたんだ。
無理もない話なのかもしれない。
なのはは申し訳無さそうに疲労を認めたため、月たちはテレビ局を目前に休むことになった。
手近なファーストフード店に4人で入る。
イカ娘となのはと高遠が奥のテーブル席に座る。
そこからならガラス張りの正面から外の様子がよく分かり、かつ外からは見え難い位置である。
「月君はお掛けにならないんですか?」
「それですが……イカ娘、僕と来てくれないか?」
「どうしてでゲソ」
「僕とイカ娘で、先にテレビ局やその周辺を見ておきたいんだ」
月が提案してきたこと、それはテレビ局を事前に偵察すること。
4人全員でテレビ局に入る前に、予め月とイカ娘で周辺のを見て回り
テレビ局に人が居るかどうか、危険が無いかどうかを調査したいと言うのだ。
戦力分担としては偵察組にイカ娘、居残り組になのはが居るのでちょうどいい。
イカ娘は待つだけなのは退屈だからと快諾。高遠も特に反対はしなかった。
なのはは2人だけで先行するのが心配そうだったが
危ないことはしないと約束すると、一応納得はしてくれたようだ。
「じゃあ、いってくるでゲソ!」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「高遠さんとなのはちゃんも気を付けて」
「GoodLuck、月君にイカ娘君!」
月はテレビ局までの道のりを、足早に進んでいく。
先ほどまで進んでいた森の中と比べることによって、市街地の舗装された道路が如何に歩き易いか痛感してきた。
多少足早に進んでも、まったく負担にならない。
「ライトー、待つでゲソー! ハァハァ……まったく、何をそんなに急いでいるでゲソか?」
森と違い今度はイカ娘が置いて行かれそうになる。
テレビ局の建物の目前に立ち、やっと月の足が止まった。
手帳の方位磁石で確認してみたところ、月が居るのは建物の南側だと分かる。
月が面しているのは雰囲気からして、テレビ局の裏側に当たるのだろう。
ならば正面は北側と言うことだ。
これまでの道のりにもテレビ局も、人の居る気配も危険性も見受けられない。
「ごめんイカ娘。なるべく偵察は早めに済ませて、高遠さんのところに帰りたいんだ」
「ハァハァ……ライト、人生は急いでばかりいてもどうにもならないでゲソ。
それにこの服は、ちょっとゴワゴワして急いで動きにくいでゲソ……」
「……その服が嫌なら、脱げば良いんじゃないか?」
「何を言っているのでゲソ! 私はライトや遙一を守るんだから、ちゃんと防具を着込んでないといけないでゲソ!」
どうやらイカ娘はイカ娘なりに、自分の使命に対する自覚を持っていたらしい。
そして、やはり彼女はどこでも純粋だ。
その“純粋”がどれほど染まり易いかも、先刻の拷問で確認した。
(第一義に考えるべきは、僕の生還だ。それを見失うわけにはいかない……)
先刻と同じく無意味な感傷に浸りそうになる自分に、自戒を促す。
新世界において最も重要なピースは、そこに神として君臨する月。
それを見失って行動の優先順位を違えるなど、愚か者のすることだ。
もっとも、それと危険人物を排除することは別の問題である――――
「それじゃあ局の正面に回るよ。でも正面の様子は向こうから見えないように、遠くから隠れて見ることにしよう」
「でも、それでは中に人がいるか分からないんじゃなイカ?」
「中まで見る必要は無いよ。今回の偵察はあくまで安全に、テレビ局周辺の様子を探るだけが目的だからね」
月はちょうどテレビ局の正面にある民家の陰から、ガラス張りの正面入り口を観察した。
その光景はまさに、かつてテレビ中継で見たさくらテレビそのものだ。
さくらテレビのレプリカまで用意できる主催者の力に、月は改めて警戒の気持ちを強める。
そして高遠やなのはが、さくらテレビの存在を知らなかったことを思い出す。
(さくらテレビは全国ネットの放送局だ。日本で生活していてそれを知らないと言うのは、さすがにおかしい。
そして2人とも“キラ”を知らなかった。2人ともが同じ嘘をついているとは考え辛い……)
なのはとは出会ってすぐに、簡単な情報交換をした。
その中で月は『キラ』を知っているか、さりげなく探りを入れてみた。
結果は高遠と同じく“否”。
さらに2人ともが一般常識レベルのテレビ局を知らなかった。
これは最早、偶然で片付けて良い問題ではない。
(何故、知らなかった? …………あるいは知らないのではなく――――無かった)
月は死神界と言う、自分の知る世界とは別の世界の存在を知っている。
ゆえにその可能性に思い当たることが出来た。
『実験の参加者は、それぞれ別世界から召集されている』可能性に。
ならば2人の無知にも説明がつく。と言うより、現状で他に筋道立った仮説が思いつかない。
彼らは月と同じように日本に住んでいるが、細部の違う異世界の住人であると。
もし本当に異世界が存在するのなら、現状の問題はさらに深刻化する。
実験から脱出し、さらに元の世界に戻る必要があるからだ。
(…………さすがに突飛な発想か……)
しかし無視できる問題ではない。
主催者の見せる超常的な手段や道具の数々。
不可解な実験会場の様相。
参加者同士における“世界観”の相違。
それらについてさらに詳しい検証が必要になるだろう。
「ライトー、何か分かったでゲソか?」
「うん、ああ……」
後から退屈した様子のイカ娘に声を掛けられ、月の意識は現実に戻る。
今は世界全体の考察より、目前のテレビ局に対する考察が先だろう。
もっとも、それは見たままの結論しか得れない物だったが。
「あのテレビ局には誰か立ち寄ったな。今も居るかどうかは、分からないが」」
「なんでゲソ?」
「いや……単純に局内を見たら奥のドアが開いているし、中から明かりが漏れてるからね……」
ガラス張りの正面から見える局内の雰囲気から推して、来訪者は未だ留まっている公算が高い。
危険人物であるかどうかの判別は付かない。
いずれにしろ当初の予定通り、一旦帰って4人で再び訪れるしか無いだろう。
それにここに来た、と言うより高遠となのはから離れた目的は
偵察だけでは無いのだ。
「……帰ろう、イカ娘」
「もう、いいでゲソ?」
「ああ。それに……早く帰った方が良い」
◇
照明も付いていないファーストフード店の中は薄暗く
それはなのはの気持ちまで暗くするようだった。
なのははテーブル席に腰掛け、長いスカートを捲くり怪我をしている膝に核金を押し当てる。
こうすることで怪我が治り、体力まで回復するそうだ
実際怪我の痛みが薄れ、疲労も取れていっているのが分かる。
逆に言えば、なのははそれだけ疲れていたということ。
なのはは小学3年生の標準から見ても、体力に劣る。
それだけに森の中を歩いたのは、今にして思えば負担があった。
しかし意外だったのは、そんな中でも自分を支えようとしてくれた月に対しての行動。
セットアップの掛け声すらなく、瞬時にデバイスを起動してバリアジャケットを展開した。
運動が苦手なはずの自分が、年長の人が驚くほど素早く構えを取った。
超音速の領域で繰り広げられる魔導師の戦いを潜り抜けてきたことで
なのはには異能とさえ言えるレベルでの戦闘技能が身に付いていたのだ。
そしてとっさにそんな行動を取った自分は
根底では殺し合いの危険性を自覚し、必要以上に恐怖さえしていたことも。
核金の効果は予想以上で、いつの間にか怪我は完全に癒え、疲労もほとんど抜けていた。
まるで治癒魔法のようだ。
こうしてS2Uを持ちながら片手間に回復をしていると、ユーノやクロノを思い出さずには居られない。
(ユーノくん……クロノくん……リンディさん……エイミィさん…………フェイトちゃん…………
みんな心配してるかな…………)
なのはのこれまでの激闘は、多くの者の協力無しではありえない。
魔法による援護や情報解析などの、様々なバックアップ。
そして応援や助言による心理的なケア。
それら有形無形の支えがあればこそ、なのはは戦えて来たのだ。
しかしこの実験では、なのはを支えてくれた人々はどこにも居ない。
実験が始まった当初は眼中に無かった事実が
実験の恐ろしさを身を持って知った今となっては、大きく圧し掛かる。
いや、それだけではない。今はこの事件の中で出会った心強い味方、Vもイカ娘も居ない。
もし誰かに襲われでもしたら、なのは1人の力で対処しなければならない。
劇場で間桐慎二に襲われたときのことを思い出す。
それだけで身体が震えそうだが、今はデバイスがあると自分を鼓舞する。
今はなのは1人だけでなく、高遠の命も預かっているのだ。
その高遠はなのはとテーブルを挟んで席に座り、何やら思案げな表情で手帳を読んでいる。
なのはの高遠に対する印象は“非常に落ち着いていて頭も良い人”と言ったところ。
頭脳労働に関しては頼りになるかもしれないが、戦闘となれば当てにはできないだろう。
自分が守らなくてはならないのだ。
(…………すずかちゃんとアリサちゃんはどうしてるんだろ…………)
そしてここには居ない、しかし守らなくてはならない相手も思い出す。
2人はなのはにとって小学校に上がる前からの友人だった。
何度か衝突したこともあったが、それらを乗り越えて友情を育んできた。
その2人もまた、この実験に連れられてきている。
2人は魔法を使うことはできない、普通の小学生だ。
殺し合いの中では、自分の身を守ることさえ難しい。
もし危険人物に襲われたらと想像しただけで、自分が襲われた時を思い出す以上にぞっとする。
一刻も早く合流したいと願うが、それは叶いそうにない。
せめて頼りになる人と一緒であれば良いのだけど。
早く2人に会いたい。
早く皆の所に帰りたい。
昨日までもそんな風に思ったことは、何度もあった。
しかし今は切迫感がまるで違う。
ここは殺し合い。
今まで自分が経験してきたことのない、決定的な別れが訪れるかもしれないのだから……。
(……また会えるよね…………)
なのはは自分の中で押し殺すように、その可能性を否定する。
可能性が存在することは理解できていた。
しかし近しい人や自分自身の死の可能性を完全に割り切って、それでも前に進むには幼すぎた。
なのはにできるのは、まるでその可能性に気付いていないふりを自分にするだけだ。
「なのは君、ちょっとよろしいでしょうか?」
「……ふぇ!?」
不意に高遠から声を掛けられ、思わず返事に詰まる。
一体何事かと、緊張に身を固くする。
「実は今から貴女にいくつか質疑したいと思うのです。……我々の相互理解のために」
「相互理解……ですか?」
高遠の言葉が上手く飲み込めず、さらに緊張感が強まる。
しかし高遠はそんななのはの様子を見て、柔和な笑顔を浮かべた。
「フフフ。そう、大袈裟に受け取らなくても結構ですよ。ただ貴女は我々3人の集団に、後から頼み込んで入ってきましたよね。
そのことに不満は無いのですが、我々は貴女がどういった人物で何を目的としているのかよく知らないわけです。
そこで私としては貴女をより深く理解するために、いくつか質問をしたいのです」
「……わ、私のことがちゃんと分かってもらってないんですか?」
「端的に言えばそうなります。……質問に答えていただけるでしょうか?」
「……あ、はい」
了承すると、高遠が僅かに口角を釣り上げた。
なぜかその笑みに、言いようのない不穏な物を感じる。
危害を加えられる。と言うことではない。
もっと得体の知れない奈落を覗いた気分だった。
「では、まず確認の方から。貴女のお友達がこの実験に参加していると?」
「はい……」
よく理解していたはずのことだが、人の口から確認すると
その事実がまた重みを増す。
「そして貴女はそのお友達を捜していらっしゃる」
「はい」
「何故です?」
「……え?」
「貴女にどのような理由があって、お友達を捜していらっしゃるのでしょうか?」
質問の意味が分からなくて、思わず聞き返してしまった。
いや、意味は分かる。
でもこの人は、なんでそんな分かりきったことを聞くんだろう?
「そ、それは心配だから……」
「お友達の身、生命に危険が及ぶことがですか?」
「そうです」
「つまり貴女はそれほどまでに、お友達に死んで欲しくないと仰るわけですね?」
「あ、当たり前……だと思います」
相手が年長の人だということも忘れて、激昂しそうになる。
こんなことも、言わなければ理解して貰えてなかったなんて。
「しかし、そうなると不可解です……」
「……何かおかしいんですか?」
まだ疑問の余地があるらしい。
当たり前のことのはずが、世界の共通了解とならない。
それだけで、なのはの心で不安が大きくなる。
「ええ、非常におかしいですね。
貴女がそれほど強くお友達を案じていらっしゃるのなら――――何故、私たちは貴女に殺されていないんでしょうか?」
「え……!?」
今度は純粋に意味が分からない。
そして、戸惑いの気持ちが大きい。
どうしたら自分が人を殺すなんて、とんでもない話が出て来るのだろう。
まるで世界が少しずつ歪んでいくようだ。
「支給された手帳は御覧になりましたよね?」
「……はい」
「この中で“三人の被験者を排除した場合に、特別な報酬を得る権利を与えられる”とありますね。
“報酬には、怪我の治療、物資の補給等の他、他の被験者に危害を加えたり、実験を棄権したりする以外の事が出来る”とも。
こういった報酬の場合、他の参加者の位置や状態などの情報は、かなり需要が大きいと考えられます。
実際、貴女も他の参加者を捜していますしね。では当然報酬として、主催者もそれを提供する公算が大きい」
「…………だ、だから私が高遠さんたちを……殺すって言うんですか!?」
「貴女の目的から推測していけば、自然に到達する結論だと思いますが」
「そんなこと、考えもしなかったです!」
まさかそんなことを疑われているなんて、想像もしていなかった。
なのはにとって、すずかとアリサは何としても助けたい。
しかしそのために他の人を犠牲にすることがゆるされるわけではない。
「考えもしなかったと……フフフ、なるほど。それでは私たち3人……私と月君とイカ娘君ですが
一体、貴女に何を協力すればよろしいのでしょうか?」
「…………えーっ、と……」
「貴女は『一緒に、友達を探してくれませんか?』と、私たちに協力を要請してきました。
しかし貴女は魔法を使える。私たちが居なくても自分の身は自分で守る力がお有りになる。
しかも貴女自身から聞いた話によれば、空を飛べるそうじゃありませんか。
ではデバイス、ですか? それを手に入れた以上、貴女に我々と同行するメリットは無い。
さっさと飛んで、お友達を捜しに行けば良いでしょう?」
「そ、それは……そうかも知れないけど…………」
高遠の疑問に答えを見出せない。
たしかになのはなら集団で歩くより、1人で捜索した方が効率的だろう。
戦力の低い高遠と月が居るため、手分けして捜すというわけにも行かない。
今は一刻も早く、友達に会いに行きたい。
そのはずなのに――――何故、自分はこの集団に居るのだろう?
「それは、貴女がお友達を本気で捜すつもりが無いからですよ」
なのはに分からなかった、答えが返ってきた。
それを問うたはずの高遠から。
しかしなのはの意識が奪われたのはその理不尽より、答え自体の不条理。
世界の足場が崩れていく。
「な、私は本気で捜すつもりです!」
「それならさっきも説明したとおり、こんな所でのんびりとしているはずが無いんですよ。
貴女に本当に友を想い、それを助けたい気持ちがあるのなら
1人で空を飛んで捜して回っている……いえ、私たちを殺して、お友達の居場所を聞いているはずです」
「だけど……そんなこと絶対できません!! 私が誰かを殺してでも助けるなんてすずかちゃんもアリサちゃんも……」
「望んでいないと? これは驚いた! 貴女は強い人だ。そしてそれゆえに、残酷だ」
「……残酷……?」
なのはは高遠の言いたいことが、未だに分からない。
だが、今行われていることは漠然とだが察知していた。
これは裁判だ。世界が自分の罪と業を明らかにするための。
「貴女はこの実験が始まってすぐに、あの間桐慎二に襲われた。彼の悪意に、欲望に晒され、命の危険すら感じ取っていた。
そしてそこをVに助けられた。彼が現れなければ、貴女がどんな恐ろしい目にあったか想像もできない。
しかし、もしその時Vが貴女を助けるためにその手を汚したとしたら、それを絶対に許さない、認めないと仰る?」
「……そ、そんなこと言ってない…………」
「間桐慎二の欲望によってどれほど汚され、蹂躙され、殺されたとしても。
あの仮面の騎士の手が汚れていたとしたら、その助けを拒絶できたと仰るわけですね?
なんと言う高潔で強靭な精神でしょう! 私は貴女に敬意を覚えます」
なのはは間桐慎二に襲われた時のことを思い出していた。
得体の知れない欲望に晒され、未知の恐怖のあまり抵抗すらできなかった時のことを。
もしVが助けに来なければと思うと、未だに身震いする。
しかしそれが、Vが誰かを殺すことによって為したとしたら?
あるいはその時、Vが間桐慎二を殺していたら?
それは過ちだと言えるだろうか?
自問する。答えは否定的だった。
「……」
「まさか貴女は自分が助けられる場合は良しとして、友を助ける場合は罪とするのですか?
貴女は殺し合いの中で何の力も無い少女が、友にどんな手段を使っても良いから助けて欲しいと
ただ、そう心の中で願うことさえ許さないと仰るわけですね? それは非常に興味深い考え方です」
そこでなのはは、すずかとアリサは自分と違い
魔法の力を持っているわけでも、修羅場を潜ったわけでも無い
平凡な小学生であるという意味を、失念していたのに気付いた。
全く何の力も無い女の子が、殺し合いに置き去りにされる。それはどれほどの恐怖だろう。
でも、だからといって、誰かを殺してまで捜すなんて……
「…………それでも誰かを殺してまで、捜しに行くなんて……絶対に間違っていると思います!」
それでもなのはは強く言い切る。
本当はそこまで強い確信なんて、何も無くても。
しかし世界の追求は止まらない。
「では、仮に貴女がお友達と上手く合流できたとしましょう。その後、どうなさるおつもりなんですか?」
「…………」
「実験のルールはご存知ですよね。それが完遂されれば、少なくとも1つ以上のグループは全滅する。
そして実験が終わらない限り殺し合い、多くの犠牲が出るでしょう。
貴女はそれらを無視して、ただ友を守ることに執心されるおつもりですか?
たとえそれが上手く果たせたとしても、グループによっては結局お友達は亡くなられるのですよ?」
知っていたことだった。
すずかとアリサにあったところで問題が解決しないことは。
そして無意識に避けていた問題。
それでも、人は答えを出して進まなければならない。
「……みんなと力を合わせてここを脱出します」
「具体的には、どうやって?」
「…………」
「どうしました? 『みんなと力を合わせてここを脱出』、そう提案したのは貴女です。
ならば貴女に具体的な方策を示して頂かないと困ります」
無意識に避けていたというのは、本当は答えなんて存在しないから。
そして何より、そこには恐るべき淵があるから。
脱出する具体的な方法は無い。
すなわちそれは、殺し合いを完遂しなければ実験からは抜け出せないということ。
殺し合いを完遂しても、グループによっては
すずかもアリサもなのは自身も死ぬということ。
「どうしました? 質問に答えて頂かないと困りますね。
まさか無いんですか? これはこれは……失望しましたよ、なのは君。
貴女が出来もしない夢想で偽りの希望を持たせて、人の心を弄ぶような人物だったとは」
「…………ご……ごめんなさい……」
いつの間にかなのはは俯き、肩が震えていた。
忘れていた。否、忘れた振りをしていた恐怖と絶望が顔を見せる。
世界の足場が崩れ、底の無い深淵が口を開ける。
「……では、私がご教授しましょうか? 貴女と貴女のお友達を――――この実験から救い出す方策を」
「……?」
逃れられない暗黒へ足を踏み入れようとしていたなのはに、突如希望の光が差し込んだ。
この実験から抜け出せる?
しかもなのはだけではなく、すずかもアリサも一緒に?
そんな物が本当にあるのだろうか?
「ほ、本当にそんな方法があるんですか!?」
「ええ。と言っても、簡単な話ですが。
先ほど説明しましたよね。3人の参加者を排除した場合の報酬。
それで他の参加者の情報が得られる公算が極めて大きいと?」
話がまた不穏な方向に向かっている。
それでもなのはは、話の続きを聞きたいという欲求を抑えることができない。
暗黒に溺れる者は、罠と分かっていても
救いの糸に縋るしかないのだ。
「後は本当に簡単です。3人を殺した報酬で、自分とお友達の所属するグループを知り
もしHorが居なければ、他の参加者を手当たり次第に殺して実験を終わらせれば良いんですよ」
それきり2人の間には長い沈黙が流れる。
なのはは、何かを言わなければならないと思う。
そんな方法は認められないと、否定の言葉を。
しかし、それはどうしても口をついて出てこない。
何故ならそれは、やっと掴んだ希望を自ら殺す行為だから。
「……………………た、高遠さんは私にそうして欲しいんですか?」
消え入りそうな声でやっと口に出たのが、そんな言葉。
それを聞いて、高遠は優しく微笑む。
本当に優しい微笑みだとなのはは思った。
「貴女がそれを望むのなら、私はこの命を差し上げましょう」
高遠は立ち上がってなのはに近寄り、待機状態のS2Uをもつなのはの右手を握って
自分の首輪に当てた。
なのははやっと、顔を上げる。
核金で体力は回復したはずなのに、青ざめた顔を。
「……な、何をしてるんですか?」
「さあ。これで報酬に、実験の終わりに一歩近付く」
「そ、そんなことできないよ!」
「何故です? 貴女の魔法なら、私を殺すことは容易いはずだ」
「だ、だって…………私の魔法には……非殺傷設定が掛かってて……」
なのはは最早、自分が何を言いたいのかよく分かっていない。
自分が本当は何を望んでいるのかも。
「非殺傷設定? それはそれは……しかしそれは貴女の任意で解除できるんじゃないですか?」
「……………………」
「そうなんですね? さあ――――貴女の望みを阻む物はもう有りませんよ?」
ずっと望んでいた。
大切な友達に会いたいと。
生きて帰りたいと。
そして今、そのための道は開かれた。
いや、本当は最初から開かれていた。
ずっとそれが見えない振りをしていただけなのだ。
しかしもう、見ない振りはできない。
友を救済するため、修羅の道を行くか否か?
選択の時を迎え――――
――――そして終わりを迎えた。
「2人とも、一体何をやっているでゲソー!?」
いつの間にか店内に入っていたイカ娘の声が鳴り響いた。
その後に居る月も、険しい表情をしている。
「これはこれは、予想外に早く帰ってきましたね。2人とも、ご無事なようで何よりです」
高遠はなのはの右手を離し、何事も無かったかのように振り返る。
なのはの手が力なく落ちた。
「ええ、お陰さまで。……それで、何をしていたんです?」
月は冷たい視線を向けるが、高遠は意の介した様子もない。
「実はなのは君が“悪いイカ”である可能性を考慮して、ぶしつけながらその人格を少しだけテストしたいと思いましてね。
2人が不在の間になのは君が私に殺意を向けるかどうか、色々試したのですよ。
で、その結果……」
高遠はなのはの肩に手を置いた。
「合格です。大変失礼しました。今度こそ貴女を心から歓迎しますよ、なのは君」
なのはは俯いたままだ。
「はっはっは! 遙一もまだまだでゲソ! なのはが悪いイカのわけ無いでゲソ!」
「フフフ。まったく、今にして思えば愚かな懸念でした」
なのはの隣に座って、胸を張り豪快に笑うイカ娘は
なのはを露ほども疑っていない様子だった。
「分かりました。そういう事情でしたか。……じゃあ、偵察で得た情報を報告します」
「ええ、よろしくお願いします」
月、高遠、イカ娘、なのはの4人は現在同じテーブルを囲むように座っていた。
高遠と話しながら、月はなのはの様子を見る。
自分が偵察に行く前とは、明らかに気配が違う。
(『少しだけテストした』? “テスト”以上のこと、なのはちゃんに仕掛けたのは明らかだ。
……まあ良い。これで高遠の尻尾は掴むことができた)
月は高遠を最初から信用に足る人物だとは考えては居なかったが
ワカメ海人……慎二に対する拷問の時から、より明確な不審感を抱いていた。
高遠は単純に殺し合いに乗っているわけではないだろう。
しかし高遠には何か人の精神に働きかける、しかも不穏な方向に向かわせる志向があるのではないかと考えていた。
そしてそのことを確認するため、故意になのはと2人きりになるよう仕向けたのだ。
狙い通り、月は高遠の本性を確認できた。
慎二に対する拷問自体は、必要なことかも知れない。
だからそれを行うこと自体に異論は無い。
しかしイカ娘やなのはの純粋さを汚そうとするのなら
それは新世界という理想を志す月と、真っ向から対立する志向だ。
そして同時に、そんな人物は殺し合いを生き残るさいの不穏分子でもある。
(『我々は自分と、仲間の安全を守る義務がある』とか言っていたか、高遠? まったくその通りだよ。
そしてそのためには、獅子身中の毒虫は排除するのは当然だな)
月が高遠に向ける視線には、確かな敵意がこもっていた。
高遠は月の話を聞いて、それを分析していた。
テレビ局には、人の立ち寄った形跡があったそうだ。
ならば中に人が居ると想定して、テレビ局に入るべきだろう。
特別な準備はできないが、予めその蓋然性が高いと知っているのは大きい。
偵察の意味もあったということだ。
もっとも、月の目的はそれだけでは無かったであろうが。
(早い段階から感づかれていたと見るべきでしょうね…………私の本性に)
それならばそれで構わない。
誰に感づかれてどれほどの邪魔が存在しようが、自分は自分であるしかないのだ。
人の悪意を嗅ぎ付け、増幅し、殺人へと促す
――――地獄の傀儡師であることしか。
たしかに地獄の傀儡師の眼鏡にかなう者は少ない。
間桐慎二はその選別からもれた。
Vはその悪意の高を計る間も与えられなかった。
高遠の求めに応じられるほど悪意を抱えながら
高遠の人形になれるほど都合の良い人間などほとんど居ない。
しかし殺人者として産まれついた者も居なければ
絶対に悪意を持たない人間も居ないのだ。
これまで高遠の人形になった者も、何らかの事情があればこそ殺人という方法を選んだのだ。
ならば作り出すこともできるはずだ。
充分な悪意を持ち、高遠の良いように操れる殺人人形を。
だがそれも手近な人間から、吟味して選ぶ必要がある。
月はその内に闇を抱えている節はあるが、知略に長けすぎている。
高遠の操り人形とするのは至難。
イカ娘は純粋だが、殺し合いの状況にも危機感が薄く
悪意を植えつけるのには、時間が掛かりそうだ。
しかし、なのはならどうか。
彼女は、たしかに人を殺すことを良しとする人間ではない。
だが、それ以上に恐怖と言う闇を抱え
そして魔法と言う、強大な力を持っている。
本人の話と些細な挙動から伺えるに、戦闘に関しても類稀な才能を持っていることも見て取れた。
しかしその精神は、普通の小学生からかけ離れたものでは無い。
試しに少し揺さぶりを掛けただけで、あっさり動揺を見せた。
なのは小学生としては、強い意志を持っているだろう。
だがその思考や判断には、一貫性や論理性が薄いのだ。
自分の倫理や行動模範を論理的に反省したような形跡は欠片も見受けられない。
あるのはただ感情に基づいた恣意的な判断。
そこにあるのは“子供じみた正義”ですらない、“子供の正義感”なのだ。
それを正義と呼ぶなど、かの名探偵に失礼なほどだ。
彼女の心から闇を暴き、引きずり出し、そして壊してしまえば
あるいはかつてないほど面白い殺人人形、いや殺戮人形が産まれるかもしれない。
高遠はなのはに向ける視線には、深い闇があった。
なのはは月が帰って来て以来、俯いて黙ったままだ。
その眼に何を映しているのか
その心は何を思っているのか
外面からは推し量ることはできない。
強大な力を秘めた魔法少女は、ただ沈黙を守っている。
余談となるが、なのははある事実の誤認をしていた。
なのはの使うミッドチルダ式の魔法は、肉体的な損傷は伴わず
魔力ダメージのみを敵に与える、非殺傷設定が可能なのだ。
当然なのははこの実験の中でも、その非殺傷設定で魔法を行使するつもりだった。
しかし主催者は、それがどういった意図に基づくものかは不明だが
ある能力制限を、なのはに課していた。
それは『非殺傷設定の不可』。
なのはの扱う魔法はいかなる方法でも、非殺傷設定が掛けられない。
すなわち、なのはの放つほとんどの魔法は
容易に人の身を引き裂き、肉を焼き、骨を砕き、内臓を潰す
強大な兵器としかなり得ないのだ。
しかしなのはは、その事実を知らない。
ストレージデバイスであるS2Uもまた、ただ沈黙を守っている。
そしてもし、なのはが自分の愛用していたデバイス『レイジングハート』を入手したら
あるいはその時こそ、この実験の中でもっとも恐るべき怪物の産まれる瞬間かも知れない。
なのはの友、アリサ・バニングスの死が告げられる放送の時は近い。
【H−4/ファーストフード店内 早朝】
【イカ娘@侵略!イカ娘】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:風紀委員会特服『白虎』Sサイズ@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘
[思考・状況]
1:とりあえず月と高遠に付いていく
2:栄子、タケルがなにをしているのか気になる
【夜神月@DEATH NOTE】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(残弾1/5、予備弾数30)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・状況]
1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
3:自身の関係者との接触
4:高遠に警戒
5:イカ娘の純粋さを気に入っています
[備考]
※参戦時期は第一部。Lと共にキラ対策本部で活動している間。
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:聖祥大附属小学校制服、S2U@魔法少女リリカルなのはシリーズ、核金(シリアルナンバーLXI)@武装錬金
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:アリサ、すずかとの合流と、この場所からの脱出
1:?????。
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦。
※魔法の非殺傷設定はできません。
※核金@武装錬金は武藤カズキと蝶野攻爵しか武装錬金にできません。
【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、サンジェルマンの紙袋@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況] 今まで通りの「高遠遥一」として、芸術犯罪を行う。
1:なのはを人形に仕立てる。
2:「人形」を作るのであれば人選、状況は慎重に選ぶ。
3:Vに多大な興味
投下乙!
高遠お前ってヤツは……!
しっかりしてるし強大な魔力持ちとは言っても9歳の女の子にそんなことするなんてドS野郎め!(褒め言葉)
というかイカちゃんの帽子に体重ってここ二週間の本編ネタ混ぜてくる速さにワロタw
投下乙!
高遠……いらんこと吹きこみよって……w
外道四天王になるなら結城かこいつだな
ジョーカー? ほら、奴は「外道」じゃない、「道化」だ
投下乙です!
いやあ、ロリショタといい何でなのはさんTUEEEE展開になっちゃうのかなあ?
どっかの動画を思い出すわ
投下乙!
高遠が遂に動き出したなあ、さあ何をやらかしてくれるか
なのはもイカ娘も放送で大打撃を受ける訳だが…嫌な予感しかしねぇ
そんな中、月は一端に主人公っぽく動いてるwこいつがそんな風に動くと妙に違和感がwww
投下乙
このロワでもなのは無双が始まるんですね解かります
投下乙です!
うわぁ、高遠さんマジ地獄の傀儡師
64 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/13(月) 18:18:13 ID:iiBmEx4w
投下乙!
高遠のやり方はアニロワ2NDとかわんねえ
アニロワ2NDは闇メイドで今回の人形はなんだろう
投下乙です
高遠UZEEEEEEE!
でも、それでこそ『地獄の傀儡師』。
何となく綺麗なライト君と良い感じに対比ができてますね。
そしてなのはが爆弾になりそうだ…これは要注意だ
それとイカちゃんカワイイ
投下乙
高遠は策動し出すし、月は月なりに…イカ娘に心を傾ける月とか新鮮だな
なのはは思考が???とかこええええええええっ!
そろそろ放送だが…どうなるんだ?
投下乙
原作の月は女性を見下してるところがあるから、
イカ娘を認める月は好感度が上がるな
(高遠は元々月の世界ではノートに名前書かれる側だったとはいえ)
かつて月にこんなに危険人物をとめてくれと期待したことがあっただろうか
そして高遠はどこでもやること同じだなw
殺し合いの場で殺し合いを誘発する一般人とか
高遠以外がやったら自殺行為以外の何物でもないw
68 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/13(月) 23:17:05 ID:6ALrGmII
代理投下します
背後で発生している火災やら、アイビーが遺した変な植物やらは、当然無視した。
松田は、森を出るべく急ぎ走り出す。
――早く、たけるくんの元へ!
殺人を犯した興奮もあってか、急がなければ、という焦りはかなり強い。
巴が守っているとは言え、たけるくんから長く離れることが許されるわけがない。
何しろ、此処はいつ悪人と遭遇してもおかしくない場所なのだ。
……だが、何しろここは森である。
ポイズン・アイビーが死んだため、松田が植物に囚われるようなことは無いものの、
十分に明るいとまでは言えない時間帯で、しかも革靴を履いているから、走るにしては足元の状況は悪かった。
躓いたり滑ったりを幾度か繰り返しつつ、しかし焦る松田は減速することなく森を走る。
そんな風に走っていたから、幾度目かの躓きの際に、彼は本格的に転んでしまった。
しかも転んだ拍子に、右足のすねを木の根にしこたま打ちつけてしまう。
「った! ……クソ!」
思わず悪態をつきつつ、彼は立ち上がる。
……出血は無いようだし、軽い打撲で済んでいる、と信じたい。
たけるくんが待っているのに、ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。
そうして、立ち上がった松田は再度走り始める。
また何度か躓きつつも、彼はどうにかこうにか森を抜けた。
南東方向に建物を認めてからは、脇目も振らずそこに向かった。
誰にも出会うことなく走り続け、E-10の511キンダーハイムに到着。
そこで待っているはずの巴とたけるくんに合流するため、建物の中に入り、
そこで松田は絶句した。
――――――――――――――――――――――――
「……巴! これは……! いったい何があったんだ!?」
巴のもとにやってきた松田は、かなり興奮した様子で問いを発した。
驚きを帯びた問いかけを受けた巴は、しかし無言のまま答えない。
主人の命令は絶対だが、問いかけに答えて出来事を説明するだけの口は、犬にはない。
ただ、巴は松田の足元に移動してお座りの姿勢をとった。主人の次の指示を待つためである。
だが巴の視線の先、彼は、アタフタとした様子だ。
軽くパニック状態の主人は、しばらくして再度言葉をひねり出し……
「巴、たけるくんはどこに……、
あ、イヤ!!」
何かを思いついたらしい主人は、小さく声を上げた。
少し思考が落ち着いたのか、彼は、その場に軽くしゃがみ込み、そのまま巴の目を見つめる。
「巴。今からお前にいくつか質問する。
質問の、お前の答えが『はい』なら、短く1回吠えてくれ。
……逆に、『いいえ』なら、吠えずに黙っていてくれ」
そんな命令を巴に下した彼は、念を押すように質問した。
「……今の命令の内容、理解できてるな?」
もちろん、巴は理解できている。
「ガウッ!」
――――――――――――――――――――――――
我ながら良い方法を思いついたな、と松田は思う。
この方法ならば、犬の巴にも答えられるだろうから。
ここ、511キンダーハイムにいるはずのたけるくんは、しかし何故か消えていた。
土まみれの若い女の子の死体と共に、巴がいるだけの状態。
松田がいない間、ここで何かがあったのだ。
松田は、目の前の女の子の死体を見やる。
まさか巴がこの子を殺したのかとも思ったが、それは多分ないだろうとも思う。
パッと見た感じ自殺のようで、しかも、すぐ傍の地面の穴から引きずり出されたようだから。
この子は自殺し、その死体は一旦埋められた。その後、この子は掘り出された。
誰がそうしたのかは、もちろん分からないけども。
――まさか、たけるくんはこの死体を見て、……怖くなって逃げた?
松田の頭の中で、そんな物語が思い浮かぶ。
「巴。この女の子は、お前がここに来た時には、……もう亡くなっていたのか?」
「ガウッ!」
「お前はこの子を埋めたのか?」
「……」
「じゃあ、掘り出したのはお前か?」
「ガウッ!」
なるほど、と松田は考える。
誰かがこの子の死体を埋め、それを巴が掘り出した。
犬の嗅覚は人のそれよりもかなり鋭い。きっと死体の発する臭いなり何なりに気づき、この子を掘り当てたのだろう。
「……たけるくんは、この死体を見てパニックになったのか?」
「ガウッ!」
松田の想像通りの、巴の返答。
やはりたけるくんはこの死体を見てパニックになり、そして怖くなってここを去ったのだ。
「お前なぁ……」
巴を思わず責めたくなるが、今は何も言うまいと逆に思い直す。
たけるくんに死体を見せるな、なんて命令は出していないし、そもそも巴は犬だ。そんな気遣いは期待できないだろう。
……この時、松田がもし『たけるくんは死体におびえてここを去ったのか?』等と聞いていれば、その後の展開は違っていただろう。
だが、松田は早合点するというミスを犯した。
自分の想像通りのことが起こったと思い込んだから、たけるくんと巴が誰かに襲われたなどと考えもしなかった。
ここは、悪人といつ何時出くわしても不思議でない環境なのだと、自覚しているにも関わらず。
「……たけるくんが、どこに行ったか分かるか?」
「ガウッ!」
「本当に分かるんだな?」
「ガウッ!!」
「じゃあ、たけるくんの所へ案内してくれ。たけるくんを保護しに行くんだ」
そう命令し、松田は腰を上げる。
巴は、地面の匂いを嗅ぎながら進み始めていた。
【E-10 511キンダーハイム 庭/一日目・早朝】
【松田桃太@DEATH NOTE】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、右足のすねに軽い打撲
[装備]:背広と革靴、コルト・ニューサービス(弾数2/6)@バットマン
[道具]:基本支給品一式*2、ジョーカーベノムガス噴霧器@バットマン、巴の笛@MW、松田桃太の遺言書、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本行動方針: 謎を解き、実験を辞めさせ、犯人を捕まえる。
1:キラのような悪は殺害する。
2:巴についていき、たけるくんを保護する。
3:弱者を守る。
[備考] おそらく、月がキラの捜査に加わってから、監禁されていた時期を除く、ヨツバキラとの対決時期までの何れかより参戦。
たけるが、相沢栄子の死体におびえて511キンダーハイムを去ったと思い込んでいます。
※巴が、命令者の質問に答えるようになりました。
質問の答えが『はい』なら一回吠えます。『いいえ』なら吠えません。
代理投下終了です
巴は賢いな。もしかしたら松田より賢いかもw
このままだとパンドラと遭遇か。いやな予感しかしねえw
題名は『早合点』です。
あ、最初に書き手本人が本投下は明日午後になると書いてたのに今気が付いた。ごめんw;
タイトル通りの早合点乙w今日からお前松田なw
それはともかく。
火事が、火事がぁっ! このままではヤバイw
やるときゃやるかと思ったがやっぱり……w
巴かわいいよ巴。
75 :
◆2UzNvTAEXA :2010/12/14(火) 14:32:50 ID:H2SkUrUa
投下ありがとうございます。
修正すべき点もないようですから、
本投下は
>>73で完了したものとしてください。
投下と代理投下乙!
巴とコミュニケーションとる方法思いついたまではよかったんだけど……
詰めが甘い所はやっぱり松田ァ!w
巴は賢いなァ、こりゃ結城が可愛がりまくるわけだ
このロワの三大癒し
イカ娘
ヴァンプ将軍
巴
三人(二人と一匹)とも素晴らしい安定感
全うな萌え?がイカちゃんしかいない!
投下乙。
ところで、原作未読で511キンダーハイムの構造を知らないんで質問なんだけどさ、
『相沢栄子の死体があった場所=巴がいた場所=511キンダーハイムの庭=511キンダーハイムの入り口』
で、いいのかな?
Forest Of The Redの最後の文で、巴は511キンダーハイムの入り口で松田を待っていたように読めるんだけど。
>>78 よし、貴様にはフェイトそんのパンツを穿いたパンドラ様をやろう
ヴァンプ将軍は…
登場話の描写とか読んだらパピヨンとある程度打ち解けてるなぁ
パピヨン、けっこう気難しい、いや持ち上げるとけっこう鷹揚になるタイプでもあるか
ただ、今の所は問題無いが根本な部分で揉めたら…
いや、役に立つ内はまだ大丈夫…か?
>>79 言われて初めて気づきました。確かに、少し違和感がありますね。
お恥ずかしながら、私も原作未把握のため511キンダーハイムの構造を知りません。
修正を入れた方がよろしいでしょうか?
ヴァンプ将軍はごはん担当という重要な役割が(ry
ところでヴァンプ将軍の戦闘力はどうなってるんだろう
アニメでヴァンプ将軍が他勢力の組織に襲われた回では
アーマータイガー君が助けに来てフルボッコにしてたけど…
そのアーマータイガー君の上司だし、ああ見えて案外強かったりするのか?
サンレッドも「自分が強すぎるだけでフロシャイムの怪人は強い」発言してるし
ヴァンプは将軍とはいえ本部付きじゃなくて支部の指揮官だから、戦闘力は怪人に劣る(戦闘員二人>ヴァンプ>戦闘員一人)くらい
多分このロワで言うと設定的には松田以上バットマン以下、あるいはルンゲ以上ロールシャッハ以下くらいじゃないかな
まあ原作で戦闘描写がないから、どういう扱いでも構わないんだけどもね
ルンゲはロベルトと戦って勝ってた位に強いから、一般人以上なのは間違いないよな。
それでヴァンプと比較できるってもんでも無いけど。
>>84 アニメ版DVDの封入特典にキャラの戦闘力が記載されてるサンレッドカードというのがあってな……。
ヴァンプ将軍の戦闘力はサンレッド(ノーマル時)と大差なく、戦闘員よりはるかに強い。
それを抜きにしてもアニメ版ではアーマータイガーと同等以上の実力を持っている。
問題はどういう風に強いか、描写が一切ないからわからないってことだな
筋力や瞬発力が強いのか、超能力的なものが使えるのか、はたまた耐久力が高いのか
デルズの箱をタイガーに運んでもらってたり草むしりで結構疲れてるところを見るに、身体能力はさほどでもなさそうだが
>>88 草むしりとかのくだりはギャグ描写だしねw
アニメ版ではアーマータイガーが止めるまでもなく、
ドッズのパンチを余裕で避けれたような感じで描かれていたよ。
漫画版で今の所判明してるのは大半の怪人よりは耐久力があることぐらいかな。
そんなに強かったのかヴァンプ将軍…
てっきり一般人よりは強いぐらい?としか思ってなかったわ
でも二時間正座したら足がしびれるんだぜ?
>>91 ヴァンプ将軍が戦闘能力を発揮する場面はないけど
他作品の強豪たちが二時間正座をする描写もない、と考えたい。
シャッハさんやバットマンも二時間正座すりゃ痺れるかもしれん。
チキチキ正座耐久レースを開いちゃうオジマンディアスという電波を受信した
カードに準拠だとかよ子さんの戦闘力はウサコッツと同程度……。
そこはむしろ「ウサコッツの戦闘力はかよ子さんと同じくらい」って表現すべきだろw
あの数値は精神力も加味されているに違いない
ウサコッツは子供には危害を加えることが出来ないんだっけ
ロワにいたら辛い特性だよなw
怪人なのに戦闘員より弱いんだぜ。
もしこの先ヴァンプ将軍が無双する話があったらシュールすぎるなw
ナイトールはHorなのかSetなのか…あ、サンレッドキャラは全部Isiか
このロワにはいないけどプリキュア5の
カワリーノさんはロワ的にはかなりチートな能力持ってたよね
怪人態の前から瞬間移動・他人に変身・精神攻撃・波動を使った攻撃及び防御etc…
大変お待たせいたしました。
第一回放送、書き終わりましたので、投下します。
なお、禁止エリアについては相談中のため空欄にしてあります。
雑居ビルのような建物の廊下を賀来は駆け抜ける。
この建物はH-4エリアにあるテレビ局。
賀来は額に汗を滲ませ、辺りを見渡す。
賀来には使命があった。
それは――
「私が結城を…あのメフィストフェレスを止めなければ……!!」
このゲームには、自分の人生のフィナーレとして、世界を滅亡させようと目論んでいた結城美知夫も参加している。
結城のことだ、未だにその目的を達成するために動いているだろう。
もし、そうであれば、この地にいる全員が結城のターゲットだ。
だからこそ、賀来はこのテレビ局を選んだ。
放送という媒体を利用して、結城の危険性を全参加者に知らせるために――。
賀来は歯ぎしりし、再び、誓う。
「お前の悪事…ここで潰して見せるっ!」
賀来の行動は犠牲を最小限に食い止めるための、まさに“尊き行い”である。
しかし、賀来は気付くべきであった。
この地にいるメフィストフェレスは結城一人だけではなかったことを――。
もう一人のメフィストフェレスが今、賀来に忍び寄ろうとしている。
「アンタ、何で走っているのさっ…!」
「えっ…!」
賀来は勢いよく振り返る。
そこにはシルクハットにタキシードというオペラの舞台から現れたかのような出で立ちの男が立っていた。
身なりは西洋人だが、髪の色や顔から判断すると日本人のようである。
男は無邪気そうに笑いながら、賀来に近づく。
「もしかして、何か探し物とかしているのか……放送器具とか……?」
賀来は飛び付くように、男の腕を掴んだ。
「それはどこにあるっ!教えてくれっ!」
「ひ…ひっつくなっ!オレには可愛いカミさんがいて……」
男は“頼むから訳を話してくれよ……”と困惑した面持ちで、賀来を落ち着かせる。
「あ…すまない……」
賀来はやっと我に返った。
自分としたことが何と取り乱していたのだろう。
賀来は深呼吸し、
「順を追って話すべきだな……」
と、語り始めた。結城がいかに危険人物であるかを。
結城美知夫――狂気の連続凶悪犯罪者。
結城は幼い時、MWという毒ガスを吸い、大脳を侵された。
これにより、知能は発達しながらも、良心やモラルが欠如。
また、肉体も蝕まれ、その寿命は風前の灯となっていた。
そこで結城はMWに関わった当事者達に復讐するために、連続誘拐事件と殺人を繰り返し、最後はMWで人類を滅亡させる計画を立てたのだ。
「……というわけだ…奴は悪魔、メフィストフェレスっ…!
私は仲間を集めたいのだ…奴を倒すためにっ…!」
ここまで話すと、賀来はやり場のない怒りを押さえ込むように俯いた。
目の前の男が、歓喜と悪意に満ちた笑みを浮かべていたとも知らずに――。
「アンタの気持ちはよく分かった……」
男は一つの部屋を指し示した。
「あの部屋にラジオ放送専用の機材がある……
それを使って悪魔の存在を皆に知らせるといい……そして……」
男は強い決意を滲ませたような瞳で賀来を見据えた。
「殺し合いを止めてやろうぜっ!“オレ達”でな……!」
「“オレ達”……まさか協力してくれるのか……!」
賀来の顔がパッと輝く。
何という幸運であろう。
ここで自分の志に共感する者に出会えた。
どんな状況下においても、神は正しき者に手を差し伸べる。
(神よ…!やはり貴方は私を見捨ててはいなかったっ…!)
神の慈悲深さを、賀来は改めて噛みしめた。
「では早速……」
「あっ…ちょっと待ってくれよっ…!」
悪魔はすぐ傍にいるぞ!w 支援
「……で、これがその原稿か……」
賀来が手にしていたのは今し方ファックスで送られてきた一枚の紙。
そこにはゲームが始まってから亡くなった参加者の名、グループ別の退場者の人数、そして、禁止エリアと呼ばれる立ち入り禁止区域が記載されていた。
「ここのテレビ局には二種類のラジオ機材があって、一種類はいつでも放送できるが、放送エリアがランダムなもの。
もう一つがこれ。指定された時間に、この原稿を読まなければならないが、全エリアに音声が行き渡る……
オレ達にとって、こっちの方が好都合だろ…?」
「そうだな……だが……」
賀来は男の言葉に強く頷きつつも、申し訳なさそうに頭をかく。
「いいのか私が放送役で……」
男ははにかんだ微苦笑を浮かべる。
「オレって、アガリ症だし、アンタの方が結城って奴のことを知っている……
それに、アンタは平和を望んでいる……!
その熱意はオレの言葉じゃ…伝わらねぇからさ……」
「そうか……」
(この男もそこまで平和を望んでいたとは……!)
男の慎み深い心遣いに、賀来の胸が熱くなる。
賀来はいよいよ確信を抱いた。
神は殺し合いを望んではいないことを。
だからこそ、この男と自分を引き合わせてくれたのだと。
スピーカーやミキサーなど、ラジオ放送に関わる機材に囲まれたレコーディングスタジオ。
その中央に設置されているマイクの前に、賀来は立つ。
時刻は5時59分。
放送機材が、一つまた一つと蛍の光のように淡く点滅し始める。
心の中でカウントダウンをしながら、賀来は男の方を振り返った。
「そういえば、貴方の名を聞いていなかった……」
「あぁ……オレの名か……」
男は口元を歪ませる。
「オレは“テンマ”っていうんだ……!」
朝6時。
耳障りなノイズと共に、全エリアに男性の声が響き渡る。
『あー、私の名前は賀来巌……
私も参加者の一人だが、主催者からの指示により、H-4のテレビ局で放送を行うこととなった……
それでは原稿を読み上げる……聞いてほしい……
まずはゲーム退場者の発表……
【七瀬美雪】【メロ】【相沢栄子】【夜神粧裕】【東方仗助】【内田かよ子】【ジェームズ・ゴードン】【アリサ・バニングス】【人吉善吉】【ヴォルフガング・グリマー】【夢原のぞみ】【ポイズン・アイビー】以上12人だ……
次にその退場者のグループ分け……
Hor2名、Set1名、Isi9名…だ…
そして、禁止エリアは【】【】
以上だ……』
賀来は一旦、言葉を切った。
この6時間でこれだけの人間が命を落とした。
救うことができなかった。
殺された者の中には結城が手を下した人物もいるかもしれない。
己の無力さがもどかしさとなってと心を責める。
(だが……!)
賀来は顔をあげた。
(ここで結城の危険性を訴えれば……そして、他の参加者に協力を呼びかければ……
殺し合いを終わらせることができるのだっ!)
賀来は鋭い光を瞳に宿らせ、再び、口を開いた。
『本来ならここでマイクのスイッチを切るべきなのだろう……
しかし、私は切らない……
なぜなら、ある悪魔と戦うために仲間を集っているからだっ……!
この世を滅亡に導こうとした悪魔っ…!
その悪魔の名は――』
結城の名を口にしようとした次の瞬間だった。
襟に加わる強い力。
『えっ…』
身体が軽くなったと思いきや、押し付けられるような気圧に呑まれる。
宙に吹っ飛ばされたのだと賀来が理解した時、その身体はすでに『バン!』という激しい衝突音と共に壁に叩きつけられていた。
「くっ…」
痺れるような激痛が賀来の背中を刺激する。
一体何が起こったのか。
賀来が身体を起こした瞬間、彼の目の前に飛び込んできたのは、マイクの前に立つ“テンマ”の姿だった。
“テンマ”は己の首を強く握った。
『き…聞いて…くれっ…!奴が求めているのは……仲間じゃない……獲物だっ……!
奴はオレを…ゴホッ……!』
(なっ…!)
賀来の頭が真っ白になる。
“テンマ”が末期の病人のように弱弱しい喘ぎ声で己を否定した。
自分に協力したいと申し出てくれたあの“テンマ”が――。
(な……なぜ…?)
“テンマ”は自分を正しき道へ導くために神が遣わしてくれた使徒ではなかったのか。
受け入れがたい事実に、賀来の心拍は乱れ、疑問だけが累積していく。
おそらく、この疑問が解決されることはないだろう。
しかし、これだけは言えた。
(このまま“テンマ”を野放しにすれば……ほかの参加者から狙われるのは私だっ……!)
今の放送を聞いた者は皆、“賀来という男は他の参加者をも殺そうとしている”と誤解するはずである。
もし、そう誤解した参加者と賀来が出くわせば、その参加者は有無を言わせず、賀来に敵意と武器を向けるだろう。
これでは結城打倒の計画は頓挫してしまう。
(そんなこと……させるものかっ…!)
賀来は突き刺すような痛みを堪え、立ち上がるや否や、拳を振り上げ、“テンマ”の元に駆けだした。
『“テンマ”っ!貴様っ!』
振り返った“テンマ”は賀来の血走った形相に動ずることなく、マイクの電源を静かに切った。
賀来は敗北の色を滲ませた虚ろな表情で、床に伸びていた。
かつて非行グループに所属していただけあって、腕っぷしには自信があるし、喧嘩慣れもしている。
しかし、その賀来が放った拳が“テンマ”の顔面に届くことはなかった。
拳が届くよりも先に、“テンマ”は万有引力の法則を無視するような軽やかさで、跳び上がったからだ。
まるで、背中に翼が生えたかのように――。
否、実際に、“テンマ”の背中からは翼が生えていた。
暗闇を吸い取ったかのような漆黒の翼が――。
「遅いな…」
そう呟いた“テンマ”は翼を大きく広げ、身体をねじらせると、回し蹴りの要領で賀来の顔を蹴り飛ばした。
「放送ご苦労さんっ!賀来神父っ!」
“テンマ”は地に伏せる賀来を、新種の生物で出くわした子供のように、好奇心に満ちた瞳で見下ろす。
「アンタの熱弁、中々良かったぜっ……!
ゲームのルールを分かっていない、空気の読めなさがっ……!」
「なん……だと……!」
賀来は倒れたまま、苦々しさを含ませた眼で“テンマ”を射った。
“テンマ”の蹴りはものの見事に、賀来のこめかみを捉えていた。
こめかみは骨の厚さが薄く、打撃を加えられると、平衡感覚が一時的に失われ、場合によっては脳震盪を起こす。
今の賀来の身体はまさにそれであり、酔いに近い目眩が賀来の自由を奪っていた。
「いやぁ……本当はもっと演説を続けてほしかったんだけどさぁ……
結城っていう面白そうな役者が不利になるってのは……
ちょっとどうかと思ってな……」
“テンマ”はスタジオの壁にかけられている時計を見上げた。
「直にここに人が集まる……
もしかしたら、アンタが望む人種かもしれないし……
そうでない人種……オレみたいな不幸とか混沌を好む奴かもしれない……
共通しているのは、アンタを“テンマ”殺害を目論んだ罪人として見なしていることか……」
支援
“そう勘違いした奴がアンタの命を狙うって思うと、ワクワクしちまうぜっ!”と“テンマ”は肩を震わせ笑い飛ばす。
「だけど……」
“テンマ”はうむと考え込む。
賀来は知らないが、“テンマ”は偽名であり、本当の名は杳馬。
このゲームでは杳馬の息子テンマと医者である天馬賢三の2名が参加している。
先程の放送で、“テンマ”の名を叫ぶ賀来の声をマイクは拾っている。
両方のテンマを知らないものからすれば、どちらのテンマなのかと困惑するだろう。
また、片方のテンマのみを知りうる人物であれば、もう片方のテンマが賀来という人物に殺されかけていたと誤解するはずである。
他の参加者から警戒されたくない杳馬からすれば、実に都合がよい偽名。
しかし、問題はどちらのテンマも知る人物で且つ、そんな人物が賀来の元に現れた場合だ。
この人物が賀来から“テンマ”は“タキシードにシルクハットを被った無精髭の男”と聞けば、一発でその“テンマ”が偽物であることを見抜いてしまうだろう。
しかも、テンマもしくは天馬賢三から杳馬の身体的特徴を聞いていたとすれば、その正体が杳馬であることまで感付くはずである。
「そいつはつまんねぇな……」
手品は最後まで種が分からないから興奮するのだ。
種が分かれば、観客は途端に興ざめする。
背後の存在など見えない方がいいに決まっている。
「今後のマーブルのためにってね……」
杳馬は賀来の頭を持ち上げ、弛緩するその口元に手を翳した。
杳馬の手のひらを中心に渦巻いた風が吹き始める。
そして――
「マーベラスルーム!!」
突如として風が掃除機にように賀来の口腔を吸いあげ始めた。
「なっ…!」
(何なんだ…この力はっ…!)
賀来は魔法のような杳馬の能力に当惑する。
しかし、その当惑は1秒しか続かなかった。
2秒目に賀来に訪れたのは舌の激痛だった。
マーベラスルームは物質を量子レベルに分解し、亜空間にばらまく一撃必殺の大技。
ただ、この能力はどうも首輪によって制限がかけられており、分解は狭い範囲でしか通用しない。
それでも賀来の舌を分解するには――賀来の口をきけなくさせるには充分だった。
賀来の舌が砂漠の砂のようにさらさらと崩れ、杳馬の手の中に吸い込まれていく。
やがて、風は蛇口を閉めた水のように収まった。
「う…ぐおぉぉぉぉ!!!」
この直後、人間の言語からかけ離れた野太い声をあげながら、賀来は地面を縦横無尽にのた打ち回る。
焼きゴテを当てられているような灼熱の痛み。
口内は燃え盛り、賀来から思考を奪っていた。
賀来にできることと言えば、口を抑え、激痛に耐えることぐらい。
そんな苦しみもがく賀来に対して、杳馬は“やっぱり痛いよなー!オイラもびっくり!”と他人事のように言い放ち、腹を抱えて笑う。
その嗜虐に塗れた哄笑はしばらく続いた。
「さぁて余興はこれくらいにして…と……」
杳馬は賀来の頭部を人差し指で触れた。
賀来の頭部から黒い波紋が空気を伝ってトンと広がる。
賀来の動きがピタリと止んだ。
賀来は催眠術にかけられているような自失した表情で虚空を見つめる。
杳馬は賀来の耳元でささやいた。
「今、アンタの心に闇一滴を落とした…何が見える……?」
「……」
賀来の瞳が捉えていたのはスタジオの白い壁ではなかった。
果てしなく広がる黒い空間――締め付けるように重い闇。
闇は賀来の身体に溶け込み、その動きを封じている。
なぜ、自分はここにいるのか。
泥沼にはまったかのように動かない思考がようやく産み出した疑問。
その疑問が頭を過った時、賀来は何かの気配を感じ、振り返った。
やはりそこにあるのも、闇。
しかし、その闇が少しずつ形を作り始めている。
血肉に飢えたような長い牙と口。
黒い剛毛に覆われた体躯。
研ぎ済まれた眼光。
(あ……あれは……)
賀来は直感的に気付いた。
あれこそが人間を誘惑し悪徳へと導こうとする地獄の大公、メフィストフェレスであることを。
メフィストフェレスはゆっくり賀来に近づいていき――。
「ふ……ふぐおおおぉぉぉ!!!」
賀来は何かから逃げ出そうとするかのように手足を激しくばたつかせる。
勿論、賀来の目の前には何もない。
賀来の心は幻影に捕らわれていた。
それは杳馬が意図的に作り出したものなのか、または賀来が生み出したものなのか。
「さっそくいい感じにかき混ざってきたねぇ……」
杳馬は満足そうに立ち上がる。
「何を見ているかは分からないが…怖いだろう…?
怖かったら戦うしかないよな……
頑張って、マーブルを生み出してよっ……!」
賀来の悲痛な断末魔を背にして、杳馬は放送室を後にした。
【H-4/テレビ局内:朝】
【杳馬@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、フクロウのストラップ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いというマーブル模様の渦が作り出すサプライズを見たい!
1:Dr.テンマが執着するヨハンに会ってみたい。
2:会場のマーブルが濃くなったら、面白そうな奴に特別スタジオの存在を伝える。
【賀来巌@MW】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:舌消失、錯乱中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:結城美智夫を倒す
1:テレビ局の機材を使って、結城美智夫の危険性を会場全体に知らせる。
2:悪魔である、結城美智夫を倒す
3:メフィストフェレスが襲ってくる!
[備考]
※参戦時期はMWを持って海に飛び込んだ直後。
こちらで以上です。
最後までで読んでくださりありがとうございました。
今回、ロワの華ともいうべき放送を私のような若輩に委ねてくださり、なんとお礼を申し上げればよいのか。
もし、矛盾点などがありましたら、ご一報下さい。
では、よいメリークリスマスをっ!
投下乙!
なん……だと……!
流石貫禄の三大外道wwwかき回し方が容赦無いです
投下乙です!
賀来ェ…これは終わったな…
特に戦闘力があるわけでもないのに舌消失とか無理ゲーすぎるw
今更だけど杳馬の口調ってどことなくざわ…ざわ…漫画っぽいよね
作品把握してなかったときはカイジの遠藤みたいな感じなのかと思ってた
遅ればせながらも放送乙。
神父さんマジカワイソス。もう一方神父はノリノリだっていうのに……。
そして親父い!テメエは絶好調だな!
125 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/29(水) 23:09:18 ID:IDjy1XBS
告知 予約解禁は1/4からです。
詳細は避難所にて
126 :
創る名無しに見る名無し:2010/12/30(木) 18:38:37 ID:R2hAo61+
予約来たな
突然ですが、1月8日に以前からお話ししておりました支援ラジオ開催します。
以下が告知です。
第一回放送突破記念っ!!!ジャスティスロワラジオ
日程:1月8日
時間:21:00〜0:00の3時間
内容:ジャスティスロワについての雑談
・メイン書き手様(特に1様)にインタビュー
・好きなSS
・今だから言える、没展開や没参加者
・どのキャラクター・グループが好きor気になる
ラジオについて
・当日、ラジオのアドレス・実況スレのアドレスを避難所の雑談スレとこちらに貼ります。
参加できなかった方のために録音あり。
・後日、公開。ただ、失敗したら、ごめんなさい。
・スカイプにてラジオ乱入可能っ!スカイプで「和野リエ」で検索してください。
注意
・パロロワ巡回ラジオ主催者R-109様のようなCOOLなラジオを期待しないでください。(BGM何それ?おいしいの…?)
・初めてなので進行が絶対的にクダクダっ…!
・地方民のため、やや言葉に難ありっ…!心で理解してやってください…!
それでも構わない方はもしよかったら、聞いてください。
我妻由乃、本郷猛、投下します。
――――女はただ1人を追いかけていた。
1台のバイクが町の中を走っていた。
人の気配の無い町並みに、バイクの走行音だけが木霊する。
そのバイクを運転しているのは、まだ十代前半ほどの年齢の少女。
発育し切っていない肢体には明らかに大きすぎるバイクを、少女はまるで手足のごとく容易く操る。
少女にはバイクの免許はおろか、運転した経験すらない。
しかしその並外れた膂力でバイクを制動し
その並外れた五感で周囲の状況を察知して障害物を避わしていった。
少女は何か超常的な能力を有しているわけではない。
ただ知力や身体能力や五感など、人間が持ちうるあらゆる能力が並外れて優れているだけだ。
それは乗ったことが無いバイクをも、容易に運転できるほどに。
少女の名は我妻由乃。
無人の町を、我が物と言った風情で駆け抜けていく由乃だが
その表情には僅かに焦燥の色が浮かんでいる。
由乃は少しだけ顔を傾けて視線を背後に向ける。
自分を追って来る者の気配は無い。
ひとまず振り切ることはできたと言うことか、あの本郷猛を。
ならばそろそろ逃走に執心するのを止めて、次の行動に移るべきだろう。
現在、由乃の進行方向は西。方位磁針を見なくとも、由乃の方向感覚はそれを完璧に把握していた。
これは目的である天野雪輝が居ると推測された東南の都市とは、逆方向である。
早くそちらに進路を取りたいが、そうすると本郷に見付かる危険が有る。
遠回りになるが大きく迂回する進路を取った方が安全だろう。
(……でも、もうすぐ途中経過のアナウンスがあるんだよね)
由乃の人間離れした精度を誇る体内時計が、6時が近いことを告げている。
放送される内容によっては、書き留めておいた方が良いことも有るだろう。
本郷に追われてからほとんど休憩も取っていないし、他にもやらなければならないことが有る。
一刻も早く雪輝に会いたいという気持ちは何より強い。
しかし焦って不手際を起こせば元も子もない。
ここは放送を聞くついでに、どこかで休憩を取った方が良いと言うのが由乃の下した判断だった。
由乃の駆るバイクはその速さをほとんど変えず、民家と民家の間にある狭い路地に入った。
コンクリート製の民家の壁に挟まれた空間はちょうど陰になっていて、周囲からは一見して様子は伺えない。
しかし路地からは周囲の様子を伺い易い立地であった。
路地のちょうど真ん中辺りでバイクを止めて、由乃はそこから降りる。
そして由乃は待ち切れないと言った様子で、雪輝日記を開いた。
天野雪輝の状況が逐次チェックできる雪輝日記の確認は、最優先事項だ。
『ユッキーが蝙蝠男と下水道にいる。そこで変な女と会ったよ』
ギリ、と大きく音をたてて歯を食い縛る。
自分を差し置いて蝙蝠男がユッキーと一緒に居ることすら許し難いのに、今度は女だって!?
由乃は慌てて続きを読むべく、日記をスクロールする。
『ユッキーと蝙蝠男が別れようとしてる。そんなことしたら変な女と二人きりになっちゃうじゃない!』
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ
憤怒としか形容できない形相で目を剥く由乃。
女がユッキーと二人きりになるだと?
この女、私が居ない隙にユッキーを懐柔している。
ユッキーを守る役目は私の物なのに。
ユッキーの隣に居て良いのは私だけなのに。
訳の分からない女がユッキーの隣に居て
私はユッキーの傍に居ることも、ユッキーと語らうことも、ユッキーにメールを打つことすらできない!!!
我妻由乃と言う人格の最も主要な構成要素は、間違いなく天野雪輝への思慕だろう。
それは由乃の精神に雪輝が大きな影響を与えていると言う次元ではなく
由乃のあらゆる精神活動の根幹が、天野雪輝で構成されていると言った方が近い。
従って殺し合いという状況で雪輝と引き離され、連絡を絶たれた現在の状況は
由乃に多大なストレスを与え続けていた。
必然的に由乃の精神を常よりさらに不安定な物としていた。
だから些細なことにも激しく心を動かされる。
あるいは由乃にとっては、雪輝の近くに自分以外の女が居ることほど、重大事は無いのかもしれない。
(この女、私からユッキーを奪おうとしているな!? 殺すわよ!!?
……殺しちゃえば良いんだわ! ユッキーはIsiなんだから、誰を何人殺しても大丈夫だよね!!
ここではどれだけ殺しても、警察が動く訳でも無いんだし!)
雪輝に近付く女は殺すと決めたことで、由乃の精神は幾分の安定を取り戻す。
そして日記をしまって路地のアスファルトに座り込み、バックパックから実験の手帳を取り出した。
『あー、私の名前は賀来巌……』
と同時に聞き覚えの無い男の声がする。
これが件のアナウンスなのだろう。由乃の体内時計に1秒の誤差も無かったと証明された。
途中経過のアナウンスと言うことは、雪輝の現時点での生死もこれで判明する形になる。
もっとも由乃は雪輝の生存を露ほども疑ってはいない。
雪輝と結ばれてHAPPY ENDを迎えることが、由乃の中で既に確信し確定しているのだから
それまでの過程で雪輝が死ぬことなどありえない。
はずだが、何故か身体が強張る。
その上を冷たい汗が流れる。
絶対の確信を抱いていても、どこかで分かっているのだろう。
雪輝が死ぬ可能性を。
でなければそもそも無理を押して雪輝を守りに向かう必要が無いのだ。
由乃は矛盾と緊張を抱えて、アナウンスの続きを聞く。
『“テンマ”っ! 貴様っ!』
アナウンスが終了する。
名簿にある退場者として呼ばれた名前の上から線を引き、地図上の禁止エリアに指定された時間を書き込みながら
由乃はパァァと、花のような笑顔を浮かべていた。
(ユッキー生きてた! 凄いよユッキー!!)
有象無象が何人死んだとか、アナウンス中に誰か襲われたとかの些事は無視して
雪輝が生きていた喜びに浸る。
いや、それは本当は喜ぶべきことでは無い。
由乃がこの世に居る限り、雪輝もこの世に存在する。
それは世界の根本原則。
由乃の雪輝に対する愛は、いかなる摂理も超越して2人の未来を約束するのだから。
『私が未来のお嫁さんになってあげる』
あの日の約束は由乃の世界を全て変えた。
「将来の夢」というアンケートに何も書く事がない、夢も希望も無い日々が
雪輝との出会いで夢も、希望も、意味も、光も取り戻した。
由乃の人生はあの日の約束から始まったのだ。
恋する乙女は夢を見る。
想い人と星を見る未来。
そして迎える7月28日のHAPPY ENDを。
夢想だにするだけで至上の幸福に浸れる。
その下でどれだけの屍が築かれようが
そのためにどのような行程を歩こうが
由乃は決して省みない。
由乃が見るのは雪輝との輝かしい未来だけ。
逆に言えばそれほど希望の光が強いのだ。
だからこそ、それは反応した。
「……えっ?」
自身の手元から発せられる強い光に、由乃は珍しく気の抜けた声を上げた。
◇
――――男は当ても無く歩いていた。
受難、苦難、苦境、辛酸、艱難辛苦、呼び方は何でも構わない。
およそ生きていく上で、その精神に重荷を背負ったことのない者など居るだろうか。
大切な者の喪失、取り返しの付かない失敗
人はその心に様々な重荷を背負う。
全てが思う通りにいき、何も心に影を落とさない。
そんな人生を送れる者など、そうそう居るはずがないのだ。
とりわけ無人の街を1人歩く、この男にとってはそうだろう。
寂寥感に満ちた風景の中で、男の規則的な足音だけが鳴り響く。
確かな足取りで進む男の瞳には、強い意志の光が宿っている。
そして深い部分にはそれ以上に哀しみの色が。
男の名は本郷猛。
男は“組織”によって五体を切り刻まれ骨を鋼と変えられた。
筋を脈を肉を毛皮を強靭なものに造り変えられ
その体は兵器と成り果てた……。
……それでも男には“魂”だけが残された――……。
組織の名は「SHOCKER」。
そして……始まりの男
「仮面ライダー」。
その体を改造され、しかし脳の改造は免れた男が選んだ生き方
それが人間の自由と平和を守るために、悪と戦う仮面ライダーだ。
人の心を持ちながら人ならざる体となり
なお人を守るために、自らの同胞たる改造人間との血塗られた闘いを続けた。
人間の幸福を全て奪われ、いつ果てるとも知れない孤独な闘争の日々。
しかしその地獄は、本郷が己の意志で選んだ生き方だ。
他にどれほどの選択の余地も無かったやも知れないが
それでも本郷の“魂”が選び取った結果である。
今さら本郷がそれに打ちのめされることは無い。
仮面ライダーを貫くためならば、いかなる地獄の業火にも耐える覚悟だ。
それが自分自身だけの問題ならば。
本郷にとって何より辛いのは、自身の苦痛ではない。
他者の苦痛であり、守るべき者の死である。
あまりにも容易く人が死んでいった。
守れたはずの3人が
更に本郷の知らぬところで9人の尊い命が失われた。
放送で告げられた退場者はおそらく全員が死亡したのだろう。
そして放送の内容に偽りはあるまい。少なくとも脱落者に関しては。
死んだ12人は本郷にとって、今日初めて知った者たちである。
人吉善吉、ヴォルフガング・グリマー、夢原のぞみとも出会って数時間しか経っていないし
他の9人とは面識すらない。
それでもその死は自身の体のいかなる傷より、本郷に痛みを与え
自身のいかなる労苦より重く圧し掛かる。
仮面ライダーが殺し合いの地に存在するにも関わらず、守ることが叶わなかった人たち。
そして善吉、グリマー、のぞみの3人の死は
明らかに本郷の失態が原因なのだ。
3人が殺される直前、殺害犯である由乃を追っていた時
本郷は由乃を捉える寸前で、突如現れた五代雄介に阻まれた。
仮面ライダーは、人間をはるかに超える五感を持つ。
早い段階で、五代の接近に気が付くことはできたはずなのである。
しかし実際は冷静さを欠いていたのだろう。
由乃を追うことに集中するあまり、周囲への警戒を怠った。
仮面ライダー、それも一号である自分は、誰よりも長い戦歴で己を鍛え抜いてきたのではなかったのか。
戦いは常に多勢に無勢。
目に見える敵が1人だとしても予断は禁物。
たとえ予め考えられる限りの想定をしていても、実戦の場では何が起こるか分からない。
だから如何なる状況に陥っても、動じずに応変の対処ができる覚悟をしておかなければならない。
それを誰よりも肝に銘じているはずではなかったのか。
仮面ライダーとしてあるまじき失態。
結果、命という何より重い損失。
それでも本郷の歩みは止まらない。
本郷は未だに仮面ライダー。人間の自由と平和を守ると誓った者だ。
自分の意思と生き方で以って、自分の存在を規定する者だ。
ならば今さら、それを投げ出すことは許されない。
例え戦いにその身を投げ打ち、命を賭けることになっても
死という安息すら許されないのだ。
自分の死に方を決めることすら望めない。
取り返しの付かない失敗。しかし本郷がこれまでに何度それを経験してきたことか、もう数え切れない。
そしてその度に立ち上がってきた。
仮面ライダーを貫くために。
本郷の目的は人間の自由と平和を脅かす悪を倒し、人々を守ること。
それはどこまで行っても変わらない。決して見失われることはない。
この実験に潜む悪を倒し、実験そのものを画策した悪を討ち
そして必ず生きて己の住む世界に帰り、そこでも人類の自由と平和を脅かす悪と戦う。
もはや他に生き方は選べないのだ。
苦難も罪業も全てを背負って、それでも生きるために戦う。
この命を人類の自由と平和を守る戦いに燃やし尽くすために。
歩み続ける本郷の目下の目標は我妻由乃。
本郷は今や由乃が、絶対に生かしては置けない敵である明確に認識している。
由乃が危険人物であることは明らかだし、何より本郷自身の決着を付けねばならない。
仮面ライダーとしても本郷猛としても捨て置くわけには行かない人物だ。
吉良吉影が撮影していたビデオに写っていた、3人を殺した場面。
その手際の良さ、躊躇の無さは、本郷をして戦慄を覚えさせるほどだった。
的確なタイミングで精確に急所を突いて人を殺す。
由乃が見せた非凡な戦闘と、そして殺人の才覚。
本郷の知るどんな怪人も持っていなかった恐るべき武器、それを年若い少女が持っている。
それはショッカーの改造人間やDIOのように、一目で剣呑さを察知できる者が持つより危険性が高い。
由乃はあまりに危険すぎる。放置しておけば、どれほど被害が出るか予想もできないほどだ。
だからこそ由乃を追うことを最優先の行動目的としているのだ。
しかも懸念事項はそれだけではない。
ビデオの中で、由乃はのぞみからピンキーキャッチュを奪い自分の腕に嵌めていた。
のぞみが由乃にプリキュアのことを説明していたのを、本郷は改造された聴覚で耳にしていたが
それによると、あれこそがプリキュアに変身するための鍵となる道具らしい。
のぞみ自身はその挙動から、一般的な女子中学生かそれ以下の身体能力しか持っていないのが伺えた。
しかしのぞみが変身したプリキュアは、仮面ライダーに比肩し得る能力を示した。
もし仮に、由乃がプリキュアに変身したら
あの闘争と殺戮の天才がプリキュアの力を得たら
そこに生まれるのは――――いったいどんな“怪物”だ?
◇
パルミエ王国に伝説として伝わる戦士、プリキュア。
その伝説の戦士となるためには、プリキュアに選ばれなくてはならない。
選ばれなくては、どれほど望んでもプリキュアになることはできない。
そして選ばれれば、絶大な力を持つプリキュアに変身することが出来る。
プリキュアに選ばれるためには、ある特定の心の力が必要だ。
あるいは『安らぎ』。あるいは『情熱』。あるいは――『希望』。
そしてこの殺し合いの地においても、プリキュアに選ばれし者が現れた。
誰よりも、強い『希望』を胸に秘めるがゆえに――――。
「あはははははっ! やったよユッキー!! プリキュアに変身できたよ!!」
由乃は両手を水平に上げてクルクルと回っている。
その様はさながら、童女が自分の衣装を両親に見せびらかしているようだった。
桃色と白を基調に全身にフリルをあしらわれた由乃の現在の衣装は
かつて夢原のぞみが変身したのと同一の物。
希望のプリキュア、キュアドリームの姿。
由乃はのぞみからプリキュアの話を聞いていた。
のぞみがどういうつもりだったのか、今となっては分からないが
変身方法やらどんな必殺技を持っているとか、色々説明されていたのである。
だからアナウンスを聞いた直後に、突然ピンキーキャッチュが光出した時もすぐに理解することができた。
自分は選ばれたのだと。
その場でピョンピョン飛び跳ねる。
軽く刎ねたつもりが、羽のように軽い身体が垂直方向へ1メートルは飛び上がった。
しかも片足で着地したのに、ほとんど負荷を感じない。
軽く目前のコンクリート壁を殴ってみる。
まるで発泡スチロールのような手ごたえ。呆気なく壁に穴が開く。
予想をはるかに上回るプリキュアの力に、由乃の笑いは止まらない。
「あはははははっ! 凄いよユッキー! これならユッキーの敵がどんなに強くても、皆やっつけちゃえるね!!!」
プリキュアの力に浮かれながら由乃は思う。
のぞみは馬鹿だ。
プリキュアがこれだけの力を持つのに、何で変身を解いたのかと。
本郷の変身のように怪物の姿になっている訳ではない。
プリキュアのままで居れば死ぬことも無かったかも知れないのだ。
(私はあんな馬鹿とは違う。何を利用しても、どんな手段を使ってでもユッキーを守って上げるから!!)
日記は見た。アナウンスは聞いた。プリキュアに変身できることも確認できた。
そろそろ休憩を切り上げて出発しよう。
問題はいかなる進路を通るかだ。
真っ直ぐ東南に向かう進路は、本郷に見付かる公算が高いから使えない。
幾らプリキュアに変身できたと言っても、本郷の力は脅威だ。
それにもう1体の怪物と組んでいる可能性もある。
可能な限り、本郷は避けるべきだろう。
やはりある程度、迂回する必要がある。
安全を考慮すればここから北に向かい、コロッセオを大きく迂回して南下するルートが考えられる。
しかしそれだと時間が掛かりすぎてしまう。
それと問題になるのがバイクの燃料だ。
バイクの給油タンクの蓋を開け、中を覗き込む。まだそれなりにガソリンは残っているようだ。
しかしさすがの由乃も、バイクに関しては素人なので
残った燃料でどれだけ走れるかの見当は付かない。
バイクの走行距離が分からない以上、あまり長距離となる進路を取る訳にはいかないだろう。
そうなると他に考えられるのは、ある程度南下してから東に向かう進路か。
これなら本郷を避けて、東南の都市へ行ける。
ただ1つ懸念材料は先刻のアナウンスだ。
アナウンスはH-4のテレビ局から放送されたと言っていた。そして危険人物の存在。
内容の真偽は問題ではない
問題はそれを聞いた本郷がテレビ局に進路を取りかねないこと。
そうなればテレビ局の位置的に、由乃の進行方向とも一致する。
しかしこちらはバイクで、向こうは徒歩か護送車しか移動手段がない。
移動速度は違っているのだから、それこそテレビ局に立ち寄らなければ鉢合わせになる公算は小さい。
(……あんまり本郷を意識しすぎてもしょうがないよね)
いずれにしても完全にリスクを回避するのは不可能。
ならば必要以上に煩っても仕方の無いこと。
そもそも真っ直ぐ東南に向かわなければ、本郷に掴まる公算は小さいのだ。
本郷は由乃が何処を目的地としているか知らないのだから
由乃の動向を予測することは不可能――――
(――――違う! 何かを見落としている!)
そこまで思考が進んだところで、由乃の中に強烈な違和感が生まれた。
自分が重大な考え違いをしている予感が。
由乃は違和感の元を自分の思考から探す。
(……あの時、アイツは何時から見ていたんだ?)
思い出されたのは、3人を殺した褒賞を得た後見つけた“ヨンヒキメ”。
あいつはあの時、逃げるように身を翻していた。
逃げようとしていたと言うことは、3人を殺す場面か
少なくとも3人殺しの褒賞を貰った場面は見ていたのだろう。
ならば、その情報が本郷に伝わっている公算が大きい。
(あの時はユッキーの位置を聞かなかったわ……。でも――――)
◇
歩み続けていた本郷だったが静かに瞑目する。
失われた命。全ての重みを受け止めるために。
そして力強く目を見開いた。
これ以上無為に省みないために。
命の重みを見失わないのは大事なことだ。
しかしそのために、まだこれから救える命を見失うほど愚かなことは無い。
まだ殺し合いは終わっていない。仮面ライダーの戦いはこれからである。
感傷に浸り、IQ600の頭脳という武器を錆付かせておくわけにはいかない。
現状を的確に分析し、これから何を為すべきかを考えなければならない。
戦いはそこから始まるのだ。
先刻のアナウンスを思い出す。
アナウンスは周囲に反響して音源が特定し難いようになっていたが
改造された本郷の聴覚はその音源が首輪だと捉えていた。
音質やノイズから、室内でマイクを使ってのアナウンスだと分かる。
そして賀来巌と名乗った男。
人は嘘を衝く時には、声のどこかに不自然な淀みや力みが混じる。
しかし本郷がどれほど耳を澄ましても、賀来の声からは虚偽の気配は感じ取れなかった。
主催者から任された定時アナウンスと言う性質を考慮しても
賀来の話した内容に偽りは無いと見ていい。少なくともその主観においては。
問題はテンマの方。
テンマがアナウンスをする直前、何かが壁に叩きつけられた音と賀来の呻き声が聞こえた。
おそらく賀来がテンマに壁まで投げつけられたのだ。
音から察するに賀来は、マイクから5メートルは離れた壁に叩き付けられている。
成人男性をそれだけ投げ飛ばした者が、直後に息も絶え絶えと言った様子で警告を発した。
賀来がテンマの接近に気付けなかったのは些か不自然。
そもそもテンマと言う“敵”が近くに居たのに、賀来からは警戒の様子すら読み取れなかった。
賀来を投げた方法に関しては、この実験内においては
未知の手段の可能性が多すぎるため、判断を保留する。
そして賀来がテンマと名を呼んだタイミングで、マイクの“スイッチを切った”。
バックパックから手帳を取り出し、名簿を見る。
記憶通り『テンマ』と『天馬賢三』と言う、2人のテンマが居る。
何より問題となるのは、テンマの声の奥に宿った底知れぬ悪意。
無辜の人々を落とし入れようと謀る悪と戦い続けてきた仮面ライダーなら、決して見逃さぬ悪意だ。
アナウンスの内容から推測するに、テンマが賀来を
そしてアナウンスを餌に集まる人たちを陥れようと仕組んだのだ。
テンマと言う名前も偽名だろう。
人々に害を為す悪がそこにあるのなら、仮面ライダーは討たねばなるまい。
できるかどうかなど問題ではない。
可能性など度外視し、ただ為すべきことを必ず為し遂げると己に誓う。
それは実験の主催者が相手であろうと、DIOが相手であろうと
由乃が相手であろうと変わらない、仮面ライダーのあり方なのだ。
(……由乃はこれからどう動くか、だ)
考察の対象を由乃に切り替える。
由乃が目的としているのは天野雪輝との合流だろう。
それは3人殺しの褒賞を受ける際、雪輝の位置情報を求めたことから明らかだ。
しかし由乃はその要求を撤回した。
そこから雪輝の位置の見当が、大づかみな形で付いていると推測できる。
ならば地図に記載されている建造物では無いだろう。
それだけ精確に把握しているのなら、位置を聞こうとはしなかったはずだ。
おそらく、もっと粗雑な把握の仕方なのだ。
例えば地形であるとかの。
何によって、そんな把握をしていたのか?
それは由乃が言っていた『雪輝日記のレプリカ』だろう。
雪輝日記と言う名称と由乃の話から、それは雪輝の状況が日記の形で記されるものだと推測できる。
そしてレプリカでは、より粗雑な情報しか得られなかったのだ。
(……その雪輝日記を根拠に、由乃は当初、何処に行こうとしていた?)
本郷は最初に由乃の存在を察知した時のことを思い出す。
善吉、グリマー、のぞみの3人と共に居た時。
まず南下する由乃の足音を捉え
そこから由乃はこちらの隙を窺う動きを見せ始めた。
つまり由乃は当初F-6で、南下しながら目的地に向かっていたことになる。
地図を広げる。
F-6以南で大まかな目当てとなる物があるはずだ。
海、は大きすぎる。
森、は拡散しすぎている。
――――市街地。それも大規模な。
それなら雪輝の周囲の状況描写から、大雑把な推測を立てたのが納得できる。
F-6以南で大規模な市街地となると――――
(由乃が雪輝の居場所と当たりを付けたのは……東南の都市か!)
◇
無人の町に騒音を響かせ、由乃はバイクを全力疾走させている。
表情には明確に焦燥が浮かんでいる。
そして自責の色も。
由乃は褒賞を得る際に
雪輝日記の存在
現在自分が所有しているのはそのレプリカであること
雪輝の捜索をしていること
しかし位置情報の優先順位は高くないこと
これだけの情報を流出してしまっていた事実に思い当たった。
無論、これだけの情報では由乃が想定している雪輝の居場所など
未来日記所有者でもなければ、分かるはずが無い。
普通の相手ならば。
しかし相手は、あの本郷猛なのだ。
(アイツはそんな甘いヤツじゃない!! きっとユッキーの居場所に勘付く!!!)
由乃は自分の仕出かした不手際に歯噛みする。
よりによって本郷に、雪輝の居場所を教えてしまっていたのだ。
あまりに手痛い失態。
これを致命傷とせぬために、由乃はバイクのアクセルを吹かす。
選んだ進路は一旦南下して、テレビ局を迂回した後東に向かう物。
それより近道を行けば本郷の異常な五感に捕まる危険が大きいし
それより遠回りをすれば時間が掛かりすぎるとの判断からだ。
もっとも、それすらどこまで安全かは分からないが、もはや熟慮しているような余裕は無い。
何としても本郷より先に雪輝の所へ行かなければ、どんな事態になるか分からないのだ。
(やっぱりアイツは、絶対に殺さないと駄目よ)
由乃が感じた直感はおそらく正しかったのだろう。
やはり本郷は由乃にとって、最大の脅威となる存在だ。
無論、最優先にすべきは雪輝の安全確保。
しかしそれさえ済めば本郷は必ず、確実にどこかで殺さなければならない。
由乃は静かに本郷への殺意を燃やす。
「……!!?」
突然バイクが急停止した。
そして慣性の法則に従って、乗っていた由乃の身体が前に投げ出された。
141 :
代理:2011/01/10(月) 20:52:26 ID:5yCJIwG9
時速100キロを超える世界での、あまりに突然の出来事に
さすがの由乃も頭から叩きつけられる。
(何だ!? 何が起きた!!?)
プリキュアに変身していたため、負傷も衝撃も受けなかった由乃だが
全く事態が掴めず当惑する。
原因は由乃が乗っていたバイク、バギブソンに課せられた
時速100キロを超えると30秒で急停止し、30分間起動不能となる制限なのだが
由乃はそれを知らない。
(何なんだ一体いぃぃ!!!)
訳の分からない由乃は、右拳で道路のアスファルトに苛立ちをぶつける。
アスファルトは砂糖菓子のごとく、粉々に砕け散った。
歩いている内に本郷の体力は完全に回復していた。
腹の傷も完全にふさがっている。
改造された本郷の肉体は生物の常識を超えた回復力を得ていた。
これならば足を早めても問題は無いだろう。
ちょうど目標も定まったところだ。
しかも、偶然だがこれまでの進行方向と同じくそれは南にあった。
本郷の取る進路はまずテレビ局へ行き、そこでテンマの偽者を倒す。
賀来を助けるのに間に合う蓋然性は薄いが、何もしないまま諦めるつもりなど毛頭ない。
その後東の都市へ向かう。
そして天野雪輝を捜して、どんな人物か確かめる必要が有る。
この進路なら、おそらく由乃の取る進路とも大筋で合致するだろうから
どこかで由乃を掴まえられるかもしれない。
いや、絶対に逃がさないと己に誓う。
由乃は確かに狡猾な相手だ。
あるいはプリキュアと言う、強大な力を得たかも知れない。
それでも本郷は仮面ライダー
しかも最も古い、伝説の一号なのだ。
仮面ライダーは必ず悪に打ち勝つということを、由乃に思い知らせて見せるまでだ。
(俺がこれまで……どれだけ悪の陰謀を打ち砕いてきたと思う。……お前にも思い知らせてやる、我妻由乃)
142 :
代理:2011/01/10(月) 20:54:09 ID:5yCJIwG9
【G-6/市街地:朝】
【本郷猛@仮面ライダーSPRITS】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM92@MONSTER
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(本人確認済)、善吉の首輪
[思考・状況]
基本行動方針:仮面ライダーとして力なき人々を守る
1:H-4のテレビ局に行きテンマ(の偽者)を倒し、賀来を救出する
2:東南の都市へ行き天野雪輝を捜す
3:全ての善を守り、全ての悪を倒す
4:首輪を解析する
[備考]
※参戦時期は次の書き手さんにお任せします
【F-4/市街地:朝】
【我妻由乃@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、キュアドリームに変身中、強い苛立ち
[装備]:雪輝日記(レプリカ) 剃刀 バギブソン@仮面ライダークウガ コルトパイソン(残弾3/6) ピンキーキャッチュ@Yes!プリキュア5シリーズ
[道具]:基本支給品×4、支給品(確認済み)×2〜8 アストロライト液体爆薬入りの小瓶@現実×6 マッチ箱@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:ユッキー(天野雪輝)と共に生き残る。
1:ユッキーを探す。南下してテレビ局を迂回した後、東南の都市へ向かう。残りは愛でカバー!
2:Isiであるユッキーを保護し、ゲーム終了まで安全な場所で守る(雪輝の意思は問わない)
3:邪魔をする人間、ユッキーの敵になりそうな奴は排除する。殺人に忌避はない。特に本郷猛は必ず排除する。
4:最終的にユッキーが生き残るなら自己の命は度外視してもいい。
[備考]
※雪輝日記(レプリカ)
ユッキーこと天野雪輝の未来の行動、状況が逐一書き込まれる携帯電話。
劣化コピーなのでごく近い未来しか記されず、精度はやや粗い。更新頻度が落ちている。
※プリキュアに変身できるかどうかは、後の書き手にお任せします。
【支給品紹介:アストロライト液体爆薬@現実】
常温で液体である爆薬の一種。
爆薬としての威力はそれほど高くないが、安定性が高く不揮発性であるため、爆発力を維持しやすい。
何かにしみこませた状態での爆破も可能であり、上手く使えば建物を倒壊させることも可能だろう。
代理投下終わりです。感想はのちほど
143 :
創る名無しに見る名無し:2011/01/22(土) 11:06:34 ID:gHI8Y17y
保守
向こうには投下されてこっちには投下されてない…
代理投下します
欣喜雀躍
意味……雀が飛び跳ねるように非常に喜ぶこと。
◇ ◇ ◇
『魔法少女が殺し合いに巻き込まれた場合、どうなるのか。その一例』
高町なのはは、超一級の魔道士である。
杖から放たれる魔法は時に真っ直ぐに的を貫き、時に逃げる敵を的確に追尾する彼女の矛である。
圧倒的魔力から発せられる障壁は何人たりとも寄せ付けず、身に纏う白き衣装は魔力で構築された彼女の盾だ。
自由自在に編まれる魔術の縄は相手の動きを封じ、風を切り空を飛び、彼女自身が獲物を決して逃さぬ鷲の如き機動を成す。
一般人から見て余りある強さを持つ彼女はその実、同じ魔道士から見てもエース(憧れ)なのである。
今までに扱った事件は少ないものの、ジュエルシードや闇の書と言った管理局でも手に余る代物を相手取った戦績は素晴らしいの一言に尽きる。
さて、ここまで読んで常識的に考えて欲しい。
この『高町なのは』が『偶然魔法を手にした若干10歳の少女』であると、誰が信じられるだろうか。
常人が十何年も、もしかすると何十年も経験を積み、努力を重ね、漸く至る境地に、僅か一年足らずで辿り着いたと、誰が信じるだろうか。
専門的な訓練も碌に受けずAAAクラスの魔道士と互角に戦い、勝利さえ収めてしまう。
彼女の世界において魔法は資質の要素が大きいとはいえ、これは異常だ。異常に過ぎる。
その活躍を目の当たりにした人は、幼き彼女を羨望の対象として『天才』と呼ぶだろう。
為す術無く追い詰められた敵は、小さな彼女を恐怖の対象として『悪魔』と呼ぶかもしれない。
いずれにせよ、高町なのはは魔法絡みの事態に出張る時、『10歳の弱き少女』ではいられない。
『頼れる強者』として仲間を守り、問題を排除し、事態を解決するべき人間となるのだ。
ならなければ、いけないのだ。
さて、ここで焦点を当てていきたいのは彼女の魔法杖、デバイスに搭載されている『非殺傷設定』である。
魔術で相手の力だけを奪い文字の如く『殺傷』を引き起こさない、何とも便利で夢のあるシステム。
10歳の元一般人の少女が数々の強敵と戦えてきたのは、この装置によるものが大きいと考えられる。
いくら力があっても、どれだけ多くの魔法が使えても、それを使う『意志』がなければ意味がない。
そして意志は、戦いという名の奪い合いにおいては『覚悟』に上書きされる。
相手から何かを奪う覚悟、何かを奪われる覚悟。
人類有史以来、その思いなしで戦いに臨む者はただの愚か者か狂人と相場が決まっている。
高町なのはにも覚悟がある。並みの大人よりもよほど物事を考えている少女が、おちゃらけて戦いを行う筈はない。
しかし、その覚悟は『何かを奪われる覚悟』だけである。
もっと言えば、『己が傷つく事に対する覚悟』のみである。
『何かを奪う覚悟』に関しては、彼女は路地裏で喧嘩を行う不良少年よりも疎い可能性すら有る。
原因は言うまでもない、件の『非殺傷設定』である。
彼女はどれだけ危険な状態に有ろうと、決して非殺傷設定を解除しない。
意地を張るように、必ず非殺傷設定で強敵に立ち向かう。
その甲斐あって、なのはがいくら強い攻撃を行おうと相手の手足は吹っ飛ばない。目や耳を失う危険性もない。
命を奪うことなど、あり得ない。
これが、十歳の少女が戦いに全力をぶつけられるタネである。
なのはは大事なものを失う悲しみを理解できる。大切なものが壊れてしまう苦しみも想像できる。
だから、強い。悲しみを知る人間は強くなれる。優しくなれる。
しかし彼女は、相手のとり返しのつかないものを奪ってしまうことを肯定し、戦っているわけではない。
頑なに襲ってきた相手の戦闘力だけを奪い、拘束しようとする。道徳の見本となるような人間だ。
殺し合いという名の生き地獄に身を投じるには、彼女はあまりにも優しすぎた。
『命を奪う覚悟』を持つには、齢十歳ほどの彼女は、あまりにも幼すぎた。
そして彼女は、大切な誰かを奪われることを、命の脆さを、あまりにも知らなかった。
瞬き後に隣の誰かが吹き飛んでいるような、地獄の戦場を体験した傭兵ではなく。
捨て駒のように扱われ消費として明記される、軍隊の部品となる兵士でもなく。
達観しきった少女はそれでも、平和な国の学校に通う、どこにでもいる少女のままで。
戦いを知る若きエースであっても、殺し合いを知るアウトローでは、なかった。
だから。
「…………あ?」
誰かが死んだとき。
「あ……あ、あ、あ、あ、ああああぁぁ?」
……もしくは。
自分が、殺してしまったとき。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
高町なのはの中で、決定的な何かが、ぷつんと切れた。
◇ ◇ ◇
『人間は、自分以外が何を考えているのか分かるのだろうか。その一例』
昇り始めた真っ赤な太陽が、地上を光で隅々まで包み込む。
彼女の不在時に我が物顔で世界を乗っ取っていた暗き闇は、今や建物の影でこっそりと身を潜めていた。
身を切るような風がひゅうと、一際強く吹き付ける。
それに釣られて、歩道と車道の間に置かれていた花壇の中で、動きがあった。
咲き誇る濃紫のヒヤシンスの群れだ。彼女たちは小さな肢体を精一杯振り、踊る、踊る。
右に左に、揺れる、揺れる。時に立ち止まり、次の瞬間にはスキップを刻む。
全ては、風の気まぐれ通りに。花たちに抵抗することなど、出来ようもない。
そして、あまりに強く吹き付けられたため、一茎の乙女がへなりと、折れた。
折れたまま、彼女は二度と踊れはしなかった。風は残念そうに溜息をつく。
我関せずという風に、他のヒヤシンスは黙々と踊り続ける。
脱落した軟弱者には興味がないとでも言うように、踊り続けていた。
清々しい朝だった。
「彼女たちは、どうですか」
「ぐっすり眠っていますよ。よほど堪えたんでしょう」
日本国民なら大多数が知っているであろう、とあるファーストフード店に、二つの声が響く。
いかにも模範学生、と見える高校生ほどの少年一人。
落ち着きを持った、どこにでもいそうな優男一人。
夜神月(ライト)、高遠遙一。二人のSetは、テーブルを挟み対面に座っている。
そうして少しの沈黙の後、高遠の方が問いかけを切り出した。
「12人。月君、あなたはどう思いますか?」
「どう、とは」
薄い笑みを貼り付けて質問を投げつける高遠に、月はそっけなくその質問を返す。
「分かっているはずです。これは予想以上に……多い数だと」
「そう、ですか」
高遠は「良いですか」と前置きをしながら話を続ける。
月は、それを何処か遠くを見るように聞いていた。
「そもそものルール……三つのグループによる殺し合い。
私はこれを聞いた当初、事態はもっと膠着するものだと思っていました」
「何故です?人間なんてものは、一般的に考えられているよりも、遙かに弱い。
殺さなければ生き残れないと分かれば、あのワカメのような愚か者も現れるでしょう」
「ええ、そうです。しかし、それは『殺すべき者』がはっきりしている場合です」
まるでその言葉を待っていたかのように――実際、そう来るように予期していたのだろうが――高遠は淀みなく会話を続けていく。
身の入っていない月を置き去りにしながら。
「この実験が最後の一人になるまで殺し合え、という内容であれば12人という参加者の五分の一を占める死亡者の数にも納得できます。
しかし、これはチーム戦です。それも、誰がどのチームかは知らされていない。
むやみやたらに他人を襲っていけば、自分の首を絞めることになりかねません」
「だから、まずは様子見にまわる人間が多い、と?」
「ええ。ワカメ……間桐慎二のような人間ばかりだと、そもそもチーム戦にして『実験』する意味がありませんから」
参加者が間桐慎二のような人間ばかりだとすると、そもそもチームなんてものは必要ないだろう。
最後の一人まで殺し合え。それだけで良かったはずだ。
だが、実際は月や高遠のような頭の回る人間。
それに、イカ娘や高町なのはのような、人を傷つけることを良しとしない人間も参加している。
高遠や月はお互いに話していないが……知り合いであるLや金田一、それ以外の人間も、簡単に殺し合いに乗るとは考えづらい。
あくまでもこれは頭脳戦……理知的に殺し、論理的に生き残るゲームだと、高遠は考えていた。
「しかし、実際は12人。5分の1ほどの参加者がわずか6時間で死亡した。
単純に逆算すればですが、12人は『短絡的に殺しに走る人間』がいるということになります」
残り人数は48人。その中の4分の1は人殺し。
頭脳戦と言うからには、今は潜み機会を窺っている者もいると考えられる。
「幸運なのは、大体その人殺しの正体が……というには曖昧模糊ですが、分かっているということです」
「Setグループの人間、ですね」
「その通り。それは殺された人間の割合からも推測できます」
退場者のグループ分けはHor2名、Set1名、Isi9名。
圧倒的にIsiが多い。それに比べ、HorとSetは明らかに少ない。
「ただ生き残ればよいIsiが大勢死に、ただ殺せばよいSetの死者はわずか一名。
そしてSetは自分たちのグループ以外の人間を全員殺さなければ生き残れない。
私達の考え通り、Setに危険な人物が多く存在する、と考えるのが、一番筋が通ります」
「逆にIsiには、そのSetの攻撃から身を守ることが出来ない人間……弱者が多いと言うことにも、なる?」
「さすがは月君です。話が早くて助かります」
稼働していたドリンクバーの機械から二杯の透明なグラスに、紅茶が注がれる。
それを両手に持ち、席にゆっくり戻りながら、高遠は口を休めることはない。
「Horも時間内にIsiと共に生き残れば良いわけですが、彼らは二人が減っただけです。
これは、HorはIsiよりも強い人間が多いと言うことでしょう。
これならば、死んだ一人のSetは、Horの人間を襲い返り討ちに遭ってしまった、という推論も出来ます」
「主催者が僕たちのスタート地点を任意に操作した、ということも大凡はっきりしましたね
恐らく、速攻で殺しに走るようなSetの危険人物達が『共食い』しないように、ある程度配慮して配置しているはずです。
ついでに、殺しやすいIsiの近くにSetを配置して、ということにもなるかもしれません。
これなら、こんな広大なフィールドにおいてのIsiの大量死亡にもある程度納得がいきます」
「ならば私達の出会いも必然に近いものだった、という発想にも結びつきますよね。
全てが主催者の掌の上、という暗い考えも頭に浮かんでしまいますよ。フフフ」
冗談めかして笑う高遠が差し出したカップを、月は受け取りながらも口をつけようとはしない。
代わりに、ペンを持ちメモ帳に新たな一文。
・主催者は任意に参加者を瞬間移動させることが出来る。精度は不明だが、ある程度確かなものらしい。
受け取ったコップをテーブルにカタリと置きながら、対面に座る高遠に視線を向ける。
「だけど、それなら何故主催はわざわざ殺すためにIsiを参加者にしたのか、と言う点が気になります。
Horの勝利条件にはIsiの生存も含まれている……つまりHorの人間の危機感を煽るため……?それとも……」
考え込むような表情の月の顔が、何かに気付いたように一点に注がれる。
そこには、相も変わらず目を細め微笑んでいる、高遠の姿があった。
月は彼を見つめ、小さく目礼。感謝の言葉を紡ぎ出す。
「ありがとうございます、高遠さん」
「いえいえ、礼には及びません。どうぞお好きなときにお飲みください」
「……いえ、飲み物の件ではなく」
月は完璧な微笑を、完璧すぎる微笑を、高遠に見せた。
「貴方の気遣いに、ですよ」
「何のことでしょう」
白を切る高遠に、月は少し照れくさそうに高遠の「気遣い」を示す。
学校の先生に答えを発表する生徒のように。
「貴方は気付いていたはずです。呼ばれた死亡者の中に……僕の身内がいたことを」
暗いトーンが、混ざる。
「夜神粧裕。僕の……妹です」
月は目を伏せ、愛すべき妹のことを想った。
活発で、裏表のない性格。その明るさは多くの人を笑顔にしただろう。
その一方で勉強が苦手で、良く月に教わっていた。手がかかったがそれ故に可愛かった。
そんな彼女が、死んだ。たった六時間で、彼女の魂はこの世から消滅してしまった。
「予想は、していました。あいつがこの場で生き残れる可能性は、非常に少ない。
戦う力もないし頭も回らない。間桐慎二のような超人的力を持っていなくとも、容易にねじふせられる。
正にIsiに相応しい、生け贄でしょう」
それでも、と。
月は声を絞り出す。顔に浮かぶのは、彼がこの場で始めてみせる表情――悲しみ。
涙を流さずとも、身を削るような感情の奔流が月を支配していると見て取ることは高遠には容易だった。
「生きていて、欲しかった……!」
「月君」
そこで重く一息ついた月は、高遠の言葉を待たず、更に己の推理を口にする。
そうすることで、安寧が得られるとでも言うように。
己の苦しみを、紛らわせようとするように。
「でも、僕は何事もなかったようにイカ娘やなのはちゃんのメンタルケアに、貴方と一緒に当たった。
戦闘力のある彼女たちが機能しなければ、僕たちがこれから生き残れるかは分かりませんでしたから。
…………いえ、そんな論理的な理由ではなかった。
僕は彼女たちにも貴方にも、見せたくなかったのかもしれません。
大声で泣き怨嗟の声をあげる、僕の愚かで、醜い姿を」
彼女たちを助けることでちっぽけなプライド、自尊心を保とうとする。
自分よりも弱い者の救済に専念することで、傷だらけの自分を一時でも忘れる。
本当にメンタルケアをされていたのは、僕の方かもしれない。
滑稽でしょう、と月は自嘲気味に笑う。
「しかし、彼女たちが寝付いた今、僕が縋れるものはなくなってしまった。
僕は妹を失った悲しみと、加害者や主催者への怒りとに苛まれ、それを外に出さないように心を砕いていた。
貴方へのリアクションもさぞかし間抜けなものだったでしょう?」
「……それで?」
「そのことを気にかけた貴方は、わざわざ海の家で行った共通認識の確認を、再度行った。
放送という新しいファクターから得られた情報、それを利用した推論の補強も。
だめ押しに、Isiの存在意義に疑問が向くように会話を誘導した。
全ては……僕の心を妹の死からそらすため。違いますか?」
心の傷は、目に見えない。
一晩で消えてしまうものもあれば、死ぬまで残るものだってある。
はっきりと完治させる治療法など存在しないし、個々人によって症状も千差万別。
だけど、そんな難しい傷も、痛みを緩和する方法ならばだいたいの人は知っている。
すなわち、意識を別の所に向けること。簡単に言えば、気晴らしだ。
「貴方はイカ娘となのはちゃんのメンタルケアを終えた後、次は僕の番だと考えた。
だけど、僕は彼女たちのように慰められても効果が薄いと感じ、僕の得意な『考察』をメンタルケアの代用法とした。
こんなところでしょう。お恥ずかしながら、ほとんど全てがただの想像ですけどね」
月は、挑戦するように、解答を突きつける。
そう言われた高遠は、笑みを濃くしながら。
「ご想像に、お任せします」
と、柔らかく答えたのだった。
その後、月と高遠は今後の方針について話し合った。
「彼女たちは私達の生命線。無理だけはさせたくないものです」
「そうですね。もう少しだけでも、休ませてあげるべきでしょう」
なのはとイカ娘は、感情の整理のために二時間ほど寝かせておくべきだということ。
その間は動けないため、出来る限りは体力の回復に努めるべきだということ。
そして、一番の問題。
放送が行われたここから程近いテレビ局に対し、どうアプローチを取るべきか。
行ってみるか。それとも行かないのか。
そこで出会うだろう人物に対し、いかなる反応を取るべきか。または取らないべきか。
二時間という、少なくない間を空けて行く際のメリット、デメリットetc……。
「考えるべき懸案は山のようにあります。月君、貴方の知恵も、是非ともお借りしたいところですね」
「僕のような若輩者でよければ、いくらでも」
二人はニコニコと笑みを被せ、言を重ね、議論を続けていく。
端から見れば、優等生が放課後に先生と話し合っているようにも見えたかもしれない。
しかし、彼らの本性とお互いの目的を知れば、知るほど。
彼らの談笑は、不格好なものに感じる、かもしれない。
夜神月はそのような意図を持って、己の妹のことを明かしたのか。
高遠遙一はどのように考えて、月との対話を望んだのか。
全ては全て、現段階では真っ暗な闇の中。
私達は誰かの心情を推し量ることは出来ても……理解することなど、出来ないのだから。
だけど、これだけは言っておこう。
彼らが、互いの害意に気付いている彼らが、額面通りのやりとりを行っていたはずがないと。
キラと地獄の傀儡師の化かし合い。騙し合い。
それはずっとずっと続くのかもしれないし……次の瞬間には、決着しているかもしれない。
ここまでの会話全て、彼らの計画(シナリオ)どおり。
ここから先、どちらの思惑が上回るかは……神のみぞ知る。
さて。ご静聴ご静聴。
敵意を隠し本音を呑み込み、見えない凶器で互いの背中を刺し合いっこするアソビ。
十手先を読み百手先を予測し、意味と無意味をドロドロに混ぜ合う、悪人同士の静かな頭脳戦。
はじまり、はじまり。
◇ ◇ ◇
『人間に近しい知性を持ったイカは夢を見るのか。その一例』
相沢栄子が、死んだらしい。
『月、今の声はなんだったのでゲソ?』
イカ娘が全く与り知らぬところで。
イカ娘が呑気にエビカレーを食べている最中に。
イカ娘が心強い仲間に囲まれている時に。
イカ娘がワカメと戦っている間に。
イカ娘は生きている、のに。
あの相沢栄子が、死んでしまったらしい。
『月……そういう冗談は笑えないでゲソよ?』
死。人間界に疎いイカ娘でも、その概念は理解している。
いや、のほほんと生活している大多数の人間達に比べて、彼女は海の中で弱肉強食という世界を生き抜いてきたのだ。
死、などは常にありふれたものであり、サメなどの外敵に襲われ死を覚悟したことも一度や二度では済まないだろう。
だが、しかし。
『おかしいでゲソ!そんな、のは……おか、しい……ゲソ』
相沢栄子は、そんな悲しいモノとは遠いところに存在するはずだった。
海中でサメに襲われることもなく、地上で平和を享受して生きるただの人間であるはずだった。
海の家で給仕をして、掃除をして、会計をして。
一緒にテレビを見て、ご飯を食べて、同じ部屋で眠って。
馬鹿にされて、馬鹿にして、共に笑って、共に生きて。
そんな相沢栄子が、もう……いない?
こちらを見て無邪気に笑う彼女の顔が。
こちらを見てげんなりする彼女の顔が。
こちらを見て驚きを露わにする彼女の顔が。
こちらを見て「おはよう」と言う彼女の顔が。
こちらを見て「おやすみ」と言う彼女の顔が。
頭の中で、全て真っ赤に染まった。
全身が黒く包まれ、散り散りと霧散。
残ったのは、空白。
痛い。何処かが痛かった。
ズキズキと痛いのは頭?
チクチクと刺されているのは顔?
ポッカリと穴が開いているのは身体?
ギシギシと軋みを挙げるのは手足?
それとも……それともそれら全部の苦痛は、胸の内に隠されている小さな心(ハート)からやって来ているの?
痛い。苦しい。どこもかしこも張り裂けそうだ。
目尻から溢れ出す大量の液体と、鼻から漏れる粘着質のイカスミが、止まらない。
身体中が熱くて寒い。たけるから教えて貰った癇癪玉と、海の家にあるかき氷が同時に襲いかかってきたようだ。
前後不覚。左右不安定。内と外の区別も付かない。
ぐるりぐるりと、世界が回る。
イカ娘は堪らず悲鳴を上げる。
「助けてでゲソ!」
どうしたことだろう。
さっきまで一緒にいた夜神月も、高遠遙一も、高町なのはも、ここにはいない。
誰かいないか。誰かいないか。見渡せど見渡せど、誰もいない。何もない。
ただ、何もないという空間だけがあるだけだった。
色を説明すれば透明と言うほか無く、カタチを説明すれば永遠、と言う言葉しか浮かばない。
そんな場所に、一人ぼっち。
怖い。
当然のように湧き出てくる感情。恐怖。
気付いた時には、イカ娘の足は動き出していた。
夢中になって得体の知れない霧中を駆け回る。
誰かいないか、と声を張り上げ。
返事をしてくれと、懇願し。
辿り着いた、何もないところに。
ソイツはいた。
仮面。特徴はそれだけで事足りる。
テレビでしか見たことのない、踊るようなステップを刻み。
テレビでも見たくはない、怪奇極まりない容貌を見せつけ。
その怪人――先程会ったVとやらは現れた。
かつり、かつりと不気味に足音を鳴らしながら、彼(?)はこちらに向かってくる。
(逃げなきゃ)
全身が、コイツが危険だと叫んでいる。
第六感。獣の勘とでもいうような非科学的産物が、コイツの全てを否定している。
サメに睨まれたときの百倍は怖気が走る。
千鶴の怖い笑顔に匹敵するほど、心臓が縮み上がる。
(逃げなきゃ)
冷や汗が止まらない。
足が震え、立っているのもままならない。
このままだと崩れ落ちそうなので、そうなる前に……足を動かした。
逆走だ。来た道を息を切らし更には切れ切れさせ、外敵から逃げ惑う。
はあ、はあ、と必死になって足を動かし、世界の果てまで逃走する。
今の彼女は、地上を侵略するために現れた海からの使者などという大仰なものではなかった。
ただの、臆病風に吹かれた子供だった。
「助けてでゲソ!」
二度目の叫び。
今度は、中の痛みではなく、外からの攻撃のため。
首をギリギリ言わせて振り返ると、Vはつかず離れずの距離を滑るように追走している。
早苗に追われる時とは比べものにならない恐れが、心を支配した。
追いつかれたら、どうなってしまうんだろう。
手に持ったナイフで切り刻まれるのだろうか。
その後は大きな大きな鍋に放り込まれ、焼かれるのだろうか。
更にその後は、仮面を外し狂気の顔を見せる男の口の中で……クチャクチャと、咀嚼されてしまうのだろうか。
悪夢の発想は連鎖し、連結し、無限大に大きくなっていく。
捕まってたまるか。こんなところで死んでたまるか。絶対に逃げ切ってみせる。
そんな決意を嘲笑するかのように、膝がガクガクと笑う。呼吸がままならない。
終わりの見えないデッドレースはイカ娘の体力を容赦なく奪い、精神を徐々に摩耗させていく。
もう、駄目だ。絶望が身体と心の隅々までを巣くって行く。それでも、走りは止まらず。
最早歩みとなっていることにも気付かぬまま、鉛のように重い手足を必死に動かして。
そうして。
ぜいぜいと荒い息を吐きながら何百回目の小さな一歩を踏み出そうとして、彼女は転けた。
「あっ」
ずてーん、という擬音がお似合いな、見事なこけっぷりだった。
顔を地面にびたーんと張り付けて、そのまま動かない。
いや、動けない。とうの昔に限界は超えている。
大きく息を吸い、吐き、呼吸を整え、恐る恐る顔を上げると。
すぐ目の前に、仮面が有った。
色々なものが、瞬時に麻痺した。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い!
壊れた機械のように何度も何度も堂々巡りを繰り返す思考の渦の中で、イカ娘は再三叫ぶ。
「助けてでゲソ!」
喉がかすれて、一回目に比べると全然小さな声しか出ない。
絶望に犯されて、二回目と比べると全然希望を抱けやしない。
そして、やっぱりいつも通り、叫びは無の空間に消えていった。
何事もなかったかのように仮面の男、Vはナイフを振り上げて。
イカ娘は抵抗する力も意志もなく、ぎゅっと目を瞑る。
(せめてもう一度、エビをお腹いっぱい食べたかったでゲソ……)
昔の偉い人はこう言った。
二度あることは三度ある、と。
だけど。
「うちのイカ娘に――――――」
昔の偉い人は、こうも言った。
「何しとんじゃボケナス―――――!!!」
三度目の正直、と。
「えっ……」
目を開くと、そこにいたのは。
小さな相沢たけるでもなく。
大きな相沢千鶴でもなく。
海を守る同士、嵐山悟郎でもなく。
勿論、長月早苗でも、シンディーでも、斉藤渚でもなく。
3バカトリオ……はあり得ないとして。
「え、え、えええええ」
「よっ、大丈夫か、イカ娘」
「栄子――!」
相沢栄子が、そこにいた。
仮面の男を蹴り飛ばしたそのままの姿勢で、不敵に笑い。
彼女はヒーローのように自信満々に、こちらに歩み寄る。
「まったく……お前の触手があればあんなのくらいちょちょいのちょいだろうが」
「そ、そんなことより、本当に栄子なのでゲソか!?」
「お前の目は節穴か?どうみたって私は私だろ?」
「ほ、本当に、本当に本当に本当に、栄子なのでゲソか?」
「しつこい!」
突っ込みが心地よい。怒った顔を見ると、どこからか元気が沸いてくる。
その元気を推進力に変え……イカ娘は相沢栄子に突撃した。タックルだ。
ぽすりと、些か控えめな胸の中に飛び込む。そのまま身体を腕でロック。
驚いて固くなった栄子の身体を、これでもかというようにきつく抱きしめる。
「わ、わ、わ、わ、どうしたよいきなり」
「だって、栄子は、栄子は、栄子は……死んだって……!」
かすれた涙声で、認めたくなかった事実をはじめて口にした。
怖かった。次の瞬間に栄子が消え失せてしまうのではないかと。
怖かった。今ここにいる栄子が、お化けの類であると知らされるかもしれなくて。
怖かった。全ては自分の妄想であり、栄子はイカ娘の生み出した幻想なのではないかと。
でも。
「はあ?何言ってんだ気色悪い。栄子様の華麗なキックを見てなかったのかよ。
それとも足がある欧米タイプの幽霊かあたしは。こちとら混じりっけ無しの日本人だっての」
「本当に本物のなま栄子でゲソー!」
先程までとは違う種類の涙が溢れてくる。止まらない。
黒いイカスミの鼻水が栄子の服に付着するが、無視する。
栄子に言われるまでもない。彼女の身体は温かくて、柔らかくて、それがどうしようもなく気分を高揚させて。
あまりに興奮しすぎて、イカ娘の十本の触手が彼女の身体を巻き取ってしまった。
栄子の身体のどこかしこも、ぎゅっと締め上げる。もう離さないと、力を込めた。
ギャアという男前な悲鳴も、今は生を示す貴重な証拠に他ならない。
「く、苦しいって!」
「約束して欲しいでゲソ!」
「な、何をだよ……」
「もう、もうどこにも行かないって!」
「はあ?」
「ずっと一緒にいるって、約束して欲しいでゲソ!」
「意味が良く分からんが……」
あたしはどこにも行かないよ。
約束する。
その言葉が、エビをたらふく食べた時よりも、嬉しくて。
イカ娘は満面の笑みでもう一度、相沢栄子を強く二本の腕で抱きしめた。
薄い胸から、心臓の音が伝わってくる。ドクンドクン、ドクンドクン。
生きているって、素晴らしい。
「ほら、いい加減離れろ。さっさと帰るぞ」
「何処にでゲソ?」
「『海の家 れもん』に決まってんだろうが。みんな待ってる」
「…………たけるも?」
「当たり前だろうが。ほら、とっとと歩く歩く」
何か大事なことを、とてもとても大事なことを忘れているような気がしたが。
イカ娘は、頭のもやもやを振り切りながら、相沢栄子の隣に並んだ。
そんなことよりも、彼女の顔を見ながらスキップをすることの方がよっぽど楽しかったからだ。
「何時まで笑ってるんだよ、頭でも打ったのか?」
「私は今、笑っているのでゲソか?」
「ああ、何が面白いのかは知らんが、笑ってるよ」
「それは良いことでゲソ!ほら、栄子も一緒に笑わなイカ!」
「理由もないのに笑えるか!」
そう言いながらも。
相沢栄子も、気付いているのかいないのか、笑っていて。
イカ娘はそれを見て、更に笑う。
ほら、海が見えてきた。
空は青く、波は白く、砂浜はギラギラに輝いていて。
毎度おなじみの、大きいとは言えない、でもとっても素敵な海の家、れもんが彼女たちを出迎えてくれた。
水着の人間共の群れを足早に駆け抜けて、彼女達は家族、友人の許へと向かう。
「おかえりなさい、イカ娘ちゃん」
「イカ姉ちゃん、おかえり!」
「おお、イカ。どこ行ってたんだ?」
「イカちゃーん!今日私の家に来ない?イカちゃんがやりたがってた新作のゲームを偶然手に入れたの!」
「そんなところよりも、早く私の研究所に行きましょう。貴方のような宇宙人を連れて帰ることこそが私の……」
突っ込んでくる早苗を触手で張り飛ばし。
拉致しようとするシンディの顔にイカスミをぶっかけて。
悟郎に絡み、渚を驚かして、栄子に怒られて。
千鶴の作った料理を運びながら、たけるに声をかけ。
侵略へとは到底結びつかない。
だけども、輝かしい日々が。
イカ娘はとっても、とっても楽しかった。
「栄子」
「どうした、腹が空いてもエビはやれんぞ」
「ずっと、ずーーーーっと一緒でゲソからね!」
「はいはい分かった分かった……仕事中なんだから離れろ!早苗に見られたら何いわれ」
「あー!栄子がまたイカちゃんとベタベタしてる!イカちゃん、私というものがありながら……」
「私はお前のものではないでゲソ!」
「分かったから早く仕事に戻れ!って早苗はこっちに走って来るなー!」
「栄子!逃げるでゲソ!」
早苗に追われ、栄子と共に砂浜を行く。
真夏のビーチが肌を焼き、潮の香りがふんわりと薫る。
ちらりと横を見ると、死にもの狂いで走る栄子の横顔が、眩しかった。
イカ娘は思う。以前よりも少しだけ、栄子に優しくしようと。
イカ娘は思う。以前よりも少しだけ、栄子とくっついていたいと。
「今日も、地上を侵略するのでゲソー!」
高らかに、高らかに。
威風堂々と、彼女は性懲りもなく己が目的を世界に晒す。
イカ娘の新しい侵略生活は、幕を開けたばかりだ。
そこでようやく、目が覚めた。
◇ ◇ ◇
『親友一人と知り合い三人。どちらを取るべきなのか。その一例』
ぱちりと目を開けた。
視界に映るのは、ほの暗い天井。
顔を動かすと、すぐ横には水色の髪(触手?)と白い帽子。
ここは、ファーストフード店の従業員仮眠室だ。
そこまでを確認し、高町なのはは静かに息を吐いた。
「アリサちゃん」
小さく、言葉を漏らす。呟きは誰かに聞こえることもなく、儚げにカーペットに落ちた。
ウサギのように真っ赤に染まった目を、ごしごしと拭う。
いくら拭っても、高町なのはの気は晴れなかった。
むしろ、拭えば拭うほど、目の奥からじわじわと悲しみが襲ってきて。
声には出さぬまま、胸の痛みに耐えながら彼女は泣いた。
高遠遙一や夜神月がなんと言っていたかは、ほとんど覚えていない。
人の話はちゃんと聞きましょう、なんて当たり前の道徳は、なのはを襲った衝撃で紙風船のように吹き飛んだ。
きっと、慰めの言葉や希望的観測をつらつらと並べてくれたのだろうが、今はそんなものに全く価値を見いだせない。
悪い人間だ、と思う。
高遠も月も、放送で親しげな人物の名を聞いたのかもしれないのに、あの時のなのはを精一杯励ましてくれて。
それを全て聞き流している自分は、他人の好意の上に胡座をかいて、メソメソしていただけ。
そんな自分が、嫌になる。
「アリサちゃん」
アリサ・バニングス。高町なのはの親友。
なのは、すずかを引っ張るリーダーのようなポジションにいた、金髪の少女。
勝ち気で行動的で、でもとっても頭が良くてテストではいつも100点を取っていた。
喧嘩をすることもあるけれどいつも仲直りして友情を深め合っていた、高町なのはにとってとっても大切な人。
そんな彼女の名前が、先程死亡者として、放送で呼ばれた。
あまりにあっさりと告げられたその名前の意味を、なのはは何度も何度も頭の中で反芻した。
結論。アリサ・バニングスはもうこの世にはいない。死んでしまっている。
そう思った時は、まだ泣かずにいられたはずだ。
脳が、現実を現実として認識することがなかなか出来なくて、フリーズしていた。
出来事が、出来事として理解できない。理解したくない。
今の状況が、自分のものとして認識できない。認識したくない。
心配そうに声をかける夜神月も。
声を挙げて泣いているイカ娘も。
こちらの頭を撫でる高遠遙一も。
高町なのはは、現実として受け入れることが、出来ない。
どこか向こう側の世界をモニター越しに見ているような錯覚が、彼女を襲う。
ぼんやりと、ここに来て会った彼らがフェードアウト。
代わりに網膜に映るのは、幸せな過去。
アリサちゃんとすずかちゃんと、お弁当を食べている。
アリサちゃんとすずかちゃんと、一緒に授業を受けている。
アリサちゃんとすずかちゃんと、沢山お話をしている。
アリサちゃんとすずかちゃんと、バイバイを言い合って。
ずっとずっとそんな日が続いていて。
でも。
『なのは君』
『泣きたい時には、泣いても良いんです』
駄目だった。
誰かに言われたその言葉が、トリガーとなって。
がくんと、甘い過去が遠くへと飛び去ってしまう。
遠い世界から、苦い現実へと引き戻されて。
一気に、泣いちゃ駄目だと思う間もなく、彼女の涙腺は崩壊していた。
それから先のことは、あまり思い出したくなかった。
「どうして、なの」
恐らく、その問いに対する答えなど、ない。
主催者がこんな実験を開催したから。
アリサ・バニングスがその参加者となったから。
彼女が力のない少女だったから。
彼女の近くにいた誰かが、殺人を犯せる人間だったから。
どの選択肢を選ぼうが、高町なのはがその解に満足することは、一生無い。
いくら論理的だろうと、納得など出来ようもないし、する気などさらさらないのだから。
「どう、して」
最初の問いを諦めて、次の問題。
ドロドロと焼き焦げた塊が、なのはの中で蜷局を巻いていた。
火の玉が中で暴れ回っているような錯覚さえ感じる、激情的な感情の渦。
絶対零度の悲しみを溶かし、身体を奥から熱くするそれは。
実験を開いた主催者に対する怒り。アリサを殺した加害者に対する憎しみ。そして。
己に対する、後悔。
心配そうに声をかける夜神月も。
声を挙げて泣いているイカ娘も。
こちらの頭を撫でる高遠遙一も。
高町なのはは、現実として受け入れることが、出来ない。
どこか向こう側の世界をモニター越しに見ているような錯覚が、彼女を襲う。
ぼんやりと、ここに来て会った彼らがフェードアウト。
代わりに網膜に映るのは、幸せな過去。
アリサちゃんとすずかちゃんと、お弁当を食べている。
アリサちゃんとすずかちゃんと、一緒に授業を受けている。
アリサちゃんとすずかちゃんと、沢山お話をしている。
アリサちゃんとすずかちゃんと、バイバイを言い合って。
ずっとずっとそんな日が続いていて。
でも。
『なのは君』
『泣きたい時には、泣いても良いんです』
駄目だった。
誰かに言われたその言葉が、トリガーとなって。
がくんと、甘い過去が遠くへと飛び去ってしまう。
遠い世界から、苦い現実へと引き戻されて。
一気に、泣いちゃ駄目だと思う間もなく、彼女の涙腺は崩壊していた。
それから先のことは、あまり思い出したくなかった。
「どうして、なの」
恐らく、その問いに対する答えなど、ない。
主催者がこんな実験を開催したから。
アリサ・バニングスがその参加者となったから。
彼女が力のない少女だったから。
彼女の近くにいた誰かが、殺人を犯せる人間だったから。
どの選択肢を選ぼうが、高町なのはがその解に満足することは、一生無い。
いくら論理的だろうと、納得など出来ようもないし、する気などさらさらないのだから。
「どう、して」
最初の問いを諦めて、次の問題。
ドロドロと焼き焦げた塊が、なのはの中で蜷局を巻いていた。
火の玉が中で暴れ回っているような錯覚さえ感じる、激情的な感情の渦。
絶対零度の悲しみを溶かし、身体を奥から熱くするそれは。
実験を開いた主催者に対する怒り。アリサを殺した加害者に対する憎しみ。そして。
己に対する、後悔。
分かっている。
何故、Vと別れた後に今の三人と共に行動しようと思ったのか。
甘かったのだ。何もかもが。
どんなに焦っていても、どんなに急いでいようと、心の何処かで。
友達が死ぬなんてことは、ないと思いこんでいたのだ。
己は間桐慎二に襲われたというのに、親友二人が同じ目に遭っている可能性から、目を逸らしていたのだ。
その場の雰囲気に流され、イカ娘と森を歩き。
月や高遠と言った年上達と一緒にいる安心感に、身を委ねて。
本来なら、足手まといな彼らなど放っておくべきだったのに。
「なん、で」
そんな答えにあっさり辿り着いたことに、愕然とした。
普段のなのはならば絶対に至らない、エゴ的な発想。
自分さえ良ければそれで良いと言う、唾棄するべき考え。
理由はなんとなく察しが付く。放送前の問答のせいだ。
高遠に言われた言葉が、じわじわと身に染みこんでくる。
『貴女がそれほど強くお友達を案じていらっしゃるのなら――――何故、私たちは貴女に殺されていないんでしょうか?』
言われた意味が全く分からなかった。
『それは、貴女がお友達を本気で捜すつもりが無いからですよ』
信念とでもいう固い意志に、綻びが生じた。
『貴女は強い人だ。そしてそれゆえに、残酷だ』
その綻びはどんどん、どんどん広がっていって。
『貴女が出来もしない夢想で偽りの希望を持たせて、人の心を弄ぶような人物だったとは』
遂に、表層に顔を出した。
『貴女がそれを望むのなら、私はこの命を差し上げましょう』
わたしはあのときなにをかんがえていたの?
自分が、ガラガラと崩れていく。
正しいと信じ切っていた己の行動全てが、間違いだと断言されているよう。
奥深くに覆い隠していた、醜いものを剥き出しにされたよう。
「私は、間違ってなんかない……」
力なく、ほとんど消え入るように言う。
だって、人を殺すことは許されないし、自分だけじゃなくて皆のことを考えるべきだ。
自分は正しいことをしている。自分は間違っていない。そう言い聞かせてみる。
貴方は良い人間ですと、頭の中で天使がさえずった。
その言葉に心がこもっていないことは、自分が一番よく知っている。
反対側から、良い子にしていてどうなるの?と悪魔の囁きが心を刺した。
良い子にしていた結果がこれじゃないの?と。頭の中の彼女は意地悪げに微笑む。
また過ちを繰り返すつもり?と、悪魔は大声で笑った。
「だけど、それなら……!」
「……どうすれば、良いの?」
悪魔はとっくの昔に解答を出している。
自分が必死に目を逸らして、見ないようにしていただけだ。
天使が、止めなさいと制止の声を挙げる。
正しくあれ、善くあれ、と高町なのはの倫理観と道徳観を呼び起こす。
「すずか、ちゃん」
だけど。
頭の中で、思い描いてしまったから。
今、何の力もないすずかが、酷い目に遭っているところを。
名前も知らない誰かが、彼女めがけて凶器を振り下ろすところを。
次の放送で、小さな背中が、また泣いているところを。
想像だけで、息が苦しくなる。胸がジクジクと痛む。
己の痛みならば、苦しみならば、耐えることが出来ただろう。
死ぬまで続くような責め苦に、それでも屈することはなかっただろう。
しかし、すずかのことを考えると、その覚悟はあっさりと砕け散る。
『貴女は殺し合いの中で何の力も無い少女が、友にどんな手段を使っても良いから助けて欲しいと
ただ、そう心の中で願うことさえ許さないと仰るわけですね? それは非常に興味深い考え方です』
またも、高遠の言葉が奥深くまで突き刺さる。
彼の言葉は間違っているのか、それとも正しいのか。
自分の考えは本当に正しいのか、それとも、間違っているのか。
頭の中で、グルグルと正誤が揺れる。
彼の考え方はおかしいと、断言できる根拠があるのだろうか。
既に一人の友を助けることが出来なかった自分に、綺麗事を吐く権利などあるのだろうか。
失敗は自信の喪失に繋がり、絶対的価値を持っていたはずの己の意志が、ガクガクとぶれる。
このまま考え続けていると、頭がおかしくなってしまいそうで。
命と言う名の重圧に押し潰されかけた幼き少女は、希望に縋る。
そうすることで、最善の解が得られるとでもいうように。
己の内の天使に、己自身に、ゆっくりと問いかけた。
正しいことをしていれば、幸せはやって来るの?
己の信念を貫き通せば、大切なものを守れるの?
幸せも大切なものも、たった六時間で一人分失ってしまったというのに?
答えは、なかった。でなかった。
悪魔だけが、ケタケタと嘲笑っていた。
「やらなきゃ」
自分の成すべきことを、頑張って頭の中で形にする。
それは、設計図のないお城を粘土で作ることに似ていた。
だけど、不鮮明で曖昧模糊とした頭の中の道筋を、何とか渡り終える。
見出したのは一筋の、光。無数の選択肢から選び取った、「一番良い方法」
でも、最善とは程遠く、最良とは言えない、選択肢。
イカ娘や、高遠や、月からは、同意を得られるとは思えなくて。
非難囂々。お前なんか仲間じゃないと、罵倒されるかもしれない。
それは、想像するだけで堪らなく辛い。
仲間だと思っておいた人達から、友達になった子から。
軽蔑の目で見られると思うと、想像するだけで吐き気がする。
「でも、私が、やらなきゃ」
アリサの顔を思い出して。すずかの顔を思い浮かべて。
はっきりと断言できる。自分がしたいことを。自分に出来ることを。
立ち止まることも大事かもしれないけど。考えることは必要だけど。
やっぱり、動かなきゃ、行動しなきゃ、駄目なのだ。
ベッドの中で暗く沈むよりも、やらなきゃいけないことがある。
弱気の虫が顔を出す前に、決意が鈍ってしまう前に、行動を起こす必要がある。
今この瞬間から動こうと思い、幼きエースは。
デバイスに、手をかけた。
◇ ◇ ◇
「ゲ、ゲソォォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「ひゃっ!?」
突然の奇妙な悲鳴に、心臓が飛び出したかと思った。
バクバク、バクバクと、高鳴る胸をおさえて深呼吸。深呼吸。
そっとベッドから上体を起こし、今の声が夢ではないことを確認。
目を見開いて隣を向くと、そこには、脂汗を流している同行者の姿があった。
「イカ娘ちゃん?」
返事はない。
ただ、件の主は苦しそうな顔で時折、手や足をジタバタさせていた。
(嫌な夢でも、見てるのかな?)
恐らく、これが演技でもなければ、そういうことだろう。
うなされる、という反応がぴたりと当てはまる。
見ていてとても可哀想だが、自分に出来ることなど何もない、と考えてしまった。
揺り起こしてあげるべきなのか。でも、そうして現実に戻ってきても……彼女がどう思うかは分からない。
暗い現実をずっとずっと生きていくのと、少しの間だけでもそこから逃れるのと、イカ娘はどちらを望むのだろうか。
行動に躊躇が生まれる。一挙一動が間違っているかもしれないと、恐怖が襲いかかってくる。
失敗を、怖がっている。
普段のなのはならば、こうはならなかっただろう。
相手にこっぴどく打ち負かされても、更なる高みを目指し己を研磨しただろう。
己の力不足を解消するため、いかなる努力も惜しまなかっただろう。
だが、この場では拳の振り上げた先に何もないし、何を頑張ればいいかも定かではない。
彼女は全てを見通す賢人でもなければ、ただ欲望に従うだけの愚人でもない。
少し周りよりも大人びた考え方の出来る、小さな女の子に過ぎないのだから。
魔法による戦闘ならばいざ知らず、殺し合いという舞台で心を揺さぶられて、平気でいられるわけがなかった。
「た、す」
でも。
「たす、けて……!」
イカ娘から必死に伸ばされた右手が、自分の方を向いた時。
何かを求めるような、懇願の叫びを聞いた時。
「あっ」
思わず、魔法少女はその手を握っていた。
あたたかい。汗で少し湿っている。
そして、小さく震えている。
「大丈夫、だよ」
それが自分の喉から出ているものだと理解するのに、数秒かかった。
迷う。こんな無責任な発言をしても、良いのかと。
自分に、こんなことを言う権利があるのかと。
「大丈夫だから」
でも、自分の心に嘘はつけなくて。
イカ娘の手を、両手でぎゅっと握る。
頑張って、と彼女にエールを送るが為に。
自分はここにいる、仲間はここにいる、と教えてあげたくて。
身体に、違和感。
「ふぇっ?」
まわりを見ると、彼女の身体にイカ娘の触手が迫ってきていた。
身をよじるも、イカ娘の手を離して良いものか、少しだけ悩んでしまった隙に。
全身を、水色に染められる。拘束するように、抱きしめるように。
細い首許をなぞり、下の鎖骨を占領した。
年相応の薄い胸の部分を隠すように、触手が這っていく。
柔らかなお腹の部分を、二本できゅっと締め付けて。
捩った腰を逃がすか、と言わんばかりに襲いかかる。
その下、下腹部に進行をはじめた触手が、一本。
更に、剥き出しになっている右のふとももを撫でるように巻いていく。
くすぐったいなと思う間に、左足の方も絡め取られて。
最後に、左手も右手も、脇を通り付け根からグルグル巻きに。
高町なのはの肉体、侵略終了。
思わず実行犯の顔を覗くも、どう見ても眠っている。悪気はないようだ。
イカが寝ぼけるとこんな惨事になるのか、と他人事のように考えると、少しだけおかしみが沸いてくる。
イカ娘は眠っていても、まわりを癒してくれるオーラを発しているのかもしれない。
ふと気分を弛緩させると、急激に睡魔が迫ってきた。間延びした欠伸を一つ。
ずっとこのままでいたいと、このまま眠ってしまいたいと、思わず考えてしまう。
爆睡中のイカ娘から、こちらにおいでと手招きされている錯覚さえ覚える。
それは確かに、楽な道だろう。嫌なことは、眠ってしまって考えなければ良い。
本来、高町なのはくらいの年頃の少女には、それが許される事態だったのだ。
だけど、それが親友を助けるための道だとは、決して思えない。
「ごめんね、イカ娘ちゃん」
十本の触手は、思いの外簡単に外すことが出来た。
少しずつ、少しずつ、離れていく二人の身体。温かさが消えていく。
最初に握った右手を、名残惜しげにベッドに置く。
触手が動いたせいで乱れていた掛け布団を、そっと被せ直す。
身体は軽くなったはずなのに、気は重い。
それでも、友を救うためだと、ベッドから出ようとして。
「いか……」
「……イカ?」
「いか、ないでっ……!」
駄々をこねるように、眠ったままのイカ娘が苦しそうに手足を動かした。
直したばかりの布団がまたも、皺を作り歪んでいく。
また、少し、迷う。だけど、やっぱり無視することは出来なくて。
再び彼女の白い手を握り、寄り添うように小さな身体を近づける。
帽子で覆われた頭を愛でるように撫でて、優しく耳元で呟いた。
「大丈夫だよ。どこにも、行かないから」
ずきんと、罪の意識が頭をもたげる。
眠っているとはいえ、苦しんでいる友達に嘘をつくことは、やはり辛い。
でも、このまま何もせずに無視することは、もっと辛かった。
結局の所、彼女は罪悪感を少しでも打ち消すために、事に及んだのかもしれない。
でも、そんなことは関係ないのだ。
結果として、イカ娘は苦悶の表情を安堵へと塗り替えて、深い眠りに落ちたのだから。
そこに、なのはの意志は汲まれない。行動のみが結果として現実に反映される。
そうだ。
大事なのは、過程ではなく結果だ。
何を思って状況を変革しようが、功績は刻まれるし、大罪は消せない。
大いなる世界に言い訳は一切通用せず、ゲームのようにやり直しなど出来るわけもない。
変わってしまった盤をひっくり返すことなど、それこそ神にしか出来ない芸当なのだから。
「ごめんなさい、夜神さん。ごめんなさい、高遠さん」
「ごめんなさい、イカ娘ちゃん」
だからこそ、彼女は――――
◇ ◇ ◇
『悪魔は実在するのか否か。その一例』
熱い。
ああ、熱い。
身体が蝋燭のように、熱かった。
芯から火が付き、ぐずぐずに溶けながら生きている。
そんな感触を、馬鹿らしいと思いつつも否定できない自分がいた。
さながら、地獄の釜でゆでられているようだ。
さながら、獄炎に身を焼かれているようだ。
火を噴くように呼気が漏れる。
真っ赤な色がチロリチロリと、目の端に浮かんでは消えていく。
あまりの熱さにとても耐えられず、何も考えられない。
私は誰だ。ここはどこだ。何もかもが曖昧だ。
ぼうっとした思考が、ぽつりぽつりと浮かんでは消え浮かんでは消え。
「ぁうぃぁ」
ガラガラとした呻き声が聞こえた。近い。思わず身構える。
ドンガラガッシャンと大きな音を立てて揺れる脳味噌の痛みを無視して、大きく周りを見渡す。
誰もいない。暗闇に潜んでいるのか、と目をこらすも見えないものは何時まで経っても見えなかった。
いくら待ってもそれ以上の反応はなく、苛立ちが募る。足下の石ころを蹴飛ばしてみる。
それでも反応がない。遂に痺れを切らし、大声でこちらから呼びかけようとして。
「……ぁぁ」
気付く、それは自分の出した声の紛い物だったらしい。
過去の糸を辿ってみると、魔法としか思えない不可思議な現象が、私の舌をもぎ取ってしまったのだった。
テンマとかいう、二人目のメフェストフェレスによって……!
嫌なことを思い出してしまい、気分が滅入る。これから一生このままかと思うと最悪な気分だ。
もう、他人の懺悔を聞き、迷える子羊を助けることは出来ないかもしれない。
誰とも話が出来ず、普通の生活も難しいものになるだろう。
料理の味を感じることすら、食の楽しみを得ることすら叶わないことだろう。
「……ぅっぅっぅ」
また一つ、記憶の欠片を取り戻して、自虐的に笑いたくなった。
私は既に、死んだ人間だったのではなかったか。
覚悟の果てに地獄へ堕ちたかと思えば、実験という名の煉獄にて神からの赦しを請う身ではなかったか。
そんな私が、今更舌の一つや二つ無くしたくらいで、何を悲しむというのか。全くお笑いぐさだ。
……そんな空元気も一人では寒々しく、皮肉気に歪んだ口元から、精気が漏れた。
本当に、最悪な気分だった。暗雲の形を持った絶望が、心の淵に立ちこめる。
だがそこに思考が及び、ようやく私の中の自動熱がり機から、まともな思考回路が構築されたようだ。
前提条件を確認。私は賀来巌。神父と名乗るもおこがましい大罪人である。
大量殺人の片棒を担いだ罪を償うために、決死の覚悟でメフェストフェレス、結城美智夫と対決し。
そして、MWのつまった袋と共に海の藻屑となった……はずであった。
しかし、気がつくと私は未だ五体満足で、三人の見知らぬ男達に介抱されていた。
彼らの話を聞くに、私達は実験なるものに参加させられ、人殺しを強要させられているという。
しかしそれは違う、これは神が愚かなる私に与えた試練に他ならない。
私は覚悟新たに、結城美智夫を『殺す』ために行動を始めたのだった。
そして、それから。
テレビ局で悪魔に唆され、嵌められて、舌をもぎ取られてから。
何をどうしたのかを話すには、トンチンカンな口先が許してはくれなかった。
飛び飛びの記憶を繋ぎ合わせ、張り付けて考えてみると……。
私は舌の消滅という痛みに悶え苦しみ、声にならない叫びをあげた……はずだ。
その後、半乱狂になりながら、命からがらあの場から逃走を図った……はずだ。
(そうして、今に至るのか……?)
どうも、足下がおぼつかない。
ふう、ふうと荒くなった息を整え、現状を認識しようと試みる。
茹だった頭がキリキリと痛むが、そんなことを気にしている暇など無い。
当面の目標を、確認する。為すべきは二人の悪魔を倒すことだ。
二人の悪魔(メフェストフェレス)、結城美知夫とテンマの好きにさせるわけにはいかない。
今もあの二人は何処かで他人を陥れ、高笑いをしているに決まっている。
そんなことを許してなるものか。無垢なる魂を汚すなど、神に仕える身として断じて見過ごせまい。
そうだ。これは私が今まで結城を見逃していた罰に対する、神からの試練なのだ。
一度死んだ汚きこの身を贖罪に費やせと、父なるイエスが仰っておられるのだ。
必ず、神の名においてあの二人には裁きを受けさせなければなるまい。
地盤が固まった体がした。
頭の中の小会議を終え、次に周囲を見定める。
さっきまでいたはずのテレビ局は、何処を見渡しても見えやしない。
どうやら私は、思っていたよりも遠いところまで来ていたようだ。
人気のない廃れた町の中で、ぽつんと佇む。
前を見ると、立ち並ぶ建物群の中心に一際大きな円形のドームが見える。
後ろを振り向くと、ちらほら見える民家と共に木々が立ち並んでいる。
雄大な陽の光が目を差し、ちっぽけな己の影を色濃く生やす。
私は何処まで来たのか。何処に行くのか。
さっぱり分からない。
分からないなら、分からないなりに進まねばなるまい。
私だけが、悪魔達の本性を知っているのだ。
ガンガンと鳴る頭痛など、何の問題になりはしない。
やけに霞む目ん玉も、何の足枷になりはしない。
一oでも近く、一秒でも早く、私は役目を果たさねばならぬ。
私がここにいる意味を、成し遂げねばならぬのだ。
使命感が、鉛のような足を動かす。
公園が、百貨店が、八百屋が、民家が、倉庫が、前から後ろへと流れていった。
ああ、進んでいる。そう実感することが、どれほど嬉しいことか。
己の意志で一歩一歩進むごとに、私はまだまだやれると、そう思う。
そうして。
ほうほうの体で、やっとこさ意志を持ち、目標へと歩き始めた私の前に。
「ぁ」
悪魔は、現れたのだった。
◇ ◇ ◇
「ぁ、ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁ」
ああ、悪魔だ。
地面を這う私を蛞蝓のようだと指さし笑い。
青い大空を、我が物顔で突っ切りながら。
悪魔が、私の許へやって来た。
黒い翼を羽ばたかせながら。
二本の巻き角を揺らしながら。
おぞましい得物を手に持ち手に持ち。
私の命を取りに、やってきた。
支援
私のすぐ傍に降りてきた悪魔は、三日月のように裂けた口を開く。
狼のような牙が、ずらりと並ぶ。私を噛み殺そうとガチガチと鳴る。
蛇のように長い舌が、伸びる伸びる。私を絞め殺そうと言葉を紡ぐ。
「シンプサン、イッショニアソボウヨ」
突然だった。
少し前の光景が、フラッシュバックした。
そして、今、目の前に立ちはだかるモノとぴったり重なった。
思い出した。全て、思い出した。
どうして忘れていたのか。
忘れることなど、出来ようもないのに!
私がテンマに舌を奪われ悶え苦しんでいた時に。
そいつは、現れたのだ。
屍に群がるハイエナのように、獲物に飛びかかる大鷲のように。
メフェストフェレス、地獄の大公が現れたのだ。
悪魔が、私を喰いにやって来たのだ。
哀れな犠牲者を、贄として腹の中に収めるために。
「ワタシト、オトモダチニナリマショウ?」
大げさに首を傾ぐその様は、出来損ないのヒトの真似を必死でやっているようだ。
嫌悪感が吐いて捨てるほど溢れ出す。冒涜者に返す言葉もないし、舌を失った私に返せる道理もない。
こんな化け物を相手にどうやって逃げることが出来たのか、分からない。
今はそんな些細なことに気が回らない。いや、回す隙間などありはしない。
全神経が、感覚器官が、ソイツを捉えて放さない。吸引される。
悪魔の発する無色の吐息が、風に乗っかって襲いかかって来た。
芳しき甘い匂いが、すうと私の世界に浸蝕していく。
死だ。
死のかほりが、鼻を通って上へ上へ、私の中核に、やって来る。
腐った林檎の皮と絞りたての血液をミキサーにかけた代物を、飲まされている気分。
吐き気がする。嘔吐をこらえて、呼吸が止まる。息が詰まる。
一度滅びた身なれど、これはたまらない。鼻が心が曲がりそうだ。
私はそう何度も死にたがる自殺志願者ではないのだ。
ならばどうする。決まっている。
痺れたボロボロの身体に鞭打ち、焼き焦げた意識を無理矢理に引き摺りながら。
走って逃げた。
◇ ◇ ◇
ひたひたと追いかけてくる濃厚な死の気配を感じながら。
舗装された道路を、ひたすらに駆けていく。
寂れた住宅街を縫うように、出来るだけ直線的に進まないように。
その甲斐あってか、それとも慢心でも持っているのか、悪魔は未だ私の腕を取りはしない。
(悪魔などという非現実的存在をこの目でしかと見届けた私は、狂ってしまったのだろうか。
いいや、そもそもこの世界こそが狂いきっている。死んだはずの私が今ここに立っているだけで、何があろうとおかしくない。
もしもここが煉獄ではなく地獄だったのだとしたら、悪魔の一つや二つ出るなど日常茶飯事に相違有るまい。
結城は、悪魔の魂を持った人間だった。
テンマは、人の皮を被った正真正銘の悪魔だった。
そして次は、おぞましい姿を隠すことなく、あくまで悪魔のカタチで三匹目の登場というわけだ。
ああ、神よ。私に、己が罪を浄化することなく朽ちたまへと申されるのか。
それはあんまりな仕打ちにございます。私はまだここでやり残したことが多くあります)
そうこう徒然と駄想を垂れ流して、辿り着いた先に。
肥だめの臭いがぷんぷんする路地裏を通り過ぎて。
痴れ者の訪問を頑なに拒否する鍵だらけの小さな倉庫を素通りして。
逆におおっぽらに開け晒された、民家の前の申し訳程度の門には目も暮れず。
古き良き駄菓子屋も、何故か商品を前にして店主が存在しない八百屋も。
全て全て無視して。
辿り着いた先に。
終着駅。
ブランコと砂場のみが備え付けられた公園で、私は足を止めた。
何度も転び、その度に擦り傷が増えた両足は、最早機能を果たしていなかった。
二つの肺は仲良く息切れを起こし、酸素供給をサボっている。
混濁した脳味噌が、ぐちゃぐちゃに天と地を行ったり来たり。
限界だ。私は砂場に足を取られ、無様に倒れる。
「ぁっ……ぁっ……ぁっ……」
何年ぶりかに地上に出てきたウミガメのように、空気を貪る。
固形物を呑み込んで、吐き出しているような、違和感。
一息吸うたびにガラガラの喉がひりひりと痛む。頭から蒸気が上がる。
実は、私は炎の塊を食らっているのではないだろうか。吐き気がした。
喉から迫り上がって来た嘔吐物を、恥も外聞もなく外気に晒す。
「ぉ、ぉっぅぇええええ」
気持ち悪い。年甲斐もなく全力疾走などするものではない。
汚らしい己の排出物から少しでも遠ざかろうと、ゴロンゴロンと砂場で転がる。
そのまま力尽き、仰向けになる。閉じそうになる瞳を根性で開き続ける。
このまま眠ってしまえば、次に目覚めるのは悪魔の胃袋の中だろう。そんなことは御免被る。
身体中が、壊れかけの時計のごとく軋んでいた。一週間は筋肉痛に悩まされること請け合いだ。
だが、神は私にそんな苦しみの時間さえ与えてくださるつもりはないようだった。
支援
「オニゴッコハ、モウオシマイ?」
びゅうと少し強い風が吹いたかと思えば、招かれざるお客様のご登場だ。
私がどれだけの時間足掻いていたのかは分からないが、追いついた悪魔は呼吸一つ乱してはいなかった。
ゆっくりと、絶望の色に染まる私を楽しげに見つめながら、近づいてくる。
私は、動かない。指一つ震わすことなく、脱力する。
「ソレジャア、イタダキマス」
そんな私の様子を観念したと見たのか否か、嬉しそうに吠える畜生一匹。
こちらの気も知らずに、雀のように飛び跳ねまわる。
遂に、ソイツが足下までやって来た。顔を覗き込まれる。
私は、力のない目で気弱そうにそいつを見つめ返した。
生死の判断でも見極めているのだろうか、楽しそうな様子からすると踊り喰いをご所望らしい。
調理される、というのも気が狂いそうになる話だが、勿論生きたまま喰われるのだって同じくらい嫌だった。
悪魔はぐわりとアギトを開き、じゅるりと舌なめずり。
電池切れのご馳走に、黒い剛毛で覆われた醜い顔を近づけて。
そして、私の罠に嵌った。
弛緩していた肉体を一変。がばりと、死力を振り絞り起き上がる。
既に私が精魂果てて動けないのだろう、と勘違いしていた悪魔の顔が驚愕の色に染まる。
それを見て馬鹿めと笑う頃には、私の第一行動は終了してしまっていた。
動け動けよ我が手足。今動かねば何になる。
隅々までの筋繊維よ、休みを許可した覚えはない。
私よ私、あと少しだけ頑張れ。負けるな。勝つのだ。
そう己に念じ、願い、思い描く軌道に乗せて。
私は、全力で左の手をグーからパーにして悪魔の顔に突き出した。
ついさっき砂場に倒れた際に掴んでおいた細かな砂利が、解き放たれて宙を舞う。
真っ赤な悪魔の瞳に吸い込まれていく様は、やけにスローモーションに感じた。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!?!?」
我、奇襲に成功せり。
まずは目を潰す、という当初の計画は、あまりにもあっさりと成し遂げられる。
次に、ポケットに幾つか入れておいた小粒の尖った石ころ――転ぶふりをしながら集めていた物だ――を取り出す。
右手に握り、当然の事態に混乱している悪魔の顔に打ち付ける。
目を狙ったが、流石に二度も上手くはいかず、先の部分で頬を裂くのみとなる。
まだまだこれからだ。一度食らいついたら離れるわけにはいかない。
今この瞬間だけが、私の生命線なのだから。
マウントポジションを取り、がなるように吼える。
声は出ない。出るのは音でしかない。
己を昂ぶらせるために、それでも叫ぶ。力の限り。
そうしないと、歯の震えが止まらない。
もう後戻りは、出来ないのだ。
「……ぁ、ぁぁぁぁあああああああああああああッ!」
私は、何も考えずにただ逃げていたのではない。
通った道に公園が有ったのを思い出して、悪魔に気取られぬよう色々と迂回しながらそこに向かっていたのだ。
何のため?勿論、悪魔をこの手で殺してやるためである。
選んだ道は抵抗、闘争、殺害。その一点のみだ。
悪魔から逃げ切るなんて想定は、はじめから選択肢に含まれてなどいない。
そんな弱気で、どうやってこれから奴らと戦うというのか。
私は、きっと慈悲深い神に選ばれたのだ。
人間を不幸にするだけの存在、悪魔を倒し己の罪を贖う者として。
煉獄に堕とされ、罪深き悪魔どもを皆殺しにすることこそが、唯一の天国への道と悟った。
だから私は、コイツを殺す。
コイツの次に、テンマと結城美知夫を殺す。
きっと他にもいるであろう、悪魔共を根絶やしにする。
神よ、見ていてください。
私は、やり遂げてみせます。
血を枯らし、心の臓をもぎ取られようとも。
必ず。必ず!
獣のように雄叫びを上げ、己を奮い立たせる。
悪魔の、心なしか怯えた顔に胸が透く。ざまあみろだ。
今の私は、猫を噛む窮鼠だ。狩人を喰らう獣なのだ。
ヒトとしての、神父としての甘さなど存在しない。
胸の内で荒れ狂う凶暴な十字架が、ヒステリックに金切り声を挙げた。
断罪せよ!断罪せよ!断罪せよ!
神の名において、悪を処刑し正義を示せ!
勝てる。確信する。今の私ならなんだって出来そうだ。
果てしない高揚感が脳髄を駆け巡り、思わずイキかけた。
頭を振る。まだだ、まだ終わってはいない。
トドメを刺すまで神に代わり神罰を、鉄槌を下せ。
悪魔の顔がテンマに見えた。結城に見えた。まだ見ぬ悪の背信者共に見えた。
地獄に堕ちた悪魔共を、煉獄に落ちた私が倒す。
「うぉおおおおおおおおおおお!」
二発目をだらしなく開いた悪魔の口の中に押し込もうと、腕を戻し、再度振る。
それと同時に、左手にも石を持ち、連撃を繰り出そうと力を込めて。
放つ。右ストレートと左のフックを、同時に。
そして。
見えない壁に、吹き飛ばされた。
「……ぁ?」
背中に衝撃。激痛が走る。
公園の地面に叩き付けられた、と気付くのに少し時間が必要だった。
ぐわんぐわんと、耳鳴りがうるさい。世界が遠くなっていくのを感じる。
何故。どうして。真っ白になりかけた頭を無理矢理、現実へと引き戻す。
ここでオネンネするとまずいことになりそうだ、と本能が囁いていた。
苦痛に歪む顔を正面に向けると、赤い血をぽたりと落とし、悪魔がこちらを睨め付けている。
どうやら、テンマが使ったような妖術で私の攻撃に対する即席の防御を成したようだった。
それが、私を一瞬の空の旅に連れて行ってくれたらしい。大したカウンターだ。
まずい。
嫌な汗が、背中に沸いて出る。
非常にまずい。
もはや私の持っていた優位性は消滅した。
今の私はボロボロの身体で、武器はそこらで拾った石ころ二つ。
対する向こうは目と頬にダメージを与えたものの、まだまだ万全だ。
これでは、まともな戦いになるかさえ怪しい。嬲り殺されてしまう。
どうして、敵の持ちうる怪しげな技について思考を及ばせなかったのか。
どうして、口の中に広がる苦い教訓を、生かすことが出来なかったのか。
今更に己を責め立てても、詮無きことだ。
それに、分かっていたところで只人たる自分にどんな対策が練れた事やら。
それよりも、これからどうするか。それが重要である。
またしても逃げるか?
――体力も身体も限界だ。不可能の一言に尽きる。
命乞いでもしてみるか?
――そんなものが通じるなら、はじめからやっている。
ならばどうする?
――どうしようもない。
死ぬのか。
私は、死ぬのか。
(諦めて、たまるか)
ふらふらと立ち上がり、両手に尖った石を持ち。
私は、自分で思っていたよりも悪あがきを好む人間らしかった。
闘志は萎えることなく、殺意は治まることなく。
やってやる。口の中で呟く。舌がないから言葉にはならなかったが。
「ぅ、ぅぅぁぁああああああああああああああああああああ!」
地を、持てる限りの力で蹴り……行く。
無我夢中になって突進。玉砕戦法。カミカゼ特攻。
芸がないと言われようが、私にはそれくらいしか残されていなかったのだ。
肩に顔に腕に足に、全てにまとわりついてくる風が気持ちいい。
火照った身体が、ほんの数瞬で冷え切るような錯覚を受ける。
無様に足を出し、次の足を出す。縺れてバランスを崩さないのが不思議なくらいだ。
たった数メートルがとてつもなく遠い。距離感が狂っているのかもしれない。
構わない。身体の何処かが壊れようが頭の何処かがイカれようが、関係ない。
私は、私の贖罪を成す。それだけだ。
だから。
死ね。
思い切り、右手を後方に伸ばす。走る勢いそのものに振りかぶる。
こちらが突っ込んでくるもの、と予想している悪魔の顔に照準を定め。
死ね死ね死ね。
拾った石の中でも一番大きな、例えるなら野球のボール大の原始的な「武器」に全てを賭ける。
これが上手いことヤツを怯ませてくれれば、その隙に零距離まで詰めて、妖術を使われないうちにケリをつける。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
私のコントロールがいかほどかは定かではない。
だが、私は神を信じる。己を信じる。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。
じる者は、救われるのだ。
(滅せよ、悪魔――――!)
「があああああああああああああああああああ!!!」
次の瞬間、わたしがかんじたのは
ももいろの、ひかり。
「ぁ……?」
からだが、つめたい。
ちが、どばどばと。
なにがおきたのか。
わたしはまだ、たたかえる。
ほら、うごけからだよ。
にくむべきあくまを、うちたおすのだ。
うごけ。
うごけ。
うごけ。うごけうごけうごけうごけ。
…………もはや、うごかない。
……わたしは、しぬのか。
なぜだ。
どうしてだ。かみよ。
わたしはまだ。
まだ、つみを。
……ああ。
ああ、ねむい。
ゆうき。
みちお。
わたしは、おまえを――――。
◇ ◇ ◇
「あ……あ、あ、あ、あ、ああああぁぁ?」
『3人の参加者を排除した場合の報酬』
「な、んで」
『3人を殺した報酬で、自分とお友達の所属するグループを知り』
「だって、だって、ひさっしょうせってい、だった……?」
『もしHorが居なければ、他の参加者を手当たり次第に殺して実験を終わらせれば良いんですよ 』
「わたし、は」
あと、二人……?
『貴女がそれを望むのなら、私はこの命を差し上げましょう』
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
結局。
賀来巌は、優しき男は。
最初から最後まで。
頭から尻まで。
狂いきっていた、ということだった。
どこか遠くで、メフェストフェレスが嗤っている。
【賀来巌@MW 死亡】
【Gー5/公園内:朝】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:疲労(小)、頬に擦過傷。目が少し痛む。
[装備]:聖祥大附属小学校制服、S2U@魔法少女リリカルなのはシリーズ、核金(シリアルナンバーLXI)@武装錬金
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:すずかとの合流と、この場所からの脱出(?)
1:?????。
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦。
※魔法の非殺傷設定はできません。
※核金@武装錬金は武藤カズキと蝶野攻爵しか武装錬金にできません。
【H−4/ファーストフード店内 朝】
【イカ娘@侵略!イカ娘】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:風紀委員会特服『白虎』Sサイズ@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘
[思考・状況]
0:あ……れ……?
1:とりあえず月と高遠に付いていく
2:タケルがなにをしているのか気になる
【夜神月@DEATH NOTE】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康
[装備]:ニューナンブM60(残弾1/5、予備弾数30)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・状況]
0:?????
1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
3:自身の関係者との接触
4:高遠に警戒
5:イカ娘の純粋さを気に入っています
[備考]
※参戦時期は第一部。Lと共にキラ対策本部で活動している間。
【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康
[装備]:カリバーン@Fate/stay night
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、サンジェルマンの紙袋@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況] 今まで通りの「高遠遥一」として、芸術犯罪を行う。
0:?????
1:なのはを人形に仕立てる。
2:「人形」を作るのであれば人選、状況は慎重に選ぶ。
3:Vに多大な興味
代理投下終わりです。感想は前に向こうで書きました
――――爆発が起きた。つまり、ここで殺し合いがあったということ。
しかし当事者たちは殺意の痕跡を残すのみだ。
そして賀来は痕跡すら見つからない。
賀来は仮にも神父だ、積極的に殺しをやる人間ではないだろう――彼が語る悪魔、結城が相手なら別だろうが。
だが、あの様子では錯乱して他の参加者に危害を加えかねない。早く追わねば。
その時だった。
「私の名前は賀来巌……」
首から、首輪から、声が響いた。
これが定例放送というやつか。しかし何故あの神父が?
しかもその声は自信と使命感に溢れ、まるで先程とは別人のようだ。
おまけに主催者からの指示だと?
何から何までどうなってやがる!?
「ゲーム退場者の発表……【七瀬美雪】」
頭をハンマーで殴られたような気分だった。
首輪の向こうの賀来はそれが神の裁定であるかのように粛々と死亡者の名前を読み上げていく。
名簿に慌ててペンを走らせる。どうにも女性が多いようだ。
やはり殺し合いの実験――賀来によるとゲームでもあるらしい――ともなると真っ先に狙われるのはか弱き者だろう。
その最初の生贄として、七瀬美雪は選ばれた――いや、選ぶ手間をも省かれていたに違いない。
明るい少女だった。
常に金田一と共にあり、片方が欠けるとどうにもサマにならない。
その関係は高校では七不思議とされているらしいが、それは成績と顔しか見ない今どきの高校生の偏見というものだろう。
確かに何度も事件に巻き込まれているが、数年後には仲人でもやることになるだろうと疑っていなかった。
しかしその思考は再び放送に阻害された。
我来も完全に主催者の言いなりではなく、それはこの内容を伝えるための代償だったのだ、と思えた。
結城らしき男の危険性と同盟の必要性を朗々と並べ立てる。
その後起きたことは、訳がわからなかった。
要するに、賀来の傍にはもう一人男がいて、そいつが賀来に殺されかけてるらしい。
その男の名は“テンマ”
――そして、首輪からは何も聞こえなくなった。
――――出来すぎている。
結城の名を喧伝するためとは言え何故か自信に満ち溢れすぎていた賀来。
いくらテレビ局があるからとはいえ、実験の進行に影響が出る定例放送を参加者にやらせる主催者。
結城の名が呼ばれようとするその瞬間に助けを求めるもう1人の男。
更には会場において二人いる“テンマ”の名を賀来は叫んだ。
「全部は主催者が創りだした茶番劇……か?」
この放送で賀来と2人の“テンマ”は不利になりこそすれ有利になることはまずないだろう。
つまり、全ては主催者が疑心暗鬼を加速させるために仕組んだシナリオ上の展開。
あの賀来と“テンマ”は、主催が用意した偽者だ。
放送権の話も『どこかでこいつは主催者と繋がっているかもしれない』と思わせるため。
しかし、別のことも理解してもいた。
たとえ茶番劇に彩られていても、実験の進行に必要な要素――死者とグループ別退場者数、禁止エリアは、確実に伝えられるはずなのだ。
――――つまり、七瀬美雪は、死んだのだ。
これまで何となくこの実験が現実味がないと思ってきた。
聞いたことのない事件に突拍子のない異世界論。そういったものも手助けしていただろう。
「情けねぇなぁ、今までどれだけ警察やってたと思ってるんだ。現実逃避している場合じゃねぇ」
コロシも知り合いがガイ者や犯人だってのも嫌ってほど見てきた。
自分はそうやって耐えればいい。だが――
「……金田一」
無性に名探偵の孫に会いたくなった。
推理を聞きたいのも勿論だが、美雪が殺されて無力感に苛まれているかもしれない。
美雪のいない今、どうにかサポート出来るのは自分しかいない。
何としても、金田一一を見つけ出さねば。
そして、そのふざけた実験を、ぶった斬る。
【H-9:ビル建設現場:早朝】
【剣持勇@金田一少年の事件簿】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、主催者に強い怒り
[装備]:マテバModel-6 Unica(装弾数6/6)@現実
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品1〜5(うち1〜3は、賀来の分)
[思考・状況]
基本行動方針:この事件を金田一一と共に解決する
1:金田一と合流する
2:放送は必要な部分以外はブラフだろう。
3:というかここ何処だよ?
4:異次元? MWという毒ガス兵器? 死神? ばかばかしい…。
[備考]
※参戦時期は少なくとも高遠遙一の正体を知っている時期から。厳密な時期は未定。
※Lの仮説を聞いています。
こちらも代理投下終了です
荒らすな
代理投下を荒らし認定とか…
一応こっちが本スレだろ
195 :
創る名無しに見る名無し:2011/01/24(月) 00:16:07 ID:Vg99bPL9
ごめんね(´;ω;`)
乙
避難所はあまりチェックしてないから助かる
197 :
創る名無しに見る名無し:2011/01/26(水) 19:33:18 ID:legViG2D
予約リベンジか
まぁ何度も予約→破棄の流れを繰り返しているだけに、次こそはちゃんとしてほしいよね…
迷惑だしね
気持ちは判るがそれ以上言うなよ
じゃあま雑談振ってみるか
最近セイヤを見ていて、アテナ?だっけあの女の子も出てたらおもしろそうだと思ったけど、いらない子なのか?
アテナは強いってことは分かるんだけどどのくらい強いかイマイチ分からんな
それよりも一輝とここのパンドラ様が絡んだらどうなるかなとかたまに思うわ
あと一輝だったら途中で死んでも最終決戦で復活しても可笑しくはないなとか
耶人とかはすぐ死にそう
どのアテナかにもよりそうだけどw>いらない子
アテナはキーパーソンとしては重要だけど、キャラとしては少々パンチが弱いかな。
個人的にはアイアコスLOVEのパワーファイターバイオレート姐さんの方がロワ向きかも。
あと、今回も1様が予約破ったら、血のマニキュアをリクエストしようと思っている。
小宇宙は強力だけど、戦闘したらどうかっていうのは沙織さんもサーシャも微妙だ
でも聖闘士とアテナをロワで一緒にしたらどうなるかみたいな興味はあるんだよな
小宇宙に圧倒されて平伏パターンはロワでは通じないだろうなあ
アニロワ3rdのリリーナみたいに無抵抗主義ざまぁwwwで終わりそうな気がする
それはそれでいいだろう
聖闘士がアテナを生き返らせたくてマーダーも面白いw
いっそ陣営無視で星矢ロワやったほうがよくねw
1氏、急がれよ!
まだ、時間があるとはいえ、
血のマニキュアの準備をし始めた方がいいかな?
怖い、怖いよ!
ちょっと遅れてもいいからとにかく投下してほしい…
スーパーボーイプライムが主催側にいたらかなりやばい
神聖闘士でも勝てるかどうか
決定だな…血のマニキュア…。
216 :
創る名無しに見る名無し:2011/02/03(木) 22:08:03 ID:Lzb9M/fG
予約来たぞ
ヽ.\ ,レ-――-'<、 _ノ /
`‐/_____\- ' 人_ト、__ノ、_,ヘノ\_ノヽノ、
/ ,-、 ,-、 ヾ、 人/ \__
l ,..、 ,..、 l _ノ
__l i 0} ,.●、 !0 i l__ _)
/ ̄| | . | `~ /___\`~´ | | __ノ 絶対に許さんぞ>>1!!!!!!!
/ | | |l ‘-イ !_|_!`r’ !| | ノ
\\ | |. |`、 r{ h ,/リ < じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!!!!!
\\.| | ヾ\ ヽ二ニ二.ノ /〃 | )
、 \ノ^,ニ‐-ァ  ̄`ー-----一´ ̄/ | ^ヽ
\ // ,/⌒i、_\\_____// .| | ⌒)
{ i | iヽ`ー-----― ' | |  ̄ヽヘ/⌒ヽ/\i'\へ/⌒Yヽ'^
i } _| |
それにしても手の込んだ書き手荒らしだな
自らが発起人となって企画を引っ張っていき、その企画が波に乗ってきた頃に予約→破棄を繰り返す
まんまとオレ達は乗せられたわけだ
逆に感心した
あ、誤爆
いつも何となくで流している人たちはどういう意見なんだろうね
そもそも前回の予約(ラジオの日)の時にラジオと同時投下したかった
次に延長期限には次の日には投下出来るからお願いします が、無言でスルー
勝手にリベンジ宣言
また無言でスルー
1さんのまとめ方が上手いよねとかよく言われているが、ここまで来ると何の関係も無い
普通に予約荒らしと同等のことをしているだろ
もうダメだろ1は…
普通に追放されてもおかしくないレベル
今回の延長します発言の時点で ん? ってなったけど、わざわざ空気悪くする必要も無いか、投下できるなら。と思った結果がこれだよ
不満を垂れ流したい気持ちを抑えて雑談し始めたらこれですよ
意味わからん
もう予約の体をなしていないな
一日一殺 三日で三殺 三人殺せば ご褒美だ♪
んん、まって、新ルールは2日間限定だ。一日一殺じゃとても間に合わないよ。
さっきの放送で…あと何人いるんだっけ?
…まあ、いいか。
別に全員殺さなきゃならないわけじゃないし、それより何よりもユッキーは、『ただ生き残れば良い』だけなんだしね。
ユッキー。
知ってるよ、今、変な女と一緒に居るんだよね。
あと、キモい変態コスプレ親父。
とりあえず危険じゃないってのはすごく安心。
でも、忘れちゃ駄目だよ。
ユッキーの恋人は私だけだし、私の恋人もユッキーだけ。
そんな女は必要無いんだから、すぐに追い出しちゃわないとね。
どんな手を使ってでも♪
◆◆◆
我妻由乃にとって、これは二度目の人生だ。
いや、人生、ですら無い。
彼女の人生は、未だ始まっていない。
いわば、今の彼女は、得るべき人生の下準備をしている最中であり、その二巡目なのだ。
一度クリアしたもののバッドエンドを向かえたゲームのようなものだ。
終わり方が納得できないから、今、二巡目をプレイしている。やり直しをしている。
だから、前よりも巧くできるし、今度こそ望むべきハッピーエンドを迎えられると信じている。それが、彼女の夢であり希望である。
そして同時に、だから彼女は、他者の命に頓着しない。
ゲームをするときに、クリア条件を満たすために必要なキャラクター以外どうだって構わないのと同じだ。
何より、『どうせやり直せば、死んでようが生きていようが同じ事』なのだ。
彼女が望むハッピーエンド。そして、彼女の『真の人生の始まり』に必要な存在はただひとり。
天野雪輝。
彼だけなのだから。
跳躍する。常人ならぬ速度で、常人ならぬ飛距離を、ローズピンクのひらひらとしたスカートが舞う。
その左手の先が打ち抜くはずであったそれがすんでに消え、空を切った。
速い。避ける、でも無い。ほんの少し、ただほんの少し姿勢を変えた。そのようにしか見えない動き。
しかし体勢は崩さない。その程度は予測済み。
右脚でその腹を蹴る。常人ならひとたまりもないであろうその蹴りは、僅かに衝撃を与えた程度か、その勢いで由乃は後方に半回転しつつ着地する。
暗く、寒々しい下水道の中で、夢と希望を心に宿した少女は、野心に身を焦がし人を辞めた男と対峙していた。
「ふうむ…成る程。これが君の力か」
余裕ぶった態度が気に入らない。
身体能力は本郷と互角かそれ以上か。しかしえもいわれぬ不気味な雰囲気は、その真逆。
あちらが抜き身の真剣、鋼の意志を持つ男とするならば、こちらはドブ泥の奥に潜む魔人だ。
しかし、由乃にはまだ手はある。
支給品にしろ、プリキュアの能力にしろ、手の内はほとんど見せていない。『これが君の力か』? 笑わせないで、こんなのまだ序の口よ。
「邪魔しないで」
取り合う気などさらさらない。この男は本郷と同じ、『ただの障害物』。
由乃にとって、自分の真の人生を邪魔する、新たな『中ボス』程度の存在だ。
再び距離を詰める。
男はそれに応じる気配も見せず、堂々と腕を組んだままだ。
「邪魔? 私が、君の一体何を邪魔するって?」
寸前でサイドステップ。
「成る程、君は勘違いをしている様だな」
さほど広くない下水道の壁を蹴る。
「君には何か目的が…いや、目当ての誰かが居るようだね」
すでに由乃は男の頭上にいる。宙を舞い反転、そのま膝を脳天に打ち込む。
「そうだな…一つ、聞くが…」
男が頭を動かして避ける。避けたその先を、右手に隠したナイフが襲う。
奪った支給品の中にあった一つ。
それは、ナイフと呼ぶには大きかった。肉厚で、重く、湾曲した内側に鋭く研ぎ澄まされた刃を持っている。
ククリナイフと呼ばれるそれは、むしろ山刀や鉈に近い重さと切れ味で、山野で立木を切り落とすのにも使う、熟練者が使えば肉を裂き骨をも砕きうる武器。
技術的には劣るが、今の由乃の力であれば、頭蓋をバターの様に切り開く事すら可能だろう。
着地した。
手持ちのカードをほとんど使わずに勝利した、と、その勇士をユッキーに見せたいほどだ。
そう誇って背後に視線をやると、間抜けにも男は、二枚に下ろされた頭部を両手で合わせようと藻掻いている…ように見えた。
「ん…んん〜、少し、ずれたかな?」
その声を、聞くまでは。
◆◆◆
DIOにとって、これは二度目の人生だ。
最初の人生…つまり、ただ目端の利くだけの猪口才な若造、ディオ・ブランドーであった人生は、とうの昔に終わっている。
あの日、あの瞬間。
自らがジョースター家を乗っ取らんとするために仕掛けた数々の策略を、ジョナサン・ジョースターに看破され、追いつめられた最後の頼みに、古代文明の残した遺物、石仮面を被り『人であることを辞めた』そのときに、彼は新たな人生のステージに進んだ。
人ならぬ者。人を超越した者。
人の生命を糧とする支配者、吸血鬼、としての人生を。
その人生も、ジョナサンとの戦いによって早々に一時休止とはなったのだが、何れにせよ今の彼は、吸血鬼であり、スタンド使いであり、正に帝王である。
DIOにとって、全ての人間は『食料』に過ぎない。
勿論、中には有用な人間、DIOに忠誠を尽くす人間もいる。魂において、友情に近い触れあいを得られる者もごく稀にいる。
それらを支配し利用するのも彼の役目だが、それは『食べるための家畜』と、『飼育、或いは愛玩するペット』の差のようなものだ。
人は鶏を喰い豚を喰い牛を喰う。
人は犬を飼い猫を飼い鳥を飼う。
もはや人ではなくなったDIOにとって、この世界に存在するあらゆる人間は、そういう分類によってのみ分けられる対象でしかない。
今、DIOはこの目の前に少女が、どちらに分類できる者かを見定めようとしていた。
始めに出会った少女は、ただ怯えおののくだけの『食料』に過ぎなかった。
次に出会った少年には、利用価値も感じられたが、すでに死んだらしい。
その次、機械の身体を持った男は、『害獣』である。ジョースターの血統、或いはアブドゥルやポルナレフ、花京院などと同じ。
『恐怖を克服して、闇に立ち向かう黄金の意志』を持った、排除すべき害獣、だ。
では、この少女は?
躊躇無く攻撃を仕掛けるその精神。相手を殺す事を躊躇わぬ漆黒の殺意。そして、おそらくは何らかの外的要因で身につけたであろうずば抜けた身体能力。
これは、『有用な狩猟犬』だ。
DIOが二度目の人生において最初に学んだことは、己の策略のみに頼らず、力と恐怖、そして欲望を刺激することで、人間を支配し利用するという事だ。
「君は、天国を信じるか?」
DIOは聞く。
切り裂かれた頭部が少しずれていたのを直し、安定した視線の先に居るのは、1人の少女。
畏怖、混乱、恐慌。
それらがぐるぐると目の中に浮かんでは消え、渦巻いている。
吸血鬼となったDIOの、脅威の再生力。
太陽光か、或いは太陽光と同じ波長を持つ波紋エネルギーを浴びせられぬ限りは、DIOの肉体は首だけになっても死なず、生き延びる。
正に、不老不死、だ。
その脅威をまざまざと見せつけられ、少女は戸惑う。
斬っても死なぬ、撃っても倒れぬ。
そんな相手にどう立ち向かえば良いというのか?
「天国…言い替えれば、人の求める幸福のありか…。それは一体どこにあると思う?
君にとっての幸福…天国の扉は何だ…?」
DIOは問う。問いつつ、少女の目を覗く。
暗く、血塗られた夢を求める、濁り腐った輝きに満ちたその目を。
「…あんたに関係無いでしょ。それが何だっていうのよ」
由乃が会話に乗ったのは、それが相手の手と知りつつも、乗るしかないという判断からだ。
問答を仕掛けると言うことは、今殺すことよりも別の目的がある。
少なくともこの場合、不意打ちを仕掛けるためではない何らかの目的が。
であれば、ここで乗ることは、状況を整理し次の手を打つ時間稼ぎにもなる。
「私は、天国を目指している」
DIOが言う。
だったら勝手に死ね、と、常ならばそう吐き捨てていたかも知れぬ言葉だが、今の由乃はそんな憎まれ口をきいてる余裕は無い。
「天国というのは、別に死後の世界の事じゃあない。私は、より多くの魂を所有することこそ、その天国への扉ではないかと思っている」
距離が、少しずつ、狭まる。
「分かるかい? 絶対なる幸福、絶対なる安心……」
あと数センチ…いやまだだ…あと…。
「私なら、君たちにそれをもたらす事ができる」
言葉が終わるか終わらぬかのうちに、光の蝶が、暗闇を貫く。
やったか?
由乃が「プリキュア・ドリーム・アタック」の叫び声と共に掌から放った光は、圧倒的熱量を伴い下水道の闇を駆け抜けて、遠くの壁を破壊した。
そこにはあの男の痕跡すらない。
その刹那、息も掛かるほどの背後から男の声。
「…今のは、ちょっとばかり冷や汗をかいたぞ」
避けた!? あの技を!?
しかしまだだ。避けられる可能性は想定済み。その後、避けたら近接を取られる可能性は半々。しかしそれに賭けた。
左手に隠していたのは小さなスプレー。
10pほどの円筒状の小瓶は、一見ただの香水瓶であったが、違う。
これは、南米の特殊な植物から精製された『ゾンビルーツのスプレー』だった。
一時的に人の自由意志を奪い、支配する事の出来るガスなのだ。
それを、振り向き様に男の鼻先に吹きかける。
229 :
創る名無しに見る名無し:2011/02/04(金) 21:50:39 ID:maE3Z+2H
支援…というか冒頭の歌酷すぎるだろwwww
吸った! 間違いなく、吸った!
すかさず後ろに飛び退く。効くまでどれほどの時間が掛かるか分からぬ。右手のククリナイフを逆手に構え、警戒する。
今ここで止めを刺すべきか? だが、このゾンビルーツの効果も確認しておきたい。もし説明書き通りのものなら、使い方次第で強力な切り札ともなり得る支給品だ。
その一瞬の逡巡が、全てを決めた。
◆◆◆
DIOは、基本的に女という存在を信用していない。
たしかに、ミドラーやマライア、DIOにスタンドの存在を教えた占い師のエンヤ婆など、部下の何人かは女だ。
しかし本当に身近に置き、近辺を任せられるほどには、女の部下を重用はしていなかった。
不老不死となったDIOにとって、女という性はあまり必要ない。子孫を残す意味がないからだ。
子をなす、子孫を残す、というのは、自己保存本能の別の表れである。
自分自身という個が永遠に存在し得ないからこそ、自分の複製を代わりに残すのだ。
気まぐれに、食料として調達した女の何人かと交わってみたこともある。
そのうち何人かは子が出来たかもしれない。しれないが、そこに何ら感慨もわかず、DIOはそれ以降その女共のことを忘れた。
愛だ、という。
ジョナサン・ジョースターと結婚したエリナ・ペンドルトンもかつてそう言っていた。そしてエンヤ婆もそう言っていた。
DIOがそれらを評するならば、執着、である。
エンヤ婆は自分の子、J・ガイルに執着していた。それはやはり、いずれ死すべき定命の者の執着であり妄執だろう。
別にそれらを無価値だとは言わない。利用できるからだ。しかし同時に、崇高で高邁な価値観だとも思わぬ。
息子に異常な愛情を注いでいたエンヤ婆は、まごう事なき邪悪であった。
息子のためであれば、誰であろうと殺し苦しめ破壊し蹂躙しようと、一切気にもとめない。
そしてこの少女、我妻由乃も又、DIOにとってはエンヤ婆同様に見事なまでに邪悪であった。
愛そのものに価値があるのではない。
愛という名の欲望によって何を成すか。そこで行われる行為にこそ、DIOが求め必要とする価値があった。
「もう分かっているだろうが、私は不老不死だ。何者にも倒されない」
四肢を裂かれ、五体を切り刻まれようとも、その傷は修復され元に戻る。
「毒だとか薬だとか、そんなもの通用しない」
波紋エネルギーを血流を操ることで体外に排出した様に、毒や薬を注射、吸入させられても、それと気付けば体外へ排出できる。
「そして、君たちにその力を分け与えてやる事だって出来る」
ゾンビ化するエキスを注入することも出来るし、DIOの血を与えることで、DIO同様の吸血鬼とする事も出来るし、――― もっとおぞましい事すら出来る。
「ただ、誓えば良い。
このDIOに永遠の忠誠を誓えば、君たちの『幸福』は、私が保証してやろう…」
◆◆◆
「DIO様♪」
雪輝を『ユッキー』と呼ぶときと同様か、或いはそれ以上の甘い声で、由乃はそう呟く。
暗い下水道の中ではあるが、彼女の見据える未来は明るい光明に満ちている。
いかなる原理で止まってしまうか分からぬ為、また、速度は出るが音などからも日が昇り始めれば目立ちすぎる為、やむなくバイクを乗り捨て隠してから、由乃が取った新たなルートは下水道だった。
この街は通常のものとは違っているとは思っていた。この下水道とてきちんと繋がっている保証はない。だから、一種の賭でもある。
あの本郷もここまでは追ってこないだろうし、うまく行けば下水道にいるはずの雪輝への直行便ともなる。だがもし、島まで繋がっていなければ無駄足である。
しかし由乃はそれに賭け、そして『勝った』。
DIOと出会えたのだから。
由乃は知らぬ事だが、DIOは二度、己のスタンド、『ザ・ワールド』の能力で、時を止めた。
一度目は、由乃の放ったプリキュア・ドリーム・アタックを避けた際。
二度目は、一度は不意を突かれ吸入してしまった『ゾンビルーツのスプレー』の成分を体外に排出し、同時に由乃へと『肉の芽』を植え付けたとき、だ。
DIOは、由乃の能力を『有用』だと思い、そして由乃の欲望、底知れぬ血塗られた希望に、『価値』を見いだした。
吸血鬼となったDIOの細胞の一部である『肉の芽』は、それを脳へと植え付ける事で、『DIOへの忠誠心』を喚起させる。
全ての者に通用するとも限らぬし、元々の性格を激変させるまでには至らない。
しかし、『欲深で邪悪な者』であれば、その効果は絶大だ。
由乃は猟犬としての素質がある。彼女の言う『ユッキー』というエサを投げ与えれば、実に見事な働きをするであろう。
それにまた ――― 雪輝が持っているという、『未来日記』。
時を止める『ザ・ワールド』に、未来を予知する『無差別日記』。
この組み合わせは、正にDIOにとってはより確実な勝利をもたらすものではないか?
DIOは、下水道の中で一枚の地図を見つけていた。
恐らくこの実験の主催者が用意したのであろうそれは、この下水道の地図であり、それによれば下水道は、地図上にあるほぼ全ての施設に通じている。
橋の下に、一直線に島へと繋がる経路があったのだ。
由乃は、DIOの強さ、不死性を認め、彼の提案に乗ることこそが最善だと思った。
その判断の半分以上は、時を止められ、知らぬ間に植え付けられたDIOの『肉の芽』によるものであることには、当然気付いていない。
『ユッキー』の存在を至上とする由乃のセカイの中に、新たに起立したDIOという支配者は、少なくとも今現在は矛盾することなく共存している。
彼女はDIOに相談し、DIOはそれに応えた。
仮面ライダー、本クとその同類の事も話し、愛しい雪輝とその周りで起きたこと、また『未来日記』とそれに纏わる殺し合いの事も話した。
DIOはそれら全てを聞き、その上で「何の心配もない」と保証してくれた。
そうだ、DIO様なら、本郷だろうと奇っ怪な鎧の怪人だろうと、恐れる必要は無い。
由乃の中の不安と恐れを、DIOは全て払いのけた。
そして、DIOに教わったとおりに、下水を進んで雪輝を探す。
探して、言われたとおりの場所へと連れて行き、『保護』する。
由乃は今、これまで以上の希望に満ちている。
愛するユッキーを見つけ、DIO様と共に邪魔する者を蹴散らし、そして『天国』…由乃にとってそれは、『ユッキーとの幸せな人生』への扉をくぐる。
それが、新たなゲームでの『HAPPY END』 への、最短攻略ルートだ。
同様に、未来日記を与えられた後継者候補であり、そしてこの実験へとかり出された者達のうち、平坂黄泉と雨流みねねは、かつての戦いと今回の実験の違いを、「意に介さなかった」。
みねねにとって闘争と殺戮こそが人生そのものであったし、平坂にとっては己の正義を実現さえ出来れば、それがどんな場であっても構わないのだ。
天野雪輝は、というと、彼はその違いに気付かなかった。彼の本質はあくまで日常の傍観者であり、闘争も殺戮も全て非日常である。だから、『神選び』と『実験』の違い、その根本的差異についてまで、意識が回らない。回せる余裕もない。
由乃は ――― どうであろうか?
本来、彼女の求める『HAPPY END』 は、神の後継者選びというルールの中で得られるもののはずであった。
雪輝を神にする事がその攻略法であり、そうすれば全てのおぞましきこと、疚しきことも、赦される。いや、無かったことにすら出来るはずなのだ。
すでに今、この『実験』と称する殺戮の場は、その道から大きく外れている。かつてあった因果律の外へと、連れ出されてしまっている。
その事に、彼女は無意識にも気付いている。気付いているが、だからと言って ――― 今更元へは戻れない、戻れるわけがないのだ。
だから、我妻由乃は進む。
以前よりもさらに、後戻りのきかぬ道、やり直しのきくはずもない道を選んで進む。
腕を振って、脚を上げて、ひたすらどす黒く血に塗れた道の果てに、夢と希望を託し続けて。
幸せは歩いてこない だから歩いてゆくんだね
一日一殺 三日で三殺 三人殺せば ご褒美だ
人生は ワン・ツー・パンチ あせかき べそかき 殺そうよ
あなたの歩いたその跡は きれいな血の花咲くでしょう♪
歩くリズムに合わせて、昔効いた気のする古い歌を小さく口ずさんで、再び「DIO様♪」と呟く。
それから少しして、「ユッキー♪」と呟いたとき、彼女の意識に微かなノイズが走った気がしたが、やはりすぐにそれを忘れた。
---
【F-5周辺/下水道内:朝】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康 絶好調 左肩に火傷痕 疲労(小)
[装備]:
[持物]:基本支給品一式 不明支給品1〜3 下水道の地図
[思考・状況]
基本方針:帝王はこのDIOだッ!
1:日中は地下にヒキコモリ予定。
2:下僕の我妻由乃! 天野雪輝の『無差別日記』! この二つが揃えばさらに無敵ッ!
3:ルンゲを見かけたら殺害する。
4:Dr.テンマ、ニナを見かけたらヨハンの事を教える。
[備考]
※参戦時期はヴァニラ・アイス死亡後。
※山村方面に、ダグバが逃がした参加者がいる事を知りました。
※DIOが由乃に指定した「雪輝を保護する場所」は、後の書き手判断で。
【H-6/下水道内:朝】
【我妻由乃@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、キュアドリームに変身中、肉の芽による洗脳中、アカルイミライ
[装備]:雪輝日記(レプリカ) 剃刀 コルトパイソン(残弾3/6) ピンキーキャッチュ@Yes!プリキュア5シリーズ ククリナイフ@現実
[道具]:基本支給品×4、支給品(確認済み)×0〜6 アストロライト液体爆薬入りの小瓶@現実×6 マッチ箱@現地調達 ゾンビルーツのスプレー@バットマン
[思考・状況]
基本方針:DIO様と共に勝ち抜いて、ユッキー(天野雪輝)と共に生き残る。
1:東南市街地の下水道内でユッキーを探し、DIO様の指示した場所で保護する。 (雪輝の意思は問わない)
2:邪魔をする人間、ユッキーの敵になりそうな奴は排除する。本郷猛は必ず排除する。
[備考]
※バギブソン@仮面ライダークウガ は、F-4、コロッセオ周辺の市街地辺りに隠してあります。
【支給品紹介】
【ククリナイフ@現実】
刃渡り20pほど。くの字型に湾曲した内側に刃のある、内反りの湾刀。
【ゾンビルーツのスプレー@バットマン】
ポイズン・アイビーが、南米原産の稀少植物のエキスから抽出加工した催眠洗脳効果のあるエキス。
このエキスをスプレーしかがされた者は、しばらくの間だ自由意志を失った催眠状態になり、他者の命令に従う。
10pほどの小さな香水瓶に入れられており、量は少ない。
(どの程度の時間、どの程度の命令までを聞くかは不明)
以上にござりまする。
人生は ワン・ツー・パンチ 血反吐を吐かせて 進もうよ♪
支援があったから 「お前書き込み過ぎじゃボケ」 言われずに最後まで投下できたよ!
投下乙です!
一瞬、NTR展開かと思ってやばいやばい
そして、DIO様と由乃が組んじゃってやばいやばい
投下乙!
流石のプリキュアゆのっちも帝王には勝てぬ!時止めマジチートだwww
由乃は今までの雪輝>その他の価値観の中にDIO様が入ってきて面白い感じに
とりあえず東南部今すぐ逃げてー!
投下乙!
これは怖面白くなってきたw
DIO様は相変わらず絶好調やでぇ…
ゆのキュア、ここでDIO様の配下入りかぁ。
これで朝は活動できないDIO様の弱点を補える。
悪勢本当に調子いいなぁwww
投下乙です
DIO様かっこよすぎる……
ククリナイフが出てきたのが個人的にツボでした
投下乙
幾つか結末を予想してましたがこれは正義側厳しいわ…
でも由乃なら肉の芽の洗脳すら……って思えるのは何故だろう?
まぁ、どっち道、雪輝以外やべえw
正義は無理ゲーぐらいに追い込んでナンボ。
前半にこれをやらないと
後半になって少ない材料でどうやって対主催を追いつめればいいのかと
頭を抱えてしまう事態になるから。
正義側だけじゃなくて、悪側にも進んで殺し合いしない奴等がたくさんいるしね
数少ないマーダーが活躍出来るのは良いことだ
悪勢の中には殺し合いに乗るどころか、黄金の精神を持ちそうな奴もいてな…
月、お前のことだ。
応援しているぞ。
悪側は殺し合いしない、乗らないじゃなくて布教や人間観察をしたいだけ……
連中は連中で問題多いけどなw
ディオ様はカリスマありまくりに見えて
常に演じているだけの本質は割りと調子に乗る小物だからな
そのあたりで足元をすくわれそう
ゲロ以下ですから
前半は追い込んで追い込んで追い込んで、
それで最後に溜めこんできた伏線や補正という名のご都合で
大逆転をこなすのが正義だからな
ただこれはロワだ。追い込んで全滅もよし
フラグや伏線がそれ以上の超展開によって叩き折れることだって日常茶飯事
どうなるかマジでわからんのが楽しい
DIO様のカリスマが保たれたまま終わっても一向に構わんというわけだ
これって悪と一部の一般による狩りを如何にして正義が止められるかだよな
ぶっちゃけ、正義側からしたら一般枠が死んでもそこまで痛くないのがまた……
最悪、一人残しときゃ勝てるわけだし
まあ、そんな妥協をする奴はいないだろうがw
Lの正義は自己満だから勝利=一般一人生存を狙いだしても不思議ではないと俺は思う
周りにバラすかは別問題として
何故か一般枠の中に馬鹿みたいに強い正義の味方なサンレッドとかも混ざってるからな
結構余裕だな正義側
でもサンレッドは放送後がやばそう…
>>253 今のところ簡単に余裕とは言えないと思うけどな
単純なパワー差なら悪側のパワーキャラ(DIO、ダグバ、悪魔将軍etcetc)の方が強いだろうし
単純な知能戦も悪側の方が強いキャラが多いかと
主催に関しても、仮にもDrマンハッタンの力を再現できて手元に置いているなら
打倒するには厄介極まりないぞ
まぁまだ序盤だからどうなるかわからんけどね、ロワだしw
悪魔将軍はよく知らんが、ダグバは死ぬときの爆発が怖い
少なく見積もっても戦闘参加者は道連れに出来るくらいの火力の爆弾だぞ、あれ
>>256 グロンギの怪人が爆発するのはクウガの封印(or破壊)エネルギーがコアに届くからなので
他のキャラが殴る蹴るや銃、剣で殺害しても爆発しないんじゃね?
(まぁそんなもんで死ぬかわからんがw)
警察が神経断裂弾で殺したグロンギは爆発してないし
劇中だと封印のエネルギー通用しなかったからベルト破壊して爆発せずに死んだわけだしさ
悪魔将軍はパワーだけでなくテクニックもある強敵だから一筋縄ではいかんぞ
259 :
◆uBMOCQkEHY :2011/02/07(月) 23:09:55 ID:n/D1uMcI
お久しぶりです。
作品が完成しましたので投下します。
もし、お時間がありましたら、支援お願い致します。
しえーん!
午前6時。
空が明るさを帯び、闇が薄らいだ頃、一人の声が会場全土に轟いた。
『あー、私の名前は賀来巌……
私も参加者の一人だが、主催者からの指示により、H-4のテレビ局で放送を行うこととなった……』
その一言から始まった、時間の区切りを告げるラジオ。
主催者の指示を受けた参加者――賀来という男の名乗りから始まり、死亡者の名と禁止エリアが淡々と読み上げられていく。
そして――
『本来ならここでマイクのスイッチを切るべきなのだろう……
しかし、私は切らない……
なぜなら、ある悪魔と戦うために仲間を集っているからだっ……!
この世を滅亡に導こうとした悪魔っ…!
その悪魔の名は――』
『えっ…』
『バン!』
『き…聞いて…くれっ…!奴が求めているのは……仲間じゃない……獲物だっ……!
奴はオレを…ゴホッ……!』
『“テンマ”っ!貴様っ!』
放送者のトラブルらしき音声を中途半端に発信したまま、放送は終了した。
「何だったんだ……あれは……」
その寸劇の如き流れを、テンマは呆然と聞いていた。
一体、何があったのか。
息も絶え絶えに訴える、“テンマ”とは誰なのか。
「あの声は……」
聞き覚えがある。
しかし、テンマの記憶が正しければ、その人物は“テンマ”という名ではなく――
「テンマくん、放送の内容、何とかメモ取れたわよ!」
「あ……タイガ……助かった……」
テンマはハッと我に返ると、大河の方を振り返った。
大河は、士郎の前では自堕落な姿を見せているが、実際は教師としてのしっかりとした面も持ち合わせている。
この放送内容のメモも、彼女の機転からであった。
(こういう発想は思い浮かばなかったな……)
テンマは大河の存在に感謝しつつ、大河のメモを覗きこむ。
「………」
テンマの表情に陰りが浮かぶ。
脱落者の中にテンマと大河が求める人物の名は存在してなかった。
しかし――
「アイビーの名前……呼ばれちゃったね……」
大河はメモを握りしめる。
「また……会おうって約束したのに……」
その手は悲しみで震え、瞳からは大粒の涙がポトリと流れ落ちていた。
「タイガ……」
支援
ポイズン・アイビー。
テンマと大河が始めて会ったこの実験の参加者。
植物を自在に操る不思議な能力を持ち合わせ、ワイングラスのように滑らかにくびれた腰や豊満な胸からは蠱惑の色香を漂わせていた。
誰よりも植物を愛し、植物を傷付けるものであれば、どのような人物であれ襲いかかる、著しく偏った激情家であったが、その根底にはやさしさがあることを、テンマと大河は知っている。
大河は涙で赤くはれた目をこすりながら顔をあげる。
「たけるくん……無事かな」
「タケルは……」
名前は呼ばれていない。
なぜ、アイビーが死に、たけるが生き延びているのかは、情報が少なすぎる現時点で特定することは難しい。
しかし、これだけは言えた。
「アイビーを倒した相手は……かなりの強敵だ」
植物の罠で相手を陥れる戦法を得意とするアイビー。
植物単体ではそれほどの力はないが、不意を突かれ蔦に捕まれば、それを破るのは容易なことではない。
テンマ達がアイビーと出会った時には森の罠はすでに完成していた。
あの縦横無尽に張り巡らされた罠を掻い潜り、アイビーを倒すことができたとすれば、相手は相当の歴戦の猛者であろう。
たけるを守ろうとしていたアイビーのことだ。
その猛者と戦いながら、たけるを逃がすことにおそらく成功した。
「だから……たけるの名が呼ばれなかった……オレはそう思っている……」
それが最もしっくりくる流れではある。
無論、そうあって欲しいというテンマの願望でもあるわけなのだが。
「けど……」
けれど、それは所詮、一時的な凌ぎでしかない。
たけるは戦う術を知らない普通の少年だ。
一人のままではいずれ誰かに狙われる。
たけるに危険が及ぶ前に――
「テンマくん!」
大河は立ち上がり、テンマの肩を掴んだ。
「たけるくんを助けに行こう!一人にしちゃ危険よ!」
「タイガ……」
テンマの経験から言わせてもらえば、この広大なフィールドで、たけるを見つけ出すのは苦難を極めることになることは目に見えていた。
ましてや、今のテンマの小宇宙は微弱なものでしかない。
もし、たけるを助けに行けば、アイビーを倒した敵と戦うことになることは必至である。
侵入者が入ったと分ければ、津波の如き物量の蔦で相手をねじ伏せてしまう、あのアイビーの牙城を崩した敵と――。
誰が見ても、テンマ達に不利としか思えない状況。
それでも――
「行こう、タイガ!たけるを探しに!」
テンマの気持ちは大河と一緒であった。
「今、行けば、たけるを保護できるかもしれないからなっ!」
(こんな苦難……今に始まったことじゃないんだっ!)
冥王・ハーデスとの戦いは常に、生死を分ける“苦難”の繰り返しであった。
多くの友や仲間の命が散っていった戦い。
時に打ちひしがれ、慟哭をあげる時もあった。
それでもテンマは戦い抜いてきた。
この戦いの先に、平和があることを信じて――。
そう、例え僅かであったとしても、希望が残っているとすれば、それを掴むために全力を尽くすべきなのだ。
「テンマくんが同意してくれて、嬉しい!
じゃあ、さっそく行きましょ、『ゴウラム』ちゃんで!」
「そうだな…………って、ちょっと、待ってくれ!」
ゴウラムを呼び出すスイッチを押そうとする大河を、テンマは全力で止める。
「えー、何でよ!」
「周囲を見てみろよ!!!」
「え……」
大河はテンマに言われるがまま、周囲を見渡す。
周囲は木々が乱立する林。
アイビーの罠が張り巡らされた森程見通しが悪いわけではないが、仮にもし、ここで馬を走らせようとすれば、その馬は3メートル進む間に、脚を止めなければならないであろう。
「こんな場所で、ゴウラムを呼べば、絶対木々をなぎ倒して着地する!
そうしたら、目立つだろ!
ただでさえ、あのアイビーを倒した奴が近くにいるかもしれないんだ!
ちょっとは用心した方がいい!」
「む……むぅ……」
大河は“ゴウラムちゃんで移動した方が早いのに……”と愚痴を洩らしながらも、テンマの方に理があることを悟ったのか、スイッチをディバックの中に戻した。
「タイガ……理解してくれてありがとう……」
テンマは思わず冷や汗を拭う。
大河は率先してメモをとるなど、テンマにはない機転を持ち合わせている。
しかし、不用意にゴウラムを呼び寄せたりするなど、軽率な行動に出ることも多々ある。
今度、似たような行動に出た時ははっきり注意しよう。
テンマはため息をつきながら、そう決意するのであった。
「面倒臭いけど、河まで戻ってから、ゴウレムちゃんを呼びましょ!」
“では、レッツゴー!”と、大河が元気に拳をあげて、回れ右をした時だった。
「つっ……」
大河の表情が一瞬、歪んだのだ。
「どうした、タイガ……?」
駆け寄ろうとするテンマに対して、大河はわははっと豪快に笑い飛ばす。
「一体、キミの方こそ、どうしたんだね。私はこんなにもピンピンしているぞ!!
だから、すぐにたけるくんの元へ……」
「もしかして、足……何かあったのか……」
「……」
テンマは大河の表情が変わった瞬間、足を庇うしぐさをしていたことを見逃さなかった。
大河は“テンマくんは洞察力があるわねぇ……”と、苦笑いを浮かべながら、左の踵をさする。
「この靴、ハイキング向きの靴じゃなくて、ちょっと擦っちゃったみたい……」
確かに大河が履いている靴は紐のない革靴――21世紀ではローファーと呼ばれる、舗装された道に適した靴である。
当然、テンマにはその知識はないが、一目見て、その硬さから長時間歩くための靴ではないことを察した。
「あははっ、迷惑掛けてごめんね……」
大河は“悪い悪い”と、愛嬌をふりまきながら、詫びる。
しかし、気さくさとは裏腹に、笑みは次第に陰りを帯び始める。
「でもさ……」
大河は言葉を詰まらせ、呟く。
「私の痛みなんて……一人ぼっちになっちゃった、たけるくんの心の痛みに比べれば……痛みにすら入んない……
こうして、私が足をさすっている間にも……
たけるくん、危ない目に合っているかもしれない……
こんな痛みぐらいで立ち止まっているなんて……とっても……もどかしいよ……」
「タイガ……」
テンマは悟った。
大河がこの林の中で、ゴウラムという巨大な飛行兵器を呼ぼうとしたのも、一刻も早くたけるを助けなければならないという焦りからであったことを。
今、目の前で涙する女性の気持ちに答える方法は一つしかなかった。
「タイガ……河まで急ごう!」
テンマはそう叫ぶや否や、大河の腕を引っ張る。
「え……え〜!!!」
大河が状況を把握した時には、テンマは大河を背負い、林の中を駆け出していた。
「な……な……」
驚いたのは大河の方である。
大河を背負っているのは士郎よりも幼い少年。
体格も士郎と比較すると一回り小さいくらいであろう。
そんな少年が体重(自主規制)kgの成人女性を、二宮金次郎の薪の如く背負い、悪路を走り抜ける。
しかも、この少年はその程度のこと屁でもないらしく、涼しげな表情のままで――。
「え……えーと…テンマくん…」
大河の心に、何とも言い難いむず痒さが込み上がってくる。
それは、物のように扱われていることへの不平なのか、大した怪我でもないのに赤ん坊のように背負われていることへの照れなのか。
とにかく、この入り混じった感情を整理することができない大河は、“おろしなさ〜い!”と、テンマの背中をポカポカ叩く。
「ははっ、くすぐったいよ、タイガ!」
テンマはその子供じみた反応を大らかに受け流す。
(けど……)
その瞳は真っ直ぐに林の先――たけるがいるであろう東の方角を見据えていた。
たけるは東洋人独特の健康的な褐色の肌の持ち主であり、その天真爛漫な笑顔は太陽が燦々と輝く浜辺を連想させた。
(あの笑顔を消してなるものか!)
たけるが生きているという僅かな可能性を信じ、テンマは河を目指した。
支援
惜しみない支援を
【B-9/林:朝】
【テンマ@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、未確認支給品1?
[思考・状況]
基本行動方針:聖衣を取り戻し、この場から脱出する
1:タイガを守る
2:パンドラを探す
3:バットマンとマッティーに会ったら協力を頼む
4:たけるを助ける
【藤村大河@Fate/stay night】
[属性]:一般人(Isi)
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、スーパーマンのコスチューム、Pちゃん・改@天体戦士サンレッド、装甲機ゴウラム@仮面ライダークウガ
[思考・状況]
基本行動方針:みんなと一緒に生きて帰る
1:士郎を探す
2:テンマが心配
3:バットマンとマッティーに会ったら協力を頼む
4:たけるを助ける
※承太郎から、吉良、DIOについて聞きました。
※装甲機ゴウラム
クウガの支援のために作られた、古代の兵器。自律飛行が可能。
最高時速500km/hを超えるが、本ロワにおいては、性能が大きく制限されている。
また、バイクと融合することでその性能を大きく向上させるが、ビートチェイサー2000以外と融合した場合
融合解除後に金属部分を失い、化石化してしまう。(金属を補充出来れば再生可能)
一度呼び出した後は、呼び出した人物の付近を飛行し、命令がなくとも自由意志で支援する。
その人物が死亡した場合は、最も近くにいる聖なる心を持つ人物に自動で委譲される。
もしくは支援対象本人による委譲宣言により、支援対象を変更可能。
※スーパーマンのコスチューム
バットマンの友人、クラーク・ケントがスーパーマンとして活躍するとき着るコスチューム。
スーパーマンのチート的能力は、全て本人の能力のため、服に特殊効果はない。
※Pちゃん・改
フロシャイムのヌイグルミ怪人チーム「アニマルソルジャー」の一員。
ヒヨコ型の怪人で、自身の改造のしすぎにより、会話もほとんど出来ない。
宇宙空間、深海を航行可能、液体金属のボディ、ビーム砲、核兵器など、フロシャイム最強クラスの能力を誇る。
ただし、すぐに充電が切れてしまうため、長時間は戦えず、サンレッドを倒すには至らない。
充電に成功しても、上記の能力は大きく制限されているものと思われる。
一応、宣言しておいた方が良いか。
ラスト代理投下まで終了です。
投下乙!
テンマは放送の主に気付いたかな?親父との再会は果たしてあるのか
タイガーとの絡みは和む。実に和む。数少ないロワの清涼剤やでえ……
二人は果たしてタケルwithドラ様と再会出来るのか?一番の不安要素は松田ァ!だったりするけどw
投下乙
テンマとトラはいいコンビだなw
ホント、このロワではいい清涼剤だわ
さて、ドラ様以外にも松田ァ!がいるんだよな……
揺らぎのある正義や一般枠のなかではしっかりした大人だねタイガーさん
10日にしたらばに投下されたSSが、まだこちらに投下されてない模様。
一応代理投下行きます。
683 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:51:04 ID:lBj7m9KE
「何なんだよ、これはよォーっ!?」
目を覚ましたら炎の中に囲まれていた。そんな訳も分からない状況にサンレッドはパニックになっていた。
「あの変態カラス避けヤローが目覚めてからそれから…。クソッ、後からは何も思い出せやしねぇ…」
何故こんなことになったのか、必死に考えてみるが、これといった記憶は思い当たらない。
いつもの二日酔いで記憶がぶっ飛んだか?いや、そんなことを考えるよりも、まずは逃げることが先だ。
そう思い、サンレッドは一目散にこの場を去ろうとする。
その直後
「あー、私の名前は賀来巌……」
第一放送がサンレッドの耳に響き渡った。
「かよ子が死んだ…だと?何言ってやがんだよ、あのヤローはよ…?」
賀来の放送によって上げられた名前の列は、細かい内容こそ頭に入っていないものの内田かよ子という名が呼ばれただけでも十分すぎるほどサンレッドに大きな衝撃を与えた。
そもそもこの殺し合いがヴァンプ将軍の仕業だと(勝手に)思っているサンレッドにとっては信じがたい話だ。
かよ子とヴァンプは近所付き合いで仲がよい。そんな関係にあるヴァンプがかよ子を死なせる…といったことは考えられない。
というか、あの小物臭いヴァンプが誰かを殺したり死なせたりするようなタマじゃないことは分かるほどサンレッドはヴァンプを心底から悪だと思ってはいない。
だったら、今の放送は…
「熱ぢぃっ!?」
ガラでもなくいろいろ考えている間も、炎は容赦なくサンレッドを襲う。
「と、とにかく今は考えている暇がねぇ!あの放送だって悪戯かなんかだろ!きっとそうなんだよ!」
こんな状況で物事にふけっている余裕は無い。
サンレッドは、とりあえず今の放送は聞かなかったことにして、ただひたすらこの場を脱出することに専念することにした。
だが、しかし
「・・・チッ、どこもかも炎で囲まれてやがる。どーやって逃げりゃいいんだよ?」
炎。炎。炎。
サンレッドが辺りを見渡してもどこもかも炎に包まれていて見た限りだと逃げ場は見当たらない。
このままだとなすすべなく焼け死んでしまう。
「冗談じゃねー・・・。灼熱の戦士であるこのオレ様がよりによって炎で死ぬだと?笑いものってレベルじゃねーぞ?」
いっそ炎を無視して突っ込むか?
そう思ったが、そもそも黒い煙や巨大な炎の壁が視界を塞いでいるのでどこから突っ込めばいいかも分からない。
用は、完全に手遅れ。
サンレッドは将棋やチェスでいう、チェックメイトにはまったのだ。
「チックショー!シャレになんねーよ!オラァ!!」
ヤケクソで手に持っていた鋼のマスクを思いっきり投げ飛ばす。
さっきから手に持っていたその金属マスクが炎の熱を吸収して熱かったというのも理由でもあった。
だが、その行為もサンレッドにとっては意味はなさないだろう。
「…チッ、ここまでか。ヴァンプのヤロー。後で覚えとけよ…」
もう何をやっても無駄なのだろうか。そう思ったサンレッドは、全てを諦めたかのように膝を付いて座り込んだ。
684 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:52:07 ID:lBj7m9KE
ドバシャー!!
「ウオッ!?」
その時、今度はサンレッドの視界が白い粉塵で真っ白になった。
何が起こったのかとその方向を見ると、なんとそこで激しく燃えていたはずの炎の壁が吹き飛んでいた。
『おーい、こっちだ!早く来い!』
ひょっとして助かったのか?
誰かが炎を消し飛ばし、声をかけてくれているのだろうか。
無意識のうちに声があったところへ足を運ぶと、微かながら炎の道が出来ており、その向こうには人影がちらついていた。
「助かった…のか?」
◇ ◇ ◇
「あー、なんつーか…ワリィな。こんな炎の中を助けてくれるなんてよ。えーっと、あんたの名は…?」
無事に炎の中を抜け出したサンレッドは、近くにあったベンチに座りこみ自分なりに感謝の言葉を示す。
「俺は剣持勇。警察の者だ。人々を守るのが仕事のようなものだからな。礼はいい」
剣持という名の中年は答える。
彼によると、放送の少し前に激しい爆発が起き、駆けつけてみるとゴミ処理場が火の海に包まれていたという。
爆発なんていつ起きたか?なんて傍から見ればマヌケなことをサンレッドは思っていたが、それはとりあえず置いておく。
「あー…そう。ところで、よくオレの居場所が、いやオレがあの中にいることが分かったな」
「ああ、それか。突然こんなものが炎の中から飛び出してきてな。誰かが炎の中から投げつけて助けを求めているのかと思ったんだ」
そう言う剣持の手には、ついさっき自分が投げ捨てた鋼のマスクが握られている。そしてどこかで調達してきたのか、傍らにはいくつかの消火器が転がっていた。
ああ、なるほど。八つ当たりで投げつけたマスクがこんなところで役立ったとは。
だが、間接的に命を救ったはずのそのマスクを見ていると、なんだかムカつきを覚えるのだが…
「ところでだが、何故お前はあの炎の中にいた?あの爆発は誰が起こしたのか?」
「いや…。それが、よく覚えていねぇ…。いつの間にかあの炎の中にオレがいたとしか…」
「…はぁ?あんな爆発に巻き込まれて、頭に残らないわけが無いだろう」
「だーかーらー!本当に覚えてねーんだよ!カラス避けヤローが目を覚ましてからそれっきりで…」
「本当か?しらばっくれているんじゃないだろうな。お前の態度からだと、金田一のように頭が良くない俺から見れば、お前が爆発を起こしたようにさえ感じるぞ…」
なんなんだよ、このオッサンは!?
必死にありのままのことを伝えようとしてもまるで聞いちゃいない。
マッポというからには証拠という証拠を搾り取ろうとする魂胆は納得できるだろうが、ここまでしつこいとは…
助けてもらっといて恩知らずかもしれないが、スゲェむかつく。ぶっ飛ばしたいくらいに
「あーもう。誰か、本当のことをこのオッサンに説明してくれよぉ…。このままだと、オレの怒りが爆発寸前…」
サンレッドは頭を抱えながら、殺し合いが始まってから溜まりに溜まっていた怒りを抑え俯いていた。
685 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:53:27 ID:lBj7m9KE
『サンレッドよ。私が全てを話してやるぞ』
と、そこへ一人の男が現れ、サンレッドの名を呼ぶ。
その男の外見はというと
1.頭に折れたモップの毛の部分を被っている
2.半袖の丈夫そうな鎧を着用
3.下半身はパンツだけの男
…どう見ても変態である。変態以外の何者でもない。
『サンレッドよ…。しばしの仲だったとはいえ、このロビン…』
「黙れ、変態モップ頭!オレはてめーなんざ知らねーっ!!」
同等の変態度の誇る平坂黄泉に出会った当時のように、サンレッドは反射的に蹴りを仕掛けた。
それも、今までの鬱憤の晴らすがごとく、情け無用の一撃を
ドグシャア!
『アッー!!!!!!!!!!』
変態モップ頭の股間にそびえ立つ、立派なゴッサムタワーにぶちまけた。
「あー…ちっとやりすぎちまったか?」
ついうっかり急所を攻撃してしまったサンレッドは、恐る恐る相手の顔色を覗こうとする。
だが、先に相手の具合を調べていた剣持はこう言った。
「…だめだ。急所を潰され、死亡している」
「はぁ?冗談だろ、オイ!?」
【変態モップ頭 死亡】
「………(汗)」
「…とりあえず、殺人の現行犯としてお前を逮捕する」
瞬間、剣持に手を捕まれ、ガチャリと手錠をかけられる。
「なんでそーなんだよぉーッ!つーか、あれで殺っちまったってシャレになんねーよ!?」
「俺たちも男だから分かるだろうが、アレは相当痛いぞ?ショック死するのも無理は無い」
『ま、待ってくれ…』
「うぉっ?死人が生き返った!?」
剣持がサンレッドをどこかへ連れていこうとする直後、死んだと思われたモップ頭が剣持の足をつかみ、引き止めようとした。
『わ、私は超人レスラーなのだ…。急所を攻撃されるなど、リングにおいてはよくあること…。だが、やっぱり痛い…(汗)』
そして、正体不明のウイルスで復活したゾンビか何かのように、ゆっくりと立ち上がった。
【変態モップ頭 生存確認】
686 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:54:31 ID:lBj7m9KE
◇ ◇ ◇
「…オメー、本当にあのロビンか?何つーか、マスク取ってモップ被っただけでまったく別人に感じるんだが…」
「…そうか。まぁ、無理も無いだろうな。この姿はかつての復讐鬼だった頃の私と酷似しているからな…」
「あー、そう。ま、この辺は俺たちとは関係なさそうだし細かいところはごちゃごちゃ言わねぇ」
「ところで、何故お前はそんなモップをわざわざ被っているんだ。サンレッドでなくとも、誰だって変人に見えてしまうぞ?」
「うむ、それはだな…」
ロビンマスク(変態モップ頭の正体)は辛くも起き上がった後、サンレッドに自分の正体を明かし何故自分がこんな姿になってしまったのかを語る。
サンレッドがカラス避けの男に催眠術で操られていたこと。
アリサが黄色いボンテージを着た女に殺されたこと。
その女が仕掛けた爆弾で自分たちが炎の中に閉じ込められたこと。
マスクを脱ぎ捨ててサンレッドの拘束を解き、そのままカラス避けの男を爆殺したこと。
そして放送後、死なせてしまったと思っていたサンレッドが放送でまだ名前を呼ばれていないということから、まだ生きているのではないかと思い急いで戻ってきたという。
覚えの無い、だが本当ならば辻褄のあうロビンマスクの事実にサンレッドは頭を抱えうつむく。
「マジかよ…ぜんぜん覚えてねぇ…」
「そうか、それほどまでに、あの男の催眠術は強力だったということだな」
敵ながらあっぱれだった。その点だけは、ロビンマスクは感心しているようだ。
「それにしても胸糞悪くなる話だな。年半ばいかぬ少女を殺した挙句、爆弾で皆殺し…。
俺は今まで多くの殺人犯を見てきたが、ここまで腹立たしい話はほとんど無かったぞ」
ロビンマスクの話を傍から聞いていた剣持はというと、彼が語る惨劇に怒りを露にし、身を震わせていた。
催眠術とか言う訳の分からない話があったものの、それ以上に酷い惨状の前にはそんなことは頭に入らない。
それほどまでに直情的で正義感が強い警官である、剣持の感想である。
「警官を務めている剣持どのでもそう思うか。だからこそ、私はここで立ち止まるわけにはいかんのだ。
アリサ嬢だけではなく、サンレッドには辛いだろうがかよ子さんも死んだ。他にも10人ものの犠牲者がいる。
私が殺したあの悪党も含まれているだろうが、それ以外はどうかは分からない。
アリサ嬢のようにか弱き者かもしれないし、あのカラス避けのような悪党が成敗されたのかもしれんが…とにかく犠牲者が出ていることは確かなのだ」
「………」
サンレッドは答えない。剣持は相変わらず怒りで拳を奮わせるばかり。
687 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:55:23 ID:lBj7m9KE
「私は立ち止まらん。この手で弱き者を守り、悪を成敗する。だからこそ、私は行く。
あの黄色い女は放っておくと何をしでかすか分からんし、あの悪魔将軍もいる。こうしている間も犠牲者が出ないとは限らないものだからな」
ロビンマスクはくるっと背を向き、サンレッドたちから離れていく。
表向きでは隠していただろうが、相当怒りと自責の念でいっぱいだったのだろう。足取りだけでもそれらのオーラが痛いほど伝わっている。
「………」
剣持は他にも山ほど聞きたいことがあったはずなのだが、なぜかロビンマスクを呼び止めようとする気になれなかった。
あんな危険そうに見える奴を野放しにしていいのかと傍から見ればそう思えるが、あれでもかなりの正義感に満ちた男なのだろう。先ほどの彼の誓いともいえる言葉は嘘偽りを感じない。
そして、その正義感と直情的な性格は自分に良く似ている。もし自分がロビンマスクと同じ立場だったら同じような行動を取ってしまうだろう。冷静沈着な明智がいない今ならなおさらだ。
だが、それでもどうしても言いたいことがある。それは…
「…待てよ」
そんな中、空気を読めないかのようにサンレッドがロビンマスクを呼び止める。
その声に反応し、ロビンマスクもこちらを向かずとも足を止める。
「オメーがあの放送がマジだと思ってんのか?かよ子が死んだっていう…」
「少なくとも私は本当だと思っている。現に目の前で殺されたアリサ嬢も名を呼ばれた。そして、定期放送はルールでもあるからな。それに嘘偽りは無いだろう。
お前も口で否定しているだろうが、内心では同じことを思っているはずだ」
「………」
ロビンマスクの答えにサンレッドはしばし黙る。
そして、一息ついた後
(チッ、そうかも知れねーな…。オレはてっきりヴァンプの野郎のイタズラかと思っていたけどよ…
あいつがあんな手の込んだことが出来るわけねぇしする度胸もねぇ。こりゃ、アイツの仕業じゃねぇ。マジなイカレ野郎の手立てだろーな…)
そう思わざるを得なかった、サンレッドだった。
688 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:56:10 ID:lBj7m9KE
サンレッドの態度から見て、彼も全てを悟ったであろう。そう思い、ロビンマスクはまた歩みを始める。
すると、そこへ…
カラン…コロン…
鋼のマスクが自分の足元へと転がってきた。
そう、今までずっと自分が被ってきた大切なマスクだった。
「…忘れもんだろ。持ってけよ」
後ろからサンレッドのやる気の無い声が聞こえる。彼なりの気遣いだろう。だが、しかし…
「いや…。それは受け取れない」
「…はぁ?」
ロビンマスクは、足元のマスクを拾う素振りすら見せず、ただ転がっているマスクを見つめるのみ。
「正義超人を名乗っておきながら、目の前の少女を救うことの出来ぬ私に、それを被りロビンマスクを名乗る資格は無い」
「…よく分かんねーけど、オメーからマスクを取ったら何が残んだよ。いや、その鎧とパンツだけで十分っちゃ十分だけどよ。それと、モップ頭」
「ロビンマスクを名乗れない今の私には、かつての復讐鬼『バラクーダ』の姿がお似合いだろう。アリサ嬢もここにいるならば、同じようなことを言うだろうからな」
「いや、あのガキの場合、その格好をなんとかしろって言うんじゃ…」
「(聞いていない)そう言うわけだ。だから、そのマスクは置いていく。しばしの間、預かっていてくれ」
(ダメだ、聞こえちゃいねぇ…)
サンレッドのツッコミがまるで耳に入っておらず、激流になすすべなく流されるかのように勝手に話が進んでいく。
「(あー、もうメンドクセェ)ったく、分かったよ。こんな趣味悪ぃマスク、お荷物以外の何物でもねーけどよ。そんなにいらねーってんなら持っといてやるよ」
でも、何だかんだで義理堅いからなのか、サンレッドはマスクを拾いバッグの中に入れる。
「ったく、今度テメーに会ったらムリヤリ被せてやりてーぜ」
「心配は無用だ。次にそなたに出会うときは、ロビンマスクを名乗るにふさわしい男になっているだろう。いや、必ずやなってみせると誓おう」
ロビン…いや、バラクーダはそう宣言し、歩み始める。
こんな姿を自らさらけ出してでも、彼は目的のために前へと進み始めるのだった。
689 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:57:48 ID:lBj7m9KE
「待ってくれ」
だが、更にサンレッドとは別の声がバラクーダを呼び止める。
今までずっと沈黙を保っていた剣持からの声だった。
「一人で行くのか。俺たちが一緒ではいかんのか?」
「すまない、剣持どの。訳ありだが…それは承知できない」
せっかくの剣持の好意だが、バラクーダはそれを突き放す。
進んで復讐鬼となった彼にもプライドがある。先ほどまでロビンマスクを知る者と一緒だと、気まずい気持ちがあるのだろう。
「ならば、忠告だけでもしておく。これだけは忘れないでくれ。
復讐だとか正義だとかさんざん言っていたが…そう語りながら犯罪に手を出した人間を俺は何人も見てきた。
お前もそれに捕らわれすぎて、取り返しの付かないことだけはするなよ」
「…承知した。それも徹した上で、私はロビンマスクを名乗れるよう努力しよう。それでよろしいかな?」
「分かった。その言葉を信じるぞ」
お互いに相槌を打ち、了承を確認する。
そして、今度こそバラクーダは前へと進み、あっという間に姿を消す。
残されたのは、二人の男と、未だに近くで燃え続ける炎の嵐とそれに焼かれる建物の悲鳴だけだった。
【G‐10/ゴミ処理場近辺:朝】
【ロビンマスク@キン肉マン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:マスク喪失、軽い火傷、ゴッサムタワーが痛む
[装備]:いつものリングコスチューム、頭にモップ(変態モップ頭)
[道具]: 無し
[思考・状況]
基本行動方針:正義超人として行動する。それを貫き通し、ロビンマスクの名を名乗れる男になる。
1:黄色い女(雨流みねね)を探し、凶行を止める。
2:なのは、すずかを探す
3:うう……マスク……
[備考]
※参戦時期は王位争奪編終了以後です。
※アノアロの杖が使えるかどうかは不明です。
※マスクを失い、バラクーダの外見となっています。モップが取れると長髪風ではなくなります。
※ヴァンプを悪行超人として認識しています。
690 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 03:59:16 ID:lBj7m9KE
◇ ◇ ◇
「あーあ、何やら何までめんどくせー奴だったな」
バラクーダが去った後、サンレッドは本人がいないことをいいことに真っ先に本音を漏らした。
「まぁ、否定は出来んな。だが、不思議と好感を持てる男だったと俺は思うぞ」
「はぁ?オマワリさんよぉ、あんたの目は腐ってんのか?
あんな見た目だけでも十分犯罪者くせぇアレをどーやったらそんな目で見れるんだよ。
オレがあんたの立場だったらあんなの即タイホだぜ!?」
「いや…なんだろう。外見さえ目を瞑れば、警官として勧誘したくなるほどの正義漢だったから…と言うしかないだろうな」
「ムチャクチャだな…」
サンレッドは呆れ顔になりながらため息をつく。
「ところで、お前はどうなんだ」
「は?」
突然話がそれて妙なことを聞かれたサンレッドは疑問に思う。
「これまでの話の流れからすると、お前も放送で呼ばれた名前の中に知り合いがいたようだからな。それに関してお前はどう思っているんだ?」
「……」
剣持の質問を聞いた瞬間、サンレッドはピタリと動きを止める。
内田かよ子
サンレッドと同棲している女性で彼の恋人である。
そんな彼女が6時間足らずで何者かに殺され、この世を去った。
そのことに対し、彼はどう思うのだろうか。
「分からねぇ…。分からねぇけどよ…」
瞬間、近くにあった壁が陥没しひび割れが起きる。
どうやら、サンレッドが素手でコンクリートを殴り砕いたようだ。
「今、オレは最高にムカついている。ただ、それだけだ」
691 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 04:00:12 ID:lBj7m9KE
「…もし、構わんならば、お前も俺と同行するか?」
「なんだよ、突然」
「いや、今のお前は何もすることが無くて無気力なように感じてな。そこで、俺と一緒に警官としての仕事を手伝ってもらおうと思っただけだ」
「……」
突然の剣持の誘いだが、サンレッドは何も答えない。
「俺は今、一人の神父を追っている。名前は賀来巌だ。残念なことに、行方が分からなくなったがな。
あの放送が奴本人とは思えんし、手詰まりに近い状態だが…」
「……」
「お前も付き合ってみないか?…警官として働いてみるのも、悪くないかもしれんぞ?」
そう言い、剣持はサンレッドの顔を見やる。
「オレにサツになれってか?ガラじゃねーなぁ」
「…ダメか。流石にムシがよすぎるか…」
どう見てもチンピラにしか見えないこの男に働けと言っても無駄なのだろうか。
そう思った剣持は心の中でため息をつくが…
「…いや」
うつむいたままだったサンレッドは、ここでふと顔を上げた。
「…でもま、このままボケッと突っ立っているよりはマシか。
いいぜ、刑事さん。オレも、ウサ晴らしついでに付き合ってやっからよ」
なんだかんだ言って、相手は自分を炎の中から助けてくれた命の恩人なのだ。
こういう形で借りを返すのも悪くは無いだろう。そうサンレッドは思った。
「そうか。感謝する」
「勘違いすんじゃねーぞ。オレは借りを返すだけだからな。あと、ついでにウサ晴らしも兼ねてな」
悪ぶってはいるものの、灼熱のヒーローは情に厚い男なのだ。
「さて、これからどうするかだが…」
「とりあえず、テレビ局に行ったらいいんじゃねーの?よく覚えてなかったけどよ、あの放送ってあんたが探していたヤツのものなんだろ?」
「いや、あれが本物の神父だとは俺には思えんが」
「つっても可能性はゼロじゃねぇじゃねーか。どっちみちそれ以外に手がかりがねぇんじゃ、そっちに賭けるしか無いだろ」
「…確かに、それも一理あるか。それに、ブラフだったとしても主催者の手がかりを得られる可能性だってある。そう考えると、行かない手は無いな」
「んじゃ、行くか」
「おう」
692 : ◆KQoCua90H.:2011/02/10(木) 04:00:59 ID:lBj7m9KE
剣持は思った。
自分がサンレッドを誘った辺りから彼の中の正義が見えたような気が…いや、元から持っていたものをやっと表へ引っ張り出してきたような感じだった。
自分の勘の当たり具合など金田一の推理の確実さと比べると雲泥の差だが、それでも自分はそう思った。
この腐ったゲームを終わらせるには、他にも正義感のある者たちが必要だ。
ロビンマスクのような者がいればいいし、そうでなくてもサンレッドのように引っ張り出してもいい。
今後もこのように丸く収まるといい…と願う剣持だった。
【H‐9:ビル建設現場:朝】
【サンレッド@天体戦士サンレッド】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:全身に筋肉痛のような痛み、軽い打撲
[装備]:お手製マスク
[道具]:基本支給品一式、マルボロ(1カートン)@現実、ジッポーのライター@現実、ロビンマスクのマスク@キン肉マン
エビスビール(350ml)×9@現実
[思考・状況]
基本行動方針:剣持と同行し、借りを返す。
1:ヴァンプ将軍とさっさと合流し、主催者をシメる
2:かよ子を殺した奴をブチのめす
3:なのは、すずかを探す
[備考]
※催眠中の記憶はありません。何かのきっかけで蘇る可能性はあります。
※悪魔将軍の説明について聞き流しているのでほとんど覚えていません。ロビンマスクもサンレッドがきちんと聞いていると思っているので、この作中でも再度話したりしていません。
※なのはとすずかのことを覚えているかは不明です。あのときのアリサの必死さ(と恐ろしさ)次第では覚えている可能性もあります。
【剣持勇@金田一少年の事件簿】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、主催者に強い怒り
[装備]:マテバModel-6 Unica(装弾数6/6)@現実
[道具]:基本支給品一式×2、手錠とその鍵(サンレッドからは既に外しています)、不明支給品0〜4(うち0〜2は、賀来の分。判明した支給品の一つは手錠)
[思考・状況]
現在の方針:テレビ局へ向かい、調査する
基本行動方針:この事件を金田一一と共に解決する
1:金田一と合流する
2:放送は必要な部分以外はブラフだろう。
3:というかここ何処だよ?
4:異次元? MWという毒ガス兵器? 死神? ばかばかしい…。 そういや、催眠術もあったような気が…。クソッ、頭が痛くなってきた…
[備考]
※参戦時期は少なくとも高遠遙一の正体を知っている時期から。厳密な時期は未定。
※Lの仮説を聞いています。
以上で代理投下終了。
題名は「灼熱の赤が燃える」だそうです。
V、間桐慎二を投下します。
Vという存在は無政府主義だ。
もちろん、主義主張をするだけではない。
彼は人を殺した。物を爆破した。人を変えた。
苛烈なまでに。冷酷なまでに。
激しさを秘めながら、心の中は下面に隠れた素顔のように明らかにされない。
だが、彼は自分を理解されたくない、と考えているわけではない。
むしろ、もっとも誰かに理解されたいと思っているのではないだろうか。
そうでなければ、襲われている少女を二人も救うことなどなかったはずだ。
本当にそうだろうか。
彼は決して自らの心情を吐露したりはしない。
ただ魅せるだけ。ただ示すだけ。
そうして他社の変容をも受け入れる。
もしかすると、彼は作りたがっているのかもしれない。
仮面の怪人、Vという存在を。
□
間桐慎二は目を覚ましていた。
激しい痛みから失神し、どのくらい経ったかはわからない。
いくらか痛みが和らいだことから判断すると、かなり寝ていたのだろう。
慎二はうっすらとまぶたを開き、周囲を確認する。
頬は砂浜に押し付けられ、波の音が聞こえてきた。
風から潮の匂いがして、髪がべたつきそうだと思った。
(そんなのんきなことを考えている場合じゃないッ!)
慎二は焦りつつも、慎重に神経を尖らせる。
拘束はされていない。あのバケモノと男ふたりから逃げるなら、今がチャンスだ。
そう思って全身に力を入れた時だった。
『目覚めたか、迷い人よ』
バレている、と慎二は気づいて跳ね起きた。
警戒心をむき出しにして、傷の痛みに顔をしかめながら相手を確認する。
そいつはバケモノの女でも、不気味な雰囲気の男でも、いけ好かない美形でもない。
朝日の昇る海を一心に見つめる、仮面の怪人。
「ま、またお前か! いきなり現れて……何者だ!?」
『ふふふ、名は失ったと心得よ。炎に呑まれ、灰となったのだ。
それでも呼びたいのならば、“V”と呼ぶといい』
慎二は答えずキョロキョロと逃げ道を探した。
Vがわずかに友好的な態度をとっていることにさえ気づかない。
もっとも、平時でもVの態度には気づかなかっただろうが。
『落ちつきたまえ。今のところ君を害するつもりはない。胸の手当てが証拠だ』
「そんなこと言って、油断したら殺すつもりだろ! 僕は騙されないぞ!」
手当てを確かめながらも、慎二は言い切る。
その物言いに対しても、Vの反応は変わらない。
仮面を被っているため、表情はわからないのだが。
無言で睨み合うだけの時間が過ぎた。
すると、慎二の腹が空腹を訴える。
「ぐっ、こんなときに……」
『ついてきたまえ』
そう言って振り返るVから、逃げれるか少し考えた。
結果、ボコボコにされた最初の出会いを思い出し震える。
小さく舌打ちをしながらも、慎二は従った。
一軒の木造建築は数十人入れるほどの広さを持っていた。
のれんが奥の厨房と客席を隔てている。
壁には木札のメニューが置かれていた。
海の家、というのはどこも変わらないものだ。
かつて友人や取り巻きと共に来た場所を思い出しながら、慎二は奥の厨房を見る。
ジュージューと何かを焼く音が聞こえる。
肉を焼いているのだろうか。いい匂いが漂ってきた。
匂いに刺激され、腹の音が止まらなくなっている。
そう、慎二にとって意外な行動をVはしていた。
料理、と言う行為をだ。
(今のうちに逃げるか?)
何度目かわからない思考を続けるも、そのたびにVが振り返ってくる。
こちらの心を読んでいるかのような行為に、慎二は怖気が走った。
今度もまた、視線を送られるのだろうか。
戦々恐々としていると、焼いている音が止む。
『さあ、空腹を満たすといい』
そう言ってエプロンをつけたままのVは、作った朝食を木のテーブルに並べた。
目玉焼きが一つにハムが三切れ。そしてコッペパンが二つほど。
衛宮なら、ちゃんと和風の朝食が出るのに、と不満を内心漏らす。
とはいえ、この現状で料理に手をつけるほど、慎二はVを信頼していない。
「いったい何を企んでいる? 毒殺か!? 僕は騙されないぞ!!」
『いま殺すのなら、寝ているときにそうしている。
事実、君を捕えた三人はそのつもりだったがね』
Vに告げられた事実に、慎二は恐慌を起こしそうになった。
どうにか反応を隠し、表情をさらに険しくする。
「じゃあ、お前は僕に恩を売っているつもりなのか?」
『恩義を感じるのなら、私ではなくナノハと言う少女にしたまえ。
彼女は君に襲われたにもかかわらず、罪を許した。普通はできないことだ』
「ハッ! そいつはとんでもない馬鹿だ」
『ある意味、その通りだ』
慎二は意外そうにVを見た。彼は彼で、仮面の下に切りわけたパンを詰め込んでいる。
『汚らわしい犯罪者が聖女に心を打たれて改めることなどない。
ただ待っているのは、正義の鞭のみだ』
「お前……ッ!」
侮辱の言葉に慎二は怒りをあらわにする。
Vの表情が、仮面とはいえまったく変わらないのも怒りに拍車をかけた。
『だが、彼女の思いを無為にするのも心苦しい。
それに、君は理念が欠片もないが、その身体能力は惜しい』
慎二はまたも疑問符を浮かべる。
『問わせてもらおう。君はなぜ悪疫のようなルールに囚われ、主催者の意のままに権利を奪われなければならぬのか?
それだけの力を得てなお、首輪の主を誅殺しようとしないのか?』
「だって、それがルールだろ! 強い奴が生き残る!
魔術師のルールで、僕ら人間の基本的な本能だ。弱肉強食って奴さ」
『ならば、俺を殺してみるか?』
慎二の動きが止まる。
Vからかつてない圧力が全身を締め上げている。そんな錯覚を起こした。
『ふふふ、冗談だ。だが、考えてもみたまえ。
圧倒的力を持つ相手に、知恵と勇気、そして希望を武器に立ち向かう!
心が踊る状況だとは思わないかね?』
「ハッ! 勝手に言っていろ。だいたい、お前は言い方に芝居かかっているんだよ」
『芝居心こそ、大事なものさ』
「いちいち癇に障る奴だな。お前は僕をどうしたい!?」
我慢できずに立ち上がり、唾を飛ばす勢いで慎二は詰め寄った。
Vはゆっくりと顔を上げる。
『それは君が決めることだ』
「はあ?」
ククク、と相手は喉を鳴らした。
嘲笑されているのだと思い、慎二は機嫌が悪くなる。
それを察したのか、Vは話を再開した。
『君を解放しようと思っている』
瞬間、慎二の胸が踊った。ようやくこの不気味な怪人と離れられる、と。
だが、その期待はあっさりと覆される。
『だが、私を同行させるという条件をつけさせてもらおう。
最初に出会ったときのように、思慮なき行為に出た場合は制裁を加える』
「いやだ、と言ったら?」
『彼女の願いを叶えることはない。悲しいことだが、しかたあるまい』
殺す、とVは言外に宣言していた。
慎二はゾッとしながら、現状を考える。
(くそ、選択の余地はないということか!)
現在、勝算はまったくない。
Vは万全の状態である“超人”の自分をくだしたのだ。
怪我をしている自分が勝てるとは思わない。
もう少し万全なら、あれは何かの間違いだと判断して襲いかかっていたのだが。
「ああ、わかったよ! しかたない」
『理解が早くて助かる』
「けど、僕が決めることってどういう意味だよ?」
『人は血によって運命を決めるものではない。
その生き様! その魂で決めるものだ! これから君は自ら道を決めたまえ。
道によっては手を貸そう。だが、あくまで今までのような行動をとるのなら、覚悟はしたまえ。
理念を殺すのは骨が折れるぞ』
静かな語り口を前に、慎二はゴクリとつばを飲んだ。
同時に重い口調に圧倒はされたものの、チャンスだと理解する。
要するにこの男は自分しだいで手助けをしてくれるというわけだ。
衛宮士郎のようなお人好しな行動を強要されるのは気にくわない。
だが、この男と超人である自分の力を合わせれば、たとえサーヴァントが相手でも勝ち目が出る。
(そうさ、利用すればいい)
上手く動かせば都合のいい手駒が入った。
慎二はそう考え、笑みが漏れそうなのをこらえる。
それにVを強い奴をぶつけ、弱ったところを突けば自由になれる。
最初の借りは絶対忘れない。いずれ後悔させれる。
いいことづくめだ。
「わかった。しかたないから、僕に同行させてやるよ。名前は間桐慎二。間桐でも慎二でも好きな呼び方をすればいい」
『理解した。それではマトウ、よろしく頼む。
食事をしながらで構わないから、放送の内容を聞きたまえ』
ようやく警戒を解き、パンを口に放り込みながら、Vの話す内容を聞く。
自分に運が向いてきた。慎二は密かにほくそ笑んだ。
□
間桐慎二は知らない。
Vは一人の少女を変えるために、拉致監禁を実行し、暴力を振るったということを。
仮面の男にとっては真実を悟らせるためなら、手段は問わない。
心を追い詰めることも、世界を破壊することも、愛を与えることも。
彼にとっては必要な過程に過ぎない。
ゆえに、慎二に対してVの対応は『優しすぎた』のである。
Vは本当に、間桐慎二を変えるつもりがあるのだろうか。
本当に罪を贖えることができると、考えているのだろうか。
なによりVは、本当に新たなVを必要としているのだろうか。
すべては仮面の下に、理念という答えを持って隠れていた。
【I−3 海の家/一日目 朝】
【V@Vフォー・ヴェンデッタ】
[属性]:悪(set)
[状態]: 健康
[装備]:バッタラン@バットマン(残弾多数)、レイピア@現実 マインゴーシュ@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:?????
?:慎二を調教し……。
?:なのはの友人(アリサ、すずか)を捜す。
【間桐慎二@Fate/stay night】
[属性]:その他(Isi)
[状態]: 刺傷多数(軽)、ダメージ(大)、残虐超人状態、普通心臓破壊、いずれも手当て済み。
[装備]:ナチス武装親衛隊の将校服@現実、ドクロの徽章付き軍帽@キン肉マン、
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:Vを利用してやる。
1:とりあえずVと行動を共にする。
2:Vにいずれ復讐する。
[備考]
※普通心臓が破壊された為、徽章を取ると死にます。
投下終了します。
矛盾、誤字がありましたら、指摘お願いします。
乙です
乙です
Vさんの調教マジでえげつないから困るw
ワカメは耐えられるかな?
書けるかな。
なんとも優しい調教開始。しかしワカメはその事に気付いていないとはっ!
一応チョットした誤字。
>そうして他社の変容をも受け入れる。
>>そうして他者の変容をも受け入れる。
かと。
皆様投下乙です。
>聖闘士として
ゴウラムタイガーPちゃんカスタムならダグバにもかつる!
しかしテンマとタイガーはまともすぎて逆に目立っている気がしますね
>灼熱の赤が燃える
サンレッドが可哀想すぎる
ロビンマスクよ、お前のはゴッサムタワーではなくロンドンブリッジではないのか
>砂浜の迷い人
Vがワカメをもしゃもしゃ喰ってWになると思ってハラハラしていましたが無事でなにより
一体どんな拷問がくるのか楽しみで夜も昂りが治まりません!
ワカメが覚醒イベが来るのか?!
それともやっぱりワカメはワカメなのか
コンバンビ。
ルンゲのやーつーが出来ちゃっているので、ズギャっと投下しちゃいます。
想定より、早い。
それが、ルンゲが「放送」を聞いた最初の感想だった。
Hor2名、Set1名、Isi9名、合計12名。
12名もの人間が、たった6時間で死んだ、という。
それが事実かどうかの確証はないが、この主催者の性質上、嘘は無いと思える。
実験を進めるという目的からすれば、ここで嘘をつくことには利点がない。
そして何より、属性ごとの人数を伝えてきたこと。
それは正に、「自分が属する属性の法則に気付け」というメッセージに他ならない。
ルンゲは既に、グループ分けの法則に一つの仮説、推論を立てている。
それは、「法の執行者と、犯罪者、それ以外の無辜の市民」という分け方だ。
その推論を推し進めば、恐らくIsiが、「無辜の市民」である。
犯罪者と法の執行者の対立を主軸としているとするならば、真っ先に犠牲となるのは、特別な訓練を受けていない市民になる確率が高い。
また、人数配分においても、法の執行者や犯罪者より、無辜の市民を多く配置している可能性は高い。
であらば、例えば放送で聞いたヴォルフガング・グリマーは、Isiである、と考えられる。
また、結城によって殺されたと推測される、七瀬美雪という日本人の少女も、このグループであろう。
後は、HorとSetの何れかが法の執行者で、何れかが犯罪者であるという事になる。
勝利条件を素直に受け取れば、Horが法の執行者で、Setが犯罪者という可能性が高いが、それはまだ確証を得た推論とも言えない。
ジェームズ・ゴードン。数刻前にその死体を確認した、ニューヨーク(本人は、ゴッサムなどと洒落めかして言っていたが)の市警察本部長。
ポイズン・アイビー。ゴードンより聞いた、毒と植物を使う異常犯罪者。
後数人、呼ばれた名前の中で、犯罪者か法の執行者であるという事が確認できる人物がいれば、この推論からさらに進める事が出来るだろう。
つまり、死んだ犯罪者がポイズン・アイビー1人だけなら、Setが犯罪者という可能性が高く、死んだ法の執行者がジェームズ・ゴードン1人ならば、Setが法の執行者である可能性が高くなる。
しかし ―――。
結城美知夫。ジョーカー。そして、Dr.テンマ。
まだ名が呼ばれず、今知っている中で、犯罪者と考えられるのはこの3名のみ。
結城美知夫に関しては、この会場においてジェームズ・ゴードン、及び七瀬美雪を殺害した容疑が濃厚である。
放送で呼ばれた名前から推論を進めると言うことは、彼らや、彼らの同類が更に人を殺し続ける事を前提とする事になる。
たった6時間で12名が死ぬこの実験場に、果たしてどれほどの能動的殺人者が居て、さらに何人の人間が犠牲となるというのか ―――。
今、ルンゲは、石と鋼鉄の要塞の中にいる。
しかしこの要塞は、外部から来る敵を退けるためのものではない。
内部に居る者達を、外へ出さぬ為の要塞だ。
アーカムアサイラム。
地図上でそう記載されたこの施設は、ゴードンによるとゴッサムにはびこる異常犯罪者達を収容、治療する為の施設なのだという。
よもやこの時代に、鉄格子と拘束台に電気ショックでもあるまいと、そうは思うが、事実この施設に来てみると、おおかたその予想が外れているわけでも無いようであった。
違いと言えば、鉄格子が分厚い特殊強化ガラスになっている、程度。療養所、病院、というよりは収容所、という方が適切に思えるほどだ。
そこに収容されていたという異常犯罪者、ジョーカーの作ったとされる趣味の悪い車は、確かになかなかの高性能であった。
遠隔操作用のリモコンを使えば、遠くから自動操縦で障害物を避けつつ呼び出すことも出来るし、ハンドル周りのボタンにあるギミックは、さながら007かスパイ大作戦などの映画の如く、である。
設定を変えれば車高が変わってオフロード仕様にもなるし、馬鹿げた仕掛けでカマドウマの様な4脚を出せば、小さな河川や岩、倒木まで乗り越えられる。
成る程、たしかにこのような玩具を、贅を尽くして造りあげる妄執ぶりは、狂気に満ちた道化のやりそうな事である。
とはいえ今この場においては、これはかなり役に立った。
ゴードンの言う協力者、バットマンと名乗る男が立ち寄るかも知れないとされた施設の内二つ、このアーカムアサイラムと、ゴッサムタワーは、最初にルンゲが居たウェイン邸からは距離がある。
その上、移動経路が限定的で、ここまでの道のりもほぼ山道であった。
徒歩でこれを踏破はするのはかなりの時間と体力を浪費するが、この車の性能なら比較的容易い。
逆に言えば、徒歩でここに行くのは結構な手間である、という事で、だからルンゲは次なる移動先をアーカムアサイラムとしたのだ。
結城美知夫が居ると考えたためか? そうではない。
恐らく、ここに目当てのものがある、と踏んだからだ。
朝の澄んだ空気の中、カツカツと硬質の靴音が通路に響く。
足音を殺そうにも、ここまで静寂に包まれているとそれも難しい。そして逆に言えば、今ここで動いているのは、やはりルンゲただ1人なのだろう。
警備室、処置室、医療品の倉庫、ボイラー室に発電室、職員の詰め所と仮眠室に、食堂、院長室、書庫…。
おおよそ、この手の施設に必要と思える部屋は一通り揃っている。
それぞれ、実際に使用されていたかのような乱雑さと生活感があるが、にも関わらず生命の気配はない。
また、同時にやはり、妙な違和感がある。
何が? というと、それはやはりウェイン邸でも感じていた事。
映画か何かのセットであるかのような違和感だ。
全ては、「用意されている」という感覚。
この実験とやらを仕組んだ犯人は、ゴードンの証言とも合わせて考えれば、個々の被験者達と関連するであろう施設について熟知しており、それらを"再現"して用意してみせるという周到さを持っている。
そしておそらく、その中にいくつかの、「ヒント」を用意しているはずなのだ。
そう、先程の放送での、グループごとの死者の割合のように。
その中で、あからさまに置かれていたいくつかの資料に、ルンゲは目を通していた。
一つは、アーカム収容者に関する資料、である。
ここに集められているジョーカー、ポイズン・アイビーのものから、ほか数名の写真付き資料。
もう一つは、マルコム・ロング医師による、ウォルター・コバックスに関するレポート、である。
そして最後に、最も奇怪な資料が、イギリスの強制収容所で行われていた人体実験に関する手記、である。
さて、これをどうとるべきか?
書式、内容、ファイルケースなどから、後者二つは、この施設外で作られた記録と思われる。
ウォルター・コバックスという男は、レポートによると自警活動をしていた犯罪者で、自らをロールシャッハと名乗っていたという。参加者名簿にもあった名前だ。
ゴードンの語っていたアメリカらしい犯罪者だとは思う。
しかしもう一つ、イギリスの強制収容所での実験に関しては、あまりに荒唐無稽なSF小説のようだ。
まるでかつてのナチズムの様な、優生学的な差別と抑圧。それによりなされるマイノリティの"処刑"に、"人体実験"に、その五番目の獄舎に居た収容者の話。
近未来ディストピアSFそのものとも言える内容だが、妙なリアリティがある。
ゴードンの話した内容、アーカム収容者のリストにしても、ルンゲからすればコミックブックの様な馬鹿馬鹿しさがあったが、ここに置かれていた上記資料は、さらにその馬鹿らしさを助長している。
他愛のない作り事である。そう断じてしまっても何ら問題ない。いや、常ならばそう断じて当然である。
で、あるにも関わらず、この奇妙な違和感は何であろうか。
この地に拉致され、実験などと言うものに参加せられて以来の違和感が、ルンゲの冷徹な精神を越えて、大きくなり始めている。
それは、保管室という場所でケースに入れられていたいくつかの道具を見たときにも感じた事である。
『Mr.フリーズの冷凍ガスボンベ』『スケアクロウの恐怖ガス』『リドラーの杖』『スカーフェイス人形』『トゥーフェイスのコイン』……。
これらはこのアーカムアサイラムの収容者達が犯罪を犯す際に使用していた道具類なのだという。
しかし、あまりにも子供じみている。
ルンゲとて、多くの異常な犯罪者、猟奇殺人鬼などの犯罪を捜査したり、或いは資料などを調べたりしてきている。
一見異常に思える彼らの行動や執着も、その背景をきちんと読み解けば、彼らなりの筋道があることは分かる。
しかし、だ。
ここにある資料やそれら保管されていた道具類は、ルンゲの知りうるものからして、あまりに突飛で、正にコミックじみている。
まさに、テレビアニメの『超人スタイナー』の世界のような。
プロファイリングには、何よりその対象が基盤とする文化についての知識が必要である。
Dr.テンマを知るために、ルンゲは「日本人的な発想、思考法」について知ろうとした。
ゴードンが語り、このアサイラムに収監されていたというアメリカの異常犯罪者達もまた、ルンゲにとって一筋縄ではいかぬ文化基盤を背景としている様に思える。
であらば、この犯人は…?
アーカムアサイラムの、或いはそれら以外の場所に居たとされる異常犯罪者の資料をここに置き、さあ謎を解いてみろと言わんばかりに挑発するこの犯人は一体…?
この犯人が背景としている文化基盤、その世界は一体どんなものなのだろうか?
ルンゲは考える。あまりにも…足りない。
院長室と表札の出ていたその部屋は、重厚なマホガニーの机に、赤い絨毯。革張りの椅子は座り心地が良く、ウェイン邸に較べれば簡素だが、それでも快適な部屋だ。
一通りアサイラムの中を調べた結果、犯人が用意しておいたであろうそれが、この部屋にあった。
電話機、である。
ごく普通の、変哲もない有線電話。ただそれだけだが、先程のウェイン邸では全て撤去されていた。恐らく、他の多くの場所でも同様だろう。
受話器を取り、音を聞く。ツー、ツー、との信号音。
なるほど、やはり、「これを使え」とのメッセージであったのだ、と、確信をする。
ルンゲはバックパックから、最初に支給されていた『黒の船』のコミックを取り出していた。
支給された以上、そこには何かしらのヒントがあるはずだ。ルンゲはそう考えていた。
実際、どうやらその通りであったらしい。
犯人が隠したヒントは、コミックの内容にあるのでは無かった。
その中の広告ページ。
『ピラミッド宅配社』『病院』『学校』『さくらテレビ』『ゴッサムタワー』、そして『アーカムアサイラム』の広告。
それぞれの広告に、電話番号が書かれているのだ。
ルンゲは考える。
これらの何れかにかければ、誰か他の参加者と接触できるかもしれぬ、と。
ルンゲに今足りないのは、何よりも情報だ。
開始以来、ルンゲが会った人間はゴードンと結城。1人は殺され、もう1人は逃げ出した。あと1人、強いて言うならば既に物言わぬ骸となっていた少女のみ。
Dr.テンマを追うにしろ、結城美知夫を追うにしろ、何よりこの実験を企画した犯人を追いつめるにしろ、やはり、情報が圧倒的に足りない。
先程の放送の中で呼ばれた、「テンマ」という男が、彼の追っているDr.テンマで無いことは明白であった。
しかしその名が呼ばれたことで、何等かの変化は起きるだろう。
テレビ局がある以上、まずはそこで放送が成されたと見るのが妥当。
さて、しかし ―――。
ルンゲは考える。
この何れかの場所に居るかもしれぬ者は、果たして遵法者か殺戮者か、あるいは無辜なる市民か。
そして何より、ルンゲにとって一体何をもたらす者であろうか………?
----
【A-9/アーカムアサイラム:朝】
【ハインリッヒ・ルンゲ@MONSTER】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:ルールブレイカー、テイザーガン、ジョーカーモービルとそのリモコン
[道具]:基本支給品一式×2、『黒の船』のコミック@ウォッチメン、小型無線機A〜B、不明支給品0〜2
ロールシャッハの資料、Vの人体実験に関する資料
[思考・状況]
基本行動方針: ケンゾー・テンマを捕まえ、また今回の事件を仕組んだ犯人も捕まえる。
1:何れかの施設に電話を掛けてみる。
1:結城美知夫を捜す。
2:ブルース・ウェイン(=バットマン?)に不信感。
[備考]
※ヨハンの実在と、テンマの無実を知る以前より参戦。
※ゴードンより、バットマン、ジョーカー、ポイズンアイビーに関して情報を得る。
※結城より、金田一一、剣持勇、高遠遥一、賀来巌に関して情報を得る。
※犯人のグループ分けを、[法の執行者]、[一般市民]、[犯罪者] ではないかと推論。
※アーカムアサイラムの保管庫にある道具類
アーカム収容者達の使っていた道具がいくつか保管されている。
使える状態か、また万全なものかどうかは不明。
以上でした。
わすりてた。
引き続き、
正義戦隊ゴ12th 第五話 熱烈歓迎新たな仲間! ◆GOn9rNo1ts
の代理投下するだす。
『正義が必ず勝つんじゃない。勝ったものが正義なんだよ』
◇ ◇ ◇
バットマンが出て行って、少し後。
地下空間は、思っていたよりずっとずっと静かだった。
耳を澄ましても、何処か遠くで行われている戦いの音はここには聞こえて来ない。
代わりとでも言うようにポタリと、どこからか雫が垂れる。
ちょっとした音がやけに大きく響き、思わず心音が跳ね上がる。
その時のドキドキさえも痛いほど耳に残り、僕は小さく溜息をついた。
「大丈夫、雪輝君?」
そう言った武藤まひろちゃんは、けろっとした顔をしている。
明るく、表情豊かに僕に話を振ってくれる彼女の存在が、今はなにより有り難い。
『殺し合い』の舞台の隅っこでたった一人きりで待っているよりも、何倍も楽な気分だった。
情けない。本来は男である僕の方が気概を見せなければ行けないというのに。
だけど、自分の臆病さをこの場で嘆いていても仕方ない。
携帯を見ると、時刻は5時44分。
もうすぐ放送だ。メモや名簿を取り出そうとデイパックに手をかける。
……知らず知らずのうちに、手が震えていた。
「まひろちゃんは、さ」
「どうしたの?」
「怖くないの?」
言うまいか迷っていた思いを、吐き出した。
僕に習うように自分のペンを取り出したまひろちゃんに、問いかける。
放送。彼女はその意味をきちんと理解しているのだろうか。
誰が死んだかを知らされる、ということは、つまり。
「もしかしたら、もしかしたらだよ?」
「自分の大切な人が……死んでる、かもしれないんだよ?」
「…………」
「僕は、正直言って怖いよ」
我妻由乃。
色々あった。本当に色々あったけれど、彼女は僕の恋人だ。
幾度となく僕の命を救い、敵対する未来日記所有者を返り討ちにした最強の少女。
それでいて、僕なんかを怖いくらい好きで、愛してくれている、彼女。
「死ぬなんてありえない、なんて、言えない」
死ぬなんてショッキングな出来事が画面の向こうでしか起こらない、なんて幻想はここに来る以前からなくなっている。
殺人鬼に襲われたりテロリストに襲われたり猟犬に追われたり……どうして自分が生きているのか不思議なくらいなのだ。
我妻由乃がいなければ、何度死の運命に食い潰されていた事やら。
そんな僕にとっての生命線、由乃でさえも、まだ生き残っていると断言することは出来ない。
彼女のことだ。僕を探すのに必死で、他の人のことを蔑ろにしている光景が簡単に目に浮かぶ。
厄介事に巻き込まれているか、恐らく高確率で厄介事を巻き起こしている。
……考えたくはなかったが、僕のため、ご褒美のために積極的に殺しに走っている、なんてこともあり得ないわけではない。
彼女が他参加者と争いになる、なんてのは火を見るより明らかだった。
そして、この場には悪魔将軍のような化け物やバットマンのような戦い慣れた玄人も参加している。
いくら由乃が強いと言ってもそれは普通の人間を相手にしていた場合で、上に上げたような人達と対峙して無事でいられる保障はない。
死んでいても、おかしくないのだ。
「ごめん、こんなこと言って、でも」
由乃を失う、なんて想像をすると胸が張り裂けそうになる。
絶望。ドドドドと押し寄せる感情に抗う術もなく呑み込まれそうになる。
想像しただけでもそうなのだ。もし現実になったら、僕は一体どうなってしまうのだろう。
死んでも生き返らせれば良い、なんて簡単には言えない。
既に僕たちはデウスの許から別の人間の掌に移ってしまっている。
この実験を主催した人物が死人の復活を出来る、なんて保障は何処にもない。
それどころか、由乃なしで僕はこの実験を生き延びることが出来るのだろうか。
溢れ出す不安。止めどない恐怖。
今まで由乃に頼ってきたツケが回ってきたのだろう。自業自得だ。
僕は、いつになく不安定だった。参ってしまっていた。
出会って間もないまひろちゃんに、本音を漏らしてしまうほどに。
「大丈夫だよ」
だから。
彼女の真っ直ぐな言葉が、眩しかった。
「雪輝君の大切な人も、私のお兄ちゃんも、生きてる。きっとそうだよ」
「でも、もしかしたら……」
「雪輝君は、その人のことを信じてないの?」
「そ、そんなことないけどさ」
「じゃあ、一緒に信じよう!信じる者は救われるっ!」
一人で駄目なら二人で信じよう。
そう言いながら僕の近くにやってきて、ぱっと手を繋いでくれた。
思わず握り返す。ぎゅっと握られた両手は、暖かかった。
ぶんぶん元気に手を振る彼女の顔に、不安が全くなかったとは断言できない。
彼女の指から震えを感じなかったといえば、嘘になる。
彼女だって、怖いのだ。怖いに決まってる。
大切な人を失うかもしれないのだ。怖くないわけがない。
だけど、恐怖を乗り越え希望を持とうとする強い意志。
それは、大人ぶった理屈で壊してはいけないと思った。
「……うん、そうだね」
近くで見るまひろちゃんは、思っていたよりずっとずっと可愛かった。
くりくりと輝く両目は、小動物を思わせる。リスのようだ。
化粧っ気のない素肌が、健康的でさっぱりとした清涼感を感じさせた。
笑みを形作る桜色の唇に、思わず心臓が跳ねる。
服の端から、年相応に丸みを帯びた女の子の身体が見え隠れする。
何故か、手に汗が滲む。
「どうしたの、雪輝君?顔真っ赤だよ?」
「な、なんでもないよっ。それより、放送の準備準備っと」
胸を張って言えることではないが、僕はその、所謂女の子経験に乏しい。
由乃に(恐ろしいまでの)アプローチをかけられるまでは、ラブレター一つ渡すのにも必死だったのだ。
そんな僕が、二人きりの状況で、両手を握るくらいの至近距離で女の子と見つめ合うのは……少々キャパシティを超えたいた。
気まずさをまぎわらせるために、手を離してわざとらしく視線を右往左往させる。
そんな僕の様がおかしかったのか、クスクスと笑うまひろちゃん。
ああ、恥ずかしいっ。
「あ、あのっ!ところでさ!」
「なあに、雪輝君?」
少しでもこの方向性を変えようと、話題を作る。
「まひろちゃんは……未来は変えられると思う?」
さて、それでは。
本題に移ろう。
「未来を変えるって……私達が頑張れば、嫌な未来を変えられるよ、ってことかな?」
むー?と首を傾げ、少し考え込むまひろちゃん。
突然、今までとは関係ない話題を振られたのだ。混乱するのも無理はないだろう。
その混乱が「本当のこと」ならばだが。
「いや、そういうことじゃなくって……まひろちゃんって未来予知とか信じるかな」
「占いとかのこと?……良いことは信じるし悪いことはあんまり信じたくないかな」
反応は薄い。これといって変化もなく、普段通り。
目も泳いでいないし、自然体そのもののまま会話を続けている。
どこからどう見ても、普通の女の子のまま。
やはり杞憂だろうか。思い過ごしだろうか。
彼女が「未来日記所有者だ」なんて。
勿論、根拠もなくこんなことを考え始めた訳じゃない。
僕なりの考え、筋道だった理屈があってのことなのだ。
バットマンを担いでえっちらおっちら歩いていた、あの時。
僕の未来日記、無差別日記がノイズを漏らしながら「未来を変えた」
簡単に説明すると、未来日記の未来を変えることが出来るのは同じ所有者だけ。
つまりあの時、所有者の誰かが未来を変化させたことになる。
由乃が「雪輝日記」を使い、僕のもとへとやって来るのか?
それとも、雨流みねねがまた僕を殺しに来るのか?
はたまたあの変態、平坂黄泉がこちらに迫ってくるのだろうか?
正直、どれもまずかった。
由乃は間違いなく「そんなコウモリ男に構ってないで私と一緒に行こう!」と言ってくるだろう。
それを断ってしまえば、下手をすると「障害」であるバットマンを排除しかねない。
みねねだった場合は最悪で、こちらが殺されるのも時間の問題となっていたかもしれない。
黄泉の場合は、全く予想が出来ないぶん、ある意味一番対処に困る。
誰が来ても、状況が悪くはなれど良くはならない。
そんな状況だったのだ、あの時は本当に冷や冷やした。
だけど、変わった未来は「見知らぬ女の子が走ってくる」というもの。
それがまひろちゃんだったわけだけど、つまり一体どういう事だろう。
まず第一に考えたのは、彼女が僕も知らない所有者である、ということ。
絶対にあり得ない、とは言い切れない。
選ばれた12人ではなくても、8thの孫日記所有者という可能性もある。
もしかしたら、支給品の中に未来日記があったのかも知れない。それならまだ良いのだが。
いずれにせよ、僕は所有者という可能性に少々神経過敏になっていた。
彼女は僕を騙して利用するつもりなのではないか?
あるいは、僕が油断する瞬間を虎視眈々と狙っているのではないか?
ここに来る前の、デウス《神》による所有者達のサバイバルゲーム。
そこで何度も裏切られて、死にかけて。僕はもう、誰も疑わない人間ではいられなくなった。
信じたい、だけどこちらも命がかかっている以上、そう簡単にはいかない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、僕はまひろちゃんと行動していた。
でも、僕なりに感づかれないよう彼女を観察してみても、やましいところは何一つ無いように見えた。
先程の質問、核心的な問いにもまるで反応が無く、拍子抜けと言わざるを得ない。
ならば、やはり第2の可能性。
「主催者がそういう細工をした」と考えるのが、筋が通っている。
他参加者のちょっとした気まぐれなどで、未来が変化する。
そういう風に未来日記を作り替えたと考えれば説明はつく。
ゲームマスター側がどれだけの技術力を持っているかは知らないが、少なくとも町の一つや二つを支配下においてしまうヤツなのだ。
デウスのような、得体の知れない力を駆使して未来日記を改造出来たとしても、なんらおかしくはない。
若しくは、デウス本人が一枚噛んでいるか。あの神がそう簡単に出し抜かれるとは思えないし、そっちの方が説得力がある。
「いや、変なこと聞いてごめんね。何でもないんだ。ただのどーでもいい話」
大丈夫。彼女は所有者じゃない。そう自分に言い聞かせる。
だいたい、僕を狙う所有者だとしたら、彼女が見せてくれた拳銃で僕はとっくに殺されている。
主催者が僕の疑心暗鬼さえ計算していたとすると、見事にしてやられたと言わざるを得ない。
だけど、もう懸念は消えた。まひろちゃんはかけがえのない僕の仲間だ。
……少なくとも、お互いのグループがHorとSetでは無い限りにおいて、だけど。
今まで猜疑の視線を向けていたのが申し訳なくなって、頭を下げた僕を、まひろちゃんは。
「変な雪輝君」
無差別日記が、更新される。
『武藤まひろの知り合いがやって来た』
◇ ◇ ◇
暗い暗い空間があった。
ところどころに備え付けられている明かりが、チカチカと小さく己の存在を主張する。
見る者もいない電光掲示板が、薄い緑の光を発していた。
『AM 12:08』
深夜遅く。道端には、終電を逃した酔いどれサラリーマンも、夜はこれからと言わんばかりの厚いメイクを施した女もいない。
それどころか、がらんとした世界には人っ子一人見えない。
もっと言えば、人間の気配そのものがない、と言ったところか。
ちらほらと見える居酒屋やバー、24時間営業をモットーとするコンビニエンスストアにさえ、人類は存在していなかった。
生物が綺麗さっぱり死に絶えた、と見えるそんな場所に異物が二つ。
いや、二人。
何処とも知れぬ街角で、痩身の男と、年端もいかぬ少女が向き合っている。
異常だった。
何が異常かと言えば、コンビニ店員さえいないこの空間に人間がいることそのものがおかしい。
普通とは違う状況に普通が紛れ込んでいる。それは、普通ではなくて異常と呼べる。
それだけでなく、二人の雰囲気もどこかいびつだった。
禁断のデートの真っ最中と言うほど浮き足だってもいないし。
かといって、子供の夜遊びを咎める大人、というほどガビガビした空気でもない。
敢えて言うならば、そう。
影に潜み顔もよく見えない陰気な男と、惚けているような顔をした少女は。
ドラッグの密売人と、買い手のような。
怪しい宗教勧誘に引っかかった、典型例のような。
そんな、怪しい雰囲気。
男が気怠げに口を開く。
訥々と、少女のこれからの業務内容を報告し始める。
彼女の方はと言うと、口を挟むこともなく淡々と男の言葉を脳裏に刻み込んでいた。
落ち着きのある、というより、落ち着きしかない、とでも言えばいいだろうか。
話を聞く、以外の行動を忘れきってしまった体である。
肯定の言葉以外を許されていない風である。
機械のように、ロボットのごとく、必要な情報をプログラミングされていた。
「君はただ、多くの仲間を作ればいい。出来る限り沢山。見知らぬ人間でも救ってあげなさい」
「はい」
「ただし、君は誰かに言われてそうするのではない。自分の意志でそうするんだ。
君は優しい娘だ、まひろちゃん。きっと君はいっぱい友達を作るんだろうね」
「はい」
「その友達を、今度私に会ったら是非とも紹介してくれたまえ。
その時を楽しみに待っているよ。それでは」
「はい」
「君は、次に私に会うまで、私に会ったことを忘れる。良いね」
「はい」
そうして。
男が耳にしていたボイスレコーダーから、音が漏れる。
彼は影のように闇に紛れてその場を立ち去り、少女だけが残された。
彼女が深い深い沈黙を発して、数分後。
「……あれっ?わたしは何を……」
◇ ◇ ◇
「タイムリミットハ一時間、カ」
午前6時。
放送を聞き終わった平坂黄泉は、頭の中の予定表を確認する。
まずはこの先で行われている戦いに介入し、悪を滅する。
その後、一時間後に禁止エリアとなると思しきこの周辺から迅速に離脱。
最後に、みねねが待つ511キンダーハイムへと向かう。
放送の時に行われたいざこざ、賀来とテンマの争いも気になるが、まずはこの三つを確実に達成しなければ。
「確カニ、キンダーハイムヘト続ク橋は禁止エリアカラ外レテイルノダナ?」
ゆらりと小さな影が首肯する。
武藤まひろは、いつもの明るい表情をのっぺりと削ぎ落とし平坂黄泉の問いに答えていた。
その様はゾンビか、はたまた操り人形か。瞳に映るのは暗い下水道。
隣に佇む天野雪輝も、似たり寄ったりの顔を貼り付けて静かに黄泉の指示を待っていた。
「ソレデハ行クゾ、ピンク、グリーン」
黄泉がすぐに戦闘の現場に向かわなかった理由。
一つは、戦力の補強のため。
何の策もなく馬鹿正直に突っ込むなど馬鹿のすることだ。
黄泉は犬死など望んではいないし、未来日記のDEADENDも軽視しない。
一人で行っては死ぬ。それでは二人ではどうか?三人では?
数は力だ。火は一つ一つでは小さいが、合わさると大きな炎になる。
黄泉は、御目方教の時の経験を生かす。彼は勝利のために一切の努力を惜しまない。
二つめの理由、それは、これから行われる放送で禁止エリアが発表されるからだ。
大前提として、黄泉は目が見えない。これは、禁止エリア関連の事柄について、大きく不利に働く。
みねねからある程度の説明は受け、待ち合わせ場所であるキンダーハイムの位置はなんとなく掴んでいるが、黄泉が会場全体を把握するにはほど遠い。
今ここにいるエリアは本当に正しいのか、もしかすると自分は思いもよらぬ所にいるのはないか。
正義を成す前に首輪が爆発してお陀仏では、お話にならない。
つまるところ、黄泉は彼をサポートする仲間が欲しかったのである。
そこで、彼は得意の超聴覚を駆使し、戦闘が行われている下水道を一旦迂回。
少しでも、ほんの少しでも勝機を増やすために、人の気配がする場所にやって来た。
辿り着いた先にいたのは、同じ未来日記所有者である1st、天野雪輝。
そして、彼が数時間前に『仲間にしておいた』武藤まひろ。
こんなに早く再会するとは思わなかったが、彼女を上手く利用し雪輝も『仲間にする』ことが出来た。
駒は、勝手に動かれるよりもこちらで管理しておいた方が良い。
黄泉は、御目方教の一件よりイレギュラーを何よりも恐れていた。
『私ハ正義ヲ為シテイル。私ノ勝利ハ確約サレタ未来ナノダ。ソウデナクテハナラヌ。
ソノタメニハ、正義ノタメニハ、私ハ手段ヲ選ンデナドイラレナイ……ソウダロウ?』
彼の独り言に対し、正義日記は何も語らない。
果たしてDEADENDは回避できたのか。自分の選択は正しいのか。
黄泉の正義に関してしか語らないソレは、酷く使い勝手が悪いものだ。
さらに、主催者からの制限により、他の未来日記と同じく正義日記も改悪されている。
例えばそう、「何度も同じ記述を聞くことが出来ない」といった風に。
他の未来日記所有者ならばこうはならなかっただろう。
例えば、雪輝や由乃の携帯ならば、書き換わる未来を見ることで己の死を回避できたかどうか分かる。
もっといってしまえば、黄泉以外の所有者は自身の目でもってDEADENDの消滅を確認することが出来る。
液晶画面だろうが巻物に書かれた文字だろうが、それが消える、という確かな証拠を認識する。
しかし、全盲の黄泉が頼ることの出来るのは「音」のみだ。
聞こえなくなったからと言って、それが本当に消えたのかどうか黄泉に判断することは出来ぬ。
いくら常人を遙かに超えた聴覚を持ち合わせていようとも、聞こえないという事態に対応できるはずがない。
いつ訪れるか分からぬ死の宣告に怯えながら、消えたかどうか判別できぬ「分からない恐怖」に抗いながら、12thは戦わなければならない。
DEADENDは本当に消えたのか、分からないまま戦わなければならない。
それでも。
「私ハ私ノ正義ヲ貫ク」
ここで逃げてしまえば、彼はヒーローにはなれない。
正義を冠する未来日記を持つ資格などありはしない。
いくら可能性が低くても、彼は悪に勝利する義務がある。
あらゆる犠牲を払ってでも、勝たなければならない。
例え罪無き人間を洗脳し、駒として利用しようが、勝たなければならない。
それが、平坂黄泉の正義なのだから。
「急ガナケレバナ」
禁止エリアのこともそうだが、懸念は他に幾つかある。
その内の一つ。我妻由乃。
今、目の前でゆらゆらしている天野雪輝の関係者についてである。
黄泉の策を悉く破壊し尽くしたとびっきりの異常者は、黄泉の中で最高級の危険分子としてインプットされている。
放送を信じれば、残念ながら彼女はまだ健在のようだ。
あのとびきりの異常者は、天野雪輝にご執心。
雪輝を探して会場内を飛び回っているのは想像に難くない。
何処かで野垂れ死んでしまうという希望的観測を持つには、彼女の存在感は圧倒的すぎる。
己の完璧な計画を完膚無きまでに叩き潰した2ndを軽視することなど、できようはずもない。
普通の身体を持っているのだから銃で撃てば死ぬ。頭を殴られれば死ぬ。首を絞めれば死ぬ。
しかし、黄泉は彼女がそうやって死ぬところを全く想像できなかった。
そもそも、彼女が雪輝の傍にいないことがイレギュラーなのだ。
何時、いつも通りに雪輝の隣に現れるのだろうか。一日後?一時間後?一分後?
いや、この瞬間にも「ユッキー♪」と背後から顔を出しても何も可笑しくはない。
耳をすます。何者かが近づいてくる音は、今のところ聞こえない。
それでも、由乃が下水道を大爆走している様を想像し、黄泉の焦りは募る。
「ヤツガ現レル前ニ、片ヲツケネバ」
我妻由乃と接触してしまえば、自分は終わりだ。
今の天野雪輝の状態を見て取った彼女は、間違いなく激昂して自分を殺しに来る。
一切の躊躇も無しに。邪魔な石ころを蹴飛ばすように。
黄泉に操られている、と分かっている御目方教信者達でさえ、彼女は手加減無しで殺し尽くしたのだ。
操っている本人が命乞いなどで見逃してもらえるわけがない。
雪輝のコントロールをこちらが握っているというアドバンテージが、彼女の前で何になろう。
人質にとろうものなら地獄の果てまで追い詰められ、首を刈り取られる。
雪輝の命を盾に自害を命じても、黄泉が思いもよらぬ手段でこちらに噛みついてくるだろう。
頼みの心音爆弾も、あの女の前では心許ないオモチャでしかない。
雪輝を救うためなら命さえ捨て特攻してくる様が、脳裏にまざまざと浮かんだ。
危険だ。下手をすれば、黄泉の最大の障害になりかねない。
雪輝を手駒として扱う以上、何か手を打たねばなるまい。
「サテ……準備ハ整ッタ。ゴ12th、出動スル!」
雪輝とまひろの支給品を確認し、自分の持っている物と兼ね合わせ最善と思しき策を練る。
彼らに指示を与え、自らも現場へと向かわんと地を蹴った。
陽の当たらぬ世界を一人と二人が走っていく。
この先に待ち受ける悪を滅ぼすため。
己の正義=勝利のため。
死人となったはずの男と、死人も同様の顔をした少年少女達は、止まらない。止まれない。
◇ ◇ ◇
『最善を尽くしたけどそれでも足りない?それなら、最悪を尽くせば良いじゃないか』
【F−9/下水道内:朝】
【平坂黄泉@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:全身ボロボロ、肋骨を骨折
[装備]:変態的ヒーローコスチューム(ボロボロ) 心音爆弾@未来日記 、モップの棒@現実
[道具]:基本支給品一式、黄泉の正義日記のレプリカ@未来日記、雨流みねねのTNT時限爆弾、不明支給品(数不明)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒーローらしく行動する
1:正義とは勝つこと。雪輝達を利用しつつ、悪魔将軍を倒す。
2:倒したら511キンダーハイムに向かう。
3:ひとまずみねねと組み、このゲームにおける『勝利』を目指す。
4:赤い外套の正義の味方(アーチャー)への対処は状況次第。
5:ロビンマスクへの敗北感。
[備考]
※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。
※H−9、ビル建設現場の不明支給品を拾いました。数、内容は確認していません。
基本支給品×2には手を付けておらず、目が見えていないため、取り残しがあるかも不明です。
【天野雪輝@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:左腕に裂傷(治療済み) 、黄泉が洗脳中。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0〜1、拾った工具類
[思考・状況]
基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
0:?????
1:まひろと共にバットマンたちを待つ。
2:由乃と合流…?
3:悪魔将軍怖いっ! でも死んだのか…?
【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康、黄泉が洗脳中。
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
0:?????
1:アーチャー、バットマンを待つ。
2:お兄ちゃん………
【備考】
※参戦時期は原作5〜6巻。カズキ達の逃避行前。
代理投下終了します。
投下乙です
ルンゲ、さすがに現実じゃないの一言で切り捨てられなくなってきたが…
外に出て誰に会うかで今後の行く末が決まりそうだ
正義オタクの分際で色々やるなぁw
ユッキーも催眠状態だw
でもその二人が居ても悪魔将軍相手は無茶だ
死人が出そうだ
327 :
創る名無しに見る名無し◇fuyufuyu:2011/02/24(木) 18:56:42.08 ID:lY0yd0v7
保守してみる
328 :
創る名無しに見る名無し:2011/03/06(日) 12:05:22.66 ID:EJ6y1C2f
花粉の季節がやってきた…
保守
早く続きが読みたい
ほっくしょん
保守
ゲソ……ゲソ……
信じる〜ことがジャスティス〜
文才が無い俺には信じて待つことしかできないんや・・・!
保守
2011/02/19(土) 00:07:10 ID:4URqqpAu
久々の予約ということで保守
予約キター
まだここは終わっちゃいない!!
ガタッ
予約と聞いて
嘘だっ!!
342 :
創る名無しに見る名無し:2011/04/13(水) 20:47:48.27 ID:He6jqJ9Y
ほっしゅー
今週から始まった金田一少年の事件簿がロワ(ってかSAW?)をしているなw
終了ロワ
345 :
創る名無しに見る名無し:2011/04/19(火) 20:03:27.26 ID:xznn7ZLO
保守
346 :
創る名無しに見る名無し:2011/04/22(金) 22:19:00.55 ID:4DtTUu4Y
保守
347 :
創る名無しに見る名無し:2011/04/27(水) 05:51:57.29 ID:APCNTSt4
保守
348 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/01(日) 22:29:37.64 ID:pChXV8oC
保守〜
349 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/04(水) 11:22:47.24 ID:S3+smFfH
・1の連続予約破棄
・不必要な議論の長期化
悪いことが続けば将来有望と言われたロワもこうして廃墟になるんだな
再起を考えるならとりあえずあの避難所を捨てて新しく借りなおしたらどうだ?
新規ロワと違ってある程度投下した書き手トリが先導すれば復活するかもよ
もうみんな興味無いなら話は別だが
350 :
◆v3NdRE8zFY :2011/05/04(水) 22:48:53.16 ID:1JlFNDJN
避難所にも人がいるかわからないのでこちらに。
避難所で提案していた通り、まとめwikiメニューに「支給品以外のアイテム」欄を
新設、その中に【各種資料集】を追加しました。
せめてもの呼び水になれば。
続きを楽しみにしてる無力な読者ならここにもいるんだがなぁ…
352 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/19(木) 21:13:16.75 ID:uOy2Brxa
保守
遂に予約がキター!
354 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/22(日) 14:18:04.51 ID:WvoNgQvD
来てるぞw
なにぃ!?
356 :
創る名無しに見る名無し:2011/05/28(土) 13:16:00.67 ID:GDH9KeGi
保守
金田一一、天馬賢三、竜ヶ峰帝人、折原臨也、言峰綺礼 投下します
「ふむ……やはり、Isiの参加者が犠牲になる向きが強いか」
「俺や金田一君の説……Horが他人を守る者、Setが他人を害する者、Isiが他人に守られる者として設定されている以上、
参加者はそれらの属性に見合った人格と能力の持ち主である……ってのも、これで推測の域を超えたかもねぇ」
「でも、Isiの人たちが一方的に虐殺されてるって……Setの人たちの方が、Horの人より強大って事なんでしょうか?」
「いや……単に、Hor達によるIsiの保護が遅れているだけだろう。参加者達が凡そ己の属性を読めている、とすれば。
Set、ヨハンのような者たちは見つけた弱者を付け狙い、殺すだけで目的を達成するのだから当然行動も早くなる」
「……」
朝日が差し込む病院のエントランスに、五人の人間が頭をつき合わせている。
彼らは今しがたこの『実験』の経過報告を聞き、それぞれがそれぞれのリアクションを取っていた。
死者に送る十字を切る神父。放送の内容に想いを馳せる情報屋。冷や汗を浮かべる少年。顔を歪める医者。
そして……放心する、名探偵。
「何より気になるのは……『テンマ』と『賀来巌』の寸劇。これが何を意味するのか、だな」
「ん? どうかしたのかい、金田一君。一緒に推理しようよ。名探偵なんだろう? 推理しなよ、ほら」
「美雪が……死んだ」
「退場ってことは、そういうことだろうね。これで君の知り合いは残り二人だ」
「金田一一。君の気持ちもわかるが、今は悲しんでいる場合ではないだろう。
君が我々に語った『信じてくれ』という言葉は―――その意志は。もう揺らぎ始めているのかね?」
「美雪だけじゃない、12人だぜ! 12人も……死んだんだぞ! なんでそんなに落ち着いて……」
数多くの難事件を解決してきた金田一にとっても、この『事件』は未曾有の災厄だった。
規模もさることながら、探偵の周囲で起こらない性質。
そして近しい者の死と言う最悪の形でじわじわと迫ってくる感覚。全てが、初の体験だった。
焦燥する名探偵に、神父と情報屋が哀れむような視線を向ける。あるいは、嘲るような目線か。
「訂正したまえ、金田一一。『死んだ』のではない、『殺された』のだ。七瀬美雪も、他の者もな。
天災でも事故でもなく……このおぞましき実験に浮かされた、悪意持つ者たちによって、殺されたのだ。」
「だからこそ落ち着いて、殺人者への警戒を強めなければ……って、むしろ名探偵の君の方が理解してるよねぇ?」
「臨也さん、退場者の情報が嘘ってことはないでしょうか? 参加者を惑わす為の」
「それにしては、読み上げるr退場者数のが多すぎる。すぐに露見するような嘘を吐くとは考えがたいな……。
あのヨハンを手中に収め、実験に参加させるような者ならばなおさらだ」
そう、これは『事件』ではなく『実験』。
金田一が過去の事件でかき集めたような証拠も動機もトリックもなく、犯人すら固定されない戦場。
未だ半信半疑の美雪の死も、この非現実的な空間ゆえか、持ち前の勘のよさゆえか、金田一は肯定しかけていた。
それゆえに、金田一の頭脳は正常な動作を行わない。あまりにも急すぎる展開に、彼の頭は回ろうとしない。
神父、言峰綺礼は……死に慣れている。浸っている。情報屋、折原臨也は他人の死を特別視していない。
少年、竜ヶ峰帝人にとっては……あくまでも他人事。医者、天馬賢三は、死者よりも生者に意識を向けている。
金田一は……"死"を知っていながら、それに臨んではいなかった。彼が遭遇してきた死は、いわばまな板の上の鯉。
解くべき事件の真実に繋がる、意味のある死だった。では、金田一にとって……美雪の死に、意味はあるのか?
「……すまねえ。気持ちの整理、つかねえよ」
否。理解できず、肯定を拒む死に、意味などない。あったとしても、納得はできない。
金田一にとって、美雪とはそういう女だった。一緒にいるのが当たり前の存在だった。
病院の外に、夢遊病者のようにフラフラと歩き出す金田一を、残る四人は……あえて、見送った。
彼を無理に引き止める事が彼の為にならないと、誰もが感じていた。
「……一人には、できないですよね」
「私は追いかけるが……言峰、折原。君達はどうする?」
鋭い視線を送る天馬。彼も、金田一を徒に追い詰めるような神父と情報屋の言葉に、不快感を感じていた。
志は同じと信じたいが、性格は絶望的に合わない……そんな視線を浴びせられて、二人は平然と返答する。
「我々がいては、彼も心が休まるまい、職業柄、我々は真実を語る癖があるのでな」
「神父はお小言、情報屋は大口。別に真実ってわけじゃないと思うけどね。まあ、自重するよ」
二人は、目を伏せて先ほどの発言を後悔するような素振りを見せる。
帝人が天馬に付き添って金田一の様子を見守りにいく、と決めた時には、臨也は僅かに眉を顰めたが。
「まあ、彼ならそう遠くないうちに立ち直るだろうから、よろしく頼むよ」とだけ言って、その背中をぽん、と叩いた。
言峰も未練そうに帝人に祝福の言葉をかけ、「己の思うままに進め、少年」と激励した。
「合流場所はさっき言ったE-04の舗装道……別の人とも約束してるんだけどさ。そこって事で頼むよ」
「どこかへ移動するのか? 金田一君が落ち着いてから、全員で行動した方が……」
「時間は有効に使いたい。人の心はそう簡単に休まるものでもないしな……まあ、無茶はせんよ」
周囲の探索とHor、あるいはIsiの参加者との接触を試みる、と言峰と臨也。
天馬と帝人が頷き、今まさに病院を出た金田一の後をゆっくりと追い始め―――。
思い出したように、臨也が金田一の背中に声をかける。
「金田一君。個人的にはさ、君は七瀬美雪を真っ先に探しにいくべきだったと思うよ。それが出来なかったのは」
「君が名探偵であり……この実験の『解決』を念頭に行動したからだ。その後悔を繰り返したくないのなら」
「「君は――――――セイギノミカタに、なるといい」」
臨也の言葉を継ぎ、唱和する言峰の、二人の言葉は金田一に何らかの影響を与えたようで。
金田一は一瞬立ち止まり、しかし靴先の向きは変えずに、朝日を見上げるように首を上げ。
何も言わずに、歩き始める。その背中からは、何の感情も見えなかった。
「……自重するんじゃ、なかったんですか」
「今のはただの激励だよ、酷いなぁ。俺がいつも他人に嫌がらせをしてるように言わないでよ」
「ドクター天馬、少年を頼むぞ。……ヨハンという男、こちらでも捜しておこう。テレビ局も我々が調べておく」
「……貴方が本当に超常の力を持っているとしても。油断だけは、しないでくれ」
こうして、五人は三人と二人に別れた。
◇
............
「……さて、Setを探しにいこうか」
二人きりになった空間には、しかし友好の空気も親愛の情もなかった。
そんな無機質なエントランスにごく普通の声質で言峰の言葉が響く。
臨也が、ディパックを担ぎ上げる事でその声に応える。
二人が数刻前の連れションで語った今後の展望……HorとSetの大軍団を拵えるという発想を、叶えるために。
「Setの連中……ドクターが言うには、好戦的な奴ら。はてさて、他人とつるむようなのがどれだけいるのやら」
「少年の観察を中断してまで、お前の道楽に付き合うのだ。無駄足でないと思いたいものだ」
「まあ……今の段階じゃ、自分がSetと仮定してる奴が会話に応じる可能性は低いけどね」
彼らが行おうとしているのは、いわば下見。
最大12人を殺戮したと思われるSet陣営の参加者がどれほどのものなのかを、観察するための。
「テンマと賀来巌も気にはなるけど……胴元に雇われて放送するような連中だ。慎重に行くにこしたことはないね」
「わざわざ参加者を使い、参加者間のいざこざをそのまま放送することを許した……なにか企みがあるのだろうな」
まだ見ぬ黒幕の全容。実験を円滑に進めようとする二人にとっては、いずれ接触したい存在。
ゆえに、それに繋がっていると見たテンマと賀来巌を、探る。抉る。
(……それにしても、放送を聴いてたときのドクター。なんか、変だったよねぇ?)
臨也の観察眼は、放送で『テンマ』の声が流れた時の天馬の微妙な表情の変化を捉えていた。
グリマーの死に関する反応ではない。
自分と同じ名前の参加者の登場に驚いた……というような様子でもなかった。
むしろ、テンマの声そのものに驚いていた、という体。
言峰も気づいているだろうが、あえて言及しないのは天馬にとってもその驚きが確信を伴なう物ではないからか。
何者かに騙されているのではないか……という、疑心を孕んだ驚愕だったのか。
「もし、俺の想像通りだとしたら、言峰さんと話が合いそうな奴……いるかもね」
「精々、期待するとしよう」
名探偵は正義の味方に、少年は観葉植物に、医者は道具として扱う二人。
新たな愛玩対象を探す為、彼らは恥じることなく、臆すことなく、日の光の下を歩き始めた。
【F-3:市街地:一日目・朝】
【金田一一@金田一少年の事件簿】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:デイパック、基本支給品、レイジングハート(スタンバイモード) 、風紀委員の自転車@めだかボックス
[方針/目的]
基本方針:……。
0:……。
[備考] ※美雪をIsi、剣持をHorかIsi、高遠をSetと推測し、それを前提に行動しています。
またその推測が外れている可能性も視野に入れています。
※レイジングハートがベルカ式カートリッジシステムになっているかはまだわかりません。後の書き手様にお任せします。
天馬、言峰、折原といくらかの情報交換をしました。
【天馬賢三@MONSTER】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:コルトガバメントM1911A1(7/7)、予備弾倉4つ
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、月の腕時計@DEATH NOTE、医薬品多数
[思考・状況]
基本行動方針:ヨハンの抹殺。負傷している者がいれば治療する?
1:とりあえず、金田一を追って見守る。
2:ニナを探す。
3:放送の声、聞き覚えが……?
[備考]
金田一、折原、言峰といくらかの情報交換をしました。
折原臨也と、第一放送後に合流する場所を密かに決めています(H-04の舗装道)。
【竜ヶ峰帝人@デュラララ!!】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康(高揚感?)
[装備]:なし
[持物]:デイパック、基本支給品、支給品1〜3(本人確認済み)
[方針/目的]
基本方針:死にたくないけど……
1:他の人達と協力していく。
2:言峰さんが信用できない。
3:ヨハンに興味?
[備考] 少なくとも原作6巻以降のいずれかより参戦
金田一、天馬、言峰といくらかの情報交換をしました。
【G-3:市街地:一日目・朝】
【折原臨也@デュラララ!】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:メス(コートの隠しポケットに入っている)
[道具]:基本支給品、セルティの首、属性探査機、属性電池(Isi)属性電池(Set)
[思考・状況]
基本行動方針:実験を完遂させつつ、その中で活躍してヴァルキリーに認められ、天国へ行く。
1:Horらしき参加者を見つけ、五代達との合流を促して擬似Horによる大集団を作る。
2:Isiらしき参加者を見つけたら、人間観察がてら人間不信に追い込む。
3:Setらしき参加者に遭遇した場合、様子を見て情報収集・擬似Set集団形成促進の為に接触する。
4:属性電池を探索する。
5:ここで活躍できなかった場合の保険の為に、本ちゃんの戦争に必要な竜ヶ峰帝人はなるべく保護したい。
6:言峰綺礼とはなるべく協力関係を築いていきたい。
7:テレビ局に向かい、Setの参加者の下見をする。
[備考]
登場時期は原作2巻終了後。
吉良吉影と、第一放送後に合流する場所を密かに決めています(H-04の舗装道)。
金田一、天馬、言峰といくらかの情報交換をしました。
言峰綺礼より、更にいくつかの情報を得ました。
【言峰綺礼@Fate/stay night】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:デイパック、基本支給品、支給品0〜2
[方針/目的]
基本方針:?????
1:他の者と今後の行動方針について話し合う。
2:テレビ局に向かい、Setの参加者の下見をする。
3:折原臨也とは、なるべく協力関係を築いていきたい。
4:天馬たちと合流後、竜ヶ峰帝人を観察する
[備考] 出展時期は他の人にお任せ。
金田一、天馬、折原といくらかの情報交換をしました。
原作二巻当時における竜ヶ峰帝人の情報を得ました。多少臨也の主観混じり(?)
以上で投下終了です。
指摘などありましたらお願いします
久々の投下乙でした!いやあ、長かった・・・。
はじめちゃん大ピンチ。そしてここぞとばかりに傷を抉りにくる臨也と言峰ェ・・・
ていとくんはともかく、テンマ先生ならフォローできるか・・・?
これからちょくちょく予約されるといいなあ・・・。
はじめちゃん……名探偵故に事件の解決を先に目指したってのは皮肉だなぁ
この言葉ははじめちゃんに深く突き刺さっただろうな
しれっと激励とか言ってるんじゃねえよw 外道二人組がww
天馬もヨウマの声に気づいたのか?
改めて投下乙でした!!
投下乙!
やっぱりはじめちゃんにとって美雪の死は大打撃だよなぁ
Dr天馬は金田一の様子とヨウマの声にいっぱいいっぱいだろうけど自分も「テンマ」だから気をつけないとな
>「「君は――――――セイギノミカタに、なるといい」」
ここんとこが読んでてライスピ本編本郷さんの「仮面ライダーとして 生きればいい」と重なって感じた
名探偵もライダーも正義ってのは因果なものだねぇ
投下乙です
はじめちゃん、こうなったか・・
確かに憎しみ感じるより、放心するタイプだろうな
そして傷口に塩塗り込む二人組w
369 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/04(土) 09:10:21.91 ID:BErw3V3q
保守
370 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/12(日) 22:28:03.09 ID:mNEO/0mk
保守
371 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/12(日) 22:51:26.87 ID:FSS6n823
保守
372 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/14(火) 22:35:14.42 ID:+DIklPyw
創発は半年くらい書き込みなくてもdat落ちしないから
保守の必要は無いと思う
373 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/25(土) 15:24:01.12 ID:t+c64e1C
予約キター
黒神めだか、衛宮士郎、ヨハン・リーベルトを投下します。
1/喪失『私にとって必要な――――』
――――放送が終わった。
告げられた死者は十二名。その中に、自分の知人はいない。
だが、それは決して喜ぶべき事ではない。
たった六時間。それだけの間に十二人もの人間が死んだのだ。
その中に、誰かにとっての大切な人が入ってない方がおかしく、そしてそれは――――
「…………ぜん……きち……?」
複数人で行動している自分“たち”でさえ、例外ではない。
黒神めだかが、茫然と立ちつくしていた。
あの毅然とした態度の面影は何処にもない。
どこにでもいる当たり前の少女の様に、ただ静かに涙を流していた。
「……黒神…………」
その様子を見ていられず黒神に声をかけるも、言葉が続かない。
大丈夫か。などとは口が裂けても言えない。
確認するまでもない。
彼女は――――大切な誰かを失ったのだ。
ニナもそれを判っているのか、声をかける様子はない。
朝焼けを迎えるカフェテリアは、ただ静かに、声無き慟哭を響かせていた。
◇
「すまない、迷惑をかけた」
あれから数分。動揺の落ち着いた黒神は、静かにそう言って謝った。
「気にしなくていいって。それより、もしまだ辛いなら休んでていいからな」
「そうですよ。無理をして体を壊してしてしまっては元も子もありません」
「……心遣い、感謝します。けれど休んでいる暇はありません。これ以上誰かを死なせる訳にはいかいきませんから。
大丈夫です。いきなり倒れるようなへまはしませんので」
「……わかった。けど無茶だけはするなよ。限界だと思ったら、無理やりにでも休ませるからな」
黒神に今までの覇気はない。だが、今はこれ以上休めと言ったところで黒神は聞かないだろう。
それに、何かをしていた方が心を紛らわせる事も出来るだろう。
心配は拭えないが、それなら無茶をし過ぎないよう俺が気をつけていればいいだけだ。
黒神が頷いたのを確認して、今後の方針を練る。
本来、こういったリーダーシップを執るのは黒神の方が得意なのだろうけど、今の彼女にそれは酷だ。
「それじゃあまず今後の方針についてだけど、二人とも、放送に関して何か気付いた事はないか?」
今の黒神がいる状況では聞きづらいが、それでも聞かなければならない。
この殺し合いを止める為には、今はすこしでも情報が必要だ。
「私からは特にない。ただ、あの放送は『嘘』ではないだろう。
………何故なら、嘘をつく意味が………無い………」
絞り出すような声。
きっと彼女は、何度も放送が嘘である可能性を何度も考えたのだろう。
その上での断言。絞り出すような声は、信じたくないと思う心の、せめてもの抵抗だ。
強いんだな、と。
誇張でも何でもなく、純粋にそう思った。
「ニナの方はどうだ? 何か、気付いた事とかあったか?」
ニナの方へ向き、問いかける。
放送が流れた瞬間は黒神に気を取られていたが、今見た限りでは、ニナに黒神の様な悲しみの色は見られない。
「私の方もありません。ただ……」
「ただ?」
何か思い中る事でもあったのか、言葉尻を濁す。
「ただ、テンマと呼ばれた方の事が気になったんです」
「気になるって、知り合いなのか?」
「いえ、放送で聞こえた声は違います。
私の探している人は天馬賢三と言う人ですが、放送の声の人ではありません。
ただ、名簿にはテンマと呼べる方が二人いますので、もう一人の方ではないかと」
言われて名簿を確認すれば、成る程、確かに “テンマ”が二人いる。
「………なあ。この天馬賢三って人、ニナの彼氏か?」
天馬賢三の名前を言った時のニナの表情が気になり、つい思った事が口から出てしまった。
「――い、いえ。違います! 確かに私の恩師とも言える人ですけど、恋人ではありません」
「そ、そうか。悪い、変に勘ぐっちまった」
驚いたような顔をしながらも、両手と首を振ってニナは否定した。
ニナの表情がどこか大切な人を見るようだったのでそう思ったのだが、どうやら思い違いだったらしい。
「そうだぞ、衛宮上級生。女物の服を着ているが、彼は男性だ。
天馬賢三という人は、はその名前から察するに男性だろう。彼が同性愛者でもない限り、恋人と言う事はあるまい」
「――――――――!」
「…………へ!?」
黒神の言葉に、思わず声を失う。
それはニナも同様で、目を大きく見開いて驚いている。
「それ本当か? ニナさんが男性だっていうのは」
「……ええ、本当です。実は私、家庭の事情で女性として育てられていたんです。
けどよく判りましたね。私が男性だと気付く人は滅多にいないのに」
「確かに私も最初は女性かと思ったが、こうして向かい合えばすぐに判る」
「いや、それは黒神だけだと思うぞ?」
黒神の思わぬ観察力に驚きつつも、それをまったく自覚していない発言に思わず呆れた。
◇
「では、今後の方針は昆虫男と学生服の少年の行方を捜索しつつ、放送の有った現場の探索をする。これで問題ないな」
時間が経って、ある程度調子を取り戻した黒神が仕切る。
その言い方は俺を諫めているようでもある。
いや、事実諫めているのだろう。
ジョーカーを殺さなければならないと考える俺と、誰であっても殺す事を良しとしない黒神。
お互いの目的は同じで、その差異はおそらくたった一つ。
だが、その一つが致命的な違いとなっているのだろう。
「ああ、俺は問題ない」
放送は気になるし、当然学生服の安否も気になる。
黒神の言った行動方針に異論はない。
現状、たった一つの致命は明確な問題とはなっていない。だが、いつそれが表面化するかも判らない。
それが問題となって救えぬ誰かを出す前に、近い内に必ず解決しなければならないだろう。
しかし、それでも疑問は残る。
どうして俺は――――黒神めだかの事が、こんなにも気にくわないのだろう。
◇
「人吉善吉さんとは、どんな人だったのですか?」
行動方針を決め終え、出発の準備を整えていると、ニナが唐突にそんな事を訊いてきた。
「――――! ち、ちょっとニナさん!」
「構いません。……いずれは、話さなくてはいけない事ですから」
思わず声を荒げるが、黒神は首を振ってそれを止めた。
彼女も解っているのだろう。どれだけ話を先延ばしにしようと、結局のところ、いつかは絶対に話さなければならない、ということに。
「一言で言ってしまえば、善吉は「私にとって必要な人間」でした」
そう言って黒神めだかは、心を静かに、遠くを見つめ、想いを馳せた。
「私と善吉は、いわゆる幼馴染だった」
彼と初めて会ったのは、十五年前。私と彼は、それからずっと一緒に居た。
そしてこれからも一緒に居るのだと、理由もなく思っていた。
「私は成長の速い子供で、人より多くの事が出来た。
だからその分、人より多く頑張って、人より多く成果を出してきた」
そしてその分。人は私を恐れ、私から離れていった。
「そんな私について来れる人など、そうはいなかった。
それでも善吉は、文句を言いながらも傍にいてくれて」
誰よりも“完璧”だった私は、誰にも心配される事はなかった。
そんな中、彼だけが私を心配してくれた。
「善吉がいなければ、私は「私」には成らなかった。
善吉がいなければ、私は別の「何か」に成っていた」
人生に意味など無いのだと。そう諦めていた私に、夢をくれた。
「だから善吉は、「私にとって必要な人間」でした」
彼に初めて会ったとき、私は彼に救われた。
“きっときみは、みんなを幸せにするために生まれてきたんだよ!”
だから私はその言葉を私の目標にして、その言葉に恥じないように生きてきた。
だから私は、彼に恥じない様に、これからもそうやって生きていくのだとに誓った。
だから―――
「――――黒神さん。善吉さんに、会いたくはありませんか?」
「――――え?」
だから黒神めだかは、ニナ・フォルトナーが言った言葉を、理解する事が出来なかった。
会いたくない訳がない。もし会えるのなら、何をしてでも会いたい。
けれど善吉は死んでしまって、もう二度と会えない。
そんなわかり切ったことを、彼はどうして訊くのか。
「会わせてあげましょうか?」
そう、まるで天使が囁く様な声で、ニナが言った。
ガチリ、と何かしらのギミックが軋む音が聞こえた。
テレビや映画などで聞き慣れたその音に、背筋が凍りつく。
その音に、ニナの言葉に混乱した黒神は気付いていない。
「黒神、危ない!」
咄嗟に黒神を抱き込み、床へと伏せる。直後、銃声が二度響いた。
躱し切れなかった銃弾がデイバックへと当たり、その中身を巻き散らかす。
続く銃撃はない。いまだに混乱している黒神を庇いながら、凶弾の撃ち手へと目を向ける。
「ニナさん。あんた、一体どういうつもりだ」
そこには、右手に警察が持つような拳銃を構えた、ニナ・フォルトナーがいた。
その表情は変わらず笑顔のまま。その事実に、感情が冷えていくのが実感できる。
ニナは拳銃を構えたまま、微動だにしない。
拳銃の性能をよく理解しているのか、避けるには近く、攻めるには遠い距離を維持している。
手の届く範囲には地図やメモ帳など、ただの紙切れしかない。
武器や盾になりそうな物は、どれも一歩以上の距離を必要とする場所に落ちている。
つまり手詰まり。普通の人間には、どうする事も出来ない状況だ。
「なんでこんな事をした」
「ああ、それはね、彼女が“僕”を知ってしまったからだよ」
「僕を……知った……?」
その答えに首をかしげるが、すぐに続きが来た。
即ち、ニナ・フォルトナーの目的だ。
「僕の目的はね、『完全なる自殺』なんだ。だから、少しでも“僕”のことを知っている人間は、全て殺さなきゃいけないんだ。
それなのに彼女は僕の性別に気付いてしまった。なら、もし“本物のニナ・フォルトナー”に出会ってしまえば、僕の正体に気付いてしまうかもしれない。
だから、あなた達には死んでもらわなくちゃいけないんだ」
「…………そうか」
「それじゃあ、出逢ったばかりだけど、さようなら」
声は酷く淡々としている。
それはニナ・フォルトナー――名前も知らない男にとって、当たり前の事なのだろう。
それを証明するかのように、男は水鉄砲でも撃つかの様に、あまりにも軽く引き金を引いた。
朝のカフェテリアに似つかわしくない、乾いた音が再度響き渡った。
―――直前、
「―――同調(トレース)―――」
既に準備の出来ていた魔術回路をスタートさせる。
床に放り出された地図を拾い眼前へと広げ、強化の魔術を叩き込む。
「―――完了(オン)―――!」
防げるはずのない銃弾を防ぐ。
当たり前の物理法則を無視して火花が飛ぶ。
魔力を籠め過ぎたのか、鋼鉄並みに強化された地図が千々に破け散る。
戦闘開始だ。舞い散る紙片が床に落ちる前に、俺は敵へと駆け出した。
2/行動論理『なまえのないかいぶつ』
男が銃を撃ちながら、逃げるように後退する。
途中に在った白と黒の二つの短剣を拾い、弾丸の射線上に置く。
拳銃から撃ち出された弾丸は、当然の様に弾道を遮った白い短剣に防がれた。
衛宮士郎は弓において射を外した事は一度しかない。その一度も、予め外れる事が判っていた。
それはつまり、自身の矢が何処に中るかを予測できるということ。
逆に言えば、他人の矢でもある程度は何処に中るか予想できるということだ。
続く弾丸も黒い短剣で弾く。
敵との距離は残り三歩。
その時点で見切りを付けたのか、男は銃を手放すと、デイバックから黒い剣を取り出した。
柄尻から切っ先までを漆黒に染め、赤い文様を脈打たせるソレは、その外見とは裏腹に、どこまでも尊い魔力を纏わせている。
――――おそらくは宝具。
聖杯戦争におけるランサーの槍と同じ、“貴き現想(ノーブル・ファンタズム)”。
その切れ味は、そこら辺の名剣など足元にも及ばないだろう。
たとえ持ち主が素人だろうと、その脅威は推して余りある。
だが――――
「………っ!」
振り下ろされた剣を正面から受け止める。
受け止めた剣には、亀裂一つ入っていない。
男の方から驚きの声が聞こえた。
驚く事ではない。
相手の剣が宝具なら、こちらの剣もまた宝具。
聖杯戦争においてアーチャーが用いていた、錬鉄の夫婦剣。
陰剣莫耶、陽剣干将。
際立った能力こそないものの、剣としての頑丈さは折り紙つきだ。
たとえその剣がどれほどの名剣でも、一撃二撃で砕かれる事はない。
驚愕の間に、男の剣を弾き飛ばす。
不意を突かれた男は容易く剣を手放し、その身体を曝け出した。
そこに渾身の力で体当たりを入れる。
「ぐうっ………!」
男は壁に叩きつけられ、呻き声を上げる。
即座に干将を男の肩ごと壁へと突き刺す。
そしてもう一方の莫耶を、男へと突き付ける。
「一つ、聞かせろ。お前は今までも、そうやって人を殺してきたのか?」
身動きの取れない男は、きょとんとした顔をしたあと、すぐに笑顔へと変わった。
「うん、そうだよ。僕は“怪物”だからね。“怪物”が人を殺すのは、当然の事でしょう?」
「……………………」
当然の様に返された返答。それで理解した。
こいつもジョーカーと同じ壊れた人間なのだと。
つまりは、殺さなければいけない“悪”だということを。
「悪いな、俺はお前を殺さなくちゃいけない」
「それは、なんでかな?」
「俺は“正義の味方”だからな。当たり前の様に誰かを傷つけるヤツを、許す訳にはいかないんだ」
俺にとっては決まりきった回答。
男にとっては何かが意外だったのだろう。大きく目を見開いている。
「―――ああ、そうか。君も“怪物”なんだね」
「………ああ、そうかもな」
男は得心がいったように頷き、俺はそれを肯定した。
なぜなら、
――――誰かを救うためならば、俺も、当たり前のように人を殺せるからだ。
それのどこが、目の前の“怪物”と違うというのだろう。
「じゃあな。別に、恨んでくれても構わない」
「恨まないよ。だって、“正義の味方(ヒーロー)”が“怪物(モンスター)”を倒すのは当たり前の事でしょう?」
それもそうだ、と頷き、莫耶を振り下ろした。
莫耶が名前も知らない男へと迫る。
その白刃は、容易に男の体を切り裂き、その命を散らすだろう。
男にそれを止める術は無く、また、その意志があるようにも見えない。
だがその刃は、男へと届く直前に横から割り込んだ別の刃によって止められた。
すぐに後方へ跳び、距離を取る。
「どういうつもりだ、黒神」
「どうもこうもあるか! 貴様、今何をしようとした!」
男を庇いながら黄金の剣を構える黒神を睨み付ける。
それに対し、黒神めだかは怒りを見せながらこちらを睨み返してきた。
そこにはやはり覇気はなく、いまだ立ち直り切っていないことが伺える。
「何をって、見たままだが」
「ッ……貴様……!」
「黒神の方こそ、何で邪魔をするんだ。
そこをどいてくれ。黒神に、そいつを守る理由なんてないはずだろ」
「関係無いと、言ったはずだ」
「………そうか。なら、あんたも敵だ」
深呼吸を一つ。それで感情を凍らせ、表情を無にして告げる。
これはいずれ起こった問題が、今ここで起きたにすぎない。
………出来る事なら、彼女とは敵対したくなかった。
だが、こうして問題が表面化した以上、今ここで黒神との決着付ける。
◇
黒神へと一足で踏み込み、莫耶を振り下ろす。
狙いは剣を持つ右腕。流石の黒神でもすぐには応戦出来ない。
腕を狙った理由は、彼女を殺す為ではなく無力化するためだ。
これまでの行動から鑑みても、今ここで彼女を失うのは惜しい。
「なっ――――!」
だが、黒神へと振り下ろされた刃は、当然の様に黄金の剣に弾かれた。
その事に驚きつつも、即座に回り込む様に移動しつつ斬り込む。
しかし黒神は人間離れした反応速度で、先ほどと同じように短剣を防ぎつつ回り込んできた。
「チィ――ッ!」
見誤った。
黒神の反応速度は俺以上だ。
否。その程度では済まされない。黒神は斬り結ぶ中で、俺の短剣を奪おうとまでしてくる。
その予備動作すら感じさせない動きは、明らかに人間の限界を超えている。
「この……っ!」
俺がそんな黒神に対応できているのは、既に俺がサーヴァントと言う“人間以上の存同士の戦い”を見慣れていたのと同時に、精神的な理由からだろう、黒神の動きが精彩を欠いているからにすぎない。
このままでは勝てない。
長剣と短剣。反射神経の差。カフェの中という、戦闘を行うには狭い場所。
それらの要素が、黒神に有利に働いている。
後方へと飛び退いて距離を取り、僅かに乱れた息を整える。
追撃はない。黒神の目的が男を守ることである以上、それは当然だろう。
こちらの得物が短剣である以上、一刀では足りない。かと言って銃器は持っておらず、仮に持っていたとしても、普通の銃弾では黒神ならば弾ける可能性がある。
その圧倒的に不利な状況の中、黒神をどうにか退け、男を殺す方法を模索しようとして、
「…………だ」
黒神が僅かに俯いて、呟くように口を開いた。
今の彼女に戦う意志はない。否。元より黒神は、戦意など持っていなかった。
あるのはただ、純然たる疑問だけ。
「なぜだ。なぜ彼を殺そうとする、衛宮士郎!」
「…………、まだそんな事を言っているのか黒神。こいつの行動も、考えも解っただろう。命を狙われたって言うのに、よくそんな事が言えるな」
「そんな事は関係ないと言ったはずだ!
私は誰も死なせないと誓った! たとえそれが、どれ程の悪人であっても、だ!
貴様の方こそ、なぜ彼を殺そうとする!」
黒神の言葉に呆れ、同時に羨ましくも思う。
俺には、その道を貫き通す事が出来なかった。
俺に出来た事は、ただ見殺す事だけだったから。
―――けど、だからと言って、引き下がる事は出来ない。
「判り切った事を聞くな黒神。そいつはジョーカーと同じで、どうしようもなく壊れた、“救えない人間”だ。どう頑張った所で人殺しを止める事は出来ない。なら、前にも言ったように殺すしかないだろう。
それともお前には有るって言うのか? この殺し合いを強要された世界で、そいつを抑えながら、誰も死なせずにすむ方法が」
「それは………」
黒神が口籠る。
聡明な彼女の事だ。その意味を当然理解しているだろう。
例えば、ここに銀行強盗と十人の人質がいたとする。
当然、人質全員を救うことは困難だ。生半可な方法では必ず救えぬ誰かが出てしまう。
だが、もし仮に人質十人を救えたとしても、それでも救えぬ者は出てきてしまうのだ。
そう。人質を救われてしまった強盗だ。
強盗を救うと言うことは人質を見捨てると言うことで、人質を救うと言う事は強盗を切り捨てると言うこと。
どちらも救う方法など、皆無に等しい。
これより、代理投下を行います
だが黒神は、その両方を救いたいと言っているのだ。
その過程に、どれ程の犠牲が生まれ得るかを理解したうえで。
「お前だって解っているんだろう、全てを救うことが出来ないって事は。
……なら。そいつを生かして余計な荷物を背負うよりも、今ここで殺して身を軽くした方が犠牲も出ないし、より多くの人を救える。
黒神の言いたい事は解る。けど、俺はお前みたいに、一縷の希望に縋って被害を広げる事は出来ない。
そんな決断を先延ばしにする弱さが、逆に救えたかもしれない人間を死なせる事になるんだ」
「――――――――」
放っておけば十人の人が死ぬ。
それを、予め一人の命を絶つ事で九人を救えるのなら、それこそが最善。
他の考えは全て打算と妥協にまみれた失策だ。
黒神の言い分は正しい。
どちらがより多くを救えるか、という事ではなく、誰かを救うという点で、黒神の願いこそが正しく、それは――――
―――それは。
かつて衛宮士郎(おれ)がずっと憧れてきて、心の奥で、諦めていた過去(げんそう)ではなかったか?
「――――違う。貴方は、間違っている」
「黒神……?」
「私は犠牲など出させない。
貴方の方こそ、やりもしない内に結論を出す衛宮上級生こそ、弱いのではないのですか」
「っ――――!」
そうして漸く気付いた。
多大に共感できる彼女の、いったい何が気に食わなかったのか。
その答えに。
「私は、自分が“みんなを幸せにするために生まれてきた”のだと信じている。
だからこそ、たとえ誰であろうと、手の届く所にいる限り絶対に死なせるつもりはない!」
「……………………」
つまるところ、黒神めだかは衛宮士郎(おれじしん)だったのだ。
全てを救うのだと、幼い夢を見ていた頃の、理想の具現。
「ああ、そうだな――――俺は弱い。
どうしようもなく弱いから、味方をした人間しか救えないんだ」
「…………?」
正義の味方は、味方をした人間しか救えない。
そんな当たり前の事実が、この上ない程に悔しい。
――――敵も味方もない。目の前に居る全ての命を救うのだと。
その、かつてのエミヤシロウが果たせなかった夢を、黒神めだかは掲げている。
その羨望こそが、この感情の正体だったのだ。
「もし俺が、お前の様に強かったら―――」
遠い夜空の星を眺めるように、黒神めだかという少女を見つめる。
そして。
「――――俺は、桜を見殺しにせずに済んだかもしれないのにな」
そう、心からの後悔を口にした。
3/現実『切り捨てたモノ』
「………桜とは、誰ですか?」
黒神が恐る恐る、と言った口調で聞いてくる。
理解しているのだろう。その名前が、“黒神めだかにとっての人吉善吉”だと言うことに。
黙っている理由もない。むしろ話さなければ、黒神は納得しないだろう。
故に、真っ直ぐに彼女を見据え口にした。
「…………彼女は―――間桐桜は、年下の後輩で、親友の妹で、俺の妹分で、そして――――」
俺が守りたかったもの。
俺にとって大切だったもの。
失うことさえ、思いつかなかったもの。
そして―――
「――――俺の好きだった女の子だ」
それを俺は、正義の味方という理想の為に、斬り捨てた。
黒神は、目に見えて狼狽している。
その表情は、何か聞き間違いをしたのでは、と疑っているようでさえある。
「………好きだった女の子? それを……見殺した?」
「ああ、その通りだ」
「っ――――――――!」
息を飲む。衛宮士郎の言葉、その行動に、口にするべき言葉を失っている。
当然だろう。容易く理解できる事ではない。容易に納得できる事でもない。
それでも理解しようと――したいと願うなら、
「それは………何故」
出来る事は、ただ、その理由を問う事だけだ。
たとえその結果、聞くべきではない事を聞いてしまうとしても。
「―――だって、俺は―――」
零れ出た己の声は、ただ虚ろな、伽藍の洞を吹き抜ける隙間風のようだった。
怒りもなかった。悲しみもなかった。当然だ。衛宮士郎の中にはもう何もない。
あるのはただ、愛した者を切り捨ててまで張り通した、薄っぺらな理想だけ。
「俺は―――正義の味方に―――なるから、だ」
その空虚な誓いだけが、今の衛宮士郎を生かす全てだった。
「せいぎの………みかた、だと…………?」
黒神は顔を伏せ、肩を震わせている。
否応なしに高まる感情を、どうにか抑えている。
「貴様は、そんなモノの為に、自分が愛した少女を、見殺したと言うのか………」
「……………………」
黒神の問いに無言で返す。
答えるまでもない、と言外に告げる。
それを受け、黒神は抑えきれなくなった感情を爆発させた。
「ふざけるな、衛宮士郎! そんなものが“正義の味方”であってたまるか!」
激情を顕わに、剣を振り上げ斬りかかってくる。
いや、その表現は正しくない。黒神は剣の刃を向けずに、その腹で叩き付けるように打ち抜いてくる。
「くっ――――!」
咄嗟に短剣で受けるも、その勢いにたまらず引き下がる。
そこへ、烈火怒涛と黒神の剣が襲いかかる――――!
繰り出される黒神の剣を防ぐ事しかできない。
反撃を試みれば、その隙に黒神の剣が躰を打つ。
いや、そもそも反撃にまわれるだけの余裕などない。
黒神の剣に込められた力は、莫耶を握る手を一撃ごとに痺れさせる。
だが決着は、剣を取り落とすより早くついた。
黒神の剣圧に耐えられず、片膝をつく。
そこへ、黒神は止めとばかりに剣を振り落とす。
必倒(そ)の一撃を、莫耶を両腕で支える事で受け止める。
戦いはそれで終りだ。
黒神の剣を受け止めたものの、その圧力に動く事が出来ない。
短剣を支える両腕を僅かでも緩めれば、黒神の剣が俺の頭を強打する。
「ぐ――――づ…………!」
両腕に力を籠め、黒神の一撃を食い止める。
額に汗が滲み、呼吸が千々に乱れる。
「――――――――」
対して、黒神は呼吸さえ乱れていない。
こと身体能力において、俺は黒神に大きく劣っている。
「――――なぜだ、衛宮士郎。好きな子を守るのは当然の事だろう。だと言うのに、なぜ貴様はその少女を見殺した!」
「……好きな子を守るのは当然、か」
そう、好きな子を守るのは当然だ。そんな事、俺だって知っていた。
だが俺は、そんな当たり前の事を、守れなかったのだ。
両腕に一層力を籠める。
そのまま一度だけ黒神を見上げ、
「だって、仕方ないだろう。
桜は外道に堕ちてしまった。自分が生きるために、他者を犠牲にする存在(モノ)になってしまったんだ」
真っ直ぐに、昏い目をしてそう告げる。
魔術師でない黒神めだかに、その言葉を正しく理解する事は出来ない。
解るのはただ、衛宮士郎が愛した少女が人を殺す存在になったのだと言うことと。
その言葉に込められた、深い慟哭だけだ。
「―――そこに、桜自身の意思は関係ない。桜の体は、己が生き延びるために桜の心を無視して人の命を喰らっていく」
俺の前でだけ笑っていた少女。
その影で、どれだけ泣いていたのかさえ、俺は知らなかった。
決して声を上げず、顔にも出さず、絶対に知られたくないと願いながら、けれど、それでも助けを求めていたのに。
――――先輩。もし私が、悪い人になったら――――
俺は、何一つ気づく事が出来なかった――――気づこうとすらしなかった。
そして気付いた時にはもう手遅れで、俺にはどうする事も出来なかった。
………いや、気付いた所で、どうしようもなかった。
桜もそれを分かっていたのだろう。
――――はい。先輩になら、いいです。
桜は言った。俺ならいい。俺にならば、殺されてもいいと。
それなのに俺は、彼女のそんな願いすら、叶えてやれなかった。
彼女にとっての最後の救いさえ、与えてやれなかった。
俺に出来た事は、ただ、彼女の死を許容する事だけだった。
「…………俺には、桜を救う術がなかった。桜の人喰いを止めるには、殺すしかなかった」
誰かの味方をすることは誰かの味方をしないということで、
誰かの味方になるということは誰かの敵になるとうことだ。
衛宮士郎が正義の味方を張り通す限り、間桐桜は、倒さなければならない敵だった。
「だから殺した。誰よりも死んでほしくないと願ったまま、大勢の為に桜には死んで貰った」
より多くの人を救う為に。十年前の惨劇を繰り返さない為に。正義の味方になる為に。
顔も知らない誰かの為に――――
――――誰よりも愛した少女を、見殺した。
真っ直ぐに、昏い目をしてそう告げる。
魔術師でない黒神めだかに、その言葉を正しく理解する事は出来ない。
解るのはただ、衛宮士郎が愛した少女が人を殺す存在になったのだと言うことと。
その言葉に込められた、深い慟哭だけだ。
「―――そこに、桜自身の意思は関係ない。桜の体は、己が生き延びるために桜の心を無視して人の命を喰らっていく」
俺の前でだけ笑っていた少女。
その影で、どれだけ泣いていたのかさえ、俺は知らなかった。
決して声を上げず、顔にも出さず、絶対に知られたくないと願いながら、けれど、それでも助けを求めていたのに。
――――先輩。もし私が、悪い人になったら――――
俺は、何一つ気づく事が出来なかった――――気づこうとすらしなかった。
そして気付いた時にはもう手遅れで、俺にはどうする事も出来なかった。
………いや、気付いた所で、どうしようもなかった。
桜もそれを分かっていたのだろう。
――――はい。先輩になら、いいです。
桜は言った。俺ならいい。俺にならば、殺されてもいいと。
それなのに俺は、彼女のそんな願いすら、叶えてやれなかった。
彼女にとっての最後の救いさえ、与えてやれなかった。
俺に出来た事は、ただ、彼女の死を許容する事だけだった。
「…………俺には、桜を救う術がなかった。桜の人喰いを止めるには、殺すしかなかった」
誰かの味方をすることは誰かの味方をしないということで、
誰かの味方になるということは誰かの敵になるとうことだ。
衛宮士郎が正義の味方を張り通す限り、間桐桜は、倒さなければならない敵だった。
「だから殺した。誰よりも死んでほしくないと願ったまま、大勢の為に桜には死んで貰った」
より多くの人を救う為に。十年前の惨劇を繰り返さない為に。正義の味方になる為に。
顔も知らない誰かの為に――――
――――誰よりも愛した少女を、見殺した。
上はミスです、失礼
それこそが黒髪めだかが感じた不快感の正体。
より多くの人々を救う為に、自らの感情を殺して決を下せる、“セイギノミカタ”という理想だった。
「衛宮……………」
黒神の剣が緩む。
「ふっ――――!」
その隙に立ち上がり、自由になった足で黒神を蹴り飛ばす。
「っ――――!」
吹き飛ばされつつも、黒神は危なげなく着地する。
状況は先ほどと変わらない。
男を殺そうとする俺と、壁に縫いつけられた男を背にする黒神。
互いの距離は、またも五メートルほどの間合いとなった。
「……………………」
黒神に先ほどまでの怒気はない。
それでも油断なく莫耶の切っ先を突き付け、決別の言葉を口にする。
「俺にはもう、たった一つの理想(モノ)しか残ってない」
――――正義の味方になる。
「その為ならば、どんな事でも成し遂げてみせる。それがより多くの人を救う為ならば、悉くを受け入れて、その存在を切り捨てよう」
「………衛宮………お前は、本当にそれで――――」
「その為に、たとえこの世の全ての悪を担うことになろうとも―――構わない。
それでより多くの人が救えるのなら、俺は喜んで引き受ける」
「…………ッ」
黒神が息を飲む。
その言葉の重み、そこに込められた意志と覚悟を、否応なしに理解させられた。
黒神めだかは、もはや自分に衛宮士郎を止める言葉がない事を理解してしまった。
「―――― I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている)」
自然と浮かび上がる言葉。恐らくは衛宮士郎の未来を暗示する呪文を、
心を静かに、鉄に変えて口にした。
――――それで終わり。
衛宮士郎と黒髪めだかの道は違えた。きっと二度と、同じ道を歩くことはない。
同じモノを夢見た少年と少女は、今ここに、完全に敵同士となったのだ。
4/理想『正義の味方』
―――踏み込んだ。
身体能力で衛宮士郎は黒神めだかに敵わない。それを承知で地面を蹴った。
勝算はある。
黒神は俺を殺さない。
彼女が不殺を謳う以上、どれだけ攻撃を受けようと、死ぬことはあり得ない。
後はただ、俺の体が動く内に黒神の隙を見つけ、渾身の一撃を炸裂させるだけだ。
打ち下ろす陰剣莫耶。
その白刃の刃に必殺の意思を籠めて叩き込む。
―――だが。
渾身の力で繰り出された短剣は、
渾身の力で止められた。
「……なんで避けようとしない」
何を思ったのか、黒神は両腕をだらりと下げている。
攻撃も、防御も、回避すらもする様子がない。
俺が剣を止めなければ、彼女は確実に首を断ち切られていただろう。
「――――あなたから、攻撃を受ける理由がありません。故に、避ける理由がありません」
黒髪めだかはそう答えた。
そのまま右手の剣を手放す。
手放された剣は、容易く床へと突き刺さる。
そしてカラになった右手を、俺へと差し出してきた。
「衛宮士郎。確かに私には、あなたの絶望も、覚悟も、その理想にかけた意志の重さも、真に理解することは出来ないでしょう。
けど、今ならまだ間に合うはずだ。あなたの本当の願いを取り戻せるはずだ」
「……………………」
「あなた一人の力で足りないのなら、私が力を貸します。
あなたが味方を出来なかった人は、私が味方になって救います。
私が手伝います。誰も傷つかないように。誰も悲しまないように。誰もが幸せになれるように。
……あなたの夢が叶うように。
だから――――」
戻って来い、と。
手を伸ばしている。
名前を呼んでいる。
孤独の道を歩もうとする俺を、
黒神めだかは、今なお救おうとしていた。
貫いた。
躊躇わず、微塵も情を零さず、黒神の体に短剣を突き刺した。
抵抗はなかった。
きっかりと一撃で、黒神の体を貫いた。
「――――――――、―――」
思い出があった。
ちゃんと、今でも生きている感情があった。
忘れようのない、彼女との日々がすぐ近くにあってくれた。
あの手を取れば、あの優しかった日常に戻れたのかもしれない。
この剣を下せば、かつての自分に戻れたのかもしれない。
全てを救うのだと、幼い夢を懐いてたあの頃に。
だが………それだけは出来ない。
――――そんな事は、絶対に許されない。
俺はこの道を選んだ。
より多くを救うために彼女を殺した。
愛した人を、最期まで俺を想ってくれた少女を、理想のために切り捨てた。
間桐桜。
俺が、誰よりも救いたいと願った、
俺には、決して救うことの出来なかった、
―――誰よりも、衛宮士郎の近くにいた少女。
―――その死を。
無意味なモノにすることだけは、してはならない。
「――――けど、黒神」
切り捨てたものに見合うだけの人々を、一生涯救い続ける。
矛盾は捻じれていく一方で、いつか破綻するのは目に見えている。
それでも――――みっともなく、滑稽で無価値なまま、奪った責任を果たしてみせる。
結末はきっと、幸福には終わらない。
ただ、この理想が報われないとしても、立ち止まる事だけはしないと誓う。
「――――ありがとう。お前のようなやつがいてくれて、本当によかった」
……剣から伝わる意思が消える。
黒神めだかは最期までその手を伸ばし、俺の名を口にしながら、その瞳を閉じていった。
◇
短剣から手を放し、黒神の体を横たえる。
その様子を見ていた男が口を開いた。
「いいのかい? 彼女、まだ生きてるよ」
「ああ、そうだな」
「止めは刺さないんだ。優しいんだね」
「違うな。これはただの甘さだ」
そう、甘さだ。
もし彼女が生き残れば、確実に俺の障害になると判っている。
判っているのに俺は、彼女に生きていて欲しいと思っていた。
床に突き立った黄金の剣を引き抜く。それと同時に、その剣の情報が流れ込んできた。
―――“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”。
かのアーサー王が担い、そして湖の妖精へと返却されたはずの、最強の聖剣。
いかなる理由でこれが此処にあるのかは判らない。
だがこの剣を手にした瞬間。俺の内にある何かが、共鳴するように熱くなったのを感じた。
聖剣を構える。
黄金の光を放つ刀身は、俺の心を映すかのように、その輝きを鈍らせている。
「Dr.天馬やニナじゃないのが残念だけど、あなたの様な人に殺されるのなら、ぼくとしては上等な方かな」
お互いに、語り合う言葉はもうない。だからそれは、何の意味もない独り言だ。
微塵の躊躇も、一切の容赦もなく、聖剣を振り上げる。
同時に男が、右手の人差し指を眉間に当てた。
「――――あなたには見える……“終わりの風景”が……」
――――瞬間、一面の赤い荒野を幻視した。
赤錆びの様な大地。
舞い上がる火の粉。
空では巨大な歯車が軋みを上げ、
辺りには無限にも等しい数の剣が乱立している。
それは男が見続けていたモノとは違ったが、間違いなく、一つの“終わりの風景”だった。
肩からわき腹までを一気に切り裂く。
せめて苦しまぬようにと、一撃で息の根を止める。
男はそれを、何の抵抗もなく受けいれた。
自らを“怪物”と言った男は、どこかあっけなく、その命を終わらせた。
最期に見たその死に顔は、なぜか、揺り篭で眠る子供のように見えた。
◇
男のデイバックを拾い、中身を確認して背負う。
それに散らばった、まだ使える支給品を納めていく。
当然干将も男の死体から抜き取り、デイバックへと納める。
そこでふと重要な事に思い至り、聖剣で男の首を刎ねて首輪を取り外す。
この殺し合いを終わらせるだけでなく、主催者も倒すのであれば、首輪の解除は絶対条件だ。
今は調べる事が出来なくても、いずれ必ず必要になるだろう。
最後に一目、黒神を見る。
黒神は出血が酷く、突き刺さった短剣を抜けば、すぐに出血死するだろう。
今も息は絶え絶えで、もう長くはないことが容易に理解できる。
だが、もし生き延びる事が出来たのなら、その道を選べなかった俺の代わりに、その道を歩いて欲しいと思った。
だから彼女に突き刺さった短剣はそのままに。彼女のデイバックにも手を出さないでいた。
カフェから外へ出る。
空へと昇っていく太陽が。否。視界に映る世界全てが、どこか色褪せて見えた。
今後の行動方針としては、まずは可能な限り労力を少なく、ジョーカーを殺せる手段を見つけ出す。
ライフル系の銃か、なければ弓でもいい。狙撃の出来るモノが望ましい。
聖剣の真名を解放すれば確実だが、それでは後が続かない。
この殺し合いに加担する人物がどれだけいるか判らない以上、そんな無駄は出来ない。
ましてや上には主催者もいる。使うべき時は厳選しなければ。
デイバックからビートチェイサー2000を取り出し、エンジンをかける。
説明書によれば、未確認生命体第4号専用に開発されたモンスターバイクらしい。
だが藤村組にある大型バイクに比べれば、倒れても自力で起こせる分扱いは容易い。
……もっとも。その性能を限界まで引き出せるかは、また別の話なのだが。
アクセルターンで車体を回し、くすんだ太陽に背を向ける。
――――さあ、行こう。もう後戻りはできない。
【ヨハン・リーベルト@MONSTR 死亡】
【E-6/市街・南西部:朝】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康、魔力消費(小)、鉄の決意
[装備]:エクスカリバー@Fate/stay night、ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ
[道具]:基本支給品、干将@Fate/stay night、S&W/M37チーフス スペシャル(1/5)@未来日記、ヨハン・リーベルトの首輪、不明支給品(確認済み)0?2
[思考・状況]
基本行動方針:“正義の味方”として、あらゆる手段を使って殺し合いを止める。
1:ジョーカーを確実に殺せる手段を探す。
2:ジョーカーのような悪人は殺す。
3:バットマンを探す。
4:昆虫男と少年のその後が気になる。
5:エクスカリバーは滅多な事では使えない。だが、必要とあらば………
6:もし黒神が生きていたら――――
[備考]
※参戦時期はBADEND【30】『正義の味方』END後です。
※干将と莫耶は引き合っています。
【干将・莫耶@Fate/stay night】
衛宮士郎に支給。
陰陽二振りの夫婦剣。黒い方が陽剣・干将、白い方が陰剣・莫耶。
磁石の様に互いに引き合う性質を持ち、二つ揃いで装備すると対魔力・対物理が上昇する。
【エクスカリバー@Fate/stay night】
夜神粧裕に支給。
“約束された勝利の剣”。聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置する伝説の剣。
所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光によって形成された“断層”を、全てを切断する“究極の斬撃”として放つ。指向性エネルギー兵器とも言える。
伝承にある湖の妖精と同様、善と悪両方の属性を有するため、所有者の属性によってその姿を変える(善は黄金、悪は漆黒、中庸は不明)。
【ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガ】
衛宮士郎に支給。
未確認生命体第4号(クウガ)専用に開発したバイク。
最高時速420kmを誇るが、最高時速は制限によって半減されており、
また100km/h を超えると30秒で急停止し、30分間起動不能となる。
始動キーは取り外し可能な右レバー「トライアクセラー」。
これは警棒の代わりとしても使用できる。
5/約束『めだかボックス』
――――――――気がつけば。
どこか見覚えのある、けれど箱庭学園のものとは違う教室に居た。
ついでに言えば、今着ている制服も箱庭学園の物ではない。
「………わたしは―――」
なぜこんな所にいるのか。そう考えて、考えるまでもない事に思い至った。
そう、考えるまでもない。なぜなら――――
「そうだったな。私は、死んだのだったな」
出来れば否定したい答えを口にする。
今見ている光景は、今際の際の夢のような物なのだろう。
だとすれば、ここが死後の世界の様なモノなのかと納得して、
「いやいや、そんな訳ないだろ。相変わらずだな、めだかちゃん」
不意に聞こえた声に、体が跳ね上がった。
声の方向に振り返り見えた姿に、思わず視界が滲んだ。
振りかえった先には、
「…………善吉」
「よ、こんな所でどうしたんだ? めだかちゃん」
当たり前の様に、手を上げて挨拶をする善吉の姿があった。
それを見て、自分はやっぱり死んだのだと確信した。
「いいや。めだかちゃんは死んでねえぜ」
だがそれを、善吉は笑って否定した。
驚いた。どうやら私はまだ死んでなかったらしい。
その知り合いというのも気になるが、今それは重要な事ではないだろう。
「なら、どうしてここに?」
「それはな、めだかちゃんがあまりにも落ち込んでいたから、元気づけようと思ったんだ。
つっても、何言ったらいいか分かんねえんだけどな」
そう言うと善吉は、私の前の席へと座りこんだ。
「…………ああ、そうだ。
なあ、めだかちゃん。俺からの相談、受け付けてくれるか?」
「………え?」
「“24時間365日、誰からの相談でも受け付けるし、どんな気持ちでも受け止める”。それが、生徒会会長就任の時の公約だったよな。
なら、今この時だって有効だぜ」
私を真っ直ぐに見据えて言う。
「めだかちゃん、このくだらねぇ殺し合いを終わらせてくれ。
何の後腐れもなく。二度と同じ事が出来ないように。当然、問答無用のハッピーエンドでな」
「――――――――」
「こんな悲しみしか生まないような実験なんかブチ壊しちまってくれ。
俺はもう死んじまったから無理だけど、お前はまだ生きてるからな。
それに俺は、お前がこんな所で諦める奴じゃねえって信じてる」
その言葉が胸を打つ。
善吉は、私が立ち上がる理由を次々と積み上げてくれた。
黒神めだかは、まだ終わっていないのだと教えてくれた。
「俺はな、お前はみんなを幸せにするために生まれてきたんだって信じてんだ。初めて会った時からずっと。今も馬鹿みたいにな」
それは十三年前、彼が教えてくれた、私の生きる意味だった。
その言葉があったから、私は私になったのだ。
「だからと言って衛宮士郎みたいに、自分を犠牲にする様な事は止めてくれよ。
みんなを幸せにするために、お前が傷ついたり、痛い思いをしたり、泣いたりする事はね~んだよ。
その“みんな”の中には、お前もちゃんと入ってるんだから、みんなを幸せにするためには、まずはお前が幸せにならなきゃな」
「……………………」
善吉はずっと私を心配してくれていた。
その意味を、私はずっと勘違いしていたらしい。
ずっと誰かを幸せにするために頑張ってきた。そのために今まで生きていた。
その中で、自分の幸せなど考えた事もなかった。そんな事よりも、誰かを幸せにできる事の方が嬉しかった。
そんな自分を顧みない私を、善吉は心配してくれたのだ。
「………ああ、そうだな。その通りだ」
座りっぱなしだった席から立ち上がる。
私はまだ生きていて、挫けていた心も起き上がって、生徒からの相談も受けた。
ここに居る理由は、もうどこにもない。
「手数をかけたな、善吉」
「はあ? いつもの事だよ、めだかちゃん。
けどまあ、こんなんで元気を出してくれたんなら、それでよかったぜ」
いつものような、呆れた声。
それだけのことが、この上ない程嬉しかった。
人吉善吉は私にとって必要な人間だ。
今までずっとそうだったし、これからもずっとそうだろう。
その事実が変わる事は、きっとない。
けれどこの先の未来に、善吉はいない。
それだけが、どうしようもなく悲しかった。
「けど、自分で言っておいてなんだけどよ……大丈夫か、めだかちゃん?」
「大丈夫だ、善吉。出来ない事は、やらない理由にはならない。
1%の可能性さえなくとも。たとえ成功率がマイナスだろうと、私は絶対に諦めない」
「そっか」
なら大丈夫だと、安堵の表情を見せる。
心配していないのではない。信用しているのだ。
黒神めだかはもう、精神的に負ける事はないと確信しているのだ。
教室の出入り口。開け放たれた扉の前へと立つ。
そこに廊下はなく、ただ暗闇があるだけだ。
ここから出れば、夢から覚めるのだろう。
「ところでめだかちゃん。お前は何のために生まれてきた?」
「むろん、見知らぬ他人の役に立つため」
唐突な質問に、迷うことなく凛と答える。
生徒会長だからでも、善吉にそう言われたからでもなく、私がそうしたいから。
他の誰かの為でなく、私自身の幸せのためにそうするのだと、臆面もなく胸を張る。
「みんなと一緒に! 私も幸せになる!!」
あなたも私も、みんなが幸せでありますように。
そんな、子供のような願い。叶うはずのない夢物語を叶えに行く。
その様はまさに威風堂々。先ほどまであった陰りはもう微塵も感じられなかった。
「――――――――」
「……………………」
互いに言葉は尽きた。語るべき事はもうない。
後はただ、戦いの場に舞い戻るだけだ。
だがその前に―――
「善吉。一つ、言って欲しい事がある」
「ん? 何を言って欲しんだ? 何でも言ってやるぜ」
「がんばれと、言って欲しい」
その一言があれば、この先二度と善吉に会えなくても、がんばることが出来るだろう。
善吉は少しだけ目を見開き、今までで一番の笑顔を見せた。
「がんばれ、めだかちゃん」
「うん、がんばる」
強く、一歩を踏み出す。
同時に視界が白く染まり、体が浮き上がる様な感覚を覚えた。
その中で、
「じゃあな。――――好きだぜ、めだかちゃん」
そんな、大切な言葉を聞いた。
◇
目が覚めた。
寝ぼけた頭のまま体を起こそうとして、腹部に走った激痛で一気に覚醒した。
同時に、瞬時に周囲の状況を把握する。
周囲は赤く染まり、ガラクタになった支給品ガ散乱している。
その奥には首の跳ねられた死体が一つ。それが誰のものかは確認するまでもない。
「……衛宮、士郎」
無意識に彼の名を呟いていた。
彼は、“怪物”になろうとしているのだ。“セイギノミカタ”という名の、怪物に―――
彼の理想(プラス)はオーバーフローし、彼自身の願いさえ飲み込んでいる。
そして器から零れた水は、いつか器そのものを壊してしまう。
それはもはや過負荷(マイナス)と同じだ。
だがそれでもまだ取り返しは付く。
それはまだ私が生きている事が証拠だ。
本当に彼が手段を選ばないなら、障害となるだろう私の息の根を完全に止めていたはずだ。
なのに彼は、私の腹部に突き刺さった短剣も、私のデイバックにも手を付けずに去っていった。
きっと彼は、彼本人にもわからない所でまだ躊躇っている。今もまだ、誰も殺したくないのだと願っているのだろう。
彼はまだ取り返しがつく。きっと改心させる事が出来るだろう。
だから――――問題なのは私の方。
あの時、私は挿げ替えたのだ。
善吉が死んだという放送を聞いて、心の折れていた私は、目の前の現実に逃避した。
今までの方針を盾にして、善吉が死んだという言葉から目を背けて、衛宮士郎へと縋っていたのだ。
そんな言葉が、心を鉄にした衛宮士郎に届くはずがなかった。
そう、衛宮士郎が強かったのではない。
そんな、理由を他人に求めた私の心が弱かった。
つまるところ私は、戦う前から負けていたのだ。
彼はきっと、私以上の苦しみを背負って、あの結論へと至った。
ならば彼と対等になるには、私も善吉の死を受け入れなければならないのだ。
「ッ――、―――――、―――ッッ!!!」
そう考えただけで、胃液が喉元までせり上がり、腸がねじ切られる様に苦しみ、涙が止め処なく眼球を濡らす。
けれど、これを受け入れなければ衛宮士郎は説得できない。
これを受け入れなければ、私はもう、一歩も立ち行かない。
けれど―――立ち止まる事も、もう出来ない。
がんばる、と誓った。
あれがただの夢でも、偽物であっても変らない。
黒神めだかは、人吉善吉にがんばると言ったのだ。
だからもう、決して立ち止まる事はしない。
傷が広がらない様に、テーブルを支えにして慎重に体を起こし、壁伝いに台所へと向かう。
何よりもまず、腹部に刺さった短剣が危険だ。なにしろ傷が深い。
これが刺さったままではまともに動く事が出来ず、だが下手に抜けば大出血して死に至るだろう。
だからと言って、このままでいるわけにもいかない。今すぐにでも傷を塞ぐ必要がある。
台所で止血の準備を整えた後、慎重に上着を脱ぎ、腹部に突き刺さった短剣に手を掛ける。
出血して死ぬのなら、それより先に傷を塞げばいいだけの話だ。
「……………………。
ッ――――――――!」
深呼吸を一つ。
それで覚悟を決め、一気に腹部の短剣を引き抜く。直後、傷口から血が噴き出す。
だがすぐに腹筋に渾身の力を籠め、その筋力で一時的に止血する。
そこにコンロで熱しておいた包丁を当て、傷を焼く。
「ギィッ――――、ッ――――ッ!」
歯を食いしばって声を抑える。
あまりの熱さに、もはや痛みしか感じない。
それによって視界が明滅し、意識が飛びそうになる。
「グゥッ――――――――ッ!」
それを耐える。
傷が完全に塞がるか、包丁の熱が冷めるまで、焼けた鉄を傷口に当て続ける。
その後にしっかりと濡らして冷やしたタオルで応急手当をする。
「はあ――――はあ――――はあ――――」
荒い息を吐く。額からは汗がだらだらと流れている。
だが、これで傷は塞がった。よほどの無茶をしない限り、傷は開かないだろう。
デイバックから全身を覆う黒タイツを取り出し、服の下に着込む。
この黒衣はあらゆる環境に耐えられる性能を持つらしい。
全身を覆い隠すような服は好みではないが、贅沢は言っていられない。
武器となるのは、衛宮士郎が残していった短剣だけ。
大概の相手なら素手でもどうにかできる自信はあるが、この殺し合いを止めるというのが無理難題である以上、万全の対策を取る必要がある。
他にデイバックに入っていたのは、自分の携帯だけ。
電波はなぜか三本立っているが、この会場の外に繋がるとも思えない。
おそらくは、ハズレに分類される支給品なのだろう。
カフェから外へ出る。
周囲に人影は見えず、また気配もない。
それを解った上で、決意を新たに声を上げる。
「衛宮士郎。貴様がそのやり方で殺し合いを止めると言うのなら、ああ、それで良い。
ならば私も、私のやり方でこの殺し合いを、ひいては貴様を止めてみせる!
――――箱庭学園生徒会会長、黒神めだか。これより、生徒会を執行する!!!」
黒神めだかは凛と胸を張り、燦然と輝く太陽へと向かって歩き出した。
【E-6/市街・北東部:早朝】
【黒神めだか@めだかボックス】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:腹部に深い刺し傷(焼いて止血済み)、強い決意、深い喪失感
[装備]:莫耶@Fate/stay night、黒鬼@めだかボックス
[道具]:基本支給品、黒神めだかの携帯電話@めだかボックス
[思考・状況]
基本行動方針:誰も死なせずに殺し合いを止める
1:衛宮士郎を止める。誰も殺させない
2:バットマンを探す
3:衛宮士郎に強い共感と不快感
4:昆虫男と少年のその後が気になる。
[備考]
※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジョーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。
※干将と莫耶は引き合っています。
【黒神めだかの携帯電話@めだかボックス】
黒神めだかに支給。
第73箱で黒神めだかが使用していた携帯電話。
【全方位型実験服『黒鬼(ブラックオウガ)』@めだかボックス】
黒神めだかに支給。
白衣ならぬ黒衣。低温にも高温にも低湿度にも高湿度にも、北極だろうと南極だろうと砂漠だろうと高山だろうと、ありとあらゆる環境に耐えうる性能を持つ。
カミソリ程度の切れ味の刃物なら、余裕で防げる防刃能力もある。
以上で投下を終了します。
ご指摘などありましたらお願いします。
以上で代理投下を終了します。
代理投下引き継ぎ、ありがとうございます
そして、投下乙です!
士郎……まさかそんな時期からの参戦とは。しかもそんな彼にエクスカリバーとか、とんでもない支給品が渡ったな
正直めだかちゃん死ぬかと思ったけど、見事に立ち上がったか。
見所が豊富な大作、見事でした!
そしてもう一度、投下乙です!
投下乙です。
ここでヨハン退場。
これは出会った人物が悪かった。
DIO様と再び指でつんしたかっただろうに…。
士郎が見事に切嗣というかアーチャーへの道を突っ走り、
逆にアーチャーが士郎の生き方を求め始める…。
それがすごい皮肉であり、このロワのテーマらしいと思いました。
投下乙。
そ う き た か!
士郎がなんだか不安なキャラ付けだと思ったらよもや鉄心モードだったとは。
今の士郎はめだかとの対比であり、今のアーチャーとの対比でもある。参戦時期って大事だな!
ヨハン、自分に死を与えたのが「なまえのないかいぶつ」だったのは幸運だと言うべきか…
めだかちゃん、マジファイト。地味にお姉さまも応援してるぞ!
投下乙
凄いきのこチックな文章だなw
投下乙です!
鉄心士郎きたああああああああああ!!
というか三者三様、それぞれの思想と理想と生きざまが凄かった。
正義って面白っ!
411 :
創る名無しに見る名無し:2011/06/28(火) 21:23:56.17 ID:JGA0nJjo
投下乙です
今まで不明だったがここでその参戦時期は反則だろおおおおおォ!!
アーチャーの参戦時期と比べてこれは皮肉過ぎるw
そしてめだかちゃんもまた己の正義ゆえに士郎を止めようとするが…相手が悪すぎる…
いやあ、大作投下乙でした
投下乙!
正義の反対はまた別の正義とはよく言ったもので……
士郎とアーチャーの対比、士郎とめだかちゃんの対比が際立つな
関係性に目が行きがちだけどめだかちゃん自分で莫耶ひっこ抜いて傷口焼くとかなかなか無茶やってるw
凛の字と善吉の言葉背負ってがんばってほしい所
なまえのない怪物ヨハンはここで暗躍終了か
こいつの死を知ったらDrテンマはどうするんだろうな
DIO様に名前呼んでもらえてよかったね。ヨハン、素敵な名前だから。
乙ー
まさかヨハンがこんな序盤で脱落するとは……
わりとDIO様と絡んだ人間がバンバン死んでる辺り案外死亡フラグっぽいのかなぁ
誤字報告ってここでしていいんでしょうか?
“貴き現想(ノーブル・ファンタズム)”ってなってたのは多分幻想かなぁと。
ブラボー…おおブラボー…
戦闘の技量ではなく精神力の差で勝敗が分かれましたね
正義vs正義ってのも面白っ!まさにジャスティスロワ
投下乙
よりにもよって鉄心モードw
アーチャーはこの士郎を見たらどう思うだろうな
HFルートの士郎なら言峰とかはむしろ積極的に協力してくれそうだが
あの二人すげえ気が合うし
めだかちゃんこのロワで数少ないの熱血正統派だなあ
まあほかの面子がひどすぎるだけかもしれんがw
笛は専門外なんだがこのルートの士郎がどうとかアーチャーがどうとか判らないんだが
”世界の敵”と化した桜を切り捨てるか、それでも守るのかを迫られた士郎が、前者を選んだ時のエンドが
通称鉄の心エンド
この士郎には、もはや正義を貫く以外の選択肢は残されていない
戦闘力的には最弱の士郎かもしれんが、精神力は異常
言峰をして奴の優勝は間違いないと言わしめるほど
(まぁあいつは切嗣スキーだから話半分だけど)
418 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 07:44:54.98 ID:FT5YH6Ex
>>415 ここの書き手皆ドSばかりだから、熱血正義を掲げると、全力でいじめにかかってくる…
ほかの正義勢が体たらくなのは書き手いじめの結果であって…って、
あれ…本当の敵って書き手じゃねぇ?
逆にシャッハさんとか鉄心士郎は揺るぎなく正義を執行してくれそうだな
一般人を犠牲にしてでもw
420 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/02(土) 14:50:34.23 ID:QVyQ55pE
タイガー「・・・・・・・・・・・・」
ワカメ「・・・・・・・・・・・・」
アーチャー「・・・・・・別に、泣いてしまっても構わんのだろう?」
この士郎はワカメらが桜を凌辱してたのは知ってたっけ?
桜への想いを自覚した後だから知ってたと思う
桜が自分から告ったはず…
と思ったけど、ワカメがどうとかは言われてなかったかも
423 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/05(火) 13:27:33.24 ID:BzAFvpf3
予約キター
424 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/07(木) 00:23:11.43 ID:sPvehBma
感想遅れた…
正義とは何か?というテーマが合う話だなあ…もちろん良い意味で
是非DIOはヨハンの死体から血を吸って欲しいとネタバレに近い願望。
お久しぶりです。
作品が完成しましたので投下します。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
かつて人だったと思えないほどに黒く煤焦げた塊を前に、なのはは膝をつき、泣き崩れた。
塊の名は賀来巌。
杳馬によって精神に闇一滴を落とされ、理性を失った賀来は幻想のメフィストフェレスをなのはに見出し、襲いかかった。
その殺気たるや、主人を守るために、一人、千の軍勢に立ち向かう歴戦の武者そのものであり、烈火の如き猛々しさであった。
賀来はそのつもりであっただろう。
それが神に仕える己の使命であり、世界を平和に導く唯一の方法であったのだから。
しかし、なのはが賀来の思いなど知る由もない。
分かるのは突然現れた男性が嬉しそうに自分を殴り飛ばすという事実だけだ。
なのはが己の身を守るために、咄嗟にデバイスを発動させてしまったのは至極当然のことであった。
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ……」
なのははポロポロと涙をこぼす。
一人の尊い命を奪ってしまった。
もし、彼とちゃんと話をしていれば、自分が説得していれば、こんなことにはならなかった。
自分の浅はかさが、最悪の状況を作り出してしまった。
なのはの胸に襲いかかるのは、幼き少女にはあまりにも重すぎる自責の念であった。
「クゥ!!あのヘボ役者がっ!!!」
公園の外れにある木の上で、杳馬は顔をむくらせながら、地団太を踏んでいた。
賀来が放送室を飛び出した後、その後を追っていたのだ。
どんなマーブルを生み出すのかを見届けるために――。
「あーあ、せっかくこっちがお膳立てしてやったって言うのにさぁ……
俺の労力返してくれよっ!!!」
杳馬は駄々っ子のように両手足、そして漆黒の羽をばたつかせる。
杳馬にとって、賀来に闇一滴を施したのは一種のギャンブルであった。
賀来の愚かすぎるほどに周りを顧みない信仰心が、邪悪に染まればどんな動きを見せるのか。
相反するエネルギーがぶつかり合い、嵐のような局面を生み出すのではないのか。
杳馬は賀来の活躍に期待していたのだが、結果はこの様だ。
特に何かをするでもなく、一人の少女に襲いかかり、そのまま自滅してしまった。
「いきなり強敵に突っ込むってバカだろっ!」
杳馬は尚も賀来を罵る。
言うなれば、賭けた馬券が外れてしまった悔しさに等しい。
そう、杳馬にとって賀来という一人の精神を崩壊させたのは、ちょっとした勝利の余韻を得るためにギャンブルに金を賭けることと同等なのだ。
一人の人生と刹那の快楽。
通常の人間では比較すらしない価値観を、平気で同じ天秤に乗せてしまう感性。
この歪んだ感性こそ、杳馬の恐ろしさである。
「それにしてもなぁ……」
杳馬は空を見上げる。
空は朝日が差し込み始め、藤紫色をした陰翳を西へ追いやり始めている。
「どうやって抜け出すかだが……」
杳馬の正体は時の神『カイロス』。
しかし、神と言っても、兄であり、もう一人の時の神である『クロノス』によって地上に墜とされ、人間としての生死を何度も繰り返し続けている。
肉体こそは人間であっても、時の神である。
時空の切れ目ぐらいであれば、察知することができる。
放送室やテレビ局で見た映像の数々から、ここに集う者が時空を越えていることは一目瞭然である。
彼らを呼ぶためには時空を切り開けなければならない。
それにもかかわらず、時空は切れ目どころか歪みすらない完璧な空間であった。
傷どころか凹凸すらない滑らかな陶器に触れているような感覚――杳馬はこの世界の時空の切れ目を見定めることができなかった。
「まぁ、探知できないのはこいつのせいだと思うんだがねェ……」
杳馬は不快そうに首輪を指でつまむ。
この首輪をされてから、杳馬の小宇宙は思うように発揮できなくなっていた。
「それにテンマの小宇宙を感じることができねェ……あいつも同じ状況ってところか……」
杳馬がテンマを重要視する理由――テンマの魂が神殺しの力を宿しているためである。
杳馬は自分の存在を抹消させた兄に復讐するため、テンマを生み出し、その力を引き立たせるため、冥王ハーデスと戦女神アテナの戦いを導いた。
その思惑通り、テンマは数々の苦難から神殺しの力――神聖衣を得る一歩手前までたどり着くことができた。
後は妻、パルティータとの戦いによって、テンマが小宇宙を最大限にまで燃やせば、その聖衣は神聖衣となり、冥王ハーデス、そして、時の神クロノスを倒すはず――
「……だったのによぉ。この実験とやらのせいで全部計画倒れだっ!」
杳馬は口角から牙のように犬歯をギリギリとむき出す。
初めこそはハーデス――アローンがテンマの意志を確かめるために用意したゲームであろうと思っていた。
だからこそ、この“催し”が終われば、再び、聖戦に挑むことができると高を括っていた。
しかし、実験が進むにつれて色々と不可解な点も見えてきた。
何処にいてもその存在を確認できるほどに大きかったテンマの小宇宙が感じられなくなった点、そして、この実験でテンマ以上の能力者を大量に泳がせている点である。
アローンはテンマとの全力の最終決戦を望んでいた。
それ故に、テンマの能力を落とすとは考えられないし、それを妨害する者を集めるとも考えられない。
何よりも、芸術を愛するアローンとしては考えられない、小汚く無秩序な会場。
ゲームの会場を漂っているうちに、これがアローンの合意のもとに行われているとは思えにくくなっていた。
むしろ、テンマや杳馬を駒の一つ程度にしか見なしていない第三者により、アローンの意志に反して拉致されたと考えるのが濃厚になってきた。
もし、アローンの意志によるものではない舞台――時の神クロノスに通じる世界なければ、ここに長居する理由はない。
とっとと、神殺しの力を秘めたテンマを見つけ、元の世界に戻らなくてならない。
しかし、その方法は闇に閉ざされたままである。
「あーぁ、今回の人生も失敗になっちまうのかねェ……」
杳馬は気だるそうに背中を伸ばす。
これまで杳馬は天上界へ戻る方法を探し、人界を彷徨い続けてきた。
しかし、どの人生においても、突破口を見つけ出す前に、人生のタイムリミットをむかえてしまっていた。
今回の実験も、今までの人生とは趣が違えど、出口が見えない世界を彷徨い続けていることに変わりはない。
むしろ、捕らわれた空間の範囲が狭いだけにより悪質だ。
「いつになったら、俺は神に戻れるんだか……」
杳馬は再び、空を見上げた。
空はこの世界を覆うように広がり、このまま見上げ続けていれば、空に押し潰されてしまうのではないのかという錯覚さえ起こしてしまう。
神には戻れない――人間の人生を操る演出家ではなく、舞台の上で脚本に踊らされる道化を演じ続けているしかない。
果てしなく広がる蒼穹はその事実を杳馬に見せつけていた。
「まぁ、いっかっ!!まだ時間はあることだしよっ!!」
杳馬は気を取り直すように、パンと手を叩いた。
「んはっ!まずはあの娘にちょっかいを出してみるとしますかっ!!!」
大きな力を秘めながらも、罪の意識に押し潰されそうな少女。
面白味も何もない大根役者が最後に残してくれたマーブルの原石。
この少女を大女優に仕立てずに、どうすればいいのか。
主催者が用意した実験は自分の欲求を満たすもので実に溢れている。
抜け出す方法を探るのも、テンマを見つけ出すのも、ここで飽きるまで遊んでからでも遅くはない。
高遠と同じようになのはに興味を示した杳馬はそのまま軽やかに地上へ降りたったのであった。
「ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…」
なのはは何度も詫びの言葉を繰り返す。
泣きながら、なのはの心の奥では低く、殺意が込められた言葉が響いている。
――もしかしたら、何らかの誤解があったのかもしれない。
――貴方がこんなことしなければ、誤解が解けたかもしれない。
――貴方はそれを奪ってしまった。
――貴方は人として最低のことをしたのよ!!
なのはの正義感はどこまでもなのはを弾圧し続けていた。
彼女がどんなに悲鳴を上げようとも容赦なく、その心をギリギリと締め付ける。
少女は泣くことでしか、それに反論できなかった。
「私っ…私っ……」
「キ……キミはなんてことを……」
突然耳に飛び込んできた、砂をジャリと踏みしめる音と驚愕に震え上がる声。
「えっ……」
反応したなのはは思わず振り返る。
目の前に立っていたのは無精ひげを生やしたタキシードの男性。
男性はとんでもない場面に出くわしてしまったと言わんばかりに蒼白の表情を浮かばせ、一歩、また一歩と後ずさりしている。
あきらかになのはを危険人物と見なしていた。
「ま……待って下さいっ!!!これには事情があるんですっ!!!」
なのはは慌てて男性を呼びとめた。
確かになのはは人を殺めたばかりだ。
これは否定できない。
けれど、その行為に殺意はなかった。
私は殺し合いに乗ってはいない。
残虐な人間じゃない。
その痛切な思いは震える声と涙が雄弁に語っていた。
「キ…キミは……」
男性はなのはの心意を察したのであろう。
なのはと同じ視線になるように身を屈めた。
「俺の名前は杳馬……もしよかったら、話してくれねェか?……キミのこと……」
杳馬と名乗った男は屈託のない笑顔をなのはに向ける。
なのはの言葉を受け入れようとしている証しだった。
「杳馬……さん……」
なのはの喉が再び、少しずつ震えあがる。
この実験では殺し合いが強要されている。
本来なら一目散に逃げてしまうだろう。
もし、強力な武器を持っていれば、己の身を守るために、凶悪な殺人鬼であるなのはに襲いかかっていたのかもしれない。
しかし、杳馬はそのどちらも選択しなかった。
この疑心暗鬼に溢れる世界で、その情けがどれほど温かく、傷ついた少女の心を癒してくれるのか。
「わ…私……実は……」
なのはは堰を切ったかのように、泣きじゃくりながらこれまでの経緯を説明した。
男性の顔が邪な笑みで歪んでいたとも知らずに――。
「……というわけなんです……」
「つまり、友人の二人の内、アリサちゃんが放送で呼ばれてしまい、せめてもう一人の友人であるすずかちゃんを守りたいと思ったキミは、一緒に行動していたグループから抜け出し、そのすずかちゃんと探していた……。
その道中、突然、その男が襲いかかってきた……」
杳馬はなのはが持つデバイスS2Uを指差す。
「魔法をピカーって出す……その……デバイスって武器だっけ……?
本来、それは非殺傷設定ということができて、相手の身体を吹っ飛ばすことができても、死に至らせることはない……
けれど、なぜかそれが設定できず、結果、この男は死んでしまった……」
「はい……」
なのはは少女らしい愛らしい仕草でこくりと大きく頷く。
杳馬は困ったようにため息をついた。
「やり過ぎた感はあるが……とにかく自己防衛ってことはよく分かった。
………それにしてもなぁ……」
杳馬は頭をかきながら、死体となのはを見比べる。
「魔法とやらはすごいな……人が丸焦げ。というより、炭だな、こりゃ。
こいつの身内だって、そいつと判断してくれるか……」
杳馬の感心に対して、なのはは口を閉ざす。
もし、非設定設定であったならば――。
私はこの人やこの人の身内の方を悲しませることをしてしまったのだ。
杳馬の素直すぎる感想はなのはの自責の念を呼び覚ましてしまっていた。
「あ……やばっ……!」
今更ながら、杳馬は自らの失言に気がつく。
手を押さえ、強引にたどたどしく話をすり替えた。
「えっと……その……魔法って身を守るのには最高の能力だよなっ!!なっ!!
ほら……現時点で、12人の人間が死んでいて……
えーと、もしかしたら、なのはちゃんみたいに、身を守るために殺しちまった奴もいるかもしれないがさ……
悪い奴が、弱い奴を襲っちまうとも考えられる……例えば、さっきの放送のやりとりみてェに……さ……」
「放送……」
なのはの中で、汚れがこびりつく様な違和感を覚えた。
この違和感は何だろう。
思いめぐらすうちに、その答えが自然と口から飛び出していた。
「貴方の声によく似ている……放送で襲われていた人……テンマって人と……」
「ほう……」
杳馬は思わず、目を細める。
「確かに似ているかもな……」
杳馬は失笑混じりに喉に手を当てた。
「放送はかなりくぐもり声だったから確かなことは言えないが……
おそらく、俺の息子……テンマだ……」
「えっ…息子さんも参加されていたんですかっ!」
なのはの素っ頓狂な声に対して、杳馬は黙って頷く。
「俺と息子は声がそっくりでね。
よく言われたよ……二人の声は聞きわけができないってね……」
杳馬ははにかむように穏やかに苦笑した。
「杳馬さん……」
なのはは髪を降ろすと母親とよく似ている。
まだ、親に甘えたい年頃の少女。
自分と家族の共通点が見つかれば、素直に嬉しいものである。
杳馬の過去を噛みしめているかのような微笑は、いかに息子であるテンマを愛しているか、容易に伝わった。
しかし、だからこそ、理解できない点がある。
それは――
「どうして、息子さん…助けにいかないのですか……」
なのはは射抜くように杳馬を見据える。
「さっき貴方は“放送のやりとりのように”悪い奴が、弱い奴を襲ってしまっているって言っていましたよね。
襲われている相手が息子さんということを知っていながら。
どうして平然としていられるのですか……」
なのはの声に込められた不審の響きは、杳馬への非難も含まれていた。
「なのはちゃん……」
杳馬はぐっと息を呑み、胸に秘めていたある思いを口にした。
「俺は……その事実を認めたくねェのかもしれないな……」
杳馬は瞳に哀愁を滲ませ、遠くを見つめる。
「俺も放送を聞いた時、“テンマ”ってのは息子じゃないかと思ったさ。
だが、この実験ではもう一人の“テンマ”……天馬賢三って奴も参加している……
放送での“テンマ”は息も絶え絶えで、訴えた直後に放送が切れたってことは口を塞がれた……おろらく殺されたんだろう……
その事実を突き付けられた時、心が切り裂かれ、狂いそうになった。
そんな時、ふと、こんな言葉が過ったのさ……
“殺されたのはこの天馬賢三って奴だ……テンマなんかじゃねェっ!!”ってな……
そしたら、心が軽くなった……」
杳馬は立ち眩みをしたかのように額に手をやった。
「俺はあの声が息子じゃないって言い聞かせることで、自分を保ってきた……
こういう逃げ方しか知らねェのさ……俺って……」
手の隙間から垣間見える杳馬の表情は自嘲と悔しさが入り混じっているかのようだった。
「杳馬さん……」
なのはは憐憫の眼差しで杳馬を見つめる。
人は時に物事を自分の都合のいいように解釈してしまう。
杳馬のどこか突き放したかのような言い回しはまさにそれであり、親友のフェイトも母親からの虐待を未熟な自分への教育と解釈し、受け入れてきた過去がある。
この現実逃避は誰しもが一度は通ってしまう道なのだ。
けれど、なのはは知っている。
それでは物事は解決しないと――。
「気持ちは分かります。ただ、現実から目を逸らしていたら……。もし、すぐにでも向かえば、息子さんは助かるかも――」
「皆が君みたいに魔法を使えるワケじゃねェんだっ!!!!」
突如、なのはの言葉を遮り、杳馬は込み上げる怒りをぶつけるかのように吠えた。
「えっ……」
杳馬の怒りに、なのははビクッと肩を震わせ、青ざめる。
ギリギリと歯をむき出しにしながら、杳馬は捲し立てた。
「この場にはな、君みたいに簡単に人を殺しちまう奴がウジャウジャいるっ!!!
キミはいいさっ!!!!魔法で相手を燃やせば済むんだからなっ!!!!
けど、俺が行って何になるっ!!!!
どうせ、指で蟻を潰すみてェに殺されるのが関の山っ!!!!
自分の物差しだけで語るんじゃ……」
ここまで叫び、杳馬はハッと我に返った。
「すまない……」
少女相手に大人気なかったことを恥入るように杳馬は俯く。
俯いたまま、ぽつりぽつりと漏れるような声で呟いた。
「行こうと思った……けど、怖かった……
あのときだってそうさ……
俺も賀来って男に殺される……俺も含めて皆そうさ……
自分の命が何よりも愛おしい……
これが魔法を使うことができない普通の人間の考えさ……」
杳馬は忠実に作られた石膏像のような、一切の感情が欠いた虚無でなのはを見つめ、止めとも言える言葉を投げ捨てた。
「キミに凡人の気持ちなんて……分からない……」
「あっ……」
なのはの心の中で何かが深く抉れた。
なのははまざまざと自分と他人の感覚の違いを見せつけられてしまった。
魔術師として『天才』と呼べるほどの素質を持ち、かつ、それを最大限に高めたなのはに対し、杳馬は魔力を持たない一般人。
なのはの揺るがない信念と強靭な精神は彼女の生まれつきの気質でもあるかもしれないが、魔法少女としての自負心もかかわっていた。
本来、杳馬のように保身に満ちた怯えこそ正常な反応なのだ。
(私……杳馬さんの立場を考えず、酷いことを……)
なのははふと、自分が魔法少女として戦う決心を新たにした事件を思い出した。
なのはが魔法少女になりたてだった頃、暴走したジュエルシードが巨大な樹木のように根を広げ、街を呑みこんでしまう事件があった。
ディバインバスターにより、ジュエルシードを封印することに成功したが、街は壊滅的な被害を受けるとともに、多くのけが人を出してしまった。
その現状を目の当たりにして、なのはは誓ったのだ。
――自分なりの精一杯ではなく、本当の全力でジュエルシードを集めたい――大切な人たちを守るために!
一般人の杳馬はなのはが守りたい人々と同じ立場。
自分は彼らを守るために魔法少女になったのではないのか。
なのはの心の中で熱き思いが燃え上がった。
それは弱者を助けたい、幸せにしたいと願う慈悲の精神――正義の炎。
「私、テンマさんを救いたいっ!!!杳馬さんの助けになりたいのっ!!!」
少女のものとは思えない若獅子の如き咆哮。
静寂に包まれた空気はその力強さで電流が走ったかのようにビリビリに震える。
なのはの魔力が空気をを伝って広がっていくようであった。
「なのはちゃん……」
杳馬は暫し呆然とするも、次第に瞳に生気が蘇る。
なのはの言葉に答えるように深く頷いた。
「ありがとう……キミがいてくれたら百人力だ……そうだっ!!!」
杳馬はディバックから地図を取り出し、地面に広げた。
「もしかしたら、キミの友達を見つけられるかもしれないっ!!」
「えっ、すずかちゃんをっ!!!」
杳馬の言葉は晴天の霹靂。
なのはは頬を高揚させ、身を乗り出した。
おごそかな口調で杳馬は告げた。
「なァに、放送で呼び掛けるんだ……」
杳馬はH-4のテレビ局を指差した。
「今、思い出したことなんだが、テンマがいると思われるテレビ局……
実は俺もかなり前に立ち寄っていて、そこで『特設スタジオ』って部屋を見つけちまった。
ここでは自分の思い通りの放送を作ることができて、多数のエリアに受信が可能っ!
有難いことに、投影装置ってものが働いて、画面がなくても伝えてくれるって代物だっ!
まァ、欠点は放送エリアや伝えたい相手の指定はできない――つまり、ランダム配信ってところだが、このフィールドは全100マス。
仮に1放送につき、1マス配信と考えれば……
ちょっとばっかし、めんどくさいが、100回放送を流せば、ほぼ、全域に行き渡る。
これで運よくすずかちゃんが見ていれば、キミの元に来てくれるかもしれない。
俺がテレビ局でテンマを探している間に、キミはこの放送ですずかちゃんに呼び掛ける。
ほォら、完璧な作戦だろっ?」
“どうだ!”と言わんばかりに杳馬は自慢げに胸を張る。
杳馬の無邪気な意見に対して、なのはは戸惑いの色を隠せない。
「それはそうですが……」
確かにこの放送で呼び掛け、もし、すずかが近くにいれば、合流できるかもしれない。
しかし、それは近くにいればの話だ。
今、あの地には危険人物“賀来巌”が潜んでいる可能性が高い。
そうでなくても、放送をきっかけにあの周辺には様々な人物が集まっているはずである。
すずかが戦力のある人物と行動を共にしていれば、問題ないが、もし、彼女が単身で不用意にテレビ局へ来てしまったら――
「すずかちゃんは私と違って普通の女の子……私の放送のせいで危ない目にあうかも……
だから、あまり得策とは言えないと思います……」
「む……」
杳馬は探偵が推理をしているかのように顎に手を当て逡巡する。
なのはの話をやっと理解できたのか、大げさに驚嘆した。
「それは気付かなかったァっ!実にキミの言う通りだっ!!」
杳馬は “いやァ、キミは賢い!”“俺も見習わねェとなっ!!”などとなのはの洞察力を褒めたたえながらも、尾びれに“けれど……”と付け加える。
「どうやって、この広大なフィールドを探すんだい?
まさか、当てもなく、彷徨い続ける気かい?
それは実に効率が悪い。
その間にも、すずかちゃんは危険に晒されてしまうかもしれないのにさ……」
「そ……そうなんですが……」
杳馬が言っていることも一理ある。
なのはは魔力によって空を飛ぶことができるので、移動時間は短縮できる。
しかし、それでもすずかの存在を見逃してしまう可能性はある。
行き当たりばったりの探索は不必要な魔力の消費としか言わざるを得ない。
もし、散々彷徨った挙句に見つけたとしても、魔力を消費していれば、いざという時、すずかを守ることは難しい。
デメリットは大いにあった。
「なァ……なのはちゃん……今、キミの言葉で思いついたんだけどさァ……」
杳馬はなのはの迷いの兆しを嗅ぎつけると、囁くように呟いた。
あと2人殺して、“特別報酬”ですずかちゃんを捜す……って方法もあるよな?」
――3人を殺した報酬で、自分とお友達の所属するグループを知り、もしHorが居なければ、他の参加者を手当たり次第に殺して実験を終わらせれば良いんですよ。
「それは……」
突き刺さされたような衝撃がなのはの胸を襲う。
杳馬の言葉はまさに高遠がなのはに説いた言葉そのもの。
気付くと、心臓が木々のざわめきのように大きく脈打っている。
「人を殺すのは……」
殺人――なのはが避けなければならない、この世で最も下劣な行為だ。
現時点で、なのははその下劣な行為を半ば事故同然で犯している。
これ以上、罪を重ねたくはない。
「ん〜これもダメかァ……」
杳馬はなのはの動揺に満ちた表情を眺めながら、無邪気な笑みを口元にたたえた。
「キミの気持ちも分かるが他に方法があるかい?
効率的にすずかちゃんを見つける方法……
もしあるなら、教えてほしいなァ?おじさんにさァ……」
「……」
思い付くわけがない。
なのははしらみつぶしに探す方法しか考えていなかったのだから。
なのはは俯き、杳馬も納得してくれる答えを必死に探し続ける。
しかし、杳馬はなのはがそれを見つける前に、更なる追撃に乗り出していた。
「んっ?あれれ〜?そう言えば、さっきキミ、言っていたよね?
“私、テンマさんを救いたいっ!!!杳馬さんの助けになりたいのっ!!!”って。
もし、キミがすずかちゃんの捜索を優先させたら、テンマはどうなるんだい?
まさか、俺を守りたいって言っていながら、魔力を持たない俺を見捨てるつもりかい?」
杳馬の口元が恍惚に歪んだ。
「キミは……嘘つきなんだね……」
「!!」
なのはに電流走る。
確かに先程なのはは杳馬に対する同情と正義感から宣言してしまっている。
なんと後先無い口約束をしてしまったのか。
水に浮いた脂のようにぐにゃりと歪むような目眩が襲う。
破約という不誠実な行動をなのはがとれるはずもなかった。
こうなった以上、なのはの選択は一つ――。
「一緒にテレビ局に行きます……テンマさんを探しましょう……」
放送をするかどうかは分からない。
けれど、探すと約束した以上、そちらの方は確実に果たさなければならない。
「やっほうっ!!ありがとうなっ!!」
杳馬は改めて小躍りして喜びを身体一杯で表わす。
それをなのはは無気力な視線で見つめ続けていた。
(すっごく……変だな……)
不思議な感覚だった。
元々そういうつもりであったにもかかわらず――何一つ変わっていないにもかかわらず、どこか敗北感を覚えてしまう。
数分たらずのやりとりではあったが、身体に泥がのしかかったような気だるさを感じてしまった。
「んひっ!なのはちゃんっ!やっぱりキミは物事を客観的に判断できる賢い子だっ!」
杳馬は“俺はテンマを探して、なのはちゃんは放送をする〜”と鼻歌交じりに口ずさみながら、笑顔を振りまく。
なのはの魔法に絶対的な信頼を置いているようだ。
「あ……ありがとうございます……」
杳馬の計画には納得がいかない点もあるが、なのはを信用した上での提案である手前、無碍にもできない。
自分の感情と板挟みにされたなのはは憂欝に顰める。
「ん〜?なのはちゃんっ!」
杳馬はなのはの心の揺らぎを見透かしているかのように穏やかに微笑する。
「分かっているぜ。
なのはちゃんにとって今回のことは苦渋の決断だったってことぐらい。
最善とは言え、欠点がある作戦――なのはちゃんが言うようにタイミングが悪ければ、お友達を却って危ない目に合わせる可能性があるからな。
だから、俺もキミが放送している時は支援するつもりだ。
窓から怪しい奴が入ってこないか見張っていたりとかな……って、俺、弱ェからそれくらいしかできねェけどよ……」
杳馬は“それにさ……”とはにかみながら、手を広げる。
「キミは確かに殺人を犯した。
けど、これから悪い奴を倒して多くの人を助ければ、チャラになる。そうだろ?」
「チャラになる……」
罪は消し去ることは出来ない。
しかし、薄めることはできる。
しかも、高遠の時とは違い、今度はなのはの倫理感に反しない方法で――。
なのはにとって、杳馬の何気ない一言は蕩けてしまいそうなほどに優しく魅惑的な言葉であった。
(より多くの人間を保護し続ければ――)
償う一歩すら踏み出していないにもかかわらず、罪を償いきった解放感が吹き抜ける。
「なのはちゃん……だから……」
おちゃらけな態度を一転、杳馬はなのはの前に膝を付いた。
「どうか……息子を救ってくれっ!その魔法で悪党どもを倒してくれっ!!
キミにしかできないことなんだ……」
深々と頭を下げた杳馬はまさに子を思う父の姿。
杳馬は元々、おどけて場を盛り上げる性格なのだろう。
その杳馬が真摯な姿勢で本音をさらけ出したのだ。
なのはの能力に全てを賭けて――。
杳馬が誠意を尽くそうとしているのであれば、なのはもそれに応えなくてはならない。
「杳馬さん……私、頑張ります!!」
なのはは力強く宣言する。
杳馬は弾けるように顔をあげた。
「あぁ……ありがとう……」
杳馬は安堵したように上瞼をたるませる。
(これで良かったかもしれない……)
なのはは安息に近いため息を漏らして、目を閉じる。
今できることは、目の前の問題に対して最善を尽くすこと。
自分にはそれを完遂させられるだけの力がある。
(それに……)
なのはは自身の胸に手を当てた。
杳馬やテンマのために力を発揮する。
それを目標として掲げた時、内なる罵声がぴたりと収まっていた。
自分の中で芽生えた新しい使命。
もし、その使命を果たせば、殺してしまった男性も報われるはず――。
大義名分は今や彼女の理性を保つ助けとなっていた。
「じゃあ、行こうぜ!!なのはちゃん!!」
杳馬は手を差しだす。
それに触れようとする瞬間、なのはは黒こげの死体に目をやった。
「この方はどうしたら……」
「あぁ…彼か……」
杳馬の顔から笑みが消える。
「申し訳ないが、今、彼の組織は燃え切ってしまっている。
もし持ちあげようとすれば、バラバラに砕けて、より人としての原型を失っちまう……
彼の人間としての尊厳を失わせるわけにはいかねェ……」
「そうですか……」
できれば、この死体を弔うことはできないかと考えたが、動かさない方がいい以上、放置するしかない。
死体が人々の目に晒されることに罪悪感、自分の罪が知られてしまうのではないかという恐怖を覚えるも、やむを得ないことなのだと自分に言い聞かせる。
「ごめんなさい……」
死体にペコリと頭を下げ、なのはは歩み始めた。
【Gー5/公園内:朝】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:疲労(小)、頬に擦過傷。目が少し痛む。
[装備]:聖祥大附属小学校制服、S2U@魔法少女リリカルなのはシリーズ、核金(シリアルナンバーLXI)@武装錬金
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:すずかとの合流と、この場所からの脱出(?)
1:テレビ局へ向かう。
2:テンマを助ける。
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦。
※魔法の非殺傷設定はできません。
※核金@武装錬金は武藤カズキと蝶野攻爵しか武装錬金にできません。
※テレビ局で放送するかどうかははっきり決めておりません。
【杳馬@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、フクロウのストラップ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いというマーブル模様の渦が作り出すサプライズを見たい!
1:Dr.テンマが執着するヨハンに会ってみたい。
2:会場のマーブルが濃くなったら、面白そうな奴に特別スタジオの存在を伝える。
3:息子テンマは見つかったら、それはそれで嬉しいかも。
こちらで以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
もし、誤字や矛盾点などありましたら、ご指摘よろしくお願い致します。
投下乙です
……………………えーと、これは”杳馬が人を殺して動揺しているなのはを落ち着かせてメンタルケアした”って事なのか?
454 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/12(火) 02:24:45.64 ID:QaBp9Y2E
投下乙です
これは次で堕とす為に持ち上げたんだろうか?
せめてヨウマが心の中でそう言ってるシーンがあれば…判り難いかな
次の書き手次第かな
おはようございます。
ご連絡ありがとうございます。
初期は杳馬の独白シーンも考えておりましたが、小物臭くなるかなって思って削除しました。
前の段階から杳馬は面白そうな人間は放送させてみたいという描写があり、それで伝わるかなと思っていたので。
もし、展開に問題があるのでしたら、破棄して頂いても構いません。
展開そのものに問題は無いけど独白シーンはいるんじゃないの
悪党がどういう風に相手を堕とそうと考えてるのか重要だと思う
原作もヨウマ何考えてんだかよくわからんこのおっさん!ってのが持ち味だったから独白はあっても最後にちょろっとぐらいでいいと思う
なのはちゃん陥れようとして演技してる描写の割合が多くて一瞬良い人に見えかけたw
それよりよっぽどの事がない限りあまり書き手が自分で破棄持ち出さない方がいい気がする
本人が致命的な点を見つけたんじゃなくて、皆が気に入らないなら〜って簡単に破棄する風潮作ったら後の書き手が辛くなる
破棄するほどではないよ
ヨウマがなのはちゃんを貶める為に一度持ち上げた…みたいなのを最後に独白してくれたら問題ないと思う
218 名前: ◆KKid85tGwY[] 投稿日:2011/07/12(火) 17:27:45 ID:AHrPIXlI [2/2]
お久しぶりです。
◆uBMOCQkEHY氏投下乙です。
氏が投下された作品に関して、本スレで少し紛糾している様なので改めてこちらで話をさせて貰いたいと思います。
まず作品そのものに矛盾などの問題は見受けられませんでした。
ただ杳馬の行動に関して幾つか疑問点を。
杳馬は他の参加者に「闇の一滴」を植えつけて精神的に堕とし、それによってマーブルを作り出そうとするのが
原作からの変わらない基本的な方針だと私は解釈していました。
そしてなのはの作品直前までの状況としては、それまでの作品の描写から
賀来を殺したことや他の要因もあって、極度に動揺して安定を欠いた状態だったはずです。
しかし杳馬のなのはに対する対応を客観的に見れば、動揺しているなのはを落ち着かせて
賀来を殺したことにも精神的に整理を付けさせているようにしか思えません。
これは杳馬の性格的にどうなんだろうと言う疑問はあります。
杳馬に裏の思惑やその後の展望があれば話は別ですが、作品自体からはそういった部分は読み取れませんでした。
またそういった場合、ある程度具体的に杳馬の思惑が描写されなければ
リレーとして考えれば問題があるかなと。
無論、キャラクター解釈などは個々によって違いが有るでしょうが
ただ作品の修正や破棄などは本スレでよりこちらで話し合うべきだと考えてこちらに書き込みました。
議論スレより転載
これ以降は向こうで
皆様、ご意見ありがとうございます。
私なりの意見を議論スレに書きましたので、目を通して頂けると幸いです。
461 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/13(水) 16:50:48.78 ID:iZc/JUh6
仮投下スレに作品が来てるな
しばらく時間置いて問題無ければ投下かな
それと
>>1さんお帰り
いやいやいや
何で何事も無かったかのようにしているの?
前回の予約ぶっちぎったことは無視?
意味がわからんマジで
おかえりとかいう
>>461が自演にしか見えん
そんな喧嘩腰で荒れるようなこと書くなよ
まあ一言欲しかったのは確かだけどさ
なんというか、また議論で予約が停滞するようなことになるんじゃないかと心配
議論自体が必要なんだろうとは思うけど、違和感に対して容赦無いよね
まあ、難しい話だよね
確かに非殺傷設定で戦ったり、厳しいリハビリに耐えたりする精神的強さは持ってるっちゃ持ってるんだが
だからといって、それが殺人という最大の禁忌をあっさり乗り越えることになるかといえば……
なんだかんだ言ってもまだ小学生だぜ、なのちゃん
466 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/15(金) 00:45:16.71 ID:Y1Hm9+7X
代理投下します
――――――『あなたを愛してる』
◆
―――今夜、一人の『警官』が死んだ
―――彼の名は『ジェームズ=ゴードン』
地下水路に響く、放送よりその名を聞いた時、
『バットマン』こと、『ブルース=ウェイン』に脳に渡来したのは、
哀しみでも、怒りでも無く、強烈な『疲労感』だった。
狂気にも似た鋼の精神力で抑えつけていた怪我による痛みと疲労が、
堰を切った様に、怒涛となってバットマンの体に襲いかかってくる。
倒れ、力なく地に伏せる事すら無かったが、思わず下水道の緩いアーチを描く壁面に彼はその身を預けた。
―――『ジェームズ=ゴードン』
『シカゴ』から『ゴッサム』へとやってきた男。
今時珍しい程の『正義感』と『職業意識』をもった男であり、
数少ない『本物の警官』の一人であった男。
そして、『バットマン』にとっては本当に僅かな心を許せる『戦友』であり、『理解者』であった男。
その彼が、死んだのだ。
「…………」
不思議と、悲しみも怒りもわかない。涙も出なかった。
有り得ない事では無かった。“あの”『ポイズン・アイビー』すら、読み上げられた死者の名簿の中にあったのだ。
如何に鋼の意志を持った警察官であったとしても、彼が死ぬ事は充分にありえた事なのだ。
この殺し合いの場に限った話では無い。
バットマンとゴードンの相手にしていたゴッサムの闇は余りに深く、そしてどす黒い。
命を狙われ、死に瀕した経験も、もはや両手の指で数える事が出来ない程であった。
いつも、死と隣合わせだった。そして自分も、ゴードンも、それを了解していた。
その上で、自分達は戦い続けて来たのだ。
『悪』と――――
そしてゴードンは死んだ。
病んだ社会、どうしようもない世界を、その病巣を最前線で見ながら、戦い続けた男は死んだのだ。
『ジェイソン=トッド』と同じ様に、自分を置いて先に逝ってしまった。
この、終わりの無い、血を吐きながら続けるマラソンの様な、戦いの最中で。
バットマンの肩に、戦友の死が、重みとなってのしかかる。
暗い視界は暗さを増して、天井が酷く低くなった様に錯覚する。
まるで、自分を押し潰さんとせんが為に。
空気は、その冷たさを増して、彼の肺腑を穿つ。
もう、止めにしないか――――心の中で誰かが囁く。
何も変わらない『ゴッサム』
また一人、また一人と欠けて行く戦友達。
自分の元を去った、ディック・グレイソン
悪に堕ちた、ハーヴィー=デント。
道化師に殺された、ジェイソン=トッド。
そして、ゴードン……
これまでの戦いに意味はあったのか?
自分達は、対症療法を続けてきただけではないのか?
彼らの死に、本当に意味などあったのか?
凄まじい、徒労感。
―――お前はもう充分やった
―――誰にも感謝されずとも
―――時に汚なくののしられ、蔑まれようとも
―――『正しい』ことをやってきた筈だ
―――もう充分だろう
―――戦いの果てに、誰にも看取られず、こんな地獄で死ぬのが俺達の運命(さだめ)なら
―――例え、途中で投げ出しても
―――誰も……
囁きはそこで止まる。
一匹の蝙蝠が意識を過り、
銃声と共に、父と母は血の海に沈む。
バットマンは膝をつかない。
バットマンは立ち上がる。
その、マスクに隠されぬ口元に浮かぶのは、獣の様な牙剥く微笑み。
◆
『――――あなたが誰かは知らないが、信じて欲しい。
これが連中の策略でない事を証明する手だては無いが、構うものか。
私は私だ。
あなたが誰かは知らないが、愛している。
鉛筆が一本だけある。
連中に見つからなかった小さな鉛筆。
私は女だ。体の中に隠した。
二度とこんなチャンスがあるとは思えないから、私の事を洗いざらい書いておこう。
これは私の書く唯一の自伝だ。
それをトイレットペーパーに書いてるなんて……
私は1957年ノッティンガムで生まれた。雨の多い土地だ。
11歳試験に通って女子用グラマースクールに入った。
女優になりたいと思っていた。
学校で、最初のガールフレンドが出来た。
名前はサラ。
その時、私は15で彼女は14だったが、同じワトソン先生のクラスにいた。
手の綺麗な子だった。
生物学教室で瓶詰めのウサギの胎児を眺めながら、
ハード先生が、「それは思春期のはしかの様なものだ、いずれ卒業する」
と言うのを聞いた。サラは卒業したが…私はしなかった。
1976年、私は隠すのをやめ、当時の恋人クリスティンを両親に紹介した。
1週間後、演劇学校に通うためロンドンに引っ越した。
母は心を引き裂かれたと詰った。
だが大事なのは、自分に誠実である事だと思ったのだ。
そんなに身勝手だろうか?
それは自分に残された最後の財産だ。
最後の、わずかな1インチだが…その中でだけは自由でいられる。』
◆
―――みんなに『笑顔』でいて欲しい
―――ただ、それだけが望みだった
―――だけど
『“テンマ”っ!貴様っ!』
その言葉を最後に、ぶつ切り状に放送は終えられた。
それは、グリマー、のぞみ、善吉の、三人の死体を、丁度、街外れの森に埋め終えた所であった。
―――『12人』
のぞみ、善吉、グリマーらを含めての、これまでに、この『実験』の生んだ死者の数であった。
それは、未確認達との戦いの最中に出た死者に比べれば、随分と少ない数かもしれない。
しかしである。
―――『お前に、仮面ライダーである資格はない』
『クウガ』とよく似た姿をもった戦士…『本郷猛』に言われた言葉が、五代雄介の胸の傷を抉る。
未確認生命体第42号との戦いのさなかで覚えた、意識を覆い尽くす様な怒りと、
それと同時に、心をそのまま深海へと沈めてしまった様な哀しみが、
五代の心の内に渦巻いて、酷い吐き気がした。
「――――『12人』か」
「多いか少ないかは解らないが……」
「いずれにせよ―――」
五代の隣で、吉良吉影が呟く。
その内心はどうあれ、その顔は傷ましそうに歪められている。
―――『12人』
その数字が、その数の死が、その数の人生が、五代の肩に圧し掛かる。
―――『お前に、仮面ライダーである資格はない』
その言葉が、またも胸を刺す。
未確認との戦いの際にも、何度も感じた無力感。
嗚呼……それでもなお。
「吉良さん」
五代が、傍らの吉良へと話しかけた。
「さっきも言いましたけど……俺、改めて言いますよ」
―――恐れるだけの歴史をゼロに巻き戻す英雄
―――『闇の種族/グロンギ』を討つ『凄まじき戦士』
―――にも関わらず、誰よりも優しく、誰よりも暴力を嫌う男
それでもなお、男が戦う事を選ぶのは―――
「俺、戦います」
「吉良さんや折原さんのいう、善い人たちのグループを作って、こんな事をする奴らと……戦います」
―――ただひたすらに、はるかなる愛にかけて
「だから見てて下さいよ」
「俺の――――『変身』」
そうして、五代は、親指を立てた。
その顔に、悲壮さえ感じられる笑顔を浮かべながら。
◆
『……ロンドン…ロンドンでは幸せだった。
1981年にシンデレラのダンディニ役をやった。
最初の出演だった。
世界は目まぐるしく変転し、熱いライトの向こうに見えない観客がひしめていて、何もかもが魅力的だった。
エキサイティングだったが、私は孤独だった。
夜にはクルーインや他のクラブに行ったが、そこでもあまり溶け込めなかった。
どこに行っても落ち着かなかった。
そういう場所に集まる人の大部分は、ただゲイである事に満足していた。
私はそれ以上を求めていたのだ。
仕事はうまくいった。
映画に出て、やがて大きな役がつきはじめた。
1986年には「ソルト・フラッツ」という映画に出演した。
賞は取ったが、客足はさっぱりだった。
その仕事でルースに出会った。
私達は愛し合った。
同棲して、ヴァレンタインにはバラを贈ってくれた。
満ち足りていた。人生最良の3年間だったと思う。
1988年に戦争があった。
それからバラは手に入らなくなった。
誰の手にも…』
◆
バットマンは膝をつかない。
彼は、アーチャーを援護する為に、再び下水道を駆け始める。
時間経過から考えるに、勝敗は兎も角、もう戦いは終わっているかもしれない。
それでも、彼は、その足を止める事は無い。
ジェームズ=ゴードンは死んだ。
ならば、だからこそ、道半ばで逝った戦友の死を無意味にしない為にも、自分は走り続けなければならない。
彼の魂の安らぎの為にも、この許されざる『実験』を打破せねばならない。
―――『バットマン』に止まる事は許されない
―――この世から全ての『悪』が消え去る、その在り得ざる時まで
―――この五体が砕け散って、戦いの果てで地に斃れ伏す、その時まで
バットマンは走る。
その足を支えるのは、とるにたりない…ちっぽけな『信念』。
五代雄介、『クウガ』は膝をつかない。
彼もまた、この『実験』を打ち破るべく、動きだす。
これ以上、誰かが犠牲にならない為に。
―――こんな馬鹿げた事の為に
―――もうこれ以上、誰かが傷つき、命を奪われ、泣いているのを
―――自分はこれ以上、許す事が出来ないから
誰かの『笑顔』を護る為に。
その親指を天へと立てて、哀しみを越えて、『青空』となる為に。
『凄まじき戦士』は歩きだす。
その足を支えるのは、とるにたりない、ちっぽけな『愛』。
―――その陰で、記憶の無い亡霊は、一人我が道を往き
―――怪物を心の奥に宿した少女は、未だ眠り姫を演ず
◆
『……1992年、連中はゲイを狩り始めた。
ルースも食べ物を探しに出て捕まった。
なぜ私達をそんなに恐れる?
彼女は煙草を押しつけられて、私の名を出した。
私に誘惑されたという調書にも署名した。
彼女を責めはしなかった。
愛していたからだ。しかし彼女は…自分を責めた。
彼女は獄中で自殺した。
最後の1インチを捨てて、私を裏切った事に耐えらえなかったのだ。
ああルース…
私も投獄され、私の映画は焼き捨てると言われた。
髪を剃られ、顔を洗面器に漬けられ、レズにまつわるジョークを浴びせられた。
薬を投与された。
舌の感覚がなくなった。口も利けない。
リタというゲイの女性もいたが、2週間前に死んだ。
私も長くはないだろう。
こんなひどい場所で人生を終えるとは思わなかった。
だが少なくとも3年間はバラに囲まれて暮らし、誰にも詫びなかったのだ。
私はここで死ぬ。
私の全ては消え去る。
1インチを除いて。』
◆
それは『正義』か
それは『愛』か
それは『矜持』か
それは『信念』か
この『実験』の抗う者達の、それぞれ抱くモノは違うだろう。
しかし、そうだとしても唯一つだけ確かな事がある。
ほんの、とるにたりないモノ。心の底に残った『1インチ』。
それがある限り、それを捨てない限り、人は決して何かに屈する事は無い。
例え、どんなモノが、どんな敵が、どんな運命が、彼らに襲いかかろうとも
―――とるにたりないもの
―――最後に残った『1インチ』
しかし、これこそが『最後の道しるべ』
これがある限り、彼らは戦い続けるだろう。
例えその身が、業火に焼かれようとも――――
その先に、辛苦艱難が、時に『死』すらが待ちうけようとも
彼らの歩みは止まらない。
誰にも、止める事は出来ない。
◆
『――――1インチ
小さくてもろいが、最後まで守り通す価値のある唯一の物
見失ったり、売ったり、手放してはならない。
連中に奪わせてはならないのだ
あなたが誰なのかは知らないし、男か女かもわからない。
会う事も、抱き合って泣く事も、一緒に飲む事もないだろう。
それでも…あなたを愛している
あなたが生きて出られる事を祈る
世の中がよくなって、人々の手に再び渡る事を祈っている
あなたにキスできたらいいのに
――ヴァレリー 』
―――さる収容所で殺された一人の女性の手記より
【F−9/下水道内(G−9の直ぐ側):朝】
【バットマン@バットマン】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:瓦礫による怪我、落下によるダメージ
[装備]:バットスーツ
[道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
1:アーチャーの援護に向かう
2:雪輝と再合流した際、話がしたい。
3:ジョーカー、悪魔将軍等の動向に注意。
【F−6/市街地のはずれ:朝】
【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:疲労(中)
[装備]:アマダム
[道具]:基本支給品、サバイバルナイフ、鉄パイプ
[思考・状況]
基本行動方針:これ以上の犠牲者を出す事無く、この実験を止める
1:悪と戦い、倒す
2:Horと見た人を仲間に加え、Isiと見た人を保護する。
3:臨也、吉良を守る。
4:臨也を警戒。
[備考]
登場時期は原作35話終了後(ゴ・ジャラジ・ダを倒した後)。
クウガの力の制限については、後の書き手にお任せします。
ペガサスブラストで火器の残弾が減るかどうかは後の書き手にお任せします。
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康、記憶喪失
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、Queenの楽曲三つが入ってるCDとそれが入ってるウォークマン
爆弾の作り方が書いてある本 ビデオカメラ@出典不明
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、平穏の中で幸福を得る
1:爆弾の起爆装置……? 私の本質とは一体……。
2:コロッセオに向かい、Horと見た参加者を擬似Hor集団に加え、Isiと見た参加者を保護する。
3:自分の"本質"を知り、"抑えられない欲求"を解消したい。
4:『東方仗助』と『空条承太郎』はなんだか危険な気がするので関わりたくない
5:首絞め……惜しかった……。
[備考]
登場時期は原作で死亡した直後。
記憶の大半を失い、スタンド『キラークイーン』を自分の意思で出せなくなり、その存在も不認知です。
なんらかのきっかけで再び自在に出せるようになるかどうかは、後の書き手にお任せします。
ビデオカメラには由乃が善吉・のぞみ・グリマーを殺害してご褒美を貰うまでの映像が記録されています。
ビデオカメラの出典・詳細は、後の書き手にお任せします。
【ニナ・フォルトナー@MONSTER】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:気絶
[装備]:護送車@DEATH NOTE
[道具]:基本支給品一式、ハンドガン
[思考・状況]
基本行動方針:
1:気絶中
[備考]
ジョーカーの名前を知りません
代理投下乙です
戦友であり理解者か。そしてそれを失い、打ちひしがれつつも己の信念を貫き通そうとするのか…
そして五代もまた…
残された二人も違う意味で止まらない、止まれない人種なんだよな…
色々問題もあったが…作品を書いて乙です
投下乙です!
ブルース、長年の戦友であるゴードンが死んでも折れなかったか。
五代も持ち堪えたみたいだし、ヒーローは良くも悪くも止まらない存在なんだな。
雰囲気のある作品乙でした。
すいません。
現在地マップでルンゲの現在地更新が何回やってもできないんですが、
どなたかできる方はいらっしゃいませんか?
五代くんいいなあ。
がんばってくれ
さりげなくウルトラセブンとか色んなところから表現持ってきてますねww
乙です
482 :
創る名無しに見る名無し:2011/07/19(火) 00:11:02.98 ID:WhG7XMbA
ビデオカメラってどこかの作品で重要なキーアイテムになってたっけ?
jojo5部では少し出てたけど。
まあ現実出展でもいいんだけどさ
>>482 4部だと早人が吉良の殺人現場をカメラに押さえてる
今更だし映画版しか知らないけど
Vフォー・ヴェンデッタの手記のシーンは泣けた思い出
あそこは原作と一緒なんだろうか
もうここは企画開始から1周年なんだね
途中停滞しなければどれだけ進んでいたんだろう
どこで間違っちまったんだろうな……
震災でなんかよく分からない減速が始まったな
ゴルゴが饒舌すぎた
ほしゅ
ほしゅ
ほ
a
ほしゅ
494 :
創る名無しに見る名無し:2011/10/14(金) 22:44:48.50 ID:UnFlKm6K
ほしゅ
hosyu
496 :
創る名無しに見る名無し:2011/11/05(土) 22:25:27.14 ID:mSg9VB6O
もうすぐほったらかされて4ヶ月か…
497 :
創る名無しに見る名無し:2011/11/06(日) 01:51:28.98 ID:uHKJrlpg
面白そうな企画だったのに、どうしてこうなった…。
惜しいなら自分で書けばいいのに
1さんと全然ここで書いてないのに議論というなの気に入らないから破棄しろといい回ったあいつ無視すれば復活するんじゃないか?
この二人が実質廃墟にした
あんなところで士郎を殺そうとする書き手が悪い
信者乙
502 :
創る名無しに見る名無し:2011/12/10(土) 09:04:28.65 ID:5RsEniS1
ツヅケタマエ
アメコミ系とMWをズガンすれば書きやすくなるよ
リレーし難いキャラばっかで先細りが必然な作品選出だったのが敗因
マイナーなやつも多いのにMADあるのは凄いな
保守
ピカチュウおらんのか?
507 :
創る名無しに見る名無し:2012/03/31(土) 17:05:47.29 ID:eW5j23Li
あげ
諦めるか自分で書くかの二択だろ
書く気がないなら中途半端に保守なんかするな
509 :
創る名無しに見る名無し:2012/07/02(月) 07:41:34.43 ID:BovNgoep
保守
鯖落ち回避ほしゅ
保守
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る1/6(日)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?
ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。
詳しくは
http://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html をご参照ください。
514 :
創る名無しに見る名無し:2013/03/11(月) 16:39:37.84 ID:EpQLh99t
kotetu0024
隠者使って自衛できないアホ、アタボ13000で負けたわ
515 :
創る名無しに見る名無し:
ほしゅあげ