ジャスティスバトルロワイアル Part2

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1創る名無しに見る名無し
「正義と悪はどちらが強いのか」
そんな単純かつ深淵なテーマを元にバトルロワイヤルを行うリレー小説企画です。
この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14034/

まとめwiki
ttp://www35.atwiki.jp/justicerowa/pages/1.html
2創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 19:28:03 ID:uDrCIUCg
★参戦作品別名簿

【Fate/stay night】5/5
○衛宮士郎/○アーチャー/○言峰綺礼/○藤村大河/○間桐慎二
【MONSTER】5/5
○天馬賢三/○ヨハン・リーベルト/○ハインリッヒ・ルンゲ/○ニナ・フォルトナー/○ヴォルフガング・グリマー
【DEATH NOTE】3/5
○L/○夜神月/●メロ/○松田桃太/●夜神粧裕
【未来日記】4/4
○天野雪輝/○我妻由乃/○平坂黄泉/○雨流みねね
【ジョジョの奇妙な冒険】3/4
●東方仗助/○空条承太郎/○吉良吉影/○DIO
【金田一少年の事件簿】3/4
○金田一一/○高遠遙一/●七瀬美雪/○剣持勇
【バットマン】3/4
○バットマン/○ジョーカー/○ポイズン・アイビー/●ジェームズ・ゴードン
【武装錬金】3/3
○武藤カズキ/○蝶野攻爵/○武藤まひろ
【聖闘士星矢 冥王神話】3/3
○テンマ/○杳馬/○パンドラ
【魔法少女リリカルなのはシリーズ】3/3
○高町なのは/○アリサ・バニングス/○月村すずか
【天体戦士サンレッド】2/3
○サンレッド/●内田かよ子/○ヴァンプ将軍
【侵略!イカ娘】2/3
○イカ娘/●相沢栄子/○相沢たける
【MW】2/2
○結城美知夫/○賀来巌
【仮面ライダークウガ】2/2
○五代雄介/○ン・ダグバ・ゼバ
【デュラララ!!】2/2
○竜ヶ峰帝人/○折原臨也
【キン肉マン】2/2
○ロビンマスク/○悪魔将軍
【めだかボックス】2/2
○黒神めだか/○人吉善吉
【仮面ライダーSPIRITS】1/1
○本郷猛
【ウォッチメン】1/1
○ロールシャッハ
【Yes! プリキュア5】1/1
○夢原のぞみ
【Vフォー・ヴェンデッタ】1/1
○V

53/60
3創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 19:28:55 ID:uDrCIUCg
★分類別名簿

【正義】16/17
○アーチャー@Fateシリーズ
○衛宮士郎@Fateシリーズ
○L@DEATH NOTE
○金田一一@金田一少年の事件簿
○空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険
○黒神めだか@めだかボックス
○五代雄介@仮面ライダークウガ
○高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○テンマ@聖闘士星矢 冥王神話
○天馬賢三@MONSTER
○バットマン@バットマン
●東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
○本郷猛@仮面ライダーSPIRITS
○武藤カズキ@武装錬金
○夢原のぞみ@Yes! プリキュア5
○ロビンマスク@キン肉マン
○ロールシャッハ@ウォッチメン

【悪役】17/17
○悪魔将軍@キン肉マン
○雨流みねね@未来日記
○折原臨也@デュラララ!!
○吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
○言峰綺礼@Fateシリーズ
○ジョーカー@バットマン
○高遠遙一@金田一少年の事件簿
○蝶野攻爵@武装錬金
○DIO@ジョジョの奇妙な冒険
○パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話
○V@Vフォー・ヴェンデッタ
○ポイズン・アイビー@バットマン
○結城美知夫@MW
○夜神月@DEATH NOTE
○ヨハン・リーベルト@MONSTER
○杳馬@聖闘士星矢 冥王神話
○ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ
4創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 19:30:05 ID:uDrCIUCg
【一般】26/26
●相沢栄子@侵略!イカ娘
○相沢たける@侵略!イカ娘
○天野雪輝@未来日記
○アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはシリーズ
○イカ娘@侵略!イカ娘
○ヴァンプ将軍@天体戦士サンレッド
○ヴォルフガング・グリマー@MONSTER
●内田かよ子@天体戦士サンレッド
○我妻由乃@未来日記
○賀来巌@MW
○剣持勇@金田一少年の事件簿
○サンレッド@天体戦士サンレッド
●ジェームズ・ゴードン@バットマン
○月村すずか@魔法少女リリカルなのはシリーズ
●七瀬美雪@金田一少年の事件簿
○ニナ・フォルトナー@MONSTER
○ハインリッヒ・ルンゲ@MONSTER
○人吉善吉@めだかボックス
○平坂黄泉@未来日記
○藤村大河@Fateシリーズ
○松田桃太@DEATH NOTE
○間桐慎二@Fateシリーズ
○武藤まひろ@武装錬金
●メロ@DEATH NOTE
●夜神粧裕@DEATH NOTE
○竜ヶ峰帝人@デュラララ!!

53/60
5創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 19:30:56 ID:uDrCIUCg
おっと、ミス
【一般】26/26 →【一般】20/26

【実験のルール】

1、【基本ルール】
 実験のため強制的に集められた参加者達は、3つのグループに振り分けられ、各々異なる勝利条件を目指し、48時間を過ごす。

・Hor(正義)グループは、Set(悪役)を全て殺すか、Isi(一般)を助け、ロワ終了時まで一人でも生かしておくこと
・Set(悪役)グループは、Hor(正義)に属する者を皆殺しにすること
・Isi(一般)グループは、ただ時間内生き残ること

 実験開始時に、これらグループに誰が属しているかは明かされない。
 優勝者(たち)には主催の出来る範囲で願いが叶えられる。

2、【首輪】
 参加者の首には首輪が装着され、首輪は以下の条件で爆発し、首輪が爆発したプレイヤーは例外なく死亡する。
・首輪を無理やり外そうとした場合
・禁止区域エリアに入った場合
・ロワ会場から逃走しようとした場合

3、【放送について】
 制限時間は48時間。
 6時間毎に途中経過がアナウンスされる。

4、【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は一部を除き没収。
 支給品として、2日分の食べ物、水に、地図、名簿、メモ用の紙数枚、小さな方位磁針と時計と鉛筆付きのマニュアル手帳がある。
 その他、各作品や現実からランダムに選ばれたもの1〜3個が渡される。


5、【特殊ルール】
・参加者は三人の参加者を排除した場合、特別な報酬を得る権利を与えられる。
・特別報酬は、怪我の治療、物資の補給等の他、他の参加者に危害を加えたり、ロワを棄権する以外の事が出来る。
・詳細は、達成した後に首輪の前の部分を触って確認できる。
6創る名無しに見る名無し:2010/09/04(土) 19:33:09 ID:uDrCIUCg
【書き手参加ルール】

1.【書き手参加の基本】
・書き手参加をする場合、トリップを使い識別できるようにする。

2.【予約、及び延長期限】
・現時点で予約されていないキャラクター、修正提案期間を過ぎたキャラクターを、SSを書くのに使用したい場合、「予約スレ」にて予約をすることが出来る。
・予約されているキャラクターは、期限内において、予約をした書き手に優先使用権があり、他の書き手がSSに使用したり予約したりすることは出来ない。
・予約期限は 5日間 とする。
・予約期限内に、やむなくSSを完成し投下することが出来ない場合、延長を申請できる。
・延長期限は、2日間 とする。
・予約期限内に延長申請がなかった場合、又、延長期限内にSSを投下できなかった場合、予約されていたキャラクターの予約は解かれる。

3.【修正、修正議論に関して】
・投下されたSSには、24時間の間に、「修正提案」をする事が出来る。内容の不備、矛盾等がある場合、書き手はそれを受けて修正を申請する事が出来る。
・「修正提案期間」の投下後24時間以内は、他の書き手は投下されたSSのキャラクター、展開を引き継いだSSの投下、予約は行えない。
・「修正提案」 が逢った場合、そのSSについて、専用JBBSの「議論スレ」にて、議論を行う。
・「修正議論」は2日間を期限とし、その間に結論が出なかった場合、24時間以内の期限で「トリ出しの書き手による評決」を行う。

4.【その他の留意点】
・序盤など、特に自己リレーは控えるよう気を付ける。
・キャラクターの能力、アイテムなどの制限は、投下されたSS、又はそれらを元にした議論などで決まったものを基準にする。
・みんなで仲良く殺りましょう。

5.【作中での時間表記】
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22

前スレ
ジャスティスバトルロワイアル Part1
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281454234/
7BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:05:33 ID:b+MNIM9/
でも…
それでも…

ここまで自分で解っていながら…何故僕はバットマンを続けている?
止める機会ならば何度だってあった。止めようと思えば何時だって止められたんだ。
そうさ何時だって止められたんだ…なのに何故…?
僕は…

―バサ
――バサバサ
―――バサバサバサ
――――バサバサバサバサ
―――――バサバサバサバサバサ

黒く、大きな影が空を覆い、『それ』は窓を突き破って飛来する。
ああ…
彼が…来る…

紹介しよう、彼を。
太古から生き続けて来た、大いなる生粋の戦士を。偉大なる獣神を。
僕がまだ6歳だったころに、僕は彼に出会った。バットケイヴで。あの洞窟で。
その出会いの意味をその時は理解しなかったが、今ではハッキリとその意味を理解できている。
彼は僕の胸に入り込み、僕の心に向かって囁く。
愛も哀しみも喜びも知らぬ、憎悪に燃えた瞳で僕を見て、
屠った獲物達の死臭漂う、鋭い牙の生えた口で告げるのだ。

――お前は私の物だ

と。

彼と僕は融合し、一匹の怪物となる。
身長約二メートル、黒い大きな翼の吸血鬼。
ゴッサムの屑山に産み落とされた、時代の鬼子、イカレタ怪人……

彼が僕へと告げる。

――闘え

彼が僕へと告げる

――闘え
――戦え

彼が私に告げる

――闘え
――戦え
――闘い、戦って、そして死ね

彼が私に告げる

――闘って、戦って、そして死ね
――矢弾尽き、鎧は破れ、体躯は傷つき、牙は折れ、翼は破れ、己のが血の池に伏すまで闘って
――そして死ね
8BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:07:28 ID:b+MNIM9/
彼が私に告げる

――逃げることなど許されぬ
――闘え、貴様の敵と
――戦え、貴様の仇と
――闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
――闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え、闘え、戦え
―― タ タ カ エ !


――貴様なぞに言われなくても解っている!
――自分の為すべきことぐらいは

そうだ…何も難しい話じゃない
資金もある、体力もある、技術もある、覚悟は言わずもがな…
だとすれば何を躊躇う必要がある?何を考える必要がある?
これで実行に移さないと者がいるとすれば、為すべき事を為さない者がいるとすれば、それは臆病者だけだ。
そうだ…何一つ難しい話じゃない。

必要な事だ。誰かがやらねばならぬ事だ。
9歳の狂えるみなしごは、自分一人でたくさんだ。
そうなりうる誰かを救えると言うのならば、充分に為すに値する。命を掛けるに値する。

――そうだ…何一つ難しい話じゃない

これは義務だ。
始めたのは自分だ、だとすれば全うせねばならぬ。
この街に怪物を産み落としたのは自分だ、だとすれば前に進まねばならぬ。
行かねばならぬ。闘わねばならぬ。立ち向かわねばならぬ。
拳を振り上げ、叩きつけろ。
必要な事だ。やらねばならぬ。
この命にかえてでも。

――闇夜で蝙蝠が一人妖しく微笑む
――黒いマスクの下の双眸は秋の湖の如く澄んで、尚且つ底知れぬ暗い深さを湛え
――柔らかな微笑みの弧を描く唇は、その実、微塵も笑ってはいない

眼帯をした女が、一人の少年を殺さんとしている。
巨大な蝙蝠が降り立ち、女を退ける。
少年の残した血の跡を追って、蝙蝠は――
9BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:09:39 ID:b+MNIM9/


――正直に言えば
――僕は生まれてこのかた、義務だとか、為すべき事だとか
――そんな事については、一度たりとも考えた事は無かった
――ただの一度も……
――今までは……

僕の名前は天野雪輝。
日本国桜見市に住む、ごくごく普通の中学2年生…だった。

『時空王デウス・エクス・マキナ』の仕掛けた、
十二人の『未来日記』所有者達によるデスゲームに巻き込まれ、
僕の静かで不変なる「傍観者」としての生活は崩れ落ち、
その果てに僕は、

母と

父を

永遠に失った。


これは夢なんだろうか?
いいや現実だ。変えようのない現実だ。
ちくしょう。なんなんだよ――
どうしてこうなる?
今までの人生は、風の向くまま、気の向くまま、
「傍観者」として流されるままにやってきた。
それでうまくやってこれたんだ。
10BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:10:43 ID:b+MNIM9/
神の座を決める闘いに巻き込まれてからもそうだ。
大勢の未来日記所有者達が、僕の命を狙ってきた。

“3rd−火山高夫”、“4th−来須圭悟”、“5th−豊穣礼佑”、
“6th−春日野椿”、“7th−戦場マルコそして美神愛”
“10th−月島狩人”、“12th−平坂黄泉”……

でもなんとかなってきた。
沢山の出来事があった。何回も死に掛けた。
それでも…それでも何とかなって来たじゃないか…

それなのに、
母さんは父さんに刺されて死んで、
父さんも胸を刺されて死んだ。

ちくしょう…
まるで地崩れが起こったみたいだ。
僕の『世界』が、ガラガラと音を立てて崩れて行く。
いや違う。本当はとっくの昔に崩れていたんだ。
ただそれに気づこうとしなかっただけなんだ。

僕は外の世界に関わらずに生きて来た。
小さな小さな子供の世界に生きて来た。

『お前がガキでいていい時間はもう終わりだよ』

知っていた筈だ、いつかはこうなるかも知れない事を。
でも、気が付いてないふりをしていた。考えないようにしていた。
だからやってこれたんだ、あの異常でオゾマシイ殺し合いの最中で、
風の向くまま、気の向くまま、流される様に生き残ってきた。

そして、父さんと母さんは死んだ。

互いに、時には疎ましいと思い、利用し合い、憎み合い、疑い合、騙し合う事もあった。
でも、それでもなお

――僕は父さんと母さんを愛していた
――僕は父さんと母さんに愛されていた

でも父さんと母さんは死んだ。
望遠鏡はもう役には立たない。
空の星は残らず落っこちて、世界は永遠に真っ暗闇だ。
11BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:11:45 ID:b+MNIM9/
――いや…
――違う…
――今ならまだ間に合う…

そうだ…何も難しい話じゃない。
為すべき事を為せばいい。自分の両手を汚す覚悟を決めればいい。
まだ間に合う。今ならまだ取り戻せる。
ただ、僕の両手を汚しさえすれば。

僕は籠の中の鳥だった。
籠の隙間から見える景色を眺めながら、ただぼんやりと生きて来た。
今や、籠は残らず崩れ、一人外の世界に放りだされた。
もう傍観者ではいられない。一人で、一人で何とかしなくっちゃ…

――ユッキー…
――ユッキー…
――ユッキー…

違う。一人じゃない。
彼女がいる。
紹介しよう、彼女を。
綺麗な髪と、豊かな肢体。
優れた知性と、超人的な身体能力。
僕のピンチには何時でも駆けつけ、僕を守ってくれる人。
僕を独占したがって、時には僕にとって大切な人々を傷つけてしまう人。
幾つも隠し事を持っている人。それでも決して嘘はつかない人。

優秀で、狡猾で、そして壊れいる人。
間違っていて、歪んでいて、狂っている人。
それでも、確かに、僕を愛してくれている人。
我妻由乃――僕の『恋人』。

彼女とならやっていける。
一人では出来ない事も、彼女となら出来る筈だ。

彼女は僕の望みに応えてくれるだろう。
だとすれば――後は僕が覚悟を決めればいい。
12BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:13:16 ID:b+MNIM9/
――そうだ…何一つ難しい話じゃない

これは僕の“義務”だ。僕がやらなきゃならない事だ。
“目的”じゃなくて“義務”だ。やりたい事じゃない、やらなきゃいけない事だ。
僕が、やらなきゃいけない事だ。全てを取り戻す為に。
全てをHappyEndで終わらせるために。

――天野雪輝の世界は崩れ
――今初めて、雪輝はこの世界に一人で足を踏み出す
――おっかなびっくり、おぼつかない足取りで
――生まれて初めて感じる義務の重さに喘ぎながら


ゲームのルールが変わった。
でも関係ない。むしろ事態は好転している。
少なくとも、由乃を殺さずに済む公算が高くなっている。

――大丈夫だ何とかなる。何とかしてみせる。
――そうだ…何一つ難しい話じゃない
――ただ覚悟を決めて、為すべき事を為すだけだ


しかし早くも事態は悪転し、
血の跡を残し、腕を押さえながら、
少年は路地裏へと消えていく。
そこで少年は――
13BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:14:06 ID:b+MNIM9/


かくして二人は邂逅する。
片や、永きに渡って義務に生きて来た大きな子供
片や、生まれて初めて義務と向き合う小さな子供

場所はクライムアレイの路地裏
そこからこの話は始まる



『上から黒い大男が飛んでくる。目と、胸の紋章以外は真黒だ』

“飛んでくる”を含めて、一見意味不明なその一文に一瞬眉を顰めた雪輝を、暗い影が背後より包みあげる。
ぎょっとして振り向いた時、成程、彼はレプリカ日記の内容が確かに正しい事を認識した。

吸血鬼か、蝙蝠男の様に、マントを翼の如く広げた大男が、
宙を滑空しながら雪輝の一歩前に音も無く降り立ったのである。
男は全身は闇にとけ、そのことごとくが黒く、ただ輝くのは炯々たるその双眸と、
胸に染め抜かれた蝙蝠の紋章のみ。

「う…うわぁっ!?」

雪輝はとっさに右手のオートマチック拳銃を大男に向けた。
殺意があった訳ではない。突如背後に出現した大男に恐怖を抱いたが故の、反射的行動である。
それもいたしかたあるまい。この大男バットマンのスーツは、“そういうもの”を意図してデザインされている。
すなわち恐怖を――

「!?…ああっ!?」

雪輝の拳銃の動きは、恐怖故か素人にしては素早かったが、
雪輝が認識する間もなく、バットマンは拳銃を握った彼の右手首を自身の右手で掴み上げていた。
素早く、静かで、精確で、そして力強い動きであった。

「ああっ…痛っ!?」
(しまった…!?)

万力の様な恐ろしく強い力が雪輝の右手首を締めあげて、雪輝は拳銃を思わず取り落とす。
その拳銃が地面に落下するより先に、バットマンの左手が拳銃を受け止める。

雪輝の右手首が万力の様な力より解放される。
強烈な力からのいきなりの解放故か、雪輝は思わず尻もちをついてしまった。
14BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:15:36 ID:b+MNIM9/
彼が見上げる前で、バットマンは両手で拳銃を弄びながら、
雪輝の頬笑みかけて言った。

「まだ年も若いし、恐慌していたのも理解できるが…」

静かで落ち着いた、感情を一切感じさせない恐ろしい声色であった。
バットマンの言葉は続く。

「大の男が“こんなもの”に頼るのは関心せんな」

雪輝の目の前でバットマンは拳銃をしばしカチャカチャと弄んでいたが。

「拳銃は臆病者の武器だ。嘘つきの武器だ」

瞬く間、ものの数秒の間で、拳銃はバラバラに解体される。
最早、何の用も為さなくなった金属とプラスチックのガラクタとなって、
バラバラにアスファルトの路上に広がる。

「簡単すぎるからだ。余りに簡単に、容易に人を殺せるからだ」

――少年が佇んでいる。
――目の前には二つの死体。
――かつて母だったモノと、かつて父だったモノ。
――暗く、汚い路地に、ただ物言わぬ肉塊と化した物体が転がっている。
――家族でそろって映画を見た帰りに、3人は強盗に襲われる。
――父は、少年と母を護ろうとし、母も又少年を護ろうとして、強盗の放った銃弾により死んだ。

――お前は私の物だ

一瞬浮かんだ赤黒い風景と、古い獣を一瞬で意識の外に飛ばし、
雪輝の両眼を見ながらバットマンは言葉をしめくくる。

「物の道理の解る年頃の、大の男の頼る様な武器じゃない」

そう言って再び雪輝に微笑みかける。
雪輝はそれを見て、蒼褪めていた相貌に冷や汗を加えた。

(何なんだコイツ…!?)

雪輝は混乱していた。
目の前の黒い大男。恐らくは、さっき9thに襲われた時に、自身を救ってくれた黒い影だ。
自分を追ってきたという事か?
15BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:16:54 ID:b+MNIM9/
(拳銃を…)

自身の命綱とも言える拳銃は、文字通り瞬く間に大男によって解体されたしまった。
今、雪輝は寸鉄一つ帯びていない。身を守るすべは、逃げる以外に無い。

(何なんだ?何を言ってるんだ?)

バットマンの言葉の意味は理解できるが、その意図する所を理解できない。
頭が正しく機能していない。傷の痛みと、予期せぬ9thの襲撃の事実が、雪輝の脳髄をかき乱す。
状況を改善する有効策を割り出せていない。

「ふむ」

拳銃を解体しおえたバットマンが、雪輝へと向けて足を詰める。
思わず、雪輝は尻もちついたまま、後ろへ後ずさる。

「怪我をしているようだな」

長い大きな体躯を折り曲げて、バットマンは雪輝の左腕を覗き込む。
突如眼前に迫ってきた不気味な黒いマスクに、雪輝はギョッとして再び後ずさった。

「治療した方がよさそうだが、ここは少し明るさと見晴らしに欠けるな」

そう言うとバットマンは、ずずいと静かに、素早く雪輝に手を伸ばす。
雪輝が逃げる間も身じろぎする間も無いままに、雪輝はバットマンの小脇に抱えられ、
そのまま、

「う、うわあっ!?」

宙を飛んだ。
16BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:17:47 ID:b+MNIM9/


「とりあえず止血は済んだ。大した怪我では無くて幸運だったな。少なくとも縫合は必要あるまい」

自身のシャツの裾を破いて即席で作られた包帯と、
バットマンの持っていた瞬間接着剤で治療された左腕を眺めていた雪輝は、
傍らに立つ巨大な怪人に視線を向けた。

(何なんだよコイツ…)

――困惑
天野雪輝がバットマンに抱いた印象はそれだ。
敵か味方か、9thの襲撃より自身を救い、いまこうして怪我も治療してくれたわけだから、
少なくとも当面の敵であるまい。貴重な武器である拳銃を使い物にならくしてくれたりはしたが…

(何なんだコイツは)

しかしそれにしても容姿が異様だ。
二メートル近い長身を、足まですっぽりと覆ってしまう真黒のマントで隠し、
同色のマスクで顔を包み、外に出ているのは顔の下半分と、炯々輝く両目以外は、一切肌を露出させていない。
雪輝が着れば、コスプレか、ハロウィンの仮装にしか見えない様な奇怪な衣装だが、
この男が着れば、まるでこの姿で生まれて来たかと思う程に様になっている。
まるで銀幕か、絵本の中から飛び出してきた蝙蝠男だ。

(由乃も大概だと思ってたけど…こいつはある意味それ以上だ…)

雪輝が言っているのは、バットマンの身体能力の事だ。
今、彼らがいるのは、クライムアレイにある五階建ての雑居ビルの一つの屋上だ。
バットマンは雪輝を小脇に抱えるや否や、何処からともなく取り出したワイヤーガン、
“グラップリングフック”をビル壁から突き出したポールに引っ掛けるや、
それで飛ぶように宙へと飛びあがる、その後は、跳躍と軽業だけでビル壁の出っ張りなどを掴んで、
瞬く間にビルの屋上へと昇り切ってしまったのである。
彼の『恋人』である由乃の身体能力も相当に超人的であるが、目の前の怪人物の超人っぷりも大概の物である。

「あ、あなたは…」
「バットマン…」

未だ名も知らぬこの怪人の、一先ず名前を聞くべく、話しかけようとして、
相手から先に名乗ってきた。男は再び名乗り、雪輝の胸にその名を刻み付ける。

「――I'm Batman」
――我が名はバットマン

バットマン。
すなわち蝙蝠男。成程、名は体を表すとは良く言ったものだ。

「僕は…天野雪輝といいます…」

一先ず雪輝もまた名乗り返した。

邂逅はここに完了する。
永きに渡って義務に生きて来た大きな子供と、
生まれて初めて義務と向き合う小さな子供との出会いが。
17BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:19:49 ID:b+MNIM9/


「バットマン…さんもこの『実験』の参加者なんですよね?」
「…不本意ながらそうだ」

“バットマン”と言う如何にも偽名、というか称号的なその名前に、
一瞬“さん”を付けるべきか戸惑うが、雪輝は一先ず付けて置く事とする。
今、自分に戦う手段も無く、頼れる我妻由乃も傍らにいない。
ましてや、相手は明らかに超人的能力を誇る怪人物。下手に出ておいた方がいいだろう。

「だ、だったら…協力し合いませんか?……生き残るために」
「……生き残る為?」
「はい!そうです」

雪輝は知っている。自分は口が上手い方じゃない。
そもそも対人交渉に慣れていない。だとすれば小細工するより、直接的な物言いの方がいいだろう。
幸い、相手にはこちらの話を聞く意思はあるようだ。

マスクの下の目を細めるバットマンを余所に、雪輝は話を続ける。

「僕は…この実験に参加するつもりはまったくないんです。
バットマンさんも、今の所この実験に参加する意思は全くないんでしょう?」

嘘である。
雪輝は、今では自身がどの陣営に所属しているが解らないが、
もし判明して、もしそれが「Setグループ」であった場合は、
由乃と合流して残りの参加者を…殺して…回るつもりでいる。

未だ迷いが無い訳では無いが、もう決めた事だ。
必要ならば為さねばなるまい。失われた日常を取り戻す為に。

ただ、雪輝は由乃や雨流みねねと違って殺人に忌避感が無いわけではない。
彼女達と違い、ついこの間までは極々普通の内向的な中学生に過ぎなかった雪輝だ。
殺人を犯したくないと言う思いは、ある意味当然だと言えるだろう。
18BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:21:51 ID:b+MNIM9/
だから彼は自分が「Isiグループ」である事にぎりぎりまで賭けたかった。
そうすれば、誰も殺さなくて済む…
未だ残った「逃げ」の思考を、優柔不断の臆病と評すか、
それとも未だ捨てきれぬ「人間性」の呼び声と見るべきか、それは余人に譲る。

一先ず、重要なのは情報収集と由乃との合流だ。
しかしそれを為すにしても、雪輝には戦闘能力が致命的に欠けている。
雨流みねねの様な危険人物と遭遇した場合、雪輝一人ならまず間違いなく『DEAD END』だ。
無差別日記も性能が下がっている為、全面的に頼みを置くわけにもいかない。
だから、何とかうまくバットマンを味方につける必要がある。
バットマンの戦闘能力の高さは既に見た。当座の安全を買うには充分な力量だろう。

問題はどうやって彼の協力を取り付けるか、である。

「実は…」

雪輝の交渉が始まる。



クライムアレイの一角で、二人の子供が対峙する。
その行く末は知れずとも、確かな事も一つあり。
二人が懸けるは我が命。その所以いずこになり。
二人を呼ぶは同じ声。
狂おしいまでの義務の呼び声。

【H-9/クライムアレイ五階建て雑居ビル屋上:深夜】

【バットマン@バットマン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:バットスーツ
 [道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
 1: 雪輝の話を聞く。
 2:ジョーカー動向に注意。

【天野雪輝@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:左腕に裂傷(治療済み)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0〜1
 [思考・状況]
 基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
 1:バットマンを当座の護衛とすべく交渉する
 2:由乃と合流したい
19BOY meets BAT , or Call of Duty ◇yCCMqGf/Qs 代理:2010/09/04(土) 22:37:37 ID:b+MNIM9/
代理投下終了です
20創る名無しに見る名無し:2010/09/05(日) 09:49:56 ID:GECyfv/o
つまんね
21創る名無しに見る名無し:2010/09/09(木) 22:47:26 ID:CpgAGJBw
ニナ・フォルトナー、五代雄介、吉良吉影

代理投下します
22記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 22:49:05 ID:CpgAGJBw
地図中央にあるコロッセオ。
そこを目指しながら2人の男が歩いていた。

「あっ町が見えてきましたよ。もうすぐです。がんばりましょう。」

普段から歩きなれているのだろうか、夜道だというのにやたら軽快に歩く青年は言った。

「五代くんは冒険家だったね。さすがにサバイバルに慣れている動きだね。」
「はい。最近はちょっと色々あって冒険には行ってないんですけど…」

何か事情があるのだろうか。色々の部分に質問しようとしたが
そういうところを深く追求しないのが平穏に生きるコツであるのを体で覚えている吉良はそこに触れなかった。


「そういえば、2000の技ってのが名刺に書いてあったね。若いのにすごいね。
しかし、なんで2000の技を覚えようとしたんだ?
文字通り自慢じゃないが、私は人に見せられるようなものは何一つ持ち合わせていなくてね。
ハハッ、学生時代は学業も運動も常に上位一歩手前だったし。君が羨ましいよ」
ん?学生時代?何故か少しだけ思い出せたぞ。まぁ気にする事もあるまい。

吉良はまだ理解していないが、先程確認した支給品のキラークインという言葉を読んだときに少し記憶が蘇ったようだ。

「俺の父は戦場カメラマンをしてたんですけど、小学校の時に父親を亡くしているんです。」
「おっと、それはすまないことを聞いたね。」
ズキン。なんだ、父親が亡くなった…?そういえば私の父親は……

「いえ、もう平気ですから。でも、当時は結構落ち込んじゃって、その時の担任の神埼先生に教わったんです。」

◇◇◇

「五代雄介。こういうのを知っているか?」
そういって右腕を突き出し親指は立てる。
――サムズアップ 
「古代ローマで、満足できる、納得できる行動をしたものにだけ与えられる仕草だ。お前もこれにふさわしい男になれ。
お父さんが亡くなって確かに悲しいだろう。でも、そんなときこそお母さんや妹の笑顔のために頑張れる男になれ。
いつでも誰かの笑顔のために頑張れるってすごくステキなことだと思わないか?
先生は……先生はそう思う。」

◇◇◇
23記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 22:53:21 ID:CpgAGJBw
「そのときに先生と約束したんです。みんなが笑顔になれるような技を2000年までに2000個習得するって。」

何気なくでた2000年という言葉。
ここでは様々な年代から人々が集められているが、吉良がいた時代は1999年。たまたま違和感を覚えなかった。

内心どうでも良いと考えていたが、表情には出さずに五代の話を聞いていた。
「吉良さんもやってみたらどうですか?自然と笑顔も出てきますよ!」
内面はどうあれ、表面上は社交的なサラリーマンの吉良。五代に言われ仕方なしにとサムズアップの動作をしてみる。
その時かすかに吉良の手に触れた五代の手が大きくて、とても暖かく興奮を覚えたのはまた別の話で

「こうかい?」

愛想笑いを浮かべながらポーズをとる。
その瞬間、吉良の脳内に何かが蘇る。

◇◇◇

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

早朝なのだろうか、通りにいる人は通勤途中の人が多く見える 
そんな街中で、対峙する血まみれの私と同じく血まみれの少年そしてその仲間と思しき数人の男

「"スイッチ"を押させるな―――ッ!」
こちらに向かいながら叫んでいるリーゼントの少年

「いいや!限界だ、押すね!」

そういって指で何かボタンを押す仕草をしている私。
傍らになにか猫の顔のような人型の『何か』が私と同じ姿勢で存在している。
妙に親近感を覚える『こいつ』は一体なんなんだ!?

――その時の吉良の手だけみれば、そう、サムズアップのようだった…

◇◇◇


「大丈夫ですか、吉良さん!!」

どうやら少し気絶していたようだった。
先程のは夢か?いや、夢にしては現実感がありすぎる。まさか、あれが死ぬ直前の私か?どうにもハッキリしない。
嫌な汗をかいてしまった。時間にして10分も立っていないだろう。
まったく私はいつも8時間睡眠を基本としているのに、こんな時間まで起きているとは・・・
ッ!?まただ、少しずつだが思い出してきている。核心的な部分はまだ思い出せないが確実に記憶が戻ってきているッ。

「すまない、もう大丈夫だ。ここにつれてこられる前に余り寝ていない日々が続いていたので緊張で疲労が溜まっていただけなんだ」
呼吸をするように自然に嘘をついて吉良は立ち上がる。
「そうですか。無理はしないでくださいよ。」
「あぁ、わかっているよ。だが、私のせいで時間を取らせるわけにはいかない。もう町は目の前だし、早くコロッセオに行かないとな」

――くそっ一体なんだというんだッ。
平穏とは程遠い心境の吉良。

「あれ?誰か倒れてる。吉良さん、行きましょう」
24記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 22:55:10 ID:CpgAGJBw



――時は少し遡る


走る。
走る。走る
ただひたすらに走る。

――私は人を撃ち殺した。

ここはコロッセオの横を走りぬけ、また路地裏へと入る。地図記号でいうとF-4のあたりである。
暗闇の中にうっすらと町並みが見える。あたしはあれから無我夢中でここまできた。
Dr.テンマを探す為ため? バットマンを探すため? 兄であるヨハンを探すため?
それとも、また見ず知らずの人を殺すため?
走りながら首を振る。
今は何も考えたくない。とにかく一旦落ち着こう。


路地裏でかばんを降ろし一息つく。一応周りを警戒してみたがどうやら人の気配はないようだ。
ずっと走ってきたから服が汗で張り付いて気持ち悪い。
とりあえず水分を補給しようとバックからペットボトルを取り出し水を飲む。
ゴクリ。汗をかいて渇ききった体に水分がいきわたる。ペットボトルをかばんに戻し名簿を手に取る。


――バットマン…あいつを探して、ここに連れてきてくれ……。憐れな道化が、此処で死んだと、伝えてくれ……
バットマン。こうもり男。ニックネームだろうか。彼の友人なのだろうか。
死ぬ間際に伝えたいといった人間だ。きっと親しい関係なんだろう。
その名はたしかに名簿に載っている。
出会ったら伝えないと。そういえば私はあの道化の格好をした彼の名前をしらないことに気づいた。
会って伝える。一体何を?彼がコロッセオ付近で死んだと?そう伝えたらバットマンはきっと私にこう尋ねるだろう。
どうして彼は死んだのか、と。
――こんな…ところを見られたら…お嬢ちゃんが危ない
死ぬ間際にも自分を撃った人間の心配をしてくれる優しい道化の彼。そんな彼を……
 


私 が 撃 ち 殺 し た



走りながらもずっと握っていたモノを見つめる。心臓の音がすごく響く。
ずっと走ってきたから?いいや、違う。それだけでないことはあたしが一番良く知っている。何も考えまいと必死で走ってきた。
その反動だろうか、考えることが止まらない。
ヨハンがここにいる。この場所で、バラの屋敷の惨劇を、511キンダーハイムでの殺戮を再現しようとするはず。
止めなきゃ…でもあたしの手は既に……

――そこであたしの意識は途絶えた
25記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 22:56:24 ID:CpgAGJBw
◇◇◇

――おかえり 
違う。

――連れて行かれる兄、ヨハン
違う違う。

――赤いバラの屋敷。42名の死体。そこに立っていた兄、ヨハン
違う違う違う。

――あそこでヨハンは“なまえのないかいぶつ”になった
違う違う違う違う。

あたしじゃない……
3匹のカエルの家で待っていたのは……
あそこにいたのはあたしじゃない……

連 れ 去 ら れ た の が あ た し だ

あの優しかったリーベルト夫妻、フォルトナー夫妻を殺した兄。
今まで私たちに優しくしてくれた人を殺してきた兄。
DR.テンマに……どんな生命も平等に扱おうとしてきたあの医者に、人殺しをさせまいと、私は兄を殺す。

そう、兄を殺すのには理由があるんだ。あたしは兄のように無感情に人殺しをする“かいぶつ”なんかじゃない。

――倒れている緑の髪の男
道化のような格好をした男に対していきなり発砲した。そして、彼は倒れた。
彼を殺す理由なんてあったの?見ず知らずの人間を殺していい理由なんてあるはずが無い。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


――いいかい、よくお聞き。人間はね、何にだってなれるんだよ。
兄を、違う、あたしを連れ去った男がこちらに手を伸ばしながら言っている。
何にでもなれる?あたしの話を聞いたヨハンが“かいぶつ”になったなら、実際にその場にいたあたしも?


◇◇◇
26記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 22:59:31 ID:CpgAGJBw
すぐに倒れている少女に駆け寄る。かすかに呼吸音がする。どうやらまだ生きているようだ。

「とにかく気絶した女の子をこのままにはできません。近くの民家に入りましょう。吉良さんは彼女の荷物をお願いします。」
そういうと五代はニナを担いだ。
「わかった。念のために彼女が手に持っている拳銃も預かっていた方がいいだろう。」
そういってニナの手から拳銃をはずして彼女のかばんにしまった。

前を歩く五代に付いていきながら、吉良は先程ニナの手に触れた部分を舐める。

白く透き通った肌。すらっとした長い指。女性独特の丸みを帯びた甲。少し汗ばんでいて暖かい手のひら。
吉良は自分が強く興奮していることがわかった。折原の手を触ったときよりも格段に強く。

――欲しい

ニナを担ぐ五代の後ろで吉良に何かが重なって、また消えた。



【F-4/路地裏 黎明】

【ニナ・フォルトナー@MONSTER】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:気絶
 [装備]:無し
 [道具]:無し
 [思考・状況]
 基本行動方針:
 1:気絶中

[備考]
ジョーカーの名前を知りません

【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:アマダム
[道具]:基本支給品、サバイバルナイフ、鉄パイプ、コルト・パイソン (6/6)
[思考・状況]
基本行動方針:誰一人死なせずに、この実験を止める
1:少女を安全な場所まで連れて行く
2:コロッセオに向かい、Horと見た人を仲間に加え、Isiと見た人を保護する。
3:臨也、吉良を守る。
4:臨也を警戒。

[備考]
登場時期は原作35話終了後(ゴ・ジャラジ・ダを倒した後)。
クウガの力の制限については、後の書き手にお任せします。
ペガサスブラストでコルト・パイソンの弾が減るかどうかは後の書き手にお任せします。
27記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 23:01:36 ID:CpgAGJBw
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康、記憶喪失、なんかムラムラする
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、Queenの楽曲三つが入ってるCDとそれが入ってるウォークマン
    爆弾の作り方が書いてある本 ニナの支給品(中にハンドガンも入っています 不明支給品0〜2含む)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、平穏の中で幸福を得る
1:手ッ!少女の手にッ!興奮してしまうッ!
2:コロッセオに向かい、Horと見た参加者を擬似Hor集団に加え、Isiと見た参加者を保護する。
3:自分の"本質"を知り、"抑えられない欲求"を解消したい。
4:『東方仗助』と『空条承太郎』はなんだか危険な気がするので関わりたくない
5:支給品は何か理由があるのか?

[備考]
登場時期は原作で死亡した直後。
記憶の大半を失い、スタンド『キラークイーン』を自分の意思で出せなくなり、その存在も不認知です。
なんらかのきっかけで再び自在に出せるようになるかどうかは、後の書き手にお任せします。
28記憶の欠片 ◇EHL1KrXeAU 代理投下:2010/09/09(木) 23:03:22 ID:CpgAGJBw
代理投下終了であります
29 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:18:39 ID:lFrRGzCq
ジョーカー、ン・ダグバ・ゼバを投下します。
30王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:19:54 ID:lFrRGzCq

 土を踏み進み、白い道化師は月光を浴びた。
 円環状に広がるコロッセオの中央に立ち、真っ赤に染まった唇の端を持ち上げる。
 白い石を切り崩し、作られた客席はからっぽだ。名簿にいる人物を全員集めても、客席は埋められないだろう。
 古代ローマの人々は奴隷同士、あるいは奴隷と獣を戦わせて、血に酔い、最大の娯楽として楽しんだ。
 殺し合え、と言われた会場にこのような施設があることは、主催者による皮肉だろうか。
 ならば乗ってやろう、とジョーカーは思う。そのためにゴッサムタワーではなく、このコロッセオに来たのだから。
 下見くらいはしておくべきだろう。おかげで、彼と出会えた。
「やぁやぁ、よく来てくれた。あいにく、まだ準備中でね。
おかげで招待状なくても入れるが……おめぇさんは出演希望かい? それとも見物希望?
おっと、通りすがりなんて寒いジョークはよしてくれよ」
 軽快な口調でジョーカーは入り口より現れた影に話しかける。
 顔面いっぱいに道化の笑顔を浮かべたまま、歓迎するように両手を左右に広げた。
 対して相手は微笑を返し、無造作に歩みを続ける。
 幼い顔立ちだが、見た目通りの年齢ではないとジョーカーはあたりをつけた。
「ねぇ、ここで何をしているの?」
 世界が歪んだような錯覚をジョーカーはおこした。
 腹の底がキュッとなり、全身を締め付けられたような不快感が自らを襲う。
 クウガすら膝を付かせた殺気だ。なのに、ジョーカーは笑みを深めた。
「HA HA HA! いいね、いいねぇ! おめぇさん、一流の出演者になれるぜ!」
 相手はゆら、と幽鬼のごとく前に出たかと思えば、光りに包まれて姿を変える。
 白い全身を覆うコスチュームを一瞬でまとい、ジョーカーの眼前に迫った。
 ジョーカーは危険を察知し、身を捻る。唸りを上げる剛拳が脇を掠め、体が浮き上がる。
 防刃防弾仕様のコスチュームを前にしても、衝撃は殺せず吹き飛ばされた。
 口元から血が一筋流れ落ちる。掠めただけでこの威力だ。
 ジョーカーは確信を抱いた。目の前の存在はスーパーパワーを持っている、と。
 相手はスッと右手を前にかざす。スーパーパワーを持つものは距離が空いていても何らかの攻撃手段を持つ。
 ジョーカーはとっさにワイヤーガンの引き金を引き、観客席にひっかけてワイヤーを巻く。
 体が引き上げられる中、ジョーカーは自分がいた地点が燃えたのを目撃した。
「派手でいい〜見せもんだ」
「へぇ、少しは楽しませてくれるかな?」
 互いに会話と言えないような言葉を交わし、ジョーカーは距離を開いていった。
 ワイヤーガンの射程は長く、高層ビルの屋上にも届きかねないほどだ。
 スーパーパワーを持つ相手でも、簡単に追いつけない距離を稼げるはずだ。
 だが、目の前の存在は身をかがめると、地面を跳んだ。
 ジョーカーが石畳を踏むと同時に、追いかけてきた相手も着地する。
 スーパーパワーで空を飛んだのではない。跳んだのだ。信じられない瞬発力である。
 互いの距離は数メートルもない。深い闇色の瞳がジョーカーを射た。
「HA HA HA HA! 動くと怪我するぜ!」
 ジョーカーはそう言いながらも、銃に似たコントローラーのボタンを押す。
 ロックオンはすでに終えていた。電撃が相手を襲い、行動不能に陥らせる。そのはずだった。
「……何をしたの?」
 相手は平然とそう問う。たかが一度の電流でどうにかなると思うほど、ジョーカーも愚鈍ではない。
 電流を上げるため何度もボタンを押した。すると、相手は合点いったのか、フフ、と笑みを漏らす。
「電圧を最大まで上げなよ。待ってあげるからさ」
 悠然と、白いコスチュームの怪人は両手を広げた。
 ジョーカーは淡々とボタンを連打する。やがて、外観からも電圧が上がったことを確認できた。
 青白いスパークが首輪からほとばしったのだ。その光景は怪人の体を焼くために、高圧電流が流れているのを理解させる。
「この程度?」
 僅かな痛みすら見せず、怪人は話しかける。
31王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:20:46 ID:lFrRGzCq
 ジョーカーは圧倒的な存在に……
「なあ、キング。こいつで首輪を爆破できるって言ったら、どうする?」
 戦慄せず、ジョークを告げるように問いかけた。
 キング、と思わず呼んだ理由は特にない。しいて言うなら、金の四本角が冠のように見えたから、くらいだ。
 キングと呼ばれた相手は、気にした様子もなく答える。
「いいよ、やってみなよ。少しは楽しめるかな?」
 少年のような声だ、とジョーカーはいまさら気づく。
 瞳は闇を宿すが、山奥の泉のごとく澄んでいる。ただ、ある種の感情を宿していた。
 滑ったコメディアンを見るのと同じ、感情を。
 その感情はジョーカーに向けられていない。この世のすべてに向けているものだ。
「HA! わりいな、爆破できるってのはちょっとしたジョ〜クさ」
「そう、ならいいや」
 何がいいのか、キングは告げなかった。壊れたおもちゃを見る子供のように、冷たい瞳を向けた。そのまま無造作に拳を振るう。
 とっさに飛び退いたジョーカーの眼前が、観客席ごと爆ぜた。
 観客席を構成する石畳みに亀裂が広がり、足場が隆起する。亀裂は周囲百メートルほど広がっていた。
 衝撃に翻弄されるしかなかったジョーカーは、襲いかかる瓦礫の礫に体を打たれる。
 ロビンのコスチュームがなければ、致命傷を負っただろう。
 グッ、と四つん這いのまま痛みをこらえていたジョーカーに、影が覆いかぶさった。
 顔だけ向けると、キングはこちらを見下ろしている。
 声をかけることもない。ただ静かに右手を向けてきた。
 このまま燃やされる運命しか待っていないだろう。
 なのに、ジョーカーは不敵に笑った。
「グ……クッ、キング、退屈そうだな」
「そうだよ。退屈だ」
 ニィ、と真っ赤な唇が三日月を描く。ジョーカーは理解をしていた。
 人間を狂わせることは簡単だ。不幸な一日をくれてやればいい。
 恋人をギャングに殺される。
 弟を強盗にバラされる。
 両親を不慮の事故で亡くす。
 人はそんなありふれた不幸で、簡単に狂える。ジョーカーと世間の違いは、たった一日不幸の日があったかどうかだ。
 だからこそ、自らのオリジンすらトッピング扱いするほど、道化と化せる。
 対して超人を狂わせるのは簡単ではない。
 悠久の時を生きて、超常的な力を持つからこそ、人が狂うような一日程度では狂えない。
 だが、目の前の存在は狂っている。
 命を軽んじることは簡単だが、自らの命を軽んじるのは難しい。
 キングは自らの命を持って、楽しめるかどうか見極めようとした。まさしく狂気の沙汰だ。
 ジョーカーは彼が持つ狂気を理解できる。自身とて、バットマンをからかうためなら命を賭けれる。
 目の前の存在が持つ狂気は、自分と同じ種類のものだと理解できた。
 だからこそヘドが出る。
 そのスーパーパワーをもってすれば、どれだけのジョークを彩れるか。
 どれだけの悲劇を生めるか。
 キングは知らないのだ。やり方も、楽しみ方も、笑い方も、何もかも。
 自らと似た狂気を持ちながら、燻らせている。
 キングの無様な姿が、どうしてかもどかしい。
「オレぁおめぇさんにイカレちまったぜぇ……」
 だったら、自分が教えてやる。
 狂気の爆発のさせ方。コメディアンとして、笑えるジョーク。その何もかも。

「オレがお前を、もっと笑顔にしてやる」
32王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:21:29 ID:lFrRGzCq
 何のことはない。これこそジョーカーであり、コメディアンであり、ブラックジョークなのだ。


 ピク、とダグバの右手が反応を示す。
 聞き間違えではない。今、目の前の男は、ダグバがもっとも望むものを告げた。
 なぜ自分の望みを知っているだろうか。心を読まれたか?
 ありえない。読心術があるのなら、自分の攻撃を避けれるはずだ。その程度の速度でしか動かなかった。
 ならば、なぜ当てれたのだろうか。
 いや、本来は疑問に持つまでもなかった。ダグバは一つ確信を持っている。
 その確信を確かめるために右手をおろすと、乾いた風が体表を撫でた。
「どういうこと?」
 いつでも殺せる。ダグバはそう思っていたし、真実そうである。
 目の前の男は吹けば飛ぶよな男だ。圧倒的な自分を前に、ただ潰えるしかない弱者。
 だが、もしかしたら。
「HA HA HA……簡単なことさ。キングは地獄も絶望も悲鳴も何も知らなすぎる。
甘ーいサクランボを食ったことのないボーイってものさ。正しくチェリーボーイだ」
 何をするのか、ダグバは値踏みするように視線を向けた。
 対して、相手はおどけながら立ち上がり、軽快なステップを踏んだ。
 滑稽な仕草に、ダグバはクスリともしない。

「いいか、キィイング! もう一度言うぜ。おめぇは何もかも知らなすぎる!
楽しみ方ってもんがない。いってみれば生まれたてのベイビーだ!
もっと地獄を演出しろ! 絶望に染め上げろ! 悲鳴を聞け!
やり方が知らない? ならこのオレ様が教えてやるぜ!」

 クルッとターンを決めて、相手は白い指をダグバの胸元につきつけた。
 覗き込むように見上げられた顔が、不気味に笑む。

「そう! 地獄の作り方を、絶望を与える方法も、悲鳴を挙げさせる楽しみも、このオレが教えてやる!
この丸いコロッセオはい〜ぃスタジオだ。
世界はブラックジョーク。この狭い箱庭でオレがパロディしてやるよ。それで理解しろ。そして……」

 彼はダグバを引き寄せた。愛しい人へと囁くように続ける。

「バカになるのさ、キィイング。
焚き火に飛び込む虫みたいに! ヤク中みたいに、テレビで怒鳴る宗教屋みたいに!
おめぇはすでに狂っている! 後は世界の大きさにぶち潰される哀れな魂を知ればいい! 感じればいい! 理解すればいい!
そうしてやぁあっとおめぇはバカになれる! 楽しい楽しい幻想の世界が待っている!
笑いたいならオレの演出に乗れ! ヒーローを、正義や道徳や希望を後生大事に抱えている連中を、叩き潰せ!
世界を地獄に変えろ! 希望を絶望に変えてみせろ! 悲鳴は喜劇のBGMだ!
オレなら演出のしかたを教えてやれる」

 道化の笑みを伏せ、彼はダグバから離れた。
33王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:22:32 ID:lFrRGzCq
 逃げるつもりはないと思う。事実、相手は数歩だけ歩いて、振り返った。
「どうする? キング」
 すでにダグバは変身を解いていた。
 理解したのだと思う。自分だけではクウガの、武藤カズキの究極の闇を見ることは難しいと。
 自分は絶望も哀しみも知らない。
 退屈と快楽の二つしかなかった。
 だから他者の闇の引き出し方など理解できっこない。
 何より、彼のショーは面白そうだった。
「クウガと武藤カズキ……」
 ダグバは道化師に歩み寄る。古来より王は道化師と共にある。
 王を揶揄した道化師を見て、王は自ら行うべき道を見つける場合もある。
 まるでその王と道化師のあり方のように、ダグバは自ら進む道を知った。
「彼らにも出演してもらわないとね」
「なら、バットマンはオレのもんだぜ?」
 自分が肩をすくめてから頷くのを確認し、道化師は大きく肩を揺らして笑う。
 ダグバはただ、冷たい笑みをいずれまみえるクウガと武藤カズキに向けていた。



「これはあげるよ」
 キングはそう言って、ジョーカーに二つのデイバックを渡した。
 何か演出に使えそうなものがないか探ると、ヒーローのコスチュームを一つ発見する。
 赤く、フルフェイスマスクを持った豪華なコスチュームだ。
 説明書には『ファイヤーバードフォーム』とあり、細かい説明もあったがバックに押し込んだ。
 今は出番がない。
 ふと、ジョーカーは空を見上げる。藍色の星空は薄くなっていた。
 一回目の放送はあと一時間程度だろう。
「じゃあ、準備が終わったら呼んでね」
 キングはそう言って観客席の一つに横になり、寝息をたてる。ジョーカーでは殺せないとたかをくくっているのだ。
 事実だからしかたないのだが。
 どちらにしろ、このチームは即席のものだ。
 ジョーカーはキングのスーパーパワーを演出に使えるとして。
 キングはジョーカーの演出で退屈を紛らせれると見て。
 互いに利益があったため、手を組んだのだ。少なくとも、表面的にはそうだ。
 ジョーカーはこの王の狂気をもったいないとして、爆発する道を、笑える演出を教えてやろうと考えた。
 だが、その自分の気持ちは気まぐれだ。同じように、王は気まぐれでジョーカーを殺すときもあるだろう。
 何しろ、互いに名前すら名乗っていない。
 それに自分だって、気まぐれに殺す。本質的に自分たちは同類なのだ。
 だが、ジョーカーは構わなかった。
「HA HA HA! 命がけくらいでなくちゃ、お前を笑わせることもできねぇ〜よなぁ! バァァァッツ!」
 ジョーカーはキングに殺されてもいいと思っている。
 なぜなら、彼のスーパーパワーさえあればバットマンに自分が正しいと証明できる可能性が上がるのだ。
 どうしようもない巨大な力を叩きつけられ、自分がちっぽけな存在だと自覚させられた哀れな群れを作り上げれる。
 悪のスーパーパワーに追い詰められた人々を見せ、笑うのだ。
 「なあ、この世はブラックジョークだろう?」と。
 ジョーカーは笑いたいのだ。バットマンがなすことは価値がないと。
 この世の中はすべてが無意味。ただの肥だめであるのだと。
 そのためなら自らの命を捨てることくらい、なんてことない。
 彼の信念を折るためなら、バットマンに殺されても構いはしない。
 途中で果てるなら、それが自分の器だというものだ。
34王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:23:16 ID:lFrRGzCq
「だから、きっとお前は笑ってくれるよな。バッツ」
 静かに、恋する乙女のように、ジョーカーは寂しげな表情のままつぶやいた。


 ダグバは準備を整えるのを道化師に任せて、横になった。ただ、疲れてはいない。
 究極の闇を引き出すためには、クウガを追い詰めるのが手っ取り早いと知っている。
 知ってはいても、どうすれば追い詰めれるかまでは理解が及んでいなかった。
 リントを殺せばクウガが邪魔しに来る、程度の認識で万単位の人間を殺した。ただそれだけだ。
 今はその手はあまり使えない。もしも追い詰めるのに数が必要だというなら、人が少なすぎる。
 たかが六〇人程度でクウガの闇を引き出せるのか、自信はない。
 だが、ダグバは道化師と出会い、二つ思い出した。
 一つはリントは戦え、グロンギに近くなっていること。
 もし闇を普通のリントに与えれば、クウガのように力を得てダグバの前に現れるかもしれない。
 事実、武藤カズキはリントでありながら、グロンギと同じく霊石を宿していた。
 クウガほど笑えるかは謎だが、相応に快楽を味わえる可能性はある。
 ならば、道化師と付き合ってその手の人間に出会うのもいいだろう。
 もう一つはグロンギが行っていたゲゲルだ。
 クウガはズの階級から続くゲゲルを乗り越え、強くなっていった。
 自分の部族であるグロンギが繰り出す、多種多様なゲゲルはクウガを追い詰めていった。
 特にジャラジはいい線をいったと聞く。
 ならば、あの道化師がしかけるゲゲルでクウガを追い詰めるのもいい。
 ダグバはそう結論をつけた。
 同時に、道化師を不思議な存在だと思う。
 最初は白い肌にケバケバしいスーツと、グロンギなのか疑った。
 戦っているうちに、やはりリントだと確信して落胆した。
 だが、あの男は自分を前にしても言い切ったのだ。
 笑顔にしてやる、と。
 その瞬間、ダグバはこの男が自分と似ていることに気がついた。
 彼と手を組むのも悪くない、と考えたのはその時だ。
 正直、ダグバは道化師の言葉を一割も理解していない。
 彼の持つ持論など、興味はない。
 ただ、リントでありながら自分と同種の狂気を持つに至った。
 そんな特異性がひどく興味を引いたのだ。
 彼は快楽を得るためなら、他人どころか自分を犠牲にしても構わない、と思っている。自分と一緒だ。
 だけど、笑い方を知っていた。道化師は似ているだけだ。究極的なところで自分とは違う。
 ダグバには理解出来ない。なぜそう笑えるのか。楽しめるのか。
 ずるい、と思った。自分と似た狂気を持つのに、楽しめている。
 だから、より強くともにいようと考えた。
 彼がなぜ笑えるか知れば、似た狂気を持つ自分も笑えるのでないか。
 そんな期待を持って。


 彼らは『同類』ではあったが、『同族』ではなかった。
 ダグバは超人ゆえに笑顔を失い、快楽を得るために笑顔を求めた。
 ジョーカーはバットマンに無価値を伝えるために、笑いという手段をとった。
 そしてダグバは圧倒的なスーパーパワーを。
 ジョーカーは人を追い詰め、狂わせる手段を。
 互いにない物を、二人はそれぞれ持っている。
 ゆえに二人の狂気は結びつき、互いを利用する道を選んだ。
 だが、その狂気によるつながりは、絆より脆いものだろうか。
35王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:24:00 ID:lFrRGzCq
 日米の最狂ヴィランが手を組んだ。そうなったのは、はたして偶然だったのか。
 彼ら自身にもわからないだろう。



「なあ、キング」
 なに、とダグバは返す。
「一つジョークを思い出したよ」
 ふぅん、と興味なさげに返した。実際興味はない。
 それでも道化師は気にしない。
「ある男が溺れた子供を助けたのさ。感謝をする子供の両親を前に、奴は名乗らず消え去った。
男は感謝をされたよ。新聞にも英雄扱いされた。
だが、一人だけ怒る存在がいた。子供の祖母が『偽名を載せるなんてけしからん』と新聞社に抗議したのさ。
そして、新聞社は誠実に応えた。結果はどうなったと思う?
逮捕されたのさ、その英雄は」
 HEHEHEと何がおかしいのか彼は笑った。
「男は犯罪者だった。子どもがもうすぐ生まれるから、それまではと警察に行けなかった。
だが、赤の他人を助けたばっかりにブタ箱にぶち込まれてしまい、出産には立ち会えなかった。
誰かを助けるためだ。笑えるだろう」
 HAHAHAとあまり愉快そうには思えない笑い声が聞こえてきた。
 笑うべきところかどうか、ダグバには判断できない。
 道化師のジョークが何かを揶揄しているのか。
 自分の過去を語っているのか。
 それとも本当にただジョークが言いたかっただけなのか。
 ダグバは意味を問うように白く不気味な道化師の顔を見た。
「何。どこかのお嬢ちゃんに聞かせるべきかもしれない、ただのジョークさ。そう、今のところはな」
「なら、僕も笑うべきかい?」
 道化師は真っ赤な唇の端を吊り上げる。
「笑うべきさ。これから訪れる運命を、踊ろうとする演出者を、笑ってあげないのは失礼ってものだろ?
HA HA HA HA! さあ、キングも笑いな! HA! HA! HA! HA! HA! HA HA HA HA!」
 ダグバは最初は気にしなかったが、やがて少しだけ笑えてきた。
 いったい何万年ぶりだろうか。快楽以外の笑みを、僅かながらに蘇らせていた。
「少しだけ……少しだけ笑えるよ」

36王と道化師 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:24:49 ID:lFrRGzCq

【E-5/コロッセオ:早朝】

【ジョーカー@バットマン】
[属性]:悪(Set)
[状態]:軽い打撲、打ち身
[装備]:アンカーガン、ロビンのチュニック
[道具]:基本支給品一式×3、カーラーコントローラー(2/4ロックオン済み)
    不明支給品1?5(本人確認済み)、ファイヤーバードフォーム@天体戦士サンレッド
[思考・状況]
基本行動方針:このゲームをとびっきりのジョークにプロデュースする。
1:他に面白そうなヤツがいたらちょっかいをかけて、「バットマンをコロッセオにおびき出す伝言」をしてみる。
2:バッツ(バットマン)をからかって遊ぶ。
3:面白そうな、使えそうなヤツは、ロックオンしてみる。
4:キング(ダグバ、名前は知らない)としばらく組むのもいい。
5:後でゴッサムタワーにでも向かう。
[備考]
※黒神めだか、ダグバを「ロックオン」済み。


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康 ベルトに傷(極小)
 [装備]:なし
 [持物]:なし
 [方針/目的]
  基本方針:好きなように遊ぶ
  1:クウガとカズキの究極の闇に期待。
  2:道化師(ジョーカー、名前は知らない)のゲゲルにつき合う。
 [備考]
 ※参戦時期は九郎ヶ岳山中で五代を待っている最中(EPISODE48)


※ファイヤーバードフォーム@天体戦士サンレッド
 サンレッドが相手を強敵と認めたときのみ発動する究極フォーム。
 普段は普段は押入れの一番奥にしまわれている。
37 ◆SQSRwo.D0c :2010/09/10(金) 22:25:37 ID:lFrRGzCq
投下終了。
問題がありましたら、指摘をお願いします。
38創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 08:32:48 ID:JsZnVP0S
投下乙です!
なんという最狂コンビ……
最後の言葉が良いなぁ
39創る名無しに見る名無し:2010/09/11(土) 15:55:04 ID:fIgZGL3b
投下乙です
『最強×最狂=最悪』ですな。
これは武者ぶるいがするのぉ…

 バットマン、天野雪輝、悪魔将軍、アーチャー、武藤まひろ

代理投下します
40BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 15:56:28 ID:fIgZGL3b
 
 それはただの気まぐれであった。
 血の匂い、闘争の影に誘われ、市街地の海岸近くの道路の脇で、貧弱な人間の死体をみつけたときに、ふと思いついたのだ。
 トロフィー。即ち戦利品として、この首輪を集めてみよう、と。
 勿論、ここにある小さな者を屠ったのは自分ではない。
 だが先程、自分自身が屠った人間の首輪は、確認のため爆発させてしまっている。
 だから、これをその代用にしておくか、と、そう思ったのだ。
 勿論、爆発物を持ち歩くと言うことの危険性は十分分かっている。
 分かっているが、それも一興。
 圧倒的強者である自分にとって、その程度はちょっとしたハンデキャップというものだ。
 さくりと、その死んで間もない者の首を切り裂き、首輪を外す。
 鈍い銀色のそれは艶やかで、光沢がある。
 その前面、首の丁度のど仏にあたるであろう場所に、指先大ほどの小さなくぼみがあり、
 そう言えば、「3人殺した後に首輪の前面に指を当てて確認しろ」というような事がルールにあったのを思い出す。
 このたわけた実験とやらの主催者に、頭を垂れて願い事をするなどという気はさらさら無いから、さして気にもとめない。
 ただしその裏側、つまり、首輪の内側に、やはり同じくらいの大きさ形で、灰色に鈍く耀いているのを見たときは、これは何の印だろうかとは考えた。
 考えたが、やはりそのこと自体にさして関心を持たずに、すぐに忘れた。
 そう、全ては些事だ。
 
 この悪魔将軍が。
 この場にいる数多の者達を屠り、血に染め、阿鼻叫喚の地獄を生み出すことに較べれば、全てが些事に過ぎないのだ。
 
 そしてこの黒衣の男もまた些事。ただの生け贄に過ぎない。
 ビルの屋上に隠れていた、貧弱で、脆弱な人間よ。
 その小さな身体で、健気に抗うが良い。
 ただ蹂躙されるためだけに。
41BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:00:00 ID:fIgZGL3b

◆◆◆

 殴る。
 右フック。
 左ジャブ。
 身体を押し込むように、体重を乗せたストレート。
 全てをその身体にたたき込むも、白銀の騎士はそれらを嘲笑うかの様に全てを受け止め、それでもビクともしない。
 組み、打ち、投げる。
 あらゆる手を試し、それでもこの巨躯を跪かせることすら適わない。
 巨大で、一見して異様なその風貌。
 仮面の奥にある双眼は、鈍く耀き、あらゆる人間性を拒絶したかの如き光を放つ。
 上体への攻撃に注意を引き寄せ、そのままローキックを放つ。
 しかし弾かれるのは己の脛。
 人の身体のような弾力を持ちつつ、それでいて微動だにせぬ山脈のようだ。
 
「ククク……。
 どうした、人間よ。もう奥の手はないのか? ただ殴り蹴るだけか?」
 
 その声は、地獄から響く哄笑。
 人の世の摂理とは決して相容れない、悪魔の声そのものである。
 そう、人ではない。
 機械か? 異星人か? 魔界から来た魔物か何かか?
 その正体は分からぬが、確実に、はっきりと分かるのはその一つ。
 これは、人間ではない。まるで違う、異質な存在だ。
 何気ない風な動きで、白銀の騎士はバットマンの拳を受ける。
 そのまま左手の手刀を水平に打ち込んだ。
 肺腑から、空気が吐き出される。
 重い。
 なんという重さか。
 スーツの防護があったとはいえ、胸骨が折れなかったのが不思議なくらいだ。

 その勢いに押され、数歩、ステップバック。
 後ろに下がり、距離を取る。
 間合いがはずれる。
42BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:01:50 ID:fIgZGL3b

 この距離では手は届かぬ。
 足も届かぬ。
 そう、文字通りに手も足も出せない。
 白銀の騎士は、それを見て更に哄う。
 
「くだらん相手だ。もう逃げの機会を伺うのか?
 だがしかし、それも仕方あるまい。
 たかが知れた人間。この悪魔将軍に立ち向かう気概を見せただけでも上等なものだ…」

 ぐ、っと、身体が僅かに沈む。
 姿勢が前傾になる。
 そのまま、ゆらり。
 
「褒美をやろう!!」
 
 薄汚れたビルの屋上を、白銀の闇が駆けだした。
 狙いは当然、目の前の対戦者、闇の騎士バットマン。
 轟音が響く。
 そのまま巨体は、屋上入り口の壁に激突。
 コンクリートに亀裂が走り、もうもうと立ち上がる塵芥。
 そのなかで鈍く光る巨躯。

 危ういタイミングだ。
 白銀の騎士…悪魔将軍の攻撃を誘い、素早くクラップリングフックを射出し、隣のビルへと移る。
 この相手には勝てない。
 バットマンはその事実を悟る。
 キラークロック、ベイン、ソロモングランディ。
 バットマンが戦ってきた敵は、ジョーカーやリドラー、スケアクロウの様な才知に長けた狡猾な犯罪者ばかりではない。
 また、レディシヴァ、ラーズ・アル・グールの様な、数多の殺人技に通じた恐るべき達人や、
 植物人間のポイズンアイビーや蝙蝠怪人マンバット、蛾人間のキャラックスのような、人間から変異した、特殊能力を持つ怪人ばかりでもない。
 純粋なパワー。ただそれ一つでも人類の範囲を軽く凌駕した者達とも、長年渡り合い、戦ってきている。
 そのバットマンにとっても、この悪魔将軍のもつパワーは圧倒的といえた。
 この相手を倒すためには、まだ手が足りない。
 一手、二手…いや、三手…それ以上か?
43BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:03:49 ID:fIgZGL3b

 この状況、この場所では、さらなる手数が必要となる。
 目だけで、背後にあるその影を確認する。
 この程度の目くらましに引っかかるほど愚かではない。
 フックを手元に引き寄せ、再び投げ、次のビルへと飛び移る。
 空中戦だ。
 白銀の巨躯は、腰を沈めて飛び上がる。
 それだけで、軽々とこのビルの間を飛んだ。
 高い。予想以上の跳躍力。
 影がバットマンの頭上を越える。
 不味い。このままでは先回りをされる。
 良いタイミングで、ビルの上の看板を蹴り飛ばし、軌道を変える。
 フックを引き戻し、別の方角へ。
 それに対し、壁を蹴ってそのままの勢いで追いかけてくる悪魔将軍。
 早い。早すぎる。想定していたよりも遙かに早い。
 ロープを持つ腕に力を込め、身体を高く持ち上げる。
 丁度弾丸のようにやってきた悪魔将軍の身体の上に乗るかたちになった。
 両足でその太い胴を蹴る。
 ビルの壁に激突する白銀の弾丸を尻目に、バットマンは着地して、再び距離を開ける。
 しかしその代償は、足の先の痛み。
 先程殴っていたときとは違う、異常な硬さに足先が痺れた。
 足からの着地に失敗する。ごろりと身体を回転させ衝撃を分散。しかし、立ち止まらない。再びワイヤーを手繰り、次へと飛ぶ。
 闇夜を飛翔する、巨大な蝙蝠の化身が、月の光に映し出された。

◆◆◆

 崩れた瓦礫の山から再び身体を起こす。
 視界の隅に、真っ黒のケープが飛び去るのが見える。
 ダイヤモンドの硬度を誇るボディは、この程度の事ではかすり傷一つ負うことはない。
 だが、二度。
 二度、同じ手を喰らったことが、悪魔将軍の怒りに火を灯した。
 たしかに。たしかに、黒衣の男の事を舐めてかかっていたのは事実。
 最初に戦った東洋人の様に、奇怪な超能力を使う様な素振りもなく、徒手空拳。より容易い相手と決めてかかっていた。
 だが、ここに来て悪魔将軍は、先程の東洋人とこの黒衣の男にある差は、特殊能力の有無だけではないと言うことが分かってきていた。
 言うなれば、戦歴。経験の差だ。
44BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:05:39 ID:fIgZGL3b

 あの東洋人は、確かに常人の範疇を越えたパワーの持ち主だった。
 しかし、訓練されていない。言うなれば、「ばかでかいショットガンを持った、素人」 だ。
 だがこの男は違う。
 例えるならば、武器は小さなナイフ一本。
 しかしそのナイフで幾多もの敵と渡り合い、自らの長所と短所、相手の力量とそのいなし方。
 それらを熟知した、歴戦の戦士だ。
「なるほど、それは認めてやろう……」
 ただの人間に過ぎなかったジェロニモが、悪魔騎士二強の一人であったサンシャインを打ち倒した例があるように、
 弛まぬ訓練とその精神の強靱さによっては、圧倒的不利を覆す奇跡は、起こりうる。
 だがしかし ―――。
 それは、相手がサンシャイン程度であったから起きえたのだ。
 六人の悪魔騎士全ての力を兼ね備えた悪魔将軍を相手に、たかが人間の訓練と精神力だけで立ち向かえるか?
 答えは、Noだ。
 例え熟練であっても、ナイフはナイフ。
 それが人相手であれば致命傷も与えうるが、超人相手では無意味だ。
  
「その絶望」
 腰を沈める。
「その痛み」
 再びの跳躍。
「その恐怖!!」
 銀の弾丸は、再び黒衣の男を射程に捉える。
「まずは貴様に刻みつけてやろう!! 血反吐と共にな!」 

 再び猛る悪魔将軍の咆吼が、闇夜に木魂する。
 
 鉄骨の組まれた、建設途中のビル。
 およそ地上からは5mほどの足場の位置だ。
 その柱の陰に隠れる黒衣の男。
 また小細工か。
 確かに、あのすばしっこい黒衣の男にとって、開けた場所より戦いやすいだろう。
 しかし、その程度の浅知恵で、この彼我の差を埋められると思うのは思い上がりというものだ。
 特にこれといった技を使わずに相手をしていたのは、超常の力もない非力なただの人間相手に使うまでもないという意識からだ。
 だが、ちょこまかと逃げ回るだけの小物に、あまり長く付き合うのも飽きてくる。
45BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:10:16 ID:fIgZGL3b

 最初はまだ良かったが、こう逃げの一手では詰まらぬもの。
 ならば、それなりの研鑽への恩賞として、そろそろとどめを刺してやる事こそ、悪魔としての寛大なる慈悲であろう。
 
「フフフフ…。貴様の死ぬべきこの場…。さしづめ、"鉄骨高層デスマッチ"と言うところか。
 最後に名前を聞いてやろう。
 お前は "クウジョウジョウタロウ" か? まさか、そうではあるまい。
 さっきの東洋人より弱い、取るに足らぬ相手だからな。
 この悪魔将軍の、二番目の獲物として、しばらくは記憶しておいてやろうではないか」
 その巨体から信じられぬほどのバランスで、細い鉄骨をゆっくりと、堂々と移動する。 
 視線の先には、黒いケープの端。
「どうした? 臆して声も出ぬか!?」
 再び、一気に跳躍して蹴りかかる…が、足刀は虚しく空を切った。
 そこに黒衣の男の姿はなく、鉄骨の柱に、ただ黒い布だけが打ち付けてあるのみだったのだ。
 しかし、目測を誤る事無く、その近くの鉄骨に着地する悪魔将軍。
 またも小賢しい真似をと視線をぐるり巡らせようとしたとき、その白銀の巨躯が宙に浮く。
「なに!?」
 鉄骨の足場は、既に何本かボトルが抜かれており、ある程度の加重ではずれ、落下するよう細工がされていたのだ。
 この瞬間にそこまで状況を把握し切れては居ないが、それでも罠に掛けられた事は分かる。
 中空で身体を回転させ、すぐ側の鉄骨に捕まろうとするが、今度は更に上方から数多の瓦礫やドラム缶、建築機材などが降り注いでくる。
 落ちた鉄骨は、ワイヤーで上階に仕掛けた罠とさらに連動し、追撃を与える。
「この悪魔将軍を舐めおってっ…!!」
 剣状に硬直化させた右手の手刀が、落下してくる廃材機材をバラバラにする。
 この程度の飛沫が悪魔将軍のボディに当たったところで毛ほどのダメージは与えられぬが、それよりも怒りが行動に移させた。
 バラバラになった破片が、周囲に飛び散る。
 しかしその次に、大きなドラム缶を切り裂いたときには、今度は粘液状のどろりとした物体が降り注いできた。
 真っ黒な、闇の如き液体。
 コールタールだった。
「ぬおぉおおおおお〜〜〜〜〜〜!!」
 再び、悪魔が咆吼した。

◆◆◆
 
 掛かった。
 しかしまだ足りない。
46BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:11:27 ID:fIgZGL3b
 ここまで手を尽くしたが、これであの怪物を倒せるとはまるで思えない。
 倒すためには、さらなる手、さらなる追撃が必要だ。
 天野雪輝は、身を潜め隠れていた路地から、建設途中のビルのある区画を、細心の注意でうかがいつつ、同時に周囲の様子も確認する。
 ここまで、雪輝の働きは見事だったと言える。
 未来日記。そのレプリカには、ある程度先の未来で、雪輝が目にする物目にする光景が書き出される。
 だから、"悪魔将軍"と自ら名乗ったあの白銀の怪物の来襲も、その後のある程度の展開も予知できた。
 書かれていた記述をバットマンに説明すると、彼は驚くほど詳細に、雪輝が「成すべき事」を指示してきた。
 雪輝と遭遇するよりも前に、彼はこの辺り一帯をある程度調べていたという。
 それらの情報と組み合わせて、雪輝は即席の罠作りをしてみたのだ。
 かなり粗い罠だったが、暗闇に、バットマンの誘導の巧さが幸いしてか、雪輝が思っていた以上にはまっていた。

 未来日記のこと。デウスの仕掛けた殺し合いの事。雨流みねねの事。
 雪輝はそれらについてかなりの事を、バットマンに話している。
 この男には嘘は通じない。それが雪輝にも分かったからだ。
 唯一、なんとか隠し通せたのは、由乃の犯してきた殺戮の事くらい。その辺りの曖昧さに、もしかしたら彼には気付かれているかも知れない。
 だが、それでも。雪輝自身確証のない、「この実験の主催はデウス・エクス・マキナかもしれない」という推論はバットマンの関心を引けたようだったし、
 また結果として未来日記の性能についても、今では疑う余地もないだろう。
 雪輝は新たな日記の表示を見る。
 ここから先は、バットマンも知らない。
 だから、彼はあの怪物相手に、何の情報もない状態で立ち向かわねばならないのだ。
 そう、怪物。
 かつての「神の後継者選びの殺し合い」では、存在しえなかった、文字通りの化け物と、だ。
 その恐れを飲み込んで、雪輝は表示された内容を読む。読んで、さらに雪輝は震えた。
 辺りを見回す。
 不味い。まずは移動して、場所を確認しないと。いや、その前にバットマンの位置を確認しないと…。
 目が泳ぎ、脂汗が出てくる。
 神の後継者となる決意をしてからは多くの人たちを直接、間接的に殺してきたが、それでもまだ、雪輝は自分の恩人を見殺しに出来るほどに、その心が渇いてはいない。
 後で助けるから、神となって死んだ人たちを蘇らせるから、と、必死で自分に言い聞かせることで、なんとか残虐な行為を繰り返せたのだ。
 さらに表示を確認する。
 何処だ? そこでどうすれば? いや…その前に、誰だ……?
『バットマンがうずくまり怪我をしている。その上には―――』
47BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:12:42 ID:fIgZGL3b

◆◆◆
 
 ビルの上からその姿を見たときには、黒衣の男は力なく鉄骨から落下していくところだった。
 直前に、大きな瓦礫が投げつけられ、強かに打ち付けられていた。
 いや、投げつけられたのではないのかも知れない。多数の破片や飛沫が、辺りに飛び散っている。
 運の悪い偶然か。
 アーチャーは、素早く足場を移動して、より様子が分かる位置へと飛び移る。
 実際には、彼ら二人のやりとり、戦闘の様子は、暫く前から隠れつつ確認していた。
 知りたかったのは、どちらが「殺戮者(Set)」で、どちらが「庇護者(Hor)」か、という事だった。
 いや、或いは、どちらも殺戮者だったかも知れない。
 又はどちらも庇護者だが、主張の食い違いか誤解から戦闘に至ったという事も考えられた。
 だが、白銀の化け物が何度か口にした言葉は、アーチャーの認識からすれば、言うまでもなく殺戮者。悪そのものだ。
 何せ自ら、"悪魔将軍"等と名乗り、対峙していた黒衣の男を殺すと宣言していたのだから。
 しかし、かといってそこで即座に妙な横やりを入れようとは思わなかった。
 かつての…そう、遙か昔の自分であれば、或いはそうしただろう。何も考えずに、だ。
 しかし今のアーチャーは違う。
 ただの短慮は、自分のみならず周りの人間すら傷つけかねないことを識っているからだ。
 離れた位置で待機させている少女、まひろの事を思う。

 マンションの中の一室で話をしていた途中に、窓の外に鈍く光る巨躯を見かけ、その禍々しい気配を感じとった。
 そのあまりの不穏さを捨て置くことが出来ず、慎重に気配を隠し、その跡を着けてきた。
 跡を追う前、まひろにはここに残れ、と言ったが、なかなかどうしてあの少女、意を決したと思うと自らついてくると言い張った。
 気丈だな、とつい柄にもなく微笑みそうになる。
「命を助けて貰っておいて、あなただけをまた危険な目に遭わせるわけにはいきません!」
 震えているくせに、そうきっぱりと言ってのけたのだ。
 以前、戦いと運命を共にした少女の面影を思い出し、即座に「いいや、似ていないか」と否定した。
 似ているか、似ていないか。そんな事は関係ないのだ。
 ただ、今ここにはまひろが居て、自分は彼女を守ると決めた。
 それだけに、意味がある。
 かといって乱闘の最中にまで彼女を連れてくるわけにはいかない。
「周囲の警戒を頼む」と言って、離れた、安全な位置に待機させている。
 確認したら、なるべくすぐに戻るつもりで居たが、状況はそう簡単でもなかった。
 アーチャーはそれをしっかと握る。
 まひろの持っていた支給品の一つ。それを借り受けて、ここに来ている。
48BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:14:00 ID:fIgZGL3b

 それはアーチャーにとって、ある意味運命的で、そしてある種のほろ苦い思いももたらす支給品だった。

 しっかりと、それらが見える位置へと行く。
 黒いタールに塗れた巨躯が歩いている。
 視界が塞がれているのは分かる。
 それでも、周囲の気配を察知してか、或いは恐るべき執念からか。
 建設途中のビルの敷地内。さほど広くない地面にうずくまる黒衣の男へと、次第に近づいていく。
 近くに見れば、異様な存在感だった。
 強力なサーヴァントですら、あのような禍々しさと、あのようなパワーの片鱗を感じさせる事はない。
 サーヴァントとしては決して強靱な方ではないアーチャーではあるが、それでもこの白銀の巨体から放たれる威圧感や禍々しさが、
 例えばバーサーカーやアサシンの持つそれらとは、まるで異質なものであると感じ取れる。
 今、自分はこれに勝てるだろうか?
 いや、付け加えて言えば、まひろを助けつつ、という条件付きで、だ。
 決め手もなく猪突猛進で当たれる相手ではない。
 最初に行き会った、ただのチンピラとはわけが違う。
 しかし―――。
 
 思案するアーチャーの下で、大きな音がした。
 エンジン音。それから破壊音。
 視界の効かぬ白銀の巨体に、ライトバンが体当たりをしていた。
 しかし、斃れない。
 膝を着きはしたが、それは一時的な事のようだ。
 むしろ、ぶつかった軽トラックの方がへこんでいる。
 そんなにスピードを出していなかったのだろう。
 しかし、ただぶつかるだけでもこの有様だ。信じられぬ身体のつくりをしている。
 そのすぐ脇を、転がるようにして少年が駆けている。
 この軽トラックをぶつけたのは、どうやらその少年のようだ。
 エンジンをかけ、発進させてから、即座に降りて駆けたのだろう。
 彼はうずくまっている黒衣の男へと近寄り、肩を貸して逃げだそうとしているようだった。
「ぬおぉおおおおお ―――!!」
 再び、怪物が吼えた。
 視界は効かないが、やはり気配は察知している。
 あまり正確ではないが、やはり少年と黒衣の男へと走り寄ろうとしていた。
 そこで、アーチャーはようやく矢を放った。
49BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:15:58 ID:fIgZGL3b

 素人にも扱えるような遊戯用でもなく、また狩猟用でもない。
 特殊な目的の為に作られているようだが、確かに街中でとり回すのには丁度良い。
 元々は、オリバー・クィーン…又の名をグリーンアローと名乗るヒーローの使っている武器であるこの弓矢のセットには、何種類かの特殊な矢が付属していた。
 もともと洋弓ではなく和弓に慣れているアーチャーにとって、少しばかり扱いに難はある。難はあるが、それでもこれはこれで、この上ない武器でもあった。
 
 放った矢は、爆弾付きの矢であった。
 それがどの程度の威力かは分からない。小さなものだから、そうたいした破壊力は無いだろうと思う。
 思うが、それでも彼らが逃げ出す時間を稼ぐ程度の役には立つだろう。
 放ってすぐに、その後を確認もせずアーチャーは立ち去る。
 効いたか、倒せたか、或いは彼らが逃げ出せたか。
 それは背後に聞こえる爆音と叫びで判断するしかない。
 今の時点で、あの怪物と決着をつけようとするのは無謀だ。
 何より、まずはまひろの安全を確保しないといけない。
 黒衣の男と少年には、幸運がある事を祈る事しかできない。
 もし再び出会えたら、あるいはもっときちんとした共闘が出来るかも知れないが、それは今ではないだろう。
 かつての自分なら、一も二もなく彼らに駆け寄っていたかも知れないとアーチャーは思い返し、即座にそれを振り切った。

◆◆◆

「ロビ…ン…。その…先だ…そこを…曲がれ…」
 些か意識が混濁しているのか、バットマンはそううなされたように指示を出す。
 確かに悪魔将軍に較べれば見劣りはするが、バットマン自身もかなりの身体だ。
 同年代の少年と較べても些か貧弱な雪輝が運ぶのには、かなり骨が折れる。
 まして、ほとんど暗闇で、さらには曲がりくねった臭い下水の中。
 何故こう指示を出せるのか分からないが、今はバットマンの言うとおりに進むしかない。
 何せ、雪輝にはほとんど見えていない。見えない物は、未来日記にも書かれないのだ。
 
 あのとき。
 デッドエンドの文字の有無を確認する間もなく訪れた、死の予感のとき。
 不意に、悪魔将軍の身体が爆ぜた。
 いや、爆発は悪魔将軍の身体自体ではなく、その身体に当たった何かだったが、雪輝にそこまで確認する余裕はない。
 そのまま、バットマンの身体を引きずるようにして奥へと這い進む。
 頭を打っていた。墜落のダメージもある。
 触ると分かるが、このスーツはだのぴちぴちタイツではなく、特殊な繊維が使われているのか、硬く弾力もあり、身体を守る性能があるようだ。
50BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:18:17 ID:fIgZGL3b

 それでも、今この状態を襲われれば、バットマンも雪輝も、ひとたまりもなくやられてしまうだろう。
 背後では怒号と激しい熱気。
 その光を頼りにして、暗闇の奥にそれを探す。
 手を伸ばし、その冷たい感触に触れたとき、雪輝はようやく少しだけ安堵した。
 マンホールの、蓋。
 未来日記から察するに、ここから二人は逃げられるはずだ。
 燃えている。背後であの怪物が燃えている。爆発のもたらした火が、コールタールを包んで燃えさかっている。
 何故爆発したのか。偶然か? バットマンの奥の手か? 或いは、微かに目にとめた人影が手助けしてくれたのか? 視界に入らぬ事は、分かりようがない。
 これで奴は死ぬか? 死ぬだろう。普通なら。それでも、何故か雪輝は、今にもあの怪物に襲われるかのような恐怖から、まるで解放されていない。
 
 だから、雪輝は遮二無二足を動かし、一刻も早くあの怪物から離れようとしている。
「その…先に…バット…ケイブ…」
 バットマンの言うことは分からない。ロビンとは、名簿に書かれていたロビンマスクという人物だろうか? その人物とバットマンは知り合いなのだろうか? 
 そして今、意識が混濁し、その男と自分のことを勘違いしているのだろうか? 
 それでも、雪輝は何よりもまず、彼を救わなければと考えている。
 彼は、バットマンは、紛れもなく「ヒーロー」だ。
 それが雪輝にも、明確に理解できたからだ。
 明らかに勝ち目のない相手に、知力と勇気で立ち向かってゆく。
 彼の身体能力や、洞察力や、判断力も、勿論雪輝に敵うものは何もない。
 しかしそれ以上に、違うのだ。
 そう。精神、が。
 誰がなんと言おうと、その精神は紛れもなく、ヒーローそのものであった。
 たしかに、あの怪物には勝てなかった。勝てなかったが、それでも負けては居ない。そう思う。
 唯一、雪輝にだけある利点。つまり、未来日記。
 この未来日記の予知と、バットマンの持つ力。
 その二つを合わせれば、或いは……。
 雪輝は、そのことを考えている。
 ただ一つ、ただ一つ今気がかりなのは。
 自分とバットマンが、ルール上殺し合わねばならないグループだとしたら?
 そのとき、自分はどうすれば良いのだろうか。そのことだけであった。
51BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 16:20:02 ID:fIgZGL3b

◆◆◆

 残された建設現場には、凍てつくような静寂と、くすぶった火の跡だけがある。
 悪魔将軍は痛みも熱も感じない。だから、火に巻かれたところで熱くもない。
 また、呼吸も必要ない。伽藍堂の鎧のみを依り代とする、純粋なる悪意の結晶である悪魔将軍に、窒息などはない。
 しかし、熱そのものには、まるでダメージを受けないわけではない。
 能力的には圧倒しているはずの悪魔将軍が、何故バットマンに ――― たかが人間如きに ――― してやられたのか。
 一つには、バットマン自身の経験と戦術にもある。
 事前に未来日記で予知していた内容を作戦に役立て、又、彼自身、ただの人間でありながら、数多の怪人、超人類等と共闘、或いは闘争を繰り広げてきている。
 パワー一つ取っても、おそらくは悪魔将軍すら凌ぐであろうスーパーマンとも、技術と駆け引きで互角かそれ以上にやり合うことが出来るのだ。
 その事を、悪魔将軍は知らない。
 舐めてかかるべきでないと考えを改めても尚、悪魔将軍にとって、"超人類と互角に渡り合える人間"等というものは、想像の埒外なのだ。
 そしてもう一つ、悪魔将軍自身が戦いの最中に放った言葉、「鉄骨高層デスマッチ」というところにも、悪魔将軍の無意識の弱点が見て取れる。
 悪魔将軍は、無意識のうちに、自らの戦いを超人レスリングの範疇に限定して考えてしまう、思考の癖がついているのだ。
 これは、あらゆる争いの決着をレスリングでつけるという、悪魔も正義も無関係な、彼ら超人レスラー達の魂に染みこんだルールによるものだ。
 だから、例えば仗助との戦いのような、1対1の正面切っての戦いならば、バットマンが如何に歴戦の強者であっても、全く手も足も出ずに翻弄されていただろう。
 しかし今は逆。
 超人レスリングの思考から抜け出すことの出来ない悪魔将軍に対して、あらゆるタイプの悪漢、犯罪者、超人類等と様々な状況でやり合ってきたバットマンが、
 一手も二手も先回りして、自分のフィールドへと持ち込んだのだ。
 運悪く ――― と、アーチャーは見た、あの破片の衝突による墜落も、実際の所どう出たか分からない、ぎりぎりの線であった。
 例えば、事前に悪魔将軍の胴を蹴ったとき、悪魔将軍がボディの硬度を高くしておらず、バットマンが足にダメージを受けて居なければ、
 かわしていたか、ぶつかっても墜落していなかったかもしれない。
 そしてもしそうであれば、駆けつけていたアーチャーとの連携で、或いは全く違う展開になっていたかもしれない。
 勿論それは、二人が悪魔将軍に惨殺される未来であったかもしれないが ―――。

 だが…。
 それはやはり結果論でしかなく、そしてまた悪魔将軍には分かりようのないことであった。
 バットマンに自分の想像の範囲を遙かに超えた戦歴があることも、
 自身が超人レスリングの思考に囚われていることも、分かりようがないし、分かることもない。
 悪魔将軍に分かることはただ一つ。
 自分が、ただの人間に後れを取ったという屈辱の事実。ただそれだけである。
 
 白銀のきらめきが、今は煤けた鈍い色に覆われている。
 悪魔将軍はおもむろに、自らの空洞の胴体の中に手を突っ込み、中に入れてあったデイバッグを取り出して、それを引き裂き、バラバラにした。
 か弱き人間のために用意されたものなど、必要ない。
 食事も、水も、武器も防具も、そもそも悪魔将軍にとっては全て不要なもの。文字通りにただの荷物に過ぎない。
 そんなものをさっさと捨てもせず取っておいた事すら、屈辱である。

 成る程、考えを改めよう。
 確かにこの実験とやらには、自分とロビンマスク以外に、超人は居ないようだった。
 しかし、例えただの人間であっても、それなりの強者達を、あの主催者は集めている。
 それらか弱き人間どもが、果敢にも武器や策略を駆使して立ち向かってくる。
 それは、猛獣相手になんとか互角になろうとして、重火器を手にし罠をはるようなものなのだ。
 改めて悪魔将軍は思う。
 そう言った者達全てを、蹂躙し尽くすのだ。
 黒衣の男も、爆弾を投げてきた乱入者も、全てを。   
52BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 17:05:45 ID:fIgZGL3b
【G−9/下水道内:黎明】

【バットマン@バットマン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:瓦礫による怪我、落下によるダメージ、意識がやや混乱
 [装備]:バットスーツ
 [道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
 1:ひとまずバットケイブに避難。
 2:ジョーカー、悪魔将軍等の動向に注意。

※ゴッサム同様に、下水の地下に緊急用バットケイブがあると思っていますが、実際にあるかどうかは不明。

【天野雪輝@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:左腕に裂傷(治療済み)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0〜1、拾った工具類
 [思考・状況]
 基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
 1:バットマンと共に下水を使って避難
 2:由乃と合流…?
 3:悪魔将軍怖いっ! でも死んだのか…? 

※拾った工具類
 ビル建設現場に落ちていたもの。
53BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 17:08:13 ID:fIgZGL3b
【H-9/クライムアレイ:黎明】

【アーチャー@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、高級お茶会セット、グリーンアローの弓矢、不明支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:目に映る限りの人を救う
 1:武藤まひろと共に一端安全な場所へ移動するか、黒衣の男を捜すか…?
 2:情報を収集し参加者とのパイプを作り、疑心による同士撃ちを防ぐ。
 3:当面は武藤まひろを守り抜く。信頼できる相手がいたらそこに託す。
 4:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Isiは力を持たない者?
[備考]
※登場時期はUBW終了後(但し記憶は継続されています)
※投影に関しては干将・莫耶は若干疲労が強く、微妙に遅い程度です。
※他の武器の投影に関する制限は未定です。
※武藤まひろと何らかの情報交換をしています。
※悪魔将軍をSet、黒衣の男(バットマン)はHorではないかと推測。

※グリーンアローの弓矢@バットマン
 軽くしなやかな合金製で、60cmほどの洋弓。緑色。
 特殊矢は何種類か有り、爆薬の他、催涙ガスや電気ショック、麻痺薬など色々と考えられる。

【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:一般(Isi)
[状態]:健康
[装備]:無し 
[道具]:基本支給品、ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
1:アーチャーさんと共に行動する
2:お兄ちゃん………
【備考】
※参戦時期は原作5〜6巻。カズキ達の逃避行前。
※アーチャーと何らかの情報交換をしています。
54BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 17:09:44 ID:fIgZGL3b
【H-9/ビル建設現場:黎明】
 
【悪魔将軍@キン肉マン】
 [属性]:Set(悪)
 [状態]:疲労(中〜大?)
 [装備]:なし
 [道具]:メロの首輪
 [思考・状況]
 基本行動方針:悪を為す
 1:空条承太郎を見つけ出して殺す。
 2:黒衣の男(バットマン)、爆弾を投げた者(アーチャー、未確認)を殺す。
 3:殺し合いを楽しみ、トロフィーとして首輪を集め、それが終わった後は主催者を殺す。

※基本支給品2、不明支給品2〜6が、H−9、ビル建設現場に、破壊されたか使える状態で散乱しているかもしれません。
55BATMAN:Tales of the Devil ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/09/11(土) 17:11:24 ID:fIgZGL3b
代理投下終了です
56創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 02:20:43 ID:5OLyltfB
お二方投下乙!
色々な意味で心臓に悪かったぜw
ジョーカーはダグバを笑顔に出来るのか!?
そしてここまでやられてもまだ立ち上がる悪魔将軍、流石の貫禄

ただ、ジョーカーとダクバだけど、コロッセオみたいな目立つ施設を放送1時間前まで占拠出来るものなのかな?
今はまだ黎明・2時〜4時のが多いし、コロッセオ目指す奴は多いし
その辺どうなんでしょ?
57創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 15:06:48 ID:WLHdAHxm
代理投下します
58理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:08:05 ID:WLHdAHxm
ジョーカーから離れてからある程度時間が経ち、めだかの体力も少しは戻ってきた。しかし会話はともかく、動き回るのは厳しいところだ。
そこで、まずは今後の行動について相談することになった。

「まあ、考え方としてはいくつかあるよな」

まず一つ目、いいなりになってバットマンという男――――名前からして男だろう。バットウーマンではないのだから――――を連れてくる。

「バットマンと会えれば、ジョーカーに対しての助言も頼めるかもしれない。
 ジョーカーがバットマンに対して因縁があるのなら、その逆も同じことだからな」

「単純ですが妥当な手でもありますね。問題点はバットマンを発見できるかどうかですか」

「だから、これはそこまで優先しなくてもいい。誰かに会った時に軽く質問する程度でいいだろ。
 並行して別のやり方も試せばいいだろ」

誰かを探すことに専念するのは効率もあまりよくない。
ジョーカーだけではなく、この殺し合いも許せないのだから、あの狂人相手にだけ集中することはできない。
極論、首輪を外すことができれば無視してもいい相手だ。

「正しい意見でしょうね。この実験とやらの主催者は、あの男よりもなお脅威です」

「まあ、まずはジョーカー相手のやり方を考えなきゃならないだろうけどな」

無視してもいいのは、首輪を外せればという話だ。
そもそもこの二人にとっては、自分が安全でもジョーカーは見過ごせない。
黒神めだかの信念と、衛宮士郎の夢。そのどちらから見ても、あの男を放置することはできない。
そしてジョーカーに命を握られている現状を変えなければならないのも当然のこと。
いつ殺されるか分からない危険な状態から脱しなければ、精神的な負担も大きくなる。

「いつでも殺せるというのが、単なるハッタリという可能性もありますが」

「言い切るだけの根拠もないから、楽観したくないけどな」

そうであれば助かる。しかし実証することができない以上、ジョーカーの言葉を事実と仮定する他はない。

「二つ目――――あいつと例の装置をなんとかする。
 正面から戦うのは難しいけど、奇襲や狙撃ならなんとかなるかもしれない」

自分達だと気付かれずに、ジョーカーを倒す。危険な相手だからこそ、すぐにでも無力化しておきたい。

「また単純ですね。しかも、あまりいい方法とは思えない」

奇襲も狙撃も、そう簡単なことではない。
相手に気付かれずに接近することは、黒神めだかにとっては不可能なことではない。
そしてその上で、相手を一撃で気絶させることもやろうと思えばできるかもしれない。
しかしそれでも不可能ではないというだけの話。確実ではないのだ。

「狙撃も同じことでしょう。何か手段があるのですか?」

「残念なことに、銃も何も支給されてない。狙撃なら、何度か失敗しても取り返しはつくと思ったんだけどな。
 生きているうちはともかく、死んでからじゃ脅迫もできないだろ。もっとも、銃なんて使ったこともないけど」

そう口に出した言葉は、めだかにとっては聞き逃せない言葉だった。
残念なことに。生きているうちはともかく。死んでからじゃ。
そのすべてが、彼女にとっての禁忌に触れていた。
59理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:09:56 ID:WLHdAHxm
「……待ってください。それは、どういう意味です」

「どういう意味って……それこそどういう意味だよ」

あえて確認する。衛宮士郎は善人だと彼女は見た。
そして日本の学生である。偽装などではないと彼女は既に判断している。
その彼が、軽々しく人を殺すと口にした。その意味は分かっている。
だとしても、聞かないわけにはいかないのだ。

「私には、あの男を殺す気だという風に聞こえましたが」

「いや、殺すしかないだろ。あれは説得できる相手じゃない。
 あいつは壊れている。しかも壊れてるだけじゃなく、その方向性が致命的だ」

壊れた人間は、その方向性を変えることはない。変わったように見えたとしても、芯の部分は変わらない。
そう主張する衛宮士郎に対し、黒神めだかは反論する。

「殺すべきではないでしょう。そもそも、銃があっても私達は学生だ。銃刀法というものがある。
 なにより、人を殺すのは悪いことだ」

「法的なことか? そりゃあ、殺人はよくないけどさ。
 状況的には正当防衛ってことになるんじゃないのか」

「そういうことを言っているのではありません」
60理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:10:40 ID:WLHdAHxm
そう。法律の問題ではない。人が人を殺すのは、そんな簡単なものではないのだ。
たとえどのような状況であれ、あっさりとその選択肢を選ぶことは許容できない。

「……なあ、黒神。抵抗があるのは分かるけど、そんなことを言ってられる状況じゃないだろ。
 別にお前にやれとは言わない。というか、やらせない。黒神はいい奴だし、人殺しができるなんて思えないからな」

「自分は人を殺すことができるとでも言いたげですね」

「死体には慣れてるよ。それに、これは必要なことじゃないのか」

ジョーカーは人殺しをためらうまい。この殺し合いに参加させられた者達全員の命。そして、黒神めだかの命。
それらを考えれば、あの男を殺さざるを得ない。衛宮士郎は、殺さなければならない場合になればためらわない。
本来はその殺すという判断は、かなりゆるいものなのだが――しかしそれでも、ジョーカーは規格外だ。
衛宮士郎をして、初対面で殺すべきだと判断させた。それほどの純粋さを、あの男は持っている。
そんなことは黒神めだかにだってわかっていたし、そういう相手を知らないわけでもない。
しかしそれでも、即断で殺すほどではないと考えるのが彼女だった。

「あれが危険な男であるというのは認めます。殺した方がいいという理屈も。
 しかしそれでも、私は人を殺さないし、殺させるつもりもありません」

誰も殺さず、殺させずにこの場を脱する。それが理想的な展開だと、衛宮士郎も理解している。
否、理解しているのではなく、目指している。だが、そういった理想とはまた別にして断言しなければならない。

「軽く言葉を交わしただけでも、殺さなくちゃならないと断言できる。
 あいつはそこまで危険なヤツだ。だから黒神、納得できないならここで別れよう」

「別れる? 殺人を行うと宣言したあなたを見過ごせと言うのですか」

片目をつむりながら、士郎を睨む。当然のことだと言うかのように。
殺人を許容しないのだから止めるしかないと。

「違う。そもそも今のままじゃ殺せない。手段がないってのはもう言ったじゃないか。
 やり方が合わないんだ。このまま一緒にいても意味ないだろ。それにバットマンを探すには手分けした方がいい」

「衛宮上級生、誤魔化さないでもらえますか。今の論点はそこではない。
 殺人を許容するか否かでしょう」

「誤魔化してなんかいない。このまま一緒にいたって時間の無駄だ。
 ジョーカーを殺すかどうかについては――――」

「私は誰も殺させない。つまり、あなたを見逃すこともできないということです」

その言葉を最後に、お互いに無言になった。
平行線だ。説得はできない。そもそも議論にすらならない。
衛宮士郎は黒神めだかの決意を正しいと思っているし、黒神めだかは衛宮士郎の考えを正しいと認めている。
その上ですれ違うのであれば、これはもう言葉を交わしても意味はない。
61理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:12:30 ID:WLHdAHxm


それが少し前のこと。今はお互いにカフェの中で休んでいる。
あの言い合いで精神的な疲れが出たのだろう。めだかの消耗が表に出来ていた。
それでも彼女は冷静であり、抜け目はない。座席は離れているが、めだかは士郎が姿を消せばすぐにわかる位置を確保している。
そして疲労があるのは、士郎も同じことだった。

(……失敗した)

そもそも殺すなどと口にする必要はなかったのだ。バットマンを探すために手分けしようと言えば納得しただろう。
それなのにわざわざ宣言してしまった。それが衛宮士郎の失敗だった。

(今はまだ体力も消耗してる。置いていこうと思えば簡単だけど……)

それはできない。こんな場所に一人で置いていくのは、見殺しにするのも同然だ。
行動するのなら彼女か回復してからということになる。だが、それでは逃げられない。
逃げられたとしても意味がない。彼女は士郎を探すだろうし、それではジョーカーから離れることにはならない。
彼女と別行動を取ることはできない。そして彼女がいる限り、ジョーカーの近くにいるわけにもいかない。
選択肢はなくなった。これからの行動はジョーカーから離れることを優先し、バットマンを探すことになるだろう。

(けど、なんであそこまで熱くなってたんだ、俺は)

殺すべきではないという主張に対して、殺すべきだと強く主張した。自分でもらしくないと思う。
正しいのは黒神めだかだと分かっている。そう簡単に人を殺すべきではないと、自分でも思っている。

(黒神が相手だからか? でも、黒神相手に熱くなる理由なんて――――)

ないはずだ。いい奴だと思う。頼りになる奴だとも思う。
強引ではあるけれど、それでも最初に会ったのが彼女のような人でよかったとも思う。
共感すらできる相手だ。なのにどうして、ああも熱くなってしまったのか。
無意識に、気に入らないことでもあったかのように。
62理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:14:20 ID:WLHdAHxm


黒神めだかは、自らの思考に疑問を抱いた。
衛宮士郎の言い分は理解できるものだったし、ジョーカーに対する印象も同じだった。
それでも殺さずに済ませた方がいいというのは、自分の方針としては何の間違いもない。
だがしかし、あの反論はらしくなかった。彼の意見が正しいと、口に出して認める。
その上で行動をもって自分のやり方を示すのが自分ではなかったのか。

(まあ、理由はおおよそ把握できてはいるが)

黒神めだかは異常である。彼女は反射神経持たないがゆえの学習速度を誇っていた。
それが異常な反射神経を持つ相手と向き合うことで、異常な反射神経すら手に入れる。
他者の能力を相手以上の完成度で習得する。それこそが彼女の異常性である完成――――ジ・エンド。
アブノーマルの異常性は心理面の影響も大きい。殺意すらも習得する彼女の異常は、相手の精神面を察することにも通ずる。
つまり彼女は察したのだ。衛宮士郎は壊れている、と。彼の感性は常識的だ。しかしその上で秤がずれている。
それはいい。判断基準に個人差があるのは当然で、それがまっとうな人間というものだ。
めだかとて、親しい相手と見知らぬ相手では優先順位に大きな違いが出る。
しかしそのズレは、彼女にとって不快なものだった。壊れていると断言してもいいほどに。
(自分より他人を優先するのはいい。危険な相手だから排除すべきだと考えるのもいい。
 だが排除すべきだと考えた相手さえ、本音では救いたいというのは……)

その差異が不愉快だった。中途半端だと攻める気にはなれない。
人を殺すことはよくないことで、だからそれを避けるべきだと主張するのがめだかならば。
殺したくない相手でも殺すと決めたならば殺す。その思考が、彼女には不自然に思えるのだ。
人間なのだから感情をもてあますのは当然であり、それでも理性で判断したとは言える。
自分ではなく、他者とって危険だから殺すべきだという判断。
できることなら殺したくはないという感情。表面上だけ見ればまっとうで、彼女が不快に感じる余地はない。
しかしその感情。本音の部分で殺したくないと考える。その殺したくないという度合いの大きさ。
誰であっても、死なない方がいいという感情を抱いている。その感情を無視して殺すべきだと考えている。
そしてその押し殺した感情は、親しい相手に死んで欲しくないという感情にすら匹敵する。
彼は親しい相手さえ、殺すべきなら殺せる人間だ。それを察したからこその不快感なのだろう。

(……ああ、そうか。関わりたくないのか、私は)

気持ち悪い。関わりたくない。そう思える相手と会ったことがある。
ジョーカーの狂気よりも、衛宮士郎の方が気に入らない。
自分と似通っている部分が少なからずあるからこそ、その差異が目につく。
それでも見逃すわけにはいかないという思いが、めだかにはある。
彼が人を殺すと言うなら、止めなければならない。それが誰であっても、止める。
自分はみんなを幸せにする為に生れてきた。そう言われたのだ。
黒神めだかは、理性でそう断じていた。
63理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:15:54 ID:WLHdAHxm
【E-6/市街・カフェテリア:黎明】

【黒神めだか@めだかボックス】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康、電撃による体力の消耗
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いを止める
 1:衛宮上級生と行動を共にする
 2:ジョーカーを殺させない
 3:バットマンを探す
 4:衛宮上級生に不快感
 [備考]
 ※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジョーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。


【衛宮士郎@Fate/stay night】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いを止める
 1:めだかと行動を共にする
 2:めだかの回復を待つ
 3:バットマンを探す
 4:ジョーカーを生かしてはおけない
 [備考]
 ※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
64理性と感情の差異 ◇PesJMLsHAA 代理:2010/09/12(日) 15:19:36 ID:WLHdAHxm
代理投下終わりです

お互いの正義のズレに気が付いた……というかめだがが士郎の歪さに気が付き出したのか?
それとも士郎の影響を受け出したのか?
さて、このコンビは何処へ行くのか…

65創る名無しに見る名無し:2010/09/12(日) 20:36:15 ID:VNy27cMx
投下&代理投下乙。
二人のズレが不穏当な空気を生んでいますねw
これからの動向が気になります。
GJ
66創る名無しに見る名無し:2010/09/13(月) 21:21:19 ID:GTOAPHKL
投下乙

負完全な正義の味方ってとこか
歪みっぷりではどっちもどっちだと思うけど
67創る名無しに見る名無し:2010/09/13(月) 22:27:38 ID:Y9dKNN5R
つまんね
68創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 21:54:26 ID:8YpcyJB4
頼むからいい加減にしてくれ
仲良しごっこは巣の中だけで頼む
69創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 22:47:56 ID:iep4MQFa
え、なに?
70創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 22:54:49 ID:kp13f17Q
誤爆じゃね?
71創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 23:12:03 ID:8YpcyJB4
お前らの事だっての
72創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 23:18:18 ID:8K3YDzW3
確かにな
この程度のロワなど別館民の総力にかかれば簡単に潰れる事をお忘れなく
今後別館、特に誤爆スレででしゃばるのを自重すれば許してやるが、既にイエローカードを出されているのは忘れるなよ
73創る名無しに見る名無し:2010/09/14(火) 23:54:44 ID:Toyl0Ag1
なんだワカメか
74創る名無しに見る名無し:2010/09/15(水) 00:09:38 ID:GxOOBTOC
2644 名前:やってられない名無しさん[sage] 投稿日:2010/09/14(火) 23:55:54 ID:???0
ああすごくうっとうしい。
一緒にしてもらっても困るというかうざいだけなんだが。
その気になったら群れをなしてロワを潰すってさ?
お前一人で勝手にやってろよという感じだが。

2646 名前:やってられない名無しさん[sage] 投稿日:2010/09/15(水) 00:02:40 ID:???0
>>2644
やれるもんならやってみろよ、ああ?
って鳥付きで言いたいけど、最近は相方がいるので言えなくなってしまった
守るものがあるというのはこういう事なのだなあ
75創る名無しに見る名無し:2010/09/15(水) 00:15:27 ID:cd2S806p
まあ消されてんのはジャスロワうざい連呼してた馬鹿のレスだけどな
76創る名無しに見る名無し:2010/09/15(水) 10:46:03 ID:543RhNwv
仮に万が一あり得ないだろうがまわりからウザがられても余裕でやっていける地力があるから屁でもない
77創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 21:24:27 ID:B9o5um6d
イカ娘、夜神月、高遠遙一、間桐慎二、高町なのは、V

代理投下します
78仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:26:17 ID:B9o5um6d
◇◆

「ああくそ……っ!あの仮面の奴、今に見てろよ……」

劇場を抜け夜の世界へ飛び出し、一息付く。
傷は痛みの割には軽傷だった。
手裏剣で刻まれた傷は転んで擦り剥いた程度だし、背中に突き刺さった短剣も急所に当たらず、大事には至らない。
改めて“超人”と化した己の肉体の強靭さに陶酔するも、同時にその体に傷を付けた仮面への怒りも湧き上がる。

問題ない。あのときは油断しただけだ。目の前の女に気を取られ不意打ちを受け、流れを掴まれただけの事。
正面を向き合えば自分が優位だ。常に回りに気を付けていればいい。
それと、武器の有無も大きい。
超人になったとはいえ自分は丸腰、剣や銃で武装した敵に正面から挑むのは愚の骨頂だ。
ただの人間ならともかく、先のような常識ならざる者の手に渡っては些か分が悪い。
支給品には超人になれる帽子と軍服以外入ってなかった。だったら、奪うのが一番手っ取り早い。
辱めようとしたあの女のような、絶対的弱者の持つ荷物から武器を徴収すればいい。
今の自分に強力な武装が加われば、それこそ本物のサーヴァントも同様、いや、それ以上の存在になれる。
本来あるべき姿の間桐慎二として新生を遂げるのだ。
これから搾取される奴らはそのことを誇りに思うべきだろう。

深夜を越えた時間帯、力のない参加者達は徒党を組んでいるだろう。
弱い奴ほどよく群れる、古今問わずしての真理だ。
そして群れは安全の為に更に規模を増そうとする。人が多くいそうな場所を求めていく。
なら、町なんかが目指す先としてふさわしいだろう。
だったらさっさと向かうとしよう。大丈夫、生まれ変わった自分に敵なんかいやしないんだから。


砕けた仮面に変わり手にした新たな仮面。それもまた偽りであることに、少年は気付かない。




「さあ、では出発ゲソ!……で、どこへ向かえばいイカ?」

闇夜に佇む海の家で心ゆくまで食事を堪能した少女―――イカ娘の号令で一行は移動を開始した。
だが特に目的としているものがない以上目指す所もないイカ娘はすぐに立ち尽くし、同行人に意見を求める。

「当面は各所の施設を巡っていくことかな。
 僕らの目的は参加者と情報を集めることだ。そこから危険人物を割り出し、自分達の陣営を明確にし、安全な集団を作りだす。
 そのために参加者が集まりやすい場所、地図上に記された施設に行くのが最も効率的だろう」

もの分からぬイカ娘に教えるのは夜神月。家と容姿と能力に恵まれた絵に書いたような優等生。
だがその実態は世の犯罪者を死神の力で消していく新世界の神、キラ。
生態といい、能力といい、全てが月の判断基準にとってのイレギュラーであるイカ娘。
故にこの状況の解決に一役買ってくれると考え、この殺し合いを一刻も抜け出すべくこうして行動を共にしている。

「無論、道中で危険人物に遭遇する可能性もあるが、どこにいようとも危険には違いない。
 なら、恐らくそう戦闘が激化してない今のうちに速やかに人と接触しておいた方がいい」

「ほむ……なるほど。中々やるじゃなイカライト!褒めてやるゲソ!」

「それはどうも」

すっかりこのチームの支配者(リーダー)として踏ん反りがえるイカ娘を気にすることなくあしらう月。
この程度で気を悪くするほど器は小さくない。子供の我儘には最大限付き合ってやるのが大人の振る舞いだ。
79仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:27:07 ID:B9o5um6d
「そういう事です。ですので我々が向かうのは近場にある、この一帯を目指すのがいいでしょう」

月の解説に付け加えるのがもう一人の同行者、高遠遥一。常に落ち着き払い、冷静な判断力を持つ青年だ。
だがどこか、月もまたそうであるように得体のしれないものを隠し持っているのを感じる。
表面化しない以上それに触れる気はなく、何事もなく運べば言うこともないのだが、一定の警戒の念は外せない。
諸々の思惑を胸にしまいつつも、今はこの場での行動について話し合うことにする。

「カジノに劇場に放送局……様々な用途が考えられる施設が密集しているのもそうですが、
これが置かれてる地形そのものもまた重要です。
 施設群を中心として3つの方角にある大きな地区。恐らくは住宅街、コロッセオ、そして都市部。
ここからこれらの地区に足を運ぶのにかかる時間は同程度です。地の利とでもいえるでしょうか、選択肢が増えるのは喜ばしい。
 ですが時間は限りある……1つの道を選んだ時点でそれ以外の2つの道にあるものを取りこぼすことになるでしょう。
 それはひょっとしたら、我々にとって致命的ともいえる損失なのかもしれません」

「じゃ、じゃあどうすればいいんでゲソ?」

「それを決めるためにもこれから向かうんだ。共通点のない不自然に集められた施設群。何かあると思わないのがおかしい。
 行動の優先順位を決める手掛かりがあるかもしれないし、そうでなくても参加者と接触しやすい。
 ここは今後何かあった時の集合場所、拠点として機能できるかもしれない」

放送局。映像と音声を各所に流す場所。その通信網が活きていれば情報の共有に使えるかもしれない。
カジノとはギャンブル場、賭博場だ。何かを賭け、勝利の報酬に何かを得る。それはここでも機能しているのか。
劇場だけは今イチ殺し合いでの用途が掴めないが、簡単に挙げてもこれだけだ。
この実験の助けになる―――というより殺し合いを煽る仕掛けが施されてる目算は高いと見る。
施設を調べながら、来訪者を待つ。そういう選択肢も選べるだろう。

「うん、よく分かったゲソ!それじゃあ改めて出発ゲソ!……ところで、そこにはどっちを歩けばいイカ?」

一人先走ったと思えばすぐに振り返り戻ってきたイカ娘を月は呆れ顔で、高遠は微笑で迎えた。
80仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:27:59 ID:B9o5um6d





静まり返った劇場。照明は落ち、観客の姿もない。
大勢の人を集めるために広く創られたこの空間にとってこれほど虚しいものはない。
さりとて意思のない、実体も持たない空気がそれを嘆くことなどありえず、ただその空間に漂うだけである。
そして今、ようやく来てくれた2人の観客も席を後にしてしまった。
白い服の年端もいかない少女と、黒い装束の仮面の男。救われた者と救った者。
急場を退けた男は少女に語りかけ、互いにこの実験に協力―――つまりは殺し合いに乗る気がないことを確認。
実に対照的な性質を持つ2人は成り行きもありこうして一緒に廊下を歩いている。

「ところで、何と呼べばいいかな」

男の声が響く。それに対し少女が体躯の関係上大きく見上げる。

唐突なその言葉の意味を解しかねたが、そういえば自分がまだ己の名も教えてないことに気付く。

「えっと……高町なのは、です」

やや気後れしながらも少女―――なのはは答える。
人見知りをせず誰にも優しく接する彼女であるが、目の前の男は色々と対象外だ。
殺し合いの実験という、剣呑な事態に巻き込まれてるのも少なからずあろう。
こういう荒事に耐性がない、ということもないがあそこまで生々しい敵意、悪意に晒されたのは初めてだった。
それに彼には暴漢から助けられた経緯だから感謝、信用するのが筋だとも理解している。
けれど彼のその奇天烈な風貌、立ち居振る舞いに対し、なのはやや引いていたのも事実であった。
―――魔法少女の服が奇天烈でないかどうかは、傍観者らの主観に依るだろう。

それに、なのはがこの男に未知の感覚を抱いてるのもまた確かだ。
家族知人友人、やむ得ない立場で敵対の立場にある人とも異なる、今まで抱いたことのない印象。
どれほど強く、芯を持とうと9年の年月しか生きていないなのはでは到底理解しえない。
「復讐」という感情を、なのはまだ感じることができなかった。

「ナノハ、か。分かった。良い名だな」

「ありがとうございます。それで、Vさん……でいいんですか?」

そんななのはの複雑な胸中を知ってか知らずか、男―――Vはなのはの名を反芻する。
名前を褒められたことは嬉しいので素直に応える。
そして当たり前だが自分よりも背丈のあるVの顔を見上げる。仮面で隠された、その表情を窺うように。

「ああ、それで構わない。名前など、今の俺にとってはさほど意味のあるものではないからな。
だがそれは本質ではないな。君は俺の名を聞くだけ為に私を呼んだのか?違うだろう。俺に何を聞きたい?」

まくしたてるようにVは言葉を吐き出す。饒舌とは異なる、螺子の外れた様な口調だった。
それを、なのはは理解してないが。
もったいぶっても、仕方がない。ここは単刀直入に言ってしまおう。

「はい。私と一緒に、私の友達を探してくれませんか?」
81仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:29:01 ID:B9o5um6d
名簿によるとここになのはが魔法を通じて友達になったフェイト・T・ハラオウン、八神はやてらはいない。
彼女らがこんな実験に巻き込まれたかったことに安堵する半面、不謹慎ながらも不安もあった。
この場で彼女が知る人は2人の友達。魔法という存在を知らぬ時に知り合い、交流を深めた2人の親友だ。
自分はまだいい。この身には天性と言われる「魔法」の才能を宿している。
自覚はないが回りはそう評している。どちらにせよ普通の人にはない力を有してるのは確かだ。
けど彼女達、アリサ・バニングスと月村すずかにはそんな力はない。なんの力もない、本当に普通の友達だ。
果たして無事だろうか。誰か頼れる人と一緒にいるだろうか。危ない人に襲われたりしないだろうか。
早く助けに行きたい。いや、欲求はもっと根源的なものだ。早く、会いたい。
けれど今の自分にその力はない。魔導の杖はこの手になく、そもそも彼女達の居場所も分からないのだ。
自分ひとりでは何も為せない。大きな無力感がなのはを襲う。

それでも、そこで高町なのはという少女は折れはしない。
1人では足りずとも、2人なら3人なら届く。仲間と、友達という繋がりの強さをなのはは知っている。
だから、今会ったばかりのこの奇妙な男と力を借りたい。
怪しげなところがないかといえば疑うものもあるが彼とはまだ会って半日すら経ってない。
それに会ったばかりの自分を助け、身を気遣ってくれた。
きっと、悪い人ではない。そう思いたい。

「成程。君と同年代の少女達もここに集められてると。いいだろう、了承した」

「あ、ありがとうございます!」

快くそれを引き受けてくれるVになのはの顔も明るくなる。
だが直後彼の放った言葉にすぐに笑顔を止めさせる。

「それで、君は何をする?」

「え?」

「俺が君の友人を捜す見返りに、君は何を差し出せる?」

「………………」

その問いに、しばし沈黙する。
交渉の駆け引きなどなのはは知らない。だから正直な思いを告げた。

「私も、戦います。あなたを、みんなを守ります。力を合わせて、みんなとここを脱出します。
 ―――その為に、力を貸して下さい」

自分には戦う力がある。小さいけど、誰かを守るために使うと決めた力を持っている。
非力でも、デバイスがなくともその思いに陰りは見えない。
誰かに任せきりではなく、自分にできることだけでも全力で挑みたい。それがなのはの決意であった。

「―――分かった。意地の悪い事を聞いてしまったな」

顔を上げるようにと、手袋に包まれた手がなのはに触れる。
9歳とは思えぬ礼儀正しさを見て、男は何を思ったか。仮面を被り、頭を下ていたなのはには窺い知れない。
実際に戦えるかではなく、彼は意志を問いたかったのだろうか。なのははVの心情をそう考えてみた。

『さあ、それでは急ごう!鐘は既に鳴らされた。時は待たない!曲が終わるまで我らは走り続けよう!』

言葉の意味はよく分からない。ただ「行こう」という意思だけは読み取れたのでそれに対し、

「……は、はい!」

強く、頷いた。
82仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:30:00 ID:B9o5um6d





その姿を捕らえた時点で、月はこの状況の解決法を計算していた。
施設群を目指し歩き始めて幾数十分、森林地帯に差し掛かり建物の輪郭が見えてきた辺りでその男は現れた。
背丈は、肩回り等要因は幾つかあったが、月明かりが顔を照らした後に、恐らくは高学生だろうと推定した。
顔が見えるまでその判断が付かなかったのは、その少年の出立ちが余りに奇妙で、年齢を図りにくい服装だったからだ。
軍服である。
ドイツ軍、更に限定すればナチスの武装親衛隊(SS)の将校服。ご丁寧に帽子付きだ。
髪が隠れるほど不覚被っておりそのお陰で判断が付かなかったのだ。

「……はっ、ガキにひょろい野郎2人か。これなら楽勝だね」

だがそれ以上に、帽子から覗かせるその表情が尋常ならざるものだったのが一番の原因かもしれない。
笑顔でいれば端正であろう―――対象は限定されるかもしれないが―――顔立ちは醜く歪んでいる。
頬は吊りあがり、目は血走っている。それは強い興奮状態にあることを示している。
恐らくは、悦楽を感じている状態の。
よく見れば帽子には正規軍のものとは思えない、髑髏があしらわれていた。軍服と帽子は同一の品ではないらしい。
つまりどう見ても、目の前の人物が危険な人物にしか月には思えてならなかった。

「さあ……今度はちゃんと怯えてくれよ、この僕の力に!」

男が叫ぶ。
同時に、彼の足元から粉塵が舞い上がった。
その意味する所を月と高遠は、認めがたいと感じつつも瞠目せざるを得ない。

(踏んだだけで……地面が砕けた!?)

そうあって欲しくないという願望と裏腹に、月の冷静な思考はその事実に目を見張る。
男の足の下は大きく陥没していた。柔らかい土の地面とはいえ常人でここまでの衝撃を発することなどできない。
孔の周囲には亀裂が生まれ、先頭にいたイカ娘の目の前で止まっている。
イカ娘は、動かない。

「あはははははっ!!良い表情じゃんか!そうだよ、それが見たかったんだよ!」

こちらの反応に満足したのか大笑いする男。
その視線と表情には優越感と、嗜虐性に満ち満ちている。
自分は強者だと、お前らは弱者だと、狩る側と狩られる側との明確な違いを見せつけて悦に入っている。
普段の月ならそんな筋違いの挑発には真っ向から格に違いを分からせるかそもそも関わらないかだが、
今回はそのどちらも選べない。正面突破という手は捨てる。
83仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:30:44 ID:B9o5um6d
(……高遠さん、イカ娘、手筈通りにいきます。危険ですがお願いします)
(了解しました。とはいえ私などにこの剣を扱えるほどの技量は持ち合わせておりませんが……)

耳打ちで高遠と「作戦」の確認をする。
ここまでの道中で月達は、襲撃された時のパターンに分けてのフォーメーションの打ち合わせしている。
今の状況は『月達の常識を越える相手が襲ってきた』パターンだ。
イカ娘という、異星人の存在が確証されてるからこそ想定できたといっていい。
この場合はイカ娘をフォワードに付ける。そしてそのサイドを高遠、月が務める陣形だ。
年端もいかない少女を一番危険なポジションに置くと言うのは良心が痛まないこともない。
だがこの3人の中で最も戦闘力のあるのがイカ娘なのだ。不本意ではあるが事実は事実として受け止めるべきだ。

これが最も確実な安全手であることは否めない。
証明といって海辺に生えていた大木を頭の触手(髪の毛でなかったことにも驚いた)で輪切りにした時は驚いたものだ。
―――デスノートを拾ったと同時に自分に憑くことになった死神・リュークを知らなければもっと驚愕していただろう。

おかげで正面切ってはある程度安全だが問題もある。イカ娘自身の知識のなさだ。
ハッキリ言ってしまって彼女はアホである。外見年齢相当と見ればそうでもなさそうだが、それ以前に人としての常識が悉く欠けている。
それは異星人である以上当然ともいえるだろう。故に思わぬ所で足元をすくわれる可能性は十分考えられる。
後方に付くのはそれを補うためもある。月達の役割は場を見極めてのイカ娘を援護することだ。
高遠の職業が奇術師―――マジシャンということも幸運であろう。
人の虚を突くことが仕事のようなものだ。搦め手に対しても防護はできている。
荷物から支給品である銃、ニューナンブM60を取りだす。
直接撃つ機会には会ってないが警察の息子でありキラ事件の対策本部のメンバーとして活動してる月には最低限の心得はある。
高遠も豪奢な黄金の剣を取りだす。相手はすぐにでも飛びかかってきそうな形相だ。
これで迎え撃つ準備は……―――

「……イカ娘?」

そこでようやく、月と高遠は気付く。
良く言えば賑やか、悪く言えば口やかましいあのイカ娘が今の今まで硬直していることに。

目の前の超人に怯えている?ただの少女ならそうだろう。
だが散々自戒してるとおりにイカ娘は人ではない。むしろ分類でいえばあちら側に属するくらいだ。
では、一体何故こうも黙り続けているのか。
84仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:32:59 ID:B9o5um6d
「……………ま、」

その時、ようやくイカ娘の口が開く。声には恐怖でなく、明らかな驚愕がある。顔もきっと驚きに満ちているのだろう。

「……何だよ。その顔は」

唯一イカ娘を正面から見る男もそれを怪訝に思ったらしい。
説明を強いるように表情を曇らせる。

「まさか……ワカメ海人、絶滅していなかったでゲソか!!」

「「「――――――――――――――――――は?」」」


その時、全員の時が止まった。


「………………ええと、イカ娘。彼とは知りあいかい?」

頭を抱えたくなるのを抑えて、いちはやく現実に復帰した月が問いかける。
……何というか、色々とタイミングが悪すぎた。

「いや、知らないゲソ。けどあの髪形は我々の一族の中で既に絶えた家系、ワカメ海人のものに違いないゲソ!
絶滅していたと聞いたゲソが、まさかこんなところで出逢えようとは……」

どうやらイカ娘は目の前の男を同族と認識しているらしい。
確かに帽子から覗くその髪のウェーブと質感は海産物の草を彷彿とさせるが、
それが真実かどうかは人の身である月と高遠には判断の付かないところだった。

「だ―――――――――」

尤も、その必要はすぐにたち消えることになったが。

「誰がワカメだよこのイカ女!!!もう許さないぞ!」

今までの嘲笑と違う、ある種屈辱から生まれた怒りの念を惜しげもなく発露するワカメ海人(仮)。
やはりというか、イカ娘の見込みはとんだ見当違いであったようだ。

「な、なにをするつもりゲソワカメ海人!?我々は同じ一族―――」

「誰が同じだ!お前なんかと一緒にすんじゃないよ!!」

今ので完全に抑制のリミッターが外れたらしい。
脇目もふらずにイカ娘へと突進してくる。
85仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:34:14 ID:B9o5um6d
「―――イカ娘君、話はあとです。今は迎撃に専念して下さい」

「た、戦うゲソか?」

「さっきも言ったろう、あれは『悪い』側の生き物だ。
イカかタコかエビかはわからないけど、このままでは僕らは彼に食べられてしまう。それは嫌だろう?」

「むむ……確かに食べられるのは嫌ゲソ。……分かったゲソ、とりあえず退治するゲソ!」

イカ娘は異種族故に善悪の観念に薄いが、その分生物としての生存本能は高い方だ。
命の危機にあったらば手を出すことに忌避はないと月は踏み、それは成功した。

「同胞を手にかけるのは気が進まないゲソがこれも生きるため……覚悟するゲソ!」

「だ・か・ら一緒にするなって言ってるだろ!
覚悟するのはそっちだ、その触手みたいな髪の毛全部引っこ抜いてやるよ!」

殺し合いなどという殺伐な状況には似つかわしくない、子供の喧嘩のような口上で戦いは幕を開ける。

その結末は、如何に―――?

【I−3/森林地帯:黎明】

【イカ娘@侵略!イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘、不明支給品1
 [思考・状況]
  0:ワカメ海人と戦う。向かうなら容赦せず、逃げるのなら追いはしない。
  1:とりあえず月と高遠に付いていく
  2:栄子、タケルがなにをしているのか気になる
[備考]
※慎二(名前は知りません)を「ワカメ海人」なるものと認識しています。勘違いですし、そもそも実在するかも不明です。

【夜神月@DEATH NOTE】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:ニューナンブM60(残弾5/5、予備段数30)
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
 [思考・状況]
  0:ワカメ海人(?)と戦う。なるべく倒したいが、自衛優先。
  1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
  2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
  3:自身の関係者との接触
  4:高遠の本心に警戒
 [備考]
 ※参戦時期は第一部。Lと共にキラ対策本部で活動している間。

【ニューナンブM60@現実】
警察官用に日本で製造された回転式拳銃。
威力は命中率はともかく、手に持ったホールド感は日本人の手にマッチしている。
86仮面の下のバラッド ◇3VRdoXFH4I 代理投下:2010/09/16(木) 21:35:07 ID:B9o5um6d

【間桐慎二@Fate/stay night】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 刺傷多数(軽)、残虐超人状態
 [装備]:ナチス武装親衛隊の将校服@現実、ドクロの徽章付き軍帽@キン肉マン、 マインゴーシュ@現実
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
 基本行動方針:超人の戦闘能力を心行くまで試す。
0:目の前の3人組をいたぶり、超人の力を再認識したい。
1:誰がワカメだこのイカ女!
2:弱い参加者から武器を奪う。
3:仮面の男(V)にいずれ復讐する。




(さて……中々に面白い状況になってきましたね)

命のかかった緊迫した場面のなか、仮面の奥でうすら笑いを浮かべる一人男。
それは錯乱からでも興奮からでもなく、彼にとっては「いつも通り」の笑みだった。
自分の手にある糸に括りつける、「人形」を値踏みする目。

男、高遠遥一は犯罪者である。
その罪状は数知れず。殺人も多く犯している。
だが彼が犯した最も多く、彼が好むのは犯罪幇助。他人の犯罪を手助けすることである。
怨恨、憎悪、相手が抱える心の闇を嗅ぎ分け、越えてはならない一線を越えさせる。
そして目的を成す為の知恵を与え、自分は傍観の立場に立ち「計画」が成就されるのを眺めるのだ。
自分のプロデュースした「芸術」を汚した「人形」は速やかに、冷徹に糸(クビ)を切る。
「地獄の傀儡師」の名の通り、高遠遥一は犯罪芸術家、知恵の実を引き換えに人の魂を刈り取る悪魔の代行人なのである。

指名手配された身分でありながらも悠々と過ごしつつ新しい人形を捜している最中、彼はこの場に連行された。
といってもそれは警察ではない。それよりも遥かに力を持ち、そして遥かにそれから遠い、「実験」を強制させる存在だ。
この事態には高遠もさすがに面喰ったものの、さりとて彼に変化はなかった。
思う事は多くあるものの、起こってしまったものは仕様がない。
現実を認識し、それに柔軟に対応できなければ指名手配の中を逃げおおせ、新たな「芸術」を作り出すことなどできない。
ここでの行動の指針は先に夜神月らと共に話した通り。だが月がそうであるように、高遠もまた胸に秘した目的というものがある。

主催の正体など見当もつかない。
だが自分が呼び出されたのが運と気まぐれによるものでないといいうならば、自分に求めるものなど、ひとつしかなかろう。
そして命じられるまでもなく、高遠もまたそのつもりだった。
高遠にとって犯罪とは遊戯であり、趣向であり、一種の矜持だ。
「芸術」とは言葉で言いつ尽くせない、根源的な自己の表現方法に他ならない。
それが出来ないのならば高遠遥一の自己に意味などない。自ら首を括る方がマシだ。
なればこそ、この異形の集う世界で高遠は自己を示す。「地獄の傀儡師」として事を為す。

今まで行ってきた犯罪で欠かせず用意した変装道具、犯罪成立の為の数々のトリックは揃えられていない。
さらには自分の存在と、その危険性を知る人物が最低3人いるとなると些か不利な環境といえる。
だが短所は長所にも成りえる。このような環境のみに限定された芸術を創造できるかもしれない。

例えば、殺し合いとう異常空間で精神を病んだ者。
もしくは、ここにいる知人友人の死を知った者。
あるいは、直接襲われ命の危機に恐怖した者。
人を凶行へと走らせる「動機」が、ここには山ほど溢れている。
予め仕組まれた環境であっても、そこから生じた感情、激情は本物だ。糸を垂らせば、かかる魚は多い。
極限状況の中で人はどれだけ善行を説き、常識を守り、仮面の下の本性を隠しきれるか。
その中で、自分はどれだけ仮面を暴き、人形を作り、芸術犯罪を成立させられるか。興味は尽きない。
とはいえ軽々と行動に移る気はない。するならば機を見て、選別を行い、しかるべき環境を整えてからだろう。
87代理の代理:2010/09/16(木) 21:50:56 ID:SPHi9mWF


(では、目の前の彼はそれに適うものかどうか……)

今まさに自分達を襲う少年を高遠に意識を向ける。敵意でなく、興味の対象として。
幾度となく心に傷を持つ人間を見つけ、犯罪者へと昇華させてきた高遠には分かる。彼もまた、闇を抱える者だ。
その要因は何なのか。それは果たして自分を満足させる程の濃度なのか。それを知りたい。
無理をするつもりはない。あくまで自分は弱者。彼やイカ娘のような怪異には為す術なく蹂躙される立場だ。
それに彼の闇の底が知れれば、自分の計画に傷を付ける恐れのあるような素材には早々に退場願う。
先は長いのだ。ある程度選り好みする機会は残ってるだろう。
それともいっそ、新たな惨劇を産み出すための舞台装置として野に放つのも悪くない。
なんなら、この手にある芸術的な造形かつ見事なこしらえの名剣を「奪われて」もいいかもしれない。

選択肢は多い。我が身可愛さに安全手を取るか、衝動に従いバクチに手を出すか。
その中で何を選び、傀儡師は何を起こすか。真相は仮面の下の素顔のみぞ知る。





【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:カリバーン@Fate/stay night
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
 [思考・状況] 今まで通りの「高遠遥一」として、芸術犯罪を行う。
  1:ワカメ海人(?)と交戦。 自分の「人形」に仕立てる価値があるかを判断。使えないようであれば……
  2:「人形」を作るのであれば人選、状況は慎重に選ぶ。

[備考]

【カリバーン@Fate/stay night】
サーヴァント・セイバーがかつて所持していた聖剣。符号は「勝利すべき黄金の剣」。
華美な装飾であしらわれており武器としての性能は現在のセイバーの宝具、エクスカリバーには劣る。
それでも、最上級の聖剣に数えられるのは疑いようがない。
鞘がない抜き身なので、持ち歩くにはちょっと危険。
88創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 21:51:48 ID:JFjwO0cW
投下乙
89代理の代理:2010/09/16(木) 21:52:15 ID:SPHi9mWF

◆◇



「……少し、大気が震えたな」

「え?」

小さな劇場を出て、夜の冷たい外気を浴びた所で、Vは口を開く。
仮面に隠された顔から発する声は不明瞭ながらも、何かの強い意思のようなものを感じる。

「先の取り逃がした暴漢かもしれん。野放しには、できんな」

夜の寒さか、忌まわしき記憶の再来か。なのはの小さな体がぶるりと震える。
先に感じた生理的な恐怖感。正直に言ってまた会いたいとは思えない。
けれど、他の誰かが同じ危険に遭うかもしれないと思えば、その恐怖にも打ち克てる。

「……私も、行きます!」

震えを抑え込みなのはも応える。
その答えを礼賛するかのように黒衣の男は黒き外套を翻す。

「―――よろしい!では向かおう。前奏(プレリュード)はまだ始まったばかりだ」

……仮面に隠された真意。それはまだ、誰にも分からない。





【I−4 劇場外/一日目 黎明】

【V@Vフォー・ヴェンデッタ】
 [属性]:悪(set)
 [状態]: 健康
 [装備]:バッタラン@バットマン(残弾多数)、レイピア@現実
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
 基本行動方針:?????
0:音のした方向へ向かう。
?:なのはの友人(アリサ、すずか)を捜すのに協力する。



【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]: 足に軽傷
 [装備]:聖祥大附属小学校制服
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(武器になりそうな物は無い)
 [思考・状況]
 基本行動方針:アリサ、すすかとの合流と、この場所からの脱出
0:音のした方向へ向かう。
1:Vと共に行動。みんなを守るためにもレイジングハートを入手したい。
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦
90代理の代理:2010/09/16(木) 21:54:21 ID:SPHi9mWF
代理投下終了です
91創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 22:02:31 ID:JFjwO0cW
フライングしてしまった。
サーセン
92創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 22:27:40 ID:B9o5um6d
代理の代理感謝します
93創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 22:57:58 ID:ktIkGzdR
代理投下乙です!

Vは何考えてるかわからなくて素敵
そしてワカメでシリアスぶち壊したと思ったら
高遠の思考で引き付けられました
94創る名無しに見る名無し:2010/09/16(木) 23:17:26 ID:lJywoZWH
つまんね
95創る名無しに見る名無し:2010/09/28(火) 16:30:04 ID:xZBcuJW2
予約が来たぞ
96創る名無しに見る名無し:2010/09/30(木) 03:50:22 ID:KGGABfbS
沢山きたなw
97創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:44:13 ID:tLOkgfo0
ロビンマスク、アリサ・バニングス、サンレッド、平坂黄泉、雨流みねね
代理投下します
98創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:45:24 ID:tLOkgfo0
ここはH-10のゴミ処理場、廃車置場。
月明かりに照らされながら、ドラム缶の上で何やら考え事をしている少女がいる。
アリサ・バニングスである。

殺し合いの会場に呼び出されただけでも不幸なのに彼女の周りは
覆面の変態紳士
覆面のチンピラ
とどめは覆面の怪人ときた。
彼女は考える。もしかしてこれは夢なのではないかと。
あたりは真っ暗で回りにいるのはあんなやつら。いつもなら暖かいベッドの上で安眠している時間だ。
そもそも両方とも“自称”正義のヒーローじゃないのか。なのにクラスの男子のようにくだらないことを言い争いしている。
だけど、アリサは知っている。時空管理局の存在や、魔法という不可思議な現象。
自分が平穏に学校に行ってるのと同時に、別のどこかでは争いがあることを同年代の子供よりは理解しているつもりだ。

「テメーがとどめ決めたんだから最後まで責任持ちやがれ!」
「君が先に攻撃をしたんだろう!」

大体あんたらヒーロー名乗ったんじゃないのか。こうしている間にもすずかはどこかで怯えているかもしれない。なのはは戦闘をしているかもしれない。
こんなところに座っていたって何にもならない。
考えたらイライラしてきた。


バンッ!!


「いい加減なのはやすずかを探しにいきたいんだけど、はやく決めてくれない?」

少女が笑顔で言った。可愛らしい顔なのに後ろから黒いオーラが見える。

「「……はい」」
99創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:46:16 ID:tLOkgfo0

二人に決めさせると埒が明かないということで、強引にアリサが決めることにした。
そして、2人組みで別れようということになって、結局サンレッドが黄泉を引き取ることにしぶしぶ納得した。

「こいつも見た目といい弱さといい、おそらくヴァンプのところの仲間だろうな。あいつを探して引き取らせてやる」
ついでに殴ってやる。こんな所につれてきやがって。折角の休日(いつも)がパーじゃねーか
「ヴァンプ? 他にも知り合いがいるのかね?」
「そういや言ってなかったか。よく俺に絡んでくるヴァンプっていう一応悪の組織の幹部もこの場にいるみたいだ。恐らくこいつもその手先だろう」

悪の組織の幹部…ヴァンプ この覆面チンピラのお兄さんも見た目と態度がアレだけど、一応正義のヒーローちゃんとやってるんだ。
何気にひどいことをアリサは考えているが口には出さなかった。

「悪魔超人ヴァンプだな。覚えておこう。私もひとつ忠告しておこう。
『悪魔将軍』には気をつけるんだ。奴は“悪魔”でもあり、“闘いの神”でもある超人だ」
そういって悪魔将軍についてのロビンマスクが知っている限りの情報を教えた。
「あーはいはい。気をつけるから。(早く行け!こいつ捨てられねーだろ!)」

「あんた、ヒーローなんだったら煙草やお酒はほどほどにしときなさいよ! あと、その人を捨てるんじゃないわよ。ヒーローなんだから」

図星を指されたサンレッド。動揺を隠す為に、こんくらいの量のビール飲んだって問題ねーよ。と話の論点をずらして誤魔化した。


その後、2,3の言葉を交わして二人に別れを告げ、別々の方向に歩みを進めだした。

「ん? テメー起きたのk――…」




◇◇◇
100創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:47:26 ID:tLOkgfo0

言い争いをしている集団をゴミにまみれた眼帯の人影が覗いていた。
テロリストにして未来日記を用いた神様の席争奪ゲームの9番目の参加者雨流みねねである。

みねねは憤慨していた。
ゴミに塗れている自分に? いいや違う。ペアを組もうといってきた男がいきなりヘマをして敵の前で気絶し手いることにだ。
これだから変態は困る。情報を得ると意気込んでいたのはどこのどいつだ。
もうあいつ殺すか? あいつ気持ち悪いしそれもいいかもしれない。

しかし12thが変態的格好でいきなり話しかけ驚いたとはいえ、あの流れるようなコンボを決めたあの覆面2人は只者では無い。
接近戦になった場合簡単にやられてしまうだろう。まぁその身体能力の違いを確認できただけでも良しとしよう。

とりあえず『正義の潜入作戦』はどうせ失敗するのが分かりきってたから、作戦変更だ。
気絶するまでは予想していなかったけれど、潜入失敗した場合は12thがどうにかして分断して各個撃破する手筈になっている。
まぁそれも失敗しても私自身は痛くも痒くも無いがな。
そして、この近辺には既にみねね様特性の爆弾トラップを張り巡らせている。12thが行動を起こし次第、爆破の準備は整っている。
おいおい。ガキが仕切ってくれたおかげで分断に成功は一応しているが、ここまで12th一切何もしてねーぞ。はぁ。

―――ヴァンプっていう悪の…

もともとこの実験が始まってからまだそんなに時間が経っていない。今集めたい情報は精々互いの人間関係ぐらいだろう。
それをここで盗み聞きできるのは非常に助かる。というか、12thに頼らなくても私一人の方がスムーズに活動できるんじゃないか?

―――『悪魔将軍』……神でもある…

悪魔将軍…こいつは神を名乗る輩か、それともデウスの様な本物の神か。どちらにしても関係無い。私は神を、神と名乗るものを――殺す。

これで大体の人間関係はわかった。あとは…

あいつらを襲う前にみねねにはどうしてもやらなければならないことがあった。
先程12thが言ったように、ここにいる全員を殺すってのは確かにきつい。
そして私の戦略上、顔が割れるのもまずい。
私は眼帯をしていて、長髪。
これだけわかりやすい特徴を持った人間が何人もいるとは思えない。
そこで人相を隠す為に彼女の最後の支給品を使うかどうかを悩んでいるのだ。
これを顔に巻くことで眼帯を隠せるだけでなく、人相もわかりにくくするというメリットはある。
しかし、これを巻くと12thに「ヤハリイエローダナ」といわれること間違いない。
あの変態の同類になるのは嫌だ。
でも、奴等に顔を見られて逃げられた場合を考えると隠した方が良いことは確かだ。
…・・・仕方ないか 




◇◇◇
101創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:48:37 ID:tLOkgfo0
サンレッドと別れて再び2人になったロビンとアリサ。
大人気なく言い争いをしてしまったロビンに対してアリサは怒っているようだ。

「まったく。正義のヒーローを名乗るのなら、くだらない言い争いはやめてよね」
「ごめんよ。お嬢ちゃんの友達もすぐに探すから」
「……まぁいいわ。それより早くなのは達を探さないと」
「お嬢ちゃんは、友達思いの優しい子だね。」

アリサは拳を握り締め、力強い顔立ちで言った。

「当たり前よ。二人は私の大親友よ! すずかは気が小さいからどこかで怖がっているはず。
なのはだってそう。魔法という戦う力があるだとか、時空管理局のエースだとかそんなの関係無いわ。
私にとってあの子は、友達の為に本気で怒って、泣いて、笑うことができるただの友達よ。はやく合流しなくちゃ。
私には会っても何も出来ないかもしれない。でも、少しは役にたってあげたい。
私にだって一緒に悩んであげることくらいはできるんだから!」

アリサは過去の自分を思い出す。あとで聞いた話だが、なのはがフェイトと初めて出会った時の話だ。あの当時私は魔法の存在を知らなかった。
なのはが何かに悩んでいるのがわかったけれど、自分にはなのはに対して怒ることしか出来なかった。すずかの様に優しく接してあげることが出来なかった。
あの時は力になれず、待っていることしか出来なかった。はやてとのクリスマス会の時私たちに全てをなのはは話してくれた。
話してくれたことは嬉しかった。話したくないなら話さなくていいと思った気持ちも嘘ではない。
だけど、やっぱり一緒に悩み、少しでも力になりたい。そう強く思った。


「正義超人だけじゃない。お嬢ちゃん達にも友情パワーがあるんだな。知っているかい? 
お嬢ちゃんの様に友情パワーが持っている仲間がいれば、どんなことも仲間と乗り越えられるんだ!」
最初見たときはパンツ一丁、マスクを被った変態だと思ったけど、この時には不覚にも格好良いと思ってしまった。
思わず赤面してしまう。

「さっ、さあ!とっとにかく先を急ぐわよ!!」
そんなことを考えた自分が少し気恥ずかしく、ロビンに顔を見られまいと小走りで行く。

「あんまり急ぐと暗い道は危ないぞ」


「平気よ。ところでどこをめざ―… 「 つ か ま え た 」




ドゴオオオォォォォン!!




何者かがアリサの腕を引っ張り、アリサは何者かに引っ張られた。地図を取り出そうとしていた為カバンの中身をぶちまけてしまいながら。
そして、二人の間に爆発が起こる。

「お嬢ちゃーーん!!」
爆煙の中から声がする。
「動くな!!お前の周りには爆弾を仕掛けてある。迂闊に動くと即ドカンだ!!」

煙が収まってくる。そこから現れたのは黄色い布を顔に巻いている謎の人物とそれに拘束され日本刀を首筋に当てられたアリサの姿だった。
102創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:48:58 ID:qq/FkC89
支援なり
103創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:49:19 ID:tLOkgfo0
◇◇◇

爆風に煽られはしたが、ダメージは無いに等しい。そもそも正義超人として、子供を人質に捕られているのに自身の体など気にしている場合ではない。
この程度の距離なら一気に詰めてアリサを救助し、敵を拘束することができる。やつが隙を見せたら一気に…
突然、ロビンの脇から2本の腕が生えてきて、ロビンの動きを封じる。
謎の腕の正体は――

「サンレッドか!? 何をするんだ!」

先程別れたはずのサンレッドだった。
ロビンが話しかけてもサンレッドは何も答えずない。無言でロビンを抑えている。
振りほどこうとするが、この男、意外にも力が強い。
正義超人の中でも強者に分類されるロビンマスクを不意を突いたとはいえ押さえつけるとはヒーローの名は伊達では無いといったところか。

「暴レナイデモラオウカ。ソシテ訂正シテモラオウ。彼ハモハヤ、サンレッドデハ無イ! ゴ12thの一人。12thレッドだ!! 
本来ハ私ガリーダーノ象徴デアルレッドナノダガ、ココマデ赤イノナラ仕方ナイ。
私ハ12thブルーニナルトシヨウ。ブルーハ常ニ冷静沈着ノヒーロー。私ニモピッタリダナ。チナミニ、アイツガ12thイエローダ」

先程襲ってきた戦闘員Bのような格好の男が後ろから出てきた。

「貴様ァ!」

ぶちまけた支給品にあった大量の紙がが、同じく支給品であるガソリンが染み込み炎がドンドン広がっていく。
あっという間にあたり一面火の海だ。

状況は急スピードで悪化していく。

人質に捕られたアリサ
爆弾を仕掛けてあるといって日本刀を振りかざす黄色い女
何故か無言で抑えてくるサンレッド
意識を取り戻した戦闘員B
燃えさかる工場地帯


「お嬢ちゃんを離すんだ!」
無駄だとわかっていながらも叫ばずにはいられない。
アリサを拘束している黄色い女が話し始める。


「その前にこっちの言うことを聞いてもらおうか。お前の持っている支給品一式全てこちらに寄越しな!」

放しなさいよだとかアリサがわめいているが一切気にしない。黙っていろとただ一言告げて刀を首筋に押し当てる。
みねねは爆弾使いのテロリストで遠距離が一番得意ではあるが、一般人相手なら近距離でも押さえつけることができるくらいの腕力はある。
年齢差も加味して考えてアリサにみねねの拘束を自力で解くことは不可能だった。

ここで逆らえばアリサの命が無い。そういわんばかりに首筋に当てている日本刀をぎらつかせている。
仕方なくロビンは持っていた自身の支給品をみねねの方に投げる。
104創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:51:30 ID:tLOkgfo0
みねねはかばんを拾い上げると続けて質問する。
「よーし。お前にはもうひとつ聞きたいことがある。“悪魔将軍”とは何者だ?お前の知っている限りのことを話すんだ」

みねねにとって神と名乗るもの全てが敵だ。それは例え殺し合いの会場だろうと同じこと。
先程会話で出てきた悪魔将軍。やつは必ず殺す。その為の情報が欲しい。
ロビンに拒否権など存在しない。これもロビンがしりうる限りの悪魔将軍の素性、技など全てを説明した。


「何故貴様が悪魔将軍を気にする?」

「お前には関係無い! と言いたいところだが冥土の土産に教えてやる。私は神を、神と名乗るもの全てが憎いのさ!
だから、悪魔将軍をこの手でぶっ殺すのさ!!」

「悪魔将軍が、悪行超人が憎いのか? 人間が悪行に手を染めなくても、我々正義超人が力になってやる! だから、考え直してお嬢ちゃんを解放するんだ!」

ロビンは考える。もしかしたらこの人物は悪行超人に何か悪さをされて、その仕返しにこのような悪行に手を染めているのではないかと。
ならば、今なら引き返せる。力になってやるということで事態が解決できるのでは無いか。

「ククク…アハハハハハハハハハハハハ。 
正義超人だかなんだか知らないが、私からしてみればお前らも一緒だよ。自分の力に酔いしれて、神や“正義”の名の下にだと声高に叫ぶ。
お前が本当に正義の使者で、困っている人を助けることがでやってみればいいさ。しかし、お前らの“正義”が正しいのならどうして世の中は理不尽な死であふれている? 
私の幼少時代は血と闘争で溢れていたよ。神や正義ってのは上っ面の世界だけ綺麗ならそれでいいのか? 
私が生きてきたところはお前の言う“正義”や神にとっても取るに足らない存在だってことか?
気にいらねぇ! 気にくわねぇ! 認めねぇ!!
だから、私は神を殺すのさ!!」

みねねは声高に叫ぶ。
顔を隠したのは身元をバレにくくする為。こんなことを話せばいくらこれから殺すとはいえメリットなんか一つも無い。
しかし、争いも知らず、平穏に暮らしてきたような少女アリサを見て、正義だと、自分がいれば世界は平和なのだと言いたげなロビンを見て
言いようの無い苛立ちを覚えて熱くなっているのかもしれない。


アリサは苛立っていた。
たしかになのはは自分の知らない世界で戦っていた。世の中に争いが耐えないことも、なのはを通じて少しは理解しているつもりだ。
でも、なのはの戦いは誰かを殺す為でも、どっかのお偉いさんの権力による争いでも無い。ましてや“神”や“正義”なんて大層な理由でもない。
彼女は、私の親友はいつだって自分の意思で、何かを“守る為”に戦ってきたのだ。
ここでこいつの言うことを黙って聞いていたら、親友が戦ってきたことを侮辱されているみたいで耐えられない。
世の中に戦っているのが全部こいつの言うとおりの利己的な争いだけじゃない。

「何が神を許さないよ! あんたが言うような自分勝手な都合で戦っている人ばかりじゃない!
私の親友は、いつも大切な何かを守る為に戦っているんだ! あんたみたいに自分は不幸だからって暴れる馬鹿と一緒にしないで!!」

日本刀を押し付けられていることは怖い。
だけど、アリサ・バニングスは叫ぶ。自分に出来ることをする為に。友の思いを伝える為に。
親友の誇りを守る為に。
105創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:53:46 ID:tLOkgfo0
「さすが夢見る女の子だ。お前の言ってることも正しいかもしれない」

だけど――

「お前の言うことだって、結局は世界の一面でしか無いんだよ。
そして、いつだってそんな理想は現実の“悪意”の前には無力だ」

首輪とは違った冷たい金属の感触がアリサの首筋に伝わりる。その冷たい感触が自分自身に食い込んでいき、今度は一気に熱を帯びる。
少女の深雪のような肌を朱色が染め上げていく。暖かい液体が体を覆う。
そこで理解する。自分の首を斬られたのだと。

みねねはロビンに向けて首から血を噴出しているアリサを投げつける。昔っから正義の味方ってやつはこれで動きを封じられる。

「アリサーーーーーー!!」

今まで以上の力でサンレッドの拘束を振りほどき、アリサを抱きかかえる。

「…………のは……すずぁ…が……んば…りな…ぃ」

あれ? いつもみたいにしゃべれないや。 
あぁ、あの時の喧嘩を止めてくれたすずかはこんな気持ちだったのかな。
誰かの大切な何かを傷つけていた弱かった自分よりずっと気持ちいい。
大切な何かを守る為に、勇気を振り絞ることは、こんなにも気持ち良いのか。
会えなかったけど、私なのはとすずかの力になることできたかな。
私がこんだけ頑張ったんだから、絶対に生き残りなさいよね。殺し合いの実験とか言ってるやつをぶっ飛ばしてあげて。
だから――なのは、すずか、私の分までがんばりなさい

必要な情報と物資の補充はできた。ここいらが引き際だな。あとは爆弾でドカンだ。
しかし、火の回りが予想より早い。このまま爆破したらこっちまでお陀仏だ。これもあのガキのぶちまけたガソリンが原因だな。チクショウ。

「12th。聞こえてるな。私は511キンダーハイムに向かう。そこで放送後に落ち合おう」

12thの聴力で無いと聞き取れないくらいの小さい声で呟きみねねは去っていった。
何故みねねは一緒に移動しなかったのか。変態の仲間と思われない為か? それもあるだろうが、一番の理由は12thについている心音爆弾だ。
これだけの火の手が回っていると他の参加者が集まってくる可能性もある。その際に戦闘になることもあるだろう。
もし12thが私の目の前で殺されたら? そしたら襲ってきた奴含めて仲良く3人で心中になる。そんなことは遠慮したい。死ぬなら勝手に死ね。
工場に仕掛けた爆弾は時限式に全て変更しておいた。日記によると誤作動することなくあと10分ちょっとで爆発が始まる。
12thが逃げ遅れるかもしれないが知ったことか。万一逃げれたとすればまた組めばいいだけだ。
どちらもメリットがある。

日記によれば先程置いていったバイクのところまでは無事にたどり着けるらしい。そしたら一気に北上しよう。

「チッ。どんだけ偉そうに言ったところで、結局甘えん坊のガキは死ぬんだよ」
誰に聞こえるわけでもないようなか細い声でみねねは呟いた。
106創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:55:08 ID:tLOkgfo0
◇◇◇



ピクピクッと12thの耳のあたりが動く。

「了解シタ女史。コレヨリ『正義ノ潜入作戦』改メ『正義ノ殲滅作戦』ヲ実行スルトシヨウ。行クゾ!12thレッド!!」

ロビンはアリサの亡骸をそっと地面に置いて振り返る。

「か弱い少女が命を落とすことが“正義”の作戦なのか? そんなもの私が認めない! 
貴様達の歪んだ“正義”など、正義超人にしてアイドル超人軍のリーダー。このロビンマスクが成敗してくれる!!」


友のために奮闘すること
誰かを守る為に戦うこと
世界を憎みつづけること
勝利こそが正しいと考えること
何が正しくて、何が悪いのかは誰にもわからない
誰だって自分が正しいと信じている
各々の信じる“正義”を胸にして、舞台を駆け回る

【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのはシリーズ 死亡確認】
【残り52人】



【G-9/工場地帯 /一日目 黎明】

【雨流みねね@未来日記】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、参戦前に左目を失明
 [装備]:日本刀、シルクスペクターのコスチューム@ウォッチメンで顔を隠しています。
 [道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、
     雨流みねねの爆弾セット(中量)@未来日記、ロビンマスクの基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [思考・状況]
 基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
        黄泉の言うとおり、少しは情報収集にも努める(?)
 1:バイクで逃走。とりあえず放送まで511キンダーハイムで黄泉を待つ。
 2:黒衣の男は敵と認識。
 3:黄泉も機を見て殺す。出来れば強者と道連れにしたい。
 4:悪魔将軍……殺してやるよ
[備考]
 ※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。
107創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:56:09 ID:tLOkgfo0

【H-10/ゴミ処理場 /一日目 黎明】

【ロビンマスク@キン肉マン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:軽い火傷
 [装備]:いつものリングコスチューム
 [道具]: 無し
 [思考・状況]
 基本行動方針:正義超人として行動する。
 1:目の前の男(12th)を倒す。
 2:サンレッドは一体どうしてしまったのだ?
 3:なのは、すずか、かよ子を探す
[備考]
 ※参戦時期は王位争奪編終了以後です。
 ※アノアロの杖が使えるかどうかは不明です。
 ※ヴァンプを悪行超人として認識しています。

【サンレッド@天体戦士サンレッド】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 健康 催眠状態
 [装備]:お手製マスク
 [道具]:基本支給品一式、マルボロ(1カートン)@現実、ジッポーのライター@現実
 エビスビール(350ml)×9@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:かよ子、ヴァンプ将軍とさっさと合流し、主催者をシメる
 1:目の前の男(ロビンマスク)を抑える
 [備考]
 ※催眠状態がどのくらいの時間で解けるかは不明です。強い衝撃を与えると解けることがあります。
 ※悪魔将軍の説明について聞き流しているのでほとんど覚えていません。

【平坂黄泉@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:頭にたんこぶ、腰に軽傷
 [装備]:変態的ヒーローコスチューム 心音爆弾@未来日記 
 [道具]:基本支給品一式、黄泉の正義日記のレプリカ@未来日記、雨流みねねの爆弾セット(微量)
 [思考・状況]
 基本行動方針:ヒーロらしく行動する
 1:正義とは勝つこと。目の前の男(ロビンマスク)を倒す
 2:倒したら511キンダーハイムに向かう。
 3:ひとまずみねねと組み、このゲームにおける『勝利』を目指す。
 [備考]
 ※みねねが仕掛けた時限爆弾に気づいていない可能性があります。
 ※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。

※工場地帯で火災が発生しました。また、10分ちょっと経つと更に爆発が起こります。
※『良い子の諸君!のガイドライン』の過去ログ百枚程度@現実 ガソリン20リットルが入ったガソリン携行缶@現実は燃え尽きました。
※その他アリサ・バニングスの基本支給品は火の中です。画鋲@現実はもしかしたら燃えずに残っているかもしれません。
108創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 20:59:03 ID:okLBZtKi
 
109創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 21:02:17 ID:tLOkgfo0
以上で代理投下を終了します
110創る名無しに見る名無し:2010/10/03(日) 21:48:06 ID:qq/FkC89
タイトルは、「それぞれの信じるモノ」 ◆EHL1KrXeAU氏 だそうです。

代理投下&投下乙です

アリサ お疲れ様。 みねねはコレでキル1か。
サンレッド…一般枠だけどあっさり催眠術にひっかかるなよw
ロビンVS12th&催眠サンレッド しかも時限爆弾の時間制限付きバトルか
どうなることか

アリサが刺殺じゃなく焼殺だったら、アリサ・バーニング…いや、なんでもない
111創る名無しに見る名無し:2010/10/07(木) 17:01:08 ID:Je80uYHi
112この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:35:27 ID:Agwh29ZN
「…………サ、サラリーマンじゃない! 刑事だ」

 松田桃太はやっとの思いで、それだけの台詞を吐き出した。
 それは別に、今の松田が言葉を喋るのに何らかの障害があるわけではない。
 ただそれを告げた相手である目前の男、空条承太郎に完全に気圧されていたからだ。
 別段、承太郎が松田を威圧しているわけではない。
 承太郎はただ静かに、松田を見下ろしているだけである。
 しかしそれだけで、承太郎からは受ける存在感は圧倒的なのだ。
 松田とて刑事。様々な犯罪者を見てきている。
 しかし承太郎の存在は、松田の経験に無い異質さを持っていた。
 それは松田が刑事としての経験を超えて、生物的な直感で感じ取ったものだ。
 承太郎は、自分には絶対に敵わない相手だと。
 しかし意識の深層の部分で感じ取っているため、松田はそれを自覚できていない。
 だから表面上では承太郎に反論できた松田だが、内実としては虚勢を張っている状態だ。
 初対面の、しかも得体の知れない男に対し、松田は身体を強張らせながらも警戒の視線を送る。

「刑事……ね。そいつは失礼したな」

 しかし承太郎はそんな松田を一瞥した後、特に気にした様子も無く横を素通りしていった。
 どうやら、危害を加えてくるつもりは無いことを察知して安堵する。
 そうなると、今度は承太郎の態度が気に障り出した。
 刑事の自分がこれだけ動揺しているにも関わらず、脅かした当の承太郎は平然としていることに
 松田は理不尽な憤りを覚える。

「お、お前は誰だ?」

 思わず口を付いて出た言葉。
 しかしそれは、我ながら要領の得ない質問だった。
 まだ動揺は完全には収まってはいないらしい。

「何者かもわからないヤツからイキナリ誰だと聞かれてもな……
まず自分から名乗るなりするのが、筋ってヤツじゃないか?」

 しかも軽くやり返される。
 一瞬ムッとするが、たしかに今のは松田の失策だった。
 とりあえずアイビーから与えられた指示を守るために、承太郎が役に立つ人間かどうか見定める必要がある。
 ここは穏当に承太郎との交渉を進めるべきだろう。

「……こ、こちらこそ失礼しました。僕は先ほども言った通り刑事の、松田桃太と言います」
「…………俺は空条承太郎だ」

 松田が自己紹介をすれば、承太郎も名前を告げる。
 どうやら印象ほど難しい相手では無いらしい。
 もっとも承太郎は相変わらず、松田にそっぽを向いて歩き続けている。

「…………何をしてるんです?」
「さっき、あんたがやっていたことだ。……ついでに、それの続きもな」
「……ぼ、僕がしていたこと?」

 承太郎の言葉が、松田にはすぐに思い当たらない。
 しかし承太郎が立ち止まった場所を見て気付いた。
113この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:37:26 ID:Agwh29ZN
 そこは先ほど松田が通り抜けた地図の境界。
 承太郎は思案顔で、境界にある空気の揺らぎを観察している。

(……そうか、この人も地図の端がどうなってるのか確かめに来たのか。
…………な、何だ? 今、あいつの顔から何か出てこなかったか!?)

 松田は地図の外を見続ける承太郎の顔から、もう1つ『別の顔』が浮かんだのが見える。
 慌てて目を凝らすが、その時にはもう見えなくなっていた。

(…………気のせい……だよな……)

 とりあえず自分の見間違いであると、結論付ける。
 だが承太郎に対する、底知れない畏怖の念は収まらない。
 大体、ただの一般人にしてはあまりにも落ち着きすぎている。
 刑事である自分はこれだけ承太郎を畏れているのに
 承太郎の方は、初対面の松田をほとんど意に介していないのはどういうことだ。
 地図の端を調べに来たのだから、殺し合いの現状を理解できているのだろうが
 その判断力と冷静さが、逆に不審に思えた。

 空条承太郎。
 この得体の知れない男を、アイビーに引き合わせても良いものか?





 空条承太郎がこの殺し合いの中で基本的な方針としているのは、許せぬ『悪』をブチのめすこと。
 当然、その『悪』の中には、この殺し合いを仕組んだ主催者も含まれている。
 そして主催者の思惑通り殺し合いを完遂するつもりなど毛頭ない。
 そうした所で、主催者が残った者を生きて帰すと言う保証も無いのだ。
 ならばどうするか?
 それは殺し合いの枠組みを打ち破る。
 つまりそこから脱出、もしくは殺し合いそのものを破壊することだ。

 そのために承太郎がまず行ったこと、それは首輪の回収。
 主催者が参加者を殺し合いに縛っている最も直接的な要因は、首輪である。
 この首輪を外すことが、殺し合いを打ち破る必要条件であることは間違いない。
 そのためにはまず首輪を解析して、解除方法を知る必要がある。
 しかしそこで、生きた参加者の首輪を使うことはできない。
 迂闊に分解することは爆発の危険が伴うからだ。
 首輪の解析をするには、すでに生きた参加者には巻かれていない首輪を用意する必要がある。
 だから承太郎は511キンダーハイムにあった死体から、相沢栄子と書かれた首輪を回収した。
 もっとも、いかに無類の精密動作性を誇るスタンド『スタープラチナ』を持つ承太郎と言えど
 今すぐに自分で、貴重な首輪を分解して解析するような真似はできない。
 例えば工学的な知識と技術を持つ、承太郎以上に首輪の解析に通じそうな者や
 分解せずとも首輪の内部が分かる、ジョセフ・ジョースターのような能力を持つ者が居ないとも限らない。
 そもそも首輪の内部構造も、承太郎が常識的にイメージする科学的な機械である保証すら無いのだ。
 破損部分から見えた首輪の内部は機械のようだったが、それだけでは全体の判断は不可能。
 首輪に関しては更に情報を集めてから、慎重に当たらなければならない。
 だから承太郎は一旦、首輪のことは後回しにして次の目的に向かう。
114この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:38:22 ID:Agwh29ZN
 511キンダーハイムを出た承太郎が、すぐに向かった方向。それは東。
 そこは地図上で、東端が近いからである。
 地図の端と外側を確認するために。
 境界線はどうなっているのか?
 そこから外側へ出られるのか?
 監視の装置や人員などは存在するのか?
 地図の外は見える形であるのか?
 それは普通に景色が続いているのか?
 全く地形が変わっているのか?
 さすがに、外に出ることは不可能だろうが
 それらを調べることは即ち、自分たちの居る地図上がどんな場所かを知ることに繋がる。
 それは後々、殺し合いの枠組みを打ち破るための貴重な情報になるだろう。

 辿り着いた地図の東端、そこには先客が居た。
 まだ若いサラリーマン風の男――松田桃太が、承太郎と同じく地図上の境界を調べていたらしい。
 承太郎の松田に対する第一印象は“やかましく落ち着きの無い男”だ。
 それでも一応、貴重な情報源であることは間違いない。
 危険は無さそうだが油断は出来ないので、とりあえず声を掛けて様子を窺う。
 無論、最低限の警戒は怠らない。松田が少しでも妙な素振りを見せたら、スタープラチナで攻撃できる用意はある。
 しかし松田は、予想以上の怯えを見せた。
 こんな状況では仕方ないのかもしれないが、承太郎としてはやり難い。
 本人が言うには刑事だそうだが、それならもう少し落ち着いたらどうなのか。
 子供の頃から見てきた刑事コロンボは、見た目はだらしなかったが
 何があっても取り乱したりはしなかった。刑事とはそうあるべきだろう。
 宥めてやろうかとも思ったが、面倒臭いのと柄では無いとの判断から止める。
 本人の言葉を借りれば、うっとーしいことは嫌いなのだ。
 そしてまず、松田を無視して地図の東端を調べることにする。
 そうしたら案の定、ある程度落ち着きを取り戻した松田の方から話し掛けて来た。
 とりあえず適当に返事をしながら、先に地図外の確認をする。松田との情報交換は後回しだ。
 肉眼とスタンドの両方で地図の外を見る。

 地図の内外の境界線上と思しき面には、空気が厚くなって層を為しているような揺らぎがある。
 そして向こう側だが、どうやら現在位置の山地がそのまま続いているようだ。
 問題は空気の層のせいで、スタープラチナの視力でも遠くが見えないことか。
 承太郎は一旦スタープラチナを引っ込める。
 そして空気の層に向けて一歩。右脚から踏み出した。
 空気の層の外に右脚を出す。首輪に反応は無い。
 腕も出す。首輪に反応は無い。
 顔から身体ごと空気の層に当たる。首輪に反応は無い。
 身体が首輪ごと空気の層を抜ける。まだ首輪に反応は無い。
 最後に残った左脚が空気の層を抜ける。首輪からブザーのようなものが鳴った。
115この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:39:33 ID:Agwh29ZN
 承太郎は手だけを地図内に戻す。ブザー音が鳴り止む。
 今度は背負っていたバックパックを降ろし、それだけを地図内に戻す。ブザーが鳴り出した。
 どうやら身体の一部だけでも残っていれば、首輪は反応しないらしい。
 半身になって足先だけを地図内に戻し、スタープラチナで地図外の景色を一望。
 しかしスタープラチナの超視覚で見通しても、地平線まで山地が続いているだけだった。
 監視装置どころか人工物すら見当たらない、無人の荒野。
 どれだけ目を凝らしても、主催者に繋がるような物は無かった

(どれだけ見渡しても、代わり映えしない景色しかねーな。
そうなると、ちと引っかかることがある。…………ここは地球上のどこだ?)

 地図を信じれば、会場には巨大なコロッセオやピラミッドなどの建造物が存在する。
 地図の信憑性は極めて高い。実際、511キンダーハイムがあったのだ。
 しかしそうなると、ここはドイツでは無いと言う結論になる。
 コロッセオやらピラミッドやらは、当然ドイツには存在しないし
 そんな巨大建築を盛り込んだ市街を作れる土地と、それに近い広大な山地もドイツの国土には無いものだ。
 いや、そもそも地球上にそんなことが可能な土地は存在するだろうか?
 元々は地図の通りの場所など、世界中のどこにも存在しない。つまり一から作る必要があった。
 しかしこれだけの規模の会場を作ろうとすれば莫大な費用、人員、時間が必要になる。
 それだけのことをしかも、秘密裏に用意しなくてはならない。
 こんな大それた真似、世界の誰が何処で可能なのか?
 承太郎の知る限り、それは不可能。
 しかし現に殺し合いは成立している。

 ならばここは『地球上では無いどこか』と言うことになる。

 可能性の例を上げるなら
 会場は宇宙空間に作られている。
 空間を湾曲するなどしている。
 ここは別の次元にある。
 仮想現実の世界に居る。
 などが考えられるだろう。

(これだけの大それた真似は、複数のスタンド能力を組み合わせても容易ではない。
しかし主催者には、それだけの真似が可能な力を持っていると言うことだ……。
俺たちを閉じ込める、1つの“世界”を構築できるほどのな…………)

 これまでの考察で判明したこと、それは承太郎の想像をすら絶する主催者の能力。
 そして首輪を外しても、主催者に反抗すれば
 元の世界に戻れる保証どころか、生存出来得る可能性すら低いことを示す。
 主催者の有する戦力は、この世界を構築するだけの能力に比例して高い物だと推測されるし
 これだけ徹底した真似をする主催者だ、叛意を持つ参加者に対する対応も甘い物では無いだろう。
 冷静に検討しても、主催者に反抗したところで勝算はかなり低い。ほとんど皆無だと言って良い。
 素直に殺し合いの完遂を目指す方が、はるかに成功率は高いはずだ。

(やれやれ…………これだけの真似が出来る力のあるヤツのやることが
便所のネズミもゲロをはくような、趣味の悪い殺し合いとはな。
ま、こうなったら今さら趣味の悪さは気にする必要はないか…………
もっと趣味が悪くなるんだからな……主催者の顔面の形の方が)

 主催者の力を悟り、承太郎の内から湧き上がる闘争心。
 それは激しい怒りを内包しながら、怒りだけには尽きない熱。
 承太郎自身にとっても、それは懐かしい感情だった。
 そう、今や名実共に最強のスタンド使いである承太郎には久しい感覚。
116この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:40:43 ID:Agwh29ZN
 それは承太郎にとって、10年前の記憶。DIOとの戦い。
 多くのスタンド使いを統べるDIOの能力、それは『時を止める』と言う強力無比な物だった。
 まともに戦っては絶対に勝てない相手。
 事実、花京院やジョセフなどの仲間は次々と倒されていった。
 しかし承太郎は、DIOに対し真っ向から立ち向かっていった。
 仲間がやられたと言う怒りも当然存在する。
 だが何より承太郎にとっては、強大な力を笠に着るDIOに対しては絶対に引き下がれい。
 学生だった当時の承太郎は、いわゆる不良のレッテルをはられていた。
 大きく前を開いた長ランを着て喧嘩を繰り返す様は、まるで周囲に己が無頼であると主張しているようだった。
 それは別段、承太郎が不良を気取りたかったわけではない。
 承太郎は既存の権威や常識に、無条件におもねることを良しとしない性格だ。
 むしろ権力や暴力で不当に人を抑えつけようとする者には、絶対に屈服しない
 反骨の気性の持ち主なのだ。
 だから承太郎は、絶対に弱者を虐げるような真似はしない。
 DIOとの戦いの時もそう。
 自ら“世界を支配する能力”を持つと称するほどの相手に立ち向かっていった時
 承太郎は自分のスタンド、スタープラチナの真の能力に覚醒できた。
 云わば承太郎は、自分よりはっきり強大な敵に立ち向かう時にこそ、その真価を発揮できる。
 しかし、それから10年を経て多少は丸くなり、DIOを倒して最強のスタンド使いとなった承太郎には
 もはや反逆するような相手も居なくなって久しかった。
 しかし今は違う。強大な力で自分たちを蹂躙しようとする、主催者が存在する。
 巨大な会場に閉じ込め、首輪で自分たちを縛る、未知数の主催者。
 だからこそ承太郎にとっては、絶対に屈服できない相手。
 承太郎に、かつて無い闘志が沸きあがる。

(俺が思うたしかなことは主催者! てめーのつらを見た瞬間、俺は多分……プッツンするだろうということだけだぜ。
てめーがどこの誰でどんな能力を持っていようと、『スタープラチナ』をブチかますだけだ)

 外を確認した後しばらく思考に浸っていた承太郎だが、それを一旦終えた。
 もっとも、本人にとっては長い思考も実際は数秒の物だったが。
 一通りの確認したいことは確かめ終えた承太郎は、最後の実験に移る。
 自身のスタンド『スタープラチナ』の全身を発現させたまま、地図内に戻る。
 しかしスタープラチナは地図外に置いたままだ。
 それでも首輪に反応は無い。
 どうやら本体が地図内に居る限り、スタンドだけを外に出しても問題は無いらしい。
 もっとも射程の短いスタープラチナには、ほとんど意味の無い話ではあるが。

「…………な、な」

 不意に震える声が聞こえてきた。
 承太郎はそう言えばこいつが居たなと、どこか他人事のように思い
 声の主、松田の方を見やった。
 松田は大きく口を開けて、身体を微かに震わせている。

「な……なんなんだ、そいつは!!?」
「!? ……見えているのか、スタンドが?」

 松田は明らかにスタープラチナを見ている。
 スタンドが見えるのはスタンド使いだけ。
 つまり松田はスタンド使いと言うことになるはずだ。

「スタンド? やっぱりそいつは人間じゃないんだな!?」
(…………だが、こいつのこの態度は妙に引っ掛かるぜ。
こいつはまるで『スタンドを知らない』様子だ。演技とも思えねぇ……)

 スタンドが見えていながら、スタンドを知らない。
 可能性として考えられるのは2つ。
117この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:42:36 ID:Agwh29ZN
 1つは無意識でのスタンド使い。
 スタンド使いでありながら、自分のスタンドの存在を認識していないタイプ。
 そういったスタンド使いも、稀にだが存在はする。
 しかし殺し合いの中で偶々出会った者が、そんな稀な人間だと考えるより
 2つ目の可能性の方が高いだろう。
 それを確かめるため、承太郎はスタープラチナを動かす。
 スタープラチナは、足下に有る石を拾った。

(石に触れたな。……俺は『石に触ろうとしなかった』にも関わらずだ)

 スタンドの特徴に『任意で物体を透過できる』と言うものがある。
 それはスタンド使いの実感に沿えば、『任意で物体に接触できる』と言い換えた方が近い。
 つまりスタンドは、自由に物をすり抜けたり触ったりするすることができるのだ。
 だから『スタンド使いは、同じスタンド使いにしか倒せない』などと言われる
 しかし今スタープラチナは、承太郎がすり抜けようとした石に触れた。
 先ほど触れた2つ目の可能性だと検証された。
 即ち『スタンドは制限を受けている』。
 それによってスタンドは完全に可視化された上、物体の透過も不可能にされているのだろう。
 とりあえず驚き戸惑っている松田――本当に肝の据わらない刑事だ――に、事情を説明することにした。
 見られた以上は、スタープラチナを隠す意味は無い。

「こいつは『スタンド』と言って、俺の精神のヴィジョンが具現化した物だ」
「…………精神の……ヴィジョン?」
「悪いがこれで納得しな。俺はうっとーしい説明は苦手でな」

 そう言ったが承太郎はもう少し詳しく説明できる知識もあるし、話を纏めるのも苦手では無い。
 ただ、そう言う事柄が面倒な性分であるだけだ。
 松田は納得したのかしてないのかも曖昧な表情で、何やら思案しているらしい。
 しかし急に顔をほころばせて、承太郎に詰め寄ってきた。

「そのスタンドを持っているってことは、……人より優れた力を持っているってことじゃないか!?」
「……それがどうかしたか?」
「お願いだ! アイビーに……アイビーに会いに行ってくれ」
「……アイビー?」

 まるで子供のように目を輝かして、意味の分からないことを言う松田。
 今度は承太郎が、それに困惑する番だった。





 松田は当初、承太郎を不審に思っていたが
 承太郎が特殊な能力を持っていると知り、その沈着さに合点が入った。
 要するに常人には無い能力を持っているから、生き残る自信があったのだ。
118この世界に反逆を開始せよ ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:43:27 ID:Agwh29ZN
 そして承太郎と言う人物を観察している内に、感じ取れたこともある。
 1つは承太郎が、有事に対してある程度の経験と心得があること。
 そしてもう1つは、承太郎が地図の外に踏み込んだ時の眼光を見て直感した。
 それはキラ事件班の夜神総一郎局長やLに見たことのある光。
 承太郎から、強い正義感の光を見て取れた。
 沈着冷静で、特殊な能力を持ち、正義感が強い。
 承太郎こそまさに、アイビーの言っていた『役立つ人間』だった。

(ああアイビー、愛しのアイビー。こいつを連れて行ったら、きっと喜んでくれるよね……)

 松田は意気込む。
 承太郎を必ず、アイビーの下まで連れて行こうと。

 松田の見解は正しい。
 空条承太郎はたしかに、『役立つ人間』ではあるのだろう。
 だが松田はある誤解をしている。
 空条承太郎は決して、松田やアイビーに従順な人間では無いことを。
 しかし例えそれを知っていても、松田は今と同じことをせざるを得なかったであろう。
 アイビーへの忠誠と愛ゆえに。
 松田は自身の命令を忠実に守り、伏せの態勢を維持している巴も忘れ
 承太郎をポイズン・アイビーの元へ行かせるための説得にはいった。

【D-10/東端の山地:黎明】

【松田桃太@DEATH NOTE】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、アイビーのフェロモンにより魅了 (?)
 [装備]:背広と革靴
 [道具]:基本支給品一式、ジョーカーベノムガス噴霧器@バットマン、巴の笛@MW、松田桃太の遺言書
 [思考・状況]
 基本行動方針: 謎を解き、実験を辞めさせ、犯人を捕まえる。
 1:承太郎を説得して、アイビーの元へ行かせる。
 2:アイビーに従い、ゴッサムシティを目指す。
 3:アイビーに従い、役に立つ人物(L、月、バットマンなど)を集める。
 4:アイビーに従い、子ども達を助け、或いはアイビーの元へ連れて行く。
 5:アイビーの忠告に従い、ジョーカーに注意!
 [備考] おそらく、月がキラの捜査に加わってから、監禁されていた時期を除く、ヨツバキラとの対決時期までの何れかより参戦。
※松田桃太の遺言書
刑事としての習慣か、つい書いてしまった遺言書。
メモ用紙に短い定型文とL、夜神月・粧裕、そしてキラについて彼が知ることをだいたいまとめた手紙。
情報として役立つかはそれを読む人物による。

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康 怒り
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品、不明支給品1〜3、511キンダーハイムの資料、コルト・ニューサービス@バットマン、首輪(相沢栄子)
 [方針/目的]
  基本方針:許せぬ「悪」をブチのめす
  1:なんだこいつは?
  2:仗助を見つけて合流する
  3:吉良吉影、DIOは見つけ次第殺す
  4:金髪の少女を警戒
 [備考]
  参戦時期は原作四部、少なくとも吉良吉影が殺人鬼だと知った以降。
119 ◆KKid85tGwY :2010/10/07(木) 22:45:10 ID:Agwh29ZN
投下完了しました。
事前の投下宣言を忘れて、申し訳ありません。
問題点などがあれば、指摘をお願いします。
120創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 22:36:21 ID:2wxnh/3C
テスト
121創る名無しに見る名無し:2010/10/16(土) 22:37:46 ID:2wxnh/3C
結城美知夫、DIO、杳馬

代理投下します
 DaBaDa DuDulu DaDu... PaPaPi La DuLaDu...
 奇妙な旋律が、その建物の中で聞こえている。
 意味を成さぬ、音の羅列だが、それはある種の物憂げな、それでいて奇妙なおかしみをも伴う旋律だった。
 杳馬は、これが何かを知らぬ。
 知らぬが、今の沸き上がる高揚感を微かに押さえてくれる様で、妙に心地よい。
 誰が唄ったかも分からぬスキャットを流しながら、来るべき時を待っている。
 その時間が来たときに、この喜びをどれほど押さえられるか、彼自身分からなかった。 

◆◆◆

 結論から言えば、ピラミッドに行くのは後回しになった。
 後回し、と言ってもほんの数時間のつもりで、今はオアシス近くの広い館にいる。
 エジプト様式の建築は広々としていて、地下室付きの3階建て。なかなかの物件だ。
「ふうむ。悪くないな。
 これなら、別荘にしてもいいくらいだ」
 そう結城が感想を述べるが、どこまで本気かなど誰にも分からない。
 当初の目的だったピラミッドを後回しにしたのは、まだ空が明け切っていないからだ。
 砂漠地帯に足を踏み入れて、まず気がついたのは想像以上に寒い、という事だ。
 実際に熱帯の砂漠では、昼間は40度を超えることがあっても、一転夜になると恐ろしく寒くなると聞く。
 もちろん、ここは本当の砂漠ではない。結城はそう思う。それでも、かなりの広さのこの砂地が、夜間に昼間の熱の多くを失っていること自体は確かなようだ。
 美雪の変装を解いた結城は、既に元々着ていた部屋着に戻っている。その姿である程度歩き出してから、ずいぶん身体が冷えているのに気がつき、身震いをした。
 これならば、ゴードン達の居た館で着替えを調達してくれば良かったと思ったところで、あのオアシスの近辺には、地図上家がいくらかあったはず、と思い出したのだ。
 とはいえ、もう一つの理由の方が、結城にとっては大きい。
 暗い、のだ。
 ピラミッドを目指した切欠は、勿論支給品の中にあった鍵とメモ。そこに乗り物が用意してあるという事からだ。
 しかし既に結城の中では、ただ単純に「ピラミッドを見てみたい」という事の方が大きい。
 となると、遠目に見てもただの黒いシルエットでしかないこの時間帯に行っても、うまみが少ない。
 見るならば、日の光の下で、だ。
 この寒さをのこのこ歩いていって、震えながら夜明けを待つ、なんてのはまっぴらごめんだ。
 だとしたら、それまでを他のことに使うか、身体を温めて休んだ方がよい。
 そこで見つけたのが、この区域で一際大きな館だった。  
 規模としては、先程の洋館よりは幾分小さい。
 それでも一般的な日本人の感覚からすれば、やはりこれは「お屋敷」だった。
 エジプト風の丸い尖塔や、白い壁の様子も、エキゾチックで洒落ている。
 一つ奇妙なのは、その門扉が鋼鉄製でかなり厳重だという点だ。
 まるで、何者たりともこの敷地内に侵入することまかりならん、とでも言うように、威圧的で重厚だ。その厚さ、20pはあるかもしれない。
 となると、俄然好奇心がそそられる。
 入るなと言われれば入りたくなるし、ダメだと言われればやりたくなるのが人情というもの。特に結城はその傾向が強い。
 押してみる。確かに硬く重い門であったが、問題なく開く。やや拍子抜けしたものの、これは中に住人が居ないという事の証左であろう。
 今更ながら、この「実験場」とやらには、集められた者達以外誰も居ないのだと思い知らされる。
 邸内もやはり静まりかえり、人はおろか生命の気配がない。
 静寂。
 世界に自分一人しか居ないかの如き、街では決して感じられぬほどの静寂である。
 かつて、これほどまでの静寂を感じたことはあるだろうか?
 沖の真船島でのときすら、隣には賀来と言う生命が在った。
 珍しく、結城の心に怖気が走るが、それでも躊躇無く邸内を探し回り、3階の尖塔部に、それを見つけた。
「これはこれは…」
 緊張に汗ばみながらも、にやり、と笑みを浮かべる。
 これは、例の主催者の趣向か、はたまたこの館の元の持ち主によるものか。
 先程の門扉よりも、さらに頑丈な、鋼鉄製の棺桶。
 黒い外見には意匠が施され、内側は更に真っ赤なビロードを敷き詰めているそれは、棺桶の形をしたベッドの様だ。
「まるで映画に出てくる、吸血鬼ドラキュラの棺桶だな」
 しかも、その頑丈さたるや、個人用核シェルターとでも言うかの如く、だ。
「ふふ、この中にこもっていれば、100年くらい軽く生き延びられそうじゃないか」
 勿論、食事や排泄、呼吸などの問題さえクリアできれば、だが。
 とはいえそれは困ったものだろう。手帳と共に付いていた小さなペンライトで照らしつつ眺めても、外からも内からも鍵が掛けられぬよう、それらしき場所が無い。中に閉じこもったところで、分厚い蓋を持ち上げるそれなりの力さえあれば、簡単に開けられてしまうだろう。
 逆に言えば、中に入っても鍵を閉めて閉じこめられる事はない、という事でもある。
 結城はそこで、一息つこうと考える。
 せっかくのこの洒落た趣向には、やはりのってやるべきだろうというわけだ。
 地下階のワインセラーからは、グラスとワインを失敬してきているし、味気はないが支給された食料もある。
 棺桶の縁に座りくつろいで、グラスのワインを一啜り。

480 :混沌の落とし子たちに捧ぐ僕からの鎮魂歌 ◆JR/R2C5uDs:2010/10/16(土) 17:12:59 ID:/Mva6zXM
 血のように赤ワインを飲みつつ、与えられた乾パンとジャーキーをつまみ、今日の見事な働きを思い返す。
 まさに、人の姿をした吸血鬼とでも呼ぶに相応しい己の所業を。
 そうして、30分ほどゆったりとした時間を過ごしてから、結城は棺桶の中に入って軽く目を閉じる。
 確か早朝、6時には何か知らせがあると言っていたはずだから、休むと言っても精々後数時間も無い。
 それでも、結城はしばし身体を休め、まどろみに心委ねる。
 うつらうつらとしたまどろみの中、結城の切れ切れな意識の中に思い返された言葉が、後になって結城の心に微かな揺らぎをもたらすのだが、今はその時間ではない。
「…そういえば、3人殺した時点で、何かボーナスがあるとか書いてあったな…」 
 結城は既に二人を殺している。
 つまり、後一人でその権利が得られる。
 異なる歴史を持つ世界を越えた力を持つ者がもたらすボーナス、その者が叶えてくれる願いとは、どれほどのものなのだろうか。
 寝過ごすことを心配するまでもなく、結城はあとさらに30分ほどして、急激な頭痛と嘔吐感により問答無用で意識を引き戻されるのだ。
 結城自身が覚悟し、それでも悩ませ続ける頭痛。
 殺人兵器、毒ガスの"MW"によってもたらされた後遺症。決定的な、確定的な、死の予兆。
 異なる歴史を持つ世界を越えた力を持つ者にとって、それは決定的、確定的なものなのだろうか?
 その答えを知れるのは、結城が更に1人の命を手に掛けてからだろう。

◆◆◆

 その、かつての館の主はというと、今は真っ暗な汚れた通路を歩いている。
 通路、というより、そもそもそこは本来人が移動する事を主目的とした場所ではないのだが、今はその為の場所として機能している。
 下水道、である。
 人間を辞め、そして人間を越えたDIOにも、その吸血鬼という性質から来る弱点が一つだけ在る。太陽光、或いはそれと同じ波長を持つ波紋エネルギーだ。
 それを浴びた途端、驚異的再生力も何も無く、塵と化し、或いは熔けて死んでしまうのだ。
 だから、夜が明ける前に、日の出ている時間のねぐらを確保することは、DIOにとって必須事項だと言える。
 カイロに居たときは、一つの頑丈な館に閉じこもって生活をし、昼の間は手下達にガードをさせていた。
 しかし今は、館もなく手下も居ない。
 先程出会った東洋人の少年に誘いを掛けたのも、巧くすれば昼間の護衛に使えるかも知れないという理由があったからだ。
 言葉で心の隙をついて、或いは肉の芽を植え込み洗脳してしまうのも手だったろう。
 しかし邪魔が入り失敗した以上、先にねぐらの確保をしておくのが賢明だ。
 コロッセオ周りの街路を歩き回り思案した結果、マンホールを見つけた。
 これは、なかなか良い。
 ただの家では、窓一つ開けただけで日光に晒される。
 まして空条承太郎や、先程の仮面ライダーの様な輩もいるのだ。
 寝込みをそんなところで襲われて、建物ごと破壊されたら溜まったものではない。
 下水道なら、地下である。そうそう簡単に壊せない。或いは壊されても、移動して逃げる先がある。
 また、もしかしたら、地下を移動することで、この地図にある様々な施設へと移動することも出来るかも知れない。
 ここが本当の街であれば、必ず繋がっているはずだし、おそらくはそうではないとしても(コロッセオとピラミッドがある街など聞いたこともない)、
 わざわざ下水道を設置としているのだから、それは十分に考えられる可能性だ。
 だとしたら、DIOが今すべきことは、誰よりもこの下水道網の構造を熟知しておくことだ。
 何れはこの下水道の利便性に気付く者が現れるかも知れない。
 また、夜間になっても又、この下水道網を利用すれば、他の者達にとっては正に神出鬼没の様に振る舞える。
 みっともなく逃げ道を探す獲物を出し抜いて先回りする、なんてのも、それはそれで痛快じゃないか。
 DIOは一人ほくそ笑む。
 勿論、その自分の館の常なる寝床の中で、別の男がまどろんでいることなどつゆとも知らずに。

◆◆◆

『現代のマリー・セレスト号!? 洋上で忽然と消えたトレジャーハンター達の謎』
 今見ていたビデオの見出しである。
 大西洋上で沈没船の宝探しをしていたトレジャーハンター達。
 しかし彼ら乗組員が忽然と姿を消したという謎の事件…そこにはまるで海底から引き上げられたばかりと思われる、頑丈な鋼鉄製の棺桶が残されていた。
 このテレビ局(たしか、建物の入り口辺りに"さくらテレビ"と日本語で書かれていた気がする)の建物を訪れ、
 18世紀の人間でありながら『放送システム』について直感的な理解を得た後、杳馬はさらに好奇心のまま様々な部屋の機械を弄り、また部屋を漁っていた。
 その中の一室、「ビデオライブラリー」と記された部屋から持ってきた大量の小さな箱…杳馬の感覚からすると、紙の使われていない本のようなもの、という理解だ。
 ただしこの本は、別の大きな箱へと入れねば中身が分からず、その中身は文字ではなく、さらに別の箱に映像と音を映し出すという仕組みだ。
 杳馬からすればなんとも手間の掛かるもの。
 が、彼にとって驚くべきはそれらのどの場面でも、小宇宙のような驚異的なパワーが一切使われない、という点にある。
 そこで起きていること自体はさして驚きではない。それを起こす過程にこそ、脅威がある。
 一番小さな箱に、目で見たものや聞いたことを記録する。それを別の箱に入れることで、さらに大きな箱に映し出す。
 水面や水晶球に映像を映し出す、というのは知っている。幻覚を他者に見せる、のも分かる。しかし、それらはそれを出来る能力、力があって始めて成せる技だ。
 それらの能力や力が一切働いておらずとも、或いはその原理を知らずとも、それと同等かそれ以上のことが出来る。
 勿論実際には、電気や磁気などのエネルギーが存在し使われてはいるが、しかしそれら自然界に存在するエネルギーと、
 杳馬の考えている小宇宙のような常ならざるパワーは別のものである。少なくとも杳馬の認識においては。
 放送、といい、杳馬にとってこの施設にあるテクノロジーは、つまりはそういう事だ。
 ビデオテープをビデオデッキに差し込んで、モニターでその内容を視聴する、というのは、彼にとってそういう意味を持つ。
 言い替えれば、だ。
 小宇宙を持たずとも、小宇宙を持たねば出来ぬ事を実現する様な装置や仕組みが、
 この会場の何処かに、或いは誰かのバッグの中に入っているかもしれない、という事でもある。
「…健気だねぇ」
 しかし、そういう脅威を目の当たりにしても、基本的な感想は、こうだ。
 人は猛獣の如き牙も爪も持たぬ。だから剣を発明した。
 人は夜の月明かりだけで周りを見渡せぬ。だから火を使いこなし灯火とした。
 虎や獅子に、それらは要らぬ。
 己の牙があり、爪があり、眼があるからだ。
 杳馬はその健気を哀れむだろうか?
 悪魔将軍であれば、それら人の健気を哀れむ。哀れんで後、それらを一顧だにせず蹂躙するだろう。
 あるいは、グロンギの王、ン・ダグバ・ゼバもそうかもしれない。
 しかし杳馬の考えは、違う。
 もとより、杳馬とてただの人である。健気に剣術の研鑽を積み重ねていた、ただの人なのだ。
 ただ単に、人として破格であったというだけだ。
 DIOであればどうか? 人でありながら、人を辞め、人を超越したDIOであれば?
 DIOも、人の健気を哀れみ、嗤うだろう。その決して埋められぬ彼我の差こそ、DIOの望んで得たものなのだから。
 杳馬にも、それらの気持ちが微塵もないわけでもない。
 しかしそれ以上に思うのは、その可能性の中にある、混沌である。
 ただの人が、人を越えたものの力に近づこうとする健気から生まれる、新たな混沌。未知なる技。
 それが、杳馬にとってどれほどの面白さをもたらしてくれるか。
 そのことである。

 今自分の居る場が、かつて経験したあらゆるものと異なる場である事を、杳馬は非常に正確に理解していた。
 それは、息子と同じ名を持つDr.テンマと出会ったときから感じていた違和感でもあり、
 街中の風景やこの設備を体験してからの実感でもあり、さらにはビデオテープの内容を見て得た確信でもある。

『中田栄角、緊急入院で国会紛糾!? 毒ガスMWの真相は―――』
『ドイツ連続中年夫婦殺人事件、その秘められた犯人像とは?』
『御目方教本部にて集団自殺』
『ヴォイス・オブ・フェイト』
『超人オリンピック優勝パレード』
『ミレニアム―――エイドリアン・ヴェイトの新たなブランド戦略』
『ハーレイ&アイビー、新作を企画中?』
『緊急特番・貴方はキラを支持しますか?』
 等々…。
 
 様々な情報、様々な映像。
 立て続けの情報の洪水だったが、これらを深夜から空の白み始めるこの時間まで、ぶっ通しで見続けている。
 見た限り、それらに、名簿にあった参加者達が直接語られているもの、映し出されているものはないようだった。或いはあっても、そうとは把握できなかった。
 しかし分かることはある。
 まず、自分にこれらの中で語られ、或いは描かれている言葉、言語が、難なく理解できているという事実もその一つだ。
 それを可能にするだけの力が、ここに自分達を呼び寄せた者にある。
 そして、これらの個々の情報が全体を描き出すときにもたらす歪さ、噛み合わなさ。
 一つ一つの真偽は確認できないが、これらの映像を見た者 (誰か個人の直接的な視覚情報ではないことは薄々分かっているが、
 かといって流石に、テロップやエフェクトなど映像編集の事までは明確に理解できていないので、表現としてはこうなる)の持つ歴史背景が、各々異なっている様に思えることだ。
 単純に、まず年代が違う。主にキリスト歴で語られているものばかりだが、1900年代後半から2000年代、とされているのものが中心にある。
 とすれば、この技術が生まれ、発達したのが、杳馬の生きていた時代より未来の、その時代近辺なのだろうと考えられる。
 仮に、この映像が他の参加者と関連するのならば、彼らの多くはその時代の者達と考えられるわけだ。
 しかしそれだけでは無い違和感がある。
 ピタリと嵌らない、微妙に異なるピースばかりのパズルのようだ。
 時を越えている、という事実。それはクロノスの力か、はたまた別の何かなの。
 しかし、どうにも越えているのは時のみでは無いのではないかと思える。
 時空をねじ曲げ、自分や息子のテンマ、ハデスの姉であり軍統括をしているパンドラ等が呼び集められたこの場、
 この時代が、果たしてこの中に映し出された時代の何れかなのかも分からぬ
 杳馬には、パラレルワールド、平行世界などと言う概念も知識もない。
 それらは、量子力学や宇宙論などによりもたらされた、副産物的発明である。
 発想や概念も、それらが生まれ、理論として成立すること自体、一つの発明なのだ。
 結城やLがそれらの発想に至れるのは、あくまでその発明によりもたらされた理論、知識が、前提としてあるからだ。
 杳馬の時代には、それらの理論は発明されていない。誰も中身を見たことのない箱の中に、
 生きた猫が居るのか死んだ猫が居るのかは、見ずとも決まっている。神が知っているはずだからだ。
 しかし杳馬は逆に、異世界、を知っている。
 人の住む人間界があり、ハデスの統括する冥界があるのを知っている。
 だから、或いはもしかしたら、「人間界にも、別の人間界が存在するのではないか?」 という、彼の時代の理論では有り得ない飛躍が、
 杳馬の驚異的とも言える混沌の思考に生み出される。
 前提の知識として知っていてその発想にたどり着くことと、前提の知識がまるでないときにそこへ近づくことはまるで違う。
 推論でも推理でもない。
 或いは思考ですらない。
 言ってしまえば、杳馬の内なる小宇宙が、それを理解してしまったのだとも言える。
 その上で、杳馬の混沌としたその精神こそが、その理解を受け入れたのかもしれない。
 彼に、例えばパンドラの様なハデスへの信奉があればどうか? そもそもハデスの居らぬ世のことなど、微塵にも夢想しまい。
 何者をも信奉せず、何者にも心を寄せず、ただひたすら混沌の渦のもたらす熱狂のみに焦がれる、杳馬だからこそ受け入れられる。

 杳馬は、この放送システムを理解し、そしてそこに保管されていた小さな箱、ビデオテープにあった記録から、
 今居るこの場が、すでからにしてとてつもない混沌の坩堝なのだと言うことを理解した。
 おそらくは他の参加者の多くよりも、本質的に。
 やはりここは、俺のための場所じゃないか!
 例えようもない興奮が、彼の脳髄を駆けめぐる。
 普段ではあり得ぬほどの高揚感が、彼の内側をかき混ぜ始めていた。
 彼は既に、この実験を企画した者に畏敬と感謝すら感じている。
 この様な混沌を生み出した手腕に。そしてその混沌をさらにかき回す機会を自らに与えてくれたことに。
 その上で……例えばこの小箱の映像機のように、自分が主催者の持つ混沌を生み出すシステムを使いこなすことが出来ればどうだ?
 メフィストフェレスと呼ばれる男は、その夢想に暫し時を忘れていた。

 そして何よりも、彼を喜ばせたものが目の前にある。
 小さな鍵と、説明書。
 この放送室内を漁っているときに見つけた、明らかに主催者により意図的に仕込まれていたものの一つだ。
 その小さな鍵は、部屋でも箱でもなく、この放送装置の一つの機能を一時的に使用できるようにするもの。
 説明書きには、こうある。
「最も早くこの鍵を見つけた者に、第一回目の放送を行う役割を与える」
 と。
 曰く、早朝6時になる5分前に、読み上げるべき脱落者の名前などが書かれた紙が、部屋の隅にあるFAXという機械から出てくるのだという。
  やるべき事は二つ。
 まず、それを確認してから6時1分前までに、機械の指示された鍵穴に鍵を差し込み、放送の準備をすること。
 それを確認し、紙に書かれた情報を、正確にかつ嘘偽り無く読み上げること。
 この二つだ。
 やる"べき"こと、 は。
 ただし、もしそれを言い終わってもまだ時間があれば、個人的なメッセージや演説など、何を話しても良いのだという。
 つまり、6時になったときに、全ての参加者に対して何かを伝えることが出来る。
 この放送は、首輪をした全ての参加者に届けられるというのだから。
 勿論、しなくても良い。ただ事務的に読み上げるだけでも構わない。
 自分の名を明かす必要もない。
 そしておそらくは、読むべき情報に関すること以外であれば、嘘をついたって構わない。
 説明書きでは、読むべき情報に関する嘘だけは禁じられている。
 それを行えば、直ちに放送は中止され、曰く、「然るべき処置」がなされるらしい。
 然るべき処置、よりも、そこで放送が中止されることが、杳馬には痛い。
 何せ、こんな混沌をかき回せる機会は滅多にない。
 そしてそれに使えるかもしれない情報が、ここには山とある。
 数時間も掛けて確認したビデオテープの情報が、早速活かされるかも知れない。
 杳馬には安息も休息も必要ない。隠れ家も部下も要らない。
 欲しいのはただ、混沌とそれによりもたらされる興奮、愉悦。
 それのみなのだ。 
 誰が唄ったかも分からぬスキャットを流しながら、杳馬は来るべき時を待っている。
 その時間が来たときに、この喜びをどれほど押さえられるか、彼自身分からなかった。


【A-4/DIOの館:早朝】
 【結城美知夫@MW】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康 左足に擦過傷(処置済み)
 [装備]: 
 [道具]:基本支給品
      カツラ三点セット(栗色のツインテール、ピンク色のセミロング 黒髪のカツラ )
      私立不動高校制服 薬物入りカプセル三点セット(精力増強剤・痙攣誘発剤・???)
      乗り物の鍵と隠し場所(ピラミッド)の地図
 [思考・状況]
 基本行動方針:生き延びて、世界滅亡の計画を築き直す
 1:一休みした後は、しばらく本名と素顔で行動してみて、自分と神父以外に自分の世界から来た人間を探してみる。
 2:明るくなってきたら、ピラミッドに向かい、乗り物を調達する。
 3:バットマンに興味。
 [備考]
※丸太は邪魔なので捨てました。
【D-5周辺/下水道内:早朝】
 【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康 絶好調 左肩に火傷痕 疲労(中)
 [装備]:
 [持物]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [思考・状況]
  基本方針:帝王はこのDIOだッ!
  1:しばらく下水道から地下の様子を探り、日中の隠れ場所を得る。
  2:ルンゲ、グリマーを見かけたら殺害する。
  3:Dr.テンマ、ニナを見かけたらヨハンの事を教える。
 [備考]
※参戦時期はヴァニラ・アイス死亡後。
※山村方面に、ダグバが逃がした参加者がいる事を知りました。


【H-4/テレビ局内:早朝】
 【杳馬@聖闘士星矢 冥王神話】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、フクロウのストラップ@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いというマーブル模様の渦が作り出すサプライズを見たい!
 1:6時になったら「放送」をする。
 2:Dr.テンマが執着するヨハンに会ってみたい。
 3:会場のマーブルが濃くなったら、面白そうな奴に特別スタジオの存在を伝える。
129混沌の落とし子たちに捧ぐ僕からの鎮魂歌 ◇JR/R2C5uDs 代理投下:2010/10/16(土) 23:17:55 ID:2wxnh/3C
投下終了
130創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 21:53:47 ID:Q95CJWn2
代理投下します
131幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 21:54:41 ID:Q95CJWn2
【F-6 市街地 AM 3:45】


護送車の傍らに、男女数名が固まっている。
それは集団と呼べるほどの精神的・構造的なまとまりもない、正しく"固まり"であった。
ゆたりゆらりと流れる層積雲が、白み始めた空を覆い隠す。
街周数里に訪れた暗闇は、深夜のそれと変わりなく。
しかして この場に流れる陰鬱な空気は、その暗闇だけが原因だろうか?
一触即発、というほど剣呑な物ではないが、薄皮を隔て重ねたような圧迫感が場を包んでいた。
集団の中心にいる―――見ようによっては囲われている―――少女が、他の者から話を聞いている。
自分の知り合いに出会った者がいない事を知り、少女……我妻由乃は小さく息をついた。

「……」

「……」

この場にいる男女五名の中で、一際不穏な空気を放つ二人が、時折無言で視線を交わしている。
仮面ライダー、本郷猛。尋常ならざる嗅覚で悪を嗅ぎつける歴戦の男。
未来日記所有者、我妻由乃。愛に生きる狂気の少女。
二人の目に、友好や好奇の感情は一切含まれていない。
互いの胸中にあるのは、イカにして相手を暴くか。如何にして相手を殺すか。
残る三名には、彼らがそれほどの決意を持って相対している事実を観測する事はできない。
あくまで二人は、自分以外に気付かれない程度の静けさで火花を散らすに留まっていた。
由乃も本郷も、表立って相手を排除するにはまだ準備が足りない。
やがて細かい情報交換も終わり、環状の人垣が崩れる。

「本郷さん! これで分かりましたよね、ゆのちゃんに悪気がなかったってこと!」

「……」

「夢原さん、いいのよ。そんなにすぐに信用してもらえるなんて思ってないわ」
132幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 21:55:53 ID:Q95CJWn2
もう一人の少女、夢原のぞみは由乃と(表面上)意気投合していた。
のぞみの性格は、友人を作るのに不自由しない。
本郷に辛く当たられた由乃への同情もあって、彼女は由乃と本郷の仲を取り持とうと考えていた。
プリキュアの説明を由乃にし終えてから、変身を解いて本郷に詰め寄るのぞみを、残った男二人が抑えにかかる。
人吉善吉、ヴォルフガング・グリマー。一般人高校生と元スパイの違いはあれど、
彼らもまた我妻由乃を完全に信用する事は出来ないでいた。
ヒロインを護ると決めた人吉善吉。かってヒーローに恋焦がれたグリマー。
だからこそ、二人にとって本郷猛という男の言動は一角の説得力があるものだったのだろうか。

「まあまあ……由乃ちゃんを信じねーわけじゃねーけどよ。物には順序ってもんがあんだろ、のぞみちゃん」

(……"ちゃん"? なんだコイツは……馴れ馴れしい。年下は無条件で保護対象な人間か?)

「俺達だって女の子を苛めるような事をしたいわけじゃない。だがこの状況下で銃を構えて隙を窺っていた彼女を
 二言三言話したくらいで信頼して、軽々に一緒に行動すると決める訳にはいかないと、本郷は言いたいんだ」

(異人が……! ベラベラと日本語で喋るな、気味の悪いッッ! 案山子みたいに突っ立ってろ!)

「ひどい! ゆのちゃんを置き去りにするって言うんですか!? ゆのちゃんだってきっと怖かったんです!
 信じて、そしていきなり腕を捻り上げた事を謝ってください! 疑い合ってたら、誰も夢なんて見れませんよ!」

(騒ぐな、耳が痛い……。頼むから、事をややこしくしないで欲しいわ。私は自分で切り抜けられる……)

「俺はもう、夢など見られない」

(寝ずに死ね……!)

自分の処遇について論争する四人それぞれに、心の中で悪態をつきながら由乃が悲しげな笑顔を作る。
由乃にとって、現状最も優先するべき事は雪輝がいると思われる東南への移動。
本郷・夢原という戦力と他二名の弾除けを擁するこの集団に入りさえすれば、移動先の誘導は不可能ではない筈。
最も、それは最低限の信頼を得られれば、の話だが……。

(本郷猛は、何故か私を目の仇にしているようだけど……要は、こうしてしまえば、奴の妨害は消えるはず!)

「……分かったわ。私を信用できないなら、それはいい。当たり前の事だと思うしね。
 でも、一人で寂しかった、のは本当なの。信じてくれなくてもいいけど、一人になるのはもうイヤ……」

「ゆ、ゆのちゃん……あたしが今、みんなを説得して……」

「……夢原さん、ありがとう。でも、彼らは納得しないわ。だから……私を縛ってください。
 身動き一つできないくらいに。車で移動するなら、トランクに詰め込んでもらっても構わないわ」
133幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 21:57:12 ID:Q95CJWn2
眉を顰める本郷。小娘の考えなど、読めない男ではなかった。
本郷が由乃の"悪"を曝け出させ、仲間の同意を得た上で排除しようとしている事を悟られ、先手を打たれたのだ。
由乃は自らの攻撃性を抑えて、あえて弱い立場に身を置く事で活路を見いだそうとしている。
どの道DIOへの対応で、もうしばらくここに足止めを食らうであろう事は由乃も情報交換の中で理解していた。
ならば、避けえないそのタイムロスを前線に出られる筈もない、拘束者として過ごす事で安全に通過する。
その上、何も行動を起こさなかったとして信頼を得る、一石二鳥の計略であった。
この集団がDIOに敗北した場合、いつまで経っても自分が拘束から解放されない場合など、危険な因子もあるが。
今までに見て、聞いて判断したこの集団の性質を鑑みるに、少なくとも後者はない、と由乃は考える。
天野雪輝との合流を第一に望む由乃にとっては、余りに気の長い作戦だった。
そう、由乃自身でも、とても達成するまで自分が我慢できるとは信じられない物だったが。
正面きって本郷に逆らえば、100%DEAD。隙を見て逃げ出すのも、四人に捕捉された状況からではもう不可能。
これが、現時点でのHAPPY ENDへの最善手だ。

(ユッキー……遅くなるかもしれないけど、私頑張るから! 絶対にユッキーに会いに行くから!)

「どうします、本郷さん? 俺は、そこまでやるなら連れて行ってもいいと思いますけど」

「女の子を縛るなんて、絶対に駄目です! みんながそんなにゆのちゃんを信用できないなら、
 あたしがみんなから別れて、ゆのちゃんと一緒に行動します!」

「……それは、困るな」

口を閉ざしていた本郷が、のぞみの言葉に反応して由乃を睨む。
のぞみを危険に晒すわけにはいかないし、由乃から目を離すわけにもいかない、というように。
のぞみがパッと顔を明るくして、「じゃあ縛ったりせずに一緒に行動できるんですね!」と聞いたのに、
「それはできない」と短く答えて、数秒の沈黙の後、本郷はついに由乃の策に乗る事を決意した。

「……貴様の条件を呑もう。ただし、拘束している間、俺達の情報は一切与えない。
 目と鼻と耳と口を塞ぐぞ、俺達全員が貴様を信用するまで、だ」

(やった……!)

「縛るだけじゃなく、そんな事まで……!」

「夢原さん、もう庇ってくれなくても良いわ。私が望んでそうするんだから、貴女が責任を感じる事はない。
 ……できれば、みんなの誤解を早く解いてくれると、嬉しいけど」
134幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 21:58:33 ID:Q95CJWn2
のぞみに釘を刺し、由乃はとうとう集団への加入を許可された。
後は、もどかしく、狂おしい長い時間を耐えるだけだ。
由乃は、雪輝の安否を思い、こんな状況に陥った自らの不幸を呪った。
いつだって、世界は彼女に優しくない。と、呪詛のごとく脳裏を怒りと憎悪で埋め尽くす。
顔の筋肉を『悲しい笑顔』で固定したまま、由乃は自分の内面世界を見つめなおす。
彼女は"ユッキーを是とする"という己が内面世界のルールから抜け出す事は一瞬たりともないが、
これからしばらくは本当に、外界とのリンクを途絶えさせられるのだ。
天野雪輝の事を深く深く考える事が出来ると考えればそんな時間も悪くない、と思ったのかどうかは分からないが。
テキパキと自分を拘束する算段を口にしながら、由乃は天野雪輝への夢想と懐古に浸る。

「じゃあ……何か、私を縛ったり、目隠ししたりする物を探してきてください、人吉先輩」

「俺!? な、なんで……俺、そういうのに詳しいわけじゃねえんだけど……」

「本郷さんに任せると、釘や針付きのを持ってきそうですし……人吉先輩が、適任だと思いますけど」
135幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:00:32 ID:Q95CJWn2
(ユッキー、ユッキー。私これからこの有象無象たちに恥ずかしい格好にされて縛られちゃうけど、
 心はずっとユッキーに縛られたままだからね。そもそも私がユッキーに心を縛られて、
 奪われちゃったのはいつだったかなぁ。なーんて。忘れるわけないよね、ユッキー。
 ユッキーは覚えてる? あの日、ユッキーが私と結婚してくれるって約束した、あの放課後の一瞬。
 切り取って、写真立てに入れておきたい幸せな幸せな一時。ユッキーは忘れてても、私は死ぬまで覚えてるよ。
 ううん、死んでも覚えてる。あの日まで、未来が見えずに死んでいたような私を救ってくれた思い出だもん。
 ……そうだ。その理由も、ユッキーにはもう知られちゃったんだよね。私のお父さんとお母さんの事。
 それと―-−---ーー-ー-−--…………あれ、なんだったかなぁ? ……まあいいや。ユッキーと私の未来には、
 そーんな湿っぽい、昔の事なんて関係ないものね。結婚式は、やっぱり体験会で着たドレスでやりたいかな。
 ユッキー、あの格好、キレイって言ってくれたもんね。でも、和服もいいかな。せっかく日本に生まれたんだしね。
 もちろんユッキーの好みに合わせるけど、和服の私もユッキーにキレイって言って貰いたいな。えへへ。
 ユッキー、ユッキー、ユッキー。会いたいよぅ。ユッキーを守ってないと、頭がおかしくなっちゃいそうなの。
 未来日記は偽者とすり替えられてて、ユッキーが何をしてるかも分からないし。こんなひどい事をする人たち
 なんて、死んじゃえばいいのに。この広い会場にうじゃうじゃいて、私とユッキーの出会える確率を下げる奴らも
 同じだよね。今は我慢しなきゃいけないのは分かってるけど、でも出来るだけ早く邪魔者を殺して、ユッキーと
 一緒になりたいなぁ。合流した後ユッキーを守ってあげたくても、鬱陶しいルールのせいで、
 どうすればユッキーを助けられるのか分からないんじゃないかなぁ。みっつグループがあって……えーと……。
 ユッキー以外全員殺してから最後に私が死ねばいいのかなぁ……でもユッキーがHorだとユッキーも死んじゃうね。
 むむむ……私が死ぬのはともかく、ユッキーが死ぬのは絶対に駄目。私はユッキーに幸せにして欲しいけど、
 ユッキーが幸せじゃないと何の意味もないもんね。ユッキーが助けてくれた命だから、私の全部はユッキーの
 ものだよ。でも、浮気だけは我慢できない。女の子ってそういうものなの。男の子を独り占めしたいって思わない
 なんて、それは自分も相手に独り占めされなくてもいいって言ってるようなものよね。そういう人は、軽蔑するわ。
 あ、ユッキーがもし浮気しても、ユッキーの事は軽蔑なんてしないよ。ユッキーにだって選ぶ権利はあるもんね。
 だからユッキーが私の事を正しく選べるように、相手の女の子の悪いところを教えてあげるの。肝臓とか眼球とか。
 そしてその後、ユッキーに私のよさを伝えたい。私以上にユッキーを愛してる女の子なんていないって事を。
 そうすれば、ユッキーも浮気の馬鹿らしさに気づいてくれるよね。ユッキーは私の手を握ってくれる人だもん。
 ユッキーと私の子供の顔が見たい。子供と、ユッキーの子供に相応しい相手の孫の顔も見たいな。
 ……気が早いのは分かってるけど、幸せな未来はいっぱいいっぱいイメージした方がいいと思うの。
 きっと、そのイメージを越えるもっと幸せな現実が来てくれるって信じてるから。ユッキーはどう思う?)



「…………うんっ! そうだな!」

「じゃあ、お願いしますね……ん」
136幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:01:40 ID:Q95CJWn2
拘束道具を探しに行こうと駆け出した善吉の足が止まる。
グリマーは首を傾げ、本郷が目を見開く。のぞみは、不満げに本郷をじっとり見ていて、気付いていない。
急にそわそわし出した由乃の様子を訝る一同。由乃は、顔を赤くして、彼らにか細い声で告げた。

「あ……あの、ちょっとお花を摘みに……」

「お花? ゆのちゃん、お花好きなの? あたしも一緒に……」

「待て。一人で行かせてやれ」

「……私、逃げるかも知れませんよ?」

「この護送車の周辺500mから出れば、そうだと見做して捕獲に向かう」

用を足したい、と申し出た由乃に、意外にも本郷が単独での行動を許可した。
微かに違和感を覚えた由乃だったが、彼女にとってもその申し出は好都合。
深く考える事もなく、とたとたと走り出す。

その後姿を眺めながら、グリマーが低い声で呟いた。
声は本郷に向けたものであり、その語調は重い。

「彼女は……本当に、信用できない人間なのか?」

「そうだ。我妻由乃は"悪"だ」

「なぜ……そうだと分かる? 本郷、君が正義のヒーローだからか」

「……悪と正義は本来同じ方向を向いている。俺は他の者よりほんの少し多く。
 理不尽によって歪まされ、"悪"にされた正義を見てきた。だから分かる。
 我妻由乃は―――矯正不能な"悪"となっている。何が原因かは分からない。
 だが……ああなれば、倒すしかない。あの少女を救える甘い望みなど、俺の戦いにはない」

率直な意見、そして曲げられない信念を張り通す本郷猛。
グリマーが、吐き出すように、ならばと問う。

「その正義とは、何なのか、教えて欲しい。悪人を見分けて殺す技能のことなのかい?」

「……正義を語るのに、俺より相応しい相棒がいてな。そいつなら、気の利いた答えを返せんだろうが。
 俺にとっての正義とは、治ることのない一つの疾患でしかない。俺は戦ってきた。戦い続けてきた。
 そのうちに、己が内から湧いて来る怒りと、人間の自由と平和への望みと、仲間達との絆……いや、
 あるいは、仲間達を巻き込んでしまった悔恨かも知れん……それらが混ざり合っていった。
 その結果が、今の俺の姿と形だ。俺はそれを正義と呼ぶ。一度たりとも曲げなかった、自分の道を正義と呼ぶ」
137幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:02:26 ID:Q95CJWn2
「……後天的に積み上げられた不治の疾患、か。それは、重いな。だが、俺には彼女が―――」

グリマーが、どこか自嘲的な笑みを浮かべて言葉を濁す。
我妻由乃と応対する内に、グリマーは彼女の作り物のような笑顔に気付いていたのだ。
心の底から出る物ではない、全人類の平均値のような由乃の笑顔は、
彼の悲惨な少年期に教え込まれた、状況に応じた表情の変化をなぞるそれと同じだった。
自分と由乃を重ね合わせ、彼女にも何か事情があるのではないか、と考えるグリマーを見透かすように、
本郷は冷酷とも言える声質でそれを否定する。

「お前と我妻由乃は違う」

「君は俺の事を何も知らないだろう」

「この殺し合いの舞台の上で、殺意と害意がない……それだけで十分、信用に足る。
 お前が我妻由乃の事情に胸を痛ませる必要はない。奴は……この、俺が」

倒す、と呟いて、突然本郷が立ち上がった。
話をしていたグリマーも、少し離れた場所で不貞腐れているのぞみも、ロープを探してきた善吉も、
一様にその勢いに目を見開く。本郷は険しい表情で、由乃が走り去った方向を凝視している。

「500mを離れても止まる気配がない。連れ戻しに行ってくる」

「また乱暴な事をするつもりですか!?」

「……連れ戻すだけだ。約束しよう」

有無を言わせず、本郷が胸のベルトに手をかざす。
一瞬、その身を纏うような突風が吹いて、ベルトの風車が回転する。
次の瞬間には、本郷猛は正義の体現者・仮面ライダーの10が1、仮面ライダー一号へと変貌していた。
その異彩にのぞみとグリマーは息を呑み、善吉は背筋を冷やす。

「ライダー……変身」

「ほ、本郷さん……」

「すぐに戻る」
138幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:03:33 ID:Q95CJWn2
大地を蹴って、仮面ライダーがその場から掻き消えた。
追いすがろうとするのぞみを、善吉が抑える。
一縷の不安は残るが、本郷猛が「約束する」と言ったのだ。
善吉には、彼の邪魔をする気は起きなかった。

「大丈夫だ……由乃ちゃんはちょっと距離をオーバーしちまっただけで、何事もなく戻ってくるさ」

「何であんな乱暴な人のことをそこまで信用できるの!?」

「あの人の放つオーラが俺を正義に駆り立てるんだよ!」

「何言ってるのかぜんぜん分からないよ!?」

じたばたするのぞみをおっかなびっくり捕まえながら、いい笑顔で善吉は答える。
何故かと問われても、善吉にも明確な確信があるわけではない。
善吉とて、由乃が持つ何らかの異常性には気付いていた。だが、善吉は異常を制御した者たちを知っている。
生まれつき殺人衝動を持っていながら、『人を殺さない』という当然の事を守り続ける男。
悪魔にも匹敵する暗黒を抱えていながら、人の善性を証明し続ける女。
彼らのような例を知る善吉は、由乃が"こちら側"だという希望を捨てられなかった。
だからこそ、「連れ戻すだけ」という本郷の言葉を信じ、事態をかき回しかねないのぞみを抑えている。

一方のグリマーは仮面ライダーの聴覚やヒーロー然とした姿に驚嘆しながらも、心胆に震える物を感じていた。
仮面ライダーは、超人シュタイナーのような、変身する事でヒーローに変貌する存在ではないのだ。
変貌してしまった人外の存在が、それでも人間の"正義"という価値観を手放さなかった存在。
故に、その行動は善であれ、その思想は必ずしも善良な物とは言えない。
巌然たる正義―――誤魔化しや虚偽の通用しない、人ならぬ正義の体現者。
人間の社会に生き、確かな正義を信じられなくなったグリマーにとっては、本郷の姿は異質すぎた。

(だが……だからこそ、眩しいと感じる人間もいるだろうな。善吉君のように)

グリマーは超人シュタイナーの末路を知らない。
だが仮面ライダーの末路は、容易に想像できた。
彼は、戦い続けて死ぬのだろう。人間に戻る事も、超人の業に押しつぶされる事もなく。
その在りようは、『自分』を実感できないグリマーの生き方よりも、苦しいモノに、見えた
139幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:04:14 ID:Q95CJWn2
【F-5 市街地 AM 3:55】



落ち着かない。まったくもって、落ち着かない。
私、吉良吉影……名前以外の全てを失った男は、精神的窮地に追い込まれていた。
気絶した少女を拾って駆け込んだ民家の居心地は上々。
洋式の内装も気にならない、中流階級の人間が住むのにふさわしい家屋だ。
この家が気に入ると言う事は、私は金持ちでも貧乏人でもなかったらしい。

「そう、問題はこの異国の少女だ……」

日本人には望むべくもない、白く透き通った肌。
美しい金色の髪は照明がなくとも薄闇の中で存在感を示し、少女の"美"を演出している。
もっとも私に無防備な女性の寝込みを襲う理由はない。鑑賞品として楽しむのが関の山だ。
だが、一つだけ……そう、私の心をかき乱す物を、少女は持っていた。
二対の"手"である。他の部位に違わず美しい、神経織り濃く孕む、天然の宝玉。
もはやそれは感動を通り越し、私を扇情させていた。
思わず座っていた安楽椅子から立ち上がり、反対側のソファーに眠る少女におぼつく足取りで接近する。

(まさしく英霊(モナリザ)の降臨だ……! 彼女の手に頬ずりをしたいッ……!
 一指一指、這うようにその完熟さを確かめたい! 私の頬で!)

美画モナ・リザ。かのレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた、世界で最も有名な絵画の一つ。
知識として―――画集か何かで見たのだろうか―――私の脳髄にある美術品。
この少女の指は、その絵に描かれた母性あふれる婦人のそれと同じ安らぎを私に与えていた。
しかし、今はその安らぎが痛い。常識的に考えて健康な男性は女性の何所に魅力を感じるだろう?
モナリザを検分した識者たちの多くは、その不思議な微笑に注目した。
人間の印象はまず顔で測られる。「顔は心の信号機」というわけだ。
つまりまともな男性であればこの少女の整った顔立ちに魅了されるのが当然であり、少女への礼節というもの。
ならば、"手"などという極めて限定的な肢体の一部分にしか興味を持てない自分は何者なのか。

(ひ……ひとつだけ、分かったことがあるッ! 私の中にある『世間一般の常識』と『私の嗜好』はッ!
 かなりの規模でズレているということッ! もしやこの吉良吉影は……『変態』だというのか!?)
140幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:05:10 ID:Q95CJWn2
心が激しく揺さぶられる。失われた記憶が戻れば、自分の変態性も気にならなくなるだろう。
しかし今の私はなまじその変態的な嗜好と思考を失っただけに、常識の呵責に責められているのだろうか?
だ……だが、これは記憶を失った事による精神の混乱の悪影響と考えられない事もない。
ともかく今は他人に怪しまれるのを避けるため、この嗜好を抑え込むのだッ!

「そうしなくてはいけないと分かっているのにィィィィ……這わさずにはいられないッ! フウウウウウウ〜〜〜!」

私の意志に反して、身体が勝手に少女の手に魔手を伸ばす。
強く握り締めれば折れそうな腕を引っ張り、手首を眼前に晒し、眺める。
なんという美しい関節と皮膚ッ! もはやこれは芸術を越え、神の御業としか言いようがない域にあるとしか……!
いったいどういう場所で生まれ、どういう環境で育てばこんな美しい手になるというのだッ!?

「クックックッ―――ン! い、いかん……我慢できんッ! 彼女の親指を! 私の口に突っ込んで……舐めぬk」

「吉良さん、出来ましたよ……あれ? どうしたんです?」

「いや彼女の『脈』を測っていてね……正常だからそのうち目覚めるだろうが……」

私の凶行を遮るかのように、台所から五代(私の同行者で、なかなか気のいい青年だ)が姿を現す。
危ないところだ……彼があと数秒遅ければ、少女の手をペロンペロンする私の惨状を見られてしまっていただろう。
上手く誤魔化して少女の腕を離し、安楽椅子に戻る私の鼻腔を、香ばしい匂いがくすぐった。
五代は、少女を休ませる場所を見つけて寝かせるついでに、この民家の台所を使って料理をしていたのだ。
私もなんとなく、台所に立てば料理が出来るような気はしたが、今はそんな事はどうでもいい。
五代の作った料理は、インド風(?)のスープのような物だった。
私の支給食料の一部にあったカレールーを提供した甲斐はあった様で、
小腹を満たすのに十分な量と、食欲をそそる質を兼ね備えている。どうみても素人のレベルではない。

「五代くん、凄いじゃないか。2000の技は伊達じゃないな」

「へへへ。あったかいうちにどうぞどうぞ。その人に食べさせられないのは残念ですけど」

「何、これほどのいい香りだ。眠っていても憶えているだろう。起きたらまた作ってあげるといい」

ハフハフと口に運ぶ。熱さと辛さが程よく身体に活力を満たしていく。
しかしこれ程ホカホカの料理、どうやって作ったのだろうか。
電気は止められているし、ガスだってそうだ。鍋を煮る熱はどうしたのだろうか。
聞いてみたが、「だって俺、クウガですから」と意味不明な答えしか返ってこない。
まあ、たいした問題ではない。これほど美味しく安全な物を食べられるのだから、疑問など不要だ。

「……しかし、それにしても君は変わった青年だな。私には記憶がないが、割と疑い深い人間だったような
 気はする。それなのに、君を疑う気持ちがまったく出てこないんだ。フム……何故だろう」

「笑顔ですよ! 吉良さんも もっと笑えば、人生楽しくなりますって!」

「フフフ」

「いやいや、含み笑いじゃなくて」

最近の若者にしては快活で、好感の持てる青年だ。
しかし、談笑ばかりしているわけにもいかない。
私は金髪の少女のディパックを調べて発見した物を、ガラス張りのテーブルの上に出す。
銃弾を発射した痕跡のあるハンドガンと、ハンディタイプのビデオカメラ。
ビデオカメラは先ほど動作させてみたが、問題なく作動した。
ハンドガンの方には銃弾が込められておらず、少女に戦闘の心構えがない事を示している。
141幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:05:55 ID:Q95CJWn2
「他は我々のものと似たりよったりだった。折原の言っていた電池もなかったよ」

「折原さん……ですか」

五代の顔が曇る。折原に思うところでもあるのだろうか?
まあ、初対面で信用できるタイプの人間ではないからな。
疑心が決定的ならば、一応の同盟を組んでいる物としてフォローはするが……まあ、そうはなるまい。

「折原になにか問題でもあるのかな? ひょっとして、疑わしい点があるとか」

「いっいえ、なんでもありませんよ。それより、勝手にこの人の荷物、見ちゃって良かったんでしょうか」

「緊急時だ、仕方ないさ。彼女が危険人物でないとも限らなかったしね」

五代は、私と違って他人を疑うのには慣れていない人間のようだ。
とはいえ、愚鈍という風にも見えないが……露骨にボロを出さない限りは大丈夫だろう。
そもそも、折原はともかく私には彼に対する悪意や害意はないのだからな。
計画が終了するまで、あるいは五代が死ぬまで、普通に仲良くやっていくだけの事だ。

「あっ!」

「む? どうした、五代くん」

「いま、そこの道を女の子が……話を聞きに行きましょう!」

スープを入れた皿を片付けようと私が席を立つと同時に、五代が立ち上がる。
どうやら、窓から街中を走る人間の姿を見たらしい。
私としても、参加者と交流するのを反対する理由はない。
五代と私は、金髪の少女に書置きを残し、民家を後にすることにした。
気絶している少女を連れまわすよりは、ここに置いておいた方が双方の危険も減る。
案外あっさりとその理屈を理解してくれた五代に感謝しながら、私は少女に毛布をかけて、五代の後ろを歩く。

「……」

リビングの入り口で立ち止まり、少女に―――否、少女の"手"に目を向ける。
もう少し―――何をすればいいのかはともかく、もう少しで、自分の本質を知る事が出来そうなのだが。
今は、その事は後回しにして、私は民家を後にした。五代がどこからか見つけた家の鍵で施錠し、
最低限の防犯を確保する。夜明け前の白んだ空を仰ぐ。未だ、朝は……一回目の放送は遠い。
周囲の町並みから隔絶されたような一軒家を離れ、私と五代は少女が走り去った方向に駆け出した。
142幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:06:37 ID:Q95CJWn2
【F-5 公衆トイレ AM 4:08】



護送車から見えない程度に離れた、石造の公衆トイレット。
女性用軒分の一番奥の個室で、我妻由乃は『準備』をしていた。
公衆便所の手前の薬局で入手した、空の小瓶にペットボトルから液体を移す。
10個の小瓶に溜め込んだその液体を眇め眺めつ、満足そうにディパックに仕舞う。

(でもこれはついで。あいつらから離れたのは、こっちが本命)

由乃が携帯を取り出す。
携帯に通常搭載されている、『通話』『メール』などの機能は凍結されている。
現状で由乃が持つ携帯が果たすのは、『未来日記』の機能のみ。
先ほど、ディパックの奥に隠匿していたこの携帯が、小さくノイズを立てながら未来の変化を告げた。
つまり、雪輝の未来が未来日記所有者の行動によって変化した事を示したのだ。
縛られてからでは、その内容を確認することも出来ない為、由乃は今ここにいる。
ここにたどり着いて真っ先に確認した、未来日記・雪輝日記の内容を再度閲覧する。

『ユッキーが鎧を着た大男を出し抜いたよ! ユッキーかっこいい!』

「ユッキー! ユッキー凄い!」

由乃はパタパタと手を振りながら、心配そうに。
だがほんの少しだけ誇らしげに、そして僅かに寂しげに、愛する男の名を漏らした。
雪輝は由乃がいなくても、なんとか上手くやっているようだ。
しかし、危険に見舞われているのは事実。悠長にしている場合ではないのだが……。
由乃が、日記の画面を下にスクロールする。

『ユッキーは蝙蝠男を従えて下水道を進んでいるよ!』

ギリ、と由乃の歯が鳴る。
雪輝を襲撃した鎧の男は勿論、蝙蝠男というのも憎たらしい。
自分より先に雪輝と同行できるとは何事だ、と由乃は苛立ちを露わにしていた。

(でも、ユッキーは一人じゃない。それが分かっただけでも、少しは気休めになるわ)
143幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:08:11 ID:Q95CJWn2
今現在、自分の置かれた状況から逃れる事はできないと、我妻由乃は知っている。
仮にここから全力で逃走したとしても、本郷から逃げ切るのは不可能だろう。
狙った相手のタチの悪さに、由乃は何度目になるか分からない後悔の念を抱き、嘆息する。
しかし突破口が見えないわけでもないのだ、と自分を励まして、立ち上がる由乃。
制服に突っ込んでインナーを這わせていた指を抜き、ディパックを背負って個室から出る。

(ディオとかいう奴の一件を片付けた上で、信頼されるまでにかかるであろう時間はどのくらいだろう?
 ……一時間じゃ済まないだろう。仮に、三時間を越えるような事があれば……)

個室のドアを開けた所で、由乃は乳房の脇に違和感を覚えた。
その元凶は非常時の為に胸部下着に仕込んだ氷のように冷たい剃刀。
上着は剥がされるだろうが、身に付ける物を全て取り去られる事はないだろう。
由乃はあまりに長時間軟禁される事になった場合、多少無茶をしてでも脱出する覚悟はしている。

(まあ夢原のぞみがいる限り、これは杞憂だろうけど)

僅かな会話時間だったが、由乃はのぞみの人格を把握していた。
同性の、無害な者を閉じ込めておく事をそう長く我慢できはすまい、と。
未来日記を取り出す。新たな更新はない。未来改変による副産情報を得られただけでも運がよかったか。

「!」

全ての準備を終えた由乃の身がすくむ。
ノイズが響き―――画面に現れたのは、未来日記の『様々な形で未来を記す』以外の機能。

『DEAD END』

死の予告。強固に決定された、並大抵の意志と行動では覆す事叶わぬ赤き点滅(アラーム)。
未来日記所有者がゲームからの脱落する前に提示される、最後の警告。

(本当に、来た……)

しかし、由乃は焦りも動揺も見せない。
過去幾度となく、彼女はこの死の予告を覆してきた。
予告による僅かな精神の昂りは、彼女を研ぎ澄ます事はあっても、鈍らせる事はない。
そして、それ以前に―――由乃は、この事態を予測していた。

(あの男が! 本郷猛が! 荷物も取り上げず、監視もつけずにこの我妻由乃を出歩かせる筈がない!)
144創る名無しに見る名無し:2010/10/19(火) 22:12:30 ID:mgjfWUq1
 
145幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:15:25 ID:mgjfWUq1

石の壁が爆砕した。入り口に近い、丁度モップが立て掛けてあった箇所が瓦礫と粉塵に飲まれる。
由乃は、飛び散る石片にも、服を煤けさせる煙にも、破裂した水道管が浴びせる水飛沫にも反応しない。
いや……出来なかった。あまりにも、分かりきっていたから。空いた穴から出てくるモノが、それらの万倍危険だと。

「……!」

「その手に持っている物はなんだ? 通信機か? ……仲間を呼んでいたわけではないだろうが」

異形。人目で人間でないと分かる、論外の機械虫であった。
それでも、由乃には分かる。
日記の機能制限により、いつ、どこで、誰に殺されるかまでは『DEAD END』の表示内容に出なくとも。
自分を殺しにきたのが本郷猛であると。目の前の怪物こそが、あの男の正体だと、声色から第六感で看破する。
由乃にとって未知であったのは、本郷の恐ろしさではない。
DEADフラグが立ってから、直接的な『死』への要因が現れるまでの、タイムラグ。
元々のゲームでは、場合にもよるが相当な猶予が残されていた。
しかし、今は表示されてから78秒でそれが目前に迫っている。

「……殺すつもりはない」

本郷が、由乃にとっての『敵』が嘯く。
由乃は、その言葉が容易に変転するであろうと予測し、頭を捻る。
それでも現行、本郷の言葉は彼の本心であるはずなのだ。
由乃を確たる『是、悪也』の証拠もなしに殺せば、本郷は残りの三人から疑いをかけられる。
この実験に置いて他者に疑われる事は、死に繋がる大事。
善吉達を既に始末してきた、というのでもなければ、ここで由乃を殺す算段など立てるはずもない。
この場所が本郷の提示した限定距離の範外にあるとも考えがたい、ならば。

「おまえの、本心を聞いておきたい」

ならば、これはあくまで脅し。派手に壁を破壊した事も、示威行為と見るのが妥当だ。
本郷が自分を完全に敵視していると、由乃ははっきり感じている。
今この場でどうこうしなくても、互いにそれをはっきりさせておこうと……あるいは、歩み寄ろうとしているのか。
そこで、由乃に疑問が生じる。ならば何故、DEADフラグが立っている?
あの表示が出た以上、自分の近似死は必定。死出の道は、啓いているはずなのだ。

「七瀬美"雪"」

「……?」

「"結城"美知夫」

「……」
 .......
「天野"雪"輝」

「――――ッッッ!!」

本郷も、由乃も。互いに自覚はなかった。
だが、この瞬間―――由乃のDEAD ENDへのルートは、予定通りに確定したのだ。
由乃に、初めて動揺が見られる。ガクガクと震え、恐怖に落ちた表情すら見せている。

 
146幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:16:18 ID:mgjfWUq1

「『天野雪輝』の事を知られてしまった。」
         ↓
「このままでは、彼に迷惑がかかるかもしれない。」
         ↓
        「殺す。」

脳のどこかにある組織にスイッチが入ったかのように、由乃の意識が変成していく。
目の前の男を、どうやって、殺すか。
後も先もなく、その一点だけに意識が収束されていく。

「……ユッキーとは、天野雪輝の事らしいな。知り合いか。何故隠したかは言わなくてもいい」

「外から、私の声を盗み聞きしていたのか。この変態ッッ!! ユッキーをどうするつもりだ!」

「平坂黄泉や雨流みねねとは違い、お前にとって有益……いや、必要な人間と言ったところか」

「黙れ! 黙れれぇ! ユッキーは悪くなんかない! ユッキーは何も悪くない! ユッキーは正しい!」

激昂したような声を上げる由乃は、その実殆ど興奮していない。
動揺も、完全に消えている。相手を油断させて致命打を与えるという、不慣れな作戦に既に入っている。
彼女が今まで戦ってきたのは地力だけで首を撥ね、心臓を撃ち抜ける唯の人間だ。
目の前の怪物にはそれは通用しない……だから、偽りの隙を抱え、見せ付けるのだ。

「無駄だ。お前は、何かに熱くなれる人間ではない。お前がどれほどエサを垂らそうと、俺はそれには食いつかない」

「……!」

冷や水を浴びせられるように、由乃の精神が揺らぐ。
彼女は日記所有者との戦いに勝ち続けてきたが、それは彼女の"強さ"を示す結果ではない。
自分の弱さを無視できる、異常とさえ取れる"脆さ"が、彼女のバックボーンだった。
その脆さは真実強い者……7thのマルコや、眼前の怪人の前では、時に無意味である。
                     ........
「天野雪輝とは、どういう人間だ。お前と同じか?」

「……」

「俺に殺されるような人間か、と聞いている」

「違う! ユッキーは誰にも殺されちゃ駄目!
 ユッキーは何もしてないのに、父親に裏切られて、お母様を亡くして……だからッ……!」

「同情を買う嘘ではないな。最も、お前の意見は参考にすれど信用しない。天野がどんな人間かは、もう聞かない」

147幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:17:04 ID:mgjfWUq1
出会ってから確かめる、と言って。本郷は、汚物を見るような目で―――昆虫の目で、由乃を睨みつける。
由乃は本郷と対等にやり合えると思っていた。戦力差はともかく、雪輝の為なら殺すことが出来ると信じていた。
だが……目の前の怪人は、あまりにも"違う"。由乃とは、積み重ねてきた屍の数が、千単位で違う。
力や技、知略を云々する以前に……『格』に、歴然たる差があると、矛を交える寸前で気付いてしまった。
彼女は雪輝に害が及ぶという事態だけでなく、純粋な恐怖に屈服しはじめていた。これこそが、本郷猛の狙い。
絶対的恐怖を植えつける事による、敵対者の無力化・あるいは暴走の促進。排除の為のプロセス。
由乃は、死を恐れない殉教者をも慄かせる、仮面ライダー一号の威圧の前に。小さくなって、震えていた。

「次はお前の話だ。お前が物陰に隠れ、銃を持って俺達を狙っていたのは、天野雪輝の為か」

「ち……違うわ。ユッキーは、関係ない」

「天野雪輝の為かと、聞いている。嘘を吐くのか。自分の動機に、嘘を吐くのか」

「ユッキーは関係ない! ユッキーは関係ない! ユッキーは関係ないッ!」

(ユッキーの為に私が動いてるって、バレちゃうよ……駄目だよそんなの、ユッキーが逆恨みされちゃうよ)

「それほどまでに、愛しているのか。女として、天野雪輝を愛しているのか。人を殺しても、いいほどに。
 卑劣に、隠れて、陰から。人を殺す道具に頼り。無防備な他人を害するほどに」

(ううううう、うううううう、ううううううううううううううううううううううううううううううううううううう)

由乃の頭蓋に、不可視の圧力がかかる。プレッシャーに押し潰されそうになるその姿を見ても、
本郷猛は手を緩めないだろう、と由乃は直感していた。それに、もう遅い。
天野雪輝は、本郷に既に敵として認識されていると、由乃は切迫する意識の中で思いつめ―――――。
..............
何かを、亡(わ)すれた。

「ひゃ……あはは……何言ってるんですか、本郷さぁん……」

「……?」

「私、銃なんて持ってなかった……殺そうとなんか、してなかったですよ」

(……嘘を、ついていない? これは……自己催眠か!)

本郷が、由乃の、魂の抜けたような笑顔を見つめる。
由乃には、追い詰められたとき……精神の安定を図るため、記憶を改竄する悪癖がある。
本郷にも、同じ事をやった経験があった。自分の力に限界を感じ、ショッカーに潜入して再改造を受けた時の事だ。
本郷の仲間にも、それを行った者がいた。戦うために、心だけでも人間で在り続けるために。
だが、由乃のそれは、逃げる為の詭弁……自己の慰めだ。泣きじゃくる子供でもやらない、最低の逃避だ。
それを見て、命を狙われても、嘘をつかれても、本当の意味で怒ってはいなかった本郷が。
静かに、怒りを燃やしはじめる。仮面ライダーとしての怒りを。自分の意志を捻じ曲げられた者としての怒りを。

「甘えるな……! 誰かを守る為であったとしても!
 人間(おまえ)の意思を、悪(おまえ)が捻じ曲げる事だけは許さんっ!」

「ヒ……怖い、こわいよう……ユッキー、助けてぇ……!」

「分かっているはずだ! その偽りの仮面の下で、貴様は狡猾に思考している……!
 自分は悪くないと、天野雪輝への愛を貫く自分は悪ではないと! 悪だ! 貴様は、悪でしかない!
 他人を害し、自分さえも誤魔化す! そんな貴様が抱く愛は……貴様の愛は、壊れている!」

「……」

強烈な、正義。悪を……人間の自由と平和を奪う者を許さない、鍛え鍛えし鋼の意思。
一切の余地隙間のない、仮面ライダーの存在理由。それが、本郷に、一つの決断をさせる。
偽りの姿をも忘れたように呆ける由乃に、宣告する。
148幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:18:15 ID:mgjfWUq1

「俺が、間違っていた。貴様のような悪がどれほど存在するかも分からないこの実験場で……
 誰かの側から離れず、その者たちだけを守り続けるだけでいいなどと、そんな事を考えてはならなかった。
 我妻由乃。俺は、お前を殺す。誰かを納得させるだけの証拠を求めず。正義という独断だけで、貴様を殺す。
 次はDIO。その次は、誰かも分からぬ悪。最後は、この実験の目的と、関与した全ての者を倒す。」

「……」
          .........
「そして、俺は誰からも離れる。この実験場の闇に沈み、悪を討って沈み続ける。
 誰の理解も求めず。誰の笑顔にも留まらず。悪だけを見て、悪だけを斃し続ける」

それは、本郷猛自身さえ歩んだ事のない、修羅の道。
理解者などいない、血を吐き続け、反吐を出し尽くし、安息をくれる人さえいない、地獄のマラソンロード。
万人を守る為。万人から離れて全ての悪と対峙すると、本郷猛は言った。

「貴様の愛は壊れているが……それでも、もし。天野雪輝が守るに値する、悪でない人間だった時は……」

「……」

「――――俺が、彼を守る。悪のお前にやれるのは、この程度の口約束しかない」

沈黙していた、由乃の眉が動いた。
同時に、手がディパックに伸び、小瓶を取り、投げる。
本郷と由乃の間に落ちて割れたそれは、割れて液体を床に染み込ませる。
由乃は、一瞬で再起動していた。たった一つ、遥かに格が上の相手でも譲れないもの。
自分の存在理由に踏み込まれて、一秒もかからずに―――我妻由乃を、取り戻していた。

「ユッキーを守れるのはッッッ! この、わたしだけだッッッ!!!」

「……!」

本郷が、由乃に突撃する。由乃が素早く点火したマッチ棒を小瓶の残骸の元へ放り投げる。
爆発―――すると予測できた本郷は構わず突撃し、由乃の殺害を最優先事項として動く。
マッチ棒の篝火に触れた液体が何らかの化学反応を起こし、石床に染み込んだまま爆薬と化す。
爆速8000m/sに達するハイエクスプローシブ級の爆熱と爆風の只中に、仮面ライダーが晒された。
一瞬の速度の減退……そして、視界の狭窄が、本郷に二度目の爆発音を聞かせる結果を生む。
反対側の壁に小瓶を投げて点火し、奇しくも本郷が入ってきた時の様に、由乃は壁を破壊して脱出していた。
本郷は一瞬たりとも止まらずに爆風の勢いに乗って、背中を見せて駆ける由乃を追う。
由乃がどれだけ素早く逃げても、50m以内で捕らえる自信が本郷にはあり、それは紛れもない事実だった。
爆風を受けて微細な熱傷を負い、全力で逃走する少女の手元の携帯―――。
由乃の『雪輝日記』に浮かんだ『DEAD END』は、未だ消えていないのだから。

149幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:19:08 ID:mgjfWUq1

【F-5 市街地 AM 4:20】



月と星が雲に覆われ、夜明け前の最後の暗闇が、視界を狭めていく。

「吉良さん! 今の音……発破でしょうか!?」

「近いな……さっきの少女と何か関係があると思うかね?」

爆発の音……映画やテレビでしか聞けない筈の"それ"なのに、妙に身近に感じるその音に身を竦める。
私と五代は、ローマの町並みを走っていた少女を追いかけていた。
置いてきた少女の事もある、手早く捜索して保護、あるいは交渉……最悪、逃走しようと思っていたのだが。
この実験の主旨である『殺し合い』が起こっている可能性があるのならば、その現場に突っ込んでいく理由はない。
強い二つの集団を作ろうと目論む私にとって交渉・記憶する価値があるのは、生き残った側だけなのだから。

「五代くん、ここは危険かもしれないぞ。一旦戻って……」

「待ってください、あそこから女の子が走って……ッ! 未確認!?」

五代が、街頭の一角を指して叫ぶ。
未確認とは何だと聞こうとしたが、答えは自ずと出た。
必死で走る少女を今にも捕まえんとしているのは、人の形をした怪物。
薄闇に隠れて詳細は見えないが、まさしく未確認生物(UMA)だ。
一目見ればわかる―――危険な存在。絶対にこちらから関わるべきではない、しかし。

「これ、お願いします!」

「!? おい、どうするつもりだッ!」

「変身!」

驚愕に固まる私を他所に、五代が鉄パイプだけを持って突撃していく。
彼の荷物を投げ渡された私は慌てて止めようと声を張り上げるが、効果はない。
ここで五代を失うわけにはいかない……それどころか、あの怪物の次のターゲットが私になるかもしれないのだ。
だが、私の困惑は更に深まることになった。走りながら妙な体勢を取った五代の体に、異変が起きていく。
腕が、胴体が、足が、そして最後に顔が。異形の鎧に包み込まれて、五代をUMAへと変貌させた。
昔の武士が着込んだ甲冑などとはわけが違う、原理さえ分からない着脱。
五代は人間では有り得ない距離をジャンプして、少女に手をかけようとした怪物に、飛び蹴りを食らわせた。

「―――っ」

「大丈夫!? あっちに吉良さんって男の人がいるから、その人のところまで逃げて! 走れる!?」

「……」

150幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:19:50 ID:mgjfWUq1
怪物は、ショーウィンドーを突き破って【Scarpe's centopiedi】という看板を掲げた何かの店の中に吹き飛ばさた。
闖入した新たな異形に怯えるでもなく、少女はすぐさまこちらに向けて走ってくる。
五代の言葉を、果たして聞いていたのか。それさえも分からぬ勢いだったが……。
変身した五代は構うことなく、『未確認』と呼んだ怪物に向き直っていた。
ゆっくりと立ち上がった怪物に、ダメージは見られない。五代は右足を引き、走り出すような動きを見せる。
次の瞬間―――私の目では捉えられない程に高速移動する二体の異形が、激突していた。
拳をお互いの顔面にぶち込み、弾き飛ばされそうになる身体を、足を踏ん張って抑え込む。

「ぐ……超変身!」

「……!」

五代が叫び声を上げると同時に、彼の身に纏う装甲の色が変わった。
闇に溶け込むような蒼穹の色。同時に、持っていた鉄パイプが形状を変えていく。
杖術―――ロシアで特に発達したとされる闘技を彷彿とさせる体捌きで、五代が怪物に一撃を食らわせた。
全力の、突き。俊敏な動作で放たれたその一撃には、何らかのエネルギーが纏われているようにさえ見える。
加力を加えようとして、しかし五代の動きが止まる。腹にヒットさせた筈のロッドが、直前で怪物に握りこまれていた。
再び、二体の動きが見えなくなる。ハイレベルな何かが起きて―――結果として、怪物がロッドを奪っていた。
五代は逆に打ちのめされ、ロッドの一突きで後逸する。怪物も知性を持つと分かる結果だった。
距離が離れ、互いに睨みあう二人に、雲を破った月の光が差した。
一体どうしたことだろうか? その姿は、互いを初めて見る私にさえ似通った物のように見えた。

「クウガ!?」

「――――――仮面、ライダー……!」

いつの間にかロッドから鉄パイプに戻った得物を、怪物が取り落とす。
五代もまた、唖然と怪物を見つめる。私には何が起きているのか分からず―――。
走ってきた少女にぶつかって、ようやく我に帰れた。
私も五代の戦闘に気をとられていたが、少女の様子はより酷かった。
ぶつかった事にさえ気付いていないようで、激しく息を切らしながら地面に向かって足をばたつかせている。
はっきり言ってこのような人間……戦意を持たない者に大して用はないのだが、一応声をかけておくか。

「……大丈夫かね? 怖い目にあったね……さ、立って一緒に逃げよう」

「……」

少女は何も言わない。足を動かすのはやめたが、立たずに左手をガサゴソとディパックに突っ込んで何かしている。
更に右手の爪を噛みながら、追い詰められた表情でブツブツと呟いているではないか。
どうやら精神状態に問題があるようだな……まあ、あんな怪物に追いかけられては無理もないが。
だが、さりげなく少女の噛んでいる指に目をやって、私の表情が凍りつく。
少女は、まるで砂地に字を書くように―――己の人差し指と親指に、『しね』という文字を刻んでいた。

「……(なんだッ……? 頭が痛い……何だというのだ! 彼女の行動……目を離せない!)」

「……く、う」

数秒か、数十秒か。私が陶然と少女を見つめている間に、少女は落ち着いたらしく。
やおら立ち上がり、私を突き飛ばすようにして再び走りはじめた。
私はすぐさま、彼女に追いつかないような速度で、気付かれない程度の距離を保ちながら追うことを決める。
普通に考えれば、あんな異常な行動を取る人間が、無害な被害者なわけがない。
混乱状態にあるだけだとしても、放置しておけば危険になりうるし、
そもそも彼女こそがあの怪物以上の危険人物だということもあり得る。
彼女をただ見逃すなど、危険を増やす事に他ならない以上、追って動向を確かめるのは当たり前……。
だが私はそれ以上に、彼女に強い興味を覚えていた。

「五代くん! 鍵をかけた場所で待っているぞ!」

聞こえているかどうかもわからない声を張り上げて、私は少女を追跡し始めた。
151幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:20:48 ID:mgjfWUq1

【F-6 市街地 AM 4:33】



もう! 善吉くんもグリマーさんも、なんであたしがゆのちゃんと本郷さんのところに行くのを邪魔するのかな?
だって、本郷さんは乱暴さんだから、きっとゆのちゃんにきつく当たってるよ! 絶対ほっとけない!
でも、グリマーさんが「君が行くと話しがややこしくなりそうだから」って言うし……。
あたしも何度か覚えがあるから、そう言われるとちょっとちゅーちょしちゃうよぉ。
でも、わき・・・わきなんとか! みんなで仲良くするためには、黙ってたら駄目だよね!

「二人が帰ってきたら本郷さんにビシッと言うから! 女の子を縛るなんて駄目だって言うからね!」

「疑いを晴らす為だよ。それをしないなら、我々は彼女をこれからずっと信用できない」

「疑う事自体がおかしいって言ってるんだもん!
 あたしと同じくらいの歳の女の子が、鉄砲なんて使えるわけないよぉ! 持ってただけだよ!」

「俺の友達には機関銃とか使う人がいるけどな……」

何言ってるの、善吉くんは! いくら高校生さんだからって、そんなに背伸びしてる人なんているわけないよ!
うう、誰もわかってくれないよ。じゃあじゃあ、あたしはいったいどうすればゆのちゃんを弁護できるんだろう。
ゆのちゃんが何か大きな悩み事を抱えてることくらいはあたしだって分かってる。
それがゆのちゃんの態度を過敏にして、本郷さん達が彼女を疑う原因になってる事だって、分かってるけど。
だからって、ゆのちゃんの事情―――夢や悩みを無視して、縛り付けていいはずがないよ。
ゆのちゃんはきっとまだ話してくれないけど……みんなが心から彼女に歩み寄れば、きっと分かり合えるはず。
必ずゆのちゃんの悩み事を聞いて、それを解決してみせる。そう誓ったあたしの目に、そのゆのちゃんの姿が。
!!!! どうしたんだろう、怪我してるみたいだけどっ!?

「あっ! ゆのちゃん……本郷さんは?」

「うう……分からないの……いきなり本郷さんが襲ってきて……」

「何だって……!?」

「……」

やっぱり、本郷さんは約束を破ったんだ! 上着もなくしてびしょ濡れのゆのちゃんに駆け寄って、肩を貸す。
ふらふらと倒れ掛かっているゆのちゃんを、グリマーさんは驚いて、善吉くんは無言で見つめている。
ゆのちゃんが何をしたのかを聞いてからだけど、どうあれ本郷さんは絶対に許せないよ!
帰ってきたら、歳の差なんて関係ない、ちゃんと怒って、分かって貰わないと……。

「――――! のぞみちゃん、逃げ……」

「え?」

善吉くんが、何か言って――――。

152幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:21:39 ID:mgjfWUq1




基本支給品の筆記用具―――エンピツが、のぞみちゃんの左目を抉っていた。
フラフラとした体からは想像も出来ない敏捷さで、由乃ちゃんが突き刺した物だ。
何の迷いもなく全力で刺し込まれた鉛筆は、のぞみちゃんの眼球を貫き、網膜とその静動両脈を通過して、
眼底骨にまで達しているだろう。新品の鉛筆が半ばまでねじ込まれているのが、それを示している。
由乃ちゃんは即座にのぞみちゃんの腕時計―――ピンキーキャッチュだったか―――をむしり取り、
彼女を突き飛ばして懐に手を入れる。俺は息を呑む暇もなく、行動を起こしていた。

「我妻、由乃――――!!!」

叫びながら、走る。のぞみちゃんは急性ショックで動けず、その場に崩れ落ちて激しく息を切らしている。
由乃ちゃんは、悠々と拳銃を取り出した。コルトパイソン―――彼女が最初に捨てた銃とは別物。
6inの傑作回転式拳銃が、マグナム弾を吐き出した。両腕を上げて、首から上をガード。
だが、覚悟していた激痛は身体のどこにも走らず、背後でグリマーさんが倒れる音が聞こえる。
駄目だ、振り返るな。全ての感情を置き去りにして、今は由乃ちゃんを止める為だけに動け。

「おお、らああっ!」

「がっ……!」

ショートレンジに飛び込んで、回し蹴りを叩き込む。
拳銃の弾層が回転するより早く放たれた一撃に、由乃ちゃんが苦悶の声を吐く。
狙ったのは腕でも足でも、彼女がガードした頭でもない、粉砕する事で人間を痛みで無力化できる肋骨。
側面とはいえ、女子の腹を蹴るのに抵抗があるなどと言っている場合ではない。
叩き込んだ蹴りは、先ほどのぞみちゃんに試し割りをした時とは違う、混じり気なく本気の一撃。
後は倒れこんだ由乃ちゃんの肩にカカトを下ろして、気絶させれば―――。
153幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:26:52 ID:qFXt/95O

「え……っ!?」

違和感、その一。直撃してから数瞬後に来る、蹴り足への反動が弱い。
違和感、その二。その蹴り足に、僅かな重み。
その一は、由乃ちゃんの制服から毀れた少年ジャンプを見て解決。あれを仕込んで、攻撃に備えていたのか。
頭のガードは、攻撃箇所を誘導する為の偽挙だったのだ。
その二……高速で地面に戻り、鍛え上げた膂力で踏ん張って火花を散らす蹴り足を見て、解決。
俺の足に、何かで濡れた布のような……おそらく切り裂かれた由乃ちゃんの制服の上着が、巻き付けられていた。
由乃ちゃんが、異常な俊敏さで飛びのいて、こちらに笑みを投げかけている……!

「――――ッ」

ぞくり、と肝が凍る。一瞬が百倍に濃縮されたような視界に、地面に散った火花が布に降りかかるのが見えた。
硝酸アンモニウムとヒドラジンを混ぜた、刺激臭を発する液体爆薬。
いま自分の足に絡み付いている布に染み込まされているのがそれだと気付いた瞬間、爆発は起こっていた。
十三組の十三人に対抗する為に鍛え上げた俺の努力が、仇になったか。
右足の膝から下が消失し、吹き飛ばされる。爆熱は全身を焼き、致命的な火傷を与えていく。
正式な起爆装置もない、素のままの点火とはいえ、爆薬は爆薬。人間に耐えられる威力ではない。
立ち上がる事も出来ない俺は、自分の死を確信し、仰向けになって由乃ちゃんを見た。
何故こんな事をしたのか。本郷さんはどうなったか。俺が彼女に話した、めだかちゃんにも同じ事をするのか。
せめてそれだけは聞きたかったが、口を動かせない。どうやら、口内から喉までも焼け付いているようだ。

「……えいっ」

由乃ちゃんが、可愛い声を上げてそこら辺で拾った角材を俺の頭に振り下ろす。
片手に持った銃で頭を撃ち抜けば、簡単にトドメを刺せるだろうに。銃弾を節約するつもりなのだろうか?
もはや痛みも感じないが、地面を割りかねない衝撃と一撃ごとに薄れる意識から、
彼女の膂力が中学生の女子としては異常な事に気付く。恐らくこれが斧なら、俺の首を軽々と刎ねていただろう。

「えいっ。えいっ。えいっ。えいっ……はあはあ、えいっ。えいっ。えいっ。えいっ。あっ……」

何度も、何度も振り下ろされた角材が、とうとう折れる。
由乃ちゃんは俺の……恐らくは原型を留めていない顔を見て、もう十分だと思ったらしく、薄く微笑んだ。
その笑顔に、どこか見覚えがあった気がする。消えていく意識の中で、思い出したのは誰の笑顔だったか。
あの、万象を喪失った、あらゆるマイナスを所持していた笑顔は、誰の――――――。

「あははははは! あははははっ!」

忌々しい記憶を思い出すと同時に、俺は恐らく死んだ。
肉体が活動を止め、勝ち誇った笑い声を上げていた由乃ちゃんの姿も見えなくなる。
もう、自分が何をしていたのか、何をしているのかも分からない、空ろな状態。
それでも、最後に一つだけ。

「いや、由乃ちゃん。お前が誰よりも過負荷(まけ)なんだぜ」

果たしてそれは、言葉だったのか、思念だったか。
由乃ちゃんに届いたのか……分からぬまま、俺の意識は終わった。
せめて彼女が、めだかちゃんに出"合"わないように願いながら。
154幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:27:37 ID:qFXt/95O



「ふふ、ふふふ……」

案外、簡単だった。
やはり最初に夢原のぞみを潰せたのが大きい。
私は喜悦を抑えられないままに、ゆっくりと人吉善吉の死体に背を向ける。
これで三人……褒賞を得られる条件を満たしたはずだ。
未来日記を開いて見るが、まだ『DEAD END』は消えていない……冷や汗が、出る。
これは……まだ、死の運命から逃れられていないと言う事。
周囲を見渡すと、その原因らしき物が起き上がっていた。
マグナム弾で頭を撃ち抜いたはずの、ヴォルフガング・グリマーだった。
どうやら当たり所が良かったらしい。

「……」

「銃弾はなるべく節約したいな、あと五発しかないし……」

まあ、仕方ないか。人吉善吉のように行動不能にしてからならともかく、
動く相手を仕留めるのは手斧や鉈がない以上、この銃を使うのが安全だ。
グリマーの表情を覗いてみると、どうにも正気というものが感じられない。頭を撃たれておかしくなったのだろうか。
人間、こうなると哀れだな……と思うが、同情はしない。早く殺して、ユッキーのところにいかなくちゃね。
DEADフラグを排除する為、コルトパイソンのベンチレーテッドリブをスコープ代わりにして、目標の頭に合わせる。

「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」

直後、人間の物とは思えぬ奇声を上げて、グリマーが右手を振り回しながら駆け出した。
とっさに身を屈めて避わすと、まるで私が見えていないかのように脇を素通りする。
そして接触した護送車のドアに、拳をめり込ませる。その一撃は容貌からは想像も出来ない力で、
護送車が僅かに浮き、ドアにはっきりと傷跡を残していた。
殴った感触が人間の物ではないと気付いたのだろうか。
頭を振って次の標的を探すグリマーを見て、私の脳裏に一つの仮定が浮上する。

(目が見えていない……? さっきのは、私の声を聞いて方角を察知したのか)

冷や汗をかいて、一歩下がる。その足音を聞きつけられて、グリマー……ではもはやない。
超人とも呼べる存在が、私を殺さんと迫ってくる。
どうする? 一か八か、動き回るグリマーを撃ってみるか……。いや、駄目だ。
動いている的だと一撃で殺せないかもしれないし、こちらの位置を悟られる。
液体爆薬を使うか? いや……あれは切り札だ。数も限られているし、死にぞこないに使うべきではない。
それ以前に、こちらに我武者羅に向かってくる相手に使えば、爆発に巻き込まれる危険もある。
もっと効率のいい策を……。

「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」

「くそ……!」

グリマーが、目の前まで迫る。顔を見ると、黄色い血液を目から垂れ流している。
脳に酸素がいっていないのだろう、放っておけば死ぬだろうが……それまでに、私も殺されるかもしれない。
振り回される腕をなんとかかわし、グリマーの目が見えないのをいい事に、背を向けて走る。
グリマーが追い、私が逃げる。それを何度か繰り返して。
策戦を練り終わって、キョロキョロと音を探すグリマーを尻目に、後退。
が―――その足が、何者かに掴まれた。見ると、頭を潰された筈の人吉善吉が足元に縋りついていた。
恐らくは無意識のうちに、「誰よりもお前が負けなんだぜ」などと、うわごとの様に呟いている。
完全に予想外だった。死にぞこないは、二人いたのだ! なんて、しつこい――――――!

「こいつ―――っ!」
155幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:29:39 ID:qFXt/95O

「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!!!!」

私が嫌悪感を露わに呟くと同時に、グリマーが最も近い位置にいた、最も音を出す物に迫る。
そして―――人間の頭蓋骨が砕ける嫌な音が私の耳に色濃く届いた。
..........................
予定通り、夢原のぞみの頭が潰れる音が。

重症を負い、身動き取れないまま激しく息を切らしていた彼女を音源として、グリマーを誘ったのだ。
掴む手に力をなくした(恐らく死んだ)人吉善吉を振り払い、手ごたえを感じて動きを止めたグリマーの背後に回る。
片手間に、人吉善吉が死んだことによって『DEAD END』が消えたかどうか確認しながら。

「……まだ、駄目か」

トドメの一撃をグリマーが夢原のぞみに加える前に、至近距離からヘッドショット。グリマーは、今度こそ死んだ。
未来日記を確認。

「まーだぁ〜?」

続けて、放置すればグリマーが殺害したことになるだろう、息絶え絶えの夢原のぞみの胸に銃を突きつけて、
肺の下の心臓目掛けて銃弾を発射した。手ごたえあり。これで、三人全てを完全に殺害したことになる。
未来日記を確認すると、『DEAD END』フラグは消えうせていた。『DEAD END 回避』の文字が浮かび上がる。

「セーーーーーーーフッッッ!!!!!!」

やったよ、ユッキー……私は、『運命』に『勝った』ッッ!
小躍りしそうになりながらも、殺した連中の荷物をかき集める。
残念な事に銃弾の換えはなかったが、便利そうな物もいくつかあった。
中でも、夢原のぞみの所持していたピンキーキャッチュという腕時計には興味をそそられた。
プリキュアというのに変身できるらしいし、私が変身できるかどうかは分からないが、後で試してみよう。
あの可愛い衣装を着て見せたら、ユッキーも喜んでくれるかもしれない。

「ふう……」

汗を拭っていた手が、何気なく首輪に触れる。
次の瞬間、私の目の前に、奇妙な人間が姿を現していた。
銃を向けても、男は何の感情も見せずに。一糸纏わぬ、裸体を晒していた。
156幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:30:22 ID:qFXt/95O BE:2206416299-2BP(1)

【F-6 市街地 AM 4:38】



その男には、正常と呼べる箇所は何一つなかった。
発する雰囲気も、一糸纏わぬ肉体の体色も、人間のそれではない。
それでいて、今にも消え去りそうな儚さで、男―――ジョナサン・オスターマン(らしきもの)はそこにいた。
だがその濃い青色の体色は、かのDr.マンハッタンの水色の肌とは違う。ならば、この男は一体何者だろうか。

「召喚に応じ参上した。君の願い……確かな成果に対する報酬の要求を聞こう」

(……首輪、うっかり触っちゃった。早くここを離れたいんだけど……)

由乃は、突如全裸で現れた男に面食らいながらも、首輪をつけていないこの男が、
この実験の主催者側に位置する者だと理解する。ブラブラと揺らしている男根に目をやらないように、
手早く願いを告げる。由乃にとって、欲するものは余りに明確。雪輝に関する全て―――雪輝日記である。

「私の未来日記を返して。こんなレプリカじゃ、ユッキーの居場所が分からないじゃない」

「それは出来ない」

「……何?」

その返答に、由乃が気色ばむ。本来なら飛び掛かっていてもおかしくなかったが、
流石に得体の知れない主催者の一味に喧嘩を売るほど頭に血が上っているわけでもなかった。

「何で、渡せないの?」

「簡単な話だ。この褒賞ルールにはいくつか縛りがある。
 その中の一つに、『参加者に直接危害を加える望みは不可』というものがある」

「……?」

「君達が知る未来日記というアイテムは、破壊される事で所有者が消滅するという相克を持っている。
 仮に君がここで雨流みねねの逃亡日記の譲渡を望めば、参加者を無条件で一人排除できる権限を、
 渡す結果になってしまうだろう? よって、生存している、また参加していない者の未来日記の原典の譲渡は、
 出来ないという裁定が下された。融通がきかないと思うだろうが……別の望みを選びたまえ」

「……じゃあ、ユッキーの居場所を」

「待ちたまえ、それは奨められない。参加者の現在位置は常に変わるし、
 君のようなタイプの参加者に奨めるのは、情報ではなく戦力を補う道具だ。
 そもそも情報は信用できるかどうかという点で普遍的価値があるとは言いがたいだろう?」

「私の勝手でしょう……」

全裸の男にあれこれと指図され、由乃は苛立ちを隠しきれなくなっていた。
だが、確かに居場所を聞くというのは下策かもしれない、とも思う。
どうせ、大体の当たりはついているのだ。それならば、より重要な情報を。
157幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:31:15 ID:qFXt/95O

「例えばこういう物がある、キャレコM50短機関銃。毎分700発の発射速度で、神経断裂弾という特殊弾丸を……」

「参加者が属するグループの情報は?」

「一名のみなら、可能だ」

腹の中に手を突っ込んで重火器の類を示していた全裸男は、
質問が来るとまるでプログラムに従うかのようにすっとその話題に乗る。
由乃の口元が緩んだ。彼女にとって、自分がどうすれば生き残れるかなど二の次。
雪輝の為に何をすれば、彼の援けになるのか―――それこそが……それだけが、彼女の行動原理。

「ユッキーのグループを教えて!」

「自分の属性ではなく、天野雪輝の属性を聞くのだな?」

「ええ」

「Isiだ」

あっさりと、褒賞は与えられた。功労者が歓喜に拳を握り締める。
雪輝が所属するのはIsi……ただ最後まで生き残るだけで勝利条件を満たす事の出来るグループ。
これが分かった以上、もはや無駄な危険を犯して参加者と交戦する意味は、由乃にはなくなった。
雪輝と合流し、彼を安全な場所に閉じ込めるだけで彼の生還は確定するのだから。

(もしかしたら、ユッキーにまた嫌われちゃうかもしれないけど……凄く悲しいけど、
 嫌われる事さえ、ユッキーの為なら我慢できる。ユッキー! 待っててね! すぐ助けに行くよ!)

「君は彼らの与える情報を疑うかもしれない。実験のルールそのものを疑うかもしれない。
 だが、彼らに君達を騙す理由も、必要もない事は理解して欲しい。
 反抗も反逆も自由だが、無意味だと言う事も。彼らはその気になれば、君達全員を殺せたのだから」

俯いて震える由乃の姿をどう捉えたのか、男は淡々と語る。
由乃にも多少の疑心はあったが、そこを疑ってしまえば彼女が前進する事はできない。
黙考する由乃がふと気付くと、全裸の男は影も形もなく消えうせていた。
荷物を全て回収した以上、由乃にはもうここに留まる意味もないし、猶予もない。
本郷の前に立ちはだかった新たな怪物も、どれほど足止めしてくれているか分からないのだから。

「ユッキーを探しに行こう。その為には……」

喜悦の極地、と言った態の由乃が腕を振った。
じゃらりと、由乃がたった今善吉から奪ったバイクの鍵が音を立てる。
小回りの利く足を手に入れた由乃に、もう本郷に拘泥する心算はない。
本郷が雪輝の害になるより先に、雪輝を見つけるだけ―――と、由乃の耳に、小枝が折れる音が届く。
振り返って薄闇を見通すと、中年の男―――先ほどすれ違った男が、街角に消えるようにその身を翻していた。

(――――― ヨンヒキメ、ミッケ)

由乃の精神が、『殺す』状態に移り変わる。
目撃者を、しかも本郷と出会う可能性の高い人間を見逃すわけにはいかないという当然の理屈を持って、
由乃は男を殺戮するべく駆け出した。必要以上に交戦はしないが、必要とあらば殺す。
三人の人間の命を奪って、なお新たに人間を"殺す"事にいくばくの感情を交えない、雪輝以外の命の極端な軽視。
それが、我妻由乃という『悪』の根源である事を正しく理解できた者は、散乱した屍の中には居なかった。
158幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:32:18 ID:qFXt/95O


【F-6 市街地 AM 4:40】



この吉良吉影、『追い駆けっこ』はあまり得意ではないらしい。
喉をせりあがる呼気にむせながら、優美な町並みを全力疾走する。
追われているのは私で、追っているのは今しがた驚くべき手練で三人の人間を殺害した少女。
平穏な日常とは程遠いデッドレース……しかし、恐怖は不思議と感じない。
先ほど目にしたあの怪物―――今も五代と戦っているのだろうか―――アレには、確かに恐れを抱いたのだが。
確実に距離を詰め、疲弊する私を油断なく狩りたてる少女を、首だけ回して見遣る。彼女の姿は見えない。
致命的な隙を晒す私に、見えざる少女は何故か発砲してこない。銃弾が尽きているのだろうか?

(いや……彼女が私から掏り取った銃には残り3発の銃弾が込められているはず。確実に―――)

懐に仕舞ったビデオカメラに意識をやる。先ほどの少女の凶行は、全てこれで記録している。
参加者三名を殺害した際のボーナスの詳細が撮影できたのは幸運だった。
折原へのいい土産になりそうだが、私が死んでしまっては意味がない。足に力を込めよう。

(……彼女の顔を見た。とても、『幸せ』そうな表情だった)

ビデオカメラに映した少女の姿。運悪く枯れ木を踏みつけてしまい、見つかった時の少女の顔。
そこには、少女の"生きがい"がふんだんに鏤められていた。今の私には、ないものだった。
脇に見えていた壁が、途切れる。100mは走っただろうか。既に私は限界だった。
周囲の町並みから隔絶されたような一軒家の前で、力なく崩れ落ちる。
身体を反転させると、追っ手は少し離れた場所に立ち止まってこちらの様子を窺っていた。
少女は、バイクに跨っていた。不自然な程音を立てない、禍々しい機械―――それには少し、震えが来た。

「……この銃の換えの弾、持ってるんでしょう?」

「私は持っていない」

事実だ。あのコルトパイソンに、弾のスペアはなかった。
少女は残念そうな顔をして、キョロキョロと周囲を見渡し始める。
先ほどの行いから考えて、銃弾を節約する為に私を撲殺する凶器を探しているのだろう。
この状況でろくに反逆も出来ない私を、武器も持たない無力な人間だと決め付けて。
おそらく数分後か十数分後には私は殺されるのだろう……客観的に考えれば、その推測は容易だ。
だが―――何故だ。まるで、恐怖が、湧いてこない。殺されれば、全て御終いだと、知っているのに。
私は、『死』という概念を恐れないような人間では、ないはずだ。全てがリセットされる愕然……リセット……。

(……軋んで、痛む。私の、頭が)

目の前の少女ではなく、『死』そのものへの恐れは確かにあるのに。
どうしてだろう、全てが茶番―――取り返しのつく出来事にしか、思えないのは。
負けた者は死ぬ(BITE THE DUST)という当然の帰結さえも、無視できるような幻想が実在すると思えるのは。
生き残ろうと逃げていた筈の私は、今や生死への頓着を捨てていた。求めるのは―――唯一つ。
少女が、困り果ててこちらを凝視している。どうやら、得物が見つからないようだ。
私は意識せずに、少女に語りかけていた。
159幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:33:11 ID:qFXt/95O


「……君には、いくつ"選択肢"がある?」

「え?」

「私には一つ―――これから君に殺される、という選択肢しか残されていない。君もそう思うだろう?」

「……ええ、お前を殺すのは確定しているわ」

「だが君には、私をどうやって殺すのか選択する余地が残されている。羨ましい事に……ね」

「何が言いたい?」

「提案だよ。私は抵抗しない……私の首を絞めて殺してくれないだろうか? 君のその手で」

少女がギョッとしたような顔をする。当然だろう、私が同じ立場でも同じ反応を取る。
私は彼女の返答を待つ間、少女の手を眺める事にする。先ほどの外人の物には劣るが、魅力的ではあった。
あの手で、銃を撃って私を殺せば、その音を誰かに聞きつけられて現場を目撃される可能性が出る。
手持の戦力も減り、新たな労力を強いられることになるだろう。彼女は、恐らくそれを望まない。
先ほどの殺戮も、明らかに"次"を想定し、体力と武器を温存して行っていたのだから間違いあるまい。
ならば、音も立てず抵抗もされずに最低限の労力で参加者を一人殺せるこの提案に乗らない事は有り得ない。

「……企んでいるんだろう! 私を出し抜こうと」

「君には"生きがい"がある。私にはない」

親の仇を見るような目でこちらを警戒する少女に、淡々と語りかけた。
たくらみなど、何もない。ただ、この少女が羨ましかった。だから妬みを、ぶつけてみた。

「私は今、空っぽだ。何も思い出せないし、どうすれば幸せになれるのかも不明だ。
 生きがいがないまま生きることに、何の平穏がある? 何を平穏と定義できる?
 自分の嗜好も、自分の使命も、自分の夢も、自分の性格すらも定かではない……そんなのはごめんだ」

「……」

「ひょっとしたら、自分が今のこの虚無的な状態の方が良かったと思えるような"それ"らの持ち主だとしても。
 私は、"自分の本質"が欲しい。そう、真の平穏に向かうべき道筋が知りたいのだ……ッ!」
160幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:34:19 ID:qFXt/95O

そのために、"女"の"手"で絞め殺される経験が必要だと、少女に告げる。
死に至るコンマ1秒の間でも、自分の本質を知りたいと、そう願う。
少女は……もう、困惑してはいなかった。私の話を聞いていて、何か感じるところでもあったのだろうか。
変化は明白だった。何かに―――"生きがい"に燃えていた、彼女の瞳は、死んでいた。
私が折原に言われた、死人の眼だ……彼女も、生きがいを見つけるまでは、私と同じ虚無だったのだろうか?
少女はバイクから降りて、こちらにゆっくりと近づいてくる。死人の目で、しかし暖かい手で、私の首を絞める。

「―――ぐ、う……」

「死ね。……死ね、○○○」

力は、なるほど強かった。一瞬で気道が圧迫されて視界に澱が混ざる。
死の実感―――少女の手―――フラッシュバックが、脳裏を走る。
削り減る命と反比するように、記憶の鍵が体内に構築されていく。
その鍵は、時計の長針のようにも見えた。時間を刻む……命を削む、時計の音を立てている。
                       ................
カチ、コチ。カチ、コチ。それはまるで、爆弾の起爆装置のような――――――。

命が終わる最終刹那。この鍵で、私の全てが見えるような気がして。

「―――!」

鍵は消えた。少女が手を離して、耳を澄ましている。
意識が拡張され、死に瀕していた私にも、誰かが近づいてくるような音が聞こえた。
"死"に瀕する事で自分の本質を見つけようと決める前に、逃げ回っていた私は、約束の場所に辿りついていた。
外人の少女が眠る、この一軒家の前に。近づく足音は、二つ……。五代と、誰だろう?

「……私にとっても、君に、とっても……残念な、結果だ……選択肢は、我々が選ぶ物では、ないらしい―――」

「糞―――ッ!」

少女の瞳に、"生きがい"の火が再び燃え始める。
一瞬の躊躇いもなく、私を完全に無視してバイクを駆って逃走する。
目撃者の私を撃ち殺す時間も銃弾も惜しいほどに、その"誰か"から逃げたいのだろう。
取り残された私は、少女の背中を未練たらしく眺めていた。
少女は一度も、振り返らなかった。
161幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:35:41 ID:qFXt/95O


【F-6 市街地 AM 4:43】


パチパチと、人間の死体が燃える音。
充満する死臭を押し退けるように、燃焼の燻りがその場を伝播していく。
三つの死体が転がる護送車の周りに、男が二人立っていて、男が一人うずくまっていた。
隣り合って立っているのは吉良吉影と本郷猛。
死者に詫びるように頭を下げているのが、五代雄介。
吉良を救出しに来てから、二人は吉良が撮影したビデオカメラの映像を見せられた。
半信半疑のまま、ここに来て。それを事実と、認めざるを得なかった。

「私には、彼女の凶行を止められなかった……。せめて、止められる誰かに真実を遺すことしか出来なかった」

「……懸命な判断だ。だからお前は、生き延びた」

吉良が恐れた怪物の正体―――本郷猛は、吉良の行動を責めない。
本郷は、吉良に"悪"を感じなかった。感じすぎない程に、感じなかった。
蹲る五代の背中に、本郷が声をかける。慰めではない、事実を淡々と告げる。

「お前が仮面ライダーとなって戦った結果が……ここに広がる、この惨状だ」

「……!」

「お前に、仮面ライダーである資格はない」

ビクリ、と震える五代の背中を見下ろしながら、護送車の脇に散らばる死体に歩み寄る本郷。
膝を下ろして自分を慕っていた善吉の、葡萄のように膨れ上がった顔を見て、呟いた。

「そして、俺にも」

善吉の首が、ねじ切られる。
人外の怪力を持つ本郷の腕によって捻断された少年の首からはゲル状の血液が糸を引いて、
外れた首輪に纏わりついている。その血を拭って、ディパックに仕舞いこむ。誰も止める間もない、一瞬の出来事。
本郷の目には、自分への怒りが燃えていた。三人を殺した我妻由乃という悪よりも、自分自身を苛んでいた。
悪だけを見て、悪だけを討つ―――そんな聞こえのいい言葉で、自分に羨望の目を向けるこの少年から、
離れようとしていた。そこに、彼の期待や高望みから逃げようという弱さはなかっただろうか?
守るべき者から目を背け、戦う事だけを選ぶなど……仮面ライダーに、許される事であろうか?

「悪の跳梁に間に合わない正義に……存在する意味はない」
162幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:37:10 ID:qFXt/95O
一瞬の気の迷いが―――直接的にでも間接的にでもないにせよ、この結果を招いた。
許されざる失態。有り得ない筈の不手際。だがそれは、本郷猛の歩みを些かも衰えさせはしない。

「俺は、往く。俺の"仮面ライダー"を、成す」

搾り出すような声で、死んだ者たちへの別れを告げて。
悲しみも憎しみもなく、『仮面ライダー』を張り通す為に、本郷猛はその場を後にした。
由乃の向かった方角も既に聴き取れず、当てもなく歩いていくその姿を、吉良が見送っている。

「……凄絶な男だな、本郷というのは。共に行動しようなど、言い出せる雰囲気ではなかったな」

吉良の呟きに、残された五代は反応しない。
彼のこれまでの未確認生命体との戦いの中で、本郷の言った『間に合わない』が幾度あったろう?
五代は、目の前に広がる無惨な死体を見て、それを再認識して……悲しみにくれていた。
自分が守った少女が、この惨劇を引き起こした事もショックだったが、何よりも。
ビデオで見た我妻由乃の笑顔が、心からの喜悦……五代が守りたいと思う、純粋なモノだった事が、辛かった。

「……」

五代は弱音を吐かない。時に能天気とも取られる彼の心は強く、その強さ故に痛みを溜め込み過ぎる節があった。
『仮面ライダー』……クウガの事を指すらしいその言葉に、五代の強さが押しつぶされそうになる。
自分がここにいれば―――あるいは少女が本郷に抹消されかけた場所にいなければ。
仮面ライダー・クウガの力がなければ、彼らは死なずにすんだ筈だったのだ。

「五代くん……」

吉良が、五代の様子を見て心配そうに言葉を選ぶ。
同行人の彼が使い物にならなくなれば困るという打算的な考えも多分にあったが、
僅かな時間とはいえ行動を共にした、この気のいい男が苦しむ姿を見ていたくない、という気持ちもあった。

「吉良さん、俺はっ……!」

「間違ってなど、いない。君が我妻由乃を助けた事で彼らが死んだのであっても。
 君が我妻由乃を助けようとした思いに、非難される謂れなど、何一つないのだからな」

「―――っ、ぐ、ぅ」

五代の瞳から、一滴だけ雫が落ちる。それは本当に一滴で、吉良に気付かれることもなく終わった。
吉良の言葉……五代の精神性を尊重し、それでも厳しい語調のそれは、何より深く五代を侵食する。
暫し無言の時が流れて、護送車の周囲の熱が散らばって冷ややかな外気が戻りゆく中で、顔を上げた五代は。
自分の過ちから目を逸らすことなく、自分の根幹を守ったまま、この惨状に向き合っていた。

「俺、戦います。吉良さんや折原さんのいう、善い人たちのグループを作って、こんな事をする奴らと……戦います」

由乃のような少女と戦うのを想像して、一瞬顔を歪めるが、それでも決意を露わにした五代。
それを見て、吉良は何故か『喜び』を感じられなかった。
吉良のかけた言葉は、100%善意からきた物で、作意や悪意など微塵もない。
だというのに、それを聞いて真っ当に立ち直った五代と、その喜びを共有できなかった。

(私は、彼とは違うのだろうか―――)

何が違うのかは、吉良自身にも分からないが。
彼は未だ、五代の真の意味での仲間には、なれていなかった。
だが、後一歩だ。我妻由乃との対峙で、彼の本質は殻まで見えてきていると言っていい。

「彼らの墓を作ろう、五代くん。それが我々の責任だと言いそうな顔をしているからな、君は」

ともあれ今のところは、二人が衝突することはない。
共に目指す生還というゴールに、同じ足並みで歩いていた。
163幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:38:03 ID:qFXt/95O


【F-6 市街地 AM 4:50】


金髪の少女―――ニナ・フォルトナーは、護送車の中で寝息を立てている。
吉良の救出後に本郷たちによってここまで連れてこられた彼女の覚醒は間近だった。
彼女の出身地……511キンダーハイムに共に在籍していたグリマー・ヴォルフガングは物言わぬ亡骸となって、
車の装甲一つ隔てたすぐそこに転がっている。お互いにろくに記憶がないにせよ、皮肉な奇縁であった。
ニナはキンダーハイムという地獄を、兄ヨハンと人格・苦しみを分け合い、最後には全て押し付けて生き抜いた。
一方のグリマーは、己の中に超人シュタイナーという異なる人格を形成する事で、例外的に生き残った。
奇しくも二人は、キンダーハイムの長、フランツ・ボナパルタの「人はなんにだってなれる」という言葉を証明した、
優良種であったと言えるだろう。その二人も、いまや生と死という分厚い壁に阻まれている。
果たしてニナは、グリマーとは違う末路を選択できるのだろうか?
何かの夢にまどろみながら、ニナはほんの少しだけ……微笑みを、浮かべていた。

本郷猛は「仮面ライダー」に「された」。
我妻由乃は「天野雪輝の嫁」に「なろうとした」。
吉良吉影は「自分」に「なれずにいる」。
五代雄介は「仮面ライダー」に「なった」。

ならば、彼女は……何に、なるのでしょうか。

【人吉善吉@めだかボックス 死亡確認】
【ヴォルフガング・グリマー@MONSTER 死亡確認】
【夢原のぞみ@Yes!プリキュア5シリーズ 死亡確認】
【残り49人】
164幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:39:05 ID:qFXt/95O


【F-6/市街地:早朝】

【本郷猛@仮面ライダーSPRITS】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:ベレッタM92@MONSTER
[道具]:基本支給品一式、支給品1〜3(本人確認済)、善吉の首輪
[思考・状況]
基本行動方針:仮面ライダーとして力なき人々を守る。
1:全ての善を守り、全ての悪を倒す
2:首輪を解析する
[備考]
※参戦時期は次の書き手さんにお任せします。

【ニナ・フォルトナー@MONSTER】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:気絶
 [装備]:護送車@DEATH NOTE
 [道具]:基本支給品一式、ハンドガン
 [思考・状況]
 基本行動方針:
 1:気絶中
[備考]
ジョーカーの名前を知りません


【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:疲労(中)
[装備]:アマダム
[道具]:基本支給品、サバイバルナイフ、鉄パイプ
[思考・状況]
基本行動方針:誰一人死なせずに、この実験を止める
1:悪と戦い、倒す
2:Horと見た人を仲間に加え、Isiと見た人を保護する。
3:死んだ人たちを埋葬する。
4:臨也、吉良を守る。
5:臨也を警戒。

[備考]
登場時期は原作35話終了後(ゴ・ジャラジ・ダを倒した後)。
クウガの力の制限については、後の書き手にお任せします。
ペガサスブラストで火器の残弾が減るかどうかは後の書き手にお任せします。
165幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:40:04 ID:qFXt/95O


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康、記憶喪失
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、Queenの楽曲三つが入ってるCDとそれが入ってるウォークマン
    爆弾の作り方が書いてある本 ビデオカメラ@出典不明
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、平穏の中で幸福を得る
1:爆弾の起爆装置……? 私の本質とは一体……。
2:コロッセオに向かい、Horと見た参加者を擬似Hor集団に加え、Isiと見た参加者を保護する。
3:自分の"本質"を知り、"抑えられない欲求"を解消したい。
4:『東方仗助』と『空条承太郎』はなんだか危険な気がするので関わりたくない
5:首絞め……惜しかった……。

[備考]
登場時期は原作で死亡した直後。
記憶の大半を失い、スタンド『キラークイーン』を自分の意思で出せなくなり、その存在も不認知です。
なんらかのきっかけで再び自在に出せるようになるかどうかは、後の書き手にお任せします。
ビデオカメラには由乃が善吉・のぞみ・グリマーを殺害してご褒美を貰うまでの映像が記録されています。
ビデオカメラの出典・詳細は、後の書き手にお任せします。

【F-5 市街地:早朝】

【我妻由乃@未来日記】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:ダメージ(小) 疲労(中)
[装備]:雪輝日記(レプリカ) 剃刀 バギブソン@仮面ライダークウガ コルトパイソン(残弾3/6)
[道具]:基本支給品、支給品(確認済み)3 ピンキーキャッチュ@Yes!プリキュア5シリーズ
     アストロライト液体爆薬入りの小瓶@現実×6 マッチ箱@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:ユッキー(天野雪輝)と共に生き残る。
1:ユッキーを探す。情報を頼りに東南の都市(下水道)へ向かう。残りは愛でカバー!
2:Isiであるユッキーを保護し、ゲーム終了まで安全な場所で守る(雪輝の意思は問わない)
3:邪魔をする人間、ユッキーの敵になりそうな奴は排除する。殺人に忌避はない。
4:最終的にユッキーが生き残るなら自己の命は度外視してもいい。
[備考]
※雪輝日記(レプリカ)
ユッキーこと天野雪輝の未来の行動、状況が逐一書き込まれる携帯電話。
劣化コピーなのでごく近い未来しか記されず、精度はやや粗い。更新頻度が落ちている。
※プリキュアに変身できるかどうかは、後の書き手にお任せします。

【支給品紹介:アストロライト液体爆薬@現実】
常温で液体である爆薬の一種。
爆薬としての威力はそれほど高くないが、安定性が高く不揮発性であるため、爆発力を維持しやすい。
何かにしみこませた状態での爆破も可能であり、上手く使えば建物を倒壊させることも可能だろう。
166幼気 ◇2XEqsKa.CM 代理:2010/10/19(火) 22:41:33 ID:qFXt/95O
522 名前:幼気 ◆2XEqsKa.CM[sage] 投稿日:2010/10/19(火) 21:21:24 ID:7SjGQV76 [33/33]
以上で投下終了です。
誤字、矛盾等ありましたらご意見願います。
もし良ければ本スレにどなたか代理投下をお願いします。

-------------------------------------------------------------------------------
代理投下終了します。
167 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:30:10 ID:mKV90035
武藤まひろ、アーチャー、悪魔将軍、バットマン、天野雪輝、雨流みねね

投下します。
168手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:31:24 ID:mKV90035

 薄汚れた道路の一角を、古い街灯が照らす。歓楽街から離れた、人通りの少ない場所であった。
 そこを一目で裕福そうだとわかる家族が通る。
「勇敢だったね、ママ」
 映画を見た帰り道、少年はうれしそうに話題をふる。
 一方、母親の方は少しだけ眉をしかめていた。
 映画がやや乱暴だったのが気に入らないらしい。
 父親は穏やかに、男の子だからしょうがないさ、と苦笑交じりに告げていた。
 この後は食事をして家路につき、興奮する子どもをなだめながら、両親は眠りにつかせるだろう。
 穏やかで力強い父親。優しく包容力のある母親。
 大好きな二人に囲まれたまま、明日もまた来るのだと、少年は無邪気に信じていた。
 だからこそ、そこを通るのはやめるんだ、と姿の見えない誰かは叫んだ。
 彼はこの顛末を知っていた。家族に振りかかる不幸を知っていた。
 だけど容赦なく、曲がり角の向こうから不幸は這い寄ってくる。
 影は懐に手を入れた大柄の男だ。

「その真珠を渡してもらおうか」

 なんども聞き慣れた粗暴な声。男は銃を突きつけ、家族を脅す。狙いは母親の持つ真珠のネックレスだ。
 彼は父親が抵抗するのを知っていた。
 駄目だ、父さん。それ以上は――。
 誰かは祈る。ただの一度だけでいい。
 家族を見逃して欲しい。父親が悪漢を撃退して欲しい。母親の真珠を諦めて欲しい。
 夢でもいいから、自分を一人にしないで欲しい。
 置いて行かないで、父さん、母さん。
 無慈悲に銃声が二つ、轟いた。
 愛していた両親は足許に崩れ落ちる。殺した男は一目散に逃げていった。
 願っていた彼――その時はまだ少年の彼はただ、静かに涙を流す。その瞳には……。



 目を覚ましたところは、見たことある薄汚れた部屋だった。
 地下水路らしく、パイプがむき出しになっている。どこからかドブの臭いが漂っていた。
 この部屋は見覚えがある。
 いつか、アーカムからの脱走者が“フリーク”と呼ばれて徒党を組んでいたときに使われていたアジトだ。
 潰れたはずの場所が残っていることに違和感を覚えつつ、バットマンは頭を振って思考を明確にする。
 どうやら気を失っていたらしい。
 直前の指示を思い出し、不審に思った。ここはバットケイブではない。
 どういうことか問い詰めようとして、バットマンはベッドを軋ませながら天野雪輝の姿を探す。
「あ、雪輝くん。バットマンさんが起きたよー」
 返ってきたのは少年の声ではなく、明るい少女のものであった。
 疑問をさらに深める。いったい少女は誰なのか。
「君はいったい……それに少年がいたはずだが」
 バットマンが彼女に問うと、探していた少年が声をかけた。
「僕はここです。彼女は……」
「私は武藤まひろです! よろしくお願いします!
えーと、応急処置をしましたけど、体の方はどうですか? 辛いところありませんか?」
 そういうことか、とバットマンは疑念を解く。
 よく自らの身体を見下ろせば、手当のあとが発見できた。
 包帯を巻きすぎている気もするが、問題はない。マスクには手をかけられていなかった。幸運だ。
169手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:32:21 ID:mKV90035
 彼らに聞かねばならぬことは多くある。
 バットケイブは見つからなかったのか。
 ロングヘアの彼女――武藤まひろは何者なのか。
 ここはどこなのか。
 そして、矢を射る支援者はわかったのか。
 悪魔将軍から完全に逃げ切れたのか。
 一瞬で整理しながら、バットマンは短く問う。
「現状の説明を頼む」



 時間は悪魔将軍に爆発する矢が放たれた頃だ。
 結論から言うと、武藤まひろはアーチャーの言いつけを守らず、後を追ってしまった。
 足手まといになるのはわかっていたが、それでも『もしかして』という気持ちは抑えられない。
 彼女の兄、武藤カズキがいるのではないか、という期待は。
 くじけてはいけない、とまひろは己を叱咤する。
 瞬間、爆発音に思わず首をすくめた。音の大きさからして、音源とはある程度距離があるだろう。
 だけど、ここが殺し合いの場だと自覚を促す音に、まひろは心音を高めていた。
「周囲の警戒を頼むといったが……ここは私に任せて欲しかったのだがな」
 やや呆れを含んだ、皮肉げな声にホッとする。
 白髪に赤い衣装の青年が弓を片手に、曲がり角から現れたのだ。
「アーチャーさん、今の音は……」
「ああ、安心していい。あれは私が起こした」
 こともなげに告げるアーチャーの顔を、そっと見上げた。
 彼は自分を助けてくれた。ならば、誰かを傷つけるため、というわけではないだろう。
 まひろは察しのいい少女である。ゆえに彼がなんのために弓矢を使ったのか、理解ができた。
「誰か……襲われていました?」
「…………」
 アーチャーは手を顎に当てて沈黙をする。どう告げるべきか考えているのだろうか。
 まひろがもう一度問い直そうと思ったとき、答えは返ってきた。
「勘が鋭いな。それがいいか悪いかは、さておき」
 弓兵の顔はどこか寂しそうに見えた。ふと、いつかの兄を思い出す。
 不安になる自分に、「二度と恐い思いはしない」と告げた兄の顔を。
 おそらく、アーチャーは優しい人間だ。襲われた人を助けたいのだろう。
 だが、自分が足かせになって助けに向かいたい気持ちを押し殺している。
 もっとも、これはまひろの勝手な推測だ。勘違いかもしれない。
 それでも、彼女は告げる。
「じゃあ、助けに向かいましょう!」
「そうしたいのは山々だが……」
「私なら大丈夫! なにを隠そう、私は隠れん坊の名人よ!」
 どこからか取り出したダンボールを手に、瞳を輝かせて告げた。
 震えそうになる足に喝を入れ、恐怖は決して見せない。
 きっと、自分と誰かを助けに向かうことを秤にかけた場合の兄にも同じことを言うだろうから。
「まったく、少しは緊張感を――」
「だから、アーチャーさんが誰かを助けに向かっても構いません。
なにより私がそうして欲しいから」
 ため息混じりで忠告しようとするアーチャーに向かって、まひろはたたみかける。

「襲われた人の……みんなの味方をしてください」
170手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:33:39 ID:mKV90035

 みんなを守った、兄のように。
 まひろは願いを込めて、そう嘆願した。


 アーチャーはしばし呆然としていた。
 なにかおかしなことを言っただろうか、まひろは思索する。
「君は……いや、いい。おうせのままに」
 どこか茶化すような物言いに対して、首を傾げた。
 呆れたような、ほっとしたようなため息をついて、アーチャーはまひろに近寄る。
「ならば役割分担だ。彼らは地下水に逃げていった。途中までは私が送ろう。合流後、彼らの手当てを頼む」
「場所をわかるんですか?」
「彼らは怪我をしていてな。血の跡を追えばなんとかなるはずだ」
「それは構いませんが……アーチャーさんはどうするんですか?」
 弓兵は一瞬だけ獰猛な顔を見せ、すぐに消す。
 肩越しに振り返り、真っ直ぐ伸びる道路の先を鋭く見た。
「なに、少し足止めをするだけさ」
 まひろは顔を曇らせる。誰かが襲われたということは、襲った誰かがいることだ。
 アーチャーは戦うことになる。
 ならば、まひろはこころよく送り出すことしかできない。
「わかりました、その人達は私に任せてください!」
「ああ、頼んだ」
 アーチャーはまひろを抱き上げながら赤い外套をひるがえした。
 まひろは尋常でない脚力に驚きながらも、頼もしげな顔を見つめた。


「もう……運べない……」
 雪輝はバットマンをおろし、弱音を吐く。
 そもそも、中学生としてもひ弱な彼が、鍛えられた成人男性を運ぶなど無理な話であった。
 さらに場所は地下水路だ。薄汚れた通路に下水の臭い。
 精神面を疲れさせるには充分だ。
 とはいえ、上の都市が無人のためか、臭いはまだマシである。
 臭いを吸い込まないように口元を抑え、呼吸を整える。
 しばらく休もう。そう考える雪輝の傍で、寝言が聞こえてきた。
「……父さん……母さん……僕を……一人にしないで……」
 雪輝は思わず彼の顔を見た。ものものしい覆面はいつもと変わらない。
 だが鍛えられた肉体を持ってバケモノと戦った姿と、今の弱々しいつぶやきが一致しなかった。
 その声はまるで、父親が刺されたときの自分のような――。
 ありえない、と雪輝は首を振る。
 バットマンは正義の味方で、バケモノと渡り合う戦士だ。
 確かに自分はすべてを殺し、それをなかったことにすることで皆を救う決意をした。
 だけど、未来日記により神を知り、願いを叶えることが可能だとわかっているからこその行動なのだ。
 それに、由乃がいた。未来日記があった。厄介な敵がいた。
 バットマンのように、自分の身一つで戦えるほど心は強くない、と自覚をしている。
 だから、彼が自分と似たような想いをしている、などとは想像ができないのだ。
「でも……」
 彼のような正義の味方でも、自分と似たような哀しみを持つのだろうか。
 それでも屈しない強さの元とはなんだろうか。
 雪輝の心中に答えのでない疑問がわく。
 自分と同じ傷を持った上で、人は強く在れるのだろうか。
 グルグルと答えのでない袋小路にはまり、雪輝はため息を一つ吐いた。
171手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:34:35 ID:mKV90035
 そんな彼の思考を、携帯のノイズ音が中断させる。
 未来が変わったのだ。雪輝は周囲を警戒しながら、未来日記を覗き込む。
 その画面にあったのは――。



「――そのあと、雪輝くんを見つけて、バットマンさんをここまで運びました」
「日記を見る限り、彼女たちに敵意はないと判断して……。
それに僕一人だと運べなかったし、バットケイブは見つからなかったから……」
「なるほど。だいたい理解した」
 自分の知るゴッサムシティとの差異はさておき、少女については納得した。
 まだ若い、子どもと言っていい雪輝に自分を運べ、というのも酷な話だ。
 バットマンは座っていたベッドから静かに立ち上がり、体の調子を確認する。
 動きに問題はない。バットマンの方針は決まっていた。
「私がアーチャーという青年の援護に向かう。君たちはここに隠れていて……いや、それもまずいな。
……二時間経って私が戻らなければ、ここから移動してくれ。
ウェイン邸に向かえば、いずれ合流が可能だと覚えてくれればいい」
 離れるように指示したのは、かつてここを根城にしたことがあるジョーカーを考慮してである。
 あの時はトゥーフェイスと組んでいた。たちの悪い道化王子がそのことに思い至り、訪れないとも限らない。
 バットマンは必要最低限の指示を出して、地下水路を出ようと準備をした。
 そこを、天野雪輝に呼び止められる。
「ちょっと待ってください!」
「何?」
「え……と……一つ、聞かせてください」
「……手短に頼む」
 雪輝は緊張しているのか、ゴクリとつばを飲み込んだ。
 話を切り出したのを後悔しているのか、それとも自分の目が怖いのか、少しためらっている。
 呼び止めたのも、計画的なものというわけではないだろう。
「もしかして……両親が亡くなっていたり……するんですか?」
 雪輝の疑問にバットマンは目を細める。
 いつ知ったのか、単純に疑問だったためだ。
「あ、え……と。寝言で……言っていたから……その……」
「そうか。気にする必要はない」
 バットマンは答えながら、なぜ彼が問いているのか理由を察し始めていた。
 目がなにより雄弁に語っている。あなたも同じなのかと。
「僕は……わからないんです。あなたが正義の味方をやる理由が……」
 痛みを堪らえるように、雪輝は胸元を抑えていた。
 何かに耐えるように、歯を食いしばっている。
 バットマンは――ブルースはその瞳をよく知っていた。
「大切な人を失って……どうしてそんなに強くなれるんですか!?」


 雪輝の質問を受けて、ブルースはいつかの日を思い出す。
 サーカスを見に行ったその日、一人の少年がみなしごとなった。
 自分と同じ傷を持つ、その少年を理解したい、とブルースは思ったのだ。
 両親を失った頃のディックと、雪輝が重なる。
 ディックは大きい哀しみの感情をもてあました。
 雪輝は哀しみの大きさを知っているためか、自分の自警活動を理解できないと言っている。
 彼とディックはまったく重ならないはずだ。なのに、ブルースは懐かしい気持ちになった。
 雪輝はおそらく、自分やディックと同じく、両親を失っている。
172手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:35:24 ID:mKV90035
 正直、ブルース自身は自らの精神を強靭だとは思っていない。
 スーパーマンのように、誰かの平穏だけを望んでいるとも言い切れない。
 確かに自分やディックのように、犯罪の犠牲者を減らすことはこの上ない喜びだ。
 だが、自らの胸にある感情は無視しきれない。
 犯罪者に対する憎悪を。
 もしも、ヒーローとして殺人を封印しなければどうなっていただろうか。
 ジョーカーは自分のことを狂人だと嘲笑っている。
 否定をしても、あの宿敵の笑い声が耳から消えることはない。
 ヒーローであることで、かろうじて自分を保っているのかも知れない。
 だからこそ、バットマンであり続ける。
 その生きざまだけは、変えたくない。
「長居しすぎた。私は行かせてもらうぞ」
 雪輝は意気消沈し、心に壁を作ったように少し距離をとった。
 ブルースは構わず、コウモリの覆面に手をかけた。
 相手が驚くのも構わず、素顔をあらわにする。
「だが、アマノ……いや、ユキテル。戻ったら、もっと君と話をしたい」
 同じ傷を持つ者同士として。
 自分の思いを素直に伝えるのは苦手だ。
 だから、ブルースは素顔を見せることで、本気で話をしたいと示した。
 

【F−9/下水道内:早朝】

【バットマン@バットマン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:瓦礫による怪我、落下によるダメージ
 [装備]:バットスーツ
 [道具]:基本支給品、グラップリングフック@バットマン、瞬間接着剤@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いをせず、悪漢に襲われている者がいれば助け、この実験を打破する。
 1:アーチャーの援護。
 2:雪輝と再合流した際、話がしたい。
 3:ジョーカー、悪魔将軍等の動向に注意。


【天野雪輝@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:左腕に裂傷(治療済み)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、雪輝の無差別日記のレプリカ、不明支給品0〜1、拾った工具類
 [思考・状況]
 基本行動方針:自分のグループを判明させて、同じグループの人間と共闘して勝ち残り、神となって全てを元に戻す。
 1:まひろと共にバットマンたちを待つ。
 2:由乃と合流…?
 3:悪魔将軍怖いっ! でも死んだのか…?


【武藤まひろ@武装錬金】
[属性]:その他(Isi)
[状態]:健康
[装備]:無し 
[道具]:基本支給品、ワルサーP99(16/16)@DEATH NOTE ワルサーP99の予備マガジン1
[思考・状況]
基本行動方針:人は殺したくない
1:アーチャー、バットマンを待つ。
2:お兄ちゃん………
【備考】
※参戦時期は原作5〜6巻。カズキ達の逃避行前。
173手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:36:57 ID:mKV90035




 自分たちが追えるということは、あの白銀の鎧を着たバケモノも追えるということだ。
 地下水路の一番広い空間でアーチャーは敵を待ち続けた。
 あのバケモノは余裕なのか、ゆっくりと歩いてきている。
 先回りができたのはそのせいだろう。
 敵が近づいてくる気配を感じ取る。水路は複雑だが、必ずこの広い空間にたどり着くためだ。
 出口は背に向けている。入り口は前のみ。
 アーチャーは双剣を持ちながらも、らしくないと自嘲した。
 あの白銀の鎧を着こむバケモノは容易ならざる敵だ。
 遠目から見ても常識外の強さを感じ取れる。平均的なサーヴァントが複数人で相手にして互角に戦えるかどうか。
 必勝の策を持つか、戦闘可能な人物と数人組むかしない限り、敵対すべき存在ではない。
 もちろん、まひろ達を連れて逃れる、という道も考えてみた。
 ネックとなるのはまひろとあの少年。こちらが本気で逃げているとわかれば、鎧のバケモノも本気で追うだろう。
 そうなれば追いつかれるのは必定だ。
 一番効率がいいのは、ケガ人であるコウモリ衣装の男と、天野雪輝という少年を囮にする手段だ。
 非情のようだが、鎧のバケモノを倒すために逃げ延び、戦力を募るのは長期的に見れば犠牲を少なくする。
 つまり彼らには巨悪を倒すために犠牲になってもらう、ということだ。生前にしてきたことと大差ない。
 そう、アーチャーは何度も小を殺し、大を生かしてきた。
 ある時は家族のために窃盗を行うしかなかった集団を一方的に虐殺した。
 またある時は危険なウィルスに侵された旅客機を撃ち落とした。
 すべては数が多いか少ないかの違いしかない。
 ただより多く人を助けたい、と願った男は、多くの人を見捨てた上で願いを叶えた。
 その原因は力がないためでないか、と勘違いした時期もあった。
 だから英霊になれば、より大きな力に委ねれば、すべてを救えると思って――いや、願っていた。
 だが、結果はより多く殺し続ける死後の運命だけだ。
 守護者は弱者を守らない。霊長類の滅亡を阻止するためだ。
 悠久の刻を殺し続け、やがてアーチャーはかつての自分を憎んだ。
 正義の味方を志さなければ。借り物の、歪な願いさえ抱かなければ。
「さて、と」
 アーチャーは一歩踏み出した。長く考えすぎたらしい。
 敵の足音が聞こえてくる。不思議と落ち着いていた。
 今のアーチャーはかつての自分、衛宮士郎を憎んではいない。
 昔は歪な願いを持つ自分を許せず、八つ当たり気味に殺しかかった。
 だが、かつての自分だった彼は「間違いなんかじゃない!」と叫んだ。
 自分がもたらした戦闘技術も捨て、未熟な、稚拙な一撃を届かせた。
 その姿を、一生懸命に理想を捨てないとがむしゃらに進む衛宮士郎を見て思ったのだ。
 自分は間違っていなかった。
 それだけでいいと思った。それ以上は贅沢のはずであった。
 なのに、武藤まひろは言ったのだ。
『みんなの味方をしてください』
 自分は自他ともに認める『正義の味方』という機能だ。
 だけど、その道を、昆虫的なほどに機械的な正義の秤を――恋人や数少ない友人はいたもの――肯定されたことは数少ない。
 何より、まひろは本来、『切り捨てるべき弱者』にいつ類されるかわからない少女だ。
 だからだろう。アーチャーは誰かに肯定される喜びを思い出した。
 噛み締めるように一歩一歩前に進む。
「ほほう、このわたしを前にして歩みを止めぬか」
174手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:37:56 ID:mKV90035
「悪いが、用があってね」
 アーチャーはそう言って、爆薬のついた矢を見せた。
 鎧のバケモノは思い至ったのか、こちらに視線を送る。
「あの時、邪魔をしたのはキサマだったか」
「違うな。貴様を邪魔しているのではない。貴様が邪魔なんだ」
 変わらず皮肉を返すと、相手はいきなり笑い出す。
「グワッハッハッハ! あの戦いを見ておきながら、このわたしを倒すつもりか!」
 悪魔将軍が言い終えると同時に、アーチャーは双剣を投げ飛ばした。
 黒の短剣が銀の鎧と衝突し、爆破する。空間が震える中、アーチャーは鋭い瞳を爆煙に向けていた。
「この程度でわたしを倒せると思うとは、舐められたものだな」
「何、最初から期待はしていないさ」
 アーチャーの返しに、敵は問うような視線を向けてた。答えはすぐにでも返ってくる。
 部屋が再度振動し、瓦礫が落ちた。爆発が二つあったことは、同時に壊すことで気づかせなかった。
 ガラガラと盛大な音ともに、出口が閉鎖された。アーチャーは前と後ろ、同時に投げたのだ。
 敵はしばらく呆然としていたが、やがて肩を大きく揺らす。
「クックック……ハハッハハ! わたしを狙うと見せかけ、出口の破壊が目的か。
しかし、この悪魔将軍と戦えばただですまないと知っておきながら、デスマッチの場を整えるとは!
どうやら人間ではないようだな。いいだろう、その挑戦を受けよう。見知らぬ正義超人よ!」
 『正義』超人か、とアーチャーは皮肉に唇を歪めた。
 同じ肯定だというのに、まひろと違って嫌悪感しか浮かばない。
 だけど不思議と気分は悪くない。
 アーチャーは答えを得て、『切り捨てるべき弱者』から肯定された。
 ゆえに今は――ただ双剣を手に取るのみ。
「ああ、受けてもらうぞ! 悪魔の将!!」


【G-9/地下空洞:早朝】

【アーチャー@Fate/stay night】
[属性]:正義(Hor)
[状態]:健康
[装備]:干将・莫耶
[道具]:基本支給品、高級お茶会セット、グリーンアローの弓矢、不明支給品0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:目に映る限りの人を救う
 1:目の前の悪魔将軍を倒す。
 2:情報を収集し参加者とのパイプを作り、疑心による同士撃ちを防ぐ。
 3:当面は武藤まひろを守り抜く。信頼できる相手がいたらそこに託す。
 4:Horは人を守る者、Setは人を殺す者、Isiは力を持たない者?
[備考]
※登場時期はUBW終了後(但し記憶は継続されています)
※投影に関しては干将・莫耶は若干疲労が強く、微妙に遅い程度です。
※他の武器の投影に関する制限は未定です。
※悪魔将軍をSet、黒衣の男(バットマン)はHorではないかと推測。

175手に入らない遠き夢 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:39:06 ID:mKV90035

【悪魔将軍@キン肉マン】
 [属性]:Set(悪)
 [状態]:疲労(小)
 [装備]:なし
 [道具]:メロの首輪
 [思考・状況]
 基本行動方針:悪を為す
 1:無名の正義超人(アーチャー)を倒す。
 2:空条承太郎を見つけ出して殺す。
 3:黒衣の男(バットマン)を殺す。
 4:殺し合いを楽しみ、トロフィーとして首輪を集め、それが終わった後は主催者を殺す。

※基本支給品2、不明支給品2〜6が、H−9、ビル建設現場に、破壊されたか使える状態で散乱しているかもしれません。




「ん……?」
 雨流みねねは今、街灯が一つしかない薄汚れた路地にいた。
 足許のかすかな振動と、何かが崩れる音。
 爆発のスペシャリストであるみねねにとって、聞き慣れた物である。
「いったい何が起きているやら……」
 みねねは楽しそうに独りごちて、顎に手を当てる。
 大型バイク、HONDA FIREBLADEの上でみねねは地下水路の入り口になる、マンホールへ視線を向けていた。
 振動と音から察するに、発生源は地下以外ありえない。
 さすがにバイクで侵入するのは無理だろう。他に入り口があるかもしれないが、さがすのも手間だ。
 中に入って、退路が限定されるのもまずい。
「とはいえ、何が起きているか確認しないのも、私らしくない」
 結局、逃亡日記だよりになるというわけだ。
 ここは12thたちが争っているところとそう離れてはいない。
 早く結論を下さないといけないだろう。
 ちょうど日記が変化を示すノイズを発する。
 みねねの日記に描かれた未来は――。




【G-9/工場地帯 /一日目 早朝】

【雨流みねね@未来日記】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、参戦前に左目を失明
 [装備]:日本刀、シルクスペクターのコスチューム@ウォッチメンで顔を隠しています。
     HONDA FIREBLADE(登場話で拾ったもの)
 [道具]:基本支給品一式、みねねの逃亡日記のレプリカ、
     雨流みねねの爆弾セット(中量)@未来日記、ロビンマスクの基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人未確認)
 [思考・状況]
 基本行動方針:基本は皆殺しで勝ち狙い。殺せる相手は殺し、厄介ならば逃げる。逃亡日記の記述には基本従う。宗教関係者は優先して殺す。
        黄泉の言うとおり、少しは情報収集にも努める(?)
 1:放送まで511キンダーハイムで黄泉を待つか、爆発現場を確かめるか、日記で決める。
 2:黒衣の男は敵と認識。
 3:黄泉も機を見て殺す。出来れば強者と道連れにしたい。
 4:悪魔将軍……殺してやるよ
[備考]
 ※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。

176 ◆SQSRwo.D0c :2010/10/23(土) 18:40:05 ID:mKV90035
投下終了します。
177 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:43:23 ID:TzY4+u8H
士郎めだかヨハン、投下します
178 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:44:48 ID:TzY4+u8H
早朝の町は、ひっそりと静まりかえっていた。
公園に小さな影はなく、ブランコが風に揺られてギイ、ギイと呻き声を漏らしている。
八百屋も肉屋も服屋も本屋も居酒屋も雑貨店も、全ての店が灯りをという明かりを消して、無言の営業拒否を行っている。
いつもは人で溢れるスーパーマーケットが、今は沈黙のバーゲンセールを押し売り中だ。時刻は午前4時を回ったところ。季節によってはうっすらと太陽が姿を現すその時間。
しかし、人が全くと言っていいほど見えない。
日課としてジョギングを行う青年がいない。
店の開店準備に取りかかる親父がいない。
盆栽に水をやる爺も見えない。
人っ子一人おらず、という様相を呈していた町並みに、特異点が存在した。

知る人ぞ知ると言わんばかりに、隅っこにぽつりと存在するカフェである。

「黒神、出来たぞ」

厨房というにはあまりにもお粗末な店の奥から、一人の少年が姿を現す。
男にとって褒め言葉か不名誉か分からない「エプロン姿が似合う」彼は、衛宮士郎。
カウンター席に腰を据えていた美少女が「ああ」とそれに応じて立ち上がる。
何処かの制服を着崩し、目のやり場に困る出で立ちの彼女は、黒神めだか。
二人の「正義の味方」が、カフェに陣取っていた。

「すまないな、衛宮上級生。それでは、参ろうか」
「参るって……これはどうするんだよ」

少し眉間に皺を寄せながら、士郎は手に持つ皿、正確に言うとその上に乗った固形物をずい、と突き出す。
食べないのか、と不満を表しながら差し出したのは、今日の朝食。
真っ白な生地の中身はハム、トマト、レタス、卵。お決まりの組み合わせだ。
60°×3の正三角形という調和的な形が、黒神めだかに差し出される。

「衛宮上級生、貴様はサンドウィッチが作られた際の逸話を知っているか?」
「あれだろ、トランプしながらでも食べられるようにとかなんとか」
「トランプしながら食べられるのならば、歩きながらでも食べられると言うことだ」

デイパックの中に入っていた食料は、味気のない物ばかりだった。
小麦粉の固まりみたいなパンでは、とても食が進むとは思えない。
かといって腹が減っては戦は出来ぬ。ついでに、空腹はイライラの元にもなると聞く。
先程のちょっとした衝突も、こんな所に拉致されたストレスから相手に辛く当たってしまったのかもしれない。
そう考え、親睦を深める意味合いも込めて「どうせならここで何か食べていこう」と申し出た衛宮士郎に黒神めだかが頼んだものが、サンドウィッチ。
作るのに手間は要らず、また食べるのも簡単なそれを、めだかは所望したのだ。
疲労の抜けないめだかを労る士郎の心遣いを無碍にせず、尚かつ一番時間のかからない料理。

(それって、「本当は必要ないけど先輩の顔を立てた」ってことか?)

「…………衛宮上級生、どうした?
先程の状況を鑑みるに、事態はあまり楽観視していられない状況だ。
今も、何処かで誰かが誰かに襲われているかもしれない。
バットマンなる人物を捜しながら、他の参加者とも合流しなければ。
貴様も、知り合いと合流するのは早いほうが良いだろう……手遅れになる前に」
「……あ、ああ。そうだな。今行くよ」
179 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:45:33 ID:TzY4+u8H

サンドウィッチを片手に颯爽と呼び鈴を鳴らし外に出て行くめだかを見つつ、士郎はふとそんなことを考えた。
めだかは「優等生」を見慣れている士郎から見ても、あまりにも「完璧」すぎる。
そのことを全く鼻にもかけないことを含め、彼女は素晴らしい人間だ。
素晴らしすぎるが故に、その善性が空恐ろしい。
こんな状況に置いてさえ、人殺しを良しとせず、助けられる命を全て助けようとして。
めだかの命を脅かしている相手のことさえ、自分に殺させないように気を配っている。
彼女は、あの道化の男が死にそうな目に遭っていたら、迷わず身体を張って助けようとするだろう。
道化だけではなく、誰彼構わず目に付いた者を助けられる限り助けようとするに違いない。

いつか、彼女は酷い目を見る。

今の状況を差し引きしても、士郎はそう思わずにはいられなかった。
己の歪みが、黒神めだかと似通っているものだと気付くことはないまま。



◇ ◇ ◇



そして、かいぶつは動き出す。
静かに、ゆっくりと音も立てずに。
全ては、「最後の風景」を見せるために。
全ては、「完全なる自殺」のために。
かいぶつは、己の目に映るものすべてを呑み込もうとする。
かいぶつは、己を目に映したものすべてを食らいつくそうとする。

かいぶつの意志とは関係なく、世界とはそう言う風に作られているのだから。



◇ ◇ ◇



「なるほど、それで貴方は天馬賢三、兄であるヨハン・リーベルトを探していると」
「……ええ。天馬先生も兄も、きっと殺し合いなんて望んではいないはずです」

衛宮士郎と黒神めだかが出発してから、更に時間は進み。
微弱な陽光が窓の外から漏れ出て、椅子やテーブルが静かに客を待っている状態の、その場所。
所変わらず、またしてもカフェテリアに彼らは居残っていた。いや、戻ってきたというのが正しいか。
前回と違い、今回は一人、外国人女性をパーティーに加えて。

「ニナさん、でしたっけ。もう大丈夫なんですか?」
「ええ、すいません。私なんかのためにお時間をとらせてしまって」
180 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:46:26 ID:TzY4+u8H

カフェを出て、すぐに二人はニナ・フォルトナーという女性に出会った。
金髪に儚げな瞳。男なら思わず心拍数を上げる、整った顔立ち(マスク)。
しかし二人が出会った時、彼女の顔は青白く、今にも泣き出しそうなほど歪んでいた。

『どうした、大丈夫か!』
『怖い……怖い……来ないで来ないで来ないで』

出会った当初、彼女は酷く怯えているようだった。
そんな人を見過ごせるわけがない、という意見は二人の正義の味方にとっても共通のもの。
まずは彼女を落ち着ける為に、カフェで話をしようということとなった。
女性であるめだかがニナから話を聞き、その間に士郎はニナの分の朝ご飯を作る。
三つ目のサンドウィッチを皿にのせた士郎がやって来る頃には、ニナも落ち着き大体話は付いていたようだった。

「昆虫と人が融合したような化け物と金髪長身の男が殺し合い、昆虫男が少年を盾にして逃げた、か……」

信じて頂かなくても構いません、という始まりからニナは己がこの地に来てからの経験を包み隠さずめだかに打ち明けた。
ここより北の森から、一人きりで寂しさを押さえながら南下してきたこと。
その途中、二人(一人と一匹?)の殺し合いを物陰から目撃したこと。
結果として昆虫男はその場に居合わせてしまった少年を盾にとり、逃げていったこと。
凄惨な殺し合いを見てしまったため恐くて、残った金髪の男に助けを請おうとすることも出来なかったこと。
殺し合いという現実を実感したことにより、恐くて恐くてたまらなくなったこと。
ここまで来たは良いが、歩き通しの身体にも恐怖に捕らわれた精神にも限界が来てしまったこと。
めだかや士郎と言った良い人達に会えて、漸く一息つくことが出来たこと。

「その少年の容姿などに、目立ったものはありませんでしたか?」
「なにぶん暗かったもので……学校の制服のようなものを着ていることは分かりましたが……」
「ふむ、そうですか」

しかし、その情報だけでも士郎とめだかの心を揺さぶるには十分だった。
黒神めだかの知り合い、人吉善吉。
彼女の二歳からの幼なじみであり、黒神めだかを心配してくれる数少ないクラスメート。
めだかがデレを見せる数少ない人物であり、彼女曰く「私にとって必要な人間」
衛宮士郎の知り合い、間桐慎二。
士郎も所属していた弓道部の副主将であり、聖杯戦争のマスターでもある。
性格に少々難があるものの、士郎にとっては「そんな悪い奴じゃない」幼なじみ。
攫われた少年がどちらかだという可能性は、決して低いものではない。
彼女の話を聞く限りでは、昆虫男が少年に害を加える可能性は、高いと言うことも。
めだかも士郎も、互いの知り合いを脳裏に思い浮かべ、焦りを募らせながら思案に暮れる。
181 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:47:09 ID:TzY4+u8H

「どうする、黒神」
「ふむ……」

無論、士郎もめだかもその昆虫男を追い、少年を助けることを第一目的としたいのは同じだ。
昆虫男は多くの人間をも苦しめるだろうし、少年の安否は最優先で確認すべきだろう。
しかし、そいつを追うにはあまりにも情報は少なく、何処から手をつけて良いのか分からない。
ニナは混乱していたせいで昆虫男がどの方向に行ったかなど思い出せないし、男はバイクのような乗り物を使ったという。
少なくとも、一筋縄で捕捉できる相手ではないだろう。今から探し、放送までに見つけられるとは限らない。
加えて、ニナは落ち着いたとはいえ疲れが色濃く残っており、無理な強行軍は彼女を苦しめると考えられる。
めだかにも士郎にも、「ニナを置いて昆虫男を探しに行く」という選択肢は端から持ち合わせていない。
また、めだかは目を離すとジョーカーを殺しに行きかねない士郎を見張るため。
士郎は、単純に女の子一人を危険な目に遭わせないため。
どちらかが残ってどちらかが探索に行くという選択も無しだ。
見知らぬ誰かのために生まれてきた、と公言して憚らない黒神めだか。
弱き者を一人でも救うために正義の味方を目指している衛宮士郎。


「……もうすぐ放送だ、やはりもう少し時間をおいてから動いた方が良いであろうな」
「俺も同意見だ。闇雲に動いても失敗するのは身に染みてるからな」


二人の「セイギノミカタ」がニナ・フォルトナーという弱者を見捨てることは、決してない。
それは彼らの矜持でもあり、生き方でもあり、人生そのものの縮図でもあった。
衛宮士郎が、衛宮士郎であるために。
黒神めだかが、黒神めだかであるために。
彼らは、大切な人間を助けに向かうことよりもここに残ることを選択した。
苦渋の選択だったが、それが現段階ではベストであると言うことを信じて。


それが、ベストどころかワースト。下手をすれば、マイナス。
少なくとも、一方にとっては笑えるほどの悲劇の前章となることに、二人は気付くことはなかったが。
気付けるはずも、ないのだけど。


「あの……」


仕方ない、と椅子に座り溜息をつく士郎と。
あくまでも毅然とした態度を崩さず、士郎が出した紅茶を飲んでいるめだかに向かい。
ニナ・フォルトナーはデイパックから何の気無しに。


「良かったらどうぞ。私だけが貰ってばかりだと悪いので……」


ウイスキーボンボンを、取り出したのだった。


差し出した腕は、雪のように白く、繊細で。
彼女の微笑みは、善意に満ちあふれた天使のようだった。
182 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:47:55 ID:TzY4+u8H



【E-6/市街・カフェテリア:早朝】


【黒神めだか@めだかボックス】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いを止める
 1:衛宮上級生、ニナ・フォルトナーと行動を共にする
 2:ジョーカーを殺させない
 3:バットマンを探す
 4:衛宮上級生に不快感
5:昆虫男と少年のその後が気になる。
 [備考]
 ※第37箱にて、宗像形と別れた直後からの参戦です。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、現在地他多くの情報が筒抜けになっていますが、本人は気付いていません。
 ※ジョーカーの持つ装置により、「ロックオン」されているため、1kmの範囲内では、ジョーカーによって電撃、または首輪の爆発をさせられる、と聞かされています。



【衛宮士郎@Fate/stay night】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:殺し合いを止める
 1:めだか、ニナと行動を共にする
 2:めだかの回復を待つ
 3:バットマンを探す
 4:ジョーカーを生かしてはおけない
  5:昆虫男と少年のその後が気になる。

[備考]
 ※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
183 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:48:50 ID:TzY4+u8H

E−6の、何処か。
そこは人気がない路地裏だったかもしれないし、とある店の入り口だったかもしれない。
民家のダイニングルームだったかもしれないし、公衆便所の中だったかもしれない。

もしくは、もしかしたら。
隅っこにぽつんと建っている、一軒のカフェテリアの中だったかもしれない。

とにかく、その何処かに。


『落書き』は、存在した。


落書きの周りには、うち捨てられた二つのデイパックと、地図やら乾パンなどが放置されている。
最も。
地図はシュレッダーにかけられたかのように破滅的に散り散りとなっており、読めるものではなく。
乾パンはその中身にぬちゃりとした赤い液体を詰め込まれ、とても食べられるものではなかったが。

他にも色々転がっていたり放置されていたりしたが、その中でも一際目をひくのは、やはり落書きそのものであった。


『みてみて!』


赤黒い液体によって描かれた、それらの文字列は。


『ぼくのなかのかいぶつは』


意味不明で、意図不明で、理解不能で。


『まだまだおおきくなってるよ!』


無邪気なストリートチルドレンが暇潰しに描いたようで。

趣味の悪い悪魔が遺した、意思表示のようでもあった。


【E-6/市街・カフェテリア:早朝】


【ヨハン・リーベルト@MONSTER】
 [属性]:悪(Set)
 [状態]:疲労(中)
 [装備]:ニナへの女装グッズ@MONSTER、S&W/M37チーフス スペシャル@未来日記
 [持物]:基本支給品、不明支給品1?3(内訳:粧裕1?、自分0?)、ウィスキーボンボン(?)
 [方針/目的]
  基本方針:『完全なる自殺』
  1:Dr.テンマかニナに自分を殺してもらい、『終わりの風景』を見せる。
  2:自分を知ったもの全ての抹殺(DIOのみ例外)。
  3:DIOと再会したらまた指をツンツンする
  4:士郎とめだかに関しては……?
[備考]
 ※参戦時期はフランツ・ボナパルタを殺した直後(原作最終巻)。
184 ◆GOn9rNo1ts :2010/10/24(日) 20:50:01 ID:TzY4+u8H
以上で投下を終了します
タイトルは「ほほえみの爆弾」でお願いします
185創る名無しに見る名無し:2010/10/26(火) 02:07:08 ID:/zfSict1
現在地MAPのキャラデータを消してしまった人へ

wikiの管理人です。
うっかりで消してしまったならばwikiのツールから「このwikiの管理者に連絡」でメッセージを下さい。
3日後までにご連絡頂けない場合は荒らし行為と判断して
編集に使われたIPをwikiの編集禁止IPアドレス/リモートホストに設定します。
また、ご連絡無く再度同様の行為をされた場合はしたらば管理人の1氏にあなたのIPを連絡させていただきます。
荒らし行為でなくうっかりであることを切に願っております。
186創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 21:24:19 ID:myhT+MPX
てす
187 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:26:05 ID:myhT+MPX
慎二、なのは、V、イカ娘、夜神月、高遠遙一投下します
遅れて申し訳ありませんでした
188淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:27:14 ID:myhT+MPX



海の潮味が、鼻先に薫る。
僕……夜神月は、海の家の軒下で揺り椅子に腰掛けていた。
心地よい満腹感。美味とは言えない夜食だったが、団欒はあった。
殺人を認可する、このゲームの中で摂る食事としては、まあまあ上等な物だったと思う。
団欒を囲む僕以外の二人は、僕の声が届く場所にはいない。
イカ娘は砂浜を走り回っている。高遠遙一は、散歩がてら周りの地形を確認してくると言っていた。
そう遠くないうちに出発したいが……イカ娘に視線を移す。

「ごみが落ちてないでゲソー! 浜辺がすっごくキレイじゃなイカ!」

手に何やらカードを持ちながら、有頂天で走り回っている彼女を見ていると、不思議な気分になる。
海から来て地上を侵略しにきた知性体……それが事実であるとすれば、彼女は人類の敵だ。
先ほど見せてもらったイカ娘という個体の戦闘能力は、なるほど人間を凌駕して余りあるものだった。
本来なら恐れ、遠ざけるべき存在。だというのに、今僕の前で走り回るイカ娘からは危険性が全く感じられない。
傍目にはただのバカな子供―――しかし、僕と高遠が『窓口』として使えると認めた、奇妙な魅力が確かにある。
彼女の持つ、人間を惹きつける才能は天然の物だろう。そして、僕のそれは計算を根底に置く計略だ。
そんな僕でさえ、イカ娘を完全に利用できる自信はない。加えてあの高遠遙一もいる。

「厄介だな……」

「何がでゲソ?」

「全て、だよ。こんなゲームに巻き込まれて厄介じゃない事なんてないさ」

いつの間にか近くに寄って来ていたイカ娘が、頭の帽子についた鰭をパタパタさせてこちらを覗いている。
僕が座っている揺り椅子に興味を示したらしく、目を輝かせながら。
適当に答えてから、イカ娘が手に持つカードに目を留める。どうやら、彼女だけに支給された道具らしい。
問い質してもいいのだが、どうみてもただの紙切れだ。取り上げて泣かれても困るので放っておくか……。
今後の事を思って浮かない顔をしている僕にイカ娘はぐい、と胸を張り、何故か上から目線で言う。

「ライト……生きていくというのは厄介ごとの連続でゲソ! それでも前向きに生きていけば、
 いつかいいことあるんじゃなイカ? 私はガンガン進んでいくから、不安なら私についてくればいいのでゲソよ!」

……このイカは、一体どのような生き方をしてきたのだろうか?
少なくとも彼女の言葉と姿からは、「海を汚す人類を侵略する」等という攻性的な意志は感じられない。
僕が『キラ』として起こしている行動も、一種の侵略と言えるだろう。
僕とその思想は疑うことなく正義だが、キラを悪と断じる者たちがいるのも事実。そういった連中を駆逐し、
やがて世界を自分の望む姿に作り変える……それは、言うまでもなく闘争だ。
机上で『正義』『悪』を語ることしか出来ない、腐った世界の愚民たちには出来ない正義の実行。
一度走り出した以上、僕は止まれないのだ。負けて生き永らえる事も死んで勝つ事もない。
Lを筆頭とした『悪』に勝った上で、僕の認めた心の優しい人間だけの世界を作りあげ、統治し君臨する。
そんな僕の覚悟と同等の決意を持って、自分が棲んでいた海底から地上に姿を現したであろうイカ娘。

189淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:29:24 ID:myhT+MPX

「……君は、純粋だな。イカ娘」

「な、なんでゲソ急に……照れるじゃなイカ! ……うむ、イカにもその通りでゲソ!
 お前達人間のような薄汚い空気ばかり吸って生きている生物とは呼吸器とハートが違うのでゲソ!」

彼女は、あまりに澄んでいた。僕と同じ夢を……汚れながら進まねばならない道の果てにある大望を抱えていながら。
イカ娘は、僕の理想とする世界に住む権利のある、優しい人格(パーソナル)の持ち主だ。
正義の裁きとは言え、多くの人間を殺し続けた僕の精神が、彼女を正面から見る事に反発を覚える。
優しい目で見つめている事に気付いたのか、イカ娘が??と頭を傾げて、ぴょんっと揺り椅子に飛び乗ってくる。
膝の上にイカ娘の重みがかかり、胸板に揺り椅子を揺らせるイカ娘の背中が当たる。

「ライトよ、色々悩んでいるようでゲソが……私が地上を支配すればお前の悩みも無くなるに決まっているでゲソ!
 お前の妹、さゆや栄子、たけるも仲間に加えて、みんなで地上を海に優しい場所にしようじゃなイカ!」

この椅子はおもしろいでゲソー!と足をじたばたさせながら、イカ娘はこちらに顔を見せずに言った。
……そうかもしれない。彼女のような純粋な存在が支配する世界は、素晴らしいものになるだろう。
だが、彼女に地上……人間社会を侵略する事は不可能だ。彼女はあまりにも、"悪意"を知らない。
海底の世界はどうだったのか知らないが、今の地上はイカ娘が生きていくには不純すぎるのだ。
どれだけ優れた身体能力を持っていても、大国の軍事力の前では一瞬で のしイカになるのがオチだろう。
僕が地上を新世界として統治してからならば、彼女……海の使者とも、よりよい外交が出来るだろうが。

「そういえば、何故ここに? あんなに楽しそうに走り回っていたのに……」

「――――大変な事に気付いてしまったのでゲソ……」
190淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:30:48 ID:myhT+MPX

イカ娘が僕の膝から飛び降り、向き直って真剣な表情を見せる。一体どうしたのだろうか。

「ひょっとして私……ずっと海の中にいれば、かなり安全なんじゃなイカ?」

「……」

「……」


        ________              
       . ´          __`丶_            /二フ”    
     /         ,.  ´: : : : : : : : :`   、         /     
   /  |     /: : : : : : : : : :、: : : : : : : \       ヽ/     
   /   |   ./ : : : : ト、: : : : : ∧: :、 : : : :!⌒      /ヽ     
 /    :|   /: : : :∧ ,:|--\ : / ‐∨、\ : |       _i__    
 /       '  /: : : : :|/、|   `     |: V        / |    
 ` =ニニニV : : : : : |           ,x=、 Vハ        ´ ┘   
       { |: |: |: : :|  ,x==、    〃    V|         _/   
      '. j : ム:|∨:| 〃    ____ /// }|       //     
       ∨: :{ r|: : :l/// r ´    \}    ハ、       , /      
       /: : : ヽ|: : :|  |       ノ /: : : :\      ,−、    
   _/ : : /: :/ : : ト ._丶 __ . イ: :{ \:_:_: :ヽ     ノ     
                                   ・     

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           〃:!:l::::l!:ト、::::liヽ、:::リ:!::i:::ヽ:ヽ::::i          /二フ”
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           li::l::N{:ヾVヘ「 ̄` lハ ソr‐テハ!:l/          /ヽ
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              h   丶、  /                「〉
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        _rく    /癶V⌒!=| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
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191淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:32:53 ID:myhT+MPX

「それは難しいでしょうね、イカ娘君」

割り込むように、高遠が海の家の軒下に現れる。
彼はどこから調達したのか、ウェットスーツを着ていた。水も滴る何とやらか、なかなか様になっている。
どうやら周辺の地形だけでは飽き足らず、海の水質なども軽く調査していたらしい。
手に銛を持って、見た事もない魚を先端に刺している。イカ娘の前でこれはどうかと思ったが、
イカ娘は特に気にしている様子はない。高遠もそれを確認してから、微笑と共に言葉を継いだ。

「私が調べたところでは、この海の水温は通常のそれよりいささか高い……このようなゲテモノしか、
 生存できない環境のようです。イカ娘君も、おそらく長時間の潜水……いや、潜伏は無理でしょう」

「な、なんでゲソと!? ちょ、ちょっと行ってみていイカ?」

「どうぞ、まだ出発には少し時間がありますし。月君も少し水を浴びてきてはどうです?」

「……いえ、僕は結構です」

砂埃を立てながら海に突撃し、ぬるいでゲソー!と叫び声を上げるイカ娘を高遠と共に呆れ顔で見守りながら。
想像を遥かに超える重量だったイカ娘の圧し掛かりでふとももに深刻なダメージを抱えながら。
僕はこの時はまだ、この実験を暇な時に感傷に浸れる程度の物だと、甘く見ていたのだ。





見えない速度で振るわれた多刃が風を斬る。防御するのは生身の腕―――軍服を纏う腕。
6方向からしなる様に迫る刃が、防御を貫かんと思い思いに形状を変える。
いかなる外殻でも、6種の形状/力理/入角度を異にする刃を受けて耐える事は不可能。
だが。外骨格や特殊な甲殻を一切備えていない、人間の腕は、その一撃に耐えた。
刃が止まる。その正体は触手。絡め取り、捕縛する為にあるはずのその器官は、
斬・撲・絞の加害を容易に使い分ける、攻撃者の最大の武器であった。
攻撃者は異形。地面に伸ばした二本の触手で身体を支えて高速移動する、制海の怪物。
それを防ぎきった防御者の肉体も既に超人の域―――その根源は額の徽章。
髑髏を模ったそのアーティフィクトは、凡夫に過ぎない防御者に『超人』という生物の肉体特性を与えていた。

「アハハ! なんだよ、ただのガキかと思ったら化け物か! いいさ、この慎二様が退治してやるよ!」

「シンジじゃなくてワカメ海人でゲソ! お前は一体どうしてしまったのでゲソか……?」

同レベルの……言ってしまえば子供の争いを打々発止しながら、二人は触手と肉体の激突を演じる。
それを脇で眺める夜神月と高遠遙一にとっては、その戦いのレベルは完全に理解の外。
二人が事前に見ていたイカ娘の力を大幅に上回る、弱肉強食の摂理におけるイカ娘の真価。
鮫や鯱から身を守る為にイカ娘が海中で蓄えていた力は、襲撃者=間桐慎二と拮抗するに十分なものだった。
唖然とする外野二人を他所に、6本の触手を攻撃に、4本の触手を移動と防御に回すイカ娘。
二つの心臓……普通心臓と超人心臓からくる爆発的な運動エネルギーを振り回す残虐超人・マキリシンジ。

192淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:35:02 ID:myhT+MPX

「ふん、僕は間桐慎二さ! 人間を超え……魔術師を超え……サーヴァントすら凌駕する、天才の名前なんだよ!」

「何を言ってするめイカ、気でも触れたのでゲソか……海の仲間が無意味に争うなんてダメでゲソ!
 それともお前は私たちを食べたいのでゲソ? おなかがすいているなら、海の家のごはんがあるでゲソよ!」

「別の意味でなら食べてやってもいいけどさぁ! 腹なんて減ってない!
 僕はお前達を無茶苦茶に痛めつけたいんだよ! 僕の本当の力を使って、ね―――!」

下卑た笑みを浮かべながら慎二が迫り、地面に伸ばした触手を操作して後退するイカ娘が、目を見開いた。
投擲。慎二はマインゴーシュ―――西洋の短剣をイカ娘に向けて投げつけていた。
慎二からすれば、敵は自分とほぼ同じ速度で動き回る相手……更にリーチはマインゴーシュの数倍。
ダメージを与えるには、不意を打つ必要があった。それについては、成功したといえる。
だが――――。

「えいでゲソ! 危ないじゃなイカ……これは没収でゲソ!」

「なっ! それ、髪じゃなかったのかよ!」

イカ娘が攻撃の為に延ばし、制空圏を確保させる触手は6本、移動の為に身体を1mほど浮かせているのが2本。
ただの髪の毛のように垂らしている(冷静に見れば、他の触手と全く同一と気付いたはずだが)2本の触手が、
マインゴーシュを絡め取って慎二の手が届かない場所へと放り投げたのだ。
力に酔い、ただ有り余る身体能力で暴れているだけの慎二らしい失態である。
それを静かに観察していた月と高遠も、相手が全く太刀打ちできない怪物ではないと判断した。
各々逃げる算段を止めて顔を突き合わせ、自分達に出来るイカ娘のサポートを話し合う。

(どうやらあのワカメ海人という敵はあまり頭が良くないようですね、高遠さん。海の生き物の特徴でしょうか?)

(生態はあまり考えても意味が無いでしょうね……彼の漏らす言葉を聞く限り、メンタルも我々人類に近いようだ。
 私でもこの森林でイカ娘君と戦うなら、木々を上手く利用して触手を封じるくらいの講じはするでしょうが……)

(とにかく僕達に出来る事は一つしかなさそうですね……彼の気を引いてみましょう)

愚直にイカ娘に突進しては軽くいなされ、しかしノーダメージで同じ事を繰り返すワカメ海人を見ながら、
月と高遠が其々その場から離れ、慎二が激昂してこちらを狙ってきても容易にイカ娘がカバーできる位置を探す。
先にベストポジションについた月が小声で、だが確実に相手に届くトーンで口を開く。


「ハァ、ハァ……畜生ッ! なんで僕がこの帽子で手に入れた力が届かないんだ……一体どういうことだよ!
 間違ってる! 大人しくやられろよ、化け物! 逃げ回るな! 命乞いでもすれば許してやろうと思ってたけど、
 もう手加減しないからな……覚悟しろ! ここからもう本気だぞ、この真・間桐慎二様の―――」

「拾った力で我を忘れる。この世で最も軽蔑すべき存在だな……」

「……なに? オマエ! 今言ったのお前か!? ガキの背中に隠れてる奴が偉そうな事を……」

「その子供にいいようにあしらわられている貴方――― 失礼ながら、大爆笑ですね」

「お……お前らァァァァッ!!!」

月と同じくベストポジションについた高遠もまた、嘲笑の言葉を慎二に浴びせる。
イカ娘から完全に意識を逸らし、一瞬呆けた表情になった慎二は、
やがて自分がただの人間に馬鹿にされている……その事実に気付いて、簡単に激昂した。
強すぎる力は精神の平定を乱す。それが持ち主に見合わぬ物なら余計に、だ。
接敵を無視して月と高遠を攻撃しようと駆け出した慎二は次の瞬間、イカ娘の触手に拘束されていた。
足を完全にロックされ、自由な腕も倒れかけた身体を支えるのに使っている。
193淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:37:36 ID:myhT+MPX

「月くん、君の銃を借りてもいいですか?」

「……どうぞ」

高遠は月からニューナンブM60を借りると特に抵抗があるような素振りも無く、慣れた手つきで弾層を回転させる。
そして早足で慎二に近づきながら、倒れ伏す彼の両肩に二発づつ銃弾を撃ち込んだ。
ギャア、と悲鳴を上げた標的の腕が上がらなくなったことを確認して、高遠が慎二のワカメを掴む。
顔を上げさせて自分の顔を近づけて慎二の目を覗き込む高遠の眼に、慎二は撃たれた怒りで応える。
だが、それも長続きしなかった。睨み続けようとした慎二は、高遠の目を見て、すぐさまその気力を失う。

「こら! 遙一よ、一体何をする気でゲソ!」

「いえ、少しお話を伺おうかと思いまして……拘束を続けていてください、イカ娘君」

イカ娘に顔を向けずに言う高遠の目を見ているのは、慎二ただ一人。
月は高遠と違い、無力化しきれたかどうか不明な危険人物に近づくほど酔狂ではない。
故に高遠は、慎二にしか聞こえない小声で、彼を詰問できた。

「貴方には復讐したい人物はいますか? 納得できない事はありますか? 夢を奪われた事は?」

「な……なにを言ってるんだよ、オマエ……」

高遠の目は、標本を見るそれの輝きを放っていた。
この地獄の傀儡師の興味に対する純粋さは、純度だけで言えばイカ娘にも比肩する。
そして彼の興味は、悪意を持つ者に"芸術"にすら昇華させた自身の犯罪プランを実行させる事にしかない。
目の前のワカメ海人とやらには、自分の高度な犯罪プランを授けるだけの価値―――言ってみれば、
高遠の芸術を遂行する"マリオネット"として完全な挙動を取れるだけの悪意の貯蔵があるのかどうか。
一体どれだけの数の人間に、この検分を行ってきたのか……圧倒的な"悪意"の鏡を前に、被検者は萎縮していた。
高遠の空ろな目に、自分の 醜い欲望/甚だしい歪み/劣等の痛み が投影されていく。
慎二は何も答えなかったが、高遠は自ずから答えを出したらしく、興味を失ったように彼のワカメを離す。

「なるほど……人間を超えた者と言ってもそれほど埒外な"動機"があるわけではないのですね」

「あ……あ……?」

                         ................
「一つ忠告しておきますが――貴方には、力を行使する才能がない。慎ましく暮らしていくのがお似合いですよ」

高遠の言葉が、慎二の脳にこびり付く。力を行使する才能がない―――だから、お前はこうして這い蹲っている。
生まれ持った魔術回路の数など関係ない。仮に遠坂凛に匹敵する才能を持って生まれたとしても、
現に人間を超える超人の力を得ても。間桐慎二は落伍する運命にあったのだと、そう変換されてこびり付く。
それは、慎二の心象―――持つべき物を持っていれば、自分は誰にも劣らないという根拠の無い自信を、
根底から否定する言葉だった。自分以外の何かに自分の劣等を押し付ける彼の言い訳を塞ぐ、絶望の帳だった。
事実、慎二は本来のこの徽章の持ち主……ブロッケンJrの1%程も、超人強度を戦闘に活かせていない。
慎二が走馬灯のように思い返すは、衛宮士郎。魔術師の養子というだけで、家柄も知識も何も無い一般人。
その筈の彼は、その実聖杯に選ばれた……自分を選ばなかった聖杯が選ぶ程の才を持った魔術師だった。
慎二が走馬灯のように思い返すは間桐桜。どういう訳か自分たちと同等の良家から追い出された哀れな義妹。
その筈の彼女は、その実間桐の正統後継者……才能のない自分の代わりとして宿敵から恵まれた魔術師だった。
194淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:39:48 ID:myhT+MPX

「ふ……ざ、けるなよぉ……!」

怒りが。行き場の無い憎悪が。超人と化した肉体を励起させていく。
肩に撃ち込まれた銃弾が筋肉圧で弾け飛び、腕の自由を利かせた。
魔術回路がなくとも、全身の血管を通って超人パワーが全身を輪転する。
なけなしの魔力が超人パワーに乗って左手に集中し、やがて炎を纏った。
高遠の驚く顔に全力で手刀をねじ込まんと、カエルが跳ねるような動きで左手を突き出す。

「仕込みも無しに手から炎、ですか。手品師顔負けですね……」

「アハハ! 喰らって驚け、これが僕の魔術だ!」

「! イカ娘、これを!」

黒い炎を伴って放たれた手刀……"ベルリンの赤い雨"の亜種。
慎二が土壇場で習得したその技は、しかし高遠に放つべきではなかった。
自分の足を拘束している触手を切り払い、自由を取り戻してから攻撃に転じるべきだったのだ。
足を掴む触手が動き、慎二の体勢を崩す。更に、狙いを外して高遠の肩口に刺さりかけた手刀を、
イカ娘の触手2本が包み込んで、黒い炎を鎮火していく。
触手の先端は、月が放ったペットボトルの水を被って濡れていた。
ほんの少し焦げた触手をこそばゆそうに蠢かせながら、ついにイカ娘は慎二の制御から離れた腕を捉えた。
防御も移動も必要なくなったイカ娘が、10本の触手をフル稼働して慎二の全身に這わせる。

「同胞を辱めるのは辛いでゲソ……でも、これもワカメ海人を落ち着かせる為じゃなイカ! 我慢してでゲソ!」

「があっ……ごぉ、ぼ、じょぺ。ぺべ、ぎぎ……」

触手は慎二の全身を締め付け、満遍なく力を虚脱させる為の愛撫を繰り返す。
全身を操り人形のように触手で操られ、空中に吊り上げられて重力を無視した回転をさせられて感覚を狂わせる。
動物は、喉の奥に侵入していく物を噛む事が出来ない。そんな野生の知恵を用い、触手を口内に捻じ込んで、
喉の奥まで到達させ、高速で先端の伸縮圧迫を繰り返し、鍛えようの無い気管を責める。
こみ上げる吐瀉物を膨れ上がった触手で塞き止められ、押し戻され……十分ほど経っただろうか。
慎二は、完全に戦意を失っていた。触手で吊り上げられ、空ろな目つきになり、服のあちこちがはだけている。

「―――誰が得をするんでしょうね、この光景は……」

「はい……」

「うう、責めないでくれなイカ……彼奴を止めるにはこうするしかなかったのでゲソよ!」

同類を痛めつけた罪悪感に身を捩じらせるイカ娘を尻目に、高遠は宝剣を取り出した。
情報を欲する高遠と月にとっては、戦闘後の後処理がチームにおける本来の役割である。

195淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 21:43:13 ID:myhT+MPX


「何度も言わせるなよ! もう僕はお前たちを襲わないから、いますぐ解放しろ!」

「イカ娘君、焦げた触手は大丈夫ですか? 再生には一日かかるという話でしたが」

「それはちょん切れた時の話でゲソ。このくらいなら、すぐに治るんじゃなイカ?」

「女の子の髪……髪?は大事だからね。後で整えてあげるよ、イカ娘」

触手で木に括り付けられて完全に自由を奪われた慎二の咆哮をBGMに、勝者達は四方山話をしていた。
本人の言葉通りに見る見るうちに再生していく触手を興味深げに眺める高遠と月に、慎二は焦りを隠せない。
襲撃しておいて敗れ、あろう事か身柄を拘束されてしまったのだ、当然だろう。
いかに見通しが甘く、力を手に入れて得た楽観を持つ慎二でも、迫る"死"の予感は如実に受信していた。

「なあ、僕を生かしておいて仲間にすればいい事があるぞ! 参加者の中に知り合いがいるのさ!
 そいつらとのパイプ役になってやってもいい、だからこれ以上僕を怒らせない方がいいと思うんだけどねぇ……」

「ひょっとして、そやつらもお前と同じワカメ海人なのでゲソか!?」

「だから―――僕は―――ワカメ海人なんかじゃない!」

「では一つ、確かめてみましょう」

「……え?」

高遠がすっ、と立ち上がって、本当に何気なく―――照明をつけるような気軽さで、カリバーンを突き出した。
とある剣士の英霊が持つ、黄金の宝刀はまるで刃に触れる穢れを弾くように、抵抗無く慎二の胸に刺さる。
心臓を貫いた剣を抜く。胸元から僅かな血が垂れると同時に、破裂した心臓から逆流した血液が、血管を逆流。
膨れ上がり、浮き上がった全身の血管が、慎二の肌色を紫色へと変貌させていく。疑いようも無く即死だった。

「な、いきなり何をするのでゲソ、遙一! 錯乱しているとはいえ、そいつは私の同胞で……」

「本当にそうでしょうか? 彼の妄言の数々を聞いている限りでは、貴女のような心優しい海の民の生まれとは
 到底思えません。それに―――ワカメ海人とは、心臓を破壊されても生きていられる生物なのですか?」

「そんなことはないでゲソ。……おお。そうか、私の勘違いだったのでゲソね……」

人間ならば、の話だが。超人と化した慎二の肉体には超人心臓という名の第二の心臓があり、
普通心臓では耐えられない戦闘や環境の中で、人知を超えたサバイバビリティを発揮する。
およそ人間が生存できるはずのない身体状況になりながらも、慎二は一命を取り留めている。

「バ……ガビャッ! 血、血が……体から、あふれ……」

「驚くべき生命力です……これは、もう少し調べる必要がありそうですね」

「ま、待つでゲソよ、遙一。いくら同胞ではなイカらとは言っても、動けない奴にそんな……」

やろうと思えば慎二に力を与えたという帽子を取ることもできたが、それを高遠がしなかった理由は単純だ。
高遠がここで出会った参加者のうちの半分は、何らかの意味で人間を超えた力を持っていた。
ならば、そういった者たちの生態―――身体的な弱所を探しておく事は、生き残る為にも、
自分の目的の為にも役に立つかもしれないと考えたのだ。犯罪プランを立てても、標的が死なないのでは無意味。
高遠はイカ娘を丸め込む為、再び海の出来事に例えた説得を試みる。

「いいですか、イカ娘君。あなたの支配する海がそうであるように、このゲームではあらゆる物を利用しなければ
 生存条件を満たして生き残る事は難しいのです。海の猛獣たちも、海底の岩で鋭利な牙を研くでしょう?
 彼は海底の岩……しかも悪いイカでもあります。躊躇する事はありません、これは正当な行為なのですから。
 我々は自分と、仲間の安全を守る義務があるのですからね。負い目に感じる事は何も無いんですよ」

「なるほど……生きる為、仲間を守る為なら、悪い奴に悪い事をしてもいいのでゲソね!?」
196創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 21:58:02 ID:wIRgaRZf
支援
197淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:00:27 ID:myhT+MPX
「……」

あっさりと高遠の理屈を理解したイカ娘に、とうの昔に同じ理屈を理解している月が眉を顰める。
月はここに来てようやく、イカ娘が純粋過ぎる理由に見当がついたのだ。
海から来たイカ娘は、人間の色に一切染まっていない。そして人間の色……本質とは、不純以外の何者でもない。
月が今までイカ娘に持っていた感情は、白い画用紙を見て「綺麗な絵だ」と言っているのと同じことだった。
知識はともかく、人間の思考体系を何も知らないイカ娘は、教えられた物事の考え方を素直に吸収していくのだ。
きっと善良な人間の下で普通の暮らしをして来たから、赤子のような精神を得たのだろう。
そんなイカ娘を見て月は、これでいいのか、と自問していた。

(水が低きに流れるように、人間は放っておけば必ず不正――悪の側に傾いていく。
 ヒトが正しい絶対的統治者がいなければならない生き物だからこそ、僕は新世界の神になる事を選んだんだ。
 だが―――イカ娘は、人間じゃない。どう傾くか分からないじゃないか。彼女を僕達の都合によって、
 人間の"悪"の面に触れさせていいのか……? 彼女の存在が明らかになれば、人類史はひっくり返るだろう。
 僕の作る新世界の重要な要素になる道も複数想定できる。それを潰してでも、生存率を上げる道を選ぶのか?
 ……馬鹿馬鹿しい。答えは明白だ。僕が死ねば、その新世界が全て水泡に帰すんだぞ……)

イカ娘は、月にとって自身が理想とする世界の住民の雛形になりうる、貴重な存在だ。
それを汚さないまま手元に置いておきたいなど、無意味な感傷だと月は吐き捨てる。
夢物語はあくまで夢……そう理解していても縋りつきたくなるほど、
イカ娘の純粋さは月が世界に求めていた物だったのだろう。
だが月は夢追い人ではなく、自分の生きる現実を夢へ作り変えようとする革命者だった。
故に彼は生きる為、イカ娘の純潔を見捨て―――己の理想から、目を逸らすのだ。
残虐な解剖実験を前に、そのイカ娘は顔面を蒼白にして、それでも逃げずに立ち向かっていた。
仲間を守る為に―――純粋な善良さで、今まで学習した良識に逆らって。

「ではまず、指を切り落としてみましょう。イカ娘君の触手と同じように再生するのかどうか試すという実験ですね」

「わ、わかったでゲソ! でも気絶してるじゃなイカ。痛いかどうか聞いて、止めることが出来ないんじゃなイカ?」

「いえいえ、ショック死する心配がありませんから。今の彼の状態は、臨床実験に持ってこいなんですよ」

「……イカ娘、君がその"実験"を見る必要があるのか? 高遠さんに任せて、僕と向こうに行こう」

「何を言っているのでゲソ、ライトは! 私がライトや遙一を守るんだから、
 私が一番敵の弱点を知ってなきゃいけないんじゃなイカ! こ、怖くなんてないでゲソ!
 血がいっぱい出ても、全然怖くなんてなイカら、ライトが心配する必要なんてないのでゲソよ!」

「……そうか」

「その通りですよ、イカ娘君。貴女のような勇気のある人をリーダーに迎えられて、私と月君は幸運でした」

何か重要な分岐点に立っている気がして消極的に助け舟を出す月を、イカ娘は退けた。
正義の為に悪を為す。人がしばしば抱く矛盾を人外が享受せんとしていた。イカ娘としての純粋さが失われていく。

だが……ここで、≪世界≫―――宇宙の法則を支配する大天秤―――≪運命≫がそれを押し留めた。
秤に乗せられたのは、言うまでもなく―――≪世界≫に囚われ、≪運命≫に逆らう咎人。
首を吊られ、内臓を引きずり出され、四片に分割された狂人の仮面を被る魔人。
主義思想の悪所を粉砕する、カオスの権化たる、過去持たぬ夜の影の影。
誰にも気付かれずにその場に現れた、"それ"は高らかに詠い上げる。

『この世は全てが一つの舞台―――』
『役者は途切れ途切れに台詞を切り―――』
『出番が終われば消えゆくつかの間の燈火―――』
『なればこそ、今しっかとこの茶番劇の盆上で産声をわめき立てよう―――!』

When we are born, we cry that we are come To this great stage of fools。

世の儚さを歎きながら現れた仮面の男にその場の全員が凍りつく。
明け始めた夜を再び暗く染め上げる男の名は―――Vendetta(復讐)のV。
198淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:03:21 ID:myhT+MPX



「つまりあなたたちも、このワカメ海……この男に襲われた、ということですか」

『いかにもその通りだ。私が襲われる側だと信じる者などいないだろうがね』

V……名前のない怪人は、まるで演劇を踊るように、月たちの質問に答えていた。
月と高遠は比較的すぐに落ち着きを取り戻して怪人との会話に入れたが、イカ娘は違った。
突然現れた仮面の男の威容に完全にビビりまくり、怪人の連れ―――年下の少女、なのはの背に隠れている。

「なんなのでゲソ、あんな怖いものを見たのは初めてでゲソ。鮫より怖いじゃなイカ……」

「で、でも悪い人じゃないんだよ……」

『おお、少女よ。私を人に善く言うな。大抵の場合、それは過ちとなる。
 少しだけ大きい少女よ。私を恐れるな。大抵の場合、それは私を大きく見せる』

ツカツカと近寄り、Vはイカ娘と真正面から目を合わせようとなのはの周りを回る。
全力でなのはの周りを逃げ回るイカ娘を『バターになるぞ!』と静止しながら追うV。
そんなシュールな光景を目にしながらも、月と高遠は心を乱さず、新たな状況に対応しようとしていた。

(やはり生かしてはおけないな……)

月は、慎二がなのはを強姦しようとしていた事実を知り、完全に彼を見下げ果てていた。
性犯罪は特に再犯率の高い犯罪の一つだ。一度でもその罪を犯した者は、改心する余地はないと言ってもいい。
犯罪者……衝動でなく計画で罪を犯す、月の新世界を汚す塵(ゴミ)。慎二は、完全にそのカテゴリに入った。
年端も行かない少女を襲おうとしただけでも嫌悪の対象だが、ここには月の妹もいるはずだ。
月にとって、慎二を生かす選択肢は完全に消えていた。

(最高だ……最高の素材を見つけてしまったよ、金田一君……)

高遠の頭の中からは、慎二の存在など微塵もなく消え去っていた。
高遠が"芸術犯罪"を与え、それを達成させるに相応しい人間はそう多くない……大抵の場合、
慎二のように能力、あるいは悪意のどちらか/両方がないと高遠自身が判断してしまうからだ。
Vは、高遠にとって満点……いや、人間を超えたような雰囲気を汲み取れば満点以上の逸材だった。
彼の悪意はどれほどの物なのか。自分にすら計りきれない―――そんな予感すらあった。
高遠にとっても、慎二を生かす選択肢は完全に消えていた。

だが。
乱入した二人は、ことごとく月と高遠の思惑の裏を掻いた。
199創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:03:30 ID:wIRgaRZf
支援
200淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:04:43 ID:myhT+MPX

「……拷問なんて、止めて欲しいの」

「なのはよ、何を言っているのでゲソ。よく分からんが、乱暴されそうになったんでゲソ?
 わ、私に任せておけば、バッチリ仕返ししてやろうじゃなイカ!」

「仕返し、なんて簡単に言わないで。私は……その人を、許す」

自分を強姦しようとした人間を許す―――理解不能な言葉だった。
だが、なのはは痛めつけられて死の坂道を転がり落ちている慎二に、憐憫の情を抱いていた。
持ち前の優しさ―――というより、甘さに近い感情だったが。
高遠は即座になのはの人となりを把握して、Vを仲間に引き入れる為に自身の実験を断念した。

「わかりました。ではこのワカ……いえ、この彼が起きたら説得して、この場に居る全員で行動を……」

『――――なんと美しい! 殴られた者が殴った者を殴らずに許す。感動的としか言いようがない。
 だが、少女よ。”その美しさはまやかしだ”。君は必ずや、殴った者を殺すだろう』

「え……?」

『だが君は正しい。俺とは相容れない正しい人間だ。しかし足りない。何もかも足りない。
 故に俺は夜に消える。君の為に、君と別れるのだ。君の為に、この男を連れて消えるのだ』

Vが、目にも止まらぬ速さで、慎二を担ぎ上げてマンゴーシュを拾い上げた。
唖然とする他の者たちを前に、尚も彼は己のスタイルを崩さず、マイペースに喋り続ける。

『おお、なんたる軽さか。この男は空っぽだが―――復讐者の素質はある。鞭を振るって調教しよう。
 そちらにもおさらばを、気の合いそうだった他人達よ。置き去りにしていく我が愛しの要塞(ルークリース)を頼む。
 彼女の素質は、君達には理解できないだろうが。上手くやってくれると、期待しているぞ』

「待ちなさい、一体何を……」

とっさに借りっぱなしの銃を抜いて、威嚇しようとする高遠。
だが、銃の照準をつけようとした時には、Vの姿は見えなくなっている。
周囲の木々が揺れて、Vの声だけを置き去り人たちに届かせる。

『少女よ、また会おう。試練を乗り越えた君にこそ私は出会いたい。
 君との約束は守ろう。何、私も私で義理くらいは知っているのだ』

絶対に、あってはならない事態だった。
月は、何故慎二を目の届かないところへ持ち去られたのか理解できなかった。
高遠は、何故せっかくの最高の出会いとこれからのVとの交流への期待をふいにされたのか理解できなかった。
なのはも、何故最初のパートナーが消えたのか理解できなかった。
イカ娘だけちょっとホッとしていた。

"理解できない"―――それが、Vという男だった。

201淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:06:20 ID:myhT+MPX



「風のような人でしたね……」

「ええ……なのは君、彼は一体何者なんです?」

「……ごめんなさい……」

「はっはっは! みんな辛気臭いでゲソ! やつは私の侵略者オーラに怯えて逃げたに違いないでゲソ!
 今度現れたら、私がビシッと真意を問い質してやろうじゃなイカ!
 ワカメ海人も、本来は海底でユラユラ揺れているだけの無害な奴らでゲソ!
 それにあれだけ似てるんだから、あいつを逃がしたのも問題ないんじゃなイカ!?」

なんともいえない空気が流れている。
居たたまれない様子で立ちすくんでいるなのはの背中を、イカ娘がバシバシ叩いて元気付けていた。
高遠と月も出来るだけ気にしない事にしようと思ったのか、新しく一行に加わったなのはへ歓迎の素振りを見せる。

「彼が貴女には素質があると言っていましたが……それは一体?」

「あ、えっと……私、魔法少女なんです」

なのはには、Vに魔法の事を教えた記憶がない。
どうやって見破られていたのかはともかく、事ここに至って隠す意味もないだろう、と判断したのか。
なのははあっさりと、自分の持つ特別な才能を口走った。
周囲に疑惑半分、諦め半分の空気が漂う。

「魔法……使いですか。それはマジシャンという意味ではなく?」

「はい、変身して魔法を使う魔法少女です」

「ま、まさか……お腹がパンクする程のエビを出せるのでゲソか!?」

「それは無理なの……それに、レイジングハートっていうデバイスがないと……あっ!?」

なのはがイカ娘が玩んでいたカードを指差す。
それは、なのはの魔法使いとしての最初の友達、クロノのストレージデバイス・S2Uだった。

「な、なんでゲソ? これは砂浜で砂を拾うのに便利だからあげられなイカら!」

「お願い! それがあれば、私も魔法が使えるかもしれないなの! 私のも、どれでもあげるから!」

「む……わ、わかったでゲソ。どれを貰うかはじっくり考えて決めるとして、とりあえず貸してやるでゲソ。
 お姉さんに感謝するといいでゲソよ、ほら!」

202創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:06:56 ID:wIRgaRZf
支援
203淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:08:04 ID:myhT+MPX

イカ娘が物に釣られてカードを差し出す。
なのはが簡単な起動メッセージを告げると、カードは一瞬で杖に変わった。

「ん……やっぱり少し勝手が違うの……でも、これで一応……」

「魔法を使えるのかい? ……なのはちゃん、ちょっと見せてもらえるかな?」

「はい! ディバイン……バスタァァァァァァーーー!!!!」

「……!」

放たれた光柱は、なのはにとってはまるで物足りない威力だった。
詠唱から発射までの処理速度は速いが、なのはの好みには合わない動作だ。
それでも高遠たちに衝撃を与えるだけの効果はあった。
天に昇っていった光は明け始めた空を一時照らし、やがて消え去っていく。

「……魔法、だな」

「魔法としか言いようがありませんね、これは」

「あの、この力を貸しますから……一緒に、友達を探してくれませんか?」

「よかろうでゲソ……その魔法で、私と一緒にライトと遙一を守ろうじゃなイカ!」

イカ娘をリーダーとするチームに、新たな仲間が加わった瞬間であった。
派手に魔法を使ってしまったので、危険人物が寄ってくる前に移動し始める、その集団の姿は。
外から見れば、前衛が少女二人である違和感を除けばよいチームである。

だが、内側から見た時……あるいは未来を見た時。このチームは、至極―――――。


【I−3/森林地帯 早朝】


【イカ娘@侵略!イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、触手2本の先端に若干の焦げ、疲労(小)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘
 [思考・状況]
  1:とりあえず月と高遠に付いていく
  2:栄子、タケルがなにをしているのか気になる
  3:なのはから何かもらう

【夜神月@DEATH NOTE】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
 [思考・状況]
  1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
  2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
  3:自身の関係者との接触
  4:高遠の本心に警戒
  5:イカ娘の純粋さを気に入っています
 [備考]
 ※参戦時期は第一部。Lと共にキラ対策本部で活動している間。

204創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:09:12 ID:wIRgaRZf
支援
205淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:10:52 ID:myhT+MPX


【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]: 足に軽傷
 [装備]:聖祥大附属小学校制服 S2U@魔法少女リリカルなのはシリーズ
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(武器になりそうな物は無い)
 [思考・状況]
 基本行動方針:アリサ、すずかとの合流と、この場所からの脱出
1:イカ娘たちと共に行動。みんなを守るためにもレイジングハートを入手したい。
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:カリバーン@Fate/stay night
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1 ニューナンブM60(残弾1/5、予備弾数30)
 [思考・状況] 今まで通りの「高遠遥一」として、芸術犯罪を行う。
  1:とりあえずこの場を離れる。
  2:「人形」を作るのであれば人選、状況は慎重に選ぶ。
  3:Vに多大な興味

206創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:11:29 ID:wIRgaRZf
支援
207淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:12:34 ID:myhT+MPX





天に昇る光を、Vは丁度森を抜けた所で満足げに見つめていた。
なのはの強さの根源を、これほど早く見られるとは予想外だったのだろう。

『だがナノハよ、心せよ。君は今、試練の只中に居る事を。
 君の隣にいる者たちが、君の正義を試す事を。心したのなら……君は、真の正義となれるだろう』

Vが垣間見た、自分と似た闇を抱える者たち。
何か"切り札"を持っていると直感した、大人と子供の合間の男。
Vの闇を覗こうと目を見開いていた、熟練の犯罪者然とした男。
あの間に突っ込まれて、果たしてなのは は正義を貫けるのか。

『貫けたとしても―――君は俺の、敵となるのだろうな』

諦念と期待が入り混じった声を上げて、Vは消えていく光を見つめ続けている。

『11月5日にこそ、見たかったと思うよ、この花火は―――』

脇に抱える矮小な男が、血の混ざった咳をする。
Vは、この痛めつけられた男の中にくすぶる炎を見た。
先ほど退けた時は見えなかったが……どうやら、虫にも五分の魂。

『死ぬなよ、小僧(ルークィン)……お前の地獄は、これから始まるのだから』

蔑まれ、踏みつけられ、心を折られた地を這う蟲は新たなるVとなれるか、否か。
ともかく、Vは次なる舞台へと駆け出した。


【H−3 陸地/一日目 早朝】


【V@Vフォー・ヴェンデッタ】
 [属性]:悪(set)
 [状態]: 健康
 [装備]:バッタラン@バットマン(残弾多数)、レイピア@現実 マインゴーシュ@現実
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
 基本行動方針:?????
?:慎二を調教し、自分と同じ"復讐者"にする。
?:なのはの友人(アリサ、すずか)を捜す。

【間桐慎二@Fate/stay night】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 刺傷多数(軽)、ダメージ(大)、残虐超人状態、普通心臓破壊、気絶
 [装備]:ナチス武装親衛隊の将校服@現実、ドクロの徽章付き軍帽@キン肉マン、
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
 基本行動方針:……。
0:僕が何をしたっていうんだ……。
1:ワカメじゃ……ない……。
2:仮面の男(V)にいずれ復讐する。
 [備考]
 ※普通心臓が破壊された為、徽章を取ると死にます。

208 ◆2XEqsKa.CM :2010/10/31(日) 22:14:04 ID:myhT+MPX
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。
209創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:24:49 ID:O+9WxzLy
投下乙

ワカメフルボッコで高遠マジ外道wwww
月はまだまだ悪に成りきれないところがあるな
なのはが合流してこのチームがどう動くか興味深い
Vもなかなか曲者だな

イカ娘かわいい
210創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:37:43 ID:wIRgaRZf
投下乙です

イカ娘そっちの道に堕ちちゃらめぇぇぇ
と思ったら何とか回避か
見てみたかった気もしなくはないがw
そしてVはホントにわからんキャラだな
これからどうなるのか楽しみです
211創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 22:53:40 ID:fVhnoyWj
投下乙です
ワカメは着実に転がり落ちてるなwww
月とイカ娘の絡みは予想外、そういう見方もあるのかー
一方、高遠は楽しそうにロワ充してて何よりですwww
なのちゃんはこの集団の中でどうなるか不安だ…
Vはワカメを『復讐者』に調教できるのだろうか、何故か無理ゲー臭がするけどw
改めて、投下乙でした!
212創る名無しに見る名無し:2010/10/31(日) 23:15:59 ID:Y0rL86G5
投下乙!
>>「拾った力で我を忘れる。この世で最も軽蔑すべき存在だな……」
お前が言うなー!
月がなんか白い……だと!?イカちゃんのかわいさは漂白作用でもあるのか?
そしてこの流れはイカちゃんとなのはがキャッキャウフフしてるのが見れる予感!?
本当に高遠はロワ充しすぎだw
Vが作中で言われてる通り理解できん!そして『バターになるぞ!』が地味にツボったw
さてさてワカメを攫ってどこまで行ってしまうのやら
213創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 08:31:54 ID:cVzX1Tt8
V面白いキャラだなぁ

イカ娘は原作のかわいいだけの役回りと違って、ちゃんと戦闘能力が役に立ってて新鮮な印象だw
214創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 08:49:09 ID:8Qq2LC2q
>2:仮面の男(V)にいずれ復讐する。

シンジ…あんた、『いずれ』って『いつ』よ?

『いずれはいずれ』さ、いずれ復讐してやるよ…

これは…シンジのポコ化フラグ!! シンジ覚醒!!

無いなw
投下乙でした
215創る名無しに見る名無し:2010/11/01(月) 17:15:49 ID:JBgyPkWM
乙!

ワカメwwwwww
216創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 15:53:49 ID:7HZe5/wl
set勢のロワ充ぶりが半端ねぇwwwwww
217創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 18:35:53 ID:To3j97Ez
そうだなw
冗談抜きに第一放送前は正義陣営のボロ負けだなw
誰もヒーローできてないんじゃないのか?w
218 ◆JR/R2C5uDs :2010/11/02(火) 21:53:24 ID:n5RxjyoR

ロールシャッハが >>217 の指を
折りに来ました
    __
   /ノヽ丶
   /三三三|
 <二二二二二>
  |▼▲▼|
  ∧・┓┏・/\  < イッポンオットク?
  / (\_/)<_
`/7丶(⌒)/ / \
|―\ \ソ/ /―/|
|ヽ◎\ // ◎||
219創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 23:55:31 ID:To3j97Ez
>>217
ウォッチメンの世界並に悪と一般が暴れまわってるから仕方ないじゃんw

これは……イカ娘。巨大化フラグか?www

でも、
まだ時間軸的にロールシャッハ、Lだけでなくカズキや、金田一、Wテンマといった正義陣営も残ってるから、こっからが挽回ですよね!

書いてて気づいたけど、書き手の人が悪陣営が大好きなのか?ww
220創る名無しに見る名無し:2010/11/02(火) 23:58:22 ID:K0DdeeMk
イカ娘爆弾とな
221創る名無しに見る名無し:2010/11/03(水) 00:32:23 ID:k3DMAM8W
ところで、イカちゃんはSSで2度目のAA使用だな。
一体、何個のAAを使用されるのかが楽しみだなw
222創る名無しに見る名無し:2010/11/03(水) 00:40:38 ID:k3DMAM8W
>触手は慎二の全身を締め付け、満遍なく力を虚脱させる為の愛撫を繰り返す。
全身を操り人形のように触手で操られ、空中に吊り上げられて重力を無視した回転をさせられて感覚を狂わせる。
動物は、喉の奥に侵入していく物を噛む事が出来ない。そんな野生の知恵を用い、触手を口内に捻じ込んで、
喉の奥まで到達させ、高速で先端の伸縮圧迫を繰り返し、鍛えようの無い気管を責める。
こみ上げる吐瀉物を膨れ上がった触手で塞き止められ、押し戻され……十分ほど経っただろうか。
慎二は、完全に戦意を失っていた。触手で吊り上げられ、空ろな目つきになり、服のあちこちがはだけている。

ええい! 誰かこの部分を絵にしてくれる猛者はいないのか? 自分に絵がかけないのがくやしい…
【ワカメ×イカ】
これは流行る!!ww
223創る名無しに見る名無し:2010/11/03(水) 21:39:25 ID:Hced2hO6
>「―――誰が得をするんでしょうね、この光景は……」
どうやら>>222得のようです
224創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 11:47:37 ID:FgqvRKrV
最近全話を見直したけど、放送寸前のキャラもいるのにまだ登場話しか書かれていないキャラもいるのな。
序盤だからまだ時間を離されてても平気なのかな。
カズキやパピヨンがそんなに書かれてないのが以外だった。キャラがぶれ難く、漫画ロワでそれなりに活躍したから書きにくいのかね。
応援していますので、書き手の方頑張ってください!
225創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 12:34:31 ID:Hvy3WG5t
パピヨンはよく他のロワのとごっちゃになる
226創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 12:51:49 ID:6FoWc/KP
パピヨンは漫画ロワでもジャンロワでも終盤まで大活躍だったからなー
考察も戦闘もギャグも可能で、情に流されて判断を誤らず、人殺しにも躊躇がないが
基本的に主催者の思い通りが大嫌いで、ご褒美や死者蘇生を信じるほど愚かでもないから使いやすい
227創る名無しに見る名無し:2010/11/05(金) 17:23:48 ID:FgqvRKrV
西の市街地は
正義がカズキ、金田一、Dr.テンマ
悪がパピヨン、ことみー、ウザ也
一般(同行者) 帝人くん、すずかちゃん、ヴァンプ様www

頭脳派?が揃ってるなぁ
228創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 12:17:53 ID:Y8YLZb/V
そういや、属性電池ってのがまだ一個しか出てないよね。
あのアイテムは後半に作用するのかな。あんまり後半だと、別手段で属性が判明して結局未使用とかになりそう。
まぁしょうがないか。

今のところ属性を考察しているキャラはいるけど、確実に判明したのはユッキーだけだね。
推理キャラの今後に期待!
229創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 17:48:29 ID:ioxzZ3J/
原作でVを悪とする政府がないこのロワでは
Vの立ち位置って本当に悪なのか?
いや、許すこと無く復讐するVはなのはと比べれば悪だろうけどさ
それだとバッツも…
230創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 18:11:34 ID:YWDKt6Uz
Vは体制、主義、思想(秩序)への反逆者だからな
原作(非映画)では復讐云々も周りの想像だし
ヒーロー、正義属性のバットマンとの違いは、人間の善性を信じてるか否か、目的の為に守るか攻めるかってとこ?
231創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 18:47:09 ID:Y8YLZb/V
月も自分がキラだってバレている人間相手ならともかく、基本的スタンスは悪じゃないんだよね。
ん? あぁサンレッドも正義(一応)だけど一般だし、一般のユノに対して本郷さんが悪認定してたりと様々だよね
232創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 19:10:31 ID:a7UlMrZs
Vは映画しか見てないけど
最後にイヴィーに選択をゆだねた辺り人間の善性を信じてる方じゃね?
233 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:28:48 ID:hpDLtdZ3
ハインリッヒ・ルンゲ、投下します。
234創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:29:10 ID:ECqKphj5
支援
235 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:29:58 ID:hpDLtdZ3
「私はジェームズ・ゴードンだ」

ジェームズ・ゴードンは七瀬美雪を連れ立って、医務室に入る。
そこでゴードンは美雪の足の治療を始めた。
まだ年若い、しかし性的な魅力に溢れた少女の足に触れる。
うら若き乙女の香水とも体臭ともつかぬ匂いが鼻腔をくすぐる。
医務室には当然、他に誰も居ない。
美雪と2人きりの状態。
同じ屋敷にはハインリッヒ・ルンゲが居るが、彼は玄関に居る。
ルンゲは調査の途中だとも言っていた。しばらく医務室には来ないだろう。
そこでゴードンは、美雪に対する激しい劣情に駆られた。

「私はナナセに襲い掛かる」

抵抗する美雪を、ゴードンは苦も無く組み伏す。
そして美雪の腰を掴んで、ゴードンが下になり強姦した。
事が終わり、虚脱状態になっているゴードンの上に乗る形になっていた美雪は
予め懐に隠し持っていたナイフを取り出す。
不意を付かれて反応することも出来ないゴードンの額に、ナイフが刺さった。

「そして私は死んだ」

ゴードンを殺した後、酷く取り乱した美雪は
ナイフを放置したまま、窓から逃げ出す。
医務室にはゴードンの死体が残された。

236創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:30:31 ID:IUQqGhUN
 
237創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:30:42 ID:ECqKphj5
 
238 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:32:22 ID:hpDLtdZ3
     ◇


ルンゲが医務室においての異変に気付いたのは、屋敷の玄関でゴードンと別れてから
ちょうど30分経ってからのことだった。
ルンゲはゴードンと通じる無線機を持っている。
屋敷を調査しながら医務室の状況を聞くため、それでゴードンに通信を試みた。
別段、用件があった訳でも異変に気付いた訳でも無い。
ただ用心するに越したことはないと思っただけだ。
しかしゴードンは何時まで経っても、通信を受けない。
調査を切り上げて、ルンゲは医務室に向かう。
そこには美雪の姿は無く、ゴードンしか居なかった。
そのゴードンも、額から刃が奇妙に折れ曲がったナイフの生えた他殺体へと変貌を遂げていた。

30分前に別れたばかりの男の殺害現場に遭遇したルンゲは、僅かに片眉を吊り上げる仕草を見せ
その後は特に動揺した様子も無く、即座に現場検証に掛かる。
BKA(ドイツ連邦捜査局)のベテラン警部であるルンゲにとっては、あまりに慣れたものであった。
現場検証にも、殺人事件にも。
行方不明となっている、美雪を追うのは後回しだ。
事件を調査することで美雪の状態を知れば、より安全に追跡できるからである。

ゴードンの死体は仰向けで床に寝ていた。
真っ先に注意を引くのがゴードンの下半身が、ズボンとパンツが足下まで脱げて露出していることだ。
陰茎は勃起し血液が付着している。
下半身全体には飛び散ったと思しき精液も付着。
そして死体は全体が硬直していた。
額には正面からナイフが刺さり、それは脳にまで達しているようだ。
実用性に欠ける形状のナイフだが、かなり鋭利で強度もある代物らしい。
額以外に外傷は無し。
そこまで見て取ったルンゲは、ゴードンの額からナイフを抜き取る。
血を拭き取り、ナイフを上着の内ポケットに仕舞った。
本来、現場保存の観点から見れば絶対にやってはいけない行為。
しかし今は警察機関の支援など受けられない異常事態。
ルンゲ自身の現場検証の用が済んだのだから、貴重な武器の確保を優先した。
更にルンゲは、ゴードンの懐に残っていたテイザーガンと小型無線機も自分の内ポケットに仕舞う。
周囲を見渡すと、床にも飛び散った精液が付着している。
しかしゴードンの死体を持ち上げても、そこに精液の痕は無い。
そしてゴードンのバックパックが、中身の詰まったまま放置してあった。
窓を見ると、開けっ放しになっている。
美雪はそこから邸外に出て行ったと推測された。

一通り現場検証を終えて、状況はおおよそ把握できた。
そして把握した状況から推測して、ゴードン殺害事件の概要の仮説を立てる。
それは『ゴードンが美雪を強姦した後、美雪にナイフで刺し殺された』と言う物。
239創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:33:30 ID:ECqKphj5
 
240 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:33:40 ID:hpDLtdZ3
下半身の露出したゴードンを見れば、素人にもできる推測ではあるが。
もっとも、そうなると細かい疑問点は多い。
しかしとりあえずはそれらの疑問点は置いておいて、プロファイリングを行い、事件をより詳細に追うことにした。
今回の場合にプロファイリングの対象となるのは、強姦の加害者であるゴードンとなる。
そして行ったプロファイリングの結果が、冒頭の物。
現場検証から抱いていた疑問点は、かなり整理される。

「違う……」

自身の行ったプロファイリングの結果に対する、ルンゲの感想は
あまりにも不自然に過ぎる、と言う物。
疑問点を個々に検証してみる。
ルンゲの指がパソコンのキーを打つように、小刻みに動いた。
脳内の記録が的確に整理され、出力していく。

ゴードンが経験豊富な警察官であることは間違いない。
人間と言うものは何気ない仕草や動きに、生活習慣や文化や職業が表れる。
それが警察官と言う職業ならなお更だ。
ゴードンの挙動が、長年警察官をやっていた物のそれと
同じくBKA(ドイツ連邦捜査局)に長年勤めていたルンゲには容易に見て取れた。
その警察官が美雪を強姦した。
無論、警察官による性犯罪が無い訳ではない。
しかし今は殺し合いの渦中。強姦した事実が露呈すればそれだけで命取りになりかねない状況。
ゴードンも現状の危険性は、充分に承知していた。
したがって美雪を強姦をした後、それを隠匿しなければならない。
しかしルンゲも同じ屋敷に居て、内部を調査していた。
ゴードンにしてみれば、いつ医務室にルンゲが現れるか分からない状況だったはずである。
すぐその場に現れなかったとしても、何れはルンゲに強姦は露見する。
ならばどうやって隠匿するつもりだったのか?
強姦をしてから、美雪に対して口止めするつもりだった?
会ったばかりの美雪に対して、確実に口止めでき得る材料が存在するとは思えない。
美雪を殺して死体を隠匿するつもりだった?
すでにゴードンは自分に美雪と2人で医務室に行くと言っていた。
美雪が行方不明になれば当然、ゴードンに殺害の嫌疑が掛かる。
つまりゴードンが強姦した事実を隠匿できない状況なのだ。
長く警察官をやっている人間ならば、性犯罪にも関わっているのだろう。
それが露見するリスク――様々な意味でのそれも、当然熟知しているはずである。
それなのにゴードンは短絡的に、あるいは衝動的と言っても良い動機で美雪を強姦したと言うのか?

よほど射精に勢いがあったのか、精液はゴードンの下半身全体と床にまで飛び散っていたが
仰向けに寝ているゴードンの背中と背後の床には、精液は付いていない。
床の精液は寝ているゴードンの身体で途切れているのだ。
そこから、ゴードンは床に仰向けで寝てから強姦したと分かる。
美雪は自分の上に乗せる形になる。
しかし強姦でこの体位を取るのは不自然だ。
強姦は相手を力付くで屈服させるのだから、普通は逃げられないように上から圧し掛かる体勢を取る。
加害者側が下になって被害者を上に乗せては、取り押さえておくのが難しくなる。
何故、こんな体勢を取った?

ゴードンの身体は筋肉が硬直をしていた。
死んでいるのだから、死後硬直と考えるのが自然だ。
しかしゴードンの死体を発見したのは、別れてから約30分後。
死後硬直が始まるのは、死後2時間ほどが経過してからだ。
温度など周囲の環境によっては、多少条件も変わってくるが
それでも死後30分以内に、全身が死後硬直するのは有り得ない。
241 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:34:39 ID:hpDLtdZ3
ルンゲは検死官では無いが、多くの殺人事件を捜査してきた経験があるのでそれ位は判断できる。
では、ゴードンの死体の硬直は何による物か?

ゴードンの額にはナイフが刺さっていた。
刺したのは美雪と見て、ほぼ間違いない。
凶器のナイフも元々美雪が持っていた物だろう。
あんなナイフが医務室に有ったとは考え辛いし、ゴードンが持っていた物を奪ったと考えても無理がある。
では何故強姦された後になって、そのナイフを使ったのか?
逆に言えば、何故強姦されそうになった時に使わなかったのか?
使おうとして奪われたのを、隙を見てまた奪い返したと言う可能性は考えられないか?
長年警察官の、しかも現場での経験を積んできたと思われるゴードンから
強姦された被害者の美雪がナイフを奪い返したと考えるのは、やはり無理が無いだろうか?

ルンゲはどんな感情も読み取れない表情のまま、冷たい目でゴードンを見下ろす。
この事件現場は、極めて不可解な様相を呈していた。
自然な推移で発生した正当防衛や事故では、説明が付かない部分が多過ぎる。
それが示す事実、つまりこの事件には――――

「……裏がある」

これは何者かの作為によって、擬装された事件現場だ。
死体の硬直は死後硬直ではなく、薬物による物。
ゴードンに何らかの方法で薬物を摂取させ、全身を麻痺させた。
そして強姦の証拠を擬装されて殺された。
『ゴードンが美雪を強姦した後、美雪にナイフで刺し殺された』と言う物語を作り出し
それが事実だと、ルンゲに信じ込ませるために。

では次に推理しなければならないのは
・Who done it(誰が)
・Why done it(何のために)
である。
しかし、それはもう答えが出ている問いだろう。
誰が仕組んだのか、などは明白だ。
それは1人しか居ない。
ゴードンと共に医務室に向かい、今は事件現場から失踪している

「私はナナセミユキだ。ゴードンを計画的に殺害した」

では何のために、こんな偽装工作をしたのか。
それは同じ警察官のゴードンが犯罪を起こしたと思い込ませて、ルンゲの猜疑心を煽るため。
つまり美雪は――――

「私は殺し合いに積極的に加担している」

美雪は殺し合いを活性化させて、より多くの者が死ぬように仕向けたいのだ。
242創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:35:42 ID:ECqKphj5
 
243 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:36:11 ID:hpDLtdZ3
これだけ巧妙な擬装殺人を考え付き、しかも実行に辺りどこにも躊躇した様子が無い。
美雪は極めて知的で冷酷な人物と言える。
さらに現場からは、犯人の性癖のようなものが読み取れた。
それは何の物的証拠も状況証拠も無い。
だがルンゲは長い捜査官としての経験(キャリア)で、幾多の性犯罪や異常心理に基づく殺人の現場を見て犯人を追ってきた。
その中で培ってきた嗅覚が嗅ぎ取ったのだ。
犯人には倒錯した性的嗜好があり、この事件にはそれが反映されていると。
それらも加味して推測を進めると、おそらく美雪は
分類Cに該当する参加者として呼ばれた人物だと思われる――――

「私は殺し合いに関係なく、元々異常性癖に基づく殺人志向があった……………………」

微かだが、違和感がある。
日本人であることとその服装から推測するに、美雪は学生だ。まだティーンエイジャーの。
そんな年齢の女が、殺人に結び付くような性的嗜好を持つ……。
無論、無いとは言えない。
だが捜査官としての勘が、まだ見落としがあると言っている。

「……なぜ逃げた?」

美雪が故意にゴードンを殺害したのなら、屋敷から逃げる理由が無い。
ゴードンに強姦されて殺されそうになったので逆に殺したと、ルンゲに泣きついても構わないはずだ。
むしろこうやって、自分が推理によって美雪の計画的な殺人だと看破しないかどうかを見張る必要があるだろう。
そしてルンゲが美雪の計画を見破る様子を見せたら、隙を見て殺害する。
ルンゲが美雪の立場ならそうしていた。
しかし美雪は、武器やゴードンの荷物を置いてまで逃げ出した……。

違和感はそれだけに尽きない。
まるでジグソーパズルの重要なピースが足りないような違和感が。
244創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:36:13 ID:IUQqGhUN
 
245 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:37:20 ID:hpDLtdZ3
ルンゲはしきりに指を弾ませ、頭の中にある膨大な容量の記録(メモリー)を尋常ならざる速さで検索していく。
注意力や記憶力や分析力と、ルンゲはおよそ頭脳労働に関する物なら全てにおいて非凡な能力を発揮できる。

『他には、そうだ、この島に来てから結城美知夫さんという方にお会いしましたわ。』

違和感に該当する項目が検索される。
美雪は結城美知夫に会ったと証言していた。そして誠実な人物とも言っている。
その結城は一体どうしたか。
おそらく情報を聞き出してから、殺害したのだろう。
では何故、結城に会ったと話したのだ?
実験のマニュアルには『6時間毎に途中経過がアナウンスされる』とある。
少しでも頭の回る者なら“途中経過”とは死亡者、あるいは生存者のことだと容易に想像がつくだろう。
そこで結城美知夫の名が呼ばれた場合、2人きりになってから死亡したゴードンと合わせて考えたら
6時間のうちに2人きりになった人物が相次いで死亡したら、美雪に疑いが掛かるのが目に見えている。
結城に会ったと証言した段階では、ゴードンだけを殺す計画は無かったとも
結城に会って情報を聞き出してから、殺す間も無く逃がしたと考えても
何れにせよ結城と出会ったことを話すメリットは存在しない。
結城を殺そうとして取り逃がしたのなら、今度は結城の悪評を流さなければおかしい。
何故、結城に会って彼が誠実だと証言したのか?

(私はナナセミユキだ――――)

違和感が引っ掛かり、プロファイリングが進まない。
あの美麗だが、どこか中性的な顔立ち。
あの妖艶だが、どこか作り物めいた声。
美雪の言動を思い返し分析するが、やはり人物像や心理を上手く追い切れない。

(私は――――)

このゴルギアスの結び目を解くためには、発想を根本的な転換が必要だ。
これまでで最も脳内のCPUを高速稼動して答えを探す。
事件の全容に筋道を立てるためのマスターピースを。

「私は――――ユウキミチオだ」

探し求めていた部分へ、ピースが綺麗に嵌った。

「私は実験で最初に出会ったナナセミユキを殺害した」

思考のピースが次々と嵌っていき、全体の絵が浮かび上がる。

「ナナセから着衣を奪ってそれを着る。自分がナナセミユキに成り代わるために」

分類Cに該当するのは結城美知夫。
246創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:38:29 ID:ECqKphj5
 
247 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:39:39 ID:hpDLtdZ3
結城がゴードンを殺害した後、逃げ出したのは
6時間おきのアナウンスで、七瀬美雪の死が露呈するからだ。
ではどこに逃げたか。
指が架空のキーを叩く。該当する情報が即座に検索された。

『彼にえっと……そう、この場所……B-6で、はじめちゃんを見たって聞いて、このあたりを歩いていたんです』

B-6。
そこに結城は逃げてはいないだろう。
しかし、そこへ誘導しようと言う意図はあったはずだ。
でなければ“幼馴染の目撃情報”を騙る理由は無い。
ではそこに何があるか。

ルンゲはゴードンのバックパックを掴み、邸外へ飛び出した。
外に止めてあるジョーカーモービルに乗り込み、東へ発車する。
遠くなっていくウェイン邸を振り返りもしない。
そこにはゴッサムタワーを晒したままの、ゴードンが置き去りにされていた。



B-6の森の中は、舗装した道路などは無いが
車で走れないほどの悪環境ではなかった。
しかし、さすがにライトは点けないと走れない。
もっともゴードンのバックパックにあった説明書きによれば、ジョーカーモービルは防弾性であるから
多少の危険性は無視することはできた。
そうして走っているうちに、ライトの光の端で人間の脚を捉える。

「見つけた」

茂みに打ち捨てられた死体。
顔は人物の判別が付かないほどに潰されていたが、外気に晒された裸体で若い女の物だと分かる。
ライトで照らせば近付かなくとも、死体の状況は見て取れた。
皮膚の変色や血の乾き具合から、死後数時間経っているのが分かる。
ウェイン邸で“ナナセミユキ”に会った時から、この死体は存在していたのだ。

「これでナナセミユキの死亡がアナウンスされれば、ユウキミチオが真犯人と断定できる」

死体の他には特に興味を引く物は無い。
強いて言えば死体に嵌ったままの首輪だが、回収する方法が無い。
ナイフで首を切り落とそうとしたら、手間が掛かりすぎる。
ルンゲは車から降りることも無いまま、その場を後にした。
そこには顔を潰された美雪が置き去りにされていた。

ルンゲはかつて、上司に対して功も正義も興味が無いと語ったことがある。
そして、事件の犯人にしか興味が無いとも。
つまり被害者にすら興味が無い。
248創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:40:59 ID:ECqKphj5
 
249 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:41:04 ID:hpDLtdZ3
ルンゲは捜査に関する時には、尋常ならざる注意力を見せるが
興味が無ければ、妻の不倫や娘の妊娠にすら気づかない人間なのだ。
だから死んでしまったゴードンも美雪も、もはやルンゲにとってはどうでもいい存在である。
興味どころか何の感情も抱かない。
徹底した合理主義者であるルンゲは、弔ってやるつもりも悼む気持ちも無い。
反面、“事件”の真実を追求することや犯人の追跡には異常な集中力を発揮できる。
功のためでも、正義のためでも、被害者のためでも無く
まるで機械のごとく冷徹にどこまでも犯人を追い詰める。
そしてそれこそが、ルンゲの楽しみであり“正義”なのだ。
今もルンゲは、ただ静かに冷徹な闘志を燃やす。
結城美知夫へ。
バットマンへ。
まだ見ぬこの実験を仕組んだ犯人へ。
そしてケンゾー・テンマへ。

どこまでも冷たい視線を車のライトさえ届かない闇に向け、孤独な追跡者は森の中を走っていく。

【B-6/森:早朝】

【ハインリッヒ・ルンゲ@MONSTER】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:ルールブレイカー、テイザーガン、ジョーカーモービルとそのリモコン
 [道具]:基本支給品一式×2、『黒の船』のコミック@ウォッチメン、小型無線機A〜B、不明支給品0〜2
 [思考・状況]
 基本行動方針: ケンゾー・テンマを捕まえ、また今回の事件を仕組んだ犯人も捕まえる。
 1:結城美知夫を捜す。
 2:ブルース・ウェイン(=バットマン?)に不信感。
[備考]
ヨハンの実在と、テンマの無実を知る以前より参戦。
ゴードンより、バットマン、ジョーカー、ポイズンアイビーに関して情報を得る。
結城より、金田一一、剣持勇、高遠遥一、賀来巌に関して情報を得る。
犯人のグループ分けを、[法の執行者]、[一般市民]、[犯罪者] ではないかと推論。
【支給品解説】
【ルールブレイカー@Fate/stay night】
正式名称は「破戒すべき全ての符」。サーヴァントの一体、キャスターが使用する宝具。
歪な形をした短剣であり、その効果はあらゆる魔術効果の無効化。
武器としての威力は普通のナイフくらい。
【ジョーカーモービル@バットマン】
前面にジョーカーの顔を摸した飾りのある派手な車。バットモービルに対抗して作られた。
車体の前後に機銃が装備され、戦闘用に改造されている他、高架設置機能などでちょっとした亀裂や川なども渡れる。
ただし、支給されたそれがどの程度の性能かは不明。
250創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:42:55 ID:ECqKphj5
 
251 ◆KKid85tGwY :2010/11/06(土) 20:43:47 ID:hpDLtdZ3
投下完了しました。
支援して下さった方、ありがとうございます。
タイトルは『ウェイン邸殺人事件 〜ゴッサムタワーは見ていた〜』です。
何か問題点があれば、指摘をお願いします。
252創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:47:51 ID:ECqKphj5
投下乙です!
ルンゲ警部が本気出したー!!!完璧すぎる推理は正に人間コンピューターだー!
これはミッチーが一転ピンチかな、乗り物取って戻ってきたら敵しかいない\(^o^)/状態になりかねないwww
そしてタイトルにまで登場するゴッサムタワーの人気に噴いたwwwww
253創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:51:38 ID:IUQqGhUN
投下乙でした
トントンと正解に辿りつくのはさすがルンゲ警部だなw
物的証拠と自分の記憶以外は何も信じないような人だからなーw
254創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 20:55:15 ID:+P7Qx5Jt
投下乙っ!
警察権力の意地を見せましたな、ルンルンが
正義の頭脳派として被害者の彼氏と一緒に頑張って欲しいところ
255創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 21:28:25 ID:Y8YLZb/V
投下乙!!
そうなんだよねぇ。ルンゲを騙すには証拠が足りないんだよね。
ゴードンの無実ははれたけど、死体はほぼそのまま放置か…
ルンゲ以外が見たらまだ勘違いする可能性はあるなw
256創る名無しに見る名無し:2010/11/06(土) 22:14:10 ID:wi2iFE+y
投下乙!
さすが精密コンピュータのルンゲ!!
彼は本当に独特の倫理感の持ち主だなぁ
しかしジョーカーモービルに乗るルンゲの絵面は想像してみるとなかなかシュールw
257創る名無しに見る名無し:2010/11/07(日) 02:32:44 ID:FsI1EDfy
投下乙です
精密な現場検証と持ち前の頭脳で結城を追い詰めたと思ったら
突如出てきたゴッサムタワーに噴いたwwww
ゴードンは愛されてるなー(棒
258創る名無しに見る名無し:2010/11/07(日) 13:56:01 ID:OfepBGCf
投下乙!
259創る名無しに見る名無し:2010/11/07(日) 14:16:42 ID:wWHW9pK6
ここの士郎さんは投影はできるのかな? あんま魔術について触れていないけど。
落ち着ける状況がこれからだからまだ試してないだけとかかな?
260創る名無しに見る名無し:2010/11/07(日) 19:24:12 ID:SaiRRXfc
その前に相方のめだかちゃんが心配です
261創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 17:11:37 ID:WNybKMhr
士郎は投影の心配じゃなく放送後の命の心配をした方が良い
262創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 18:42:51 ID:IfnBPoRD
めだかちゃんは最近の原作読む限り、善吉が死んだら
周囲に支える奴がいようが周りが被害受けようが
問答無用で乱神化するみたいだからな…

アリサ、栄子、サユが死んでる月チームといい、
美雪ちゃんが死んでる金田一といい、かなり大事な人を失ってる
263創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 19:30:05 ID:+CKMkakd
アリサの死へのリアクションはなんとなく想像つくが、栄子、サユが死んだと知った二人のリアクションが想像しにくいな
イカちゃんは結構シビアな所があるし…
>問答無用で乱神化
何それ、また士郎さんはルート間違えて死亡ルートに乗ったの?w
264創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 19:42:11 ID:IfnBPoRD
>>263
平たく言うと、善吉を失っためだかちゃんは、ジャンロワの主人公よろしく暴走する
その怪力たるや、巨大な鉄筋コンクリートの建物(半壊した学校)を移動させるほど
…あれ?これって制限対象じゃね?
265創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 19:47:56 ID:96oJELcT
士郎はハーレムなんて作ってないで今すぐその場から退避するべきだなw
乱神化めだかちゃんになまえのないかいぶつとか、命がいくつあっても足りんぞwww
266創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 19:57:38 ID:+CKMkakd
おいww正義陣営に安定したキャラいないのかww
悪陣営が圧勝して終わるぞwww
とりあえず新たな予約のロビンマスクに期待! レッドさんは原作でも催眠術に対しては弱く赤ちゃんプレイを数日間繰り返すほどだけど
グループ抜きにした正義の意地をみせてくれ!
267創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 21:32:34 ID:GJGTcVWK
一般枠のほうが頼りになりそうな状況だもんなw
ルンゲや由乃とか高レベルで安定した人材いるし

最近の未来日記読んでるとみねねと由乃の所属陣営が逆じゃないかと思えてならない
268創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 21:35:21 ID:+CKMkakd
イカちゃんも忘れないでほしいでゲソ!!

イカちゃんといえば、ニコニコで毎週最新話を時間を気にせず見れるのはありがたい。
ああいう作品は大抵平日深夜だから、正直時間的に見るのがきつかったのよね、今まで。
269創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 21:43:03 ID:XqXIm/4i
イカちゃんのアニメがここまで当たるとか正直意外だったw
キャラ選出にイカ娘を入れた>>1氏の英断に感服するばかりだ
270創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 21:46:31 ID:+CKMkakd
イカちゃんを入れた流れが確か癒しが足りないだっけww
確かに一般人枠はなんか妙に黒いのが多いけどさw
271創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:03:52 ID:gonrRLce
地方者にも優しいな>ネット配信
世の中には民放2局しかない異次元も存在するンだぜ?
まこと技術の進歩とは素晴らしい!
女性枠がガンガン死んでるしますます癒しが必要じゃなイカ

正義枠で揺らがないとなると承りか
お荷物の松田も災い転じて福となすキャラだし原作ラストばりに頑張ってもらいたい
272創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:14:24 ID:IfnBPoRD
戦闘力度外視ならLと金田一も頼りになる>揺らがない
カズキもしっかりしてそうだけど、他ロワのせいで空回りしそうな予感が強い
273創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:17:14 ID:+CKMkakd
正義をいじめやすい所から書き手が集中して進めてる傾向があるよなw
意図してかどうか知らないけどw 東の森の承り、テンマには頑張ってほしいね。
タイガーとたけるが一般人(本当の意味で)期待の星! 彼らを守るんだ!
あっ、たけるは悪勢のアイビーに保護されてるんだっけw
アイビーって森から動かなさそうだからメタ的な意味で心配だな…w
274創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:24:45 ID:foPgp9m9
アーチャー、バッドマンも揺るがない・・けど悪魔将軍が相手だと危ないな。
275創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:30:59 ID:+CKMkakd
アーチャーがUBW終了後ってのが案外良いバランスに。
中央はゆのの虐殺でおそらく第一放送までは安定はするだろう。コロッセオに入らなければw
工場の覆面三銃士 悪魔将軍と赤と黒の正義タッグ? みねね添え この辺が放送前に血を見るか、痛みわけかどうか…
276創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:46:15 ID:gonrRLce
カズキは参戦時期が危うい感じ
テンマも同じく。まあ一緒に呼ばれたのが外道親父だから奴を殴ればいっかw
どちらかというとパンドラに注意……?
アイビーはロワ充じゃないせいか悪勢に見えないw
277創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 22:58:30 ID:zDFJvZfx
正義陣営の状況まとめてみた

めだか:乱神化秒読み 士郎:めだかとヨハンのサンド 本郷:シグルイ シャッハ:シグルイ L:座り過ぎ
承り:勧誘され中 テンマ:森を散歩 金田一:ボッチ アチャ:悪魔将軍と交戦 ロビン:レッド、黄泉と交戦
天馬:外道ホイホイ カズキ:傷心 雄介:傷心 バッツ:負傷 東方:死亡 のぞみ;死亡 なのは:高遠と月のサンド
278創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 23:07:26 ID:96oJELcT
半分以上が何らかのダメージ負ってるな、これは酷い
だが、書き手の傾向見ると「本当の地獄は、これからだ」とかになりそうだから困るw
279創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 23:11:36 ID:+CKMkakd
酷すぎワロタww
楽しそうだから悪勢をまとめてみるわw 
280創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 23:20:41 ID:+CKMkakd
>>277に便乗して纏めてみた 正義と違って仲良しが目立つ そして誰も死んでねぇw

悪魔将軍:超人以外もぶっ殺す みねね:爆弾&不明支給品で戦力強化 臨也:天馬と戯れ 
吉良:変態 言峰:帝人と戯れ ジョーカー:ダグバと仲良し☆ 高遠:人形選別中
パピヨン:からあげウマー DIO:地下帝国 パンドラ:全裸 V:ワカメおいしいです
アイビー:自然最高 月:イカ娘可愛い 結城:ロワ充爆発しろ 杳馬:ビデオ観すぎ
ヨハン:士郎を攻略中 ダグバ:ジョーカーと仲良し☆
281創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 23:45:27 ID:+CKMkakd
正義は悪全滅or一般が一人でも生き残ればおk
悪は正義を皆殺し

ロワのルール的にはまだまだ悪勢がきついんだけど、勢いがパネェっす
282創る名無しに見る名無し:2010/11/08(月) 23:58:02 ID:gonrRLce
では僭越ながら一般人を。

栄子:謎の自殺(?) たける:アイビー姉ちゃんすげー! ユッキー:バッツに感化
アリサ:斬殺 イカ娘:イカ娘は拷問を覚えた! ヴァンプ将軍:胸焼け
グリマー:変身むなしく射殺 かよ子さん:焼かれる 由乃:悪勢差し置いてトップマーダー
賀来神父:これは神の試練だ! 剣持警部:戸惑 レッドさん:黄泉に洗脳中
ゴードン:Nice Tower. すずか:カズキが心配 美雪:強姦&殺害された上成り代わられ挙句死体放置
ニナ:穏やかな寝顔 ルンゲ:名推理 善吉ちゃん:撲殺 黄泉:催眠術でゴ12thに近づいたぞ!
タイガー:テンマ相手にしゃべり倒す 松田:承りに交渉中 ワカメ:所詮はワカメ まっぴー:足手まといにはならない!
メロ:相手が悪すぎて死亡 粧裕:お食事 帝人:ロワ充への道を……?

うん、こいつらより正義勢のこれからが心配だw
283創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 00:03:38 ID:mPIIU+vx
生きてる一般が一癖も二癖もありすぎww こいつらをそもそも守る必要あるのかって疑問がw
284 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:15:07 ID:BSRzTjPD
こんな時間ですが、明日(今日?)投下できなさそうなので。
ロビンマスク、12thブルー、12thレッド投下します
285 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:16:57 ID:BSRzTjPD
ゴミ処理場で始まった、『正義』の闘い。
怒りに燃えるロビンマスクであったが、戦況は劣勢を極めていた。

「サンレッド、目を覚ませ!!」
サンレッドの様子がおかしいことに気がついたロビンマスクは、12thブルーを名乗る男に原因があると睨んだ。
「ただの人間といえど、仲間と共にアリサの命を奪った非道……このロビンマスク、容赦はせん!」
駆け出すロビンマスク……だが。
「ぐおっ!?」
サンレッドが、12thブルー……平坂黄泉をかばうように襲いかかる。
その力は、先程経験済み。
キン肉マンたち同様、強力な超人であることは知っている。

「やむ終えんッ、しばらく眠って……グオッ!?」
大技でダメージを与え、動きを奪う。
そう思った矢先、ロビンマスクの腹部に激痛が走った。
「正義トハ!目ノ前ダケデナク、広イ視野ヲ持タネバ勝テハシナイ!」
いつの間にか、12thの手には先端が尖った棒が握られていた。
ゴミ処理場の隅に落ちていたらしいモップの付け根を折った物……それが、ロビンマスクの腹部を突いたのだ。

「今ダ、12thレッド!」
その隙を付き、サンレッドの重い拳がロビンマスクの腹部を歪ませる。
「グゥ……ッ!!」
一見無防備に見える腹部だが、ロビンマスクが着用する、一族の象徴たる鎧に守られている。
ロビン自身の鍛え上げた体と合わされば、尖った棒程度で突かれようとカスリ傷でしかない。
しかし、サンレッドの拳は超人のそれと比較しても遜色無い破壊力を持つ。
フロシャイムの怪人を倒す時の手加減は無い、本気の一発。
虚を突かれたロビンマスクは、僅か一撃で膝をつく。

「ソノママ、ソノマスクマンヲ押サエコメ! 全力全開デダ」
言われるがまま、サンレッドはロビンマスクを羽交い締めにする。

「ぐ、オオオオッ!? や、やめるんだサンレッド!こんな無茶をすれば!」
エリート超人である、ロビンマスクですら逃れられない拘束。
技量ではなく、圧倒的な力のみでの拘束。
キン肉マンの火事場のクソ力を思わせる、全力を越えた、肉体を無視した怪力。
こんな拘束を続ければ、サンレッドの肉体にも大きなダメージは必至。
だというのに、サンレッドは痛みさえ訴えずに抑えこみ続ける。
286 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:19:29 ID:BSRzTjPD
「無駄ダ。私ノ催眠術ハ、言葉デハ解ケナイ」
「催眠術だと!? では、やはりサンレッドは貴様に操られて……こんなことをして、貴様は正義を名乗るのかーーッ!!」
怒りを隠さぬロビンマスクの声に、12thはまったく動じることもなく答える。
「当然。正義トハ勝ツ者ノコト……故ニ、正義デアル私ハ勝利シ――オ前ハ、デッドエンドを迎エル」
言い放ち、くるりと方向転換し……12thは駆け出す。

「逃げるのか! この拘束は長くは持たない。すぐさまお前を追って――」
「本来ナラ、オ前にも12thパープルになってもらうところだが――雨流女史ナラバ、私ゴト爆殺シヨウト爆弾ニ細工程度シテイルハズ。
ソウデナクトモ、火ノ周リガ早イ――次ナル正義ノタメ、ココデ死ヌワケニハイカナイ!」
気づけば、処理場の半分以上が炎に包まれていた。
「待て! お前の正義は歪んでいる、考え直せー!!」
火の合間を縫って、12thは駆け抜け……処理場から、ロビンマスクの視界から消えた。

「う、ウオオオオオ!! は、離せ、離してくれ! 私は戦わねばならない!
この地で苦しむ人々のために、死んだアリサの友を助けるために、私は――!!」
全身の筋肉を震わせ、なんとか右腕のみサンレッドの拘束から逃れる。
だが、なんとか繰り出す拳は、サンレッドの拘束も、その催眠を解除する一撃にも至らない。

―――そして

「ヌワ〜〜〜〜!!!」

仕掛けられた時限爆弾によって、処理場は炎と爆風に包まれた。

【サンレッド@天体戦士サンレッド 死亡】
【ロビンマスク@キン肉マン 死亡】
287 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:21:26 ID:BSRzTjPD
「フー、ギリギリダ」
12thは、処理場を脱出し、建設中現場付近の道路に潜んでいた。
「サテ、今カラ511キンダーハイムニ向カッタトシテ……急ゲバ間ニ合ウダロウガ」
それよりも、その間に正義を行使しなければならない相手がいるかも知れない。
慣れた手つきで「正義日記」を取り出し、耳に当て――
「!?」
自身の、致命的な油断を知った。


『4時…ザザ……分。長髪風の男が後ろから襲ってくる。………DEADEND………』

「逃走の直後とはいえ――広い視野を、忘れているぞ」

背後から聞こえる声に、モップの棒を振る12th。
「甘いッ!!」
受け止められ、12thの腹部に重い拳がめり込む。
「グッ!」
そう、先程までのお返しとでも言うように――ロビンマスクの拳が。
「バ、馬鹿ナ――ロビンマスク……アノ爆発カラ、ドウヤッテ――」
「……なるほど。目が見えず、代わりに何らかの……おそらくは聴力などが優れている、ということか。
本来ならば、私が足音を忍ばせようと徒労に終わるだろうが……集中していなければ、能力も活かせまい」
「……ナゼ」
なぜわかった。そう口にするよりも早く、ロビンマスクは口を開く。
「私の容姿の変化を気にしないのが証拠だ」
そう。ロビンマスクの容姿は、大きく変化していた。
「!……声ノ広ガリガ違ウ……オ前、マスクヲ脱イダノカ!!」

「……この姿をした私を……人は、バラクーダと呼ぶ!」

一族伝統のマスクを取り、頭に長髪替わりのモップを被った姿。
ファイティングコンピューター、ウォーズマンの師としての変装である、バラクーダであった。

処理場爆発の僅か前。
ロビンマスクは、脱出の方法を必死に、しかし冷静に巡らせた。
「何か、何かあるはずだ! ヌゥ〜〜〜……はっ!!」
瞬間、12thがサンレッドに下した命令が蘇る!

『ソノママ、ソノマスクマンヲ押サエコメ! 全力全開デダ』

――ソノママ、ソノマスクマンヲ押サエコメ! 全力全開デダ
――ソノママ、ソノマスクマンヲ押サエコメ!
――マスクマンヲ押サエコメ!
――マスクマン

288 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:23:12 ID:BSRzTjPD
「お、お赦しください。マスクと共に、私は再び家宝を……!」
父へ、先祖への謝罪を口にしながら、唯一自由な右手でマスクを外す。
「見ろ、サンレッド! ロビンマスクはこっちだーーー!!」
叫び、マスクを放り投げる。
ガラスを割り、処理場の外へと消えるマスク。
一瞬の間の後、サンレッドはロビンマスクを離し、マスクに向かって駆け出した。

「成功した……早く奴を追わなくては!」
自由になったロビンマスクも、12thが消えた後へと駆ける。
「むっ? あれは……!」
その進む先に、炎に包まれることを逃れた、12thが持っていたモップの先端……毛の部分があった。
マスクを脱いで、自身の完全な素顔を晒すことは好ましくない。
そう思ったロビンマスクは、そのモップを拾い、頭に載せることでかつて復讐鬼となっていた時の姿、バラクーダへと変貌する。

そして、その直後。

「ヌワ〜〜〜〜!!!」

仕掛けられた時限爆弾によって、処理場は炎と爆風に包まれた。

そして、時間は現在に戻る。

「正義ノ味方ヲ名乗ッテ、マスクヲ脱グトハ……所詮偽リノヒーローダナ、ロビンマスク……イヤ、バラクーダ、ダッタカ」
「好きに呼ぶがいい! お前の正義が勝つことならば! 私は正々堂々とその正義を達成しよう!!」
12thの言葉に動揺一つせず、トドメを刺すべき距離を詰める。
「ダガ、ソウ簡単ニハ行カナイゾ。私ノ体ニハ爆弾ガ仕掛ケラレテイル! 貴様ノプロレス技デハ、倒シタ瞬間、道連レニナルダケダ!」
早々にフィニッシュをかけようとするバラクーダに、自身に仕掛けてある爆弾について教える12th。

「語るに落ちたな……超人プロレス技ならば、どんな敵への対応も可能だ!!」
飛び込むようにスライディングを放つバラクーダ。
姿勢を崩した12thを、更に両足で蹴り上げた。
「グギッ!?」
宙に放り出される形になった12thに、バラクーダが地を蹴り追いつき、奇怪なマスクの首元をホールドする。
「テームズリバーストリームッ!!」
組み合ったまま回転したバラクーダは、その勢いのまま12thを投げ捨てた。

「グガッ……ジャスティス、バンッザイッ!!」

鈍い音を立て、建設現場の仮説休憩所へと落ちる12th。
そして、一拍、二拍、三拍、四拍、五拍……カチッ。

特撮で怪人が敗れた時のように、爆発が仮説休憩所を吹き飛ばした。
289創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 00:24:17 ID:mPIIU+vx
生きてたww 支援
290 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:24:47 ID:BSRzTjPD
「……この姿になったのも、何かの運命なのか……」
僅かな時間、バラクーダは立ち尽くしていた。
正義を貫くと誓って数時間で、アリサを死なせてしまった。
催眠術で操られたサンレッドも、救えなかった。
あの男を倒しても、もう失った命は(特に人間であるアリサは)戻らない。

「誤った正義を語る悪党とはいえ、人間を爆殺……やり過ぎたか……これではかつての私と変わらないではないか……」
この恨みを、怒りを、アリサを殺した女性にぶつけるために、復讐鬼となるためにこの姿になったのだろうか。
「……馬鹿な。私は、正義超人。たとえバラクーダの姿となっても、それは変わらない!」
迷いを払うように叫び、歩みを運ぶ。
「あの黄色い女を探す……そして、アリサの友人を助ける……まずはそれからだ」
目的のために歩みを止めてはならない。
本来ならば、マスクを探しに戻りたいところだが、探すのに時間がかかれば、それだけ黄色い女は離れ、アリサの友人、なのは、すずか……更にはサンレッドの探しているかよ子が危険に晒される。
一族のプライドが詰まった宝より、人命を優先したのだ。

「私は負けんぞ。必ず、悪の手から人々を守ってみせる!」
バラクーダとなったロビンマスクは駆ける。
既に、内田かよ子が死んでいる事実も知らず。
雨流みねねがどこにいるか検討も付かずとも。
その正義の心だけを頼りに、その足を動かし続ける―――


【平坂黄泉@未来日記 死亡】
【ロビンマスク@キン肉マン 生還確認】

【H-9/ビル建設現場近辺:黎明】
【ロビンマスク@キン肉マン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:マスク喪失、軽い火傷、腹部に打撲
 [装備]:いつものリングコスチューム、頭にモップ
 [道具]: 無し
 [思考・状況]
 基本行動方針:正義超人として行動する。
 1:黄色い女(雨流みねね)を探し、凶行を止める。
 2:なのは、すずか、かよ子を探す
 3:うう……マスク……
[備考]
 ※参戦時期は王位争奪編終了以後です。
 ※アノアロの杖が使えるかどうかは不明です。
 ※マスクを失い、バラクーダの外見となっています。モップが取れると長髪風ではなくなります。
 ※ヴァンプを悪行超人として認識しています。
291 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:26:38 ID:BSRzTjPD
そして、しばらく時間が経ち―――

12thが落下し、爆発炎上した仮説休憩所。
その脇に、小さな変化があった。
地下へと続く、マンホール……その蓋が、空いていた。

「フ、グ……フー、ギリ、ギリ、ダッタ」
モップの棒を杖替わりに、地下水路を進む12thの姿がそこにあった。
その体は、控えめに言っても重傷だった。
マスクもタイツも、かなりの箇所が破け、血が滲んでいる。
肋骨は骨折しているようで、全身の打撲も軽くはない。

しかし、彼は生きていた。

落下した直後、彼は驚異的な精神力で体を動かした。
まだ残っている爆弾のほとんどを設置。
直後、可能な限り迅速に、隠密に、退避し爆弾を起爆したのだ。

さも、自身が爆死したかのように。

――12thは、DEADENDを回避したのだ。

だが、その足取りは重かった。
ロビンマスクは、12thの生死の確認を怠った。
次なる正義のため、拾える命は捨てなかった12thだが、敗北は事実。
正義が敗れた……それは、12thにとって全てを失ったに等しい。
残った爆薬は、わずか一つ。
TNT爆弾と呼ばれる、みねね特製の時限爆弾のみだ
「死ネバ爆死スルノニ、爆発スルトイウノモ……ヤハリ、私ハ石を投ゲラレ、爆死ガ似合ウ怪人枠ナノカ……」
正義日記を手に入れる以前、子どもに石を投げ続けられたトラウマが再発する。
「……ソウダ、正義日記……私ノ成セル正義ヲ……」
懐から、正義日記を取り出し、耳に当てる。

「……………!」
歩みが止まる。呼吸さえ聞こえず、地下水路は静寂に包まれた。

その静寂は、ガラガラという岩が崩れるような音で破られた。
「……ッ!」
12thは、体に鞭打ち音の発生元へと走る。
棒を杖にすることも、痛みさえ忘れ、体を引き摺るように走り……到達する。

『ザザ……時…ザー…分。地下空洞で、悪魔の将と赤い外套の正義の味方が激突する。』
『ザザ……時…ザー…分。12th……『平坂黄泉』は死亡する。……DEADEND……』

レプリカの正義日記は、雑音により時間が聞こえない時がある。
だが、間違いなく……ようやく越えたDEADENDが、再び12thの背中に忍び寄る。
292 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:28:06 ID:BSRzTjPD
閉じられたばかりの、崩れた出入口。
「悪魔ノ将……アノ男ガ言ッテイタ悪……悪魔将軍カ」
そして、再び正義を名乗る、赤い外套……まだ見ぬ、レッドの男。
この奥に、12thの死があるのだろうか。
それとも、ここから離れることが死に繋がるのだろうか。

この崩れた壁を取り除けば、そこにはロビンマスク以上の強敵が待っている。
「アノマスクマン……ロビンマスクニ敗レタ私ニ、勝チ目ハ薄イ」
正義とは、勝つこと。
勝てねば正義ではない、勝てぬ闘いに挑むなど――

「違ウ、ソウデハナイ……勝ツ、正義ハ勝ツノダ!」
「勝てる」「勝てない」ではなく「勝つ」。
正義とは、必ず「勝つ」のだ。どんな方法を使ってでも。
「ソレニ、手ガナイワケデハ無イ」
12thの持ち物に、ロビンマスクと闘っている時にはなかったものがあった。
それは、支給品。

悪魔将軍がバラバラに散らかした支給品。
それを、地下に降りる直前に発見した12thが回収していたのだ。
12th本人も、目が見えないためそれが何か、まだ確認はしていない。
「今度コソ示ソウ。私コソガ、正義ノヒーローダト!!」
悪魔の神と、12thとは異なる正義が待つ、閉じられた地獄に。
満身創痍の正義の味方が、また一人、舞台に上がる。
「――下準備、シタ後デダガナ」
そこに待つのは、デッドエンドか、それとも―――

【平坂黄泉@未来日記 生還確認】

【G-9/地下空洞前:早朝】
【平坂黄泉@未来日記】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:全身ボロボロ、肋骨を骨折
 [装備]:変態的ヒーローコスチューム(ボロボロ) 心音爆弾@未来日記 、モップの棒@現実
 [道具]:基本支給品一式、黄泉の正義日記のレプリカ@未来日記、雨流みねねのTNT時限爆弾、不明支給品(数不明)
 [思考・状況]
 基本行動方針:ヒーロらしく行動する
 1:正義とは勝つこと。出入口を開き、悪魔将軍を倒す。
 2:倒したら511キンダーハイムに向かう。
 3:ひとまずみねねと組み、このゲームにおける『勝利』を目指す。
 4:赤い外套の正義の味方(アーチャー)への対処は状況次第。
 5:ロビンマスクへの敗北感。
 [備考]
 ※悪魔将軍の容姿、技などを知りました。
 ※H−9、ビル建設現場の不明支給品を拾いました。数、内容は確認していません。
  基本支給品×2には手を付けておらず、目が見えていないため、取り残しがあるかも不明です。
293 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:29:47 ID:BSRzTjPD
――そして、未だ燃え続ける処理場で、また一人。

「う……な、なんだ? ぐおっ?なんだ、全身が痛ぇ……」
天体戦士サンレッドが、意識を取り戻していた。
「……ああ? なんだ、なんでこんなもん……?」
その手には、しっかりとロビンマスクのマスクが掴まれていた。
マスクを追い、運良く爆風で気絶する程度で済んでいたのだ。

「って、どうなってんだ!? 火事……いや、爆……あ……?」
目の前で崩壊し、燃え続けるゴミ処理場。
それをぼんやりと見つめ……見てしまった。

燃え盛る火炎の中に、人影があることを。
とっくに生命活動を停止し、ほとんどが黒く焼け爛れた死体。
だが、すぐ近くに、僅かな束となって燃え残っていた「痕跡」に気づいてしまった。

鮮やかな、その金色の髪をサンレッドは覚えていた。

その刹那、髪に火が移り燃え尽きる。
奇跡的に耐えていた、最後の鉄骨が崩れ、遺体ごとサンレッドの視界から消え失せる。

「……おい、なんだこりゃ」
誰も答える者はいない。
「おい、なんなんだよ。なんでこんなことになってんだ」
何故、自分は気を失っていたのか。
何故、自分の体がこんなに痛いのか。
何故、自分はあの男のマスクを持っているのか。
何故、その男と一緒にいた小生意気な少女が消し炭になっているのか。
「なんなんだこりゃあああああ!!!」
それに答えるものは、誰もいない。

【サンレッド@天体戦士サンレッド 生存確認】

【H-10/ゴミ処理場跡地 /一日目 早朝】
【サンレッド@天体戦士サンレッド】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:全身に筋肉痛のような痛み、軽い打撲
 [装備]:お手製マスク
 [道具]:基本支給品一式、マルボロ(1カートン)@現実、ジッポーのライター@現実、ロビンマスクのマスク@キン肉マン
 エビスビール(350ml)×9@現実
 [思考・状況]
 基本行動方針:かよ子、ヴァンプ将軍とさっさと合流し、主催者をシメる
 1:何が起きたんだ……
 [備考]
 ※催眠中の記憶はありません。何かのきっかけで蘇る可能性はあります。
 ※悪魔将軍の説明について聞き流しているのでほとんど覚えていません。

 ※ゴミ処理場は崩壊しました。アリサの死体も燃え尽きました。首輪も瓦礫の中です。
294 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/09(火) 00:32:32 ID:BSRzTjPD
そして投下終了です。
タイトル付け忘れてましたが「正義 VS 正義」でお願いします。
2年ぶりに復帰してみたが、どんなもんだろう……
何か問題点ありましたら、ご指摘ください。
295創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 00:42:00 ID:mPIIU+vx
投下乙です! 
さすがロビン! 黄泉をショッカーの怪人のごとく爆殺した! と思ったら生きてたwしぶといw
しかし、黄泉は若干自分の正義に揺らいでいるのか? 未来日記勢はみんな精神的に揺らいでるな。 あっゆのさんは別ですけどw
サンレッド……いつものおふざけ溝の口とは違うこの惨劇。 と
いうかサンレッド視点だと、仲良く別れたと思ったら、まわりは火災でアリサの死体、手にはロビンの遺品(の様なもの)があるんだよな。

下水道マッチに更なる乱入者がどういう事態に繋がるのか!? まて、次回!!

投下乙でした!
296創る名無しに見る名無し:2010/11/09(火) 00:56:47 ID:mPIIU+vx
追記
ロビンマスクの備考の
※アノアロの杖が使えるかどうかは不明です。
はマスクに依存する内容だからサンレッドの方の備考に書いた方がいいかと思います!

時間的にサンレッドこのまま放送突入したら欝ってレベルじゃねーぞ。最新刊のかよ子さんとの馴れ初め的に考えて
297創る名無しに見る名無し:2010/11/10(水) 22:58:32 ID:sE+pLKXA
◆CMd1jz6iP2氏
wikiに登録はしたのですが、>>296の備考の件は返答が無いためとりあえずそのままにしておきました!
もし直すのであれば言ってくだされば修正します! そのままでよければスルーでも構いませんので


イカ娘第5話、配信開始! とっくにしてるけどねw
298 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/11(木) 00:21:39 ID:SodZKFAV
>>297
返答忘れてました、申し訳ないです。
確かにマスクに付随する機能ですし、>>296の内容で修正しちゃってください。
299297:2010/11/11(木) 00:26:28 ID:e/Z7X3lp
了解です!
返答ありがとうございます!
300創る名無しに見る名無し:2010/11/11(木) 16:50:43 ID:e/Z7X3lp
>>282
すごい今更だけど
>ニナ:穏やかな寝顔
彼女は今精神的に結構ヤバイぞw
原作で追い込まれてから参戦+ジョーカーにからかわれてるからw
301創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 11:27:29 ID:SlUlHX97
予約きたね。
ついに西の森の連中も動き出すのか。外道ホイホイww登場から3話で3人制覇www
天馬は心労で死ぬんじゃないか?
302創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 21:21:25 ID:yeWX1Kh0
支援
303 ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:44:27 ID:MJERrAbX
金田一一、言峰綺礼、竜ヶ峰帝人、折原臨也、天馬賢三
投下します
304悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:45:42 ID:MJERrAbX



名探偵の孫である名探偵。
暗き望みを中に秘める腹黒神父。
不安がりながらも非日常に微笑む一般人。
素敵で無敵(笑)な情報屋。
そして、指名手配された医者。

病院に集う男達は、各々の心に様々なものを抱いていた。

全ての謎をさらけ出し、この巫山戯た催しを止めようとする義心。
ただひたすら他人の苦痛を求め、悲劇を求めようとする快楽。
日常からの脱却を願い、非日常のために足掻き続ける、終わり無き夢。
天国の実在を証明せんと、戦争を引き起こそうとする野望。
そして、己が生かしてしまった「かいぶつ」を殺そうとする大志。

思想も違い立場も違い、能力もピンからキリまで。
そんな不確定原子達が出会った結果、一体如何なる化学反応が引き起こされるのだろうか?
混ざり合うのか、上や下、左や右に分かれるのか、それとも……爆発するのか。
解答の一部が、ここにある。



それでは、物語を始めよう。



◇ ◇ ◇



『名探偵、憂う』



「ふう……」

待合室のソファーに寝転び、溜息を一つ。
金田一一(はじめ)は、先程の情報交換を思い返し、一人で物思いに耽っていた。

彼がママチャリをひいこら漕ぎつつ病院に辿り着く頃には、既に午前5時を回るところだった。
誰もいない町中は、基本的に光源に乏しい。
奇襲を恐れランプをつけずに病院を目指したは良いものの、1エリア分離れただけの病院に至るまでどれほどの苦労があったか。
白ばみ始めた空によって、漸くお目当ての病院を見つけることが出来たというわけだ。
しかし、今の金田一の疲労は、それだけによるものではない。

「状況を、整理しないとな」

まず、彼より先に病院にいた天馬賢三、折原臨也。殺し合いには、乗っていない。
二人は手を組み、これから信頼の置ける仲間を捜しに救急車で外に出発する予定だったらしい。
金田一が病院に辿り着いたのは正に間一髪だったということだ。
305悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:46:48 ID:MJERrAbX

『俺をすぐに信頼できないのは分かる、だけど、どうか頼む。俺の話を聞いてくれ!』

ママチャリのサドルにまたがったまま、息を切らし必死にそう説得する姿に憐憫を覚えたのか、彼らは金田一との接触を良しとしてくれた。
知り合いでない者を信用するか否か、殺し合いという極限状況の中では人により意見が分かれるだろう。
もしも相手が殺し合いに乗っていたら。隙を突き、隠し持った武器で皆殺しにされる可能性だってある。
零時スタートで五時になったのに未だ一人でいる人間ならば尚更、警戒すべきだろう。
そういった意味で、彼らが自分を受け入れてくれて助かった、と金田一は何度も頭を下げた。

そんな時、更に二人の参加者が病院にやって来た。
言峰綺礼、竜ヶ峰帝人。殺し合いには、乗っていない。
幸い、帝人と臨也は知り合いだったらしく、すんなりと三人と二人は五人になった。

さて、ここまでは良い。
問題は、ここからだ。

『少し、俺の話……いや、推理を聞いてくれませんか』

これから協力関係を築いていく仲だ、己の推理を聞いて貰い、判断を仰ぐのも良いだろう。
金田一は、己の考えが絶対的に正しいと信じられるほど自信家でもなければ、傲慢でもない。
他の人間の意見も聞きつつ、有用なものは取り入れて推理を展開しなければ。
まずは、事情聴取と言う名の情報交換。お互いの目的、これまで何をしていたかなどを簡単に説明し合った。
幸い、今のところ危険な人物に遭遇した者はいないようで、金田一はほっと胸を撫で下ろす。
その事実がイコール今は安全だということには結びつかないが、やはり危険人物の存在は神経を磨り減らす。
少しだけの安寧を得ながら、金田一は次の段階に移行する。
即ち、ここに呼ばれている彼らの関係者についてだ。

今までの推理はあくまでも『金田一一』の周辺の人物のみを対象とした場合だ。
もしも残りの三人の知り合いが、悉くHorに位置するような人格者ばかりだとしたら?
Setに位置するような人間が高遠以外に存在しないとしたら?
勿論、全ての参加者の情報を得て判断すべきだろうが、まずは目先の情報でも掻き集め、推理を補強、若しくは修正すべきだと考えたのだ。

折原臨也と竜ヶ峰帝人は、他に知り合いがいないと断言した。
もし仮に彼らが嘘をついたとしても、病院に辿り着いた順番からして事前に口裏を合わせる時間など無かったはず。
折原臨也は『やり手』な人間に思えたが、竜ヶ峰帝人は、本当に何処にでもいる学生に見える。
それとなく観察はしてみたが、挙動不審なところなど一切無い。
事実を淡々と言っているだけで、後ろめたいことなどこれっぽちもなさそうだ。

次に、言峰綺礼。
ここで、金田一は壁にぶち当たる。

『私の関係者の話をする前に、少し別件で話したいことがあるのだが良いかね。
彼らと私の関係を語る上で、どうしても必要なことなのでな』

魔術師、教会、聖杯戦争、マスター、サーヴァント、監視役。
俄には、信じがたい。マジックではないマジカルの存在など、金田一が知るはずもない。
しかし、言峰綺礼はすらすらとそれらのトンデモ設定を述べ続けた。
多少気になることがあって突っ込んでも難なく補足説明を加えたいと、単なる作り話にしては手が込みすぎている。
306悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:47:32 ID:MJERrAbX

「……認めろっていうのかよ、そんな物の存在を」

確かに、突然拉致されたり、瞬時に会場に移されたりと、今回の事件は、初めから些か科学では説明しづらいところがあった。
催眠術をかけられただとかで、説明のしようはある。そう自分に言い聞かせてはいた。
それでは、自分たち以外が存在しないこの町については?
マップを見るにかなり大きいこの会場を、主催者はどうやって用意することが出来たのか。
魔法。魔術。確かに、そういう非現実的な存在を認めれば、こういう超常的な出来事にも納得出来る。
しかしそれは、果たして金田一の力でこの事件を解決できるのかどうか、と言う底知れぬ不安を同時にもたらした。
自分の知らない技術がある。それだけで、考えなければならぬ事は膨れあがる。
もしも主催者が魔法で会場全体を見張っていたら?首輪解除など出来るはずもない。
もしも主催者が一言呪文を唱えるだけで殺人を冒せるのならば?主催に刃向かうなど夢のまた夢だ。

『勿論、魔術などと言っても無制限に使える物ではない』

言峰はそう言っていたが、それでも、得体のしれない主催者が更に強大な敵に見える。
無論、諦めなどしない。絶対に事件を解決する、その意志は固きままだ。
それでも、指針はブレる。Setの人間がそんな技術を持っている可能性があるなら、なおさらだ。
金田一は今まで、高遠のような人物への対処のみを念頭に置いて対策を考えていた。
人が集まれば情報も集まる。今回のような場でそれらを擦り合わせ、Setの人間を特定し、上手く拘束すればそれで済む物だとばかり考えていた。
しかし、魔術などの存在はその前提条件を容易に覆す。
そのような未知の技術を使う彼ら――総称して『魔法使い』としよう――を取り押さえることが出来るのか。
また、後述のサーヴァントのような肉体的に人を超えた人――仮に『超人』と呼ぶ――に、どうやって対処すればよいのか。
彼らを止める術は、存在するのか。手錠など彼らに効くのだろうか。
どうしようもなくなったならば、その時は…………。

「殺すなんて……駄目に決まってる。そんなことをしたら俺はじっちゃんに顔向けできねえ」

当然、そのような危険人物も何らかの手段できちんと『殺せる』ように出来ているのだろう。
そうでなければ、実験の意味がない。ここまで用意周到に事を進めてきた主催者がバランスのことを考えないなどとは考えづらい。
だが、そうだからといって敵対者を殺すのは、それこそ主催者の思う壺だ。
金田一は殺させないし、殺さない。そのスタンスを貫いてこそ、本当の勝利があると信じている。
そのために何とかして、『魔法使い』や『超人』を無力化できる方法を探さなければ。

さて、ここで少し頭の小休止。言峰の情報から、変わり風な話についてもちょっとだけ考えてみよう。

『聖杯戦争』

言峰の話の中でも中核に存在する、魔術師同士の戦い。
七組の中、最後まで生き残ったマスターとサーヴァントが、何でも望みを叶えられるという。
中国に伝わる蠱術。虫を食い合わせ、最後に残った虫を呪いに使用する、という儀式の近似系だと金田一は思った。
そこだけ聞くと、今回の、『箱の中での殺し合い』のケースに似ている、と言えなくもない。
307悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:48:16 ID:MJERrAbX
だが。

『これが聖杯戦争に準ずるものであるという可能性は低いだろうな』

魔術という不可思議なの存在を知ったとはいえ、言峰が言うとおり金田一もその可能性は無いだろうと考えた。
聖杯戦争や蠱術とは違い、今回は条件を満たせば複数の参加者の生還が認められている。
何人死に、何人生きるか分からない。このルールでは、肝心の生け贄という要素が不確定すぎて安定しない。
また、それぞれのグループもSet以外は殺し合いに消極的でも生き残れるようなルールであり、バンバン殺せ的な意図はあまり感じられない。

やはり、主催者の言うとおりこれは何らかの『実験』なのだろう。
グループ分けにも何らかの意味がある。わざわざHorやらIsiやら使うのはヒントのつもりだろうか。
現段階での考察がどこまで正しいかは分からないが、その線で推理を進めていくことに間違いはなさそうだ。

「……っとと、そろそろ話を戻すか」

回り回って、言峰綺礼の知り合いの話に戻ろう。
言峰綺礼曰く、知り合いは三人。いずれも聖杯戦争において関わった者達だという。
衛宮士郎。再優のサーヴァント、セイバーのマスターであり、正義感溢れる好青年らしい。
言峰綺礼は士郎がマスターになった晩以来の接触はないそうだが、少なくとも殺し合いをするような人間ではないと、言峰は語った。
次に、アーチャー。その名の通り弓兵のサーヴァントであり、言峰の弟弟子、遠阪凜をマスターとしている。
言峰はアーチャーと直接の接触はないため、殺し合いに乗るかどうかは分からない。
ただ、もしも乗ったとしたら、ここにいる人間を一分で全員細切れに出来るだろう、と言峰は述べた。
最後に、間桐慎二。彼も衛宮士郎と同じく聖杯戦争のマスターだったらしい。

「こいつが、Set候補」

言峰の話によると、慎二は魔力を得るために彼の通う学校中の生徒を犠牲にしようとしていたらしい。
間違いなく、悪。そう断言しても良い。
しかし、本人は魔術も使えぬ普通の人間に過ぎないためそこまで危険度はない、と言峰は付け加えた。
『魔法使い』や『超人』ではないならば、事件解決までの拘束は出来なくもなさそうだ。

さて、最後に天馬賢三の知り合いについてだが……。

「かいぶつ、か」

やはり、目をひくのはヨハン・リーベルト。『なまえのないかいぶつ』についてだろう。
彼も『魔法使い』や『超人』とは違うらしいが、それでも間桐慎二との危険度とはレベルが違う。
高遠遙一、あの地獄の傀儡師と同タイプ、一の推理が当たっていれば間違いなくSet側の人間だ。
過去に何十人以上もの人間を殺害し、それらの罪を他人に擦り付けながら生きていく外道。
彼を崇拝する協力者も多くいるらしく、正しく悪のカリスマと呼べるような人間らしい。

「早く見つけてとっ捕まえないと、こっちが不利になる一方だな……」

ヨハンも、恐らく高遠も、馬鹿正直に殺人を犯さず仮初めの仲間を得ているに違いない。
このような場では知り合い、仲間の数が多いほど彼らにとっては好都合だ。
弾避け、もしかすると既に何人かを自由自在に使える手駒にしている可能性も、無いとは言えない。
殺し合いという環境で、人は容易に倫理観をなくす。高遠やヨハンにとっては絶好のフィールドだろう。
308悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:49:05 ID:MJERrAbX

生憎、この場に呼ばれた他の知り合いは殺し合いに乗るような者ではないらしく、金田一は胸を撫で下ろした。
この場で出会った杳馬という紳士風の男も、天馬と別口で殺し合いを打破するつもりらしい。
いずれは彼、そして息子の天馬(医者にあらず)とも合流し、情報交換をしたいものだ。   



問題は、天馬自身の目的についてなのだが…………。



「ひとまず、これで全員か」


金田一、折原と竜ヶ峰、言峰、そして天馬。
これまでに出てきた登場人物は彼ら本人と金田一の知り合いを含め17人。
そのうちSet候補は言峰のよく知らぬアーチャーも含め4人。大体4分の一がSetということになる。

「バランス的に妥当な線……なのか?」

Isiに無力な人間も含まれているとするなら、恐らくバランスはHor:Isi:Set=1:2:1ほどだろう。
どちらかが極端に多いだとか少ないだとかはあり得ない……と、思いたい。
勿論、断言は出来ない。
アーチャーに関しては情報が少なすぎるし、まだ全体の4分の1しか情報は集まっていないのだ。
今後も多くの参加者と接触し、情報を集めていくべきだろう。


しかし。


「考えたくはない、だけど」


軽い自己紹介、経歴を聞いてみると、ただの学生である竜ヶ峰帝人と情報屋という仕事をしている折原臨也は守られるべきIsi。
社会の影に潜み化け物退治(はじめは冗談かと思ったが、事実らしい)などを行ってきた言峰綺礼はHor。
ヨハンを命がけで追う天馬賢三は、HorもしくはIsi側の人間であると考えて良いだろう。

しかし、今までの情報は、全て『彼らが嘘をついていない場合』に依るものだ。
折原と帝人は、もしかしたら知り合い同士の凄腕の詐欺師で、打ち合わせもせずに金田一の目を欺いたのかもしれない。
実は、言峰本人が学校で儀式を執り行った本人で、その罪を間桐慎二に押しつけているのかもしれない。
天馬の話が全て妄言で、彼自身が恐るべき殺人鬼なのかもしれない。
金田一は今まで、数々の事件で意外な犯人達を暴き出してきた。
その例に当てはめるのならば、無害な彼らが実は悪人だったという可能性は、十分すぎるほどあり得るのだ。
どんな人物だろうと、犯人である可能性はある。『あの人は良い人そうだから犯人候補から外そう』などと言えるわけもない。
もしも彼らのうちの一人がSet、犯人側の人間だったならば、金田一は何にも気付けないまま『被害者』になる可能性だってある。
その事実が、金田一の心に凍ったナイフのように突き刺さる。
309悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:50:25 ID:MJERrAbX

何か事件が起こった訳ではない。誰一人として死んでいないし、殺してもいない。
だが、金田一の推理が正しければ、間違いなく悪人は参加者の中にいる。
Setはどのように動き、どのように考え……どのように潜んでいるのかさえ、はっきりと分からないのだ。

「……くそ!」

今、金田一は矛盾に取り込まれている。
『仲間を守るため仲間を疑わなければいけない』という、どうしようもない矛盾に。
今は誰もが免許証も取り上げられ、警察の助けも期待できず、身元確認さえままならない。
そもそも、彼らが本当に本名を名乗っているかさえ分からない。そこから疑う必要は果たしてあるのかも、分からない。
情報。推理の根底にあるべきものが、圧倒的に不足している。
四人の中の一人が指名手配中の凶悪犯であったとしても、金田一にそれを知る術は一切無いのだ。
全てが全て、疑い放題。絶対に信用できることなど、己や己の知り合いくらいだろう。

頭が良いから、推理する。
推理した結果、相応数の悪人がいるという結論に辿り着く。
すると、仲間が悪人かどうか疑わなければ行けなくなる。

「はあ……」

名探偵は、憂いを抱えたままソファーを立った。
疑うべき仲間達の元へ、戻るために。
310悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:51:15 ID:MJERrAbX


◇ ◇ ◇



『大人と子供、群れる』



「何をやってるんだろう、あの人は……」
「どうした、帝人君?」
「いえ、臨也さんは相変わらず臨也さんだなぁと思って、安心しただけですよ」
「これは……やけに、なんというか、女の子らしいが……これを、本当にあの折原が?」
「ネカマなんです、あの人」
「ネカマ……?」

病院の待合室。
軽い話し合いを終え、竜ヶ峰帝人と天馬賢三は休息をとっていた。
ブラックなコーヒーを口に含み、安らぎの一時。
そんな天馬を、帝人は何か言いたそうにちらちらと横目で伺う。

「どうしたかな、帝人君。私の顔に何か……?」
「あ、すいません。そう言うんじゃなくて、さっきのお話が気になって」
「ああ、その話か……」

天馬賢三の話。
ヨハン・リーベルトを中心とした彼と知り合い達との関係は、言峰の話とは別の意味で奇想天外なものだった。
子供の手によって引き起こされた連続殺人。ヨハン・リーベルトの恐ろしさ。
かいぶつを助けてしまった天馬。指名手配され、警察から逃げ回りながらのヨハン追跡劇。
天馬を追う凄腕の警部、ハインリッヒ・ルンゲとの奇妙な関係。
ヨハンの妹、ニナ・フォルトナー。ヨハンについての鍵を握る少女。
ヴォルフガング・グリマー。天馬を助けてくれた謎多き人物。

ここに呼ばれた参加者に関することだけでも、耳を疑うしかない。
しかも、言峰とは違い天馬の話は「絶対にあり得ないとは言えない」話だ。
限りなく日常とは遠く、それでいて現実的と言う二面性を持ったストーリー。
有り体に言えば、良くできたサスペンスドラマのような天馬の話に、帝人は強く関心を持った。
好奇心という名の輝きを瞳に抱く少年に、天馬は語る。

「正直、今でも迷っているんだ」
「何を、ですか?」
「私が君たちと共に行動しても良いか、ということにだよ」

目を丸くする帝人に、天馬は言葉を続ける。
眉に皺を寄せ目を細くする彼の顔に浮かぶのは、苦悩。

「君も薄々分かってはいるかもしれないが、私はヨハンを追う上で多くの被害者を見てきた。
口封じのため、資金作りのため、或いは理由も分からず、多くの人間がヨハンの犠牲になった」
311創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 22:51:31 ID:x8x+GOKs
312悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 22:52:07 ID:MJERrAbX

帝人は、何も言わない。言えない。
ドラマではなく現実の人間が、己のせいで積み重なる「死」というものに苦悩している。
その事実に口出しできるほど、彼は出しゃばりでもなければ、体の良い慰めをするセンスもない。

「私はこの場でもヨハンを追う。彼を殺す。それが私に課せられた使命だ」

しかし、と。

「君からすれば、私は主催者の言うとおりに殺人を犯そうとする愚か者に見えるだろう。
誰が好きこのんでそんな奴と行動したいと思う?」
「そっ、そんなことは……」
「それに、今言ったようにヨハンは残虐で容赦がない。己の障害は眉一つ動かさず殺し尽くす。
それは帝人君、君だって例外ではない。やつはハエを殺すように、君を殺してしまうかもしれない」
「で、でも…………」
「君は、そんな奴に会いたいと思うか?身の危険を顧みず危険人物を追って殺しに行きたいと思うか?」
「…………」
「私と共に行動すると言うことは、そういうことだ。君たちまで私の自己満足に付き合うことはない」

実際、天馬の語った目的に、金田一は眉を潜め『そんなことは許されない』と発言した。
金田一も天馬もいざこざを起こすのは嫌ったため大事にはならなかったが、それでも二人の間には確かな溝がある。

『君たちに協力しない、という訳ではない。金田一君や言峰さんの知り合いを捜すということにも異論はない。
だが、私の目的はヨハンを殺すことだ。それを取り上げられるのならば、君たちと共にはいられない』

金田一はその一言に酷く難しい顔をしたが、天馬もその一点だけは譲れない。
今、この会場の何処かにヨハンがいる。手がかりどころか、本人がいる。
今までの捜索範囲に比べれば屁でもない狭さのフィールドに、確かに『なまえのないかいぶつ』は存在する。
それを知っただけで、自然と腕に力が籠もり足に活が入る。

「本当のことを言えば、私は今すぐにでも奴を探しに行きたい。
我が儘だと言われるかもしれない。自分勝手もいい加減にしろと罵倒されても仕方がない。
だが、それでも私は、このチャンスを逃す気はないんだ」

一歩間違えれば、執拗な殺人鬼だと言われてもおかしくない。実際、天馬からは執念というものさえ感じ取れる。
天馬賢三はそのことを自覚しつつも、事実を隠すことはしなかった。
嘘がばれると後々厄介だという打算も、確かに有った。
彼の知り合いとの関係を語る上で、グリマー以外の人間とは確実にヨハンが間に入る。
それを隠し通せば、知り合いと合流した際に間違いなくボロが出てしまう。
一度失った信頼は、取り戻すことが如何に困難か。天馬はそれを嫌なほど知っている。
それに、事情を知らぬ者からすれば、天馬がヨハンを殺そうとする図を見れば間違いなく天馬が金田一の言うSetグループだと思うだろう。
殺人犯として追われるという経験上、この閉鎖的な空間で味方を減らすことは避けたい。

しかし、そんな考え以上に、彼は他人に嘘をつきたくない善人だったのだ。
天馬賢三は世渡りも上手くできないほど、どうしようもなく嘘をつくのが下手で。
出世や金よりも、今助けられる命を救うことだけを考える不器用の塊で。
だからこそ患者から、仲間から、信頼される男だった。
313創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 22:53:03 ID:x8x+GOKs
314創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 22:54:33 ID:x8x+GOKs
315創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:00:09 ID:x8x+GOKs
316悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:01:38 ID:MJERrAbX
「私は、ヨハンを殺す。私が、殺さなければいけないんだ」

それを聞く帝人にも、天馬の想いは、覚悟は伝わった。
こうやって二人きりで話すと、天馬の気持ちは痛いほど伝播する。
罪の意識に苛まれながら、己の不始末を命がけで片付けようと奮闘する男の姿を見て。

「僕は……」

帝人は、五人の中で殺し合いや死とは最もほど遠い位置に存在する少年は。

「貴方が間違っているとは、思えません」


はっきりと、殺人を認可したのだった。


「僕も、人を傷つけたことがあります」

訥々と、帝人は己の過去、そして『今』を語り出す。

「僕の身を守るため」

愛に溺れた女性を『集会』で追い詰めた。

「組織を立て直すため」

青葉とその仲間を利用し、ダラーズに不要な人間を『粛正』している。

「友達を助けるため」

人懐っこい笑顔の少年と、気弱そうに微笑む少女の姿を脳裏に思い浮かべ。

「僕も、自分の手を汚しています」

殺してなどいないけれど。間違いなく、己の意志で他者を傷つけ人生を転落させている。
必要なことだと割り切っている。己がやらなければ行けないことだと、腹も括っている。
だから、天馬賢三の気持ちが、痛いほど分かる。分かってしまう。
例え間違っているようでも、強い意志そのものを誤りだと認めるのは、許されない。
同じような境遇の身として、その覚悟を尊重したいと竜ヶ峰帝人は思った。

そして。

「この場でも……僕はそうする覚悟がある」

四人と話をして、竜ヶ峰帝人は覚悟を決めていた。
自分と同じくらいの歳にも関わらず、怯むことなく怯えることなく正面から実験に向き合う金田一一に、感化された部分もあった。
知り合いである折原臨也から『覚悟を決めろ』との手厳しいエールも、貰った。
言峰綺礼は相変わらず意味ありげな顔をしてこちらを覗き込んでいたが、構うものか。
天馬賢三の強い『覚悟』に同調するように、竜ヶ峰帝人も『覚悟を決める』
危険な人物が確かにいるこの場で、逃げることなど許されない。
そんな者達と戦うことなど、化け物のような相手に立ち向かうことなど、夢物語だと分かってはいる。
それでも。
ただ流されるのは、嫌だから。この場で出会った強い彼らに追いつきたいと、帝人は思う。

317悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:02:47 ID:MJERrAbX

そして。

「この場でも……僕はそうする覚悟がある」

四人と話をして、竜ヶ峰帝人は覚悟を決めていた。
自分と同じくらいの歳にも関わらず、怯むことなく怯えることなく正面から実験に向き合う金田一一に、感化された部分もあった。
知り合いである折原臨也から『覚悟を決めろ』との手厳しいエールも、貰った。
言峰綺礼は相変わらず意味ありげな顔をしてこちらを覗き込んでいたが、構うものか。
天馬賢三の強い『覚悟』に同調するように、竜ヶ峰帝人も『覚悟を決める』
危険な人物が確かにいるこの場で、逃げることなど許されない。
そんな者達と戦うことなど、化け物のような相手に立ち向かうことなど、夢物語だと分かってはいる。
それでも。
ただ流されるのは、嫌だから。この場で出会った強い彼らに追いつきたいと、帝人は思う。

「君は……いや、私のような人間から言えることなど、無いだろうな」

天馬賢三は大人として、そんな竜ヶ峰帝人を危ういと感じ取った。
未来有る少年が手を出してはいけない領域にまで帝人は至っていると、直感した。
出来れば、年相応に学業に励み、友人と楽しく過ごす生活を送って欲しい。心からそう思う。
だが、己を肯定してくれた少年を偉そうに諭すことなど、天馬賢三には出来そうになかった。
天馬の優しさが、気弱そうな少年の見せる確かな覚悟を潰すことを恐れていた。

「ありがとう、帝人君」

只そう答え、天馬賢三は沈黙する。
竜ヶ峰帝人も、何を言うこともなく、再びパソコンを弄り出す。
素っ気ない会話の途切れは、何かを分かり合った者同士の信頼を静かに表していた。

子供と大人は互いに寄り添いながら、仲間として、共犯者として、群れる。
一人きりの孤独を和らげるように。心の奥底で望んでいる『理解』を得るために。
心地良い沈黙の中、仲間達の帰還を二人は待つ。


そして。



竜ヶ峰帝人は、ヨハン・リーベルトという『非日常』の脅威に身を震わせ――笑っていた。

318創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:02:52 ID:0Odn26RT
支援
319悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:03:30 ID:MJERrAbX


◇ ◇ ◇



『悪者達、連れる』



「多少主観は入ってる、と最後に言っておくけれど」
「…………」
「……以上が、竜ヶ峰帝人について俺が知る全ての情報だ」
「なるほど、確かに情報屋を自称するだけは有る。個人情報など何処噴く風、と言ったところか」
「褒めないでよ、照れちゃうじゃない」
「あの微笑み、その中に潜む闇を垣間見ることが私では精一杯だったものでな。余計な手間をかけずに済んだ。礼を言おう」
「それはそれはどーも。それでさ」
「分かっている。それ相応の代価……この場合は情報を払おう」
「話が早くて助かるよ、言峰さん」
「最も、私が語れることなどそう多くはないのだがな」

病院内、男子トイレ。
二人の男が、所謂連れションをしていた。

「へえ、サーヴァントってのはどいつもこいつも化け物なんだねえ」
「アーチャーに限らず、サーヴァントは規格外の力を持ち得ている。この場にセイバーが呼ばれなかったことは僥倖だ」
「俺は会ってみたかった気もするけどね、昔の英雄にもさ」
「ふっ、あの頭の良い少年の話を聞いてなお『敵対者』の増加を望むか、折原」
「酷いなあ、俺が高遠とか言う連続殺人犯と同じグループだって思ってるのかい」
「貴様も、私をそうだと思って話を持ちかけたのだろうよ。お互い様だ」

勿論、折原臨也と言峰綺礼の連れションが単なる連れションに終わるはずはなく。

「貴様は、これからどうするつもりだ。金田一一を……」
「まさかぁ。殺すのは最後の手段だよ。俺だって帝人君の信頼を失うような危険は冒したくないしねえ」
「私も余計な殺生は望むところではない。これでも神に仕える身として、な」
「死んじゃったら悲しむ姿とかが見れないからだろ、全く性格の悪い……」
「私が何を望むか予測した上で、知り合いの情報を売り飛ばす貴様には負ける」
「あっ、言っとくけど帝人君は殺しちゃ駄目だからね、俺がこの後に使わなきゃいけないんだし」
「殺し合いの場で殺すな、か。ふむ、まあ努力はしよう。私も、あの少年の行き着く先が見たいものでな」
「行き着いた先が断崖絶壁だったらどうするつもり?」
「その時は……その時だ。そうならないことを祈っている」
「そういうのを望んでるくせに、よく言うよあんたは」

世間話をするように。
二人のSetは愉し気に、秘密の会話を繰り広げる。

320創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:03:44 ID:x8x+GOKs
321悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:04:19 ID:MJERrAbX

「さあて、流石に時間をとりすぎたかな。そろそろ皆の所に戻ろうか」
「最後に一つ聞いておこう。折原……貴様はこの殺し合いで何を望む?」
「俺が望むのは『生き残る』ことだけだよ、それだけ。生きていればそれで良い」
「そのためには他者を犠牲にすることもやむなし、か」
「そうそう、言峰さんも一緒に頑張って生き残ろうよ、Horの人達を皆殺しにしてでもさ」
「ふっ、殺し合いを加速させるためそうやって他の人間にも火をつけるか」
「まあ、戦争の予行練習をしたいってのも本音ではあるんだけどねぇ。あくまでもばれないように、ばれないように……ね」
「戦いを望みながら己は傍観者足らんとする、そう上手くいくとは思えんがな」
「あんたが協力してくれれば上手くいく可能性はぐんと高まる。信頼してるんだよ、言峰綺礼?」
「この私を協力者として扱うとはな……足下を掬われても化けて出るのは勘弁、といったところだ」

絡み合う視線。互いを突き刺すように睨み合った後。

「……あははははっ」
「……くくくくく」
「「断言しよう」」
「俺はあんたの願いを叶えられる」
「私は貴様の望みを叶えられる」

苦しみを願う神父。
戦いを望む情報屋。
似たもの通しの黒尽くめは、手を組んだ。


言峰綺礼は上機嫌でスキップする折原臨也を見て、何故か不快感を感じなかった。
不思議に思ったが、眉を潜めて少し考えた後、言峰は気付く。

(この男の喜びは、他者への苦しみに塗り替えられる)

なんとも分かりやすい『苦しみ』の配達人だ。同類ながら反吐が出る。
彼と自分はマッチポンプのような関係を持つことが出来るだろう。そう考えるとつい笑いが零れてしまう。
そして同時に、彼を観察して気付く。折原臨也は純粋たる悪意の塊であると。
悪を知り、善を知り、それでいて、己のためだけに悪を為す。
そこに反省など微塵もない。矯正不可能な歪みを抱え、それでも折原は楽しそうに生きている。
膨れあがる好奇心と己の保身だけが、彼の生きていく原動力となっているのだ。
他者など知らぬ。存ぜぬ。考えぬ。言峰さえも、折原は目的のために捨て駒にするだろう。
正しく、究極のエゴイスト。絶対的自己中心主義者。酷く心地良いフレーズではないか。
何とも切符の良い『破綻者』であると、言峰綺礼は折原臨也に好意を抱く。
勿論、己の障害となる場合は容赦なく排除するが。


折原臨也は黒幕面をする言峰を見て、何故か対抗心を燃やさなかった。
どうしたことだろうと頭を捻って見ると、何となくその理由を発見した。

(彼は、俺と立ち位置が違いすぎる)

言峰と臨也は、言うならば制作者と使用者のような関係だ。
言峰は『作品』を創り出すことで満足し、臨也はそれを使うことで己の目的を果たそうとする。
言峰は他者の苦しみを糧として、臨也は他者の苦しみを利用する。
臨也にとって必要なのは苦しみそのものではなく、苦しんだ結果なのだ。
彼が求めるモノは人間が様々な経過の果てにどんなことをするのか、である。感情そのものではない。
苦しみも悲しみも、彼の心を満たすものではない。それは飽くまでも行為の付随物にすぎないからだ。
似通うようで、言峰と臨也は違う。芯の部分でどうしようもなく、違う。
必要なモノは一緒でも、欲しいモノは違う。奪い合うことなく、共存して生きていける。
だから臨也は、言峰を素晴らしい協力者だと思った。彼の存在そのものに、深く感謝した。
だからといって、言峰を守ったりするつもりなど毛頭無かったが。邪魔になったら切り捨てるだけだ。

322創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:04:51 ID:0Odn26RT
323悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:05:12 ID:MJERrAbX

「良いパートナーになれるんじゃないかな、俺たち」
「これからもよろしく、といったところか」

二人の外道は、底知れぬ暗闇を我が物顔で進んでいく。連んでいく。
愛すべき仲間達の元へ、戻るために。

「あっ、そう言えばさ、こんな電池みたいなのデイパックに入ってなかった?」
「……これのことかね?Setという記号が彫り込まれているが、生憎説明書はついていなくてな」
「ああ、やっぱりあんたは最高の協力者だよ!」
「事態が飲み込めんな。どういうことか話してみろ」
「実はこれは……」

反吐が出る悪者達の暗躍は止まらない。止まらない。止まらない。



【G-2/市街地:病院:黎明/一日目 早朝】


【金田一一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [持物]:デイパック、基本支給品、レイジングハート(スタンバイモード) 、風紀委員の自転車@めだかボックス
 [方針/目的]
  基本方針:自分の信じる正義の下、謎を解き明かす。
  0:自分をHorと推測し、それを前提とし行動する。
  1:他の者と今後の行動方針について話し合う。
  2:海の家、テレビ局周辺施設と調べながら女神像を目指したい。
  3:Isiと合流したい。(美雪優先)
  4:高遠を警戒。
 
[備考] ※美雪をIsi、剣持をHorかIsi、高遠をSetと推測し、それを前提に行動しています。
      またその推測が外れている可能性も視野に入れています。
     ※レイジングハートがベルカ式カートリッジシステムになっているかはまだわかりません。後の書き手様にお任せします。
 天馬、言峰、折原といくらかの情報交換をしました。

【天馬賢三@MONSTER】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:コルトガバメントM1911A1(7/7)、予備弾倉4つ
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜2、月の腕時計@DEATH NOTE、医薬品多数
 [思考・状況]
 基本行動方針:ヨハンの抹殺。負傷している者がいれば治療する?
 1:他の者と行動するか否か……。
 2:ニナ、グリマーを探す。
 3:いずれ杳馬と合流する。
 
[備考]
金田一、折原、言峰といくらかの情報交換をしました。
324悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:06:00 ID:MJERrAbX


【竜ヶ峰帝人@デュラララ!!】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康(高揚感?)
 [装備]:なし
 [持物]:デイパック、基本支給品、支給品1?3(本人確認済み)
 [方針/目的]
  基本方針:死にたくないけど……
  1:他の人達と協力していく。
  2:言峰さんが信用できない。
  3:ヨハンに興味?
[備考] 少なくとも原作6巻以降のいずれかより参戦
    金田一、天馬、言峰といくらかの情報交換をしました。



【折原臨也@デュラララ!】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:メス(コートの隠しポケットに入っている)
[道具]:基本支給品、セルティの首、属性探査機、属性電池(Isi)属性電池(Set)
[思考・状況]
基本行動方針:実験を完遂させつつ、その中で活躍してヴァルキリーに認められ、天国へ行く。
1:Horらしき参加者を見つけ、五代達との合流を促して擬似Horによる大集団を作る。
2:Isiらしき参加者を見つけたら、人間観察がてら人間不信に追い込む。
3:Setらしき参加者に遭遇した場合、様子を見て情報収集・擬似Set集団形成促進の為に接触する。
4:属性電池を探索する。
5:ここで活躍できなかった場合の保険の為に、本ちゃんの戦争に必要な竜ヶ峰帝人はなるべく保護したい。
6:言峰綺礼とはなるべく協力関係を築いていきたい。

[備考]
登場時期は原作2巻終了後。
吉良吉影と、第一放送後に合流する場所を密かに決めています(詳細は、後の書き手にお任せします)。
金田一、天馬、言峰といくらかの情報交換をしました。
言峰綺礼より、更にいくつかの情報を得ました。


【言峰綺礼@Fate/stay night】
[属性]:悪(Set)
[状態]:健康
[装備]:なし
[持物]:デイパック、基本支給品、支給品0?2
[方針/目的]
  基本方針:?????
  1:他の者と今後の行動方針について話し合う。
  2:竜ヶ峰帝人の観察を続ける
  3:折原臨也とは、なるべく協力関係を築いていきたい。
 
[備考] 出展時期は他の人にお任せ。
金田一、天馬、折原といくらかの情報交換をしました。
    原作二巻当時における竜ヶ峰帝人の情報を得ました。多少臨也の主観混じり(?)
325創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:06:48 ID:x8x+GOKs
326悲秘喜奇交交イン・ホスピタル  ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:06:54 ID:MJERrAbX
以上で投下終了いたします
支援してくださった方、本当にありがとうございました
修正点、矛盾点などがあったらご指摘下さい
327創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:10:56 ID:x8x+GOKs
投下おつー!
うっわああ、真っ黒いのが手を組んだー!?
なんつうか文字通り最悪のタッグだな、これは
単に強いのより厄介だ。いや、ことみーも十分つえええんだが
そして天馬先生や金田一が悪いように作用しちゃった帝はどうなるやら
ことみーといざやに見込まれてるってある意味すごいよな
微笑んだの一文にはぞくっときた
328創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:28:12 ID:SlUlHX97
投下乙です。

悪は本当に仲間を作るのがうまいなー。正義は仲違いばかりなのにw
帝人の微笑みこえーよ。
一ちゃんは魔法の存在に気づいたか。レイハさんをことみーに取られないようにしないとね。
天馬先生の嘘をつけずに自分を貫くことがどこまで出来るのか?
実際にヨハンに対峙したときに本当に殺せるのか?

改めて投下乙でした
329創る名無しに見る名無し:2010/11/13(土) 23:31:33 ID:SlUlHX97
誤字報告
>【G-2/市街地:病院:黎明/一日目 早朝】
場所は病院で時間帯が早朝 ですかね?


330 ◆GOn9rNo1ts :2010/11/13(土) 23:35:56 ID:MJERrAbX
ギャー!コピペミスー!

【G-2/市街地:病院:黎明/一日目 早朝】

【G-2:病院:一日目・早朝】
に変更いたします
331創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 01:31:25 ID:iRZJh9wf
投下乙です!
うわー!最後の最後で鬼に金棒!わくわくしてきた!
332創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 13:50:05 ID:+T9RAQvr
おぉ 投下乙ー
臨也と言峰暗躍しすぎww
ものっすごい不安定なチームだな。金田一の推理とは裏腹に正義2悪2一般1というチーム分けだが
言峰はHor…それはない!w
333創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 15:47:26 ID:60ExkALn
投下乙ー!
臨也が守られるべき……?言峰がHor……
はじめちゃんそれ違う!痛恨の推理ミスだよ!
本当に悪連中は仲良しが多いなw
やっぱり惹かれ合うものがあるのかね
臨也とことみーはドライな協力関係だがはたしてどうなるか
しかし五人もいるのに華のないメンツだなw
男ばっかでむさいw
334創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 16:32:10 ID:V/evo7cV
しかし、実際のisiも「守られるべき」奴らかどうか疑問という罠
言っちゃ悪いが、イカちゃんとはじめちゃんなら守られるべきは絶対後者だろ
強い戦闘力もあって部下に優しい侵略者と高校生って
335創る名無しに見る名無し:2010/11/14(日) 17:24:16 ID:+T9RAQvr
金田一世界からの参加者を元に考えてるからIsiは守られるべきと正しく?判断されてるけど
イカちゃん、ワカメ、ユノ、ヴァンプ将軍。ここいらのキャラに出会って正しく推理しろとか無理ゲーw

あと時間帯がまだ深夜のキャラがカズキ、すずか、パピヨン、ヴァンプの残りの西森勢と
アイビー、たける、テンマ、藤ねぇの東の森’s あとは、裁判所のイカれた4人組か。
第一回放送が見えてきたね。
336創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 19:32:36 ID:yX79cRcG
>>335
さすがに剣持警部はあの中では常識人でいいだろw
337創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 20:15:01 ID:r+/RTVPO
タイトル通り「イカれる」だったら
「怒れる」の文字あてた剣持警部で大丈夫なんじゃないか?
338創る名無しに見る名無し:2010/11/15(月) 22:36:59 ID:JOPznJTJ
その3パート全てに予約がきたな。
自分もその内の1パートを書いてたがどうやら出遅れたようだ…
頑張ってください!
339創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 22:48:13 ID:mJDKay9n
予約祭りキター
一番何かやらかしそうなのがパンドラ様って何か新鮮w
格好が既にやらかしていますがね(どや)

ところでWikipedia見ていたら死亡済みの某キャラが自分の好きな声優さんだと知った
原作は今把握中だけどこれならアニメも探せばよかった。把握速度も上がるしw
ロワWikiのキャラ紹介は永遠に未完成です、気が向いたら編集していこうZE!
もしかしたらその何気ない紹介が、そのキャラの生死を決めるかも知れません
まあ前述のキャラは詰んでた気がするけどw
あとめだかちゃんの原作紹介誰か書いてあげてw
340創る名無しに見る名無し:2010/11/16(火) 23:28:34 ID:I6A4i95v
パンドラ様はこのままの格好じゃ人前に出れないからなw
第一行動方針が着替えを探すだw
3パートとも一気に時間が進むとは思えないから、もうちょいリレーが必要だろうけど
放送に向かって書き手の皆様頑張って下さい! 
341創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 10:27:10 ID:jmEdu6cx
延長が無ければ3作投下か
楽しみだな。個人的にはパンドラ様に期待
342創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 11:48:02 ID:wAuE+6kC
北西の森じゃ唯一のマーダーだからな
働いてくれないと困るwパンツは必要だけどw
343創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 11:54:08 ID:ANefp0pX
ただ、北西の森には承太郎も居るんだよな
パンドラ様とどっちが強いんだろうか?
344創る名無しに見る名無し:2010/11/20(土) 12:35:06 ID:jmEdu6cx
>>342
パンツは一応履いてるぞ! 9歳のだけどw
服が無いと人を見つけても出られない格好ではあるけど、裸で無視して出るほど羞恥心は捨ててないはず
345創る名無しに見る名無し:2010/11/21(日) 22:15:27 ID:KnVg2wEd
パンドラ様「パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」

うん、ちょっと違うな
346 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:15:04 ID:3k1545Vw
テンマ、藤村大河、ポイズン・アイビー、相沢たける
空条承太郎、松田桃太、パンドラ
またもやこんな時間ですが投下します。
347 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:16:59 ID:3k1545Vw
――――――――――――――――――――――――

テンマと大河が去った後、森は更に生い茂りを見せていた。
熱帯地方にありそうな植物、ラフレシアを倍近くあるハエトリソウらしき植物。
その中心部分近くで、たけるは植物の繭の中でのんびりとしていた。

「あーあ、テンマ兄ちゃんたちと遊べたら良かったのになぁ」
未だ殺人ゲームにいる実感が少ないたけるは、そんなことを呑気に考えていた。
「アイビー姉ちゃんは、植物育てるのに夢中で遊んでくれないし……」
ポイズンアイビーは、更に植物の領域を広げに回っている。
初めは見たこともない植物に、カッコイイと喜んでいたたけるだが、少し飽き始めていた。
「やっぱりあのDVD見ようかな……でも、嫌がってたし、すごく怒りそう」
テンマと戦闘中のアイビーを見て、たけるは姉の千鶴を思い出していた。
「まぁ、千鶴姉ちゃんの方が怖いけどさ」
サラッと凄いことを言いつつ、ふと何かを思いつく。
「そうだ。何か面白い物入ってないかな」
自分に支給された物の中に、何か暇つぶしのゲームでもないか。
そう考えたたけるは、自分の支給品を確かめる。
「……これって?」
そこに入っていたものとは――――

――――――――――――――――――――――――

「ねぇ、テンマくん? テンマくんってば!」
「え? あ、ああ……な、何かあった、タイガ?」
アイビーの領地である森を抜けようという頃、大河は物思いにふけるテンマに声をかける。
「どうしたの? 何か、考え込んでるみたいだけど」
「ごめん、ちょっとさ……たけるとアイビーと、もっと話ができたら良かったのにって思って。
でも、それが出来なかったのは、俺のせいだし……」
もう少し出会いが違えば、険悪にならずに話し合えたかもしれない。
そんな「もし」を考えても仕方ないが、短慮さが招いた事態への後悔は消えない。

「こーら! あれはお互い様だったんだから仕方がないの。人間同士、初対面じゃこういうこともあるって」
「そう……かな」
「そうよ! 私だって、生徒とうまくいかない時もたまにあるもの。いや、結構、かな、あーたくさん……かも、ううう、いつもかも……?」
ドーンと胸を張っていた大河が、何故か自分で喋る内に、どんどん元気がなくなっていく。
「タ、タイガ? そ、そうだよな。次の会えたら、きっと仲良くできるよな!」
「……ハッ!? あ、うん、そうそう! 落ち込む暇があったら、ガクガク植物ランドを抜けて、人を探しに行きましょ!」
森を抜け、川が見える。
「森を抜けたのはいいけど……今どの辺りなんだ?」
森を抜ける。そのために、二人は現在地を大きく見失っていた。
本来ならまっすぐ進めば良いところを、アイビーに配慮し、植物を傷つけないよう進んだ。
その結果、曲がりくねり進むことになり、時間と方向を失ってしまったのだった。
348 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:19:11 ID:3k1545Vw
地図を開き、現在地を確認するテンマ。
「あ、ほらほら。まだ東の方はずっと森が続いているみたい。たしか、ここをまっすぐ進めば、建物があるんじゃなかった?」
「ああ、確かにそうみたいだ。ええと、この建物は―――」

「アーカムアサイラム……収容所か、避難所か何かなのかは、見てみないことにはわからないがな」

「そうそう、アサイラムって色んな意味があるからー……あれ?テンマくん、声変わりした?」
「下がって、タイガ!」
テンマでも、タイガでもない人物の声。
テンマはタイガの前の立ち、二人とは別の方角から現れた影に身構える。
「(なんだ……背中に見えるのは……霊体、なのか……?)」

「やれやれ……俺が話しかけて、スムーズに事が済んだ試しがねぇぜ」

現れた男……空条承太郎は、テンマの警戒心など気にせぬかのように、帽子の鍔を下げた。


――――――――――――――――――――――――

その出会いより、しばらく遡る。

「……とりあえず、僕の知っている参加者はそれで全部だ。会ったことのない人物も含めて」
承太郎にアイビーの協力をしてもらうことにした松田。
その見返りと、信頼を得るために、自身の知る参加者の情報を話していた。
「なるほど……で、アイビーって女が、ガキを助ける力を集めている、だったか?」
「そうだ! アイビーは心優しい、子どもを愛する女性なんだ! 残念ながら、僕は銃の腕に多少覚えがある程度……承太郎……さん、みたいな特別な力はない」
僅かに無能じゃない、とアピールしながら、松田は承太郎に協力を仰ぐ。
「で、俺にその女の手助けをしろってわけだ……まぁ、力の弱い弱者を守ることに、反対はしねぇぜ」
「な、なら!」

「だが断る」

「別にNOと断ることが好きな訳じゃねぇが……こっちもやることが山積みなんでな」
仗助との合流、殺人者かもしれない金髪の女の捜索、DIO、吉良、主催者に数ページ分のオラオララッシュを叩き込むこと。
その全てを並行して行わなければならないのが、ジョースターの血統の辛いところだ。

「アイビーを助けること以上に、大事なことなんて……なぁ、考えなおしてくれないか!?」
「……俺は、俺同様にスタンドが使える、DIOと吉良吉影を倒さないとならない。どっちも、その能力で途方も無い犠牲者を出している……ついでに、子どもに容赦する奴らじゃないぜ」
「そ、そんな危険な奴が!?……ま、まさか、吉良って奴のスタンド……とかいうのは、人間を自由に殺せる……なんてことはない、よな?」
怒りすら見せていた松田の表情が、驚愕に変わる。
更に言えば、吉良、という名前からキラを連想したこともあるのだが。
349 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:21:16 ID:3k1545Vw
「?……いや、触れた物を爆弾に変える能力だが……なにか心当たりでもあるのか?」
「あ、あはは!じ、冗談冗談!たまたま漫画で似た内容を見た気がしてね!」
キラが自在に人を殺せることを、民間人に話すわけにはいかない。

「そ、それにしても爆弾に変えるって……お、恐ろしい能力だね!」
たとえ、この場にキラが関係していなくても、それは変わらないと松田は話をごまかす。
実際、驚いてもいるわけだが。
「アンタが倒してくれるって言うなら、話は変わるんだがな、刑事さんよ」
「ぼ、僕にそんな力は……」
不可能を承知で言われた言葉に、松田は俯き言葉を濁す。
「まぁ、そういうわけだ。だが、アイビーとあんたの邪魔はしないし、Lに夜神月……バットマンって野郎にも会えれば、その話はしといてやるぜ」
「あ、ああ……頼むよ」
搾り出したような松田の言葉が終わるよりも先に、承太郎は歩き出していた。

「おっと……ひとつ聞いていいか」
思い出したように振り返る承太郎。
「アンタ、アイビーって女と付き合いは長いのか? やたらと心酔してるみたいだが……」
「えっ? いや、この森で初めて会って……でも、彼女は素晴らしい女性なんだ! 君も会えばわかるよ」
松田の言葉に、やれやれと首を振る承太郎。
「まぁ、俺が口出すことじゃないんだが……いいのか、夜神粧裕って女は?」
「………えっ?」
とんでもない事を口にされたかのように、表情を凍らせる松田。

「どうして、粧裕ちゃんの名前が出るんだ?」
「別に深い意味は無いが……さっき、知り合いの紹介を聞いていた時に、説明に熱が篭っていた気がしてな。
下衆の勘ぐりって奴かもしれねーが、恋人か何かかと思ってな」
松田は、アイビーの説明に合わせ、自身の知り合いと、アイビーに聞いたバットマン、ジョーカーについても語っていた。
その際、夜神粧裕について説明するとき「夜神月の妹」と言えば済むことなのに、容姿や人柄、人間性まで詳細に語っていたのだ。
『ちょっと気持ち悪い』と思われる程度に詳しい内容だったため、承太郎は二人が……もしくは一方的に、特別な関係だと思ったのだ。

「ま、まだ粧裕ちゃんは中学生なんだから、そ、それじゃあロリコンじゃないか!」
「(好意があることは否定しねーんだな……だが、少し疑いすぎ、か)
勘違いなら悪かった。……そういえば、銃に自信があるとか言ってたな。」
深い興味はなかった承太郎は、思考内で結論付けると、懐から拳銃を取り出す。
「な、なんだ、拳銃なんて取り出して!」
「早合点するな。あんた、刑事なら拳銃くらい使えるんだろう?
スタンド使いには無駄かもしれないが、身を守る武器くらい持っておいたほうがいい。
実際、もう死人が出てるしな。」
「そ、そうだな……ん、待て、死人!? な、なんだ、聞いてないぞ!?」
死体、という言葉に松田はまたもや驚く。
思えば、松田は承太郎に情報を提供したが、承太郎からはDIOと吉良について聞いたのが初めてだった。
350 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:23:47 ID:3k1545Vw
「そういや、言ってなかったな。地図で言えば、511キンダーハイム……そこで、自殺らしい女の死体があった。
だが、どうにも「自殺させられた」ように見えてならない。さっき、自由に人を殺せるスタンド、なんて話をアンタがした時は、何か知っていると思ったんだがな」
「そ、そうか。悪かった、変に期待させて……」
「いや、大して期待はしてなかったぜ。……ま、拳銃があるからって、無茶するなよ」
そういうと、承太郎は今度こそ、森の奥に消えていった。

そして、そのまま森へ……そして直線に抜け(もちろん邪魔なツタや木はへし折った)、テンマたちと出会うのだった。

――――――――――――――――――――――――

「なるほどな。松田の野郎の話じゃ、どうにも怪しかったが……少なくとも、それほど危険性はないらしいな」
「そうよ、彼女は良い人なんだから! 確かに全身緑色だし、セクシーさムンムン放ってるし、ちょっとツンデレさん過ぎるなーと思うけど」
「それは褒めてんのかな……?」
出会った直後は緊張を走らせていた両者だが、テンマもアイビーとの失敗の反省を踏まえ、お互いに対話することが出来ていた。
話をしていく内に、アイビーと出会っていたことがわかり、承太郎は内容の統合性から、松田の話に嘘がなかったと判断した。

「スタンドか……小宇宙以外に、そんな力があるんだな」
「小宇宙……ジジイの使っていた波紋法に近いのかもしれねぇな……」
「うむむ……私にはジャ○プかチャンピ○ンな話にしか聞こえないけど……アイビーさん見た後だと、なんでもありよね」
スタンドがやはり他人にも見えることを確認した承太郎。
その話を聞き、テンマも自分の能力、小宇宙について話した。
一般人である大河は、正直何がなにやらサッパリだったが、アイビーの植物を操る姿、テンマの戦う姿を見ていたために、そういう力の存在を否定せず、受け止めることにしたのだった。
今後出会った時のことを考え、仗助、DIO、吉良の力について承太郎は語り、テンマもまたパンドラについて注意を促した。
「士郎のことも、会ったら伝えて……というか、うーん……」
衛宮士郎について話していた大河は、途中で何かを考え出し、違う内容を口にした。

「ねぇ、承太郎さん。どうかしら、迷惑じゃなければ……一緒に行動しない?」
「……いや、遠慮しておこう」
大河からの同行の誘いを、やんわりと断る。
「どうしてだ? 俺達は殺し合いに乗ってない仲間だ。それなら、一緒に行動した方がいいんじゃないか?」
「いいや、違うな。俺とあんたたちでは、行動パターンに違いが出てくる」
351 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:25:35 ID:3k1545Vw
どう言葉にすべきか、承太郎はしばらく考え……結局、ストレートに言葉に出すことにした。

「俺は、フザけた悪党を見つけたらぶっ飛ばしに行く。その時には、当然どっちも命の危険が伴う。
悪いが、藤村先生……アンタを連れていくわけにはいかないな」
「うう……もしかして、「タイガーは置いてきた。修行はしたが、はっきり言ってこの闘いにはついて行けない!」ってやつですか?」
「いや、修行してないし」
「……まぁ、それもあるが、わざわざ危険に飛び込む必要はないってことだ。
どんなゲス野郎を相手にするとしても、俺は、主催者の野郎のルールに接触している。
そいつが、どの陣営にいるかもわからない。結果として、主催者の思惑の上だ」

自分がどの陣営であれ、相手がどの陣営であれ、承太郎自身が悪と感じたならぶっ飛ばす。
DIO、吉良のような悪を野放しにすれば、犠牲が増える。故に、闘い……主催者の掌から出られない。
「だが、最後の最後まで殴り合いを続ける気もない。悪党にも、死ななきゃ治らない奴と、一発殴られりゃ落ち着く奴もいる。
俺が殴り飽きた頃に、どうにか首の辺りが軽くなってれば助かるんだがな」
承太郎の言葉に、大河とテンマも何が言いたいのか理解できた。

俺が戦っている間に、首輪を解除できる人間を探してくれ、と。

「でも、いいのか? それなら、俺も……!」
「オメーがもう一人いるなら手を借りるがな。黙って、藤村先生の手助けでもしてな」
一緒に闘う、そう言おうとしたテンマを、承太郎が止める。
「(……たしかに、タイガを一人になんて出来ない、か)
……わかった。でも、ジョータローも気をつけてくれよ。」
それ以上、テンマも無理は言わず、承太郎に従うことにしたのだった。

「で、お前たちはこれからどこに行くんだ?」
「そうねー。決めてはいないんだけど……アーカムアサイラムが近いし、とりあえず行ってみたいのよね」
「そうだな。……でも、橋も船も見当たらないし、川を泳ぐのは最後の手段にしたいんだけど……」
同行しない、と行った承太郎も川を渡ることには同意見だった。
川を渡らなければ、森を抜け、山間を進みアーカムアサイラムの裏手に出るか、戻るしかない。
どちらも大きなタイムロス。あまり取りたい方法ではない。

「んっふっふ……どうやら私の出番のようね」
なにやら自身あり気に笑う大河が、二人の視線を集める。
「タイガ、なにか手が?」
「もっちろん! 今こそ、支給品の使いどころよ!」
そう言うと、自分の荷物に突っ込んだ手を、勢いよく引きぬいた。
352 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:27:32 ID:3k1545Vw
ガバッ!
「ジャーン!! スーパーマンのコスチューム!! 宇宙を駆けるスーパーヒーローのトレードマーク!!」

「……で、それで飛べるの?」
「えへへ、大体こういうのって、ヒーロー自体に能力あるみたい。うん、これは前振り前振り」
そう言うと、自分の荷物に突っ込んだ手を、勢いよく引きぬいた。

ガバッ!
「ジャーン!! Pちゃん・改!!なんと宇宙空間まで航行可能なスーパーロボット!!」

「なるほど、それなら川ぐらい問題じゃねぇだろうな。……で、オチは?」
「あははー……充電切れみたい」
そう言うと、自分の荷物に突っ込み……

「あとはー、変なスイッチしか無いや。ポチッとな」
「えー!?」
「おい、何してやがる!!」
二人の抗議の声も既に遅し。
なにやら、周囲には風を切り裂くような甲高い音が響き出していた。

「な、なんの音だ?」
「嫌な予感がするぜ……ジョースター家は乗り物運が半端じゃなく悪い……飛行機が落ちてきてもおかしくねぇぜ」

余談ではあるが、ジョナサン=船で死去、ジョセフ=墜落王、承太郎=祖父と共に陸海空制覇、仗助=重体時に雪で車が止まる。
本気で呪われている事故率であり、ついでに言えば、肉体的にジョジョの血統であるDIOの息子、ジョルノにもそれは引き継がれている。

「上から来るぞ!!」
飛来音と共に徐々に大きくなる影。
テンマは小宇宙を高め、承太郎はスタープラチナを出現させ迎撃の体勢をとる。
だが、しかし。

「ちょっと待ってーーー!!」
それを押し留めたのは、騒ぎの原因である藤村大河だった。

それに呼応するかのように、空から飛来する影も速度を緩める。
「こ、これを呼んだみたい……さっきのスイッチ」
空中で静止したそれは、機械仕掛けのクワガタのような姿。
『カー・ムー・ソーサディ・ター』

その名を「ゴウラム」。戦士クウガを助ける、古代リントの遺産であった。
353 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:29:15 ID:3k1545Vw
「……よっと。ほら、言ったとおり渡れたでしょ」
三人は、ゴウラムに捕まることで無事に川を渡れた。
実際は、ゴウラムの背に大河、両側の足をテンマと承太郎が掴んで渡った際、ゴウラムがふらついた為、二人の足回りが濡れてはいたが。

「ま、まぁそれくらいすぐ乾くって。きっと、ゴウラムちゃんの調子が悪かったのよ」
「……調子が悪い、か。それって、この地に原因があるのかもな……」
「……スタープラチナが他人に見えることを考えると、そうかも知れねぇな」
何故かうまく力を出し切れないというテンマ。
承太郎は、試しに時を止めてみる――コマ送り程度の静止が起きただけだった。
「(――マズイな。まだ体調も万全だっていうのに一秒程度か……だが、戦闘になる前に気づけて良かったぜ)」
テンマの小宇宙も、承太郎のスタンド能力も、精神的な力が作用している力。
どちらも、体調が最悪なら出力も下がるが、まさにそんな感じと言っていいだろう。
「――さて、ここで別れることになるな」
「そうね。お互い、まだ無事に会いましょ」
こうして、三人は軽く挨拶をして別れた。
また会えることが、当然であると信じているかのように。

テンマ、大河は川沿いに北へと進む。
避難所、聖域とも意味も持つ言葉、アサイラム。
しかし、その実態は精神病院、収容所であるアーカムアサイラム。
そこは、二人にとってどちらの意味を指すのであろうか。

【B-9/川沿い:早朝】

【天馬星座のテンマ@聖闘士星矢 冥王神話】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、未確認支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針:聖衣を取り戻し、この場から脱出する
 1:タイガを守る
 2:パンドラを探す
 3:バットマンとマッティーに会ったら協力を頼む
 4:アーカムアサイラムを探索
354 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:31:13 ID:3k1545Vw
【藤村大河@Fate/stay night】
 [属性]:一般人(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品、スーパーマンのコスチューム、Pちゃん・改@天体戦士サンレッド、装甲機ゴウラム@仮面ライダークウガ
 [思考・状況]
 基本行動方針:みんなと一緒に生きて帰る
 1:士郎を探す
 2:テンマが心配
 3:バットマンとマッティーに会ったら協力を頼む
 4:アーカムアサイラムを探索

※承太郎から、吉良、DIOについて聞きました。

※装甲機ゴウラム
クウガの支援のために作られた、古代の兵器。自律飛行が可能。
最高時速500km/hを超えるが、本ロワにおいては、性能が大きく制限されている。
また、バイクと融合することでその性能を大きく向上させるが、ビートチェイサー2000以外と融合した場合
融合解除後に金属部分を失い、化石化してしまう。(金属を補充出来れば再生可能)
一度呼び出した後は、呼び出した人物の付近を飛行し、命令がなくとも自由意志で支援する。
その人物が死亡した場合は、最も近くにいる聖なる心を持つ人物に自動で委譲される。
もしくは支援対象本人による委譲宣言により、支援対象を変更可能。

※スーパーマンのコスチューム
バットマンの友人、クラーク・ケントがスーパーマンとして活躍するとき着るコスチューム。
スーパーマンのチート的能力は、全て本人の能力のため、服に特殊効果はない。

※Pちゃん・改
フロシャイムのヌイグルミ怪人チーム「アニマルソルジャー」の一員。
ヒヨコ型の怪人で、自身の改造のしすぎにより、会話もほとんど出来ない。
宇宙空間、深海を航行可能、液体金属のボディ、ビーム砲、核兵器など、フロシャイム最強クラスの能力を誇る。
ただし、すぐに充電が切れてしまうため、長時間は戦えず、サンレッドを倒すには至らない。
充電に成功しても、上記の能力は大きく制限されているものと思われる。

355 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 01:34:05 ID:3k1545Vw
二人を見送り、承太郎は参加者名簿を取り出していた。
「相沢たける……か」
承太郎が、情報交換の際に誰にも結局伝えなかったこと。
今の荷物の中にある首輪の持ち主……相沢栄子。
彼女の名前を、けっして承太郎が語ることはなかった。

死を軽んじるつもりはない。
平穏なときならば、死を悼むことも必要だ。
しかし、今はその時間に、新たな死が生まれる状況。
どうせ、主催者がその死を伝えてくるというのなら、あえて伝える必要もないと考えた。
幼い子どもに、二度も現実を叩きつけることも。
死因も犯人もわからぬなら、他人に無駄に不安を与えることさえも。
今は、死を減らすために動くときだ。

「だが、あの金髪の女……少なくとも、死の原因ぐらいは教えてもらうぜ……」
墓地の方角へと向かい進む承太郎。
しかし、承太郎は失念していた。
その、よく知る者の「死」が、すでに起きている可能性を。
東方承太郎の死を知ったとき、彼は……

【C-8/川沿い:早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [持物]:基本支給品、不明支給品1?3、511キンダーハイムの資料、首輪(相沢栄子)
 [方針/目的]
  基本方針:許せぬ「悪」をブチのめす
  1:仗助を見つけて合流する
  2:吉良吉影、DIOは見つけ次第殺す
  3:金髪の少女を警戒
 [備考]
  参戦時期は原作四部、少なくとも吉良吉影が殺人鬼だと知った以降。
356代理投下:2010/11/22(月) 07:39:27 ID:yPvy6P4Z
――――――――――――――――――――――――

パンドラ。
ハーデスの姉の役目にして、冥王軍を纏める者。
しかし、彼女の人生は不幸の連続であった。
その幼少時代、彼女は幸せな人生を信じていた。
世界はバラ色で、永遠に光に満ちているものだと。
しかし、それは「母親の胎内にいた弟が消える」という異常をキッカケに崩れ去った。

人生とは、一瞬の不幸が起こるかどうかで、幸せではなくなる。
バットマンが、その幼少時代に両親を失ったように。
天野雪輝が、神をめぐる闘いの末に、両親を失ったように。
衛宮士郎が、大火災で全てを失ったように。
テンマが、親友と闘う宿命を負ったように。
本郷猛が、ショッカーに改造されたように。
蝶野攻爵が、病魔を患ったために、人間の超越を考えたように。
DIOですら、母が死に、父が人間のクズでなければ、違う人生もあったであろう。

では、パンドラの今の状態を語ろう。
海藻巻いてパンツ一丁、しかもお子様サイズのかわいいパンツ。

これは不幸か、まぁ不幸であろうが、笑い話の類である。
触手陵辱の末に心臓を潰されたり、ゴッサムタワーを建設するのに比べれば全然である。
だがしかし、だがしかしである。

「な、なんなのだっ、この森は!!」
不幸とは、連鎖するものでもあるのだ。

パンドラの現状更新。
海藻=喪失。
大事な杖=喪失。
パンツ=健在。
現状詳細=森内部……ツタに絡まり逆さ吊りで手ブラ。

「まったく……何が掛かったかと思えば」
その様子を、下から眺める、植物の愛好者、アイビー。
森への侵入者を感知し、来てみればヒョコヒョコ歩くストリークイーン。
あっさりとツタを絡ませた拍子に杖を落とし、無力化に成功したのだった。

「ゴッサムにも、色々いるけど……ここまでストレートな痴女も珍しいわね」
「何ぃ!? 誰が痴女だ! 貴様、この私にこのような恥辱を……万死で済むと思うなッ!!」
ツタを千切る勢いで、体を震わせるパンドラ。
「ツタが痛むでしょ。やめなきゃ……」
新たに伸びてきたツタが、パンドラのパンツの端に絡み、ゆっくりと引っ張り出す。

357代理投下:2010/11/22(月) 07:40:08 ID:yPvy6P4Z
「ナァ!? キ、キサマ、やめろ千切れる!! さ、最後の生命線を奪うつもりかぁ!!」
「それが嫌なら大人しくしなさい。まったく、テンマたちの方がよっぽど大人しかったわ……」
「テンマ……だと!?」
その名に、パンドラの表情が変わる。
「あら、知り合い……というには、怖い顔じゃない」
「テンマはどこだ! あいつは、私が殺さねばならない!」
その言語に、アイビーは自分とバットマンの関係を思い浮かべた。
「(それとも、ジョーカーとバットマンの方が近いかしらね)
もう居ないわ。今頃、森を抜けてるはずよ」
「ならば、こんな奇怪な森に要はない! 今離せば、この一刻はその生命を見逃してやっても良いぞ!」
パンドラの態度に、アイビーはストレスの溜まる一方だ。
別に我慢する必要はなく、殺してやればいい。
だが、それをたけるは嫌がるだろうことを考えると、少しその決断が鈍る。

そんな時――
「えっ!?」
森の中心で起きている異常に、アイビーが気づいたのは、そんな時だった。
「なっ、なんだ?」
アイビーの様子にパンドラも気が付き、訝しげに眺める。
すると、まるでパンドラのことなど眼中がないようにアイビーは森の奥へ走り去ってしまった。
「ま、待てキサマ! このツタをどうにかし……アーッ!?」
もがいた途端、あっさりとツタが解け、地面へとパンドラの体が落下する。

「ぐっは、っ〜〜〜〜お、おのれぇぇ……!」
勢いより尻から落ち、痛みと屈辱に震えるパンドラ。
「ぬう、おのれ奇怪な肌をした女め……! だが、テンマの奴が森を抜けたとなれば……」
杖を拾い、怒りに震えるが、テンマを追うことの重要度が圧倒的に上。
「次に会った時が最後だ。今はせいぜい、その生命を謳歌しておくがいい!」
捨て台詞を吐くも、ほぼ全裸なこともあり締まらない。
ヒョコヒョコと、情けない姿を晒しながらパンドラは森を後にするのだった。

――――――――――――――――――――――――

「ああ……なんてことなの!? どうしてこんなことに!」
走り続け、目的の中心部に戻ったアイビー。
そこに広がる光景は、僅か前とは完全に異なっていた。
緑生い茂る植物たちが、悶え苦しんでいる……赤く染まって。
植物に取って、最大の敵である炎が、中心部を飲み込んでいたのだ。
鬱蒼とした森は、秒刻みで燃え広がり、その範囲を広げていく。
「なんとか火を消さないと、この子たちが……この、子……た、たける!?」
思い出した。植物を偏愛するアイビーとしては、むしろ思い出しただけ素晴らしい変化ともいえた。
この中心部には……たけるがいるはずなのだ。

「たける、返事をして! みんな、たけるを、たけるを見つけて!」
植物を操ろうとするアイビー。だが、炎に包まれようとしている植物たちは、そのコントロールを失っていた。
人間や動物で言えば、恐慌状態。アイビーとて、この場に長く居たいと感じない。

358代理投下:2010/11/22(月) 07:43:51 ID:yPvy6P4Z
「ああ、たける……もう、今頃は……」
「アイビー!!」
悲しみに沈むアイビーの耳に、誰かの声が聞こえる。たけるではなかった。
「その声……マッティー?」
声のする方角から駆けてくるのは、数時間前に別れたばかりの松井だった。

「良かった、アイビーに怪我がないかと心配だったんだよ!」
「ええ、ありがとうマッティー……そうだわ」
アイビーは、良い方法を思いついた。
「マッティー、大変なの! たけるがこの炎の中に取り残されてしまって……お願い、助けてあげて!!」
「そりゃ大変だ! 任せてくれ、アイビー!」
何の迷いもなく、炎の中に飛び込んでいく松井。
その姿を見て、ほくそ笑み……しかし、すぐに表情を暗くする。
「ああ、でも生きているとは思えないわ……とにかく、火の勢いを止める方法を考えないと」
たけるの身を案じながら、アイビーは火の手の上がっていない方面へと身を翻す。


パンッ、パンッ


「……?」
地面が、アイビーに向かって迫ってくる。
「あ……なにこ、れ……?」
「……君が、子どもだけは大切にしていることは、良くわかったよ、愛しのアイビー」
その背後から、足音が聞こえる。ゆっくりと近づいてくる。
「……マ……ティー……」
「でも残念だ。君が、キラと同類の人間であることが」
松井が、そこに立っていた。硝煙の匂いを纏う、拳銃を片手に。

「彼に言われて、少し考えたけど、ようやくわかったよ」
アイビーは気がついた。
「粧裕ちゃんを好きか、なんてわからないけど……少なくとも、君を好きになる理由なんて、ないはずなんだ」
自分のフェロモンの効果が……切れている。
「君は、キラと同じだ! 人の行動を操って、その命を自分の目的に利用しようとした!!」
「人間……みんなそうでしょ。自分の為に、誰か、を利用して、る……植物も、動、物も……人間、さえ、も……」
そして、自分の状態にも気がついた。撃たれたのだ、拳銃で。

「それは否定しない……だけど、その力は、死神の力と同じ、人には過ぎた力だ!」
ぼやける視界が、松田の目を捉える。
そこに映るものは……恐怖。
「操られてわかった……キラが、なんて恐ろしい犯罪者なのか……それに類するお前も、同じ……殺すしか無い、悪魔だ!」
「ひとつだけ……聞かせて。たけ、る……たけるは、無事なの……まさか、殺したの……?」
拳銃を突きつけたまま、松田はその答えを教える。

359代理投下:2010/11/22(月) 07:45:07 ID:yPvy6P4Z
「……無事だ。今、巴が森の外へと運んでいる」
「そう……それで、安心したわ!!」
突如、松田の体が宙に舞う。
アイビーは、コントロールできたツタで松田の足を絡めとったのだ。
「(生きていることがわかれば、もう用はないわ、マッティー!)」
重い体を動かし、松田へトドメを刺すべくツタを操作するアイビー。

カチャ
鈍い金属音に、アイビーは顔を上げる。
松田は、前回と異なり、未だアイビーへの照準を外してはいなかった。
逆さ吊りのまま、その銃口はアイビーへと向けられたまま。

パンッ
乾いた音が耳に届いたと同時に、その脳天の、穴が空いていた。
「(ああ……でも。アサイラムの無機質な部屋よりも……森で死ねることは幸福なのよ、ね……)」
最期に、愛する植物の胸の中で逝けることを、まだ幸せなのかもと。
しかし、僅かに残されたたけるの事を考え……その思考は、永遠に霧散した。

「ハァ、ハァ……う、オェ……!」
松田は、燃える森から逃れながら、嗚咽していた。
キラに匹敵する犯罪者とはいえ、殺人を犯してしまったことに。
「いや、違う……正しいんだ! これは、正義……僕は正義を執行したんだ!!」
今まで、キラ事件は同僚や世間の死を受けながらも、自分には及ばない世界での出来事だった。
しかし、アイビーに操られたことで、キラ事件での被害者たちへの共感を松田に与えてしまった。

被害者たちとの違いは、それが生死に関わったか否か。
「殺すしか、ないんだ! あんな恐ろしい力を持った奴は、殺すしか……人を守る方法はない!」
Lは頼れる探偵だ。月くんも、もちろん……だが、それがここで何の役に立つ?
首輪を外す、なんてことをやっている内に、人はたくさん死んでいく。
今、なにより力を持つのは……この拳銃でしかないのだ。
「いや、それでも頼りない。……結果は同じなら、これも使うか……」
笑いガス噴霧器……毒ガスによる殺人なんて、考えただけでも非道であり、実行などしたくない。
だが、それが悪なら構わない、と松田は思いを変えた。
操られた恐怖を、人々を守るという使命感……正義漢にすり替えて。

「待っていてくれ、粧裕ちゃん、たけるくん……僕が、君たちを守って見せる!!」
そう決意し、松田は走る。
既に逃がしてある、たけるが待つ場所。

511キンダーハイムへと。
360代理投下:2010/11/22(月) 07:45:53 ID:yPvy6P4Z
【ポイズンアイビー@バットマン 死亡】

【D-9 森(火災)/一日目・深夜】
【松田桃太@DEATH NOTE】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:背広と革靴、コルト・ニューサービス(弾数2/6)@バットマン
 [道具]:基本支給品一式*2、ジョーカーベノムガス噴霧器@バットマン、巴の笛@MW、松田桃太の遺言書、不明支給品1〜3
 [思考・状況]
 基本行動方針: 謎を解き、実験を辞めさせ、犯人を捕まえる。
 1:キラのような悪は殺害する。
 2:たける、巴と511キンダーハイムで合流
 3:弱者を守る。
 [備考] おそらく、月がキラの捜査に加わってから、監禁されていた時期を除く、ヨツバキラとの対決時期までの何れかより参戦。

※D-9の森中心部で、火災が発生しています。

――――――――――――――――――――――――

ところで、何故森は燃えたのか。
松田が燃やした、わけではない。
森に火をつけたのは――たけるである。

話は、冒頭の荷物を探るたけるへと戻る。


「うわー、なんだろうこれ! カッコイイなぁ!」
出てきたのは、黄金色の篭手だった。
腕にはめてみるが、たけるには大きくブカブカであった。
「あ、でもこういうのって、アニメとかで観たことあるなぁ。こう、隙間から剣とかがズバーッって……」
漫画や特撮で、ヒーローがそうするように、何かを斬るように振り下ろしてみる。
すると、それは実現した。

ザシュ!
「えっ……う、うわぁ!!」
思ったとおり、篭手からは剣が飛び出していた。
しかし、それはたけるの思うような玩具ではなく本物。更に言えば、それは炎を纏う剣だった。

かつて、バットマンはヴィランの一人、ヴェノムによって半身不随に陥ったことがある。
その間、二代目のバットマンとして戦った、アズラエルという人物がいた。
結局、バットマンの職務に押しつぶされ、暴走を始めてしまうのだが……その人物の武器こそ、このガントレット。
オーバーテクノロジーで作成された、伸縮自在の炎を纏う刃である。

そんなものだとは知らないたけるの目の前で、炎は繭に燃え移り、瞬く間に広がっていく。

361代理投下:2010/11/22(月) 07:46:42 ID:yPvy6P4Z
「う、うわぁ! 大変だ、早く、早く消さないと!!」
篭手を閉まっても、炎は消えない。
周りの植物が苦しむように暴れだすが、たけるには炎を消す手段がない。
「どうしよう、どうしよう! アイビー姉ちゃんが大好きな植物が燃えちゃうよ!!」
半狂乱になるたける。その耳に、犬の鳴き声らしき声が聞こえる。
「君……こ、これはいったい!?」
「あ……兄ちゃんは……」
そこにいたのは、松田と、その犬、巴だった。

「に、兄ちゃん、ごめんなさい! ひ、火が、バーって燃え広がって、それで……」
「君がやったのか……大丈夫、気にしなくてもいい。今すぐ、たける君を助けてあげるからね」
松田は、たけるの頭を撫で……そのまま流れるような動作で、その襟首を絞めた。
「うっ」
たけるは、一瞬呻き声を上げ……そのまま、気を失った。
「……子どもに、殺人の現場なんて見せるわけにはいかないからな」
気絶したたけるを、巴の背に乗せる。

松田は、承太郎との会話の後、疑問に襲われた。

――なぜ、自分はこんなにアイビーを愛しているのか、と。

そして、徐々に不安が増すにつれ、フェロモンの効果は急速に薄れ―――
自分の意思が操られていることに気づき、この地に戻ってきたのだった。

「いいか、511キンダーハイムへ行くんだ。そこで、たける君を守っているんだ」
巴に命令し、笛を吹き行動を実行させた。

そうして、松田はアイビーを仕留めるチャンスを得るため、一時その場を離れた。
そして、その望みは成功するのだった。

――――――――――――――――――――――――

「ひ、酷い森だった……この姿ではまるで歩けぬ……」
森で撤退をしていたパンドラ。
テンマを探しながら歩いて行くと、なにやら施設が見えてきた。
「ふむ……寒いし、とりあえず中に入るか」
服が見つかるかもしれない、と期待も込めて中に入る。

「うわぁぁぁぁん!!」
「くっ!?」
突然の声に、パンドラは警戒を強める。
だが、よく考えれば今のは子どもの、しかも泣き声。
その方角へと向かい、ゆっくりと歩みを進める。
362代理投下:2010/11/22(月) 07:47:34 ID:yPvy6P4Z
「姉ちゃん、目を開けてよ、姉ちゃんーー!!
そっと部屋を覗くと、そこには倒れている人物……否、死体に泣き叫ぶ少年の姿があった。
「(墓場では感じなかった、本当の死……あれは、死者の弟、か……)」
姉の死に、泣き叫ぶ子ども……ああ、とパンドラの脳裏に過去のトラウマがよぎる。
「(生まれるはずだった弟か妹……それが母の体より消えた時……あの時の私も、あのように泣いたな……)」
一瞬、生まれた感情をかき消し、杖を構え部屋に踏み入る。

「ガウッ!!」
「ハァッ!!」
侵入者に気が付き、跳びかかる巴。
それに対し、杖より放つ雷を放つパンドラ。
「ギャイン!!」
「ひっ……!?」
僅かな閃光の直後、壁に叩きつけられた巴は、ビクンビクンと跳ね、動かなくなった。

「うっく……姉ちゃん、誰……?」
「……そこに転がっているのは、貴様の姉か?」
質問には答えず、逆に質問してきたパンドラに、たけるは弱々しく首を縦に振る。
「ふっ……恐怖に絶え切れず、弟を残し自殺か……流石は人間、罪深い生き物……」
「姉ちゃんは……しない」
パンドラの言葉に、たけるは小さく言葉を発する。
「……なんだ?」
「姉ちゃんは、自殺なんてするもんか!!」
ボロボロと涙をこぼし、叫ぶたける。
その姿に、パンドラも僅かに狼狽える。

「ふ、まぁたしかに凶器も見当たらんところを見ると、殺されたのかもしれんが……いや、確かに妙、だな」
死体に首輪がついていないこと、凶器がないこと。
これは、殺害後に誰かがここに来たことを示している。
さらに、その死体の表情が、パンドラは気に入らなかった。

「随分に楽しげに死んでいるではないか……」
「……死んじゃったのに、楽しくもなんともないよ……」
死体は、笑顔だった。
まるで、死ぬことに安らぎを得たかのように。
そして、パンドラにはそれに相応しい言葉が浮かんでいた。

「……救済、か」
アローン。ハーデス様を押し込め、冥王軍を救済と称して全滅させた真なる邪悪。
あいつは言った。死は断罪ではなく、救済。すべての人を救わなくてはならない、と。
この死に様は、まるでそれを体現しているかのようで、パンドラにとって気に食わないどころではない。
「(まさか……アローンが、参加者に? いや、それはない……だとすれば、つまり……)」

―――アローンのような人間が、参加者にいる?

その推測はパンドラにとって許せるものではなかった。

363代理投下:2010/11/22(月) 07:50:19 ID:yPvy6P4Z
「……ん? なんだ、これは」
パンドラは、床に何か煌く物を見つけた。
何か、細長い……毛。
パンドラの物ではなく、たけるの物でもなく、倒れた犬の物でもない。

―――金色の、見覚えのある、髪の毛。

「フ……クハハハハハハ!!」
突然、狂ったように笑うパンドラに、たけるは身をすくませる。
「ク、ハハ……おい、小僧……名をなんという?」
「え、と……相沢たける、だよ」
「―――たけるよ、私はお前を殺す」
突然の殺害予告に、たけるはそれも仕方ないか……という思いが過ぎっていた。
姉が死に、それに着いて行っても良いのではないか、と。

「……だがな、それは後にしておこう。金髪の女を殺すまでは、な」
その言葉に、目をパチクリさせるたける。
「どうやら、キサマの姉の仇と、私の敵は共通しているようだ」
この髪の毛は、間違いなくあの船を沈め、パンドラを罠に嵌めた者と同一だった。
テンマを、そして杳馬への憎しみと同等までに、あの女への怒りは高まっていた。

「どうせ、人間すべてが最後には断罪すべき存在。か細い首をへし折ることなど容易い。
ならば、キサマの姉殺しの女への断罪を見続け、それを冥界での語り部となるべく見届けさせるのも一興」
そう言い、たけるに向かって手を伸ばす。
「二度は言わぬ。私に着いてくるがいい、たける」
「う、うん……」
有無を言わせぬ口調に、手を伸ばすたける。
「ええと、ひとつだけ、いい? ええと……」
「パンドラだ。くだらない質問はするな」
「パンドラ姉ちゃん、あのね……」
意を決して、たけるは口を開く。

「―――前くらい、隠したほうがいいよ?」


数分後、そこには全裸の、否、かわいいパンツのパンドラ様は居なかった。
そこにいたのは、漆黒の蝙蝠。
「フフフ、気に入ったぞたける。先程の無礼はこれで許してやっても良い」
たけるの支給品を全て奪い、その中から念願の服を見つけていた。
それは、バットガールのコスチューム。ただしマスクは装着していない。
漆黒のボンテージに身を包んだパンドラは、甚くご満悦だった。

――それが、正義の味方の服だと知れば、酷く怒っていただろうが。

364創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 09:09:28 ID:+cKS7sre
「なら、殴んなくてもいいのにさ……」
頭にたんこぶを作ったたけるがボヤく。
「ふむ、この炎の魔剣も素晴らしいではないか」
炎の剣を出し入れしている様子に、アイビーの事を思い出すたける。
今頃、怒っているのではないだろうか、怪我をしているのではないだろうか。
どちらにせよ、パンドラに着いていくと約束したのだから、戻ることは出来ない。

そして……
「姉ちゃん……ごめん、ちょっと待っててね」
悲痛な顔で、たけるは姉に別れを言う。
それが、自分が死ぬことを待てということか、埋めたりすることを意味しているのか、たける自身にもわからない。
「……行くぞ。あの女は墓地の方角にいるはずだ」
その別れを待っていたかのように、パンドラは外へと歩き出す。

『―――たけるを、弟を、よろしく』

「なんだ、なにか言ったか?」
パンドラは振り向くが、たけるはキョトンと首を傾げている。
「……なんでもない、早く着いて来い」
早足で歩くパンドラを、小走りでたけるは後を追う。

もう数刻で、日の出。
その時、死を告げる放送に、幼き少年は何を思うのだろうか。

【E-9 平地(511キンダーハイム付近)/一日目・早朝】

【パンドラ@聖闘士星矢 冥王神話】
[属性]:悪(set)
[状態]:健康、上機嫌、バットガールスタイル
[装備]:パンドラの杖、アズラエルの篭手@バットマン、バットガールのコスチューム(マスク以外)@バットマン
[持物]:基本支給品、フェイトちゃんのぱんつ@魔法少女リリカルなのは、バットガールのマスク@バットマン
[方針/目的]
  基本方針:実験を勝ち抜き、主催者をハーデスの名の下に断罪する  
  1:金髪の女を探すため、墓地の方へ戻る。
  2:テンマと杳馬を探しだして殺す
  3:他の参加者も発見次第殺す
  4:たけるは金髪の女を殺す姿を見せた後に殺す予定
365創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 09:10:35 ID:+cKS7sre
【相沢たける@侵略! イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、深い悲しみ
 [装備]:特になし
 [道具]:基本支給品一式、ハーレイ&アイビーのDVDとバッテリー付き再生機セット
 [思考・状況]
 基本行動方針:パンドラ姉ちゃんについていく
 1:姉ちゃん……
 2:アイビー姉ちゃんはどうしたかな……

※バットガールのコスチューム
バットマンの仲間の一人、バットガールのコスチューム。
何代目かによって、多少異なるが、漆黒のボディラインの判るスーツ。

※アズラエルの篭手
復讐の天使アズラエルの武器である、黄金色の篭手。中から伸縮自在の炎をまとった刃が飛び出す。
本来両手に装着されているが、片手分の篭手しかない。


パンドラたちが、511キンダーハイムを去って少し後。
巴は、ムクリと起き上がった。
パンドラの雷が本来の威力でなかったために、その心臓がしばらく止まっていただけだったのだ。
たけるが居ないことに気が付き、その行方も臭いでわかっていた。
しかし、松井の命令で511キンダーハイムから離れることはできなかった。
巴は待つ、現在の主人である松井を。
そこに感情もなにもなく、まるで機械のように、忠実に入り口に立つのだった。


※巴は、命令があるまで511キンダーハイムで待機します。
その際、命令者以外の敵対行為には攻撃します。
366創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 09:11:20 ID:+cKS7sre
549 名前: ◆CMd1jz6iP2[sage] 投稿日:2010/11/22(月) 01:52:12 ID:5bpQ2XGc [11/11]
投下終了です。
タイトルは「Forest Of The Red」で。

何か問題がありましたら、ご指摘ください。
なければ、どなたか代理投下お願いします。
367創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 09:18:42 ID:+cKS7sre
乙です

松田が暴走しだしたか。これほど頼りない正義の味方も早々いないなw
ゴウラムが出てくるとは思わなかった
そしてパンドラ様はどうにもコメディリリーフのようなポジションになってるが、ついに服を手に入れたかw

あと誤字が一つ。>>359
>操られた恐怖を、人々を守るという使命感……正義漢にすり替えて。
とありますが、正義漢→正義感ですね
368創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 16:30:37 ID:/jbiJJFA
投下乙です
パンドラ様が服を着れて本当にざんn(ry 良かったです。 
テンマと承りが正義しているのに他の連中ときたらもうw

あと、松田の状態票の時間帯だけ深夜になっているのでそこの訂正をした方が良いかと
369 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 17:49:50 ID:3k1545Vw
三連星の一人、マッシュです(ぇ

>>379-380
正義漢にすり替えて。→正義感にすり替えて。
【D-9 森(火災)/一日目・深夜】→【D-9 森(火災)/一日目・早朝】

このように修正願います。
370創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 18:02:10 ID:/jbiJJFA
>>369
対応乙です!
さっきしたらば覗いたらそちらに質問がきていたようですので、そちらも対応した方が良いかと
371創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 18:19:36 ID:5bFYyjth
投下乙です。

テンマと大河は可愛いなぁ…。
このSS読んでそう言えば、テンマの来世の星矢にはお姉ちゃんがいたなぁ…テンマは何気に弟属性を持っているんだなぁと思いました。
承りにも従順だし…(一応、アテナに仕えているためか、ほかの若い正義勢の中では素直な部類ではあるんだが…)

アイビー!
俺のアイビーがぁ…松田コノヤロウ!
母性に目覚め始めたばかりだったのにー!

ただ、松田の精神のかなりの不安定さ…こいつもう一悶着やってくれるはず…。

たけるが何気に気の毒だ…。

次の作品が楽しみです。
372 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 20:16:11 ID:3k1545Vw
したらばにて、「承太郎、栄子の事を埋めてるんじゃなイカ?」、と大きな矛盾を指摘していただきました。
したらば投下スレに修正案を投下しておいたので、ご検討ください。
把握が足らず申し訳ないです。
373創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 21:25:04 ID:t51XOYLw
>>358で「松田」が「松井」になってます。
374 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 21:31:24 ID:3k1545Vw
>>373
馬鹿野郎ォー!松井ィーッ!誰だお前!?ふざけるなァーッ!!
もう誤字ってレベルじゃなくて別人ですね
しかも結構松井さんになってる箇所が多いorz 

他にもあったら、どんどん修正してくれると助かります。すまぬ……すまぬ……
375創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 21:35:29 ID:EFfkVvNs
投下乙です。
大人数が上手く捌かれましたね。
松田の言動は色んな意味でgdgdだなぁ……w
とりあえず火事が広がる前に消さないとw

>>372
したらばに投下された修正案ですが
>引っ張り返すことが、守る命令に反すると思ったのか、巴は口を離す。
の部分があまりよく意味が分からなかったです。
「必ず遠ざけるんだぞ」と念を押されたにも関わらず、止めた理由の説明が有った方が良いのでは。
376創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 21:38:40 ID:fimK1LrJ
>>355で「東方仗助」が「東方承太郎」になってますね
377創る名無しに見る名無し:2010/11/22(月) 21:45:15 ID:/jbiJJFA
パンドラって最初に墓場の下に死体が無い偽物の墓だ!ってキレてたからパンドラに栄子の死体を発見させるとか?
そうなると残りの文章も修正が必要になりますが…
378 ◆CMd1jz6iP2 :2010/11/22(月) 22:01:04 ID:3k1545Vw
説明不足な点を投下スレに再修正。

そして>>376ェ……見直しはしたんですが、もう俺の目はフシアナサンですね。
松井さんの件も含めて、どうしよう……誤字関連は自分がwikiに登録して直せば良いですかね?
379 ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:20:23 ID:McdZDTDd
夜分遅い上に、時間をけっこうすぎちまいましたが、

剣持勇、賀来巌、ロールシャッハ、L

投下します
380Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:24:52 ID:McdZDTDd

一人の男が疾駆する。
ぬばたまのソドムの市を、仄かな街灯の明かりを背に、己の延びた影を踏みながら。

男は疾駆する。
賀来巌は疾駆する。
今なお宵闇に包まれた、偽りのゴッサムの街中を疾駆する。

使命を果たす為に。その身に課せられた使命を果たす為に。
結城美智夫を殺す為に…

「結城…」

「結城……」

「結城………ッ!!」

血の引いた真っ青な顔の上の口の端に、呪詛の如く其の名を乗せる。

結城美智夫――

殺人者。狂人。テロリスト。現代のメフィストフェレス。
彼を評す言葉は余りに多く、そして、その全てがおぞましい。

結城美智夫――!

自分の人生を変えた、あのおぞましい地獄より産み落とされた、20世紀の鬼子。
賀来巌の半身にして、その罪の象徴である男。

結城美智夫――!!

今までも賀来が結城を抹殺するチャンスは幾度となくあった。
それでも彼が結城を殺さなかったのは、結城こそ彼の罪の象徴であり、
結城を『救う』事こそが賀来にとっての贖罪だったからに他ならない。
しかし…

「結城美智夫…ッ!!!」


今の賀来の心を満たすのは、マグマの様に真っ赤にドロドロと焼けた殺意。
自分が地獄の住人である事を自覚した賀来の胸中にある思いは贖罪では無く断罪。
彷徨える罪人が救われる為に必要な事は、罪人を救う事に非ず。
自らの半身たる悪魔を十字架に掛けて主に捧げる事に他ならぬ。

「結城ィィッ!!」

賀来は駆ける。
結城の姿を求めて、ゴッサムの街並みを闇雲に駆けまわる。
381Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:26:02 ID:McdZDTDd

血の引いた双眸、口から洩れる呪詛、頻繁に焦点のぼやける双眸…
今、賀来巌は尋常の精神に無い。
そもそも、結城を殺すと決めたとは言っても、彼は今結城が何処に居るかも知らないばかりか、
今現在自分が何処に居るのか、何処に向かっているのかすら把握していないのだ。
現在地を確認しようにも、参照すべき地図は剣持刑事の手元にあるのだからしたくても出来ないのではあるが。

殺す殺すと呟きながら、相手の所在も知らず、
闇雲に相手の姿を求めて見知らぬ街を全力で走り回るなど、尋常の人間のする事では無い。

賀来は、今自分がやっている行動が如何に馬鹿げているかも解らない程に錯乱していた。
しかしそれもせんなき事なのかもしれない。
賀来にとっては結城を殺す決断など、錯乱でもしなければ到底出来ない事だからだ。

賀来巌と結城美智夫との関係は尋常ではない。
賀来巌にとって結城美智夫は、
恋人であり、
半身であり、
悪魔であり、
罪人であり、
彷徨える子羊であり、
男でもあり、女でもある。

『生前』の賀来は結局、死ぬまで結城に本気の殺意を抱く事が出来なかった。
そういう存在に対し、殺意を抱く事は、尋常の心持では叶わない。
狂気に身を任せねばならい。
そういう意味では、賀来の今の在り様は、ある意味正しいとも言える。
ただその狂気が現状では滑稽な空回りしか見せてはいないのだが。
彼が自分の現状をの愚かしさを認識できるまで落ち着くには、もう少しばかり時を置かねばならぬ。



――私は一体何をやっているのか…

賀来がようやく冷静になれたのは、
地図上で【H-6】とされた区画の橋の上である。
橋の欄干を背もたれに、座り込んだ賀来の息はゼェゼェと上が切り、
暫くは動けそうに無かった。
382Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:26:50 ID:McdZDTDd

(クソッ…私は一体全体何をやっているというのだ…)
(結城が何処にいるかも解らないであてずっぽうに走り回るなど…どうかしている…)

額に浮かぶ汗を手の甲で拭いながら、賀来はようやく冷静に自分が何を為すべきか考える。

(ダメだ…もっと冷静にならなくては。相手はあの悪魔なのだ…)
(迂闊に掛れば、いつもの繰り返しだ…確実に、奴を葬れる手だてを考えねば…)

ようやく息を落ち着けた賀来は、橋の欄干に手を置きながら立ち上がり、周囲を見渡す。
海上に位置する橋は、周囲に障害物が無い為、ずいぶんと見晴らしが良かった。

「む…」

辺りを見渡していてふと、賀来の目に“あるもの”が目にとまった。
白み始めた闇の中に、ぼんやりと浮かぶ“あるもの”。それは…

「電波塔か…?」

賀来が見た物。
太い円柱をキクラゲの如く幾つものパラボラで覆った代物。
それはH-4にあるテレビ局の建物上部に屹立する電波塔であった。

(テレビ局やラジオ局…桜田門の警視庁でも似たようなのがあったな…)

ふと、賀来の頭に一人の人物の姿がよぎる。
今時のマスコミ関係者にしては珍しく、正義感とジャーナリストのプライドを持った男。
悲劇の新聞記者、青畑の姿が…

(新聞記者…マスコミ…テレビ…テレビ局…)
「――!そうかっ!」

賀来は体の疲れも忘れて、テレビ局の方へと走り出した。

「結城めっ…見ていろ…貴様の本性を暴露してやるッ!」

賀来に去来した考え、それは遠くに見えるテレビ局だかラジオ局だかの電波塔を利用する事である。
闇雲に結城を探しまわっても埒が明かない。
それに、あの悪魔の事である、いまこうしている間にも、
犠牲者を求めてこの地獄の園を跳梁跋扈しているに違いない。
383Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:28:05 ID:McdZDTDd

「知らせねば奴の事を…一刻も早く多くの人々に…」
「そして集わねば…戦士を…奴と闘う為に!」

あの電波塔を利用して、結城の危険性をこの地獄全体に発信し、
その上で奴の情報、もしくは奴と共闘できる戦士を集める、それが賀来の方策であった。

(奴は私の罪そのモノだ。出来れば私一人でケリを付けたいが…)
(奴は悪魔だ!一人で立ち向かえる相手じゃない…何とか仲間を集わねば…)
(奴を倒し…贖い、脱出するのだ…この煉獄から…)
(神よ…見ていてください…貴方の与え給うた試練…乗り越えてみせる!)

賀来はテレビ局へと向けてひた走る。
しかし彼は知らない。彼の目指す場所が、もう一人のメフィスの牙城となっている事を…

【H-6:橋の上:一日目・早朝】

【賀来巌@MW】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、錯乱中
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考・状況]
  基本行動方針:結城美智夫を倒す
 1:テレビ局の機材を使って、結城美智夫の危険性を会場全体に知らせる。
 2:悪魔である、結城美智夫を倒す
 [備考]
 ※参戦時期はMWを持って海に飛び込んだ直後。

384Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:29:11 ID:McdZDTDd




「…一体何があったんてんだ…」

幾つもの瓦礫の山と、焼け焦げ、大きくへこんだライトバン、
同じく焼け焦げた地面を見ながら、剣持勇は小さくつぶやいた。

支給品としてデイパック中にあり、今は彼のコートの内ポケットに忍ばされた、
マテバModel-6 Unica、通称“オートリボルバー”の銃把を握りしめえる。

神父を探して飛び出したものの、
予想以上の脚の速さと、薄暗く入り組んだゴッサムの街並み翻弄され、
剣持は完全に賀来を見失っていた。
それでも彼を探して街を彷徨う剣持の耳に飛び込んできたのは、大きな爆発音であった。

警察官として無視できなかった剣持は、
運よくデイパックの中にあった拳銃を引っ掴むと、
爆発音のした地点に急行したのだが…

彼が到着した時には、
今、剣持がいるビル建設現場で死闘を繰り広げていた当事者たち、
バットマンも、雪輝も、アーチャーも、まひろも、そして悪魔将軍も、
何れもが既に立ち去った後であった。

「クソッ…」

どうやら時すでに遅し、あったらしい。
足元の小石を蹴飛ばしながら、剣持は短く毒づいた。

(神父の野郎はみつからねぇし…一の野郎とも美雪ちゃんとも出会わねぇし…)
「うまくいかねぇもんだな…」

人生ままならぬものとはよく知っているが、
剣持には今はとにかくタバコとコーヒーが無性に恋しかった。
385Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:29:58 ID:McdZDTDd

【H-9:ビル建設現場:早朝】

【剣持勇@金田一少年の事件簿】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康
 [装備]:マテバModel-6 Unica(装弾数6/6)@現実
 [道具]:基本支給品一式×2、不明支給品2〜5(うち1〜3は、賀来の分)
 [思考・状況]
  基本行動方針:この事件を金田一一と共に解決する
 1:何があったんてんだ…
 2:神父(賀来巌)を探す。
 3:金田一一、七瀬美雪との合流
 4:異次元? MWという毒ガス兵器? 死神? ばかばかしい…。
 [備考]
 ※参戦時期は少なくとも高遠遙一の正体を知っている時期から。厳密な時期は未定。
 ※Lの仮説を聞いています。

※【マテバModel-6 Unica@現実】
1997年にイタリアのマテバ社が開発した半自動回転式拳銃。別名“オートリボルバー”。
バレルがシリンダーの一番下にある、その上リボルバーなのにオートマチック機構を持つと、
世にも珍しい拳銃だが、その珍しさがいまいち性能に反映されておらず、
ただ単に物珍しいだけの“ロマン拳銃”である。

386Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:32:38 ID:McdZDTDd



運命に翻弄される者どもあらば、その逆もまたしかり。
状況に流される賀来、剣持とは対照的に、
確固たる方針を以てこの現代のソドムを歩く者達がいた。
ここで、その彼らの方に視点を転じて見る。



「ここ…ですか…予想通りで助かります」
『…人の気配は無いようだな』
「そのようですね。と、いうより我々以外の人間はまだ誰もこのビル自体に訪れてはいなかったようですが…」
『廊下や一階ロビーの床か…』
「ええ…一階はおろか、このビルのどの床も、新築のように綺麗でした。ワックスも掛けたばかりのようです」

Lとロールシャッハ。
裁判所を共に後にした二人は、今、ゴッサムタワー最上階に設けられた、“ある施設”に足を運んでいた。

『その割にはこの部屋は物の並びが煩雑だ…』
「ええ…生活臭はまるでしないのに、まるで誰かが此処を使っていたかのような物の配置です
 そういう“演出”なのでしょうか…?」
『さあな…世界一の天才の考える事など、誰にも解りはしない…』
「しかし、その不可解に挑むのが我々の“仕事”です」

二人はそこで会話を一旦打ちきって、それほど広くは無いこの施設を物色し始めた。

『Humh…随分と機材が古いようだな』
「音楽用の機材はカセットとレコードだけのようでし、確かに全体的に機材は古いですが…
 しかし…この程度の古さならば、地方のラジオ局でも然程変わらないでしょう」
『使えそうか?』
「この程度の機材ならば問題なさそうです」

“機材”を弄るLの傍らで、ロールシャッハは机の上に置かれたカセットケースを拾い上げる。
カセットケースの裏面には、このテープに収められた曲名が、几帳面そうな文字で羅列されている。
387Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:34:02 ID:McdZDTDd

『 Side:A
  1:Killer Queen−Queen
  2:Sympathy for the Devil−The Rolling Stones
  3:The Beginning Is the End is the Beginning−The Smashing Pumpkin
  4:Get Back−The Beatles
  5:Gyudon Ondo−Suguru Kinniku
  6:Disillusion−Sachi Tainaka
  7:Dani California−Red Hot Chili Peppers
  8:The Times They Are A-Changin'―Bob Dylan…… 』

知っている曲もあれば、知らない曲もある。
特に役に立ちそうな物では無さそうであり、ロールシャッハは一瞥が済むと、
元の机にカセットケースを放り投げた。

「問題なさそうです…いつでも“放送”を発信できるでしょう。と言ってもまだ使う時機ではなさそうですが…」
『………』

二人が今いる場所、それはレプリカのゴッサムタワーの最上階に設けられた『放送局』であった。
何故二人が裁判所よりここに来たのか…その理由について話すには、
少しばかり時間を巻き戻さなくてはなるまい。



『電波塔…?』
「はい。エンパイア・ステート・ビルディングがニューヨークにおける電波塔の役割を果たしているのはご存知ですよね」
『Hunh…確かに似てはいるな…』
「はい。距離もあり、まだ夜の為に詳細な部分では不明ですが…地図上ではゴッサムタワーと記されるこのビルは、エンパイア・ステート・ビルのイミテーションとみて間違いないでしょう」

ニューヨークに類似した街割に設置された高層ビル“ゴッサムタワー”。
その高さこそ、文字通り“魔天楼”なエンパイア・ステート・ビルにこそ及ばないものの、
この殺し合いの会場においては最も高い建築物である事に間違いは無いだろう。
その威容を二人は眺めながら、そんな会話を交わしていた。

参加者が異なる世界から連れてこられた仮説について考えるのは一先ず置き、
当分、この実験場においてLはロールシャッハと共闘する事を決めた。
成程、彼の言う事も最もである。
この『事件』の解決のタイムリミットは48時間。だとすれば正に『時は金なり』。
何にもまして自主的に『行動』する事が必要であろう。
ロールシャッハはその外観こそ不気味な怪人物だが、
その内なる正義感、信念、そして知性と行動力には充分信頼を置くに足りる、とLは判断する。
ロールシャッハも又、『行動する』探偵と共闘する事は吝かでは無かった。
二人のディテクティブヒーローの共闘は成ったのである。
388Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 03:35:07 ID:McdZDTDd

剣持と賀来には悪いが、二人は裁判所を後にする。
一応、故あって此処を離れる旨の書き置きをLが残したものの、行先は敢えて記さなかった。
書き置きの手紙を見るのは、宛先の当人たちとも、通りすがりの善人とも限らないからだ。

二人が向かう先は、Lの提案により『ゴッサムタワー』と相成った。
その理由は当人よると三つ。

「一つは、ゴッサムタワーが、現状で確認出来る限りにおいて、この実験場における最も高い建築物だと言う事です」
「恐らくは、この実験場の全景を見渡す事が出来るでしょう。地図に嘘がある可能性は限り無く低いでしょうが、
 やはり地図だけで見るのと、実際に見て地形を把握するのとでは現状認識に大きな隔たりがあります」

「次に、この手の高層ビルは電波塔の役割を担っていると言う事が多いという事」
「我々に利用可能な送受信施設があるかは現時点で不明ですが、一先ずはそれを確認しに行くとします」

“情報を制する者が現代戦を制す”とは、良く知られた金言だが、
その“情報”とは何も受信・収集する物だけにとどまらない。
“情報の送信”もまた、立派な情報戦の一つなのだ。
偽報・流言は古来より用いられる情報戦における送信の手管である。
さらに現代においては上記2つに“宣伝”が加わる。
“宣伝”を戦略とするのは古来よりのものだが、その重要性は現代において大きく高まっている。
コソボ紛争におけるセルビアとユーゴスラヴィアの命運を分けたのが、
セルビア側に雇われた一広告代理店の優れた宣伝戦略にあったという事実は、
現代戦に置ける“宣伝”の重要性の証明となるだろう。

この実験場は広くて狭い。
故にこの場において大多数に情報を送受信できると言う事は、
その立ち位置に関わらず、反抗者でとっても殺人者でとっても、はたまた日和見者でとっても、
大きなアドバンテージであるのは変わらないのだ。

『何故、テレビ局の方へ向かわない?』
「我々が情報の送受信の重要性を認識している様に、我々以外の人間もその事実を認識していると言う事です」
『…成程、所属する陣営に関わらずテレビ局には人が集まる可能性がある…』
「善悪問わず、他の参加者との接触は悪いわけではなく、むしろ歓迎される事です。
 しかし陣営を問わない過度な接触はあまりにリスクが大きい。装備も現状では貧弱です」

Lの支給品には武器になるような物は無く、ロールシャッハには一つだけ武器が支給されていた。
Lともロールシャッハとも違う世界の住人にして、FBI捜査官“滝和也”の愛用するナックル状の武器がそれだ。
“爆薬を仕込んだメリケンサック”とでも言うべき代物で、
現在はロールシャッハのトレンチコートの右ポケットの内側で握りこまれており、
何時でも使える様に成っている。
火力自体は高いが、使い捨ての上に射程距離は格闘可能な範囲だけ、と決して優秀な武装とは言えまい。
ロールシャッハは戦術と機転とありあわせの日用品と格闘技術だけで、
SWATや暴徒の群れと渡り合える戦闘能力を有しているため、
多少の数の差であれば殺人者を相手取れない事も無いが、不必要なリスクを冒す必要もあるまい。
389Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 04:01:53 ID:McdZDTDd
「さらにゴッサムタワーに情報の送受信が可能な放送設備があった場合、
 こちらを敢えて使う事により、情報発信に釣られて発信基地を狙う殺人者の襲撃のリスクを減らせます」
『………Hummh』

映像であれ音声であれ、それが発信されたと言う事は、
発信基地に誰かがいる可能性が高いと言う事でもある。
情報発信は殺人者を過度に呼び寄せる諸刃の刃だが、テレビ局の存在はそのリスクを軽減させる。
テレビ局と高層ビル。どちらが発信基地として疑わしいかは言うまでもあるまい。

ロールシャッハとしては、敢えてテレビ局を使い、飛んで火に入る夏の虫と、
テレビ局に引き寄せられた殺人者どもを待ち伏せて『始末』するのも悪くは無いとも思う。
しかし、それはこの実験を加速させる要因にもなりうる。
自分とLの目的は実験の破壊、そしてオジマンディアスの真意を探る事であることは忘れてはならない。

「そして最後に一つ。これが、実は一番重要な点なのですが…“6時間毎にアナウンスがある”
 マニュアルにそう記されていたのを覚えていますか?」
『…ああ』
「その“アナウンス”…アナウンスの内容も重要ですが、その放送形態が事件解決の鍵となるかもしれません」
『……中継基地か』
「はい。その通りです」

エンパイア・ステート・ビルディングはニューヨークに置ける電波の中継基地の役割も担っている。
もしゴッサムタワーが電波塔であり、アナウンスの中継基地を担っているとしたら…

「電波の出所を逆探知できれば、この実験の主催者…エイドリアン・ヴェイト氏と接触を取れるかもしれません」
「無論、この推論は二重の希望的観測の上に成り立っている心許ない代物ですが…」

しかしもしこの推論が事実であったとすれば、事態の解決に大きく前進できる。

「我々が幸運な点は、このデスゲームの目的が“実験”であるということです」
「実験とは、飽くまで何らかの“結果”を求めて行われるものです」
「逆言えば、我々がこの実験を停止させる最も簡単な方法は、この実験が無意味である、
 望むような結果が得られない、とヴェイト氏に納得させる事です」
「もしこれが、一昔前に日本で流行した“バトルロワイアル”と言う小説の様に、
 殺し合い自体を目的としたものならば、そのような隙は相手にはありませんでした」
「そういう意味では、我々は“幸運”です」
『仮に実験が無意味と納得させたとして…その腹いせに奴が我々を鏖にする可能性もある…』
「いえ…それはないでしょう。貴方の持つヴェイト氏の情報からは読み取れる彼の人柄は、
 非常に理知的な人間だと言う事です。そのような無意味な事をするとは思えません。
 貴方自身、そう思っているのでは?」
『奴が正常ならば、な…』
「彼は狂っているやもしれぬ…と?」
『解らん…そもそも』

『世界一賢い男が狂っているかなど、誰が判断するというのだ?』

「…一先ずこの話は此処までです。続きは、ゴッサムタワーに着いてからにしましょう」
390Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 04:02:47 ID:McdZDTDd



「一先ず、ここが情報の送受信基地として使える事は確認できました」
『だとすれば、今はアナウンス街…か?』
「ええ、もうすぐ時間です」

“実験の手帳”に埋め込まれた時計を眺めながら、Lは言う。
放送局の窓から見える空は、僅かながらも白み始めている。
もう直ぐ夜が明ける。

来るべき放送に、二人の“探偵”は備える。


【I-8:ゴッサムタワー最上階の放送局:早朝】

【チーム“ディテクティブヒーロズ”】
【ロールシャッハ@ウォッチメン】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]:ロールシャッハの手帳@ウォッチメン、スマイリーフェイスの缶バッチ@ウォッチメン、
   滝和也の爆薬付きナックル@仮面ライダーSPIRITS
 [道具]:基本支給品一式、ハインツの煮豆の缶詰、角砂糖、いくつかの日用品類
 [思考・状況]
  基本行動方針:この実験を停止/破壊させ、オジマンディアスに真意を問う。
 1:放送を待つ
 2:Lと共闘する。
 [備考]
  ※参戦時期は、10月12日。コメディアンの部屋からダンの家に向かう途中です。

※【滝和也の爆薬付きナックル@仮面ライダーSPIRITS】
FBI捜査官、滝和也の『仮面ライダー』としての装備の一つ。
爆薬を仕込まれたナックル状の武器で、『ライダーパンチ』に使用する。
恐らくは使い捨てだと思われる。

【L@DEATH NOTE 】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]:健康
 [装備]: なし
 [道具]:基本支給品一式、シュガーポット、不明支給品1〜3 (確認済み。武器になるようなモノはない)
 [思考・状況]
 基本行動方針:この事件を出来る限り被害者が少なくなるように解決する。
 1:放送を待つ。
 2:もし可能ならばオジマンディアスと交渉する。
 3:放送局の設備を有効に使って、他の参加者達へのイニシアチブをとる。
 [備考]
  ※ロールシャッハより、ジョン・オスターマン、エイドリアン・ヴェイトなどについて大まかに聞いています。
  ※参戦時期は、夜神月と一緒にキラ事件を捜査していた時期です。
391Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 12:10:26 ID:McdZDTDd
投下終了
392Deus Irae, or The Men in the High Castle ◆yCCMqGf/Qs :2010/11/23(火) 12:12:04 ID:McdZDTDd
やっと書き込めたwww
393創る名無しに見る名無し:2010/11/23(火) 12:24:49 ID:DMk3khIR
おぉこちらも投下乙です!
神父と警部は出会えず逆方向に… これがロワの運命か…
Lとシャッハは別れそうな雰囲気を醸し出していたが、Lが『行動』するという形で同盟か。
Lさんあんたが動き回らなきゃいけない程切羽詰まった状況だからねw ワタリをパシりに使えないから頑張れw
放送施設の様なものがこっちにもあったか… どうなることか
394 ◆3VRdoXFH4I :2010/11/23(火) 17:54:39 ID:90qctut+
一日以上も空けてまことに申し訳ないません。
これより武藤カズキ、月村すずか、蝶野攻爵、ヴァンプ将軍を投下します。
395ミッドナイトホラースクール  ◆3VRdoXFH4I :2010/11/23(火) 17:55:33 ID:90qctut+



「この事態においてもそんな足手纏いを連れてのうのうと歩いている。相も変わらずの偽善者振りだな」

夜が明ける。
帳は上がり、人の世界に光が満ちる。
1日の始まり。爽やかな陽光が差し込む街中にはしかし、人の姿はなかった。
生の気配がない、沈殿した空間。
それも当然、ここは「実験場」であるからだ。
正しい結果を計るため、確かな成果を得るためには余計な要素は不要だ。
原料と触媒、それにより生ずる化合物こそが研究者の望みなのだから。
正義と悪の正体を。優劣を。是非を問うための試験管。



「――――――蝶野」

フラスコに投げ込まれた素材は、触媒を交えて反応を見せる。
殺し合いという実験場に集められた六〇の生命が、会場のそこかしこに置かれた幾多の施設に引き込まれていく。
そこで起きるのは調和か混沌か。融和か殺戮か。
それを知るのも、また実験の意味。



「……場所を変えよう。言いたいこと、聞きたいことは後で聞く」

「ほう、貴様らしくもない合理的な判断だ。―――まあその顔を見るに酷く頭を冷やされた後のようだが、いいだろう」

では、四人の参加者が集ったこの学校で起きる反応は如何様か。
経過はどうか、その眼で御覧になるといい。

396ミッドナイトホラースクール  ◆3VRdoXFH4I :2010/11/23(火) 17:57:02 ID:90qctut+
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休憩を終え民家を出たカズキとすずかはC-1と2の境界にある学校へと向かっている。
カズキの妹であるまひろ、なのはの友人であるなのはとアリサ。
学校という施設は自分達学生にとっては一番馴染みの深い場所だろう。
安全、安心を求めるのならここに向かっているかもしれない。
あまり聡いとは言えない頭なりに考えたカズキの提案にすずかもまた異論もなく進んでいた。
肌を刺すような冷えた―――気温よりも空気そのものが鋭く鋭利な刃物ようだ―――黎明の町は静かに二人を包んでいる。
その足取りは襲撃者を警戒していることを含めても遅いペースだった。その理由は語るまでもなく、月村すずかという少女である。
殺し合いという常に気を張り詰めながらの時間は小学生のすずかには想像だにしない疲労、心労を覚えさせた。
本来なら既に暖かい布団で夢を見ている時分。このまま家で休みつつ歩いていては日が出る頃でも目的地には辿り着けなかっただろう。

「……あの、武藤さん」

だが今はその足取りも軽快だ。その理由もまた、明確。

「どうかした、すずかちゃん?」

すずかは今、カズキに背負われていた。いわゆるオンブというやつである。

見た目よりもずっと大きく感じるカズキの背中にしがみついている姿は身長差もあって旅行用のリュックサックを思わせる。
半身不随なのをいいことに白昼堂々、満員電車、大通り、繁華街をずっとオンブしっぱなしという恥辱で死ねる程の公開処刑を
自分より1つ年上の少女に味あわせた前科のあるカズキだが
幸運というべきか、二回り程年の離れたすずかはそういった念を抱く羽目にはならなかった。
せいぜい見知らぬ人の背中に体を預ける気恥しさと申し訳なさがあるくらいだ。
カズキも、同じように背に負ったかの少女よりもなお軽いすずかの命の重さを噛み締めていた。

「その……大丈夫ですか?武藤さんも疲れて……」

「なんてことないよ。これくらい慣れてるし、すずかちゃん軽いし」

「そう、ですか」

その言葉にすずかは僅かに息を詰まらせる。
慣れている。夜ふかしに対してのではない。それくらいはいずれ誰でも経験することだろう。
傷を負う事、殺し合いという人の命が計りにかけられている状況を経験しているということ。
日常の感覚が麻痺してるわけではなく、なんとなくに出た言葉なのだろう。事実カズキはなにもない日常の世界にいることに幸福を感じている。
自分の知らない裏の世界。知ってはいけない深淵の住人。カズキもまぎれもなくその一面を担っている。
それがカズキを拒絶する理由にはならない。そんな事情を抜きにしてもすずかはカズキの人柄を好いている。
心をざわつかせる場において、初対面でここまで好印象を持たせられる少年というのは人生経験の浅いすずかでも珍しいと思う。
だからこそ、その笑顔に似つかわしくない剣呑な世界に身を置いているカズキが心配だった。
他人のために自分を殺すという意味をすずかは分からない。
分からないが、戦うカズキの姿を想像する時、頼もしさの中に一抹の不安が浮かんでいた。
397ミッドナイトホラースクール  ◆3VRdoXFH4I



そうして互いに思うものを秘したまま、二人は『反応』を求められる。
住宅地を抜け山林地帯に差し掛かった所で、カズキの動きが止まる。

「―――ゴメン、すずかちゃん。ちょっと降ろしてもいいかな」

「え?あ、ハイ」

すずかを降ろして正面を見据えるカズキ。
何をしてるか最初は分からなかったすずかだが、自然にその意味が理解できた。
少しずつ耳に伝わっていく足音。露わになってくる輪郭。

前から、誰か来る。

それだけで、すずかの小さな全身が震える。
始めに会ったカズキは優しい人だった。次に会ったのは恐怖が形になったような怪人だった。
前者であるのなら安心できる。だが後者だった場合は……その時の惨状が甦る。
分からないということは、それだけで人を恐怖させる。
同時に、正体が自分を襲うモノだと分かるのが恐ろしいという矛盾。その矛盾にすずかの胸中は苦しめられる。

カズキもまた、身を強張らせている。
それは怯えではなく、戦う意思の備え。
後ろにいるすずかからは見えないが、その顔はまぎれもない戦士の顔をしている。
顔も見えない初対面の人を疑う真似など普段のカズキはしたくない。
だが不幸にも―――あるいは幸運にも―――実験開始間もなく会った男の、あまりの邪悪さがカズキの心を離さない。
誰かを傷付ける相手ならカズキには戦う覚悟がある。
今目の前から来る参加者がそうであるのなら、カズキは前に出なければならない。
どれだけ自分の心身が傷付こうとも、それで誰かを助けられるのなら耐える甲斐があると信じてる。
これから会う人を殺人者と疑う良心の圧責も押し殺し、カズキは左胸に収められた核鉄を握るように拳を固める。



朧げだった輪郭は確かな象を持ちながら近づいてくる。
僅かに昇る太陽が、暗闇に包まれた貌を暴く。
その顔に、カズキとすずかは、お互いに異なる意味で釘付けにされた。

「あ、ようやく誰かがいたよパピヨン君!」

「わめくなヴァンプ、そんなことはさっきから分かってる。ああ、分かってるとも……」

現れた姿は、奇しくもカズキ達同様に二人組みだった。
その内の一人は――――――。



「おーい、ちょっといいですかそこの人〜。あ、安心して下さい。僕たちは怪しい者じゃありませんよ。
 ヴァンプっていうんですけど川崎で悪の組織をやっていて……」

創作物染みた造形の頭部。
これもまた一般とはかけ離れた瞳。
ひげ。
たらこくちびる。
どれをどうみても「奇妙」な外見だが、それに反して嫌悪や恐怖の類といった感情は全く湧いてこない。
むしろ親しみすら感じられる、不思議な造形だ。
そしてもう一人は――――――。