THE IDOLM@STER アイドルマスター part5
1 :
創る名無しに見る名無し:
┏ ━ゝヽ''人∧━∧从━〆A!゚━━┓。
╋┓“〓┃ < ゝ\',冫。’ ,。、_,。、 △│,'´.ゝ'┃. ●┃┃ ┃
┃┃_.━┛ヤ━━━━━━ .く/!j´⌒ヾゝ━━━━━━━━━━ ━┛ ・ ・
∇ ┠──Σ ん'ィハハハj'〉 T冫そ '´; ┨'゚,。
.。冫▽ ,゚' < ゝ∩^ヮ゚ノ) 乙 / ≧ ▽
。 ┃ ◇ Σ 人`rォt、 、'’ │ て く
┠──ム┼. f'くん'i〉) ’ 》┼刄、┨ ミo'’`
。、゚`。、 i/ `し' o。了 、'' × 个o
○ ┃ `、,~´+√ ▽ ' ,!ヽ◇ ノ 。o┃
┗〆━┷ Z,' /┷━'o/ヾ。┷+\━┛,゛;
話は聞かせてもらいました! つまり皆さんは私が大好きなんですね!!
公式サイト
ttp://www.idolmaster.jp/ 【アイドル】★THE iDOLM@STERでエロパロ19★【マスター】 (18禁)
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268784991/ 【デュオで】アイドルマスターで百合 その20【トリオで】 (18禁)
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1270289495/ SSとか妄想とかを書き綴るスレ8 (したらば)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/13954/1221389795/ アイマスUploader(一気投下したい人やイラストなどにご利用ください)
ttp://imasupd.ddo.jp/~imas/cgi-bin/pages.html マナー的ななにか
・エロ/百合/グロは専用スレがあります。そちらへどうぞ。
・投下宣言・終了宣言をすると親切。「これから投下します」「以上です」程度でも充分です。
・「鬱展開」「春閣下」「961美希」などのデリケートな題材は、可能なら事前に提示しましょう。
・上記のとおり一行には最大全角128文字書けますが、比較的多数の人が1行あたり30〜50
文字で手動改行しています。ご参考まで。
・「アドバイスください」「批評バッチコイ」等と書き添えておくと、通常より厳し目の批評・指摘を
含んだ感想レスが投下されるようになります(実際んとこ書かんでも充分キツry)。熱く語り
合いたい方や技術向上に適しますが、転んでも泣かないこと。
・(注:読み手の皆さんへ)批評OKの作品が来ても大切なのは思いやりですよ、思いやりっ!
知っていると便利なSS執筆ひとくちメモ
このスレの1レスあたりの容量制限
・総容量4096バイト(全角約2000文字)
・改行数60行
・1行制限256バイト(全角128文字)
バイバイさるさん規制について
短時間での連続投下は10レスまで、11レス目はエラーが返され書き込めません。
アクセスしなおしてIDを変えるか、時間を置いて投下再開してください。
(検証したところ毎時0分に解除されるという噂はどうやら本当。タイミングはかるべし)
その他の連投規制
さるさん回避してもtimecount/timeclose規制があります。「板内(他スレを含む)直近
○○レス内に、同一IDのレスは○○件まで」(setting.txtでは空欄なので実際の数値は
現状不明)というもので、同一板で他所のスレがにぎわっていれば気にする必要は
ありません。とは言え創発は過疎気味ですのであまり頼ってもいられませんが。
上記のさるさん回避後合計12レスあたりで規制にかかった事例がありました。
即死回避がてら小ネタ投下。映像はぷちます準拠で轟。
「やあおはよう律子」
「おはようございますプロデューサー……ってちょっと待った」
「ん? どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたも、なんで貴方がここにいるんですか編集長。というか雑誌の方は大丈夫なんですか?」
「ん〜? なんの事かなフフフ……」
「トボケてももうバレバレですからね。イニシャルビスケットのKさん」
「…………どうしてバレたんだろう?」
「頭がPからKに変わってれば誰でも気付くわー!」
もうファンロード知らない人完全に置いてけぼり。
こーゆーマイナーかつ投げっぱなしジャーマン大好きなんですハイ。
>>1 スレ建てお疲れ様です
>>4 イニシャルビスケットのPと申したか
確かに、ぷちに限らずP頭のプロデューサーを見るとあの人を思い出しちゃいますよね
>>4 スレ建て乙です
さりげなくアミバネタを入れてくるその手腕、お美事にございまする
>>1乙あんど同世代乙www
懐かしいと思って調べたら出版社を変えつつ健在か
>>1乙です
メルヘンメイズ やよいの大冒険第4話いきます、4レス使わせてもらいます
規制の間に話が書けてしまいました…w
前374
千早のあやしげなあたりはやはりあっていいかと
”銀色の四角い板”とかはさすがにやりすぎたかもしれませんが;
前375
千早もさぞ喜んでたことでしょう
でも… やよいはその辺色気とか無さそうじゃないですか、あの下はかぼちゃ(ryだったりして
前393
あ、ワルキューレですか… 言われてみれば狙ってるところは近いかもしれません
第4話 こおりの国 〜雪歩の大事なお友達〜
「段々寒くなってきたね…」
やよいがそうウサギに言いました。
「ええ、今度は氷の国なんです。やよいは大丈夫ですか?」
「うん、でも待ってる人はきっと寒くて大変だから、早く助けてあげないと」
やよいはやっぱり優しいですね。
出てきたのは一面氷の床で出来た島のようなところ。そして、その周りにはとても冷たそうな水が流れています。
さすがに寒くてたまりません。こういうときは運動をして体を温めることにします。
やよいが走ろうとして構えを取ると…
べしょ。
そのままやよいは見事に転んでしまいました。
「うう〜」
うつぶせに倒れたやよいはなんとか起き上がろうと頑張って、何回かの後にようやく立ち上がれました。
でもこれでは到底先に進むことは出来ません…。
それを繰り返すうちにやよいは床の端っこまで。滑って落ちてしまいそうになって、やよいはとっさに
床の端を掴みました。すると…
その端っこだけは床が少し盛り上がっていて、やよいはそこにぶつかって止まることが出来ました。
盛り上がりを掴んで立ち上がると、なんと滑らずに立つことが。
「そうか、それなら端っこを歩けば!」
「普通に歩けますー!」
ちょっと危ないですけど、滑らずに歩けることを考えれば安いものです。気をつけて歩いていきましょう。
走ってくるピンクや水色のペンギンを横目に、ゆっくりとやよいたちは進んでいます。
普通にしていればそんなに危なくは無さそうですが、ここにも女王の手先はいるはずです。
何とかしないと… そう思っていると、氷の床に穴が開いているところを見つけました。
遠目に見て人が2、3人ぐらいは入れる大きさでしょうか、誰かが穴を開けたのに違いありません。
「こ、これは…」
ウサギが驚いています。とにかく行ってみましょう。
穴の側に行くと、そこだけは下の土が見えていて、結構深い穴が掘られていることが見て取れます。
やよいがその側まで行って、
「誰かいますかー?」
と、呼んでみました。すると下のほうで何かが動いて、そして見慣れた人影が姿を現しました。
「雪歩」
「雪歩さん」
二人が同時にそう言います。
「や… やよいちゃん?」
そこにはノースリーブの白い花柄の服、そして何故かスコップを背負った女の子が座っていました。
この子が氷を掘って、そしてこんなに大きな穴を開けたのでしょうか?
「あ… ここだけ大きなひびが入っていたの… ここにいると寒くてたまらないから、こうやって穴を
掘って誰か来るのを待ってたの…」
そういうことでしたか。やよいとウサギもちょっと納得です。
「でも雪歩、ここだけ大きなひびが入っていたということですか?」
ウサギが訊くと、
「うん、まるで何かが落ちてきたかのような感じで…」
そう雪歩さんは言いました…。 何が落ちてきたというのでしょう?
「とりあえず一緒に帰りましょう、ここだとおなかも空きますし!」
「そ、そうだね… やよいちゃんは元気でうらやましいな…」
なんだか落ち込んだ様子の雪歩さんを連れて、やよいたちは出口を探しに行くことにしました。
しばらくすると少しは氷の上を歩くのにも慣れてきました。
雪歩さんが時折バランスを崩したりしてちょっと驚いたり、やよいがジャンプした拍子に転んだり。
そんなことを繰り返しているうちに…
「やよいちゃん! あそこに誰か倒れてる!」
雪歩さんの声に、やよいたちもその方向を向きます。すると…
そこにライトグリーンの服を着た… 女の子でしょうか? 青い髪飾りを付けたその姿を良く見ると…
「真美ちゃん!」
やよいたちの大事なお友達の姿でした。雪歩さんが走って行って、隙間を飛び越え、あっという間に
真美ちゃんのところにたどり着きました。勢いが付いたまま滑っていきますが、それは背負っていた
スコップで上手く勢いを緩めて、落ちる手前のところで止まることが出来ました。
「しっかりして!」
服を着ているとはいえ、真美ちゃんの体は冷たく、顔はすっかり青ざめてしまっています。
このままでは大変なことに…。
「氷の上に倒れていたのでは体も冷え切っているでしょう… 何とかしないと」
でも雪歩さんに出来るのは、ひたすら呼びかけて、そして体を暖めてあげるだけ。
雪歩さんがきゅっと真美ちゃんの体を抱きしめてあげました。こうすれば少しは…
「真美ちゃん、真美ちゃん…!」
返事はありません。
それでも何回も雪歩さんは呼びかけ、体をさすり、抱きしめ…
いつのまにかぽろぽろと涙が流れて、真美ちゃんの顔にぽたり、ぽたり、と。でもそれを止めることもせず、
ずっとそのまま雪歩さんはそうして真美ちゃんを抱きしめていました…。
「…」
「…」
みんなが疲れて眠ってしまいそうになった、その時。
「ん…」
「…え?」
雪歩さんが驚いて声をあげます。ずっと動かなかった真美ちゃんがかすかに動いたような気がしたのです。
「真美!」
「しっかり!」
やよいたちも一緒に呼びかけます。すると真美ちゃんの冷たかった手が少し動いて、まぶたが開いて、
「…ここ、どこ…」
声を出してくれました!
みんな思わず声を出して喜びます。雪歩さんはまた涙を流しながら、
「真美ちゃん… よかった… よかった…」
と、真美ちゃんの手を取りながら…。
「…ゆ、ゆきぴょん!?」
ようやく我に帰った真美ちゃんも、自分がどうしているのかをようやく理解すると、
「わ、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
顔を真っ赤にしながら立ち上がります。元気になったみたいで良かったですね。
「…それで、真美ちゃんはあそこに落ちてきて」
「うん、とりあえず歩いたんだけどさ、すっごく頭が痛くて」
「それで行き倒れになったというわけですか…」
「行き倒れなんてひどいよー」
みんなは集まって、お互いの情報を交換しました。
でも、氷に穴を開けるほどの勢いで落ちてきて無事だったなんて凄いですね…。それはさておき。
「そういえばやよいっち、亜美はいなかった?」
「ううん、ここまでにはいなかったよ」
「そっか… 途中までは一緒に落ちてきたのは覚えてるんだけど」
やよいたちはもう大分歩きました。それでも見つからないのなら、また別の世界にいるということで
間違いないでしょう。
「とりあえずこの先に出口があるはずから、そこに行けば何か分かるかも」
「うん! それじゃぁ…」
そうして更にしばらく進むと、やがて大きな氷の島が見えてきました。
そこには何やら大きな柱が立っています。それ以外には何も無くて、背の高いその柱はとても良く目立って見えました。
よく見ると、それは横に縞模様が入っていて、そして一番上には顔が描かれています。
「これが… ここのボスでしょうか?」
ウサギはそう言って、遠巻きに眺めています。
「とりあえず真美ちゃんはそこで待ってて、まだ体も万全じゃないはずだし」
真美ちゃんにそう言って、雪歩さんがその柱のほうへと少しずつ近付いていきました。
柱の周りには氷の削れたような跡が。それのおかげで、この床の上では滑らずに歩けそうです。
「これだるま落としだよ、やよいちゃん」
「だるま落とし… ですか?」
「うん、こうやって下の土台を叩くと…」
雪歩さんは背負っていたスコップを両手に持って、一番下の赤い部分を叩いてみました。すると…。
その赤い部分が少し動いたような気がしました。そして、その上にある青や黄色の部分も…。
見ているうちに、柱はばらばらになってやよいと雪歩さんの方にぐるぐると廻りながら向かってきました!
「きゃぁぁぁぁぁ…」
「はわわぁぁぁ…!」
なんとか二人は走り回ってそれをかわします。雪歩さんはスコップを引きずったままで。
走ったところにスコップで線が描かれていきます。
ひとしきり回ると、それらの部品は一つのところに集まってきて、また元の柱に戻りました。
「おではタンブラーだど、だど、だど…」
「いたいじゃないかー、かー、かー…」
柱の上の方から声がします。どうやら一番上のだるまみたいなものがしゃべっているようです。
そうしている間にもまた柱がばらばらになって部品がぐるぐると。
「やよい、なんとかシャボン玉を」
「でもどうやって?」
「柱の形に戻ったところを狙うのです!」
やよいは大きくあちこちに逃げ回りながらチャンスを待ちます。回転が遅くなってきたところでシャボン玉を
大きくして、そして部品が集まってきたところにぶつけます。
シャボン玉が当たった部品は吹き飛んでいき、水の中に落ちてしまいます。
何回かそれを繰り返して、ついにだるまの部分だけになりました… しかし。
今度はそのだるま… タンブラーが氷の上を自在に滑って、やよいたちを突き落とそうとしてくるでは
ありませんか。
必死に走り回りますが、タンブラーも大したもの。ますますスピードを上げて二人を追いかけます。
「ちょこまかと足の速いやつめー、めー」
「足の無いあなたに言われたくありませんー!」
そうしているうちに、とうとう疲れてやよいと雪歩さんはその場にへたり込んでしまいました。
「はぁっ、はぁっ…」
寒いところなのでいい運動にはなるかもしれませんが、このままでは…!
と、その時。
「ううっ… 私何の役にも立ってない…」
雪歩さんでした。
俯いているので表情は分かりませんが、何だかとても悲しそうです。背中までふるふると…
「…こ、こんなダメな私は… 穴掘って埋まってますー!」
「穴!?」
その場の全員が唖然として見ているうちに、雪歩さんはスコップを振り上げ、そして氷の上に思いっきり
突き立てました。
氷に金属が当たる、カキィィィン、という音が空しく響きます…。
その音と入れ替わりに、今度は低い音が響いてきます。まるで地響きのような…。
やよいがふと雪歩さんのほうを見ると、ちょうどそこにはさっき雪歩さんがスコップを引きずった跡が。
そこからかすかに聞こえた音、それは
「氷にひびが入った音…!?」
言っている間に、それはどんどん広がっていき、やよいやタンブラーの重みのせいであっという間に足場の
そこらじゅうを覆うほどに。
「ど、どういうこと!?」
「雪歩さんのパワーってすごいんですね!」
「そんなわけないよー!」
でもどうしましょう、このままではみんな海に沈んでしまいます。
「さっきゆきぴょんがスコップを引きずったせいだよー」
真美ちゃんでした。言いながら、大きなアクションで手招きを。
みんなが走って真美ちゃんのいるほうに何とか飛び移り、そして…
「ぬぉぉぉぉ、落ちるーーー!」
正に手も足も出ないタンブラーは、みんなの見ている前で氷と一緒に沈んでいってしまいました…。
「氷に傷を付けると、それに沿って割れやすくなるんだよ」
真美ちゃんがそう言って氷の割れる様を眺めています。
「そうなんだー、真美ちゃんは物知りだね」
「ふふーん、これは漫画に載ってたんだよ、真美は物知りだね〜」
ちょっと得意そうな真美ちゃんを横目に、
「でも… 鏡をどうやって探しましょうか」
ウサギがそう言ってると、割れた氷の間にキラリと光るものが…。
それはそのままやよいたちのほうに流れてきて、そして氷に混じって浮かんだままになっています。
「なんとかこれで次の世界に行けそうですね」
みんなほっと一息です。
「やだ!」
「真美ちゃんは疲れてるんだし、一緒に帰ろう?」
「亜美は真美が助けるの!!」
まだ、鏡は水の上に浮かんだままになっていました。
さっきから、雪歩さんと真美ちゃんがこうして言い争いをしていた為でした。
喧嘩?
そうではありません。
雪歩さんは疲れ切った真美ちゃんをこれ以上ここにいさせたくないから。
真美ちゃんは双子の妹の亜美ちゃんを助けに行きたいから。
二人とも一歩も譲りませんでした。
「困りましたね…」
「ねぇ真美、亜美は私達で助けるから」
「真美が助けなくちゃいけないの!」
雪歩さんが真美ちゃんの手を取って引っ張ろうとしますが、真美ちゃんも足を踏ん張ってその場に残ろうと
します。これではキリがありません。
いつしか、その真美ちゃんの目から涙がこぼれて氷の上に…。
「…分かったよ… やよいちゃん、お願いできるかな…?」
ついに雪歩さんも真美ちゃんの熱意に負けて、その握っていた手を離してくれました。
「ゆきぴょん… ありがとう…」
真美ちゃんはそのまま雪歩さんに抱き付いて泣き出してしまいます。頭をそっと雪歩さんがなでてあげます。
「真美ちゃん…」
「さ、そろそろ行かないと」
ウサギの声に促されて、みんなは鏡のほうに向かいました。
「みんな頑張ってね…。私は手伝ってあげられないけど、応援はしてるから」
雪歩さんがそう言いながら鏡の中へ。そして、やよいたちも…
「亜美… 待ってて、きっと真美が助けてあげるからね」
第4話は以上です
雪歩と真美の組み合わせが個人的に好きなので、こうしてみましたが… いかがでしょうか
雪歩の抱擁でごはん3杯余裕でした
バトルにおける穴掘りスキルは一歩間違えると主役を食っちまうんだが
氷を絡めたことで設定ほぼそのままでうまく消化したね。ここは上手いと思った
ただ、真美の服装描写がちょっと不憫w
ライトグリーンの服、だけで想像するのはなかなか難易度高かったさー
>>13 雪歩と真美は亜美真美バースデーCD以来の仲良しですね。
4話ゲストの雪歩はともかく、描写が少ないにも関わらず真美がよく動いていて
楽しかったです。そしてなんと亜美をヒキに!
次回ゲストなのかもっと先になるのか分かりませんが、これワクワクします。
楽しみに待たせていただきます〜。
前作、霞の掛かった夢の中でではたくさんの感想ありがとうございました。
また新作が出来たので投下させていただきます。
タイトルは「如月千早、オールド・ホイッスルに出演!」
あとがきも含めて7レス使います、良ければ読んでください
「武田蒼一、追突事故に巻き込まれる」
昨日夜11時頃、都内某所で乗用車同士の追突事故が発生
後ろの車の運転者が持病の発作を起こし失神、赤信号で停止していた前の車に追突
この事故で2名が負傷し、その片方が音楽プロデューサーとして有名な武田蒼一氏であった
765プロの事務所でこのニュースを見ていた千早は不安そうな顔でプロデューサーに話しかける
交通事故に何か思うことがあるのか相当動揺している様子であり、無理に平静を保とうとしているのが良く分かる。
「武田さん、大丈夫なのでしょうか……」
「ニュースでは命に別状は無いと言っていたし、きっと大丈夫だろう。だから余り心配しすぎるなよ?」
「しかし……電話?誰からかしら……っ!!」
プロデューサーが動揺している彼女をと話している時に千早に電話が掛かってくる、
その発信者を確認した千早は大変驚いた様子で電話をとり、電話の相手と始めた。
始めは非常に狼狽した様子で話していた千早だったが、だんだんと落ち着いて行き、声も明るくなっていった。
そのまましばらく話込んでいたが、しばらくするとまた声の調子が暗くなり、
その次の瞬間には「わ、私ですかぁ!」と素っ頓狂な叫び声を上げていた
「……いえ、少しだけ考えさせて下さい……はい、それでは」
そういって千早は電話を切り、プロデューサーに話し掛ける
「プロデューサー、確か今日の午後はレッスンの予定でしたよね?」
「ああ、そうだけど?」
「なら、午後のレッスンはキャンセルして頂いてよろしいでしょうか?」
「さっきの電話が関係あるのか?」
「ええ、武田さんから電話があって、仕事のオファーを頂きました」
「仕事ってどんなのだ?」
「オールド・ホイッスルの……プロデューサーです」
事故にあった武田蒼一が入院している病院、
千早は午後のレッスンをキャンセルしてその病院に向かっていた
目的は事故にあった武田のお見舞いと、先程受けたオファーについて詳しい話を聞く事である。
受付で彼の部屋の番号を聞き、その扉を開けると当然のごとく武田が待っていた、
左腕と右足にギプスをつけてはいるが、いつもの表情を保ったままの顔に傷は無く、顔色も悪くは無さそうである。
「やあ如月君、急に呼び出してしまってすまないね」
「いえ、武田さんがご無事で良かったです!」
その後、千早と武田はお見舞いの品を渡したり事故についての話を少々話していたが、
じばらくすると武田が一旦話を切り、二人の方に向き直って改めて話しを始める。
「さて、そろそろ本題に入ろうかな」
「私にオールド・ホイッスルのプロデューサーをして欲しいという話ですね?」
「そう、その話」
千早が確認するように聞くと、武田がうなずき、改めて説明を始める。
「さっきも話したけど、今の僕は左腕と右足、それと肋骨の所々にヒビが入っているらしくてね、
一週間は入院して安静にするように言われたよ。それで……」
話をまとめると、武田は個室を借り許可を取って携帯電話も使わせてもらう事により他の仕事は問題なくこなせるのだが
自身が主導し、司会も勤める番組であるオールド・ホイッスルの撮影だけはどうしようもなく、
代わりに司会を務める人を探していると言う事であった。
「そういう事でしたら、一から構成を考えるプロデューサーでは無く、普通に司会を頼めば良かったのでは?」
「……今回呼ぶ予定だった子は、オールド・ホイッスルに出ることが夢だと公言してくれていてね、
そのためにあらゆる努力を惜しまずに駆け上がって来た子だったんだ、やり方はともかくとしてね」
「ええ……」
「オールド・ホイッスルはその子の夢そのものなのに、僕が出られないから代理で我慢しろと言うのは流石に酷だと思ってね」
「夢そのもの、ですか?」
「うん、司会もゲストも変えるのなら、今回はいっその事番組そのものを誰かに預けようと考えたんだ」
夢そのものと言い切る程の人は珍しいにしても、最高の権威を持つ音楽番組として出演を目標としているアーティストは数多いと聞く、
経緯は分かったとしても、それほどの番組を歌を歌う事しか出来ない自分に任せる理由が千早にはどうしても分からなかった。
「経緯は大体分かりましたが、何故私に声を掛けることにしたのですか?」
「君になら僕の番組を預けられると思ったからだね。僕の知り合いの中で君が一番僕の感性に近い、そう思っている」
「武田さん……」
「それで、返事はどうだろう?急な話だし、無理強いは出来ないけど……」
千早はその問いに暫くの間俯いて考える。とはいえ、ここに来た時点で半ば答えは決まっていた様な物であり、
スケジュールの調整についても既にプロデューサーに頼んである。そして、千早は顔を上げて返事を返す。
「どこまで出来るかわかりませんが、オールド・ホイッスルの名、預からせて頂きます」
「如月君、ありがとう……」
「その代わり、一つお願いを聞いて貰ってもよろしいですか?」
「ふむ、如月君には無理を言ってしまったし、僕に出来る事で良ければ聞こうじゃないか」
「それでは、今回の番組が成功したら私のために一曲作って頂けますか?」
「おや、今日は言われないと思ったらここで言われるとはね」
千早は武田と知己になって以来、作曲家としても有名な彼に曲を作って欲しいと考えており、
何かの機会で会う度に作曲を頼み、軽くあしらわれるのが恒例となっていたが、
このタイミングで言われる事は予想しておらず、少々驚いた様子の武田に対し、
いたずらっぽい笑顔で千早がもう一度聞いてくる。
「どうでしょう?無理強いはできないですが……」
「わかった、すぐにとは言えないが、曲が出来しだい君に送ろう」
「ふふ、ありがとうございます」
武田が少々楽しそうに承諾すると、千早もいたずらっぽい笑みを満面に笑顔に変え、礼を言う。
「それで、早速一つ考えて欲しい事があるけどいい?」
「ゲストに誰を呼ぶか、ですか?」
「うん、その通りだよ」
「ええ、今までの話を聞く限り、本来のゲストの方を呼ぶ訳にはいかないようでしたから」
「理解が早いと助かるね……撮影が四日後と急だから絶対呼べるとはいえないけど、
僕の方で出来る限り交渉してみるから呼びたい人を好きに選んで欲しい」
「呼びたい人……」
オールドホイッスルは基本的にゲストと歌についてトークし、それからゲストのステージと言う構成で行われる、
故にゲストを決めることはその回をどういう番組にするかを決めるに等しい事であり、おいそれと決めれる物ではない
千早も先程のような自分の中で答えの決まった問題とは違い、真剣に考え始める。
「……いや、それでは武田さんの劣化でしかない、歌い手である私にしか出来ない事は……」
真剣に考える千早に対し、武田は黙ってそれを見つめていた、
自分は千早を信頼して番組を預けたのであり、彼女から助けを求められるのでなければ
その考えを邪魔してはいけないと考えて見守るの事に専念しているのである
「高槻さん?……少し違うか……」
千早は時々呟きながら考え込んでいるが、そろそろ煮詰って来た様子であり呟きの内容が一つの方向に向かって行く。
そして、自分の中で出した結論を伝えるべく千早は顔を上げる。
「決めました、私が呼びたいアーティストは……春香です」
「春香……天海君のことかな?」
「ええ、765プロ所属のアイドル、天海春香です」
「君の同僚か、別に僕に遠慮する必要は……いや、よそう。僕は如月君に番組を預けた、
その君がゲストとして天海君を選んだのなら、番組としての理由があるのだろう」
「ええ、今回私が伝えたい事を考えれば、私の知ってる中では春香が一番の適任です」
千早の声には妥協や遠慮の響きは一切含まれておらず、確固たる自信を持って選んだ事を伺わせる。
「よし、実務的な事やスタッフへの連絡は全て僕がするから、何か必要な事があったら遠慮せずに連絡して欲しい」
「はい!」
それから、千早は仕事やレッスンの合間に番組の事を考え、番組スタッフや春香とも打ち合わせを繰り返し、
あっという間に四日間が過ぎていった……
土曜夜10時半、30分後の本番に向けて待機している控え室では
非常に緊張した様子の春香と、落ち着いた様子の千早が打ち合わせも兼ねて雑談を行っていた
「ううう、緊張するよぉ……」
「震え過ぎよ春香、リハーサルは上手く行ったんだからもっと落ち着きなさい」
「でも、生放送だし、音楽番組の最高峰で失敗しちゃったらって思うと……」
「失敗しても大丈夫よ、今回の番組の責任は全て私にあるんだから」
「それ、逆にプレッシャーになってるよぉ……」
「今回の番組の意図はあなたも分かってるでしょう?失敗を恐れてガチガチになられたらそれこそ大失敗になってしまうわ」
「……そうだったね、千早ちゃんの言う通りだったね」
「思い出した?」
「うん、千早ちゃん、もし失敗してもフォローよろしくね!」
「ふふっ、程々にね……そろそろ時間ね、行きましょう」
こんな会話を交わしつつ、番組の本番は始まった。
「今宵も極上の歌をあなたに、司会代行の如月千早です」
いつもは武田が立っている席に落ち着いた様子の千早が立つ。
司会として立つのは初めての筈だが、何年もそこに立っていたかの様に馴染んでいた。
「さて、今回は桜井夢子さんをお招きする予定でしたが、彼女は武田さんに呼ばれた客人であり、
私が出迎えるべきではありません。なので、私は私の客人を呼ぶことにしました」
そこまで言うと千早はゲストが出てくる位置に向き直り、ゲストの名前を呼ぶ
「本日お招きするのはこの方、天海春香さんです!」
「はい!呼ばれちゃいました天海春香です!本日はよろしくお願いします!」
「それでは天海さん、こちらへどうぞ」
「はい、千早ちゃ……じゃなかった如月さん」
そうして二人は並び、番組の進行が始まる、普段のオールド・ホイッスルなら
すぐに一曲歌ってもらってからトークを行うのだが、千早は少し構成を変えて来た。
「それでは早速天海さん……春香のステージに入りたいのですが、
その前に彼女をゲストとして招いた意図について話させて頂きます」
春香は765プロの中でも千早、律子、伊織に次ぐ高い歌唱力を持っているのだが、
デビュー当時の独特な歌い方のイメージが強いのか、未だに彼女を音痴と認識する物も多い。
そんな色眼鏡を掛けられたままでステージを見られては意図は伝わらずに「やっぱり音痴だな」で終わってしまう。
それを避けるために千早は最初に解説の時間を取ったのである。
「私は、武田さんからこの番組の代行を頼まれた時に武田さんと同じ様に技術や音楽観を語ろうと考えていました」
「うんうん」
「しかし、私は知識や技術では武田さんには到底かないません、そのままではただの劣化コピーに過ぎません」
「それで?」
「そこで私は考えました、武田さんと私の違い、私にしか出来ない事を」
「……それは?」
「それは、現役の歌手として、歌は楽しい物だと言う事を伝える事です」
「うん、歌は楽しいよね♪」
「ええ、歌は誰もが楽めるものです、決して一部のプロのみが独占する特殊技能ではありません」
「そうそう、上手い下手は関係ないよ、自分の心に任せて声を出せば楽しいんだよ」
「そして、本当に心から楽しんでる歌は他人も楽しくさせる事ができます」
「うんうん、そうだよね」
「確かに、春香は私の知る人の中で一番歌が上手い訳ではありません」
「むぅ……事実なんだけどね……」
「しかし、春香は私が知る限りでは一番純粋に歌が好きで、歌を楽しんでます」
ちなみに、千早の中では歌を楽しめる人としてやよいも候補に入っていたのだが、
より純粋にステージが、歌が好きな人として最終的に春香を選んだのである。
「心の底から楽しんでる歌は聞いている物も楽しくさせる、それを春香の歌で感じて下さいそれでは一曲目をどうぞ」
「みんなーっ!静かに聞く必要なんてないからねーっ!歌いたくなったら我慢しないで一緒に歌ってねーっ!」
そうして始まったステージは、長い前口上を裏切らぬ物であり、心の底から歌を楽しんでいる事が伝わり、
聞いた物が思わず歌を口ずさみたくなる、天海春香の魅力を十二分に引き出したステージであった。
その後のトークパートでは、春香が専門的な音楽論についていけないので事務所でしているような緩い雰囲気の雑談となり、
オールドホイッスルが目指す物とは違うものの、非常に魅力的な物となっていた。
そして、最後のステージでは、リハーサルでは春香一人で歌っていたのだが、途中で春香が千早を誘い即席デュオを結成、
図らずもトップアイドル同士の夢の共演が実現される事となった。こうして、無事に番組が終了し、後は反応を待つだけとなった。
数日後のテレビ局、そこで千早と退院した武田は今回の事について話し合っていた
「平均視聴率21.7%……秋月君の時を除いたら今年で一番だね」
ちなみに、平常時の平均視聴率は16%程度であり、秋月涼の男性カミングアウト回は平均視聴率で51.0%を記録している。
「視聴率が高いのは司会が違う物珍しさも手伝っているでしょうから……それよりも、武田さんから見てどうでしたか?」
「歌は歌われてこそ歌……僕がずっと伝えてる事を僕とは違う形でまっすぐ伝えてくれた、とても素晴らしかったよ」
「そう言って頂いて光栄です」
「これは僕の引退も近いかな……?」
「えっ?」
「そう、君にオールドホイッスルを継いで貰って隠居も悪く無いと思ってね」
「そんな!引退なんてまだ早すぎます!」
武田の突然の引退宣言に驚き、すぐに引きとめる千早、
それに対し、武田は真顔のままで声のトーンを変えて前言を撤回した。
「冗談だよ、少なくとも感性が錆付かない内は現役でいるつもりだからね」
「もう、武田さんの冗談は冗談に聞こえなくて困ります!」
「でも、君にオールド・ホイッスルを継いで貰いたいって言うのは結構本気だよ」
「えっ?」
「まあ、15年は先の事だろうけど、頭の隅にでも置いてて欲しいかな」
「……まあ、検討はしておきます」
「そろそろ時間だね、次は曲ができたら連絡するから」
「ええ、お願いします」
千早が少し気が抜けた返事を返すと、武田はゆっくりと別の部屋へ向かっていった。
そして、千早は武田に言われた事を反芻しつつ、遠い未来を考える、
近い内に海外に活動基盤を移し、世界を相手に自分の歌で挑戦を続けるつもりだが、流石に15年も先の事を考えた事は無い。
15年後なら自分は30歳、その時の自分は挑戦が成功して世界の歌姫として活躍しているのか、
はたまた日本に戻り、落ち目の歌手として細々と活動をしているか、
もしかしたら、芸能界とは完全に縁を切り、息子や娘に子守唄を歌う日々もありえるかもしれない。
そんな漠然とした未来像の中で、歌を守る砦を受け継ぎ、後進を育てる音楽の守護者の姿が一瞬だけ見える。
「そういう未来も良いかもしれないわね……」
そうして、千早はしばしの間、空想の世界を羽ばたき続けていった……(終)
以上です、今回の話は個人的に武田さんは高ランクの千早をそのまま大人にした感じじゃね?というイメージがあったので、
じゃあ千早にオールド・ホイッスルをやらせたら何をするだろう、と考えた妄想を膨らませて話にしました。
個人的にオールド・ホイッスルは30分番組で数年前の堂本兄弟に近いイメージで考えています、アレをさらに音楽に特化させた感じで。
他にポイントを箇条書きで書くと
・春香の歌唱力が千早・律子・伊織に次ぐと言う点は初期ステータス(アケ版準拠)で決めています、
ここを書く時に確かめるまで伊織より初期Voが高いと勘違いしてたのは内緒
・やよいを候補に入れたのはミンゴスは別に関係せず普通に楽しそうに歌う子を考えた時の候補でした
・いわゆる武田語録を使わない武田さんは非常に難しかった、落ち着いた大人のイメージで書いたけど、
もう少し偏屈な感じの方がらしかったかも
・やはり地の文に対しての会話文の多さが気になる、読んでいてどう感じましたか?
ここまで読んで頂きありがとうございました、よろしければ批評、感想等をお願いします。
批判、指摘も歓迎ですが、やめろと言われると凹むので一生ROMってろくらいで勘弁して貰えれば嬉しいです。
以下は前作「霞の掛かった夢の中で」のレス返しです、アンカーは全て前スレの物です
>>279 りゅんりゅんENDのキモは少しでも踏み込めばすぐに壊れてしまう、あるいは既に壊れている状況を
軽やかに淡々と書いてる「薄気味悪さ」にあると思っているので、何の決着もつけなかったのは意図したものです。
後はキャラ、特に夢子の整合性についてはぶっちゃけDSつけてそこから文章をメモしてガン見してたので
偉いのは自分では無くて坂本さんだったりしますw
>>280 文体についてはもう少し読みやすいというか、地の文で情景を書く方法を身に着けたいところなのですが、
今作でも状況説明程度にしか使ってない点で変わってないのが反省点ですね。
物語が出来事の羅列になっている点も改善して行きたいのですが、中々難しいです。
>>281 りゅんりゅんENDは抱腹絶倒のギャグENDであると同時に最高クラスの鬱ENDでもあるところが魅力だと思います。
>>23 6/7前半の会話は春香の相槌をもう少し減らして
代わりに地の文で春香の反応をコミカルに追うと良かったかも
律儀に1節ごとに春香は一言挟んでるからちょっとうるさくなってるw
春香のかわいいところは身体全体で感情表現する仕草にもあると思うので、
こここそ地の文の出番じゃないかな
会話比率は特に気にならなかった
つーか視聴率が全体的に化け物すぎてワラタw
面白かったよー
51%ワロタ
全く余談だけど今の病院は大抵入院患者さんの部屋は教えないよ
表向きは患者さんのプライバシーの保護、
実際には身内だとおもったら犯罪者/借金取り/内縁の妻・夫だった、みたいな
ド修羅場をさけるためね
26 :
96p:2010/04/17(土) 13:55:09 ID:VyKQ7hDm
前スレでの感想、ありがとうございました。
>>355 感想の感想を書きたいくらいに内容をほとんど見透かされてしまっていて、レスを読んでいてかなりびくびくしました。
身長の件はなんとも面目ありません。ゲーム画面のイメージで書いてしまうのは危険だということを思い知りました。
今度お詫びにこっそり後日談を…。しかし「しばらくよそに預けられてた猫」という表現は、なんとも上手すぎです。
>>367,393
感想ありがとうございました。響は可愛いヤツだと思います。…自爆するところとか。
それでは、また一本書き込ませていただきます。三分割です。
音無小鳥はたった今閉まったばかりのドアを見ていた。アイドルを何人も担当しているせいで、
あんなに忙しいというのに、プロデューサーである彼は一日に何度も会社に戻ってくる。
だがその滞在時間はごくわずかで、今しがたちらりと姿を見かけたと思ったら、もういなくなっている、
そんなすれ違いのようなコンタクトばかり。ずっと以前のように、仕事もそんなになかったころなら、
へたをすると一日中会社で彼と一緒だったこともあったのに。小鳥は会社の繁盛と、しじゅう彼の顔を
見られることを天秤にかけたらどっちが重いだろうと、ボールペンを片手に持ったまま考えた。
でも彼はどうしてそんなに頻繁に会社に帰ってくるんだろう。どう考えても、現場から現場へ
移動した方が便利で早いはずなのに、わざわざ遠回りをしてまで、会社を経由して行くことが非常に多い。
何か理由でもあるんだろうか…たとえば、誰かに会いに来ているとか…。
小鳥はそこまで考えて、首を振った。今うちには朝から晩まで常駐しているようなアイドルはいない。
まさか…いやそんなことはない。小鳥はもう一度首を振り、頭にちらりと思い浮かんだ、自分に都合のいい
考えを追い払おうとした。彼はもう一流のプロデューサーだし、彼の手がけたアイドルも彼のことを
みんな慕っている。業界でもすっかり名の通った人になってしまい、他社のアイドルの中にも、彼の事が
好きと公言している人さえいるくらいだ。そう、彼はなじんだこの会社が好きなのだろう、多分。
自分をここまで育ててくれた社長を敬愛しているのだ。それだけのことだ。小鳥はため息をつくと、
また自分の仕事に戻った。
「ただいまー」
お昼を過ぎて、また彼の声が、人の少ない事務所に響いた。午前の仕事が終わっても、午後の
仕事場所へ直接向かわず、また一度ここへ戻ってきたようだ。
「おかえりなさい」小鳥は彼に向かって首をかたむけた。
「あー、腹減りましたよ」彼は手近なイスに腰を落とした。
「え、お昼まだなんですか?」
「そうなんですよ。ちょっと時間なくて食いっぱぐれちゃって」
「私もさっきまで電話に追われて、お弁当食べてるひま、なかったんです」小鳥は期待のこもった声を
出した。
「あ、じゃあオレ、自分の分をなんか買ってきますから、お昼一緒に食べませんか」
「はい、それじゃ私、お茶をいれておきますね」小鳥はいそいそと立ち上がった。彼の仕事が忙しいとはいえ、
今日のように、たまに昼ご飯を一緒に食べたりすることもあるし、午後のお茶を一緒に楽しむこともある。
単なる同僚同士の付き合いでしかないのに、小鳥はいつだってどきどきしてしまう。
28 :
2/3:2010/04/17(土) 13:57:15 ID:VyKQ7hDm
「小鳥さん、お茶、ごちそうさまでした。それじゃ、行ってきます」プロデューサーはお昼を終えると、
また出かけて行った。
「行ってらっしゃい」
小鳥は閉まりかかったドアに向かってそう言ってから、彼の湯飲み茶碗を片づけようと立ち上がった。
手に取った彼の茶碗をじっと見つめ、小鳥はまたため息をついた。果たして、自分の気持ちに彼が気づいて
くれることはあるんだろうか…。見たところ、彼は小鳥の気持ちには全く気づいていないように思われた。
それはもちろん自分にも責任がある。あまり表だってそんなそぶりを見せてしまうと、社内にもいろいろ
影響が出るだろうし、第一、そのことで彼の態度が逆によそよそしくなってしまったりしたら、それこそ
目も当てられない。
こちらから好きだというそぶりは見せることができないのに、相手には気づいてもらいたい、小鳥はそんな
歯がゆさをいつも感じていた。しかも、彼はこういうことに関してはとても鈍感らしく、小鳥の気持ちを
汲んでくれることなど、ありそうにもなかった。
いや、それを言うなら、社長だって、あまり自分たちの気持ちを理解してくれていないことが多い、
小鳥はそう思っていた。
自分が早く帰りたがっている時に限って、社長は仕事をたんまりよこしたりするし、またそんなときに
限って、誰も手伝ってくれる人がいなかったりする。
「あの、社長、実は今日、私…」
「おお、音無君、いつもすまんね、じゃあ私はちょっと用事があるから、先に帰らせてもらうよ」
「あの社長、明日なんですけど…」
「そうそう、明日は特に忙しいから、音無君、君もがんばってくれたまえ」
とまあ、そんなことばかり。いったいこの会社には、人の気持ちをちゃんと理解してくれる人は
いないんだろうか…。小鳥は「はあ…」と声を出してもう一度ため息をつき、茶碗を片づけてから
仕事に戻った。たまに鳴る電話を受けながら、彼女は広い事務所でただ一人、黙々と仕事をし続けた。
一段落ついたところで、小鳥は立ち上がって大きくのびをし、ちょっと気分転換でもしようと、
誰かが読み捨てていったらしい雑誌を手に取った。後ろの方からぱらぱらとめくって見て、持っている本が
結婚情報誌だったことにちょっとびっくりしたが、そのまま読み続けた。
「あれ、小鳥さん、その雑誌って…」
「えっ!」
いつの間にか、またプロデューサーが事務所に戻ってきていた。小鳥は雑誌を乱暴に隣のテーブルに置いた。
「や、やだなあ、プロデューサーさん、どんなことが書いてあるか、ひまつぶしに読んでただけですよ」
そう言った彼女のデスクの上には、まだ処理を待っている書類の束が山のように並んでいて、とても
ひまそうには見えなかった。ところが、彼はそんなことを気にもせず、さっきの結婚情報誌をじっと見つめ、
何か考えているようだ。
29 :
3/3:2010/04/17(土) 13:58:00 ID:VyKQ7hDm
「午後のお仕事は終わったんですか?」小鳥は話を変えようとした。
「ええ、あとは夕方にスタジオ入りするだけです」
プロデューサーはそう答え、さっきの情報誌をまたちらりと見た。それから顔を上げ、真剣な表情で
小鳥に話しかけた。
「小鳥さんは、ずっとこの会社にいるつもりなんですか?」
小鳥はちょっとカチンときてしまった。この会社で仕事をするのは確かに楽しい。彼が入社してからは
なおさらだ。だがその彼自身からそんなことを言われた小鳥には、
『ずっと独身のまま過ごすつもりなんですか、小鳥さんは。いやいや恐れ入りました』
という皮肉のように聞こえてしまった。だれも好きこのんで独身を貫き通しているわけではないというのに。
しかも他ならないプロデューサーがそれを打ち破ってくれたら、こんなうれしいことはないとさえ思って
いるのに。
「いるつもりはありません」小鳥はぷいっ、と顔をそむけて言った。
「えっ」プロデューサーは少しうろたえたように見えた。小鳥はそれを見て、自分が生涯独身の上に、
ずーっとこの会社にいるものだと、プロデューサーがはなから決めつけているように思え、ますます
意固地になってしまった。
「わ、私だって、その気になったら、なんとかなるんですよ?」
「えっ」プロデューサーはまた言った。小鳥はどうしてそんなに驚くんですか、私がそんなこと言ったらそんなに変ですか、とまたまたカチンときてしまった。
「それじゃお聞きしますけど、プロデューサーさんは、私が結婚して退社するのと、ずっと会社にいるのと、どっちがいいと思ってます?」
「え?そ、そりゃ…いやでも、ええと…」彼はしどろもどろになった。
「どっちです?」
「その…結婚しても会社にいるほうが…」
「それは無理じゃないでしょうか。私だって、うちでダンナさんの帰りを待っていたいですしね」
小鳥はえへん、と胸をそらした。制服のボタンが、きゅっ、と悲鳴を上げた。
「い、家じゃなくて、か、会社で待ってるっていうのはどうでしょう?」
「はい?」小鳥は彼が何を言いたいのかわからず、ぽかんとしていた。
「あ、いや、その…いいんです、気にしないでください」彼は疲れたように肩を落とすと、壁に
もたれかかった。「自分の言いたいことを正確に人に伝えるのって、むずかしいもんですね…」
「うちの会社って、人の気持ちに気づかない、ニブい人ばかりですもんね」小鳥は少し皮肉を込めて言った。
「それって、小鳥さんも入ってますよね?」彼は苦笑いしたまま、右手で指鉄砲を作ると、小鳥に向かって
撃つまねをした。
end.
ちょっと質問なのですが、このスレに投下する作品に固有名詞付のオリキャラはやはり敬遠されるのでしょうか?
今書こうとしてる妄想があるのですがPが複数になりそうで呼び方に困ってたりします。
プロットや舞台設定をいじるべきなのか、うまい表現で名前を呼ぶのを避けるべきなのか、気にせず突っ切るべきなのか
ご意見いただけると幸いです
>>26 ああもう結婚しちゃえよこのバカップルwww
いいお話でしたw普段フラグクラッシャーだ朴念仁だニブチンだと言われるPですが、確かに
Pにだって想い人はいる筈。それが担当アイドルなのか事務所のお姉さんなのかは本人にしか
わからないのですねえ。まして若くてきれいなアイドル勢を向こうに回して若干自虐入っちゃってる
となると、ちょっとしたサインなんかも悪い方に取りがちですね。
人の心はなかなかに思うようには行かぬなり、でございます。とりあえずプロデューサー、
オレカッコイイポーズとか取ってないではっきり言ってやんなさいw
楽しゅうございました。
>>30 名前付きオリキャラ、構わないと思います。
キャラスレなどでは『P=俺』であり他の人物などたとえ他アイドルのPであろうと登場させたく
ない的なスタイルになるので、出演させたところで「やあ雪歩P」「なんだい亜美真美P」てな
もんでしょう。一方ここは一応創作スタンスで作品をものするスレですので、『無理に固有名詞を
使わないこと』が不合理であれば、正々堂々と名前をつけてやればよいかと。
ただまあ個人的には逆に『無理に固有名詞を使う』必要もないとも思っていて、そこいらは
各書き手のさじ加減ですねえ。
「なあ律子、聞いたか?ほら――」
プロデューサーが口にしたのは天海春香をプロデュースしている後輩の名だった。
「あいつな、面白いぞ」
くらいの描写で済むなら、俺なら「○○のプロデューサー」で通します。
彼ら同士が名前を呼び合うシーンが必要だったら、まずは
「先輩、あなたはそれでいいと思ってるんですか!」
「思ってるさ。よく聞け新入り」
三浦あずさのプロデューサーは不敵な笑みを見せ、続ける。
「芸能界に味方なんか、ただの一人もいないんだよ」
といった代名詞で用が足りないか検討します(俺の書いたものだとだいたいここまででOK)。しかし、
作中で彼らが人を「○○さん」「○○くん」等と名前で呼ぶパーソナリティだったらもう躊躇する
必要はないと思います。ただ、そういう人は他の人のことも名前で呼ぶと思いますので(例えば
番組共演者とか局のディレクターとか)、ちょい役の面々にも名前をつけることになるかもですね。
楽しい作品をお待ちしております。
結婚情報誌が誰のかを想像するとまた面白いなw
オリキャラだけど
アイマスキャラが主役張ってるなら名前アリでも平気
単純に、作中効果として考えた場合。
ゲーム中のPと同様の設定、同様の性格なら、名前を付けない方が感情移入しやすい。
逆に、独自設定(性格含め)を持ったPなら、名前を付けた方がわかりやすい。
ただ、後は作品の長さの問題かな。独自設定入れるならそれなりの長さがないと意味がない。
やよいの大冒険4話の感想ありがとうございました
>>14 穴を掘りまくるあの力なら氷の床だって… というのはさすがに無茶だったかもしれません(?)
真美の服の描写は反省のしどころですはい;
>>15 亜美真美の扱いはいろいろ考えてこうしてみました
ただあんまり引っ張っても意味が無いので、次回で亜美は出てきます
35 :
(0/11):2010/04/20(火) 21:44:51 ID:5ga0Nfy6
SS投下します。11レスお借りします。
>>30の方の名誉のために申し上げておきますが私は
>>30ではありません。
が、名前付きオリキャラプロデューサー注意です。
もうはっきりと陽射しは傾いたが、まだ夕暮れには早い。そんな時刻に、ときどき出会
える光景だった。蒸気は少なく、澄んだ空は深く透き通った独特の青みを見せ、ちぎれ雲
に反射する日の光がオレンジ色を帯びて何となく夕方の海を思わせる。
きれいだ、と雪歩は思った。車から降り、すぐに目が行った景色に、雪歩はしばし見と
れていた。心底美しいと、――それ以外のことは忘れていた。
「きれいだなぁ」
「あっ、はい。……とっても、きれいです」
いつの間に三井が隣に来ていた。雪歩のプロデューサーである。雪歩は空を見上げるの
を止めて三井の方を向いたが、それでも見上げることには変わりない。近くにいるときは
特にそうである。雪歩と同じように見とれた風のプロデューサーの横顔が見えた。
――嬉しいな。
さきほどまでの感動はもう霞んでしまって、ひとつの共感を得た喜びが雪歩の胸をあた
ためた。
三井が行こうか、雪歩のほうを見た。雪歩は目で返事をし、二人して事務所へ入ってい
った。
今日はもう仕事は仕舞いである。とはいえ身内でのミーティングと新曲のレッスンの一
部は残っているが、それらはいわば所属の事務所内、通いなれたスタジオでも、いわばホ
ームグラウンドで出来ることである。雪歩はこのところようやく上昇の気配が出て、隙を
逃せない時期だった。大口とはいえないが向こう様から声がかかることが増えてきた。そ
のため休みが減った雪歩への、負担をなるたけ軽減しようというプロデューサー苦心のや
りくりだった。
これだけでも雪歩にはありがたいことだった。外の仕事はやはり緊張し、疲れる。それ
でも以前と比べたら楽しめているはずだと雪歩は思うのだが、やはり自信は持てない。
――でも、そういうことにしておこう。
落ち込んでしまうよりはましだ、と雪歩は思った。こうやって多少曲りなりにしても前
向きに考えられるようになってきただけで進歩だろうとも思う。今日の仕事も特に上手く
いったわけではなく、いっぱいいっぱいでとてもプロデューサーほかを十分に満足させた
とは思えない。後悔は尽きない。今後の行く先は不安で仕方がない。しかし特別失敗しな
かったのだから及第。美しい空が見られた幸運を足して今日は合格。良いことだけを数え
ればいい。そうだ、落ち込むことはない。落ち込むことは……。
疲れる考え事は止めて、雪歩は別のことを考えることにした。今日は春香のオーディシ
ョンがあったことを思い出す。
春香は雪歩と同期のアイドルで、雪歩とは逆に最近停滞していた。スランプではなくプ
ラトーだと三井は言っていたが、雪歩には意味はよく分からない。全体としては発展途上
の勢いはあり人気に陰さすほどではないが、パフォーマンスが上がらずステップアップし
た先のオーディションに連続して不合格の日々が続いている。そのせいなのか、イベント
やテレビでもミスが増えてきていると他の事務所のアイドルの口から雪歩の耳に入るほど
だった。
そうとはいえ、雪歩はずっと低空飛行だったため初めからある程度順調に伸びた春香と
は今でもまだ差がある。しかしそれを埋められそうな予感を雪歩とプロデューサーは掴ん
でおり、だからこそ頑張れるということもあった。
――春香ちゃんと話できる時間、あるかな。
一度春香のことを考え出すと、雪歩はたまらなく恋しくなってきた。仕事が忙しくなる
につれ、無二の親友と会える時間は減っていた。雪歩には春香に聞いて欲しいことがたく
さんあった。
――でも……。
オーディションの結果如何ではあるが、春香も、いや春香の方が今は苦しい時期のはず
だった。またいつまでも泣き言を言う自分では春香に申し訳ないと雪歩は思った。それに
自分は進歩したんだと、さきほど自分に言い聞かせたばかりである。弱ってはならない。
頑張らなくては……。雪歩は春香の笑顔を思い浮かべ、春香ちゃんみたいになるのは大変
だなぁ、とひとりごちた。
ただいま戻りましたと口々に言って事務室に入ると、事務員の小鳥と、雪歩たちと同じ
く今さっき帰ってきたらしい春香とそのプロデューサー、吉川が立ち話をしているところだった。
気付いた小鳥があら、雪歩ちゃんたちも、おかえりなさいと言い、春香たちもそれに続
いた。雪歩たちも改めてただいまを言った。あたたかい職場だった。小さな事務所で、互
いに知らぬ人間などいない。
「雪歩、俺はこれから社長へ報告があるから、先に休憩しててくれないか」
と三井が言った。雪歩がはいと答えると、三井はおいお前もまだだろうと吉川に声をか
けた。
「二人して行くのか」
「ああ」
「嫌だよ。なんで大人が二人して……それに俺はお叱りを受けに行くんだぞ」
どうやら春香はオーディションは落ちたらしかった。雪歩は沈痛な思いがした。
「聞きたいな」
「黙れ」
「いいから。お前は部屋の前で待ってればいいんだ」
「なぜ俺が待つ。俺はまず春香と反省会を……」
そこまで言って、吉川は一呼吸置いた。そして続けた。
「わかったよ。行くぞ」
春香は休憩室で待機だ、と言い残して吉川は先にたって歩き出した。三井がそれに続く。
「はい。待ってまーす。じゃ、雪歩も行こっ」
言うなり春香が雪歩の肩に手を置きくるりと回転させた。
「うん。あっ、ちょっと……」
「ね、ね」
春香は電車ゴッコをするような形で雪歩を押して行った。その無闇に元気で子供っぽい
行動に、春香ちゃんまた無理してるな、と雪歩は思った。
休憩室とはいっても建物の構造として個別に部屋があるわけではなく、事務室の隅に仕
切られた空間である。作り付けの摺りガラス塀で囲われており、正しくは応接用と思われ
る古ぼけたビニールレザー張りのソファーはところどころひび割れ、破けて中のスポンジ
が見えている。もとは喫煙ルームであったらしく換気扇と、ほんの微かに煙草の匂いが残
っていた。
入るなり、雪歩は春香にそのまま後ろから抱きかかえられた。後頭部に春香の額がこつ
んと乗せられたのが分かった。
「あのね、雪歩ぉ……」
――ああ、やっぱり。
春香の声は普段より少し細かった。雪歩の胸がまた痛んだ。
「うん。なぁに?」
雪歩は努めて優しく聞いた。
「うー……またオーディション落ちたぁ」
春香は雪歩に預けた体重を元に戻すと、ため息をついた。
「うん……」
辛いとき、苦しいとき、落ち込んだとき、雪歩と春香は互いに頼りあうのが常だった。
プロデューサーというパートナーがいない候補生時代から苦楽を共にしてきた間柄である。
デビュー後にしても、“少しばかり”年上の新人プロデューサーより友達の方がずっと信頼
できた。やがてパートナーとの信頼関係が生まれ、またそればかりでなくそれぞれにプロ
デューサーに淡い恋心を抱くようになったが、相談相手に友達を選ぶことは変わらなかっ
た。
話を聞いてやるべく、雪歩は自分の肩に置かれた春香の手をとり、春香に向き直った。
案の定、眉が八の字になっている。
「それでね……」
今度は雪歩の手を両手で握り、春香は続けた。
前回も自分より上位だった子にまた負けたこと、審査員につまらないと言われたこと、
控え室で誰かが自分を名指ししてあの子もうダメなんじゃないと言ったのが聞こえたこと、
プロデューサーの指示をステージで度忘れしてしまったこと、レッスンで出来ていたこと
が出来なかったこと、プロデューサーの自分の見えないところで苦い顔をしていたのを見
てしまったこと、なのにその後叱られなかったこと、そして頑張ってるのにまたダメだっ
たということ、それがつらいということ……。
うん、うんと言って頷きながら聞く雪歩にひとしきり愚痴をこぼすと、春香はふうっと
一息ついた。そして俯けていた顔を上げると、すでににっこりと笑っていた。
「うん、でもこんなことで気を落としてられないよね。雪歩に話聞いてもらって気持ちの
整理ついたよ」
ありがと雪歩、と言って春香は雪歩の頭を軽く撫でた。
「あっ、うー……春香ちゃん……」
年下に可愛がられるのは自尊心に触る。雪歩は嫌がって見せたが春香がそれを受け入れ
てくれたことはない。
「いーじゃん、可愛いんだから」
ねッ、と春香はにっこり笑って言った。
――もう笑ってるし。
春香はいつもこんな風で、立ち直りが早い。落ち込んだりしても自分で元気を出せる強
いひとだった。私も春香ちゃんみたいになりたい、と雪歩は思う。ううん、ならなきゃ。
――でも……。
雪歩は春香をじっと見つめた。いつもめそめそと弱気だった頃は元気を出すということ
がいかに大変なことか知らなかったが、今は違う。報われない輪の中で、春香は何を糧に
しているのだろうか。
「ん?どしたの?」
と春香が言った。とても愛嬌のある可愛い顔だった。この顔をするために、一体どれほ
ど頑張っているのだろう、と雪歩は思った。
空元気も元気のうちという。それならそれでいいのかもしれないが、いつまでもそれで
は……。
「え?何?な、なんか照れちゃうなぁ」
春香はひょいと目を逸らした。
「ねぇ、春香ちゃん。疲れちゃっていいんだよ」
雪歩がそう言うと、え、と漏らして春香は黙り込んだ。春香らしい――とはいえ素直す
ぎる反応はやや意外だったが、雪歩は春香が自分のことを励ましてくれるときを思い出し
て、ね? と笑ってみせた。
春香は、あ、でも、と躊躇うそぶりを見せたが、やがてうん、とうなづいた。
「うん……疲れちゃった」
「うん」
「ねぇ雪歩ぉ……、私もう疲れたよぅ」
「そうだね。疲れたね」
雪歩が腕を広げてやると、春香はすぐ抱きついてきた。その頭を撫でてやりながら、本
当にこう言って欲しかったのは私なのかもしれない、と雪歩は思った。
――本当は、私が甘えたかっただけかもしれない。
ヒトの体温と匂いに、自分自身もゆるゆると解れていくのを雪歩は感じていた。
「よしよし。座ろ、春香ちゃん」
うんと言って抱きついたまま動かない春香をソファーに座らせ、雪歩は自分も横に腰掛
けた。
春香は雪歩の肩にもたれ、目を閉じた。春香に元気がないのは心配ではあったが、自分
が頼られる側なのは悪い気がしないと雪歩は思った。いつも自分が頼ってばかりでは居心
地が悪い。雪歩は、自分が春香に何かしてやれるのが嬉しかった。
「……ありがと、雪歩。プロデューサーさんに、こんなこと言えないし、……お母さんに
も、言えなくて……」
「うん、そうだよね」
明るいのが常の春香だけでなく、泣き虫である雪歩でさえ――だからこそかえって――
事務所の大人たちに面と向かって弱音を吐くのは憚られることだった。信頼しているとは
いえやはり彼らとは仕事上の付き合いであり、プロのアイドルとして、一個の大人として
個人的なことで気を煩わすのは気が引けた。それに反対を押し切ってアイドルになった手
前、家族にもそうそう甘えられるものでもない。なにより、自分の味方に格好悪い姿を晒
したくないという、そういう気持ちがあった。
「春香ちゃん、アイドルやるの、大変だよね」
と雪歩は言った。雪歩と春香が今まで互いにもう何度も交わしたような愚痴である。
「うん」
「レッスン、厳しいし」
「うん」
「意地悪な人いるし」
「うん」
「ファンの人、移り気だし」
「うん」
「オーディションって、あれイジメだよね」
「うん」
「お仕事長いし、遊ぶ時間ないし。仕事先の人と上手くやってくの疲れるし」
「うん……」
「もうアイドルやるの嫌?」
このあとに『負けてられない』などと続けるのが慣習だった。雪歩は春香に縋って泣き
ながら、そして春香は雪歩に笑いかけながら。
「……うん、嫌かも」
しかし、拗ねたように春香は言った。それが素直な気持ちなのかどうかよく分からなか
ったが、良かった、言ってくれたと雪歩は思った。
「そっか、よしよし。じゃあアイドル辞めたい?」
「……。プロデューサーさんとお別れするのは、やだなぁ」
やや冗談めかしたような春香の言い方に、雪歩はなんだほんとに大丈夫なんだと安心し
た。やっぱり春香ちゃんだ、と思った。
「あはは、春香ちゃんはほんとに吉川さんのこと好きだね」
「雪歩だって。……ねぇ雪歩、もっと……」
「ん?」
「もっと撫でて」
「うん、いいよ。いっぱい撫でてあげる」
小さい子供のような甘えた声を出した春香を、雪歩は姿勢をずらして胸に抱えた。自分
より少し背の高い少女を支えるのは少々骨だったが、頭を撫でいい子だね、大変だったね、
頑張ったね……と声をかけてやる。
「うん、雪歩、私がんばったよ」
「うん。春香ちゃんはがんばってるよ。春香ちゃんはすごいよ。辛いときでも頑張れて、
笑顔になれて……私じゃ、全然真似できないよ。私いっつもすごいなぁ、えらいなぁって
思ってるよ。……だからごめんね。いつも私ばっかり春香ちゃんに甘えて」
「いいよ、そんなこと。私だって雪歩に愚痴聞いてもらってるし」
「ううん、春香ちゃんはもっと力抜かないとダメ。私、がんばるから。ね? 春香ちゃん
の力になれるように……」
雪歩は春香の髪を梳きながら、春香ちゃんが年下らしく見えるなんて、ちょっとおかし
いなと思った。春香がなんで今笑ったの、と言った。なんでもないよと雪歩はごまかした。
「ふぅん。……なんかヘン」
「何が?」
「雪歩がお姉さんみたいで変。頼れる雪歩なんて雪歩じゃない」
「ええ〜っ」
雪歩はむくれてみせた。春香もいらずらっぽく笑う。
「でも、うん、これからは、遠慮しないでいいかな。ダメダメ雪歩じゃなくなったみたい
だし」
「えっ? あっ、でも、私も……」
――あうぅ、どうしよう……。
雪歩は思わず慌てた。ひょっとして、これからもずっとこの役割なのだろうか。それは
困る。しかしついさきほど頑張ると言った手前、春香に助けて欲しいと言うのはおかしい。
そんなことを考えると、雪歩は自分がみるみるうちに不安な顔になっていくのが分かった。
「あははっ、大丈夫。泣きたくなったらおいで。友達でしょ。もぉ、せっかく珍しく先輩
らしいなぁって思ってたのに」
春香は身を起こして笑った。
「うぅ。珍しくって、私春香ちゃんに勉強教えてあげたりしてるし」
「あー、そうだね。でも自信なさげじゃん、『たぶん等加速度運動の公式じゃないかな、た
ぶん』とか」
「うー、だったら吉川さんに教えてもらえばいいよ」
「ごめんごめん」
そして春香はふふっと笑った。
「……ありがと。ちょっとはやる気出せそうかも」
「良かった。でもちゃんとお休みもらったほうがいいよ」
「そこまでしなくても大丈夫だよ……。オフはちゃんともらってるし」
「そうかなぁ。春香ちゃん、この前のオフってひと月以上前じゃなかった? しかも事務
所来てたでしょ。吉川さんに怒られてたよね」
「それは、だってオーディション受かりたかったし……」
「何でもいいけど、そのへんも体調管理のうちだよ。怠けるわけじゃないんだし」
「うーん、そっかぁ。……じゃあそうしてみようかな」
「そうそう。お願いしてみなよ。もしお休みもらえたら、ぱーっと遊ぼう」
「うん……うん。そうしよっ」
そう言うと春香は手足を伸ばして思い切り伸びをした。なんかやらなきゃいけないこと
ばっかりで、休むなんて全然思いつかなかったぁ、とぼやく。
「そうだよね。休憩してもいいよね。あははっ、私なんで切羽詰ってたんだろ」
「そうだよ。子供の労働はんたーい!」
「労働! そう労働だよ! うわー私たちを馬車馬のように働かせてお金稼いでるんだぁ。
ひどーい!」
「ひどーい!」
雪歩と春香はどちらからともなく、くすくすと笑い出した。それだけで肩の凝りがやわ
らぐ感じがした。
「プロデューサーさん、呼んでこなくちゃね」
と春香が言った。
「もういいの?」
「うん、だいじょぶ。雪歩のおかげ」
春香は片目を瞑ってみせた。
「……そっか。じゃあ呼んでくる。お茶も淹れてくるから」
「ん、おねがい」
春香の声を背中に受けて雪歩は部屋を出た。
三井と吉川は事務室のデスクで何やら話していた。このようなときはいつも、雪歩は彼
らの親切と思いやりに感謝の念を抱きつつ、それ以上に引け目を感じる。まだまだ子供な
自分が不甲斐無く、申し訳ないと思ってしまう。
――でも、それでもいいや。
慌てる必要はないのだろう、と雪歩は思った。この人たちが許してくれているうちは。
そして将来、きっと裏切らないだろう。私たちは。
「すみません、待ちましたか」
雪歩が声をかけると、いや、ついさっき終わったところだからと三井が答えた。
「そうですか。良かったです。あの、私お茶淹れてきますから、休憩室でちょっと待って
てください」
「ああ、それなら音無さんがやってくれてるから」
と、吉川が言った。自分で淹れたい気分だったので少々残念だったが、手伝いだけでも
しようと雪歩は思った。
「じゃあ、私お手伝いしてきます」
そう言って、雪歩がドアの方へ歩き出そうとしたとき、ドア越しに小鳥の声が聴こえてきた。
「いいのよ雪歩ちゃん。もうできたから。……あ、ドア」
「今開けます」
雪歩は駆け寄ってドアを開けた。小鳥が茶碗をのせたお盆を持って苦笑いしていた。
「あはは、やだなぁ。前はいつも事務室のポットでお茶いれてたから、ついドアのこと忘
れちゃうのよ」
「もう何度目ですか? 音無さん」
と吉川が笑いながら言った。小鳥が失礼ねと返す。
「普段はなんとかして自力で開けてますよ」
「そういえば昔は雪歩も同じことやってたなぁ。ドアの前で固まって涙目になってて。あ
れは可愛かった」
「ぷ、ぷろでゅーさぁ!」
雪歩は思わず赤面して三井に抗議の意を表したが、三井はにこにこしながらこちらを見
返すだけである。
「も、もう……。あの、すみません音無さん。ありがとうございます」
「何言ってるのよ、いつまでもアイドルにお茶汲み名人させておくわけにはいかないわ。
そもそもどっちかっていったら私の仕事だしね。あ、味のことなら大丈夫よ、雪歩ちゃん。
ちゃんと教えられた通りにやってるから。最近評判なのよ、私お茶淹れるの上手くなった
って」
「雪歩には敵いませんけどね」
「もお、吉川さんは何でそんな意地悪なんですか、まったく。それにしても、雪歩ちゃん
声大きくなったわね。それに良く徹るわ。前は廊下からだとプロデューサーさんの声しか
聞こえなかったのに」
「え? そうですか?」
思ってもみなかったことだった。雪歩は三井の方を振り返った。
「ああ、もちろん。でなきゃここまで来れないよ。さ、行こう」
三井が雪歩の肩をぽんと叩いて言った。
――そっか。うん。
よく分からないが成長したということだろう。嬉しいことだった。
「プロデューサーさーん、まだですかぁー?」
春香が休憩室から顔を出して呼ぶ。今行くと吉川が答え、四人は休憩室へ向かった。
「で、プロデューサーさん!」
お茶を置いて小鳥が去ると、春香は姿勢を正して声を発した。
――あれ、春香ちゃんなんかやる気あるなぁ。
妙にきりりとした表情の春香に雪歩がそんなことを思っていると、
「何だ、春香」
「私、お休みをもらいます!」
これもまたいやにきっぱり言った春香に、雪歩はなんだそっちのことかと心の中で苦笑
いをした。
「あのなぁ……そんなのんきに構えてる場合じゃないんだ」
吉川があきれたように言った。
「のんきじゃありませんよ! 疲れた心と体を癒す充電期間が必要なんです!」
「元気じゃないか……」
「無茶は言いませんよ。一日でいいですから。羽休めです。遊びたいんです」
「スケジュール空くことがあったら休ませてやるから」
「いつ空くんですか」
「言っとくけど今入ってる仕事は休ませないからな。……ぶーぶー言うな。当たり前だろ
う。でもこっちからオファーを貰いにいくのを控えるから。どうせひっぱりだこってわけ
じゃないからな。どこかで空くだろう」
「なんで皮肉っぽいんですか」
いかにもやれやれ仕方ないといった風情でありながら、吉川は別段不満そうではなかっ
た。初めからこのことは織り込み済みだったのかな、とお茶を啜りながら雪歩は思った。
「だって、ゆきほっ」
「へっ?」
突然、春香のにっこり笑った顔が目の前に突き出され、雪歩は間抜けな声を出した。
「え? 何?」
「聞いてたでしょ? お休みもらえるって」
「あ、うん。良かったね」
「それでプロデューサーさん、三井さん、出来れば雪歩とおんなじ日にお休み欲しいんで
すけど……」
春香は再び腰掛けて今度は吉川だけでなく三井にも交渉を始めた。
――え? 私と一緒?
「ん? 雪歩も休みたいのか?」
「いえっ、私は全然。頑張れます。春香ちゃん、何で私も休むの?」
「え? だってぱーっと遊ぼう、って……」
ああ、言ったかもしれない、と雪歩は思った。しかしそれは一緒に遊ぼうというお誘い
や約束ではなく単なる促し、勧めの意味だった。雪歩は春香にそう説明した。
「えーっ、そんなぁ。ひどいよぅ。ぬか喜びさせるなんて」
「ごめんね」
「あーあ。雪歩と遊べることなんて滅多にないのに」
確かにそれは魅力的だと雪歩は思った。候補生時代とデビュー直後の時期以外、二人同
時にオフが取れたことはない。だが予定を変える気はなかった。
――オフは29日にもう決まってるし……。
春香はこちらを恨めしげに見ながらしょげている。そんな顔したって駄目だ、と雪歩は
自分に言い聞かせた。春香に追いつく機会なのだから余計な休みなどとっていられない。
――あ、そうそう。
「あの、プロデューサー」
「ん?」
「今まだ次のオーディション決めてないですよね」
「ああ。次はステップアップしたいし、もうちょっと様子見だな」
「あの……私、オーディション受けたいです」
雪歩は先ほどの春香とのやりとりを思い出していた。あのときのような気の持ち方で舞
台に立てれば、きっともっと見える、もっとできる、もっと届けられる。そんな曖昧で楽
観的な、けれど抗うのが難しいほど希望に溢れた予感があった。
――私は、ステージでも“お姉さん”になれるかな……。
三井はへぇ、と言った。今日のオーディションについての反省会に移行していた春香
たちも黙った。
「珍しいな。雪歩が自分からオーディション受けたいなんて」
「はい、ちょっと試してみたいことがあって」
三人に注目され、雪歩はどぎまぎしながら言った。
「ふぅん……。なら、まず俺にそれを見せてもらおうかな」
「は、はいっ」
「プロデューサーさん!」
雪歩が気合の入った返事をすると、それにかぶせて春香も言葉を飛ばした。
「何だ今度は」
「明日オーディション受けましょう!」
「……あのなぁ、今日ボロボロだったのに何言ってんだ。今日の明日でなんとかなるもん
じゃないんだぞ。まず今日の反省をしっかりやって、休息も取って、練習――」
「そんなのんきでいいんですか! どんなときも全力前進ですよ!」
テーブルをバンバンと叩いて春香は吉川を叱咤した。
「お前は休みたいって言ったじゃないか……。そもそも明日開催のオーディションはない」
ああだこうだとまたやかましく今後の方針と予定を話し合い始めた二人を残し、雪歩と
三井は腰を上げた。
「それじゃ、俺たちはレッスンに行くから」
「おう」
「また夜にね、春香ちゃん。会えるよね?」
「いーだ! この裏切り者っ」
「むー。知らないもん、そんなの」
雪歩はつんとそっぽを向いてやった。
「ゆきほっ」
そのまま部屋を出て行こうとする雪歩を春香が呼び止めた。
「言っとくけど、まだ私のほうが売れてるんだから」
「……まだ、ってことは抜かれる自信があるのかな春香ちゃんは」
む、と唸って黙った春香を見て、負けるの早すぎるだろうと吉川がつぶやいた。
「と、とにかくっ」
強引に取り繕うと、春香は一言、負けないから、と言った。
「……私も、負けないから」
そして、まっすぐ見つめあう二人の口許がふっと緩んだ。
――頑張ろうね。
互いに仲良しな女の子から互いにライバルのアイドルに変わった二人を、男二人がそれ
ぞれ頼もしそうな目で見ていることに、雪歩と春香は気づかない。
47 :
(12/11):2010/04/20(火) 22:06:18 ID:5ga0Nfy6
以上です。最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。
言い訳や愚痴はたくさんありますが多分これが最初で最後なので潔く書き逃げします。
それでは。
メルヘンメイズやよいの大冒険 第5話投下します
5レスでいけると思います、では
第5話 じかんの国 〜双子パワーVSトリプルヘッズ〜
鏡の通路を抜けると、そこには薄暗い空間が広がっていました。
その周りの風景はうねうねと曲がりくねっていて、見るだけでも酔ってしまいそうです。
「時間の国… 本当にこんな空間が出来ていたとは…」
周りを見渡しつつ、ウサギはそう言いました。
「ここは… どんな所なの?」
「正直なところ、ここは私にも良く分からないところなんです」
ウサギの頼りなさそうな言葉。
「ただ言えるのは… ここは純粋に女王の魔力によって作り出された空間で、ここでは時間の流れが他とは
違うということ… それぐらいでしょうか…」
なんだかよく分かりません。
でも、ここは女王にとって大事な場所ではないのか… そうやよいたちは直感していました。
ひょっとしたらここに女王がいるのかも…。
歩くたびに周りの風景がくるくると変わっていく、そんな不思議な空間をしばらく進んできました。
やよいの後ろには真美ちゃんが。どうしても妹の亜美ちゃんを助けたくて、結局付いてきてしまいました。
辺りを見回して見ますが、いるのは口の大きなネコとか、玉を吐き出してくるがいこつの怪物とかばかり。
ここにも亜美ちゃんはいないのでしょうか…。
やがて、みんなは大きな谷間のようなところにやってきました。
向こうのほうに渡りたいのですが、そのためには間にある小さな動く床を飛び移っていかなくてはいけません。
しかもそれはたくさんある上に、どちらに進んだら良いかも分からない有様です。
「私が先に行って調べてきましょう、そこで待っていて下さい」
ウサギがそう言って、軽やかなジャンプであっという間に向こうのほうへと飛び移って行きました。
それでもウサギが戻ってくるにはしばらく時間がかかりそうです。
やよいと真美ちゃんは手近にあった、”?”マークの書かれた大きな箱の上に座って休むことにしました。
「ねぇ、やよいっち」
「何、真美?」
「真美、結局付いて来ちゃったけど、役に立ってないのかな…」
ポツリと真美ちゃんが言いました。
「そんなこと…」
何か言おうとして、そこでやよいも一緒に黙り込んでしまいます。
真美はものすごく落ち込んでいる…。
こんな時、あの事務員のお姉さんならどんなことを言うのかな…?
真さんなら、千早さんなら、そして雪歩さんなら…
考えても分かるわけがありません。
やよいはやよいでしか無いのですから。
こんなとき自分に出来ること、それは何でしょう?
「そうだ、こんなときは、あれやろう!」
「あれ?」
「そう、ハイ、ターッチ!」
やよいは大きく右手を上げるポーズを取ります。いつもやよいはいろんな人とこれをやって、みんなで元気に
なって来たのでした。
「ねぇ…、真美がそんな顔してたら、せっかく亜美を見つけても亜美ががっかりすると思うんだ」
やよいは真美ちゃんを見つめたまま。
「だから、ね?」
しばらくやよいの手を見ていた真美ちゃんでしたが、おもむろに立ち上がって、
「タッチ」
自分の右手のひらを勢い良くやよいの右手に合わせます。パチンッ、という音が辺りに響きました。
「どう、ちょっとは元気になった?」
「うん… ありがとう、やよいっち」
真美ちゃんに心なしか笑顔が戻ったように見えました。
それからしばらくして、ウサギが戻って来ました。どうやらどちらへ行くべきかは分かったようです。
「さ、それじゃ行きましょう… ん、真美、なんかさっきより元気になったような…?」
ウサギの言葉に、
「魔法のおまじないをかけてもらったんだー」
そう答える真美ちゃんでした。
床を飛び移って進んでいくと、今度は複雑な通路。それをふさいでいるネコの魔物たちを倒しながら
進んでいきます。あちこちから現れるので、倒すのにも時間がかかってしまいます…。
「もう少しですよ、ここを抜ければ出口があるはずです」
「そう、だね… ふぅ、ふぅ…」
「…?」
やよいの後ろから聞こえるのは、とても疲れた様子の吐息。そう、真美ちゃんのものでした。
氷の国と時間の国を長いこと歩いていましたし、それに…。
『そのドレス無しではあっという間に体力を奪われてしまうことでしょう』
そうです。
やよいと違って、真美ちゃんは今もどんどん体力を失っていっているのです。早く亜美ちゃんを助けて、
一緒に元の世界に帰してあげないと…。
自然とみんなは駆け足に。真美ちゃんもやよいに手を引いてもらいながら、なんとか付いて行きます。
そうしてようやくいつものような行き止まりが見えてきた、その時。
…足音でしょうか。
とっ、とっ、とっ、という規則的な音が小さく聞こえます。
こんな音で歩く魔物はここには今までいませんでした。その音がするほうに目を向けると…
何か走ってくるものが見えることに、やよいは気が付きました。
薄暗いところなのではっきりとは分かりませんが、どうやら人のような姿をしているみたいです。
「…気を付けて、やよい」
ひょっとして女王の手先でしょうか。やよいはストローを構えて、その走ってくるものの方にシャボン玉を
膨らませ始めました…。
タイミングを計って、真美ちゃんたちの後ろに隠れて、そして…。
「えーい!」
シャボン玉は見事に走ってきたものに当たり、盛大に破裂して虹を描きました。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
「え?」
真美ちゃんと同じような声を出して倒れこんだ、それは…。
真美ちゃんと同じ白い上着に半ズボン、そして赤い髪飾り…
そして真美ちゃんとは色違いのピンクのトレーナーを来た、それは亜美ちゃんでした。
「亜美!」
「無事だった… でしょうか?」
みんなが集まってきます。
亜美ちゃんのほうは尻餅をついてしまったのか、その場にへたり込んでお尻をさすっています。
「ひどいよやよいっちー、いきなりシャボン玉をぶつけ… あれ、真美?」
文句を言いかけた亜美ちゃんでしたが、すぐにその表情が変わります。
「やっと見つけたよ〜」
真美ちゃんはそう言って亜美ちゃんの手を取って、そしてその場にいっしょに崩れ落ちてしまいました。
「ど、どしたの真美!?」
事情を説明すると、
「そっか… ごめんね、真美」
「ううん、亜美が無事ならおっけーだよ…」
さっきやよいにシャボン玉をぶつけられたのは何とも無いようです。他に怪我をしてるところもありません。
「この先に出口があるはずだから、早く帰らないと…」
「うん… 行こう!」
みんなの目の前には、周りよりも更に暗い、大きな塊のようなものが見えていました。
そこにも床は続いています。きっとここには何かあるに違いありません。
ウサギを先頭に、やよいと亜美ちゃんが中に入っていきます。
「真美はそこで待ってて、亜美たちに任せとけば大丈夫だから!」
「うん…」
霧の外側で真美ちゃんは待っていることにしたようです。膝を付きながらも、真美ちゃんはみんなを見送ります。
さぁ、ここには何が…?
「よく来たな子供たちよ…」
その声はどこからとも無く、しかしあらゆる方向から聞こえてきます。
薄暗かった外よりもさらに暗い空間のこと、どこでしゃべっているかまでは分かりません。
「だがここまでだ。お前達も、このクイーンズヘッドの手下となるが良い」
目の前の空間が急速にゆがんだかと思うと、そこに何か黒いものが集まってくるように見えました。
それは段々ひとところに固まってきて、そして人の頭のような形を作っていきます。
吊り上った目に大きな口、髪を後ろに回した額には大きな宝石が光っています。
「やっかいな相手ですよ、これは… 女王の精神を象ったもの、とでも言いましょうか」
「真美、大丈夫だからね」
外にいる真美ちゃんを気遣って、やよいはそう大きな声で言いました。そして、亜美ちゃんと一緒に前に進み出ます。
「んっふっふー、亜美たちは負けないもんね、それに二人もいるんだし」
やよいと亜美ちゃんの二人で、クイーンズヘッドの両脇に回り込みます。そして…
「くらえー、ヤキニクマンキーック!」
亜美ちゃんがすかさす飛び蹴りを当てようとします。しかし、その体はそのままクイーンズヘッドをものの見事に
通り過ぎて行きました。
「あ、あれ?」
「ふはははは、その程度か」
今度はやよいのシャボン玉攻撃。しかしこれも何も無いかのように…。
「ど、どうなってるの!?」
「お前達は二人いると言っておったな、しかしこれならどうだ?」
そう声がすると、クイーンズヘッドは消えてしまい、また別のところに現れました。
すかさずそちらを向いてやよいと亜美ちゃんが攻撃。でもやはりまったく手応えがありません。
そして今度は三体一度に現れて、それぞれが玉をばらまいて来ました。
「わー、三人なんてそんなの卑怯だよー!」
「卑怯だと?そのような言葉は聞こえんのぉ… それに、我が真の名はトリプルヘッズというぐらいだからの」
三体になった頭はそれぞれが現れたり消えたりを繰り返しながら、やよいたちのほうに玉をばらまいてきます。
「そうか… 奴らは自分の周りの時間を早くして、それで出たり消えたりしてるように見せているんです」
「だから… 時間の国?」
やよいの問いに、ウサギは頷いて見せます。
攻撃を繰り返す二人、しかしいずれもトリプルヘッズをすり抜けていくばかり。
「なかなかしぶとい奴… だがこれならどうだ?」
声と共に、今度はトリプルヘッズの額にある宝石がまばゆく光りました。
それにやよいが視界を奪われた、次の瞬間。
光の筋がやよいに向かって一直線に飛んできました。
その光に全身を包まれたかと思うと、やよいはそのまま大きく吹き飛ばされてしまいます。そして、床の端まで…。
「やよいっち!」
亜美ちゃんがやよいの方に目を向けた隙に、亜美ちゃんにも同じ攻撃が。
「…」
「うっう…」
声もまともに出ないくらいの衝撃。
それでも二人はなんとか立ち上がり、前にいるトリプルヘッズを睨みつけます。
「ふふ、まだ睨むだけの力はあるか… そろそろ終わりだ」
その言葉通り、二人の後ろにはもう床はありません。このままでは奈落の底に落とされるのも時間の問題でしょう。
それでも何とか攻撃を当てようとしますが、それも効果が無く、とうとう二人が力尽きるかと思えた、そのとき…。
「分かったよ」
そう声がしたかと思うと、小さな足音が後ろから聞こえてくるのに、やよいたちは気が付きました。
誰が歩いてきてるのか、振り向いて確認するまでもありません。
「真美!」
「危ないから下がってて」
やよいと亜美ちゃんは前を見ながらそう言いますが、
「…真美だって、黙って見ていられないもん…」
半ばふらつきながらも、真美ちゃんはやよいたちのほうに歩いてきて、その前に立ち止まりました。
「それって、本物はどれか一つで、あとは幻、って言うか、うそっぱちなんだよね、おばちゃん」
真美ちゃんの言葉に、一瞬トリプルヘッズの顔がゆがんだ気がしました。 …一体だけ。
「どうやら図星のようだねー、真ん中の人」
それを真美ちゃんが言い終わるや否や、亜美ちゃんとやよいは真ん中のトリプルヘッズにすかさず攻撃を。
トリプルヘッズは姿を消そうとしますが間に合わず、二人の攻撃をまともに受けてしまいます。
「くっ…」
再び別の場所に姿を現した三体。
「子供騙しな手に引っ掛かってしまったが、次はそうはいかんぞ」
自信たっぷりにトリプルヘッズは言いますが、
「今度は左だよ」
「ヤキニクマンチョーップ!」
「真ん中」
「シャボン玉ー!」
後ろから真美ちゃんの的確な指示が次から次へと。
亜美ちゃんとやよいの攻撃が見事に当たっていきます。
「な、なぜだ…」
すでに額の宝石が割れて無くなってしまったトリプルヘッズが、苦しそうな声でそう言います。
「幽霊とかって、写真に写らないんだよね…」
そう言って真美ちゃんがみんなに見せたのは…
「携帯電話!?」
「な、何だそれは?」
「これを使うと、本物だけが画面に写るってわけ。前にテレビでやってたんだ、シンデレラ写真だっけ?」
真美ちゃんは得意げにそう言いました。
「心霊写真ですね…」
ウサギがボソッと一言。
「そう、それ。幻とか幽霊とかは写真にも普通は写らないんだ、もちろん携帯の画面にも」
「ば、馬鹿な…」
すでに消えることも出来なくなったトリプルヘッズの、それが最後の一言でした。
「とどめは…」
「「これだー!!」」
やよいと亜美ちゃんと、そして真美ちゃんの三人の攻撃の前に、
「そ、そんなはずはぁぁぁぁ…!」
トリプルヘッズは泡となって消えていきました。
しかし… そのまま真美ちゃんは床にばったりと倒れ込んでしまいます。
「真美!」
「しっかり!」
やよいたちが真美ちゃんのところに駆け寄りました。
「んっふー、真美も役に立ったよね…」
息も絶え絶えの真美ちゃんは、それでもそんなことを言って笑顔を作って見せます。
「うん、だから…」
しゃべらないで、そう言おうとしたその時。
どこからとも無く光が差し込んで来るのに、みんなは気が付きました。
「これって…」
「女王の魔力が無くなったおかげでしょう…」
みんなを包んでいた黒い霧は消え去り、真っ暗な空から差し込んでくる光は見ているうちにその範囲を広げ、
やがてこの世界全体を覆うほどに。
魔物たちが消えていき、代わりにここの世界にもともと住んでいた人たちの姿が次から次へと…。
そして真美ちゃんも…。
「ん… あ、あれ、なんかどんどんパワーが溜まっていく感じ…」
みるみるうちに顔色が良くなっていきます。
「すっごーい!」
「真美、もう大丈夫ですね」
「うん!」
立ち上がって大きくジャンプをして見せました。
「亜美、真美、本当にありがとうございました」
ウサギは改めてお礼を二人に言います。
「んっふっふー、どういたしましてだよ」
「スーパーヒロインには愛が無くちゃいけないんだよ、もちろんやよいっちもそうだけどね」
「てへっ… そうかな」
『愛』…
亜美ちゃんの言葉に、ちょっぴり恥ずかしそうな表情を見せるやよい。
でも、その顔にはまるでキラリと光が灯ったように見えました。そして、やよいの手にしたストローにも…。
手を振りながら、亜美ちゃんたちとやよいはお別れをします。
そして、またウサギと一緒にやよいも鏡の中へ飛び込んでいきます。
「でもさぁ亜美、あのトリプルヘッズってどっかで見たような気がするよね」
「真美もそう思う? うん、誰かは思い出せないんだけどなー…」
>>47 おおう、珍しい攻め雪歩さんじゃありませんか。これはいいものだ。
春香と雪歩はそれぞれに公式仲良し設定の友達がいるのであまりメジャーじゃないのですが、
実はけっこう相性いいと思います。しかも以前にはどうやら春香に頼ってばっかりだった雪歩、
少しお姉さんになれた様子で読んでるこちらもひと安心、といったところですw
ただ、『年下に可愛がられるのは自尊心に触る』という一文がありましたが二人は16歳高1同士
だったかと。いや実は一回目に読んだ時はむしろ深く同意しながら読んでたのですが何度か
読み返すうちに、あれ?って。雪歩は上に、と言うか年上なのになー的な立ち位置に見られる
ところありますね。
大して出番のないプロデューサー陣にあえて名前をつける仕掛けもうまく効いていました。
なるほどこういう効果の出し方があるのか、と目ウロコです。
ありがとうございました。しかし書き逃げとか言ってないで次回作を書く作業に戻るんだw
>>48 メルヘンメイズ順調でなによりです。亜美待ってたよ亜美。
作風に合ってるといったところなのでしょうがローティーン組が生き生きとしてますね。千早や
雪歩も十分コーナーゲスト張ってましたが、特に今回の前半とか読んでいてとても感じます。
クロス相手の世界観やですます体の文章のせいもあるのでしょうが、ちびっこたちに似合い
ます。……つか真美押し?w
王道ギミックを取り入れたバトルシーンもテンポ良く進み、楽しく読めました。
メルヘンメイズ、アケ時代にハマった人間ですがさっぱり進めなかった記憶があります。せめて
俺のかわりにやよいガンガレ。
ありがとうございました。次回も楽しみにしております。
あとバラつきがあるようですが、投下終了レスはあったほうがスッキリしますよー。
保守がてら
>>54 感想ありがとうございました
やよいや他のキャラがテンポ良く動いてると思っていただければ幸いです
後半は律子やあずささんが出てくるのですが、果たしてこの調子でうまく書けるか…?
終了レスまた忘れてしまった…orz
あー、テステス。
わかる人だけわかればいーや的投げっぱなし1レスクロス(?)投下します。
「「ウォォォォォォォッ!!」」「「閣下ー!」」「「ちひゃぁぁぁぁ!!」」「「りっちゃーん!」」
この惑星の住人は、アイドルというものに夢中になっている。
一体、何が彼等をここまで駆り立てるのか。全くわからない。
「今度から新しく伊織ちゃんのプロデユーサーになるジョーンズさんよ」
「アンタが新しいプロデューサーね。ダンディで中々イイ感じじゃない。これから一緒に頑張りましょっ♪」
「イオリンノ、デコ、マジサイコー」
「……いきなり何を言い出すのよこのバカー!」
……くぎゅう。
……以上、宇宙人ジョーンズアイマス編、これにて終了それでは失礼。
どもです。一本落とします。
タイトルは「はい。その真っ赤なのをお願いします。」 使用レスは1レスです。
ぽかぽかと暖かい陽気に、思わず出掛けてしまいたくなる春の午後。都心から離れた田舎にある、どこにでもありそうな小さな家のどこにで
もありそうな小さな部屋で、一人の女性が
座っている。ピンクの壁紙で小物があちこちに置いてある、いかにも女の子が使っていますという部屋の真ん中にいる女性の前には1つのダンボ
ール箱。開いたままの扉の向こうに見える
クローゼットの中の様子から、どうやら仕舞い込んであったものを出してきたようだ。
いま女性が見ているのは一枚の紙。ダンボールの中に閉まってあったそれには拙い文字でこう書いてあった。
『 わたしのお母さん 2年1くみ あまみはるか
わたしのお母さんはえらいです。おうちでたくさんはたらいています。なんでもします。おそうじにおせんたくにおりょうりをします。わた
しが手つだっても、お母さんみたいにうまく出きません。
お母さんはわたしとお父さんをよくおこります。そのときはとてもこわいです。
お母さんはいつもうたをうたいます。おりょうりをしてるときにうたっています。
お母さんのうたはとってもじょうずです。わたしはお母さんのうたがすきでわたしもいっしょにうたいます。そのときはとてもたのしいです
。
わたしもお母さんみたいにうたがうまいなんでもできる人になりたいです。
わたしはお母さんが大すきです。
お母さんいつもありがとう。』
最後まで読み終わってふと顔を上げた女性は、いつのまに部屋に入って来たのか、一人の男性に見下ろされていることに気が付いた。
「あなた」
「思い出に耽っていても、片づけは進まないぞ」
あなたと呼ばれた男性が声をかける。言葉こそ厳しいものの、顔は微笑んで口調は柔らかく怒気は微塵も含んでいなかった。
「それは?」
男性の、何を読んでいたのか気になっている様子に、女性はそっと紙を差し出す。
「どれどれ…… これは、春香の?」
「そう、小学生の時の作文」
ふーん、と言いながら目で文章を追っている。
「もしかして母の日の作文かな?」
「うん」
しかし答える女性の顔はどこか浮かない。
「そんな顔して、どうかしたか?」
「ねぇ」
不安のふた文字を瞳に浮かべて
「私もなれるかな、そんなお母さんに」
強張り気味の表情。自身のお腹を、臨月を迎えていることが一目でわかるくらいに膨らんだお腹を撫でながらの質問は、憧れた母親のように
なれるかどうかへの緊張とはじめてする体験への恐怖からくるもの。
でも、夫は自信に充ち溢れた顔で答える。
「大丈夫。なれるさ、春香なら」
「あなた……」
「それに、オレもいるしな」
「…………」
「…………」
「…………ふふふっ」
「わ、笑うなよ」
「あ、照れてる」
クスクスと楽しそうに笑う妻と、恥ずかしそうに笑う夫。
「さあ、それよりお義母さんの所へ行く前に花屋に寄るんだろう? そろそろ出ないと時間に遅れるよ」
「あ、本当だ。ちょっと待ってて、すぐ用意をするから」
「慌てるなよ、いまは」
「『自分一人の体じゃない』でしょう? わかってまーす」
「……まったく」
パタパタと部屋を出ていく春香。男性もそのあとをゆっくりと追う。
残された部屋の中に残った紙には、作文の最後に赤い文字でこう書かれていた。
『あまみさんはお母さんが大好きなんですね。いつかあまみさんに子どもが生まれたら、天海さんのお母さんとおなじようなすてきなおかあさ
んになってくださいね』
以上です。改行規制にやられて予定より増えました。申し訳ないです。
でも時期ネタなんで書き込み規制に巻き込まれなくてよかった。
感想、批評、あるいはアドバイス等いただければ幸いです。
では。
>>62 いきなりちょっと厳しめのこと言っちゃって、申し訳ないけど…
春香がらしくないと言うか、らしさがないと言うか、キャラ名のところだけ入れ替えると、
誰にでもなっちゃう内容に思えました。それこそアイマス以外のキャラでも行けちゃう感じ。
もう少し、春香ならでは、という部分が欲しかったところです。子供の頃の作文の中身でも、
現在のところでも。旦那が一言「転ぶなよ」と言うだけでもかなり違うんじゃないかと。
内容的には、この旦那が誰なのかが気になります。Pなのか?他の誰かなのか?
(それも春香ならでは、と思えなくする点ではありますが)
でも春香が幸せそうなのは何よりでした。
こんばんは、メルヘンメイズやよいの大冒険 第6話投下します
規制やら何やらで遅れましたが、では
第6話 みずの国 〜律子さんは水がお嫌い!?〜
亜美ちゃんと真美ちゃんを元の世界に帰して、やよいたちは次の世界に。
「次は水の国ですね」
「どんなところなの?」
「んー… まぁ見てもらったほうが早いでしょうか」
そんな会話をしながら鏡の中を進んできて、出てきたのは…
…一面水で埋め尽くされた世界でした。
正確に言うと、ポツリポツリと浮島がある他は、ほとんどが水、それも流れの早い水というところです。
「これは… 川?」
やよいがそう訊いてみます。
「ええ、以前はもっと穏やかな川だったのですが、ここも女王の魔力でこんなことになってしまいました」
ウサギが答えました。水の流れるほうを見てみると、そこは滝壷になっていました。
下の様子は分かりませんが、恐らく危険なことになっているのでしょう。
「でもこれじゃぁ前に進めません〜」
そうです。やよいたちが今いる所も浮島。
どこを見ても、橋も無ければ通路になるようなところもありません。戻ろうにも鏡の通路は跡形も無く、
ふたりが困り果てていた、その時…。
「誰かいるのかしら〜?」
向こう岸でしょうか、遠くのほうから声が聞こえます。
「はーい、誰かいますよー!」
とりあえず返事をしてみます。川の流れる音にかき消されない、やよいの大きな声(これはやよいの自慢
だったりします)が響き渡りました。
「誰かいるのは間違いないようですが」
「でもどうやって向こうに行こうかな…?」
二人が話し合っていた、その時。
川の向こうから何かが流れてくるのが見えました。
それはいくつも連なって、流れと同じ方向にどんどん進んできます。
「あれは…」
「いかだ!?」
上流からたくさんのいかだが流れてきます。これに飛び移っていけば…!
考える間もなく、やよいはそのいかだに飛び移って、次々と進んでいきました。
いくつかのいかだを飛び渡って、やよいたちは向こう岸らしきところに着きました、そこにいたのは、
ゆったりした薄緑の服を着た、軽くウェーブのかかった長い目の髪の女の子でした。
「こ、こんにちは」
やよいがとりあえず挨拶をします。
「え… やよい?」
「…? あの、私のこと知ってるんですか?」
そう言われた女の子は、軽く頭を抱えるポーズをした後、
「私よ、律子」
返事をします。
「えーーーーーーー!?」
今度は本格的に女の子が頭を抱えてしまいました。
「…そりゃ確かに、普段は眼鏡におさげの格好だけどさ」
「だからと言って、いつもいつもそんな格好をしてる訳無いでしょう?」
律子さんは不満そうに言いました。
「でもとてもそうは見えませんよ、そんなにお美しいのに」
「…あー、そのウサギのぬいぐるみといい、この状況を説明してくれないかしら、やよい?」
「なるほど、私は鏡の国にいつの間にか来てしまって、そこから帰るにはこの川を昇らないと、ってこと?」
「そうなりますね、出口はこの向こうです」
「…だんだんこの奇天烈な状況にも慣れてきたわね…」
律子さんはそう言って、目の前の川を眺めました。相変わらずの急流が、律子さんの顔に水玉を飛ばしていきます。
「で、どうやって向こうまで行くの?」
「流れてくるいかだに飛び移っていくのです、ちょっと疲れますけれど」
ウサギが流れてくるいかだを指差しながら言います。
「…分かったわ、足を滑らせたらおしまいよね、うんそうだわ」
律子さんが言いました。顔が妙に引き締まった気がします。
「それじゃぁ行きましょー!」
しばらくは岸に沿って歩いてきたやよいたち。
その岸も程なく途切れてしまい、やよいたちはまたいかだと浮島を飛び移って進んでいくことになりました。
途中、くるくる回りながら飛んでくるトンボ、そしてまっすぐ向かってくるトランプのカードの魔物を
吹き飛ばしつつ、慎重に慎重に…。
そうして何とか進んでいくと、いつものような広い床が見えてきました。しかし…。
やよいたちは目の前の光景に呆然と立ちすくんでいました。
どう見ても3mぐらいはあろうかという隙間。
そしてその下は激しく水が流れて、大きな音をたてていました。
「さすがに上流まで来ると水の勢いも凄いわね…」
律子さんが表情を変えずに一言。
しかし、出口に向かうにはどうしてもここを飛び越えなくてはなりません。
「落ちたらひとたまりもありませんからね… 一気に助走をつけて飛び越えましょう」
まずはウサギから。
少し後ろに下がったかと思うと、猛ダッシュからのジャンプで見事隙間を飛び越えました。さすがですね。
「高槻やよい、いきまーす!」
やよいも同じように、こちらはぎりぎりまで後ろに下がった後、走りながら両手を揃えてのジャンプ。
ウサギほどではありませんが、見事に向こう岸に着地できました。
「次は律子さんですよー!」
…しかし律子さんはピクリとも動きません。ただじっと水の流れを見つめたまま…。
「どうしたんですかー?」
やよいの呼びかけも全く聞こえてない様子。
「…無理よ…」
「え?」
やよいの問いかけに、
「私やよいたちみたいに運動神経良くないし、それに…」
「…私、ここから落ちたら… 泳げないのよ…?」
消え入りそうな声で、そう律子さんは答えました。
「そんな!」
「律子さん!!」
やよいたちの呼びかけにも答えず、律子さんは体を震わせ、そしてその場にしゃがみこんでしまいました。
「どうしましょう…」
ウサギの言葉に、
「どうしましょうって、律子さんを助けに来たんだよ、私達!」
やよいはそう叫びながら、岸の端まで駆け寄ります。そして…
「届かないなら、私の手に捕まってください!」
律子さんのほうに両手を差し出しました。
「やよい…」
「さぁ!」
「でもそんなことして失敗したら、やよいまで一緒に…」
「私なら平気です、律子さんが勇気を出せば絶対大丈夫です!」
やよいのその目には一点の曇りもありません。ただじっと、律子さんが動いてくれるのを待っています。
「…分かった。やよいに私の命預けるわよ…」
「律子さん…!」
「さぁ、そうと決まったら」
律子さんはやよいたちと同じように後ろまで下がって、そうして目の前のやよいをじっと見ました。
(いつもと違って眼鏡が無いから、目測とかあてにならないわね…)
(…ううん、私は目の前のやよいの所に全力でジャンプすればいいのよ、がんばれ私)
走り始めました。
やよいたちに比べるとそれほど足は速くありませんが、それでも懸命に走り、そして…
少し手前のところからジャンプを!
片手をやよいのほうに伸ばしてのジャンプ。
やよいも律子さんの手を掴もうと必死に手を前に出します。
そしてその二つの手のひらが触れたかと思った瞬間…!
バシャーーーーーーン!
大きな水音がしました。
「律子さん!!」
どうにかやよいは律子さんの右手を掴みました。
しかし律子さんの体は半分以上が水の中に。何とかして引き上げないと、このまま沈んでしまいます。
自分も律子さんの重みで一緒に落ちてしまうのを懸命にこらえつつ、やよいは小さな体で必死に律子さんを
引っ張りました。
「やよ… い…」
「律子さん、しっかり!」
やよいのその言葉で元気が出たのか、律子さんも助かろうと残る左手を懸命に動かし、そして岸の端を
なんとか掴みました。
「んっ…!」
そのままやよいに引き上げられて律子さんは見事岸まで上がり、そしてその場に倒れこみます。
「や、やよい…」
「…やりました、やりましたよ律子さん!」
「うん… 良かった… あ、ありがとう、やよい…」
律子さんは見事に川を渡りきったのです!
「やぁやぁお見事」
突然、前のほうから声がしました。
見ると、そこには耳のとがった小男が、やたら大きな魚のようなものと一緒にたたずんでいました。
「こんな時になんだけど、何か買っていかないかい? そっちのお姉さんには水着もあるよ」
「み、水着!?」
律子さんは露骨に嫌そうな顔をして見せます。
「こんなところまで来て商売かパップン? 盗品故買屋なんてやめろと何回言ったら…」
ウサギも不快そうな顔でそう言いました。
「何だか分からないけど、この人は悪い人なの?」
「ええ、盗んだものを人に売りさばくケチなコソドロですよ」
「コソドロとは失礼だなぁ、今日はこんなものを持って来てあげたのに」
パップンと呼ばれた、その小男が見せたものとは…
「「鏡!!」」
ケタケタ笑いながら、パップンはその手にした鏡をひらひらと見せびらかしています。
「その鏡渡してもらうぞ!」
「へぇ、お前がそんなことを言うなんて、これはやっぱりたいしたものなんだねぇ」
ニヤニヤと笑い続けるパップン。
「どうせどれもこれも盗んだものだろう、渡さないと言うなら…」
珍しく怒気を含んだウサギの言葉に、
「おーこわいこわい、だったらこっちも本気でいくからねー」
そばにあった魚のようなものにパップンが乗り込むと、それは大きなエンジン音を立てて振動し始め、やがて
少し浮き上がりました。
「こいつ… 動くの!?」
律子さんの言葉に、
「当たり前だぜ、このレイドックってのはすごいんだぜ〜」
パップンはそう言って、律子さんの方にレイドックの向きを変えました。
その瞬間、大きな音と共に、レイドックの体がキラッと光ったように見えました。
「さぁて、誰から突き飛ばしてやろうかね〜、フヒヒヒ…」
目の前ではパップンの意地悪そうな笑い声が。
「できれば平和に行きたかったんだけど、仕方ないわね」
「任せてください!」
やよいが前に出て、レイドックにシャボン玉を飛ばしていきます。
しかし、レイドックはそれを横に動いて避けてしまいます。
そして後ろに下がったかと思うと、そのままやよいたちの方に突撃して来るではありませんか。
「わぁぁぁぁっ!?」
すんでのところで、やよいは身をかわします。律子さんもその場でくるりと体を廻してやりすごしました。
端のほうまで飛んでいったレイドックは、そこで旋回してまたやよいたちのほうに。
横に動いては、やよいたちのほうに向かって突撃し、横に動く、その繰り返しです。
魚の頭の部分… ちょうど飛行機で言うとコクピットでしょうか、そこに乗り込んだパップンの高笑い。
一方のやよいたちは逃げ回るばかり…
…ではありませんでした。
「さっきから思ってたんだけど…」
律子さんの落ち着いた声。その顔には笑顔すら浮かんでいます。
「…?」
その律子さんの様子に、みんなは驚きの表情を見せました。
「結構単純な動きしかしないのね、それって」
律子さんが冷静に、パップンに向かってビシッと指を指しながらそう言いました。
「な、なんだと?」
「どうせそれも盗品なもんだから、自分では満足に操縦も出来ないと見たっ」
「う、うるさい!」
そう、それは見事なまでに正解でした。
律子さんの言葉に腹を立てたパップンは、ますますスピードを上げてやよいたちに向かってきます。
しかし怒りで冷静さを失った操縦士のこと、その動きはますますワンパターンになるばかり。
ウサギにもやよいにも、そして律子さんにも楽々と避けることが出来ました。
「へっへー、こっちですよ〜」
「こ、このやろー!!」
「やよい、あの尾びれの部分とかどうにかできない?」
レイドックのほうを指差しながら律子さんが。
「しっぽですね、分かりました!」
やよいはレイドックの突撃を横にひょいとかわし、すれ違いざま、尾びれにシャボン玉をぶつけました。
数回繰り返すとあっさり尾びれは壊れて外れてしまい、レイドックの動きが段々遅くなって行きます。
「今度は背びれ」
バランスを崩してまっすぐ飛べなくなり、
「最後は頭ね」
前につんのめって、そのままひっくり返って大破してしまいました。
ちゅどーーーーーーん…
頭を中心として、盛大な爆発が起こると共に、
「ちくしょー!!」
コクピットから勢いでパップンが飛び出してきて、地面に転がり落ちてきます。
「残念だったわね、コソドロさん」
その前に仁王立ちになる律子さん。
「さぁ覚悟するです」
「鏡を渡してもらいましょうか」
ボロボロになった上、三人に囲まれてしまってはどうしようもありません。
「お、覚えてろー!!」
持っていた荷物などをそのままに、パップンはジャンプしながら逃げていってしまいました。
「逃げられちゃいました…」
「でも鏡は無事なようですよ」
荷物からウサギが鏡を取り出しました。
「これで律子さんも帰れますね」
「ええ、一時はどうなるかと思っ… くしゅん!」
律子さんのくしゃみがあたりに響きます。それもそのはず、律子さんはさっきからずぶ濡れになったまま
だったのですから。
「あ、水着もありますね… 濡れたままだと風邪引きますから、これに着替えてはどうです?」
しかし、ウサギの親切心(…だと思います)による提案にも、
「…結構です」
律子さんは、あくまで冷静にそう言うのでした。
「やよい、ありがとう」
「えへへー」
律子さんも元の世界へ帰っていきます。
「こうやって帰れるのも、やよいに勇気をもらったおかげかしら。その勇気があればきっと何でもできるわ」
「勇気… はい!」
やよいの笑顔とともに、また手にしたストローにキラリと光が灯ります。
両手を広げたまま、やよいは律子さんにお辞儀を。
それを満足げに見た後、律子さんは鏡の中へと入っていきました。
「さぁ、それじゃぁ私達も」
「そうだね、気合入れていきましょー」
「ええ、いよいよ手下達も本気を出してくるでしょう、でもやよいなら出来ると確信しましたよ」
そんな話をしたあと、やよいたちも鏡の中に。
「…でも、帰るまでに服乾くといいね、律子さん」
「ええ、目が覚めたときに体がべしょべしょなんて洒落になりませんし…」
「ん…」
可愛らしい女の子の声。
寝起きらしいまぶたをこすって、辺りを見回します。でも、そこには何もありません。
あるのは真っ暗な空間ばかり。
「…!? …こ、ここどこ!? 誰かいないの!? 私は」
そこまで言いかけた、その時。
どこからとも無く、何かが女の子のほうに向かって飛んできます。
周りの暗闇よりも、更に黒い何か。
それは女の子にぶつかると、一瞬だけ光を放ち、そして…
あたりはまた、静かな暗闇に戻っていきました。
第6話は以上です
後半に入って、だんだんこの世界の秘密みたいなものが分かってきます
あと出てきていないアイドルたちも、うまく活躍させられたらいいなと思ってます
ほ
>>72 毎度頑張ってるやよいが素敵です。俺も執筆頑張れぅ!
お話自体がすっかりやよいの冒険譚として出来上がっており、安心して読んでいられます。
もともとのゲームのストーリーがうまくアイドルたちに噛みあい、一話ごとにしっかり起承転結を
意識できるのがいいですね。またなにやらヒキが出てきてこの先も気になります。
ぜひ書きとおしてください。
それまでには俺も復活したいorz
なんだか最近スレに元気が無いので保守代わりに小ネタを投下
「そろそろ付き合いも長いしな」は人生で一回は言ってみたい台詞
「伊織、やよい、千早、ランクアップおめでとう!今日は俺の奢りだ、好きなだけ食え!」
「あんたの安月給でおごりなんて、何が出るかと思ったけど意外と良い雰囲気の店じゃない」
「ええ、水瀬さんの言う通り、落ち着いた雰囲気のお店で素敵だわ」
「こんな高そうなお店でご馳走になるなんてなんだか悪いです……」
「心配には及ばんよ、酒を頼まないんだったらそこまで高い店じゃ無いしな」
「やよい、大丈夫って言ってるんだから素直に甘えれば良いのよ、
プロデューサーだって見栄の為に生活費まで使い込む程バカじゃないでしょうしね」
「信頼して貰って何よりだ」
「ま、そろそろアンタとの付き合いも長いしね」
「ふふっ、水瀬さんもなんだかんだでプロデューサーの事を信頼してるのね……ところで、ここで何を頼むつもりですか?」
「ああ、ここは鍋が旨くてな、水炊きなんか最高だぞ?」
「それでは、皆で一つの鍋を囲って食べる形になりますね」
「ああ、そうなるが、皆で鍋をつつくのは嫌だったか?」
「いえ、ただ懐かしいと思っただけです、本当に小さな頃はよく家族でお鍋をしていたもので」
「私も懐かしいって程じゃないけどお鍋は久しぶりね、家でやろうとするとテーブルが大きすぎてお箸が届かないもの」
「やっぱり伊織ちゃんのお家は凄いですー!」
「そういうやよいはどうなの?結構お鍋とかつついてるのかしら?」
「ううん、私こういうの初めてだから、すっごく楽しみだよ!」
「えっ……?」
「初めて……?」
「鍋が……?」
(やよい、もしかしてお鍋すら出来ない家庭なの……?)
(お鍋って多人数で食べるなら寧ろ安くなるはずだけど……)
(高槻家の主食がもやしってもしかして本当なのか……?)
「ほら、私の家って家族が多いから一斉にお鍋をつつくと取れない子が出てきちゃうの、、
それで、取り合いになると困るから、こういうお鍋をする時でも最初から小分けにして出しちゃうんですよねー」
「「「…………」」」
「だから、こうやってお鍋から直接取るのは初めてで……って、みんななんで黙るんですか?」
「い、いや……やよいが鍋をつついた事が無いってのが意外だったからなぁ、伊織?」
「そ、そうね……鍋を一度もした事が無いなんてそうそう無いわよね……」
「み、水瀬さん!」
「あっ……!」
「あの……みんなもマスコミの記者さんみたいに家がもやしを齧ってるって思ってます?」
「「「そ、そんな事は……」」」
「これだけは言っておきます。私の家、三食普通にごはんを食べるくらいはできますからね?」
「「「すいませんでしたぁ!!!」」」
注文をとりに来た店員が見た光景は、幼い少女に土下座する三人の男女と言う奇妙な光景であったと言う
やよいに失礼な想像をした奴は腹筋72回な、無理なら27回でも良し
鍋って多人数だと後の人の順番がくるころには肉がなくなってるんだよねw
食べ放題ならいいんだけど
ともかくGJでした
こんばんは、メルヘンメイズやよいの大冒険7話目投下します
今回は繋ぎ部分なので、あまり面白くないかもしれませんが… では
第7話 そらの国 〜あずささんと迷子のひよこ〜
少し冷たい風が吹いています。
下を見ると、そこには図鑑でしか見たことのないような高い山がいくつも、そして雲すらも足元を悠然と
流れていました。
「ここは空の国… 鏡の国の中心部に向かう通路みたいなところですね」
「じゃぁ女王にも…」
「ええ、まだもう少し道はありますけどね」
見渡す限り青い空、まぶしい太陽、そしてどこまでも続く床。
普段だったら、こんなところでお弁当でも広げておしゃべりとかしたくなるようなところです。
でも、やよいは遊びに来たわけではありません。ここにも誰か助けを待っている人がいるはずです。
「誰かいれば、すぐに見つかるよね?」
「ええ、見通しもいいですし、間違ってもここで迷子になるようなことは無いでしょう」
その頃…。
「え〜と、ここはどこなんでしょう…」
「私は寝る前にコンビニに行って、お買い物をしてきたはずなのに…」
背の高い女の人が、なにやら言いながら歩いていました。
とは言っても、同じところを右往左往しているばかりで、気が付くとまた同じ所に戻ってきている始末。
「はぁ… 私にもやよいちゃんみたいに元気があったら…」
そう言いながら、近くにあった大きな箱に座って空を眺め始めました。
「どこまでも青い空ね〜、さっきまでは綺麗な星空だったのに」
さて、やよいたちのほうは、くるくる回って飛んでいるトンボやトランプの兵隊たちを吹き飛ばしつつ順調に
進んでいました。
シルクハットを頭にかぶった小人たちがたくさん道をふさぎつつ、やよいたちに向かってきました。
やよいはシャボン玉をぶつけてどいてもらおうとしますが、小人たちはその度にシルクハットをすっぽり
かぶって飛んできたシャボン玉を防いでしまいます。
「まったく、ハッタのやつもあいかわらずキチガイじみた物を作るものだ」
ウサギがシルクハットを見ながら言いました。
「こういう相手には普通に挑んでも意味がありませんから」
「どうするの?」
「一度向こうを向いてください」
やよいが言われたとおりにすると、小人はやよいの背中を突き飛ばしてやろうとして、シルクハットから
出てきます。
「そこです」
振り向いてシャボン玉をぶつけると、小人たちはまとめてシャボン玉と一緒に飛んでいってしまいました。
「やったぁ!」
「こういうタイプはどこの世界でもこうやって倒すものですよ」
一方。
「三浦あずさの青空レポート〜」
さっきの背の高い女性… あずささんは、まだのんびりと歩いていました。
でも、さっきと違って同じところばかり歩いていたわけではありません。
「ぴよぴよ」
あずささんの足元にはひよこが歩いていました。
不思議なことに、そのひよこは黄色の毛の中に一房だけ緑色が混ざっていて、どこからともなくあずささんの
側にやってきたのでした。
そしてまるであずささんを案内するかのように先へ先へと歩いていきます。
「かわいいですね〜」
やがて大きな広間までやってくると、ひよこは懸命に羽をばたつかせて飛ぼうとしました。でも悲しいかな、
ひよこは空を飛べません。
「あらあら、この先に行きたいのかしら?」
あずささんはひよこを両手に持つと、そのままジャンプして向こう側に。
そしてひよこを降ろしてあげます。
「ピヨォ」
ひよこはそう鳴くと、嬉しそうにその先へと向かって走っていきました。
「ひよこさん、良かったわね〜」
「やよい、もうすぐですよ」
「うん、でもここには誰もいなかったね」
一方、こちらはやよいとウサギ。
あちこちを歩いてきましたが、結局誰かがいる様子はありませんでした。
もうすぐ出口も見えてくるはずです。
「見通しのいいところですし、誰かいればすぐに見つかりそうなものなのに」
「ひよこさん、無事におうちに帰れたかしら?」
あずささんはひよこと別れた後も、その去っていったほうに向かって歩いていました。
「でも、どうやって私は帰ろうかしら〜」
いつの間にか、あずささんは広々とした床があるところまで来ていました。
見る限りここで行き止まりになっていて、これ以上行くところは無さそうです。
「ふぅ…」
ここまで歩いた疲れもあったのでしょう、いつしか、あずささんは暖かい日差しの中でうとうととお昼寝を
始めてしまいました。
「zzz…」
「さぁもうすぐ出口があるはずです」
「うん、それじゃぁジャンプして…」
やよいたちはいつもの広い床までやってきました、そこで見たもの、それは…
「あずささん!」
「こんなところに倒れているとは… きっと魔物に襲われたのでしょう」
二人が辺りを見回すと、ちょうど空中から大きな鳥が降りてきて、ギャァギャァと不快な鳴き声を上げて
いるところでした。
「デッドルースターか…」
「でっかい鳥…」
「いや、あれも機械仕掛けです、さっきのレイドックみたいなものですね」
近くで見ると、それはニワトリのような格好こそしていますが、アヒルのような大きな嘴に茶色い翼、
青や白の派手な体。そして首の下には鏡が…。
「これは女王の魔力で操られているだけ… 何とか止めなくては」
「うん!あずささんのかたき、覚悟ー!」
やよいがシャボン玉を用意してデッドルースターと向き合った、正にその時。
「ピピィ」
突然、1羽のひよこが二人の目の前に現れました。
それはシャボン玉を構えているやよいの方を見ると猛然と走って来て、そしてやよいの足をひっきりなしに
つついたりしています。
「痛いです〜」
「これは… ただのひよこのようですが…」
ウサギがひよこを抱き上げると、今度はウサギの顔をつついたり手の中で暴れたり。
緑色の毛が一房ある以外、どうみても普通のひよこのようですが…。
「あらあらまぁまぁ」
あずささんが目を覚ますと、大きな鳥とウサギのぬいぐるみ、そして見知った女の子が目の前にいます。
「…これは…」
そしてもう一度前を見てみると、さっき助けてあげた小さなひよこもいました。
「ひよこさん、無事に帰れたのね」
突然後ろから声が。
振り向くと、魔物に襲われたはずのあずささんが元気にこちらに向かって歩いてくるではありませんか。
「あずささん」
「無事だったんですか?」
「ええ、ここに来るまでにちょっと迷子になっちゃったけど、そこのひよこさんに連れてきてもらったのよ」
「それで歩き疲れたから、ここで休ませてもらってたの」
事も無げに、あずささんは言いました。
「え゛…」
やよいたちの額に汗が。
それにも気が付かずに、あずささんはひよこの方に言いました。
「そちらはお母さんかしら〜」
大きな鳥を見ながら、のんびりとした口調であずささんが。
「お母さん…?」
やよいはひよことデッドルースターを交互に見ますが、もちろん似ても似つきません。
この2羽が親子だなんて…。
「そうか、インプリンティング!」
突然ウサギがそう叫びました。
「それって、雛が最初に見たものを親だと思い込むという、あれかしら?」
これはあずささん。
「そっか、だからこのひよこさんはお母さんをいじめていると思って私に…」
「もともとここに置かれていたおもちゃを、偶然このひよこが見つけたのですね」
みんな納得した様子。でも、デッドルースターを止めないことには先に進めません。
どうしようかと、やよいが思っていると…。
「ひよこさん、いらっしゃい」
あずささんがひよこの前まで来て、手をひよこのほうに伸ばしました。
「みんな優しい人だから大丈夫よ、ね?」
「…」
「…」
言葉が通じたかどうかは分かりませんが、しばらくしてひよこはあずささんのほうに歩み寄ってきます。
そして、しゃがんでいるあずささんの胸のふくらみに、ぽふっ、と飛び込みました。
「もう大丈夫よ〜」
そう言いながら、あずささんはやよいたちから離れて、そしてやよいたちにうなずいて見せました。
これで安心して戦えそうです。
程なくデッドルースターはその動きを止め、やよいたちはその首にかかっていた鏡を手に入れました。
「これでまた次の世界に…」
と言いかけて、やよいはハッと気が付きました。
「あずささん、ひよこさんは…!」
「…気絶しちゃったわ…」
悲しそうにあずささんが首を横に振ります。目の前で自分のお母さん(と信じているもの)がこのような
ことになってしまっては…。
「ひよこさん… ごめんね…」
やよいの目からも涙がこぼれます。
「…連れて帰るのも無理ですし、残念ですがこのまま…」
とウサギが言いかけた、その時でした。
「…何かしら?」
向こうのほうの空から、何か飛んでくるのが見えました。
「鳥の群れ… ですね。恐らくはこの辺に住んでいたものでしょう」
「みんな帰ってきたですー」
その中から何羽かの鳥が出てきました。それらは全体をライトグリーンの羽に覆われた、やよいが見たことも
ないような美しい鳥でした。ところどころの羽が、太陽の光を反射してきらきらと輝いています。
「ひょっとして、このひよこのお母さんかも知れませんよ」
あずささんがひよこを地面に降ろすと、鳥達が近寄ってきます。
そして目の前の小さなひよこを羽で包んで、しばらくコロコロと揺らして…。
そうしているうちに、ひよこも目が覚めた様子。しばらくは目の前にいる大きな鳥におびえた様子でしたが、
「…ピピィ」
やがて、そっと鳥のほうに体を摺り寄せていきました。
「これで安心ですね」
「良かったね、ひよこさん」
「ひよこさん、さようなら〜」
あずささんは鳥達のほうに手を振りながら、鏡の中へと入っていきます。ちょうどひよこはさっきの鳥と
一緒に飛ぶ練習をしているところでした。
「ピィッ!」
ひよこも返事をして見せます。
「さぁ、では私達も。いよいよこれからが本番ですから」
ウサギの真剣な表情に、やよいも緊張の面持ち。でも、ここまで来たら後には引けません。
やよいは目の前の鏡をじっと見つめて、しばらくそのまま風に吹かれたままになっていました。
女王とはどんな人なのでしょう? そして、そこに待っているのは…。
第7話は以上です
…あずささんだけは、どうやってもバトルに絡めることは出来ませんでした…
82 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/01(火) 23:02:02 ID:Y+rNz+gM
ほ
も
さ
ぴ
え
ん
88 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 00:26:27 ID:weCbAScB
埋めるなww
>88
いや、ネタになるかと思ってw でも、ほもさぴえん埋
これではチト厳しいな
>>74 それではこちらからも小ネタを投入です。
ある日の午後、プロデューサーは律子が普段と違う様子なのに気づいた。
「律子、コンタクトに変えたのか?」
「え?いいえ、ちょっと目薬をさすので外してただけですけど」
律子はそう言うと、そばに置いてあったいつものメガネをかけた。
「そうか…」
「なに残念そうにしてるんですか。前に『律子のチャームポイントは、やっぱりそのメガネだよな』
とか言ってませんでした?」
「あー、そうだっけ?」プロデューサーは覚えてないなあ、というように頭をかいた。
「そうですよ!だからこっちだって、コンタクトじゃなくてずっとメガネを…じゃなくて、そうじゃなくて!」
「なにそんなにうろたえてるんだよ」
「うろたえてなんかいません!私はいつでも沈着冷静です!」律子はどう見てもそうとは思えない様子で叫んだが、
急にいぶかるような目つきでプロデューサーをにらんだ。
「ひょっとして、メガネがキライになったんですか?」
「いやほら、そうじゃないけど、わりとジャマだろ?」プロデューサーは自分の目のあたりで、メガネのフレームを
持って動かすような格好をした。律子は首を振った。
「長年のつき合いですから、もう体の一部みたいなもんですよ。本を読むのにも、仕事をするのにも、じゃまに
思ったことなんてありません」
プロデューサーは何も言わず、口をヘの字に曲げている律子に近づくと、じゃまなメガネをそっと持ち上げた。
お久しぶりです、メルヘンメイズやよいの大冒険第8話いきます
すっかり忘れられてるかもしれませんが、完走までお付き合いくださいませ
では6レスほど使わせてもらいます
第8話 かがみの国 〜春香さんがいっぱい!?〜
「うぬぬ、ウサギの奴め…」
暗い暗い、闇の中。
水晶玉を眺めながら、恐ろしい形相で何やら呟いている人影。厚いコートを身にまとったまま、いらいらと
歩き回っていました。
…これこそが、鏡の国を支配しようとしている女王でした。
その視線の先には、水晶玉に映ったウサギ、そしてやよいの姿が。
「ただでさえこのような体になって窮屈しておるのに、人間を連れてこの私に立ち向かうとは…」
女王のいらいらは、周りにいたトランプの兵隊達にもはっきりと伝わってきます。
「お前達、何としてもあの二人を捕らえて、首を刎ねてしまうのだ、よいな!」
「へ、へへー」
「…これが、鏡の国?」
「…そうです、もっとも今ではここも女王の支配下になってしまって、すっかり変わり果てた姿になってしまって
ますが…」
やよいとウサギの二人は、そんな話をしながら目の前の光景を呆然と眺めていました。
そこは鏡の国というにはあまりにも暗くて、うにょんうにょんしていて、ついでに楽しそうな雰囲気の
欠片もないようなところでした。
鏡の国なんて生まれてこの方見たことも無かったやよいでしたが、これが鏡の国だといわれても絶対に納得
できない、そんな自信さえあります。
見てるだけで憂鬱になってきそう、でもここを進まなくては鏡の国に平和を取り戻せません。
ウサギの言葉どおり、ここでは少し歩くとすぐにいろんな魔物に出くわします。
特にこのトランプに足が生えたような魔物は頻繁に出てきては、やよいを追い掛け回してきます。
「トランプ兵ですね… 女王が一番よく使う奴らです」
やよいはその突撃をジャンプで避け、背中を向けている兵隊たちにシャボン玉をぶつけていきます。
床を飛び移っていくと、二人は大きな広間にたどり着きました。
不思議なことに、そこには大きな鏡のようなものがいくつも並べられています。
やよいがその中の一つにそっと近づいていきます。しかし、その鏡にはやよいはおろか、何も映ってません。
「…?」
と、その時。
鏡の中の景色が動いたような気がしました。
それはゆらゆらと動きながら、やがて一つの形を作っていきます。
「春香さん…?」
それはやよいの良く見知った女の子でした。でも、いつもと違う点が一つ、それは服でした。
青と白のドレスに水色のエプロン、色だけ変えればやよいの着ているドレスにそっくりのものです。
「こんばんは、やよ… あ、わぁぁぁぁ!?」
見ているうちに、春香さんは鏡から出て来て挨拶を… しようとして転んでしまいます。
うつぶせに倒れてる春香さんを助け起こそうと、やよいが駆け寄りました。
「あいたた…」
「はわっ、大丈夫ですか… ?」
そこで、やよいは妙なことに気が付きました。
「あの… 痛くないんですか?」
その春香さんは転んで『痛い』とか言ってるはずなのに、顔の表情が笑顔のまま、全く変わることがありません。
まるでお面でもかぶっているかのような…。
その様に、やよいは思わずビクンッと肩を震わせます。本能的、とでも言うのでしょうか。
そうしている間にも、他の鏡からも次々と春香さんが出てきては、やよいの周りにわらわらと集まって…。
「やよいちゃんだいじょうぶ」
「おかしつくってきたんだよ」
「いっしょにれっすんいかない?」
いろいろなことを言っています、どれもこれも同じ顔の表情をしたまま。
「うう〜…」
恐怖のあまり、じりじりとやよいは後ずさりを。しかしすぐに床の切れ目まで追い詰められてしまいます。
それでもやよいの方に寄ってくるたくさんの春香さん。
「こ、こんなの春香さんじゃありません!」
叫びながら、やよいは向こうの動く床に素早く飛び移り、そしてシャボン玉を構えます。
めいっぱいシャボン玉を膨らませて、春香さんたちを吹き飛ばそうとした、その時。
「え…!?」
なんと春香さんたちもストローを取り出し、そこからシャボン玉を出してくるではありませんか!
そこかしこから飛んでくるグレーの小さなシャボン玉。
それぞれが逃げ場の無いやよいにぶつかって、嫌な痛みと共に体中で弾け、頭がくらくらと…。
「やよい、逃げるのです!」
そんな声がします、しかし、全てが遅すぎました。
やよいの体は、床が動いた拍子に崩れ落ち、そしてそのまま奈落のかなたへと消えていきました…。
「や…」
「やよいーーーーーーーー!!」
ウサギの声だけが、いつまでもその場に空しく響いていました。
「…」
床から落ちて、くるくると回りながらやよいは空中をどんどん落ちていきます。
やよいにも、高いところから落ちて地面にぶつかったらどうなるかぐらい、分かっていました。
遠くからはウサギが自分を呼ぶ声。
ぼんやりとした頭で、ウサギさんもあんなに大きな声で叫んだりするのか、とか考えてみます。
「ごめんね… 私、もう帰れそうに無い…」
妙にゆっくり流れている景色を眺めながら、やよいはそう言いました。家にいる家族たちはどう思うかな、
せっかく助けた雪歩さんや真美ちゃん、そしてまだ会えてない伊織ちゃんは…。
やよいはまだ空中を落ち続けていました。
派手で綺麗な色の洋服…
おいしそうなお菓子…
『100%オレンジジュース』と書かれた大きな瓶…
テレビでしか見たことのない外国の風景…
流れていくそれらがはっきりと見えている、不思議な空間。
けれど下を見ても真っ暗で、これからどんなところに行くのかさえ分かりません。
「…」
どれぐらい経ったでしょうか、やがて下のほうにかすかな光が見えてきました。
それが何なのか分かる前に、
ぼふっ…
やよいは自分の体に衝撃が走るのを感じました。
しかし、不思議とそれはすぐに治まり、そしてもうそれ以上体が落ちることもありませんでした。
とりあえず無事に着地できたことは間違いありません、でもここはいったい…。
体の下には小枝と枯葉の山。
クッションになってくれたその上から飛び降りて見ます。しかし辺りを見ても何もありません。
空も見えず、辺りも真っ暗に近い空間…。
「ここも… 鏡の国?」
もう真っ暗とかそういうのには慣れたつもりなのに、こうも何も無いところだとさすがに寂しくなります。
それを振り払うかのように、やよいは元気良く歩き始めました。もちろん当てがあるわけではありませんが、
ここでじっとしているよりはよっぽど良いと思ったのでしょう。
「♪な〜やんでも、しっかたない、まそうさ、きっと明日は違うさ…」
そうしてしばらく歩いていると、
「その声… やよい?」
突然、暗闇から声がしました。
さっき沢山聞いた声、それは春香さんの声でした。
「……!」
いつもならすぐに駆け寄って挨拶とかするのでしょうが、さっきひどい目にあったせいか、やよいは体を
震わせながら、
「こ、来ないで!」
と大きな声で叫びました。
「ど、どうしたのやよい?」
「春香さんがいっぱいいます〜!」
「ちょ、ちょっと何がどうなってるの?」
「春香さんは黒くありません、黒いのは中の人だけです!」
もはや何を言ってるのかさえ分かりません。それでも、
「やよい、私だよ」
「落ち着いて、ね?」
と、春香さんは呼びかけます。そこから春香さんが近付いてこないのは、やよいが余計パニックになると
見たからでしょうか。
「…ほんとに、春香さんですか?」
ようやく落ち着いたのか、やよいも春香さんの声に答えます。
「うん… やよいも何かひどい目にあったみたいね…」
ようやく姿を現した春香さんは、青と白のドレスではなくピンクと白の上着、水色のスカート、そして髪には
可愛らしいピンクのリボン…
「…はうぅぅぅ…」
それを見て、やっとやよいも安心できたようです。
しかし…
そこにいたのは春香さんだけではありませんでした。
ふと前を見ると、春香さんの向かいには、おばあさん… でしょうか…。
妙に大きな鼻に紫色の服、そして杖を持ったおばあさんがいつの間にか立っていました。
思わず身構えてしまうやよいたち。そんな二人におばあさんは優しく、しかし力のある声で言いました。
「お前たちは何者じゃ」
「わ、私たちは…」
そう言いかけたところに、さらに言葉が被さりました。
「こんなところに人間が来るとは、珍しいこともあるものだ」
おばあさんの言葉に、
「め… 珍しいんですか?」
と、やよいが尋ねます。
「ああ、珍しいともさ。最近は夢を持った子供なんてものはとんと見かけなくなったからの…
この鏡の国… いや、夢の国に来られるのは、夢を持った純粋な人間だけなんだよ」
「あ、じゃぁ私も…?」
「そうかも知れんの」
春香さんの言葉にも、おばあさんはあっさりと答えました。
「まぁゆっくりしていけ、どうせここは夢の国、時間などたっぷりとある。訊きたいこともあるし、うちで
休んでいかんか?」
どうやら悪い人ではなさそうです。
やよいたちはおばあさんの厚意に応えることにしました。
たどり着いたのは、ゆうに数百年は経っているかのような古めかしい家でした。
しかし中は綺麗に整った家具や調度品、部屋の隅には黒い子猫がのんびりと寝転がっています。
まるで、ここだけ時間の流れが止まっているかのようでした。
「すごく古いお家なんですね…」
やよいは正直な感想をおばあさんに言いました。
「さっきも言ったろう、ここは時間なぞたっぷりあるのだ、と。その辺の椅子に座って待っておれ」
言われたとおりに、二人は椅子に腰掛けます。不思議と、そこに座っていると自分たちまで時間の流れが
遅く感じられるようでした。
「そうだ」
お茶を飲んでしばらく休んだ後、おもむろにやよいはおばあさんに言いました。
「あの… 私鏡の国の女王を倒しに行かないと…」
「女王だと…?」
「はい、鏡の国の女王を倒すために、ウサギさんと一緒にやってきたんです、私」
「そうか… それでこんなところに人間が…」
おばあさんはそう言って、しばらく黙り込みます。
「ふむ… ウサギというのは知らんが、そのドレスにストロー… もしかして…」
「知ってるんですか、これのこと?」
「ああ、そいつは女王、そして守護者と一緒に封じ込められていたものだ。もっとも、誰でも使いこなせる
ものでは無いから、実質意味の無いものとなっておったのだがな」
「私、これを使っていろんなところを廻ってきたんです、シャボン玉で敵を倒したりして…」
やよいはそう言って、ストローからシャボン玉を出して見せました。
「ほう… 見事だな」
おばあさんの顔が少し緩んだように見えました。
「お前さん… やよいとか言ったか… やよいが今まで通ってきたのは通路だな」
「通路… ですか?」
「昔守護者が女王を封印しに行くときに使った通路、そして敵をおびき寄せるための罠だよ」
おばあさんが説明してくれます。
「鏡の国にいる魔物をまとめて一網打尽にするためにわざわざああいう通路を作ったのだろう、女王への
最短距離、しかも守護者がそこを通るとあらば、そこを魔物で塞いでしまおうとするのは当然のこと」
「その通路が今でも残ってる…」
「左様」
「でも、封じ込められてたって、どういうことですか?」
そこに春香さんが口を挟みました。
「そいつはさっき言ってたウサギとやらに訊いてみるがいいじゃろ。わしの考えが合ってるなら、きっと
答えてくれる… っと、ウサギのところに帰れんことには訊くことも出来んか」
そんなことを言いながら、おばあさんはどこからともなく何やら持って来ます。
「…これを使ってみるがいい」
「これは… 風船?」
やよいたち二人に一つずつ手渡されたそれは、小さな赤い風船でした。
「それを膨らませて、捕まれば上の世界に戻れるはずだ、お前さんたちが本当に夢を持った人間ならな…」
それを聞いて、知らないうちに二人はうなずきあいました。
「「…やってみよう!」」
二人は早速外に出てみます。
もらった風船を膨らませると、何もしないのにふわふわと空中に浮かんで、ちょうど目の高さで止まり
ました。その下にはちょうど両手でつかめるぐらいの紐がぶらさがっています。
「これが…?」
不思議そうに、二人はその風船を眺めていました。
「紐を掴んで地面を蹴ってみぃ」
おばあさんの言うようにすると、風船がふわふわと昇って行きます、そしてやよいと春香さんも…。
「飛べた!」
「すごいですー!」
二人の体がどんどん空中を駆け上がっていきます。
「そのまま上まで戻ったら風船を離せばいい。もうこのような所に落ちて来るでないぞ」
おばあさんが声をかけてくれました。
既に小さく見えているおばあさんに、
「ありがとうございましたー!」
頭だけでお辞儀をするやよい、そして春香さん。
そして… やよいたちはまた、不思議な風景の中を戻っていきました。
泡だらけで、良い匂いのする空間。
たくさんの人に囲まれて、楽しそうに歌う女の子の姿。
そして、やよいが可愛らしい服を着て楽しそうに歩いている姿…。
「くっ…」
まだウサギは下を眺めています。
たくさんの春香さんからは逃げてきたものの、この姿のままで出来ることは知れています。
「もはや鏡の国は…」
そう言いつつ、ウサギが着ているタキシードの中に手を入れかけた、その時…!
「…!?」
目の錯覚でしょうか。
何も無いはずの奈落のかなたに赤い点が二つ。
それはウサギの見ている前で見る見る大きくなり、やがてウサギの頭上高くまで昇っていきました。
何事かと思って、ウサギは空を見上げます。そこにいた姿、それは…。
「やよい… それに、春香!」
二人の女の子たちは、ここに戻ってきました。
「もう同じ失敗はしません!」
やよいは声高らかに、ウサギにそう言うのでした。
三人はようやく落ち着いて、前を見据えます。
「さぁ、それでは」
「この世界のボスのところに…」
と、そこまでやよいが言いかけた、その時。
「その必要はないでおじゃる〜」
突然どこからか、奇妙な声が聞こえました。
「…!?」
周りを見回しても、誰もいません。と思ってると、突然やよいたちの周りが暗く…
「上です!」
ウサギの声に上を見上げると…、何やら丸くて大きなものが空から降って来るではありませんか!
みんな別々の方向に走って、なんとか潰されないようにします。
しかし、
「きゃぁっ!?」
春香さんが足をもつれさせて転んでしまいました。
「春香さん!?」
やよいが春香さんを助けに行こうとしたその時、
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン…
土煙とともに、その丸いものは地面にぶつかって、そして着地しました。
春香さんの転んだ、そのすぐ横に。
「た、助かりました…」
春香さんが、倒れたまま大きく息をつきます。
しかしこれは、なんでしょう… 丸いものと思っていたそれには、頭と短い足も付いているようです。
「ワシはビッグトータスでおじゃる、あんまり遅いからこちらからやっつけにきたでおじゃる」
頭の部分から声が聞こえます。
土煙が晴れると、みんなの目の前にはくるっと丸まったひげを生やした、大きな顔がありました。
「ず、ずいぶんせっかちな奴ですね…」
「時計を持って慌てて走ってるような奴に言われたくないでおじゃる… ところで、そこの娘!」
そう言うと、ビッグトータスのひげがびしっと春香さんのほうを指しました。
「え、わ、私ですか?」
きょとんとしてる春香さん。
「そう、お前はどうして走ってるだけで転ぶでおじゃるか」
「…」
…え?
「普通、こんな何も無いところを走って転ぶ奴なんていないでおじゃる」
「そ、そんなこと知りませんよ〜」
ビッグトータスの言う通り、ここには平らな床があるだけです。
「そういえば、鏡から出てきた春香のそっくりさんも…」
「転んでました…」
ウサギとやよいのふたりが、妙に納得したような表情を浮かべます。
「せっかく走ってきたところに着地して踏み潰してやろうと思ったのに… 頭に来たでおじゃる!」
そう言うと、ビッグトータスは短い足で高々と飛び上がりました。
「喰らえ〜」
走って逃げる春香さん、しかし…
「…あ!」
何も無いのに、春香さんは床に蹴躓いて、思いっきり空中に。
その横にビッグトータスが落下すると、床がズシンと揺れます。そのせいで、やよいたちは転んでしまいました。
「わ、わぁっ!?」
しかし、既に転んでいた春香さんは、くるっと空中で回って足から着地しました。見事です。
「お、おのれぇぇぇ、またしてもぉぉぉ!」
「わわわわ、私は何も悪くありませんよぉ」
春香さんに腹を立てたビッグトータスは、今度はその短い足で走って春香さんを追い掛け回し始めました。
「春香さん!」
やよいが春香さんを呼びますが、
「いや、これはチャンスですよ? 奴は春香以外目に入っていないようですし」
ウサギはそう言って、やよいを止めました。
「…そうか、じゃぁこのシャボン玉で!」
「ですね、甲羅は固いですから、顔にバチーン、と」
ウサギから離れると、やよいはビッグトータスたちの方に近付いていきます。
「はぁっ、はぁっ、しつこい奴でおじゃる」
「いい加減諦めてくださいよぉ…」
ビッグトータスと春香さんの追いかけっこはまだ続いています。
二人の方に近付いていって、やよいはシャボン玉を用意しました。
走ってくる春香さんの正面に立って、
「春香さん!」
いきなり呼びかけます。
「え、やよい、わ、わぁぁぁっ!?」
春香さんが横に転んでしまうと、その真正面にビッグトータスの顔が!
「そこです!」
そこにやよいは大きなシャボン玉をぶつけます。
春香さんの影に隠れていたやよいの攻撃を避けられず、ビッグトータスの顔面にシャボン玉が炸裂します。
その拍子に、ビッグトータスは足をもつれさせ、そして…
「ぬぉぉぉぉぉっ…!?」
前のめりになったかと思うと、そのまま転んで、そしてひっくり返ってしまいました。
「…」
「…」
足の短いビッグトータスのこと、自分ひとりでは起き上がるのも大変でしょう。
「助けるでおじゃる〜」
「…どうしましょう?」
やよいが問い掛けると、
「転ぶのを馬鹿にする人は、しばらくそのままの格好で反省してるといいと思いますっ」
すかさず春香さんが言いました。
「…そうですね。少なくともやっつける手間は省けましたし」
「行きましょうか」
ウサギとやよい、そして春香さんの多数決で、このまま先に進むことに決定したようです。
「た〜す〜け〜て〜〜〜〜…」
ビッグトータスの声だけが、その場にいつまでも響いていました。
先に進むと程なく行き止まりに。
そこで、やよいたちは鏡を見つけました。今までのよりも大きくて、そしてキラキラと虹色に光っています。
「これを、こうするといいはず…」
ウサギが呪文を唱えて鏡を持ち上げると、そこからまばゆい光が放たれ、周りの暗闇を消し去って行きます。
そして、そこからは青空の爽やかな光が…
やよいがウサギを持ち上げ、そこらじゅうに虹色の光をふりまいていきます。
そうして、やよいたちは鏡の国の魔物をほとんど消し去ってしまうことに成功したのでした。
「やったぁ!」
「これで… 終わりなの?」
「いいえ、まだ… 女王はこの先に…」
ウサギが言いました。
そうです、まだ終わりではありませんでした。
この先に待ち受ける女王、それを倒さない限り、本当に鏡の国に平和を取り戻したことにはならないのです。
「じゃぁ春香、気を付けて帰るのですよ」
ウサギたちに見送られて、春香は鏡の中に入っていきます。
「うん、ありがとう。 …あ、やよい、一つ訊いていいかな?」
「え、何ですか」
「やよいの夢って… 何?」
「夢…」
やよいは困った顔になってしまいます。
「…春香さんは、何かあるんですか」
今度は逆にやよいが春香さんに問い掛けました。
「私は… そう、やっぱり好きな人と…」
と、そこまで言いかけて、春香さんは顔を真っ赤にしてしまいます。
「…?」
その意味が、果たしてやよいには分かっていたでしょうか。
春香さんを見送って、やよいたちも鏡の中に。
ここから先に進めば、さっきのおばあさんの言ってたことの意味が分かるのかな…?
でも、今のやよいには、それを訊く気は不思議と起こりませんでした。
「さぁ行きましょう。いよいよラストですよ」
第8話は以上です
…この表情の変わらない春香みたいなネタを好まない人ごめんなさい
100 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 01:40:33 ID:tpsf/CpN
冗談抜きで過疎ってるな…;
キャラスレ等では忌避される長文の踏み込んだ感想がここに書く最大の魅力なのに
書いても感想が無いんだもの、そりゃ過疎りもするさ
多分、いつもその手の感想を書いてる人達が軒並み規制に引っかかってるんだろうけど
規制が緩む気配は一向に無いからなぁ、参院選も近いし。
後、作品はあるけどPC携帯共に規制でろだに上げる手段すら取れない人とかもいるかも
他の人が気合の入った感想書いてると、
一言だけの感想とか雑談ネタとか書き込んでもいいのかなーとか、
逆にしり込みしてしまうとです。
千早中心の短編とか、こっちとキャラスレどっちに投下したら良いかホントにわかんねえデス。
>>102 何度か書いた事がある身としては一言感想でも
興味を持って貰えてるって事で凄い励みになるから大歓迎ですよ、うん
>>103 舞台からは客席が見えないから、一人でも二人でも、拍手とかブーイングとかがないと、
見てる人がいるかいないか、わからない、ってことかな。
住人いるんじゃんw と言うかそこでこそ感想投下じゃないのか諸君www
ということで感想未投下の作品総ざらえします。書き手のみなさんほっぽらかって
すみません。
なんか新作書きあがらないと書き込めないようなカンジに追い詰められてました。
>>62 少し前にも春香絡みのフェイクものがありましたが「将来幸せになる春香」はやはり
読んでいて嬉しくなります。いろいろなことがあっても最終的に愛する家族に囲まれる
ビジョンは、春香にはとても似合いかと思いますね。
直下の感想にもありましたが、この男性がPであってくれればと願います。たとえば
「……まったく。俺がプロデュースしてた時と変わらないじゃないか」なんていう説明
セリフがあれば(こういうの嫌う人もいるんですがね)その辺りが想起され、読み手
として安心できます。
ともあれGJ、母の日SSナイス投下でした。
>>74 ○> <サン、シ、ゴ...
∧/
というか鍋のあとの雑炊こそ大人数の腹を膨らませるベストアイテムだと言うのにw
この手の話題でやよいが怒るのは珍しいですね。ランクも上がってきたところで雑誌に
不本意なこと書かれてむーってしてたのかも知れない。
鍋ネタはみんなが和気藹々するのがよいですな。たぶん彼女らもこの後、みんなで
楽しくパーティしたんでしょう。
GJ!俺にも一口!
\_○ <ダメデシタ
 ̄ ⌒
>>90 律子のメガネは「律子にとって」ではなく「Pにとって」じゃまってことですか?
理由云々より赤面うろたえ中の律ちゃんにそんなジゴリーなアクションかますのって
スーサイドにもほどがあると思いますがw
一瞬後、電光石火のハリセンが炸裂する中カラダ張ってメガネを守るPと、ばったり
倒れたPからメガネを奪い返す律ちゃんが脳内に降臨しました。
お体お大事にP。そしてGJでした。
>メルヘンメイズ やよいの大冒険
毎回楽しく読んでおります。
あずささんのお母さん臭は大物の域!そして春香さんは転んでこそ春香さん!
キャラクターが特徴的なアイマスですが、うまくエピソードに絡めて進めていると思います。
もうこの辺は原典ゲームでも全く知りませんし、普通に冒険譚の読者として手に汗握って
追わせて頂いてます。
さあ、いよいよラストらしいです(最終話とは限らないでしょうが)。ここまででまだ『出演』
していないアイドルはわずか。ここまで広がった大風呂敷の畳み方やいかにッ!
固唾を呑んで待たせていただきます。このスピードなら慌てることはないでしょう、
どうぞご存分に書き上げてくださいませ。
ではまた。
その事件が起きたのは6月25日の事でした。関係者のE.M.さんは事件当時の事をこう語ります。
「あれは地獄?もしくは地獄の方が生やさしい?」
友人と共に現場に居たというY.S.さん、彼女も事件で大きな後遺症を抱えたといいます。
「あの事件から数日は中々寝られなかったですね。だって耳の中でずっと響いてるから」
事件が起こった会社の社長のM.I.さんも会社が壊れないか心配したそうです。
「事務所全体が震えていました。ガラスが割れるんじゃないかとか色々不安でしたね」
「まあ少なくとも、会社に居る人間は本当にダメージが大きかったと思います」
事件で最も大きな被害を受けたと言うR.Oさん、A.S.さんのお二人。
「絵理を守ろうと夢中だったわ、まあ絵理を守れたからそれでいいけど」
「って何嘘言ってるんデスかこのロン毛!センパイを守ったのは私デスヨ!」
「事実を捏造しちゃダメよ、鈴木さん。貴方は泡吹いて倒れてなかったかしら」
「その言葉はそっちにそっくりお返ししますヨ!」
以下略
事件当時、現場に居た有名アイドルのH.A.さんも事件の影響が大きく出ているようです。
「あの事件の後で変わった事? そういえば転ぶ回数が減った気がしますね、えへへ」
事件の元となったパーティーを主催したと言われるR.A.さんは後悔していると言う。
「もし、あの時僕がどんなのか見せてって言わなかったらあんな事にならなかったとは思います」
「でも気になったんです。でもまさかあんな事になるなんて思いもよりませんでした」
「ただ一つ良かったのはあの事件にも負けず主賓を気持ちよく帰せたことだと思います」
最後に事件の首謀者である、A.H.さんに話を聞いた。
「え、6月25日? 私の誕生会の事ですね!」
「事務所の皆が誕生会してあげるって言ってくれたので、凄く嬉しくて」
「前の日はちょっとだけドキドキして眠れなかったんです」
「あ、それに春香さんも忙しいのにわざわざ来てくれたんですよ!」
「みんなが集まった所で絵理さんが私の年の数だけろうそくが挿してあるケーキを用意してくれて」
「涼さんがろうそくに火をつけてくれたんです。その後皆がハッピー・バースデイを歌ってくれて」
「ろうそくの火を消した時、皆が拍手してくれて。私、凄く幸せだなって思いました。」
「みんなで仲良くケーキ食べました。ケーキはいちごのショートケーキのホールです」
「その後皆がプレゼントをくれたんです。誕生会に来れなかった人たちもわざわざ用意してくれてたみたいで」
「いっぱいプレゼントもらって、改めて思ったんです。私アイドルになれて良かった」
「諦めなくて良かった。皆と会えて本当に良かったって」
「え、プレゼントですか? 細長いの?」
「あー、ありましたね!涼さんにどんなのか見せてってお願いされたから開けました」
「最初何か分からなかったんですけど、楽器だっていうのを絵理さんに教えてもらって、じゃあ吹いてみよーと思って」
「ええ、めいっぱい吹きました。吹き終わった後ですか? 気持ちよかったです!」
「みんなですか? そういえばみんなちょっと疲れてる様に見えました」
「そういえば絵理さんと尾崎さんとサイネリアさんは三人仲良く寄り添って寝てましたね」
「その後ママから、もうそろそろ帰ってくる? って電話が来て」
「片づけをして帰ろうと思ったら、涼さんが後は自分達でやるから帰っていいよって言ってくれました」
「あー、あの楽器ですか。帰って家で吹いたらママに怒られて没収されました」
「酷いですよね! 絶対そのうち返してもらおうと思います!」
おまけと言っては何だが、当日行けなくてプレゼントだけ贈ったと言うM.O.さんに何をプレゼントしたか聞いてみた。
「愛ちゃんへのプレゼントですか? えへへ、今流行のブブゼラです♪」
876プロ ブブゼラ騒音事件 −終−
愛ちゃん、誕生日おめでとうございます
アレを一発でふけるとは、やるなI。
俺はDSキャラ(特にサブ)のフルネームを把握してないということがよくわかった。
まなみさんwww事実上の主犯なのにちゃっかり回避しやがった
涼の時といい、彼女はとんでもないドSの才能を秘めてるんじゃないだろうかw
このゴシップ雑誌っぽい書き方が素敵w
111 :
96p:2010/06/27(日) 20:50:36 ID:DDg/z12z
>>31 感想をいただき、ありがとうございました。
遅まきながらお礼申し上げます。
規制で連続投下が難しそうなので、以下に上げました。
uploader imas69008.txt
いろいろアレなので、カトー…じゃなくスルー推奨です。
>>111 スルー推奨なんて言葉、上島竜平の「押すなよ押すなよ、絶対押すなよ」にしか
聞こえませんがなにかw
まずはひとつお願いを。
他のスレで「○○ロダ ****.***」とあえて書く習慣があるケースも知っていますが、
アイマス関係のスレでは、アイマスに関するリンクは明示するのが一般的です。
主義でなさっているなら注文はつけませんが、もしお嫌でなければ
http://imasupd.ddo.jp/~imas/cgi-bin/src/imas*****.*** と表示していただけるとリンクをたどりやすいので助かります。
では感想。
なかなか渋いSF仕立てで心地よく読ませていただきました。初段は王道の物語なのに
中段で突然のメタ展開かと思わせ、実はそうではなくさらには、と遷移する描写、
そして待っていましたという感触のオチ。明るいエンドにつながるお話で気持ちよく
堪能できました。
ただ少し残念だったのが、いつもの書き筋はどうも転々する場面描写にはあまり
向いていないようでしで、せっかくの伏線が文脈に埋もれてしまっている感が。
読者的に見ると「手に汗握るジェットコースター展開」と言うより「みんなが求めている
大団円に向かって進んでゆくストーリー」なので、むしろ安心して中盤以降をじっくり
描写していただいてもよかったかな、と感じました。
なんつーか、この先の話が読みたい!です。
ありがとうございました。
お久しぶりです。島原です。
久しぶりの投稿をさせて頂くのですが、若干、投稿するには心苦しいものとなっております。
タイトルは「女プロデューサー 尾崎玲子」
性描写が多く、絵理がふたなりとなっております。また、未完となっております。
苦手な方、未完作品はちょっと、という方はスルーお願いします。
http://imas.ath.cx/~imas/cgi-bin/src/imas69028.txt 元々はエロパロ板に投稿しようと考えていたのですが、サイトを勝手に貼られてしまい、投稿するには気まずい状況です。
押し付けるようで申し訳ないのですが、以前からお世話になっていたこのスレに投稿させて頂きます。
以下、前作のレス返しです。
>>268 感想、ありがとうございます。個人的に「アイマスらしくないSS」の方が好きなようです。
妙なものを作ってしまって読者の方に投げてしまうきらいがあるところは今後の課題としたいと思います。
>>270 以前に書いた伊織の話も死の話ですが、プラスとすれば、今回はマイナス面を際立たせようと思って作りました。
厳しいお言葉も頂くことは覚悟しておりましたので、臆面無く言ってくださったことを感謝しております。
>>280 自分がそういう仕事に就いていたせいか、お葬式につきまとう不条理さには妙なこだわりがございます。
ですが、今回は裏目に出てしまったのかなあ、と感じております。
言葉遣いに関してご指摘ありがとうございました。
>>282、283、284
他のアイドルが参列したかどうか、という問題は確かに悩みましたが参列しないということで進ませていただきました。
デリケートな問題である分、もうちょっと配慮した書き方をすべきだったかなと反省しております。
>>111 面白かったですー
これから先のPと千早たちの未来が気になる所です
>>113 難しい状況、お察しいたします……
作品についてですが、正直これがエロパロ板に投下されずに終わることが残念で仕方がない。
なんつーか、むこうの作品群では稀有な域の「時間を掛けたそーいう展開」というか、
一撃どかーんで終わるパターンとは違うタイプの盛り上がり方をする作品というのは極めて貴重なのですが。
実用性も高い、エロパロSSとして優れた作品なだけに残念です。
>>113 エロパロ板住人です
あなた様の作品が貼られた時の流れも見ていたし、作品そのものを気に入って、あなた様の
サイトをブックマークもしたのですが・・・やはりというか、そういうことでしたか・・・
心労お察しします。これからもどうか頑張ってください・・・
私はここの方々と違って長文でいい点悪い点をかけるようなタイプではないので
只一言言わせていただきます。 GOOD・・・!!と
7/3でアイマス暦が新しい年に入ったけれど
ここの空気はまだ「去年」のままだった
えー
新作は情報不足
まあキャラは出揃ってるわけでして
ここのスレの本領はコミュとか見えてきてからかなー
それまではまったりまったり
落ちなきゃいいけどorz
DSが出たときもそんな感じだったよね。
ただ、情報の少ない今だからこそ、妄想力に物を言わす事も出来る。
なんかこー、2の情報の ・トリオ ・リーダー の単語だけで
「当然私よね」
「いやいや自分が」
「やっぱりわた春香さんが」
「「どうぞどうぞ」」
などとゆーダチョウ倶楽部ネタが浮かんでしまってホントにお笑い脳なんだから自分ってば
保守