【シェア】チェンジリング・デイ 2【昼夜別能力】

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273創る名無しに見る名無し
つまんない小ネタですが、投下しちゃいます
すみません、クリアランスはとってないです
しかも、某スレのつづきだったりします

274創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:51:35 ID:M3BEk81r

夏の陽は、長い。
まだ明るい神社の境内は、早くも人が大勢いた。

屋台で彼女にわたあめを買ってあげ、僕もラムネを飲みながらお祭りを見物して歩いた。

こういう、ジャンクなものを食べたり飲んだりしていると、思い浮かぶのは……


「あ」

僕は、真剣な眼差しでいけすの金魚を狙っている幼馴染の横顔を見た。


「フン、このオレの手から逃れられると思うなよ……水中型キメラが」

金魚すくいのおじさんは呆れ果てていて、
もうこいつには何も言うまい、というセリフを全身で表現していた。


「ライス・サルベージ、ウォータープルーフヴァージョン!!」


――あちゃあ、やっぱり……

僕は頭を押さえた。

セコい。セコすぎる。

水飴を挟む薄焼きせんべいをどこからともなく出しては、金魚をすくう柄杓が破れてもすぐに復元して……

275創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:54:23 ID:M3BEk81r

僕はつかつかと陽太のそばに寄り、耳を引っ張った。

「痛ててててててててて!!」
「こら陽太! セコい真似しない!!」


「ふざけんなよ晶!!」
「ふざけてんのは、あんたでしょ!」

陽太は耳を真っ赤にして、僕を見上げる。

と、そのとき。

一瞬、陽太の目が見開いたと思うと、黙ってしまい、さっきの威勢はどこへやら。

視線が僕の顔から下に降りて、タンクトップのロゴのあたりを見て、
さらに下に降りて、それにつれて顔が真っ赤になっていって、僕のスニーカーまで下りたあと、

「へ、へん、と、とにかく、オレの邪魔はすんなよな!!」

顔と耳を真っ赤にしながら、目も合わせずにぷいっと顔をそむけると、陽太は逃げるように去っていった。


――(屋台のおじさんの)邪魔をしてるのはあんたでしょ。

僕は呆れて、幼馴染の後ろ姿を見送った。

傍らでは彼女が、僕らのやりとりをぽかんと見ていた。


.
276創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 23:57:55 ID:M3BEk81r
↑以上で
オチが無くってすみません

>>262
無断でお借りしちゃいました、つい出来心で……申し訳ないっす
277創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 00:23:37 ID:MNjj/JVm
タイトル付け忘れてた……orz

>>274-275
『カルピス、くし、ペリカン』です
278創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 00:50:37 ID:XuZCjJjW
陽太何やってんだw
てか晶服装エロいよ服装
279創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 01:26:55 ID:KfrVQdiX
陽太、ズルはいかんズルはw
そして何だかんだ言いながらもやっぱ彼も純情な中学生なんだな。
280262:2010/05/20(木) 13:23:08 ID:jg5rBSAy
この発想はなかった!!
あったとしても自分には書けない類の話だわ
純情でほんわかしてていいなあ
使用については特に許可いらないですよ。むしろ歓喜します

ところであっちも読んで、ふと思った
「彼女」がものすごくアイリンちゃんに見える
281277こと某父娘の中の人:2010/05/20(木) 17:32:19 ID:MNjj/JVm
ありがとうです!
ご明察のとおり、「彼女」は、娘のつもりで書きました♪
この二人の絡みが本編で書けなかったので、書いちゃいました

陽太くんがドキッとしちゃうとこが伝わっててなにより。
こんな彼もかわいいよね!
282創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 20:30:53 ID:XuZCjJjW
なんと!
283(ry中の人:2010/05/23(日) 00:10:20 ID:tvRmkmQq
若干チラシの裏気味に……ごめんなさい

>>237
今気づいたんですが、能力勘違いしてたかな……?
あの場面では、夜が明けているつもりで書いてました
描写が足りなかったかも……すみません

カラスを追っ払ったのは、ただの煙です
(毒霧ならカラスはおろかフールも殺せた、パウロも巻き添えくってry)


トリップ、つけるべきかな……
こういう時に不便だし
284創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 04:39:28 ID:v62Uip9N
つけちゃえつけちゃえ
ひとつ言っておくと辞書に出てくる単語とか数字だけとかをキーにするのはやめた方がいい


ところでWikiの管理人さんいる?
14日にメンバー登録申請したので見ていただけるとありがたいです
285赤い彗星:2010/05/23(日) 18:36:21 ID:K3BxdYeb
>>284
トップページに書きましたので、使ってくだしゃあ><
286創る名無しに見る名無し:2010/05/23(日) 23:14:23 ID:v62Uip9N
どもです><
287創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 00:01:20 ID:IEhmXz70
バ課って正式名称あった?
後、今何班が空いてるか教えてくれ
288創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 00:22:10 ID:fA+5oyuS
班 隊長 - 副長
1班
2班 シルクス - ラヴィヨン
3班 クエレブレ(鉄ちゃん) - シェイド(峰村)
4班
5班 ラツィーム - マドンナ
6班
7班

こんな様子
抜けてたら指摘お願い
正式名称は長ったらしい名前があるらしいけど出てきてないはず
289創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 00:43:23 ID:oyt7T9bC
>>288
シルクスじゃなくてシルスクじゃね?
290創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 20:48:46 ID:fA+5oyuS
( ゚д゚) …

( ゚д゚ ) 今までずっと間違えてた
291創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 20:57:23 ID:TCb/WczG
クスクス
292283のヒト ◆BY8IRunOLE :2010/05/24(月) 21:25:25 ID:cipfbzft
>>284さん、アドバイスありがとうです
で、トリップを付けることにしました
(成りすましが出るほどの書き手じゃないですが……)

>>287
バフ課を書く人がっ!? 
これは期待っす、自分も書いてて楽しかった
勝手に内部の人間関係を妄想して書きましたが、スルーでおkです
正式名称、出そうとしてうまく思いつかず断念……orz
293創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 21:55:15 ID:TCb/WczG
俺も最初バ課出したときに正式名称考えたけど、いいの思いつかなかった
294創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 22:44:37 ID:IEhmXz70
なんかこう「特務なんたら課○○所属△△です」みたい言わせるとかっこいいかなと思って聞ききました
正式名称無いのか残念

班も意外に埋まってないのな。教えてくれた人サンクス
295創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 22:50:44 ID:fA+5oyuS
よしおぼえたぞー
白スク

うーんこっちでも考えてみたけどやっぱり思いつかないなぁ
296創る名無しに見る名無し:2010/05/24(月) 23:04:15 ID:oyt7T9bC
○○所属は、第1班所属〜とかかな。やっぱり特務なんたらの名前があると
勇ましくなるんだろうけど確かに思いつかん…
297創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 00:25:45 ID:nHcA3fmh

|∀゚) ....


|つ【いわゆる新規獲得能力に係る特殊犯罪及び超常的事象専門特別捜査課】


|彡 サッ


298創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 07:53:48 ID:t6KzR4Hp
>>297
個人的に嫌いじゃないしむしろ良いとすらおもうけど、バフ課にするにはどこを訳すの?
299創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 14:42:34 ID:WHa4DTvu
>>297
周囲に説明する時、その長ったらしい名前をいちいち言葉にしなきゃいけない
なんて胸が熱くなるな…
300創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 17:25:44 ID:LT4gSDUY
|∀゚) フムフム・・・


|つ【いわゆる新規獲得能力によって馬鹿やってる不良共や超常的事象専門特別捜査課】


|彡 サッ
301創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 19:49:02 ID:/CeREwTU
ちょwww

能力のことがバフなんだから
略してバフになる必要無くね?
302創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 20:11:59 ID:WHa4DTvu
普通に「特務BUFF機関課第1班所属」とかでも良さそうな気がしてきた
303 ◆BY8IRunOLE :2010/05/25(火) 23:45:58 ID:nHcA3fmh
>>296>>296
名乗ることで勇ましく感じるとかなら、>>302 のがいいかも。カコイイし

>>297は、「長ったらしくて誰も呼ばない、呼びたくない」ってニュアンスで
考えたものの、結局使わなかったヤツっす(>>避難所264)

ボツネタを人様に勧めるって、いい度胸してんな自分……orz
申し訳ない、失礼極まりなかったです。ごめんなさい
304創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 19:09:04 ID:XoWLtcge

桜の開花も近い、夜の自然公園。
時は深夜零時。昼の活気は消え去り、点々と灯る光が無人の公園を照らす。
日中は人々の心を癒す噴水池も、今は沈黙し静かな水面を湛えていた。

どうしたことだろうか。
池を照らしていた電灯が次第に弱々しく、光を失っていく。
一つが完全に消え、そしてその両隣の電灯が消え。さらに隣へ、隣へと、闇は広がってゆき。
やがて周辺の全ての電灯が消え、公園は闇に包まれる。

突然。
何もなかった空間に、強烈な閃光が発生し辺りを白一色に染め上げた。
数瞬後、閃光は消える。そこには、光を取り戻した電灯に照らされ膝をつく人影があった。

「あちゃあ…暴発かぁ。眩しいなあもう」

それは若い青年の声だった。

「教えてもらったはいいけど結構扱い難しいなぁ。よくこんなのを持ち歩いてるもんだ」

やがて青年は閃光に眩んでいた視界を取り戻す。

「あれ…ここは…」

きょろきょろと周囲を見回し、そして気付く。視界の隅に大きな異変。

「えっちょ…これ…え!!?」

それは、手。自分の思う通りに動く両の手。
しかしそれは、誰よりも見慣れた自分のそれとはあきらかに違っていて。

「何…なんだ…これ…!?」

恐る恐る、顔に触れる。指先に触れる奇妙な感触、形。全てが自分の知るものではなかった。
顔を指で弾くと、いつもと違う痛みが響く。青年は慌てて近くにあった噴水池に駆け寄る。

「いや落ちつけ…たぶんドッキリだ…どうせいつもの先生の悪戯で…」

池の淵に手を当て、大きく深呼吸。やがて、意を決して青年は池を覗き込む。
水鏡に映った、その姿は……

「 なんじゃこりゃああああああああ!!!!? 」

深夜の公園に、青年の慟哭が響いた。


『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』


俺の名は岬 月下。
混沌を極めるこの世界。優れた人物は狙われる、それが世界の法則。力ある者の宿命だ。
俺は今ふたつの組織に狙われている。ケルベロスを連れたロングコートの男。そして、比留間慎也。

組織は果てしなく巨大だ。俺の情報網を持ってしても、その全貌どころか片鱗すら掴むことができない。。
叛神罰当【ゴッド・リベリオン】、忌まわしき力。俺は現在(いま)を生きるためにあえてこの力を振るわなければならない。
この新たな武器、シルバーダーツの扱いは難しいが、俺は神に叛く男、必ず使いこなしてみせる。あ、よっしゃ刺さっ

「…げっ!」

夜の自然公園でひとり、ガッツポーズをとっていた少年は、何かに気付いて慌てて近くの茂みに飛び込むのだった。
305『異形の来訪者』:2010/05/28(金) 19:11:41 ID:XoWLtcge


「寒っ。なんでこんな気温安定しないのさ…」

季節を勘違いしたような、冷たい風の吹く春の日。どうしようもないと知りつつも、ついブツブツと文句を言いながら歩く少年…
もとい少女、水野晶は、食品が大量に詰まった重い買い物袋を両手に引きずるように歩いていた。

「だー重い! ちくしょー陽太の奴、なんでこういう肝心な時にいないんだ!」

ついつい、この場にいない年下の幼馴染に毒づいてしまう。
彼女の幼馴染、岬陽太の両親は大の旅行好きで、今回は彼女の両親も共に旅行に出てしまった。
短期で帰る予定とは言っていたが、結局のところ長期旅行になるだろう。それはいつものことで、慣れたものである。
陽太の世話を焼くのもいつものこと。今日明日は休日で特に予定もないので、久しぶりに本格派のカレーでも作ってやろうと思った。
そしてはりきった勢いで買いすぎ、時間も遅くなってしまった。こんなときこそ男手が必要だというのに、肝心の陽太がいないのだ。
晶が毒づいてしまうのも仕方ないと言えば仕方ないのではないだろうか。

「はぁ…。さてと、あとはコンビニ寄って……あっ!?」

自然公園の前を通りかかったその時、視界の端に見えた人影。
顔を向けその姿を捉える直前に人影は消えた。消えたといってもそこは自然公園、隠れる場所はある。
その姿はほとんど見えていないが、陽太のような気がした。あの場所まで歩いてでも確認する価値はあると思った。

「………やっぱり」

緑溢れる自然公園に銀色の異物。なかなかシュールな光景だ。木に 魚 が刺さっている。
口が鋭く尖っているあれは確かダツという魚だったか。姿は見ていないが確信した。さっきの人影は陽太だ。
ここに歩いてくるまで何かが動く気配はなかったので、恐らく隠れたままなのだ。だとしたら、この茂みの中だろう。

「出てこい陽太! そこにいるのはわかってるぞ!」

反応なし。陽太の性格と両手の大荷物のことを思えば、予想通りではある。
たぶん姿は見られていないと、知らぬ存ぜぬを通すつもりなのだ。まったく生意気な。
しかし厄介だ。大きい茂みではないが踏み込むのは億劫だし、暗がりにちっこい身体でじっとされていてはとても見つけられない。

何か方法がないかと周囲を見渡して、それを見つけた晶はニヤリと黒い笑みを浮かべた。
考えは単純明快、茂みに水をぶっかける。水道と放置されたバケツを見つけたのだ。
今日は春というにはやけに寒い日、効果は抜群だろう。
近くのベンチに荷物を置いてさっと準備。あぶり出しというよりむしろお仕置きなので、前振りはなし。
余計な動きも躊躇もなく、茂み全体にかかるようにバケツの水をぶちまける。

せーのっ!

「うおおっ!?」
「ぎゃあああああああっ!!!!」

一瞬聞こえた陽太の声に、予想だにしなかった全く別の叫びが重なって、晶はビクリと身体を跳ねあげた。
306『異形の来訪者』:2010/05/28(金) 19:13:28 ID:XoWLtcge

ガサガサと茂みから出てくる陽太。頭が少々濡れているが、晶に文句は言わなかった。
そんな気は一瞬で失せた。なぜなら、晶以上に驚いたのは間近で叫びを聞いた陽太だからだ。
晶と無言で顔を見合わせ、申し合わせたように茂みに目をやる。

「あの陽太…さっきの…何?」
「…俺も知らねえ」

やがて、茂みの中で何かが動く。ずりずりと引きずるような音。
身構える二人の前に、文字通り這い出す人影。

それは、びしょびしょに濡れた厚手のコートに、大きなフードを深々と被った青年だった。
しゃがんで身体を縮こまらせガタガタと震えている青年に、晶は恐る恐る声をかける。

「あ…あの…まさか人がいるとは思わなくてごめんなさいその…大丈夫ですか」
「だっ、だだだ大丈夫さささこここのくらいはははっはは」

完全に歯の根が合っていない。大丈夫でないのは誰の目にもあきらかだ。

「でっ、でもその…」
「いや、大、丈夫だよほら、身体の、震えも、治まって、き…」

パタリ、と。枯れ枝のように倒れる青年。朦朧とする意識。

「ははは…嬉しいなあミホノブルボン…まさか君が迎えに来てくれるなんてあははは…」

筋肉の痙攣発熱すら止まってしまい、青年は徐々に冷たくなっていくのだった。
307『異形の来訪者』:2010/05/28(金) 19:14:29 ID:XoWLtcge


「…どうしようコレ」
「どうしようも何もトドメさしたぞお前」
「トドメって…」
「『早春の悲劇!青年凍死!』」
「えっ!?」
「昨夜未明、某市自然公園にて青年の凍死体が発見された。青年は冷水を浴びせられ屋外に放置された疑い。警察は犯人を追っ」
「ちょっ!? やめてよ!!」
「普通にそうなりそうな感じだろーが」
「わかった! わかったよもう連れてくよ!!」

晶は大声を上げて陽太を黙らせる。

「陽太ん家に」
「何で俺!!?」
「いいじゃんすぐ行くつもりだったんだし。どうせ親もいないんだし」
「今はお前ん家もいないだろうが!」
「カレー作ってやんないよ!」
「……汚え」

これが二人の力関係である。
不満を言いつつも結局、最後には陽太は晶に従うことになるのだ。

「じゃあ僕がこの人背負うから。陽太は荷物持って」
「わかったよちくしょー…って重てっ! なんだこれ重てっ!」
「僕はずっと持ってたんだからそれくらい我慢しなさい! さてと、よっこいせ……って…」

軽っ!

晶は喉まで出かかった言葉を慌てて呑み込んだ。

それにしても軽い青年だ。自分より少し背は高いのに、背負った感覚はちっこい陽太よりも軽かった。
そしてとても冷たい。水をかけてしまった自分のせいだという罪悪感を感じずにはいられなかった。

「じゃあ行くよ陽太」
「待てこれ重たいってこれマジで」

先程までよりも数段楽だが、陽太に対する罪悪感は微塵も感じない晶だった。
308『異形の来訪者』:2010/05/28(金) 19:15:22 ID:XoWLtcge


みょーんみょーん。
チクリ。

「………」
「どうした晶?」
「…何でもない」

みょーんみょーん。
みょーんみょーん。

チクリ。チクリ。

イラッ

「いやマジでどうした晶」
「………」

青年の前頭部から二本、飛び出した変に硬い毛がみょんみょん動き、後頭部にチクチクこつこつ当たる。
晶は無言で、このまま青年を背負い投げしたくなる衝動を必死に抑えながら歩いていくのだった。


<続く>


はいどーも。月下の魔剣シリーズ第三話になります。
やっぱ冒頭のアレはやっとかないと話が始まんない個人的に思ってたりするんですよ。
見ての通り、やたら寒かった4月中に投下したかった話なのです。
え? いやいや気のせいですよ気のせい。

ダツ:前方に長く硬い突き出した両顎に、鋭い歯を持つ魚。光に突進する性質を持ち、実際にダツが人体に刺さり
   怪我をする事故も多く存在する。様々な料理にして食べられる脂肪の少ない白身魚。
309創る名無しに見る名無し:2010/05/28(金) 23:48:23 ID:c9SbGEcm
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
仲間加入のフラグ? これは期待

ダツww こえぇww

310創る名無しに見る名無し:2010/05/29(土) 23:42:52 ID:A/JzZAZr
謎の人物が気になるな


>4月中に投下したかった
あるあるwww

あるある…
311創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 19:34:53 ID:fPpaPFHC
久しぶりに本スレの空気を吸いにきました
『白夜〜』の続きみたいなものを投下したいと思います
と言っても白夜も陽太もたぶん出てきません
避難所の『片桐真悟〜』を読んでもらってるとよりわかりやすいと思いますが、
読んでなくても全然問題ありません
312臆病者は、静かに願う:2010/05/30(日) 19:36:32 ID:fPpaPFHC
「今月に入ってこれでもう4人目、ですよね。さすがに笑いごとじゃなくなってきてますよドクトルJ」
「笑えないよね」
「研究部門内でもかなり動揺が広がってます。尖崎主任なんかは抱き枕抱えて震えてました」
「震えてたね」

 ERDO研究部門内で回される回覧メールを前に、私は助手くんの話に適当この上ない相槌を重ねていた。
メールの内容は『ERDOの構成員がここ最近のうちに立て続けに不審な死を遂げている。各自十分留意する
ように』とのもの。
 ちなみに私の相槌がぞんざいなのは、この回覧メールに集中しているから、ではなく、近所の和菓子屋
さんで買ってきたおはぎを頬張っているためにあまりちゃんと喋れないというそれだけのことである。

 ここに出てきた『ERDO』というのは私たちが所属している秘密組織の略称だが、ここで正式名称を説明
したりするつもりなんて全っ然ない。だって誰もそんなことに興味ないだろう? むやみに長いし、説明
してもきっと忘れるだけだよ。それにほら、今私おはぎ頬張ってるし。

 あ、でもさすがに私自身のことくらいは紹介しておかなきゃね。のっけから『ドクトルJ』なんて珍妙な
名前で登場してしまったけど、ちゃんと神宮寺秀祐(じんぐうじしゅうすけ)っていう素敵な名前があるんだ。
ぜひともこっちで覚えて欲しいな。神宮寺秀祐。覚えたかな?

「この連続不審死、やっぱり『向こうの連中』の仕業って考えるのが妥当なんでしょうか」
「無難に考えるならそこになるね。『不審な死』ってぼかしてあるけど、明らかに殺人事件だしな。改造
犬を使っているらしい痕跡もあるようだし」
 さらりと言ってのけつつも、気分は少し複雑だ。以前私が起こしたあの事件が、この一連の襲撃事件を
誘発したのではないか。そういう思いが脳裏をかすめるものだから。 

「連中、何がしたいんでしょうね。目的がさっぱりわかりません」
「さあねえ、それは私だってわからないけど……。報復。違うなあ。挑発? いや警告、かな」
 思いついたそれらしい言葉を適当に並べたてる私。若い頃からこびりついた癖のひとつだ。でもこうし
て口に出してみることで、意外なインスピレーションが広がっていくことだってある。それぞれの言葉を
吟味すれば、そこに真実が見えることもある。

「警告、だとするなら……私の起こしたあの事件。あれがなにかしら関係してきちゃうのかな、やっぱり」
「それ、もう結構前の話ですよ。結局あれ以降岬陽太本人はもちろん、その周囲にいる人物とも接触はし
ていないでしょう。ドクトルJが責任を感じることじゃないですよ」
 私の内心を察知したらしく、助手くんは少しムキになって主張する。普段は割とクールで辛らつだけど、
こういう時の気遣いはちゃんとできる奴だったりするのだ。ドクトルJって呼び方はやめてもらいたいが。
313臆病者は、静かに願う:2010/05/30(日) 19:37:52 ID:fPpaPFHC
「まあその辺の事情については諜報部に任せるしかないかな。なんであれ、私も君も当然狙われる恐れは
あるわけだから、何かしらの対策はしないとね」
「白夜はどうするんですか?」
「遥ちゃんにはもう連絡してあるよ。しばらくここに来ないように言っておいた。素直に言うこと聞いて
くれるといいんだけど」
 
 この会話少しややこしいが、『白夜=遥ちゃん』と思ってもらえば問題ない。ご存じの方もいるだろう
が、この子はある特殊な病に罹患しており、しかも病状はすこぶる重篤ときている。医者にかかって治せ
る類のものでもないそうで、それを思えばなかなか不憫な薄幸の少女なのだが……まあこれ以上はやめて
おこう。

「僕もドクトルJも、夜間能力は割と強力ですから、その点は少し安心ですよね。昼間はどうせ外出ないし」
「外に出なければ安全って決まってるわけじゃないがね。まあでもそれについては同意だな。一応特務部
門からの護衛をつけてくれるらしいんだけど、研究部門の人間が全員それをやったら特務部門すっからか
んになっちゃうし」
 
 これまでに殺害されたERDO構成員は7名に上る。私はじかに見たわけではないが、彼らの死に様は誰も目
を背けたくなるほどに無残なものだったらしい。
 だから本当なら、私も特務部門からの護衛を受けるべきなのかもしれなかった。確かに助手くんの言う
とおり、私の夜間能力は強力だ。だがそれは1対1の状況限定の話だし、そもそも私自身に跳ね返ってくる
負荷も看過できない。

 そこまでわかっていて私は、あえて護衛を頼んでいない。
 助手くんは否定してくれたが、やはりここのところの襲撃には私の引き起こしたあの事件が根にある。
そんな気がしてならない。そしてそうだとすれば、殺害された7人の同志たちは、私の浅はかさのとばっち
りを食ったということになる。

 申し訳ない。彼らには家族がいたのだろうに。助手くんにも聞こえないくらいの小声で、そう独りごち
てみる。そこから広がる、一つのインスピレーション。私の中に常にある、たった一つ、10年前から変わ
らず抱き続ける願望。

 その望みは、無責任で自己中心的なものだと自覚している。それでも叶えたい。私が進んで自らを危険
にさらすのは、その想いを叶えようとするからこそなのだろう。
 
 逢いたい。あの日私が失った、大切だった存在に。
 今はもう遠い世界へと旅立ってしまった、守りたかった人たちに。

 今度こそこの願い、届くだろうか。


 つづく
314創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 19:39:54 ID:fPpaPFHC
投下終わりです
つい最近どっかで見たような引きですね
はい、ワンパですよ俺
315創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 20:56:48 ID:j0ktzt8N
投下乙!
そりゃまあおはぎ喰ってたらそういう対応しちゃうよね!
ERDO×ドグマ(?)の図式なんだろうか
相変わらず見えない部分が多いが、しかしそこがいいw

何か一波乱起きそうな予感に期待!
316創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 22:11:56 ID:0/NrKHIM
おお来た!
ドクトルの語り口がいいよねぇ
助手くんの能力はどんなだろ?

あ、規制解除おめでとうです


さて、これで月下サイド・ドクトルサイドと話が投下されたわけですが……
やばい、これで別々に進行してたのが途中でクロくぁwせdrftgyふじこlp;


……ふぅ
と、とりあえず、「GJ」とか言っとくけどっ!
つ、続きなんか、期待してやんないんだからねっ!!
317創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 22:50:49 ID:pdEr5a7S
ついに動き出した敵対組織。これは燃える!

……ドクトルも助手君もみんな何かを失ってるみたいだね。
なんかしんみりきてしまった。
318創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 20:43:07 ID:QNToNCpk
よーし投下するよー
319東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/05(土) 20:43:56 ID:QNToNCpk
第三話

「何が食べたい?」
「ええっと……。」
英語の授業が終わって、衛はかれんとスーパーに来ていた。
夕飯の準備をする主婦で賑わうにはまだ早い時間帯。
二人は店内をのんびりと回っていた。
「揚げたてコロッケ入りましたー!」
突然、どこかの一角から威勢のいい若い男の声が聞こえてきた。
その声にかれんの細い肩がピクリと動く。
その様子を見て、衛が話しかける。
「じゃあ、あれにする?」
長い髪に半分隠れた顔が、頬を少し赤く染めて、小さく頷いた。

アパートに帰ってすぐ、かれんが早く食べたいと言ってきた。
一日一緒にいたが、彼女が自分から希望を言うなんて珍しい。
まだまだ日も落ちそうにない時間だがしょうがないか。
スーパーのビニール袋からプラスチックのパックを取り出してテーブルに並べる。
フタを開けるとおいしそうな匂いが漂ってくる。
「ごはんどれくらい食べる?」
「衛さんと同じくらい入れておいてください。」
あれ、そんなに? 衛は一瞬ためらったが、昼の様子を思い出して、別にいいか、と言われるとおりにした。
茶碗にかれんの分、汁椀に自分の分。ご飯を盛ってテーブルに持っていく。
メニューが出揃ったところで二人はパチンと両手を合わせる。
「いただきます。」
声が揃って笑いあう。
かれんはすぐに小さな口を大きく開けてコロッケを頬張る。
「はむ……ほいひいれふ!」
「そんなに慌てて食べなくても。」
そしてまた笑う。
幸せな時間だった。
会話に真昼のような手探りの感覚もすっかり消えて、リラックスしたムードが漂っている。
かれんにとってこんな時間はどれくらいぶりだっただろう。
320東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/05(土) 20:44:36 ID:QNToNCpk
「ごちそうさま……。」
衛が食べ終えて数分後、かれんも箸を置いた。
「ふわぁ……。」
かれんは大きなあくびを一つ繰り出した。
相変わらず夕暮れはまだなはずなのに、今にも眠りだしそうな様子だ。
食器を流し台に持って行きながら衛が尋ねる。
「慣れない場所で疲れた?」
「いえ、いつもこれくらいの時間なんです。多分、変身に体力を持っていかれて……。」
話の途中で、かれんはとうとう横になってしまった。
「大丈夫? 僕は適当にスペース見つけて寝るから、布団使っていいよ。」
「ありがとう……ございます。起きるのは……真夜中……です……。」
布団まではいずって、そのままかれんは眠りについた。

洗い物を済ませた後、衛はかれんの様子を伺う。
まず目に入るのは無造作に広がった長い黒髪。
そして触れたら壊れそうなくらいの白く細い体。
規則的に静かな寝息を立てるふっくらとした唇。
「……はっ!」
ついぼーっと眺めてしまっていた。
これは危ないな。朝の幸広の言葉も、今は自信を持って否定できる気がしない。
「さて、僕も今のうちに寝ておかないと。」
かれんが起き出したら夜が明けるまで見ていないといけないからだ。
バスタオルを持ってきて、2枚重ねて床に敷く。
ひとまず今日のところはこれで十分だろう。
そのまま、衛はタオルに横たわった。
321東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/05(土) 20:45:17 ID:QNToNCpk
玄関の呼び出し音で衛は目を覚ました。
時計をちらっと見ると午後七時。
隣のかれんは既にその姿を変えていたが、まだまだ起きそうにはない。
「はい、どちら様でしょうか。」
目をこすりながらドア越しに尋ねる。
「宅配便です。」
頼んだ覚えは無いが、ドアスコープから覗くと確かに荷物を持ったそれらしき人物が見える。
「少々お待ちください。」
カバンから印鑑を持ってきて、ドアを開ける。
そして衛は……思い切り蹴飛ばされた。

「いやあ、市役所っちゅうのは調べもんにうってつけやな。」
運送業者の帽子を脱いだその男は、鋭い目付きをしたツンツンヘアで細身の若者だった。
夜の能力『無敵』を持つ衛には全く痛みは無い。床に手をついて素早く立ち上がる。
しかし男はそれを横目に、ずかずかと部屋の中にいるかれんのところまでやってきた。
「まさかこんなトコでお目にかかれるとは思わんかったで、鬼塚かれん!」
かれんの名前を知っている?
衛は驚いて男の背中越しに叫ぶ。
「何者だっ!」
男は顔だけ衛の方に振り向いて答える。
「よくぞ聞いてくれた。俺の名は西堂氷牙。」
そして、にやりと黒い笑みを浮かべてこう付け加えた。
「いずれ世界を統べる男や。」
322東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/05(土) 20:45:58 ID:QNToNCpk
西堂は話を続ける。
「“犬”の噂、聞いたこと無いか?」
「何の話だ?」
「どっかの組織がな、大型犬に特殊な機械を埋め込んで、凶暴化させると同時に操ってるって話や。」
「それがどうし……まさか!」
「人間には効かんけどな、“理性を失った獣”になら大概有効らしい。」
「……。」
「俺はひょんなことからその機械を手に入れた。」
「かれんに手出しはさせない!」
と、叫んではみたものの、衛にはこの状況を打開する手立てが思いつかない。
差し当たっては会話を長引かせるくらいだろうか。
「大体、昼は効かないんだろ。昼の間に取り外せばいいじゃないか。」
「無理に外そうとすると爆発するように改造した。」
「甘いよ。かれんの……。」
衛はそこで口をつぐんだ。
うっかり昼の能力を敵に教えるところだった、危ない危ない。
ところが西堂は冷ややかな目を衛に向けて言う。
「知っとるわ。なんせ昔から狙っとったんやからな。」
「な、なにを?」
「こいつの昼の能力やろ。自分の命を守らせる。
 それはつまり、機械を外そうとする奴を勝手に排除してくれるってことや。」
「くっ……!」
最悪の展開だ。なんとしてでも西堂を止めないと。それにしても。
(……寒い?)
次の瞬間、衛の周囲が凍りついた。

「何だ!?」
「昼は遠くの音でも聞こえるってだけのしょーもない能力やけど、夜はハンパないで。」
もちろん衛自身にダメージは無い。だが、首から下を全部氷に阻まれて全く身動きが取れない。
偶然なのかどうなのかは知らないが、これは衛に対して最も有効な攻撃かもしれない。
「なんせ空気まで凍らすからな、この『フリーズ』の能力は。」
「かれんをどうするつもりだ!」
「決まっとるやろ。連れて帰って例の機械を取り付ける。」
……あ、ここで手術とかやるんじゃないのね。ということは。
「どうやって?」
「は?」
「どうやって、その大きなかれんを連れて帰るんだ?」
「……あ。」
「……。」
「ふっ、今日はこのくらいにしといたる。首を洗って待っとけよ!」
西堂は顔を真っ赤にして逃げるように去っていった。
西堂がいなくなったので、衛の周りの空気はすぐに気体へと戻った。
しかし……。
衛は思った。彼はまた来るだろう。早ければ明日にでも。
今度は手をこまねいて待っている訳にはいかない。
323東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/05(土) 20:46:41 ID:QNToNCpk
同じ頃、幸広は何の気無しに街を歩いていた。
ショーウィンドウを見て、「あー、あのジャケットいいな。」などと思いながら、しかし思うだけで前を素通りする。
突然、背後の下の方で小さな音がした。
見てみると足元に財布が落ちている。
「すみません、落としましたよ。」
それを拾って、持ち主と思われる女子高生らしき少女に声をかける。
少女は笑って財布を受け取った。
そんなタイミングで、携帯電話の着信音。どうやら衛からのようだ。
「おう……どうしたって? ……氷に対抗できるような能力者? 例えば火、とか?
 ……!」
瞬間、幸広の目の前を炎がよぎる。
その出所を目でたどると、さっきの少女が、いかにも「面白そうなもの見つけた」というような顔をして立っていた。

つづく
324創る名無しに見る名無し:2010/06/05(土) 20:47:21 ID:QNToNCpk
キャラ紹介

・西堂 氷牙(さいどう ひょうが)
鋭い目付きをしたツンツンヘアで細身の若者。
夢は世界征服。そのためにかれんを狙う。
ちょっとマヌケ。

《昼の能力》
名称 … 地獄耳
【無意識性】【結界型】
遠くの音を聞くことができる。

《夜の能力》
名称 … フリーズ
【意識性】【操作型】
物質の温度を下げて凍らせる。
325 ◆KazZxBP5Rc :2010/06/05(土) 20:48:42 ID:QNToNCpk
投下終わり
326創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 00:12:40 ID:Vf89QUKd
これは…!
毛糸パンツのあの子なのか!?
続きに期待せざるを得ない
地元なせいか、関西弁キャラには無条件で愛着を感じるわw
327創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 20:43:49 ID:UJOgfIij
避難所に投下すべきか迷ったあげく、やっぱり本スレを賑やか
したほうがいいだろうということで、『片桐真悟〜』をこちらに
投下します
短編寄せ集め形式ということで、前回の引きとかは一旦忘れて読んで
貰えたらと思いますw
328助手・片桐真悟の研究日誌:2010/06/06(日) 20:45:24 ID:UJOgfIij
 『第6研究室の住人』
 
 季節は春と夏の境目あたり、太陽光が緩やかにその輝きを強めはじめた今日この頃。
 窓の外でチュンチュンと仲良さげに戯れる2羽の雀をぼんやり眺めながら、僕は淹れたてアッツアツの
ホットコーヒーをちびちび飲んでいた。

 うあー、にっが。ブラックコーヒーの美味しさっていうのを理解するには、僕はまだまだ人生経験が足
りてないみたいだ。コーヒーが似合う渋い男への道のりはどうやら程遠いな。でもこの苦みと熱さが、今
日一日を生きるための適度なやる気を注入してくれる。
 気のせいかもしれないけど、少し頭も冴えて、回転が良くなるような気がするし。

 さて、じゃあ気が引き締まって、2羽の雀も仲良くどっかへ飛び去ったということで。

 ERDOには現在僕が知っている限り、大きく分けて3つの部門がある。
 一つはもちろん僕やドクトルJが所属する研究部門。説明するまでもなく、能力そのものや特定の能力
者の研究を行うための部門だ。

「助手くん」

 二つ目は諜報部門。前にも言ったことがあるかもしれないけど、能力を研究している組織や団体っての
は、僕たちERDOだけじゃないわけ。そういう他の能力研究組織の動向や活動状況といった情報を収集して
くるのが、この諜報部門の仕事ってわけだ。

「ねえ、助手くん」

 最後に特務部門。これについては正直よくわからない。ほとんど推測になってしまうけど、他の能力研
究組織には、反則レベルの能力を持つ戦闘に特化した能力者がいたりするらしい。そんなのに襲撃でもさ
れようもんなら、僕やドクトルJなんて象に踏まれるアリのように無力だろう。

「助手くんってば」

 特務部門は、そういう連中とも互角に渡り合えるような、いわゆる戦闘に特化した集団だっていう認識
を、現状僕は持っている。
 まあ要するに、あまりお近づきにはなりたくない、関わりたくない部門ってわけだ。

「エージェント・ジョッシュくん」
「ああもうドクトルJ! なんですかさっきから! 人が考え事してる時に! その恥ずかしい呼び方は
やめてください!」
「お、効果てきめんだね。遥ちゃん様様だな」
 ヘラヘラしてるよこの人。せっかくERDOについての話が盛り上がって来たところだったのになあ。まっ
たくもう、空気読めないんだからこのドクトルJめは。今度銀縁眼鏡のレンズ抜きとっといてやろう。
329助手・片桐真悟の研究日誌:2010/06/06(日) 20:46:07 ID:UJOgfIij
「ジョッシュくん、いきなりで悪いんだけどさ。今からひとっ走り、第6研究室にお邪魔してきてくれない?」
「普通に呼んでください」
「助手くん、いきなりで悪いんだけどさ。今からひとっ走り、第6研究室にお邪魔してきてくれない? って
いうかしてきて。はいこれ持って。じゃ頼んだよ」
 さっきとほとんど同じセリフを口走りながら、分厚い茶封筒を僕に押しつけて、有無を言わさずくるり
と背を向ける長身の中年。こういう時の手際は恐ろしくスマートだ。まったく、ドクトルJのくせに。

 ま、やれって言われればそりゃやりますよ僕だって。これが僕の仕事なんだから。
 第6研究室に出向くのはちょっと久しぶりだし、せっかくだからお土産でも持って行こうか。そう思っ
て研究室を見渡すと、まさにうってつけのアイテムを発見してしまった。
 ドクトルJがお昼のおやつ用にと、かなり楽しみに取ってあるらしい苺大福4個入り。素晴らしい。苺大福、
君に決めた。

 ドクトルJ、最近甘いもの食べすぎだから、少し自重したほうがいいですよ。そう心の中で呟きながら、
茶封筒と大福を手に、僕は第1研究室を後にした。


 尖崎主任のエピソードの時に言ったように、研究部門の主任たちはどうにもおかしい人たちが多い。第6研
究室の主任さんも、まともな人だとは何百歩譲っても言い難い。彼らを見ていると、優秀な人間っていうのは
どこかしら変な部分、理解できない部分を持ってなきゃいけないってことになってるんじゃないかとすら思う。

 なんて考えてる間にもう着いちゃったよ第6研究室。考え事してると時間も距離もほんとあっという間だよ。
 扉には『在室中よ(はあと)』の掛札。はああ。ため息しか出ねえ。これが『ざんねぇん。外出中よ(キス
マーク)』だったらどれほど幸せだったか。

 渋々、心の底から渋々、僕はインターホンに手を伸ばす。残り1センチのところで、一つ思いっきり深
呼吸。よし、行くぞ。鋼となれ、片桐真悟!
 ぽちっ。気の抜ける感触を残して、インターホンが鳴る。数秒の間。
『はっ、はいっ! どちら様でしょうか!?』
 少し焦っているような動揺しているような、張りのある若い女性の声が応答してくれた。久しぶりに聞
くけど、確かここに来た時はいつも応対してくれる彼女だとすぐにわかった。

「橘川さん。第1研究チームの片桐だけど。届け物があるんだ。今大丈夫かな」
『あ、片桐さんですか? お久しぶりです! ええっとそれがですね、あんまり大丈夫ではな――って、
きゃあ! 主任! ダメです鍵開けちゃ!』
 橘川さんの悲鳴とともに、インターホンはブツッと途切れた。それと同時に、扉のロックが解除される
音が確かに聞こえた。

「……朝っぱらから、すでに宴もたけなわってわけか。はああ」
 正直帰りたい。この扉を開けたくない。でもここまで来てそれはもう野暮ってもんだ。僕はそこまでヘ
タレじゃない。……そのはずだ、たぶん。
 なんて御託はいい。さあ行くぞ片桐真悟。その心を鋼に変えて。その体を鉄となして。

 最後にそう精神統一をして、僕は第6研究室の扉を開いた。
330助手・片桐真悟の研究日誌:2010/06/06(日) 20:46:49 ID:UJOgfIij
「ぷわっ!?」
 第6研究室に足を踏み入れた瞬間、僕の顔面目がけて飛来する物体。咄嗟過ぎて避けることもできなかっ
たけど、直撃しても特に痛みはなかった。
 それもそのはず、手にとってみると、それは滑らかな生地でできた黒い布だった。さらに広げて見てみ
ると、それはいわゆる「パ」で始まって「ツ」で終わる3文字の、黒いシルクの布だった。しかも妙な温も
りを感じるんだけど、いや、たぶん気のせいだろう。

「しゅにーんっ! それはいけませんっ! 全裸はダメです全裸はっ!」
「な〜に言ってるのよ! 人間以外の生物はひっく、み〜っんな裸で生活してるれしょーが! 人間らっ
てうぃっく、生まれてくる時は裸なのよ! 恥ずかしがるほうがへっぷ、おかしいのよ! 不自然なのよ! 
そうなのよ! さ、そういうことらから! 薫ちゃんもてきぱき脱ぎなしゃい!」
「ちょっ、主任っ! やめてください! 裸で迫って来ないで! あっこら、さらにお酒飲まない!」

 黒いシルクのセクシーなパンツ(かなりの確率で脱ぎたてほやほや)を右手に握りしめ、僕はこの深夜
番組でやってそうな下劣なコントを茫然と眺めていた。

 声をかけていいものかどうか、その判断をつけかねる。パンツ(まだまだ人肌)を握りしめている時点
で僕が変態と思われる危険は大いにあり得るけども、かといってこのまま『すっぽんぽんの酔っ払い女性
に、若い女の子が同じくすっぽんぽんに剥かれる絵図』をただ眺めていても、やはり僕は変態の烙印を押
されてしまうんじゃないだろうか。

 どうしたものかと頭をひねっていると、向こうの若い女性――さっきインターホンで応対してくれた
子――橘川薫(きっかわかおる)さんが、先に僕に気づいてくれた。いや、気づいちゃった。
「か、片桐さん!? 今はダメだって言ったじゃないですか!」
 橘川さんのその反応を受けて、彼女のブラウスをひん剥こうとしていた酔っ払いの痴女が、くるりと頭を
こちらに向けてきた。その目はとろんと蕩け、顔はほのかに紅潮している。完全に出来上がってる人の顔だ。

 碓氷透子(うすいとうこ)29歳。ERDO研究部門第6研究チーム主任。昼間を飛び越えて朝っぱらからアル
コールを浴びるように飲んでは泥酔を繰り返し、お決まりのように衣服をキャストオフするある意味迷惑、
でもちょっぴり嬉しいそんな女性。
331助手・片桐真悟の研究日誌:2010/06/06(日) 20:47:55 ID:UJOgfIij
「ぎゃああははははあーっ! しんちゃんじゃな〜い! 久しぶりよね〜! 最近全然来てくれないんらもん、
透子さんちょっと寂しかったのよぉ〜!」
 バカでかい声かつすっかり怪しい呂律でそう言いながら、碓氷主任は顔だけじゃなく、体全体で僕のほう
に向き直った。はい、首から下は見ない見ない。見ちゃダメ見ちゃダメ。これだけ乱れてる人を前にすると、
逆に自分は冷静でいられたりするもんだ。

「橘川さん、お願いだから碓氷主任に服を着せてよ。もうせめて葉っぱとかでもいいから」
「葉っぱ……すみません、手頃な葉っぱがありませんので……。と、とりあえず主任、白衣を羽織りましょうか」
 橘川さんはとっても真面目な女性だ。葉っぱが冗談だと思ってくれないのもそれゆえだ。

「いや〜ん、裸に白衣なんてぇ……破廉恥ねぇしんちゃんってばほんとにもう」
 いや、僕が要求したわけじゃないから。酔えば必ず脱ぐあんたのほうがよっぽど破廉恥でしょうが。

「さあさしんちゅわん。そんなとこにぼけっと突っ立ってないでぇ、こっち来て一緒にぱぁーっと飲みましょー!
お酒ならいくらでもあるわよぉーっ!」
 碓氷主任のこの言葉は、冷蔵庫に酒の貯蔵がいくらでもある、っていう意味ではたぶんない。

「主任! いい加減にするんです! はいお水! これを飲んで頭を冷やしてください!」
「うっわあもうさすがわたしのかわいいかわいい助手ちゃん! わざわざお酒持ってきてくれるなんてぇ!
ありがとありがとマイスイーテスト薫ちゃんっ!」
「あ、ああっ! しまったぁ! お水がぁ!」

 橘川さんの手にあった透明なミネラルウォーターは今、黄金色の輝きの中に無数の気泡を含み、その上に
白い泡の層を持つ、日本のお父さんたちにささやかな至福の時をもたらす液体へと変化を遂げていた。
 碓氷主任の昼の能力、『どんな液体でもビールに変える能力』によって。

 橘川さんの手から原材料ミネラルウォーターのビールをふんだくると、それを高らかに掲げながら、素肌
に白衣という変態的装いの痴女がノリノリで宣言する。
「さあ〜2人とも飲め飲めぇ〜っ! お酒を飲むのはとっても楽しい! みんなで飲めばっも〜っと楽しい!!
いぇいえ〜い! んぐっんぐっぷはぁーっ! うぅ〜んビールサイコー! う、うぷっ」
 酒は人をダメにする。この研究室を訪れた日の僕の研究日誌には、必ずこの一文が書き添えられている。
今日の記録にも例外なく、この戒めを記すことになりそうだ。


 『第6研究室の住人』おわり
332創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 20:50:53 ID:UJOgfIij
投下終わりです
最後にキャラ紹介を

・碓氷 透子(うすいとうこ)
ERDO研究部門第6研究チーム主任。
29歳。おとなしくしていれば知的な大人の女性のはずだが、基本常に飲酒している。
それでも酒には強いためなかなか酔わないが、一定ラインを越えると一気に泥酔。
脱ぎ魔かつ脱がせ魔へと変貌する。

《昼の能力》
液体をビールに変化させる能力
【意識性】【操作型】

下水だろうが泥水だろうが便所の水だろうがお構いなく、液体をビールに変えることが
できる。味の再現性もばっちり。この能力を使うとリバウンドで喉が渇くらしく、その
ため余計にビールが進むといういいのか悪いのかわからない循環が生まれる。有害な液
体でも例外なく変化させられるため、使いようによっては有用な能力。

《夜の能力》
不明


メインの話を練りきれないかたわら、こういうしょーもないのはぽろぽろ
浮かんでくるから困る
333創る名無しに見る名無し:2010/06/06(日) 21:07:00 ID:u9QUGTeg
なんと困ったお姉様ww
片桐君真面目だよな。ツッコミ役は苦労するねえ
334創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 17:29:13 ID:hp9IhzLr
>>324
おおおこの娘は!活躍に期待!
しかし衛のロリコンは深刻だなw

>>332
この研究室面白いなあ
キャラがもれなく濃くて魅力的だわ

さてそれでは>>304-308
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』の続き投下いきます。


335『異形の来訪者』:2010/06/11(金) 17:31:37 ID:hp9IhzLr

「いやぁ本当に助かったよ! 君たちは命の恩人だ」

ようやく陽太の家までたどり着き、とっくに片付けていたストーブを引っ張り出して出力全開。
少し汗ばむくらいの室温になってようやく青年は復活した。調子に合わせて前髪がみょんみょんと揺れる。

「いえその…元はと言えば僕の不注意が原因なので…」
「いやいや実はその前から凍えて動けなかったんだ。特に人より寒さに弱くって。晶君が気にすることはないさ」

恐縮する晶に対する非難は微塵も見せず、青年は二人に素直に感謝を述べた。

出会いは奇妙な形だったが、話してみれば明るい年上の好青年だった。
細い身体、細長い手足に、大きな丸眼鏡。陽太がどこからか出してきた丹前を着る姿が妙にしっくりくる。
酷く失礼なので考えないようにしていたのだが、上記の特徴に加えてもはや「触角」としか言いようのない前髪に、
背負った際の軽さも相まって、どうしてもどこか「虫」を連想してしまう晶だった。

「ユキヒロさんはどうしてあんなとこにいたんですか?」
「僕はまあ…ちょっと訳があって…」

青年、ユキヒロは、訳があって人を探す旅の途中だという。
しつこく訳を聞き出そうとした陽太は晶のチョップを受けることになった。
数時間前に、あの周辺で大切な携帯電話をなくしてしまったということだ。

「こんな寒い日は普段は暖かいところに避難してるんだけどね。何かあったらと思うと気が気じゃなくて」

確かに、予定のない旅の中で数少ない連絡手段となる携帯は必須だろう。
だがユキヒロのそれは、単純な連絡手段以上に大切なものであるように晶は感じた。

「でも携帯なら誰かが拾ってメモリーに連絡してくれてるかもしれませんよ?」
「もしくは悪い誰かに悪用されてたりしてな」

そして陽太は再びチョップをくらうのだった。
ユキヒロはハハハと笑いながら、そのどっちもないよと言ってのける。

「だってあの携帯は電話もメールもネットもどこにも繋がらない。ずっと圏外なんだよ。登録がないからね」
「…それ携帯してる意味なくね…?」

それには晶も黙って同意する。

「まあ確かにそうなんだけど…中のデータがとても大切なものでさ…」

呟くユキヒロの遠い目が、晶にはとても印象深く感じられた。
336『異形の来訪者』:2010/06/11(金) 17:33:17 ID:hp9IhzLr


せっかくなので夕食を食べていかないかという晶の誘いに最初は遠慮したユキヒロだったが、
食材を買いすぎた、二人だけではつまらない、といった理由で晶がおして結局共にすることになった。
渋々動く陽太とは対称的にてきぱき働くユキヒロの助けがあって、調理はさくさくと進む。
やがて鍋に火をかけしばらく煮込むという段階に来て、晶があっと声を上げた。

「しまった…チョコ買うの忘れてた…」
「はあ? チョコ何に使うってんだよ?」
「カレーに入れるんだよ当然。重要なんだよチョコ」
「隠し味に入れるとコクが深まるっていうね」

ユキヒロが晶に同意する。晶は陽太の右手をじっと見つめる。

「陽太………」
「おいコラ晶。変なこと考えてんじゃねえよ」
「…は無理か。夜だもんね」
「昼でもやんねえよ!」
「…へ? 何を?」

陽太が言いたがらない能力――料理やお菓子を発生させる――を知らないユキヒロは、
二人の謎のやりとりに首をかしげるのだった。

ふつふつと煮立つ鍋を見つめて、晶はよしと立ち上がる。

「仕方ない! ひとっ走り買ってくるか! 10分くらいで帰るから陽太は鍋見ててね」
「おー、いってらっしゃい」

上着を着込む晶を陽太はぼんやりと見送る構え。ユキヒロの前髪がピクリと動く。

「あ、晶君、今は……いや…」

少し考えて、立ち上がるユキヒロ。

「僕も行くよ」
「え? いいですよ別に? どうせすぐ近くですし…」
「少し気になることがあるんだ。たぶん気のせいだと思うんだけど…」
「はぁ…」

「また凍えてもしんねえぞ?」
「大丈夫だよ、この丹前暖かいし。心配してくれて嬉しいよ」
「………けっ」

隠せていない照れ隠しにぷいと顔をそむける陽太。
ああこれがツンデレってやつか、としみじみ思う晶だった。
337『異形の来訪者』:2010/06/11(金) 17:34:54 ID:hp9IhzLr


冷たい風にユキヒロが固まりかけることが何度かあったものの、無事にコンビニで板チョコを買った帰り道。
当たってほしくはなかったユキヒロの予感が実現する。

「え…なんで今頃!?」

垣根の角を曲がった先に、それは待ち伏せていた。闇に溶け込む漆黒の身体と、浮かび上がる紅い光。
比留間の言っていた「調査」は、少なくともこの周辺では終わったものと思っていた。
あの夜以来全く見ることは無く、晶の心配事から消えかけていた猛犬キメラ。
それが今、あの夜のように3匹、目の前で低い唸り声を上げていた。

「ごめん、晶君」

犬と晶の間に、陽太と違う長い腕が差し込まれる。

「こいつらの狙いは僕なんだ。無関係な君を巻き込んでしまってすまないと思ってる」
「え…狙いって…」
「そうだな…そこから3歩、下がってて。あまり離れると守れない。君を狙うことはないと思うけど…」
「はっ、はい」
「それと…あんまり驚かないでね」
「え…?」

踏み出しながらバサリと丹前を脱ぐと同時に、ユキヒロの雰囲気が変化する。
全身の柔らかいシルエットが、全体的に硬質なものに。
露出した腕を覆うのは肌ではなく、内側に無数の棘が並ぶ薄緑の装甲。
同じく薄緑の、背中から左右に一対生える、笹のような形をしたボード。

「ユ…ユキヒロさん…!?」
「もう少し下がって。……そう、そこがいい。そこでじっとしてて」

キメラと睨み合ったまま振り向きもせず、背後が見えているかのように的確に、ユキヒロは晶に指示を出した。
よし、と呟くと、半身に構えキメラと相対する。

「さて今日は…1、2、3………」

突如斜め後方の垣根から飛び出すキメラ。晶が声を上げる間もなくその牙がユキヒロの首筋にかかる、
その遥か前に、ユキヒロはその鼻先を裏拳で迎撃していた。

「4匹か」
338『異形の来訪者』:2010/06/11(金) 17:36:43 ID:hp9IhzLr

間を置かず前から飛びかかるキメラをカウンターの膝から前蹴りで蹴り飛ばし、流れる動作で直後のキメラに踵落とし。
遅れたキメラの牙を、いつ手にしたのか短い鎌のようなものでガキンと受け止め、そのままその身体を回転投げ、最初のキメラに叩きつける。
余裕を持ったユキヒロはポツリと呟く。

「あれ?なんか動き鈍い…?」

すぐに体勢を立て直すキメラを回し蹴り、すくいあげるアッパーからのストレート、バックステップから掴んで投げ。
4匹を一カ所に飛ばすや否や高い垂直ジャンプから

「ライダーキック!!」

斜めに落下する飛び蹴りを叩きこむ。
直撃した1匹は大きく弾き飛ばされ、押された3匹はバランスを崩すがダメージ無し。
ユキヒロは首を捻りながら立ち上がった。

「うーん…やっぱりうまくいかないなあ…」

直後立ち上がったキメラは、申し合わせたように同時に夜の闇へと駆けだす。
ユキヒロは背中のボードを左右に広げて屈み、その下に隠れていた透明のボードを解放する。
大きく広がり形が明らかになったそれは、まさしく昆虫の翅だった。

垂直ジャンプと同時に翅を高速で振動させると、ブーンと大きな音と共に風が生まれその身体は空中へと舞い上がる。
すぐに到達した近くの電信柱の頂点に着地すると、キメラが逃げた先をじっと睨みつけた。

しばらくそうした後、もう大丈夫だと晶に伝え、翅を鳴らしながらゆっくりと降下し地面に降り立つユキヒロ。
ふうと息をつくその背中に、晶は恐る恐る声をかける。

「ユ…ユキヒロさん…あなた一体…」

「…そうだな、僕は…」

少し考えて、ふっと小さく笑い、振り向く異形。
薄緑の外骨格に覆われた逆三角形の頭部。長く伸びた触角に、大きな複眼。

「僕は鎌田之博。通りすがりのライダーさ」

人間とは一線を画する異形。昆虫人間の姿がそこにあった。


<続く>

ふはははは! 悪乗りしすぎた! まあいいか!!
しかしここまで書いて酷く面倒臭いことに気付いた。

…晶と口調が被る。

ああもう誰だよ僕っ娘なんてめんどくせー設定考えたのは畜生!俺だ馬鹿野郎!
339創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 19:14:13 ID:oqDJLKNU
乙です!
カマキリ! 変身型の能力?

え、コレは何? どこかのキャラのゲスト出演なの?
なんだかすごく面白いのだけど、元ネタ分からないせいで半分しか楽しめてない気がしてしょうがない。
誰か教えて!
いやこのままで十分面白いのだけど


340創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 19:43:54 ID:hp9IhzLr
>>339
今はちょっと…後ほどわかります。申し訳ない
341創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 20:14:41 ID:oqDJLKNU
>>340

うわっと…
なんか、ゴメン。承知した。
wktkしながら、続きを待つよ!
ありがとう
342創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 21:31:07 ID:VYi0AKYE
GJとしか言えない
色んなところからこの世界に来てたりするのね
男体化したり擬人化したり
343創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 04:53:17 ID:vUFaBN/j
虫男w
期待せざるを得ない
344創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 10:02:23 ID:JYSn/b2y
>>332
ERDOはどこの助手も大変だなぁw

>>338
ライダーキックてwww
345創る名無しに見る名無し:2010/06/14(月) 01:18:22 ID:F691kuML
業務連絡です


吉野小春&秋山幸助のSSを書かれた作者様。
お二人をお借りするかもしれません。

単発短編で、能力に関する描写はほとんど出てこない予定です
(そんなのを投下していいのか自分orz)

よろしくお願い申し上げます
346創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 15:53:46 ID:R+6PqwUo
避難所より

>404 名前: 名無しさん@避難中 [sage] 投稿日: 2010/06/16(水) 22:39:11 USz.0dxo0
>>>本スレ345
>作者さんの返答ないみたいだけど、あえてシェアワで話書いて「俺の
>キャラは使わないでくれ!」っていう人はあまりいないと思うし、
>死ぬとかよっぽど酷いことにならない限りは書いちゃっていいと思うんだよね

らしいよ!


そして投下
347東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:55:00 ID:R+6PqwUo
第四話

街は朝を迎える。まばらに立ったビルの間にオレンジの光があふれている。
その光は、この少し古いアパートの一室にも差し込んでいた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
申し訳なさそうに頭を下げるかれん。
「気にしなくていいよ。」
衛は苦笑いで答える。

部屋は散乱していた。テレビの画面まで割れている。
一人で生活するには十分な部屋だが、三メートルの巨体が暴れ回るには狭かったようだ。
安請負しすぎたかなと思う自分とかれんを手放したくない自分とを頭の中で戦わせながら、
衛は散らばった本やら何やらを片付け始める。
かれんは手伝おうと慌てて衛に駆け寄って……衛の胸に飛び込むように倒れた。
「かれん?」
衛はかれんの体を揺さぶってみる。目は開いていた。気絶したわけではないようだ。
「大丈夫……です。」
明らかに大丈夫じゃない、つぶやくような声が返ってきた。
「何かあるんなら、隠さないで言ってほしい。」
衛の真剣な目にかれんは思わずどきりとする。
「恥ずかしいんですけど……。」
ちょっとためらって。
「お腹空きました。」
そう言って、まるで愛の告白でもしたかのようにほほを染めてうつむく。
そのとき、衛の中でいくつかの話がつながった。
あの食欲。人をも食べるという事実。
寝る前にかれんは何と言った? 『変身に体力を奪われる。』
かれんは、他の人より多くの食料を必要としているのだ。
この小さな体は、それがまだ足りていないことを表しているのではないか。

衛は床に落ちていた携帯電話を掴んでコールする。
十回ほどベルの音が鳴った後、幸広の声が聞こえてきた。
「んあ?」
「ごめん、何かすぐに食べられる物、近所でできるだけ買って持ってきて。お金は来たら払うから。」
衛は寝起きの相手に早口でまくし立てる。
「……んっとに人使い荒いな。」
「今はまだユッキーしか頼れないんだよ。」
「しょうがねえなあ。」
「サンキュー。」
電話を切り、急に静かな朝に引き戻される。
いくらか落ち着いた衛はこの二十数時間を振り返る。
大変な一日だった。まず、かれんと出会って、それから……。
「ん?」
そこで衛は、もうひとつ重大なことを思い出した。
348東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:55:45 ID:R+6PqwUo
「よう。」
幸広が大きなビニール袋を提げてやってきた。
衛は中身を確認。
「オーケー、じゃあかれんの様子見ておいてくれ。」
「は?」
あっけにとられる幸広を横目に靴を取り出す衛。
「どこ行くんだよ。」
「大学。」
「朝一の授業取ってないんだろ?」
「後で話す。」
そして衛はせわしなく外に出て行ってしまった。

S大学、とある研究棟の一室。
窓の外を眺めながら、ナオミはミルクたっぷりのコーヒーを満喫していた。
そこにノックの音が聞こえてくる。
「あら、東堂君。」
ドアの前に立っていたのは、自転車を飛ばしてきて若干息の荒い衛だった。
「先生、どういうことですか!」
「何の話?」
ナオミは衛に椅子を用意するが、衛は首を横に振った。
「あの男が来るって知ってたんですか?」
「待って、全然話が飲み込めないわ。」
「へ?」
衛のアテは外れたようだ。
一気に疲れがやってきた。ばつが悪いが、結局椅子に座る。
「授業の最後のあれは何だったんですか?」
「ああ、あれね。佐々木先生に伝えておけって頼まれたの。」
「佐々木先生?」
衛はそこで不思議に思った。
いや、確かにその人物の名は教員名簿を見て知っている。
佐々木笹也。ひらがなで書くと「ささきささや」。
なかなかインパクトがある名前だ。
だが、それはそれとして、彼が衛に伝言などあるはずがない。
なぜなら……。
「僕が佐々木先生の授業を受けるのは今日が初めてですよ。」
「あら、そうなの?」
ナオミは意外そうな顔をした。
「怪しいわね。昨日何があったか教えてもらえないかしら。」

「鬼塚かれんに西堂氷牙、ね。」
衛は無言でうなずく。
最初、衛はかれんの存在を隠すつもりでいた。
ところが、西堂の話をしているうちに、何か隠しているとにらまれ、しょうがなく白状したのだ。
さすがに赤の他人だということは言いにくいので、「身寄りの無い遠縁の親戚をいきなり預かることになった」という設定にしておいた。
「……分かったわ。昼の間、彼女は私が預かる。勉強も教えておくわ。」
「えっ、でも……。」
「話によると、彼女の能力は彼女の“生命”しか守ってくれないんじゃない?」
そう、彼女を一人にしておいては、どこかに連れ去られる可能性もある。
誘拐という危険に対しては、彼女の能力はまったく無反応なのだ。
「でも、佐々木先生が絡んでるかもしれないんですよね。構内は危ないんじゃないですか?」
「大丈夫よ。仮に佐々木先生が西堂氷牙とつるんでいたとしても、社会的地位のあるここじゃあ迂闊に行動できないわ。
 むしろ外のほうが危険よ。」
ナオミは床に届かない両足をぶらぶらさせ、その勢いで飛び降りて、びしっと構えて次のように言い放った。
「とにかく、今すぐに彼女をつれてくること!」
349東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:56:26 ID:R+6PqwUo
そんなわけで衛は再びアパートに戻り、幸広とかれんとの三人で徒歩で大学に向かった。
かれんをナオミの個人研究室まで送ると、二時限目の始まるちょうどいい頃合いだった。
「あ、そういえば昨日のさ。」
「ヤッチー?」
「そうそう、八地さん。」
もうニックネームで呼んでいるのか、と衛は内心舌を巻く。
昨日幸広が財布を拾った相手、そして西堂の撃退に協力してくれるらしい火の能力者でもある八地月野の話題だ。
「早速で悪いけど、今日からお願いできるかな。」
「おう、言っとくよ。」
「僕はかれんを見てるから、二人は入り口で待ち伏せてて。」
「何の話?」
「うわっ!」
いきなり二人の間を割って輪が声をかけてきた。
伊達メガネの、無いはずのレンズが、なぜかきらきら輝いているように見えてしまう。
「悪い輩が襲ってくるって話だよ。輪は危ないから首つっこまないでね。」
「えー。」
「おい、衛。輪に食料探しやらせりゃあいいんじゃないか?」
「あ、それいいね。能力も調査向きだし。」
「なになに?」
事情を知らない輪に、二人は、かれんには大量の食料が必要なことを説明した。
「そっか。よーし、がんばるぞ!」
意味も無くやけに気合の入る輪であった。

二時限目を知らせるチャイムが鳴った。
教壇に立つのはいかにも少女漫画に出てきそうな爽やかなイケメンメガネ。
歳は二十代後半。彼こそが例の佐々木笹也である。
「この講義では能力と物理学の関係について扱う。」
見た目からの想像とは違う、力強い声が教室に響く。
「専門的な内容は扱わないが数式は多く出てくる。毎回講義が終わったら可及的速やかに復習するように。」
クールと見せかけて実はホット。このギャップが女子学生に人気らしい。
「あー、もう、歴史とか物理とか範囲広すぎだろ。」
唐突に幸広が小声でぼやく。
「しょうがないよ、文理選択を大学まで引きずった僕らのせいなんだから。」
と衛がたしなめる。
この超能力学部では、一年生の間は幅広い分野の教養を身につけ、二年生、三年生、と徐々に専攻を絞っていくようなカリキュラムになっているのだ。
「それにしても……。」
衛は幸広たちにも聞こえないようにつぶやいた。
それにしても、自分はいったい、どういう将来を選ぶんだろう。
中学の頃は学年が上がれば自然とビジョンが見えてくるものだと思っていたが、大学生になってもいまだに未来は遥か遠くの霧の中だった。
「成績評価の話は以上だ。というわけで、今から早速講義に入る。」
佐々木の声で衛の思考は将来のことから現在に引き戻された。
講義はあっという間に過ぎていった。
350東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:57:06 ID:R+6PqwUo
時は流れて日没後、場所は衛のアパートの前。
「おっ! あれじゃない?」
「また正面から堂々と乗り込んでくるとはいい根性してるじゃねえか。」
幸広と月野が、衛から伝え聞いた特徴に一致する人物を発見した場面だ。
「さて、とりあえず衛を呼び出すか。」
幸広は携帯電話を取り出す。
しかし、待ってられないと、月野は道路に飛び出した。
「先手必勝っ!」
そして西堂に炎を浴びせ掛ける。
西堂は足を止めなかった。
左手で上着を脱ぎ、体の前で斜めに上着を持った手を振り下ろす。
勢いで広がった上着は凍結し、炎を防ぐ。
そのまま能力を解除し、何事も無かったかのように上着を着なおす。
見事な流れに思わず「おー」と言いながら拍手で迎える月野。
十メートルほど月野と距離を置いて、西堂が立ち止まった。
「姉ちゃん、俺の相手するなんて百年早いで?」
余裕の表れか、ズボンのポケットに両手を突っ込んでスマイルを決める西堂。
対する月野も笑顔でポーズを決める。
「まだまだっ。これからなんだから!」

つづく
351 ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:58:06 ID:R+6PqwUo
以上です
ヤッチーの大活躍を期待してた方はごめんなさい、次回に持越しです
352創る名無しに見る名無し:2010/06/18(金) 01:09:35 ID:WCXPWXcO
ヤッチー容赦ねえw
西堂もなかなか強者な感じでいいね。期待してる
353創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 01:11:33 ID:qt8cXVno
407 名前: 名無しさん@避難中 [sage] 投稿日: 2010/06/19(土) 01:04:53 V7C01kek0
はあ、本スレに書きこめることのほうが奇跡…
そう考えればこのもやもやも少しは晴れる
というわけで、本スレ312-313の続きをこちらに投下します
できればどなたか代行お願いします


というわけで避難所より代行です
354臆病者は、静かに願う:2010/06/19(土) 01:12:25 ID:qt8cXVno
 ERDOに暗雲が立ち込めているのかもしれない中で迎える、なんとなく晴れ晴れしない気がする週末。
 もやもやとくすぶる漠とした恐怖心。「次は自分か」と恐れる反面、「まさか自分が」と楽観する気
持ちの間で生まれる葛藤。

 きっとERDO職員たちはみんな同じ気持ちでいるだろう。そして大半の職員は前者の恐れが勝り、当分
の間は不要な外出を控えたりするのだと思う。

 そんな中私はどうなのだと言えば。
「いらっしゃいませ〜。何名様ですか〜?」
「一人です」
「お煙草吸われますか〜?」
「いえ、吸いません」
「かしこまりました〜。ではこちらの席へどうぞ〜」

 休日の繁華街をのらりくらりと散歩していた。のらりくらり過ぎて時間も忘れていたら、腹の虫がぐ
うと鳴き出したので、少し遅めの昼飯を取ることにした。にこにこと笑顔がかわいらしいウェイトレス
さんが案内してくれた、見晴らしのいい窓際の席に腰掛ける。

「ご注文はお決まりでしょうか〜」
「タラバ蟹の蟹クリームコロッケス……長っ。これ、これください」
 息が詰まったので、メニューをちょいちょいと指さすことにした。肺活量が弱っているのだろうか。

「はい〜。タラバ蟹の蟹クリームコロッケスパゲティ:かぼちゃのスープとシーザーサラダセットです
ね〜。お飲み物は何になさいますか〜?」
「ホット……いえ、アイスコーヒーで」
「アイスコーヒーですね〜。かしこまりました〜。それではお料理をお持ちするまで少々お待ちください」
「うん、ありがとう」

 のんびりとした雰囲気が癒し系なウェイトレスさんが、ぺこりと一礼をくれて去っていく。彼女が持っ
てきてくれたお冷を飲みつつ、ふうと一息。

 このレストランに来るのは初めてではない。少し前に一度、それはそれは扱いづらい少年少女とともに、
一度訪れたことがあったりする。
 あの時は酷かった。昼飯だけで五千円がパタパタと飛んでいったのだ。減給続きの私としては死活問
題だ、冗談抜きで。
355臆病者は、静かに願う:2010/06/19(土) 01:13:05 ID:qt8cXVno
 どうしてあえて、そんな冷や汗ものの経験をしたこのレストランに来たのだろうか。わざわざデパー
トに入り、すし詰めのエレベーターに乗ってまで。
 
 私は自分の行動に自分で説明をつけられないことが多い。気がつけばこんなことをしていた、という
ことが度々ある。
 矛盾の多い性格なのだと思う。私が今日まで生きているのはその性格のおかげでもあり、その性格の
せいでもある。

「お客様、お待たせいたしました〜。タラバ蟹の蟹クリームコロッケスパゲティ:かぼちゃのスープと
シーザーサラダセットでございます〜。それではごゆっくりどうぞ〜」
「うん、ありがとう」

 食欲をそそるにおいを引きつれて、タラバ蟹の蟹クリームコロッケスパゲティ:かぼちゃのスープと
シーザーサラダセット(言えた!)が運ばれてくる。ちなみに二千四百円。私の中では十分高価だが、
このレストランでは標準的な値段のようだ。

 さて、本来ならここでこのレストランの回し者的宣伝効果も兼ねて、私がタラバ蟹の蟹クリームコロッ
ケスパゲティをいかにも美味そうに平らげる様子をレポートしていく流れなのだと思うのだが。
 いかんせん私は食べ物の美味しさの表現についてボキャブラリーが貧困なのだ。正直なところ、美味
いものは「ちょ、これマジ美味い!」と叫ぶしか能がない。というかそれで十分じゃないだろうか。

 ん? 何だって? そんなこと言わずに頑張ってみろ? ドクトルJはやればできる子? え、えー
そうかな。うーむ……。よし! 神宮寺秀祐36歳、人生初のグルメリポートに挑戦だ!

 ではまずタラバ蟹の蟹クリームコロッケからいただきます。えー、まずこのきつね色にこんがりと揚
げられたサックサクの衣。口に入れれば歯茎やら舌やらいろいろなところが容赦なく傷つけられそうに
思える先鋭なサックサクさ! 「気安く食べないで」とでも言いたげなこのツンツンっぷり!

 ナイフで切ってみれば、中には崩れそうで崩れない絶妙なトロトロ感がたまらない蟹クリームが。
不用意に口に入れれば大火傷、前歯の裏がズルズルになるのは免れそうもない保温性! 「我慢っても
のを覚えなさい」とでも言いたげなこのアツアツっぷり!
 
 こういう危険と紙一重な感じが人々を魅了してやまないこの蟹クリームコロッケ。それでは十分に冷
ましたところで、まずは一口…………む! これは……これは!
 これはまさに味の……! 味のチェンジリン
356臆病者は、静かに願う:2010/06/19(土) 01:13:47 ID:qt8cXVno
 蟹クリームコロッケスパゲティを美味しく頂いて、アイスコーヒーで食後の一服。やっぱり少し火傷
してしまった口の中に、よく冷えたコーヒーは適度に心地がいい。

 窓の外に目をやる。そうして初めて気付いたが、この繁華街の街並みが一望できる、なかなかいい席
を貰えていたようだ。

 月日が経つのは実に早い。そして人間という生き物は、私が考えていた以上に環境への適応力の高い
生き物なのだということを、改めて思い知らされる。
 そしていかに――『忘れる』生き物なのかということも。

 街を行き交う人々の群れをアイスコーヒー片手に眺めながら、考えるのはそんなこと。
 生きるために、環境に適応することは必須だ。そしてまた、『忘れる』ことを忘れてしまっては、人
は心落ち着けて生きてはいけない。しかしそれは――

「……うん? 何だろうな、あれは」
 視界の隅っこにチラついた奇妙な影が、私の思考を遮った。
 向かいのビルの屋上、その縁。得体の知れない何かが、そこにいる。

 コウモリ? かと思ったが、その意見はすぐに却下した。スケール感がおかしすぎるのだ。向かいの
ビルとの距離から考えて、それは小さく見ても人間とさほど変わらない大きさだと推測できる。日本本
土にそんなでかいコウモリがいるものだろうか。

 いつからそうしていたのか、謎の物体はただ座禅でも組んでいるように、身じろぎひとつせずそこに
鎮座し続けている。
 それが結局何なのか、どれだけ凝視してみても私にはわからなかった。ただ一つだけ確信を持って言
えることは。

 あれは間違いなく、ロクな存在ではないということだけだ。
 
 まだ半分ほど残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干し、足早にレジへと向かう。店を出て何をす
るつもりかなんて考えてはいない。何ができるのかもわからない。
 ただ、今の私はそうしなければならないのだと、そう思っただけだ。

「ありがとうございました〜。またお待ちしております」
「ごちそう様」
 最後までほんわかと笑顔のウェイトレスさんに見送られて、私はレストランを後にした。


 つづく
357創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 01:14:28 ID:qt8cXVno
以上代行でした
358創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 01:36:55 ID:qt8cXVno
そして感想

グルメレポートwww
タラバ蟹の(ryとか微妙に抜けてるリポートとか相変わらずセンスが素晴らしい

なんだか怪しい奴が近づいてきそうな様子だけど頑張れドクトルJ!
359創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 05:07:01 ID:++6utjut
来ましたねぇ!
やはりセリフ運びが秀逸です
ドクトルのとぼけた話しっぷり、好きだなぁ

そして現れた謎の存在…不安



つ、続けてくれても…、い、いいけどっ!
勘違いしないでよね! べ、別に続きが読みたいわけじゃないんだから!

代行さん乙です!
規制にはタヒを。
360創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 21:07:25 ID:qt8cXVno
もうひとつ避難所に投下アリ!
361創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:56:31 ID:3SRIJbMu
避難所から代理なんだよ!
362創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:57:13 ID:3SRIJbMu
短いけどできたー! 小ネタみたいな感じですが早速投下。
それと、岬月下くんをお借りしました。なんだかやられ損な気もしますがすみません


【プリンセス・オブ・フェアリーテイル〜そのいち】

「へぇ……、君が噂の【月下】かぁ」
「俺の名前を知ってるのか……」
「そりゃあ勿論、有名だからね」
「……ふ、参ったもんだな」
「でもおかげで私は君に出会えたわけだし。……さあ、やり合おうじゃない?」
「おちつけ!」
「きゃんっ」
 とある月夜のことだった。
 例によって女となった俺――桂木忍――を連れ歩く、アホ毛が眩しい少女鈴本青空は、月明かりの下一人歩く中学生に目をつけるや否や彼の元へと駆け出し冒頭の台詞をのたまったのである。
 ソラの訳のわからないテンションについていく中学生も中学生だが、それより問題はこっちの方だ。
「おいソラ、いきなり中学生に喧嘩売ったりして……、もう少し考えてくれよ」
「……えー、でもー……、有名なんだよこの子」
「有名だからと言って喧嘩売って良い理由にはなりません」
 全く、とため息吐きながら腰に手を当て説教する。
 何というか、女の体を得ているが故に妙に様になっているのだろうなあ、と考えるだけで少し虚しくなってしまう。
 俺の言葉にぶー、と頬を膨らませたソラはそのままの顔で中学生に振り返り……、
「って、連れは言ってるんだけど……、君はやっぱり戦いたいよね? 私みたいに、疼くよね、闘争本能がさ」
「…………だ」
「ん? なに、やっぱり戦いたい!? そうじゃなくちゃ!」
「落ち着け! ソラ!」
「……なんて可憐なんだ」
「「……は」」
 熱に浮かされたような中学生の顔、そしてその童顔には似つかわしくない台詞に、俺とソラの感想は見事に一致した。
 えーと、一体どういう状況?
「ぐ、まずい……、もう一人の俺が……ぐぉ……! ダメだ、こんな可憐な人を傷つけるわけには、だが……!」
「……えーと……?」
 ソラが「どうしたのかなこの子、病気?」とアイコンタクトで伝えてくる。
 むしろ俺が聞きたい。
「あの、大丈夫?」
 とりあえず急に右手を押さえて悶えだしたその中学生を介抱すべく、俺は彼の元へと近づいた。
 右腕を抱え込むようにして屈んでいる彼の背中を優しく撫でつつ、痛いところはないかどうかを尋ねようとして……、
「……しのちゃんどいて! そいつ殺せない!」
「いや殺すなよ」
「違うんだって! しのちゃんの【能力】忘れたの!?」
「……あ」
363創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:57:54 ID:3SRIJbMu
 失念していた。中学生の様子があまりにもおかしいものだから頭の中からすっかり抜け落ちていたが――。
 俺の夜間能力は【プリンセス・オブ・フェアリーテイル】(ソラ命名)
 夜間には女性としての体を得、同時に悪漢共に襲われ攫われるという宿命を義務づけられた難儀な能力だ。
 相方のソラによって幾度となくピンチを救われ――というか彼女がいなければ多分色々酷い目にあっている――ている俺だったが、最近は割りと悪漢もご無沙汰だったためにこのようなヘマをしてしまったらしい。
 見れば、俺を見る中学生の目は血走っていて色々とまずい。
「この世の理に叛いてでも、貴女にこの魚肉ソーセージ(特大)を咥えさせてみせる! ゴッド・リベリオン!」
「な――んむぅっ!?」
 突如として現われた魚肉ソーセージ(特大)。
 少年は剥き身にされたそれを俺の口へと無理矢理突っ込んだ。
「ふはは、ふははははは! 喰らえ喰らえ!」
「ん、むぅっ……! もゅううっ!」
 少年の手によって、幾度となく俺の口から出し入れされる魚肉ソーセージ(特大)。
 魚肉ソーセージ(特大)は俺の口内を蹂躙すべく、縦横無尽に暴れ回る。勢いよく突き出されるそれが喉を犯し、その感覚に思わず吐き気を覚えた。
 だが、少年の奇行は止まらない。
 俺が俺である限り、少年はただその本能に赴くまま俺を――。
「てぇい!」
「げふぁっ」
「しのちゃん大丈夫!?」
「……ごほっ、が、……ぁ、ソラ……」
 ソラの一撃で、中学生は吹っ飛んだ。どうやら、解放されたらしい……。
 まだ口に咥えられていた魚肉ソーセージ(特大)を投げ捨て、俺は涙目のままソラを見上げた。
「しのちゃん……、ごめんね、私がいながら」
「い、いや……良いんだ、注意を怠った、俺が悪い……」
「ううん、それでもしのちゃんが辱めを受けたことに変わりはないでしょ……?」
「いや、魚肉ソーセージ(特大)を口の中出し入れされただけだから……」
「それを辱めって言うの」
 言わないと思う。
「さて、順番が逆の気もするけど、【月下】クンが起き出したら思う存分殴ってあげなきゃね」
 ぼきぼきぼきりと両手の関節を鳴らすソラ。身長150cm代のくせに、相当な威圧感を放つせいかかなり恐ろしげだ。
 吹き飛ばされた衝撃で目を回しているあの中学生がまた目を覚まし、このソラを見たら二度目のブラックアウトに陥る事は必至と言えるだろう。
 彼はただ俺の能力でこうなってしまったのに過ぎないのに、なんだか悪いことをしてしまった。
 だから俺は、ゆっくりと立ち上がってソラの肩に手をかけた。
「しのちゃん?」
「良いんだ……、俺の能力で、彼はこうなってしまっただけだから。……彼には悪いけど、今日は戻ろう」
「……しのちゃんがそう言うなら」
「せめて彼の名前がわかれば、昼にでもお詫びが出来るんだけど」
「あ、名前なら知ってるよ。岬陽太って言うの」
 何故知っているのか。ついでに通り名らしい【月下】との共通点が皆無な気がする。
「……岬陽太くん、ね。明日は休日だし、彼を捜すの手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ。眠くて使い物にならないかもだけど」


 こうしてまた、桂木忍の夜は更けていく。
364創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:58:34 ID:3SRIJbMu
すいません短くて!
あと陽太くんマジごめん……。殴られ損だよね、ほんとごめん

ちょっとあまりに懐かしすぎてキャラ忘れてる気もしますが
桂木忍と鈴本青空の【姫様+アホ毛】コンビです。我ながら懐かしい
忍の能力を生かして、各作者様のキャラと絡ませていければいいなあと思ったけどそれだと各キャラクタが殴られるだけになると言う罠
次回は昼間の陽太くんに会いに行く話を書かせて頂くつもりです。+晶さんも。

それでは失礼しました。wikiで各作品の予習してきます
365創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:59:51 ID:3SRIJbMu
なんか堪えきれずに書いちゃいました。
忍の昼間の能力お披露目と言うことで。わりとありがちなんですけどね。

みなさんありがとうございます。またよろしくです。


【プリンセス・オブ・フェアリーテイル〜そのに】

 ギラギラと青空の上輝く太陽は、俺とソラの肌を焦がそうとするかのように、容赦なくその日差しを注いでいた。
 今日――。
 魚肉ソーセージ(特大)事件――岬陽太(月下)なる男子中学生が俺の能力【お姫様《プリンセスオブフェア(ry》】によって錯乱、女体化していた俺の口に魚肉ソーセージ(特大)を咥えさせてはそれを出し入れさせるという奇行に走り、
それを見かねたソラによってぶん殴られ気絶させられてしまった事件だ――から一夜明けた昼のこと。
 俺こと桂木忍と、その相棒鈴本青空は、うだるような暑さの中、かの岬月下少年を捜し街中を歩いていた。
 ソラの言葉によればその少年は何でもかなりの有名人らしく、自身の思い描いた武器を具現化することが出来るのだとか。
 彼の一番得意とする武器は魔剣レイディッシュなる剣で、それはもはや彼自身のステータスであるという。
 聞けば聞くだけ興味が湧くが、何故彼が昨晩望んで具現化した物が魚肉ソーセージ(特大)であったのか。それだけが不思議でたまらない。
「……あづいよー、死んじゃうよー」
「死なないから安心しろソラ」
「無理、もう無理。ダメだよしのちゃん……。ごめんね、私を置いて先に行って……」
「そんな死亡フラグ全開の台詞街中で言われてもな」
 やれやれ、と呆れたように嘆息して振り返り、俺は朧気な足取りで俺の背中を追ってくるソラに目をやった。
 彼女の昼の能力【超睡眠】が半分発動しているのか、瞼は垂れ下がり、前を見ているのかどうかすら怪しい風体だ。
 トレードマークでもあるアホ毛は力なく萎びており、夜半の溌剌とした彼女の印象とは全く真逆のそれを抱かせる。
 とは言っても、その理由の半分には俺の夜間能力があるわけで。俺に彼女を責める権利などないのだ。
 俺の夜間能力は【お姫様《プリンセス・オブ・フェアリーテイル》】。
 男性としての証を持ちつつも女体化、髪の長さに加えBWHの大きさを自在に変えることが出来るようになる下らない能力である。調整が面倒なので常にデフォルト状態だが。
 だが俺の能力はそれだけでは終わらなかった。その能力だけなら、単純に【女体化】とでもいう能力で事足りるからだ。
(現にそういう能力を持つ者もいる)
 俺の能力の本質は【お姫様】という部分にある。
 つまりは、お伽噺のお姫様宜しく、悪者に襲われては攫われる宿命にある、ということだ。
 毎夜毎夜、俺の能力によって錯乱し、俺に襲いかかってくる人間や犬、猫たち。今まで襲われた回数は、もはや三桁をゆうに超えている。
 だが、こうして俺は今も元気に生きている。その理由が、現在進行形で俺の背中に寄りかかり、うとうとしている少女、鈴本青空である。
 彼女の夜間能力【活性化】は、全身の細胞が活性化し、身体能力と回復能力が飛躍的に向上するチートスキルだ。
 もとより我流格闘技を嗜むソラ。彼女に、絶対的な身体能力と超スピードの回復力を加えたその姿はまさに鬼神。
 並み居るチンピラ共をなぎ倒し、彼女はカラーギャングの長として君臨している――というのはまあ別の話か。
 ともかく、彼女がその戦闘能力を持って、俺を攫わんと襲いかかる悪漢共を追っ払ってくれているわけだ。
 しかしその夜中の能力と相反するよう、彼女が昼間に得た能力は【超睡眠】。
 いつでもどこでもすぐさま眠りに落ちることの出来る能力で、現在絶賛発動中というわけである。
「……ソラ?」
「ぐぅ」
「寝てるのか……。やれやれ」
 立ったままでも、やろうと思えば逆立ちしたままでも眠りにつけるソラの能力はわりと厄介だ。
 けれど、夜中は守られてばかりなのだから、昼間は俺がソラをサポートしなければならないだろう。
 俺は腰に回されたソラの華奢な腕を取り、そのまま屈み込んで小柄な彼女を背中におぶう形にした。
 こうすれば、ゆっくりと気持ち良く寝られるだろう。
 幸せそうな寝顔を見せるソラ。彼女の横顔に、俺の心の奥底から湧き上がってくる暖かな感情は何なのだろう。
「やっぱり、俺は重ねてるのかなあ……。なあ、志穂」
 空を仰いで、俺は呟く。
 もはや二度と会うことは叶わない、俺の大事な妹――。
 ソラとは、性格だって、外見だって、全く似ていないけれど。
 それでも、俺はソラの姿に、どこか最愛の妹の面影を重ねて見てしまうのだ。
366創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:00:33 ID:3SRIJbMu
 探し人は、昼下がりを越え、もうすぐ夕方に近づこうとする頃に見つかった。
 街を少し外れたところにある小さな神社、その境内で涼んでいるのを見つけたのだ。
 あの顔は間違いなく、昨晩俺の口に魚肉ソーセージ(特大)を出し入れした岬月下くん本人に違いない。
 側にいる、彼よりも背の高い中学生は……、彼女だろうか?
 なんだか自分よりも青春しているなあ、としみじみ思いながら、俺は彼ら二人の元へと近づいていった。


「くそ……俺ともあろう者がただの一撃で……」
「凄い伸されっぷりだったよね」
「ほっとけ!」
 彼らに近づくにつれて、会話の内容が耳に飛び込んでくる。
 どうやら岬くんは、昨晩のvsソラの話をしているようだ。
 あの後彼を放っていってしまったので、謝罪しなければと思っていたのだが、この分だと無事ではあったようだ。
 僥倖僥倖。
「大体な……レイディッシュさえ出せれば勝ったも同然だったんだよ」
「だからそれ大根……」
「ちがああああああう! 魔剣レイディッシュ! リピートアフターミー!」
「首領パッチソーd」
「それを言うなあああぁぁぁっ!!!!」
 なんだかもの凄くハイテンションな二人だ。実に微笑ましくて、俺は声を出して笑みを漏らしてしまった。
 俺の笑い声に気がついたのか、当の二人がこちらを振り返る。一人は少し怒ったような顔、もう一人は不思議そうな顔で。
「い、いきなりなんだよアンタ」
「こら陽太、初対面の人に失礼でしょ。……すいません、ウチの陽太が」
「誰がウチのだ!」
「ああいや、こっちも悪かったよ、笑ったりして。二人とも実に仲が良さそうだったから」
 本音を告げると、二人は一瞬ぽかんとした顔を見せ、そしてほぼ同時に顔を逸らした。まずい事言ったか、俺?
 いやまあともかく、過ぎたことは気にせず本題に入ろう。うん。
 俺は岬くんではない方――ボーイッシュな雰囲気の女の子だ――に了解を得、彼らの隣に座らせて貰うことにした。
 寝ているソラを起こさないように(【超睡眠】の効果で滅多に目を覚まさないが)ゆっくりと背中から降ろすと、一部始終を見つめていた岬くんが大きな声を上げた。
「あああああああっ! この女!」
「昨晩以来だね。岬……月下くん? 今日は君に謝りに来たんだ」
「謝りに……? って、まさかアンタ……」
「ああ、その事も覚えてるんだね。俺は桂木忍、見ての通り男だよ、宜しく。それで、寝ているこっちは鈴本青空」
 俺の紹介を聞いているのかいないのか、岬少年は俺とソラ、交互に視線をやっては口をぱくぱく開閉させていた。
 まあ、魚肉ソーセージ(特大)を出し入れした記憶があって、その対象が男で、その行為に多少の喜びを覚えていたのであればその衝撃の大きさは想像に難くない。
 どんまい少年。
「あ、僕は水野晶です。こっちの岬陽太の保護者……かな?」
「よろしく、水野さん」
 言葉の出てこない岬くんの代わりにか、側の少女が応対してくれる。
 水野晶と名乗った少女もまた、岬くんと同じく中学生だろう。ただその背の丈は俺とさして変わらないほどであったが。
「…………それで、昨日の人たちが何の用だよ」
「いや、君に謝罪しようと思って。あの後結局君を放置したまま帰ってしまったからね」
「……別にいらねえ。それよりもその鈴本青空に用がある。舐められた分の借りはきちっと返すぜ」
「あー……ごめん、それは無理だ」
 俺の言葉に岬少年が拍子抜けた顔を見せる。が、これを説明しないことには始まらないだろう。
「ソラの昼間の能力は特殊でね。こいつが全力を出せるのは夜だけなんだ」
 同時に、俺が役立たずに成り下がるのも夜というわけで。
 自分で言っていて情けないね、全く。
「じゃあ、夜だ! 夜に勝負!」
「陽太、無茶言わないの! すいません桂木さん、陽太の馬鹿が……」
「いや、中学生はそれくらい元気な方が良いと思うよ」
 これは偽らざる俺の本心。俺も昔は、岬少年ばりの元気の良さを持っていたものだ。
 今はなんだか、守られる側が板についてるけど。
「……言ってて悲しくなってきたな」
「……?」
「いや、何でもないんだ。しかし岬くん、君はたしか――魔剣レイディッシュなる得物を扱うらしいね」
「ああ、それ大根でもが」
「ああ、それがどうかしたか?」
 何かを言いかけた水野さんの口を勢いよく塞ぎ、岬少年は得意げな顔で俺に続きを促した。
367創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:01:14 ID:3SRIJbMu
「是非とも興味があるというか……、ああでも夜中ソラと戦ってる間とかはダメなんだよな……」
「なんで夜じゃダメなんですか?」
「俺の能力は【お姫様】っていってねえ……女体化してしまう厄介な代物なんだよ」
 俺の説明に、水野さんはへぇーっと、目を輝かせた。
 ああ、大体そうだ。女子ってものはなんでかそういうことに多少なりとも興味を抱くのだ。
 俺としてはまったくと言って良いほどに無用の能力なのだが……。
 本日何度目かもわからないため息を吐こうとした時、ふと、境内に吹き込む風が異質なものになっていることに気がついた。
 隣の二人も同じようで、岬少年は当たりに素早く視線を走らせ臨戦態勢に入っている。
「……何か来る?」
「この感覚は、猛犬たち……」
 水野さんが、苦虫を噛みつぶしたような顔で呟いた。
 それと同時に、境内の脇に生い茂る雑木林から飛び出てくる猛犬たち、その数四。
「ちっ、またか――!」
「ああもう、まただ……。しかもまだ昼なのに」
 夜ならともかく、昼も襲われるってどーなのよ。嘆息する俺を尻目に、猛犬たちはぐるるるると唸り声を上げていた。
 そして、ぎゅっと右の拳を握りしめる岬少年と、不安そうな顔を見せる水野少女、こんな状況でもお構いなく寝ているソラ。
 なんだか妙な取り合わせだなあ、と感心してしまう俺は、完全傍観に徹することを決めていた。
 岬少年の魔剣レイディッシュが見られるかも知れないじゃないか。わくわくする。
 きっ、と口を真一文字に結び、猛犬四匹を睨み付ける岬少年は、静かな声で、背後の俺に語りかけてきた。
「……桂木……さん」
「どうした?」
「アンタ……戦える……いや、ますか」
「へ」
「レイディッシュは夜限定なんだ……です」
 衝撃の事実発覚! じゃあ昼間の岬少年は戦闘能力皆無と言うことなのか?
 俺がそう尋ねると、
「そういう訳じゃないんだけど、色々限定されてて」
「……そうか……、じゃあ俺も出来る限りのことはやるよ」
 近くに落ちていた長い木の枝を二本拾い、片方を岬少年へと投げ渡す。
 社に陣取ってしまったのが失敗だった。猛犬四匹に道をふさがれた今、寝坊助ソラを連れて突破するのは無理がある。
 とりあえずは水野さんとソラを守りつつ、俺と岬少年で上手く立ち回る他ないだろう。
「桂木さん、昼間の能力は?」
「……出来れば使いたくないんだ。色々な意味で『痛い』から」
「そうか。よし、行くぞ!」
「ああ!」
 俺と岬少年は頷き、同時に駆け出した――。
368創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:03:04 ID:3SRIJbMu



「つぅ……」
 慣れないことをするもんじゃない、というのは今のことを言うのだろうか。
 威勢良く駆けだしたは良いが、ものの数秒もしない内に猛犬の攻撃にノックアウトされた俺は、雑木林のすぐ側に投げ出されていた。
 頭がじんじんと痛む。現在の戦況はどうなっているのだろう。言うほど気絶していた時間が長くないのはわかるが――。
「って……、あ、血……」
 頭が痛むのはこのせいか。石畳に頭をぶつけたか、俺の額からは血がどくどくと流れ出していた。
 酷い怪我ではないが、軽い怪我でもないだろう。ふらつく足に渇を入れるようにして、俺は何とか立ち上がった。
 岬くんは、水野さん、それにソラは……。
「っ!」
 その時俺が見たのは、社付近で水野さんとソラを守るべく、木の枝をがむしゃらに振るう岬くんの姿だった。
 服は所々すり切れ、切り傷も見えている。全身に怪我を負おうとも、それでも彼は戦っていたのだ。
「……早く、しないと」
 靄がかかったような頭を振りつつ、俺は岬くんの元へと駆け出す。
 足がふらつくが、そんなことを気にしていては始まらない。
 早くしなければ取り返しのつかないことになる。幸い、トリガーは出揃っているのだ。
「――やれる!」
「あ――桂木さん!」
「何してたんだよっ!」
 水野さんの声が響き、岬少年の怒声が聞こえた。
「すまない! だが、後は俺に任せてくれ……!」
 言って、俺は意識を集中させた。額から流れ出る血を、右の掌に掬い集める。
 守るべき対象は、この場にいる全員。皆を守れ。護りきれ。
 この量ならば、Lv2までなら発動できる。倒れた後のことは気にしない。
「護り抜け――! 【騎士の血盟/Lv2】!」
 呟きながら、血を集めた右手を宙に振るう。
 液体であったはずの血は、しかしゼリーのように弾力性を持った物体として、宙を舞う。
 ゆっくりと、スローモーションで宙を流れる血の球。
 頭に思い描くは、全てを薙ぎ払う槍だ。
「鮮血槍《ブラッディランス》!」
 右手を、血の球へと突き出す! 
 俺のイメージに呼応した血の球が、自在に形を変え、やがてそのシルエットを浮かび上がらせる。
 全てが終わった時、俺の右手に握られていたのは、鮮やかな血の色に染め上げられた一振りの槍だった。
「喰らええええええええええっ!」
 四匹纏めて仕舞いにしてやる――!
 勢いよく振り抜かれた鮮血槍は、流れるような動作で猛犬の腹を薙いだ。
 その勢いに、猛犬は皆残らず吹き飛ばされて行く。
 どさり、と重い音が響いた後、叶わないと見たか、猛犬たちが逃げ出す足音を聞き――、
「……疲れた」
 ――俺は意識を飛ばした。



 あの一連の事件から一週間。
 何だかんだで俺は今日も平和な一日を送っている。
「桂木さん!」
「……またか……」
「見せて下さいよ、【騎士の血盟】」
「……勘弁してくれよ。アレはものごっつい厨二で、何というか我ながら恥ずかしい代物で……」
「いや、自分の血を武器として具現化する能力……、たまんねぇ!」
「たまってください……」
「大人気だね、しのちゃん? ……ぐぅ」

 なんだか、岬少年に懐かれてしまったのは……。
 ひとえに、俺の昼間能力が厨二過ぎるからだろうか。やれやれだ。

続く。
369創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:03:44 ID:3SRIJbMu
以上でござる

とりあえず忍昼間の能力纏め
【騎士の血盟】
【意識性】【具現型】
流れ出る自身の血液を自在に武器武具へと変質させることの出来る能力。
流れ出る血液の量によりレベルが変わり、大型、強力な武器ほど必要量は増える。
【騎士の血盟/Lv1】ではナイフや篭手など小型の武器武具を。
【騎士の血盟/Lv2】では両刃の剣や槍、小型の楯等々。
【騎士の血盟/Lv3】ではバスタードソードや突撃槍など。
失う量が多いほど効果は上がるがその分活動時間は短くなる。(貧血で
また、騎士の血盟である以上、近くに守るべき対象が存在していない限りは能力発動できない。

なんて厨二。ちなみにブラッディランスは忍命名。別に名前などいらない。
つまり忍も大概な厨二病だったんだよ! Ω ΩΩ<な、なんだってー!
昼は忍が騎士となってソラを護り、夜はソラが騎士となって忍を護るわけですね。
まさに二人で一つ! ダメですか


なんか色々やってしまった気がするけど気にしないでおこう……。
晶さんの影が薄くてごめんなさい……。作者様ありがとうございました。
370創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:04:41 ID:3SRIJbMu
以上代行でした
371創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:10:16 ID:SB/u+uBl
>>362
わーいお帰りなさい! さっそく陽太くんと絡んでるしGJ!
能力も(そのネーミングも)厨二全開で最高!! うんうん、『痛い』ぞもっとやれ
やはりこのシェアは厨二が映えるねー

>>370
代行さんも乙でした!
372創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:47:01 ID:BhaAugD7
陽太の扱いがひでえwだがそれがいいww
正しく厨二能力でかっこいいね。
373創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 16:07:02 ID:vSQeLlHV
設定のまとめ的なものってない?
鑑定士とかバ課とか把握しきれてないのに使っていいものかどうか不安なんですが
374創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 17:09:44 ID:7FVMTNOn
自分も知りたい
wiki見せてもらってるけどまだ把握しきれてない

このSS読めば最低限わかる、みたいなのでもいいので紹介してほしいな
375創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 17:11:41 ID:GpSYfL2l
残念ながら無い
ただ質問は遠慮なくしちゃっていいと思うよ
きっと把握している誰かが教えてくれるはず
376創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 17:46:22 ID:TlZuO8cE
鑑定士はこのSSでほとんど全部かな
http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/32.html

バ課の方は危険な犯罪者を追ってる秘密部隊みたいな認識でおk
7班まであって2,3,5の班長副長が埋まってる


まあ難しく考えなくても>>1に書いてあるように別にちょっと食い違っててもイインダヨー
377創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 17:54:46 ID:vSQeLlHV
サンクス
あと、バ課は公的な後ろ盾のある機関なの?確か役所に関係者が出没してたっぽいのを見た気がするけど
378創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 18:08:29 ID:TlZuO8cE
ほぼそうなんだろうってことになってるけど
なぜかまだはっきりとは書かれてないw
379創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 18:23:00 ID:GpSYfL2l
必要ならそういう事にして書いちゃっていいんじゃないかな
バフ課って個人じゃなくて皆で創ってる感じの組織だし。
380創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 18:39:27 ID:vSQeLlHV
サンクス。ちょっとやんちゃするかもしれないけど、最悪パラレルで逃げられるし作ってみる
381創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 18:53:52 ID:TlZuO8cE
wktk
382 ◆W20/vpg05I :2010/06/21(月) 21:03:00 ID:HsiD/YJW
380さんじゃないけどバフ課借りて投下します。
383 ◆W20/vpg05I :2010/06/21(月) 21:03:45 ID:HsiD/YJW

深夜、何もない廃ビル群。チェンジリングデイ以降普通の人が住まなくなった一角。
およそ浮浪者やならず者しか集まらない場所。
それでも普通なら寝静まっているはずの時間。

――しかし、今は轟音と悲鳴が交わった戦場と化していた。

「腕が! 俺の腕がッ!!」
「逃げろ! 逃げるんだ――」
「おい! しっかりしろっ!! 傷は浅いぞ!!」

その悲鳴は千差万別。だが、それを引き起こしているのはたった一人の人間。
逃げ惑うは訓練されたはずの戦士たち。
その全体図を俯瞰するはこの戦士達を束ねる者。
男は無線機に対し、大声をはり上げ続けている。

「チャーリー! チャーリー!! 応答しろ! ちっ! 駄目か!?」
「ラレンツア隊長。4班B隊全滅です!」

背後で伝令に向かった一人の隊員が報告する。
その報告を聞き、ラレンツアと呼ばれた男は決断する。

「これでB隊、C隊は全滅か。ここは我々の負けだ。撤退命令を出せ。我々A隊は殿を務める。
一人でも多くの隊員を生還させる」
「はい! 撤退命令発令! 総員速やかに離脱しろ!!」

響き渡る轟音と怒号の中、平穏なはずの都市の近くである場所で、この大規模な戦闘、いや、殺戮が起きていた。
本来なら簡単な任務――特に特殊訓練を受けているバフ課なら易しいはずの任務。

たった一人の人間を捕まえる事

その任務が今の地獄絵図を引き起こしていた。
すでにその目標を捕まえることを目的とせず、ある意味天災として排除――より具体的には目標の殺害――の段階に来ていたが、
それでもバフ課への被害は広がり、撤退を選択せざる得ない所まで来ていた。

隊長の命令に従い速やかに撤退を開始する。
しかし、ラレンツアの目には一人の人間の姿が見えた。
考えること数秒。その思考結果を言葉にする。


「……いや、お前たちもだ。どうやら目的の相手は近くにいるらしい」
「隊長?」
「何、適当にかく乱したら我も離脱する。行け!!」

選択するは隊長自身がかく乱することによる、他の隊員の撤退援護。
ビル群の谷間に陣取っていたバフ課4班の隊長であるラレンツアは、苦々しい表情で立ちあがると部下を一喝し、離脱命令を出す。
いかにも屈強な戦士といった身長が2mを優に超える強靭な肉体を持った指揮官。
その姿を斥候を務めた隊員はじっと見つめ、敬礼を一つすると後ろに向かい走り出す。

そのラレンツア本人は振り向きもせず本来の目標に視線を固定し、ゆっくりと歩を進めた。
384 ◆W20/vpg05I :2010/06/21(月) 21:04:27 ID:HsiD/YJW


彼我の距離は20mほどだろうか。そこでラレンツアは歩みを止め、目標に声を掛ける。

「狭霧、貴様がそこまでやるとはな……これは我の失策だ」

対して、狭霧と呼ばれた目標は口の端を釣り上げる。言いかえるとそれは微笑み。
その目標はその表情のまま口を開く。

「あらあら。それはバフ課の情報収集能力も大したことがないと言うことかしらね」
「……認めなければならんかもしれん。貴様の能力とその異常性を過小評価していたと」

苦虫を噛み潰したような表情のままラレンツアは答える。
目の前の目標――見た目の年はまだ20代前半に見える美女。
ブロンドの腰までかかる髪をポニーテールに結わえ、たれ目がちの大きな瞳はラレンツアを見ている。
物腰の柔らかさは本来場を和ませるような雰囲気を湛えていただろう。――ここが戦場でなければ。
その女性はゆったりとした動作で頬に手をやると、首をかしげる。

「そうなると、あなた様も実はたいしたことがないのかしらね」

その言葉にラレンツアはさらに眉間の皺を濃くし、
「ふむ、そう思われても仕方あるまい」
「あらら、そうですか」
「――だが、我をなめるな」

瞬間、雷が狭霧に奔った。
黄色で埋め尽くされた光の奔流がラレンツアから射撃される。
それは狭霧へと正確に向かい――

――着弾

光が弾け、視界を覆う。
だがラレンツアは視線を外さない。
濛々と立ち込める煙が晴れた先には、狭霧が雷撃を避け、横に転がった態勢でそこにいた。
その位置を確認するとラレンツアは無言で二撃目を撃つ。

――再び爆音と衝撃

だが、再び視界が晴れたとき、また違う位置に今度は佇んでいる狭霧の姿があった。
顰め面を続けるラレンツアに対し、狭霧はその姿勢のまま動かず口を開く。
まるでショッピングをしているような気楽さで。

「あらあら、中々お強いのですね。でも、これ位なら能力を使う必要もありませんわね」
「減らず口を……ならこれならどうだ――【神の裁き】」

ラレンツアの言葉に狭霧は表情に疑問符を持ち、一瞬後空を見上げた

瞬間、狭霧を中心とし、直径200mの範囲に無数の雷撃が荒れ狂う。
ビル群が砕け、大きな石の塊となり、それすらも雷が容赦なく砕き、辺り一帯が廃墟と化した。

余りの光量、その轟音は一時的にラレンツア自身の視力と聴覚を奪った。
だが、ラレンツア自身はその事を気にせずぼそりと言葉を紡ぐ。

「さて、味方がいないからそこできる技ではあるが、これで仕留められたか……」

言葉でこそ期待を呟くが、ラレンツアは油断しない。
手には散弾銃を持ち、視界と聴覚の回復を待つ。
385 ◆W20/vpg05I :2010/06/21(月) 21:05:08 ID:HsiD/YJW

――その中央に立っている狭霧が見えた。

服こそ多少焦げ付いているが、狭霧自体には傷一つない。
それをラレンツアは確かめると、一つ言葉を吐く。

「やはり駄目だったか。この雷撃を全て避けきるとは」
「あらあら、分かっていましたの。油断していればこれでさっくりいきましたのに」

狭霧は軍事用ナイフを両手に持ち、困ったように笑う。

「そういうことだ――。ま、我が隊は撤収完了したのでな。
これ以上ここに留まる意味がないので我も撤収するとしよう」

ラレンツアの言葉に狭霧は笑う。

「見事な陽動ですわね。普段なら見逃す所ですが……」

狭霧は一旦言葉を置く。

「あなたの強さに惚れてしまいました。あなたの命を私の物にしてしまいましょうか」

瞬間、狭霧が走る。
ラレンツアは雷を数度ぶつけつつ、後ろへと引く動作を見せる。
狭霧はその雷撃を全て避け、しかし速度を上げ、逃げる敵を追いかけようとし――

狭霧の周囲が突然歪む。
狭霧は突然の周囲の変化を受け、ぐらりと揺れる。

一瞬の隙

瞬きにも満たない隙であったが、それでもラレンツアは見逃さない。
冷静に手にしたショットガンを向け――

――発砲

その弾丸は音速を遥かに超えた。
狭霧を捉えた特殊な電磁場。それが、弾丸を加速させる場として展開されていた。

それはラレンツアの夜の能力【電子の奏者】によるもの。
雷を使うのは彼の能力の一側面に過ぎない。
本当の能力は、付近一帯の電気的エネルギーを操作する物。
その能力によりは通常よりはるかに加速した散弾が飛び散り――着弾した。

弾丸全てが狭霧に接触、その常軌を逸した衝撃に狭霧の体は四散する。

その全てをラレンツアは視認し、ようやく一息を吐く。

「これで終わりか。やれやれ、なんとかなったな。――全く厄介なものだ。化物と闘うのは」
386 ◆W20/vpg05I :2010/06/21(月) 21:06:14 ID:HsiD/YJW

チェンジリングデイによって得た能力。
多くの犠牲を出した後に得た特殊な能力。
それは生活を便利にする反面、様々な副作用があることも知られ始めている。
その中でも危険とされる症例――それが厨二病と呼ばれる症例だった。
ある種の全能感。それは軽度なら大したことではない。
だが、重度を超えた所まで症例が進んでしまった場合、多くが狂人、もしくは化物と呼ばれる状態までになる。

倫理観の消滅、自己崇拝、破滅願望――

人間社会を維持するために必要な物を失い、多くは危害を与えるだけの化物と化す。
バフ課4班は特にそこまで進んでしまった人間の捕獲、もしくは殺害を主任務として与えられた部隊だった。

「これで任務完了か。我も撤収するとしよう」
ラレンツアは一人呟き、これまですでに肉片と化した目標から視線を外し、撤収しようと振り向く。

――体に感じるは灼熱の痛み

突然の痛みにラレンツアは自身の状態を確認する。
背後から正確に心臓へと突き抜けられた刃。
明らかな致命傷と化物の存在を知覚したとき。

ラレンツアの周囲はプラズマに包まれた。



 *           *          *



「ひーふーみー、今回は5回、いえ、さっきので6回死んだわねぇ」

その場には半径200mのクレーターが忽然と出現した。
クレーターの表面はガラス状になり、強烈な熱を吐き出し続けている。
ラレンツアが命と引き換えに起こした破壊の後。
しかし、その縁には一人の女性が立っている。

その女性の名はアヤメ。狭霧アヤメと言う名を持つ女性はただそこに立っている。

「流石バフ課ねぇ。こんなに殺されたのはドグマに喧嘩売った時くらいかしらねぇ」

彼女は期待の色を隠さず呟く。

「ああ、これなら、バフ課なら私を殺しつくしてくれるかしら」

まるで歌うように、浮かれたように話す女性。


――それが彼女、狭霧アヤメが起こした事件の発端だった。
387 ◆W20/vpg05I :2010/06/21(月) 21:11:01 ID:HsiD/YJW

続く……予定…・・かも


投下終了です。まず始めにごめんなさいです。
世界観が違ったりしたらどうしようといまさらビクビクしていますw

狭霧アヤメは他の作品でも酷い目合わせたり、殺しちゃっても問題ないキャラとして登場させてます。
いって見れば無条件の邪です。
クロスできるできないは別として、どんな酷い扱いをしてもいいキャラをだしたいなって感じで出して見ました。


以下設定です。



狭霧アヤメ

20代の美女。破滅願望があり、自分を本気で殺してくれる人間を捜してあちこちで事件を起こしている。
ただし気分屋で、時に人を助けたり、その助けた人を殺したりすることもある。
しかも自殺はしないし、本気で人を殺すことも止めない非常に困った人である。

昼の能力

不明


夜の能力

【命の海】
【無意識性】

人を殺した数だけ自分が生き返ることができる能力。
生き返った際の出現場所もコントロールでき、死んだ位置から半径1km以内ならどこでも自由に復活する。
時間も最大1時間までコントロールでき、一時間経つと強制的に生き返る。
現在45人殺して30回死んでるので残り15回死ねば完全に死ぬ。ただし他に殺さなければであるが。
昼に死んだ場合は当然この中に含まれない。



ラレンツア

バフ課4班隊長。身長2mを超える偉丈夫。一流の戦士であり、これまでも数々の敵を葬ってきた。
美人で性格のいい妻がいる。子供も二人いて、家族円満に暮らす人生勝ち組な漢である。


昼の能力

不明


夜の能力

【電子の奏者】
【意識性】【操作系】

付近一帯の電気的エネルギーを操作する。
ただし生き物に宿る電気的エネルギーを直接操作することはできない。
388創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 21:55:25 ID:yv0rd4fc
GJ!!! お帰りなさいませ!

こ、このスレは……
厨二が……厨二が、炸裂しておる……!!

やはり厨二と厨二は「惹かれ合う」のかッ!?
389創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 22:29:16 ID:TlZuO8cE
登場したばっかりの隊長…
緊張感のあるバトル乙でした
390創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 23:04:16 ID:GpSYfL2l
厨二病って怖えええw
これはすごい能力バトルだな

しかしいつも思うんだがバフ課関連は戦闘レベル高すぎてクロスできねえw
391創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 23:06:18 ID:TlZuO8cE
鉄ちゃんみたいに表の顔を書くという手も
392創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 19:29:00 ID:7+MrsuGq
393創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 19:52:47 ID:Dww3bqpY
おお! これはクロス(スカーフェイス)だな!
クールな感じがカッコいいぜ!
GJ!!
394創る名無しに見る名無し:2010/06/22(火) 20:46:46 ID:fn/tuIm2
>>392
おおおおっすげーかっけぇ!
395創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 01:10:15 ID:V99fmh1D
うおお!ナイススレンダー!結婚しあべしっ
396創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 23:38:49 ID:8wcLqvzX
なんだか投下が増えて喜んでいる中、自分も投下
>>354-356の続きを投下します
ご存じの方もいると思いますが今回からトリ出します
397臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/06/23(水) 23:41:12 ID:8wcLqvzX
 急ぎ気味でレストランを出たものの、下りのエレベーターがなかなか来ない。さすがに多少イライラし
てきて、もうエスカレーターで降りようかと考え始めた時のことだった。

「神宮寺秀祐」

 どこからか唐突に、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。声は続く。

「いや、今はドクトルJと呼ぶ方が通りがいいのか?」

 どうにも不快なその声は、いかにも小馬鹿にするような調子でそうのたまった。あまりに突然すぎて混
乱したが、落ち着けばなんのことはない。声の発信源は私の真後ろに立っている男だった。

 もう初夏だというのに真っ黒なロングコートを着、黒いサングラスをかけたその男。明らかに何かを錯
誤しているのだろう。こんな格好している人間は映画の中だけで十分だって話だ。だが、もっと目を背け
たい事実がある。それは――

「久しぶりだな、牧島。相変わらずおもしろい服装だ。暑くないのか?」
 私とこの男とは古くからの知人だということだ。あくまで知人であり、友人ではないというところは強
調しておきたい。その証拠と言ってはなんだが、私はこの牧島(まきしま)という男のファーストネーム
を覚えていない。

「僕は寒がりでね。忘れたのか? 薄情な奴だ」
「正直興味もない。何の用か知らないが、大した用がないならあっちに行ってくれ」
「冷たいねえ。でも残念だったな、ちゃんと用事があるんだよ。神宮寺お前、窓の外のアレは見たんだろ?」

 この男の声は生理的に好かない。爬虫類が人語を話せるのならこんな声だろうと思うような、湿り気
と粘り気に満ちている。だから受け答えをするのも億劫なのだが、この男は今、私が確かめようとして
いるものの核心をあっさり明かしてくれる気でいるようだ。それなら乗ってやるしかない。
398臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/06/23(水) 23:41:56 ID:8wcLqvzX
「向かいのビルに座ってたコウモリみたいなやつのことを言ってるのなら、確かに見たが」
「ひひっ、コウモリとはね。もう少し物事を見定める目を養った方がいいな。まあいいさ。今日はアイ
ツの、ガーゴイルの実験を兼ねたお披露目パーティーをやろうと思ってたんだ。だがどうにも調整が不
完全だったみたいでな。キメラやケルベロスのようにうまく制御ができないときた。頭のいい神宮寺君
なら、これがどういうことかわかるよな?」

「ケルベロスか……。やはり以前のあの事件を仕掛けてきたのは君だったんだな牧島。ここのところ私
たちの組織職員が襲われているのも君の仕業か」
「フン。だったらどうする。お前に質問を許した覚えはないぞ。聞いてるのはこっちだ」

 ふぅーっ、とわざとらしく大きい息をひとつついて、牧島は続けた。
「ガーゴイルはあれはあれでなかなかの良作でね。ちょっと自信もあった。だから考えた。神宮寺、お
前をガーゴイルの記念すべき最初の餌食にしてやろうと。だって神宮寺お前――死にたいんだろ?」

 死にたいんだろ? どストレートでそう言われてしまうと、素直に首肯しづらい。そしてまたそれが
事実であっても、この男にそんなことを指摘される筋合いはない。

「悪いな。エレベーターが来たらしい。君に付き合うわけじゃないが、せっかくだから君の悪趣味な作
品ってやつを見物してくるよ」
 牧島に背を向けて、エレベーターに乗り込む。都合ドア側に向き直った私に、彼は相変わらず品のな
い引きつり笑顔を向けてきた。ドアが閉まりきる間際、

「足掻いてくれよ、神宮寺」
 彼の唇がそんな風に動いたように見えた。
399臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/06/23(水) 23:42:58 ID:8wcLqvzX
 嬉しくない再会となかなか来ないエレベーターというイベントを経てなんとかデパートの扉を開いた
時、すでに事は始まっていた。
平時そこにあるはずのないもの。どす黒い血溜まり。ぴくりとも動かず横たわる、すでにただの肉の
塊となっているかもしれない男性。視線を移せば、四肢の一部が欠損してしまった女性。

 そんな凄惨な光景の前に錯乱し、他人を押しのけ踏み付け、我先にと逃げ惑う人々の群れ。すでに周
囲から人影は消え去っていた。
ついさっきまで彼らは――大地に倒れ伏した憐れな犠牲者も含めた彼らは、いつもと何も変わらない
平穏で楽しい週末を満喫していたのだろう。

「生きているものは、遅かれ早かれ必ず死ぬ。そうは言っても、やっぱり理不尽じゃないか? こんなのは」
誰にともなく無意味に呟いて、私は空を見上げる。日常を瞬く間に非日常へと変えてしまった元凶が、
そこにいた。

あの男が言っていた通り、それはコウモリなどという生易しい存在ではなかった。
第一印象、悪魔。さらによく見て、やはり悪魔。月並み過ぎると考え直して、やっぱり悪魔。
その前肢と口元を血で染めた悪魔が、コウモリに似た黒い翼をはばたかせ、悠然と滞空している。

そう言えばあの男は、この怪物を指して『ガーゴイル』と言っていた。ガーゴイルは確か――

「ってくそったれが! 来るなよ!」
 悠然と滞空している、なんて解説してやったそばからこいつめ、猛然と突撃してくるとは! 空から
迫りくるそれを、間一髪横っ飛びで華麗にかわしてみたが、

「あー、痛つつつ」
 日頃運動していないせいか、無様に転んで腰をしこたまアスファルトに打ち付けた。 痛い。しかし
もっと大きな問題があった。

「あーあ、こりゃダメだわ。ぜーんぜん見えない」
 私の顔面から眼鏡が消えてなくなっていた。おそらく着地に失敗した時の衝撃でどこかへ吹っ飛んだ
のだ。デリケートな眼鏡だったし、確実にぶっ壊れてしまっただろうな。

 こんな時にするべき話でないことは承知の上で、あえて言わせてもらいたい。私は眼鏡コレクターで
あり、多数の眼鏡を持っているのだが、今日かけていた眼鏡は一番のお気に入りだったのだ。それをこ
んなくだらないことで、一瞬で奪われてしまったのだ。
400臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/06/23(水) 23:43:39 ID:8wcLqvzX
「予告もなく突撃してきて私のフェイバリット眼鏡を奪うとは。いい度胸してるなお前」
 胸ポケットからスペアの眼鏡を取り出しつつ、また悠然とはばたいている悪魔に向かって精一杯の啖
呵を切る。かといって冷静になってみると今はまだ日暮れ前、戦えるわけでもない。とりあえず攻撃を
かわせる態勢だけはしっかり作っておくことにした。

 そうして私の意識は、眼前上空にいる一匹の悪魔に完全集中していた。まさか背後から第三者に話し
掛けられるなどとは、露にも思わなかった。

「まったく真面目なんだかふざけてんだか。俺から言わせりゃ、あんたのほうがよっぽどいい度胸して
ると思うがな」
「……へっ? っておわ痛ってっ!」
 ワンテンポ遅れて声に振り返ろうとしたが、遅すぎた。あっさりと背後を取られた私は為す術もなく
押し倒され、固いアスファルトに組み伏せられてしまった。力強い腕が、私の首に回されている。

 ああ、くそ。終わりか。なんて馬鹿な終わり方だ。私は戦ったのか? 何かを成し遂げたのか?
 いや、何を今更だ。私は確かに、死にたいのかもしれない。いや、そのはずなのだ。
 それなのに期に及んで、やっぱり今は死にたくないと? こんな終わり方は納得できないと? 本当
に私という人間はどこ――

「おいあんた、大丈夫か? 怪我はないな?」
 私を組み伏せた襲撃者が、なぜか気遣うように語りかける声で私は我に返った。てっきりすでにナイ
フが延髄あたりに突き立てられていたりするのではないかと思っていた私は、状況がさっぱり飲み込め
ないので、ただ正直に

「あばらが痛い。それと腰もだ」
 と答えておいた。襲撃者はそれを聞いて、かすかに笑ったようだった。

「そいつは結構。痛みこそ生きてるって証だからな。俺が飛びつかなきゃあんたは今頃、あの気色悪い
怪物のおやつになってたところだ。ああ、一応言っとくが、腰が痛いのは俺のせいじゃないからな」
 すでに落ち着きのある、だがまだ若さもわずかに残っている。そんな印象の声。ナイフを突き立てて
くる気配はまるでない。
401臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/06/23(水) 23:44:54 ID:8wcLqvzX
「君は、私を助けてくれたのか」
襲撃者ではないのか。本気で痛むあばらを庇いつつ、少しずつ身を起こしながら聞いた。
「ん? はあ、どうだろうな。俺があのタイミングで話しかけなきゃ、あんたはあの怪物の攻撃を自分
で避けたかもしれないし。それなら俺が助けてやる必要もなかったわけで。あれ? なんかこれじゃあ
俺、エセヒーローみたいだな」

 意外に理屈っぽい男のようだ。一呼吸置いて、彼は続けた。
「まあどうでもいいだろ。あんたに危害は加えない。変な怪物が暴れてるってんで来てみただけだ」
その時。私は初めてその男の顔をしっかりと視認した。

 声の雰囲気からして私より多少年下だと思っていたのだが、それにしては明らかに不相応な、泰然と
した雰囲気をその身に纏っている。
 口元こそ微かに微笑んでいるようだが、その実瞳は恐ろしく冷厳で、射抜くような威圧感を宿している。
 彼が着ている、軍服をスタイリッシュにしたような服は、その印象をより強いものにするのに一役買っ
ていた。

 私のそんな観察を意にも介さず、おもむろに腰から提げていた通信機らしきものを手に取る。
「シルスクより各員。保険はかけたが、一応週末の繁華街だ。火器の使用は許可しない。犬っころも撒
かれてるかもしれんから、十分注意しろ。ターゲットを見つけたら殺さずにつれて来い。半殺しまでな
ら許す。以上だ」

 通信を切断して、彼――確か『シルスク』と名乗った彼は、なぜか今の今までおとなしくしていたら
しいガーゴイルに向き直る。気のせいだろうか、さっきよりも滞空する高度が低い気がする。

「ま、そういうわけだ。あんた、これ以上余計な怪我を増やしたくなければさっさと避難しろよ」
 そう言い残して彼は、中空の悪魔に向かってゆっくりと歩み始めた。


 つづく
402創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 23:46:00 ID:8wcLqvzX
投下終わりです
もう無理やりにでも絡んでいこうと思う
403創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 23:51:22 ID:V99fmh1D
うおおお!隊長!
盛り上がってきた!
牧島の今後の動きも気になるところ
wktk
404創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 06:25:19 ID:DGaZNuQL
ガーゴイルとはこりゃまた大変な化け物きたな
魔界村のレッドアリーマーみたいな感じかね
しかし隊長かっこいい
405創る名無しに見る名無し:2010/06/24(木) 07:03:32 ID:5KzFlJ3c
うわ、凄惨な光景だな…
そしてまたもや新形態キメラの登場か!
たいちょファンとしてはwktkせざるを得ない


>>404
魔界村とは懐かしいwww
『BLOOD+』の翼手を思い浮かべたな
406創る名無しに見る名無し:2010/06/30(水) 20:43:41 ID:/DHqwlTs
お題創作スレになんか来てるwww
407 ◆akuta/cdbA :2010/07/01(木) 00:20:58 ID:Uyahvynx
月野と鉄っちゃん。なんちゃって雑誌風その2
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1197.jpg
408創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 00:43:30 ID:6tGapMgk
ガセビア思い出したw
409創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 18:09:52 ID:QjiUjjvd
>>407
これは切なくなる…
鉄っちゃんには能天気であってほしいものだ

さてさて、だいぶ時間は空いちゃいましたが。
汚れ役でもなんでもどんとこい。陽太がいろんな話に使われて嬉しい限り。
しかし、どうやら奴はギャグ要因になる傾向が強いらしい。
まあぶっちゃけ能力も性格もギャグ以外の何者でもないからなぁ…
つまりシリアス分は自分で書けと、そういうことだな。OKやってやろうじゃないか。

『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』

>>335-338の続き投下します。
410『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:11:42 ID:QjiUjjvd

「変身能力…だと…!?」
「そうなんだよ。鎌田さんすごかったんだから」
「いやぁ…そう大したものでもないって」

カレーが煮立つまでの間、しばしの談笑。人間の姿に戻った鎌田はその強力な能力に係わらず謙虚で、
どこかの厨二病と違って大人だなと晶はつくづく思う。

「それでライダーっていうのは?」
「ああそれは僕の……地元でのあだ名でね。バイクには乗らないんだけどそれですっかり慣れちゃってさ」
「ああ…なるほど」

鎌田の変身した姿を思い出して、そのあだ名に深く納得する。

「おいちょっと待てよどんなのだよ、変身見せてくれよ」
「こら、偉っそうに言うな! 失礼でしょー」
「ん? いいよー別に」

軽い調子で言うなり鎌田は椅子から立ち上がる。直後、その全身がぼやけるように歪み、

「!!?」

まるで、それが当然であるかのように。
特殊な前振りも音も光もなく、その姿は一瞬にして昆虫人間に変化していた。

「こんな感じ」
「おおおおおおおっすげえええええええっ!!!!」
「………」

そこは「ふっ。昆虫をベースにした強化装甲か…なかなかおもしろい能力だな」じゃないのか陽太。
子供のようにハイテンションに叫ぶ陽太に、いつもの厨二はどうしたと内心ツッコミを入れる晶だった。

「バッタ!?」
「蟷螂!!」

晶も最初はそう言って、全力で訂正された。そこは鎌田としては絶対に譲れないところらしい。
411『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:13:54 ID:QjiUjjvd

しかし明るい場所で改めて見ると、すごい姿だ。
全身は元のサイズと変わらないのにも係わらず、その姿、特にその逆三角形の頭部は人間のそれと明らかに違い、
人間が装甲を纏うだけでは到底不可能な変化を見せている。まさに変身である。

「ちょっ、手ぇ触ってみてもいいか!?」
「いいけどトゲトゲしてるから気をつけてね」

関節部分は節となっている硬質な腕、その質感は金属よりも、有機質な骨に近い。
内側に並ぶ刺も緩やかな曲線も生物的で、昆虫の腕をそのまま巨大化したようだ。
その先端は、人間より小さな手の平から生える指。人差し指にあたる部分が、大型ナイフ程度の鎌となっていて。
カマキリのそれのようにギザギザの刃は、内側に折りたたまれて腕にぴったりとついている。

「カマキリって割に鎌はあんまでかくないのな」
「うん、あんまり大きいと生活に不便でしょ?」
「いや変身したまま生活しないだろ普通」
「ん……ああ、そうだねハハハ」

背中に生える翅は薄くしなやかながらも、容易くちぎれるようなものではなく。広げた内翅は美しく透き通っている。
服の背中に空いた穴は単純なものではなく、むしろ翅を出すために仕立てられているようで。
身体は変わっても服装は変わらない。変身する前から鎌田はこの背中に穴の空いた服装だったようだ。
ただでさえ寒さに弱いというのにこれは風通しがよさそうだ、苦労するなあと晶はしみじみ思った。

「これ飛べるのか!?」
「うーん…微妙。ほとんどジャンプの延長みたいな感じかな。空中制御とかゆっくり降下とかはできるんだけど…」

へえぇ! ほおぉ… と感心しきりの陽太。体中を観察されて当の鎌田は誇らしいような恥ずかしいような困惑したような、
実に微妙な表情を見せていた。いや、実際にはその虫の顔はほとんど変わらないのだが、晶には確かにそう見えた。
412『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:15:06 ID:QjiUjjvd


やがて満足したのか、うん、と呟いて離れる陽太。そして

「ところでライダー、変身ポーズとかねえの?」
「変身ポーズ?」

また変なこと言い出した、と晶は頭を抱える。そんなこと言われても真面目な鎌田は困るだろうに。

「…ああっ!!!! そうだよっ、何でその発想がなかったんだ!!」
「ちょ、あれっ!? 鎌田さん!?」
「おいおいポーズは変身の基本だろうが。しっかりしろよなライダー」
「うーん…僕としたことがうっかりしてた…」
「あのー…鎌田さん?」

キョトンと晶を見る、透き通った複眼。

「何だい晶君?」
「あの…陽太に合わせてくれなくてもいいんですよ?」
「いやあ大切だよ変身ポーズは」
「……さいですか」

なるほどこの人も陽太とは違うにせよ、なんというか…ヒーロー好き?な部分があるようで。
実際高い実力があるわけで何ら問題はないが、ちょっとだけ残念に思う晶だった。

「よし、じゃあやってみるかな!」

鎌田は少し考えると、両足を肩幅に開いて立つ。
両腕を顔の前でクロス。握りこぶしに力を込め、一気に腰の横に振りおろす。

「変身!」

その身体が一瞬光を放ち次の瞬間、人間の姿に戻った鎌田がそこに立っていた。

「どうかな?」
「ああ、悪くないが…変身解除するときにそれやってどうすんだよ」
「え? ……っと。そうだった」
「あと…腕の角度がもっとこう…」
「それじゃあ…こうしてこうして……変身!」

さっきと違うポーズで再び昆虫人間に変身する鎌田。どうやらあの変身に制限みたいなものはまるでないようだ。

「…僕カレー見てるね」

変身と解除を繰り返しながら熱い討論を交わす二人を尻目に、晶は冷めた顔で鍋を覗くのだった。
413『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:16:07 ID:QjiUjjvd


「ところで陽太君はどんな能力なんだい?」

やがて変身ポーズ議論は一段落し、鎌田が尋ねる。

「俺の能力は叛神罰当【ゴッド・リベリオン】。神に叛く力だ。そう容易く見せるわけにはいかねえな」
「へええ、そっか、それはすごそうだね。いつか機会があったら見せてよ」
「ふっ。機会があったらな」

陽太の偉そうな言いようにも動じない、しつこく追及しない鎌田はやはり大人だと晶は思う。
そんな陽太に晶の悪戯心が湧く。機会があったら、そう言うのならば

「あー! リンゴ買うの忘れたー! 陽太ー」

作ってやろうじゃないか、能力を披露する機会。

「陽太。カレーに入れるリンゴ忘れた」
「は!? どんだけ忘れてんだよ晶! 俺にどーしろってんだよ!」
「いーよ別に入れなくてもカレーできるし、辛口だけど。鎌田さんは辛口でも大丈夫ですよね?」
「…へ? ああ、大丈夫だけど」
「はいそんじゃ辛口カレーで」
「だあああもうわかったよ! 出せばいいんだろチクショー!」

悪い笑みを浮かべる晶と、キョトンとする鎌田。

「おいしいやつよろしくー」

陽太は精神を集中するためのいつもの動作、両手の平を胸の前で合わせる。目をつぶってさらに最大限の集中。
それは投げつけるための硬さや形ではなく、おいしく食べるための味を再現するため。やると決めたら陽太は真剣だ。
目を開き、少しずつ離される両手。その隙間には無数の光の粒子が乱雑に渦巻き、じわじわと丸い形に固まっていく。
やがて全ての光が融合し、消え去る。そこには一つの真っ赤な果実が残されていた。
414『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:18:42 ID:QjiUjjvd

陽太の能力を初めて見る鎌田は目を丸くする。
何度か見ている晶もこれには驚いた。いつもポンポン簡単に出しているが、じっくり集中して出した場合
これほど雰囲気のあるものだったとは。もっとも、出現したのはただのリンゴだが。

「ほらよっ!」
「どうもっ」

陽太がポンと投げたリンゴをキャッチしてニヤリと笑う晶。

――ね、これが陽太の能力。食べたことのある食材が出せるんだって。変な能力ですよね――

「…ん…えっ!?」

陽太がへそを曲げそうなので、鎌田だけに密かに能力を向ける。
驚いてきょろきょろと周囲を見回す鎌田。

――で、これが僕の伝心能力。人や動物に直接心を伝えるんです――

「へええ! すごい! まさに超能力じゃないか!」

――いやあそれほどのものでも――

「おい晶何コソコソやってんだコラ! 自信作なんだからちゃんと使えよ!」

晶の行動を察した陽太が怒り、晶ははいはいと笑って台所に引っ込む。
早々に能力を披露することになって、ばつの悪そうな陽太だったが。

「陽太君の能力もすごいじゃないか! 僕のなんかよりずっと役に立つ強力な能力だ!」
「そ…そうか…?」
「うん! 僕感動しちゃったよ!」
「…へっ」

掛け値なしに絶賛する鎌田から、まんざらでもなさそうに陽太は顔をそむけた。
415『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:19:22 ID:QjiUjjvd

やがて調理は完了し、三人賑やかに遅い夕食をとる。今回のカレーのできは上々だった。
ちなみにリンゴを買うのは忘れたが普通にあったので、そっちをカレーに入れた。嘘は言っていない。
能力のリンゴは冷やして剥いて食後に出した。当然文句は言われたが。繰り返す、嘘は言っていない。
なるほどあれだけ集中したこともあり、売り物と比べても遜色ないみずみずしく甘いリンゴだった。

「二人とも今日は本当にありがとう。カレーすごく美味しかったよ」

食事が終わり片付けも済んだのは日付が変わる頃。すっかり乾いたコートを身に纏った鎌田が立ち上がる。

「こんな時間から携帯探すんですか?」
「ああ、明日は休みで公園も人がたくさん来るだろ? そうなったら見つけるのは難しくなっちゃうからさ」
「ふーん……」

陽太は黙って立ち上がり上着を手に取る。察した晶もそれに続いた。

「え? 君たちもどっか行くの?」
「けっ。何言ってんだか」
「僕たちも手伝いますよ鎌田さん。三人で探せばきっとすぐ見つかります」
「知らないとこで凍死されても寝ざめが悪いからな」
「きっ……」

プルプルと震える鎌田。

「君たちはなんていい人たちなんだー!」
「おいっこらやめろこの野郎」

感極まった鎌田の抱擁を全力否定する陽太。そんな二人を晶は微笑ましく眺めるのだった。
416『異形の来訪者』:2010/07/01(木) 18:21:24 ID:QjiUjjvd


「しかしよー、本当にここら辺にあるのか鎌田ー」
「うーん、ここでゴタゴタがあったときに落としたとしか考えられないんだよ」
「誰かが拾ってる可能性は?」
「落としたときは夜だったしあんまり時間も経ってないしなー」

しんと静まる深夜の自然公園で、ゴソゴソと草むらや茂みをかきわけ携帯電話を探す三人。
捜索を始めてすでに一時間以上が経過している。もはや見つからないのではないかという嫌な考えが頭をよぎる。
そんなとき、閉塞しつつある状況に変化をもたらす声がかかる。

「よぉ、また会ったなぁバッタ野郎!」

しかしその声の主は、救世主と呼ぶにはほど遠く。

振り向いた先にいたのは、ヤンキーとチンピラを足して2で割ったような三人組と犬一匹。
声を出したのは中心のモヒカン。左右のスキンヘッド、赤髪、そして赤髪がリードを持っている大きなシベリアンハスキー。
鎌田は額に手を当てて、はあぁ…と大きな溜息をつく。

「また君か。君に用はないんだけどなぁ。あと僕は蟷螂だって言ってるだろう」
「俺は用があんだよバッタ野郎! 正義だとなんだと好き放題しやがってよぉ! ブラッディ・ベル舐めんなやぁ!」
「カラーギャングだかなんだか知らないけどさあ、いい大人がカツアゲなんてするもんじゃないよ」
「ああっ!? てめぇにゃ関係ねえ話だろうが!」
「で、こんな夜中にわざわざ報復でもしにきたのかい? 仲間を少し増やしたところで僕に勝てるとでも?」
「でけえ口叩きやがって! こいつを見ろやぁ!」

モヒカンは乱暴に何かを取り出し、鎌田に見せつける。

「あっ!? 僕の携帯っ!!」
「ええっ!?」

慌てる鎌田を満足げに眺めて、三人組は揃って下卑た笑いを浮かべた。


<続く>

むう…日常、説明パートが長え…
偉そうなこと言っといて結局シリアスまで持っていけない作者でしたとさ。おわり。
417創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 18:51:31 ID:+ADgh4Ig
>>407
背後にあるストーリーを想像せずにはいられない、雰囲気のあるページ!
この「なんちゃって雑誌風」シリーズすごく好き!(描くの大変かもしれないけど)
あいかわらずGJっす!

>>410
待ってましたっ! 魔剣の勇者は変身ポーズへのこだわりも余念が無いww
日常描写を読んでると、キャラへの感情移入がkskします。長くなんて感じません

そしてブラッディ・ベル登場……ということは……!?
418創る名無しに見る名無し:2010/07/02(金) 00:50:06 ID:cocPrBiI
鎌田サイド(?)の人間からするとむしろ人型の鎌田が気になって仕方ないw
419創る名無しに見る名無し:2010/07/02(金) 23:17:32 ID:KwxSLXmY
晶ちゃんはいいお嫁さんですね
ブラッディ・ベルってどこで聞いたっけと思ったらアレか!wktk
420創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 00:15:59 ID:htVnuxsl
突然ですがすみません。
普段他スレで連載をさせて貰っている者ですが…
ちょっと此方のスレにも興味があったので一つ作品を書かせて頂きました。
投下しても宜しいでしょうか?
421創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 00:26:41 ID:OoZqZCcm
駄目なんていう理由がない。創発にそんな閉鎖的なスレはないと思われ。
ぜひとも気兼ねなく投下してくださいな。
422創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 00:26:52 ID:iUYzcbh7
ここは投下の許可はいらないシェアだと思われます
比較的広い作風を受け入れています
むしろ様々な作風は世界を広げる一助になりこそすれ、
他と作風が違うからスルー、なんてことはないかと思います

大まかな流れは有りますが、
世界はひとつの局面だけで回っているわけではありません

合言葉は「こまけぇことは(ry 」のようです
ただ、設定を踏まえて書くと、他の書き手さんが絡みやすくなるかと思われます



以上を適当にスクロールさせたら

投下しろーーーっ!! 間に合わ(ry
423創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 00:30:13 ID:htVnuxsl
了解です。シュシュッと投下致します。
424創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 00:36:57 ID:E6iP60vw
wktk
425神の寵愛を受けし者:2010/07/03(土) 00:37:14 ID:htVnuxsl


「おバまああああ!!!」


時は何処かの世界の夜遅く、音をも呑み込む深い闇の中、一人の小男が珍妙な悲鳴を上げた。
男は後ろを時折振り返りながら必死に足をバタつかせて逃げている。
汚く履きこなされた黒い運動靴が、男が地面を踏みつける度にゴムの嫌な音を立てた。
キュッキュッと足を踏み込む度に闇の向こうから炎の弾丸が飛来し、男の周囲の地面を焼く。

路地裏を抜け大通りに出ると、その小男の風貌が月明かりの下、露わになる。
目にかかる迄伸びた髪が吹き上がってニキビが点々と付いた額が月光に晒された。
そして珍妙な柄の服が風を受ける度にヒラヒラと翻る。率直に言うと非常にダサい。擁護の出来ない程にダサい。
顔貌も2.95枚目といったところ、決してイイ男とは言えない。

その後ろを水も滴るいい大人達が鬼の様な形相で必死に追い縋る。
その出で立ちはまさにRPGに登場する主役達の様に格好良く、しかし現代においては余りに浮いた出で立ちだった。
「待て貴様!!よくも俺たち月光白狼騎士団≠笑ったな!!絶対に許さん!!」

その怒鳴り声を聞いた小男はゲラゲラ笑いながら口を動かす。
「いい年した大人がそんなアホな事言ってるから笑われんだよ!自覚を持て自覚を!!
 そういって陶酔に墜ちていいのは、高校入学4ヶ月目の三日後までだ!
 考えても見ろよ!矢鱈イカれた能力の公務員がやたら居るっていうのに、ちょっと火やら電気やらを出せるだけで騎士団≠セって!?
 親が見たら泣くぞ?泣いちまうぞ??」

「き…貴様何を言うか…!我らが親を引き合いに出すとは断じて許さん!!!」
それを聞いた集団のリーダーは更に激昂するが、その後ろに居る男達には深く刺さる言葉だったようで、何人かの男が目を伏せ、俯いた。
畳み掛ける様に小男は休まず口を動かす、もちらんそれ以上の速さで足を動かしながら。

「それに今までお前等が仕留めて来た悪党?£Bの金品やらはどうしたんだよ?お巡りは何も知らないってよ!」
それを聞き、今度はメンバー全体が沈黙に包まれる。勿論足はさっき以上に動かしながらである。

その様子をチラチラと見ながら、トドメとばかりに小男はブチ撒けた。
「まさか…お前等のイカした車のトランクの中って言わねえだろうな?車体番号1342の紅いスポーツカーのトランクの中とかよ!!!」
それを言った瞬間、先ほどとは比べものにならない程の数の火球が、小男の背中を襲った。
「おひゃあ!!?」

慌てて身を翻し、ギャグマンガ宜しく器用且つ不自然に全弾避け、小男は怒鳴り散らす。
「図星か?図星なんだな!!?正義の味方を気取って結局はそれかよ!?」
426神の寵愛を受けし者:2010/07/03(土) 00:41:43 ID:htVnuxsl
思いも寄らぬ強硬手段に、小男は焦った。
このままでは埒が開かないと壁に手を触れながら角を曲がり、再び路地裏へ身を潜めようとするが、小男を不運が襲った。
逃げ込んだ路地は真逆の行き止まりだったのである。右左前方、何処を見ても白い壁が聳え立つばかり。

「あぁ!行き止まりだん!どうしよう!!!」
小男は壁に手を着き、壮絶に狼狽えた。
そのままマゴマゴしていると、ザッと路地にブーツが一斉に地面を踏み締める音が響く。小男はゆっくりと背後を向き直った。
そこには今まで小男を追い回していた男達がいた。だがその表情は先ほど迄態とらしく浮かべていた青臭い物では無く、正真正銘外道の面であった。

「ハハハ、色々囀ってくれたが…もはやココまでだな?」
リーダー格の男はそう言うと、大見得を切って手を前方に差し出した。
その途端、手の平から大袈裟な魔方陣が発生し、その周りを沢山の火の玉が彩る。
「君のような悪人はこの世にいた所で役に立ちはしない!ここで天誅を下してくれる!!」
誇るように、リーダー格の男は叫んだ。

だが小男は、その場にいた男全員が思いもよらぬ反応をしめした。
天誅という言葉を聞いた瞬間、浮かべていた必死の形相を瞬時に消し、途轍もなく不機嫌な顔をしたのである。
「……悪ねえ…、自分達が聞くに堪えない物が悪たぁ…随分な正義の味方もいたモンだな。」

その表情に気圧されながらも、リーダー格は負けじと声を張り上げた。
「何とでも言え!貴様はここで骨すら残らず燃え尽きるのだからな!貴様の安否を気にする人間等何処にもいまい。
 追い詰められたからってヤケクソで物を言ってんじゃねーよ!オッサン!!」

黙ってそれを聞く小男。
しばらくの沈黙の後、意地悪な笑顔を作りながら小男は声を張り上げた。
「誰が追い詰めたって?詰んでるのはテメエらだよ!弩阿呆共!!!」

小男はそう言って、指を鳴らした。その瞬間、静寂に包まれた路地裏に突如轟音が響いた。
騎士団≠フ連中の両脇に聳え立っていた壁が盛大に崩れだしたのである。
「ぁ…ァア!!…ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
突然の出来事に慌てふためく男達。逃げる暇など在りはしなかった。
男達は抗う術も無く忽ち生き埋めとなってしまった。
一瞬早く気付き、子分を見捨てて逃げようとしたリーダー格も、部下を自力で押しのける事が出来ず一緒に瓦礫に巻き込まれていった。
427神の寵愛を受けし者:2010/07/03(土) 00:44:39 ID:htVnuxsl

もうもうと砂煙が立ち、ピシッと音を立てながらコンクリートの欠片がアスファルトの地面を跳ねる。
苦しげに瓦礫の山から顔を出すリーダー格の男。全身の骨が砕け、苦しげに呻き声を上げながらも小男に向かい怒鳴った。
「何だ!?何だってんだよお前!!悪は除かれるんだよ!正義が悪に負ける筈が無いんだよ!!!」
餓鬼の様に錯乱し、世迷い事を抜かすリーダー格。

その反省無しの態度に小男は機嫌を損ね、足下に転がって来た鉄芯を握り、リーダー格の頬へ向かいフルスイングした。
「おぎゃおおあああ!!!」
端麗な顔立ちが忽ち醜い馬鈴薯の様にメコリッと変形する。リーダー格は漸く大人しくなり、怯えた瞳で小男を見た。

其処には先ほどまで見せていた何処か飄々とした雰囲気は、無かった。
其処に佇んでいたのは、一人の修羅だった。

修羅は、一言一言噛み締めるように口を開く。それは途轍もなく憎悪に充ち満ちた物だった。
「貴様先ほど天誅だと言ったが……それは何よりも神を侮辱する言葉だ!!」
そう言って再び鉄芯を振るう、今度は綺麗に顔面へと向かい、鼻を躊躇無く潰した。
「ピギャアアアアおおああああ!!!」
まさに豚の様な悲鳴を上げる正義の味方。

その姿をしばしの間修羅は見ていたが、やがて飽きたのか、吐き捨てる様に怒鳴りつけた。
「俺は神に愛されし男!!昼間°M様等が俺を殺すと決めたその時から!!テメエらの敗北は既に決まってたんだよ!間抜け共!!」
小男はそう言って、踏みしているアスファルトに軽く触れ、その後指を鳴らした。
その瞬間、男達を生き埋めにしている瓦礫を乗せていたアスファルトが陥没し、墜ちて行く。

「ギャアアアアア!!!」
見苦しい断末魔を上げながら、偽善者達は深淵へと姿を消した。

「じゃあな自称性技の味方共……。」
その姿を見届けながら、小男はボソリと呟いた。そして振り返る事無く路地裏を這い出る小男。
その小男を迎えたのは、昇ったばかりの暖かい朝日だった。

それと共に小男の視界へと凄まじい数の情報が流れ込んで来る。
その大多数の下らない情報を反吐が出るとばかりに睨み付けながら小男は呟いた。
「…また腐った世の明けが始まる……か。」

そう言って男は、別の路地へと姿を消した
428神の寵愛を受けし者:2010/07/03(土) 00:50:13 ID:htVnuxsl
投下完了、以下キャラ設定です。

神山益太郎
(設定)
男盛り三十路前半の小男
どこの組織にも属せず、自分の好きなように生きている一匹狼。
働く事は無く、ヤクザや自分の気に入らない奴の貯金を勝手引き出して遊び暮らす最低野郎。
服のセンスは皆無、味覚もメチャクチャ、口が達者で名誉に弱い。勿論普通の人には白い眼で見られ、警察には不審者として追い回される始末。
だが、やたら動物や子供に好かれる男でもある。

外見も態度も飄々としているが、心の中は人間に対する不信、諦め、絶望に溢れている。
ただし、真面目に生きようと努めている者や性根が腐ってない奴や女(外道を除く)にはちょっかいを出さない主義。
趣味は嫌いな奴(主に外道や偽善者の部類)の社会的抹殺。


《昼の能力》
名称 … (読神)
(無意識発動性)
(能力説明)
視界に入った物全てのメタな情報を自分の意思に関わらず強制的に閲覧させられる能力。
視ることが出来るのは隣の気になるあの子の下着から寿命、はたまた自然現象から国家機密までと何でもあり。
また、その脳内に引き出したデータを電子媒体に保存する事も可能。
しかしそれを実行した場合、日没まで昏睡というペナルティが課せられる。
口答で応えるのには影響なし。
射程距離は視界内全て。

《夜の能力》
名称 … (触神)
(意識発動性)
(能力説明)
この世に存在するあらゆる物体のメタな情報を改竄する事が出来る。
無機物及び自然現象に対しては一定のルール以内ならばペナルティ無しで改竄可能。ただしそのルールを逸脱した場合、強制的に昏睡状態へと移行する。
ルール.1 改竄する物を丸々別の物に換える事は出来ない。
ルール.2 改竄を試みた物体を消滅させる事は出来ない。
ルール.3 改竄した物へ意思を持たせる事は出来ない。

生命体に対しては、改竄無しでその命が後々の世までに与える筈だった影響に比例してスタミナと精神を削られる。
射程は自らの手が届く範囲のみ。
しかし一度身体が触れさえした物ならば夜が明けるまでの間、好きなときに改竄する事が出来る様になる。

別のスレへの投下は初めてなので緊張しましたが、何とか上げる事が出来てホッとしています。
少々短いのはお許しください。
429創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 01:00:34 ID:OoZqZCcm
ぬおっ…こりゃまた変わったオッサン来たなー
能力が難しいけど使いこなせば無限の可能性がありそうだ
430創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 01:44:49 ID:E6iP60vw
また恐ろしい奴が…
今後にも期待
431創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 04:50:18 ID:p3vXKqnz
チート級の能力じゃねーかwww
432創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 09:03:37 ID:9SS32dox
大丈夫俺もチート級能力いっぱい考えてるからw
433創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 00:05:39 ID:rOz6mMmI
>>347-350の続き投下します
434東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:07:22 ID:rOz6mMmI
第五話

月野は拳に力を溜める。するとそこからみるみる炎が上がってきた。
拳を振ると、最初の一撃よりも大きな火の玉が西堂に向かって飛んでゆく。
しかし西堂は何のモーションも取らない。
当たる! そう確信した瞬間、いきなり巨大な氷の壁が間に立ちはだかった。
「ぬるいぬるい。」
「こんなものっ!」
西堂の挑発に乗る月野。壁の目の前まで距離をつめ、掌を広げる。
すると途端に壁は炎上、跡形もなく消え去った。
「ふーん、ちょっとはやるようやないか。」
西堂は嬉しそうに口角をつりあげる。
「じゃあこれはどうや?」
手の中に氷の塊を発生させて握り締め、腕を体の横に伸ばす。
すると西堂の手の中からつららのように氷が伸びてきた。
手ごろな大きさになったところでそれを一振り。
氷の剣の完成であった。……と同時に無粋にも炎が剣を襲う。
「何よ、さっきの壁のほうがよっぽど凄いじゃない。」
月野は不意打ちを食らわせて満足のようだ。
しかし、炎が引いたとき、氷の剣が無事なのを月野は目撃した。
「な、なんで……?」
「甘いなあ。これくらいの大きさやったら、融ける瞬間に凍らせてずっと維持できるんや。」
ここまでずっとペースは西堂に握られたまま。
月野は西堂から距離をとった。
構える彼女の顔にもはや余裕は無く、汗がうっすらとにじみ出てくる。
牽制の時間、約一秒。
先に動いたのは西堂だ。
背筋の凍るような不気味な笑顔で氷の剣を振りかざす。
「くっ……!」
月野は火力を指先の一点に集中させる。
そうしてる間に西堂は月野に接近、攻撃のために剣を持った手を上げる。
その瞬間、顔面がノーマークになる。今だ!
ヒュン! そんな音がして高速の火の玉が西堂の頬を掠めた。
「ちっ!」
頬を押さえて一歩退く西堂。
よし、追撃だ。しかしそう月野が思ったのも束の間。
「しまった!」
足が動かない。慌てて下を向くと足首から下が氷に覆われていた。これでは距離を取れない。
ならばさっき効いた攻撃だ。指先に力を溜め、撃つ。
だが、その攻撃はなぜか西堂からそれてゆく。
なぜ? ちゃんと狙ったのに。
「一度食らった攻撃は二度と受けん!」
実は西堂は周りの空気をごく少量だけ凍らせてその氷の粒で軌道をそらせていたのだ。
月野は焦る。まずい、剣が来る!
435東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:08:03 ID:rOz6mMmI
衛のアパートの前で激しい戦いが行われているちょうどその頃、輪は夜の街にいた。
目的はかれんの食料を探すこと。しかも継続的に、かなりの量が必要らしい。
「買う」という選択肢は、社会人ならともかく、大学生である衛たちには経済的に苦しい。
そこで彼らは他人の能力を使って工面できないかと考え始めた。
しかし、能力について尋ね回るという行為は結構危険である。
どこかの組織の諜報部員と勘違いされて攻撃されるなんてことも冗談ではないのだ。
輪がこの役に選ばれた理由はまさにそこにある。
“攻撃されない相手”ならばいくら質問をぶつけても安全だ。
では、その“攻撃されない相手”というのはどこにいるのか。
この世界であってこの世界ではない場所に彼らはいる。彼らは決して世界に干渉することはできず、あても無くさまよっている。
彼らは何者か。彼らは未練の塊なのだ。そう、彼らは「幽霊」と呼ばれるものだ。
輪の夜の能力、それは、彼らの姿を見、声を聞くことのできる能力。
弟の死をきっかけに目覚めた能力であった。

輪は、最初に見かけた外国人と思われる中年男性の幽霊に話しかけた。
「すみません、話を聞かせてもらえませんか?」
男は辺りを見渡して、誰もいないことを確認する。
『まさか、俺に話しかけているのか?』
意外にも流暢な日本語が返ってきた。
「ええ、あなたのような人が見える能力なんです。」
『そうか。君は……?』
「輪、川端輪です。」
『よろしく、リン。私はパウロ・アンダーソンだ。この国では妻の姓の薙澤を名乗っていた。』
日本語が上手なのはそういう理由だったのか、と輪は納得。
『それで、俺に何の用だ?』
「はい、実はある能力を持つ人を探してまして……。」
「おい、貴様、“何”と話している。」
唐突に横から話し掛けられた。
声の主は、ロングコートを中心に全身白で固めた衣装の、中学生くらいの少年であった。
「さては悪魔だな!」
「失礼ね、ただの亡くなった……あっ!」
輪は慌てて口を手で押さえる。幽霊は当然自分以外には見えないのだ。不審がられても仕方が無い。
少年は見定めるように輪をにらんでいる。
そのとき、ある看板が目に入った。
「ほ、ほら、そこに能力鑑定屋があるから、行きましょ。」
かくして輪と少年は鑑定屋の建物に入ることになった。
436東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:09:18 ID:rOz6mMmI
数分後、建物から出てきた二人の様子にパウロは驚く。
「すみませんでした、神!」
「ははは……。」
やたらと腰の低くなった少年に苦笑いで答える輪。
話をまとめるとこうだ。
少年――刹那と名乗った――は、自分を神の使者だと思い込んでいる。
そして死者と会話できる輪のことを「神」と呼びだしたのだ。
加えて、刹那はどうやら相手を太らせるという能力を持っているらしい。
そこでかれんの栄養補給に協力してもらえることになった。
(それにしても……。)
既に輪は別のことを考えていた。
自分の昼の能力のこと。先ほどの鑑定結果は「不明」だった。
どんな能力か、いつ目覚めるのか。考えても答えが出ないことをそれでも考えてしまう。
(……まあ、その時になれば分かるよね。)
しばらくして、思考を一段落させた輪は、今の目的を思い出す。
「そうだ、連絡先交換しておかないと。」
「は! 神の仰せとあらば!」
もはや呆れるのにも疲れてきて、輪は表情を変えずに携帯電話を取り出す。
アドレスを交換する操作をしている間に、パウロが話しかけてきた。
『リン、ひとつ頼まれてくれないか。』
「ん?」
『もし娘に……アイリンに会うことがあったら伝えてほしいんだ。』
「何をですか?」
『曲だ。楽器も能力も使えなくなってしまった俺だが、娘のために作った。』
「えっと、ちょっと待ってくださいね。」
刹那の携帯電話との通信を終えた輪は、バッグからノートとペンを取り出し、五本の平行線を引いてゆく。
準備ができたのを見計らって、パウロは自作の曲を口ずさみはじめた。
輪が楽譜に写し取れるよう、ゆっくりと。
とても優しい歌だった。まるで子守唄のようなジャズ・ナンバー。
その最後のワンフレーズを聞き終えると、輪は確認の意味もこめて復唱する。
二度と世に出ることはなかったはずの曲が、この世界の大気を震わせている。
輪が歌い終わった後には自然と拍手を送る刹那がいた。
『ありがとう。』
パウロは満ち足りた表情をしてそう言った。
『後は君に託そう。俺はもう、妻の所へ行くよ。』
そして、輪の視界からパウロの姿がだんだんと薄くなって、消えていった。
437東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:09:58 ID:rOz6mMmI
場面は衛のアパート前に戻る。
「ええ所で邪魔してくれたなぁ、東堂衛!」
月野が目を開けると、自分をかばうように立つ衛の姿があった。
「僕のために戦わせて、怪我させるわけにはいかないだろ。」
「その心意気は立派やけどな、あんたは俺の能力に手も足も出んから助っ人を呼んだ。ちゃうか?」
衛は、冷気と、体の動かしにくさを感じた。だが、時既に遅し。
「そこでおとなしく見学しとれ!」
衛の体は一瞬で巨大な氷に覆われた。

再び月野と西堂が対峙する格好になる。
しかしその時。
「ヤッチー、先に衛を解放しろ!」
幸広が叫んだ。
「あんた……いままでどこにいたの。」
「隠れてた。」
「……まあいいや。それより、火点けて大丈夫なの?」
「夜のあいつは氷漬けにされようが大火事に遭おうがなんてことねぇよ。」
「なるほど、おっけー。」
飛んでくるツララをひょいひょいかわして、衛を覆う氷塊を殴りつける。
衛は復活早々に指示を出した。
「僕が奴を押さえつけるから、そこに一発お願い。」
「いえっさー!」
月野は十本の指からそれぞれ炎を立ち上らせる。
衛が走り出した。月野はその後ろを追って援護射撃に徹する。
西堂は大きい攻撃は出せない。月野にすぐ融かされるからだ。
かといって細かい攻撃を浴びせても衛には効果が無いようだ。
「ほんなら……!」
衛の足だけを凍らせた。
そこで月野がいきなり単独行動に出る。炎をまとって西堂に殴りかかったのだ。
しかしそれは西堂の集中を緩めるため。
もう一方の手から衛の足に向けて炎の弾を発射すると、衛の足の氷は砕けた。
月野はそのまま畳み掛けるように拳をぶつけてゆく。
月野の二かたまりのお下げが右へ左へ揺れる。
小さいが分厚い氷の壁を瞬時に作り出しそれをガードする西堂。
そうしているうちに、西堂は、後ろから両肩を掴まれる。
「しまった!」
月野の攻撃の激しさに、衛への対処を忘れていた。
「今だ!」
「よーしっ!」
爆発のような炎が、近所一帯をフラッシュのように一瞬だけ明るく照らした。
438東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:10:42 ID:rOz6mMmI
「うわー、ひでぇ……。」
丸焦げの西堂を眺めながら幸広がつぶやいた。
「これでも一応死なないようには手加減したんだよ?」
幸広と衛は笑うしかなかった。
「さて、どうする、衛? 警察にでも突き出すか?」
「いや、さすがにこれ突き出したら逆にこっちが逮捕されかねないでしょ。」
「あー……そうだな。」
幸広はチラッと月野を見る。
月野は頭の後ろで手を組んで、鼻歌なんかを歌っている。
「ま、この大やけどじゃあしばらくは襲ってこれないだろうから、放置でいいんじゃない?」
「放置!?」
衛も酷いことを言うなぁと思いながらも、別に救急車を呼んでやる義理も無いので、幸広はもう何も言わないことにした。

「ん、これ何だ?」
ふと、西堂の体の横に転がっているカプセル状のものに目が留まる。
衛がそれを手に取って、目に付いたボタンを押した瞬間、まばゆい光を衛が包み、衛は真っ白な空間に着地した。
出口はどこだろう、と思っていると、再び光に包まれ、もとの場所に戻っていた。
「今のは何だったんだ。」
衛が首をかしげる一方、残りの二人は驚きの表情だ。
「衛、大丈夫か?」
「だから何が?」
「お前はその中に吸い込まれてたんだ。」
そう言って幸広はカプセルを指差す。
それを聞いて衛はあることに納得した。
「なるほど、これがかれんを誘拐する方法か。」
そしてポケットにそのカプセルを突っ込んで、意識の無いだろう西堂に向けて言った。
「これは没収な。」

「じゃあ、二人とも、今日はありがとう。」
「俺は何もしてないけどな。」
「また何かあったら呼んでね。」
こうして、春のとある一日が幕を閉じた。


つづく
439東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:11:27 ID:rOz6mMmI
【アイテム紹介】
謎のカプセル
 どこかの能力者が作った、物や生き物を大きさや重さにかかわらず自由に収納できるカプセル。
 ぶっちゃけポケモンのモンスターボールみたいなもの。
440 ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:13:40 ID:rOz6mMmI
以上です
ヤッチーとパウロさんありがとうございました
次回からしばらく日常編
441創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 00:31:08 ID:g99WkTlh
まさかのパウロさんwww
これは読み応えある熱い能力バトルでした
442創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 13:44:30 ID:Q9hAOC6F
パウロもまさかだが、刹那太志もまさかの再登場w
今後絡んでくるんだろうか
443代理投下:2010/07/04(日) 14:04:44 ID:Q9hAOC6F
規制のため本スレ>>383-387の続きこっちで投下します
444◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:06:00 ID:Q9hAOC6F
無機質な廊下に音が響く。
それは二人の足音。一人はまだ若い。外見だけなら10代後半と言っても通じそうな青年だった。
黒髪を短く切りそろえ、全体的にがっちりとした体格は溌剌とした雰囲気を纏っている。
その青年は、隣で歩く男に顔だけを向ける。。

「本当に私でいいのですか? 4班の新しい隊長に?」

話しかけられた男は40台、白髪混じりの黒髪。ひげを薄くはやし、歴戦の猛者を思わせる風格の男。
その男はその風格に似合わず優しい笑みを浮かべる。

「ええ、もちろんですとも、ザイヤ。バフ課は実力主義ですから。年齢なんて関係ありません。
他の隊長格や、上にも許可が下りましたし、なにより我々4班がそれを望んでいます」

答えにザイヤと呼ばれた男は、口元を引き締める。

「それは、私が父の息子であるからですか? エンツァ」

その問いにエンツァと呼ばれた40代の古株の男はすぐに首を横に振った。

「いいえ。もし、ザイヤがラレンツァの息子であるだけなら、むしろバフ課から遠ざけたでしょう。
ザイヤ、君には隊長としての資質がある。少なくとも私はそう見ているのです」

その答えにザイヤは初めて口を軽く曲げた。それは緊張を緩めるときのザイヤの癖。

「なら、その期待に私は答えなくてはならないですね」

エンツァは軽く笑いながら、ザイヤの肩に手を掛ける。

「ええ、そうです。とはいえ、今は隊長といっても仮免みたいなものです。気楽にやるのがよろしかろうと」
「まったく、その通りだな。外部から隊長付きのお目付け役を派遣されるとは思わなかった。
 普通、こういう事はないのだろう?」

ザイヤの疑問にエンツァは首を縦に振る。

「ええ、あくまでこれは例外事項です。ですがそれも仕方ないでしょう。
始めての仕事がラレンツァ、君の父を殺した女性の捕獲、もしくは殺害なのですから」
「……そうだな」

そして二人は立ち止まる。二人の前には一枚の扉が立ちふさがっていた。

「ま、それは好機と捉えよう。ここで成果を上げられれば周りもある程度認めるだろう。
……さて、そのお目付け役がどんな人か、楽しみだ」

そうザイヤは軽口を叩くと、会議室への扉をノックし、ゆっくりと開けた。


+ + +
445◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:07:33 ID:Q9hAOC6F
+ + +


「あー、幸せねぇ。このチョコレートパフェ最高よねぇ」

程良い甘みのクリームにチョコレートの苦みがちょうどいい刺激になる。
フルーツもオレンジやストロベリー、メロン等々、大量に盛りつけられ、
その女性、狭霧アヤメは一口ごとに感動の声を出しながらも黙々と食べていた。

ここは、ごく普通のデパートの中にあるレストラン。
癒し系なウェイトレスさんが極一部で有名な店であった。

そんなレストランで、ゆっくりデザートを頬張りつつアヤメは何をするでもなく時間を潰す。
ふと視線をデザートからずらすと、オヤジが一人「ごちそう様」と言いながら出ていくのが見えた。

「んー。あのオヤジはアレの存在に気付いたのかしらねぇ」

アヤメはポツリと呟きながら、メロンを一口。
ジュワっと広がる甘みを堪能しながらゆっくり過ごす。

「んー、そうするとあのキメラみたいなのも動くの時間の問題かしらねぇ」

ここでこれから起きる惨劇、それを把握しながらも、アヤメはただ、ゆっくりと食事をする。

今度はオレンジを一口。
「あー、おいしー。このお店はまだまだ続けて欲しいわよねぇ。私のために」

そう、呟きながら、アヤメはデザートを堪能していた。


+ + +
446◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:09:04 ID:Q9hAOC6F
+ + +


「失礼します」

一言断ってから会議室へと入る。
そこには一人の少年が座っていた。
年は10歳位だろうか。机の上で両脚をブラブラさせながら座っていた。
目の前の少年の姿に二人は一瞬立ち止まる。
しかし、ザイヤは一呼吸を置くと、少年に向けて語り掛けた。

「……失礼、あなたが加藤陸さんですね。始めまして、私は4班の隊長の就任したザイヤです」

ザイヤの礼儀正しい動作に少年は不思議そうな顔を浮かべる。

「……?」

本当によくわかってない顔をする少年。しかしザイヤは動揺しない。

「一応、私を試しているのでしょう? そこまでの敵意を先ほどからぶつけられては、いくら私でも気づきます」
「……なるほどなるほど」

少年は不思議そうな顔から一転、意地悪そうな顔つきになり、笑った。
その笑顔は外見相応の無邪気な笑顔に見えるが、ザイヤには裏に隠れた何かに思わず身構える。
だが、少年はザイヤの挙動に一切気付かないようにふるまった。

「はははっ。それだけ分かれば十分合格さ。これから2週間、君の補佐をすることになった加藤陸だ。
ピーターパンと呼んでくれても構わないぞ」

そして、陸はとんっと机から跳び下りると、ザイヤに近づく。
ザイヤの方も警戒を解き、頷くと、右手を差し出した。

「分かりました、陸さん。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。この仕事で俺のような零細企業にはかなりの高額の金が振り込まれる予定だからな。
こちらとしても助かるよ。社員4人……あ、一人はバイトみたいなものだから3人か。
これで食いっぱぐれないですむ」

そう言って、陸もザイヤの手を握り返した。

「さて、ではさっそくミーティングを始めましょう」

エンツァは何事もなかったかの様に、そう言いながら会議室にある黒板に向かう。
エンツァ自身は陸とはすでに知り合いだった。故に、特に驚きもせず黒板へと文字を書き込む。
447◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:10:48 ID:Q9hAOC6F
「今回の目標は狭霧アヤメの捕獲、捕獲不可能な場合は殺害です。
しかも条件があり、夜限定で行動し、昼は捕獲に動いてはならないとか」

エンツァはそう言いながら、書き出していく。
ザイヤは頷き、話し始める。

「私が独自に調べて所では、政府や、他の権力者から圧力がかかっている事がわかりました。
昼は戦ってはならないと。……これはどういうことでしょうか」

あくまで昼のみ戦闘禁止。夜なら殺害の許可すら下りる。その矛盾についてザイヤは疑問に思う。

「さて、そこら辺は私にもさっぱりで。能力もいまだに分からない強力な夜の能力を有する相手に夜限定とは。
昼の方が与しやすい相手かもしれぬのに」

エンツァもその事は疑問に思っていたが、答えは見いだせなかったようだった。
しかしその時、最後の一人が口を開く。

「ああ、それなら、狭霧アヤメの経歴をたどれば分かるだろう。
……これだ、ザイヤ読んでみろ。おっと、それを読んだらすぐ燃やせよな。一応機密文書だ」

そう言って、陸は紙束を放りだす。ザイヤは何気なく受けとり、目に入った一文で全てを悟る。

"彼女の昼の能力――発現当時、単純に『死者蘇生能力』と言われ、現時点では『闇の軍勢』と呼ばれる能力は、
彼女が10代半ばの時、多くの権力者の怪我や病気を直し、そして命を救った。
だが、一方で後に判明したその能力の副作用により、彼女の能力は強大になりすぎた。
故に、昼に彼女を攻撃することはできない。戦闘の結果により政局が混乱する可能性がある"



+ + +
448◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:12:22 ID:Q9hAOC6F

+ + +


狭霧アヤメは鼻歌を歌いながら次の料理を待っている。
たのんだ料理はただのラーメン。パフェの後に頼んでる辺り彼女の感性がどうなっているか微妙である。
そんな彼女はしばらく雑誌を読みながら待っていたが、何気ない動作で立ちあがり、扉の方へ近づいていく。

その様子を見てお店のウェイトレスである春日居美柑は、不思議そうに視線だけで女性の姿を追った。

扉まであと一歩の距離でアヤメが立ち止まる。

瞬間――扉のガラスが甲高い音をがなり立てながら割れ、外から何かが跳びこんできた。
大型犬タイプのキメラが五体、皮膚は爛れ、赤黒い筋肉を空気にさらしながら、しかしその動きは動物として見ても、
異常なほどの速さと筋力を持っている。

その物体が入った瞬間、店の中がパニックになる。
大声を上げながら逃げだそうとする男性。
厨房の方に逃げようとする女性。
ただ、それを見た瞬間固まったかのように動けなくなったウェイトレス、美柑の姿もある。

だが、アヤメは周りの状況を気にしない。一瞬の躊躇もなく軍用ナイフを抜き放つ。

「なるほど、稼働時間を犠牲するかわりに動作性能を上げたタイプねぇ。
どっかの戦争好きにでも売込むのかしらねぇ。こういうのは」

あまり興味なさそうに呟くアヤメ。
そのアヤメにキメラのうち一匹が狙いを定めると一気に跳びかかる。
残像が残るような速さ。だが目標地点にはアヤメの姿はなく、
"空中に"置かれるように軍用ナイフがそこに固定されている。

キメラは自らの速さでナイフに激突し、口から体をナイフが通りぬけ、文字通り二枚に割断された。

「まずは一匹目……と」

周りでは店の客にめがけ、他のキメラが跳びかかっている。
慌てて逃げる客達、男が一人キメラに捕まり、右腕は半ばまでなくなり、左足も血だらけのまま転がった。

「ぎゃあああぁあぁああああ!!!!」

男の悲鳴が響き渡る。その声に反応したのは美柑だった。すぐに男性近づき、その傷を抑えようをする。
しかし、そんな程度では到底止血できるわけもなく、彼女の服にも血が付着し赤く染めていく。

「しっかり! しっかりしてください!!」

だが、男は我を失い暴れる。余計に出血が増していく。
その様子をアヤメはみて、不快そうに鼻を鳴らす。

「むー、うるさいわねぇ」

そして、アヤメはナイフを取り出すと、あっさり男の心臓に突き立てた。
一瞬で絶命する男を目の前に茫然とする美柑。
しかし、アヤメは茫然とする美柑の事など気にすることもなく、残りのキメラを見る。
449◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:14:00 ID:Q9hAOC6F

「ひーふーみー、面倒ねぇ。一気にやっちゃうかなぁ」

そして、パチンと音がなる。キメラの頭上から一つずつ、ある物体が現れた。

それは鉄の塊だった。人間では到底持ちあげられない重量物。
運動場の整地に使うその重量物――コンダラが一瞬にして創られる。
キメラを覆うほどの大きさのコンダラは出現した瞬間落下した。
その重量を持って一気にキメラを押しつぶす。反応できなかった四匹はあっさり潰れて見えなくなった。

「これで終わりっと。やっぱこの程度では歯ごたえないわねぇ
……あ、リンクが切れた。この能力結構気に入ってたんだけどねぇ。死んじゃったらしょうがないか」

そう言いながらアヤメは再び席につく。
そして、男の血にまみれ、赤黒い服になってしまっている美柑の方を向いた。

「料理まだ?」
「……え、えっと」

余りにも自然体なアヤメに美柑は声を出せない。
むせ返る様な血の臭いのなか、異常な状況に頭が追いついていかない。
そして、傍にいる、死んだはずの男の方に目をやると、そこには不思議そうに自らの体を見回す男性がいた。
完全に修復されている。どこにも傷一つなく生きている。

「料理ー」
「は、はい! 分かりました!」

美柑は混乱する頭のまま、厨房へと入って行った。
とりあえず動くことにした。それ以外は考えないようにして。

アヤメはそれを確認すると、今度は外に目を向ける。

「あ、バフ課も来ているみたいねぇ。今、バフ課と戦ってもいいけど、それよりラーメンの方が大事だものねぇ」

そう呟くと、アヤメは雑誌を取り出し、読む態勢になった。
今、彼女はこれ以上自分から動くつもりはない。

ただ、料理ができるのを待っていた。



+ + +
450◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:15:26 ID:Q9hAOC6F

+ + +



「『闇の軍勢』……ですか。死者蘇生でも驚きですが、なぜ呼び方を変える必要があるのですか?」

ザイヤの質問に陸は頷く。

「問題点は二つ、一つは生き返った人間に対し、彼女は命令することができる。その命令は絶対だ。
二つ目、生き返った人間の昼の能力を借りて、まるで自分の能力のように使用することができる。
これでわかるだろう。昼に行動を起こせない理由が」

陸の言葉にザイヤは頷く。

「そうですね。これでは政府高官が昼の間、人質に取られているのと同じです。
また、生き返った人間は昼間戦闘になり、自分の能力を使われることを恐れている。
能力発動主体はあくまで能力を持つ側、故にリバウンドで死ぬ可能性があると言うことですね」

「そういうことだ。だから、私たちが行動するときも、行動の基本は夜になる。いいな」
「わかりました。ではそのように行動しましょう」

そう言って、ザイヤは狭霧アヤメに関するレポートを燃やしていく。

「ではこれからよろしく。狭霧アヤメの捕獲を最優先に行動します」


――あくまで"捕獲"。決して父の復讐には走らない。そのザイヤの宣言は一種の決意表明でもあった。
451◇W20/vpg05I :2010/07/04(日) 14:17:04 ID:Q9hAOC6F
投下終了です。このSSは作者が厨二病(末期)でお送りしています。
"臆病者は、静かに願う"に勝手に微リンク気味、直接はこっちで絡んでないけど。
問題あればパラレルってことで許して下さい。
そういえばそろそろタイトルをつけた方がいいのかなぁ

以下追加設定です。

狭霧アヤメ

昼の能力

【闇の軍勢】
【無意識性】
アヤメが直接殺した人間を生き返らせる能力。完全自動発動。
昼の間はアヤメが人間を殺そうと思っても殺せません。生き返るから。
その効果は、どんな大けがでも治した状態で復活、また病気も治癒した状態で復活する。
復活までが能力なので、夜になっても復活した人間が死ぬことはない。
また、付属効果が二点存在する。

・生き返った人間はアヤメの"命令"に絶対服従。効果は昼のみ。夜まで効果は続かない。
 ただし、アヤメがこの効果を意識して使用したことは今の所ない。

・生き返った人間の能力を借りて、他人の昼の能力を自分の能力のように使用できる。
 無意識性の能力は使用不可、使用する際には通常の発動より時間がかかる。
 また、一回に発動できるのは一種類のみ。

なお、今回使ったコンダラを創造する能力は、今回の能力発動の代償により能力者が死んだため、以降使用できません。




ザイヤ

バフ課4班の隊長に就任した青年。死んだラレンツアの息子でもある。


昼の能力

不明


夜の能力


不明
452代理投下:2010/07/04(日) 14:18:49 ID:Q9hAOC6F
以上代行でした
453創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:21:30 ID:Q9hAOC6F
そして自分も投下
>>397-401の続きを投下します
454創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:22:23 ID:rOz6mMmI
ラレンツアの息子とかピーターパン再登場とかすごい盛り上げてくれそう
アヤメさん昼もまた恐ろしい能力を…
昨日のしぇあらじ聴いてたからコンダラで不覚にもwww

微リンクは「あのオヤジ」がドクトルということか!
こういう同時刻のすれ違いみたいなのもwktkするな
455臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/07/04(日) 18:23:51 ID:Q9hAOC6F
 彼は、シルスクはどんな能力を持っているのだろうか。そう思っていた。
 その能力は相当に強力なものなんだろうな。勝手ながらそこまで想像していた。

 だから今私の眼前に広がる光景は、まったくもって予想の範疇を越えに越えていた。

「しかしこいつさっきから観察してりゃあ、どうも突進するしか能がないらしいな。失敗作なのかもし
れんが、いずれにしても知能は初期型キメラ以下だな」
 余裕さえ感じるそのセリフを放つシルスクの手には、左右一本ずつダガーが握られている。

 だがそれだけなのだ。何がって、彼の武器が。彼は能力を発動させる素振りは欠片も見せず、ただ二
本のダガーのみで、あの悪魔を仕留めるつもりでいるらしい。

 無謀じゃないか? という意見が私の中で当然上がったが、ガーゴイルの様子をつぶさに観察して、
その意見は一時保留することになった。
 さっきガーゴイルの滞空高度が下がっているように感じたのは、やはり気のせいではなかった。

 ガーゴイルの羽ばたきは、左右で安定しなくなっている。それに気付いて奴の翼を凝視してみると。
「……ナイフ、か? いつの間に?」

 遠くて断定はできないが、その左翼にナイフらしきものが突き刺さっていた。しかも三本もだ。そん
なものがそんなところにあると思わない私は、思わず感嘆の声を上げてしまっていた。

 言うまでもないが、私があいつの攻撃を受けた時は、ナイフなんて刺さっていなかった。無意識のう
ちに私にナイフ投げの神様が降臨したのでなければ、それができる人物は一人だけだ。

「ほらほら、自慢の突進見せてみろよ。どうせお前はそれしかできねえんだろ?」
 現実に顕現した悪魔さえも挑発するように、だらけたポーズを見せるその人物。手にしたダガーをジャ
グリングしながら、ヒューッと口笛まで吹いてみせた。
456臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/07/04(日) 18:24:44 ID:Q9hAOC6F
 知能の足りていないらしい悪魔がそのあからさまな挑発に乗ったのかどうかは定かでない。が、そう
としか思えないタイミングで

『グビャアアアアアアァアアァァアァァァアアァァァァアァァァァァアァァァ』
 
 と耳を覆いたくなるような不快な咆哮を一つ上げ、その次の瞬間には――シルスクの頭上へと降って
きていた。

 危ない! のあの字も出せなかった。そしてその必要すらなかった。ガーゴイルの急襲を、シルス
クは難なく回避していたのだ。さっきの私のような大袈裟な回避とは真逆の、最小かつ一分の無駄も
ない身のこなしで。

 常人にできることではない。しかしあれが彼の能力によるものだとは、なぜか思えなかった。それ
は約十年間、能力についての研究に携わってきた者としての経験に基づく勘みたいなものだ。今の彼
は本当の意味で、生身の人間なのだ。

 驚嘆すべき生身の青年は、態勢もそのままに反撃に出る。手近にある悪魔の左翼をダガーで切り裂く。
 彼の狙いは私にもなんとなくわかった。だが、どうやらその当ては外れそうに見えた。
 
『グビャアアッ』
 と醜く苦しげに叫び、ガーゴイルはまたすぐに飛び立とうとする。

 左翼を集中して傷めることで、面倒な飛行能力を奪うこと。それがシルスクの狙いだったのだろう。
空中から突進して離脱、を繰り返すあいつが飛べなくなれば、後は彼の戦闘能力ならどうにでもなり
そうではある。
 
 だが、その目論見もむなしく。左翼を切り裂かれながらも悪魔は態勢を整え、強く大地を蹴った。
まんまと己のフィールドへ逃げ去るガーゴイル。しかしシルスクはその背中を見送りながら――笑っ
ている。少なくとも、私にはそう見えた。
457臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/07/04(日) 18:26:05 ID:Q9hAOC6F
「やーれやれ。こいつはあんまり使いたくないんだがな。俺、高いところ苦手だし」
 そう言って、通信機の隣に提げている何かを手に取る。見たところ拳銃のようだ。おい待て。彼、
さっき部下に火器の使用を禁じてた気がするんだが。

「必死で逃げる奴ほど追いかけたくなる。俺はそういう男なんだよ」
 落ち着いた声でそう叫んで(なんか矛盾している気もするが)、その銃らしきものを飛翔する悪魔に向ける。
よく見ると拳銃にしては少し安っぽい気がした。その印象が正しかったことを証明したのは、一つには
気が抜けるような軽い発砲音。

 そしてもう一つ。
「よし命中。まあ当然だけどな」
 自信満々に言ったシルスクの体は、今完全に宙に浮いていた。手にした銃から悪魔に向けて打ちこ
まれた、一本のワイヤーに吊り上げられて。

 私はもう笑いがこみ上げるのを隠せなかった。
 空を飛ぶ醜悪な怪物と、それにワイヤーで追随するイケメンヒーロー。こんなシーンはハリウッド
のアクション映画くらいでしかあり得ないものだ。そんな光景が今現実として、目の前で繰り広げら
れているのだ。

 笑いがおさまると次は、胸が熱くなった。ワイヤーを巻き取って一気にガーゴイルに迫るシルスク。
もはやワイヤーではなく、彼自身の腕で悪魔の脚をしかと捉えていた。

 手に汗握る。ますます胸が熱くなる。それはまさに、若い時分にアクションヒーローに覚えたあの感覚。
「がんばれ」
 彼はこんな言葉は必要としていないだろう。それでも今の私は、そう言いたくてしかたがなかった。

 右に左に身をよじって暴れまくるガーゴイルだが、シルスクの体は安定しているように見えた。既
に脚を越え、胴体にがっちりしがみついている。
 高度は実にビルの四、五階に相当する高さ。落ちればあまり見たくない光景が広がるだろう。だが
そんな危惧さえ野暮に思えるほど、彼の態勢は揺るがない。

 さきほどの突進回避もそうだが、彼の身体能力は人間の限界値まで達しているんじゃないだろうか。
そうでもなければ足場もない空中で、あれだけ暴れる相手の体をよじ登るなんて芸当はできないと思う。

 なんであれ、もはや勝敗は決している。背後から胴体にしがみついたシルスクからは、悪魔の後頭
部が丸見えのはずだ。ちょうど先刻、私が彼に組み伏せられた時のように。あの時と決定的に異なる
ことは――

 私には振り下ろされなかった右手のダガーが、悪魔の首元へと突き立てられたことくらいだろう。
458臆病者は、静かに願う ◆EHFtm42Ck2 :2010/07/04(日) 18:27:15 ID:Q9hAOC6F
 肉がアスファルトに叩きつけられる惨い音を伴って、首からダガーを生やした悪魔が落ちてくる。
その憐れな敗者の背中で衝撃を吸収するように美しく着地したのは、返り血にまみれたヒーロー。
 彼の反応は予想できたが、それでも駆けよらずにいられなかった。

「おっおい、大丈夫なのか?」
「ん? なんだ、あんたまだいたのか。避難しろって言ったろ」
 やっぱり言われてしまった。でも想像していたよりは高圧的でも、冷たく突き放す感じでもなかった。

「あんまり近づくな。まだこいつ、完全に死んじゃいないからな」
 言い捨てて彼は、また通信機を手にした。私はまだピクピク動いている悪魔に気が行ってしまって、
彼が何を話していたかはまったくわからなかった。
 
「さて、と。さああんた。そろそろ本当に立ち去った方がいいぞ。でないといろいろ面倒をかけるこ
とになる」
 
 さっきまでより低い声で、そして返り血で凄みを増した表情で私を見つめて、彼はそう言った。
 私とて馬鹿ではない。彼がいわゆる『普通の』人間ではないことは、すでに十分すぎるほど理解して
いる。その彼が言う『面倒なこと』とは、やはり『普通の』面倒なことではないだろう。

 別に長居をする理由もない。二点ほど心に引っ掛かっているものはあるが、聞いたところで教えて
もらえるはずもなく、その為にここに留まるほどのことでもない。

「そうだな。あばらと腰も痛むことだし、さっさと医者にでも行くことにするよ。助けてくれてあり
がとう、シルスクさん」
「だから助けたわけじゃないって。ああそれと、今日は週末だから医者は開いてないと思うぞ。湿布
でも貼って我慢しておきな」

 別れ際の他愛ない言葉にもどこまでも冷静に、血まみれのダーティなヒーローはしっかり突っ込ん
でくれた。


 つづく
459創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:30:18 ID:Q9hAOC6F
投下終わりです
人気のあるキャラを書くのは緊張するな…
460創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:33:21 ID:rOz6mMmI
あぶないあぶない被るところだった

キャーシルスク隊長かっこいー!
2人のクールなやりとりが良いな
461創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 20:44:24 ID:K1gwOrfr
>>455
きゃーシルスクたいちょおーーー!!!
もう、たいちょの嫁になってもいい気がしてきた
ドクトルの視点もすごく感情移入できて(・∀・)イイ!!

>>444(避難所499)
陸くん登場! 待ってました過ぎる
バフ課とは違うし、ドグマ側(FOG側)というわけでもない……という
微妙な立ち位置が気になっていたのです!
(中小企業だからカネ次第でどっちにでも転ぶかな? とかww)


ってか、ラジオネタ拾いすぎ! もぅ、仕事が早いんだから☆
もっとやってくだちい
462創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 00:57:37 ID:i6Yb1fah
>>451
アヤメさん昼もチートだ。とどめさして蘇生ってハンパないな。
変態の再登場も熱いな。続きに期待。

>>459
隊長かっけええぇ! 無能力で最高の実力、いいねいいね。
ドクトルもクールでかっこいいよね。
463創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 05:54:30 ID:aLYkcAC3
wikiに設定まとめのページ作ったから、あわよくば追記してね(はぁと)
464創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 19:09:09 ID:sjhSL239
>>463
GJ!非常に助かる

思いつくキャラ等の設定量に比べて肝心のお話作りがなかなか進まないうえに作った設定の一割くらいしか
使えないもんだからすごいムラムラする
465創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 22:13:01 ID:aLYkcAC3
そういうときは使わなかった設定で単発ネタを作ればいいかもしれないのぜ
466創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 22:15:13 ID:onBTJQXy
>>463
これはありがたい
しかし駅前のデパートにあるレストランまで項目立てされてるとはw
467創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 22:17:22 ID:aLYkcAC3
なんか最近目立ってたからw
468創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 22:24:36 ID:onBTJQXy
確かに
でも営業続けられるか怪しいw
469創る名無しに見る名無し:2010/07/05(月) 23:42:01 ID:i6Yb1fah
>>464
あるあるあるあr
考えたけど使い道がない設定とかムラムラしてしゃーない

どっかの厨二は大根より硬くて長いサトウキビなんかも普通に出せる
けど脳の栄養である糖分を大量に持ってかれるので、いまいち頭が働かなくなる欠点があり
奴の戦闘にとっては特に死活問題になるので出さないのだー

言っちゃった。ああスッキリ
470創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 00:11:17 ID:ny2ndOkx
そういう裏話良いよなww
471創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 00:25:14 ID:uQlX66Mg
>>469
あれは地味に読んでて食材やお菓子に詳しくなれるww
「学習まんが」的なアレだ(懐かしい……)
472創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 01:02:34 ID:wrVWsNXU
>>471
「殴ると痛い」とか「投げると刺さる」なんて知識をどうしろとwww
473創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 01:12:53 ID:ny2ndOkx
ほ、ほら、他にもあるじゃない!
「目に入ると失明するかもしれない」とか
474創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 22:33:46 ID:rpLQ3Whg
七夕とかまったく関係無しに投下いくよー

>>434-439の続き
475東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/07(水) 22:35:05 ID:rpLQ3Whg
第六話

今日は土曜日。かれんとの家具防衛戦を終えた衛は、一週間分の疲れを癒すためぐっすり眠っていた。
昼前になって、その安眠を妨害する音が部屋の中に鳴り響く。
「衛さん、電話ですよ。」
「んー。」
寝ぼけた頭でかれんから電話を受け取る衛。
「もしもし。」
「おはよう、東堂君。」
相手はナオミだった。
「かれんを連れて、今すぐ駅前の時計広場に集合。分かったわね。」
要件だけ告げて一方的に電話を切られてしまった。
衛はため息をついて枕に顔をうずめる。
「何だったんですか?」
「ナオミ先生から、二人で来いって。」
そう言って衛はかれんが座っているのと逆の方向を向く。
今日と明日、陽が出てる間は家でごろごろするつもりだったのに。
気合を入れるため大きく一回深呼吸をしてから、衛は立ち上がった。

衛たちは集合場所のすぐそばにあるデパートのレストランで昼食をとることにした。
ちょうどこの時間帯、店は混んでいて、従業員が忙しそうに動き回っている。
そんな中でも、例えば衛にカレーを運んできた眼鏡のウェイトレスはにこにこと素敵な笑顔を浮かべている。
接客業も大変だ。
衛は水を一口含んでからナオミに尋ねる。
「で、何の用ですか?」
「無いんでしょ、かれんの服。」
大きなカニのハサミを生やしたコロッケを乗せたスパゲティをくるくる巻きながらナオミは答えた。
「あー……。」
衛はすっかり忘れていたが、かれんは現在、衛と初めて会ったときに着ていたボロボロの服と、ナオミに譲ってもらった数着しか持っていない。
服が無いというのは女の子としてはなかなか辛いことなのかもしれない。
「ごめん、かれん。気づかなくて。」
「いえ、私は……。」
「かれん、遠慮しちゃ駄目よ。」
ナオミは一息置いて言葉を付け加える。
「食後のパフェもね。」
テーブルの端に置いてあるメニュースタンドをチラチラと見ていたかれんは、ナオミに見抜かれ、赤くなってうつむくのであった。
476東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/07(水) 22:35:53 ID:rpLQ3Whg
「ここよ。」
「ここ?」
「ええ、ここ。」
食事を終えた衛たちは、同じデパートの中にある、ナオミの顔なじみであるというファッションショップに案内された。
しかしその中を見た衛は開いた口が塞がらなかった。
なにしろ、そこに並んでいたのは、膝くらいまで丈のありそうな真っ白なTシャツだけであったからだ。
「こんな店でどうしろと……。」
衛が呆然とするも無理はない。
そこにカウンターから声が上がった。
「あれ、ナオミちゃん?」
「久しぶりね。」
ナオミはカウンターの女性のところへ駆け寄る。
「紹介するわ。彼女がここの店主、服部結衣よ。」
結衣は「カッコいい」という形容詞がよく似合う外見の女性だった。
彼女にそそのかされるまま、かれんは試着室に入れられる。
試着室のカーテンが再び開いたとき、かれんは例のTシャツ一枚の姿だった。
それを見た結衣は顎に手を当ててなにやら思考しているようだ。
「うーん、じゃあこんなのはどうかな。」
つぶやいてかれんの肩をぽんと叩く。
すると驚くことにそこにいたのはさっきまでのかれんではなかった。
いや、かれんはかれんであり何も変わっていないのだが、彼女を包むものがまるっきり違うのだ。
かれんは花柄のワンピースにボレロといったコーディネートでそこに立っていた。
「これが彼女の昼の能力よ。」
ナオミの言葉の続きを結衣本人が引き受ける。
「衣装変換能力。人が着ている服を、触るだけで私の想像した服に変換できるの。
 布でも革でもなんでもオーケー。鎧……はちょっと無理だけど、ボタンくらいなら金属も付けられる。
 さらに……」
結衣はかれんのボレロをはぎ取ってこう続けた。
「一枚から複数にすることも可能。」
そしてさらに能力の説明からかれんの服の説明に移る。
「中は半袖になってるから、夏まで長く使えるよ。」
かれんと結衣が話している傍ら、ナオミはTシャツを次々と、十枚ほど手に取っていた。
衛が遠慮がちにナオミに尋ねる。
「先生、つかぬことを伺いますが、そんなにたくさんどうするのでしょうか?」
「かれんの分、もっと必要でしょ。それにやっぱり私も買っておきたいし、ついでにあなたも……。」
「えーっと、僕、外で待ってますよ。」
慌てて後ずさる衛の腕をナオミががっしりと掴む。
「まあまあ、先生が買ってあげるから。」
逃げようと思えばいくらでも方法はあるが、その笑顔に逆らうことはできなかった。
「はい……。」
こうして衛は女のショッピングの恐ろしさを知ることとなったのであった。

つづく
477東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/07(水) 22:36:34 ID:rpLQ3Whg
キャラ紹介

・服部結衣(はっとり ゆい)
駅前のデパート内でファッションショップを営む女性。

《昼の能力》
衣装変換能力
【意識性】【操作型】
人が着ている服を、触るだけで結衣が想像した服に変換できる。
生地も自由。ボタン程度なら金属も付けられる。
質量保存の法則とかまるっきり無視。

《夜の能力》
不明


・ナオミ=ワイズマン(Naomi Wiseman)
13歳にしてS大学の准教授を務める天才少女。
国籍はアメリカ。クォーターで日本人の血を受け継ぐ。
髪は金髪のショートヘア。

《昼の能力》
【無意識性】【変身型】
思考に掛かる時間がゼロになる能力。

《夜の能力》
【意識性】【変身型】
記憶を整理する能力。
図書館風の記憶の世界にトリップし、本を入れ替えることで記憶を整理できる。
記憶の世界では時間は経たない。
478創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 22:37:15 ID:rpLQ3Whg
よく考えたら先生の夜の能力本編では最後まで使わないなぁということで設定だけ公開
噂のレストランと美柑ちゃんをお借りしました、ありがとうございました
479創る名無しに見る名無し:2010/07/08(木) 19:10:16 ID:Fi15ELL/
なんつー便利な能力
その店行きたい
480創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 21:39:14 ID:M09LS+ME
最初に言っておくと、ブラッディ・ベルの名前は借りましたがこの話にソラ姐さんは残念ながら出ません。
まあこいつらは一般人からカツアゲするチンピラなわけで。あのヘッドがいちいち手を貸すとも思えないわけで。
後で戦うフラグは立ちますが回収する目処は立ってないという。無駄に期待させちゃって申し訳ない。

『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』

>>410-416の続き投下いきます。
481『異形の来訪者』:2010/07/09(金) 21:40:26 ID:M09LS+ME

「おおっと動くな! いいか変身すんじゃねえぞ、携帯が逆にパカッと行くぜぇヘッヘッヘ…」
「くっ…卑怯な真似を…」
「そうだな…こいつをむき「バウッ!」無傷で返してほし「バウッバウッ!」欲しけりゃ」
「アオオォォォォォォン!」
「うっせえええええええ! そのクソ犬黙らせろ馬鹿野郎!」
「すっすまねえ兄貴、こらっ静かにしろ!」
「………」

台詞を邪魔されて怒り心頭のモヒカン、体格通りの大きな声で吠えるハスキー犬を必死でなだめる赤髪、呆れるスキンヘッド。
しまらない悪役だなと鎌田は思った。

「…まあいい。ついでにも一つイイこと教えてやんよ」

モヒカンにオイ、と声をかけられ、犬をようやく静かにさせた赤髪が得意げに立ち上がる。

「俺の能力は『犬を手懐ける能力』! 俺の能力にかかりゃどんな犬もイチコロよぉ!」
「そう言う割には随分フリーダムじゃないか」
「っせえええ! 黙って聞いてろ丸眼鏡!」

なぜかその場でくるくる回っている犬を指差しツッコミを入れる。
奇行を繰り返す犬だが、赤髪の命令を数回受けてピタと静止した。

「とにかく! 野良犬だろうと飼い犬だろうと一瞬で俺の手駒ってワケだ!」
「……まさか」
「そう、そのまさかだ」

赤髪はその容姿に似つかわしくない、犬の可愛らしい首輪に付いた名札を見せつける。

「ベルちゃん4才メス! そこらへんの家から適当に借りてきた飼い犬よぉ!」
「な、なんだって!?」
「用がすんだら返すがなぁ。朝んなって罪のない飼い犬がボコボコにされてたら…飼い主はさぞ悲しむだろうなぁ…?」 
「くぅっ…なんて卑怯な…!」

歯を噛みしめながら鎌田は考える。ヒーローに逆境はつきもの。どうすればこの状況を打破できるのか。
無関係の二人を巻き込まず、犬を傷つけず、携帯を取り返す。はっきり言って苦しい。できるのか、この僕に……

「おい、チンピラさんよ」

突然真横からの声に鎌田は前髪を跳ねあげる。声を上げたのは陽太。いつの間にか隣に来ていた。
言葉こそ大きいが、その体躯はこの場にいる全員から見下ろされる。そんな少年を慌てて下がらせようとしたその時。

――鎌田さん!――

背後にいた晶の声が心に直接響いた。思わず振り向きそうになった身体がビクリと硬直する。

――動かないで! 携帯と犬は僕と陽太でなんとかできます、ここは僕たちに任せて!――

普段の鎌田ならば、そんなわけにはいかない、と思うだろう。
しかしその時の鎌田は、彼らに任せよう、と。なぜかそう思ったのだ。
482『異形の来訪者』:2010/07/09(金) 21:41:16 ID:M09LS+ME


時間は少しだけ遡る。鎌田と赤髪が会話している頃。

――陽太、あいつらに気付かれないように反応して!――

陽太が背後にまわした手をグーパーするのを確認して、晶は伝心能力で指示を続けた。

――あの犬は僕の能力で動かせる。たぶん携帯取り返すこともできる――

実は、さきほどから続いていた犬の奇行は晶の能力によるものだ。キメラではないしっかりとした意識を持った犬ならば、
晶は能力で直接心に呼びかけある程度操ることができる。今日は調子がいいのか、妙に事細かに動かすことができた。

――でもそれだけじゃ厳しいと思う。陽太、しばらくあいつらの気を引くことできない? そういうの得意でしょ?――

陽太は少し考えるそぶりを見せた後、晶に見えるようにビッと力強く親指を立てた。


「おい、チンピラさんよ」

赤髪と鎌田の会話にいきなり陽太が割って入る。
今までその存在にすら気付いていなかったようで、赤髪が素っ頓狂な声を上げた。

「ああ? 何だこのチビ」
「さっきから聞いてりゃずいぶんと汚え真似してんじゃねえの?」
「ああん!? チビが粋がってんじゃねえぞオラァ!」
「おいおいちょっと待てよ。俺は喧嘩するつもりはねえんだ」

今にも掴みかかってきそうな勢いの赤髪に陽太は右手の平を向ける。モヒカンも腕を伸ばして赤髪を制止した。

「だったら何だってんだガキ。用がねえならさっさと帰りな」
「キレやすいのはカルシウムが足りてねえんだ。あるいは娯楽が足りてねえ」
「ガキが何言ってやがる。それが何だ?」
「お前らに……おもしれえモンを見せてやるよ!」

言うと同時に突き出した右手を握り力を込める陽太。チンピラたちに戦慄が走る

「ハアアアアァァァ…」
「おっとぉ!そこまでだ!携帯叩き割るぜ!?」
「ハァッ!」

警告に構わず気合を込めて右手を開く。瞬間、開いた手の平には、何の変哲もない真っ赤なリンゴが乗っていた。
483『異形の来訪者』:2010/07/09(金) 21:42:57 ID:M09LS+ME

「………」
「………」

少しの沈黙。そして。

「ギャハハハハハハハ!! それがおめえの能力か!! アッハハハハハ!!」
「ハハハハッパネェ!! ダッセェ!! ハッハハハハハハ!!」

陽太は強い子。これくらいでへこたれない。
能力が盛況のようでなによりです。そんな風に、晶は思った。

「まだだっ!」
「!?」

突き出した左手を握り、開く。その手の平には緑が鮮やかな青リンゴ。

「さらにっ!」

青リンゴを右手に移して、さらに左手から発生させる、黄色が眩しいグレープフルーツ。

「準備は…整ったぜ!」

瞬間、陽太の右手からリンゴが天に向け放たれる。
真っ赤なリンゴは夜の闇に鋭い放物線を描き、左手へ向かって落ちる。
リンゴを受け取る直前に放たれる左手のグレープフルーツ。黄色は先程の赤と同じ高度まで舞い上がり、そして右手へ。
黄色を受け取る直前に放たれた緑は、最初の赤と同じ軌道を描き……鮮やかな三色の果実が次々と闇に舞う。

要はジャグリングである。

おぉ、と小さな声を漏らしたのは誰だったか。三色の空中軌道はまるで揺るがない。
そう思ったら、今度は上体を反らした上手のジャグリングに変化させていて。地味に高等技術っぽい。
知らなかった。陽太にこんな特技があったとは…

ダン!

陽太が足を踏みならす音で、晶はハッと我に返る。
チンピラの意識は今ジャグリングに向いているんだ。自分まで気をとられてどうする。

しかし……敵に「おもしれえモン見せる」と言って実際面白いもの見せる奴って初めて見た。
484『異形の来訪者』:2010/07/09(金) 21:43:57 ID:M09LS+ME


「ガウッ!」

突然犬の鳴き声が聞こえて、陽太の片足越しのジャグリングに気を取られていた鎌田は反射的に身構える。
だが犬は鎌田ではなく、隣のモヒカンへ向かっていた。突然のことにモヒカンは反応できず、携帯電話は犬にあっさりと奪われる。

「おっおいっ待てっ!?」

チンピラたちの制止をまるで聞かずに駆けてくる犬。
赤髪がぶら下げるように持っていたリードを握りなおそうとした瞬間、飛んできた何かがその手を弾き、リードが手放される。

「禁断の赤【タブー・オブ・ファイア】…! させねぇよ!」

隣に目を向ければ、空の右手を前にした陽太。
左手では依然青リンゴとグレープフルーツがポンポン回っているので、さっき投げたのはリンゴだったのだろう。
つくづく器用な少年だと鎌田は思った。

「おいっどういうことだゴラァ!」
「戻れベルっ! 戻れぇっ! くそぉっ何で言うこと聞かねえ!」

犬は鎌田の脇を走り抜け、ギュッと両手を組んで力を込めていた晶の元へ駆け寄る。
能力で手懐けているはずの赤髪の指示をまるで聞いていない。
モヒカンから奪った携帯をその口から受け取り、晶がよしよしと頭を撫でると犬は満足げに尻尾を振った。

「まさか…てめえの能力かガキィ!」

伝心能力でまっすぐ家に帰るよう犬に指示した晶は、暗闇に去っていく犬を見送り立ち上がった。

「ふぅ、疲れた。どうやらあなたの能力より僕の能力のほうが強かったみたいですね」
「こ…ん…のクソガキがッッ!!!?」

怒りに踏み出すと同時に陽太の投げた青リンゴがカウンターで顔面に直撃し、赤髪は大きくのけぞって尻もちをついた。

「禁断の緑【タブー・オブ・エメラルド】。役目は果たしたぜ、鎌田」

鎌田の肩をポンと叩いて下がる陽太。無事取り戻した携帯を手にニコリと笑う晶。

「なんていうか…君たちにはどれだけお礼を言ったらいいのかわからないな」
「んなこたぁいいんだよ。今は目の前の敵に集中しろ」
「あぁ…そうだね」
485『異形の来訪者』:2010/07/09(金) 21:45:08 ID:M09LS+ME

鎌田は力強くうなずくと上着を脱ぎ捨て、堂々とした態度でチンピラたちに対面する。
足は肩幅。両手は握り腰の横に構える。

「…変…」

両腕を真っ直ぐ伸ばし、腰の前、低い位置でクロス。同時に指を広げて両手が開かれる。

「…身…!」

持ち上げた右手は顔の右前方、左手は胸の横に。
握った手から人差し指、中指を付け根で曲げて伸ばし、前方を向ける。

次の瞬間、鎌田の全身が一瞬歪み、その姿は薄緑の外骨格に包まれた昆虫人間に変化を遂げるのだった。


心強い背中を眺めながら、晶がポツリと呟く。

「…あの…陽太。変身ポーズって本来いらないんだよね?」
「いるっての! 変身能力だぞ? 変身ポーズは男の浪漫だろうが」
「無駄に派手になってない?」
「おお、カマキリ人間だからな。蟷螂拳のテイストを入れてみた」
「………さいですか」

わからない。男の浪漫ってわからない。
胸を張る陽太にどこか冷めた目を向けながら、自分は女なんだなと再認識する晶だった。


<続く>

大根さんに新たな設定が追加されたぞ!
まあ戦闘には役に立たないけどねw
486創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 23:35:17 ID:CUn3skMJ
晶ちゃんがいちいち俺のツボを突いてくる

大根さんはもう万能すぎだろwww
487名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 09:31:11 ID:dlb8TBpi
岬陽太
特技:お手玉New!
というわけですね

しかし前から思ってたが、投擲力もすごいんだよな
陽太は野球部のエース…というフレーズが浮かんですぐ消えた
488名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 10:07:33 ID:nHWCNwAK
バットマンと陽太の対決…というフレーズが浮かんですぐ消えた
489名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 10:34:06 ID:gB7knEu+
消える魔球ならぬ食える魔球として株とか投げるわけですね
490名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 10:38:53 ID:lnP3rBtT
いつでもどこでも即座に弾が出せるって点が奴の生命線なので。
でもアクアニードル(ウニ)とかは痛くて投げられないの。

奴に野球やらせたらきっと分身魔球投げて即退場食らうぞw
491名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 13:30:12 ID:dlb8TBpi
妄想が爆発したので書いてしまった
ただの小ネタ投下します
492神に叛く男の学校生活 ◆VnGyt8606Q :2010/07/10(土) 13:32:26 ID:dlb8TBpi
「あーあ。すっかり遅くなっちまったな」
 とっぷりと日も暮れた中学校の下足室で、上履きを片付けながら一人呟く少年。普段は一緒に帰る
ことの多い幼馴染も、この日ばかりはさすがに待ってられず先に帰ったらしい。
 
 静まる校舎の中、岬陽太は一人きりだった。そう、少なくともつい五秒ほど前までは。

「おい、野球部部長さんよ。いるんだろ? 出て来いよ」
「ククク。さすがだな岬君。オレが見込んだだけのことはあるな」
「フン。あんたの禍々しい気配は五十メートル離れててもわかるさ」

 陽太の呼びかけに応じ、下足室に壁のように並ぶロッカーの陰から姿を見せた男。
 小さめの陽太と比べるまでもなく、中学生としてはかなりの長身。細身の体型が、彼の身長をより
際立たせる。
 そしてその頭髪は――いわゆる坊主。丸刈り。マルコメ。はっきりとした顔立ちと相まって、やや
強面そうな印象を与えている。

「何の用か、なんて聞くまでもねえか。まったく懲りねえ人だよな、あんたは」
「ククク。もちろんだとも。我々野球部は君の力を必要としているんだ。部の輝かしい未来の為、君
を野球部に引き込む。これが野球部部長としてオレが果たすべき使命なんだ」
「フン。使命、ねえ。一応聞くがその使命ってやつは、誰が決めたもんなんだ?」

 陽太の質問を受けて、野球部部長は一瞬怪訝そうな顔になった。まるで「そんなこともわからない
のか」とでも言いたげに。

 それは陽太としては不本意だった。実際のところ、彼には答えはわかっていたのだから。だからこ
そわざわざ「一応」と断りを入れておいたというのに。

「ククク。君はまだ若いしな。オレが当然のように知っていることも知らないというのは致し方ない
ことか。使命っていうのはな、「人」と「人」の間で成り立つようなちっぽけなものじゃないんだよ。
それはつまるところもっと高次の――」
「もっと高次の存在。「神」と「人」との間で成り立つ契約、ってか?」
「……オレの発言を遮るとはな。ククク、まあ許す。どうやらちゃんと理解しているようだし」
493神に叛く男の学校生活 ◆EHFtm42Ck2 :2010/07/10(土) 13:34:57 ID:dlb8TBpi
 青々とした頭を撫でながら、発言とはあまり一致しない爽やかな笑顔を浮かべつつ、部長が言う。
 その答えに、陽太は完全に納得した。自分はもう、何も遠慮などすることはないのだと。右手を
握って、軽く力を込めながら言葉を返す。

「なあ、部長さん。俺の本当の名前を知ってるか?」

 不意の問いに、部長の顔は「?」が張りついたような表情になった。まあ当然か。そう思いながら
陽太は、少し自嘲気味に息をついた。

「俺の名は岬月下。神に、その神が定めし理(ことわり)に叛く男だ。だから俺は断じて叛かなきゃ
ならねえ。神に託されたあんたの使命ってやつに」

 名乗り終えて、陽太は右手をスッと差し出した。そこには、一つの真っ赤に熟れたトマトが出現し
ていた。

「こいつは宣戦布告ってやつだ。ありがたく……受け取れよ部長!」
 差し出した右手を大きく後ろに引き、溜めを作る。そのまま流れるように肩から腕を振り抜く。
 ちょうど野球の投球、しかも理想的フォームに近いそれで放たれた真っ赤なトマトは、過たず野球
部部長の顔面に向け、一直線の軌道を描いて飛んでいく。

 部長は微動だにしない。もはや避けることも諦めたかのように。そうして部長の顔面がトマトの果
肉で赤く染まる、かに見えた時。

「なっ!?」
 部長に向けて飛んでいるはずのトマトが、なぜかだんだん自分に近づいてきているような気がした。
「くそっ! ……ふう、危なかった。自分で投げたトマトに当たるとかマジあり得ねえ」

 首を左に逸らし、間一髪の回避。背後で壁かロッカーにでも当たったんだろう、グチャッと耳障り
な音がした。
 状況を整理できず一人焦る陽太を、部長は物言わず爽やかな笑顔で眺めていた。当然その顔はつぶ
れたトマトにまみれたりなどしていない。

「ククク。岬君。君は本当に素晴らしい。君の肩の正確さはイチロー並だと思うよ。だからオレはそ
の力が欲しい。我が野球部の輝かしい未来のため、たとえ力ずくでも、な」


 打ち切り
494 ◆EHFtm42Ck2 :2010/07/10(土) 13:39:19 ID:dlb8TBpi
投下終わりです
なぜか1レス目トリ間違っちゃった…
なおご覧の通り打ち切りです。決して続きはありませんw
495名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 16:02:47 ID:nHWCNwAK
打ち切りwww
部長は一方通行みたいなアレなんだろうか
496名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 21:35:49 ID:gB7knEu+
アクセラレータだったらデッドボールとか怖くねぇなw
497名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 20:00:42 ID:zoPW9gRj
なにげにもう450KB
498名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:14:20 ID:7klrjsKj

                      マ゙ターリ゙リ゙しτょυぅょぅ
              ∧∧   マ゙マ゙マ゙マ゙ターリ゙しτょυぅょぅ
            ε⌒ つ     マ゙ターリ゙しτょυぅょぅょぅょぅょぅ
            くε  。 つ
           くく =゚ω゚ つ
           丿:::   ◎)        __
          (○):::  。・゜ヾ    (( /__ ヽ
          く:::::::(●)。・°     //  ヽ二二θ) ))
           ):・::::ω・゜・ミν_//
          ιυιミν つ つ/  ))
   。・・.°。・゜ ιυωυυυ
 ・゜°・゜°・゜°
499名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:19:56 ID:7klrjsKj
間違えちった
ごめんちい
500名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:51:25 ID:IXZRRaTU
陽太器用すぎるw 晶の反応がいいなぁ。
結衣さんの能力まぢ欲しい。選挙にきて行く服がありませんとか言わずにすみそう・・・


ttp://loda.jp/mitemite/?id=1236.jpg
501名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:58:56 ID:zoPW9gRj
    _  ∩
  ( ゚∀゚)彡 ふともも!ふともも!
    ⊂彡
502名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:21:00 ID:JrVcpAbz
うおっ! これはすごい。炎の表現が綺麗だなあ。

絵の感じでどっかの超電磁砲思い出した
503名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:24:10 ID:zoPW9gRj
>どっかの超電磁砲
ああ、わかる
504名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:49:30 ID:7klrjsKj
>>500
ぺろぺろ
505臆病者は、静かに願う ◇EHFtm42Ck2:2010/07/12(月) 00:42:31 ID:nuwQ5Em/
避難所より代行です

「あー、いっつつつつ」
 深更、腰とあばらの痛みで……というわけでは別にないが、私は目が覚めた。のそのそと眼鏡を探
し当てて確認すれば、時計はちょうどLの字。普段眠りの深い私が、こんな時間に目を覚ます理由は
決まっている。

 夢を見ていた。久しぶりに見る夢だった。

 ――あなた、忘れ物ない? 
 お、おい、あなたはやめてくれってば。なんか背中がムズムズするよ。
 ――やーだ。結婚したら、旦那さんのことは「あなた」って呼ぶって決めてたんだから。大丈夫すぐ
慣れるって。てゆーか慣れて。
 ……はい、努力します。ってあれ、お弁当忘れてるみたいだ。ごめん、取ってきて。
 ――ちょ、ちょっと秀祐! 愛妻弁当忘れるなんてんもぉー! 自分で取ってきなさい!
 ははは、秀祐って呼んだー。ちなみに弁当はちゃんと持ってるよ。じゃ、行ってきまーす。

 私が自分の命を危機にさらした夜、必ずこの夢を見る。その関連性こそ明白だが、それが何を意味
するのかは未だにわからないままだ。

 ――おかえり、あなた。
 うん、ただい……やっぱりダメだってあなたは。うわ、じんましん出てきた。
 ――慣れなさい。慣れよ、慣れ。そんなことよりほら、ご飯できてるから食べよ? わたしもうお腹
ぺっこぺこだもん。
 あれ? 先に食べてなかったのか?
 ――だってー新婚早々晩ご飯も一緒に食べないなんて寂しいじゃない。秀祐はそう思わないの?
 まあ、確かにそうだけど……いや、そうだな。一緒に食べるほうが美味しいだろうな。

 ただの荒唐無稽な夢ではない。私の記憶だ。今よりずっと若い頃、今よりもっと幸せだった日々の。
 私が人生の中でただ一人愛した女性は、今はもうこの夢の中でしか出逢うことができない。

 十年。彼女とともに過ごしたよりも長いその月日は、残酷にも私から彼女の記憶を少しずつ奪って
いった。

 時間の流れを恨むことはできない。だから私は、己を憎むしかない。心から愛した人の肌、声、私
を見つめてくれる眼差し。それすらも気がつけば忘れようとしている薄情な己を恨むしかない。

 それでもこの夢を見るたび、私はそれらの全てに出逢うことができた。
 それはとても不思議な体験だ。私の記憶の中に、彼女の鮮明な画像は残っていないというのに。な
ぜかこの夢には在りし日のその人が、あの日のままの姿で現れる。

 そんな理屈だって、本当はどうでもいい。目が覚めて、虚しさと懐かしさで涙が流れようと、私に
笑顔を向けてくれる彼女に逢えるならそれでいい。

「なあ、こんな俺は女々しいと思うか? でも本心だからさ、許してくれよ」
 答えなんて返ってくるはずもない。問いかけが一人の中年のぼやきに変わったことを確認して、私
はまた目を閉じた。
506臆病者は、静かに願う ◇EHFtm42Ck2:2010/07/12(月) 00:43:49 ID:nuwQ5Em/
 明けて月曜日。
 サザエさん症候群に駆られながらも身を奮い立たせて出勤すると、いつもはコーヒー片手に窓辺に
たたずんでいる助手くんが何やら色めき立っていた。

「もうっ! ドクトルJ遅いじゃないですか! いつものことだけど! 聞いてください! 大変なん
です……って、なんかドクトルJ薄荷臭い」
「階段踏み外して転げ落ちちゃってさ。腰とあばらを強打したもんだから、湿布貼ってるんだ」
「まったく何やってるんですか! そんなだから減給される一方なんですよ!」

 本当のことを言うのは躊躇われた。理由は二つ。彼に余計な心配をさせたくないこと。そして見て
わかるように彼は若いのに妙に説教臭い。今のこれなんてほとんど言いがかりだと思う。この状態で
本当のことを言ったりしたら、それこそ床に正座で説教かっ喰らうとか普通にありそうだ。面倒い。

「まあ確かにいろいろ転げ落ちてるけども。どうしたの朝からそんなに興奮して」
「そうでした! ドクトルJが臭い話なんてどうでもいいんです! また出たんです被害者が!」
「……なーんか誤解を招くよね今の言い方。あんまりよくないけどもういいや。八人目ってこと?」
 
 それって私のこと……でもあるのは事実だが、この状況に限っては違うと言えよう。しかし普段クー
ルぶっている助手くんのこの慌てよう。少し嫌な予感がする。

「もしかしてその被害者って……知り合いか?」
 そう聞くしかなかった。一番あってほしくない、それでいて一番可能性の高い問い。
 私の問いに、助手くんは下唇をぐっと噛みしめた。堪えているのだ。何を、とはあえて言わない。
彼のそんな表情を見るのも久しぶりだった。

「……第4研究チームの、尖崎主任です」
507臆病者は、静かに願う ◇EHFtm42Ck2:2010/07/12(月) 00:44:48 ID:nuwQ5Em/
 尖崎鋭一郎、26歳。
 主として変身型の能力に対する医学的見地からの研究を行う者として、ERDO研究部門に果たしてき
た貢献は極めて大きい。
 浮世離れした奇人ではあったが、その明晰な頭脳はこれから先もERDOにとって必要不可欠なものだっ
た。

 私も彼を頼りにしていたし、期待していた。なぜか被研能力者にやたらと幼い女の子ばかりを希望し、
その度私が諫めてきたことなども、もはやいい思い出となってしまった。

 なぜ、彼が死ななければならなかったのだろうか。ある意味危険な人物だったかもしれないが、そ
の実彼はとても誠実で無害な男だった。

 世界はかくも理不尽だ。それは隕石が落ちようと落ちまいと、人が進化しようとしまいと関係がない。
案外世界というものは本当に、神が振ったサイコロ遊びで決められているのかもしれない。

「……尖崎君は、どんな風に死んだのかな」
「はい?」
「惨い殺され方をしたのかな、って」

 私も助手くんも仕事をする気が起きず、窓辺に置かれたテーブルで向かい合っている。部下の研究
員たちは各々動き回ってくれているが。

 助手くんもさすがに知らないのだろうか、問いへの返事はない。ちらと彼に視線を向けると、なん
か面白い顔で考え込んでいた。しばらくそうして、おもむろに口を開いた。
508臆病者は、静かに願う ◇EHFtm42Ck2:2010/07/12(月) 00:45:37 ID:nuwQ5Em/
「ドクトルJ。あなたは一つ、大きな勘違いをしている」
「え? な、何その喋り方」
「僕は尖崎主任が死んだとは一言も言っていません」
「……へ?」
「死んでいません。重傷を負ったものの、命に別状はないそうです」

 ……何よそれ。助手くんついさっき泣きそうな顔してたじゃん。あんな深刻そうな顔見せといて「実
は死んでませんでしたー」って、なんのドッキリなの?

「いやーだって尖崎主任がいてくれないと、リアルで飛び回るシリルたんに会えないんですよ! 僕
にとっては号泣ものの大問題です」
 知らんよそんなの。だいたいなんだよシリルタンって。

「助手くんって結構薄情者だな。とりあえず詳しいことを教えてよ」
 薄情者じゃありませんよー、と反論してから、助手くんは説明を始めた。それによると。

 尖崎君は昨日、予約していたフィギュアを買った帰りに襲撃を受けたそうだ。注意喚起メールがあっ
たというのに彼もなかなか神経が太い。それほどフィギュアが大事だったのか。
 襲撃者の詳細は不明。私の場合とは違って市民を積極的に巻き込まず、ピンポイントで彼が狙われたらしい。

 よく死ななかったね。私が思わずそう言うと、助手くんはうんうん頷きながら人差し指をぴっと立て、
「尖崎主任の昼間能力はやっぱり凄まじいことが判明しました」
 と得意げに語った。

 尖崎君の昼間能力は、無生物に生命を与えるというもの。それだけでも十分恐ろしいが、それ以上
の何かがあったというのか。
 助手くんがさらに語ったところでは。
509臆病者は、静かに願う ◇EHFtm42Ck2:2010/07/12(月) 00:46:42 ID:nuwQ5Em/
 襲撃を受けた尖崎君は、咄嗟に買ったばかりのフィギュアに能力を使用したそうだ。命の危険を感
じた人間が咄嗟に取る行動として、フィギュアに命を与えるっていうのはどうなんだと思ったのだが、
いざという時わけのわからない行動を取るのが人間という生き物でもある。あの尖崎君であれば余計
にそうかもしれない。

 さておき、この辺の話は聞き慣れない単語(おそらくフィギュアの名前なんだと思うが)が多くて
わかりにくかったのだが、要約すると命を与えられたこのフィギュアが襲撃者に応戦して退け、尖崎
君を守ってくれたということらしい。

「必殺光線まで放ったらしいですからね。単に命を与えるってだけではないみたいです」
 必殺光線まで放ったんですって。もう何がなんだか。

「結果として尖崎主任は、お腹の脂肪をごっそり抉られることにはなったみたいなんですけど、覚醒
シリルたんのおかげで生還できました、と」
 わー。めでたしめでたし。

 決してふざけているわけではない。生きているのなら、それ以上にめでたいことなどないのだから。

「あ、そうだ」
 パンと手を合わせながら、助手くんが明るい声で言う。
「昼休みにお見舞い行きましょうよ。尖崎主任の入院先、どうせすぐそこですよ」
 そう続けて、窓の外を指さす。

 その先にある建物。ERDO研究部門と同じ敷地内で、一般には一体の施設と認識されている場所。こ
の地域でも指折りの大病院の病棟が、どっしりと鎮座していた。


 つづく



以上、避難所より代行終了です。
510 ◆akuta/cdbA :2010/07/12(月) 15:47:42 ID:PYxEgm8n
>>500
失禁…じゃなくて保存したっ

なんちゃってアニメ塗り挫折\(^o^)/
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1237.jpg
511創る名無しに見る名無し:2010/07/12(月) 17:58:27 ID:2RhNa7oM
尖崎主任なにげに好きだったから生きててほっとしたww

そしていい表情だな峰村w
512創る名無しに見る名無し:2010/07/12(月) 23:44:53 ID:AxXjHmoK
>>505
尖崎主任生きてた! よかったー。すげー能力じゃないか
助手君はもう完全に染まっちゃってんのなw

>>510
なんとチェンジリングアニメ化w これは夢すぎるw
なんとも良い表情描きやがる。


さてさてさって、そろそろ2スレ目も終わりか。盛況で楽しいねえひゃっほい。
モチベーション高いと筆がサクサク進むぜ。

『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』

>>481-485の続き投下いきます。
513『異形の来訪者』:2010/07/12(月) 23:46:25 ID:AxXjHmoK

「さて、携帯は無事返してもらったし、犬もいない。君たちの切り札はなくなってしまったわけだ。それでもやるかい?」

昆虫人間と化した鎌田が余裕の態度で尋ねると、チンピラたちは一歩後ずさる。

「まあ、元々君たちに用は無い。黙って退却するなら追いかけはしないよ」
「…くっ…!」

悔しげに顔を歪めるモヒカン。だが一瞬、何かに気付いたような顔を見せて

「……く、くっくっく……はぁっ、はっはっはっはっは!!」

突然、テレビ番組の悪役よろしく高笑いを始める。隣でニヤニヤと笑うスキンヘッドが不気味だ。
警戒して構えをとる鎌田。陽太も手元に残ったグレープフルーツを握りしめる。

「な、なんだ…!?」
「はっはっはぁっ! 俺たちの切り札がなくなったって!? 馬鹿がっ! とっておきがあんだよぉっ!!」
「そっちのスキンヘッドの能力か…!」
「まだ気付かねえのかノロマがっ!! 空を見ろぉっ!!」

鎌田はチンピラたちから顔を少しも逸らさず、複眼の持つ広い視界で全天を確認する。
チンピラたち向こう、東の暗い赤から西の紫へと美しいグラデーションを見せる、雲ひとつない空。何の変哲もない夜明け前の空。

「って…えええっ!!?」

驚きの声を上げたのは晶だった。理由を聞こうと声を出す直前に鎌田、陽太もその異常に気付く。
チンピラたちと出会ったのがおおよそ深夜1時半。それから今まで、長く見積もっても15分。夜明け前なんてあり得ない。

「えっ! 嘘ぉっ!!?」
「馬鹿なっ!? 6時だとっ!!?」

背後で叫ぶ声で鎌田も時刻を知る。確かに朝6時でこの空は妥当だが…

「どういう…ことだ…?」
「俺の能力だ」

初めて聞く低い声でスキンヘッドがボツリと言う。その肩をポンと叩いてモヒカンが説明を継いだ。
514『異形の来訪者』:2010/07/12(月) 23:47:34 ID:AxXjHmoK

「こいつの能力は……『周囲の時間間隔を短くする能力』。俺たちはせいぜい数分程度だと思ってた時間がよぉ、
 実際は……4時間以上経ってたってわけだ。なあ、ビックリだろ……? まあ、欠点としちゃ……」

やけにじっくり時間をかけて説明していたモヒカンがスキンヘッドの肩に手を置いて、いやらしく笑う。

「発動中…こいつはろくに動けねえってことかぁ」
「なっ…まさか今も!」
「させるかぁっ!!」

叫ぶと同時にそのスキンヘッドへと一直線に飛ぶグレープフルーツ。だがぶつかる直前にモヒカンの手に弾き落とされる。

「もう遅いっ!! 日の出だぁっ!!」

陽太が反射的に合わせた手から、得意武器、魔剣レイディッシュこと大根が発生しない。
晶の脳にざわざわと小動物たちの雑踏が返ってくる。
チンピラたちの背後から昇る眩しい朝日に、鎌田が顔をおさえる。

「変身さえなきゃてめえなんて雑魚だぜハッハァ!」
「ヒャッハアアアァァ!!」
「死ね貧弱眼鏡」

どこから出したのか、長い鉄パイプを手にしたモヒカン。ナイフを取り出した赤髪、特殊警棒のスキンヘッドが、
それぞれの雄叫びと共に鎌田に一斉に襲い掛かる。

「かっ、鎌田っ!!」
「鎌田さんっ!!」

金属がぶつかりあうような硬質な音が、早朝の自然公園に響いた。
515『異形の来訪者』:2010/07/12(月) 23:48:21 ID:AxXjHmoK


「なん…だと…!?」

眩しい朝日に照らされてなお、透き通るは大きな複眼。自然公園によく似合う薄緑の外骨格。
振り下ろされた鉄パイプを右手の鎌で。特殊警棒は左腕。低く突かれたナイフは右足の膝で。
三方向から迫る凶器を、鎌田はその昆虫人間の身体で完璧に受け止めていた。

「馬鹿な…変身が!?」
「…ふっ!」

茫然と動きを止めるチンピラたちに対して、鎌田の動きは速く。
鎌の根元の手で鉄パイプを掴み、左腕の特殊警棒を払いのけ、持ち上げた右足をそのまま赤髪の胴体にめり込ませる。
引っ張った鉄パイプを手放さず付いてきたモヒカンに、カウンターで腹に打ち込む左の肘、顎に裏拳の連続技。
堪らず手放した鉄パイプを手に半回転、加速した遠心力でもってスキンヘッドの特殊警棒に思いきり叩きつける。
盛大な金属音と共に無理矢理弾かれ、手から離れた特殊警棒は茂みの中へと消えていった。

無駄のない、流れるような動きだった。
続く攻撃がないのを確認すると鎌田は動きを止めて、ほっと小さく息を吐く。

「残念ながら、悪の企みなんていつだって上手くいかないものさ。それがどんな世界だろうと」

膝を付き、地に伏せ、手をおさえてうめき声を上げるチンピラたちを見回して、朝日に照らされ立ち上がる昆虫人間。

「最後に勝つのは、正義だから」

それは正しく、誰だって一度は憧れる、正義のヒーローの姿だった。
516『異形の来訪者』:2010/07/12(月) 23:49:33 ID:AxXjHmoK

「なっ、何なんだっ!! てめえ一体何者だっ!?」
「鎌田之博。通りすがりのライダーさ」
「んなこと聞いてねえっ!! なんで変身が解けねえんだよっ!?」
「答える義理は無いね。そんなことより…」

うろたえるモヒカンに、鎌田はピタリと鉄パイプを向ける。

「まだやるかい?」
「ちっ………」

ギギギと歯を噛みしめて、鎌田を睨みつけるモヒカン。ダン!と大きな音を立てて一歩踏み出し…
直後、回れ右。一目散に逃げだすモヒカン。それを慌てて追いかける赤髪とスキンヘッド。

「ちくしょおおおおおっ! 今日はここまでにしといてやるよおらあああ! 次は姐さん連れてきてやっからなああ!」
「ブラッディベル舐めんなあああっ! てめえなんか姐さんにかかりゃボコボコだー!」
「化け物め。覚えてろよ」

なんともありがちな捨て台詞を残して、チンピラたちは朝日の中を元気に逃げていくのだった。

「…姐さん姐さんって…どんな女だよそれ」

陽太はポツリと呟いた。


<続く>

彼は知らない。以前、暴走した彼を一発ノックアウトした鈴本青空こそ、その「姐さん」であることを。

まだしっかり考えてはいないんだけど、ブラッディ・ベルのヘッドって形でソラ姐さんと再会して
まことにやっかいな状況になるのが目に浮かぶようです。

なお、このチンピラたちは名前も昼能力もなーんも考えてないので好きにしちゃっていいですー。
517創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 20:05:48 ID:8JveYynr
ちょっと離れてた間にスレスト…だと…

>>509
ドクトルの奥さんか…過去に何があったんだろうか
シリルたんに会えないって片桐君www

>>510
これはいい揺さぶり

>>516
鎌田かっけえ!
チンピラの方も何気に凄い能力を持ってるな
518創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 21:50:52 ID:M31xqa6y
スキンヘッドの能力がやたら凄いって話になってるw
そうは言っても本人動けないし外から干渉もできない、かなり捻らなきゃ有効に使えない能力なんですよ。
使い方によっちゃ化ける可能性はあるけど、それは物好きな他の誰かに任せます。

ぶっちゃけ能力のモデルは『ピューと吹く!ジャガー』に出てくるテルミン使い「ペイズリー柄沢」だったりする。

『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』

容量足りるよね? >>513-516の続き投下いきます。
519『異形の来訪者』:2010/07/18(日) 21:52:50 ID:M31xqa6y

鎌田はいそいそと脱ぎ捨てた上着を着込み、フードを目深に被る。
カマキリの顔と翅は見えなくなるが、袖から覗く手は依然昆虫のような手で。

「あの…鎌田さん…?」
「鎌田お前…何で能力切り替わっても変身解けねえんだ?」

確かに昼能力で出したカロリーメイトを咥えつつ、陽太が尋ねた。

「ああ…ええと…僕のは昼も似たような能力なんだよ、ハハハ…」
「人間には戻らないのか?」
「んー…変身したらしばらく戻れないんだ」
「嘘つけお前、夜はさんざ変身したり戻ったりしてたろ」
「……うーん……」
「嘘が下手だな鎌田」
「鎌田さん…」

黙りこんでしまった鎌田の手に晶の手が触れる。硬質で鎌と一体化する不思議な手。

「陽太は悪気があって言ってるんじゃないんです。詮索してほしくないなら止めさせます。
 でもその…鎌田さんに困った事情があるなら…僕は力になりたいんです。陽太もそう思ってます」
「はっ! 何適当言ってんだ。俺はそんな聖人君子みたいな男じゃねえよ馬鹿」
「このツンデレめ」
「つっ!? ツンデレ言うなコラ!」

10年前の運命の日。チェンジリング・デイ。
人は傷つき、多くの命が失われ、世界は悲しみに包まれた。大切な人を失ってしまった者は数知れず。
家族でたった一人生き残り、孤児になってしまった子供たちもいる。
それでも彼らは互いに助け合い、分かち合い、力強く生きてきた。

「せっかくこうして知り合えたんです。困っているなら助けるのは当然じゃないですか」
「水くせえんだよ鎌田。一人でウジウジしやがって」
「晶君……陽太君……」

そんな中、晶と陽太の家族は誰一人として欠けることなく、安穏な暮らしは現在に至る。
多くの人が失ってしまった愛を、その一身に受けながら幸せに育ってきた。
自分たちは圧倒的に恵まれている。それを彼らはわかっていた。

だからこそ、愛を与える側になる。自分の身を削って、人を助ける人になる。
そんな風に、彼らは生きてきたのだ。

「何と言うか…君たちって本当にいい人だよね」
「えへへ…よく言われます」

人はそれを、お人好しと言うらしい。
520『異形の来訪者』:2010/07/18(日) 21:54:21 ID:M31xqa6y


鎌田はその異形の手を顔の前に持ち上げて動かして見せた。硬い指がぶつかりあいカチカチと音が鳴る。

「ただね、これはそんなに深刻なことじゃないんだ。たぶん君たちの思っていることとは違う。
 僕自身に何か異常があるわけじゃないんだよ」
「えっ…? でも……」

鎌田は顎に手を当て少し考えると、よし、と呟いて顔を上げる。

「そうだな、君たちは命の恩人だ。それにせっかく心配してくれているのに隠し事はよくない」
「それじゃあ…」
「ああ。話すよ、僕のことを」

表情という表情の見えないはずの虫の顔から、晶は鎌田の決意の表情を確かに見るのだった。


20分後、晶、陽太と鎌田は陽太の家のテーブルに向かい合って座っていた。
日の出からすでに30分以上経っているにもかかわらず鎌田が人間に戻る気配はなく、
本当に訳ありな人なんだと晶は再認識する。

「さて…どこから話したものか……」

触角をクイクイと揺らしながら考えていた鎌田が、おっと、と呟いて姿勢を正す。

「今まで、恩人の君たちを騙す形になってしまった。申し訳ない」
「えっ!? いえいえ、いいですよそんな…」

頭を深々と下げる鎌田を晶は慌てて止めた。ただ…と鎌田は付け加える。

「言い訳になってしまうけど、他意があったわけじゃない。ただ常識的に考えて信じ難い話だから…あえて黙っていたんだ」
「信じ難い…話…」
「あり得ない、なんてことはあり得ない」

考え込む晶を横目に陽太が口を出す。

「それがこの世界だ。信じるさ。お前が……」

言葉を留めて、ニヤリと笑う陽太。

「…実は人間じゃない、なんて話もな」
「えっ!?」
「ちょっ! 陽太っコラ!」
「なんでそれを」
「ええっ!? 鎌田さん!!?」

振り下ろされず停止した晶のチョップを頭上から退けて、陽太はふっ、と不敵に指を組んだ。
521『異形の来訪者』:2010/07/18(日) 21:55:20 ID:M31xqa6y

「昆虫を模したその姿。高い戦闘能力。怪しい言動に行動。ヒントは無数にあった。
 お前は正体を隠してたつもりだろうが……俺に言わせりゃ公表してるようなもんだぜ」
「正体って」
「お前のその姿は、チェンジリング・デイとは無関係。そうだろ?」
「あ…ああ、確かに」
「やはりな。つまり、お前は……」

陽太の言葉に全神経を傾けて、晶はゴクリと唾を飲む。

「悪の秘密結社に改造された…改造人間だ!」
「かっ……!?」

驚愕に目を丸くする晶。元々目は丸い鎌田。陽太は自信満々に続ける。

「それまでごく普通の一般人だったお前は悪の秘密結社にさらわれ、カマキリ怪人となるべくその身体を改造された。
 だが脳を改造される前に研究所を脱出。お前は正義の心を残したまま昆虫人間への変身能力を得たんだ」
「…あの…」
「お前の大切な携帯、無意味な携帯電話ってのは偽装だな。本当は脱出の際、機密文書か、超兵器の設計図か、
 ともかく秘密結社の重大な何かを移した大容量メモリーだ」
「ちょっとあの…陽太君」
「お前は正体を隠し旅を続けながら、秘密結社を潰すだけの力を持ち信頼に足る仲間を探している」
「………」
「そうだろう! 改造人間、鎌田之博!」

ドン! といった感じの擬音が似合うだろう。陽太は自信に満ちた顔で言い切るのだった。

「…君は凄いな、陽太君」

唖然とする晶は言葉が見つからず。陽太は澄まし顔で次の言葉を待つ。

「完璧に大ハズレ」

ゴン!

突然の大音量に驚いて晶が隣を見ると、陽太が勢いよくテーブルに額をぶつけていた。
そのまま動かない陽太。音からしてかなり痛かったと思う。自業自得である。

「もー…だからずっと言ってるでしょ。そんな突拍子もない話は現実にはないの! 厨二病は卒業しなきゃダメなんだから」
「いや……晶君。もしかしたら、陽太君の話のほうがまだ信じられるかも知れない」
「え…それってどういう…」
「僕の現実は、それよりもっと突拍子もない話なんだ」

晶と、早くも復活した陽太は、黙って鎌田の言葉に耳を傾ける。
522『異形の来訪者』:2010/07/18(日) 21:56:40 ID:M31xqa6y

「一言で言ってしまえば……僕は、この世界の住人じゃない」

瞬間、二人の頭に同じ単語が浮かんだ。
反射的に立ち上がった椅子が大音量と共に倒れ、衝撃的なその単語が二人の口から飛び出す。

「う…宇宙人!!?」
「ちょっ!? 違う!」

慌てて立ち上がった鎌田の椅子もガタンと倒れた。

「…まあ、とりあえず座ろう」

椅子を立てて座り直す三人。コホン、と小さく咳払いして、鎌田が続ける。

「ともかく、宇宙人ってのは断固違う。僕は正真正銘、地球人だよ。っていうか日本人だ」
「ええぇ…」
「じゃあ何だってんだよ…」
「僕は……」


「僕は鎌田之博。佳望学園、高等部の蟷螂人だ」


<続く>

ええ、本人です。スターシステムとかじゃなくて。

衝撃の事実…も何もないなこれ。もはや気付いてない奴いないだろこれ。
まあ自分もさほど隠す気はなかったしねw

鎌田の住む世界 → http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1277458036/l50
佳望学園 → http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/33.html

生みの親は他ならぬイラストのakuta氏(承諾済み)。非常に感謝しています。

ただ、元ネタ必須ではないです。知らない人を困惑させないことは肝に命じております。
(知ってたらニヤリとできる程度のネタは出ますが)
体格が人間に近いことと、戦闘能力に若干補正かかってる気はしますが、それ以外は元のままです。
気が向いたらあっちのスレも見てやってください。避難所に案内板置いときますので。

次回、超説明回。(言い訳回ともいう)
523創る名無しに見る名無し:2010/07/18(日) 22:49:24 ID:xL0cgOvZ
投下乙です!
愛、いいよね
晶いい子だ。もちろん陽太も
月下の魔剣更新ペースが上がってきましたねw
嬉しいことですよ
524創る名無しに見る名無し:2010/07/19(月) 02:15:00 ID:mg5ZPbCl
陽太はバッカーノと針山さん読んでそうw
525創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 20:50:41 ID:59x0FtIr
おいおいなんかスレ独占しちゃってねえか!?
いいのかこれ。いいんだよな。いいってことにしておこう。

『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』

>>519-522続き投下です。前に言った通り超説明回なんだごめんよ。
526『異形の来訪者』:2010/07/23(金) 20:59:49 ID:59x0FtIr

「けもう学園…?」
「蟷螂人…だと…!?」

聞き慣れない単語に目を丸くする二人と対称的に、鎌田はそれが当然であるかのように続ける。

「初中高一貫、全国的に有名なマンモス学園だ。蟷螂人もそう珍しい種族じゃない」
「ちょっと待て鎌田、んな話まるで聞いたことないぞ?」
「当然さ。この世界にはそんな学園も、種族も存在しない」
「この世界って…」
「この世界。チェンジリング・デイが起こって、人類が特殊な能力を持った地球のことだ」
「やっぱ宇宙じ」
「地球人だよ、僕は。この世界とは全く別の歴史を辿った地球の住人だ」

そこまで言って鎌田は黙り、二人をじっと見つめる。その口から何かの言葉を求めるように。

「え…え…? それって……」
「パラレルワールド…ってやつか?」
「それだ、陽太君」

待ってましたとばかりに鎌田が言葉を紡ぐ。

「僕はね。こことは別の平行世界、パラレルワールドからこの世界に来てしまったんだ」
「………」
「………」
「ね。突拍子もない話でしょ」

鎌田の言葉はあまりにも飛躍していて、晶は言葉を失った。確かに、改造人間のほうがまだ信じられる話だ。

「無理に信じろとは言わないさ。一応話は続けるよ」
「お…おう…」

さすがの陽太も反応は晶と似たようなものだった。

「僕はごく一般的な蟷螂人の高校生だ。この姿は生まれつき。当然変身能力なんて持ってなかった」
「生まれつき!?」
「そう。僕はこの姿がデフォなんだ。これが僕の世界では普通のことだ」
「そんな世界が…」
「この世界につ…来てしまった理由は何もわからない。今はその理由を探しているところでね」
「………」
「だいたい2週間前か。普通に街を歩いていた僕は突然、何の前触れもなく白い光に包まれて、気がついたらこの世界に来ていた。
 そして、同時に僕の姿が変わっていたんだ。それが君たちと最初に出会った人間の姿だ」
「あっちが能力だったってことか」
「わけがわからなかったさ。僕の世界…いや、少なくとも僕の現実には超能力なんて一切存在しなかったんだから。
 それに僕はこの世界の住人じゃない。そんな僕になぜ変身能力が発現したのか。この世界の能力っていうのは
 もしかしたらDNAではなく、隕石の影響を受けたこの地球の大気に関係しているのかもしれないね」
527『異形の来訪者』:2010/07/23(金) 21:00:35 ID:59x0FtIr

へえ…と感心する晶を見て、なーんて偉そうに言っても、と鎌田は肩をすくめる。

「僕は研究者でもなんでもない、ただの学生、しかもこの世界にとっての新参者だ。
 こんなのは僕なりにこの世界を調べた結果の、勝手な憶測でしかないのさ」

――こいつらの狙いは僕なんだ――

晶は、キメラと対峙したときの鎌田の台詞を思い出していた。
鎌田の言葉が本当なのだとしたら彼は、能力研究者にとって絶好の調査対象になるんじゃないだろうか。

「ともかく、あの変身が僕の夜能力。戻れないんじゃなくて、昼は人間に変身できないんだ」
「じゃあお前今まで昼はどうしてたんだよ」
「ああ、昼は別の変身能力があってね」

鎌田は立ち上がってテーブルを離れ、腕を顔の前でクロス、最初に見せた軽い変身ポーズをとる。

「変身」

両拳を振り下ろすと同時にその身体が光を放ち、次の瞬間、鎌田の姿はそこから忽然と消えていた。

「消えた!?」
「透明化能力だとっ!」

驚く二人の耳に、不思議な音が響いた。今まで聞いていた声とは違う、かすれたような音。

「チがう」

そう、言葉には聞こえたがそれは声と言うより、翅を擦り合わせる虫の鳴き声のような。

ブーン、と微かな音と共に手の平サイズの何かが飛び、テーブルに着地する。
それは、草原などで見るごく一般的なカマキリだった。カマキリは威嚇するかのように翅を広げて…

「やア。これガぼくのひルノうりょく」

喋った。

「かっ鎌田さんんんんん!!?」
「ちょっ!!?えええええっ!!?」

「そんナにおドろくことカな?」

唖然とする二人をよそに、カマキリに変身した鎌田は小さな首をかしげて翅を震わせるのだった。
528『異形の来訪者』:2010/07/23(金) 21:01:19 ID:59x0FtIr

「ふつウにしゃべれナイかラこおろぎミたイニはねコスってオトダしてルノ。チャンときコエてる?」
「は、はい、聞こえてます」
「ヨカッた。けっコウレんシゅウしタンダ」
「どんどん発音怪しくなってんぞ」

カマキリはテーブルから飛び降りて、着地と同時に一瞬で巨大化、片膝をついた蟷螂人の姿に戻る。

「正直疲れるんだよあれ。一日中鳴いてる虫たちってすごいよね」
「いや…鎌田さんのほうが普通にすごいと思う…」
「服とか携帯とか身につけてた物は消えるけど、戻ると帰ってくるんだ」
「とんでもない能力だな…」
「そうかな? 虫人の僕が昼は虫に、夜は人になる。割と妥当な能力だと思うけど」
「そうは言っても…」
「なんだかんだで夜人間になってるときより落ち着くんだよね。
 人と虫の中間、虫人っていうけど、深層意識はどちらかと言えば虫寄りなのかもしれない」
「はぁ……」
「虫人って…お前みたいな蟷螂人の他にも種類がいるのか?」
「いろいろいるよー。兜虫人とか雀蜂人とか友達にいるし」
「うへぇ……」

カマキリやカブトムシやスズメバチ、他にも様々な巨大昆虫が当然のように飛びかう地球。
特に虫嫌いではないのだが……何か末恐ろしい光景を想像せずにはいられない晶だった。

「あ、あの…鎌田さんの世界って一体どんな世界なんですか…?」

巨大昆虫の楽園となった地球。それは一体どんな世界なのか。恐る恐る、晶が尋ねる。
透き通る複眼で二人の表情ををじっと見据えて、鎌田は小さく息を吐く。

「えーと…君たちが想像してる世界とはだいぶ違うと思うよ」

その表情は一瞬ふっと微笑んだように見えた。

「実際はこの世界とほとんど変わらない。自然環境も、科学技術も、文化も。住人を除けば違いはすぐには気付かないと思う。
 違いは大きく二つ。まず、チェンジリング・デイが起こらず超能力が存在しないこと。そして、人間の他にケモノが存在すること」
「獣? 動物ならこの世界にも普通にいるぞ?」
「ああいや、ケモノっていうのは……普通の動物から急激な進化を遂げて、動物の特徴を大きく残したまま高い知能を持って、
 二本脚で歩き、言葉を話し、社会生活を送っているひとたちの総称……かな?」
「それって…獣人…ってこと?」
「ああ、それがわかりやすいか。そうだね、一番多いのが猫人、犬人、兎人みたいな獣人。
 他にも、翼を持って空を飛べる鳥人。硬い鱗に覆われている爬虫人。僕みたいな虫人。そして人間。
 そういういろんな種族が混ざり合って平和に暮らしている、それが僕の世界だ」
「なるほどな…そういう世界か」
「僕の話はこれくらいかな」
「………」
529『異形の来訪者』:2010/07/23(金) 21:01:59 ID:59x0FtIr

ほとんど納得しているような陽太と違い、晶は現実主義。だからこそ、晶は深く考える。
鎌田の話はあまりに現実離れしていて。だがそれ故に現実味があるとも捉えることができる。
なぜなら、誰もが信じられない嘘なんてつく意味がないのだから。
しかしそれにしても…そんな異世界というのは…

そんな晶を見つめて、鎌田が思い出したように言う。

「僕は…どちらかと言えば現実主義者だ。そういう意味では陽太君より、晶君、君に近い性格だと思う」
「え…?」

突然関係の見えない話題を振られて晶は困惑する。

「例えば。僕は正義のヒーローに憧れている。でもそんな僕が実際に目指しているのは、警察官だ。
 そのために体を鍛えてるし、正式な本で調べて勉強もしている。現実的でしょ?」
「は…はぁ…」
「僕はこの世界、人類が当然のように超能力を持っている世界なんて、話を聞くだけでは絶対に信じられなかったと思う。
 だから、僕の話も信じられないのが当然だと思うんだ。君の反応が普通だよ」
「そう…ですか…」
「晶お前…鎌田は苦労してきたってのに血も涙もない奴だな」
「そう言うなって、ハハハ…」

そんな風に笑う鎌田はどこか寂しげで。晶はもう少しだけ考えて。そして、顔を上げた。

「いえ、鎌田さん。信じますよ、あなたのこと。あなたの世界のこと」
「え…」
「いろんな種族が仲良く暮らしてるって素敵な世界ですね。一度見てみたいです」
「そっ……」

そう言って晶はニコリと笑う。額に手を置いて俯く鎌田。

「そっか……ありがとう、晶君」

下を向き呟くように言う鎌田がどんな表情をしていたのか、晶にはよく見えていた。
530『異形の来訪者』:2010/07/23(金) 21:02:50 ID:59x0FtIr


「そうだな。君たちには……これを見てもらいたい」

何のことかわからず晶と陽太は顔を見合わせる。鎌田は椅子に掛けた上着をごそごそと探り、
チンピラたちから取り返した携帯電話を取り出した。

「この世界の物じゃないから繋がらないけど、これは正真正銘、僕の携帯電話だ。
 大切なデータっていうのは、機密文書でも設計図でもない、ただの写真さ」
「写真?」
「そう、去年修学旅行に行ったときの。僕の世界や仲間が写ってる」
「おいおいそんなのがあんなら最初から出せよ」
「それはそうなんだけど…合成写真か何かだと思われるのが嫌でね。あくまでただの写真だけど、今の僕にとっては、
 あの世界にいたっていう大切な証だ。元の世界との唯一の繋がりなんだ」
「鎌田さん……」

鎌田は携帯を操作し、小さなサムネイル画像が並ぶ画面を開いて晶に渡す。
改めて見れば、大き目のボタンが並ぶまるで見たことのない機種、メーカーだった。
小さな画面を二人で覗き込み、決定ボタンを押して一つの画像を拡大する。

「あっ…!?」
「うおぉ…」

立ち並ぶ派手な看板やのれん。人の多さはまさに観光地。
この世界と何ら変わらない、よくある修学旅行の風景だった。違う点はただ一つ。

そこに写る教師も、生徒たちも、あきらかに人間ではなかった。


<続く>

まだまだ続くよ説明回。動きがなくて申し訳ない。
まあ多分次回でこの話は終わるので、も少し付き合ってくださいませ。
531創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 21:58:33 ID:so0SOxpI
羽音でしゃべるとかすごすぎるw
いや、どれくらいすごいのか分からないけどw


容量が危ないので次スレ立ててきました
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1279889733/
532創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 04:50:47 ID:1JTVI0Oq
鎌田www
リアルカマキリになれるってそれただの虫じゃねーかwww
GJですw
533創る名無しに見る名無し:2010/07/24(土) 06:48:17 ID:eL6kEMlM
>違う世界から来ても能力が発現する

うぐああん、まさに俺のやろうとしてたことじゃねえかww
534創る名無しに見る名無し
>>526
GJっす!
いや、これは…なんか、スケールがヤバイことに!??
他スレとパラレル展開とは! これは説明回が必要ですよッ!!