1 :
創る名無しに見る名無し:
キャラテンプレ
使わなくてもおk
・(人物名)
(人物説明)
《昼の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
《夜の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
(分類)について
【意識性】…使おうと思って使うタイプ
【無意識性】…自動的に発動するタイプ
【変身型】…身体能力の向上や変身能力など、自分に変化をもたらすタイプ
【操作型】…サイコキネシスなど、主に指定した対象に影響を与えるタイプ
【具現型】…物質や現象を無から生み出すタイプ
【結界型】…宇宙の法則そのものを書き換えるタイプ
【イントロダクション】
あれはそう、西暦2000年2月21日の昼のことだった。
ふと空を見上げると一筋の光が流れている。
最初は飛行機か何かと思ったんだ。
けれどもそれはだんだんと地面の方へ向かっているようだった。
しばらくすると光は数を増し、そのうちのひとつがこちらに向かってきた。
隕石だ。今でもうちの近所に大きなクレーターがあるよ。
とにかく、あの日は地獄だった。人がたくさん死んだ。
だが、隕石が運んできたものは死だけではなかった。
今、あの日は「チェンジリング・デイ」と呼ばれている。
それは、隕石が私たち人類ひとりひとりに特殊能力を授けたからだ。
物質を操る、他人の精神を捻じ曲げる、世界の理の一部から解放される……。
様々な特殊能力を私たちはひとりにふたつ使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。
隕石衝突後に新しく生まれた子供もこの能力を持っている。
能力の覚醒時期は人によってバラバラらしいがな。
この能力の総称は、「ペフェ」、「バッフ」、「エグザ」、単に「能力」など、
コミュニティによっていろいろな呼び名があるそうだ。
強大な力を得たものは暴走する。歴史の掟だ。
世界の各地に、強力な能力者によって作られた政府の支配の及ばぬ無法地帯が造られた。
だがそれ以外の土地では以前からの生活が続いている。
そうそう、あとひとつ。
これは単なる都市伝説なんだが、世界には「パラレルワールドを作り出す能力」を持つ者がいて、
俺たちの世界とほとんど同じ世界がいくつもできているって話だぜ。
↑
とりあえず、こんなとこですかね?
先走っちゃったかな?
5 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/22(月) 13:48:41 ID:JN+AQtf7
いちおつ
《昼の能力》
名称 …
>>1乙
【無意識性】【返信型】
こっこれは乙じゃなくてうんたらかんたら
>>1乙乙
問題ないでしょうこれで一安心だ。2スレ目突入めでたい。
よくある放置スレだった前スレがこんな良スレに化けるとは誰が予想しただろうか。
前スレでは
31 :創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 23:08:12 ID:ojIn03Q6
2000年、無数の隕石が地球に降り注ぐ。
生き残った人類は一人にひとつ、様々な能力を手に入れた。
まあよくある感じの
38 :創る名無しに見る名無し:2010/02/21(日) 00:50:44 ID:jLo6tqPe
>>35 まぁそうなんだけどね
昼と夜で使える能力が変わるっていうのを思いついたわけよw
ここらへんがすごくGJだったな。
あと一発目に投下した三島柚子さんの中の人
チェンジリング・デイの名称出した98氏
イントロダクション創った107氏
イラスト投下したakuta氏
そしてスレ住民全員
とてもとてもGJでした。
これからもよろしくお願いします。
>>1乙!
そして纏めてくれている人も乙!
つまりみんな乙なんだぜ!
これから連載してくれるんですねわかります
モフコミックスワロタ
11 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 12:49:19 ID:8zFk6+MF
おおう何やら熱い戦いが
陽太大根www
乙一! じゃなかった、
>>1乙です!
>>前スレ770(◆KazZxBP5Rcさん)
「beyond the wall」完結、お疲れ様でした!
敵サイドの強そうな能力者たちが、どこかオマヌケで憎めないキャラですよね
ジョ○ョみたいな能力バトル、( ゚д゚)スゲー…… って感じで読んでましたww
(自分には、ちと能力が複雑でムズカシカタですがww)
またよろしくです!
>>9 え、なになに? マンガ連載始まるの? wktk
fog カコイイよ 冷酷そうな感じがイイ!
>>避難所投下をお知らせしてくれている方
いつもありがとうございます!
避難所に投下したものですが、転載しちゃいます
前スレからのつづきです
↓
この国自慢の超特急に乗る。
ほとんど揺れず、音も静かだ。座席もゆったりと広い。ここ数年で、ずいぶん快適になったという。
娘は窓側の席に座り、ずっと窓の外を見ている。
――飛行機とはエラい違いだ。
俺はすっかり寛いだ気分になって、コーヒーを飲みながらドア近くのテロップ掲示板を眺めた。
テロップに流れるニュースは、またも野犬がひとを襲ったというニュースを伝えていた。
妻の地元のあのホテルじゃない。別の場所、しかも比較的大きな都市での出来事だった。
不気味だった。
野犬なんて、妻の実家くらい田舎の町ならば、めずらしくはない。
俺もながくこの国に住んでいたので、それは分かる。
しかし、その事件が起きた場所のような都会に野犬が入り込むなど、考えられないことだった。
加えて、同じような事件がなんの関係もない土地で同時に起きている。
――この俺の心配が、「転ばぬ先の杖」であればいいのだが。
……ん? なんか違うな。「石橋を……叩いて壊す」だったか?
+ + +
『薙澤 パウロ』 『薙澤 藍凛(あいりん)』
受付簿の名前記入欄に、名前を書く。
やはり、漢字は苦手だ。
この国に住んでいた時と同じく、妻の方の姓を使った。
俺の国にいるときは、俺のfamily nameを使う。
「鑑定で行われる会話はすべて筆談になりますが、よろしいでしょうか」
――なぬ?
いま、なんつった?
受付の女性は、俺の容姿といびつな漢字を見て察したのだろう、不安そうな面持ちで尋ねてきた。
「……筆談しか、出来ない?」
俺は一応、聞いた。答えは分かりきっていたが。
「鑑定士および依頼者の安全を確保する目的で、筆談のみとさせていただいております」
申し訳ありません、という表情で受付嬢は言った。
――ええい、仕方がない。全部ひらがな・カタカナだけで書いてやるさ。
それがダメ、っていう決まりは無いよな?
+ + +
まず、俺が鑑定を受ける。
これでもし違っていたら、別の鑑定士を当たることにしていた。
仮面をつけた男に促され、無言でブースに入った。
占いのブースを想像していたのだが、そんなまじないめいたものはまったく無く、どちらかといえば教会の懺悔室を思い起こさせた。
椅子に座り、無言で待つ。
すぐに窓口の下からレポート用紙が出てきた。
――昼の能力
【意識性】【結界型】
その場の音を支配し、操作する能力
――夜の能力
【意識性】【操作型】
対象の意識レベルを落とす能力
――??
昼は正解だが、夜は……?
たしかに俺は、娘を寝つかせる目的で「夜の能力」を使ってきた。
念じながら、指で額にちょんと触れる……
それで、娘はたいがい寝ついた。
鎮静剤の類がキライな俺にとって、この能力はかなり重宝した。
――しかし……「意識レベルを落とす」って、思ってた以上だぞ。
ヘタすりゃ、昏睡状態に陥って死んじまうかもしれない。
娘は大きくなっていて、今はもうこの能力を使わなくて済んでいるが……
これが本当だとしたら、なおさら俺は、自分の能力を封印しなきゃならないと思った。
ともあれ、俺は自分の『能力』の鑑定は終わった。
次は、娘の番だ。
娘を椅子に座らせた後もなお、この期に及んで、まだ俺は迷っていた。
娘の能力。
知りたいような、知りたくないような……
やがて出てきたレポート用紙を、娘に見られる前にひったくり、俺たちはブースを出た。
+ + +
「おとーさん、うなぎ食べたい!」
娘は俺の腕を引っ張りながら、勝手なことをのたまう。
娘は、鑑定のことを何とも思っていないようだった。
「能力」についても、あれこれ聞いてこない。それよりも、この国に来たら何を食べようか、の方が興味あるようだ。
俺たちは駅ビルの上層階にある鰻屋に入った。
席につき、俺はレポートを、娘は御品書きを、それぞれ真剣な眼差しで点検していった。
やがて注文した重箱がはこばれてきた。娘は箸を手に両手を合わせると、大きな声で
「いただきまーす!」
と言って食べ始めた。
隣の席にいた若い男女が、くすくす笑っていた。
――うなぎは、「こくないさん」。……OK。
タレもかかりすぎてない。
身はふっくらにくあつ。やっぱ、こうでなくちゃ。
さんしょうはいいかおり。
ごはんの量もぴったり。
――うん、文句なし!
おいしー! あー、しあわせ……。
嬉しそうに箸を動かす娘。
「幸せな奴だな、お前は」
俺は肝焼きをつつきながら、ビールを呷った。
+ + +
さて、と。
俺も、こっちに来たらぜひ行きたい場所が一つあった。
銭湯だ。
俺の国では、そもそも風呂というものの考え方が異なるが、俺はこの国の風呂や温泉が好きだった。
しかし、問題がある。
娘をどうするかだ。
前に来たときは小さかったから一緒に男湯に入ったが、7歳ともなるとそうはいかない。
かといって、娘を一人で女湯に行かせるのも、何となく不安だった。
――どうにかできないか……
思案しながら、銭湯の前を歩く。
「あ、おんせんだよ」
「温泉じゃない、銭湯だ。入りたいか?」
「うん!」
「アイリン、一人で入れるか?」
「え? おとーさんは?」
「俺は男だから男湯、お前は女なんだから女湯だ」
「ひとりで入るの……?」
娘は不安そうな顔をした。
そこへ、中学生くらいの少年が声をかけてきた。
「あのー……もし良かったら、僕が見ていましょうか?」
――おっと、男の子だと思ったが……。
スカートをはいてなかったら、間違えたままだったかもしれない。
中学生くらいか。あどけない顔立ちだが、背は高めだ。
髪は耳くらい。この長さなら、男でも普通にいるだろう。
「僕もちょうど銭湯に入りに来たので」
にっこり笑った邪気のない顔を見て、俺は
「あぁ、すみませんが、よろしくお願いします。アイリン、挨拶しろ」
と言った。
+ + +
「ふいー……」
浴槽に浸かり、足を伸ばす。湯が身体をじんわり温めていく。
――やれやれ。とりあえず、今回の目的はすべて果たした。
俺は、志乃さんが言っていたことを思い出していた。
(「能力」に関する犯罪を、専門に扱う部署があるんですって)
(ははぁ、なるほど。普通の警察じゃ手に負えないでしょうからね。C.S.I.みたいなもんですか)
(ふふ、よくわかりませんけどね。なんでも……「アホ」だか「ボケ」だかって呼ばれているらしくて)
(……? はぁ……)
この国の、ネーミングセンスがいまだに分からない。
長く住んではいても、妙なカタカナ語を目にするたび、違和感を覚える。
けれど、これはそれとはまったく次元が違う。
それはともかく、「能力」犯罪の専門部署があるというのは、さもありなんという感じだ。
悪知恵のはたらく連中を取り締まってもらいたくはあるが、
自分の能力について詮索されたり届出をしたり、というのは面倒だし、気分のいいものじゃない。
俺は複雑な気持ちだった。
風呂から上がって牛乳を飲んでいると、娘と、先ほどの少女が出てきた。
「どうもすみません、子守を押しつけてしまって。助かりました」
俺は頭を下げる。
少女は、
「いえいえ、僕も楽しかったです」
と言った。
+ + +
少女と別れ、銭湯を出ると、日が暮れていた。
娘は歩きながら、俺の前に大判のせんべいを突き出した。
「おせんべ。もらったの」
「お、良かったな。ちゃんとお礼言ったか?」
「うん、『ありがとう』って。 お姉ちゃんのおともだちが、くれたんだって」
娘は、せんべいを大事そうに抱えて歩く。
「トンカチでたたいてわらなきゃ食べられないんだって」
「へえ?」
「お姉ちゃんが、そういってたの」
俺はそれを手にとり、割ってみようとした。
「ん゛っ? なんだこりゃ、堅っ!」
「ほら、トンカチがなきゃ食べられないんだよ」
娘は得意そうな顔をする。
――こりゃ、顎砕き(jawbreaker)もいいとこだな。
こんなモノ食った日にゃ、歯が折れるか、顎関節症になるかしそうだ。
+ + +
↑以上です
>>17までが本文、
>>18-20はbonus trackです
時間軸がねじれているので、ネタとして流してくださいな
水野さん(と、かた焼き)を借りました
むこうでレス下さった方々、ありがとうございました!
22 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 22:51:22 ID:8zFk6+MF
乙
もうこっちに投下でいいのかな
前スレ682の続きいきます
「適当にかっこよさげなこと言ってるだけに見えて、あながち間違ってもいないから手がつけられな
いところだよねー。まああの日以降、全人類が世界の理を乱し始めたって言っても言い過ぎではない
んだけどさ。っておーおー、盛り上がってきたところ、水を差すようで申し訳ないね」
口上を決め、臨戦態勢を整えた陽太の気勢を削ぐように唐突に聞こえてきた、眼前の敵白夜のもの
とは明らかに異なる低く落ち着いた声。
新手か? この状況で? 警戒しつつ、陽太は声の主に視線を巡らせた。
仕立てのよさそうなグレーのスーツに身を包み、銀縁の理知的な眼鏡をかけた大柄な中年男。
温和な笑顔を浮かべてはいるが、その体格とオールバックでかっちりとまとめた髪型が、言いよう
のない威圧感を放っている。
こいつが真打か。陽太はさらに警戒心を強めざるを得なかった。
男は一歩一歩ゆっくりと、にらみ合う陽太と白夜のもとへ近づいてくる。
「それにしても遥ちゃん、私ここに来る前に言っといたよね? 許可なく能力は使っちゃダメだって。
それと、岬陽太君にはケンカを売りに行くわけじゃないんだって。ちゃんと話聞い――」
「遥……。懐かしいわね。その名前で呼ばれていたのは、いつの時代のことだったのかしら。永久に
巡り廻る輪廻の鎖の中で、私は確かに遥という名で生きていた。でも、遥としての生涯は、あまりに
苛酷で惨めだったわ。なのに私は転生を繰り返す度、前世の記憶を引き継いでしまう。遥としての人
生も例外ではない。こんな記憶、忘れてしまいたいのに。記憶の海の奥底、暗闇と静寂に彩られたそ
の世界に、そっと棄ててしまいたい。なのになぜ、貴方は私をその名で呼ぶの? なぜ私は、前世の
記憶に縛られなければならないの? 教えて、ドクトルJ……」
『遥ちゃん』と呼ばれた黒衣の少女が、今にも泣き出しそうな顔で中年男に語りかける様を、陽太
はわけもわからずきょとんと見つめていた。
だが、『岬月下』でありながら岬陽太と呼ばれている自分と彼女とは、同じ苦しみを抱えているの
かもしれない。そんなシンパシーも同時に抱いた。
「始まっちゃったよこれ……。面倒くさいなー。まあ私も多少迂闊だったけどな。ってこら! 私を
『ドクトルJ』とか呼ぶのやめ! 恥ずかしい! 研究所の中でだけならまだしも、ここ公共スペース!
老若男女が集うのどかな公園! あんま人いないけど。ちゃんと主任と呼びなさい主任と」
「貴方こそ、ちゃんと私を現世の名前で呼びなさい。それとも、名前を忘れたのかしら? 研究者の
癖に、物覚えが悪いのね。いいわ、改めて教えてあげる。私の名前」
「はいはいちゃんと覚えてますぅー! 夜の闇を祓う者白夜さんですよねー! 次からちゃんと呼ば
せて頂きますぅー! すいませんでしたぁー!」
さっきまで漂わせていた威圧感はどこへ行ってしまったのやら、中年男はあっさり白夜のペースに
飲まれ、幼児化してしまった。かなり低レベルなやりとりだったが、陽太はこの間すっかり蚊帳の外
に置かれていたことが気に喰わず、
「おい、お前ら。敵である俺を前にして、そんな笑えねえコントやってていいのかよ?」
と、軽く凄んでみた。
「このゴスロリはあんたの差し金か? ドクトルJさんよ」
「ちょ、君までドクトルJ呼ばわり? 勘弁してよ。私は――」
「質問に答えろ! 簡単に答えられるだろ! あんたの差し金ならイエス、そうじゃなきゃノー!
それだけだろうが!」
陽太にさらに迫られたドクトルは、何かを諦めたように大きなため息をひとつつき、
「君をひどい目に遭わせるつもりはなかったよ。ただ彼女は少し御しにくくてね、勝手な行動を取っ
てしまった。その結果が今だ。だが私たちは決して君と敵対する存在じゃない。こんなことを言って
現れた連中が、実際に怪しい存在じゃなかったためしがあるかと言われれば否定できないんだが、ど
うか信じてもらいたい。私たちは純粋に君の能力に興味を持っている。君に会いに来たのはそのため
だ。だから、そんなに警戒しないでほしいな。どうかな、岬よ……岬月下君」
眼鏡をくいっと直しながら滔々と語るその様は、彼が姿を現した時と同様の落ち着きと威厳を取り戻
していた。だが彼が自分で言うとおり、こんな風に現れた者が信用できる存在である可能性は、0では
ないかもしれないが非常に低いだろうと陽太は考えていた。
「私は納得できないわね」
陽太をさしおいて、なぜか白夜がドクトルの言葉につっかかる。
「ドクトルJ、貴方がいつからそこにいたか私は知らないけど、彼は私の能力の前に手も足も出ずただ
醜くもがいていただけよ。己の能力を発現することも適わずに。なのになぜそこまで彼の能力に関心
を抱くのかしら」
「はる……じゃねーや。白夜ちゃん。それは君が先制攻撃を仕掛けたからこそだろ? 彼が先に能力
を使っていれば、結果はどうかわからない。お菓子や軽食を出す能力が、戦うという目的ではさっぱ
り使い物にならない能力だと断じるのは早計だ。それに……」
ドクトルはそこでいったん言葉を切って、陽太がもともとこの公園に来ていた目的、それによって
生まれた産物の数々に視線を投げた。
「彼は努力してるだろ。使えない能力を使えるものにしようとする努力。方向性が合ってるかどうか
はこの際捨て置くとして、ひたむきに努力する少年、応援してやりたいじゃないか。白夜ちゃん、君
がそうであるようにさ」
「ふん、何の世迷言かしら。私のこの能力は天性のもの。努力なんて一切していないわ」
「昼間能力はそうかもしれないけどね。まあいいかこの話は。また怒られそうだ。で、どうかな月下
君。全面的に信用してくれとは言わないよ。ただ君の敵でもないってことだけわかってくれれば」
もちろん陽太は、彼らを全面的に信用する気なんてなかった。むしろどう考えてもきな臭い連中と
しか思えない。既に彼は実害を被ってしまっているのだ。
だが、目の前に立つこの中年の静かな迫力は、無碍な返答をためらわせるのに一役買っていた。
下手に断れば強硬な手段に出てくる恐れもある。そんな気がした。
どうしたものか。陽太が頭を抱えていると、彼の胃が「仕事をよこせ」と文句を垂れる音が大きく
響いた。
それを聞いたドクトルはブフッと噴き出し、
「そっかそっか、あれだけたくさんのお菓子やらなんやら出してたから、お腹空いてるんだ。じゃあ
なんか食べに行こうか。そこでゆっくり話をしよう。何食べに行きたい? あ、あんまり高いものは
勘弁してくれな」
そう朗らかに言って、陽太の返答も待たずにすたすたと歩き出す。
その背中に、トコトコ小走りで白夜がついていく。
「ドクトルJ、私はハンバーグが食べたいわ」
そんなことを言いながら。
「緊張感ねえ奴らだな……」
そうぼやきつつ、陽太も二人の後を追った。
つづく
投下終わりです
厨二っぱなしってのも疲れるので
少し展開変えてみたw
28 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/24(水) 23:20:42 ID:8zFk6+MF
投下乙
ドクトルJ(仮)厨二に囲まれて大変だなww
ハンバーグってまた可愛いw
前スレ480KBいったからもう放っておいても落ちるね
埋めてもいいけど
うへぇwドクトルJって誰だw
白夜、よくそんな面白いセリフが考え付くものだw
投下乙!
ちゃんと言わせてもらいますぅー!投下乙でしたぁー!
読みながら「めんどくせぇwwwこいつほんとめんどくせぇwww」
と言ってしまった、ドクトルJ大変すぐる
その後のハンバーグで胸がキュンとなったことも忘れずに記しておこう
しかしこの作者、厨二病のスペシャリストすぎるだろ常識的に考えて……
>>9 俺とした事が漫画を見落とすとは…
投下乙!すげえかっこいいよ鉄っちゃん…
>フォグさんはどれくらいの悪役
お好みで悪役させていいんじゃない?
こまけぇ(ry
>>24 ハンバーグww なんだかんだ言っても、やっぱ中学生だな!
かわいいぞ、はる……じゃねーや、白夜ちゃん!
>使えない能力
>方向性が合ってるかどうかはこの際捨て置くとして
おいww 陽太がんばれー
唐突に投下トルトル
「……気がついた?」
俺を覗き込む瓶底眼鏡の黒髪が目の前にあった。
空に見えるのは夕暮れの空。
俺の体はベンチに横向きになっていた。リンドウに膝枕される形で。
「……うおっ!?」
俺は跳ね起きる。最初に目に入ったのはパンダの乗り物。
「ここは?」
「閉鎖されてたデパートの屋上遊園地」
運ぶの大変だったんだから、と肩を叩くリンドウを見て、俺は笑う。
動物のふかふかした乗り物や、小さなメリーゴーランド。妙に寂れた感じが郷愁をそそる。
もうすぐ日が暮れる。菱形の金網越しに橙色の空が広がっていた。
ベンチで座った俺らの傍を、春風が吹きぬける。
その度にリンドウの黒く長い髪が揺れ、甘い香りが俺の胸を焦がす。
心地よい沈黙が、俺らの間に流れていた。
「……大変な一日だった」
自然と言葉が口から出た。
夜明けから日暮れまで、戦いっぱなしな気がする。
「そうね。あなたはこれからも大変でしょうけどね」
「そうだな」
俺は苦笑する。
これからはリンドウやルローと言った愛すべき変人共と行動するのだ。
それが不安で、そして楽しみだった。
「あなたの過去を調べさせてもらったわ。本当に普通の素晴らしい家庭で育ったのね。
あなたは本当はどう思っているの?きっと、こんな世界は辛いだけだと思うけど」
「そうだな……」
俺は思案する。そして一つの結論に至る。
「これも運命だった。そう諦めるさ」
リンドウはその答えを聞いてクスクス笑っていた。
「実はね、『運命レポート』にはあなたが仲間になる確率は低かったの。だけど、私たちが干渉を掛ける事によって徐々にその確率を上げていった。だから、今の答えは私たちの努力のおかげね」
「……たぶん、関係ないな。一つの因子を除いて」
デパートの屋上は意外と高く、周囲には高層ビルが並んでいて、それらがポツポツと明かりを付け始める。
空の色は段々と暗くなっていく。
リンドウが眼鏡を外し、俺の方を見た。
「その『時間操作』の能力。自らを世界の時間よりも早く活動させる事が出来る能力ね。でもまだ不安定。薬の影響のせいか、別のせいなのか」
そう“鑑定”した。
「あなたの本来の能力の発動が早まったのは、あなたが能力を受け入れたせい」
「俺が?」
「私たちと出会う前のあなたは、能力を否定していた。だからその体に能力が宿りにくかった。だけど今回の出来事を通じて能力者や能力の有効性に気付いたはず。それで――」
「それで能力が宿った。まだ不安定だけど、と言うわけか」
「今までの投薬は、本来の能力の発現を促すとともに、あなた自身が能力を受け入れる準備をするためでもあった」
なるほど。確かに俺は昔ほどは能力や能力者を毛嫌いしていない。
それどころか、能力をリンドウやルローを守るために積極的に使っていた。
「能力者なんて、ただの人間だろ。今日はそれを学んだよ」
受け入れる。これは進歩か退化か。
「人間……そうね。人に見える能力者はまだいい方だわ」
「人に見えるって、姿形がか?」
「心よ」
リンドウが上空を見上げる。
「私の家族はチェンジリング・デイを境に変わってしまった。政府に属していたお母さんは毎日、能力者の研究ばかり。それも、残忍で非道な研究をね」
「そう……なのか」
「だから私は家を出た。母さんは私を使えない道具だと罵っていたけど、あの人は違った。フェイヴ・オブ・グールはね」
その言葉に賞賛と尊敬の念が含まれていて、俺の中の黒い感情がとぐろを巻く。
「でも、非道な事も沢山した。敵の能力も、仲間の能力も再利用するために沢山処理した。彼ら彼女たちの死体の眼は私を責めたわ。『どうしてこんな酷い事をするの?』ってね」
「……そうか」
「……家を出たとき、私は死んでいた。心がね、死んでいた。それでもフェイヴ・オブ・グールは私の心を救ってくれた。だから私の命を掛けて、彼に忠誠を尽くすと決めている。ねぇヨシユキ」
リンドウが立ち上がる。夕焼け空を背景にして、黒い髪が揺れていた。
「世界と対峙する勇気はある?」
その真剣な瞳を見て、嘘は駄目だと思った。そもそも、陳腐な俺の嘘など通用しないだろう。
俺の心の中を探る。俺の心を解体し、分析する。心の奥底まで覗いた時、答えは見つかった。
「ある」
それは本心だった。だが、続く言葉を俺は言えなかった。
俺のもう一つの本心を。
「そう、良かった。これでやっと ……終わる事が出来る」
何?
そう言おうとした瞬間、リンドウが俺に覆いかぶさってくる。
抱き合ったままベンチの椅子から倒れて、俺とリンドウは地面に体を打ちつけた。
「な、なんだ?どうしたリンドウ」
腰に回していた手が熱く濡れている。嫌な予感がしながら恐る恐る掌を目の前にかざした。
赤い鮮血。リンドウの血だった。
「おい!大丈夫か!」
俺は必死に呼びかける。立ち上がろうとするが、リンドウがそれを許さず俺の肩を抑える手が離れない。
「まだ、立ち、あがっちゃ、駄目。狙わ、れて、る」
喘鳴しながらリンドウが声を掛ける。唇からは鮮血。だが、何かをやり遂げたように微笑んでいた。
駄目だ。人が、そんな顔をしてはいけない。
リンドウを無理やり引き剥がして、横に優しく寝かせる。
腹部に穿れた穴から流れる鮮血が、血だまりを造っていた。
リンドウが鎮痛剤らしき錠剤を合成して口に含む。
「お、おい。お前らの組織に医者はいねぇのか。もうすぐ夜になる。そうすればお前の置換能力でそいつの所にまで飛んでいける!」
リンドウはフフ、と薄く笑った。
「……嫌だ」
「……何でだよ」
リンドウの瞳が、力を失っていく。闇のような瞳の中に、藍色の空が映っていた。
「幸せが無い世界で生きていくのは疲れたわ、ヨシユキ。誰かを恨んだり、恨まれたりする世界もね。
それにね、ヨシユキ。あなたの『夜』の能力は、私の死を因子として発現する。そう『運命レポート』に書いてあった。私はそれに従うだけ。
あなたは大丈夫。私の最後の力を振り絞って、アジトへ連れていく」
それは、贖罪者のような底知れない忠誠心。
敵わない、そう思った。
リンドウのように世界と対峙するために自らの命すら犠牲にする事は、俺には出来ない。
太陽が微かな光を放つ。それはリンドウの命の残り時間を示しているようだった。
リンドウが死んでしまう。これから先に続くはずの未来が、消えてしまう。
――嫌だ。
リンドウが死ぬのなら、俺の命を犠牲にしろ。
大っ嫌いな能力よ、俺のために力を貸せ。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
時間がゆっくりと遅くなる。
太陽の最後の残滓が消えかける頃、全ての時間は停止した。
やがて、俺の能力と世界が対峙を始める。
世界が刻む時間の音が、ぶっ壊れる音を遠くに聞いた。
「世界と対峙する勇気はある?」
リンドウがそう聞いている。
リンドウが生きている。
世界と対峙なら、さっきしてきた所だ。
だから俺は自信を持って、こう答える。
「ある。お前が好きだからだ、リンドウ。お前を守るために、俺はどんな敵とも戦う」
予想外の言葉にリンドウが硬直し、次の瞬間、赤くなった。
「な……な……」
「伏せろ、リンドウ!」
俺はリンドウを抱きかかえて横に跳躍する。
それまで俺が居たベンチに銃弾が突き刺さる。
「……俺は認めないからな、リンドウ」
「な、何が?」
硬直していた腕の中のリンドウに向けて、俺は言ってやる。
「世界と対峙するために、お前がお前の命を捨てるなんて認めない。きっと、お前の幸せは何処かにあるはずだから、それが見つかるまで俺が守るよ」
リンドウは顔を赤くして、はぁ〜と溜め息をついた。
「私の本心を見抜くなんて、『運命レポート』には無かったわ」
「じゃあ新しく作り直すんだな」
太陽が沈む。夜の能力さえ使えれば、リンドウの置換能力でここを脱出できる。
太陽の残滓が沈む。沈んだ。昼と夜の能力が切り替わる。
「今だ!」
「……嘘。どうして発動しないの?」
リンドウの驚く声によって何かしらの問題が発生した事を確認。
そしてデパートの出入り口付近に、黒服の男が立っているのを眼の端で確認した。
そいつは黒い帽子で目元が見えない。
傭兵事務所“イモータル”の最後の一人、ゼンだった。
「女。『お前の能力は回収した』」
ゼンが呟く。低いが若い男の声。
リンドウが目を細めて、相手の能力を“鑑定”しようとする。
「……やめておけ、女。『お前の視力を回収する』」
リンドウが急に目を押さえてうずくまる。
その時になって初めて、リンドウの手首に赤黒い細い糸が絡みついている事に気付いた。
俺がその糸を足で斬ろうとしたが、まるで生きているかのように糸は回避。
その糸は黒服の袖口からゼンの手首の中へと収納されていく。
「リンドウ!大丈夫か!?」
「目が……視えない」
俺が彼女の顔を確認。
リンドウが目を開けてきたが、傷や損傷などは認められない。
ただ、瞳孔が広がっており、リンドウが光を失っているのは分かった。
「てめぇ、何しやがった!」
激情のまま黒服の男へとルローから貰った銃を向ける。
「その女の視力を回収した。俺の能力を解析されるのは、俺に不利だ」
「……返せ」
「その銃で俺を殺せば、自然と返る」
発砲。俺は躊躇なく顔面を狙った。
「……ただし、俺を殺せればの話だ」
ゼンが首だけ避けて回避していた。
銃口からの弾道の射線を見切って、指が動くと同時に動きやがった。
なんて度胸と反射神経をしてやがる!
「……リンドウ。一旦退く」
「……私を置いていって」
リンドウの言葉は無視。無理やり肘を掴んで立ち上がらせ、彼女の腕を肩に巻く。
だが、唯一の出入り口であるデパート屋上の出入り口は男が立ちふさがっている。
飛びおりようにも十階建ての建物から飛び降りるのは自殺に等しい。
吹きぬけていく夜風が、俺の冷や汗に当たる。
ただ俺はゼンに銃を突き付けたまま、立ち止まらせる事しか出来なかった。
優位を確認したゼンが言葉を紡ぐ。
「所長と違って、俺は貴様らの仇討ちしか考えていない。所員24名の命、その命で償え」
ゼンが動こうとした時、俺の左手が掌で制す。
「待て。ここは話し合いと行こうじゃないか」
「男。話し合いとは対等の立場の者が行うことだ。命乞いなら聞くまでもない」
歩み始めるゼン。
「だから待てって。俺の夜の能力は強力だ。全員死ぬぞ」
もちろんハッタリだ。俺に夜の能力なんてない。
余裕そうに演技の笑み。頼む、通じてくれ。
ゼンが歩みを停止。怪訝そうに黒い帽子を少し上げて、険のある視線が俺を射抜く。
ゼンが含み笑いを漏らした。
「バッフも持っていないのにどうやって?」
……こいつも鑑定士の力を持っているのかよ。
再び歩き出したゼンに向かって、俺は祈った。俺の能力が開花する事を。
頼む。なんでもいいからこいつを止めてくれ。
無意識にゼンに向けていた左手を握りしめた。
小さな爆発音。俺らの足場が揺れた。
「なっ」
驚きの声をあげたのは俺だった。
ゼンは俺に一瞥をくれただけで視線を外し、警戒して周囲を見回す。
こもった爆発音は段々と近くなってくる。
再度の爆発音。そして、ゼンの足元に放射状に亀裂が走り、粉砕。
ゼンは後ろに跳んで回避した。
大きく開いた穴から飛び出す茶色の影。
「にゃははははっ!ルロー様の登場にゃ!」
屋上の足場を粉砕しながら、ルローが飛び出してきた。
白黒パンダの遊具が、空けられた大穴へとずり落ちていく。
「ルロー!いったいどうやって此処に?」
安堵のため息と共に、疑問を吐く。
「ヨシユキの携帯のGPSを辿ってきたにゃ」
フェムとの戦いの後、ルローから黒い携帯を貰った事を思い出す。
「『運命レポート』通りに行ってなかったからにゃ。心配でアジトに向かわず戻ってきたにゃ」
ルローは俺たちの隣に立つと、リンドウに話しかけた。
「リンドウ。生きてるかにゃ?」
「……生きてる」
「『運命レポート』通りに行かにゃかったとは言え、生きてた方がうちは嬉しいにゃ」
満面の笑顔でリンドウの頭をポンポンと軽く叩く。リンドウは少し照れたように俺の肩に顔を沈めた。
「とりあえず、問題は目の前の男だ」
ゼンは真っ黒な服についた汚れを払いながら立ちあがった。
「現れたな、猫。“イモータル”副所長として、仲間の仇を取る。貴様だけは許さん」
「お前もあの腐れ髭豚と同じ運命を辿ればいいにゃ」
互いの間に膨れ上がる殺気。
ビリビリとした熱い空気を感じる。
ルローが駆けだす。先制の投げナイフは、ゼンの黒服を掠めるだけ。
ゼンは銃をずらして撃ってきたが、ルローは難なく回避した。
「……生体強化人間か」
「そんなもの当たらないにゃ」
間合いを詰めたルローが左手を突き出す。
ゼンが応射しようとしたが、その動きが急速停止。
銀のナイフを持った右手ではなく、何も付けていない素手の左手で攻撃してきた事に疑問を持ち、回避を優先する。
回避されたルローの左手は、壁に触れた。その瞬間、白く光る。
爆発。コンクリートの壁に大穴が開いた。
爆風と飛んでくる小石から逃れながら、ゼンは鋭く睨んでルローを“鑑定”する。
「……くっ!猫、貴様。触れた物を指向性を持たせて『爆発させる』能力か!」
「お前も鑑定士かにゃ。でも、能力を見られたからってどうってことないにゃ」
爆発で生じた粉塵に紛れながらルローが急速接近。
「さっさと死ぬにゃ」
逃げられない絶好の位置で、ルローが再び左手を突き出す。
その左手に、男の袖から伸びた赤黒い糸が絡みついた。
「猫。『お前の能力を回収する』」
ゼンの胸板に、ルローの左手が触れる。
何も起こらない。
「にゃっ!?」
特大の隙。
渾身の蹴りが、ルローに叩きこまれた。
ルローの体が軽々と宙を舞い、屋上中央の小さなメリーゴーランドの柱を折りながら停止した。
「ルロー!」
呼び掛ける声で茶色の体が跳ね起き、俺の元へと一蹴りで飛んでくる。
「にゃはは……しくじったにゃ」
無事そうな様子を見せても、ふらふらとした体の揺れは隠せていない。
「詰みだ。貴様らに能力を使える奴は居ない」
ゼンが俺らへと殺意の視線を向けてくる。
俺はため息をつく。
諦めの息を。
「ルロー。悪いがリンドウを頼む」
疑問符を浮かべるルローに、視力が戻っていないリンドウを預ける。
二人は能力を封じられ、リンドウは目が見えず、ルローは手負いだ。
俺は弱い。どうしようもなく弱い。
このままでは三人とも死ぬだろう。
だからと言って、仲間の命を諦められない。
だから、まだ動ける俺が二人が逃げる時間を稼ぐために、ゼンを足止めする。
だから、俺は俺の命を諦める。
「お別れだ。リンドウ、ルロー。楽しかったよ。能力者なら、また探してくれ」
「そ、んな。ヨシユキ……」
目の見えないリンドウが手を伸ばしてくるが、俺は一歩下がってその手から逃れる。
「これが、俺の運命だ」
俺がルローに視線で指示する。
ルローはただ黙って頷いた。
「じゃあにゃ、ヨシユキ」
リンドウを担いで、ルローが爆発で空けて来た穴に入ろうとする。
「そうはさせん」
ゼンが銃を構え、動きづらい二人を撃つ、事は出来なかった。
限界以上の脚力で走ってきた俺が、その腕の銃ごと腕に抱え込んだからだ。
「逃げろ!」
「ヨシユキ!」
俺の視線とリンドウの視線が一瞬交差し、やがて穴の中へ消えていった。
俺はゼンの腕の一振りで吹き飛ばされ、背中から地面に激突する。
ゼンは穴を見て二人を追おうとしたが、足を止めた。
「……やれやれ」
ゼンはため息をついた。
「男。貴様には貸しがある」
背骨を打った激痛に呻きながら、俺は上から降ってくるゼンの声を聞いた。
「事務所が襲われた時、所長トルトルは俺たちを見捨てて逃げた。裏切りは死だが、俺には仲間である所長を殺す事が出来なかった」
痛みを無視して立ち上がる。
「だが、貴様は俺の代わりに所長に処罰を与えてくれた。その点だけは感謝している」
「……感謝ついでに俺らを見逃せよ」
脳震盪で意識が揺れたが、痛みも何もかも無視。目の前の男に集中する。
「それはできん。だが、ハンデをやろう」
折れたメリーゴーランドの柱から、適当な長さの金属の棒を俺に放り投げて来た。
「俺は貴様を一撃で殺す事はしない。その代わり、味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚の順に奪っていく」
震える腕で、俺は鉄パイプを構えた。
「最後に奪うのは、貴様の命だ」
俺が走り出す。銃は避けられるので撃たず、まずはこの棒で脚を潰す事を考える。
「うおおおおっ!」
思い切り振りかざし、頭を狙うと見せかけて脚を狙う。
小さく跳んで躱された。赤黒い糸と右手が俺の頭を押さえつける。
「まずは『お前の味覚を回収する』」
そのまま地面へと叩きつけられる。
痛みを堪え、回転しながら離脱し、すぐさま立ち上がる。
俺はペロリと口の中を切った傷を舐めた。
「……なるほど、味がしない」
そこには熱い痛みだけがあった。
「脚を潰してしまえば追跡できなくなるか。賢いが、やるなら殺す気でかかってこい」
ゼンは黒い帽子の位置を修正し、俺を睨んでくる。
相手は戦闘のプロだ。俺のような素人は素人らしく、素人の作戦で行く。
鉄パイプをやたらめったら振り回し、近づいていく。
「……ほう」
ゼンはギリギリの位置で後ろに下がっていく。
クソッ、なんで当たらないんだよ!
俺が腕を振り回して疲れかけたところへ、顔面への赤黒い糸との拳の攻撃。
「『お前の嗅覚を回収する』」
殴られた勢いのまま、後ろへと倒れる。
先程までしていた鉄と潮の匂いが消え去った。
鼻を押さえて、立ち上がる。
「次は触覚だ」
絶対王者のように、ゼンは立っていた。
最初にリンドウの置換能力を押さえられてよかったと、ゼンは思った。
最初のだけは完璧な詐術だった。
気付かずに糸を絡ませれたおかげで、リンドウは置換能力が使えなくなったと勘違いしてくれた。
その後に声を掛ける事が出来たが、もしあのまま敵のアジトへ『接触していたデパートごと』一緒に跳んでいってしまったら、さらなる敵と戦うところだった。
ヨシユキの荒々しく投げ出された拳を掴み、フックを繰り出す。
「『お前の聴覚を回収する』」
これでヨシユキの五感を麻痺させる事に成功した。
ゼンの能力は手首についた赤黒い糸に触れた物に、声で干渉する『絶対暗示』の能力。
『回収』などという言葉は詐術。相手に不安を与えるためだけの言葉だった。
五感を封じ込められたヨシユキが暴れだしたが、難なく背後を固める事に成功する。
命を奪おうと首の骨を折ろうとし、無駄な労力だと気づいてやめた。
「……やれやれ」
五感を奪ってしまえば、もう何も出来ないのだから。
暴れるヨシユキをそのまま放置し、二人の後を追おうと穴へと向かう。
銃声。ゼンはゆっくりと振り返る。
視力も触覚もないはずのヨシユキが、銃を構えていた。
ただし、見当違いな方向へ。
ゼンが見ている間にも、二、三発、方向を変えて撃っていた。
「……視力は無い。目を閉じて撃っても、当てれる人間などいない」
無視して進もうとし、足元に着弾するのを感じて再び振り返る。
感じたのは、底知れぬ不安感だった。
ヨシユキの視力を失ったはずの眼が、確かにゼンを見ている。
気のせいか、ヨシユキの周りに青い霧が発生しているみたいだった。
「……はっ。俺とした事が」
この矮小な男に感情移入でもしてしまったとでもいうのか。
仲間を守る姿が、以前のイモータルが壊滅したときの自分の姿とダブったとでも?
首を振って意識を戻し、次の瞬間、すぐに首を横に向けて避けた。
銃弾が掠めて、黒い帽子が吹き飛んだ。ゼンの驚愕した顔が露わになる。
「……な……」
あり得ない。そんなはずはない。
『絶対暗示』の能力を破るなんて事は。
そんなゼンを嘲笑うかのように、ヨシユキの唇は歪んでいた。
「視え…るぞ。お前の…姿」
ゼンは反射的に銃を構え、撃つ。
ヨシユキの腹部に着弾。
撃つ。
右肩を打ち抜いた。
撃つ。
左脚が血で弾けた。
ガチガチガチ。
銃弾は無くなった。
空っぽになった銃をそれでも構え、フェンスに倒れたヨシユキに近づいていく。
倒れて動かないヨシユキを引きずり起こす。
その瞬間、襟首を掴まれ、開いた口の中に堅い先端が入れられた。
銃の先端だった。
「!!!」
「お前に…あいつらを…殺させは…しねぇ」
掴んだ力は強く、ゼンの体は恐怖で動かない。
脂汗の浮かんだ苦渋の表情で、ヨシユキはゼンに言う。
「お前を…逃す事は…リンドウの…『死』に繋がるから…それだけは…駄目だ」
ヨシユキの顔に、何かをやり遂げたような笑みが浮かぶ。
ゼンは逃れようとするが、掴まれた襟首は怪物のような力を持っていた。
「じゃあな…ゼンさん」
引き金が引かれる。
ゼンの意識は、そこで途切れた。
ここまでです。
GJだ
ゼンさん強いなぁやっぱり覚悟か何かかね
そして主人公覚醒はやっぱりヒロインのためが相場と決まっていて興奮したよ
>>33 おお! 熱いよ、熱すぎ。
虚実織り交ぜてのバトルなんて、やってくれるじゃあねーかおい!
“鑑定”ってところで、スカ○ターを想像してしまったww
GJです!
ルローに背負われて階段を下っていたリンドウが突然叫んだ。
「……待って!待ってルロー!」
「待たないにゃ。ヨシユキからお前を頼むと頼まれたにゃ。うちはお前を死ぬ気で守るのにゃ」
「そうじゃない!視力が、能力が戻ってる!」
「……にゃ?」
ルローが疑問そうな声で左手をコンクリートの壁に触れる。
爆発が起こった。
「にゃっ!本当にゃ!早く能力を使って戻るのにゃ!」
ルローがリンドウに置換能力をせがんだが、リンドウは首を横に振った。
「……出来ない。八階までなら能力が使えるけど、それ以上への階へは無理だわ」
「もしかして……にゃら八階まで行くにゃ!」
リンドウとルローは八階まで瞬時に移動し、非常階段への道へと急ぐ。
そこには青い霧が大量に溢れていた。
「な、なにこれ」
「おそらく、ヨシユキの能力にゃ。『夜』の……」
リンドウが無言で階段を駆けあがり、ルローが四足でその後を追う。
屋上のドアを開けたリンドウが見たのは、倒れ伏している黒服と、血だらけでフェンスに寄りかかる
「ヨシユキ!」
駆けよって意識を確認すると、弱々しくヨシユキが目を開けた。
「リンドウ…」
リンドウは手提げから震える手で救急箱を取り出す。
追いついたルローは屋上の出入り口で不思議な空間に目を奪われていた。
「全て青色の霧の世界にゃ。これが『能力を否定する』能力かにゃ……」
霧は風に揺らがず、ヨシユキの周りを一定の間隔で広がっている様子だった。
約直径30メートルの世界で、能力の効果は否定され、打ち消されるのだ。
『運命レポート』に書いてあった通りの能力だった。
リンドウが治療していくヨシユキをルローはじっと見ていた。
「ルロー…」
弱々しげな口でヨシユキが呟く。
「なんにゃ?」
「その男の…口を…布で塞げ…」
ヨシユキが差し伸べたのは気絶しているゼンだった。
「殺さなかったのかにゃ?」
「銃が…弾詰まりを…起こした…」
運がいい男にゃ、と思いながらルローはヨシユキの言うとおりにゼンの口を堅くきつく結ぶ。
「……駄目。ここじゃ治療する道具が足りない」
応急処置を終えたリンドウが不安そうな声を出して、置換能力でヨシユキをアジトへ運ぼうとする。
不発。
「ヨシユキ、能力を解除するにゃ」
「無理だ…」
痛みで歪んだ顔でヨシユキが告げる。
ヨシユキの意識とは関係なく青い霧は発動し続けていた。
「……ヨシユキ。言いたくはにゃいが、バフ課が尾けてるにゃ。すぐに移動しなきゃにゃらにゃいが、アジトに歩いて帰る事は出来にゃいにゃ」
「わか…わかっている。ルロー…俺を…殺せ…」
「そんな!」
リンドウの叫びを聞いたヨシユキが、弱々しい笑みを返す。
「敵におまえらが捕まるよりは…俺が敵の手に落ちてお前らに迷惑かけるよりは…そっちの方がいい…」
この手しかなかった。ヨシユキの死体を持ち帰り、能力を薬として取り出すためには。
「……一つ聞きたいにゃ、ヨシユキ。お前はリンドウが好きなのかにゃ?」
「ああ…。出会ったときから…好きだ…」
小さく笑って、ヨシユキが告げた。
これがイレギュラー。『運命レポート』を狂わせた原因かにゃ。
能力者が嫌いなヨシユキが、能力者のリンドウを好きになる確率は、とそこまで考えて、ルローは考えるのを止めた。
「じゃあうちが殺るにゃ」
「すまない…恩に着る…」
そういってヨシユキは目を閉じた。
リンドウは目を背けた。見れるわけがなかった。
「……じゃあにゃ、ヨシユキ」
銀の爪が振り下ろされた。
銃声。
銀の爪が弾かれる。
その音に呼応して、リンドウとルローが臨戦態勢に入る。
「ラツィーム隊長。シルスク隊長からは絶対に手を出すなと」
「吾輩はあいつらにあの少年を殺させてはいかん気がしたのだ。直感での」
骨董品の銃に黒色火薬を詰めながら、丸太のような腕をした白い髭面の男が答える。
その横に立つ秘書みたいな女は、胸元が大きく開いた服を着ており、ブロンドに碧眼だった。
その二人が隣のビルの屋上に立っていた。
「バフ課5班。隊長ラツィームに、副長のマドンナかにゃ」
左右のビルを確認し、クエレブレが居ないだけマシにゃ、と俺らに聞こえる声でルローが話した。
「左様。お主は今ここで殺しておいた方が良い気がするの。直感での」
丸太のような腕が膨れ上がる。
そして手に持ったのは催涙弾。ルローに怯えのような表情が貼りつく。
猫にとっては玉ねぎの成分が含まれている催涙弾は血漿を破壊するからだ。
ラツィームの腕が旋回。黒い筒が投擲される。
俺の能力の青い霧では慣性は殺せないらしく、突き抜けて来た。
リンドウの銃弾が迎撃。空中で粉砕し、白い煙をぶちまける。
「撤退するにゃ!」
能力を使えないのでは何もできないと、煙と反対側のフェンスを斬り裂き、退路を作る。
「リンドウ!来るにゃ!」
しかし、リンドウは俺の傍から離れない。
「行け…リンドウ。お前の能力が無ければ…ルローが逃げられない…」
俺の手を掴んでいたリンドウが立ち上がり、その指が離れる。
白い煙から逃れ、ルローの元に駆け寄ったリンドウが振り返り、何かを呟く。
『ごめんなさい』
多分、そういうふうに言っていたと思う。
やがて二人はフェンスから飛び降りて見えなくなった。
俺が伸ばした腕は、何もつかめずに手を降ろした。
「ラツィーム隊長。目標リンドウと目標ルローは逃走。置換能力で逃げたのを部下が確認しました」
「シルスクにはまだ報告するな」
威厳のある深い声。ラツィームがビルの縁を蹴って跳躍する。
着地。デパート屋上の舗装された地面に罅が入る。
ビルとビルの間を悠々と越えてきやがった。
「ふむ。異様な空間だの。吾輩の能力が使えん」
倒れて気絶したままのゼンには目もくれず、俺に一直線に進んでくる。
「若いの。大丈夫かの」
「大量出血以外は…大丈夫だ…」
蒼白な笑みで俺が答えると、髭を震わせて笑いやがった。
人がよさそうな瞳で俺を覗き込んでくる。
「お主の。吾輩が思うにの。今、ここで殺しておかねばならぬと思うの。直感での」
「まぁ…放置しておいても…死にますがね…」
敵に対しては、当然の処置だろう。薄れる意識の中で考える。
問題は俺の死体をどうするかだ。
「死んだら…土葬で…十字架とかを載せてくれると…ありがたい…」
「ふぅむ……」
白い髭を撫でながら、ラツィームが続ける。
「吾輩は少年の死体をバラバラにして隠匿した方がいいと考えるがの。直感での」
最悪だった。
「俺の意見は無視かよ…クソじじい…」
「ふぅむ……」
ラツィームは俺が使っていた鉄パイプを軽々と持ち、正眼に構える。
「頭を割るかの。生意気の」
そういって振り上げる。
スイカ割りのような光景だった。
スイカが俺じゃなければ笑えたがな。
目を閉じた。
もう、だるい。
呼吸する事も、生きる事も。
確かに疲れるよな、リンドウ。
この世界は。
俺は待った。死の鉄槌がくだされる事を。
俺の記憶ごと、殺してくれ。
……
……
……あれ?
うっすらと目を開ける。
「バーストモード」
ラツィームがジェットエンジンによるニ対の拳を受け取めて吹き飛んでいた所だった。
「借リハ返スゾ。風魔ヨシユキ」
薄れゆく意識の中、俺の体が大きな背に背負われるところだった。
浮遊感を感じ、足元のデパートの屋上が段々と小さくなっていくのを見た。
フェムの両脚からもジェットエンジンが突き出し、俺は空を飛んでいるのだと感じたところで、俺の意識がフェードアウトした。
「おい、少年。起きろ」
目を覚ます。視界が捉えたのは白い部屋で、ガラス窓が流れゆく黒い雲を映していた。
横たえられた俺が次に目にしたのは眼鏡を外したリンドウの顔だった。
「…リンドウ?」
「私の娘と接触したのか。だが、私はリンドウではない。ルジだ」
白衣の女が答える。髪の毛まで真っ白だった。唇に咥えた煙草には火が付いていない。
体に痛みは無いが、力が入らない。薬でぼやけた感覚だ。
俺の能力はまだ発動していて、青い霧が周囲に漂っていた。
「全く、とんでもないガキを連れて来たな、フェム。『能力を否定する』能力だと?おかげで三十二種の実験が水の泡だ」
「スマナイ。ダガ、私ニハ彼ニ恩ガアル」
白衣の女の後ろでフェムが答えた。
「彼ヲ治療シテヤッテクレナイカ?ルジ博士」
「あ〜あ〜。あんたはいつから私に命令できる立場になったんでしょうねぇ」
やれやれとルジが首を振る。だが、その唇に歪んだ笑みを浮かべた。
「だが、こんな面白い材料を放っておけるわけがない。もちろん治療するさ。なぁ、少年」
そういって俺に何やらパネルのようなものを見せつけてくる。
「プランα。この躯はどうだ?」
機械のような体。俺は首を振る。
「プランβ。こいつはどうだ?」
植物の格好をしているのは何かの冗談なのか?俺は首を振る。
「プランγ……は売り切れか」
「『プロトモデル:弐』が残ってますよ」
観葉樹が喋った。
いや、違う。緑の葉が髪となった女が背を向けていたのだ。
その女は幹のような角ばった細い手でパソコンのキーを打っていた。
「黙れテラ。チェンジリング・デイ以前の技術。最後の最高傑作を使えだと?」
にやりと八重歯を見せて笑うその姿は、肉食獣を思わせた。
「面白いじゃないか。それにしよう」
俺の腹部からまた出血が起こった気がした。
薬で痛みを麻痺させられているが、俺の体はこのままではマズいらしい。
「君はこのままでは死ぬ。治療には記憶と心を失う可能性があるが、どうだろう。君、生きたい?」
俺は弱々しく頷く。
生きたい。生きて、もう一度会いたい。
「テラ。あと何分だ」
「およそ1分30秒で能力が切り替わります」
俺は窓ガラスの雲が、眼下に広がっている事に気付いた。
俺の視線に気づいたのか、ルジがにやりと笑う。
「そう、ここは雲の上。我々“政府”御用達の空飛ぶ実験室さ。空中要塞ならば、いつでも能力を昼か夜に操作できる」
雲の向こうに太陽が差し込んだ。
俺の青い霧が消失する。
首筋に痛み。見ると、ルジが俺に麻酔薬を打ちこんでいた。
「ここからは『人体改造』の能力の出番だ。オヤスミ。少年」
「おはよう。ホーロー」
朝日がさす沿岸の第七埠頭。その暗い倉庫。
“ドグマ”に資金提供を行っている黒社会の一部。仁教会の本部があり、会議を行っていた。
「資金の6%を提供する事にする。何か異議は?」
「“ドグマ”は上得意様だ。何も問題は無い」
「むしろ、たったそれだけに抑えてくれている事に感謝しなければな」
議論は収束した。
七人の和服の、いずれも暴力的な雰囲気を纏った男たちが立ち上がる。
突然電気が消えた。
非常用電源に切り替わり、周りに詰めていた護衛たちに力がこもる。
「ネズミか」
だが、誰も侵入してこない。
不審に思った仁教会の幹部の一人が護衛を外に能力で移動させる。
瞬間。悲鳴が上がった。
「何かいるぞ!」
おくれてくぐもった声がして、ドサリと倒れる音。
「全員、能力を発動できるようにしろ」
和服の男の忠告で護衛たちが戦闘態勢に入る。
そのうちの一人は、雷撃を用意していた。
雷撃は思考と同じ瞬間に発動でき、倉庫の出入り口から現れた瞬間に攻撃できる。
だが、侵入者はなかなか現れない。
首の後ろが総毛立ち、背後に何かの存在を感じた。
「……気づくのが遅いな」
首への一撃。それで意識を失った。
「上だ!」
護衛の一団が倒れた後、誰かが叫んだ。
何者かが倉庫の梁の上に立っている。
その男は黒い服を纏い、藍色の長いマフラーを巻いて口元が見えない。
藍色と黒の装束は、どこか忍者を思わせた。
「撃て」
銃弾や、強力な能力が発射されるが、その全てが男に触れる前に消滅した。
否。全て切り裂かれていた。
男が装備されていたのは緩く湾曲した二本の長い短剣。
どちらにも同じような線が中央に溝を作っており、短剣同士が共鳴していた。
そして切り裂くと同時に発光し、銃弾や能力で投げた岩が焼き切れたのだ。
全員に緊張が走る。
「貴様、何者だ?」
初老の和服の男が冷や汗を流しながら声を掛ける。
「……風魔=ホーロー。……お前ら全員、終わりだ」
その男の姿が揺らめいて消えた瞬間、勝負は決していた。
「マタ、殺サナカッタノカ」
フェムは任務完了を知ると同時に倉庫に侵入してきたが、倒れて気絶している男どもをみて呆れたように言った。
「……殺す道理が無かった。……全員、まだ目を覚まさないだろう」
俺はそういうと、置かれていた金融口座や書類をかき集めていく。
これでドグマに資金が流れない。
「ソレデ、コイツラハ、ドウスル?」
フェムが男らを指さすが、俺は答えない。正直、どうでもいい。
電話でルジに連絡を入れる。
「……任務完了」
「はいはいはいはい、ご苦労ご苦労。帰還しろ。次はしばらく休みだから連絡入れるまで待機な」
荒々しく電話が切れる。
袋に書類を全て積み込み、フェムが呼んだ警察が来る前に退散することにした。
だが、しばらく倉庫街を進んだ後、俺たちの前方に立ち止まる影があった。
「あらァ?モう、お帰りカなァ?」
コートを着込んだ男。フェイブ・オブ・グールだった。
「ナン……ダト……」
フェムが雷に打たれたかの様に動けなくなる。
俺だって、こんな所でこんな大物と会うとは想定外だ。
だが、ドグマの幹部と出会えば即時殲滅。これが命令だ。
機先を制すために、腰から二本の特注のナイフを抜き出し、共振させる。
『時間操作』の能力を使い、加速。コートの胸板を引き裂く!
接触した途端にナイフの先端の超感度センサーが作動。高温のプラズマを発生し、肉を焼き切った。
切り裂きながら走り抜けて、背後を取る。
手ごたえはあった。確かに切ったはずだ。
「おやおやァ、元気ガいいなァー」
振り返った男には余裕の笑み。効いていないのかよ。
「……取り返しに来たのか」
「オオーゥ!正・解・デス!さァ、早く返シなさーイ」
まさか資金源を直接取りに来るとはね。
俺はしぶしぶと書類を袋ごと投げてやる。
受け取ったフォグは疑問符を浮かべた。
「のォー!コれじゃなィ!」
「……じゃあ何だ」
「ユーです!ミすタァー風魔」
「……は?」
俺は指さす方向を見る。
コートの男は明らかに俺を指していた。
「……何を言っているのか分からないのだが」
「そウか。記憶ヲ喪失したノデスね。……残念でス」
コートの男は両手を広げて残念そうに首を振った。
そうして去ろうとした。
「……あァ、ソウだ。コれは置イてぃきマーす」
そうして投げ捨てた紙を、俺は掴んだ。
金縛りから解けたフェムが俺に聞いた。
「奴ハ何処ダ?」
俺は紙から目を上げ、フォグを探した。
フォグは何処にもいなかった。
空中要塞に戻った俺はベットに横になり、フォグが落としていった紙を見ていた。
「……日付と、場所。……今日の夕方の時間だな。……そして『ごめんなさい』か」
頭に軽い頭痛がした。
何かの記憶が再生される。
女だ。
悲しげな視線で俺を見る、空虚な瞳の女。
大切な約束をしていなかったか。
夕暮れのあの日。
確か俺は――。
ベットから跳ね起き、装備を付ける。
部屋から出ると、フェムと廊下で会った。
「何処ヘ行ク」
「……下へ降りる」
そのままフェムを避けようとした途端、鉛色の腕が俺の進路を遮る。
「オ前ハマダ、単独行動ヲ認メラレテイナイ」
「……フェム、頼む。……お前と戦いたくない」
鉄の顔からは表情が読み取れないが、小さく戦闘モードと呟くのが聞こえた。
俺は一歩下がり、短剣の一本を取り出す。
「……やめろ。……お前じゃ俺に勝てない」
フェムの腕のジェットエンジンが点火。長く伸ばされた腕が、激突する。
要塞に備え付けられた、監視カメラに。
「……行ケ。次ニ会ウトキハ、敵ダ」
「……フェム。……ありがとう」
俺は駆けだす。
「懐かしいものだ」
走り去るホーローの姿を見ながらフェムは回顧していた。自分にも誰かを想っていた時期があった事を。
それは叶う事が無かったが。
ホーローを逃した責任は重いだろう。おそらく自分には一生『心』が与えられまい。
それでもフェムは良いと思っていた。
風魔ヨシユキに、自分の想いを重ねていたから。
「さぁ、報告しに行くか」
その背中には、機械らしからぬ熱い魂が宿っていた。
錆びて、崩れかけたデパート。
立ち入り禁止の黄色の帯をくぐり抜けて、デパートの正面入り口から入る。
中央の天井には、あの日の爆発での衝撃で大きな穴が開いていた。
エレベーターのボタンを押すが当然動かず、非常階段を探し、一段一段登っていく。
彼女はここを俺を担いで登って行ったのかと思うと、苦笑が漏れる。
最初の出会いを境に、俺の運命は変わった。
良かったのか悪かったのか、分からない。
これからも分からないだろう。
それはきっと、何もかもが終わった時に分かるはずだから。
だから、終わらせるために、まず始めようと思った。
屋上のドアを押しあける。
「遅いよ」
あの日と同じ場所に、彼女は立っていた。
夕暮れが差し込む、午後5時。
俺はその場に立ち止まって、彼女を眺める。
「…あの趣味の悪い眼鏡は辞めたのか?」
胸にあふれる感情を誤魔化すために、皮肉を言う。
「違うわ。ちょっと外していただけ。こっちの方が可愛く見えるでしょ?」
リンドウが笑う。
そして、沈黙が落ちた。
二人とも、言いたい事は山ほどあるはずなのに、何から言っていいのか分からない。
陽が、橙色に俺たちを染め上げる。
「……ごめんなさい」
リンドウが謝った。
「あの日、死ぬのは私だったはずなのに。あなたを死にそうな目に合わせてしまった」
「違うよ」
俺は即座に否定する。
「リンドウ。あの時の俺は、お前の命が何よりも大事だったんだ。リンドウの死こそが、俺の死だった。
だから、『ごめんなさい』に対して『ありがとう』を言うよ」
俺の言葉を、リンドウが涙目で聞いていた。
「リンドウ。生きていて、ありがとう。お前の命が、俺の命だ」
俺が笑う。リンドウも泣きそうな顔をしながら笑った。
「……それで、これからどうするのかしら?“政府”に戻るの?」
「残念ながら“政府”には急な休暇申請を出してきた。それよりも行きたい組織があってね
その組織で、守りたい女を守る事にする」
「じゃあ、そうしなさい」
リンドウが俺に向かって手を差し伸べてくる。
「それではようこそ、我らが組織“ドグマ”へ」
夕暮れ時。
春の陽気を宿した風が、俺とリンドウの間を流れていく。
屋上の出入り口で立ち止まっていた俺は、ベンチの傍に立つリンドウへと歩みを再開する。
彼女の差し出された掌を掴むために。
終わり。
ここまでです。おそらく続きは書けないと思われます。
感想くださった方、可愛いイラスト投下してくださった方。
本当にありがとうございました!励みになりました!
◆KazZxBP5Rcさん、完結おめでとうございます!
また、その他の作者の方々、続き待ってるんで、投下されたら絶対読むんで、是非とも投下よろしくお願いします!
個人的な話になりますが、四月から生活環境が変わるので、携帯のROM専になると思われます。
中頃からの編入だった俺を暖かく迎えてくれて本当にありがとうございました。
このスレの雰囲気は本当に投下しやすかった。
長い話になるとまた容量食っちゃうんでこれで。
またご縁がありましたらよろしく!それでは!(><)ノシ
>>52 投下&完結乙です!
一時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと再会できて良かったなー
これから彼らはどうなるか想像すると面白そうだ
お疲れさまでした! 残念だけどしょうがないかぁ。
でも、またの復帰を待っているよー
ひとまず自分も最終話、投下します。
「ぅん……ぁふっ……あれ……ここ……は……?」
頭がうまく働かない。
ぼーとしたまま、周囲を見回した。
「……広い部屋」
そこは100人集まって会議ができそうなほど広い部屋だった。
しかし、私以外の人が誰もいない。
床はすべて赤い絨毯で覆われている。
さらに良く見ると、部屋の片隅には厨房が見える。
「……? なんで部屋に厨房……?」
じょじょに頭にかかった靄がすっきりしていくのを感じる。
その厨房には巨大な冷蔵庫があり、電子レンジも数台見える。
ここの機材ならおそらく大量の料理を作ることができると思う。
「……ん? あっちは……お風呂……?」
別の方向に目を向けると、そこにはやはり20人ぐらいは入れそうな湯船があった。
そこからは今も湯気が漂っているようだ。
仕切りは、多分ガラスかな? 湯気で多少曇った透明の壁がそこにあった。
「……で、あれがお手洗いね」
ご丁寧にW.C.と書かれた通路があった。
「まるで、この部屋だけで生活できるようにしているみたい……」
なんでそんな事をするのか……やっと覚醒し始めた頭で考える。
と言ってもはっきり分かることはない。
わかる事と言えば、私は、誘拐された。
だから……ここは……?
「もしかして……もう売られちゃったとか……?」
その可能性を考えて背筋に寒いものが走る。
ぶるっと悪寒を感じ、そこで、やっと気付きたくない事実に気付いた。
「あ、服……着てない……なんなのよー。もう」
下着すらなかった。それはもう完璧に。
身体検査でもされたのだろうか。と思わず考えたくない方向に考えてしまう。
「とりあえず何か体を隠せるものを……」
視線を走らせると、すぐにある物に気がついた。
何枚ものカーテンが壁に掛けられ、奥が見えないようになっていた。
あの一枚を頂戴して体に巻きつければいいかも。
私はゆっくり近づき、一枚に手を掛け引っ張った。
意外とあっさりとれるカーテンを素早く巻きつける。
「これでよし……と……え?」
そこで、なにかカーテンの奥に見えた。
そこには人の手のような何かがそこにあった。
「誰か、いる……?」
心臓が早鐘のように鳴り続けている。
痛いぐらいの緊張。それでも私はゆっくりと、カーテンへと手を掛けた。
「3・2・1……えいっ!!」
勢いよくカーテンを外す。
じゃらっと音がし、カーテンが勢いよく引かれ、その奥にあるものが明らかになる。
そこにあったものを目にしたとき、一瞬絶句してしまった。
「人形……?」
それは等身大の私と同年代の少女姿の人形だった。
様々な色とりどりの服を着て、様々なポーズをとり、一種絵画のような雰囲気すら漂っている。
その人形と私の間にはやはりガラスの壁が立ちはだかり、人形自体には手を触れることはできない。
良く見ると近くに入るための扉が設置されていたが、そこは施錠されていた。
「……なんだ。びっくりした。誰かが覗いているのかと思ったー」
ふう、とりあえず一息を吐き、もう一度人形を眺める。
――そして、気付いた。
……えっ――
それを見たとき、何がなんだか理解できなかった。
見て理解できるわけもなかった。
そこにあった一つの人形。
ただ、決定的に違うのは、その姿には見覚えがあることだった。
「なんで……なんで美柑の人形がここにあるのよ……?」
そこには美柑そっくりの人形が立っていた。
それだけなら、まだ似ているだけですんだかも知れない。
だけど、それだけで否定できないことがあった。
「どうしたのよ……美柑……なにがあったの……?」
その表情は恐怖で歪み、目からは涙を流したかのような跡が残っていた。
ただの人形ならそんな表情はさせないと、作ろうとしてもそうできるものではないと思う。
「……どういうこと……なの?」
美柑の姿をした人形を見ることしかできない。
金縛りにあったかのように動くことができない。
余りに理解不可能、いえ、考えたくない可能性が頭をよぎり、必死で否定する。
――そして、後ろから音がした。
金縛りから解け、弾かれるように後を振り向く。
そこには一人の20代前半っぽい細身の青年と30〜40ぐらいのごつい体つきの黒服の男が立っていた。
黒服の男は無表情だが、青年は薄気味悪い笑顔を張りつかせ、私の方に近づいてくる。
思わず身構える私に、青年は声を掛けてくる。
「やぁ、やっと起きた。別に寝てるままやってもよかったけど、それじゃ面白くないからな〜」
その声を聞いた時、始めに思い浮かべたのは蛇だった。
気持ち悪い感触が纏わりついている気がする。
「君といっしょに買った子の方が先に起きたから、先に芸術品になってもらったよ」
その一言で、悪い予感が現実として認識された。
頭に血が昇る感覚。どうしても抑えられない激情に動かされる。
「……やっぱり、美柑を――」
それ以上は怒りの余り、言葉にならない。
「そう、わたしの『人を針で刺すことで人形にする』能力で芸術品になってもらったのさ。
どうだい。わたしの作品はすごいだろう?」
自慢げに話す青年の言葉。
もうだめだ――男の言葉は耳に入るだけで気分が悪くなる。
「そんなことのために……人を人形に……?」
「そんなこと? はっ! 何を言っているんだい? わたしの作品になるんだよ。最高の名誉じゃないか!」
……この男は狂ってる。たった数度の言葉で青年の狂気を嫌というほど感じ取る。
「さ、デク、いつも通りにあの子を抑えて置いてくれないか?」
そう青年は言うと、無表情だった男はこちらに走ってくる。
私はよけようとするが、黒服の方が早い。
あっさり手を掴まれる。
「なんだ。簡単に捕まったねぇ。もうちょっと遊べるかと思ったのに」
男の残念そうな声に、余計苛立ちが募る。
「……だれが!」
その声は途中で遮られた。声が出ない。
――体が動かない。指一本動かすことができない。
「ああ、デクの能力は『触れてる相手を動けなくする』能力さ。
生命維持に必要なことはできるけど、体を動かすことなんでできはしないさ」
体が動かない……触れられているから……?
青年がゆっくり近づいてくる。顔には歪んだ愉悦をたたえている。
息がかかる距離まで来た。
罵声を浴びせたいけど、口を動かすこともできない。
男の顔がさらに醜く歪む。
「さあ、君はどんな芸術になるかなあ」
悔しさと怒りと、侮蔑の感情が渦巻く。思いっきり殴ってやりたい。
でも、触れられているから動けない。動くことができない。
触られている?
その事実を思い浮かべたとき、この状況を覆す方法を思いついた。
できればしたくない。でも、そうすれば確実に敵を倒せる。
覚悟を決める。そう……触れられているなら――
――瞬間、能力を発動
「がぁああ!!」
黒服の男が吠えた。その声は私よりも下の位置から響く。
そう、その男は地面に完全に埋まっていた。
私の能力は『皮膚に触れた物を瞬時に落とす能力 』それは人ですら例外ではない。
私の能力により落ちた男は、床をぶち抜き、私の下になるまで『落ちた』のだった。
「な……それは……君の能力か……!?」
突然の変化に青年は動揺しているかのように一歩下がる。だけど、私には立ち直させるつもりはない。
私はそのままもう二歩進み――青年に『触れた』
人の形をした釘が、もう一本地面へと打ちつけられた――
「……でも、どうすればいいんだろう」
今、私は目の前にある、"人形"を見て、途方に暮れている。
そう、どうすれば元に戻せるのか。いえ、そもそも元に戻せるのか。それすらわからなかった。
あの男たちに聞くことも考えたけど、床にぴったりはまりこんでいる奴らを掘り起こすことはできそうにない。
私の能力は私より下にあるものには、何も影響を与えることもできないのだった。
そこに声が聞こえた。
『大丈夫。多分この部屋の感じからすると、その男の能力は昼になれば自動的に解けるわ』
声はすれども姿は見えず。きょろきょろと見回していると、目の前に動く物があった。
「え……なに? これ……小型のロボット……?」
全長30cmくらいの二足歩行をする機械があった。
脚部はローラーになっていて滑るように走る。
胴体と思われる部分は、丸みを帯びた長さ15cmくらいの正方形をし、
そこから細長い首が飛び出て、先端にカメラやセンサーのような物を取り付けられていた。
先ほどの声も、そこに取り付けられたマイクから流れたようだった。
『うん、そう。これはあたいの『機械を動かす能力』で動かしてるの』
「へぇー、それは便利そうね」
『それで話を戻すと、彼女たちは大丈夫よ。
調理場や風呂がここにあるってことは少なくとも人形から人へと戻るってことだから』
「……そう。良かった。で、あなたは何しにここに来たの?」
『任務でこの埋まっている男を追っていたの。後は誘拐された少女達の救出も』
「そうなんだ。よかった……」
私は安堵のため息をつく。
『あ、でもそのガラス張りの所から出さないと……うーん。鍵があるかしら。あいつら掘り起こすの大変よね』
「それなら大丈夫」
『?』
私は、ガラスに近づくと、それに『触れる』
――能力を発動
『うわ……すごい……陸が心配ないって言うのもわかるわ……』
そこにはすでにガラスの壁はない。私の下まで落下したのだ。
「さ、これで大丈夫……これからここで待ってればいい?」
『君は先に帰った方がいいと思う。警察に合うと色々面倒よ。
誘導はあたいに任せて。無事送って行ってあげるわ』
「でも、美柑達が……」
『大丈夫、後処理は、り……あたいの所の所長がするから。所長の腕だけは信用していいから』
「……うん、わかった」
ひっかっかる言い方だけど、一応信用することにする。
その所長というのは……多分、私が知っている相手だから。
あいつだとすると、今までの事が色々つじつまが合う。だから、任せることにした。
――そして私たちは、無事に家に帰ることができた。
世間では行方不明者が一斉に見つかったことで、ちょっとした騒ぎになったみたいだけど……
美柑も誘拐された一人として名前が出てしまって、学校では美柑を中心に大騒ぎになってしまった。
でもしばらくすれば、皆騒ぐのを止めると思う。きっとみんなすぐに別のことに目を向ける。
だから、私が巻き込まれた嫌な事件はこれでおしまい。
……でも、一つだけ、確認したいことがあるのよね。
* * *
昼休み、屋上に上ると、一組の男女が待っていた。
当たり前よね。私が呼び出したんだから。
一人はもう見知ってしまった男。もう一人の女性の姿は始めてみる。
25歳くらいで髪をショートにした美人だった。
服装も白のシャツにショートパンツといった動きやすさを重視した物。
あまり女性らしい服装ではないけど、不思議と似合っていると思う。
「それで俺たちになんの用かい? 裸王?」
待っていた男、陸が開口一番失礼な口を叩く。
その言動に、隣にいた女性の右手が唸った。
音もなく崩れ落ちる陸に構わず、女性は私の方に向き直る。
「ごめんなさいね。こいつはこういう男なのよ。
香織ちゃん……こうやってあたい達を呼び出したということは大体のことがわかっているって事よね」
「はい。わかってると思います」
どうやら女性の方はまともそうだ。
私は口調を丁寧にして答える。
「陸が本当は高校生でないことも、あなたたちが犯罪者を追っていたことも……
そして、そのために私たちを囮に使ったことも」
そう、新しくできたカラオケ店があるなんて嘘だった。
その事に気付いた時、私たちがあの場所に誘導されていたことを理解した。
その話を流した張本人が目の前の陸だった。
後は芋づる式に全てが繋がった。
「やっぱり――本当にごめんなさい」
深くお辞儀する女性。しかし、陸の方は特に反応しない。
「ほら、所長も謝って下さい!!」
怒る女性に、陸はそれでも反応しない。
ただ、私の方を見ている。
「――それで、香織は俺達にどうして欲しい?」
真っすぐ私の目を見て、陸はただ、聞いてきた。
陸はそういう奴だった――その言葉にはどこにも嘘がない。
だから私は要求する。
「私が怒っているのは、私を囮に使ったからじゃないのよ。
……私の親友。美柑を巻き込んだこと。だから、これ以上、美柑を巻き込まないで」
「わかった。彼女は二度と巻き込まない。それは約束する」
陸の言葉に私も頷く。
彼がそう本気で思っている以上、これでおしまいの話ね。
「それで、二人はどうするの? 陸は学校を辞めるわけ? もうここにいても意味ないでしょ」
だから、私は話題を変える。昔の事ではなく、これからの事に。
「俺は……まだ、しばらくはここにいるさ。別の仕事も入っているからこのままの方が都合がいい」
「まー、そういうわけ。香織ちゃんには非常に申し訳ないけどね」
まあ、そんな所よね。私は大きくため息を吐くと顔を歪めて見せる。
相手にはきっと嫌そうな顔に見えているはず。
「しょうがないわね……皆には迷惑かけないでよね」
「ああ、裸王以外には迷惑かけないぞ」
「なんで私以外なのよ! 私にだって迷惑かけないでよ!」
いきなり変な事を言い出したから思わず大声になってしまった。
しかし陸は、そんな私の目の前で一枚の写真を取り出した。
「ふっふっふ。これを見よ!?」
「……なっ!?」
これはあの時の、壁を破るために能力を使ったときの私の写真!?
能力を使った直後、つまり写真の中の私は一糸纏わぬ状態だった。
「しょ〜ちょ〜お〜! わざわざディスガイズしてこの写真を撮ってたんですか!?」
「その通りだ」
女性の1オクターブ低くなった声が響く。
しかし、陸は動じない。
「ふっふっふ。すでにデータは大量にコピーしている。
これをネットの海に放流されたくなければ、これからも俺の下僕として働くことだあべし!!!!」
女性がとんっと地を蹴るとサマーソルトキックが陸の顎にヒット。
陸の体が空中に浮くと同時、私はショルダータックルをみぞおちにぶつけた。
女性と私の協力コンボが陸に完璧に決まり、陸は空中で3回転した後転がっていった。
そのまま陸はピクリとも動かない。
私と女性は一瞬目が合うとがっちりと固く握手を交わす。
今、ここに、強固な友情が芽生えた……ような気がする。
「あたいは、加賀 玲菜。これからよろしくね」
「ええ、よろしくお願いします」
はぁ……どうやら平穏は訪れないみたい。
……でも、これはこれでいいのかも――ね。
おしまい
62 :
◆W20/vpg05I :2010/03/27(土) 14:17:46 ID:/6ZpsrK6
投下終了です。今回はバトルすらないな。
結局相棒の方の描写が全然できなかったよ。
でも、ひとまずこのお話はおしまいです。
読んでくれた皆様。ありがとうございました!
うへぇw無理やり引き込まれたw
何か悪役ばっかり書いてたから、こういう正義の味方もいいなぁ。
しかし、閉じ込められたシーンは映画「SAW」のシーンを思い出してしまってびびったぜw
悪役も本当に悪役で良いなぁ。俺はそういう雰囲気を出せんかったのぜ。
ひとまずって事は続きを期待してもいいのかな?w
とりあえず投下おつかれさまでした!また機会があればよろしく!
〃〃∩ _, ,_
⊂⌒( `Д´) < お二方が最終回だなんてヤダヤダ!!
`ヽ_つ ⊂ノ
ジタバタ
⊂⌒( _, ,_) < 生きる意味を、失う……
`ヽ_つ ⊂ノ
グスン
⊂⌒⌒ヽ
`ヽ( _, ,_) < ウウ……
∪ ∪
⊂⌒⌒ヽ⊃
`ヽ ヽ
⊂( _, ,_)⊃ <
ttp://loda.jp/mitemite/?id=1006.jpg
うわっ!これは良いイラストをどうもありがとうございます!
これは締めに凄いイラストを描いていただいたなぁw
書いてる小説のイラストを貰うのは初めての経験で、とても嬉しかったです!
これからも素敵なイラストを描き続けてください!
最終回ラッシュだと!? 俺も続くぜっ!! 嘘です。
前スレ741-745の続き投下しますぁ。
「ハッ、手はあるって? 食材しか出せねェおめェに何があるってンだ?」
「あるさ。そいつは……俺の拳!」
陽太の合わされた手が離れ、固められた左の拳が右の掌に打ちこまれる。
「ばっ、馬鹿っそんなのっ!」
「いいから。俺を信用しろ」
続いて左掌に打ちこまれる右拳。バシン、と大きな音を立てる。
「拳ィ? 素手でどうなるってンだ?」
「舐めんなよ、俺の拳は鉄をも砕く!! あえて封印してたのさ、怪我じゃすまねえからな。だが…」
ビシィ!と擬音が聞こえるかの如く、見事な動作で指を突きつける陽太。
「おまえになら本気を出してよさそうだ」
ベンは一瞬驚いたように目を見開き、ふっと肩をすくめた。
「…そこまで言えりゃ大したモンだ。いいぜ、反撃はしねェ、やってみな。
当然能力は使うがな。最後に直接触って現実を思い知るといいさ」
ダン! 決意を込めた左足が一歩踏み出す。
「いくぜっ!! 封印奥義!!」
握った右拳を後ろに構え、半身でステップ。1、2、3。
「ブウウウゥゥゥトッ!!!!」
踏み込んだ左足が地面を捉え、全身でベンに肉薄。遅れて伸びる大振りの右。
静止するベンの顔面に、投球のようなモーションで迫る右拳。
そして衝突の瞬間、開かれる右手。
「フィストオオオォォォッ!!!!」
パァァン!!
高い音と共に、顔面に右の平手が打ちこまれた。
「ぐっ!」
苦痛の声を上げたのは、右手を押さえてうずくまる陽太だった。反面微動だにしないベン。
やがて動きだしたベンの顔から、赤い何かが落ちるのが見えた。
「なんだァ? 拳がぶっ壊れるのが怖ェからパーにしたか?」
ニヤリ。陽太が不敵に口を歪める
「いや……直撃だ」
「何言ってやがる、全然効いて……ッ…!?」
「!?」
余裕だったベンに突然、変化が訪れた。
「グッ…ガアアアァァァァッ!!!! 目がああああぁぁぁ!!!! 何だこれあああぁぁぁぁ!!!!」
突如顔面を押さえて叫ぶベン。頭を振って大変な苦痛を訴える。
「てめェ何しやがったあああぁぁぁぁ!!!! 熱ッツアアアァァァァ!!!!」
「行くぞ晶、今のうちだ」
陽太の左手に引かれ、苦しむベンの脇をすり抜ける。
チラリと見たベンの足元には、グシャグシャに潰れている、赤い果実のようなものが落ちていた。
「ねえ陽太何したのっ!? あれ何っ!?」
「禁術だ。あまり使いたくはなかった」
「いや禁術って…」
ベンが追いかけてくる気配はない。
僕たちは奇跡的にも危機を脱し、最初の犬が逃げた先の狭い路地裏を駆け抜けて行った。
路地裏の先、大通りの明かりが見えた。これで安心と足を緩めた、その時。
「…っ!? 何っ!?」
大通りから現れたスーツの男が、僕たちの行く手を遮るように立ちはだかった。
僕は陽太に続いて足を止める。
若々しさを感じさせる黒の短髪。フレームの太いサングラス。
ベンのような危険な雰囲気は感じない、普通の体格の男は、ゆっくりと懐に手を入れる。
「!!?」
男が取り出したのは、注射器。
それを男は、慣れた手つきで自分の首筋に打ち込んだ。
注射器をしまうと男は手を広げて、僕たちを歓迎するようなしぐさを見せる。
「やあ、はじめまして。水野晶さん。岬陽太君」
「何だ…お前はっ!?」
「先程は僕の依頼者が君たちに大変な失礼をしたようだね。
彼には丁重にお連れしろと依頼したんだが…依頼した僕のミスだ、申し訳ない」
「お前が奴の依頼者かっ!!」
男は黙って微笑み、陽太の言葉を肯定した。
「岬陽太君、君は実に素晴らしい。一般人、しかもその若さで彼を突破できる人間などまずいない。
一体彼に何をしたんだい?」
「答える義理はない!」
「…そうか。それは残念」
「!!!?」
突然、男が消えた。瞬きの瞬間に、目の前から男の姿が忽然と消えていた。
ぞくり。
直後、背後に走る悪寒。
「手はどうしたんだい?」
声に反応して反射的に振り向く。背後、たった一歩の距離。陽太の右手を掴んで、そこに男が立っていた。
「なっ!!!?」
陽太が男の手を振り払ったとき、男の姿はそこから消えていた。すでに男は最初の位置に立っていた。
男は陽太の手に触れていた指先をすり合わせ、臭いを嗅ぐ。
「なるほど、これは『ブート・ジョロキア』」
「ジョロキア…?」
疑問を投げかける僕に、男はニコリと微笑んで答える。
「ブット・ジョロキアとも言う、北インド産の唐辛子さ。有名なハバネロの二倍以上、世界一の辛さを持つ品種だ。
皮膚に付着すれば多量のカプサイシンが火傷に近い症状を引き起こし、目に入れば失明すらありえる。なんとも危険な植物だが…」
男はピンと人差し指を立て、クイと振る。
「立派な食材だ」
男は、まるで講義するのを楽しんでいるように見えた。
「さて、岬陽太君。幸い大きな怪我はないようだけど、その手は僕に原因がある。
君の治療をしたいのだが、どうだろうか。僕の研究所は近くにあるんだ。よければ水野晶さんも一緒に」
バシィッ!
突然男の眼前に、赤い果実、リンゴが現れる。
陽太が投げたんだ。それを男は右手で受け止めていた。
「怪しすぎるんだよ…てめぇ…!」
「これはこれは、ご挨拶だね。だが素晴らしい具現化速度だ」
ガリリと一口、手にしたリンゴを齧る。
「ふむ、栄養価は通常より低いようだ」
男はリンゴを乗せた右手に、まるで何も乗っていないかのように左手を重ねる。
両手を離したとき、そこにあったはずのリンゴは消滅していた。
「てめぇ…何者だ」
「そうか。紹介が遅れたね」
男はゆっくりとサングラスに手をかける。
その下から現れた素顔は…
「なっ!!!!?」
「えっ!!!!?」
曰く、若き天才。
画面の中に、何度も目にしたことのある、その顔。
チェンジリング・デイから4年。能力に対する画期的な考察と、誰にもわかりやすい講義によるメディアへの露出により、
一躍有名となった人物。10年経った今でこそ当時ほどの露出はなくなったが、変わらず現役で活躍する能力研究の第一人者。
「比留間…慎也…!!?」
「僕を知っていてくれるとは、光栄だ」
信じがたい、信じがたい衝撃の邂逅がそこにあった。
<続く>
やっちゃったZE☆
主人公覚醒って厨二の華だけど、俺は最初から完成してて覚醒しない主人公が好き。
完成しててこれじゃ先なんて見えないけどな!! まさに外道!!
おっとこいつを忘れてた。
ベン
残念ながらモヒカンではない世紀末男。特に組織には属さず、金で裏の仕事を請け負う、通称『便利屋のベン』。
腕力は相当なもので裏社会ではそこそこ名の知れている実力者なのだが、あまり好戦的ではなく女子供を殴るのは本気で苦手。
《昼の能力》
名称 … 壁具現化
【意識性】【具現型】
任意の場所に、周囲の風景に溶け込み、一定時間で崩壊する壁を発生させる。自力で解除はできず夜になっても崩壊しない。
通路を埋めるほどの大型の壁は一日一度だけ発生可能。硬度は非常に高く、能力の干渉も受けず、十時間程度で崩壊する。
小型の壁の発生には制限はないが、こちらは一分程度で崩壊する。
《夜の能力》
名称 … 硬化
【意識性】【変身型】
任意のタイミングで全身を硬化、解除できる。硬化中の硬度は非常に高く、能力の干渉も受けない。
硬化中は一切動けず、呼吸もできないため、実質上時間制限がある。
運び屋のゴーストと似てんなコイツ…
こんな奴でよければ死なない限りは好きに使ってやってください。
せっかくのシェアワなんだから積極的にシェアしたいんだけどなぁ…
どこも戦闘レベルが違いすぎて手が出せねえw
>>52 完結乙!素晴らしかった!感動した!
バーストモード再登場に感動した!
ヨシユキの強くなりっぷりがすごいな。
つーかドグマに最強クラスの能力者が加入した件。
機関やっべぇw
>>62 完結乙乙!ハラハラしたよ!
香織なんだかんだですげー能力だw
変態だ変態だ
>>44 熱いバトルキター! と思っていたら、ラスト投下……だと……?
でも、最終回にふさわしいたたみかけ!
リンドウもヨシユキも、死ななくて本当に良かった……
彼らの活躍がもっと見たかったけど、作者殿の事情がそうなら
仕方がないですね……
お疲れ様でした! また作品やコメントの投下、待ってます!
>>54 そんな…… ◆W20/vpg05I さんも行ってしまわれるのですか……?
まだまだこれからと思っていたのに!
組織ドグマ、バフ課2班&5班、両陣営のどっちに関わってくるか
wktkして読んでました
エンディング、お疲れ様でした!
>>66 ついに比留間博士登場か!
若い容貌、クレバーな知性、好きなキャラだー
クロスオーバーしての登場は初かな? 期待っす
そして大魔王ジョロキアか、ジャンクフードとしてもいけるかも
ところでこのシリーズ、ラジオスレじゃ「陽太の大根」て訳されてましたよww
みなさん、ほんとにGJです! シェアワ、楽しいなぁ
「みんなで作ってるぞ」って感じがすごくする
なんかいまいちですけど投下します
↓
+ + +
ビジネスホテルに戻り、部屋で寛ぐ。
「あしたは、なにを食べようかな♪」
娘はベッドに寝転がり、ガイドブックを見ながら足をぶらぶらさせている。
「アイリン、お前食い過ぎだぞ。この前みたいなことになってもいいのか?」
俺はデスクで友人に手紙を書いていたが、その手を休めて娘をたしなめた。
「この前って?」
娘はきょとんとしている。
「憶えてないか。まあ3歳だったからな、無理はねぇか」
+ + +
2003年。
妻の三回忌のとき、俺は娘を連れてこの国へ来た。
あの日――隕石が衝突した日以降、俺や妻が住んでいた地域は壊滅的な打撃を受けていて、とても住めたものではなかった。
妻は出産を控えて実家に戻っており、俺はこの国で仕事をしながら日々、転々としていた頃だった。
そのために二人とも隕石の被害を免れはしたが、妻は病院で亡くなり、俺は住処を失った。
妻の骨は妻の実家に納められ、俺は娘を連れて祖国に帰った。
無理もない。
俺は祖国では安アパート住まいを続けるような生活で、墓地を構えるだの何だのは到底不可能だったんだ。
妻が亡くなって三年目の冬、つまり三回忌の法要のときにも、今回と同じように俺は娘を連れてこの国へ来た。
娘は食欲旺盛で、この国の料理を何でも美味そうに食べるものだから、俺は面白がって娘が求めるままに食わせていた。
それが、いけなかった。
妻の実家を出て帰りの空港へ向かう途中、娘が腹痛を訴えたのだ。
正確には、当時の俺には腹痛であることすら分からなかった。
突然泣き出し、歩くこともままならない。
何が問題なのか分からないまま、俺は近くの小児科診療所に駆け込んだ。
名前を呼ばれ、診察室に入る。
髭面で恰幅の良い医師が、俺たちを見る。そしてちょっとだけ片方の眉を釣り上げた。
「ほい、こんにちは。どうしたん?」
「なんだか分からないんですが……さっき突然泣き出して」
俺は泣きじゃくる娘を椅子に座らせ、言った。
「ほう、どれどれ。ちょいっとお腹、まくってくれな」
医師は聴診器をあて、ふむ、とうなずく。
そして娘に背中を向けさせ、同じように聴診器をあてた。
「ほい、ご苦労さん。食べ過ぎやね。なんやたらふく食べたんか」
医師はこともなげにそういい、カルテにペンを走らせる。
俺は、調子に乗って娘にいろいろ食べさせていたことを思い出し、恥ずかしくなった。
「じゃ、ブジーしとこか」
そういって看護婦に合図し、娘は看護婦に伴われて奥のトイレに連れていかれた。
「いちおう、薬も出しとこか。3日分もあればええやろ」
「えっ……薬?」
俺は身体を強ばらせた。
その俺の動揺を見抜いたらしく、医師は笑いながら
「おとんが飲むんやないんやから、そんな心配せんでええよww ただの整腸剤や、苦味もそんなあらへんし」
と言った。
「しっかし、言葉うまいなぁ。こっちに来てどのくらいになるん?」
医師はカルテを書きながら、俺に言った。
「もう十年くらいです。……今はこっちに住んではないですが」
「ほう」
そこで、娘が看護婦に付き添われて戻ってきた。
「大丈夫か?」
こく、とうなずく。
「楽になったやろ。レディにはちょいっと恥ずかしかったかな。おとんのせいにしとき」
髭面の医師は笑いながら、そういった。
結局、予約していた飛行機を振り替えて、その日はもう1泊したのだったが……
その日の夜のことだ。
不意に身体が揺さぶられた。
「……んあ? なんだ?」
娘が、俺を必死に揺さぶっている。
顔は蒼白で、怯えきっていた。
「どうした!? また腹痛くなったかっ?」
俺は焦ったが、娘はフルフルと首を振る。
泣いたのか、眼が潤んでいた。
かすかに震える手で、俺の寝間着をしっかりと掴む。
「いててて。アイリン、肉掴んでる! どうしたんだ、よしよし」
俺は娘を抱きかかえ、頭や背中を撫でた。
身体に異常はなさそうだ。だが、ひどく怯えている。
俺は、「能力」を使って、娘を寝つかせようとした。
しかし、いくら額に触れても、娘は眠らなかった。
むしろ、寝ないように必死に抵抗しているようだった。
結局、俺は一晩中娘を抱いて睡魔と戦いながら、ぼそぼそと昔話をしたりして過ごした。
娘がようやく寝ついたのは夜が明けてからで、俺は寝不足のまま荷物と娘を背負って、飛行機に乗ったのだった。
――そういえば、なぜあの時、俺の「夜の能力」は効果を発揮しなかったのだろう?
というより、娘は必死に眠るまいとしているようだった。
それが、夜明けに眠りについたのは、ただ単に疲れただけなのだろうか?
+ + +
帰りの飛行機の中で、俺はぼんやりと考えた。
妻の法要は、これで一通り終わったことになる。
これからは、特に期日を定めず、来たいときに来る形になる。
この国は地震が多いせいか、復興が早いようだ。
隕石による被害も、今ではほぼ元通りになりつつある。
娘と一緒に、妻の母国であるこの国に再び住むのも、いいかも知れない。
銃の危険と訴訟のリスクを考えながら暮らすよりは、この国にいた方が……
まあ、娘が10歳になったら、相談することにしよう。どうしたいか、あいつの意思を尊重しよう。
「能力」のことも、その時までには教えないといけないな。
+ + +
↑以上で
無断で某一名借りました。ごめんなさい!
能力モノなのに能力をほとんど絡められてない……orz
>>52 >>62 新スレ早々に最終回ラッシュなんて…
お二人とも濃いバトル描写と練られた能力設定で、読んでいて
熱くなりました
俺はバトル描写が不得手なんで、勉強させてもらいました
完結お疲れ様です!
>>71 陽太機転と工夫にあふれてるな
俺が書いてるほうの陽太は勢いで乗り切るキャラになりかけてるんだがw
にしても比留間博士が不気味だ
>>79 長く書いてると能力が絡んでこない回もありますよね
この親子はのんびりな雰囲気のままでいてほしいと思います
>>71 投下乙!比留間博士だと…
ジョロキアを使うとはやるな陽太w
禁術てww
>>76 こいつトルトルじゃね?w
なにやら細部ですごくこだわられている。すげぇ!
娘の能力はなんだろなw
俺も好きだぜ、この親子
花粉が怖くてひきこもってたら一気に書けた
>>24-26の続きを投下します
といっても今回は単なる座談会みたいになってて、
厨二要素すらないですがw
「高いものは勘弁って言ったのに……うう〜」
「ぬしぇんごしゃくえんのだんぢな〜がそん――」
「口にステーキ詰め込んで無理に喋るなよ。余計に腹が立つわ。あーもう、2500円のランチなんて私
一度も食べたことないのに。ほんと最近の子どもは贅沢だなおい。少しは遠慮してくれよ」
ドクトルにやや強引に連れられて公園を離れた陽太は、駅前のデパートにあるレストランで少し遅
めの昼食を御馳走されていた。
駅前と言っても、陽太の地元の小さい駅ではない。そこから電車に数分揺られてたどり着く、それ
なりに栄えた駅前だ。陽太が一人ではあまり行くことのない場所である。
「遥……ではなく。白夜ちゃんは白夜ちゃんでこれまた2000円のハンバーグとか頼んじゃうし……私
たいして給料よくないんだよ? 今年はボーナスも寒いもんだったし……って、聞いてる? お二人
さん」
「聞いてねえ」
陽太がすげなくそう答えたのと全く同時に、彼の隣りからも「聞こえないわ」という、これまた愛
想も可愛げもない声が聞こえた。
まさか、白夜とハモってしまうなんてな。陽太は少し複雑な気持ちになって白夜を横目で見てみた
が、彼女はその眼差しに気づくこともなく、せっせとハンバーグを口に運んでいる。
「助手くん、君凄いよ。この二人ほんと仲良しさんだよ。まあさっき公園でやってた理解不能な迷言
の応酬からして、その傾向はもう十分にわかってたけどさ」
ドクトルがそう呟いて、彼の前にぽつんと置かれたホットコーヒーをズビビと寂しそうにすする。
そして長い溜息。今日が平日なら、この男はリストラされたことを妻に切り出せずに悩む中年サラ
リーマンにしか見えないなと、陽太はちょっと可哀想に思った。
「まあまあドクトルJ、そうシケた顔するなって。それなりに高いランチおごってもらったんだから、
話を聞くくらいはしてやってもいいぜ」
「え、もう食べちゃったのか? 結構高いんだから、味わって食べてほしかったんだけど……。ま、
いいや。それじゃあ話をさせてもらうよ。と、その前にだ。なぜか私は完全に君の中で『ドクトルJ』
というマッドサイエンティストっぽい男という設定で定着しちゃってるように思うんだが、まずその
誤解を解――」
「誤解も何も、こいつがドクトルJって実際に呼んでたろ。仲間内でそう呼ばれてる以上、あんたは
ドクトルJなんじゃねえのか」
隣で黙々とハンバーグを口に運んでいる白夜を指さしながら、陽太はドクトルを制して言う。
陽太がさした指をチラリと一瞥した白夜だったが、その視線はまたすぐにハンバーグへと戻って行っ
た。
「というわけであんたはドクトルJ決定だ。今後この話を蒸し返すのはなしだ」
「……あれ、なんか言い返せない。私なんで中学二年生に論破されてるんだろう。最近の子どもって
怖いなあ」
また寂しそうにコーヒーをすするドクトル。出会った時に抱いた威圧感も今は昔、大きく感じた体
さえなんだかしぼんでしまったようだ。
「うん、もういいやドクトルJで。んじゃまあ、何から話そうか。何か特に聞きたいことはあるかな」
「あんたたち、一体何者だ? どうして俺を狙う?」
間髪入れない陽太の問いかけに、ドクトルは薄く苦笑いを浮かべた。
「直球だね、君。そういうの嫌いじゃないよ。でもすまないね、私たちの素性については、詳しく話
すことはできないんだ。能力を研究しているある団体の一員だということぐらいしかね」
「フン、まあそうだろうと思ってたよ。最初っから期待してねえ。じゃあもうひとつのほうはどうな
んだ? 俺を狙う理由くらいは話せないのか?」
ステーキと一緒に頼んだコーラをグビッと飲み込みながら、陽太は改めて質問する。彼にとって重
要なのは、むしろこちらのほうだ。
「君を狙う理由? さっきも言ったけどね、君の能力に純粋な科学的好奇心を持っているからだよ。
実を言うと、私の個人的興味だったりするんだけどね」
中年男には似つかわしくないニコニコ笑顔で、なんの裏もなさそうに語るドクトル。
陽太はその言葉を額面通りに受け取るつもりはなかったが、ドクトルのその子供のような笑顔を
見ていると、なぜか少し信じたいという気持ちにもなった。
「科学的好奇心、ってのは?」
「ちょっとした実験をさせて欲しいんだ。あ、そんな大がかりなものじゃなくてね。今ここでできる
ようなものなんだ。どう? 協力してくれないかな」
ドクトルの瞳が、銀縁眼鏡の奥でキラキラと萌えアニメの美少女のように輝いている。
若干不気味に思いつつ、ここまで期待されていると断るわけにもいかないなということで、陽太は
空気を読んでおくことにした。
「ここに、さっきデパ地下で買っておいた高級チョコレートがある。一口サイズがたった8個入って
4千円。うーん正直詐欺に近いよね。まあそれはいいとして、月下君。このチョコ食べたことある?」
「んー……いや、たぶんないな。パッケージに見覚えがないし」
「オッケ。じゃあ1個あげる。あ、これこそ味わって食べてくれよ。1個500円なんだからね」
余計な念を押しながら、ドクトルが高級チョコの箱を陽太に差し出す。レストランの中で持ち込み
のチョコを食べていいのかと思いつつ、陽太はそのうちの一粒を手に取る。
正直なところ、陽太には板チョコと高級チョコの区別がつかない。両親がベルギー土産に買ってき
たチョコも、日本のチョコと何が違うのかと思ったものだ。
一粒500円か。確かに詐欺だこりゃ。そう思いつつ、陽太はそれを口に運……ぼうとしたが、隣か
ら強烈な視線を感じて動きを止める。
「岬月下、それは卑怯じゃないかしら。能力の特性を利用してチョコを独占しようと企むなんて。ど
うせ貴方なんて、板チョコと高級チョコの区別もつかない小市民でしょうに」
「うぐぉ! 白夜、お前なんでそれを知って……!? ってんなことはいいんだよ! ドクトルJがくれ
るって言うから食ってるだけなんだからな。だいたい独占する気なんてねえし。食いたいなら素直に
ドクトルJに頼めよ」
「ドクトルJ、私も食べたいわそのチョコレート」
「うんうん、後であげるから。まずはハンバーグを早く食べちゃおうか。ほんと白夜ちゃんは食べる
のが遅いよね。まあ女の子らしくていいと思うんだけどね私は」
「お前会話に一切入ってなかった割にまだハンバーグ半分も残ってんのな。冷めるぞ。俺が手伝って
やろうか?」
「どの口がそんな戯言を言うのかしら。貴方の如き愚昧の輩に、私が口をつけたハンバーグを食べる
資格などないわ。慎みなさい岬月下」
そう言い捨てて、またハンバーグを小さくする作業に戻る白夜。密かにため息をつきつつ、陽太は
チョコを口に放り込んだ。
「食べたぞ。これからどうするんだ?」
「今食べたチョコと全く同じチョコを、君の能力で生成してほしい。できるかな」
「『できるかな』? ハン、なめられたもんだぜ、俺の万物創造【リ・イマジネーション】も。これ
ぐらい朝飯前だっての」
うんざりといった調子でそう言って、陽太は右手のひらに軽く力を込め、意識を集中させる。
キラキラと輝く粉が舞うように、小さな光の結晶が陽太の手のひらにわだかまる。それは陽太の手
のひらから発生したようでもあり、もともと大気に離散している結晶を、陽太が引き寄せているよう
にも見える。それらは徐々に互いに引き付けあい、やがてひとつの明確な像として結ばれていく。
その創造図を、ドクトルはもちろん、白夜さえも魅入られたように見守っていた。陽太はその視線
に構わず、さらに集中を深める。
無数に浮遊していた小さな光の粒は完全にひとつに融合し、かすかなシルエットを浮かび上げる。
ひとつに融け合って消え去った光が、陽太の手のひらに残していったもの。彼が先ほど食べたもの
と全く同一の、詐欺的値段の高級チョコがそこにあった。
「へえー……なんか私が思ってたよりもすごく雰囲気があるな。出してるものはただのチョコレート
なのに、ちょっと感動してしまったよ」
「今回は最大限集中したからな。もっと味もそっけもなくポンポン出せるんだぜ。その分実際の味も
そっけなくなるけどな。で、これで実験は終わりなのか?」
「ん? ああそうだったそうだった。ちょっと待ってね。チョコの個数は……7個。減ってないな。ふ
ーむなるほど」
高級チョコの箱を確認しながら、ドクトルは何事か独りごちている。
「おい、一人で納得すんなよな。ちゃんと説明してくれよ」
「わかってる。怒らないで聞いてくれよ。私はね、君の能力を疑ってたんだ。表面的には、君の能力
はお菓子を『創造』しているようにしか見えない。だが実際に起きている現象は『創造』ではないん
じゃないか、とね」
「……どういう意味だ?」
陽太は大きく身を乗り出して聞いた。ドクトルが懸念したように腹が立ったから、ではなく、単に
彼の論旨に興味を持ったのだ。
隣の白夜はと言えば、逆に全く興味が失せたのか、またハンバーグとの戦いに戻っている。
「私は、君の能力は『世界に実在する物の中からランダムに選んで取り出す』能力なんじゃないかと
考えた。わかりやすく言うなら『創造』ではなく『召喚』だってことだ。そしてテーブルからの選択
がランダムに行われるとしても、やはり近くにあるものから選ばれるのが自然だと思う。つまり君が
ファミチキを一個発生させると、近所のファミマで忽然とファミチキが姿を消すという怪現象が起こ
るのではないかということだね」
陽太は盲点を突かれた気分だった。この能力は創造だとばかり思っていたが、そのメカニズムは自
分自身理解しているわけではないんだと、改めて気づく。
そんな陽太を見て、ドクトルは穏やかに微笑んだ。
「君は素直だな。今までそんなこと考えたことなかったよね。でもそれでいいんだよ。だって、考え
てわかることじゃないからね。だからこそ私たちみたいな研究者がいるわけだけど、その私たちです
らまだまだ未知の部分が多い。それに今回のことでわかったよ。君の能力はほぼ間違いなく『創造』
だ。少なくとも昼間能力についてはね。夜間能力も見てみたいけど……ま、片方わかれば十分かな、
私としては」
「フン、めんどくせえんだな研究者ってのは。創造だろうと召喚だろうと、俺がこの手に食い物を出
せるってことにはなんの違いもねえよ。物の価値ってのはそういうもんだろ」
強がりで言ってみた陽太の言葉はしかし、意外に強くドクトルの心に響いたようだった。
「そう、その通りだね。本質を追い求めることが常に正しいわけでも、意味があるわけでもないよ。
でも私にとっては、それはとても大切で重要なことなんだ」
つづく
投下終わりです
なんか勝手に陽太の能力を定義づけてしまいましたが、
問題ないですかね?
ついでに今更ながらキャラ紹介的なものを
・白夜
本名は朝宮遥。真っ黒の長髪に真っ黒のゴスロリファッション。
重症の厨二病。極度の偏食で、特に海の幸が全般に苦手。
社会性皆無に見えて、実はちゃんと学校に通っている。
身長は150センチを自称するが、どう見てもそれより小さい。
《昼の能力》
天導者の詩【エコーズ・オブ・フォールン】※もちろん本人命名
【意識性】【操作型】
強制的に耳鳴りを発生させる力。
黒板を爪で引っ掻く音をさらに酷くした音質のノイズを、指定した対象の聴覚に
直接働きかけて聴かせる能力。
音量は白夜の意思である程度調整できる。
白夜が狙った対象に念を込めることで発動、念じ続けることで効果が継続する。
この発動方法のため、同時に複数の相手に対して発動することはたぶん難しい。
《夜の能力》
異形錬金【ヘレティック・アルケミスト】※もちろん本人命名
【意識性】【具現型(操作型?)】
詳細未詳
・ドクトルJ
36歳。とある能力研究団体に研究者として勤務。180オーバーの長身でがっちりした体格
のため、かなり大柄に見える。
黙っている分には、眼鏡の似合う知的なナイスミドル。
白夜の保護者であると同時に、彼女の厨二行動の迷惑を常に被る苦労人でもある。
陽太と白夜の厨二に振り回されつつも、意外に彼自身もその気があったりする。
《昼の能力》
肉体玩弄【プロミスド・ヘブン】※白夜が無理矢理命名
詳細未詳
《夜の能力》
心音玩弄【フェイタル・スクリーマー】※白夜が無理矢理命名
詳細未詳
89 :
◆IulaH19/JY :2010/03/29(月) 00:49:41 ID:cQGSOXhY
>>82 投下乙!
陽太wやっぱ羞恥心あるのかw
鉄っちゃん、部下にいじられて大変だなぁw
>>87 なん…だと…
陽太の能力って実はすごいんじゃねぇ?w
ドクトルJ、怪しい奴になっていくなぁ
投下乙!
>>45 >猫にとっては玉ねぎの成分が含まれている催涙弾は血漿を破壊するからだ。
間違い。
血漿を破壊するんじゃなくて、玉ねぎに含まれる有機チオ硫酸化合物が猫の…(うんぬん)…猫に悪いらしい。
友人から指さされて爆笑されながら指摘された。
ハズカシス
血漿を破壊するのは…まぁ、いいか。間違いでしたサーセンorz
そろそろ前スレの内容wikiに纏めたほうがいいかなーと思った。
>>89 その友達うぜぇw
気になるならwiki掲載時にこっそり「血球」に直しておくといいよ!
>>79 娘の能力マジで気になる
パパには頑張ってほしいな
>>82 なんつーかもうかわいいな陽太w
バフ課みんなのんきで好きだぜ
>>88 おkおk。
晶はちょっと困るけど、陽太については昼夜どっちも現象さえ変わらなければ全然おk
こう丁寧に描写されるとすげー能力に見えるなw
遥ちゃんの子供っぽいとこにキュンときたぞ
>>90 血球…ないすあいであb
wikiに容量オーバーで載らないという恐怖
これってチェンジリングしたのはいつかって設定あったっけ?
>>3 の【イントロダクション】によると
2000年2月21日だけど、そうではなくて?
おぅふ、普通に書いてあったoスマンrz
いやね、不老の能力でチェンジリングから100年間生き続けている、っつうロリババアを作ろうとしたんだが、これだと近未来になっちまうな
ロリとは行かなくても中身が熟成してるのは書けるんじゃない?
ついでに自分も質問、無意識性で危険な能力と判断された場合、意識性に矯正する事ってできるのかな?
それでなんか書けないかな
>>95 チェンジリング当時は90歳の老婆だったけど、
覚醒した自身の能力の影響で10歳代まで若返ってしまったってなら如何だ?
考えてたけど持て余してた俺的ロリババァの設定
《夜の能力》
夜の間、好きなときに何回でもその夜のはじめに時間を戻す
本人だけ記憶が残る
これを使って一晩で図書館まるまる読破とかしている
>>96 前スレの作品内で訓練次第で意識を集中させることで抑えられるようになる人もいるって言及されてたような
完全な矯正は無理っぽい。てかそれだと分けた意味がないし。
>>98 確かにそれは持て余すなあ
ロリババァ作成以外の目的で使った場合チートすぎるww
100 :
100げど:2010/03/29(月) 22:02:46 ID:4cPgJ0L8
さすがロリババア、一気にレスが付いたぜwww
>>97 そういうのもありだな
投下します
こんばんは。
僕の名は比留間慎也(ヒルマ シンヤ)だ。
第1回、第2回の講義を聴いてくれてくれている人には分かると思うが、
普段は“隕石に起因する超能力”の研究分析を行っている科学者のはしくれだ。
僕が受け持つことになったこの講義は、今晩で3回目となる。
今回は“能力鑑定士”についての講義を予定していたが、予定をちょっとずらして
“能力”を使うことに対するリスク、すなわち“反動現象”について話すことにしよう。
というのも、鑑定士については特に詳しく学ばなくても命に支障はないが、反動による不意の事故は実際に人命を奪うこともありうるからだ。
この講義を受けている諸君の中には危険なリスクを伴う“能力”を持っている人もいることだろう。
自分が持っていなくても、身内や友人が持っているかもしれない。
だから、予定を変更して一日でも早くこの情報を提供することは、我ながら間違った選択ではないと思う。
それでは、講義を始めよう。
*能力の反動について
激しい運動をすると身体に負担がかかるように、能力にもその使用に伴う“反動”のようなものが当然存在する。
この現象は「反動」「代償」「リバウンド」「ペナルティ」「ネガティブフィードバック(NFB)」など、さまざまに呼ばれている。
次は、世の中にはどんな反動が存在する(確認されている)のかを見ていこう。
*反動現象の分類
通常の社会で反動とされているものには【生理的反動】と【超常的反動】の2つの種類がある。
さらに【生理的反動】は【肉体的反動】と【精神的反動】、超常的反動は【副作用的反動】と【主作用的反動】に分けられる。
厳密にはほとんどの“能力”において複数の反動が同時に複合的に発生していると考えられるが、
個人によってどのような反動が強く表れるのかは異なる。
例えば“能力”を行使しすぎるとその場で昏倒してしまう人もいるし、急激な疲労に襲われる人もいる。
変な“能力”の使い方をすると“能力”が拒絶反応を示す人や制御しきれなくなる人もいる。
……といった具合だ。
**生理的反動
生物学、生理学の範囲内で起こる反動現象。
通常の意味でいう疲労のようなものだと思ってもらえれば分かりやすい。
ほとんどの能力に付随して発生していると考えられ、特に【意識性】の能力者なら誰もが経験したことがあると言われている。
【生理的反動】には以下の二種類がある。
***肉体的反動(リバウンド)
“能力”の使用時に身体に負荷がかかる現象。
肉体の疲労や生命力(免疫力)の低下など。
“能力”を行使しすぎると細胞死、老衰などが加速されるケースもある。
***精神的反動(ネガティブフィードバック)
“能力”を使うことによって精神に変調をきたす現象。
急激な睡魔や昏倒、疲労感、無気力、厨二病など。
“能力”を行使しすぎると様々な精神病や意識障害に発展したり、人格崩壊の引き金となりうる。
※ 括弧内は当研究所で推奨している呼び方だが、世界的に統一された名称ではない。
**超常的反動
“能力”の範囲内で起こる反動現象。
20世紀以前の科学ではありえなかったような現象が発生することも多い。
具体的にどのような反動が表れるのかは能力の性質に左右される。
【超常的反動】には以下の二種類がある。
***副作用的反動(ペナルティ)
“能力”に組み込まれたルールに従って、その“能力”が起こす主要な現象とは別に発生する、自分自身に危害を加えるような超常現象。
過去には身体が塩の塊になってしまったというケースもあるらしい。
また、能力を濫用すると一時的にその“能力”が使えなくなる、というルールも弱いペナルティと言える。
***主作用的反動(スーサイド)
能力の内容そのものが自分自身に危害をもたらしてしまう現象。
自分自身の体が耐えられないほどの高速移動や、自身の発火能力による焼死事故などの事例が当てはまる。
いわば、“能力”による自滅。
※ 括弧内は当研究所で推奨している呼び方だが、世界的に統一された名称ではない。
あ、当研究所というのは僕が勤めている研究所のことだ。
*無意識性の能力における反動
【無意識性能力】を持つ人においても、上記のような反動が確認できる。
ただし、【意識性】ほど極端な反動は起こりにくい。
ただし、中には生命に危険を及ぼすようなケースもあるから油断はできないが。
*“反動による事故”の防止のために
残念なことに反動現象の存在は学術的にはあまりポピュラーではなく、研究している人も少ない。
ほとんどの“能力鑑定士”は“能力”の内容を教えてくれることはあっても、それに伴うリスクまできちんと教えてくれる人は少ない。
だから反動による事故を防止するためには
、
・まずは自分の能力がどういう性質(主作用、副作用)を持っているかを把握すること。
・一日にどれくらいまで“能力”を使っても大丈夫かを把握すること。
・できれば、自分だけでなく親しい人にも上記の情報を教えておくこと。
といったことを個人で行っていくのが最善の手法だと言える。
不慮の事故を防ぐためには、文字通りあらかじめ慮っておくことが重要、というわけだ。
**能力鎮静剤
これは宣伝になってしまうが、僕が所属している研究所では現在【無意識性】の能力による事故を防止するため、
“能力”やそれに付随する反動を抑える“能力鎮静剤”とでも呼ぶべきものを開発中だ。
もちろん抑え続けるには薬を服用し続ける必要があるが、
実用化されれば多くの人々が“能力”に悩まされることなく暮らすことができるようになるだろう。
──おっと、もうこんな時間か。
まあ、“能力”による反動現象の概要は、大体こんなところだ。
最後に、前々回の講義での【結界型】能力の解説が分かりにくいという意見があったので、
ここで第一回とはちょっと違った観点からの説明をしておきたいと思う。
*補講(第三回)
・法則歪曲型能力についての補足2
【結界型】能力は「周囲の空間を支配して自分が有利になる領域を作り出す能力」といえる。
作り出す、空間を物理的に創り出すのではなく、周囲の空間の性質を弄って作り変えるといったほうが分かりやすいだろうか。
この「性質を弄る」ところから、法則歪曲型能力と名付けられている。
ちなみに英語圏ではforcefield-ability(意訳すると「力場展開型能力」)と呼ばれている。
それでは、今夜の講義はここまでとさせてもらおう。
質問は常に受け付けている。 何か分からないことがあったら聞いてくれよ。
***補足
・厨二病
チェンジリング・デイ以降に発症者が急増し、医学界で認められた“精神疾患”の一種。
主な症状として「自分は人とは違う」という疎外感、「世界が自分と敵対している」という被害妄想、
「自分はやろうと思えばばなんでもできる」というような過剰な全能感などが挙げられる。
“能力”によるネガティブフィードバックが原因で、2000年以降患者数が急激に増大した。
非常に軽度なものなら自然に治ることもあるが、重度の患者になると自身の“能力”を乱用し始め、社会に多大な迷惑をかけることがある。
//作者註:架空の病気。イメージとしてはネットスラングの中二病が“能力”の発現を原因として重度になったもの。
以上です。
前スレで
無意識性と意識性には差異があるのか〜 ってレスがあったので
無意識性能力の救済措置をいくつか提示してみますた。
・【無意識性】能力は反動(特に生理的反動)が少ない傾向にある。
・能力鎮静剤を服用することで収まる。(ただしせいぜい半日程度)
・
>>99 の3点が現状のところの救済措置。
今回取り上げた“反動”は、完全にSSを書くときのネタや味付けに使うものとして考えてくださって結構で、
必ずしもすべての能力に【反動】を設定する必要はないと思います。
設定上でも、「“能力”についての事項は個人差が大きいので統計的には調べられても絶対的法則にはならない」ということで、
中には反動があまり気にならない能力者もいるかもしれません。
その辺は個々の作者さんが書くときにバランスを考えながらキャラクターを作っていけばよろしいんじゃないかと思います。
鑑定士についてはぶっちゃけ中の人がまだよく分かっていないので、
考察の対象にするのはまだまだ先の事になるかもしれません。
おと、忘れてた。
反動現象は元々前スレ736さんのアイデアでしたが、
今回まことに勝手ながら名称に変更を加えて使わせていただきました。
どうもすみませんでした。
ちなみに、前スレの736では反動現象は一括して「リバウンド」と表記されていたことを、ここに追記しておきます。
>>101-110 避難所のといい、ここのといい流石比留間先生の考察はハンパねぇな!
それと、こう言うのもあるだろうと言うアイディアをここまで深く掘り下げるとは、感服です。
にしても、医学界で認められた厨ニ病にはワロタw
112 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/31(水) 01:31:35 ID:74RxAHpc
乙
中二病ワロタw
>>84 ドクトルJ、大変そうww 微笑ましいなww
遥ちゃんをお借りしたいです
けど、この厨二に特化しまくった台詞を再現できる自信がない……
変換ソフトが欲しいよぉ シェアって難しいね
>>95-100 作品投下、待ってますよー♪
>>102 さっすが博士! そこにシビ(ry
相変わらずクレバーだ
wikiいじってたけど肝心の本文を移す前に疲れた…
タグ方式がやってみたら結構見づらかったので仁科みたいな感じで一覧作ってみたのだけどどうでしょう
陽太「チクショオオオオ!くらえ比留間慎也!魔剣レイディッシュ!」
比留間「さあ来い岬陽太アア!僕は実は一回殴られただけで死ぬぞオオ!」
(バキ)
比留間「グアアアア!こ このザ・クレバーと呼ばれる研究者の比留間慎也が…こんな厨二に…バ…バカなアアアア」
(ドドドドド)
比留間「グアアアア」
ドグマ首領「比留間がやられたようだな…」
ドクトルJ「ククク…奴は黒幕連合の中でも最弱…」
キング「小僧ごときに負けるとはいい大人の面汚しよ…」
ドクトルJ「あれ、君負けてなかった? ねえ負けてなかっ」
陽太「ブーストドリルウウウ!」
(ズサ)
3人「グアアアアアアア」
陽太「やった…ついに黒幕連合を倒したぞ…これで真の黒幕のいる地下要塞の扉が開かれる!!」
???「よく来たな少年…待っていたぞ…」
(ギイイイイイイ)
陽太「お…お前が全ての黒幕だったのか…!感じる…カニの匂いを…」
ドウラク「少年よ…戦う前に一つ言っておくことがある 読者はお前と私が絡むのに『ツッコミ役』が必要だと思っているようだが…別にいなくても成立する」
陽太「な 何だって!?」
ドウラク「そしてお前の両親は土産を買ってくるというので海外旅行に行かせておいた あとは私を倒すだけだなクックック…」
(ゴゴゴゴ)
陽太「フ…上等だ…オレも一つ言っておくことがある 晶には隠された真の能力があるような気がしていたが別にそんなことはなかったぜ!」
ドウラク「そうか」
陽太「ウオオオレイディッシュロゼオオオ!」
ドウラク「さあ来い少年!」
陽太の勇気が世界を救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!
晶「……なんだコレ」
『月下の小ネタ・酸』
晶「いやそういう問題じゃなk」
<おわり>
全力で読者驚かす嘘最終回を書こうとして…挫折した結果がコレだよ!!
こんな時間に爆笑してしまったwww
>>102 正しい比留間さん!
これはすごい!これほどしっかりした理論が出てくるとは!
反動とか鎮静剤とかいつか使わせてもらいますよ。
>>114 乙乙!いいねいいね!
ただ名無しのIDはいらないかも
>>115 一瞬、ホントに終わっちゃうのかと思って、笑うどころじゃなかった……
なんだ、今日はエイプリルフールだった! よかったー。
wikiにまとめてくださっている方、ありがとうございます!
今さらですがタイトル付けました
避難所にてキャラ借り出し許可をいただいたので、投下します
↓
期待
「ふうむ……」
画面右のスクロールバーが一番下へ来ても、俺はまだディスプレイの文字列を眺めていた。
俺が見ていたのは、とあるサイトだ。
「能力」の研究者、シンヤ=ヒルマ博士の講義のサマリーを、訳してアップロードしている。
3日前、新たな講義内容がアップされた。その内容の中で、気になるワードがあった。
‘Chuuni-byo’ symptom。
病名の由来はいまひとつ分からないが、若い時分に根拠のない全能感や、いわれのない疎外感から、
特異な行動をとってしまうというのは、理解できる。
それが妙な宗教団体や悪魔信仰などに繋がってしまうと、高校で銃を乱射するイカれた連中が出来上がる。
悪魔信仰といえば、あいつだ。
俺は、妻の墓参りを済ませて帰国する空港に向かう途中、電車内で出会った奇妙な少女を思い出した。
+ + +
空港へ向かう電車は混んでいた。
人と人とが、ありえないくらいに密着していた。
俺は、娘が窒息してしまいやしないかと心配になり、娘を抱きよせておこうかと思った。
しかし、腕は既に他の人々に挟まれて容易に抜けない。俺は身体の向きを変えて、腕を抜こうと動かした。
ようやく駅につき、文字通り吐き出されるように電車を降りた時だ。
「ちょっと、貴方」
あきらかに敵意を持った、鋭い声が背後から聞こえた。
振り返ると、そこには……
腰までありそうな、長くまっすぐな黒髪。
中世ヨーロッパを思わせる、ゴシック風の真っ黒なドレスに身を包んだ少女が、
怒気を漲らせた眼で俺たちを睨みつけていた。
「この私の身体に、許可もなく触れておきながら、素知らぬふりを通そうなど……身の程知らずも甚だしいわね」
「?」
状況が、よく飲み込めない。
わかっているのは、どうやらこの、メタルバンドのライブに来るような黒魔術めいた格好をした少女が、
俺に対して怒っていて、抗議をしているらしい、ということだけだ。
「ただ触れただけなら、まだ罰を与えて許してあげることも出来たわ。
けれど……あのような、卑劣極まりない行為など、到底許すことは出来ないわ」
少女は、なぜだか頬を赤らめながら、語気を強める。
「その女の子は何? その子にも、どこぞの語学学校の教師のように、淫らな行為をするつもり?」
そこで初めて、俺は何となく理解しだした。
どうやら、さっきの電車内で、俺は痴漢だと思われたらしい。
混み合った中で、もぞもぞ動いたのが良くなかったんだな。
――誤解を解かなきゃいけない。
「俺は何もしてないし、こいつは俺の娘だ! なんで親子連れが、ロリコン呼ばわりされなきゃならない?」
そう反論したが、少女は聞く耳を持たない。
「毛唐の分際で、この私を愚弄しようなど……見くびられたものね」
――毛唐、ときたか。
これには、俺もカチンときた。
けれど、相手は子供だ。見たところ、小学校高学年くらいか。
「おい、ちょっと待て……」
俺は苛立ちをおさえながら、抗議しようとした。
しかし少女は眼を伏せ、呪詛のごとく呟いている。
「痴漢、盗撮、幼女性愛者……、生きている価値など微塵もない。すべて地球上から抹殺すべき存在だわ」
少女は拳を握って親指を立て、
「【天導者の詩−エコーズ・オブ・フォールン】で、煉獄を彷徨うのがふさわしい」
首の前をゆっくり横に引き、逆さにして突き立てた。
すると突然、黒板を引っ掻いているような不快な音が、大音量で耳の奥にぶち込まれた。
「うぐぁっ!?」
思わず両手で耳を塞ぐ。
音はますます強くなる。
苦痛のあまり目をつぶる。
鼓膜の内側を、アイスピックで掻き回されているようだ。
俺はとっさに、娘を抱きよせた。
娘は怯えた表情をしていたが、すぐに耳を押さえて顔を歪めた。
――Fuck off!
俺は左手を空に掲げ、手で音を集める。
あたりに、テレビの砂嵐画面のような「サー」とした音が響き始める。
ある程度音量が上がったところで、不快音がかき消され、俺はどうにか正気を取り戻した。
娘を見、大丈夫か? と眼で尋ねる。
娘はべそをかきながらも、こく、とうなずいた。
「……? 【天導者の詩−エコーズ・オブ・フォールン】が、通じないというの?」
少女は訝しげに俺を見た。
「その格好に、“echoes of fallen”かい。俺は、ヘヴィメタルは苦手なんだ」
俺はそう言い捨てると、娘の手を引いて足早にその場を去った。
+ + +
ホワイトノイズ。
すべての可聴帯で、同じ強さの音(波長)を発する音。
雑音をかき消す効果があるため、コンサート会場などで、PAのテスト等に使われる。
自然界に存在する音からホワイトノイズを作り出せたことは、幸運というほかない。
次に同じような目に遭ったとき、同じ手は通用しないだろう。
しかし、奇妙なことだ。
あの少女の「音の攻撃」を受けている間、周囲の人々はなにごとも無かったかのようにしていた。
おそらく、あの「雑音」はひとの意識にダイレクトに届くものであって、耳栓とかそういうもので防げるシロモノじゃない。
つまり、いくら俺の「能力」でかき消そうとしても、意味が無いのだ……
ひとの意識に直接、音(ホワイトノイズ)を送りこめる能力者がいないと。
となると……
やはり、鑑定の結果を認めざるを得ない。
娘の能力は、俺と同じように音を操るが、俺のそれとは似ていて非なるものだ。
――昼の能力
【半意識性】【操作型】
その場に存在した音を再生し、対象に送り込む能力
サイコメトリーという能力があるが、娘の「能力」はそれに似ているかもしれない。
娘は、モノや場所に記憶されている音(音列)を、ひとの意識内に再生させる能力のようだ。
妻の実家で俺が、知るはずの無いメロディ――妻が子供の頃好きだった曲――を奏でることができたのは、
娘が、無意識にそのメロディを俺の「頭の中」へ「再生」させたためだろう。
あの少女の能力、“echoes of fallen”――言うのもこっぱずかしいが――をかき消すことができたのは、
俺が発したホワイトノイズを、娘が「拾って」、俺の頭に「再生」させたためだろう。
【半意識型】とあるのは、まだ娘がこの能力を十分制御しきれていないからだろうか。
……このあたりは、ヒルマ博士くらいでないと分からない。
今度、メールで質問してみよう。
ともあれ、痴漢冤罪と難聴になるのは回避できたわけだが……
三回忌の時といい、帰国間際になにかしらトラブルが起きるのは、勘弁してもらいたい。
+ + +
↑ここまでです
えーと。三点、お詫び申し上げます……orz
1、遥ちゃんはこんなじゃねぇぞゴルァ!!
→やっぱし厨二はにわか仕込みでできるもんじゃなかったです。申し訳ない……
2、さんざん引っ張っといて、娘の能力それかよ!!
→ごめんなさーい! 引っ張ったんじゃなくて、ホントに思いつかなかったんです……
3、タイトル付けるなら始めから付けとけよ、しかもセンスないし!!
→まとめ人さん、ホントにお手数をおかけして申し訳ありません……
センスないの知ってるんで、タイトルはなるべく付けたくないのですが……
GJ!!
これって逆に送り込むこともできるのかな?
だとしたら結構強いというか便利な能力だと思うよ
128 :
代理投下:2010/04/02(金) 11:20:37 ID:axh4WKCT
「いやいや、なんだか私、一人で熱くなっちゃってたね。ごめんごめん」
「全くだ。昼飯をご馳走されてたと思ったら、もう晩飯の時間になってるじゃねえか。よくあれだけ
一人で語れるもんだな。店員さんになんべん舌打ちされたことか」
「はは、お恥ずかしい限りだ。でもそれだけ興味深いものなんだよ、あの日を境に私たちが手にした
この『能力』というものはね」
陽太が自分の能力をドクトルと白夜の前で披露したその後は、ただひたすらドクトルの能力講義が
続いた。そうしてすっかり日暮れまで、3人仲良くレストランに居座ってしまったのだった。
ドクトルの研究は『なぜチェンジリングデイ以降、人間は特殊能力を身につけたのか』という根本
的なところから始まり、そこから芋づる式にさまざまな研究に手を出すようになったらしかったが、
正直陽太には彼が何を言っているのかほとんど理解できなかった。
そんな中で、2つだけはっきりとわかったことがあった。
1つには、ドクトルは『訓練を重ねることによる能力の強化、操作』を研究の柱にしているらしいこと。
もう1つは、能力を研究する事に対するドクトルの情熱の深さ。
素性は明かせないと言う割に、素性がバレかねないようなことをペラペラと喋るその矛盾こそ、ド
クトルの思いの強さの表れなんだろうと、陽太は感じたのだ。
「ドクトルJ! 岬月下! ああ、よかった……2人ともちゃんとそこに存在しているわよね。私の
世界と貴方たちの世界が、途切れてしまったりしていないわよね。よかった。よかったわ……」
2人より先にデパートの外に出ていた白夜が、そんな意味不明の言葉を投げかけながら戻ってきた。
だが、陽太とドクトルの姿を見て心底安堵しているようなその顔、少し潤んでいるようにも見える瞳
を見て、陽太は小さな違和感を抱いた。
「白夜、どうかしたか? 何かあったのか?」
そんな言葉をかけてみてから、陽太は心の中で自分を嘲笑った。
つい数時間前、こいつは自分を拷問にかけた相手だ。そいつがこんなしおらしい顔をしたからって、
何を優しくなってるんだろうな。
そんな風に思った。それでも、不思議と悪い心地はしなかった。
そんな複雑な思いのつまった陽太の声が聞こえているのかどうなのか、白夜はただ俯いて眼を伏せ、
困ったように眉を寄せて、
「外、誰もいない。人間が、いない。唯の一人さえ、いない。こんな世界、私は知らないわ……」
蚊が鳴くような声で、独り言のようにそう呟くだけ。
人間が、いない。休日の夜の繁華街に。唯の一人さえ。
その言葉の意味を少し遅れて理解し、脳で反芻できた時に抱いた身震いするほどの戦慄は、陽太
の中にぼんやりと不定形な恐怖を芽生えさせようとしていた。
急ぎ足で外に出た彼らを待っていたのは、生気の失せた街並み。
それはまるで異界だ。そこに普段あるだろう喧騒さえも嘘だと言うように、ただ沈黙のみが支配
する異界だった。
「……嘘だろ? なんだよこれ、ほんとに誰一人いねえじゃねえか。どういうことだよこれ」
「ドクトルJ、これはもしかしたら……」
「ああ、間違いないだろうね。能力だ。相当大がかりな結界型能力者の仕業と見える。しかもあり
がたくないことに」
そこまで言ってドクトルは、眉間に指を添えて何事か考え始めた。
次の言葉が気になって仕方ないのだが、いかにも全力で悩んでいる風なその姿に、陽太は声をか
けるのを躊躇う。
だが、構うことなく声をかける空気を読めない少女がいた。
「ドクトルJ、話は聞いているわ。貴方がその姿勢で悩んでいる時は、実は何も考えていないらしい
わね。でも今は貴方の戯れの相手をしてあげられる状況ではないのよ。窮屈な容器に閉じ込められ
た砂が、唯虚ろな顔でさらさらと零れ落ちていくのを何者も止めることがかなわないのは、それが
囚われた砂に神が赦した唯一の抵抗だから。私の言いたいこと、理解できるわね?」
「時間は止められないんだから無駄にするな、と。手厳しいなあ。まあ正しいけどね白夜ちゃんの
言うことは」
演技だと認めつつ、たいして悪びれもせずへらへらしているドクトル。空を見る限り、もう能力
は切り替わっているだろう。陽太はレイディッシュを出してこの中年の頭を全力で殴ってやりたく
なったが、能力の無駄使いを避けるために断念、代わりに罵声を浴びせておくことにする。
「くだらねえ演技してる暇あったらさっさと続きを話せよ! 気になってしかたがねえ」
「そうだよね。で、なんだったっけ? えーっと、あーそうだ! しかもありがたくないことに、
この能力者のターゲッティングは明らかに私たちに向けられてるね。この『人払いの結界』は私た
ちのために張られた。そう考えて差し支えないだろう」
「どうしてそう言い切れるんだ?」
陽太の疑問にドクトルは答えない。その代わりに、ただ無言でピッと指をさした。その先には、
さっき彼らが出てきたデパートの入り口。
目を凝らしてそこを見た時、陽太はまたしても戦慄を味わった。
ついさっき自分たちが出てくる前、そのドアの向こうは子どもから老人まで、これでもかという
ほどの人人人だった。
白夜が険しい面持ちで戻ってきた時も、そこにはまだ人がうんざりするほどいた。
それが今は――
「納得してくれたかな、さすがに。この結界能力の有効範囲がどんなものかはわからないけど、今
この付近に人はいない。私たち3人と、おそらくこの能力の使用者以外は、ね」
「一体何が目的なのかしら」
「それはさっぱりだけど、少なくとも私たちにとってハッピーな目的じゃないだろう。となれば私
たちがやるべきことは自然と決まってくる」
「術者を探し出して締めあげる、だな?」
その目に自信の光を宿らせ、不敵な笑みを浮かべてそう言う陽太。
すでに日は暮れている。忌まわしき太陽は姿を隠し、彼の守護者が空を統べる夜が来た。当然彼
の能力もまた、その真価を発揮することができる。
モチベーション十分の陽太だったが、ドクトルの答えはそんな彼の予想を見事に裏切るものだった。
「そんな物騒なことはしないさ。逃げるんだよ、アンハッピーなことが起きないうちにね」
「いえ。ドクトルJ、残念だけど……運命は私たちを見放したわ。私たちは業を負わされているみた
いね。断じて逃げることの赦されない宿業を」
白夜が、一本道のはるか向こうをぼんやりと見つめながらそう言う。
何かが見えるのか。陽太は白夜の視線をたどってみたが、すでに暗くなりかけた路地の向こうに、
恐れるような存在を確認することはできない。
「私、凄まじく視力がいいのよ。それはもう凄まじいとしか表現しようがない程に凄まじくね。こ
の道の彼方に間違いなく『居る』わ。汚らわしくて醜い魔界の猛犬がね」
「ちょっと待って白夜ちゃん、それってキメラのことだね? わざわざ結界能力者まで引っ張り出
してキメラを投入、か……。これはちょっと計算外だな」
「ドクトルJ、どういうことだ? あんた何か知ってるのか?」
計算外。ドクトルが言ったその言葉を、陽太は聞き漏らさなかった。
『ここまで事態がひどくなるとは計算外だった』ということは、何かしらよくないことが起こる
かもしれないとは予想していたということのはず。
やはり、この中年は信用できない。自身の研究について語る時の少年のような表情を見て、少し
ドクトルを好きになりかけていた陽太だったが、その思いも霧消してしまう。
「……すまない。詳しく話すことはできない」
「またそれだ。あんたを少し信用しかけてたんだがな。残念だよ俺は」
「そうか。嬉しいね。何が君の心に響いたのかは分からないけど……。ただ、今君をこの奇禍に巻
き込んだ原因は私にある。それだけははっきり君に言える。だから言わせてもらう。すまないと。
そしてもちろん、責任は私が負う」
ドクトルのこれほど真剣な声色と表情を、陽太は今日初めて体験した気がした。
銀縁の奥の瞳は穏やかながら、何も譲る気はないと言うような強い意志を持って、まっすぐに陽
太の目を射ぬいてくる。
「君たちは先に行くんだ。キメラは私が処理する」
「何を――」
「ドクトルJ! それは容認できないわ! 貴方、能力を使うつもり!? あれは禁忌よ……。使え
ば貴方は逃れられない罪過を背負い、黒き獄炎にその身を焦がすことになるわ」
言い返そうとした陽太の声は、より大きい声で鋭く反論した白夜にかき消されてしまった。
白夜がここまで声を上げることに、陽太は面食らう。
確かに、今迫っている魔界の猛犬とやらが以前自分が戦ったアレのことなら、能力を使わなけれ
ば危ういだろう。ドクトルJもきっとその気でいるはず。それを白夜は止めようとしている。
あの白夜が必死になって。それだけドクトルJの能力はリスキーなものなんだろうか。
それをおしてまで、彼は自分たちを先に逃がそうとしている。
彼は善なのか、悪なのか。陽太の中で、再びの葛藤が芽生えていた。
「大げさだなあ。さあ、早く行くんだ2人とも。キメラくん、もう私でも確認できるくらい接近して
きているようだ」
そう促されてもなおもぐずろうとする白夜に、ドクトルは満面の笑顔を向ける。
その笑顔を合図に、陽太は覚悟を固めた。
「行くぞ白夜。ここはドクトルJに任せるんだ」
「ああ、それでいい。岬月下君、白夜ちゃんを頼むよ。この子、夜はあんまり強くないからな」
そんなことを言われても、白夜はドクトルに噛みつくことはなかった。ただきつい眼差しで、長
身のドクトルを見上げていた。
「白夜ちゃん。君がつけてくれた私の能力の名前、なんていったっけ?」
「今更そんなこと……。ドクトルJ、貴方は救いようのない愚か者ね。ちゃんと心に深く刻んでおか
ないから忘れてしまうのよ」
陽太たちに背を向け、宵闇の向こうからやがて現れるだろう改造犬の方を見て、ドクトルは白夜
に語りかける。
背中、でかいな。今日この中年の後ろ姿をずっと見ていた陽太だったが、今ほどその背中が大き
く見えたことはなかった。
「心音玩弄【フェイタル・スクリーマー】。それが貴方の能力。眼前に立つ者の生殺与奪を、貴方
はその手で完全に掌握できる。今度こそ、刻みなさい。貴方の心に深く。裂けるほど、いえいっそ
抉(えぐ)れるほどに深く、刻みなさい」
「ふぇいたる……了解だ。また今度、テストしてくれ」
「白夜、急ごう。とりあえずまずは駅に向かうんだ」
白夜の手を引いて、陽太は歩き出す。ドクトルの背中に背を向けて。別れの言葉などいらない。
今はそれを言うべき時じゃない。そう信じた。
つづく
代理投下終了。
おお、いよいよ本格的に事件がおきてきた
ドクトルいいなあ好きだわこの人
能力に期待
>>133 代理投下乙です!
相変わらずの中二臭……だがそれがいい。
白夜ちゃんの独特な喋り方というか、セリフがたまらない。臭いがとてもいい。
ドクトルの能力は負荷が大きいのだろうか…?
では自分も投下しようかな、と。
量はやや多め。さるが怖い。
【Paradigm change!】
「一話 ヘイヴンの日常はかく危なき(前)」
黒髪を肩辺りまで伸ばした女は新居にたどり着いたが、そこが貧民街にありがちな一軒のボロ屋であることに気がつき、思わず足を止めてしまった。軒先に灰色の布が垂れ下がっているのが哀愁を誘う。
いつ踏み抜いても不思議ではない木製の階段を上がって、ドアに一定のリズムをつけたノックをした。すると、蹴っ飛ばしているようなノックが返って来た。
何気ない動作で周辺を確認すると、扉を開き中に体を滑り込ませて扉を閉じ鍵を閉める。
そして入室早々説教を始めた。
「ギルバート、ノックは手でやってください」
「いいんだよ。ノックは手でやらねばならんというルールは無いね」
「そういう問題ではありません」
「へいへい」
狭い玄関から入るとキッチンとリビングが一体になった部屋が見えてくる。内装が汚くない、どちらかといえば小奇麗な感じだったのが救いか。
女が、ラフな格好で金髪をかきむしるだらしない男にぎゃあぎゃあ文句をつけて追いかけるが、男――ギルバートは、説教を右から来たら左に受け流す。糠に釘とはまさにこのこと。
どこからか拾ってきたとしか思えないソファーにギルバートが座り、座る面が水平ではない椅子に女が座る。
薄汚れた窓ガラスからは、貧民街が見える。そしてそれを圧倒する高さの塔が重力に反逆して何本も空に延びているのがはっきりと確認できた。
ギルバートが言った。
「盗聴器なんかは無かった……能力も今のところ発動している感じじゃない。怪しまれてないようだ」
「それはよかった。街をちょっと歩いたら男性に襲撃されたので、きっとごそごそ出てくるものかと思ってました」
女はローブを脱いで椅子の背にかけると、まるで正座するように両脚をそろえてギルバートの方に体を向ける。
ギルバートは、興味ありげに鼻を鳴らし。
「強盗か?」
「酔っ払いです。馬鹿に能力を与えたが為に起きた間抜けな珍事です」
「あー、そう」
「ギルバートが行けばよかったのに、と思いますが」
「あのねぇ」
両腕を組み、なんとなく不機嫌そうな女に対し、ギルバートは姿勢を起こしてソファーに座れば、右手を虚空に突き出して見せた。瞬間、その手には金属製の工具が握られていた。
青と朱色の塗装に、先端が曲がったそれは、バールにそっくりの何かであった。バールではない。『バールのようなもの』である。そこは重要だ。
ギルバートがバールのようなものを指に挟み、手をちょっと振ると二本目が刹那の内に生み出される。
これは男の能力『バールのようなものを創る能力』である。
ギルバートはバールのようなものを両手に持つと、かちかちと打ち鳴らしてみせ、飽きたようでそれを部屋の隅に蹴りやった。女が視線を部屋の隅にやる。
「俺の能力は昼も夜も戦闘向きじゃねーのよ、分かってんだろう。打撃用としちゃいいけど、ぶっちゃけバールよりいい武器はいくらでもあるし」
「知っています。では夜の方はお願いします」
「え、何、助けてくれないっての? 鋭利、お前さんの力なら……」
「サボらないでください。私は戦闘向けですが、諜報向けでは無いので」
「へいへい。仕方ないから夜はお前の姿で出歩こうかな。それも裸で。バカが一杯釣れるぞきっと」
「肢体を削ぎ落として欲しいんですか?」
「冗談だから」
本気でサーベルを引き抜きかける鋭利――『網走 鋭利(あばしり えいり)』に、ギルバートが口元を引きつらせて宥める。
最も、網走は能力『切断』のイメージを掴みやすくするためにサーベルを使っているだけであって、その気になれば素手で鉄骨を切断することも可能だが、やはり脅しなら刃物が一番なのだ。
仮に本気で鋭利が殺しに来た場合、バールのようなものを出そうがなんだろうが生き残れない。それは今関係ないのだが。
ちなみにギルバートの能力はバールのようなものを創る能力と、諜報に役立つ能力の二つだ。夜の能力についてはいずれ判明するであろう。
ギルバートはソファーの後ろからミネラルウォーター入りのボトルを取ると一口二口飲んで喉を潤し、蓋を閉めてお腹の上に置いた。
「さて冗談はその辺にしておいて、仕事の話をしようか」
「望むところです」
二人の雰囲気が引き締まったものになる。
ギルバートがのそのそ椅子に座ると、網走は腰からサーベルを降ろし、机の傍らに立てかけた。最初に網走が口を開く。部屋の隅できゅうきゅう回転している換気扇がほどよい雑音となっており。
「まず私は、この街を調べたい」
「同意。情報だけじゃ何もつかめない。でもどうする、働かないのに金を持ってる難民は怪しいと思うんだが」
「日雇い傭兵、その手の仕事はヘイヴンではありふれた仕事ですので、私が行きましょう」
「いいね、決定。死なない程度に頑張れ」
「ギルバートはどうしますか?」
「俺か?」
真面目に無表情の網走は、なんとなく答えが分かっていながらも尋ねてみた。二人での仕事はこれが始めてではないのだ。
ギルバートは髪をくしゃくしゃにして前髪を後ろに流せば、椅子の背に体重をかけた。
「街を出歩いて情報を得る。出来ればあの塔を調べてみたいね」
「そうくると思いました。厄介ごとで死なない程度に頑張ってください。助けられませんので」
「了解、俺を誰だと思ってるんだ」
そう言いつつ親指で顔を指せば、網走は頬の筋肉を動作させることもなく言い。
「30代独身男性です。髭を剃れ」
「あらかじめ用意しておいたようなセリフをありがとうよ。髭はその内な」
「どういたしまして」
一通りの作戦を立てた二人は黙ると、腕時計で時間を確認した。夕方。もうじき昼間は消え失せ、夜が大袖を振って闊歩するようになる。
ふと窓の外を見遣れば、あたかも墓石の前に突き立てられた剣のように夕焼けに浮かぶヘイヴンの一端が見えて。鴉が右から左に横切り、そのすぐ後ろを人影がついていく。
避難所(ヘイヴン)に身を寄せても絶対の安心を得られるとも限らぬ。生と死が同居するこの街。逃げ込んだ人々は一体全体何を考えてここに来たのだろう。本当に、ここは安全なのだろうか。
二人は、それを調べに来たのだ。
二人にはヘイヴン(避難所)よりクレイヴ(墓)の方がしっくり来ると思えてならなかった。
夕日が沈み、太陽が大地に顔を隠す頃、二人は行動を開始した。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼
木を隠すなら森の中、本を隠すなら図書館、人を隠すには人ごみの中。
ギルバートはすっかり暗くなったヘイヴンの街を一人で歩いていた。
東洋風の家屋や煉瓦、がらくたを集め作った様な家に、どう考えても自立できそうに無い家まで、街は混沌を越える混沌状態であった。一見家屋に見えて実はお店な場合も珍しく無い。
とりあえず酒場に入ることにした彼は、人の流れの最後尾に張り付き、その場所にたどり着いた。ウェスタン風の酒場。ドアも映画に出てくるタイプで、手で押して入る。
むっとするような煙草と酒の匂い。そして、消毒に使われるオゾンのような臭いやら、獣臭さも混入した空気に酒場は満たされ、人で溢れていた。やや上を見れば、二階にも席があるようだった。
ギルバートは、“長い黒髪を”揺らしながら、姿勢の良さを強調するようにしなやかに歩を進め、マスターの居るカウンター席に座った。カウンター席は何故か空いていた。
「あ、やんのかコラ!!」
「ぶっ殺すぞ!」
「いいぞやれー!」
二階席の方で喧嘩があったのだろうか、男性同士の口論が店内に響く。
コップを磨いていた髭面のマスターは、ギルバートの方に眼球をジロリと向け、しわがれた声を発した。実力を推し量らんと茶色の双眸がギルバートを見つめ。
「酒は何にする?」
「強いのをお願いね、おじさん」
優しげなソプラノ。
彼の声は、“女性そのもの”だった。というか女性だった。
瞳はぱっちり乳白色の肌に浮かぶ。アクセントの睫毛は艶やかに伸び、ティーンエイジャーの柔らかい輪郭の顔を支えるは、細い首筋と、それに連なる鎖骨。シャツの前面を女性の双丘が押し出し形作っている。
これこそが彼の能力、模倣変化(コピーキャット)。
今まで見たことのある人物の姿形全てをほぼ完全に模倣する。指紋から静脈の配置まで模倣するため、機械では見抜けない。諜報にうってつけな能力なのだ。
彼が彼女を見たのは今から十数年前。目の前で息絶えてしまい、更に爆弾で木っ端微塵になったのも目撃している。既に忘れ去られた人間なら、いくら出歩こうと問題にならない。
目を惹く美人(ただし仮初)ということもあってか、ちゃらちゃらした男が“彼女”の隣に座り、顔を横に向けながら人差し指を上げてマスターに注文した。
「マスター、俺にも彼女と同じものを」
「分かった」
ギルバートが酒場に来たのは呑むためでも女を忘れるためでもない、情報を得るためだ。
酒の勢いでぺらぺら喋る輩も居るし、他愛も無い会話を聞くことも容易なのだ。人が多ければ耳を傾けても怪しまれることもない。
何、超越機関からは調べる期間が限定されているわけではないのだから、気楽にやればいい。
隣に座ったチャラ男は、ギルバートの顔を舐め回すような視線を送り、腰辺りをじろじろ眺め、マスターが運んできたコップを受け取る。
正直な男だな、というのが率直な第一印象だった。
模倣変化(コピーキャット)を発動して女性になっている以上、『行為』をすることも可能だが、させるつもりは無く。
コップに入った透明の酒を一口呑み、咥内で味わいアルコールを楽しむ。そして、おもむろに男のほうに顔を傾けた。
「お酒は強い?」
「当たり前。ウォッカ一本呑んだ事もある」
「へぇ〜」
「今夜は付き合ってくれよ、どうだ?」
男はそう言うと酒を半分近く咽頭に流しこみ、コップを差し出してくる。チャラ男な雰囲気を持ちつつ、紳士な印象も与える、なるほど軽い女なら引っかかりそうな男で。
しかし悲しいことにギルバートの本質は男性。能力を解除したなら、無精ひげを生やした男が微笑み浮かべてコップを握っていることになるだろうか。
ギルバートはコップを男のコップにぶつけると、ぐっと酒を呷った。そして口を開く。
「酔いつぶれるまで?」
くく、と喉を鳴らすように笑い、コップの中の酒を揺らし。
男も笑みを浮かべれば、酒の残りを胃袋に流し入れた。
酒場特有の喧騒を背に、二人は雑談や世間話を交わしつつ酒を呑み続ける。一杯二杯三杯、強い酒を呑んでいるのに、どちらも一向に譲ることはない。ウワバミとウワバミの勝負と言ったところか。
凄い勢いで呑みまくる二人にマスターはしかし驚きもせず淡々と仕事をこなす。注文を受け持つのは、まだ若い男の子や女の子で、あちらこちらに駆け回っている。
ギルバートは話術と、女性の特権である色気を併用して男から話を引き出していく。
実働軍は強い能力者を集めた連中だとか、ヘイヴンの中枢は塔の集まる場所だとか、明らかに不自然な空間がいくつもあるだとか、料理の美味しい店はこことここと……。
流石のギルバートも呑みつづけたせいか、頬が紅潮して体が温まってきた。男も似たようなものだ。
男は恐らく相手が酔いつぶれたところで美味しく頂こうなどと考えているに違いなかったが、二人して酒の耐性が同程度なら、余り意味は無い。
ギルバートはコップを置いて、欠伸を手で隠した。黒髪が体に合わせて微かに動く。
「ところで、お兄さん」
「ん? 俺りゃあもう一杯で二杯でも……」
その時だった。
真上から爆音が響くや、酒場の天井を盛大にブチ抜いて何かが床に突き刺さっただけに留まらずその本体を真下に埋没させた。木片があちらこちらに飛び散った。
もし穴を覗き込むことができたならそれが何の加工もされていない矢であると気がつくだろうか。
酒場の客と店員全員が真上に目をやった瞬間、二人の人物が天井から降りてきて着地、客の使っていたテーブルを蹴り飛ばして距離を取った。
ギルバートには、その一人の人物に見覚えがあった。
闖入者二人は騒然とする店内で円を描くように歩み始め。
「やりますね。攻撃を迎撃されたのは久しぶりです」
「面倒なやつだにゃ、とっとと死ぬがいいにゃ」
「却下します。お給料が貰えませんので」
「ついでに頭もカチカチにゃ」
一人は、ローブに日本弓、腰はサーベルという装備の網走鋭利。
もう一人は、猫耳と尻尾のついた緩めの寝巻き風の衣服に、刃物のついた篭手を両腕に装備した赤毛の少女だった。中々可愛らしい顔つきながら目は肉食獣かくや爛々と輝いており。
「てめぇら……!」
マスターが声を上げたのを合図に、網走が矢を番えて少女に一撃を放った。それを、少女が投げつけた何かが『爆発』によって打ち落とし、結果店内はパニックに陥った。
矢を爆発が迎撃、衝撃波で客数人が悲鳴上げる甲斐なく吹き飛ばされ木製のテーブルに突っ込み沈黙した。
ギルバートとチャラ男が顔を見合わせると、テレパシーでも使ったように仲良くすたこらさっさと店を後に逃げ出す。他の客もそれに習った。
「初日から目立ってどうするんだ、バカ」
元の口調でギルバートが言い、男を連れ、諦めの表情で街に消えていった。
(後編に続く)
【人物名】
「網走鋭利」女
超越機関所属の女エージェント。成年。
黒髪を肩にかかる程度。やや吊った目。体型は並。
カーボン製サーベルと日本弓を愛用するが、拳銃も携行している。
能力を便利な道具と考える一方、破壊しか出来ない不便さに憤りを覚える日々。
《昼の能力》
名称 … 切断
【意識性】【結界型】
単純明快、硬度に関係なく物体を切断する。
能力による局地的な干渉を起こし「切断」を理の中にねじ込む。
能力は曖昧で、使用者のイメージによって効果を発現させるため、見えないものや知覚できていないのは切断できない。
また皮膚による接触や、物を使っての間接接触面で効果を現す。
能力で生み出されたものの切断は可能だが、本人に負荷がかかる。理由は不明。
《夜の能力》
名称 … 貫通
【意識性】【結界型】
物体を投擲する際、硬度や対象の角度に関係なく貫通させる。
能力による局地的な干渉を起こし「貫通」を理の中にねじ込む。
拳銃に対物火器並みの貫通力を与え、手で強化ガラスをブチ破る。
これも本人のイメージにより制御されているらしく、イメージ出来なかったり知覚出来ないと意味が無い。
切断狂と同様、能力で生み出されたものも切断可能ながら負荷がかかる。
【人物名】
「ギルバート=ターナー」男
超越機関所属の中堅エージェント。年齢30代ながら既に中年の雰囲気を臭わせる悲しい男。
戦闘能力は高い。映画から学んだエセカンフーが唸るよ!
金髪、顔はだらしない無精ひげ。
《昼の能力》
名称 … バールのようなもの
【意識性】【具現型】
工具のバールに酷似した何かを自在に生み出す能力。
明白にバールであると分からない、バールのようなものを虚空から出現させる。
バールのようなものは創造してから丁度一日で消失する。
《夜の能力》
名称 … 模倣変化(コピーキャット)
【意識性】【変身型】
自分の見たことがある人物の姿形をほぼ完全に再現することができる。ただしやりやすいのとやり難いのがある。
また髪型や声に声帯までもが模倣可能であり、体格に合わせて身体能力が変化する。
変身や解除のたびに精神的反動(ネガティブフィードバック) が発生するので多用は厳禁。
夜を越えてもそのまま姿形は継続するが、徐々に声が元に戻ったり、時間の経過と共に元の姿に引き摺られる。
>切断狂と同様〜
あっ、消し忘れてる。
気にしたらアウトということでここは一つ。
ルローと能力似てんなぁ、って思ったそばから出てきた!
これは熱いな! 切断能力がぶつかりあったらどうなるんだろうか
バールのようなもの…また妙な能力出てきたw
スレ主流の街とは違う荒廃した雰囲気が新鮮でいいわ
規制解除だ今のうちに投下
>>129-132の続きいきます
前回代理投下してくださった方ありがとう
「フェイタル・スクリーマー、ねぇ……よく意味はわからないけど、でもちょっとかっこいいかも
しれないな」
背後から2人の小さな少年少女の姿がなくなってから、私は一人そう呟いた。
子どもたちを逃がして、自分は残る。美しき自己犠牲。
自分自身、少し格好をつけすぎたかなと、なんだかこっ恥ずかしくなっているところだ。
「私はそんなキャラではないはずなんだけどな。そんな善人ではない……はずなんだが」
岬陽太。彼は『月下』を名乗り、自らを神に叛く者とのたまう。
朝宮遥。彼女は『白夜』を名乗り、夜の闇を祓う者を自称する。
あの子たちは『厨二病』という病に罹患しているんだと、こないだ助手くんが教えてくれた。
その病は、自らをヒーロー、あるいはアンチヒーローと思い込んでしまうという病態を示し、積
極的にそういうものに準ずる行動を取らせようとするという。
「ならば、今の私はどうなんだろうな。私はもちろん死ぬ気なんてないが、この能力が私に苛烈な
苦痛を生むことは確かだ。それがわかっていてあえて、私はこの方法を選んだ。この自己犠牲の精
神は、ヒロイックと呼んで差し支えないものじゃないだろうか」
助手くんは言っていた。厨二病患者は世間的には可哀想な子、変な子という扱いを受けがちだと。
だが、今日岬陽太と会って思った。確かに彼らの発言や行動は不可解なところもあるのだが、そ
の病ゆえに彼らは一生懸命なのだと。
きっと彼らはわかっている。突然変異を起こして、ある日偶然能力などというものが使えるよう
になったところで、本来人間はか弱い生き物だということを。
自分自身もまたか弱い人間だということを、きっとわかっている。その弱さをなんとかして否定
したい。自分こそはと、せめて自分だけは弱者ではないと主張したい。
人間はどこまでも弱いという、その動かぬ理を覆したい。
だからこそ、彼らは自分の能力を研鑚する。その努力が報われるのか、意味があるのか。そんな
ことは度外視して。ただ『強く』なるために。
「はは、これはどうやら……重症の厨二病患者2人と触れ合ううちに、私も厨二病に感染してしまっ
たと見える」
わかっていた。私がこの方法を選んだ時から。彼らの一見ひねくれているようで、その実純粋な
心に接して、私の中に眠っていた何かが目を覚ましていたのだ。
「ん? おっと、キメラくん、もうこんな近くまで接近してたか。しかしのんびりしたキメラくん……?」
感傷に浸っていられる状況ではなかったのだった。敵の接近を感じて、私は気持ちを切り替える。
だが、何かがおかしい。前方おそらく50メートル先くらいにいるだろうそれは、私の記憶にある
キメラという種類とは少し異なっている気がする。
だが、もうそんなことは関係ない。私のフェイタル・スクリーマーは、眼前に立つ者の生殺与奪
権を完全に手中に収めることができる。相手がどんな化け物であっても、そいつに心臓がひとつあ
れば、私は必ず勝てるのだ。
「岬陽太は、月下。朝宮遥は、白夜。そしてこの私は……」
敵はもう十分に視認できる距離まで近づいている。そしてその姿を見て、私は思わず顔をしかめ
た。
あまりに醜悪だ。キメラはまだ顔付きなどが凶悪である以外、犬の姿を留めていた。
だが今私に迫るこいつは違う。何の意味があるのか、まったく同じ顔をした頭が3つついている。
それぞれの頭の目はどれも正気を失い、私を認識しているのかさえ定かでない。
その口から絶えず漏れるよだれが、生理的嫌悪感をさらに増大させる。
ケルベロス。どうせそんなベタな名前で呼ばれてるんだろう。だがもうそんなことはどうでもいい。
私は、負けない。この能力がある限り。
能力を使うことによるリバウンドに、恐怖がないと言えば嘘になる。だが、私の能力は相手をほぼ
確実に死に至らしめるもの。相応の罰を受けなければならないのだ。
最後の覚悟を決める。そのために私にはするべきことがあるはずだ。
「ようこそ、と言ってやりたいところだが。私の前に現れたのが、お前の運の尽きだ。私の名は……
ドクトルJ。今この瞬間お前の儚い命の灯火は、完全にこの私の掌中にある」
……何を言っているのだ私は。猛烈に恥ずかしくなってきたじゃないか。この発言、なかったこと
にできないか。
私の自己紹介に反応したのかどうなのか、ケルベロスは3つの頭全部を私の方へ向けて、「グゴゴゴ」
とひと唸りしてきた。
その低く獰猛な唸り声にも、もはや私は微塵の恐怖も覚えなかった。今この時、私はただの中年眼
鏡ではなくなったのだ。羞恥心を抱こうとも、やはりさっきの名乗りを取り消すことはできない。
今にも私にとびかかり、喉笛を食いちぎらんと構えているケルベロスに向かい、私は静かに右手を
かざした。
「フェイタル・スクリーマー、発動」
刹那、視界が揺らぐ。色は失われる。その中に、ただひとつ明確な色を持って存在する赤。
私はそれを視認できる。犬であることを忘れた醜い化け物の胸に残る、生物の証を。
聞こえてくる。この邪悪な怪物の命の拍動が。心地よい規則的なリズムを刻んで、とくんとくんと
私の手のひらを通して、はっきりと伝わってくる。
私はその音に対して、命令を下すことができる。
「もっとゆっくりでいい」
命令はたったそれだけ。後は私が具体的にどれくらい遅くするのかを決定するのみ。
一分間の拍動回数、一回。私はそのように、音に向かって念じた。
ふっと、小気味良いリズムが止んだ。
その見るからに強靭そうな四肢で姿勢を低く構えていたケルベロスの体が、小刻みに震え始める。
震えはやがて激しくなっていき、立っていることもままならなくなって地面に崩れるように倒れ伏
した。
それから間もなく。その体は激しく痙攣を起こして暴れ、真ん中の頭が断末魔の唸り声を上げたと
思うと、ぴくりとも動かなくなった。
「あっさり、だな。相手は化け物とはいっても、やはり多少申し訳なさを感じるな」
私の手の中で、一つの命の光が消えたのだ。あまりにも簡単で、無情なほどにあっけなく。
だからこそ、私は天罰を受けなければならない。手軽に命を弄ぶ権利を得た、代償を払わなければ
ならない。
「ぐうぅ……うがああぁあぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁああぁぁぁあぁあぁぁああぁ!!」
割れる。頭が割れる。私の頭が割れる。左右に上下に前後に斜めに輪切りに真っ二つに西瓜のよう
に木端微塵にああ私の頭が割れる。痛い。もう早く割れてしまってくれ。痛いのは嫌だ。
溶ける。溶けていく。脳が。私の脳が溶けていく。どろりどろりと心地よい音を立てて崩れ崩れて
西瓜のように派手に割れた私の頭から流れ流れて溶けだしていく。
だから私は世界と一体となるのだ。だって私の脳は今私の外へと溶け出て世界と直に触れ合ってい
るのだから。だから私の意思は世界の意思なのだ。
ああそれにしても熱い。せっかく脳を溶けださせてまで直接涼ませてやっているというのになんの
効果もありはしない。しかし世界と一体となるこの感覚は何物にも代えがたい愉悦快感だ。私は世界
なのだ。
「ち、がう……。私は『世界』じゃない。私は、私は……『ドクトルJ』だ」
激しい、などという言葉が陳腐に思えるほどの激しい頭痛で別世界へ連れて行かれかけていた意識
を、私はすんでのところでたぐり寄せた。
いつの間にか私は道路のど真ん中に寝そべっている。まあいつの間にかも何も、この能力のリバウ
ンドを受ける時はそうなるのが常なのだが。
少しマシになったものの、頭痛と全身の筋肉が軋むような痛みは変わらず続いている。だが峠は越
え、今回も私は最後の砦をくぐることはしなくて済んだようだ。すなわち、『命の償いは命でする』
ことは回避できたということ。
そう思うと、少し心が安らいだ。そのまま、あの厨二病患者たちのことを思い浮かべる。
「無事に逃げていればいいんだけど……犬が一匹だけってことは考えにくいからな」
この結界空間に複数頭の改造犬が放たれている恐れは高い。それならば彼らも遅かれ早かれ遭遇し
てしまう危険は大いに考えられる。
岬陽太は夜間能力を巧みに使いこなすことで、一度キメラを退けている。しかしあの時は、同行し
ていたボーイッシュな少女の能力がキメラに影響を与えていたという隠し要素があったらしい。
大丈夫だろうか。あの元気で不遜、いつも余裕綽綽な少年と、なぜか常に上から目線だが素はかわ
いいところもある少女の顔がふっと頭をよぎる。
彼らに何かあったら、私はどうすればいいのだろう。今回のことは完全に私の想定外だ。読みが甘
かったと言わざるを得ない。その不始末のツケを、何の非もない子どもたちに負わせることになる。
そして私はまた生き残る。たった一人のうのうと。
「はは。私は少しマイナス思考すぎるな。昔からそうだが……」
もしかしたら別のキメラ、あるいはケルベロスは、今こうしてくたばっている私のもとへひょっこ
り現れるかもしれない。そうなったら――
「その時は、できるだけ優しく噛み殺してもらうとしよう。逢いたい人もいることだしな」
どのみち、私の体はしばらく動かない。脳みそだってあまり動かしたくはない状況だ。
どうせ周りに人はいない。今日は何かと濃い一日で、いつにない疲れを感じる。
「……少し眠るか」
言いながら目をつむる。私の意識はそれから3秒と待たず、眼鏡外すの忘れたななどと思ったそば
から閉じていった。
つづく
投下終わりです
改めてドクトルJのプロフィールを
・ドクトルJ
36歳。とある能力研究団体に研究者として勤務。180オーバーの長身でがっちりした体格
のため、かなり大柄に見える。
黙っている分には、眼鏡の似合う知的なナイスミドル。
白夜の保護者であると同時に、彼女の厨二行動の迷惑を常に被る苦労人でもある。
陽太と白夜の厨二に振り回されつつも、意外に彼自身もその気があったりする。
《昼の能力》
肉体玩弄【プロミスド・ヘブン】※白夜が無理矢理命名
《夜の能力》
心音玩弄【フェイタル・スクリーマー】※白夜が無理矢理命名
【意識性】【操作型】
対象の心拍数を変動させる能力。
最低で1分間の拍動1回まで下げることができるが、上限については試していないので
未詳。
効果発動中はドクトルJの目に相手の心臓が見えるようになり、相手にかざした手から
心臓の鼓動を聞くことができる。
相手の心臓を完全に止めることと、すでに止まっている心臓を動かすことはできない。
リバウンドとして急激で異常な体温の上昇と、それに伴う全身の激痛を受ける。
フェイタル・スクリーマー……恐るべき能力!
故に代償も大きいわけね
心臓を「止めること」はできない、というのが興味深いな
ドクトル、御身大切に!
三つ頭は、地獄の番犬ケルベロス
いままでのは魔狼フェンリルか
キメラが犬形態だけ、ってのは考えにくいものな
網翅目形態も存在……ってこれは違うか
ドクトルKAKKEEEEEEEE!!!!
151 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 10:50:28 ID:yRF3LFTg
てすと
誰もいない、イマノウチに投下…
……トリップが違うだと……。
構わん投下じゃあ
【Paradigm change!】
「一話 ヘイヴンの日常はかく危なき(後)」
猫耳少女は人を超越した跳躍で店の柱に飛びつくと酒場の二階へと移動した。指の中でコインが弾丸のように弾かれ、敵に殺到する。
網走はしかし、全てを見切り身を反らせ、地を蹴り横っ跳びに転がり、すぐさま矢を番え、能力で貫通力を持たせ射出。赤毛の少女は身を低くしてかわした。
コインが爆ぜる。酒場の床に大穴を空け、さらに巻き添えを食らった柱を半ばから食い破り、炭化させて粉塵とし。
客が恐怖で慄き逃げる中、少女が二階の手すりに上がり、網走が和弓に矢を番え視線で貫くように見て。西部劇の撃ち合いより尚お熱い戦いの痕跡はあちらこちらに。
「埒が明かないとはまさにこのことにゃ?」
「では隙を見せてください。完膚無きままに、殺します」
「ゴメンだにゃぁ、ボクが生きてお前が死ぬにゃ!」
猫耳付きのフードが一瞬盛り上がった。
赤毛少女が両足を活用して、二階から一階に跳ぶ。両腕の、何人もの人間を残忍に食い破ってきた銀両刃付き籠手を交差させるように力を貯め、相手を殺害せんと。
網走、番えた矢とは別にもう一本無理やり番えれば、やや角度を違え、二本同時に放ち、和弓を隅に放り投げた。
刃付き籠手の刃全てが発射された。それは少女の操作により、二本矢を爆発能力を使わずに叩き落とす。そして、少女は地面に両手両足を付け、獣のように、抜剣した網走に切りかかった。
余りの急負荷に少女の靴が摩擦により白煙を吐いた。
赤毛の残像を残し、接近。
「ニャ!!」
目にも止まらぬ九連撃。
左右、踊るように繰り出されるコンビネーションアタック。顔喉関節に刃が振られ、しかし、その全てをカーボン製サーベルに阻まれてしまう。
「速いッ」
網走は少女の素早さに心の中で舌打ちしつつも、その攻撃が速度による蹂躙のみを目的にしていると見抜いていた。
超速度により敵の対処を困難にさせ、急所に一撃を食らわすそれは、一般的な少女がなすような生温い考え方や育ち方をしていないことを暗に示して。
大ぶりな横薙ぎで少女をいなし、さっと距離をとって一拍、すぐさま斬りかかる。
能力『貫通』は飛び道具の時に真価を発揮するのであって、この少女相手では精々籠手の防御を皆無にする程度の効果しか現さない。分厚い装甲服ならよかったのだが。
一方の少女も『爆発』能力を十分に生かせずにいた。接近戦では能力を満足に生かせず、「配置」も敵の攻撃により一向に進まない。だから今は攻めるのみであった。
「遅いんだにゃ!」
「何をこれしき!」
網走の、フェンシングを原型にする動きに近接格闘を取り入れた剣術は、少女の素早き攻撃を紙一重で逸らし、そして紙一重のところで攻撃を与えられない。少女は両腕の籠手で受け止め、能力で貫通されないように突きを斬に変えるように流していて。
頭部へ突き出した一撃を、銀に光る刃が受け止め角度を変えることで噛む。刃が複数並んでいたことによる利点が、今出た。
冷静な網走に初めて焦りが生まれた。
「チッ!」
舌打ち、思考をさらに高速化。
距離が近接から超至近距離へ。
「ニ゛ャッ!?」
網走は頭を引き、額を鈍器として使用することに決めた。少女の頭に脳天一つ分の重量が襲撃する。鈍い音がした。
少女は片腕で網走の首か頭をかき切ろうとしたが、まさかの頭突きによろけ、腹部に盛大にめり込んだ膝に、二階に上がる階段に背をぶつけるほど飛ばされた。
更に追撃を加えるため、網走が駆けた。
少女が斬りそこなった首の代わりに黒髪が数十本ほどぱらぱら宙に舞う。
赤毛の少女は腹と背の心配をすることも許されず、階段に中途半端に寝たままの防戦を強いられる。
ここぞとばかりに、網走はサーベルによる攻撃を熾烈にして、目の前の敵を排除せんとする。カタールタイプの弱点である射程の無さ故、少女は防御するしかなかった。
攻撃と攻撃が絡むたびに火花が散り、酷い有様の酒場に戦闘音が反響して消えていく。
「くぅうううッ……!」
「このままくたばりなさい!」
矢継ぎ早に言葉を交わす。余裕があるわけではない、理性も本能もヤメロと語っているが、しゃべりたかっただけ。殺し合いしながら話す感覚は当事者にしか理解できまい。
カーボン製の刃を、銀製の爪が受け止める。貫通させないよう、両腕を活用して挟み、その結果引きもできない押しもできない拮抗状態がここに生まれることになった。
網走が体重と腕力で押し込み少女の頭に穴を穿たんとするものの、少女の細腕から出力される剛力が相殺する。下に寝転ぶ少女に網走が覆いかぶさるような格好。
少女の頭あと数cmのところでサーベルはピクピクと震えて頑に動かない。
「死ね!」
「それは明らかに悪役のセリフにゃ!」
「やかましい、殺されたほうが悪なんですっ」
「あぁ、そうかにゃ! お前の体なんて要らないにゃ! 頭を中から吹っ飛ばしてやるにゃああ!!」
「不可能ですからそれは!!」
二人して喉も枯れよと声を浴びせ合う、その時だった。酒場から少し離れて見物していた野次馬たちがどよめき、するすると退散し始めたのだ。
何故か。
理由はたった一つ。
ヘイヴンで力を存分に振るうことを許された武装集団――実働軍がやってきたからであった。黒塗りのバンが通りに数台停車すると、中から装甲化された服と大口径銃を装備した男たちがどやどやと現れ、酒場の前で並ぶ。
そして、銃を構えて撃鉄を起こした。
赤毛の少女のファンシーな服のフードの横から、猫の耳がぴょんと飛び出ると、犬が匂いを嗅ぐようにぐっと持ち上がった。
少女は気がついた。網走も気がついた。
さっと振り返れば、黒の集団がこちらに銃口を向けているのがはっきりと見えた。
二人はほぼ同時に言った。
「……殺し合いは」
「お預けにゃ!」
網走はサーベルを引き鞘に収めると部屋の隅にある和弓を引っ掴み、裏口に駆けだした。少女はそれを遥かに超える速度で裏口から逃走。
幸いなことに裏口に敵はいなかった。空気は涼しかったが、銃で狙われているという事実が網走の皮膚をちりちりと焦がす。
少女は壁伝いに跳躍すれば、あっという間に建物から建物に跳び移り見えなくなっていく。
「跳べるなら跳んだほうがいいにゃ♪」
何やら楽しげな少女の声が、小さくなりつつも網走の鼓膜を叩いた。
少女の夜の能力は爆発。そして、跳べるならという言葉と、脱出中という状況。そのほかの要素を合成して考えていけば、分かる。
そう、これから導き出される結論は一つだけ――。
「爆破ですか!?」
裏口の扉から飛び出た刹那、能力が作動した。
爆発。
地鳴り起こす大爆発が酒場を木っ端微塵にせしめ、衝撃が背中を突き飛ばし地面を転がり、やっと止まった。大音量により聴覚がキーンと耳鳴りを知覚して。
天井が吹き飛んだことで、焼けた木片が黒煙と白煙を曳きながら四方八方いくつも夜空に上がった。
暗黒の空よりずっと鈍重な黒い煙が真上に上がり、星の顔を隠す。
「……店主は可哀想ですが、まぁいいとしましょう」
網走はあと少しで崩落に巻き込まれていたことを自覚して溜息をつき立ち上がれば、ややよろめきながらその場を後にした。
▲ ▼ ▲ ▼ ▲
妙な連中の追跡をかわし、実働軍のヘリコプターの照明から辛くも逃れた網走は、疲労していることを感じさせぬ軽快な歩調で現在の住処へと急いでいた。
準スラムと言われてもあぁそうかと納得できる建物並ぶ一軒の家の玄関前に行くと、ローブを脱ぎつつ合鍵を錠前に差し込み回す。ガチャ。やや抵抗もみせつつも扉は開かれた。
今日の仕事は成功した。途中で妙な少女に襲撃されたが、生き残れたのだから間違いなく成功の部類なのだ。ちなみに報酬はポケットにある。
だが実働軍に姿を見られたのは失敗だった。彼らはこのヘイヴンの実力者であり、また統治者の片割れのような存在なのだ、目立ったのはいけなかった。
失敗を反省し次回に繋げる好ましい思考をしていたところ、部屋の中からギルバートらしきそれと違うもう一つの気配を感じ取った。
その気配は、こちらに気が付き何かしらのことをしているのがなんとなくわかった。
サーベルを引き抜き、いつ来てもいいように身構えると足音を殺してじりじりと部屋の中に身を沈めていく。懐から拳銃を抜き安全装置を解除。銃声は立てたくないが、緊急時なのでやむを得ない。
壁に背をつけ移動、そしてさっと飛び出るとサーベルの切っ先を突き出し拳銃の引き金に指を這わせた。
「手を挙げ…………?」
もし武器を持っていれば発砲するなり斬りかかるなりしただろう。
もし能力の発動が認められれば、こちらも能力で潰しにかかっただろう。
では、例えばその相手が身長低めの青年で、武器として 大 根 を握っていたら、どうすればいいのだろう。
その青年は、半裸で女性体のギルバートをソファーに寝かせていて、こちらに大根を構えてこちらに威嚇してきている。
網走は武器を持ったまま閉口した。
一方青年は大真面目な顔で怒鳴った。
「てめぇ誰だ!」
それはこっちのセリフだと網走は言いたかったが面倒なので止めておいた。
また一悶着ありそうだった。
【次回に続く】
トリップが変わってしまう謎……
いっそのことトリを無くしたほうがよさげな……
投下終了です。
どうしようトリップ。
ええっちょっ、ええええぇ!!?
大根さん!? 大根さんなのか!? パラレルワールドの大根さん!?
最後の衝撃でいろいろ吹っ飛んだwww
これほど続きが気になる話もそうそうないな
いや実に熱いバトルだった
レベル高いねえ機関も組織も
ルローが犯罪者らしく外道なのが新鮮でよかったわ
あれ、でももしあの大根の持ち主だったら青年
じゃなくて少年なn(ry
時系列的に後の話なんじゃね?
戦闘描写のリズムが独特w 一度クロスしてみたい…
そして週末、ラジオの噂…
あっひゃっひゃ、見直したら直したい部分が多すぎる件について。
大根君(失礼)が青年なのは、きっと成長したからだよ!
パラレル世界なんだもん イイワケですスイマセン。
ルローさんと網走さんの戦闘能力はほぼ互角といったところでしょうか。
切断VS切断もそのうちやりたいなぁ、と。
マジで大根さんなのかよw
地味に凄いななあいつw
いっそのこと俺は次の作品を投下するぜ! ぜ!
なお、作者が大根のキャラを把握し切れてないこともあり、違和感を覚えるカモ。
【Paradigm change!】
「二話 叛逆者と便利屋と(前)」
人間、理解できない展開に遭遇すると、思考能力が著しく低下するらしい。
女の体になった相棒が気を失い、初めて目にする青年が大根を武器に反抗してくるという、カオス極まりない状況下に置かれた為に、網走鋭利の頭には多くの空白領域が蔓延っていた。
なぜ、大根なのだろうか。
例えば内部に爆弾が仕込んであるとしよう。投げつければ威力は絶大であるが、この状況では爆弾をそのまま投げつけた方がよほど強いことは明白である。大根など不要なのだ。
もし青年が、酒場で戦闘した少女と同じような能力者だったら、そんなことは簡単なのかもしれない。もしかすると大根一撃で命を奪えるのかもしれないではないか。
世の中には千差万別、十人十色、無数の能力があり、大根を必殺武器にする能力があってもなんら不思議ではない。神とやらは大根が大好きだったとこの際解釈しておこう。
では、何故。
何故、ギルバートが半裸で青年に守られることになっているのだろう。
ここはむしろ逆で、ギルバートを誘拐してこちらを脅迫して……。
「誰だって言ってんだろお前!」
「………」
大根振りまわしてギルバートを背後に庇う青年は、口角泡を飛ばす勢いでこちらに大声張り上げている。
もうなんでもいい。
そういえば大根っておでんにいれてあると美味しいよね。ダシがしみ込んでるのを食べるのはとても良いことだ。
網走は両手の武器を降ろし両手を胸元に挙げた。
「説明すべきですね。私は網走。しがないエージェントです」
「エージェント……明らかな嘘だろ。この子を追いかけてきた刺客かなんかだって方が説得力ある。武器持ってるやつは珍しかないが、動きが手慣れてる」
「技術も資格も学もない女性が稼ぐためにはこういったことが必要なんですよ、体を売るなら別として」
あえて本当のことを言っておき、疑わせることで真実を隠蔽する。誰もがよく使う手で誤魔化して、とりあえず部屋に入る。
ちなみに名前だが、元の名前は捨てて現在の名前を本名としているので、いくら名乗ろうが情報の漏洩は考慮しなくていい。網走もギルバートも存在なしの幽霊のようなものなのだ。
その間大根を最終兵器であるかのような面持ちで構え続ける青年の後ろで、ギルバートの手がぴくんと閉じた。
網走は大きく息を吸い込むと、手を下げずに言の葉を組み。
「我々は難民でして。能力のせいで放浪の旅をしていたところ、このヘイヴンにたどりついた、たんなる一労働者に過ぎません。その子とは親友の仲です」
「本当だろうな、嘘だったら俺の魔剣で成敗してやる」
「……大根ですが?」
「ラディッシュだよ魔剣ラディッシュ!」
ヴィヴァ魔剣と叫びつつ 大 根 を天高く掲げる青年。
こいつバカじゃないかという、相手の神経を逆なでする目つきをわざと作っておき、部屋の椅子を引き寄せて座ると足を組み腕を組み。そしてギルバートを指さす。
「彼……彼女の名前は、………えー……ギル、といいます。起こしてくださいますか?」
「ギルちゃんか。分かった」
しかし青年はいやな顔一つせず、ギルバートの名前を呼びながら揺り起こし始めた。彼もしくは彼女は青年の手により目を覚ました。
ウーン、と喉からうめき声を出してもぞもぞと口を動かすと手で自分の頬を掻く。
最初は爪楊枝より細く瞳が開く。ぐっと息を吸い込むことで、危ういところで外からは見えない胸の隆起が、膨張した。服の皺が伸びて形のよさを主張する。
動きの一つ一つが全て女性の仕草であり、女性の網走から見てもギルバートは完全に女性だった。これは天性の才能というやつで、彼は幼児から老人までを、完全に“演じる”。外見と中身を完全に真似ることができる彼は諜報員には打ってつけなのだ。
“彼”が目を覚ましたのを確認した青年は、胸元を見ないように細心の注意を払って尋ねる。なお、大根は握ったまま。
「起こしちゃって悪い。アイツは君の知り合いか?」
言いつつ網走を指さすと、ギルバートは庇護欲を誘われる弱々しい表情を浮かべて頷いた。
網走は口をへの字に曲げて、その横顔を観察する。肌に色素があり黄色に近い。瞳は黒もしくは茶色。アジア系なのだろうか。だとすると網走の同郷の者であるかもしれない。
最も、日本は隕石の直撃を受けて半分壊滅したが。
「うん。あの子は網走。私の親友で、姉妹みたいなもんかな」
「そうか。……えーっと、網走さんだっけ。悪かった、俺の勘違いだったわ」
ギルバートの言葉に青年の誤解が解かれた。
青年は両手をぱむと合わせ、網走に対して謝罪をした。その動きはやはり日本人特有のもので、ほかにも通話しながらお辞儀などをしたら間違いなく日本人である。
網走は溜息をつくと、さっきまで着用していたローブをギルバートに投げてよこした。
「構いませんよ。そんなことより、彼女が半裸になっている理由と貴方がここに来るまでの経緯をみっちりと語って頂きましょうか」
▲ ▼ ▲ ▼ ▲
「つまりこうですか? 情報を探していたら偶然チンピラ集団に取り囲まれているギルに遭遇して、これはいけないと乱入してボコボコにして救出したら、他の連中まで寄ってきたと」
「そんな感じだ。あのままいってたら百パーセントあんなことやこんなことになった挙句、奴隷とか、臓器売買されてたぜ」
「なるほど、私からも礼を言います」
青年が話してくれたことを総合して考えるに、助けて家に送ったということらしい。それにしても大根で勝利をもぎ取るとは、油断ならない青年であると網走は思った。
ギルバートと網走は椅子に座り、青年はソファーでリラックスして座っている。
網走が青年に頭を下げると、ギルバートは儚げな美しい笑顔を見せ一礼。青年も二人に対して頭を下げる。
「ありがとうございましたっ。本当にどうしようっ、って。怖かったんですよ」
「今度から気をつけろよな?」
「はいっ」
などとしゃあしゃあ演じるギルバート。男性心を擽る仕草。目をきらきらさせ、頬を赤らめることすら演技の範疇なのだというから、恐ろしい。
そこに人が居るならどんな奴だってなりきってみせると豪語する男は、違和感を一片も挟ませずにやってのける。
網走はギルバートに指で合図をすると、青年が知らないであろう言語で会話しようとする。
『……それで? チンピラに絡まれてたってのは?』
ギルバートは咳払いをし、手のひらに顎を乗せて支え。
『怖がったフリしてチンピラ一人になりきってやろうと思ってたらコイツが乱入してきてな、スパイス眼潰しとか、大根フルスイングとか、よくもまぁ食材だけで切り抜けるもんだ』
『なるほど。それでどうします?』
『そりゃアイツに聞いてくれ』
ギルバートと網走は、目の前で未知の言語で会話し始めために一人置き去りになり、目を点にしている青年を見た。様子から察するに知らなかったのだろう。また、ギルバートの姿が仮の姿であることも知らないはずだ。
網走が言った。
「そういえば名前を聞いていませんでしたね。名前は?」
青年は立ち上がると、大根という名前の大根を掲げた。
「俺の名前は岬月下! 神の創りし理に叛く男だ!」
「そうですか。ではこれから月下と呼びましょう」
「月下君、覚えました」
神の〜以降は完全にスルー。
痛々しい青年というか、中二病の真っ最中であるようだが、二人はそこに一切触れずに話を進めることにしたらしい。
能力が原因で生じる病気、能力症候群(チェンジリングシンドローム)の中二病にかかっていようがいまいが、二人には一切かかわりの無いことだし、本質はいい人っぽい訳なのだから。
岬青年は恥ずかしがることもなく聖剣(大根)を一振りし、満足した顔でソファーに座った。
まず網走が話を切り出した。
「貴方の追っていた情報とは何か教えて頂きませんか? 嫌ならいいんですが」
「それはできねぇよ。だって俺、何でも屋でそれが仕事なんだし」
「何でも屋ですか……」
岬月下、提案を拒否。
何でも屋とは、雑業から雑業までを生業とする業者のことである。
だがこのヘイヴンで何でも屋と言うと、時に裏の仕事もこなす危険な仕事であり、それを考慮すればなるほど青年の戦い方も納得がいくというものだ。
網走は何かを考え込み、ギルバートにちらりと目配せをした。ギルバートは微笑をスパイスに効かせ岬月下に口を開いた。
「月下君……その何でも屋って人手は必要なの……で、ですか?」
「ん〜〜〜〜……必要っちゃ必要………まさか」
これまた、わざと敬語を崩しかけたフリをしてみせるギルバート。
意図に感づいた月下に対し、網走が身を乗り出した。
「これも何かの縁ですから、私たちに仕事を手伝わせてください。……あっ、そうだ。今はこの街の事を知りたいのが第一なので給料は格安でいいですから」
【続く】
フラグ? 残念それは男性だ!
便利屋設定が便利すぎてつい使ってシモウタ……
この設定なら従業員を増やしてフハハハ
厨二のまま成長しちゃったwいろいろ残念だぞ岬青年www
パラレルワールドでも相変わらずで安心したわ
月下が通ってよかったなあ岬青年
>最も、日本は隕石の直撃を受けて半分壊滅したが。
淡々としすぎ吹いた
>>170 初対面で月下と名乗ったのでそのまま通ったという。よかったね!
岬青年が居るということは、さらに強化されたあの娘を出したほうがよさげかしら。
次回は便利屋何でも屋事務所の場面です。
>>169 成長しても全然治ってない厨ニ病……w
厨ニ病患者の多いこの世界じゃ、カウンセラーはさぞかし忙しいんだろうな―
>>172 ファング「放ったキメラの内、3頭ほど帰ってきてね―んだが」
フール「ああ、貴方の育て方が悪かったんでしょうね……」
ファング「オイ、如何言う意味だコラ! つか他のヤツも納得した様に頷いてるんじゃね―!!」
>>172 たけしくんかわいいルローかわいい
何より無垢なアイリンが最高にかわいいな
>>172 とりあえずみんなかわいいかわいい
ニャッ
>>169 だめだ、やっぱり厨二過ぎるwww
それに対して冷静に対処できる二人はすごいと思うw
厨二で負け、戦闘描写で負け…中途半端に止まってる本家大根はどうすりゃいいんだよ!?
ニヤニヤが止まんねえよ馬鹿野郎!
ハイレベルな戦闘、お見逸れしました。
パラレル世界っぽいですし、大根も晶も他もこちらに構わず好きにしてやってくださいな。
本家が無ければ誰が大根で戦うことなど考えただろうか
今日は2時間後に避難所のラジオスレでシェアラジやるらしいお
放送内容のファイルは放送後に落とせるんでしたっけ?
向こうでDJさんに聞いた方がいいかとw
前回は録音あったよ
避難所リアルタイム投下中のようです
規制解除!
おめ!
>>172 ふにゃふにゃで吹いたw
>>177 ありがとうございます、きっと活躍させられる……といいなぁ
今日も元気に投下だァー
【Paradigm change!】
「二話 叛逆者と便利屋と(後)」
翌日、網走は岬に連れられ何でも屋の事務所を訪れていた。ギルバートは都合が悪いといって連れてこなかったが、岬月下は素直に承諾してくれた。
事務所はヘイヴン中枢があるという塔が集結した地点から、そんなに遠くない場所にひっそりと建っていた。鉄筋コンクリート製。くすんだ外壁と、鴉が上空を周回しているのが印象的だった。
岬が扉を開き、網走が後から続く。
事務所内で足を組んで本を読みふけっていた一人の男性が顔を上げると、眼鏡を鼻の頭に、裸眼で見つめるようにしてくる。彼の周囲には本と書類とパソコンとコーヒーカップがある程度だった。
岬は手を振った。
「この人が仕事くれ、だってよドクトル」
「……ふむ」
ドクトルと呼ばれた白衣姿の男性は、網走を上から下まで、物質の構成式を見定めるように観察して、手元の本に栞を挟み立ち上がった。
年齢、40にいくかいかないか。長身、思慮深そうな顔立ち、それにそぐわぬガタイの良さが彼を包み込む雰囲気をちぐはぐにさせているのに、何故か人の良さそうな見た目で。
ドクトルがこつこつ革靴を鳴らしつつ歩み寄って、その途中で机の上からリンゴを一つ取り上げた。
「最初に言っておくけど、給料なんて大仰なものを私は払えない。お手伝い的な感じになってしまうけど、いいのかい?」
「ええ。私はそれで一向に構いません」
「ふーん、……物好きなんだね」
「よく言われます」
網走鋭利という女性は、長身であるはずなのだが、ドクトルがすぐ前に来てしまうと小柄に見えてしまう。
ドクトルは手元のリンゴを白衣で磨くと、―――……網走の顔面めがけて投擲した。岬がアッと息を漏らした。
咄嗟に手が動く。
瞬間、網走は人差し指でリンゴを一撫で。レーザーで切断されたかのような美しい面を見せリンゴは三等分にされた。そして網走の手の中に納まり、遅れたころに果汁が垂れて。
「……何のつもりですか?」
「ちょおまっ!?」
不機嫌隠さず網走が尋ね、おもむろにリンゴの一切れを口に放り込むと、残りを岬の口の中に無理やりねじ込む。哀れ岬青年はもがもが言いながらリンゴと格闘するハメになった。
三等分にしたのに自分にはくれなかったことにドクトルは拗ねた顔をしたが、手をひらひらさせた。
「能力検査みたいなもんさ。君の能力は……そうだな、切断?」
リンゴを人差し指一本で瞬きより早く三等分にしたところから推理するのは容易いこと。
早くも好奇心を滲ませるドクトルに、網走がじっとりと眼光を送りつける。
「ご名答。私の能力は斬ること、それだけです」
「僻むことはない。使い方次第さ。いいね、実にいい。興味深い。類似した能力はあれど、人の数だけ能力はある。うん……」
研究者や学者に必要なのは好奇心と、いつまでも枯れ果てぬ探究心そして努力だと人は言う。この男も例に漏れずそうであるようで、網走の能力について考え始めた。
机の上の論文を引っ掻き回し適切なものを引き上げて、立ったまま読文開始。研究対象が全人類なのなら、コンビニに立ち寄っても研究できるわけで、困ることは無さそうだ。
しかし残念なことに網走は彼が研究者であると知らされていないまた知らないわけであり、妙な人物だなと思うにとどまった。
ドクトルJ、本にざっと目を通すと、やっとこさリンゴを飲み込み一息ついている岬に骨の目立つ指をゆるりと上げて。
「じゃ、早速だから説明にいこうか岬君」
「超苦しかったわ。網走……」
「さんは要りませんからね」
「網走、お前のお陰で神様の家に泣く泣く旅立って大根でぶん殴りに行かなくちゃならなかっただろ……」
「ごめんなさい」
「感情が窺えねぇ………」
「そうですか、じゃあすいません」
「じゃあってなんだよじゃあってよぉ!」
リンゴの大部分を口にねじ込まれたのだ、育ち盛りの岬青年とて、一瞬で食らうことはできず、一人這いつくばってやっと咀嚼して飲み込んだのだ。吐くのはプライドが許さなかった。
普通に食べるならとにもかくにも、リンゴを叩きつけるように挿入されては手も足も手ず舌も出ない。
「いいじゃないか岬君。美味しかったんだろう?」
「言ったな、聞いたぞ。美味しい青森のリンゴをたんまりとお見舞いしてやんから覚悟しとけよコンチクショウめ」
「まぁまぁ、ね?」
「……はぁ〜〜」
さて、ドクトルに宥められた岬月下は、ムスッとしつつも自分が追いかけていた事件について話す気になったらしく、腕を組み、ドクトルの机に軽く腰掛けた。
もう高校生にもなろうかという年齢になったが故の成長なのをこの場で知るは友人かドクトルくらいなものだ。
岬が人差し指をぴんと上げると、床を歩きまわりつつ話を始めた。
「事件が起きたのは二週間ほど前。とある少女が、消えた」
「消えた?」
質問したくてうずうずしていた網走だったが、岬が人差し指を向けてきたことにより押し黙る。岬、指をくねくねさせると、また歩み始め。
「消えるなんてのはこの街じゃ珍しいことじゃない。誘拐を始めとして物取り強盗拉致監禁強姦殺人なんでもありって場所だからな。でも、その女の子の場合はちょっと違ったんだよな、これがまた」
「と言うと?」
ドクトルは眼鏡を指で持ち上げると、机に浅く腰かけて両手を組み顎の下に位置させる。話は一通り聞いているので口を出すと効率が悪いと判断しているらしく、黙ったまま。
岬は一拍置いて口を開いた。
「俺の調べによると、実働軍が拉致ったらしい」
「実働軍と言うと治安維持部隊のことですが………というかもう何でも屋の仕事を超えてますね」
「何でもやってなんぼだろ? まぁとにかく、女の子の身辺を洗ってもまっさら。真っ白。で、何故か実働軍の連中が取り囲んできて連れ去って、行方不明。心配に狂った両親と友人が四方に依頼した。で、俺のとこにも来たってことだ」
「他の線は?」
「消える寸前まで一緒に居た人物が実働軍を目撃してるから間違いはないが?」
「なるほど」
岬はそこまで喋ると両腕のストレッチをして、手頃な椅子を足に引っ掛け腰掛ける。その隣の椅子を網走に寄こし、ポケットから何かのケースを取り出し蓋を開けて見るように促して。
そのケースの中には写真が一枚納まっていた。それを、椅子に座った網走が覗き込む。
どこにでもいそうな茶色のセミロング少女がはにかんで写真の中央に立っている。色素の薄い肌と彫りの深い顔立ちから、少なくともアジア系ではないことが分かった。歳は中学くらいだろうか。
網走の瞳が、画像をスキャニングして脳内の保存領域へと叩きこむ。
ぱちんといわせて、岬がケースを仕舞い込んだ。
「今は居ない俺の同僚が調べたところ、とんでもない威力の持ち主だったらしい」
「どんなですか?」
「なんでも電気を自在に操っていたとか。本人は使わなかったらしいが、雷すら再現できたとか言ってたぜ」
「無茶苦茶ですね。……しかし……」
網走は椅子に座りなおして居心地を改善すると、自らの考えを纏めようとして。
まず最初に。
事件の概要は?
二週間ほど前、とある少女が実働軍に誘拐された。犯罪歴が無かったことから、実働軍が動きを見せる理由が無い。
……本当だろうか?
そこで、必然的に注目すべき点が急浮上してくる。
それは能力である。
電気を自在に操り雷すら生じることも出来たのなら、例えば網走が斬りかかっても一瞬で感電死させられる。実に強力だ。電気は光速で伝播しないが、回避は通常の人類にとって不可能に等しい。
突然ドクトルが口を挟んだ。
「君の考えが“能力を目的に誘拐”に収束したのは容易に想像がつく。他の行方不明事件でも、“使えそうな”能力者が誘拐されていることから、多分そうなんだろう」
「他の?」
「そう、岬君は言わなかったけど、他にも何件かあったりするんだ。でもそれが事実だとすると―――」
ドクトルは芝居成分を配合した動作で肩のあたりで手をひらりとさせると、窓の外を仰ぎ見た。墓標のように突き建った塔の周囲を鳩の群れが我が物顔で飛んでいる。
「とんだ“避難所”だと思わないかな?」
「……いえ」
すると網走は二人の予想を見事なまでに裏切ってくれた。しれっとした顔をすると、肩まで伸ばした黒髪を揺らさない程度に首を左右に微動した。
「人が集まれば、一匹くらい摘まんで観察したくなるのも当然。それが使える能力者で無国籍の放浪者ならますます納得です」
「お前………心が冷たいって言われね?」
「褒め言葉です」
「……あっそう」
流石の俺でもないわ……というげっそり顔の岬が口を曲げて言ったが、網走は介することもなく。冷静さが取り柄。同情はしないし、流されることもない、それが彼女なのだ。
ドクトルは網走のことを興味深げに眺め、パソコンの電源をつけた。うぃーんと機械が鳴った。
「さて、説明はその辺でいいだろう。網走君、君の実力を測るために彼と戦って欲しい」
パソコンの画面自体が光を発し、ドクトルの眼鏡に白い膜を張っている。
いきなりとんでもないことを言い始めたドクトルに、岬は仰天すると同時に口元をにやりとさせた。一方網走は、まぁ当然かなと思って無表情仮面のままだった。
「マジで?」
「私は構いませんが、岬はどうなのですか?」
ドクトル、パソコンの画面を見ないでキーを軽快に叩くブラインドタッチを披露しながら、二人の方にずれた眼鏡の面を向けた。カタカタではなくトタタタタと小気味良い効果音が量産されていき。
「あぁ、そうそう、裏の空き地でなら大丈夫なはずだよ。実働軍の見回りまで時間もあるからね」
二人は、その空き地に行くことにした。
ドクトルの言葉の直後、岬は起立、網走に人差し指を突き付けた。背後で妙な擬音が鳴ったように思えてならなかった。岬の瞳がきらきらしているがばっちり見えた。
「俺の名前は岬月下―――森羅万象三千世界魑魅魍魎全人類、それを創りし神々に正面から喧嘩を売る男だ!」
網走は、便利屋というのはこんな連中ばっかりなのかと心の中で呟いたが、この場にその手の能力者も催眠術師も居ないので漏洩することはなかった。
現在は昼間。
『万物創造』と『切断』がせめぎ合った時、勝者はどちらになるのかを、神さえも知らない……と岬なら言うであろう。
【続く】
ドクトルJの性格が違う? 大根が大人しい? こまけぇことはパラレルパラレルp(ry
さて次回は、能力を耳鳴りから拷問レベルまで高めてしまった女の子が登場予定です
そのポジションにドクトルか、いいねえ
しかし戦うって…昼だと!?
これはどう戦うのか気になるところだ
身も蓋もない話なんだが、能力考えた本人が昼の戦闘手段いまいち思いつかないんだよね実は
>>190 スパゲティウィップ、熱々コークリームボンバー、固焼きピザカッター
撒菱金平糖、パラソルチョコレートニードル、etsets……
昼の能力で出せる食品でも戦いようはある。
>>191 ×熱々コークリームボンバー
○熱々コーンクリームボンバー
ンが抜けてた事に今更(ry
大根さんがツッコミに回ってるw
みんな面白ぇなぁ
チェンジリングデイは人為的に引き起こされた、まで夢想した
>>194 それ俺も考えた。
チェンジリングデイをくい止めるため過去に戻ろうとする少女、まで妄想した
さあ早く妄想を形にするんだ!
避難所に白夜の最終回来てたよ
「はじめまして、時逆 美野里さん。そしてようこそ、2000年2月21日10時15分の東京駅八重洲口へ」
5年前のあの日の当日。
巨大隕石の接近による非難勧告が出され、人気が無くなった東京駅前。
目視で見える位に接近した隕石が見える空の下、自身の1年分の寿命と引き換えに過去へ訪れた私のその前に、
白いスーツ姿に杖をついた見知らぬ老人が待ち構えていた。
「貴方は……誰?」
「私ですか? 私の事は時の番人、とだけ申しておきましょう」
「時の番人!? まさか……私を止めに来た訳?」
まるで最初からそう言うと決めていた様な老人の一言に、私は戦慄を憶えた。
思わず奥歯を噛み締めたのか、私の頭の奥でギリリと音が響く。
……私はある目的の為に、自身の魂をも削るリバウンドを覚悟でこの時代の場所に訪れたのだ。
そう、後にチェンジリングディと呼ばれる事となる、巨大隕石の落下を阻止する為に。
世界を一変させたあの巨大隕石――実は落下を阻止する事が出来たのかもしれなかったのだ。
……それを知ったのは2005年の春のある日、病気でなくなった祖父の遺品を整理していた時の事だ。
権威のある天文学者だった祖父が書き残した一冊のノート、其処には驚愕の事実が書き記されていた。
実は、チェンジリングディから数ヶ月ほど前には既に、あの巨大隕石は観測されていた。
計算の結果、隕石が地球への直撃コースを辿る事を知った祖父は直ぐ様に政府機関各所へ連絡をとった。
――隕石の危険性を知らせ、地球への直撃を食い止める為に。
しかし、祖父の話を聞き入れる人は誰も居なかった。
いや、その当時、何人かは祖父の話を聞き入れ、直ぐに対策へ乗り出そうとしたらしい。
だが、彼らは皆、祖父が隕石の話をしてから数日を持たずして謎の不審死を遂げてしまった。
それはまるで、隕石の落下を阻止されるのを拒む何者かが邪魔したかの様に。
結局、祖父の話を信じなかった者達は祖父を邪魔者扱いした挙句、学会から追放し。
祖父が発見した地球への直撃コースを辿る隕石を”無かった事”にしてしまったのだ。
結果、何ら対策を講じられる事無く、隕石は地球へと到達、
そして、誰もがそれに気が付いた時には――全てが終わり、そして始まった。
……ノートの巻末にはこう記されている。
『あの時の私は確かに、隕石の落下を止められる筈だったのだ。
しかし、それを望まぬ悪魔のような者達が、私からその機会を永遠に奪い去ってしまった。
隕石落下の数ヶ月前のあの日の私にもう少し、もう少しだけ力があれば!
あの隕石によって約10億5000万人の命と、平穏なる日々が奪われる事は無かったのに』
余程悔しかったのだろう、その文字は所々が歪み、そして何かの液体で滲んでいた。
このノートを書いている時の祖父は、一体如何言う想いを抱いていたのだろうか?
それを知る術は、祖父の亡き今、完全に失われてしまった。
そしてノートを読み終えた時、私は一つの決意を芽生えさせていた。
――そう、祖父に代わり、私が隕石の落下を止めて見せると。
幸いな事に、天は私へそれを成し遂げる為の術を与えていた。
――自身の寿命を1年削る事で、望んだ好きな時間好きな場所へと移動できる夜の能力。
――そして、視界内にある質量体を、望んだ場所へワープさせる昼の能力。
私の作戦はこうだ。
先ず、私は夜の能力でチェンジリングディ当日の昼へと遡り、
その時には恐らく視界内へ現れているだろう落下寸前の隕石を、昼の能力を用いて遠い宇宙の果てへとワープさせる。
たったそれだけの作戦とも言えない作戦。しかし、私に唯一出来る最大限の作戦。
多分、私はあの巨大隕石をワープさせる事で
巨大過ぎる質量を移動させた事によるリバウンドを起こし、確実に死に至るだろう。
だけど、私はそれでも構わなかった。
もう、私には何も残されていないのだ。生きていても仕方が無いのだ。
私を育ててくれた父と母は、能力を使って押し入った強盗によって殺された。
そして何の取り柄も無い私を愛し、そして同時に私が愛したあの人も、誰かの能力の暴走に巻き込まれて死んだ。
そう、私の周りの大事な人達は皆、間接的にではあるが隕石に殺されたような物だ。
だから、あの隕石さえなくなれば、
祖父も死ぬまで後悔する事は無いし、あの人も死なずに済むのだ。
その為ならば、私自身の命なんか、何ら惜しくは無かった。
――しかし今、私の前に立つ、時の番人と名乗る老人。
彼は、私のやろうとしている事を阻もうとしているのだろうか?
もし、そうであるのならば……。
「そんなに怖い顔をしないでください。折角の美人が台無しですよ?」
「ふざけないで! 貴方は私を止めに現れたの? それとも……」
「いえいえ、私にはそんな事が出来る権限も力も持ち合わせてはおりませんよ」
「……じゃあ、貴方は一体?」
老人の言葉に、私の表情が次第に怪訝な物に代わるのが自分でも分かった。
「私は、ただ時逆さんへ忠告しに来ただけです。
今この時、時逆さんが隕石の落下を阻止したとしても、何も変わらないと」
「何も変わらない? それって如何言う事よ!」
思わず声を荒げる私、しかし老人は何ら臆する事も怒る事も無く言う。
「ご存知ですか? 時間の流れという物は、ビックバンと呼ばれる瞬間を起点にして、木の様に無数に枝分かれしている事を」
「……何処かのSF小説か何かで聞いた事がある話ね。 それが如何したの?」
「その時間の流れの木の枝の様になっている部分の事を、if(もしも)の枝先と申しましょうか?
もしあの時ああしていれば、もしあの時ああなっていたら、可能性は何時でも生まれる物です。
そして、その生まれる可能性――if(もしも)の分だけ、ifの枝先は無限に枝分かれし続けているのです」
……これ以上は聞きたくない。
これ以上話を聞いたら、私の”ここへ訪れた意義”が失われてしまう!――私は何故かそう確信していた。
だけど、如何言う訳かこの時の私の身体は、小指の先すらも動かなかった。
「そう、例え貴方がここで、隕石を別の場所へワープさせる事で隕石の落下を阻止したとしても。
それは結局、『隕石は落下しなかった』と言うif(もしも)の枝分かれを生じさせるだけで、
貴方が住んでいた『隕石が落下した』後の時間の枝先へは、何一つとして影響を及ぼさないのです」
「……私の、やろうとしている事が、無駄だと言うの……?」
「いえいえ、決して無駄ではありません。
貴方のお陰で10億7862万5582名の命が救われます、そして、誰も能力に芽生える事もありません。
そして貴方の祖父も一生後悔することもありませんし、更に貴方の大切な人達も死ぬ事もありません。
ただし、それは『隕石は落下しなかった』と言うifの枝先での事、ではありますが」
「…………」
何も、言葉が出なかった。
そう、私が自分の命を捨てて隕石の落下を阻止しても、私の居た世界は何も変わらないのだ。
祖父は一生後悔をし続けたまま死に。私の大事な人達も能力によって殺される。
それらは何ら変わる事は無い、既に経ってしまった道筋なのだ。
私の決心は、無駄に終わってしまう。
…………。
「さて、如何しますか? 無駄だと知りつつも自分の命を賭けて隕石の落下を阻止しますか?
それとも、素直に諦めて元居た時間の枝先へと戻りますか? ――と、何処へ行かれるのですか? 時逆さん」
「安全な場所に避難するのよ」
「……はて、如何言う意味です?」
今度は逆に怪訝な表情を浮かべる老人に、私は振り向き様に自分の考えた事を言う。
「先ずは、安全な場所に避難したら夜の能力が使える時間まで待って
夜の能力を使える様になったら、今から数ヶ月前の時間へ行って祖父のやろうとしていた事を邪魔した連中を確認するのよ。
そしてその後、私が元居た時間に戻った時、もしそいつ等が生きていたら、出来うる限りの手段を用いて復讐するの」
「おやまぁ……何故その様な事を?」
そして、きょとんとした表情を浮かべて問う老人へ向けて、私は精一杯の笑顔を浮かべて言う。
「そうね……”今まで”が変えられないと言うなら、”これから”を変える事にしたのよ、私は」
そして、私は呆然と佇む老人へ一瞥する事無くその場から駆け出す。
……生きていても仕方が無かった2005年の私の、”これから”を変える。
その為にも、先ずはこれから起き得るだろう惨禍から生き残らねば。
安全な場所はわかっている。2000年2月21日当時の私の居た避難所こそが、その安全な場所だから。
かくて、私は新たに芽生えた強い決意を胸に、今はひたすら走るのだった。
「やれやれ、前回の時逆さんは自分の命を省みずに隕石をワープさせましたが。
今回の時逆さんはまさかああ来るとは思いませんでしたね……意外と言うかなんと言うか」
走り去って行く美野里の後ろ姿を見送りつつ、老人は何処か呆れ混じりに漏らす。
そして美野里の後ろ姿が完全に見えなくなった後、彼は空に見える隕石を見やり、誰に向けるまでも無く言う。
「さぁて、”次の”時逆さんは果たして如何言う行動に出るんでしょうかね?
今度こそ素直に元居た時間へ引き返してくれると有り難いのですが……」
そうぶつぶつと漏らす老人の姿が次第に陽炎の様に揺らぎ始め、やがて周囲に溶け込む様にして姿を消す。
……そして、誰も居なくなった東京駅前を、一陣の風が静かに吹き抜けるのだった。
―――――――――――――――――― 一つの終わり――――――――――――――――――――――
以上です、
この話は飽くまで時逆 美野里と言う少女の、ifの一つの出来事に過ぎません。
世界によっては、隕石落下を阻止しに行かなかった彼女も居ますし、そして家族と幸せに過ごす彼女も居ます
そして更にはチェンジリングディすら経験しなかった彼女もいるかも知れません。
……書くべき物放って何やってるんだろうな、俺(´`)
あ、それと時逆さんの設定
時逆 美野里
女、高校生くらい。
夜の能力ゆえか無数に有るifの枝先分、彼女の人生が有る。
デフォルトでは両親と祖父との四人暮らし。彼氏はifの枝先によっては居たり居なかったり。
《昼の能力》
名称 … 物体転移
【意識性】【操作型】
距離に関係無く視界内に存在する質量体(生物、無機物問わず)を望んだ場所へ転移させる。
ただし、大きすぎる物(自動車の重量以上)を転移させた場合、転移後に確実にリバウンドを起こし、死亡する。
《夜の能力》
名称 … タイムワープ
【意識性】【結界型】
自分の寿命1年分を代償にする事で、好きな時間・好きな場所へ移動する事が出来る。
ただし、元居た時間へ戻る場合のみに限り、寿命を代償にする事は無い。
尚、寿命以上の回数を移動した場合、老化して死ぬのではなく突然心臓が停止して死亡する。
時逆 美野里のふりがなは(ときさか みのり)です、
書くのをすっかり忘れてたよ……orz
クロノトリガーの時の最果てに居るハッシュ思い出した
時間SFは大好物過ぎて無闇やたらにマンセーしたくなるからあえて
GJ
とだけ言って消える
早くって言ったらすごく早かったw
投下乙
政府の陰謀とか謎の老人とか
なんかわくわくするよね
204 :
195:2010/04/18(日) 09:27:10 ID:NyFVPERO
あー先越されたw
205 :
194:2010/04/18(日) 23:29:20 ID:8vP+jbW7
これは面白い
分岐点っていうのが思いつかなかった
俺が考えていたストーリー
@主人公過去に戻る
A隕石情報無し
Bあれ〜おかしいな〜
C主人公の隕石能力発動
D隕石衝突
E主人公ジエンド
もちろん書く気なかった
>>195 何をしている
早く投下するんだ!
間に合わなく(ry(AA略)
206 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/18(日) 23:45:17 ID:rfUNeAXM
ちょっと被るが毛色が違うの投下。
207 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/18(日) 23:47:21 ID:rfUNeAXM
1996年6月20日
隕石の衝突を感知。
今はまだビジョンが小さいので確証が持てず。
1996年10月2日
二度目のビジョン。
今回ははっきりと隕石の姿が見える。以前からの知り合いであるテレパシー能力者を通じ「仲間」へ連絡をとるも、仲間内でも懐疑的意見が出る。
1998年1月27日
三度目のビジョン。人類の行く末が垣間見える。隕石の姿は見えない。恐らく衝突は確定されたと思われる。
今後、この隕石をクリーナーと呼ぼう。
1998年3月16日
日中にビジョンが見える。今までは無かった事である。恐らく例の衝突後の異変を身体が感知し、一足早く対応を始めたのか。
私の夜の能力はまだ見えない。
1998年4月5日
再び日中にビジョン。
衝突後の変異、および大戦の様子が見える。
人類の40%が衝突で死亡する。
生き残り能力を発現させた人類の50%は戦争で死ぬ。
それを生き抜いた5%は宗教と国家を棄てる。
残りの5%は未だ不明。
1998年4月17日
再びビジョン。
私の周りの具体的な惨事が見える。既に「仲間」からは何の信頼も得ていないが、警告を発する。
1999年2月3三日。
数日前から発現していた私の夜の能力を正確に確認。
擬似的な金属を生み出し、それを意のままに操る。現在の所、まだ簡単な球体をいくつか出して操る程度ではあるが、精度は日増しである。
応用次第では非常に攻撃的な使い方が可能だろう。大戦と混乱へ向け、訓練を開始する。
全ては生存の為である。
1999年7月30日
ビジョンにより新たな国家の成立がいくつか見える。
王制が殆どで共和国は僅かだ。
王制国家では善政を敷く王が現れるが、殆どは独裁国家である。
1999年8月9日
またビジョンが見える。
王制国家連合と共和国および非政府主義者の間で戦争が起こる。
これが恐らく人類同士が起こす最後の大戦、「第七戦争」である。
208 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/18(日) 23:49:16 ID:rfUNeAXM
1999年9月1日
クリーナーの接近をアメリカ政府が正式に公表。同時に世界各国の首脳陣も同様の会見を開く。
アメリカとロシアのクリーナーの軌道を変えるという共同作戦が発表される。
ミニットマンをISSまで運び、宇宙空間のプラットフォームから発射し弾道をずらすという物だ。
だが、クリーナーの衝突はすでに確定されているのだが……。
1999年12月25日
米露共同作戦「ブルーバード作戦」発動。
衛星軌道上のプラットフォームからマーブを搭載したミニットマンが三基放たれる。
1999年12月28日
ミニットマン、謎の磁気圏に突入。同時にISSとペンタゴン、ヒューストンのあらゆる電子機器がダウン。
私と同じ「オールドサイキッカー」による攻撃と思われる。
マーブがクリーナーを粉砕。無数の小さい隕石となり地球へ接近。
2000年1月4日
作戦失敗の是非を巡りアメリカとイスラム圏との間で緊張が高まる。
同時にチェチェンの過激派がモスクワでテロを起こし、クレムリンは報復処置として戦闘機での空爆を決行。
イラン、イラク、アラブ共和国、パキスタン等イスラム国家が猛反発し、チェチェンへの支援を表明。
アメリカとイスラエルはイスラム圏の動きを牽制するためアフガニスタンへの派兵を増やし、イスラエルはガザへの本格的な侵攻を開始。
パキスタンが報復として核兵器を使用。
第三次世界大戦勃発。
2000年1月22日
ビジョンが見える。
ミニットマンへの攻撃を行った「オールドサイキッカー」が後に共和国連合を率い戦争を起こす者と知る。
生き残った人類の残り5%がどうなったかも見える。
彼らは人類を超え、人類の天敵となる。
2000年1月29日
――チェンジリング・デイ
209 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/18(日) 23:50:03 ID:rfUNeAXM
終了
勘違いして日にち間違えていた。
運命の日の前から能力自体は存在してたってわけか…
実際こうなりそうなもんだよね。世界情勢リアルだ。十年程度で元通りになるとはとても思えない
晶や月野の見てる平和な世界は様々な陰謀の上に成り立つ、まさに仮初めの平和って感じだよね
212 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 13:10:53 ID:d4lWCI+6
「おい!これ見てくれ!掘り出し物だぜ!」
イエンスが大声で叫んだ。
「何が出たんだ?」
西暦約2050年。日付不明。
彼らは旧東ヨーロッパ辺りに居た。地形は既に変形し、古い地図は当てにならない。
かといって、最新の物は最重要軍事機密として一般には出回っていない。
戦争中なのだ。
「これだよこれ!銃だよ!まだ使えるかな?調べてくれよミハイル」
「どれどれ……」
彼は薄汚れた銃を手に取り、分厚い資料をめくり始める。銃に刻まれた刻印を便りに、少しずつその正体を確認する。
「えーっと………。これはM4って銃だね。アメリカって国が造った軍用のライフル銃」
「アメリカ?アメリカって海渡った先の国だったんだろ?何でここに?」
「昔は世界中に軍隊を派遣してたみたいだよ。昔あった戦争の時の物かもしれないし」
「で、まだ使える?」
「状態はいいけど……。弾が無いとどうにもならないよ」
「なんとかならないかな?俺達が持ってる銃ので似たようなのあるかな?」
「ムリだね。使ってる火薬が違い過ぎるよ。6ミリに満たない口径で凄い殺傷力があるらしいから。俺達の物とは比べ物にならない。再現する技術も無いし」
ミハイルはライフルを放り投げ、残念がるイエンスをよそに辺りを探り始める。
「それよりイエンス、アレは見つかったか?」
「さぁね。手掛かりすらないよ。ていうか、本当にそんな物あるのかよ」
「絶対あるさ。昔使われたはずだ。それがないと奴らには勝てない」
「おかげでテロリスト扱いだ。だいたい俺達だけじゃなく、相手国に応援を頼めばいいじゃねぇか。連中、血眼になって探すぜ」
「あんな独裁者共が戦争に勝ってみろ。今と何も変わらないさ」
彼らが何を探すのか――
それは過去の大戦で一度だけ使われた、究極の電子兵器。
「必ず見つけるんだ。あれさえあれば、奴と対抗出来る」
213 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 13:12:18 ID:d4lWCI+6
終了。
チェンジリングデイ後の様子で王制国家連合と共和国群との戦争中のお話。
イエンスは北欧系の子孫。ミハイルは東ヨーロッパ系。
彼らが探しているのは第三次大戦で使われた究極兵器で、最初に出てきた「オールドサイキッカー」に対抗し得る兵器としては唯一の存在。
どういうもんかというと……おっと。これは言うの止めとこう。
彼らも一応サイキッカーだけどこの世界では今だ銃やらの武器は大活躍。
なぜなら元々人間の能力を超えている物なので、十分サイキックに対抗出来るから。
ちなみにチェンジリングデイ前のビジョンを見た男とは関係ない人達です。
214 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 23:58:30 ID:d4lWCI+6
数メートル先が見えない。
放射能を含む粒子は暴風に乗り縦横無尽に飛び回る。本来、この地域では有り得ないはずの光景。人によって造られたこの砂漠では毎日のように砂嵐が起きる。
昔の人達が見たらどう思うだろうか?
しかし、今この時を生きる彼らには当たり前だった。
そして、そこに潜むもう一つの脅威も。
西暦約2050年 日付不明
北アメリカ大陸、旧カリフォルニア州辺り
「来たぞ!撃て!」
銃声が響く。それは砂の地面をえぐり出す。
飛び散ったのは砂ではなく鮮血。
「いい腕だクロダ!」
「これからよムス。まだたっぷりいるわ」
彼らは戦っている。相手は人間ではない。50年前に人類より分かたれた違う生命体の一種。
この砂漠ではもっぱら『サンドクロウラー』と呼ばれている。
「見えるムス?」
「待て……。前方75メートル先、あの瓦礫の陰……居たぞ。そこでいい。」
「OK」
クロダと呼ばれた女性は銃を構える。ムスと呼ばれた男性の能力はサンドクロウラーの位置を捉え、クロダはその指示に従う。
黒田の銃に弾薬は装填されていない。
それがクロダの能力。自身のエネルギーを弾丸として撃ち出し、それは通常と比べ非常に高い火力を誇る。
「くたばれ…っと!」
閃光が砂嵐の中を突進する。それは瓦礫の塊に激突し、青白い炎を上げ燃え上がる。
その中では、ムササビのように平らな身体のサンドクロウラーも奇声を発し、生きなが焼かれている。
「まだ居る?」
「ああ。でも砂嵐ももうすぐ終わる。あと少しだ」
「OK。夜になる前には帰れそうね」
クロダは銃を構える。
ムササビのような膜を広げたサンドクロウラーが風に乗り飛来し、上から襲いかかる。
刹那、ベージュの保護色の身体は木っ端みじんに砕け、風に乗り消えて行く。
「舐めんじゃ無いわよ。近付いたら殺すわ。OK?化け物共」
彼らは戦っている。
215 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/19(月) 23:59:59 ID:d4lWCI+6
終了。
今回はアメリカ。
クロダは日系。ムスはあだ名で本名はムステイン。
何がはじまるんです?
217 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 03:14:22 ID:slSVxA3N
西暦約2050年 日付不明
旧イラク・ユーフラテス川周辺
「かつての戦争では核兵器なる物が使用された。それは原子間の結合を解き膨大なエネルギーをその場に残す兵器で……」
「せんせー、つまんないでーす」
「黙って聞きなさいアリーア」
「だって難しいんだもん」
「そんな事言ったってねぇ」
「先生、それより神様のお話してよ」
「え?ああ……。ま、いいだろ」
「わーい」
かつて世界は神を信じていなかった。
彼らは自らと、自らが生み出した社会システムこそが神と同等の物と考え、それを発展させる事に心血を注いだのだ。
神は悲しみにくれた。
彼らは神を信じていなかったが、代わりにシャイターンを信じていたのだ。
シャイターンは彼らを争わせ、遥か彼方の国同士すらも憎しみあった。
やがてシャイターンは戦争の準備を始めた。 遥か天空から自らの肉体をこの地上へと呼び寄せたのだ。
そしてその肉を地に降らせ、彼らに悪魔の力を植え付けたのだ。
彼らは憎しみあった。そして悪魔の力と、自らが生み出した偽りの神の力を持って、大地を焼き尽くしたのだ。
神は決意なされた。
もはやこれ以上、人々の悪行を捨て置けぬと。
そしてついに、神はその奥義を地に落とされる。
すべては一瞬だった。
地上は光に支配され。それは全てを消し去った。残ったのはガラス質に変異した大地のみ。
そして生き残った僅かな人々は偽りの神を捨て、真の信仰を求め古の聖典を探す旅へと出たのだ。
「その聖典って見つかったの?」
「見つかったさ。だが我々はそれを捨てたんだよ」
「何でなの?せっかく見つけたのに」
「なぜなら、見つかったいくつかの聖典では、神は三人も居た事になるからだよ」
218 :
◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 03:18:19 ID:slSVxA3N
終了。
中東あたりはまだ平和な様子。
219 :
StarChild ◆wHsYL8cZCc :2010/04/21(水) 13:17:12 ID:slSVxA3N
西暦約2050年 日付不明
日本列島 旧宮城県周辺
砂が滑る音が聞こえる。
積み重ねられた瓦礫は雨風にさらされ、崩された物は今度は砂に帰ろうとしている。
どこからか、獣のうめき声が聞こえる。
クリッターだ。それも無数の。恐らく腹を空かしているに違いない。
少年は動かない。
満天の星空に魅入っていたから。
「広いなぁ……」
空に向かってつぶやく少年の前を、一匹のクリッターが横切る。襲い掛かる様子は無い。
「ああ、居たのか。ゴメンよ。今日は何も持って居ないんだ」
少年はクリッターに話し掛ける。かつて人間から派生した怪物は残念そうな顔で立ち去る。
ここらで人間は彼一人だ。
あとは全てクリッターが喰らい尽くしてしまった。
彼はなぜ襲われないのか。
それは彼にも解らない。
やがてはその秘密も知る事となるだろう。
その時は、彼が倒すべき敵も現れるはずだ。
彼は天に選ばれた。
その自覚はまだ無い。それを知る時、最後の戦争は終決へと向かうだろう。
救世主はまだ眠っている。
220 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/21(水) 13:26:03 ID:t7gzjGIX
連載小説 タイ〜ホ日記
シャブでパクられる中年のオッサンの爆笑小説
タイ〜ホ日記でググってみよう
彼は頂点に居た。
今、彼は世界における最強の力を持っている。『権力』だ。
「首相、封建国家連合の第三陸戦大隊と第四大隊が合流しました。我が軍が展開している旧エジプト地域への侵攻の恐れが」
「現地のレジスタンスに因ると、総数は四万近いそうです。さらには発掘された兵器を再現したと思われる機甲部隊も……」
彼は大臣達の報告に驚きもせず答える。
「……数で攻めようが、その戦術はもはや過去の遺物だろう。烏合の衆を集めたとて私一人に敵わない」
「ですが首相、旧エジプトの防衛戦力は数百名のサイキックしか……」
「彼らには核兵器を持たせてある。使用許可を出します。それより……」
彼の表情は変わる。恐れていた。たった二匹のネズミの行動を。
「ソドムの火は見つかったか?」
「いいえ、手掛かりすら……」
「早く見つけるんだ。それさえあれば戦争は終わる。一瞬で……」
彼は求めている。人類が生み出した、『神に挑む武器』を。
「ネズミの始末も急げ。何を仕出かすか解らん」
「はい。首相……」
窓の外を見る。たった五十年で地球の様子は完全に変わった。
国家も宗教も、あまつさえ生態系さえも。
本来ならば回避出来ただろう。だが、彼がそれを許さなかった。
だからこそ五十年前、彼はミニットマンとヒューストンを攻撃したのだ。
全ては大いなる終末の為に。
夜が来る。
いまだ夜の能力は発現していない。まだ敵が現れては居ないからだろうか。
だが、その時が近いのは感じている。
「もうすぐだ。現れるがいい」
彼もまた天に選ばれた。彼の胸に刻まれた痣ははっきりとその役目を示している。
『666』
悪魔の寵児は待っている。
身体は既にまともには動かなかった。腕は枯れ枝のように細くなり、目は既にぼんやりと光を捉える程度だった。
長年に渡り見続けた未来の光景はもはや見えなくなっている。
破滅が近いのか、または見る必要が無い世界へと生まれ変わるのか――
その老人には解らなかった。どちらにせよ、あまりもう長くは無い。
それだけはビジョンを用いずとも理解していた。
チェンジリングデイの後、彼が最初にビジョンで見たのは少年と老人の戦い。
そしてそれぞれを支持する人間達の戦争。
少年と老人の戦いは恐らく、いままでのどんな人類でも遠く及ばぬ次元で繰り広げられるだろう。
そして人類は「ソドムの火」とサイキックを持って殺し合う。
今起きている小競り合いなど比較にならない、文字通り世界を二分する戦い。
導かねばならない。
いずれここへ訪れるであろう、史上唯一の救世主を。人類最後の預言者として。
同時に楽観もしている。
彼は見たのだ。いや、正確には「会った」のだ。
その姿は目に焼き付いている。その言葉はかつてモーセに語った事を、キリストへと伝えた事を、ムハンマドが感じた事のさらに先を彼に伝えた。
「新エルサレムは間もなく現れる」
彼は譫言のように言う。
「人類は新たな地平へと到達する」
「救世主は東から来る」
「そして真の誓いと契約を人々と私は結ぶだろう」
「そして私はあらゆる可能性を認め、時空を超えた先の世界に行く事を私は許可する」
彼のビジョンはもう見えない。この世界の未来は確定されたのだろうか。
そして彼は別の世界に行く事はもう無いだろう。
平行する別の世界。
神はその存在を認めたのだ。
終了。
自分でも方向性が解らなくなってきたでござる。
何故かsageてたし。
住人ドン引きジュセヨ……
非常に申し訳ない。
一応書いててぼんやりと昼夜能力とか世界感の設定は出来たんだがw
いかんせんそこを投下するまでが………。
申し訳ない。
小出しよりまとめて投下してくれた方が助かる
キャラを前面に出さない話って個人的に感想書きにくいのよ…
戦争期待
229 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 05:40:45 ID:3q/X9w6O
投下します
230 :
◆KazZxBP5Rc :2010/05/02(日) 05:42:07 ID:3q/X9w6O
奴と出会ったのは、夜、いつもの“パトロール”をしているときだ。
奴は学生服姿で、ガードレールに腰掛けて月を眺めていた。
その姿に俺はある感覚を抱く。だから俺は奴の目の前に立ってこう言った。
「貴様から俺と同じ匂いを感じる。」
そう、俺と同じ、このくだらぬ俗世から切り離された存在としての“匂い”が。
奴は一寸目を強くつぶってゆっくりと開いた。そしてガードレールから飛び降りて叫ぶ。
「はっ! 何者かは知らねえが、俺は神に叛く男、岬月下。かかってくるならかかって来やがれ!」
「神に叛く男……か。俺の前でその肩書きを名乗ったことを後悔するんだな。」
雲が月を覆っていく。
奴は未だ気付いていない。俺が既に能力を発動していることに。
「俺は神の使者。名は……刹那。」
「上等だ、神の使者! あの世に帰って神に伝えな、俺を倒すならてめえで来いってな!」
そう言って奴は虚空から大根を取り出した。
俺が驚きのポーズを取ってみせると、奴は得意げに大根を振りかざす。全く、くだらない。
奴は足を上げようとして、だが、その場でひざをついた。
「な……!?」
「世界の基本は“美しさ”から成る。物理法則、数学の公式などは皆美しい。」
ビルの窓に映る自分の姿を見た奴は愕然としていた。
奴の耳には入っていないかもしれないが、俺は解説を続ける。
「俺は神に叛く者への罰として、貴様の“美しさ”を奪った。」
俺が奴にした事、それは奴の体内の脂肪を増加させる事。
大量の脂肪を蓄えた奴は、太った人間というよりは肉塊と呼ぶに相応しい醜い姿へと変化していた。
奴は浅く早く息をしている。これだけの細胞に酸素を行き渡らせるには呼吸が足りないのだろう。
「残りの時間でせいぜい自分の過ちを後悔するんだな。」
俺は奴から背を向けた。もはや直接手を下すまでもない。
231 :
刹那 ◆KazZxBP5Rc :2010/05/02(日) 05:42:52 ID:3q/X9w6O
だが、それからわずか二秒後、背後から奴の声が聞こえた。
「感謝するぜ、“弾”を増やしてくれて。」
振り返ると、すっかり元に戻った奴と、その周りに転がる大量のスイカが目に入った。
「貴様……!」
野菜を出すと体重が減る、といったところか。しかしこれはまずい、非常にまずい。
俺のあの能力“ゴッズ・ラブ・セヴェランス”は、一度使うと四時間は空けないと再び使うことが出来ない。
奴はスイカをひとつ拾ってぽんぽんと叩いた。
たしか“弾”とか言っていたな。まさか……投げるつもりか?
まさかこの俺が……。頭は逃げろと命令するのに、足がすくんで動かない。
「これで……終わりだっ!」
緑と黒の縞が目の前に迫る。何を突っ立ってるんだ俺は! 動けっ! 動けっ!
もう駄目だ、と覚悟した瞬間、スイカが跡形もなく消え去った。
「フトシー、何してたでやんすか?」
「くっ、ゼロか……。」
突然現れたのは、この俗世で俺の兄ということになっている男、刹那零。
零は坊主頭にボロボロの野球服という出で立ちでだった。
ちなみにフトシ……太志というのは、俺の世を忍ぶ仮の名だ。
「まーた天使ごっこでもしていたでやんすか?」
「ごっこではない。俺は……」
「はいはい。帰るでやんすよ。」
「おい待てよ!」
奴がもう一個スイカをぶん投げてくる。
「無駄でやんす。オラはフトシと帰るでやんす。」
零がそう宣告した途端、奴の周りに落ちているものも含め全てのスイカが消滅した。
「オラはなんでも消せるでやんす。カーチャンが怒ると怖いからさっさとおいとまするでやんす。」
零は台詞通りさっさと先に帰ってしまった。
「次に会った時こそ、貴様を罰せさせてもらうぞ。」
俺は、口をぽかんと開けたままの奴にそう告げて、ビル街を後にした。
空を見ると、月が再び雲間から顔を覗かせていた。
おわり
232 :
刹那 ◆KazZxBP5Rc :2010/05/02(日) 05:44:09 ID:3q/X9w6O
キャラ紹介
・刹那 太志(せつな ふとし)
零の弟。中二病で自らを神の使者と思い込む。
《昼の能力》
不明
《夜の能力》
名称 … ゴッズ・ラブ・セヴェランス(God's Love Severance)
【意識性】【操作型】
相手の脂肪を増やし太らせる。
一度使うと約四時間使えない。
・刹那 零(せつな ゼロ)
太志の兄。坊主頭のいかにも田舎少年な風貌。「〜でやんす」を多用。
《昼の能力》
不明
《夜の能力》
名称不明
【意識性】【操作型】
対象の物体を消滅させる。
233 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 05:50:16 ID:3q/X9w6O
というわけで例のラジオのアレでした
陽太ありがとう
(前の作品で言い忘れてたから一緒に。忍とソラもありがとう)
なんか一気に盛り下がっちゃったなこのスレ……
避難所が盛り上がってるから問題ない
ぐおおおお、先が気になって寝れねえwww
毒竜が昼ってことは口が裂けても言えない。
始めまして。僕の名は比留間慎也(ヒルマ シンヤ)だ。
普段はとある組織で“隕石に起因する超能力”の研究分析を行っている。
『月下の魔剣〜邂逅〜』
はきはきと自己紹介をするその姿は、まさに第一回講義。メディアに初めて姿を現した比留間慎也そのもの。
当時より重ねた年齢をまるで感じさせない、若々しい比留間博士の姿だった。
「チェンジリング・デイから10年経った今、能力の研究は日々進みつつあるけれど、未だ謎めいた部分が多い。
より深く研究を進めるためには、より大きな…特殊な現象を及ぼす能力者の協力が不可欠なんだ」
そう言って、比留間は柔和な笑みを浮かべる。
「そこで見つけたのが君の能力だ、水野晶さん」
「えっ!? 僕の能力って…そんな大したものじゃ…」
「君自身が気付いていないだけさ。君の能力は人に大きな影響を及ぼすものだ」
「待てよ」
僕と比留間の話を遮るように、陽太が口を出す。
「有名な博士のあんたがなぜこんなまわりくどい真似をする? あんたが声をかければ能力者なんていくらでも集まるはずだ」
「それで集まる能力者はほんの一部さ。何せ全人類が能力者だ。限られた能力者を探すなら自ら調査に赴く必要がある」
「あの犬…キメラを操ってんのはお前か」
「能力の多くは、人が危機を感じた際に強く発現するものだ」
「てめえ…!」
声に静かな怒りをにじませて一歩踏み出す陽太。
「誤解しないでもらいたい。僕たちが使っているあれは、対象者に危機感だけ与えて危害は加えないようプログラムされている。
怖がらせはするが、怪我をさせるようなことはないはずだ」
あれで…!?
数週間前の非現実空間を思い起こし、身震いする。あの漆黒の悪魔を。
地の底から響くような唸り声、むき出された牙、盛り上がる筋肉。
あれが危害を加えないなんてとても信じられなかった。
「それに表に出にくいだけで、あれはそう珍しいものではないんだ。使っている個人、団体は数知れない。
人に危害を加えた個体がいるとしても、それは僕たちの使っているキメラじゃない」
「ハッ! そいつは都合のいいことで」
「事実、君たちには怪我一つなかっただろう? 足も遅かったはずだ。君たちの速度に合わせていたからね」
「俺に敵わなかった負け惜しみにしか聞こえねえな」
「そう、そこだよ」
パチンと指を鳴らして人差し指を立てる比留間。意外な答えに僕と同様、陽太も目を丸くする。
「岬陽太君、君は実に予想外だった。今回もそうだ、見事な戦いぶりだった。
僕は君の能力よりも、君自身に強く興味が湧いた。だからこうして自ら出向いてきたんだ。
わざわざ来たかいがあったよ、君は実に素晴らしい」
「そっ………」
陽太は硬く強張った顔で、答えと反応に困っているようだった。それはそうだろう。
「そこで改めてお願いする。水野晶さん、そして岬陽太君。僕の研究に協力してくれないか?
正式な研究だ。勿論危険はない。謝礼金も出す。長期間の拘束もしないと約束しよう。
能力研究の発展のため、ゆくゆくは人類の未来のために、ぜひとも僕に協力してほしい」
「ッ………」
陽太は答えない。僕も答えることができなかった。
相手は比留間慎也。誰もが認める世界的な研究者。ここまで言われて断る理由はない、はずだった。
しかし、自らの仕業だと認めた、襲いかかるキメラ、不敵に口元を歪めるベンが脳裏に浮かんで。
比留間の浮かべる微笑みの奥に、深く暗い闇が潜んでいるように思えて。
そもそもなぜあんなことをしたのか。最初から正式に依頼していれば、こんな疑いは生まれなかったのに。
ふー…と、陽太が大きく息を吐いた。
「家族に話は」
「勿論させてもらう。心配をかけることはない」
「期間は」
「休日のみで約一か月といったところかな。それで十分さ」
「そうか…」
ちらりと僕を見て、ふっ…っと、ニヒルな微笑を浮かべる陽太。そして…
「だが断る」
その口から出た言葉は、拒絶。僕の気持ちも同じだった。
「…何故?」
「おまえ以外のキメラともやりあったことがあんだよ俺は。まっとうな組織が使うモンじゃねえだろう、アレは。
危害を加えねえってのも嘘だな。直接ぶつかりゃ一目瞭然、あの殺意は本物だった。
あんな明らかに裏社会の人間に依頼するってのもな。例え有名な博士だろうと…」
渾身の力を込めて、相手に指を突きつける。
「お前は信じるに値しない!」
比留間は一瞬目を見開き、やれやれといった表情で目を閉じた。
「…水野晶さん、君は?」
「ぼ、僕も…お断りします!」
「やはりか……」
がくりと肩を落とし、サングラスをかけなおす比留間。
「残念だよ。実に残念だ」
「残念? よく言うぜ。まさに計画通りって顔しやがって」
落ち込んでいるように見えていた比留間。陽太の言葉にその顔をはっと見直して、僕も気付く。
目元は隠れているが、口角は僅かに上がっていて。くっくっと、小さな笑みが耳に届く。
「いやぁ、残念さ。何故かって…」
懐に手を入れて、ゆっくりと引き出す、棒状の何か。
「せっかくの若い才能がこんなところで…失われてしまうんだからねえ!」
比留間の内面に潜んでいた闇が。狂気が。その全身から噴き出したように見えた。
手にしたのは警棒、そう思った矢先、棒の表面に電気の光が走る。
「スタンロッド!? また物騒なモンを」
「さあ! 僕に見せてくれ」
瞬間フッと消え、陽太の目の前に出現する比留間。ロッドはすでに頭上。
「君の能力を!」
「ッ!? レイディッシュ!!」
即座に振り下ろされるロッドを受け止める陽太の大根。バチチチと電気の音が耳に響く。
「ハハッ! やはり早いな!」
「……っく、だっ!」
両手で押してロッドをはねのけ、ブンと横に振るわれた大根を、ロッドで斜めに受け軌道を逸らす。
続けざまに振られる大根を、受け止め、逸らし、避ける。全ての攻撃が最小限の動きで防がれる。
比留間は力を使っていない。ただ、陽太の動きが完全に見切られている。
「さあ、どうした! それしかないのか?」
「っちっきしょ!!」
しかしそれ以上に、陽太の動きにキレがない。あきらかに疲労している。
比留間が積極的に攻撃してこないのが不幸中の幸いと言えるのか。
それにしたってこのままでは……
「はああああっ!!」
大上段から渾身の一撃が、涼しい顔で回避される。疲労も限界なのか、ついに膝をつく陽太。
緩んだ手から離れた大根が、ころころと地面を転がる。
「……結局この程度か。期待は」
ビュオン!!
鋭く風を切る音が響く。その一瞬で何が起こったのか、すぐにはわからなかった。
その場から消え、陽太から離れた位置に立つ比留間。
立ち上がっていた陽太、水平に伸ばされた右手には黒く、長い…ゴボウが握られていた。
「なん…だと…!?」
「…なるほど。さっきのは危なかった」
驚愕の声を上げる陽太と対照的に、感心したように声を出す比留間。
「白く目立つ大根を囮に、本命は闇に溶け込むゴボウか。タイミングも絶妙。常人ならまず反応できないだろうね」
「っくそっ!!」
すぐさまゴボウを手放し大量のクルミを右手に発生、一度に投げつける。
広範囲を高速で迫るクルミの嵐を前に、涼しい顔を見せる比留間。空の右手を前に伸ばし…
瞬間、その肩から先がぶれて、消えて。同時に全てのクルミが消えた。
一瞬後、戻った右手には…大量のクルミが収まっていた。
「なっ………!?」
「クルミか。効果的な攻撃だ。何より君自身の切り替えの早さがいい」
あのクルミを一瞬で…全て受け止めた!!?
絶句。ただそれしかできなかった。
陽太もまた、言葉を失っていた。
傾けた右手から次々と零れ落ちるクルミが、アスファルトとぶつかり硬質な音を立てる。
ふぅ…と、比留間は大きく息を吐いた。
「見事だったよ、岬陽太君。判断力、洞察力、機転、戦術。どれをとっても非常に優れている。
君が成長すれば、きっと一流の戦士になれただろうね」
気だるげな様子で腰に手を伸ばす。
「だけど、残念ながら…」
取り出して、カチリと陽太に向ける、それは…
「僕は能力研究者なんだ」
黒く、冷たい光を放つ…拳銃だった。
<続く>
博士でやりたい放題。自重?なにそれおいしいの?
しかし危なかった。エイプリルフールの嘘最終回が真最終回になるとこだった…
投下予告で自分を追い詰めるってのも時には必要だあね。
続きは割と早く投下する予定です。
博士清々しいくらいに悪役だw
続きwktk
よっしゃ、本家キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!!!!
しかも、比留間センセもダークで(・∀・)イイ!
好きなキャラ同士でバトルって、熱すぎるだろ! (自分的に)
続き期待
おかしいな、作中の季節と合ってたはずなのに…
投下するよ!
第二話
能力について専門的に扱う学部が日本の大学に初めて導入されたのは2002年のことだった。
以降、この若い学問は将来性を期待され、同じ系統の学部が全国の大学に次々と設置されることとなる。
そして現在、分野別の学生数では日本で一位を誇っている。
衛たちの通うS大学超能力学部もそのひとつであった。
「おはよう!」
衛と幸広が後ろから声をかけられたのは、売店で朝食にするパンを選んでいたときだった。
声の主は、衛たちのもうひとりの中学からの同級生、川端輪だ。
彼女はフレームだけの眼鏡をくいっと上げて微笑んでいる。
三人はいわゆる腐れ縁というもので、特に示し合わせて同じ進路を選んだわけではない。
選ぶのが遅かった方の衛がパンを手に取ったのを見計らって、輪は話を続けた。
「良いよねぇ、下宿生。私なんてどれだけ朝早いか分かる?」
学生の中には能力の都合上昼夜どちらかにしか通えない者もいる。
そのためS大学では同じカリキュラムを昼間部・夜間部の両方で実施している。
日が暮れるまでに終わらせられるように、昼間部は朝七時から開始だ。
輪は通学に時間が掛かるため、一番早い日だと四時には既に起きていないといけない。
「俺だって今日は一限目も無いのに衛に起こされたぜ。」
幸広はわざとらしく大きなあくびをしてみせながら言った。
そんな幸広の言葉に衛は苦笑いを浮かべる。
「そ、それよりさ、輪だってこっちに引っ越せばいいのに。」
と、レジに並びながら衛。
「私だってそうしたいんだけどね。親が許してくれなくて。」
「今時女の子だからってそう厳しくしなくても。」
財布を出しながら幸広。
「そうじゃなくて、うちの場合……さ。」
「ああ、アイツのことか……。」
アイツとは、三年前交通事故で亡くなった輪の弟のことだ。
彼のことは衛も幸広もよく知っていた。
「悪い。」
「ううん、もういいかげん吹っ切れた。」
そう言いながらも、輪の横顔は少し寂しそうだ。
「多分毎日顔見て安心したいんだと思う。」
しかしその表情も一瞬で、すぐにまた、元の明るい輪に戻る。
「ほら、さっさと行こ。」
輪はふわふわパーマのセミロングの髪を揺らして真っ先に売店を出て行った。
ざわついた教室に、マイクで拡声されたしわがれ声が響く。
「あー、チェンジリング・デイ以降ー、私たちの暮らしはー、大変便利になりました。」
衛たちは「超能力の歴史と発展」という講義を受けていた。
この講義の担当は分厚い眼鏡を掛けた老夫、村主教授だ。
「たとえばー、あー、前のスクリーンをー、見てください。」
そこには猫がねずみを追いかけるコミカルな映像が映し出されている。
「これがー、私のー、あー、昼のー、能力です。
私のー、記憶や思考をー、映像としてー、映すことがー、できます。」
その後、映像は1990年代の風景へと変化した。
衛が隣を見ると、幸広は既に爆睡状態、対照的に輪は真剣にメモを取りながら話を聞いている。
邪魔をするのも悪いので、衛も諦めて村主教授の間延びした声に耳を傾けるが、どうも頭に入らない。
結局のところ、講義中ずっと衛の意識を支配していたのは、早速留守を任せることになってしまったかれんのことだった。
幸運にも、その後、衛にはまるまる二時限分の空きがあった。
全く無計画に勢いだけでかれんを預かったので、昼食のことすら考えていなかった。
心配なので、二人に一旦別れを告げてアパートに向けて自転車を飛ばす。
幸広にかれんのことをバラされたのか、輪が衛を可哀想なものを見るような目で見ていた気がするが、忘れることにしよう。
「ただいま!」
「あれ? 早かったですね。」
「いや、今丁度空き時間だったからね。」
かれんは棚にある漫画を読んでいた。
あらゆるものを創作する魔王が弟子と旅をする物語だ。
「お昼用意してなかったからコンビニで買ってきたんだけど……。」
「あっ、ありがとうございます。」
やはりまだどこか会話がぎこちない二人。
無言で衛が買ってきた弁当のビニール袋を剥がす。
衛は冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出してふたつのコップに注いだ。
「それじゃ、いただきます。」
「いただきます。」
「……からあげ欲しい?」
「いえ、別に。」
「そっか。」
とは言ったものの、小さな口を精一杯開けて美味しそうに食べるので、つい自分のおかずを分けてあげたくなる。
「ん? 顔に何か付いてますか?」
「いや。」
気が付けば衛は、自分の弁当には手をつけずに、かれんの食べる様子を眺めていた。
そんな自分が怖くなって慌てて話題を振る。
「そういえば、学校はどうするの?」
「パパとママがいなくなってからいろいろな所に住んでたから、ずっと学校行ってないんです。」
「そっか……今から市役所にでも行ってみるか。」
「えっ、でも……。」
「いいからいいから。さ、早く食べて。」
市役所でかれんの転入届は提出した。しかし転校には元の学校での手続きが必要らしい。
元の学校と言ってもかれんは数日前に中学生になったばかりなので一度も行っていない。
どうしようかと思ったが、そろそろ大学に向かわねばならない時間だったので、かれんの学校の件は後回しになった。
「はぁ、疲れた……。」
五時限目、英語の教室に入った衛の第一声だ。
「本当にギリギリだったな。」
隣に座る幸広が声を掛けた。
「まだ先生来てないのか?」
「ここの先生はどんな人かな。」
輪が横から口を挟む。
幸広は意味ありげに衛の方を見てにやりとした。
「噂によるとな、」
しかし幸広の言葉は扉の開く音に遮られた。
中に入ってきたのは、なんとかれんと同じくらいの年齢の金髪少女だ。
「Hello everyone! My name is Naomi Wiseman.」
「あー、あーゆーあわーてぃーちゃー?」
とっさに誰かが尋ねたのも無理のないことだ。
「Yeah.」
彼女はこういう反応に慣れているのか、あっさりと肯定した。
現在十三歳の彼女はこの大学の准教授だ。秘密は彼女の能力にある。
昼の能力は思考に掛かる時間がゼロになる能力、夜の能力は記憶を整理する能力。
夜に覚えて昼に考える。このサイクルで彼女は常人には真似できない勉強効率を叩き出す。
そのおかげで、彼女はわずか八歳でアメリカの大学を卒業した。
「……ってことみたいよ。」
「輪、お前やっぱり英語凄いよな。」
「うん、ほんと。僕は半分くらいしか聞き取れなかった。」
「俺なんか全然だぞ。」
と、こんな感じで二人は――特に幸広は――輪に教えて貰いながら授業を終えた。
荷物を片付け教室を出ようとした所を「東堂君!」と呼び止る声が聞こえた。
「ナオミ先生? えっと……。」
「日本語でいいわよ。四分の一は日本人だって授業で言ったじゃない。」
「そ、そうですね。」
ナオミは呆れ顔だったが、すぐに真面目な目つきに変わる。
衛も雰囲気の変化を察して真剣に耳を傾けた。
静かな教室に時計の針の音だけが大きく聞こえる。
その音が五回目を刻んだとき、ナオミが口を開いた。
「東堂君、あなた、警戒した方がいいわよ。」
漠然とした忠告。
しかし漠然としているだけになにやら深い意味を含んでいるようだ。
衛は自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。
つづく
以上です
>>250 おおっと続き来た! かれんかわいいよかれん。
そして教授はガチでこども教授っすかw
平和ながら、何か不穏な雰囲気…期待してます。
さぁて、書けた。
>>238-242の続きですどうぞ。
252 :
『月下の魔剣〜邂逅〜』:2010/05/10(月) 22:05:36 ID:38Pgn8Eq
氷のような汗が背中を伝う。
「強さも、戦術も、僕には興味がない。興味があるのはただひとつ、能力だけなんだ。
君の能力は食材を発生させる、それだけだ。僕の研究対象には値しない」
陽太も、僕も、言葉を失ったまま。
回避も反撃も不可能な数歩の距離から銃口を向けられ、一歩も動けない。
「その強さにしても高が知れている。こんな珍しくもない武器に君は敵わない」
陽太を射止める、冷酷な言葉。
「さようなら、岬陽太君。君は必要ない」
僕は動かない喉から無理やり声を搾り出す。
「…やっやめっ!!!!」
パン!
253 :
『月下の魔剣〜邂逅〜』:2010/05/10(月) 22:06:18 ID:38Pgn8Eq
それは、小さな音だった。
研ぎ澄まされた感覚でこそ聞こえる、何かが破裂するような音だった。
向けられた拳銃は、依然沈黙を続けていて。
比留間は左手でサングラスを外し、まじまじと見つめる。
フレームの太いサングラス、つるの根元には小さな機械が付いていた。その機械が、僅かな煙を上げている。
ふむ…と小さく呟くと、それを折りたたんで懐にしまい、新たな取り出した普通のサングラスをかける。
銃口を上に向け、引き金を引く。カチリと小さな音とともに、銃口に火が灯った。
「ただのライターさ。驚かせて悪かったね」
緊張が一気に途切れる。足の力が抜け、へたり込んでしまった。
陽太は両手の平を向き合わせ、身構える。
「…てめぇ!」
「まあ、待ってくれ。これ以上君とやりあうつもりはない。今日のところは引かせてもらうよ」
「何を勝手な…!」
「勘違いしないでほしい」
次の瞬間、信じがたい速度で、陽太の眼前に電流の走るスタンロッドを突きつけていた。
「君を黙らせるのは容易い」
まるで氷のような声だった。ぞくりと背中が粟立つ。
「だけど岬陽太君、君の健闘を称えて。そして水野晶さん、君の強い意思に免じて。
今日のところは君のことを諦めよう、そう言っているんだ」
「くっ…!」
歯を食いしばる陽太に、余裕な態度で背中を向ける比留間。
少し歩いてから、思いだしたように足を止め振り向く。
254 :
『月下の魔剣〜邂逅〜』:2010/05/10(月) 22:07:31 ID:38Pgn8Eq
「そうそう、今日のことは人に言わないほうがいい。比留間慎也は今この時間、数百人を前に講演の真っ最中だ」
「アリバイ工作は完璧ってわけか」
「…そういうつもりじゃないんだけどな。そうじゃなくても、こんな突拍子のない話は誰も信じない」
「ハッ! どうだか。研究に行き詰った博士が犯罪まがいの行為に走る。なんともありがちな話だ」
そりゃあ陽太の厨二目線にしてみればありがちかもしれないけど…現実にはそうそうない話だと思う。
正直、僕は今この瞬間にも信じられないでいる。この男は、比留間慎也の名を語る別人なのではないか…
「僕は本物だよ、水野晶さん」
バクンと心臓が鳴った。
脳裏の疑問に対する、完璧な解答。決して口に出していない、能力も使っていないのに。
この男は、有名人の名を語るような小物ではないと。底知れない何かを感じずにはいられなかった。
「それでは、ごきげんよう。君とはまた後ほど会うことになるだろう。その時は好意的な返事を期待しているよ」
そう短く言いきると比留間は踵を返し、裏路地を抜け大通りの奥へと消えていった。
茫然と立ち尽くす僕。陽太はジョロキアの影響で赤くなった右手を見つめて、呟く。
「またひとつ…因果の鎖ができちまったってわけか……」
右手を力強く握って、比留間が消えた先へと拳を向ける。
「だがな比留間慎也、どんな力を持っていようと…お前の思い通りにさせはしない!」
その目には、決して揺るがぬ信念の光が宿っているように見えた。
グゥゥ〜…
お腹の虫が盛大に鳴いているのは聞かなかったことにしようと思った。
255 :
『月下の魔剣〜邂逅〜』:2010/05/10(月) 22:08:13 ID:38Pgn8Eq
とある研究所、個人研究室。
スーツの上から白衣を羽織り、慣れた椅子に深く腰掛けた比留間慎也は大きく息を吐いた。
すぐ隣には白衣に眼鏡、救急箱を抱えた女性がつき従う。
「本当にお怪我はございませんか比留間博士。頭痛は。吐き気は。身体のどこか不具合は」
「君もよくよく心配性だな。最初から問題ないと言っているだろう」
「ですが」
「カメラ越しでわからないことはあまりに多い。研究とはやはり自分で体験するに限る。
いいじゃないか、僕としてはキメラ調査の数倍の成果が得られたと感じているんだ」
「ですが! それでも調査対象に直接接触するといった行為は許容しかねます。博士に万一のことがあっては」
「相変わらずの頑固者だな君は」
「私は所員一同の代表として言っているんです! 全員があなたのことを心配しているんですよ!」
「あー…わかった、わかったから。直接会うのはしばらくは控えるよ」
「永遠に控えてもらえないでしょうか」
はぁ、と比留間は溜息をつくと、内ポケットの機械付きサングラスを取り出して女性に渡す。
僅かな異変だが、少し見ただけで女性はその異変に気付き声を上げた。
「これは…!?」
「水野晶の能力波によるものだ。僕も驚いたよ。キメラを停止させた能力波の倍は耐えられる設計だったんだけどね。
明らかに以前より増幅している。この成長は予想外だ」
「博士に影響は!?」
「だから大丈夫だって。危ないからすぐ引いたさ」
「それならいいのですが…」
「もうひとつ、非常に興味深いことがある」
女性からサングラスを受け取り、故障した機械を操作しようと試みる。が、すぐに諦めて机に置いた。
「彼女の能力波は同行者、岬陽太に危機が迫った際により高まる傾向があるようだ」
残念ながらデータは残ってないんだけどね。と肩をすくめながら付け加えた。
「それでは…」
「ああ。今後は彼とも積極的に係わっていくという形になる」
「かしこまりました」
256 :
『月下の魔剣〜邂逅〜』:2010/05/10(月) 22:08:56 ID:38Pgn8Eq
女性が一礼をしたとき、沈黙していたパソコンのモニターにウインドウが開き、
聞き取りやすい男の声がスピーカーから流れる。
「比留間博士。ご報告します」
「何だい?」
「例の実験の準備が整いました」
「ほう、思ったより早かったね。対象の様子は?」
「保護の際に錯乱状態にあったため若干の薬物投与は行いましたが、今は健康精神状態ともに安定しています」
「いいだろう。ではさっそく今夜零時より実験を開始する」
比留間は椅子から気だるげに立ち上がって少し歩くと、ふらりと揺れて机にダンと手をついた。
「博士!!」
慌てて駆け寄る女性を手で制して、近場の椅子に崩れるように腰掛ける。
「やはりどこかお怪我を!? すぐに医療班を!!」
「待て待て違うって。ただの副作用だよ」
「副作用って…あの試薬を!? あれは初期実験段階ですよ!?」
「効果は十分に立証された。だがやはり肉体と精神に係る負担が大きすぎるね。下方修正が必要だ」
つりあがっていた女性の眉が下がる。声も一転、どこか弱々しく。
「比留間博士。どうか…どうかご無理をなさらないでください。所員一同の心からの願いです」
心から心配する女性の顔を見て、比留間はふぅ、と目を閉じた。
「…ああ、わかったよ。安全性が立証されるまでは使わないと約束する」
「今夜はお休みになられてください。実験はいつでも可能です」
「ああ、そうさせてもらおう」
世界的な能力研究の権威。若き天才、比留間慎也。彼の裏の顔を知る者は、実はあまり少なくない。
だが、最終的に彼が何を望むのか。その真の目的を知る者は、彼以外に唯一人の男だけである。
<おわり>
あー…難産だった!!
考察の作者様には改めて感謝。そして謝罪を。完っ璧に悪役でしかもラスボスですよ比留間博士。
『月下の魔剣』シリーズの主題が 比留間慎也vs陽太と愉快な仲間たち ですので。今後とも暴れますw
次回からはちょっとずつ仲間を増やしていく予定です。各キャラ作者様、この変なシリーズに巻き込まれるご覚悟を。
ちなみに「例の実験」の対象は既出の人物だったりする。この実験が次回につながります。
比留間博士の最終目的を知る男ってのは作者の俺ー! ごめんなさい嘘です。
他作品の展開も見てシェアしてみるつもりなんで今後ともよろしくお願いします。
最後に俺的キャラ紹介。
比留間慎也
『比留間慎也の考察』でお馴染み、世界的な能力研究の第一人者。メディアへの露出も多い有名人。
黒の短髪でスーツ、白衣を着用。年齢は30代と若く結構なイケメン。
複数のキメラを使用し能力者の調査、その他にも怪しげな実験を行っている模様。
その目的、能力ともに謎に包まれている。
考察してるのは2004年の比留間さん。
これは現在、2010年の比留間さんっつーことでw
257 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 22:09:49 ID:38Pgn8Eq
ここまで代理レス
258 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 23:29:08 ID:OOA+eSYh
晶はツッコンデレ…と
博士凄いな。何の能力も使わずにこの威圧感
>仲間
ついに…奴が月下本編に…
tesuto
白夜「ふふふ…」
ドウラク「ふははははは!! 待ちかねたぞ晶君!」
晶「…なんでこんな夜に呼び出されなきゃなんないのさ。変なおじさ…ドウラクさんその子誰。妹さん?」
ドウラク「いやこの少女はだな」
白夜「なんて汚らわしい! 矮小なこの男とこの私が肉親ですって!?
永久に巡り廻る輪廻の鎖、その一片たりともそんな可能性などありはしないわ!」
ドウラク「何だと!」
晶「うわぁ…(陽太の女の子バージョンだ…)」
白夜「私の名は白夜。夜の闇を祓う者、白夜よ」
晶「あー…よろしく…(陽太の言ってたゴスロリってこの子か…)」
晶「…で。こんな夜中でしかも屋外に僕だけ呼ばれた理由は何」
ドウラク「あー…コホン。実はだな、次回より少年が本格的に仲間を増やすという話を聞いたのだ。
当然そこは能力相性に優れ、かつ人気も高い私がなるべきであろう?」
晶「えー…相性良かったのアレ…人気ってのも疑問だし」
ドウラク「だがそこで対抗馬が現れた」
白夜「皇剣・朧夜(こうけん・おぼろよ)」ブン
ドウラク「あうちっ!」バキッ
白夜「私を馬などと愚かな獣に例えるなど許されないことよ!」
晶「ええっと…何これ。カニなの? でっかいカニのはさみなの?」
白夜「私の夜間能力、異形錬金【ヘレティック・アルケミスト】。2つの物質を結合させ、その特徴を併せ持つ
新種の物質を生成する力。これは岬月下の生み出したゴボウとカニを融合させ生み出した剣。皇剣・朧夜よ」
晶「あー…なるほど。これは相性良いわ」
白夜「わかるでしょう? 貴女は愚者ではないようね。決め手に欠ける岬月下を救済すべきはこの私なのよ」
晶「うーん…確かに大根振ってるよりは様になるけど…」
ドウラク「いいのか晶君。二人の厨二は共鳴し高め合い、君のツッコミ労力は倍以上に跳ね上がるぞ」
晶「それは困る!」
白夜「黙りなさい! そう言った点では貴方も大差ないでしょう?」
晶「ああ確かに」
ドウラク「まあ、この通り。話し合いでは決めかねる。そこで、真に少年の仲間になるべきはどちらか、
その決着をつけるために我々はここに集ったのだ」
白夜「岬月下と悠久の時を過ごしてきた貴女こそ、このダンスパーティーを見届ける者としてふさわしいわ」
晶「悠久って…まいいけどさ。ダンスパーティーって何さ」
ドウラク「勝負の方法は紳士のスポーツ、チェスだ」ドン
晶「チェスって…将棋と同じで戦場のゲームじゃないの?」
ドウラク「その見解が一般的だが、それでは将棋で言う飛車角の動きを併せ持つ女王、クイーンの強さは不可解だろう?
チェスの盤面は、一説にはダンスパーティーの舞台といわれているのだよ」
晶「へぇー…(無駄に博識だこの人)」
ドウラク「さて、役者も揃い、満月も天頂に達した。さあ白夜よ」
白夜「さあジェントル、始めましょう。この醜くも美しいダンスパーティーを」
晶「(ああ…なるほど)」
晶「(月下の席を求めて、白の紳士と黒の少女がチェスで対決…か。確かに絵になるかもしれない)」
白夜「巡る輪廻の鎖、永久に続く苦しみより私を解放し勝利へと誘え。ポーン!」
晶「 !? 」
ドウラク「紳士たる私に敗北はない! 約束された勝利への第一歩を踏み出せ。ポーン!」
晶「え? え?」
白夜「さあ、運命の道を。栄光へと続く道を開きなさい。ポーン!」
ドウラク「さらに踏み出せポーン! 戦場深くへ侵攻し全てを薙ぎ払え!」
晶「ダンスって言ってたよね。ねえダンスって言ってたよねドウラクさん」
白夜「貴女の道は開けたわ。その力を解き放ち盤面を支配しなさい。クイーン!」
ドウラク「力押しなど浅はかだぞ白夜! これぞ紳士の戦略! 駆け抜けろ、ナイト!」
晶「っていうか…何? その前口上は必ず言わなきゃいけないわけ…?」
白夜「私のクイーンに触れるなど許されない! その穢れた騎士に咎を与えなさい。ビショップ!」
ドウラク「好きにやらせはしない! 出ろルークよ 女王の自由を奪うのだ!」
白夜「かかったわね! そのルークの命、刈り取らせてもらうわ! ビショップ!」
ドウラク「ぐわああああああっ!!」
晶「チェスってこんなにぎやかなゲームだったっけ」
ドウラク「ふ…ふふふふふふ…」
白夜「何がおかしいの? 私の鮮やかな戦略にあてられ気が触れてしまったのかしら?
まだほんの戯れだというのに、愚者とは哀れなものね」
ドウラク「ふははははは!! そのルークは囮だったのだよ! 見事に綺麗な道を空けてくれたものだ!」
白夜「な、なんですって!?」
ドウラク「さあ貫け! 敵陣深くへと切り込み蹂躙せよクイイイイン!!」
白夜「キャアアアアアッ!!」
晶「うるさい上無駄に長いよ! まだ全然序盤だよねこれ」
白夜「…愚者のくせにやるわね」
ドウラク「お前もな」
晶「…もう勝手にして」
〜五時間後〜
晶「…くぅ…くぅ…」
ドウラク「ふ…ふははははははっ!」
白夜「…くっ!!」
ドウラク「長かった戦いもようやく終焉を迎えるときがきたようだな! 白夜の王にもはや逃げ道はない!」
白夜「まだわからないわっ! 貴方の王もすでに丸裸! さあ、必死に守りなさい!!」
ドウラク「見苦しいぞ白夜! わかっているのだろう、次の一手で君の王は詰む!」
パァァァァ(朝日)
ドウラク「ふふふ。昇る朝日も私の勝利を祝福しているではないか…」
白夜「くうううぅ…」
ドウラク「さあ終わりだ! 主人公の座は私がもらったああああ!! チェックメイ」
白夜「天導者の詩【エコーズ・オブ・フォールン】!!!!」
ドウラク「ぎゃああああああっ!!!!」
チェス盤「バシャーン」
晶「…くぅ…う…ふぁっ!? 何!?」
白夜「………」
ドウラク「うああああああっ!!」
晶「…何この状況」
陽太「…こんな朝っぱらから外で何してんのお前ら」
晶「あ、陽太おはよー」
白夜「 !? 」
ドウラク「あああぁぁっ……。………? 何だったんださっきのは」
陽太「なんでオッサンと白夜が一緒にいんだよ。ドクトルJはどうしたんだ」
ドウラク「オッサンじゃない紳士だっ! それより見たまえこのチェス盤を…ってあああああっ!!」
チェス盤「グッシャリ」
白夜「突如錯乱した貴方が蹴り飛ばしたの。きっと貴方の内心は主人公となることを恐れているのよ」
ドウラク「何だと!? 馬鹿な!? そんなはずはないっ!!」
陽太「主人公って何の話だオイ」
白夜「そんなことより岬月下、貴方の仲間となるべきは私よね。貴方に勝利を与えるのは私の剣。そうでしょう岬月下」
ドウラク「何を言うか! 巨大な敵に立ち向かえるのは私のシザーゴーレムのみ! 少年よ、仲間とすべきは私だろう!」
陽太「あー…その話か。ええっとそれはだな………」
白夜「………」ドキドキ
ドウラク「………」ドキドキ
陽太「悪い。お前らもうしばらく待機な」
ドウラク「はっ!!!?」
白夜「えええっ!!!?」
陽太「じゃ。そういうことでっ」スタタタッ
晶「行っちゃったね」
ドウラク「………」
白夜「………」
晶「いいことあるって」
白夜「エコーズオブフォールーーーーン!!!!」
ドウラク「ぎゃああああああああっ!!!!」
晶「…もうこの二人で組めばいいんじゃないだろうか」
<おわり>
>>258からパッと思い浮かんだ小ネタ。思いのほか長くなってもーた。
やっぱり難しいよ白夜厨二テキスト再現できないよ白夜。誰か厨二力を俺にわけてくれ。
なお次回に仲間になるのはこの二人のどっちでもなく、どちらかと言えばツッコミ役のキャラですので悪しからず。
なにこのチェス無駄に面白そうw
大分先の方に使うかもしれない妄想設定でも書いてみる
チェンジリング・デイ以降におけるスポーツ
能力を使ってよい競技と能力が禁止される競技に分けられる。
能力が禁止される競技においては、
通常の審判の他に、誰かが能力を使っているか特定できる専門の審判が置かれる。
毛糸かわいい
最後なんちゅう解釈だwww
容赦ない月野さん可愛いよ月野さん
そしていきなり腕焼き切られたファングさん可愛そうだよファングさん
>>265の約一時間後……。
フール「あれぇ? ファングさん、どうしたんですか? その手」
ファング「なに、ちと火遊びが過ぎただけだ……っとやっと生えて来た」
フール「いやぁ、相変わらず化け物地味た再生能力ですねぇ。流石ケダモノ」
ファング「……おいこらフールテメェ! 結局は俺をケダモノ呼ばわりしてぇだけだろ!!」
フール「わー、ケダモノが怒った―!」
ファング「待てゴルァ!!」
ヨシユキ「……なぁ、いつもこうなのか? この組織って」
ルロー「残念だけどそうニャ」
ヨシユキ「(……なんか、帰りてぇー)」
ヨシユキ頑張れw
やたー規制解けたーーー!!!
>>265 月野おっかないなー さすが炎使い
>>268 >>265から続くコンボはッ……! GJ以外のなにものでも無い
このファング×フールの小ネタ、地味に好きだったりする
ヨシユキ……ww
規制解除おめ
避難所に投下アリ
つまんない小ネタですが、投下しちゃいます
すみません、クリアランスはとってないです
しかも、某スレのつづきだったりします
↓
夏の陽は、長い。
まだ明るい神社の境内は、早くも人が大勢いた。
屋台で彼女にわたあめを買ってあげ、僕もラムネを飲みながらお祭りを見物して歩いた。
こういう、ジャンクなものを食べたり飲んだりしていると、思い浮かぶのは……
「あ」
僕は、真剣な眼差しでいけすの金魚を狙っている幼馴染の横顔を見た。
「フン、このオレの手から逃れられると思うなよ……水中型キメラが」
金魚すくいのおじさんは呆れ果てていて、
もうこいつには何も言うまい、というセリフを全身で表現していた。
「ライス・サルベージ、ウォータープルーフヴァージョン!!」
――あちゃあ、やっぱり……
僕は頭を押さえた。
セコい。セコすぎる。
水飴を挟む薄焼きせんべいをどこからともなく出しては、金魚をすくう柄杓が破れてもすぐに復元して……
僕はつかつかと陽太のそばに寄り、耳を引っ張った。
「痛ててててててててて!!」
「こら陽太! セコい真似しない!!」
「ふざけんなよ晶!!」
「ふざけてんのは、あんたでしょ!」
陽太は耳を真っ赤にして、僕を見上げる。
と、そのとき。
一瞬、陽太の目が見開いたと思うと、黙ってしまい、さっきの威勢はどこへやら。
視線が僕の顔から下に降りて、タンクトップのロゴのあたりを見て、
さらに下に降りて、それにつれて顔が真っ赤になっていって、僕のスニーカーまで下りたあと、
「へ、へん、と、とにかく、オレの邪魔はすんなよな!!」
顔と耳を真っ赤にしながら、目も合わせずにぷいっと顔をそむけると、陽太は逃げるように去っていった。
――(屋台のおじさんの)邪魔をしてるのはあんたでしょ。
僕は呆れて、幼馴染の後ろ姿を見送った。
傍らでは彼女が、僕らのやりとりをぽかんと見ていた。
.
↑以上で
オチが無くってすみません
>>262様
無断でお借りしちゃいました、つい出来心で……申し訳ないっす
278 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/20(木) 00:50:37 ID:XuZCjJjW
陽太何やってんだw
てか晶服装エロいよ服装
陽太、ズルはいかんズルはw
そして何だかんだ言いながらもやっぱ彼も純情な中学生なんだな。
280 :
262:2010/05/20(木) 13:23:08 ID:jg5rBSAy
この発想はなかった!!
あったとしても自分には書けない類の話だわ
純情でほんわかしてていいなあ
使用については特に許可いらないですよ。むしろ歓喜します
ところであっちも読んで、ふと思った
「彼女」がものすごくアイリンちゃんに見える
ありがとうです!
ご明察のとおり、「彼女」は、娘のつもりで書きました♪
この二人の絡みが本編で書けなかったので、書いちゃいました
陽太くんがドキッとしちゃうとこが伝わっててなにより。
こんな彼もかわいいよね!
なんと!
283 :
(ry中の人:2010/05/23(日) 00:10:20 ID:tvRmkmQq
若干チラシの裏気味に……ごめんなさい
>>237 今気づいたんですが、能力勘違いしてたかな……?
あの場面では、夜が明けているつもりで書いてました
描写が足りなかったかも……すみません
カラスを追っ払ったのは、ただの煙です
(毒霧ならカラスはおろかフールも殺せた、パウロも巻き添えくってry)
トリップ、つけるべきかな……
こういう時に不便だし
つけちゃえつけちゃえ
ひとつ言っておくと辞書に出てくる単語とか数字だけとかをキーにするのはやめた方がいい
ところでWikiの管理人さんいる?
14日にメンバー登録申請したので見ていただけるとありがたいです
285 :
赤い彗星:2010/05/23(日) 18:36:21 ID:K3BxdYeb
>>284 トップページに書きましたので、使ってくだしゃあ><
どもです><
バ課って正式名称あった?
後、今何班が空いてるか教えてくれ
班 隊長 - 副長
1班
2班 シルクス - ラヴィヨン
3班 クエレブレ(鉄ちゃん) - シェイド(峰村)
4班
5班 ラツィーム - マドンナ
6班
7班
こんな様子
抜けてたら指摘お願い
正式名称は長ったらしい名前があるらしいけど出てきてないはず
( ゚д゚) …
( ゚д゚ ) 今までずっと間違えてた
クスクス
>>284さん、アドバイスありがとうです
で、トリップを付けることにしました
(成りすましが出るほどの書き手じゃないですが……)
>>287 バフ課を書く人がっ!?
これは期待っす、自分も書いてて楽しかった
勝手に内部の人間関係を妄想して書きましたが、スルーでおkです
正式名称、出そうとしてうまく思いつかず断念……orz
俺も最初バ課出したときに正式名称考えたけど、いいの思いつかなかった
なんかこう「特務なんたら課○○所属△△です」みたい言わせるとかっこいいかなと思って聞ききました
正式名称無いのか残念
班も意外に埋まってないのな。教えてくれた人サンクス
よしおぼえたぞー
白スク
うーんこっちでも考えてみたけどやっぱり思いつかないなぁ
○○所属は、第1班所属〜とかかな。やっぱり特務なんたらの名前があると
勇ましくなるんだろうけど確かに思いつかん…
|∀゚) ....
|つ【いわゆる新規獲得能力に係る特殊犯罪及び超常的事象専門特別捜査課】
|彡 サッ
>>297 個人的に嫌いじゃないしむしろ良いとすらおもうけど、バフ課にするにはどこを訳すの?
>>297 周囲に説明する時、その長ったらしい名前をいちいち言葉にしなきゃいけない
なんて胸が熱くなるな…
|∀゚) フムフム・・・
|つ【いわゆる新規獲得能力によって馬鹿やってる不良共や超常的事象専門特別捜査課】
|彡 サッ
301 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/25(火) 19:49:02 ID:/CeREwTU
ちょwww
能力のことがバフなんだから
略してバフになる必要無くね?
普通に「特務BUFF機関課第1班所属」とかでも良さそうな気がしてきた
>>296、
>>296 名乗ることで勇ましく感じるとかなら、
>>302 のがいいかも。カコイイし
>>297は、「長ったらしくて誰も呼ばない、呼びたくない」ってニュアンスで
考えたものの、結局使わなかったヤツっす(>>避難所264)
ボツネタを人様に勧めるって、いい度胸してんな自分……orz
申し訳ない、失礼極まりなかったです。ごめんなさい
桜の開花も近い、夜の自然公園。
時は深夜零時。昼の活気は消え去り、点々と灯る光が無人の公園を照らす。
日中は人々の心を癒す噴水池も、今は沈黙し静かな水面を湛えていた。
どうしたことだろうか。
池を照らしていた電灯が次第に弱々しく、光を失っていく。
一つが完全に消え、そしてその両隣の電灯が消え。さらに隣へ、隣へと、闇は広がってゆき。
やがて周辺の全ての電灯が消え、公園は闇に包まれる。
突然。
何もなかった空間に、強烈な閃光が発生し辺りを白一色に染め上げた。
数瞬後、閃光は消える。そこには、光を取り戻した電灯に照らされ膝をつく人影があった。
「あちゃあ…暴発かぁ。眩しいなあもう」
それは若い青年の声だった。
「教えてもらったはいいけど結構扱い難しいなぁ。よくこんなのを持ち歩いてるもんだ」
やがて青年は閃光に眩んでいた視界を取り戻す。
「あれ…ここは…」
きょろきょろと周囲を見回し、そして気付く。視界の隅に大きな異変。
「えっちょ…これ…え!!?」
それは、手。自分の思う通りに動く両の手。
しかしそれは、誰よりも見慣れた自分のそれとはあきらかに違っていて。
「何…なんだ…これ…!?」
恐る恐る、顔に触れる。指先に触れる奇妙な感触、形。全てが自分の知るものではなかった。
顔を指で弾くと、いつもと違う痛みが響く。青年は慌てて近くにあった噴水池に駆け寄る。
「いや落ちつけ…たぶんドッキリだ…どうせいつもの先生の悪戯で…」
池の淵に手を当て、大きく深呼吸。やがて、意を決して青年は池を覗き込む。
水鏡に映った、その姿は……
「 なんじゃこりゃああああああああ!!!!? 」
深夜の公園に、青年の慟哭が響いた。
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』
俺の名は岬 月下。
混沌を極めるこの世界。優れた人物は狙われる、それが世界の法則。力ある者の宿命だ。
俺は今ふたつの組織に狙われている。ケルベロスを連れたロングコートの男。そして、比留間慎也。
組織は果てしなく巨大だ。俺の情報網を持ってしても、その全貌どころか片鱗すら掴むことができない。。
叛神罰当【ゴッド・リベリオン】、忌まわしき力。俺は現在(いま)を生きるためにあえてこの力を振るわなければならない。
この新たな武器、シルバーダーツの扱いは難しいが、俺は神に叛く男、必ず使いこなしてみせる。あ、よっしゃ刺さっ
「…げっ!」
夜の自然公園でひとり、ガッツポーズをとっていた少年は、何かに気付いて慌てて近くの茂みに飛び込むのだった。
「寒っ。なんでこんな気温安定しないのさ…」
季節を勘違いしたような、冷たい風の吹く春の日。どうしようもないと知りつつも、ついブツブツと文句を言いながら歩く少年…
もとい少女、水野晶は、食品が大量に詰まった重い買い物袋を両手に引きずるように歩いていた。
「だー重い! ちくしょー陽太の奴、なんでこういう肝心な時にいないんだ!」
ついつい、この場にいない年下の幼馴染に毒づいてしまう。
彼女の幼馴染、岬陽太の両親は大の旅行好きで、今回は彼女の両親も共に旅行に出てしまった。
短期で帰る予定とは言っていたが、結局のところ長期旅行になるだろう。それはいつものことで、慣れたものである。
陽太の世話を焼くのもいつものこと。今日明日は休日で特に予定もないので、久しぶりに本格派のカレーでも作ってやろうと思った。
そしてはりきった勢いで買いすぎ、時間も遅くなってしまった。こんなときこそ男手が必要だというのに、肝心の陽太がいないのだ。
晶が毒づいてしまうのも仕方ないと言えば仕方ないのではないだろうか。
「はぁ…。さてと、あとはコンビニ寄って……あっ!?」
自然公園の前を通りかかったその時、視界の端に見えた人影。
顔を向けその姿を捉える直前に人影は消えた。消えたといってもそこは自然公園、隠れる場所はある。
その姿はほとんど見えていないが、陽太のような気がした。あの場所まで歩いてでも確認する価値はあると思った。
「………やっぱり」
緑溢れる自然公園に銀色の異物。なかなかシュールな光景だ。木に 魚 が刺さっている。
口が鋭く尖っているあれは確かダツという魚だったか。姿は見ていないが確信した。さっきの人影は陽太だ。
ここに歩いてくるまで何かが動く気配はなかったので、恐らく隠れたままなのだ。だとしたら、この茂みの中だろう。
「出てこい陽太! そこにいるのはわかってるぞ!」
反応なし。陽太の性格と両手の大荷物のことを思えば、予想通りではある。
たぶん姿は見られていないと、知らぬ存ぜぬを通すつもりなのだ。まったく生意気な。
しかし厄介だ。大きい茂みではないが踏み込むのは億劫だし、暗がりにちっこい身体でじっとされていてはとても見つけられない。
何か方法がないかと周囲を見渡して、それを見つけた晶はニヤリと黒い笑みを浮かべた。
考えは単純明快、茂みに水をぶっかける。水道と放置されたバケツを見つけたのだ。
今日は春というにはやけに寒い日、効果は抜群だろう。
近くのベンチに荷物を置いてさっと準備。あぶり出しというよりむしろお仕置きなので、前振りはなし。
余計な動きも躊躇もなく、茂み全体にかかるようにバケツの水をぶちまける。
せーのっ!
「うおおっ!?」
「ぎゃあああああああっ!!!!」
一瞬聞こえた陽太の声に、予想だにしなかった全く別の叫びが重なって、晶はビクリと身体を跳ねあげた。
ガサガサと茂みから出てくる陽太。頭が少々濡れているが、晶に文句は言わなかった。
そんな気は一瞬で失せた。なぜなら、晶以上に驚いたのは間近で叫びを聞いた陽太だからだ。
晶と無言で顔を見合わせ、申し合わせたように茂みに目をやる。
「あの陽太…さっきの…何?」
「…俺も知らねえ」
やがて、茂みの中で何かが動く。ずりずりと引きずるような音。
身構える二人の前に、文字通り這い出す人影。
それは、びしょびしょに濡れた厚手のコートに、大きなフードを深々と被った青年だった。
しゃがんで身体を縮こまらせガタガタと震えている青年に、晶は恐る恐る声をかける。
「あ…あの…まさか人がいるとは思わなくてごめんなさいその…大丈夫ですか」
「だっ、だだだ大丈夫さささこここのくらいはははっはは」
完全に歯の根が合っていない。大丈夫でないのは誰の目にもあきらかだ。
「でっ、でもその…」
「いや、大、丈夫だよほら、身体の、震えも、治まって、き…」
パタリ、と。枯れ枝のように倒れる青年。朦朧とする意識。
「ははは…嬉しいなあミホノブルボン…まさか君が迎えに来てくれるなんてあははは…」
筋肉の痙攣発熱すら止まってしまい、青年は徐々に冷たくなっていくのだった。
「…どうしようコレ」
「どうしようも何もトドメさしたぞお前」
「トドメって…」
「『早春の悲劇!青年凍死!』」
「えっ!?」
「昨夜未明、某市自然公園にて青年の凍死体が発見された。青年は冷水を浴びせられ屋外に放置された疑い。警察は犯人を追っ」
「ちょっ!? やめてよ!!」
「普通にそうなりそうな感じだろーが」
「わかった! わかったよもう連れてくよ!!」
晶は大声を上げて陽太を黙らせる。
「陽太ん家に」
「何で俺!!?」
「いいじゃんすぐ行くつもりだったんだし。どうせ親もいないんだし」
「今はお前ん家もいないだろうが!」
「カレー作ってやんないよ!」
「……汚え」
これが二人の力関係である。
不満を言いつつも結局、最後には陽太は晶に従うことになるのだ。
「じゃあ僕がこの人背負うから。陽太は荷物持って」
「わかったよちくしょー…って重てっ! なんだこれ重てっ!」
「僕はずっと持ってたんだからそれくらい我慢しなさい! さてと、よっこいせ……って…」
軽っ!
晶は喉まで出かかった言葉を慌てて呑み込んだ。
それにしても軽い青年だ。自分より少し背は高いのに、背負った感覚はちっこい陽太よりも軽かった。
そしてとても冷たい。水をかけてしまった自分のせいだという罪悪感を感じずにはいられなかった。
「じゃあ行くよ陽太」
「待てこれ重たいってこれマジで」
先程までよりも数段楽だが、陽太に対する罪悪感は微塵も感じない晶だった。
みょーんみょーん。
チクリ。
「………」
「どうした晶?」
「…何でもない」
みょーんみょーん。
みょーんみょーん。
チクリ。チクリ。
イラッ
「いやマジでどうした晶」
「………」
青年の前頭部から二本、飛び出した変に硬い毛がみょんみょん動き、後頭部にチクチクこつこつ当たる。
晶は無言で、このまま青年を背負い投げしたくなる衝動を必死に抑えながら歩いていくのだった。
<続く>
はいどーも。月下の魔剣シリーズ第三話になります。
やっぱ冒頭のアレはやっとかないと話が始まんない個人的に思ってたりするんですよ。
見ての通り、やたら寒かった4月中に投下したかった話なのです。
え? いやいや気のせいですよ気のせい。
ダツ:前方に長く硬い突き出した両顎に、鋭い歯を持つ魚。光に突進する性質を持ち、実際にダツが人体に刺さり
怪我をする事故も多く存在する。様々な料理にして食べられる脂肪の少ない白身魚。
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
仲間加入のフラグ? これは期待
ダツww こえぇww
謎の人物が気になるな
>4月中に投下したかった
あるあるwww
あるある…
久しぶりに本スレの空気を吸いにきました
『白夜〜』の続きみたいなものを投下したいと思います
と言っても白夜も陽太もたぶん出てきません
避難所の『片桐真悟〜』を読んでもらってるとよりわかりやすいと思いますが、
読んでなくても全然問題ありません
「今月に入ってこれでもう4人目、ですよね。さすがに笑いごとじゃなくなってきてますよドクトルJ」
「笑えないよね」
「研究部門内でもかなり動揺が広がってます。尖崎主任なんかは抱き枕抱えて震えてました」
「震えてたね」
ERDO研究部門内で回される回覧メールを前に、私は助手くんの話に適当この上ない相槌を重ねていた。
メールの内容は『ERDOの構成員がここ最近のうちに立て続けに不審な死を遂げている。各自十分留意する
ように』とのもの。
ちなみに私の相槌がぞんざいなのは、この回覧メールに集中しているから、ではなく、近所の和菓子屋
さんで買ってきたおはぎを頬張っているためにあまりちゃんと喋れないというそれだけのことである。
ここに出てきた『ERDO』というのは私たちが所属している秘密組織の略称だが、ここで正式名称を説明
したりするつもりなんて全っ然ない。だって誰もそんなことに興味ないだろう? むやみに長いし、説明
してもきっと忘れるだけだよ。それにほら、今私おはぎ頬張ってるし。
あ、でもさすがに私自身のことくらいは紹介しておかなきゃね。のっけから『ドクトルJ』なんて珍妙な
名前で登場してしまったけど、ちゃんと神宮寺秀祐(じんぐうじしゅうすけ)っていう素敵な名前があるんだ。
ぜひともこっちで覚えて欲しいな。神宮寺秀祐。覚えたかな?
「この連続不審死、やっぱり『向こうの連中』の仕業って考えるのが妥当なんでしょうか」
「無難に考えるならそこになるね。『不審な死』ってぼかしてあるけど、明らかに殺人事件だしな。改造
犬を使っているらしい痕跡もあるようだし」
さらりと言ってのけつつも、気分は少し複雑だ。以前私が起こしたあの事件が、この一連の襲撃事件を
誘発したのではないか。そういう思いが脳裏をかすめるものだから。
「連中、何がしたいんでしょうね。目的がさっぱりわかりません」
「さあねえ、それは私だってわからないけど……。報復。違うなあ。挑発? いや警告、かな」
思いついたそれらしい言葉を適当に並べたてる私。若い頃からこびりついた癖のひとつだ。でもこうし
て口に出してみることで、意外なインスピレーションが広がっていくことだってある。それぞれの言葉を
吟味すれば、そこに真実が見えることもある。
「警告、だとするなら……私の起こしたあの事件。あれがなにかしら関係してきちゃうのかな、やっぱり」
「それ、もう結構前の話ですよ。結局あれ以降岬陽太本人はもちろん、その周囲にいる人物とも接触はし
ていないでしょう。ドクトルJが責任を感じることじゃないですよ」
私の内心を察知したらしく、助手くんは少しムキになって主張する。普段は割とクールで辛らつだけど、
こういう時の気遣いはちゃんとできる奴だったりするのだ。ドクトルJって呼び方はやめてもらいたいが。
「まあその辺の事情については諜報部に任せるしかないかな。なんであれ、私も君も当然狙われる恐れは
あるわけだから、何かしらの対策はしないとね」
「白夜はどうするんですか?」
「遥ちゃんにはもう連絡してあるよ。しばらくここに来ないように言っておいた。素直に言うこと聞いて
くれるといいんだけど」
この会話少しややこしいが、『白夜=遥ちゃん』と思ってもらえば問題ない。ご存じの方もいるだろう
が、この子はある特殊な病に罹患しており、しかも病状はすこぶる重篤ときている。医者にかかって治せ
る類のものでもないそうで、それを思えばなかなか不憫な薄幸の少女なのだが……まあこれ以上はやめて
おこう。
「僕もドクトルJも、夜間能力は割と強力ですから、その点は少し安心ですよね。昼間はどうせ外出ないし」
「外に出なければ安全って決まってるわけじゃないがね。まあでもそれについては同意だな。一応特務部
門からの護衛をつけてくれるらしいんだけど、研究部門の人間が全員それをやったら特務部門すっからか
んになっちゃうし」
これまでに殺害されたERDO構成員は7名に上る。私はじかに見たわけではないが、彼らの死に様は誰も目
を背けたくなるほどに無残なものだったらしい。
だから本当なら、私も特務部門からの護衛を受けるべきなのかもしれなかった。確かに助手くんの言う
とおり、私の夜間能力は強力だ。だがそれは1対1の状況限定の話だし、そもそも私自身に跳ね返ってくる
負荷も看過できない。
そこまでわかっていて私は、あえて護衛を頼んでいない。
助手くんは否定してくれたが、やはりここのところの襲撃には私の引き起こしたあの事件が根にある。
そんな気がしてならない。そしてそうだとすれば、殺害された7人の同志たちは、私の浅はかさのとばっち
りを食ったということになる。
申し訳ない。彼らには家族がいたのだろうに。助手くんにも聞こえないくらいの小声で、そう独りごち
てみる。そこから広がる、一つのインスピレーション。私の中に常にある、たった一つ、10年前から変わ
らず抱き続ける願望。
その望みは、無責任で自己中心的なものだと自覚している。それでも叶えたい。私が進んで自らを危険
にさらすのは、その想いを叶えようとするからこそなのだろう。
逢いたい。あの日私が失った、大切だった存在に。
今はもう遠い世界へと旅立ってしまった、守りたかった人たちに。
今度こそこの願い、届くだろうか。
つづく
投下終わりです
つい最近どっかで見たような引きですね
はい、ワンパですよ俺
投下乙!
そりゃまあおはぎ喰ってたらそういう対応しちゃうよね!
ERDO×ドグマ(?)の図式なんだろうか
相変わらず見えない部分が多いが、しかしそこがいいw
何か一波乱起きそうな予感に期待!
おお来た!
ドクトルの語り口がいいよねぇ
助手くんの能力はどんなだろ?
あ、規制解除おめでとうです
さて、これで月下サイド・ドクトルサイドと話が投下されたわけですが……
やばい、これで別々に進行してたのが途中でクロくぁwせdrftgyふじこlp;
……ふぅ
と、とりあえず、「GJ」とか言っとくけどっ!
つ、続きなんか、期待してやんないんだからねっ!!
ついに動き出した敵対組織。これは燃える!
……ドクトルも助手君もみんな何かを失ってるみたいだね。
なんかしんみりきてしまった。
よーし投下するよー
第三話
「何が食べたい?」
「ええっと……。」
英語の授業が終わって、衛はかれんとスーパーに来ていた。
夕飯の準備をする主婦で賑わうにはまだ早い時間帯。
二人は店内をのんびりと回っていた。
「揚げたてコロッケ入りましたー!」
突然、どこかの一角から威勢のいい若い男の声が聞こえてきた。
その声にかれんの細い肩がピクリと動く。
その様子を見て、衛が話しかける。
「じゃあ、あれにする?」
長い髪に半分隠れた顔が、頬を少し赤く染めて、小さく頷いた。
アパートに帰ってすぐ、かれんが早く食べたいと言ってきた。
一日一緒にいたが、彼女が自分から希望を言うなんて珍しい。
まだまだ日も落ちそうにない時間だがしょうがないか。
スーパーのビニール袋からプラスチックのパックを取り出してテーブルに並べる。
フタを開けるとおいしそうな匂いが漂ってくる。
「ごはんどれくらい食べる?」
「衛さんと同じくらい入れておいてください。」
あれ、そんなに? 衛は一瞬ためらったが、昼の様子を思い出して、別にいいか、と言われるとおりにした。
茶碗にかれんの分、汁椀に自分の分。ご飯を盛ってテーブルに持っていく。
メニューが出揃ったところで二人はパチンと両手を合わせる。
「いただきます。」
声が揃って笑いあう。
かれんはすぐに小さな口を大きく開けてコロッケを頬張る。
「はむ……ほいひいれふ!」
「そんなに慌てて食べなくても。」
そしてまた笑う。
幸せな時間だった。
会話に真昼のような手探りの感覚もすっかり消えて、リラックスしたムードが漂っている。
かれんにとってこんな時間はどれくらいぶりだっただろう。
「ごちそうさま……。」
衛が食べ終えて数分後、かれんも箸を置いた。
「ふわぁ……。」
かれんは大きなあくびを一つ繰り出した。
相変わらず夕暮れはまだなはずなのに、今にも眠りだしそうな様子だ。
食器を流し台に持って行きながら衛が尋ねる。
「慣れない場所で疲れた?」
「いえ、いつもこれくらいの時間なんです。多分、変身に体力を持っていかれて……。」
話の途中で、かれんはとうとう横になってしまった。
「大丈夫? 僕は適当にスペース見つけて寝るから、布団使っていいよ。」
「ありがとう……ございます。起きるのは……真夜中……です……。」
布団まではいずって、そのままかれんは眠りについた。
洗い物を済ませた後、衛はかれんの様子を伺う。
まず目に入るのは無造作に広がった長い黒髪。
そして触れたら壊れそうなくらいの白く細い体。
規則的に静かな寝息を立てるふっくらとした唇。
「……はっ!」
ついぼーっと眺めてしまっていた。
これは危ないな。朝の幸広の言葉も、今は自信を持って否定できる気がしない。
「さて、僕も今のうちに寝ておかないと。」
かれんが起き出したら夜が明けるまで見ていないといけないからだ。
バスタオルを持ってきて、2枚重ねて床に敷く。
ひとまず今日のところはこれで十分だろう。
そのまま、衛はタオルに横たわった。
玄関の呼び出し音で衛は目を覚ました。
時計をちらっと見ると午後七時。
隣のかれんは既にその姿を変えていたが、まだまだ起きそうにはない。
「はい、どちら様でしょうか。」
目をこすりながらドア越しに尋ねる。
「宅配便です。」
頼んだ覚えは無いが、ドアスコープから覗くと確かに荷物を持ったそれらしき人物が見える。
「少々お待ちください。」
カバンから印鑑を持ってきて、ドアを開ける。
そして衛は……思い切り蹴飛ばされた。
「いやあ、市役所っちゅうのは調べもんにうってつけやな。」
運送業者の帽子を脱いだその男は、鋭い目付きをしたツンツンヘアで細身の若者だった。
夜の能力『無敵』を持つ衛には全く痛みは無い。床に手をついて素早く立ち上がる。
しかし男はそれを横目に、ずかずかと部屋の中にいるかれんのところまでやってきた。
「まさかこんなトコでお目にかかれるとは思わんかったで、鬼塚かれん!」
かれんの名前を知っている?
衛は驚いて男の背中越しに叫ぶ。
「何者だっ!」
男は顔だけ衛の方に振り向いて答える。
「よくぞ聞いてくれた。俺の名は西堂氷牙。」
そして、にやりと黒い笑みを浮かべてこう付け加えた。
「いずれ世界を統べる男や。」
西堂は話を続ける。
「“犬”の噂、聞いたこと無いか?」
「何の話だ?」
「どっかの組織がな、大型犬に特殊な機械を埋め込んで、凶暴化させると同時に操ってるって話や。」
「それがどうし……まさか!」
「人間には効かんけどな、“理性を失った獣”になら大概有効らしい。」
「……。」
「俺はひょんなことからその機械を手に入れた。」
「かれんに手出しはさせない!」
と、叫んではみたものの、衛にはこの状況を打開する手立てが思いつかない。
差し当たっては会話を長引かせるくらいだろうか。
「大体、昼は効かないんだろ。昼の間に取り外せばいいじゃないか。」
「無理に外そうとすると爆発するように改造した。」
「甘いよ。かれんの……。」
衛はそこで口をつぐんだ。
うっかり昼の能力を敵に教えるところだった、危ない危ない。
ところが西堂は冷ややかな目を衛に向けて言う。
「知っとるわ。なんせ昔から狙っとったんやからな。」
「な、なにを?」
「こいつの昼の能力やろ。自分の命を守らせる。
それはつまり、機械を外そうとする奴を勝手に排除してくれるってことや。」
「くっ……!」
最悪の展開だ。なんとしてでも西堂を止めないと。それにしても。
(……寒い?)
次の瞬間、衛の周囲が凍りついた。
「何だ!?」
「昼は遠くの音でも聞こえるってだけのしょーもない能力やけど、夜はハンパないで。」
もちろん衛自身にダメージは無い。だが、首から下を全部氷に阻まれて全く身動きが取れない。
偶然なのかどうなのかは知らないが、これは衛に対して最も有効な攻撃かもしれない。
「なんせ空気まで凍らすからな、この『フリーズ』の能力は。」
「かれんをどうするつもりだ!」
「決まっとるやろ。連れて帰って例の機械を取り付ける。」
……あ、ここで手術とかやるんじゃないのね。ということは。
「どうやって?」
「は?」
「どうやって、その大きなかれんを連れて帰るんだ?」
「……あ。」
「……。」
「ふっ、今日はこのくらいにしといたる。首を洗って待っとけよ!」
西堂は顔を真っ赤にして逃げるように去っていった。
西堂がいなくなったので、衛の周りの空気はすぐに気体へと戻った。
しかし……。
衛は思った。彼はまた来るだろう。早ければ明日にでも。
今度は手をこまねいて待っている訳にはいかない。
同じ頃、幸広は何の気無しに街を歩いていた。
ショーウィンドウを見て、「あー、あのジャケットいいな。」などと思いながら、しかし思うだけで前を素通りする。
突然、背後の下の方で小さな音がした。
見てみると足元に財布が落ちている。
「すみません、落としましたよ。」
それを拾って、持ち主と思われる女子高生らしき少女に声をかける。
少女は笑って財布を受け取った。
そんなタイミングで、携帯電話の着信音。どうやら衛からのようだ。
「おう……どうしたって? ……氷に対抗できるような能力者? 例えば火、とか?
……!」
瞬間、幸広の目の前を炎がよぎる。
その出所を目でたどると、さっきの少女が、いかにも「面白そうなもの見つけた」というような顔をして立っていた。
つづく
キャラ紹介
・西堂 氷牙(さいどう ひょうが)
鋭い目付きをしたツンツンヘアで細身の若者。
夢は世界征服。そのためにかれんを狙う。
ちょっとマヌケ。
《昼の能力》
名称 … 地獄耳
【無意識性】【結界型】
遠くの音を聞くことができる。
《夜の能力》
名称 … フリーズ
【意識性】【操作型】
物質の温度を下げて凍らせる。
投下終わり
これは…!
毛糸パンツのあの子なのか!?
続きに期待せざるを得ない
地元なせいか、関西弁キャラには無条件で愛着を感じるわw
避難所に投下すべきか迷ったあげく、やっぱり本スレを賑やか
したほうがいいだろうということで、『片桐真悟〜』をこちらに
投下します
短編寄せ集め形式ということで、前回の引きとかは一旦忘れて読んで
貰えたらと思いますw
『第6研究室の住人』
季節は春と夏の境目あたり、太陽光が緩やかにその輝きを強めはじめた今日この頃。
窓の外でチュンチュンと仲良さげに戯れる2羽の雀をぼんやり眺めながら、僕は淹れたてアッツアツの
ホットコーヒーをちびちび飲んでいた。
うあー、にっが。ブラックコーヒーの美味しさっていうのを理解するには、僕はまだまだ人生経験が足
りてないみたいだ。コーヒーが似合う渋い男への道のりはどうやら程遠いな。でもこの苦みと熱さが、今
日一日を生きるための適度なやる気を注入してくれる。
気のせいかもしれないけど、少し頭も冴えて、回転が良くなるような気がするし。
さて、じゃあ気が引き締まって、2羽の雀も仲良くどっかへ飛び去ったということで。
ERDOには現在僕が知っている限り、大きく分けて3つの部門がある。
一つはもちろん僕やドクトルJが所属する研究部門。説明するまでもなく、能力そのものや特定の能力
者の研究を行うための部門だ。
「助手くん」
二つ目は諜報部門。前にも言ったことがあるかもしれないけど、能力を研究している組織や団体っての
は、僕たちERDOだけじゃないわけ。そういう他の能力研究組織の動向や活動状況といった情報を収集して
くるのが、この諜報部門の仕事ってわけだ。
「ねえ、助手くん」
最後に特務部門。これについては正直よくわからない。ほとんど推測になってしまうけど、他の能力研
究組織には、反則レベルの能力を持つ戦闘に特化した能力者がいたりするらしい。そんなのに襲撃でもさ
れようもんなら、僕やドクトルJなんて象に踏まれるアリのように無力だろう。
「助手くんってば」
特務部門は、そういう連中とも互角に渡り合えるような、いわゆる戦闘に特化した集団だっていう認識
を、現状僕は持っている。
まあ要するに、あまりお近づきにはなりたくない、関わりたくない部門ってわけだ。
「エージェント・ジョッシュくん」
「ああもうドクトルJ! なんですかさっきから! 人が考え事してる時に! その恥ずかしい呼び方は
やめてください!」
「お、効果てきめんだね。遥ちゃん様様だな」
ヘラヘラしてるよこの人。せっかくERDOについての話が盛り上がって来たところだったのになあ。まっ
たくもう、空気読めないんだからこのドクトルJめは。今度銀縁眼鏡のレンズ抜きとっといてやろう。
「ジョッシュくん、いきなりで悪いんだけどさ。今からひとっ走り、第6研究室にお邪魔してきてくれない?」
「普通に呼んでください」
「助手くん、いきなりで悪いんだけどさ。今からひとっ走り、第6研究室にお邪魔してきてくれない? って
いうかしてきて。はいこれ持って。じゃ頼んだよ」
さっきとほとんど同じセリフを口走りながら、分厚い茶封筒を僕に押しつけて、有無を言わさずくるり
と背を向ける長身の中年。こういう時の手際は恐ろしくスマートだ。まったく、ドクトルJのくせに。
ま、やれって言われればそりゃやりますよ僕だって。これが僕の仕事なんだから。
第6研究室に出向くのはちょっと久しぶりだし、せっかくだからお土産でも持って行こうか。そう思っ
て研究室を見渡すと、まさにうってつけのアイテムを発見してしまった。
ドクトルJがお昼のおやつ用にと、かなり楽しみに取ってあるらしい苺大福4個入り。素晴らしい。苺大福、
君に決めた。
ドクトルJ、最近甘いもの食べすぎだから、少し自重したほうがいいですよ。そう心の中で呟きながら、
茶封筒と大福を手に、僕は第1研究室を後にした。
尖崎主任のエピソードの時に言ったように、研究部門の主任たちはどうにもおかしい人たちが多い。第6研
究室の主任さんも、まともな人だとは何百歩譲っても言い難い。彼らを見ていると、優秀な人間っていうのは
どこかしら変な部分、理解できない部分を持ってなきゃいけないってことになってるんじゃないかとすら思う。
なんて考えてる間にもう着いちゃったよ第6研究室。考え事してると時間も距離もほんとあっという間だよ。
扉には『在室中よ(はあと)』の掛札。はああ。ため息しか出ねえ。これが『ざんねぇん。外出中よ(キス
マーク)』だったらどれほど幸せだったか。
渋々、心の底から渋々、僕はインターホンに手を伸ばす。残り1センチのところで、一つ思いっきり深
呼吸。よし、行くぞ。鋼となれ、片桐真悟!
ぽちっ。気の抜ける感触を残して、インターホンが鳴る。数秒の間。
『はっ、はいっ! どちら様でしょうか!?』
少し焦っているような動揺しているような、張りのある若い女性の声が応答してくれた。久しぶりに聞
くけど、確かここに来た時はいつも応対してくれる彼女だとすぐにわかった。
「橘川さん。第1研究チームの片桐だけど。届け物があるんだ。今大丈夫かな」
『あ、片桐さんですか? お久しぶりです! ええっとそれがですね、あんまり大丈夫ではな――って、
きゃあ! 主任! ダメです鍵開けちゃ!』
橘川さんの悲鳴とともに、インターホンはブツッと途切れた。それと同時に、扉のロックが解除される
音が確かに聞こえた。
「……朝っぱらから、すでに宴もたけなわってわけか。はああ」
正直帰りたい。この扉を開けたくない。でもここまで来てそれはもう野暮ってもんだ。僕はそこまでヘ
タレじゃない。……そのはずだ、たぶん。
なんて御託はいい。さあ行くぞ片桐真悟。その心を鋼に変えて。その体を鉄となして。
最後にそう精神統一をして、僕は第6研究室の扉を開いた。
「ぷわっ!?」
第6研究室に足を踏み入れた瞬間、僕の顔面目がけて飛来する物体。咄嗟過ぎて避けることもできなかっ
たけど、直撃しても特に痛みはなかった。
それもそのはず、手にとってみると、それは滑らかな生地でできた黒い布だった。さらに広げて見てみ
ると、それはいわゆる「パ」で始まって「ツ」で終わる3文字の、黒いシルクの布だった。しかも妙な温も
りを感じるんだけど、いや、たぶん気のせいだろう。
「しゅにーんっ! それはいけませんっ! 全裸はダメです全裸はっ!」
「な〜に言ってるのよ! 人間以外の生物はひっく、み〜っんな裸で生活してるれしょーが! 人間らっ
てうぃっく、生まれてくる時は裸なのよ! 恥ずかしがるほうがへっぷ、おかしいのよ! 不自然なのよ!
そうなのよ! さ、そういうことらから! 薫ちゃんもてきぱき脱ぎなしゃい!」
「ちょっ、主任っ! やめてください! 裸で迫って来ないで! あっこら、さらにお酒飲まない!」
黒いシルクのセクシーなパンツ(かなりの確率で脱ぎたてほやほや)を右手に握りしめ、僕はこの深夜
番組でやってそうな下劣なコントを茫然と眺めていた。
声をかけていいものかどうか、その判断をつけかねる。パンツ(まだまだ人肌)を握りしめている時点
で僕が変態と思われる危険は大いにあり得るけども、かといってこのまま『すっぽんぽんの酔っ払い女性
に、若い女の子が同じくすっぽんぽんに剥かれる絵図』をただ眺めていても、やはり僕は変態の烙印を押
されてしまうんじゃないだろうか。
どうしたものかと頭をひねっていると、向こうの若い女性――さっきインターホンで応対してくれた
子――橘川薫(きっかわかおる)さんが、先に僕に気づいてくれた。いや、気づいちゃった。
「か、片桐さん!? 今はダメだって言ったじゃないですか!」
橘川さんのその反応を受けて、彼女のブラウスをひん剥こうとしていた酔っ払いの痴女が、くるりと頭を
こちらに向けてきた。その目はとろんと蕩け、顔はほのかに紅潮している。完全に出来上がってる人の顔だ。
碓氷透子(うすいとうこ)29歳。ERDO研究部門第6研究チーム主任。昼間を飛び越えて朝っぱらからアル
コールを浴びるように飲んでは泥酔を繰り返し、お決まりのように衣服をキャストオフするある意味迷惑、
でもちょっぴり嬉しいそんな女性。
「ぎゃああははははあーっ! しんちゃんじゃな〜い! 久しぶりよね〜! 最近全然来てくれないんらもん、
透子さんちょっと寂しかったのよぉ〜!」
バカでかい声かつすっかり怪しい呂律でそう言いながら、碓氷主任は顔だけじゃなく、体全体で僕のほう
に向き直った。はい、首から下は見ない見ない。見ちゃダメ見ちゃダメ。これだけ乱れてる人を前にすると、
逆に自分は冷静でいられたりするもんだ。
「橘川さん、お願いだから碓氷主任に服を着せてよ。もうせめて葉っぱとかでもいいから」
「葉っぱ……すみません、手頃な葉っぱがありませんので……。と、とりあえず主任、白衣を羽織りましょうか」
橘川さんはとっても真面目な女性だ。葉っぱが冗談だと思ってくれないのもそれゆえだ。
「いや〜ん、裸に白衣なんてぇ……破廉恥ねぇしんちゃんってばほんとにもう」
いや、僕が要求したわけじゃないから。酔えば必ず脱ぐあんたのほうがよっぽど破廉恥でしょうが。
「さあさしんちゅわん。そんなとこにぼけっと突っ立ってないでぇ、こっち来て一緒にぱぁーっと飲みましょー!
お酒ならいくらでもあるわよぉーっ!」
碓氷主任のこの言葉は、冷蔵庫に酒の貯蔵がいくらでもある、っていう意味ではたぶんない。
「主任! いい加減にするんです! はいお水! これを飲んで頭を冷やしてください!」
「うっわあもうさすがわたしのかわいいかわいい助手ちゃん! わざわざお酒持ってきてくれるなんてぇ!
ありがとありがとマイスイーテスト薫ちゃんっ!」
「あ、ああっ! しまったぁ! お水がぁ!」
橘川さんの手にあった透明なミネラルウォーターは今、黄金色の輝きの中に無数の気泡を含み、その上に
白い泡の層を持つ、日本のお父さんたちにささやかな至福の時をもたらす液体へと変化を遂げていた。
碓氷主任の昼の能力、『どんな液体でもビールに変える能力』によって。
橘川さんの手から原材料ミネラルウォーターのビールをふんだくると、それを高らかに掲げながら、素肌
に白衣という変態的装いの痴女がノリノリで宣言する。
「さあ〜2人とも飲め飲めぇ〜っ! お酒を飲むのはとっても楽しい! みんなで飲めばっも〜っと楽しい!!
いぇいえ〜い! んぐっんぐっぷはぁーっ! うぅ〜んビールサイコー! う、うぷっ」
酒は人をダメにする。この研究室を訪れた日の僕の研究日誌には、必ずこの一文が書き添えられている。
今日の記録にも例外なく、この戒めを記すことになりそうだ。
『第6研究室の住人』おわり
投下終わりです
最後にキャラ紹介を
・碓氷 透子(うすいとうこ)
ERDO研究部門第6研究チーム主任。
29歳。おとなしくしていれば知的な大人の女性のはずだが、基本常に飲酒している。
それでも酒には強いためなかなか酔わないが、一定ラインを越えると一気に泥酔。
脱ぎ魔かつ脱がせ魔へと変貌する。
《昼の能力》
液体をビールに変化させる能力
【意識性】【操作型】
下水だろうが泥水だろうが便所の水だろうがお構いなく、液体をビールに変えることが
できる。味の再現性もばっちり。この能力を使うとリバウンドで喉が渇くらしく、その
ため余計にビールが進むといういいのか悪いのかわからない循環が生まれる。有害な液
体でも例外なく変化させられるため、使いようによっては有用な能力。
《夜の能力》
不明
メインの話を練りきれないかたわら、こういうしょーもないのはぽろぽろ
浮かんでくるから困る
なんと困ったお姉様ww
片桐君真面目だよな。ツッコミ役は苦労するねえ
>>324 おおおこの娘は!活躍に期待!
しかし衛のロリコンは深刻だなw
>>332 この研究室面白いなあ
キャラがもれなく濃くて魅力的だわ
さてそれでは
>>304-308 『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』の続き投下いきます。
「いやぁ本当に助かったよ! 君たちは命の恩人だ」
ようやく陽太の家までたどり着き、とっくに片付けていたストーブを引っ張り出して出力全開。
少し汗ばむくらいの室温になってようやく青年は復活した。調子に合わせて前髪がみょんみょんと揺れる。
「いえその…元はと言えば僕の不注意が原因なので…」
「いやいや実はその前から凍えて動けなかったんだ。特に人より寒さに弱くって。晶君が気にすることはないさ」
恐縮する晶に対する非難は微塵も見せず、青年は二人に素直に感謝を述べた。
出会いは奇妙な形だったが、話してみれば明るい年上の好青年だった。
細い身体、細長い手足に、大きな丸眼鏡。陽太がどこからか出してきた丹前を着る姿が妙にしっくりくる。
酷く失礼なので考えないようにしていたのだが、上記の特徴に加えてもはや「触角」としか言いようのない前髪に、
背負った際の軽さも相まって、どうしてもどこか「虫」を連想してしまう晶だった。
「ユキヒロさんはどうしてあんなとこにいたんですか?」
「僕はまあ…ちょっと訳があって…」
青年、ユキヒロは、訳があって人を探す旅の途中だという。
しつこく訳を聞き出そうとした陽太は晶のチョップを受けることになった。
数時間前に、あの周辺で大切な携帯電話をなくしてしまったということだ。
「こんな寒い日は普段は暖かいところに避難してるんだけどね。何かあったらと思うと気が気じゃなくて」
確かに、予定のない旅の中で数少ない連絡手段となる携帯は必須だろう。
だがユキヒロのそれは、単純な連絡手段以上に大切なものであるように晶は感じた。
「でも携帯なら誰かが拾ってメモリーに連絡してくれてるかもしれませんよ?」
「もしくは悪い誰かに悪用されてたりしてな」
そして陽太は再びチョップをくらうのだった。
ユキヒロはハハハと笑いながら、そのどっちもないよと言ってのける。
「だってあの携帯は電話もメールもネットもどこにも繋がらない。ずっと圏外なんだよ。登録がないからね」
「…それ携帯してる意味なくね…?」
それには晶も黙って同意する。
「まあ確かにそうなんだけど…中のデータがとても大切なものでさ…」
呟くユキヒロの遠い目が、晶にはとても印象深く感じられた。
せっかくなので夕食を食べていかないかという晶の誘いに最初は遠慮したユキヒロだったが、
食材を買いすぎた、二人だけではつまらない、といった理由で晶がおして結局共にすることになった。
渋々動く陽太とは対称的にてきぱき働くユキヒロの助けがあって、調理はさくさくと進む。
やがて鍋に火をかけしばらく煮込むという段階に来て、晶があっと声を上げた。
「しまった…チョコ買うの忘れてた…」
「はあ? チョコ何に使うってんだよ?」
「カレーに入れるんだよ当然。重要なんだよチョコ」
「隠し味に入れるとコクが深まるっていうね」
ユキヒロが晶に同意する。晶は陽太の右手をじっと見つめる。
「陽太………」
「おいコラ晶。変なこと考えてんじゃねえよ」
「…は無理か。夜だもんね」
「昼でもやんねえよ!」
「…へ? 何を?」
陽太が言いたがらない能力――料理やお菓子を発生させる――を知らないユキヒロは、
二人の謎のやりとりに首をかしげるのだった。
ふつふつと煮立つ鍋を見つめて、晶はよしと立ち上がる。
「仕方ない! ひとっ走り買ってくるか! 10分くらいで帰るから陽太は鍋見ててね」
「おー、いってらっしゃい」
上着を着込む晶を陽太はぼんやりと見送る構え。ユキヒロの前髪がピクリと動く。
「あ、晶君、今は……いや…」
少し考えて、立ち上がるユキヒロ。
「僕も行くよ」
「え? いいですよ別に? どうせすぐ近くですし…」
「少し気になることがあるんだ。たぶん気のせいだと思うんだけど…」
「はぁ…」
「また凍えてもしんねえぞ?」
「大丈夫だよ、この丹前暖かいし。心配してくれて嬉しいよ」
「………けっ」
隠せていない照れ隠しにぷいと顔をそむける陽太。
ああこれがツンデレってやつか、としみじみ思う晶だった。
冷たい風にユキヒロが固まりかけることが何度かあったものの、無事にコンビニで板チョコを買った帰り道。
当たってほしくはなかったユキヒロの予感が実現する。
「え…なんで今頃!?」
垣根の角を曲がった先に、それは待ち伏せていた。闇に溶け込む漆黒の身体と、浮かび上がる紅い光。
比留間の言っていた「調査」は、少なくともこの周辺では終わったものと思っていた。
あの夜以来全く見ることは無く、晶の心配事から消えかけていた猛犬キメラ。
それが今、あの夜のように3匹、目の前で低い唸り声を上げていた。
「ごめん、晶君」
犬と晶の間に、陽太と違う長い腕が差し込まれる。
「こいつらの狙いは僕なんだ。無関係な君を巻き込んでしまってすまないと思ってる」
「え…狙いって…」
「そうだな…そこから3歩、下がってて。あまり離れると守れない。君を狙うことはないと思うけど…」
「はっ、はい」
「それと…あんまり驚かないでね」
「え…?」
踏み出しながらバサリと丹前を脱ぐと同時に、ユキヒロの雰囲気が変化する。
全身の柔らかいシルエットが、全体的に硬質なものに。
露出した腕を覆うのは肌ではなく、内側に無数の棘が並ぶ薄緑の装甲。
同じく薄緑の、背中から左右に一対生える、笹のような形をしたボード。
「ユ…ユキヒロさん…!?」
「もう少し下がって。……そう、そこがいい。そこでじっとしてて」
キメラと睨み合ったまま振り向きもせず、背後が見えているかのように的確に、ユキヒロは晶に指示を出した。
よし、と呟くと、半身に構えキメラと相対する。
「さて今日は…1、2、3………」
突如斜め後方の垣根から飛び出すキメラ。晶が声を上げる間もなくその牙がユキヒロの首筋にかかる、
その遥か前に、ユキヒロはその鼻先を裏拳で迎撃していた。
「4匹か」
間を置かず前から飛びかかるキメラをカウンターの膝から前蹴りで蹴り飛ばし、流れる動作で直後のキメラに踵落とし。
遅れたキメラの牙を、いつ手にしたのか短い鎌のようなものでガキンと受け止め、そのままその身体を回転投げ、最初のキメラに叩きつける。
余裕を持ったユキヒロはポツリと呟く。
「あれ?なんか動き鈍い…?」
すぐに体勢を立て直すキメラを回し蹴り、すくいあげるアッパーからのストレート、バックステップから掴んで投げ。
4匹を一カ所に飛ばすや否や高い垂直ジャンプから
「ライダーキック!!」
斜めに落下する飛び蹴りを叩きこむ。
直撃した1匹は大きく弾き飛ばされ、押された3匹はバランスを崩すがダメージ無し。
ユキヒロは首を捻りながら立ち上がった。
「うーん…やっぱりうまくいかないなあ…」
直後立ち上がったキメラは、申し合わせたように同時に夜の闇へと駆けだす。
ユキヒロは背中のボードを左右に広げて屈み、その下に隠れていた透明のボードを解放する。
大きく広がり形が明らかになったそれは、まさしく昆虫の翅だった。
垂直ジャンプと同時に翅を高速で振動させると、ブーンと大きな音と共に風が生まれその身体は空中へと舞い上がる。
すぐに到達した近くの電信柱の頂点に着地すると、キメラが逃げた先をじっと睨みつけた。
しばらくそうした後、もう大丈夫だと晶に伝え、翅を鳴らしながらゆっくりと降下し地面に降り立つユキヒロ。
ふうと息をつくその背中に、晶は恐る恐る声をかける。
「ユ…ユキヒロさん…あなた一体…」
「…そうだな、僕は…」
少し考えて、ふっと小さく笑い、振り向く異形。
薄緑の外骨格に覆われた逆三角形の頭部。長く伸びた触角に、大きな複眼。
「僕は鎌田之博。通りすがりのライダーさ」
人間とは一線を画する異形。昆虫人間の姿がそこにあった。
<続く>
ふはははは! 悪乗りしすぎた! まあいいか!!
しかしここまで書いて酷く面倒臭いことに気付いた。
…晶と口調が被る。
ああもう誰だよ僕っ娘なんてめんどくせー設定考えたのは畜生!俺だ馬鹿野郎!
乙です!
カマキリ! 変身型の能力?
え、コレは何? どこかのキャラのゲスト出演なの?
なんだかすごく面白いのだけど、元ネタ分からないせいで半分しか楽しめてない気がしてしょうがない。
誰か教えて!
いやこのままで十分面白いのだけど
>>339 今はちょっと…後ほどわかります。申し訳ない
>>340 うわっと…
なんか、ゴメン。承知した。
wktkしながら、続きを待つよ!
ありがとう
GJとしか言えない
色んなところからこの世界に来てたりするのね
男体化したり擬人化したり
虫男w
期待せざるを得ない
業務連絡です
吉野小春&秋山幸助のSSを書かれた作者様。
お二人をお借りするかもしれません。
単発短編で、能力に関する描写はほとんど出てこない予定です
(そんなのを投下していいのか自分orz)
よろしくお願い申し上げます
346 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/17(木) 15:53:46 ID:R+6PqwUo
避難所より
>404 名前: 名無しさん@避難中 [sage] 投稿日: 2010/06/16(水) 22:39:11 USz.0dxo0
>>>本スレ345
>作者さんの返答ないみたいだけど、あえてシェアワで話書いて「俺の
>キャラは使わないでくれ!」っていう人はあまりいないと思うし、
>死ぬとかよっぽど酷いことにならない限りは書いちゃっていいと思うんだよね
らしいよ!
そして投下
347 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:55:00 ID:R+6PqwUo
第四話
街は朝を迎える。まばらに立ったビルの間にオレンジの光があふれている。
その光は、この少し古いアパートの一室にも差し込んでいた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
申し訳なさそうに頭を下げるかれん。
「気にしなくていいよ。」
衛は苦笑いで答える。
部屋は散乱していた。テレビの画面まで割れている。
一人で生活するには十分な部屋だが、三メートルの巨体が暴れ回るには狭かったようだ。
安請負しすぎたかなと思う自分とかれんを手放したくない自分とを頭の中で戦わせながら、
衛は散らばった本やら何やらを片付け始める。
かれんは手伝おうと慌てて衛に駆け寄って……衛の胸に飛び込むように倒れた。
「かれん?」
衛はかれんの体を揺さぶってみる。目は開いていた。気絶したわけではないようだ。
「大丈夫……です。」
明らかに大丈夫じゃない、つぶやくような声が返ってきた。
「何かあるんなら、隠さないで言ってほしい。」
衛の真剣な目にかれんは思わずどきりとする。
「恥ずかしいんですけど……。」
ちょっとためらって。
「お腹空きました。」
そう言って、まるで愛の告白でもしたかのようにほほを染めてうつむく。
そのとき、衛の中でいくつかの話がつながった。
あの食欲。人をも食べるという事実。
寝る前にかれんは何と言った? 『変身に体力を奪われる。』
かれんは、他の人より多くの食料を必要としているのだ。
この小さな体は、それがまだ足りていないことを表しているのではないか。
衛は床に落ちていた携帯電話を掴んでコールする。
十回ほどベルの音が鳴った後、幸広の声が聞こえてきた。
「んあ?」
「ごめん、何かすぐに食べられる物、近所でできるだけ買って持ってきて。お金は来たら払うから。」
衛は寝起きの相手に早口でまくし立てる。
「……んっとに人使い荒いな。」
「今はまだユッキーしか頼れないんだよ。」
「しょうがねえなあ。」
「サンキュー。」
電話を切り、急に静かな朝に引き戻される。
いくらか落ち着いた衛はこの二十数時間を振り返る。
大変な一日だった。まず、かれんと出会って、それから……。
「ん?」
そこで衛は、もうひとつ重大なことを思い出した。
348 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:55:45 ID:R+6PqwUo
「よう。」
幸広が大きなビニール袋を提げてやってきた。
衛は中身を確認。
「オーケー、じゃあかれんの様子見ておいてくれ。」
「は?」
あっけにとられる幸広を横目に靴を取り出す衛。
「どこ行くんだよ。」
「大学。」
「朝一の授業取ってないんだろ?」
「後で話す。」
そして衛はせわしなく外に出て行ってしまった。
S大学、とある研究棟の一室。
窓の外を眺めながら、ナオミはミルクたっぷりのコーヒーを満喫していた。
そこにノックの音が聞こえてくる。
「あら、東堂君。」
ドアの前に立っていたのは、自転車を飛ばしてきて若干息の荒い衛だった。
「先生、どういうことですか!」
「何の話?」
ナオミは衛に椅子を用意するが、衛は首を横に振った。
「あの男が来るって知ってたんですか?」
「待って、全然話が飲み込めないわ。」
「へ?」
衛のアテは外れたようだ。
一気に疲れがやってきた。ばつが悪いが、結局椅子に座る。
「授業の最後のあれは何だったんですか?」
「ああ、あれね。佐々木先生に伝えておけって頼まれたの。」
「佐々木先生?」
衛はそこで不思議に思った。
いや、確かにその人物の名は教員名簿を見て知っている。
佐々木笹也。ひらがなで書くと「ささきささや」。
なかなかインパクトがある名前だ。
だが、それはそれとして、彼が衛に伝言などあるはずがない。
なぜなら……。
「僕が佐々木先生の授業を受けるのは今日が初めてですよ。」
「あら、そうなの?」
ナオミは意外そうな顔をした。
「怪しいわね。昨日何があったか教えてもらえないかしら。」
「鬼塚かれんに西堂氷牙、ね。」
衛は無言でうなずく。
最初、衛はかれんの存在を隠すつもりでいた。
ところが、西堂の話をしているうちに、何か隠しているとにらまれ、しょうがなく白状したのだ。
さすがに赤の他人だということは言いにくいので、「身寄りの無い遠縁の親戚をいきなり預かることになった」という設定にしておいた。
「……分かったわ。昼の間、彼女は私が預かる。勉強も教えておくわ。」
「えっ、でも……。」
「話によると、彼女の能力は彼女の“生命”しか守ってくれないんじゃない?」
そう、彼女を一人にしておいては、どこかに連れ去られる可能性もある。
誘拐という危険に対しては、彼女の能力はまったく無反応なのだ。
「でも、佐々木先生が絡んでるかもしれないんですよね。構内は危ないんじゃないですか?」
「大丈夫よ。仮に佐々木先生が西堂氷牙とつるんでいたとしても、社会的地位のあるここじゃあ迂闊に行動できないわ。
むしろ外のほうが危険よ。」
ナオミは床に届かない両足をぶらぶらさせ、その勢いで飛び降りて、びしっと構えて次のように言い放った。
「とにかく、今すぐに彼女をつれてくること!」
349 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:56:26 ID:R+6PqwUo
そんなわけで衛は再びアパートに戻り、幸広とかれんとの三人で徒歩で大学に向かった。
かれんをナオミの個人研究室まで送ると、二時限目の始まるちょうどいい頃合いだった。
「あ、そういえば昨日のさ。」
「ヤッチー?」
「そうそう、八地さん。」
もうニックネームで呼んでいるのか、と衛は内心舌を巻く。
昨日幸広が財布を拾った相手、そして西堂の撃退に協力してくれるらしい火の能力者でもある八地月野の話題だ。
「早速で悪いけど、今日からお願いできるかな。」
「おう、言っとくよ。」
「僕はかれんを見てるから、二人は入り口で待ち伏せてて。」
「何の話?」
「うわっ!」
いきなり二人の間を割って輪が声をかけてきた。
伊達メガネの、無いはずのレンズが、なぜかきらきら輝いているように見えてしまう。
「悪い輩が襲ってくるって話だよ。輪は危ないから首つっこまないでね。」
「えー。」
「おい、衛。輪に食料探しやらせりゃあいいんじゃないか?」
「あ、それいいね。能力も調査向きだし。」
「なになに?」
事情を知らない輪に、二人は、かれんには大量の食料が必要なことを説明した。
「そっか。よーし、がんばるぞ!」
意味も無くやけに気合の入る輪であった。
二時限目を知らせるチャイムが鳴った。
教壇に立つのはいかにも少女漫画に出てきそうな爽やかなイケメンメガネ。
歳は二十代後半。彼こそが例の佐々木笹也である。
「この講義では能力と物理学の関係について扱う。」
見た目からの想像とは違う、力強い声が教室に響く。
「専門的な内容は扱わないが数式は多く出てくる。毎回講義が終わったら可及的速やかに復習するように。」
クールと見せかけて実はホット。このギャップが女子学生に人気らしい。
「あー、もう、歴史とか物理とか範囲広すぎだろ。」
唐突に幸広が小声でぼやく。
「しょうがないよ、文理選択を大学まで引きずった僕らのせいなんだから。」
と衛がたしなめる。
この超能力学部では、一年生の間は幅広い分野の教養を身につけ、二年生、三年生、と徐々に専攻を絞っていくようなカリキュラムになっているのだ。
「それにしても……。」
衛は幸広たちにも聞こえないようにつぶやいた。
それにしても、自分はいったい、どういう将来を選ぶんだろう。
中学の頃は学年が上がれば自然とビジョンが見えてくるものだと思っていたが、大学生になってもいまだに未来は遥か遠くの霧の中だった。
「成績評価の話は以上だ。というわけで、今から早速講義に入る。」
佐々木の声で衛の思考は将来のことから現在に引き戻された。
講義はあっという間に過ぎていった。
350 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:57:06 ID:R+6PqwUo
時は流れて日没後、場所は衛のアパートの前。
「おっ! あれじゃない?」
「また正面から堂々と乗り込んでくるとはいい根性してるじゃねえか。」
幸広と月野が、衛から伝え聞いた特徴に一致する人物を発見した場面だ。
「さて、とりあえず衛を呼び出すか。」
幸広は携帯電話を取り出す。
しかし、待ってられないと、月野は道路に飛び出した。
「先手必勝っ!」
そして西堂に炎を浴びせ掛ける。
西堂は足を止めなかった。
左手で上着を脱ぎ、体の前で斜めに上着を持った手を振り下ろす。
勢いで広がった上着は凍結し、炎を防ぐ。
そのまま能力を解除し、何事も無かったかのように上着を着なおす。
見事な流れに思わず「おー」と言いながら拍手で迎える月野。
十メートルほど月野と距離を置いて、西堂が立ち止まった。
「姉ちゃん、俺の相手するなんて百年早いで?」
余裕の表れか、ズボンのポケットに両手を突っ込んでスマイルを決める西堂。
対する月野も笑顔でポーズを決める。
「まだまだっ。これからなんだから!」
つづく
351 :
◆KazZxBP5Rc :2010/06/17(木) 15:58:06 ID:R+6PqwUo
以上です
ヤッチーの大活躍を期待してた方はごめんなさい、次回に持越しです
ヤッチー容赦ねえw
西堂もなかなか強者な感じでいいね。期待してる
353 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 01:11:33 ID:qt8cXVno
407 名前: 名無しさん@避難中 [sage] 投稿日: 2010/06/19(土) 01:04:53 V7C01kek0
はあ、本スレに書きこめることのほうが奇跡…
そう考えればこのもやもやも少しは晴れる
というわけで、本スレ312-313の続きをこちらに投下します
できればどなたか代行お願いします
というわけで避難所より代行です
354 :
臆病者は、静かに願う:2010/06/19(土) 01:12:25 ID:qt8cXVno
ERDOに暗雲が立ち込めているのかもしれない中で迎える、なんとなく晴れ晴れしない気がする週末。
もやもやとくすぶる漠とした恐怖心。「次は自分か」と恐れる反面、「まさか自分が」と楽観する気
持ちの間で生まれる葛藤。
きっとERDO職員たちはみんな同じ気持ちでいるだろう。そして大半の職員は前者の恐れが勝り、当分
の間は不要な外出を控えたりするのだと思う。
そんな中私はどうなのだと言えば。
「いらっしゃいませ〜。何名様ですか〜?」
「一人です」
「お煙草吸われますか〜?」
「いえ、吸いません」
「かしこまりました〜。ではこちらの席へどうぞ〜」
休日の繁華街をのらりくらりと散歩していた。のらりくらり過ぎて時間も忘れていたら、腹の虫がぐ
うと鳴き出したので、少し遅めの昼飯を取ることにした。にこにこと笑顔がかわいらしいウェイトレス
さんが案内してくれた、見晴らしのいい窓際の席に腰掛ける。
「ご注文はお決まりでしょうか〜」
「タラバ蟹の蟹クリームコロッケス……長っ。これ、これください」
息が詰まったので、メニューをちょいちょいと指さすことにした。肺活量が弱っているのだろうか。
「はい〜。タラバ蟹の蟹クリームコロッケスパゲティ:かぼちゃのスープとシーザーサラダセットです
ね〜。お飲み物は何になさいますか〜?」
「ホット……いえ、アイスコーヒーで」
「アイスコーヒーですね〜。かしこまりました〜。それではお料理をお持ちするまで少々お待ちください」
「うん、ありがとう」
のんびりとした雰囲気が癒し系なウェイトレスさんが、ぺこりと一礼をくれて去っていく。彼女が持っ
てきてくれたお冷を飲みつつ、ふうと一息。
このレストランに来るのは初めてではない。少し前に一度、それはそれは扱いづらい少年少女とともに、
一度訪れたことがあったりする。
あの時は酷かった。昼飯だけで五千円がパタパタと飛んでいったのだ。減給続きの私としては死活問
題だ、冗談抜きで。
355 :
臆病者は、静かに願う:2010/06/19(土) 01:13:05 ID:qt8cXVno
どうしてあえて、そんな冷や汗ものの経験をしたこのレストランに来たのだろうか。わざわざデパー
トに入り、すし詰めのエレベーターに乗ってまで。
私は自分の行動に自分で説明をつけられないことが多い。気がつけばこんなことをしていた、という
ことが度々ある。
矛盾の多い性格なのだと思う。私が今日まで生きているのはその性格のおかげでもあり、その性格の
せいでもある。
「お客様、お待たせいたしました〜。タラバ蟹の蟹クリームコロッケスパゲティ:かぼちゃのスープと
シーザーサラダセットでございます〜。それではごゆっくりどうぞ〜」
「うん、ありがとう」
食欲をそそるにおいを引きつれて、タラバ蟹の蟹クリームコロッケスパゲティ:かぼちゃのスープと
シーザーサラダセット(言えた!)が運ばれてくる。ちなみに二千四百円。私の中では十分高価だが、
このレストランでは標準的な値段のようだ。
さて、本来ならここでこのレストランの回し者的宣伝効果も兼ねて、私がタラバ蟹の蟹クリームコロッ
ケスパゲティをいかにも美味そうに平らげる様子をレポートしていく流れなのだと思うのだが。
いかんせん私は食べ物の美味しさの表現についてボキャブラリーが貧困なのだ。正直なところ、美味
いものは「ちょ、これマジ美味い!」と叫ぶしか能がない。というかそれで十分じゃないだろうか。
ん? 何だって? そんなこと言わずに頑張ってみろ? ドクトルJはやればできる子? え、えー
そうかな。うーむ……。よし! 神宮寺秀祐36歳、人生初のグルメリポートに挑戦だ!
ではまずタラバ蟹の蟹クリームコロッケからいただきます。えー、まずこのきつね色にこんがりと揚
げられたサックサクの衣。口に入れれば歯茎やら舌やらいろいろなところが容赦なく傷つけられそうに
思える先鋭なサックサクさ! 「気安く食べないで」とでも言いたげなこのツンツンっぷり!
ナイフで切ってみれば、中には崩れそうで崩れない絶妙なトロトロ感がたまらない蟹クリームが。
不用意に口に入れれば大火傷、前歯の裏がズルズルになるのは免れそうもない保温性! 「我慢っても
のを覚えなさい」とでも言いたげなこのアツアツっぷり!
こういう危険と紙一重な感じが人々を魅了してやまないこの蟹クリームコロッケ。それでは十分に冷
ましたところで、まずは一口…………む! これは……これは!
これはまさに味の……! 味のチェンジリン
356 :
臆病者は、静かに願う:2010/06/19(土) 01:13:47 ID:qt8cXVno
蟹クリームコロッケスパゲティを美味しく頂いて、アイスコーヒーで食後の一服。やっぱり少し火傷
してしまった口の中に、よく冷えたコーヒーは適度に心地がいい。
窓の外に目をやる。そうして初めて気付いたが、この繁華街の街並みが一望できる、なかなかいい席
を貰えていたようだ。
月日が経つのは実に早い。そして人間という生き物は、私が考えていた以上に環境への適応力の高い
生き物なのだということを、改めて思い知らされる。
そしていかに――『忘れる』生き物なのかということも。
街を行き交う人々の群れをアイスコーヒー片手に眺めながら、考えるのはそんなこと。
生きるために、環境に適応することは必須だ。そしてまた、『忘れる』ことを忘れてしまっては、人
は心落ち着けて生きてはいけない。しかしそれは――
「……うん? 何だろうな、あれは」
視界の隅っこにチラついた奇妙な影が、私の思考を遮った。
向かいのビルの屋上、その縁。得体の知れない何かが、そこにいる。
コウモリ? かと思ったが、その意見はすぐに却下した。スケール感がおかしすぎるのだ。向かいの
ビルとの距離から考えて、それは小さく見ても人間とさほど変わらない大きさだと推測できる。日本本
土にそんなでかいコウモリがいるものだろうか。
いつからそうしていたのか、謎の物体はただ座禅でも組んでいるように、身じろぎひとつせずそこに
鎮座し続けている。
それが結局何なのか、どれだけ凝視してみても私にはわからなかった。ただ一つだけ確信を持って言
えることは。
あれは間違いなく、ロクな存在ではないということだけだ。
まだ半分ほど残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干し、足早にレジへと向かう。店を出て何をす
るつもりかなんて考えてはいない。何ができるのかもわからない。
ただ、今の私はそうしなければならないのだと、そう思っただけだ。
「ありがとうございました〜。またお待ちしております」
「ごちそう様」
最後までほんわかと笑顔のウェイトレスさんに見送られて、私はレストランを後にした。
つづく
357 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 01:14:28 ID:qt8cXVno
以上代行でした
358 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 01:36:55 ID:qt8cXVno
そして感想
グルメレポートwww
タラバ蟹の(ryとか微妙に抜けてるリポートとか相変わらずセンスが素晴らしい
なんだか怪しい奴が近づいてきそうな様子だけど頑張れドクトルJ!
来ましたねぇ!
やはりセリフ運びが秀逸です
ドクトルのとぼけた話しっぷり、好きだなぁ
そして現れた謎の存在…不安
つ、続けてくれても…、い、いいけどっ!
勘違いしないでよね! べ、別に続きが読みたいわけじゃないんだから!
代行さん乙です!
規制にはタヒを。
360 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/19(土) 21:07:25 ID:qt8cXVno
もうひとつ避難所に投下アリ!
361 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:56:31 ID:3SRIJbMu
避難所から代理なんだよ!
362 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:57:13 ID:3SRIJbMu
短いけどできたー! 小ネタみたいな感じですが早速投下。
それと、岬月下くんをお借りしました。なんだかやられ損な気もしますがすみません
◆
【プリンセス・オブ・フェアリーテイル〜そのいち】
「へぇ……、君が噂の【月下】かぁ」
「俺の名前を知ってるのか……」
「そりゃあ勿論、有名だからね」
「……ふ、参ったもんだな」
「でもおかげで私は君に出会えたわけだし。……さあ、やり合おうじゃない?」
「おちつけ!」
「きゃんっ」
とある月夜のことだった。
例によって女となった俺――桂木忍――を連れ歩く、アホ毛が眩しい少女鈴本青空は、月明かりの下一人歩く中学生に目をつけるや否や彼の元へと駆け出し冒頭の台詞をのたまったのである。
ソラの訳のわからないテンションについていく中学生も中学生だが、それより問題はこっちの方だ。
「おいソラ、いきなり中学生に喧嘩売ったりして……、もう少し考えてくれよ」
「……えー、でもー……、有名なんだよこの子」
「有名だからと言って喧嘩売って良い理由にはなりません」
全く、とため息吐きながら腰に手を当て説教する。
何というか、女の体を得ているが故に妙に様になっているのだろうなあ、と考えるだけで少し虚しくなってしまう。
俺の言葉にぶー、と頬を膨らませたソラはそのままの顔で中学生に振り返り……、
「って、連れは言ってるんだけど……、君はやっぱり戦いたいよね? 私みたいに、疼くよね、闘争本能がさ」
「…………だ」
「ん? なに、やっぱり戦いたい!? そうじゃなくちゃ!」
「落ち着け! ソラ!」
「……なんて可憐なんだ」
「「……は」」
熱に浮かされたような中学生の顔、そしてその童顔には似つかわしくない台詞に、俺とソラの感想は見事に一致した。
えーと、一体どういう状況?
「ぐ、まずい……、もう一人の俺が……ぐぉ……! ダメだ、こんな可憐な人を傷つけるわけには、だが……!」
「……えーと……?」
ソラが「どうしたのかなこの子、病気?」とアイコンタクトで伝えてくる。
むしろ俺が聞きたい。
「あの、大丈夫?」
とりあえず急に右手を押さえて悶えだしたその中学生を介抱すべく、俺は彼の元へと近づいた。
右腕を抱え込むようにして屈んでいる彼の背中を優しく撫でつつ、痛いところはないかどうかを尋ねようとして……、
「……しのちゃんどいて! そいつ殺せない!」
「いや殺すなよ」
「違うんだって! しのちゃんの【能力】忘れたの!?」
「……あ」
363 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:57:54 ID:3SRIJbMu
失念していた。中学生の様子があまりにもおかしいものだから頭の中からすっかり抜け落ちていたが――。
俺の夜間能力は【プリンセス・オブ・フェアリーテイル】(ソラ命名)
夜間には女性としての体を得、同時に悪漢共に襲われ攫われるという宿命を義務づけられた難儀な能力だ。
相方のソラによって幾度となくピンチを救われ――というか彼女がいなければ多分色々酷い目にあっている――ている俺だったが、最近は割りと悪漢もご無沙汰だったためにこのようなヘマをしてしまったらしい。
見れば、俺を見る中学生の目は血走っていて色々とまずい。
「この世の理に叛いてでも、貴女にこの魚肉ソーセージ(特大)を咥えさせてみせる! ゴッド・リベリオン!」
「な――んむぅっ!?」
突如として現われた魚肉ソーセージ(特大)。
少年は剥き身にされたそれを俺の口へと無理矢理突っ込んだ。
「ふはは、ふははははは! 喰らえ喰らえ!」
「ん、むぅっ……! もゅううっ!」
少年の手によって、幾度となく俺の口から出し入れされる魚肉ソーセージ(特大)。
魚肉ソーセージ(特大)は俺の口内を蹂躙すべく、縦横無尽に暴れ回る。勢いよく突き出されるそれが喉を犯し、その感覚に思わず吐き気を覚えた。
だが、少年の奇行は止まらない。
俺が俺である限り、少年はただその本能に赴くまま俺を――。
「てぇい!」
「げふぁっ」
「しのちゃん大丈夫!?」
「……ごほっ、が、……ぁ、ソラ……」
ソラの一撃で、中学生は吹っ飛んだ。どうやら、解放されたらしい……。
まだ口に咥えられていた魚肉ソーセージ(特大)を投げ捨て、俺は涙目のままソラを見上げた。
「しのちゃん……、ごめんね、私がいながら」
「い、いや……良いんだ、注意を怠った、俺が悪い……」
「ううん、それでもしのちゃんが辱めを受けたことに変わりはないでしょ……?」
「いや、魚肉ソーセージ(特大)を口の中出し入れされただけだから……」
「それを辱めって言うの」
言わないと思う。
「さて、順番が逆の気もするけど、【月下】クンが起き出したら思う存分殴ってあげなきゃね」
ぼきぼきぼきりと両手の関節を鳴らすソラ。身長150cm代のくせに、相当な威圧感を放つせいかかなり恐ろしげだ。
吹き飛ばされた衝撃で目を回しているあの中学生がまた目を覚まし、このソラを見たら二度目のブラックアウトに陥る事は必至と言えるだろう。
彼はただ俺の能力でこうなってしまったのに過ぎないのに、なんだか悪いことをしてしまった。
だから俺は、ゆっくりと立ち上がってソラの肩に手をかけた。
「しのちゃん?」
「良いんだ……、俺の能力で、彼はこうなってしまっただけだから。……彼には悪いけど、今日は戻ろう」
「……しのちゃんがそう言うなら」
「せめて彼の名前がわかれば、昼にでもお詫びが出来るんだけど」
「あ、名前なら知ってるよ。岬陽太って言うの」
何故知っているのか。ついでに通り名らしい【月下】との共通点が皆無な気がする。
「……岬陽太くん、ね。明日は休日だし、彼を捜すの手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ。眠くて使い物にならないかもだけど」
こうしてまた、桂木忍の夜は更けていく。
364 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:58:34 ID:3SRIJbMu
すいません短くて!
あと陽太くんマジごめん……。殴られ損だよね、ほんとごめん
ちょっとあまりに懐かしすぎてキャラ忘れてる気もしますが
桂木忍と鈴本青空の【姫様+アホ毛】コンビです。我ながら懐かしい
忍の能力を生かして、各作者様のキャラと絡ませていければいいなあと思ったけどそれだと各キャラクタが殴られるだけになると言う罠
次回は昼間の陽太くんに会いに行く話を書かせて頂くつもりです。+晶さんも。
それでは失礼しました。wikiで各作品の予習してきます
365 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 20:59:51 ID:3SRIJbMu
なんか堪えきれずに書いちゃいました。
忍の昼間の能力お披露目と言うことで。わりとありがちなんですけどね。
みなさんありがとうございます。またよろしくです。
【プリンセス・オブ・フェアリーテイル〜そのに】
ギラギラと青空の上輝く太陽は、俺とソラの肌を焦がそうとするかのように、容赦なくその日差しを注いでいた。
今日――。
魚肉ソーセージ(特大)事件――岬陽太(月下)なる男子中学生が俺の能力【お姫様《プリンセスオブフェア(ry》】によって錯乱、女体化していた俺の口に魚肉ソーセージ(特大)を咥えさせてはそれを出し入れさせるという奇行に走り、
それを見かねたソラによってぶん殴られ気絶させられてしまった事件だ――から一夜明けた昼のこと。
俺こと桂木忍と、その相棒鈴本青空は、うだるような暑さの中、かの岬月下少年を捜し街中を歩いていた。
ソラの言葉によればその少年は何でもかなりの有名人らしく、自身の思い描いた武器を具現化することが出来るのだとか。
彼の一番得意とする武器は魔剣レイディッシュなる剣で、それはもはや彼自身のステータスであるという。
聞けば聞くだけ興味が湧くが、何故彼が昨晩望んで具現化した物が魚肉ソーセージ(特大)であったのか。それだけが不思議でたまらない。
「……あづいよー、死んじゃうよー」
「死なないから安心しろソラ」
「無理、もう無理。ダメだよしのちゃん……。ごめんね、私を置いて先に行って……」
「そんな死亡フラグ全開の台詞街中で言われてもな」
やれやれ、と呆れたように嘆息して振り返り、俺は朧気な足取りで俺の背中を追ってくるソラに目をやった。
彼女の昼の能力【超睡眠】が半分発動しているのか、瞼は垂れ下がり、前を見ているのかどうかすら怪しい風体だ。
トレードマークでもあるアホ毛は力なく萎びており、夜半の溌剌とした彼女の印象とは全く真逆のそれを抱かせる。
とは言っても、その理由の半分には俺の夜間能力があるわけで。俺に彼女を責める権利などないのだ。
俺の夜間能力は【お姫様《プリンセス・オブ・フェアリーテイル》】。
男性としての証を持ちつつも女体化、髪の長さに加えBWHの大きさを自在に変えることが出来るようになる下らない能力である。調整が面倒なので常にデフォルト状態だが。
だが俺の能力はそれだけでは終わらなかった。その能力だけなら、単純に【女体化】とでもいう能力で事足りるからだ。
(現にそういう能力を持つ者もいる)
俺の能力の本質は【お姫様】という部分にある。
つまりは、お伽噺のお姫様宜しく、悪者に襲われては攫われる宿命にある、ということだ。
毎夜毎夜、俺の能力によって錯乱し、俺に襲いかかってくる人間や犬、猫たち。今まで襲われた回数は、もはや三桁をゆうに超えている。
だが、こうして俺は今も元気に生きている。その理由が、現在進行形で俺の背中に寄りかかり、うとうとしている少女、鈴本青空である。
彼女の夜間能力【活性化】は、全身の細胞が活性化し、身体能力と回復能力が飛躍的に向上するチートスキルだ。
もとより我流格闘技を嗜むソラ。彼女に、絶対的な身体能力と超スピードの回復力を加えたその姿はまさに鬼神。
並み居るチンピラ共をなぎ倒し、彼女はカラーギャングの長として君臨している――というのはまあ別の話か。
ともかく、彼女がその戦闘能力を持って、俺を攫わんと襲いかかる悪漢共を追っ払ってくれているわけだ。
しかしその夜中の能力と相反するよう、彼女が昼間に得た能力は【超睡眠】。
いつでもどこでもすぐさま眠りに落ちることの出来る能力で、現在絶賛発動中というわけである。
「……ソラ?」
「ぐぅ」
「寝てるのか……。やれやれ」
立ったままでも、やろうと思えば逆立ちしたままでも眠りにつけるソラの能力はわりと厄介だ。
けれど、夜中は守られてばかりなのだから、昼間は俺がソラをサポートしなければならないだろう。
俺は腰に回されたソラの華奢な腕を取り、そのまま屈み込んで小柄な彼女を背中におぶう形にした。
こうすれば、ゆっくりと気持ち良く寝られるだろう。
幸せそうな寝顔を見せるソラ。彼女の横顔に、俺の心の奥底から湧き上がってくる暖かな感情は何なのだろう。
「やっぱり、俺は重ねてるのかなあ……。なあ、志穂」
空を仰いで、俺は呟く。
もはや二度と会うことは叶わない、俺の大事な妹――。
ソラとは、性格だって、外見だって、全く似ていないけれど。
それでも、俺はソラの姿に、どこか最愛の妹の面影を重ねて見てしまうのだ。
366 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:00:33 ID:3SRIJbMu
探し人は、昼下がりを越え、もうすぐ夕方に近づこうとする頃に見つかった。
街を少し外れたところにある小さな神社、その境内で涼んでいるのを見つけたのだ。
あの顔は間違いなく、昨晩俺の口に魚肉ソーセージ(特大)を出し入れした岬月下くん本人に違いない。
側にいる、彼よりも背の高い中学生は……、彼女だろうか?
なんだか自分よりも青春しているなあ、としみじみ思いながら、俺は彼ら二人の元へと近づいていった。
「くそ……俺ともあろう者がただの一撃で……」
「凄い伸されっぷりだったよね」
「ほっとけ!」
彼らに近づくにつれて、会話の内容が耳に飛び込んでくる。
どうやら岬くんは、昨晩のvsソラの話をしているようだ。
あの後彼を放っていってしまったので、謝罪しなければと思っていたのだが、この分だと無事ではあったようだ。
僥倖僥倖。
「大体な……レイディッシュさえ出せれば勝ったも同然だったんだよ」
「だからそれ大根……」
「ちがああああああう! 魔剣レイディッシュ! リピートアフターミー!」
「首領パッチソーd」
「それを言うなあああぁぁぁっ!!!!」
なんだかもの凄くハイテンションな二人だ。実に微笑ましくて、俺は声を出して笑みを漏らしてしまった。
俺の笑い声に気がついたのか、当の二人がこちらを振り返る。一人は少し怒ったような顔、もう一人は不思議そうな顔で。
「い、いきなりなんだよアンタ」
「こら陽太、初対面の人に失礼でしょ。……すいません、ウチの陽太が」
「誰がウチのだ!」
「ああいや、こっちも悪かったよ、笑ったりして。二人とも実に仲が良さそうだったから」
本音を告げると、二人は一瞬ぽかんとした顔を見せ、そしてほぼ同時に顔を逸らした。まずい事言ったか、俺?
いやまあともかく、過ぎたことは気にせず本題に入ろう。うん。
俺は岬くんではない方――ボーイッシュな雰囲気の女の子だ――に了解を得、彼らの隣に座らせて貰うことにした。
寝ているソラを起こさないように(【超睡眠】の効果で滅多に目を覚まさないが)ゆっくりと背中から降ろすと、一部始終を見つめていた岬くんが大きな声を上げた。
「あああああああっ! この女!」
「昨晩以来だね。岬……月下くん? 今日は君に謝りに来たんだ」
「謝りに……? って、まさかアンタ……」
「ああ、その事も覚えてるんだね。俺は桂木忍、見ての通り男だよ、宜しく。それで、寝ているこっちは鈴本青空」
俺の紹介を聞いているのかいないのか、岬少年は俺とソラ、交互に視線をやっては口をぱくぱく開閉させていた。
まあ、魚肉ソーセージ(特大)を出し入れした記憶があって、その対象が男で、その行為に多少の喜びを覚えていたのであればその衝撃の大きさは想像に難くない。
どんまい少年。
「あ、僕は水野晶です。こっちの岬陽太の保護者……かな?」
「よろしく、水野さん」
言葉の出てこない岬くんの代わりにか、側の少女が応対してくれる。
水野晶と名乗った少女もまた、岬くんと同じく中学生だろう。ただその背の丈は俺とさして変わらないほどであったが。
「…………それで、昨日の人たちが何の用だよ」
「いや、君に謝罪しようと思って。あの後結局君を放置したまま帰ってしまったからね」
「……別にいらねえ。それよりもその鈴本青空に用がある。舐められた分の借りはきちっと返すぜ」
「あー……ごめん、それは無理だ」
俺の言葉に岬少年が拍子抜けた顔を見せる。が、これを説明しないことには始まらないだろう。
「ソラの昼間の能力は特殊でね。こいつが全力を出せるのは夜だけなんだ」
同時に、俺が役立たずに成り下がるのも夜というわけで。
自分で言っていて情けないね、全く。
「じゃあ、夜だ! 夜に勝負!」
「陽太、無茶言わないの! すいません桂木さん、陽太の馬鹿が……」
「いや、中学生はそれくらい元気な方が良いと思うよ」
これは偽らざる俺の本心。俺も昔は、岬少年ばりの元気の良さを持っていたものだ。
今はなんだか、守られる側が板についてるけど。
「……言ってて悲しくなってきたな」
「……?」
「いや、何でもないんだ。しかし岬くん、君はたしか――魔剣レイディッシュなる得物を扱うらしいね」
「ああ、それ大根でもが」
「ああ、それがどうかしたか?」
何かを言いかけた水野さんの口を勢いよく塞ぎ、岬少年は得意げな顔で俺に続きを促した。
367 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:01:14 ID:3SRIJbMu
「是非とも興味があるというか……、ああでも夜中ソラと戦ってる間とかはダメなんだよな……」
「なんで夜じゃダメなんですか?」
「俺の能力は【お姫様】っていってねえ……女体化してしまう厄介な代物なんだよ」
俺の説明に、水野さんはへぇーっと、目を輝かせた。
ああ、大体そうだ。女子ってものはなんでかそういうことに多少なりとも興味を抱くのだ。
俺としてはまったくと言って良いほどに無用の能力なのだが……。
本日何度目かもわからないため息を吐こうとした時、ふと、境内に吹き込む風が異質なものになっていることに気がついた。
隣の二人も同じようで、岬少年は当たりに素早く視線を走らせ臨戦態勢に入っている。
「……何か来る?」
「この感覚は、猛犬たち……」
水野さんが、苦虫を噛みつぶしたような顔で呟いた。
それと同時に、境内の脇に生い茂る雑木林から飛び出てくる猛犬たち、その数四。
「ちっ、またか――!」
「ああもう、まただ……。しかもまだ昼なのに」
夜ならともかく、昼も襲われるってどーなのよ。嘆息する俺を尻目に、猛犬たちはぐるるるると唸り声を上げていた。
そして、ぎゅっと右の拳を握りしめる岬少年と、不安そうな顔を見せる水野少女、こんな状況でもお構いなく寝ているソラ。
なんだか妙な取り合わせだなあ、と感心してしまう俺は、完全傍観に徹することを決めていた。
岬少年の魔剣レイディッシュが見られるかも知れないじゃないか。わくわくする。
きっ、と口を真一文字に結び、猛犬四匹を睨み付ける岬少年は、静かな声で、背後の俺に語りかけてきた。
「……桂木……さん」
「どうした?」
「アンタ……戦える……いや、ますか」
「へ」
「レイディッシュは夜限定なんだ……です」
衝撃の事実発覚! じゃあ昼間の岬少年は戦闘能力皆無と言うことなのか?
俺がそう尋ねると、
「そういう訳じゃないんだけど、色々限定されてて」
「……そうか……、じゃあ俺も出来る限りのことはやるよ」
近くに落ちていた長い木の枝を二本拾い、片方を岬少年へと投げ渡す。
社に陣取ってしまったのが失敗だった。猛犬四匹に道をふさがれた今、寝坊助ソラを連れて突破するのは無理がある。
とりあえずは水野さんとソラを守りつつ、俺と岬少年で上手く立ち回る他ないだろう。
「桂木さん、昼間の能力は?」
「……出来れば使いたくないんだ。色々な意味で『痛い』から」
「そうか。よし、行くぞ!」
「ああ!」
俺と岬少年は頷き、同時に駆け出した――。
368 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:03:04 ID:3SRIJbMu
「つぅ……」
慣れないことをするもんじゃない、というのは今のことを言うのだろうか。
威勢良く駆けだしたは良いが、ものの数秒もしない内に猛犬の攻撃にノックアウトされた俺は、雑木林のすぐ側に投げ出されていた。
頭がじんじんと痛む。現在の戦況はどうなっているのだろう。言うほど気絶していた時間が長くないのはわかるが――。
「って……、あ、血……」
頭が痛むのはこのせいか。石畳に頭をぶつけたか、俺の額からは血がどくどくと流れ出していた。
酷い怪我ではないが、軽い怪我でもないだろう。ふらつく足に渇を入れるようにして、俺は何とか立ち上がった。
岬くんは、水野さん、それにソラは……。
「っ!」
その時俺が見たのは、社付近で水野さんとソラを守るべく、木の枝をがむしゃらに振るう岬くんの姿だった。
服は所々すり切れ、切り傷も見えている。全身に怪我を負おうとも、それでも彼は戦っていたのだ。
「……早く、しないと」
靄がかかったような頭を振りつつ、俺は岬くんの元へと駆け出す。
足がふらつくが、そんなことを気にしていては始まらない。
早くしなければ取り返しのつかないことになる。幸い、トリガーは出揃っているのだ。
「――やれる!」
「あ――桂木さん!」
「何してたんだよっ!」
水野さんの声が響き、岬少年の怒声が聞こえた。
「すまない! だが、後は俺に任せてくれ……!」
言って、俺は意識を集中させた。額から流れ出る血を、右の掌に掬い集める。
守るべき対象は、この場にいる全員。皆を守れ。護りきれ。
この量ならば、Lv2までなら発動できる。倒れた後のことは気にしない。
「護り抜け――! 【騎士の血盟/Lv2】!」
呟きながら、血を集めた右手を宙に振るう。
液体であったはずの血は、しかしゼリーのように弾力性を持った物体として、宙を舞う。
ゆっくりと、スローモーションで宙を流れる血の球。
頭に思い描くは、全てを薙ぎ払う槍だ。
「鮮血槍《ブラッディランス》!」
右手を、血の球へと突き出す!
俺のイメージに呼応した血の球が、自在に形を変え、やがてそのシルエットを浮かび上がらせる。
全てが終わった時、俺の右手に握られていたのは、鮮やかな血の色に染め上げられた一振りの槍だった。
「喰らええええええええええっ!」
四匹纏めて仕舞いにしてやる――!
勢いよく振り抜かれた鮮血槍は、流れるような動作で猛犬の腹を薙いだ。
その勢いに、猛犬は皆残らず吹き飛ばされて行く。
どさり、と重い音が響いた後、叶わないと見たか、猛犬たちが逃げ出す足音を聞き――、
「……疲れた」
――俺は意識を飛ばした。
あの一連の事件から一週間。
何だかんだで俺は今日も平和な一日を送っている。
「桂木さん!」
「……またか……」
「見せて下さいよ、【騎士の血盟】」
「……勘弁してくれよ。アレはものごっつい厨二で、何というか我ながら恥ずかしい代物で……」
「いや、自分の血を武器として具現化する能力……、たまんねぇ!」
「たまってください……」
「大人気だね、しのちゃん? ……ぐぅ」
なんだか、岬少年に懐かれてしまったのは……。
ひとえに、俺の昼間能力が厨二過ぎるからだろうか。やれやれだ。
続く。
369 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:03:44 ID:3SRIJbMu
以上でござる
とりあえず忍昼間の能力纏め
【騎士の血盟】
【意識性】【具現型】
流れ出る自身の血液を自在に武器武具へと変質させることの出来る能力。
流れ出る血液の量によりレベルが変わり、大型、強力な武器ほど必要量は増える。
【騎士の血盟/Lv1】ではナイフや篭手など小型の武器武具を。
【騎士の血盟/Lv2】では両刃の剣や槍、小型の楯等々。
【騎士の血盟/Lv3】ではバスタードソードや突撃槍など。
失う量が多いほど効果は上がるがその分活動時間は短くなる。(貧血で
また、騎士の血盟である以上、近くに守るべき対象が存在していない限りは能力発動できない。
なんて厨二。ちなみにブラッディランスは忍命名。別に名前などいらない。
つまり忍も大概な厨二病だったんだよ! Ω ΩΩ<な、なんだってー!
昼は忍が騎士となってソラを護り、夜はソラが騎士となって忍を護るわけですね。
まさに二人で一つ! ダメですか
なんか色々やってしまった気がするけど気にしないでおこう……。
晶さんの影が薄くてごめんなさい……。作者様ありがとうございました。
370 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/20(日) 21:04:41 ID:3SRIJbMu
以上代行でした
>>362 わーいお帰りなさい! さっそく陽太くんと絡んでるしGJ!
能力も(そのネーミングも)厨二全開で最高!! うんうん、『痛い』ぞもっとやれ
やはりこのシェアは厨二が映えるねー
>>370 代行さんも乙でした!
陽太の扱いがひでえwだがそれがいいww
正しく厨二能力でかっこいいね。
設定のまとめ的なものってない?
鑑定士とかバ課とか把握しきれてないのに使っていいものかどうか不安なんですが
自分も知りたい
wiki見せてもらってるけどまだ把握しきれてない
このSS読めば最低限わかる、みたいなのでもいいので紹介してほしいな
残念ながら無い
ただ質問は遠慮なくしちゃっていいと思うよ
きっと把握している誰かが教えてくれるはず
サンクス
あと、バ課は公的な後ろ盾のある機関なの?確か役所に関係者が出没してたっぽいのを見た気がするけど
ほぼそうなんだろうってことになってるけど
なぜかまだはっきりとは書かれてないw
必要ならそういう事にして書いちゃっていいんじゃないかな
バフ課って個人じゃなくて皆で創ってる感じの組織だし。
サンクス。ちょっとやんちゃするかもしれないけど、最悪パラレルで逃げられるし作ってみる
wktk
380さんじゃないけどバフ課借りて投下します。
深夜、何もない廃ビル群。チェンジリングデイ以降普通の人が住まなくなった一角。
およそ浮浪者やならず者しか集まらない場所。
それでも普通なら寝静まっているはずの時間。
――しかし、今は轟音と悲鳴が交わった戦場と化していた。
「腕が! 俺の腕がッ!!」
「逃げろ! 逃げるんだ――」
「おい! しっかりしろっ!! 傷は浅いぞ!!」
その悲鳴は千差万別。だが、それを引き起こしているのはたった一人の人間。
逃げ惑うは訓練されたはずの戦士たち。
その全体図を俯瞰するはこの戦士達を束ねる者。
男は無線機に対し、大声をはり上げ続けている。
「チャーリー! チャーリー!! 応答しろ! ちっ! 駄目か!?」
「ラレンツア隊長。4班B隊全滅です!」
背後で伝令に向かった一人の隊員が報告する。
その報告を聞き、ラレンツアと呼ばれた男は決断する。
「これでB隊、C隊は全滅か。ここは我々の負けだ。撤退命令を出せ。我々A隊は殿を務める。
一人でも多くの隊員を生還させる」
「はい! 撤退命令発令! 総員速やかに離脱しろ!!」
響き渡る轟音と怒号の中、平穏なはずの都市の近くである場所で、この大規模な戦闘、いや、殺戮が起きていた。
本来なら簡単な任務――特に特殊訓練を受けているバフ課なら易しいはずの任務。
たった一人の人間を捕まえる事
その任務が今の地獄絵図を引き起こしていた。
すでにその目標を捕まえることを目的とせず、ある意味天災として排除――より具体的には目標の殺害――の段階に来ていたが、
それでもバフ課への被害は広がり、撤退を選択せざる得ない所まで来ていた。
隊長の命令に従い速やかに撤退を開始する。
しかし、ラレンツアの目には一人の人間の姿が見えた。
考えること数秒。その思考結果を言葉にする。
「……いや、お前たちもだ。どうやら目的の相手は近くにいるらしい」
「隊長?」
「何、適当にかく乱したら我も離脱する。行け!!」
選択するは隊長自身がかく乱することによる、他の隊員の撤退援護。
ビル群の谷間に陣取っていたバフ課4班の隊長であるラレンツアは、苦々しい表情で立ちあがると部下を一喝し、離脱命令を出す。
いかにも屈強な戦士といった身長が2mを優に超える強靭な肉体を持った指揮官。
その姿を斥候を務めた隊員はじっと見つめ、敬礼を一つすると後ろに向かい走り出す。
そのラレンツア本人は振り向きもせず本来の目標に視線を固定し、ゆっくりと歩を進めた。
彼我の距離は20mほどだろうか。そこでラレンツアは歩みを止め、目標に声を掛ける。
「狭霧、貴様がそこまでやるとはな……これは我の失策だ」
対して、狭霧と呼ばれた目標は口の端を釣り上げる。言いかえるとそれは微笑み。
その目標はその表情のまま口を開く。
「あらあら。それはバフ課の情報収集能力も大したことがないと言うことかしらね」
「……認めなければならんかもしれん。貴様の能力とその異常性を過小評価していたと」
苦虫を噛み潰したような表情のままラレンツアは答える。
目の前の目標――見た目の年はまだ20代前半に見える美女。
ブロンドの腰までかかる髪をポニーテールに結わえ、たれ目がちの大きな瞳はラレンツアを見ている。
物腰の柔らかさは本来場を和ませるような雰囲気を湛えていただろう。――ここが戦場でなければ。
その女性はゆったりとした動作で頬に手をやると、首をかしげる。
「そうなると、あなた様も実はたいしたことがないのかしらね」
その言葉にラレンツアはさらに眉間の皺を濃くし、
「ふむ、そう思われても仕方あるまい」
「あらら、そうですか」
「――だが、我をなめるな」
瞬間、雷が狭霧に奔った。
黄色で埋め尽くされた光の奔流がラレンツアから射撃される。
それは狭霧へと正確に向かい――
――着弾
光が弾け、視界を覆う。
だがラレンツアは視線を外さない。
濛々と立ち込める煙が晴れた先には、狭霧が雷撃を避け、横に転がった態勢でそこにいた。
その位置を確認するとラレンツアは無言で二撃目を撃つ。
――再び爆音と衝撃
だが、再び視界が晴れたとき、また違う位置に今度は佇んでいる狭霧の姿があった。
顰め面を続けるラレンツアに対し、狭霧はその姿勢のまま動かず口を開く。
まるでショッピングをしているような気楽さで。
「あらあら、中々お強いのですね。でも、これ位なら能力を使う必要もありませんわね」
「減らず口を……ならこれならどうだ――【神の裁き】」
ラレンツアの言葉に狭霧は表情に疑問符を持ち、一瞬後空を見上げた
瞬間、狭霧を中心とし、直径200mの範囲に無数の雷撃が荒れ狂う。
ビル群が砕け、大きな石の塊となり、それすらも雷が容赦なく砕き、辺り一帯が廃墟と化した。
余りの光量、その轟音は一時的にラレンツア自身の視力と聴覚を奪った。
だが、ラレンツア自身はその事を気にせずぼそりと言葉を紡ぐ。
「さて、味方がいないからそこできる技ではあるが、これで仕留められたか……」
言葉でこそ期待を呟くが、ラレンツアは油断しない。
手には散弾銃を持ち、視界と聴覚の回復を待つ。
――その中央に立っている狭霧が見えた。
服こそ多少焦げ付いているが、狭霧自体には傷一つない。
それをラレンツアは確かめると、一つ言葉を吐く。
「やはり駄目だったか。この雷撃を全て避けきるとは」
「あらあら、分かっていましたの。油断していればこれでさっくりいきましたのに」
狭霧は軍事用ナイフを両手に持ち、困ったように笑う。
「そういうことだ――。ま、我が隊は撤収完了したのでな。
これ以上ここに留まる意味がないので我も撤収するとしよう」
ラレンツアの言葉に狭霧は笑う。
「見事な陽動ですわね。普段なら見逃す所ですが……」
狭霧は一旦言葉を置く。
「あなたの強さに惚れてしまいました。あなたの命を私の物にしてしまいましょうか」
瞬間、狭霧が走る。
ラレンツアは雷を数度ぶつけつつ、後ろへと引く動作を見せる。
狭霧はその雷撃を全て避け、しかし速度を上げ、逃げる敵を追いかけようとし――
狭霧の周囲が突然歪む。
狭霧は突然の周囲の変化を受け、ぐらりと揺れる。
一瞬の隙
瞬きにも満たない隙であったが、それでもラレンツアは見逃さない。
冷静に手にしたショットガンを向け――
――発砲
その弾丸は音速を遥かに超えた。
狭霧を捉えた特殊な電磁場。それが、弾丸を加速させる場として展開されていた。
それはラレンツアの夜の能力【電子の奏者】によるもの。
雷を使うのは彼の能力の一側面に過ぎない。
本当の能力は、付近一帯の電気的エネルギーを操作する物。
その能力によりは通常よりはるかに加速した散弾が飛び散り――着弾した。
弾丸全てが狭霧に接触、その常軌を逸した衝撃に狭霧の体は四散する。
その全てをラレンツアは視認し、ようやく一息を吐く。
「これで終わりか。やれやれ、なんとかなったな。――全く厄介なものだ。化物と闘うのは」
チェンジリングデイによって得た能力。
多くの犠牲を出した後に得た特殊な能力。
それは生活を便利にする反面、様々な副作用があることも知られ始めている。
その中でも危険とされる症例――それが厨二病と呼ばれる症例だった。
ある種の全能感。それは軽度なら大したことではない。
だが、重度を超えた所まで症例が進んでしまった場合、多くが狂人、もしくは化物と呼ばれる状態までになる。
倫理観の消滅、自己崇拝、破滅願望――
人間社会を維持するために必要な物を失い、多くは危害を与えるだけの化物と化す。
バフ課4班は特にそこまで進んでしまった人間の捕獲、もしくは殺害を主任務として与えられた部隊だった。
「これで任務完了か。我も撤収するとしよう」
ラレンツアは一人呟き、これまですでに肉片と化した目標から視線を外し、撤収しようと振り向く。
――体に感じるは灼熱の痛み
突然の痛みにラレンツアは自身の状態を確認する。
背後から正確に心臓へと突き抜けられた刃。
明らかな致命傷と化物の存在を知覚したとき。
ラレンツアの周囲はプラズマに包まれた。
* * *
「ひーふーみー、今回は5回、いえ、さっきので6回死んだわねぇ」
その場には半径200mのクレーターが忽然と出現した。
クレーターの表面はガラス状になり、強烈な熱を吐き出し続けている。
ラレンツアが命と引き換えに起こした破壊の後。
しかし、その縁には一人の女性が立っている。
その女性の名はアヤメ。狭霧アヤメと言う名を持つ女性はただそこに立っている。
「流石バフ課ねぇ。こんなに殺されたのはドグマに喧嘩売った時くらいかしらねぇ」
彼女は期待の色を隠さず呟く。
「ああ、これなら、バフ課なら私を殺しつくしてくれるかしら」
まるで歌うように、浮かれたように話す女性。
――それが彼女、狭霧アヤメが起こした事件の発端だった。
続く……予定…・・かも
投下終了です。まず始めにごめんなさいです。
世界観が違ったりしたらどうしようといまさらビクビクしていますw
狭霧アヤメは他の作品でも酷い目合わせたり、殺しちゃっても問題ないキャラとして登場させてます。
いって見れば無条件の邪です。
クロスできるできないは別として、どんな酷い扱いをしてもいいキャラをだしたいなって感じで出して見ました。
以下設定です。
狭霧アヤメ
20代の美女。破滅願望があり、自分を本気で殺してくれる人間を捜してあちこちで事件を起こしている。
ただし気分屋で、時に人を助けたり、その助けた人を殺したりすることもある。
しかも自殺はしないし、本気で人を殺すことも止めない非常に困った人である。
昼の能力
不明
夜の能力
【命の海】
【無意識性】
人を殺した数だけ自分が生き返ることができる能力。
生き返った際の出現場所もコントロールでき、死んだ位置から半径1km以内ならどこでも自由に復活する。
時間も最大1時間までコントロールでき、一時間経つと強制的に生き返る。
現在45人殺して30回死んでるので残り15回死ねば完全に死ぬ。ただし他に殺さなければであるが。
昼に死んだ場合は当然この中に含まれない。
ラレンツア
バフ課4班隊長。身長2mを超える偉丈夫。一流の戦士であり、これまでも数々の敵を葬ってきた。
美人で性格のいい妻がいる。子供も二人いて、家族円満に暮らす人生勝ち組な漢である。
昼の能力
不明
夜の能力
【電子の奏者】
【意識性】【操作系】
付近一帯の電気的エネルギーを操作する。
ただし生き物に宿る電気的エネルギーを直接操作することはできない。
388 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 21:55:25 ID:yv0rd4fc
GJ!!! お帰りなさいませ!
こ、このスレは……
厨二が……厨二が、炸裂しておる……!!
やはり厨二と厨二は「惹かれ合う」のかッ!?
389 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/21(月) 22:29:16 ID:TlZuO8cE
登場したばっかりの隊長…
緊張感のあるバトル乙でした
厨二病って怖えええw
これはすごい能力バトルだな
しかしいつも思うんだがバフ課関連は戦闘レベル高すぎてクロスできねえw
鉄ちゃんみたいに表の顔を書くという手も
おお! これはクロス(スカーフェイス)だな!
クールな感じがカッコいいぜ!
GJ!!
395 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 01:10:15 ID:V99fmh1D
うおお!ナイススレンダー!結婚しあべしっ
なんだか投下が増えて喜んでいる中、自分も投下
>>354-356の続きを投下します
ご存じの方もいると思いますが今回からトリ出します
急ぎ気味でレストランを出たものの、下りのエレベーターがなかなか来ない。さすがに多少イライラし
てきて、もうエスカレーターで降りようかと考え始めた時のことだった。
「神宮寺秀祐」
どこからか唐突に、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。声は続く。
「いや、今はドクトルJと呼ぶ方が通りがいいのか?」
どうにも不快なその声は、いかにも小馬鹿にするような調子でそうのたまった。あまりに突然すぎて混
乱したが、落ち着けばなんのことはない。声の発信源は私の真後ろに立っている男だった。
もう初夏だというのに真っ黒なロングコートを着、黒いサングラスをかけたその男。明らかに何かを錯
誤しているのだろう。こんな格好している人間は映画の中だけで十分だって話だ。だが、もっと目を背け
たい事実がある。それは――
「久しぶりだな、牧島。相変わらずおもしろい服装だ。暑くないのか?」
私とこの男とは古くからの知人だということだ。あくまで知人であり、友人ではないというところは強
調しておきたい。その証拠と言ってはなんだが、私はこの牧島(まきしま)という男のファーストネーム
を覚えていない。
「僕は寒がりでね。忘れたのか? 薄情な奴だ」
「正直興味もない。何の用か知らないが、大した用がないならあっちに行ってくれ」
「冷たいねえ。でも残念だったな、ちゃんと用事があるんだよ。神宮寺お前、窓の外のアレは見たんだろ?」
この男の声は生理的に好かない。爬虫類が人語を話せるのならこんな声だろうと思うような、湿り気
と粘り気に満ちている。だから受け答えをするのも億劫なのだが、この男は今、私が確かめようとして
いるものの核心をあっさり明かしてくれる気でいるようだ。それなら乗ってやるしかない。
「向かいのビルに座ってたコウモリみたいなやつのことを言ってるのなら、確かに見たが」
「ひひっ、コウモリとはね。もう少し物事を見定める目を養った方がいいな。まあいいさ。今日はアイ
ツの、ガーゴイルの実験を兼ねたお披露目パーティーをやろうと思ってたんだ。だがどうにも調整が不
完全だったみたいでな。キメラやケルベロスのようにうまく制御ができないときた。頭のいい神宮寺君
なら、これがどういうことかわかるよな?」
「ケルベロスか……。やはり以前のあの事件を仕掛けてきたのは君だったんだな牧島。ここのところ私
たちの組織職員が襲われているのも君の仕業か」
「フン。だったらどうする。お前に質問を許した覚えはないぞ。聞いてるのはこっちだ」
ふぅーっ、とわざとらしく大きい息をひとつついて、牧島は続けた。
「ガーゴイルはあれはあれでなかなかの良作でね。ちょっと自信もあった。だから考えた。神宮寺、お
前をガーゴイルの記念すべき最初の餌食にしてやろうと。だって神宮寺お前――死にたいんだろ?」
死にたいんだろ? どストレートでそう言われてしまうと、素直に首肯しづらい。そしてまたそれが
事実であっても、この男にそんなことを指摘される筋合いはない。
「悪いな。エレベーターが来たらしい。君に付き合うわけじゃないが、せっかくだから君の悪趣味な作
品ってやつを見物してくるよ」
牧島に背を向けて、エレベーターに乗り込む。都合ドア側に向き直った私に、彼は相変わらず品のな
い引きつり笑顔を向けてきた。ドアが閉まりきる間際、
「足掻いてくれよ、神宮寺」
彼の唇がそんな風に動いたように見えた。
嬉しくない再会となかなか来ないエレベーターというイベントを経てなんとかデパートの扉を開いた
時、すでに事は始まっていた。
平時そこにあるはずのないもの。どす黒い血溜まり。ぴくりとも動かず横たわる、すでにただの肉の
塊となっているかもしれない男性。視線を移せば、四肢の一部が欠損してしまった女性。
そんな凄惨な光景の前に錯乱し、他人を押しのけ踏み付け、我先にと逃げ惑う人々の群れ。すでに周
囲から人影は消え去っていた。
ついさっきまで彼らは――大地に倒れ伏した憐れな犠牲者も含めた彼らは、いつもと何も変わらない
平穏で楽しい週末を満喫していたのだろう。
「生きているものは、遅かれ早かれ必ず死ぬ。そうは言っても、やっぱり理不尽じゃないか? こんなのは」
誰にともなく無意味に呟いて、私は空を見上げる。日常を瞬く間に非日常へと変えてしまった元凶が、
そこにいた。
あの男が言っていた通り、それはコウモリなどという生易しい存在ではなかった。
第一印象、悪魔。さらによく見て、やはり悪魔。月並み過ぎると考え直して、やっぱり悪魔。
その前肢と口元を血で染めた悪魔が、コウモリに似た黒い翼をはばたかせ、悠然と滞空している。
そう言えばあの男は、この怪物を指して『ガーゴイル』と言っていた。ガーゴイルは確か――
「ってくそったれが! 来るなよ!」
悠然と滞空している、なんて解説してやったそばからこいつめ、猛然と突撃してくるとは! 空から
迫りくるそれを、間一髪横っ飛びで華麗にかわしてみたが、
「あー、痛つつつ」
日頃運動していないせいか、無様に転んで腰をしこたまアスファルトに打ち付けた。 痛い。しかし
もっと大きな問題があった。
「あーあ、こりゃダメだわ。ぜーんぜん見えない」
私の顔面から眼鏡が消えてなくなっていた。おそらく着地に失敗した時の衝撃でどこかへ吹っ飛んだ
のだ。デリケートな眼鏡だったし、確実にぶっ壊れてしまっただろうな。
こんな時にするべき話でないことは承知の上で、あえて言わせてもらいたい。私は眼鏡コレクターで
あり、多数の眼鏡を持っているのだが、今日かけていた眼鏡は一番のお気に入りだったのだ。それをこ
んなくだらないことで、一瞬で奪われてしまったのだ。
「予告もなく突撃してきて私のフェイバリット眼鏡を奪うとは。いい度胸してるなお前」
胸ポケットからスペアの眼鏡を取り出しつつ、また悠然とはばたいている悪魔に向かって精一杯の啖
呵を切る。かといって冷静になってみると今はまだ日暮れ前、戦えるわけでもない。とりあえず攻撃を
かわせる態勢だけはしっかり作っておくことにした。
そうして私の意識は、眼前上空にいる一匹の悪魔に完全集中していた。まさか背後から第三者に話し
掛けられるなどとは、露にも思わなかった。
「まったく真面目なんだかふざけてんだか。俺から言わせりゃ、あんたのほうがよっぽどいい度胸して
ると思うがな」
「……へっ? っておわ痛ってっ!」
ワンテンポ遅れて声に振り返ろうとしたが、遅すぎた。あっさりと背後を取られた私は為す術もなく
押し倒され、固いアスファルトに組み伏せられてしまった。力強い腕が、私の首に回されている。
ああ、くそ。終わりか。なんて馬鹿な終わり方だ。私は戦ったのか? 何かを成し遂げたのか?
いや、何を今更だ。私は確かに、死にたいのかもしれない。いや、そのはずなのだ。
それなのに期に及んで、やっぱり今は死にたくないと? こんな終わり方は納得できないと? 本当
に私という人間はどこ――
「おいあんた、大丈夫か? 怪我はないな?」
私を組み伏せた襲撃者が、なぜか気遣うように語りかける声で私は我に返った。てっきりすでにナイ
フが延髄あたりに突き立てられていたりするのではないかと思っていた私は、状況がさっぱり飲み込め
ないので、ただ正直に
「あばらが痛い。それと腰もだ」
と答えておいた。襲撃者はそれを聞いて、かすかに笑ったようだった。
「そいつは結構。痛みこそ生きてるって証だからな。俺が飛びつかなきゃあんたは今頃、あの気色悪い
怪物のおやつになってたところだ。ああ、一応言っとくが、腰が痛いのは俺のせいじゃないからな」
すでに落ち着きのある、だがまだ若さもわずかに残っている。そんな印象の声。ナイフを突き立てて
くる気配はまるでない。
「君は、私を助けてくれたのか」
襲撃者ではないのか。本気で痛むあばらを庇いつつ、少しずつ身を起こしながら聞いた。
「ん? はあ、どうだろうな。俺があのタイミングで話しかけなきゃ、あんたはあの怪物の攻撃を自分
で避けたかもしれないし。それなら俺が助けてやる必要もなかったわけで。あれ? なんかこれじゃあ
俺、エセヒーローみたいだな」
意外に理屈っぽい男のようだ。一呼吸置いて、彼は続けた。
「まあどうでもいいだろ。あんたに危害は加えない。変な怪物が暴れてるってんで来てみただけだ」
その時。私は初めてその男の顔をしっかりと視認した。
声の雰囲気からして私より多少年下だと思っていたのだが、それにしては明らかに不相応な、泰然と
した雰囲気をその身に纏っている。
口元こそ微かに微笑んでいるようだが、その実瞳は恐ろしく冷厳で、射抜くような威圧感を宿している。
彼が着ている、軍服をスタイリッシュにしたような服は、その印象をより強いものにするのに一役買っ
ていた。
私のそんな観察を意にも介さず、おもむろに腰から提げていた通信機らしきものを手に取る。
「シルスクより各員。保険はかけたが、一応週末の繁華街だ。火器の使用は許可しない。犬っころも撒
かれてるかもしれんから、十分注意しろ。ターゲットを見つけたら殺さずにつれて来い。半殺しまでな
ら許す。以上だ」
通信を切断して、彼――確か『シルスク』と名乗った彼は、なぜか今の今までおとなしくしていたら
しいガーゴイルに向き直る。気のせいだろうか、さっきよりも滞空する高度が低い気がする。
「ま、そういうわけだ。あんた、これ以上余計な怪我を増やしたくなければさっさと避難しろよ」
そう言い残して彼は、中空の悪魔に向かってゆっくりと歩み始めた。
つづく
投下終わりです
もう無理やりにでも絡んでいこうと思う
403 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/23(水) 23:51:22 ID:V99fmh1D
うおおお!隊長!
盛り上がってきた!
牧島の今後の動きも気になるところ
wktk
ガーゴイルとはこりゃまた大変な化け物きたな
魔界村のレッドアリーマーみたいな感じかね
しかし隊長かっこいい
うわ、凄惨な光景だな…
そしてまたもや新形態キメラの登場か!
たいちょファンとしてはwktkせざるを得ない
>>404 魔界村とは懐かしいwww
『BLOOD+』の翼手を思い浮かべたな
お題創作スレになんか来てるwww
408 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 00:43:30 ID:6tGapMgk
ガセビア思い出したw
>>407 これは切なくなる…
鉄っちゃんには能天気であってほしいものだ
さてさて、だいぶ時間は空いちゃいましたが。
汚れ役でもなんでもどんとこい。陽太がいろんな話に使われて嬉しい限り。
しかし、どうやら奴はギャグ要因になる傾向が強いらしい。
まあぶっちゃけ能力も性格もギャグ以外の何者でもないからなぁ…
つまりシリアス分は自分で書けと、そういうことだな。OKやってやろうじゃないか。
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』
>>335-338の続き投下します。
「変身能力…だと…!?」
「そうなんだよ。鎌田さんすごかったんだから」
「いやぁ…そう大したものでもないって」
カレーが煮立つまでの間、しばしの談笑。人間の姿に戻った鎌田はその強力な能力に係わらず謙虚で、
どこかの厨二病と違って大人だなと晶はつくづく思う。
「それでライダーっていうのは?」
「ああそれは僕の……地元でのあだ名でね。バイクには乗らないんだけどそれですっかり慣れちゃってさ」
「ああ…なるほど」
鎌田の変身した姿を思い出して、そのあだ名に深く納得する。
「おいちょっと待てよどんなのだよ、変身見せてくれよ」
「こら、偉っそうに言うな! 失礼でしょー」
「ん? いいよー別に」
軽い調子で言うなり鎌田は椅子から立ち上がる。直後、その全身がぼやけるように歪み、
「!!?」
まるで、それが当然であるかのように。
特殊な前振りも音も光もなく、その姿は一瞬にして昆虫人間に変化していた。
「こんな感じ」
「おおおおおおおっすげえええええええっ!!!!」
「………」
そこは「ふっ。昆虫をベースにした強化装甲か…なかなかおもしろい能力だな」じゃないのか陽太。
子供のようにハイテンションに叫ぶ陽太に、いつもの厨二はどうしたと内心ツッコミを入れる晶だった。
「バッタ!?」
「蟷螂!!」
晶も最初はそう言って、全力で訂正された。そこは鎌田としては絶対に譲れないところらしい。
しかし明るい場所で改めて見ると、すごい姿だ。
全身は元のサイズと変わらないのにも係わらず、その姿、特にその逆三角形の頭部は人間のそれと明らかに違い、
人間が装甲を纏うだけでは到底不可能な変化を見せている。まさに変身である。
「ちょっ、手ぇ触ってみてもいいか!?」
「いいけどトゲトゲしてるから気をつけてね」
関節部分は節となっている硬質な腕、その質感は金属よりも、有機質な骨に近い。
内側に並ぶ刺も緩やかな曲線も生物的で、昆虫の腕をそのまま巨大化したようだ。
その先端は、人間より小さな手の平から生える指。人差し指にあたる部分が、大型ナイフ程度の鎌となっていて。
カマキリのそれのようにギザギザの刃は、内側に折りたたまれて腕にぴったりとついている。
「カマキリって割に鎌はあんまでかくないのな」
「うん、あんまり大きいと生活に不便でしょ?」
「いや変身したまま生活しないだろ普通」
「ん……ああ、そうだねハハハ」
背中に生える翅は薄くしなやかながらも、容易くちぎれるようなものではなく。広げた内翅は美しく透き通っている。
服の背中に空いた穴は単純なものではなく、むしろ翅を出すために仕立てられているようで。
身体は変わっても服装は変わらない。変身する前から鎌田はこの背中に穴の空いた服装だったようだ。
ただでさえ寒さに弱いというのにこれは風通しがよさそうだ、苦労するなあと晶はしみじみ思った。
「これ飛べるのか!?」
「うーん…微妙。ほとんどジャンプの延長みたいな感じかな。空中制御とかゆっくり降下とかはできるんだけど…」
へえぇ! ほおぉ… と感心しきりの陽太。体中を観察されて当の鎌田は誇らしいような恥ずかしいような困惑したような、
実に微妙な表情を見せていた。いや、実際にはその虫の顔はほとんど変わらないのだが、晶には確かにそう見えた。
やがて満足したのか、うん、と呟いて離れる陽太。そして
「ところでライダー、変身ポーズとかねえの?」
「変身ポーズ?」
また変なこと言い出した、と晶は頭を抱える。そんなこと言われても真面目な鎌田は困るだろうに。
「…ああっ!!!! そうだよっ、何でその発想がなかったんだ!!」
「ちょ、あれっ!? 鎌田さん!?」
「おいおいポーズは変身の基本だろうが。しっかりしろよなライダー」
「うーん…僕としたことがうっかりしてた…」
「あのー…鎌田さん?」
キョトンと晶を見る、透き通った複眼。
「何だい晶君?」
「あの…陽太に合わせてくれなくてもいいんですよ?」
「いやあ大切だよ変身ポーズは」
「……さいですか」
なるほどこの人も陽太とは違うにせよ、なんというか…ヒーロー好き?な部分があるようで。
実際高い実力があるわけで何ら問題はないが、ちょっとだけ残念に思う晶だった。
「よし、じゃあやってみるかな!」
鎌田は少し考えると、両足を肩幅に開いて立つ。
両腕を顔の前でクロス。握りこぶしに力を込め、一気に腰の横に振りおろす。
「変身!」
その身体が一瞬光を放ち次の瞬間、人間の姿に戻った鎌田がそこに立っていた。
「どうかな?」
「ああ、悪くないが…変身解除するときにそれやってどうすんだよ」
「え? ……っと。そうだった」
「あと…腕の角度がもっとこう…」
「それじゃあ…こうしてこうして……変身!」
さっきと違うポーズで再び昆虫人間に変身する鎌田。どうやらあの変身に制限みたいなものはまるでないようだ。
「…僕カレー見てるね」
変身と解除を繰り返しながら熱い討論を交わす二人を尻目に、晶は冷めた顔で鍋を覗くのだった。
「ところで陽太君はどんな能力なんだい?」
やがて変身ポーズ議論は一段落し、鎌田が尋ねる。
「俺の能力は叛神罰当【ゴッド・リベリオン】。神に叛く力だ。そう容易く見せるわけにはいかねえな」
「へええ、そっか、それはすごそうだね。いつか機会があったら見せてよ」
「ふっ。機会があったらな」
陽太の偉そうな言いようにも動じない、しつこく追及しない鎌田はやはり大人だと晶は思う。
そんな陽太に晶の悪戯心が湧く。機会があったら、そう言うのならば
「あー! リンゴ買うの忘れたー! 陽太ー」
作ってやろうじゃないか、能力を披露する機会。
「陽太。カレーに入れるリンゴ忘れた」
「は!? どんだけ忘れてんだよ晶! 俺にどーしろってんだよ!」
「いーよ別に入れなくてもカレーできるし、辛口だけど。鎌田さんは辛口でも大丈夫ですよね?」
「…へ? ああ、大丈夫だけど」
「はいそんじゃ辛口カレーで」
「だあああもうわかったよ! 出せばいいんだろチクショー!」
悪い笑みを浮かべる晶と、キョトンとする鎌田。
「おいしいやつよろしくー」
陽太は精神を集中するためのいつもの動作、両手の平を胸の前で合わせる。目をつぶってさらに最大限の集中。
それは投げつけるための硬さや形ではなく、おいしく食べるための味を再現するため。やると決めたら陽太は真剣だ。
目を開き、少しずつ離される両手。その隙間には無数の光の粒子が乱雑に渦巻き、じわじわと丸い形に固まっていく。
やがて全ての光が融合し、消え去る。そこには一つの真っ赤な果実が残されていた。
陽太の能力を初めて見る鎌田は目を丸くする。
何度か見ている晶もこれには驚いた。いつもポンポン簡単に出しているが、じっくり集中して出した場合
これほど雰囲気のあるものだったとは。もっとも、出現したのはただのリンゴだが。
「ほらよっ!」
「どうもっ」
陽太がポンと投げたリンゴをキャッチしてニヤリと笑う晶。
――ね、これが陽太の能力。食べたことのある食材が出せるんだって。変な能力ですよね――
「…ん…えっ!?」
陽太がへそを曲げそうなので、鎌田だけに密かに能力を向ける。
驚いてきょろきょろと周囲を見回す鎌田。
――で、これが僕の伝心能力。人や動物に直接心を伝えるんです――
「へええ! すごい! まさに超能力じゃないか!」
――いやあそれほどのものでも――
「おい晶何コソコソやってんだコラ! 自信作なんだからちゃんと使えよ!」
晶の行動を察した陽太が怒り、晶ははいはいと笑って台所に引っ込む。
早々に能力を披露することになって、ばつの悪そうな陽太だったが。
「陽太君の能力もすごいじゃないか! 僕のなんかよりずっと役に立つ強力な能力だ!」
「そ…そうか…?」
「うん! 僕感動しちゃったよ!」
「…へっ」
掛け値なしに絶賛する鎌田から、まんざらでもなさそうに陽太は顔をそむけた。
やがて調理は完了し、三人賑やかに遅い夕食をとる。今回のカレーのできは上々だった。
ちなみにリンゴを買うのは忘れたが普通にあったので、そっちをカレーに入れた。嘘は言っていない。
能力のリンゴは冷やして剥いて食後に出した。当然文句は言われたが。繰り返す、嘘は言っていない。
なるほどあれだけ集中したこともあり、売り物と比べても遜色ないみずみずしく甘いリンゴだった。
「二人とも今日は本当にありがとう。カレーすごく美味しかったよ」
食事が終わり片付けも済んだのは日付が変わる頃。すっかり乾いたコートを身に纏った鎌田が立ち上がる。
「こんな時間から携帯探すんですか?」
「ああ、明日は休みで公園も人がたくさん来るだろ? そうなったら見つけるのは難しくなっちゃうからさ」
「ふーん……」
陽太は黙って立ち上がり上着を手に取る。察した晶もそれに続いた。
「え? 君たちもどっか行くの?」
「けっ。何言ってんだか」
「僕たちも手伝いますよ鎌田さん。三人で探せばきっとすぐ見つかります」
「知らないとこで凍死されても寝ざめが悪いからな」
「きっ……」
プルプルと震える鎌田。
「君たちはなんていい人たちなんだー!」
「おいっこらやめろこの野郎」
感極まった鎌田の抱擁を全力否定する陽太。そんな二人を晶は微笑ましく眺めるのだった。
「しかしよー、本当にここら辺にあるのか鎌田ー」
「うーん、ここでゴタゴタがあったときに落としたとしか考えられないんだよ」
「誰かが拾ってる可能性は?」
「落としたときは夜だったしあんまり時間も経ってないしなー」
しんと静まる深夜の自然公園で、ゴソゴソと草むらや茂みをかきわけ携帯電話を探す三人。
捜索を始めてすでに一時間以上が経過している。もはや見つからないのではないかという嫌な考えが頭をよぎる。
そんなとき、閉塞しつつある状況に変化をもたらす声がかかる。
「よぉ、また会ったなぁバッタ野郎!」
しかしその声の主は、救世主と呼ぶにはほど遠く。
振り向いた先にいたのは、ヤンキーとチンピラを足して2で割ったような三人組と犬一匹。
声を出したのは中心のモヒカン。左右のスキンヘッド、赤髪、そして赤髪がリードを持っている大きなシベリアンハスキー。
鎌田は額に手を当てて、はあぁ…と大きな溜息をつく。
「また君か。君に用はないんだけどなぁ。あと僕は蟷螂だって言ってるだろう」
「俺は用があんだよバッタ野郎! 正義だとなんだと好き放題しやがってよぉ! ブラッディ・ベル舐めんなやぁ!」
「カラーギャングだかなんだか知らないけどさあ、いい大人がカツアゲなんてするもんじゃないよ」
「ああっ!? てめぇにゃ関係ねえ話だろうが!」
「で、こんな夜中にわざわざ報復でもしにきたのかい? 仲間を少し増やしたところで僕に勝てるとでも?」
「でけえ口叩きやがって! こいつを見ろやぁ!」
モヒカンは乱暴に何かを取り出し、鎌田に見せつける。
「あっ!? 僕の携帯っ!!」
「ええっ!?」
慌てる鎌田を満足げに眺めて、三人組は揃って下卑た笑いを浮かべた。
<続く>
むう…日常、説明パートが長え…
偉そうなこと言っといて結局シリアスまで持っていけない作者でしたとさ。おわり。
>>407 背後にあるストーリーを想像せずにはいられない、雰囲気のあるページ!
この「なんちゃって雑誌風」シリーズすごく好き!(描くの大変かもしれないけど)
あいかわらずGJっす!
>>410 待ってましたっ! 魔剣の勇者は変身ポーズへのこだわりも余念が無いww
日常描写を読んでると、キャラへの感情移入がkskします。長くなんて感じません
そしてブラッディ・ベル登場……ということは……!?
鎌田サイド(?)の人間からするとむしろ人型の鎌田が気になって仕方ないw
419 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/02(金) 23:17:32 ID:KwxSLXmY
晶ちゃんはいいお嫁さんですね
ブラッディ・ベルってどこで聞いたっけと思ったらアレか!wktk
突然ですがすみません。
普段他スレで連載をさせて貰っている者ですが…
ちょっと此方のスレにも興味があったので一つ作品を書かせて頂きました。
投下しても宜しいでしょうか?
駄目なんていう理由がない。創発にそんな閉鎖的なスレはないと思われ。
ぜひとも気兼ねなく投下してくださいな。
ここは投下の許可はいらないシェアだと思われます
比較的広い作風を受け入れています
むしろ様々な作風は世界を広げる一助になりこそすれ、
他と作風が違うからスルー、なんてことはないかと思います
大まかな流れは有りますが、
世界はひとつの局面だけで回っているわけではありません
合言葉は「こまけぇことは(ry 」のようです
ただ、設定を踏まえて書くと、他の書き手さんが絡みやすくなるかと思われます
以上を適当にスクロールさせたら
投下しろーーーっ!! 間に合わ(ry
了解です。シュシュッと投下致します。
wktk
「おバまああああ!!!」
時は何処かの世界の夜遅く、音をも呑み込む深い闇の中、一人の小男が珍妙な悲鳴を上げた。
男は後ろを時折振り返りながら必死に足をバタつかせて逃げている。
汚く履きこなされた黒い運動靴が、男が地面を踏みつける度にゴムの嫌な音を立てた。
キュッキュッと足を踏み込む度に闇の向こうから炎の弾丸が飛来し、男の周囲の地面を焼く。
路地裏を抜け大通りに出ると、その小男の風貌が月明かりの下、露わになる。
目にかかる迄伸びた髪が吹き上がってニキビが点々と付いた額が月光に晒された。
そして珍妙な柄の服が風を受ける度にヒラヒラと翻る。率直に言うと非常にダサい。擁護の出来ない程にダサい。
顔貌も2.95枚目といったところ、決してイイ男とは言えない。
その後ろを水も滴るいい大人達が鬼の様な形相で必死に追い縋る。
その出で立ちはまさにRPGに登場する主役達の様に格好良く、しかし現代においては余りに浮いた出で立ちだった。
「待て貴様!!よくも俺たち月光白狼騎士団≠笑ったな!!絶対に許さん!!」
その怒鳴り声を聞いた小男はゲラゲラ笑いながら口を動かす。
「いい年した大人がそんなアホな事言ってるから笑われんだよ!自覚を持て自覚を!!
そういって陶酔に墜ちていいのは、高校入学4ヶ月目の三日後までだ!
考えても見ろよ!矢鱈イカれた能力の公務員がやたら居るっていうのに、ちょっと火やら電気やらを出せるだけで騎士団≠セって!?
親が見たら泣くぞ?泣いちまうぞ??」
「き…貴様何を言うか…!我らが親を引き合いに出すとは断じて許さん!!!」
それを聞いた集団のリーダーは更に激昂するが、その後ろに居る男達には深く刺さる言葉だったようで、何人かの男が目を伏せ、俯いた。
畳み掛ける様に小男は休まず口を動かす、もちらんそれ以上の速さで足を動かしながら。
「それに今までお前等が仕留めて来た悪党?£Bの金品やらはどうしたんだよ?お巡りは何も知らないってよ!」
それを聞き、今度はメンバー全体が沈黙に包まれる。勿論足はさっき以上に動かしながらである。
その様子をチラチラと見ながら、トドメとばかりに小男はブチ撒けた。
「まさか…お前等のイカした車のトランクの中って言わねえだろうな?車体番号1342の紅いスポーツカーのトランクの中とかよ!!!」
それを言った瞬間、先ほどとは比べものにならない程の数の火球が、小男の背中を襲った。
「おひゃあ!!?」
慌てて身を翻し、ギャグマンガ宜しく器用且つ不自然に全弾避け、小男は怒鳴り散らす。
「図星か?図星なんだな!!?正義の味方を気取って結局はそれかよ!?」
思いも寄らぬ強硬手段に、小男は焦った。
このままでは埒が開かないと壁に手を触れながら角を曲がり、再び路地裏へ身を潜めようとするが、小男を不運が襲った。
逃げ込んだ路地は真逆の行き止まりだったのである。右左前方、何処を見ても白い壁が聳え立つばかり。
「あぁ!行き止まりだん!どうしよう!!!」
小男は壁に手を着き、壮絶に狼狽えた。
そのままマゴマゴしていると、ザッと路地にブーツが一斉に地面を踏み締める音が響く。小男はゆっくりと背後を向き直った。
そこには今まで小男を追い回していた男達がいた。だがその表情は先ほど迄態とらしく浮かべていた青臭い物では無く、正真正銘外道の面であった。
「ハハハ、色々囀ってくれたが…もはやココまでだな?」
リーダー格の男はそう言うと、大見得を切って手を前方に差し出した。
その途端、手の平から大袈裟な魔方陣が発生し、その周りを沢山の火の玉が彩る。
「君のような悪人はこの世にいた所で役に立ちはしない!ここで天誅を下してくれる!!」
誇るように、リーダー格の男は叫んだ。
だが小男は、その場にいた男全員が思いもよらぬ反応をしめした。
天誅という言葉を聞いた瞬間、浮かべていた必死の形相を瞬時に消し、途轍もなく不機嫌な顔をしたのである。
「……悪ねえ…、自分達が聞くに堪えない物が悪たぁ…随分な正義の味方もいたモンだな。」
その表情に気圧されながらも、リーダー格は負けじと声を張り上げた。
「何とでも言え!貴様はここで骨すら残らず燃え尽きるのだからな!貴様の安否を気にする人間等何処にもいまい。
追い詰められたからってヤケクソで物を言ってんじゃねーよ!オッサン!!」
黙ってそれを聞く小男。
しばらくの沈黙の後、意地悪な笑顔を作りながら小男は声を張り上げた。
「誰が追い詰めたって?詰んでるのはテメエらだよ!弩阿呆共!!!」
小男はそう言って、指を鳴らした。その瞬間、静寂に包まれた路地裏に突如轟音が響いた。
騎士団≠フ連中の両脇に聳え立っていた壁が盛大に崩れだしたのである。
「ぁ…ァア!!…ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
突然の出来事に慌てふためく男達。逃げる暇など在りはしなかった。
男達は抗う術も無く忽ち生き埋めとなってしまった。
一瞬早く気付き、子分を見捨てて逃げようとしたリーダー格も、部下を自力で押しのける事が出来ず一緒に瓦礫に巻き込まれていった。
もうもうと砂煙が立ち、ピシッと音を立てながらコンクリートの欠片がアスファルトの地面を跳ねる。
苦しげに瓦礫の山から顔を出すリーダー格の男。全身の骨が砕け、苦しげに呻き声を上げながらも小男に向かい怒鳴った。
「何だ!?何だってんだよお前!!悪は除かれるんだよ!正義が悪に負ける筈が無いんだよ!!!」
餓鬼の様に錯乱し、世迷い事を抜かすリーダー格。
その反省無しの態度に小男は機嫌を損ね、足下に転がって来た鉄芯を握り、リーダー格の頬へ向かいフルスイングした。
「おぎゃおおあああ!!!」
端麗な顔立ちが忽ち醜い馬鈴薯の様にメコリッと変形する。リーダー格は漸く大人しくなり、怯えた瞳で小男を見た。
其処には先ほどまで見せていた何処か飄々とした雰囲気は、無かった。
其処に佇んでいたのは、一人の修羅だった。
修羅は、一言一言噛み締めるように口を開く。それは途轍もなく憎悪に充ち満ちた物だった。
「貴様先ほど天誅だと言ったが……それは何よりも神を侮辱する言葉だ!!」
そう言って再び鉄芯を振るう、今度は綺麗に顔面へと向かい、鼻を躊躇無く潰した。
「ピギャアアアアおおああああ!!!」
まさに豚の様な悲鳴を上げる正義の味方。
その姿をしばしの間修羅は見ていたが、やがて飽きたのか、吐き捨てる様に怒鳴りつけた。
「俺は神に愛されし男!!昼間°M様等が俺を殺すと決めたその時から!!テメエらの敗北は既に決まってたんだよ!間抜け共!!」
小男はそう言って、踏みしているアスファルトに軽く触れ、その後指を鳴らした。
その瞬間、男達を生き埋めにしている瓦礫を乗せていたアスファルトが陥没し、墜ちて行く。
「ギャアアアアア!!!」
見苦しい断末魔を上げながら、偽善者達は深淵へと姿を消した。
「じゃあな自称性技の味方共……。」
その姿を見届けながら、小男はボソリと呟いた。そして振り返る事無く路地裏を這い出る小男。
その小男を迎えたのは、昇ったばかりの暖かい朝日だった。
それと共に小男の視界へと凄まじい数の情報が流れ込んで来る。
その大多数の下らない情報を反吐が出るとばかりに睨み付けながら小男は呟いた。
「…また腐った世の明けが始まる……か。」
そう言って男は、別の路地へと姿を消した
投下完了、以下キャラ設定です。
神山益太郎
(設定)
男盛り三十路前半の小男
どこの組織にも属せず、自分の好きなように生きている一匹狼。
働く事は無く、ヤクザや自分の気に入らない奴の貯金を勝手引き出して遊び暮らす最低野郎。
服のセンスは皆無、味覚もメチャクチャ、口が達者で名誉に弱い。勿論普通の人には白い眼で見られ、警察には不審者として追い回される始末。
だが、やたら動物や子供に好かれる男でもある。
外見も態度も飄々としているが、心の中は人間に対する不信、諦め、絶望に溢れている。
ただし、真面目に生きようと努めている者や性根が腐ってない奴や女(外道を除く)にはちょっかいを出さない主義。
趣味は嫌いな奴(主に外道や偽善者の部類)の社会的抹殺。
《昼の能力》
名称 … (読神)
(無意識発動性)
(能力説明)
視界に入った物全てのメタな情報を自分の意思に関わらず強制的に閲覧させられる能力。
視ることが出来るのは隣の気になるあの子の下着から寿命、はたまた自然現象から国家機密までと何でもあり。
また、その脳内に引き出したデータを電子媒体に保存する事も可能。
しかしそれを実行した場合、日没まで昏睡というペナルティが課せられる。
口答で応えるのには影響なし。
射程距離は視界内全て。
《夜の能力》
名称 … (触神)
(意識発動性)
(能力説明)
この世に存在するあらゆる物体のメタな情報を改竄する事が出来る。
無機物及び自然現象に対しては一定のルール以内ならばペナルティ無しで改竄可能。ただしそのルールを逸脱した場合、強制的に昏睡状態へと移行する。
ルール.1 改竄する物を丸々別の物に換える事は出来ない。
ルール.2 改竄を試みた物体を消滅させる事は出来ない。
ルール.3 改竄した物へ意思を持たせる事は出来ない。
生命体に対しては、改竄無しでその命が後々の世までに与える筈だった影響に比例してスタミナと精神を削られる。
射程は自らの手が届く範囲のみ。
しかし一度身体が触れさえした物ならば夜が明けるまでの間、好きなときに改竄する事が出来る様になる。
別のスレへの投下は初めてなので緊張しましたが、何とか上げる事が出来てホッとしています。
少々短いのはお許しください。
ぬおっ…こりゃまた変わったオッサン来たなー
能力が難しいけど使いこなせば無限の可能性がありそうだ
430 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/03(土) 01:44:49 ID:E6iP60vw
また恐ろしい奴が…
今後にも期待
チート級の能力じゃねーかwww
大丈夫俺もチート級能力いっぱい考えてるからw
433 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 00:05:39 ID:rOz6mMmI
434 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:07:22 ID:rOz6mMmI
第五話
月野は拳に力を溜める。するとそこからみるみる炎が上がってきた。
拳を振ると、最初の一撃よりも大きな火の玉が西堂に向かって飛んでゆく。
しかし西堂は何のモーションも取らない。
当たる! そう確信した瞬間、いきなり巨大な氷の壁が間に立ちはだかった。
「ぬるいぬるい。」
「こんなものっ!」
西堂の挑発に乗る月野。壁の目の前まで距離をつめ、掌を広げる。
すると途端に壁は炎上、跡形もなく消え去った。
「ふーん、ちょっとはやるようやないか。」
西堂は嬉しそうに口角をつりあげる。
「じゃあこれはどうや?」
手の中に氷の塊を発生させて握り締め、腕を体の横に伸ばす。
すると西堂の手の中からつららのように氷が伸びてきた。
手ごろな大きさになったところでそれを一振り。
氷の剣の完成であった。……と同時に無粋にも炎が剣を襲う。
「何よ、さっきの壁のほうがよっぽど凄いじゃない。」
月野は不意打ちを食らわせて満足のようだ。
しかし、炎が引いたとき、氷の剣が無事なのを月野は目撃した。
「な、なんで……?」
「甘いなあ。これくらいの大きさやったら、融ける瞬間に凍らせてずっと維持できるんや。」
ここまでずっとペースは西堂に握られたまま。
月野は西堂から距離をとった。
構える彼女の顔にもはや余裕は無く、汗がうっすらとにじみ出てくる。
牽制の時間、約一秒。
先に動いたのは西堂だ。
背筋の凍るような不気味な笑顔で氷の剣を振りかざす。
「くっ……!」
月野は火力を指先の一点に集中させる。
そうしてる間に西堂は月野に接近、攻撃のために剣を持った手を上げる。
その瞬間、顔面がノーマークになる。今だ!
ヒュン! そんな音がして高速の火の玉が西堂の頬を掠めた。
「ちっ!」
頬を押さえて一歩退く西堂。
よし、追撃だ。しかしそう月野が思ったのも束の間。
「しまった!」
足が動かない。慌てて下を向くと足首から下が氷に覆われていた。これでは距離を取れない。
ならばさっき効いた攻撃だ。指先に力を溜め、撃つ。
だが、その攻撃はなぜか西堂からそれてゆく。
なぜ? ちゃんと狙ったのに。
「一度食らった攻撃は二度と受けん!」
実は西堂は周りの空気をごく少量だけ凍らせてその氷の粒で軌道をそらせていたのだ。
月野は焦る。まずい、剣が来る!
435 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:08:03 ID:rOz6mMmI
衛のアパートの前で激しい戦いが行われているちょうどその頃、輪は夜の街にいた。
目的はかれんの食料を探すこと。しかも継続的に、かなりの量が必要らしい。
「買う」という選択肢は、社会人ならともかく、大学生である衛たちには経済的に苦しい。
そこで彼らは他人の能力を使って工面できないかと考え始めた。
しかし、能力について尋ね回るという行為は結構危険である。
どこかの組織の諜報部員と勘違いされて攻撃されるなんてことも冗談ではないのだ。
輪がこの役に選ばれた理由はまさにそこにある。
“攻撃されない相手”ならばいくら質問をぶつけても安全だ。
では、その“攻撃されない相手”というのはどこにいるのか。
この世界であってこの世界ではない場所に彼らはいる。彼らは決して世界に干渉することはできず、あても無くさまよっている。
彼らは何者か。彼らは未練の塊なのだ。そう、彼らは「幽霊」と呼ばれるものだ。
輪の夜の能力、それは、彼らの姿を見、声を聞くことのできる能力。
弟の死をきっかけに目覚めた能力であった。
輪は、最初に見かけた外国人と思われる中年男性の幽霊に話しかけた。
「すみません、話を聞かせてもらえませんか?」
男は辺りを見渡して、誰もいないことを確認する。
『まさか、俺に話しかけているのか?』
意外にも流暢な日本語が返ってきた。
「ええ、あなたのような人が見える能力なんです。」
『そうか。君は……?』
「輪、川端輪です。」
『よろしく、リン。私はパウロ・アンダーソンだ。この国では妻の姓の薙澤を名乗っていた。』
日本語が上手なのはそういう理由だったのか、と輪は納得。
『それで、俺に何の用だ?』
「はい、実はある能力を持つ人を探してまして……。」
「おい、貴様、“何”と話している。」
唐突に横から話し掛けられた。
声の主は、ロングコートを中心に全身白で固めた衣装の、中学生くらいの少年であった。
「さては悪魔だな!」
「失礼ね、ただの亡くなった……あっ!」
輪は慌てて口を手で押さえる。幽霊は当然自分以外には見えないのだ。不審がられても仕方が無い。
少年は見定めるように輪をにらんでいる。
そのとき、ある看板が目に入った。
「ほ、ほら、そこに能力鑑定屋があるから、行きましょ。」
かくして輪と少年は鑑定屋の建物に入ることになった。
436 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:09:18 ID:rOz6mMmI
数分後、建物から出てきた二人の様子にパウロは驚く。
「すみませんでした、神!」
「ははは……。」
やたらと腰の低くなった少年に苦笑いで答える輪。
話をまとめるとこうだ。
少年――刹那と名乗った――は、自分を神の使者だと思い込んでいる。
そして死者と会話できる輪のことを「神」と呼びだしたのだ。
加えて、刹那はどうやら相手を太らせるという能力を持っているらしい。
そこでかれんの栄養補給に協力してもらえることになった。
(それにしても……。)
既に輪は別のことを考えていた。
自分の昼の能力のこと。先ほどの鑑定結果は「不明」だった。
どんな能力か、いつ目覚めるのか。考えても答えが出ないことをそれでも考えてしまう。
(……まあ、その時になれば分かるよね。)
しばらくして、思考を一段落させた輪は、今の目的を思い出す。
「そうだ、連絡先交換しておかないと。」
「は! 神の仰せとあらば!」
もはや呆れるのにも疲れてきて、輪は表情を変えずに携帯電話を取り出す。
アドレスを交換する操作をしている間に、パウロが話しかけてきた。
『リン、ひとつ頼まれてくれないか。』
「ん?」
『もし娘に……アイリンに会うことがあったら伝えてほしいんだ。』
「何をですか?」
『曲だ。楽器も能力も使えなくなってしまった俺だが、娘のために作った。』
「えっと、ちょっと待ってくださいね。」
刹那の携帯電話との通信を終えた輪は、バッグからノートとペンを取り出し、五本の平行線を引いてゆく。
準備ができたのを見計らって、パウロは自作の曲を口ずさみはじめた。
輪が楽譜に写し取れるよう、ゆっくりと。
とても優しい歌だった。まるで子守唄のようなジャズ・ナンバー。
その最後のワンフレーズを聞き終えると、輪は確認の意味もこめて復唱する。
二度と世に出ることはなかったはずの曲が、この世界の大気を震わせている。
輪が歌い終わった後には自然と拍手を送る刹那がいた。
『ありがとう。』
パウロは満ち足りた表情をしてそう言った。
『後は君に託そう。俺はもう、妻の所へ行くよ。』
そして、輪の視界からパウロの姿がだんだんと薄くなって、消えていった。
437 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:09:58 ID:rOz6mMmI
場面は衛のアパート前に戻る。
「ええ所で邪魔してくれたなぁ、東堂衛!」
月野が目を開けると、自分をかばうように立つ衛の姿があった。
「僕のために戦わせて、怪我させるわけにはいかないだろ。」
「その心意気は立派やけどな、あんたは俺の能力に手も足も出んから助っ人を呼んだ。ちゃうか?」
衛は、冷気と、体の動かしにくさを感じた。だが、時既に遅し。
「そこでおとなしく見学しとれ!」
衛の体は一瞬で巨大な氷に覆われた。
再び月野と西堂が対峙する格好になる。
しかしその時。
「ヤッチー、先に衛を解放しろ!」
幸広が叫んだ。
「あんた……いままでどこにいたの。」
「隠れてた。」
「……まあいいや。それより、火点けて大丈夫なの?」
「夜のあいつは氷漬けにされようが大火事に遭おうがなんてことねぇよ。」
「なるほど、おっけー。」
飛んでくるツララをひょいひょいかわして、衛を覆う氷塊を殴りつける。
衛は復活早々に指示を出した。
「僕が奴を押さえつけるから、そこに一発お願い。」
「いえっさー!」
月野は十本の指からそれぞれ炎を立ち上らせる。
衛が走り出した。月野はその後ろを追って援護射撃に徹する。
西堂は大きい攻撃は出せない。月野にすぐ融かされるからだ。
かといって細かい攻撃を浴びせても衛には効果が無いようだ。
「ほんなら……!」
衛の足だけを凍らせた。
そこで月野がいきなり単独行動に出る。炎をまとって西堂に殴りかかったのだ。
しかしそれは西堂の集中を緩めるため。
もう一方の手から衛の足に向けて炎の弾を発射すると、衛の足の氷は砕けた。
月野はそのまま畳み掛けるように拳をぶつけてゆく。
月野の二かたまりのお下げが右へ左へ揺れる。
小さいが分厚い氷の壁を瞬時に作り出しそれをガードする西堂。
そうしているうちに、西堂は、後ろから両肩を掴まれる。
「しまった!」
月野の攻撃の激しさに、衛への対処を忘れていた。
「今だ!」
「よーしっ!」
爆発のような炎が、近所一帯をフラッシュのように一瞬だけ明るく照らした。
438 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:10:42 ID:rOz6mMmI
「うわー、ひでぇ……。」
丸焦げの西堂を眺めながら幸広がつぶやいた。
「これでも一応死なないようには手加減したんだよ?」
幸広と衛は笑うしかなかった。
「さて、どうする、衛? 警察にでも突き出すか?」
「いや、さすがにこれ突き出したら逆にこっちが逮捕されかねないでしょ。」
「あー……そうだな。」
幸広はチラッと月野を見る。
月野は頭の後ろで手を組んで、鼻歌なんかを歌っている。
「ま、この大やけどじゃあしばらくは襲ってこれないだろうから、放置でいいんじゃない?」
「放置!?」
衛も酷いことを言うなぁと思いながらも、別に救急車を呼んでやる義理も無いので、幸広はもう何も言わないことにした。
「ん、これ何だ?」
ふと、西堂の体の横に転がっているカプセル状のものに目が留まる。
衛がそれを手に取って、目に付いたボタンを押した瞬間、まばゆい光を衛が包み、衛は真っ白な空間に着地した。
出口はどこだろう、と思っていると、再び光に包まれ、もとの場所に戻っていた。
「今のは何だったんだ。」
衛が首をかしげる一方、残りの二人は驚きの表情だ。
「衛、大丈夫か?」
「だから何が?」
「お前はその中に吸い込まれてたんだ。」
そう言って幸広はカプセルを指差す。
それを聞いて衛はあることに納得した。
「なるほど、これがかれんを誘拐する方法か。」
そしてポケットにそのカプセルを突っ込んで、意識の無いだろう西堂に向けて言った。
「これは没収な。」
「じゃあ、二人とも、今日はありがとう。」
「俺は何もしてないけどな。」
「また何かあったら呼んでね。」
こうして、春のとある一日が幕を閉じた。
つづく
439 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:11:27 ID:rOz6mMmI
【アイテム紹介】
謎のカプセル
どこかの能力者が作った、物や生き物を大きさや重さにかかわらず自由に収納できるカプセル。
ぶっちゃけポケモンのモンスターボールみたいなもの。
440 :
◆KazZxBP5Rc :2010/07/04(日) 00:13:40 ID:rOz6mMmI
以上です
ヤッチーとパウロさんありがとうございました
次回からしばらく日常編
まさかのパウロさんwww
これは読み応えある熱い能力バトルでした
パウロもまさかだが、刹那太志もまさかの再登場w
今後絡んでくるんだろうか
443 :
代理投下:2010/07/04(日) 14:04:44 ID:Q9hAOC6F
無機質な廊下に音が響く。
それは二人の足音。一人はまだ若い。外見だけなら10代後半と言っても通じそうな青年だった。
黒髪を短く切りそろえ、全体的にがっちりとした体格は溌剌とした雰囲気を纏っている。
その青年は、隣で歩く男に顔だけを向ける。。
「本当に私でいいのですか? 4班の新しい隊長に?」
話しかけられた男は40台、白髪混じりの黒髪。ひげを薄くはやし、歴戦の猛者を思わせる風格の男。
その男はその風格に似合わず優しい笑みを浮かべる。
「ええ、もちろんですとも、ザイヤ。バフ課は実力主義ですから。年齢なんて関係ありません。
他の隊長格や、上にも許可が下りましたし、なにより我々4班がそれを望んでいます」
答えにザイヤと呼ばれた男は、口元を引き締める。
「それは、私が父の息子であるからですか? エンツァ」
その問いにエンツァと呼ばれた40代の古株の男はすぐに首を横に振った。
「いいえ。もし、ザイヤがラレンツァの息子であるだけなら、むしろバフ課から遠ざけたでしょう。
ザイヤ、君には隊長としての資質がある。少なくとも私はそう見ているのです」
その答えにザイヤは初めて口を軽く曲げた。それは緊張を緩めるときのザイヤの癖。
「なら、その期待に私は答えなくてはならないですね」
エンツァは軽く笑いながら、ザイヤの肩に手を掛ける。
「ええ、そうです。とはいえ、今は隊長といっても仮免みたいなものです。気楽にやるのがよろしかろうと」
「まったく、その通りだな。外部から隊長付きのお目付け役を派遣されるとは思わなかった。
普通、こういう事はないのだろう?」
ザイヤの疑問にエンツァは首を縦に振る。
「ええ、あくまでこれは例外事項です。ですがそれも仕方ないでしょう。
始めての仕事がラレンツァ、君の父を殺した女性の捕獲、もしくは殺害なのですから」
「……そうだな」
そして二人は立ち止まる。二人の前には一枚の扉が立ちふさがっていた。
「ま、それは好機と捉えよう。ここで成果を上げられれば周りもある程度認めるだろう。
……さて、そのお目付け役がどんな人か、楽しみだ」
そうザイヤは軽口を叩くと、会議室への扉をノックし、ゆっくりと開けた。
+ + +
+ + +
「あー、幸せねぇ。このチョコレートパフェ最高よねぇ」
程良い甘みのクリームにチョコレートの苦みがちょうどいい刺激になる。
フルーツもオレンジやストロベリー、メロン等々、大量に盛りつけられ、
その女性、狭霧アヤメは一口ごとに感動の声を出しながらも黙々と食べていた。
ここは、ごく普通のデパートの中にあるレストラン。
癒し系なウェイトレスさんが極一部で有名な店であった。
そんなレストランで、ゆっくりデザートを頬張りつつアヤメは何をするでもなく時間を潰す。
ふと視線をデザートからずらすと、オヤジが一人「ごちそう様」と言いながら出ていくのが見えた。
「んー。あのオヤジはアレの存在に気付いたのかしらねぇ」
アヤメはポツリと呟きながら、メロンを一口。
ジュワっと広がる甘みを堪能しながらゆっくり過ごす。
「んー、そうするとあのキメラみたいなのも動くの時間の問題かしらねぇ」
ここでこれから起きる惨劇、それを把握しながらも、アヤメはただ、ゆっくりと食事をする。
今度はオレンジを一口。
「あー、おいしー。このお店はまだまだ続けて欲しいわよねぇ。私のために」
そう、呟きながら、アヤメはデザートを堪能していた。
+ + +
+ + +
「失礼します」
一言断ってから会議室へと入る。
そこには一人の少年が座っていた。
年は10歳位だろうか。机の上で両脚をブラブラさせながら座っていた。
目の前の少年の姿に二人は一瞬立ち止まる。
しかし、ザイヤは一呼吸を置くと、少年に向けて語り掛けた。
「……失礼、あなたが加藤陸さんですね。始めまして、私は4班の隊長の就任したザイヤです」
ザイヤの礼儀正しい動作に少年は不思議そうな顔を浮かべる。
「……?」
本当によくわかってない顔をする少年。しかしザイヤは動揺しない。
「一応、私を試しているのでしょう? そこまでの敵意を先ほどからぶつけられては、いくら私でも気づきます」
「……なるほどなるほど」
少年は不思議そうな顔から一転、意地悪そうな顔つきになり、笑った。
その笑顔は外見相応の無邪気な笑顔に見えるが、ザイヤには裏に隠れた何かに思わず身構える。
だが、少年はザイヤの挙動に一切気付かないようにふるまった。
「はははっ。それだけ分かれば十分合格さ。これから2週間、君の補佐をすることになった加藤陸だ。
ピーターパンと呼んでくれても構わないぞ」
そして、陸はとんっと机から跳び下りると、ザイヤに近づく。
ザイヤの方も警戒を解き、頷くと、右手を差し出した。
「分かりました、陸さん。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。この仕事で俺のような零細企業にはかなりの高額の金が振り込まれる予定だからな。
こちらとしても助かるよ。社員4人……あ、一人はバイトみたいなものだから3人か。
これで食いっぱぐれないですむ」
そう言って、陸もザイヤの手を握り返した。
「さて、ではさっそくミーティングを始めましょう」
エンツァは何事もなかったかの様に、そう言いながら会議室にある黒板に向かう。
エンツァ自身は陸とはすでに知り合いだった。故に、特に驚きもせず黒板へと文字を書き込む。
「今回の目標は狭霧アヤメの捕獲、捕獲不可能な場合は殺害です。
しかも条件があり、夜限定で行動し、昼は捕獲に動いてはならないとか」
エンツァはそう言いながら、書き出していく。
ザイヤは頷き、話し始める。
「私が独自に調べて所では、政府や、他の権力者から圧力がかかっている事がわかりました。
昼は戦ってはならないと。……これはどういうことでしょうか」
あくまで昼のみ戦闘禁止。夜なら殺害の許可すら下りる。その矛盾についてザイヤは疑問に思う。
「さて、そこら辺は私にもさっぱりで。能力もいまだに分からない強力な夜の能力を有する相手に夜限定とは。
昼の方が与しやすい相手かもしれぬのに」
エンツァもその事は疑問に思っていたが、答えは見いだせなかったようだった。
しかしその時、最後の一人が口を開く。
「ああ、それなら、狭霧アヤメの経歴をたどれば分かるだろう。
……これだ、ザイヤ読んでみろ。おっと、それを読んだらすぐ燃やせよな。一応機密文書だ」
そう言って、陸は紙束を放りだす。ザイヤは何気なく受けとり、目に入った一文で全てを悟る。
"彼女の昼の能力――発現当時、単純に『死者蘇生能力』と言われ、現時点では『闇の軍勢』と呼ばれる能力は、
彼女が10代半ばの時、多くの権力者の怪我や病気を直し、そして命を救った。
だが、一方で後に判明したその能力の副作用により、彼女の能力は強大になりすぎた。
故に、昼に彼女を攻撃することはできない。戦闘の結果により政局が混乱する可能性がある"
+ + +
+ + +
狭霧アヤメは鼻歌を歌いながら次の料理を待っている。
たのんだ料理はただのラーメン。パフェの後に頼んでる辺り彼女の感性がどうなっているか微妙である。
そんな彼女はしばらく雑誌を読みながら待っていたが、何気ない動作で立ちあがり、扉の方へ近づいていく。
その様子を見てお店のウェイトレスである春日居美柑は、不思議そうに視線だけで女性の姿を追った。
扉まであと一歩の距離でアヤメが立ち止まる。
瞬間――扉のガラスが甲高い音をがなり立てながら割れ、外から何かが跳びこんできた。
大型犬タイプのキメラが五体、皮膚は爛れ、赤黒い筋肉を空気にさらしながら、しかしその動きは動物として見ても、
異常なほどの速さと筋力を持っている。
その物体が入った瞬間、店の中がパニックになる。
大声を上げながら逃げだそうとする男性。
厨房の方に逃げようとする女性。
ただ、それを見た瞬間固まったかのように動けなくなったウェイトレス、美柑の姿もある。
だが、アヤメは周りの状況を気にしない。一瞬の躊躇もなく軍用ナイフを抜き放つ。
「なるほど、稼働時間を犠牲するかわりに動作性能を上げたタイプねぇ。
どっかの戦争好きにでも売込むのかしらねぇ。こういうのは」
あまり興味なさそうに呟くアヤメ。
そのアヤメにキメラのうち一匹が狙いを定めると一気に跳びかかる。
残像が残るような速さ。だが目標地点にはアヤメの姿はなく、
"空中に"置かれるように軍用ナイフがそこに固定されている。
キメラは自らの速さでナイフに激突し、口から体をナイフが通りぬけ、文字通り二枚に割断された。
「まずは一匹目……と」
周りでは店の客にめがけ、他のキメラが跳びかかっている。
慌てて逃げる客達、男が一人キメラに捕まり、右腕は半ばまでなくなり、左足も血だらけのまま転がった。
「ぎゃあああぁあぁああああ!!!!」
男の悲鳴が響き渡る。その声に反応したのは美柑だった。すぐに男性近づき、その傷を抑えようをする。
しかし、そんな程度では到底止血できるわけもなく、彼女の服にも血が付着し赤く染めていく。
「しっかり! しっかりしてください!!」
だが、男は我を失い暴れる。余計に出血が増していく。
その様子をアヤメはみて、不快そうに鼻を鳴らす。
「むー、うるさいわねぇ」
そして、アヤメはナイフを取り出すと、あっさり男の心臓に突き立てた。
一瞬で絶命する男を目の前に茫然とする美柑。
しかし、アヤメは茫然とする美柑の事など気にすることもなく、残りのキメラを見る。
「ひーふーみー、面倒ねぇ。一気にやっちゃうかなぁ」
そして、パチンと音がなる。キメラの頭上から一つずつ、ある物体が現れた。
それは鉄の塊だった。人間では到底持ちあげられない重量物。
運動場の整地に使うその重量物――コンダラが一瞬にして創られる。
キメラを覆うほどの大きさのコンダラは出現した瞬間落下した。
その重量を持って一気にキメラを押しつぶす。反応できなかった四匹はあっさり潰れて見えなくなった。
「これで終わりっと。やっぱこの程度では歯ごたえないわねぇ
……あ、リンクが切れた。この能力結構気に入ってたんだけどねぇ。死んじゃったらしょうがないか」
そう言いながらアヤメは再び席につく。
そして、男の血にまみれ、赤黒い服になってしまっている美柑の方を向いた。
「料理まだ?」
「……え、えっと」
余りにも自然体なアヤメに美柑は声を出せない。
むせ返る様な血の臭いのなか、異常な状況に頭が追いついていかない。
そして、傍にいる、死んだはずの男の方に目をやると、そこには不思議そうに自らの体を見回す男性がいた。
完全に修復されている。どこにも傷一つなく生きている。
「料理ー」
「は、はい! 分かりました!」
美柑は混乱する頭のまま、厨房へと入って行った。
とりあえず動くことにした。それ以外は考えないようにして。
アヤメはそれを確認すると、今度は外に目を向ける。
「あ、バフ課も来ているみたいねぇ。今、バフ課と戦ってもいいけど、それよりラーメンの方が大事だものねぇ」
そう呟くと、アヤメは雑誌を取り出し、読む態勢になった。
今、彼女はこれ以上自分から動くつもりはない。
ただ、料理ができるのを待っていた。
+ + +
+ + +
「『闇の軍勢』……ですか。死者蘇生でも驚きですが、なぜ呼び方を変える必要があるのですか?」
ザイヤの質問に陸は頷く。
「問題点は二つ、一つは生き返った人間に対し、彼女は命令することができる。その命令は絶対だ。
二つ目、生き返った人間の昼の能力を借りて、まるで自分の能力のように使用することができる。
これでわかるだろう。昼に行動を起こせない理由が」
陸の言葉にザイヤは頷く。
「そうですね。これでは政府高官が昼の間、人質に取られているのと同じです。
また、生き返った人間は昼間戦闘になり、自分の能力を使われることを恐れている。
能力発動主体はあくまで能力を持つ側、故にリバウンドで死ぬ可能性があると言うことですね」
「そういうことだ。だから、私たちが行動するときも、行動の基本は夜になる。いいな」
「わかりました。ではそのように行動しましょう」
そう言って、ザイヤは狭霧アヤメに関するレポートを燃やしていく。
「ではこれからよろしく。狭霧アヤメの捕獲を最優先に行動します」
――あくまで"捕獲"。決して父の復讐には走らない。そのザイヤの宣言は一種の決意表明でもあった。
投下終了です。このSSは作者が厨二病(末期)でお送りしています。
"臆病者は、静かに願う"に勝手に微リンク気味、直接はこっちで絡んでないけど。
問題あればパラレルってことで許して下さい。
そういえばそろそろタイトルをつけた方がいいのかなぁ
以下追加設定です。
狭霧アヤメ
昼の能力
【闇の軍勢】
【無意識性】
アヤメが直接殺した人間を生き返らせる能力。完全自動発動。
昼の間はアヤメが人間を殺そうと思っても殺せません。生き返るから。
その効果は、どんな大けがでも治した状態で復活、また病気も治癒した状態で復活する。
復活までが能力なので、夜になっても復活した人間が死ぬことはない。
また、付属効果が二点存在する。
・生き返った人間はアヤメの"命令"に絶対服従。効果は昼のみ。夜まで効果は続かない。
ただし、アヤメがこの効果を意識して使用したことは今の所ない。
・生き返った人間の能力を借りて、他人の昼の能力を自分の能力のように使用できる。
無意識性の能力は使用不可、使用する際には通常の発動より時間がかかる。
また、一回に発動できるのは一種類のみ。
なお、今回使ったコンダラを創造する能力は、今回の能力発動の代償により能力者が死んだため、以降使用できません。
ザイヤ
バフ課4班の隊長に就任した青年。死んだラレンツアの息子でもある。
昼の能力
不明
夜の能力
不明
452 :
代理投下:2010/07/04(日) 14:18:49 ID:Q9hAOC6F
以上代行でした
454 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:22:23 ID:rOz6mMmI
ラレンツアの息子とかピーターパン再登場とかすごい盛り上げてくれそう
アヤメさん昼もまた恐ろしい能力を…
昨日のしぇあらじ聴いてたからコンダラで不覚にもwww
微リンクは「あのオヤジ」がドクトルということか!
こういう同時刻のすれ違いみたいなのもwktkするな
彼は、シルスクはどんな能力を持っているのだろうか。そう思っていた。
その能力は相当に強力なものなんだろうな。勝手ながらそこまで想像していた。
だから今私の眼前に広がる光景は、まったくもって予想の範疇を越えに越えていた。
「しかしこいつさっきから観察してりゃあ、どうも突進するしか能がないらしいな。失敗作なのかもし
れんが、いずれにしても知能は初期型キメラ以下だな」
余裕さえ感じるそのセリフを放つシルスクの手には、左右一本ずつダガーが握られている。
だがそれだけなのだ。何がって、彼の武器が。彼は能力を発動させる素振りは欠片も見せず、ただ二
本のダガーのみで、あの悪魔を仕留めるつもりでいるらしい。
無謀じゃないか? という意見が私の中で当然上がったが、ガーゴイルの様子をつぶさに観察して、
その意見は一時保留することになった。
さっきガーゴイルの滞空高度が下がっているように感じたのは、やはり気のせいではなかった。
ガーゴイルの羽ばたきは、左右で安定しなくなっている。それに気付いて奴の翼を凝視してみると。
「……ナイフ、か? いつの間に?」
遠くて断定はできないが、その左翼にナイフらしきものが突き刺さっていた。しかも三本もだ。そん
なものがそんなところにあると思わない私は、思わず感嘆の声を上げてしまっていた。
言うまでもないが、私があいつの攻撃を受けた時は、ナイフなんて刺さっていなかった。無意識のう
ちに私にナイフ投げの神様が降臨したのでなければ、それができる人物は一人だけだ。
「ほらほら、自慢の突進見せてみろよ。どうせお前はそれしかできねえんだろ?」
現実に顕現した悪魔さえも挑発するように、だらけたポーズを見せるその人物。手にしたダガーをジャ
グリングしながら、ヒューッと口笛まで吹いてみせた。
知能の足りていないらしい悪魔がそのあからさまな挑発に乗ったのかどうかは定かでない。が、そう
としか思えないタイミングで
『グビャアアアアアアァアアァァアァァァアアァァァァアァァァァァアァァァ』
と耳を覆いたくなるような不快な咆哮を一つ上げ、その次の瞬間には――シルスクの頭上へと降って
きていた。
危ない! のあの字も出せなかった。そしてその必要すらなかった。ガーゴイルの急襲を、シルス
クは難なく回避していたのだ。さっきの私のような大袈裟な回避とは真逆の、最小かつ一分の無駄も
ない身のこなしで。
常人にできることではない。しかしあれが彼の能力によるものだとは、なぜか思えなかった。それ
は約十年間、能力についての研究に携わってきた者としての経験に基づく勘みたいなものだ。今の彼
は本当の意味で、生身の人間なのだ。
驚嘆すべき生身の青年は、態勢もそのままに反撃に出る。手近にある悪魔の左翼をダガーで切り裂く。
彼の狙いは私にもなんとなくわかった。だが、どうやらその当ては外れそうに見えた。
『グビャアアッ』
と醜く苦しげに叫び、ガーゴイルはまたすぐに飛び立とうとする。
左翼を集中して傷めることで、面倒な飛行能力を奪うこと。それがシルスクの狙いだったのだろう。
空中から突進して離脱、を繰り返すあいつが飛べなくなれば、後は彼の戦闘能力ならどうにでもなり
そうではある。
だが、その目論見もむなしく。左翼を切り裂かれながらも悪魔は態勢を整え、強く大地を蹴った。
まんまと己のフィールドへ逃げ去るガーゴイル。しかしシルスクはその背中を見送りながら――笑っ
ている。少なくとも、私にはそう見えた。
「やーれやれ。こいつはあんまり使いたくないんだがな。俺、高いところ苦手だし」
そう言って、通信機の隣に提げている何かを手に取る。見たところ拳銃のようだ。おい待て。彼、
さっき部下に火器の使用を禁じてた気がするんだが。
「必死で逃げる奴ほど追いかけたくなる。俺はそういう男なんだよ」
落ち着いた声でそう叫んで(なんか矛盾している気もするが)、その銃らしきものを飛翔する悪魔に向ける。
よく見ると拳銃にしては少し安っぽい気がした。その印象が正しかったことを証明したのは、一つには
気が抜けるような軽い発砲音。
そしてもう一つ。
「よし命中。まあ当然だけどな」
自信満々に言ったシルスクの体は、今完全に宙に浮いていた。手にした銃から悪魔に向けて打ちこ
まれた、一本のワイヤーに吊り上げられて。
私はもう笑いがこみ上げるのを隠せなかった。
空を飛ぶ醜悪な怪物と、それにワイヤーで追随するイケメンヒーロー。こんなシーンはハリウッド
のアクション映画くらいでしかあり得ないものだ。そんな光景が今現実として、目の前で繰り広げら
れているのだ。
笑いがおさまると次は、胸が熱くなった。ワイヤーを巻き取って一気にガーゴイルに迫るシルスク。
もはやワイヤーではなく、彼自身の腕で悪魔の脚をしかと捉えていた。
手に汗握る。ますます胸が熱くなる。それはまさに、若い時分にアクションヒーローに覚えたあの感覚。
「がんばれ」
彼はこんな言葉は必要としていないだろう。それでも今の私は、そう言いたくてしかたがなかった。
右に左に身をよじって暴れまくるガーゴイルだが、シルスクの体は安定しているように見えた。既
に脚を越え、胴体にがっちりしがみついている。
高度は実にビルの四、五階に相当する高さ。落ちればあまり見たくない光景が広がるだろう。だが
そんな危惧さえ野暮に思えるほど、彼の態勢は揺るがない。
さきほどの突進回避もそうだが、彼の身体能力は人間の限界値まで達しているんじゃないだろうか。
そうでもなければ足場もない空中で、あれだけ暴れる相手の体をよじ登るなんて芸当はできないと思う。
なんであれ、もはや勝敗は決している。背後から胴体にしがみついたシルスクからは、悪魔の後頭
部が丸見えのはずだ。ちょうど先刻、私が彼に組み伏せられた時のように。あの時と決定的に異なる
ことは――
私には振り下ろされなかった右手のダガーが、悪魔の首元へと突き立てられたことくらいだろう。
肉がアスファルトに叩きつけられる惨い音を伴って、首からダガーを生やした悪魔が落ちてくる。
その憐れな敗者の背中で衝撃を吸収するように美しく着地したのは、返り血にまみれたヒーロー。
彼の反応は予想できたが、それでも駆けよらずにいられなかった。
「おっおい、大丈夫なのか?」
「ん? なんだ、あんたまだいたのか。避難しろって言ったろ」
やっぱり言われてしまった。でも想像していたよりは高圧的でも、冷たく突き放す感じでもなかった。
「あんまり近づくな。まだこいつ、完全に死んじゃいないからな」
言い捨てて彼は、また通信機を手にした。私はまだピクピク動いている悪魔に気が行ってしまって、
彼が何を話していたかはまったくわからなかった。
「さて、と。さああんた。そろそろ本当に立ち去った方がいいぞ。でないといろいろ面倒をかけるこ
とになる」
さっきまでより低い声で、そして返り血で凄みを増した表情で私を見つめて、彼はそう言った。
私とて馬鹿ではない。彼がいわゆる『普通の』人間ではないことは、すでに十分すぎるほど理解して
いる。その彼が言う『面倒なこと』とは、やはり『普通の』面倒なことではないだろう。
別に長居をする理由もない。二点ほど心に引っ掛かっているものはあるが、聞いたところで教えて
もらえるはずもなく、その為にここに留まるほどのことでもない。
「そうだな。あばらと腰も痛むことだし、さっさと医者にでも行くことにするよ。助けてくれてあり
がとう、シルスクさん」
「だから助けたわけじゃないって。ああそれと、今日は週末だから医者は開いてないと思うぞ。湿布
でも貼って我慢しておきな」
別れ際の他愛ない言葉にもどこまでも冷静に、血まみれのダーティなヒーローはしっかり突っ込ん
でくれた。
つづく
投下終わりです
人気のあるキャラを書くのは緊張するな…
460 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 18:33:21 ID:rOz6mMmI
あぶないあぶない被るところだった
キャーシルスク隊長かっこいー!
2人のクールなやりとりが良いな
>>455 きゃーシルスクたいちょおーーー!!!
もう、たいちょの嫁になってもいい気がしてきた
ドクトルの視点もすごく感情移入できて(・∀・)イイ!!
>>444(避難所499)
陸くん登場! 待ってました過ぎる
バフ課とは違うし、ドグマ側(FOG側)というわけでもない……という
微妙な立ち位置が気になっていたのです!
(中小企業だからカネ次第でどっちにでも転ぶかな? とかww)
ってか、ラジオネタ拾いすぎ! もぅ、仕事が早いんだから☆
もっとやってくだちい
>>451 アヤメさん昼もチートだ。とどめさして蘇生ってハンパないな。
変態の再登場も熱いな。続きに期待。
>>459 隊長かっけええぇ! 無能力で最高の実力、いいねいいね。
ドクトルもクールでかっこいいよね。
wikiに設定まとめのページ作ったから、あわよくば追記してね(はぁと)
>>463 GJ!非常に助かる
思いつくキャラ等の設定量に比べて肝心のお話作りがなかなか進まないうえに作った設定の一割くらいしか
使えないもんだからすごいムラムラする
そういうときは使わなかった設定で単発ネタを作ればいいかもしれないのぜ
>>463 これはありがたい
しかし駅前のデパートにあるレストランまで項目立てされてるとはw
なんか最近目立ってたからw
確かに
でも営業続けられるか怪しいw
>>464 あるあるあるあr
考えたけど使い道がない設定とかムラムラしてしゃーない
どっかの厨二は大根より硬くて長いサトウキビなんかも普通に出せる
けど脳の栄養である糖分を大量に持ってかれるので、いまいち頭が働かなくなる欠点があり
奴の戦闘にとっては特に死活問題になるので出さないのだー
言っちゃった。ああスッキリ
そういう裏話良いよなww
>>469 あれは地味に読んでて食材やお菓子に詳しくなれるww
「学習まんが」的なアレだ(懐かしい……)
>>471 「殴ると痛い」とか「投げると刺さる」なんて知識をどうしろとwww
ほ、ほら、他にもあるじゃない!
「目に入ると失明するかもしれない」とか
474 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 22:33:46 ID:rpLQ3Whg
475 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/07(水) 22:35:05 ID:rpLQ3Whg
第六話
今日は土曜日。かれんとの家具防衛戦を終えた衛は、一週間分の疲れを癒すためぐっすり眠っていた。
昼前になって、その安眠を妨害する音が部屋の中に鳴り響く。
「衛さん、電話ですよ。」
「んー。」
寝ぼけた頭でかれんから電話を受け取る衛。
「もしもし。」
「おはよう、東堂君。」
相手はナオミだった。
「かれんを連れて、今すぐ駅前の時計広場に集合。分かったわね。」
要件だけ告げて一方的に電話を切られてしまった。
衛はため息をついて枕に顔をうずめる。
「何だったんですか?」
「ナオミ先生から、二人で来いって。」
そう言って衛はかれんが座っているのと逆の方向を向く。
今日と明日、陽が出てる間は家でごろごろするつもりだったのに。
気合を入れるため大きく一回深呼吸をしてから、衛は立ち上がった。
衛たちは集合場所のすぐそばにあるデパートのレストランで昼食をとることにした。
ちょうどこの時間帯、店は混んでいて、従業員が忙しそうに動き回っている。
そんな中でも、例えば衛にカレーを運んできた眼鏡のウェイトレスはにこにこと素敵な笑顔を浮かべている。
接客業も大変だ。
衛は水を一口含んでからナオミに尋ねる。
「で、何の用ですか?」
「無いんでしょ、かれんの服。」
大きなカニのハサミを生やしたコロッケを乗せたスパゲティをくるくる巻きながらナオミは答えた。
「あー……。」
衛はすっかり忘れていたが、かれんは現在、衛と初めて会ったときに着ていたボロボロの服と、ナオミに譲ってもらった数着しか持っていない。
服が無いというのは女の子としてはなかなか辛いことなのかもしれない。
「ごめん、かれん。気づかなくて。」
「いえ、私は……。」
「かれん、遠慮しちゃ駄目よ。」
ナオミは一息置いて言葉を付け加える。
「食後のパフェもね。」
テーブルの端に置いてあるメニュースタンドをチラチラと見ていたかれんは、ナオミに見抜かれ、赤くなってうつむくのであった。
476 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/07(水) 22:35:53 ID:rpLQ3Whg
「ここよ。」
「ここ?」
「ええ、ここ。」
食事を終えた衛たちは、同じデパートの中にある、ナオミの顔なじみであるというファッションショップに案内された。
しかしその中を見た衛は開いた口が塞がらなかった。
なにしろ、そこに並んでいたのは、膝くらいまで丈のありそうな真っ白なTシャツだけであったからだ。
「こんな店でどうしろと……。」
衛が呆然とするも無理はない。
そこにカウンターから声が上がった。
「あれ、ナオミちゃん?」
「久しぶりね。」
ナオミはカウンターの女性のところへ駆け寄る。
「紹介するわ。彼女がここの店主、服部結衣よ。」
結衣は「カッコいい」という形容詞がよく似合う外見の女性だった。
彼女にそそのかされるまま、かれんは試着室に入れられる。
試着室のカーテンが再び開いたとき、かれんは例のTシャツ一枚の姿だった。
それを見た結衣は顎に手を当ててなにやら思考しているようだ。
「うーん、じゃあこんなのはどうかな。」
つぶやいてかれんの肩をぽんと叩く。
すると驚くことにそこにいたのはさっきまでのかれんではなかった。
いや、かれんはかれんであり何も変わっていないのだが、彼女を包むものがまるっきり違うのだ。
かれんは花柄のワンピースにボレロといったコーディネートでそこに立っていた。
「これが彼女の昼の能力よ。」
ナオミの言葉の続きを結衣本人が引き受ける。
「衣装変換能力。人が着ている服を、触るだけで私の想像した服に変換できるの。
布でも革でもなんでもオーケー。鎧……はちょっと無理だけど、ボタンくらいなら金属も付けられる。
さらに……」
結衣はかれんのボレロをはぎ取ってこう続けた。
「一枚から複数にすることも可能。」
そしてさらに能力の説明からかれんの服の説明に移る。
「中は半袖になってるから、夏まで長く使えるよ。」
かれんと結衣が話している傍ら、ナオミはTシャツを次々と、十枚ほど手に取っていた。
衛が遠慮がちにナオミに尋ねる。
「先生、つかぬことを伺いますが、そんなにたくさんどうするのでしょうか?」
「かれんの分、もっと必要でしょ。それにやっぱり私も買っておきたいし、ついでにあなたも……。」
「えーっと、僕、外で待ってますよ。」
慌てて後ずさる衛の腕をナオミががっしりと掴む。
「まあまあ、先生が買ってあげるから。」
逃げようと思えばいくらでも方法はあるが、その笑顔に逆らうことはできなかった。
「はい……。」
こうして衛は女のショッピングの恐ろしさを知ることとなったのであった。
つづく
477 :
東堂衛のキャンパスライフ ◆KazZxBP5Rc :2010/07/07(水) 22:36:34 ID:rpLQ3Whg
キャラ紹介
・服部結衣(はっとり ゆい)
駅前のデパート内でファッションショップを営む女性。
《昼の能力》
衣装変換能力
【意識性】【操作型】
人が着ている服を、触るだけで結衣が想像した服に変換できる。
生地も自由。ボタン程度なら金属も付けられる。
質量保存の法則とかまるっきり無視。
《夜の能力》
不明
・ナオミ=ワイズマン(Naomi Wiseman)
13歳にしてS大学の准教授を務める天才少女。
国籍はアメリカ。クォーターで日本人の血を受け継ぐ。
髪は金髪のショートヘア。
《昼の能力》
【無意識性】【変身型】
思考に掛かる時間がゼロになる能力。
《夜の能力》
【意識性】【変身型】
記憶を整理する能力。
図書館風の記憶の世界にトリップし、本を入れ替えることで記憶を整理できる。
記憶の世界では時間は経たない。
478 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 22:37:15 ID:rpLQ3Whg
よく考えたら先生の夜の能力本編では最後まで使わないなぁということで設定だけ公開
噂のレストランと美柑ちゃんをお借りしました、ありがとうございました
なんつー便利な能力
その店行きたい
最初に言っておくと、ブラッディ・ベルの名前は借りましたがこの話にソラ姐さんは残念ながら出ません。
まあこいつらは一般人からカツアゲするチンピラなわけで。あのヘッドがいちいち手を貸すとも思えないわけで。
後で戦うフラグは立ちますが回収する目処は立ってないという。無駄に期待させちゃって申し訳ない。
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』
>>410-416の続き投下いきます。
「おおっと動くな! いいか変身すんじゃねえぞ、携帯が逆にパカッと行くぜぇヘッヘッヘ…」
「くっ…卑怯な真似を…」
「そうだな…こいつをむき「バウッ!」無傷で返してほし「バウッバウッ!」欲しけりゃ」
「アオオォォォォォォン!」
「うっせえええええええ! そのクソ犬黙らせろ馬鹿野郎!」
「すっすまねえ兄貴、こらっ静かにしろ!」
「………」
台詞を邪魔されて怒り心頭のモヒカン、体格通りの大きな声で吠えるハスキー犬を必死でなだめる赤髪、呆れるスキンヘッド。
しまらない悪役だなと鎌田は思った。
「…まあいい。ついでにも一つイイこと教えてやんよ」
モヒカンにオイ、と声をかけられ、犬をようやく静かにさせた赤髪が得意げに立ち上がる。
「俺の能力は『犬を手懐ける能力』! 俺の能力にかかりゃどんな犬もイチコロよぉ!」
「そう言う割には随分フリーダムじゃないか」
「っせえええ! 黙って聞いてろ丸眼鏡!」
なぜかその場でくるくる回っている犬を指差しツッコミを入れる。
奇行を繰り返す犬だが、赤髪の命令を数回受けてピタと静止した。
「とにかく! 野良犬だろうと飼い犬だろうと一瞬で俺の手駒ってワケだ!」
「……まさか」
「そう、そのまさかだ」
赤髪はその容姿に似つかわしくない、犬の可愛らしい首輪に付いた名札を見せつける。
「ベルちゃん4才メス! そこらへんの家から適当に借りてきた飼い犬よぉ!」
「な、なんだって!?」
「用がすんだら返すがなぁ。朝んなって罪のない飼い犬がボコボコにされてたら…飼い主はさぞ悲しむだろうなぁ…?」
「くぅっ…なんて卑怯な…!」
歯を噛みしめながら鎌田は考える。ヒーローに逆境はつきもの。どうすればこの状況を打破できるのか。
無関係の二人を巻き込まず、犬を傷つけず、携帯を取り返す。はっきり言って苦しい。できるのか、この僕に……
「おい、チンピラさんよ」
突然真横からの声に鎌田は前髪を跳ねあげる。声を上げたのは陽太。いつの間にか隣に来ていた。
言葉こそ大きいが、その体躯はこの場にいる全員から見下ろされる。そんな少年を慌てて下がらせようとしたその時。
――鎌田さん!――
背後にいた晶の声が心に直接響いた。思わず振り向きそうになった身体がビクリと硬直する。
――動かないで! 携帯と犬は僕と陽太でなんとかできます、ここは僕たちに任せて!――
普段の鎌田ならば、そんなわけにはいかない、と思うだろう。
しかしその時の鎌田は、彼らに任せよう、と。なぜかそう思ったのだ。
時間は少しだけ遡る。鎌田と赤髪が会話している頃。
――陽太、あいつらに気付かれないように反応して!――
陽太が背後にまわした手をグーパーするのを確認して、晶は伝心能力で指示を続けた。
――あの犬は僕の能力で動かせる。たぶん携帯取り返すこともできる――
実は、さきほどから続いていた犬の奇行は晶の能力によるものだ。キメラではないしっかりとした意識を持った犬ならば、
晶は能力で直接心に呼びかけある程度操ることができる。今日は調子がいいのか、妙に事細かに動かすことができた。
――でもそれだけじゃ厳しいと思う。陽太、しばらくあいつらの気を引くことできない? そういうの得意でしょ?――
陽太は少し考えるそぶりを見せた後、晶に見えるようにビッと力強く親指を立てた。
「おい、チンピラさんよ」
赤髪と鎌田の会話にいきなり陽太が割って入る。
今までその存在にすら気付いていなかったようで、赤髪が素っ頓狂な声を上げた。
「ああ? 何だこのチビ」
「さっきから聞いてりゃずいぶんと汚え真似してんじゃねえの?」
「ああん!? チビが粋がってんじゃねえぞオラァ!」
「おいおいちょっと待てよ。俺は喧嘩するつもりはねえんだ」
今にも掴みかかってきそうな勢いの赤髪に陽太は右手の平を向ける。モヒカンも腕を伸ばして赤髪を制止した。
「だったら何だってんだガキ。用がねえならさっさと帰りな」
「キレやすいのはカルシウムが足りてねえんだ。あるいは娯楽が足りてねえ」
「ガキが何言ってやがる。それが何だ?」
「お前らに……おもしれえモンを見せてやるよ!」
言うと同時に突き出した右手を握り力を込める陽太。チンピラたちに戦慄が走る
「ハアアアアァァァ…」
「おっとぉ!そこまでだ!携帯叩き割るぜ!?」
「ハァッ!」
警告に構わず気合を込めて右手を開く。瞬間、開いた手の平には、何の変哲もない真っ赤なリンゴが乗っていた。
「………」
「………」
少しの沈黙。そして。
「ギャハハハハハハハ!! それがおめえの能力か!! アッハハハハハ!!」
「ハハハハッパネェ!! ダッセェ!! ハッハハハハハハ!!」
陽太は強い子。これくらいでへこたれない。
能力が盛況のようでなによりです。そんな風に、晶は思った。
「まだだっ!」
「!?」
突き出した左手を握り、開く。その手の平には緑が鮮やかな青リンゴ。
「さらにっ!」
青リンゴを右手に移して、さらに左手から発生させる、黄色が眩しいグレープフルーツ。
「準備は…整ったぜ!」
瞬間、陽太の右手からリンゴが天に向け放たれる。
真っ赤なリンゴは夜の闇に鋭い放物線を描き、左手へ向かって落ちる。
リンゴを受け取る直前に放たれる左手のグレープフルーツ。黄色は先程の赤と同じ高度まで舞い上がり、そして右手へ。
黄色を受け取る直前に放たれた緑は、最初の赤と同じ軌道を描き……鮮やかな三色の果実が次々と闇に舞う。
要はジャグリングである。
おぉ、と小さな声を漏らしたのは誰だったか。三色の空中軌道はまるで揺るがない。
そう思ったら、今度は上体を反らした上手のジャグリングに変化させていて。地味に高等技術っぽい。
知らなかった。陽太にこんな特技があったとは…
ダン!
陽太が足を踏みならす音で、晶はハッと我に返る。
チンピラの意識は今ジャグリングに向いているんだ。自分まで気をとられてどうする。
しかし……敵に「おもしれえモン見せる」と言って実際面白いもの見せる奴って初めて見た。
「ガウッ!」
突然犬の鳴き声が聞こえて、陽太の片足越しのジャグリングに気を取られていた鎌田は反射的に身構える。
だが犬は鎌田ではなく、隣のモヒカンへ向かっていた。突然のことにモヒカンは反応できず、携帯電話は犬にあっさりと奪われる。
「おっおいっ待てっ!?」
チンピラたちの制止をまるで聞かずに駆けてくる犬。
赤髪がぶら下げるように持っていたリードを握りなおそうとした瞬間、飛んできた何かがその手を弾き、リードが手放される。
「禁断の赤【タブー・オブ・ファイア】…! させねぇよ!」
隣に目を向ければ、空の右手を前にした陽太。
左手では依然青リンゴとグレープフルーツがポンポン回っているので、さっき投げたのはリンゴだったのだろう。
つくづく器用な少年だと鎌田は思った。
「おいっどういうことだゴラァ!」
「戻れベルっ! 戻れぇっ! くそぉっ何で言うこと聞かねえ!」
犬は鎌田の脇を走り抜け、ギュッと両手を組んで力を込めていた晶の元へ駆け寄る。
能力で手懐けているはずの赤髪の指示をまるで聞いていない。
モヒカンから奪った携帯をその口から受け取り、晶がよしよしと頭を撫でると犬は満足げに尻尾を振った。
「まさか…てめえの能力かガキィ!」
伝心能力でまっすぐ家に帰るよう犬に指示した晶は、暗闇に去っていく犬を見送り立ち上がった。
「ふぅ、疲れた。どうやらあなたの能力より僕の能力のほうが強かったみたいですね」
「こ…ん…のクソガキがッッ!!!?」
怒りに踏み出すと同時に陽太の投げた青リンゴがカウンターで顔面に直撃し、赤髪は大きくのけぞって尻もちをついた。
「禁断の緑【タブー・オブ・エメラルド】。役目は果たしたぜ、鎌田」
鎌田の肩をポンと叩いて下がる陽太。無事取り戻した携帯を手にニコリと笑う晶。
「なんていうか…君たちにはどれだけお礼を言ったらいいのかわからないな」
「んなこたぁいいんだよ。今は目の前の敵に集中しろ」
「あぁ…そうだね」
鎌田は力強くうなずくと上着を脱ぎ捨て、堂々とした態度でチンピラたちに対面する。
足は肩幅。両手は握り腰の横に構える。
「…変…」
両腕を真っ直ぐ伸ばし、腰の前、低い位置でクロス。同時に指を広げて両手が開かれる。
「…身…!」
持ち上げた右手は顔の右前方、左手は胸の横に。
握った手から人差し指、中指を付け根で曲げて伸ばし、前方を向ける。
次の瞬間、鎌田の全身が一瞬歪み、その姿は薄緑の外骨格に包まれた昆虫人間に変化を遂げるのだった。
心強い背中を眺めながら、晶がポツリと呟く。
「…あの…陽太。変身ポーズって本来いらないんだよね?」
「いるっての! 変身能力だぞ? 変身ポーズは男の浪漫だろうが」
「無駄に派手になってない?」
「おお、カマキリ人間だからな。蟷螂拳のテイストを入れてみた」
「………さいですか」
わからない。男の浪漫ってわからない。
胸を張る陽太にどこか冷めた目を向けながら、自分は女なんだなと再認識する晶だった。
<続く>
大根さんに新たな設定が追加されたぞ!
まあ戦闘には役に立たないけどねw
486 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 23:35:17 ID:CUn3skMJ
晶ちゃんがいちいち俺のツボを突いてくる
大根さんはもう万能すぎだろwww
岬陽太
特技:お手玉New!
というわけですね
しかし前から思ってたが、投擲力もすごいんだよな
陽太は野球部のエース…というフレーズが浮かんですぐ消えた
バットマンと陽太の対決…というフレーズが浮かんですぐ消えた
消える魔球ならぬ食える魔球として株とか投げるわけですね
いつでもどこでも即座に弾が出せるって点が奴の生命線なので。
でもアクアニードル(ウニ)とかは痛くて投げられないの。
奴に野球やらせたらきっと分身魔球投げて即退場食らうぞw
妄想が爆発したので書いてしまった
ただの小ネタ投下します
「あーあ。すっかり遅くなっちまったな」
とっぷりと日も暮れた中学校の下足室で、上履きを片付けながら一人呟く少年。普段は一緒に帰る
ことの多い幼馴染も、この日ばかりはさすがに待ってられず先に帰ったらしい。
静まる校舎の中、岬陽太は一人きりだった。そう、少なくともつい五秒ほど前までは。
「おい、野球部部長さんよ。いるんだろ? 出て来いよ」
「ククク。さすがだな岬君。オレが見込んだだけのことはあるな」
「フン。あんたの禍々しい気配は五十メートル離れててもわかるさ」
陽太の呼びかけに応じ、下足室に壁のように並ぶロッカーの陰から姿を見せた男。
小さめの陽太と比べるまでもなく、中学生としてはかなりの長身。細身の体型が、彼の身長をより
際立たせる。
そしてその頭髪は――いわゆる坊主。丸刈り。マルコメ。はっきりとした顔立ちと相まって、やや
強面そうな印象を与えている。
「何の用か、なんて聞くまでもねえか。まったく懲りねえ人だよな、あんたは」
「ククク。もちろんだとも。我々野球部は君の力を必要としているんだ。部の輝かしい未来の為、君
を野球部に引き込む。これが野球部部長としてオレが果たすべき使命なんだ」
「フン。使命、ねえ。一応聞くがその使命ってやつは、誰が決めたもんなんだ?」
陽太の質問を受けて、野球部部長は一瞬怪訝そうな顔になった。まるで「そんなこともわからない
のか」とでも言いたげに。
それは陽太としては不本意だった。実際のところ、彼には答えはわかっていたのだから。だからこ
そわざわざ「一応」と断りを入れておいたというのに。
「ククク。君はまだ若いしな。オレが当然のように知っていることも知らないというのは致し方ない
ことか。使命っていうのはな、「人」と「人」の間で成り立つようなちっぽけなものじゃないんだよ。
それはつまるところもっと高次の――」
「もっと高次の存在。「神」と「人」との間で成り立つ契約、ってか?」
「……オレの発言を遮るとはな。ククク、まあ許す。どうやらちゃんと理解しているようだし」
青々とした頭を撫でながら、発言とはあまり一致しない爽やかな笑顔を浮かべつつ、部長が言う。
その答えに、陽太は完全に納得した。自分はもう、何も遠慮などすることはないのだと。右手を
握って、軽く力を込めながら言葉を返す。
「なあ、部長さん。俺の本当の名前を知ってるか?」
不意の問いに、部長の顔は「?」が張りついたような表情になった。まあ当然か。そう思いながら
陽太は、少し自嘲気味に息をついた。
「俺の名は岬月下。神に、その神が定めし理(ことわり)に叛く男だ。だから俺は断じて叛かなきゃ
ならねえ。神に託されたあんたの使命ってやつに」
名乗り終えて、陽太は右手をスッと差し出した。そこには、一つの真っ赤に熟れたトマトが出現し
ていた。
「こいつは宣戦布告ってやつだ。ありがたく……受け取れよ部長!」
差し出した右手を大きく後ろに引き、溜めを作る。そのまま流れるように肩から腕を振り抜く。
ちょうど野球の投球、しかも理想的フォームに近いそれで放たれた真っ赤なトマトは、過たず野球
部部長の顔面に向け、一直線の軌道を描いて飛んでいく。
部長は微動だにしない。もはや避けることも諦めたかのように。そうして部長の顔面がトマトの果
肉で赤く染まる、かに見えた時。
「なっ!?」
部長に向けて飛んでいるはずのトマトが、なぜかだんだん自分に近づいてきているような気がした。
「くそっ! ……ふう、危なかった。自分で投げたトマトに当たるとかマジあり得ねえ」
首を左に逸らし、間一髪の回避。背後で壁かロッカーにでも当たったんだろう、グチャッと耳障り
な音がした。
状況を整理できず一人焦る陽太を、部長は物言わず爽やかな笑顔で眺めていた。当然その顔はつぶ
れたトマトにまみれたりなどしていない。
「ククク。岬君。君は本当に素晴らしい。君の肩の正確さはイチロー並だと思うよ。だからオレはそ
の力が欲しい。我が野球部の輝かしい未来のため、たとえ力ずくでも、な」
打ち切り
投下終わりです
なぜか1レス目トリ間違っちゃった…
なおご覧の通り打ち切りです。決して続きはありませんw
打ち切りwww
部長は一方通行みたいなアレなんだろうか
アクセラレータだったらデッドボールとか怖くねぇなw
なにげにもう450KB
マ゙ターリ゙リ゙しτょυぅょぅ
∧∧ マ゙マ゙マ゙マ゙ターリ゙しτょυぅょぅ
ε⌒ つ マ゙ターリ゙しτょυぅょぅょぅょぅょぅ
くε 。 つ
くく =゚ω゚ つ
丿::: ◎) __
(○)::: 。・゜ヾ (( /__ ヽ
く:::::::(●)。・° // ヽ二二θ) ))
):・::::ω・゜・ミν_//
ιυιミν つ つ/ ))
。・・.°。・゜ ιυωυυυ
・゜°・゜°・゜°
間違えちった
ごめんちい
501 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:58:56 ID:zoPW9gRj
_ ∩
( ゚∀゚)彡 ふともも!ふともも!
⊂彡
うおっ! これはすごい。炎の表現が綺麗だなあ。
絵の感じでどっかの超電磁砲思い出した
>どっかの超電磁砲
ああ、わかる
避難所より代行です
「あー、いっつつつつ」
深更、腰とあばらの痛みで……というわけでは別にないが、私は目が覚めた。のそのそと眼鏡を探
し当てて確認すれば、時計はちょうどLの字。普段眠りの深い私が、こんな時間に目を覚ます理由は
決まっている。
夢を見ていた。久しぶりに見る夢だった。
――あなた、忘れ物ない?
お、おい、あなたはやめてくれってば。なんか背中がムズムズするよ。
――やーだ。結婚したら、旦那さんのことは「あなた」って呼ぶって決めてたんだから。大丈夫すぐ
慣れるって。てゆーか慣れて。
……はい、努力します。ってあれ、お弁当忘れてるみたいだ。ごめん、取ってきて。
――ちょ、ちょっと秀祐! 愛妻弁当忘れるなんてんもぉー! 自分で取ってきなさい!
ははは、秀祐って呼んだー。ちなみに弁当はちゃんと持ってるよ。じゃ、行ってきまーす。
私が自分の命を危機にさらした夜、必ずこの夢を見る。その関連性こそ明白だが、それが何を意味
するのかは未だにわからないままだ。
――おかえり、あなた。
うん、ただい……やっぱりダメだってあなたは。うわ、じんましん出てきた。
――慣れなさい。慣れよ、慣れ。そんなことよりほら、ご飯できてるから食べよ? わたしもうお腹
ぺっこぺこだもん。
あれ? 先に食べてなかったのか?
――だってー新婚早々晩ご飯も一緒に食べないなんて寂しいじゃない。秀祐はそう思わないの?
まあ、確かにそうだけど……いや、そうだな。一緒に食べるほうが美味しいだろうな。
ただの荒唐無稽な夢ではない。私の記憶だ。今よりずっと若い頃、今よりもっと幸せだった日々の。
私が人生の中でただ一人愛した女性は、今はもうこの夢の中でしか出逢うことができない。
十年。彼女とともに過ごしたよりも長いその月日は、残酷にも私から彼女の記憶を少しずつ奪って
いった。
時間の流れを恨むことはできない。だから私は、己を憎むしかない。心から愛した人の肌、声、私
を見つめてくれる眼差し。それすらも気がつけば忘れようとしている薄情な己を恨むしかない。
それでもこの夢を見るたび、私はそれらの全てに出逢うことができた。
それはとても不思議な体験だ。私の記憶の中に、彼女の鮮明な画像は残っていないというのに。な
ぜかこの夢には在りし日のその人が、あの日のままの姿で現れる。
そんな理屈だって、本当はどうでもいい。目が覚めて、虚しさと懐かしさで涙が流れようと、私に
笑顔を向けてくれる彼女に逢えるならそれでいい。
「なあ、こんな俺は女々しいと思うか? でも本心だからさ、許してくれよ」
答えなんて返ってくるはずもない。問いかけが一人の中年のぼやきに変わったことを確認して、私
はまた目を閉じた。
明けて月曜日。
サザエさん症候群に駆られながらも身を奮い立たせて出勤すると、いつもはコーヒー片手に窓辺に
たたずんでいる助手くんが何やら色めき立っていた。
「もうっ! ドクトルJ遅いじゃないですか! いつものことだけど! 聞いてください! 大変なん
です……って、なんかドクトルJ薄荷臭い」
「階段踏み外して転げ落ちちゃってさ。腰とあばらを強打したもんだから、湿布貼ってるんだ」
「まったく何やってるんですか! そんなだから減給される一方なんですよ!」
本当のことを言うのは躊躇われた。理由は二つ。彼に余計な心配をさせたくないこと。そして見て
わかるように彼は若いのに妙に説教臭い。今のこれなんてほとんど言いがかりだと思う。この状態で
本当のことを言ったりしたら、それこそ床に正座で説教かっ喰らうとか普通にありそうだ。面倒い。
「まあ確かにいろいろ転げ落ちてるけども。どうしたの朝からそんなに興奮して」
「そうでした! ドクトルJが臭い話なんてどうでもいいんです! また出たんです被害者が!」
「……なーんか誤解を招くよね今の言い方。あんまりよくないけどもういいや。八人目ってこと?」
それって私のこと……でもあるのは事実だが、この状況に限っては違うと言えよう。しかし普段クー
ルぶっている助手くんのこの慌てよう。少し嫌な予感がする。
「もしかしてその被害者って……知り合いか?」
そう聞くしかなかった。一番あってほしくない、それでいて一番可能性の高い問い。
私の問いに、助手くんは下唇をぐっと噛みしめた。堪えているのだ。何を、とはあえて言わない。
彼のそんな表情を見るのも久しぶりだった。
「……第4研究チームの、尖崎主任です」
尖崎鋭一郎、26歳。
主として変身型の能力に対する医学的見地からの研究を行う者として、ERDO研究部門に果たしてき
た貢献は極めて大きい。
浮世離れした奇人ではあったが、その明晰な頭脳はこれから先もERDOにとって必要不可欠なものだっ
た。
私も彼を頼りにしていたし、期待していた。なぜか被研能力者にやたらと幼い女の子ばかりを希望し、
その度私が諫めてきたことなども、もはやいい思い出となってしまった。
なぜ、彼が死ななければならなかったのだろうか。ある意味危険な人物だったかもしれないが、そ
の実彼はとても誠実で無害な男だった。
世界はかくも理不尽だ。それは隕石が落ちようと落ちまいと、人が進化しようとしまいと関係がない。
案外世界というものは本当に、神が振ったサイコロ遊びで決められているのかもしれない。
「……尖崎君は、どんな風に死んだのかな」
「はい?」
「惨い殺され方をしたのかな、って」
私も助手くんも仕事をする気が起きず、窓辺に置かれたテーブルで向かい合っている。部下の研究
員たちは各々動き回ってくれているが。
助手くんもさすがに知らないのだろうか、問いへの返事はない。ちらと彼に視線を向けると、なん
か面白い顔で考え込んでいた。しばらくそうして、おもむろに口を開いた。
「ドクトルJ。あなたは一つ、大きな勘違いをしている」
「え? な、何その喋り方」
「僕は尖崎主任が死んだとは一言も言っていません」
「……へ?」
「死んでいません。重傷を負ったものの、命に別状はないそうです」
……何よそれ。助手くんついさっき泣きそうな顔してたじゃん。あんな深刻そうな顔見せといて「実
は死んでませんでしたー」って、なんのドッキリなの?
「いやーだって尖崎主任がいてくれないと、リアルで飛び回るシリルたんに会えないんですよ! 僕
にとっては号泣ものの大問題です」
知らんよそんなの。だいたいなんだよシリルタンって。
「助手くんって結構薄情者だな。とりあえず詳しいことを教えてよ」
薄情者じゃありませんよー、と反論してから、助手くんは説明を始めた。それによると。
尖崎君は昨日、予約していたフィギュアを買った帰りに襲撃を受けたそうだ。注意喚起メールがあっ
たというのに彼もなかなか神経が太い。それほどフィギュアが大事だったのか。
襲撃者の詳細は不明。私の場合とは違って市民を積極的に巻き込まず、ピンポイントで彼が狙われたらしい。
よく死ななかったね。私が思わずそう言うと、助手くんはうんうん頷きながら人差し指をぴっと立て、
「尖崎主任の昼間能力はやっぱり凄まじいことが判明しました」
と得意げに語った。
尖崎君の昼間能力は、無生物に生命を与えるというもの。それだけでも十分恐ろしいが、それ以上
の何かがあったというのか。
助手くんがさらに語ったところでは。
襲撃を受けた尖崎君は、咄嗟に買ったばかりのフィギュアに能力を使用したそうだ。命の危険を感
じた人間が咄嗟に取る行動として、フィギュアに命を与えるっていうのはどうなんだと思ったのだが、
いざという時わけのわからない行動を取るのが人間という生き物でもある。あの尖崎君であれば余計
にそうかもしれない。
さておき、この辺の話は聞き慣れない単語(おそらくフィギュアの名前なんだと思うが)が多くて
わかりにくかったのだが、要約すると命を与えられたこのフィギュアが襲撃者に応戦して退け、尖崎
君を守ってくれたということらしい。
「必殺光線まで放ったらしいですからね。単に命を与えるってだけではないみたいです」
必殺光線まで放ったんですって。もう何がなんだか。
「結果として尖崎主任は、お腹の脂肪をごっそり抉られることにはなったみたいなんですけど、覚醒
シリルたんのおかげで生還できました、と」
わー。めでたしめでたし。
決してふざけているわけではない。生きているのなら、それ以上にめでたいことなどないのだから。
「あ、そうだ」
パンと手を合わせながら、助手くんが明るい声で言う。
「昼休みにお見舞い行きましょうよ。尖崎主任の入院先、どうせすぐそこですよ」
そう続けて、窓の外を指さす。
その先にある建物。ERDO研究部門と同じ敷地内で、一般には一体の施設と認識されている場所。こ
の地域でも指折りの大病院の病棟が、どっしりと鎮座していた。
つづく
以上、避難所より代行終了です。
尖崎主任なにげに好きだったから生きててほっとしたww
そしていい表情だな峰村w
>>505 尖崎主任生きてた! よかったー。すげー能力じゃないか
助手君はもう完全に染まっちゃってんのなw
>>510 なんとチェンジリングアニメ化w これは夢すぎるw
なんとも良い表情描きやがる。
さてさてさって、そろそろ2スレ目も終わりか。盛況で楽しいねえひゃっほい。
モチベーション高いと筆がサクサク進むぜ。
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』
>>481-485の続き投下いきます。
「さて、携帯は無事返してもらったし、犬もいない。君たちの切り札はなくなってしまったわけだ。それでもやるかい?」
昆虫人間と化した鎌田が余裕の態度で尋ねると、チンピラたちは一歩後ずさる。
「まあ、元々君たちに用は無い。黙って退却するなら追いかけはしないよ」
「…くっ…!」
悔しげに顔を歪めるモヒカン。だが一瞬、何かに気付いたような顔を見せて
「……く、くっくっく……はぁっ、はっはっはっはっは!!」
突然、テレビ番組の悪役よろしく高笑いを始める。隣でニヤニヤと笑うスキンヘッドが不気味だ。
警戒して構えをとる鎌田。陽太も手元に残ったグレープフルーツを握りしめる。
「な、なんだ…!?」
「はっはっはぁっ! 俺たちの切り札がなくなったって!? 馬鹿がっ! とっておきがあんだよぉっ!!」
「そっちのスキンヘッドの能力か…!」
「まだ気付かねえのかノロマがっ!! 空を見ろぉっ!!」
鎌田はチンピラたちから顔を少しも逸らさず、複眼の持つ広い視界で全天を確認する。
チンピラたち向こう、東の暗い赤から西の紫へと美しいグラデーションを見せる、雲ひとつない空。何の変哲もない夜明け前の空。
「って…えええっ!!?」
驚きの声を上げたのは晶だった。理由を聞こうと声を出す直前に鎌田、陽太もその異常に気付く。
チンピラたちと出会ったのがおおよそ深夜1時半。それから今まで、長く見積もっても15分。夜明け前なんてあり得ない。
「えっ! 嘘ぉっ!!?」
「馬鹿なっ!? 6時だとっ!!?」
背後で叫ぶ声で鎌田も時刻を知る。確かに朝6時でこの空は妥当だが…
「どういう…ことだ…?」
「俺の能力だ」
初めて聞く低い声でスキンヘッドがボツリと言う。その肩をポンと叩いてモヒカンが説明を継いだ。
「こいつの能力は……『周囲の時間間隔を短くする能力』。俺たちはせいぜい数分程度だと思ってた時間がよぉ、
実際は……4時間以上経ってたってわけだ。なあ、ビックリだろ……? まあ、欠点としちゃ……」
やけにじっくり時間をかけて説明していたモヒカンがスキンヘッドの肩に手を置いて、いやらしく笑う。
「発動中…こいつはろくに動けねえってことかぁ」
「なっ…まさか今も!」
「させるかぁっ!!」
叫ぶと同時にそのスキンヘッドへと一直線に飛ぶグレープフルーツ。だがぶつかる直前にモヒカンの手に弾き落とされる。
「もう遅いっ!! 日の出だぁっ!!」
陽太が反射的に合わせた手から、得意武器、魔剣レイディッシュこと大根が発生しない。
晶の脳にざわざわと小動物たちの雑踏が返ってくる。
チンピラたちの背後から昇る眩しい朝日に、鎌田が顔をおさえる。
「変身さえなきゃてめえなんて雑魚だぜハッハァ!」
「ヒャッハアアアァァ!!」
「死ね貧弱眼鏡」
どこから出したのか、長い鉄パイプを手にしたモヒカン。ナイフを取り出した赤髪、特殊警棒のスキンヘッドが、
それぞれの雄叫びと共に鎌田に一斉に襲い掛かる。
「かっ、鎌田っ!!」
「鎌田さんっ!!」
金属がぶつかりあうような硬質な音が、早朝の自然公園に響いた。
「なん…だと…!?」
眩しい朝日に照らされてなお、透き通るは大きな複眼。自然公園によく似合う薄緑の外骨格。
振り下ろされた鉄パイプを右手の鎌で。特殊警棒は左腕。低く突かれたナイフは右足の膝で。
三方向から迫る凶器を、鎌田はその昆虫人間の身体で完璧に受け止めていた。
「馬鹿な…変身が!?」
「…ふっ!」
茫然と動きを止めるチンピラたちに対して、鎌田の動きは速く。
鎌の根元の手で鉄パイプを掴み、左腕の特殊警棒を払いのけ、持ち上げた右足をそのまま赤髪の胴体にめり込ませる。
引っ張った鉄パイプを手放さず付いてきたモヒカンに、カウンターで腹に打ち込む左の肘、顎に裏拳の連続技。
堪らず手放した鉄パイプを手に半回転、加速した遠心力でもってスキンヘッドの特殊警棒に思いきり叩きつける。
盛大な金属音と共に無理矢理弾かれ、手から離れた特殊警棒は茂みの中へと消えていった。
無駄のない、流れるような動きだった。
続く攻撃がないのを確認すると鎌田は動きを止めて、ほっと小さく息を吐く。
「残念ながら、悪の企みなんていつだって上手くいかないものさ。それがどんな世界だろうと」
膝を付き、地に伏せ、手をおさえてうめき声を上げるチンピラたちを見回して、朝日に照らされ立ち上がる昆虫人間。
「最後に勝つのは、正義だから」
それは正しく、誰だって一度は憧れる、正義のヒーローの姿だった。
「なっ、何なんだっ!! てめえ一体何者だっ!?」
「鎌田之博。通りすがりのライダーさ」
「んなこと聞いてねえっ!! なんで変身が解けねえんだよっ!?」
「答える義理は無いね。そんなことより…」
うろたえるモヒカンに、鎌田はピタリと鉄パイプを向ける。
「まだやるかい?」
「ちっ………」
ギギギと歯を噛みしめて、鎌田を睨みつけるモヒカン。ダン!と大きな音を立てて一歩踏み出し…
直後、回れ右。一目散に逃げだすモヒカン。それを慌てて追いかける赤髪とスキンヘッド。
「ちくしょおおおおおっ! 今日はここまでにしといてやるよおらあああ! 次は姐さん連れてきてやっからなああ!」
「ブラッディベル舐めんなあああっ! てめえなんか姐さんにかかりゃボコボコだー!」
「化け物め。覚えてろよ」
なんともありがちな捨て台詞を残して、チンピラたちは朝日の中を元気に逃げていくのだった。
「…姐さん姐さんって…どんな女だよそれ」
陽太はポツリと呟いた。
<続く>
彼は知らない。以前、暴走した彼を一発ノックアウトした鈴本青空こそ、その「姐さん」であることを。
まだしっかり考えてはいないんだけど、ブラッディ・ベルのヘッドって形でソラ姐さんと再会して
まことにやっかいな状況になるのが目に浮かぶようです。
なお、このチンピラたちは名前も昼能力もなーんも考えてないので好きにしちゃっていいですー。
517 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/16(金) 20:05:48 ID:8JveYynr
ちょっと離れてた間にスレスト…だと…
>>509 ドクトルの奥さんか…過去に何があったんだろうか
シリルたんに会えないって片桐君www
>>510 これはいい揺さぶり
>>516 鎌田かっけえ!
チンピラの方も何気に凄い能力を持ってるな
スキンヘッドの能力がやたら凄いって話になってるw
そうは言っても本人動けないし外から干渉もできない、かなり捻らなきゃ有効に使えない能力なんですよ。
使い方によっちゃ化ける可能性はあるけど、それは物好きな他の誰かに任せます。
ぶっちゃけ能力のモデルは『ピューと吹く!ジャガー』に出てくるテルミン使い「ペイズリー柄沢」だったりする。
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』
容量足りるよね?
>>513-516の続き投下いきます。
鎌田はいそいそと脱ぎ捨てた上着を着込み、フードを目深に被る。
カマキリの顔と翅は見えなくなるが、袖から覗く手は依然昆虫のような手で。
「あの…鎌田さん…?」
「鎌田お前…何で能力切り替わっても変身解けねえんだ?」
確かに昼能力で出したカロリーメイトを咥えつつ、陽太が尋ねた。
「ああ…ええと…僕のは昼も似たような能力なんだよ、ハハハ…」
「人間には戻らないのか?」
「んー…変身したらしばらく戻れないんだ」
「嘘つけお前、夜はさんざ変身したり戻ったりしてたろ」
「……うーん……」
「嘘が下手だな鎌田」
「鎌田さん…」
黙りこんでしまった鎌田の手に晶の手が触れる。硬質で鎌と一体化する不思議な手。
「陽太は悪気があって言ってるんじゃないんです。詮索してほしくないなら止めさせます。
でもその…鎌田さんに困った事情があるなら…僕は力になりたいんです。陽太もそう思ってます」
「はっ! 何適当言ってんだ。俺はそんな聖人君子みたいな男じゃねえよ馬鹿」
「このツンデレめ」
「つっ!? ツンデレ言うなコラ!」
10年前の運命の日。チェンジリング・デイ。
人は傷つき、多くの命が失われ、世界は悲しみに包まれた。大切な人を失ってしまった者は数知れず。
家族でたった一人生き残り、孤児になってしまった子供たちもいる。
それでも彼らは互いに助け合い、分かち合い、力強く生きてきた。
「せっかくこうして知り合えたんです。困っているなら助けるのは当然じゃないですか」
「水くせえんだよ鎌田。一人でウジウジしやがって」
「晶君……陽太君……」
そんな中、晶と陽太の家族は誰一人として欠けることなく、安穏な暮らしは現在に至る。
多くの人が失ってしまった愛を、その一身に受けながら幸せに育ってきた。
自分たちは圧倒的に恵まれている。それを彼らはわかっていた。
だからこそ、愛を与える側になる。自分の身を削って、人を助ける人になる。
そんな風に、彼らは生きてきたのだ。
「何と言うか…君たちって本当にいい人だよね」
「えへへ…よく言われます」
人はそれを、お人好しと言うらしい。
鎌田はその異形の手を顔の前に持ち上げて動かして見せた。硬い指がぶつかりあいカチカチと音が鳴る。
「ただね、これはそんなに深刻なことじゃないんだ。たぶん君たちの思っていることとは違う。
僕自身に何か異常があるわけじゃないんだよ」
「えっ…? でも……」
鎌田は顎に手を当て少し考えると、よし、と呟いて顔を上げる。
「そうだな、君たちは命の恩人だ。それにせっかく心配してくれているのに隠し事はよくない」
「それじゃあ…」
「ああ。話すよ、僕のことを」
表情という表情の見えないはずの虫の顔から、晶は鎌田の決意の表情を確かに見るのだった。
20分後、晶、陽太と鎌田は陽太の家のテーブルに向かい合って座っていた。
日の出からすでに30分以上経っているにもかかわらず鎌田が人間に戻る気配はなく、
本当に訳ありな人なんだと晶は再認識する。
「さて…どこから話したものか……」
触角をクイクイと揺らしながら考えていた鎌田が、おっと、と呟いて姿勢を正す。
「今まで、恩人の君たちを騙す形になってしまった。申し訳ない」
「えっ!? いえいえ、いいですよそんな…」
頭を深々と下げる鎌田を晶は慌てて止めた。ただ…と鎌田は付け加える。
「言い訳になってしまうけど、他意があったわけじゃない。ただ常識的に考えて信じ難い話だから…あえて黙っていたんだ」
「信じ難い…話…」
「あり得ない、なんてことはあり得ない」
考え込む晶を横目に陽太が口を出す。
「それがこの世界だ。信じるさ。お前が……」
言葉を留めて、ニヤリと笑う陽太。
「…実は人間じゃない、なんて話もな」
「えっ!?」
「ちょっ! 陽太っコラ!」
「なんでそれを」
「ええっ!? 鎌田さん!!?」
振り下ろされず停止した晶のチョップを頭上から退けて、陽太はふっ、と不敵に指を組んだ。
「昆虫を模したその姿。高い戦闘能力。怪しい言動に行動。ヒントは無数にあった。
お前は正体を隠してたつもりだろうが……俺に言わせりゃ公表してるようなもんだぜ」
「正体って」
「お前のその姿は、チェンジリング・デイとは無関係。そうだろ?」
「あ…ああ、確かに」
「やはりな。つまり、お前は……」
陽太の言葉に全神経を傾けて、晶はゴクリと唾を飲む。
「悪の秘密結社に改造された…改造人間だ!」
「かっ……!?」
驚愕に目を丸くする晶。元々目は丸い鎌田。陽太は自信満々に続ける。
「それまでごく普通の一般人だったお前は悪の秘密結社にさらわれ、カマキリ怪人となるべくその身体を改造された。
だが脳を改造される前に研究所を脱出。お前は正義の心を残したまま昆虫人間への変身能力を得たんだ」
「…あの…」
「お前の大切な携帯、無意味な携帯電話ってのは偽装だな。本当は脱出の際、機密文書か、超兵器の設計図か、
ともかく秘密結社の重大な何かを移した大容量メモリーだ」
「ちょっとあの…陽太君」
「お前は正体を隠し旅を続けながら、秘密結社を潰すだけの力を持ち信頼に足る仲間を探している」
「………」
「そうだろう! 改造人間、鎌田之博!」
ドン! といった感じの擬音が似合うだろう。陽太は自信に満ちた顔で言い切るのだった。
「…君は凄いな、陽太君」
唖然とする晶は言葉が見つからず。陽太は澄まし顔で次の言葉を待つ。
「完璧に大ハズレ」
ゴン!
突然の大音量に驚いて晶が隣を見ると、陽太が勢いよくテーブルに額をぶつけていた。
そのまま動かない陽太。音からしてかなり痛かったと思う。自業自得である。
「もー…だからずっと言ってるでしょ。そんな突拍子もない話は現実にはないの! 厨二病は卒業しなきゃダメなんだから」
「いや……晶君。もしかしたら、陽太君の話のほうがまだ信じられるかも知れない」
「え…それってどういう…」
「僕の現実は、それよりもっと突拍子もない話なんだ」
晶と、早くも復活した陽太は、黙って鎌田の言葉に耳を傾ける。
「一言で言ってしまえば……僕は、この世界の住人じゃない」
瞬間、二人の頭に同じ単語が浮かんだ。
反射的に立ち上がった椅子が大音量と共に倒れ、衝撃的なその単語が二人の口から飛び出す。
「う…宇宙人!!?」
「ちょっ!? 違う!」
慌てて立ち上がった鎌田の椅子もガタンと倒れた。
「…まあ、とりあえず座ろう」
椅子を立てて座り直す三人。コホン、と小さく咳払いして、鎌田が続ける。
「ともかく、宇宙人ってのは断固違う。僕は正真正銘、地球人だよ。っていうか日本人だ」
「ええぇ…」
「じゃあ何だってんだよ…」
「僕は……」
「僕は鎌田之博。佳望学園、高等部の蟷螂人だ」
<続く>
ええ、本人です。スターシステムとかじゃなくて。
衝撃の事実…も何もないなこれ。もはや気付いてない奴いないだろこれ。
まあ自分もさほど隠す気はなかったしねw
鎌田の住む世界 →
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1277458036/l50 佳望学園 →
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/33.html 生みの親は他ならぬイラストのakuta氏(承諾済み)。非常に感謝しています。
ただ、元ネタ必須ではないです。知らない人を困惑させないことは肝に命じております。
(知ってたらニヤリとできる程度のネタは出ますが)
体格が人間に近いことと、戦闘能力に若干補正かかってる気はしますが、それ以外は元のままです。
気が向いたらあっちのスレも見てやってください。避難所に案内板置いときますので。
次回、超説明回。(言い訳回ともいう)
投下乙です!
愛、いいよね
晶いい子だ。もちろん陽太も
月下の魔剣更新ペースが上がってきましたねw
嬉しいことですよ
陽太はバッカーノと針山さん読んでそうw
おいおいなんかスレ独占しちゃってねえか!?
いいのかこれ。いいんだよな。いいってことにしておこう。
『月下の魔剣〜異形【せいぎ】の来訪者〜』
>>519-522続き投下です。前に言った通り超説明回なんだごめんよ。
「けもう学園…?」
「蟷螂人…だと…!?」
聞き慣れない単語に目を丸くする二人と対称的に、鎌田はそれが当然であるかのように続ける。
「初中高一貫、全国的に有名なマンモス学園だ。蟷螂人もそう珍しい種族じゃない」
「ちょっと待て鎌田、んな話まるで聞いたことないぞ?」
「当然さ。この世界にはそんな学園も、種族も存在しない」
「この世界って…」
「この世界。チェンジリング・デイが起こって、人類が特殊な能力を持った地球のことだ」
「やっぱ宇宙じ」
「地球人だよ、僕は。この世界とは全く別の歴史を辿った地球の住人だ」
そこまで言って鎌田は黙り、二人をじっと見つめる。その口から何かの言葉を求めるように。
「え…え…? それって……」
「パラレルワールド…ってやつか?」
「それだ、陽太君」
待ってましたとばかりに鎌田が言葉を紡ぐ。
「僕はね。こことは別の平行世界、パラレルワールドからこの世界に来てしまったんだ」
「………」
「………」
「ね。突拍子もない話でしょ」
鎌田の言葉はあまりにも飛躍していて、晶は言葉を失った。確かに、改造人間のほうがまだ信じられる話だ。
「無理に信じろとは言わないさ。一応話は続けるよ」
「お…おう…」
さすがの陽太も反応は晶と似たようなものだった。
「僕はごく一般的な蟷螂人の高校生だ。この姿は生まれつき。当然変身能力なんて持ってなかった」
「生まれつき!?」
「そう。僕はこの姿がデフォなんだ。これが僕の世界では普通のことだ」
「そんな世界が…」
「この世界につ…来てしまった理由は何もわからない。今はその理由を探しているところでね」
「………」
「だいたい2週間前か。普通に街を歩いていた僕は突然、何の前触れもなく白い光に包まれて、気がついたらこの世界に来ていた。
そして、同時に僕の姿が変わっていたんだ。それが君たちと最初に出会った人間の姿だ」
「あっちが能力だったってことか」
「わけがわからなかったさ。僕の世界…いや、少なくとも僕の現実には超能力なんて一切存在しなかったんだから。
それに僕はこの世界の住人じゃない。そんな僕になぜ変身能力が発現したのか。この世界の能力っていうのは
もしかしたらDNAではなく、隕石の影響を受けたこの地球の大気に関係しているのかもしれないね」
へえ…と感心する晶を見て、なーんて偉そうに言っても、と鎌田は肩をすくめる。
「僕は研究者でもなんでもない、ただの学生、しかもこの世界にとっての新参者だ。
こんなのは僕なりにこの世界を調べた結果の、勝手な憶測でしかないのさ」
――こいつらの狙いは僕なんだ――
晶は、キメラと対峙したときの鎌田の台詞を思い出していた。
鎌田の言葉が本当なのだとしたら彼は、能力研究者にとって絶好の調査対象になるんじゃないだろうか。
「ともかく、あの変身が僕の夜能力。戻れないんじゃなくて、昼は人間に変身できないんだ」
「じゃあお前今まで昼はどうしてたんだよ」
「ああ、昼は別の変身能力があってね」
鎌田は立ち上がってテーブルを離れ、腕を顔の前でクロス、最初に見せた軽い変身ポーズをとる。
「変身」
両拳を振り下ろすと同時にその身体が光を放ち、次の瞬間、鎌田の姿はそこから忽然と消えていた。
「消えた!?」
「透明化能力だとっ!」
驚く二人の耳に、不思議な音が響いた。今まで聞いていた声とは違う、かすれたような音。
「チがう」
そう、言葉には聞こえたがそれは声と言うより、翅を擦り合わせる虫の鳴き声のような。
ブーン、と微かな音と共に手の平サイズの何かが飛び、テーブルに着地する。
それは、草原などで見るごく一般的なカマキリだった。カマキリは威嚇するかのように翅を広げて…
「やア。これガぼくのひルノうりょく」
喋った。
「かっ鎌田さんんんんん!!?」
「ちょっ!!?えええええっ!!?」
「そんナにおドろくことカな?」
唖然とする二人をよそに、カマキリに変身した鎌田は小さな首をかしげて翅を震わせるのだった。
「ふつウにしゃべれナイかラこおろぎミたイニはねコスってオトダしてルノ。チャンときコエてる?」
「は、はい、聞こえてます」
「ヨカッた。けっコウレんシゅウしタンダ」
「どんどん発音怪しくなってんぞ」
カマキリはテーブルから飛び降りて、着地と同時に一瞬で巨大化、片膝をついた蟷螂人の姿に戻る。
「正直疲れるんだよあれ。一日中鳴いてる虫たちってすごいよね」
「いや…鎌田さんのほうが普通にすごいと思う…」
「服とか携帯とか身につけてた物は消えるけど、戻ると帰ってくるんだ」
「とんでもない能力だな…」
「そうかな? 虫人の僕が昼は虫に、夜は人になる。割と妥当な能力だと思うけど」
「そうは言っても…」
「なんだかんだで夜人間になってるときより落ち着くんだよね。
人と虫の中間、虫人っていうけど、深層意識はどちらかと言えば虫寄りなのかもしれない」
「はぁ……」
「虫人って…お前みたいな蟷螂人の他にも種類がいるのか?」
「いろいろいるよー。兜虫人とか雀蜂人とか友達にいるし」
「うへぇ……」
カマキリやカブトムシやスズメバチ、他にも様々な巨大昆虫が当然のように飛びかう地球。
特に虫嫌いではないのだが……何か末恐ろしい光景を想像せずにはいられない晶だった。
「あ、あの…鎌田さんの世界って一体どんな世界なんですか…?」
巨大昆虫の楽園となった地球。それは一体どんな世界なのか。恐る恐る、晶が尋ねる。
透き通る複眼で二人の表情ををじっと見据えて、鎌田は小さく息を吐く。
「えーと…君たちが想像してる世界とはだいぶ違うと思うよ」
その表情は一瞬ふっと微笑んだように見えた。
「実際はこの世界とほとんど変わらない。自然環境も、科学技術も、文化も。住人を除けば違いはすぐには気付かないと思う。
違いは大きく二つ。まず、チェンジリング・デイが起こらず超能力が存在しないこと。そして、人間の他にケモノが存在すること」
「獣? 動物ならこの世界にも普通にいるぞ?」
「ああいや、ケモノっていうのは……普通の動物から急激な進化を遂げて、動物の特徴を大きく残したまま高い知能を持って、
二本脚で歩き、言葉を話し、社会生活を送っているひとたちの総称……かな?」
「それって…獣人…ってこと?」
「ああ、それがわかりやすいか。そうだね、一番多いのが猫人、犬人、兎人みたいな獣人。
他にも、翼を持って空を飛べる鳥人。硬い鱗に覆われている爬虫人。僕みたいな虫人。そして人間。
そういういろんな種族が混ざり合って平和に暮らしている、それが僕の世界だ」
「なるほどな…そういう世界か」
「僕の話はこれくらいかな」
「………」
ほとんど納得しているような陽太と違い、晶は現実主義。だからこそ、晶は深く考える。
鎌田の話はあまりに現実離れしていて。だがそれ故に現実味があるとも捉えることができる。
なぜなら、誰もが信じられない嘘なんてつく意味がないのだから。
しかしそれにしても…そんな異世界というのは…
そんな晶を見つめて、鎌田が思い出したように言う。
「僕は…どちらかと言えば現実主義者だ。そういう意味では陽太君より、晶君、君に近い性格だと思う」
「え…?」
突然関係の見えない話題を振られて晶は困惑する。
「例えば。僕は正義のヒーローに憧れている。でもそんな僕が実際に目指しているのは、警察官だ。
そのために体を鍛えてるし、正式な本で調べて勉強もしている。現実的でしょ?」
「は…はぁ…」
「僕はこの世界、人類が当然のように超能力を持っている世界なんて、話を聞くだけでは絶対に信じられなかったと思う。
だから、僕の話も信じられないのが当然だと思うんだ。君の反応が普通だよ」
「そう…ですか…」
「晶お前…鎌田は苦労してきたってのに血も涙もない奴だな」
「そう言うなって、ハハハ…」
そんな風に笑う鎌田はどこか寂しげで。晶はもう少しだけ考えて。そして、顔を上げた。
「いえ、鎌田さん。信じますよ、あなたのこと。あなたの世界のこと」
「え…」
「いろんな種族が仲良く暮らしてるって素敵な世界ですね。一度見てみたいです」
「そっ……」
そう言って晶はニコリと笑う。額に手を置いて俯く鎌田。
「そっか……ありがとう、晶君」
下を向き呟くように言う鎌田がどんな表情をしていたのか、晶にはよく見えていた。
「そうだな。君たちには……これを見てもらいたい」
何のことかわからず晶と陽太は顔を見合わせる。鎌田は椅子に掛けた上着をごそごそと探り、
チンピラたちから取り返した携帯電話を取り出した。
「この世界の物じゃないから繋がらないけど、これは正真正銘、僕の携帯電話だ。
大切なデータっていうのは、機密文書でも設計図でもない、ただの写真さ」
「写真?」
「そう、去年修学旅行に行ったときの。僕の世界や仲間が写ってる」
「おいおいそんなのがあんなら最初から出せよ」
「それはそうなんだけど…合成写真か何かだと思われるのが嫌でね。あくまでただの写真だけど、今の僕にとっては、
あの世界にいたっていう大切な証だ。元の世界との唯一の繋がりなんだ」
「鎌田さん……」
鎌田は携帯を操作し、小さなサムネイル画像が並ぶ画面を開いて晶に渡す。
改めて見れば、大き目のボタンが並ぶまるで見たことのない機種、メーカーだった。
小さな画面を二人で覗き込み、決定ボタンを押して一つの画像を拡大する。
「あっ…!?」
「うおぉ…」
立ち並ぶ派手な看板やのれん。人の多さはまさに観光地。
この世界と何ら変わらない、よくある修学旅行の風景だった。違う点はただ一つ。
そこに写る教師も、生徒たちも、あきらかに人間ではなかった。
<続く>
まだまだ続くよ説明回。動きがなくて申し訳ない。
まあ多分次回でこの話は終わるので、も少し付き合ってくださいませ。
531 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/23(金) 21:58:33 ID:so0SOxpI
鎌田www
リアルカマキリになれるってそれただの虫じゃねーかwww
GJですw
>違う世界から来ても能力が発現する
うぐああん、まさに俺のやろうとしてたことじゃねえかww
>>526 GJっす!
いや、これは…なんか、スケールがヤバイことに!??
他スレとパラレル展開とは! これは説明回が必要ですよッ!!