1 :
創る名無しに見る名無し:
1z
3 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/15(金) 23:44:19 ID:evzYWsK/
4 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/16(土) 16:56:14 ID:fXhuaDgq
>>1 乙
前スレはあっという間に終わってしまった
ウメ子やっぱり出やがったw
(おことわり)サブタイトルなどの変更があったため、再び次回予告を放映しています。
チャチャチャチャラララン♪
『こんにちはぁ、ですよぉ。並木詩音、ですよぉ。
このところ八重花さんがぁ、佳奈美さんたちを呼ばずにぃ、
1人でアンチャーさんたちをぉ、倒しているんですよぉ。
アンチャーさんをやっつけることそのものはぁ、とってもいいことなんですけどぉ、
それで佳奈美さんたちとのぉ、仲が悪くなっちゃったんですよぉ。
でもぉ、私はぁ、八重花さんがぁ、なんでそんなことをするのかぁ、知っているんですよぉ。
それはぁ…あれぇ、時間がなくなっちゃいましたぁ。』
次回、ゆけゆけ!!メタモルゲーマーズ
Extra Round B「私だけで十分!哀愁の八重花無双」
ジャジャーン!!
『モアイが口からドラゴン出して倒れそう、な予感ですよぉ』
----
http://www15.atwiki.jp/majokkoxheroine/pages/158.htmlにて先行公開中!
…と言う名の投下の手間省き。後で落ち着いたらスレ投下始めます。
8 :
機甲闘兵ソニア ◆4EgbEhHCBs :2010/01/17(日) 23:19:39 ID:j8h5h/5r
>>1様、スレ立て乙でした。
それでは機甲闘兵ソニア第二話投下します
機甲闘兵ソニア 第二話『危機』
ロギアの襲撃に逢い、EXコアを奪われた政府軍の施設。プラズマフォースは
政府軍の生き残りを救出する。爆発とキメラモンスの破壊活動で多くの兵士が
犠牲になったが、生き残った兵士も日向隊長始め、わずかにいる。
「日向隊長、我々はこれからブラジルに向かいます。そこで、政府軍のヘリを
お借りしたいのですが」
「ええ、わかりました。しかし、パイロットが…」
快く承諾する日向。しかし、先の戦闘でパイロットを務めることが出来る者が、
皆、戦死してしまっていた。そこにソニアが前に出てくる。
「大丈夫、ヘリならあたしが操縦出来るから」
「そうですか…なら、申し訳ないですが、EXコアの追跡を頼みます。私は
生き残った部下たちとここの処理や、他のロギアの軍勢に備えなくてはならないので」
「了解しました。後は我々に任せて、日向殿はこの場をお願いします」
施設に日向小隊を残し、プラズマフォースは政府軍から借り受けたヘリで
ブラジルへと向かうことに。特別な改造が施された政府軍ヘリは、北米から
ブラジルまでの距離をなんなく消費していく。
「速いな〜うちの隊にもこういうのがあればいいのに」
「まったく、ソニアはわがままですねぇ」
「いいじゃん、別に……あっ!?」
「どうしたソニア…むっ!」
突如として、プラズマフォースが乗っていたヘリが揺れ始める。
外を見ると、遠くからこちらに向かって光弾が飛んでくるのが見える。
「攻撃を受けてるのですか!?」
「ソニア、回避しろ!」
「ダメです、間に合いません!不時着します!」
攻撃を受け、やむなく不時着するヘリ。不時着した場所は暗く光はほとんど入ってこない
密林である。三人は周りを見回す。
「まったくひどい目に逢いましたね」
「ソニア、ヘリはもう動かないか?」
「修理するには部品が足りませんね…ここからは歩くしかないです。ロギアの連中、
妨害とはいい気になってくれちゃって…!まあ、ここはブラジル。地元民として
ご案内しましょう」
「大丈夫なんですかぁ、ソニア?」
不安を隠せないアメリ。そんなことは気にせず、ソニアは先へ行こうとする。
それから四時間後。日も昇り始めて、辺りは明るくなり始めた。
プラズマフォース部隊は密林内の川を渡ったところである。
「ソニア、どうだ?」
「う〜ん……ダメですね、迷いました」
その言葉にアメリはため息を吐き、レベッカはやれやれと首を振る。
「はぁ〜やっぱり。地元民じゃないんですかぁ?」
「いやぁ、あたしもブラジルって言っても都会育ちだったから。こんなアマゾンなんて
滅多に入るもんじゃなかったし」
「まったく無責任な。はぁ、故郷のワッフルが恋しいですよ…」
愚痴るアメリ。しかしいくらそうしていても、目的地にたどり着くわけでもない。
先へとただ、進もうとする。
「待て、アメリ…」
「ええ、隊長…嫌な感じがします」
レベッカの制止に素直に従うアメリ。というのもアメリも嫌な気配を感じ取ったからだ。
ソニアもすでにきっと目を吊り上げ、戦闘態勢に。
張り詰めた空気を終わらすよう、銃声が響いた。
素早く飛び上がり、その銃弾を回避し、三人は空中でハンドガンを構え
一斉に一発ずつ発砲した。間もなく、茂みからドサっという音が聞こえ、三人それぞれ
音のした方へと向かう。
「やはり…ロギア!」
「隊長、こいつもロギアです」
「ロギアが襲ってきたということは…目的地も近いということか」
「おお、あたしの勘も冴えてるねぇ」
「偶然でしょう。まったく、ソニアは…」
「なにぃ?やる気かアメリ!」
「こら、そろそろ先へ向かうぞ」
喧嘩が始まりそうな雰囲気を制止し、レベッカは先の方を見つめた。
ジャングルを抜け出ると、今度は平坦な道が続いている。
見たところ、特に怪しいものはなく、ソニアが進もうとする。
「待てっソニア!」
「うわっと!どうしたんですか隊長?」
声に驚きながらも歩みを止めるソニア。するとレベッカは鞭をソニアの前方に振るった。
命中して間もなく、地面が爆発した。どうやら地雷が仕掛けられてるらしい。
「隊長、助かりました…ありがとうございます」
「気にするな。それよりも、罠だらけだが、一々確認していては、ロギアに
逃げられてしまう。強引な手段だが、変身して一気に突破するぞ」
「「了解!!」」
三人は並び、腕を胸の前で交差させる。
「「「コンバットクロス!!!」」」
レオタード状のスーツが三人の身体を包み込み、ブーツや手甲にアーマーが付く。
変身が完了すると、そのまま一気に前方へと駆け出す。
地雷原は爆発する直前に突き抜け、なんなく突破していく。
「ふう、変身すれば、どうってことはないですね」
「油断するなソニア。…あまりここで時間を食うわけにはいかん」
「まだ往生際の悪い人たちがいるみたいですからね」
アメリの台詞の直後に、周りの茂みからロギアの兵士たちが現れる。
ロギア兵は持ってる銃でプラズマフォースを狙い撃つ。
三人は各々、回避し、武器を構えていく。
「いい加減にしろよ!ライジングカッタァァァ!!」
ソニアはコンバットナイフで電気を帯びさせ、敵の銃を切断し
「キャノンキィィック!!!」
回転しながらの飛び蹴りを浴びせ、蹴り飛ばした。
アメリは格闘戦で近寄る敵を倒し、一まとめにすると銃の照準を敵陣に合わせる。
「消えなさい!スパークバズーカ!!」
引き金を引くと、銃口からバチバチとエネルギーが迸り、勢いよく放たれる。
それは集められた兵士たちを一気に吹き飛ばしていった。
レベッカは敵兵の持ってる武器を鞭で奪い取り、休む間もなく
今度は敵に向かって鞭を振るい、蹴散らしていく。
「サイクロンストリングス!!」
振るった鞭から竜巻が起こり、それは次々とロギアを吹き飛ばしていった。
「粗方片付いたな、急ぐぞ二人とも!」
ロギア兵を片付けたプラズマフォースが、さらに先へと進んでいく。
しばらくして、三人の目に飛び込んできたのは。
「なんだ、このピラミッドは!?」
「とにかく、入ってみましょう…」
黄金色に輝く三角の建造物。ジャングルの中だけにより一層存在感がある。
しかし、逆にこのようなところにあるのが浮いても見える。
「待て二人とも。何故このようなところにピラミッドが…」
「確かに。遺跡があるだなんて、どこのデータにもありませんよ」
困惑している二人に対し、ソニアは気にも留めない表情でいる。
「別にいいじゃないですか。それに、ロギアの連中が作ったもんかもしれないし」
レベッカは微笑を浮かべてソニアを見る。
「まったく能天気だなお前は。どちらにせよ、ソニアの言うとおりかもしれん。
内部を調べてみるしかないな」
ソニアとアメリもそれに黙って頷いた。入り口は真正面にあり、すんなりと入っていく。
最後に入ろうとしたアメリだが、レベッカがそれを制止した。
「隊長、どうしたんですか?」
「アメリ、お前はここで待機しててくれ。中は私とソニアで調べてくる。
もしものことがあった時のために、よろしく頼む」
「隊長…了解!」
アメリも中を見てみたい気持ちはあったが、隊長の指示には素直に従った。
いずれも変身はそのまま、それぞれの役割に付いた。
内部も、外作りと同じく、床や壁は黄金色のブロックで構成されている。
輝いて見えるが、中は思った以上に暗い。
「こう進んでいると、まるで歴史研究家にでもなった気分だなぁ」
「ソニア、浮かれている場合じゃないぞ。我々は早急にEXコアを奪還せねばならないのだからな」
ソニアの発言をたしなめ、さらに先へ進んでいく。通路は一本道で
迷うことはない。しばらくして、二人は大広間に出た。
「本当に、遺跡チックだなぁ……あっ?隊長!!」
「ああ、何か来るな…」
警戒する二人の前に、不気味な足音が聞こえだす。ピチャ、ピチャ、
と、水を踏んでいるかのような音である。それが段々近づいてくる。
その姿がはっきりと現れる。それは形こそ人型だが、腕がダラリと垂れ下がり、
肉体は腐敗して、禍々しく、醜い皮膚をしていた。まるで
「ゾンビみたいだ…」
「ソニア、来るぞ!!」
先ほどまでゆっくり動いていたゾンビが、今度は素早く二人に向かって飛び掛ってきた。
左右に分かれ、攻撃態勢に入る。
「化け物でもなんでも、相手になるよ!」
ソニアはハンドガンを取り出し、狙い撃つ。しかし効果はあまりなく、
ゾンビは彼女に向かって突き進んでいく。
「ソニア!バスターシュート!!」
鞭を一直線に進ませ、それでゾンビの肉体を貫通させる。これは少しは
手応えがあったようで、ゾンビは呻き苦しんでいる。
「ナパームクラッシャー!!」
その隙を突いて、ソニアは高く飛び上がり、空中から拳を振り下ろした!
命中した直後に爆音とともに、大爆発が起こり、ゾンビは消滅した。
「ぐっ!…ふう、なんとかなりましたね、隊長」
反動で吹き飛ばされながらもすぐに起き上がるソニア。
「ああ。しかし、こんなものまで用意しているとは…まったく洒落た連中だ。
さあ、行くぞソニア」
「了解!」
大広間を抜けると、再び小さな通路である。しかし、今度は先ほどのように
暗い空間ではなく、灯りがあるかのように、辺りが照らされている。
その通路を抜けると、また大きな部屋が。だが、今度は特に先に通路のようなものは
見当たらず、玉座らしきものが見える。そしてそこにいたのは。
「ムルマ!」
ロギア総帥ムルマの姿が。だが、彼女は二人の姿を見ても特に慌てる様子はない。
彼女の手にはEXコアが握られていた。
「あらぁ、遅かったわねぇ、可愛い傭兵さんたち」
不敵な笑みを浮かべながら、振り返るムルマ。
「素直にEXコアを返せ!さもなくば…!」
「倒すっていうの?出来るかしら?」
すると、ムルマを守る形で多数のキメラモンスがワラワラと現れた。
「射撃が得意な子は置いてきちゃったみたいだけど、あなたたち二人で
どうすることが出来るかしらねぇ?」
「なめるなよ!こんなの物の数じゃない!」
「ソニア、怪物どもは私に任せて、お前はムルマを始末しろ!あいつは…言葉では
言い表せないが、何かとんでもないことを企んでいる」
「了解!!」
レベッカの指示を受け、ソニアはムルマに向かって一直線に突進していく。
当然、彼女を止めようとキメラモンスが立ち塞がろうとする。
「邪魔しないでよ!ガトリング…ナァックル!!」
進路上の怪物どもを高速の連続パンチで爆殺させ、片付けながら進む。
「ソニアの邪魔はさせん!はぁぁ!ソニックスティン!!」
鞭を目にも留まらぬ速さで振るい、片っ端からモンスを倒していく。
障害がなくなったソニアは一気にケリをつけようとコンバットナイフを抜きムルマに飛び掛る。
「てやぁぁぁぁ!!…なに!?」
しかし、見えない壁のようなものに遮られ、弾き飛ばされてしまう。
その様子をムルマは怪しく笑みを浮かべながら見ていた。
「おほほ……残念だけど、来るのが遅かったわね…あははは!」
高笑いが響くと同時に、彼女がEXコアを掲げ、それが紫色に光り輝き
ソニアとレベッカを吹き飛ばし、残りのキメラモンスを密着寸前までにかき集められていく。
「な、何をする気だ?」
レベッカの疑問に、目を怪しく輝かせながらムルマは答える。
「これで……あなたたちどころか、この世は終わりよ…!あはははははは!!!」
ムルマの上半身はそのままに、周りにキメラモンスたちが融合していき、
血管がいくつも浮き出た皮膚で構成され、巨大化していく。
「ああっ…!」
「くっ…これが、ムルマの目的だったのか…!?」
上半身以外、すべて怪物と化したムルマが口を開いた。
「あはははは!!私の力…見せ付けてあげる!」
次の瞬間、音もなく、化け物の周りが轟音を鳴らしながら、破壊された。
次回予告「ロギア総帥ムルマは自ら怪物と化し、すべてを破壊しようとする。
プラズマフォース部隊は、それを食い止めようとするも、ムルマの圧倒的な
力の前に倒れていく…彼女たちに勝機はあるのか!?
ソニアの鉄拳は、悪を砕くことが出来るのであろうか…」
投下完了。前スレでもお伝えしましたが
短期連載なので、次回で最終回ですw
16 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/18(月) 23:10:20 ID:74cVQ7F/
投下乙です。密かに入ってるデスクリムゾンネタに吹いたw
あと、短期とはいえ次回で最終回ですかぁ。
このキャラたちの話も機会があればまた見たいな
一気に感想を書くか。前スレのも
>武神戦姫凛
最終回乙でした。やっぱり最後は凛とシャニーの最大奥義で締めて
熱かった。連春も戦姫の活躍でいい街となるといいのだが
>Und Blood
なんだかファンタジーっぽい感じがしますね。途中に
ゲームの攻略本とか出てきたのは吹いたけどw
しかし、なんだか難しい感じがします
>機甲闘兵ソニア
軍事系な変身ヒロインとか見てみたかった。
短期連載なのが少し残念だな
>まじょうさま
やべぇかわええwボクっ娘とか個人的に最高の萌えだなw
一度、熱意を注いでそれが冷めて…でもどうやらまた熱意を注ぐのかな?
これは続きを期待しまくりだな
>ゲーマーズの二次創作
このスレから二次創作が出るとは!本来のと見比べても
違和感少ないなぁ。でも詩音はちょっとチートだなw
敵の倒し方がだいぶ変則的だったなぁ
>BIG BAD MAMA-RANGE KITCHEN
おお、見た目は正統派な魔法少女っぽい印象があるなぁ
それにしても辰美のどこか脱力する感じが微笑ましくていいw
>ウメ子
たしかに一気にスレ埋まったよねー、よくぞここまで。
ウメ子作者さんも大変だったでしょう、お疲れ様です
梅の枝の杖には吹いたwあと、ウメ子にはお姉さんがいるのか
どんな人なのかな、いつか登場するんだろうか。
それにしても規制のせいもあるだろうが、作者さん以外あまり書き込まないねぇ
避難所や代行スレでも読み手の人の反応とかあまりないし
魔法少女ユミナACT2
ついに人間界にやってきたわたし。右を見ても左を見ても、石造りの建物。
たどり着いた時間は夜のようで、空は真っ暗なのに、あたりを照らす光がいっぱいで
暗いとは感じません。
さて、聖羅石を探しに行かなきゃ。でも、手がかりもなしにやみくもに探しても…。
そうだ!こういう時こそ、情報収集しなくては!わたしは行き交う人の中から
適当に声をかけてみることに。あそこのお兄さんに聞いてみよう。
「すみませ〜ん!ちょっとお尋ねしたいことが」
「ん?どうしたんだい、お譲ちゃん?」
「実は…聖羅石という…んげっ!?」
と、尋ねようとした時、突然空から拳骨されて、一瞬で裏の路地に連れ回されました。
「はわわ〜…あっ、女王様」
立体映像で女王様の姿が浮かんでいます。
「あっ、女王様。ではありません!まったく、突然そのようなことを聞いても
人間界の方々にはわかるわけがないでしょう。それに、ファルーナ王国のことを
漏らしてしまう可能性のある発言はお控えなさい。さもないと、また異次元パンチで
お仕置きしますよ!」
「は、はい!以後、気を付けます!」
女王様必殺の異次元パンチ・・・さっきは手加減してくれたみたいですけど
どこにいても異次元を通して当たる上に、女王様の腕力的にも骨が砕かれない威力です。
というか、さっきお兄さんの前でこれやってましたけど、魔法の存在…。
「なにか言いましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。でも、女王様。それなら聖羅石はどうやって探せばよいのでしょう?」
「あなたに与えたレイジングスターが聖羅石の可能性があるものに近づいた時に
反応します。それを頼りに探してみてください」
なかなか無茶なことを言ってくれます。日本だけでもわたしにとっては広いのに。
「きゃあ!誰か助けて!」
と、その時でした。表の方で誰かの助けを呼ぶ声が。表に出てみると
BANKと書かれた建物から刃物を持った男が女性を捕まえています。
「金だ!金をよこせ!速くしねぇと、こいつの命はないぜ!」
よ〜し、ここは見習いとはいえ魔法少女!助けに行きます!
「女王様!レイジングスターの力で炎を操る侍とか、ゲームの力で戦う戦士とか
格闘少女とか、スレを埋める魔女とかそんなのに変身出来ませんか!?」
「見習いレベルのあなたにそんな力はありませんよ…今使える魔法を
ちょっと強化する程度しかまだできないでしょう」
わたしはガックリしました。やはり見習いではそんな大層な力は発揮できないようで。
ん?今使える魔法を強化することが出来るなら…!
わたしは物陰に隠れて、強盗さんの方にレイジングスターを向けます。
「目眩まし魔法…フラッシュ!!」
「うおっ、まぶし!なんだこれは!」
「きゃああ!」
辺りを強烈な光で包みこみ、視界を遮らせ、わたしは大急ぎで女性に接近しました。
「大丈夫ですか!?さあ、逃げましょう!」
「そうはいかねぇ!」
と、もう視界が回復したのですか!?でも、慌てません!なぜなら
「うわっ!?」
犯人さんの周囲に爆破魔法を仕掛けておきましたからね!と言っても
私の実力じゃ足止めレベルですけど。とにかく、これで女性を安全なとこへ逃がせました。
人質もいない犯人さんは、やってきたおまわりさんや周囲のガチムチお兄さんに捕まえられました。
犯人さんが連行されるのを見ていると、先ほど助けた女性が話しかけてきました。
「あなた、さっきはありがとう。あなたが助けてくれなかったら今頃どうなっていたか」
「え?いやぁ、当然のことをしたまでですよぉ!」
「それにしても、あの光の中で動けたなんて、すごいわねぇ」
「あ、ああ、わたし、運動神経はいい方なんです」
危ない。魔法の存在がバレてしまうとこでした。
「それよりも、こんな時間に一人でどうしたの?」
「え、え〜とそれは〜…」
どうしよう。正体はバラせないし、かといって、適当に人間界の記憶を捏造するのも…
女王様はわたしの心の中にジェスチャーでなんとかしろとサインテレパシーしてるし…
そ、そうだ!
「じ、実はわたし、記憶がなくって…それでなんとなく、ここら辺にくれば
記憶が戻るんじゃないかと思いまして」
と、結局これもまた適当な記憶捏造ではと感じながらも発言しちゃいました。
でも女性の方は、何やら真剣な表情です。
「そうなの…大変ね。じゃあ、自分の住んでる家とかもわからないの?」
「は、はい」
「それじゃあ、私の家に来ない?助けてもらったお礼の代わりと言ってはなんだけど」
「ええ!?いいんですか!?」
「もちろんよ。どうせ、大きいだけで持て余してる部屋も多いから」
なんという幸運!確かに寝泊まりするところはほしかったですけど、
こんなにあっさりとそれが決まるとは!
「私は、吉川歩よ。あなたは…って記憶がないのよね」
「あ、ああ!名前は覚えているんです!ユミナっていいます!よろしくお願いします!」
「ユミナちゃんか。かわいい名前ね。それでは、これからよろしくね」
こうして、わたしの人間界での生活が始まることになります。
歩さんとの生活はドキドキワクワクです!
20 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 15:43:04 ID:jX8UFQkK
とてつもなく久しぶりに投稿してみました!w
知らないうちに、いろんな魔法少女や変身ヒロインが生み出されていたようで…
これから、読ませてもらいますね。感想も後日書けるといいな
第二話: テルミドールとヴェスピーナ
”大学のバンドで初めてケイスとアッシュに会ったとき、すぐに「あ、この人たちだ」って思ったのよ。
その予感は見事的中し、今私はこうしてここに立ってる……それじゃ次の曲”
――200X年、7月27日。MTVアンプラグドにて『タンクメイジ』ギタリスト、サリー・キャロル・ヘイズの言葉。
両開きの扉を開けると、広々とした会議室の奥にふたりだけが座っていた。
てるみが入っていったために会話が途切れ、室内は空調の音だけが静かに響く。
ブラインドの降りた窓からは午後三時の光が漏れて、白い長机や灰色のパネルカーペットに縞模様を作っている。
照明は落とされたままで、少し暗い。窓に向かって立って、腰の後ろで手を組みたくなった。
てるみは頭を軽く下げて、
「すみません、遅れまして」
「こっちへ来て」
手招きされ、ふたりのいる辺りまで彼女が近づいていくと
「揃ったわね」
全日本魔法少女連盟・本部職員の紺色の制服を着た、ポニーテールの女――海原マリが言った。
マリの向かいに座った、長い茶髪の大柄の女のほうはてるみの知らない顔だ。
てるみはその女の隣の席についた。マリが口を開く。
「私とてるみちゃんとは一年振りくらい?」
「京都で一回忌の式んとき会った以来だから、それくらいでしょうね」
「蜂須さんは、この子とは初めてだよね」
「ええ」
蜂須と呼ばれた女が答えた。
「彼女は九日(このか)てるみ、私の元チームメイト――」
マリがてるみのほうを向く。
「こちらは蜂須アメリ。魔法少女『ヴェスピーナ』として活躍してる……昨日までは北海道?」
「はい、今朝に札幌から飛行機で」
「急に呼び出してしまってごめんなさい」
「全然構いません、管轄区は頼りになる後輩に任してきましたし。
それに海原さん、『ジャスティスマリン』の呼び出しなんて、光栄です」
アメリが微笑む。隣に座ったてるみは、横目で彼女の服を値踏みした。
黒いセーターにジーンズ、然して目立たない服装だが、脇に置かれたコートと革のケリーバッグ、
セーターの胸元に下がるシルバーのネックレス、手首のバングルは
ファッションに疎いてるみにも一目で相当に高価なものと予想できた。
まっすぐな茶髪は薄暗い会議室の中でも透き通るように見える。
一方のてるみはカーキのミリタリージャケットに厚手の白のフード付きトレーナー、
穴だらけの色あせたジーンズは半年間履き続けている。
襟首でいい加減に刈ったボブカットの髪は、伸びた前髪とのバランスで中途半端な形になってしまった。
窓の光のほうを見つめると、眼鏡についた埃とふけが白い点になって映る。
机に連結された、いささかバネの強すぎる椅子の上で足を組むと、
靴紐のほつれた黒いスニーカーの爪先がアメリのジーンズに当たった。アメリがそっと足を引く。
「で、いったい何の仕事なんですか」
「相変わらずせっかちだな――」
と言って、マリは机上のファイルを引き寄せた。
「てるみ、去年の12月30日に甲府であなたが対応した件を覚えてる?」
「インペリアルなんとかの怪獣に、あたしが来る前にふたりもやられたやつでしょ?
あたしはたまたま近くにいたから出張っただけです。管轄からだいぶ離れてたし」
てるみの返事にマリが頷いた。彼女が続ける。
「インペリアル・コンデムドの使い魔(グレマルキン)、『デモンスネイル』。
対魔法防御に特化した大型、人間タイプの生物兵器よ」
マリの言葉に、アメリが少し表情を変える。今度はそのアメリに向けて、
「あなたも同じものと戦ったことがあるわね? 今年の1月3日、札幌市で」
ファイルを広げて見せる。てるみが首を伸ばして覗くと、写真には先月戦った敵の姿があった。
背景は甲府駅前、てるみが仕留めた個体に違いなかった。
「はい。敵の指揮官は特に名乗りを上げませんでしたが、確かにこれと同じ格好でした」
「去年末から二ヶ月、同種の使い魔が北は蜂須さんのいる札幌、南は福岡までで計30体確認されてる。
そして、単独撃破できたのはあなたたちを含めて四人だけ。手ごわかった?」
「魔法での攻撃は実際効き目がありませんでした。でも私の装備は冷器も多いですから、それで対処しました」
「あたしんときもマジックアローが効かなかったんで、カートリッジ直接撃って止めは剣で」
「そう。魔法が効かない、あるいは効きにくい敵だったことは確かね。
あなたたちふたりとも、例外的に冷器使用の特殊免許を持った魔法少女だから対応できた」
「効きにくいっていうか、あれバトンで抜けます? 並みの出力じゃ話になんなかったみたいだけど」
「21件は交戦後すぐに逃亡。3件は増援の魔法少女隊が合同で撃破した。
そして東京にひとりだけ、魔法火器のみでデモンスネイルとその亜種を3体仕留めた子がいる」
間を置いて、再びマリが話し始める。
「パステルルージュ、12月22日に東京都練馬区の事案で出動。
ただし事案の発生した時点では連盟未登録・未許可。
後日書類のやり取りがあって、今年の5日からは連盟認可の魔法少女になったけど」
ファイルをめくって写真を指差した。ピントのぼけた写真に、バニーガールの格好をした少女が映っている。
「今月に入ってからは2件こなしてるわ、実力もかなりのものらしい」
「相手は全部、インペリアル・コンデムド?」
てるみが尋ねた。マリの指が素早くファイルの透明のプラスチックシートを二度叩いて、
「そうよ。彼らは最近売り出し中の魔法犯罪組織で、規模に関しては調査不足もいいとこでろくに情報もない」
今度はアメリが手を挙げた。
「その、パステルルージュが未登録だったのは何故ですか?」
「グラヴィーナという魔法国のエージェントからスカウトされたそうよ。
おかげであっちと外務省とうちと、それぞれで交渉はひと悶着あったけど、それはまあどうにかなったみたい」
「魔法国の犯罪者狩りですか?」
「らしいわ」
「で、あたしらの仕事は何ですか?」
マリが微笑んだ。
「パステルルージュと組んでほしいの。これはインペリアル・コンデムドに対する緊急特別対応よ。
あなたたち三人でチームを組んで、特に彼らの活動が活発な関東地区を中心に即応部隊として働いてもらいたい」
アメリはちらとてるみのほうを見た。それから困った風に、
「私は……正直、管轄区が心配です。私が抜けたら、残ったメンバーで対応し切れるかどうか」
「敵がI・Cと確認され次第、即、5人編成以上の魔法少女隊を出動させる。
また、彼女たちには緊急措置として臨時で冷器使用の許可を発行するわ。それでどうかしら?」
「……分かりました、やらせていただきます」
「そんなら警官隊に射殺させたほうが早いんじゃない?」
アメリがぎょっとする。しかしマリは笑顔も崩さず、
「警察官は空も飛べないし、魔法を使う敵と殴りあいも出来ないでしょ」
「それもそうですね」
てるみがおもむろにジャケットの胸ポケットへ手をやる。
しばらくまさぐってから指にジッポとハイライトを一本挟んで取り出すと、くわえて火をつけた。
アメリが彼女の肩を掴む。
「ちょっと、九日さん……!」
そう言ってマリの顔を見た。が、彼女は止めようともしなかった。マリはてるみに告げる。
「京都の事件から三年、連盟はいつまでも山梨の山奥であなたを遊ばせておく訳には行かない。
うちの事務方に上がらない、他所でも就職しないのなら、この仕事で現役復帰するより選択肢はないはずよ。
どうやら腕は鈍っていないようだし――少しくらい鈍って丸くなったら、まだ行き場もあるでしょうけど」
てるみはアメリから顔を背けて煙を吐くと、
「じゃ、やります。面白そうだし、どうせヤバイんでしょ」
振り向いて、マリと目が合った。
「私が二年間のアメリカ研修でいったい何をやってきたのか――そう訊きたいって顔してるわね」
「別にこれ以上詮索する気はありませんよ。大丈夫、ちゃんとやります」
「来たわね、パステルルージュ!」
「あんたも好きだね……」
「かかれ!」
デモンスネイルと、駅前のロータリーを埋め尽くす前座のスパルトイたちが、
一斉にパステルルージュへ襲いかかる。狭い路地を抜けてすぐのところに立っていたルージュは
真っ向から突っ込んで、前衛を紅い光の剣でなぎ払う。
なおも囲まれないよう斬り込んで、奥に控えた使い魔へと直行した。
間合いが詰まると、間髪居れずに『秘剣・桜華』を繰り出す。前回同様何も出来ないまま、使い魔は消し飛んだ。
砕けたアスファルトが埃になって舞い上がり、嫌な匂いが立ち込める。
煙が収まると、ロックと残ったスパルトイは全員逃げ出した後だった。
鳴り響く消防車のサイレンも、見物客の歓声も毎度と同じ。
ルージュは溜め息を吐いてから空を仰ぐと、早々に退散した。
「だいぶ慣れてきたわねー」
帰るなり、部屋に篭った辰美をどこからともなく現われたペッキーがねぎらう。しかし辰美の表情は浮かない。
四回目ともなると最初の頃の興奮も薄れ、パターン化したやり取りが早くも苦痛になってきていた。
プリズンロックは役立たずの使い魔をぶつけるだけですぐに逃げてしまう、
連盟の出動要請を受けて移動するだけが仕事のようだ。実際の立ち回りは一分とかからない。
「ねえ、ロックたちって本当にやる気あるのかな?」
勉強机に突っ伏して、そばにあった英和辞書を読むでもなく手遊びにめくりながら言った。
ペッキーはその隣に立てられた500ミリリットルペットボトルのキャップに腰かけて、
「資金力に任せてあなたのデータ収集でもしてるんじゃないかしら?
それに、連中は東京以外でも日本全国で散発的な戦闘を繰り返してるから……
あなた以外の魔法少女にとって、あの使い魔が脅威であることは以前として変わらない訳だし
あなたに負けても他で元を取れるんでしょうね。有効な対策はあなたとマジックルージュだけよ」
「じゃ、あたしひとり頑張っても意味ないってこと?」
思わず語気が強くなった。気づいて、ばつの悪い顔をする辰美にペッキーは、
「実はあなたの勤務内容を少し変更させてもらおうと思うの。
ルージュの力はある程度示せたし、これからは技術開発と平行して本格的な対I・C作戦を展開していきたいのよ」
「今度はこっちから攻めていくって訳?」
「ひとまず、一番出現率の高い関東で連中のアジトを探して叩く! あなたがリーダーになってね」
「それ、もうペッキーは決めてることなの?」
「正確にはあたしとあたしの上司、それと連盟がね。
今までのように出動要請を待つのでなく、打って出ることになるから、悪いけど忙しくはなるわ……」
辰美は辞書をめくる手を止めた。
「また親に心配かけるなあ……」
連盟への正式な登録が済むと、ペッキーとは別に連盟が彼女のマネージャーを用意し、
辰美の両親や学校への説明も彼の口から為された。
両親はひどく驚いていて、魔法少女としての彼女の話題が出ると未だに困ったような顔をするばかりだ。
そして元より禁止事項ではあるが、美香や友人たちにはルージュの正体は秘密になったままだ。
初めは彼女らにルージュの件を隠そうとする余計な気苦労があったけれど、
よほどのことがない限りばれないと分かった今では、むしろ罪悪感のほうが強かった。
ときおりTVの専門チャンネルで流れるルージュの姿も、手を叩く見物客たちも
むしろ馬鹿にされているようで気に食わない。なにせ至極簡単な仕事なのだ。
楽しみと言えば、連盟とペッキーの国から支払われる結構な給与くらいのものだった。
今度は口紅をもてあそぶ。いつも持ち歩いているのに、全く傷も曇りもつかない紫のチューブを指先で撫でた。
「ねえ、マジックルージュってこれしかないの? 大量生産すればいいのに」
「ちょっと事情があってね……同じものはもう一本、グラヴィーナにしかないのよ。
だから今頑張って量産化に向けた研究を続けてるけど、それまではあなたにやってもらうしかないわ」
「ま、いいですお給金高いし、あたしも周りの人も今んとこなんとか無事で済んでるし」
椅子を引いて立ち上がった。肘がペッキーの座ったペットボトルに当たって、危うく倒れそうになる。
「あ、ごめん……」
「だいじょぶだいじょぶ」
キャップにしがみつくペッキーに手を差し伸べる。手のひらに乗った彼女を連れて部屋を出る。
「どこ行くの?」
「ちょっと早いけど、お風呂入る。なんか溶けたアスファルトの匂いが染み付いてる感じで」
「あら、そんなことはないと思うけど」
「転校生どんなだろうね」
珍しく朝早くに目が覚めて、授業開始の30分前に学校についてしまった辰美に美香が言う。
「転校生? そんなの来るの?」
「あれ、知らなかった? 転校生見に早く来たのかと思ったわ」
「そんな、小学生じゃあるまいし……」
「ふーん」
「なんだよその顔」
「べっつにー」
辰美は席について、暇な時間を美香とだらだらと喋って潰した。
あの公園の事件以来、ルージュの話題はあまり出なかった。
美香がネットでルージュの出動情報を追いかけているらしいことと、
口では悪く言いつつもどうやら彼氏の岩崎が彼女の中で若干株を上げたことの他は、彼女に特に変わりはない。
HRの時間が近くなると、教室に生徒が増え始める。誰かが窓の外を見て、
「例の転校生ってあれかよ」
ちらほらと窓際に人が集まりだして、辰美と美香もつられて見にいった。
制服を着たふたりの女子学生が他の生徒に混じって、並んで校庭を歩いている。
ひとりは随分と背が高い。身長が180近くありそうに見えた。
もうひとりは逆にやたらと背が低く、辰美と同じくらいのようだった。
「でかいほうは美人じゃん」
「バレー部かな」
「すげー身長差。わざとじゃねえの?」
「どだ、親近感涌いたか?」
にやにやする美香の肩を、辰美が拳でどやした。
「超眠いっす……ああ、学校懐かし」
てるみは眠い目をこすった。朝日が眩しく、眼鏡の汚れがやたらに目立つ。ブレザーの袖でレンズを拭いた。
「九日さんは高校は?」
「行ってない。通信みたいなのはやらされてるけど、校舎見たことないわ。お宅は?」
「一応は転校って形になるのかな」
「どうせいいとこでしょ?」
アメリが小さく肩をすくめた。てるみは大欠伸をして、
「ま、のんびりやりましょか。あーでもやっぱかったる、急展開起きねえかな」
「もう、煙草は駄目だよ」
「努力するよ」
辰美たちのクラスのHRが始まる。
担任教師の三枝の後からふたりの転校生が入ってくると、教室が少しざわついた。
「黒板の高さで分かる。あの子、あんたとおんなじくらい」
「うるせえや」
「はーい静かに。ふたりにはすぐ自己紹介してもらうから落ち着け」
三枝に促されて、背の高い茶髪の生徒から黒板の前に立つ。
すっとチョークを握って、丁寧に名前を書いた。前を向いて、
「今日から皆さんと同じクラスでお世話になる、蜂須アメリです。
三学期はもうちょっとしかないけど、色々よろしくお願いします」
拍手が止むと、アメリは脇に退いた。入れ替わりで背の低い黒髪の生徒が出てくる。
チョークを折るような勢いで、アメリが書いたよりずっと下に名前を書き殴る。
「えーっ、九日てるみです。九日と書いて『このか』と読みます。よろしく」
また拍手。それからふたりは後ろの空いた席に並んでつくよう言われた。
「短い間だがみんな仲良くするように。それじゃ日直――矢島、山崎。日直日誌は誰持ってんだ? 三宅か?」
「おれ百瀬さんに回しました」
「あたし忘れました、ゴメンナサイ」
「またかよ百瀬――いいやお前今日も引き続き日直な。じゃ百瀬と矢島で」
「げっ」
「ばーか」
てるみがアメリに耳打ちする。
「やっぱり、あれだね」
「あの子だね」
放課後、掃除のために下げられた机と椅子に挟まれて唸りながら、辰美は日誌を書いていた。
「何やってんだお前」
呆れ顔の美香が、教室のドアから首だけ出して彼女に声をかける。
「いや、それが、家に忘れたと思ってた日誌が机の中から出てきたので、
今度こそ忘れないように、いまのうちに、書いて出しちゃおうと、思って……うう、腹がきつい」
「……あたし先帰るわ」
「え、ひどい」
「だって約束あるし」
「へえへえ仲のおよろしゅうござんすね」
「たっちゃん、終わったから机動かすよ。黒板消すのよろしくねー」
掃除当番のひとりが辰美を呼んだ。腹を押されて苦しげな声で答える。
「お、お願いしますなる早で」
「じゃ、また明日」
美香はドアを離れた。
机を動かし終わると、掃除当番たちも帰っていった。
辰美は日誌に何を書いていいのか分からず、その後も残っていた。
「書くほどのネタねーし……」
「百瀬辰美さん?」
廊下から誰かが辰美の名前を呼ぶ。日誌にシャーペンで、すぐ消せるような薄い字で落書きしながら
「ほいー?」
「ちょっといいかな」
振り返ると、転校生のアメリが教室に入ってくるところだった。その後からてるみが続いた。
ふたりはつかつかと辰美の席に近づいてくる。
「な、なんでせうか」
アメリが一枚のカードをそっと辰美の前の机に差し出した。
プラスチックのカバーに収まった、全日本魔法少女連盟のライセンス・カード。
顔写真には、今よりも幼い顔立ちだが確かにアメリその人が写っている。
てるみも同じカードを投げ出した。アメリのカードより傷の多い、埃焼けしたようなカバーがついていた。
唖然としている辰美に、アメリが優しく話しかける。
「私たちのことは連盟から聞いてますよね?」
辰美は黙って首を横に振った。てるみが三枚目のカードを投げる。
「お宅の更新された免許証」
やはり辰美の顔写真が入ったカード。ブレザーのポケットから慌てて財布を出し、今持っているものと比べた。
内容は理解できなかったが、新しいカードには古いものにない新しい記載がある。
「新しい任務のこと、百瀬さんは聞かされてないの?」
「全然……あ、いや、それらしいことはちらっと。でもこんな急にとは思わなかったから」
外の廊下を部活動の生徒たちががやがやと話しながら通りすぎていく。
アメリは腰に手を当ててしばらく考えているようだったが、突然思いついたように、
「ちょっと付き合ってもらえるかな? 九日さんも、いい?」
「珍しく早起きしたもんでめっちゃ眠いけど、仕事の話なら仕方ないよ」
辰美が連れてこられたのは、学校の近所にある家具付きの賃貸マンションの一室だった。
「楽にしててね」
そう言ってアメリはふたりを居間のソファに座らせ、自分はキッチンに立った。
辰美はてるみと顔を見合わせた。何を話していいのか分からず、気詰まりだった。
てるみのほうから目を逸らし、そばにあった学生鞄を漁って何かを取り出そうとした。
「この部屋は禁煙――」
キッチンのアメリが釘を刺すと、てるみは諦めて手ぶらで鞄から離れる。
「勘のいいやつめ」
「あの……ふたりも魔法少女なんですよね?」
「一応は」
「例の、インペリアル・コンデムド対策のチームってことで?」
「うん」
また会話が途切れた。やがてアメリが戻ってきて、辰美はほっとした。
「ちょっと待っててね、もう少しでコーヒー入るから」
「ありがとう、ございます」
「どもっす」
「さっき連盟に電話したら、あなたの担当の人がこっちに来るって。急な話だったから、色々混乱してるのかなあ」
「おふたりとも、長いんですか? その……魔法少女としては」
「私は三年くらいになるかな。九日さんは五年?」
「まあそんくらい」
「お恥ずかしながらまだ一ヶ月……」
「でも、その一ヶ月で四件こなしたんでしょ? もう一人前よ」
「いやあ、そんなあ……」
「インペリアル・コンデムドの使い魔にはもう20人以上やられてる」
辰美ははっとして顔を上げた。
「コーヒーメーカー、アラーム鳴ってるよ」
「え、ええ」
アメリはまたキッチンに立ち、盆にコーヒーカップを乗せて運んできた。
受け取って、ブラックのまますすったてるみが一言、
「豆はいいけどベリーアメリカン……」
「ごめん……」
「あ、あたしは薄いほうが好きですよ。ミルクもらいますね」
おずおずと盆からミルクを取って注いだ。向かいのてるみが、独り言のように呟く。
「I・Cはグラヴィーナって魔法の国から、革命で敗れて都落ちしてきた兵隊上がりなんだっけ」
「らしいです」
「百瀬さんが担当してる地区の相手はプリズンロック。
元は軍の政治犯収容所で看守をやっていたそうで、革命政権も特に目をつけてる重大戦犯のひとりとか」
今度はアメリが言った。辰美は頭を掻いた。ペッキーの説明は不十分だが、問いただすのも面倒だったのだ。
「それは知らなかったです。あたしより詳しいですね」
「I・Cは革命のどさくさに紛れて流出した新種の魔法技術で資金稼ぎするつもりで、
それがあの魔法の効かない使い魔。単独であれを狩ったのはあたしら含めて四人だけ」
「そんなに強いやつだったんだ……あ、いや、無我夢中だったからあんまり分かんなくて」
「対魔法結界を持ってる以外は実際そんなに強くも感じなかったな」
「パワーと小技はあるけど、動きは鈍いし的も大きいしね。あれだけなら私でも何とかなったから」
「でも、魔法効かないんでしょ? どうやって倒したんですか?」
「武器がちょっと変わってるからね、私たち」
「うん……」
「携帯鳴ってるよ」
てるみが辰美の鞄を指差した。急いで携帯電話を取り出す。
辰美の自前ではなく、連盟から支給された緊急連絡用の電話だった。
「ちょと失礼」
居間を離れようとしたが、何やら嫌な予感がしてその場で電話を続けた。
「はい、辰美です――ドロップスさん?」
駆けつけた連盟の輸送車が装備する転送装置(いかにもSFチックな機械で、魔法らしくないと辰美は思っていた)で
三人がワープした先は、昨日辰美が戦ったばかりの駅前ロータリーのそばだった。
早くもスパルトイの軍団が、昨日を上回る人数で控えている。ロックと使い魔の姿はまだ見えなかった。
「顔合わせしたと思ったらすぐ……せっかちだね」
「来るなら早いほうがいいさね。じゃさっそく行きましょか」
ふたりはそれぞれどこかの路地に入っていこうとする。
「え、え? 協力するんじゃないんですか?」
「私たちは敵の後ろに回るわ。大丈夫、百瀬さんが危なくなったらすぐにでも飛び出すからね」
「分かりました――ええと、蜂須さん」
「アメリでいいわ」
「ええと、じゃ、あたしも辰美でいいです」
てるみだけが会話を無視してさっさと先に行こうとしていたが、ふと、気まずそうに立ち止まる。
「……てるみでいいよ。でも、始まったらコールサインで呼ばなきゃ」
「ああ……あたし、パステルルージュです」
「ヴェスピーナ」
「テルミドール」
二人は路地に消えた。辰美は口紅とコンパクトを取り出す。戦闘準備。
「ラベンダー、どこにいるの?」
プリズンロックは駅構内の二階ほどの高さの窓からロータリーを見渡しつつ、携帯電話でラベンダーを呼び出した。
『近所のビルの屋上です。イビルスラッグはまだ出さないんですか?』
「いつでも。ただ、多少混戦になったところで出したいわ」
『健闘を祈ります』
「そちらこそ。これで全く駄目なら考えものね」
電話を切った。盾を携えた護衛のスパルトイ五人が、直立不動で彼女を取り囲んでいる。
改札周辺に人影はなく、階下のホームからは追い出された利用客たちのざわめきが聞こえてくる。
陽が沈みかけ、暗くなり始めた駅前には、
パステルルージュを待ち受けて微動だにしないスパルトイの黒い隊列があった。
「……来たわ」
首にかけた双眼鏡を、ロータリーの先の道路に向けて覗いた。
ピンクの燕尾服を着たバニーガール。間違いない、パステルルージュだ。
突然、ロックの護衛のスパルトイ全員が左を振り返った。
気づいたロックも同じ方向に向こうとしたそのとき、
護衛たちの盾をすり抜けて一本の矢が飛び出し、双眼鏡を持っていた左の手の甲に突き刺さった。
「い……」
ロックは自分の手を見た。
そのまっすぐで細い矢は、アーチェリーに使われるアルミニウム製のように思われた。
尖った先端がロックの白い手を貫通し、双眼鏡に当たって止まっている。
二の矢が護衛の盾で跳ね返る音がした。刺さった矢を右手で引き抜くと、今度こそ振り返り敵を確かめる。
スパルトイの盾に空いた小さな窓から、通路の奥に立つ敵の姿がわずかに覗けた。
深緑色をした、カシュクール(打ち合わせ)のチュニック。そして長大な弓。
動きやすく幅広になったスカートの下では、黒いタイツを履いた細い足が、弓を射るためにスタンスを取っている。
「誰!?」
答えの代わりに放たれた三の矢は実体弾ではなかった。
白熱した光弾が盾を貫通してスパルトイの頭を吹き飛ばし、更にロックの髪をかすめて背後に消えていった。
スパルトイはロックを守っているために動けないまま、次々と撃ちぬかれていく。彼女は窓を破って飛び降りた。
いつもと同じ、真っ向勝負。列をなして挑んでくる敵を胴斬りにする。
崩れた前衛を乗り越えて先に進もうとするが、普段より更に層が厚いため、突破は難しい。
一端下がると、追っ手を足を使ってばらけさせ、少しずつ相手する。
まず、組み付こうとしたスパルトイの顔面を膝で蹴り上げる。
左右に回って挟撃にかかる2体をバックステップでかわし、右の敵から背後を取って斬った。
と、ロータリーに面した駅舎の窓が割れ、軍服を着た人影――ロックが地面に落ちる。
ルージュが一瞬気を散らしたところへ、
路上駐車の車の陰を使って忍び寄っていた6体のスパルトイが囲みにかかる。
正面突破――ロータリーから次々と押し寄せる隊列は、無傷で破れそうもない。
迷っている暇もなく、四方から棍棒が襲いかかる。
「伏せろ!」
誰かが叫んだ。ルージュが咄嗟に屈むと、
巨大なフリスビーのような黄色い円盤が路地から飛び出して、彼女を囲んでいたスパルトイたちを軌道に捉えた。
鋭く弧を描いた円盤は、正確に5体の頭を弾き飛ばして路地へ戻っていく。
最後のひとりは屈んでいたルージュに打ちかかり損ね、前のめりになる。ルージュはその脇腹を斬った。
立ち上がったルージュの目の前に、路地を出てきた彼女の味方がいた。
誰かは名乗られるまでもなく一目で分かった。
「ヴェスピーナよ」
半袖のジャケット、ショートパンツ、関節や胸部を守るプロテクター、ブーツやグローブ、
左右に透明な虫の翅を付けたキャップ、全て黄色に黒のライン。
右手に携えた武器は針のように真っ直ぐな長槍で、その半ばは黒塗りで艶のない鋭利な刀身だった。
左手には先に投擲した丸盾を持ち、盾の中央には緑色に光る小さなカメラ・アイ。
どちらもやはりツートンの警戒色。オレンジがかった黄色はスズメバチを思わせる。
変身前よりも伸びた銅色の髪をなびかせて、ロータリーの軍団へ靴を鳴らして迫っていく。
ルージュもロータリーのほうを見た。ロックが落ちた窓から、てるみらしき魔法少女が弓を構えている。
「退け、退きなさい!」
スパルトイをかき分けて逃げようとするロックをなぶるかのように、魔法の矢がそばをかすめていく。
外した矢を代わりに受けたスパルトイが次々とオイルを撒き散らして爆発する。
「こっからじゃ矢が足りねえかなあ」
くわえ煙草を口の端から深々と肺に取り込むと、
『テルミドール』――九日てるみは、腰に吊った箱型の矢筒(クイーバー)から次の矢を取ってつがえた。
変身によって癖毛に変わった髪は鳥の巣のように膨らんで、彼女の小さな頭を大きく見せる。
肩はパフスリーブから二の腕は黒いタイツ地の指貫の長手袋で覆い、
弓を持つ右腕にはチュニックと揃いの緑のガードを巻いている。
変身しても身体は小柄なままだが、弦を引き絞る腕には鍛えられた筋肉の膨らみがはっきりと浮いている。
緑が基調の迷彩に塗装され、アーチェリーらしい装備の他に赤と黒の点上のレーダー素子が張り巡らされた
魔法合金製リカーブボウは、使い手の身長のせいで巨大に見える。
照準が眼下のプリズンロックを離れ、道路でルージュとヴェスピーナを阻む隊列の中心を狙った。
中央のスパルトイが破裂する。オイルの霧に紛れ、ルージュとヴェスピーナが二手に分かれて斬り込む。
「おらあっ!」
ヴェスピーナは丸盾を叩きつけ、前方の敵を押し倒して分け入ると、左右の敵を、首筋を狙って派手に振り回す。
蜂の羽音のような音と共に、黒い刀身がルージュの剣に勝るとも劣らない鮮やかな切り口で5、6人の首を飛ばす。
長い手足と槍のリーチ一杯に敵を巻き込み、なぎ倒す。懐に飛び込もうとする敵は盾で弾く。
それでもなお打ちこぼした敵は、テルミドールの矢が仕留めていく。
ルージュも負けじと斬り進み、スパルトイの壁は見る見るうちに削られていった。
スパルトイの足元に身を伏せて隠れたロックが絶叫する。
「イビルスラッグ!」
アスファルトに紫の光の魔方陣が三つ、彼女を囲むようにして出現すると
地面を通り抜けて使い魔たちが引き上げられる。
デモンスネイルと同じ人間型の使い魔だが、体格は人間ほどで小さく、腕が長い。
ナメクジのような頭部には二対の触角が生え、それぞれが自律しているかのように別方向に動く。
身体の各所が甲殻で覆われ、拳や爪先も硬く鎧われている。
「やあっと出たか……!」
テルミドールが使い魔に矢を射った。
マジックアローの光弾は一体の使い魔の背中に当たって一瞬仰け反らせたが、致命傷は与えられなかった。
撃たれた個体はすぐさま隊列を跳び越し、空中からルージュを襲う。残りも同じようにしてヴェスピーナにかかった。
ルージュは跳ねてかわした。着地と同時によく伸びるフックが繰り出されるが、それもぎりぎりで腹をかすめる。
身軽なだけあって、動きがデモンスネイルよりずっと速い。
ヴェスピーナは飛来する敵を盾で受け止めた。先鋒を弾き返すと、次が隣に降りてフックで足をすくおうとする。
槍で払うが、腕を切り落とすことは出来なかった。火花が散って、被甲が筋上に剥がれただけだ。
彼女もやはり身を引いて、体勢を立て直した。
「しゃらくせえ!」
短くなった煙草を吐き捨てる。接近戦闘。
テルミドールがロータリーに降り、矢を一度に三本つがえて残ったスパルトイの密集する場所を撃つ。
散らばった矢が集団をまとめて呑んだ。テルミドールはひざまずき、乱射を続ける。
次は飛び蹴り――跳び上がったスラッグの背中に流れ弾が命中する。
空中で体勢を崩した隙に、ルージュが剣をその胸へ叩き込む。
スラッグは仰向けになって地面に落ちた。すかさず覆いかぶさってもう一度、バトンを突き立てる。
紅い光は殻のある胸元で弾かれてしまうが、なおもねじ込む。スラッグのパンチが来る。
危うく鼻を持っていかれそうになったところで、バトンを離して立ち上がった。
スラッグの胸の窪みにバトンが一瞬直立している。ルージュはそれを踏みつけた。
「秘剣――」
衝撃でバトンの先端が殻を突き破り、スラッグの胸にめり込んだ。剣の光が見えなくなる。
「散華」
ルージュの足の下で、スラッグの胸部が破裂する。裂けた肉が花のように開く。
スラッグは倒れたまま動かなくなった。ルージュは汚れたバトンを拾い上げ、ヴェスピーナの助太刀に向かう。
ヴェスピーナの槍が一体のスラッグの触角を全て落とす。
途端に動きの鈍る敵を、殻の隙間を狙って斬りつけた。蜂の羽音がして、スラッグの片腕が千切れる。
止めにかかる彼女に、死角から残り一体が組み付こうとする。その尻にルージュが蹴りを入れる。
軽々と宙を舞うスラッグの触角を手で掴んで、引き倒す。倒れたところを更に踏みつける。
「代わるわ」
すでに一体の首を落としたヴェスピーナがルージュに代わって、のたうつ敵を刺し殺した。
「済んだみたいだな」
ふたりが振り返ると、テルミドールが弓を下ろして歩いてくる。
あの乱射で、ロータリー一帯のスパルトイは全滅していた。
散乱した残骸の中で、切り落とされた四肢が時折痙攣する。黒いオイルが海になって、道路の側溝に流れていく。
三人がかりで築いた屍の山を見渡すと、ルージュの中の辰美は唐突に怖気を感じた。
だが、「ルージュは」無表情のままでテルミドールに頷くだけだった。
「プリズンロックには逃げられちまったわ」
悔しがるテルミドールを、ヴェスピーナがたしなめる。
「それは仕方ないわよ。どうせ毎度と同じ強力な移動魔法使ったんだろうし、
これから後を追うのは捜査局の仕事。私たちの仕事は果たしたんだから、もう帰りましょ」
左手の痺れるような痛みは後になってやって来た。
穴は縮んだ皮膚に隠れて埋もれ、赤い陥没になっている。
「傷を見せて」
ラベンダーが手を取った。ロックは抵抗する気も起きなかった。
そこは魔空間に浮かんだ小さなアジトだった。
乱雑に置かれた機材の密林の中で、ロックの部下たちが黙々と作業している。
コンクリートの床は底冷えがする。暗いオレンジの照明は、暖色なのにむしろ寒さを強めているようだ。
急ごしらえの医務室を使うまでもないと言って、執務室の隣の作業場で椅子に寝ていた。
「契約を切ろうかと思うの」
ラベンダーはロックの手にてきぱきと包帯を巻いていく。目は彼女の手に落としたまま、
「うち以外にあなたたちの面倒見れるとこがあるとでも? ……あとは医療ポッドに突っ込んどけば大丈夫」
包帯が巻き終わった途端、ロックはラベンダーから素早く手を引いた。
ラベンダーは笑顔を見せたが、ロックは無視して起き上がった。
顔にかかった銀髪を、包帯をした手で無造作に払う。
「部屋で寝るわ」
「ロック様!」
彼女が執務室へ戻ろうとしたとき、鉄兜の兵隊がふたりに駆け寄ってきた。
「フラダリが沈みました」
ロックが唖然とする。
ラベンダーは黙って彼女の側に座っていたが、やがてロックが意を決したように立ち上がると、続いて立った。
「あなたは管制室に入れられないわよ」
ラベンダーは肩をすくめて言う。
「別に。便所ですよ」
36 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/25(月) 02:40:40 ID:npZF+sje
投下終わりました
投下乙!
38 :
機甲闘兵ソニア ◆4EgbEhHCBs :2010/01/27(水) 23:50:29 ID:Lkrye0Yk
投下します
機甲闘兵ソニア 最終話『決着』
キメラモンスたちと融合し、怪物化したムルマがソニアとレベッカに襲い掛かる。
巨大化した腕を二人に向かって振り下ろす。それを間一髪かわすが、拳がめり込んだ
床は、拳の形通りに凹んでいた。
「ちっ…なんて破壊力だ」
「ソニア、なんとしても食い止めるぞ!」
ソニアは拳を回避しながら、ムルマへと接近し、コンバットナイフを抜く!
「フレイム!スライサァァ!!」
炎を纏ったナイフがムルマの腕へと一閃する!しかし、それを気にも留める様子はない。
「なんなの、それは?くすぐったいだけよぉ!!」
「ぐっ!うお!?」
ムルマが微笑を浮かべたかと思うと、次の瞬間、ラリアットを繰り出し
それはソニアが反応するよりも速く、直撃し、壁に叩きつけた。
「うあああ!?くっ、変身してなかったら即死だった…」
「ソニア!しっかりしろ!」
レベッカが駆け寄ろうとするも、今度は破壊光線がその怪しく光る眼光から放たれ、
それの回避に専念せざるを得ない。
「ちっ!ウィップストォォム!!」
鞭を地面に叩きつけ、その振動から起こる衝撃波で攻撃を試みるが、それも
大して効果はないようである。
「無駄よ!はぁぁぁ!!」
「むっ!ぐぅぅ!!」
レベッカも吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。倒れこみながらも、
ムルマの方を睨みつけている。
「くっ…ムルマ!貴様、そのような姿になって、何を企んでいる!?」
「あら、わからない?この世界の破壊に決まっているじゃない」
「なん、だと…?」
至ってシンプルな答えに、逆にレベッカは困惑する。
「そうよ、このどうしようもない世界の破壊にね。地球統一政府への反抗として
ロギアを立ち上げたのも、その一環よ」
「何をふざけたことを!くらえ!マグナムナァァックル!!」
ソニアは話を聞く気はなく、立ち上がると、拳をムルマに向かって突き出し
それが怪物状態の彼女の腹部にめり込む。しかし、やはり効果はないようで
「無駄なのよぉ!ふぅあぁ!」
「がぁぁぁ!なんて、奴だ…!」
二人に止めを刺そうとするムルマであったが、何かの気配を察し、そちらの方を向く。
すると、突然壁が爆発し、煙が立ち込める。
「あ、アメリ!」
「隊長!ソニア!大丈夫ですか!?」
アメリは構えたガンをムルマに向けてマシンガンモードで乱射する。
牽制しながら、二人の下へと合流する。
「すまない、アメリ。助かった」
「いえ、隊長。待機していましたが、爆音が外からも聞こえまして…」
「プラズマフォースが集合したんだ、ムルマ!お前もここまでだ!」
力強く怪物化した美女に向かって叫ぶソニア。しかし相変わらず彼女は不気味に
笑みを浮かべたままだ。
「いいわよ…どこからでもかかってきなさい!」
「ソニア、アメリ、いくぞ!」
「「了解!!」」
アメリがムルマの腹部へバズーカ弾を放ち、直撃するのと同時に、ソニアとレベッカが
突撃する。すでに攻撃準備は完了している。
「ナパームクラッシャー!!」
「サイクロンストリングス!!」
鞭から発生した竜巻と、白熱化した拳がムルマに炸裂する!
しかし、彼女は痛がる様子すら見せずにいる。
「ロケットキャノン!!」
続いて、ロケットランチャーがエネルギーを纏いながら放たれるが、それは
着弾する前に、一筋の閃光により、相殺されてしまう。
「あらあら…可愛い傭兵さんたちは、強さも可愛らしいわねぇ…ふん!!
プラズマフォースの攻撃をものともせず、ムルマは怪物化したため出来た尻尾の一振りで
接近戦を仕掛けていたソニアとレベッカを弾き飛ばし、さらに目からの怪光線を
アメリに浴びせ、吹き飛ばしてしまう。
すぐに三人を倒せそうではあるが、ムルマはいきなり
止めを刺そうとはせず、二人を見下ろしながら怪しく微笑んでいる。
「小さな隊長さん。さっきの話の続きだけどね…私は昔、貧しい国で生まれたわ」
彼女に瞳が紫色に光り、話は続く。
「でも貧しいとかそんなことはどうでもよかった。だけどね…世界全体の統治を
図ろうと地球統一政府が誕生してから、私の国は災難だった」
「なんでだ!政府は世界中の国々のために」
「努力してきたとでもいうの?一見すると平和に見えるかもしれないけど、
統一政府は、私たちの国のように貧しく資源もなにもない国に援助などはしなかった。
それどころか、世界を統一させるために、国に政府の軍隊が入ってきた」
ムルマの瞳に灯った怪しい光は一層強さを増していた。
「政府の軍隊は、私の国をよくするどころか、いいように奪い、人々を
蔑ろにしてきた。復讐するために、私は国から逃げてロギアを結成したわ。
けど、特別な力は何もなかった私やロギアにそんなことは不可能だった。だけどね…」
今度はニッと、笑みを浮かべながら語る。
「数年前、ロギアは政府軍に追い詰められて、ここブラジルまで逃げ延びたわ。
もうおしまいだと、みんなで自決しようとも思っていた…でも、神は私たちを
見捨てなかった」
ムルマが率いていたムルマの軍勢はブラジルでこのピラミッドを偶然発見したのだ。
中に入ってみると、そこには現在のテクノロジーでは到底作れないような
生物兵器や銃火器などの設計図に、それらを製作できる設備があったのだ。
「そして私たちは新たな力を得て、復活したの。このピラミッドは私に力を与えてくれる!」
「なるほど…それで、お前らはあんな怪物どもを作ったり」
「自身を肉体改造して、政府軍を苦しめたのですね」
「自然の摂理を揺るがすような行いか…許せぬ!」
プラズマフォースの非難をムルマはそれを嘲る。
「許す許さないなんて関係ないわ。私たちが望んでやったこと、政府に復讐できれば
私たちはなんだっていいのさ。それに…あなたたちだって政府軍に対して思うとこはないの?」
地球統一政府は弱小国に限らず、無茶な要求をすることもあった。
ムルマとしてはそのことでプラズマフォースを動揺させるつもりでいたのだが。
「だからなんだというのだ?我々はあくまで傭兵、依頼に応える、
それが仕事だ。今の私たちの仕事は、ムルマ!貴様を倒し、EXコアを奪還することだ!」
レベッカが勇ましく、ムルマの疑問を一蹴する。
「そう…いいわ、ならあなたたちをここで抹殺してしまいましょう!」
ムルマは手にしているEXコアを掲げる。すると、眩い光とともに、
衝撃波が発生し、三人を襲う!
「くっ!うああ!」
「きゃああああ!!」
「ぐうう!このままでは……なんとかして弱点を見つけなくては…」
だが、ムルマの猛攻は止まらず、尻尾の一振りで三人を壁に激突させる。
「そろそろ…終わりにしましょうか」
「くっ、レーザーマシンガン!!」
アメリが銃をマシンガンに変形させ、ムルマの全身に乱射する。
その弾の一つがムルマの持っていたEXコアを掠める。
「ぐぅぅ!あああぁー!!」
すると、どうしたことか、突然ムルマは苦しみ悲鳴をあげる。
「どうしたのだ…?そうか!ソニア、アメリ!」
何かに気づいたレベッカは二人に声をかける。
「奴はこのピラミッドが自分に力を与えてくれると言っていた…EXコアのエネルギーを
増幅させてさらに力を増長させ、怪物との融合もしたに違いない。ならば…」
「EXコアを奪い取れれば!」
ソニアの言葉に頷くレベッカ。それぞれの意思が揃うと、ソニアはEXコアに向けて
銃を構え、ソニアはそれの射線上に。レベッカはムルマに突撃する。
「ムルマ!私のとっておきを見せてくれる!」
鞭で無数の乱打を浴びせ、さらに巻きつけると、そこからエネルギーが流れ出す。
「グラビティストーム!!」
より一層、エネルギーの流れは強くなり、ムルマの動きを封じていく。
「ぐううう!!そのようなものでぇぇ!止められるとは思わないでほしいわぁ!!」
ムルマが鞭を振りほどこうとするが、レベッカの表情は焦りの表情にはならない。
「ソニア、アメリ、今だ!!」
攻撃準備は既に完了していた二人が頷くと、アメリの銃にエネルギーが集束していく。
「ソニア、しっかりお願いしますよ!ギャラクティカランチャー!!」
EXコアに向けて、極太のビームが発射される。その射線上にいたソニアは
そのビームを纏いながら、凄まじい勢いで突撃する!
「ムルマ!これで終わりだぁ!ミサイルゥ!ナァァァァックル!!」
ビームの威力もプラスされたその拳が辺りを吹き飛ばすほどの勢いで
ムルマに突き刺さり、間もなく大爆発が起きる。
「ぐあああああああ!!!こ、こんな……こんなとこで滅ぶわけにはぁぁぁ!!」
ソニアに向かって拳を振るおうとするも、それはソニアの鼻先で止まり
ボロボロと肉体の崩壊が始まった。
「あああ!!ぎゃあああああああああ!!!」
そして再び爆発が体中で起きていき、ムルマは砂と化して、消え去った。
「ソニア、EXコアは?」
「ちゃ〜んと、取り返しましたよ。ほら」
体中に傷を作りながらも、掲げた右手にはEXコアがしっかりと握られていた。
それを確認したレベッカはソニアとアメリに微笑む。
「よし、任務完了!すぐに日向隊のとこへ帰還し、事の次第を報告する」
「「了解!!」」
アメリはソニアに肩を貸しながら、二人で外へと向かっていく。
レベッカは一度、ムルマだった、砂を見つめ、それがどこからか吹いた
風によって飛ばされるのを見ると、二人の後を追った。
事件解決から半年の月日が流れた。ロギアは総統ムルマは倒されたものの
各地に散らばっていた残党は、今も諦めてはいないらしく、勝ち目の無い戦いを
繰り広げているらしい。もうプラズマフォース始め、傭兵部隊の助けがなくとも
政府軍は残党を潰すことに、そう苦労もなさそうだ。
「仕事がないと、傭兵部隊もいらない子か…あ〜暇だなぁ」
「ソニア、そんなこと言って…不謹慎ですよ」
ソニアの発言をアメリが咎める。仕方なく、ソニアは椅子に腰掛け、ブラブラと
椅子を揺らしながら、休んでいると、レベッカが入室してくる。
「うわっと、隊長!」
突然入ってきたので慌てて、椅子から立ち上がり、アメリがすでにやっているように
敬礼するソニア。レベッカも敬礼し、部屋の奥へと進む。
「二人とも、平和ボケはそう長くは続かないようだ」
「ん?またロギアか何かが暴れだしたんですか?」
ソニアの問いに、レベッカは答える。
「あのムルマが力をつけたピラミッド…他にも目をつけた組織が出てきたという
話でな…そこで統一政府から、再び我々に声が掛かった」
「狙っている他の組織を潰すためですか?」
アメリの疑問にはレベッカは首を振り、資料を渡す。
「そのような輩からあのピラミッドを守り、且つ、監視せよとの依頼だ。
そこで、我々プラズマフォースは本部をブラジルへ移し、その任務を遂行する」
「マジですか!?ブラジルならすぐに家族にも会いに行ける!」
本部の移動の報せを聞き、ソニアは喜ぶ。アメリはそんな彼女を見て苦笑している。
「ですが隊長、本部を丸々移動だなんて大規模ですねぇ」
「ああ、あの遺跡の解明のためにプラズマフォースの技術部門の力も貸し出すように
依頼を受けているのでな。ならば、いっそのことあちらに全てを移したほうが
コストその他の面でも良い。それでは、すぐに移動準備を始める。二人は武器庫の方を頼む」
「「了解!!」」
指示を受け、すぐさまに二人は武器庫へと向かっていく。
レベッカは窓から雲一つなく広がる青空を眺め始める。
「ふう…まだまだ我々の仕事は終わりそうにないな…」
そう、一言呟くと、彼女もまた部屋から出て行った。その瞳にはどこか切なそうなものが
感じ取られていた…。
投下完了。短期で話をまとめるのは、なかなか無理やりな展開に
なtぅたのは反省せざるを得ない…というわけで今回でこの話は
最終回です。また次回作でお会いしましょう。
>魔法少女ユミナ作者さん
異次元パンチに吹きましたw想像したらインパクトすごいw
あと、炎を操る侍でニヤリとしましたw
>BIG BAD MAMA-RANGE KITCHEN作者さん
これはすごいボリューム!自分もこれぐらい書けるように
なりたいなぁ。
46 :
◆4EgbEhHCBs :2010/01/29(金) 23:36:33 ID:xOjA8iLN
こんばんは。ただいまより新作を投下いたします
戦乙女メルナ 第一話『歪みし世界!救世主現る』
20XX年。地球は平和な世が続き、人々は生活圏を宇宙にまで広めようとしていた。
しかし、その平和はあっさりと打ち砕かれた。一年前に突如として襲来した異次元からの
侵略者レイルガルズによって。彼らは巨大怪獣や未知の兵器で人々を苦しめ
あっという間に北米、アジア、欧州の一部を支配し、その他の地域でも破壊活動が
行われ、人々の作り上げたものは次々と破壊された。
この物語はそんな荒廃した世界での少女の日々である。
―――フランス首都パリ。レイルガルズの侵略の手がすでに及んでおり、エッフェル塔は
曲り倒れ、人々は不安にさらされていた。レジスタンスがレイルガルズに抵抗しているが
それもいつまで持つかはわからない。
とある飲み屋で、一人のメイド服を着た少女が忙しなく働いている。
小柄だが、メイド服の上からでもはっきりとわかるスタイルのよさ、
そして長い桃色の髪を揺らしている。
「おい、飯まだかよ!」
「は、はい!すぐにやります!少々お待ちください!!」
気が立っているお客に対し、慌てながらも応え、すぐに対応しようとする少女。
「お待たせいたしました!」
「ん?…おい、これ違う奴だぞ!てめぇふざけてんのか!」
「ご、ごめんなさい!わ、私、こういうとこで働くの初めてで…」
「言い訳してんじゃねぇぞ!メイドはメイドらしく素直に言うこと聞いてりゃいいんだ!」
怒鳴りつける男に、ただオドオドするしかない少女。だが、その時であった。
ローブを被った人物が、二人に近寄ると、突然男の手を掴み上げたのだ。
「うぐあ!て、てめぇ何しやがるんだ!」
「小さな女の子に当たり散らすとは…いい大人が情けないですよ」
その声色からしてどうやら女性らしい。彼女は話を続ける。
「今はここも侵略者の手によって荒され始めている。だけど、ランチタイムぐらいは
穏やかになりましょう、ね?」
男はようやく女の手を振りほどくと、彼女を睨みつける。
「ちっ、気が削がれちまったぜ!じゃあな!」
吐き捨てるようにそう言うと、そそくさと店から出ていく。
女の方はメイドの少女に駆け寄り、彼女の手を握る。
「大丈夫でしたか?」
「あ、ありがとうございます…でもあのお客さんには悪いことをしてしまったなぁ」
「気にすることはありませんよ、メルナ」
ローブの女性が呟くと、メイドの少女―――メルナは驚く、
「どうして私の名前を…?あなたは…?」
「少しの間だけの付き合いですから忘れてしまったかもしれないですね」
ローブを脱ぎ、整った顔立ちと、ライトグリーンのロングヘアーの姿を露わにする。
その姿を見て、メルナの表情は嬉々としたものへと変わる。
「あなた、フィリー!どうしてここに?」
「ふふ、後でお話しいたします」
周りには注文や料理を待っているお客が視線を移している。
メルナはハッとなると、すぐに仕事を再開した。
店が営業終了時間を向かえ、メルナは店の裏手で、フィリーと合流した。
「フィリー、お久しぶりね!」
「ええ、メルナ。それよりも、どうしてこんな仕事を?以前、スウェーデンで
あなたの家の護衛をしていた時は随分豪華な暮らしをしてたじゃないですか」
それを聞かれると、途端にメルナの表情は暗くなる。
「…あいつらが、レイルガルズはスウェーデンにも侵攻してきたわ。
うちの方もすっかり破壊されて…お父様とお母様も行方不明に……
私は…ここまで、逃げられたけど……」
最後の方は涙声で俯いたまま、語る。フィリーは彼女の肩に手をかける。
「ごめんなさい。辛いことを聞いてしまいました…メルナ、私は奴らと戦うために
レジスタンスに参加しています。それの拠点なら、街の中で暮らすよりも安全です。
一緒に来ませんか?」
フィリーの誘いに、少し戸惑うも、メルナは小さく頷いた。
―――レジスタンス拠点。地下に作られたそれは思いのほか、しっかりとした
作りで、フィリーはメルナを自室へと案内する。
「美琴、開けてちょうだい」
ドアが開くと、中には茶髪のおさげの髪型をした少女の姿が。
「お帰り、フィリー!あれ、その人は?」
「この子はメルナ。私が昔、護衛してた家の娘さんよ。メルナ、この子は織瀬美琴。
レイルガルズに捕まってたいたのだけど、なんとか助け出しました」
「め、メルナ・セルシウスです。よろしくお願いします」
深々と頭を下げるメルナにその少女は微笑み返す。
「そんな他人行儀はいいよ。ボクのことは美琴って呼んでね!」
「あ、ありがとう…それじゃあ、よろしくね、美琴」
外はすっかり暗く、月が姿を見せている。それは例え地球が支配されようと
変わらぬ美しさを保ったままだ。
「さあ、二人とも。今日はもう遅いから寝なさい。私も外の様子を見たらすぐに戻りますから」
「はぁ〜い!メルナ、一緒に寝よ!」
「うん!それじゃあ、フィリー、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
あまり綺麗とはいえないが、柔らかいシーツの上で睡眠を取るというのは
メルナにとって久しいことであった。
―――光が視界へと入ろうとしてくる。朝なのかとメルナは起きようとする。
しかし、地下にあるこの部屋。大して灯りも強くはないのに、なんの光なのか。
「メルナ!メルナ!早く起きて!」
「ど、どうしたの美琴…」
「奴らが!レイルガルズの連中が、この辺りを襲ってるんだよ!フィリーも
あいつらと戦うために外へ…!」
メルナは飛び起きると、そのまま、外へと飛び出した。美琴も慌てて、彼女の後を追う。
外では、レイルガルズの軍勢がレジスタンスと戦闘を繰り広げている。
それ自体は、レジスタンスの力押しでも、なんとかなっていたのだが。
「くそぉ、ロートグローセを出せぇ!!」
紫色の光が伴って現れた巨大な怪獣。ごつごつとした皮膚をしており、
頭は骸骨のようである。咆哮を上げると、その巨大な腕をレジスタンスに向かって
振り下ろす!直撃を受けたものは一撃で死に絶え、それを免れても
発生した風圧だけで倒れてしまいそうになる。
フィリーはマシンガンで応戦するも、大して効き目はない。
「くっ…!」
「フィリー!!」
「メルナ!美琴!来てはいけません、逃げなさい!!」
フィリーの警告を聞き入れずに二人は、彼女に近寄る。
「逃げるならフィリーも一緒に!」
「そういうわけにはいきません!私は奴らを倒さなければいけない!」
だが、やはりレジスタンスの使ってる武器では怪獣には効果がなく
今度は尻尾の一振りが三人に襲い掛かる!
「きゃああぁぁぁ!!」
そこで三人の意識は途絶えた。
―――気が付くと、三人は真っ白な空間の中にいた。どこを見渡しても
白く、地平線も見えず、自分が向いてる方角は上か下かも定かではない。
「ここは…?」
夢なのだろうか。それならいいが、どこか夢とは違う感覚だ。
すると、突然目の前に眩い光が生じ、三人の目を眩ませる。
「きゃああ!…あ、あなたは?」
目の前には軽装な鎧と羽飾りが付いた兜を被った金髪の美しい女性の姿が。
「…私は、戦乙女のブリュンヒルデ」
「ブリュンヒルデ……」
ブリュンヒルデと名乗った女性は、三人を見据え、口を開く。
「…この世界に、あなたたちを呼んだのは他でもありません。レイルガルズのことです。
彼らは、地上界に侵攻しようとしていました。それを私たち戦乙女が防いでいましたが、
ついに、防衛線を破られ地上界に侵攻を許してしまい…あなた方、地上人には
大変申し訳ないことをしてしまいました…」
ブリュンヒルデが頭を下げる。メルナは一歩前に出る。
「ブリュンヒルデ様!どうにかならないのですか!?」
「ごめんなさい、地上界では我々神族は長い間は活動できない上に、神界でも
まだレイルガルズが暴れているのです」
「くぅ…ボクにも戦う力があれば…!」
美琴は悔しそうに拳を握り締める。その言葉にブリュンヒルデは意を決したような表情に。
「…一つだけ方法があります。あなたたちに、戦乙女の力を授けることです」
「それがあれば、レイルガルズに対抗出来る力を身につけることが出来るのですか?」
フィリーの問いに力強く頷くブリュンヒルデ。だが
「戦う覚悟はありますか?戦乙女となれば、今まで以上に卑劣な手を使ってくるかもしれません」
三人の表情はその言葉を聞いて怯むどころか、目つきがキッと鋭くなる。
「ブリュンヒルデ様、お願いします!」
「ボクたちに、あいつらと戦える力をください!」
「もうこれ以上、レイルガルズの好きにはさせたくないのです!」
三人の意思を確認したブリュンヒルデは彼女たちに手を伸ばし、光が放たれる。
その光は三人を包み込んでいく。神々しさを感じさせながらも、どこか暖かい光だ。
光が止みそうになる瞬間に、ブリュンヒルデは三人に伝える。
「力に振り回されず、いつでも自分を見失わず、立ち向かいなさい…
お願いしますよ、新たな戦乙女たち…!」
気が付くと、三人は元の場所に戻っていた。目の前にはレイルガルズの軍勢と
怪獣・ロートグローセの姿が。
「な、なに?ロートグローセの攻撃が効かなかったのか!?」
レイルガルズの視点からすれば、三人に攻撃が効かなかったように見えたらしい。
三人はというと、底から湧き上がってくる力を感じ、向こうを睨みつける。
「レイルガルズ!あなたたちの行いもここまでです!フィリー!美琴!」
「ボクはいつでもいいよ!」
「やりましょう!」
それぞれ、気を高めていくと光が纏われていき
「「「聖なる力、今こそここに!!」」」
叫びとともに、光の中で三人の衣装は弾け、その裸体を包み込んだ光が
新たな衣装を作り上げていく。胸や肩にアーマー、腰にはスカート、頭には兜が
現れ、それぞれを着飾っていく。いわゆるビキニアーマー姿であり
メルナは赤、フィリーは青、美琴は緑色のアーマーである。
「戦乙女参上!レイルガルズ!あなたたちを倒します!」
「い、戦乙女だと!?ロートグローセ、やれぇ!!」
戦乙女の姿を見て、レイルガルズの軍勢はうろたえるが、応戦しようとする。
指示を受けロートグローセの腕が振り払われるが、戦乙女たちは軽々と飛び上がり、
それを回避し、メルナは腕を前に突き出す。
「マグキスカ!!」
メルナの叫びとともに、光が発生、中から両刃の長柄斧が現れる。
怪獣は大地に手をやり、引っこ抜くように岩を作り出し、メルナに向かって投げ飛ばす!
「はぁぁぁぁぁ!!」
だが、それは彼女の斧により一刀両断される。
「す、すごい…!こんなにパワーがあるだなんて!」
その力に感動しているメルナ。彼女に続いてフィリーと美琴も前に出る。
「よし、フィリー!やろう!グラセアス!!」
「わかったわ!バルスティン!!」
美琴は剣を、フィリーは槍を呼び出し、ロートグローセに攻撃を仕掛ける。
人の武器ではほとんど傷がつかなかった怪獣にも、軽く傷を負わせ、苦しませていく。
憤ったロートグローセは再び岩を持ち上げるが。
「アックス!ブゥゥメラァン!!」
メルナの投げた斧で腕を攻撃されると思わず岩を落とし、それは足に直撃する。
堪えきれずに、ぴょんぴょんと跳ねながら痛みから逃れようとする。
「あいつ、力はすごいけど、頭はよくないみたいだね…よぉし!ウインドスラッシャー!!」
隙が出来たロートグローセに美琴は剣からかまいたちを起こし、それで
その肉体を切り刻んでいく。
「ダイアモンドブリザード!!」
フィリーの掲げた腕から吹雪が巻き起こり、怪獣を氷付けにしていく。
「メルナ!止めは任せたよ!」
「うん!グランド!クラッシャー!!」
一瞬にして接近し、斧を連続で振るい、粉々にしていき、最後に残ったロートグローセの
頭部を一刀両断!完膚なきまでに粉砕した。
「な、何故戦乙女が!?報告せねば!撤退!!」
残されたレイルガルズの軍勢は蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
「やったぁ!私たちでも、レイルガルズに勝ったんだ!」
「やったね、メルナ!ボクも、感激しちゃうよぉ、この強さ!」
手を取り合ってはしゃぐ二人。だがフィリーは。
「すごい力だけど……これは人が手にしていいものなのかしら…」
嬉しそうにしてる二人を見つめ、少々不安に駆られるフィリーであった…。
次回予告
「メルナです!この力ならレイルガルズなんてお茶の子さいさいよ!
どうしたのフィリー?そんなに不安そうにして?大丈夫、私たちなら
人々を守っていける!レイルガルズも打倒できるよ!
次回『力の意味』戦乙女の真髄見せてあげる!」
投下完了。和服、チャイナドレス、レオタードと来たので
今回の衣装はビキニアーマーでいきますw
それでは、またよろしくお願いします
投下お疲れ様
投下乙です
荒廃した世界っていいね。なんだかロマンを感じる。なんでだろ?
第三話: ブラッドエリス
”あなたの血の赤で、あたしを塗って、ハニー……”
――タンクメイジ 『カラー・ミー・ユア・ブラッド・レッド』
海から太平洋の色が遠のいていく。やがて空も水も、ペンキをぶちまけたような鮮やか過ぎるほどの青。
水上滑走戦闘機『ペイルホース』の水色の機体が銀色の波を切り出していくのを、
後座についた金髪の少女――エリスは丸窓からじっと眺めている。
足元ではボリスが操縦席にのめり込み、人機一体の感覚に没入している。
エリスは窓からボリスへと視線を移した。伸びた黒髪の、つむじの部分を見つめた。
二本の操縦桿をしっかりと握りっていながら、欠片も力みをうかがうことの出来ない白い手を見つめた。
機内の轟音を貫いて、彼の柔らかな息遣いを耳に感じる。
鼻はオゾンの匂いを無視して彼の髪の香りだけを感じる。
波ひとつない海を機体の腹が繰り返し叩くリズムから、彼の心が手に取るように分かる。
「ねえ」
「どうした?」
ボリスは光り輝くモニターに向いたまま、振り返ることなく答えた。
「肌がピリピリするの」
「3分前からだろう? さっき魔空間に入ったからな」
「あ、それでか」
「何が?」
「海の色が変わったと思ったの」
「そうだな」
エリスはヘッドレストに後頭部を押しつける。
ペイルホースの後部座席は映画館の椅子に似ていると思った。
勿論あれよりはいくらか固いが、長期の航行にも耐えられるよう最低限の居住性は確保されている。
腰や膝がつらくなってきたと感じるのは、単に自分が人より虚弱な体質だからだろう。
「朝から何も食ってないだろ、大丈夫か?」
笑って返す。
「これから飛ぶっていうのに、何か食べたりしたら上がったときゲーッてなっちゃうよ」
ボリスも笑った。
「魔空間なら抵抗が少ないからな、きっと飛び易いぜ」
魔空間――現実界と魔法界を隔てる間隙。
強力な移動呪文なら簡単に越えられる、目には見えない一瞬の世界だが
戦闘機のような大質量を転送するためには、移動用に物理空間のトンネルを作り出さなければならない。
ボリスたちが機体を駆る海原も、実は一時的に拓かれた輸送路に過ぎない。
しかしその広大さは見た目通りで、利用する人間の数からするとあまり大きすぎるくらいだった。
「じきぶつかるぞ……エリス、ロックンロールだ! いつでも出られるよう覚悟しとけ!」
「イエー!」
複座のエリスが万歳してみせる。早速、ペイルホースのレーダーに光点が出現する。
視界にも同じく標的が現われた。ペイルホースから10時の方向の海面に白亜の巨大建築が浮上する。
丸窓からもその偉容を拝むことが出来た。
魔法国グラヴィーナ現政権、ユザール連邦指揮下の戦艦『フラダリ』。
アイリスの花の紋章を模った船体はメートルで全長約300、幅300、全高100、搭乗員数4000、
ボリスは40メートル大、乗員二名のペイルホースとエリスを使って、この大物に仕掛ける気だった。
魔空間では、充溢する魔力の影響でレーダーの精度が大きく落ちる。
お互い、今ようやく敵の存在に気づいたばかりだ。フラダリが遅ればせの砲火を開始する。
流線型の胴部に二対の小さな翼、V字型の尾翼、新種のイルカのようなペイルホースが
低空を風と水に唸りを上げて急加速し、機体を右斜めに浮かせて敵の真横を掠めるように機動を変える。
音速で飛来するミサイルを、ビーム照射で焼き払う。
砲弾が水柱を立てるが、弾幕を縫うペイルホースの装甲には傷ひとつつけられない。
「射出用意――エリス、上がれ」
「アイサー」
間近をかすめる砲撃にびりびりと震える機体の中で、エリスはどうにか座席のコンソールを叩いた。
頭上のハッチが開くと、後座の椅子だけが彼女を乗せたまま上にスライドしていく。
「いっくぜー」
射出口に座席が完全に入ると、真鍮色のチューブの中で、椅子から離れてカタパルトまでよじ登る。
傾斜20度のカタパルトにどうにか身体を固定すると、
「いつでもOK!」
『了解』
ボリスの声が耳元のスピーカーから聞こえた。ハッチが閉まり、射出口は一瞬真っ暗になる。
それから赤い信号灯が点ると、エリスを乗せたカタパルトがゆっくりと上昇していく。
けたたましい機械の作動音――エリスは病院の、CTの機械を思い出す。
ボリスの操縦で、機体が次第に水平飛行になっていくのが分かった。
『ぶっ放すぜ、後は打ち合わせ通りに。回収地点はこちらから誘導する』
「じゃ、後でね」
カタパルトの上昇が停まった。角度が低くなる。と、急激な加重――発射まで。
赤い信号灯から再び暗闇、そして生の真っ青な空へ。
彼女は寝そべった格好で、ペイルホース後方の中空に射出された。
空や海に溶け込むように青いエリスのボディアーマーと長い髪とが、フラダリの巨大な白い船体と並走する。
白――ハート型の小さな顔、むき出しの肩。胸元に点のような、血の赤をしたユリの花のマーク。
その下に、やはり赤で書かれたか細いイタリック体の『Blood Eris』。
折り畳まれた背中のフライトユニットが展開すると、
翼の裾に据付きの三対の小型ブースターが水色の炎を吹いて長い尾を引いた。
離れていくペイルホースから独立して、彼女はフラダリの真横についたまま飛行を続ける。
空、海、戦艦、地図のイメージと計器のイメージ、そして全く新しい知覚――
全身から放出される、不可視の魔力の舌が空気を舐める感触が加わる。
そのためか変身後必ず訪れる軽い酔いを、エリスは今度も覚えている。
バルカンの照準が彼女を狙う。
エリスはきりもみ飛行で銃火をすり抜けながら距離を詰めると、
翼に搭載された計12発の超小型ミサイルを放った。
ミサイルは短距離をロケット花火のように軽々と飛ぶと、正確にフラダリの左舷砲座を潰していく。
迎撃が弱まるとエリスは敵の左斜め後ろに引いて、フライトユニットをパージした。
二枚の軽合金の翼が彼女の足元の水平線へ、
突風に舞い上げられたベニヤ板が地上すれすれを転がるようにして落ちていく。
失った翼の下から、また翼――エリスの背中が水色の炎を噴いた。
全長10メートルを越える炎の翼は、その先に鋭い棘をもった砂漠の植物の肉厚の葉のようで、
パージによって衰えたエリスの推力を一気に取り戻す。
エリスは左舷への急接近と同時にロールを繰り返した。
炎の翼の棘が、フラダリの白い装甲を触れた先から焼き切っていく。
わずかに間隔を空けて、爪で裂いたような傷跡を左舷全体に残していくと、
船体の避弾傾斜に沿って、背面で装甲を炙りながら上部甲板まで上がった。
甲板に設置された二列の銃座が、自動制御の一糸乱れぬ動きでエリスに向くが
砲弾はフラダリと逆方向に走った彼女を捉え切れず、すれ違いざまに翼になぶられた順に爆発していく。
エリスは左一列を全滅させて後方に下がると反転し、今度は右側の銃座を襲った。
銃座と同じく、対空ミサイルや魚雷の発射口も翼の魔法の熱で溶解する。
何順かして甲板の攻撃能力を完全に奪うと、エリスは最後にもう一度船体を深く抉って、上空へ離脱した。
上昇の際、空の彼方に灰色の点をいくつか、エリスの強化された視覚が見つける――
ボリスの手勢、フラダリに止めを刺すための航空機編隊。
エリスは針路変更して、ペイルホースとの合流地点に急いだ。
カリフォルニア半島沖、セドロス島の秘密ドックにペイルホースを収容した。
変身の解けたエリスを抱えて、ボリスが降りてきた。エリスは彼の腕の中で静かに寝息を立てている。
迎えに現われた部下たちの中からエヴノー――髭面の大男が歩み出て、彼からエリスを受け取ろうとした。
「いや、大丈夫。おれがこのまま運ぶよ」
「航空隊からフラダリ撃沈との報告を受けています。上々の首尾だったようで」
「この娘にまた無理をさせちまったな。起きたら検査に行かせるから、ザジ先生にそう言っといてくれ」
「陛下も休まれますか? お疲れでなければ、四時には上がってきていただきたいのですが。
航空隊が帰頭し次第ブリーフィングを行って、分析と次回の作戦内容の検討にかかりますので」
「おれは大丈夫、その時間には行くよ。それと毎度言うようだが、頼むから『陛下』は止してくれ――」
エリスを抱いたままドックを出、屋外の岩場に架けられたコンクリートの道路を歩いていく。
14歳の少女の身体の重みが次第に辛くなる。
しばらく進んだところでいよいよ腕がだるくなり、格好つけてエリスをひとり運んだことを後悔しはじめた。
途中でそっと彼女を下ろし、背負いなおす。
何度か緩い角を曲がると、目の前の崖とそこに立つ小型の灯台が少し切れて、太陽が彼の真向かいに出てきた。
乾期の日差しは眩しく、肌を焼くが不快ではない。
どうにか片方の腕を自由にし、サングラスをオリーブ色のパイロットスーツの胸から取り出してかけた。
太陽の方角――基地から離れてずっと先の岩場にはアシカのコロニーがあって、
彼とエリスとで一度見に行ったことがある。近くの丘に国旗の柄のピクニックシートを敷いて、オペラグラスで遠くから。
海沿いの道路はやがて陸に上がっていき、兵舎の並びに行き当たった。
それらから少し離れたところに。ボリスとエリスの寝泊りしている小さなプレハブが立っている。
中に入り、寝室でエリスをベッドへ下ろす。
頭をそっと枕に置こうとしたとき、エリスがちらと目を開けたのに気づいた。
「起こしたか?」
「ん……」
ベッドに横たわったまま、エリスが両腕をボリスの首に回そうとする。
ボリスのほうから屈んで顔を寄せると、彼女は素早く身を起こして唇を押しつけた。
「ん」
「具合は……」
吸いつくようなキスから、唇が一瞬離れたときにボリスが言いかけたが、
すぐにエリスの舌が彼の口を塞いだ。
エリスが完全に上体を起こしてボリスを抱き、ふたりの鼻先がぶつかる。
ボリスは肩を抱いて彼女を受け入れながら、彼女の長い睫毛を見下ろした。
髪と同じ、根元まで見事に金色。変身したときは、毛髪と一緒に睫毛まで青くなるのだろうか?
視線を逸らし、頭越しに寝室の窓を見る。薄手のカーテンが透けて、空の青色が映っている。
ようやくエリスが離れて、ボリスは彼女の肩に手を置いたまま尋ねた。
「具合は悪くないのか?」
「ぜーんぜん。証明してご覧にいれましょうか、ここで」
エリスの白樺の枝のような手がシーツを叩く。ボリスはかぶりを振って、
「少し寝ておけ。それから医務室にもちゃんと行くんだ」
「……はいはい。分かりましたよ、王子さま」
エリスは肩に置かれた手を払って、わざとらしくすねてみせる。
「で、ボリスはどうするの? ……あたしをひとりで寝かせといて」
「少し船を見て、それからエヴノーたちとブリーフィングだな。夕飯までには戻れると思うよ」
ボリスは彼女に背を向けて、部屋を出て行こうとした。エリスが言う。
「あたし、ちゃんとやれたでしょ?」
「ああ、バッチリさ」
「あんたはさ」
そこで言葉を切った。ドアノブを掴みかけていたボリスが振り返ると、彼女は笑って
「ほんとにあたしの王子さまなんだよ。グラヴィーナの皇太子さまなんかでなくってさ」
―――――――――――――――――――
インペリアル・コンデムドの魔空間「要塞」――
「補給線が完全に絶たれたってわけでもないんでしょ?」
執務室の机でうつむくロックに、ラベンダーが言った。
「でも、三つのルートのうちひとつがおかげで復旧中よ。
残りふたつも防備を強化して、進入路の暗号も変えて――しばらくうちへの補給は後回しね。
ここの管理体制だって色々変えなきゃならないし、スパイ狩りも始まって、やりづらくなるわ。プランは一時中止」
ロックはいら立たしげに髪を掻いた。
彼女が背にしている執務室のカーテンのない窓は、
この魔空間の外観として選択された、永遠の夜空で黒く塗りつぶされている。
よく見れば、空の彼方には偽者の星が瞬いているはずだが、部屋の照明にかき消されてここでは光らない。
窓は鏡になってふたりの姿を映している。ロックの机の向かいに立つラベンダーの、口紅の紫色まではっきり分かった。
「犯人はグラヴィゾンド帝国、第一皇太子ボリスの一味で確定なんですか? 親父の敵討ちとは殊勝なもんです」
「それはそうだけど、むしろ問題は現政権下で軍部のどの程度の人数が信用に足る人間かということよ。
諸外国の介入を突っぱねるだけの力を残そうとすれば、安易な粛清は必要な戦力まで削りかねない。
かといって現状を放置しておけば、不穏分子を腹の中に抱えたままで国家改造を推進しなければならない」
「軍に裏切り者が?」
「おそらくね。監視の甘くなりがちな地方分隊はほとんど前赤軍の将官で固めてるけど、
それでも現場の一部には帝国軍時代の経験豊富な部隊を残しておかなければならなかったから、
そこから同調して水面下で連中に手を貸してるところも出るかも知れない。
今回の後詰の航空隊、フラダリ最後の通信の内容から推測すればユザール連邦軍所属のようだわ。
艦の情報自体も、どこからか漏れていたと考えるのが妥当ね……
全く! いくら手が足りない、敵の魔空間への侵入も予想してなかった、とは言え、
護衛艦もつけずじまいで、現にあっさり沈められて、じゃあね」
ラベンダーはふと、横の壁に張り出された地図を見た。安普請のプラスチックの壁に両面テープで留められたそれは、
縮尺一千万分の一、鮮やかに彩色されたグラヴィーナの広大な国土で、
黄色い蛍光ペンでつけられた小さな点がひとつ、極北のツンドラ地帯の白地に浮かんでいた。
その下に書かれた文字は彼には読めない。グラヴィーナの言葉で書いてあるのだ。
たったひとつの大陸の四方を囲む海の外は、彼らが今いるのと同じ魔空間、空と水以外には文字通り何もない。
魔法国は皆、魔空間の中に浮かぶ閉じた世界だ。生活圏としては、現実界の地球よりずっと小さな領域でしかない。
「安全が確保されるまでプランは中止、ですか……」
「時間がないことは承知済みよ。つまり、私にとっての時間ということだけど」
ロックが顔を上げた。冷えびえとした蛍光灯の光の下で、彼女の顔はより一層白い。
「私は使い捨ての駒よ、だから戦犯の身のままでこの仕事を任されてる。
立場としては、地方の守備についてる帝国軍あがりと何ら変わりないわけよ」
薄い青色の瞳がじっとラベンダーを見つめて動かない。
しばらく見つめ返すが、結局は彼のほうから根負けして目を逸らした。
「『プランR』の進行ですがね――」
指で片方のお下げを巻き取りながら、
「どうにかして、このペースで続けられませんか? ぼくとしても時間は大事にしたい」
「不可能よ。人手も物資も補給がなくなってる今、干上がることは目に見えてるわ」
ラベンダーは話を聞きながら、お下げを巻いた指を解いて、その手でエプロンの下をまさぐった。
ラベンダー色の塗装のターボライターと、赤い、細長いモアの箱を引っ張り出し、
一本抜いて口の端にくわえ、火をつける。吸い込んだ息が、歯の隙間を通り抜ける音がする。
「それに、今のやり方じゃどの道駄目なのよ。このままじゃ計画は片手落ち、私の特赦も遠のく」
「『スヴィエート』の実戦運用と解析、同時に対抗技術としての対魔結界及び搭載兵器の開発――」
またエプロンをまさぐって、携帯灰皿を左手に持つと、
「どちらか一方でも欠ければ連邦の軍事に未来はない、か」
「あの魔法少女隊――」
そう言ってロックは、ラベンダーが巻いた左手の包帯を見た。少しだけ血が滲んでいる。
「ちょっと早すぎますね。連盟もいずれ対策を講じてくるとは思ってたけど、こうも早いとは。
京都の中学校連続爆破事件以来、連盟の情報管理もガード固いですからね。うちも情報不足で予測できなかった」
ロックは確かめるように指を握ったり開いたりするが、そのうち顔をしかめて止めてしまった。
ラベンダーが煙草のまだ短い灰を灰皿へ落とす。
「ただ、敵さんがああして腹を固めてくれたからには、今後はあの三人に的を絞れますね。
予定より少し早いが関東部での活動に規模を縮小しましょう。それなら手はないこともない」
「考えがあるの?」
「人もモノも、他所さんから出させる最高の考えがね」
くわえ煙草で執務室のキャビネットまで歩いていくと、何かのファイルを取ってきて、ロックに差し出した。
ロックは受け取ったファイルを開いて適当にめくってみる。どこかの組織の内偵資料。表紙に戻って、読んだ。
「関東妖閻会?」
「連中にしばらくヤサを借ります。妖閻会は関東一の魔法少女戦の雄、学べることは多いでしょう」
「そんな大きな組織が手を貸してくれるわけないでしょう?
第一、これ以上部外者を噛ませるような計画が許されるとでも思って?」
「あなたの立場は分かります。うちからもちゃんと説得しますよ」
「私たちが考えたって、相手――妖閻会が呑む理由がないわ」
「その代わり断る理由もない。確かに、魔法少女戦を仕切ってる宣伝部は伝統もあって堅物だ。
でも最近は組織本体が改革路線であちこちの合理化を始めてるし、宣伝部はその流れの中で
苦しい立場にある。関西の系列団体から幹部を引き抜いて、近くテコ入れの予定があるとも。
割り込む余地はあります。新任の幹部たちは、若いのもあって使えるものならなんでも使うと評判ですしね。
保守的な宣伝部長に対する自己主張の材料として、うちの技術を買ってくれるかも知れません」
ラベンダーが、思い出したように煙草の灰を落とす。
彼が机の前に立つと、煙草の穂先が窓ガラスの鏡像の中で蛍のように明るく光る。
「パステルルージュはまだぼくら以外の組織と戦った経験がない。
データ収集の意味では、これは絶好の機会です。きっと、連邦のお偉方も呑みます」
ロックはラベンダーを見上げた。視線は、彼の喉仏、尖った顎、紫の唇からそばかすの浮いた鼻までを
順を追って移動していき、最後には彼の作り物めいた輝きのある瞳を捉えた。
「なんだか、手回しが良すぎるわね」
「ぼくら『ゼロ』の売りは手の広さと実験精神です。いつだってプランBは用意してありますよ」
ラベンダーが大げさに肩をすくめて、それから手を腰に当てた。腕の動きで、穂先から剥がれた灰が舞う。
大きな塊は、ロックがちょうど広げたばかりのページの写真に落ちた。
隠し撮りの顔写真――四人の男女。関東妖閻会、宣伝広報部の幹部たち。
65 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 01:18:41 ID:pVoyrG8a
投下終わりました
66 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/02/06(土) 22:40:06 ID:iWMeiUYs
戦乙女メルナ 第二話『力の意味』
侵略された地球を救うため、メルナ、フィリー、美琴の三人の少女は
戦乙女ブリュンヒルデから戦乙女の力を授かり、侵略者レイルガルズの尖兵を退けた。
だが、彼女らはまだ、その力の使い方を完全には知らない…。
レイルガルズとの初戦闘が終わった三人のとこへ、生き残ったレジスタンスが駆け寄る。
「フィリー!それにお譲ちゃんたち…その力はいったい?」
「それにその姿…なんかの神話に出てきそうな感じだな…」
「皆さん、私たちは戦乙女の力を手にしました!」
「ボクたち、レイルガルズなんか軽くやっつける力を手にしたんだ!」
幼き少女二人は隠すことなく、今の力について語る。
「二人とも…皆さん、この子たちの言う通り、この力は戦乙女の力…信じられないような
話でしょうけど……」
だがレジスタンスたちは首を振る。
「いや、あの戦闘を見たら信じるほかないぜ。普通の兵器じゃ倒せない怪獣も
簡単に退けたんだからな…君たちがいればレイルガルズとも戦える!」
「ああ、ものすごく心強いことだ!」
希望に満ち溢れたように、レジスタンスたちは喜びに打たれる。
メルナと美琴は称える声に素直に喜んでいるが、フィリーだけは、
どこか素直に喜べてはいないようであった。
その翌日のフランス市街地。すでに戦乙女の話が行き届いているのか、
三人の姿を見るや、話し声が聞こえてくる。それはどれもが、彼女らを
褒め称える声であった。
「あれが戦乙女の少女たちか!」
「これでもう、レイルガルズなんかに怯えなくて済むんだ!」
「うふふ、なんだか嬉しいなぁ」
「そうだねぇ、ボクたちなんだかRPGの勇者みたいだよね!」
「…二人とも、喜ぶのはいいけど、あまり調子に乗るようなことはないようにしてください」
「もうフィリーったら。全然、調子になんか乗ってないよ」
フィリーの言葉にもほとんど耳を貸さない二人。本人たちに自覚はないだろうが
ほとんどフィリーの言葉通りの状態である。
「それよりもお腹空いたなぁ」
「何か食べに行きましょうか」
束の間の休息のため、腹ごしらえも兼ねて適当な飯屋で昼食をとることにした。
侵略者がいる世の中とはいえ、まだ完全に落とされていない地域なら
比較的、平和にランチタイムといけるようである。
「いただきます!」
「いっただきまぁ〜す!」
飯を食べる前に、お約束の挨拶をしてから美琴は貪るように、メルナもゆっくりと
食べているが、その食事量は半端なものではない。フィリーはそんな二人の様子を
どこか微笑ましく見つめている。
三人が食事をし終わる頃に、一人の男が、店内に入ってくる。そして少し辺りを見回し
メルナたちを発見すると彼女らに近寄ってくる。
「あの、あなたたちがレイルガルズを追っ払ったっていう…」
「え、え〜とそうですけど、なにか?」
メルナの返答を聞くや、男は真剣な表情になる。
「私はサディールと申します。実は…欧州を襲っているレイルガルズの基地が
イタリアにあるのがわかったのです。それで、あなたたち戦乙女に、ここを叩くのを
手伝って欲しいんです」
「なるほど、そういうことかぁ!それならボクたちにお任せだよ!ねっ、メルナ」
「うん!今までやられてた分、きっちり返しましょう!」
「私は反対です」
すぐにでも駆け出しそうな二人を止めるかのように、フィリーは目を瞑りながら言う。
「どうしてフィリー?そこを叩けば、この辺りも、平和になるでしょ?」
一度、メルナと視線を合わせた後、フィリーは男を睨みつける。
「この男が、私には信用できないからです。見たところ、レジスタンスの一員でもなければ
どこかの情報員とも思えない…素性のわからない人の情報は嘘の可能性がある」
厳しい言葉を投げかけられ、男は肩を竦める。
「手厳しいですね。ではこれを見てください」
男が懐からいくつかの写真を取り出した。それはどこかの洞窟内部のような風景。
一緒にレイルガルズの兵士も映っている。
「どうです、ご理解いただけましたか?」
「……わかったわ。ただし、私たちだけじゃなく、レジスタンスもついていきます」
「俺も混ぜてくれ!」
唐突に声が響く。声のした方には背はフィリーと同じぐらいの、金髪の少年の姿が。
「あなたは?」
「俺はビリーって言うんだ。あのレイルガルズに両親を殺された…だから仇討ちしたい…!
だから、俺も連れて行ってくれ!」
「駄目です」
「な、なんでだよ!?」
一言でビリーの申し出を断るフィリー。
「いい、拠点に乗り込むということはすごく危険なこと。何の訓練も力もない人が
着いてきても、それでは足手まといになるのは…」
「大丈夫だよフィリー!ビリー君も連れて行ってあげようよ」
「美琴……」
「私たちで守っていけばいいじゃない、フィリー。ビリー、よろしくね」
「あ、ああ…ありがとう二人とも!」
メルナと美琴はビリーを連れて行くことに。だが、フィリーは嫌な予感しかしないのであった。
―――数日後。サディールの案内でイタリアの山中までやってきた一行。
ここまでは特に苦労もなく来ることが出来た。山中の奥深くまでくるとそこには
一つの洞窟が見えてくる。
「あそこがレイルガルズの基地です」
「よし、メルナ、フィリー、みんな乗り込も…うわっ!?」
そのまま突入しようとするも、突然地響きが立ったと思うと、地割れが起きる。
それによってメルナ、美琴、ビリー、サディールはフィリーとレジスタンスから
分断されてしまう。
「フィリー!サディールさん、フィリーたちが来れるまで待機しましょう」
だがサディールは首を振り
「いや、こうしている間にも奴らは着々と次の侵略行動の準備をしているでしょう。
フィリーさんたちには悪いですが、我々だけでも先行しましょう」
メルナたちは躊躇しフィリーたちの方を振り返るも、意を決して
サディールに着いていく。後方で何か叫んでいるフィリーに気づかずに…。
分かれてから、サディールは基地内部の道案内をし、それにメルナと美琴、
そしてビリーが着いていく。サディールの道案内は非常に正確でここまで
別段、トラブルもなく、少しずつ基地深部へと近づいて行った。
「何事もなく来てるけど…サディールさん、随分慣れてるね…まるで何度も来たことがあるみたい…」
「ん?いや、ただの勘ですよ…それに、見たところ、警備も薄いですからね…
幸運が重なったのでしょう」
メルナの疑問に、あっさり気味にそう返すと、再び進んでいき、三人も続いていく。
そして一行は怪しく青い光が灯ってる空間へと出る。
「ここが基地の中心部…?」
「よぉし、ここを潰しちゃえばいいんだね。やろうメルナ!」
「「聖なる力、今こそここに!!」」
光が二人に纏われていき、その姿を戦乙女のそれへと変えていく。
「あれが戦乙女か…!」
「よぉし、美琴、一気に終わらせよう!」
「うん!はあぁぁぁ…!」
二人は気を集中し、一撃でケリをつける準備をする。ビリーはその様子を
何が出るのか楽しみにしている子供のような視線で見つめている。
「その必要はありませんよ」
「え?…な、なにこれ!?」
「うわぁぁ!!」
突然、彼女らの真下からカプセルが飛び出し二人を閉じ込めてしまう。
ガンガンとカプセルを叩くも、ビクともしない。
「サディールさん!これはどういうことですか!?」
「ふ、ふふ…ははは!まったくまだわからないのですか?」
先ほどまでの穏やかな表情から一変し邪悪な笑みを浮かべる男。
それを見た二人は、ハッとなり、わなわなと震える。
「あ、あなた…レイルガルズの…!」
「そうです…レイルガルズの戦士の一人、そしてここの責任者でもある。それが私、
サディールなのです。あなたたち二人は素直で正直で…とても騙しやすい相手でした。
この基地はもう、廃棄する予定だったのでね。せっかくだから最後に有効利用しようと。
それに…戦乙女の力もその様子ではまだ完全に使いこなせていないようですね。
フィリーさん、あの方と上手く別れられたのは好都合でしたよ…」
そういうと、その手が二人を閉じ込めたカプセルに触れられる。
「あなたたちのようなお子さんを処刑するのが容易くなりますからね!」
カプセル全体に電撃が生じ、二人にその衝撃が走りだす。
「きゃああああ!!」
「うあぁぁぁぁぁ!!」
苦しみに悶え、悲鳴を上げる。
「ははは!安心しなさい、あなたたちを殺したら次はあのフィリーさんにも
着いていってもらいますからね」
「や、やめろぉ!」
ビリーがサディールに向かって飛びかかるが、腕の一振りで跳ね返されてしまう。
「くそぉ!お前がレイルガルズの一員だったなんて!」
「ふっ、ビリー君…所詮、人間など我々からすれば虫けら同然。
君のご両親も、その程度の運命だったのです」
「なんだとぉ!うおおぉぉぉ!!」
近くに転がっていた鉄の棒を掴み、サディールに向かって振るうが、それは軽く
キャッチされ、逆にその勢いを利用され、ビリーは投げ飛ばされる。
「愚かなことですね…さて、戦乙女のお嬢さんたちより先に、君には死んでもらうよ」
カプセルの電撃はそのままにサディールはゆっくりとビリーに接近する。
それに合わせるかのように後ずさるビリー。一歩一歩、死への道が近付いていく。
だが、彼を助ける者は…いない。
「パルテスジャベリン!!」
と、その時。唐突に槍がサディールの頬を掠め、後ろにあるカプセルを破壊した。
崩れるように倒れながらもメルナと美琴はそこから脱出した。
「この槍は…」
「フィリー!!」
槍が飛んできた方向。そこには戦乙女に変身したフィリーと他のレジスタンスの姿が。
「メルナ!美琴!…サディール、貴様やはり!」
「ふふふ…あなたの思うとおりです。私はレイルガルズの一員。戦乙女ならば、
早々に始末せねばなりませんからな」
フィリーはバルスティンを回収すると、そのままサディールに突き刺そうと走る。
しかし、サディールの姿は背景に溶け込むように消えうせる。
「ははは!こちらですよ!」
突然、壁が豪快に崩れそこから戦車の上に恐竜が乗っている怪獣が現れた。
背中にサディールを乗せ、戦乙女に向かって前進してくる。
「くっ、みんな下がって!メルナ、美琴、戦える?」
「う、うん…!」
「大丈夫、やれるよ」
通常兵器では敵わないと判断したフィリーの指示で、レジスタンスは撤退していく。
「グラセアス!」
美琴は剣を呼び出し、果敢に斬りかかるが、非常にその皮膚は硬く、跳ね返されてしまう。
「ははは!このレオパルドザウルスは、そのような技では倒せませんよ!」
レオパルドザウルスという怪獣は、戦車から機関砲を放ち、辺りを破壊していく。
その衝撃で三人は外へと吹き飛ばされてしまう。
「きゃああぁぁ!!」
「まだまだこれからですよ!」
次はそのギロリと動いた目からの怪光線が飛び、三人の周りで爆発が起きる。
「くっ、なんとか接近しなくちゃ…マグキスカ!!」
メルナは斧を呼び寄せ、隙を見てレオパルドザウルスに向かって飛び掛る。
「おおりゃぁぁぁぁっ!!」
ガキン!と金属同士がぶつかる音が響くも、敵の戦車部はビクともしない。
「まだ、自分の力も上手く扱えない雛には、倒せません……よ!」
レオパルドザウルスが短く体当たりをかまし、メルナを吹き飛ばすと
キャタピラが唸りをあげ、回転する。そしてそのまま仰向けに倒れていた
メルナの右腕を潰した。
「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「これで、その武器も満足に使えませんね…」
「メルナ!」
「邪魔はしないでいただきたいですね!」
メルナを助けようとした美琴とフィリーだったが、戦車から飛ぶ機関砲は激しさを増し
近寄ることさえ許されない。
「それでは、そろそろとどめですね…!」
ゆっくりとレオパルドザウルスの瞳に光が溜まり始める。それでメルナを貫こうとしているのだ。
だが、メルナはその様子を見ているだけしか出来なかった。
「お別れです!!」
そして閃光は放たれ、メルナを貫き、爆煙が辺りを包み込んだ。
「び、ビリー…君…!?」
「あ、あぐ、がぁ……」
しかしメルナは死ななかった。ビリーが間に入り、彼女を守った。だが、その胸には
ぽっかりと穴が開き、血が流れ出している。間もなく、ビリーは崩れ落ちた。
「ビリー君!しっかりしてぇ!!」
「メ、メルナぁ……頼む…仇を、俺の両親の仇を……とって、くれ…!」
最後の力を振り絞ったその一言を伝えると、ビリーは眠るように動かなくなった。
メルナは彼の亡骸を抱きながらわなわなと震え、ぽろぽろと涙を流す。
「ビリー君…ビリー君!!いや……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おやおや…他のレジスタンスと一緒に逃げていれば少しは生きてる時間が延びたものを…
それをわざわざ、出会って間もない戦乙女を庇って死ぬとは…まったく理解不能ですね」
「さ、サディール……サディール!!私は、お前を許さない!この場で殺す!!」
涙を流したまま、語気を荒げ、メルナの気が辺りを包み込む。先ほどまで
死に掛けだったとは思えないほど強い気。潰された腕も回復していた。
そして怒りに身を任せ、メルナは斧を構え突撃する。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
先ほどは跳ね返された一振りだったが、今度はレオパルドザウルスのキャタピラを
破壊し、身動きを取れなくさせる。
「フィリー!美琴!戦乙女の力を見せ付けるわ!」
「え、あ、ああ…!」
「わ、わかったわ、メルナ」
そのメルナの気迫に押され二人はメルナと横並びの位置に。
そしてそれぞれの武器を揃え、高く掲げた。
「「「ヴァルキリーエクスプロージョン!!!」」」
輝きだした武器の光が最頂点に達すると、その閃光はレオパルドザウルスに放たれ
光が消滅するのと同時に怪獣も断末魔すら残さず消滅した。
「ははは…なかなかやりますね。ですが、今のは所詮、怒りによって一時的に
その力を高めただけのこと。まだまだ戦乙女の力は十分ではない」
「な、なにおぅ……うっ…!」
メルナが反論しようとするも、脱力したように膝から崩れ落ちた。
「動かないほうがいいですよ。今ので力を使い果たしたようですからねぇ。
さて…私は、本部に戻りますかね。ビリー君の仇を討ちたければ、頑張って我々、
レイルガルズの本部に辿り着きなさい…それでは御機嫌よう…!」
「ま、待ちなさい…!くぅぅ…ううぅ……」
その場から影に溶け込むようにサディールは消え失せ、それを追おうとするメルナだったが
もう彼を追う気力すら残っていなかった。
後に残ったのは当初の予定通り、破壊されたレイルガルズの元拠点。
そしてビリーの亡骸。
「ビリー君……」
メルナはビリーの墓を作り埋めた。とても墓とは言えないような出来の悪いものであったが
彼をこのままにはしておけなかった。涙が止まらないメルナの後ろからフィリーが声を掛ける。
「メルナ…これが戦いです。私たちの得た力がどれだけ強力でも、その力を使える範囲なんて
そう広いものではないんです。だから…後悔したくなければ、もう二度と
こんな真似はしないでください」
メルナは、ただ黙ってそれを聞き、小さく頷くと、再び嗚咽を上げながら、その場に
しゃがみこんだ。
次回予告
「美琴だよ。メルナ…元気だしたよ。ボクたち、打倒レイルガルズのために
旅に出ることにしたんだ。次の目的地はギリシャ。だけど、なんだかボク、すごく
嫌な予感がするんだ…。次回『戦慄を吹き飛ばせ!勇気の風』あ、あいつは……!」
投下完了。次回から旅に出ます。
>BIG BAD MAMA-RANGE KITCHEN作者さん
これはミリタリーというか、特殊部隊っぽさがよく出てていいですねえ。
俺も見習っていきたいものです。
それにしても規制は止む気配を見せないですね…。
そろそろ避難所の方に投下することも考えようかな
74 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/08(月) 22:38:16 ID:DJpoNMT9
投下乙です。これからも頑張ってください。
規制はうざったいですね。このスレも人減っちゃったし
75 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 23:30:36 ID:BDW+516i
何か書いてみようとして挫折した
やっぱり長続きしないとどうしようもないしね
>>76 地球温暖化のため、海面上昇して水浸しな世界を
救おうとする魔女っ子か、変身ヒロインをと思っていた
だが、それ以上のことが思い浮かばなかったw
あらすじみたいなの考えて終了してしまったw
>>77 魔女っ子ならともかく、変身ヒロインなら敵が必要だよな
温暖化は悪の秘密結社の陰謀とか?
まあそうなるかなぁ。というか温暖化の原因も
よく考えていなかったなぁ、こうしてみるとw
80 :
ゲマズ作者:2010/02/17(水) 01:02:19 ID:Grt8dyLF
なんか上手く本編に組み込めないのでボツろうかと思ったけども、
打ち棄てるのも勿体無い気がしたのでスレに不法投棄しておきます
ここは某公立高校。
ジャージ姿の樋口佳奈美は、体育の授業の真っ只中にあった。
行われているのは女子サッカーの学年対抗試合である。
「佳奈美ちゃーん、ボール行ったよー!」
「任せろ!」
そう言って宙に飛び上がった佳奈美には、華麗な体裁きで強烈にボールを打ち込む自分の姿が完璧にイメージできていた。
しかし……。
「うぇっ!?」
見事に空中でバランスを失い、頭から地面に落ちる佳奈美。
その間に味方からのパスは敵に奪われてしまう。
「もー、佳奈美ちゃんったら本当に運動音痴なんだから!」
「くっ……」
思わず腕の変身ブレスレットを見つめる佳奈美。
「先生、変身して試合しちゃダメか?」
「ははは、佳奈美は変身できるのか。でもズルは駄目だな、変身せずに頑張れ」
「……はーい」
一方、相手のチームにいる亜理紗は、自分に向かってくるボールをひょいひょいと避けていた。
「亜理紗ちゃーん、これドッジボールじゃないから! サッカーだから!」
「……痛いの……いや……」
そうしてそれぞれのチームが足を引っ張るお荷物を抱えたまま、gdgdになった試合は互いに無得点で引き分けとなった。
二人で下校中の佳奈美と亜理紗。今日は午前授業なのでまだ日も高い。
「キミ、スタイルいいね。雑誌モデルとかやってみる気はない?」
「いえ、あたし格ゲー一筋なんで」
スカウトを軽くかわし、今日もゲーセンに向かう二人。
「……佳奈美は黙ってれば美人なのにね……」
「ほら、あたしって実戦派だからさ。キャラ愛よりも面白い性能を重視すると言うか」
そんなこんなでいつも通りにゲーセンに向かおうとした亜理紗だが、佳奈美がこんな提案をしてくる。
「そうだ亜理紗、昌子の学校に行って見ないか? 調べたら結構近いんだよ」
「……昌子の学校なんて行って……面白いの……?」
「そう言うなって、ゲーセンに誘ってみようよ」
「……分かった……」
この軽い思いつきが、後の悲劇(?)の始まりになることを、二人はまだ知らない。
82 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/17(水) 23:54:15 ID:oTYObgqc
そういえば佳奈美は設定では運動神経が悪いんだったっけ
あまりそういう話がなかったし、戦闘も普通にこなしているから
すっかり忘れていたw
83 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/02/19(金) 23:47:32 ID:7wpNHR9h
戦乙女メルナ 第三話『戦慄を吹き飛ばせ!勇気の風』
澄み渡る青空が広がっている。それだけを見るとただただ平和な空間のようで。
しかし地上に目をやれば、荒れ果てた大地と破壊された街の数々が見える。
ギリシャの街並みも、かつての栄華を失ったかのように静まり返っている。
それというのも、この国にもレイルガルズの軍勢が侵攻しているからだ。
その軍勢が集う拠点では、一番奥に暗い紫色の長い髪を流した女性の姿が。
彼女にレイルガルズの兵士が駆け寄ってくる。
「アレイシー様!先ほど、戦乙女がこの国に入国したとの情報が!」
「そう…わかったわ、グシルを放ち、街を襲わせなさい」
「はっ!」
アレイシーという女の指示で、兵士たちはすぐに行動に移した。
「噂が本当なら、あの小娘も…面白くなってきたわぁ…!」
怪しげに笑みを浮かべながら、アレイシーは遠くの街を見つめていた。
ギリシャの首都アテネから離れた場所に位置するナフプリオン。
海が広がり、かつては観光地として賑わっていたが、海はレイルガルズに汚され、
その色は紫色へとおぞましく変色していた。
そしてそんな海から、レイルガルズが放った怪物どもが現れるのだ。
ぶくぶくと泡立ちながら、海面が盛り上がったと思うと、そこから
数匹のトカゲのような姿をした小型怪獣グシルが街を襲い始めた。
逃げ惑う人々と、それを容赦なく襲っていくトカゲたち。
「待ちなさい!」
だが、そこに唐突に叫び声が響き渡ると、街の人々と怪獣たちの間に三人の人影が舞い降りる。
きらきらとした光を纏いながら、ビキニアーマーの戦乙女がその姿を現したのだ。
「あれが、噂の戦乙女か!」
「やったぁ!これで俺たちも助かるぞ!」
「みんな早く逃げて!」
メルナに促され、住民は素早く避難し始める。三人は武器を構えて怪獣たちの前に立ち塞がる。
「ダイヤモンドブリザード!!」
フィリーの放った魔法の吹雪で怪獣たちはみるみるうちに凍り付いていく。
「とどめだよ!サイクロンウェイブ!!」
続いて美琴が竜巻を起こし、凍り付いた怪物どもを吹き飛ばす。
猛烈な勢いで吹き飛ばされたグシルたちは氷が砕けるのと同時に自身も砕け散った。
「よし!…おっと!?」
ガッツポーズを取ってる美琴に向かってドロドロとした液体が飛んでくる。
付着した箇所はシュウシュウと音を立てながら溶けていた。素早く怪獣は逃げ出す。
「くっ、まだ生き残りがいたなんて!ボクをなめないでよね!」
「美琴!深追いはしてはいけないわ!」
「フィリー!美琴を追いかけましょう!」
街の外れまで来ると、ようやく怪物トカゲは動きを止め、美琴に向き直る。
「観念したようだねぇ…!いっけぇ!ウインドカッター!!」
美琴の剣から風の刃が放たれ、それはグシルを切り裂いた!
「よっし!これでこの辺ももう大丈夫だね」
「お見事!…うふふ!」
喜ぶ美琴にどこからか声が掛けられる。それにハッとなり辺りを見回す。
だが、誰もいない。
「誰だ!?ボクを呼ぶのは」
「ふふふ…やっぱりぃ、噂の戦乙女にあなたがいたのねぇ…」
唐突に影が現れ、次第にはっきりとその姿を見せ始めていく。
「織瀬美琴ちゃん……あんなに可愛がってあげたのに忘れちゃったのかしら?」
「ま、まさか……!?」
はっきりしていく姿を見て、言動を聞き、美琴は後ずさりしていく。
そこに、メルナとフィリーが駆けつけた。
「美琴!大丈夫!?」
「あなたは何者ですか!?」
フィリーの問いかけに、女は答える。
「私の名はアレイシー…レイルガルズの戦士の一人。ふふ、お久しぶりねぇ、美琴ちゃん?」
名乗りをあげ、姿も完全に見えるようになると、美琴はがくがくと震え始める。
「…あ、ああ……」
「レイルガルズの戦士…フィリー、美琴、だったらすぐにでも倒しましょう!」
「ええ、メルナ!」
やる気満々のメルナとフィリーであったが、美琴だけは震えが治まらずいる。
「み、美琴?どうしたの?」
「い、嫌だ…!あいつが相手なんて…う、うわぁぁぁぁ!!」
「美琴!?」
叫び声を上げながら敵に背を向け、逃げだそうとする美琴。
「あらぁ、逃げちゃダメよ?」
「ひっ…!」
だが、美琴より速く、アレイシーは彼女の進路上に回り立ち塞がる。
「また、いっぱい可愛がってア・ゲ・ル…!」
「や、やだぁ…助けて……!」
顎を掴まれ、視線を合わせられると、美琴の全身から力が抜け、目が虚ろになっていく。
「あ、あ……」
「くっ、美琴を返して!!」
メルナが斧を持ち、突進するも、アレイシーには避けられてしまう。
間髪入れずにもう一度振るうが、それは蹴りの一打で跳ね返される。
「くっ!」
「美琴ちゃんを返してほしければ、パルテノン神殿までおいでなさい。それじゃあね」
そう言い残すとアレイシーは美琴を抱えたまま、煙のように消え去った。
―――パルテノン神殿。そこの中心で美琴は鎖で縛られ、眠っている。
「美琴ちゃん、そろそろ起きないとダメよ?」
美琴の頬をぺしっと軽く叩くアレイシー。目覚め、少しずつ意識がはっきりしてくる。
「うっ…ここは……あ、アレイシー…!くぅ…」
「無理よ、その鎖は戦乙女の力でも、簡単には破れないわ。それよりも懐かしいわねぇ。
美琴ちゃん、あなたを捕まえた時のことが」
美琴と口づけしそうな距離に顔を近づけ、じっと見つめるアレイシー。
「日本に攻め込んだ時、あなたのママとパパを殺して、あなたの怒った時の顔、
そして私には敵わないと知った時の絶望感を帯びた表情……すっごく素敵だったわぁ」
身をよじらせ、無駄だと知りつつも脱出しようとする美琴。
その時、ピシッ!と何かが振るわれた音が響いた、その音を聞くと美琴は
再び震えが止まらなくなる。
「捕まえた後のこと覚えてる?こうやって何度も何度も躾けてあげたこと?」
「い、いやぁぁ…!!やめて、それだけは……!」
「ふふ、戦乙女になっても、やっぱり弱虫美琴ちゃんねぇ!!」
「うあっ!ああっ!!」
鞭で打たれ、その度に小さな悲鳴を上げていく美琴。
「ダメじゃない、玩具が勝手に逃げ出しちゃあ!それをちゃんと教えてあげなきゃ…ね!!」
「うあぁ!や、やめて…!お願いだから…」
「お仕置きが終わったら許してあげる…!はあっ!」
バシンバシンと鞭で叩かれる美琴。その音は鳴り止まない。
だが、音は唐突に鳴り止んだ。岩がアレイシーに向かって飛んできたからだ。
それは軽く避けるアレイシー。苦笑いを浮かべながら、飛んできた方角を見やる。
「あらぁ、もう来たの?」
「美琴を返して!」
叫ぶメルナに怪しく微笑みを浮かべながら、ゆっくりと後退するアレイシー。
「返してほしいなら…この子を倒してごらんなさい!」
すると白と黄色が混じった色の肌にまだら模様が施された二本角の怪獣が現れた。
鳴き声を上げながら、パルテノン神殿を一撃で破壊してしまう。
「くっ、フィリー!」
「ええ、速く片付けて美琴を救いましょう、メルナ!」
二人は武器を構え、突撃していく。怪獣の方は尻尾を鞭のように振るい、
叩き落とそうとするが、素早く回避していく。
「そんなものにあたしたちはやられないわ!」
「甘いわねぇ…ボルトキング!あれで懲らしめておやり!」
ボルトキングと呼ばれた怪獣は尻尾を上空に固定すると、そこから無数に雷を落としていく。
「きゃああ!!くぅぅ!」
「ぐあああぁぁ!!」
無数の稲妻を浴びせられ、二人は倒れそうになるも、なんとか武器を杖代わりにして立ち上がる。
「ロックアロー!!」
メルナは巨石を召還し、それを念力で放つ。しかし、ボルトキングが口から放った
光線で相殺されてしまう。
そして再び雷が無数に降り注ぎ、メルナとフィリーを苦しめる。
「メルナ!フィリー!」
「無駄だって言ってるでしょ…!?」
鎖からは脱出不可能と思われていたが、美琴は息を切らせながらも鎖から抜け出し
アレイシーの前に立ち上がっていた。
「どうやって抜け出したの?引きちぎってはいないようだし…」
「アレイシー…あんたの鞭に比べたら間接外しなんて屁でもないよ…」
戦乙女の力で多少回復したとはいえ、さすがにダメージが酷い美琴。
だが、それでも剣を構え、メルナとフィリーの下に駆け寄る。
「二人とも、大丈夫?」
「う、うん…美琴こそ、大丈夫なの?」
美琴は何も答えずに、剣に気を纏わせる。そして目にも留まらぬ速さでボルトキングに
接近し、袈裟懸けに斬り裂いた!その初動の一撃で苦しみ、動きを止める怪獣。
「はぁぁぁ!!せい!やぁぁぁ!!」
間髪いれず斬撃を無数に繰り出し、ボルトキングの身体をバラバラにし
「風龍連翔撃!!」
最後に技の名を叫びながら竜巻を起こし、肉片を粉砕した。
「へえ、なかなかやるじゃない」
自分の怪獣が倒されたというのに、特に思うことはなさそうなアレイシー。
「アレイシー…ここで倒す……」
「やめときなさい。あなた、震えが治まっていないわよ?」
「くっ…」
アレイシーの言うとおり、美琴の身体は彼女の姿を見ただけで震えが走り治まらない。
「うわあぁぁ!!」
それでも闇雲にアレイシーに斬りかかる。だが、勢いよく振りかざした剣は片手で
掴まれ、そのまま投げ飛ばされてしまう。
「うあっ!くっ…」
「まあ、今回は美琴ちゃんのこと見逃してあげる。だけど、今度は必ず
あなたをもう一度、私の玩具にしてあげる…楽しみにしててね、じゃあねぇ♪」
「待ちなさい!!」
フィリーが追おうとする間もなく、アレイシーは消え失せた。
アレイシーがいなくなると、美琴は脱力し、その場にへたり込んだ。
「はぁ…はぁ……ダメだ、ボク…」
もう姿は見えないというのに、震えは未だに治まらない。
「美琴…」
彼女のことをメルナは心配そうに見つめていた。
次回予告
「フィリーです。美琴のことは心配だけど、私たちは先に進まなければなりません。
ロシアに向かった私たちに、レイルガルズの新たな手先が!メルナと美琴が危ない!
次回は『極寒の戦場!戦乙女の底力』二人は、私が必ず助け出します!」
投下完了。去年末に投下期間短くしていきたいと言ったのに
また前回から随分時間を食ってしまいました
うーん、絵も全然進まないし…ハイブリットな創作者には遠いなぁ
>>89 投下お疲れ様
気が向いたときに投下してください
91 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 22:36:36 ID:+LHyqlNA
投下ばかりで周りが盛り上がらないね。せめてもの感想
>>89 投下乙。主人公側が恐怖で逃げ出すというのはなかなかいいね
もう少し捕まっていた時のことを書いてくれたら尚よかった
まあ人が少ないのは規制の影響もあるんだろうけどね
だからといって人が減ったのは変わりないだろうが
去年辺りのこのスレ見てると結構雑談とかしてたようだし
94 :
創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 22:14:35 ID:mtjXRaeO
ここもシェアードワールド、とまではいかなくても
二次創作とか軽いクロスオーバーとか、そういうのがもっと増えれば
注目度上がりそうなのだがなぁ…キャラはいいの揃ってるし
95 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/02(火) 23:37:24 ID:rZ4dqMW+
戦乙女メルナ、第四話投下します
第四話『極寒の戦場!戦乙女の底力』
―――アメリカ・ロサンゼルス。ここにレイルガルズは初めて人間界に降り立ち、
地球侵略を開始した。ロサンゼルスの住人は囚われ、自由を失くし、逆らうものは
家族諸共、殺された。ロサンゼルスの中心部にレイルガルズは自分たちの要塞を築きあげていた。
そのレイルガルズ要塞内の一番奥の玉座の間に彼らの主が控えている。
「サディール、アレイシー…お前たち、戦乙女の抹殺に失敗したそうだな」
玉座に座っているのは黒髪を床に散らばせるほど、伸ばした女性である。
美人と呼べる整った顔立ちだが、冷酷な雰囲気を漂わせている。
「いえ、ヘル様…あのようなまだ力も上手く扱えてはいない戦乙女などいつでも倒せます」
「まず、支配した土地をより、我らの色に染めるのが先決かと思いまして…」
「少しでも憂いがあれば、取り除け…逆らうものは始末しろ…それが我の教えだぞ?
お前たちはそんなことも忘れていたのか!?」
ヘルと呼ばれたレイルガルズの長は、二人の判断に激昂し、その髪を蛇のように
動かし、瞬時に二人の首に巻きつけ、締め上げた。
「ぐぐ…!」
「あ、がぁ…!」
「現に、戦乙女どもは途中で倒れるどころかロシアまで辿り着き、レイルガルズの
軍勢をそこのレジスタンスどもと協力し、退けているそうだ…欧州も、ほぼすべて
解放されている。お前たちがみすみす見逃すような真似をするからこうなるのだ!!」
さらに締め上げが強くなり、二人の身体は宙に浮き始める。
「お、お待ち…ください…」
「ロ、ロシアといえば……あのものがおりまする…そうそう戦乙女の好き勝手には
させらないと…」
その言葉に、ようやくヘルは締め上げていた髪を戻した。
「そうか…あ奴はどれだけ素晴らしく残酷ながらも美しいやり方で戦乙女たちの
首を取ってくるか…それとも、コレクションアイテムとしてここに送ってくるかな?
楽しみだのう、二人とも?ふふふ…ははははは!!」
高らかに笑い始めるヘル。その様子をサディールとアレイシーはただ見つめていた。
ただでさえ寒く、雪が降り積もるロシアの大地にレイルガルズが侵攻してからは
さらに冷え込み、路上生活者の多くが凍死し、人々は建物の外に出ることすら
出来なくなっていた。だが、数日前に現れた戦乙女の活躍で寒波の原因であった
冷凍獣たちの数体は倒され、人々は穏やかな気候を取り戻しつつある。
―――ロシアの市街地。ひっそりと佇む食堂に戦乙女の三人は集まっていた。
多くの地を開放してきたのでそれの祝杯を上げようということでだ。
「ぷふう、ロシアといえばビーフストロガノフとボルシチよねぇ」
「もう、食べすぎだよ、メルナ」
メルナがもぐもぐと食べながらそんなことを言っていると、美琴がナプキンで
彼女の口を拭いてあげる。
「…それよりも、いいんですか?こんなにご馳走になってしまって」
「お気になさらずに。あなた方が来てくれたおかげで、この辺りの治安も
だいぶよくなりましたから。せめてものお礼です」
フィリーにそう微笑を浮かべながら店主は答えた。
だが、間もなく、ため息を吐き、不安そうな表情を浮かべる。
「どうしたんです?」
「このところ、深夜になると氷漬けの死体が発見されるようになりましてな。
まだまだ不安要素は多いと感じましてね」
それを聞いたメルナの表情はきりっと変わる。
「それなら、あたしたちで調査して犯人を叩きのめして泣かしたるよ!」
なんだか乱暴な口調なメルナ。それをちょっと引いた顔で見つめる美琴。
「な、なんだか怖いよメルナ…」
「あたしは、悪には容赦なしって決めたんだもん。さあ美琴!さっそく行こう!」
「え?ちょ、ちょっとメルナ…!?…あわわ!」
メルナに引っ張られ、美琴は外へと連れ出される。
「二人とも!勝手に行ってはなりません!あ、店長さん、ご馳走様でした!」
慌てて二人を追おうとするフィリー。ちゃんと食事のお礼を忘れずに店の外へと出て行った。
メルナと美琴は、街の中心地へと向かう。レイルガルズの攻撃ですっかり氷結しきった
空間内に、氷漬けの人間の死体が転がっている。
「酷いなぁ…!絶対にこんなことした連中を許せないね…」
「綺麗に見えるけど、この人たちが恐怖に包まれてたのはボクもよくわかるよ…」
氷漬けの物体を見やり、二人は悲しそうな顔をしつつも怒りの炎を燃やしていた。
すると、唐突に二人の周囲に霧が舞い始める。
「おや、戦乙女様が二人も来ておられますか…」
「な、何よあなた!?」
突然声を掛けられ、二人は振り向くと、そこにはメイド服姿のショートカットの女性。
紙の色は薄い緑色、肌の色は雪のように白い。
「申し遅れました。私、レイルガルズの幹部…シュルゲと申します。以後、お見知りおきを」
レイルガルズと聞き、二人は咄嗟に彼女を睨みつけ、戦闘体勢に移行する。
「大地の力よ!今こそ我に集え!!」
「風の力よ!今こそ我に集え!!」
叫びと供に、二人の普段着が弾け飛び、肩、胸、腰、足、腕とメルナは赤、美琴は緑の
アーマーが装着されていき、最後に兜が現れた。
「赤き大地を司る戦乙女!メルナ!!」
「緑の疾風を司る戦乙女!美琴!!」
「「ここに見参!!」」
名乗りを上げると、武器を呼び出し、構えを取る。だがシュルゲの方は特に慌てる様子もない。
「戦乙女様…あなた方では私を倒すことなど出来ませんよ。やめておいた方がよろしいです」
その言葉にカチンと来たか、二人は突撃する。
「何の根拠があってそんなこと言えるのよ!」
「シュルゲ、あなたを倒して、この地も救わせてもらうよ!」
メルナと美琴の同時攻撃をやれやれといった様子でシュルゲは回避し、自身も
大鎌を呼び出し、二人に斬りかかっていく。
だが、攻撃は直線的で、二人は簡単に避けていく。
そしてメルナは斧でカウンターを浴びせ、シュルゲを吹き飛ばす。
「ふっ、この程度ならもうあたしたちには通じないわ!」
「もう降参した方がいいよ!ボクらだって、いつまでも弱いわけじゃないんだ!」
「ふう…確かにあなた方は強い…けど、もう少し頭もよくしないといけませんね」
「どういうことよ!…あ、あれ?」
シュルゲの言葉に怒るが、メルナは自分の身体が動かないことに気がついた。
それは当然、美琴もである。
「う…な、なんだか、目が霞んできた……」
美琴は片膝をついてしまう。二人の様子に、怪しく微笑みを浮かべるシュルゲ。
「気づきませんか?私があなたたちの目の前に現れた時…霧も出てきたでしょう?
あれは私の作った霧です。体力の消耗を速くさせ、動きを止めさせる…
何の警戒もしないあなたたちは本当に脳筋ですね」
二人を馬鹿にしながら、シュルゲはメルナに近寄り…唐突に口付けした。
「……!?あ、あなた!?何をするのよ!くぅ、ファーストキスが…奪われたぁ…」
危ない状況だというのに、そんなことを口走るメルナ。だが、すぐに異変に気づき始める。
「な、なに、これ……?か、身体が…凍りつく…!?」
悪寒が走ったかと思うと、次の瞬間、メルナの肉体は足先から氷漬けになっていく。
「私の魔力をあなたに流し込んだのです。あと、10秒もせずにあなたは氷像です」
「あ…あぁ……!?」
魔族のメイドの言うとおり、メルナは物言わぬ氷像と化した。
「メルナ!!」
「さて……次はあなたです。氷の中で…」
「くっ…や、やめて…」
制止など聞くはずもなく、シュルゲは美琴の顎を片手で摘み
「眠りなさい…!」
口付けを施した。みるみるうちに美琴の身体も氷漬けとなり、メルナと同じ姿となった。
「戦乙女様の氷像が二体も…美しいですわ。迷いますね、このまま砕いてバラバラにするか、
レイルガルズ本部に届けて飾っておくか…」
そんなことを考えていると、走ってくる足音に気づき、そちらに向く。
「メルナ!美琴!あなた、二人に何をしたのですか!?」
ようやく二人のところへ駆けつけたフィリーはメイドに怒りの篭った言葉を投げ掛ける。
「あなたが、三人目の戦乙女様ですね。私はシュルゲと申します。何をしたのかなど
見ての通りでございます。とっても美しいでしょう?」
そう言ってメルナの氷像に頬擦りするシュルゲ。
「くっ、二人を元に戻しなさい!」
「戻したかったら、力ずくでどうぞ?」
「氷の力よ!今こそ我に集え!!」
叫びとともに、フィリーの服が弾け、肉体のそれぞれの部位に青のアーマーが
装着されていき兜が現れる。
「青き氷を司る戦乙女!フィリー!!ここに見参!!」
自分の槍・バルスティンを呼び出し、戦の構えを取る。
「ふふ、あなたも氷漬けにして、三人仲良く氷像になってもらいましょうか?」
「そう簡単に行くとは…思わないことです!」
フィリーが槍を突き出し、シュルゲに攻撃を仕掛ける。だが、彼女は
それを簡単に回避し、後ろに回りこむ。
「もらいましたよ」
大鎌を振るい、フィリーを切り裂こうとする。間一髪、フィリーはそれを避けるが
背中には赤い筋が出来ていた。
「くっ、まだまだ!オーロラファング!!」
冷気を帯びさせた槍を回転させながら、シュルゲに突進。彼女は避ける間もなく
それを受けてしまう。
「くぅ…なかなかやりますね、戦乙女様」
「はぁはぁ…さあ、二人を戻しなさい」
「ふふ、聞いてあげてもいいですけど…随分息が切れてるようですね?」
怪しく微笑を浮かべたシュルゲの言葉にハッとしたフィリーは、自分の身体が
重く感じられるのに気づいた。
「この周囲にある霧…体力の消耗を速めていく効力があります。あなたは
戦乙女の中でも頭が働く方と聞きましたが…どうやらあなたも脳筋だったようですね」
そう言いながら、身動き出来ないフィリーに近寄り、キスをした。
「むぅ……!?」
「あらあら…その様子だと、あなたも初めてだったみたいですね。でもご安心を。
今の口付けが最初で最後なんですから」
「ど、どういうこと…あぁ!」
フィリーの身体も氷漬けになっていき、メルナと美琴と同じ氷像となった。
「サディール様もアレイシー様が始末してくれなかったおかげでこんあんい美しい
氷像が一気に三体も出来ました…これからどうするか本当に迷いますわ…」
と、シュルゲは氷像に背を向けながら、考え事をしている。
その時であった、シュルゲは自分の身体に何かが唐突に突き刺さった感覚を受けた。
「え…?あ、ああ…!!」
見ると背から腹に向かって槍が突き刺さっていた。震えながら後ろを振り向くと
そこには氷像ではない、フィリーの姿が。
「あ、あなた…私が氷漬けにしたはず…!何故、ですか…」
フィリーはニヤリと笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩み寄っていく。
「名乗りを忘れたのですか?私も氷の魔法を使う戦乙女…あの程度で、簡単に氷像と
化しはしません!人の話を聞いていない、あなたこそ脳筋です!はぁぁぁ!!」
「うあぁぁ!!」
フィリーの念力で宙に浮かせられ、槍が無理やり引っこ抜かれる。
今まで冷静で声を上げることなどなかったシュルゲが悲鳴を上げる。
「受けなさい!!フリージングダンス!!」
高速でシュルゲに接近し、連続で拳と脚、そして槍の乱打を浴びせながら凍らせ、
止めに槍で貫かれ、魔族のメイドは氷漬けのまま粉砕された。
それと同時に、メルナと美琴を包み込んでいた氷も溶けていき、元の姿へと
戻らせていく。
「メルナ!美琴!しっかりしてください!」
「フィ、フィリー…フィリーが助けてくれたのね」
「ありがとうフィリー…やっぱりフィリーは頼りになるね」
「二人とも…よかったぁ…!」
フィリーがメルナと美琴を抱きしめ、それに二人も笑顔で応える。
だが、唐突に三人の背後に怪しげな気配が感じ取られた。
「な、何!?」
振り向き、警戒していると、霧が晴れその姿が現れる。
そこにいたのはフィリーが倒したはずのシュルゲであった。
「シュルゲ!私が今、倒したはず…!」
そこには粉砕されたはずのシュルゲが元通り、メイド服を着たまま
両手を前に添えながら立っていた。
「いえ、間違いなく私はあなたに倒されました…だけど、私は魔族ですので。
バラバラにされても完全に止めを刺されなければこの通りです」
「ならば、もう一度粉砕して今度こそ、心の臓を貫きます!」
フィリーが再び変身しようとするが、シュルゲは背を向け、歩き出す。
「残念ですが、勝負はまた今度に致しましょう。復活したばかりで
再度戦おうとするほど、私も愚かではありませんので…」
三人を尻目にシュルゲはその場から消え去った。
残された三人の心にはシュルゲに対する怒りが込み上げていた。
「あたしたちの」
「ファーストキス」
「奪っていって…絶対に許さない!!」
なんだかレイルガルズの行いとは違うことで恨みを募らせている三人であった。
次回予告
「メルナよ。あのメイド…いつか叩きのめしてやる!さて、旅を続けるあたしたちに
襲いかかってくるレイルガルズの怪獣たち!あたしたちだって、もうそう簡単には
やられはしないわ!けど…今度の相手はデカスゴ〜…
次回『戦乙女が食べられる!』って、マジでか!?」
投下完了。へへ、ただでさえ投下ペース落ちてるのに
鯖落ちしたっていうからね…そりゃきついってもんだべさ。
女同士でチュッチュktkrwwww
シュルゲさんみたいにバラバラになっても平気な嫁が欲しい
105 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/03(水) 20:08:35 ID:axwgXtC5
キスすると氷漬けにされるような嫁は嫌だw
106 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/06(土) 23:52:41 ID:grdz6Yep
戦乙女メルナ 第五話『戦乙女が食べられる!』
ロサンゼルスではレイルガルズの幹部たちがヘルの前へと集められていた。
「シュルゲ、貴様でも戦乙女を倒すことが出来なかったということか」
「申し訳ありません、ヘル様」
頭を下げ、機械のように淡々と謝罪をするシュルゲ。そんな彼女を見て、ヘルは
どこか不満そうにしているが、それ以上は何も言わなかった。
「戦乙女たちは、今度は中近東に向かったらしい。奴らを止められる者はおるか?」
その言葉を聞き、アレイシーが前に出る。
「では、ヘル様……私めにお任せを」
「アレイシーよ…戦乙女を始末できる秘策があるのだろうな?」
「それはもちろんです。特に…昔、私が恐怖を刻み込んだ戦乙女には効果抜群かと…」
ヘルは目を瞑ったまま頷き、瞼を開く。
「よし、わかった…ではアレイシー、お前に任せよう」
「はっ、吉報をお待ちください」
すぐに背を向け、出陣しようとする。
「アレイシー殿…精々頑張ってくださいね」
「ここで始末できなかったら、私があの戦乙女様たちを今度こそ氷像にしますから」
アレイシーが両隣のサディールとシュルゲの位置を通り過ぎると二人はそう呟く。
「ふん…楽しみにしていなさい」
当のアレイシーはイラつきながら、そう返し姿を消した。
―――中近東。荒野が広がり、建物は崩れ、風が吹きすさぶこの地。
奪うものも、レイルガルズにとっては特にないここで彼らがやることと言えば
破壊衝動を満たすための虐殺という快楽である。
今日も荒れた大地の中央に位置する街にレイルガルズの兵士たちが攻め込んできた。
それに対抗するため、街の戦う意思のあるものは武器を手にし、抵抗している。
だが、元々銃火器にしろ、刃物にしろ、そこまで良いものが揃っているわけではない。
塹壕で身を隠しながら、機関銃を放つが、全ての兵士を片付けられるほどの威力はなく
たちまち彼らは劣勢となってしまう。
「くそう…このままではまた奴らの思うようにされてしまう…」
弱気になり諦めかけたその時であった。上空から眩い光が発せられ、それは
レイルガルズの兵士をたじろかせた。
「な、なんだいきなり…あ、あれは…!」
光のほうに振り向いた男はたちまち希望を取り戻したかのように明るい表情となる。
「トワッ!!赤き大地を司る戦乙女メルナ見参!!レイルガルズ、この地を
好きにはさせない!マグキスカ!!」
光と供に現れたメルナが斧を呼び出し、軽く振り回しながら兵士たちを次々に撃破する。
「ロックアロー!!」
逃げ出そうとした敵兵士にも容赦なく岩を念力でぶつける。
叩き飛ばされた兵士たちは地面に激突するのと同時に爆発した。
「あれが噂の戦乙女か…」
「さあもう大丈夫です。他の敵もあたしの友達が倒してるはずですから」
倒れていた街の男を起こすメルナ。男はありがとうと礼を述べ、街へと戻って行った。
周囲の敵を片付けたメルナのところに美琴とフィリーが駆け寄ってくる。
彼女らも、あらかた敵を排除したところのようだ。
「メルナ、大丈夫ですか?」
「うん、みんな倒したところよ。そっちはどう?」
「こっちも向かってくるのはみんな倒したよ。街の人たちに話を聞きに行こう」
三人は頷きあうと、変身を解除して街へと向かっていった。
元々、それほど盛り上がりはなかったこの街だが、レイルガルズが侵攻してきてからは
さらに活気を失っていた。ただ、戦乙女の活躍を聞いた住民は多少なりとも
心が救われた気分のようで、外を出歩く人も少し増えたようだ。
「…街の外の森で、人食いの怪物が出るという話を聞きました」
「そうですか、ありがとうございます」
路上で座り込んでいた女性に話を聞いたフィリーはすぐにメルナと美琴のもとに急いだ。
森を飲み込む勢いの怪物は森に迷い込んだ人を食べてしまうという。
「こ、こわぁ〜……この街に来る心配がないなら、放っておこうよ…」
まるで昔話や御伽噺のような内容だが、美琴はそれを聞き、すっかり脅えている。
「もう!弱気は、なしよ、美琴!そんな怪物、放っておけるわけがないでしょうに」
メルナの叱責に、小声でうんと呟く美琴。
一行が森に辿り着くと辺りは静けさを増す。それと同時に不気味な妖気の
ようなものを感じ取れるようになる。
「街の人の言った通り、ここには何か……いる!」
「でもこの妖気、まるで森全体から発せられてるようですね…」
フィリーが辺りを見回し、そう呟く。
静かだった森は急に草木が揺れ、ざわつき始める。三人は辺りを警戒し、背中合わせで
来る者を待ち構え、緊張が走る。そしてドドドドと大地が唸り声を上げ、
地面が盛り上がっていく。
「こ、これは!?」
後方に飛び退いた三人の前に巨大な影が姿を現した。
それは巨大な土がそのまま怪物化したかのような化け物である。その背には木々が
生え揃い、一つ目玉が三人のことを見据えている。
「大地の力よ…!」
「風の力よ…!」
「氷の力よ…!」
「「「今こそ我に集え!!!」」」
怪物を確認した瞬間、三人は戦乙女の姿へと変身する。
「さあ、どんな大きさだろうと、あたしたちが必ず倒して泣かせる!」
「どう、泣かせてくれるのかしらねぇ?」
勇ましく叫んだメルナに突っ込むように、また戦乙女以外の声が聞こえだす。
声の方へと振り向くと、そこにいたのは
「あ、アレイシー…!」
怪物の隣にアレイシーは瞬時に移動し、頬を撫でる。
「はぁい、美琴ちゃん。あなたを捕まえにきちゃった♪」
「や、やめろ…!来るな…」
アレイシーの姿を見た途端、再び気弱な面が出て、戦意喪失していく美琴。
「美琴、しっかり!アレイシー!あなたはあたしが泣かす!」
「出来るかしら、元お嬢様?それに…あなたはベイムスにパックリ食べられちゃいなさい!」
アレイシーが腕を振り下ろすと、巨大な口を開きながら、ベイムスと呼ばれた
怪獣がメルナに向かって突進してくる。その巨体、走るだけで常人では
立っていられない程の振動が起こる。
「そんなもの!グラビティ!キィィィック!!」
その突進を空高く飛んで回避すると同時に重力を強化した必殺キックをベイムスの
頭に炸裂させ、空中回転しながら、アレイシーの前に飛び降りる。
「なかなかやるわね、メルナちゃん…」
「さあ、今度はあなたがマグキスカの錆になる番よ」
斧を呼び出し、その刃を向けるメルナ。だがアレイシーはメルナを鼻で笑う。
「ベイムスをもう倒せたと思っているの?まだまだ甘いわね!」
「なにっ!?」
気づいたときには完全に倒されていなかったベイムスの口から舌が伸び、メルナを
捕まえようとしていた。だが、そこに素早くフィリーが割って入る。
「ぐっ!!」
「フィリー!!」
舌でぐるぐる巻きにされたフィリーはそのままベイムスの口の中へと吸収されそうになる。
「フィリーを放しなさい!!」
メルナが駆け出し、空高く舞い、フィリーを捕まえている舌を切り落とそうする。
「うわっ!?に、二枚舌!?」
フィリーのそれだけではなく、ベイムスにはもうひとつの舌があった。
それに気づかず、メルナも捕まえられ、二人一緒に怪獣の口の中へと入り込ませられる。
そして勢いよく巨大な口が閉まる。
「うああぁぁぁぁ!!」
メルナは運悪く、自身の腕が怪獣の歯の間にあったため、噛み砕かれてしまう。
「ああぁ!!」
そしてそのまま、二人とも、怪獣の腹へと吸い込まれていってしまう。
「メルナ!フィリー!」
戦意を失っていた美琴がハッとなり二人の姿を確認しようとしたが、時既に遅し。
「さぁて、美琴ちゃん…たっぷり可愛がってあげる…」
「くっ…」
二人の仲間を失い、相手は二体。しかも相性は最悪の美琴は思わず後ずさりしてしまう。
それに合わせて、アレイシーとベイムスもゆっくりと美琴に接近していく。
ベイムスの腹部へと流し込まれたメルナとフィリー。フィリーが目を覚ますと
メルナに駆け寄り、彼女を起こそうとする。
「メルナ!しっかりしてください」
「フィ、フィリー……あ、ぐぅ…!」
噛まれた右腕は痛々しく、骨が砕かれ、血が流れ出している。
戦乙女の自然治癒能力でそのうち治せるにしても、今はそれを待っている場合ではない。
「フィリー、ここは…?」
「おそらく、あの怪獣の腹の中です。私たちは、飲み込まれてしまった…」
辺りを見回すと、床も壁も天井も赤く脈打つ、湿った空気のする空間である。
ただ、二人はどちらに行けば脱出できるのかもわからない。
すると突然、壁がぐにゃりと変形したかと思うと、そこからアメーバのような姿の
何かが飛び出してきた。それはゆっくりと二人に向かってくる。
「嫌な感じだ…速く始末しなきゃ…ぐぅっ!」
だが、腕が痛み、満足に力を振るうことが出来ないメルナ。
「メルナ!バルスティン!!」
槍を呼び出したフィリーがアメーバを一突きし、一瞬にして消滅させた。
「ありがとう、フィリー…本当に、これからどうすれば…」
二人がどうするか悩んでいる時、回りの壁からドロドロとした液体が
流れ出してきていたことに、二人はまだ気づいていなかった。
それがポツリと、メルナの負傷した腕へと垂れる…。
「うあああああああああああ!!」
垂れ落ちた液体が腕に当たると、焼けるような激痛が走る。メルナはそれに耐え切れず
絶叫して転げまわる。目には痛みのあまり涙を浮かべていた。
「メルナ!まさか…これは胃液!?メルナ、しっかりしてください!」
だが、メルナを心配するフィリーにも容赦なく、液体がポツンと垂れ落ちてくる。
「ぐあああ!くぅ…!」
垂れ落ちた箇所の肩を押さえるフィリー。彼女にメルナは虚ろな目をしながら話しかける。
「ねぇ、フィリー……あたしたち、ここで溶かされちゃうのかな…」
「め、メルナ…?」
「ドロドロに溶けて…骨だけになって……ううん、骨まで溶かされて何もなくなっちゃう…」
嫌な想像が過ぎる。そのことを考えるとメルナは震えていく。
その頃、外では美琴とアレイシーが対峙していた。
美琴は剣を召還してはいるものの、未だに過去の恐怖を乗り越えられず、
アレイシーに積極的に攻めることが出来ずにいた。
「どうしたのかしら、美琴ちゃん?攻めてこれないなら、こっちからいくわよ!」
鞭を取り出したアレイシーがそれを激しく振るい、美琴の急所を正確に打ち付ける!
「ふああ!くっ、ああ!」
「ほらほら、どうしたの?反撃しないと、まーた私の玩具に逆戻りよ」
しかし、されるがまま。その少女らしい綺麗な肌にどんどん傷がついていく。
美琴が動けずにいると、アレイシーは不敵に笑みを浮かべる。
「美琴ちゃん、止めを刺す前に、面白いものを見せてあげるわ」
アレイシーが指を鳴らすと、ベイムスに飲み込まれたメルナとフィリーの姿が空に映る。
映像のメルナの負傷している腕に天井から一滴、液体が垂れる。
間もなく、映像のメルナは腕を押さえながらのた打ち回り、フィリーがメルナに駆け寄った。
「なっ!アレイシー!メルナたちに何が起きたの!?」
「簡単なことよ。ベイムスもこんなに大きくても生物には変わりない。生物ってことは
食べ物は消化しようとするわよね?」
ようやく感づいた美琴が顔面を蒼白にしながら叫ぶ。
「メルナァ!フィリー!く…そ……」
美琴はいまだに震える足を力いっぱい拳骨で叩き、気を入れる。
そして自身の剣・グラセアスを呼び出し、アレイシーに斬りかかる!
「あらあら…私に下手に反撃したら、どうなるか…忘れたわけじゃないでしょ?」
「確かに…アレイシー!あんたの行いにボクは恐怖していた。だけど、大事な人たちが
ピンチなら、怖くても、ボクは戦ってみせる!ええい!!」
「なにっ!?」
勢いよく剣を振り下ろし、アレイシーを吹き飛ばし、岩山にめり込ませる!
美琴はすぐにベイムスのところへと駆け出し、剣を腹に突き刺した。
悶絶し、苦しみの咆哮を上げるベイムスに対して、さらに剣を深く突き刺していく。
刃は光り輝き、怪獣の腹部を切り裂いていく。
「メルナぁ!フィリー!ボクが必ず助ける!だから頑張って!!」
ついには腹部からは火花が走り出していた。
ベイムス内部でも変化が起き始めていた。流れ出していた胃液が急に止まり、
壁は波を打つようにグネグネと動いている。
そして同時に、薄っすらと声が響いてくるのがわかる。
「これは…美琴!?…メルナ!!」
唐突に乾いた音が響く。フィリーの平手がメルナの頬を張った。
「フィ、フィリー…」
「外で美琴が戦っています!美琴にしっかりと言ったあなたがその様でどうするんですか!」
フィリーの叱咤に、メルナの瞳に再び光が灯る。
「そう、だったね…!こんなところで諦めちゃ美琴に申し訳が立たない…ね!」
メルナはまだ動く左腕で斧を持ち、揺らめく壁に向かって、勢いよく、それを突き刺した!
すると、眩いばかりの光が発生し、それが止むと、外の光が入り込み、美琴とアレイシーの
姿が見える。メルナは明るい表情となり、すぐに外へと飛び出した。
「メルナ!フィリー!よかった、無事だったんだね」
「うん…美琴のおかげだよ。さあ、あたしたちを苦しめ、街の人も食べちゃった、
この大食らいモンスターを泣かせたる!」
メルナの左腕が光を纏い始め、一気にベイムスに向かって解き放つ!
「グラビティ!ストォォーム!!」
掛け声の瞬間、怪獣の回りの重力が一気に大きくなり、ベイムスの身体を
どんどん圧していき、最後はグチャリと嫌な音を立てながら、その巨体は圧死した。
「ふう……さぁて、賢者タイムもそこそこに…今度はアレイシー!あなたが倒される番よ!」
と、まだ岩山にめり込まされたままのアレイシーに向かってメルナが叫ぶ。
「くっ…残念だけど、今日のところは帰らせてもらうわ。美琴ちゃん…次は殺すわよ…」
そう言い残し、アレイシーはテレポートでその場から姿を消した。
今までだったら恐怖で動けなくなっていた美琴だったが、今回は強い意志を秘めたまま
アレイシーが消え去った箇所を見つめている。
「アレイシー…もうボクはあんたから逃げようとは思わないよ。必ず、ボクが倒す…」
次回予告
「美琴だよ。もう、恐がっちゃいられない。ボクらはレイルガルズの本拠を目指して
旅を続け、ついにアジアにやってきた。辿り着いた街の人たちは良い人ばかりだけど
なんだか様子がおかしいような…。次回『戦乙女、売られちゃいます!?』
ちょ、ちょっと売られるってどういうことなの…だよ!?」
投下完了。昨日投下しようと思ったけど間に合わなかった。
次こそ、三日後ぐらいまでにはまた投下できるといいなぁ
113 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 18:58:29 ID:X22SsxIi
氷りつけになったり食べられたりと大変だな
思うにメルナ作者さんはリョナ趣味があるなw
今までの作品もだいぶリョナってたし
「今地球は『ダースマイト』という謎の生命体による危機にさらされている。今こそ我々光の一族が、盟約に従い地球を守る時だ!」
ここは光の星。光の戦士隊隊長は、拳を振り上げてそう演説していた。
「さあ、誰か立候補者はいるか! 地球の防衛は今まで数々のエリート戦士が勤めた栄誉ある仕事だ。我々の世代にお鉢が回ってきただけでも光栄と思うが良い! さあ、さあ!」
隊員たちは依然静まり返っている。
「なんだなんだ、お前らなぁ、なぜそんなにやる気が無いんだ!」
だってねぇ、めんどくさいし、地球遠いし、文明レベル低いし。などと好き勝手なことを光の戦士たちはつぶやく。
長年宇宙の平和を守ってきた光の戦士だが、おおむね平和となった現在は暇も暇であり、隊員たちの質もダダ下がりだった。
隊員の一人が手をおずおずとあげる。
「お、お前、やる気になったのか!?」
「いえ、そんなに良い任務なら、隊長が直接なさるとよろしいかと」
戦士待機室全体に笑いが巻き起こった。
そうだそうだ! 隊長が行けよ、エリート戦士(自称)だろ! などと野次さえ飛ぶ始末だった。
「な、なんなんだお前たちは! くそ、もう私にも考えがあるぞ、貴様らの中で最も成績の低いものをこの場で公表し、そのものに行かせる! 立候補者がいない限り、最低得点のものが地球に派遣されることになる! ということは、わかるな?」
つまりは、自分の得点の低さに心当たりのあるものは自分から立候補したほうがまだ格好が付くということである。
部屋全体が凍りつく。皆、今年の成績をまだ知らない。冷や汗を流すものもいた。
「立候補者は……いないのか。では、発表する。地球に派遣されるのは……」
しんと静まり返る。
「ステラ・エトワール・エストレラ! お前だ!」
一瞬にして、一人の少女に全員の視線が集中した。
「ステラだ。落ちこぼれのステラだ」
「やっぱりな。まあ地球なんて原始時代の惑星、ステラにはお似合いじゃないのか?」
隊員たちが自分がそうでなかったと知るや否や、ステラをあおり始める。
「ステラ、栄誉ある地球防衛の任務に選ばれた、君の今の心境は?」
ステラと呼ばれた金髪の少女は、まったく表情を変えずに答えた。
「正直めんどくさい」
流星少女★ステラ
防衛第1回『流星 〜って、それただ落下してるだけじゃないか!〜』
みなさん、私は『北大路 百合花(きたおおじ ゆりか)』、普通の中学二年生です。
今まで普通に生きてきて普通に食べて寝て勉強して寝てゲームして食べて寝て、そんな生き方をして、何も悪いことはしていなくて。
友達もいて、両親にも微妙に孝行して、ボランティアとかも適度に参加して、ある程度は良いことをして。
そんな普通に生きてきた私ですが、今日はなにか普通じゃないようです。
朝、家を出るとき、なにか今日は普通じゃないことが起こると思ってはいたのですが、まさかこういうこととは思っていませんでした。
良いことがあると、ポジティブに解釈してしまっていたのです。いやはや油断しました。
なにかに期待するから、それが裏切られたときに悲しみや怒りが芽生えるのであって、最初から失望状態なら悲しみや怒りからも逃れられるというのに。
いえ、まあ、今そんな心の問題の話をしても意味無いんですけどね。はい、無駄話です。無駄だから嫌いなんだ、無駄無駄……。
そうです、つまり今、物理的にピンチなのです。
はい、私は今、元気に怪物に襲われています。
「グオオオオオオオオオ!!」
「ひえぇ! 怒ってる! いいじゃないですか、あなたみたいな謎の怪物に襲われて逃げているときくらい現実逃避して脳内読者にいろいろ解説しても、いいじゃないですか!」
「グオオオオオオオオオオ!!!」
「くっそー、大声出せばそれなりに強そうに見えるとか、そんなチンピラみたいな考えかたをしても無駄ですよぉ! これでもくらえー!」
おんみょうだんをくらえー! とばかりに、百合花はかばんのなかから何かを適当につかみ出して投げた。
怪物はぱくりとそれにかぶりつき、丸呑みにする。
「あっー!! それは私が帰ったら食べようと思っていた北海道製濃縮還元バーニングフェニックスカレーパン! ぐぬぬ、私の人生で唯一ともいえる喜びを奪うとは、許るさーん!!」
「グゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
怪物の動きが止まる。どうやら苦しんでいるようだ。
「あれれー? どうやらバーニングフェニックスカレーパンの辛さに耐えかねたようですね。ふふっ、タバスコの28倍の辛さを誇るこのパンを食べれば怪物といえど当然でしょう。その間に私は逃げさせてもらいますね!」
再び百合花は走り始めた。と、思いきや、振り返って怪物を指差す。
「ついでに煽ってやる! プギャー! 怪物ざまぁ!」
「グ……グガガガガガガ!」
すると、みるみる怪物の体毛の色が変わってゆく。黒かった体毛は瞬く間に赤に変質していた。
「な、何ですか一体……赤くなったら三倍になるなんていう甘い考えではこの不景気を乗り切れやしませんよ!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「なっ、炎!! うひゃ!」
雄たけびと共に、怪物の口から炎の球が発射され、百合花のスカートを掠めた。
「カレーを食べたら火を噴くとか、短絡的過ぎるでしょう。初代カービィか! って、ツッコミ入れてる場合じゃない、逃げねば! 言われなくてもすたこらさっさだぜぇってな具合に逃げねば!」
「グオオアアアアアアアアアア!」
(……真面目にこの怪物に対抗する手段を捜すとしますか)
そろそろ、百合花は冷静になって考え始める。
まずは状況を整理しよう。
ここは住宅街から少し離れた山のふもとの道。人通りは少ない。おそらく偶然の助けは期待できない。
百合花は自宅がこの近くにあり、今、学校から徒歩で帰る最中だったのだ。
その時、この怪物に出会った。いつもどおり普通に下校する百合花の目の前に、いつのまにやらこの怪物が経っていたのだ。
この怪物、大きさは熊と同等、黒の体毛(現在は赤に変わっているが)を身にまとい、目は赤く光、鋭い牙を持ち、力は街路樹を軽々となぎ倒したほどだ。
幸い、スピードは人間程度なので、地の利のある百合花は追いつかれることは無いが、このままではどうしようもない。
そして、この付近に住んでいるのは自分の家族だけだったが、百合花は家族に助けを求めるわけにもいかなかった。
家にいるのは、母と妹だけ。か弱い二人に助けを求めても、逆効果だろう。被害が増えるだけだ。
(今私にできるのは、なんとか交番まで逃げ込むか、住宅街まで走って助けを求めることです)
このど田舎のイモ少女である百合花は携帯をもっていない。通信で助けを求めることはできない。
(だけど、住宅街だと、女性や子供しかこの時間帯にはいない可能性もある……今は成人男性が勤務から帰ってくる時間帯でない……。つまり、住宅街と言う選択肢も、いたずらに被害を増やすだけ)
ならば交番。しかし、この周囲に交番はない。市街地の中にいかなければいけない。
(それに、市街地までこの怪物を誘導できる保証は無い。私をあきらめて逃げてしまうかもしれない)
と、なると。
(ここで倒すしかない。一度逃がせば、母さんや茉莉花(まりか)を襲うかもしれない!)
怪物と戦い倒す。それしかない。今の百合花にはそれしか思いつかなかった。
「よし、そうと決まれば、いっちょ行きますか!」
百合花は山道に飛び込み、森林の中を走る。怪物もそれを追って山道に入った。
「獲物が一人だから警戒せずに追ってきた。ふふっ、お前はすでに私の術中に嵌っているのです」
怪物は牽制攻撃とばかりに火球を吐き出すが、森林をジグザグに走る百合花の前に、木々にさえぎられて届かない。
さらにこの木の密度は、二足歩行の百合花は用意にすり抜けられるが、四速歩行で横幅の広い怪物には不自由であった。
「このあたりはまだ木を間引きしていない場所です。でかい図体のあなたには苦しかろう、です」
「グオオオオオオオオオオ!」
「怒ってもここではあなたが不利と言う現実は覆らない。……そして!!」
百合花はその場所を一瞬ジャンプして超えた。一見何の変哲も無いその場所だ。
怪物もそこを通る。
「……ゴガッ!?」
「ひっかかりましたね単細胞さん。ここは落ち葉で見えないくぼみがたくさんあるんです。くぼみの位置を知っているのはこの近辺にいつもいて、落ち葉の無い時期もこの山道を見てきた人間のみ。つまり私や私の家族のみということ」
足を予想以上に深いくぼみにとられて動きの取れない怪物。
(よし、山頂の山小屋にチェーンソーが……。そこまで逃げ切れば!)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「うー、めんどくさいなー、もう。なんてあたしが地球なんて田舎惑星に……」
ステラは星間飛行中、一人用の宇宙船の中で誰にも聞こえない愚痴をばら撒いていた。
「隊長め、低学歴の低脳のくせによくも天才のあたしを馬鹿にしてくれたなー。ちょっと任務サボって寝てる回数が任務数に対して半分を超えたからって……!」
ステラ・エトワール・エストレラは光の戦士である。
宇宙を守る使命を持つ光の戦士は、厳しい訓練を受け、強く、優しく、戦いでは鬼となり、そうでないときは皆紳士淑女である。と、言われている。
しかし実情は違った。堕落し、しかも光の一族の優秀さを鼻にかけ、他の星の人間を見下すものもいる。
ステラはまさに堕落した戦士の模範的存在だった。
「あんなサルどもを守らなきゃならないなんて、就職先間違えたかなー……ん、あれ、なんだこれ」
今ステラは宇宙船のコックピットに座っているが、やっとメーターがおかしいことに気づいた。
「やば、これは設定ミスっていうか、整備ミス!?」
しかしまだあまりステラはあせってはいない。この程度の設定の間違いなら、時間をかけて対処すれば十分直せる。あまり難しい処理ではない。
そう、時間があれば、の話だ。
「……あれ、ブレーキがかからない、なんでだろ。……て、すでに地球の重力にひっかかってる!?」
そう、時間は無かった。すでに宇宙船は地球の重力にのまれている。
だが、航行や着陸の計算は今ステラが改正するために初期化したため、まだ宇宙船にはうちこまれてはいない。
「やばい……やばいやばいやばいやばいやばい。地球の重力計算を手動でするなんて、あたし無理だって! こんな短時間でできるわけないから!」
宇宙船はこのままでは自由落下し、地面に追突する。
徐々に加速する宇宙船。大気圏に突入し、その船体が摩擦熱につつまれる。
「お、おいおいおいおい! やばいよー、死んじゃうよー! ごめんなさい! いろいろごめんなさい! これから真面目に任務するから、誰か助けて! 任務する前に死んじゃうなんてかっこ悪すぎるよ!」
だが、もはやどうすることもできない。
このまま墜落を待つだけだった。宇宙船はさらに加速を続ける。
速い。速い。速い。速い。速い。
どんどん速くなる宇宙船。雲をつきぬけ、ついに、遠目にだがステラにも地面が目視できるようになった。
「激突する! ど、どうにか生き延びないと、流星少女★ステラが第一回にして主役降板だなんて、そんな理不尽ないよ!」
さりげなくメタ視点のネタを使いつつ(おそらく錯乱してしまっているのだろう。可哀想な頭である)、ステラは生き延びるために手当たり次第にコックピットのボタンを押した。
「あ、あった、これだ! 緊急停止スイッチ! 間に合えー!!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふ、ふふふ。ついに手に入れてしまった。最強の武器を」
百合花はその手に最強の武器こと、チェーンソーを抱えていた。神すら切り裂くテキサスチェーンソービギニング。
エンジンを回し、準備は万全だ。今の気分はレザーフェイス。
「くるならきなさい、怪物さん!」
「グオオオオオオオオ!」
百合花にこたえるように、くぼみから足を抜け出した怪物が山頂の山小屋の前にまで現れた。
(こちらが接近武器を持ったと、おそらくこの怪物の頭でも理解できるでしょう。ということは……)
「ガアアアアアア!!!」
口から火球。
「予想通り!」
すでに火球の軌道を予測して回りこみつつ走って接近していた百合花は、チェーンソーを構え、一気にその首に振り下ろした。
「これで……っ!?」
切れない!?
それどころか……。
「折れたぁ!?」
チェーンソーのエッジは怪物の皮膚に傷をいれるどころか、逆に折れて吹っ飛んでいった。
「そんな……っ!」
とっさに身をかわす百合花。怪物の爪が、今まで百合花がいた空間をなぎ払った。
少し爪がかすった部分から多量に出血する。
受身を取りながら距離をとり、百合花は考える。
(まずい……まさかここまで硬いなんて、予想できませんでした。それに、この爪もかすっただけでこの威力……)
もはや、絶体絶命。
怪物は徐々に迫ってくる。
武器を付きたてたことで興奮している。この状態では、命のあるまま逃がしてはくれないだろう。
そして、山小屋を背にして立ってしまったことで、かえって百合花の逃走経路が阻害されている。
(もう、あきらめるしか……)
そのときだった。
空から高速で迫り来る物体。
「え、ええっ!?」
「グガッ!?」
百合花と怪物が同時に空を見上げる。
それは、怪物のまさに頭上に迫っていた。
「まずいっ!」
百合花は冷静だった。怪物が気をとられているうちに走り、山の反対側の斜面にある大きなくぼみに一気に飛び込む。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
轟音。
ものすごい衝撃と爆炎が周囲に拡散した。
飛行物体が落下したのだ。おそらく、逃げ遅れた怪物は……。
「それにしても、隕石なんて、このタイミングで……?」
くぼみから這い出し、百合花は飛行物体が落下した場所を覗き込んだ。
小さなクレーターとなっているそこの中心には、良く分からない球体。その隣に、怪物が倒れている。さすがに頑丈で、四散してはいなかったが、その衝撃に耐え切れず息絶えたようだ。
「これ、球状で、隕石じゃない……一体何なんですかね」
熱を帯びたクレーターの中に入り、隕石では無い謎の落下物に近づく。さすがに手で触れることは無い。かなりの高温にたっしているだろう。
「……表面がなめらかで、まるで人工物みたいです。これは、まさか……UFO?」
思わず焼きそばを思い浮かべた方もいるだろうが、そういう人はまず食い気より勉強をしよう。
UFOとは、男のロマンである。略さずに言うなら、アンアイデンティファイド・フライング・オブジェクト。未確認飛行物体である。
ちなみに、今は百合花が目撃してしまったので未確認ではなくただの飛行物体。つまりFO。フライングオブジェクトである。
それどころか、すでに落下後であるので、飛行物体ではなくただの物体。つまりO。オブジェクトであるかもしれない。
その心はおのおのの心の中にある……。
人はまだおろかで、理解しあえず、合意できず、話し合いもできず、今まさにどこかで戦いあい、そして3秒ごとに一人が死んでいる。
しかし、よくよく考えているとそれ以上の命が生まれている。
これは死を悲しむよりも喜ばしき、大切なことなのだ。
そうして、今日も地球は平和なのだった。
流星少女★ステラ 完
「おわらすなー!!」
「おあぁ!?」
突如としてUFOだかFOだかOだかよく分からない物体の天井が開き、中から大声が聞こえてきた。
驚きのあまり、百合花はしりもちをつく。
「緊急停止は、ギリギリまにあったかー。……んー、生きてて良かったー!」
突如UFOの中から金髪の少女が這い出てきて、両腕を広げて伸びをする。
百合花は唖然として見つめるしかできなかった。
「ん、現地人か。いや、あたしの華麗なる着陸を見てその美しさに腰でも抜かしたんだな、このお茶目さんめ!」
「え、いや、そうじゃなくて……」
「ん、なんだ?」
金髪の少女はUFOらしき物体から降りようと、船体に手をかける。
「あ、熱くなってるから気をつけ」
「あっぢぁあああああああ!!!! 先に言えよ劣等種族が!」
「ご、ごめんなさい(劣等種族? 中二病かな、この娘)」
「まあいいや」
ひらりと軽い身のこなしで少女は船体から地面に降りた。百合花に手を差し伸べる。
百合花はおずおずと手をとった。
「あたしは光の星からやってきた宇宙防衛隊超天才エリート戦士のステラ・エトワール・エストレラ。気軽にステラって呼んでくれ。異星人を神とあがめる原始的な文化の持ち主だった場合、ステラ様とでも呼ぶといいよ」
「光の星からやってきた、ステラ、ですか」
「お前は? 劣等種族にも名前くらいあるだろ?」
「私は、北大路百合花と言います。こっちも百合花と気軽に呼んでください」
よくよく考えてみるが、このステラという少女は中二病でこんなことを言っているのではないだろう。
現に、目の前でUFOに乗って地球に飛来しているのだから、異星人だというのは間違いない。
劣等種族と百合花を呼ぶことも、星間飛行を可能にする技術の星の住人にとっては確かに地球人など原始時代の存在だ。
「あの、別の星からいらっしゃったんですよね? 地球へは一体なんの御用ですか? 観光ですか?」
「ああ、そうだそうだ、そうだった。目的の話ね。現地人に聞いたら手っ取り早いかなぁ」
「なにかお探しですか?」
「そうなんだよ。いや、防衛軍だって言ったじゃんあたし。で、今回地球の防衛任務に来たわけだけど、百合花、あんた『ダースマイト』って知らない?」
「ダースマイト、ですか。……その言葉には心当たりはない、ですね」
「うーん。まあ、こっちで作った名称だし、地球だとまた違う表現がなされているのか。とにかく、地球に害を及ぼす怪物らしい。見たこととか、ないか? あたしはそれを倒さないと光の星に帰れないんだ」
「あー……」
なるほど。
そういうことだったのか。
「大変言いにくいことですが……」
百合花はそっとUFOの隣に倒れている死骸を指差した。
「あれです。今、着陸にまきこまれて……」
「え、さすがにそれはな……あちゃー」
ステラもそれを確認して、微妙にやるせない顔をした。
が、すぐに笑顔に変わる。
「よし! 任務完了! あたしの天才的な大気圏外からの勇気ある突進攻撃によってダースマイトは駆逐された!」
「ええー!!」
「なんだ、なにか不満でもあるのか劣等種族のくせに」
「いまどう考えても偶然の事故をおてがらにしようとしてたじゃないですか!」
「こまけえこたぁいいんだよ! じゃああたしは星に帰る。じゃあな! 短い付き合いだったな、百合花!」
俊敏な動きで再びステラはUFOに乗り込み、反重力エンジンを起動させ、飛び立った。
「ええー……」
たった数分間の宇宙人との邂逅。案外あっさり終わってしまったな。
「あのステラって子、結構綺麗だったな……。また、お話できるでしょうか」
ちょっとした感傷に浸りながら、高度を上げていくUFOを見上げる。
と、次の瞬間に百合花はその場から飛びのいた。
ずしーん。
間抜けな音が森に響く。
UFOが再びクレーターの中に落下していた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ダースマイトは滅び、地球に平和はもどった。
「――っていうのに、なんでステラがうちにいるんですか!」
「いやー、まいったね。あの落下の衝撃で宇宙船壊れちゃったんだわ。救助が来るまで帰れないんだよね、あたし。宇宙難民ってわけ。難民は受け入れるってのが宇宙航海法だよ、知らないの?」
「知りませんよ! アメリカとかに保護してもらえばいいじゃないですか! エリア51だのなんだの、受け入れ場所なんていくらでもありますよ! ていうかなんで何食わぬ顔でうちの食卓で朝食たべてるんですか、それにその鮭は私のものです!」
ステラが取ろうとした鮭を横から百合花が橋でつかむ。
「あらあら、百合花ちゃん。遠い星からはるばる地球に来てくれたんだから、少しくらいはおもてなしをしなきゃねえ。ね、ステラちゃん?」
百合花の母、桜子(さくらこ)が温厚な顔で微笑んだ。
「そうですそうです。桜子さん、地球の料理っておいしいですねー。あたし、この家にずっといちゃおうかなー」
「ふふっ、にぎやかで良いわね。百合花ちゃん、あなたのお部屋、二人用で広かったわね。しばらくあそこに泊めてあげなさいな」
そうだ。元は妹と二人で使っていた広い部屋を今も使用している。
しかし、自分のプライベートに素性も知れない異性人を踏み込ませるなど、思春期の乙女の許せることではないのだ。
「ええー。母さんもこんな怪しい異星人の味方をするんですか?」
「怪しいだなんて、なに言ってるのよ。こんなに可愛いじゃない!」
桜子はステラをその豊満な胸に抱きしめた。ステラもまんざらではなさそうだ。
(母さんは可愛い子には目が無いんだった……)
母にまともな判断力を鍛えるのはやめにし、妹に助けを求める。
「茉莉花。あなたは、ステラがこの家にいても迷惑じゃないんですか?」
「えー、わたしはステラおねえちゃん、おもしろいからすきだよー」
「ええー、溶け込み早っ!」
まだ八歳の茉莉花に常識的な判断力を求めるのは間違いだった。
じゃあ誰に助けを求めればいいんだ。
「まあまあ、それに、あたしは最強戦士だからな。泊めてもらってるぶん、この家の安全は保障するぞ!」
「まあ、昨日みたいに怪物が現れるかもしれないし……それなら、いいと思いますが……」
「んじゃ決定! まあ仲良くやってこうよ、百合花!」
「……はい」
これから始まるであろう普通ではない日常に、百合花は頭を抱えたくなるのだった。
しかし、ステラのその屈託の無い笑顔を見ると、少しだけ楽しみも芽生えた。
今日は何が起こるのだろう。
明日はどうなっているのだろう。
何も無い日常をすごしてきた百合花に、そんな気持ちが芽生えた。
なにも持っていなかった少女、百合花は少しずつ変わり始めるのだった。
つづく かも
次回予告&データファイル
百合花「そういえば、素朴な疑問が一つ」
ステラ「なんだ、劣等種族」
百合花「なんで変身ヒロインスレなのに変身しなかったんですか」
ステラ「え?」
百合花「え?」
ステラ「……いや、まあ、ね。いろいろあるんだよ、いろいろ。大人の事情ってやつだね。ほら、仮面○イダーク○ガだってマイティになるまで長い前ふりがあったじゃん」
百合花「じゃあ、次回はちゃんと変身して敵と戦ってくれるんですね?」
ステラ「あ、ああ。そりゃ、防衛軍のエリートだしな。成績トップだし、戦闘スーツになればダースマイトとか余裕でしょ。は、はは……あはは……」
百合花「というわけで次回はステラが頑張ってくれるそうなので、皆さん期待して待っていてください! マジパネェステラさんが見れます! ポロリ(怪物の首とかの意味で)もありますから、全国の大きなお友達は録画準備をお願いします!」
ステラ「おい、ハードル上げんな!」
百合花「次回、流星少女★ステラ 防衛第2回『虚勢 〜ピストン運動と聞いてもエロいことを連想しないと言い張る男のこと〜』を、お楽しみに!」
キャラクター・データファイル ナンバー1
『普通の田舎少女 北大路百合花』
高さ:152cm 年齢:14歳
髪:黒のセミロング 外見:普通 体型:普通
エナジー:102(地球人の平均を100とする)
備考:本作の一人目の主人公(もう一人はもちろんステラ)。
普通の少女だが、若干妄想壁がある。学校の成績は良く、頭の回転も速い。
ツッコミ癖もあり、ピンチの状況で敵にツッコミを入れることもある。
気が強く、危険な相手を平気で煽ることがあるが、自分が危険であることが平気なだけで、他人の命がかかっているときは非常に冷静になる。
なぜか戦闘センスが高く、生身でもある程度ダースマイトに対抗できてしまう。
その戦闘センスはステラを大きく上回っていると言うもっぱらのうわさ、というか事実である。
母が可愛い子に目が無いことにあきれているが、そういう自分も綺麗な女の子が好きだということを自覚していない。
ダースマイト・データファイル ナンバー1
『暗黒爪獣 パンティラス』
高さ:2m タイプ:獣型 レベル:1(最大は5)
エナジー:3200(地球人の平均を100とする)
備考:防衛第1回に登場したダースマイト。
レベル1なのでかなりの雑魚。の、はずだがチェーンソーではびくともしない防御力と、常人なら一撃で葬る攻撃力を備えている。
名前がパンチラに似ているが言い間違えてはいけない。泣いちゃうぞ!
ステラと戦わずして死亡した不運のダースマイトである。
彼が再生怪人として帰ってくることを望んでいる人は全国に一人くらいはいるのか、それは分からない……。
こらそこ、パンティとかパンチラとか言わない!
投下終了。
むしゃくしゃしてやった。反省はしていない。
124 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/08(月) 16:24:32 ID:gkBprM8q
おお〜小ネタもいっぱいで楽しい雰囲気ですねぇ
チェーンソーで龍騎ネタには吹いたw
是非とも次回以降の続きも見たいです
ステラ差し置いて百合花無双になりそうな気配満々w
126 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/10(水) 23:17:54 ID:2hMeP3yn
戦乙女メルナ 第六話『戦乙女、売られちゃいます!?』
戦乙女の三人はレイルガルズの本拠地を目指して今日も旅を続けている。
どこからか入手したジープで大陸を横断し、今は中国に入ったところだ。
今はゴビ砂漠を抜け、小さな市街地に到着していた。
「フィリー、中国のどこに行けばいいの?」
メルナの問いに、一度ジープを停車させ、地図を取り出す。
「この香港に隣接してる人工島の街、連春に行けば日本に出る船があるという話です。
とにかくそこを目指しましょう」
フィリーが指差した地図の箇所には小さく連春のことが書かれていた。
いくつもの人種が集まる、無国籍風な街ということ。
「じゃあ、早くその連春に行こう、フィリー。ボクお腹空いちゃったよ」
「はいはい。それじゃあ、飛ばしますよ。しっかり掴まっててください」
フィリーは力強くアクセルを踏み、急激にスピードを上げながら突き進んでいく。
その勢いで後部座席に座っていたメルナと美琴は思わず落ちそうになってしまっていた。
―――連春。アジアもレイルガルズの侵攻にあっているはずだが、この街はやけに
盛り上がっていた。街を行き交う人々は皆、良い笑顔をしている。
「このご時世だというのに、随分と活気がありますね」
「ホント。街が荒れてる印象も全然ないね」
荒廃してきた国をいくつも見てきた。中国も手前の香港までは建物はボロボロだったし
レイルガルズに襲われていた街もいくか見つけては解放してきた戦乙女たちにとって
この賑わいは、ギャップを感じさせていた。
そんな彼女らに髭を蓄えた、小太りの中年ぐらいの男性が駆け寄ってくる。
「あなたたちは…もしかして噂の戦乙女さんたちですか?」
「おっ、おじさん一発正解!ボクらはまさにそれ!」
美琴が誇らしげに胸を張る。それを聞いた男は、両手を小さく広げ、瞳を輝かせる。
「や、やはり…おーい!皆、戦乙女のお嬢様方が、この街にも来てくれたぞぉ!!」
「なに?戦乙女!?」
「ついに来てくれたんだね!」
「これで、もう脅える必要はないんだ!」
戦乙女が来た。このことを知ると、連春の人々は、歓喜の声を上げ、一斉に
三人を取り囲むように集まり始める。
「なんだかあたしら、すごい人気だねフィリー」
「え、ええ…でも、何か変な感じが…」
歓喜の声はもちろん、どこからか祝砲のように大砲が撃たれる音が響く。
さらには彼女らを歓迎する垂れ幕までビルから垂れ下がり、その大げさなまでの
歓迎の仕方には、メルナや美琴も多少なりとも引かざるを得なかった。
とにもかくにも、戦乙女は、先ほどの小太りな髭親父に案内され、
連春で一番のホテルに案内され、食事を取ることに。
男の名前は秀斎。現在の連春市長とのこと。彼の権限で、戦乙女たちは手厚い歓迎を
受けることになったらしいのだ。ホテルのレストランでは彼女らを待っていたかのように
中華料理のフルコースがすでに用意されていた。
「うわぁ〜おいしそう〜!!」
「本当だね…早く食べたいなぁ〜」
出てきた中華料理のフルコースに、メルナと美琴は涎を垂らす。
「「いっただっきまーす!!」」
同時に食事前の挨拶を済ませると、一斉に手当たり次第にパクついた。
横で、二人がもりもり食べているなか、フィリーはゆっくりと食べている。
少し食べ、きりの良いところで秀斎の方を振り向く。
「秀斎さん…少し聞きたいことがあるのですが」
「はい、なんでございましょう」
秀斎は笑顔のまま、フィリーに耳を傾ける。
「散々、私たちは荒れ果てた国を見てきました。それはこの中国の他の街もそうです。
だけど、この連春だけはまるで荒廃した雰囲気がない…何故ですか」
その問いに、秀斎は少し間を与えてから答え始める。
「ええ、一度は襲われたのですよ、ここも。ですが、その攻撃一回だけで、
レイルガルズは来なくなりましてね…何故だかは私どもにもわかりませんが」
「そう、ですか…どうもありがとうございます」
フィリーは、市長の返答に、どうも怪しさを感じざるを得なかった。
一回だけしか攻撃しなかっただなんて、どうにも腑に落ちない。
メルナと美琴は市長の話を聞いてたとは思えないほど、相変わらず食い意地張って
もぐもぐと頬を膨らませていた。
その夜。用意してもらったホテルの寝室で三人は寝息を立てていた。
何故か、ベッドは一つで三人は川の字で寝ている。
穏やかな空気が流れているそこに、キィっと小さな軋み音を立てながら部屋のドアが
開かれ、誰かが入室してくる。その数は同じく三人。
侵入者はそっと眠っている彼女たちに近寄る。
「寝ているか?」
「大丈夫だ。食事には念のため、睡眠薬も混ぜてあるからな」
「それならば…早いとこ、こいつらを連れ出そう…」
三人は頷き合い、シーツをめくる。
「どこへ連れ出そうというのですか?」
めくった瞬間であった。真ん中で寝ていたフィリーが目を瞑ったまま声を発したのだ。
「き、貴様、寝てはいなかったのか!?」
「少し怪しい感じがしましたので…戦乙女の力で浄化しておきました。
メルナも美琴も、そんなに効いてはいないでしょう」
ベッドから跳ね起き、フィリーは侵入者を睨みつける。
部屋は暗く、侵入者の顔はよく見えなかったが
「もう…うるさいな……フィリー?」
寝ぼけながら起きたメルナが部屋の明かりをつけ、一斉に部屋が照らし出される。
「あなたは…秀斎市長!!」
そこにいたのは昼間は彼女らを手厚く持て成した市長の姿。他に黒いスーツの二人の男もいる。
「く……うおおおおお!!」
焦りの色を見せた市長は突然唸り声を上げだした。
「な、なに!?どうしたの!?」
その雄叫びに、寝ぼけていたメルナはもちろん、普通に寝ていた美琴も飛び起きる。
みると、市長の身体が膨れ上がり、ものすごい筋肉質の身体へと変化し
その顔も口が裂け、牙が生え、瞳は鋭く、まるで恐竜の頭のようになった。
さらに、取り巻きの黒服も、同じく唸り声を上げ、市長と同じような姿へと
変貌し始めた。完全に人の姿から獣の姿へと変化するや否や、三体は
メルナたちに飛び掛った。
「いけない!メルナ、美琴、しっかり掴まってください!!」
「ええ?ちょっと、フィリー!」
メルナの言葉を聞く前に、フィリーは二人を抱えて、ベランダに抜け、そこから飛び降りた。
そして三人は、そのままプールへと突っ込んでいった。
間もなく、水面から顔を上げ、息を吸う。
「はぁ…フィリー、危なかったけど、もっとマシな脱出法はなかったの?」
「咄嗟にはこんなことしか出来ませんよ…それよりも、あの市長たちが怪物だったとは…」
「とにかく、ここで泳いでてもしょうがないよ。街の方へ行ってみよう」
プールから上がり、三人は街の方へと向かい始める。そんな彼女らを見つめる一つの影が。
「…戦乙女……この街を破壊してもらわなくては」
街へと出た三人。昼間の騒がしさと打って変わって、不気味な程に暗く、静まり返っている。
「夜だからなのかな、誰もいないや」
美琴が額に手をあて、遠くのほうまで眺めている。
「そうね…フィリー、美琴、別のとこに行こう」
と、メルナが方向転換しようとした時、急にザッザッと足音が聞こえ始める。
それも一つや二つではなく、数多く。と、いきなり回りの街灯が照らされる。
「な…なに、こいつら…!?」
「さっきの市長さんと同じ!?」
みると、先ほどの市長と黒服と同じく、小型の恐竜のような生物が大量に現れ
三人を取り囲んでいたのだ。
思考する間もなく、取り囲んでいた怪物たちは三人に襲い掛かる。
その攻撃を潜り抜け、三人の身体が光り輝きだしたかと思うと、次の瞬間、
戦乙女の姿へと変身を遂げ、武器を構える。
「「「はぁぁぁぁ!!」」」
気合一閃!どれだけ取り囲まれようと、怯まずに襲い来る敵を一網打尽にしていく。
だが、あまりにも多勢に無勢。
「ふう…これじゃあ、あたしたちのスタミナが持たないわ」
「こっちよ、早く!」
唐突に、路地裏から声が聞こえ出す。そこにいたのはローブを被った人の姿。
声色から女性であろうか。
敵かどうかはわからないが、すぐに女性の下へと駆け出す三人。戦乙女たちを
追おうとする怪物たちだったが、狭い路地裏では挟まれて身動きが全然取れずにいた。
路地裏から、さらに地下へと抜けた場所に三人は女性に案内されていた。
「さっきはどうもありがとう、あなたの名前は?」
「私は聖覇。この街に武道の修行のためにやってきた」
「あなたの目的はなんですか?あそこで私たちを助けた理由は?」
聖覇は軽く息を吐き、説明を始めた。
「いや、理由というより、お願い。この街の住人たちを全員殺してほしい」
その発言に緊張が走る。美琴は思わず、身を乗り出しリンに詰め寄る。
「こ、殺してって…あんなにボクたちを歓迎してくれた人を?」
「あなた、市長が化け物に変わった瞬間を見たんでしょ?市長に限らず、街の住人は
あのレイルガルズが侵攻してきた時に…」
レイルガルズに連春が襲われた際、街の住民は皆、一人残らず殺された。
殺害した住民たちと取って代わり、そのまま連春の住民になりすまし、
そしてこの街に来るものを取って食うか、捕まえてどこかへ売り飛ばしていたのだ。
「なるほど、市長がレイルガルズは一度しかこの街に侵攻していないという理由がわかりました」
フィリーは納得したかのように、首を軽く縦に振る。
「私は、一度この街を離れてたこともあったから難を逃れたけど、戻ってきたら
危うく売り飛ばされそうになったし…たぶん、あなたたちもそうなってしまう
ところだったわ」
「わかったわ…フィリー、美琴、ここの住民さんたちを…ううん、レイルガルズを
叩き潰そう!それが、殺された人たちへの餞よ!」
三人は頷きあい、気を纏いながら、再び街中へと突撃する。
「この連春の人々の恨み、思い知れぇ!!」
美琴が剣を目の前の敵を次々に切り倒していく。
「ドリル……ハリケェーン!!」
竜巻を纏い、高速回転しながらの飛び蹴りで進路上の敵を次々に撃破していく。
「ダイヤモンドブリザード!!」
フィリーは吹雪を起こし、取り囲むモンスターどもをカチコチに凍らせていく。
「パルテスジャベリン!!」
物凄い勢いで槍が飛び、氷漬けとなった敵は粉々に粉砕されていく。
メルナは斧・マグキスカを召還し、それに気を纏わせる。
「アックスブーメラン!!」
斧を軽々と投げつけ、次々に切り裂き、怪物たちは断末魔を上げることなく
その場に倒れ伏していく。
「さすがですね。小型の悪魔どもでは歯が立ちませんか」
「サディール!」
あらかた敵を片付けた三人の前に、黒い光を纏いながら、敵幹部サディールが姿を見せる。
「お前たちさえ現れなければ、連春のみんなは…!」
聖覇は怒りを露にし、サディールを睨みつける。
「あなた方の都合など知りません。私たちはあくまでこの世界の者の立場で言うなら
侵略者ですからね。さて…では、これで遊んであげましょう!」
サディールの腕から波動が放たれ、それは残りの小型恐竜たちに浴びせられる。
すると、怪物たちは一箇所に集まり、融合し始める。
それが終わると、そこには戦乙女の数倍の大きさを誇る怪獣へと変化していた。
両腕は棘付きの鉄球と鎌となり、腹には五角形の模様、足はごつごつとしており
大きな耳と角が頭についていた。
「さあ、ここであなた方も終わりです!ティルロンよ、やってしまいなさい」
鉄球のついた右腕を戦乙女に向かって振り下ろす!それを回避し、空へと
飛翔した戦乙女たちは攻撃態勢に移る。
「ウインドカッター!!」
美琴が風の刃を飛ばすが、それは腹部の五角形に吸収されてしまう。
間髪いれず、ティルロンは口から火炎を吐き出してくる。
「危ない!ああっ!!」
「フィリー!!」
美琴を庇ったフィリーが炎に巻き込まれ、そのまま地に叩きつけられてしまう。
「よくも、フィリーを!」
怒りに身を焦がすメルナだが、吐き出される火炎と鎌と鉄球の攻撃は
激しさを増し、回避するだけで精一杯な状態。このままではいずれやられてしまう。
「メルナ、どうするの?」
「くっ…きゃああ!!」
さらに広範囲の火炎が飛び、メルナと美琴をも、焼き尽くそうとする。
「聖覇鳳凰拳!!」
その時だった。どこからか巨大な気の塊が飛び、それはティルロンの背に直撃し
爆発を起こした。
「なに!?」
サディールが驚き、気が飛んできた方角を見ると、そこには息を切らした聖覇の姿が。
「はぁ…はぁ……くっ、やはり…まだ……」
そう言い残すと、その場に気絶してしまう。ティルロンはその思わぬ衝撃に
予想外のダメージを受け、転げまわっている。
「今だ!はあああああ!!」
メルナはマグキスカに気力を集中させ、一気に怪獣へと突撃。
「グランドクラッシャァァァァ!!!」
斧を軽々と振り回し、その怪獣の肉体をバラバラにしていく。
「サイクロンウェイブ!!」
そしてその肉片を美琴が竜巻を起こし、消し去った。
「むう、思わぬ邪魔が入りましたか…ここは退きます。それでは」
サディールは歯痒そうにしながら、別空間へと姿を消した。
戦闘が終わると、メルナはフィリーに駆け寄り、抱き起こす。
「フィリー、大丈夫?」
「…大丈夫です、メルナ…それよりも、聖覇さんを」
と、荒く息を呼吸している聖覇の方に顔を向けるフィリー。
「だ、大丈夫…やはり戦乙女は噂どおりの強さね」」
「聖覇さんこそ、あんなすごい技を使えるなんて、あたしたち驚いたわ」
感心してるメルナだが、美琴はどこか不満そうな表情をしている。
「でも、あんなに強い力があったなら、なんで最初から使わなかったの?」
「あれは…まだ未完成の技なので…肉体への負担が大きくて……だから使うのに
躊躇してしまった。決して隠すつもりではなかったの」
「そ、そうなんだ…ごめんね、変なこと聞いちゃって」
それを聞き、美琴はすぐに申し訳無さそうに謝る。
―――翌日。朝日が昇り始めた頃、戦乙女たちは港に集まっていた。
「この船なら、日本にすぐに着くはずよ。今回はありがとう、メルナ、美琴、フィリー…」
お礼を述べ、深々と頭を下げる聖覇。
「お礼なんていいよ。これがあたしたちの使命なんだから。それじゃ、聖覇さん…またいつか」
「ええ、道中気をつけて…!」
聖覇に見送られながら、船は出発する。お互いが見えなくなるまで戦乙女たちも聖覇も
手を振り続けていた。
次回予告
「美琴だよ。ついに日本に到着したボクたち。ボクにとっては故郷のここも
やっぱりレイルガルズにめちゃくちゃにされてる。そんな中、ボクたちは
何者かに襲われる…レイルガルズの新手かぁ!?
次回『力のぶつかり合い!謎の戦士!?』うわわ、なんだか強そう…」
投下完了。今回登場した聖覇は、まあパラレルワールドってことで。
てか、凛を読んだことある人、前提な登場の仕方…
>流星少女☆ステラ作者さん
いやぁ、どこまでも突き抜けて明るく、ドタバタ感があって
面白いです。ステラと百合花は今後、デコボココンビみたいになってくんだろうか
次回も楽しみです!
134 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/13(土) 23:28:25 ID:4RCZSUZD
今更だけど投下乙。これからも頑張れ
135 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/15(月) 23:22:13 ID:XAw1IEKy
戦乙女メルナ 第七話『力のぶつかり合い!謎の戦士!?』
連春から船で日本の長崎に到着した戦乙女の三人は一路、東京を目指す。
その道中、ふと、メルナは美琴に尋ねる。
「ねぇ、美琴。あなた、日本人なのよね?どの辺りに住んでいたの?」
「うん、ボクは北海道の旭川に住んでたんだ。そこでお母さんお父さんと一緒に
暮らしてた。でも……」
「あっ、ああ…ご、ごめんなさい…」
美琴の表情が暗くなったのを見て、メルナは慌てて謝る。
「ううん、大丈夫。後ろ向きになっちゃいけないよね」
「美琴…北海道には立ち寄らなくても平気?」
メルナの問いに、軽く首を振る。
「いいの。辛くなるだけだしそんな時間もないよ。フィリー、東京まで、どれぐらい掛かるの?」
フィリーが地図を広げてみせる。
「そうですね…車があるとはいっても、三日程度は掛かりますね」
「結構掛かるんだね…またレイルガルズに襲われてる場所があったら助けていくことを
考えると、もう少し時間掛かるかも」
ただ、そう考えていても仕方ないと、三人はすぐに出発し始めた。
―――東京。結果的に、ここに辿り着いたのは予定より伸びて、六日後。
当然、レイルガルズに襲われていた街があったが、そういうところを救出することに
掛けた時間より、荒らされた道路が多くあり、そのせいで、遠回りしなくてはならなかったのだ。
長い地割れを起こしていた道路、川が大きく広がり、道を横切るようになっていたりと
レイルガルズの攻撃は想像以上に激しかったということが分かる。
「酷いもんだったね…でも、ついに東京に来たんだ。ボクも平和な時代だったら
ここには観光で来たかったんだけどなぁ」
「でも、もう観光どころじゃないだろうね…美琴、フィリー、行こう」
フィリーが車を走らせ、都心部へと進んでいく。
彼女たちは奥多摩のほうから東京へと入ってきた。この辺りはまだ自然が豊富に残され、
とても荒らされたとは思えない。
だが、その後もレイルガルズの侵攻があったとは思えないほど、綺麗な街並みが残されていた。
「どういうこと…?まさか東京だけ、誰にも襲われていないっていうの?」
メルナは疑問を浮かべるが、それでも平穏ならば、それに越したことはないと
思い直し、三人はさらに先へと進んでいく。
しかし、こうも何事もないのは変な感じだと思ったメルナは行き交う人の中から
気の良さそうな青年を適当に捕まえて、話を聞くことにした。
「あの、すみません。どうしてこんなに綺麗な街並みなの?レイルガルズは?」
「ん?ああ、あの悪魔みたいな連中か。東京にも連中は来たけど、突然消え失せたんだ」
「消え失せた?いったいどうして?」
青年は頭を掻きながら答える。
「それは俺にも…ただ、消え去る時、みんな光になって一箇所に集められてたな」
「その場所ってわかる?」
「確か…三鷹の方だったかな」
メルナは礼を言うと、フィリーと美琴のもとに戻り、詳細を伝え始めた。
「どう思う?」
「とにかく三鷹に行きましょうか」
一行は三鷹に向けて車を走らせる。それまでの道路とは違い、特に荒れた場所も
なかったので、早々に到着する。
―――三鷹。この地の桜花高等学校にレイルガルズをまとめた光が
集められたと聞き、三人はそちらへと向かう。
到着すると、学校はひっそりと静まり返っている。誰かがいる雰囲気は無い。
「日曜だからってすごく静かね」
「何にせよ、様子だけでも見てみましょう」
と、メルナたちが校庭に入った瞬間であった!突如として、校庭の底から
眩いばかりの光が放たれ、浮かび上がってくる。
そしてそれが弾けたかと思うと、中から三体ほどの怪人の姿へと変わった。
「!?…レイルガルズ!」
「メルナ、美琴、変身しましょう!」
三人は頷きあい、一瞬で変身すると同時に、光を纏いながら突進する。
素早く先制攻撃を仕掛け、武器を取り出して斬りつけていく。
状況不利と見たか、怪人たちはすぐに紫色の光を放ちながら姿を消してしまった。
「くっ、待て!…逃げられたか」
「あの場に封印されていたのが何故、突然蘇ったのかな…ん?」
美琴が疑問を口にしている中、遠くからエンジンの唸る音が聞こえ、それはこちらに
近づいてくる。
現れたのは一台のバイクと、それに乗っていた長い黒髪の少女。
整った顔立ちと、スタイルもいい。だが、そんな彼女がメルナたちに向けている
視線は明らかに友好的なものではない。
「あなたたち…ここで何をしたの?」
「え?何って…?」
「惚けないでほしいわ。ここに封じ込めた悪魔の魂を解放したでしょう?」
黒髪の少女がゆっくりと戦乙女たちに向かって歩みを進めていく。
「結界を破り、封印を解いたあなたたちを許すわけにはいかないわ…」
「ちょ、ちょっと待ってよ!話を…」
「問答無用!炎心変幻!!」
美琴の制止も聞かずに、少女は叫ぶ。すると、彼女の回りから炎が次々と現れ
少女の身体を包み込んでいく。その炎の中で、少女は炎から生み出された
和服と袴、刀をその身に纏っていく。
「なっ…へ、変身した!?」
メルナが驚く間もなく、剣士の姿へと変わった少女は炎のオーラを纏いながら
三人の前に降り立つ。
「炎術剣士見参!何者かは知らないけど、悪魔を解き放った罪はここで償ってもらうわ…
成敗します!暁一文字!!」
一方的に宣言すると、腰の刀を抜刀して、三人に向かって斬りかかって行く。
「くっ、仕方ない…フィリー、美琴、やるわよ!」
「わかりました!」
「まったく、人の話はちゃんと聞いてほしいよ…」
戦乙女たちの方も、それぞれ武器を構え、迎撃しようとする。
「たあぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐっ!?」
剣士はフィリーに斬りかかり、フィリーは槍で防御しようとするが、あまりの勢いに
吹き飛ばされてしまう。
「フィリー!よくも、フィリーを!てやぁぁぁ!!」
「火柱ストォームッ!!」
斧を豪快に振り回し、剣士に攻撃を仕掛けようとするメルナに、剣士は
左腕を振り上げ、巨大な火柱を起こす。
「えぇ!?きゃあぁぁぁ!!」
避けることも叶わず、メルナは火柱に飲み込まれ、大地に叩きつけられた。
その身体の焼けた箇所からシュウシュウと煙が上がっている。
「く…そ」
「最後はあなたね…火炎閃光キィィィック!!」
「くっ!ドリルハリケェェーン!!」
剣士が足に炎を纏わせ、勢いよく両足を揃え、飛び蹴りを繰り出したのを見ると、
美琴も竜巻を起こしながら、その名の通り、高速回転しながらの飛び蹴りを放つ。
巨大なエネルギーがぶつかり合い、それが収束していくと、後に残ったのは
しっかりと二本の足で大地を踏みしめている剣士の姿と、地に膝をつく美琴の姿。
「美琴…大丈夫?」
「な、なんとか……この人、いったいなんなの…」
「むっ、危ない!!」
剣士の少女は追撃に炎の光線を放ってくるが、それはフィリーが察知し、
素早く回避した。そして三人集まったのを好機とばかりに、それぞれの
エネルギーを合わせていく。
「…何をするつもり?」
「あなたを倒すなら…これしかない!!」
「「「ヴァルキリーエクスプロージョン!!!」」」
エネルギーの奔流がそれぞれの武器に集中し、一気にそれが放たれた!
雪崩のように凄まじい勢いで、その閃光は剣士を飲み込もうとする。
「くっ!!」
刀を縦に構え、なんとかそれを防ごうとするが、エネルギーの流れに逆らえず
吹き飛ばされてしまう。
戦乙女の合体技で校庭は大きなクレーターが出来上がっていた。
それの外側に、剣士は倒れこんでいた。
「はぁ…あぁ……すごい強さだったね…」
「でも、これで当分は立ち直れないでしょう、さあレイルガルズの者を捜しに…」
と、その場から離れようとした時であった。剣士はヨロヨロと立ち上がろうとする。
「ま、まだ立ち上がれるなんて…でも、もうボクたちと戦うほどの力は…」
「炎魂の響きあり……!」
剣士の呟きに呼応して、彼女の回りに火の玉が飛び交う。すると、剣士の傷は
みるみるうちに、治っていき、再び万全の状態へと戻っていく。
「な!?そ、そんなの反則だろ!!」
剣士の方は軽く息を吐き、再び刀を構える。
「反則といっても、これは何度も使えない手だから…さあ、今度こそ観念してもらうわよ」
じりじりと、剣士が戦乙女に詰め寄っていくが…その時であった!
突然、戦乙女と剣士の間に光弾が飛び、爆発を起こした。
「うっ!?何奴!」
剣士が光弾が飛んできた方角を見ると、そこには三体のレイルガルズの怪人の姿が。
「ああ!レイルガルズ!!」
三体の怪人はぐるぐるとその場で回り始め、一つに合体していく。
回転が頂点に達すると、光が弾け、そこには手はハサミ状、目玉が回転し、頭も
またハサミのような形をした姿へと怪人たちは合体変貌を遂げた。
「また合体した!この前からうんざりするよ!」
美琴が文句を垂れ流すのもお構いなしに、怪人の方は、フォッフォと笑う。
「貴様らには感謝しているぞ!我々の封印を解こうという気はなくとも
その力が干渉するだけで、剣士の封印を解いてくれたのだからな!
さらには、剣士と争い力を消耗しているのならば、我々にとっては好都合…
この私、ヴァールタが、四人まとめて倒してくれる!!」
その巨大なハサミを四人に向けて、開くとそこから光線が発射されていく。
それをなんとか回避して、倉庫の後ろに身を潜める。
「あなたたち、あいつらの封印を意図的に解いたのではないの?」
「そうだって言ってるでしょ!まさか、あたしたちの力が封印を解くだなんて思いもしなかったわ」
メルナがそのことを主張している間にも、敵の攻撃は続いていく。
次々と爆発が起きるなか、剣士は申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「ごめんなさい…あなたたちが封印を解きにきたレイルガルズかと思っていたわ。
じゃあ、あなたたちはいったい…?」
「あたしたちは戦乙女よ!ここに来るまでにも、いっぱいレイルガルズを叩き潰してきたんだから」
「あなたたちが、噂の…そういうこと……あいつの言ってる意味がわかったわ」
戦乙女だということがわかると納得したようになり、ヴァールタに向かって構える剣士。
そして続いて戦乙女たちもそれぞれの武器を構えていく。
「貴様ら、四人が協力し合おうが、俺様には勝てぬ!食らえ!!」
ハサミからの光線が続いていくが、フィリーが両腕を前に突き出し、
「アイスブロッキング!!」
氷の壁を形成させ、それを防ぐと、素早く空を飛んで一気に懐へと飛び込ぶ!
「グラビティキィィック!!」
メルナが重力を掛けた必殺キックを浴びせ、ヴァールタを蹴り飛ばすと
フィリーと美琴が同時に斬りかかるが、それを怪人は四体に分身しながら回避してしまう。
「「「「死ねぇい!!」」」」
そして四体同時に攻撃を仕掛けてくる。見た目からしてどれが本物かなど
検討もつかないが、炎の剣士は一歩前に出ると、左腕を怪人に向かって突き出した。
「炎流波!!」
叫びに呼応して左腕が赤く発光したかと思うと、凄まじい勢いで火炎光線が放射され
四体同時に焼き尽くしていく。
「グアアアアアア!!」
燃やされ、のた打ち回るヴァールタは次第に一つの姿へと戻っていく。
「あいつが本物か!とあっ!!」
美琴が高く飛び上がると剣に、風の気を纏いながら、降下する勢いも含めながら
一気に怪人に突き刺す!
「風龍連翔撃!!」
剣を抜くと、間もなく目にも留まらぬ速さで何度も切り裂いていき、
バラバラにすると同時に竜巻を起こし、ヴァールタを消滅させる!
倒したことを確認すると、四人は同時に微笑を浮かべた。
―――東京湾。剣士の少女に見送られながら、戦乙女はハワイ行きの船へと向かう。
空は鮮やかなオレンジ色をしており、日が沈みかけている。
「本当に、さっきはごめんなさい。私の勘違いであなたたちを襲ったりして…」
謝罪する剣士に、メルナは首を振る。
「気にしないでよ。…それよりも、日本はあなたがいれば大丈夫だね。
そういえば、名前聞いてなかったね。あなたなんていうの?」
メルナの問いに、少女は答えようとするが、船が出る時間を知らせる汽笛が鳴り響く。
「あら、時間だ…いつか、また日本に来たらにしようか」
「そうね…それじゃあ、頑張ってね、みんな!」
「もちろん!またいつか…ね」
船が出ると、戦乙女たちの船を追うように、港と海の境目まで少女は手を振りながら
バイクを走らせていた。それをメルナたちも見えなくなるまで見つめ続けている。
次回予告
「フィリーです。ハワイが人の手で行ける限界。あとは、レイルガルズの船に
乗り込むか、自ら泳いでいくか…そうこうしてるうちに、メルナが倒れてしまいました!
そんな大変な時に限って私たちに襲い掛かるレイルガルズ。好機でもあるけど、
危機でもあるこの事態…どうすれば…
次回『大ピンチ!暗殺部隊襲来』メルナは私が守って見せます!」
投下完了です。前回に続いて、今回もそれな人登場だけど
やはりパラレルワールド。本人ではないです
>>135 投下乙
前回も今回もコラボ最高です
今回のゲストまなみの母かな
143 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/20(土) 23:07:21 ID:UTbT50Bu
第八話『大ピンチ!暗殺部隊襲来』
アメリカの州のひとつにして、リゾート地としても有名なハワイ・ホノルル。
レイルガルズがアメリカを支配しているなか、唯一、乗っ取られていない土地である。
リゾート地としては優秀でも、悪魔どもにとっては特に価値がある土地では
ないということであろう。
広がる青空と燦々と輝く太陽の下、水着姿のメルナと美琴が砂浜を走っている。
「メルナー!早く来なよ、とっても気持ちいいよ」
一足速く、海へと飛び込んだ美琴が満面の笑みで手を振っている。
「待ってよ、美琴!」
美琴も海に入ると、美琴と水の掛け合いをしたり、泳いだりして遊びだす。
「二人とも、あまり遠いところに行ってはダメですよ」
苦笑を浮かべながら、フィリーは二人に注意を促した。
ここに到着した戦乙女の三人はホテルに部屋を借りて、決戦前の鋭気を養うため、羽目を
外して遊ぶことに決定している。その光景は決戦前とは思えぬほど、明るく平和であった。
「でも……これからどうするか」
フィリーは悩んでいた。ハワイまで来ることは出来たが、ここから先は
レイルガルズの完全支配下となっており、人の手ではどうしてもこれ以上先に進むことは出来ない。
だが、レイルガルズの船が都合よくハワイ周辺を通るわけでもないし、
まさかここから泳いでいくわけにもいかない
「戦乙女の力で飛んでいけばとも考えたけど……」
戦乙女の飛行能力なら、ここからアメリカまででも飛んでいくことは出来るだろう。
だが、それでは飛行するだけでエネルギーのほとんどを使い、とても戦うことなど
出来ないだろう。目的地は近いのに、フィリーはもどかしい思いを抱えていた。
そんなフィリーの気持ちを分かっていなさそうに、メルナと美琴は楽しそうに遊んでいる。
「メルナ〜!今度はボクとあそこまで競争しようよ!」
「もちろんいいよ!それじゃあ……ん………あれ……?」
泳ぎ始めようとしたメルナだったが、急に立ちくらみがしたかと思うと、
その場にバシャン!と水を叩きながら倒れこんでしまった。
「メルナ!?」
「美琴!メルナが溺れてしまう前に早く陸に上げて!」
メルナの様子がおかしいことに気がついた美琴とフィリーは、すぐさまメルナを
浜へ上げ、日陰に横たわらせる。そっとフィリーがメルナの額に手をやると
「!?…すごい熱……」
「すぐにホテルに運ぼう、フィリー!」
急いで、メルナを運ぶ二人。彼女らの心境を表すかのように、先ほどまで
晴れていた空が、急に曇り始めていた。
ベッド上で眠りながらも荒く息をしているメルナを二人は心配そうな目つきで見つめている。
「でも、いったいどうして急に、こんなに…」
「さっきまであんなに元気に遊んでいたのになぁ…まさか、レイルガルズの仕業かな…」
そんなことを考えていても、現状どうしようもない。手詰まり状態の二人である。
だが、その時であった!唐突に、部屋の隅に眩いばかりの光の塊が現れたのだ!
「なっ、何!?」
輝きが少しずつ、収まっていくと、そこにはメルナたちが変身したのと同じように
ビキニ鎧と剣を携えた格好の女性の姿が。
「ブリュンヒルデ様!?」
それは、メルナたちに戦乙女の力を与えた戦乙女の長、ブリュンヒルデであった。
「お久しぶりですね、美琴、フィリー」
「地上に来ても大丈夫なの、ブリュンヒルデ様?」
「僅かな間なら、そこまで力は消耗しませんから…ところでメルナは……?」
ブリュンヒルデの問いに、二人は俯いてしまう。
苦しそうに寝ているメルナを見て、ブリュンヒルデは切なそうな表情になる。
そしてそっと、彼女の額を撫でる。
「やはり……そうでしたか」
「どういうことです?」
何か意味ありげに言うブリュンヒルデにフィリーは聞く。
「…これまでの旅で、彼女に何か変化はありませんでしたか?」
「そういえば…メルナって初めて会った時はもっと大人しい感じだったのに
戦乙女になってからは乱暴な感じの面もあったかな…」
美琴がこれまでのことを振り返りながら、そう言うと、ブリュンヒルデは軽く
ため息を吐き、フィリーと美琴の方を向く。
「メルナは…戦乙女としての適性があなた方の中で一番強かったということです。
本来ならば、ゆっくりと時間をかけて戦乙女の力と人の力は融合していく…
だけど、メルナは適性が強いあまりに、急速に融合していった結果、力の暴走が
始まるかもしれない……そうなれば、最後に待ち受けるのは……」
その一言で空気は張り詰め、美琴とフィリーは青ざめる。
「ブリュンヒルデ様、メルナはどうすれば助かるの!?」
美琴は思わず、ブリュンヒルデに詰め寄り、問い立たす。その瞳には薄ら涙を浮かべて。
「私も彼女に出来る限り、治癒の魔法をかけてみます。ですが助かるかどうかは
メルナが自分の力で戦乙女の力を完全に制御できるかどうか……」
フィリーはメルナを見つめ、自分ではどうすることも出来ないことに歯痒さを感じた。
「メルナ……頑張ってください…信じていますから」
―――その日の深夜。波の音だけが響くハワイの砂浜に、船が上陸し、
そこから怪しく動めく、いくつかの影の姿が見え始める。それは少しずつ、
戦乙女たちがいるホテルの方へと進路を取っていた。
「サディール様、戦乙女たちがここにいるのは間違いないようです」
黒い衣を纏った一人の兵士が、そう一番後ろに控えている男に伝えた。
その男、サディールは、怪しく微笑を浮かべながら口を開く。
「そうですか…どうせ、我々のいる場所に乗り込むのは不可能なこと…ヘル様も
なかなか用心深いお方だ。さあ、皆さん……速く仕事を片付けてしまいましょう」
サディールがそう言うと、彼の周りに控えていた黒尽くめの集団は
一斉にマントを脱ぎ捨てる。
そこにいたのは奇怪な怪人たちの集団。彼らは一斉に、戦乙女たちのいる
ホテルの方へとなだれ込んでいった。
「ふふふ……戦乙女たちよ、ここであなた方の旅も終わりにしましょう…!」
誰にも聞こえない程度に呟くと、サディールもまた、ゆっくりと怪人たちの
後を追っていった。
戦乙女たちがいる部屋の下の階から突然、爆発が起き、その音は彼女らにも
聞こえ出し、途端に緊張が走る。
「この音は!?」
「レイルガルズだよ、フィリー!ボクたちの居場所を突き止めてきたんだ」
美琴とフィリーは視線を合わせ、頷き合うと、部屋から出て行こうとする。
「ブリュンヒルデ様、メルナのこと、お願いします!」
フィリーは彼女にそう伝えると、部屋から飛び出していった。
「フィリー、美琴…頼みましたよ」
ブリュンヒルデもそう呟くと、メルナの隣に立ち、頭を撫でながら、治癒の魔法をかけ始める。
ホテルの一階はすでにレイルガルズの手により、廃墟同然と化していた。
辺りは真っ黒に焦げ、この場にいた人間だった人々の焼死体も見える。
パンパンと、両手を叩くようにはたきながら、焼け焦げた跡を見下すサディール。
「ふっ……まったく人間というのはどうしてこうも脆いのか…殺人を犯して快楽を得る
タイプのものなら、これほどの獲物はいないでしょうが……私としてはもっと歯応えが
欲しいところですねぇ…」
と、そこにフィリーと美琴が駆けつけ、辺りの惨状を見渡した。
「サディール!貴様、よくもここまで残酷なことを!!」
フィリーが憤るが、サディールの方はそれを気にも留めることなく、静かに笑う。
「ふふっ、彼らは抵抗らしい抵抗もしなかった……弱いから私どもに殺されるのです」
「人の命をなんとも思わない、レイルガルズらしいやり方だね…!許せない!」
フィリーと美琴が怒り心頭に発すると、彼女らの周りから凄まじい気の激流が起きる。
「氷の力よ、今こそ我に集え!!」
「風の力よ、今こそ我に集え!!」
二人の服が弾け、その身に戦乙女の衣装を見に纏っていく。
フィリーは青の、美琴は緑のビキニアーマーを纏うと、レイルガルズの前に降り立ち
「青き氷を司る戦乙女フィリー!」
「緑の疾風を司る戦乙女美琴!」
「「ここに見参!!」」
勇ましく名乗りをあげると、それぞれ武器を召還し、レイルガルズの軍勢を睨みつける。
「ふむ、面白いですね…やりなさい、レイルガルズの精鋭たちよ!!」
サディールの指示を受け、怪人たちは一斉に突撃していく。
フィリーと美琴は、冷静に相手の攻撃を見極め、一体一体、確実に斬り倒していく。
「ダイヤモンドブリザード!!」
フィリーが吹雪を起こし、残った怪人たちを氷漬けにする。
「ウインドカッター!!」
それを間髪入れずに美琴がかまいたちを起こし、切り裂いた。
レイルガルズの怪人どもを軽く倒した二人は、武器をサディールに向けて構える。
「さあ、サディール!ここにのこのこやってきたが、貴様の最期!」
「あなたを倒して、レイルガルズの本拠地に乗り込ませてもらうよ!」
だが、サディールは慌てることもなく、二人に対して余裕の笑みを浮かべている。
「いいでしょう。私を倒すことが出来ればですがね…」
瞬間、目にも留まらぬ速さで、サディールは二人の背後に周り、蹴り飛ばした!
「……っ!? な、なんて奴……!」
「ボクの感覚でも追えないスピードだ……」
倒れた二人を悪魔は見下しながら、その手に邪悪なエネルギーを集めだす。
「この程度でやられてもらっては……楽しめませんよ!!」
それを二人に向かって投げつけ、直後、大爆発が起きる…!
その頃、うなされながら寝ていたメルナは、ふと目を覚まし、ヨロヨロと
ベッドから起き上がろうとする。
「メルナ、今は寝ていないと駄目です」
ブリュンヒルデがそう促すが、メルナは首を横に振る。
「今は……フィリーたちが戦っているんでしょ…?だったら、あたしだって、
こんなところで寝ている場合じゃない……!」
「メルナ……死ぬかもしれないのですよ……?今、あなたは戦乙女の力に
飲み込まれようとしているのです。この状態で無理をすれば……」
「フィリーと美琴を見殺しになんて出来るわけがない…!
ごめんなさい、ブリュンヒルデ様!あたし…行きます!」
メルナはベッドを抜け、ブリュンヒルデの制止も聞かずに、部屋から飛び出そうとする。
しかし、その身体はふらふらのままだ。
「大地の力よ……今こそ、我に力を……!」
変身はしたが、やはり身体は重く、視線が定まらず、倒れそうになる。
「メルナ……やはり無理です。代わりに私が、二人を助けに行きます。
あなたはやはりここで安静に……」
「だ、大丈夫、ブリュンヒルデ様……くっ、うああぁぁ……!」
ブリュンヒルデの腕から抜けると、ギリギリまでその気を練り、一気に一階まで駆け降りていく。
サディールは大した傷もつかずに、その場に立ち上がっていた。だが、対峙した
フィリーと美琴は、散々に打ちのめされ、壁に寄りかかるように倒れこんでいる。
そしてサディールはフィリーの首に手をかけ…締め上げていく。
「ぐっ……あ………!」
「ここで、あなた方の旅も終わりです。ですが、新たに地獄めぐりの旅が始まりますよ…!」
苦しみに悶えるフィリー。美琴が助けようとしても、力が入らず、それは叶わない。
「フィ、フィリー……くそ…うわあぁっ!!」
「おっと、踏むと泣く床とは……珍しいですね」
美琴の頭を強烈に踏みつけ、サディールは完全に勝ち誇っている。
だが、その時であった。突然、フィリーを掴んでいた腕に何かが飛び、切り傷をつけると
続いて、美琴を踏みつけていた足にも痛みが走る。
「サ、ディール……フィリーと……美琴を…放せ!!」
「おや、どうしたのですか?随分と調子が悪そうですが?」
やはり、少々の気合ではどうにもならない。だが、それでも斧・マグキスカを
サディールに向けて構えるメルナ。
「サディール…!誰でも見境なく殺し、あたしの仲間をも殺そうとしてるあんたを……
今日こそ、この場で打ち倒す!!」
ふらふらな状態でもサディールに突撃するメルナ。だが、斧の一振りは軽く回避され
肘打ちを後頭部に食らい、前のめりに倒れてしまう。
「まったく、あなたという人は……愚かですねぇ!」
メルナの首根っこを掴み、軽々と持ち上げると、その腕から高圧電流が流れ出す。
「ぐっ、ああぁぁぁぁっ!!!」
凄まじいまでの激痛が全身に走り、メルナは絶叫する。
電流を流し終わると、メルナを壁に叩きつけるように投げ飛ばす。
「ぐはっ!……こんなところで……やられるわけには…」
だが、立ち上がりたくても、その身に力が入らない。
「まったく往生際が悪い……一思いに、その首を刎ねてあげましょう」
サディールは自身の手刀に気を注入していく。纏われた気は非情に鋭利で、この世で
切り裂けないものはなさそうな程であった。
それがゆっくりとメルナの首に向かって近づいていく。
「さようなら、戦乙女」
「死ねない………こんなところで…死ねない!!」
手刀が振るわれようとした瞬間であった。メルナの全身から眩いばかりの光が放たれ
思わずサディールは後退し、その身をマントで守る体勢に。
「こ、これはいったい何事です!?」
サディールが驚くのも束の間、その光は荒れ果てた一階を元通りに修復し、
フィリーと美琴の目を覚まさせ、力を回復させていく。
「……メ、メルナ?」
「なんだか、すごいことになってる…」
フィリーと美琴の瞳に映るメルナは神々しい輝きを放ちながら、ゆっくりと
サディールに向かって歩みを進めていく。
「サディール!首を刎ねさせてもらうのは、あたしの方だ!!」
「ふん!いくら復活したところで私に敵うはずがないですよ!はあぁぁ!!」
光線にして電撃を放つが、メルナは斧でそれを吸収、反射させサディールにぶつけた!
「ぐうっ!?この程度で、私は倒れません…おおおお!!」
今度は別空間から剣を呼び寄せ、メルナに向かって斬りかかっていく。
メルナも斧を振るい、鍔迫り合い状態に持っていくが、すぐにサディールを押し返す。
「な、なんですか、このパワーは……!?」
体調が持ち直しただけとは思えないほどの力に、サディールは次第に恐怖を覚え始めていた。
ゆっくりと小柄な身体に似合わぬ威圧感さえ醸し出しながら、メルナはサディールに
向かって近寄ってくる。それに合わせ、サディールは後ずさっていく。
「戦乙女と人の力の融合体……それが今のあたし。サディール!あんたでは
もうあたしには勝てない!!グラビティストーム!!」
「ぐっ、あああぁぁ!!」
メルナは重力波をサディールに浴びせ、完全に動きを封印させた。
歩みながら斧に気を纏わせていくと、それを振り上げ
「今まであんたに苦しめられてきた人々の恨み…思いしれぇ!!グランドクラッシャァァァ!!」
斧を軽々と振り回し、サディールに炸裂させていく!斧の動きを止め、
ドンッ!と柄の部分で床を叩くと同時に、サディールの肉体は裂けると同時に爆散した。
その光景を目の当たりにしたフィリーと美琴は、メルナに違和感を覚えていた。
そんな彼女らの前に、ブリュンヒルデが姿を現す。
「ブリュンヒルデ様、あれは本当にメルナなのですか…?」
フィリーが疑問をぶつけると、ブリュンヒルデはゆっくりと頷く。
「メルナは戦乙女の力を暴走させずに、自分で制御できるようになったのです。
ですが、代わりに好戦的な面が今まで以上に出ることになってしまったようですが…」
「じゃ、じゃあ、とりあえずメルナは助かったってこと?」
「そういうことです。もう安心していいでしょう」
そのことを聞き、二人は安堵する。彼女らの方にメルナは振り返る。
「フィリー!美琴!行こう、レイルガルズの本拠地にさ!」
力強く言うメルナに、フィリーと美琴も頷いた。
「レイルガルズの船を使えば、奴らの本拠へ行くことが出来るでしょう…
メルナ、フィリー、美琴……あなた方に任せてばかりで申し訳ありません。
……よろしくお願いしますね」
ブリュンヒルデは、そういい残すと、姿を消した。
ついに、戦乙女とレイルガルズの最終決戦が始まる……!
次回予告
「レイルガルズの本拠地があるアメリカへとついに乗り込んだ戦乙女たち。
そこで待ち受けるのは、レイルガルズの大軍勢と残る二大幹部・アレイシーとシュルゲ。
メルナはフィリーと美琴に後を任せ、レイルガルズの大将、ヘルの下へと突き進んでいく!
勝利するのは果たして……」
投下完了です。あと二話ぐらいで今回の作品は終わるかな
それにしても大雑把な旅の仕方であった…。
>>142 ご想像にお任せでw
152 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 11:34:11 ID:wt3SWNXL
投下お疲れさまです
本当に頭が下がります
楽しみにしています
>>151 了解しました
153 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/21(日) 15:05:09 ID:gbb0CgQH
タイホから判決に至るまで留置場、拘置所生活を
描くバラエティー小説
小説家になろう連載中
第7話 魔女4 更新しました
タイ○ホ日記で検索してください
新作 200文字小説 70文字小説 20文字小説
同時 連載中
154 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/24(水) 22:58:59 ID:Tb8UoHLg
戦乙女メルナ 第九話『メルナ死す!!』
―――アメリカ大陸西部。レイルガルズの支配下に置かれ、完全に以前のアメリカとは
別物の存在となっている街並みが広がる。都市部は、高層ビルが並ぶ空間から
黒い建物がいくつも並び、砦も見受けられる。
そして、この辺りとなると、人の気配はまるでなく、街を行き交うものは
禍々しい姿をしている魔族たちであった。
そしてレイルガルズの本拠があるロサンゼルス中心部に、巨大な要塞と城がある。
それこそが、レイルガルズの長、ヘルの居城。その内部の玉座の間に、
一人の悪魔が大慌てで入ってくる。
「ヘル様に申し上げます!戦乙女たちが、ここアメリカへオクスナートから入った模様!
我がレイルガルズの砦を打ち破りながら、ロサンゼルスへと向かっています!」
その言葉を聞き、ヘルは眉一つ動かさずに、玉座から立ち上がる。
「そうか……奴らめ、とうとう…まあよい、アレイシー!シュルゲ!」
ヘルの声に呼応し、露出度の高い服装の女と、冷徹な顔立ちのメイド服の女が瞬時に
現れ、その場に跪きながら、ヘルの方に向く。
「お前たちに、戦乙女どもの討伐を任せよう。よいな?」
「はっ、仰せのままに…」
「ヘル様に、戦乙女の首を献上致します」
指示を受けたアレイシーとシュルゲは、現れた時と同じように、瞬時に姿を消した。
そしてヘルは再び、玉座へと腰掛け、報告に来ていた兵士を帰し、玉座の間に一人となる。
「ふふっ…だが、アレイシーやシュルゲがいても、ここに戦乙女のうち一人は必ず
来るだろう……そ奴が泣き叫び、余を喜ばせる光景が浮かぶようじゃのう……」
そんなことを想像しながら、ヘルはほくそ笑む。
ロサンゼルスに突入した戦乙女たちは、次々と群がる悪魔どもを斬り倒す。
突入した際から、その勢いは留まるところを知らず、流星のように突っ切っていく。
「こんなものじゃ、物足りないわよレイルガルズ!!」
メルナは斧を横払いのように振るうと、一度に五体ほど斬り捨てる!
「どれだけいても……!」
「無駄だと知りなさい!!」
フィリーと美琴が同時に、フィリーは槍を、美琴は剣を振るい、周りの敵を
打ち倒していく。
「ふう、ざっとこんなところね」
「まったく……数ばかり多いんだからぁ。ボク疲れちゃったよ」
「美琴、まだ先は長いのです。弱音は吐いていられないわ」
粗方、片付き、三人が呼吸を整えていると、突如として妖気がその場に発せられる。
三人はそれに警戒し、身構える。
ドカン!と大きな音が辺りに響きまわると、土煙を上げながら現れたのは。
「アレイシー!」
「シュルゲ……!」
レイルガルズの大幹部二人が戦乙女を睨みつけていた。
「戦乙女…美琴ちゃん、あなたたちをここで殺せというのがヘル様の命」
「残念ですが、戦乙女様たち…あなたたちもここで終わりです」
アレイシーは鞭を、シュルゲは大鎌を取り出し、構える。
すでに倒してきたレイルガルズの軍勢とは比べ物にならないほどの気が辺りに蔓延する。
「ふん!もうあんたたちなんか、恐れはしないわよ!……フィリー、美琴?」
勇ましくメルナが前に出ようとするが、それを二人は制止するかのように
メルナよりも前に歩みを進める。
「メルナ、あなたは先にレイルガルズの本拠地に行ってください」
「この場は、ボクたちがなんとかするから!」
そう言って、向こうと同じく武器を構えていく。
「フィリー、美琴……わかった!必ず、生きて会いましょう!!」
「そっちこそ、死なないでよね!」
あくまで笑顔でメルナは二人と別れると、レイルガルズの居城目指して突撃していく。
それを、まだ生き残りがいたのか、下級兵士たちが食い止めようと立ち塞がる。
「もう、いつまでも邪魔するんじゃない!グラビティウェーブ!!」
辺りの重力を操作し、一気に軽くする。その影響で空高く舞った悪魔どもに
メルナは慈悲の心は持ち合わせず、斧を振りかぶって投げつける!
「アックス!!ブゥゥメラァン!!」
ものすごい勢いで回転しながら、斧が飛び、次々と敵を斬り裂いていく。
メルナは着地するとすぐさま要塞城に向かって再び駆け出す。、しばらくして
彼女が斬り裂いた雑魚どもがボトボトと落ちてきた。
メルナが去り、残されたフィリーと美琴、そしてシュルゲとアレイシー。
一触即発の雰囲気を打ち破ったのは戦乙女たちの方だ。
二人が勢いよく、フィリーはシュルゲに、美琴はアレイシーに飛びかかる。
ガキン!と金属音が響き、フィリーの槍と、シュルゲの鎌がぶつかり合う。
「シュルゲ!以前は貴様を殺し損ねたけど、今回はそうはいきません!」
「私の弱点が分かっていれば勝てるとでも思っているのですか?
傭兵をやっていたと聞きますが、まだまだ甘いです…よ!!」
シュルゲはフィリーを嘲笑い、力任せに彼女を振り払うと、回し蹴りを浴びせ転倒させる。
「命は…頂きます!!」
「くっ!!」
隙が出来たフィリーを逃さずシュルゲが攻撃しようと飛び込むが、間一髪、
転がりながら回避すると、逆に蹴り返し、槍を横に払いシュルゲに浴びせる!
「ぐうっ!?や、やりますね……戦乙女様」
「メイドはメイドらしく、戦闘なんかしないで後ろに控えていなさい!!」
フィリーが槍を投げつけると、それはシュルゲの腹部を貫通した!
「うあっ…!?」
「どうかしら?戦乙女の力をフルに使えば…貴様たちを浄化することも難しくはない!」
フィリーが戻ってきた槍を再び構えるのに対し、シュルゲは歯を食いしばり
血がドバドバと流れる腹部を抑えながら、彼女を睨みつけることしか出来なかった。
一方、美琴は果敢にアレイシーに向かって斬り掛かり、押していく。
だが、アレイシーはそれでも余裕の表情を崩さない。
「ふふっ、美琴ちゃんはまだまだ甘いわね」
「な、なんだと!もうお前になんかにボクは負けないんだから!!」
激昂した美琴は、さらに剣気を強めて、アレイシーを斬り裂こうとする。
「惜しいわ…ねぇ!」
「うわっ!?」
紙一重で美琴の斬撃を避けると、腹部に蹴りを放ち、さらに鞭を美琴の首を締め上げる。
「ぐぅ……ぅぅ………!」
「さぁて、このままポックリ逝かせてあげるわ…本当はもっと虐めたいけど、
ヘル様の命令だからね」
ググっと、締め付けがさらに強くなっていく。美琴は苦しみに顔を歪めるが
震えながらも鞭に手を掛けた。すると、そこから一気に鞭を引き裂いた!
「な、なんですって!?」
「はぁ、はぁ……もう、負けないって言っただろ!!」
驚くアレイシーに美琴はその隙を逃さず、剣を袈裟懸けに振り下ろし、斬り裂いた!
「ぐ…ああぁぁぁ!!」
「どうだ!少しは参ったか!!」
状況不利と見たか、アレイシーは同じく負傷しているシュルゲの飛ぶ。
「シュルゲ……こうなったら、あんたと私とで……あれをするしかないわ…」
「ア、アレイシー様…!?本当にやるおつもりですか?」
「ここまで戦乙女たちが力を身につけるとは誤算だった……こっちが勝つにはやるしかない!」
アレイシーは相当焦っているようで、シュルゲもそれを理解し、観念したかのように
やれやれと目を瞑る。
間もなく、アレイシーとシュルゲは抱き合ったかと思うと、頬を赤く染め、口付けを交わし始めた。
その光景に思わず、美琴は顔を赤くし、フィリーはそんな彼女に手で目隠しして自身も頬を赤く染める。
「ちょ……な、何をしているのですか!?」
「ふふ…すぐに、わかるわよ……」
そう言って接吻を強めると、今度は唐突に二人の身体が眩く光り輝き、融合していく!
「くっ!何が起きたというのですか!?」
「ううっ!……ア、アレイシーとシュルゲが…!」
二人の姿はそこにはなく、代わりにグラマーなスタイルの紫色の長い髪を垂らしながら
露出度の高い服を着こなす美女の姿があった。
その美女はニヤリと怪しく笑みを浮かべると、腕を前に突き出し衝撃波を繰り出してきた!
それを間一髪で避ける二人だが、衝撃波が命中した箇所は地割れを起こしたのと同じようになっていた。
「な、なんてパワー…!」
「あの、アレイシーだか、シュルゲだか、どっちかわからないけど、ヤバい感じだ…
てゆーか、本当レイルガルズは合体が好きだなぁ」
アレイシーとシュルゲが融合した存在は、唐突に笑い始め、二人を見据える。
「ふはははは!我が名はヨルムンガルド!戦乙女たちよ……ここで朽ち果てよ!」
ヨルムンガルドと名乗った女の腕が蛇のように伸びると、美琴に避ける隙を与えずに
彼女の身体を巻きつけ、締め上げていく。
「ぐぅぅぅ!!こ、こんなので…ああぁぁぁ!」
だが、締め上げるのと同時に、その腕は炎のごとく熱くなり美琴の身体を焼け焦がしていく。
「美琴!はぁぁぁぁ!!」
美琴を締め上げる腕にフィリーは槍を投げつけ、美琴を救出する。
「邪魔をするものでは……ない!!」
ヨルムンガルドが姿を消したかと思うと、フィリーは吹き飛ばされていた。
一瞬にしてヨルムンガルドはフィリーの背後に回り攻撃したのだ。
「くっ……瞬間移動とは…!美琴、大丈夫?」
「うん…だけど、このままじゃまずいね…」
そんなことを話し合ってるうちもヨルムンガルドは無差別に全身から衝撃波を繰り出し
二人の戦乙女を始末しようと激しい攻撃してくる。フィリーも美琴もそれを
避けるだけで精一杯。そしてついに、二人まとめてその蛇のような腕に捕まってしまう。
「うあっ!!くそ……」
「ぐっ!避けることすらままならなくなるとは…」
二人が悔しい気持ちを噛み締めているのがヨルムンガルドにとっては嬉しいらしく
笑みを浮かべ、舌なめずりをする。
「さあ、戦乙女……お前たちは、私の養分となるがよい!!」
次の瞬間、ヨルムンガルドの小さな唇が、巨大に開かれた!その大きさはまさに
化け物と言って差支えがなく、フィリーと美琴を飲み込むのぐらいは余裕であった。
「うああぁぁぁぁっ……!!」
脱出することも叶わず、二人はそのまま飲み込まれてしまった。
戦乙女を始末したヨルムンガルドは、満足げに笑い、息を吐く。
「ふふふ……さて、先に行ったもう一人の戦乙女も食べなくては…」
ゆっくりと要塞城の方を向くと、歩き出そうとする……が、それは出来なかった。
「うぐっ!?あがぁぁ……な、なんだ、この痛みは…!?」
ヨルムンガルドは唐突に腹部から走った激痛に、のた打ち回る。すると、彼女の腹から
光の筋がいくつも、飛び出すと、爆発を起こした!
「うぎゃあぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫し、再び辺りを転げまわるヨルムンガルド。そんな彼女に影が差した。
「き、貴様ら……私が食べたはずなのに……」
影の主はフィリーと美琴であった。美琴は不敵に笑みを浮かべて答える。
「あんたに飲み込まれた時は吃驚したけどね…逆にお腹の中からたっぷりと
攻撃させてもらったよ!」
「私たちを食べたかったら、予め、この場で殺しておいた方がよかったですね」
「お、おのれ戦乙女……」」
恨みの視線で見つめるヨルムンガルドだが、もう抵抗することは出来ない。
「フリージングダンス!!」
「風龍連翔撃!!」
フィリーの力で氷漬けなったヨルムンガルドに、素早く二人の槍と剣が無数に刻まれていき
最後に、美琴の起こした竜巻によって大きく吹き飛ばされ、大地に叩きつけられた。
それと同時にヨルムンガルドは光を放ちながら、元のアレイシーとシュルゲの姿へと戻る。
「ど、どうして、よ……合体しても、戦乙女たちに勝てなかった…」
「り、理解…不能……ヘル様、申し訳ございません……」
戦乙女の強さを知ることもないまま、二人は光を放ちながら爆発四散した。
「…そんな付け焼刃な強さでは、本当に強くはなれない…」
「強くなりたきゃ、苦労しなくちゃね、ボクたちみたいにさ」
美琴が嘯くと、要塞城の方へと振り向く。
「フィリー、早くメルナのところに行こう!」
「そうですね、メルナ…無事でいてください」
二人はすぐに要塞城に向かって駆け出していった。
―――レイルガルズ要塞城。一人突入したメルナは、まっすぐと最奥の部屋である
玉座の間を目指して進んでいく。途中、やはりレイルガルズの怪人怪獣の妨害があったが
そんなもの、今のメルナには物の数ではない。
「……ここか…ふん!!」
そしてようやく辿り着いた玉座の間の前。扉を思い切り蹴破り、メルナは部屋へと入る。
「ふっ、ついに来たか…戦乙女。お前はメルナという名だったな」
玉座から立ち上がり、メルナを見つめるのは、レイルガルズの長、ヘルである。
「知ってるなら話は早いわ。レイルガルズの長、ヘル!あんたをここで泣かして
倒して、地球支配も完全にお終いにしてあげるわ!!」
臆せず、力強く、勇ましく宣言するメルナ。だが、ヘルはそれに対し、笑ったままだ。
メルナの斧に対抗して、ヘルも大剣を呼び出し、彼女の前に降り立つ。
偶然か、二人とも体型は小柄であるため、ちょうどよく視線が合う。
「さて…メルナよ、余を見事倒してみるか!?」
「望むところよ!おおりゃあああぁぁ!!」
斧を大きく振りかぶり、ヘルに向かって振り下ろす!だが、寸でのところで避わされてしまう。
逆に背後に回られ、その大剣によって背中を斬り裂かれてしまう!
「きゃあああ!!くっ……」
「今までレイルガルズが支配してきた国々をいくつも解放してきた貴様の実力は
この程度か、メルナ?もっと楽しませてほしいものだ」
苦痛に顔を歪ませながらも、メルナは再び斧を構える。
「…ふん!こんなものじゃ、参りはしないわ!ロックアロー!!」
大岩を召還すると、それを勢いよくヘルに向かって飛ばす!速さからいって
いくらヘルとて、避けることは叶うまい…だが、ヘルは慌てる様子も見せない。
「…ムスペイル!!」
ヘルの大剣が赤く発光したかと思うと、そこから小さな火の球が飛び出し、
ロックアローとぶつかり合う。一瞬の攻防すらなく、火球は岩を粉砕し、そのまま
メルナにぶつかり爆発した!
「うああああぁぁぁぁ!!」
火のエネルギーがメルナの全身に広がり、身体中、ところどころ焼け焦げていく。
「熱かろう?炎の国から直接呼び寄せた火球だからな。一兆度はあるぞ?」
ようやく炎が消え失せるも、メルナのダメージは深刻である。メルナは歯を食いしばり
最後の一撃に掛けるしかないと決意した!
「ヘル……あんたは強い…けど、それでもこっちだって負けるわけにはいかない!!」
「ほう…?どうやって余に勝つつもりなのかな?」
問いかけるヘルに、メルナは無言である。だが、勝算がないわけではない。
「グラビティ……ストォォォム!!」
両腕にエネルギーを集め、それをヘルに向かって解き放った!
「ヘル!これで、あんたも潰れてしまえ!!」
強烈な勢いでヘル周辺の重力が重くなり、一気に押しつぶそうとする。
彼女の周りの物は既にぺしゃんこになり、辺りは大きくひび割れていた。
「ぐっ…ああああ!!」
ヘルも苦しみの叫びを上げ、その場にへたり込んでいく。
メルナもヘルに効いていることに内心喜び、微笑を浮かべる。
「あああ……!…なんてな?」
「!?…な、なに!効いていないの!?」
ヘルはメルナを嘲笑する。メルナが精一杯繰り出した重力波も、ヘルにはまるで効果が
なかったのだ。その場で軽々と動いて見せると、大剣に重力波のエネルギーを集めていく。
「メルナ、お前は半神半人の存在となったそうだが…例え完全に神になったとしても
余には勝てぬ!!はああああ!!」
大剣に集めたエネルギーを波状光線に変換し、メルナに向かって放った。
ボロボロのメルナは避けることも叶わず、それを胸に浴びてしまう!
「ぐっ、ああああああああぁぁぁぁぁ………!!」
メルナの悲痛な叫びが玉座の間に響き渡ると、彼女はその場に膝を着いてしまう。
完全に隙だらけになったメルナを逃さずヘルは目にも留まらぬ速さで接近する。
「死ね、メルナ」
音もなく、その大剣を振り下ろす。頭から一刀両断に斬られたメルナはヘッドギアが破壊され、胸から出血が起きる。
不思議と、メルナは痛みを感じることもなく、その場に横たわり…動かなくなった。
最期は断末魔も残さずに。
その直後、怒涛の勢いでフィリーと美琴が玉座の間に駆け込んできた。
「メルナ!!無事!?」
美琴が真っ先にメルナの名を呼ぶが、返事はない。代わりに仁王立ち状態で
立ち上がっている、メルナと同じぐらいの体格の長い黒髪の少女。二人はすぐにそれが
レイルガルズのヘルだと気づいた。
「……貴様がヘルか…メルナをどうした!?」
ヘルは二人を見下すように笑い、足元のものを転がした。
「メルナ?ここにいるぞ」
片手で足元のものを掴み、二人に向かって投げ飛ばす。それはぐったりとした
メルナの姿。いや、もう、メルナであったものの姿。
「メルナ!メルナ!!……ちょっと、何寝てるんだよ!」
「メルナ……!まさか…!」
次第に青ざめていく二人に、ヘルは止めの一言を呟いた。
「メルナは、死んだよ。余に傷一つ付けることも出来ずにな」
メルナが――――――死んだ。
次回予告
「メルナは死んだ…。悲しみにくれる間もなく、ヘルの攻撃に美琴とフィリーは
立ち向かう。だが、ヘルの圧倒的な力に成すすべは無い。ヘルを倒すにはメルナの
力が必要不可欠なのだ。そこに光臨するブリュンヒルデ。彼女の助けはメルナを
救い出すことが出来るのか?そしてヘルをレイルガルズを倒すことは出来るのだろうか?
次回、いよいよ最終回。戦乙女の旅が終わる」
162 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/24(水) 23:07:24 ID:Tb8UoHLg
というわけで投下完了。次回最終回です。
うーむ、死に掛けは多かったけど、マジ死には初めてやったなぁ…
投下乙でした!マジ死にかよ…というか強敵だらけすぎるw
最終回がどういう展開になるのか期待してる
ところでBIGBADMAMAとかゲーマーズとかの作者さんは最近見かけないけど
どうしたのかな?ゲーマーズの二次創作やってた人も続きありそうだったのに
見ないしなぁ。というか、去年より人も減ったなぁ
164 :
ゲマズ作者:2010/03/26(金) 01:52:44 ID:W4Io/vPZ
ごめんなさい、全力でRPGツクールDSに精を出していました
そっちが一段落ついたのでSS再開してみれば、なんか色々と当時の感覚を忘れている気がします
どうにも違和感を感じるのですが、出来たものは出来たのでとりあえず投下してみることにします
◎お詫び
前回の佳奈美の予告は、結果的に嘘予告になってしまいました
まぁ実際の特撮でも稀によくあることなので、予告修正するかは気分次第ですね
それと11話の序盤を書いてた当時はまだ例のあのゲームは新作だったんです、世間をにぎわせていたんです!
遅筆なために時期外れになってしまってどうも申し訳ない・・・
◎GAMER'S FILE No.10
『G・パズラー』
アンチャー討伐のために制作されたパワードアーマー第五号。
普段は四次元ブレスレットに格納されているが、
腕に装備して『プレイ・メタモル』と叫ぶと自動で装着される。
アーマーは白を基調としたボディに銀のストライプが入ったデザイン。
討伐隊のリーダー用に設計開発された高機能な最新型アーマー。
今までのアーマーのノウハウを生かし、細身のボディに数々の特殊機能を秘める。
中でも周囲の敵味方の状況を逐次掌握できる多機能レーダーが要の機能で、
その情報を元に、他の隊員に指示、罠の設置等を行うことが想定された用法である。
ただし、精密機器が詰め込まれているためか、格闘性能と耐久性にやや難があり、
実戦投入はまだ早かったのではないかという声もちらほらと聞かれる。
G・パズラーこと田宮昌子は、今日という日に人生最大級のピンチを迎えていた。
またそれとは別に、ゲーマーズ達もアンチャーの大群に襲われて大ピンチであった。
「ちょ、あたし一人じゃ前線を支えきれな……うわっ!!」
「八重花っ、大丈夫か!?」
「畜生、いいんちょは何やっとんねん!」
「……このままじゃ……全滅……」
そんな壊滅寸前のゲーマーズの戦いを、ファミレスの中から呑気に眺める名門学校の生徒が4人。
「あれー? なんかゲーマーズ苦戦してない?」
「そういえばいつもは5人なのに、今日は4人だけですね」
「もう一人はどうしたんでしょう? 田宮さんはどう思います?」
「え、ええ……ホント、どうしたんですかねぇ!?」
話を振られた昌子は、全力で目を泳がせた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
話は一時間ほど前にさかのぼる。
真面目な優等生である昌子は、学校内での信用は高く、多くの学友に慕われていた。
その中でも特に彼女が親しくしているのが、千夏というおっとりとしたお嬢様である。
「あの、田宮さん。もしよろしければこれから指導をしていただきたい科目があるのですけれど」
「申し訳ありません、ちょっと急いで家に帰らなければならない用事が……」
「あら、残念です。せめて昼食だけでも一緒にいかがですか?」
「それぐらいなら構いませんよ」
「よかった。日ごろの感謝の印として、お代は千夏に出させてくださいね」
(た、助かった……っ! 今月の食費はもう底を付いていたんですのよ!)
今日もいつも通り、彼女と親しく語り合いながら下校する。
本当は某大作RPGの13作目を良いところで中断しているため、食うもの食ってとっとと帰宅したかったのだが、そんな様子はおくびにも出さない。
学校一おカタいキャラで通っている優等生の田宮昌子がズブズブのゲーマーであるはずが無い。そんなことはあってはならないのだ。
しかしその時……。
「おーい、昌子ー!」
「……!!!」
そのズボラな声の主は振り向かなくても分かった。
そう、ゲーマーズのG・ファイターこと、樋口佳奈美だ。
昌子は聞こえなかったフリをして、千夏の腕を取って弾かれたように一目散に駈け去る。
背後から佳奈美が呼び止める声が微かに聞こえたが、下校時のラッシュアワーが盾となり、首尾よく逃げおおせることができたようだ。
「はぁっ、はぁっ……ど、どういうつもりですの、まさか学校までやってくるだなんて……」
「どうしたんですか田宮さん、そんなに慌てて?」
千夏が不思議そうな顔で後をついてくる。
「す、すみません、少々お腹が……でももう治りましたので!」
「あのー、先ほど、どなたかが田宮さんのお名前を呼んでいた気がしたんですけどー」
「そ、それは気がつきませんでした! どなたか知りませんが申し訳ないことをしましたね!」
自分とゲーマーズの関係が学友に知られたら一巻の終わりである。何としても隠し通さねばならない。
だがこの辺りはろくな店も遊び場も無い郊外だ、ここまでくればもう安心……。
「あれ、いいんちょ? 奇遇やな!」
「!!!」
ヘルメットを被ったバイカーが脇に現れる。
そう、ゲーマーズのG・ドライバーこと、五十嵐千里だ。
この辺りは千里のドライブコースの一つなのだ。
「……あっ、どないしていきなり逃げるんっ!?」
「おまわりさんっ、あのバイク無免許ですっ!!」
「げぇっ!!?」
逃げる昌子を追いかけようとした千里だったが、警官を召還されて慌ててUターンして走り去る。
「なんですか、あの下品な人?」
「し、知りませんっ!」
「……あの、さっきからずっと気になってたのですけど……」
物憂げに昌子の瞳を覗きこむ千夏。
流石に怪しまれたかと内心ヒヤヒヤだった昌子だが……。
「お食事は駅前のレストランでよろしいでしょうか?」
「え……ええ、もちろん! ご馳走して頂けるのに場所に文句は言いませんわ!」
「……田宮さん、以前に比べてなんだか明るくなりましたよね」
「そ、そうですか? きっと気のせいですよ、さぁ行きましょう!」
走ったせいか、お腹が空いてきた。
昌子は千夏の手を取って、駅前に急いだ。
「はぁっ!? ふざけんじゃないわよ達彦、こっちはアンタの財布に期待して一銭も持たずに出てきたのよ!?」
どうして今日という日はこうも間が悪いのだろう。
場所は駅前の公道、ど真ん中。
そこで携帯片手に声を張り上げる人物を認め、昌子は頭を抱えた。
そう、ゲーマーズのウザカ……G・アクションこと宇崎八重花である。
「途中でたまたま彼女と会った? デートの邪魔だから先に帰ってろ? ……ふっざけんじゃないわよ!!」
そう言って地面に携帯をたたきつけようとする八重花から隠れようとする昌子だったが、その前に八重花と目が合ってしまう。
「昌子さぁーーーん!! 良かった、助かったぁーーー!!」
無駄に高い回避スキルと、チビを生かした身のこなしで人ごみをすり抜けた八重花は、あっという間に逃げ遅れた昌子の両手を握っていた。
「兄貴が昼飯奢ってくれるって言ってたのにさぁ、今更になって反故にしてくれてんの! ひっどいでしょー、昌子さん腹ペコな子羊を助けて、お願い!」
「田宮さん、お知り合いですか?」
八重花は手をがっちり握って離さない。千夏が不思議そうな目で昌子と八重花を見比べる。
(……終わったわ……もう学校中にゲームオタクだと知られて、最下層のカーストを生きるしか無いのね……)
物言わず、がっくりをうなだれる昌子。
(えっ、何この空気? ……あっ、そういうこと!)
それを見てピンと勘付いた八重花は、こんなことを言い出す。
「あはは、ごめんね昌子さん! 昌子さんはエリート高校行ったって言ってたもんね、今更あたしみたいなバカに言い寄られても迷惑だよねぇ!」
おどけて昌子から手を離す八重花。
意味が分からない昌子はクエスチョンマークを頭に浮かべている。
そんな昌子を他所に、物怖じしない千夏は八重花に話しかけてくる。
「あの、お二人はどういうお知り合いなんですか?」
「小学校が一緒だっただけだよー、特に仲が良かったわけでもないし、奢ってもらおうなんてちょっと厚かましかったかな?」
「そうだったんですか、小学校が一緒だった人と会うとなんだか嬉しくなりますよね」
「うんうん!」
八重花はデタラメを並べ立てて千夏と談笑しながら、そっと昌子に耳打ちする。
『ゲーマーズのことは黙っててあげる。その代わり……ね?』
「……………………」
震える拳を握り締める昌子。
しかし背に腹は代えられない。
「あの……宇崎さん、お昼ご一緒にいかがですか?」
「えぇ〜? あたしなんかが一緒しちゃっていいのぉ〜?(チラッチラッ)」
(白々しすぎますよ……)
八重花が何度も目配せするので、昌子は仕方なく自分から切り出す。
「ごめんなさい千夏さん、この子も同席して構いませんか? ……あ、嫌ならいいんですよ!」
「うーん、まぁ折角ですから千夏がご馳走しますよ。大した額でもないですし」
「あんがとチナツさん、ゴチになりまぁ〜す♪」
「はぁ……」
ため息をつく昌子だが、ゲーマーズのことをバラされなかっただけマシなのだろうと思い直す。
しかし、今日の昌子の間の悪さはこれで終わらなかった。
「あれー? 田宮さんに千夏ー?」
「あら、冬美さんに夏木さんじゃありませんか。奇遇ですね」
なんと、入ったファミレスで、別の学友二人がスイーツを頂いていたのだ。
「そっちの子、どなたでしょう?」
夏木と呼ばれた子が、昌子達に纏わりつくチビの存在を目ざとく見つけて疑問を呈す。
一方の八重花も、幼く見られたことにカチンと来る。
「子!? おそらくあんたらと同い年なんだけど!?」
「この子、いえこちらの方は―――」
ドガァーーーン!!
「な、なんの音ですの!?」
「あっ、アンチャーだよ!!」
八重花の言葉通り、アンチャーの群れが飛来し、往来の建物を破壊したのだ。
『エマージェンシー!! エマージェンシー!!』
「!!!」
昌子は慌ててブレスレットを千夏達から隠す。
幸い、八重花のブレスレットも同時に鳴ったために、千夏達は八重花のブレスレットにしか気付かなかったようだ。
「八重花さん、それは一体……?」
「ふふっ、内緒! それじゃ―――」
行こう昌子さん、と言い掛けて八重花は慌てて口をつぐむ。
八重花は思わず昌子と千夏を見比べていたが……意を決して一人で走り出す。
『プレイ・メタモル!!』
光に包まれ、八重花はG・アクションに変身した八重花は、アンチャーの群れに突っ込んでいった。
「メ、メタモルゲーマーズ!?」
「ええっ、あの真面目に町を守らないゲームオタクの集団!?」
「八重花さんがゲーマーズだったなんて……田宮さん、知ってました?」
「い、いえいえいえ! 全く存じませんでした!」
手をぶんぶん振って、八重花との関係性を全力で否定する昌子。
こうやってどんどん自分から後戻りできない状況に追い込まれていくのだ。
「さて、珍しくこんなところでみんなと会ったことだし、ゆっくりお茶しよ?」
「さんせ〜い!」
「私は構いませんけど、昌子さんは忙しいのでは?」
「そ、そうでもありませんわ! お茶ぐらいならお付き合いしますよ!」
言いながら横目でチラチラ外の様子をうかがう昌子だが、
いつの間にかアンチャーとの戦いに佳奈美ほか3人も参戦している。
(……ま、今日ぐらいは私が参戦しなくても大丈夫ですわよね)
「そういえば、今日はなんだかヤケに店が空いていません?」
「言われて見ればそんな気がしますね」
世間ずれしたお嬢様は呑気なことを言っているが……。
間近で戦闘が起こっているのだ、まともな神経の人間はとっくに逃げ出している。
「あ、店員さん、チョコパフェ一つ追加ね!」
「は、はいぃ……」
店員は顔面蒼白だったが、こんな状況でも居座って注文する客が居るからには応対しないわけにはいかなかった。
「あれー? なんかゲーマーズ苦戦してない?」
外を眺めていた冬美が、ゲーマーズのピンチに気付く。
「そういえばいつもは5人なのに、今日は4人だけですね」
「もう一人はどうしたんでしょう? 田宮さんはどう思います?」
「え、ええ……ホント、どうしたんですかねぇ!?」
話を振られた昌子は、全力で目を泳がせた。
「まぁ、やられたとしても自業自得じゃないんですか?」
「確かにいつも悪ふざけしてますもんね」
「あははー、ゲームオタクなんてそんなもんだって!」
「ゲームに夢中で許されるのは小学生まで―――」
バァン!!
昌子が、テーブルを叩いた。
いきなりのことに、千夏達は呆気に取られる。
「ゲームオタクで……何が悪いんでございますかぁっ!!?」
「え、えぇっ!? どうしたんですか昌子さ」
千夏が言い終わらないうちに、昌子は席を立って店を飛び出していた。
『プレイ・メタモル!!』
昌子の身体が光に包まれ、G・パズラーに変身する。
「……!! た、田宮さんが変身した……?」
「えええええっ!? 田宮さんがゲーマーズってこと!?」
「嘘でしょう、あの勉強以外に何の興味も無い田宮さんが!?」
窓から見ていた千夏達が仰天しているが、昌子は構わず仲間の下へ駆けつける。
「あっ、いいんちょ!? 何しとったんや!?」
「……昌子がこんなに遅れるなんて……珍しい……」
「へへっ、ホントどうしてだろうね?」
ニヤニヤ目線で今度何か奢れとジェスチャーする八重花を無視し、昌子は一喝する。
「みなさん、何してらっしゃるんですか!! ペンタゴン・アタックで一気に決めますわよ!!」
「はぁ? なんやそれ?」
「ファイターエムブレムの伝統技でしょう!? 五角形で敵を囲んで一気に攻撃するんです!」
「だからファイエムは知らないって言ってるだろう」
そうボヤきつつも、素直に昌子の指示に従って陣形を取るゲーマーズ。
アンチャーの群れがすっぽりと彼女達の間に納まる。
「で、どんな攻撃すればいいのよ?」
「なんでもいいから適当に全力で攻撃しなさいっ!!」
「……適当なのか全力なのか……はっきりしてほしい……」
「全力で適当にやればええんやろ?」
「それは流石に逆じゃないか? まぁそれはともかく―――」
『『『『『ペンタゴン・アタック!!!』』』』』
共鳴した5人のエネルギーが巨大な光の矢となって5方向から中央に集中し、大爆発を起こす!
しかし爆風はゲーマーズ達から放たれるエネルギーが盾となって外には漏れず、囲まれたアンチャーにだけ多大なダメージを与え続ける。
そうして生み出されたエネルギーの軌跡は、空から見れば綺麗な五芒星を描いていたという。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さっ、みんな早く帰ろっ!」
「なんだよ八重花、いきなり?」
「いいからいいから!」
「ま、なんか従ったほうがええような空気やな」
千里はチラッと昌子を見、目が合うとニカッと笑った。
昌子のほうも、少し申し訳無さそうに微笑みを返した。
「んじゃ、帰るとするか」
「……しょうがないね……」
「ほらほら、急いで急いで!」
八重花に押し出されるように、昌子を除くゲーマーズはその場を後にした。
そこにおずおずとやってきたのは、千夏ら昌子の学友達だった。
「た、田宮さん、あのう……」
「み、みなさん……」
気まずそうに口篭る昌子。
しかし、次に千夏達から出た言葉は昌子の予想と違っていた。
「あたし……実はゲーム好きなんです!」
「私も!」「私だって!」
「え……えええええっ!?」
「でも田宮さん、ゲームとか興味ないと思ってたからこういう話できなくて」
「そ……そうだったんですか……。いえ、こちらこそ黙っていてごめんなさい」
落ち着きを取り戻し、眼鏡のズレを直しながら学友に微笑みかける昌子。
「それにしても、まさか同じファイターエムブレムのファンだなんて!」
「うん、私もファイエム好きだよ!」
それを聞いて、昌子はキュピーンと目を輝かせた。
「ファイエムの魅力を分かってくださる方が居ましたか!!
ファイエムの魅力と言えば、やはり魅力的なキャラクターと奥深い戦略性の融合にありますよね!
記号に過ぎないはずのキャラクター達が、プレイヤーの趣向とランダム性の織り成すハーモニーにより命が吹き込まれていくミラクル!
わたくしはマイナーな部類に入るキャラなのですが傭兵ロムディが一押しでして、
全体的に低い成長率ながらも、素早さが面白いぐらい伸びてくれるので、敵の攻撃をスルスルと避けてくれるようになります!
終盤では一撃食らってしまうとほぼ即死なのですが、そのスリルが逆にたまりません!
カップリングは世間では余り者同士で天馬騎士ティファニーと合わせるのが一般的なようですが、わたくしは絶対にそれは認められません!
ロムディとふさわしいのはやはり少女剣士のランしかありえないとわたくしは思うのです!
わたくしはリセットプレイが大嫌いなので、決してリセットなどは行わない主義なのですが、その分、悲しい思いをすることも多く、
最終章でロムディがランをかばって―――と言ってもわたくしの操作ですけど―――大炎竜の攻撃を受けて死んでしまったときは、三日三晩は涙が止まりませんでしたわ!!
結局、ロムディを最後まで生き延びさせることに成功したことは一度も無いのですが、
戦後のランも、ロムディの死を背負って強く生きていってくれたとわたくしは信じているのです!
話は変わりますけど、わたくしはどうしてもハードモードで総ターン数100を切ることが出来ないのです。
おそらく7章の6ターンと最終章の9ターンがもっと削れるのだと思うのですが、どなたか成功した方がいらっしゃったら教えてくださいな!」
と、ここまで一息で言い終えた後、昌子は学友達がドン引きしていることに気付く。
やってしまったと慌てて口をふさぐ昌子だが、時既に遅し。
これ以降、学校での昌子に対する扱いは確実に変わった。
それが良い意味でか悪い意味でなのかは、読者の想像にお任せする。
チャチャチャチャラララン♪
『…………河合亜理紗…………。
………………………………。
……どうしよう……どうしよう……。
ずっとこのまま……五人でやっていけると思ってたのに……。
………………………………。
……いやだ……絶対やだよ……っ』
次回、ゆけゆけ!!メモタルゲーマーズ
Round12「ゲーマーズをやめる!? 彼女のもう一つの夢!」
ジャジャーン!!
『……やだ……やめちゃやだッ……!!』
172 :
ゲマズ作者:2010/03/26(金) 02:00:43 ID:W4Io/vPZ
お疲れ様でした
ゲーマーズ最終回までの各話プロットはとっくの昔に完成済みなのですが、
このペースではいつになったら完結できるのか分かりやしませんね
更にこれから忙しくなるので、あんまり時間も取れなくなると思います
拙作の続きが読みたいという奇特かつありがたい方は、末永くお待ち頂けると助かります
>>172 投下お疲れさま
私は、末永く待っています(笑)
174 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/26(金) 22:47:20 ID:tBQvCFXn
投下乙でした!仲間が馬鹿にされたら、怒るところとか
好きなゲームを語ると止まらないところとか、これだから昌子は良いキャラだw
次回予告的に次回は気になるが、忙しいのか…残念でならない
投下乙。
この決めるとこは決めて、ボケるとこはボケるのが
ゲーマーズの魅力だと思うの。続き待ってます。
176 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/30(火) 20:56:28 ID:w2+9TEjf
ゲーマーズ作者さん投下乙でした!
ファイターエムブレムの元ネタ好きの身としてはペンタゴンアタックにニヤリとしましたw
昌子も仲間思いなところがいいですよね
それでは、戦乙女メルナ最終話投下します
戦乙女メルナ 最終回『闘いの終焉』
ついに、レイルガルズの本拠地であるロサンゼルスへと乗り込んだ戦乙女。
だが、レイルガルズの長・ヘルの実力はメルナのいかなる攻撃も効かず、その圧倒的な力で
メルナは追い詰められ……殺された。
「よくも……よくもメルナを!!!」
美琴が剣・グラセアスを呼び寄せると、怒りに身を任せ、ヘルへと斬りかかっていく。
突き刺す動作で突撃する美琴であったが、ヘルは軽々と避けると、大剣で彼女の背後を狙い斬る。
「がああ!!うぐぅ……!」
鋭い痛みが背中に走り、転倒する美琴。すかさず、ヘルは美琴の腹部を思いきり蹴りつける。
「ぐうっ!!ぐあああ!!」
「よい悲鳴だな、戦乙女……余はそういう悲鳴を上げてくれるものは大好きでな」
さらに無理やり起こすと、拳を顔面、胸、腹部へと何度も炸裂させ、美琴はその度に短い悲鳴を上げた。
「美琴!ダイヤモンドブリザード!!」
美琴を救出するため、吹雪を巻き起こし、それをヘルに浴びせようとする。
だが、ヘルは慌てずに大剣を縦に構える。
「そんなもの……余の前には扇風機の風と同然だ!!」
剣に吹雪のエネルギーを吸収させ、間もなく反射され、フィリーは諸に浴びせられてしまう。
「あああああ!!……な、なんて奴」
ヘルは倒れていた美琴をフィリーの下へ蹴り飛ばすと、大剣に今度は自身の気を集めていく。
「メルナ以上に手応えがないな、フィリー、美琴……ふん!!」
大剣に集まった気は、一瞬にして周囲を消滅させるほど、巨大なものとなり、
それが解き放たれると、二人の戦乙女は悲鳴を上げるまでもなく吹き飛ばされていた。
いや、気づいたら、吹き飛ばされていたというべきか。
「な……何が起きたの?」
「ヘル…ぐっ……これほどの力とは……」
辺りを見回すと玉座の間は壁がいくつもあった瓦礫の山が完全に消し飛び、壁が崩れ
外を見渡せるようになっていた。
「余が本気を出せば、お前たちどころか、この地球さえも破壊できよう。これはほんの序の口だ」
「こ、これで本気じゃないなんて……」
「くっ……ヘル…なんて恐ろしい奴……」
レイルガルズの長にとって本気でもなんでもなかった、その力に、フィリーも美琴も恐怖する。
この戦いを勝つことなど出来るのか?いや、もう散々実力差を見せ付けられた二人は
そのようなことを考えることさえ出来ない。
「ふっ……恐れを抱いた戦士に……生きている価値はないな。安心するがよい。
ここでお前たちを殺しても、余が、アンデットして蘇らせ、余の忠実な下僕にしてやろう。
醜い化け物に変わるのだ。お前たちにはそれがお似合いであろう」
「ア、アンデットだと…!?」
「フィリー…ボクたち、もう……」
殺されるどころか、モンスターへと変えられる。それを聞いた二人は震えを起こしてしまう。
ここで諦めたら、死んだメルナに申し訳ないという気持ちもあるが、それ以上に今は恐怖の感情が強い。
「そうだ、アンデットだ……まず、その肉体をじっくりと焼いてやろう!ムスペイル!!」
大剣が赤く発光したかと思うと、そこから火の玉が二つ飛び、フィリーとメルナに避ける
暇を与えずに直撃した!瞬間、二人の身体に灼熱の痛みが広がる。
「うあああぁぁぁぁ!!」
「ぐうう!ああああ!!」
灼熱のなかで、戦乙女二人は悶え苦しむ。その様子をヘルは笑いながら見ている。
「ふっ、まあお前たちはよく頑張った方だ。それでは死後、また会おう……むっ!?」
火の威力をさらに強めようとした瞬間であった。戦乙女とヘルとの間に人一人分の
大きさの眩いばかりの光が現れた。
「貴様……ブリュンヒルデ!」
「ヘル……これ以上の悪事はお止めなさい」
藍色の鎧を身に纏った戦乙女の長であるブリュンヒルデがその姿を現した。
彼女はその腕をフィリーと美琴に向けると、キラキラとした光の流れを放つ。
それは、フィリーと美琴を襲っていた高熱火炎を消し去り、少しばかり彼女たちの力を
回復させた。二人はすぐにブリュンヒルデの方を見つめる。
「ブリュンヒルデ様!」
「フィリー、美琴……よくぞここまで戦いました」
二人を誉めると、ブリュンヒルデはヘルの方に視線を移す。
「ふっ…ブリュンヒルデよ。フィリーと美琴の代わりに自分が戦うつもりか?
地上界では純粋な神族である貴様の力も思う存分には振るえまい…それに、お前が余に
敗れたから、レイルガルズはここまで侵攻したのだ。余を倒せるわけがない!」
「そうです…私ではあなたを止めることは出来ないでしょう。ですが……メルナなら」
今度はメルナを見つめ、彼女の方へ飛びずさる。そしてメルナを抱き寄せる
「何をするつもりかは知らんが、メルナ共々、灰になれ!ブリュンヒルデ!!」
「くっ!!はあああ!!」
ヘルが飛ばしてきた閃光弾を辛うじて回避し、周囲をバリアで包み込むブリュンヒルデ。
「ブリュンヒルデ様!何を!?」
「メルナは、もう……」
フィリーと美琴は暗い表情でブリュンヒルデを見つめる。だが彼女は強い意志を込めた瞳で
二人を見つめなおす。そして口を開いた。
「メルナを蘇らせます」
その一言に二人は一転、驚愕の表情となる。
「ブリュンヒルデ様!そんなことが出来るの!?」
「半神半人となったメルナが、そう簡単に死ぬわけはありません。私の魂の一部を
彼女に分け与えれば…!」
そう言うと徐に唇を合わせる。すると、メルナの身体から黄金の輝きが放たれていく。
だが、メルナはピクりとも動かない。その光景をヘルは嘲笑った。
「ふははは!ブリュンヒルデよ。いくら神の貴様の魂であろうと、メルナを殺したのは余だ。
死者の国を司る、このヘルの手によりメルナは死んだ!いくらお前でも、そう易々とは
蘇らせまい!さて……目障りなのが揃ったのは好都合だ。ここで消え去れ!!」
その大剣に再びエネルギーが集まり、衝撃波となり、バリアを破壊しようとぶつかってくる!
「美琴!私たちの力で、メルナとブリュンヒルデ様を守るのよ!」
「わかった!ブリュンヒルデ様、メルナを…お願い!!」
今にも破られそうなバリアに二人は力を注ぎ、なんとかそれを塞ごうとする。
それを見て、ブリュンヒルデは二人に対して申し訳無さそうな表情を見せるも、
メルナを蘇生するため、再び、彼女に魂を送っていく。
しかし、メルナはやはり蘇る気配を見せないまま。次第にブリュンヒルデの息遣いが
荒くなっていく。腕は震え、汗が垂れる。
「これでも…蘇らない、なんて……メルナ……!」
息も絶え絶えに、そう呟くと、ブリュンヒルデはゆっくりと、倒れこんでしまう。
「ブリュンヒルデ様!」
フィリーが思わず、彼女の下へ駆け寄り揺するが、反応はない。散々、自分の魂を
メルナに注ぎ込んだのだ。もう、胸の鼓動も感じられないほどに…。
「メルナ!ブリュンヒルデ様がここまでしてくれたというのに、まだ眠ったままですか!
いい加減に…起きなさい!!」
フィリーも、ブリュンヒルデがやったように、メルナを抱き締めながら熱く接吻をかわす。
「フィリー!……メルナ!頑張れ!」
フィリーの行動を見た美琴は、激励をしながら、バリアに強めようとする。
だが、ヘルはそれでも余裕の表情でいる。
「さて……お遊びはここまでにしておこうか、戦乙女!」
大剣をブーメランのように回転しながら投げつけると、バリアと激しくぶつかり合う。
「うう!……このぉぉぉぉ!!」
それでも美琴は踏ん張り、耐え抜こうとするが、次第に障壁にひびが走りはじめ。
「ぐっ!うあぁぁっ!!」
ついに、大きな音を立てながら、ガラスのように割れてしまった。
「これだけやっても……メル、ナ………」
そしてフィリーも散々消耗したあげく、メルナに力を注入した影響か、ついに倒れてしまい
命の火が弾けとんだ……。残るは負傷している美琴だけ。
「美琴よ。さて、どうする?余に一人では勝てまい」
「そうだとしても……グラセアス!!」
剣をその手に呼び寄せると、ヘルに向かって突進し、斬りかかって行く美琴。
だが、それを物ともせず、大剣で防ぐとすぐさま、美琴を弾き飛ばしてしまう。
「ぐっ!このぉ……」
「もう一度、燃えるがよいわ……ムスペイル!!」
再び火球を呼び寄せると、それを美琴に向かって撃ち放つ。
だが、美琴の顔つきがキッと引き締まると、彼女は両手を突き出した。
「プロテクトタイフーン!!」
すると、その腕に気流の壁が生じ、火球をヘルに向かって跳ね返していく!
「むっ!…はあ!!」
跳ね返ってきた火球を見ると、すぐに大剣を構え、それを防ぐ。しかし、余波を
浴びたのか、その腕には火傷が負わされていた。
「よくも余に傷を……!!」
傷を見て激昂したヘルは目にも留まらぬ速さで美琴に接近し、彼女の胸に手を当てる。
「あっ……!?」
「消え失せろ!!」
凄まじい勢いの衝撃波が零距離で放たれた。美琴は悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ
大地に叩きつけられた。もう、動かない。
「ふん……ささやかな抵抗であったが、やはり貴様たちが束になろうと余には
勝てぬということだ。さて……先ほどは随分と嫌がっていたからな。アンデットはやめて
魂も肉体も、完全に消滅させてやるとしよう!」
ヘルの身体からどす黒いエネルギーが集まっていく。この力を解放すれば
一瞬で戦乙女、いや地球そのものを破壊しかねない。
「さらばだ、戦乙女たち……なにっ!?」
その時であった!完全に死に絶えていたはずのメルナの身体から神々しく眩いばかりの
光が放たれ、周囲を照らし出していく。
「ぬう……ぐあっ!!」
その力はヘルを吹き飛ばし、壁に叩きつけさせる。
そしてメルナの武器、マグキスカに大地からエネルギーが集まりだす。斧を経由して
メルナに注入されていく。そして……メルナはゆっくりと立ち上がり大地を踏みしめた。
胸に走った傷は完全に塞がれ、破壊されたヘッドギアも修復されている。
「貴様、メルナ……!」
復活したメルナは周囲を見渡す。大地は崩れ、建物は瓦礫に。
そして、ブリュンヒルデ、フィリー、美琴が力なく横たわっているのを確認した。
「ブリュンヒルデ様……フィリー……」
ブリュンヒルデとフィリーはメルナに自らの魂を分け与え、彼女の足元で眠っている。
「美琴……」
三人を守るためにヘルに無謀であっても挑んだ美琴は壁に寄りかかるようにして
倒れている。額からは、戦闘の影響か血がドクドクと流れ出し、所々痛々しく傷を負っていた。
「ヘル……!あんた……!」
「ふっ、どうせ余には勝てぬ存在ばかり。早々に死んでしまった方が楽だったろう」
ヘルを睨むメルナの視線がよりいっそう、鋭くなる。
「ヘル!あんたは王でも悪魔でもない!ただあたしに滅ぼされる、畜生以下よ!!」
激昂し、叫ぶとメルナは自身の力を解き放ち、大地が唸りを上げ始める。
「余を畜生以下とは……調子に乗るなメルナ!いくら復活したとはいえ、
貴様は余に一度、殺された身!余に敵うと思っているのか!?」
「思っているわ!さっき殺されたあたしと、今のあたしとじゃ違うってこと、教えてあげる!!」
二人同時に、武器を振るい、激しくぶつかりあう!だが、金属音が響いた瞬間に
ヘルの得物は、粉々に砕け散った!
「な……なにぃっ!?」
「グラビティィィィ!!キィィィィック!!!」
ヘルが驚愕するのも束の間、メルナは重力の掛かった飛び蹴りを浴びせ、大地に叩きつけた!
「ぐぅぅぅ!おのれ……だが、それだけでは余には勝てぬ!」
光の速度に迫らんばかりの衝撃波をメルナに向かって放つ。
「ウォールストーン!!」
だが、メルナが地面を叩くと巨大な石の壁が飛び出し、攻撃を防いでいく。
「アックス!ブーメラン!!」
続いて斧を投げつけ、ヘルにいくつもの斬り傷を負わせていく。
「ぐああああ!!この……ムスペイル!!」
地獄の火炎を呼び起こし、反撃を試みるヘル。それをメルナは避ける間もなく浴びてしまう。
業火の中で焼かれるメルナを見て、ニヤリと笑みを浮かべるヘル。
「ふふっ、確かに随分と強くなったようだが、やはり我の相手では……!?」
勝ちを確信したヘルであったが、次の瞬間、メルナは炎を軽く振り払ってしまう。
しかも、その身には火傷の一つも負っていない。
「暖かかったわよ、地獄の炎とやらは」
「貴様……なぜそれだけの力が!?」
もう余裕をかましていられないヘルは思わず、そのことについて聞こうとしてしまう。
「みんなが命を掛けて、あたしを蘇らせてくれた……そして、この大地の、地球の力も
あたしに手を貸してくれた。今のあたしは戦乙女の力を凌駕している!!はああああああ!!!」
渾身の力を込めて、マグキスカを振るうとヘルに強烈な重力が掛かりはじめる!
「ぐ……あああああああああああ!!」
先ほどと違って、その苦しみから今度は演技ではない心からの悲痛な叫びが漏れる。
「レイルガルズ大将ヘル!!地球上全ての人々を苦しめ、自然を破壊し、悪行の限りを
尽くしたあんたを、あたしは許さん!!!」
怒気が詰まった迫力のある声で、メルナは勇ましく叫ぶ。
「グランドクラッシャァァァ!!」
動きを完全に封じられたヘルにメルナはマグキスカを振り回し、無数に斬撃を浴びせていく。
「この世に光ある限り、戦乙女はあんたのような悪を倒す!!
そしてこれが……戦乙女の力だ!ガイアッ!!!!!」
メルナはマグキスカをヘルに怒涛の勢いで突き刺すと火花が飛び、斧をそのままに
両腕を突き出すと、神々しい光がヘルを包み込んでいく。そしてそれは次第に縮小していく。
ブラックホールのように、悪しき存在だけを吸収し、その空間内で押しつぶしていくのだ。
間もなくヘルの絶叫が響き渡った。
「ぬああああああああああああああ!!!戦乙女……メルナ!!余を倒したからといって
悪が滅んだと思うな!!貴様のような戦乙女の末路は、冥界だけだぁぁ!!うあああああああああ!!!」
負け惜しみか、メルナに呪いの言葉を残しながら、ヘルはその光に包まれながら
完全に跡形もなく消滅していった。
「冥界なんて、こっちからお断りだっての…………みんな……」
ヘルを、レイルガルズを倒したメルナであったが、その心には悲しみが渦巻いていた。
フィリー、美琴、ブリュンヒルデ…自分のためにその命を投げ出してくれた。
「世界が平和になっても……こんなの、嬉しくないよ!!」
涙が止めなく溢れてくる。それはポタポタと、大地を濡らしていく。
「ひっ……えぐ…………うあぁぁ……!!」
いくら拭おうと、その涙は留まるところを知らない。だが、そのときであった。
涙で濡れた大地が、蒼く輝きを放ったかと思うと、それは一瞬にして周囲に広がった。
それは、三人の身体にも走っていく。
「こ、これは………み、んな……?」
ゆっくりと、三人の瞳が開かれた。そしてよろよろと顔を上げながらメルナの方を向く。
「みんな!……うわぁぁぁん!!」
号泣しながら、フィリーに抱きつくメルナ。そしてフィリーもしっかり抱擁する。
「頑張りましたね、メルナ」
「本当、すごかったね!」
「ありがとう……みんなのおかげでヘルを倒せたんだ…でも、どうしてみんな…?」
力尽き果てたメルナ以外の戦乙女が蘇ったのがメルナには不思議なのであった。
「メルナ……自分の中の戦乙女の力を確認してみなさい」
最後に立ち上がったブリュンヒルデがそう促すと、メルナは自身の心を見据える。
「あれ……?もう、ヘルと戦った時ほどの力は感じられない…」
「メルナ、あなたは知らず知らずのうちに自分の涙に、戦乙女の力を乗せて、
私たちに返していたのです。他には説明の仕様がないですね」
「そ、そうですかぁ……とにかくよかったぁ…ああう!」
何にせよ、メルナはホッとして、その場にへたり込んだ。激戦の疲れが、この瞬間に
ドッと降り注いだのだ。
そんなメルナを三人は笑いながら見つめ、起きようとする彼女の腕を掴む。
「フィリー、美琴、ブリュンヒルデ様……本当にありがとう!」
―――数日後。アメリカのレイルガルズ本拠地が潰されたことで、各地の残党勢力も
レジスタンスたちに軒並み片付けられ、地球に平和が戻ってきた。
そして戦乙女たちは、、その光景に長かった戦いも終わったとしみじみと感じていた。
「メルナ、フィリー、美琴……これからまた、いつレイルガルズのような輩が現れるか
わかりません。だけど、あなたたちがいる限り、大丈夫だと、私は信じています。それでは……」
ブリュンヒルデはそう三人に伝えると、空から射した黄金色の光に乗って、天界へと帰っていく。
残された三人は、これからどうするか、話し合うことに。
「あたしね、ヨーロッパに戻ってお父様とお母様を捜し出したい。
きっと、どこかで生きているって、そんな気がするんだ」
メルナの想いを聞いた二人は、微笑を浮かべながら、頷いた。
「それなら、ボクも手伝うよ。まだまだメルナと離れたくないしね」
「私もです。傭兵稼業に戻るのにはうんざりするぐらい戦いましたから」
「もう〜なんだか二人とも暇だから着いてくるみたいじゃない!」
メルナがぷぅ〜と頬を膨らませる。だが、すぐに笑顔に戻って。
「それじゃあ、まずはヨーロッパに帰ろうか。三人で新しいお店とか開いて、
そこを拠点にみんなで暮らしていこう?」
「お店ですか……メルナ、何のお店にするつもりですか?」
「何って…外食屋さんとか喫茶店とかかなぁ」
「だったらぁ、ボクは、お寿司屋さんがいいな。戦乙女のお寿司屋さん!これはウケるって!」
「なによそれぇ〜?もう、美琴ったらぁ。うふふ」
これからの生活話に華を沿えつつ、三人は一路、欧州へと帰っていく。
空は平和の象徴のように、澄み切った青空が広がっている。
そして、天からは太陽が燦々と輝き、地上を照らし出していた。
185 :
戦乙女メルナ ◆4EgbEhHCBs :2010/03/30(火) 21:06:53 ID:w2+9TEjf
というわけで戦乙女メルナ最終話投下完了。
当初の予定だと、結局メルナ以外はみんな死んでしまう展開も
考えていましたが、やっぱ後味が悪いのはアレだよねってことで今の形に。
そのため安直な感じになったのは否めませんが…
さて、このメルナで四作目だったので、次回作は今まで作ってきた
変身ヒロイン作品の集大成的な作品を作ろうかなと考えています。
それに伴い、何らかの企画がしたいなぁ〜と漠然と考えていますが…
具体的にはまだ何も考えていないw
君の考えた敵キャラ募集!みたいなことをしたら乗ってくれる人とかいるかなぁ
186 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/01(木) 22:48:18 ID:oyR00+i1
まずは最終回乙でした。企画といっても
シェアワとかじゃないと今の創発板の雰囲気的に
乗ってくれる人は少なそうだなぁ
>>186 うーん、やっぱりそうなんですかね…
一応、次回作はそれっぽくなるけど、あくまで自作品内の話だしなぁ
ついでにエイプリルフールネタ投下
最強の闘士は誰だ!?そのために開かれたバトルロワイアル・HEROINE OF FIGHTERS!
全世界から変身ヒロインたちが集まり優勝目指して戦いを繰り広げていくぞ!
だけど、その中にはかつてのあの悪魔たちが…!?大会の行き着く先は…?
変身ヒロイン格闘ゲーム HEROINE OF FIGHTERS 201000年4月1日発売予定
小売希望価格 通常版:68000円 限定版98000円
限定版には触っただけで指が全部切れる伊織の手裏剣同梱!
ストーリー
最強の闘士を決めるため、何者かが、各地の闘士に招待状を送りつけていた。
日本、中国、イギリス、ブラジル、アメリカ…etc
その大会に不信感を抱きつつも、せっかくだからと参加することにした彼女たちの運命やいかに。
まなみ「OK!!」
凛「オラオラッ!!」
ミシェル「でやぁ!!」
出場チームの紹介
日本代表:剣士チーム メンバーは新堂まなみ 水無瀬裕奈 姫倉伊織
日本からは自然の術と剣術、体術を身につけたサムライガールズたちが出場する。
それぞれの実力の再確認と嫌な波動を感じ取り、それを叩くために参加した。
各々の能力が高いことはもちろん、結束力も強く、まさに優勝候補筆頭だ。
ゲームキャラ的には万能&お手軽コンボが強力すぎて大会では禁止キャラに
なるようなクソキャラどもだ!
中国代表:戦姫チーム メンバーは陽凛明 シャニー・ハリソン 東雲楓
中国からは聖覇流拳法の使い手のチャイナドレス少女たちが出場。
聖覇流拳法の道場門下生を増やすためにも、この大会はいい宣伝効果になると踏み、参加する。
格闘能力こそ高いが、多少、精神的に脆い一面も?
ゲームキャラ的には波動昇龍タイプで使いやすいが、これといった秀でたものは少ないぞ!
ブラジル代表:プラズマフォースチーム
メンバーはソニア・ジルベルト アメリ・クリュイテンス レベッカ・シュナイダー
ブラジルからは地球の最先端科学を用いた変身する女傭兵たち。
大会の裏に潜む何者かの気配を察知し、調査のため、出場することにした。
単純なスペックでは周りより遅れを取るが、精神の堅牢さ、場数の多さでカバーする。
ゲームキャラ的にはそれぞれ戦う距離がある程度決まっているので、
それをしっかり把握しておくことが重要。
イギリス代表:戦乙女チーム
メンバーはメルナ・セルシウス フィリー・クロフォード 織瀬美琴
イギリスで戦乙女の寿司バーを営業していたが、客足はさっぱり。
そんな時、今大会の報せが。寿司バーの宣伝、優勝賞金、その他諸々に目が眩んで出場した。
実力的には唯一、剣士たちとまともに戦えなくもないぐらいには強い。
ゲームキャラ的には豊富な体力でガンガン押すパワータイプのチーム。
オーストラリア代表:母は強しチーム メンバーは新堂悠美 聖覇 ブリュンヒルデ
福引で当たったオーストラリア旅行に来た悠美の下にブリュンヒルデが現れた。
悠美の娘であるまなみと、自分にとっては娘同然のメルナ、彼女らが格闘大会に
出るそうだが、動機が不純である。喝を入れるべきと意を表したブリュンヒルデに
悠美も同意。大会の間だけ、特別に聖覇も蘇り、凛の実力を確かめるために
出場を申し出た。こうして母親たちによるチームが誕生したのであった。
それぞれ実力は言わずもがなだが、少々歳が…?
ゲームキャラ的には攻撃力はあるが、反面体力は低め。
ロシア代表:女帝チーム メンバーはフリッデ 幽覇 ヘル
あの世の果てで、戦乙女によって倒されたヘルは彷徨っていた。必ず蘇り復讐することを
誓いながら。そんな時だ。次元鬼族の女帝フリッデ、獄牙の支配者幽覇。
二人はヘルとともに現世の格闘大会に出場し、戦士たちを叩きのめし、
再び地上の覇権を握ろうと考え、ヘルに協力を要請。戦乙女に復讐できるならと、
ヘルもこれを快諾し、特別な抜け道から現世に戻ってきた。
三人はロシアから変身ヒロインたちに戦いを挑む。
ゲームキャラ的には設定に反してあまり強くならなかったりすることも多いタイプ。
アフリカ代表:次元鬼三姉妹チーム メンバーはウルム ベルディス スクリタ
女帝チームの出場を知ったベルディスは姉と妹に自分たちも剣士に復讐しようと提案。
スクリタは今度こそ裕奈を殺してやろうとすぐに同意。
ウルムもこれを承認。だが、現世に伸びる蜘蛛の糸を辿ると着いた場所は
アフリカだった。日本は遠いなぁ。
剣士にコテンパンにやられてはいるが、それでもずる賢い手も使い、出場者たちを
大いに苦戦させていくことだろう。
ゲームキャラ的にはあまり推すべきこともない可もなく不可もなくな能力。ただし、暴走とか出来る。
そして……
アメリカ代表:ニューフェイスチーム
メンバーはミシェル・マクレイン ジャンヌ・シャルパンティエ 御子神かなか
次回作のヒロインたちが先駆けて登場!数々の変身ヒロインたちの戦いの話が残る世界のアメリカ。
彼女たちに憧れているミシェルは彼女たちに追いつき、挑戦するため
格闘大会に出場することを決めた。強引に友人のジャンヌとかなかを連れて。
本人たちの実力は先輩たちに比べるとまだまだ未熟だが、その分、
トリッキーな戦い方で補い、戦っていくぞ。
ゲームキャラ的には特殊な演出が多い、見てて楽しいキャラクターたち。
という、作者の妄想みたいなものでしたと。
そもそも前々から自分で自作品の絵はいつか描いてみせると言いつつ
未だに完成しない辺り、格ゲーなんて死んでも無理
tes
調教闘士サディスファクター
西暦2085年。
世界は悪の秘密結社リストーラの企てにより大混乱に陥っていた。
「グゲゲゲ。このバスは我々リストーラが占拠した!」
それは不況ながらも穏やかな日常。
清々しい朝の1コマ。幼稚園児達を乗せた学童バスが、強引に乗り込んできた全身黒タイツ集団に占拠されてしまう瞬間だった。
黒タイツ達の真ん中には人間なのか、それともナメクジなのかよく分からない造形の怪人が立っていて、彼は見てくれからでは想像も出来ないハスキーな声でそう宣言する。
泣きじゃくる幼児達。保母さんも恐怖に目を見張っている。
そう、子供達は大ピンチを迎えていた。
「お待ちなさい!」
そんなバスジャック事件勃発から約十分。
幾つかの交差点を越えたところで走り続けるバスの前に一人の少女が立ちはだかった。
春めいた桜色スカートがヒラリと風に泳ぐ。上に薄茶色のウィンドブレーカーを着込んだ彼女は、年の頃も二十歳前といったところだ。
業務上過失致死の現行犯で逮捕されたくないバスの運転手としては慌ててブレーキを踏むしか手立てを知らず、やや前のめりに停車したバスの中から障害物を排除せんと息巻いて飛び出してきたタイツ集団&怪人御一行様。
「邪魔だ、退かなければひき殺すぞ!」
ナメクジ怪人がやけに良い声で呼ばわる。
対する少女はバッと身を翻して手を怪しげな一団へとかざす。
そこには異様なまでにゴテゴテした金属ベルトが握られていた。
「変身!」
『Training Start』
身を捻る勢いでベルトを腰に装着した少女。
するとバックルであろう一際大きな塊がくぐもった合成音を響かせる。
瞬間、少女の華奢な体がドロドロと原油にも似た皮膜に覆われる。
黒い塊が色を失ったとき、同じ場所に立っていた少女の出で立ちはガラリと変わっていた。
スラリと伸びた長い足を包み込む黒く艶やかな革製タイトスカート。
ふくよかになった胸とくびれた腰つき。体型がグラマラスに変貌している所を見るに怪しげな通販薬品の使用前と使用後を並べ立てた趣さえ感じられる。
上半身は肩口の見える同色のボンテージで、その上から金属でできているとおぼしきジャケットを着込んでいた。また腕に履いた長手袋は手首の所に鎖の付いた手枷があって、全体像に妙な淫猥さを与えていた。
「未来ある子供達のバスを乗っ取るなんて許されることではないわ。だから、たっぷりお仕置きしてあげる」
目元を隠す蝶を摸したマスク。長い髪は赤く、鉛色の留め金で結われている。
彼女の真っ赤な唇からネットリとした言葉が飛び出して、爽やかな朝の光を濁らせる。
通学バスに残された児童達と保母さんがなぜか顔を赤らめて目を逸らしてしまうのが見えた。
「貴様、何者だ!」
よく通る声で呼ばわったナメクジ怪人に向けて、彼女は手で太ももの埃を落とすような仕草をしたあと何気なしといったふうに答えた。
「通りすがりの調教師、サディスファクター!」
ちょ……。
淫靡な響きにさしものナメクジ男もたじろいた。
黒タイツの人々も小声でひそひそと相談を始めている。
通勤途中のサラリーマンが驚愕の面持ちで通り過ぎていく。
そんな不穏な空気を切り裂くように、アスファルトを叩く音がこだました。
「シャラップ(黙りなさい)!!」
なぜ英語なのかは誰にも分からなかった。
でも彼女の手に長いムチを見つけたとき、周囲の人々は一様に「女王様だ…」と思った。
「サディスティックだかマックスファクターだか知らないが、とにかく我々の作戦を邪魔するというなら生かしては帰さん!!」
ナメクジ怪人がとても良い声で叫ぶ。
すると一時は怖じ気づいていた黒タイツ隊員達だって負けてはいられないと足並み揃えて飛び出すと彼女の周囲を取り囲むのだ。
調教師を名乗る女は真っ赤なルージュの引かれた唇に舌を這わせてニヤリと笑む。
ゾクリ、とタイツ隊員達は背筋に冷たい物が走るのを感じた。
こうして始まった戦い。
10人ほどだった黒タイツ隊員達は最初の数秒で、悪魔城にでも挑みそうなムチさばきで次々と薙ぎ倒されてしまった。
なので、開始早々から一人残されたナメクジ怪人とサディスファクターとの一騎打ち。
「この変態女めっ!」
ナメクジ男が吐き捨てるように毒づいて突進する。
対する女は返答とばかりにムチを振るい、怪人をメッタ打ちにする。
しかし突進は止まらない。
ブヨブヨした裸体はさながらダンプカーの如く、凄い勢いで衝突した後は変身女の方が軽く吹っ飛ばされる。
小さな悲鳴と共にその体が宙を舞い、アスファルトに墜落した。
「くぅぅっ」
「思い知ったか変態女。フハハハハ!!」
目隠しして聞けばどちらが悪役なのか分からない男前な音色で怪人が哄笑。
サディスファクターはうっすら血の滲む口元からギリリと音を立てて、それでもなお立ち上がった。
「私を変態と呼んだわね。二回も……!!」
どうやら地面に激突した痛みより変態呼ばわりされたことの方が重要だったらしい。
女は立ち上がってムチを放り投げると胸の谷間から何やらカードらしき物を引き抜き、金属ベルトの機械バックルに差し込むと端にあるレバーをスライドさせた。
『Iron Maiden』
ベルトが英語で告げる。
長手袋の鎖を掴んで引っ張るとジャラジャラと音を立てて伸びた。
「あなたには究極の悦楽を味合わせてあげる」
フッと、女王様が嗤う。
彼女の背後に人型の棺桶が迫り上がってきて、観音開きになる。
棺桶の内側では何かとてつもなく禍々しい物が蠢いていて、反射的に見てしまったナメクジ男が「ひっ」と恐怖の悲鳴を上げる。
怯んで動きが止まったナメクジ野郎。しかしその瞬間を女王様が見逃すはずもなく、腕から伸ばした鎖を百発百中の精密さで投げつけ怪人を絡め取り、その細腕の一体どこにそんなパワーがあるんだってくらいの馬鹿力で一気に手繰り寄せたのだ。
あれよあれよという間にブヨブヨした体が棺桶の中に引きずり込まれ、這い出そうとする手も虚しく蓋が閉ざされた。
「調教完了」
ビシッと腰をくねらせて決めポーズのサディスファクターとは裏腹に、背後の棺桶から鳴り響く悲痛な叫び声は黒タイツ達が逃げ出すまで続き、やがて周囲の喧噪からは完全に隔絶された不気味な静寂が訪れる。
この一部始終を見るハメになったバスジャックの被害者達は女王様が変身解除して少女に戻った後も引きつった顔をしていて、お礼を言うべきかどうかも分からないといった複雑な面持ちで頭を下げるとそそくさ退散してしまった。
「なによ。せっかく助けてあげたのに、もっとこう、誠意を見せなさいよね」
溜息混じりの呟きは騒々しさを取り戻した街の陰影に溶けていき、やがては少女も街並みへと消えてゆく。
ともかくこうしてご町内の平和がまた一つ守られた。
頑張れサディスファクター。
負けるなサディスファクター。
世界の平和は君の細腕に掛かっているのだ!!
――終わり
194 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 17:38:36 ID:XZtnbrY2
投下乙!
なぜナメクジ怪人の美声が執拗に強調されているのが判らんが、そこに激しくウケたw
ナメクジを丸呑みすると声がよくなるというあの言い伝えか……
>メルナ作者さん
全力で乙でした。
エイプリルフールネタ。格闘ゲーム苦手だけど、ちょっと欲しいです
>サディスファクター作者さん
とりあえず、連載希望ですw
ナメクジ怪人の声のイメージは声優の小山力也さん(仮面ライダー龍騎で「ファイナルベント」とか言ってた人)で
万が一にも続きを書くことがあったらM奴隷として主人公の補佐役になっているハズ・・・。
最後に一言。
勢いでやった、後悔はしていない。です。
小山さんなら、現在進行形で怪人幹部を演ってるじゃないか
199 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/12(月) 23:32:09 ID:afGxKVhO
ここは雲の上の上の上に浮かぶ魔法の国。
魔法の国だけにウサギやアルパカは二足歩行で歩き、花は今日も演歌を熱唱し、雲は綿菓子、
その雲の機嫌がいい時は空から飴ちゃんが降ってきたりするそんなファンタジーワールド。
そんなファンタジーワールドの中央に位置するお城。(どうみても姫路城です。本当に(ry)
そのお城の大広間に王様の娘、つまり王女様が呼び出されていた。
「娘よ……ばか」
ゴギャン。ジョークをジョークと見抜けない王女様は王様にライダーキックを食らわせる。
「お父様、恋に魔法に忙しい娘を呼びだしてばかとは何かしら。あと、ばかっていうほうがばかなのよ」
あんたも父親に対して失礼ぞ!的な返しをする王女様。
「まあ、そう怒らないでくれ。若くしてシワが生えるぞ」
ガガガガガガガ。今度はキン肉バスターである。
「で、用件ってなんですの?」
キン肉バスターを解除しながら、王女は問うた。
「そうだ、エリリンリン。大事な話だ……」
王様は王女様、エリリンリンに次のことを話した。
この魔法の国は地上の世界、つまり人間界の「しあわせの力パワー」で空に浮かんでいられる。
しかし、ここ最近その「しあわせの力パワー」が好評減少中なのだという。
そのせいで1日に数ミリ、下がっていきつつあるそうだ。
このまま「しあわせの力パワー」が減って、ついにはゼロになると魔法の国が地上へと墜落し、そりゃまあ大変なことになるのだという。
と、いうわけで。「しあわせの力パワー」を復活させるためにエリリンリンに地上に降りて大活躍してほしいそうだ。
「それは大変だわ!!……それはそれとして」
「何だ、娘よ」
「「しあわせの力パワー」ってダサいネーミングだわ」
ノピョーン!エリリンリンのもっともなツッコミに盛大にずっこける王様。
「ま、まあ。それは気にするな。地上に降りるにあたって、これを持って行きなさい……」
そう言って王様はエリリンリンの前にさまざまなアイテムを示した。
その道のプロフェッショナルな大人に変身できる銅鏡。
「しあわせの力パワー」がどれだけたまったかを示すメスシリンダー。
移動に使う魔法の座敷箒に魔法の国との連絡に使うipho○e的な電話。
そして「お伴の動物」的ポジのコケシ(性的な意味じゃない)。
「これら5点セットに四次元頭陀袋をつけて、いちまんえ」
バリブローン!またまたジョークをジョークと見抜けないエリリンリンは王様にジャーマンスープレックスを決めたのであった。
まあともかく、善は急げということでエリリンリンはとっとと出発することと相成った。
魔法の国から人間界へとつながる襖の前でエリリンリンは王様、王妃様、家来、コック、メイド、国民、アルパカの前で出発の挨拶をした。
「魔法の国が地上に墜落したことで、損害賠償を起こされないために……私行きます!!」
……そういうことではない。というツッコミがあったかどうかは定かではないが
エリリンリンは襖を開け、人間界へと旅立っていった。
王様、王妃様、コック、メイド、国民、アルパカに見送られながら。
東京都練馬区。その大通りの近くで人だかりができていた。
何やら「変な格好をした女の子が車にはねられた」のだという。
その野次馬の一番いい場所にいましがたフランス語塾を終えて、帰宅途中だった花野花子(7)がいた。
花子はその「変な格好をした女の子」に呆れ果てていた。
大通りの、それも横断歩道のないところにいたら車にはねられるのは当然だろうと。
お前さん、幼稚園でそれを習わなかったのかと。
「あんぜんパトロール」、ちゃんと見てなかったのかと。
そんな呆れ果てる花子の前にコケシがすっ飛んできて、花子とコケシ以外の周りの時間を止めた。
「お嬢さん、お嬢さん」
「キャッチセールスはお断りしてるの」
しれっと返され、コケシはこけそうになる。コケシだけに。
「頼みがあるんです」
赫赫云々。数行前に話したのと同じ解説をするコケシ。
「しかし、そのエリリンリン様はご覧の有様で……一命は取り留めているようですが
全治……数か月の重傷を負っているのでございます」
「それで?」
「あなたにそのエリリンリン様の代理を務めてほしいのです!」
間。
「すみません、宗教には興味ないんで」
ドゴムッツ。コケシは地面に落ちた。しかし、何とか再び浮かび上がる。
「そこを何とか!ところでお名前は……」
「花野花子。創発女子大学付属小学校2年2組」
「花野花子……。承知しました。あなたは今日から「代理魔法少女リリカルハナちゃん」です!」
また間。
「すみません。そういうのは幼稚園卒園と同時に卒業してるんで……」
コケシはショックを受けていた。日本の女児は幼稚園卒園と同時に魔法少女アニメからも巣立ち、
興味があるのはおしゃれと月9ドラマというのは本当だったのか……と。
それでも、コケシは花子に無限の可能性を感じていた。
彼女なら「しあわせの力パワー」を復活させることができる……と。
こうしてコケシはエリリンリンの頭陀袋をえいこらせっせと運び、花子に渡した。
「とにかく、お願いします!」
コケシ独特ののっぺりとした表情で迫られてはさすがの花子も承知するしかない。
かくて、今ここにコケシをお供にしたがえた魔法少女が誕生する運びとなったのだ。
「はぁ、私としたことが人間界に着くなり車にはねられるなんて……」
人間界の病院。エリリンリンはベッドの上で愚痴っていた。
「こうしている間にも人間界からは『しあわせの力パワー』が消えていっているというのに」
ぶつくさ、ぶつくさ。
「その心配はありませんよ、エリリンリン様」
どこからわいて出たのか、コケシは言った。
「どういうことよ?」
「私めが、代理を見つけましたので」
ガビーン。代理ー!?
「最初にしてはいい活躍でしたよ、リリカルハナちゃん」
ガビガビーン。リリカルハナちゃんンンンンンン!?
「とりあえずは、安泰なのでごゆっくりご静養くださいまし」
ガビガビガビーン。あんた言って……。
見事にどこのポニーの骨ともつかない少女にお株を奪われ、エリリンリンはショックを受けた。
そして決意する。気合いでリハビリを乗り切って、完全復帰し
リリカルハナちゃん以上に大活躍してやろうと。
やれやれ。
つづかない。
投下シマイ。
かつて車にひかれた魔法少女がいましたが、
もしそれを第1話に持って行ったら、という考えのもとこんな話ができました。
がん損(なぜか変換できない)の魔法少女とはまるで違うものにしようとしたら、
ご覧の有様だよ!!
このあと、魔法の国を墜落させんとするライバル魔法少女の登場や
謎のプロフェッショナル娘の正体を追う記者との対決やら
エリリンリンの復帰イベントやらがありますが、
本当に続きませんw
あ、あと一つ修正。
>>203 ×あんた言って
○安泰って
MS少女みたいな装甲服で空を舞い戦う話は駄目?
207 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/14(水) 21:14:20 ID:psILOhyf
>>199 それだけで同一作者判定かよw
というか、仮に同一だとして何か問題があるのか?
どうでもいいだろう
俺はいくつも匿名で投下してるけど、未だに気付かれたこと無いな
210 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/20(火) 23:11:43 ID:QRBVUMaM
やはり4月っていうのは忙しい時期なのかね。
投下はほしいが、我慢の時か
てs
調教闘士サディスファクター 銀行強盗編
西暦2085年。
世界は悪の秘密結社リストーラの企てにより大混乱に陥っていた。
「命が惜しければ金を出すだビー!」
不況ながらも穏やかな日常を切り裂く阿鼻叫喚。
銀行の窓口に鋭くて長い金属針が突き出されたときに事件は始まった。
「我々はリストーラだビー! 全員手を頭の上に置いて伏せるビー! ホールドアップだビー!」
お年寄りは腰を抜かし。その殺伐とした空気に子供は泣き喚く。
語尾でびーびー言っているのは蜂と人間とを無理矢理に混ぜこぜしたような怪人で、なので手にした長い金属針には毒が塗られているのだろうと容易に想像できた。
彼の部下とおぼしき黒タイツ隊員は6名ほどで、彼らは手に銃のような物を所持している。
地方銀行とはいえ県の名を冠する金融機関は、金があるワリに警備が手薄だと思われていたらしい。
お客さんはお年寄りから子供まで十人程度。
常駐していた警備員はいつの間にか殴り倒されて昏睡していた。きっと詰め所だって同じような状況だったろう。
そう、人々はこれでもかってくらいの大ピンチを迎えていたのである。
「そこまでよ!」
そんな銀行襲撃事件勃発から約5分。
何気なしに自動ドアをくぐりやって来た新たな客が周囲の様相をみるなり手近にいた黒タイツ隊員へと突進、向けられた銃口なんて物ともせずに浴びせ蹴りをお見舞いし、凛とした立ち姿もそのままに声高に叫んだ。
「めんこい娘っ子が何をするだビー!」
何事かと振り返ったハチ男。
彼の視界の奥ではタイツ隊員の一人が地べたを這いつくばっており、その背中を踏みつけて少女が立っている。
春めいた桜色スカートがふわりと舞い、しかし見えそうで見えないチラリズム。
着込んだ薄茶色のウィンドブレーカーに片手を突っ込んだ彼女は、年の頃も二十歳前といったところだ。
彼女はおもむろにポケットに突っ込んでいた手を抜き去り、見せつけるように手を前へとかざす。その小さな手には容姿の愛らしさからはかけ離れたゴテゴテした金属ベルトが握られていた。
「変身!」
『Training Start』
身を捻る勢いでベルトを腰に装着した少女。
すると機械的バックルがくぐもった合成音を響かせ、と同時に華奢な体がドロドロと原油にも似た皮膜に覆われた。
黒い塊が色を失ったとき、そこには全くの別人と言い切って差し支えない輪郭があった。
スラリと伸びた長い足を包み込む黒く艶やかな革製タイトスカート。
グラマラスな胸とくびれた腰つき。
上半身は肩口の見える同色のボンテージで、その上から金属でできているとおぼしきジャケットを着込んでいる。
そして漆黒の長手袋と手首に鎖の付いた手枷。
正義の味方と呼ぶには少しばかり淫猥なシルエットがそこにはあった。
「罪もない人々の僅かな貯蓄を力ずくで奪うなんて許されることではないわ。
……だから、たっぷりお仕置きしてあげる」
目元を隠す蝶を摸したマスク。長い髪は赤く、鉛色の留め金で結われている。
彼女の真っ赤な唇からネットリとした言葉が飛び出して、ただでさえ恐怖と混乱にあったフロアの空気をさらに凍り付かせる。
強盗達の乱入に腰を抜かしていたハズのお爺さんが、なぜだか拝んでいた。
また子供連れの客に目を遣ると「ママあれ何?」「見ちゃいけません!」なんて小さな遣り取りが聞こえてくる。
異様なまでに場違いな空気を醸し出しつつ、それでも変身女は口元に淫蕩な笑みを浮かべた。
「何者だビー!」
警戒の素振りでそのワリに興味津々といったふうのハチ怪人に向けて、彼女は手で太ももの埃を払う仕草で答える。
「通りすがりの調教師、サディスファクター!」
ちょ……。
淫靡な響きに怪人が後退る。
黒タイツの人々も小声で逃げ出すための相談を始めている。
前回ナメクジ怪人を撃退した変態女の噂は、すでに悪の秘密結社内で広まっていたのだ。
そんな不穏な空気を切り裂くように、床を叩く音がこだました。
ハッとして見れば、女王様は手にムチを持っている。
「シャラップ(黙りなさい)!!」
なぜ英語なのかは誰にも分からなかった。
でも彼女がどこぞの考古学者も真っ青なムチさばきで倒れているタイツ隊員を打ちのめしたとき、フロアにいた全ての人々が「女王様だ…」と納得する。
「ドラムスティックだか資生堂だか知らないが、とにかく邪魔するというなら返り討ちだビー!!」
甲高い、どこかべちゃっとした音色でハチ怪人が叫ぶ。
黒タイツ隊員達だって負けてはいられないと彼女の周囲を取り囲む。
調教師を名乗る女は真っ赤なルージュの引かれた唇に舌を這わせてニヤリと微笑んだ。
ゾクリ、とタイツ隊員達は背筋に冷たい物が走るのを感じた。
こうして始まった戦い。
「あなた達の相手はコイツで十分よ」
と、ここで胸元から一枚のカードを引き抜いたサディスファクター。
カードを変身ベルトのバックルに挿入、レバーをスライドさせる。
『Summons Slug』
すると機械ベルトが英語で宣言し、彼女の前の床からズズズ…っと何かが迫り上がってくるではないか。
よく見ればそれは前回倒されたはずの怪人ナメクジ男だった。
ナメクジ男は目隠しした女性であれば誰でも口説き落とすことができそうな良い声でビシリとハチ怪人を指さした。
「ご主人様の寵愛を受けるのは俺一人で十分だ!」
「ちょ、何を言っているんだビー! 気をしっかり持つだビー!」
秘密結社の中でハチ男とナメクジ男は同期で親友だった。
週に一度は近所の居酒屋まで出向いていって一緒に馬鹿をやったりする間柄だった。
年末の忘年会では二人で宴会芸を披露して首領様を始め幹部連中をドン引きさせて怒られたなんて事もあった。
それなのに、だ。数日ぶりに会った友は身も心もすっかり堕とされて、すっかり女王様の忠実な下僕になってしまっているじゃあないか。
ハチ男は身を引き裂かれるような思いもそのままに部下達に命じた。
「ええい、このようなところにナメクジ男が居るはずがないビー!
コイツは奴の名を騙る不届き者だビー! 成敗するだビー!」
命令されたタイツ隊員達は、しかし戸惑いを隠しきれず逡巡している。
そんな秘密結社関係各位に向けて朗々と良い声が響き渡る。
「ふんっ。相も変わらぬバイキン声め。だが勘違いするな、俺は偽物などではない。
生まれ変わったのだ。身も心もっ!!」
どど〜んと聞くだけなら物凄く格好良い台詞を言い放つナメクジ男。
しかし、苛々してきた女王様がムチで床を叩くと「ヒッ」と情けない悲鳴で言葉を中断した。
「さっさと片付けなさい。……それとも、ここで豚みたいに這いつくばってお仕置きされたいの?」
「は、はいぃぃぃ!」
その悲鳴じみた言葉に微かな期待の音色が混じっていたことを隊員達は聞き逃さなかった。
ともかくこうして仕切り直しの戦い。
さすがに怪人と名が付くだけあってナメクジ男は強かった。残っていた5人の黒タイツを秒殺に近い手際の良さで叩きのめし、ついでに「ママあれ変態だよね?」とか囁いた小さな子供の頭を大きくてパワフルな手で撫で回した後、ブヨブヨした裸体でこれ見よがしに仁王立ち。
ヴィジュアル的には見れたもんじゃあないけれど、それでもとにかくハチ男のみが残された。
この間、サディスファクターは待合場所の長椅子に足を組んで腰掛けていて、胸元から取り出した赤い糸を使って隣に居た小さな女の子とあやとりに興じている。
そんな女王様を一瞬だけ顧みて、ナメクジ男はハチ男めがけて突進する。
ダンプカーよろしくの塊に対してハチ男は手にした長い針でフェンシングの構えをとった。
「ビービービービービー!!」
掛け声と共に繰り出された刺突針。防御なんて考えていないダンプカーは全身をメッタ刺しされて前のめりに崩れ落ちた。
「ぐふぅ!」
「忘れたかビー。お前じゃあ俺には勝てないのだビー」
地べたに転がったナメクジに向けて、勝利宣言をする怪人。
怪人は次の得物はお前だとばかりに女王様を睨み付ける。
一方のサディスファクターはといえばいつの間にか長椅子から立ち上がっていて、何をするのかと見ているとなんと倒れている下僕に向けてムチを振りかざしたじゃあないか。
「スパーン」と盛大な音がこだまして、次に「はうあっ!」という苦痛なのか快楽なのかよく分からない心情を訴える悲鳴があがった。
「この役立たず。汚らわしい虫けらが格好付けるからそうなるのよ。
あんたは惨めったらしく私の靴でも舐めていれば良いんだわ!!」
スパーン!
「も、申し訳あり――はうぅ!」
何度かムチで打たれるとナメクジ野郎は恍惚の顔になった。
これぞ真っ当な奴隷と女王様ってな様相を呈している。
もちろん、それについては誰も突っ込まない。
一仕事終えてスッキリしたとでも言わんばかりの女王様が「もういいわ、消えなさい」と命じると床に真っ黒な穴が出現、ナメクジ男を飲み込んで再び元の床に戻った。
「じゃあ、ここからが本番。お仕置きの時間ね」
彼女は手下が消え失せたのを確認すると唇に引かれた真っ赤なルージュを舐めて、その繊細な指先で胸の谷間からカードを引き抜く。
新たなカードを金属ベルトの挿入口に差し込むと再び合成音が鳴り響いた。
『Iron Maiden』
長手袋の手枷に付いている鎖を掴んで引っ張るサディスファクター。
ジャラジャラと音を立てる鎖が何とも言えない淫猥さを醸し出している。
「究極の悦楽を味合わせてあげるわ」
ウフフッと、女王様が嗤った。
フロアに漂っていた熱気が再び凍り付く。
彼女の背後に人型の棺桶が迫り上がってきて、観音開きになった。
棺桶の内側では何かとてつもなく禍々しい物が蠢いていて、反射的に見てしまったハチ男が「ビッ」と恐怖の悲鳴を上げる。
サディスファクターが伸ばした鎖を投げつける。
得物を振り回して必死の抵抗を試みるハチ男ではあったが油断した一瞬に足首に絡み付き、それを振りほどくより先にこの世の物とは思えない怪力であっという間に引きずり込まれてしまうのだ。
ものの数秒で棺桶の中に引きずり込まれ、這い出そうとする手も虚しく蓋が閉ざされる。
床に転がり落ちた長い金属針が、やるせなさに騒然とする銀行内で鈍く光を照り返していた。
「調教完了」
ビシッと腰をくねらせ決めポーズのサディスファクター。
背後の棺桶から鳴り響く悲痛な叫び声は、しかし徐々に快楽の色に染め上げられてゆく。
意識を取り戻して逃げ出す黒タイツ隊員達は『ありゃあもうダメだ』と思ったそうな。
そして不気味な静寂。フロア内を凍り付かせたまま、床に出現した穴へと埋没していく人型棺桶。
跡形もなく消え去り、後に残った「最初から何事もなかったかのような風景」に人々は戦慄を覚えた。
この一部始終を見るハメになった銀行強盗事件の被害者達は女王様が変身解除して少女に戻った後も引きつった顔をしていて、彼女がおもむろに取り出した預金通帳でお金を降ろす頃合いになっても戦々恐々と動向を見守っていた。
そんな周囲の視線に居心地が悪くなったのか眉根を寄せてそそくさ退散する少女。
少女が自動ドアの向こう側へと消えて初めて人々は安堵の息を漏らしたものだが、当人には知る由も無く。
建物から無事に脱出した少女は燦々と降り注ぐお日様に眼を細め、清々しい吐息と共に軽く伸びをしてみたりするのだった。
「謝礼金とか期待したんだけどなぁ、残念」
冗談とも本気とも取れる呟きを残して昼下がりの街並みへと消えてゆく少女。
しばらくした後にけたたましいサイレン音を響かせてパトカーが横切っていったが、少なくとも彼女にとっては他人事だった。
ともかくこうしてご町内の平和がまた一つ守られた。
捕獲したハチ男はやっぱり調教の餌食になってしまうのだがそれはまた別の話。
頑張れサディスファクター。
負けるなサディスファクター。
世界の平和は君の細腕に掛かっているのだ!!
――終わり
投下乙。
サディスファクター続編、待ってました!
どSな変身ヒロインもたまにはいいね☆
規制解除につき書き込みです。
三つ目の話は、手は付けているけどどうにも進まないからたぶん更新するところまではいかないと思われ。
こうして、あんなこともあったなと過去を振り返りながら平凡な日常を送っていくのだ。
と、いう日々が壊されたのはある晴れた日のことだった。
「なのか、話があるから来なさい」
階下から母の呼ぶ声がする。「8時だヨ!全員集合」のDVDに夢中になっていた私は
「あーとーでー」
と、返した。しかし、母曰く……
「大事な話なの。早く来なさい」
大事な話、と言われればすぐ行くしかないだろう。
DVDを停止し、すぐに1階のリビングへと向かった。
「話って何、母さん」
「よく聞きなさい……あなたは……」
な、なんだ。私周りの話なのか?もしかして、この流れは私は実はもらいっ子で云々という展開?
これは少し悲しい。これから母をたずねて三千里というわけなのか?
しかし、それに続く母の答えは予想外というレベルでは済まされなかった。
「あなたは今日から美少女戦士よ」
どがっしゃん。あまりにも素っ頓狂な続きに私は盛大にずっこけた。
そう、さっきまで見ていた「全員集合」のドリフターズよろしく。
「ずっこけている場合じゃないわ。真実よ」
あくまで冷静に、母は言った。
「真実って……素っ頓狂にもほどがあるよ……」
よろよろと起き上がりながら私は言った。
「いいえ、素っ頓狂じゃないわ。事実よ」
母は冷静な表情を崩さない。
「これをあなたに渡すわ」
渡されたのは角度によって色を変える石がはめ込まれたペンダントだ。
「これが美少女戦士のアイテムよ」
まだまだ混乱は収まらない。いかにもリアリストそうな母が美少女戦士と発言するとか……。
「あなたが幼稚園の時にあれほど憧れていた美少女戦士になれるのよ。うれしいじゃない」
「っていうか、それ以前の問題です。私、18歳です」
そう。私は18歳。大学生になったばかりだ。
「ぎりぎりオーケーよ。現に、19歳で魔法少女を名乗る子だっているじゃない」
それなんてリリカルマジカル?
順番間違えた。orz
将来は魔女っ子や変身ヒーローになりたい。そう思っていたのも幼稚園年長くらいまでだ。
小1になればさすがにバーチャルと現実の区別もつくようになり、現実的な将来の夢を語る子の方が増えてきた。
そして小学校も2年目になると、それがゼロになる。世の中とはたいていそういうものだ。
私、志村なのかも例外ではなくあれほど魔女っ子ナンタラちゃんや美少女戦士ナントカカントカになりたいと言っていたのに、
小学生になるのと同時に、地に足のついた将来に憧れるようになっていた。
こうして、あんなこともあったなと過去を振り返りながら平凡な日常を送っていくのだ。
と、いう日々が壊されたのはある晴れた日のことだった。
「なのか、話があるから来なさい」
階下から母の呼ぶ声がする。「8時だヨ!全員集合」のDVDに夢中になっていた私は
「あーとーでー」
と、返した。しかし、母曰く……
「大事な話なの。早く来なさい」
大事な話、と言われればすぐ行くしかないだろう。
DVDを停止し、すぐに1階のリビングへと向かった。
「話って何、母さん」
「よく聞きなさい……あなたは……」
な、なんだ。私周りの話なのか?もしかして、この流れは私は実はもらいっ子で云々という展開?
これは少し悲しい。これから母をたずねて三千里というわけなのか?
しかし、それに続く母の答えは予想外というレベルでは済まされなかった。
「あなたは今日から美少女戦士よ」
どがっしゃん。あまりにも素っ頓狂な続きに私は盛大にずっこけた。
そう、さっきまで見ていた「全員集合」のドリフターズよろしく。
「ずっこけている場合じゃないわ。真実よ」
あくまで冷静に、母は言った。
「真実って……素っ頓狂にもほどがあるよ……」
よろよろと起き上がりながら私は言った。
「いいえ、素っ頓狂じゃないわ。事実よ」
母は冷静な表情を崩さない。
「これをあなたに渡すわ」
渡されたのは角度によって色を変える石がはめ込まれたペンダントだ。
「これが美少女戦士のアイテムよ」
まだまだ混乱は収まらない。いかにもリアリストそうな母が美少女戦士と発言するとか……。
「あなたが幼稚園の時にあれほど憧れていた美少女戦士になれるのよ。うれしいじゃない」
「っていうか、それ以前の問題です。私、18歳です」
そう。私は18歳。大学生になったばかりだ。
「ぎりぎりオーケーよ。現に、19歳で魔法少女を名乗る子だっているじゃない」
それなんてリリカルマジカル?
「とにかく、あなたには美少女戦士となって世の中の悪と戦ってもらうわ」
「悪?悪徳政治家とか?」
「そうじゃなくて……本物の悪の組織よ」
……?
「実は志村家の女子は代々、美少女戦士になることになっているの」
……??
「悪が世の中に侵攻するとき。それが志村家女子出動の時よ」
……???
「私もかつて美少女戦士として戦ったわ。大変だったけど、いい思い出ね」
……!?!
「もちろん、あなたのおばあちゃんもひいひいおばあちゃんもひいひいひい……」
……(思考停止)
「信じられないかもしれないけど、すべて真実よ」
そう言いながら、母はテレビをつけた。
「悪の組織「アーミーマー」が来日中のダッフンダ王国国王のヘン・ナオジサンを殺害するという脅迫状を……」
……悔しいが、事実のようである。
「とにかく、この大宇宙の力を秘めたペンダントで美少女戦士に変身なさい!」
「っていうか、どうやって?」
「このペンダントを握りしめて……1回目だから、戦士の服と魔法アイテムを思い浮かべなさい!」
どこかで聞いたような展開だ。
とにかく、やるしかない。私はペンダントを握りしめた。
アイテムは杖。……ひとまず、某「不屈の心」っぽいので。
問題は服だ。どんな感じにしよう。なるべくかっこいいのがいい。
しかし、そんな私に悲劇が襲った。急に『東村山音頭』が脳内再生されたのだ。
止まらない、止められない。どうすることもできないまま、ペンダントから声が聞こえた。
『バトルコスチューム情報、アイテム情報確認。変身プログラム、起動』
ペンダントから光が放たれる。その光は私をあっさりと覆っていき……0.1秒で消えた。
「……なのか、あなた何を想像したの?」
母が呆れ果てている。無理もない。
私の格好は『東村山音頭』に出てくるあの股間に白鳥のついたチュチュが特徴的なバレリーナ姿だから。
そして手に持つ杖はかっこいいという、あまりにもふざけた格好。
私は狼狽した。
「やだ!今から変更できないの!?」
『もちろんー』
杖は機械的な音声を発しながら言った。
『できません。情報を登録したので、データが消失しない限りはこの格好でしょう』
私はorzになった。こんな格好ではお嫁にいけない。
っていうか、外出したくない。
「まあ仕方ないわ。すぐ出動なさい!」
母の声に押され、私はとっとと出動した。
ダッフンダ王国大使館前。私はあまりにふざけた格好で隠れていた。
いや、あまりにもふざけすぎて隠れようにも隠れられなかった。
ああ、通行人の目線が痛い。
ああ、親子の『何あれー』『見ちゃいけません!』が痛い。
と、通りに誰かが現れる。黒タイツの集団とビジュアルメイクを施したいかにも悪者な男。
「我が名はケン。悪の組織「アーミーマー」の幹部だ」
誰に言うでもなく、ケンと名乗る男は言った。
「いけ、黒タイツよ!ダッフンダ王国国王を殺すのだ!!」
「イー!!」
一斉に大使館に駆け込む黒タイツ。
『美少女戦士、出動です!』
「いや、しかしこの格好恥ずかしい……」
『言っている場合ではありません!』
杖に一喝され、私はやけくそ気味に通りに出た。
「待ちなさい!!!」
「誰だ……というかなんだそのふざけた格好は」
ビジュアル男が呆れ果てている、そりゃそうだ……。
「悪の組織の名のもとに、何の罪もない国王を襲撃するとはとんでもないこと!
たとえ志村けんが許しても、この美少女戦士ヒガシムラヤマが許しません!!」
どどーん!!決まった……けど、衣装がかっこ悪い。
「ええい、うるさい!黒タイツ!国王を殺す前にこいつを倒せー!!」
「イー!!」
黒タイツ軍団が襲いかかってくる。
「うああああああああああああああああ!!」
フィギュアスケーターよろしく、高速回転で黒タイツ集団に突っ込んだ。
「イー」
物の見事にすっ飛んで行った。よ、弱すぎる。
「こうなったら、融合(ヒュージョン)だ!」
ケンの号令と同時に黒タイツが組体操を始める。
何が起こるのか見守っていると……黒タイツ集団はそりゃあもう巨大な化け物に変身した。
「あ、こりゃ無理だわ。逃げよ」
そう言って逃げようとする私を杖が一喝する。
『美少女戦士が逃げてどうするんですか!』
「いや、しかし」
問答を続けている間に化け物の腕が伸び、私はすっ飛ばされ……植え込みに間抜けな格好で突っ込んだ。
「その間に、大使館を壊し国王の息の根を止めるのだー!!」
「イ゛ー」
大きな足音を立て、化け物が大使館に向けて歩き出す。
国王の危険が危ない。そして、志村家の名に泥を塗ってしまう……。
私は決断し、化け物に飛びかかった。
「東村山キーック!!」
変身すると身体能力が向上するらしい。大きく跳んだ私の足は化け物をすっ飛ばした。
「東村山パーンチ!」
パンチ、チョップ、飛び蹴り。さまざまな攻撃を化け物に浴びせた。
『今です!超必殺技を放つのです!』
「超必殺技!美少女戦士らしいじゃない!!いくよ!!」
杖の先端に光が集約されていく。
「これが私の全力全開!東村山レーザー!!」
極太光線が杖から放たれる。それに当たった化け物は壮大な爆発を起こし……消滅した。
「くそ、覚えていろ!美少女戦士ヒガシムラヤマ!!」
捨て台詞を残し、ケンは退散した。私の周囲に人が集まってくる。
「ありがとう!美少女戦士ヒガシムラヤマ!」
「ありがとう!」
「ありがとう!」
歓声が聞こえる。……なんだか悪くない気分だ。
と、ここで我に返った。私の格好は「股間に白鳥のついたバレリーナ」。
美少女戦士としてはあまりにもかっこ悪い格好。
これからこの格好で戦っていくのだろうか。
私は絶望のあまり、叫んだ。
「こんな美少女戦士は嫌だァァァァァァァァ!!!」
と、言うところで目が覚めた。DVDを見ながら眠っていたらしい。
TVはチャプター画面を映していた。
それにしても変な夢を見た。これはブログにアップするしかない。
そう思い、パソコン画面に向かおうとした。
「なのか、話があるから来なさい」
階下から母の声がする。今すぐこのことをブログにアップしたかった私は
「あーとーでー」
と返した。しかし、母曰く……
「大事な話なの。早く来なさい」
大事な話、と言われればすぐ行くしかないだろう。
……?あれ、夢と同じではないか。
とにかく私は1階のリビングに向かった。
「話って何、母さん」
「よく聞きなさい……あなたは……」
ゴクリ。
「あなたは今日から美少女戦士よ」
どがっしゃん。夢と同じように私はずっこけた。
おわり
かなりのスレ汚しになってしまった。
もっとも、お風呂に入っていてのぼせたテンションで思いついた話なわけで。
そして、なんだこのオチは。
とにかく、すみませんでした。
227 :
創る名無しに見る名無し:2010/04/24(土) 21:22:04 ID:qiw3iWIG
いいじゃん面白いじゃんw
ここで終わらずに是非とも続きがみたいなぁ
それにしても変身後のコスチュームといえば魔法少女や変身ヒロインの
大事な要素の一つなのにそれが白鳥バレリーナってだけで想像して吹いたw
>>227 感想ありがとうございます。
急に降ってわいたアイデアでした>白鳥バレリーナな変身ヒロイン
続きは……未定です。
メルナ作者はどこに行ったのだろう
忙しいのかな
>>211 忙しいのと規制もあったから
投下数が少ない
231 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/06(木) 18:52:53 ID:BCP6Il/s
保守あげ
233 :
創る名無しに見る名無し:2010/05/14(金) 18:18:23 ID:vNr2Q2/i
ぶっちゃけ言って今、どれぐらいの人がここにいるかな。
昔、点呼取った時はそれなりに人がいたが、ROMってるだけって人も多かったしなぁ
234 :
◆4EgbEhHCBs :2010/05/28(金) 21:57:31 ID:fMDSw+1N
どうもお久しぶりです。炎術剣士まなみとか戦乙女メルナとかの作者です。
エイプリルフールのネタ以来、書いてませんでしたが
久々に投下致します。それではよろしくお願いします。
時空想士アリス 第一話『アリス変身!時空大混乱』
鮮やかな青空と活気のある空間の下、人々がそれぞれの生活を営んでいた。
いつまでも続く平穏……だが、そんなものはいつまでも続きはしない。
突然の巨大な破裂音と爆発に、一気に人々はパニックに陥った。まるでSF映画のように
空から飛来する謎の生物群。不気味に触手を動かし、緑色の湿った身体をしている
トカゲのような生物たち。
彼らは、次々と人々を嬲り殺し、蹂躙していく。この惨劇を止めるものは、どこにもいない。
……その時だった。一筋の閃光が走り、悪行を働くトカゲの一部が吹き飛んだ。
人々も、トカゲたちも、その光の方へと視線を移す。
そこには、十数名の少女たちの姿が。ただの少女ではない。ある者は着物を着飾り、刀を帯刀している。またある者はチャイナドレス風のコスチュームを纏っている。
彼女たちは目にも留まらぬ速さでトカゲどもに接近したかと思うと、着物の少女は
抜刀し、次々と敵を斬り裂き、チャイナドレスの少女は拳法で打ち倒していく。
さらにまた別の方向から閃光が走り、爬虫類たちが吹き飛ばされた。
今度はレオタードに装甲を纏った武装した女性たちがナイフ、銃、鞭などの武器を駆使し
トカゲたちを一掃していく。為すすべなく、彼女たちの活躍によりトカゲの軍勢は全滅した。
だが、平穏はすぐには訪れない。今度は空から鳥の怪物たちが襲来し、少女戦士たちに
攻撃を仕掛けてくる。もちろん、彼女たちは反撃するが、空を飛び回る敵に対し、
有効な攻撃はなかなか出来ない。
と、その時であった!新たに露出の激しい、いわゆるビキニアーマーを纏った
少女戦士が新たに現れ、彼女たちは空を飛び、持っている得物で敵を一網打尽にする。
こうして、人々を襲う悪しき輩どもは少女戦士たちによって全滅させられたのであった。
―――という漫画を読みましたわ!
アメリカ・サンフランシスコのハイスクールでは授業も終わり、放課後の各々の
気ままな時間が流れている。フランス人の少女、ジャンヌ・シャルパンティエは友人の
アリスに突然話しかけられたかと思うと突拍子もなく、この前読んだという漫画の話を聞かされていた。
どう反応していいものか困りジャンヌは苦笑いを浮かべていた。
「あら、ジャンヌ?なんだか、嫌々聞いていそうですわね…?」
「そ、そんなことないよアリスちゃん!ふふ、あはは…」
乾いた笑い声を上げるジャンヌに、銀髪の長い髪を掻き分けてアリス・ブロウニングは
怪訝な視線で彼女を見つめる。
「まあ、いいですわ。それよりも、明日はレスリングの練習があるんですの?」
「ううん、明日はお休みだよ。それがどうかしたの?」
格闘技の練習が休みと聞くと、アリスはその蒼い瞳をきらきらと輝かして、ジャンヌの手を握る。
「それなら!明日、うちに遊びに来ませんこと?たっぷり持て成してあげますわ!」
「え?いいよ、そんな…」
「いいから来なさい!ね?ね?はい決定!他に予約が入っても全部お断りなさい」
断ろうとするジャンヌの手をさらに強く握り、半ば鼻息荒く、アリスは強引に
彼女を誘う。結局、ジャンヌは諦め、アリスの家に遊びに行くことになった。
―――アリス・ブロウニングの自宅。ここ、アメリカ・カリフォルニア州のサンフランシスコに
拠点を構える、ブロウニング財閥の令嬢であるアリスの自宅は当然のごとく大豪邸である。
ジャンヌが大きな門の横にあるチャイムを鳴らすと、間もなく豪華なファンファーレが響き渡り
門が地鳴りのような音を立てながら開く。
きょとんとしているジャンヌをよそに豪華な演出はさらに続き、門が開き終わると同時に
赤く長い絨毯がジャンヌの足先まで転がり、広がっていく。
「おーほほほっ!ようこそ、ジャンヌ。さあさあ、早く来てくださいな」
「う、うん。ありがとうアリスちゃん……ふう、相変わらずこの出迎え方はなれないなぁ…」
桃色のショートヘアを掻き分けながら、ジャンヌはアリスに引っ張られてお屋敷の中へと入っていった。
案内されて部屋のソファーへと腰掛けるジャンヌ。そして何故か寄り添うようにして
隣にアリスが座り、ジャンヌの手を握る。
「あ、アリスちゃん……スキンシップが…」
「あら、いいじゃないですの。わたくし、あなたのこと好きなんですもの」
そうなのだ。アリスはジャンヌに好意を抱いているが、それは友人以上のものに近かった。
思えば、以前から激しいスキンシップだけではなく一緒に旅行にいけば、二人で同じベッドだったり
手を繋いで遊園地に行ったりと、まるでデートのようであった。
嬉しそうに顔を綻ばせるアリスにジャンヌは苦笑いを浮かべるしかなかった。
しばらくすると、この屋敷専属のメイドが一人、入室してきた。
「失礼します……アリスお嬢様、お菓子の準備が出来ました」
「ありがとう。ジャンヌ、何か飲みたい物はあるかしら?なんでもいいわよ」
「ええっと……じゃあ、コーラを…」
「では、わたくしも同じのを。すぐに用意しなさい」
「かしこまりました。ではジャンヌ様、ごゆっくりどうぞ」
その後、約三分程度で豪華なケーキとクッキー、そして大きめのコップに注がれた
コーラが二人の前にあるテーブルへと運ばれてきた。
「うわぁ〜これ、食べてもいいの?」
「ええ、もちろんですわ。ジャンヌが望むならお持ち帰り用も用意してあげますわ」
「だ、大丈夫。太ると、レスリングの先輩たちにいろいろ言われちゃうし」
ジャンヌが断ると残念そうな表情を浮かべるアリスだったが、すぐににこやかになると
「そう?じゃあ、ブロウニング財閥のシェフを集めてヘルシーなお菓子を今度作らせて
おくから楽しみにしててちょうだい」
と、自分の財閥の力を集結してまでジャンヌのために何かしようとするのであった。
「そ、そうだアリスちゃん。今日は何して遊ぶの?」
自分から話題を振って、ラブラブ空間を抜け出そうとする。だが、その瞬間、アリスの
瞳がキラリと光り、再びジャンヌの手を取る。
「そうですの!何を隠そう、今日はジャンヌに見てもらいたいものがあるんですわ!」
話題の振り方を間違えたか、本日何度目か分からない苦笑を浮かべたジャンヌであった。
「昨日、わたくしが読んだ漫画の話を覚えているかしら?」
「え?う、うん。確か、いっぱいの女の子が悪い奴らをやっつけるって話だっけ?」
「そうですわ。わたくし、あの漫画にデジャブを感じて、文献を調べたところ…」
アリスはどこからか、一冊の本を取り出した。漢字で『並行世界見聞録』と表紙に書かれている。
『並行世界見聞録』とは、作者のコルマ・ローポ自身が経験した並行世界の旅路の出来事を
記した旅行記である。だが、実体験としては非現実的で、SF小説として読まれることの方が
多かった書物だ。それをパラパラとページを捲り、あるところでストップすると広げて見せる。
「ほら、これを見てジャンヌ」
そのページの挿絵には炎の術を使い、刀を振るう女侍の姿が描かれている。
無敵の炎の剣士は仲間の水の剣士、雷の剣士と共に鬼を打倒したと説明文が書かれていた。
さらに中華娘の武道家たちが暗黒街を支配する組織を壊滅させたとか、
世界規模のテロ組織を三人の女傭兵が政府に協力して本拠地を叩いたとか、
地球を支配した悪魔どもを全滅させ地球を解放した戦乙女とか、
どれもこれも、現実としては信憑性の薄い、まさに体験談というよりは小説的であった。
「なんだか、おとぎ話みたいだね。でも、確かにアリスちゃんが見た漫画の話に似てるかも」
「そうでしょう?別の世界では戦うヒロインというのが確かにいるんだとわたくしは
信じてますわ!そう…ジャパニーズアニメーションのような!つきましては
わたくしも彼女達と同じようになりたいと…そこで!財閥の力を結集して……!」
アリスのテンション高めの台詞回しが続き、部屋の奥のカーテンをシャっと開けると。
「わたくし専用のバトルスーツを作ってしまいましたの!!」
ジャジャーン!!なんて効果音が付きそうな感じでアリスはジャンヌにスーツを見せつけた。
赤と白を基調としたワンピース。胸や肩にはアーマーが付いているというベッタベタなデザインだ。
「ゆ、夢の影響でこんなの作るなんて、すごいね、アリスちゃん…」
呆気に取られているジャンヌにお構いなしでアリスは話を続ける。
「そして…今日、あなたをここに呼んだ理由は…そう!わたくしの初の変身シーンを
見てもらいたかったからですわ!」
「はあ……」
「いきますわよ……」
指をパチンと鳴らすと、アリスの服が弾け飛び、裸体となりバトルスーツがその身に纏われていく。
アーマーのついたグローブとブーツも装着され、光を放ちながら最後にビシッと決めポーズを取る。
「アリス!変身完了…ですわ!」
「おおーっ!!」
と、声を上げたのはジャンヌではなく、いつの間にやら集まっていた屋敷に仕える
メイドや警備員たちであった。
「さすがですアリスお嬢様!」
「なんともお美しい……!」
賛美の声に軽く目を瞑りながら、アリスは片手を顎に当てる。いわゆる高笑いポーズだ。
「おーほっほっほ!!そうでしょう?わたくしの美しさは当然パーフェクトですからね!」
高笑いし。周りも拍手喝采、だがそれを呆然と見ていたジャンヌは疑問を浮かべた顔でいた。
「あら?どうしたのジャンヌ?わたくしの姿に見とれて声も出ませんこと?」
「いや、変身とかすごいよ…だけど…あの話を聞く限り、悪い人と戦うってことなのかな?」
「ええ、そうでしてよ。わたくし、コスプレがしたいわけではありませんからね」
「じゃあ、戦う相手って誰かいるの…?」
その一言で一瞬にしてその場が凍りついた。そりゃそうだ。漫画のように、巨大な
悪の組織など、この世界にはいない。悪い奴らだってあくまで人の範疇だ。
「な、なんということ……!わたくしとしたことがそんな大事なことを見落としていましたわ!
ええい、セバスチャン!!」
指を鳴らしながら、執事の名を呼ぶと、シュタ!っと白髪と髭を蓄えたナイスミドルが
その場に瞬時に現れた。
「お呼びでございますか、アリスお嬢様」
「すぐに悪の組織を用意しなさい!!」
「かしこまりました」
いや、かしこまらないでとジャンヌは突っ込もうと思ったが、暴走したアリスを止めることは
出来ないとわかってもいるので、やめた。
だが、そんなことをアリスが要求した次の瞬間、突然、屋敷の外からゴゴゴゴ…と地鳴りがする。
「何事ですの!?セバスチャン、もう敵組織の準備が整いましたの?」
「いえ、お嬢様違います!ホワイトハウスからの報せによりますと、これは凶悪宇宙人、
キッカーケ星人の仕業とのことです!」
「う、宇宙人なんですかぁ?あ、アリスちゃん、逃げようよ!」
慌ててアリスに逃げるよう促すジャンヌであったが、彼女はむしろニヤリと笑みを浮かべた。
「セバスチャン!ジャンヌと、屋敷の使いの皆さんのことをお願いしますわよ」
「ええっ!?アリスちゃん、まさか……」
「宇宙人ですって。わたくしの力を試すのにちょうどよいではありませんこと?
それでは、セバスチャン、後はよろしくですわ」
「かしこまりました。アリスお嬢様、どうぞお気をつけて」
ええ、と返事をするとアリスはひょいっと、こんなこともあろうかと用意しておいた
テレポーターで現場へと瞬時に移動していった。ジャンヌは心配そうな目付きでいるが
間もなく、セバスチャンに案内され、地下シェルターへと移動を開始した。
───サンフランシスコ上空
キッカーケ星人の巨大宇宙船がその姿を現し、辺りを破壊光線で破壊尽くしている。
そこにアメリカ空軍の戦闘機が編隊を組んで現れた。
『攻撃目標、キッカーケ星人の宇宙船だ!』
『了解!!』
戦闘機の群れが一斉に、宇宙船へと機関砲を発射していく。だが、乾いた音を立てながら
機関砲は弾かれてしまう。逆に、お返しとばかりに放たれた光線で次々と、殺虫剤を
撒かれた害虫のように戦闘機は墜落していく。
『うああああ!!脱出だ!!』
『傷一つつかないとは…む、無念だ!』
宇宙船の中にはキッケーケ星人とその王であるドン・ホッタンの姿がある。
いずれもタコのような姿をしているステレオタイプな宇宙人たちである。
ドン・ホッタンは空軍の戦闘機が落ちる様を見てガハハと大笑いしていた。
「地球人の猿どもめ!我らの要求に応えなかったことを後悔させてくれるわ!!」
なおも破壊行動を続けるキッカーケども。そして地上では逃げ惑う人々。
まさにB級SF映画のような展開が続く中、突然、宇宙船に一筋の閃光が走った!
その衝撃で宇宙船は一発で墜落する。
「うおおおお!?な、なんだこれは!?」
慌てて外に飛び出すドン・ホッタンとキッカーケ星人たち。彼らの目の前に
現れたのはバトルスーツを身に纏ったアリスの姿であった。
「ふっ……こっちがわざわざ悪の組織を作らなくても、勝手に現れてくれるなら好都合!
せっかく作ったバトルスーツの性能、あなたたちで試させていただきましてよ!」
「だ、誰だ貴様ぁ!?」
ドン・ホッタンの問い掛けに、アリスはくるりと回ってポーズを気める。
「わたくしは、アリス・ブロウニング!そう、時空想士アリスとでも名乗りましょうか」
「アリスだかアイスだか知らんが、ここから生きて帰れると思うなよ!」
一斉に襲い掛かってくるキッカーケ星人の軍勢。
「ディメンジョンメーザー!!」
アリスがどこからかスティックを取り出すと、そこからブォン!という音を立てながら
レーザー剣が飛び出す。闇雲に突っ込んでくるだけの敵軍は次々に切り倒されていく。
「わたくし、こう見えても剣術には自信がありましてよ?……むっ!?」
何かを感知したアリスは後ろに飛びずさる。見ると、さっきまでアリスが立っていた場所に
銃弾が飛んでいたのだ。
「まったく狙撃とは卑怯極まりないですわね!ガンモード!」
ディメンジョンメーザーを銃の形へと変形させると、崩れたビルの上にいたキッカーケ星人を
見事撃ち貫き、ドロドロに溶けながら狙撃兵は消え失せた。
追い詰められたドン・ホッタンは歯軋りをしながら後ずさる。見た目はタコのくせに
どうやら歯はあるようだ。
「くっ、くそ〜貴様如きに…」
「教えてもらえるかしら?どうして攻撃してきたのか?」
「…わしらは、フラット、いやフラっと地球に遊びに来た。
そこでトウモロコシというものを食べた…これがわしらの星にはない美味い食い物だった。
それで農家の人に分けてもらおうとしたら、金を払えという。地球の金なんか持っとるわけないだろう」
そう言うと、地面にダンッ!と勢いよく手を突いた……足かもしんない。
「少し善意でわしらにトウモロコシくれればこんなことせえへぇんわぁ!!」
と、微妙に関西弁混じりで告白するドン・ホッタン。あまりにもくだらない理由、
そして面倒な奴。アリスは冷ややかな目線を送る。
「……初陣の相手がこんなオトボケなデビルフィッシュとは思いませんでしたわ。
いいわ、もう。ここでBON!よ!」
「おおっと!それ以上動くでない!!」
そう言うとボスタコは、もそもそと懐から丸いステレオイメージな爆弾を取り出した!
懐なんてあるのかどうかはわからない。
「こいつはわしらが作った爆弾…ただ爆発するだけではないぞ!世界中を包み込むほどの
巨大な爆風を起こし、別の世界にまで影響を…ぶへっ!?」
説明の途中であったが、さっさと終わらせたいアリスは巨大な削岩機のようなものを
取り出し、その先端の銛を飛ばして突き刺した。
「ふっ…だったら爆発させる前にあなたを倒せばいいだけの話ですわ。そ〜れそれ!!」
ポンプをシュコシュコと動かすとドン・ホッタンの身体に空気が送られ、まるで風船のように
膨らんでいく。
「うおあああ〜っ!!ば、爆弾を……」
「プクプクゥ〜…ポン!ですわ!!」
なんとか足掻いて爆弾を起動させようとするが、その前に限界以上に空気を送られ
ドン・ホッタンの肉体は風船のそれと同じようにグロテスクに破裂してしまった。
「ふう…終わりましたわね。まったく手応えのない相手でしたわ」
残念そうにしながら、辺りを見渡す。キッカーケ星人の破壊尽くした街並みと
そんな彼らの肉片が残るのみである。
『アリスお嬢様、お見事でございます』
『アリスちゃん、すごかったね。で、でも心臓に悪いなこの光景』
戦闘終了を確認した屋敷に残っていたセバスチャンから通信が送られてきた。
一緒にジャンヌの声も。ただ、彼女はこの惨状に、少し気分を悪くしているようだ。
「ありがとう、セバスチャン。…ごめんなさいね、ジャンヌ。わたくしとしたことが
少し熱くなりすぎてしまったようですわ」
ふと、アリスの目にキッカーケ星人の残した爆弾が入る。
「まったく、トウモロコシ如きでこんな大層なものを使おうとするとは…お笑いですわ」
なんとなく足で小突く。その時、ピッ、ピッ……と小さな電子音が鳴り出した。
「え?…ま、まさか?」
アリスの目が点になってる間も電子音は止まない。側面には00:00:02と表示されていた。
「きゃああああああああああ!!」
当然、止める間もなく、青白い閃光を放ちながら爆弾は爆発をした。その爆発は
サンフランシスコどころか、世界中へと広がっていく。
宇宙から見ると爆発した、というより電磁波の波が地球全土を包み込んでいるように
映っていた…だが、それを確認できるものは誰もいない。
地球はどうなってしまったのか?そしてアリスは……?
解説コーナー
「はぁい!本編には出番がまったくないと思われる解説お姉さんの出番ですよ〜。
って、悲しくなる台本を用意しないでほしいわね!オホン。このコーナーでは、
本編のキャラクターとか世界観とか簡単に説明しちゃおうというものよ。
今回は、当然、アリス・ブロウニングからね。本編の主人公であり、財閥のお嬢様。
漫画大好きなの。それで漫画で見た変身ヒロインに憧れて瞬時に装着可能なバトルスーツを
作ってしまったの。金持ちのやることはわからないわね。
武器はレーザーソードと銃を使い分けられるディメンジョンメーザーと、空気を送って
残酷に破裂死さるエアシューター。さらに財閥特製衛星砲と、金の力を思う存分
見せ付けているわ。それじゃ、また次回もよろしくねぇ」
次回予告
「ブロウニング財閥の令嬢、それがわたくし、アリスですわ。楽勝な敵に勝ったと
思ったらとんでもない目に遭いましたわ、まったく。それにしても、あの爆発の後、
世界中がなんだか変なことになったそうですわ。ま、わたくしには世界がどう変わろうと
取るに足らないことですけど。それよりも、ジャンヌと遊ぶことが重要ですわ。
次回は『ジャンヌ、リングに稲妻走らせる!』はぁ……リングの上で戦うジャンヌも
可愛いですわぁ〜…」
241 :
時空想士アリス ◆4EgbEhHCBs :2010/05/28(金) 22:11:47 ID:fMDSw+1N
◆4EgbEhHCBsさん、新作まってました!
なんという主人公……これからに期待です。
>>234 お久しぶりです
規制の影響で来れなかったのかなと思い、心配してました
珍しくギャグ系?
すいません、ゴミ捨ては前回の一度限りのつもりだったんですが、
またまた余分な産廃が生まれてしまったので恥を忍んでリサイクル投下させて頂きます
これ書き始めた頃は、ネタにしてるゲームはまだ発売したばかりでした・・・
今日もまた、ゲーマーズ達は八重花の家に集まって新作ゲームに勤しんでいるのである。
「我が剣を恐れぬなら、かかってくるがいい!!」
「ものども、八重花に遅れを取るなッ!! おたけびをあげろーーーっ!!」
「お、おぉー?」
「……二人とも、うっさい……」
「ヤエちゃんといいんちょ(だけ)、ノリノリやな」
千里を除いた4人がプレイしているのは、『懺悔の銀鈴』だ。
「はいそこっ、どうしたどうした、あたしを捉えられる奴はいないのっ?」
中でも一番生き生きしてるのは、ハイスピードアクションを最も得意とする八重花である。
敵中に突撃して自ら囲まれながらも、軽快な長剣捌きと身のこなしによって、四方から向かい来る敵を全て叩き落している。
「ふぅん、アクションゲームってのも慣れれば意外と簡単だね」
苦手なはずのアクションなのに意外と絶好調なのが佳奈美である。
最初はガード可能な片手剣装備で慎重に立ち回っていたが、
大槌の攻撃モーションにガードと同等の効果があることに気付くと、
ブロッキングが得意な彼女はあらゆる敵の攻撃にカウンターを重ね続け、次々と死体の山を築いていった。
「上機嫌なところ悪いんやけど、被ダメ抑えるだけで無敵やないんやから、そろそろ回復取らんと死ぬで?」
一方、亜理紗は近接武器を一切持たず、狙撃弓と拡散弓を使い分けて次々と敵を射殺していく。
「亜理紗は妹のほう使う思っとったんやけど、兄のほうとは意外やなぁ」
「……あんなボムゲーキャラ嫌……ああいうのは昌子に任せる……」
「おっほっほ、極大魔法連発で死者累々ですわっ!!」
「敵はともかく、いいんちょの死体まで積み上がっとるやないけ!」
MPが切れる度に『死亡→復活→MP全回復!』ということを繰り返している昌子は、
パーティ全体の共有復活ストックを一人でどんどん消費していくのだ。
結局、クリア寸前で4つしかない共有ストックを昌子が全て使い果たし、ゲームオーバーとなる。
当然ながら、昌子は全員からフルボッコにされる。
「この穀潰しっ!! あたしなんて一発も攻撃もらってないんだよっ!!」
「……弱いくせに……前線出るな……」
「何度も回復譲ってあげたんだがなぁ」
「まま、落ち着けや! ほな、たまには番組見ようや! TV番組!」
場を和ませようとTVのチャンネルを切り替える千里。
すると、映ったのは女子空手の世界大会の中継だった。
「あっ、決勝はこんな時間からでしたっけ!?」
慌ててTVの前に這い寄って、正座待機する昌子。
「なんやいいんちょ、スポーツ観戦とか好きなんか?」
「いいえ、これっぽっちも! でもこういう話題性のある出来事はチェックしておかないと、一般人のフリができないんです!」
「く、苦労してはるなぁ……」
TVの中で、屈強そうな外人選手と、あまり体躯の大きくない日本人選手が対峙する。
「この日本人選手、なんて人だっけ? 確か有名な人なんでしょ?」
「え、ええっと、確か……工藤なんとか」
「須藤武美だよ。31歳にして衰えを見せない名選手だ。今大会でも優勝は硬いと言われてる」
ウロ覚えの知識を搾り出そうとする昌子をさえぎり、八重花の疑問に答えたのは佳奈美だった。
そう言ってTVを注視する佳奈美の瞳は、抑え気味ではあるものの少女のように輝いていた。
「おっ、詳しいやんか佳奈美」
「……佳奈美の……数少ない得意ジャンル……」
「そういえば、佳奈美って昔は空手やってたんだっけ?」
「ま、ね……。でも昔のことだよ」
「あっ、始まりますわよ!」
勝負は、あっという間についた。
優勝者は、下馬評どおりに須藤武美。
「へー、パワードアーマーも無いのにすごいスピード!」
「たまには本職の技を見るのもええなぁ」
「そうだ、今度佳奈美さんにも空手を披露して頂きましょうか!」
「……ごめん。あたし、ちょっと風に当たってくる」
「あ、あれっ!? か、佳奈美さん……?」
先ほどと打って変わって、急に表情に影を落とす佳奈美。そのまま昌子の言葉には答えずにベランダに出る。
佳奈美の思わぬ態度に狼狽した昌子は、慌てて亜理紗に小声で尋ねる。
「あ、あの……私、何か余計なことを言ってしまいましたか!?」
「……多分……悔しいんだと思う……」
「悔しい?」
亜理紗はチラリと佳奈美の背に視線を投げかけ、すぐに戻す。
佳奈美の表情はここからは伺えないが、その大きな背中はどこか寂しそうに思えた。
「……佳奈美……格ゲーに出会う前は、空手選手になりたかったんだって……」
「へぇー、あの運動音痴の佳奈美がねぇ」
「あっ、選手になりたくても運動音痴だから!」
「諦めざるを得なかった……っちゅーことかいな」
ゲーマーズ達の心配げな視線が、佳奈美の背中に集まる。
そんな自分を気遣う仲間達のことを知ってか知らずか、佳奈美は柵に寄りかかったまま空を眺め続けているのだった。
おそまつさまでした。
本編も6月中には投下・・・できたらいいなぁと思います。
ところで上のほう(と言っても大分前ですが…)で声優の話があったので、
俺もちょっと息抜きがてらに適当に配役を考えてみました。
佳奈美:浅川悠
亜理紗:桑島法子
千里:久川綾
八重花:岡村明美
昌子:天野由梨
他はともかく、佳奈美が浅川悠ってのだけはガチ。
八重花の岡村明美はショタ系ボイスでよろしく!
250 :
時空想士アリス ◆4EgbEhHCBs :2010/06/08(火) 22:54:10 ID:pUtk70B1
どもども。アリス第二話ただいまより投下します。随分長くなりました…w
時空想士アリス 第二話『ジャンヌ、リングに稲妻走らせる!』
地球を覆った電磁の網は、いつしか消えてなくなり、世界は…新たな姿を見せる。
アリス・ブロウニングがキッカーケ星人を全滅させたあの日。奴らの作ったという爆弾を
誤って起動させちゃったアリス。大爆発というレベルじゃねーぞと、みるみるうちに
爆風は地球上に広がった。地球終了と言う感じなぐらいに。
しかし、地球はもとより、間近で爆発を受けたアリスにも傷一つつかずに、爆発は収束していった。
だが、代わりに…アリスたちのいた世界は、並行世界がいくつも融合したカオスなせ界へと
変わっていたのだ!ただ、意外なまでに大きな混乱は起こらず、他の世界の組織である、
地球統一政府と地球防衛軍が協力し合い、混乱を防ぎ、治安維持に当たっていた。
「……ということらしいですわ」
説明は地の文に任せて、アリスはソファーの上で寝転びながら、ジャンヌに伝えた。
「ということって…ねえ、アリスちゃん。これってものすごくヤバいことをアリスちゃんは
してしまったんじゃ…?そもそももっと段階を追って説明すべきなんじゃ…」
「もうジャンヌったら。いいじゃないですの。世界がどうなろうと、わたくしとあなたの間の
愛には何にも変わることはないのですから」
「あ、愛って……」
「とにかく、ほら、ここで一緒に眠りましょう?」
アリスの強引な誘いに、ジャンヌは結局断れず、一夜を供に…性的な意味ではない。
「それでは、今回のお話の始まりですわぁ〜」
とにかく、なんやかんやで世界が大きく変化しているなか、地球の外から
招かれざるお客様が現れていた。
彼らの母艦内の中心にある大きな大きなルーム。よくある地球の様子を
簡単に見ることが出来る巨大モニターと、それをよく見ることが出来る玉座っぽいの。
その玉座に座っているウェーブのかかった金髪ロングヘアーの赤い瞳の女を中心に
その両隣には活発そうな顔をした緑色のショートヘアの髪をした女、
そして大人しそうな紺色の同じくショートヘアの髪をした女が立っている。
「ついに地球に到着したのね…長かったこと」
「オハミル様、何故このような辺境の星にやってきたんです?遠くて侵略価値も無さそうですが…」
と、紺色髪の女が中央の金髪女の名を呼びながら聞こうとする。
「そんなの決まっていましてよ。地球の文化って素晴らしいけど、地球人如きには
もったいないでしょう?私たちで独り占めして差し上げますのよ!分かったかしら、ヒユロカさん?」
「は、はぁ……」
前回のキッカーケ星人と同じく、やはり理由としてはくだらないのであった。
「イチリユさん、進路を地球のアメリカという国に向けなさい」
「はぁい、了解!でもアメリカに何があるんです?」
イチリユと呼ばれた活発な緑髪の少女が聞くと、オハミルは手を顎に当てる。
「おーほっほっほ!!私たち、自慢の生物兵器……それのテストにちょうどいい場所を
見つけましてね……今から殴りこみをしますのよ」
彼女たちの乗った母艦はアメリカ・サンフランシスコへと向かって大気圏突入を始めた。
さてさて、そんなことを知るよしもないアリスたち。ある日、ジャンヌがアリスの屋敷へと
やってきた。その表情はやけににこやかだ。
「こんにちは、アリスちゃん!」
「あら、いらっしゃいジャンヌ。あなたから来るなんて珍しいですわね?」
「えへへ。あのね、アリスちゃん。今度、これ見に来てほしいんだけど…」
と、アリスにジャンヌは一枚のチケットを手渡す。
「こ、これは…!」
「そう、あたしの試合のチケットだよ。先輩とタッグ組むことになったの!」
ジャンヌが渡したチケット、それは自分のレスリングの観戦券。
「久々に試合ですのね。だけど…大丈夫ですの?」
「大丈夫って何が?」
「何がって…あなた今までの試合でもいつも泣かされてるじゃないですの」
ジャンヌ・シャルパンティエ。プロレスをやってるくせに本人の性格は至って
気が弱く、暴れることは好まない。なんでプロレス選手になったのかが不思議なのである。
───試合前日。愛しの彼女が心配なアリスはジャンヌの所属しているプロレス団体の
練習を見に行くことに。
ジムの中に入ると、先輩の指導を受けながら、練習をしているジャンヌの姿が。
「こんにちはですわ」
「おう、アリスのお譲ちゃん。元気してるか?」
呼びかけるとジャンヌを指導していた先輩であるダイアナが返事をする。
「ええ、おかげさまで。ダイアナさん、ジャンヌはどうなんですの?」
とにかくアリスはジャンヌが心配でしょうがない。こんなことを聞いたのも
心配なのはもちろん、ジャンヌはデビュー戦からほとんど黒星続きで、
専らアイドルレスラー状態だからだ。
あまりにいいヤラれっぷりに逆にファンはついているが。
「いや、あいつは素質はあるんだよ。技の飲み込みも早いし、腕力も強い。ただ……」
「ふえぇぇ〜〜〜〜んっ!!!」
と、視線を移した直後にジャンヌは突然、泣き出した。
「ジャンヌ、どうしたんですの!?」
「痛いよぉぉ〜〜っ!!」
サンドバックを殴った際に変な打ち方をしたのか、手をブラブラさせて痛みから逃れようとしていた。
「……根性が足りない上に、優しすぎるんだよなぁ」
「ひぐぅ…ごめんなさい……ダイアナさん、ジャンヌちゃん…」
涙を拳で拭いながら上目使いで二人を見つめる。
「ああ!ジャンヌッ!大丈夫大丈夫…この可愛ささえあれば、あなたは私にとっては最強よ!!」
泣いてるジャンヌに寄り添うと頭をなでながら彼女を抱きしめるアリス。
速攻で別の世界に行ったアリスをダイアナは、そっと別の方へと動かすと、ジャンヌの
頭を撫で始める。
「ひっく、えぐぅ……ダイアナさん、あたしどうしたら強くなれるのかな…?」
「ジャンヌ、リングには神様がいるんだ。その神様に強くなりたい…!って願いながら
練習をしてごらん。そうすれば強い漢女にもなれる、頑張れジャンヌ」
「……う、うん!ありがとうダイアナさん!」
慰めになっているのかどうか怪しいが、ジャンヌは何故か納得して、泣き止むと再び練習を再開した。
ちなみにアリスは未だに別世界にワープしたままである。
その夜。ジャンヌは夕食代わりに、帰り道の途中にあった牛丼屋『すきなんや』で
大好きな牛丼を食べることにした。
「牛丼♪牛丼♪おじさん、牛丼の大盛りをください!」
「あいよ!」
ジャンヌの注文に元気よく返事をした店のおじさんは、すぐに大盛り牛丼を用意する。
「ジャンヌちゃん、明日は試合なんだって?頑張ってな!」
「うん、そうなんだ。ありがとうおじさん!」
牛丼を受け取ると、すぐに食べ始める。五分と経たずに、あっという間に完食したジャンヌ。
その口の周りには米粒が二、三粒ついたままである。
「ふう〜おいしかった!ご馳走様、おじさん!えーと…380円だっけ」
「ああ、今日はおじさんの驕りでいいよ!明日の試合で頑張って勝ってくれよ!」
「ええ、いいの?……ありがとう、また食べに来るよ」
気前のいいおっさんに、ジャンヌは申し訳なさを感じさせずに敢えて元気に
お礼をして店から出て行った。
「うん、みんな応援してくれてるんだもん。明日の試合は絶対泣かないように頑張ろう!」
帰り道で明日に向けて気合を入れなおすジャンヌ。と、その時であった。
突然、目の前に黄金に輝く光が現れ、ジャンヌの目を眩ませる。
「きゃあっ!!な、なに…なんなの!?」
怯えて、今さっきの誓いをすぐに忘れたかのように涙目になるジャンヌ。
ただ、光は優しげに、温かみのある声で彼女に話しかけてきた。
「怖がらせてすまない、少女よ」
「ふえぇぇ……あ、あなた誰なんですかぁ?」
「私は、そうリングの神様…!」
「ええ!?もしかしてダイアナさんの言ってた神様ってあなたなんですかぁ?」
涙目だったジャンヌは、一気に尊敬の眼差しへと変わり、神様を見つめだす。
「そう、私こそリングの神様である。君のヘタレながらもプロレスに掛ける思いと
牛丼が好きなところに心打たれた。だから私は、君に強くなれるおまじないを
掛けてあげようと思ってね」
多少、馬鹿にしたニュアンスがありながらも、神様は光を纏った手をジャンヌに
向かって伸ばし始める。そしてその腕が彼女の頭の上まで来ると、黄金の光は
そのままジャンヌに向かって流れ始めた。
「あ、あのう……これは?」
「強くなるための力を授けているのだ。これで屁のツッパリはいらなくなる!」
言葉の意味はわからないがすごい自信で語る神様の腕から光の流出が止まると腕を引っ込めた。
「これでよし。よいか、少女よ。強くなるために立ち向かう勇気を持てよ。そして牛丼を
食べることを忘れるな。私のオススメは大盛りよりも1、5盛り丼だ。それでは、さらばだ!」
聞いてもいないのにオススメを紹介した神様は、そのまま背景に溶け込むように消え去った。
「バイバイ、神様……それにしても強くなったのかなぁ?」
消えてく光に手を振って見送ると、すぐさま両手を見つめ首を傾げた。
「いや!自信を持たなきゃ!明日試合なんだし、速く帰って今日は寝なきゃ!」
パンパンと両頬を叩くと、早々に家路へと急ぐのであった。
―――翌日
ついに迎えた試合当日。ジャンヌは体調こそ万全だが、やはり試合の時間が近づくに連れ
緊張が高まり、深呼吸をして落ち着こうとしていた。
「ジャンヌ、大丈夫だ。お前はちゃんと成長している、今回の相手なら勝てる!」
リンコス姿に着替えたダイアナがジャンヌの頭を撫でた。
「う、うん。あたし頑張るよダイアナさん!」
会場の客席はすでに埋め尽くされており、その中にはアリスも特等席でリングを見つめている。
そして、ようやく試合開始の時間となり、リング中央に司会の男が上がった。
「レディースエ〜ンドジェントルメーン!!ただいまより、60分三本勝負のタッグマッチを行います!
赤コォーナァァーッ!!ダイアナ・モーガン&ジャンヌ・シャルパンティエ!!」
司会の紹介と同時に入場してくるダイアナ、そしてジャンヌ。彼女のリングコスチュームは
ヒラヒラのついた桃色の可愛らしい水着である。その姿に会場は熱気に包まれ、歓声が飛び交う。
「きゃああーーー!!ジャンヌ〜!!頑張ってぇぇぇ!!!」
アリスも周りに負けないほどの大声でジャンヌに歓声を浴びせた。それに気づいてか
ジャンヌもアリスの方に向かって軽く手を振る。
「続きまして…青コォーナァァァーッ!!ソフィア・アンマリー&エレナ・ヒューイット!!」
ジャンヌたちの対戦相手がテーマ曲に合わせて入場してくる……そう思われて、会場も
また新たな歓声を響き渡らせようとしている。
と、思われたその時、突然会場の照明が消え失せ、周りは騒然となる。
「ん?こんなことは聞いてないぞ…おーい、どうしたんだ?」
司会が暗闇の中から声を発し、どうしたのか確認しようとする。
だが、その答えが出る前に、照明は再び輝きを取り戻した。
「なんだ、ただの故障か何かだったのか……うわぁっ!?」
光が灯され、再び仕事に戻ろうとする司会の目に飛び込んできたのは…
ジャンヌたちの対戦相手であるソフィアとエレナが血塗れでリングに倒れている光景であった。
それを会場中が確認すると、一瞬にして悲鳴が巻き起こる。
同時に、本来彼女たちが入ってくる方の花道から甲高い笑い声を上げながら
三人の女が入場してくる。
「地球の格闘技選手の実力とはこの程度なのかしら?期待外れですわね」
「なんなんだあんたら?殴りこみでも掛けにきたのかい?」
会場がどよめく中、ダイアナはあくまで冷静に片割れの金髪の女に向かって切り出した。
「あら、違いますわ。私、プロレスなどには興味はございませんもの」
「じゃ、じゃあなんでこんな酷いことを!」
いつもなら泣き出しそうな状況でもジャンヌは勇気を出して聞き出す。
「地球の文化を根こそぎ奪うか、私流に塗り替える…それが私の目的ですわ。
私たちは別の銀河系からやってきたイーロエ・クジツマ・オトラース。
そう、この国風にIKOとでも略してくださいな。私は女王であるオハミル」
「あたしはイチリユだ」
「私はヒユロカと申します。地球の皆さんには申し訳ありませんがただいまより、
このプロレスも私たち流に変えさせていただきます」
そう言うと紺色髪の少女は指をパチンと鳴らした。
すると煙を纏いながら、ブルドックのような顔をし、体型はゴリラのように
たくましい女が現れた!ただ、女と判断する材料は見た目の通り少ない。
一応、ここでは女性と明言しておこう。彼女はリングに上がり、血塗れ二人組みを場外へ投げ捨てる。
「ブルコング!あの向こう側の二人組みを倒してしまいなさい!」
「へっ!少しは楽しませてくれよ?さっき血祭りに挙げたのは1分持たなかったからよ」
ブルコングと呼ばれた怪人女はダイアナとジャンヌの方へと向く。
「さっきから聞いてりゃ勝手なことばかり言いやがって!ここはあたしらプロレスラーが
戦い、お客さんを楽しませる場所。エイリアンだかなんだか知らないが、すぐに土下座させてやる!」
ダイアナは勇ましく、ブルコングに向かってファイティングポーズを取る。
一方のジャンヌはと言うと…。
「ジャンヌ、ビビるな。向こうの好き勝手させていいのか?」
「うう…ダイアナさん……あんな恐い人と戦うなんてあたしには無理だよぉ……」
相も変わらずヘタレな発言をして、ダイアナの影に隠れるようにして震えている。
そんなジャンヌを尻目に、ため息を吐くダイアナ。
「仕方ない……行くよ、ゴリラ女!あたしがあんたの相手をしてやる!」
ダイアナは素早く回し蹴りを放ち、ブルコングのわき腹を狙う!
ヒットから間もなく、逆水平チョップを連続で当てていく。だが、相手は退屈そうに欠伸をかいた。
「ふぁぁ……つまんないねぇ、もっとすごい攻撃を見せてくれよ」
「くっ、なめるなぁ!!」
挑発に血を上らせ、ダイアナはハイキックを放ち、続いてドロップキックを浴びせていく!
打撃と飛び技なら、団体内でも右に出るものはいないダイアナの猛攻が続く。
並みのレスラーならもう立ち上がれないほどの……だが、ブルコングは相変わらず
余裕奈表情のままであり、ダイアナの息が切れ始める。
「く……なんだ、こいつは…!?」
「もう終わりかい?それじゃあ、今度はこっちの番だな」
「ぐはぁ!?」
ダイアナを掴むとニーリフトを叩き込み、続いて彼女を高く抱え上げ、ジャンヌに
向かって投げ飛ばした!
「きゃああっ!!だ、ダイアナさん!!」
「じゃ、ジャンヌ……ひ、ぐあ……」
一瞬にしてゴリラ女の攻撃でダイアナはダウンしてしまった。ジャンヌも、ダイアナの
身体をぶつけられた衝撃が全身に走る。
「さて、今度はお前だな、可愛いお嬢ちゃん」
「あ…あ……!」
「ジャンヌ!!変……身っ!!」
腰が抜けて、どうしようもないジャンヌのピンチを見ていられなくなったアリスは
リング上に飛び上がりながらバトルスーツ姿に変身した!
「アリスちゃん!」
「な、なんですのあなた!」
オハミルが思わず声を上げる。
「わたくしはアリス・ブロウニング。よくもわたくしの可愛いジャンヌに手を挙げましたわね。
IKOだかなんだか知りませんけど、あなた方はわたくしが始末しますわ!」
「ふん、来るなら来な!どうなっても知らないぜ」
ディメンジョンメーザーを取り出し、レーザーソードにすると、果敢に斬りかかって行く。
だが、アリスの放つ斬撃をブルコングは意外なまでに軽やかに回避してしまう。
「プロレスは反則なんえようあることらしいと聞いたからな、武器でもなんでも
結構だけどよ……これじゃ武器があってもなくてもかわらないぜ!!」
「なにっ!?ああああ!!」
ブルコングが延髄蹴りを繰り出し、アリスに直撃!その衝撃でディメンジョンメーザーが
吹き飛ばされてしまう。
「いいですわよブルコング!潰してしまいなさい!」
「はい、オハミル様。それじゃあ遊びは終わりだぁぁ!!」
「ぐっ……うあああぁぁぁぁっ!!!」
隙を逃さず、ブルコングはアリスを抱くようにして掴むと、そのまま凄まじい腕力を
利用し、押し潰そうとする。いわゆるベアハッグだ!これには堪らずアリスも悲鳴を上げた。
「アリスちゃん!!……リングの神様!あたしに力を授けるって言ったよね!?だったら今ください!」
苦しむアリスを見て、ジャンヌは心から強く願う。その時だった…!
突然、ジャンヌの周りから光が放たれそれは彼女を包み込んでいく。
その光は一瞬、周りに衝撃を走らせ掴み挙げられてたアリスを解放させる。
「じゃ、ジャンヌ…?」
光に飲まれていくジャンヌの姿を、アリスは不思議そうに見つめていた。
「ここはいったい…」
周りを見渡すジャンヌの頭に声が響き渡ってくる。いわゆるテレパシーという奴だ。
『ジャンヌよ……今こそ、お前に与えた私の力を発動する時だ!』
「ふぇ!?この声は…神様?でも、どうやって?」
『強くなりたい、誰かを助けたい、そうもっと心に強く念じろ』
「は、はい!」
目を瞑り、先ほどまで以上に強く念じ始める。すると、ジャンヌ自身から、新たに光が
解き放たれていく!水着のようなリンコスは消し飛び、一度、その抜群のスタイルの
裸体を披露すると、すぐに纏われた光が新たなコスチュームを形成していく。
首辺りから股までくっきりとボディラインを見せつけるようにレオタードが纏われる。
色は寒色系の青。背中は開いており、さらにリストバンドとプロレスシューズが
装着された。アイドルレスラーな格好から、本格派女子レスラーの姿へと変身を遂げたのだ!
「こ、これが、あたし……?」
「うむ、見事な変身だったぞ、ジャンヌよ!」
「あ、ありがとう神様……って、あぁぁ〜〜!!」
ジャンヌは突然悲鳴を上げた。というのも、神様が鼻血を垂らしていたからだ。顔よく見えないけど。
「こ、このエッチ!スケベ!!変態!!!」
「うっ…ぎゃあああぁぁ!!」
思わずジャンヌは神様を殴り飛ばしてしまった。少し間を置いてハッとなった
ジャンヌは申し訳無さそうな表情になる。
「あ…ご、ごめんなさい神様。やりすぎちゃった…」
「い、いや、いい……私の見込みは間違いではなかったようだ。さあ行け!ジャンヌ!
君の友達や先輩、お客さんを助けにいくのだ!」
「はい!!」
光は消え失せ、変身したジャンヌは会場へと瞬時に戻った。
「ジャンヌ!!どうしたんですの、その格好は?」
「リングの神様があたしにくれたの……アリスちゃん、あたしも頑張って戦うよ!」
「ふん、生意気な!あたしの力を受けきれるものか!」
ジャンヌは勇ましく立ち向かおうとする……かと思われた。
しかし、ブルコングに威嚇された瞬間、すぐに顔面蒼白になってしまう。
「ひぃぃっ!?いやぁぁ〜〜〜!!恐いよぉぉぉぉぉぉ!!!」
変身してもなんのその、ビビり症が治るわけじゃなかった。すぐに後ろを向いて
逃げ出そうとしてしまう。
「こ、こらジャンヌ!逃げないで戦わないと!」
倒れていたダイアナが叱咤するが、滝のように涙を流しながら逃げ惑うジャンヌには聞こえない。
「へっ!所詮は弱虫か!潰れちまいな!!」
ブルコングはラリアットをジャンヌに向かって放つ。角度といいスピードといいジャンヌが
逃れられるものではない。完璧に決まってしまったと誰もが思った…。
「な、なに!?」
「うぇぇ〜〜ん!!こっちこないでくださぁぁぁ〜〜〜〜いっ!!!!」
ラリアットしてきた腕をジャンヌは無意識のうちに掴み投げ飛ばした。
周りが呆然とするなか、続いてジャンヌはやはり泣きながら相手を掴み、抱え挙げた。
見た目の可愛さからは想像も出来ないほどの怪力でブルコングは軽々と持ち上げられる。
「あっちいってぇぇぇぇーーーーーっ!!!」
勢いをつけてパワーボムを繰り出し、ブルコングをマットに向かって強烈に叩きつけた。
さらによろよろと立ち上がろうとするブルコングの膝の上に足をかけ、回し蹴りを放つ。
いわゆるシャイニングウィザードだ。
「うわぁぁぁん!!」
「ぐ……がはっ!」
堪らず、ブルコングはリングにうつ伏せでダウンした。
「ジャンヌ!すごいじゃないですのあなた!」
「あ、あれ……アリスちゃん?…ふぇ!こ、これどうしたの!?」
「どうしたのって、あなたがやったんじゃないですの」
「あ、あたしが……?無我夢中で何が何だかわからないよ」
だが、まだ戦いは終わらない。ブルコングはしつこく再び立ち上がる。
「くっそ……こんなガキに倒されてたまるかってんだ!」
「いやぁぁ!!まだ来るのぉっ!?」
突撃してくるブルコングに、顔を背けるジャンヌ。
「ジャンヌ!!フランケンシュタイナーだ!!」
「…!?は、はい!!」
体当たりが決まるかと思われた瞬間、ジャンヌは背後からのダイアナの指示を受け
飛び上がり、足でブルコングの頭を挟み込む!そしてそのまま反り返りながら
勢いを利用してブルコングを投げ飛ばした!
「ぐあああぁぁっ!!」
マットに叩きつけられ今度こそ完全にダウンするブルコング。
すると、その身体が発光しだし、醜い顔や肌がドロドロに溶けた姿へと変わっていく。
「まさか、ブルコングをここまで叩きのめすとは驚きですわ…でしたが、真の姿を
現した彼女には勝てませんわよ!」
なおも、ジャンヌたちに襲い掛かる元ブルコングのモンスター。
その光景にジャンヌはおろか、会場中が悲鳴を上げる。
「ふぇぇ…!もうやだよぉ……!」
なおも襲い掛かる相手に、嫌気が差して、泣き言を言い出すジャンヌ。
しかし、そんな彼女の頭にまたリングの神様の声が響き出す。
『ジャンヌよ!私の与えた力はそんなものではない!真の力を発揮するのだ!』
「い、いったい、何があるの?」
『よいか……これを使え!!』
「ええ?これを使うの?」
「何をゴチャゴチャ言ってますの!ブルコング!やってしまいなさい!!」
ブツブツ呟いているジャンヌに向かって怪物が腕を振り上げ突撃してくる。
「もう!!今度こそ冥土に行ってくださぁぁい!!!!」
叫ぶジャンヌの腕に光を纏って現れたそれは―――超巨大ハンマーである。
1000万tとか書いてあり、それを勢いをつけ振り降ろした!
「グギャ!!!」
短くも痛々しい悲鳴を上げ、ハンマーの下敷きとなったブルコングは今度こそ倒され
―――ミンチより酷くなった。あまりに凄惨な光景に会場中も、IKOも、ダイアナも、
アリスも、そして殺った本人であるジャンヌも絶句していた。
「ぷ、プロレスじゃ…ない」
ダイアナがぼそりと呟いた。しばしの沈黙が流れた後、ようやく我に帰ったIKOのオハミルは
悔しそうにハンカチを噛みだす。
「きぃぃぃぃ!!よくも私たち自慢のブルコングを!!お、覚えてなさぁぁぁぁいっ!!」
「ああ!オハミル様待ってください!!」
「そ、それでは地球の皆様、今後ともよろしくお願いします」
オハミルが走って会場から逃げていくと、その後をイチリユが追い、ヒユロカは
会場中に一言挨拶してから去っていった。
会場中が今の連中はいったい…といった雰囲気に包まれていた。
だがその直後、一斉に大歓声が沸き起こり、ジャンヌはダイアナに頭を撫でられた。
「すごかったじゃないか、ジャンヌ!」
「あ、ありがとうダイアナさん!あたし、リングの神様からこの力をもらったの!」
「昨日の話してやったあれか……まさか本当にいるとは…冗談だったのに」
「あれ?ダイアナさん、なんか言った?」
「い、いやぁ、なんでもない」
ボソっと呟くダイアナだが、すぐに咳払いをして再びジャンヌの方を向く。
「でもな、ジャンヌ。今回はエイリアンが相手だったからともかく、実際の試合の時は
変身は無しだぞ、明らかにズルだからな」
「はぁい!ベビーフェイスだもん!そんなことはしないよ!」
ジャンヌの言葉を聞き、うんうんと頷くダイアナ。
「ジャンヌッ!本当に良い戦いでしたわ!あなたの変身記念に今日はわたくしの屋敷で
パーティーをしましょう!」
「そ、そんなぁ、悪いよアリスちゃん」
「いいからいいから。すぐに手配しますわ。ダイアナさんもいかがです?」
「おっ、あたしもいいのかい?それじゃ、ジャンヌ、せっかくだからお言葉に甘えないか」
「う〜ん…じゃ、じゃあ、アリスちゃんご馳走になるね!」
「はぁーい!ああもう、なんて可愛い笑顔…!」
存分にジャンヌの笑顔に惚れ惚れすると、アリスは携帯を取り出しすぐに屋敷に連絡をした。
正式な試合はしてないのに、会場中はとにかく盛り上がっていたその一方で……。
花道に倒れていたソフィアとエレナがそのまま、口を開いた。
「エレナ、生きている?」
「ええ、なんとかね……」
「完全に忘れ去られているわね、私たち……誰も救急車も何も呼んでないみたいだし」
「くっ……次こそ、あたしらが、せっかくだから赤い血の雨降らせてみせるわよ…」
二人が乾いた笑いをすると、同時にまたバタリと寝た。とりあえず、台詞がないまま退場より
マシだと、少しでも気持ちを妥協させてから。
解説コーナー
「はぁい、解説お姉さんです。今回は冒頭でいきなりいろんな世界が融合しちゃったわ。
でもそんなことが起きても特に誰もあまり気にしていないみたいね。と、言うより
その辺の描写が面倒なだけなのかも…ううん、なんでもないわ!
でもスパ○ボZとかディ○イドとかナ○カプの影響は間違いなく受けているわね。
さてさて、キャラクターはジャンヌ・シャルパンティエちゃんね。彼女の国籍はフランス。
名前はジャンヌ・ダルクにあやかって付けられたんだけど、本人は気弱でビビりでヘタレという
どうしようもない有り様よ。それなのに格闘技好きでプロレスやってるんだから不思議よね。
戦うときはやはりプロレス技全般が格闘スタイル。パワー技、投げ技、関節技、飛び技と
だいたいの技は使えるみたい。あと、どこから10000万tハンマーを呼び出して相手を
叩き潰すことも出来る…ってプロレスじゃないわね、これ」
次回予告
「ジャンヌ・シャルパンティエですぅ!あわわ…あのブルコングさん、ミンチより
酷いことになっちゃいました……まあ、そんなことよりも、あたし、最近誰かの
視線を強く感じるんです。でも、アリスちゃんじゃないみたいなの。そもそもアリスちゃんなら
あたしを見るなりハグしてくるし…。
次回『鈴音、メリケン修行の旅!』って、鈴音誰ですかぁ!?」
260 :
時空想士アリス ◆4EgbEhHCBs :2010/06/08(火) 23:08:04 ID:pUtk70B1
投下完了!ところどころ名前が前作になっているのは気にしないでくださいw
最終回どころかまだ第二話なのに、結構長くなりました。
呼んでいただければ幸いです
>>242 どうもです。今までとは違うタイプの主人公になればと思いますw
>>244 よくよく思えば今まではコミカル要素が少なかったのでたまにはということでw
今日もチャット行ってみますね。
>>241です
乙でした
リングの神様(CV神谷明)www
262 :
創る名無しに見る名無し:2010/06/09(水) 23:52:49 ID:veVQT0TA
投下乙です。こんなに気弱なヒロインはなかなかいないw
まなみ作者のSSの中で一番面白い
キャラ立ってる
>>263 ある意味、酷い言い方だなw
まあ、今後の展開に期待
265 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/01(木) 05:43:09 ID:SL4t0Q/o
保守
266 :
◆4EgbEhHCBs :2010/07/06(火) 23:57:20 ID:gQQQ7T89
一ヶ月ぶりです、ようやく第三話出来たので投下します
時空想士アリス 第三話『鈴音、修行しにやってくる!』
太陽が昇り始め、朝日が差し込んでいるこの時間。サンフランシスコ国際空港に一機の
ジャンボジェットが入港してきた。しばらくして、ジェットに乗っていた乗務客がそれぞれの
ペースで降りてくる。その中には輝く黄金のような色つきをしている長い髪を流し
大正時代の女学生のような和服を着飾った少女の姿が。その左手にはズタ袋が握られている。
彼女は空港の窓からサンフランシスコの街並みを眺めだした。
「へぇ……初めて来たけど、いい街(とこ)じゃないの……ここにはどんなうち好みの女がいるかなぁ」
ボソりと呟くと、彼女は空港ロビーへと向かって歩き出した。
その頃、サンフランシスコのずぅっと地下の方。人知れず基地らしきものが作られていた。
その中には前回、IKOと名乗った三人の姿がある。
「あーあ、前回は失敗しちゃいましたね、オハミルさまぁ」
体育会系脳筋娘のイチリユが言う。そのことを聞くとオハミルはみるみるうちに
顔を真っ赤にしていく。
「きぃーっ!!あのアリスとジャンヌとかいう娘っ子が邪魔するからですわ!
ヒユロカさん!何か、地球でぶっ壊すのにいい文化はありまして?」
「ええと……ちょっと待ってください」
頭脳派且つ、IKOの苦労人ヒユロカが何やら目の前のモニターに向かって
打ち込み始める。しばらくすると、モニターにデータが無数に表示されるが
宇宙人の言語なので地球人には理解できないので説明は省く。
「このアメリカではベースボールというスポーツが大変盛んだそうです」
「なるほど…じゃあ、そのベースボールを私色に染め上げて、ヒーヒー言わせるのも
面白そうですわね。それで、そのベースボールが行われているところは?」
「近くならここですね」
モニターに表示された赤い点を指差すヒユロカ。それを見るとニヤリと笑みを浮かべたオハミル。
「じゃあ、すぐさま、レッツゴーですわよ!二人とも!」
オーホッホッホ!という高笑いが起き、イチリユもオー!と乗り気である。
「はあ…」
そしてため息をつくヒユロカは少し痩せてた。
ところかわって、アリスたちが通うサンフランシスコスマッシュハイスクール。
ジャンヌはなにやらため息を吐いていた。
「どうしたんですのジャンヌ?元気がありませんわよ」
「あ…アリスちゃん。あのね、最近…あたし、誰かに見られているような気がして…」
「視線を感じるの?」
こくりと頷くジャンヌ。つまりはこうだ。ある日、学校帰りに日本茶庭園を見物しに行った
帰りから、どこからか視線を感じるようになったそうなのだ。
「でも、視線のする方に振り向いてみると、パッと視線を感じなくなるの。
あたしの気のせいなのかなぁ…?」
すると、話を聞いていたアリスはバン!と机を叩いた。
「…ジャンヌ、それはいわゆるスカウターって奴ですわ!!」
「ストーカーだよ、アリスちゃん」
「どっちでもよろしくてよ!とにかくそのスリーパーだかゴールキーパーだかが
あなたを狙っているのよ!…ああ、わたくしの可愛いジャンヌになんと卑劣な行いを!
許せませんわ!安心して、わたくしがあなたを守ってあげますわ!」
「ああ……もうサッカーになってるし、どんどん話が進んでいる…」
ジャンヌは彼女の思い込みの激しさにはついていけんと、ガックリと項垂れた。
さて、そんなわけでその日の帰りから、アリスはジャンヌに財閥から護衛のSPをつけた。
ただのSPではない。元グリーンベレーに、赤パンツのロシアの大男、手足が伸びるインド人など
多種多様な人材を彼女の護衛のためだけにつけたのだ。護衛が勤まるかどうかはわからないが。
「もう安心してよろしくってよ、ジャンヌ。あなたを付け狙うスマイリー菊○など、
この護衛の中ではもう諦めるでしょう」
「だからストーカーだって……そ、それにぃ、こんなに護衛さん呼ばなくても大丈夫だよぉ」
「いーや、ダメですわ!だって、ジャンヌを守るのはこのアリス・ブロウニングの使命!
ジャンヌ……あなたを危険な目に遭わせたくないの」
ジャンヌの顎に手をやり、そのまま触れ合いそうな位置まで顔を近づける。
だが、当のジャンヌは恥ずかしがって顔を背けていた。
そんな彼女に護衛をつけてから数日後。このところは視線も感じなくなっており
ストーカーも諦めがついたのかと思われていた。
学校の帰り道にハンバーガーを食べながら帰宅するアリスとジャンヌ、そして護衛軍団。
「…う?」
「どうしたのジャンヌ?」
何やら顔をしかめるジャンヌ。彼女は両手を前に添えて恥ずかしそうにアリスに耳打ちする。
それを聞いたアリスも頷くと、ジャンヌは公園の方へと駆け出して行った。
「護衛の皆さん、入り口前まではついていきなさい」
アリスの指示に従い、護衛軍団もジャンヌの後を追う。
───そんなわけで帰り道にある公園のトイレにやってきたのだ!
ジャンヌが用を済まして、トイレから出てくると目の前のベンチに一人の小柄な少女が座っていた。
「うほっ!可愛い女の子……ハッ」
ジャンヌは思わずその少女の容姿の感想を言った。黄金のように輝くロングヘアーと
軽くつり目、そして日本人なのだろう、着ているものはいわゆる和服だ。
ジャンヌがそう思っていると突然、少女はジャンヌの見ている目の前で和服を軽くはだけさせる。
「やらないか」
そういえばこの公園のトイレは百合娘が集まることで有名だった…ということは別にない。
だが、狐のような視線を浴びたジャンヌは誘われるままホイホイと……
「って、させるかぁぁぁ!!ですわ!!」
危うくPINKちゃんねる逝きな展開になる前にアリスがその場に乱入してきた、危ない危ない…。
「ちっ、もう邪魔が入っちまった」
「ジャンヌを付け狙っていたのはあなたですわね!!許しませんことよ!!って、ええ!?」
アリスは驚いた。それというのもジャンヌをさらおうとしていた少女の頭に狐の耳、
そしてお尻には、その尻尾が生えていたからだ。
「あ、あなた一体何者…もしかしてコスプレ?」
ジャンヌがすっ呆けるが、狐の少女は軽く首を振る。
「うちは妖狐。ちょっと人間とは違うんだ。それよりも付け狙ってなんかないよ。
じっと観察してただけさ」
「くぅ、同じことですわ!護衛の皆さんは何をやっているのかしら…!?」
きょろきょろと辺りを見回すと、トイレの横に護衛の皆さんは山積み状態で倒れていた。
「うちが相手じゃ分が悪かったかもね。それじゃ、ジャンヌはもらっていくぜ!」
「ああっ!アリスちゃぁ〜ん!!」
「ジャンヌ!!」
少女は目にも留まらぬ速さでジャンヌをその場から連れ去ってしまった。
―――AT&Tパーク。本日ここではプロ野球チームのサンフランシスコ・ジャイアンツと
ロサンゼルス・ドジャースの試合が行われようとしていた。
狐のような少女に連れ去られたジャンヌは彼女と一緒にこの球場にやってきていた。
「いいのかい、ホイホイついてきちまって……」
「いや、あのーホイホイ連れて来られたんですけど…」
と、ここでジャンヌはようやく少女に質問をすることに。
「あの、妖狐なのはわかったけどあなたいったい誰なの?」
「うち?うちの名前は彩狐鈴音」
「鈴音ちゃん、か……どうしてこんなことを…」
「決まっているじゃん、うちはジャンヌみたいな可愛い女の子が好きだからよ」
その言葉を聞き、ジャンヌはため息を吐いた。やっぱり、この娘もアリスと同じタイプであると。
「さて、それじゃあデートしようぜ、ジャンヌ」
「デ、デートって……どこへ?」
「目の前の球場だよ。うちは野球が大好きだから、ジャンヌと一緒にみたいのさ」
そう言うと鈴音と名乗った少女は彼女の腕を引っ張り、球場へと無理やり連れて行くのであった。
───サンフランシスコ・ジャイアンツとロサンゼルス・ドジャースの試合が始まった。
1回、2回じはお互いの投手陣の好投もあり0対0のまま。
「やっぱ本場は迫力が違うなぁ〜!うちもこんなプレイをしたいぜ」
「鈴音ちゃんって野球やってるの?」」
ジャンヌの問いに、頷く鈴音。
「うち、日本の京都にいた頃に、幼馴染たちと一緒に野球やってたんよ。
うちはピッチャーだったんだぜ」
「へぇ〜鈴音ちゃんすごいんだね。あたしは…んっ?」
話を膨らまそうとしていくと、突然の地響きが球場を包みこんでいく。
「な、なんだいったい?」
突然のことに、観客はおろか、試合をしている選手たちも困惑する。
そして地響きが終わったかと思うと、次の瞬間!ドカーン!!とでも表現すべき
音を響かせながら、マウンドのすぐ隣から何かが土を掘り起こしながら現れた!
「うわああ!!くっ、なんだ!?」
思わず飛び退いた投手の目の前には両腕にドリルがついた巨大ロボットの姿が。
あまりにも唐突な展開に、その場にいるもの全てが呆然としていた。
するとロボットの頭部がパカッと開く。
「けーほけほ、オエ!もう、煙いですわねぇ!」
「ヒユロカぁ、もっといいロボット作れよぉ」
「予算がないから無理ですぅ〜!」
と、そこから漫才をしながら三人の女の姿が現れた。
「あー!あの人たち、この前あたしの試合の時に現れた…」
「知ってるのかジャンヌ!?」
「うん、あたしがこの前プロレスしてたら突然出てきて…」
そう、IKOの面子が煙に包まれながら現れたのだ。なんとも間抜けな登場である。
「君たち!いったい何の真似だ!!」
投手が彼女たちに向かって怒りを向ける。他の観客たちもそうだ。
大事な試合を、楽しく見ていた試合をこのような形で台無しにされてはたまったものではない。
「そんなの決まっていますでしょ。野球をIKO流に染めてあげましてよ!」
オハミルのその言葉に会場中が怒気に溢れていく。
「ふざけるなー!宇宙人に俺たちの野球をどうこうされてたまるかってんだ!」
「そうだそうだ!!」
その怒気の中で特に激しいのが
「なめてんじゃねー!!野球をお前らなんかにいいようにされてたまるかってんだ!!」
鈴音である。観客席から立ち上がり、片足を前に大きく踏み出しながら吼えている。
その吼えっぷりに鈴音の頭には再び狐耳が、そして尻尾が生えていた。
IKOの方は乗ってきたロボットが再び起動し始めている。
「まったく地球人はキャンキャンやかましいですわね。イチリユさん、あの投手に
向かって使ってみてくださいな」
「はいはい了解!パワフル熱血官僚仏契〜あかつきするめ砲!!」
とことん長い名前の武器名を叫ぶやロボットの腕のドリルが変形!
筒状のレーザー砲へと変わり、投手が驚く暇もなく閃光が走った!!
「ぐっ!?うあああああ!!」
それを浴びた投手の身体がみるみるうちに巨大化していく。
目つきが鋭くなり、その肉体も人間のそれから文字通り鋼のボディに変わる。
煙が消えるとそこにいたのは、元の人としての姿がない投手の姿。
見た目はまるで鋼のロボットのようである。ウィーンウィーンという音を立てそうな
動きをしながら、手に持ったボールが観客席に向かってものすごい勢いで投げ飛ばされる!
ドカーン!と爆発音が響き、一斉に会場中は大混乱に陥った。
「あはは!やりましたわ!人を別の怪物に変える生命変換の技術…見事に成功ですわ!
アイアンピッチャー!あなたの野球でもっと楽しませてあげなさい!!」
声も出さずにこくりと頷くと、今度はグラウンドにいた周りの選手も、敵味方関係なく
次々とボールを炸裂させ吹っ飛ばしていく。
「た、大変なことに〜!鈴音ちゃん、今は逃げ…!?」
鈴音に逃げるように促そうとするジャンヌだったが
「あうあ……ぐふ」
先ほどの爆発で飛んできた破片で頭を打った鈴音は目を回して気絶していた。なんともベタな。
「ああ〜鈴音ちゃぁん!しょうがない…ちょっと怖いけど…」
ジャンヌが目を瞑るとその身体から光が走り、一瞬にしてプロレスラーモードに
変身を完了させた!すぐに、グラウンドに降り立ち、アイアンピッチャーに向かう。
「IKOさん!これ以上、ここで暴れるのはやめてください!やるならテレビゲームの
なかでだけにしてほしいです!」
「むっ、この前、私たちを邪魔したジャンヌとかいう乳だけ立派なガキんちょガール!」
「ち、乳のことなんかどうでもいいです!早く帰ってください!」
胸を押さえ、恥ずかしがるジャンヌの隙を逃さない怪物投手は瞳をギラリと光らせ
物凄い豪速球を投げ飛ばしてきた!寸でのとこで回避するがボールが直撃したところは
大きくめり込んでいた。
「ひやっ!?も、もう、大人しくしてぇ!!」
素早く、ジャンヌが飛び掛ろうとするが、彼女の動きを読んでいたかのように、敵は
ボールをしまうとバットを取り出した!
「ふえ!?」
グワァラゴワガキーン!!という打撃音が響いたかと思うとジャンヌは一瞬でバックスクリーンまで
かっ飛ばされてしまっていた。
「あうぅ……めちゃくちゃ痛い…ひぐぅ……」
情けなく涙を流しながらその場に倒れこむジャンヌ。その様子を見てオハミルは
愉快痛快とばかりに笑い飛ばしている。
「オーホホホホ!素晴らしいですわ、アイアンピッチャー!」
彼女が自慢の怪物を褒め称えるのを他所に、球場に走りこんでくる人影が。
「ジャンヌ!!」
それはようやくジャンヌの居場所を突き止めてきたアリスの姿である。
彼女は辺りの惨状、中央にいるIKOとアイアンピッチャー、そしてぐったりしているジャンヌの
姿を見て、この場で起きていたことすべてを一瞬で理解した。
「ぐぬぬぬ…よくもわたくしの可愛いジャンヌを酷い目に…!許しませんわ!!」
ワンピース型のバトルスーツを一瞬で装着するとグラウンドに降り立つ。
「IKO!これ以上、ここで暴れるのはやめてバッティングセンターにでもいきなさい!」
「あら、今度はアリスとかいうお嬢様だったかしら?よくも私たちの邪魔をするつもりですわね」
アリスがディメンジョンメーザーを取り出すと、銃形態に変化させてアイアンピッチャーに
照準を合わせ、銃口を向ける。
「あなたの身体でジャンヌを傷物にした罪を償ってもらいますわ!!」
誤解されそうな表現をしながら、引き金を引くと、ビーム光弾がアイアンピッチャーに
向かって発射され、すごい勢いで飛んでいく。
だが、モンスターの方はというと、慌てず騒がず、バットを光弾に向けて振るう。
「な、なんですって!?」
光弾はピッチャー返しの状態でアリスに向かって跳ね返され、反応が遅れた
アリスに直撃、爆風が辺りを包み込んだ。
「ぐはああ!?くっ、なんて奴ですの……」
アリスも返り討ちにあい、その蛮行を止めるものは誰もいない状況に。
と、その時。観客席で気絶していた鈴音がようやくゆっくりと目覚め始めた。
「う〜ん……いったい何が…あっ!?」
見るとジャンヌはバックスクリーンで倒れてるわ、アリスもぶっ倒れてるわ、
怪物がグラウンドを荒らしまわって辺りは大パニックだわで寝てる間に随分と状況が
変わっていた。
「ジャンヌもアリスも倒した今、我々を止められるものはいませんわ!」
「ちょっと待った!!」
勝利を確信したオハミルであるが、そうはさせねぇと鈴音がグラウンドに飛び移る。
「やいやい!よくも可愛いジャンヌとついでにあのお嬢を酷い目にあわせたな!
うちが相手してやる!」
「ふん、なんですのあなた?あなたみたいなのがこのアイアンピッチャーを倒せまして?」
その言葉を鈴音は鼻で笑う。
「うちならそのアイアンピッチャーだって討ち取ってみせるぜ。
漢女なら漢女なら…やってみせらぁぁ!!」
大事なことなので二回言ったかと思うと、鈴音の着ていた和服がはじけ飛び、一瞬全裸を
見せ付けると、すぐに新たな衣装が纏われる。和服は和服でも今度は巫女服だ。
さらに引っ込んでいた狐耳と尻尾が再び生え出した。そしてその手には一本の棒が握られている。
その光景にIKOは吃驚仰天!
「ななな…!オハミル様ぁ、また変なのが現れましたよ!」
「ついてないですわね、私たちも……くそ」
ヒユロカが焦り、オハミルも怒りを露にする。出番がまるでないイチリユは昼寝している。
「やい、怪物野郎!うちと野球勝負せぇ!あんたの球をうちが打ったら勝ち。
もし空振りか、打ち損じならあんたの勝ちや!ええな」
勝手に勝負のルールを決めちゃう鈴音だが、アイアンピッチャーは結構素直に無言で頷いた。
「ふん!大リーグ選手を怪物化したアイアンピッチャーに、あなたみたいなロリっとした
娘が勝てるわけありませんわ!やっちゃいなさい!!」
鈴音は持っている棒を垂直に立ててから構える。
アイアンピッチャー、振りかぶって投げた!ものすごい豪速球だ!!
だが鈴音、慌てず騒がず、余計な力を込めずにスイングする!
ボールは見事にバットへと当たる。だが、それは高く打ちあがったピッチャーフライだ。
「おほほ!所詮、そこまでですわ!」
「それはどうかな?」
「なにっ!?」
なんと打球が頂点まで飛び上がった瞬間、ボールが光を纏いながらいくつも分裂しながら
アイアンピッチャーに向かって降り注いでいくではないか。
「これぞ、必殺!しし座流星群打法!!」
無数に分裂した球をアイアンピッチャーは捕球できず、見事ヒットとなった。
「さあ立てアイアンピッチャー!今度はあんたが打者、うちが投手だ!!」
鈴音がお札を取り出すと、それはボールへと変化する。
怪物投手も立ち上がり、バットを構えた。
左手で握ったボールを横手投げ、いわゆるサイドスローで投球する!
「これがうちの必殺魔球…狐火ボールだぁっ!!」
ボールはぐいぐいと伸び、炎を纏いながら振られたバットに直撃した。
その凄まじくスピンが掛かったボールにアイアンピッチャーは押されていき…
ボールの勢いそのままに吹っ飛ばされてフェンスへと激突した!
「ああ!アイアンピッチャー!!」
もくもくと土煙が立ち込める。それが消え去ると、そこにはアイアンピッチャーの
姿はなく、元の大リーグ投手の姿へと戻り気絶していた。
「どうだ!うちの必殺技の味は!?」
「くっ、これで勝った気にならないでほしいですわ!ヒユロカさん、イチリユさん、
帰りますわよ!」
オハミルは昼寝していたイチリユをポカリと殴り起こすと、乗ってきた不良品ロボットで
逃げ帰っていった。鈴音はすぐにジャンヌのいるバックスクリーンへと走る。
その足の速さも狐だけあって、常人よりずっと速い。
「大丈夫か、ジャンヌ?」
「あ、ありがとう。鈴音ちゃん、すごいね、野球で戦うなんて」
「え?野球じゃないよ、あれは棒術と退魔の力なんだぜ」
「…え、だって打法とか魔球とか言ってたし…」
「ちゃうちゃう!うちの戦う力はそれじゃないって。野球はあくまでスポーツです!」
あくまで自分の戦闘スタイルを棒術と退魔の力と言い張る鈴音であった。
どこからどうみても野球なのに…。
さて、いずれも変身解除をしてグラウンドの外へと出ている。
さすがにこんな有り様では試合の続きなんてとても出来ないので今日は無効試合だそうだ。
「ジャンヌ、今日はありがとな、デート楽しかったぜ」
「う、うん、どういたしまして」
「で、デートぉ!?化け狐如きが、わたくしのジャンヌとデートですって!?」
「化け狐じゃねぇ!妖狐だ妖狐!!」
「許せませんわ!ジャンヌはわたくしのものでしてよ!」
「ふん!お前が許そうが許すまいが、ジャンヌが気に入ればうちのもんだもんね!」
いがみ合う二人に、ジャンヌはおろおろとして何も出来ない。というより、もう二人のもの
確定ということに対して反論することすら出来ない。
「けっ!今日は疲れたからもういいぜ。じゃ、うちは普段はジャパンタウンにいるから
ジャンヌ、いつでも遊びに来ていいんだぜ」
「いかなくていいですわジャンヌ!こんな化け狐のいるところに行ったら
化かされて身包み剥がされますわよ!」
「それじゃ泥棒じゃねぇか!うちはジャンヌと遊びたいだけで…」
いがみ合いは尚も収まることを知らず、ジャンヌもおろおろしたまま、
結局、最後はため息をついて苦笑いを浮かべるしかなかったとさ。
解説コーナー
「はぁい、解説お姉さんです!今日登場した彩狐鈴音ちゃんは人間の父と妖狐の母の間に
生まれた半妖半人の存在。まあ妖狐でいいと思うよ。彼女は日本の京都出身、巫女の修行の
ためにアメリカにやってきたんだって。彼女の戦闘スタイルは本人曰く棒術と
巫女の退魔の力らしいけど、どっからどう見ても野球です、本当にありがとうございました。
それというのも京都にいたころに幼馴染の女の子たちと京都サクラドリームズの
エースピッチャーとして野球やってたからなのよね。ちなみにドリームズの選手は
みんな身体のどこかにボール型のアザがあるそうよ。鈴音ちゃんは左の二の腕だそう。
つまり妖狐とロリと棒術と巫女と野球を組み合わせたまったく新しい変身ヒロインというわけ。
いわゆる属性過多ね。こういうキャラって受けないから鈴音ちゃんの未来は不安でいっぱいね。
それじゃ、また次回もよろしく!」
次回予告
「よっ、彩狐鈴音だ。なんか上で物凄く失礼なことを言われた気がするけどまあいいや。
うちがメリケンに来たのも巫女修行と魔球開発のため。でもジャンヌと遊ぶのも楽しいよなぁ。
だと言うのに、アリスの野郎、付き合いは自分の方が長いからって独占しようとしやがる。
こういうのは一緒にいた時間より、密度なんだよ!そんな時、ジャンヌが拉致られちまった!
待ってろジャンヌ!うちがアリスより先に助け出してやるぜ!
次回『ジャンヌ囚われの身!アリスと鈴音仲良く喧嘩三昧!』うちはあんな奴嫌いじゃ!」
276 :
時空想士アリス ◆4EgbEhHCBs :2010/07/07(水) 00:11:34 ID:sWu7CfEL
やっと投下出来ました。遅れまくって申し訳ないです。
今回はついに、正真正銘の人外を出してしまった…w
野球少女はいつか出したかったとは思ってましたけど。
まあとにかく、今年は女子プロ野球も復活したし女子野球は頑張って欲しいですw
投下お疲れ様
妖狐で野球少女とはまた斬新な…w
279 :
ダメ人間:2010/07/22(木) 01:05:18 ID:zeRfmcEU
投稿用の原稿が一次落ちしたので、とりあえず晒してみます。
タイトル「天使ノ学園」
変身ヒロイン養成所(ファンタジー世界の女子校)で主人公達が繰り広げる冒険活劇
ってな話です。
tp://www9.ocn.ne.jp/~hotman/syoko_rennsai/tensi2-e/tensi2-004.html
HTML形式にする際にちょこちょこ手を入れなきゃいけない理由でまだ2話ぶんしか出していませんが
随時更新しますんで。
280 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/22(木) 23:57:16 ID:XJQpOhvE
ageた方が少しは注目度も上がるもんよ
281 :
ダメ人間:2010/07/23(金) 18:45:13 ID:u4FXFsN/
とりあえず全7話、更新完了。
単行本一冊分の長さはあるんで読むのはかなりしんどいと思いますが、まあそれでも感想など頂けると嬉しいです。
>>280 お手数掛けます。
282 :
時空想士アリス ◆4EgbEhHCBs :2010/07/25(日) 19:55:51 ID:XODtitmS
時空想士アリス第四話投下します!
時空想士アリス 第四話『ジャンヌ囚われの身!アリスと鈴音仲良く喧嘩三昧!』
エキサイティン・ヒロインタイム!今回の時空想士アリスはここ、IKO秘密基地から始めよう。
前回、野球文化を潰そうとしたIKOだったが、突如現れた鈴音の活躍により失敗に終わった。
それが気に入らないIKOの女王オハミルはぎりぎり歯軋りをしながら、モニターに
映し出したアリス、ジャンヌ、鈴音の写真を見つめている。
「ぐぬぬぬぬぬ……こんな小娘たちの力で私たちの活動が邪魔されるなんて…気に入らない!
気に入りませんわ!!ムキーッ!!」
そう叫ぶとマウスで三人の写真に落書きを始める。本当はペンタブが使いたいところだが
実家に忘れてしまったらしい。
「まあまあオハミル様。あんなホエホエした連中、なんとかなりますよ!」
ケロッとして笑っているのは肉体派イチリユ。しかしそんな彼女の言葉が逆鱗に触れたのか
オハミルはイチリユの頬を掴むと勢いよく引っ張り始めた。
「前回、ずぅぅぅぅっと昼寝していたサボタージュ娘が何を言いますの!!」
「ふ・あ・あ!!いふぁい!いふぁいでふ、オファフィヒュひゃまぁ〜!」
散々に伸ばしまくり、彼女の頬が真っ赤に染まると、ようやくオハミルはイチリユを解放した。
「まったく…余裕ぶっこいている暇がありましたら、小娘どもを倒す手段でも考えなさいな」
「いてて……もうひどいですよオハミル様ぁ…あ、でもそれでしたら!」
イチリユは画面上のオハミルによって頭に花が咲き髭を描かれていたジャンヌの写真を
拡大する。見にくいので落書きは早々に消した。
「このジャンヌをやっちゃいましょう。こいつを人質にして他の二人もまとめてぶっ倒すんです!
残りの二人は仲悪いって話だし仲間割れで自滅して、最後にプロレス娘も処刑!
ね、完璧でしょ?」
イレギュラー要素をまったく考えていないイチリユの発想だが、それをオハミルは
何故か感激した目線を彼女に向けた。
「素晴らしい…素晴らしいですわイチリユ!あなたやれば出来るじゃないですの!」
「えへへ〜褒めてもグッタリマンのシールしか出ませんよ」
と、作戦立案だけで馬鹿騒ぎしている二人を後ろの方で見つめているヒユロカはため息を吐いた。
「面倒なことは全部、後で私に回ってくるんだもの…嫌になっちゃう」
項垂れるヒユロカ。だが、結局付き合う辺り、相当なお人よしである。
サンフランシスコはすっかり夕日差し込む時間となっている。
ハイスクールからアリスとジャンヌが、アリスが引っ付く形で一緒に下校している。
「ねぇ、ジャンヌ。今日もわたくしの家に遊びに来ませんこと?」
「え?別にいいけど…」
「はい、決定ですわね!セバスチャン!!」
両手をパンパンと叩くと、すぐ近くのマンホールが開き、そこからアリスの執事が現れた。
「はっ。お呼びでございましょうかアリスお嬢様」
「すぐにリムジンを。おいしいお菓子も用意しておきなさい」
「かしこまりました!」
セバスチャンが天高く飛び上がったかと思うと、次の瞬間には二人の目の前にリムジンが
到着していた。
「さあ、乗ってジャンヌ」
「う、うん……相変わらず人間業じゃないね…」
リムジンは二人が乗り込むと早々にアリスの屋敷へと向かって走り出していった。
その走り出す車を後ろから見つめる人影ここに。
「むむむ…!アリスの奴、またジャンヌを無理やり連れて行きやがったな…見てろよぉ…」
何がむむむだ。リムジンを見つめていた化け狐の鈴音は前回の自分の行動も当に忘れ
リムジンに悟られないように後を追って走り出した。
「ささ、着きましてよ、ジャンヌ」
「うん。ねえ、アリスちゃん。たまには誰か他の人も呼んで遊ばない?」
「嫌ですわ。ジャンヌはわたくしのものですのよ。それに、ジャンヌはわたくしだけでは
不満なのかしら?」
ずいっと顔を寄せるアリスに、よよよと後ずさる。
「そ、そういうわけじゃないけど、みんあでワイワイ賑やかに遊ぶのもいいんじゃないかなぁ?」
「それでしたらまた今度、皆さんを誘ってカラオケでもしましょう。今日は!わたくしと
二人で遊びましょう。ね?」
ジャンヌの両手を握るアリス。と、その時。ズササーッ!という音を立てながら
二人の前に滑り込んでくる人影が。
「ちょっと待ったぁ!おいアリス!ジャンヌが好きならジャンヌの言い分を聞いてやるもんだぜ!」
「あっ、鈴音ちゃん!」
突然現れた鈴音の姿に、アリスは明らかに不満げな表情を見せる。
「むっ、出ましたわね化け狐の鈴音!」
「化け狐じゃねぇ!妖狐だ妖狐!!」
「どっちも一緒でしょうが!」
鈴音は太くモフモフした尻尾と狐耳を立たせている。彼女の感情に合わせて
無意識のうちに立っているのだろう。
「一緒じゃねぇよ!こちとら一応、神様だぞ!」
「ふん、こんなゴッドなんて敬う価値無しですわ」
「んだとーっ!?」
「ま、まあ落ち着いてよ、二人とも!」
まさに犬猿の仲なアリスと鈴音の喧嘩をジャンヌは間に入って止めようとする。
「鈴音ちゃん、今日はどうしてここに?」
「ふふん、よく聞いてくれたな。もちろん、ジャンヌ、お前と遊ぼうと思って。
そしたら、アリスが理不尽なわがままほざいてるからな。ジャンヌの願いを聞いて
うちも仲間に入れろや」
「ジャンヌの願いなら何でも聞いてあげたいとこですけど、鈴音、あなたのような
化け狐とは一緒に遊べませんわ」
なおも拒否するアリス。鈴音は尻尾を左右にぶんぶんと振り回しながら彼女を睨みつける。
「けっ、いいとこのお嬢様が差別たぁ、器が小さいなぁ!」
「な、なんですって!?」
「この傲慢稚気お嬢!!」
こう言われてはアリスも一気に顔を赤くする。
「ふん!日本人女性は慎みがあると聞きましたが…あなたなんて野蛮で全然そうじゃありませんわね」
「あにぃ!?てめぇだって慎みも何もねーだろ、アホンダラ!!」
「なんて言い草なのかしら!狐は稲荷寿司でも貪っていればいいんですわ!!」
「ちょ、ちょっと二人とも……」
エスカレートする二人の言い争いに、ジャンヌは止めようにもオロオロしてばかりで
全然止められる気配はない。
「小さな島国生まれが!!」
「大国だからって調子乗ってると足元すくわれんぞ?」
ついにはお互いの出身国の言い争いである。アリスは狐耳を、鈴音は銀髪を掴み。
お互いに引っ張り合いまでし始めた。だが、その時であった。二人は後頭部を
掴まれた感覚を受けたかと思うと不意に身体が浮いた。
「二人とも…いい加減にしなさぁぁぁい!!」
「ぎゃふっ!?」
「ぶへっ!?」
ついにキレたジャンヌが二人の顔面を激突させて強制的に喧嘩を終わらせた。
「もう!仲良く出来ない二人なんてあたし嫌いだよ!!」
目に涙を浮かべたまま、ジャンヌはその場から走り去ってしまった。
しばし呆然としていたアリスと鈴音であったが、すぐさまお互い、睨み合うと
「ほら!あなたが野蛮だからジャンヌが怒ってしまったんでしょう!」
「お前がいつまでも自分中心で考えてるからだ!」
ジャンヌの気持ちも知らずに、再び喧嘩再開である。
さて、怒って帰ったジャンヌは行く宛もなく、ただフラフラとサンフランシスコの街を歩いていた。
「アリスちゃんも鈴音ちゃんも…馬鹿なんだからぁ。どうして仲良く出来ないのかな…」
愚痴りながら、しばらく先へ進んでいると、ふと、目の前に黄色い看板の
こじんまりとした牛丼屋がジャンヌの前に現れた。
「あれぇ?こんなところに牛丼屋なんてあったかなぁ?でも…」
ちょうどよい具合に、ジャンヌのお腹の虫が鳴く。目の前に好物があるなら、行かざる得ないと
ジャンヌはささっと、店へと入っていった。
店の中にはお客さんはジャンヌ以外には居らず、カウンターの向こう側に短い緑髪の
女性店員がいるだけである。
「いらっしゃいませ!さあさどうぞ、お好きなお席に」
「あっ、どうも……えーと、牛丼のテラ盛りをひとつください」
「はぁい、テラ盛り一丁!」
しばらくして、こぼれんばかりに牛肉が盛られたテラ盛り牛丼が運ばれてきた。
タレの匂いが食欲を誘い、肉の香りを引き立たせる。ホカホカとしたご飯の湯気も
牛肉の隙間から漂ってくる。
「とてもおいしそう!いただきます!」
ジャンヌが牛丼を食べようと箸に手を掛けると、突然、座っていた椅子がガシャンガシャンと
変形を始め、アリスの足と胴体に金属製ベルトが自動で巻かれ、身動きを取れなくさせる。
「うわわ!?な、何!?」
「ふふん!まんまとハマったなジャンヌちゃん!」
店にただ一人いた店員が制服を脱ぎ捨てると、そこにいたのは
「IKO!?……のなんでしたっけ?」
「イチリユだ!台詞が少ないからって一応、敵だぞ!ちゃんと覚えとけ!」
「…文句は上の人に言ってください…。じゃあ改めまして…IKOのイチリユちゃん!?」
「ちゃん付けかよ!まあいいや。ははは!牛丼大好きなお前のことだから、牛丼屋を経営していれば
いつか、こうして罠に自ら掛かりに来ると思っていたぜ!」
大笑いして勝ち誇るイチリユ。
「後はお前を人質にしてアリスと鈴音を倒すだけ!ふふん、あたしってば完璧な作戦ね!」
「くぅ〜なんてひどいことを考えるの!」
「そりゃああたしらが悪役だからに決まってるだろ。それよりも、その牛丼冷めないうちに食えよ」
そう、ジャンヌの両手だけは何故か拘束されていなかった。ジャンヌも牛丼を
食べるよう促されると、箸を再び手に取り、食べ始める。
「あ、そうだね……うん、おいしいね、これ」
「そうか。喜んでもらえてあたしも嬉しい」
───それから1時間後。アリスの屋敷ではいまだにアリスと鈴音は喧嘩をしていた。
「この化け狐ぇ〜…ロリババア!!」
「うちはまだ17歳だ!!…ふん、長い目で見たらうちは老けないけど、お前はこれから
ガンガン老けるんだぜ!金持ってるからっていい気になるなよ!」
「なんですってぇ!?…でも、でしたらあなたなんてジャンヌと一緒にいても
いつかは孤独死を迎えますわよ!」
お互いのことを取り上げていき、いつまで経っても終わる気配を見せない…。
と、突然、ズシンズシンと地響きが響き渡り、大きな影が二人を包み込み始めた。
「な、なんだ?」
「…な、なんですの!?突然、エレファントが!!」
そう、何の脈略もなく、二人の目の前に象さんが現れたのだ。
「うちはキリンさんの方がもっと好きなんだけどな」
「ん?なんですの?」
象さんは長いお鼻に巻きつけた一通の手紙をアリスに渡す。彼女が受け取ると、すぐに
後ろに振り返り、何処かへと帰っていった。
「なんでしたの、いったい……」
「それよりも、手紙なんて書いてあるんだよ?」
鈴音が聞くと、アリスは手紙を広げ、読み始める。手紙には……
───傲慢お嬢のアリス・ブロウニングと野球拳化け狐の彩狐鈴音へ。
食いしん坊万歳のジャンヌ・シャルパンティエはIKOが預かりました。ざまーみろー!
返してほしければ3ゲットロボ工場跡地に来てね!お土産も持ってきてくれれば
喜びます。じゃあの
PS.ヤホオクでプレミアな値段だったものが近所の古本屋で500円で売ってた時の嬉しさは異常
手紙を読みきると、アリスは怒りに身を焦がし、身体を震わせる。
鈴音はあまりにもどうでもいい自分たちの内情を書かれてることに脱力していた。
「ゆ、許せませんわ!わたくしのジャンヌを人質にするなんて!!」
「許せないのはうちも同じだが……なんなんだあのオトボケ集団は。あと拳は余計だ」
「こうしてはいられませんわ!すぐに行きますわよ」
「いいですとも!でも、ジャンヌを先に救い出すのはうちだ!」
「あっ、抜け駆けは許しませんわよ!!」
結局、協力し合う場面でも、反目しあう二人であった…。
そんなわけでジャンヌが捕らえられているという3ゲットロボ工場跡地へ来たのだ。
ここはどんなスレのレス番3でも必ず取れるといわれた3ゲットロボがいくつも作られていた。
しかし、実際はポンコツだらけで、今ではこの工場も潰れてしまい、企業も縮小中である。
「ここがあのIKOのハウスね!ジャンヌ、待っていなさい!」
「よぉし、開けノック!!」
鈴音はバットとボールを取り出すと、ボールをまっすぐに打ち、工場の扉に直撃させる。
ボールがぶつかった箇所から電磁波が扉全体に走り、ガシャーンガシャーンと音を立てて開かれた。
すると工場の薄暗い場所というイメージに反して、煌びやかな光が二人の目の前に飛び込んでくる。
そしてファンファーレが鳴り響き、いくつものクラッカーが自動で割れる。
「なんだよ、こりゃあ…?」
鈴音が呆れ返っていると、工場内のド真ん中に足と胴体はしっかり固定されているも、
手だけは自由で牛丼を食べているジャンヌの姿が!
「あ、アリスちゃん!鈴音ちゃん!」
「ジャンヌ!なんで牛丼食べてるんですの!?」
「だってIKOの人がくれるって言うから……食べ物を粗末にしたら悪いじゃない」
「まったく、敵に捕まっているっていうのに呑気だなぁ…」
敵地だというのに脱力した二人。すると、奥からコツコツと、足音が聞こえてくる。
部屋の奥からIKOのイチリユとヒユロカがその姿を現したのだ!
「やっと来たな、アリスに鈴音!」
「お前はヒユロカ……で、え〜と…」
「…ん〜誰でしたかしら?」
まじまじとイチリユを見つめるアリスと鈴音の言葉にズコーとずっこける。
「イチリユだ!前回、昼寝してただけでここまで忘れられるとは思わなかったよ!」
緑髪を逆立たせる勢いで真っ赤になりながら怒りを露にするイチリユ。
「だって、IKOってなんだか適当な感じで印象に残りづらくて…」
「ええい、言うな!それよりも!これを見な!」
ガシャーンガシャーンとロボットな起動音を立てながら、イチリユが出てきた通路から
大量のロボット軍団が現れた。腹部に『肉』と書かれていることぐらいしか原型がない。
「まったく、こんなもののために大事な予算を使っちゃうなんて…経理の私の苦労も考えてほしいわ」
愚痴りため息を吐くヒユロカだが、イチリユの方は聞こえないフリをしている。
「ジャンヌを助け出したければ、このロボ軍団を全滅させてみろ、OK?」
「OK!ズドンと倒してやるぜ!漢女なら…やってみせるぜ巫女天昇!!」
素早く、戦闘スタイルの巫女装束姿へと変身、同時に感情に関係なく狐耳と尻尾が生える。
そして鈴音は真っ先に敵の1体を棒で突き撃破する!
「むっ、抜け駆けは許さないといったはずですわ!変……身ッ!!!」
アリスも拳を握り、ギリリリという溜めを行い、ポーズを取るとワンピース型の
戦闘コスチューム姿に変身する。鈴音に負けじとばかりにディメンジョンメーザーで
ぶった斬っていく。
ふと、鈴音の背後にロボが素早く回りこみ、そのアームを振り上げる。
「しまった!後ろを取られた!?」
そしてその腕が鈴音に向かって振り下ろされる……かと思いきや、ロボはビビビと
スパークを起こしながらその場に倒れた。
「アリス、お前……」
「勘違いなさらないで。近くにいたから倒しただけですわ」
「ちっ、こっちだって助けてなんて言ってねーよ」
相変わらず素直に、お互いを認めることが出来ない二人。
しかし、アリスが倒したと思ったロボは再度立ち上がり、標的を彼女にして捉える。
「狐火ボール!!」
お札をボールに変えると、それを投げ飛ばしアリスを襲おうとした奴もまとめて
次々にロボ軍団を撃破していく鈴音。
「おいおい、お嬢様?止めはしっかり刺しておけよ。あんた死ぬとこだったぜ」
「この程度ならどうということはないですわ!そっちこそ尻尾が燃えないように
気をつけることですわね!」
「人が心配してやってんのに、そういうこと言うか!」
「なんですの?」
「やる気か?」
戦闘中にも関わらず、言い争いを始めるアリスと鈴音。
「も、もう……どうして仲良くしないかなぁ〜」
その様子を見てジャンヌは深くため息を吐く。そんなジャンヌのことも気に留めず
二人の言い争いは止まらない。それに割って入ってのは以外にもイチリユとヒユロカだ。
「お、おい!仲間同士喧嘩はやめろよ!」
「そ、そうです。私やイチリユみたいに、ハグして仲良くして戦ってください!
喧嘩のシーンばかり見せ付けられても子供は寄ってきませんよ!」
そう言うと、顔をアリスたちの方に向けながら、抱き合ってみせるイチリユとヒユロカ。
「だからなんだっていうんだよ…」
「わたくしたちはそう簡単に仲良くできるタイプじゃないんですの!!」
だが、それを見せ付けられても、特に心境の変化は起きない二人は、それぞれの
武器に力を注入する。
「ディメンジョンザンバー!!」
「狐火ホームラン!!」
アリスはレーザー剣を最大出力にし、鈴音は棒に炎を纏わせてバットの要領で勢いよく振るう!
それぞれの一撃はイチリユとヒユロカ、残っていたロボット軍団とまとめて場外へ吹き飛ばした!
「な、なんでこうなるんですかぁ〜〜〜〜!!!」
「お、覚えてろよ〜〜〜〜!!月並みな台詞だなぁ〜……!」
空高く吹き飛ばされ、そのままイチリユとヒユロカは星になった。
仲悪い割には結構なコンビネーションである。
敵をあっさり片付けたアリスと鈴音は牛丼17杯目のジャンヌを拘束していた器具を
取り外して彼女を助け出した。あんなに食べてたのに腹はまるで出ていない。
「ありがとうアリスちゃん、鈴音ちゃん」
「ふふ、すべてわたくしのおかげですわよ、ジャンヌ」
「けっ、うちがいなかったら、今頃お前はジャンヌの牛丼の何杯目かになってたぜ」
「口の減らない化け狐が!!」
「それはこっちの台詞だ!!」
なおも睨み合う二人。火花が凄まじい勢いでバチバチと鳴っている。
「ねえ…なんで仲良く出来ないの?」
「だって……」
「それは……」
「「ジャンヌを取られたくないから!!」」
同時にそう叫ぶと、再び火花バチバチが始まった。その様子を見て、ジャンヌは
無言で二人の頭を掴んで、再びデコをぶつけ合わせた。
「ぎゃふ!?」
「うえっ!?」
短い悲鳴を上げると、二人はジャンヌの顔を見る。
「あたし、二人が仲良く出来ないなら一緒にいたくない!こんなんじゃ楽しくないもん!」
普段は大人しく自己主張も少ないジャンヌが、大声ではっきりと言う様に
アリスと鈴音はキョトンとなっている。
「だから……喧嘩ばっかしてないで少しはお互い、仲良くしようよ、ね?」
二人は黙り込み、しばらくすると鈴音はチラッとアリスの方を向く。
「ちっ…確かにジャンヌの言うとおりかもな。少しはうちの扱いもよくせぇよ」
そっと片手を差し出す鈴音。それを見て、アリスも渋々と言う感じに手を出す。
「ふん、ジャンヌに嫌われたくないですから、あなたとも特別に仲良くしてあげますわ」
軽く握手する二人を見て、ジャンヌは苦笑いを浮かべた。
「もう…素直じゃないんだから。うふふ」
そして二人の握った手を強く上から自身の手を被せるジャンヌであった。
───その頃。スクラップになった元3ゲットロボ軍団に囲まれた状況でいる
イチリユとヒユロカ。吹き飛ばされてどこかの森の中にいるようであった。
「まったく悪役のあたしらが友情の大切さを教えてやろうと身体張ったらごらんの有様だよ」
「二人ともツンデレなんですかね…ん?」
ふと、ヒユロカが見た先にあったロボの目が光っている。
「あれだけまだ動力が生きているのかしら…?きゃっ!」
ヒユロカがロボの様子を見ようとすると、突然ロボはボロボロのまま起動し始める。
そしてその口から、いや口は動かないけど、誰かの声が聞こえてくる。
「あーあー。マイクのテスト中。イチリユ、ヒユロカ?聞こえまして?」
「オハミル様!?」
「出番が今回少なかったから出てきたんですか?」
イチリユが余計な一言をいうが、そのことは気にも留めず。
「ええ、少しでも出ておこうと思いましてね。それよりも、お二人とも、どうやら
作戦は失敗したみたいですわね?」
「も、申し訳ございませんオハミル様。奴ら、思いのほか手強くて…」
「言い訳はよろしいですわ!イチリユも、無駄使いして…」
「ご、ごめんなさい。でもお金を使わないとIKOの文化潰しや支配なんて出来ませんよ」
「あーあー聞こえませんわー!」
ヒユロカやイチリユが弁明するも、まるで聞く耳持たないオハミル。
「あなた方は基本からやり直すべきですわ。だから……」
スクラップになったと思った他のロボたちも立ち上がり、二人のほうへ向く。
「まず足腰を鍛えなおしてもらいますわ!速く走って逃げないと爆発に巻き込まれますわよ」
そう言い残すと通信が途切れ、ロボ軍団は時限爆弾の音をはっきり聞こえるように放つ。
そして、二人に向かってものすごい加速で走り出した!
「ええーっ!?ま、マジですかオハミル様ぁ!?」
「こ、こんな仕掛けを作るぐらいなら手伝ってくれても…いやぁーっ!!」
ドタドタと、土煙を起こしながら二人も猛スピードで逃げていく。
最初のうちは結構、突き放していたが……所詮、生き物。疲れが見え始めた途端、
どんどんスピードダウンしてしまう。
「も、もうダメだぁ…」
「ロ、ロボたちがこっちに…!ひぃぃ!!」
イチリユとヒユロカの悲鳴が木霊すると同時に、大爆発が生じ、二人のいた森から
きのこ雲が巻き起こる。別にドクロの形で涙を流してたりはしないが、とにかく二人は
あっという間に黒焦げになってしまった。
「う、うう……この職場、辞めたい…」
「あ、あははは………だ、ダメだこりゃ……」
二人がつぶやくと、ポテっという感じにその場で気絶した。なんとも幸の薄い…。
解説コーナー
「はぁい、解説お姉さんです!今回は、時空想士アリスの世界観についてのお話です。
第一話の最後にキッカーケ星人の作った爆弾が大爆発を起こしたんだけど、この爆発が
厄介なもので、地球上を包み込むどころか、時空を捻じ曲げて、いくつもの違う世界が
混ざり合ってしまったの。アメリカはアリスちゃんたちが元々いた世界が最も色濃いけど
他の国々や地方はまた違った世界が色濃いらしいわ。その辺りはまた次回以降に説明するわね。
それにしても、そんな世界を作ってしまった原因の一人なのにアリスちゃんは本当に呑気なこと!
それじゃ、次回もまた見てね!」
次回予告
「天下無敵のお嬢様!それがわたくしアリス・ブロウニングですわ。世界が混ざっても
わたくしのやることなんてジャンヌと戯れたいということだけ。でも、最近は怪物騒ぎも
あって全然穏やかじゃありませんわね。そんな時、ここサンフランシスコに一人の女が
現れたのですけど…なんですの?主役を取る気で活躍しないでほしいですわ!
次回は『まなみ見参!炎の女侍再び』元主役がでしゃばらないで頂きたいですわ!」
293 :
時空想士アリス ◆4EgbEhHCBs :2010/07/25(日) 20:11:41 ID:XODtitmS
というわけで投下完了でしたよっと。
アメリカに日本風な牛丼屋があるのかどうかは知りません。
次回からはウルトラ兄弟です
投下乙です。
まさに、オールスター勢ぞろいな予感ですw
295 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/26(月) 16:49:24 ID:pUgMHUkg
食わせてる牛丼は普通の牛丼なのか…w罠とかでもなんでもない
しかし、いつもよりキャラ立ちしてる感じだな
>>283 投下お疲れ様
ときどき戦乙女メルナが現れています(笑)
そのうち本編に出てくるのかな
パロネタに本気出してるなw
298 :
創る名無しに見る名無し:
ここももっと盛り上がってほしいよ