【参加作品/キャラクター】
4/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
○キョン/○涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/●朝比奈みくる/○古泉一樹/●長門有希
5/6【とある魔術の禁書目録】
○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/○御坂美琴/○ステイル=マグヌス/●土御門元春
5/6【フルメタル・パニック!】
○千鳥かなめ/○相良宗介/○ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/●メリッサ・マオ
4/5【イリヤの空、UFOの夏】
○浅羽直之/○伊里野加奈/●榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂
3/5【空の境界】
○両儀式/●黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/●白純里緒
1/5【甲賀忍法帖】
●甲賀弦之介/●朧/●薬師寺天膳/●筑摩小四郎/○如月左衛門
4/5【灼眼のシャナ】
○坂井悠二/○シャナ/●吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ
2/5【とらドラ!】
●高須竜児/○逢坂大河/●櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/●北村祐作
2/5【バカとテストと召喚獣】
●吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/●木下秀吉/●土屋康太
4/4【キノの旅 -the Beautiful World-】
○キノ/○シズ/○師匠/○ティー
4/4【戯言シリーズ】
○いーちゃん/○玖渚友/○零崎人識/○紫木一姫
3/4【リリアとトレイズ】
○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/●アリソン・ウィッティングトン・シュルツ
[41/60人]
※地図
http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/?plugin=ref&serial=2
【バトルロワイアルのルール】
1.とある場所に参加者60名を放り込み、世界の終わりまでに生き残る一人を決める。
2.状況は午前0時より始まり、72時間(3日)後に終了。
開始より2時間経つ度に、6x6に区切られたエリアの左上から時計回り順にエリアが消失してゆく。
全エリアが消失するまでに最後の一人が決まっていなければゲームオーバーとして参加者は全滅する。
3.生き残りの最中。6時間毎に放送が流され、そこで直前で脱落した人物の名前が読み上げられる。
4.参加者にはそれぞれ支給品が与えられる。内容は以下の通り。
【デイパック】
容量無限の黒い鞄。
【基本支給品一式】
地図、名簿(※)、筆記用具、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂歯磨きセット、タオル数枚
応急手当キット、成人男子1日分の食料、500mlのペットボトルの水4本。
(※名簿には60人中、50名の名前しか記されていません)
【武器】(内容が明らかになるまでは「不明支給品」)
一つの鞄につき、1つから3つまでの中で何か武器になるもの(?)が入っている。
※以下の10人の名前は名簿に記されていません。
【北村祐作@とらドラ!】【如月左衛門@甲賀忍法帖】【白純里緒@空の境界】【フリアグネ@灼眼のシャナ】
【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】【零崎人識@戯言シリーズ】【紫木一姫@戯言シリーズ】
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】【島田美波@バカとテストと召喚獣】【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。
【状態表テンプレ】
状態が正しく伝達されるために、作品の最後に登場したキャラクターの状態表を付け加えてください。
【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
[状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
[装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
[道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
[思考・状況]
基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
[備考]
※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)
方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
備考欄は書くことがなければ省略してください。
時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。
[00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
[06:00-07:59 >朝] [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
[12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
[18:00-19:59 >夜] [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
スレ立てかんりょー
続きどーぞー
新スレ立てGJです! 感謝。
では続きを投下させていただきます。ありがとうございます。
◇ ◇ ◇
フリアグネは目を見張った。
手玉が前進し、衝突したのは当然一番ボール。だがその一番のボールはポケットではなくクッションへ。
一番は僅かにクッションに衝撃を吸収されながらも、微妙に角度を変えて手玉に当たらないように進んでいく。
ここまでだと思った。ここで終わり、続いて和服から自分のへとターンが移るものだと思っていた。
しかし、その予想は一瞬の内に殺される。
なんと元気良く跳ね返った一番が、長方形の長辺を沿う様に疾走し"九番"ボールへと迷い無く激突したのだ!
テーブル上で唯一の"黄と白のストライプで彩られたこのゲームの主役"が、初回から真っ先に動く。
その先にあるのは、一番が鎮座していた場所と正反対の位置に存在するコーナーポケット。
然程時間もかからずに九番はいとも容易く吸い込まれ、手玉と残り八つのカラーボールが場に残される。
関心と驚愕で何も言えず静まり返るフリアグネとトラヴァス。そして不敵な笑みを浮かべる和服。
これにてナインボール終了。勝者、和服。
なんと。これは、まぁ。突然彼女が乗り気になった理由を探る間も無く終わってしまった。
というかまだ一度もキューを振るっていないのに。表向き"息抜きをしたい"と言った相手の事をまるまる無視している。
少し矜持を傷つけられたが何もおかしいことは無い。ナインボールとはそういうルールだ。
そもそものルールは"一から九までのボールを数字が小さい順に落として行き、九番ボールを落としたものが勝者"である。
そして"白い手玉をぶつける対象はテーブル上のボール中最も数が小さいもののみである"という縛りが発生する。
お気付きの通りこの制約は実際にプレイした際には非常に重く圧し掛かり、このゲームの難易度をかなり上げている。
だが同時に、実は"小さい数字にさえ当てれば、それが他のボールを間接的にポケットに落としてもセーフ"というルールも存在している。
つまり初っ端に一番ボールを使用して間接的に九番ボールを落とした場合も"セーフ"。しかもその時点で勝者が決まるというわけだ。
力量と運さえあればいくらでもプレイ時間を短縮させられる。ナインボールとはそんな大胆な側面も持つゲームなのだ。。
(この行動の意味するところは……"お遊戯など早く切り上げたい"ということかな?)
突然の世紀末ビリヤード大会開催のお知らせに、少々戸惑いを隠せないフリアグネ。
そこに更に和服の意味不明な高揚感丸出しの姿である。混乱しそうだ。
(いや、だが"もう一戦プレイするか"と挑発したのは和服の方だ……何か、何かを伝えようとしている)
ならば。
フリアグネは一瞬少佐と視線を交わし、
「……うふふ、そうしようか」
「ええ、そうですね」
乗った。
◇ ◇ ◇
意味が解らなかった。
「パス」
ワフクは何をしているんだ?
「……なるほど。では、フリアグネ様」
「…………私の番か。次は七番を……よし」
「おめでとうございます」
「――――フッ」
そちらだろう、もう一戦やろうと言い出したのは。
だからこちらはフリアグネとワフク、両方の顔色を伺っているというのに。
「くっ……」
「残念でした。では次は私の番ですか……」
「――オレも健闘を祈るよ」
「…………ありがたきお言葉」
何故、そうやってじっとしている……?
「……おや」
「残念」
さぁ、君の番だワフク。
「ん? ああ、パス」
…………。
◇ ◇ ◇
第二回戦も終盤に差し掛かり、遂にボールは最後の九番を残すのみとなった。
それはいい。ゲームが滞りなく進んだ何よりの証拠だ。
しかし問題なのは、この第二戦目は何故かフリアグネとトラヴァスしかキューを振るっていない、という奇妙な事態に発展している事だ。
何故なのか。それは、
「パス」
和服のこの度重なる宣言によるものだった。
一番が落ちようとも二番が落ちようとも三番が落ちようとも、四番五番六番七番に至っても全て
「パス」
の一言で一蹴されてしまう。
もう何度続いたか解らない。たまに聞こえるのは自分達を応援するような茶化しているような野次のみ。
上手い皮肉を思いついたかのように不敵な笑みを浮かべたまま、宣言するのは玉を突く権利の放棄だ。
現在、テーブル上には九番と手玉の二つが鎮座している。
二つのボールの距離はそう遠くは無い。しかもこのまま直接ボール同士を激突すれば、九番は斜線上のポケットへと確実に収納される。
そして何をどう間違ったのか、その"下手を打たなければラストショット"の権利を得た幸運なハスラーが、
「さて――――」
まさかの和服である。
そして、
「またパスかい?」
「いや、やる」
遂に彼女は、ここに来てようやくその重い腰を上げた。
キューを構える姿も久方ぶりかと見まがう。小さい傷だらけだがそれでも白い彼女の腕に抱かれたキューが手玉を狙う。
和服の集中力が上がっていく。確実に落としてやるという気迫が見える。この和服、ノリノリである。
しかし少し腹の立つ話だ。一回戦では初発でゲームを終了させ、と思いきや二回戦では最後まで待ちに徹していた。
九番にしか興味が無いのか。一度のゲームで一度だけ打てさえすれば満足なのか。
それとも自身の手でゲームを終わらせられればそれでいいのか。
いや、待て。そうか。
(自分の手で、九番を落とし、ゲームを終わらせる……?)
そうか、そういう事か。
(口数の少ない人間だと思っていたけれど、最初から君は随分とお喋りだったんだね……和服)
もう何度目になるだろうか、少佐の表情を確認するのは。
だがどうやら少佐も気付いたようだ。彼女の行動が意味する、彼女自身の想いを。
(やはり、君は面白いよ。"狩人"の目は間違ってはいなかった)
そうこうしている内に、和服は行動を起こしていた。
九番が手玉の力によって押し出される。そうして当たり前の様にポケットへと姿を消し、手玉のみが残された。
正真正銘のラストショット。勝利したのは、和服。
「和服」
「――オレの事か?」
「そうだよ。名を聞いていないからね……途中からの生き返ったかのような活躍ぶりには驚いたけれど、わかったよ。
後ろの少佐も既に理解し、私と同じ結論に達しているはずだ。得物を失っても、それでも君が"立ち直った理由"をね」
「へぇ」
「そう、君は…………」
◇ ◇ ◇
式は、ナインボールを提案された瞬間に、そのルールを思い出したと同時にようやく気付くことが出来た。
それは、自分のこの想いをぶつけるに値する相手のこと。
もやもやとして、つらくて、かなしい、そんな心を蘇らせる方法。
たった一つの方法。少し我慢すればきっと叶うこと。やっと気付けた、最良の方法。
それは――――"人類最悪"を、殺して、殺して、殺して、殺す。ただその為だけに、動く。
黒桐を失った悲しみは大きすぎて、もうこの世界にはそれを押し付けられる人間などどこにもいないと思った。
だから自分独りが抱え込んでしまって、それでも少女のように喚き散らすことがどうしても出来なくて。
それでも珍しく泣いて、泣いて、泣いて、だけどそれでも何も変わらなくて。
だったらこの世界で人を殺して、八つ当たりすれば――――そう思ったけれど、無理だった。
黒桐の姿がちらついて。それに誰かを殺しても黒桐を失った心の穴は埋まらないって理解出来てしまって。
"織"がいなくなった時から、自分はずっと何かを殺してそれを埋めようとしてきたけれど、今回はもうそれでも駄目なのだ。
きっとこの世界に現存する全ての人間を殺しきっても何も埋まらない。
だから、もう全部の力を"人類最悪"の抹殺に集中させよう。
故になるべくこのゲームが早く終わり、かつ自分が生存出来る形を式は望む。
手段などどうでも良い。繋がりなどどうだって良い。
人を殺す方が早ければそうするし、ここからの脱出の手立てを探すのが早いならそちらにする。
"良い奴"と"悪い奴"だって区別しない。自分にとって有益なのは"このゲームを早く終わらせる手立てを持っている方"だ。
だからこの目の前の優男と眼鏡が自分にとって有益なら付き合ってやっても良いと思う。そう考えている。
気付かせてくれたのはナインボール。
力量や運さえあれば最速で完結するゲームの存在。
だからそれを、過程を吹き飛ばして終了させた。
きっかけを与えてくれたせめてもの恩義。それが、式のあの行動だ。
「結局、私はどっちでも良いんだ」
その事にあの二人は、第二戦目のラストショットでようやく気付いてくれた。
もし全然気付かなかったら、どんな手を使ってでも殺してやる、なんて考えていた。
「ありがとう、気付かせてくれて……で、だ」
互いの主張は判明した。
優男は今までの発言からして、何を気に入ったか自分を引き入れたいと考えているのだろう。
眼鏡のほうはよく解らない。だがこいつの仲間だというのなら似たようなものなんだろう。
式はそれを踏まえた上で、言う。
「――――どうする? 今ならお前達と一緒にゲームを終わらせても良いって、そう思えるんだけどな」
◇ ◇ ◇
「ふふ……うふふ、ふふ……ふっ、あはははっ! はははははははッ!」
楽しい。焔髪灼眼のおちびちゃんでもこうは行かなかった!
「全く、どちらが勧誘されていたのかこれではわからないね……。
うふふ、ふふふふふ……良いよ、良いなぁ"それ"。その眼、その殺意、実に良い」
良いだろう。要はつまり、私達が下手を打たない限りは傘下に収まってくれるというわけだ。
「久方ぶりの光景だ、歓迎するよ和服! 共に行動するのを許そう。
"紅世の王"を手玉に取ろうというその姿、少佐共々実に素晴らしい!」
ならば、思う存分働いてもらおう。とても気に入ったから。そして最後に、死ね。
◇ ◇ ◇
「「 でも 」」
"狩人"と"和服"の声が交差。
"少佐"以外の二名が、口を揃えて言い放つ。
「「 使えなくなったら、すぐに殺してやる 」」
新たな玩具を手に入れた喜びに震えるフリアグネ。
ここに来てようやく生きがいを見つけた式。
二人は、笑う。
そんな姿を、そんな光景を、少佐は静かに観ていた。
大命を成就させる為、策を生み出そうと、ただただ影の如く、無言のまま。
両儀式と同じく愛する者を失った悲しみを、彼女と違い表に出さぬまま、ずっと。
【C-5/何処かのバー/一日目・午前】
【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(肩紐片方破損)、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、支給品一式、不明支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
2:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
3:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。
【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個、フルートの予備マガジン×3
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、"人類最悪"を殺す。
1:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は刃の部分が破壊された状態でC-5のどこかに放置されています。
投下完了です。夜更けにも関わらず強力な支援、感謝です。
更に今回は新スレの建造等でも助けていただき、本当にありがとうございます!
投下乙!
なにこいつら、かっけえw
なんていうか若干影の薄かった(他が濃すぎる的な意味で)面子が、一気に存在感を増した気がします
うむ、最後のセリフがたまらんw
投下乙です。
なにこのフリアグネ。まだ1人も減らせてないのになんだこのカッコよさはw
いろいろ押し殺してる少佐と、揺れまくってぶっち切れた式との対比も上手い。
緊張感あるなぁ
投下乙
フリアグネ、一番ノリノリなのはお前だよWW
強いしカッコイイ。
式も元気になって良かった。
しかしビリヤードよくわかったな
俺はてっきり嫌がらせ以外の何物でもないとばかり思ったぜW
そして少佐は、お前は泣いていいんだよ
それでも堪えるのは強いからか
GJ
お待たせしました、上条当麻、姫路瑞希、川嶋亜美投下します
暗がりの中にポツンと灯る小さな灯り。
小さい灯りを作り出すのは、これまた小さな懐中電灯だった。
「さっさとここを抜けねえと……」
その電灯の持ち主、上条当麻は忌々しそうにそう呟く。
上条がもつ電灯の灯りがゆっくりと暗がりの先を照らしている。
だけど、彼が進む通路が終わりが見えず内心少し焦っていた。
(……早く千鳥と合流しないとな……ああ!……なんで俺はあいつ一人でいかせたんだっー!)
地下に落ちた時に着いたらしい頭の埃を苛立たしそうに手で払う。
苛立たせている理由はただ一つ。
それは先ほどまで行動を共にしていた千鳥かなめの事だった。
上条自身が先に温泉の方に行かせたのだが今更その選択に後悔している。
理由は単純。
「北村だって一人にさせたせいで……!」
彼の仲間だった北村祐作。
温泉で別れて死んでしまった彼。
もし、別れず彼を一人にしなければ北村が死ぬ事はなかったかもしれない。
そんなもしもを考えてしまう。
仕方ない事で上条は切り捨てたくなかったから。
仕方ない事で北村が死んだ、そんな事、絶対考えたくないのだから。
なのに上条はかなめを一人で行かせてしまった。
焦っていた、そう、上条でも思ってしまう。
言い訳にするつもりは無い。
でも、結果として今かなめは一人だ。
彼が知る御坂美琴や白井黒子みたいに戦える女の子ではない。
一人になれば彼女が危険な事くらい解る。
だからこそ
「急げ、上条当麻!」
今は歩みを止めてはいけない。
一刻も早く千鳥かなめの元へ。
もう、これ以上後悔しない為にも。
もう、これ以上仲間を犠牲にしない為にも。
上条当麻は足に力を入れて駆け出していった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁー……」
舞台は変わってある学校の自動販売機の間。
そんな人が一人入れるかどうかのスペースに川嶋亜美はいた。
深い溜息だけがただ、響いて。
寂しそうな子犬の様にそこに座っていたのだった。
彼女が思う事は色々で。
でも、それを口に出す事はせずに。
ただ、そこに一人でいたかった。
王子様はもう居ない。
彼女が本当のお姫様を探すように促したから。
別にそんな事はもうどうでもよくて。
でも何もする気が起きなくて。
ただ一人がよかった。
川嶋亜美は一人のままがよかった。
それがよかった。
それでよかった。
なのに。
それなのに。
「……………………何?」
どうして、そんな時に限って。
こんなにも早く人が来るんだろう?
本当……神様は残酷だ。
こんな時ぐらい……
一人にしてくれたっていいのにね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何……だ……ここ?」
教会の下に広がる地下道を進んでいた上条が驚きの声を上げる。
地下通路をひたすら突き進んで、時に右手を使い辿り着いた場所は明らかに異質と言えるべき場所であった。
それは
「墓地……なのか?」
大きくくり貫かれたような地下のホールに広がる無数の墓。
あちらこちらに墓碑と十字架が鎮座していた。
そのくり貫かれた壁には無数の蝋燭が掲げられており墓地を明るくてらしている。
そう、それは地下に広がる集団墓地であった。
「気味……悪いな」
上条はその墓地の雰囲気に薄気味悪さを憶えていた。
確かによく考えると教会の近くに墓地があるのは不思議ではない。
それが地下にあるのは珍しい事ではあるが可笑しい事ではないはず。
だからこそ、決して変ではない。
それこそ、地下道が広がっていた理由にもなる。
なるはずなのだが。
(何なんだ……?……この纏わりつく嫌な感じは)
どうにも嫌悪感が取れない。
この墓地が醸し出す雰囲気に上条は未だに嫌悪感が取れない。
ずっと居たらそれこそ気が可笑しくなりそうな、そんな感じまでしている。
そんな気味悪さが支配したこの場所に上条は冷や汗をかき始めていた。
(ただの墓地だと思ったけど……何かあるのか?)
周りは見る限りではただの地下墓地に違いない。
それは可笑しくないのだが墓地が纏う余りに異質な雰囲気に上条は戸惑ってしまう。
最初の時も思ったがやはりこの教会には何かあるのだろうかと考え始めていた。
確かに教会と言う場所、何か細工がされていて可笑しくはないのだ。
だからこそ、偶然辿り着いた今、調べている価値があるかもしれない。
そう思い行動し始めようとした瞬間
「……いや、そんな事してる暇はないって!」
ブンブンと頭を振るってその行動を起こすのを止めた。
何故なら思い浮かんだ顔があったから。
それは千鳥かなめの顔。
たった一人で温泉に急行してるのだ。
それなのに上条一人がのうのうと墓地を調査してる事なんて出来ない。
まず、合流してからだ。
上条はそう思って出口を探す。
「あった!」
声を上げて見つけた出口。
それはどうやら下水が流れている下水道であった。
人が一人歩ける通路に付随して下水が流れている。
見た所、出口はそれしか存在していない。
「くさ……けど仕方ない!」
下水が放つ悪臭に顔を歪めながらも上条は下水道に向かって歩き始める。
しかし、未だにあの墓地の異質な雰囲気が頭に取れない。
この墓地に何かあるかもしれない。
そんな予感めいた事を感じながら。
再びここを調査する機会が巡ってくる事を願って。
上条当麻は再びかなめとの再会を目指して歩き始めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……何?」
亜美の目の前に現れた少女。
ぼさぼさのピンク色の髪をして、目は虚ろ、顔は涙に濡れて悲惨になっている。
そればかりか、服は男物の上着だけを羽織って下は全裸。
痴女と言っても可笑しくない少女が座っている亜美を見下ろしていた。
亜美は怖いと言う気持ちも一瞬浮かんだが、少女が何もしないので、つい尋ねてしまう。
元々一人を邪魔されたのだ、不愉快な気分がその言葉に表れてしまった。
「……ぁーぁー」
少女――姫路瑞希は身振り手振りで亜美に伝えようとする。
かすれた言葉にならない声と共に。
彼女は亜美に対して名乗ろうとしたのだが当然それが伝わるわけも無く。
「……はぁ?」
亜美は不機嫌そうにそう言った。
何だか気味が悪い。
何もせず、掠れた言葉にならない声を出して。
手も大きく振ってるが亜美にとっては意味不明。
正直人間なのか疑問にさえ思ってくる。
こんなのに一人の時間を邪魔されたかと思うと非常に腹立たしい。
「ぁーぁーぅー」
掠れた声が虚しく響く。
亜美にとっては意味不明で何処かで見たB級ホラーに出てくる怪物のようだった。
殆ど全裸で喋れないというおおよそ普通とはいえないこの少女を見て。
亜美は苛立たそうに言う。
「殺すつもりなの?」
自分を殺すつもりなのかと。
化け物なら化け物らしくして欲しい。
そんな小馬鹿するような気持ちで。
兎も角亜美は一人でいたかったのにその時間を潰されて非常に不機嫌だったのだから。
「ぅーぅー!」
瑞希はは首を振って全否定。
瑞希としても、そんなつもりは無かった。
ただ、助けて欲しいだけなのだから。
まだ、そう否定できる元気は残っていた事に内心驚きながら。
「はあ……?……じゃあ何?……いい加減、うざいんだけど」
亜美はまたしても苛立ちながらそう言う。
もう少女に対する嫌悪感を隠さずに言葉に含みながら。
なら、どうしたいのだ。
言葉にしなきゃ気持ちと想いは伝わらない。
それを最も知っているのは亜美自身なのだから。
「ぅーーぁーーー」
なのに少女は掠れた声ばかりで。
亜美はいい加減ここを離れようかと思い始めてくる。
折角のお気に入りの場所だったのに。
それを意味も解らないものに奪われてしまった。
一人で居られる場所を奪われてしまった。
折角の安息の場所だったのに。
言葉も発しない人に。
(……うん?)
そこで、亜美は思い立つ。
言葉を発しないのではなく
「……あんた、喋れないの?」
言葉を発せられないのではないかと。
その言葉に瑞希はコクンと静かに頷いた。
やっと伝わったという安堵と共に。
「へぇー……」
亜美はどうでもよさそうにそう呟いて。
何故彼女は喋れなくなったのだろうと思って。
でも、どうでもいいやと思って。
「あっそう」
そう言い放った。
だからどうしたんだ。
喋れないならコミニケーションすら不可能だ。
どうやって彼女の意思を汲み取ればいいのかさっぱり解らない。
元々一人で居たかったのだ。
だから、亜美は
「じゃあ……あたしは行くね、貴方に邪魔されちゃったし……一人で居たかったのに」
立ち上がって、瑞希の横を通り抜けて歩き出す。
なんて事無い。
彼女を置いてまた一人になりたかっただけ。
もう少し一人で居たかっただけ。
亜美は聖人でもない。
流石にこの子を保護するなんて考えは思いつかなかった。
さらに今の心理状況では一人で居たかったのだから。
そう思って歩き出して。
ふと振り向くと絶望しかけた瑞希の顔が見えた。
知らんこっちゃないと亜美は思ってもう一度前を向いて歩き出す。
だけど。
その時あの極度のお人よしである二人の男の子の顔が浮かんで。
「はぁーーーーーーー」
亜美は瑞希に聞こえるぐらいの溜息をついて。
そしてお人よしが感染したのかなと思って。
そんな訳無い、気持ち悪いとか直ぐに否定して。
でも
「はぁ……勝手に付いて来たかったら勝手にすれば? 亜美ちゃん、あんたの事、気にするつもりなんてないから。着いてこようか着いてこないかなんて……気にも留めないんだから」
そんな言葉を言っていた。
瑞希はパァと明るい顔を向けて。
亜美はフンと鼻を鳴らして。
一定の距離を保ちながら歩き出していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっと……出れた……地上っ!」
青空が広がる市街に歓喜の声が響く。
下水道を延々と進んでいた上条当麻がやっと外に出れたのだ。
真っ直ぐな下水道を進んでいたら十字路みたいな場所に上条は到着した。
そこは北のほうから海に方向に流れる下水道と川に向かって流れる下水道が交わる地点。
その場所に地上への出口へ繋がる階段があったのだ。
階段を急いで上った先に見えたのは久々に見える蒼い空。
そして新鮮な空気だった。
「はぁー生き返る……幸せだ」
大きく伸びをして空気を味わう上条。
下水道の悪臭は本当に耐え難いものだったのだから。
温泉に入って臭いを取りたいと思った所に上条は思い出す。
「そうだ千鳥を……えーとここは何処だ……?」
かなめと合流すると言う第一目的を。
それを達成する為に現在位置を確認しようと辺りを見回す。
そして見つけた施設。
「学校……という事は温泉は近いか」
学校を確認すると上条は地図を出して現在位置を確認する。
学校から温泉は近い。
そう思って行動を開始しようと思った時
「……人影?」
偶然、学校の窓に移った人影を見つけてしまった。
その人影を見て上条は考える。
「……今は千鳥を」
千鳥かなめと合流する事を優先するべきと。
そう考えて、思う。
あの人影がもし千鳥かなめのような無力な人なら。
そして、その人を無視できるのかと。
もしかしたら逆に殺し合いに乗った人間かもしれない。
だけど
「あーーーーちくしょーーー無視できっかよーーーーー!」
上条は打算無しに学校に駆け出す。
目指すのは人影との合流。
そしてすぐさまそいつを連れて温泉への急行だった。
やはり上条当麻は無視できない。無視できる訳が無い。
そう、彼が上条当麻である限りは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………何か変な感じ」
亜美は思わずそう呟いてしまう。
後ろを少し見ると一定の距離を保ってついてくる少女。
まるで子犬の様に。
それが何処かむず痒くて不思議な気分だった。
(一人でいたいんだけどなぁ……)
そんな願いすら叶わないとは世知辛いものだと亜美は内心毒づく。
こういう運命なのかとやっぱり溜息が出てしまう。
自分だって一人になりたい時だってあるのに。
高須竜児が死んで。
北村祐作が死んで。
今こそ一人になってその死について色々考えてたのに。
邪魔されてしまった。
「はぁ……」
本当、溜息もつきたくなる。
亜美は思う。
「高須君も……祐作も……最期はどうしたのかな?」
そんなちょっとした思い。
そんなちょっとした呟き。
亜美にとっては些細な呟きだったのに。
「祐作……!? っておいそれ北村かっ!?」
「ぁー!?」
廊下の曲がり角から急に現れた少年の大声。
そして後ろの子犬のような少女の掠れた声。
「え?……ってあんた何よ……って」
そのぼさぼさした髪の少年に対して言った言葉。
「あんた……くさっ!!! 近寄らないで!! うぇーーーここまで臭うよーーーー!」
少年が発する悪臭に対する苦情だった。
少年は
「……不幸だーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
いつもの定型句を言っていた。
これが
そんな、北村祐作を知る三名の出会いだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……で、そこな臭い上条当麻君は何で祐作を知ってるのよ」
「臭い言うな川嶋……」
「臭いのに臭いの言うの何処が悪いの?」
「……」
鼻を押さえながら上条と一定の距離をとり、歩きながら話す亜美。
お互いとりあえず自己紹介は済ませておいた。
亜美の後ろに居た少女は喋れないらしいというのを亜美が上条に伝えた。
そして二人は本題に入る。
「……ああ、単刀直入に言うと北村と最初行動してたんだ俺」
「……え?」
「途中で……別れたんだけど……でも温泉に居ると言ってたんだあいつ……それなのに死んで」
「……」
亜美にとっては本当予想外の北村の情報。
それに驚き、少し哀しくなって。
でも亜美は表情に出さず、上条の話を聞き続ける。
「それで、さっきまで一緒に居た千鳥と言う奴と別れて、北村が居た筈の温泉に向かってる」
「……それで?」
「川嶋達も来ないか? 正直お前達な力の無さそうな子置いておきたくない」
「……へぇ」
また、竜児やトレイズのような考えなんだろうかと亜美はつい思ってしまう。
とはいえ、北村の事が気になるのは事実で。
北村が居たという温泉に向かうという提案に少し迷ってしまう。
元々一人でいたいという願望は後ろの少女と目の前の臭い少年によって粉々にされたのだから。
「……ぁーーーーぁーーーー(……北村君…………でもいやっ温泉にだけには……)」
そして後ろに居る少女、姫路瑞希は惑う。
北村祐作。
それは自分が朝倉涼子が襲われる前に居た少年で恐らく温泉に遺体はあるだろう。
でも、温泉だけには行きたくは無い。
何故なら、そこは彼女にとってはトラウマの場所だから。
そんな場所に連れて行かれたらまた錯乱してしまう。
でも、それを拒否しようにも声を出せない。
その事実に彼女は哀しみにくれるばかりであった。
「んで、どうする……ってこの臭い……!?」
上条が亜美に答えを聞こうとして何かを発見したかのような声を上げる。
そして、亜美を置いてその方向にかけだしていく。
亜美はその突然の行動に驚いて
「ちょっと!?……どうしたのよ!……全く」
その少年の背を焦って追っていく。
瑞希も先ほど感じて嫌な感じのする場所なんだろうと思い、でも着いていくしかない。
だって、独りは怖かったから。
だから、二人は上条の背を追って。
そして
「ちょっと何があった……………………え?」
亜美は見つけてしまう。
「高須………………君?」
ばらばらになっていたけど解る。
あの目は……亜美にとって最も馴染みの深い目だったから。
そう、それは
高須竜児の死体だった。
【E-2/学校/午前】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:全身に打撲(行動には支障なし)、悪臭
【装備】:無し
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品1〜2)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
0:知り合いなのか……?
1:亜美たちを連れて、その後温泉に向かう。
2:かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
4:教会下の墓地をもう一度探索したい
【備考】
※教会下の墓地に何かあると考えています。
【川嶋亜美@とらドラ!】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】支給品一式、確認済支給品0〜1(ナイフ以上の武器ではない)、バブルルート@灼眼のシャナ、『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』
【思考】
0:高須……君……?
1:上条当麻と温泉に行くかどうか決める。
2:少女(姫路瑞希)に関してはどうするか未定
【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:………………
1:温泉に行きたくないけど亜美達と離れたくない
2:朝倉涼子に恐怖。
3:明久に会いたい
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
此度は延長してしまい本当に申し訳ありません。
何かありましたら、指摘などよろしくお願いします。
投下GJ! ええぁ、ここで上条ちゃんと亜美ちゃん合流ですか。そんで姫路さん。
しかし亜美ちゃん、そんなバイオハザードみたいなアレはちょっと……w
けれどそこは可愛い亜美ちゃん、懐が広いのよな……実質ついてきても良いよ宣言は良かった。
そして上条ちゃんも事件の渦中に巻き込まれ始めたか?
温泉での事件が三人にどうのしかかってくるのかがとても心配でならない。
姫路さんもまだまだ不安定な部分あるしなぁ……。
って、そこでドラゴンズ・ウィルに繋がったかぁぁぁぁ!
竜児の遺体を遂に目撃! しかもそこで切るwwwwww
ちょっとどうなっちゃうのこれ、ねぇ!?w
投下乙。
そのタイミングで上条さんと共に竜児発見しちゃうか。竜児だって見抜いちゃうか。
あー、暗い展開しか思い浮かばない
絵が来てたんだな
気付かんかった。
絵板の竜児こえぇぇぇぇ
こりゃ姫ちゃんも腰抜かすわwww
竜児の生首持ち歩けばゴーゴンの盾ぐらいにはなりそうだ
ゴーゴンは鏡を用意するべきだな
tesu
tesuto
tes
規制くらってた人が帰ってきたかな?>テスト書き込み
71 :
携帯:2009/11/09(月) 20:37:54 ID:9Uuou7Ho
規制解けなくてショボン
仮投下スレに来てますよー
伊里野加奈、代理投下します
伊里野加奈は人間だ。
だから、腹くらいはへる。
◇ ◇ ◇
胃が音を発した事で、ようやく彼女は"自分が働き詰めであった"という事に気付いた。
自分の体調を人一倍気を使わねばならない、そんな人間であるはずだというのに。
こんなことでは次は鼻血や視力では済まされない。しっかりしなければ。
といった事を考えながら、歩く。
目指すは病院。
突発的に起こる視力の急激な衰えなどに対処する為、善処する為、向かわなければならない。
だが腹は、正確に言えば胃は変わらず音を立て続けている。空腹のサインは止みそうに無い。
これは病院に行く前にどうにかした方が良さそうだ。ついでに休憩しよう。
目の前に、小さなコンビニエンスストアが見えた。
ついでに言うと無人だった。なので躊躇いなく入る。
理由は単純。盗みを働く、ただそれだけの為。
◇ ◇ ◇
流石にコンビニの建物内部で食すというのも節操の無い話だったので、既に民家へと場を移していた。
鍵はかかっていなかった。コンビニ同様、住人も皆無。
あったのは使い古された家具一式と、テーブルに僅かに残るお茶菓子。
醤油味で甘辛く仕上げられたそれら。その中に一枚だけ不自然に欠けたものが混じっている。
それはまるで、というより確実に齧った跡であり、妙な生活感を醸し出していた。
誰もいないというのに。
とりあえず居間らしき部屋、そこにあった椅子に腰掛けた。そしてテーブルに"戦利品"を置く。
"戦利品"はコンビニのカウンターから拝借したビニール袋の中。極めて乱雑に、まとめて入っている。
気になる中身はこれまた乱雑、というより統一感の無いものが揃っている。
ハムとレタスと卵とチーズが挟まれたサンドウィッチ。
海老天が中に仕込まれている大きめのおにぎり。
レンジで加熱されたことで更に旨みを増した棒状ピザ。
中身を苺ジャムとクリームとチョコレートで構成する三色パン。
冬のお供、コーンポタージュのカップスープ。
以上。少しボリュームがあるようだが問題はない。
伊里野はあの鉄人定食にすらチャレンジしたのだから、たかがこれくらいは。
伊里野加奈は人間だ。
だから、少しくらい贅沢はしたくなる。
◇ ◇ ◇
味気ない、と思わざるを得なかった。
こんなにも統一感の無い、それ故に濃い味のものも十分に集まった食卓であるというのに。
熱々のピザを食べた。美味しい。
続いて三色パン。美味しい。
カップスープにも手をつける。美味しい。
そこそこにして今度はおにぎりに。美味しい。
同時進行でサンドウィッチも。美味しい。
両方とも食べ終わったので、残ったスープにとどめを。美味しい。
そうだ。こうして並べてみても味に問題はなかった。それに、腹を丁度満たす量にもなっていた。
別に巨大な餃子や巨大なラーメンを食したわけでもないので、苦しくも無い。
それなのに、何が満たされていないのだろう。だが、だと言うのにこの溢れ出る違和感は何だ。
たった一度、こうして一人で食事をしただけで寂しさを感じてしまうのだろうか。
伊里野はただただ、目の前のそんな現実に一寸悩み、そしてすぐに悟った。
答えは単純。今の自分が"孤独だから"だ。
彼女がこの"椅子取りゲーム"が始まって以来、何もかもを捨てて"浅羽"という名の少年を優先したからだ。
ただ、彼が生き残れば良いと思った。初めて好きになった男の子の命さえ散らせなければ良いと思った。
だから行動に移したのだ。だから殺したのだ。あの榎本をこの手で、直接、あっさりと。
そして水前寺達も殺せば良いと思って、そうやって、孤独になる道ばかりを選んだ。
その決意は、あの優しい浅羽直之の心を傷つけるであろう事も解っていた上で。
だからこそ、あの事件が起きた。
浅羽にどういうわけか激しく拒絶された。あの出来事だ。
拒絶されること自体は、当然だと思った。自分がそれ相応の行動を起こしている事など、一目瞭然だ。
完全に覚悟が出来ていたとは言いがたいが、それでも"一応は"理解していたからこそ、伊里野は再び歩き出すことが出来たのだ。
それに、それ以前に、自分は浅羽を生かす為に、最後に死ななくてはならないのだ。
情など不要、未練など不要。孤独など望むところ、と日頃から言い聞かせなくてはならない立場であるはずだったのだ。
"一人"とは即ち"独り"である。
一人になるということは、周りに誰もいないということ。
飛行訓練等で次々と消えていく昔の仲間達を思い出す。
同時に、"遂にパイロットが一人になってしまったあの日"をも。
けれど、それでもやり遂げなければならないのだ。
吐いてしまいたいのだが、弱音というものは一度吐いてしまえばずるずると続いてしまうものだ。
そもそも榎本を殺した自分が、そんな事を出来る資格があるものか。
人間の価値を天秤にかけた。軽かった方を殺した。それだけで、自分は重罪なはずなのだ。
けれど、しかし、それでも、そのおかげで浅羽が助かるのならば。
結局自分が今ここに存在して、行動を起こしている理由は、ただ一つだけ。
最後の出撃、浅羽との最後の別れの後死ぬはずだった、そんな自分の生きる理由は、浅羽だ。
だから"どんなことが起こっても、動き続けなくてはならない"のだ。
そのはずなのだ。だが、今現に浅羽はそんな自分を、殴って、逃げて、そして、
もう、これ以上は考えたくない。
伊里野は逃避するように机に突っ伏した。
まるで授業中に学生が居眠りする、そんな姿のようだ。
すると、自分の体が擦り傷や土で酷く汚れていることに気付いた。まるで遊び盛りの子どものようだ。
儚げな伊里野の姿には似つかわしくないその汚れが生まれたのは、地面でひたすらに格闘した所為だった。
そう、浅羽との謎の格闘。わけのわからないままに自分を否定された、あの時に生まれたもの。
この傷や汚れは、ある種"この生き残りをかけたゲームで自分が頑張っているんだ"という証にもなるだろう。
だが同時にその"証"を見る度に、伊里野は浅羽のあの表情と言葉を思い出してしまい、どうしようもなく辛い。
だから、"全部洗い落とそう"と考えるのにそう時間はかからなかった。
◇ ◇ ◇
浴室前の小さな行為スペースで制服一式を脱ぎ、適当な場所に放置。
自分の体と同じように傷ついて土埃が付着したそれを一瞥し、下着も同じく外していく。
そうして一糸纏わぬ姿になると浴室へと侵入していった。
全ては、暖かな湯に綺麗にしてもらう為だ。
どうやら温度調節が出来る便利な類らしい。確認すると目当ての温度へと数字を合わせ、シャワーヘッドから湯を放射させた。
コルクを捻って数秒、ガスの通りは然程悪くは無かったのか水はすぐさま暖かくなった。
少し熱いくらいだったので微妙に温度調節を施し、完了。まずは洗髪に移行する。
白い短い髪。ある日を境にすっかり傷んでしまったそれを、伊里野は手に取ったシャンプーで優しく洗い始めた。
柔らかな白い泡が、清潔感漂う香りを生み出しながら広がっていく。頭を包み込む感覚がとても心地良い。
ゆっくりと、しかし念入りに指を這わせていく。しばらく続けた後、泡を洗い流した。
続いてトリートメント、と行きたかったが切らしていたのか中身が無かった。残念だった。
ボディスポンジを手に取り、石鹸で泡を立てる。牛乳石鹸の香りがこれまた実に良い。
泡を顔に近づけて堪能し、満足するとそのまま体中を洗い始めた。
気持ちが良い。だが時々違和感を覚える。ぴりぴりとしたような、痛みが染みる感覚。
ここで伊里野は、自分が小さな怪我をしていた事を思い出した。
白く細い腕や脚の擦り傷までは石鹸では洗い落とせない。我慢するしかないのだろう。
それでも、返り血や土や砂は除く事が出来るのだ。時折襲う小さな痛みに顔を顰めながらも、続ける。
そうして泡だらけになった自分の体に、再びシャワーを放射した。
雲の様な羽毛の様な泡が溶けて排水溝へと姿を消していく。残ったのは、細い伊里野の体だけだ。
それ以外は何も無い。何も起こらないし、誰もいない。故に、とても静か。
シャワー以外の音の無い浴場で、一寸の間が生まれる。
静寂の中、まるで自分がこの世界に一人で取り残されたような錯覚を覚えた。
「……っ」
それがいけなかったのだろう。
伊里野は食事のときに味わった孤独感を、再び呼び覚ましてしまった。
酷く怖くなって、脚が力を失った。すると偶然にも割座の姿勢で座り込む形となる。
頭上から降ってくる湯が髪を、顔を、体を、満遍なく濡らし始めた。
「からだ、洗ったのに……」
伊里野の体は、今はとても清潔であると言える。
体に残る少々の擦り傷と顔に残る殴られた痕はあれど、一度泡に包まれた体は綺麗になっている。
けれど、それはもはや無意味だ。
そんな綺麗になった姿ももう、浅羽は褒めてくれはしない。
全部洗い流して、石鹸の良い香りが漂って、綺麗になったのに、浅羽はきっともうそれを見ない。
もう嫌われてしまったから、いつか次に会うことがあっても、もうこんな事をしても、きっと、意味など皆無。
そんな単純な事実を、今更ながら実感してしまった。
やはり、受け止めなければならないのだろう。
浅羽に、浅羽直之に、大好きな浅羽に、拒絶されてしまった事実を。
けれどそれは、ちっとも容易くない。
受け止めたつもりだった。少なくとも殴られてしばらく、食事をする前までは人形のように疑問や不満を持たないまま振舞えた。
けれどそれは、"仕方なかったのだ"と必死に考えていただけ。事実を完全に受け止めようとせず、思考を停止させただけだったのだ。
現にこうして思考を巡らせるようになった自分は今、独りで何かをするだけで、それだけでこんなにも浅羽を求めてしまう。
嫌われてしまったのに、それでも好きでいてしまって、けれど浅羽がもう自分を見てくれないことが明白だから、辛い。
何故ここに来たばかりの自分が、あんなに高揚感を抱いていたのかさえも解らなくなりそうだ。
あの"初心"は一体、なんだったのだろう。
あの日プールで出会った頃に戻れなくなっても、構わない。
私はそれでも構わないから、この銃と刃物で浅羽を最後の一人にしてみせる。
そうじゃないと、そうしないと今の私の命の意味が消えてしまうから。
だから「解って」とは言わない。「許して」とも言わない。
灯台で、こんな事を考えていた自分。
あの時は、今この時の事をきちんと考えていなかったのだろう。
あれだけ決意を固めても、結局は実際に浅羽に拒絶されたら、酷く哀しい。
「やっぱり……辛い、よ…………」
今こっそりと涙を流しても、雨のように注がれる湯に紛れてくれるだろうか。
感情を全てぶちまけてしまえば、この気分もすっきりと晴れてくれるだろうか。
数秒、数分、数時間後の自分が、答えを定めてくれるだろうか。
そんな事をふと考えてしまったその瞬間、彼女は声を上げて泣いた。
◇ ◇ ◇
伊里野加奈は人間だ。
だから、涙くらいは流す。
けれど、その感情の奔流の先には何があるのだろうか。
彼女の物語の続きは、一体どんなシナリオなのだろうか。
再び殺人者としての覚悟を固めるのか。
それとも?
どちらにしろ、伊里野の愛した"浅羽とのあの日々"への道は、既に消え去っているのだけれど。
【B-5/ある民家の浴室/一日目・午前】
【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:顔に殴打の痕。体に軽い擦り傷など。たまに視力障害。号泣。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×3
ベレッタ M92(13/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。はずだが、果たして?
1:???
[備考]
不定期に視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
『殴られた』ショックのせいで記憶に多少の混乱があります。そのせいで浅羽直之を襲撃した事実に「気がついていません」
◆MjBTB/MO3I:2009/11/09(月) 02:47:30 ID:6a6d3yMs0
投下完了しました。
申し訳ないですが、代理投下をしていただければと思います。
すみません、訂正があります。
状態表の時間が午前になっていますが、「昼」に変更をお願いします。
代理投下終了です
いい具合にぶれてるな。奉仕を続けるかそれとも……
乙です
投下、代理投下乙です。
伊里野、追い詰められてるなぁ……。
さて、続けてになりますが、こちらも予約していた ハルヒ、いーちゃん 投下します。
【0】
おちおち寝てもいられねェ。
【1】
「……ねえ、いー。あんた、自殺する人間の気持ちって分かる?」
分からないな。
まずぼくは他人の気持ちというものが分からない。
次にぼくは自殺というものをやったことがない。
だからぼくには、自殺してしまった人間の気持ちなんて二重に分からない。
辛い目や悲しい目や恥ずかしい目に会って、いっそ死にたい、と思ってしまうまでは想像できるけどね。
でも、思うのと実行するのとは別問題さ。
頭に血が昇ってカッとして、思わず殺してやる!と口走ってしまったことくらい、誰にでもあるだろう?
でもほとんどの人は実行しない。思っても言っても最後までやり遂げやしない。みんな程々にマンモーニ。
それと同じさ。
「あんた、それで何かカッコいいことでも言ってるつもりなの?
……まあいいわ。あたしも、分からない。正直言って、分からないわ」
分からない、か。
でもハルヒちゃん、君の言う《分からない》とぼくの言う《分からない》との間には大きな差があるんだよ。
ぼくには《分からない》ということが《分かっている》。絶対に理解も共感もできない、ということを理解している。
そして、そのことに何の感情も感傷も抱いていない。
ほんとうに、なんとも思っていないんだ。
でもきみの《分からない》は、本当に《分からない》。何故自分が理解できないのかを、理解できていない。
そして、そのことに苛立ちと自責の念を感じている。
ほんとうは、そんな自分を恥じている。
無知の知、ただし無恥。
無知の無知、ただし厚顔無恥ではない真人間。
さて、どっちの方がマシなんだろうね――なんてことを言っても戯言にしかならないので、ぼくはあえてこれを言わない。
いや、代わりに口から出てくるのも、やっぱり戯言なんだけども。
「《あれは、本当に自殺だったのかな?》って……いー、あんた何言い出すつもりよ」
言葉通りの意味さ。
ただ死ぬだけなら、なにもあんなタイミングで、あんな方法でなくてもいいだろう、ってこと。
ぼくが2人に追いつくまで待って、見せ付けるように腹を斬って、死体の確認すら拒むように堀に落ちて――
ぼくみたいなひねくれ者からすれば、思わず裏の意図を探りたくなってしまう状況だ。
準備の時間は十分にあった。
ぼくらは朧ちゃんの荷物も十分に確認していない。
ぼくらは朧ちゃんの持っているスキルも十分に把握していない。
ひょっとしたら。
大掛かりなマジックショーでたまにやる、《人体貫通マジック》。
サーベルを助手の女の子のお腹に刺して、背中側から切っ先が出て、でも、女の子はニコニコ笑っているっていう、あれ。
朧ちゃんの未確認の持ち物と未確認のスキルを組み合わせたら、似たようなことをやれたのかもしれない。
そして、水に落ちたと思わせて別のところに脱出する、《脱出マジック》を組み合わせれば、あんな現象を再現することも――
「……やめて」
……まあ、ぼくも、朧ちゃんが実は稀代の手品師でした! なんて本気で言ってるわけじゃないけどね。
どうみてもあの子はそういうタイプじゃないや。
人を見る目のないぼくにも分かる、ケバい化粧と過激な衣装で舞台に立ってる朧ちゃんの姿なんて想像もつかない。
ただ、でも、そういうことじゃなくてね。
大事なのは、解釈のしようはいくらでもあって、トリックが介在する余地もいくらでもあるってことさ。
つまりは、観察して解釈を加える、ぼくらの心の持ちよう次第ってこと。
例えば――この悪趣味な催し自体が、大掛かりなドッキリ企画、って可能性だってある。
「……黙って」
ぼくらは長門有希ちゃんの死を、直接確認していない。
ぼくらは朧ちゃんの大事な弦之介さまの死も確認していない。
名前の呼ばれた他の8人についても同様。
ただ、《名前が呼ばれた》、それだけで《死んだ》と思ってしまっている。
なぜ? それは、ぼくらの手元に人を殺せるだけの武器が渡っていて、実際に争っている人を見て聞いているからだ。
そこからの類推で、これは本当の殺し合いなんだ、って判断している。
だけど、違う解釈をすることだってできる。
ホールで騒いでいた声だって、一種の演出、サクラによる演技だったのかもしれない。
そこから逃げてきた、と主張した朧ちゃんも、そういう役回りを演じていただけなのかもしれない。
全部終わった後、《死んだ》と思われていた人が勢ぞろいで出てきて、「ドッキリでした!」と笑いながら出てくることも――
「……黙りなさいって言ってるの!! 蹴っ飛ばすわよ!」
おおっと。
「そりゃ、あたしだって信じたくはないわよ! 何もかも嘘であって欲しいわよ!
朧ちゃんだって、あんな汚い水の中に落っこちてそれっきり、でいいなんて思ってないわよ!
できればあそこから這い上がってきて欲しいとも思うわよ!
だけど……だけど、無理じゃない……。もし、落ちてなかったとしてもさ……」
…………。
「そりゃ、あんたのいた場所からじゃ、よく見えなかったのかもしれないけど。
刺して、横に引いて、それで――あれが手品やトリックだったなら、あたしは裸で逆立ちして校庭10周してやってもいいわ」
そりゃなんだかどこかで聞いたような保障の仕方だね。
きみくらいの美少女がそういうマニアックなシチュエーションを演じる光景、健康な男子としては興味がないわけではないけど。
でも、それじゃハルヒちゃん。
きみは、朧ちゃんが死んだ、有希ちゃんもどこか遠くで死んだ――それでいい、って言うのかい?
そんな《現実》で、構わないと?
「……なんでそういう話になるのよ」
そういう話になるんだよ。
これが平和で平凡で退屈で起伏のない、いわゆる《普通の日常》に挿入された《ありきたりな悲劇》であれば、
泣いたり悲しんだり落ち込んだり塞ぎ込んだり自暴自棄になったりする時間はたっぷりあったんだろうけど。
今は、その時間も惜しい。
そんな時間すら、ぼくらには許されていない。
だからぼくらは、早々に決めなくてはならない――目の前の現実をどう認識するのか、どう解釈するのか、ってね。
「そう言うあんたは……どうなのよ。
いー、あんたは……そんな《現実》とやらを、どう思ってるのよ」
ぼくかい?
素直に言ったらハルヒちゃんに怒られそうだけど――もう怒ってる? ごもっとも。
そうだね、正直なところ、
どうでもいい、かな。
ぼくにとっては身近な人が死ぬなんて程度のこと、経験しすぎて当たり前すぎて何も感じない。
ましてや朧ちゃんのように、知り合ったばかりで「身近」なんて呼ぶことも憚られるレベルならなおさらだ。
そんなわけでハルヒちゃん、質問に対して質問で返すのは、この場合、無意味であるどころか有害だよ。
ぼくみたいな欠陥製品の認識する《現実》を聞いてみたところで、参考になるどころか混乱するだけだ。
他人がどう思うかじゃない、《きみが》どう思うのかが大事なんだ。
「……出ていって」
……はい?
「出ていけって言ってるのよ! あんたの戯言には、もううんざり!
さっきあたしは、はっきりと黙れ、って言ったわよね!? 団長命令を守れないってなら、出て行きなさい!
ううん、もう、いーなんてクビよ、クビ! 《運転手》なんてどうでもいい! どっか行っちゃいなさいよ!」
うーん。
戯言遣いに戯言を言うなって、そりゃ死ねと言われてるようなものなんだけども。
そうだね、ぼくはこんなところで死にたくはないし、きみに死刑にされたくもないから、今は退散することにするよ。
「…………」
何か言いたそうな目だけど……何も言わないのかい?
……そうか。ここで黙っちゃうのか。
じゃあ、ハルヒちゃん。
縁が合ったら、また。
【2】
ぼくは狐さんのような別れの言葉と共に、納屋(の、ような建物。放送直後に3人で篭っていたあそこだ)から、静かに出た。
その中に、ハルヒちゃん1人を残して。
辺りは静かに静まり返っている。どうやらホールの方で起こっていた騒ぎは一段落したようだった。
あのあと――朧ちゃんが(ハルヒちゃんには衝撃的な、ぼくとしては予想もできた)公開自殺を遂げた後。
別にぼくたちには、わざわざ元の暗い建物に戻る理由はなかったのだけど……
理由は、外側から来た。
つまり、木々や塀の向こう、そう遠くない所で、争っているような音が聞こえてきちゃったわけだ。
きっとそれは、朧ちゃんが軽くやりあった連中がまたぞろ次の騒ぎを起こした、ってことだったんだろうけど。
これはちょっと、嬉しくない事態だった。
あの時のハルヒちゃんは非常に繊細でデリケートな扱いを求められる状態で。
静かに経緯を見守りたいところだったのに、こんなにも早く次のトラブルに巻き込まれてはたまらない。
ハルヒちゃんのリアクションや反応に、不純物が混じって欲しくはない。
そんなわけで、ぼくはハルヒちゃんを半ば引っ張るようにしてあの納屋、この辺りでは数少ない隠れ家に連れ戻したのだった。
半ば呆然としたままだった彼女は、果たしてあの騒ぎに気付いていただろうか、いなかっただろうか。
でもって、さっきの会話だ。
後ろ手に引き戸を閉め、ぼくは足音を立てないよう、そっとその場を離れる。
「ふう……」
うん、思わず溜息も漏れるってものだ。
トドメを刺すにせよ、救いを齎すにせよ、あんなに長々と喋り倒すつもりはなかったんだけど。
一度、状況がリセットされちゃったからね。
そのことも逆手にとってみたものの……うん、しかしこれは、望み薄と言わざるを得ないかな。
古泉一樹くん。
きみの計略は、《涼宮ハルヒを絶望させて》、《全てをなかったことにする》という計略はー―望みがないよ。
可能性がない。
見込みがない。
希望がない。
勝算がない。
断言してしまおう。
涼宮ハルヒが、古泉くんの言う《神》であろうと、ただの少女であろうと、そこは関係ない。
彼女の《力》が本物だとか偽物だとか、この状況下で働くとか働かないとか、そういう問題じゃ、ない。
狐さんの言っていた、海水魚と淡水魚の例えも、この場合はさほど重要なことじゃない。
彼の計画は根本的なところで間違っている。決定的なところで行き詰っている。
涼宮ハルヒは、《絶望》したところで《現実》を否定するような少女では、ない。
あの子が朧ちゃんの死に対して取った態度に、全てが表れている。
いやそれ以前に、有希ちゃんの死に対しても同じような反応をしていたじゃないか。
信じたくないのに、信じてしまっている。
認めたくないのに、認めてしまっている。
挙句、手品とかトリックとか嘘とか、そういった可能性を示唆してあげたら、怒り出した。
決して直接口にしたりはしないだろうけれど、そういうことを考えること自体、彼女は不誠実だと思っているに違いない。
まったく。
なんて、真っ直ぐで。
なんて、誠実で。
なんて、強いんだ。
ぼくのような欠陥製品とは、大違いだ。
いったい古泉くんは何を見ていたのだろう。
すぐ傍にいながら、彼女の何を見ていたのだろう。
……いや、木と森の例えを出すまでもなく、近ければこそ見落としてしまうものもあるのだけど。
あるいは古泉くんのあの予測は、本当は予測でなく恐れだったのかもしれないな。
《涼宮ハルヒが絶望して現実を否定したら、現実の方が揺らいでしまう》――。
そう信じているなら、それは《こんな事態》でも無い限り、基本的に避けるべき出来事だ。
おそらく彼は普段、そういう破局を避けるために、日々、奔走していて……
そしてだからこそ、こういう場においては、その破局のシナリオに望みを託してしまった。
ハルヒちゃんの性格や人格まで考えることなく、つい、縋ってしまった。
たぶん、そんなとこなのだろう。
そういえば、力の暴走、みたいなこともあるって言ってたしね。
「――まあ、最初に会ったのがぼくだった時点で、古泉くんの策は《終わってしまっている》んだけどね」
小さく呟きながら、ぼくはぶらぶらと歩く。
ホールの方から聞こえていたあの騒ぎは、とりあえずは一段落したらしい。
今すぐ現地に直行しても、さて、無惨な死体とご対面。あるいは、一仕事終えた殺人者とこんにちわ。
なんてこともありうるので、もうちょっと様子を窺いたいところだけど。
それでももう少し近づいた方がいいかな、などと考えつつ、ぼくは考察を続ける。
そう。
古泉一樹。
彼もまた、ついていない。
59人いる「自分以外の参加者」の中で、最初に出会ったのがよりにもよってこのぼくだった、という彼の不幸。
《無為式》。
あの策師の少女がそう呼んだ、ぼくの体質。
ぼくの周りでは全てが狂う。
策も計算も、何をやってもうまくいかない。思い通りに行かない。何かがズレてしまう。
そんなぼくに向かって滔々と自分の策を語り思惑を語り、あまつさえ、その策にぼくを巻き込もうだなんて――
それじゃあ、どんなに優れた策だろうと、上手くいくはずがない。
古泉くん。
きみの目的は破綻していた。
きみの意図は破断していた。
想いも望みも願いも祈りも、まとめてすべて最初っから、破散していたんだぜ。
《涼宮ハルヒを絶望させる》。《そうすることによって彼女に現実を否定させ、全てをなかったことにする》。
きみの策の根幹であるこの2つが、そもそもにして繋がらない。
前提が間違っている以上、きみの企みはどこにも辿りつけない。
まあ――今頃になってその程度のことに気付くあたり、このぼくもまた、本調子ではなかったということなんだろうけど。
「さて、それで、これからどうするかな」
ぼくは堀の縁に歩み寄りながら、首を傾げる。
朧ちゃんが沈んで消えた、城の堀。
朧ちゃんが自害して果てた場所からは、少し西側にずれたところ。
でもここに来たのは感傷に浸るためじゃなくって、ちょうどこの辺からなら、城から南東に伸びる橋を見渡せるからだ。
向こうから見えづらい木陰から、様子を窺えるからだ。
ホールのあたりで騒ぎが起こったとして、それが一段落したとして、そこから道なりに進むルートは西北西と南東の2本。
特に堀を渡る橋の上は、簡単に見通せる。
古泉くんの策が使い物にならない以上、ハルヒちゃんとこれ以上一緒にいる意味もないんだろうけど……
そうであればこそ、ここから先は慎重に動きたかった。
――いた。
なんて、タイミングがいい。ぼくは向こうから見えないよう身を隠しながら様子を窺う。
金髪の男と、黒髪の少女だった。少女の方は何やら修道女のような服を着ている。
あの金髪は地毛なのか、それとも染めているのか。あの黒い服は、どこかの学校の制服なのか。
いまいち判断がつきかねるけど、けど、2人とも、必死に逃げていることだけは確かなようだった。
ときおりチラチラと背後を気にしながら、こちらに注意を払う余裕もなく、小走りに駆けている。
敗走。敗れて走る。負けて敗れて走って逃げる。
さっきの騒ぎ、何がどうなったのかは分からないけど――彼らに割り振られた配役だけは、はっきりと分かってしまった。
となると、勝者の側は反対側に進んだのか。それとも、これから彼らを追いかけて登場するのか。
「ここからじゃ、よく見えないな」
堀の縁に沿って、そろり、と移動する。
より2人の様子が観察できるよう、来るかもしれない追っ手の姿がよく見えるよう、接近する。
――そして、ぼくは見つけてしまった。
逃げる2人組とはまったく関係のないものを、想像もしていなかったものを、そこに見た。
金髪と黒髪のカップルのことも、ホールの方で起きた騒ぎのことも、きれいさっぱり、吹き飛んだ。
「……え?」
なんだ、《これ》は?
なんで、《これ》が、《ここ》にある?
なにが、起きた?
【3】
納屋の引き戸を開けようとしたら、向こうから引き開けられた。
もちろん、その扉を開けたのは、中に居残っていた人物。つまり涼宮ハルヒ。
まったくなんてタイミング。
お陰でぼくは心の準備も整わないまま、ハルヒちゃんと至近距離で顔を突き合わせることになった。
「……やあ」
「……何しに戻ってきたのよ」
ぼくが小さく手を挙げて見せると、ハルヒちゃんはすぐに例のまんじゅうを握りつぶしたような渋面を浮かべた。
よく見ればその目の下は泣き腫らしたように真っ赤になっていて、きっと実際、ついさっきまで泣いていたんだろう。
でもそれを指摘しても面白いことにはなりそうになかったので、ぼくはただ小さく肩をすくめてみせるに留める。
「何しに、って言われても困るんだけどね。
とりあえずひとつは、忘れ物を届けに、かな」
そう言って、ぼくは片手に抱えていた《お土産》、その1つを持ち上げてみせる。
クロスボウ。ぼくがハルヒちゃんと出会った時に、彼女から向けられた凶器。
朧ちゃんのハラキリのドタバタで放り出していったものを、ご丁寧にもぼくが拾ってきてあげたというわけだ。
ああ、なんて優しい戯言遣い。
だけどハルヒちゃんは自分の落し物ではなく、別のものに目を留めて、呟いた。
「……その刀。それに、その鞄は――どうしたのよ」
「たぶん朧ちゃんのだろうね。ボウガンを拾うついでによくよく覗き込んでみたら、デイパックだけ途中に引っかかってた。
けっこうこれでも、取るの大変だったんだぜ? 落ちてた木の枝をつかって、腕と身体をめいいっぱい伸ばしてさ。
ただ、どうも水しぶきをいっぱい浴びちゃったようだ。拾った時にはびちょ濡れだったよ」
ぼくは抱えたデイパックを持ち上げて、なんでもないことのように解説した。
全員共通の四次元ポケット。
肩に引っ掛けているぼく自身のものに加えて、もう1つ。
これまた共通支給のタオルを使って一通り拭いてはおいたのだけども、布地が湿っているのはごまかしきれない。
「朧ちゃんにはもう必要のないものだけども、まだ生きているぼくらにとっては助けになる。
水も食料も予備の小道具も、あるだけあるに越したことはない。
ま、形見分けみたいなもんさ。こういうの、ハルヒちゃんは気にする方かな?」
「それはいいけど……その、刀って」
ハルヒちゃんの語尾が、微かに震える。
ああそうか。かなり至近距離で向き合ったんだもんな。細かい装飾までしっかり覚えてる可能性があるのか。
なかなかどうして、よく見ている。
なかなかどうして、よく覚えている。
彼女はこう見えて頭は悪くない。性格に難はあるけど、かなりキレる方だ。
それに加えて、あんな状況下でも見るべきものは見ている、クレバーさも兼ね備えているわけか。
戯言遣いとしては実にやりにくい相手だね。
「うん、朧ちゃんが持ってた刀と、同型のものだ。デイパックの中を漁ってみたら、入ってたよ。
やっぱりあの子、持ち物については誤魔化してたんだな。
同じ刀を2本支給――あるいは、2本で1セットという扱いで支給だったのかな。まあ、ありえない話でもない。
江戸時代にもなると芸術品のように扱われる日本刀だけど、戦国時代の頃には使い捨ての量産品で実用品だからね。
刀っていうのは、人を何人か斬ると血と脂で使い物にならなくなってしまう。でも、その程度で使えなくなったら、生き残れない。
だから戦国時代には、みな2本3本と予備の刀を抱えながら戦ってたそうだよ。
ぼくも刀の目利きはできないけれど、どうやら実用性重視の品物のようだし……予備くらいあっても、おかしくないかな」
「……詳しいんだ」
「うちのアパートに、腕のいい剣術家のお姉さんが住んでいてね。門前の小僧ってやつさ」
いや、みいこさんは別にこういう薀蓄を喜んで垂れるような人じゃないんだけどね。まあそこは方便って奴で。
「自らこの扉を開けたハルヒちゃんが、これから何をするつもりなのかは知らないけれど――
何をするにしても、手ぶらじゃいられないだろうと思ってね」
「頼んでないわよ」
「もうぼくはSOS団の《運転手》じゃないんだろう? なら、団長命令なんて待たないさ。
やりたいから勝手にやっただけ。別にお礼の言葉も求めてはいないよ。
ただ――もし《要らない》っていうなら、そう言って欲しいかな。その場合、勿体無いからぼくが貰っていくことにするけど」
「…………」
ぼくの言葉に、ハルヒちゃんは黙り込む。
何かを考え込むように、少しだけ視線を下げて黙り込む。
やがて、クロスボウとデイパックと刀、という大荷物を抱えた腕が少し辛くなってきたころ、彼女は口を開いた。
「……クロスボウはいらない。いー、あんたが欲しいっていうならあげるわ。朧ちゃんの荷物もね」
「おっ?」
「その代わり、ってわけじゃないけど――その刀、頂戴」
そう来たか。
ぼくは一旦抱えた荷物を地面に置くと、日本刀だけをハルヒちゃんに手渡してあげた。
ハルヒちゃんも、彼女にしては神妙な表情で受け取った。
「……意外と重いんだ。それに――冷たい。あの子もよくこんなの振り回してたわね」
「所詮は鉄の塊だからね。それでハルヒちゃんは、その刀で何をするつもりなのかな?」
クロスボウと日本刀を交換した格好のハルヒちゃんだけども、刀も石弓も、殺傷力の高さに変わりはない。
素人には扱いづらいことも、手加減がしづらいことも変わりはない。
ぼくがそう思って見ていると、ハルヒちゃんはニヤリと不敵な、そう、何度も見せてきたあの不敵な笑みを浮かべて、
「決まっているじゃない」
手の中でクルリと、日本刀を半回転させて、
「《こっち側》で、ぶっ叩くのよ!」
刃の側でなく、峰の側を前に向けて、言い切った。
「朧ちゃんのように、変に思い詰めちゃってる子も!
有希や、弦之介って人を殺したような奴らも!
ぶっ叩いて、ひっ倒して、一から根性叩きなおしてやるのよ!」
峰打ち、か。
なるほど、この賢明な子が、ぼくが気付いた程度のことに到達できないわけがない。
《クロスボウでなくバットか何かを持っていたら、彼女はもっとやりやすかっただろう》――それと、同じ発想。
実際には峰打ちでも人は死ぬし、本来想定されてない方向からの衝撃を受けるから、けっこう簡単に折れたりするんだけど。
そんな日本刀のトリビア、知らなくても無理はないし、知っていて無視しても大した問題じゃない。
分かりやすく振り回せて、分かりやすく感情を表現できる《武器》。
空振っても当たっても致命的な結果にならない《武器》。
ハルヒちゃんの吼えっぷりは痛々しいほどに露骨なほどに空元気の空宣言だったけれど、それも《武器》があればこそ、か。
「……何か言いたそうな顔ね、いー。あんたも1発2発、殴られたいのかしら?」
「遠慮しておくよ。真剣白刃取りの心得はちょっと持ち合わせていないんでね。どっちかが大怪我することになりそうだ」
骨折なら慣れてるけれど、どうやら今は、あの行きつけの病院に直行できる状況じゃないようだし――
そういや、本名不明の10人、2人は明かされて残り8人。
その中に、まさかいないだろうな。あの看護婦。
どうもまだ分かってない参加者の中に、こっちが予想もしてないような知り合いが混じってる気がしてならない。
ぼくは嫌な予感だけはよく当たるからね。
「まあいいわ。ならいー、さっさとサイドカーを出しなさい。すぐに出発するわよ!」
「あれ? 運転手って、もうクビになったんじゃなかったかな?」
「……いちいち細かいことばかり気にするやつね。でもいいわ。
あたしは度量が広いから、1回くらいクビになるような真似やっても、許してやるのよ。あんたとは違うの、分かる?」
「はいはい……まったく、首を切ったり繋げたり、慌しいったらありゃしない」
すっかり元の調子を取り戻してる。
もちろんそれはぼくの視線を意識して、という側面も大きいんだろうけど。
ま、ここはいつまでも落ち込んでいられるよりはマシ、と割り切っておこう。
しかし……《首を切ったり繋げたり》、か。
鴉の濡れ羽島での一件では、あたかも切った首を繋いだかのように見える事件に遭遇したけど。
でも、ハルヒちゃんなら実際にできちゃうかもしれないんだよな。
涼宮ハルヒ。
SOS団団長。
自称神ならぬ他称《神》。
古泉くんの仮説を全て頭から信じているわけではないけれど――
彼女なら、《それくらいのこと》やってのけても、まあ、不思議ではないかもしれない。
なぜって――
【4】
堀の縁。
城から外へ敗走する2人を見た地点から、すこしだけ東側。
少し開けた空間に――《それ》は、あった。
あるはずのない《それ》が、厳然として、《そこ》にあった。
ぼくは1人、呆然と立ち尽くす。
その時点では、もう身を隠そう、という発想すら浮かばなかった。ただ、呆然としてしまっていた。唖然としてしまっていた。
「《これ》は……なんだ?」
理解できない。
ぼくも過去、いろいろと不可解な状況に直面してきた。
別にぼくの望んだことではなかったけれども、咄嗟に理解できない状況、というものに、人よりも慣れている部分があった。
だけど――《これ》は、そのどれとも違う。
世界が歪んでいるような印象。
世界が曲がっているような気配。
世界が間違えてしまったような光景。
堀の傍、ぼくの立っている地面のその延長上に、ずぶ濡れの朧ちゃんの死体が転がっていた。
別れたときと同じように、荷物を背負ったままで。
堀に落ちたときと同じように、身体に刀を刺したままで。
もちろん生きてはいない。もちろん息なんてしてない。もちろん鼓動なんてない。
まったく生気のない、完膚なきまでの《死体》として、そこに転がっている。
「誰か物好きな奴が、わざわざ水に入って引っ張り挙げたのかな――」
そんなわけはない。呟いてしまったぼく自身がそんなこと信じられない。
朧ちゃんの着物と同様、たっぷりと水を吸い込んだデイパックは、明らかに手をつけられていない。
あの後、第三者がやってきて、何らかの方法で彼女の身体を引き上げたとして、荷物に手をつけないなんてありうるだろうか。
いや、そんなことよりも何よりも。
堀から彼女の死体まで、なめくじが這ったように水の跡が残されている。
覗きこんでみれば、堀の外壁。石垣を組まれた壁にも、濡れた跡が残っている。
生えていた苔やら何やらにも、部分的に剥がれた形跡がある。
いや、それだけなら、引っ張って引き摺って運ばれたのだ、と考えてもいいのだけど。
……物言わぬ死体に近づいて、その手元を覗き込んでみる。
まさかとは思ったが、その爪の間に、泥や苔らしきヘドロが詰まっていた。あの綺麗だった朧ちゃんの手に、だ。
着物の前面も泥やら何やらで汚れているし、これはもう、《朧ちゃんの自身が堀の中から這い上がってきた》と考えるしかない。
中には登る時に引っ掛けたのか、1枚2枚、剥がれかけている爪さえある。
これが生きた人間なら激痛にのたうち回っていたことだろう。爪剥がしは単純ながらも、拷問の初歩の初歩だ。
けれど、朧ちゃんの表情は、最後に見たあの瞬間のまま――うっすらと笑みを浮かべた状態のまま。
薄く開かれた瞼の中の瞳は、虚無に濁っていた。
生者にはあり得ない、死者独特の眼の色だった。
「……そうだよな。とっくに死んでるんだもんな。いまさら、痛みなんか感じないよな」
ちがうだろ。
感心すべきはそこじゃないだろ。
考えるべきはそこじゃないだろ。
何が起きた。
何が発生した。
何が現象した。
決まっている。
《堀の中に落ちた朧ちゃんの死体が、ゾンビのように、死んだまま動き出して堀を這い登って、また動かなくなった》。
はっ。
言葉にしてみると戯言遣いですら耳を疑うような戯言。
冗談にもなっていない冗談。
こんな極論、普段なら想定することすら不可能だったはずだ。
自慢じゃあないけれど、ぼくはそう想像力豊かな方じゃない。
それでいつも痛い目に会ってきた。それでいつも後手に回ってきた。
なら、なんでぼくは今回に限って、そんな突飛な《真相》を思いついた? 何が手掛かりになった?
そう、あの台詞だ。
ハルヒちゃんの叫んだ、あの台詞だ。
「《できればあそこから這い上がってきて欲しいとも思うわよ》、か……」
そんなの無理じゃないか、とも言ってたっていうのに。
なにが無理だ。
なにが裸で校庭10周だ。
涼宮ハルヒの《力》――古泉くん曰く、《彼女の望む通りに世界を作りかえる力》。
これか?
それが真相なのか?
こんなものが、真相なのか?
死人をゾンビとして動かす。少しだけ動かして終わり。
それが――ハルヒちゃんの望み、だって!?
まさか。
それはない。
そんな悪趣味な願い、あの前しか見えてない暴走機関車のような子が抱くものか。
古泉くんの仮説で行けば、ここで彼女が望むのは《朧ちゃんの蘇生》であるはずだ。《朧ちゃんの復活》であるはずだ。
彼女の死をなかったことにしたい、それこそが、涼宮ハルヒの願望であるはずだ。
それが、ゾンビにロッククライミングを強要する程度で終わっちゃっているのは、彼女の《力》とやらの限界か、それとも――
――ああ、そうか。
それについては、ぼくが既に答えを出しているじゃないか。
とっくに、辿り着いてるじゃないか。
涼宮ハルヒは、《絶望》したところで《現実》を否定するような少女ではない、って。
そういうことを考えること自体を、不誠実とでも思ってしまうのか。
それとも、意外とマトモな常識が、彼女の想像力を縛ってしまうのか。
ともあれ。
彼女は諦めてしまった。
彼女は認めてしまった。
彼女は妥協してしまった。
死体が這い上がる程度なら、あるかもしれない。
水に落ちた死体が、実は落ちなかったことになるくらいなら、あってもいいかもしれない。
けれど、ハラキリして死んで果てた人間が生き返るはずがない――と。
語尾こそ濁していたものの、彼女は確かに、否定していた。
間近で目撃してしまった事実を否定するほど、涼宮ハルヒは厚顔ではない。そういうことらしい。
発想の限界。着想の限界。夢想にだって限界はある。
単に彼女は、朧ちゃんが蘇って黄泉返って戻ってくる姿を、《夢にも思うことができなかった》だけ。
そう考えた方が、しっくりくる。
「ということは……この朧ちゃんゾンビは、《神》の《使者》か」
粗製の使者。
《神》の力を示す、死者蘇生の奇跡。
復活と言ってもゾンビ程度で留まってるあたり、たぶん唯一絶対の創造神じゃなく、八百万の神の中の1人程度だろうけど。
それでも、ここにある朧ちゃんの死体は、彼女の《力》の表れ、ということなのか――?
まったく戯言だ。いや、この場合は傑作とでも言っておこうか?
「とりあえず――荷物と刀だけ貰っていくかな」
いつまでも呆けてはいられない。
ぼくらに与えられた時間には限りがある。
仮に《これ》がぼくの想像もつかない方法で成されたトリックだったとしても、起きたことは起きたことだ。
《これ》が奇跡だろうと偶然だろうとドッキリ企画だろうと、《彼女の望みは叶うことがある》。
ただし、《彼女の想像力の及ぶ範囲に限って》。
それだけ分かれば、十分だ。
泥人形のように動かない朧ちゃんからデイパックを取り上げ、刺さったままだった刀を抜く。
冷たい。重い。濁った水に落ちたせいか、なんか臭い。
死体に触れるのは初めてじゃなかったけれども、やっぱり気分のいいもんじゃない。
デイパックは防水もしっかりしていたようで、表面は湿っていたけど中身は無事。
タオルを引っ張り出して、デイパックや刀を一通り拭いておく。
使えるものは使わないと。要はそんな貧乏性。
「使えるものは、使わないと――それが《神》だろうとなんだろうと、ね」
悪いね、古泉くん。
きみの信仰するきみの大事な神様、きみの策略とは違う形で、使わせてもらうことにするよ。
【5】
――と格好をつけてみたところで、じゃあその涼宮ハルヒをどう利用するかなんて妙案、そうすぐに思いつくもんじゃない。
大体、彼女の望みが叶うその条件もまだ分からない。
多分に彼女の気まぐれも混じってきてしまうんだろうけど。
少なくとも敵対はしたくないね。うん、本気で恨まれたくはない。
SOS団の団長の権限をもってすれば首を切るのも繋げるのも思いのままなんだろうけど、生憎と、人の生死は動かせない。
うっかり本当に首を飛ばされたら、もう生き返れない。死体の修復サービスくらいはオマケでついてくるかもしれないけど。
《首切り死体、ただし跡も残さず接着済み》――うん、巫女子ちゃん、それただの死因不明死体だから。
てなわけで、ぼくはそのまま、一度は見切ることも考えたハルヒちゃんの所に戻ることにして。
あっさりと元の鞘に納まって、SOS団とやらの仮団員、団長の運転手としてハンドルを握っているわけだ。
サイドカーにはハルヒちゃん。
例の、朧ちゃんを刺し殺したあの刀を抱くようにして、腕組みをしている。いつも通りの仏頂面だ。
だいぶ持ち直したもんだね。内心までは分からないけどさ。
サイドカーを出すのはいいとして、さて、何をするんだい――?
走り出す直前、ぼくがそう尋ねると、彼女はさも下らないことを聞かれたかのように顔をしかめた。
「あんた、放送で何聞いてたのよ。
いいこと、いー。あの《人類最悪》とかいう奴は、確かにこう言ってたのよ。徒党を組んでる奴らがいる、って。
それもあの言い方じゃ、1組や2組じゃないでしょうね」
よく覚えてるものだ。普通、その後の衝撃のニュースで、全部吹き飛んでしまってもおかしくないのに。
それだけハルヒちゃんの地は優秀ってことで、そして、相手が優秀なほど戯言ってやつは切れ味が増すわけで。
でもここで混ぜっ返すのは得策じゃない。ぼくは喋り続けるハルヒちゃんの演説に耳を傾ける。
「考えてみたら、SOS団の優秀な団員が放っておかれるわけがないのよ。
あの可愛いみくるちゃんに惹かれない男子はいないだろうし、古泉くんだってそつなく人の輪に溶け込んでるはずだわ!
一番心配なのはキョンね。愚痴っぽいし、無気力だし、あいつちゃんと友達作れてるかしら」
「それはいいけど」
……どうにも黙って聞いていると、ついつい、その古泉くんの作っている《人の輪》に触れたくなってしまう。
きっと彼、まだ頑張ってるんだろうなあ。無駄なのに。
なので前言撤回、方向転換だ。ぼくは片手を上げて話を遮って、口を挟む。
「徒党を組んでる奴らがいることも、君のお友達がどこかのグループに潜り込んでるだろうってこともわかったよ。
それで? これからサイドカーで、あてもなくその集団を探しに行くっていうのかい?」
「あてならあるわ! この地図よ!」
ぼくの問いに、ハルヒちゃんは。
いつの間に出したのだろう、例の地図を例の日本刀(の、峰のほう)でバシバシ叩きながら力説した。
「徒党を組んでるなら、次に必要になるのは当然、《拠点》よ!
待ち合わせの場所! 休憩する場所! じっくりものを考えるための場所!
きっと、ここに書かれたどこかに、集まっている人たちがいるはずよ!」
……と、いささか論理としては穴の多い気もするハルヒちゃんの宣言に従って、ぼくはサイドカーを走らせているわけだ。
とりあえずの目的地は、手近なところで映画館。
そこから東に回るか、西に回るか……その辺は、行ってみてから臨機応変ってことで。
「映画館って言うくらいだから、何か映画の上映してるのかな。ホラー映画でもやっててくれりゃいいんだけど」
「なによ、いー。あんたそんなのが趣味なわけ?」
「いや、趣味ってわけじゃないけど、たまたま今はそんな気分でね」
できれば、B級感丸出しの安っぽい演出の、ゾンビものなんかをリクエストしたいところだ。
うん、もちろんこれは、戯言だけどね。
【E-4/道路上/一日目・午前】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康。サイドカーの側車に搭乗
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
基本:この世界よりの生還。
0:とりあえずは映画館!
1:放送で示唆された「徒党を組んでる連中」、との接触・合流。
2:そのために、地図に載っている施設を回ってみる
【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康。サイドカー運転中
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、クロスボウ@現実、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、22LR弾x20発、クロスボウの矢x20本
[思考・状況]
基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
0:とりあえずは映画館。
1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。
2:涼宮ハルヒの観察を続行。古泉の計画にこれ以上付き合う気はないが、別の使い方ができるかもしれない?
3:一段落したら、世界の端を確認しに行く? もう今更どうでもいい?
※朧の死体はD−4の堀に一旦沈みましたが、その後、D−4の城側の岸に「這い上がって」きたようです。
今も濡れてはいますが、堀の傍に横たわっています。
もちろん、完膚なきまでに死体です。少なくとも、もう動く気配はありません。
荷物一式と胸に刺さっていた 弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖 は、いーちゃんが持ち去りました。
以上、投下完了。支援感謝です。
指摘あるいは「これはマズいんじゃ」とのご意見ありましたら、よろしくお願いします。
代理投下&投下乙です。
何処へ〜〜
伊里野……切ないなぁ。
哀しすぎたか……やっぱり。
浅羽は何て事を……
ああ、この二人の関係は切なく続きが気になる!w
死者・蘇生
ハルヒSUGEEEwwwwwww
お、朧がゾンビ化した……w
び、ビックリした……w
イーちゃんも信じるしかないよなぁそりゃぁ……w
2人ともGJでした!
一時的なのかもしれませんが、規制が解けているのでこちらで。
代理投下感謝です、とても助かりました。
手数をかけてすみません、ありがとうございます!
そして続いて新作が! 乙!
凄いことになってきたなぁ……ハルヒめ、やりおる。
彼女の知らぬ間にターニングポイントが来たということか……?
GJです。これは先が気になるばかりです。
投下乙です
原作でも不明なハルヒの力、凄いなw
確かにこれはイーちゃんも興味沸くな
そして俺たちも先が気になるよ
投下乙なのです!
ハルヒすげぇぇぇぇぇw
つーかゾンビ怖いぇぇよ!!
こりゃいーちゃんも信じるわな
滅茶苦茶続きが気になるぜー
いーちゃんハルヒ組は書き手に恵まれてるなー
というかラノオルタは全体的に書き手に恵まれているからなー
それぞれの作者に特徴があってどれもwkwkさせてくれるからなw
書き手紹介というのほしいよなーw
それだけ特徴的だし
確かにw
わかりやすい紹介みたいなのは作りたいね
トリップを二つ名メーカーに突っ込んで、その名前をあだ名にするとかwww
適当だなおいw
あだ名は考えられるんだけど肝心の作品がうまくかけないジレンマ
>>131 試しにやってみた
◆UcWYhusQhw氏→猟奇灰燼(ブルーブラッド)
◆LxH6hCs9JU氏→胎児の貫通(カルマポリス)
◆ug.D6sVz5w氏→恍惚劫火(ブラッディアサルト)
◆MjBTB/MO3I氏→暗転矛盾(アナザーエクリプス)
◆02i16H59NY氏→致死流砂(オーバードライブウェイブ)
◆EchanS1zhg氏→覚醒幻覚(エレクトリックエラプション)
◆olM0sKt.GA氏→幻視道化(カレイドスコープアイズ)
◆LxH6hCs9JU氏の二つ名が酷いwwwww
一人だけ4文字じゃないしw
◆を入れなければ増殖雷帝(セブンスインフェルノ)で4文字になるぞ
なんてこったい
こりゃスゲーWWWWW
っちょww
サタンかっけぇwwww
投下を開始します。
【0】
人が死ぬ時にはね――
そこには何らかの『悪』が必然であると、『悪』に類する存在が必然であると、この私はそんなことを思うのだよ。
【1】
朝という時間も過ぎ、街も暖め始められた午前の頃合。
本来ならば人通りも少なくないだろうに、しかしそんな気配を僅かにも感じさせない通りをひとりの少年が歩いていました。
深夜の散歩のような人気のなさと、活気を想像させる午前の風景。
その矛盾を楽しんでいるのか、足取りも軽くブロックの敷き詰められた歩道をとんとんと歩いています。
少年はかなり背が低くそして愛らしい顔をしており、それだけならば場合によっては少女と言っても通じるかも知れませんでしたが、
しかしその他の全てがそれを否定していました。
裸の上半身にそのままタクティカルベストを纏い、下はタイガーストライプのハーフパンツを穿いており、足元は物騒な安全靴。
手にはオープンフィンガーグローブと、これだけでも相当なものですが、
頭に注目してみれば、斑に染めた髪の毛。右耳には3連ピアス。左耳にはピアス代わりに携帯のストラップが吊られています。
そして、なにより少年の印象を強く変えているのが顔面の右半分に彫り込まれた凶悪なデザインの刺青でした。
顔面刺青――そんな代名詞を入れられちゃう少年の名前は零崎人識。
零崎の中の零崎。零崎と零崎の零崎。零崎の申し子。少年は――殺人鬼でした。
そんな顔面刺青であり殺人鬼でもある少年は、午後に入る前のまだ軽やかな空気を吸いながら道を行きます。
取り立てて行き先があるわけでもなく、そぞろと、なんとなしの感覚で太陽を右側に北へと向かっていました。
そして河に架かる橋に到達したというところで少年は橋の真ん中あたりに誰かがいるのに気づきました。
「何してるんだ、ありゃあ……?」
年季の入った茶色のコートと目深に被った飛行帽。
背丈はやや小柄で少年とも少女とも判別のつかないその人物は、どうやら大きな箱を橋の上から押し出そうとしているようです。
近づきながら見れば、どうやらそれはぐるぐると縄を巻かれた中ぐらいの冷蔵庫でした。
「不法投棄じゃねぇか……! おい、ちょっとそこのお前っ!」
当たり前かつ場違いなことを言いながら少年は、どちらともつかない人物へと駆け寄ってゆきます。
しかし、冷蔵庫を投棄しようとしていた人物は少年を一瞥すると、躊躇うことなくそのまま押し切り、それを落としてしまいました。
ふわりと冷蔵庫が宙に飛び出し、すぐに水面にぶつかって大きな音を立て、そして泡だけを残して沈んでゆきます。
少し濁った水面からはすぐに冷蔵庫の姿は見えなくなり、引き上げようにもできないだろうとそんな感じです。
「なにやってんだそこおおぉぉおおおっ!!」
顔面刺青であり殺人鬼でもある少年からの厳しいツッコミが何者かへとぶつけられます。
それは、こんな殺し合いの場面でという意味なのか、ただその行為に対してなのか、色々と意味を取ることはできますが、
少年にとっては後者でした。
不思議な話ではありますが、殺人鬼であっても少年はそれなり以上の常識も持ち合わせているのです。
「そういうのはリサクル業者に頼むもんだろうがよぉ……あーあ、もうこれどうするんだ……?」
少年は冷蔵庫を落とした人物の隣まで来ると橋の欄干から河を見下ろして深い溜息をつきました。
そして、あらためてその犯人(しかも現行犯)をまじまじと観察します。
支援
年齢は少年よりも低そうに見えました。もっとも少年自体が相当に低く見られるので傍から見れば同じくらいです。
格好は黒のジャケットに黒のズボン。その上に茶色のコートを羽織って、頭にはゴーグル付きの飛行帽。
短めの黒髪に、精悍な顔つき。ここまでだと一見すれば男性だと思ってしまいそうですが、しかしよく見れば少女でした。
そして、少女は少年よりも少しだけ背が高いようでした。
そんな少年のような少女の名前はキノ。
旅人であり、パースエイダー(注・パースエイダーは銃器)の名手。少女は――人殺しでした。
殺人鬼は人殺しに対して、いかに君が行ったこと――不法投棄は悪辣非道なことかを説きます。
どれだけ反社会的な行動で、どれくらい非エコロジーで地球環境を省みない行為なのか、滔々と語ってみせます。
そんな彼に対して人殺しの少女は、「はぁ、そうなんですか」などと曖昧な返事を繰り返すばかりでした。
じゃあ、もういっそこんな不届き者は殺して解して並べて揃えて晒してしまおうかと少年が思った時、
少年のおなかがぐぅと鳴りました。
【2】
「”死なない”人間の首ねぇ……」
場面は変わって先ほどの橋より程近い場所にある庶民的なラーメン屋さんの中。
少年と少女は向かい合って同じテーブルにつき、朝食と昼食を兼ねた食事――お洒落に言えばブランチをいただいてました。
「変な話だな」
「ええ、ボクもそう思います。とても驚きましたし」
ラーメンをすすりながら少年は言い、少女は餃子をパクパクと平らげながら答えました。
かくかくしかじかと略さずに説明すると、先ほど少女が投棄した冷蔵庫の中には死なない人間の首が入っていたそうです。
正確に言えば、殺しても生き返る人間。なので、少女は首だけを持ち去りどこかに捨てればいいと考えたのです。
「まぁ、魔法がありならなんでもありか」
「そうなのかもしれませんね」
少年は先の放送で聞かされたことを反芻し、そして自身が出会ってきた人物達のことを思い出しました。
虎の様な少女。卑怯な軍人。超電磁砲。戦うメイド。真白なシスター。男と女と、燃えカスと魔法使い――無茶苦茶でした。
生き返る。つまりは死んだふりかもしれないし、特殊な蘇生技術かもしれないそれ。
殺し名と呪い名の名前と例をあげればある程度は理屈が考察できそうでしたが、以下省略。考えても無駄だと割り切りました。
「しかし、お前も人の情ってのがないのかよ。割り切り……いや、この場合は切り捨てのプロだな」
「うーん……」
かははと笑い少年は分厚く切った焼豚を口に放り込みました。少女は無愛想な表情でまだまだと餃子を平らげてゆきます。
ふたりは橋の上で出会った後、少年が食事をとろうといったのでここまで移動してきました。少女に断る理由はなかったからです。
そして、当たり前ですが店内は無人でしたので少年がそれなりの腕を振るって食事を並べ、
今は無言で食事を進めるのも寂しいという少年の言により、それぞれの経緯を話し合っているという訳です。
その中で少年は自身が出会ってきた変テコな人々の話を、少女は自分が切り捨てた4人の話をしました。
「なんであんたはそいつらを殺したんだ?」
全くもって誰に対しても愚問でしたが、殺人鬼は人殺しに対してそんなことを聞いてみました。
「自分が生き残るため、ですね」
少女はその理由を、そもそも理由なんか持たずに人を殺してしまう少年に答えました。少年はかははと笑います。
「最後の一人になっても生きて帰れる保障なんかないぜ? 嘘かもしれないし、その時はどうするんだ?」
「その時は、その時になってから考えます」
「気のきかない回答だな」
「ええ、そう思います」
少年は息をひとつついてまたラーメンをすすりました。少女は大量にあった餃子の最後を名残惜しそうに飲み込みます。
殺すことに関しては真逆の殺人鬼と人殺しでしたが、先の展望のなさに関しては似たもの同士でした。
そしてなにより、
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
ふたりはハラペコキャラでした。
【3】
ところで、と殺人鬼は話を切り出しました。
「俺も殺すのか?」
人殺しは何も答えません。しかし場面を取り巻く空気の色が変わりました。緊張の糸がピンと張り詰めます。
「俺は別にどっちでもいいんだが……」
少年は少女を観察していました。おそらくは相手も同じです。なんてことのない食事の風景でしたが、両者ともプロのプレイヤーでした。
生粋の殺人鬼は目の前の人殺しを分析します。
4人殺したというのは本当でしょう。むしろ、ここに来る前はもっと殺していたに違いありません。それが”匂い”でわかりました。
性質としては『薄野』か、それとも『天吹』が近いのか、『零崎』と同じ殺し名を浮かべて少年は考えます。
「まぁ、俺はちょっとした契約があって自分から手は出せないんで、そっちが決めてくれ」
切欠を与えれば目の前の少女は確実に自身を殺しにかかってくる。その確信がありながら少年は緊張の糸を引きます。
はたして殺し合いが始まったとして勝てるのか?
それは少年にとって問題ではありません。問題となるのはそこではなく、やはり死色の真紅との取り決め。不殺の誓いでした。
「あぁ、別に食事を奢ったことに関しては気にしなくていーぜ。どうせ無銭飲食だしな」
だけど、あの真っ赤な鬼殺しはこの場所にはいません。未だ不明の登場人物の中にいるとも思えません。
たったこれっぽちの世界の端。開始より半日足らずも経過した今。行き遭ってないという事実が彼女の不在を証明していました。
零崎人識の物語が零時から開始したとして、未だ欠陥製品とも遭遇を果たしていない。これは零崎人識だけの番外編と断言できます。
「………………」
だったらいいんじゃないか? そんな気持ちが殺人鬼の中でむくむくと起き上がってきます。
緊急事態。殺し合いを強要され一人しか生き残れないという状況。殺害の匂いを濃く漂わす者が目の前にいるという場面。
つい先ほどもそんな存在と遭遇し、そんな現場を目の当たりにしたばかりで、みんながそうしているのを見せられて、
勿論、他人は他人、自分は自分、人の殺しは人の殺し、自身の殺しは自身の殺しと言えるのだけど、どうして我慢するのかとも思えます。
零崎にとって殺人とは生き様――ですらありません。
必要だからというわけでもなく、息をするように以下の心臓を動かすように程度の生態であり性質であり、生の有様。
生き焼かれた獣の咆哮か、魔術師の含む冷たい笑いか、旅人の見つめる無感情な目にか、
少年の中の『零崎』が僅かに”洩れ”ました。
たったそれだけで、始まりました。
殺人鬼である少年にも、人殺しである少女にも、それだけで十分だったのです。
【4】
――さぁ、零崎を《再開》しよう。
【5】
瞬間。少女によってテーブルが蹴り上げられ、その上に乗っていた食器ごと少年へと降りかかってきました。
瞬間。ひうんと音がして、テーブルが乗っていた食器ごとバラバラに寸断され床に派手な音を立ててばら撒かれました。
ここまでおよそ1秒。
少年はポケットになにかを仕舞うと、ゆっくりと椅子から立ち上がりながら店の奥にまで移動していた少女を見ます。
そこにはこちらへと向けられた無骨なリボルバーの銃口があり、そうだと認識する前にそれが火を噴きました。
がぃうん――と、今度はそんな奇妙な音が響きました。
見れば、何時の間にちょろまかしていたのか少年が心臓を庇うかのように分厚い中華包丁を構えています。
そしてその刃の真ん中に小さな、まるで銃弾を受け止めたかのような痕ができており、それはそのままその通りでした。
少年は発射された弾丸を見切り中華包丁でガードした――ということでした。
再び銃声。今度は奇妙な音は響かず、ただ少年の座っていた椅子の背に穴が開く音だけが小さくしました。
回避を成功させ椅子から通路へと出ていた少年の手には新しい刃物が握られており、中華包丁はもう床の上です。
3発目の銃声。これも少年には当たりません。ただ、その後ろにあった入り口のガラスを砕いただけでした。
決して少女の射撃技術が低いというわけではありません。
少女は正しく心臓や当たれば致命傷となる場所を撃ちました。避けなければ少年が死んでいたのは間違いありません。
けれども、『零崎』の少年はそれを容易く避けてみせるのです。
普通は避けれません。発射された銃弾が人間の運動能力以上の速度を持っているという現実は決して覆りません。
しかし、銃には狙いをつけて――つまりは”殺気”を発してから発射されるまでのどうしようもないタイムラグが存在します。
コンマ数秒。熟練していればそれ以下。少女は熟練者ではありましたが、しかしどうやってもそれを零にすることはできません。
そして、そのタイムラグが零でないとするならば、殺気を感じることのできる『零崎』にとっては無限にも等しい時間なのです。
故に、『零崎』に銃は通用しません。ですが、
「かはは」
少年はカウンターの上に”飛び移されて”いました。
3発目の銃撃を避けカウンターの上に飛び移ったのは紛れもなく少年の意志です。しかしそこに少女の誘導がありました。
まるで”銃弾を避ける者との戦闘の経験がある”かのように、彼女はそれを前提とした牽制射撃を行ってみせたのです。
たった2発で少年に銃撃が通用しないと知ると、
少女は3発目にお腹より少し下――大きく動かないと次の回避に支障が出るような場所を狙ったのです。
これには少年も舌を巻きました。
『零崎』の前で拳銃を構える者はことごとく屠られるだけの雑魚キャラくんでしかなかったはずなのです。
しかし、別世界からやってきたのかもしれない少女――キノは違いました。少年――人識はとても傑作なことだと思いました。
4発目の銃声が鳴り響きます。
カウンターの上を突進していた人識はそれを軽く跳躍することで回避”させられ”ます。
着地の際に発生するこれもコンマ以下のタイムラグ。
無限とは言わないまでも、キノが扉を潜って店の奥へと退くには十分な時間でした。
零崎を再開してより5秒ほど。状況は再びニュートラルなものへと戻りました。
キノは決してひとつの殺しに執着するタイプではないだろうと人識は理解しています。
”必要”の為に殺す者は不必要や無駄、それにリスクを忌諱します。ここで無理や無茶をするとは思えません。
つまり追わなければ再開した零崎は終了です。誰も殺していませんので死色の真紅の約束を破ったことにはならないでしょう。
それに、溜まっていた鬱屈も多少は晴れました。食後の運動としても今のでちょうどいい具合です。
「また、放浪するかな……?」
戦場のど真ん中で人識は余裕たっぷりに5秒ほど思考して、
その次の瞬間――爆炎に吹き飛ばされました。
再開より合わせて10秒。それで人識の零崎は完全に停止してしまいました。
【6】
粉塵やら瓦礫やらが積もり積もった”廊下”の上に血塗れとなって横たわる人識の姿がありました。
その傍らには油断なくショットガンを構えるキノが立っています。
どうやら、致命傷を負った人識に介錯の一撃を放つか、それをキノが逡巡しているという場面のようです。
口からごぼごぼと血を吹く人識は目線だけでキノの申し出を断りました。
キノも弾丸が勿体無いからでしょうか、それを承諾して――そして抜け目なく彼のデイッパクを回収してその場を去ります。
去り際にただ一言、
「あなたは今まで出会った中で最悪の敵でしたよ」
そう言い残して行ってしまいました。
これが殺人鬼と人殺しの邂逅の始まりから終わりまでの全てでした。
【7】
ずたぼろとなった人識ですが、全身の傷は爆炎――いきなり撃ちこまれたロケット弾によるものではありません。
さすがにそれが店内に飛び込んで来た時には人識もひどく驚きましたが、そんなもので殺される彼ではありませんでした。
ロケット弾の軌道は見れば察することは容易でしたし、
そうだと解れば避けながらすれ違い、背後からくる爆風で”自身を加速させる”なんて芸当も難しくもありません。
ですが、故に人識は次のショットガンの一撃を避けることができませんでした。
なにせそこには全く”殺気”がなかったのです。
自分がどうようにして人殺し――キノにしてやられたのか、気づいた時には無数の散弾が身体にめり込んでいました。
ロケット弾は人識を仕留める為の攻撃ではありませんでした。
キノが人識と自分との間に煙幕という”目隠し”をする為の手段でしかなかったのです。
そして、ロケット弾を撃ち放ったキノはすぐさまに”煙”を撃ちました。
もし人識が突進してくるとしたならば通らざるを得ないルート。人識ではなく、あくまでルートをキノはただ無意で撃ったのです。
そこに人識がいてもいなくても関係なく、仮に人識が店から出て逃亡していたとしても関係なくキノは撃ちました。
人識がいると確信があれは殺気が生じてしまう。目で確認できてしまっても殺気が生じてしまう。
故に、キノはあえて不確定な状況をつくることで、そこにただの撃つだけ状況を作り、無意の一撃を放ったのです。
こんなものが避けられるはずがありません。意図のない弾丸。殺気のない弾丸。
ましてや人識は爆風により加速中。煙幕を抜けた時にはそれを避け得る猶予は全くの零でした。
傑作だと、人識は顔を笑いの形に歪めます。
”撃ち殺された”零崎など前代未聞もいいところでしょう。おそらく、この先にも出てくることはないと思われます。
もしも死んだ兄がこれを聞いたらどんな表情をするのか。もし大将に聞かれでもしたら殺されてしまうだろう。
そしてあの生まれたての妹がこれを知ったらあいつはどうするのか。人識は想像して、笑う代わりに血を吐きました。
自分を狙っていない弾丸――殺意ゼロの弾丸に撃ち殺される。
乗することも除することもできない零を撃ち抜くのはゼロの弾丸。まさにこれが零崎殺し。
両手が動くならば拍手喝采ものだとそう思い、そしてそれができないことが少し残念なことだと人識は思いました。
あいつは、あの欠陥製品はこないのだろうかと死に瀕した人識は思います。
もう死ぬということは避けられません。どうしようもない致命傷です。いくつかの弾丸が内臓を食い破っていました。
このまま退場して零崎人識の物語は幕を閉じる。それは避け得ないことです。
だったら、ここにあいつがこないと場がしまらないんじゃないか――なんて期待。
しかし、せっかく介錯を断ってまで苦痛に耐えているというのに、待てども待てどもその気配はありません。
まったくこちらが何度あの欠陥製品の危機に駆けつけたことか。人識は心の中で毒づきます。
もっとも約束があるわけでもなく、またこちらが駆けつけてない危機がある以上、それはお門違いもいいところなのですが。
そろそろ人識の意識も遠くなってきました。
死色の真紅と遭遇したあの時に零崎が終わっていたのだとしたら、こんなところで死ぬのがむしろ相応しいのかもしれない。
「それも悪くない」――ある零崎の言葉が人識の中に浮かんできます。
そして、最後に……自分のことを最悪だと言い残して去っていったあのキノという少女のことを思い、
「知ってるよ」
と呟いて息を引き取りました。
【零崎人識@戯言シリーズ 死亡】
【8】
「ただいま……と言っても君は返事してくれないんだよね」
最初に人識と出会った橋のたもと。
スクーター(注・モトラドではない)を停めていた所まで戻ってくるとキノはようやくふぅと一息つきました。
「まったく、恐ろしい相手だった……」
来た道を振り返りキノは誰となしに――スクーターは返事をしてくれないので本当に誰となしに呟きました。
零崎人識――あの奇抜な格好の少年はキノが今まで出会った敵の中でも最悪のものでした。
どんな殺人者にも殺す理由というものがあります。殺すという意志がいつもこちらを向いていました。
復讐の為に刃を向ける男。
国と家族を守る為に銃を掲げる兵士。
僅かな金品の為に襲い掛かってくる野党。
感情の発露のままに酒瓶を振り上げる酔っ払い。
己のテリトリーを守る為に唸り声をあげる森の中の獣。
どれもこれもが同じようにそれを持っていましたが、しかしあの少年の殺意に指向性は零(ありません)でした。
存在そのものが殺人という現象。まるで人を怖がらせるための物語の中に登場する殺人鬼。
まだ背中に残っていた僅かな怖気にキノは身体を震わせます。
「餃子おいしかったですよ」
そういえばご馳走の礼をしていなかったことを思い出し、一応はと声にするとキノはスクータに跨りました。
「神社か……なにか手ごろな武器を調達できるといいんだけどな」
言うと、少年から人が集まっていると話を聞いていた神社へと向かいスクーターを発進させます。
そしてエルメスのものとは比べくもない軽い音をたて、太陽を背に河を右手に西へとそのまま走り去って行きました。
殺人鬼と人殺しが殺しあったなどとは想像もできない青い空がその上に広がっており、吹く風はとても爽やかなものでした。
【C-4/路上(南側)/1日目・昼】
【キノ@キノの旅 -the Beautiful World-】
【状態】:健康
【装備】:トルベロ ネオステッド2000x(12/12)@現実、九字兼定@空の境界、スクーター@現実
【道具】:デイパックx1、支給品一式x6人分(食料だけ5人分)、空のデイパックx4
エンフィールドNo2x(0/6)@現実、12ゲージ弾×70、暗殺用グッズ一式@キノの旅
礼園のナイフ8本@空の境界、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ、少女趣味@戯言シリーズ
【思考・状況】
基本:生き残る為に最後の一人になる。
1:神社に向かう。交渉か襲撃かは状況しだい。
2:エルメスの奴、一応探してあげようかな?
[備考]
※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
8巻の『悪いことができない国』の充電器のことは、知っていたのを忘れたのか、気のせいだったのかは不明です。
※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。
※零崎人識から遭遇した人間についてある程度話を聞きました。程度は後続の書き手におまかせです。
※
C-4北部にあるラーメン屋さんでロケット弾が炸裂し、周囲にその音が響き、家屋の一部が倒壊しました。
その中に零崎人識の死体が残っており、ポケットの中に「七閃用鋼糸x6/7@とある魔術の禁書目録」が入っています。
※
「薬師寺天膳の生首」は冷蔵庫に入れて縄でぐるぐる巻きにした状態で河に捨てられました。
以上、投下終了しました。
投下乙。
なんという零崎殺し……!
のんびり飯食って速攻でこの切り替え。終わってもその程度。
うーむ、実にらしい。キノ、恐ろしいなぁ。
零崎も災難だった。
そして、まさか神社だとぉ!? なんて火種残しやがる! GJ!
投下乙
キノらしいとしか言いようがないな。本当に淡々としてるな。
幾ら零崎でも相手が悪すぎたか。
そして神社だと! 嫌な予感しかしねぇw
GJ!
投下乙
キノはんぱねえな
零崎を殺す奴はそいつも絶対ただじゃ済まないと思ってたらまさかの無傷。
ヘタなチートよかよっぽどチートなんじゃないだろうか
お待たせしました少々オーバーしましたが投下します
「あたしは…………」
部長があたしの事をみている。
あたし、須藤晶穂の選択を。
あたしが選ぶ選択は……
あたしはどうしたい?
そんなあの時と同じような考えが廻る。
あたしは浅羽にもう一度会いたい。
あんな終わり方は絶対に嫌だった。
だから、浅羽を止めにあたしは部長に付いて行くべきなんだろう。
自分自身でもそれを選ぶべきなんだろうと思える。
…………だけど。
思い浮かぶのは大河さんの顔。
あたしを励ましてくれた実は年上の人。
大河さんは凄く優しくて。
迷っていたわたしとテッサさんを導いてくれた。
その人の大切な人が……呼ばれたんだ。
高須竜児と北村祐作。
あたしにはその二人の存在がどれだけ重いかなんて理解できない。
でもきっと、それはあたしにとっての浅羽のようなもの。
だって、名前を聞いた瞬間倒れたんだもん。
きっと本当に心の底から大切なんだ。
……そう強く思えたから。
そして大河さんはその事で苦しんでいると思う。
あたしはまだ誰も失っていない。
だから、大河さんの苦しみの深さなんてきっとわからないだろう。
大切な人を失う哀しみなんて……どれくらいなのだろう。
きっと想像できないもので……あたしは酷く恐怖を感じた。
あたしが大河さんに出来る事なんてない。
…………でも。
それでも、あたしの為に言葉をかけた大河さんの為に。
厳しくも優しい励まししてくれた大河さんの為に。
あたしがかけられる言葉なんて少ないけど。
できることなんてすくないけど。
何かやりたい……そう思えたのだから。
でも、浅羽にもあいたくて。
自分が大河さんに誓った事。
大河さんの為にやりたい事。
ぐるぐるまわって。
その先の言葉が出ない。
沈黙だけが続いて。
……あたしは結局選べない。
また、前のように。
あたしはやっぱり駄目なのかな?
浅羽と大河さんも選べないで……あたしは……
「…………わかった。もういい」
「……えっ……きゃっ!?」
水前寺部長はそう言って車を急に止めた。
その顔は何処か悟ったようで。
あたしは訳が判らず固まったままだった。
きょとんしているあたしを尻目に車から降りて私がいる方の扉を開けた。
巨漢の部長から見下ろされる形になって少し怖いと思ってしまう。
何もしないとわかっているのに。
「須藤特派員、君は神社に向かいたまえ」
「え?」
「おれ一人で北東に居るだろう浅羽特派員の元に行く」
あたしは驚いて部長の顔を凝視する。
部長は腕を組んでいつものような顔を浮かべてる。
意図は……全くわからない。
あたしが迷っていたのが悪いのだろうか。
「え、でも……」
「須藤特派員。正直迷ってるのだろう?」
「……あ、う……」
ズバリとしたその答えに返す言葉も無い。
その通りだった。
あたしは押し黙って、何も言えなくなってしまう。
部長は溜息をついてはっきりと言う。
「はっきり……言うが……迷っているなら足でまといだ」
「……」
「……迷っている状態で着いてこられて肝心な時、ポカしてほしくないのだよ」
その言葉は厳しさと共に優しさが篭ったもので。
そして、あたしを見据えて
「心配するな――――浅羽特派員は必ず連れて帰る」
そう、告げた。
その言葉にはしっかりとした意志が篭っていて。
いつもの自信満々の部長だった。
「もう一度会いたいのだろう? 浅羽特派員に」
「……は、はい」
「なら、連れて帰るから……そう、心配はするな」
部長はそう強く言ってくれてけど。
……でも、あれ?
という事は……
「部長一人という事ですか」
「そうだ、須藤特派員が行かないというのなら当然だろう?」
「で、でも危険ですよ! 一人で行くなんて襲われたらどうするんですか!」
「それは、須藤特派員がいても同じだろう?」
「で、ですが!」
一人で行くという事。
それは誰かに襲われたらひとたまりも無く死んでしまう危険性があるという事。
いくら大人のような体格とはいえ、部長は特別な力なんて持っていない。
そんな部長が一人で行ってしまえば……
「危険です!」
「だが、ゆっくりしてる暇は無い。考えても見たまえ。おれですら危険と言うのなら浅羽特派員はもっと危険だろう?」
「……う」
その言葉にまたしても詰まってしまう。
やはり言葉では部長に勝てそうも無い。
あたしはついうつむいてしまう。
「だから、おれは今すぐ一人で浅羽のもとに行く」
部長の改めての宣言。
あたしは何も言えず、口を真一文字に結ぶだけ。
このまま部長を行かすしかないのだろうか……?
そう思った時だった。
「……悪いけど、一人で行かせる訳には行かない」
そう言って物陰から現れる二人の少年。
ぱっと見何処にもいそうな二人の少年が私達の前に現れたのだった。
その時あたしは確かに聞いた。
部長のいらいらとした舌打ちを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「僕は坂井悠二」
「キョン。言っておくが本名じゃないぞ。というか最初から名簿にそう書かれてたんだ。ここまで俺はこんな扱い……」
少し唖然としている晶穂と逆に憮然としている水前寺に向かって二人の少年はそう名乗った。
身なりは何処にでもいる少年のようで、悠二は大人しそうな学ランの少年で、キョンは気だるそうなブレザーの子である。
晶穂は最初は殺し合いに乗っているかと疑ったが二人は違うと言ってその場は収まった。
何より悠二は既に仲間のヴィルヘルミナから安全と聞いていたからだ。
そのヴィルヘルミナの事を晶穂は悠二に伝えようとしたが、どうやらその空気ではない。
何処か剣呑な雰囲気がしていたから。
「車の音がしたから僕たちは物陰に隠れていたんだ。安全かどうかわからなかったから……結果的に盗み聞きのようになってごめん」
「……ちっ、おれとしたが。ミスを……」
最初に仕掛けたのは悠二。
水前寺のあからさまの舌打ちにも動じず、ただ苦笑いを浮かべるだけ。
晶穂はそんな水前寺を不安そうに見るだけで、キョンはやる気無さそうに動向を見守っていた。
「一人で行くといったよね……?」
「ああ……」
「……うん、僕らは行かせる訳にはいかない」
悠二の確認の意味の言葉。
その言葉に水前寺は頷くと即座に強い意志を籠めて悠二はそう宣言する。
水前寺は眉をひそめて反論する。
「どういうことだね、坂井クン。別におれが向かおうが構わないだろう?」
「うん、だけど北東は危険だ」
「危険?」
晶穂の危険という呟きにうんと頷いて返す悠二。
悠二は自分達は北東からやってきた旨を伝え、そして
「北東には……恐らくフリアグネという殺し合いを肯定してる人間が居る」
「……ふむ」
「……凄く強いと思う。君一人で行くには無謀すぎる」
北東に居る危険人物の名を上げた。
それは大佐から聞いたフリアグネの事。
きっと彼にあったら水前寺ではひとたまりも無いだろう。
それに追随するように気だるそうに見えるキョンが口を開けた。
「北東……なら、シズがいるんじゃないか」
「シズ?」
「俺の同行者を殺した人だ……既に二人も殺してる」
「っ!?」
その殺したという言葉に晶穂ははっとして顔を恐怖に染めた。
殺したという人が居るという事。
それはつまり浅羽の危険にもなるという事で。
不安で仕方なかった。
「マオさんもアリソンさんも軍人だといっていた。それをあっという間に屠ったという事は危ないんじゃないか?」
「……」
「時に水前寺、お前、他に仲間は居るのか?」
キョンの問いに水前寺は憮然としながら、答える。
「居る。他に六人だ」
「……悠二さんも知ってると思うけどヴィルヘルミナさんも居ます。皆神社に集合する約束で……」
晶穂のつけたしの言葉に悠二がはっとする。
少し考えて、悠二は
「なら、一旦神社に戻った方がいい。彼女はきっと力になってくれるはず」
水前寺にそう告げた。
確かにヴィルヘルミナの実力は一騎当千に等しい。
そんな彼女が護衛に着けば確かに安全だろう。
だけど、水前寺は
「…………それは受け入れる事は出来ないな」
「……え?」
その提案を蹴った。
何故ならば
「これはおれの問題だ。浅羽特派員はおれ達の問題だ。誰にも口を出されたくない。おれが解決しなければならない、救わなければなら無い問題だ」
「……だけど」
「それに、戻っている間に浅羽特派員が襲われたら? 危険な人物がごろごろいるというのだろう?」
「……うん」
「そんな所に、浅羽特派員を置いておけない」
そして、水前寺は言う。
「だから、おれ一人で行く。異論はないな?」
自分の絶対の意志を。
その意志は曲げられないというように。
キョンも晶穂も頷くしかなかったが……しかし
「いや、一人ではいかせられない。危険なのは何も変わらない」
それに反抗するのは坂井悠二。
彼の目も意志も滾っていて。
水前寺に真っ向に反抗している。
お互いににらみ合って。
そして、悠二が口を開く。
「だから、僕がついて行く」
「……何?」
「勿論、君と浅羽の時には口を出さない……だけど、一人だけでないだけでも安全面は格段に違う。余裕が無い君とは」
「……む」
「それが僕が妥協できる点だ……君は?」
そう返してきた悠二。
交渉を持ちかけ、悠二が出した妥協点。
水前寺は腕を組み深く考え、
そして
「………………わかった。坂井クンの意見に乗ろう。そうと決まったら、さっさと車に乗りたまえ。ボヤボヤしてる暇なんて無いぞ」
憮然と多少納得していないながらも悠二に譲った。
ここで、意地の張り合いを先に進まない。
そんな事をしているうちに浅羽が危険かもしれない。
それならば、悠二を連れて行った方がいいと判断したからだ。
元々危険なのは確かなのだから。
「詳しい話は車の中でする。キョンクンだったかな。君は須藤特派員と共に神社に向かいたまえ。そこに仲間が居るだろう」
「……おい、俺の意志は無視かよ」
「無視だ」
「……………………なんかあいつとそっくりだ……」
キョンはその水前寺の一方的な意見にがっくりと肩を落としながら溜息をつく。
晶穂はまあまあといいながらキョンを慰めていた。
悠二はキョンに向かって
「御免、いきなりだったけど……君と別れる事になりそうだ」
「……いいさ。この場合は仕方ない。また会えるだろう。俺は俺の力で見つけてみせるさ。そっちも頑張れよ」
「うん……ありがとう。あ、もしよかったらだけど」
「ん?」
「余裕があったら警察署に向かってくれないかな。そこに殺人者が居たんだ」
「……それってまさか、お前の……」
キョンの顔が真剣になっていくのに悠二は冷静に応える。
勤めて、冷静に。
「うん、そうだと思う」
「……わかった」
「ありがとう」
そう短く言葉を交わす。
キョンも悟り、意志は伝わった。
これで充分。
そして
「じゃあ、無事にな。坂井悠二」
「そっちこそ」
「部長……浅羽を」
「任せたまえ」
四人は別れを告げ。
彼らは別の道を歩き出したのだった。
【C-2/中央部/一日目・午前】
【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:シャナ、朝倉涼子、“人類最悪”を探す。目先の危難よりも状況打破のために活動する。
1:水前寺と共に北に。
2:“少佐”の真意について考える。
3:シャナと再会したら――。
[備考]
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
※会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。
【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!、シズのバギー@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
1:悠二と浅羽を探す。。
2:浅羽捜索のため、北東の方角へと移動する。
3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
4:浅羽が見つからずとも、午後六時までには神社に帰還する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなこったで、俺は国木田と古泉を足した様な坂井悠二と一旦は別行動をする事になってしまった。
仕方ないといえば、仕方ないが、何というか釈然としない。
まぁそれでも、男と一緒に行動するよりはいいかと俺は自己完結する。
目的の為に行動するだけだ。
………………そもそも、俺の目的自体人頼りなのだが。
……まぁこの際は仕方ない。やるだけはやってみよう。どれくらいできるかさっぱりわからんが。
「キョンさん」
「うん?」
そう、俺に話しかけてたのは須藤晶穂という少女。
宇宙人でも未来人でも超能力少年でも異世界人でも無いただの普通の少女。
ぶっちゃけただの一般人。
こういう少女を俺は待っていた!
ああ、何と言う平穏。これがこんな状況でなければゆっくりと世間話していたいね。
……はぁ。どれだけ今までが非日常だったんだという話だ。
まぁそんな事はともかくとして、この須藤晶穂なる人物。
どうやら、俺とちょっと似てるらしい。
「水前寺部長が何か無理やり私を押し付けたようで……」
「かまわん、かまわん、気にするな」
「でも、本当御免なさい」
……単純に我侭で傲慢な人に引っ張りまわされる常識人という意味で。
はぁ、何か何処の世界にもこういう星の下に生まれる人っているよなぁ。
そう、俺みたいに。
……自分で言っていて、何か虚しくなってきた。
まぁ常識人は辛いよって事よ。
「部長大丈夫かな……」
「坂井が着いてるし、大丈夫だと思うが」
「……さっきも古泉という人に襲われて……大変だったので」
「ほう…………………………古泉!?」
おい、今何と言った?
俺の聞き間違えじゃなきゃ、あの胡散臭い笑顔を貼り付けたたいしたことできない超能力少年だと思うんだが。
「……え、ええ。古泉といってました」
「…………あいつ……おい……」
「大丈夫ですか?」
「……ああ、知り合いなんだ……あの馬鹿」
おいおい、聞き間違いじゃないのかよ。
古泉……絶対ろくでもないことしてないと思ったがろくでもないことしてやがった。
まさか、殺し合いに乗ってるのか、あの馬鹿。
……はぁ、やっぱりろくでもない事してやがった。
基本的にあいつが絡む事、やる事はとんでもない。
殺人事件を演出するのはいいが、本当にお前がやってどうする。
しかしだな、
「何の為に……?」
「さぁ……ハルヒさんが鍵だとみんなの話し合いではそうらしいと……」
「…………またか」
やっぱりというか、やっぱりそうなのか。
古泉がやる事といったら前の似非殺人事件同様にハルヒが絡む。
となると、あいつはハルヒに絡んで何かをやっているらしい。
ハルヒを元の世界へ返す為に?
…………いや、それはない。ハルヒ一人を帰す為に殺し合いなど乗らないはずだ。
自惚れてる訳じゃないが、ハルヒ一人を返した所でどうにかなる問題ではない。俺やSOS団の皆が必要なはずだ。
むしろ、ハルヒ一人を返した所でブレーキが利かず暴走するだろう。
……じゃあ、あいつは何をやろうとしている?
まさか、長門が死んで、先も見えず、自暴自棄になったか?
いや、古泉に限って、そんな事は無いはずだ。
それに自暴自棄ならハルヒは絡まないだろう。
なら、あいつは冷静さを保って、いつもの胡散臭さを保って何かをしよとうしている。
「あ、あのキョンさん」
何をしようとしている?
よからぬ事をしているのは明らかだ。
しかし、いつものようにその意図がわからん。
古泉の事だ、あったら必要の無いことまで、ベラベラ喋るんだろうが生憎今あいつはいない。
「おーい」
ならば、俺が少し考えないといけないのだが。とはいっても簡単に思いつくわけが無い。
というより、思いつくなら古泉はいらん。
あいつが考えそうな事……それは胡散臭い事だ。
胡散臭くて、信じられそうも無い事を誇張気味に話すといういかにもな話だ。
じゃあ、何だ?
「駄目だ……こりゃ……あーあ。部長も悠二さんも無事かなぁ……」
……わからん。
しかし、これで目的の一つが加わったぞ。
古泉の胡散臭い陰謀を暴いてやる。
もしそれが殺しとか、ふざけた事やるようだったら容赦はしない。
あいつに今はやりの友愛とかは持つ気はせんが兎も角、そのまま放置する訳にも行かない。
ならば、考えて動かねばならん。
面倒くさいけどな。
……しかし、古泉がいないと話しにならん。
もっと古泉に会って詳しい話を知る奴はおらんのか。
……いや、俺が一番詳しいとは言えば詳しいんだが、直接あった奴から聞いたほうがいい。
都合よく落ちているわけも無いが…………願うだけはしたいもの……
「あーーーあの古泉という奴もう一度あったら絶対、とっちめてやる!」
ん、今の声。
おい……まさか
「古泉だと!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さて、もうちょっとよ」
美琴の先導の元シャナは神社に向かっていた。
互いにいろいろな事を話しながら順調に進んでいる。
「シャナさんが他に探しているのは坂井悠二さん?」
「うん……」
「大切な人?」
「うん……御坂美琴はいるの?」
美琴はその言葉に顔が赤くなる。
思い起こすのはあのつんつん頭のあの少年。
幻想を破壊する年上の男の子。
だけど、美琴はそれを否定するように大きく首を振る。
「いやいや……ないない! いや、あれはちょっと……いやでも……」
「……?」
シャナは不思議に思うもきっといるのだろうと自己完結する。
恋する乙女モードの美琴を一先ずおきながら思うのは悠二。
大切な人である悠二。
未だ行方さえ知らない。
何処にいるのだろうと少し焦燥に襲われていく。
死に別れるなど絶対に嫌だった。
あの櫛枝実乃梨のように。
そう思ったら胸が締め付けられるような気がして苦しい。
(悠二……何処にいる?)
そして、何処かに居る悠二の事を想いそして、今は置いていけるように話を変える。
「それで御坂美琴。古泉という奴。次あったらどうするの。やる事は決まってると思うけど」
「……勿論ぶっ飛ばすわよ。許さないんだから……あの思い出すだけで腹が立つ」
話を変えたのは古泉一樹の事。
先ほど自分達を卑劣な計によって悲惨な目に合わせた少年の事だった。
美琴はその話題を聞くと見る見る青筋を立てるような怒りを露にさせ
「ああ、腹が立つ。あの貼り付けたようないやらしい笑顔ぶっ飛ばす」
拳をわなわな震わせていた。
そして続く罵詈雑言。
シャナはそんな美琴に若干ひきながらもやはり思うのは一人の少年で。
(悠二……)
強く強く思いながら。
胸に手を置き、鼓動を感じながら。
「あーーーあの古泉という奴もう一度あったら絶対、とっちめてやる!」
会いたいと強く願った時。
その時。
「駄目だ……こりゃ……あーあ。部長も悠二さんもぶじかなぁ……」
聞こえた名前。
強く思っていた名前。
「悠二!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、四人が交差する。
「古泉だと!?」
「悠二!?」
「え、ちょっと誰あんた!?」
「え、ひゃ!? な、何!?」
胸に強い想いと意志を秘めながら。
【C-2/中部・市街地/一日目・午前】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:両足に擦過傷、中程度の疲労
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2(食料一食分消費)、カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック! 、カノン予備弾×24
[思考・状況]
基本:古泉を見つけ、よからぬ事を考えてるなら正す。朝倉涼子を探しここから脱出するための協力を求める。
0:古泉だと!?
1:古泉を見つけ、よからぬ事を考えているなら正す。
2:神社へ晶穂と共に向かう。
3:そう容易くはいかないだろうから朝倉からの協力を得るための策も考えておく。
4:涼宮ハルヒ、朝比奈みくるを探す。
※悠二からシャナ世界について聞いたかはお任せします。
【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーの助手席
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:浅羽にもう一度会う。大河を励ましたい
0:え、え!?
1:キョンと神社に帰る神社に帰る。
2:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
3:水前寺が心配。
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:肋骨数本骨折(ヴィルヘルミナによる治療済み、急速に回復中)、全身各所に擦り傷
[装備]:さらし状に巻かれた包帯(治癒力亢進の自在法つき)、ポケットにゲームセンターのコイン数枚
[道具]:デイパック、支給品一式×2、金属タンク入りの航空機燃料(100%)、ブラジャー、
須藤晶穂のデイパック(調達物資@現地調達 入り)
[思考・状況]
0:え? 誰? 古泉って!?
1:シャナを連れ、神社に戻る。その際、水前寺と晶穂のことを報告。
2:上条当麻との接触について、シャナから詳しい話を聞く。
3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
4:古泉一樹への報復(毛虫の恨み)を果たす。
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:この世界を調査する。
0:悠二!?
1:美琴の案内で神社へ。ヴィルヘルミナとの合流を果たす。
2:古泉一樹への報復(毛虫の恨み)を果たす。
3:悠二に会いたい。
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
此度は延長&少しオーバーしてしまい本当に申し訳ありません。
何かありましたら、指摘などよろしくお願いします。
投下乙。
これはいいパーティシャッフル。
思わず悩んじゃう晶穂を降ろしていったのは、部長の優しさだよなあ、これは。
そして残された2人に、出会っちゃった2人。
この先の展開の幅も広そうだし……GJ。
投下乙です。
水前寺さん男前だなぁ……w
そして、ようやくキョンが大きな話に絡んできた感じで期待!
GJな交錯話でした。
投下GJ!
なんという世紀末……とでも言うべき状況からこのシャッフル、凄い。
キョンと悠二も大筋に入り込んできて更に波乱も起きそう!
特に悠二は、シャナの事を優先しなかったのがどうなるのか。
何がどうなって後に繋がっていくのか、それぞれが楽しみです。
<1365> :<◆ug.D6sVz5w>:2009/11/17(火) 09:17:16 ID:???0
誤爆
……俺は(自ロワの)書き手をやめるぞ! ジョジョーーっ!!
いや、十話以上書いといて途中で投げるのは正直すまんとは思うが、終盤展開に絡ませたいと思っていたお気に入りキャラに揃いも揃って、中盤以前にに死なれたら書く気力が続かねえ。
とりあえず自ロワはジョジョロワじゃないけどな!
これは本人がわざと鳥付けてたならギリギリOKだけどうっかりだったらNGだな
まあいなくなる人だから実害は無いだろうが
投下乙
これは上手くメンバーチェンジしたな
確かにキョンと悠二も大筋に入り込んできたな
シャナはシャナでどうなるか
あさばの予約来てるw
救われるのか、さらにボコボコにされるのか・・・。
楽しみだw
イリヤ未読なんだけど浅羽ざまぁとか浅羽氏ねという言葉しか思いつかんw
俺も未読だけどここまで堕ちたことには同情してるけどね
全部が全部、ロワのせいじゃないけどな
元々作者の考えたキャラを他人(馬鹿書き手ども)が勝手に改変しているだけでしょ
ここまで落ちたとかほざいてるけど勝手にキャラ達を陥れているのは
糞くだらない展開考えた書き手のせいだよ
それをロワせいじゃないとか言うのはちょっと所か大分頭が悪いみたいだね
ロワは初めてか?力抜けよ。
糞とか馬鹿とか言葉の前に付けて必死になっている奴見ると可哀想になってくるね
>>207 だからその「ロワ」とか付ければ
キャラ改悪も免罪符になると思っている
浅慮な思考が恥ずかしい訳
何か空気も悪いし、ネタフリだ。
ここまでで好きな死亡話って何?
211 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 23:16:05 ID:W2P/XDHt
死亡話ってくくりでみるとラスト・エスコートかな
>>209 まあだったら見るなとしかそれに汚い言葉で罵るのはまたべつだ
>>209 俺からすればお前の方がよっぽど浅慮な思考で恥ずかしいんだが…
俺カックイーなんて今時はやらねぇよ?
というか、ぶっちゃけ浅羽はそんなに乖離してない
そろそろスルーで。
死亡話・・・・最近のなら愛憎起源。
放送後ならハラキリサイクルかなあ
俺もハラキリだな
あれは本当にやってくれた
>>213 俺カッコイーは今も昔も大流行してると思うが?
俺ってどうしてこんなにかっこいいのだろう
オイオイ頼むからこんなのでスレ容量使うのやめてくれよ
俺すげーはスルーしてやってくれ
>>220 全面的に同意だがそのレスの時点でスルー出来てないよね俺もおまえも
戦う権利と殺す資格を与えられてる分、浅羽の堕としっぷりは原作作者よりはかなりマシな部類である
単行本書き下ろしでちょっとは救うのかと思ったら…
浅羽は原作からしてサラマンダーだしな
原作でも結局誰も殺してないし
224 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 11:29:28 ID:dc3Ltsyw
新しい予約も来たな
俺には無理なんで代理よろ。
代理投下開始します。
両脇に土塀がある道を、一台のパトカー(注・四輪車。白黒のものだけを指す)が走っていた。
パトカーの助手席には、セーラー服を着た十代中頃の少女が座っていた。
運転席には、艶やかな長い黒髪の妙齢の女性が座っていた。
後部座席には、修道服を着た少女が横になっていた。
「見えてきたわよ。師匠の目的地」
助手席の少女、朝倉涼子が言った。
「何度か寄り道を挟みましたが、ようやくですね」
運転席の女性、師匠が言った。
「…………」
後部座席の少女、浅上藤乃はなにも言わなかった。
塀を越えた先の景色に、空高く伸びる楼閣の姿が見える。
日本という国の古き時代、王様が居城としていた建造物。
豪勢な家屋か、防衛拠点か、ただの物置か、ここでの用途はまだ定かではない。
ただ、金目のものは幾らか置いてあるはず。それだけは間違いないだろう。
朝倉涼子と師匠は、火事場泥棒という目的を持って天守閣に向かう。
朝倉涼子に拾われた浅上藤乃も、意識がない間にそれに同行する。
今も尚、世界のいたるところで殺し合いが行われていた。
彼女たちの横暴を取り締まる人間は、誰一人としていなかった。
◇ ◇ ◇
石と木で造られた城は見た目にも堅牢で、中に入ってみてもその印象は損なわれなかった。
侵入者用の罠を警戒してもいたが、そういったものはなく、城内潜入は滞りなく完了した。
廊下は木の板で作られており、扉は当然のように襖や障子が並ぶ。
朝倉涼子と師匠は物珍しそうに城内を進み、時折、感想を言い合う。
「まるで、戦国時代か江戸時代にでもタイムスリップしたような気分だわ」
「できるんですか、タイムスリップ?」
「ううん、できない。有機生命体の感性ならそんな感じかな、って口にしてみただけ」
そうですか、と興味もなさそうに師匠は返す。
朝倉の言動よりも、城内の景観に意識が向いている様子だった。
「で、どうする? 師匠はここを拠点にしたいって言っていたけれど」
「その前にまず、家捜しです。なにが隠されているとも限りません。手分けしましょう」
「わかったわ。もし誰か潜んでいたら?」
「見敵必殺で」
「ん、了解」
朝倉と師匠はそう言葉を交わし、それぞれ別の道を行った。
木造の廊下は歩くたびにぎちぎちと音が鳴り、侵入者の存在を知らせた。
だからといって、誰かが出てくるわけでもない。
城の中は、まったくの無人だった。
◇ ◇ ◇
城の外には、一台のパトカーが停められていた。
その後部座席に、修道服を着た少女が一人横たわっていた。
少女の名前は浅上藤乃。
長いこと意識を失っていた彼女は、不意に目を覚ました。
体をゆっくりと起こし、周りの状況を確認する。
まず自分の身が車中にあるということを知り、続いて窓の外の景色を見る。
すぐ傍に、大きな城があった。天守閣を備えた、日本の城だ。
おぼろげに残っていた気絶する前の記憶を呼び起こし、藤乃は行動を決める。
パトカーのドアを開け、自らの足で外に出る。
日差しが眩しかった。何時間ほど気絶していたのだろう。時刻はもう昼らしい。
あの二人はどこだろうか――導かれるように、藤乃は城の中へと足を踏み入れていった。
◇ ◇ ◇
天守閣といえば、戦における防衛拠点や住まいはもちろん、物置としても使用される建物である。
その造りは、侵入経路に乏しく、飛び道具による外からの攻撃にも強い上、耐火性にも優れている。
建造された時代の情勢を鑑みれば、これほど防御性に特化した建物もないだろう。
周囲を見渡せる櫓もあるため、篭城するにはもってこいの施設ではあるのだが、
「守りに徹するっていうのは、私の望むところじゃないのよね」
廊下を歩く朝倉涼子の表情は、物憂げだった。
彼女の最終目的は、涼宮ハルヒの生還。それを成し遂げるためにはまず、涼宮ハルヒの身の安全を確保しなければならない。
ここは安全だからと一箇所に留まっていて、その間に涼宮ハルヒが他者に殺害でもされようものなら大惨事だ。
効率的に動くなら、涼宮ハルヒの捜索を続けつつ、危険因子はパパッと排除してしまうに限る。
「まあ、師匠も拠点にするとは言っていたけれど、篭城するとまでは言ってなかったし……あの性格だものね」
連れ添う相方は、女傑と称しても失礼がないほどの行動派だ。
生き残るために最善の手を打つが、臆病風に吹かれて時間を無為に消化したりするタイプではない。
長門有希が殺された、という事実を踏まえても、基本的なスタンスが揺らぐようなことはないだろう。
無論、それは朝倉自身にも言える。
「有機生命体の恐怖っていう感情、私にはよくわからないんだけど」
襖を開けて、誰にでもなく朝倉は言った。
踏み入った畳の大広間には、夥しい量の鮮血が広がっていた。
「こういうのを見ても、なんの感慨も湧かないしね」
けろっとした顔で、朝倉は血溜まりの畳を踏み渡っていった。
◇ ◇ ◇
師匠の家捜しは実に手馴れたものだった。
金品に対しての嗅覚とでも言うべきか、ただの直感と言ってしまって済む能力なのか。
師匠はまるで見えないなにかに導かれるようにして、そのこじんまりとした畳部屋に辿り着いた。
そして、高価そうな掛け軸の傍に詰まれた千両箱にも辿り着いた。
「夢は大きいほうがいい……至言でしたね」
千両箱の中には、大判小判がざっくざっく――誰の目から見ても価値のわかる、お宝だった。
眩しいほどの金の輝きに、しかし師匠は表情の一つも崩さない。
五つ積まれていた千両箱の中身を全て確認すると、まとめてデイパックに仕舞いこんだ。
小判が収まっていた箱も見事なもので、丁寧な細工が施されており、売ればそれなりの額にはなるだろう。
傍にかけられていた高価そうな掛け軸も、当然と言わんばかりに頂戴した。
貰えるものは貰っておく。それが彼女のポリシーだった。
(しかし……)
貰えるものは貰っておく。それはあたりまえ。が、なにかが引っかかる。
これだけのお宝が、なぜ金庫にも仕舞われず、罠もなく、無造作に部屋に置かれていたのだろうか。
城主がずぼらだっただけ、と断じればそれまでの話だが、こういう状況下だ。嫌でも勘繰ってしまう。
(車の鍵を入手するのとは訳が違う……とはいえ、見張りがいなければこの程度でしょうか)
この城に欠けているものは、金庫や罠よりもまず住人だ。
如何な難攻不落の要塞といえども、守衛が不在なら泥棒は容易い。
それは警察署やフィアットが置いてあった家にも言えたことで、略奪者にとっては絶好の環境でもあるのだが、
(家の中はそのまま、では家主はいったいどこへ――?)
どうにも釈然としない。あまりにも上手くいきすぎているが故に、釈然としない。
釈然としないからといってこれをいただかない理由にはならないが、とにかく釈然としない。
考えたところで釈然とするわけではないこの問題、考えすぎて自縄自縛に陥っては間抜けなので、
(――きっと旅行にでも出かけたのでしょう。ええ)
師匠はすっぱりと、考えないことに決めた。
◇ ◇ ◇
浅上藤乃は思い出す――あれはアイアンクローだった、と。
プロレス観戦なんて趣味ではないし、興味すらないが、不思議とその名前が頭に残っていた。
あの不良たちにも、あんな風に顔面を鷲掴みにされた記憶がある。もしかしたら、そのときに覚えたのかもしれない。
数時間ほど前に藤乃の顔面を掌握してみせた、セーラー服の少女と、銃を持っていた傍らの女性。
朝倉涼子と師匠。ただ一言、『協力し合えるかもしれない』という言が印象的だった、二人組。
おそらくはあのパトカーを運転し、藤乃を連れ、この天守閣までやって来たのだろう。
きっと中にいる。そう思い立った藤乃は、一人薄暗い城内へと足を踏み入れた。
軋む廊下を拙い足取りで進みながら、あのときのことを考えていた。
(あの二人は私を――殺そうとした)
否定できない事実を胸に、セーラー服の少女が口にした誘いの言葉を反芻する。
いったいなにを協力してくれるというのか。いったいなにを協力すればいいというのか。
藤乃の目的は、この会場のどこかにいる湊啓太を見つけることだ。彼女らは湊啓太の所在に心当たりでもあるというのだろうか。
仮にそうなのだとしても、彼女たちに情報を教えるメリットはない……ように思える。
協力し合うという言葉の意味を探るなら、藤乃もなにかしら彼女たちに協力しなければならないということなのだろうが、
(……なにを?)
彼女たちに協力できることなど、なにひとつとして思い浮かばなかった。
あの二人はたぶん、殺人鬼だ。二人で組んで、出会った人間を殺して回っているに違いない。
そんな危険な二人に、単なる復讐鬼にすぎない藤乃が、なにを協力できるというのだろうか。
一緒に人を殺せ、というのなら無理な話である。彼女の本心は、決して人殺しを肯定してなどいないのだから。
ただ。
――それが湊啓太に行き当たるために必要な代償だというなら、惜しげなく払うのだろうが。
予感だけを頼りに、藤乃は廊下を歩き続けた。
途中、閉ざされた襖を何度か開け閉めして、ようやく人の気配を感じ取った。
見つけたのは、いつぞや藤乃に銃を向けた女性だった。
二度目の邂逅も、同じく。
女性は、藤乃に対し無表情に銃を構えていた。
◇ ◇ ◇
「痛みますか? 痛みませんか?」
廊下の端と端で、二人の女性が対峙していた。
師匠と呼ばれている妙齢の女性は、銃を構えながら修道服の少女に訊いた。
「……?」
少女は質問の意図が飲み込めていないのか、すぐには答えを返すことができなかった。
「これは質問であると同時に、警告でもあります。痛みますか、痛みませんか」
「……質問、警告」
「復唱しろとは言っていません。痛むか痛まないか、それを訊いているんです」
「……あなたはどうして、わたしを」
「そちらからの質問は受け付けません。痛みますか、痛みませんか」
「…………」
「最後通告です。痛みますか? 痛みませんか?」
五回に渡る問いの末、修道服を着た少女はコクリと頷き、
「――痛みます」
と正直に告げた。
少女、浅上藤乃はおなかの辺りを手で押さえていた。
顔は青ざめていて、立っているのもやっとという様子だった。
「そうですか」
師匠は言って、引き金にかける指に力を込めた。
力を込めつつ、言う。
「なら――」
藤乃の口の端が、小さく歪んだ。
なにかを言おうとして、唇が変形する。
呼気の流れが、呪文を生み出さんとして、
「――選択して。曲げて死ぬか、曲げずに私たちとお話するか」
言霊は外に出ることなく、内に留められた。
いつの間にか藤乃の背後に忍び寄っていた、セーラー服の少女の脅しによって。
藤乃の首筋には、冷たい刃の感触があった。
視界の奥では、銃を構えたままの女性が依然、君臨していた。
前門の虎、後門の狼。
藤乃は、どちらの門を突き破ることもしなかった。
師匠と、朝倉涼子と、浅上藤乃。
三人の再会は、とりあえずはなにも凶(まが)らずに済んだ。
◇ ◇ ◇
がらんとした大部屋に、座布団が三枚、女性が三人。お茶はない。
朝倉涼子と師匠が正座して並び、その向かいには浅上藤乃が同じく正座していた。
「あなたとこういう風にお話できて、本当に嬉しく思うわ」
「無意味な社交辞令はやめておきなさい。交渉は手短に」
「あら、社交辞令なんかじゃないわ。本心よ」
「そうですか。とにかく手短に」
「はいはい」
シビアなんだから、と朝倉は微笑みながら言った。
藤乃のほうを向き、続けて言う。
「こういう席についてくれたっていうことは、私の誘いに乗ってくれたと解釈してもいいのよね?」
「……わたしたちは協力し合える、という話ですか?」
「そう、それ。ちゃんと覚えていてくれたのね。嬉しいわ」
「具体的に、わたしはなにをすればいいんでしょう。あなたたちは、わたしになにをしてくれるんですか?」
おずおずと、藤乃は伏せ目がちに朝倉を見やる。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。なにも取って食べようってわけじゃないんだから。
私たちはただ、あなたと一緒に活動できればなぁ、って考えているだけ。ほら、こんな状況でしょう?
味方は多いに越したことはないし、これはあなたにとってもいい話だと思うんだけど」
「えぇと、つまり……?」
「う〜ん……こういうとき、どういう言葉を用いれば一番適切と言えるのかしら」
朝倉は数秒間、腕組みをして熟考した。
たっぷり十三秒ほどかけて、
「単刀直入に言うとね――私は、あなたが欲しいのよ」
と言った。
藤乃は狼狽した顔つきで、言葉を失った。
「それのどこが単刀直入なんですか。誤解を招きかねませんよ」
「え、そうかしら? 我ながら上手く言語化できたと思うのだけれど」
「仕方がありませんね。私から説明しましょう」
師匠は嘆息し、朝倉に代わって告げた。
「私たちはあなたを、武器として所有したいと言っているんです」
藤乃はより狼狽した。
今すぐにでもこの場から逃げ出そうと、正座を崩し始めている。
立ち上がろうとした寸前で、師匠が銃を構えた。
師匠が引き金を絞るよりも先に、朝倉が藤乃の腕を掴んでまた強引に座らせた。
「逃げないでよ。もう少しお話しましょ?」
「逃げても構いませんよ。逃亡した場合、即座に射殺しますが」
「師匠ってば、脅かすなんて趣味が悪いわよ。彼女、怖がりみたいだし」
「知ったことではありません」
「もう」
今度は朝倉が嘆息し、藤乃の腕を掴んだまま質問する。
「確認するけど、あなた、自分の能力に関してはちゃんと自覚しているわよね?」
「……はい」
「私のほうでも一応解析させてもらったんだけれど、あなたの口から説明してもらっていい?」
「曲げる力のこと、ですよね。この眼で視たものを、歪曲させて……」
「そうそう。それ、なにか制約みたいなものはあるのかしら?」
「……ない、と思います。けど、時々使えなくなってしまうんです」
「へぇ、そうなんだ。なるほど、やっぱりそういうことなのね」
「……?」
「ああ、大丈夫。こっちの話だから」
藤乃は不可解そうに首を傾げた。
「で、その力のことなんだけれどね。私たちが欲しいのは、要はそれなのよ」
「わたしの、曲げる力……を?」
「さすがにもう感づいているんじゃないかしら。ねぇ、浅上さん」
朝倉は親しげに藤乃の名前を呼び、
「私たちと組みましょう。この殺し合いを生き抜くために」
と持ちかけた。
藤乃はぽかんと口を開けたまま、なにも言えず固まってしまった。
「残念だけど、考える時間はあげられないの。これでも譲歩してもらったほうだから」
「家捜しの途中、時間を割いてこういう機会を設けているわけです。さすがにこれ以上は――」
「わかっているわ師匠。私だって、そのへんは弁えてる。ただ、長門さんのこともあるし……ね?」
「……決断を下すのは彼女です」
朝倉と師匠は互いに目配せした後、揃って藤乃のほうを見た。
ぶれのない、睨むような視線に、藤乃は萎縮しきっていた。
同じように視線を合わせることは、できなかった。
藤乃の側から視線を合わせにいけば、即座に殺されてしまうと、理解していたのかもしれない。
「……わたしは」
一呼吸置いて、藤乃は発言する。
「わたしは、あなたたちなんかとは違う」
眼は伏せたまま、語気だけを強くし、朝倉と師匠の存在を否定した。
「わたしは人を殺したくなんてない。この力も、本当は使いたくなんてないのに……!」
「でも事実、あなたは私たちを殺そうとした。矛盾しているわよね?」
「違う……! わたしは、彼を……彼に復讐したいがために」
「彼?」
藤乃の鬼気迫る表情が、畳に向けられていた。
膝に添えていた手が、わなわなと震えている。
そんな様子を観察しながら、朝倉は訊く。
「もしかして、生き残る以外になにか目的があるのかしら。よかったら聞かせてくれない?」
藤乃はゆっくりと頷き、語り始めた。
自身が町の不良少年たちから暴行を受けていたこと、数日前に彼らを惨殺したこと、
湊啓太という少年を一人取り逃がしたこと、この椅子取りゲームに湊啓太が参加していること、
浅上藤乃は湊啓太に復讐を果たすためにこの地で生きるのだ――と、たっぷりの憎悪を込めながら。
一部始終を聞き終えた朝倉は、
「ふーん、大変だったのね。心中お察しするわ」
と平坦な声で感想を言った。師匠は、
「はた迷惑な。その復讐に巻き込まれた人間の身にもなってほしいものです」
と自分のことを棚に上げて言った。
ギリッ、という歯軋りの音が鳴り、藤乃は顔を上げた。
キッとした左目が朝倉を、右目が師匠を、余すことなく視界に納める。
ほぼ同じタイミングで、朝倉は藤乃の首筋に刀を当てた。師匠はまた銃を構えていた。
「ところで、また訊きたいんだけれど」
「今は痛みますか? 痛みませんか?」
「…………今は、痛みません」
そう、と言って、朝倉は刀を下ろした。
そうですか、と言って、師匠は銃を下ろさなかった。
「断っておきますが、私はどちらでもいいんですよ。あなたがどんな選択肢を選ぼうともね」
「……仲間になるか、仲間にならないかという話ですか?」
「断るって言うんなら、残念だけどあなたはここで処分させてもらうわね」
「これは脅しではありません。重ねて言いますが、私はどちらでもいいわけですから」
「私は仲良くしたいなぁ、と思うのだけれど。どうかしら?」
銃口は依然、藤乃のほうに向けられたままだった。
視ただけで相手を曲げる歪曲の力は、今は使えなかった。
朝倉涼子はにこやかに、藤乃の回答を待つ。
師匠は無表情に、藤乃の回答後の処理に備える。
浅上藤乃は、回答を迫られる。
◇ ◇ ◇
いくら相手を凝視しようとも、その身が凶(まが)ることはなかった。
以前の自分に戻ってしまった。また、なにも感じない。
代わりに、罪の意識ばかりが押し寄せてきた。
殺人は忌むべき行為だ。
湊啓太を見つけ出すための代償行為――と割り切っても、罪悪は身を縛る。
だがその罪悪は、腹部の痛みを我慢するだけの原動力にはならなかった。
復讐するのは痛みのため、湊啓太を捜し殺そうとするのは痛みの解消のため。
無痛症は不定期的なものだ。またいずれ、痛みは再発するのだろう。
なら、殺し続けるしかないのではないか――と、浅上藤乃は答えを出す。
ごめんなさいと謝って、ごめんなさいと断って、ごめんなさいと頭を下げて。
たとえそれで許してもらえずとも、湊啓太に行き当たるまでは殺すしかない。
この場を切り抜けるためにも、殺人を肯定し選択するしか、道はない。
――――殺したくなんてないのに。
藤乃は、今にも泣き出しそうなほど悲痛な顔を浮かべた。
これからは彼女たちの武器として、罪のない人たちを殺さなければいけないのだろうか。
そう思うと、総身が震えた。この震えこそが、彼女の殺人に対する罪悪感の証明。
体は無自覚に、本能を代弁してくれるのだ。
ただ、自分の唇の端が小さく笑んでいることには気づかずに――。
◇ ◇ ◇
「湊啓太という名前は名簿には載っていませんでしたが、彼がここにいるという確証は?」
「彼の携帯電話に連絡を取りました。声で確認したから、間違いありません」
「追われているって自覚してないのかしら。彼とはどんな会話をしたの?」
「……あなたの友人を殺した、って」
「殺したの?」
「ここに連れて来られる前のことです」
「そうですか。ちなみにその電話はどちらからかけましたか?」
「あれはたぶん……警察署からです」
「警察署かぁ。じゃあ、そこまで戻りましょうか。その湊啓太っていう人に、もう一度電話してみましょ」
朝倉涼子、師匠の二人と行動を共にすることを受諾した浅上藤乃は、湊啓太についてより詳しく説明した。
約束どおり、二人も湊啓太を捜すことに協力するようだった
相手が『捨てられない携帯電話』を持っているなら好都合、と朝倉は電話での連絡を提案。
しかしこの界隈に電話が置いてあるような施設は見当たらず、別所に移動する必要があった。
「私は反対です」
言ったのは師匠だった。
「警察署は既に調査済みです。有益なものは全て頂きましたし、戻るだけのメリットがありません」
「でも、そこなら確実に電話があるでしょ? 私も見たし。下手に探し回るよりもいいと思うんだけど」
「電話くらい、他の家にも置いてあるでしょう。この国は電線が張られている場所も多いようですし」
「いいじゃない、別に。お宝はここでたんまり調達できたんでしょう?」
「収穫はなかなかでしたが、まだ足りませんね」
「……師匠って、どれだけ略奪すれば気が済むの?」
「無論、全部です」
朝倉と師匠の口論が続く。優位は師匠のほうに向いているようだった。
藤乃は自分から口を挟もうとはしなかった。正確には、挟めなかった。
「そもそも、この城だってまだ調べつくしてはいません。出発前にもう一度探索しますよ」
「あ、そうだ。浅上さんのことで棚に置いていたけど、師匠に見てもらいたいものがあったんだわ」
「なにか見つけましたか?」
「見つけた……というより、見つけてしまった、かな」
朝倉の言に、師匠は首を傾げる。
言葉で説明するよりも見てもらったほうが早い、と朝倉は移動を促した。
師匠はそれに従い、藤乃も最後尾を行く。
◇ ◇ ◇
辿り着いた先は、三人が話し合いをした場所と大差ない広さの畳部屋だった。
ただ一点だけ変わっていたのは、壁や床に彩られた、見るからに異質な赤の模様。
思わず目を背けたくなるほどの、鮮血の跡だった。
師匠は血溜まりの部屋を眺めながら言う。
「これは……既にここで殺し合った者がいる、ということですか?」
「いいえ、それは違うわ師匠。この血、見たところ十二時間以上前のものよ。始まってから付いたものじゃない」
「不可解な話ですね。では、この血はいったい誰のものだというんです」
「人間のものには違いないだろうけど、さすがに誰のものかまではわからないわよ。ただ」
「名簿に名を連ねる“参加者”のものではない。そう言いたいと?」
「ええ」
「……それでは、この血は殺し合いが始まる以前より、ここにこうしてあったと。そういうわけですか」
「でしょうね。なんの意味があるのかはよくわからないけれど」
朝倉はたいして困ってもいない風に言い、続ける。
「これは車で移動している最中、ずっと不思議に思っていたことなんだけれどね。
椅子取りゲームの舞台として用意されたこの会場は、いろいろと歪なのよ。
なんて言ったらいいのかしら。人が生活するのに適していないっていうのかな。
盤上にミニチュアの建物を並べて用意しました、みたいな。そんなちぐはぐさなのよ」
「なにを言いたいのかよくわかりませんが、それも有機生命体の言語機能の限界というやつですか?」
「そうね。そう受け取ってくれて構わないわ。私もね、精進はしているのよ?」
「聞いていません。それに、悩むような問題ではないのでしょう?」
「うーん、まあ、そう言われればそうよね。考えたところで答えは出ないだろうし」
血まみれの畳を土足で踏み、師匠はあっけらかんと言う。
「なら、考えるだけ無駄です。かつて、ここで誰かが鮮血を撒き散らし派手に死んだ。それだけじゃないですか」
「師匠、少しは怖いとか思わないの? 現場を発見した側としても、張り合いがないのだけれど」
「血はなにも語りませんし、襲ってもきません。怖がる必要なんてないでしょう」
女は度胸があってこそですよ、と師匠は諭すように言った。
鮮血の跡など気にも留めず、そのまま室内を物色し始めた。
押入れを開き、畳の下を除き、貴金属や骨董品がないか探す。
そんな師匠の様子を眺めながら、藤乃は呆然。
朝倉はやれやれ、と首を横に振り、
「そんな風に足蹴にして、その血の持ち主に化けて出られても知らないんだからね」
と外見年齢相応な人間の少女として、冗談を口にする。
すると、師匠は猛然とした勢いで血の上から飛び退いた。
「えっ」
師匠のふとした行動に、朝倉は意識せず声を漏らしてしまう。
血まみれの畳の上を、わざわざ血が付着していない部分を縫うようにして歩き、師匠は部屋の出入り口付近まで後退した。
「あなたも、見えるんですか?」
というのは師匠からの質問。
矛先は朝倉に向いていたが、本人はなんのことだかわかっていない風だった。
「早急に答えなさい。見えているんですか? そしているんですか?」
師匠は朝倉に肉薄して、詰問する。
普段の彼女からは想像もできないような、焦りが感じられた。
「ちょっと、落ち着いて。質問の意図が読み取れないんだけど……」
「ですから、あの血の持ち主が――ここで死んだ人間の霊が見えるのかと、訊いているんです」
「なに言っているの、師匠? そんなもの――」
朝倉が言いかけたところで、ゴトッ、と物音がした。
三人が一斉に、そちらのほうに視線をやる。
音は血まみれの部屋の奥から聞こえた。
しかし奥には押入れがあるだけで、外から見た限りでは特に変わった様子はない。
「……出発です」
しばしの沈黙を破って、師匠が言った。
「出発って……家捜しはもういいの?」
「金品は十分なほどに調達できました」
「さっきは足りないって言ってたじゃない」
「あれは言葉のあやです」
「言葉のあやって……」
「仕方ありませんね。一度しか言いませんからよく聞きなさい」
師匠は朝倉と藤乃の顔をキッと見て、
「この血の跡、おそらくは私たちが来る以前に強盗が押し入ったに違いありません。
城主は惨殺され、このように凄惨な血の跡が残った。
そういった曰く付きの城が、今回の椅子取りゲームの舞台に置かれてしまった。
死体はこの催しの企画者が回収したのでしょう。
強盗が押し入った後ですから、お宝もそう多くは残っていません。
私が見つけた小判は、強盗の見逃しでしょうね。なにせ広い城ですから。無理もありません」
捲くし立てるように言い、無理やり納得させた。
話を聞いた二人は唖然。その反応を鑑みず、師匠は廊下に出て、すたすたと部屋を離れていく。
「なにをしているんですか。さっさとしなさい」
「あー……師匠、次の目的地は結局どうするの?」
「警察署で構いません。さっさとしなさい」
「待って。私はともかく、浅上さんはそんなに速くは歩けないわ」
「あなたが担いで歩けば済む話でしょう。さっさとしなさい」
「実は、こことは別の部屋でお宝を見つけたのだけれど」
「お宝はもう十分と言いました。さっさとしなさい」
「ここを拠点にするっていう話は?」
「やめです。さっさとしなさい」
言葉を交わす間も、師匠は歩を止めなかった。
追いかけないと置いていかれちゃうわね、と朝倉は駆け出した。
傍らにいた藤乃は朝倉に両腕で抱きかかえられ、お姫様抱っこの要領で運ばれる。
火事場泥棒たちがいなくなって、血まみれの部屋だけが残った。
押入れの奥では、誰に知られることもなくねずみが鳴いていた。
◇ ◇ ◇
城の門前に停めてあったパトカーに、三人が乗り込む。
師匠は運転席に、朝倉涼子は助手席に、浅上藤乃は後部座席に。
「では、行きましょう」
「師匠、シートベルトが締まってないわよ?」
「ここでは必要ないでしょう。いざというとき、咄嗟に動けないと困りますしね」
「そう」
運転手の師匠はキーを回し、車を急発進させた。
南への道を爆走しながら、エンジン音が土塀だらけの区画に響き渡る。
荘厳な天守閣はどんどんと遠ざかっていき、幾らか離れたところで師匠が、ふう、と息をついた。
「あの」
後部座席に座っていた藤乃が、おずおずと訊く。
「師匠さんは、ひょっとして……」
「なんですか? 言いたいことがあるならどうぞ」
師匠は振り向き様、P90の銃口を藤乃に向けながら言った。
「師匠、言葉と行動が矛盾しているわ。それと運転中。危ないわよ」
朝倉が指摘すると、そうですね、と言って師匠は銃を下ろした。
「それで、私がひょっとして……なんですか?」
「……いえ、なんでもありません」
それ以降、藤乃は貝のように口を閉ざしてしまった。
【C-3/天守閣付近/一日目・昼】
【師匠@キノの旅】
[状態]:健康。パトカー運転中。
[装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、パトカー(1/4)@現実
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、パトカー(3/4)@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
1:天守閣から離れる。警察署まで移動する。
2:朝倉涼子を利用する。
3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康。パトカー助手席に乗車中。
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、
フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
1:警察署に向かい、電話を使って湊啓太に連絡を取ってみる。
2:師匠を利用する。
3:SOS料に見合った何かを探す。
4:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態。腹部の痛み消失。パトカー後部座席に乗車中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
1:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。
【千両箱@現地調達】
師匠が天守閣にて確保した。
彫り細工が見事な千両箱の中に、小判が40枚ほど収められている。
【掛け軸@現地調達】
師匠が天守閣にて確保した。
高価そうな掛け軸。売ればそれなりのお金になるでしょう、との鑑定。
以上、代理投下終了しました。
投下GJ!
師匠wwwww師匠の幽霊ネタがきやがったwwwwwwwww
それに千両箱発見とかwwwwwwwwやりやがったwwwwwwwwww
そしてふじのんも本格参戦か。けれどまだまだ不安定なのかな。
二人が三人になったわけだが、これは果たして後にどんな影響を残すのか……!
っていうか警察署逃げてwwwwwwww古泉逃げてwwwwwwwwwwww
投下乙ですー。
藤乃加入か……
おっかない女三人が揃ってしまったw
怖い怖いw
師匠も幽霊怖がるのはやはりかw
そして警察署へ……どうなる?
GJでした
っと、投下・代理投下乙です。支援しといて感想忘れてた
師匠wwwww あんたって人はwwww
とりあえず3人の関係は危うくも危険な形で固まった様子。
随所随所で痛みの有無を問う師匠と朝倉が、翻って脅威の評価になってるなぁ。
警察署にとんぼ返りとなるようだけど、さて、誰とどう出遭って、どう出遭わないのか。
相変わらずここの組は先が読めないw
さて、こちらも予約していた3名の話、投下します
走り出して逃げ出して、そうたいして経たないうちに、浅羽直之の息は切れた。
もともと体力は尽きかけていた。
だいたい、最初から体力はそうある方ではない。
立ち止まって、中腰で両膝に両手を当てて息を整えようとして、今更ながらに折れた右腕に加重がかかって悲鳴が漏れた。
首だけで振り返る。
伊里野のあの特徴的な白い髪は、もう見えない。
少しだけホッとして、その「ホッとしてしまったこと」にまた新たな罪悪感を覚えて、重たい足を引き摺ってまた歩き出す。
とにかく少しでも離れたくて、遅々とした歩みながらも、歩き続ける。
うつむいたまま、前も見ずに、歩き続ける。
誰も居ない、嘘みたいに明るい朝の町。
疎開で人の減った街だって、こんなに静かではなかった。
奇妙なまでの現実感の無さが、浅羽の思考力を奪っていく。
疲れきっているのに、身体のあちこちが激痛を訴えているのに、歩くことを止められない。
そういえば、伊里野を拒絶してしまったのはこれが初めてではなかったっけ。
浅羽は思い出す。
あの5日間を過ごした学校、休校になっていた紀国町立成増小学校から逃げ出した直後。無人駅。
流石にあの時は、拳までは振り上げなかったけれど――
浅羽直之は、言葉で、伊里野加奈を壊したのだった。
あの時も、色々と限界だった。
体力も尽きていたし、吉野の裏切りは精神的にも経済的にも痛手だったし、警察や自衛軍が今にも追いつきそうな気がしてい
たし、伊里野は言わなくてもいいことを何度も繰り返して浅羽の心を何度も抉ったし、ほんとうに、ほんとうに、限界だった。
後先考えることなく、積りに積もった鬱憤を吐き散らして――伊里野の心を、へし折ってしまったのだ。
浅羽は歩く。
うつむいたまま、のろのろと歩き続ける。
そういえば、伊里野に殺されそうになったのも、これが初めてではなかったっけ。
浅羽は思い出す。
伊里野を拒絶し、伊里野を壊したあの無人駅。あの直後。
彼女を見捨てて逃げ出したはいいけれど、けっきょく他にアテなんてなくって、だから戻って、彼女に手を伸ばして――
その手を、ナイフで切り裂かれた。
切り裂かれて、叫ばれた。「ころすつもりでさしたのに」と。
あの時、伊里野も色々と限界だったらしい。
あの直後から、鼻血を延々と流し続けるようになってしまったし、ときおり視力を失ってしまうようになったし、浅羽を浅羽と認識
できなくなったし、きゅるきゅるきゅると謎の言語を喋るようになってしまったし、どんどんと記憶が退行するようになっていった。
浅羽の拒絶が最後の一押しをしてしまったのは確かだろうが――それ以前に、伊里野にも限界が来ていたのだ。
浅羽は歩く。
太陽が眩しい。思わず瞼を閉じてしまう。
この疲労感と目の痛みは覚えがある。学園祭とかで騒いで働いて徹夜して、朝になって日差しを浴びて感じる眩しさだ。
別に徹夜をしたつもりもないけれど、あれ、そういえば、前に寝て起きたのはいつだったっけ。とっさに思い出せない。
ともかく、たった数時間のうちにあれだけのことがあったのだ。疲労を覚えて当然だった。
そういえば、あの、全てが決定的に変わってしまった無人駅の夜とは、順番が違ったのか。
浅羽はぼんやりと考える。考えるつもりもないのに考えてしまう。
今回は、伊里野が先に浅羽を殺そうとした。
だから、浅羽も。
伊里野を。
そこから先は、考えたくなかった。
立ち止まったら、また思い出してしまいそうだった。だから歩く。
歩く。
歩く。
うつむいたまま、のろのろと歩く。
道が一本道の間は、何も考える必要がなかった。
大通りを進んでいるうちは、脇の小道も無視して進み続けることができた。
だけどやがて、大通りと大通りがY字路を成している大きな交差点に差し掛かって、考えざるを得なくなって、顔を上げて、
そこで、榎本が死んでいた。
「……え?」
ずっとうつむいていたせいだろう。
かなりの距離に近づくまで、気付かなかった。
気付いた時にはもう、仰向けに横たわっている人物の、細かい顔の造作まで見て取れてしまった。
そういえば放送で呼ばれていた。
どこか満ち足りたような表情を浮かべて、冷たいアスファルトの上に大の字で、そして、頭と腹に傷の跡があった。
腹部の傷は大量の血でシャツを赤黒く染め上げ、さらにそれが乾いて固まって汚らしい粘土細工のような質感になっていた。
頭の傷は脳天を貫通する小口径拳銃による銃創で、血と脳漿と、少しの脳味噌を後頭部から漏れ零していた。
――そこまで確認してやっと、浅羽の口から恐怖の叫びがあふれ出た。
「う、うわぁぁぁ!」
足がもつれて、その場に尻餅をついた。
死んでいる。間違いなく死んでいる。
あの榎本が。
なんでもできそうな雰囲気さえあった、あの榎本が。
おそらくは伊里野の境遇や身の上や、身体の問題について一番詳しかったであろう、あの榎本が。
浅羽は天を仰いで呻く。
「な……なんで、なんであんたが死んでるだよっ! 伊里野が大変な、こんなときにっ!」
言って初めて、浅羽は気がついた。
いくつもの記憶が、綺麗に1つの形に組みあがっていく。ひとつの仮説がすとん、と腑に落ちる。
浅羽は、確信する。
伊里野が豹変して浅羽を襲ったのは、榎本たちが「何か」をしたからだ。
さもなくば、「何かをしなかった」せいか。
もしかしたら、「何かをできなかった」せいかもしれない。
伊里野加奈がブラックマンタのパイロットとして、色々と投薬などの処置を受けていたらしいことは浅羽も理解していた。
その副作用だか何だか知らないけれど、それが伊里野の心身を蝕んでいたことも。
だから、きっと。
伊里野が浅羽を殺そうとしたのも、「そのせい」だ。
処置の過剰か、不足か、致し方のない欠如か、その辺は詳しくは分からないけれど、きっと「そのせい」だ。
逆に言えば――「適切な処置」を受けられれば、伊里野は元に戻る。
もしここで榎本が生きていたなら、彼ならきっと何とかしたことだろう。
根拠も理由もありはしないが、榎本ならできたと思う。榎本の手に負えなかったら、誰にもどうにもならないとも思う。
だけど榎本は死んでしまった。浅羽の目の前で屍を晒してしまっている。
なら――浅羽が、なんとかするしかない。
浅羽以外に、伊里野を何とかしよう、と思える人はいない。
「……まずはクスリ、かな」
浅羽は考える。
まずはクスリ。
椎名真由美が伊里野に注射をしている場面を、何度か見ている。食事の後、大量の薬を飲んでいる姿も見ている。
何が必要なのかまったく見当もつかないけれど、とにかく、何らかの医薬品が必要だ。
それから、もう1つ確保したいのは。
「……それに、助けがいる。クスリに詳しい人の助けが」
そう、専門家だ。
浅羽1人では何が必要なのかも分からない。
必要に迫られれば伊里野の心臓に注射をすることくらいはできる、はずだが……そもそも、今何が必要なのかが分からない。
榎本が生きていれば彼でよかったのだが、榎本が死んでいる以上、誰かを探さねばならない。
60人、いや、10人減って残り50人の参加者の中に、都合よく医療やクスリの専門家がいるかどうかは分からないが……
それでも、探さなければならない。
浅羽よりはマシ、という程度の人でもいいから、探して、協力を仰がなければならない。
浅羽1人では、絶対に無理だ。
今までは、ただ伊里野1人が生き延びればそれでいい、と思っていた。
とにかく他の皆を排除して、伊里野を最後の1人にすればいい……ただそれだけを考えていた。
けれど。
そこまで伊里野の調子が悪いなら、先にそちらの手当てをしなければならないだろう。
あのままでは、いつ伊里野が鼻血を出したり、吐血したりするか分かったものではない。3日間、果たして持つだろうか。
そして悔しいことに、仮に自分がその場に居合わせても何もできないことを、浅羽は知っている。
なら――今はクスリと、クスリに詳しい人の確保が先だ。
他人を利用しなければ、いや、他人に頼らなければ何もできないことを、まず認めてしまうところからはじめよう。
必要な薬品を、どうにかして確保する。
必要な協力者を、どうにかして確保する。
それから、置いてきてしまった伊里野のところに戻って、伊里野の体調不良を治す。
その後のことは――それから考える。
「あなたができないなら……ぼくがやる。ぼくがやるしかないんだ」
浅羽は榎本の遺体に向かって吐き捨てると、軋む身体を苦労して立ち上がらせた。
もう少しだけ、頑張ってみよう。
何度も心が折れそうになって、何度も道を間違えたけれど、あと少しだけ、頑張ってみよう。
あと少しだけ、歩き続けてみよう。
まだ見ぬ協力者は、どこに行けば会えるのか分からない。
だから先に探すのはクスリの方だ。確実にありそうなものから押さえていこう。
いまさら病院には戻れない。
行くなら、診療所。
地図をいちいち取り出して確認するだけの気力はなかったけれど、おぼろげに場所は覚えていた。
二度と起き上がらない榎本の隣を通り過ぎる。
浅羽が思い出すのは親戚のおばあちゃん家での、深夜の会話だった。
榎本は榎本で大変だったんだろう。今更ながらにそんなことを思って、だから、浅羽は心の中で呟いた。
――あなたはそこで寝てていい。ぼくが、今度こそ、伊里野を助ける。
◇ ◇ ◇
気持ちも新たに歩き出して、そうたいして経たないうちに、浅羽直之の歩みは止まってしまった。
もともと体力は尽きかけていた。
だいたい、最初から体力はそうある方ではない。
覚悟1つ決めなおしただけで疲労が消えうせるなら、誰も苦労しない。
相変わらず街並みは嘘臭いほどに静かで、かなりの高さに昇った太陽が容赦のない光を浴びせかけてくる。
誰もいないビル群の間を、浅羽はただ歩く。
うつむきながら歩く。
榎本が死んでいたY字路では、海に近い方の道を選んで南下した。
確か診療所は地図の下のほう・中央付近、海に近いところにあったはず。多少遠回りでも、海沿いに進めば間違いない。
そのはずだ。
そのはずだけど。
浅羽は歩きだす。
一旦止まってしまった足を、苦労してまた前に出す。
いい加減、川にかかる橋が見えてきてもいいはずなのに、まだ着かない。
自分の歩みが遅いのか。それとも、世界がいつの間にか長く長く引き伸ばされてしまったのか。
あまり時間はないのだ。こうしている間にも、伊里野が血を吐いているかもしれないのだ。
気ばかり焦るものの、熱を持った頭では、じゃあどうすればいいのかが分からない。
分からないから、ただ歩く。
満身創痍の身体で、とにかく歩く。
とうとう、何もないところでつまづいた。
うっかり右腕から地面についてしまって、折れた腕に激痛が走って、声にならない声を上げてその場に転がった。
無慈悲なまでに硬い地面に、手足を投げ出す。
榎本がそうしていたように大の字に横たわったら、抜けるように青い空が視界に広がった。
静かに、風が吹き抜ける。
微かに潮の匂いがした。
不思議なまでにのどかな、空だった。
自分は何をやっているんだろう。
立ち上がる気力もないまま、浅羽は自問自答する。
伊里野を助ける。伊里野だけは助ける。そのために頑張っている。
そこに間違いはない。
ここまで間違いは沢山あったけれど、そこにはもう間違いはない。
ならなんで自分はこんなところで空を見上げているんだろう。
どうしてすぐに起き上がって歩き出さないんだろう。
なんで、空を、
唐突に、青い空の一部が丸く切り取られた。
浅羽は目をしばたいた。
音もなく気配もなく、まさに「瞬間的に」出現したように見える、丸い影。
それは、布で出来た傘のような物体で、2本の白い棒が浅羽の頭上に向かって延びている。
白い棒の付け根には……あの、ヒモのような物体はいったいなんだろう?
いや、ヒモじゃない。布だ。
恐ろしく面積の少ない布。それを真下から見上げている格好。
ひょっとしてこれは、下着、つまり、
「……うわぁぁぁぁっ!? え、ええっ!?」
「……あら、死んでるかとも思ったのですけど、意外と元気ですのね」
飛び起きると、こちらを覗き込んでいた「その過激過ぎる布きれ」の「持ち主」と目が合った。
パッと見たところ、浅羽と同年代、あるいは少し下くらいだろうか。
どこかの学校の制服らしきものに身を包み、袖口には何やら目立つ腕章をつけ、そして、髪はツインテールで結ばれている。
その表情から察するに、スカートの中を覗く格好になっていたことには、まったく気付いていないようだった。
さらに、その少女の背に隠れるようにして、もう1人の少女。
こちらはさらに幼い外見で、ズボン姿。白い髪と、表情らしき表情のない顔が印象的だ。両手で三毛猫を抱えている。
その髪の色と猫を抱く姿が、どことなく『校長』を抱く伊里野を思い出させる――もっとも、『校長』は白と黒のぶち猫だったが。
2人と1匹が登場するまで、物音はしなかったと思う。
この、人の気配の消えた静かな街で、いったいいつの間にここまで近づかれていたのか。
ごくごく普通の女の子2人、その足音にも気付かないほどに疲れきっていたのか。
浅羽はしばし、少女たちを呆けた表情で見上げたまま、固まってしまっていた。
◇ ◇ ◇
声をかけてきた制服姿の少女は、白井黒子と名乗った。
同行する白髪の少女はティー、抱えられた猫はシャミセン。どちらも白井の紹介で、ティーはただじっと無言を貫いていた。
シャミセンと呼ばれた猫も、奇妙なまでの大人しさでただ抱かれるままになっている。
猫に三味線とは酷いネーミングセンスだ、と思いつつ、浅羽も自らの名を名乗る。
「浅羽直之さん、ですか。何やら大変だったようですけれども……何があったんですの? 誰かに襲われた、とか?」
白井黒子は浅羽の身体のあちこちに刻まれた傷を見まわしながら、首を傾げた。
何があったのか。そんなことを聞かれても困る。
まさか、山で女の子に機関銃を向けて、手酷い反撃を喰らって川に叩き落されて、這い上がった先の病院で着物の男に襲われ
て腕を折られて、毒を舐めて死ぬのを見殺しにして、女の子を襲って押し倒して、男に蹴り飛ばされて逃げ出して、
そして伊里野と会って、
……言える、わけがない。初対面の相手に、そんな話、できるはずがない。
浅羽は迷う。
何をどう言って誤魔化そう。
病院で薬師寺というおじさん(お爺さん?)に腕を折られたことは言ってもいいだろうか。
最初は皆を殺すつもりだったことは……ダメだ、言えない。言うわけにはいかない。
悩む浅羽をどう思ったか、白井黒子はしばしの沈黙の後、溜息をついた。
「……どうやら、入り組んだ事情がおありのようですわね。
一言で済まないようなら、そうですわね。どこか手近な所で、傷の手当てでもしながらお話を窺いましょうか。
幸い、あなた1人までなら重量的にもなんとかなりそうですし」
傷の手当て。
言われて初めて浅羽の頭にその可能性が浮かぶ。
なるほど確かに、この満身創痍の現状、ただひたすらに我慢しているだけでは身が持たない。
折れた右腕だって、簡単な添え木と包帯で固定するだけで、格段に動きやすくなることだろう。
伊里野に撃たれた銃創も、もし弾が傷の中に残っているなら摘出しておくに越したことはない。
そして、そういった処置は、自分1人ではなかなかできるものではない。助けが得られるなら、正直有難い。
助けてもらおう。浅羽は思う。
こんな、自分と同じくらいの子供たちに、浅羽の求める「クスリの知識」なんてないだろう。
だけど浅羽は決めたのだ。
これからは、自分1人で無理はしない、と。
利用できる人は利用させてもらうのだ、と。
だから、手始めに。まずはこの子から。
そこまで考えて――浅羽は不意に、気がついた。
冷たく鋭く、自分を刺すような視線。
視界の隅に映った、緑色の瞳。
この場に居合わせた、もう1人。
浅羽は振り返る。
「たすけるのか」
ティー、と紹介された白い髪の少女が、初めて口を開いた。
真っ直ぐ浅羽を見つめたまま、まったく変わらない無表情のまま、平坦な口調で呟いて、そして、
「わるいやつなのに?」
小さく首を傾げて放たれたその一言に、空気が凍った。
一瞬、浅羽の心臓が止まって、そしてドッと脂汗が噴出する。
白井黒子も、少女と浅羽の顔を見比べながら、首を傾げる。
「悪い奴、と言うと……つまりこちらの殿方が、殺し合いに乗っていた、ということですの?」
「…………」
白井の問いかけに、ティーは答えない。ただ浅羽の顔を見ている。
まったく感情の読めない目。どこまでも深い瞳。
それはまるで、浅羽の過去の愚行も所業も、全て見透かし、責めたてるようで――!
「う……うわぁぁぁぁぁ!」
考える前に身体が動いていた。思考が追いつく前に、耐え切れなくなった。
咄嗟に自分のデイパックを小柄な少女に叩きつける。
他に手元に武器らしい武器は残ってなかった。持ち物をここで失ってしまうことの危険など、考える余裕はなかった。
ぼふっ、という気の抜けるような音。白井黒子の動揺する気配。「おおっと」という、誰のものか分からないバリトンの美声。
それらをロクに確認することなく、浅羽直之は一動作で跳ね起きて、駆け出した。
あの子は何だ。
伊里野にも似た白い髪をした、あの子は何なんだ。
浅羽の心を埋め尽くすのは、理解不能なものを前にした恐怖。
なんでバレた。伊里野のために他のみんなを殺そうとしていたのが、どうしてバレた。
ひょっとしてあの子は、冬頃に水前寺部長が研究していたESPの持ち主なのか。
人の心が読めるのか。人の過去が読めるのか。テレパシー? それともサイコメトリー?
分からない。まったく分からない。理解できない。
浅羽は逃げる。
背後からかかる制止の声を無視して、ひたすら逃げる。走って逃げる。決して振り返らない。
デイパックを捨てた分だけ身軽になった身体で、とにかく逃げる。
なんでだ。
なんで今になって、過去のあやまちを責めたてられなきゃならない。
一度道を間違えた奴はいまさら何をしたって無駄ということなのか。
それとも、まだきっちり反省していないのが悪いっていうのか。
自分は、「わるいやつ」なのか。リリアという子に言われた通り、自分は「悪い人間」なのか。
分からない。分からないから、逃げる。
とにかく、逃げる――!
◇ ◇ ◇
パニックになって後ろも見ずに逃げ出して、そうたいして経たないうちに、浅羽直之は硬く冷たいアスファルトに倒れ伏した。
もともと体力は尽きかけていた。
だいたい、最初から体力はそうある方ではない。
とっくに限界には到達していたのだ。恐怖と恐慌という燃料だけでは、すぐに燃え尽きる。
ようやく辿りついた橋のたもと、大通りの真ん中に倒れこんで、そして、もう今度こそ立ち上がる元気はない。
なんで今更逃げたりしたのか。薄れゆく意識の中で、彼は自分の咄嗟の判断を悔いる。
あんな小さな子くらい、適当に言いくるめてしまえばよかったのに。
舌先三寸で、心配してくれた白井黒子の方を味方につけてしまえばよかったのに。
いや、あるいは。
素直に認めて、謝ってしまえばよかったのかもしれない。
確かにぼくは悪いことをしてきました、でも、今は他の人の助けを必要としています。そう認めてしまえばよかったかもしれない。
少なくとも、荷物をぶつけて逃げるよりは、よっぽどよかったはずだ。
そんなことだから、浅羽は。
後悔の念は、しかし、すぐにぼんやりとした疲労感と罪悪感に置き換わって。
転んだまま立ち上がれない浅羽は、どうしようもなく睡魔に絡め取られていく。
気絶とも睡眠ともつかない闇の中に、落ちていく。
「それでも、伊里野は……ぼく、が……」
静かな無人の街の中。
暖かな日差しに包まれて。
意識を失う最後の瞬間、浅羽直之は、かすかな着地の足音を2つ、聞いたような気がした。
【E-6/橋の北側/一日目・昼】
【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形。右手単純骨折。右肩に銃創。左手に擦過傷。 微熱と頭痛。前歯数本欠損。気絶中。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
0:????(気絶中)
1:伊里野の不調を治すため、「薬」と「薬に詳しい人」を探す。
2:とりあえず、地図に描かれていた診療所を目指そう。
3:薬に詳しい「誰か」の助けを得て、伊里野の不調を治して……それから、どうしよう?
4:ティーに激しい恐怖。
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
※まだ白井黒子が超能力者であることに気付いていません。シャミセンが喋れることにも気付いていません。
◇ ◇ ◇
「……まったく、逃げ切れるとでも思っていたのですかしら」
橋の傍、倒れ伏したまま動かない浅羽直之を見下ろして、白井黒子はつまらなそうに呟いた。
傍らには、シャミセンを抱きかかえたままのティーもいる。
もちろん、白井黒子の『空間移動(テレポート)』によって追いついてきたのだ。
学園都市でもレアな、大能力(レベル4)の『空間移動』。
疲れきった中学生が、ただ走って逃げられるものではない。
白井の隣では、どことなく不満そうな色を瞳に浮かべたティーが、黙ってたたずんでいる。
2人による浅羽の追撃が遅れたのは、しかし、浅羽の投げたデイパックのせいではない。
直撃を受けたティーだったが、こんなもので怪我をするはずがない。せいぜい軽くよろけて尻餅をついただけだ。
むしろその直後、逃げる浅羽の背に向け、迷わずRPG−7を構えたのがマズかった。
白井黒子が慌てて制止し、撃つか撃たないか、荷物に戻すか戻さないかで揉めているうちに、距離を開けられてしまったのだ。
その浅羽直之だが、今は彼女たちの足元で精根尽き果てて気を失っている。
一応、ちゃんと呼吸はしているようだし、新たな怪我などもないし、単に体力の限界に達してのびているだけだろう。
つま先でつついて軽く確認を済ませた白井は、盛大に溜息をついてみせる。
「それにしても……どうして分かったんですの?
確かにどこか挙動不審な様子もありましたし、わたくしも密かに警戒はしていましたわ。
けれど、いまいち決め手がなく、困っていたのですけれど」
白井黒子には経験がある。
『学園都市』の『風紀委員(ジャッジメント)』として、数々の事件に関わってきた経験がある。
だから、何気ない挙動や仕草から不審人物を見分ける眼力も、並みの人間より優れている自信があった。
その目で見てみると……確かに、浅羽直之はどこかおかしかった。
言い淀んだ時の表情、視線の動き、どれも「何か後ろめたいことを隠している」雰囲気があった。
けれども――「貴方、殺し合いに乗っていたのではなくって?」とストレートに問えるほどの確信は、持てなかったのに。
首を捻る白井に、ティーは答えた。
「どうしてわからない?」
「……いや、どうして、と言われましても……」
「意地悪をせず教えてやりたまえ。私も興味がある。
もっとも、人の言葉で言うところの『興味』と、猫である私が抱くこの情念とが同一であるという保障はどこにもないが」
返答に困る白井と、意味不明な戯言を口にするシャミセン。
ティーは言った。
「しぬきずじゃない」
「……は?」
「こいつのきず、しぬようなきずじゃない。みればわかる」
ティーにしては、珍しくも長い台詞だった。
死ぬ傷じゃない。
確かにその通りだ。
浅羽直之の身体に刻まれた無数の傷。打撲に擦り傷に色鮮やかな歯型、骨折に銃創とバリエーションは豊かだったが。
そのどれも、命に関わるような負傷ではない。
命に関わるような攻撃を、紙一重で避けてできたような負傷には見えない。
それが意味するところは、つまり――。
ティーがさらに言葉を重ねる。ティーにしては、驚異的な饒舌。
「ころされそうになって、にげてきたなら、ああいうけがじゃない。どうしてわからない?」
「なるほど、そうですわね。『誰かに襲われた』なら、こういう怪我にはまずならない。
むしろ、『誰かを殺そうと襲い掛かって、逆に手酷い反撃を受けた』なら、こういう怪我にもなる、と――
まったく、その通りですわね」
先制攻撃を仕掛けたのは、まず間違いなく浅羽の方。
反撃して浅羽の身に傷を負わせた者たちは、それでも浅羽を殺すことなど考えてもいなかった。
それだけの事実が、ただ傷のつき方を観察するだけでわかる。
全部が全部、そうだったとは断言できないが、浅羽の経験した闘争の大半がそうであったことは推測できる。
白井黒子は、内心舌を巻く。
単なる無口な爆弾好きの少女かと思ったら――これは、とんでもない拾い物かもしれない。
「……それで、この少年のことはどうするのかね?」
「決まっているでしょう。こんなところに放置して、そのまま死なれたりトドメを刺されたりしたら寝覚めが悪すぎますわ」
シャミセンの問いに、白井黒子は断言する。
ティーが無表情の内にもどこか不満げな視線を込めて見上げてくるが、白井黒子は揺るぎもしない。
「悪党だからって死んでいい、なんて言っていたら、こちらもその悪党と変わりありませんわ。
むしろこの程度の小悪党、『殺す価値すらない』。それがわたくしの本音ですわよ。
幸い、わたくしの『空間移動』にはあと1人分くらいの重量の余地はありますから、どこかに運んで、まずは手当てをしましょう。
そうですわね、手近なところで、摩天楼あたりに戻りましょうか」
彼女の『能力』の前では、摩天楼までの距離はむしろ「近い」。
あそこにはゆっくり休める居住スペースもあったし、ドラッグストアやクリニックの類もあった気がする。
病院や診療所を目指すより、よほど楽だ。
白井黒子の呟きを聞く、ティーは無言だ。
その視線に含まれる非難の意を、白井もひしひしと感じる。付き合いはまだ短いが、その程度のことは分かってしまう。
おそらくそれは、浅羽直之の処遇についてのみではない。「こんな奴に関わっていていいのか」という非難の意も含まれている。
灯台で『黒い壁』の破壊を試みて、しかし上手くいかず、直接『消滅したエリア』を調べに行こうとした矢先のこの遭遇だ。
さっさと先に進もう、さっさとあの『黒い壁』を壊しにいこう――そんなプレッシャーを感じる。
そして、白井黒子も、その点については迷いがないわけではない。
自分は無力だ。改めて黒子はそう思う。
要領が悪い。物事の優先順位がつけられない。ちょっとしたアクシデントですぐに方針がブレる。
目の前のティーを放り出していくこともできず、目の前の浅羽直之を放り出していくこともできず、全て抱え込んでしまっている。
自分自身も含めて、この3人で白井黒子の『空間移動』の能力は限界だ。これ以上はどう頑張っても抱え込めない。
浅羽の傷の手当てをして、尋問して、詳しい事情を聞きだして……それからどうする?
『黒い壁』の調査はどうする?
逃がしてしまった発火能力者の女の始末は?
御坂美琴や上条当麻との合流は?
課題ばかり積みあがって、何一つ解決していない。焦りを感じずには、いられない。
これが敬愛する「お姉様」御坂美琴なら、きっとこの程度の状況、快刀乱麻を断つように解決しているだろうに――
「……いえ、流石にこの状況、お姉様でも持て余されるかもしれませんわね」
「??」
白井の独り言に、ティーが不思議そうに首を傾げる。
白井は首を振る。益体のない物思いに耽っているヒマがあったら、まずは目先の問題から解決することだ。
まずは、多少なりとも落ち着ける場所への移動。そして浅羽直之への応急処置。
浅羽が目を覚ましたら事情を聞きだして、処遇を考えて、それらが一段落したら『黒い壁』の調査を再開する。
――そこまで考えて、白井黒子はふと思い出して呟く。
「そういえば、『イリヤ』、とか呟いていらっしゃいましたわよね。
ひょっとして、灯台で見つけた『パイロットスーツ』の持ち主と、何か縁のある方なのでしょうか」
白井黒子のデイパックに納められた、1つの拾い物。
灯台を立ち去る段になってやっと気が付いた、どこかの誰かの忘れ物。
全身タイツのような奇妙なその服の正体を、エリート校である常盤台中学に通う白井はすぐに見抜いていた。
高々度を超音速で飛行する最新鋭戦闘機のための、パイロットスーツ。もしくは、極めて薄手の宇宙服。
白井も専門の知識があるわけではないが、どうやら学園都市にも迫る、あるいは同等の、高い技術による代物のようだった。
そして、そのパイロットスーツには、無数の文字が書かれていた。
そのスーツの持ち主を中心としたプロジェクトの関係者が書いたらしい、無数の寄せ書き。
『ブラックマンタ』『自衛軍』『スカンクワークス』『園原基地』、UFOのイラストにタコのような異星人のイラスト。
じっくり読み込めば、その本来の持ち主にまつわる重要なキーワードが惜しげもなく晒されていて……
そして、その中に、確かにあったのだ。
日本語ではなく、英語で書かれたメッセージの中に。 「カナ・イリヤ」の名が、しっかりと。
カナ・イリヤ。
日本名として読めば、伊里野加奈。
おそらくそれは、名簿に載っていた名前の1つだ。
「『医療分隊ニューロハザード対策班』だの、『血液管理室』だの……
あのスーツに書かれた関係チームの名前だけ見ても、どうも何らかの身体改造を受けていたようですけれど。
学園都市の『能力開発』に近いことをやっていらっしゃるのでしょうか?
こんな状況でもなければ、興味をそそられてしまいますわね」
軽く呟きながら、白井黒子はぐったりした浅羽直之の身体に手をかけた。
自分自身と、ティーと、シャミセンと、浅羽直之。それから3つのデイパック。
合計しても、彼女の『空間移動』の重量制限の範囲になんとか収まる。
ティーを手招きして、すぐ傍に寄せて、肩に手をかけて――そして3人と1匹は、小さな羽音のような音を残し、姿を消した。
後にはただ、空高く昇った太陽が、無人の街並みを照らすばかりである。
【E-6/橋の北側/一日目・昼】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣、
伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
デイパック、支給品一式 、ビート板+浮き輪等のセット(大幅減)@とらドラ!、カプセルのケース
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
1:とりあえず浅羽の怪我の手当てをする。浅羽の処遇はまだ保留。
2:そのために、一旦摩天楼に戻る? 摩天楼のドラッグストアや居住施設を利用する?
3:一段落したら移動し、『消滅したエリア』の実態を間近で確かめる。また『黒い壁』の差異と、破壊の可能性を見極める。
4:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
5:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
6:伊里野加奈に興味。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※黒桐鮮花を『異能力(レベル2)』の『発火能力者(パイロキネシスト)』だと誤解しています。
【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×1、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
1:RPG−7を使ってみたい。
2:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3:シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
4:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
5:浅羽には警戒。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
【伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏】
伊里野加奈が031星をみるひと で脱ぎ捨てていったパイロットスーツ。
水着のように身体に密着するデザインで、その全面にロズウェル計画関係者の寄せ書きが書かれている。
以上、投下終了。支援感謝です。
今のところ参加者以外に生物見つかってなかった気がするけどねずみはいいんかな
投下乙ですー。
浅羽……持ち直した?
でもティーに……w
というかティーwwww
流石だけど……だけどw
しかし、摩天楼か。
そこには鮮花、クルツらがいるけど……どうなる?
GJでした
投下乙です
浅羽は拾われたけど持ち直しそう?
ティーはティーらしいなw
摩天楼に戻るのか?
確かにその二人が今いるけどどうなる?
お前ら友はスルーかよw
予約入ったけど、何か変化あるかな?
友ってだれ?
青色………一号?
玖渚友 投下します。
【0】
『要するに玖渚友の子供(ロリィ)な体躯には欲情しないと』
【1】
東の端より顔を出した世界を照らす為の照明も時計の短針と揃って上昇を続け、今は頂点のその少し前。
物語より隔絶された死線の寝室。その様相もそれに合わせ、それの分だけの変化を起こしていた。
日の入りの方角一面に張られた硝子より入り込む光は強く突き刺すものから優しく沁み込むものへと変じており、
ひんやりとした空気の中に光の強さだけが痛烈だった部屋は、時とともに暖められふわりと寝心地のよい極楽と成り、
冷たい白色ばかりだった部屋は乱反射する光に白さを増し、白白白と、まるで御伽噺の中に出てくる星屑の砂漠の様で、
そして、うつろわない時を生きる少女だけが、変わらず、まるで時流を無視するがのごとく、ただ眠り続けている。
目から脳髄までを刺し貫かんばかりの鮮やかなウルトラマリンの髪は水のようで、
波立つその青はまるで、白の砂漠の中に浮かぶ唯の、しかし蜃気楼でしかないオアシスの様だった。
【2】
少女という存在が眠っている。
触れれば、それがどんな些細な力であろうとも、どれだけ慈しみのある手であろうとも崩れてしまうのではと錯覚するような、
女の子は砂糖でできているのよと、どこかで聞いた唄をそのままに信じてしまいそうになる美少女が眠っている。
無防備に、無防備に、無防備に、ただ薄いだけの、ただ白いだけの布だけを身に纏わせ、無防備を曝して眠っている。
少女は女王の様に美しく、お姫様の様に可愛らしい。
青色に覆われた面は如何なる天才の設計(デザイン)なのか、まるで生き物ではないかのように端整で、
同じ色の眉が描くアーチは世界の何処に存在する橋よりも優美で、雨上がりに見る七色の橋よりも色鮮やか。
閉じた両の瞳を飾り立てる睫はこれまでのどの王が頂いた冠よりも精巧に作られており、
愛くるしい額から鼻の頭頂までに描かれるアールはいかな高名な建築家でも引くことのできない優美さを持っている。
薄い唇に滲む彼女が持つ微かな生命のその証を表す桃色は、決して芸術家ごときのパレットの上では作れない神秘の色。
細くとがった顎は誰をもの目を奪い、水草の茎のように細い首はその目を捉え離さない。
すぅすぅと、静寂という名の空白の五線譜の上に置かれる寝息は金銀どちらで作られた楽器よりも耳を擽り、
それと同期し、動悸する、彼女の熱い心臓(ハート)を包む、水平線の様に薄く空との境の様に曖昧な胸は華奢で薄い。
小さなお腹は指で押せばそのまま沈んでしまいそうで、泡立てられたばかりのメレンゲの様にふんわりとしてマシュマロの様。
何かを掴むかのように伸ばされた腕の先には何もなく、そしてしかし全てがあった。
腕の先。緩く握られた細かい手。それぞれが世界の運命を打ち込む10本の指がそこを、全てを確かに掴んでいる。
奔放に投げ出された足は彼女が地に足をつく不必要を表し、世界が彼女の足元に従属すべき存在であることを表している。
そして、その稀有な存在を発散させて広げゆく極々微かな燐粉の様な香りは、気づけばどんな花より齎せる蜜より甘い。
「…………うーん」
夢中の彼女は法則そのもので、投げ出された肢体が作るシンプルな姿形はそこに新しい文字(ルーン)を生み出す。
「…………いーちゃんらぶー」
夢中の彼女は宇宙そのもので、零れ出てくる言葉はトランスした巫女が齎す神託のそれと等しい。
少女という存在が眠っている。
世界の神秘(ロリィ)が、世界の端の端の端で、ただ静かに存在している
【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・昼】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
※第一回放送を聞き逃しました。
以上、投下終了です
投下乙
なんか色々と待てwww
投下乙
天才すぎるWWWWWWWW
突っ込み所しかねーぞWWWWWWW
投下乙
何なんだこれはwwwwwww
投下乙
って、なんぞw
何という眠り姫w
猟奇姫の姫ちゃんにしろ
痴女姫の姫路さんにしろ
姫様っぽいのおおいね
投下乙
ってなんじゃこりゃwww
さて、新しい予約が来たな
気になる部分で切られた続きと死人が出そうな組み合わせの二つも
だがあのずっこけ三人組はなー
戦力にはびっくりするぐらい申し分ないくせにチームワークがゼロもしくはマイナスだからな
頑張れば行けそうな気もする
そういえば、零崎のお墓どうしたの?
予約していた学校の3名、投下します
――それは、無惨な有様だった。
薄桃色の消火剤で一面粉っぽい廊下の中に、見るからに毒々しい、赤黒い沼がある。
それは血だ。既に乾きかけ固まってしまった、血の海だ。
窓から差し込む、残酷なまでに明るい陽の光が、そこにあるものを仔細余さずくっきりと浮かび上がらせていた。
大きいものでバレーボールほど、小さいものでピンポン玉大の肉片が、無秩序に血溜まりに浮かんでいる。
少し離れた所に転がっている両手首のように、綺麗に原型を留めているものもある。
切り口からどろりと臓器らしきものを零れさせた、たぶん胴体の一部なんだろうなと思える部分もある。
べっとりと血に濡れた服の切れ端を張り付かせた、それだけではどこのパーツか分からない塊もある。
目元に生前の印象を残した、頭部の一部。
その鼻の下にあるべき口はなく、ぺたん、と直接床に接してしまっている。まるで地面に穴を掘って埋まっているかの如き光景。
しかし、傍らに溢れている脳味噌らしき物体が、その無邪気な夢想を完全否定する。
骨の断面が見せる純白が、日差しにまぶしい。
呆れたことに、人間1人を丸ごとブツ切り肉の山にしたその暴力は、骨も服もまとめて切断しているようだった。
人が通れそうなほどの穴を見せる、割れたままの窓。
そこかしこにキラキラと、鋭利なガラスの欠片が落ちている。
光っている中にガラスと違う質感のものがあるな、と思ってよくよく見たら、それは包丁だった。
無造作に転がる、赤い消火器。
そのホースは死んだ蛇のようにのたうち、ノズルの先端には一際濃い汚れが残されている。
窓と反対側の壁際には、なんと拳銃らしきものまで落ちている。
暗闇の中では見落としそうな黒鉄色の塊は、陽光溢れる今の時間帯、むしろ気付かずには済まない存在感を放っている。
いったい、ここで何が起こったのか。
誰と誰がどのように争って、どのような結末になったのか。
分かっているのは、既に決定的に「手遅れ」であるということだけ。
上条当麻は、やり場のない想いに拳を硬く握り締めることしかできない。
「くそっ……! なんだって、こんなことっ……!」
上条は憤る。
覚悟がなかったわけではない。
先の放送では既に10人の名前が読み上げられていたし、その中には知った名前も含まれていた。
だから、死臭を感じて走り出した時には、半ばこの展開を予想していた。物言わぬ死者との対面は、予見できていた。
けれど……何故。
何故、ここまで死体を切り刻まなければならないのか。
明らかにオーバーキルな損傷。上条は血や肉片を踏まないよう注意しながら、その傍らに膝をつく。
「こいつは……ワイヤーによる切断、か?」
知らずのうちに、言葉が漏れた。
この蛮行、どうやら、極細の鋼線か何かを巻きつけた上で、思いっきり強く速く『引っ張った』結果によるものらしい。
至近距離で切断面を観察して、確信した。
いや、直感した、とでも言うべきか。
あるいはそれは、記憶喪失の上条当麻の、記憶を失う前に得ていた『知識』による判断だったのかもしれない。
ともかく、上条当麻には分かってしまった。
これは、ワイヤー、あるいはピアノ線のような糸による凶行だ。
つまり、この惨状を作り出した犯人は、糸、あるいはそれに類する『武器』を使う人物だということになる。
……そこまで察して、ようやく上条は気付く。
いまさらながらにして、思い至る。
この学校で出会った、2人の少女の存在。
こんな悲惨な現場、女の子に見せていいものではない。
気遣いが遅れたのは、上条自身も動揺していたせいか。
それでもすぐに2人を遠ざけようと、上条は振り返って、
「……あれ?」
1人いない。
人の背中に隠れるようにしていた、そういえば刺激的過ぎる格好の、半裸の『喋れない女の子』が、いなくなっていた。
どこに行ったんだろう、とキョロキョロと見回していると、
「……あんたさぁ」
その場に残っていた、もう1人が。
川嶋亜美が。
ぼそりと、言った。
「あんた、くさい。まだ臭う。ひどく臭う。ドブくさい。だから、いますぐどっか消えて」
「ちょっ……か、川嶋さんっ!? そりゃ流石に酷い言い草じゃありませんかぁっ!?」
あまりに平坦な声で告げられた、あまりに執拗であまりに唐突な『臭い』の指摘。
そりゃあ下水道突破してきた臭いはすぐには取れない。取れないけれども。
今はそれどころじゃないだろ、てか、なんでまたソレを蒸し返すんですか――と抗議しかけて、上条は気がついた。
気付かされてしまった。
「こいつ……この、高須くんってさぁ。
こう見えて、すごい綺麗好きでさぁ」
川嶋亜美は、淡々と語る。
上条の方を振り返りもせず、悲しむでもなく、泣くでもなく、怒るでもなく。
ただ静かに、語る。
過去形ではなく、現在形で、語る。
「なんかねー、男のくせに、料理から掃除から何から、家事万能でさ。
そのせいなのかこいつ、いつも掃除用具持ち歩いてんの。鞄の中に。
で、学校でもちょっと汚れてるとこ見つけると勝手に掃除始めて。回りの人間にも、手伝わせたり。
あたしも、何度か無理やり高須棒――あ、『高須棒』って、高須くんお手製の掃除道具ね――を、握らされてさァ。
亜美ちゃん、モデルの仕事あるから手ェ荒れるようなのダメだって言ってんのに。しつこくって」
「…………」
モデルなのかよ、と突っ込みかけて、上条は口をつぐむ。
そんな軽口を叩ける空気では、もはやなかった。
かける言葉が、見つからなかった。
亜美の唇が震えている。
泣き崩れることも、叫び散らすこともできない少女の唇だけが、音もなく、しかし見て分かるほどに、震えている。
「だから――あんたみたいなのが、上条くんみたいに汚い格好の奴が、ここに居ちゃだめ。いますぐ、どっか行って。
お願いだから……1人に、して」
「…………」
「ついでにさ。あんた、シャワーでも浴びてサッパリしてきたら?
まだ見てきてないけどさ。ここ学校なんだから、体育館かどっか、きっとその辺にあるでしょ。
自分じゃ鼻がバカになってるのかもしれないけど、あんた、ほんと臭うよ。10メートル先からでも臭いで分かっちゃうよ。
悪いこと言わないからさ。その臭い、なんとかしなよ。
でないと、きっとどっかで『高須くんみたいに』なっちゃうよ。別に、あたしの知ったこっちゃないけどさ」
それでいて、こんなことを言うのだ。
自分自身もいっぱいいっぱいだろうに、上条の身を案じるようなことまで言うのだ。
臭いのせいで殺人者に不利な形で遭遇するかもしれない、だから手を打っておいた方がいいよ、と忠告までしてくるのだ。
「……クソッ!」
小さく吐き捨てたのは、己の無力感に対する怒り。
死体、という圧倒的な『現実(リアル)』を前に、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の右手は何の役にも立たず。
『幻想殺し』の少年は、少女と、かつて少年だったモノをその場に残して、踵を返すことしかできない。
ただその場を立ち去ることで、少女と死者の対面を穢さぬようにすることしかできない。
そのまま、上条は亜美の隣を通り過ぎ、来た道を引き返し、廊下の角を曲がろうとして――
ふと思いついて、立ち尽くす亜美の背中に声をかけた。
「なあ、川嶋」
「……何よ」
「お前……それで、何するんだ。俺がシャワー浴びてる間に、お前……何するつもりなんだ?」
「……あんたさぁ、いったい何聞いてたのよ。決まってるでしょ、そんなこと」
上条の問いに、亜美はふわりと髪をなびかせながら振り向いて。
儚げな微笑さえ浮かべて、静かに答えた。
「このままじゃ、高須くんに怒られちゃうもん。お掃除、しなくちゃね」
◇ ◇ ◇
もちろん、そのままシャワーを浴びにいった。
「……ちくしょうっ!」
体育館に付属した男子更衣室、そこに隣接したシャワールームの中。
裸でお湯の雨に打たれながら、上条当麻は固い壁に拳を叩きつける。
異能であれば神の奇跡だろうと打ち砕く、上条当麻の『幻想殺し』。
その力は、しかし、こういう状況においては完全に無力。
傷ついた女の子1人、支えることもできない。
こんなことをしている場合ではない。上条は思う。
こんなところで呑気にシャワーなど浴びてる場合では、本当はない。
川嶋亜美も、あのまま1人にしておいていいとは思えない。
今も1人で温泉に向かっているはずの千鳥かなめのことも心配だ。
死体発見とほぼ同時に姿をくらませた、裸の『喋れない女の子』のことも気になる。
未だ会えずにいる、インデックスや御坂美琴のような知り合いのことも考えなければならない。
本当なら、自分の身だしなみなんて後回しで、寸刻惜しんで走り出さなければならないはずだった。
けれども――
上条もまた、余裕がなかった。
修羅場なら何度も潜ってきた。命がけの戦いなら幾度も乗り越えてきた。三途の川を渡りかけたのも、1度や2度ではない。
だけど、今回のこれは。
頑張って上条が走って追いかけても、その拳の届かないところで事態が進行していく。
同時並列的に、人々が死んでいく。拳1つ、身1つではどうしようもない形で、悲劇が生まれ続けている。
『こいつさえ止めれば全てが終わる』ような、分かりやすい大ボスもない。あの狐面の男だって、そういうポジションではない。
いつものトラブルとはまったく勝手の異なる状況に、さしもの上条当麻も、心が折れそうになっていた。
完全に、空回っていた。
でも、だからこそ。
「けど……だからって、このまま落ち込んでいられるか!」
温かい滝に打たれながら、彼は両手で頬をパシッ、と叩く。
もう十分落ち込んだ。もう十分休息は取れた。障害物競走のような地下からの脱出で疲れきった筋肉も、多少はほぐれた。
シャワーを浴びてサッパリして、頭の中身もスッキリした。
トレードマークのツンツン頭は水に濡れてしおれているけど、心は逆に元気を取り戻している。
上条当麻は、改めてシャワーを勧めてくれた川嶋亜美に感謝する。
きっとあのまま走り続けていたら、上条はどこかつまらないところでつまづいていただろう。
それこそ、臭いで存在を察知され、一方的な不意打ちを受けていた可能性もある。
上条当麻はシャワーを止めると、傍らに引っ掛けてあったタオルを手に取る。
「けど……川嶋には、今はしてやれることがねぇな……」
その恩人・川嶋亜美は、しかし今は上条のことを必要としてはいない。
悔しいけれども、今はむしろ距離を置くことが求められている。故人と向き合う静かな時間を、邪魔しないことを望まれている。
ならば今すぐ、温泉に向かったであろう千鳥かなめとの合流を目指すべきか。
いや、それよりも。
共通支給品のタオルでゴシゴシと身体を拭きながら、上条は更衣スペースに放り出しておいた自分の荷物に歩み寄る。
残念ながら、今まで着ていた制服は諦めるべきだろう。
せっかく身体が綺麗になったのに、悪臭をたっぷり吸った服を着ていては川嶋亜美の忠告も無駄になってしまう。
上条はデイパックの中から短パンと運動用のシャツ、つまり、体操着のセットを引っ張り出す。
彼の支給品の1つだ。これを幸いと見るか、それとも武器でもないものを引き当てた不幸を嘆くべきかは、少し迷うところである。
流石に下着と靴は換えがないからそのままだ。
この程度ならさほど臭わないはず。いや、そうであることを祈るしかない。
一通りの身支度を整えた上条は、そして、自分が着用した体操服と共に出てきたモノを握り締めて、呟いた。
「そうだな……『あっち』の方も、放っておけないな」
◇ ◇ ◇
もちろん、そのまま掃除を開始した。
なにせ学校である。掃除用具の置かれた場所など、どこでもそう大差はない。大して迷うこともなかった。
用務員室も覗いてゴミ袋とゴム手袋も確保し、掃除用ロッカーからモップや雑巾、バケツなどを確保して。
川嶋亜美は、たった1人、廊下での大掃除を開始する。
大小さまざまの肉片は、手袋をした手で拾って、それ専用と決めたゴミ袋の中へ。
棺桶か何か、もっと相応しい入れ物があればよかったのだが、ここは仕方がない。
身体のどこの部分に当たるか見当もつかないパーツも多いのだ。
心の中で無礼を詫びつつ、片っ端からビニールの袋の中に放り込んでいく。
煮こごりのようにプルプルと固まりかけた血液も、取れるだけ取って同じ袋の中へ入れる。
途中で気がついて、血に濡れていない髪の毛を一房、より分けて切り取っておく。
せめてもの形見にと考えた、高須竜児の遺髪だ。
丁寧にメモ用紙で折って畳んで包み込んで、『高須竜児』と名前を書いておく。
これはそれ以上汚さないよう、丁寧に荷物に仕舞っておく。
可能であれば、これはあの若い高須家のお母さんの所に届けてあげなくちゃ。
自分のするべき仕事にも思えなかったし、自分で届けることに拘るつもりはなかったが、亜美はそんなことを少しだけ思う。
拾えるだけの肉片を拾い尽くすと、ゴミ袋3個分にもなった。
容積だけ考えたら無理やり1つの袋に詰めることもできたろうが、それではあまりに重たすぎる。袋の方が持たない。
万が一にも破けて零れないよう、全て袋を二重に重ねて、それから口を縛る。
これらの『かつて人間だったモノ』は、ちゃんと葬るときが来るまで、少し脇に置いておくことにする。
肉片は拾い終わったが、まだ廊下は汚れまくっている。
流れ出た血液、よく分からない体液、それに、撒き散らされた消火器の消火剤。割れたガラスも、そこかしこに。
まずは明らかな落し物からだ。
包丁と拳銃は拾って、表面の汚れを拭い去ってから自分の荷物の中に。
使う気はないが、それでも手元にあれば便利なこともあるかもしれない。
空っぽになった消火器は、少し迷った末に、軽く拭いた後に廊下の片隅に立てておく。
どこから持ってきたものか分からないけれど、まあ、それっぽく置いておけば見苦しくもないだろう。
割れたガラスの破片は、用務員室から持ってきた古新聞紙で包んで怪我しないように。
窓枠に中途半端に残された尖った破片も、丁寧に折り砕いて取り除いておく。
建物の外、屋外に飛び散ったガラスも、わざわざ外に回って同じように。
細かい破片は、ほうきとチリトリで丁寧に掃きとる。
幸い、眩しい陽の光に照らされて、小さなカケラでもキラキラ光って見落とすことはない。
さあ、こうなると後は、消火剤と血の海だけだ。
お手洗いから水を汲んできて、モップを濡らして水拭きをしていく。
うっすらピンクの消火剤は、濡れモップの一拭きで驚くほど綺麗に取れる。
床にこびりついた血液は、これはかなりしつこい。何度も何度も、こそぎとるようにしてやる必要がある。
すぐにモップが汚く汚れていく。そのたびにモップをすすぎ、洗い、水を汲み直すことになった。
それでも小一時間ほどの奮闘で、あたりはガラリとその様相を変えていた。
壁面に飛び散った消火剤も、濡れ雑巾で全部拭き取ったし。
よくよく目を凝らせば床に僅かに血の染みが残ってしまっているけれど、そうと思って見なければ分からない程度にはなった。
既にもう、知らない人が見たらここに人間1人分のミンチ肉が積み上げられていたとは思えない光景。
最後に亜美が取り出したのは、細く長い棒の先に布が輪ゴムで留められた奇妙な道具――
『高須棒』。
何の巡り合わせか、川嶋亜美の支給品の1つとして、10本1セットで用意されていた品である。
それを持って、丁寧に、拭き残しの汚れを拭い取る。
窓の桟、床と壁の継ぎ目の角、小さな凹凸の縁。
細かな汚れも許さない執拗さで、川嶋亜美は掃除に熱中する。
彼女らしくもなく、軽口ひとつ叩かず、黙々と目の前の仕事に集中する。
そうして、しばらく作業を続けて――とうとう、やることがなくなってしまった。
1枚だけすっぱりと抜けた『窓ガラスのない窓』以外に、痕跡らしい痕跡を残していない綺麗な廊下。
時間を確認すると、これだけきっちり掃除したというのに、大して経っていない。
あの学校に転校してくる前の川嶋亜美なら、ここまで手際よく片付けることはできなかったろう。
全てはあの、異様なまでの潔癖症の、極悪顔面魔王のせいだ。
逃げられる時には要領よく逃げ回っていた彼女だったが、知らないうちにかなりのお掃除スキルを仕込まれていたらしい。
全身を包む、心地よい疲労感。
気のせいか、外から流れ込む空気さえも爽やかに感じられる。
なるほど、彼はこの達成感のトリコになっていたのか。
亜美はいまさらながらにして故人の心を知る。確かにこれは、クセになってしまうかもしれない。
「ま、可愛い可愛い亜美ちゃんには、掃除のおばさんみたいな地味ぃ〜な仕事は似合わないけどさ」
見るものもない無人の廊下で、亜美は小さくおどけて見せる。
こんな人を舐めきった発言をしても、廊下の片隅に積み上げた3つのゴミ袋が反応してくれないことが少しだけ寂しい。
そして亜美は、小さく溜息1つついて、その3分割された生ゴミ同然の高須竜児を、自分のデイパックの中に詰め込み始めた。
◇ ◇ ◇
微かな風が屋上を吹き抜けて、姫路瑞希は思わず小さなくしゃみをした。
「……くちゅんっ」
学校の屋上。
お日様がぽかぽかと暖かく、膝を抱えて座っているとついつい眠気を催してしまう。
それでも、流石に今の彼女の格好を考えると、快適とまでは言い切れないようだ。
なにしろ、素っ裸の上に男物の上着を羽織っただけの姿。
こんな姿で誰に見られるかも分からぬ街の中を彷徨っていたのだ、と思うと、思わず赤面してしまう。
手にした2つのデイパックをギュッと抱え込むが、その程度で彼女の豊かな身体が隠しきれるものでもない。
姫路瑞希は、溜息をつく。
また、逃げ出してきてしまった。
遠目に無惨な死体を見つけた時点で、川嶋亜美と上条当麻をその場に残して逃げ出してきてしまった。
もともと、亜美と遭遇したのも、あの『死の気配』に怯えて逃げてのことである。
1人になるのは嫌だったが、それ以上に死体と向き合うのが怖かった。
自らの罪と罰とを思い出させる、物言わぬ死体を直視する勇気が持てなかった。
だからといって、逃げ出すアテがあったわけではない。
むしろ学校というこの空間は、姫路瑞希にとって数少ない過去を思い出せる場所だ。
制服も、靴も、下着さえも置いてきてしまった彼女にとって、この聖域は手放し難いものがある。
だから、上に向かって逃げた。階段を駆け上って、縦方向に距離を置こうとした。気がついたら、屋上まで来てしまっていた。
どことなく文月学園の屋上を思い出させる、何のヒネリもない学校の屋上。
学校の屋上なんて、どこの学校だろうと大して違いはない。階段室を背に座り込んで、ぼんやりと空を仰ぐ。
ともすれば階下に死体が転がってるだなんて忘れそうになる、嘘みたいに澄んだ青空。
「…………」
いや。過去との絆は、他にも残されていたっけ。
瑞希はふと気がついて、己の左耳に手を伸ばす。
……そこに、ウサギの顔をかたどった、ファンシーな髪留めがあった。
大したものではないが、ちょっとした思い入れのある一品。
お風呂に入る時には外すのが常であったのだが、呆れたことに、温泉に入る際にはうっかり外すのを忘れていたらしい。
朝倉涼子にあんな目にあわされた時にも外れなかったのは、運が良かったと言わざるを得ない。
思い出してしまった彼女は、ギュッとウサギの髪留めを握り締めた。
辺りは静寂に包まれている。
恐怖の記憶に震えていた彼女も、手の中の髪留めの感触に、ゆっくりと落ち着きを取り戻す。
太陽の日差しを浴びて温められたコンクリの床が、裸のお尻にほんのりと温かい。
これからどうしよう。姫路瑞希は途方に暮れる。
相変わらず声は出せないようだが、その知性までが損なわれたわけではない。
さっきまでは自分の格好に気を払う余裕もなかったが、それだって、落ち着いてくれば考えを巡らす余地もできる。
あの2人はどうしたのだろう。
いまさらながらに、姫路瑞希は考える。
まだ下にいるのだろうか。だとしたら、合流した方がいいのだろうか。
ああでも、その前に着るものを探さないと。僅かとはいえ冷静さが戻ってきた今、この格好は恥ずかしすぎる。
特にあのツンツン頭の男の子にはあまり見られたくはない。吉井明久にだってまだ見せたことはないのだ。
――そんなことを考えていた、矢先だった。
「…………ッ!」
聞こえてきたのは、足音だった。
階段を駆け上がってくる、乱暴な足音。荒い息遣い。間違いなく、この屋上に向かって階段を駆け上がってくる者がいる。
瑞希は思わず身を硬くする。
袋小路の屋上からでは、もう逃げようにも逃げ場がない。フェンスを乗り越えて飛び降りるわけにもいかないだろう。
立ち上がることもできず、反射的にギュッと身を縮めて、目をつむる。
やがて足音と息遣いは、屋上に到達して――
「――あー、その、なんだ」
聞こえてきた声は、確かについさっき聞いたものだった。
瑞希は顔を上げる。
そこに居たのは――
「常々この上条さんは紳士でありたいと思っているわけですが、それ以前に健康な男子であるわけでして。
差し出がましいかもしれませんが、ちょいとコイツを着て頂けるとありがたいかなー、なんて思ったり思わなかったり……
って、こっちの言葉は分かるんだよな? 喋れないだけだよな?」
そこに居たのは、顔を真っ赤に染め、困ったように視線を逸らしつつも、なにやら服らしきものをこちらに差し出している。
服装こそさっきと違っていたが、確か、上条当麻とか名乗った、男の子だった。
◇ ◇ ◇
ガラスの破片などをゴミ捨て場にきちんと分別して置いて来たら、もう、学校に留まっている理由がなくなってしまった。
川嶋亜美は、そのままあっさりと校門から外へ出る。
さっきの2人がどこに行ったのかは、亜美も知らない。
掃除が終わった頃、一度だけ体操着姿の上条当麻がやってきて、『喋れない女の子』を見なかったか、と尋ねてきたが。
知らないわよ、と首を振ってやったら、またどこかに向かって駆け出していってしまった。
なんとも騒々しい奴だと思う。
ついでにあのタフネスは何なのだろう。亜美が見かけるたびに走っているようだが、疲れないのだろうか。
まあ、亜美にとってはどうでもいいことだった。
「祐作の方は、どーしよっかなぁ……。高須くんの件が一段落してからで、いいかなぁ……?」
上条当麻の話によれば、幼馴染である北村祐作は、ここからもそう遠くない所にある温泉で留守番をしていたはずだと言う。
探しにいけばすぐにでも『会える』のかもしれないが、なんとなく、焦る気にはならなかった。
亜美は肩から提げたデイパックに目を留める。
どういう仕組みなのか、容量も重量も無視できるこの鞄の中には、『高須竜児だったモノ』が入っている。
3つのゴミ袋に分けて、それぞれ袋2枚重ねの厳重な体制で、とりあえず収まっている。
さてこの『高須竜児だったモノ』、どうやって『お別れ』するべきか考えて、亜美は少し困ってしまった。
このまま、あの若い高須家のお母さんの所に持ち帰ってあげることも考えた。
……流石にそれは悪趣味が過ぎる気がして却下。あと、なんか腐っちゃいそうだし。遺髪があればそれで十分でしょう。
そこらの土を掘り返して、土葬に伏すことも考えた。
……五体満足揃った遺体ならそれでも良かったのだろうが、死体がこの有様では生ゴミの不法投棄みたいな絵になってしまう。
ちゃんときっちり火葬して、お骨を拾っていくことも考えた。
……並大抵の火力では、たぶん足りないだろう。仮に火葬場なんてものが見つかっても、素人の手に負える気がしない。
いろいろなお葬式の方式を思い浮かべて、最終的に亜美が選んだのは。
水葬、という、少し馴染みの無い単語だった。
遺体を海や川に流す。自然に還す。
自然界の食物連鎖の環の中に戻して、広く果てしない海とひとつになる。
思いついてみれば、なるほど、あの高須竜児には相応しい『見送り方』のようにも思える。
正式な作法もやり方も知らないから、やっぱりゴミの不法投棄みたいな格好になってしまうのかもしれない。
が、そこは大目に見てもらおう。
「この亜美ちゃんが、わざわざやってあげようってんだからさー。むしろ、感謝しなさいよー。まったくさぁ」
呟いてみても、返事はない。
当たり前だ。ここで返事があったりしたら、逆に怖い。
さて、それで高須竜児は水葬に伏すとして。
『これ』、どこにもって行こう。ここからだと近いのは海か。川まで行くのはかえって面倒だ。
一番近い水場と言えばお堀だが、しかしそこに捨てていく気にはなれないない。
なんだか流れも淀んでいそうだし、自然に還る、という感じがしない。
亜美はぼんやりと天を仰ぐ。
嘘くさいほどに晴れ上がった、青い空。
たったひとり、見るともなく空を見ながら。
演技抜きの涙って意外と出ないもんなんだなあ、と、亜美はどこか他人事のように思っていたりするのだった。
【E-2/学校・校門前/午前】
【川嶋亜美@とらドラ!】
【状態】:健康
【装備】:グロック26(10+1/10)
【所持品】:デイパック、支給品一式×2、高須棒×10@とらドラ!、バブルルート@灼眼のシャナ、
『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』、包丁@現地調達、高須竜児の遺髪、高須竜児の遺体(ゴミ袋3つ分)
【思考】
基本:高須竜児の遺髪を彼の母親に届ける。(別に自分の手で渡すことには拘らない)
1:遺髪以外の高須竜児の遺体を、海か川に流して『水葬』する。
2:温泉にいたはず、という北村のことが気になる。このまま温泉に寄る? 高須竜児の水葬の後にする?
【備考】
学校の1階廊下にあった「高須竜児の死体」及びその痕跡は、綺麗サッパリ掃除され、ほとんど残っていません。
せいぜい、割られた窓ガラスの跡が抜けているだけです。
【高須棒@とらドラ!】
川嶋亜美の最後の支給品。
高須竜児オリジナルの掃除用具。
棒?に布切れ?を輪ゴムで止めただけの簡単な道具だが、細かい隙間の掃除に驚くほどの威力を発揮する(らしい)。
布は何度も洗濯して繰り返し使用する。
高須竜児はこれを常時複数持ち歩き、学校の教室の窓の桟などの掃除に利用していた。
なお、布の方を握ればちょうど耳掻きとして適切な長さと太さであるらしいのだが、この使用法はいささか危険でもある。
10本セットで支給。
329 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/28(土) 03:38:30 ID:QeEAjGFj
◇ ◇ ◇
上条当麻が屋上にまで上がってきたのは、風に乗って、小さなく小さなしゃみが微かに聞こえてきたからだった。
川嶋亜美は、上条の助けを要する状態にはなかった。けれど、もう1人はそうとも限らない。
どこに行ったのかは皆目見当もつかなかったが、なにしろあの格好に裸足である。
まだ校内のどこかに留まっているという推測は、見事に当たった。
多少、無駄に走り回って時間を浪費したものの、こうして彼女を発見し、こうして『服』を手渡すことができていた。
上条当麻の支給品の1つ、『御崎高校の体操服セット』。
それはどういう意図だったのか、男子用と女子用、それぞれ一揃い入って支給品1つ、という扱いであるらしかった。
男女のどちらに渡っても問題のないように、という配慮だったのだろうか? 何にせよ、この場においては有難い。
上条が男物の短パンとシャツを着て、女物の方を『喋れない女の子』に渡すことができる。
問題は……。
(ちょっ、これ、ハンパねぇっ! 紳士を名乗った以上は紳士を貫きたい上条さんですが何これ何だこれ何だか凄くデケぇ!?
しかもまがりなりにも服をゲットしたお陰かご本人ガード緩くなってねぇか? ってか絶対本人この破壊力に気付いてねぇぞ!
それになんだよおおいっ、今どきブルマなんて穿かせる学校残ってんのかよ!? 露出度的にはこれ完全にパンツじゃん!
こんなモン旧時代の遺物かコスプレかえっちぃ雑誌でしか見たことなかったけど、ヤバいってこれ! 犯罪だって!!)
「…………??」
体操服をちゃんと着終えた、たぶん同年代の少女が不思議そうな表情で見上げてくるが、上条としてはそれどころではない。
いやがおうにも、見てしまう。見えてしまう。
何か思い入れでもあるのか、体操着の上から、さっきまで素肌の上に羽織っていた男物の上着を着込んだ少女。
先ほどまでは申し訳なさが勝って直視を避けてきたその胸元は、凶悪なまでのボリュームでシャツを押し上げている。
正確なサイズなど見当もつかないが、上条の知り合いの女子たちと比べてみてもトップ5には入ってきそうな恐るべきサイズ。
もちろん上条に女性用の下着の持ち合わせなどあるはずもなく、つまりは今、彼女はノーブラということで……!
慌てて視線を逸らすも、今度は女性解放運動で歴史に名を残したブルマー女史の名を冠した穿き物が視線を吸い寄せる。
女性らしく適度な脂肪の乗った、抜けるように白い太ももと、鮮やかな赤色の布地のコントラストが目に眩しい。
もちろんこれも下着はなかったはず。つまり、やむを得ずの直穿き。そう気づいてしまえば、些細な陰影もまた違う意味を……!
「ええい最終手段っ! 幻想殺し(イマジンブレイカー)目潰しっ!」
「っ!?」
目の前の少女が息を飲む気配が聞こえるが、この緊急事態、構っている余裕はない。
あらゆる幻想(というか、この場合は妄想)をブチ壊す右手の2本指によるセルフ目潰しで、上条当麻はかろうじて己を保つ。
もちろん手加減した上での一撃。間違っても失明するようなダメージではない。
が、その瞬間的な痛みと一時的な視覚遮断によって、彼はなんとか冷静さを取り戻すことに成功した。
「……あー、この場合は仕方なくのことであってですね。上条さんは別にマゾってわけではないのですよ? ホントですよ?」
「……ぅーっ??」
「まあいいや。それはそうとして……少し、聞きづらいこと聞いてもいいか?」
「…………」
ひとりボケコントから一転、急にシリアスに転じた上条は、真剣な表情でウサギの髪留めをつけた少女の顔を覗き込む。
少しだけ、怯えたような気配。迷っているのか、あてもなく彷徨う視線。
それでも、服を貰った恩を感じたのか、上条の真摯な問いかけに根負けしたのか。こくり、と頷いた。
上条は問う。
「その『声』……喋れないってのは、昔っからなのか? 元々なのか?」
(フルフル)
「じゃあ……ここに来てから、なのか? ここ、つまり、このふざけたゲームが始まってから、なのか?)
(コクリ)
「ちょっと、お前の喉、見せてもらっていいか? 軽く触ってみてもいいか?」
(…………コクリ)
端的な質問に対して、首を振るか頷くかの簡単な『はい/いいえ』の回答。
それでも名も分からぬ少女の了承を取り付けると、上条当麻はそっと彼女の喉に触れた。
「どうだ? 声、出せるようにならねーか?」
「…………ぅーっ?」
「……ダメか。『能力』か何かで声帯が麻痺してるわけでも、『声が出なくなる呪い』をかけられてるわけでもないってことか。
こりゃ、かなり厄介だな……」
触れた時と同様、そっと『幻想殺し』の右手を離して、上条は思案する。
異能の力が相手なら、神様の奇跡だって打ち消してしまう『幻想殺し』。
何らかの異能による失語症だったとしたら、それが魔術であれ超能力であれ、今の接触で解除できているはずだ。
だが、まるで反応がないところを見ると、他の可能性を考えるしかない。
例えば、脳内に直接ダメージを受けて、言語野に損傷を負っただとか。
あるいは、精神的に大きなショックを受けたことによる、純粋な心因性の失語症だとか。
いずれにしても、何かの拍子に言葉を取り戻す可能性こそあれど、上条にしてやれることは何もない。
上条がしてやれることは――いや、今この場でするべきことは、失語症のケアなどではない。
ダメで元々だった『幻想殺し』による治療を放棄すると、彼は自分のデイパックを漁る。
「……ぁぅーっ?」
「ああ、悪い悪い。えーっとだな、とりあえず名前教えてくれ。あ、無理して喋ろうとしなくていいぜ。
ほれ、名簿。自分の名前、あるか? あるなら指差してみてくれ。そんならできるだろ?」
「…………ぅーっ」
「姫路、瑞希――か。姫路、って呼ばせてもらっていいか? よし」
喋れない少女、改め、姫路瑞希に渡した名簿を返して貰いながら、上条当麻は軽く頷く。
ここまでは簡単な確認。
姫路瑞希が『ただ単に喋れないだけ』で『別に知性を失ってはいないこと』の確認に過ぎない。
上条は受け取った名簿を仕舞うと、今度はこれも共通支給品であるメモ帳と筆記用具を取り出した。
首を傾げる少女に、上条は言う。
『喋れなくても十全な意思の疎通が出来る方法』――筆談のための道具を差し出しながら、救いの手を、差し伸ばす。
「教えてくれ、姫路。どうすれば――お前を助けられる?」
姫路瑞希の表情が、驚きの色に染まる。
簡単なことだ。
年頃の女の子が、羞恥心すら忘れてあんな格好でうろつき回っていたら、『何かがあった』ことは容易に想像がつく。
『誰か』に『何か』をされたと見て、まず間違いはない。
あるいは、『誰か』に『何か』をしてしまったのか。
どちらにせよ、『それ』は並大抵のコトではなかったのだろう。ひょっとしたら、失語症も『そのせい』なのかもしれない。
危険を危険と察知する心すら擦り切れて、何もかもを放棄して、ただ彷徨っていただけなのだろう。
そう察してしまったら――もう、上条は堪らなくなってしまった。
姫路瑞希、この追い詰められた、しかし、手の届く距離にいる少女を放っていくことは、絶対にできなかった。
だから言う。
今日1日だけでも何度も無力感に握り締めてきた拳を、いまは無力感ではなく、確固たる意思の現れとして握り締める。
「俺はバカだから、姫路が『言って』くれないとわかんねえ。
『読心能力者(サイコメトラー)』でもない『無能力(レベル0)』、筆談でも何でも、お前から『言って』くれないとわかんねえ。
けど――」
姫路瑞希が全てを諦めて自暴自棄になっているっていうのなら――その絶望(げんそう)をこそ、ブチ壊す!
【E-2/学校・屋上/午前】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:全身に打撲(行動には支障なし)
【装備】:御崎高校の体操服(男物)@灼眼のシャナ
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品0〜1)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣、
上条当麻の学校の制服(ドブ臭いにおいつき)@とある魔術の禁書目録
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:目の前の喋れない子(姫路瑞希)となんとかコミュニケーションを取る。問題を抱えてるようなら助ける。
2:温泉に向かう。かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
4:教会下の墓地をもう一度探索したい
【備考】
※教会下の墓地に何かあると考えています。
【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:御崎高校の体操服(女物)@灼眼のシャナ、黒桐幹也の上着、ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣 (注:下着なし)
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:……上条のことを、少しは信じてもいいんだろうか
1:温泉には行きたくない
2:朝倉涼子に恐怖。
3:明久に会いたい
【御崎高校の体操服セット@灼眼のシャナ】
上条当麻の支給品。
何故か男女それぞれ1揃い(ジャージ抜き)がセットで支給されていた。
つまり、男子用の短パン、男子用サイズのシャツ、女子用のブルマ、女子用サイズのシャツ、である。
なお、女子は何故か今どきブルマ。色は赤。
【上条当麻の学校の制服@とある魔術の禁書目録】
上条当麻がもともと着ていた服。
制服としてはかなりシンプル。むしろシャツの下に着込んでいたオレンジ色のTシャツ(たぶん私物)が印象的。
【ウサギの髪留め@バカとテストと召喚獣】
姫路瑞希がもともと身につけていたアクセサリー。
時と場合によって他の髪留めをつけていることもあるが、これは一番多くつけている白いウサギのデザインのもの。
本人にとっても思い入れがある模様。
お風呂に入る時には外すのが常のはずだが、どうやら温泉での入浴の際、外し忘れてつけっぱなしになっていたらしい。
結果的に、彼女が身につけている、唯一の「以前からの持ち物」となっている。
以上、投下終了です。支援感謝です。
掃除などして時間が経ったように感じられるかもしれませんが、時間枠は【午前】に留めています。
これは、前の話が(主に学校にいた女の子2人の動きから)【午前】の中でも比較的早い時間帯だろう、と解釈してのことです。
ただ、首を傾げる人が多いようなら、次の時間枠である【昼】に修正することも考えてはいます。
乙
亜美ちゃんいい女すぎんだろ…
やべえ、代わりに泣きそう
乙…
亜美ちゃん100点や
投下乙です
亜美ちゃん、おま、いい女だな…
ちょっ、今予約見たらものすごい人数の予約あったw
対主催派閥とマーダー派閥の対決がついに来たか?
14人もか
さすがにあの面々で無事とかはないかも
キョンと古泉と朝倉はご対面か?
◆LxH6hCs9JU氏の代理投下いたします
なにがなんだかわけがわからなかった。
目の前に立つ、今までは味方だと信じて疑わなかった存在が、胸元の命に狙いを定めている。
悲痛そうでもなく、狂気に塗れてもおらず、見慣れた冷静沈着な表情でもって、少女の人生にチェックをかけていた。
リリア・シュルツを苛めたのは、ただの混乱。
命の危機を自覚するよりも先に、なぜ、どうして、なんで、という疑問に押し潰される。
だから、彼が引き金を絞り、弾丸が胸元に命中し、短かった生涯がここで潰えるなんてことは、イメージできるはずがなかった。
逃げなければ、なんて思考は当然働かない。
胸に宿る疑問が、危機感を凌駕する。
ワケが、わからなかった。
ママの彼氏は、
スー・ベー・イルの陸軍少佐は、
トラヴァスは――なぜリリアに銃を向けるのか?
彼女にはわからなかったのだと思う。
そして、彼にもわかりはしなかったのだろう。
娘にこんなものを向ける父親の気持ちなど、わかりたくもない。
――ヴィルヘルム・シュルツは表情一つ変えず、心中でのみ毒づいた。
◇ ◇ ◇
そろそろ今日のランチでも考えようか――そんな時刻。
温かくなって明るくなった街を、相良宗介とリリアの二人が歩いていた。
飛行場から出発した彼らに、具体的な目的地はない。
天気がいいから出かけよう、その程度の意識で、町を歩いて回っていた。
前を歩いていたのは、リリア。後ろを歩くのは、宗介。
見慣れない街並みにはしゃぐリリアを、宗介は優しい瞳を浮かべて眺めていた。
「ねぇ、見て宗介! これはなんのお店かしら? こんなの、イクスでも見たことがないわ!」
それはさながら、女の子のウィンドウショッピングに付き合う口下手な男の子の図だった。
少女が舗装された街路を縦横無尽に駆け回り、少年が大股で静かにそれを追いかける。
リリアは満面の笑みを浮かべて、宗介は相変わらずの仏頂面で笑みはなく、街を行く。
「あ、ここはレストランみたい。ちょうどお昼だし、なにか……って、コックさんがいないか」
ああ、どこかでフルーツ味の携帯食料でも調達できれば僥倖だ、と宗介は思った。
リリアはもっと味にこだわったものが食べたいのだろうが、あいにく宗介にシェフを務められるほどの腕はない。
しかもリリアが指差すレストランとは、よく見れば懐石料理店のようだった。
「このへん、お店屋がいっぱいよね。近くに飛行場もあったし、観光地かなにかなのかしら」
顎に人差し指を添えて、天を仰ぐリリア。仕草だけの、考えているポーズ。
彼女にはわからないだろうが、世界各地を渡り歩いてきた宗介にはわかる。
この街の外観は、明らかに日本のそれだ。となればここは日本のどこか、もしくはそれを模したものなのだろう。
「にしても、食料くらいもっとマシなものを用意できなかったのかしら。あんなんじゃ味気ないわよ、まったく」
今度は、この企画の首謀者たちに対して文句を言っている。
しかもそれが、支給された食料のお粗末さに関してというから、またなんとやらだ。
宗介とリリアのデイパックに入っていたのは、保存性に優れたカンパンの缶詰である。開封する気にすらなれなかった。
「……ねぇ、宗介」
「なんだ」
リリアの呼びかけに、即座に応じる宗介。
対応に早さがあっても、リリアはなぜか不服そうだった。
「さっきから相槌の一つも返してくれないけど、どうしたのよ?」
「問題ない。続けてくれ」
「続けてくれって……はぁ、もういいわよ」
男の沈黙は女の機嫌を損ねる。宗介が黙りこくっているものだから、リリアまでもが仏頂面になってしまった。
年頃の女の子の心の機微を察しろ、なんて命令は相良軍曹にとっては難易度の高い注文である。
特に考え事をしていれば必然、女の子の話し相手になろうなどという気は起きない。
……それでも、リリアが懸命に空元気を見せようとしていることだけはわかった。
彼女の実母、アリソン・ウェッティングトン・シュルツの死を知ったのが朝。現在が昼。
浅羽なる少年との一悶着を計算に入れても、消費した時間は大きかった。
結局、あれからリリアは疲れるまで泣き、宗介はリリアが泣き止むまで胸を貸し、気がつけばこんな時刻だ。
随分と遅い出発になってしまったと、宗介は後悔の念を抱かずにはいられない。
今頃、“彼女たち”はどうしているのだろうか――。
開始からわずか六時間でメリッサ・マオが死んだ。冷静に考えてみれば、これは由々しき事態である。
メリッサ・マオ曹長――コールサイン“ウルズ2”――日頃から宗介とクルツの二人を牽引してきた、姉貴分。
AS(アーム・スレイブ)の操縦技術はもちろんのこと、白兵戦においても男顔負けの実力を誇るスペシャリストだ。
そんな彼女が六時間とて生き延びること叶わなかったという、異常と言ってしまえる事態。
要因はなんだったのか。装備の不足か、コンディションの不調か、単純な実力差か。
――お荷物を背負ってしまった、と考えられなくもない。
この地で宗介が遭遇した人間といえば、リリアとあの浅羽という少年の二人、おまけで謎のマネキン人形だけだ。
それだけの情報で他の参加者たちと自分たちミスリル所属の者の差を推し量ることなどできないが、
やはりどのような劣悪な状況下を想定したとしても、マオの早期離脱を只事で済ますわけにはいかない。
故に宗介は、想像してしまう。
ここはマオが早々に死んでしまうような、紛れもない戦場であり――なら、“彼女たち”は?
と。
心配と不安がどれだけ肥大化しようと、相良宗介という男はそれで足を止めるほどアマチュアではない。
そう、自分の意思では決して、足を止めたりなどしないのだ。
厄介なのは、この身を雁字搦めにして離さない荒縄とも言える“弱者”の存在。
それが、目の前の“母を亡くした少女”だった。
“彼女たち”のことを、“千鳥かなめ”と“テレサ・テスタロッサ”のことを思えば、足は途端に動き出す。
が、リリアが無理やりに作り出している笑顔を見ると、動き出した足は途端に止まってしまう。
精一杯の空元気とやせ我慢。リリアの顔から滲み出る感情を、宗介は手に取るように察することができた。できて、しまった。
もし、正午の放送で“彼女たち”の名が呼ばれるようなことがあれば、宗介は心の底から後悔することになるだろう。
ひょっとしたら、それでリリアを恨むこともあるかもしれない。それくらい、わかっているのに。
なのに、宗介はリリアの傍を離れることができなかった。
誰に頼まれたわけでもない、自分で下した決断だというのに、煮え切らない。
かつての自分が、今の相良宗介を見たらどう思うだろうか。
そんな問いは、自虐にしかならなかった。
「リリア」
彼女の名前を呼ぶ。
鮮やかな栗毛の髪が、視線の先で揺れた。
リリアは虚勢の笑顔を宗介に向け、なに宗介、と呼び返す。
「…………」
そんなリリアの顔を見ていると……宗介は彼女にかける言葉を見失った。
「もう。そんな石像みたいな顔してると、幸せが逃げてくわよ」
「……リリア」
「だからなに。わたしの名前、呼んでてそんなに気持ちがいいのかしら?」
「敵だ。下がっていろ」
えっ、とリリアが背後を振り返った。
その先に、一目で敵とわかる存在が居た。
否、“在った”。
「……飛行場で襲ってきたやつと、同じ?」
「そのようだ。今回は凶器が見当たらないが、な」
あのときは薄暗い深夜だったが、今は明るい昼のため、容易に素顔を見ることができる。
街路の奥で悠然と構える、着物姿の――体つきだけを見て判断する――女性。
凹凸だけの顔、起伏に富んだスタイル、生気の感じられない立ち姿。
数時間前に宗介とリリアを襲ったあれと同種の、マネキン人形だった。
「おばけにしても、こう真昼間に出てこられちゃね。怖がる気もなくなるっていうか」
「リリア、注意していてくれ」
「大丈夫でしょ。なにが狙いか知らないけど、今回も――」
「いや、注意するのはあれではない。近辺に潜んでいるだろう、あれを嗾けてきた張本人だ」
二度目ということもあって緊張感を欠いているリリアに、宗介は警戒を促す。
目の前のマネキン人形は、前回の交戦を踏まえるなら大した脅威ではない。
しかし、敵は敵。相対するなら油断も躊躇もなく、実直に殲滅してこそ専門家だ。
かといって、即座に撃ち殺すのも芸がない。それが二回目ともなれば、打つ手は練るべきだろう。
真に警戒するべきは、マネキン人形ではなく、マネキン人形の背後に潜む人物。
あれがなんらかの機械によって遠隔操作されていると仮定し、想定する。
黒幕の狙い、段取り、最終的な目的――過程の末を見据え、対策を即時考案。
二度目となる今回は、相手側からのさらなるアプローチも十分にありえると、宗介はそう判断した。
「では――行ってくる」
「――うん、気をつけて」
マネキンの動きに合わせ、宗介も動く。
敵は無手、行動は突進、標的は二人の内の一人、同じく向かっていった宗介だった。
リリアは後方にて待機。周囲を気にかけながら、宗介の動向を見守る。
突進の勢いに乗せて、マネキンが両腕を伸ばす。
宗介は走りながらに身を屈め、接触を避けた。
体勢を元に戻しながら、マネキンの左胴に蹴りを放つ。
マネキンは悲鳴もなく路面に倒れ、衝撃で左腕が折れた。
弱い。
速度も耐久度もあれから進歩なく、改善点が見当たらない。
二度目ともなれば人形自体になにかしら仕込んでくるかと思ったが、用途は単なる囮なのだろうか。
宗介は倒れたまま起き上がろうともしないマネキン人形を見下ろしつつ、
その視線をやがて街中、周囲の景色へと転じさせ、
マネキンから注意が外れた、
一瞬、
チリン、
とどこかで澄んだ音色が鳴り響き、
次の瞬間にはマネキン人形の顔がぶくぶくと膨れ上がり、
中で寄生虫が蠢いているかのごとく膨張と凝縮を繰り返し、末に破裂――爆砕。
宗介のすぐ足下で、爆炎と爆風と大爆発が生まれた。
◇ ◇ ◇
その決定的瞬間を、リリアは見逃してしまった。
周囲を警戒しておけと、事前に宗介から助言を受けていたがために。
彼の言動を鵜呑みにする程度には、信頼を置いていたから。だから、見逃してしまった。
気づかせてくれたのは、音。
目をやって真っ先に捉えたのは、吹き飛ぶ宗介の身。
可燃性物質もない白昼の路上で盛大に燃える炎は、どこか異質だった。
しばし、体が硬直する。
突然の出来事に理解が追いつけず、脳が体に信号を送れないでいる。
空元気なんて、あっという間にどこかへ消し飛んだ。
まさかの事態が、リリアに驚愕を与える。
「――宗介!」
叫び、駆け出したのは、たっぷり九秒ほどかけてからのことだった。
爆風に身を弄ばれ、アスファルトを何十回と転がった宗介の身に、走って寄り縋る。
うつ伏せになっていた体を強引に仰向けにし、全身くまなく目をやった。
初めて見る、宗介の苦痛に歪む顔がそこにあった。
「…………」
リリアは顔面蒼白の状態で、息を呑んだ。
なにも言葉が出てこない。
たとえなにか喋れたとしても、宗介は喋り返せない。
爆発に巻き込まれた人間を前には、絶句するしかないと知った。
「……ソー、スケ」
それでも、リリアは声を振り絞った。
「しっかり……しっかりしなさいよ、ソースケぇ!」
宗介の状態は、見るからに深刻だった。
苦痛に歪む顔の半面は、赤く滴る血に彩られている。頭部からの出血。傷は吹き飛ばされた際、地面に打ち付けたものだった。
黒い厚手の上着はところどころが破けている。露出した先の肌は、火傷を負っているようにも見えた。
骨や内臓がどうなってしまっているかは、さすがに素人目ではわからない。
「とりあえず、血を止めて……火傷は冷やして……ああ〜っ、それよりも!」
冷静になれ!
とリリアは両手で拳を作り、自身のこめかみにそれぞれあてがった。
ガン、ガン、ガン、と乱暴に数回叩いて、気合を入れなおす。
「うしっ!」
今はなによりもまず、避難だ。
宗介が言っていた。警戒しろ、と。まだ、終わってなんかいないのだ。
リリアは宗介の両脇に腕を滑り込ませ、重たい男の体を引き摺って運んだ。
すぐ近くにあった建物へ入る。
どの道、男一人を引き摺りながらでは、長い距離を移動することなどできない。
ならせめて、カモ撃ちにはされないよう遮蔽物の多い屋内に移らなければ、との判断だった。
建物の中には、皮肉なことに何十体もの数のマネキン人形が立っていた。
リリアが入った店はどうやらブティックらしく、マネキンはどれもこれも綺麗な洋服で着飾っている。
ショーウィンドウから見える外の光景に注意しつつ、リリアはなるべく店の奥まで宗介を運び、彼から手を離した。
床には蛇が這ったような赤い血の軌跡が出来上がっていたが、構ってはいられない。
リリアは宗介の体を探り、彼が所持していた拳銃を手にする。
この場面、優先すべきは治療よりもまず自衛だろう。
手負いとなった二人を、爆発を引き起こした張本人が仕留めにくるとも限らないから。
リリアは半ば確信にも似た感覚を覚え、店外に目を向けた。
ショーウィンドウの向こう側では、宗介の肌を焼いた炎が、今も煌々と燃えている。
人影は、まだ、ない。
人影は、いずれ、やってくる。
人影は、そうして、やってきた。
「えっ――」
リリアは店の入り口へと銃を向け、またもや固まる。
ショーウィンドウ越しにちらりと映ったその姿には、見覚えがあった。
規則的な速度で歩み、一瞬も躊躇することなく店内へと侵入してきた、事の首謀者。
穏やかな顔つきに、知的な眼鏡がこれでもかというくらい似合う、大人の男性。
リリアと目が合ったその瞬間から一時も逸らすことなく、近づいてくる彼。
よく見ると目元がそっくりな――少女と男性が今、対面を果たす。
「こんにちは。久しぶりですね」
かけられた言葉は、面識の有無を明白にするものだった。
用いられた言語は、相手がリリアだからこそ通じるベゼル語だった。
「どうして……」
リリアは、こんにちは、とも、久しぶり、とも返さない。
「ママが、死んだっていうのに……」
ただ、銃を握る手に力を込めて。
ただ、睨みつける双眸に涙を溜めて。
ただ、理解不能な不条理に憤りを孕んで。
「……トラヴァス少佐っ! どうしてあなたが、こんなことやってるのよ!」
リリアは、母の好きだった人を問い詰めた。
◇ ◇ ◇
とある街のとある洋服店で、親子の再会があった――なんてことは、親しか知らない事実。
子の側は、自分が子であることなど認識していない。故の純粋な怒り、そして敵意と殺意。
わかっていたことだった。これでも上手くいってるほうだ。悪かったのは運と巡り合わせ。
トラヴァスは、およそ最悪と呼べる形でリリアと再会してしまった。
だがそんな“最悪”くらいでは、彼は揺るがない。
表情一つ変えず、非情な仕事に徹する。
「僕の名前を覚えてくれていたようで。光栄ですよ、リリアーヌさん」
「そうじゃないでしょ? どうして、そんな風に……」
「マネキンの人形を嗾けたのも、それを爆破させたのも、彼を傷つけたのも、全て僕の仕業です」
「なっ……!?」
「聞きたいのは、こんなところですか?」
「違う! そんなこと、わかってる。わかっちゃうわよ。わからないのは……なんでトラヴァス少佐が……!」
言葉の整理がついていないらしいリリアは、いやいやと首を振りつつも、トラヴァスを睨みつける。
彼女の泣き顔を見るのがつらかった。彼女に銃を突きつけられるのが痛かった。
彼女に銃を向けなければならないのが、一番痛かった。
「君と彼には、申し訳ないことをしていると思っています」
「なら、今すぐそれを下ろしてよ! それで、一緒に宗介の治療、手伝ってよ……っ」
「それはできません。僕にも立場というものがありまして、今それを危うくするわけにはいかないんですよ」
トラヴァスはリリアのすぐ傍まで歩み寄り、屈んだ。
リリアの構える銃がすぐそこにあると知りながらも、彼女の荷物に手を伸ばし、これを奪い取る。
「じゃあ、わたしのことも……」
また距離を取ろうとするトラヴァスに、リリアは言った。
後に続く言葉は、言う側にも聞く側にも、必要なかった。
トラヴァスは質問の意図を察し、正直に答える。
「僕に、君を傷つけることはできません」
そう言って、銃を下ろした。
それを見ても、リリアは銃を下ろさない。
「そこにいる彼にも、できれば生き延びて欲しい。リリアーヌさんなら応急処置くらいはできるでしょう。ぜひ助けてあげてください」
白々しさしか感じられない台詞を、淡々と口にするトラヴァス。
リリアは悔しそうに歯を食いしばり、キッとトラヴァスの顔を睨みなおした。
「そして君には、もっともっと長生きして欲しい。これは、本心からの言葉です」
皮肉にしかならない祝福を、優しい笑顔に乗せてリリアに送る。
リリアは、鬼の形相で怒っていた。
目尻に溜まっていた涙は、とっくのとうに零れ落ちていた。
「……待ってよ」
奪い取った荷物を手に、傷だらけの男女を残し、トラヴァスは洋服店から去ろうとする。
完全に背を向けた後、リリアは背後からか細く語りかけてきた。
「お願いだから、待って」
トラヴァスは止まらない。止まりたくても止まれない。彼女のためを思えば、なおのこと止まれない。
「そんなんじゃ全然、わかんないわよ。もっと、わかるように説明してよ……」
リリアの懇願を聞きながら、これ以上の優しさは振りまけないと自身に言い聞かせながら、
「……撃ちたいというのなら、どうぞ。僕はきっと、彼女の待つ天国とは別の場所に落ちるでしょうね」
この場に残すべきただ一つの非情の言葉を、告げた。
「……うっ」
リリアから返ってくる言葉は、なかった。
背中に銃弾が穿たれることを十分に覚悟し、しかしついに、制裁は下されなかった。
せめて罵詈雑言の一つでももらえれば、いくらかは救いになっただろうに。
洋服店の出入り口を潜り、トラヴァスは外へ出る。
近くの炎からくる熱気と、暖かな陽光が、じわりと汗を滲ませる。
店内に取り残されたリリアには一瞥も寄越さず、その場を去っていった。
「……ああ」
不幸な再会だった。
彼女と彼が無事に長生きできることだけを、今は望む。
「――見逃したのか?」
爆発の痕跡、燃え上がるアスファルトを通り過ぎたところで、声をかけられた。
トラヴァスの眼前に、凛とした佇まいの少女が一人、待ち構えるように立っていた。
和服の上にジャケットという異種なる組み合わせが、一目で彼女の存在を認知させる。
“狩人”と“少佐”に与した三人目――すなわち、“和服”の少女。
“和服”は手に無骨なナイフを携え、気だるそうにトラヴァスの進行を阻む。
威圧感で立ち止まらせ、そして投げる質問は、『見逃したのか』の一言。
『殺したのか』――ではなく、半ば最初から答えを知っている風に、“和服”は訊いてきた。
「彼に報告しますか?」
故にトラヴァスは、“少佐”として答える。
イエス、ノーの直接的な答えではなく、わかりきった答えを省いた上での質問返し。
“和服”もまたすぐに“少佐”の意図を察し、
「少し気になってたんだ。“あんたみたいなの”が、なんで“あいつみたいなの”と一緒にいるのかってな」
例に倣うようにして、遠回しな言動で返す。
“少佐”は、なるほど、と一言口にし、
「私にもまた、彼とは違うところで目論見があるんですよ。それはもしかしたら、君の邪魔になることかもしれない」
「邪魔、ね……オレはそうは思えないけどな」
「それはよかった。私としても、不要な敵は作りたくありませんので」
言って“少佐”は、微かに笑った。
あんな最悪な対面の直後に、微笑むことができる――なら、この仕事はまだやっていけるだろう。
トラヴァスは再びの自信を獲得し、改めて“和服”に訊いた。
「彼に報告しますか?」
「やめとく」
嘆息し、“和服”はナイフを仕舞った。
「一から十まであいつの思い通り、ってのも気に食わないからな」
彼女の凶刃がリリアたち二人に届かなくなったことを、トラヴァスは幸運に思う。
【C-5/市街・ブティック/一日目・昼】
【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康、深い深い哀しみ
[装備]:IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方してる人を止める。
0:なんで……。
1:今は宗介の治療に専念。
2:トラヴァスの行動について考える。
3:トレイズが心配。トレイズと合流する。
【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:気絶、頭部出血、全身各所に火傷及び擦り傷・打撲(他、骨や内臓にも損傷の可能性あり)
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
0:…………(気絶中)。
1:リリアの傍に居る。
2:かなめとテッサとの合流。
3:マオの仇をとる?
◇ ◇ ◇
――そして舞台はまた、ここに。
太陽は昇れど、店員や客による賑わいが蘇ることはない、無人のデパート。
その階層中ほど、婦人服売り場の一角に、白い長衣を着た男性が浮いている。
なにに吊らされるでもなく宙を舞う姿は、“紅世の王”たる彼の、力の一端にすぎない。
「手袋の上に指輪、というのもまた妙ではあるが……これはなかなか、上等な品のようだ」
宙に浮く男性、“狩人”フリアグネの手には、純白の手袋が。
純白の手袋に包まれた十本の指には、十個の指輪が。
十個の指輪を嵌める手には、薄い白の炎が。
力が指輪に伝わり、連鎖は炎を生んで、炎上、発現する。
フリアグネはおもむろに、両の掌を交差させるように振り払った。
掌に灯っていた薄い白の炎が散り、十の指より十の指輪が抜け落ちる。
指輪に嵌められた宝石の奥で、薄い白の炎が宿り、それぞれ宙を駆け回った。
フリアグネの両腕が指揮棒のように動作し、それに呼応するように、指輪も踊る。
「――飛べ」
不意の号令に、指輪が即座の反応を見せた。
ゆったりと宙を舞っていた十個のそれは、途端に弾丸の性質を持ち、売り場に佇むマネキンの群れを襲った。
夏物の新作衣装がモデルごと、薄い白の炎を纏う弾丸に焼かれ、貫かれ、粉砕される。
十ある内の一つは時折、小規模な爆発を起こし、マネキンを完膚なきまでに破壊する。
「――戻れ」
フリアグネが指示すると、十の指輪は帰省本能に促されるように、彼の指へと戻っていった。
マネキンを派手に粉砕したもの、爆発を起こしたもの、どれも指輪自体に損傷は見当たらない。
攻撃力は込める“存在の力”しだいだが、使い勝手と耐久力は申し分ない。
手持ちの武器は近接戦闘用の『吸血鬼(ブルートザオガー)』のみ。
これはこれで強力な宝具だが、その特性ゆえ、なかなかに融通が利かない武器でもある。
新たに入手した指輪が飛び道具であるという利点は大きく、コレクターとして歓喜を得るには十分だった。
十個で一式のその指輪――名称は『コルデー』。
自在法よりも宝具を活用した戦いを好むフリアグネとしては、願ってもない献上品と言えた。
「ご苦労だったね、“少佐”。“和服”も。『ダンスパーティー』は役に立ったかな?」
「ええ。フリアグネ様のご説明どおりの力を発揮してくれました」
「うふふ……“和服”には感謝しないといけないね。おかげで、“粗悪品”にも使い道が見えた」
床に降り立ち、トラヴァス“少佐”とそんなやり取りを交わすフリアグネ。
婦人服売り場のカウンターには“和服”が座っており、手の平の容器からスプーンでなにかを口に運んでいた。
「“和服”はなにを食べているんだい?」
「アイスクリームのようです。『コルデー』を持っていた少年の荷物に紛れていまして」
「ふむ。そういえば、人の世ではそろそろ食事の時間か。“少佐”、君も今の内に済ませておくといい」
「では、お言葉に甘えて。フリアグネ様は、食事は取られないのですか?」
「私は食には執着しないほうでね。“紅世の徒”やフレイムヘイズの中には、そういった楽しみを持つ者もいるが」
トラヴァスは、デパートの食品売り場から拝借した携帯食料を昼食として取り、小休止。
フリアグネもまた、新たに手に入れた二つの宝具――コレクションを眺めながら、悦に浸っていた。
“和服”は、トラヴァスが口止め料として渡したアイスクリームを黙々と食べている。
時計を見ると、次の放送が近かった。
――『粗悪品共の舞踏会』、再演。
今回の奇怪な事件もまた、すべては“狩人”フリアグネの暗躍によるものだった。
しかし、一度は利用価値なしとして戦術に組み込まずにおいた粗悪品――“燐子”を、なぜ今になって再利用などしたのか。
発端は、“和服”が所持していたハンドベル型の宝具、『ダンスパーティー』の存在をフリアグネが知ったことによる。
宝具『ダンスパーティー』。これはフリアグネの説明によれば、“燐子”を爆発させる道具らしい。
もともとは、敵の“燐子”を問答無用で潰すフレイムヘイズ向きの宝具なのだが、
“燐子”の精製を得意とするフリアグネは、自らが生み出した駒を爆弾に変えることで活用していたようだ。
爆発自体も、“燐子”に込められた“存在の力”を起爆剤とするため、他の宝具に比べても扱いは容易い。
特性さえ知っていれば、“存在の力”を扱えぬ“少佐”にだって使えるだろう――とは、フリアグネの言である。
その発言でトラヴァスは、『ダンスパーティー』に興味を持ってしまった。正しくは、興味を持った振りをした。
フリアグネがこれを手にするということは、無尽蔵の爆弾を得るも同様。それは好ましくない展開だ。
まずはその性能のほどを熟知し、対策を練らねばならない。と、そんな判断をあのときは下した。
それが、不幸の始まりであり、リリアとの再会の引き金ともなったのかもしれない。
フリアグネは『ダンスパーティー』と交換ということで、支給品の一つであるナイフを、“和服”に手渡した。
トラヴァスはフリアグネから『ダンスパーティー』を預かり、これを試験運用してみることにした。
『粗悪品共の舞踏会』のときと同様、デパートを一時的な拠点とし、トラヴァスが現地に赴くという形で。
これには“燐子”に関心を抱いたらしい“和服”が同行。
言い出したのは“和服”だが、フリアグネの側から見れば、トラヴァスの監視役としても機能したことだろう。
実際、彼女の目があったせいで“仕事”がやりづらかった。
仮に彼女がいなければ、『ダンスパーティー』は動作不良を起こし、“燐子”はまたもや敗北――という結末にもできた。
トラヴァスの仕事は、フリアグネの行動を影ながらコントロールし、被害を最小限に抑えることである。
あくまでも最小限が狙いであり、それを完全な“ゼロ”に抑えられるほど、トラヴァスは己を過信してはいない。
“和服”と共に赴く、『ダンスパーティー』の試験運用。今回ばかりは、幾らかの犠牲もやむなしか、と覚悟していた。
そうして出会ってしまったのが、よりにもよってリリアなのである。
トラヴァスが愛すべき人。命に代えても守りたい大切な存在。それが、アリソンが残してくれたリリア・シュルツだった。
本来なら、彼女を保護し命がけで守り抜くことこそが父親としての本懐なのだろうが、今のトラヴァスにはそれもできない。
汚い仕事は依然継続中であり、フリアグネを攻略する目処は“まだ”立っていないから。
主催者側からのアプローチも、“まだ”期待できる段階ではないから。
リリアを思えば思うほど、フリアグネ一派の“少佐”という立ち位置は、“まだ”崩すわけにはいかないのだから。
……この“まだ”が早い内に解消されることこそ、トラヴァス抱く“二番目”の願いだった。
運もある程度は味方し、フリアグネの実質的な殺害数はゼロに抑えられている。
だからといって仕事が上手くいっているかと言えば、トラヴァスは苦い顔を浮かべる他ない。
被害は食い止められているが、フリアグネは着実にその力を増しつつある。
新たに加わった“和服”のこともあるため、今後の仕事はもっとやりづらくなるだろう。
今回の一件で、“和服”は“少佐”のことをどう思っただろうか。
彼女は、トラヴァスがリリアたちを襲うことを躊躇ったこと、トドメを刺さなかったことを分析し、あえて沈黙している。
行動だけで背徳者と見なされてもおかしくはないが、彼女も彼女で腹に一物を抱えている人間だ。
アイスクリーム六個で口止めすることには成功したが、今後フリアグネに情報を漏らさないとも限らない。
あの洋服店内でのやり取りが外に漏れていたとするなら、トラヴァスの目的にも、気づいてはいるのかもしれない。
フリアグネ自身も、今回の一件を訝っている様子がある。
『コルデー』の所持者は、『ダンスパーティー』による“燐子”の爆発に巻き込まれ死亡した――。
そう報告してはみたが、はたしてどこまで信じてくれただろうか。
彼は聡明なる“紅世の王”だ。トラヴァスの報告を、なんの疑いも持たず信用するなどありえはしない。
だからこそ最低限、献上品で機嫌を取り、信用度の底上げを図る。
結果フリアグネの戦力が増したとしても、この立ち位置は危うくするわけにはいかない。
せいぜいがボロを出さないよう、非情に徹するしか――結局は、それくらいしかできないのだった。
リリアと対峙してしまった痛みを癒す術は、ここにはない。
口に運ぶ固形の携帯食料はパサパサしていた、味気がなかった。
妻と、娘と、王子様とで囲んだ食卓が、恋しくなる――わけにはいかない。
簡素な食事を終え、トラヴァスは胸元のポケットから一枚の封書を取り出す。
それは、リリアの荷物に紛れていた手紙。アリソンからリリアに宛てた、遺書だった。
リリアはきっと、これを読んだのだろう。読んでなお、母の死を受け止め、この場を生きようとしていた。
手紙の内容が直筆なところを見ると、もしかしたらじかに会ってもいたのかもしれない。
辛かっただろうに、苦しかっただろうに、たくさん悲しんだろうに。
トラヴァスは、リリアのそんな罅割れた心を砕いてしまったのだ。
なんて、
「……なんて、酷い」
フリアグネにも、“和服”にも聞こえないくらい小さな声で、トラヴァスは自嘲した。
同時に、願う。誰に向けてでもなく、ただの父親としての願いを、虚空に流す。
王子様――どうか、名ばかりの英雄に代わり、リリアを守ってあげてください。
「さて」
トラヴァスが食事を終え、“和服”もアイスを食べ終えたところで、フリアグネが号令を出す。
彼の周りには、婦人服売り場のマネキン人形――否、爆弾が計二十体、多種多様な衣服を着こなし直立している。
込める“存在の力”は最小に押さえ、『ダンスパーティー』で爆破することを前提に量産した“燐子”たち。
フリアグネはこれらを伴い、再びの戦場へと赴く。
「フリアグネ様。さすがにその数での大群列挙はいかがなものかと」
「うん? ああ、心配ないよ“少佐”。彼女たちには、ステージに上るときがくるまでこの中に入ってもらう」
「……まるで、悪趣味なお人形遊びだな」
作られた“燐子”たちが片っ端から“狩人”のデイパックに入っていく。
その光景を見ながら、“和服”は呆れたようにため息をつき、“少佐”はわずかな恐怖を感じた。
「正午の放送を聞き届けた後、再びこの地を発つ。うふふ……次なる狩りでは、どんな得物に出会えるかな!」
ならばその得物は私が逃がしてみせましょう、と。
トラヴァスは眼鏡の奥の瞳に、静かなる熱意を燃やすのだった。
【C-5/百貨店/一日目・昼(放送直前)】
【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ、ダンスパーティー@灼眼のシャナ、コルデー@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式×2、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、マネキンの“燐子”×20@現地調達、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:放送を聞き終えた後、百貨店より出立。再び狩りに赴く。
2:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
3:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
4:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。
【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個、フルートの予備マガジン×3、アリソンの手紙
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:エリミネイター・00@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)×5@空の境界
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、"人類最悪"を殺す。
1:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
[備考]
※参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
【ダンスパーティー@灼眼のシャナ】
両儀式に支給された。
“狩人”フリアグネのコレクションの一つ。ハンドベル型の宝具。
鳴らすことで“燐子”を爆破させることができる。爆発力は“燐子”が持つ“存在の力”の大きさに依存する。
上記以外にも特別な使い方があり、フリアグネはこれを用いて『都喰らい』の発動を目論んだ。
【エリミネイター・00@戯言シリーズ】
フリアグネに支給された。
澄百合学園の一年生、西条玉藻が愛用する得物の1つ。
見るからに派手で無骨なナイフ。
【コルデー@灼眼のシャナ】
リリアに支給された。
“駆掠の礫”カシャが所有していた指輪型の宝具。十個の指輪で一式だが、単体でも機能はする。
“存在の力”を込めることで指輪の宝石に使い手の炎の色が宿り、弾丸として飛ばしたり、爆発させたりすることが可能。
弾丸として飛ばされた指輪は使い手の意思によって自由に操作でき、爆発を起こしても指輪自体が損壊することはない。
【マネキンの“燐子”@現地調達】
フリアグネが百貨店の婦人服売り場で精製した“燐子”。精製した時点での数は計二十体。
込められた“存在の力”は極めて少なく、意思総体を持たなければ単体の戦闘力も低い。
基本的にはフリアグネの命令にのみ従う。
※フリアグネが持っていたデイパック(肩紐片方破損)は百貨店に破棄。リリアから奪ったデイパックを代用しています。
代理投下終了しました
投下乙ですー。
おそうじ〜
亜美ちゃんいい女だなぁ……
なんというか切ないの。
上条ちゃんは死体を目の間にしちゃ無力か……
けど、姫路さん相手にどうなる?
GJでした。
しばる〜
おお、遂に親子再会。
こっちも切ないなぁ。
自分の立場を明かせる訳もないし。
宗介もいい感じに縛られてるなぁ。
フリアグネ様も強くなって期待w
GJでした
投下、代理投下乙です。
親子の対面はこうなったかー。
フリアグネにダンスパーティーってシャレになってないな、おい。
流石の宗介も、前と同じマネキンを見てそうとは判断できないよなぁ。
少佐はなんだか悲壮感でてきたけど、土俵際で強い感じもするし先が読めないな。GJ。
投下乙
フリアグネが楽しそうだな
まだ一人も殺してないのに何だこの存在感は
手下も集めて戦力も最高レベルだし、こいつらに太刀打ちできるやついるんだろうか
そして少佐もいっぱいいっぱいだし和服は何考えてるのかよくわからんし、もうどうなるよ
しかし軍曹迂闊だな
罠を警戒してるなら自爆くらい想定しとけよ
少なくともクルツは対処できたわけだし
完全にそうすけらしからぬミスだな
軍曹は少佐相手には形無しやなー
投下乙
そして新たな怖い組み合わせキター
◆LxH6hCs9JU氏の代理投下、いきます
目的地に向かってひたすらに走っていると、いろんなことを考えてしまう。
まだ朝日も昇っていなかった頃に出発した、温泉施設のその後のこと。
千鳥かなめと上条当麻の二人を見送り、温泉に残った北村祐作のこと。
放送で狐面の男が語っていたことや、放送で名前を呼ばれた人のこと。
たくさん、走りながらの考察では消化しきれないほどにたくさん、考えてしまう。
この疾走の果てにどんな展開が待っているのか、なんてことも――。
「…………はっ!」
大きく声を上げて、千鳥かなめは駆ける足を止めた。
両膝に手を付き、ぜーはーぜーはー言いながら息を整える。
ここまで全力疾走だった。周囲はとっくに明るくなり、高くなってきた気温は肌に汗を滲ませる。
温泉に浸かりたい気分だった。都合よく、向かっている場所も温泉である。とはいえ、無事辿り着いても湯にありつけるとは思えない。
「で、どこよここ。あー、この道をまっすぐだったっけ? 土地勘もないのに、すぐに辿り着けるわけがないでしょうが」
話し相手を欠いたかなめは、一人愚痴を零す。
周囲の風景は、依然として住宅地だった。建っているのは民家ばかりで、ビルや商店はあまり見当たらない。
手元の方位磁石を頼るに、温泉施設の場所は教会から東に一直線だったはずだ。
多少道筋はずれれど方向は間違っていないだろう、とかなめはあたりをつけ、また走り出した。
目指す場所は温泉施設。
北村祐作が残った、シャナと櫛枝実乃梨と木下秀吉が向かっていった、北村祐作が死んだ――温泉施設である。
そこでは間違いなく、“なにか”が起きたのだろう。かなめはその“なにか”を突き止めるべく、温泉への道をひた走っていた。
ただ、突き止めるまでもなく、その“なにか”には大体の見当がついている……ということについては、認めざるを得ない。
(人を疑いたくなんて、ないけどさ)
タイミングが絶妙すぎたのだ。
北村の名前が呼ばれ、シャナと実乃梨と秀吉の名前が呼ばれなかったあの放送。
上条当麻は微塵も疑ってなどいなかったのだろうが、千鳥かなめにはこのとおり、疑心が芽生えてしまっている。
――あの三人と、北村の間で、なにかがあったのではないか。
そんな風に考えてしまうのは、ミステリー小説やサスペンスドラマなどに影響されてしまう一般人の性だろうか。
かなめは内心、嫌だなぁ、とは思いつつも、疾走のついでとばかりに想像してしまうのである。
ここでの“死”は、すべからく“殺人”と解釈してしまってよい。
それを前提に踏まえ、温泉施設にいたはずの四人の内、どうして北村だけが死ぬ結果となってしまったのか。
推理の必要なんてないくらいに決定的だった。少なくとも、素人判断を下すには十分なほど、これは明らかだった。
つまり――シャナと実乃梨と秀吉の三人が結託して、北村を殺害した!
「……って、アホか」
かなめは呆れるように呟き捨てる。
ない。ありえない。ここはミステリをやる場面ではないのだ。状況はサスペンスにもなりえない。
大体、北村と実乃梨は友達同士の間柄だ。それは互いが認めているわけで、かなめ自身がその説明を聞いている。
シャナや秀吉とも実際に話してみたが、彼女たちはとても人を殺すような人間には見えない。
自身の推理力と人を見る目、どちらを信じるかと言えば、明らかに後者だった。
きっと、温泉にはかなめと上条が去ってから、すれ違いで誰かがやって来たのだろう。
北村はその何者かに、殺された。
シャナたち三人はその誰かと遭遇したのか、それともすれ違ったのか。
問題はそこ。
今この間にも、北村を殺害した何者かが――シャナたちを襲っている可能性だってある。
なんにしても、放ってはおけない事態が温泉で起こっている。それだけは確かだった。
具体的になにが起こっていて、どんな危険が待っているかはわからないが、そんな不安は足を止める理由にはならない。
アマチュアはアマチュアなりに奮起するべき場面なのだと、かなめは今の状況をそんな風に捉えていた。
「ソースケなら、独断先行は危険だー、とかなんとか言うんだろうけどね」
先の放送で、北村祐作の他に、メリッサ・マオという名前が呼ばれていたことを思い出す。
宗介の同僚であり、気さくで陽気な格好いいお姉さん……いや、姐さんという印象だったあの人。
名簿には記載されていなったので、まさかいるとは思わなかった。
彼女の死を受け取って、宗介やクルツ、テッサはなにを思うだろう。
未だ噂も聞かぬ知り合いたちのことを思い、かなめは少しばかり不安になった。
不安の種はまだ、これだけではない。
今向かっている温泉施設、そこにいるかもしれない北村を殺害した張本人。
そんな危険人物と、今は一人きりの千鳥かなめが、一対一で相対することになったらどうすればいいのか――。
「一人でやるっきゃ、ないでしょ」
常日頃から鬱陶しいくらいにつきまとっていたサージェントは、傍にはいない。
唯一の同行者であった上条当麻も、その不幸体質のせいで離れ離れになってしまった。
合流を先に済ませたいという気持ちも幾らかはあったが、あいにくと千鳥かなめは臆病風に吹かれるような少女ではない。
やると決めたらやる。行くといったら行く。上条当麻とは温泉で合流。今さらこれを変更することはできなかった。
(自分の身くらい、自分で守ってやるわよ!)
幸いなことに、装備は整っているのだ。
素人にも扱える暴徒鎮圧用高電圧スタンガン、そして稲刈りに使うにしては鋭すぎる鎌。
どちらも殺し合いをするには不向きな武器だが、自衛の道具として用いるならそれなりに有用だろう。
それにいざというときは、今の今まで話題にも出さなかった“秘密兵器”を使えば――と。
(……いや、できれば使いたくなんてないんだけどね)
かなめは足を止めて、デイパックの中に仕舞っていたそれを取り出す。
宗介が握っていたものよりもかなり小型なそれは、かなめの支給品の最後の一つ。
ワルサーTPHという名前の小型自動拳銃。もちろん、小さいとはいえ撃てば人が死ぬ代物である。
これから先、ひょっとしたらこれを使わざるを得ない状況に追い込まれるのかもしれない。
撃ちたくなんてないし、握ることすら躊躇われるし、本当を言えば所持すらしたくないのだが、決断する。
かなめはワルサーTPHを制服の胸ポケットに収め、疾走を再開した。
授業で使う15センチ定規よりも小さい凶器。
見つかったら生活指導どころでは済まない危険物。
引き金に触れることは、ないと信じたい。
「まあ、大丈夫……よね?」
焦りと不安を押し殺して、千鳥かなめは温泉を目指す。
【E-3・温泉付近/一日目・午前】
【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖、ワルサーTPH@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
[思考・状況]
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:温泉に向かって情報を集める。
2:何かあったら南、海岸線近くで上条を待つ。
3:知り合いを探したい。
[備考]
※2巻〜3巻から参戦。
【ワルサーTPH@現実】
全長:135o 重量:325g 口径:.22LR 装弾数:6+1
軽さと小ささが最大の特徴と言える、ワルサー社が開発したポケットピストル。
あまりにも小さすぎるため、発砲時に高速で後退するスライドとハンマーが、
グリップからはみ出した人差し指と親指の間の肉を思い切り挟むことがある。
使用者の手が大きかったり、握る位置を高くしたりすると頻繁に起こり得る。
それゆえ、愛好家の中では「ワルサーバイト」というあだ名で知られる。
◇ ◇ ◇
隠密行動は忍者の領分であり、破壊工作はテロリストの領分である。
だから、というわけでもないが、ガウルンはほどなくして千鳥かなめの姿を見失った。
追走劇の舞台となる住宅地はそれほど入り組んでいるわけでもないが、かなめの健脚はガウルンの予想の上をいったのだ。
(……ま、だからって追いつけないわけでもねぇけどな。むしろ追い越しちまうぜ、この分じゃな)
それはかなめのほうがガウルンよりも足が速い、という単純なことではなく、
答えはもっと単純で、ガウルンが単に自分の意思で尾行をやめたからにすぎない。
理由は面倒くさくなったから。
気配を殺し、足音を消し、気づかれないようにこそこそと……そんな真似は、それこそ“ニンジャ”にやらせておけばいい。
「目的の場所ってのもどうせわかってるんだからな。なら一足先に到着して、後からやって来るかなめちゃんを歓迎してやるのが、男の優しさだよなぁ?」
髭面を下卑た笑いで染めて、ガウルンはゆったりとしたペースで東への道を進む。
かなめは前か、それとも既に後ろか、定かではないがまったく気にしない。
要はこの足で温泉に辿り着き、かなめと対面できればそれでいいわけだ。
そこから先は、ちょっとしたイベントが始まる。
かなめの同行者である少年の顔を盗んだ如月左衛門が、少年に扮してかなめと接触。
左衛門はあの常世離れした性格だ。面と向かって話せば、かなめもすぐに異変に気づくことだろう。
ねぇ、あんた喋り方変じゃない? ぬ? いや、そのようなことはあるまいよ――と。
ガウルンはそんな茶番劇を観賞し、程よいタイミングで『ドッキリ』と書かれたプラカードでも持って現れてやればいい。
お楽しみはそれから。かなめの驚く顔が、目に浮かぶようだった。
(いや……待てよ)
ふと、ガウルンが立ち止まる。
にたにたとした微笑は、きりりとした真面目なものに一変した。
(ニンジャが言ってたな……かなめちゃんの“仲間”が死んだって。そりゃつまり、殺されたってことだ。
殺した野郎が今どこでなにしてるかは知らないが、万が一にでも、そいつにかなめちゃんを横取りされたら台無しだぜ)
千鳥かなめが目指す先、温泉施設では、まず間違いなく湯気よりも血の香りが濃厚になっていることだろう。
この状況下、獲物を狩る意思のある者が一箇所に留まるとは考えにくいが、だからといって楽観はできない。
ここに至るまで、六時間と少し――我慢に我慢を重ね、やっとご馳走にありつけそうなのだ。
それを第三者に横取りされるなど、冗談ではない。ガウルンはギリッ、と奥歯を強く噛み、そして見た。
路上に放置された、肉と骨と血のゴミ捨て場――背筋を弛緩させるほど魅力的な、惨殺死体を。
「――ああ、すげぇなこりゃ」
発見者のガウルンは、極めて冷静な、それを目にしての言葉であるなら異常すぎるほどに冷静な声で、感想を述べた。
それはとても遺体とは表現できない、いや死体と言ってしまうのも躊躇われる、肉と骨と血の残骸だった。
数時間前、ひょっとしたら数十分前、いやいや数分前という可能性だって十分にありえる、とにかく元・人間。
肉という肉がバラバラに分断されてしまっていて、容姿や年齢、性別すら判別できない有り様である。
「おいおい、まさかこいつか? かなめちゃんのお友達を殺したとかいう、殺人鬼は」
こいつ、とは目の前のバラバラ死体のことではなく、バラバラ死体を作り上げた張本人のことだった。
これをやった犯人が、かなめの向かう温泉にいる――いないにしても、まだ近場にいる可能性が非常に高い。
ガウルンの身に、珍しく危機感が訪れた。自分の身を案じる種のものではなく、獲物を横取りされるかもしれないという危機感だが。
「AS(アーム・スレイブ)の銃撃を受けたってこうはならねぇ。この綺麗すぎる断面はなんだ……?
まさか、ジャパニーズ・ソードなんていうんじゃねぇだろうな。ったく、気にいらねぇ玩具を持ってやがる」
何分割にされたのか数える気も起きない肉片は、どれもこれもが綺麗な断面をしていた。
のこぎりでごりごりと断ち切ったような跡ではない。名刀でスパッとやってしまったような切り口。
それにしたって、こうも数を拵えるわけがわからないが、大方、殺した野郎の趣味だろうとガウルンは解釈した。
(さ、て……いよいよもって、こりゃライバル出現ってやつか? ちんたらしてたら泣きを見ることになりそうだぜ、と)
急がなければ。そう思い直した矢先、バラバラ死体の傍に血まみれのデイパックが置かれているのを見つけた。
なにかの罠かとも懸念したが、ガウルンは、はん、と鼻で笑い、これを堂々回収していく。
デイパックの中には、銃が一丁と予備弾倉が四つほど入っていた。
他には、誰もが持つ基本支給品が数点。武器になりそうなものはなかったので、銃だけいただいてデイパックごと破棄する。
使い慣れた武器はやはり心強い。戦争中ともなれば、銃と銃弾はいくら数があろうと困ることはない。
(ラッキーはラッキー。だが、これが手付かずで放置されてたってことは、だ。
これをやった野郎は銃なんかにゃ興味がない。つまりそういうタイプの達人って線が強い。
いいねぇ〜、ぞくぞくしてきやがる。かなめちゃんと遊ぶ前に、前菜としていただいとくか……?)
真面目だった表情が崩れ、ガウルンの口元が思い切り笑む。
目指す先には、かなめというメインディッシュの他にも、魅力的なオードブルが待っている可能性がある。
また、それらを食らった後にはかなめ以上のメインディッシュが――カシムという名の大好物が控えてもいるのだ。
ニンジャやその他の連中はデザートにでも回せばいい。ガウルンの標的は全、その内の好物は少。
支援
そろそろ、腹が空いてきた。
朝食は取っていない。この空腹は、ちんけな食事などでは満たしたくない。
どうせなら美味しく、贅沢に、飢えすらも調味料の代わりとして、最大限味わいつくしたい。
「ククク……拗ねんなよぉ、カシム。おまえの大事な大事なかなめちゃん、まずはそっちからいただいてやっからよぉ!」
ガウルンが駆け出すと同時、足下の血の海が、盛大に飛沫を上げた。
【E-3・温泉付近/一日目・午前】
【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(小)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)、SIG SAUER MOSQUITO(9/10)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首、予備弾倉(SIG SAUER MOSQUITO)×5
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:温泉でかなめを補足しつつ、ニンジャが来るのを待つ。温泉にまだ殺人者がいるようならばそいつの相手も楽しむ。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
3:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
4:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心での行動はなるべく避けるようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。
◇ ◇ ◇
――駆ける!
人が歩けぬ天井と天壌の間際、屋根の上を忍者の健脚が蹴り、跳び、過ぎる!
空を舞うその姿は韋駄天のごとく、目的の場へと方向感覚だけを頼りに走り抜ける!
「なんとも櫓の多い里よの。おかげでこのような目立つところを走らねばならぬが……なに、早々に過ぎ去れば問題あるまい」
赤を基調とした学生服に、風に翻るミニスカート。
溌剌とした表情から出てくるのは、女の声色。
身長、体系、髪型、それらの差異は極めて小さい。
櫛枝実乃梨の姿をしたその者――甲賀卍谷衆が一人、名を如月左衛門。
何者にも化け、何者をも欺く、変顔の忍者である。
現代の地図の見方や、方位磁石の使い方など知らぬ彼女にして彼は、風向きと日の位置で方角を見極め、東を目指す。
その先には、がうるんと、『かなめちゃん』なる女人が待ち構えているはずだ。
あるいは追い越してしまうこととてあろうが、左衛門にとってはむしろそのほうが好都合。
狙うは、かなめちゃんではない。
狙うは、甲賀弦之介の首を奪った狼藉者、がうるんへの復讐――
これはこの地にただ一人残された甲賀者、如月左衛門にとって正に千載一遇の機会!
がうるんとの戦いの際にはおくれを取ったが、今回ばかりはしくじるわけにはいかない。しくじるわけにはいかないのだ!
「待っておれよ、がうるん。――」
故に左衛門は、立ち並ぶ民家の屋根を伝いながら、東への道ならぬ道を駆ける。
この身のこなしこそ、彼が甲賀十人衆に選ばれたもう一つのゆえん。顔を変えるだけが能の男ではないのだ。
「……しかし」
ぴたりと、左衛門の足が唐突に止まった。
何者の目にもつかぬよう配慮した位置(もちろん屋根の上ではあるが)で、悠然と佇む。
吹き荒ぶ朝風が、なんとも心地よく……そして肌寒い。
特に腿のあたりが。この感覚を言葉に表すならば、すーすー、といった感じだろうか。
「あの櫛枝実乃梨なる女子、よくもまあこのような召し物で外を歩き回れる。
これならおれの妹のお胡夷のほうが、もう少し恥じらいというものを持っておったぞ……」
左衛門は徐に、自身が穿くスカートの端をたくし上げてみる。
ぺらりとひとめくりすれば、そこには女の痴態が……否、下にはもう一枚召し物があったが、それが丸見えだった。
こんな格好で走れば、当然のごとく風が召し物を揺らし、痴態が覗かれてしまう。
がうるんもなかなかにおかしな格好をしていたが、櫛枝実乃梨のこれはさらに上をいく。
まっこと正気とは思えぬ赤の装束に、左衛門の気は狂いだしそうになった。
「里の女子の中には、色香を忍法として用いる者もおったが……まさか、櫛枝実乃梨もそういった類の?」
それならそれで、かなりの使い手であったのかもしれぬ……と、途端に黙り込む左衛門。
女人に化けるのは不可能ではないにしても一苦労、しかしその色香まで模倣するのは、さすがの左衛門といえど無理だった。
とはいえ、今さら召し物を別のものに変えるわけにもいくまい。
勘のいいがうるんのことである。どのようなほころびが災いへと変ずるか、わかったものではない。
「女子に化けるともなれば、徹底せねばなるまいよ。……『ううん、徹底しなくちゃね!』」
櫛枝実乃梨は死んだ。だというのに……そこにはまさに、生き写しのような声が響き渡った!
「『うん、こんなところかな?』」
おお、これを櫛枝実乃梨と呼ばずしてなんと呼ぶ……。
今この場にいるのは、如月左衛門にあらず。
一度は死に、転生を果たした、第二の櫛枝実乃梨なのだ!
「あの耳慣れぬ喋り方にはさすがのおれも四苦八苦したが、声のほうは完璧よの。
なに、ようはがうるんにさえ悟られねばよいのだ。普段の喋り方を潜め、声さえ真似らればそれでよい」
櫛枝実乃梨の陽気な顔が、にたり、と笑う。
その内に秘めたるは、復讐を心に近いし魔性の忍者。
本性いでるとき、がうるんの命はこの如月左衛門の手に落ちよう、と。
「がうるんを始末した後は、弦之介様に代わり朧や天膳を討つ。それこそが、甲賀者としてのつとめ」
今は復讐こそが最優先、しかし、甲賀と伊賀の忍法合戦を忘れたわけではない。
先の放送なる報せでは、伊賀者である筑摩小四郎の名前が呼ばれていた。
朧や天膳の他にも伊賀者が紛れていたことには驚いたが、早速死んだというなら世話はない。
破幻の瞳を持つ朧は厄介だが、薬師寺天膳こそは己が甲賀弦之介として討つべきだろう。
「なればこそ、まずは弦之介様の奪取よ。残り少なき余生、せいぜい満喫するがよいぞ、がうるん。――」
そして、櫛枝実乃梨の顔をした如月左衛門もまた、温泉への道を進む。
【E-3・温泉付近/一日目・午前】
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲。ガウルンに対して警戒、怒り、殺意。櫛枝実乃梨の容姿。
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック ×2、金属バット 、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持。武器ではない?)
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:温泉に向かい、 気付かれないようならガウルンを襲う。
2:気付かれたなら適当にごまかして、再び機を覗いながらガウルンの指示に従う。
3:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
4:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨の声は確実に真似ることが可能です。また上条当麻の声、及びに知り合いに違和感をもたれないはなし方ができるかどうかは不明。
※櫛枝実乃梨の話から上条当麻、千鳥かなめが殺し合いに乗った参加者だと信じています。
◇ ◇ ◇
泉のごとく沸き上がる湯を、ただひたすらに目指す三人の者。
三者三様、それぞれの思惑を持ってのデッドヒートは、横一線といった戦況。
頭一つ抜け、いち早くゴールの温泉施設へと辿り着くのは、三人の内の誰になるのか。
そして辿り着いた後、次なるゴールをきちんと二本の足で目指せる者はいるのか、いないのか。
三者が辿り着く先は、憩いの地か――はたまた死地か、戦場か、鉄火場か、修羅場か、地獄か、狂戦士の領域か。
以上、代理投下終了。支援感謝です。
そして感想。まずは投下乙です。
温泉をゴールにしたレースになったか……
かなめは安易な誤解には走らなかったとはいえ、小型拳銃1つ追加程度でなんとかなるのか?
ガウルンは秀吉発見と来たか。しかし姫ちゃんは前菜にはいささか重過ぎる「ご馳走」っぽいぞ。
そして忍者。ガウルンに敵意燃やすのはいいけど、ミニスカートで色香ってwww
3人3様、狙いや意識の違いが面白い。盛り上げてくれるなぁ。GJ
乙です!
温泉は大変なことになるなこりゃあw
しかしかなめ、それは確かに秘密兵器であるが、相手が悪すぎるぞ……!w
何やかんや殺してないけれど、ガウルンはやっぱり怖いぜ。
そろそろ暴れて欲しいが、待っているのはオードブルにはヘヴィすぎる気するぜ。頑張れw
忍者も応援したくなるぜ! でもガウルンも頑張ってほしいんだよなぁw ぐううw
乙です。
やっぱり江戸時代の人にはミニスカートはエロく見えるか・・・。
ともかく、これは誰が先に着くかでかなり展開が分かれる気がするw
投下を開始します。
【0】
『キョンくん、でんわ〜』
【1】
泣くに泣いて、そして泣いて泣き止んだ頃には目の前にまっすぐと立つ電柱の影も随分と短くなっていて、
それに気づいてようやく自分がどれだけの涙を零したのか大河は知って、ぐしぐしとブラウスの袖で涙の跡を拭った。
「……おなか減った」
眩しく輝く太陽を見上げて大河はぽつりと零した。
メイドさんが出してくれたラーメンも飛び出してきたせいでろくに食べていない。
運動もしたし泣いたこともある。おなかはさっきよりももっと減っていた。油断すればくぅと音を鳴らしてしまいそうなぐらいに。
「……おなか減った」
もう一度呟いて、今度は涙がぽつりと零れた。
思い出し、思い浮かぶ。何を食べたいのか。誰が作ったものを食べたいのか。それが叶った日々。そうでない今。
どこに戻っても、どこに帰ってもそれが実現しないということに、また小さな肩が揺れる。
「痛いなぁ……」
誰も聞いてないのに空々しく言って、大河は電柱を蹴りまくって痣の浮いた足をさすった。
さすりながらまた目元を擦る。今の涙はそのせいだと、小さな彼女のほんのちっぽけな強がり。
今更だが、見たら足は裸足で泥だらけ、上着は着てなくて、着たまま寝ていたブラウスはぐしゃぐしゃのしわだらけだった。
ぶんぶんと頭を振って跳ねるように立ち上がる。思いのほか身体は軽く動いてくれた。
とりあえず、今はここまで。
もう一度頭を振り、大河は社務所に帰ろうとして……そして、大河はその社務所から漏れてくる音に気づいた。
りーん、りーん、りーん……と、鳴り響くそれが何の音なのか、一瞬わからなくて、そして少ししてそれが電話の音だとわかった。
【2】
すこし前のこと。
対少女としては最も効果的でおぞましい方法を使われ、まんまと敵に逃れられてしまった二人の少女が道を歩いていた。
片方。10歳と少しかというほどの背に、膝裏までに達しそうな豊かな黒髪を持つのは《炎髪灼眼の討ち手》であるシャナ。
その隣を行くのは年を考えれば標準的で、しかし小柄なひとりの女子中学生である《超電磁砲(レールガン)》こと御坂美琴。
少女というくくりで言えば、間違いなく最強の1位2位を占めるであろう二人は、らしくもなく浮かない顔で歩を進めている。
「もうついてないかな……?」
シャナはあれから何度目かの問いをして、同行する美琴に背中と髪に毛虫がついてないかを確かめてもらった。
フレイムヘイズとしてはいささか以上になさけない姿ではあるが、気持ち悪いというのはどうしようもないのだ。
あのツンツンとした毛がわさわさとしていて、足がいっぱいあってうねうねと這う姿は思い返しただけで怖気が走る。
「それで、シャナさんは”アイツ”と会ったのよね?」
「うん。そうだけどそれがどうかした?」
「えっと、いや……別にどうともしないわよ! ただ、まぁ……無事でよかったなぁ、とか……」
「そう。でも私も安心した。あいつが悪いやつじゃなくて」
シャナは美琴がいうアイツ――上条当麻が危険な人物どころか真逆の正義漢であると知って胸を撫で下ろした。
その背中を黙って見送ることしかできなかった実乃梨。
彼女が北村殺しの犯人として追った彼がそういう人物ならば、おそらく彼女は大丈夫だろう。
当麻と一緒にいたかなめも美琴の仲間から安全な人物だと保証されているらしいので、これで不安が一つ消えたことになる。
「とは言え、ならばあれらとは別に得体の知れぬ殺人者が他にいたということになる。しかも、おそらくは複数だ」
シャナが首にかけているペンダントから遠雷のような響きを持つ威厳ある声が発せられた。
フレイムヘイズたる”炎髪灼眼の討ち手”の契約者であり、シャナの身に宿る紅世の王《天壌の業火・アラストール》の声である。
「秀吉をバラバラにした奴。北村を刺した奴。それと喉を切り裂かれたのと、滅茶苦茶に潰されてた奴……」
「どれも手口は違う。最悪、別々の者による仕業とすればあそこには4人の殺人者がいたということになるだろう」
「けど、温泉の3人は仲間割れとかかもしれない。上条当麻達が出てからそんなに誰かが来る時間はなかったもの」
「ふむ。確かに”一度”に起こったという可能性は高いだろうな」
シャナは事態に当たり敵を想定することで自身の冷静さが戻ってきていることに安堵した。
そして、おそらくはその為に話を切り出してくれたアラストールの気持ちに感謝し、その頼りがいを改めて実感する。
「中でも気をつけるべきは、あの鋭利な断面を見せたままに人間をバラバラにした殺人者であろう。
尋常な状態ではなかった故に、おそらくは宝具の類を用いたか、御坂美琴の言う《能力》の使い手かもしれぬ」
ならば油断はできないし、無能力者である上条や実乃梨の命もまだ保証されたわけでないとアラストールは付け加える。
確かにその通りだとシャナは気を引き締めなおした。
ヴィルヘルミナの元には実乃梨が言っていた大河という少女もいるらしい。
ならば、神社についたらヴィルヘルミナに捜索隊を出すことを頼んでもいいだろうと、そうシャナは考える。
「……あのさ。多分だけど、そのバラバラってやつ。犯人がわかってるかも」
おずおずとかけられた美琴の声にぴくりと反応し、シャナは続きを促した。
そして美琴が説明するにそれは”紫木一姫”という少女の仕業であり、《曲絃糸》という殺人技術によるものだという。
「紫木一姫と零崎人識が同じ世界の住人で、その紫木って方が秀吉と大河の大切な人を……」
「美波という娘を襲ったのが学校ならば場所も時間も近い。その紫木という娘が下手人と見て間違いないであろうな」
けど……と、シャナは言葉をつけくわえる。
普通の人間にそんなことができるというのは、フレイムヘイズ以前の自身を思い返すと少し信じられないことだった。
しかしアラストールはそれにこう答える。《物語》が違う以上、我々の普通は通用するものではないと。
現に、目の前にいる御坂美琴にしても《普通の人間》にしか見えないが、電撃を操る《超能力者》なのである。
「さて、もうちょっとよ」
路地から大きな通りへと出たところで美琴がそう口にした。
太陽を背に向こうを見れば新緑鮮やかでなだらかな山が見える。
どうやら、ここから道なりに進めばヴィルヘルミナらが拠点とする神社へと到達するらしい。
「シャナさんが他に探しているのは坂井悠二さん?」
不意にそう聞かれて、シャナは小さくそうだと返事を返した。
神社に集まっただけでも8人以上で、シャナ自身も少なくない人数と接触をしているが、想い人である彼の消息は未だ不明だ。
それなりの信頼もあるし、むしろこういう状況でこそ真価を発揮するとも知っているが、やはり心配なのは変わらない。
「大切な人?」
「うん。……御坂美琴にはいるの?」
無意識の内にそう問い返していた。
実乃梨にぶつけられた言葉が心の中でまだ強く残っていたせいなのだが、シャナ自身はそれには気づかない。
ただ、大切な人を想う気持ちというのを色々な人から教えてもらおうという無自覚な行動であった。
「いやいや……ないない! いや、あれはちょっと……いやでも……」
美琴の答えにシャナは少しだけがっかりする。
もっとも、ある程度心の機微に敏ければ美琴にそういう相手がいるというのは明白なのだが、生憎とシャナは気づかない。
そして、悠二のことを考えるとまた不安定な自分になってゆくので、今度は意識して敵の話題を切り出した。
「それで御坂美琴。古泉という奴。次会ったらどうするの。やる事は決まってると思うけど」
「……勿論ぶっ飛ばすわよ。許さないんだから……あの思い出すだけで腹が立つ」
案の定、美琴は大きな怒りを露にした。連続で飛び出す罵詈雑言は、少し引いてしまうほどである。
しかし、心の中に食い込んだ不安は深く、引き剥がすことも無視することも簡単にはできない。
取り返しがつかないことが起きる不安に心臓がドクドクと脈打ち、頭の中が真白になりかけたその時――、
「駄目だ……こりゃ……あーあ。部長も”悠二”さんもぶじかなぁ……」
――その名前が耳の中に飛び込んできた。
【3】
どこから出てきたのかも覚えていなかったので、大河は結局、外をぐるりと周って玄関から社務所の中に入った。
足の裏についた泥を玄関マットで落とすと、ぺたぺたと音を立てながら板張りの廊下を歩いてゆく。
あまり大きな建物でもないのでそれも長くは続かず、ほどなくして先ほどまでいた畳張りの部屋へと到着した。
「あ、おかえりなさい」
少しだけ目元に赤色が残り、無愛想な顔で帰ってきた大河を出迎えてくれたのは、ぎこちなくも明るい顔の美波だった。
うん。と、それだけ答えて大河は彼女の隣へと腰を下ろし、そしてメイドさん――ヴィルヘルミナの姿を探す。
暗色のワンピースに純白のエプロン。更にはヘッドドレスと正しくそれであり、目立つ彼女の姿はしかし部屋の中にはなかった。
「ねぇ、美波。あの人はどこに行ったの?」
「それなら、さっき電話があってそれを取りに……須藤さんからだって。何かあったみたい」
そっか。と、返事をして大河は膝を抱えて丸まった。
先ほどはほとんど上の空ではっきりとは覚えていないが、確か街に食料などを調達にしにいっている人達がいたはずだ。
ここまで一緒に来た(須藤)晶穂もそこに。そして記憶が確かならテッサの方は山の上の方に向かったと聞いている。
テッサのことは今は置くとして、晶穂のことが少し心配になる。
電話をかけて来たということはまだ余裕があると言えるが、しかし電話をかけるだけの理由(トラブル)もそこにあるのだろう。
「あの、ちょっといいかな……これなんだけど」
「んん……?」
膝の上に顎を乗せてむぅと唸っているところに、美波がおずおずと声をかけて何かを大河の方へと差し出してきた。
彼女の手のひらの上にあるそれは何の変哲もないただのデジカメだったが、しかし少しだけ別の意味がある。
「これ、大河のものじゃないかな?」
「……言われてみれば私のみたい、けどどうしてこんなところに?」
「うん。水前寺の鞄の中に入っていたんだって、それで今はウチが持っているんだけど返しておいたほうがいいと思って」
「別にいいけど……。そっか、じゃあよくわかんないけど返してもらっとく」
なんで自分のデジカメがここで誰かの鞄の中に、つまりは配られているのかさっぱりわからない。
けど、見てみれば確かに自分のものらしかったので大河はそれを素直に受け取った。
そして自分の鞄を引き寄せてごぞごぞと漁り、代わりと言ってはなんだがとひとつの缶を美波に手渡した。
「何これ……?」
「フラッシュグレネード。いざって時の為にいっこ持っておきなさい」
「え! ちょっと……これって、爆弾……!?」
「別に本物の爆弾じゃない。光が出て目くらましになるだけ。さっきのデジカメのお返し。一個貰ったから一個あげる。いい?」
美波が納得したのを確認して、大河はデジカメを鞄の中に仕舞おうとする。
しかしその直前にはたと気づいた。デジカメの中になにかデータが残っていたっけかと、脳の中の記憶野をぐねぐねこねる。
何を撮ったなんてよく覚えてないけど、もしかしたら”彼”の写真がこの中に残っているかもしれない。
そしたら……、そしたらどうしよう……?
【4】
「はい、それで部長は浅羽を探しに行って……はい、どこまで行ったかはちょっと。それで、ですね――……」
晶穂は電話口の向こうにいる硬質な声色のメイドとその相棒であるヘッドドレスの声にただただ恐縮していた。
助けを求めようと同行することとなった3人の方を見てみるが、そっちはそっちで忙しいらしく救援は望めそうにない。
そもそもとして、どうしてこんなことになったのか。
発端はやはり部長こと水前寺邦博のせいであると言えるだろう。比率で言えば、ほぼ100%部長が悪い。
まず、神社に残るはずだった自分を無理矢理連れ出した。
その時は納得というか、言いくるめられたが、別に浅羽の話をするのはあの時でなくともよかったのではと思える。
そして、物資調達に行った市街で件の古泉一樹に襲われることとなった。
これはボディーガードとしてついて来てくれていた美琴のおかげで事なきを得た……らしい。
戻ってきた美琴がものすごく怒っていたが、とりあえず怪我などがなかったのは置いていった身としてはほっとするところだ。
そう。彼女を置いていった。これも部長のせい。
超能力者同士の戦いになんて参加できないのは同意するところだけど、考えれば別の方法もあったんじゃないかと思える。
それは部長の狙いが戦場からの避難ではなく単独行動をすることにあったからだ。
部長は最初から浅羽を探しに行くつもりだったらしい。
よく考えたら美琴に荷物を預ける必要はなくて、そこで気づくべきだったろう。もっとも、気づいたからどうだという話だが。
2人きりになったところで部長は選択を要求してきた。ついてくるか、それともついてこないのか。
色々な理由が複雑に絡み合っていたけれど、要は勇気の問題だったのだと思う。
浅羽にもう一度会えたとして、何をどう言えるのか、どんな顔ができるのか。部長はそれを見抜いていたんだろう。
結局、ついてはいけない――そう部長に判断されてしまった。ほっとしたけど、逆に辛くもあった。
そこから展開は加速し、現状へと辿りつく。
ひとり戻るために車を降りたというところで、二人の男性が現れた。
片方は優しい感じ。学ランの高校生、坂井悠二。もう片方は少し怖い感じ。ブレザーの高校生、名前は……キョン?
二人は話を聞いていたらしく、部長に北東へと向かうことを止めるように言った。なんでもとても危険らしい。
その時耳に届いたのは部長の小さな舌打ち。
前言撤回しなくてはならないだろう。部長は最初から浅羽をすぐに助けにいかねばならないと考えていたのだ。
結局、学ランの悠二の方が部長についてゆくことになった。
そしてキョンという方が神社へと同行してくれることになる。少し心細かったが、そう思う間も僅かに更に急展開。
「悠二はどこにいるの。話しなさい」
呆気に取られるというか見惚れること数瞬。目の前に美少女。誇張なくそうだと言える小さな女の子が現れた。
美琴も一緒に出てきて、聞けば古泉との戦いの中で助太刀をしてもらったとか。
そして、ヴィルヘルミナが言っていた《炎髪灼眼の討ち手》とやらが、彼女であったらしい。
どことなく大河を連想させる彼女は同じ《物語》の登場人物である坂井悠二がどこにいるのかと喰いついてきた。
「そうだ。そういえば、あいつ携帯持ってたじゃないか!」
悠二がもうここにいないと知ってシャナが走り出そうとした時、キョンがそんなことを言った。
だったら、話は簡単。一緒に行った部長も安心だ。
……と思いきやそうはならなかった。肝心の携帯の番号を聞いてなかったのである。
「でも、電話するってのはいいじゃない」
キョンを使えないと罵倒するシャナの隣で美琴がポンと手を打う。
そもそも神社から出てくるにあたって途中経過を報告するということを失念していたのがアレと言えるが、そうすることになった。
4人で目の前のコンビニに入り、美琴からその役を押し付けられ、今こうして以上のことを報告しているというわけである。
電話番号は誰も控えてなかったけど、この街に神社はひとつしかないらしく、電話帳の中にそれらしいのはすぐに見つかった。
そして、以上にて報告は終わり。
”炎髪灼眼の討ち手”に電話を代わるよう言われて、ようやく私はこの大任から解放されることとなったのだ。
【5】
「いかに合理的な理由があろうとも和を乱す行為は許されるものではないのであります」
「独断専行」
不意にかかってきた電話により、晶穂から事の顛末を報告されたヴィルヘルミナは水前寺の行動に対し論外だと断じた。
頭に頂くヘッドドレスの形をした相棒であるティアマトーも同意であり、表情に出さぬ代わりに受話器をミシと握る。
電話を”彼女”に変わってもらうよう要請し、その間に現状を頭の中で素早く整理する。
古泉と遭遇するも行方を消失。相手側の損耗の程度については、実際に戦った者から聴取する必要がある。
水前寺は独断にて北東方面に移動。普通の人間にとっては貴重な移動手段である車両を持っていってしまっている。
加えてそこに坂井悠二が同行しているという。どちらも重要でありながら別の感情もあるという……難しいところだ。
そして、電話口の向こうには須藤晶穂と御坂美琴。”彼女”とキョンという人物がいるとのこと。
”彼女”については考えるまでもない。何を置いてもまずは合流すべき、論議にアラストールが加わると心強いというのもある。
キョンという人物についても重要人物として扱う必要があるだろう。
あの古泉一樹と涼宮ハルヒと《物語》を同じくとし、それらについて事情を知っているという。貴重な情報源だ。
「……ヴィルヘルミナ?」
不意に”彼女”の声が耳を触り、ヴィルヘルミナはびくりと身体を振るわせた。
「大丈夫でありますか?」
「報告要請」
「うん。私は全然平気。ヴィルヘルミナは?」
「こちらも一切の問題は生じてないのであります」
「湛然無極」
互いの無事を確かめ合いヴィルヘルミナはほっと胸を撫で下ろす。
万が一などとは考えていなかったが、事態が事態だけにそうだと確かめられたのは嬉しいことだ。
「《万条の仕手》よ。確認したいことがあるがかまわないか?」
受話器からシャナとは別の厳しい音声が伝わってくる。誰と問う必要はない。聞きなれた声はアラストールのものであった。
「なんでありましょうか。こちらからも確認したいことがありますれば、手短に済ませたいのであります」
「うむ。では単刀直入に問おう。”狩人・フリアグネ”の存在についてだ」
その名前を聞いてヴィルヘルミナの表情がより真剣みを増したものに変わった。
紅世の王の一人である狩人・フリアグネ。それだけでも重要な案件ではったが、今はそれだけではない。
彼がすでに討滅されているという事実がそれで、それを成したのが電話の向こうの彼女らなのである。
「あれが存在すると坂井悠二――正確にはあやつと同行していたキョンという少年から聞き及んでいる。
なにやら人間を手下として活動しているとのことだ。燐子にしても弱いものながら生み出しているとも聞いている」
「そうでありますか」
「そして、須藤晶穂という少女から万条の仕手がすでに行き会っていると聞いた」
「正しい情報であります。確かにあの紅世の王と相対したのであります」
「”本物”であったか?」
アラストールは問う。それはそうだろう。
討滅したはずの相手なのである。人間で言えば死んだということだ。それが蘇ってくるなどとは尋常な事態ではない。
「少なくとも、”紅世の王”であることは間違いないかと」
「何か含みを持った言い方だな」
「知者である《禁書目録(インデックス)》によれば、”複製”の可能性もありうると。死者蘇生よりかはあり得る話なのであります」
「なるほどな……しかしこちらでは別の可能性が持ち上げられたぞ」
「何でありましょうか?」
「時間跳躍を可能とするものによる仕業ではないかというものだ」
ヴィルヘルミナの口から空白が零れた。言葉を失うとはこういうことかと、それぐらいに荒唐無稽な話であった。
封絶などを用いれば一時的に因果律を断ち切ることは可能だが、この場合はそのような程度の話ではない。
「俄かには納得しかねる童の空想が如き妄言なのであります」
「もっともだ。しかし彼が嘘をついているという風もない。
そして、そちら側で捜索対象となっている涼宮ハルヒなる少女だが、彼に言わせれば《万物の創造主》であるらしいぞ」
「それは……確かにそうであれば、”全員が救われる方法”と言うのもありえるでしょうが……」
「ふむ。それもどうやら一筋縄ではいかないらしいがな」
「つまり、その”式”を発動させる”条件”が必要なのでありましょうか?」
自らが所属する世界とまた別の世界があるならば、自分達の《物語》以上に途轍もないものがあってもおかしくない。
とりあえずはそう納得してヴィルヘルミナは思考する。
須藤晶穂からは御坂美琴の世界が、御坂美琴からは自分の世界が”ありえない”のである。
ここで自分だけ首を振るわけにもいかない。
「詳細についてはまた合流後に話そう。
そちらの事情も把握したいところであるし、何よりこちらも件の少年から全てを聞いたわけでもない」
「確かに。《世界の壁》などの問題も現在調査中なのであります。
こちらは正午に合流。材料を持ち寄り考察を行う予定であったのであります。ですから――」
「うむ。我々も参加させてもらおう」
そして最後にシャナの声を聞いてヴィルヘルミナは受話器を置いた。
話の重さとこの先また議論が混沌とするだろうことに、知らずと小さな息が零れる。
「情報過多」
「《物語》同士が合わさればそれも必然でありましょう。そして――」
まだ、解決せなければいけない問題はあると、ヴィルヘルミナは廊下を辿り美波らが待つ部屋へと戻った。
【6】
長い長い夜が明けてより、ようやく希望の光が見えてきた俺の物語もまた怪しい雲行きとなってきた。
ジェットコースターに例えるなら、晩から夜明けまでが最初の急降下で、坂井と会った頃がゆるやかな昇り。
でもって今は目の前にきついカーブが見えてきたというところだ。まだまだ流されるだけの展開は終わらないらしい。
なんてことを考えながら俺ことキョン(誰かと出会うたびに同じ説明をしている)はコンビニで紙パックのジュースを飲んでいた。
やはり食事を採るなら味のあるものがいい。
そんなことを正直に思い、不貞腐れて粗末なカンパンで腹を満たした朝方の自分を叱責しに行きたいとも思った。
まぁ、我ながら調子のいいことだが、これでは話が進まないのでつらつらと現状について考えてみよう。
まずは現在地(ここ)。なんの変哲もないコンビニだ。
電話を借りる為に入ったというわけだが、みっともないことにその目的である坂井の電話番号がないときた。
あの時の女子3人の俺を見る目はしばらく忘れられないかもしれない。
その女子3人だが、これが我がSOS団に所属する彼女らにも引けをとらない美貌と肩書きの持ち主である。
須藤晶穂。よくも悪くも平凡な子である。部長に引っ張りまわされているという点では共感を抱かないでもない。
どこの世界でも割を食うのは普通の人間なんだと、それを再確認することになった。
御坂美琴。あの古泉と同じく超能力者である。しかも電撃を放つといういかにもかつ実用的な能力の持ち主だった。
今時ルーズソックスなんてのはどうかと思うが、まぁつっこむことはすまい。藪を突付いて感電なんてのは洒落にならない。
炎髪灼眼の討ち手・シャナ。フレイムヘイズという世界の裏側から来る異世界の敵と戦う戦士だそうだ。
しかも3人の中でもとびっきりの美少女ときており、首から提げたペンダントは魔法少女の定番よろしく口をきく。
今ここでどいつが一番漫画っぽいかと問われれば俺は遠慮なく彼女を指差すだろう。
今は、その3人の中でももっとも常識に通じていそうな須藤が仲間の待つ神社へと電話をしている。
もちろん、常識という点では俺も引けをとるつもりはないが、あいにくと神社には知り合いがいないのでその役目はこなせない。
代わりといっちゃなんだが、目の前に美少女二人と喋るペンダントに迫られての尋問中である。
いかついオッサン声で喋るペンダントはともかくとして美少女に迫られるというのは決して悪くはない。
しかしどうして俺がこう憂鬱な気持ちでいるかというと、その尋問の内容にあった。
古泉一樹。
あの一年中変わらない微笑を浮かべている美男子はここでも相変わらずで、最悪なことに人を殺しまわっているらしい。
とは言え、高須竜児というのは別の誰かが殺して、御坂に関しては未遂に終わったらしいのでまだ前科はないようだが、
しかし今もどこかで、またはこれまでのどこか預かり知れぬ所で犯行を行っていた可能性は否定できない。
全くなにをやっているんだと、今すぐにでも探し出し、襟首掴んで問い詰めたいところだ。
しかし、あいつが何を狙ってそんな非人道な行為に手を染めているのか、俺には大体予想がついていた。
そもそも、(俺が知る範囲に限定すればだが)あいつはそんな殺人なんてことが簡単にできる奴じゃ決してない。
買いかぶりと言われようが、身内贔屓と言われようが、俺はそれを断言できる。
ならなんであいつがそんなことをしているかと言うと――涼宮ハルヒの為であり、ひいては平穏な日常の為なのだろう。
ハルヒの持つ力についてはその理屈はなにもわかっていない。
ただ、願望したことがその時々の程度に差はあれ実現してしまうという事実だけがわかっているだけだ。
俺たちにできることは、ハルヒが無茶な願いを持たないようにその周りを右往左往するぐらいで、
その中でも古泉はそれに一番熱心なやつだったと思う。さすがは副団長といったところだろう。今更ながらに納得だ。
そして、一番ご機嫌取りのうまかったあいつ(というかあいつの超能力もそもそもはそのためのものらしい)が、
どうしてハルヒが聞けばブチ切れそうなことをしているかと言うと、そのまんまハルヒをブチ切れさせたいのだろう。
どんな形であれ、ハルヒが「こんなのはなし!」って、そう思えばいいとそういう算段に違いない。
神人が現れてこの世界の端とやらをブチ壊してもいいし、この世界が崩壊しても、別の世界が新しく誕生してもいいわけだ。
と、そんなことを俺は聞かれるまま、吐き出したいままに目の前の美少女らに話した。
よほど突拍子もなく聞こえたのだろう。二人の目は懐疑的でやや引き気味である。悪かったな、俺が一番漫画っぽいよ。
しかしそれでも目のないペンダント(アラストールという名前らしい)は、俺の話を冷静に聞いてくれた。
声の通りに長生きしているのだろう。年配の男性の頼りがいというのをひしと感じるところだったね。
ほっとした俺は更にあれこれを聞かれるままに答えた。
朝比奈みくるや長門有希。朝倉涼子など、名簿に載っていた知り合いについて洗いざらいに喋ってしまう。
もちろん、朝比奈さんの胸元に星型のほくろがあるだとかそんなことは話さない。
言うまでもなく聞かれなかったが、一応俺自身の面子を保つ為にそれだけはここで言わせてもらおう。
ここらへんで、須藤が電話から帰ってきて今度はシャナが電話口へと走っていった。
なんでも神社で待っているメイドさん(少し難解な名前だった)が彼女の仲間らしい。
電話口とは言え、仲間と声を交し合い互いの無事を確認できるなんて、全く羨ましいことだ。
そう。俺の知りあいであるハルヒや朝比奈さん。古泉は勿論、朝倉にしてもその神社にはいなかった。
出会ったり話を聞いたという者すらいなかったらしく、古泉のせいもあって俺たち一派は謎の存在として見られていたらしい。
逆に言えば、神社に集まった8人とその関係者で名簿の大半は埋まったということになる。
なんでも別世界や異世界人というはみんなお互い様で、とりあえずはそれぞれを《物語》という単位で括っているらしい。
須藤が鞄から取り出した名簿とメモを見て、こいつはすごいと唸った。(ちなみに御坂はメモを取っていなかったらしい)
さすがは新聞部に所属しているからなのか情報を聞き出してまとめる力には長けているようだ。
ここにハルヒがいればきっとスカウトしていたことだろう。
もっとも、あの水前寺という部長と大喧嘩になることが簡単に想像できるので、実現してほしいとは思わないが。
そうこう思っているうちに、俺とシャナがこれまでに出会った人、聞いた名前を埋めることで名簿はほぼ完成した。
すでに放送で名前を呼ばれたやつを除けば所属の解らないのは8人で、名簿に載ってないのは3人となる。
このうちの数人が”忍者の物語”に所属するようだが、言われれば確かにそれっぽい名前がいくつかあるとわかるな。
さて、虜囚の捕虜よろしく情報を垂れ流すばかりだった俺だがそろそろいいところを見せなくてはなるまい。
言ってる間にシャナも帰ってきて、3人の美少女に揃って期待の”こもってない”視線を向けられるがそれも今のうちだ。
「坂井悠二と連絡を取る方法を思いついたぞ」
そう発言する。勿論、冗談なんかじゃない。手順は踏むが正真正銘あの携帯電話に電話をかける方法だ。
坂井は俺と出会った時にこんなことを言っていた。警察署から変な電話が携帯にかかってきた、と。
だからあいつは警察署に向かっていたわけで、水前寺と一緒に行く時も一応とその用件を俺に託したわけだ。
ここでポイントとなるのは、警察署から坂井の携帯に電話がかけられたという事実が確定しているというところ。
勿体つけるな? ごもっとも、俺は古泉じゃないからな、すっぱりと解答を披露しよう。
警察署の電話に携帯へとかけた発信履歴が残っている。
つまり、警察署まで行ってその怪しい人物が使った電話を見つけて発信履歴を確認すればいい。
そうすればそこから先はいつでも坂井の持っている携帯へと電話をかけられる。
「じゃあ、警察署に行く」
メロンパンをほうばっていたシャナが発条のように飛び上がってズンズンと出口である自動ドアの方に向かってゆく。
止める間もないとはこういうことか、ドアを潜るとまさに風と形容すべき速度で行ってしまい――そしてすぐに帰ってきた。
「……発信履歴って何?」
少しだけこの魔法少女に勝った気がした。だからどうだという話だが。子供相手だし大人気ないこと甚だしい。
まぁ、ともかくとして一つの懸念事項として警察署には謎の、しかも物騒そうな女がいるかもしれないのだ。
ならば考えなしに飛び込むのも迂闊がすぎるものだろう。
「それもそうだけど、キョンは何か索敵の自在法でも使えるの?」
自在法というのは所謂魔法らしい。原理の説明を繰り返したりはしないが、とりあえず俺にはそんな力はない。
こちとら立派な一般人代表。フレイムなんとかのそれは今は使えないらしいが、それ以上をこっちに期待するのは間違いだろう。
なのでこちらは文明の利器を使用する。目には目を、歯には歯を、電話には電話だ。
とりあえず、警察署に電話をかけて、怪しい奴が出たら対策を練る。そうでないなら慎重に行く。ずば抜けた名案と言えるねこれは。
警察署の番号ならわざわざ電話帳を捲る必要もない、おなじみのたった3桁。
1・1・0とボタンを押して俺は何が出てくるのかと待ってみる。
トゥルル……トゥルル……と、耳元で繰り返されること20回ほど、そろそろ見切りをつけようかというところで誰かが電話をとった。
『もしもし、どなたでしょうか?
あなたが意を持ってかけてきたのだとすれば、僕は期待通りの相手ではないかと思いますが』
電話口の向こう。いつどこでも変わらぬキザったらしいその口調。勘違いするわけがない。それは間違いなく、
古泉一樹の声だった。
【7】
帰ってきた大河と退屈を持て余すことしばらく、足音ひとつ、衣擦れの音すらさせずにヴィルヘルミナが戻ってきた。
その尋常ではない所作に驚くこちらをよそに彼女は電話の内容を例の特徴ある口調で丁寧に説明してくれる。
「水前寺邦彦が我々の協力体制を反故にし、独断で別行動を取ったのであります」
「手前勝手」
聞いて、美波はやっぱりなぁと納得してしまった。
それほど離れたところまで行ってなければ、多少の問題が起こってもすぐにここまで帰ってくればいいのだ。
にも拘らず電話をかけてきたということはそれなりのトラブルがあった証拠で、トラブルの元と言えば彼以外にない。
そして、6時には帰ると言ったらしいが、一度約束を破った者の言葉に信用は発生しない。
美波にしてもそうなのだから、より厳しそうなヴィルヘルミナならばよほどだろう。無表情の裏側に怒りの炎が見える気がする。
とは言え……、
「(……アキも一緒に見つかるといいな)」
そんなことを美波は考える。
水前寺が向かった北東方面と言えば、テッサが明久に会った場所でもある。
あの底抜けの馬鹿がその後にどう移動したなんか想像もつかないが、あまり離れてないならそういう希望もあった。
「では、逢坂大河。今のうちに確認しておかねばならないことがあるのであります」
ヴィルヘルミナは大河の方へと向き、姿勢を正して彼女に話しかける。
より真剣みの増した態度と、彼女の前に並べられた2本の義手とその説明書。
脇から見る格好となった美波からでも、これから何が話されどういう決断が迫られるのか、推測するのは難しくなかった。
「先に発言したとおりにその失われた右手に義手を接続することは可能であります」
「無問題」
ヴィルヘルミナの言葉を聞いて、大河は神妙な顔で頷く。
おそらくは彼女にも、いや当人だからこそ鋭敏に感じ取っているのだろう。
可能だと言ったその言葉の裏側に潜むなんらかの”問題”を。
「まずは、義手をつける施術についてその手順を説明するのであります」
「秩序整然」
そして、ヴィルヘルミナは大河に対して懇切丁寧にその手順を説明し始めた。
「一番最初に、義手の長さに合わせて腕を切断するのであります。
これに当たってはその準備として脇の下と切断箇所の直前で動脈を圧迫止血するので出血の心配はないのであります」
「心配無用」
言われた大河は酷く驚いていたが、言ったヴィルヘルミナは平然としている。
つまり、ここが”問題”というわけではないのだと美波は判断し、これ以上の問題があるのかと顔を青くした。
「その後、傷口を花弁状に切開。義手側の芯と前腕骨とをボルトにより接合。
ボルトについては調達班に発注済みで、これを自在法にて消毒して使用するのであります。
次に、義手を接続するにあたって不必要な神経を”殺す”工程に入るのであります。
また並行して動脈の迂回路の作成及び、不必要な血管の封鎖を行ってゆくのであります。
それらが全て完了した後、必要な運動神経を義手側の神経接続枝と結束。
最後に傷口を閉じ、縫合することでこの手術は終了することになるのであります。」
大河はまた無言でこくりと頷いた。ヴィルヘルミナの方はというと相変わらず平然としたままだ。
あまりに平然としているので、手術そのものは本当に難しくないのだろうと思えるのが逆にとても怖い。
「これらを行う際は常に自在法による消毒を続けるので感染症などの心配はご無用なのであります。
また、この義手はこの万条の仕手が知る限りにおいて最も精密で頑丈なものと言えるのであります。
故に慣れれば元に腕よりも使いやすいぐらいでありましょう。
慣れにしても術後半日もすれば違和感はなくなるはずなのであります」
大丈夫、問題ないといくつも重ねて、ついにヴィルヘルミナはこの手術の中にある”問題”についてきりだした。
「残念ながら、ここにはその手術の最中、痛みを麻痺させる為の麻酔薬が存在しないのであります。
無論、自在法により痛みは軽減するのでありますが、それも完全ではないので――」
死ぬほど痛いのであります。と、ヴィルヘルミナは断言した。彼女が言うのだからそれは文字通りなのだろう。
逆に言えば、これ以外には問題がないのだろうが……ともかくとして、これは大河に与えられた”選択”だ。
メリットデメリットで言えばつけた方がいい。そうとしか言えない美波は発言を控え口を噤む
「調達班が帰還し、その後昼食を兼ねて情報の検討会を行う予定でありますから、考える時間はあるのであります。
また、地図にある病院までゆけば麻酔が入手できる可能性はゼロではないのであります。
なのでその時点で先送りしたとしてもかまわないでありますが、しかしその場合は――」
する――と、大河の声がヴィルヘルミナのものを遮った。
「熟慮を推奨するでありますが」
「三思九思」
ヴィルヘルミナは言葉を重ねるが、しかし大河は振り切った。
多分、おそらくは怖くなるのが怖かったのだろう。
猶予があれば弱き方に流れてしまうかもしれない。故に決断した。それが彼女らしい強さと弱さなのだと美波は思った。
「大丈夫……今更、痛いとかそれぐらいで止めるなんてできない。元々、自分でつけるつもりだったし。だから――」
お願いします。と、大河は顔を上げてまっすぐな瞳でそう言い切った。
そして、その時。
「お腹が減ったんだよ――っ!」
「ただいま……って、インデックスさん? だから缶はそのままだと歯が折れちゃいますって!」
「ううー! ヴィルヘルミナー、缶切り返して――っ!」
「あぁ、もうっ! だから歩いて下さい」
天文台の調査班がハラペコという大問題を抱えて帰ってきた。
残りのカップラーメンの数は8個と心もとない。果たして彼女の無差別蹂躙いただきまーすを持ちこらえられるか?
なんてことを美波は思ったとか、思わないとか――。
【C-2/神社/一日目・昼(放送直前)】
【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(8/20)、缶切り@現地調達
[思考・状況]
基本:この事態を解決する。
1:拠点となる神社を防衛しつつ、皆が揃うのを待つ。
2:結集後、昼食と情報の検討会を行う。
3:↑の終了後、大河に義手を取り付ける手術を行う。
【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:空腹、右手欠損(止血処置済み)、右足打撲、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式
大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左右セット)@戯言シリーズ
[思考・状況]
基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
1:おなかがすいた。
2:時間が空いたら義手をつけてもらう。
3:デジカメの中身を確認する?
[備考]
一通りの経緯はヴィルヘルミナから聞かされましたが、あまり真剣に聞いていませんでした。聞き逃しがあるかもしれません。
また、インデックス・御坂美琴・水前寺の顔はまだ見ていません。
【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、精神疲労(小)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、支給品一式、
フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
基本:みんなと協力して生き残る。
1:川嶋亜美、櫛枝実乃梨の2人を探し、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
2:竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒを探す。
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:空腹
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、
試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、缶詰多数@現地調達、不明支給品x0-2
[思考・状況]
基本:みんなと協力して事態を解決する。
0:おーなーかーすーいーたー!
1:ヴィルヘルミナに得られた情報を伝達し、以下の2つを提案。
├神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
└神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
2:とうまの右手ならあの『黒い壁』を消せるかも? とうまってば私を放ってどこにいるのかな?
[備考]
『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。
【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500(残弾数5/5)
[道具]:デイパック、支給品一式、予備弾x15、不明支給品x0-1
[思考・状況]
基本:皆と協力し合いこの事態を解決する。
0:い、いい子だからもうしばらく我慢してください! あ〜っ、噛み付かないで〜!
1:ヴィルヘルミナに得られた情報を伝達し、以下の2つを提案。
├神社にて『天体観測班』を編成。午後6時を目安に天文台へと向かい、星の観測。
└神社にて『D-3調査班』を編成。D-3エリア、特に警察署の辺りを調査する。
2:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。
[備考]
『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。
【8】
「おや、”あなた”でしたか。これは一体全体どういう縁なのでしょうか」
古泉一樹は電話の向こうから届いた声に大いに驚いた。
警察署に到着してより、自らの限界を知ったところで、さぁ次はどうするかと休憩を兼ねて思案していたところで、
その中でも随一のキーパーソンである”彼”をどう探したものかと考えてきた矢先に、彼より電話がかかってきたのである。
『そいつはこっちが聞きたいぐらいだぜ』
その発言を聞き、どうやら自分がここにいたとは知られてなかったようだと古泉は判断する。
こちらにしても突然鳴り出した電話を取るかどうかは悩んだ訳であるし、つまりは全くの偶然による邂逅ということらしい。
「では、先にお尋ねしますが、ここには誰がいると期待してかけてきたんですか?」
『誰がいるとかは知らん。というかその警察署から怪電話があったんだよ』
聞き出してみると、なにやら誰かが持っていた携帯に朝方頃にここから怪しげな電話がかけられたとのこと。
女性の声だったということで疑われなかったが、先客がいたらしいことに古泉は少しだけ肝を冷やした。
「なるほど。事情は理解しました。ところであなたの方はどちらからこの電話を?」
『そいつは軽々しく言うことはできないな。それよりも、だ。馬鹿な考えはよせ』
「馬鹿な考え……それは一体なんのことでしょうか?」
はぐらかし、時間を稼ぎながら古泉は頭を回転させる。
どうやら彼は自分が計画していることをどこかで知ったらしい。重要なのは、誰から、どこまで、聞いたかだ。
『とぼけるのもいい加減にしろよ……』
「そちらこそ、なんら証拠もなくこちらに疑いをかけるような真似は勘弁してもらいたいですね。
誰かに騙されているのではないですか? 何せ私達の間ですし、そういったことで疑われるのは僕としても――」
『御坂美琴に聞いた! 須藤晶穂にもだ。他にも知ってる連中はいる。言い逃れなんてできないぞ!』
なるほどと古泉は頷いた。
あの後、こちらが休憩している間に御坂美琴は須藤晶穂と合流を果たし、その過程で彼がそこに加わったらしい。
そしてこの剣幕。となると、こちら側が何を狙ってどう動いているのか、ほぼ察されたと考えるべきだろう。
「なるほど……では、言い逃れもできそうにありませんね」
『一体、何を考えてるんだてめぇは!』
「おやおや、これは異なことをおっしゃられます。理解しているからこそ、それほどまでに激怒しているのではないですか?」
『………………っ!』
ぴたりと彼の発言が止まったのをみて、古泉は彼が正しくこちらの策の意図を把握していると確信する。
状況の把握はこれにて完了。次に考えなくてはならないのは、彼をどう動かすかという点だ。
想定よりも早くコンタクトすることとなったが、この機を逃す手はない。今、彼をこちらの策へと取り込む。
「……では、こちらから提案しますが。あなたも”協力”してくれませんか?」
『おい、ふざけるのもいい加減にしろよ』
「ふざけてなどいません。あなたも理解しているはずです。これがいかに合理的な手段なのかということを。
この手の案件に関しては、僕はあなたの信頼を得ていると自負しているつもりです」
『そりゃ、何もかもがおまえの思い通りにいったとしたらだろうが。それにしたってこんなやり方が――』
「では一体どんな方法ならば、あなたや彼女や僕が、何よりあの平穏が戻ってくるというのですか?」
再び彼の声が詰まる。そして、しばらくたって出てきたのは朝倉涼子の名前だった。
「なるほど。長門さんと同じく情報統合思念体の端末である彼女ならば、救助が要請できると考えたわけですか」
『もちろん。そんな簡単な問題じゃないぐらい――』
「いえ、それは論外ですね。考えるに値しない無謀な試みですよ」
『…………なっ!』
「確かに長門さんは非常に頼れる仲間であります。その信頼性は僕なんかよりもはるかに高い。
なので、同等の力を持つと想定される朝倉涼子にその代わりを頼む……と考えたのでしょうが……」
『……そうだ。可能性はゼロじゃないだろう』
「夏休みのことを覚えていますか?」
『は? 急に何を……』
「終わらない最後の2週間。何万週も続けられたエンドレスサマーのことですよ」
『それが今の話とどう関係するんだ……?』
「あの時、長門さんは最初から事態を正確に把握していたにも関わらず、一切自主的な救助を行わなかった。
彼女達の目的は”涼宮ハルヒの観測”ですからね。
つまり、涼宮ハルヒの存在に危険が及ばない限りは決して行動を起こそうとしない。
むしろ中途半端な介入は彼女に無駄な影響を与えるとして忌諱されているぐらいです」
『だから朝倉も助けてくれないって言ってるのか?
しかし、この状況はどう考えたってハルヒの生命に関わることだろうが。だったら……』
「ええ、その通りです。僕が言いたかったのは”我々”が”困って”いても彼女達は力を貸してくれないってことですよ。
確かにこの状況の場合でしたら、彼女達は涼宮ハルヒの生命を守ろうと動くでしょう。
しかし、我々の生命は守るに値しない。
長門さんなら仲間としてそういった便宜を図ってくれる可能性はありますが、しかし彼女はもういません。
そして朝倉涼子にそれを期待できるかと言うと……どう見積もっても可能性はないでしょう」
『それは……』
「少し、聞き苦しい話をしましょうか。
以前にも話したことがあると思いますが、我々のいるポジション――つまりは今だとSOS団団員なわけですが、
この”涼宮ハルヒの近くにある”という価値を狙っていくつもの組織が暗躍しています。
情報統合思念体が朝倉涼子を涼宮ハルヒのクラスメートに置き、学内に複数の端末を置いているように、
未来人からなる組織も、我々の組織だってあなたの預かり知らぬところであれこれと手を打っているわけです」
『だから、何が言いたい? お前の話はいつもまだるっこしいんだよ』
「僕はですね。今回のこの事件で、長門さんや朝比奈さんが死んで帰ってこないというのも”あり”だと考えています。
少なくとも僕の上司はそうなるよう動けと命令するでしょう。
なんせ重要なポジションが”空く”んですから。そうなれば、手駒を滑り込ませる絶好の機会というわけです」
『そんなこと、お前は考えて……』
「違いますね。あなたと涼宮さん以外は全員こんなことを考えて、その結果が今の状態なのですよ」
『そんなことは聞きたくない! 一体、なにか言いたいんだお前はっ!』
「理解できませんか? 朝倉涼子もそうするだろうということです。むしろ、絶対にそうすると断言できます。
彼女は我々に会ったら確実に殺しにかかってくるでしょう。なので、絶対に会うべきではありません」
『……………………』
「ちなみにですが、長門さんの死体を見ました」
『…………っ!』
「これもあの人類最悪という人物の言う調整や制限なのでしょうか。彼女は”人間”として死亡していました」
『それはどういうことなんだ……?』
「さて、わかりません。
ただ、もしも朝倉涼子も同じ制限を受けているのだとしたら、そういう意味でも頼りにはできないということです」
『……………………』
「どうですか?
やはり我々が取りうる手段は限られていると思いますが、それでも僕のやり方を理解してもらえないでしょうか」
長い沈黙が流れる。浅はかな希望は徹底的に粉砕したのだ。そう簡単に冴えたやりかたは出てこないだろう。
古泉としては、彼がこれでこっち側に降りてくれたとしてもそれはそれでよかった。
しかし、そんなことはないだろうという”信頼”もあり、そして帰ってきた答えはやはり想定内のものだった。
『……そこに行く。動かないで待っていろ』
「申し訳ありませんが、それは約束できませんね」
そう言って、古泉は電話を一方的に切った。
「さて、彼が来る前に逃げることにしますか……」
言いながら、古泉は今後の身の振り方を思案する。
とりあえずは第1手として彼の心に火をつけることに成功した。
「まったく、朝倉涼子を頼りにするなんてよっぽど堪えていたみたいですね。長門さんの死が」
この段階でそれを否定できてよかったと、古泉は苦笑しながらほっと息を漏らす。
彼に語ったことについては一切の嘘はない。多少の誇張はあるにせよ、朝倉涼子が危険なのは紛れもない事実だ。
そんな消極的で絶望的な解決策に飛びつかんとしていた彼を止められたのは幸いなことだろう。
「これで、とりあえずは彼も必死になって動き出すことでしょう。
こちらとは違い、周りには頼れる仲間もいることから、ある程度は安全なようですし」
彼が涼宮ハルヒの為に本気を出して動く。ここまで動かせれば今の段階では大成功と言えるだろう。
その結果、どこかで散ろうとも、もしくは何らかの奇跡的なことを起こして事件を解決に導こうとも古泉としては困らない。
「しかし、僕はどんな結末を期待しているんでしょうね」
彼と通話していた電話をもう一度見やり、古泉はなんとも言えない表情でくすりと笑った。
支援
【9】
「ここにも、その”必要”ってのがあるわけ?」
「あるといいな……かな?」
陽も頂上に近く暖かくなった頃、風雨によって白けたアスファルトが広がる駐車場の一角に一人の少年が到着しました。
少年はアスファルトだけしか見えないそこを何度か見渡してぽつりと呟きます。
「車がないね」
「出払っているんじゃない? だって人殺しがいっぱいいるんだもん。警察も大忙しでしょ」
少年の他にも声がしました。彼の乗ってきたモトラド(注・空を飛ばないものだけを指す)からのものです。
そのモトラドが飛ばした悪趣味な冗談に、ぽかりと燃料タンクを叩いてそれを戒めると、少年は続けてこう言いました。
「じゃあ、僕は警察署の中に行ってくるけど、待ってる間は決して喋らないようにね」
「知らない人とお話したら誘拐されちゃうから?」
「その通り。僕は君が必要で失いたくない。だから、お願いする。いいかな?」
「随分と自分勝手だけどまぁいいか。保証はしないけど約束はするよ」
「ありがとう」
「でも、ということは必要じゃなかったら捨てられていたのかな?
だとすればここに車がなかったのは、夜行性の沢蟹だったってわけだ」
「不幸中の幸い?」
「そうそれ」
こんなやり取りを経て、少年――トレイズは警察署の中へと慎重に油断なく入ってゆきます。
彼が、ここに来たのは警察署なら武器や戦いに役立つものがあるだろうからと目論んでのことでしたが、
「やられてるな……どうやら遅かったみたいだ」
しかし残念ながら、彼の期待するものはなにもありませんでした。
銃器の保管庫にも、押収品保管庫にも、証拠品保管庫にも、ありとあらゆる庫の中にも必要とするものはありません。
「鍵が開けられているってことは、先に誰かが来たってことか。全部持ち去られたのだとすればこれは厄介だ」
警察署の地下一階。押収品保管庫の隅でトレイズは溜息をつきます。
普通なら考えられませんが、自分も背負っている不思議な鞄を使えばそういうことも不可能ではないからです。
もし、この警察署にあったあらゆる武器や道具を持ち去った者がいるとしたら、それは大変危険なことでした。
では長居は無用だとトレイズが動き出そうとした時、頭の上からエンジンの音が聞こえてきて、止まりました。
どうやら、この真上がエルメスを置いてきた駐車場らしいです。
しかしこのエンジン音はエルメスのものではありません。トレイズは経験からさほど大きくない自動車のものだと判別しました。
「車か……ひとりでなく何人かいるかも知れない。リリアか、彼女を知ってる人がいるといいんだけど」
そう言いながらトレイズは拳銃を取り出し、安全装置を解除します。
トリガーに指はのせず、すぐに撃てる状態にだけしてゆっくりと足音を立てないよう動き始めました。
自分も誰かに気づかれていたなんて、そんなことを知る由もなく――。
【D-3/警察署・地下一階/一日目・昼(放送直前)】
【トレイズ@リリアとトレイズ】
[状態]:腰に浅い切り傷
[装備]:コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック、コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱、鷹のメダル@リリアとトレイズ、
[道具]:支給品一式、銃型水鉄砲、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱
[思考・状況]
基本::リリアを守る。彼女の為に行動する。
1:警察署にやってきた何者かと接触。
[備考]
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)。
以上二つの情報をトレイズは確認済。
※
エルメス@キノの旅-the Beautiful World-は警察署の駐車場に停められています。
【10】
警察署のロビーに3人の女性の姿がありました。
3人は3人とも奇麗な黒髪を背中に流しており、美人さんで、それぞれが別種の剣呑な雰囲気を醸し出しています。
言うまでもなく、先ほど車でここに到着した師匠と朝倉涼子と浅上藤乃の3人でした。
「誰かがこの中に侵入したようですね」
師匠はマシンガンを構え油断なく辺りを伺いながら厳しい口調でそう言いました。
「ほんと。師匠ってこういうことに関してはマメよね」
玄関のドアの脇で転がっている鉛筆を指して朝倉涼子が感心半分、呆れ半分でそう言います。
「………………?」
3人目の藤乃はよくわからないといった顔で小首を傾げました。
実は師匠らが前回ここを立ち去る際に、こっそりとドアに鉛筆を立てかけておいたのです。
それが倒れているということは、その後に誰かが進入してきたことを意味するのですが、彼女にはわかりようのないことでした。
「あの外に停めてあったバイクに乗ってきたやつかしら?」
「おそらくはそうでしょう。つまりまだこの中にいる可能性が高いことです」
今度の話は藤乃にもわかりました。なるほどとひとり小さく頷きます。
そして、師匠の次の言葉を受けて3人は揃って警察署の奥の方へと移動を開始しました。
「狩り出しますよ。生死は問いません。むしろ発見したらすぐに殺しなさい」
藤乃はその言葉と、そんなことを言う師匠と、楽しそうに返事をする朝倉とが、とても怖いなと思い――
――少しだけ笑いました。
【D-3/警察署・一階ロビー/一日目・昼(放送直前)】
【師匠@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界、
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3@現実
金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
1:警察署内にいる人物を探し出し、殺害する。
2:朝倉涼子を利用する。
3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、金の延棒x5本@現実
フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
1:警察署内にいる人物を探し出し、殺害する?
2:電話を使って湊啓太に連絡を取ってみる。
3:師匠を利用する。
4:SOS料に見合った何かを探す。
5:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
1:警察署内にいる人物を探し出し、……殺害する?
2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。
※
乗ってきたパトカー@現地調達は駐車場に停められています。
【11】
「やれやれ、悩ましい事態です」
あまりそうではなさそうな、いつもどおりの静かな笑みを顔に貼り付けたまま古泉はそんなことをひとりごちる。
彼との接触もとりあえずは済み、どうやらこちらに向かって来るようなので逃げようとした所に予期せぬ来客であった。
最初はバイクに乗った少年が到着し、さてどうするかと考えているうちに続けてパトカーに乗った3人組がやってきたのである。
「朝倉涼子さんですか……さきほど、他の女性らと一緒にいたのは」
顎に手を当てて古泉は更に思案する。
彼に言った通りに朝倉涼子はこちらに害をなす存在だとは考えている。もし彼女ひとりなら即座に逃げ出していただろう。
しかし彼女は3人で現れた。どのような過程を経てかは知らないが仲間を作っているということである。
「それに、彼が来るとわかっている以上、ここをそのままにして立ち去ることもできませんし」
2階の窓際からちらりと外を窺う。眼下にあるのは寂しげな駐車場と1台のバイクと1台のパトカーのみだ。
まだ彼がここに到着する気配はない。とは言え御坂美琴らと合流している以上、そう遠くはないだろう。
少なくとも1時間以内には到着すると思われる。そしてその間に4人の侵入者が立ち去るかは全くの不明だ。
「先に入った一人だけなら、交渉を持ちかけるところでしたが……、
この状況。彼が乗り越えるべき試練として置いて行くべきでしょうか……いやはや、困ったものです」
そんな風なことを言い、やはり内面の読めない仮面のような笑みを古泉は浮かべていた。
【D-3/警察署・二階/一日目・昼(放送直前)】
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式×2、キャプテン・アミーゴの財宝@フルメタル・パニック!、
我学の結晶エクセレント29004―毛虫爆弾(残り300匹ほど)@灼眼のシャナ、長門有希の生首
[思考・状況]
基本:涼宮ハルヒを絶望させ、この『物語』を崩壊させる。もしくは、彼女の生還。
1:警察署内で起きている事態に対処。または逃走。
2:涼宮ハルヒを最後の一人にすることも想定し、殺せる人間は殺しておく。
3:涼宮ハルヒが死亡した場合、『機関』への報告のため自身が最後の一人となり帰還する。
4:帰還の際、『機関』と情報統合思念体への手土産として長門有希の首を持ち帰る。
[備考]
カマドウマ空間の時のように能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです。
【12】
「今度こそリベンジかましてやるんだから……っ!」
そんな物騒なことを言いながら隣を行く御坂がバチバチと音を立てて放電する。
彼女にしてみれば実戦の前のウォーミングアップなんだろうが、こちらとしてはおっかないこと極まりない。
一方で俺は、もし今が冬でウールのセーターなんか着ていたら、ケバだって仕方がないだろうとそんなことを考えるばかりだ。
戯言はさておき、俺(キョン)と御坂は2人で警察署へと向かうことになった。
勿論、それはあのとち狂った古泉の暴挙を止める為であり、ついでに警察署に残された発信履歴を確認する為でもある。
正直な話。まだ古泉が警察署に残っているとは思っていない。発信履歴のこともあるが飛び出してきたのは半ば勢いというものだ。
加えて、どうして俺と御坂なのかと言うと、その理由を語るのも難しくはない。
あの電話の後、俺たちはまた神社へと電話をした。
当然だろう。古泉の再登場は由々しき事態なのだから報告は必要だし、動くにしても指示と理解が必要だ。
結果としては、半々に分かれて片方は警察署に、もう片方は神社に早急に帰るということになった。
警察署に向かう面子として一番に手を挙げたのは俺……と言いたいところだが、一番は御坂で俺は惜しくも二番だった。
そんなこと競うものかと言われるかもしれないが、俺たちにそれだけの意気込みがあったことだけは理解してほしい。
そして、現在は二人並んで警察署へと向かっているわけである。
この組分けについて、須藤は何も文句を言わなかった。そりゃそうだろう。俺だって関係なければ神社に帰りたい。
逆にシャナの方は着いて行きたいと主張した。一刻も早く坂井の声を聞きたいらしい。全くあいつも罪作りな男だ。
しかし、あのおっさん声による忠告により、なんとか折れてくれた。
喋るペンダント曰く、神社で待っている仲間と即合流を果たすべきであり、また須藤を一人にはできないとのこと。
更には神社の方でなんらかの深刻な状況が発生しているらしく、それを早急に解決する必要があること。
でもって最後に俺が警察署から神社に電話をかけると言ったことで彼女は渋々ながらそれを了解してくれたのだ。
しかし驚いたね。まさか、飛んでいっちまうとは。
スパイダーマンもかくやという風にジャンプしたかと思いきや、燃える羽を広げて飛んでいってしまった。
コンビニでメロンパンを頬張る姿はちょこんとしていて、ただの可愛い美少女だったんだが、いやはやってもんである。
炎髪灼眼の討ち手なんて随分と大仰な渾名だと思ったが、百聞は一見にしかずとはこういうことを言うんだろう。
「ほら、おっそい! あんた走りなさいよ。男なんでしょ」
そしてこのビリビリ女だ。
本当によくもまぁこんな二人から逃げおおせたもんだと、俺はあいつの抜け目のなさをただただ感心するばかりだった。
【D-2/市街地/一日目・昼(放送直前)】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、両足に擦過傷
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2(食料一食分消費)
カノン(6/6)@キノの旅 、カノン予備弾×24、かなめのハリセン@フルメタル・パニック!
[思考・状況]
基本:この事態を解決できる方法を見つける。
1:警察署に向かい、以下の目的を達成する。
├古泉一樹を捕らえて、どうにか改心させる。
├電話に残された発信履歴を見つけて、それを神社に電話で知らせる。
└坂井悠二に電話をかけた怪しい女の手がかりがないか探す。
2:↑が達成できれば神社へと向かう。
3:涼宮ハルヒ、朝比奈みくるを探す。
4:朝倉涼子に関しては保留。
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:肋骨数本骨折(ヴィルヘルミナによる治療済み、急速に回復中)、全身各所に擦り傷
[装備]:さらし状に巻かれた包帯(治癒力亢進の自在法つき)、ポケットにゲームセンターのコイン数枚
[道具]:デイパック、支給品一式×2、金属タンク入りの航空機燃料(100%)、ブラジャー、
[思考・状況]
基本:この事態を解決すべく動く。
1:警察署に向かい、古泉一樹にリベンジを果たす。
2:↑が達成できれば神社へといったん戻る。
3:その後、上条当麻を探しに行く?
支援
【13】
心を洗われるような青い青い美しい空。そこに流れる真白な雲。流れる雲。急速に流れてゆく雲。そして景色。
「(〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!)」
空を高速で飛ぶシャナの片手にぶら下げられている晶穂は景色を眺める余裕などなく、ただ声にならない悲鳴をあげていた。
そして、そんな普通の人間の事情などお構いなしでシャナはびゅうびゅうと風を切りながら(晶穂からすれば)勝手なことを言う。
「……重い。なんか上手く飛べない感じがする」
「自在法そのものが人類最悪の言うこの世界の異端に抵触するのだろう。いつもより慎重に行使を意識するのだ」
思春期真っ盛りの女子中学生に対して重いだなんて禁句もいいところだが、状況が状況だけに反論はできない。
晶穂にできることと言ったら、泣き出したくなるぐらいの怖さをこらえて、神社に到着するのを待つだけである。
空を飛んだなどと言えば部長は羨ましがるかもしれなかったが、とてもじゃないがそんな余裕はなかった。
「それにしても、ヴィルヘルミナが言う抜き差しならない状況ってなんだろう?」
「ふむ、《禁書目録(インデックス)》なる者が大暴れしているとの話だったな。知者と聞いたが粗暴な者なのかもしれん」
「早く行って、助太刀してあげなきゃ」
「そういうニュアンスではなかったような気もするが、まぁいい。くれぐれも彼女を振り落とさぬようにな」
そして、更に加速。
神社に到着するまでの数十秒。それは晶穂の頭を真っ白にするには十分すぎるだけの時間であった。
【C-2/神社の前/一日目・昼(放送直前)】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン
[思考・状況]
基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
1:ヴィルヘルミナと合流する。
2:実乃梨や当麻を探しに行くよう提案する。
2:キョンと御坂から連絡が来るのを待つ。
3:携帯の電話番号が判明したら、悠二に電話をかけて居場所を聞いて合流する。
4:古泉一樹にはいつか復讐する。
【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック(調達物資@現地調達 入り)、支給品一式
[思考・状況]
基本;生き残る為にみんなに協力する。
0:………………………………(真っ白)。
1:調達した物資をヴィルヘルミナに渡す。
2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。
3:大河を励ます。
4:携帯の電話番号が判明したら、部長ともう一度話す。
以上で投下終了です。支援ありがとうございました。
【0】〜【6】までが前編。【7】〜【13】が後編となるので、wiki収録時はそれでよろしくお願いします。
485 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 22:29:07 ID:Dmm2Ooat
投下乙です
死人が出ると思ったが誰も死ななかったのか
キョンは電話越しだが古泉と接触したか
キョンは改心させるとつもりだが古泉とキョンでは平行線に近いと思うし先が見えてるんだよな・・・
そして師匠組が傍に来てるwwww
投下GJ! 色々な方面に波乱の予感がw
会うかもしれない奴、会えないかもしれない奴、それぞれに期待がかかる……!
そして何よりも警察署! これはどう考えてもただでは転ばんぞ。
いやぁしかし、この大人数を書ききれるスキルがまた凄いなぁw
投下乙
今後の展開が楽しみになる話だった
特に警察署方面は間違いなくひと波乱あるだろうなぁw
投下乙です。
うわぁ、そうきたか……w どのキャラも生き生きと動いてるw
神社を中心としたコネクションが古泉をロックオンした格好だけど……そこに師匠・朝倉組だと!?
しかも迷走する王子様まで。警察署はもう一波乱なしにはおれないなw
しかし、電話という繋がりで、藤乃のかけた恐怖の電話と上手く繋がったのが上手い。着眼点いいなぁ。GJ。
乙です。
このロワの対主催グループは結束が固いなぁ・・・。
仲間割れを起こすことはまずなさそう?
それにしても、いーちゃん氏の把握範囲随分広がったなw
新しい予約も入ってるし、これは期待せざるを得ない。
しかしもう放送直前か
早いな
よく考えたら神社周辺のやつらが知らない存命中の書き手枠キャラって左衛門だけか
ニンジャは他が早期退場していっただけに、上手い具合に忍んでるなw
結果的に、だけど
いよいよ友が他の連中と絡むらしいぞw
なん……だと?
騙されないよ。
ニアミスするだけで、寝続けてるってオチだろ?
仮に寝てたとして果たして他の連中は友に気づくのかなぁ
友の部屋て確か封絶かかっていたっけ?勘違いだったらスマン
>>489 放送後は美波とテッサの間に亀裂が入りそうだと思う。
明久(の英語力)が悪かったとはいえ、テッサの対応次第では明久は助かったかもしれないわけだから
キルユー言われてあれ以上どう対応しろとw
むしろ返り討ちにあっても文句が言えない状況だろう
確かにw
いよいよ温泉の予約が来たぞw
これで放送前の戦闘は一段落かな?
ヤバい…楽しみすぎるw
代理投下開始します。
この光景を映しだすのも、もう何度目になるだろうか。
愛しの彼を待ち望む眠り姫、玖渚友は白く光る白い部屋の白いベッドの上で、白いシーツにくるまれていた。
窓からは燦々とした陽光が眩しいほどに入り込んでくるが、目を瞑ったままの彼女にはなんの影響もない。
朝だろうと昼だろうと夜だろうと、《来たる時》がくるまで、玖渚友は眠り続ける……のだろうか?
「むにゃむにゃ……う〜ん、いーちゃん……」
現在、彼女が住まいとしているこの摩天楼という建物。こことて、いつまでも無人の過疎地というわけではない。
いずれは人が押し寄せ……というよりも、今、まさに、人が押し寄せてきているのだった。
その事実に、彼女は気付けない。むしろ関心がない。寝ている子に関心もなにもあったものではないが。
コン、コン、コン、と。
蒼の眠る白い寝室に、三回のノックがやってくる。
もちろん、玖渚友はその程度の騒音では目覚めもしない。
あるいは、これが待ち望んでいた彼によるものだったならば、違うのかもしれないが。
健やかな寝息が、寝室を埋める中――扉は、ゆっくりと開かれていった。
◇ ◇ ◇
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ……――。
けたたましい目覚まし時計の音が、室内を埋め尽くさんほどに響き渡る。
シングルベッドの枕元に置かれていたそれにそっと手が伸び、二度三度、空振りを経てから捕獲。
パチン、とスイッチを切るとともに、騒音が鳴り止んだ。
「ん……」
うつ伏せの状態から、眠りについていた少女――黒桐鮮花がゆっくりと起き上がる。
手にある目覚まし時計に目をやって、時刻確認。十二時前。寝坊せず起きられたことに安堵した。
目覚まし時計を再び枕元に置き、周囲を見渡してみる。
特にこれといった変化はない。入室したときと同じ、殺風景な光景が目に付く。
窓から差し込む光は微かにではあるが輝きが増し、日が高くなったことを告げていた。
「……案外、眠れるものね」
そこは、礼園女学院の寮とほとんど変わらない、一人で暮らす分には不自由しない広さの部屋だった。
ベッドの質はこちらのほうが若干上をいっていると分析できたが、快眠を得られたのはそのせいだろうか。
「あー……っていうか、ばか。わたしのばか」
起き抜けの頭を左右に振りながら、鮮花はいきなり自己嫌悪に襲われた。
よく眠れた。目覚めるべき時間に目覚めもした。それはいい。
ただ、どうしてこうも“安心して”眠ってしまったのだと、鮮花は苦悩する。
そもそもが、危険を孕んだ表面上だけの親切であったかもしれないというのに。
「……でも、ま、いっか」
まずは顔洗お、と鮮花は部屋に備え付けられた洗面台へと向かう。
彼女がこの部屋で眠っていたのは、ほんの二時間程度のこと。
発端は、“先生役”を買って出てくれたあの男、クルツ・ウェーバーの言によるものだった。
銃を教えるのはいい。が、その前に体を休めておけ――と。
ここ、摩天楼で目的の銃器を手に入れた鮮花は、クルツに仮眠をとることを勧められた。
眠気は如何なるときでも障害となりうる。
緊張感を維持できるならば問題はないだろうが、ただでさえ鮮花は身内を亡くしているのだ。
この緊張がいつ、ぷつりと切れてしまうかもわからない。
気休めでもいいからせめて肉体疲労だけは回復しておけ、と。
いわばこれは、クルツ先生による初めての指導とも言えた。
水道の蛇口を捻り、水を出す。
豪快に洗顔を済ませると、傍にあるバスルームに目がいった。
本音を言えばシャワーの一つでも浴びたいところだったが、さすがに自重する。
「あ……」
……鏡を見ると、目元に妙な違和感があることに気づいた。
微かに赤くなっているような、一度の洗顔では拭い切れなかった変化。
鮮花はその正体を確かめるべく、ベッドに戻った。
使っていた枕を手にとると、ほんのりと湿っている。
よだれではない。涙だった。
自分のことだからこそ、すぐにわかってしまった。
「……幹也」
ぽそり、とその名前を口にしてしまう。
思い出すだけでも飲み込まれてしまいそうなのに、わざわざ口に出して、感傷に浸ってしまう。
いけない――鮮花は咄嗟に、枕元に置いてあった黒い物体に手をやった。
コルトパイソン。
幹也の仇への復讐を誓った、力の代替物を視界に納め、意思を強く保つ。
悲しむのは、寝ている間だけにしよう。
泣きじゃくるのは、夢の中だけにしよう。
覚えてなんていないけれど、きっと、二時間の間に見ていた夢は――心地良いものだったのだと思う。
火蜥蜴の革手袋、デイパック、そしてコルトパイソン。
今後を生き抜くために必要な道具の数々を点検、装備し、再出発のための身支度を整えた。
正午の放送も近い。出発は放送を聞き終えてからの予定だが、その前にクルツと合流を済ませておいたほうがいいだろう。
「……銃以外に関しても、認めてあげていいのかな」
仮眠を勧めたのはクルツだ。勧められたままに仮眠をとったのは鮮花だ。
しかし、その勧めに危険性がなかったとは、夢にも思わない。
眠っている間、鮮花は襲われてもおかしくはなかったのだ――他でもない、クルツに。
一応、クルツとは“仲間”と言ってしまっていい関係を築いている、と思う。
だからといって、クルツが完全に鮮花寄りの味方かといえば、一概にそうとは言えない。
彼にだって、優先するべき目的があるだろう。隠し事の一つだってあるかもしれない。
鮮花に銃を教える、という言もどこまで信用し、頼ればいいものか。
裏切られることが容易に想像できるだけに、信用し切り、頼り切ることが、鮮花には難しかった。
結果だけを見るなら、杞憂だったのだろう。
鮮花は警戒があったにも関わらずぐっすりと二時間睡眠、クルツはその間、こちらになんの干渉もしてはいない。
鮮花が眠る間は摩天楼の調査をすると言っていたクルツだったが、今頃はどこにいるのか。
時間になったら迎えに行く、とも言っていた。時間になったが、彼はまだやって来ない。
摩天楼の調査を続けているのか、なにかトラブルがあったのか、鮮花を放って早々に出発したのか。答えは知れなかった。
「やっぱ、なかなかに難しいものよね。赤の他人を信用するのってさ」
ただでさえ、軽薄で軟派な男は嫌いな鮮花だった。
銃を教えてもらえるから、なんて単純な動機で、クルツの言いなりになる気はもちろんない。
こういうときこそ、女は強くあるべきだ――というところまで思って、鮮花はいい加減、部屋を出ることにした。
待っていても来ないというのであれば、こちらから探すしかない。
現在鮮花がいるこの部屋は、例の銃器を見つけた部屋と同じ階層に位置している。
この縦に広い建物の中から人一人探すのは大変だろうが、最悪、放送前にでも玄関口で待っていれば合流はできるだろう。
扉を開き、廊下に出る。
とりあえずはエレベーターで下に降りよう。
鮮花は廊下を道なりに行き、エレベーターホールへと出た。
そこに、クルツはいた。
仰向けの状態で、床に倒れていた。
彼の傍には、二人の少女と一匹の猫がいた。
猫のほうは知らないが、二人の少女には見覚えがある。
いつかの“ですの口調”白井黒子と、“RPG娘”のティーだった。
「なっ――」
曲がり角を折れていきなりの光景に、鮮花は唖然とするしかなかった。
白井黒子は鮮花の存在に気づくなり、「あら」と口にするだけで特になにもしない。
ティーと猫――可愛らしい三毛猫だった――もこちらを一瞥するだけで、リアクションは薄かった。
「お久しぶり……というほどでもありませんわね。こうも早く再会するとは、妙な縁ですこと」
「な、な、な……」
「わたくしの名前、覚えていますか? 『風紀委員(ジャッジメント)』の白井黒子ですの」
「なん、で、あんた……」
「黒桐鮮花さん、でしたわよね? とりあえずはまだご存命だったようで、なによりですわ」
わなわなと震える手で、白井黒子に向かって指を指す。
まさかの場所、まさかのタイミング、まさかの状況での再会に、鮮花の唖然は驚愕へと変化した。
「な、んっ、でぇ! あなたがここにいるのよ、白井黒子――っ!」
エレベーターホール一帯が、鮮花の大声で満たされた。
あんまりな反応に、白井黒子は顰めっ面を浮かべながら言った。
「……そんなに力いっぱい驚かれなくても」
「こ、ここであったがひゃくねんめぇぇぇ!」
頭の中を、忌まわしき回想が駆け巡る。あのときの屈辱は、忘れてなんかいない。
即座に右手を翳す、その手中にあるのは火蜥蜴の革手袋。
鮮花が示すストレートな攻撃行動、発火が、白井黒子へと向く。
「またそれですの? 忠告しておきますけれど、こんなところで火花でも散らそうものなら、すぐさま火災報知器が作動しますわよ?」
「そそ。俺としちゃ、スプリンクラーを浴びてびしょびしょになった鮮花ちゃんってのも拝んでみたいが……ま、やめといたほうがいいぜ」
呆れ顔の白井黒子の声と重なり響いてくる、軽薄な声。
その一声で鮮花は制止し、仰向けに倒れていたクルツへと目がいった。
彼は大の字になって天井を仰いでいる。どうやら、衣服のいたる箇所が釘か杭のようなもので床に固定されているようだった。
いつもと変わらぬ飄々とした態度、出血の様子が見られないことを鑑みるに、身動きを封じられているだけに留まっているらしい。
「なんせこのアングルじゃ、見えるものも見えないしな。ああ、もっと短かったらなぁ……おっと、なんでもないぜ」
「…………」
まるでリリパット国民に磔にされたガリヴァーのようだ、とは口に出さない。
この男は、この状況下で、どうしてこのように余裕を保っていられるのだろうか。
感嘆を通り越して、呆れる。やっぱり、こういうタイプの男は嫌いだった。
「それはそうと」
ため息の一つでもつこうとした、そのとき。
白井黒子の声が、鮮花の背後より発せられた。
目の前にはもう既に、彼女の姿はない。
すぐに鮮花が振り向こうとして――その身は宙を舞った。
「あ、ぐっ!?」
自重を支えていたはずの両脚がふわりと浮き、視界が九十度ほど揺れる。
受け身を取るという発想すら起こらないほどの速度で、背中のあたりを痛みが襲った。
瞬間的に変わった視界が、天井と、白井黒子の顔を映す。
腕を取られ、足を払われ、地面に叩きつけられたのだと知った。
「早速ですが、わたくしから一つ質問させていただきますの」
言いながら、白井黒子は自身の太股のあたりに手をやった。
スカートを少し捲った先に見える、ガーターリング。そこに装着された何本かの鉄釘。
鉄釘に白井黒子の手が触れることによって、フッと消失。立て続けに、カカン、という小気味いい音が鳴った。
音の正体はすぐに判明する。クルツと同じように、鮮花の衣服を鉄釘で床に縫いつけた音だった。
「お考えは以前と変わらず、なのでしょうか?」
白井黒子の『空間移動(テレポート)』。
対象を任意の空間に移動させる、魔法のような力。初邂逅の際には、これが要因となり勝敗を決した。
百円ライターと大して変わらぬ鮮花の発火能力では、絶対に敵わない。白井黒子が保有する超上の武器。
二度目であるということを踏まえ、十分に警戒をしていたとしても、攻略できるものではなかった。
鮮花は為す術もなく、再びの拘束状態に置かれ、歯噛みする。
「答えはノーだぜ、黒子ちゃん」
鮮花に先んじて返答したのは、クルツだった。
両者ともに仰向けで磔にされている現状、互いがどんな表情をしているかはわからない。
しかし鮮花には、クルツの飄逸な顔をありありと想像することができた。
「君は要するにこう問いたいわけだろう? 黒桐鮮花に殺し合いを続ける意思はまだあるのか、ってさ」
「クルツさんでしたわね? 察するに、黒桐鮮花さんとは共闘関係にあるようですけれど……」
「おう、フレンドよフレンド。だから君のことも当然、鮮花ちゃんから聞いてる」
「興味深いですわね。彼女はわたくしのことをなんと?」
「魔法使いみたいな女の子にコテンパンにされちゃったので、馬鹿な真似はやめることにしました――ってな風にさ」
そんなこと言ってない、と口を挟もうとして、鮮花は思いとどまる。
誇張表現ではあるが、たしかに鮮花は、白井黒子との対峙をきっかけに考えを改めた。
それは直後の放送――黒桐幹也の訃報も影響し、百八十度方向を転換することになる。
今の鮮花は、白井黒子にケンカを売った頃の鮮花とは違う。白井黒子の鮮花に対する認識も、間違っているのだ。
クルツはあれで、鮮花の弁護を試みようとしているのだと気づいた。
「懸命ですわね。まあ、黒桐幹也という方が亡くなられたとあっては、否応なしに目も覚めるというものでしょうか」
あっさりと幹也の名前を出されて、ムカっとした。なんてデリカシーのない女だろう。
挑発なのかもしれないが、いや挑発なのだろうが、ここは奥歯を噛み締めぐっと我慢する。
「そんなわけで、黒子ちゃんが心配するようなことは俺たち二人にはなにもないわけよ。いい加減、解放してくれないかな」
「そういうわけにはいきませんわね。なにせわたくし、ある方に『覚悟がなってない』だのと説教されたことがありますので。
ここはわたくしの覚悟を示すためにも、厳格に、非情に、正しき『風紀委員(ジャッジメント)』として対応したいと、そう思いますの」
もしかしなくても鮮花のことを言っていた。案外というか印象どおりというか、根に持つタイプなのかもしれない。
「黒桐鮮花さん。今一度お尋ねします。お考えは以前と変わらず、なのでしょうか?」
白井黒子は鮮花を見下ろす形で、視線を合わせてくる。
望む返答はクルツの弁護などではなく、あくまでも鮮花本人からの言葉ということか。
沈黙の時間が流れ、黒桐鮮花はどう答えを返すか考え抜いた末に、それを言葉にする。
「――変わらないわ」
強い一言に、白井黒子の表情が強張った。
鮮花の視点からでは姿を捉えられないクルツ、それにティーという名の白髪の少女も、別段騒ぎ立てたりはしない。
好都合だと言わんばかりに、鮮花は自身の主張を続けた。
「白井黒子さん。あなたが以前語っていた方針を否定する考えは、わたしの中ではなにも変わっちゃいない。
あのときも言ったけれど、わたしたちは既に負けているのよ。与えられた選択肢以外を選ぼうだなんて論外もいいところ」
「それはつまり、あの人類最悪なる男の口車に乗り、決して逆らうこともなく、一つの椅子を巡る戦いに従事すると。
生きて欲しいと願っていた方が既に亡くなられた今となっても、生存への願望が自分自身に転換されただけだと。
そう仰られるわけでしょうか、黒桐鮮花さん? だというなら、わたくしも然るべき対処をしなくてはなりま――」
「いいえ、違うわ」
諦観の様相を見せた白井黒子に、鮮花が言う。
「わたしはもう、一つの椅子には執着しない。わたしが執着するのは、一つの椅子を巡るために他者を蹴落とせるという権利だけ」
視線で相手の目を射抜くようにして、黒桐鮮花は白井黒子を見る。
瞳と瞳が正面衝突し、どちらも逸らさず、向き合わせたまま。
鮮花の目には確かなる決意が、白井黒子の目にはわずかな驚きがあった。
「ふくしゅう」
ぼそっ、と口を開いたのが、意外なことにティーだった。
鮮花が抱える願いを簡潔に表したその単語を、この場にいる全員が汲み取る。
黒桐鮮花は、自分を含めた誰かが生き残ることよりもまず、復讐を優先する――と。
「……呆れてものも言えませんわ」
鮮花の決意を汲み取って、白井黒子は率直な感想を述べる。
理解してくれるとも思っていなかった。理解して欲しいとも思わない。
「復讐、いえ、この場合は仇討ちでしょうか。どちらにせよ、浅はかな指針ですこと」
非難するだけならばまだいい。が、邪魔をするというのであれば容赦なく叩き潰す。
鮮花は口には出さないものの、瞳を敵意の色を染めて、白井黒子を睨み続けた。
「……でもまぁ、以前よりはマシになったみたいですわね」
敵意を受け、しかし白井黒子は睨み返しはしなかった。
そんな価値すらない、と呆れ果てているのだろうか。
白井黒子は身を屈め、鮮花の衣服を縫いつけていた鉄釘に触れる。
フッ、とその内の一本が消えた。
「あなたの意思はお強いようです。それゆえに、邪魔をしない限りは安全である……とも解釈できるのですが。どうでしょう?」
白井黒子はまるでこちらの考えを見透かしているような、いけ好かない笑みを浮かべた。
鮮花が睨むことをやめなくとも、白井黒子は鉄釘を抜いていくことをやめない。
体が自由になったら即、その脳天にネリチャギでもお見舞いしてやろうか――とも考えたが、思いとどまる。
行動の意図を探り、言動の裏を読む。白井黒子が鮮花の身を自由にしようとしている、その意味を考えた。
「……なんのつもり?」
「無害な人間をいたずらに拘束する趣味はない、ということですわ」
「あら、それって信用を得られたってことかしら?」
「勘違いしないでくださいまし。完全に無害だと判断するのは、まだまだこれからですわ」
気を許した、というわけではないらいしい。
白井黒子はしたり顔で、次々と鉄釘を抜いていった。
「言っておきますけれど、覚悟なら十分ですわよ? 交渉に大事な要素は、なによりも誠意だと思いますので」
以前のように誠意のない対応をしたならば――今度はこちらが打ち負かされる。
鮮花は本能でそう察し、やはり、歯噛みした。
◇ ◇ ◇
三回のノックを経て、部屋に《侵入》してきた人物の性別は、男だった。
眠りにつく蒼、玖渚友の待ち望んでいた人物も男ではあったが、これぐらいの一致点ではぬか喜びもできない。
彼は玖渚友をどんな風に起こすのだろうか。まず、そこから試される。
すぴー、くかー、ぐーぐー、といった寝息のシンフォニーが響き渡る。
部屋の中に余計な騒音はなかった。男は足音の一つも立てず、少女の眠る寝台の横に立った。
無機質な視線が、玖渚友という蒼の個体を見下ろす。見下ろして、大したリアクションはない。
玖渚友の寝息に混じり、微かに、荒い呼吸音が響いたような気がした。
男が女を見て抱く感情は、劣情――と言ってしまうのは彼の名誉に関わることなのかもしれないが、男は明らかに興奮していた。
《侵入者》は、はたして玖渚友のロリィな体躯に欲情してしまったのだろうか……?
◇ ◇ ◇
「ところで、クルツさんはどうして拘束されていたんですか?」
「出会うなりそちらの彼女、ティーに対して劣情を抱いた様子でしたので。とりあえず、と」
「うわぁ……」
「おいおい、誇張しないでくれよ。俺は見るからに迷子な風だったこの子に、優しく話しかけてあげただけだぜ?」
「さりげなく話しかけるのはガールズハントの基本、でしたものね」
「そりゃ土御門の言葉だ。ま、俺も否定はしないけどよ」
「そういった趣味趣向をお持ちであることについて、ですか?」
「いやいや、そっちじゃなく」
場所は変わらず、エレベーターホール。
鮮花に続いてクルツの拘束も解いていった白井黒子は、すべての鉄釘を太股のガーターリングに収め、その場での話し合いを始めた。
ちなみに、この鉄釘とガーターリングはここ、摩天楼で入手したものである。
『風紀委員(ジャッジメント)』の勤務中に常備していたものよりは強度が劣るが、あればなかなかに便利なものだ。
『空間移動能力者(テレポーター)』である白井黒子には、こういった軽く、硬く、小さいものが武器として向いている。
「さて、先程のお話の続きになりますが、まず黒桐さんの復讐のお相手……仇には、見当がついていますの?」
「ええ。っていうか、実際に襲われもしたわ。式に似た格好の、獣みたいな動きをする男……男、よね。あれ」
「ああ、ありゃ男だよ。俺が言うんだから間違いない。あと、ステイルとかいう魔術師もグルの可能性があるな」
「また妙な説得力ですわね……って、ちょっと待ってください。今、なんと? 魔術師……?」
耳慣れぬ単語に、白井黒子は怪訝な顔を浮かべた。
「魔術師だよ、魔術師。黒子ちゃん、土御門と同じ学園都市っていうところの出身なんだろう。知らないのか?」
「魔術だなんて、そんな非科学的な……その土御門という方も存じ上げませんし、そもそもどういったものなんですの?」
「どういったものもなにも、わたしが一回見せたじゃない。初めて会ったときに使った、発火魔術」
「発火魔術……? あなた、『発火能力者(パイロキネシスト)』ではありませんの?」
「鮮花ちゃんは魔術師だぜ。もっとも、土御門が言う魔術師とは微妙に違うモンみたいなんだがな」
「微妙どころか、まるで別物ですよ。土御門さんの話は、橙子さんに聞いた話とだいぶ食い違っていましたし」
「……順を追って説明していただけますでしょうか」
彼女らと情報交換の席を設けたのは、正解だったかもしれない。
と思う一方で、予想の範疇を超える情報量に、白井黒子は軽く混乱しかけた。
ティーやシャミセンの例を踏まえたとしても、黒桐鮮花とクルツ・ウェーバーの齎す情報は信じがたい。
「魔術……能力とは違う別系統の力。ステイル=マグヌス……黒桐さんの上をいく炎の魔術師。
黒桐さん自身は蒼崎橙子さんという方を師に持つ魔術師であり、そして獣じみた身体能力を持つ男……」
だが、信じなければならない場面と状況なのだろう。ここは。
なにより、クルツの話に出てきた“上条当麻”。この名前がキーワードになった。
白井黒子が敬愛するお姉様――御坂美琴から、その名は聞き及んでいる。白井黒子自身、何度か顔を合わせたこともあった。
土御門元春という人物が提供した学園都市の概要にも間違いはないし、上条当麻の知り合いという言も大いに納得できる。
そういった面からくる信憑性が、魔術師なる存在の胡散臭さに拍車をかけてもいるのだが、目の前には鮮花という実例がある。
彼女の発火能力について詳しく訊いてみると、確かに『発火能力(パイロキネシス)』とは発動のメカニズムが異なるようだった。
学園都市という世界――その極めて近くに存在していた魔術――そしてそれともまた違った黒桐鮮花の魔術。
初めて遭遇する――実は魔術師には不認知のところで既に遭遇しているのだが――異能力というものに、白井黒子は感嘆した。
「わたしにとっては、学園都市やら能力者やら、そっちの話のほうがよっぽど信じがたいけどね」
「わたくしにとっては、一般常識レベルの話なのですが……それにしても、魔術。魔術ときましたか」
「おいおい大丈夫か? そんなんでAS(アーム・スレイブ)の話なんてしたら、頭パンクしちゃう?」
「ま、まだなにかありますの……?」
続くクルツからの情報。AS(アーム・スレイブ)なる巨大兵器の普及に関しては、もちろん頭を抱えた。
普段なら正気を疑いたくなるような話。それでも信じざるを得ないという状況が、いい加減嫌になってくる。
「……なぜ、人型にしますの? なぜ、大きくしますの? コストにも見合うとは思えません。
ロマンを求めたSF小説じゃあるまいし、そんなものが軍事運用されているだなんて、ありえませんわ……」
「ありえない、って言われてもなぁ」
放送で人類最悪が言っていた内容、『元の世界』、『別の世界』、『物語』、そして『文法』。
今なら、なんとなくレベルではあるが理解できるような気もする……それでも、多分にSF小説的な解釈を交えた理解だが。
頭に浮かんできたのは、『パラレルワールド』――そんな単語だった。
頭に浮かべただけで、決して口には出さない。まだ、仮説を立てるにも早すぎる段階だった。
「……で、今後のことですけれど。お二人は、その仇とやらをお探しになられるおつもりで?」
「いや、それよりもまず訓練だな。今の鮮花ちゃんじゃ、返り討ちに合うのが関の山だ」
「それはご本人も認めていらっしゃるようですけれど、些か考えが悠長すぎやしませんこと?」
「時間がないのはわかってる。だからわたしは、他のすべてを捨てたのよ。この身は、あいつを殺すためだけにある――」
真剣な表情で、鮮花は銃を握っていた。
自身の発火能力では仇を殺せない。ゆえの代替物が、このコルトパイソン。
クルツはその筋のエキスパートらしく、これから鮮花に対し射撃指導を行う予定だったのだという。
「それで、その射撃訓練とやらはどこで行うつもりでしたの? まさかここで、というわけではないのでしょう?」
「候補地としては、二つある。一つは警察署。そこなら、射撃訓練場の一つや二つくらいはあるだろう」
「なるほど……もう一つというのは?」
「飛行場さ。ここは敷地が広い上に、照明灯も完備されている。なにより僻地で、すぐ近くには『消失したエリア』がある」
「部外者に邪魔をされる心配も少ない、というわけですわね。どちらにするかは、まだお決めになっていませんの?」
白井黒子の質問に、クルツは揃って首肯した。
それは鮮花が仮眠から目覚めた後に決める予定だったらしい。
「わかりました。そういうことでしたら、飛行場へ向かいましょう」
なので、今のうちに言っておくことにした。
「ちょっと待って。なんであなたが勝手に決めてるのよ」
「わたくしたち、ちょうど北へ向かう予定でしたの。飛行場なら、いろいろと都合がいいんですのよ」
「そういうことじゃなくて……決定権の話よ!」
声を荒らげて突っかかってくる鮮花に、白井黒子は嘆息する。
「黒桐鮮花さんにクルツ・ウェーバーさん。当面の間は仇とやらを標的にし、それ以外は狙わないと、そう判断させていただきました。
とはいえあなたには前科があるわけですから……ここは譲歩し、“監視”ということで一つ手を打たせていただくことにしますわ」
と、わざとらしい作り笑顔で言ってのける白井黒子。
今すぐ罰しないだけありがたく思え、そんな声が聞こえてきそうな、小悪魔めいた笑顔だった。
これに対する反応は、当然。
「あ、ん、た、ねぇ……!」
「まあまあ、鮮花ちゃん。抑えて抑えて。別にいいじゃないの、旅は道連れ世は情けってね」
鮮花は面白いくらい簡単に挑発に乗ってきてくれたが、すぐにクルツが諫めに入った。
クルツ・ウェーバー。彼も彼で、謎が多い。そもそも、なぜ鮮花に協力をしようとするのか――。
そのあたりも含め、この二人はもう少しじっくりと見定める必要がある。
故に、行動を共にする。『黒い壁』と『消失したエリア』の調査も、同時に行う。
北へ向かうというのなら、正に一石二鳥の良案だった。
「……いえ、上手くいけば一石三鳥ですわね」
呟き、白井黒子はクルツに対して訊く。
「一つお尋ねしますが、車の運転はできますでしょうか?」
「クルマ? まあ、どんな車種でも一通り動かせはすると思うが……なんで?」
問い返すクルツを見て、白井黒子はニヤリと笑った。
「よかった。わたくしやティーでは宝の持ち腐れでしたもの。ずっと探していたんですのよ? ドライバー」
◇ ◇ ◇
摩天楼一階、正面玄関口まで降り、ティーと鮮花、クルツの三人が外に出る。
日は高く、正午が近い。寝起きの鮮花には、特に強烈な日差しだった。
「…………」
ティーはなんの予告もなしに、デイパックを開け放った。
中から出てきたのは、巨大な大型車両。ただし、車輪はついていない。
一見してただのステージとも思えるそれは、使い手を選ぶがために死蔵されていた、ティーの支給品だった。
「ホヴァー・ヴィークル……ね。さすがに、動かしたことはねーや」
一台のホヴィー(注・=『ホヴァー・ヴィークル』。浮遊車両のこと)が、クルツの目の前にあった。
運転席と助手席、それに荷物が積める後部デッキという形は、軽トラックにも似ている。
運転席を見るに、動かし方は一般車両とそう変わらないようだ。
「あなたにはそれを運転していただきます。移動するための足が手に入るわけですし、悪い話ではないでしょう?」
ホヴィーをしげしげ眺めるクルツの横に、突如として白井黒子が現れた。
彼女お得意の『空間移動(テレポート)』とやらで、摩天楼の中から飛んできたらしい。
その証として、彼女の手には今までは持っていなかった“荷物”が握られている。
「まあ確かに、自転車で移動するよりは……って、黒子ちゃん。その手に持ってるのはなにさ」
「ああ、これですの。わたくしたちが摩天楼を訪れることになった原因……とでも説明しておきましょうか」
それは、少年だった。
歳はどちらかと言えば、黒桐鮮花よりも白井黒子に近い印象を受ける。
あちらこちらに生傷が窺え、それを治療した形跡もあった。おそらくは白井黒子がやったのだろう。
本人は気絶しているのか眠っているのか、白井黒子に首根っこを掴まれながらも、起きる気配がない。
「本当は彼が目覚めてから出発といきたかったのですが、ホヴィーが使えるのなら運ぶのに不自由はしませんものね」
「なるほどね。こればっかりはさすがに、デイパックに詰めておくってわけにもいかないもんな」
白井黒子は『空間移動(テレポート)』を駆使し、ホヴィーのデッキに少年の身を置く。
続いて、ティーを彼女が抱えていた猫ごと、同じ要領でデッキに乗せる。
運転席と助手席にはクルツと鮮花が乗るよう指示し、白井黒子自身もデッキに身を落ち着かせた。
「……クルツさん。なんか、彼女の言いなりですね」
白井黒子の仕切りに納得がいかないらしい鮮花は、助手席につくなり不満を口に漏らす。
「いいのいいの。それと、俺のことは先生って呼んでくれ。初めに言っただろ?」
クルツはやんわりと返すが、
「まだ直接の指導は受けていませんので」
「ありゃりゃ、手厳しいことで」
鮮花はどうにも、不機嫌な様子だった。
それは白井黒子との問答が原因か、はたまた新しく入ってきた女の子ばかりに目がいくクルツへのヤキモチか。
後者であるなら嬉しいが、まあ、そんなことはないんだろうな……と、クルツは少し淋しげに黄昏てみた。
もちろん、鮮花はまったく気づいてくれない。
「そもそもそれ、いったいどこの誰なのよ? 面倒事はごめんよ、わたしたち」
「それは彼が目覚めてから訊く予定でしたの。ま、今は疲れが溜まっているだけのようですから、その内目覚めるでしょう」
「せっかく車が手に入ったわけだしな。移動しながらでいいだろ、そういうのは」
運転席とデッキでやり取りを交わしつつ、クルツはホヴィーのエンジンをかけた。
と、
「待ちたまえ」
デッキのほうからやたらと低い声が聞こえ、クルツと鮮花は揃って後ろを振り向いた。
そこには、白井黒子とティー、気を失っている少年の三人だけが存在している。
今の老獪な紳士のような声は、万が一にも少女二人の裏声などであるはずもない。
だからといって、少年が実は起きているというわけでもなさそうだった。
「そろそろ放送だ。出発するのはいいが、この場で情報をまとめ終えてからでも遅くはあるまい」
訝るクルツと鮮花の視線を買いながら、声の主は再び発声した。
信じがたいことに、口が動いたのはただの一人――いや、一匹だけ。
ティーが手に抱いていた、シャミセンという名前の三毛猫だった。
「……」「……」
クルツと鮮花は一度顔を見合わせ、またすぐに、後ろのデッキに視線をやった。
シャミセンは――世にも奇妙な喋る猫は、気持ちよさそうに「にゃー」と鳴いた。
「……猫がしゃべったぁぁ〜!?」
【E-5/摩天楼前・正面玄関口/1日目・昼(放送直前)】
【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:強い復讐心、ホヴィーの助手席に乗車中
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界、コルトパイソン(6/6)@現実
[道具]:デイパック、支給品一式、包丁×3、ナイフ×3、予備銃弾×24
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇を取る。そのためならば、自分自身の生存すら厭わない。
1:クルツと行動。飛行場へ向かい、クルツから銃の技術を教わる。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。
【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ、疲労(中)、復讐心、ホヴィーの運転席に乗車中
[装備]:エアガン(12/12)、ウィンチェスター M94(7/7)@現実、ホヴィー@キノの旅
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋、予備弾28弾、ママチャリ@ママチャリ
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:ホヴィーで飛行場へ向かい、鮮花に銃を教える。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:ガウルンに対して警戒。
7:鮮花に罪悪感、どこか哀しい 。
[備考]
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康、ホヴィーのデッキに乗車中
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖、鉄釘&ガーターリング@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、姫路瑞希の手作り弁当@バカとテストと召喚獣、
伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
デイパック、支給品一式 、ビート板+浮き輪等のセット(大幅減)@とらドラ!、カプセルのケース
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
1:ホヴィーをクルツに運転させ、北へ移動。『消滅したエリア』の実態を間近で確かめる。また『黒い壁』の差異と、破壊の可能性を見極める。
2:移動中に浅羽が目覚めたら詳しい事情を聞く。その後の処遇はまだ保留。
3:“監視”という名目で鮮花とクルツの動向を見定める。いつまで行動を共にするかは未定。
4:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
5:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
6:伊里野加奈に興味。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。ホヴィーのデッキに乗車中。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
1:RPG−7を使ってみたい。
2:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3:シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
4:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
5:浅羽には警戒。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形。右手単純骨折。右肩に銃創。左手に擦過傷。(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
微熱と頭痛。前歯数本欠損。気絶中。ホヴィーのデッキに乗車中。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
0:????(気絶中)
1:伊里野の不調を治すため、「薬」と「薬に詳しい人」を探す。
2:とりあえず、地図に描かれていた診療所を目指そう。
3:薬に詳しい「誰か」の助けを得て、伊里野の不調を治して……それから、どうしよう?
4:ティーに激しい恐怖。
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
※まだ白井黒子が超能力者であることに気付いていません。シャミセンが喋れることにも気付いていません。
【鉄釘&ガーターリング@現地調達】
白井黒子が摩天楼にて確保した。
『風紀委員(ジャッジメント)』の勤務中に彼女が常備しているアレ。
摩天楼内にあった工具店から適当に見繕ってきたもので、鉄釘の明確な本数は不明。
【ホヴィー@キノの旅】
ティーに支給された。
正式名称は『ホヴァー・ヴィークル』。浮遊車両のこと。
宙に浮いているので悪路にも影響されることがなく、海の上を移動することも可能。
大人数が乗れるデッキがついており、車両自体はかなりの大型。
◇ ◇ ◇
「――友! こんなところでなにやってるんだ!」
「う〜ん……うに? いーちゃんだ……おはろ」
《侵入者》は興奮した息遣いで玖渚友を揺さぶり起こし、とっくに昼だということを告げた。
僕様ちゃんには朝も昼もないんだよ、そういやそうだな、とどこかで見たようなやり取りを交わす。
ふわぁ〜、とのんきにあくびをして、玖渚友はわずか上半身だけ身を起こした。
「髪くくって」
「ん」
求められた《侵入者》は、玖渚友の長い長い蒼色の髪を、黒いゴムでポニーテールに結ってやった。
その出来栄えに少女は大いに喜び、はしゃぎ、《侵入者》に好きと連呼し続けた。
そして、もう一度寝た。
――――という夢を見たのさ☆
「さんくー、いーちゃん…………ぐー」
眠り姫の蒼は、四人や五人不法侵入者が訪れたくらいで、起きるはずなどなかった。
彼女を起こしに来る権利があるのは、どう足掻いても決められた一人だけ……?
【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・昼(放送直前)】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
※第一回放送を聞き逃しました。
以上、代理投下終了します。
……騙されたっ!w
あぁ、もう奇麗に騙されましたよ!w
しかし面白いチームできたなぁ、GJです。
投下、代理投下乙です。
早々に起こった第二ラウンドは抜け目なく釘をゲットしてきた黒子の圧勝かw
しかしこの提携は面白い。相手方に完全に心許してないのがいいなぁ。
そして友wwwwwwwwwwwwww GJ!w
投下、代理投下乙ですー。
おお、四人チーム。意外とバランスいいなぁ。
4人とも一筋縄ではいかないしどうなるか実に楽しみ。
浅羽も不安定材料なりえるか?
そして友寝オチかwwwwwww
GJでしたw
起きたら投下されてた。乙です
浅羽か? いや、浅羽に見せかけてシャミセンだな! 読めたぜ!
とか思ってたwwwやられたwwwww
クルツに狙撃砲はまだ渡らんのかな
渡ったら一気にチートキャラ化してしまうけど
格闘やその他のスペックも一流のはずだから大丈夫だろう
超一流の連中には対抗できんけど
乙です
これは予想の斜め上をいってくれたw
しかし、地味に
>>495が正解してるね
乙かれ様です
クルツの周りに女だらけw
良かったなクルツw
クルツはロリコンなのか
スパロボJではロリコン扱いされてた
毒吐きより転載
やってられない名無しさん:2009/12/11(金) 15:51:57 ID:???0
>>2058 せっかくだから今もっともパロロワで高品質な書き手が集った自ロワの書き手紹介やってみるぜ!
◆LxH6hCs9JU氏――『筆力無限』(オーバースペック)
言わずとしれた魔王様。第一放送終了時から本気になる。
そのありえない質を伴った投下速度はネタを書き溜めていたのではないか、という疑惑をよぶほど。
名作ハラキリサイクルではその圧倒的な筆力によって、ありえないほどの戯言テイストを我々に見せつけた。
◆UcWYhusQhw氏――『心情芸術』(マインドロジック)
魔王様の影でこの方も放送終了後に一気に加速していた。
氏を語る上で欠かせないのは、やはりその圧倒的なまでの心理描写であろう。
特に告別/再見における手乗りタイガーの精緻に描かれた心情はタイトルの意味合いと合わせて痛いほどに我々に訴えかけてくるものがあった。
◆02i16H59NY氏――『完全舞台』(パーフェクトワールド)
したらばで行われた第一回放送までの作品を対象とした人気投票、ぶっちぎりの第一位を獲得した作品こそ氏の書かれたドラゴンズ・ウィルである。
氏の作品において私が語るべき言葉は何もない。
ただ読んで、氏の圧倒的な発想力と筆力によって構成された世界にどっぷりと浸ればそれでいい。
◆MjBTB/MO3I氏――『悲喜混在』(ダブルバインド)
ムッツリーニ、明久、新SOS団。氏の作り出した物語の数々はロワという物語の中での清涼剤として、我々の腹筋に大ダメージを与えていった。
しかし、それらは氏の描く世界のほんの一面でしかないことを氏の物語を読み進めるうちに我々は知ることになる。
ラスト・エスコートにおける実にロワらしい一変の救いもない陰惨な物語もまた氏の魅力の一つであるのだから。
◆EchanS1zhg氏――『戯言空間』(モンキートーク)
ラノロワ・オルタレイション、その全ての物語は氏の描かれたオープニングから幕を開けた。
その後も初の死亡者登場、第二回放送を迎えようとする状況になっても眠りつづける名物キャラ、友などさまざまな形で我々の度肝を抜く。
一時期その投下速度は鈍りはしたが、再び加速し始めた氏の物語に我々は期待を寄せる。
◆ug.D6sVz5w氏――『災厄公式』(バッドエンド)
トリを出してのリタイア宣言を行った、おそらくはもう戻ってこないであろう元エース。
その徹底して誤解や惨劇を生みにいくスタンスがかつてロワを引っ張っていたことは間違いない。
今の死者二十人のうち半分は氏の物語、あるいは氏の物語のリレー直後に出ているということからもその一端が覗える。
予約していた4名、投下します。
【0】 (――――)
本日の午前のレースの結果です。
出発地、教会付近。
目的地、温泉。
出走は4名。
途中トラブルや接触事故もありましたが、うち3名が到着を果たしました。
1着、如月左衛門。
スタートこそ最も遅く、途中寄り道もあったものの、その最速のスピードと常識外れのショートカットで見事に1着を射止めました。
2着、ガウルン。
出走は2番手、脚力も2番手。途中で死体を発見し余分な時間を取られたものの、結果だけ見れば順当なものと言えるでしょう。
3着、千鳥かなめ。
スタートの順番で言えば一番手。地の利もあり、脚力も決して大きく劣っておらず、一時は最有力優勝候補でした。しかし……。
なお、未着は上条当麻。出走時点での転倒コースアウトが最後まで響きました。
本日の午前のレースは、これで終了します。
【6】 (千鳥かなめ 3/3)
――人の気配の絶えた温泉施設の最奥、陽光が燦々と降り注ぐ露天風呂の一角で、その男は死んでいた。
千鳥かなめは足を引き摺るようにして死体に近づく。
もうもうと湯気を上げ続ける浴槽の傍、まるで大の字を描こうとするように、両手両足を広げて倒れている。
けれどもそれは、「大」の字に例えるには、一部パーツが足りない。
その肩の上に、あるべきものがない。
すっぱりと、切り落とされている。
死んだ直後には血も噴き出したのだろう、男の服には赤黒い染みが広がっている。
ただ、掛け流しの湯が溢れて床を洗っているせいか、意外にあたりは綺麗だった。
客間で見てきた惨状と比べると、嘘のように綺麗な死に様だった。
千鳥かなめは、そんな露天風呂の状況を一瞥して理解すると、ゆっくりと足元に視線を下ろした。
……そこに転がっていた生首と、目が合った。
かなめの知った顔だった。
会いたくもなかった相手だった。
そいつも彼女の存在に気がついたのだろう、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべると、口を開いた。
「よお、カナメちゃん。俺ぁ殺されちまったよ」
「……見れば分かるわよ」
「ったく、カナメちゃんをいたぶってカシムの奴に見せ付けてやろうと思ってたんだがなぁ。ドジこいたぜ」
「……黙りなさいよ」
かなめは気だるげに答えながら、嫌らしくニヤニヤと笑う生首を、つま先で軽くつついてやる。
それほど強く蹴ったつもりはなかったのだが、コロコロと面白いように転がっていって、首なし死体の足に当たり動きを止めた。
濡れた床の上を三回転ジャスト。
あと半回転ほどもしていればその顔を見ずに済んだのかもしれない、と思うと、少しだけ腹が立った。
そんなかなめの苛立ちを見て取ったか、生首は哂う。
「おーおー、ひでーことすんなー、カナメちゃんは。こっちは手も足も出ねぇってのに。
でもよぉ、こんなとこで油売ってていいのかい?」
「……うるさい。黙れって言ってるでしょ」
「ひょっとしたらカシムの奴も、どっかで俺と似たような目に会ってるかもしれないんだぜぇ?
もう死んじまった俺なんかと遊んでる暇、ねぇと思うんだけどなあ」
「…………黙れっ! 死んだなら、黙って死んでろっ!」
耐えかねて暴発した、ヒステリックな一喝。
露天風呂から立ち昇り続ける湯気が揺れる。
小さな風が吹き抜け、一瞬だけ視界が綺麗に晴れて――
かなめの耳に、ざあざあと流れ続けるお湯の音が戻ってくる。
気がつけば生首は、あの嫌味ったらしい引き攣った笑みを浮かべてはいない。
どこか呆けたような死相を張り付かせたまま、濁った眼で虚空を見上げている。
いや、それとも、最初っからこういう表情だったっけ? よく分からない。
「……そうだ。どうせだから聞かせてよ。ここで、何があったの?」
かなめはふと、思い出したかのように問いかける。
けれど返事はない。
当然だ。
斬りおとされた生首が口を利くはずがない。
殺されてから短く見積もっても数分は経過した死体の首が、喋れるはずもない。
溜息ひとつついて、かなめは吐き捨てた。
「……そこで黙っちゃうんだ。
まったく、アンタってば死んでからも性格悪いのね」
生首はもちろん答えない。
かなめは周囲を見回して、落ちていた武器らしきものに目を留める。
見覚えのある、刃の途中から折れた鎌。
見覚えのない、どうも壊れているらしい銛撃ち銃。
落ちていたのはそれっきりで、荷物らしい荷物は残されていない。
今のかなめと同様、完全に手ぶらだ。
ここで何があったのか。
どうしてコイツがこんなにも簡単に殺されているのか。
分からない。
千鳥かなめには、見当もつかない。
少なくとも、あの、『櫛枝実乃梨』が関係しているのは間違いないはずなのだが。
【ガウルン@フルメタル・パニック! 死亡】
【E-3/温泉施設・女湯露天風呂/一日目・昼】
【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
[状態]:感電による痺れ、呆然
[装備]:とらドラの制服@とらドラ!、ワルサーTPH@現実
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
0:……ここで、何があったの?
1:温泉で起きたことを把握したい。『櫛枝実乃梨』に疑念。
2:温泉で上条を待つ? 何かあったら南、海岸線近くで上条を待つ?
3:知り合いを探したい。
[備考]
※2巻〜3巻から参戦。
[備考]
小四郎の鎌@甲賀忍法帖 が、刃が途中で欠けた状態でガウルンの死体の傍に落ちています
銛撃ち銃(残り銛数2/5)@現実 が、発射装置の壊れた状態で、これもガウルンの死体の傍に落ちています。
【4】 (ガウルン 1/1)
――虎穴に入らずんば虎穴を得ず、との言葉があるが、そこはまさしく、凶暴なケダモノの巣のような雰囲気を醸し出していた。
「面白ぇ……!」
舌なめずりせんばかりの表情で、ガウルンは女湯の中に踏み込んだ。
別に女性の裸体鑑賞が目的ではなかったが、彼を突き動かす衝動は「劣情」と呼んでも差し支えのない代物だ。
ただし彼が求めるのは性的興奮ではなく、戦闘の愉悦。
己の生存すらも放棄して、ただ、あの生と死のギリギリの駆け引きだけを愉しまんとする。それがこのガウルンという男であった。
千鳥かなめを追跡、あるいは待ち伏せすべく、この温泉施設に足を踏み入れた直後――彼は直感したのだ。
ここには「誰か」がいる、と。
溢れんばかりの殺気。ひしひしと感じる、強烈な存在感。
ガウルンは理解する。
理屈を越えた野生の勘。あるいは、傭兵としての豊富な経験から、一足飛びに真実を理解する。
ここには、相当の使い手がいる。
戦い慣れ、人を殺し慣れた自分の「同類」が、待ち構えている。
そして気配も殺気も隠すことなく、堂々と挑戦状を叩きつけているのだ――「勝てるつもりがあるなら挑戦を受けるぞ」、と。
これで逃げ出すようなら、もはやそれはガウルンではない。
いや、膵臓癌を患う前であれば一旦退いて仕切り直すことも考えたかもしれないが……それも、今では意味のない仮定である。
そして、あからさまなまでの殺気に導かれて到着したのがこの女湯。
途中、施設の入り口や客室に転がっていた死体も確認している。
いずれも刃物を用いた殺害方法だった。それぞれ微妙に傷の様子が違ったのが少し気になったが。
この奥にいる奴がやったのだろうか。
あるいは、あの路上に残されていた細切れ死体を「作った」奴だろうか。
まあ、そうであろうとなかろうと、これほどの殺気だ。きっと楽しめることは間違いない。
牙を剥き出しにした猛獣の顎にも等しい女湯の暖簾を潜り、脱衣所を土足で通り抜け、露天風呂の方へ歩を進める。
両手で構えているのは、大型の銛撃ち銃。
デザートイーグルとモスキート、大小2挺の拳銃も、いつでも抜き撃てる所に収めてある。
こちらとて気配は消していないのだ。移動する隙もあったろうに、こんな場所をあえて戦場に選択した奴はどんな人物なのか。
ガウルンは期待に胸を躍らせながら、露天風呂に踏み込んだ。
視界をほのかに遮る白い湯煙。足を滑らせかねない濡れた床。開けた空間。岩や植木など、そこそこ存在する物陰。
なるほど、これは意外と面白い戦場設定かもしれない。
ガウルンは油断なく歩を進めながら、湯煙の向こう側に垣間見えた相手の出方を窺う。
「よお、お嬢さん。なかなか楽しいセッティングしてくれるじゃねぇか。踊ろうぜぇ、おれとよぉ」
「…………」
相手は答えない。
風呂場にも関わらず(あるいは、当然と言うべきか)、服をきちんと身につけ、こちらに背を向けた女性……いや、少女。
逃げも隠れもせず、堂々と分かりやすく立っている。
その少女は、ゆっくりとガウルンの方を振り返って――
「――ガウルン、覚悟っ!」
「っ!? チドリカナメ!?」
予想もしていなかった、聞き覚えある声。同時に投擲される巨大な刃。
一瞬あっけに取られつつも、そこは腐ってもガウルン、反射的に手にした銛撃ち銃で撃ち払う。
金属同士がぶつかり合う、嫌な音。
何かが壊れる、嫌な手応え。
とっさの判断で銛撃ち銃を手放し、同時に両手でそれぞれ大小の拳銃を抜き放ちながら。
刹那の間に、ガウルンは考える。
形に成りきらない思考が、彼の脳裏を駆け巡る。
こいつは誰だ。この小娘は誰だ。いま何故自分は「千鳥かなめ」だと思った。
声か。いや制服だ。
声もあるが、それより制服だ。さっきチラリと見た。
「あの学校」の制服ではない、しかし、何故か千鳥かなめが着ていた「日本の学校の制服風の」衣装。
でも「千鳥かなめ」は戦闘訓練を受けていないはずだ。鎌(そう、鎌だ!)なんてものを正確に投げることなどできないはずだ。
じゃあ誰だ。「あいつ」か。確かに声だけなら。姿形だって。でも服が。長い髪が――
ひうんっ。
費やしてしまった時間は、おそらくコンマ数秒にも満たぬ、しかし、この状況においては致命的過ぎる隙。
答えの出ない問い。不足する情報。
思い浮かぶ可能性も、それぞれ相互に矛盾を引き起こし。
理解できない状況を前に彼らしくもなく混乱し、そして、それゆえに。
ガウルンは自らの首が飛ばされたその瞬間にも、自分が誰に、何をされたのか、まったく理解することができなかった。
【5】 (千鳥かなめ 2/3)
――温泉、と地図上に記されたその施設は、明るい日差しの中、恐ろしいまでの沈黙に包まれていた。
ふらふらと覚束ない足取りで、ようやく辿りついた千鳥かなめは、ふと足を止めた。
温泉施設の正面入り口近くに、1人の青年が死んでいた。
見覚えのない背格好の、見覚えのない青年である。
いや、これでは例え面識があったとしても、そうと分からなかったかもしれない。
何度も重たい刃物を振り下ろされたであろう青年の顔のあたりは、もはや人相の判別もつかない有様である。
かろうじて、眼鏡らしきものの残骸が確認できるくらいだ。
かなめはしかし、軽く一瞥しただけでその横を通り過ぎる。
死人のように虚ろな表情で、ただ無感動に、その傍を通過する。
だってこれは、既に知っていたことだから。
「こういうもの」が「ここ」にあることは、既に知っていたから。
だから驚きも嫌悪も先に立たず、彼女は静かに、夢遊病患者のようにそこから歩き去る。
そのまま彼女は館内に足を踏み入れる。
まったくの静寂。窓から差し込む陽光に照らされ、全てが作り物めいて見える中。
ゆっくりとした歩みで、しかし迷うことなく向かった先は、宿泊スペースの客間の1つ。
既に進むべき道を知っているような足取りで進んだかなめは、そしてまた、足を止める。
客間の入り口で、1人の少年が死んでいた。
こちらは千鳥かなめにとっては既知の顔である。
北村祐作。既に死を放送で告げられていた存在。
浴衣姿で、生きていた時と同じく眼鏡をかけたまま、事切れていた。
致命傷はおそらく腹部の刺し傷。立った状態で刺されたのか、赤黒い染みは彼の足の方へと広がっている。
千鳥かなめは無表情のまま、北村祐作の死体を見下ろしていたが、やがて顔を上げると、客間の中を覗き込んだ。
濃密さを増す死臭。無秩序に飛び散った赤い色彩。
客間の中ほどで、1人の男が死んでいた。
入り口で死んでいた青年と同様、こちらも見知らぬ男だ。着物のような黒い装束に身を包んでいる。
顔はいくぶん古い傷によるものか、汚らしい包帯のようなものを巻かれていて判別できない。
ただ、顔の判別はつかずとも、これだけ特徴的な人物、一度会っていれば分からないはずもない。
致命傷は首元に刻まれた切り傷だろうか。
男の傍らには、これも既に息絶えた一羽の鷹。
そして、一見すると死体のようにも見えてしまう、しかし、よくよく見れば顔を潰されただけの、裸の女性型マネキンが1体。
部屋の中は、争いの様子そのままに荒れている。
千鳥かなめはしばらく血に染まった客間の中を覗いていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
客間の中から、赤い足跡が続いていた。
よくよく見ないと分からないくらいの、うっすらとした足跡。半ば乾いた血によるスタンプだった。
どうやら、どこかの誰かが、既にこの客間に踏み込んで調べていったらしい。
土足で踏み込んで、僅かに足裏に血糊を付着させていたものらしい。
1歩ごとに掠れていくその足跡を追って、かなめはまた、歩き出す。
普段の彼女らしくもない、生気のない歩き方。
まだスタンガンの衝撃が残っているのか、ときおり筋肉が奇妙に痙攣する。
物憂げな溜息が、唇の隙間から漏れた。
彼女はふと、懐の小型拳銃を服の上から確かめる。
今の彼女の手持ちの武器は――というより、持ち物は、もうこれだけだ。
他人を威嚇するには小さすぎ、手加減をするには強すぎる武器。
「あの時」、隠すつもりもなく思わず口にしそびれた、最後の武器。
意識したくもなかった、最後の支給品。
彼女は、これを使うことにならんければいいな、とぼんやりと思った。
血の足跡は、やがてかなめの見覚えのある場所に踏み込もう、というところで、とうとう消失していた。
忘れるわけがない。
千鳥かなめにとっての、スタート地点。
まったくもって嫌な予感しかしないが――ここまで来たら、この先も見届けるしかあるまい。
女湯の入り口を示す暖簾を、彼女はゆっくりとくぐった。
【2】 (紫木一姫 1/2)
――全てを忘れそうになるほど呑気な日差しが、辺りを柔らかく照らし出していた。
「……こういう時、なんていうんでしたっけ。極悪、極悪……でしたっけ」
おそらくは「極楽、極楽」なのであろうが、ここには突っ込んでくれる人も訂正してくれる人もいなかった。
たったひとり、完全貸し切り状態の露天風呂。
首切り死体が転がっていることもなく、鎌を持った殺人者が待ち構えていることもない、平和でのどかな露天風呂。
そこに、ぴちゃぴちゃ、と子供が水遊びをするような音が響いていた。
否、それは比喩ではなく。
まさに子供のような体躯の少女が、まさにただの子供のように、お湯を跳ね上げて遊んでいたのだった。
体格だけで言えば、まるっきりの子供。
膨らみよりもアバラ骨の陰影が目立つ胸元に、木の枝を思わせる肉付きの薄い手足。
普段は2つに結わえている髪は下ろされていて、でも、その長い髪がなければ性別すら誤認しかねない。
白磁の如き肌だけは艶々と輝いて、彼女が「彼女なりに」健康であることを示していた。
その少女――紫木一姫は、しかし、何も考えずにお湯に浸かっているわけではなかった。
彼女には彼女なりの、必然と必要があってのことである。
「姫ちゃん、身体強い方ではありませんからねー。休憩の合間に仕事する必要があるのですよー」
湯の中で自らの細い腿をさすりながら、少女は誰にともなく呟いてみせる。たぶん、仕事と休憩は逆であろう。
ここまで彼女が《ジグザグ》にしてきた人間の数は3人。
とはいえ、《曲絃糸》を振るうこと自体にはさほどの疲労はない。
もとより腕力に頼ることなく、摩擦力張力反発力、ありとあらゆる自然界の力を効率的に利用することに特化した技である。
《曲絃師》たる彼女にとって、人間を切り刻むことくらい大した負担ではない。やれと言われれば10人でも100人でも余裕である。
ただ、移動ばかりはそうも行かない。
図書館から学校へ。学校の中を少し歩いて、そこから寄り道も交えつつ温泉まで。
全て、ただひたすら歩いての移動である。
それなりに健康な、それこそ、日々運動部で汗を流しているような高校生には余裕で踏破できる距離だったろうが……
紫木一姫の場合、小学生並みの体格と体力しかないのだ。
今すぐ倒れるほどでもないし、頑張ればもう少し耐えることもできたのだが、休める時に休んでおくのも悪くない。
まだまだ、先は長いのだから。
その意味で、このタイミングで温泉という湯治施設に辿りついたことは、ちょっとした幸運でもあった。
「できれば、何か『足』になるものが欲しいんですけどねー。ここから出て行った『とれいず』さんみたいに」
軽い筋肉痛を訴える自分の足を揉みほぐしながら、少女はぼやく。
レーダーで発見した直後、恐ろしい速度で遠ざかっていった『トレイズ』という参加者の名前。
その速度からして、バイクか何か乗り物に乗っていたことは間違いない。
自らの機動力に限界を感じ始めた彼女にとって、そういった『足』になるものは是非とも手に入れたいところなのだが。
「でもー、姫ちゃん運転とかできないですし。
サイズの合う自転車でもあればいいんですけど、両手が塞がっちゃうのが珠に暇なのです」
そこはヒマではなく瑕だろう、というのはさておいて。少女は考える。
バイクや自動車は、手元にあったとしても運転できない。そんなスキルは持ち合わせていない。
子供用の自転車あたりなら手にも負えるかもしれないが、しかし、ハンドルを握った状態では《曲絃糸》を振るえない。
ただでさえ片手はレーダーで塞がってしまうのだ。今や腕1本たりとも、移動手段に割り当てる余裕はない。
武器や探知機の使用を諦めて、自転車にでも乗るか。
それとも、疲れるし遅いのを承知の上で、2本の足で歩き続けるか。
彼女は少しだけ悩んで、そして首を振る。
「……レーダーを諦める、ってのはないですね。
師匠を早く見つけたいですし……それに、いま師匠と『正面から出くわしてしまう』のもマズいですし」
少女は浴槽の傍に置いた手桶に視線を向ける。
疲労回復を目的とした入浴中だからといって、彼女が無防備な姿を晒すはずがない。
そこには、糸と手袋と、それから、電源の入ったレーダーが入っている。
万が一誰かに襲われたとしても、十分に戦える装備だ。
露天風呂、というシチュエーションも、実は彼女にとっては「室内」とあまり大差のない環境。
天井こそないものの、四方を目隠し用の壁に囲まれた空間は決して不利な条件ではない。蜘蛛の巣を張るには十分過ぎる。
この少女、意外とこういったことにかけては抜かりはない。
それはともかく。
曲絃糸とレーダー。この2つが手元に入ってきたことは、少女にとって望外の幸運であった。
彼女が師匠と慕う『いーちゃん』を『守る』上において、どちらも有力な道具となる。
特に――このレーダー。
これがなければ、色々と危ういところだった。色々と、際どいところだった。
「師匠って、姫ちゃんが《ジグザグ》やるの嫌がりますからね。下手に行き遭っちゃうと、他の人を減らせなくなるですよ」
紫木一姫の目的は、いーちゃんの護衛をつつがなく勤めきること――ではない。
手早く確実にいーちゃんを『最後の1人』にすることだ。そのために、それ以外の全ての参加者を抹殺することだ。
自分自身も含めた、59名が死亡することだ。
けれど、おそらくは。
あの《戯言遣い》は、その展開を望まない。
その結末を、望まない。
紫木一姫の悩みは、まさにここだ。
早々に師匠を発見したい。師匠の居場所を知りたい。師匠の行動を把握したい。
その願いに、嘘はない。
けれど、早々に真正面から出くわしてこんにちわ、という展開もまた望ましくはないのだ。
戯言遣いの青年に存在を感知されてしまえば、彼の下から逃げることは難しくなる。
そしてその彼は、殺人という手段を(少女には何故だかよく分からないのだが)嫌っている節がある。
きっと、彼女が誰かを殺そうとしたら、それを止められてしまうだろう。
他でもない彼自身に、邪魔をされてしまうだろう。
これがもう少し状況が進展して、生存者の数が絞り込まれた後なら、彼に張り付いて護衛に徹するのも手なのだろうが……
どう考えても、まだ早い。
まだ、その段階にはない。
先の放送の時点で50人。あれから1人殺したから、最大でも49人。たぶん40人前後、といったところだろう。
できればもっと減らしておきたいところだ。
そのためには、「まだ」戯言遣いと出遭うわけにはいかない。「まだ」彼に自分の存在を知られるわけにはいかない。
そして、そのためにこそ、このレーダーが役に立つ。
このレーダーで参加者の位置を把握しておけば、こちらから接触することも容易だし……
あえて接触せず、「やり過ごす」ことも容易になる。
理想を言うなら、つかず離れずの距離。
戯言遣いには気付かれぬまま、戯言遣いに接触しそうな他の参加者を、片っ端から先回りして切り刻んでおきたい。
もちろん、現実にはレーダーには電池の寿命があるし、彼女の機動力には限界があるし、難しいことは分かっているのだが。
「……って、やっぱり『足』の問題に戻ってきちゃうのですよ。ドードー滅亡なのです」
堂々巡り……とでも言いたかったのだろうか。少女は肩をすくめる。
それにしてもこの少女、絶滅した動物として有名な飛べない鳥・ドードーを知っていながら、国語は壊滅的に苦手のようである。
少女は暗鬱な表情で溜息ひとつつくと、風呂桶の中のレーダーを眺めるともなく眺めて――
次の瞬間。
ひうんっ。
紫木一姫は、目にも留まらぬ速度で腕を振るっていた。
少女の手元に握られていたのは、目を凝らさねば見えないほどの糸。
《曲絃糸》。
だがその絶対の凶器は何者かを切り裂くことはなく、ただ、虚空を薙ぎ払ったのみ。
少女の額に、嫌な汗が滲む。
凹凸に乏しい裸身を隠す余裕もなく、湯煙の向こうに佇む人影を、ただ睨みつける。
「――危ないなあ。いきなりなんてことするのかしら」
どこかおどけたような女の子の声が、露天風呂に響き渡った。
【1】 (千鳥かなめ 1/3)
――温泉まであと少し、という所で、千鳥かなめは意外な人物と出くわしていた。
「……北村くん以外に、2人の男の人の死体……か。ごめん、あたしもよく分からないな」
「……ってことは、カナメちゃんたちが出てった後、おれ、いや、あたしらが到着する前に『何か』があったってことだね」
そういって相手は――千鳥かなめと同じ制服に身を包んだ少女は、うんうん、とややオーバーな動作で頷いてみせた。
『櫛枝実乃梨』。
夜が明ける前、上条当麻と共に、街の中で行き会った3人組(+喋るバイク1台)のうちの1人である。
「いやあ、ごめんねー。カナメちゃんたちのこと疑ったりして!」
「い、いや気にしてないから! そっちの立場からじゃ無理もないだろうし!」
両手を合わせてぺこん、と頭を下げた彼女に、かなめは慌てて手を振る。
互いが互いに気付いたその瞬間、『櫛枝実乃梨』の形相は実に恐ろしいものだった。
そして噛み付くような勢いで詰め寄られ、追求されたのが、「かなめと上条が温泉にいた連中を殺した可能性」――。
もちろん根も葉もない疑惑であったが、しかしかなめとしては、そこで怒るわけにもいかなかった。
かなめだって、一瞬ではあったが「櫛枝実乃梨たち3名が温泉で凶行を働いた可能性」を考えてしまったのだ。
同じことを相手にされて怒るのは、筋が通らない。
なんでも、この彼女。
温泉で状況を把握するや、「もっと詳しい状況を知るべく」単身かなめたちを追って飛び出してきてしまったという。
走りに走って『壁』の近くまでたどり着き、それでも2人と行き会えなくて、諦めて戻る帰途の途上でかなめを見つけた……らしい。
いやはや、なんとも凄い体力と脚力だ。
それでいて息1つ切れてないのだから、感心するよりも先に呆れてしまう。
もちろん、彼女が1人で飛び出したこと自体は褒められることではない。
シャナや木下秀吉といった仲間を放置しての独断専行、本来ならば避けるに越したことはない。
けれど――訃報が告げられた北村祐作は、櫛枝実乃梨のクラスメイトだ。
例えば級友の死体と出くわしてしまったら、かなめだって冷静でいられる自信はない。
そう思えば、こちらについても糾弾する気にはなれなかった。
「でも、こうなると……やっぱり温泉に戻るしかないわね。上条くんもじきに来るだろうし、シャナさんたちとも合流したいし」
「あー、そのことなんでやんすけど……」
一通りの互いの事情を話し合い、気は進まないが死体の待つ温泉に向けて出発しようか、という時だった。
『櫛枝実乃梨』は、何か言いづらそうに語尾を濁す。
相変わらずの奇妙な言い回し。その瞳の奥には、迷いの色が垣間見える。
「どうしたの?」
「いや、じつはですねぇ。
カナメちゃんに声かけるちょっと前に、あっし、怖そうな男の人がブツブツ言ってるのを見かけちまいやして……」
彼女は言う。
温泉近くまで一度戻った時、見るからに凶悪そうな男を、偶然見かけたのだと。
無精ひげを伸ばし、額には縦一文字の傷痕。筋肉質ではあるがかなり痩せている。
――詳しい男の姿形を聞かされて、かなめは思わず叫んだ。
「……それって、ガウルン!? まさか!」
「お知り合いで?」
「知り合い……と言えば知り合いね。会いたくもない相手だけど」
忘れもしない、北朝鮮でのあの事件。
その中でテロリストたちのリーダーとして振るまい、恐るべきラムダ・ドライバ搭載ASを駆っていたのが彼だった。
流石にASにこそ乗ってはいないだろうが、この場においても脅威であることに変わりはない。
その、ガウルンらしき人物が、なんでも、かなめの名前を呟いていたというのである。
曰く、「カナメちゃんは来てるかねぇ」だの、「温泉で待ち伏せだ」だの……。
「……え? なんであたしが温泉目指してるって知られてるの!?」
「そこは、その、よく分からなんだ……分からない、のよ。」
かなめの当然の疑問にも、『櫛枝実乃梨』は困惑したように首を振るばかり。
理由は分からないが、こちらの行動もある程度知られてしまっているようだ。
どこかで上条と話しているのを聞かれたのか、それとも、知らぬうちに盗聴器か何かをつけられていたのか。
背筋に冷たいものを感じつつ、2人は善後策を考える。
「というわけでカナメちゃん。あの男の警戒する様子、いささか過剰とも取れる部分がありもうす。
ひょっとして、貴殿はあの『がうるん』に対抗する技やら知識やらがおありなのでは?」
「……ないわよ。そんなもの」
『櫛枝実乃梨』も必死なのか、奇矯な言動に拍車がかかっているような気がする。
が、かなめとしても困り果てるしかない。
確かにガウルンが自分の『知識』に警戒するのは分からなくもないが、あくまでそれは技術的なもの。
互いにアームスレイブも何もない今、かなめの『知識』は役に立たない。ガウルンの足元を掬うことはできそうもない。
かなめの返答に、『櫛枝実乃梨』は明らかに落胆した様子で肩を落す。
「では……武器は?」
「え?」
「何か身を守る得物はあらんや? まさか無手ってことはないよね?」
「え、えーっと、うん……。あんたから貰ったこの鎌と、あとは……この、スタンガン」
詰め寄られたかなめは、困惑しつつも2つの武器を取り出して見せた。
他ならぬ櫛枝実乃梨から譲られた、折りたたみ式の鎌が1つ。
それから、違法改造だという強力スタンガン。
『櫛枝実乃梨』は、前者には微かな驚きを、後者には不審と好奇心とを滲ませた。
「……カナメちゃん殿。恥を忍んで尋ねまするが……この『すたんがん』って、何? どうやって使うものなのでせう?」
「……え? 知らないの?」
「いやー、お恥ずかしながら……」
小さく舌を出して頭を掻く『櫛枝実乃梨』に、かなめは首を傾げる。
スタンガンを知らない。そんな奴が果たして現代にいるのだろうか。……そう思いかけて、ああ、そうかと考え直す。
確かに Stun Gun は英語だ。日本語で何て言ったっけ。『気絶銃』? 違う。思い出せない。
英語が苦手な子には、咄嗟に分からなくても仕方がないかもしれない。
それに、平和で治安のいい日本では、実物を見たことのない子がいてもおかしくないし――
帰国子女である千鳥かなめは、そんな風に考える。
帰国子女だからこそ、好意的に、誤解してしまう。
『スタンガン』は日本語でも『スタンガン』だということに、思い至れない。
「えーっとね、ここのスイッチを押すと、ほら、ここにこう、電撃が走るの」
「うわっ、光ったでござるっ!」
「ちょっ、触ったらだめ! 危ないなぁ、もう」
「……? つまり、今の小さな稲光で攻撃する、と?」
「そういうこと。相手に押し付けて使えば、雷に撃たれたように動けなくなる……はずよ。一応、ここで威力調整ができるみたい」
「この小さな箱の中に、雷が入っているとな……これはまた、まったくもって不可解な……!」
感心したように、『櫛枝実乃梨』はスタンガンを凝視する。溜息すら漏らしながら、眺め回している。
……おかしい。
ここに来て初めて、千鳥かなめは違和感を抱く。
こいつは誰だ。本当にあの時に会った櫛枝実乃梨なのか。
初めて出会った時、櫛枝実乃梨は確かバイクだかモトラドだかの運転の練習をしていた。
逆に言えば、それくらいの「常識」は備えている奴であるはずで――
でも、声も顔も背格好も、どう見ても『櫛枝実乃梨』だ。喋り方だって、元々こんな奴……だったような気がするし――
気持ちの悪いモヤモヤを持て余すかなめの前で、『櫛枝実乃梨』はひとり大きく頷いた。
「あい分かった! つまり、カナメちゃんは役立たずで、使えそうなのはその『すたんがん』くらいということか。
小四郎めが持ってたその鎌も、まあ無いよりはマシであろうか」
「や、役立たずって」
「ん〜、そうなると、カナメちゃんを『がうるん』にいいように利用されてもつまらぬし……そうだな。
ここで、ちょっと寝ておれ」
次の瞬間――何が起こったのか、かなめには即座には理解できなかった。
視界が回転する。背中をしたたかに打ち付ける。息が止まる。気がつけば青い青い空を見上げる格好になっている。
広がった誰かのスカートを真下から見上げる格好。……『櫛枝実乃梨』の?
あれは何だ。パンツか。白いTバックのパンティ……いや、まさかフンドシ!? じゃあ、あの盛り上がりは? え?
というか自分は今「投げ飛ばされた」のか? 誰に? 『櫛枝実乃
ばちんっ。
いつの間に手の内からすっぽ抜けていたのか。
彼女の腹に押し当てられた20万ボルトの電撃が、そんな細切れの思考を全て吹き飛ばした。
激痛。息が止まるかと思うほどの衝撃。一瞬遅れて、自分の意思とは裏腹に痙攣する手足。
動けない。指1本、動かせそうにない。
激しい痺れに、呼吸が苦しい。思考がまとまらない。
「……ふむ。なるほど強力よな。これなら、『がうるん』めが相手でも」
「あ、あんた、は……」
「悪いの、千鳥かなめ。おれ……あたしには、あたしの目的があるんでね」
小さな呟きと共に、『櫛枝実乃梨』は――『櫛枝実乃梨の声と容姿を持つ人物』は、軽く跳び上がって。
それっきり、千鳥かなめの視界から消えうせた。
後には、ただ沈黙。
再び立ち上がるまでには、しばらく時間がかかりそうなコンディションの中。
否応もなく見上げる青空が、やけに綺麗だった。
【3】 (紫木一姫 2/2)
――抜けるような青空の下、紫木一姫は静かに追い詰められていた。
床から掘り下げる形で設置された湯船の中、腰のあたりまで湯に浸かったまま、侵入者と対峙する。
ただでさえ身長差がある上に、足場の高さも違う。完全に下から見上げる格好を強いられる。
もちろん、命を取り合う本気の殺し合いにおいて、この差は実に大きい。圧倒的不利という奴だ。
「……悪趣味な変態さんですね。女装の上に、堂々と覗きですか。『にょづきさえもん』さん」
「ほお、おれの名を知っているか。おれが男だと知ってるか。誰かから聞いたか、それとも、さとりの化物か。
……いや、そういう訳でもないようだな。
『すたんがん』といい、夜中に煌々と灯っていた灯りといい、この地には不可解のからくりが山ほどあるようだ。
そこの桶の中にある、その箱で何かしおったな。さもなくばかような間違いはするまいて。
ちなみに『にょづき』ではない、『きさらぎ』よ。この姿形は、趣味ではなく必要に迫られて……と言っておこうかの」
「趣味であろうとなかろうと、姫ちゃんの裸を見た代償は高いですよ。塩持って償え、です」
「……塩でもって死をもって償えるのは、伊賀方の雨夜陣五郎めくらいのものだろうよ」
精一杯相手を睨みつけつつ、紫木一姫は手の中の糸を弄ぶ。
紫木一姫も1人の乙女、羞恥心がないわけではないが、この強敵を前にしてそんなことに構っている余裕はない。
しっかり手桶の中に隠したレーダーにも気付かれてしまったようだが、これも今は後回し。
油断なく相手の次の出方を窺いながら、紫木一姫は考える。
この、どこにでもいる普通の女子高生にしか見えず聞こえぬ、しかし、レーダー上の表記名・『如月左衛門』という人物は――
少女の予想を上回る速度で、少女の反応する間も与えぬ勢いで、屋根の上から駆け降りてきたのだった。
もちろん少女は警戒はしていた。湯の中で身体を労わりながらも、ちらちらとレーダーには目をやっていた。
しかし、この速攻は。そして、この身のこなしは。
疲労のせいで、紫木一姫自身も気付かぬうちに油断していたということなのだろうか。
なんにしても、初撃を避けられてしまったのは痛い。
まさか、初見でアレを避けきる者がいるとは思わなかった。
「それにつけても、今のは『糸』か。幼子にしては恐るべき技よの。
伊賀の夜叉丸めの縄術に近いようだが……あやつとの死闘の経験なかりせば、このおれとてどうなってたか分からぬ」
「《曲絃糸》というですよ。ぶっとい縄をブン回すような粗い技と一緒にされるのは、不愉快です」
口調やしぐさは完全に男のものながら、声と顔は若い少女のものなのだから、これは不気味極まりない。
紫木一姫はちらり、と手元の手桶に視線を走らせる。
今の彼女は、文字通り一糸纏わぬ、いや、「糸1本きりの」姿である。
つまり――自らの手を保護するための専用手袋を、まだつけていない。これこそが痛恨。
手桶の中に入れて持ってきてはいるが、これを嵌める前に接近を許してしまったのは計算外だった。
先ほど手に入れた専用の曲絃糸は、威力・操作性ともに高い便利なものだが、下手をすれば自滅の危険もある代物。
一歩間違えれば、自らの指をも斬りおとしかねないのである。
さっきの一撃を回避されてしまったのは、そのせいでもある。全力の一撃は、最初から出しえなかったのだ。
紫木一姫は、思案する。
相手は《殺し名》にも匹敵するかという動きを見せる、「プロのプレイヤー」だ。
とはいえ、だからといって倒せないとは思わない。露天風呂ではあるが、この環境は《ジグザグ》にとって自分の巣のようなもの。
代用の木綿糸しか手元になかった時ならいざ知らず、専用の糸がある現在、まったく倒しきれない程の相手では、ない。
だが――無理に倒そうと思えば、「犠牲」を強いられる。
手袋を嵌めていない今、手袋を嵌めるだけの余裕をひねり出せない今、どう頑張っても「無傷の勝利」は掴みえない。
己の指の、1本か2本。
あるいは、片方の掌に深い深い、骨にまで達するであろう裂傷。
それが、冷酷な計算から弾き出した、「目の前の敵を確実に《ジグザグ》にするのに必要なコスト」だった。
どう考えても、こんな所で支払っていい代償ではない。
どちらの結末を取っても、この先の《曲絃師》としてのスキルに酷いダメージを残してしまう。
「まだ」早い。
数十人は残っているであろうこの段階では、「まだ」そこまでの損害を受けてしまうわけにはいかない。
ゆえに、紫木一姫の側からは、仕掛けられない――!
と、そこで不意に、『如月左衛門』はフッと笑った。
平凡な女子高生の顔で、平凡な女子高生には相応しくない、不敵な笑みを浮かべてみせたのだ。
「――既に露見しているゆえ、改めて名乗ろう。
おれは如月左衛門。見ての通り、このおなごの姿はおれ本来の姿ではない。『櫛枝実乃梨』なる娘のものよ。
訳あって、一度この顔を崩さば元には戻せないよってな。素顔を晒さぬ無礼は許されよ。
して、娘。おぬしの名はなんという」
「……姫ちゃんは、紫木一姫というですよ」
超絶的な技術を持つ、変装の名手。同時に、近接戦闘のプロフェッショナル。
あるいはこの男、《殺し名》よりも《呪い名》にこそ近い存在なのかもしれない。紫木一姫はそんな風に考える。
だが意図が分からない。
この状況、このタイミングで、互いの自己紹介をする意図がまったく見えない。
彼女の不審な視線に、そして彼は――『櫛枝実乃梨』とやらの顔と声を持つ『如月左衛門』は、こう言った。
「して、紫木一姫よ。ここはひとつ、手を組まぬか?
これよりこの地に、『がうるん』なる凶悪なる男が来る。
己の目的は優勝ではない、などと嘯きつつ、油断ならぬ殺気を隠そうともせず、人を傷つけ甚振り哂うような男よ。
その体術だけならおれより僅かに劣るほどだが、いくさ場における駆け引きには恐ろしく長けておる。
この場にておれとおまえが潰しあいを演じても、かの男を利するだけと思うが…………いかがかな?」
【7】 (如月左衛門 1/1)
――燦々と降り注ぐ陽光の下、ガウルンの死体を呆然と見下ろす千鳥かなめは、とうとう最後まで気付くことができなかった。
彼女の姿を見つめる、2対の瞳の存在に。
温泉施設の屋根の上、音も無く佇んでいた人影は、やがて音も無くその場を飛び離れる。
否、それは1つの人影ではない。
上下に2つ。いずれも少女の姿形。
紫木一姫を肩車した格好の、櫛枝実乃梨の顔のままの、如月左衛門であった。
如月左衛門は、やはり櫛枝実乃梨の着ていた制服姿のまま。
紫木一姫も、しっかり元の制服を着なおして、髪も本来のツーテールに結わえている。
肩車、という姿勢も一見ふざけているように見えて、如月左衛門の脚力と紫木一姫の両手が共に使える実戦的な体勢だ。
もちろん如月左衛門も、全ての闘いを紫木一姫に頼るつもりはない。
腰にはガウルンより取り返した南蛮の刀・『ふらんべるじぇ』を差し、懐には雷神の力を秘めし『すたんがん』を忍ばせている。
ガウルンから奪いし大小2つの連射式の短筒は、果たしてどう扱ったものか。
ひとまず奪った荷の中に収め、担いでいる。
「……あの『千鳥かなめ』って子は殺さなくても良かったんですかね?」
「あやつ自身は、我らの脅威にはなるまいよ。むしろあれは、今は泳がせた方が利を産むとみた。
あの娘からは、おれは『櫛枝実乃梨』にしか思えまい。この温泉の惨劇も、『櫛枝実乃梨』の仕業と思うは必定。
となれば、『シャナ』や『木下秀吉』とかいう櫛枝実乃梨の知り合いとの間に、何らかの軋轢を生じるのは間違いあるまい。
千鳥かなめは千鳥かなめで、『上条当麻』という味方がおるようだし……
本来手を組めるはずの者同士、相争ってくれればそれが最上。そこまで行かずとも、亀裂や動揺くらいは生じよう。
『シャナ』という名の女丈夫、どれほどの腕前かは分からぬが、我らの道行きの妨げになるのは間違いないようじゃからの。
今は居場所も分からぬ以上、後々に繋がる手は打っておいて損はあるまいて」
「まあ、師匠の興味を引くタイプにも思えませんしね。そういうことなら、了解ですよ」
元々如月左衛門は、その脅威の変装術を駆使し、搦め手で攻めることを得意とする忍者だ。
敵方の和を乱し、敵方の絆に滑り込み、敵方の自滅を誘うのが本来のやり口。
「あえて今は殺さない」という策戦も、それが有効と思えれば躊躇いはしない。
もともとその誤解を誘うために、ガウルンの殺害の際も「首を刎ねただけ」に留めて貰ったのだ。
刀傷で殺された死体ばかりが転がる中に、《ジグザグ》に切り刻まれた死体が混じれば嫌でも違和感を煽ってしまう。
《曲絃糸》でガウルンを屠るに当たっても、「刀か何かで斬られたように」思われるであろう殺し方をする必要があったのだ。
あのあと――露天風呂での、緊張感ある対峙の後。
如月左衛門と紫木一姫は、少しの打ち合わせの後、2人して力を合わせてガウルンを迎え撃った。
策そのものは単純明快。
如月左衛門が囮になってガウルンの注意を惹きつけ、岩陰に隠れた紫木一姫がその首を刎ねる。ただそれだけである。
むしろこういう場合は、策そのものは簡単な方がいい。
下手に凝ると、駆け引き上手のガウルンのこと。思わぬところで足元を掬われかねない。
それが如月左衛門の判断であったし、夜半にあった戦いの様子を簡単に聞かされた紫木一姫も、最終的には同意をした。
大胆で分かりやすい挑発。
甲賀弦之介の遺体を辱めしガウルンに対する、嘘偽りのない強烈な殺気。
千鳥かなめの声、櫛枝実乃梨の容姿、という、ガウルンも予想していなかった要素の導入。それによる動揺の誘発。
回避あるいは防御されること前提の、鎌の投擲。それによる一瞬だけの足止め。
そして、専用手袋をしっかりと嵌めた《曲絃師》による、全力全開の《曲絃糸》の不意打ちだ。
作戦自体は単純でも、1つ1つの精度が高ければ十分に勝機が得られる。
そのことを、如月左衛門も紫木一姫もよく理解していた。
そして2人は、見事にその勝機を捕らえたのだ。
「己が手で憎っくきガウルンに最後の一刀を振り下ろしたい」、その衝動を意志力で押さえ込んだ、如月左衛門の勝利だった。
……とはいえ、元々彼も、ガウルンを討つに当たって他人の力を借りるつもりはなかったのだ。
その考えを翻したのは、仇と狙うガウルンより先に、道を急ぐ千鳥かなめを再発見してしまったから。
彼は、ふと思ったのだ。
ガウルンがあれほどの策を弄して千鳥かなめを狙う以上、彼女にはガウルンを倒しうる「何か」があるのではないか、と。
特殊な技術か、それとも知識か、何かしらガウルンを害しうる要因があるのではないか。と。
接触に当たっては、前もって本物の櫛枝実乃梨から事の経緯を聞きだしておいたのが助けになった。
かの櫛枝実乃梨も、温泉での凶行の犯人は上条当麻、もしくは千鳥かなめではないか、と疑っている様子だった。
これらの情報を得ていた如月左衛門が、彼女に過剰な期待を抱いてしまったとしても仕方あるまい。
かくして如月左衛門はまんまと『櫛枝実乃梨』になりすまし、千鳥かなめと情報交換を成し遂げ。
しかし、期待していたような話は聞けず、得たものはただ、伊賀方の筑摩小四郎が使っていた鎌と『すたんがん』ばかり。
仕方なく『すたんがん』の「試し斬り」がてら千鳥かなめを無力化し、その場に放置し、温泉へと向かって――
そして、気付いたのだ。
そこにいる、誰かの気配に。
露天風呂で微かな水音を立てる存在に。
既に発想の転換を済ませていた彼にとって、その出会いこそ僥倖と呼べるものであった。
実のところ如月左衛門には、その時点では紫木一姫の人となりを知る術はなかった。
だが彼の手元には、櫛枝実乃梨から聞き出した「現在の温泉施設の状況」の情報があった。
そのそこかしこに死体が散在するという、温泉宿。
そんな場所で呑気に湯に浸かるものがいるとするなら、それはよほどの大物か、よほどの大馬鹿者に相違ない。
大物であれば、是非とも『がうるん』との闘いに助力を引き出したい。
大馬鹿者であれば、これはこれで『がうるん』との闘いにおいて囮にでも使えるであろう。
その程度の腹積もりで、接触を試みて……そして、それはまさに大成功と言える成果をもたらしたのだった。
ガウルンを共に討たないか? という如月左衛門の申し出に対し、紫木一姫は彼が思いもしなかった提案を返してきた。
すなわち――これ一度きりではなく、いましばらくの共闘の申し出である。
紫木一姫は問うた。
「姫ちゃんのこの技、あなたにとっては魅力的ではありませんか?」と。
応。如月左衛門は応えた。
その《曲絃糸》なる技が味方にあれば、如月左衛門の取れる策も大幅に広がるであろう、と。
紫木一姫は問うた。
「姫ちゃんを抱えたまま、さっきみたいに素早く飛び回れますか?」と。
応。如月左衛門は応えた。
裸体を軽く眺むるに、紫木一姫の身体はそう重くもなかろう。如月左衛門にとっては重荷と呼べるほどの重荷にはなるまい、と。
紫木一姫は問うた。
「姫ちゃんの『足』代わりになってくれませんか? そうすれば、姫ちゃんも《曲絃糸》で運び賃分くらいは働くです」と。
応。如月左衛門は応えた。
おれも一人で戦うことの困難を自覚したばかり、駕籠かき代わりに使われるのは正直不服だが、それとて安い代償であろう、と。
かくして2人は共闘の約束を結んだ。
如月左衛門は、ガウルンより奪還した生首を抱えての生還を目指して。
紫木一姫は、彼女が『師』と仰ぐ人物(名簿上に『師匠』と書かれた人物とはまた別人なのだそうだが)の生還を目指して。
ガウルンを手始めに、それ以外の全ての参加者を殺してゆかん、と誓い合ったのである。
無論、これは裏切りの危険を多分に孕んだ、薄氷の如き信頼関係である。
なんとなれば、最後に生き残ることができるのはたった1人。
両者の願いが揃って叶うことは、決してありえない。
いつか破綻する時がくることを、2人とも十分に理解しているのだ。
理解しているが――しかし同時に、いましばらくは裏切られることもないだろう、とも考えている。
殺し合いの舞台は広く、生き残りはまだまだ多く、しかも、その一部は徒党を組む気配を見せてきている。
ここで2人が相争っても、他の誰かを利するばかり。
如月左衛門にとって紫木一姫は、ガウルンのような無駄な遊び心がない分、数段使えるパートナーなのだった。
紫木一姫にとっても、それは同じ。
実は彼女、最初に出会った長門有希には、自分の方から同盟を持ちかけているのである。
古泉一樹の怪しげな勧誘こそ蹴ったものの、単純明快、分かりやすいこの同盟は拒むだけの理由がない。
ちょうど必要としていた『足』の代わりになってくれるなら、尚更である。
「ところで、いつまでその顔でいるんです? ずっと女の子の顔と声だと、姫ちゃん、ちょっと淫乱するですよ」
「こんなところで小娘に発情されても困るのお。生憎おれには幼女を愛でる趣味なぞないのでな。
……それはさておき、はて、どうしたものか。
弦之介さまの首が帰って来た以上、どこぞで顔を換えてみてもいいわけだが」
家々の屋根の上を跳びながら、如月左衛門は首を捻る。
彼としても、悩むところではある。
元々この顔と声は、あのガウルンに一瞬の隙を作り出すためだけに用意したもの。己の正体を隠すための隠れ蓑。
だが、いつまでも『櫛枝実乃梨』と偽ってもいられない。
紫木一姫の持つ不可思議のからくり、『れーだー』とやらを抜きにしても、次の放送では『櫛枝実乃梨』の死が告げられてしまう。
そのことはおそらく、千鳥かなめたちの混乱にさらなる拍車をかけることになろうが……
さて、ではこの今の顔と姿はどうしたものか。
他にも使い道はあると考えるべきか、それとも。
ひとまずにも温泉施設から駆け離れながら、如月左衛門はしばし思案するのだった。
【E-3/温泉付近/一日目・昼】
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲。櫛枝実乃梨の容姿。紫木一姫を肩車中。
[装備]:櫛枝実乃梨変装セット(とらドラの制服@とらドラ!、カツラ)
マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、
フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、
[道具]:デイパック ×4、支給品一式 ×6、甲賀弦之介の生首、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)、
SIG SAUER MOSQUITO(9/10)、予備弾倉(SIG SAUER MOSQUITO)×5
金属バット 、不明支給品1(確認済み。武器ではない?)、自分の着物、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:紫木一姫と同盟。
2:どこか泥土が用意できる場所で弦之介の顔になる? それとも当面『櫛枝実乃梨』の容姿のままでいる?
3:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨の声は確実に真似ることが可能です。
※「二十万ボルトスタンガン」の一応の使い方と効果を理解しました。
しかしバッテリー切れの問題など細かい問題は理解していない可能性があります。
※ガウルン、及び千鳥かなめの荷物を(壊れた鎌と銛撃ち銃、及び、存在に気付かなかったかなめの銃)以外、全て奪いました。
【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康。如月左衛門に肩車されている。
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋、レーダー@オリジナル?
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、
裁縫用の糸(大量)@現地調達
[思考・状況]
1:如月左衛門と同盟。
2:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
3:SOS団のメンバーに対しては?
4:如月左衛門に裸を見られたことを忘れたわけではない。最後はきっちりその償いを受けさせる。
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。
※まだ如月左衛門の素顔と素の声を知りません。その変装術の条件や方法も把握していません。
ただ漠然と、他人の容姿に成りすますことができるらしい、と判断している状態です。
※如月左衛門と紫木一姫が、温泉を離れた後どこに向かうのかは後続の書き手さんにお任せします。
以上、投下終了。支援感謝です。
文中、各シーンの冒頭に振られた番号が順番通りに並んでいませんが、これは意図的なものです。
意味についてはあえて語るまでもないでしょうか。
指摘等ありましたらよろしくお願いします。
投下乙です!
これは…何と言うか……圧巻の一言
ジグザグな構成もそうですが
ガウルンを倒した二人の策もシンプルながら練りこまれてるなぁ
流石にこのレベルのプレイヤー二人に策を持って迎え撃たれたらガウルンと言えども厳しいか…
そしてこの怖いコンビがどう物語を加速させていくのか
今後が果てしなく楽しみだw
改めて、乙でした
そろそろスレ容量がヤバそうなので、次スレ立ててきますね
投下乙です!
いやぁ、驚くようなでも順当なようなそんな気のする結末。
全体的にジグザグなお話でしたけど、如月左衛門がその中を忍者らしく跳梁跋扈していましたねw
とてもおもしろい話でした。 GJです!
>>585 スレ立て乙です!
では、続けて投下を開始します。
【0】
『今回は、見逃してさしあげましょう』
【1】
眩い太陽もようやく全身を現した頃。
それなのに、並び立つ建物が作るデコボコの影の下に、その身を隠すように進み行く男の姿があった。
身の丈ほどの抜き身の大太刀をそのまま腰に差した男は、急くでもなくまた暢気でもないという程度で影を行く。
その足取りに迷いのようなものは見受けられない。そして、ほどなくして影は途切れ、男の姿が明るみの中に現れた。
邪魔にならぬよう短く切られた黒髪。その下の顔は端整だが精悍な印象で、口は一文字に結ばれていた。
肩と肘に当て布のついた着古した緑色のセーターに、これも着古したであろう色褪せたジーンズを履いており、
足元には頑丈そうな、そしてやはり底の磨り減った革靴が見られる。
一見すれば変哲のない平凡な姿だが、よく見れば旅慣れた人間だということが見て取れた。
そして、もう少し踏み込んで見ることのできる者ならば、彼が容易に人を殺せる人間だともわかっただろう。
男の名前はシズ。複雑な経緯で国を捨てた彼はこの短い名前しか人に教えることはない。
かつては王子という立場があったが、今はただの復讐者だった。
復讐を果たすその前に、訳もわからぬまま意味不明な事態に巻き込まれ、再会した忠犬を過失から失ったシズ。
彼はその忠犬を手短に埋葬した後、また行く当て所なく見知らぬ街を彷徨い始めた。
この《国》から脱出する方法がそれしかないのなら人殺しも厭わないとし、油断なく朝の街中を徘徊する。
とはいえ、やはり当て所なくではらちが明かない。シズからすれば3日という期限は長いとは思えなかった。
商店の軒先へと身を潜め、シズは鞄から地図を取り出してその上へと目線を走らせる。
そして、陽の位置と城が見えた方向。そして橋があった場所とを思い出し、自分が今どこにいるか見当をつけた。
思案して、とりあえずは地図にある病院へと向かってみようとシズは考えた。
病院ならばなにか有益な物が手に入るかもしれなかったし、それを狙う他者がいるかもしれない。
街中をただ彷徨うよりかはいくらかましと、そう決めるとシズは地図を丁寧に折りたたみ、また再び歩き始める。
戦うのに不利ではない程度には広く、しかしあまり目立たないぐらいの狭さの路地を選んでシズは道を進んで行く。
もうすぐ目的地とした病院が見えてくるだろうか。そう思った時、小さな音がシズの耳に届いた。
路地の中を油断なく足早に進み、角から一度顔を出し、そしてもう一度慎重に顔を出してからシズは辺りを窺う。
目の前には四車線の広い道路があり、その向こうにはこれも立派な作りのそれとわかる病院が建っていた。
そこから南の方を向いてみると道路の先に小さな影が見え、しかしすぐにその先へと消えてしまった。
聞いた音は軽いエンジン音で、どうやら何者かがここを通り過ぎたか立ち去ったかしたらしい。
「…………さすがに追いつけないか」
例え走って追いつけたとしてもこちらの武装は刀一本に、虎の子の爆弾と使い勝手の悪い拳銃が一丁だけ。
わざわざ不利な戦いを無理にしかける理由も必要もない。
そう判断すると、シズは立ち去った何者かのことは一端置いて、目の前の車道を横断して病院の中へと入っていった。
【2】
「こいつはひどいな」
口にしつつも、実際には微塵たりともそうと思ってないような口調で、シズは目の前の惨状をそう表した。
病院に入ってすぐの広いロビーの一角に4つの死体と騒動の痕跡。それに加えて濃い死臭とが残されている。
入り口の方を振り返ればいくつかのガラス窓が粉々に打ち砕かれており、ここで何かがあったというのは明白だ。
「少しの間、ここで見張りをしていててくれるかい?」
そう言って、シズは鞄から取り出した鳥籠を丁寧に持ち上げ、入り口の脇にあった台の上へと置く。
鳥籠の中で首を振り奇怪な声を上げる見苦しい何かはどうやら鳥で、今は唯一の相棒であるインコちゃんだ。
相棒として頼れるかどうかを試すわけではないが、気休めにはなるだろうとシズはこれに見張りを任せてみることにする。
そしてインコちゃんがそれに同意した(?)のを確認すると、改めて4つの死体の方へと足を向けた。
同じ制服を着た少年の死体が2つに、メイド服を着た小柄な少女の死体が1つ。
そして、大人だろうとは思うが首がないので確かな判別のつかない男の死体が1つあった。
よく見ればそれぞれの死因は別々で、もう少しよく見てみればどれも死んでからそれほど時間は経っていないとわかる。
「さっきの後姿の奴かな」
呟きながら、この後もしかすれば対決することになるかもしれない何者かの実力をシズは推測する。
理由は定かではないが、首なしの死体がある以上この4人の間での同士討ちという可能性は皆無だろう。
死体が動かされた形跡も見当たらないし、その位置関係を見ても、この4人を殺した第三者がいたと考えるのが自然だ。
先に確認した通りに、殺害の方法は死体ごとに異なる。
ならば、どのような事が起きたと想像できるだろうか。少なくとも単一の武器による一網打尽ではない。
4人でいた。また少年や少女には戦いの経験があったようには見えないし、実際抵抗したような痕跡もない。
つまり弱者としてただ寄り添い合っていたと考えるのが自然だろう。
内2人はおそらく同郷の者だとわかる。そしてシズが先に考えた理由などで、この病院に辿りつき篭ったに違いない。
殺害者が最初からこの4人と同行していたのか、ただシズよりも早くここに辿りついただけのなかはわからない。
ただわかるのは、その殺害者は4人に近づいた後、”あっという間”に4人とも殺してしまったということだ。
手持ちの武器を次々に使ったのか、それとも次々に奪って使ったのか、あるいはそれら両方なのか。
なんにせよ、これは自身と同様に殺すことに”手馴れた者”の仕業とシズは推測する。
そして、自分が先に到達していればまったく同じことをしただろうとも思った。
「やれやれ、強敵だな……」
シズは曲げていた膝を伸ばすと、そう零して苦笑した。
さきほど殺した女兵士もそうだが、ここには弱い者もいれば逆に強い者も、更には自分よりも強い者もいるらしい。
動くマネキン人形のような例もある。他にも予想だにしていなかったものが存在する可能性もあるだろう。
キョンという青年の前ではこちらの方が簡単などと宣言したが、随分と大見得を切ったものだと思わざるを得ない。
「そういえば、”未来”の俺は”キノ”という人物に負けるんだったか……」
自分とキノの両方ともが元の世界に帰れなかった場合、あの国はどうなってしまうのか。
ふとそんなことを考え、すぐに馬鹿馬鹿しいとシズは首を振る。
そんなことは考えることではない。むしろキノという者をここで倒せば、悲願は自身の手で果たせるのだ。
改めて気を引き締めなおすと、シズは踵を返して死体らの傍から離れた。
次にシズが目をつけたのは、死体から少し離れた場所に固めて置かれていたいくつかの物品だった。
最初はブービートラップかと思ったが、どうやらただ不要な物として置かれていったのだと判断しそれを手に取ってみる。
やはりというか当然というか、それはシズに取っても到底必要があるものとは思えなかった。
「女性用の下着が配られていたのか? 意味がわからないな……」
しかしそれでも一応と、シズはひとつひとつ手に取って丁寧にそれを検分してゆく。
十数分ほどかけてそれを行い何がわかったかというと、結局それが全くの徒労であったということだけで、
どれもこれも使い道がわからないか、もしくは明らかに使えない代物だと、最初からわかっていたことが判明しただけだった。
「これだけはもらってゆくか」
悔し紛れ半分といった感じでシズはひとつ女性用下着……ではなく、一本の筒を拾い上げる。
一見すればアンティークの手持ちサイズの小さな望遠鏡のようで、実際にもそうとしか思えないものだった。
覗き込めばレンズの向こう側が少し大きく見えるだけと、極めてシンプルなそれで、
特別使えそうなものではなかったが、強いて言うならまだ使えると、浪費した時間の代わりにそれを鞄に収める。
さてと一息つき、入り口脇に置いたインコちゃんを一瞥し、異変がないらしいと知るとシズはその足を今度は病院の奥へと向けた。
しばらく。受付カウンターの真上に置かれた時計の中の針が一周と少しした頃に、ようやくシズはロビーへと戻ってきた。
その姿を見て驚ける者はここにはいなかったが、彼の姿はここを後にした時とは全くその様相を変えていた。
しかし、何かがあったわけではない。ただ一枚。奥で見つけた厚手のレインコートを着込んでいるというだけのことである。
得物を刀とする以上、シズは人一倍返り血というものに気を使う。
まず、血液は一度付着すると落とすのが難しい。故に、限られた物を大切に使う旅人としてそれは避けなくてはならない。
それと、場合によってはこちらの方が重要となるが、服についた返り血は時に殺人の証拠となりえる。
今回の場合、一度そうなってしまえば善良な者を装っての不意打ちなどはしづらくなるだろう。
故に、それらを避ける為のレインコートである。これならば不意に血がついたとしても脱げばそれだけで済むのだ。
「少し、蒸れるかな……」
そんな感想をシズはひとりごちる。
普段、こういう時には自前の防水パーカーを使用しているのだが、残念ながらここに来た時点で手元からは失われていた。
似たようなものだということで手に取ったが、若干ながらパーカーとレインコートでは勝手が違うらしい。
とはいえ、ここで我侭も言えないのでシズはごちるに止める。
得物である刀はすでにレインコートの左脇に穴を開け、そこから差して携えていた。
最後にもう一度ぐるりとロビーを見渡して、シズは見落としがないかを再確認する。
そして鞄をひとつ叩き、調達した薬品や治療用具に足りないものはないかをも確認すると、シズはようやく歩き出した。
コツコツとリノリウムの床に足音を立て、見張り番として置いていた鳥籠の元へと近づき、そして気づく。
「…………………………」
インコちゃんが鳥籠の中で決して安らかそうな寝顔ではないが、どうやら本人(鳥)的には安らかに眠っていることに。
【3】
一方その頃――と言うのには早いのか遅いのか定かではない頃。遠く離れた場所から病院へと向かう者らがいた。
陽光を反射する大きな川を左手に、土手の上に作られた舗装路を一路東へと邁進している一台のバギーがある。
運転席には、その大柄な体躯だけを見れば車の運転をしてても全く違和感のない水前寺邦博が、
その隣の助手席には、平均的な体躯なのだが水前寺と比べると小柄に見えてしまう学ラン姿の坂井悠二が座っていた。
「どうかね坂井クン?」
水前寺からの短い質問に、悠二はいいえと、これもまた短く返した。
「そうだろうな。いくら彼とはいえここで水泳を楽しむほど酔狂ではないだろう」
受け答えをしながらも二人は視線を合わせようとはしない。
運転をしている水前寺は当然のこととして、悠二の方にしても水前寺の身体ごしにただずっと川の方を注視していた。
その理由は、彼らが探している浅場特派員――浅羽直之がその川の中にいないか、それを探すためである。
とは言え、水前寺が言うように浅羽が川の中で見つかる可能性は全くのゼロに近かった。
元々、川へと落水した位置がここよりかなり上流であった為、ここより川上で上陸した可能性があること。
なにより、落水してからの時間を考えれば今頃こんなところを流れているはずはない。上陸してなければ今頃は海だ。
だが、気絶などをした浅羽が岸に引っかかっている可能性もゼロではない。なので一応と、悠二は川を見続けている。
そして、彼らはこの川沿いに進路を東と進み、この世界の端の北東に位置する病院へと向かっていた。
それほど難しく考えたわけではない。
川に落とされる前に浅羽は大河から散々に暴行を受けた。そういう証言を水前寺は須藤特派員より受けている。
ならば上陸した彼が地図を見た時、どこに向かうであるかと推測すれば、これはやはり病院しかない。
過ぎた時間からすればすでに次の場所へと移動している可能性も高いが、足取りを追うのが追跡の基本だ。
本来ならば着水地点よりと言いたい所だが、そこは時間の都合によりショートカットして病院へ向かうこととなった。
と言うのが、彼らが同行を開始してよりここまでの間に話し合わされたことで、この後は以下に続く。
「では、改めて聞かせもらおうか。君の言った”危険”について。
確かフリアグネと言ったか、そっちについてはすでに聞き及んでいるよ。
討滅したはずなのに何故か蘇ってきた狩人と呼ばれる紅世の王だな。なるほど俺などは相手にもなるまい」
逼迫した状況に押されて車へと乗り込んだ悠二だが、水前寺から神社に集まった者どもの話を聞いて驚いた。
そこに万条の仕手であるヴィルヘルミナが存在し、フリアグネに関してもすでに邂逅を果たしていたと言う。
「そっちについては悔しいがここは専門家たる君達にお任せするとしよう。
さて問題はそれだけではないな。そう、その紅世の王とやらに仕えているなどと言った”少佐”という男の話だ」
バギーを走らせながら情報交換をする内で、水前寺が食いついてきたのが悠二の出会った”少佐”と名乗る何者かであった。
確かに悠二としてもその存在は気になる。彼が何者で何を目論んでいるのか、考えなかったわけではない。
「君を前に主従関係を結んだ相手を裏切ると宣言したわけだ、不可解にもその少佐と言う男は。
だがしかし、そこに疑念が生まれる。なんの目的があって君にそれを教えたのだろうか。
この場合、その答えは君そのものだろう。君がフリアグネと従来敵対する存在であった。たったそれだけの話だ」
水前寺と言葉を交換しあいながら悠二は改めて考える。
事象を単純に捉え、できるだけシンプルに考えればその答えを導くのはそれほど難しくはない。
あの少佐という男はフリアグネの力を利用しつつも彼の敵を作り、ぶつけて……つまりは漁夫の利を得ようとしているのだろう。
しかし、それでは単純すぎるというのが悠二の考えで、水前寺もその点に関しては同意してくれた。
「得られた証言に偽りが混ざっていることも考えると、ここを突き詰めるにはまだ材料が足りないだろう。
少佐を名乗る男の目論見は不明。
だが、フリアグネという王と名乗るからには当然のようにプライドの高いそいつが部下を作った理由というのは想像できる。
これも難しくない問題だな。いや、その時はともかくとして今は情報がある。故に簡単な問題となった」
そう言われて驚き、悠二はまたその問題について考えを巡らせてみる。
以前は理由不明の前提として扱ったが、水前寺によれば今は解けるのだという。
その鍵は追加された情報。しかも水前寺が、誰もが知りうるもの――と、ここまで考えて悠二は答えに行き当たった。
「そう。”調整”と”抑制”だ。
あの人類最悪と名乗る男が放送でそう言ってたな。
疑っては始まらないので、まずは前提としてこれを置こう。
で、だ。君の証言にはこうもあった。”燐子が思っていたよりも弱かった”とね。
つまり強すぎるが故にこの世界より”異端”と判断された紅世の王は以前よりも弱体化している――」
――人間を頼るほどに。と、水前寺はそう断言した。
勿論、これも仮定の上の推論だが、そうなると色々と辻褄が合うことに悠二は気づく。
何よりあの少佐という男が裏切れると考えたからには、そこに最低限の勝算があってしかるべきなのだ。
もしこれが全くの制限を受けていないフリアグネとただの人間である少佐の間ならば、成立するはずがない。
あのプライドの高い王が一時とは言えど人間を部下に置く。この事実を説明するのにこんなに当てはまる解答はなかった。
そして、人類最悪の言う世界自体が行う調整と抑制。それを思い浮かべ悠二の思考は飛躍してゆく。
悠二はこの狭い世界の端全体から、なんらかの巨大な存在の力を感じ取っている。
それは、この世界を支配管理する何者かの力かと想像できたが、しかし発想を逆転させてみてはどうか。
『この世界自体が、お前達全員がそれなりに生きてゆけるようにと調整をしているというわけだ』
つまり、この世界の端という舞台そのものが”自在式”かそれに類するもので作られているのではないかという発想。
例えるなら、紅世の徒の一人である《愛染他》の作成した《揺りかごの園(グレイドル・ガーデン)》や、
最悪のマッドサイエンティストである《探耽求究》が発動させようとした大規模な《逆転印章(アンチシール)》などなど。
そういう種類のものであれば、世界全体に存在の力を感じながらもフレイムヘイズの気配が察知できない理由も説明できる。
ヴィルヘルミナが封絶を張れなかったという話も、”すでに封絶に類するものの中にいるから”だとも解釈すればいい。
もっとも、あくまでこれはひとつの《物語》からみた推論でしかない故に、こうだと決め付けることはできない。
しかし先に挙げたような仕掛けが世界全体に施されているのならば、あれらの事件の時と同じく解決できる可能性はある。
どちらにも共通するのは、”気づかない形で仕掛けが街中に配置されていた”だ。
もし、それがここで発見できたならば人類最悪に近づく大きな足がかりになるだろう。
一瞬でそこまでを閃き、事件解決への確かな感触に悠二はぐっと拳を固めた。
「いやしかし、これは随分と不公平な話だとは思わないかね?」
悠二が何かを思いついたように水前寺もそうだったのか、唐突にそんな問いをぶつけてきた。
つまり、この生き残りを目指すこの状況が、俯瞰視点からだとひとつのゲームに見える場合。
そこに配置された駒(我々)の強弱に偏りがありすぎるのではないかということだ。
「もっとも、先に述べたとおりある程度の是正はされているらしいが、しかしそれでもなお、だな。
フレイムヘイズやら超能力者やら曲絃糸?
なんだっていいが、我々普通人類たる面々からすれば、少なくとも腕っ節じゃ勝ち目ひとつない。
おれはこのバギーのおかげで辛うじて逃げ切れてはいるがね。しかし、そこ止まりなのもまた現実だ。
それに浅羽特派員にしても助けにいくつもりだが、そこで誰かを倒そうなんてそんなつもりは毛頭ない。逃げの一手だよ」
そんなことを水前寺は言い、これがバトルロワイアルゲームだとするならバランスがおかしいと言う。
「ああ、しかしこれは泣き言を言っているんじゃないぞ。彼我の実力差を冷静に検討した上での発言だ。
ともかくとして、我々が考えなくてはいけないのが何かというと……このバランスが”正しい”場合となる。
そうだろう? こんな”大実験”を開始しているんだ向こうさんは。となるとそこに間違いがあると疑う方がどうかしている」
水前寺は持論を捲くし立てるように並べてゆく。
つまり、この状況が企画立案者によって正しい状態なのであれば、それそのものが情報となりうるということだ。
ゲームだと言うのはひとつの例えにすぎない。では、これを正しいとした企画からの視点ならば何が浮かんでくるのか。
「単純な方程式だが、《参加者×企画の狙い=結果》と、まずはこう考えよう。
この場合、我々が得られる情報は第一に”参加者”の情報となるな。
別に被験者と置き換えてもよいが、それはともかくとして不完全ながらもそれは集まりつつある。
そしてもうひとつ得られる情報というのが、時とともに発生してゆく”結果”だ。
あの6時間ごとの放送だけではない。我々全員の一挙一動すらも状況が開始してから発生している結果なのだよ。
これらを方程式に代入してゆくことでついには我々は”企画の狙い”――真実を得られるというわけだ!」
だが! と、水前寺は発言を区切る。
「”結果”が出るということは、つまりそこに脱落者が発生していることをも同時に意味する。
極端なケースを持ち出せば、実際に最後の一人となるところまで進めれば企画の意図も完全に理解できるだろう。
あの人類最悪も言っていたな。最後の一人になればそこに《ディングエピローグ》とやらを見ると」
しかしそんなケースは認められないと水前寺は言う。聞いている悠二にしてもそれは同じだった。
なんらかの意味に起因する”結果”は常に解答に近く、明確な答えを我々にもたらす。
たった一回の放送にこれまでの事象を照らし合わせただけでも、様々な仮説が浮かび、その中から僅かな確信も得られた。
だが、それを待っているだけでは駄目なのだ。
気づいた時には手遅れに、……否、既に取り返しのつかないことは起きている。それを繰り返すことは決して看過できない。
ならば、どうするのか――?
「情報の精度を上げる」
「それが正解だ。坂井クン!」
つまりそうするしかない。取りこぼしをなくし、最低限の情報で、最短の思考をし、解答(エンド)へと辿りつく。
厳しい問題だが、そうするしかないし、当然のこととして彼らはそうするつもりしかなかった。
道の先に橋が見えてきた所で、水前寺はバギーのスピードを落としながら、これは余談になるがとひとつ疑問を呈す。
「水槽の例えであったが、
異能者ばかりになれば世界のバランスがそちらに傾き、彼らが十全な実力を発揮できるようになるというのはわかる。
ならば、その場合。おれのようなただの普通人がひとり残っていた場合どうなるのかね?
普段できないことができる者もいるという話だったが、ならばそうなった場合、”異端”と判断された者はどうなる?
まさかとは思うが、魔法や超能力に目覚める……そんなことがあるのだろうか……?」
しかし、その様な状態に陥ることを防ぐ為に今こうして動いているわけで、余談はやはり余談のままに終わる。
水前寺はハンドルを切って橋へと進み、進路を東から北へと変えて浅羽がいるであろう北東のエリアへとバギーを進めた。
【4】
そして、2人は何故か一軒の廃屋の中にいた。
しかし廃屋とは言っても、長年に渡り放棄され遂には朽ち果てたという類のものではない。
人が住めなくなった家屋という意味での廃屋で、廃墟未満ぎりぎりの所にある”できたて”の廃屋だった。
「……まさか、こんなところで死んでいるとはな。いや、殺されていたとは……か」
床の上で転がっているひとつの死体を見下ろし水前寺はそう呟く。
木屑や壁の破片がばら撒かれ埃でびっしりとコーティングされた廊下に、死体である彼は転がっていた。
零崎人識――殺人鬼であると言っていた少年だ。
神社から一人勝手に抜け出した彼はこんな場所で何者かによって殺され、息絶えていたのである。
「どうかね。周囲の様子は?」
硝子を踏む音を聞いて振り返り、水前寺は外の様子の調査に当てていた悠二へと成果の報告を要求する。
幸いにか不幸にか、悠二が首を振ったところを見るに目ぼしい手がかりは得られなかったらしい。
「そうか。
舞い上がった埃や残った熱気からして下手人はまだ近くにいるかと思ったが……行動が早いな」
水前寺は死体の脇にしゃがみこみ、服に染みこんだものや床に零れた血を観察する。
どちらもまだ鮮やかな赤色が濃く、乾いて固まったりもしていないことから、やはり殺害は直近のことだと推測された。
そもそもとして、2人がここに足を向けたのは病院へと向かう途中で背後に爆音を聞いたからだ。
車を止めて振り返れば微かではあるが青空の足元に煙が立つのも見えた。
荒事と関わりたくないのは正直な気持ちだが、そこに浅羽や他の知り合いがいるかもしれない。
何より、”結果”は貴重な情報なのだ。あらゆる意味で見逃す手はないと、水前寺はハンドルを大きく切った。
そして街中を右往左往することしばらく、飲食店が並ぶ一角に店舗側の敷地を爆砕された建物を見つけた。
ラーメン屋だったらしいが、今はその面影は全くと言ってない。
道路の反対側まで飛ばされた看板を見て、ようやくそうだったらしいとわかるぐらいの有様である。
ともかくとして、2人はしばらく様子を窺った後、その中へと踏み込んだ。
そして発見したのが零崎人識の死体だったのである。
「しかし、とんでもないなこれは……」
水前寺は死体を挟んで爆砕された店舗の反対側。辛うじて無事である住居の壁をさすりながら感嘆の息を漏らした。
その裏口まで通じる狭い廊下は、店舗ほどでないにしろ暴風が通り過ぎたかのように物が散乱しており、
彼が手を当てている壁の壁紙はいかなる事象の結果なのか、”しわくちゃ”になっていた。
「……説明を必要とする顔だな。よろしい、よく聞きたまえ。
まずはその廊下の端に転がっている筒状のもの。それが何だか君にはわかるかね?
そう。一度でもアクションものの海外映画を見たことがあれば御馴染みと言えるな、ロケット弾の発射装置だ。
種類や製造元。型番に使用された弾頭の種類などはこの際省こう。時間が惜しい。
では、ここで再び簡単な質問をしよう。このロケット弾と破壊されたラーメン屋。
これらの”情報”と”結果”を繋ぐといかなる”事実”がここに浮かび上がってくると思うかね。悠二クン?」
尋ね、水前寺は木っ端微塵となった店舗の方を見やる。
おそらくはロケット弾を撃った何者かも、”ここから”こんな風に向こうの方を見ていたに違いない。
「ふむ、言うまでもなかったな。ロケット弾を発射し善良なラーメン屋店主の城である店舗を破壊したわけだ。
問題はだな。見てみたまえ、この”高温で炙られてしわくちゃになった壁紙”を。
知っていたかね? ロケット弾とは発射と同時に後方にもバックブラストという高熱を放射するのだよ。
つまり、ロケット弾は外から撃ち込まれたのではなく。内から、この位置から撃ちこまれたということに他ならない!」
壁を強く叩き水前寺は続ける。
通常において、室内でロケット弾を使用するというのは完全にありえない行動であると。
先に述べたとおりに弾頭が発射される際にバックブラストも同時に発生するのだ。
狭い空間内で使用すればその高熱が空間内に満ち、発射と同時に射手が死亡してしまうことになる。
だが、結果としてここではそうはならなかった――と、水前寺は廊下の突き当たりにある勝手口を指差した。
「射手はバックブラストが逃げる通路を確保した上でこれを発射した。この意味がわかるかね?
つまりは殺人鬼に追われて”やぶれかぶれでロケット弾を撃ったわけではない”ということなのだよ」
とんでもない人間がいるものだと水前寺は再び言った。
まるで海外映画の中の傭兵や殺し屋。ファイクションの中でしか存在しないような者がまたいると証明されたのである。
短くはない時間を過ごし水前寺と悠二の2人は”元”ラーメン屋から外へと出る。
ここであった収穫と言えば零崎人識の死亡とその顛末に関する予測。そこから繋がる殺害者の実力程度であった。
当然と言うべきか人識の荷物は存在せず、本来の目的である浅羽の情報も得られてはいない。
労力は兎も角として時間は惜しい。なので駐車場に止めておいたバギーに戻ろうとして2人はそれに気づいた。
「あれは誰だかわかるかね?」
水前寺は隣の悠二に尋ね、しかし悠二は知らないと答える。
ここに来て彼が出会ったのは式という女性に、少佐という男性。他にはシズという男の話をキョンから聞いていたが、
バギーの傍にいる人物とはそのどれとも異なる。ましてや、以前から知るシャナやフリアグネということもありえない。
尋ねた水前寺にしても、尋ねたからにはやはりその人物に心当たりはなかった。
バギーの前に、フードを目深に被ったレインコート姿の何者かが、じっと佇んでいた。
【5】
街中で偶然発見したバギーを見て、シズはいささか以上に驚いていた。
記憶の中の姿よりかは多少痛んでいるような気がするものの、紛れもなくそれは自分が愛用していたバギーだったからだ。
「陸が修理に出したと言っていたな」
地面に片膝をついて車体の裏を覗き込み、それから車体の後ろに回ってエンジンとその他の機械部品を見てみる。
どうやら陸が言っていたことは本当らしく、いくつかの部品が知らないものと交換されていることをシズは確認した。
「これは勝手に乗っていっていいものかな……?」
シズは少しだけ悩む。
目の前にあるバギーは紛れもなく自分の物だと言えるが、しかし今はそうでない可能性もある。
これがもし、キョンという少年に支給された陸のように、他の何者かに支給されたものだとすれば、
その者はいわゆる善意の第三者というものに当てはまることになる。。
自身からバギーを盗んだのが人類最悪とするならば、事情を知らずに配られた者に責任を問うことはできない。
こんな状況で、そんなお人好しなことにシズは頭を悩ませる。
割り切りのいい性格ではあるし、人の命を奪うことに躊躇う人間でもないが、根は善人なのであった。
「今の持ち主が来たら、事情を話して譲ってもらうか……、いや――」
――殺せばいいのか。と、シズは今更ながらに気づいた。
どうせ殺すのだ。勝手に持って行くのは気が引けるが、ならば武力でもって交渉しその結果として獲得すればいい。
もはやそれは、旅中で何度も撃退した野盗となんら変わらない姿だが、それもまた今更だと、シズは決心する。
そしてちょうどその時、遠くから歩いてくる2人の少年の姿がシズの視界の中に入ってきた。
シズは被ったフードが作る影の中から、向かってくる2人組を静かに観察する。
背の高い少年と、それなりの背の少年。一見、どちらも平凡で戦いを知らない者のように見えるが、しかし油断はしない。
キョンというただの少年に出し抜かれたこともまだ記憶に新しい。警戒をしすぎるにこしたことはないのだ。
足取りを見て、背の高い方はただの素人だとシズは判断する。
逆にそれなりの背の方はただの素人ではないと判断した。いくらかは訓練を受けている者の身のこなしだ。
そして、それなりの背の方が背の高い方を止めて、一人で前へと出てくるのを見て、シズは刀の柄に軽く手を置いた。
「これは君たちの車かい?」
後5メートルほどというところでシズは少年に声をかける。
不意を打たなかったのは車を”譲り受ける”に当たっての最低限の礼儀でもあったが、半分は本能的な警戒心からだった。
迂闊に飛び込めば予期せぬ反撃を受けるかもしれないと、シズの中の経験がそう警告を告げていたのである。
声をかけられた少年はその場で止まっている。果たしてどのような答えが返ってくるのか。それはとても意外なものであった。
「いいえ、――”シズさんのもの”ですよ!」
はっきりとした返答にシズは目を見開いた。
どうして目の前の少年は自分のことを知っていて、このバギーが自分の物だと知っているのか。
戦いの中では全く関係ないことなのに一瞬それを考えてしまって、その一瞬の内に少年は行動を終えていた。
ゴン――と、あまり広くない駐車場の中に重い音が響き渡る。
少年が身の丈よりも遥かに長い鉄柱を取り出し、バトンのように軽々と振ってアスファルトの上に突き立てていた。
取り返しのつかない失敗だと、シズは己を叱責する。
相手は得物を取り出していて、しかしこちらはその機に刀を抜くことができなかった。
使い慣れない長刀とあってはここからの抜き打ちも難しく、完全に機先を制された状態と言える。
「……どうして俺がシズだとわかったのかな?」
じりと足幅を広げつつシズは目の前の少年に尋ねる。
時間稼ぎもあるが、確認もしておかなくてはならない。もし自分の情報がばら撒かれているのだとすればそれはことだ。
「いいえ、本当はわかりませんでした。でも、その車の説明書に書いてあったんですよ《シズのバギー》だって」
ハッ――と息を吐いてシズは笑った。自分はかまをかけられてそれにまんまと引っかかってしまったのだ。
「名簿の中に《シズ》って名前がありましたからね。だったらその人の物なのだろうと思いました。それに――」
――ここには他にもいっぱい車があるじゃないですか。と少年は駐車場を見渡してそう言った。
「それなのに、一番奥に止めてあったバギーをしげしげと眺めている。まるで”知っている物”を見るかのようにです。
そして、僕達を見てこう思いましたよね。その刀で斬り殺して車を奪ってしまおう……って。
シズさん。あなたの話はキョンから聞いています。アリソンさんを殺し、メリッサさんも殺した疑いがある。
身の丈ほどもある長刀を凶器に使用したとも聞いていました。
なので、あなたが”シズ”である可能性もあると思い、かまをかけさせてもらったんですよ」
シズは無言で頷き、刀の柄を強く握った。
「遅れましたが自己紹介をします。
僕の名前は坂井悠二。そして後ろにいるのが水前寺邦博。
それで、僕からあなたにひとつ”提案”があります」
シズは半身をずらし油断なく構えながらも、いぶかしむ表情をその顔に浮かべた。
ここまで知っていてどのような提案があるというのだろうか。
見逃してくれというのなら今更過ぎる。逆もそうだ。そもそも正体の見当がついているなら近づかなければよかっただけだ。
では、一体どんな? それは、シズからすればとても意外な、思いも寄らない”提案”だった。
「物々交換をしませんか?」
少年――坂井悠二は、シズに対しそんなことを、優しい表情を浮かべ提案したのだった。
【6】
追悼兼埋めネタ
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