2 :
創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:24:57 ID:AFVO2rzC
【このスレの立った経緯】
某したらばの「パロロワ妄想スレ」にて、妖怪ロワの話題が盛り上がる
→一人が突然創発板に妖怪バトルロワイヤルを立てる
【あとの流れ】
人間との絡みや、妖怪vs人間あるいは妖怪同士の戦争という
スレ立て主の思惑とは違う流れができ
→「妖怪作品をクロスオーバーさせた二次創作シェアードワールド」にしよう
もう妖怪大戦争だ! という流れに
悪魔、吸血鬼など西洋妖怪の扱いについては
妖怪がかかわる作品に登場する悪魔などは有りの方向
伝承妖怪を扱うにあたって一次創作は有り
妖怪がかぶったらどうするのか?という話題になり
例 ぬらりひょん@伝承、ゲゲゲの鬼太郎、ぬらりひょんの孫 ほか
→早いもん勝ちじゃね? 二人以上いてもいいんじゃね? 等の意見が出る
いくつかの投下のあと、戦争じゃなくても妖怪のSSならよくね?
シェアードだと整合性とるの難しい、あとの人に気を遣うし
もうパラレルでいいんじゃね?
という流れに
クロス・シェアードも自由
投下の作法としては、投下したあとなるべく出典を明らかにしましょう
例 河童@伝承妖怪
鬼太郎@ゲゲゲの鬼太郎
>>1 Z…じゃなくて乙!
お礼に
>>1には水子を三体ほどくれてやろう。サービスで貞子もセットだ!
>>1 乙。でかした
お礼に京極夏彦の単行本をフルセットでやろう。筋トレにでも使ってくれい
一応即死回避したほうがいいかな
555 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2008/10/07(火) 22:16:10 ID:4P6nLf4s
諸君 私は妖怪が好きだ
悪四郎が好きだ 桂男が好きだ 逆柱が好きだ たんころりんが好きだ 納戸婆が好きだ
白蔵主が好きだ 枕返しが好きだ 夜行さんが好きだ 雷獣が好きだ 輪入道が好きだ
墓地で 辻で 廃墟で 草地で 雪山で 河原で 海上で 空中で 田沼で 戦場地で
この地上に現われる ありとあらゆる妖怪が大好きだ
垣根を囲んだ 家鳴りの一斉行動が 轟音と共に屋敷を揺らすのが好きだ
空中高く下げられたヤカンヅルが 旅人を驚かす時など 心がおどる
ひらひらと伸びあがる 板鬼が 侍衆を押しつぶすのが好きだ
悲鳴を上げて 以津真伝が 人間を追い回す時など 胸がすくような気持ちだった
足並みを揃えた 無耳豚の集団が 人の股をくぐるのが好きだ
恐慌状態の参列者が すでに飛び去った火車を 声をあげて指差している様など 感動すら覚える
縊れ鬼が 町民を門の外に 吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ船乗り達が 船幽霊のかかげる柄杓と共に ざぶざぶと沈んでいくのも最高だ
哀れな女房が 夜中に恐る恐る片車輪を一目見た隙に 子供を攫っていく時など 絶頂すら覚える
べとべとさんに あとをつけられるのが好きだ
西洋の大妖怪だったバックベアード様が ロリコン呼ばわりされる様は とてもとても悲しいものだ
共潜に出会って 海女が帰ってこなくなるのが好きだ
さとりに心をよまれ 顔を白黒させられるのは 屈辱の極みだ
諸君 私は戦争を 百鬼夜行の様な戦争を望んでいる
諸君 このスレをROMっている同士諸君 君達は一体 何を望んでいる?
更なる戦争を望むか? 情け容赦のない 糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし 三千世界の鴉を殺す 嵐の様な闘争を望むか?
石燕!!八雲!!しげる!!
よろしい ならば戦争だ
我々は推敲を重ねて 今まさに投下せんととするSSだ
だが この過疎板で 二週間もの間 堪え続けて来た我々に ただの戦争ではもはや足りない!!
大戦争を!! 一心不乱の妖怪大戦争を!!
前前スレよりでした
11 :
創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 13:48:27 ID:yMd2MaUI
GJ
では投下してみます
海の上を吹く風が、甲板にいる女の派手な色をした髪を乱す。それは炎の揺らめきにも似た。
美神令子は、肩、足を露出した姿をして、均整のとれた女性らしい体付きの美女だ。
海上を進む中型の船を、波が上下させる。
魔族・アシュタロス一派が東京湾南東沖で活動しているという情報を受け、美神は仲間
をかき集めた。
美神除霊事務所の横島、おキヌのほか、犬夜叉、かごめに加え、美神の時間移動能力に
より呼ばれた弥勒、珊瑚、七宝。
さらに裏会・夜行の副長・刃鳥以下巻緒、武光、轟、斐葉、志々尾、影宮閃らによる
合同作戦だ。
能力者たちを乗せた船は、海上を滑るように移動した。
「犬夜叉ーっ! てめーはやっぱりそうだったのかーっ!」
突然、横島が犬夜叉に飛びかかる。頭にバンダナ、ジージャンジーパンの、元気が有り
余りすぎたような若者だ。
「あん? なんだ?」
銀髪を揺らして、犬夜叉が振り向く。頭に三角の耳を立てて、赤い衣をまとう犬夜叉は
半妖だが、見た目は人間の男とあまり変わらない。
「俺でさえ中学生には遠慮してるとゆーのに! おまえ少なくとも五十歳以上のジジイ
やろーがっ!
この淫乱ロリコンスケベ犬妖怪! 退治して保健所に送って殺処分にしたるーっ!」
横島は右手を変質させ、霊波刀を造る。犬夜叉の拳が飛ぶと、横島は甲板の上を転がった。
「誰だ、くだらねーことベラベラしゃべりやがったのは」
七宝が背を向けて、何やら口を動かしている。
「この、ちょこれえとというものは本当にうまいのう。おら、この世界にずっといたいぞ」
七宝は幼い子供の姿をしているが、狐の妖怪らしく大きな尾を生やして、足も狐の足だ。
「おまえか!」
口のまわりにチョコを付けた七宝が、弁明する。
「な、なんじゃ。おら、嘘は言うとらんぞ」
「待ちやがれ」
追われる七宝を、かごめが抱き上げた。
「犬夜叉、七宝ちゃんをいじめないでよ」
日暮かごめは中学生らしくセーラー服を着て、細い体、長い髪の少女だ。一見平凡な
女の子といったようだが、黒い瞳には芯の強さがうかがえる。
「だってそいつが……」
「だいたい、あんたが悪いんじゃない」
「な、何……」
「そうじゃそうじゃ、おまえがはっきりせんからいかんのじゃ」
かごめに抱かれた七宝が舌を出す。
「そうよねえ」
「お、おまえ……」
桔梗のことは一応納得してくれたのではないのか、と言いたかったが、負い目は自分に
あるので犬夜叉は口ごもる。
「チクショー犬のくせに! 彼女が二人もいるだとー! チクショーチクショー、なんか
とってもチクショー! モテるヤローはみんな死んでしまえー!」
横島がワラ人形に釘を打って音を響かせる。
犬夜叉は胸を押さえて苦しんだ。
「ぎゃーっ、いてえ!」
美神の長い足がしなって、横島の頭に命中する。
「おまえは進歩せんのかー!」
「進歩しとるもんね! ちゃんと呪いが効くようになってるぞー!」
「よけー悪いわ!」
「人間様の俺に彼女がいないとゆーのに、あのロリコン犬ジジイが二人も彼女いるって……」
横島は泣きながら不平を訴える。
あきれてため息つくと、美神は弟子に教えた。
「あんたバカねー、妖怪には妖怪年齢があるのよ。犬夜叉は十五歳くらいよ」
「犬は人間で言うと何才、っていいますもんね」
おキヌが付け加える。巫女装束の白い衣と赤い袴が、海の青によく映えた。
「それは少し違うんじゃねえか……」
犬夜叉は複雑そうな顔をした。
裏会・夜行の副長、刃鳥が美神に歩み寄った。
「頭領によろしく伝えてくれと言われました」
刃鳥の線の細い整った顔立ちは、よくできた雪像を思わせる。黒い着物が、白い顔を
いっそう引き立たせた。
頭領こそ不在なものの、巻緒、轟、武光、斐葉、志々尾、影宮、箱田、蜈蚣と、夜行は今回
の作戦にかなりの人材を提供してきた。
これだけの面子には、美神も満足していた。
「そのうち頭領さんにも会いたいものね」
「本当に来たがってたんですが、別の用件と重なりまして」
「刃鳥さーん! 今日この後ヒマ? ヒマ? 仕事何時に終わるの?」
横島が、鰹節を与えられた猫とばかりにはしゃぐ。
「作戦が終わったら頭領に報告しないと……」
「いいじゃんそんなの、それより俺と海辺デートでも」
「もーっ、横島さん! ナンパしないでください!」
復活したおキヌは、幽霊のときより若干女らしい感情がある。
横島は、おキヌにはほとんどセクハラしない。横島なりの仁義があるようだが、他人には
線引きがよくわからない。
「この馬鹿は気にしないで」
美神は愛想笑いを振りまきつつ、横島の首根っ子つかみ、腹に膝蹴りを入れる。
「ゲホァ!」と、うめいて横島はうずくまった。
「大丈夫なの、あいつは」
刃鳥が武光にきいた。武光のメガネが光る。
「いやあ、あれで意外とやるときゃやるんですよ」
「やれやれ、しょうのない奴だ。こんな馬鹿はほうっておいて」
弥勒が刃鳥の手を取り、目を見つめる。
「私の子を産んでくださらんか」
「他人がやるとムカつくー!」
横島が輝く霊波刀で、弥勒の頭を打つ。
「てめえ、何しやがる!」
弥勒の錫杖が横島を殴り倒す。
「ギャーッ!」
「法師様もいいかげんにしなよ」
珊瑚が弥勒を責める。瞬時に横島はケガを治し、近寄った。
「珊瑚ちゃん、この不良坊主を退治してくれーっ! あと、しりさわらせてくれーっ!」
などと抱きつこうとする横島を珊瑚の拳が打ち付け、弥勒が蹴り上げ、美神が神通棍の
柄で突く。
「もう、横島さんったら……」
おキヌは恥ずかしがって顔を赤くした。
「まったく、どうしようもねえバカだな、横島の野郎は」
あきれ返って犬夜叉は首を振る。
「うーん……」
横島をただの馬鹿だと思いたくない気持ちが、かごめにはあった。美神が弟子にして
いるのだし、何よりおキヌが好きな人なので肩を持ちたい。
性格的にはまったく違うが、おキヌに感情移入している部分が、かごめにはある。
とりあえずここまで まだ話が始まってないけど
また長くなりそうで申し訳ない……
ふふふっ…まさか俺が乙りに来るなどと
>>1も
>>16も予想だにしなかったろう…
おおぉぉおおおつううぅぅぅぅぅっ!!
夜行の影宮閃は、どこか猫を思わせる中性的な見た目の少年だ。戦闘班に属してはいる
が、諜報入りを希望している。
今回、閃は秘密の任務を帯びていた。犬夜叉たちや美神たちの分析だ。頭領から直々の
命だった。
犬夜叉や美神たちと、もしかしたら戦うこともあるかもしれないため、と閃はきいている。
妖混じりの閃は感覚にすぐれていて、妖気や霊力を測れる。
(一番は犬夜叉かな……。次点で美神、珊瑚。弥勒は風穴ってのがあるらしい……。この辺
は夜行でも上のほうに入るかな。かごめ、おキヌ、七宝……あいつらは非戦闘員か……)
気づかれないように閃はさぐる。力を高めれば人の心さえ読めるが、能力者にはやらない。
心を読んでいることが、ばれる恐れがあるからだ。
(横島って奴はどうなんだろ? 文珠が便利なだけで、戦ったら俺より弱いんじゃねえの?
馬鹿そうだし……)
美神、刃鳥、犬夜叉たちは作戦を確認し合った。魔族は海に受信機を作り、月の魔力を
受信・増幅し海底のどこかに送信するつもりらしい。
もうすぐ海上で皆既日食になる。すでに始まっていて、日は二割程度欠けていた。
月は太古から地球に魔力を与えてきた。月と太陽とのバランスの上に、地球上の霊的均衡
は成り立つ。
皆既日食は魔力バランスの崩れが起きる。日が完全に月に隠れた地点では、月の魔力が
最大になる。
「魔族は海底の何に魔力を送る気かな」
戦闘班主任の巻緒が、腕組みしてつぶやいた。
「たぶん兵器みたいなものじゃないの」
刃鳥の予想に美神はうなずく。
「まあそんなとこでしょうね。ろくなもんじゃないことは確かだわ。人類を滅ぼすような
ものかも……」
船上に緊張が走る。
「それでも私だけは生き残るけど」
と言う美神に、おいおいと周囲があきれる。
そんな空気をよそに、美神は声をやや低くした。
「情報によると、今度の敵はメドーサよ。私たちは今まで何度か戦ってきたわ」
「あの年増ヘビ女……」
深刻な表情で横島がつぶやく。犬夜叉がきいた。
「強えのか」
「ああ……。奴はなんといってもちちがでかい! しかし、しょせん年増は年増。刃鳥さんと
珊瑚ちゃんの若さと健康美があれば、恐れることは……」
「何の勝負よ!」
美神の拳がうなり、横島の鼻ヅラにヒットする。鼻血を飛散させて、横島は甲板に倒れた。
「バカはほっといて。メドーサは超加速って能力を使うわ」
超加速は時間の流れを遅くし、その中で動くという技だ。
「限られた神族と魔族しか使えないの。でも、神族の武具を付けて文珠を複数同時に使えば、
私たちも少しの間超加速できるわ」
横島はこの日のために、せっせと文珠二十六個を造ってきた。
横島の霊力は煩悩、スケベ心が源だ。文珠を造るため日夜煩悩を高めた結果、今日の横島
はいつにも増して煩悩全開であった。
かごめが残念そうにした。
「そんな便利なものだったんだ。家において来ちゃった」
「え? かごめちゃん持ってるの」
「はい、マタムネって猫にもらいました。美神さんが頼んだんじゃないんですか?」
美神は不思議そうな顔をする。美神と横島は、前世に関する記憶を消されている。
千年前にタイムスリップしたときのことをよく覚えていない。
妙な間のあと、気を取り直し美神は説明を続けた。
「超加速状態では、接近戦しかできないの。だから接近戦に強い人に武具と文珠を持って
もらうわ。私と犬夜叉と、夜行から一人お願い」
「じゃあ、拙者が」
メガネ侍・武光が手を挙げる。刃鳥は志々尾に目をやった。
「志々尾、頼むわ」
「はい」
志々尾はとげとげしい短髪、鋭い目の少年で、忍者のような黒装束に身を包む。妖混じり
で強靱な肉体を持つ。
武光はがっくり肩を落とした。彼はこうした役回りが多い。
「うう……だが、いつか拙者にも見せ場が来るに違いない」
竜の鱗を付けたヘアバンド、小手をいくつか、美神はケースから出す。美神はヘアバンド
を、犬夜叉、志々尾はそれぞれ小手をつけた。
紙袋をかぶった箱田が、前方を指差した。
「ずっと向こうに大きな皿みたいな受信機があるヨ。あっ、空から妖怪の群れが来るヨ」
かぶった紙袋のくりぬかれた部分から、箱田ははるか遠くを視覚におさめる。
箱田は神族のヒャクメから神眼を借りている。箱田の手にある神眼は、見た目には眼球
のデザインをしたイヤリングだが、千里眼をより強化する。
横島はうらやましそうにした。
「俺ならもっと違うものを見るのになー」
「やかましい」
美神がつっこむ。
いざ出陣、と武光は呪力で巨大な刀を生成してかまえ、轟は金棒を手にする。それぞれ
が得物をとった。
じゃあ、と箱田が下がる。箱田は戦士ではない。俺も、と横島も下がった。
「あんたは戦うのよ!」
美神が横島の襟首をつかんで引く。
「ええっ? 俺はセクハラ要員じゃないんすか?」
「そんな要員あるかー!」
美神が怒鳴り付けると、横島はもがき、手で宙をかいた。
「いやだーっ、俺は死にたくなーい!」
横島を推した武光は、不安そうに眉を下げた。
「しっかりしてくれんと拙者の立場が……」
やがてたくさんの人魚が空を飛んできた。船に影を落とす、女の形をして下半身にヒレ
をつけた人魚たち。
流れるように空を泳ぐ人魚は、優雅に飛び回る。幻想的な光景でもあった。
刃鳥が上着を脱ぎ、左腕をむき出しにした。白く細い腕には黒い模様が描かれている。
模様が呪力を具現化し、黒い羽を作って空へと放った。狙撃用の能力「黒羽」だ。
大気を突き進む黒羽は、燕のようにすばやく飛ぶ。空の人魚たちが編隊を乱した。
「うおーっ、二の腕ーっ!」
横島が刃鳥の腕目がけて飛び付く。
「わっ、ちょっと」
黒羽は狙いを外して、ところかまわず発射された。船のへりが破壊される。
武光や轟に当たりそうになって、船上は大騒ぎになった。
「このドアホー!」
美神の神通棍の柄が、横島の頭を強く突く。
「かんにんやー! しかたなかったんやー! あの二の腕が善良な俺を惑わすんやー!
恐ろしい、魔性の二の腕やー!」
「魔性はおまえだ!」
美神がヒールで横島を踏み付ける。などとやっている間に、人魚は接近して上空を旋回
した。
とりあえずここまで
いまさら日食ネタ……
原作では月へ行くんだけどこのスレ的にそぐわないと思ったので海にしました
箱田が船の後方を見て、仲間たちに知らせる。
「海の中にもいるヨ。近いヨ」
さすがに海中の敵は発見が遅れた。
重い衝撃の直後、船が左右に大きく揺らされる。船員たちはへりにつかまった。
閃の体が浮いて、放物線を描き船の外へと落ちていく。
「わーっ!」
水しぶきが上がり、閃の姿が海に消えた。浮かんで出る閃の顔は、髪を張りつかせている。
空を舞う人魚たちは、閃を狙っているらしい。
「斐葉、つるを伸ばして助けろよ」
轟が閃を指さして言った。ロングコートの斐葉は、腕を組んで黙り込む。
波をかぶりつつ、閃が手を振る。閃はわざと落ちてみて、犬夜叉たちがどう助けるか
見てみるつもりだ。
はじめからそのつもりではなかったが、落ちそうになったとき閃はとっさに思いつき、
あえて海に落ちた。
斐葉は諜報に所属するので、狙いがわかる。犬夜叉、美神たちを分析することは戦闘班
には伝わっていない任務だ。
「俺の今回の仕事は、志々尾が暴走しないための監視だ。影宮も夜行だし、自分でなんとか
するだろ」
斐葉はそっけない態度でつっ立っていた。
「そ、そんな! あんまりじゃ……」
かたわらのおキヌが、斐葉の冷血ともとれる態度に驚く。
「もちろん、おまえらが助けるというなら構わないし止めない。いちおう言っとくが幽体
離脱しても、人間を海から引き上げるほどの力は生霊にはないぞ」
仕事は仕事、と斐葉は割り切れる人間だ。冷たい思われることは慣れているので、彼は
何とも思わなかった。
輸送班の蜈蚣に、横島がつかみかかるようにする。
「蜈蚣! 『足』をくれ!」
個人用の足は有料だが、閃を助けるためなら、と蜈蚣は口を覆う布を引き下げた。
蜈蚣の口から吐かれる黒いものから、ムカデのような『足』が生成される。
『足』にさっそうと立ち、横島は飛んでいく。下には行かず、上昇して人魚に近づいた。
「うーん、人魚とはいえ勉強になるなーっ」
人魚のつき出た胸、くびれた腰などを観察する横島。
だあーっ、と甲板の一同がコケる。
波にもまれる海の閃が、横島を責めた。
「俺を助けるんじゃねーのかよ!」
「ヤローがどーなろーと知ったこっちゃねーよ!」
空から横島がやり返した。
「横島はすごいのう。おら、あいつが男か女かわからんかったぞ」
船上の七宝は、横島の識別能力に感心した。弥勒が不敵に笑む。
「あの程度がわからないとは……まだまだですな」
「影宮に女みたいとか言うなよ。あいつ切れるから」
やりとりをきいていた巻緒が、教えた。
「そうなんだ……それより、助けなきゃ」
かごめが話を戻すと、珊瑚が大きくなった雲母(きらら)にまたがった。雲母は猫又で、
普段は子猫のようだが珊瑚の意志で馬ほどにもなり、足から火を発する。
「私が行くよ」
雲母に乗る珊瑚が波の上を飛ぶ。
かたや横島は空飛ぶ人魚に近づき、手を伸ばす。
「やはりこの手で触ってみなければ、俺の知的探求心冒険心は満たされん!」
人魚のヒレは鋭利な刃になっていた。空を切って横島へとヒレが襲いかかる。
「ぎゃーっ!」
海から救い出され、ずぶ濡れの閃は雲母の背、珊瑚の後ろにまたがる。
「妖気を捕捉した、あの辺に妖怪がいるぞ」
ちょうど閃の指がさした先に、横島が落ちていく。
「あのバカ……」
あきれて頭を振る珊瑚。海面に打ち付けられ、横島はそのまま消えていった。
「捕まったヨ」
箱田が少ししめった紙袋の中から伝える。
海から横島を捕らえた何かが飛び出し、甲板に上がった。
和服を着た、長い髪、白い顔の女が全身から水滴を落として、横島の首に腕をかけている。
「わーん、助けてくれー! 死にたくなーい!」
妖怪の腕から逃れようと、横島はあがく。
「メドーサか?」
犬夜叉が鉄砕牙を構えつつ、美神にきいた。神通棍から光の鞭を出す美神が、首を振る。
「ちがうわ、別の妖怪よ。下っぱね」
海藻みたいな髪を額に貼りつけた濡れ女は、妖気を伝わらせて威嚇した。
「私は妖怪濡れ女。メドーサ様に力を与えていただいた。ここから先には行かせないよ」
捕まった横島は、手に文珠をつまむ。
「これは刃鳥さんに使う予定だった文珠だけど、しょうがない!」
「私?」
刃鳥がいぶかしげな目をする。
横島が濡れ女の腹に押しつけると、「恋」の字が輝いた。濡れ女の瞳ハートマークに
なってほおは赤らみ、表情はまさに恋する女といったよう。
「あたしのダーリン!」
濡れ女は、横島を濡れた腕で抱き締める。
鉄面皮の斐葉も眉間にしわを寄せた。
「あの野郎、副長に……」
刃鳥は青ざめて身ぶるいする。
「武光……」
「す、すみません、メガネがくもっていたようで……あいつはただのバカだったようです」
ここにいたっては、武光も認めるしかなかった。
「横島さんってサイテー!」
ついにおキヌも横島を軽蔑した。
濡れ女にまとわりつかれながら、横島は訴える。
「うわーん、おキヌちゃんまで俺をそんな汚いものを見るような目で見ないでくれーっ!」
「せっかく記憶を取り戻したおキヌちゃんに、もう軽蔑されてる横島さんって……」
やはり横島はただのバカなのだ、とかごめは自らに言いきかせた。
「横島ぁ……あんたは貴重な文珠を!」
美神の怒りが頂点に達し、神通棍から強い光がうねった。横島はあわてて弁解する。
「い、いえ、美神さん、これは高度に戦略的な……」
「やかましー!」
光の筋が横島を狙い、甲板を打つ。船が傾き、船員たちが転げ回った。
「この外道、今日こそは息の根止めたるーっ!」
左右前後に揺れる船、犬夜叉ははだしでふんばり、大きな刀を支えにした。
「おい、横島はともかく船が沈んじまうぞ」
「ダーリンに何すんのさーっ!」
濡れ女が怒気を強め、美神をにらみつける。
「黙れ、腐れ妖怪! おまえのダーリンと心中させてやる!」
頭に血がのぼった美神は、もはやメドーサのことも忘却し、ただ横島を殺すことしか
考えにない。
美神を止められるのは、ただ一人。
「おキヌちゃん、美神さんを止めて!」
白い袖を引くかごめの頼みに、おキヌはそっぽむく。
「知りません!」
濡れ女がその身から水分を発散させ、周囲を湿気で満たした。
「こうしてやるわ」
濃い霧があたりを包み込む。
船上は、人影が動くばかりで、誰が誰かを判別できない。
「これで空中人魚も見えないから攻めてこれないし、メドーサの超加速も使えないのよ!」
濡れ女が教えると、美神はやや冷静さを取り戻した。
「そうか、超加速したら空気抵抗もかなり強くなるから、霧が濃ければ動けなくなる……」
「来るヨ」
妖気を帯びた霧に神眼をやや鈍らせながらも、箱田が知らせた。
閃も珊瑚の後ろで、ただならぬ気配を感じ取る。
「これは……すげー妖気が近づいてる!」
とりあえずここまで 少し間があいてすまんね
人魚は空中人魚スレを 濡れ女は濡れ女スレを意識している
パラレル的なものとして
出典を書かないといかんね 次までには用意します
強大な妖気の主は高速で接近すると、船首に降り立った。
「メドーサ……!」
美神は船首の人影に向かい、注意深く構える。
「よう、今度は容赦しないよ、美神。こっちもあとがないからね」
霧の中で目を光らせ、二又の槍を立てるメドーサの迫力はすさまじい。
「てめえがメドーサって野郎か」
犬夜叉の異常なほど大きな鉄砕牙が、メドーサに狙いをつける。
「久しぶりだね、犬夜叉」
「俺を知ってるのか?」
「ああ、五百年ぐらい前かねえ、龍骨精って奴をけしかけてやったよ」
「あれはおまえだったのか!」
「犬夜叉、おまえも半分は妖怪だ。こんなゴミどもとつき合ってどうする? 私ならおまえ
を完全な妖怪にしてやれるよ」
メドーサの誘いを犬夜叉は強く拒む。
「おまえの助けなんかいるかよ!」
横島が濃霧の向こうを指さし、高らかに言い放つ。
「犬夜叉を逆ナンしても無駄だぞ、オバハン! なぜなら犬夜叉はロリコン貧乳好きだから
なーっ!」
「うるさい、このアホ!」
美神は横島を黙らせようとする。
かごめはいきどおって、小さな肩をふるわせた。
「そ、そりゃ、美神さんには負けるけど……」
「じゃあまずおまえから死にな!」
メドーサの槍がすばやく霧を割り、横島へと飛びかかった。あまりの速さに誰も止められ
ない。
「ぐああっ……!」
体を槍に貫かれ、濡れ女は肉体を崩していく。
「クズ妖怪が……せっかく魔改造してやってもクズはクズか」
霧が急速に晴れていく。
メドーサが姿をあらわにした。潮風に乱れる長い髪、人間のような姿だが、蛇のような目
とみなぎる妖気が、メドーサが妖怪であることの証だ。
横島はとっさに文珠を取た。「蘇」の字を光らせる。
破壊され消えゆく濡れ女の体が、再生されていった。
「た、助けてくれたの……?」
命をとりとめた濡れ女が、横島を見つめる。
「あんたは何でそうポンポン文珠を使っちゃうのよ!」
美神に高い声をぶつけられ、横島はちぢこまる。
「だ、だって、ほっとけないじゃないっすか!」
一度体を破壊され再生した濡れ女は、メドーサからの洗脳を解かれ、「恋」の効果から
も解放された。
「た、助けてくれなんて頼んでないんだからね!」
捨てゼリフを吐くと、濡れ女は船の外へと飛び、海に落ちていった。
「さあ、さっさと終わらせてやるよ」
メドーサが霊力を高める。超加速状態に入ると、風も波も静止し、人間たちも彫像の
ように動きを止めた。
弥勒が右手の数珠を取ろうとしたまま、止まっている。
「そいつを使わせるか!」
メドーサが二又の槍を弥勒に向けた。光の線がしなって、槍を打つ。
「何?」
蛇のような目が、美神の神通棍をとらえた。
「ガキの使いじゃあるまいし、超加速ぐらいできなくてどうするのよ」
「貴様も超加速だと……」
気配を感じ、とっさにメドーサは槍を振る。鉄砕牙が打ち払われて火花を散らした。
さらに志々尾が、獣のような黒く変質した手で爪を走らせる。
メドーサは槍の柄で爪を受けた。
「おまえらもか!」
「まーな」
犬夜叉は刀を構え直し、メドーサのすきをうかがう。
押しやられた志々尾は低い体勢をした。身構える志々尾は、まさに野獣のよう。
戦闘開始、とばかりに美神がたんかを切る。
「メドーサ! 極楽に行かせてあげるわ!」
「極楽か……ぞっとしないねえ」
「食らいやがれ!」
鉄砕牙から、強力な妖気の風が生まれた。
だが、風は空中にとどまり、ゆっくりとしか進まない。
「あ、あれ……?」
「だから飛び道具は使えないって言ったでしょーっ!」
美神は神通棍を振り上げつつ、犬夜叉に怒鳴りつける。
「う、うるせえな、そんならこいつだ」
尻を叩かれたように、犬夜叉は刀を振るった。
「ふん、慣れないことするからだよ!」
メドーサの槍は緩急あって変幻自在、三人の攻撃をものともせずに打ち、払う。
やはり、美神たちは超加速状態に慣れていない。メドーサに比べると、戦闘技術に数段の
差があった。
志々尾の鋭い爪を、槍の柄が防ぐ。
「妖混じりか。中途半端な奴ばかり集めたもんだね。どうだい、私の部下になって完全な
妖怪になってみないかい?」
志々尾はきこえていないかのように、黙って爪を振るう。
「人間どもはおまえを受け入れるか? 用がなくなりゃ捨てられるんじゃないのかい」
志々尾は暴走して姉を傷つけ、裏会・夜行に預けられた、という過去がある。
「……黙れ!」
爪が迷いなくメドーサを攻める。
「ふん、可愛げのないガキだよ!」
メドーサが妖力を高めて左手を光らせる。近距離で波動を食らえば、致命傷だ。
突然、メドーサの目の前に何か物体が飛び出した。
「あだっ?」
額をぶつけ、メドーサがのけぞる。
「うううわあああーいいいたあああいいい」
弾かれた横島が、ゆっくりと空中を泳ぐ。バンダナの代わりに竜神族のヘアバンドを
つけていた。
「横島クンも超加速に入ってたのね」
美神たちとは霊力に差があるせいで、横島の動きはスローモーションのようだ。
「いちいち邪魔してくれるね、横島! おまえから死ね!」
メドーサの槍が横島に向かう。
志々尾が、槍を爪で打ち軌道を変えた。
犬夜叉が袖から文珠を取り出す。
「よしっ、速くしてやる」
やっと覚えた「迅」の字を光らせ、犬夜叉は横島へと放った。
だが、文珠はゆっくりと宙を移動する。
「だから投げるのもダメよ!」
美神があわてて神通棍をしならせた。
「し、しまった」
あわてて犬夜叉は文珠を回収しようとする。
メドーサが、すばやく文珠へと手を伸ばした。
「くれるならいただいておくよ!」
これ以上メドーサが加速したら、美神たちはとてもかなわない。
「もらった!」
メドーサの手が文珠に触れようとしたとき、文珠が勝手に輝きだした。
「何?」
すでに横島が「雷」の文珠を投げている。
「文珠が共鳴しているのか……? 迅、雷……!」
文珠は組み合わされることで、さらなる力を発揮する。
激しい電撃が発生し、メドーサを貫いた。
「ぐああっ!」
強烈な閃光はメドーサの体を強く攻め、引き裂かんばかりだ。
「こ……、こんなことで私がやられるかっ!」
霊力を高めて稲妻をはねつけると、メドーサは槍を美神へと突き出した。
「死ねぇっ、美神!」
突如、メドーサの背から妖気の風が襲った。
「なっ……!」
メドーサの体が切り裂かれる。
「あ、あれは俺が最初に出した風の傷か」
ゆっくりと進行していた風の傷が、飛び出したメドーサを偶然斬ったのだ。
「馬鹿な……こんなところで……!」
とりあえずここまでで
出演
美神令子@GS美神 極楽大作戦!!、横島忠夫@GS美神 極楽大作戦!!、犬夜叉@犬夜叉、
七宝@犬夜叉、日暮かごめ@犬夜叉、おキヌ@GS美神 極楽大作戦!!、刃鳥美希@結界師、
弥勒@犬夜叉、珊瑚@犬夜叉、巻緒@結界師、轟@結界師、武光@結界師、斐葉京一@結界師、
志々尾限@結界師、影宮閃@結界師、箱田@結界師、蜈蚣@結界師、
雲母@犬夜叉、人魚@伝承妖怪、濡れ女@伝承妖怪、メドーサ@GS美神 極楽大作戦!!
でした 多くてすみません……
力をうしない、メドーサの超加速が切れていく。
「やった……私たちも元に戻るわ」
美神は緊張をゆるめ、腕をおろした。
「こんなところで終わりゃしないよ!」
メドーサは横島に飛び付き頭をつかみ、互いの口を押しつけた。
超加速状態が完全に解けると、波が船を上下させ、風がまた吹きはじめる。
メドーサとキスする横島に、おキヌたちはあぜんとした。
「これでいい……」
妖力を完全にうしない、メドーサの体は分解していく。煙のようになって、服を残し
メドーサは消滅した。
美神は顔色を変えて、横島に駆け寄った。
「横島クン! 大丈夫? 毒とか呪いとか……」
「メドーサ、おまえ俺にほれとったんかー!」
「まじめにきけ!」
「うう……」
横島が口を押さえてうめく。
「やっぱり何か……」
「あいつ舌入れてきやがったー! ヘビ女とディープキスなんてーっ! しかもちょっと
気持ち良かったのが悔しいっ!」
「もういい、黙れ!」
この男の相手をすることを、美神は放棄した。
箱田が戦いを簡単に説明した。神眼で眼力を増した箱田は、超加速状態での一瞬の戦い
さえもその目にとらえていた。
「なあんだ、犬夜叉、ヘマばっかりね」
かごめが犬夜叉を笑う。
「うるせえなあ、俺の風の傷がとどめだったんじゃねえか。それより、あいつ風穴のことを
知ってたみてえだぜ」
弥勒は自身の右手を見つめた。
「そうですか」
「まさか、奈落が関わってるのかい?」
珊瑚にきかれると、犬夜叉は首をかしげた。
「わからねえ」
「長く生きたようですから、ただきき知っていただけかも知れませんが……」
引っ掛かるものを感じつつ、弥勒はメドーサが残した服をながめた。
船は海を順調に進む。太陽は半分以上欠けて、あたりを暗くしていた。
前方を目視して、箱田が刃鳥たちに伝えた。
「受信機の真ん中へんが弱点だと思うヨ。でもあれはあれ自体が妖だヨ」
「俺も妖気を感じます。かなり強いです」
ややおびえたようすの閃も付け加えた。
受信機は、妖怪が形を変えたものらしい。刃鳥は細いあごに指を当てて思案する。
「あまり近づかないほうがいいかもね」
やや離れて黒髪をなびかせる武光に、横島がきいた。
「おい、なんで俺の亜十羅さんは来ないんだ?」
「拙者に人事のことをきかれても……だいたいあいつは教育係だ、志々尾とか若いもんの」
「何ーっ!」
横島に嫉妬の目線を浴びせられ、志々尾は口をゆがめる。
「おまえ昔、花島さんと風呂入ったりしたもんなあ」
閃が志々尾への嫌がらせに、横島をたきつけた。志々尾には迷惑千万だ。
「やめろよ!」
志々尾は知らないが、閃は内心、志々尾の強さをうらやんでいる。
横島は鼻血を噴射しつつ、霊波刀を造り出した。
「何だとぉーっ! 貴様、亜十羅さんと風呂であんなことやあんなことやそんなことまで!
許さん、この変態妖怪人間め、GS横島が退治してくれる!」
飛びかかる横島を、しかたなく志々尾は手で払った。志々尾にかなうはずもなく、横島は
そこらを転げ回る。
「チクショーチクショー、うらやまし過ぎるぞチクショー!」
「もう、横島さん、落ち着いてください」
おキヌが代わりに頭を下げ、横島の肩を押さえた。
少しは見直せるかと思ったとたんこれか、とかごめはあきれて何度目かのため息をついた。
横島は見直されるということを許さない。
無視して、美神が提案する。
「蜈蚣に足を出してもらって、文珠一個で加速して近づいて、犬夜叉が超加速、風の傷を
受信機の真ん中に撃つ。私と志々尾も超加速して、命中まで見届けましょう」
刃鳥はうなずき、蜈蚣に指示する。
「わかりました。蜈蚣、『足』を出して。三人だけ乗れればいいわ。私たちは残りましょう」
「はい」
蜈蚣は口から吐息とともに、黒いものを出した。すぐにムカデのような『足』が生成される。
浮かぶ足が船に横付けされた。
犬夜叉、美神、志々尾が乗る。
「ううっ……」
横島が腹を押さえて、苦しむようにした。
「今度は何だよ」
うんざりしたようすで巻緒が見ると、横島の腹は内側から突き上げられ、破れんばかり
になっていた。
「うおーっ、俺の腹が裂けるっ、腹があああっ!」
腹を隆起させ、横島は絶叫する。
「轟!」
巻緒が轟に合図した。
「よしっ、動くな!」
轟の太い腕が空気を摩擦し、大きな拳が横島の腹を打つ。
横島の腹に巣食う何者かは食道を逆流し、口から外界へと生まれ出た。
「おげえええっ!」
吐き出されたのは、太いヘビだ。目をいくつもつけ、たてがみを胃液で濡らしている。
閃は飛び上がり、巻緒の後ろに回った。
「わーっ! わーっ! わーっ! 俺ダメなんだよこーゆーのーっ! わーっ!」
「うるさいなあ……」
かごめなどは慣れたもので、気味悪さよりこれから何が起こるかを恐れた。
ヘビの背が割れ、中から人の形をしたものが出てきた。立ち上がったのは長い髪、ヘビの
目、ミニスカートの下にすらりとした足を伸ばす若い女だ。
「おかげで若返ったわ! さあ第二ラウンドをはじめようか!」
「メドーサ!」
珊瑚が飛来骨を構え、殴りつけようとする。
「メドーサが若返った! 俺としては、どーしたらええんやーっ!」
リアクションに迷い混乱する横島。
「クソヘビがあ、しつけーぜ!」
足の上から鉄砕牙を手に、犬夜叉が斬ろうとする。
「じゃ、あとよろしく」
美神は「速」の字を文珠に浮かび上がらせると、足に押し当てた。足は弾丸のように
飛び出していった。犬夜叉が何か叫んだようだったが、海の向こうへ遠のいてもうきこえ
ない。
船の上で、閃がわめき声を響かせる。
「おいーっ! あいつ、逃げやがった!」
「ふん、すぐ追い付いてやるよ」
メドーサが宙に舞い上がる。
その脚に、行かせまいと横島がしがみついた。
「放せ!」
「若いねーちゃんの脚ーっ! 放さーん!」
「こいつと遊んでな!」
メドーサの髪が変質し、太いヘビがいくつも生まれ出る。
「お行きっ、ビッグイーター!」
並びの悪い牙を見せ、ビッグイーターが横島に咬みつこうとする。珊瑚が飛来骨を振り、
ビッグイーターを打ち弾いた。
「珊瑚ちゃん、そいつらに咬まれると石にされるぞ!」
「なんだって? くそっ!」
つぎつぎ生まれる太いヘビを、珊瑚は飛来骨で蹴散らす。武光、轟も加勢し、ビッグ
イーターを退治した。
ビッグイーター@GS美神 極楽大作戦!!
ここまでで あと7レスくらいと思います
ではまたー
メドーサは飛び去った美神たちのほうをながめて、若い顔で歯ぎしりする。
「この距離では超加速では追えない……! ええい放せ!」
メドーサの左脚に、必死にしがみつく横島。
「放すかーっ!」
「放せばおまえの命だけは保証してやるよ」
メドーサの申し出を、横島は突っぱねて見せた。
「残念だったな! ゴーストスイーパーに、悪魔の誘惑は効かない! 覚えとけ!」
「放して……」
急に甘えた声を出し、メドーサはスカートをひらつかせる。
「うおおーっ、パンチラーッ! てゆーかパンモローッ!」
「ホラお放し、こっからは金とるよ!」
右足で横島をゴミでも蹴るようにすると、メドーサはあとを追って飛んでいく。すぐに
黒い点になって、メドーサは消えた。
「あっさり誘惑されとる……」
目を回した横島を見て、七宝はあきれた。
「横島さん、大丈夫ですか!」
駆けつけようとするおキヌだったが、まだビッグイーターがいて近付けない。
メドーサが消えた海に、横島は声を投げる。
「ちくしょーっ、メドーサーっ! いくら払えばええんやーっ! 誰か金貸してーっ!」
だあーっ、と一同がコケる。
残ったビッグイーターたちが牙をむいて、珊瑚らを脅した。
「わーっ! うわーっ!」
半狂乱になった閃が叫びを上げる。
「おまえ本当に女みたいじゃなあ」
七宝がつい言ってしまった。文字どおりに目の色を変えた閃は爪を長くし、七宝の
こめかみを刺す。
「ギャーッ!」
「俺はそー言われんのが一番ムカつくんだよーっ!」
「ちょっと、七宝ちゃんを刺さないでよ!」
かごめが七宝を抱き上げた。
「うるせー……」
閃が何か言おうとしたとき、ビッグイーターが太い身をはいずってにじり寄った。閃は
顔を青くして、また叫ぶ。
「わーっ! わーっ!」
「面倒な奴じゃのう……」
七宝はため息混じりにつぶやいた。
「みなさん、何かにつかまってください!」
弥勒が右手の数珠を取り、風穴をビッグイーターに向けた。強風が巻き起こり、ヘビたち
が吸引される。
かごめたちは船のへりにしがみつき、吸引に抵抗した。
横島は迷わず珊瑚の腰に手を回す。
ビッグイーターが風穴に飲み込まれ、全て吸い尽くされると弥勒は右手にまた数珠を
巻いた。風穴が封印され、吸い込む風がおさまる。
「吸われるーっ、すまん珊瑚ちゃん!」
横島はなおも珊瑚の腰に強くすがりついた。
「もう終わってるよ!」
飛来骨が横島の頭に落ち、弥勒の足が横島の尻を蹴り上げる。
「もう、横島さんのバカ……」
おキヌは恥じ入って小さくなった。
「行かれたか……。どうします。追い付けませんよ」 斐葉は副長の指示を仰ぐ。
「そうね……あとはあの人たちに任せるしかないわ」
海の向こうをながめて、刃鳥は志々尾の無事を祈った。
足は速度を増して、海を見下ろし飛ぶ。銀髪をなびかせる犬夜叉は、美神を責めるよう
にした。
「おい、いいのか! メドーサが復活しちまったんだぞ」
「みんなを信じましょう。それより日食が近いわ」
太陽は六割以上月が隠して、気温も下がっているようだ。
犬夜叉たちの前方に、くぼんだ円形の受信機が見えてきた。海に浮かぶ受信機は、巨人が
使う皿かといったようだ。
「さあ、まずは超加速に入るわよ。せーの」
美神、犬夜叉、志々尾は「迅」「速」の文珠で超加速状態になる。
足が遅くなり、波は止まり風はなくなる。波音もしない。
「まったく、こいつは気持ちわりいぜ」
静寂に包まれた世界で、犬夜叉は鉄砕牙を構えて、意識を集中した。刀が風を帯びる。
大きな刀が振り下ろされると、風の傷が発せられた。
妖気の風が、ゆっくりと受信機をめざす。
「足の速度もプラスされてるわ。これなら防げないはず……」
美神が言い終わらないうちに、強烈な妖気が接近する。
「そんなことはないよ!」
メドーサが風の傷に向かって、猛烈な勢いで突進してきた。
「魔力で相殺してやるさ!」
「させるかよっ!」
「飛」の文珠を自身に押し当てると、メドーサに向かい犬夜叉は飛行した。
美神、志々尾も同じようにして飛び、メドーサを止めようとする。
メドーサは手から二又の槍を造り出し、回転させた。
鉄砕牙、志々尾の爪が槍に弾き返される。
超加速ばかりでなく、空中戦もやはりメドーサに分があった。
メドーサは風の傷を止めに、槍を構えて飛んだ。美神の神通棍も難なくいなされてしまう。
「させないわ!」
美神は肩で槍をさえぎり、止める。二又の片方が突き刺さり、白い肌が血で濡れた。
「ぐっ……」
「へえ、根性見せてくれるね」
メドーサが冷たい笑みを浮かべ、ヘビのような目を光らせた。
美神は苦痛に眉をせばめながらも、意地で余裕を示す。
「ありがと……でもたいしたことないのよ、お金のためにやってんだから」
「へー、大人って大変ねえ? ホラあたし子供だからさあ!」
槍を魔力が伝わり、邪悪な光が美神を攻める。
美神は激痛に叫びをあげた。
霊力を減らし、美神は超加速から離脱した。人形のように動きを止める。
「美神ーっ!」
犬夜叉と志々尾が、メドーサに向かって飛ぶ。
「半妖に妖混じり、こいつが死ぬところを見ていな!」
メドーサは美神の体を、風の傷の軌道上へとずらした。ゆっくりとした妖気の風が、美神
を斬りにかかる。
美神は動きを停止させていて、何が起きているかもわかっていない。
「志々尾、美神を頼む!」
犬夜叉の鉄砕牙が空を割り、メドーサを襲う。
メドーサは槍で受けると、さも愉快そうに言った。
「犬夜叉、おまえの技が美神を殺すのさ」
「ヘビ女、てめえは最低なクソ野郎だぜ」
「そいつは魔族には誉め言葉だよ!」
犬夜叉の腹に蹴りが入る。メドーサから犬夜叉の体が遠ざかっていく。
志々尾が美神を助けようと、手を伸ばした。
メドーサの手から波動が発せられる。強力な魔力の波動は、志々尾の黒髪をかすった。
メドーサは勝利を確信した。
「極楽へ行きな、美神!」 妖気の風が、美神を斬ろうとする。
「そうはいくかーっ!」
「なっ……!」
きき覚えはあるものの、ありえないその声にメドーサは一瞬、忘我した。
「わははーっ、ヨコシマキーック!」
一直線に飛んできた横島の足は狙いを外し、代わりに横島の股間がメドーサの顔面を
直撃する。
「むおおーっ?」
「おーっと、これじゃあキックじゃなくてキ〇タマだーっ!」
横島の太ももの間で、メドーサが苦しむ。そのすきに志々尾が美神の腕を引き、襲いかかる
風の傷から救い出した。
横島の股から顔を出すメドーサは、呼吸困難に苦しみ、あえぐ。
「ばっ、馬鹿な……どうやって!」
「文珠四個つぎ込んですっ飛んで来たんだよ!
俺にだってこのくらいの嫌がらせはできるーっ!」
メドーサの顔を、横島は自身の股間に押しつける。煩悩が膨張し、横島の霊力は脈打つ
ようにますますみなぎった。
「ええい、どけ変態!」
足をつかみ、メドーサは汚物を投げ捨てるように横島をひっぺがす。
海に落ちようとする横島の体を、犬夜叉が宙で受けとめた。
「畜生! 他の連中はともかく、何であの馬鹿に毎度毎度邪魔されるんだ!」
怒りのあまりメドーサははらわたも煮え繰り返り、前後上下さえわからなくなるほどだ。
「し、しまった、風の傷は……! 受信機を守らなければ……」
風の傷はメドーサへと襲いかかる。
「ば、馬鹿な……!」
超加速しようとしても、横島の股間を顔に押しつけられたという屈辱が、メドーサに霊力
の集中を許さない。
「馬鹿な、馬鹿な、こんな……!」
キックであれば、横島の蹴りなどメドーサには何でもなかった。股間であればこそ、精神・
霊力へのダメージは計り知れない。
風の傷はメドーサの妖気を巻き込む。風は竜巻のようになり、爆流破へと化してゆく。
自分自身の強い妖気が殺到しては、メドーサといえどもなすすべない。
「こんな……馬鹿なああああーっ!」
メドーサを切り刻みながら、爆流破は受信機へとなだれ込む。
「逃げるぞ!」
犬夜叉は横島をかかえ、志々尾は美神をかかえて飛んだ。
受信機は轟音とともに爆発し、天まで届くかという火を噴いた。
爆風に犬夜叉たちは吹き飛ばされる。
火の粉、何かの破片が飛散し、熱が一帯に広がった。
海は割れるかという程に荒れ、金属や何かの焼け焦げるにおいが周囲に伝わる。
日食の下での爆発は、地獄のような光景だった。
とりあえずここまでで
長々とすまんです
犬夜叉たちは、洋上に浮かぶ船へと帰還した。
日は完全に月に隠れ、暗い空に光の輪が浮かんで幻想的な光景を作っている。
横島は頭に手をやりつつ、さっそく刃鳥の前に立つ。
「あー、刃鳥さんに見せたかったなー、俺の華麗なキックがメドーサを……」
表情を変えないままに、刃鳥が言う。
「……箱田からだいたいはきいたわ」
「嫌ーっ、思い出はきれいにしてえーっ」
やれやれ、とおキヌ、かごめらは苦笑いした。
「美神さんの手当てをしましょう」
刃鳥が美神に肩を貸し、珊瑚も美神の体を支えた。
「私、少しヒーリングできます」
おキヌは傷に手を当て、やわらかい霊力を送った。
さすがの横島も責任を感じて、神妙な顔をする。
「美神さん、すんません、文珠があれば傷なんて治せるのに、俺が使っちゃったから……」
「何言ってるの。今回は横島クンに助けられたわ」
「え?」
「横島クンには何か不思議な力があると思うわ。今回はそれがよくわかった」
「み、美神さんがそんなこと言うなんて……」
「少し、疲れたわ……」
目を閉じる美神を、刃鳥と珊瑚が船室に運んだ。おキヌも付き添い、女性たちは奥へと
消えた。
「美神さん……」
立ち尽くす横島に気をつかい、犬夜叉が背に声をかけた。
「横島、おまえは本当によくやったぜ」
「そうそう、犬夜叉なんてあんまり役に立ってないんだから」
かごめも横島に気をつかい、わざと明るく言った。犬夜叉には不愉快だ。
「うるせえな、俺の爆流破がとどめだったんじゃねえか」
珊瑚がまた甲板に出て、伝える。
「美神は寝たよ。まあ命がどうこうっていうケガじゃないけど、跡が残らないといいねえ」
「美神さん……もし傷跡が残ったりしたら……」
横島はうつむき、肩をふるわせた。
「しょうがないから、俺は責任とって美神さんと結婚する! だから刃鳥さんは二号に、
珊瑚ちゃんは三号ちゃんとして、ひきつづき俺のなぐさみものになってくれー!」
「誰がなぐさみものだよ!」
珊瑚の拳が飛び付こうとする横島を迎撃し、弥勒の錫杖が追い打ちをかける。
やや離れて騒動をながめていた閃は、頭領への報告を悩んでいた。
しかたなく、閃は同輩にきいてみた。
「志々尾、横島ってどう思う? 全部偶然だよなあ?」
「うん……いや」
「おい、全部計算だったなんていうんじゃねーだろーな」
「計算というか……なんというか、全部ひっくるめて、ああいう能力なんじゃないかな」
腕組みし、志々尾は思慮深いようすで答えた。歳より大人びて見えるのは、多くの修羅場
をくぐり抜けてきたからだ。
「ええ? うーん……」
改めて、閃は横島を見る。横島は珊瑚を追い回して、ふたたび返り討ちにあっていた。
「考えすぎだろ? あいつはただの馬鹿だよ、全部偶然……」
不意に、強い妖気の接近を感じ閃は肩をびくつかせた。
「やばい! なんか来てます」
箱田もあわてて船の後ろを見つめた。
「あ、あいつが来てるヨ」
「何?」
巻緒が駆け付ける。あとから轟、武光がつづいた。
爆発音が鳴り響き、水しぶきが上がった。
船が大きく傾き、夜叉たちは甲板の上でよろけて手をつく。
船は斜めになって、激しく上下した。
「な、何だ?」
鉄砕牙が抜かれて、また大きな刀が光る。
黒煙をのぼらせる船の後部から、海水をしたたらせる女の怪がはい上がってきた。
はりついた髪のすき間から、ヘビの目を光らせるメドーサだ。
「てめえ、まだ生きてやがんのか!」
犬夜叉は牙をむいて、鉄砕牙で狙いをつける。
「し、しつこいーっ!」
横島は頭を抱えて泣き叫んだ。
「安心おし! もうすぐ力を使い果たして死ぬよ。どうせ帰る場所もないしね……だが」
メドーサは槍を甲板に打ち付け、船を大きく揺らす。
「おまえたちは道連れだ! 何もかも台無しにしやがって!」
かごめがメドーサを指さした。
「い、犬夜叉、あいつ、四魂のかけらの気配がある!」
「何だと? てめえ、やっぱり奈落と組んでやがんのか!」
「ああ、魔族の誇りにかけて使わなかったが、もうなりふり構うか!」
メドーサの胸で、四魂のかけらが不浄な光を放つ。メドーサの妖力が一気に増して、周囲
に広がり渦巻いた。
また槍が船を打ち、七宝が端から端へと転げ回る。
「船がダメだ! 蜈蚣、足を! みんな、避難!」
巻緒が指示し、蜈蚣が足の生成をはじめた。
「逃がすかあぁ!」
槍を振るい、メドーサが蜈蚣に向かう。武光が刀を突き出し、二又の槍を打ち弾いた。
固い音が鳴り響く。
巻緒は影を操り、黒い触手のようにしてメドーサを縛り上げる。メドーサは縛られながら
も滅多やたらに槍をブン回し、何者も寄せ付けない。
「くそ、縛りきれねえ」
巻緒が力を最大に発揮しても、なおメドーサを封じることはできなかった。
だが、蜈蚣が『足』を完成させるすきは稼げた。轟が眠る美神をかかえて、足に乗せる。
「かくなる上は、かけらごと……」
弥勒が右手の数珠に手をかけた。
「させんわ、掃除機野郎!」
メドーサが、手からまぶしい波動をほとばしらせる。弥勒は撃たれて吹っ飛ばされた。
「法師様!」
珊瑚が駆け付け、おキヌが手を当てる。轟が弥勒を担ぎ揚げ、また足へと運んだ。
犬夜叉、武光、志々尾がメドーサの相手をする。刀や爪が槍とぶつかり合って、何度も
火花を飛び散らせた。メドーサの鬼気迫るありようは女羅刹のごとしで、何とも恐ろしい。
刃鳥らが足につぎつぎ乗り込んで避難する。
「おまえらも早くしろ!」
斐葉が犬夜叉たちをうながした。犬夜叉、志々尾、武光もすばやく足に飛び移った。
「逃がしてたまるか!」
影に縛られながらも追おうとするメドーサ。邪悪そのものが、形をとって動いていると
いった姿だ。
刃鳥が左腕から黒羽を発して、追跡を阻止する。
黒い羽は群れる鳥のように飛んで、いくつもメドーサを撃ち、突く。
「おおおッ、こんなものーッ!」
槍が黒羽を払い落とす。斐葉も加勢して、ナイフを何本も投げ飛ばした。
「全員いる?」
撃ちながら刃鳥は確認する。
「横島さんがいません!」
おキヌが弥勒の手当てをしつつ、横島の姿を探した。
「おまえらーっ! 俺を置いていくなーっ!」
傾く船で、横島が絶叫する。
「あいつ逃げ遅れやがった。しょうがねーな」
あきれたようすで、閃がつぶやいた。これを耳に入れたかごめが、高い声をきかせる。
「バカ! あんた何でわかんないの?」
「んだとぉ?」
「横島さんはわざと残ったのよ! 自分が一番メドーサに憎まれてるって知ってるから!」
「みんなのためにか? あいつがそんな奴かよ」
さげすむように閃がきくと、かごめは首を振って髪を揺らした。
「ううん。美神さんのためよ」
閃は、身を横にする美神に目を向けた。美神の整った顔は、どこか安らかだ。
「いややーっ! 俺は死にたくなーい! 死んでも心の中で生きてるとか言われても納得
できーん!」
横島のわめきと、船の壊れていく音が合わさって海が騒がしくなる。
「横島! 貴様だけは許さん、絶対に殺す!」
影に縛られながら、メドーサは槍を突き出した。
とっさに横島は手をたたき、霊波をあたりに飛ばした。
「サイキック・猫だまし!」
目くらましを食らったメドーサの槍は狙いをそれて、甲板を突き刺し、船を割り裂く。
船は折れたようになり、横島は海へと投げ出された。
「横島さん!」
おキヌの悲痛な叫びが海に響く。
破片にしぶとく横島はしがみつき、浮力を確保しつつ波にもまれた。その姿は、死の運命
から逃れようとする生のあがきそのものだった。その横島に、メドーサが食らいつくように
している。
「いやーっ! メドーサとタイタニックいやーっ!」
「観念おし! 畜生、おまえ一人殺すのがせいぜいとは、畜生!」
横島とメドーサが沈んでいく。
たまらず、足の上のおキヌは幽体離脱しようと、身を乗り出した。おキヌの細い腕を斐葉
がつかむ。
「やめろ、生霊が海から人を引き上げることはできない」
「でも……!」
「弥勒のヒーリングを続けろ」
斐葉は腕の形を変え、数本のツルにして横島へと長く伸ばす。
ツルは横島の体ををからめ取り、引き寄せようと強く張った。
「ゴバッおまえら、俺が死んでもいいと思ってるんだろガブァッ! 死んだあとに銅像建て
られても俺はうれしくなーグボァッ!」
波をかぶり海水を吐きながら、横島は大声でわめき散らす。
「おまえの銅像なんか建てねえからしゃべるな、暴れるな!」
斐葉がしかりつけるようにしながら、ツルを引く。犬夜叉がツルをつかんで、さらに
強く引いた。
海から二又の槍が飛び出し、ちぎれそうに張ったツルを断ち切った。
力の引き合いがなくなり、後方に倒れこむ斐葉、犬夜叉。
海面に泡を残し、横島とメドーサは消えていった。
「横島さぁーん!」
おキヌの叫びが海に響く。
「ああ……妖気が強くなって……」
絶望した閃が、うわごとのように言った。
海に、柱のような高い水しぶきが立った。大音が耳を打ち、おキヌたちは雨のような海水
を浴びる。海中で爆発が起きたらしい。
メドーサが最後の妖気で自爆したのだろう。
「そんな……」
おキヌはしばし呆然と、波打つ海面をながめた。
「横島さん……」
青白い顔をしたかごめは、唇を震わせる。
海は何事もなかったように、また静かに波打った。
「何か泳いでいるヨ」
湿った紙袋をかぶる箱田が、指さした。閃も気配を感じ取る。
「この妖気は……」
海からいくつもの影が飛び立った。人魚たちだ。宙に浮かぶ人魚たちは、長い髪を垂らし
た濡れ女をかかえている。
その濡れ女は、男をかかえていた。
「横島さん!」
驚きと歓喜の混じった、おキヌの高い声がきかれる。
濡れ女は、横島を足の上へと投げ落とした。
「べっ、別に助けたわけじゃないんだからね! 海にゴミを捨てられたら困るだけよ!」
濡れ女は人魚に運ばれ、日食の下を飛び去っていった。
「濡れ女……」
横島は起き上がり、飛んでいく濡れ女と人魚たちを見送った。
「横島さん、よかった……」
おキヌは涙をふき、ほほえむ。
横島は海の向こうを見つめ、口に手をやり呼びかけた。
「濡れ女ー! おまえもええ体しとったぞー!」
だあーっ、と一同が足の上でコケる。
「もーっ、横島さん! 少しは懲りてください!」
おキヌが抗議したとき、美神が横島のそばにゆらりと立った。
「横島クン……」
「あっ、美神さん! 大丈夫ですか」
「あんたは人がケガして寝てるときに、何やってんの……!」
「え? いや、あの、どこから見てました?」
「あんたが濡れ女に抱きかかえられてるとこからよ!」
神通棍が稲妻のごとくにひらめく。
「ちょっ、待っ……」
いやおうなく呪縛縄で縛られ、横島は海へと落とされた。
「わーっ!」
「それと、あんた私の船どうしてくれたのよーっ!」
「それは俺のせいじゃなゴボァッ!」
水の音とともに、横島の体は波の上下を行き来する。
飛ぶ『足』に引きずられ、横島はしぶきを飛ばした。
「び、びがびざっ……おぎぬぢゃ……だ、だずげぐばぁっ」
「と……止めなくていいんですか?」
さすがに閃も心配し、近くの武光にたずねる。日が月から顔を出し、武光のメガネが光
を取り戻しつつあった。
「ほっとけ。あいつはあのぐらいでは死なん」
「死なんっていうか……いちおー、あいつのおかげで助かったんだし」
横島の叫び声が、海から出ては消えるを繰り返す。
「おでばだんもばるぐなーっぶはっ! ……ぶじづや、ぬでぎぬやがほっ!」
「うるさーい、反省せーっ!」
かごめが犬夜叉を横目で見た。
「あれって美神さんのヤキモチだよね……」
うっ、と犬夜叉はのどをつまらせる。
珊瑚の手が犬夜叉の肩に置かれる。
「かごめちゃんがやさしくてよかったねえ、犬夜叉」
「そう……か?」
「何よ」
「い、いや……」
「おすわり」
「ぎゃっ!」
犬夜叉の体が踏まれでもしたかのように、引き倒された。
「だ、だからこういうことだろ……」
うらめしそうに、犬夜叉はかごめを見上げた。
このやりとりを、閃は彼なりに頭の中で分析する。
「え? もしかして横島ってモテてんの?」
ああ、と武光がうなずいた。
「自分ではわかっとらんのだ! まったくうらやま……いや、いまいましい」
武光の本音が見え隠れする。
「たちの悪い男ですなあ」
もっともらしく首を振る弥勒に、(おまえが言うか)という視線が集中した。
「海岸に救護班を待たせてあります。弥勒さん、そちらで治療を受けてください」
刃鳥が事務的に伝えた。弥勒は手を取って感謝する。
「おお、なんとお優しい……」
「法師様……!」
珊瑚が弥勒の束ねられた後ろ髪を引く。
「なんだよ、あほらし! 同情して損した! あのぐらいされて当然だな!」
憤慨する閃。うんうん、と皆がうなずく。
「あんた、二度と同じ文珠の使い方したら、わかってるでしょーね!」
美神が横島を見下ろし、怒りのままに声をぶつける。
「ずびばぜぶばっ! ……ぶはっ、ゆるじでげはぁっ!」
明るくなっていく海に、横島の言葉にならない命乞いが響く。
「俺はやっぱり、あいつはただのバカだと思うけどな。全部偶然だよ」
閃は志々尾に、念を押すように言う。
「そうかな……。まあいずれにせよ、俺は敵になりたくはないな」
ふと、閃は頭領に言われたことを思い出した。
(美神たちや犬夜叉たちと戦うかもしれないって、どういうことだろ?)
横島を海面に引きずる足は、海岸めざして飛び続けた。
終わり
あれ、なぜか予定より長くなってる
すまんです ではまた今度ー
相変わらず乙です。なんかやたら登場人物が増えて途中ややこしくなったw
横島が(悪い意味で)大活躍やなぁwGS美神と犬夜叉が混ざると横島に食われる不思議!
定期的に投下されてるの見るとなんか一本書きたくなってきた
レスありがとうです
やっぱ多すぎるか 少し減らそうかな……
いずれ夜行と他作品チームで戦わせたいんじゃが いつになるやら
ぜひ書いてみてください ネタやキャラ被ったりとかこっちは全然気にしませんので
>>45 Z…じゃなくて2…じゃなくて乙!
めっさキャラ多いなこれ
レスありがとうです
やっぱり多すぎるよね……
でももっと増やすよ!
晴れた空に雲がいくつか、ゆっくり泳いでいた。
「こんな味の濃いもんが食えるか!」
犬夜叉は口を川につけて、舌を洗った。見た目には若い男だが、かがんで舌を冷やす
犬夜叉は犬の半妖らしくもある。
「何よ、せっかく作ってきてあげたのにー!」
かごめは犬夜叉の態度に憤激して、声を大きくした。セーラー服のこの少女は、戦国時代
と五百年後とを行き来している。
「飯と一緒に食うといけますよ」
弥勒はさじでカレーライスをすくい、口に運ぶ。僧衣に身を包み、後ろ髪を束ねた青年だ。
草の上に座る七宝も、口のまわりにカレーをつけていた。
「犬夜叉は舌が子供なんじゃ」
珊瑚も食べ慣れない料理を楽しんだ。
かごめは余ったカレーをタッパーに入れ、リュックに詰めた。
休憩を終え、一行は旅を再開する。西へと向かうなだらかに起伏のある一本道を、かごめ
たちは歩き進んだ。
しばらく歩いてから、犬夜叉は頭の白い耳を動かした。
「何かが近づいてるな」
「これは……妖気?」
珊瑚はくの字型をした大きな武器、飛来骨を手にした。長い黒髪の珊瑚は、妖怪退治屋
らしく気の強そうな目をして、今は村娘のような姿だ。
来た道から、槍を持った、異様に長い髪の男が飛ぶように走ってくる。
見る間に接近するや、犬夜叉に槍が鋭く襲いかかった。
「うわあああ、恐いぃー!」
「な、なんだてめえは」
槍をかわし、犬夜叉は牙をむき身を低くした。
「助けてくれえぇ、わしもう戦うのはいやじゃあぁ!」
黒く長い髪をうねらせ、言葉とは裏腹にすさまじい槍さばきで男は犬夜叉を攻める。
気を抜けば犬夜叉でさえ貫かれかねない。
「てめえ、いったい何だってんだ」
珊瑚が飛来骨で槍を打ち、さえぎった。男の槍は動きを止める。
「お、おまえは人間か」
「そいつは獣の槍じゃないのか」
鈍く光る、広い穂先の槍を見て、珊瑚はきいた。
「あんたたちは悪い妖(バケモノ)ではないようじゃな。すまんかった」
男の髪が抜け落ちていき、肩ほどの長さになっていく。妖気も消えていった。
「何だってんだ」
犬夜叉は不機嫌そのものといったようすだ。
「す、すまん……。わしは草太郎という者じゃ。妖を退治して回っておるので、ついあんた
たちも悪い妖かと思ってしまって……」
草太郎はもうしわけなさそうにちぢこまった。先程の恐ろしい槍さばきが嘘のように、
草太郎は気弱そうに見える。
草太郎は故郷の村に帰る途中なのだという。
故郷の村に、白羽の矢を立てて人を生けにえに差し出させる、ここのつという妖怪がいる
というので急ぎ帰る途中だった。
「奈落と関係あるかな」
かごめは指を細いあごに当てた。弥勒がうなずいて言う。
「いずれにせよ、放ってもおけませんな」
「一緒にいこうよ」
珊瑚が誘うと、草太郎はありがたそうに頭を縦に振った。
道々、犬夜叉たちは話をきいた。
草太郎には、みさをという幼なじみがいる。みさをは名主の娘で、釣り合う男になろうと、
草太郎はいくさに出た。
「侍になろうと思うてなあ、じゃが、わし恐ろしくて……逃げてしまった」
「情けねえ」
犬夜叉はあきれて首を振った。
草太郎が逃げた先の川に、槍が流されていた。
「それが、獣の槍だったってわけだね」
珊瑚が話を先回りすると、草太郎がうなずく。
「いくさは恐ろしいので、獣の槍で妖を退治して回ることにしたんじゃ」
「妖怪のほうが恐いと思うがのう」
太い尾を揺らす七宝が首をかしげた。見た目には人間の子供のようだが、七宝は狐の
妖怪だ。
「獣の槍は、妖怪相手ならわしを強くしてくれるし……多少怪我しても治るし。そりゃあ、
恐いが、人間相手のいくさよりましじゃ」
獣の槍で多くの妖怪を退治し、草太郎は城に召し上げられて侍になった。
「それでみさをさんを迎えに行くんだ。よかったじゃない」
かごめはほほえんで言う。が、草太郎の顔は浮かない。
「それがそうもいかんのじゃ。獣の槍は使い続けると……妖になってしまうんじゃ」
弥勒は真面目な顔になった。
「さっきの草太郎からは、妖気が感じられました」
「わしはたくさんの妖怪を殺した。あと一匹妖を殺せばおそらくは妖に……獣になってしまう」
今にも泣きだしそうな顔で、草太郎はうつむいた。
「だから獣の槍、か。使う者の魂を削り吸い取って力にするとはきいていたけど」
珊瑚は同情して眉を下げた。
「じゃあ戦っちゃダメじゃない」
槍の恐ろしさにかごめは驚いて、言う。
「だが、ここのつを倒さんと……、みさをの屋敷に白羽の矢が立ったんじゃ」
「しょうがねえなあ。俺がぶっ飛ばしてやらあ」
さもめんどくさそうに、犬夜叉が申し出た。
「そうよ、私たちがやっつけてあげるから、あんたはみさをさんのとこへ行けばいいわ」
かごめも賛成した。草太郎は頭を左右に振る。
「ありがとう……だが、やはり無理じゃ。わし、別の妖と戦っておったのを放ってきたん
じゃ。そいつが追ってきておる。長飛丸という世にも恐ろしい奴で、三日も戦って倒せな
かったんじゃ」
消えない恐怖に、草太郎は身を震わせた。煮え切らない態度に犬夜叉はいらだつ。
「わぁったわぁった、ったく、そいつも退治してやるよ」
「でも、奴は本当に強い……」
「長飛丸か」
その名を珊瑚はきき知っていた。となりの弥勒がたずねた。
「知っているのか」
「退治屋仲間のうわさできいてるだけだけどね。長飛丸、状は凶、性は悪。稲妻を使い火を
吐き人を食らう悪妖……」
七宝がおびえて、かごめにしがみつく。
「けっ、うわさなんて尾ヒレがつくもんなんだよ。俺が負けるわけねえだろうが」
犬夜叉が強がると、弥勒はからかって言った。
「だといいですがな」
けっ、とふてくされて犬夜叉はそっぽ向く。
やがて村が近づくと、草太郎は足を止めた。
「やっぱり、わし行けん。いつ長飛丸が飛んでくるかわからんし、ほかの妖もまとわり
ついてきおるんじゃ。みさをを恐がらせてしまう」
槍を抱く草太郎は動こうとしないので、かごめたちは林に置いて行くことにした。
「いい、妖怪と戦っちゃダメよ。私たちが全部なんとかするから」
かごめが念を押すと、草太郎は泣きそうな顔でうなずいた。
「まったく、うじうじしやがって、イライラする野郎だぜ」
犬夜叉は機嫌が悪い。
「そんなこと言うんじゃないの。けなげじゃない、好きな人のためにがんばったのよ」
かごめは草太という弟がいるせいか、何やら姉のような気分になっていた。
村には田畑が広がって、なかなかに住みよいようではあった。村人にどこか活気がない
のは、やはり妖怪のせいだ。
とりあえずここまで
犬夜叉@犬夜叉、かごめ@犬夜叉、弥勒@犬夜叉、七宝@犬夜叉、珊瑚@犬夜叉、
草太郎@うしおととら 外伝 ……長飛丸=とらと四日四晩戦って槍を刺し石にぬいとめた人物。
蒼月潮の先祖にあたる。ヘタレ。
ついにうしとらに手を出してしまった……またちびちびいきます
場所をきき、犬夜叉たちは名主の屋敷にたどりついた。
なるほど、屋根には白い羽根のついた矢が刺さっている。
広い庭には高い杉が三本立って、訪問者を見下ろす。
犬夜叉は顔をしかめた。
「何だ、この屋敷は。妖気がぷんぷんしやがるぜ」
かごめは顔色をやや悪くした。
「ねえ、犬夜叉、なんか四魂のかけらの気配がする……」
「本当かよ。こいつぁ……」
「これは何か裏があるやも知れませんな」
弥勒が言い、犬夜叉たちは気を引き締めた。
庭を進み、弥勒が御免、と声を響かせる。まもなく戸が開き、振り袖の女中が数人出て
きた。
若い女中たちに、弥勒は顔をゆるくする。奥から主人らしい男がやってきた。
「どなたかな」
「旅の者です。私は弥勒。私たちは妖怪退治をしているのですが、うわさをきいて失礼
ながらたずねたしだいです」
話の最中、かごめは犬夜叉の赤い袖を軽く引いた。ああ、と犬夜叉も小さくうなずく。
鯖目の目は死んだ魚のようにくもっていた。特有の、妖怪に取り憑かれた者の目だ。
「よく来てくだすった。まずは奥へどうぞ」
鯖目の案内で、かごめたちは屋敷の中へといざなわれた。
客間の一室をのぞいて、七宝があっと声を上げた。
「百鬼丸ではないか」
つられて、かごめたちも部屋をのぞき見た。
灰色がかった髪、ぼろ布のような着物の男が、壁を背に目を閉じている。
「百鬼丸くん。来てたんだ」
百鬼丸はまぶたを上げることもしない。
「おまえらか」
「おまえもみさをさんを助けに来たのですか」
弥勒の問いに、百鬼丸は目を閉じたままそっけなく答えた。
「誰がどうなろうが俺は知らん。俺はただここが気に入ったんだ」
「どろろはいないのかい?」
珊瑚の問いにも、百鬼丸はひとごとを決め込んでいるようだった。
「あいつがいようがいまいが、俺にもおまえらにも関係ないだろう」
「話にならんなあ」
七宝はため息混じりにつぶやいた。
「あのかたも旅のかたで、泊まってもらっているのです。知ったかたでしたか」
鯖目はやや迷惑そうだ。百鬼丸は居座っているらしい。
犬夜叉たちは奥の広間に通された。
「百鬼丸がいるってことは間違いない、ここには妖怪がいるよ」
珊瑚は小声でかごめに耳打ちした。
かごめたちは並んで座った。女中が料理を運んでくる。犬夜叉はにおいをかいだあと、
喜んで煮魚や山菜を口に入れた。
「うめえ、かごめのかれえとは大違いだ」
「何よ!」
かごめは怒って声を荒げる。
「かごめ様、人前ですよ」
弥勒にたしなめられ、かごめは小さくなった。
はしでイモなどつつきながら、弥勒は話をきいた。
白羽の矢を立てられ、みさをは今晩山へ生けにえに出されるという。
「断れば村を荒らすといいます。名主としては、他にどうすることもできず……」
娘のことになると、鯖目は瞳にかすかな光を取り戻した。親心が妖力に対抗している
らしい。
「失礼ですが、奥方はおられないのですか」
弥勒が問うと、鯖目が語る。
「前の妻、みさをの母はだいぶ前に亡くしました。恥ずかしながら新しい妻を招いたばかり
です」
「それはうらやま……いや」
弥勒は軽くせき払いした。珊瑚の冷たい視線が刺さる。
食後、かごめらはみさをの部屋をたずねた。
みさをは白装束をまとって、敷物の上に正座していた。
さすがに若い娘の顔は青白い。切れ長の目は悲しみに光っていた。
「みさをさん、私が来たからにはご安心を」
弥勒が細い手を取って言うと、珊瑚が責めた。
「法師様! 草太郎のこと、わかってるだろ?」
「草太郎? あなたたちは草太郎のことを知っているのか?」
花か咲いたように、みさをの顔が明るくなった。
「私たち、草太郎くんにきいて来たのよ。草太郎くんはわけがあって今は来られないんだ
けど、私たちがここのつをやっつければ会えるから、ね」
かごめが元気づけると、みさをのほおに赤みがさす。
「草太郎が来ているのか……」
「ここのつだかとおだか知りませんが、この私が退治ししてしんぜましょう」
頼もしげに、弥勒が胸をたたいた。赤い袖に腕を入れる犬夜叉が、あきれて息をつく。
「どうせ戦うのは俺だろ」
「そうそう、がんばってね」
かごめが犬夜叉の肩に手を置く。
「そうだ、私がみさをさんのふりをするよ。白装束着てさ」
「うむ、珊瑚、ぜひそうしなさい」
自分から言い出したが、弥勒が強く賛同すると珊瑚は複雑そうな顔になった。
「そんなこと、させるわけにはいかん」
みさをは目を大きく見開き、首を振った。
「大丈夫よ、珊瑚ちゃんは強いし、草太郎くんが待ってるっていったでしょ」
あわてるみさをを、かごめがなだめる。
「じゃが……」
「いいから任せて、ね」
散々念を押し、ようやくかごめたちはみさをを思いとどめた。
空にはおぼろげな満月がにじんで、鈍く輝いている。
白装束に身を包んだ珊瑚はうつむいて顔を隠しながら、山道を歩いた。あとから、提灯を
さげた犬夜叉たちがつづいた。
夜の山は不気味に静かで、鳥の声もせず虫も鳴かない。
廃寺の境内に珊瑚を置き、犬夜叉たちは帰るふりをして茂みに隠れた。
「あの屋敷の妖気、ありゃあ妖怪がいると見て間違いねえ」
珊瑚のようすをうかがいながら、犬夜叉はつぶやいた。
「ねえ、じゃあみさをさんが危なくない?」
かごめの心配をぬぐうように、弥勒が言う。
「百鬼丸がいるから、まずは大丈夫でしょう」
「あいつはみさをのことなど知らんと言っておったぞ」
「七宝、若い娘さんが危機となれば、助けない男などいないのです」
かごめは苦笑いした。
「それは弥勒様を基準に考えてるんじゃ……」
「いえいえ、大なり小なりみな同じです。なあ、犬夜叉」
「おまえと一緒にすんじゃねえ。だが、百鬼丸には何か狙いがありそうだな……」
やがて、生ぬるい風がふいた。妖気をうず巻かせ、木々の向こうから大きな影がやってくる。
来たか、と珊瑚は身構えた。
その妖怪には、さすがの珊瑚も度胆を抜かれた。ここのつは、体は蛇、大きな腕のある
妖怪だが、名の通り一つの首から九の頭をつけている。
九の醜悪な顔がそれぞれにうごめいて、十八の光る目ににらまれると、珊瑚でさえひるまず
にはいられない。
「うまそげな耳じゃ」「うまそげな耳をとろ」「うまそげな耳、わいにくりゃさんせ」
自分を奮い立たせ、珊瑚は毒の粉が入った袋を投げた。
毒の煙が広がり、九の顔が苦しみゆがむ。
「おお、人間、貴様違うなああ!」
だまされたことに、九の顔がいっせいに怒りを示した。
「よしっ、やってやるぜ」
鉄砕牙を抜き、銀髪をなびかせて犬夜叉が飛び出した。
「おのれえぇ!」
九の牙が犬夜叉に向かう。
そこへ突然、金色の炎のような何かが飛び込んできた。
「おまえがここのつか!」
答えも待たず、獰猛そのものといった何かはここのつを殴りつけた。
九のうち四つの頭が吹っ飛び、血がぶちまかれる。
とりあえずここまで
百鬼丸@どろろ、鯖目@どろろ、
みさを@うしおととら 外伝、ここのつ@うしおととら 外伝
ではまたー
「な、なんだおまえは」
ここのつの残った顔が、恐怖の表情に変わった。
「なんだてめえは!」
犬夜叉は思わず、ここのつと同じ質問をしてしまった。
「何でもいいわい、消えな!」
熊ほどもある金の獣は、帯電して全身に火花を散らす。
犬夜叉は本能的に珊瑚をかかえて跳ね飛んだ。
目もくらむ稲妻が闇を裂き、ここのつを打つ。悲鳴が重なり、それが消えると、焦げた
ここのつが地面に転がった。
鼻をつく異臭が辺りに広がる。
「けっ、大したこともねえ」
妖獣は足でここのつの死体を軽く蹴った。頭の毛をなびかせる怪物は、目を黒いくまどり
でふちどっている。凶悪そのものが形をとったようなありようだ。
「おい、おまえは何でえ」
犬夜叉は大きな妖刀を構え、乱入してきたけだものに近づいた。
「ああん? 何だてめえは、妖みたいな人間だな」
長飛丸はくまどりのある目で、犬夜叉をながめ回す。
「ち、違う、人間みたいな妖怪だ! ……いや、それも違うか?」
「半妖か。だがおまえはほとんど人間じゃねえか」
「う、うるせえ! なんでここのつを退治しやがった」
「別に退治ってわけでもねえ。わしゃあ槍を使う野郎とケンカの最中だったのよ。なのに
槍の野郎、ここらの山の妖を倒さにゃならんとかで抜けやがってな。頭にきたんで先に来て
殺してやったのよ」
思い当たり、珊瑚はきいた。
「もしかして、おまえ長飛丸じゃないのか」
「ふん、周りはそう呼ぶな。だが、わしはわしだ」
錫杖をついて鳴らし、弥勒も茂みから出た。
「長飛丸、おまえは人を食うそうだが、本当か」
「ああ、人間なんざ食いモンよ。食って何が悪い」
長飛丸は口角を耳まで上げて、鋭い牙を見せる。
「よし、遠慮はいらねえようだな。草太郎は戦わせられねえ、俺が相手してやる」
犬夜叉が大きな刃を長飛丸に向ける。
「犬の小僧、わしにケンカ売ろうってのか。いいぜ、買ってやるわ」
長い金の髪を振り乱すけだものの姿は、すごみがある。
かごめと七宝も茂みから顔を出した。なんだか昔の不良みたいな妖怪だなあ、とかごめは
恐れつつも半分あきれた。
長飛丸がかごめに目を向ける。
「小娘……おまえ何かもっとるか」
「え? 四魂のかけらのこと?」
「あんな乱暴者に四魂のかけらを渡したらえらいことじゃ」
七宝は長飛丸におびえて身ぶるいした。
「てめえなんかに四魂のかけらはやらねえ!」
犬夜叉が地を蹴り、葉を散らす。妖刀鉄砕牙が長飛丸に襲いかかった。
長飛丸はすばやく飛び上がると、口を大きく開ける。
並んだ牙の奥から、熱い炎が放たれた。真っ赤に燃える火が広がり、地面を焼いて煙を
起こす。
犬夜叉が横っ飛びして火をかわし刀を振ると、妖気の風が発っせられる。
風が走り長飛丸を斬ろうとした。だが、長飛丸は風より速く動いてよける。
「ちくしょう、でけえくせによく飛びやがる」
犬夜叉が思わずこぼす。爆流破を起こそうにも、長飛丸は速すぎて妖気が読めない。
月下に銀の髪と金の髪が乱れ、行き交う。恐ろしくも、どこか美しくもある光景だ。
「さっきからあの小娘……」
長飛丸はいらだたしそうに、かごめをにらんだ。
「なんだ?」
「えい、気になってやっておれんわ!」
犬夜叉から離れると、長飛丸はかごめの前に降り立った。
恐ろしい姿にかごめは身をすくませる。
「てめえ!」
犬夜叉が鉄砕牙を上段に構えた。
「おい娘、その荷入れをよこせ」
「え……四魂のかけらじゃなくて?」
かごめは四魂のかけらを小ビンに入れ、今は首にかけている。
「あん? 違う、そ、その……なんかいいにおいのするもんだよ!」
鋭い爪のある指で、長飛丸はリュックをさした。
「も、もしかして、カレー?」
「かれえ? とにかく、よこせ」
むりやりひったくると、長飛丸はリュックの中からタッパーを取り出した。
「何じゃこの箱は……どうやって開けるんじゃ」
「貸して。こうよ」
かごめはタッパーを取ると、ふたを開けてやる。
開いたタッパーを受け取り、長飛丸は舌を出してカレーを飲むようにした。
「それ、ご飯と食べるのに……」
「飯なんぞいらん。うむ……これは……うめえ!」
「よくそんなもん食えるなあ……」
犬夜叉がけげんな顔をすると、かごめは高い声で刺すように言った。
「そんなもんって何よ!」
「おい娘、もっとよこせ」
長飛丸が空のタッパーを振って、要求する。空気に緊張感がなくなっていった。
犬夜叉は長飛丸に刀を向ける。
「俺との勝負はどうなったんだよ!」
「うるせえ、今それどころじゃねえ」
「中途半端にやめるんじゃねえ、ちゃんと勝負しやがれ!」
「犬夜叉が長飛丸みたいなこと言ってるよ」
珊瑚は困惑し、またあきれてほおに手を当てた。
「もっとねえのか」
おかまいなしに長飛丸がきく。
「家に帰らないとないよ」
「ああん? しょうがねえ、飛んでってやるから場所を教えろ」
「かごめの家はこの世界にはないんじゃ」
やや恐怖が薄らいだ七宝が、教えてやった。
「何だと?」
長飛丸の牙を見ると、やはり七宝は恐れ、かごめの後ろに隠れた。珊瑚が代わりに教える。
「かごめちゃんのうちは骨喰いの井戸って井戸の先で、かごめちゃんと犬夜叉しか通れない
のさ」
「ううむ……じゃあそこまで送ってやるから持って来い」
長飛丸はじれったそうに歯ぎしりした。
「ねえ、長飛丸ってそんなに悪い妖怪じゃないんじゃない?」
かごめが言うと、犬夜叉は強い調子で反論した。
「何言ってやがんだ、人を殺して食うんだから悪いに決まってんだろ」
「そりゃそうだけど」
「おまえは、かれえを誉められたから喜んでるだけじゃねえのか」
「そんなこと……ないもん」
「ちょっとあるんじゃねえか!」
「何よ、犬夜叉なんて文句ばっかりのくせに! おすわり!」
「ぎゃっ!」
念珠の力で、犬夜叉は押しつぶされた蛙のようになる。
「ねえ長飛丸、人を食べるのをやめられないの?」
かごめにきかれると、長飛丸はくだらない、とでも言いたそうにした。
「何でわしがおまえの言うことなんか、きかなきゃならんのだ。
人間なんざ、ほっときゃ五十年もすりゃ勝手にくたばるじゃねえか。
そのくせ、くだらねぇ理由でいくさだ何だといって殺し合うのよ。
ちょっと何かあると、すぐ首吊ったり腹切ったりして死にやがるしよ。
そんなモンだ、わしがたまに取って食って何が悪い」
とりあえずここまで
ではまた
弥勒は穏やかに、説き伏せるように言う。
「なかなか耳の痛いことを言いますなあ。だが長飛丸、それは人間の片方の顔ですよ。人間
には鬼の顔、仏の顔、二つの顔があるのです」
「けっ、くだらねえ。説法何ざあ糞食らえだ。人間なんてみんなテメエのことしか考えて
ねえじゃねえか。
別にそれは悪かねえぜ、妖もみんなそうだ、当たり前のこった! だが、人間は弱っちい
から、わしは……嫌いだ……」
長飛丸はうつむき、何か考え込んだ。不思議がり、かごめはきいた。
「どうしたの」
「やっぱり、あんなもん食ったから腹に当たったんじゃねえのか」
「犬夜叉!」
「かれえを食ったら、何だか昔のことを思い出したような気がしたのよ。わしは……遠い
どこかにいた……?」
「おまえ、自分のことを覚えとらんのか」
恐がりつつも、七宝はたずねた。
「わしは千年以上も生きとるんだ。昔のことなど、いちいち覚えとらん……」
長飛丸の脳裏に、異国の人間の顔がちらつく。女と子供だ。
(わしは独りではなかった……?)
茂みが動き、葉や枝がぶつかり合って音をきかせた。
葉を顔につけた、小汚い身なりの子供が出てくる。
「騒がしいと思ったら、なんだ犬公どもか。うへぇ、でけえのがいるなあ。おまえらの仲間
か?」
「どろろじゃねえか。こいつは人を食うんだ、近づくなよ」
犬夜叉が注意をうながす。
長飛丸はどろろを見ると、また遠い過去をかすかに思い出し、胸が苦しいような感覚に
とらわれた。
はい出てきたどろろに、弥勒がたずねた。
「どろろ。何をしているのです」
「へへへ、証拠固めよ。鯖目のおっさんはあやつられてるし、村の連中もここのつばっかり
恐がって黒幕がわかってねえ」
どろろは得意になって包みを見せた。中には白くて丸いものが数個、入っている。
珊瑚はかがんで、丸いものをながめた。
「こりゃあ、虫の妖怪のタマゴかい」
「ああ、たぶん蛾だぜ。そっちのほら穴にまだまだ何百個もあらあ。鯖目の屋敷にいるんだ、
夜中イモムシが襲いかかってきてさ、もう少しでやっつけてやれそうだったんだけど、
でけえ蛾がきて逃げられたんだ」
どろろの話をきいた長飛丸が、大きな口を動かした。
「そいつはマイマイオンバだな」
「知ってんのか。てめえ、グルじゃねえだろうな」
犬夜叉が疑わしそうな目を向ける。
長飛丸は不快そうにした。
「わしゃあ誰ともつるむ必要はねえ。わしぐらい長く生きてるとだいたいわかるのよ。
マイマイオンバって奴は人間の男に取り入って増える、つまらん妖だ」
弥勒は鯖目の言葉を思い出す。
「鯖目どのは最近、妻を招いたそうでしたな。なるほど、読めてきた」
「そっか、鯖目の後妻が妖怪なんだ」
どろろも気がつき、うなずいた。
「じゃあ、屋敷に戻らないと」
かごめが駆け出し、犬夜叉たちも来た道を走って坂を下った。
彼らの上を、金色の妖獣が飛んでいく。
「そこに槍野郎がいやがるんだな。よし、行ってぶっ殺してやるぜ」
「長飛丸! やめて、草太郎くんはこれ以上戦うと獣になっちゃうの!」
かごめの嘆願もむなしいばかり。
「そんなことわしの知ったことか」
長飛丸は夜空を飛んで去った。
揺れるろうそくの火をながめ、みさをは一人、部屋の真ん中に座っていた。
後妻をもうけてから変わった父のこと、自分の代わりに生けにえにいった珊瑚のこと、
草太郎のことなどが、みさをの頭で交錯していた。
「みさを……」
薄気味悪い声に、みさをは我に返った。顔を上げると、障子が破けて倒れる。
そこには鬼のような顔をした、大きなイモムシがいた。
悲鳴をあげてすぐ、みさをは気をうしなってしまった。
いくつも付いた足を動かし、イモムシはみさをに近づく。
「出たな!」
袖をひるがえして、百鬼丸が部屋に飛び込んだ。刀が冷たく光ってイモムシを狙いすます。
イモムシは口を開け、ねばつく糸をそこらじゅうに吐いた。
「むっ、しまった」
糸に足を取られ、百鬼丸は思うように動けない。イモムシはみさをを糸でからめ、引き
寄せた。
「みさをー!」
情けない声とともに、何かが突進してイモムシの後部を刺した。
世にも恐ろしいうめきをきかせ、イモムシはみさをを引きずり壁を破って夜の闇へ逃げる。
「み、みさを! みさをを放してくれぇぇ!」
わめき散らす長い黒髪の男は、糸に全身と槍をひっかけて身動きできなくなっていた。
「なんだ、おまえは」
面食らった百鬼丸がきくと、あわてながら男は答える。
「わ、わしはみさをの幼なじみで、草太郎じゃ」
百鬼丸は刀を振って、糸を切ってやった。
「おまえ……」
草太郎の顔、腕にはひびが入って、いまにも砕け割れそうな土器のようだ。
「みさをがおらなくなったら、わしは一人になってしまう!」
「待て、その槍はどす黒い妖気が練り込められている。そいつのせいでおまえ、このままだ
と妖怪になるぞ」
「うん、知っとる。それでも、みさをは助けなきゃ……」
「助けたとしても、そんときおまえは妖怪だ。あの女は感謝しないぞ」
「か、構わん!」
槍を手に、草太郎は髪を伸ばして飛び出した。しかたなしに、百鬼丸もすぐあとを追う。
みさをは糸にくるまれ、闇夜の中空に浮かんでいた。
その上を、振り袖を蛾の羽にした女が飛んでいる。
「ひいぃー、恐いー!」
叫びながら、草太郎は獣の槍を構え妖気を発する。
言動とありようの落差に、百鬼丸はあきれてやや気を抜かした。
「妙な野郎だな……」
大きな蛾は、毒のりんぷんを振りまいて旋回する。
「みさを、鯖目様を手に入れるのに、おまえが邪魔なのだ。おとなしくここのつに食われれば
よかったものを……」
強烈な妖気の接近を感じて百鬼丸が見ると、妖獣が杉の木のてっぺんに降り立っていた。
「おい、槍野郎。さっさとそいつでぶっ殺せよ。そんでケンカの続きだ」
「い、いかん、みさをが人質に取られとる」
槍を握り締め、草太郎は首を振って黒い髪を乱した。
「ああん? ったく、誰が死のうがどうしようが、てめえに何の関係があるってんだ」
「わしは、一人では生きていかれんのじゃあ」
ひび割れた顔で草太郎は涙を飛ばした。
そこへ駆けつけた犬夜叉が、夜空に向かって強く言い放った。
「マイマイオンバ! てめえの悪事はもう知れてるぜ」
マイマイオンバ@どろろ
とりあえずここまでで
この話はあと4レスくらいと思われます
たいまつの火が列を作り、道づたいに動いて屋敷に近づくのがわかる。
「村の連中にどろろたちが知らせたぜ。ここのつとグルのてめえは村のもんに八つ裂きだ、
観念しな」
「おのれ、憎しや……」
かごめと七宝に屋敷から連れだされた鯖目が、吊られるみさを、上を飛ぶマイマイオンバ
を見て仰天した。
「あいつはタマゴを山にたくさん生みつけてるんだよ」
珊瑚が半透明の白い楕円形を鯖目に見せつけた。
「鯖目様、私と添い遂げてくださいまし、そやつらを滅ぼしてくださいまし」
深く嘆くように、女の顔をした蛾が頼み込んだ。
「だ、黙れっ! もうわしはおまえなど見たくもない、みさをを返せ」
鯖目は身をふるわし、娘を案じる。
「お恨み申しますぞ、鯖目様……我が一族の種を増やさんとしたものを」
宙のみさをにしがみつき、マイマイオンバは口を開け牙を光らせる。
「雲母、月を隠して! 誰か、火を起こすんだ。虫は月がないと火に吸い寄せられるからね」
珊瑚の指示で子猫のような雲母は馬ぐらいになった。飛び上がり、猫又の雲母は月に重なる。
だが、村人がかかげるたいまつはまだ遠い。
「みさをー! 頼む、みさをだけはー!」
草太郎はひび割れた腕をのばし、宙をかく。
「しょうがねえなー」
めんどうそうに長飛丸は浮かび、口から火炎を吐き出した。
杉の木が赤い火を浴びせられ、またたく間に火の柱と化す。燃える杉が火の粉を飛ばし、
夜の庭を照らした。
「おお、私が引き寄せられる……」
もがいても蛾の本能に逆らえず、マイマイオンバは燃え盛る杉の木に近寄った。
みさをは地へと落ちていく。草太郎がまゆに包まれたみさをの体を受けとめた。
「み、みさを……」
草太郎はみさをの無事を喜び、涙した。
「よし、蛾の野郎、始末してやる」
犬夜叉が鉄砕牙を抜こうとするのを、やってきた弥勒が錫杖で止めた。
「待ちなさい、犬夜叉」
「なんでえ」
「あれは百鬼丸の獲物かも知れません」
刀を構え、炎を背に百鬼丸は長い影を作る。
「さあ、もっと近くに来い」
村人が集まって、燃える杉、引き寄せられる蛾、刀を握る百鬼丸、地獄を切り取った
ようなその恐ろしい光景をながめた。
「あにき!」
村人たちを先導してきたどろろが叫ぶ。
百鬼丸が空を蹴った。と思うや、脚がはずれて飛んでいく。
作り物の脚に入った強い酸をひっかけられ、マイマイオンバは悲鳴を響かせた。蛾の妖怪
は形を崩しながらも百鬼丸に襲いかかる。
刀がマイマイオンバを真ん中から切り裂き、二つにした。
燃えて倒れる杉が音を立て、分断されたマイマイオンバをつぶす。
黒い煙が立ちのぼり、燃える木っ端が四方八方に飛び散った。
「うらめしや、百鬼丸、長飛丸……我が子よ、このうらみ晴らしておくれ……」
マイマイオンバは二つのかたまりになって燃え、やがて黒い灰になった。
「う、うう……」
うめき、百鬼丸はうずくまる。
「あにき、大丈夫か」
どろろが百鬼丸に駆け寄った。
百鬼丸の右ももの付け根から、何かが生えて形成されていく。
「脚だ! あにき、新しい脚が生えてきたよ」
「そうか、あれは四十八の魔物の一匹だったんじゃな」
七宝は百鬼丸の宿命を思い出し、つぶやいた。
「ま、まだだ」
脚が生える痛みに苦しみながら、百鬼丸が口をきく。
「え? なんだいあにき」
「マイマイオンバのガキを仕留めそこなった。あのイモムシだ」
長飛丸が、草太郎の前に降りた。
「さあ、ケンカの続きをしようや」
長飛丸の背後で土が盛り上がる。振り向いたときには遅く、鬼の形相をしたイモムシは
長飛丸の肩に咬みついていた。
「し、しまった……」
かごめはイモムシを指さす。
「あいつ、四魂のかけらを持ってるわ」
「何だと! くそっ」
犬夜叉は鉄砕牙を抜き、イモムシを斬ろうと振り上げた。
四魂のかけらが、イモムシの力を増大させる。長飛丸の体が引きちぎられそうになった。
突然、鋭い何かが、イモムシの体を縦に貫通した。イモムシは頭から尻まで穴を開けら
れ、直後破裂した。
虫の体液と肉片が、草太郎の足元にばらまかれた。
「草太郎……おまえ」
犬夜叉は微動だにできず、目を見張る。
草太郎の腕、顔のひびは大きくなり、目は人らしからぬ光を帯びた。
「てめぇ、わしを助けたのか」
長飛丸には、草太郎の行動が理解できない。
「おまえは、みさをを助けてくれたから……」
「ああ? 馬鹿か、わしゃあ別にあんな女助けとらんわ!
おまえが腑抜けすぎるからだな……」
「長飛丸、勝負の続きをしよう」
「あん? そこの女はどうするんだよ」
「いいんじゃ。もう、手遅れじゃ」
悲しそうに笑う草太郎の口には、牙が見えた。
「あんな虫殺さなきゃ、そこまでにはならなかったかも知れねえのによ! わしは助け
なんかいらんかったんだ」
草太郎に助けられたことは長飛丸をひどくいらだたせ、また混乱させた。
そのとき、みさをが意識を取り戻し、身を起こした。
「おお、みさを」
鯖目は涙を流し、娘の無事を喜んだ。みさをは黒く長い髪を見ると、笑顔になる。
「草太郎? 草太郎じゃろ?」
草太郎は振り向かない。すでにその顔は人間のものとはやや違っている。
「草太郎、ずっと待っていたんじゃ。……草太郎?」
みさをの声を振り切り、草太郎は駆け出した。
「行こう、長飛丸」
草太郎は槍を抱え、山へと走った。
「けっ、おもしれえ、やってやる」
長飛丸も山へと飛んだ。二人とも物凄い速さで、とても追いつけそうにない。
それでも、犬夜叉は走った。珊瑚も雲母を寄せ、弥勒、かごめ、七宝を乗せて追う。
「草太郎! くそっ、あの馬鹿野郎!」
草太郎を止めるべく、犬夜叉は夜道をひた走る。
「まずいよ、草太郎が勝っても獣になっちゃう」
珊瑚も雲母を急がせた。賢い雲母は緊急と知り、速度を上げる。
「下手をすれば、長飛丸が草太郎を殺してしまう」
弥勒があとを継いで言うと、かごめは助けを求めるように叫んだ。
「そんな……どっちもだめよ!」
「ちくしょう、なんてやっかいな槍だ。刀々斎のじじいがびびるわけだぜ」
草太郎の心中を思うと、犬夜叉は哀れまずにはいられない。
とりあえずここまで
またちょっとレス増えるみたい……
すまんです
犬夜叉たちは、山で意外な光景を目にした。
長飛丸が肩を獣の槍に刺され、岩を背にしている。槍は貫通して、長飛丸はぬいとめ
られているようだ。
「長飛丸……わざと刺されたのか」
たずねる草太郎の姿は、人に戻っていた。
「誰が……油断して刺されちまったのよ。だが、色々都合がいいみてえだぜ。
獣の槍は眠ってるらしい。だからおまえ、元に戻ったじゃねえか」
「うん」と、草太郎は子供のようにうなずく。
「こうしておくと獣の槍は気配を消せるらしい。おまえにたかってた妖の群れがいたってな。
そいつは婢妖っつって、白面の使いよ。これでしばらく白面の下っぱ、槍を見つけられ
ねえだろうぜ」
「白面……三百年前、人間と妖怪が南の海に封じたっていうあれかい」
珊瑚は伝説でだけ知る。長飛丸は裂けた口で牙を見せてにやついた。
「この槍、わざとこうして寝ることにしたんだろうよ。白面の復活までな」
「おまえ……いい妖なのかも知れんなあ」
草太郎がこう言うと、長飛丸は不愉快そうに顔をゆがめた。
「けっ、やめろやめろ気持ちわりい。そんなわけあるか。とっととあの女のところにでも
行っちまえ」
「長飛丸……すまん。いつか、おまえを守ろうというものがあらわれるかも知れんな」
草太郎はみさをに会うため、山を下りる道を走っていった。
「そんな奴いるわけねえだろうがよ……」
獣の槍にぬいとめられた長飛丸は、独りつぶやいた。
「ねえ……どうしよう」
かごめが途方に暮れる。弥勒は錫杖をつき、長飛丸に歩み寄った。
「長飛丸の言うとおり、色々都合がいいかも知れません。
長飛丸、おまえには時間ができた。今まで殺して食ってきた人間のことを、よく考える
といい」
「けっ、くだらねえ。人間なんざあてめえ勝手な奴ばかりよ。妖も、もちろんわしもな!
みんなそうだ、おまえらもすぐ思い知るぜ、わしが正しいってなあ!」
長飛丸は楽しげに、口を大きく開けて笑った。
犬夜叉はため息をつき、足の向きを変えた。
「しかたがねえ、このまま行こうぜ。槍を抜きゃあこいつぁ人を食うし、だからってこいつ
を殺したら槍がすっぽ抜けて、それをまた誰かが拾ったら……」
また草太郎のように苦しむ者が出る。
レス数間違えた↑16ね
「あんな槍、海の底にでも捨ててしまえ」
七宝の提案を、珊瑚が却下する。
「獣の槍は白面がもし復活したら、必要さ。長飛丸もそのときは役に立つかもしれないよ」
「だから結局、ほうっておくしかありません」
弥勒がしめくくり、犬夜叉たちは下り坂を下りようとした。
「なんか、ちょっと……かわいそう」
かごめは長飛丸に近寄り、尖った耳にささやいた。
「長飛丸、人間を食べるのやめたら、またカレー作ってあげるわ」
「ふん、やなこった。とっとと行っちまえ!」
かごめは後ろ髪引かれる思いをしつつも、犬夜叉のあとを歩いた。
残された長飛丸は、明けつつある空を見上げた。
(また独りか……。ずっとそうだったがな。同じことだ。
まあ、ちょっと……退屈だがよ)
日がのぼって、地上に朝がもたらされる。妖怪の気配がなくなった村では、祝いに祭り
の準備がなされていた。
やぐらが組まれ、太鼓が上げられる。
どろろはそんなようすに気をよくしながら、雑木林の奥へ包みを抱えていった。
包みを広げると、作り物の脚が出てくる。どろろはくわで穴を掘りはじめた。
今までよく働いた脚だが、人が見たら気味悪いだろうから、と供養の意味も兼ねて埋める
よう、百鬼丸に頼まれたのだ。
どろろが小さい体を動かしていると、村人数人が近づいた。
「よう、お祭りの準備はどうだい」
どろろは機嫌よくきいたが、村人たちは疑いの目を向けた。
「何してるんだ」
「脚を埋めてんのさ。いいだろ別に」
葉を踏み、さらに何人かの村人が来てどろろを囲んだ。空気は険悪になっていくようだった。
「あいつ、脚が生えたぞ」「トカゲの尻尾みたいに」「人間じゃねえんじゃねえのか」
恐ろしい顔をする村の男たちに、どろろは言い返した。
「何言ってんだい、あにきは人間だい」
「あいつも妖怪なんだ」「妖怪だから妖怪を殺せるんだろう」「妖怪は村から出ていけ!」
どろろは弱って泣きだしそうになる。
「出ていけったって、あにきはまだ脚が立たねえんだ。
生まれて初めての、自分の生きた脚を持ったんだぜ」
「そんなの知るか」「もう妖怪なんてうんざりだ」
村人たちの嫌悪の念が、どろろを押しやるようだ。
「せめて明日まで……」
「だめだ、今日中に出ていけ」「妖怪は出ていけ!」「出ていけ!」
ついにどろろの我慢も限界を超えた。
「やいやいやい! 何でえ、寄ってたかってあにきを邪魔者みてえに! 人とちょっと違う
からって、どいつもこいつも恩を仇で返しやがる!」
どろろの豹変ぶりに、それまであなどっていた村人がたじろぐ。
「いつもどこに行ってもそうだ、体を張って妖怪を退治してやっても、誰も礼も言やあしねえ!
そりゃあおいらぁ泥棒だけどな、あにきはいい奴なんだぞ!」
作り物の脚を振り回し、村人たちを追い立てると、どろろは村へ走った。
組まれたばかりのやぐらにのぼり、どろろは太鼓を蹴落とす。落ちた太鼓が割れて大音
をきかせた。
「こんな祭りぶっ壊してやる!」
「なんてことをするガキだ」
大人たちがやぐらにのぼろうとすると、どろろが脚で殴りつけた。男たちが次々地面
にたたきつけられ、大騒ぎだ。
「来てみやがれ、みんな落っことしてやる」
どろろは脚をかかげて怒鳴り散らした。
「妖怪のクソガキめ!」「よくもやったな」
村人たちは石やら木片やらを、どろろを的に投げつける。
そこへ、犬夜叉たちがやってきた。犬夜叉に村人が助けを求めた。
「た、頼む、妖怪の仲間のあのガキが暴れてるんだ」
「へえ、そうかよ。ところで、俺も妖怪なんだけどよ、どうしてくれんだ?」
犬夜叉は牙を向き、爪を尖らせて見せつける。悲鳴をあげ、村人たちは逃げ去った。
「おい、どろろ。もういいだろ」
犬夜叉が呼びかけると、どろろは悲しそうな顔でやぐらをおりた。
七宝は深いため息をついた。
「人間は自分のことしか考えとらん。これでは長飛丸の言ったとおりではないか」
「長飛丸も半分は正しいのですよ。ですがやっぱり、人間には二つの顔があるのです。
鬼の顔と、仏の顔」
弥勒は錫杖をついて鳴らし、歩きだす。
「本当にそうかねえ」
珊瑚が暗い表情で言う。弥勒は自信ありげだ。
「そうですとも。ほら」
弥勒の視線の先には、木の棒を杖にする男が、風に吹かれていた。
「あにき! いいのかよ」
どろろが百鬼丸のもとへ向かって駆ける。
「ここにはもう用はない。行くぞどろろ」
ぎこちなく、百鬼丸は歩き始めた。
「待てよあにき、置いて行くなよう」
「置いてなんか行かないさ。俺は物好きでおまえと旅してるんだ」
「へっ、おいらもだい。いいかあにき、油断してるとその刀を盗んじゃうからな」
「油断などしていない。俺の刀を盗んだら、おまえの手をたたっ斬ってやる」
二人はまたどこかへと旅立っていく。
「わかりましたか。人間には二つの顔があるのですよ」
弥勒は二人の背を見送った。七宝は残念そうに言う。
「あれでは、ちっとも報われんではないか」
「いつか、わかってもらえる日も来ますよ。いつかね……」
「さて、俺たちもここに用はねえ。行くか」
犬夜叉がうながす。四魂のかけらは探したが、すでになかった。奈落の使いが持ち去った
のだろう。
かごめはあれこれと思いをめぐらしながら、うなずいた。
(長飛丸も、いつかわかってくれるよね……)
犬夜叉たちはそれぞれの目的のため、再び旅立った。
これで終わりです
長々と失礼しました では
久しぶりにうしとら全巻読み終わってスレ覗いたら…こんちくしょう、なんてタイミングなんだ…
もう少し凶悪っぷりがあったほうが長飛丸らしかったと思うんだがそれでも面白かった。乙!
おおレスありがとうです
しかし自分ばっか投下しててなんか悪いなー
まあどうせネタないんでこれからしばらく書かないけどね
78 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/11(日) 19:01:50 ID:VSAiIjdH
誰か僕のために地獄が舞台でいろんな雪女が出てくる小説書いてください
お願いします
お前まだいたのかw
WIKIの管理人さんもういないですかね?
同一端末で同じページを十五回以上編集すると一時的に編集できなくなる設定のようです
設定変更できたらお願いします
いないかなあ……
保守
懲りずに投下してやるー
「おまえときたら、またか」
細川美樹は担任の鵺野に、くどくどとした説教を食らっていた。
生徒たちはまたか、というようすでどうともおもわない。
「そんなことばかりしていると、いまに大変な目にあうぞ」
眉の太い、左手に黒い手袋をつけた鵺野鳴介は、青年と言ってよい見た目だが、生徒に
対してはやや年寄じみている。
怒られる美樹はかわいげのある顔をしてはいるが、今はつまらなそうな表情だ。小学生
のわりにはが発育よかった。
「美樹、今度は何したんだ?」
見ていた広が郷子にきいた。
「ケサランパサランを増やして、ネットで売ろうとしたの」
ケサランパサランは綿毛のような妖怪で、おしろいと人間の希望をエサにして増える。
人間に幸運を与えるといわれる。
ふうん、と毎度ながらあきれると、広は好きなサッカーをしに教室を出ていった。ほかの
生徒も美樹が怒られるのは日常なので特に気にせず、それぞれ自分の用事に意識を向けた。
その日の帰り、道を歩く美樹を追って、郷子が声をかけた。
「美樹、一緒に帰ろうよ」
ふん、と美樹は不機嫌そうにした。
「あんたでしょ、ぬーべーに告げ口したの」
「だって、心配だったから相談したのよ」
「何よ、チクリ魔、告げ口女! もう絶交よ、フンだ」
ふくれっ面して、美樹は郷子を置いて早歩きしていく。
「美樹! ひどい目にあう前にああいうこと、やめなさいよ」
後ろからの忠告するに、美樹は振り向かなかった。
「見てなさいよ、いまにみんなをあっと言わせてやるんだから」
家に帰るや、ランドセルを投げ美樹はすぐに外へ出た。
動画配信サイトで見た、黄色い怪物を美樹は探していた。
長い毛を頭から生やして、ライオンのような姿、ビルの間を飛ぶ未確認生物だ。
「ネットで動画配信して話題になって、アイドル美樹ちゃんの誕生よ」
とらぬ狸のなんとか、今からほくそ笑み、美樹は虫取りアミとビデオカメラを手に、街中
を走り回った。
時は十月三十日、かぼちゃの置物が飾られて、街はハロウィーン色に染まっている。
日が落ちるころ、赤黒い空の下で美樹は落ち込んでいた。やはり、そうそう見つかる
ものではない。
風は冬の気配を感じさせて、ミニスカートの美樹には身に染みた。
ふと、古い寺に気配を感じた美樹は、何となくのぞいてみた。
本堂の前に、影がいくつも動いている。
「ついに明日だ」「時が来た」
何かと思いよく見ると、狼男やフランケン、くりぬかれたカボチャが話し合っている。
美樹は仮装かとも思ったが、そうではないらしい。空っぽのカボチャが中身に火をとも
して、ケタケタ笑っている。
(本物の妖怪だわ!)
美樹は息を殺し、ふるえる指でビデオカメラを起動させた。
「トリック・オア・トリート! 明日、日が沈んだら童守30ビルを占拠して、ブリガドーン
を定着させるのよ!」
若い魔女がほうきを手に言い、カボチャたちはうれしそうに飛び跳ねた。
(明日、童守30ビル……!)
美樹は頭に刻み込む。
妖怪たちは浮かび上がり、黒くなった空へ吸い込まれるように消えた。
「あっ、行っちゃった。あんまり撮れなかったな……でも」
場所と時間はきいた。自分がレポーターになって録画すれば、ネットの話題を独り占め
確実だ。
「ついに私が世界にはばたくときが来たわ!」
そうと決まれば、と美樹は明日に備えて、飛ぶように帰るのだった。
んじゃ続きは明日
ハロウィーン当日、街はセールや仮装した人でにぎわう。
「時は来た!」「歌え、トリック・オア・トリート!」
大通りを狼男、フランケン、カボチャのお化けたち異形の行列がねり歩くと、人々は笑顔
で見送った。
「誰も恐がってないじゃない」
若い魔女ザンビアは、人間たちの歓迎に腹を立てた。
「まあいいじゃない、やりやすくて」
オカマの狼男ワイルドはするどい牙のある口を動かす。
「バックベアード様をお迎えするのに、こんななごやかムードじゃダメよ!
人間たちの恐怖の悲鳴こそ、ベアード様にふさわしい賛美歌だわ」
「それもそうねえ。少しおどかしてやる?」
ザンビアとワイルドはうなずきあった。ザンビアはほうきを振りかざし、唱える。
「アパラチャモゲータ!」
煙とともにナイフが飛んで、商店の入り口あたりに刺さった。
カボチャたちが笑いながら通行人に飛びかかり、かみつく。
ワイルドは光る目、とがった牙で人間たちを威嚇する。
いっぺんに悲鳴が満ち大混乱の中、人間たちは逃げ惑った。
「これこれ、これよ! トリック・オア・トリート! トリック・オア・トリート!」
ザンビアは喜び、童守30ビルをめざした。
逃げる人々の流れに逆らって、美樹は西洋妖怪たちをビデオカメラで撮影していた。
「はーい、私美樹ちゃんでーす、恐ーい妖怪が今、童守30ビルに向かっています!」
たまに自分が被写体になりつつ、美樹は隠れながら妖怪の群れを追う。
童守30ビル前広場に、すでに人気はなかった。
「あっけないわね。まあいいわ、ビルの屋上にブリガドーン定着装置を取り付けましょう」
ザンビアは愉快そうに、しもべのカボチャに指示した。
電信柱の影に隠れて、美樹は撮影し続ける。
「ブリ……?」
何のことだろう、と思いながら、美樹はレンズ越しに魔女を見つめる。
「ちょっとあんた、何してんのよ」
「うるさいわね、今撮影中でいそがし……」
答えながら振り向くと、そこには毛むくじゃらの男が立っていた。
美樹は悲鳴も忘れて口を開けっ放しにする。
ワイルドは美樹の首根っ子をつかむと、引きずって仲間たちと合流した。
「人間のガキがビデオで私たちを撮ってたわ」
美樹をぶらさげ、ワイルドがザンビアに告げる。
「あらそう、かわいく撮れてたでしょうね」
ザンビアはほうきの柄で美樹の頭をこづいた。
「ベアード様への捧げものにちょうどいいわ。切り刻んで差し出しましょう」
「いやーっ、助けてーっ!」
美樹の頭に、鵺野と郷子の言葉が響いた。
『そんなことばかりしていると、いまに大変な目にあうぞ』
『美樹! ひどい目にあう前にああいうこと、やめなさいよ』
ついにそのときが来た、もうおしまいだ、と美樹は観念した。
狼男につかまれ、魔女が目の前にいて、カボチャのお化けの群れに囲まれて、助かる
とは思えない。
「ぬーべー……」
涙声を出しても、鵺野が助けにこないことは知っていた。自分は見捨てられたのだ、教師
にも親友にも。さすがの美樹も、自分のしてきたこと、周囲の忠言を無視し続けてきたこと
を後悔した。が、もう遅い。
突然、激しい光が空間に発した。カボチャたちは吹き飛ばされ、焼け焦げて広場に散らばる。
「な、何?」
驚いたワイルドは美樹を落とした。その美樹も動けない。
「おもしろそうじゃねえか。わしも混ぜろ」
黄色い猛獣が長い髪を振り乱し、ワイルド、ザンビアに近づく。
「なっ、何よあんた?」
「日本の妖怪? 戦うつもり?」
ザンビアはほうきを手に、魔法を起こす準備をした。
「おまえらが何をしようと、わしゃあ興味ねえがよ。おまえらが強いならちっと退屈しのぎ
になれや」
妖獣は巨体を動かし、口を裂いて笑ってみせる。
「ダサい日本妖怪のくせに生意気よ、アパラチャモゲータ!」
宙から生まれ出たナイフが飛んで、獣に向かう。
だが、獣の長い毛が鞭のようにしなり、ナイフを払い落とした。
黄色い獣が帯電して火花を散らすと、目をつぶすような電撃が走る。
稲妻が空気を割り、大音が響き渡る。ザンビアとワイルドは飛び上がって恐怖した。
「に、日本妖怪にあんなのがいたなんて」「きいてないわよーっ!」
ほうきにまたがり、ザンビアはさっさと逃げを決め込む。ワイルドは蜘蛛の糸よろしく、
空飛ぶほうきにしがみついた。
ほかの西洋妖怪も二人にならい、走り、飛び、散っていった。
「なんだ、おもしろくねえ」
残された獣は、くまどりのある目で美樹を見下ろした。
ネットで話題の未確認生物だということは美樹にもわかった。だが、パソコンの画面では
わからなかったが、獣の大きさは力士のようでいて体付きは肉食獣らしく引き締まっている。
その目は狂暴そのものといったふうだ。
「ガキか、食ってやるか」
獣の牙は、まさに肉を引き裂くためにあるようなものだった。美樹は遠くなる意識の中で、
今度こそ自分はおしまいだと観念した。
あの恐ろしい西洋妖怪を蹴散らした怪物に、なすすべがあるとは思えない。
一歩踏み出し、妖獣は顔をゆがめた。
「いてっ、なんだ」
足の裏をのぞき見て、獣は器用に手で何かをつまんだ。
「毛の針……どこのどいつが」
「よくもやってくれたね……」
空からの声に、獣は見上げた。巨大な黒い球体が浮かんでいる。
毒の塊のような球体には、大きな一つ目がついていた。
「私は西洋妖怪大統領バックベアード……」
その強烈な眼力に、黄色の獣さえもふらついた。
「しまった……術かよ」
獣が壁になって美樹はベアードの眼力を避けられた。だが、美樹には自分が助かるとは
思えなかった。
今度という今度こそ、美樹は観念した。この強力な妖獣さえも動けなくしてしまう化け物
から、逃げられるとは思えない。
突然、ベアードの黒く丸い体を何かが突き破った。
「おお……これは……!」
ベアードをつらぬいたのは、槍を持つ、異様に長い髪の何者かだ。
丸い体に穴を開け、ベアードは苦しむ。
「お、おまえは……」
「とらぁぁぁぁ!」
とらと呼ばれた獣は、槍にやや恐れを示す。
「な、なんだよ! まだ食ってねーぞ!」
「当たり前だ!」
男の長い髪は大蛇を思わせる。目は奇妙に光って、人とは思えない。
美樹は今度という今度という今度こそ観念した。あの巨大な目玉の化け物をつらぬいて
しまう、しかもこのけだものさえも恐れているらしい悪魔のような男に対して、何ができる
とも思えない。
「そ、そうか、それがハマー機関が探している『獣の槍』……」
体を破られ空で揺れるバックベアードが、低い声でつぶやく。
「ハマー機関? ってなんだ?」
長い髪の妖怪じみた男は槍を構え、きいた。
「アメリカでもその槍は知られているのだよ。しかたがない、ここは去ろう」
ベアードは上昇していき、姿を消した。強大で邪悪な妖気もやがて消えた。
「さーて、このガキを食ってやるか」
とらが美樹の頭の上で、大きく口を開ける。
「やめろっ!」
とらの予想とは別のものが、食事の邪魔をした。
大きな手が割って入り、とらの顔を打つ。手は人らしからぬ紫色で、するどい爪をつけて
いた。
「ぬ、ぬーべー!」
教え子の少女を助けたのは、異常な左手をあらわにしたぬーべーこと鵺野だ。
「俺の生徒に手出しはさせん!」
「た、助けにきてくれたの?」
鵺野の背を見上げる美樹の目から、涙があふれる。
「当たり前だ、俺の生徒だからな。おまえが黄色い怪物を追っているときいて、みんなで
探してたんだ」
鵺野の左手を、とらはめずらしそうにながめる。
「なんだ、てめえは。人間みてえな妖(バケモノ)だな」
「ち、違う、俺は人間だ」
異様な左手を振り、白衣観音経を右手に持ち、鵺野は否定する。
そこへ、子供たちの声が近づいた。
「美樹ー!」「大丈夫か!」
郷子、広、ほか美樹の級友たちだ。美樹は友情にまた涙した。
「みんな……」
「おまえたち、来るんじゃない。こいつらは相当手強い妖怪だぞ」
生徒たちが近寄るのを、鵺野は制止した。
「美樹、おまえ今回は相当な地雷を踏んだなあ」
とら、槍の男、二体からの強烈な妖気に鵺野は身を固くした。
「そんなにすごい妖怪なの?」
距離をおき、広が恐る恐るきく。確かに黄色い妖獣は見るからに凶悪そうだし、槍を持つ
男は異常なまでに長い黒髪を振り乱していて、何とも不気味だ。
「ああ、今までの妖怪とはケタが違う。これは……」
教え子のため、我が身を犠牲にすることも鵺野は覚悟した。
「南無大慈大悲救苦救難……」
白衣観音経を唱え、鵺野は霊力を高める。
「くそーっ、美樹を食べさせるかーっ!」
広は近くにあった石を拾い、とらに投げつけた。郷子たちも木切れや何かを拾っては、
とらと男に投げる。
「美樹から離れろーっ!」
子供が投げる石など、とらには蚊ほどでもない。だが、その非力さがかえってとらを困惑
させた。
「なんだ、てめえら、どいつもこいつも! わしがこいつを食ったからって、おまえらには
何の関係もねえだろうが」
「そんなわけないだろーっ!」「美樹は仲間だ!」
「そうだ、みんな俺の大事な生徒だ」
鵺野の鬼の手が妖気を発し、また力を上げた。
「とらぁ……おまえ、まだ人間は自分のことしか考えないって思ってるか?」
槍の男が、飛んでくる石を槍で払いつつ、問う。
「ああ、思うぜ。おまえだってこのガキを助けても、石を投げられるじゃねえか」
「俺はどうだって、別にかまわないや」
「そう言ってるがいい、いずれ思い知るぜ、うしお! 人間は汚くてずるくて浅ましい連中よ。
おまえがどんなに助けてやっても、いずれおまえはみんなから見捨てられるんだ。そのとき
が楽しみだぜ!
めんどくせーからここはひいてやらあ、別の邪魔もいるみたいだしな」
吐き捨てるようにいうと、長い毛をなびかせてとらは飛び上がった。
「待て、とら!」
槍の男は黒い髪をうねらせ、すさまじい速さでとらを追っていった。
二つの妖気が消え去ると、安堵して鵺野は息をつく。
「行ってくれたか。よくしゃべる奴だったな……。意外と頭のいい妖怪だったのかも知れんな」
「美樹、大丈夫?」
郷子が美樹に駆け寄り、気づかった。
「郷子……私……」
涙ぐむ友に、郷子はほほえんでうなずく。
鵺野が美樹の前に立った。
「美樹」
「はい……」
今日はどんなに怒られても素直に受け入れよう、と美樹はこうべを垂れた。
鵺野は腕組みして、何か考え込む。
「どうせここでしかっても、三日もしたらまたおまえは別のことをしでかすんだろうな」
「ううん、ぬーべー、私今回は本当に……」
「いや、俺は感心してるんだよ」
「え?」
「普通だったらとっくにあきらめてるだろうに、おまえときたら次から次へと何か思いついて
は手を変え品を変え……で、また失敗してもまた何かしらやらかすんだから、たいしたもんだ」
「じゃあ……今回は、おとがめなし?」
鬼の形相になって、教師は雷を落とす。
「そうはいかん! そうじ当番一ヵ月、宿題三十倍!」
やっぱりか、と美樹は肩を落とす。
「当分そうじしなくていーみたいだぜ」
生徒たちが喜んで手をたたいた。
「うう……おまえら……」
うらめしそうに美樹はクラスメートをながめた。
鵺野は妖怪の言葉を思い出し、真面目な顔にもどる。
「別の邪魔、とか言ってたな、あの妖怪……。ほかにも何かがいるのか……?」
童守30ビルの屋上に、少年がいた。顔の左半分を髪で隠し、黄と黒のちゃんちゃんこを
はおって、下駄をはく少年だ。
風が吹くと少年の髪が乱れる。
「父さん、あの妖怪をほうっておいてよかったんですか?」
とりあえず毛針でとらを止めはしたが、退治すべきだったのではないか、と少年は少し
悔やんでいた。
少年の髪から、目玉が飛び出す。目玉には小さな体がついていた。
「ふむ。長飛丸も昔はどうしようもない暴れ者じゃったがのう。あれでも丸くなったみたい
だし、獣の槍の持ち主が見張っておるようじゃから、しばらくようすを見よう」
目玉からの声はやけに高い。
「獣の槍ってなんなんですか?」
「あれは昔、中国から渡ってきた妖怪殺し専門の恐ろしい槍じゃ。鬼太郎、あの槍の持ち主
とだけは戦ってはいかんぞ」
「はい、父さん」
父に従順な鬼太郎はこう答えたものの、最近の妖怪たちの動きは気になった。
「なんだか、妖怪が強くなってきてると思いませんか、父さん」
目玉の親父も、同じような不吉を感じている。
「悪いことの前ぶれじゃないといいがのう……」
夜空に増える雲が、これから起こる戦いを知らせているかのようだった。
終わり
鵺野鳴介(ぬーべー)@地獄先生ぬーベー、細川美樹@地獄先生ぬーベー、
稲葉郷子@地獄先生ぬーベー、立野広@地獄先生ぬーベー
ザンビア@ゲゲゲの鬼太郎(第五期アニメ)、ワイルド@ゲゲゲの鬼太郎(第五期アニメ)
とら@うしおととら、バックベアード@ゲゲゲの鬼太郎@、蒼月うしお@うしおととら
鬼太郎@ゲゲゲの鬼太郎、目玉の親父@ゲゲゲの鬼太郎
でした
>>80ですが
やっぱ編集できません
WIKI管理人のかたおられませんかのう
荒らし対策の設定変えてほしいんですが
Wikiのメンバー登録してみるとかは?右上の奴
もうやってるかな?
見てみたらなんか管理人に承認されないとだめっぽいような
もうちょっと色々試してみます
保守
久しぶりに来てみたら過疎。つーか相変わらず過疎?何にせよ
>>92乙!そんでもって保守!!
時間と体力の余裕がねぇ…
保守
保守
保守ばかりになってしまったな…
クリスマスに投下するつもりだが仕事があるのでうまく行かないかも試練
ま、待ってるんだから!
十二月二十四日・八時一分
二学期の最後、終業式前の朝。生徒たちは楽しげだ。
空気は冷たくても、中学生たちは元気があふれるよう。
制服姿の学生がはしゃぎ回る教室で、蒼月うしおは大きな声を出した。
「とらも真由子んちに行くのか?」
ひたいに古い十字傷、太い眉のうしおは快活な少年といったふうで、布でくるまれた竿
のような長いものを肩にかけている。
「おー、うまいもん食えるっつーからよ。いつもいつもおまえといたってつまらんわ」
とらと呼ばれるのは、大きな獣の姿をした妖怪だ。黄色の体、同じ色の長い髪を伸ばし、
目を黒いくまどりでふちどっている。普段は普通の人間には見えない。
うしおは寺の息子で、クリスマスだというのに一人で留守番しなければならない。
井上真由子という級友が、うしおを誘う。
「うしおくんも来なよー」
もう一人の中村麻子という級友が、手を振った。
「だめよ真由子、うしおは留守番しなきゃいけないんだって。毎年そうなんだよ」
幼なじみで、麻子はそうした事情を知っている。
うしおはやけ気味になって宣言した。
「こーなりゃ俺一人でやってやんよーっ、最高のクリスマスをよっ!」
「あんたやめなさいよ、一人でクリスマスなんて、そんなむなしいこと……」
うしおのケンカ友達で気の強い麻子も、さすがに同情した。
「うるせーっ、今までやらなかったクリスマスを今日、全部やってやるんだいっ!」
布で包んだ獣の槍を振るうしおは、むやみにはりきる。
二人の少女はため息を重ねた。
つづきます
クリスマス仕事をブッチしてダラダラ過ごしてる俺が乙を叫ばしてもらおう!
乙!!!
十二月二十四日・十五時四十七分
小学校教師・鵺野鳴介は宿直室に一人であぐらをかいていた。
太い眉毛をした鵺野は青年と呼べる容姿だったが、しぐさはやや老けている。
「あーあ、今年最後の宿直なんてなあ……そりゃどうせ俺は予定入ってないけどさ」
黒い手袋をつけた左手で、鵺野は民俗学の本を開いた。
暗くなっていく窓の外には、雪がちらついている。
「雪かあ。今年は早いなあ……世の中のカップルは盛り上がってるんだろうなあ」
考えないようにしようと、鵺野は本をにらむ。以前見た、黄色い怪物のことを調べていた。
「この字伏(あざふせ)というのが近いかな……」
「鵺野先生!」
突然の声に、鵺野が窓に目を向けると、女の白い顔があった。
「ゆきめ……」
鵺野が助けたことのある、雪女のゆきめだ。雪はゆきめが降らせたらしい。
雪女だがゆきめはむしろ健康的で、今はタートルネックのセーターでパンツスタイル、
どう見ても人間の女だった。
「あのなあ、人間と妖怪では……」
クリスマスに、妖怪とはいえ女と一緒では間違いがないとも限らない、と鵺野は妄想
してあわてた。
「ぬーべー!」
ゆきめの後ろから、教え子の広たちが顔を出した。
「おまえたちも来てたのか」
「ゆきめさんだけじゃなくてがっかりした?」
郷子がおもしろがってからかう。鵺野は顔を赤くして怒ってみせた。
「バ、バカ言うんじゃない」
「ぬーべー!」「ぬーべー!」
あとからあとから、鼻とほおを赤くした子供たちが姿を見せる。クラスのほとんど全員が
来ていた。
「どーせ一人だろうと思ってさ」「これからパーティーやろうよ」
「おまえたち……」
鵺野は涙ぐみ、生徒たちの心づかいを喜ぶ。
「せまいから教室に集まろうよ」
「よし、そうしよう」
「で、ケーキ買って来たからお金ちょうだい」
美樹が手のひらを見せ、要求した。
「え?」
「あとピザ頼んどいたから払ってね」
「おまえたち……」
今度は別の理由で、鵺野は涙ぐんだ。
「やーね、うれし泣きしなくてもいいのよ」
「これはうれしいんじゃない!」
「克也は来ないってさ。あいつ、つき合い悪いよなー」
「バカねー広、克也は妹の愛美ちゃんがいるから早く帰ったのよ」
郷子が広に教えてやる。この二人は公認の仲だ。
「あっそっか。じゃあそう言えばいいのに」
「恥ずかしいんでしょ」
「おまえたちもあんまり遅くならないうちに帰れよ」
鵺野が教師らしく忠告すると、はーい、と生徒たちは返事して教室に向かった。
レスありがとうです
まだつづきます
次は十九時か二十時ぐらいと思います
十二月二十四日・十九時四十一分
街はにぎやかで、浮かれた空気が支配していた。
キャップをかぶった木村克也は、色とりどりのケーキをながめ、白い息を吐いた。克也は
小学生にしては背が高いこともあり、やや大人びて見える。
ケーキ屋の店の前では、サンタ姿の男二人が客を呼び込む。一人は欧州人らしい老人、
もう一人は若い男だ。
克也は、サンタのかっこうをした若い男にたずねた。
「千円で買えるのない?」
「一個八十四円のシュークリームならあるぞ」
若いサンタが、売れていないシュークリームの山をさした。
「シュークリームなんていつでも売ってるじゃんかよ。クリスマスケーキだよー」
「一番小さいので二千円だな」
「なー、妹が家で待ってんだよ。今度払うからさあ」
手を合わせて食い下がる克也にも、店員の態度は変わらない。
「金がないなら客じゃないな。帰りな」
「んだよ、サンタのくせに」
「うるせーっ、好きでサンタやってんのとちゃうわーっ! どいつもこいつもイチャイチャ
しやがってよーっ、ほんまはクリスマスなんて大嫌いなんやーっ! 年末の金策でサンタ
バイトする独りもんの身になれーっ!」
「なんだよ、ケチ」
克也は妹の愛美のために、何か買えないかと街に出たのだった。だが、全財産が千円では、
世の中は冷たい。
そんなやりとりのとなりで、布でくるんだ長いものを持つ少年が、大きなケーキを買って
いく。
克也はつまらなそうに客をながめた。ケーキを買った少年は、ややすまなそうな顔でその
場をあとにしていった。
通りを離れると急に人気はなくなり、風は冷たい。克也は神社の石段に腰掛けた。
拾ったシケモクをくわえ、ライターで火をつける。克也は千円札一枚を見つめた。
(今頃、広たちはぬーべーと楽しくやってんだろうなあ)
級友たちの笑顔を思い浮べると、克也は乾いた孤独を感じた。
妹のことで行かなかったのだが、それだけではなかった。
(なーんか、俺だけあいつらと違う気がすんだよなあ……)
遠くにぼやける街の灯りがむなしい。克也は、ため息とともに煙を吐いた。
「おい、少年」
急に呼ばれて、克也はあわててタバコを捨てて踏む。
「へへへ、俺ぁタバコぐらいでガタガタ言わねえよ」
振り向くと、そこには汚い布に身を包む、大きな顔の男がいた。ねずみのような髭を
生やしている。
「鬼太郎も昔は吸ってたなあ」
「な、なんだよおじさん」
「俺はビビビのねずみ男ってもんだ」
「ね、ねずみ男?」
「少年、見たところおまえさん、金に困っちゃいねえか?」
「だったらなんだよ」
「ちょっといい話があってなあ。おまえは見所がある。きいていかねえかい」
近くにある公園の排水溝に金を入れると、穴ボコさんという妖怪が十倍にしてくれると
いう。
「信じるかよ、そんな話。じゃあなんで自分で入れないんだよ」
「それがせちがらい世の中よ。種を増やそうにも種がねえのさ」
ねずみ男がそでを振る。悪臭が鼻に届き、克也は思わず顔をそむけた。
「くっせーなー、おじさん」
「これが文化の薫りよ」
気取って言うと、ねずみ男は口説きにかかった。
「なあ、どうせいまどき千円じゃ何も買えねえだろう。その何も買えねえ千円をだまされて
なくしたところでよ、俺を殴るか蹴るかすりゃあいいじゃねえか。そのくらいされてやらあ。
万万が一、十倍になりゃあ、その二割でも俺にくれてだな、八千円で何でも買えばいい。
なあ、だろ?」
話に引き込まれ、そう言われればそうだ、という気に克也はなっていった。
十二月二十四日・十九時五十分
犬夜叉とかごめは唐巣神父の教会に招待されて、街を歩いていた。
犬夜叉はサンタの帽子をかぶって、頭の上に生えた耳を隠している。
「何でこの世界のガキは俺を見ると三太三太と言いやがんだ? 俺はそんなに三太って奴に
似てんのか」
犬夜叉は赤い衣をまとい、白銀の長い髪を背にまで伸ばしている。半妖の犬夜叉だが、
この日に限っては違和感無く街の風景に溶け込んでいられた。
そのことが、かごめにはおかしい。
「うーん、ちょっと似てるかも」
通りを往来する人の中に、犬夜叉は布にくるまれた長いものを見かけた。
長いものは少年の肩にかけられて、移動している。
「あれは……」
ただならぬ気配に、人の流れに逆らい、二人は少年を追う。
「おい! おまえ、そいつは獣の槍じゃねえのか」
犬夜叉に声をかけられて振り向いたのは、しっかりした眉の、少年の顔だった。
「ん? なんだい」
槍が静かに鳴って、持ち主に犬夜叉が妖怪だと報せる。だが、半妖の犬夜叉に対して
獣の槍は反応が弱い。
「何かあんた、妖(バケモノ)みたいな人間だなあ」
「ち、違うっつってんだろ!」
あわてて犬夜叉が否定する。
普通の人間は妖などという言葉は使わない。かごめはきいてみた。
「ねえ、それ、獣の槍じゃない?」
「槍を知ってるのかい」
そのとき、通りすがりの男女の話し声がきこえてきた。
「穴ボコさんって知ってる?」「公園の排水溝にお金を落とすと穴ボコさんがお金を十倍に
してくれるんだって」
獣の槍が振動して、今度は強く鳴った。うしおの目が変わる。
十二月二十四日・十九時
五十二分
克也とねずみ男は駅前から離れ、住宅街のすみ、忘れられたような公園にいた。
うらさびしい公園のはじに、例の排水溝がある。
克也は恐る恐る、たたんだ千円札を暗い穴に落とした。
「穴ボコさん、お願いします、お金を十倍にしてください」
克也の声が穴の中で反響した。
「……やっぱりダメじゃんか」
克也がねずみ男を責めてにらむ。
そのとき、穴の奥からしわがれた声がきこえてきた。
「……やるよー」
「えっ」
克也が改めて見ると、穴から汚物を固めて生き物の形にしたような、醜悪な怪物があふれ
出てくる。
怪物が大きく開けた口の中で、舌の上に汚れた一万円札が乗っていた。
「金、やるよー。だから、食わせろよー」
ねずみ男が出っ歯を見せてせせら笑う。
「この穴ボコ大先生はな、金を十倍にしてくれるが、代わりに金を落とした奴を食らうのよ」
克也の顔がいっぺんに真っ青になる。
「だ、だましたな」
「だましちゃいねえさ。おまえが食われないとは言ってねえ。だいたい、楽して儲けようと
したおまえが悪いんじゃねえか」
ねずみ男はまた笑って、左右の髭を揺らした。
穴ボコさんは大きな口を開け、克也に食らいつこうとする。
「ぬーべー……」
うわごとのように、克也は呼ぶ。ぬーべーは来ない、という声がきこえた気がした。
(俺はあいつらとは違う……)
「あの世に金は持っていけないだろ? ありがたく俺が使ってやるからな」
ねずみ男の高笑いが公園をうるさくした。
穴ボコさんはのどの奥まで、動けないでいる克也に見せる。
絶望した克也の頭に、自業自得という言葉が浮かぶ。
(そうだ、俺が悪いんだ……)
直後、妹の愛美の幼い顔が、克也の目に浮かんだ。
両親は年末いそがしく、家に帰らない。今夜帰らなければ、妹は一人でクリスマスを
過ごすことになる。
「今夜は、帰らないと……」
くじけそうになる自分を叱咤し、克也は駆け出した。
だが、穴ボコさんは急に速度を増し、克也を口に入れようとする。
突然、何かが穴ボコさんを貫通した。穴ボコさんは叫び声とともに破裂して、その体は
分解する。
何が起きたか克也にはわからない。恐ろしさに腰を抜かし、目を閉じてただ時間が過ぎる
のを待つしかない。
離れて見ていたねずみ男はうろたえ、目をむく。
「げっ、ありゃもしかして妖怪殺し専用ってうわさの槍! 冗談じゃねえや」
すそをまくり、ねずみ男はさっさとその場をあとにした。
目を開けた克也の前には、犬夜叉が立っていた。
「さ、サンタ……?」
克也はもちろん、サンタを信じていたわけではない。だが、すでに何度も妖怪をまの
あたりにし、またいかにもサンタのような男に助けられた今、サンタがいても不思議で
はないという気になった。
「おう、三太らしいな。おまえ、金目当てに妖怪を呼び出したな?」
とりあえず死の危機から脱したことに、克也は安堵した。あとからやってくるのは、自責、
後悔の念だった。
「ご、ごめんなさい……」
「ま、命が助かっただけ感謝しろよ」
「サンタさん、お、俺はいいんだけど……妹の愛美は、あいつはいい子なんだ」
「ん?」
それがどうした、と犬夜叉は言おうとした。
木の裏に隠れてきいていたうしおは、ケーキを買えないでいた克也を先程見ていた。
うしおはかごめに買い物袋を渡し、手を合わせて頼みごとをした。
「い……サンタさん」
犬夜叉に近づき、かごめは白い買い物袋をそっと渡す。
「これ、その子にあげて」
「あん? いいのか?」
「いいから、ほら」
「おう、じゃあ、ほら。やるよ」
犬夜叉は袋を克也に差し出した。
「い、いいの?」
「いいんじゃねえのか? 妹んとこに持ってってやれよ」
「あ……ありがとう!」
克也はケーキやおもちゃが入った袋を抱え、うれしそうに駆けていった。
出てきたうしおに犬夜叉がきく。
「やっちまってよかったのかよ? あのガキはいい奴じゃないぜ」
「いいんだ、俺があげたくなったんだ」
うしおは、まぶしいようなすがすがしい笑顔を見せた。
「あの穴ボコ野郎を倒したのもおまえじゃねえか。おまえが渡しゃあよかったのによ」
ねずみ男の強烈な悪臭に、犬夜叉は何もできないでいたのだった。
「いいよ、俺には似合わないや」
今さっき妖怪をつらぬき殺した槍を手に、うしおは満足そうにする。
「ねえ、あの、その槍……」
かごめは草太郎を思い出す。獣の槍を使い過ぎたために、自身が獣になりかけた男だ。
「ごめん、俺んち寺でさ、誰もいないから留守番なんだ。じゃあな」
手を振り、うしおは走り去った。
「大丈夫かなあ」
かごめは心配そうに、遠くなるうしおを見送った。
「何だか、あいつは槍の嫌な感じがしねえ」
獣の槍は憎悪が練り込められた、恐るべき一個の妖怪だ。だが、それを持つうしおには
まったく別の明るさ、爽快さがあった。
「意外と、あいつは槍を使いこなすかもしれねえな」
「ねえ、槍があるってことは、長飛丸は……」
「ああ。どっかにいやがるだろうな。もし悪さしてたら、戦わなきゃならねえな」
犬夜叉とかごめは、真剣な顔で唐巣神父の教会に向かった。
その長飛丸・とらが真由子の家でハンバーガーをたらふく食らっているとも知らず。
十二月二十四日・二十時
ぬーべーこと鵺野は生徒たちを帰し、また教室に戻った。
ゆきめ、広、郷子、美樹は残ってパーティーの後片付けをしている。
「おまえたちもすぐ帰るんだぞ」
うん、と広たちは気のない返事を返した。
教師としてえこひいきはしないつもりだが、広には母がいないこともあり、鵺野は特に
目をかけてしまう。いけないなあ、と思うも、単に人間として広たちとは肌が合うのだ。
不意に強力な霊気を感じ、鵺野は教室を出た。
「どうしたんだ?」
異変を感じて、広たちは鵺野を追いかける。
外の温度は低い。白い息を吐きながら、校庭を走る鵺野は霊気の跡を探した。
『救援要請。どなたか、お願いします』
鵺野の心に、直接助けを求める声が響く。
「おまえはなんだ? どこにいる?」
『私は人工幽霊一号。そのまままっすぐ、来てください』
「人工幽霊?」
夜の空気の中を走ると、不自然に歩道に乗り上げたオープンカーが見えた。
「車に霊が憑いているのか」
オープンカーの運転席には、明るい色の髪を乱した女がうつぶせになっていた。
鵺野は細い肩をつかみ、女の顔色を確認する。若い女の意識はない。
「事故?」
追いついた郷子が、心配そうに鵺野にきいた。
「いや、これは妖怪がいたな……とりあえず、救急車を呼んでくれ」
「うん、行ってくる」
郷子と美樹が電話をしに、学校へ戻っていった。
鵺野は水晶玉を持って、霊視してみる。
「コブラだな」
「何ですかそれ? 妖怪?」と、ゆきめがきく。
「いや、車の車種だ」
「車の運転ヘタなくせにくわしいなー」
広が少しあきれて言う。
「う、うるさい。それより、きいたことがある。コブラにボディコン、有名なゴーストスイーパー
だ。美神だったかな」
「ゴースト? 何それ」
「金で妖怪や悪霊を退治する連中だ。俺は大嫌いなんだが、だからってほうってはおけんな」
鵺野は慣れないながらハンドヒーリングをこころみようと、手をかざした。
「ん? これは……」
「どうしたの?」
「霊体がない」
「死んでるんですか?」
ゆきめが、白い顔をしてたずねる。
「いや、違う。これは幽体離脱している」
「霊だけどっか行ってるの? 何で?」
死んでいないことにやや安心して、広はまた質問した。
「わからん。だが、プロだしそのうち戻るだろう。それまで体に霊気を与えて、病院で生命
維持してもらおう」
魂のない体は生きてはいても、単なる肉塊だ。いずれは生命活動も停止する。
「それにしても、すごいかっこうですね」
ゆきめは美神のボディコンに目を大きくした。
「精神を高揚させて霊力を高めるために、こんなかっこうをするんだ。恐山のシャーマンも
こんな服を持ってるらしい」
へー、と広も興味津々といったようすで、美神の突き出た胸、むき出しのももに目をやる。
「あと、女の魅力も魔力の一種だから、こうして利用するんだ」
「ぬーべーも魔力にやられてるんじゃないの?」
広がからかって言うと、鵺野は赤くなって否定した。
「そ、そんなことはちょっとしかないぞ」
「ちょっとあるんじゃないですか」
ゆきめが冷たい視線を送る。
強い妖気の接近に気づき、鵺野は顔を上げた。
「鵺野先生」
長い髪を結わいた、整った顔立ちの男がいた。
「玉藻……」
妖狐だが人間を研究している、玉藻だ。
「ちょうどよかった。おまえ、医者だろ。見てくれ」
玉藻は切れ上がった目で美神を見てから、微笑した。
「その必要はないでしょう。それより、伝えたいことがあります」
「なんだ?」
不吉な予感をおぼえずにはいられない。鵺野は身を固くする。
「アシュタロス一派が本格的に動きだしました。彼女は何らかの関係者で、襲撃され、魂を
さぐられそうになったので幽体離脱して逃げたのです」
「アシュ? なんだそれは」
「魔族の反体制派。まあ、わかりやすく言えば悪魔のテロリストです」
小さくうなり、鵺野は黒手袋をはめた左手であごをさすった。
「感じますか? 最近、アシュタロスは天界・魔界・霊界とのつながりを遮断しました」
「馬鹿な! そんなことがあるとは思えん」
「もちろん、一時的なものでしょうがね。これが何を意味するか、わかりますか?」
「つまり……天界・霊界から助けは来ない」
「魔界正規軍もです。ごく小規模な助けはあっても、大部隊が援軍にくることはできません。
人間界は霊的に孤立しました」
もし大妖怪が暴れだせば、天界・霊界・魔界のいずれかが警察的役目をにない、対処する。
これが基本なので、今までは名のある妖怪たちも目立った動きはひかえてきた。
「ということは……」
「この世界は無警察状態も同然です。天狗ポリスも地獄・閻魔大王府の後ろ盾はありません。
今はまだ妖怪たちもお互いにようすを見合っていますが、ひとたび均衡が崩れれば……」
どこからか楽しげなクリスマスソングがきこえてくる。
「戦争ですよ、鵺野先生」
玉藻はあきらめにも似た笑いを漏らした。
「人間がこの状態でやっていけるかどうか」
「だが……人間に味方する妖怪だってたくさんいるさ。おまえだってそうだろ?」
「人間は私にとって研究対象ですからね。なるべく保存したいとは思いますが、私は変り者
のほうですからね。……それにしても」
玉藻は長い髪を揺らし、背を向けた。
「ちょっとしゃれた敵だと思いませんか? わざわざこの日を選んで攻めてくるなんて……」
玉藻は微笑をたやさず、指を立ててあいさつする。
「メリー・クリスマス。アディオス、鵺野先生」
玉藻は夜の闇に溶けるようにして、消えていった。
「なんでしょうね、あのキザキツネ」
ゆきめは不機嫌そうな顔をしてから、鵺野を元気づけるように言った。
「大丈夫ですよ! 人間に味方する妖怪もたくさんいますし、人間にも強い人はいっぱい
いるじゃないですか」
「ああ、そうだな。俺もそんなには心配してない」
ゆきめには意外なことに、鵺野はさほど深刻そうではなかった。
郷子と美樹が走ってきた。
「ぬーべー、救急車呼んできたよ」「すぐ来るって」
鵺野はうなずいてから、美樹にきいた。
「よし。美樹、おまえケサランパサラン、まだ持ってるよな?」
「え? え、えーとなんのこと」
「いや、いい。許すから、おしろいで増やしてろ」
「え?」
「いざ魔族が攻めてきたら、街にばらまくんだ。ケサランパサランは人間の希望で増える。
人類の危機となれば、人々は助かりたいと願うから、ケサランパサランが増えて人間に
幸運を与えて、きっと救われるさ」
「なーるほど」
広は安堵し、深く息をつく。
「人類の危機?」
なんのことやらわからず、美樹は困惑するばかりだった。
十二月二十四日・二十時十一分
横島忠夫とドクター・カオスはケーキ屋のバイトを終え、唐巣の教会へ向かった。若い
横島は美神の助手であり弟子で、頭にはバンダナを巻いて、冬でもジージャンだ。
街のにぎやかな空気は遠のいて、街灯が点々と照らす道はさみしい。
横島とカオスはケーキの箱を重ねて持ち、教会をめざす。
夜道の向かいから、買い物袋を抱えた克也が走ってくる。
「あれ? おまえ、ケーキ買えなかったガキじゃないのか」
「あっ、ニセサンタ! 見ろよ、本物のサンタにもらったんだぜ」
克也はおもちゃやケーキ、フライドチキンなどが詰まった買い物袋を見せびらかす。
「そーかよ、じゃあ俺はニセモノだから売れ残りのもらったケーキやるよ」
横島はケーキの箱を一つ、買い物袋の上に乗せた。
「え、いいの?」
「おまえじゃねーっ、妹にだよ! 十年後、俺んとこに来るように行っとけよ、俺は横島忠夫、
横島忠夫だぞーっ」
わめき散らしつつ、横島は早足に教会に向かい歩く。
克也はとまどいつつも、妹が待つ家へと急いだ。
少ししてから、黒いマントに身を包むカオスがたずねた。
「おい小僧、あのガキにやったのはバイト代で買ったやつじゃろ?」
「うるせーな、ニセモノの見栄があるんだよ!」
「で、わしらは売れ残りのシュークリームか」
「あのしみったれた教会にはお似合いだろ」
「わしらにもお似合いじゃな」
カオスは顔のしわを深くして笑った。
唐巣の教会には、すでに犬夜叉とかごめがいた。近所の信者たちも集まって、犬夜叉は
子供たちの相手をさせられる。
扉が開いて、冷たい外気とともに横島が礼拝堂に入った。かごめがあいさつする。
「あっ、横島さん、めりくりー」
「はいはい、めりくり」
不機嫌な横島を、同僚のおキヌが迎えた。
「お疲れさまです、横島さん。それ、ケーキですか」
「うん、全部売れ残りだけど」
「働いてきたんだろ? その銭で買ってやりゃあいいじゃねえか」
サンタサンタと子供に袖や髪を引かれながら、犬夜叉はいらだたしそうにする。
「うるせーっ! 普段から薄給で働かされてる身になれ!」
横島がシュークリームの箱を長い机に置くと、犬夜叉はようやく子供たちから解放された。
「犬夜叉、失礼なこと言わないの!」
日暮かごめがしかりつける。神社の娘だが、カトリックに破門された唐巣神父は自分の
教会を広く開いているので、こうして入れてもらえる。
「いやあ、助かるよ横島君、カオスさん。今、コーヒーをいれよう」
人の良さがにじみ出たような、丸メガネの唐巣神父が二人をねぎらう。
唐巣は悪霊・妖怪退治をしても金を取らないため、自分を食わせるのも苦労していた。
「いや、わしゃ日本茶がええのう」
カオスはシュークリームの入った箱を置き、ふるえながら長椅子に座った。千年生きて
ヨーロッパの魔王と言われたカオスだが、今では日本の老人のようだ。
唐巣は奥へと引っ込んでいった。
「美神に全然似てねえなあ」
犬夜叉は不思議そうにした。唐巣は美神の師だ。
「でしょ?」
かごめも同じ思いでいる。
「あいつが甘やかすから、美神があんなんなっちまったんじゃねえのか」
「そーいや、美神さんは?」
シュークリームをくわえつつ、横島はおキヌにきく。
「それが、まだ来ないんです。年末だからって未払い料金を回収に回ってるんですけど」
「年の暮れに取り立てか。ご苦労なこった」
犬夜叉もシュークリームをほおばった。
「犬夜叉……そんなあからさまに言っちゃあ」
かごめはおキヌにすまなそうな顔をしてみせる。
「本当のことじゃねえか。この栗なんとかは歯応えがなさすぎねえか。いくら食っても腹に
たまらねえ」
「犬夜叉、そんなに食べないの。ほら、口のまわりについてるよ」
かごめはかいがいしく、犬夜叉の口をふいてやる。
アルバイト中にカップルをいやというほど見た横島は、嫉妬の炎に身も焦がさんばかりだ。
「見せつけに来たんかおまえらは、チクショー! シュークリームやけ食いしたるーっ!」
シュークリームを無理矢理詰め込み、横島が窒息しかけたところへ唐巣がコーヒーカップ
を手渡す。
コーヒーでシュークリームを流し込むと、今度は熱さに苦しみ横島は礼拝堂を転げ回った。
「ぐわーっ、あぢーっ!」
やれやれ、とおキヌたちは呆れ返って苦笑いするしかない。
「くそーっ! 神様サンタ様ーっ! 俺に最高にいい女との、運命の出会いをくれーっ!」
横島の叫びが響く。
応えるように扉が開き、冷気が吹き込んだ。
「おおっ! 最高にいい女が……?」
入ってきたのは、黒いコートに身を包む、小柄でつり目の男だった。
「なんだ、雪之丞かよ」
期待を裏切られ、横島はがっくりとうなだれる。伊達雪之丞はかつてメドーサに利用され
かけた霊能力者で、今はさすらいのゴーストスイーパーだ。
「ケガしてるんですか?」
あわてておキヌが駆け寄ると、伊達雪之丞は床に倒れこんだ。唐巣神父も近寄り、ヒーリング
をほどこす。
「これは、ひどい霊障だ」
唐巣は手からやわらかい光を送り、雪之丞の霊的ダメージを癒した。雪之丞はやっとの
思いといったようすで口を動かす。
「み、美神がやられた……」
「何?」
あまり興味なさそうにしていた横島が、反応を示した。
「おい、どういうことだ」
犬夜叉がかがんできく。
「魔族の反体制派が、ついに動きだした……。奴らは美神の魂に含まれる、エネルギー結晶
を狙っている……」
おキヌと唐巣のヒーリングで話ができるようになると、雪之丞は事実を重大さにふさわしい
深刻な顔できかせる。
「美神の魂にそいつがある。美神はさすがだぜ、幽体離脱して奴らに気づかれずに逃げた。
今、妙神山に伝えに行ってるはずだ」
「ということは……」
横島は雪之丞の襟首をつかみ、激しく揺さぶった。
「てめーっ、美神さんとクリスマスに二人で何してやがったーっ!」
まわりでかごめ、犬夜叉たちがずっこける。
「理不尽な取り立て食らってたんだよ! その美神のピンチを知らせに来てるのがわからねー
のかっ!」
雪之丞が言い返した直後、犬夜叉は毛を逆立て、教会の扉をにらんで身構えた。
「これは……この妖気は!」
「つけられたか……すまねえ」
雪之丞は痛々しい表情でうつむく。唐巣も強大な妖気に、血相を変える。
「おキヌちゃん、伊達くんと子供たちを奥へ!」
「は、はい」
雪之丞をささえ、子供や信者たちをうながし、おキヌは奥へと消えた。
まもなく、教会の扉が開く。冷たい風とともに、三つの影がやってきた。
「こうして神族の拠点を移動しながら、霊力の強い人間の魂を調べてエネルギー結晶を探せば
一石二鳥でしょ?」
切りそろえた黒髪、飛び出た触角、額当てをつけ、太ももまでのタイツを腰で吊っている
のは、魔族三姉妹長女・ルシオラだ。三人のなかでは理知的に見えるのは、『兵鬼』の整備、
製造担当だからかもしれない。
「真面目だねえ」
姉に半分呆れているのは、魔族三姉妹次女・ベスパだ。長い髪をのばした頭にはやはり
触角をつけ、体ににフィットしたスーツを身につけている。三人のなかでは最も好戦的な
せいか、目つきは鋭い。
「ルシオラちゃんはペチャパイで色気がないぶん、真面目さでカバーするしかないんでちゅ」
魔族三姉妹末っ子のパピリオは、子供に見える。ポンポンが四つついた帽子をかぶって、
道化のようでもあった。
「な、なんて妖気だ。こいつぁ、殺生丸と同じか、もしかしたらあいつより……!」
鉄砕牙の柄を握りつつ身震いする犬夜叉に、かごめも恐怖せざるをえない。
「そ、そんなにすごいの?」
「ああ……」
そんな犬夜叉らをよそに、ルシオラの拳がパピリオの頭を打つ。
「あんたがよく言えるわねーっ!」
「パピリオには未来があるんでちゅーっ! もう終わってるルシオラちゃんとはちがいまちゅ!」
「やめなよ、あんたら」
ベスパが止めに入ると、ルシオラがうらめしそうにベスパの胸をながめる。
「自分はあると思って……」
「別に思ってないよ! それより仕事だろ?」
緊張感のなさに、かごめは肩透かしを食った思いだ。
「本当にあいつら、そんなすごいの?」
「ああ……とんでもねえ。爆流破で一匹仕留めたとしても、あとの二匹は……」
命を捨てる覚悟で戦うしかない、と犬夜叉は腹を決めた。
「おまえら、美神さんを……」
横島が、魔族たちに歩み寄る。
「横島、おまえじゃ無理だ、下がれ!」
犬夜叉が鉄砕牙を抜くと、妖刀は大きくなって刃を光らせた。
横島の瞳が熱く燃える。
「おまえら……!」
慣れたようすで土下座すると、横島は頼み込んだ。
「僕を手下にしてください!」
犬夜叉たちは思わずこける。
「スキあり!」
横島の指に、「凍」の文珠が輝いた。文珠が効果を発揮すると、超低温が魔族を襲う。
うず巻く冷気の中に、三体の氷像ができた。
「やったーっ! 討ち取ったり、ざまーみろーっ!」
勝利に酔い、横島は踊るようにして喜びを表現する。
「い、いや」
犬夜叉は鉄砕牙を構えて、警戒を解かない。
煙の向こうで、三姉妹に貼りついた氷がはがれ落ちていく。
「うーっ、寒っ」
ベスパは体を震わせて、手をさする。
「一瞬だけど絶対零度ぐらいまで下がったわ。霊力を一時的に上げるタイプらしいわね」
ルシオラは冷静に横島を分析した。文珠の力も、魔族たちの薄皮一枚を凍らしたに過ぎ
なかったらしい。
「こいつおもしろーい! 飼いたい!」
パピリオがルシオラにねだる。
「また? パピリオったら、すぐノラ犬だのノラ猫だのノラ妖怪だの拾っちゃうんだから」
「ちゃんと世話ちまちゅから、お願いっ」
「しょうがないわねえ……クリスマスプレゼントよ」
結局妹には甘く、ルシオラは首輪を宙から出現させた。ルシオラが造ったものだ。
「それっ」
ルシオラの投げた首輪が、横島の頭から首へと落ちる。首輪はちぢんで、首にぴったりと
はまった。
「こ、こんな、犬夜叉じゃあるまいしーっ!」
横島があわてて首輪をはずそうとするも、もはや首輪は生まれたときからそうである
かのように首にくっついて、離れそうにない。
この首輪は、まさに横島の運命を決定づける枷であった。
「きなちゃい、ポチ!」
パピリオが手招きする。
「誰がポチやーっ」
だが、横島の意志とは無関係に、首輪が光ると横島は魔族に引き寄せられた。
「いやーっ! 助けてーっ!」
「てめえ、横島を放しやがれ!」
犬夜叉が鉄砕牙を振り上げ、ルシオラに向かう。刀は高速で振り下ろされたが、空を斬る
だけだった。
ルシオラの姿が消えたかと思うや、すぐそばに現われる。鉄砕牙を構え直す間も、犬夜叉
にはない。
「幻術……!」
ベスパの手から、光線が発射された。無理に体をねじり、襲いかかる凶悪な光を犬夜叉
は刀でさえぎる。
犬夜叉の体は木っ端のように吹き飛ばされ、壁に打ちつけられた。
「ぐあっ……!」
「犬夜叉!」
すぐにかごめは犬夜叉に駆け寄る。
「く、来るな、なんでもねえ」
犬夜叉はふらつきながらも立ち上がり、刀を構えた。
「へえ、生きてるよ。妖怪はメフィストの転生先じゃないよね? 殺してもいいかい」
ベスパがさらに妖気を高め、手に集中する。パピリオは無邪気な笑顔でうなずいた。
「そいつかわいくないし、いらないでちゅよ」
かごめが悔しそうにいう。
「横島さんよりかわいいもん」
横島が大きく口を開ける。
「おい!」
そのとき、どこからか曲が流れた。『神の御子は今宵しも』だ。
ルシオラは携帯電話を宙から出現させる。
「はい、土偶羅様?」
「妙神山攻撃に行くぞ。そろそろ戻らんかーっ」
「はーい。じゃ、すぐ行きます」
ルシオラは電話を切って消すと、ベスパに顔を向けた。
「妙神山攻撃開始だって。早く帰りましょ」
「それよりあんたねー、着信音考えな? うちら悪魔だろ?」
「じゃあいい着メロサイト教えてよ」
外へ向かう魔族たちに、犬夜叉は鉄砕牙を振るおうとした。
「待ちやがれ!」
その犬夜叉の肩を、唐巣が押さえる。
「犬夜叉君。今は追ってはいけない」
「放せ、横島が……」
「犬夜叉君、耐えるんだ……!」
唐巣の手から、『聖』の霊力が犬夜叉の体に送り込まれる。半妖の犬夜叉は動きを封じ
られた。
「パピリオがサイト教えてあげまちゅ」
パピリオのあとを、引きずられるようにして横島がついていく。逃げようにも首輪が
光って、横島に自由を与えない。
「いややーっ! 助けてくれーっ!」
奥にいたおキヌがたまらず、横島を追った。
「横島さん!」
おキヌの手を雪之丞が引いて、止める。
「やめろ、今戦っても勝ち目はねえ」
「高いサイトはダメよ、パピリオったら携帯料金五万とかなんだもん」
「ルシオラちゃんは細かいことにうるちゃいんでちゅよ」
外に出ると、魔族の三人は寒い夜空へと飛び立つ。
「俺は死にたくなーい! 他の誰がどうなっても、俺だけは死にたくないんやーっ!」
横島の叫びも、むなしく冬の風のなかに消えていく。
横島を捕らえた魔族三姉妹は、わずかの間に雲の向こうへと飛び去っていった。
犬夜叉は外に飛び出し、妖気が消えた空のかなたを見上げて声を荒げた。
「横島! くそっ、おっさん、何で止めた!」
唐巣は教会の入り口に立つ。
「落ち着くんだ。君も横島君を知っているだろう。彼はかならず生きて逃げ延びる」
唐巣のやけに説得力ある言葉に、犬夜叉は冷静さを取り戻した。
「た……確かに。あいつなら」
「妙神山を攻撃って言ってましたけど……美神さんの霊体が行ってるんですよね?」
おキヌは不安そうに、雪之丞にきいた。
「ああ。だが美神にしても、まあどーにかこーにか逃げてくるのは間違いねえ」
「そ、そうよね」
二人の性質を改めて思い出し、かごめは多少安堵した。何があろうと、彼らは必ず自分
だけは助かるため、あらゆる手を使うだろう。
「伊達君、美神君の体の場所を教えてくれ。長く幽体離脱していると肉体に負担がかかる
からね」
唐巣は息をつくと、黒い空をながめた。
「大変なクリスマスになってしまったな……」
十二月二十四日 二十時二十六分
うしおは居間でカップラーメンに湯をそそいでいた。フタの上に獣の槍の柄を置く。
「あーあ、俺にはこいつだけかあ」
冷たくなった獣の槍は、鈍く光っている。
「まあいいや。俺には似合ってるよ、なあ」
長い友のように語りかけ、うしおは槍をさすった。
「おーい、うしおーっ」
不意にきこえてきた女の声に、うしおは跳ねるように立ち上がった。
廊下を慌ただしく走った先で、厚着した中村麻子が戸を開けていた。
「おかーさんに、あんたは栄養とってないから持ってけって言われてさー。あんたが普段
からろくなもん食べてないから、私がお使いさせられるのよ」
などと言いながら、麻子はフライドチキンやケーキが入った箱をいくつも置いた。
麻子の後ろで、井上真由子が笑顔を見せる。
「う、うるせーなーっ!」
独りではないという喜びを隠して、うしおは怒っているようにしてみた。
「あんた一人クリスマスやってたんじゃないの?」
靴を脱ぐと、我が家のように麻子は上がる。
「やっぱやめたの!」
「それ運びなさいよ、大変だったんだから」
麻子に指図され、不満そうに見せながら内心感謝し、重ねられたいくつかの箱をうしおは
持ち上げた。
「麻子、がんばって持ってきたんだよ」
真由子がうしおに教えてやる。
「よけーなことするよなーっ、たくよー」
照れ隠しにつぶやき、うしおは箱を抱えて居間に戻った。
居間で麻子があきれている。
「クリスマスにカップめん……」
「お、俺はこれが好きなんだい」
カップラーメンの上に乗った槍を手にしたとき、うしおの目が変わった。
「うしお?」
突風のように飛び出し、真由子と壁の間をすり抜け、うしおは外に出た。
「なんだ、この槍の鳴りかたは……」
妖怪の存在を知らせて震え、獣の槍は音をきかせる。今度の音の鳴りようは普通では
なかった。
冷たい風がやむと、何かの音が空からきこえる。
「上か?」
見上げると、黒い雲のすきまにカブト虫のようなものが飛んでいた。
「なんだあれは……」
「よお、うしお」
門の上に、とらがうずくまっていた。目は鋭く光って、昼とは違う「妖(バケモノ)」の顔だ。
「とら、あれは……」
「さぁ、知らねぇ。だが、かなりのモンだな。しかも一匹じゃねえ。あれは船みてえなので、
中に何匹かいるぜ」
「あ、ああ……」
巨大なカブト虫は遠くなって、槍も鳴るのをやめた。
「今夜は人間どもの祭りなんだろ? おもしろくなることを願うぜ」
口を耳まで裂き、三日月のようにして牙を見せると、とらは夜空へ飛び上がった。
うしおは白い息を吐いて、これから来るであろう戦いに身を震わせた。
終わり
投下終了でさるさん食らった
リアルタイムにしたかったのに途中時間間違えた……悔しい
出演
蒼月潮、とら、井上真由子、中村麻子@うしおととら
鵺野鳴介、ゆきめ、立野広、稲葉郷子、細川美樹、木村克也、玉藻@地獄先生ぬ〜べ〜
犬夜叉、日暮かごめ@犬夜叉
ねずみ男@ゲゲゲの鬼太郎
穴ボコさん@うしおととら 外伝
美神令子、横島忠夫、おキヌ、ドクター・カオス、唐巣神父、伊達雪之丞、
ルシオラ、ベスパ、パピリオ@GS美神 極楽大作戦!
役者も揃い、ついに最終章・アシュタロス編突入!
しかしここからがまた長いのであった
書き切れるかな……
支援ありがとうございました!
乙です!!クリスマスなのにようやった、ようやった!!
明日の朝には枕元に獣の槍が刺さってるはずッ!!プレゼント的な意味で
童守小学校の校庭に、空から少女が降り立つ。
「アシュタロス様配下・パピリオでーちゅ! 人間ども、覚悟するでちゅよ」
ポンポンを四つつけた帽子をかぶるパピリオは子供の姿で、道化にも見えるがれっきと
した魔族だ。
「そしてパピリオ様のしもべ・ポチ様やーっ! 愚かなる人間どもよ、ひざまずけーっ!」
ポチこと横島は黒いマントに身を包んで、いかにも悪役だ。魔族にさらわれペットに
さらわれたのをこれ幸い、とオカルトGメンにスパイの任務を押しつけられている。
何でこんなことせにゃならんのだ、と横島は目に涙を光らせる。
「なんか静かでちゅねー?」
横島が伝えた情報で、すでに生徒は避難していた。
「そ、そうですねえ」
(露骨に用意すんじゃねーっ! 俺が疑われるやないかーっ!)
横島は冷や汗を垂れ流した。パピリオの霊力は、横島をはるかに超える。
「人間どもー! 稲葉郷子を出ちなちゃーい!」
魔族は人間の魂に含まれるエネルギー結晶を探している。
童守小の生徒、稲葉郷子が標的だという。魔族はエネルギー結晶を魂に含む人間を、兵鬼・
『みつけた君』で選び出し、標的を決める。が、横島が文珠でその兵鬼に異常を起こさせた
結果、郷子が選ばれた。
ばれたら殺される、と横島は顔面蒼白、体を震わせた。
童守小学校の児童たちは、体育館に集められた。
いつも通り明るく騒がしい生徒たちの声が、広い体育館をにぎやかにする。だが、対照的
に教師たちの表情は暗い。
ICPOオカルトGメン所属の西条輝彦は、教師で霊能力者の鵺野鳴介にも協力を願い
出た。
鵺野の太い眉は、強い意志を感じさせる。
「俺は、ゴーストスイーパーというやつは嫌いだ。金で悪霊や妖怪を退治する連中は、信用
できん」
体育館の準備室に、鵺野の声がよく響いた。
「あのねーっ、あいつらは人類の敵、悪党なのよ! 妙神山の神族も攻撃されて、みんな
行方不明だし」
美神令子はいらだって、声を高くした。民間ゴーストスイーパーの美神も、非常事態を
前にオカルトGメンに加わっている。
さらに美神の助手おキヌ、中学生で霊力のある日暮かごめ、過去から呼び出された半妖
犬夜叉、ほか七宝、弥勒、珊瑚も臨時隊員として参加していた。
「だが、あいつは主犯じゃないかも知れん。ただ言いなりになってるだけなら、味方に引き
込めるかも知れないだろう?」
鵺野は、パピリオを説得できないかと提案している。
「あんた公務員でしょ? こっちは警察よ。税金とってんだから協力しなさいよ。こっちは
いつも高い税金払ってんのよ!」
「ゴーストスイーパーの美神と言えば、悪名はきいてるぞ。脱税のうわさもあるな」
鵺野が疑いの目を向けると、美神は黙り込む。
「学校は警察権力には屈しない。それにそっちは国際警察で日本の警察じゃないだろう。
うちのやり方でやらせてほしい」
「鵺野先生、立派なお考えですわ」
同僚の高橋律子が感動して豊かな胸を揺らすと、鵺野は急に顔をゆるくする。
「いやぁー、そうですか?」
「反体制教師ーっ、国家の敵めーっ! 君が代歌わんかーっ」
怒りに燃え上がるような美神を抑え、西条は了承した。
「わかりました。ただし、一般市民に被害を出すわけにはいきません。少しでも危険が予測
されれば、行動に移ります」
西条が仕方なく言うと、鵺野は強くうなずいた。
「わかった」
鵺野はクラスの生徒たちを教室に集め、作戦会議を始めた。
「世界の命運はおまえたちにかかっているぞ。なんとかこっちに引き込むんだ」
「悪い妖怪なんでしょ? いいの?」
女子生徒の中島法子は、心配そうな顔をした。
「まーいーんじゃねーの。かわいいし」
金田勝という生徒が言うと、うんうんと男子たちは賛成する。
「あんたたちねーっ。あいつは妖怪でしょ?」
あきれる菊地静という女子をよそに、鵺野は教え子たちに指示する。
「とにかく、ほめておだててその気にして、うやむやのうちに引き入れるんだ。おまえたち
そーゆーの得意だろ、頼むぞ」
鵺野と生徒らが、校庭へ打って出る。稲葉郷子だけは体育館に残してきた。
「いやー、どーもどーも」
もみ手して、鵺野はパピリオに近づいていく。高橋律子もすぐあとに続いた。
「うおーっ美人教師! 俺に保健体育を教えてくださーい!」
黒いマントをひるがえし、横島は律子に飛びかかる。
「ぎゃーっ、変態!」
律子の平手が飛び、鵺野の黒い手袋をつけた拳が追い打ちをかける。
「貴様、人類の敵と思ったら女の敵かっ!」
横島が地面を転がって砂煙をあげた。
「発情期でちゅかねー、去勢ちまちゅか?」
「ひーっ、パピリオ様、そればかりはお許しを!」
その光景をながめる木村克也という生徒は、自身の記憶をたぐっていた。
「あいつ、どっかで見たような……」
横島がスパイということは、生徒たちにまでは伝わっていない。
「人間ども、稲葉郷子は連れて来たでちゅか?」
パピリオが尊大な態度できく。
「ま、それは置いといて。どうだろう、人間を支配したいなら、人間のことを勉強して
みたら?」
腰を低くした鵺野が申し出る。横島はいったいなんの作戦かと、気が気でない。
「何言ってるでちゅか?」
「うちに体験入学してみないか?」
「知識ならアシュ様に与えられてまちゅ」
「いや、知識と実践は違うと思うぞ。ものは試しだ」
「それに、学校にくれば給食が食えるぜ!」
給食こそ学校の主目的、と言わんばかりの金田。
「パピリオはハチミツだけあれば生きていけまちゅ」
パピリオは得意げに言う。
「じゃあ、僕が最高級ハチミツを取り寄せよう。でも、ハチミツ以外にもおいしいものは
たくさんあるよ」
白戸秀一という生徒が、髪をいじりながら誘うと、山口晶という男子生徒も重ねる。
「だいたい、いまどき学歴が無いなんてかっこがつかないよ。履歴書の学歴欄に何も書け
ないし」
そうだそうだと生徒らがうなずき合う。
「支配者が小卒もしてないなんて」「尊敬できないよなあ」
「うーん、そういうもんでちゅかね?」
小さな腕を組み、パピリオは頭をかたむけた。
「そういうもんだ。試しに入ってみてくれ」
鵺野がさらに強く勧誘すると、パピリオも乗ってきた。
「そこまで言うなら入ってやってみてもいいでちゅ」
「よーし、決まりだ。おまえたち、授業をはじめるぞ」
はーい、と生徒たちはパピリオを囲んで教室に向かった。
まずは社会の授業だ。
「さて、歴史の授業だ」
生徒たちが教科書を開く。教科書の無いパピリオに、俺が僕がと男たちが競って教科書
を貸した。
「七世紀、大化の改新だ」
黒板にチョークが当たり、固い音が響く。パピリオが手を挙げた。
「知ってまーちゅ。人間は争いばかりしてまちゅ。聖徳太子が物部氏を殺して、聖徳太子
の子供の山背大兄王を蘇我入鹿が殺して、中大兄皇子が蘇我入鹿を殺したんでちゅ。
そんなだから、アシュ様は魔族の代表として人間を支配して、争いをなくすことにした
んでちゅ」
「うーん、なるほどなあ」
思わず納得して、鵺野はうなる。
「先生が教えられて、どーすんだよ」
金田が突っ込むと、笑いが起きる。鵺野は手袋をはめた左手を、頭にやった。
「ぬーべー、いつもと同じじゃなくていーじゃん。体育にしようよ」
退屈していた立野広が言い出すと、生徒らはいっせいに賛同した。
「じゃ、そうするか」
鵺野が応じるか応じないかのうちに、広は飛び立つようにして教室を出る。生徒たちは
パピリオを連れ、校庭へと走っていった。
横島は美神たちのもとに訪れる。美神らオカルトGメンは、陰からパピリオを監視して
いた。
「ありゃどういうことですか! 作戦があるなら前もって打合せといてくださいよ」
「しょうがないでしょ。あの先公が勝手にやってんだから」
美神は不機嫌そうにいう。視線の先で、パピリオたちは仲良くドッジボールをしていた。
「しかし、意外とうまく行くかも知れないな」
西条はあごに手を当て、校舎に隠れてパピリオを注意深く確認する。
西条のかたわらには、白衣を着たアメリカ人の中年男性が二人、中年女性が一人いた。
オカルトGメンにこのたび協力している、アメリカの妖怪研究機関「ハマー」のメンバーだ。
計器を使って、周辺の「キルリアン値」を計測している。霊力を彼らはキルリアン値で
知る。
「信じられん。あのパピリオというメタモルフォーゼは、十万近くのキルリアン値を示して
いる」
プロのGSである美神でさえ、九千程度だ。
「だが、キルリアン振動機は三十万出力分を用意してきた。あれ一体なら十分だろう」
ハマーのメンバー三人はうなずき合う。
「でもさあ、別にあれならほっといていいんじゃないの?」
かごめも植え込みに隠れて、パピリオのようすをうかがう。
パピリオは子供たちと楽しそうに息をはずませ、ドッジボールに興じている。
「確かに妖気はすさまじいが……」
錫杖片手に、弥勒はあごをさすった。珊瑚もうなずく。
「子供に見えるねえ」
「見た目はガキでもバケモンやぞーっ! 俺はいつ殺されるかもわからんのやーっ」
横島は泣き、我が身の不幸をなげく。
「そうよ。それにあいつらが神族の拠点を攻撃して、小竜姫とかたくさんの神族や魔族正規
軍が生存不明になってるわ」
美神は真面目な顔になった。
横島のなげきは続く。
「あいつらにこき使われて、掃除したりシーツ洗濯したりシャワー直したり……」
「美神にこき使われてんのと、変わらねえんじゃねえのか」
犬夜叉が思うままを口に出すと、かごめたちは思わず首を縦に振る。
「ちょっと、あんたたちねー!」
さすがに美神は怒るが、横島も半分納得していた。
「まー、確かに」
「横島さん……」
おキヌは苦笑いしかできない。
そのとき、ハマーの一人、ケストラー博士が計器の動きを見て言った。
「小さいが、キルリアン反応だ。メタモルフォーゼがいる」
美神は見鬼君を取り出す。見鬼君はキルリアン反応探知機と原理は同じだが、ザンス
王国の魔法技術が取り入れられている。見鬼君が指を差した。
「あいつの手下?」
美神は横島に問う。
「い、いや、知らないっす。魔改造妖怪は用意してますけど、そいつじゃなきゃ俺には
何とも」
「子供たちに犠牲者は出せない。行こう!」
銀の弾丸が込められた拳銃を手に、西条は黒髪をなびかせて飛び出した。
「ハマー機関の皆さん! 援護お願いします」
ハマーの研究者たちは、キャスター付きの台に乗ったキルリアン振動機を動かした。
犬夜叉、弥勒、珊瑚も校庭を駆ける。何事か、と生徒たちはドッジボールをやめた。
「バカ、出てくるんじゃない!」
鵺野が止めたが、もう遅い。
「キルリアン振動機、展開お願いします!」
西条の要請を受け、ケストラーたちがキルリアン振動機を作動させる。校庭が光の柵に
囲まれた。
生徒の一人、小柄な栗田まことへと影が飛びかかる。
「鵺野鳴介! 多くの仲間たちの恨み、晴らしてくれる」
僧の姿をした老人が、まことに向かって腕を伸ばした。腕は蛇のようになってまことを
からめ取る。
「う、うわーっ、恐いのだーっ!」
犬夜叉が爪を尖らせ、すばやく斬りつけた。
老人のような、人のようで人らしからぬ顔の妖怪は、斬られて姿を変えていく。
孫の手のようなものが、地面に落ちた。
「なんだ? ずいぶん弱えな」
手応えの無さに、犬夜叉は不思議がる。
「何で出てきた! あれは如意自在、たぶんパピリオとは関係ない」
鵺野は犬夜叉たちを怒鳴りつけた。如意自在は仏具が変化した付喪神で、たいした妖怪
ではない。
「だってよお……」
不服そうに、犬夜叉は西条に目をやる。
「うちの学校では、毎週あのぐらいの妖怪は出てくるんだ」
当然のことのように鵺野が言うと、美神はあきれ顔をする。
「どーゆー学校よ」
強大な霊力の高まりに、鵺野が振り向く。
パピリオが燃え盛るような怒りとともに、霊力を強くしていた。
「だまちたんでちゅね……」
「違う!」
鵺野が否定しても、もう遅い。
「許ちまちぇん、ポチ! 人間たちを皆殺しにしてやるでちゅ」
いつのまにか、パピリオのすぐ後ろに横島はひかえている。
「かしこまりました、パピリオ様! さあお待ちかね、今週の魔改造妖怪やーっ!」
黒いマントをひるがえし、横島がステッキのボタンを押す。
宙に光が走り、上半身は女、下半身は長いムカデの妖怪が出現する。
犬夜叉が知った顔で口を動かした。
「なんでえ、百足上臈じゃねえか」
百足上臈は、かつて犬夜叉が倒したこともある小物妖怪だ。
「はじめからこうすりゃよかったのよ」
美神は小竜姫から預かった勾玉『竜の牙』、魔族正規軍から預かった『ニーベルンゲン
の指輪』をかかげた。霊力が込められると、竜の牙は剣に、ニーベルンゲンの指輪は骸骨
を模した盾になる。
ケストラー博士たちは、驚きの声を上げた。
「すごい、ミス美神のキルリアン値が九万を超えた」
「小竜姫たちの仇、覚悟ー!」
美神は竜の牙を振り上げ、パピリオに向かって駆ける。
「ふん、たかが千マイトで寝呆けてるでちゅか?」
魔族・神族は霊力をマイトという単位で知る。百足上臈が、まぶしく輝く邪悪な波動
を吐き出した。
盾になったニーベルンゲンの指輪で、美神はかろうじて受ける。爆風が周囲に飛散した。
「な……!」
パワーアップしたはずの美神は、木の葉のごとく吹き飛ばされた。
百足上臈がまた波動を吐く。衝撃が空間を揺さぶり、閃光とともにキルリアン振動機
で作られた結界の一部に穴があいた。ケストラーが悲鳴に似た声で知らせる。
「ば、馬鹿な……。あのメタモルフォーゼはキルリアン値五十万を超えている!」
「ご……う、嘘でしょ!」
信じられず、美神は目を見張る。だが事実、キルリアン出力三十万の結界が破壊されて
いる。
「ならば、私が……」
風穴で吸おうと、弥勒が右手の数珠に手をかけた。
同時に、虫の羽音がきこえてくる。
「ベスパちゃんの妖バチでーちゅ! 最猛勝なんかとちがって、妖毒は直接魂を壊ちまちゅよ」
「くっ……やはり奈落からきいているのか」
弥勒はしかたなく右手を降ろす。
「全員死ねばいいでちゅ! ポチ!」
パピリオの命とともに、横島は百足上臈の背に飛び乗り、人間たちを見下ろして高らか
に言う。
「おろかなる人間どもめ、滅びるがいい!」
子供たちが横島に石を投げた。
「くそーっ、悪魔ーっ」「出ていけーっ」
パピリオの手前、西条は霊剣を構えて横島をにらみつける。
「おのれっ、人類の敵め!」
「かっこいい!」「がんばれーっ!」
生徒たちは西条に声援を送り、横島には罵声と石を投げつけた。
飛んでくる石をよけつつ、横島は涙ぐむ。
「ちくしょー、ほんまは俺こそが身を犠牲にして人類に貢献しとるのに……」
稲葉郷子がツインテールの髪をなびかせて、駆けつけた。
「やめて、私はここよ!」
「郷子、来るな!」
広が強い声で制止した。
「そいちゅがターゲットでちゅね。エネルギー結晶を出すでちゅ」
魂を調べるリングが、パピリオの手から投げられる。
リングが大きくなって、郷子をすっぽりと入れた。リングについた四つのドクロが、内側
の郷子をにらむ。
「ああっ!」
光が発せられ、郷子は意識をうしない倒れる。
『霊力・六マイト。エネルギー結晶存在せず』
機械的に報告すると、リングはまた小さくなって、パピリオの手に納まった。
「郷子!」
広が駆け寄る。魂を調べられても死ぬことはない。が、霊体が傷つき、普通の人間は
入院を余儀なくされる。
「なーんだ、ちがうでちゅ。ポチ、あとは頼んだでちゅよ」
「はっ、お任せを」
「さっさと終わらせて、早く帰ってくるでちゅ」
「はい!」
「私のこと、忘れたらダメでちゅよ?」
「は? はあ」
何のことだかわからなかったが、横島はとりあえず返しておいた。パピリオは飛んで
いく。敬礼して見送る横島。
「待ってくれ、パピリオ!」
鵺野が引き止めようと手を空に伸ばすが、パピリオは振り向きもせず小さくなり、空に
消えた。
「さあ、人間どもーっ、覚悟せいやーっ」
百足上臈の背で、横島は凶悪な笑みを振りまく。西条がなだめて言った。
「横島君、パピリオはいなくなったんだから、もういいんだよ」
「うるせーっ! 俺にヨゴレ役押しつけやがって、おまえはさっさと殉職して美神さんを
俺に任せろ!」
百足上臈の長い尾が地を打ち、校庭を激しく揺らした。西条は暴れ回る百足の体から
逃げる。
「君はそーゆー奴だと思っていたが、やっぱりそーゆー奴だったのか!」
いらだたしそうに、美神が言いつける。
「横島クン! やめなさい」
「はっ、はい」
すぐさま横島は飼い犬のように、美神の足元に手をついた。
だが、百足上臈は長い体でのた打ち、暴れるのをやめない。校庭に亀裂が入り、子供たち
の叫び声が満ちる。
美神の長い足がしなって、が横島を蹴りつけた。
「早くこいつを止めろーっ」
「い、いや、俺はただ乗ってただけで、別になんもしてないっす」
「けっ、百足上臈なんざ一発で片付けてやるぜ」
犬夜叉が腰の鉄砕牙を抜き払った。濃くなった妖気が犬夜叉を取り巻く。
鵺野は左手の黒い手袋を外す。紫のグロテスクな鬼の手があらわになった。
「南無大慈救苦救難……」
白衣観音経を唱えると、鵺野の霊力はさらに増す。
ケストラー博士らハマーの研究者たちが、騒然となった。
「すごい、あのメタモルフォーゼ二体どちらもキルリアン値九万前後まであがった!」
「だが、三人のキルリアン出力を足してもなお勝てない」
犬夜叉が風の傷を飛ばし、鵺野が鬼の手で百足上臈を打つ。百足上臈はものともせず、
恐ろしい叫び声を上げ、また長い体で地面をたたいた。
大音が鳴り響き地は縦に揺れ、がれきが八方に飛び散る。
「くそっ、どうなってやがんだ」
百足上臈の強さに犬夜叉は悪態つく。鵺野は水晶玉を取り出し、百足上臈を霊視した。
「あいつは外から強力な魔力を与えられている。もとの妖怪とはまったく違うんだ」
「どーして弱点でもきき出して来ないのよーっ!」
美神は横島を責め立て、剣の柄でこづき回した。
「だってこんな強いと思わなかったんすよーっ! パピリオが拾ったノラ妖怪に、ルシオラ
って奴が魔力を与えただけのザコなんです」
「パピリオどもはこいつより強いってこと? じゃーもーこの先どーせダメじゃん!」
投げやりになる美神に、おキヌが泣いて懇願した。
「あきらめないでくださーい!」
不意に、ヘッドライトが美神を照らした。大型バイクのエンジン音が響く。バイクは
目が覚めるような白だ。
正義の象徴のような白色を、美神たちは注視する。
「戦わずにあきらめるとは、それでもおまえは美神家のゴーストスイーパーですか!」
ヘルメットをかぶり、オカルトGメンの装備を身につけた何者かは、美神に向かって
バイクを駆る。
すばやく竜の牙を取ると、白バイにまたがる女は厳しい声を飛ばした。
「竜の牙は変幻自在の神の武器、敵の特性にあわせて使いなさい! 今のあなたには豚に
真珠です!」
竜の牙はまっすぐな剣から、騎士の槍に形を変えていく。
「あ……あなたは」
西条は女の正体を知った。
鉄の白馬にまたがる女は、槍を突き出す。
「私は、ゴーストスイーパー・美神!」
百足上臈が、強烈な霊気の波動を吐き出した。
光線にヘルメットが破壊され、乱れる髪とともに勇ましい女の顔があらわれる。
「ママ!」
思わぬ母の助けに、美神は涙を光らせた。
美神令子の母、美神美智恵の槍が、百足上臈の首を突き刺さす。
魔力の中枢を突かれ、百足上臈は体を小さくしていった。魔力を与えていたヨリシロの
石が、地面に落ちる。
「槍が共鳴する部分が霊力の中心、チャクラが弱点と読みました」
「よし、あとは任せろ」
犬夜叉の鉄砕牙が振り下ろされ、月を思わせる弧を描く。
百足上臈は頭から両断され、裂けて地に崩れた。
美神令子は母のもとへと走った。
「ママ! 来てくれたのね!」
美神令子が中学生のときに死んだ美神美智恵だが、時間移動能力者なので過去から現代
に来ることができる。
母の平手が美神令子のほおを襲い、強く打つ。雷のような衝撃に、打たれた娘は目を
回したようになって足をふらつかせた。
「戦って負けるならともかく、戦いを投げるとは何事ですか! それならいっそ、戦って
死になさい」
犬夜叉たちもこれには面食らい、黙り込んだ。
「な……何よ」
美神令子の声は震えていた。
「だって、突然魔族との戦いになって、小竜姫たちはやられちゃうし、敵は強いし、みんな
役に立たないし……」
悪かったな、と犬夜叉、鵺野は眉間を狭くする。
「すごく、心細かったんだから!」
母に抱きつくと、美神令子は大声で泣いた。子供に返ったように泣きじゃくった。
早くに亡くした母との時間を取り戻すかのように、娘は泣き続けた。
さすがの美智恵も、娘の頭にやさしく手を置いた。だが、声はかけなかった。
美智恵の弟子、西条が二人に近づいた。
「先生、よく来てくださいました。そのかっこう、オカルトGメンに入ってくださったん
ですね」
美神美智恵はうなずくと、毅然とした口調で話しはじめる。
「隊長と呼びなさい。ほかのみなさんもです。私は日本政府とICPOに対アシュタロス
特捜部の隊長に任命されました。今後は私の命令にしたがってもらいます。
この事件は人類の存亡がかかっています。一切の権限は私にあります。異義は認めません」
美神美智恵の冷徹な目が、犬夜叉、弥勒らに向けられる。
「俺たちもか?」
「すごいお母さんだね」
珊瑚がつぶやくと、弥勒は深くうなずく。
「いやあ、まったく、すごい美人ですなあ。子がいるとは思えません」
毎度のことながら、珊瑚はあきれ顔を作る。
「鵺野隊員、あなたもです」
美神美智恵隊長にこう知らされると、鵺野はあわてて手を振る。
「お、俺も? いや、俺は教師をやめるわけには……」
「異義は認めないといったはずです。教員は休職です。すでに辞令は出ています」
「んな、無茶な……」
「事件解決まで、私はこの時代にいます。……おそらく、これが私の最後の時間移動です」
「まさか、ママ、私が中学生のときから来たの……!」
美神令子の顔色が変わる。
日暮かごめは、唐巣神父の話を思い出した。
「美神さんのお母さんって、中学生のとき亡くなったんですよね?」
「ということは、あなたは……」
そうきいては、鵺野も強く断れない。美智恵は死ぬ運命を知りながら、みずからそこへ
突き進んでいるのだ。
「どうして出てきたんだよ」「そうよ、もう少しでうまくいくところだったのに」
静たち生徒が、ICPOに抗議した。
「もういい、やめろ」
鵺野が教え子たちを止めた。法子が残念がってうつむく。
「だって、せっかく友達になれそうだったのに……」
「俺にも責任がある。あの如意自在は、俺を狙ってきた。俺は今まで妖怪を退治したら社を
作ったりして供養していたが、どうやら通じていなかったようだ」
自分のしてきたことは自己満足にすぎなかったのだろうか、と鵺野はふがいなく思う。
「私のことを考える必要はありません。それより、横島隊員」
美神隊長に呼ばれ、横島の背すじも自然と伸びる。
「はっ、はい」
「あなたには、今後も敵艦に潜入してもらいます。情報を提供してください」
「何で俺だけなんすかーっ! バケモンの巣ですよ?」
横島が泣いて訴えると、美神隊長は細いあごでうなずく。
「確かに、過酷な任務ですね。一人では荷が重いかも知れません」
美神隊長が、隊員の顔を見回した。
「よし、俺も行く」
犬夜叉が進み出て、銀髪を揺らした。隊長は首を左右に振る。
「あなたにこの任務は不適格です」
「な、なんでえ」
「うむ、おまえには向いてないな」
納得して弥勒は言った。
美神美智恵隊長は見下ろし、命じた。
「七宝隊員、横島隊員と行って補佐しなさい」
「お、おらか?」
まさか自分が指名されると思わなかった七宝は、大きな尾の毛を逆立てた。
「隊長のご指名だーっ、来てもらうぞ」
横島が七宝の首根っ子つかみ、引き寄せる。
「七宝ちゃん、大事な仕事よ、がんばって」
かごめにはげまされ、七宝は小さな拳を震わせた。
「お、おらがしっかりせねば……」
おわり
なんか中途半端だけど
パピリオ、横島忠夫、西条輝彦、美神令子、おキヌ、美神美智恵@GS美神 極楽大作戦!!
犬夜叉、日暮かごめ、弥勒、珊瑚、七宝、百足上臈@犬夜叉
鵺野鳴介、高橋律子、立野広、稲葉郷子、細川美樹、金田勝、中島法子、菊地静、白戸秀一、
山口晶、木村克也、栗田まこと@地獄先生ぬ〜べ〜
ケストラー博士@うしおととら
如意自在@伝承妖怪
スレ違いかも知れませんが田の中勇さんの御冥福をお祈りします
テレビはニュースで魔族の襲撃を伝える。
――魔族は小学校を襲撃し、少女一命が負傷、命に別状はないとのことです。
敵幹部の一人、ポチを名乗る男の犯行声明によると、おろかなる人類は魔族にひざまずけ
という内容で……
またこの事件に関してはICPOと自衛隊特殊災害対策室が協力して当たり……
防衛大臣のコメントは……
いまひとつ危機感のない報道だ。政府がパニックを回避するため、情報をある程度操作
しているためだ。
「失敗か。だが、人間どもがびびってやりやすくなるかもな」
魔族三姉妹の上司、土偶羅魔具羅は危機感のなさに気づかず、単純に喜んだ。丸くて
大きい目、尖った口の土偶羅魔具羅は土偶に似ている。
魔族たちは戦艦『逆天号』内のリビングルームで、テレビを見てくつろいでいた。
横島はパピリオたちに茶を運ぶ。
「気にすることないでちゅよ、ポチ」
パピリオは携帯ゲーム機で遊びながら、横島をねぎらった。横島はトレイを手に愛想
笑いする。
「いやー、もうしわけありません」
首輪をつけられた七宝は、ゲームを教えられていた。
「これはなかなか難しいのう」
「ポチ、この調子で働けば、この島国をおまえに与えてやってもよいぞ」
土偶羅魔具羅は愉快そうにした。横島は思わずうれしそうにきく。
「えっ、本当っすか?」
「調子に乗りすぎじゃないの」
ベスパはティーカップを手に、不機嫌そうだ。
「す、すんません」
「いや、そうじゃなくてさ。まだ神族が全滅したと決まったわけじゃないし、エネルギー
結晶も見つかってないじゃないか」
「みつけた君がおかしいのかな? 壊して作り直そうかなー」
ルシオラは自信なさげに、頭の触角を下げる。この魔族たちは、魂にエネルギー結晶を
持つ人間を探している。千年前、裏切った魔族メフィストが持ち逃げしたものだ。
メフィストの転生先を検索する兵鬼・みつけた君は、横島の文珠により異常を起こして
いる。
「いっ、いやっ、ルシオラ様の作った兵鬼を、もう少し信じましょう!」
(俺があれを狂わせてることがばれたら、殺されてしまうー!)
横島は青くなって、全身から汗を垂れ流した。
「えっ、そう?」
ルシオラは素直に笑顔を見せる。
「でも、早くエネルギー結晶を見つけないと……」
焦燥するベスパに、土偶羅魔具羅は説いてきかせた。
「なーに、気にするな。神界・魔界・霊界との通路は遮断されておる。さすがにこれほど
の妨害霊波を出されたアシュタロス様はお休みになられているが、南極・バベルの塔を
建造し終えれば、すぐお目覚めになる。
アシュタロス様は当然、メフィストの転生先をご存じだ。エネルギー結晶はすぐ手に
入る。さすればアシュ様は力を取り戻される、もう勝ったも同然なのだ」
ベスパはまだ不服なようで、口を曲げた。
「だけどさ、こうしている間に人間どもが対策を練って……」
「ベスパ、人間が小細工したとて、おまえ一人にも勝てんわ。ましてやこの逆天号に傷一つ
つけられまい。それ以前に、奴らは手を組むことすらできん。
わしは何千年も人間を見てきたが、奴らときたら互いに殺し合うしか能が無い。どうせ
いがみ合って勝手に自滅するわい」
「じゃあ、じゃあ……私たちは、いったい何のためにここにいるんだ?」
いらだたしそうにベスパが言うと、妙な沈黙が訪れた。
「ベスパちゃん……」
パピリオの幼い顔は、何かを心配しているようだ。
「ま、まあ、楽しめばいいじゃないか」
上司の土偶羅魔具羅はなだめて笑った。
こんなにも強い魔族が、何を焦ることがあるのかと横島はいぶかしんだ。
(まあ、化け物の考えることなんてわからんな)
自分で結論づけると、横島はシーツを洗うため部屋を出た。
逆天号、まさに天に逆らう戦艦は、大きなカブト虫といった形をしている。
亜空間に潜航することが可能で、今は周囲にうねうねとした光景を見せている。
横島はタラップで、洗ったシーツを干していた。
(クソ女どもめ……今に見とれ。この船の心臓部を見つけて爆破して、全員始末してくれる)
手柄を引っさげ凱旋すれば、一気に英雄扱いだ。
(美神さんもマザコンだからなあ……俺はお母さんを助けるわけだし)
美神の母は歴史上、死んだことになっている。今隊長を務めているのは、過去から来た
美神の母だ。
つまり、今回の事件で美神令子の母・美智恵は死ぬことになっている。
(だが、俺が歴史を変えてお母さんを助ければ……)
『愛してるわ、横島クン! 結婚して!』
(ええ話やなあ……)
感動に打ちふるえ、涙せずにはいられぬ横島。
(いや、待てよ。それどころか、俺は世界を救うわけだし……何も一人の女に縛られること
はない)
「世界の半分(のねーちゃん)くらいいただいてもいいんじゃないかなーっ!」
横島がつい口に出したとき、彼の後ろから笑い声がきこえてきた。
「世界の半分はちょっと欲張りすぎじゃない?」
横島が引きつった顔で振り向くと、魔族の女が見下ろして座っている。
「ル、ルシオラ様」
ルシオラは物見台から滑り降りてきた。
「い、いやーっ、夢はでっかく……なんちて」
ルシオラの黒い瞳の奥に何があるのか、読みとろうにも横島にはわからない。
「あの、なぜここに?」
「今ぐらいの時間に、座標の修正をするために、異空間潜航からいったん通常の空間に出る
んだけどね」
潜水艦がたまに海上に出る要領だ。ルシオラはタラップのへりに歩いていった。
「ここから見る景色がちょっといいのよ」
逆天号は異空間を脱して本来の空間、雲の上を飛んだ。
ルビーを溶かしたような夕日が、西の空に沈みつつある。
果てしなく波打つ雲海は赤く染まって、空は紺から真紅へと際限の無いグラデーション
を見せた。
「ね、きれいでしょ」
夕日の色になったルシオラが言う。だが、横島が心を奪われるのは、大自然が造り出す
壮大な美よりも、やはり女の美であった。
「はあ、きれい……ですね」
あわてて横島は心の内で首を振る。
(いかん、いかんぞーっ! 今回だけは、今回だけはいかんのやーっ!)
神族・魔族正規軍たちが攻撃を受け、小竜姫も生死不明だ。
美神の母も死ぬことになっている。
「昼と夜のすきま……わずかの間にしか見られないからきれいなのかしら」
「そ、そうですかねー」
心中の葛藤を、横島は表に出すまいとする。
「ねえ、ポチ。その服、パピリオが作ったんでしょ?」
「え? ああ、はい」
いかにも悪役といった感じの、黒づくめに黒マントだ。
(あのガキ、よけーなもん作りやがって……)
「あの子も生きた跡を残したいのね」
言葉の意味が、横島にはわからない。
「はあ?」
「知らないの?」
「何をすか?」
「魔界、神界とのアクセスを遮断していられるのは一年が限度。だから、私たちの寿命は
一年に設定されているの」
「え……? あんたら、一年しか生きられないわけ……?」
突然知らされた事実に殴りつけられたような衝撃を受け、横島は石像のように固まった。
ルシオラは淡々としたものだった。
「ええ。人間は、死んだら幽霊になったり生まれ変わったりするでしょ? でも、私たちは
完全に『消滅』するの。何も残らないわ」
(な……に?)
口を半開きにしてほうける横島をよそに、ルシオラは微笑する。
「次のクリスマスは迎えられないわね」
足元がいっぺんに崩れ落ちるような感覚に襲われ、横島の思考は停止した。
「千年前、自分の娘に裏切られたのがよほどショックだったのね。かわいそうなアシュ様
……」
「な……、ほ」
本気で言ってるのか、と問いたいところを、立場上横島は耐える。
「ねえ、ポチ」
「は、はい」
「おまえはやっぱりスパイなんでしょ?」
「え?」
いきなり図星をさされて、横島は縮み上がる。
「そりゃそうよね。おまえは十何年もこの世界で生きてきたんだもの。いまさら滅ぼす側に
味方するわけないわ」
「い、いや、そんな」
「いいのよ。さっききいたでしょ? もう私たちに敵はないわ。勝ちは決まってるもの」
ルシオラが手を伸ばすと、横島は恐怖して息を止める。干されたシーツが風にはためく。
「でも、今はパピリオと遊んでやって」
ルシオラの小さな手が、横島の手を握った。手のあたたかみが、やさしく横島に伝わって
いく。
「日が沈んじゃった。おまえも早く戻りなさい」
昇降口のハシゴをルシオラが降りていった。横島は一人、タラップに残り立ち尽くす。
空は黒さを増していく。
(たった一年……? 消滅する……?)
『私のこと、忘れたらダメでちゅよ?』
『じゃあ、じゃあ……私たちは、いったい何のためにここにいるんだ?』
『昼と夜のすきま……わずかの間にしか見られないからきれいなのかしら』
三姉妹の言葉が横島の頭に何度も響く。強大な霊力の代償は、時間。彼女たちは『使い捨て』
だったのだ。
「だ……だからなんだ!」
たくさんの神族、魔族正規軍が襲撃され、生死不明だ。
美神の母も死ぬことになっている。
「命なんか、何とも思ってないくせに……」
だが、憎悪の火が急速に小さくなっていくのを、このスパイは止められない。
「おい、横島」
「うわっ!」
見下ろすと、横島の足元に七宝がいた。
「いつまで物干ししとるんじゃ。パピリオがげえむの相手せいと呼んどるぞ。おらでは
かなわんからな」
「あ、ああ。おまえも手伝えよ」
横島は洗濯バサミを取り、シーツを取り込みはじめる。
「横島」
「なんだよ」
「おら、さっきルシオラとすれちがったが、おまえ……」
「あ、アホか! 俺だって、今度ばかりはわきまえとるわっ!」
「おら、まだ何も言うとらん」
うっ、と横島は言葉に詰まる。七宝があきれてため息をついた。
「おまえはやっぱり……」「うるせーな!」
「おらな、実はおまえが裏切らんようにと、監視するためによこされたんじゃ」
「そうだったんか……くそーっ、誰も俺を信じてないんかーっ」
「当たり前じゃ。おまえのどの辺を信じたらいいんじゃ」
言い返したかったが、横島自身誰よりも自分を信じていない。
「あー、どーせそーだよ、くそっ! でもな、今回だけは俺もわかってるつもりなんだよ」
「そうなのか?」
「ああ。何しろ、美神さんのお母さんが死ぬことになってるからさ」
「その話が、おらにはよく分からん。隊長は生きておるではないか」
「とにかく、そうなってんだよ。でも、歴史を変えることができるかも知れない。そうすれば、
隊長を助けられる……」
だが、横島は小さな手のぬくもりを思い出していた。
終わり
土偶羅魔具羅@GS美神 極楽大作戦!!
ちなみにだいたい霊力1000マイト=キルリアン値100000ではないかなと推測している
普段の美神100マイト弱
竜の牙とニーベルンゲンの指輪で武装して本気出した美神が1000マイト弱
獣の槍を持ったうしおが本気出すとキルリアン値108000
本気出した美神とうしおがだいたい同じぐらいでないかと考えた次第
で、まあこの手の漫画の主人公はだいたい普段は霊力約100マイト、
本気出すと約1000マイト=キルリアン値100000ではないかなと予想しました
うおお何か久々に見たらすげえ盛り上がってる!!
超乙!
152 :
通りがかり:2010/01/23(土) 09:21:02 ID:Hciulj8N
鬼太郎も出てたよね?鬼太郎は悪魔ブエル
(ソロモン72柱の魔神の1柱で、50の軍団を率いる序列10番の地獄の大総裁)
とやりあったことがあるんですけど・・
この世界だったら、鬼太郎とんでもなく強そうに思える・・
でも封鎖されてて出てこれない??
でもそんとき鬼太郎ヤカンヅルの中で何年も戦ったんだよね
そのシリーズの最終回だったそうだし、
不死身の鬼太郎にとっては死に近いぐらいのことかもしれんね
規制解除?
間違って前スレに書き込んでしまった……
いつも読んでます。
これまでも良かったけど、最近好きな作品が更にクロスして
どんどん展開が素敵になるのでここで私も久々の支援投下です。
が、最後まで書き終わらなかった……
***
次の作品にはほぼオリキャラが登場するので注意。
ラスボスと主人公をめぐり合わせる展開で
うまく原作を使えなかった……
一応、出展で無理矢理原作と紐付けてるけど9割9分オリ設定です。
***
だいぶブランクがあったのであらすじ
(一年以上経ってたのかよ!
まあ、他にいくつか短編は投下してたけど……orz)
吸血鬼の館で門番をしている妖怪
紅美鈴@東方project、主に紅魔郷や非想天則 は、
自分が現職に就く前の遠い昔に
人間の夏目レイコ@夏目友人帳 と主従の契約を結んでいた事を思い出し、
妖怪である事を偽ってレイコの孫、夏目貴志と接触する。
親しくなっていく二人だったが、
ある日、
貴志が東方project・夏目友人帳どちらの世界観にもそぐわない
正体不明の凶悪妖怪、キューコン女@不安の種 に襲われ、
命を奪われる寸前まで追い込まれてしまう。
主人を救うため、美鈴は貴志の目の前で妖怪の力を発揮し、
キューコン女を葬り去った。
だが、やはり二作品には存在しないような、
強い悪意の眼差しがその光景を捉えていたのだった……
「当時のご主人様……貴女のおばあ様が何故、中国へやってきたのか。
私には分からず……今は知る由もありません」
戦いを終えた帰り道、夜のうす暗い気まずさを――それは夜の所為だけではないが――
最初にかき消したのは美鈴の言葉だった。
「祖母は、中国へは何回か?」
「いえ、少なくとも私の居た地域には一度きり……
来たというよりは、通りすがったとか、立ち寄ったという雰囲気だったかもしれません。
偶然そこに私がいて、勝負を申し込んだか、申し込まれたか、それすらももう定かではないのですが……」
「戯れに主従の契約を結んで放っておくなんて……
あの人は本当に……本当に、すみません」
貴志は眉をひそめ、厳しいような悔しいような複雑な表情をした。
「そ、そんな! 謝るのは私の方です! 人間のふりをして、ずっとご主人様を騙して!!
……それに私は、おばあ様と戦ったからこそ分かるんです。
あの人の行いに、悪意は無かったと」
「……そう、そうですね。
僕にとっては悪い事ではなかったかもしれない。
お陰で、貴女の様な素敵な人と巡り合う事ができた」
それは、貴志にとって本心の言葉だった。
だから、レイコの行いを素直に怒ることが出来ず、先の複雑な表情を見せたのである。
だが、美鈴は元々沈んでいた表情を更に曇らせた。
「違うわ、違うんです、ご主人様。
さっきの妖怪をご覧になったでしょう……友人帳の意味、それは、
友情の繋がりを広げる事だけではない……
邪悪な妖怪を縛りつけ、彼女の世界を守ることも含まれているのです。
私と彼女の契約は、つまり、あの妖怪と同じ……」
「違う、美鈴さんはあんな妖怪とは違う! 僕は知っている……!」
「貴方には分からない!」
貴志の悲痛な訴えは、美鈴により強い口調で一蹴された。
貴志は口ごもり――それ以上何も言えなかった。
自分には美鈴を擁護する権利は無いと思ったのだ。
彼女が人間ではなく妖怪だと知ったとき、確かに幻滅の感情を持ってしまった
自分の様な者に、妖怪の彼女を理解できるはずが無い、と……
「……! わ、私は……ご主人様……」
口から出てしまった言葉を押し戻すかのように、美鈴は口に両手を合わせた。
だが、もう遅かった。
お互いを一片たりとも憎んでいないにもかかわらず、
二人の友好関係は先ほどの出来事を境に崩れて行き、そして……
「そうだよ、君にはめーりんの事はわからない」
「誰!?」
美鈴と貴志が発した叫びには、緊迫したものというよりは
素っ頓狂な、ツッコミ的な雰囲気が強くあった。
両者とも全く見た事のない、
眼帯をした青年がいつのまにやら、そこにいた。
僕が誰かなんてどうでも良いさ。
まあ、それっぽく言うなら……“秘法の伝承者”ってところかな?
僕は、血筋っていうだけで妖怪の近くにいる君とは全く異なる。
色々あってね……自分から神秘に触れる道へ行ったのさ。
だからめーりん、幻想郷も……君のこともよーく知っているよ。
修行で磨き上げられた武闘派の肉体!
気を操る程度の能力で練られた高潔な精神!!
だが、紅魔館というゴスロリ空間で暮らすうちに育っていった
夢見る少女らしさも兼ね備え……
お砂糖もスパイスも要らない、素敵なものを沢山持ってる!
君の事はなーんでも、知っているよ……
だから君を幸せに出来るのは僕だけなんだ!
そこの“ご主人様”も……レミリア・スカーレットですらも君を幸せには出来ない!!
なぜなら君には主従関係ではない……並んで歩く者が必要だからさ!!!
僕ならばそれができるんだ、うふふふ……
おやあ、怪訝な顔をしているねえ……
まあ、分かるよ。君をモノにするためには力が無いとね。
見せてあげよう、僕が君に相応しい人間である理由、
君と共にゆく僕の“歩み”……
さあ……僕の導きにお答え下さい! ……なん様!
***
「『しょなん』!? き、貴様っ、『諸難』と言ったか!!」
美鈴と貴志の会話を神妙な面持ちで聞いているだけであったニャンコ先生が、
口を開き、吼えた。
「しょ……なん……だと?」
美鈴もまた、戦慄の表情で、男の向こうにある宵闇を見つめた。
貴志も何がなにやら良く分からずに、ニャンコ先生と美鈴の見つめる先を見た。
闇は闇のままだったが、街灯が照らす足元に何かが落ちているのを見つけた。
……米粒だ。
生米が、闇からこちらまでの道筋を作っていた。
再び貴志が前を見ると、それまで静止していた闇が、ゆがみ始めた。
ボリ、ガリという不快な音と共に、闇の先に何かが動き、近づいている……
それは、黒い体表(体毛?)に覆われた、やや大きめの餓鬼、という感じだった。
しかし、一般の妖怪とは……あらゆる造形の概念とはかけ離れた特徴が一つ。
顔が、縦、だったのだ。
パーツは目が二つ横に並び、少し下の真中に鼻、その下に口がある。
が、目と口は「上から下に」切れ長に避け、
その頭蓋が一体どうなっているのか全く予想できはしなかった……
もっとも、それを見ればショックの感情が強すぎて、
構造を冷静に分析する余裕など無いだろうが……
男はくっ、と笑って言った。
「だめだよめーりん、それに斑様も。
恐れ多い存在だって分かっているなら敬称を付けないと。
少なくとも僕の様な人間はそうしなきゃとても呼べやしない。
それも、言葉の上にも下にも敬称をつけなければ……
ですよね、『御諸難様』」
すると、「それ」の口が動いた。
何を思ったか――知性があるのか無いのか、それは呼ばれた言葉を復唱した。
(または、自己紹介のつもりだったのだろうか?)
だが、どの生物学的にもあり得ない構造の口蓋で、その通りの発語をする事はかなわず……
彼らの耳には、「それ」が誇る、真の名が届いたのだった。
「おッ、おぢょなん、んざアんンン」
***
諸難。
世界中のあらゆるつらい事、くるしい事を寄せ集めたようなその名を持つ妖怪? について
世界悪役妖怪会議のデータベース上でも、分かっている事はただ一つ。
それは、「キューコン女は人間の魂を食うらしい」の様な内容とは比較にならない、
危険で厄介な情報。
……人間がコントロールし、呪術的兵器として使うらしい、というものである。
“オチョナンさん”と呼ばれ、
時折家の守り神とさえされるそれが
(攻撃の対象にさえなっていなければ、
逆に他の妖怪が気味悪がって寄ってこない事を有効に使えるからだろうか?)
実際にどの様な攻撃をするのか、世界悪役妖怪会議ですら分かっていない。
しかし、それは、指向性をもって対象に被害をもたらすのである。
攻撃する事は分かっているのに被害の具体的な記録が無いのは
記録者すら巻き込まれ、必ず死滅させられているからだとか、
それとも、物理攻撃や精神攻撃どころではなく、世界から抹消する様な力だとか言われているが、
少なくとも、正体不明かつ恐ろしい存在であるのは確かだ……というのが、妖怪界での通説である。
それではまた来週……できれば、また来週!!
オチョナンさん@不安の種
オチョナンさん? の被害者@不安の種
(単行本が今見つからず名前失念)
あるエピソードで、オチョナンさんらしき妖怪に片目を食われた少年
(そもそもオチョナンさんだったかどうか定かでない書き方にされてはいますが)
……が、歪んで成長したという設定で、
この物語におけるラスボスとして
オチョナンさんを参戦させる役になってもらいました。
無理矢理すぎる……
160 :
150:2010/03/09(火) 21:00:38 ID:bhffrhDY
感想レスありがとうです!
投下乙です
あらすじわかりやすいです
正直元ネタよく知らないけど楽しめました おもしろいです
おチョナンさん怖っ
自分は規制などで投下が難しくなりました
読んでいただいてありがとうございました
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