ラノロワ・オルタレイション part5

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1創る名無しに見る名無し
このスレは、ライトノベル作品を題材にバトルロワイアルの物語をリレー形式で進めてゆく、
「ラノロワ・オルタレイション」という企画の為のスレです。
※内容に流血や死亡を含みますので、それを予め警告しておきます。



前スレ
ラノロワ・オルタレイション part4
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1245150074/l50


ラノロワ・オルタレイション@wiki (まとめ)
http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/


ラノロワ・オルタレイションしたらば掲示板 (避難所)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/10390/


予約用のスレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1234868971/
※予約のルールに関してはこのスレの>>1を参照のこと。
2創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:01:54 ID:4EUL/7xo
 【参加作品/キャラクター】


 5/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
    ○キョン/○涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/○朝比奈みくる/○古泉一樹/●長門有希
 6/6【とある魔術の禁書目録】
    ○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/○御坂美琴/○ステイル=マグヌス/○土御門元春
 5/6【フルメタル・パニック!】
    ○千鳥かなめ/○相良宗介/○ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/●メリッサ・マオ
 4/5【イリヤの空、UFOの夏】
    ○浅羽直之/○伊里野加奈/●榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂
 4/5【空の境界】
    ○両儀式/●黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/○白純里緒
 3/5【甲賀忍法帖】
    ●甲賀弦之介/○朧/○薬師寺天膳/●筑摩小四郎/○如月左衛門
 4/5【灼眼のシャナ】
    ○坂井悠二/○シャナ/●吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ
 3/5【とらドラ!】
    ●高須竜児/○逢坂大河/○櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/●北村祐作
 5/5【バカとテストと召喚獣】
    ○吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/○木下秀吉/○土屋康太
 4/4【キノの旅 -the Beautiful World-】
    ○キノ/○シズ/○師匠/○ティー
 4/4【戯言シリーズ】
    ○いーちゃん/○玖渚友/○零崎人識/○紫木一姫
 3/4【リリアとトレイズ】
    ○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/●アリソン・ウィッティングトン・シュルツ


 [50/60人]


 ※地図
 http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/?plugin=ref&serial=2
3創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:02:38 ID:4EUL/7xo
 【バトルロワイアルのルール】


 1.とある場所に参加者60名を放り込み、世界の終わりまでに生き残る一人を決める。


 2.状況は午前0時より始まり、72時間(3日)後に終了。
   開始より2時間経つ度に、6x6に区切られたエリアの左上から時計回り順にエリアが消失してゆく。
   全エリアが消失するまでに最後の一人が決まっていなければゲームオーバーとして参加者は全滅する。


 3.生き残りの最中。6時間毎に放送が流され、そこで直前で脱落した人物の名前が読み上げられる。


 4.参加者にはそれぞれ支給品が与えられる。内容は以下の通り。
   【デイパック】
   容量無限の黒い鞄。
   【基本支給品一式】
   地図、名簿(※)、筆記用具、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂歯磨きセット、タオル数枚
   応急手当キット、成人男子1日分の食料、500mlのペットボトルの水4本。
   (※名簿には60人中、50名の名前しか記されていません)
   【武器】(内容が明らかになるまでは「不明支給品」)
   一つの鞄につき、1つから3つまでの中で何か武器になるもの(?)が入っている。


 ※以下の10人の名前は名簿に記されていません。
  【北村祐作@とらドラ!】【如月左衛門@甲賀忍法帖】【白純里緒@空の境界】【フリアグネ@灼眼のシャナ】
  【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】【零崎人識@戯言シリーズ】【紫木一姫@戯言シリーズ】
  【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】【島田美波@バカとテストと召喚獣】【土屋康太@バカとテストと召喚獣】



 ※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
   また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。
4創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:03:37 ID:4EUL/7xo
【状態表テンプレ】
 状態が正しく伝達されるために、作品の最後に登場したキャラクターの状態表を付け加えてください。


 【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
 【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
 [状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
 [装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
 [道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
 [思考・状況]
  基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
  1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
  2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
  3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)


 [備考]
  ※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)


 方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
 備考欄は書くことがなければ省略してください。
 時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。


  [00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
  [06:00-07:59 >朝]   [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
  [12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
  [18:00-19:59 >夜]   [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
5創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 23:04:18 ID:4EUL/7xo
よし、完了ー
6創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 10:42:58 ID:npBlriwx
スレ建てと埋め乙。
天膳殿www
7創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 14:37:51 ID:6e+5UCMX
おつ
8創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 05:25:09 ID:y5qsW3hR
1乙ですぅ
9創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 13:25:44 ID:d7vssGOD
ここってそろそろ始まってから半年ぐらい?
10創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 16:58:15 ID:Ax5tNoMM
そうだっけ?
時間が過ぎるのって早いなぁ
11創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 17:19:32 ID:d2//8Pfc
リスタートして、新スレの1が立ったのが2月だから…
半年は経ってるね
12創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 22:40:29 ID:IEJJy5wN
早いな
そんなにたってるのか
13創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 13:30:01 ID:lmKSGQZ5
適当に数えてみたら生き残ってる強キャラと弱キャラのバランスけっこういいな。
大体半々ぐらいだ。
14創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 14:24:24 ID:tT0CLPAf
ついに……ついに玖渚に予約が入ったw
15創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 16:19:46 ID:UWibBYVA
>>14
何を馬鹿なことを………………なん、だと?
16創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 17:25:49 ID:NFfrwEoq
>>14
なん…やて
そんな…馬鹿な…
17創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 19:09:38 ID:Y7IyanzE
>>14
なん…だと…!?
18創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 19:14:04 ID:Y2IrVpHT
>>14
な、なんやてぇ!!?
19創る名無しに見る名無し:2009/08/20(木) 00:04:01 ID:Eavl//t1
しかし玖渚は何時からあそこで止まったんだ?
20創る名無しに見る名無し:2009/08/20(木) 01:32:39 ID:nfW2+5Ou
序盤からずっとだな
てっきり、2回か3回くらい放送終了して、それ以後に
目が覚めるものとばかりwww
21創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 12:46:10 ID:RmywHLkW
まさに、放送前に必須じゃないけどあっても悪くない、ってパートだな>玖渚
楽しみだ
22創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 19:59:06 ID:cxV8oq71
仮投下に来てるな。誰か代理ヨロです。
23創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 20:04:26 ID:CmezgOF4
とりあえず投下乙……けど戯言追いついてないからどうにもツッコミが入れられないな
24創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 20:35:35 ID:e6Ie4Ws7
代理投下していいのか? あの内容に問題あるなら反論よろ
俺も戯言に詳しくないからツッコミが入れられないな
25創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 21:03:43 ID:X0U/VNmQ
問題無いと思う。
多分仮投下した理由戯言関係無いんじゃないかね
26創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 21:06:57 ID:RmywHLkW
まあまて、規制でストップかかってるならともかく、内容に不安あっての仮投下だ。
1日くらいは転載待て。
ちょっとこっちでもツッコミ所を考えてみる。
てか戯言に詳しい・詳しくない以外の部分でもツッコミ所ある気も
27創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 21:28:30 ID:CmezgOF4
まあ舞台裏の話するには時期尚早って感じはする。第一回放送前だし
狐さんの立ち位置もOPで言ってたものとはちょい違うかな、という違和感はあった
新キャラ云々やら玖渚の扱いやらはやっぱり戯言把握し切ってないんで強く言えないんだけども
28創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 21:42:54 ID:O8R9c6Ic
んー取り合えず一つ意見としてあるのは…そもそもこれ玖渚視点いるのかとも思う。
5号絡みで必要とはいえ、話の大筋は舞台裏である狐さんメインの話だ。
夢とは言いつつも現実であろうし……そういう意味では予約の段階で狐さん絡む……というのは言っておいた方がよかったんじゃないかな。

まだ早いが放送に付属で問題の無い舞台裏だけに玖渚の予約で……というのはまず気になった。
29創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 23:20:58 ID:RmywHLkW
ちょっと整理してみる。
ツッコミ所としては、
(1)この時点で(ほぼ)放送前の死者を確定させちゃうことの是非
(2)狐さんがOPとは裏腹に、随分と権限持ってる(らしい)ことの是非
(3)狐さんに話し相手をつけるとして、一里塚木の実という選択の是非
(4)何故か余ったデイパック、という投げっぱなし展開の是非
(5)そもそも、この時点で舞台裏の事情をここまで書いちゃうことの是非
(6)てか、これ肝心の玖渚、関係薄くねぇ?
と、大体こんなとこかな?
30創る名無しに見る名無し:2009/08/21(金) 23:22:16 ID:RmywHLkW

(1)は前の仮放送案の時の問題とちょっと被るかも。
 あれから死人出る率は随分下がったとも思うけど、早朝枠にもう死人が出ない、って確定させるのは早い気も。
 どうしても総括したいなら、開始後4時間経った所(黎明→早朝の境目)でやるのが無難かもしれない。
 流石にもう黎明枠で死者は出ないでしょうから。
(2)は、OPの時の印象とのズレが大きいという問題。
 色々仕事してて、原作の部下までついてて、ちょっと「舞台装置」「スピーカー代わり」の域を超えてるかな、と。
 特に、誰にどの支給品を渡すのか、という決定権まで持ってた(と思われる)のは非常に大きい。
 「狐さんは嘘吐きです」でいくらでも誤魔化せる部分ではあるけど、それでいいのかなー、と。
(3)は、狐さん1人じゃ持て余す、会話の相手が欲しい、って所までは分かる。
 ただ一里塚木の実って、原作の部下の中でも相当に「底の知れない」キャラだから、この配置はちょっと不安。
 原作でもその《空間製作》の能力は破られてないし、そもそも、できること・できないことの限界が判断しづらい。
 有能で裏切らない、って属性も含めて、後々困らないかな?という懸念が。
 魅力的なキャラではあるけど、他にも選択肢があるだけに。この話では彼女ならではの能力も使ってないし。
(4)は、ネタとして随分投げっぱなしかなー?と。そうなった経緯の真相やら、後の発展の余地やら。
 少なくとも、多種多様に展開が広がる、って仕掛けじゃないような。
(5)は……時期尚早な気もするけど、でもどっかで決めなきゃならないことでもあるしなぁ。
 面白い話・先が楽しみな話なら気にすべきとこじゃないとも思う。つまり他の問題の是非に連動。
(6)も同様。面白ければ正義。つまり他の問題に連動するかと。

個人的印象としては、(1)が気になるくらいで、(2)〜(4)はなんとかフォロー可能かな、とも思う。
もしこれが「不安だから仮投下」でなく、自信満々に本投下されてたら(1)以外は黙ってたかも。
ただ、本人が不安というなら、読んでる方も不安を感じます、と答えるしかないかな。
流石に地の文で「夢かもしれない」って言われたから「はい夢でした全部不採用です」、ともいかないだろうし。
長文失礼。
31創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 02:41:57 ID:SX18Y3Ol
狐さんは真・十三階段をつくったのかもしれんな…
32創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 08:04:40 ID:QVaoZs7f
そんなわけねえだろ
ちゃんと読め
33 ◆ug.D6sVz5w :2009/08/22(土) 10:41:54 ID:Tz92bxmw
うーん……皆様の意見を参考させていただいた結果、やはり時期尚早すぎたかなと思います。
よって今回の話は破棄と言うことで。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
34創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 19:48:55 ID:hJS5UVG0
うーん…残念
35創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 20:37:27 ID:QVaoZs7f
いやいや待て待て早い早い
別に破棄するほどじゃないだろ
36創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 20:42:25 ID:ufzc0bLo
うーん、残念。次に期待。
37創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 21:20:42 ID:sv8EzGbI
アリだとは思うけど、本人がそうおっしゃられるなら仕方ないか。
38創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 01:16:28 ID:wo+HcaIe
予約来たー!
39創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 01:48:23 ID:An8mWjiA
うは、人数すげぇwww
合流となるか、新たな戦場となるか…
40創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 02:07:52 ID:+H1x1kNv
楽しみやー!
41創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 07:30:11 ID:Q/8FuhtJ
何かすごいWWW
42創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 22:42:21 ID:3xmcRtus
しかし楽しみなのは確かだが書き手が書き手だけに不安だぜ……
43創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 22:51:12 ID:An8mWjiA
>>42
逆に楽しみで仕方ないがw
44創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 23:07:31 ID:O8IQgfCY
>>42
おまえうちの看板書き手なめんなよ!w
まあug氏の予約はロワらしくマイナス方向に転ぶ傾向が強いからな
今回も爆弾がいることだし、どんな修羅場がと今からwktk
45創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 23:10:33 ID:3xmcRtus
すまん言い方が悪かった。
氏の今までの作品で対主催サイドに有利な展開とか一切なかったから不安なんだ。
少し前も対主催キャラだけで予約した、と思ったらシズがマーダー転向→結果アリソン、マオ死亡だったし。
46創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 00:42:58 ID:Al30ZeMp
楽しみだがドキドキするw
ロワならではと言うかなんと言うかww
47創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 14:19:07 ID:ooTUxeQN
おまえら、人数ばかりに目を向けてないで、もう一つの予約にも期待しようぜw
48創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 15:13:44 ID:Al30ZeMp
悠二もキテたー!!!
49創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:14:48 ID:nxhXtnWS
おや、ひょっとしてぼちぼち放送後の展開を考える季節か
このロワでは予約合戦とかあるのかねー
50創る名無しに見る名無し:2009/08/30(日) 23:58:57 ID:TUyOeH54
破棄……うーんもう少しなら頑張って投下して欲しいけど皆はどうだろう?
俺は止まってたパートだし書いて欲しいと思ってるんだけど
51創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:10:34 ID:sdzSqp8c
是非して欲しいな。
遅れてるパートだし書ける人にかいて欲しい。
最予約で投下って形なら別に気にならない。
ちなみに後どれくらいなんだろうか?
52創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:11:23 ID:Tczt3SIZ
ちょっと過ぎるくらい別に気にするこたぁないと思うが…
53創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:21:05 ID:SScvtNvj
投下して欲しいなあ
もう少しなら待てるぜ
54創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:28:27 ID:7jxh1BEv
まあ、他に書きたい人・ネタある人が出てきて予約したら諦めて譲る覚悟で、
でもそういう人が出る前に書き上げたら、予約なしのまま直前に宣言して投下、だろうなぁ。
予約制度というシステムの筋としては。
あとちょっと、っていうなら是非書き続けて欲しい。

ただなんと言っても、「あと少し」、の「少し」の度合いが分からないからな。外部からは。分量的にも、時間的にも。
例えば数分とか1時間とかなら「ちょっと待って」って言ってもほとんどの人は気にしないと思うけど、
半日とか1日とか過ぎるようだと少しずつ意見が分かれてきそう。
他にもネタ暖めてた人いたかもしれないしねー。むしろ止まってたパートだけに。
55創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:39:49 ID:WGuSK7Rq
何日か待って、その間に予約が入らなければ
再予約してもらうのも手なんだが…
56創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:49:47 ID:7jxh1BEv
再予約ってのは慎重であるべきじゃない? 下手すると予約期限の無軌道・無制限な延長につながりかねないし。
まあその辺の議論も今までなかったかな
57創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 00:57:02 ID:sdzSqp8c
まぁ今晩中に投下できるのならそれが一番無難ではあるなw
58創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 13:46:52 ID:SScvtNvj
今日中に投下出来るならまあ理想か
59 ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 00:01:16 ID:N9sxMiLp
本当申し訳ありませんが、何とかついさっき作品を書き上げました。
明日朝が早いために今日はもうそろそろ寝なくてはいけないのと推敲等を行いたいために
許されるのならば後1日だけお時間をもらえないでしょうか?
60創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 00:11:17 ID:67vfMsBh
いいと思うけど……一応具体的な投下時間を教えてもらえると有り難いかな。
支援もできるし
61創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 00:21:21 ID:RuquZsvh
ん〜、まあ無理はなさらないよう。
こう言っちゃなんですが、2chなんて遊びですのでw 実生活に悪影響出るのは良くない。明日早いなら寝るべきかと。

ただ、流石にここで割り込む人はいないと思いますし、不安になるのは分かりますが、
次からは「推敲済んで投下できるヒマがあるときに」声上げるべきかと。
「ちょっと待って、ちょっと待って」でズルズル期限引き延ばすのが常態になるのはよろしくないとも思うんで。
今回の話に限って言えば、動きのなかったところだから期待も高いけど……。
もしこれが、例えば放送後とか、誰もが書きたいと思ってたパートでキャラ独占が延々続く、とかなるとマズいですからね。

……あるいは、今の予約期限、ちょっと短いのかな? 延長で貰える余裕、もうちょっとあった方がいいのかな?
今回の作品がどうこう、というだけでなく、こっちの問題も気になるところ。
最初に決めたルールで苦しいなら、ルールを骨抜きにするんじゃなくて、柔軟に変更してくべきだろうし。
62 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/01(火) 02:10:06 ID:AZQiF/rr
お待たせしました、少々時間を過ぎてしまいましたが投下します。
63創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 02:11:15 ID:67vfMsBh
64創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 02:12:09 ID:67vfMsBh
65ルドラの秘宝 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/01(火) 02:14:32 ID:AZQiF/rr
言葉とは時に難解で、時に単純だ。
では今回は? 坂井悠二が"少佐"と名乗る男より受け取った言葉はどうなのか。
答えは前者だと、悠二はそう確信する。


悠二は走る。目的は警察署。人を殺害したと自称する何者かが居るであろう場所だ。


警察署。この言わば"過激な椅子取りゲーム"の中で誕生した殺人者がいるとされる建物。
そこに向かうために疾走する悠二は、同時に"少佐"とのやり取りを心中で何度も何度も反芻していた。
考える。"少佐"は何を求めていたのか。あの男の言葉は、行動は、どんな意味を孕んでいたのか。
こうした頭脳労働は最早慣れつつあるとは言えど、この特殊な場では中々に骨が折れるものであった。

(でも、こうやって考えていけば……あの"少佐"の思惑はいくつかに絞られる)

まず、"少佐"が情報を欲した理由は既に本人より語られている。
それはあの"狩人"フリアグネより優位に立つ為、である。
これに関しては、筋は通っている。何せこの特殊な状況。情報というのは重宝されるものである。
生き残りたければ、周りにあるモノ――目に見えるものも、見えぬものも全て――を須らく有効活用するべきである。
この世界では、情報は尊く得難いものだ。故に人は、"それ"を手にすることで一秒でも長く生きようと努力をする。
今回の"少佐"の行動は、結局そういうことだ。あの対面を期に自分を殺害しようと画策している、ということはまずないだろう。
それにあの時だって、こちらに"殺し"を向けてこなかったのだから。

では、あの"少佐"がいつかフリアグネを裏切るとして。
彼がいつかフリアグネを裏切り、優位に立った後は何をするつもりなのだろうか。
今回の問題の焦点は、主にそこだ。


悠二は地を蹴り、跳んだ。着地した先は低い建物の屋根。少し遠くが見えやすくなった。


裏切った末、どうするのか。フリアグネの力を何らかの方法で奪い取ろうとでも言うのか。
それとも散々利用した末に、ここから自分だけでも脱出しようという寸法か。
もしくはあの狩人を飼い慣らした上で排除し、無力な者達の為に改めて動き始めるのか。
裏切る、という言葉自体がブラフである可能性だけは考えたくないものだが。

それにそもそも、彼が何故"紅世の王"と行動を共にしているかということも重要だ。
ほとんどの"王"達は、基本的に自分の欲望を優先する。
勿論"愛染他"や"千変"の様な例外も存在するのだが、少なくともフリアグネは"紅世の王"としては典型的な性格を持つ男だ。
そんな自分勝手な存在と好き好んで結託した"少佐"の胸の内は如何なるものか。
いずれ裏切る。それはわかっている。ならば何故"裏切ることを前提にした上で付き合っている"のか。
フリアグネに価値を見出した理由は? そして逆に、フリアグネ自身が"少佐"との結託を決意した理由は?

"少佐"がフリアグネに追従する理由として最も濃い線は、"紅世の王"の"力"だろう。
"存在の力"を行使し、場慣れした人間すら軽く蹂躙出来るパワー。
"都喰らい"という衝撃的な悪行を成し遂げる事すら不可能ではないレベルにまで備わった、フリアグネ自身の行動力と戦闘力。
シャナによって討滅されたものの、この力は無視できるものではない。事実、彼の力によって幾人ものフレイムヘイズが命を落としたとも言う。
そんな強大な力自体が狙い、なのではないだろうか。


地図を取り出し、確認する。現在地は未だ警察署から少々遠いようだ。


そして今のところ、"少佐"はあの落ち着きようからして特に彼個人とのトラブルは起こっていないようだった。
これは彼が上手くフリアグネと付き合っている証拠だろう。他人を使うことには慣れている、ということだろう。
自分だって、あの場で上手くコントロールされてしまっていた様なものだ。恐らく彼の持つ知性は、並ではない。
"あの"フリアグネから一定の信用を得ているのだ。そして、その上で"いつか裏切る"というのだ。
やはり、"紅世の王"にでも成り代わろうとでも言うのだろうか。彼を出し抜く理由としては、適当であるようだ。
だが人間が"紅世の王"になれるわけがない。出来てもフレイムヘイズだろうが、それにはフリアグネの了承が必要である。
それ以外の方法があるというのならば、話は別なのだが。
66創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 02:17:01 ID:RuquZsvh
 
67ルドラの秘宝 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/01(火) 02:17:06 ID:AZQiF/rr
ならば別の説。結局フリアグネを単なる盾か何かとしてしか見ていない場合だ。
例えば"少佐"が銃器や拳法、その他諸々の才を持つ"戦闘のプロ"だとしよう。
だがそれでも"紅世の王"やフレイムヘイズには決して敵わないのは常識だ。少なくとも、悠二達のいる世界では。
故にその"常識"を何かの拍子に知った"少佐"が、何らかの契約を提示することでフリアグネをボディーガードとして雇ったとしたら。
それなら、フレイムヘイズの様な強力な邪魔者が居なくなった時点でフリアグネを謀るのも不自然ではないだろう。

(けれど、重要なのはこれから。そしてこれらが一番、"今断定するのは厳しい")

しかし、そうなると"少佐自身の意思"はどうなのだろうか。
力を手に入れる説、ボディーガードとして雇った説。どちらにしろ"果たして少佐自身はどんな存在なのか"がわからない。
何せ、まさかのフリアグネを選んだ人間だ。はっきり言って何を考えているかわからない。

私利私欲に塗れた悪人なのだろうか。
それとも人の為世の為に動く際には手段を問わない過激な人間なのだろうか。

フリアグネにとっての害である存在だという事は明確であるのに、肝心のその先が解らない。
言葉の端からもその腹の内を感じさせる強い"何か"は無かった。結局のところ、素性だって明らかにしていない。
安易に喋ることで自分の首を絞めるような人間では決して無い。本当に警戒心の強い男なのだろう、あの"少佐"は。
"殺し"が無かったとはいえ躊躇無くこちらに銃を向ける行動。"相手の話をきちんと聞く"という姿勢。
それらは彼の慎重さの証左であると取れる。この修羅場の中で"これ"なのだ。きっと"こういった業界には慣れている"のだろう。
やはり、彼自身が何かしでかす可能性を考慮するのが妥当だろう。勿論、これから次第で説が右往左往上下左右する可能性もあるのだが。

(と、結論付けたは良いものの……希望的観測もあるんだよな、一応)

しかし悠二は、"少佐が所謂悪人である"という事を前提としたその二つとは違う、別の説をも考えていた。
というより、悠二としてはこちらを信じたいのが正直な想いだ。
はっきり言って現在の情報だけでは線が薄いであろう第三の説。それは。

(フリアグネの力を巧くコントロールして、このゲームを終わらせようとしている場合、だ)

そう、何もフリアグネの有する破壊の力をこのゲームの参加者のみ向けさせる必要は無い。
彼を巧くコントロールし、あの狐面の男を討伐する様仕向ける。そうすれば、このゲームも終焉を迎えるはず。
とは言っても彼を手懐けるにはきっと賢者が三人いても不可能であろう。
"紅世の王"達は人間という存在を"麦の穂"程度にしか考えていない、そんな傲岸不遜な者だらけなのだ。
文殊の知恵があろうとも、厳しい。まず自分ではフリアグネを利用する方法は思いつかないし、まずやろうとも思わない。
今は無事に彼を動かすことが出来ているようだが、正直ここから先は同じように巧く進むような気はしない。
68創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 02:18:50 ID:RuquZsvh
 
69ルドラの秘宝 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/01(火) 02:20:01 ID:AZQiF/rr
(明らかに無謀だし、失敗すればどんな事になるかは解らない。あの"少佐"があからさまに危険を冒す人間とは考えられないけど……)

もしこの説が当たっていた場合、少なくとも"少佐"がとんでもない物好きであることが確定するだろう。
もうぶち上げた話、あまり係わり合いにならないほうが良いのかもしれない、とさえ思う。
だが事実、自分はフリアグネを自分の思い通りに動かせるような策は持ち合わせてはいないのだ。
この作戦は"少佐"以外が下手なことをすれば破綻する繊細なものである事は、想像に難くない。
触らぬ神に祟りなし。今はやめたほうが良いだろう。

だがこの説を信じようとすると、"少佐"の「フリアグネを裏切る」という言葉が邪魔をする。
このゲームを破壊しようとでも考えているなら、どこで情報が漏れるかわからない以上は口を慎むべきだろう。
そんな危険を冒してでも、フリアグネと同類だと思われるのを避けたかったのだろうか。それにしたって、語り過ぎだ。

まあいい。ここまで話を複雑に右往左往させる、あの"少佐"の言霊は恐ろしいが、まあいい。
とにかくフリアグネを利用していることはわかった。これから注目すべきは、やはりフリアグネの力で"少佐"が何をしたいかだ。
もしも善行を働く気ならば協力してやろう。シャナとフリアグネが共倒れになれば良い、と言い放ったことだけは気に入らないが。
そして悪行を働く気ならば全力で止めよう。自分の力でどれだけできるかは解らないが。それでも出来るだけの事はしてみせる。
それだけだ。難しい話だが、それだけ。


空が白んでいる。明るくなったおかげか、遠くに見えるは天守閣。そして近くには堀。だいぶ走ったのだと実感する。
しかし少々難儀だ。素直に道を進むのではなく、屋根伝いにでも真っ直ぐ走った方が早く辿り着けるだろうか。


さて、城がある敷地内を真っ直ぐ行けば警察署には近い。もうすぐで電話越しに話した何者かとの再会が始まる、はず。
あの"少佐"の言葉遊びが、様々な推測を生み出す装置と化している事も重要だが、そろそろ別の準備もしておくべきだろう。
結局"少佐"が何を考えていようとも、フリアグネがこの場でも変わらず危険である事は明白なのだ。
討滅されたはずの"王"がいる事に対する疑問も今は無視しよう。この街事態が異常である時点で、今更フリアグネの生死が何だ。
"狩人"が無力な鹿や兎を探しているというならば、再び殺さなければならない。その事には変わりは無いのだから。

(とは言っても、"少佐"の真意の謎にも気を配らなくちゃいけないのが辛いところだけど……いや、実際はそれだけじゃないな)

強大な"王"たるフリアグネへの対策。
何を考えているか解らない"少佐"に対する慎重な備え。
これから出会うことになるであろう殺人犯との邂逅。
シャナや吉田一美、ヴィルヘルミナといった仲間達との再会。
最終的にはこの街からの脱出。
嗚呼、坂井悠二が背負うものは実に多く、そして重い。

(五つも実行しなくちゃいけないのが骨の折れるところだな……)

覚悟は出来ているだろうか?

(ああ、出来たさ。というか、しなくちゃ生き残れない。少なくとも今は、電話越しの誰かさんの迎撃の用意は有りだ)

その為の力は?

(一般人以上にはあるとは思うけど、まだまだだな。決してシャナには敵わない。けれど)

けれど?

(ベストを尽くさないといけないのは、どんな時でも一緒だから。だから、頑張る)


悠二は屋根から跳躍した。堀の近くに着地し、西へと向かう。
目指すべきはC-4にある、城の敷地内へ入ることが出来る北側の入り口だ。
既に手前の橋は越えた後は突っ切るだけ。それが滞りなく進めば、警察署などあっという間だ。
70創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 02:22:25 ID:RuquZsvh
 
71ルドラの秘宝 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/01(火) 02:23:09 ID:AZQiF/rr
時は進んでいる。もうすぐ放送の時間だ。
坂井悠二は果たしてこれからどのような状況に飲み込まれるのだろうか。
それは神すらも解らぬことだろう。
女神だろうが、戦いの神だろうが、雷神だろうが、天罰神であろうが、創造神であろうが、無理。
故にこの先は語らない。いや、語る事は出来ない。

この世界で奔走する幾多の囚人達の辿る、運命という名の道。
それはあの"少佐"の言葉の如く難解な形をしているのだろう。

そう、例えば蛇のような。



【C-4/東部/一日目・早朝】

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、強い不安
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、ヴィルヘルミナを捜す。
1:警察署を目指す。
2:“少佐”の真意について考える。
3:他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
[備考]
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
※警察署に殺し合いに積極的な殺人者がいると思っています。
72 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/01(火) 02:25:00 ID:AZQiF/rr
投下終了。いつも変わらずくださる支援に感謝です。
73創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 02:33:00 ID:RuquZsvh
投下乙。

うん、確かにどんなに考えても、少佐の真意は読みきれないよなw
むしろ紅世について知りすぎてるせいで大変なことになってるw フリアグネでフレイムヘイズってw
でもそこで安易に危険と決め付けず、希望も残した形で「保留」して耐えられるのは、ある意味悠二の強さだよなぁ。
あと、さりげなく挟まれた悠二の動き、そこから伝わる身体能力の高さがジワジワ来る。
GJです。
74創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 03:18:10 ID:YTdsLJMu
投下乙です。

地の文で淡々と綴られる考察が、悠二らしからぬほど強気。
このへんはMj氏の持ち味だなぁw 勢いがあって読みやすいです。
警察署に少佐の件。両立しなけりゃいけないのが悠二のツライところだけれど、
泥沼にはまることなくこなしてみせようとする気概はまさしく清秋祭後の悠二だわ。
悠二の『移動』はさりげない見せ方。だけど、上手い。最後の一行でゾクリときました。
75創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 21:25:41 ID:11JULZF4
投下乙
ゆうじいろいろ考えてるな
こいつは考えるのが仕事みたいなもんだから頑張ってほしいが、どうやらそう楽観的になってる場合じゃないという
あと読んでて何か荒木絵のシャナが見たくなった。
76 ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 22:59:49 ID:VN72bRLE
お待たせしました。
投下開始です
77罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:00:43 ID:VN72bRLE
 キョン、メリッサ・マオ、そして陸。
 この二人と一匹の集団が彼らにとっては最悪の出会いとなる、陸の主人シズとその同行者だったアリソンの二人と再会する少し前のこと。

「マオさん、キョンさん、少々お待ちを」
 そんな言葉から始まった、彼らがホテルの前で「ここには言っていった何者か」について多少のやり取りをしていたそのときからさらにかなり前。
 彼らが話していた「ホテルに入っていった何者か」ことインデックスとヴィルヘルミナの二人はホテルの正面玄関からではなくホテルの裏口、搬入口から脱出していた。
 といっても、別に彼女達に陸やメリッサ・マオが考えていたようなトラップを仕掛けたりだとか、追っ手の追跡を欺くためだとか言った考えがあったわけではない。

 ではどうして入っていった場所から出なかったのかと言うと――

「さて、ではそろそろ参りましょうか」
「行動開始」
「うん! あー……でもその前にもう少し何か食べたいかも」
「……もう、でありますか?」
「急速消化」

 ……このようなやり取りがあった後、食料の補充の為に彼女達はホテルの食堂――正確に言うとその近くにあるはずの厨房を探してホテル内を移動した。
 その結果、再びもう一度ロビーにまで移動するよりは、厨房のすぐ近くにあった搬入口から出るほうが早かったというだけに過ぎない。

 ――まあ、補足をしておくならば、厨房内を漁った結果がどうであったかと言うと

「こ、これはお肉がたくさん! ああ! こっちにはミカンまであるんだよ! そして、パーイーナッープールー!」
「……はあ、とりあえずは缶切りが必要でしょうか」
「道具調達」

 いわゆる生鮮食品群。つまりは新鮮なお肉やお魚、野菜と言った種類の食料は見当たらなかったものの、その代わりと言わんばかりに大量にあったフルーツやコンビーフなどの缶詰類と冷凍食品を彼女達は発見した。

「しかし……やや以外ではあります」
「……ん?」
 それら発見した食料を前にぽつりとヴィルヘルミナが漏らした疑問の言葉。それが聞こえたのかインデックスは不思議そうな表情で彼女のほうを見る。
78罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:01:24 ID:VN72bRLE
「どうしたの? 何かおかしいところでもあったの?」
「いえ、ただ少し疑問に思うことが」
 今のところ彼女達を集めた《人類最悪》とやらの目的は、彼女達が最後の一人になるまで殺し合いをさせることだろうと予想される。
 ただ、そう考えるならば会場内で容易く食料や水が手に入るのはおかしくはないだろうか?

 3日で消える会場に3日分の食料。
 一見何の不足はないように思えるが、例えば食事の最中に偶然に襲撃されることで食料を失うことになったりすることもあるだろうし、あるいは襲撃に遭ったことでデイパック本体を失うことだって考えられる。
 そのときにもしも会場内のどこにも食料品がなければ誰かを襲って食べ物を奪おう、そう考える参加者が出てきても不思議ではないはずだ。
 これも立派な争いの種となる。

 しかし現実には、わかりやすく簡単に食料は現地調達できた。
 これが意味するものはなんなのだろう。

(今のところは情報が少なすぎるのであります)
 少しだけそのことについて考えてはみたものの、ヴィルヘルミナは今のところはさっさと諦めることにした。
 もちろん可能性だけならば幾つも考えることはできる。
 例えば殺し合いが目的なのに食べ物が入手できたかできなかったかという不確定要素で争いの結果に差が生じることを嫌ったとか、単にそこまで細かいことは考えていないだけだとか。

 ただ、どの考えが正しいのかなんてことを考えるためには、あの《人類最悪》についてわからないことが多すぎる。
 そしてこの状況下、不確かな決め付けで動くには危険すぎる。
 ならば何も考えておかないほうが、いざというときにとっさに動きやすい。


 そうして頭を切り替えて、ヴィルヘルミナはインデックスに声をかける。

「そしてあなたは何をしているのでありますか」
「たーベーもーの!」
「理性消失」
 はあ、と小さく溜息ひとつ。
 厨房で見つけた食料、大量の缶詰や冷凍食品を片っ端から自らのデイパックに詰め込むインデックスの首根っこを彼女はつまむ。
79創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:03:10 ID:67vfMsBh
 
80創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:03:40 ID:RuquZsvh
 
81罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:04:37 ID:VN72bRLE
「この際缶詰類に関しては目はつぶりますが、レトルト類は諦めて欲しいのであります」
「ピーザー! しゅうーまい!」
 食べ物の名前を叫ぶ少女を無視して、ヴィルヘルミナはデイパックの中から冷凍食品群を次々と取り出し、元あった冷凍庫の中へともどす。
 たかがお湯を沸かすだけで済むインスタントラーメンでさえ、小一時間かかるほどの手間がかかったことを彼女は忘れてはいない。いくら冷凍食品がレンジ一つで解凍出来るとはいえ、
食事のその都度辺りを探索し、周囲の様子をうかがわざるを得ないというのは、時間の浪費などのデメリットのほうが大きすぎる。

 かくして――。  
「うう、ヴィルヘルミナがひどいんだよ……」
「さて、いろいろ時間も浪費してしまったようでありますし、今度こそ出発なのであります」
「行動再開」
 いまだ不満顔のインデックスとともにホテルを出たヴィルヘルミナはひょい、とインデックスを彼女のデイパックごと抱きかかえた。
(む……)
 その際、想定外の重量。あれほど大量に詰め込んでいたはずの缶詰の重さをまるで感じなかったことに一瞬驚いたが、容量無限ということは重量に関しても何らかの仕掛けがあるのだろうと納得する。

「そのような宝具か質量変化の自在法……いえ」
 その何らかの要因をついつい自らの「常識」で判断しようとしたが、今は彼女の知る「常識」が通用するとは限らない場所だ。
「ん? 何、ヴィルヘルミナ」
 だから抱きかかえた少女の方へと彼女は視線を向けた。
「あなたの世界の魔術でこのような重量容量を変化させることは可能でありますか?」
「うーん、そういうものがないわけじゃないよ。例えば太上老君の紫金紅葫蘆みたいなどんなものでも中に吸い込むことができる道具とかもあることだし、そういった道具の持つ効果を魔術で再現することは不可能じゃないんだよ」
「では」
「ただ、少なくともこのカバンに使われているのは私の知る魔術じゃないと思う。だって物を入れるときでさえ何の魔力も感じ取れなかったから」
 インデックス自身は魔力を一切持たないために魔術を扱うことはできない。
 しかし逆に皆無であるため、魔力や魔術に対し非常に鋭敏な感覚を持ち、彼女の持つ膨大なその知識と併せて高い魔術発見能力を有するのだ。
彼女の前で魔力の発動をごまかすことは難しい。 

「そうでありますか……」
「残念無念」
82罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:05:20 ID:VN72bRLE
 容量や重量が無視できる道具など少なくとも複数の「世界」で共通する技術であるとは思われない。
 あるいはそれが主催者たちへとつながる手がかかりになるのではないかと考えたのだが、さすがにムシがよすぎたか。

 気を取り直すと今度こそ彼女は走り出した。

 彼女達が今いるホテルがあるエリアはC-4。
 そしてインデックスの目指す目的地である天文台があるのはエリアB-1。
 移動するのはエリアにして4エリア分、仮に直線で進むとしたら4キロ少々ある。
 もちろん、実際には途中は山で木々などもある以上文字通り真っ直ぐに進むことは難しいし、開始直後に出会ったフリアグネのように、この殺し合いに乗ってしまった参加者もいるであろうことを考えれば行軍途中に気を配る必要もある。

 だがそうした要因を考慮したとしても、とりあえずの目的となる時間である夜が明ける前――つまり放送開始の予定時間まではまだ二時間近くある。
 彼女にとってそれだけの時間の余裕があれば、目的地までたどり着くことは簡単だ。
 フレイムヘイズの身体能力はただの人間とは比較になるものではない。

 周囲の警戒、いざという時に備えて体力をある程度温存、そして抱きかかえて運んでいる少女に振動が負担にならないようにする気配り。
 こうした3つの行為を同時にこなしながら、平均的な成人女性の全力疾走と同等、あるいはそれ以上の速度で彼女はエリアを駆け抜けていく。
 そうしてさしたる時間もかけずに堀と川の境目を抜け、進行方向から見て左のすこし後方に天守閣が見える地点。C-3エリアの半ば過ぎまできたところでヴィルヘルミナは一度立ち止まった。

「さて、ここから先はどう進みましょうか」
「進路確認」

 大きく分けてここから天文台に向かうルートは三種類ある。
 一つはこのまま川沿いにそって進む最も直線に近いルート。
 二つ目はこのまま西に進み、草原や森林地帯を横切って本格的に山に入る前に山道に入るルート。
 三つ目は少し遠回りにはなるものの、堀を抜けた辺りから進路を南西へと変更し、森林地帯に入る前から整備された道を行くルート。
 上に行くほど所要時間は短くなり、下に行くほど道のりは楽になる。
 もちろん、どのルートを通ろうが放送までに天文台につくことは可能ではあるが……。
83創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:05:35 ID:RuquZsvh
 
84罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:06:06 ID:VN72bRLE
「やはりこのまま天文台まで進むべきでありましょうか」
「視界不鮮明」 
 一つ目のルートを進む場合、問題となるのはそこだった。
 川のすぐそばを通ろうが、川からつかず離れずに森林地帯を行こうが今よりもずっと視界は悪くなる。
 また万に一つの可能性だと彼女も思うのだが、森林地帯においてトラップを仕掛けられていた場合、街中のそれよりも発見は難しい。
 つまりより周囲に対して気を配らなくてはならないのだ。
 そうした状況下においてフリアグネのような強敵と対面する羽目になった場合、彼女一人だけというのであればまだしも、インデックスを守り通しながら戦うのはできれば避けたいところである。
 ならば選ぶべきは二つ目か、三つ目か。

「ヴィルヘルミナ、ちょっといい?」
 そうして悩む彼女にインデックスが声をかける。
「なんでありますか?」
「えーっと、別に疲れているわけじゃないんだよね」
「ええ」
「疲労皆無」
 ほんの一キロ程度の移動など、例えインデックスを抱きかかえながらであろうとも彼女にとっては負担にもならない。
 それこそ中世の「大戦」の際などは成りたてのフレイムヘイズ達でさえ、特に力を使わずに個人で大砲を運用して戦っていたぐらいである。それに比べればこの少女の一人や二人はどうと言うこともない。
「だったら悪いんだけど、一番遠回りの早めに道路に合流するルートを進んで欲しいかも」
「……それは構いませんが、よろしいので?」
「要説明」
 インデックスの申し出はヴィルヘルミナにとってはありがたい話ではあったが、同時に少し疑問でもあった。
 確かにインデックスは天文台へは放送までにつけなくとも構わないと言ってはいたが、星空の様子から状況を判断するのが彼女の主目的である以上、早く辿りつけるにこしたことはないはずだ。

「えーと、この速さで移動できるんなら天文台にはそれほど時間をかけずにたどり着けそうだし、だったら安全な道、少しでも視界がとおっている道を進んだほうがいいかも、って言うのが一つ目の理由なんだよ」
「一つ、ということは他にも理由があるので?」
「うん。二つ目の理由は道路を進む方が他の誰かに遭う確率が大きいかなって思って」
「確かに天文台を目指す者や逆に山頂付近から行動開始したものが道路を来る可能性は高いのでありましょうが……少々危険では?」
「遭遇戦」
「それは確かにそうだけど、結局他の誰かから情報は入手しなくちゃいけないんだよ」
 それに、とインデックスは言葉を続ける。
「それに一番落ち着いて見知らぬ誰かと会話できるのは今だけだと思うし」
 彼女が言外に匂わせた言葉の意味。それをヴィルヘルミナも悟る。

「……やはりある程度『呼ばれる』ものとお考えで?」
「少なくともあの12回という区切りに意味があるとするなら…………5人ぐらいは」
 インデックスの返答までの沈黙の長さが、事態がより悪くなるであろうことを想定してのものだと彼女もわかっている。

 この「殺し合い」で第1階放送で名前が呼ばれるものがいない、若しくは極めて少数しか呼ばれないと言うことになればこの緊迫状況から真剣さが一気に落ちる。
 そしてあの《人類最悪》としてもそういう状況は望むまい。
 ならばそれを防ぐためにフリアグネのような積極的に「動く」参加者も一定数いるはずだ。
 運良くその「誰か」に出会う参加者が少なかったとしても……最悪インデックスのいった数の倍は犠牲者がいると予想しておいた方がいいかもしれない。
 そして放送で「呼ばれた」参加者の知り合いとは開始前と開始後で交渉のやりにくさはけた違いだろう。
 
 確かに朝までに天文台に着かなければ、次に夜空を見ることができるようになるまで1日近くかかる。それはかなりの時間の無駄となる。
 だが、他の参加者と落ち着いて会話ができるこの最後のチャンスも逃すべきではないだろう。
 そう考えればインデックスの勧める遠回りルートが一番いいのだろう。

「では出会う誰かが善良であることを期待するのであります」
「行動再開」
「じゃあ、またおねがいするんだよ」
 ヴィルヘルミナは再びインデックスを抱き上げると南西へと走り出した。
85創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:07:48 ID:RuquZsvh
 
86罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:08:47 ID:VN72bRLE


 ◇ ◇ ◇


 ――選択肢は二択から三択へと変化し、難易度は上昇した。
 賭かっているものが自分自身の命だけであると言うのならまだしも、今は下手な手を打てば自分以外の命も危機にさらされてしまう。だからこの状況下で水前寺が取ったのはもっとも慎重な安全策だった。

「ふむ、この辺ぐらいにしておくべきだろう」
 水前寺はゆっくりとブレーキを踏み込んだ。
 少しずつ速度を落として、程なくジープは完全に、そして静かに停止する。

「え、ここって……?」
「ん? どうしたのかね島田特派員。そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
 笑いに笑って、自らの腹筋に多大なダメージを受けた状態から少し前にようやく回復し、息を整えた島田美波は水前寺の方を驚いたように見てくる。
 まあ、それも無理はない。
 "第一回SOS団会議"によって決定した彼らの当面の目的地はC-2にある神社である。
 地図の上で確認できる限りでも、山頂の天文台から、あるいは天文台へと続く水前寺達が走ってきたこの道路はその神社のすぐ近くまで通っている。
 だがたった今水前寺がジープを停めたその位置は神社のすぐ側ではなくかなり手前。
 神社がある山の登山口が視認できるかどうかという位置であった。

「何でこんなに遠くに停めるのよ?」
「なあに、誰かがいる場合を考えたらこの位置がベストだと考えただけに過ぎん」
「だからそれはどういう意味なのよ……」
 基本的に水前寺の行動は本人にしてみれば当たり前の理屈に従った結果に過ぎないのだろうが、それに付き合わされる人間にしてみればその理屈に追いつくことが難しい。
 呆れ顔で説明を求める美波をよそに水前寺はエンジンを切ると、手早く自分と美波のデイパックを持ちバギーから降りる。

 さすがにここで美波だけがバギーに残るわけにもいくまい。
 未だに納得しきれていないながらも彼女はバギーを降りて、水前寺から自分のデイパックを受け取った。 
 
「もう少し詳しくせ……」
「まあ待ちたまえ島田特派員。言いたいことはこの光景を見てからでも遅くはあるまい」
 そう言いながら水前寺は満面の笑みを、ほんのわずかでも彼の人となりを知るものが見れば嫌な予感を感じさせるような笑いを浮かべる。
 当然美波も不安を感じ――

「ええ!?」
 不安を感じた次の瞬間、目の前で起きた光景に驚愕した。

87創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:10:19 ID:RuquZsvh
 
88罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:10:28 ID:VN72bRLE
「な……なんなのよ、えっと゛Magisch"……は日本語で、えっと」
「"手品"?」
「そうそれ! 手品なの?」
 驚く美波にいっそう得意げな笑みを水前寺は浮かべる。

「いいや、違う。そして驚きすぎだぞ島田特派員。ジャーナリストたるもの不測の事態にこそ、よりいっそうの落ち着きを持って行動せねばならんのだ」
「え、だってそれ……」
「……とはいえまあ、驚くのも無理はないだろうな。かくいうおれ自身も自分でしたことながら信じられんと『これ』は何度も試してみたものだ」
 
 美波の目の前で起きた光景。
 それはつい今しがたまで彼らが乗っていたバギーに水前寺が彼のデイパックを近づけた次の瞬間、その車が一瞬でデイパックの中に消えていったというものだった。
 目の錯覚、とも疑いたくなるが残念なことに消えたバギーは現れず、見回してもそれらしい影はどこにもない。
 さらに信じられないことに、そのバギーが中に消えたデイパックを水前寺は軽々と持っている。

「少なくともこのデイパックに関してはあの男の説明に嘘はなかったと言うことだろうな」
 水前寺は彼女に説明をはじめた。
「おれが試してみた結果、このデイパックの大きさにもかかわらずバギーや他のものはかなりの量仕舞い込めるし、また中に入れたものの重量も感じない。
――そうだな、島田特派員も一度持ってみたまえ、おれのデイパックと君のデイパック。重さに差はないはずだ」
 そう言いながら差し出された水前寺のデイパックを美波はこわごわと受け取ってみた。
 手にとった瞬間、ずしり、と圧倒的な重さが彼女の腕にかかる――ということもなく、水前寺の言葉通り肩にかけている彼女のデイパックとその重さはほとんど違わない。

「どうなっているのよ……これ」
「それはおれにもわからん。そうだ、後このデイパックに対してはいくつか試してみたこともある。これは特派員も覚えておきたまえ」
「……アンタいつの間にそんなことをやってたのよ」
「無論、目覚めてすぐだが?」
 いい加減慣れてきたつもりでいた水前寺の行動力。それが自分の思っていたものよりもなお、大きいものだと知って驚き半分呆れ半分の美波に当然のように水前寺は言葉を続ける。

「いいかね? まずこのデイパックの中におれたちは入ることはできない。
あるいはおれたち以外に動物全てが入ることができないのかも知れんが、これは残念なことに実験用に虫さえも入手できなかったからな。とりあえずは確定したこの事実だけを覚えておけばいいだろう」
89創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:11:11 ID:RuquZsvh
 
90創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:11:17 ID:67vfMsBh
 
91罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:11:59 ID:VN72bRLE
 まあ、これは当然だが。と水前寺は言う。もしもそんなことが可能なら、全ての参加者にコンパクトな隠れ家が簡単に手に入ってしまうことになる。
 あるいはどこかのビルの一室に。
 あるいは目印一つない草原の片隅に。
 ぽつんと隠すように置かれた一つのデイパック。その中に隠れた参加者などとてもではないが探し出せるものではない。
 ならばその程度の処置は当然のことといえるだろう。

「他に入らなかったものとしては、生えていた木や植物。だがこれに関しては例外があって、入らなかった草も一度引き抜けば中に入れることができた。だからおそらくではあるが、参加者以外に関しては「抵抗」が入れられるか入れられないかの基準になっているとおれは考える」
 水前寺の言葉に疑問の表情を美波は浮かべる。

「それってどういうこと?」
「つまり、だ。生えている草木は重量以外にも根で自らを固定している。だからこのデイパックの中に入れることはできん。だがジープが動かないのは単に本体の重量があるからだ。そういったものならば大きさや重さを無視してこの中に入れることができるのだろう」
「え……じゃあ、じゃあ例えばよ。周りの地面ごと中に入れたいと思ったら木とかも中にしまえないの?」
「うむ! その発想は素晴らしいぞ島田特派員」
 何気なく口にした美波の疑問。
 それを聞いた水前寺は実に嬉しそうな表情を浮かべた。
 何か早まったことを言ったのか、と引く美波に彼は嬉しそうに言う。

「ようやくジャーナリストとして一歩を踏み出してくれておれは嬉しいぞ! しかし残念ながらそれはできないらしい。つまりそれが3つ目の発見だ。連続して放り込むことはできても複数の物を同時に入れることはできんらしい。
まあ、それが可能ならバリケードの類はまるで意味をなさんからな。とはいえ、これに関しては抜け道もある。例えば複数の物を一まとめにした袋などは一つの物としてみなされる。
とまあこんなところか。とりあえずの発見は以上だな」
 ではそろそろ行動開始だ、と水前寺はそうして話を打ち切るとさっさと歩き出した。
 美波はその水前寺の襟を引っつかみ、彼の歩みを無理矢理停止させる。

「げほっ、けっ、けほっ。な、何をするのかね島田特派員!」
「何をじゃないわよ! だからなんでここで車を降りるのよ?」
「…………おお!」
 美波の問いかけにややあって水前寺はぽん、と手を打った。

「そういえば詳しい説明がどうとかいっていたな。いや済まん、おれの中ではすっかり終わっていたことだったのでうっかり忘れていた」
92罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:12:58 ID:VN72bRLE
「で、何でこの距離で車を降りるわけ?」
「つまり、だ。誰かがいる場合を考えたらこの位置がベストだと考えただけに過ぎん」
「……それはさっきも聞いたわよ」
「おお、そうか。ならばこう言い換えよう。神社に誰かがいる場合、車で近付くのと歩いて近付くのはどちらが相手に気が付かれにくいと思うかね?」
「それは……もちろん歩いての方ね」
「残念ながら今のおれたちはさっきまでとは違って、伏兵、奇襲の類は確実に察知できるというわけではない。ならば相手に先手をうたせないようにできるだけの手はうっておくべきだろう」
 水前寺の言葉はただ単に事実を指摘するだけのもので、そこに美波に対しての文句などは一切含まれていない。それが余計に辛い。
 
「ごめん……ウチがレーダーを落としてなかったら……」
 一度ならず二度したはずの決意。
 失敗したなら、次に頑張れば良い。失敗を繰り返さないように、対策を練れば良い。
 何もかもが上手くやれない不条理な世界の中でも、決して折れず決して負けない心を持とうという思いを押しのけ弱気の虫が顔を出す。

「自分の言葉には責任を持ちたまえ」
「……え?」
 そんな美波に水前寺は静かに言葉をかける。

「先ほど自分で言っただろう。この話はもう終わり、とな」
「……あ」
「今の君にできるのは失敗を繰り返さないこと。そして失敗した経験を生かして、新たな失敗を未然に防ぐことではないかね?」
「…………うん」
 返答の言葉は小さかったが、確かに彼には届いたはずだ。
 ごめん、という思いと、ありがとう、というさらに小さく呟いた言葉はできれば届いていない方がいいけれど。

 ――ただ、これで話が終わらないのが水前寺というTPOが読めても、ある意味空気が読めないこの男ならではであった。

「例えば、だ。これから先、遠くから相手の様子をうかがうことがあるかもしれん」
「……う、うん」
 何か急に場の空気が変わったような気配を感じ、嫌な予感を美波は感じた。
 そんな彼女をよそに水前寺は言葉を続ける。
93創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:13:13 ID:RuquZsvh
 
94罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:14:19 ID:VN72bRLE
「今手持ちの道具の中で、その際にもっとも役に立つのがこれだ」
 そう言いながら彼が取り出したのは……美波にも見覚えがあるデジタルカメラだ。

「それほど精度がよくないとはいえ、こいつにも望遠機能はついている。こいつを使えば肉眼より鮮明に遠くの様子がわかるわけだが……こいつを見るたびに先ほどまでのように島田特派員に大爆笑されたのでは様子をうかがうも何もない。気をつけてくれたまえ」
 ズーム機能ON。
 レンズを覗き込みながら水前寺はそう言った。

 ……

 …………

 ………………。

 水前寺の言葉に美波の脳裏に先ほどまで見ていた画像がフラッシュバックした。

 バスガイドするマイケルジャクソン。
 時速二百キロでコーナーを攻めるモナリザ。
 
 八頭身のバランスのよい、見るからにモデルや業界人といった雰囲気の美少女がどこか必死な様子でくりひろげるそうした物まねの数々。

「…………ぷっ」
 
 ――――島田美波、決壊。

「やれやれ言わんことではないな」
 ニヤニヤと笑みを浮かべる水前寺に文句を言い返す余裕もない。
 しゃがみこみ、両手で口を押さえて美波は笑いをこらえる。
 
 水前寺はそれをニヤニヤしながら眺めていたが、不意にその表情が真剣なものに切り替わった。

「――――きゃ」  
 そのまま彼はいきなりしゃがみこんでいた美波をそのまま地面に押し付けた。そしてそのまま彼自身も姿勢を低くする。
 いきなりの手荒い扱いに文句をつけようとした美波の口を片手で覆い、もう片方の手は指一本を立てて、口の前へと持ってくる。
95創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:15:06 ID:RuquZsvh
 
96創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:16:43 ID:RuquZsvh
 
97罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:17:38 ID:VN72bRLE

 そのジェスチャーに、というよりは彼の真剣な雰囲気に気圧されて、美波も押し黙る。


 ……一秒。

 ……十秒。

 ……一分。

 しばらくたってようやく、水前寺は美波の口から手を離す。

「……ふう」
「もう、いきなりなんなのよ」
 息をついた水前寺に美波は早速今のことを問いただす。 
 
「ふむ……」
 だが美波の問いかけに水前寺は珍しく言葉を濁した。
「どうしたのよ」
「自分でも少々、今見た物が信じられなかったのだが。
……そうだな、おれが今見たものをそのまま言うとだ、北東の方から草原を抜けてきたらしい、メイド服を着た女性がシスター服を着た少女を抱きかかえたまま陸上選手もかくや、という速度で走って、山道へと消えていった」
「…………は?」
「聞こえなかったか? だから北東の方から……」
「じゃなくって、水前寺……アンタ正気?」
「今ならば俺も少々自信はないな……」
 普通の状況ならば即座に色違いの救急車を呼ばれそうな水前寺の言葉。
 しかしこれまでの経験があるいはそれが真実かもしれないと思わせる。

 ……ちなみにこれは水前寺達が知る由もない事実だが、本来いかにズーム機能の助けがあろうとも周囲に気を配りながら移動していたヴィルヘルミナとインデックスの両者が気がつくよりも先に、
水前寺が二人を見つけるということは、お互いの能力や経験から言ってもありえない話だった。
 しかし両者のいた場所、片や他に目印となるようなものがない草原を移動していたヴィルヘルミナ達、片や郊外とはいえ周囲には建物があり、偶然その影にいた水前寺達。
 その上白み始めたとはいえまだまだ薄暗いこの時間帯。
 おまけに風向きも水前寺達はヴィルヘルミナ達の風下に位置していたのだった。

 ……これらのある意味幸運の無駄使いの結果、水前寺達は彼女達に気付かれないで、彼女達は水前寺達に気がつかないで山道へと入っていった。

98創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:18:52 ID:RuquZsvh
 
99罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:19:19 ID:VN72bRLE

「……それでどうするの?」
「無論、追う」
 水前寺は力強く断言する。
 
「はあ……やっぱり、ってきゃあ!」
「ははは! なにを驚いているのかね島田特派員! いいからとっとと乗りたまえ」
 水前寺が自分のデイパックから再び取り出したジープ。中に入れるところは見ていたが、中から出すのはさっきとはまた違ったショックがあって美波は驚きの声をあげる。
「乗りたまえ、じゃないわよ。あんたさっき自分で言った説明はどうしたのよ?」
「やれやれ、まったく臨機応変に行こうという言葉をキミはもう忘れたのかね」
 呆れたように首を振る水前寺を見て、ぐっ、と美波は己の拳を握り締めた。

「はっはっは、とりあえずその握りこぶしは開きたまえ島田特派員。まあみもふたもない話をすると、だ。
もしも彼女達と敵対するようなことになった場合、最初から車にでも乗っていないと逃げることさえままならん」
「まったく、それならそうと最初から言いなさいってば」
 言って美波もジープに乗り込む。

「ではいくぞ! ああ、島田特派員。言うまでもないことだが、いざというときの心構えは忘れんようにな」
「わかってるわよ。もう、あんな失敗は、しない。してたまるもんですか」
「ふっ、後は思い出し笑いにも気をつけぶっ!」
「さっさと出発しなさい! 無駄口叩くようなら殴るわよ!」
「それは殴る前に言うセリフではないのかね……」
 すったもんだがありながら、彼らは車を走らせる。

 ――追跡スタートだ。



 ◇ ◇ ◇

100創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:20:17 ID:AZQiF/rr
 
101創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:20:22 ID:RuquZsvh
 
102罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:20:53 ID:VN72bRLE
 ――御坂美琴。
 
 学園都市の中でも5本の指に入る名門校、常盤台中学のエースで、学園都市でも七人しかいない超能力者(レベル5)の一人である少女。
 その能力名でもあり、また本人の異名でもある超電磁砲(レールガン)は同じ電撃系統の能力者であれば目の当たりにしただけで、ショックのあまり気を失うことさえある。
 10億ボルトもの出力を誇る電撃、雷撃の槍や落雷、強力な電磁波、チェーンソーの様な砂鉄剣などその能力は破壊力、応用力ともに優れており、序列二三〇万人中第三位は飾りではない。

 ――だが。


「……え?」
 
 人識の言葉が聞こえなかったわけではないが、思わず美琴は彼の言葉に疑問の声をあげていた。

 殺人鬼、人殺しの、鬼。
 自らのことをそう言った彼の言葉がデタラメや冗談の類だとは思えない。

 御坂美琴が目指すのはこのくだらない舞台からただ脱出すれば良いと言うものではない。
 力を持つものの責任として、自らの身を守ることさえできない無力な参加者を一人でも多く守ることも彼女にとっては重要な目的だ。
 ならば、今彼女の目の前にいる殺人鬼の少年、零崎人識は彼女の目的に従うならば無力化、少なくとも他人を殺すことができないようにしなくてはならない存在のはずだった。 

 ――だが。
 美琴は一歩後ろに下がる。
 じゃり、と道路を足が擦る音はびっくりするぐらいに大きかった。
 

「かはは、おいおいどうしたんだ。単に聞かれたことに答えてやっただけだっつーのに」
 零崎人識は殺人鬼の少年は、そんな彼女を見て、ただ笑う。

「え……だから、あの、その、えっと……」
「おいおい、そんなんじゃあ、なにが聞きたいのかなにが言いたいのかわからねーって。電撃使いの女の子ちゃんよ。要するにあれだろ? 
この俺が殺人鬼、人殺しの鬼っつーのがわかって、てめえはこの俺に対してどういうスタンスを取るのかってことが言いたかったんじゃねえのか?」
 人識の言葉がどうこうというわけでもなく、ただ彼の放つ殺気、その雰囲気に恐怖を感じて彼女はまともに喋れない。
そんな美琴に対して、笑みを浮かべたそのままで人識は喋りつづける。
103創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:21:48 ID:RuquZsvh
 
104罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:23:28 ID:VN72bRLE
 
 少なくともついさっきまでは、美琴は自分が荒事には対処できると思っていた。
 たしかに最初に出会った参加者にして、最初に出会った殺し合いに乗った参加者でもあるガウルンを相手に彼女は敗北を喫した。
が、それはどちらかといえば相手が強かったからではなく、自分自身の油断、慢心のせいだと彼女は思っていた。

 主観的な感想を抜きにした、ただのデータ分析だけでもその事実は代えようがない。
 例えば零崎人識、目の前にいるこの少年は学園都市の存在さえ知らない、つまりは能力開発さえ受けていない、正真正銘の無能力者(レベル0)なのだ。
 
 ――だから、そう。
 ……雷撃の槍で貫かれたら彼は死ぬ。
 ……砂鉄の刃で切り裂かれたら彼は死ぬ。
 ……手加減抜きの電撃を放つだけで彼は死ぬ。

 ――そんな考えが机上の空論に過ぎないことが今の美琴には実感として理解できる。

 能力の有無とかそんなものは関係がない。
 アマチュアとプロ。 
 彼と美琴の間にある差はそんなもので覆せるほど甘いものではなかったのだ。

「――俺が怖いか?」
「……え?」
 怯える美琴に不意にそんなことを人識は尋ねる。

「そ、そんなことは……」
「かはは、別に嘘つく必要はねえよ。相手を怖いと思うのは相手の強さが理解できるからだ、なんてな」
「…………」
 そう言って笑う人識が一体何を言いたいのかまるでわからずに、美琴はただ沈黙することしかできなかった。

「俺の怖さがわかるって言うんなら、実感としてお前も理解してるだろ。俺は殺人鬼としちゃあ三流だが、それでもアマチュアには負けやしねえ。
例えお前がどんな力を持っていようともお前じゃ俺には逆立ちしたって勝てやしねえ。百年遅いんだよ」
 言葉だけを聞いたなら挑発とも取れる人識の言葉。
 だが、今の美琴にとってはその宣言はただ厳然たる事実を指摘しているようにしか聞こえない。
105創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:23:41 ID:RuquZsvh
 
106創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:25:16 ID:RuquZsvh
 
107罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:25:36 ID:VN72bRLE
「――それで、てめえはどうしたいんだ?」
「……その」
「逃げたいんなら逃げりゃあいい。今すぐに尻尾を巻いて逃げ出すってんなら何もしないで逃がしてやんよ。助けて欲しい、殺さないで欲しいっていうんなら俺に手出しをしなけりゃそれでいい。
あの最強との約束は守る義理も保証もどこにもねえが、それでもこれまでは守ってきてやったし、これからも破るつもりは一応ねえしな」
 だが、と人識は言う。
「だが、この俺が怖いとわかって、それでもなお俺と闘おうってんなら兄貴の武器じゃねえけど、そいつは単なる自殺志願だ。
残念ながら自分から死にたがるような馬鹿に情けをかけてやるほどオレは優しくねえ。知っているか?
 殺人罪と自殺幇助、罪は比較にゃならねえぞ。正当防衛が過剰防衛になろうが知ったことじゃねえ。殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
「…………」
「――で? そうした一切合財含めたところで、わかったところで、てめえはいったいどうしたいんだ、美琴ちゃんよ?」

(……あ、ああああああ)

 ――恐怖、ただそれだけに美琴の感情全てが塗りつぶされる。
 今すぐにでも目の前の恐怖から逃れたい、そのために電撃を放とうとする衝動を理性が必死に押さえ込む。
 最初から人識の言葉に嘘はない。
 もしもそんなことをしてしまえば、彼女は彼に殺される。そんな光景が生々しいほどに明確にイメージできてしまう。
 しかし、人識と対峙しているただそれだけで、恐怖はどんどん強くなる。まともな思考能力はどんどん削られていく。

(……いや! 待って、止めて!)
 体が美琴の意思を裏切る。
 恐怖に負けて、彼女が破滅への引き金を引こうとしたそのとき。

「……おっと」
「……え?」
 いきなり人識は美琴から視線を逸らすと、後ろへと跳ぶ。
 次の瞬間、美琴と人識の間を遮るようにリボンのような白い何かが地面へと叩きつけられた。
「大丈夫でありますか?」
「危機一髪」
「……え? あ、その」
 人識の重圧が消えるのと同時に緊張の糸が切れて、へたり込みそうになる美琴を何者かが支えた。
108創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:25:49 ID:AZQiF/rr

109創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:27:24 ID:RuquZsvh
 
110罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:28:04 ID:VN72bRLE
 視線を向けるとそこにいたのはメイド服を着込んだ女性。

「お知り合いがあちらに」
「再会」
「……え?」
「短髪ー! こっちなんだよ」
 彼女の言葉に振り向くと、少し前の進行方向、道を少し下ったところに見覚えのあるシスター服を着た少女がいた。

「ここは我らに任せるのであります」
「離脱」
 美琴の側にいるのは女性一人、だが聞こえてくる声は二つ。
 二つの声がそう言うと、女性は人識へと向き直った。


 ◇ ◇ ◇


 先に彼らのことに気が付いたのはインデックスだった。

「……ヴィルヘルミナ!」
「……む?」
「察知」

 彼女の言葉に足を止め、やや遅れてヴィルヘルミナも気がついた。
 道の先からはっきりと、濃密に感じ取れる――殺気。

 戦いか、あるいは虐殺か。

 慎重に、だが可能な限り急いだ彼女達が見たものは一人の少女に強い殺気を向けている少年の姿。

「――短髪!」
「……お知り合いで?」
「知己」
 ヴィルヘルミナ達の言葉にインデックスは頷いた。

「うん、たまにとうまと一緒にいる子なんだよ」
 状況だけでも充分。それに加えて襲われていると思しき少女がインデックスの知り合いというのであるならば、彼女がどう動くべきかなんてことは決まっている。
 
 抱きかかえていたインデックスをおろすと、彼女はそのままインデックスが短髪と呼ぶ(名前は御坂美琴というらしい)少女をかばうように少年と対峙する。
111創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:28:59 ID:AZQiF/rr
 
112創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:29:11 ID:RuquZsvh
 
113罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:31:29 ID:VN72bRLE
「かはは、何だよその格好は。コスプレイヤーってやつか?」
「機能性に優れているので愛用しているのであります」
 美琴が逃げるのを気にした様子もなく、気楽に話し掛けてくる少年に返事をしながらヴィルヘルミナは身構える。
 
 ――目の前の少年からは殺気しか感じない。

「念のために尋ねるのでありますが」
「質問」
「なんだ?」
「あなたはこの殺し合いをどのように捉えておられるので?」
 ヴィルヘルミナの言葉に人識は笑う。

「かはは、傑作だぜ。さっきの美琴ちゃんといい、今のアンタといい、どいつもこいつも殺し合いの何を聞きたいんだっつーの」

 その言葉にヴィルヘルミナは、次いで人識は動いた。
 動き出したのは両者ともにほぼ同じタイミング。

 ヴィルヘルミナはリボンを放ち、零崎人識はヴィルヘルミナ目指して大地を疾る。

 筋肉から関節、骨にまで至る人体のありとあらゆる部分。
 それをどのように動かせば速く動くことができるのか、それを本能的に理解している人識のスピードはヴィルヘルミナの予測を超えていた。
 相手は゛紅世の従”でもフレイムヘイズでもないただの人間。そんな油断があったことも手伝って、ヴィルヘルミナへと人識は一気に近付く。
 
 ――しかし『戦技無双』、彼女のこの二つ名は伊達ではない。

 神器『ペルソナ』から伸びた一条のリボンが翻り、人識の踏み出した足へと当たる。
……とはいえ、たかがリボンの一条程度だ。彼にダメージをあたえることは適わない――がそれによって、踏み込みはほんのわずかに、しかし確実にずれる。
 
 最短距離を進むが故の相手の反応すら上回る最速だ。
 それに加えて、真っ直ぐに進むつもりでとった体のバランスは斜めに進んだことによって、わずかとはいえ崩れている。
114創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:31:32 ID:AZQiF/rr
 
115創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:32:34 ID:RuquZsvh
 
116創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:33:04 ID:AZQiF/rr
 
117罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:34:15 ID:VN72bRLE
 この距離はまだ人識の間合いではない。
 だがこのまま進むのならば相手のほうが速い。

 打てる手は一つだけ、人識は手にしたナイフをヴィルヘルミナ目掛け投げつける。
 人識自身の速度も加えて投げられたナイフは高速でヴィルヘルミナへと向かい、その軌道上にリボンが伸びた、次の瞬間には速度はそのままに、方向だけを大きく曲げられて、ナイフは山の脇へと消えていった。

「ああ、くそ! もったいねえ!」
 ナイフのデザインなどは人識は気にいっていたのだ。それがまた無くなった事に文句をいいながら、人識は一度間合いを外す。

 ――だが。

「――ちっ!」
 人識の舌打ち。
 彼が後ろに跳ぼうとしたその瞬間、彼の足元へとリボンが伸び、軸足を絡めとった。
 手をつくとか、体をひねるとかそんな余裕はどこにも無い。
 跳ぶ勢いはそのままに、バランスを崩した人識は背中を地面へと強く打ち付ける。

「か、かはは、傑作だっつーの」
 一瞬、息が止まるほどの衝撃に耐えて、人識はそのままクルリと後ろ回りをしながら、回転の勢いのままに身を起こす。
 デイパックから新しくナイフを取り出すと、彼は改めてヴィルヘルミナへと向き直る。


 ◇ ◇ ◇


「短髪、短髪、大丈夫」
 戦場から離れて、へたり込んだ美琴にインデックスが心配そうに声をかけてくる。

「う、うん……」
 ようやく一息つける状況へとたどり着き、改めて自分が何をやっているのかと考えて美琴は落ち込む。
118創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:34:51 ID:RuquZsvh
 
119創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:36:50 ID:AZQiF/rr
 
120罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:37:34 ID:VN72bRLE

 こんなはずじゃなかったのに。
 もっと上手くやれたはずなのに。
 
 目覚めてからこれまでの自分の行動。それを改めて振り返ると、あまりの情けなさに自己嫌悪のあまり死にたくなってくる。
 
 ガウルンにはいいようにあしらわれて殺されかけて。
 人識には無様なぐらい怯えて。
 メイド服の女性には助けられて。
 挙句の果てには最初は自分が守ってあげるつもりでいた知り合いの一人、ちびっ子シスターにまで心配される始末だ。

「怪我はないみたいだけど、大丈夫? あ、お腹がすいているんならこれを食べる?」
 そう言いながらインデックスは先ほど入手したばかりの缶詰、そのうちの一個を美琴へと差し出した。
 インデックスと同居しており、彼女の食欲魔人ぷりをよく知る少年上条当麻。彼が見たら驚愕のあまりに腰を抜かしてもおかしくは無い光景。
 あのインデックスが自らの食料を他人に譲るという珍事にさえも美琴の心は動かない。

「ごめん……。悪いけどしばらくあたしを放っておいて」
 そう言うと美琴はしゃがみこみ、自らの体を抱え込む。

「……!」
 そんな彼女にインデックスはまだ何か言葉をかけてくれていたが、もう聞く気さえ起きなかった。
 もちろんインデックスが自分のことを心配してくれているのはわかるし、そのことに対しての感謝もある。けれども今の美琴にとってはその優しさは心を抉る刃にしかならない。
 自分自身にそんな優しさをかけられるだけの価値が今の彼女には見出せない。 

 どこまでも続く自己嫌悪の悪循環。
 どんどん沈み込んでいく彼女を止めたのは誰かの言葉ではなく、ただの音だった。

 ひどい音があたりに響く。
 思わず顔をあげた美琴が見たのは、ずざざざっ、とここがもしも剥き出しの地面だったら盛大な土ぼこりを巻き上げていそうな勢いで路面をすべる人識だった。
彼はそんな勢いで吹き飛ばされたにもかかわらず、即座に身を起こしてメイド服の女性、ヴィルヘルミナへと躍りかかる。

 そのスピードはかつて彼女が見た彼の戦闘風景、ガウルンのときよりもなお速い。

121罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:38:26 ID:VN72bRLE
 ――アイツ、手加減してたんだ。

 いかに油断していようとも、自分を軽くあしらった相手であるガウルン、それを手加減した状態で軽く上回っていた人識。
 そんな彼と互角以上に戦っているヴィルヘルミナ。
 彼ら彼女と自分を比べると自らの情けなさが一層際立つような気がする。

 ――あたしなんて役立たずもいいところじゃない。

 そんな思いとともに再び彼女の気持ちは沈みこみ、

 ――え? ちょ、ちょっと待って。

 ふと彼女はあることに気が付いた。

 零崎人識は殺人鬼。それは彼自身が言ったことであり、また彼と対峙してその殺気をじかに浴びた美琴にとっては疑い様の無い真実だ。
 しかし、ならばそんな彼が手加減する必要が、そして自分を助ける必要がどこにあった?
 これまでは恐怖のせいでろくに働かなかった思考がようやく動き始める。

 曰く、最強との約束。
 曰く、逃げたいんなら逃げりゃあいい。

 いずれも彼自身が言った言葉だ。
 そもそも彼は殺気を美琴に向けてはいたが、彼の本気のスピードを見れば、そんな暇が在ったらとっくの昔に彼女は殺されていてもおかしくは無かったはずだ。
 けれど彼はそうしなかった。

 美琴はもう一度前方、戦っている二人を見る。

 ヴィルヘルミナのリボンによって、またバランスを崩された人識が、今度は倒れるその前に地面に手をつき体を支える。彼はそのまま倒立の要領で身を伸ばして、回転。その勢いに任せてヴィルヘルミナに刃を振るう。
 それをヴィルヘルミナは軽く横へと動いてかわす。その場に残されたのは彼女のリボン。
 それがわずかに動いたかと思えば、人識の回転が加速して、頭から地面へと向かう。
だが、彼は空中で身を丸める事によって距離を稼ぎ足から着地。加速した勢い、その反発をも利用して、高く、飛んだ。

 しかしいくら人識とは言えども何もない空中ではその動きは単調なものとなる。
122創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:38:35 ID:AZQiF/rr
 
123創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:38:52 ID:RuquZsvh
 
124創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:38:53 ID:0RYpq/2f
   
125罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:40:07 ID:VN72bRLE
 それを好機と見て、ヴィルヘルミナは無数のリボンで追撃をかけ――。

「む?」
「操作不能」
 
 彼女の意思に従って自由自在に動くはずのリボン。それが突然何かに絡め取られたかのように彼女のコントロールを離れた。リボンはそのまま狙いを逸らす。

「かはは!」
 そして殺人鬼はその隙を見逃すはずがない。
 落下の勢いそのままに、人識の刃がヴィルヘルミナへと振り下ろされて――。

 ――迷っている暇はなかった。

 ひょっとしたら自らの安全を優先するならば、動かない方がよかったのかもしれない。
 だけどそんなのはさっきまでの自分と同じ――御坂美琴らしくない。

 覚悟は、決めた。

「――な?」
「……む?」
「危」
「た、短髪?」
 インデックスが驚いたように美琴から一歩離れる。
 
 まるで爆弾でも炸裂したかのような轟音。
 美琴が放った電圧数億ボルトの電撃は激突直前のヴィルヘルミナと人識の二人の間を貫いた。
 その一撃によって、二人の集中力は殺がれ――人識、ヴィルヘルミナの双方ともが交錯することなく一旦後ろへと下がって間合いを離し、激突に水を指した相手、美琴の方へと視線を向ける。 


「かはは、何だ何だ美琴ちゃん。てめえも参戦するつもりなのかよ」
 そう言って笑いながらも、人識は美琴に殺気をぶつけてくる。

「とりあえず零崎、殺しあうつもりは無いから武器をしまって」 
「は? 何傑作なこと言ってんだ?」
「あたしはアンタに助けて欲しい、殺さないで欲しい」
 だが、美琴はその恐怖、殺気に負けずに人識から視線を逸らさない。
 先に視線を逸らしたのは人識だった。
126創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:40:21 ID:RuquZsvh
 
127罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:41:14 ID:VN72bRLE
「傑作つーか、戯言だな、こりゃあ。あー……何か白けちまった」
 つまらなそうにそう言い捨てると人識はナイフをしまう。

「どういうことでありますか?」
「説明要求」
 人識から殺気が消えたのを見て、とりあえず場が落ち着いたと判断したヴィルヘルミナは美琴に話し掛ける。

「えーっと……」

 かくかくしかじか。

 これまでのことを美琴は彼女達に話す。
 彼に助けられたこと。彼は殺人鬼でもあるが同時に「約束」とやらがあって、少なくともこちらから彼に戦いを挑まない限りは殺気は向けても、彼から手を出すつもりは無いらしいこと。

「彼女の言葉に嘘は無いので?」
 美琴の説明を聞き、ヴィルヘルミナは少し離れた場所で つまらなそうに立つ人識に話し掛ける。
 少なくとも彼女達が会話している間、彼は手を出そうとはしなかった。

「かはは、なんだなんだ」
 ヴィルヘルミナが改めて彼に向き合うとなぜか人識は笑った。

「何か?」
「かはは、傑作だぜ。仮面なんぞつけてっから妙な女だと思っちゃいたが、なかなかどうして。あんた好みのタイプだ。そう言うことなら話ははやい。
安心しろってオレは好みのタイプは殺さねえ事にしているんだ。ま、ちょいとばかし身長は足りねえみたいだけど」
「……」
 かはは、と笑う人識をヴィルヘルミナは呆れたように見る。
 今の彼からは先ほどまでのような殺気は感じ取れない。

「……どう思われます?」
「うーん、正直よくわからないんだよ」
 少し離れてひそひそと、ヴィルヘルミナ、インデックス、美琴の三人は意見を交換する。
128創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:41:46 ID:AZQiF/rr
 
129罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:41:55 ID:VN72bRLE
「……でもここは信じるしかないと思う。あいつが殺人鬼っていうのは多分本当だし、あいつにどんな形でも手綱を付けられるのはメリットだと思う」
 人識が殺人鬼であるというのは美琴とヴィルヘルミナ双方に共通する意見だ。

 そして双方ともにわかっていた。もしも今、人識を信用せずに戦おうと、放置しようとどちらを選ぼうとも、決して少なくない犠牲は出る。
 本来フレイムヘイズであるヴィルヘルミナや、超能力者(レベル5)である美琴の持つ戦闘能力は常人のそれを大きく上回る。だが、人識はそんな彼女達と互角、あるいはそれ以上に戦った。
 そんな彼と戦わずにある程度無力化できるというのなら。

 ――ならば、監視できるように手元に置くべきだ。

 そう彼女達が結論つけようとしたときだった。

「おいおい、意見交換もいいけどよ。誰か来るぜ」
 人識が急にそんなことを言った。
 人識の視線の先、山のふもとの方に眼をやれば、つい先ほどヴィルヘルミナ達が登ってきた道を一台のジープが登ってくるところだった。

「ちょっと水前寺! 慎重に行動するとかいってたのはどこにいったのよ!」
「はっはっは、何を言うのだ島田特派員! おれの行動のどこが無謀だと?」
「全部よ、全部!」
 そんなふうに大声で自分達の存在をしめしながらのぼって来るジープを見て4人は思う。「また変なのが来た」と。

 ……とはいえ実際のところ、水前寺の行動は無意味に大胆だったわけでは無かった。
 そもそも彼らは今ここにきたわけではない。彼らがこの近くにやってきたのは少し前、ヴィルヘルミナと人識が闘っている間のことであった。

 進行方向から聞こえてきた明らかに「複数の人間が争っている」物音を聞きつけた水前寺は一度ジープから降りるとこっそりと偵察へと赴き、その場の様子を観察した。

 もしも仮に、戦う力を持っていた3人の内、誰か一人でもあの紫木一姫や古泉一樹のように「乗った」人間がいたと考えるには場の状況は奇妙すぎた。

 ということは最低でも交渉の余地はあるということだ。
130創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:42:03 ID:0RYpq/2f
 

  
131創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:42:11 ID:RuquZsvh
 
132創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:43:19 ID:AZQiF/rr
 
133罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:43:22 ID:VN72bRLE
 そう水前寺は考えたわけなのだが、そんなことは4人はもちろん、いきなり車を離れたと思ったら戻ってきた水前寺に、何の説明も無く連れてこられた美波にも到底理解できるはずも無い。
 
 ――いつのまにか場の雰囲気は緊迫したものから、疲れたような白けたようなものになっていた。

134創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:43:51 ID:RuquZsvh
 
135創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:45:22 ID:AZQiF/rr
 
136罪人のペル・エム・フム ◆ug.D6sVz5w :2009/09/01(火) 23:45:53 ID:VN72bRLE
【C-1 道路 一日目 夜明け】

【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】肋骨数本骨折(応急処置済み)
【装備】なし
【所持品】支給品一式 、金属タンク入りの航空機燃料(100%)
【思考】
基本:この世界からの脱出、弱者の保護
1:知り合い(白井黒子、インデックス、上条当麻)との合流
2:当面は基本方針優先。B-1消滅の半日前ぐらいには黒子、当麻との合流を優先する。
3:人識への強い苦手意識。けど、彼の殺人を防ぎたい。

【備考】
※マップ端の境界線は単純な物理攻撃では破れないと考えています。
※この殺し合いが勝者の能力を上げる為の絶対能力進化計画と似たような物であるかも知れないと考えていますが、当面のところ誰かに言う気はありません。
※人識への苦手意識は彼を前にしたとき、少しからだが竦みます。会話ぐらいは平気。

【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:疲労(小) 背中に軽度のダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ8本@空の境界、七閃用鋼糸6/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1: ヴィルヘルミナが結構気に入った。
2:両儀式に興味。
3:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探すが、段々飽きてきている。
[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです

【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、
     未確認ランダム支給品0〜2個
[思考・状況]
1:まだ見える間に星空を確認したいんだよ
2:地図の「端」も確認したいんだよ。「なくなったエリア」も外から確認したいんだよ。
3:だから山に行って、天文台に行きたいんだよ
4:人識に対しての態度は保留

[備考]
※タイミング悪く騒いでいたため、D−4ホールでのステイルの宣言に全く気が付きませんでした。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『灼眼のシャナ』の世界について基本的な知識を得ました。
137創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:46:06 ID:RuquZsvh
 
138創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:46:26 ID:AZQiF/rr
 
139創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 23:48:16 ID:0RYpq/2f
   
 
140(代理投下):2009/09/01(火) 23:50:29 ID:RuquZsvh

【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(16/20)
[思考・状況]
1:当面、インデックスに付き合って、山または天文台を目指す
2:人識に対して不信。
3:登って来る彼らに対しては――?
[備考]
※封絶使用不可能。
※D−4ホールでのステイルの宣言は、部分的にしか聞き取れませんでした。大して重要視していません。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『とある魔術の禁書目録』の世界の魔術サイドについて、基本的な知識を得ました。

【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、シズのバギー@キノの旅
[思考・状況]
基本:島田特派員と共に精一杯情報を集め、平和的に園原へと帰還する。
1:「彼ら」と交渉。可能ならば情報交換や協力したい。
2:当面は島田美波に付き合って、人探し。
3:間接的な情報ながら、『涼宮ハルヒ』に興味。

【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、服が消火剤で汚れている、シズのバギーの助手席に搭乗中、精神疲労(中)
[装備]:大河のデジタルカメラ@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:水前寺邦博と行動。吉井明久、姫路瑞希、逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨と合流したい。
1:も う い や
2: 逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の三人を探して高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
3:竜児の言葉を信じ、「全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒ」を探す。
141(代理投下):2009/09/01(火) 23:51:34 ID:RuquZsvh

287 : ◆ug.D6sVz5w:2009/09/01(火) 23:50:01 ID:QxQJofwk0
最後の最後でさるさん。本当最後まで駄目でした……
多数のご支援に感謝。
さしてだらだらと長引かせた拙作を、許して待ってくれた住人様の全てに多大な感謝を


以上、ちょっとだけど代理投下終了。
142創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 00:06:58 ID:e1THkzDL
そして投下乙です。
うわぁ、どのキャラも生き生きしてる……!
3組3様に、考察深めたり関係深めたり。
人識・美琴組は逆に関係にヒビ入りかけたり、その美琴が人識の本質を見抜いて戦闘止めたり。
実に濃厚でした…………って、6人合流!?? これどうなるんだwww
143創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 21:39:56 ID:VHTK7pU0
序盤で同作品キャラが出会うと碌なことにならないっていうけど、そんなことはなかったぜ!
とりあえず異世界に気づいているメイド・シスターコンビの考察がどう伝わるか期待。
あと四人ともSOS団に引きずり込まれるのかな?

投下&代理投下乙です。
144創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 22:48:48 ID:jm1o+vZG
投下乙
人識狂ってる
こいつがおとなしく常識人の中で収まってるわけないと思ってたが、やっぱり無理か
そしてヴィルヘルミナ強い。そしてカッコイイ。
人識とのバトルは見応えがあって良かった。
美琴がついていけなくなるのもわかる。
というか美琴もっとシャッキリしろ
普段相手にしてるのが学生だししかたないのかもしれんが
145創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 23:11:09 ID:iYCd/ZUZ
投下GJ! って、うええええええw ここで切るのか!w
どうすんのこれwwww続きどうすんのこれwwwwwww

いやはや、全員が全員しっかりと動いていて面白かった。
このメンバーでここまで滑らかに群像劇してくれるとは。
それに、最後にSOS団が突っ込んでくるのなんか大爆笑モノだろうw
ヴィルヘルミナと人識のバトルも良かった。美琴は、その……ドンマイw
146創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 18:12:16 ID:GevMOMbE
まだ早朝入ってないの、藤乃と友だけか。

早朝入ってても書けるとこはあるけど、藤乃片付いたら放送が現実的になってくるかな?
あ、友は寝てていい。
147創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 20:27:08 ID:UlyJ+wdw
>あ、友は寝てていい。
あれ、俺書き込んだっけ?
148創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 22:48:36 ID:NACDfDlG
奇遇だな
実は俺もそう思っていた所だW
149創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 23:04:05 ID:+11tg+Pp
何で俺がこんなにいるんだ…?
150創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 23:25:33 ID:j12lKwWQ
ふじのんもホテル目指して移動してるだけだしなー
放送後くらいにはつきそうな距離だし、必須でもないかも
放送が来るか藤乃が来るかってところでしょ

あ、友は(ry
151創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 16:26:51 ID:DFUEWhy+
用語に入れてもいいな、友は(rt
152創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 19:52:54 ID:mtslx9VS
もう友が起きた時にはクライマックス直前とかでも俺は驚かない
153創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:15:31 ID:2mEth5g1
後は藤乃か放送だし……その間盛り上げる為気になるキャラとかあげていかないか?w
154創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:45:48 ID:VL7JQW7r
いいねw
俺はやっぱりキョンかなー
155創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 22:44:50 ID:yY0fRa1s
キョンは酔っ払いの相手から一気に落ちた(上がった?)からなぁw
放送後にどんな道を辿るかが気になる。長門やマオも放送で呼ばれるだろうし

個人的に気になるのはシャナ実乃梨秀吉の三人娘
放送後の展開如何では温泉が真面目にデッドゾーンになりかねないw
156創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 00:33:08 ID:W5qtVRto
ねぼすけ友と並んで、ねぼすけ式も
157創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 20:32:13 ID:skclPGpw
姫路さんだな
あの娘はこのロワで最も敵に回しちゃならない連中を敵に回した気がしてならない
158創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 23:05:23 ID:bijYSpUW
ズガン筆頭になるかと思ったらまさかのカワイソス筆頭
これはあれだな、ドラマCDで中原麻衣に声を当てられた因果だな
159創る名無しに見る名無し:2009/09/08(火) 19:01:48 ID:AyQSPjre
カワイソスといえば天膳様参加者全員のなかである意味一番散々な目にあってるんだよね
でもまあ同情する気はちっともわいてこないけどなww
160 ◆EchanS1zhg :2009/09/09(水) 01:48:30 ID:qjVV3hhh
したらばの仮投下スレに放送案を投下しました。
これで問題がないか、精査、検討、よろしくお願いします。
161創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 01:54:12 ID:TpKO0RrC
投下乙です。
おお、こんな形式で監視を……w
また面白いギミックが登場……?

これで問題無いと思います。GJです
162創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 10:17:00 ID:w/A3gNVV
監視方法もなかなかに面白く、濃度の話も意味深で面白い
まさにGJ! な放送案だと思います。

ただ一つだけ勘違いだと思われるところがありました。
長針が何周かしたらって、長針が一周で一時間……秒針の間違いではないでしょうか?
163創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 19:20:07 ID:lZj6/CXq
投下GJです。
面白い監視方法、面白いシステムだと思います。
とくに問題無いと思います
164創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 19:31:39 ID:CMge7qp/
ちょっと公正さのためにも、手続き的な意味で。
過去に投下された他の人の放送案の時と同じく、仮投下前に一言欲しかったかなーと。
藤乃の件で待ってた人・その辺を考えていた人もいたかもしれませんしね。
雑談の雰囲気的に、停滞に焦れ始めた感もありましたが。

ただ、内容的には後顧の憂いとなるようなモノはなかったと思います。
もし滑り込みで藤乃(+α)の予約が入って、万が一にも死者が出ても、名前と人数を言い直すだけで済みますし……。
「この時点でそこまで言っちゃうのか!」という驚きこそあれ、後々詰まる恐れのある要素はないかと。

少し期限を切って放送前の滑り込みを待って、無いようならこれで進めることになるのかな?
165創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 19:34:01 ID:CMge7qp/
っと、藤乃関係以外の滑り込みももちろんありでしょうけどね。
そっちで死者が出る可能性も、当然ありますし。
166 ◆EchanS1zhg :2009/09/09(水) 23:46:34 ID:qjVV3hhh
>>162 指摘感謝。本投下時には修正しますね。

とりあえずは問題はなかったということで、後は本投下までしばらく置いておきますね。
次は、本投下=滑り込みの〆きり=放送後話の予約解禁……となると思うのですが、
これはいつ頃にするのがいいでしょうか?
土曜や日曜にそうするのがよさそうな気もしますが、意見や考えがありましたらよろしくお願いします。
167創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:27:04 ID:bTTPkunq
そうですねー。
とりあえず土曜の晩頃投下して滑り込みの予約が入ってなかったら日曜解禁がいいのかな?
もし入ったならその予約の投下の翌日解禁がベストかな?
168創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 18:08:23 ID:RvDt1POD
そんな感じがベターなのかなー
169創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 23:34:34 ID:Z1r67JLW
師匠、朝倉さん、ふじのんで予約キターーーーーーーーーーーー!!!!!!
これで、旧作も含めた念願の、第一回放送に行けるか…長かった

あ、友は(ry
170創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 23:40:24 ID:bTTPkunq
おーw
ということは投下され次第次の日予約解禁でいいのかな?
171創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 23:56:03 ID:riQT/Pz2
予約きたw

>>170 どっかに指摘とか入る可能性もあるから、1日空けるのがいいと思う
172創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 00:09:25 ID:AamoDXJy
>>171
ああ、一日明けると言う意味で次の日といったつもりだったんだ
例えば○日の21時に投下されたら次の日の24時解禁と言う形で
173創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 00:20:29 ID:4yhBQKqv
それでいいんじゃないか?そういえばこの空き時間使って人気投票しないか?
174創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 15:22:14 ID:c9ktH+HD
予約楽しみだw
 
人気投票も面白そうだし是非やりたい
175創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 20:40:18 ID:lli79XDP
人気投票やるなら俺は投票する
176創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 01:19:08 ID:8kjhQuo1
具体的な話していこーか

投票期間は1週間 対象作品はwikiに登録されてる80話まで って、感じかなー?
したらばに、投票スレって勝手に立ててもいいのかな?
177創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 01:29:33 ID:1181DDiN
期間一週間で、一人一回ずつ投票可能。
携帯は…あり?
投票時はわかりやすく、名前を【 】で囲むこと。

…これくらいかな思い付くのは。
投票スレは建ててきてもいいだろうけど、
>>1の草案くらいは先に考えとこう。
178創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 01:31:43 ID:1181DDiN
>>177自己レス。
スレの進退等の、重大な案件を投票するわけじゃなし。
携帯は別に問題なしでいいいのでは?
179創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 17:33:27 ID:GR1Tee3L
携帯はありでいいんじゃないかなー。ただの人気投票だしねw
一人1位〜5位の間を投票してそれでそれぞれ5p〜1pにするのでどうかな?
180創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 17:49:33 ID:8kjhQuo1
今晩……つまり、日曜の0時からスタートがいいと思うんだけど、
票数とか点数とかどういうのがいいかな?

今のところ、5作選出して1〜5の点数を振り分ける形がでてるけど。
181創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 18:31:20 ID:XxFa/nAp
そのような形が適切かな
スタート日時もそれがいいと思う
182創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 20:07:17 ID:8GcQ0T09
それでいいと思う。
ところで部門は作品だけなのか?
183創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 20:20:14 ID:8kjhQuo1
とりあえずテンプレを作ってみました。
問題なければ、後でしたらばにスレ立てしてみようと思う。

>>182
今回ははじめてだしシンプルで投票しやすい方がいいかなーと思う。
どれくらい投票があるかわからないし、それにテーマ別はもっと作品が増えてからでもいいかなーと。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


☆ 第1回 ラノロワ・オルタレイション作品人気投票 ☆

【テーマ】:今までに投下された作品の人気投票をしよう!
【投票対象】:「000:今からはじまる終焉――(今よりはじまる終演)」より「080:罪人のペル・エム・フル」まで。
【投票期間】:9/13(日)00:00〜9/19(土)24:00
【投票方法】:投票したい作品を5作選び、1から5までの点数をひとつずつ振り分けて記入(レス)する。
【テンプレ】:

 [5点]:[(話数):(タイトル)]
 [4点]:[(話数):(タイトル)]
 [3点]:[(話数):(タイトル)]
 [2点]:[(話数):(タイトル)]
 [1点]:[(話数):(タイトル)]

 例)
 [5点]:[000:今からはじまる終焉――(今よりはじまる終演)]



投票と一緒に、作品の感想も書いてくれると書き手は大いに喜びます♪
でもでも、タイトルが上がるだけでも嬉しいのでタイトルだけでもいいです。気兼ねなく遠慮なく投票してください。
あ、それと当然ですが投票できるのは1回限りです。間違っちゃわないよう気をつけてくださいね。
184創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 20:35:50 ID:GR1Tee3L
おお、いいテンプレw
乙ですー問題ないと思います
185創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 20:45:25 ID:1KVDp0R2
自分も問題ないと思います。
後は人が集まってくれるのを祈るばかり。大丈夫かな?
186創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 21:31:01 ID:1181DDiN
テンプレ乙ーって、作品投票なのかw
それだったら、第一回放送まで待ってから
やってほしいなーと欲を出してみたいんだけど…。
けどその場合、早くても来週まで投票始められないんだよな。
187創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 21:37:59 ID:GR1Tee3L
んーまぁ放送前と投下まえ待ちではじめようと言ったものだしね。
次の第二回放送にかかる時にそれも含めてやるのがいいんじゃないかな
188創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 22:49:09 ID:8kjhQuo1
投票用スレ立ててきました。
この後、0時からの投票なので、よろしくお願いします。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1252763239/
189 ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:38:14 ID:15CVcQU5
予約していた 師匠、朝倉涼子、浅上藤乃 投下します。
190「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:39:31 ID:15CVcQU5

空も明るみ始めた早朝の街中の道を、一台の車が走っていました。
小さい車の中には、ポニーテール姿の女性が2人、並んで座っていました。
彼女たちはほぼ同時に「それ」に気がつきました。
運転席でハンドルを握っていたセーラー服姿の女――朝倉涼子が、口を開きました。

「ねえ、師匠」
「なんでしょう」
「どうする?」
「決まってるでしょう」

師匠と呼ばれた、上品ながらも動きやすそうな服装の女性は、助手席で溜息をつきました。
彼女たちの視線の先には、大きなT字路のあたり、道の真ん中をフラフラと歩く、黒い服の少女の姿がありました。
それは修道服のようにも見え、どこかの学校の制服のようにも見えます。
そしてポニーテールにこそしていませんが、車の中の2人と同じくらいの長い髪でした。
そんな少女の姿を遠くに眺め、女性は言いました。

「さっきのように時間をかけるのは御免です。見たところ武器も荷物も持っていない様子。
 私がやります。通り過ぎざまに片付けてしまいましょう」
「うーん、いいのかなぁ……まあいいや。
 さっきはこっちの提案に乗って貰ったし、ここは師匠の顔を立てましょ」

朝倉涼子は、アクセルを踏みました。


  ◇
191創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:40:29 ID:vpUVxE8U
192創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:40:46 ID:iw4KmFcm
193「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:40:51 ID:15CVcQU5

浅上藤乃もまた、ほぼ同時に「それ」に気づいていた。
無人の街をこちらに向かってくる、小さな車。そして、その中に2つ並んだ、女性らしきシルエット。

女性――であれば、湊啓太の知り合いであるとは思えない。
あの不良たちに、マトモな女性の知り合いがいるとは考えにくい。
だから復讐として殺す必要はないのだが、しかし、この地に来てから誰かと出会い、何かを知ってるかもしれない。
会話を試みる価値は、ある。浅上藤乃はそう考える。
……もし何も知らなかったなら、殺さなければいけないのだけども。
想像しただけで身も震える罪悪感に責め苛まされながら、それでも車に止まってもらおうと手を挙げかけて、

「…………!」

藤乃は、気がついた。いや、気づかされた
向こうも藤乃が見えているだろうに、全く減速しない、それどころか、加速する車。
そして今更ながらに点灯するヘッドライト。
空はだいぶ明るくなってきていたが、それでもハイビームを唐突に浴びせられれば目も眩む。
そのまま車は、藤乃目掛けて突っ込んでくる。それこそ、藤乃を跳ね飛ばさんほどの勢いで。
そして、助手席の窓が開いて、そこから、覗いて見えたのは、

明らかに自分に向けられた敵意。
知ってる、知らないどころではなく、語り合うことすら拒絶する意思の表出。
問答無用の、殺意。
それらを前に、藤乃は、

「ああ――では仕方ありませんね」

眩いヘッドライトを真正面から見る格好になった今、車の中の人影はよく見えない。
となると……このサイズ、果たして出来るだろうか。……うん、きっと出来る。
彼女は呟く。

「――凶(まが)れ」

瞬間、小さな車が丸ごと――歪んだ。


  ◇
194創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:40:55 ID:99PZXEpB
195創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:41:49 ID:iw4KmFcm
196創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:41:56 ID:99PZXEpB
197「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:41:59 ID:15CVcQU5

助手席側の窓を開け、銃を撃とうとしていた女性は、咄嗟にそのまま走っている車から飛び出しました。
横目に、今まで乗っていた車が、見えない巨人の手で雑巾絞りにされるかのように、捻れていくのが見えました。
女性は前回り受身で着地の衝撃をやわらげ、しかし勢いは殺すことなく手近な街路樹の陰に飛びこみました。
飛び出す時に引っ掛けたのか、ポニーテールがばさりとほどけて、長い髪が彼女の背に被さります。
一瞬だけ、彼女は車の残骸の方を見ました。
あの瞬間、運転席側の窓は開けていませんでしたし、他には動くものの姿も見えません。
捻って曲げられた車だったモノには、もう人間がまともな形で乗っていられるスペースは残されていないようでした。
同行者は逃げる間もなく車ごと潰されてしまった、と考えるしかありませんでした。

「それにしても、何をされたのでしょうね。おおかた、朝倉涼子の『槍』と同じような非常識の類だと思いますが」

つぶやきながらも、女性は自分の武器である小型連射式パースエイダー、FN P90を手に取りました。
街路樹の陰からチラリと覗くと、黒い服の少女はゆっくりとこちらに歩いてくるようでした。
やはり手には何も持っておらず、さきほどの『攻撃』をどうやって繰り出したものか見当もつきませんでした。

「こんな時に『とりあえず突っ込ませる』ための朝倉涼子だったのですが。まったく使えないものです……おっと」

ぼやく女性の眼前で、隠れていた街路樹が捻れて、折れました。
車が潰された時と同様、何が起きたのか全く分かりませんでした。
それでも、こんな威力の『攻撃』を生身で受けたら命に関わることだけは、正確に理解しました。
ひとまず女性は、倒れゆく街路樹越しに、無闇やたらに手に持ったサブマシンガンを乱射しました。
相手が怯んだ気配だけ察知して飛び出し、無茶な姿勢で後方に乱射を続けながら全速力。
次の街路樹まで駆け通して、その陰に飛び込み、隠れました。
そこで素早く空になった弾倉を交換し、女性は珍しく、少しだけ悩むような素振りをしました。


  ◇
198創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:43:20 ID:iw4KmFcm
199創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:43:27 ID:vpUVxE8U
200創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:43:36 ID:99PZXEpB
201「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:43:48 ID:15CVcQU5

「――――ああ、びっくりしました」

バットやナイフを向けられたことはあっても、銃を向けられたのは初めてだった。
藤乃はそれがもたらすであろう圧倒的破壊より、むしろ連続した大きな音の方に驚いてしまっていた。
それを怯んだと言うのなら、それは爆竹の音に怯んだ程度のこと。
迂闊に動こうとしなかったのが、かえって良かったのか。
それとも、師匠が当てることより逃げることを優先したためか。
P90からばら撒かれた数十発の弾丸は、いずれも藤乃の身体を捉えてはいなかった。
それがどれほどの僥倖であるのか気付きもせず、藤乃はゆっくりと歩を進める。

隠れる師匠との距離を、悠々と詰める。
いや、今の藤乃には、ゆったりとしか動けない。
腹部の疼きが、藤乃に戦意を与えると同時に、彼女を縛ってもいる。
しかし反撃はない。藤乃のことを恐れているのか。それとも弾数に不安でもあるのか。
物陰から銃口を突き出してきたりしたら、その腕をまずねじ切ってやろうかと思っていたのだが――

藤乃はチラリと一瞬だけ、視線を横に向ける。
そこにあったのは、歪にねじれた小さな車、だったもの。今まさにその横を通り過ぎようとしていたもの。
確か車にはもう1人乗っていたはずだ。
だけど、飛び出した人影は1つきり。
もう1人は――たぶん、まだこの中だろう。
少し想像しただけで、藤乃は罪悪感に押し潰されそうになる。
車ごとねじ曲げられ捻られて、「もう1人」は、きっともう、たぶん――

「ああ――わたし、人殺しなんてしたくないのに――」
「なら、しなくていいわ」
「!?」

藤乃の呟きに、聞きなれぬ声が被る。
そして同時に、車の残骸から突き出される長い棒状の物体。
藤乃は反射的にそれを『視て』、捻じ曲げる。
自身を串刺しにしようとしていた凶器を『曲げて』、間一髪、制服の肩口を切り裂かれるだけで直撃を免れる。

驚く間もないままに、さらに2本、3本、4本。
続けざまに突き出される『槍』。
そのことごとくを『曲げて』逸らしながら、藤乃は慌ててバックステップを取ろうとする。
速い。
突き出される速度が速すぎて、到達する前に『ねじ切る』だけの時間がない。僅かに穂先を逸らすだけで精一杯だ。

それは、『槍』とでも表現するしかない『攻撃』だった。
車を構成していた鉄板が溶けるように変形し、ウニの棘のように、あるいは水晶の結晶のように突き出している。
藤乃は混乱する。
目の前の光景と状況に、混乱する。
誰が? どうやって? いや、誰が、というのは見当つくが、いったいあの状況をどうやって生き延びて――

視界の隅に、『槍』と同様に、しかし『槍』とはまた異質な質感の、『触手』のようなものが高速で伸びるのが見えた。
それも2本。白い。早い。どことなく生物的だ。1本は素早く『曲げて』進路を逸らして、もう1本も、
……手?

「凶――っ!?」
202「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:45:03 ID:15CVcQU5

視界いっぱいに広がったのは、広げられた手の平と、5本の指。
うねる『触手』の先端についていたその『手』は、藤乃が『曲げる』よりも早く、彼女の顔面を鷲掴みにした。
覆い隠されて、何も見えない。藤乃のこめかみに、『手』の『親指』と『小指』が食い込む。
引き剥がそうと『触手』を握って抵抗してみるも、ビクともしない。
過去に藤乃を陵辱した男たちと同じような――いや、それは、彼女の知る彼ら以上の怪力だった。
そのまま藤乃は強引に引き寄せられ、吊るし上げられる。
頭が割れそうに痛い。首が痛い。
『痛み』という感覚そのものにまだ慣れない藤乃の思考が、慣れない痛みに、しばし停止した。


  ◇


「ふぅん。やっぱり光学的観測によってターゲットを捉えてるわけね。
 だから動体視力の限界を超えた速度の対象には攻撃が甘くなるし、目を塞がれたら途端に困ってしまう」

右手1本で黒い服の少女を吊るし上げながら、朝倉涼子はつぶやきました。
普段の2倍どころでは済まない長さに伸びてのたくっていたその腕も、今はごく普通の女の子の腕に戻っていました。
伸ばしたところを一度は軽く『曲げられた』左手も、見たところ何の後遺症も残っていないようでした。
何の弾みによるものか、師匠とおそろいのポニーテールにしていた髪も、師匠と同じようにほどけて広がっていました。
ちょうどプロレス技のアイアンクローの要領で相手の抵抗を封じた彼女は、捕らえた相手を面白そうに見回しました。

「ま、有機生命体の身体構造上、そこは無理もないか。目という光学受容器に頼るしかないもんね。
 それにしても『歪曲』かぁ……ただの有機生命体がこんな情報改竄の類似現象を引き起こせるなんて。
 ある種の突然変異体のようだけど、構造体に妙な化学的・物理的操作も加わってるようだし……興味深いわね」
「どういうことです? 私にも分かるように説明しなさい」
203創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:45:23 ID:iw4KmFcm
204「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:46:01 ID:15CVcQU5

車の陰から出てきた朝倉涼子が相手を制圧したのを確認し、師匠と呼ばれていた女性も戻ってきました。
油断なくP90の狙いを少女に定めたまま、問いかけます。

「ん〜、人間の言語って限界あるのよねぇ。上手く言語化できないかも。
 そうね、情報の伝達に齟齬が発生するかもしれないけど、平たく言っちゃうと、この子……」
「平たく言うと?」
「どうも、ただ『見るだけ』で対象をねじ曲げることができるみたい。それこそねじ切るまで」
「…………」
「先天的な突然変異らしいんだけど。驚きよねぇ、有機生命体がこんな』能力を持ってるなんて。しかも2種類も」
「2種類? 曲げる以外にも何かできることが?」
「ううん、右回転と左回転。ほら、あわせて2つ」
「…………」
「……そんな顔しないでよ、師匠。こっちだって上手く伝える言葉が見つからなくて困ってるのに。」

呑気そうな説明をしている間も、顔面を捕らえられた少女は、必死の抵抗を続けていました。
しかし、爪を立てようが蹴りを入れようが、朝倉涼子の身体はびくともしません。少女の顔を掴んだままです。

「驚いたと言えば、さっき貴女の腕が伸びたこともそうです」
「しっかり見られてたかしら。できれば師匠の前じゃ使わずに済ませたかったんだけどなぁ」
「それよりあなた、私を囮に使いましたね? あの『槍』と『伸びる腕』の射程圏内に、その標的が踏み込むまで」
「それはお互い様でしょ? あたしを見捨てて1人だけ逃げたのは誰よ?」
「ちなみに、どうやって助かったのです? 捻られた車に人の入っていられる隙間なんてなかったように見えましたが」
「ちょっと分子の結合情報弄って、床に穴開けてそこからスルッと下へ、ね。
 あとは歪んだ車自体が、隠れるのにちょうどいい障害物になってくれたわ」
「そうですか。しかし車は勿体無かったですね。直せませんか?」
「うん、流石にこの規模の物体の再構成はできないみたい。次の車見つけるまでは、諦めてサイドカー使いましょ」

そうやって話している間も、師匠はいつでも撃てる姿勢のままです。
師匠は言いました。

「ま、話は後です。その『能力』とやらは使えないにしても、さっさととどめを刺してしまいましょう。
 あなたが捕らえてからもずっと、殺気だけは衰えていませんから」


  ◇
205創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:46:14 ID:iw4KmFcm
206創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:46:16 ID:99PZXEpB
207創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:47:34 ID:iw4KmFcm
208「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:47:40 ID:15CVcQU5

車に乗っていた女たちが、何かを喋っている。
こんな状態で撃ったらこっちまで巻き込まれるわよ、とか、それが嫌ならあなたが刀を使いなさい、とか。
どうやら自分の殺し方で軽く揉めているようだ。
視界を奪われたままの浅上藤乃も、ぼんやりとそれを理解する。

殺されるのだろうか。こんな所で。

単に顔を手で覆われただけ、とはいえ、対象物が視えなければ浅上藤乃の『力』は揮えない。
超・至近距離にある掌にはかえって焦点を合わせることができず、だから軸が作れない。凶げられない。
相手もそれを理解しているのだろう。
詳しい原理も何も分からぬまま、ただ、少なくとも「視えない相手は曲げられない」と。
今の藤乃は、まるで――抵抗する術も持たず男たちに辱められていた頃と、おんなじだ。

――それは嫌だ、と思った。
一度そう思ったら、想いが止まらなくなった。

手で目を塞がれたまま、相手が視えないまま、それでも藤乃は、爛、と睨みつける。
暗闇さえも見通さん、とばかりに、2人の女がいるあたりに視線を向け、両目に力を込める。
相手が視えさえすればいいのだ――視ることさえ出来れば、ねじ切れる。
こんな状態からでも、逆転できる。
脳が蕩けるような灼熱。
果たしてそれは妄想か現実か、2人の女の姿がうっすら脳裏に浮かんだ気がして――

「――あ?」
「――え?」
「――!?」

行使されようとした『力』は、しかし、唐突に薄れ、消えていった。


  ◇
209創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:48:18 ID:vpUVxE8U
210創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:48:32 ID:99PZXEpB
211創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:48:34 ID:iw4KmFcm
212創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:49:20 ID:vpUVxE8U
  
213「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:49:30 ID:15CVcQU5

「急に殺気も失せましたが……なんだったのでしょう、今のは」
「抵抗もしなくなっちゃったしねぇ。ちょっと待ってね……」

相変わらず少女を片手で吊るし上げた格好の朝倉涼子と、銃を構えたままの師匠は顔を見合わせました。
一際強く暴れ、強烈な殺気を発したかと思うと、いきなり気の抜けたように動きを止めた少女。
朝倉涼子は改めて脱力しきった少女の身体に顔を近づけ、嗅ぎ回るように頭を動かし、そして、無造作に言いました。

「ははぁ、アレがああなって、こうなって、こう、か……なるほど、この子、『使えなく』なっちゃったみたいね」
「どういうことです?」
「こういうこと」

おもむろに彼女は、少女の顔から手を離しました。
解放された少女――と言っても、よく見れば朝倉涼子の外見とほぼ同年代――は、ぺたん、と尻餅をつきました。
少女は呆然とした様子で、朝倉涼子、続いて師匠を見比べました。
2人とも、見えない力でねじ曲げらてしまうようなことはありませんでした。

「えーっと、あたしは朝倉涼子。こっちは師匠。あなたは?」
「浅上……藤乃。いや、そうじゃなくて……」
「藤乃。いい名前ね。
 ああこれは社交辞令よ、有機生命体のパーソナルネームのセンスなんて、正直分からないし」

人当たりのいい笑顔を浮かべたまま、朝倉涼子はどこか世間ズレした言葉を吐きました。
3人の今置かれた状況を忘れさせるような、見事な笑顔でした。

「出会いは最悪だったけど、あたしたち、協力しあえるかもしれないわね。でも、とりあえず――」

何か言おうとした師匠を片手で制しつつ、朝倉涼子は1歩少女に歩み寄って、

「どう考えても師匠に説明するのにジャマだから、ちょっとだけ寝ててね。
 もし次にあなたが起きることがあったなら、その時に改めてお話しましょ?」

とん、と何気ない仕草で、藤乃の首筋に手刀を叩き込みました。


  ◇


――また、何も感じなくなってしまった。
浅上藤乃は、ぼんやりと考えていた。

残留していたカラダの痛みは嘘のように消え去って、何も感じなくなって、生きている実感すらも消えうせて。
首筋へ加えられた打撃も、衝撃としてではなく、視覚と聴覚でその存在を知る。
苦痛を感じることなく、ただ意識だけがストン、と闇に落ちていく。
痛覚のない身体でも適切な場所に適切な衝撃が加われば、脳震盪などで意識は失いうるのだ。

闇の中に落ちていきながら、藤乃は最後に、朝倉涼子の言葉を反芻する。

――協力しあえるかもしれない? 
それなら――湊啓太を探す手伝いを、してくれるというのだろうか?
あの2人が? 人殺しの匂いのするあの2人が? ほんとうに?

答えは返ってくることなく、彼女の意識は一時この舞台から遠ざかる。


  ◇
214創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:50:37 ID:iw4KmFcm
215創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:50:58 ID:vpUVxE8U
 
216「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:51:05 ID:15CVcQU5

「――つまりあなたの話をまとめるとこうですか。
 この浅上藤乃という少女は、本来、痛みを感じることのできない無痛症。
 でも現在、その症状は間欠的に出たり消えたりしている。
 無痛症が治って痛みを感じることができる時だけ、例の『歪曲』が使える。
 でも無痛症が前面に出ている時にはそれは使えない、と――」
「そ。まあ、その無痛症の方が後天的っぽいんだけどね。
 あと、たぶん本人、現時点じゃそこまで理解してないわ。無痛症が治って能力が消えた時、驚いてたでしょ?
 ちょっと眠ってもらったのも、この話を彼女自身に聞かれちゃうのは後々マズイかなー、って思って」
「そこまでは分かりましたが」

朝倉涼子による長い説明をざっくばらんにまとめた師匠は、その場に倒れこんだ浅上藤乃を見下ろしました。
気絶しているようですが、放置すればやがて目を覚ますであろう状態でした。

「なぜ、その話を? さっさと殺しなさいと言ったはずです。まさか情が移ったなどと言い出すのではないでしょうね」
「まさか。ただこの子、うまくいけば戦力として『使える』かな、って。
 ちょうど今なら無害だし、会話する余地はあるようだし」
「使えません。仮に首尾よく説得できたとしても、戦力として期待するにはあまりに不安定すぎます。殺しなさい」
「でも、『歪曲』を『使える』時の射程と威力は相当なものよ? 師匠も見たでしょ?」
「この小型連射式パースエーダーの射程と威力があれば十分です。殺しなさい」
「銃声もしないし」
「確かにサイレンサーがあるなら欲しいところですが、ないならないでやりようがあります。殺しなさい」
「弾切れもないし」
「確かに予備の弾は欲しいですが、現状でも十分余裕があります。殺しなさい」
「動作不良もないし」
「確かにできれば予備のパースエイダーも欲しいところですが、このP90は十分信頼に足るようです。
 というより、『能力』が使えない今のその子の状態がまさに動作不良でしょう。殺しなさい」
「ってか、師匠もやっぱりその短機関銃だけって状況には不安があるのね。
 誰かを倒して武器を奪おうにも、ここまで空振りばっかりだったし。棒は1本あったけど、銃なんてなかったもんねぇ」
「そんなことはありません。殺しなさい」
「何か、もっと有効な『武器』が手に入るまででもいいのよ?
 大体、師匠も迷ってるんでしょ?
 でなきゃ『殺しなさい』って言う前に師匠自身が殺してるわよね? 北村君の時のように」

朝倉涼子は微笑みました。師匠は少しだけ黙り込みました。

「……その少女を連れて行くとして、最後にはどうするつもりです?
 我々の利害と対立するのでは? 面倒は御免ですよ」
「ああ、それは大丈夫」

朝倉涼子は、そして不恰好に倒れていた浅上藤乃を抱き起こしました。
抱き起こして、その腹部に軽く手を当てて、そして、

「何もしなくてもこの子、どうせもうすぐ死ぬから」

朝倉涼子は、少し微笑んで、

「この子、どうせもうすぐ死ぬから」

もう1回言いました。


  ◇
217創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:51:45 ID:99PZXEpB
218創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:52:17 ID:vpUVxE8U
  
219「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:52:18 ID:15CVcQU5

対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースの真の強みは、その解析能力だ。
涼宮ハルヒを観察して、その情報を情報統合思念体に送る。そのために造られた存在。
情報を操作して非現実的な現象を起こす能力も、高い肉体的能力も、ある意味でおまけに過ぎない。
その本分は、情報を集めることにこそある。
そこで起こったことを、解析することにある。

もちろん、人間とは意識のありようの異なる情報統合思念体に造られただけあって、不得手はある。
人間社会における常識には欠ける部分があるし、人間心理にはいまいち疎い。
長門有希よりも遥かに上手く人間のコミュニティに溶け込んでいた朝倉涼子も、それは変わらない。
表層的には感情表現豊かで人当たりもいいが、時折、ぎこちなさが滲んでしまう。

しかし現象面の解析ならば、通常の人類より遥かに高い能力を持っている。
「そこで何が起きたのか」「何が原因なのか」、それを看破する能力は極めて高い。
時にそれは、現在の人類の言語では表現が困難な概念で、それゆえ意思の疎通に齟齬を生じることはあるけれど。
それにまた、情報統合思念体との接続がなければ、分からないことも多いのだけど。
それでも、ただの人間が普通に知りえることより遥かに多くのことを、瞬時に見抜くことができる。
「あの集団」の中において、何か不可解なことがあった時、いつも「答え」を出すのはいったい誰だったろう?
朝倉涼子は、そんな「彼女」の同類なのである。

そして、この舞台においては、その能力こそが制限されている。
朝倉涼子が『近視』に例えた、距離的な制限がかかっている。

逆に言えば――近づけば、分かる。

浅上藤乃の、『歪曲』の能力のことも。
それが、右回転と左回転、2種類のチャンネルを持っていることも。
その能力が、彼女の後天的な無痛症と、背中に負った負傷とに連動していることも。
そして――浅上藤乃自身がまだ気付いていない、重症化しつつある虫垂炎のことも。

穿孔し腹膜炎を起こしつつあるその病状は、放置すればそれだけで十分に死に至る。
今後どういう風に行動するかによっても進行は異なるだろうし、ゆえに断定は難しいのだが……
適切な医療処理を受けられなければ、大雑把に見て、あと1日ほど。
持ち堪えたとしても、最大で2日。
どう贔屓目に見ても、3日間持つことはあり得ない。
この会場に許された時間制限めいいっぱい生き抜くことは、絶対にできない。

それが、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース・朝倉涼子の見立てだった。


  ◇
220創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:53:24 ID:iw4KmFcm
221「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:53:33 ID:15CVcQU5

「……浅上藤乃の面倒はあなたが見なさい。
 また上手く説得できなかったり、病気が進行し過ぎて使い物にならなくなったら、責任をもって『処分』するように」
「はいはい」
「もし万が一、あなたが浅上藤乃から攻撃を受けても、私は助けません。1人で逃げて、浅上藤乃の自滅を待ちます」
「分かってるわ。そこは覚悟の上よ。……それで、このままお城の方に行けばいいのね?」

言いながら、朝倉涼子はデイパックの中からサイドカーつきのバイクを引っ張り出しました。
依然気絶したままの浅上藤乃をヒョイとサイドカー側の座席に座らせて、彼女はハンドルを握りました。
その後ろに、普通のバイクで2人乗りするような要領で、師匠が座ります。

「そのことですが、一度その前に警察署に寄りましょう」
「警察署?」
「警察官の使っている武器や、犯罪者から押収した品々があるかもしれません。パトカーなどもあるでしょう。
 少し寄り道になりますが、ここからも近いですしね」
「なるほど」
「もしもそこで使い勝手のいいパースエイダーが手に入ったら、浅上藤乃を早々に処分してもいいかもしれません」
「やめて」

言い争う2人を乗せたまま、サイドカーは発進しました。
ポニーテールのほどけた長い髪が、2人の背後にたなびきます。
師匠も朝倉の髪の中に顔を突っ込むような真似はせず、首をずらしてそれを避けます。

「それにしても邪魔な髪ですね。切ってしまいましょうか」
「あ、髪留めの再構成忘れてたかしら。って師匠それはやめて今はやめてちょっと運転中だからほんと待って」

浅上藤乃は、未だ気絶したまま。
3人を乗せたサイドカーは、浅上藤乃が辿った道を逆になぞるように、走り去っていきました。
あたりはすっかり明るくなっています。
もうすぐ、日が昇ります。



【D−3/警察署付近/一日目・早朝】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康。サイドカー後部座席
[装備]:FN P90(50/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x18)@現実、両儀式のナイフ@空の境界
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:朝倉涼子を利用する。
 2:一旦、警察署に向かい武器などを物色する。その後、天守閣の方へと向かう。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?
222創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:53:43 ID:vpUVxE8U
 
223創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:53:45 ID:99PZXEpB
224「曲がった話」― Analyzing Device ― ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:54:22 ID:15CVcQU5

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康。サイドカー運転中
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、
     フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
 1:師匠を利用する。
 2:警察署に向かう。その後、天守閣の方へと向かう。
 3:SOS料に見合った何かを探す。
 4:浅上藤乃を篭絡し、活用する。無理なようなら殺す。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。

【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:気絶。無痛症状態。腹部の痛み消失。サイドカーの横座席。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
0:(気絶中)
1:朝倉涼子と師匠への対処? 朝倉涼子の「協力」の申し出を検討する?
2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。

[備考]
 D−3とE−3の境界付近、地図上のT字路になってる辺りに、
 フィアット・500@現実が大きく捻じ曲がった状態で放置されています。
 とても動かせる状態ではありません。街路樹も折れ、弾痕や空薬莢も残されています。
225創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:54:59 ID:vpUVxE8U
 
226 ◆02i16H59NY :2009/09/13(日) 21:55:40 ID:15CVcQU5
以上、投下完了。支援感謝です。
問題点等ありましたら指摘お願いします。
227創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 22:00:51 ID:vpUVxE8U
投下乙です。
……フィアッーーーーーーーーーーーーーーートォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!!!
よい……よい……車を失ってしまいましたorz

藤乃を篭絡する気かー朝倉w
色々と試しているようだなぁ。
しかし藤乃すら圧倒か…………恐ろしいコンビだ。
圧倒的な強さが鮮明にわかりました。
GJです
228創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 22:03:29 ID:99PZXEpB
チンクチェットがぁ…………orz

あぁ、GJですw 相変わらず師匠と朝倉の傍若無人ルートは止まらないw
でも……今回の犠牲は大きかった……大きかったぁ……w

投下乙だよ!
229創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 22:12:19 ID:iw4KmFcm
投下GJ! フィアットォォォォォ! 無念んんんんんッ!!

朝倉はまた色々と拾っているなぁw
姫路さんはああだったが、さてこっちはどうなるやら。
しかし今回、ハラハラしたなぁ……藤乃の魔眼怖いマジ怖い。
だがそれに挑める師匠と朝倉も同じくらい怖かった。

これからどうなるんだこいつら……。
「怖い+怖い=超怖い」なのか、それとも予期せぬ化学反応が発生するのか……!?
こんな期待を持たせる引きも流石です。乙です!
230創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 23:44:21 ID:BDHNkW7Q
投下乙です!
殺しなさいのくだりは笑ったwお前ら頑張りすぎw
あとキノ風の冒頭やら題名がやったらうまかった。流石すぎる
藤乃は覚醒しそうではあるもののタイムリミットがついちまったかあ、辛いぜ…
というか何気に悠二に死亡フラグがwGJでした
231創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 17:13:00 ID:At6TNoG3
どんどん状況が複雑化してきていい感じw
え〜と、今の所マーダーは誰々だっけ?
232 ◆EchanS1zhg :2009/09/14(月) 21:52:15 ID:J7DmtMFE
予定どおり、放送を投下します。
233第一回放送――(1日目午前6時):2009/09/14(月) 21:53:08 ID:J7DmtMFE
 【0】


Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.


 【1】


終わらせる為の始まりよりもうすぐ四半日。
人類最悪と名乗ったあの狐面の男はやはりか、または意外にと言うべきか、あの場所に座したまま、ただ傍観を続けていた。
固い床に一枚の座布団を敷き、その上に胡坐をかいて物語を読み逃すまいとじぃ……とそれを見続けている。

彼の目の前には”箱”があった。
あの”箱”である。今現在、世界の端という文面を右往左往している登場人物達。彼、彼女達が最初に入っていた箱がそこにあった。
円を描いてぐるりと囲うように並べられていたそれは、今は向きを同じに横に10箱、縦に6箱と積み上げられ一面の壁となっている。
彼、彼女達が覗き込んでいたガラス面を前にし、そして今はそこに世界の端の上での彼、彼女達の姿を映し出していた。

「――ふん」

マルチモニタとなった”箱”を前に狐面の男は息を漏らす。
映像を映し出すガラス面の内、8つ程がすでに登場人物を映すことを止め、ただの真っ暗なものへと戻っていた。
それは、そこに映っていた者の物語が潰えたという意味で、そして今また彼の目の前でひとつのガラス面が色を落としてしまう。

「確かに多少は煽りはしたが、しかし俺は生き残れと言ったのであって、生き急げと言ったわけではないのだがな。
 蜘蛛の糸――か。ふん。
 最近の若い奴らは専らライトノベルばかりで芥川龍之介なんかは読まない、か。尤も、俺もあんなものを面白いとは思わんがね」

狐面の男はぐるりと登場人物達の生き様を見渡し、ふむと頷く。
悲しみに暮れる者。今は安堵している者。切羽詰っている者。そうでない者。すでに死んだ者を含めて、それ相応の物語がそこにあった。

「しかしまぁ、ただ読ませてもらっているだけの身としては退屈することもないが故にここは奴らに感謝すべきところか。
 尤も、いつかは頁を捲り終える時が来るならば、その過程がどうであろうとも同じことではあるが――」

いくつかのガラス面がぱぁ、と明かりを強くする。世界の端に初の夜明けが来たのだ。
真白い朝日は登場人物達と世界をくまなく照らし、そしてそれはモニタを通して世界の外で傍観する狐面の男の元へと届く。
狐面の男は着物の袖を捲くると細いがしっかりした腕に巻かれた時計を確認した。
後、秒針が何周かしたら午前6時。つまり、これから彼が持つ唯一の仕事である放送の、その第一回目が始まるということである。

「約束を反故にする理由もなければ面倒というわけでもない。
 ただ少しばかり億劫ではあるが、どうせやらねばならんことならどちらでも同し。となれば、やはりサボる理由はないか」

狐面の男は久しぶりに立ち上がり、その長身痩躯にモニタの光を浴びる。
見れば、モニタの中の人物達も何人かは彼の放送を待ちわびているようだった。

さて、では、丁度6時を迎えるということで狐面の男は放送を開始しようとし、それに、気がついた。

「……おいおい。初っ端から面倒なことになっちまいやがったな」



アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。彼女を映す窓が消える間際の蝋燭の火のようにチラチラと、明滅し始めていた――。


 【2】
234創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 21:53:45 ID:X+pXL/MW
235第一回放送――(1日目午前6時):2009/09/14(月) 21:53:56 ID:J7DmtMFE
第一回放送――(1日目午前6時)


『――聞こえているか? 言ったとおりに放送を開始する。
 今回も俺は同じことを繰り返し話したりはしないので聞き逃しをしないようよく注意しておけよ。

 では、お待ちかねの耳を閉じたくなるような脱落者の発表をしよう――と思っていたが、
 その前に少しだけ別の話をしてやろう。後でもかまわんが、そうなると聞いてもらえるかわからんから先にすることにする。
 まぁこれもお前達にとっては意味の薄くない情報だ。内容の吟味は任せるが、取り合えず聞いておくといい。

 さて、その内容とはお前達が少なからず感じている違和感の正体について、だ。
 お前達の中には、普段なら簡単にできることができない。または十全にできない。逆にできないはずのことができる。
 などと感じている者がいることだろう。
 魔法や、超能力や、忍法やら、果てには殺人技術やらとまぁ……そういう少し普通じゃあない部分に関してのことだ。

 出会った他人といくらか話したり、徒党を組みそれを仲間などと称して情報を交換し合っている者達にはすでに自明のことだと思うが、
 この世界の端に集められたお前達にとっての”元の世界”というのは必ずしも同一ではない。
 それぞれが別の世界。つまりは別々の物語でそれぞれの役を演じていた登場人物であったというわけだ。
 だが、そのこと自体については今は深く考える必要はないだろう。
 問題は、別々の世界。物語――文法。故に、そこに齟齬や矛盾が生じるということ。

 解りやすく、この世界をひとつの水槽だと例えるならば、
 今はその中に淡水魚と海水魚と、更には爬虫類やら両生類やらなんかを一緒くたに放り込んでいる状態と言える。
 そのまま放置すれば、それぞれは滅茶苦茶な環境に耐えられず時間を置かずして死滅していまうだろう。
 なので、この世界自体が、お前達全員がそれなりに生きてゆけるようにと調整をしているというわけだ。
 海のものも、川のものも一緒に生きていられるようにと、な。

 その調整の結果。
 特に能力の秀でた……つまりはここにいる中で”異端”と判断されたものはそれを抑えられるということになっている。
 逆のパターンもありえるが、まぁそれらについては心当たりのある者が各自そうだと認識してくれ。

 実際にはそう単純なものではないが、大まかに言うと理屈としてはこんなところだ。
 何が言いたいかと言うと、別に何が言いたいわけでもなんでもない。
 ただ、お前達が無駄なことに時間を費やさないように口を滑らせているだけだ。
 口を滑らすついでにもうひとつだけ言うと――

 ”海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り。”

 ――この言葉の解釈はお前達に任せることにしよう。



 さて、少し喋りすぎたな。そろそろ脱落者を発表してやろう。
236第一回放送――(1日目午前6時):2009/09/14(月) 21:54:38 ID:J7DmtMFE
 ”長門有希”
 ”榎本”
 ”黒桐幹也”
 ”甲賀弦之介”
 ”筑摩小四郎”
 ”吉田一美”
 ”高須竜児”
 ”アリソン・ウィッティングトン・シュルツ”

 以上、8名に加えて、

 ”メリッサ・マオ”
 ”北村祐作”

 この2人を加えて、計10名が今回の放送までの脱落者だ。
 最後の2名については、気付いてはいると思うが配った名簿には載っていなかった登場人物だ。
 必要だと思うのなら各自、名簿にその名前を書き足しておくといい。全く無意味なこと、ではないだろう。

 このように、脱落したならば他と同じように名前を呼ぶ。
 逆に言えば、脱落するまでは名前は伏せておく。
 自分がいることを知られたくない……などと言う者もいる、かも知れないからな。

 では、今回の放送は以上だ。次回は6時間後の正午丁度に行う。
 気が向いたらまた何か解説してやらんでもない。
 何故なら、お前達が無為な事に時間を費やしているのは見ている方としてもつまらないからだ。

 では、縁があったまた会おう――』


 【3】


放送を終え、狐面の男はどことも知れぬ場所で深く息をつく。

「全く、考えてもなかったことをベラベラと喋ることとなってしまった。とんだリップサービスだ」

狐面の男はひとつのモニタを忌々しげに見やる。

「”ギリギリ”……か。それを想定していなかったとは、俺としては考えられんケアレスミスだな。
 とりあえず、今回はなんとか凌いだが……。
 ふん。”気が向いたらまた何か解説してやらんでもない”か。全然、凌ぎきれてねぇじゃねーか……」



アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。彼女を映していた窓は、今は暗く静かに、もう何も映してはいなかった――。
237 ◆EchanS1zhg :2009/09/14(月) 21:55:29 ID:J7DmtMFE
以上、投下終了です。

放送後の話は、この後0時からの予約解禁でいいのかな?
238創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 22:07:26 ID:X+pXL/MW
放送乙ですー。
さあ楽しみになってきたw

スケジュール的にはそんな感じでいいのかな?
239創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 22:22:47 ID:OivqNl2K
かな?どれくらい予約が入るか楽しみだw
240創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 22:34:34 ID:H6nDpmf8
放送乙。ついに放送突破か…

ところでしたらばトップのキャラ、誰?
のいじ絵ぽいからハルヒかシャナのキャラだと思うが…
241創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 23:34:07 ID:DRZKQYOU
放送乙ですー。
狐さんノリノリだなw 1レス越しの長呟きは時間にするとどれくらいか……
それはそれとしてもう少しで合戦か……楽しみだw

>>240
某驚愕が出ないから忘れ去られている佐々木さんじゃないか?w
242創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 23:56:00 ID:H6nDpmf8
>>241
レスさんくす
ハルヒまだ全巻読めてないので今度チェックする
243創る名無しに見る名無し:2009/09/15(火) 22:33:16 ID:hjcOkNDd
放送後、怒涛の予約三連発か…
244創る名無しに見る名無し:2009/09/16(水) 00:32:14 ID:y7pblLQX
4連続目きたー これも波乱必至
245創る名無しに見る名無し:2009/09/16(水) 01:21:26 ID:VnnE2Z7y
どこも楽しみすぎるw
246 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/17(木) 00:53:26 ID:iwqAJC6O
朧、涼宮ハルヒ、いーちゃん投下します。
 【0】


 愛する者は死に候らった。



 ◇ ◇ ◇



 【1】


 たとえばここが法律も倫理もへったくれもないサバンナのど真ん中だとして、罪というものの意味は如何ほどに残るか。
 弱肉強食という環境はたしかに存在する。弱い奴の肉は強い奴に食われるというだけの、わかりやすい環境。
 絶対ではあるけれど絶無ではない。ゆえに強い奴の肉が弱い奴に食われることだって、ないとは言い切れないのだ。

 ここはそんな場所なのだろう。人が人を殺しても許される環境、あるいは人が人を殺さなければ保てない環境。
 環境に罪を問うことは無意味だ。その環境に順応している人間に罪を問うことも、等しく無意味だ。
 さて、ぼくらはこの環境に順応しているのか、抗っているのか。肯定と否定の狭間を、ひたすら行ったり来たり。

 気持ちでは抗っているけれど、受け入れる覚悟はいつでもできている――そんな曖昧な順応の仕方を取っている人間が、大多数だろう。
 この場合、自覚無自覚は関係ない。どちらにしたって死は止められないし、無干渉でもいられないから。
 そういう意味での、《絶対》。環境に抗うと豪語してみせるには、それこそ新しく、オリジナルの環境を作れる《力》でもないと。

 まあこんな戯言、他称止まりの神様には無意味以下の――やっぱり、戯言なんだろうけど。

「…………ひくっ」

 すすり泣く声が、耳の端から入ってくる。
 夜も明けたというのに、聞こえてくる音はすずめのさえずりでもなくこれだ。
 そういえばここって、《参加者》以外の動物は存在しているのだろうか? 野良猫とか野良ねずみとか。

「…………っ」

 すすり泣く声とは別にもう一つ、押し黙る音も聞こえてくる。
 人間が声を抑えたとて、音を消し切ることは不可能だ。どんなに小さくとも、呼吸には音を伴うものだから。
 生きている限りは無音なんてありえない。意識的に静かにしようとしている分、さっきから鼻息の音が聞こえっぱなしだ。

「…………」

 ぼくはすすり泣きもしなければ、押し黙りもしない。
 存在感を薄れさせるという意味での、無音。
 この空間において言えば、ぼくが一番静かだった。
 他の二人とは境遇が違うからこそ、一番でいられた。

 つい先ほど《放送》が始まって、すぐに終わった。
 感想は特にないけれど、事実は確かめることができた。受け入れてもいる。受け入れられる放送だった。

 でも。

 ハルヒちゃんと朧ちゃんにとっては、それは受け入れがたく――《慟哭》と《沈黙》に、反応は分かれた。
 どちらがどちら、というのは言うまでもない。反応はあくまでもそれぞれであって、そこには優劣もなく。
 関係の深さだって、耳にした情報程度しか所有しない第三者のぼくでは、わかりえない。

《長門有希》と《甲賀弦之介》は、どちらにしたって二人の大切な人、ということだけを押さえている。
 その喪失は泣くほどのものか、声を失うほどのものか。尋ねる気にもなれないし、口を挟む気すら起きない。
 ただ……あまり長いことこうしているのは。女の子たちの悲痛な表情をただただ眺めているのは、趣味じゃないや。
 かなうことなら慰めてあげたいというのが心情だけれど、はたしてぼく程度で役者が務まるかどうか。
 ハルヒちゃんのほうは気むずし屋だし、朧ちゃんは纏う悲壮感が尋常でないほどに深刻だし、
 火に油を注ぐだけの結果になるとも限らない。いやこの場合は、決壊寸前のダムに津波をぶち込むようなものか。

「……ふぅ」

 ぼくはわざとらしく、この状況に疲れてしまっていることをアピールするようにため息をついた。
 鬱蒼とした気分をリフレッシュしよう。視線を転じて、ぼくらが身を置くこの部屋を眺め回してみる。
 北西の位置に天守閣を置くこの付近一帯は、土塀が大多数を占める迷路のような区画だ。
 その割にはホールなんてものがあったりするけれど、まあ民家なんて気の利いた休息所は見つかりにくい。
 とはいえ知人を失った女の子二人、道端で泣かれ沈黙されても困る。
 そんなぼくたちが見つけたのは、この《納屋》だった。

 いや、正しくは納屋というより倉、か?
 本来は農村や漁村にあって然るべきものなんだけれど、平たく言ってしまえば用途は物置なんだし、ぼく的なイメージは納屋だ。
 桑や米俵、壷に入った塩、壁際には鉄製の拘束具みたいなものまで置かれていたが、ひょっとしたら拷問部屋だったりもするのだろうか。
 こんな陰気な場所、早々誰かに見つかるってこともないだろうけど……あまり長居はしたくないな。

 長居をする理由だって、本当はないはずなんだ。
 なら、どうしてぼくはここにいる。
 どうしてここに、居続けようとする。
 なにがぼくを、この場に繋ぎ止める――?

 しばらく手元の時計だけを眺めていると、朧ちゃんがゆっくりと立ち上がった。
 顔を俯かせた危なっかしい体勢で歩き出し、ぼくの横を通り過ぎる。
 ぼくやハルヒちゃんが《どこに行くのか》と問いかけるよりも先に、

「しばし一人に……してください」

 と言って、朧ちゃんは納屋を出て行ってしまう。
 なにも言うことができなかった。なにを言ったところで彼女は止まるまいと、そう思えた。

 それにしても、《しばし一人にしてください》か。
 しばしっていうくらいだから、ここへも戻ってくる意思があるんだろうけど。
 戻ってきたところで、コンディションが回復しているかどうかは定かじゃないわけだ。
 一人になることについて、いろいろ不安や懸念はある。
 でも今は精神面の回復を優先するべきだろうから、本人の意思は尊重させたほうがいいに違いない。

 少なくとも、ぼくが朧ちゃんに踏み込めるのはここまでだ。

 では、ハルヒちゃんはどうだろう?
 涼宮ハルヒ。自称神ではなく他称神。古泉一樹が言ったとおりの神っぽい力を持つ女の子。
 今回死んだのは、そのハルヒちゃんの友達。SOS団の団員、長門有希。それはもう、身内中の身内だ。
 自分の精神を保つのにいっぱいいっぱいで、他人にまで気を配っていられないというのが妥当なところだろうか。
 朧ちゃんが出て行っても、ハルヒちゃんはなにも言わなかった。あのハルヒちゃんがだ。
 これを一樹君が見たらどう思うだろうか。彼の望む方向性と比べて、差異はどれほどにあるというのか。
 少なくとも、現在の環境がなに一つ変化していないことを鑑みれば、《まだ足りない》ということなのだろう。
 だとしたらどれくらい足りないのか。ぼくってやつは、二人きりになったところでそんなことばかり考えてしまう。

 本当に、ろくでもない。
 けどここで思考をやめるのは、もっとろくでもない。
 ヒトデナシよりはロクデナシを選ぶさ。少なくとも、こういった環境では。

 だから考えようか。

 長門有希だけで足りなかったというのなら、誰なら足る?
 キョン、みくるちゃん、古泉君、朝倉――誰がなにをどれだけ与える?
 不足分を埋めるための式は、今のハルヒちゃんの様子にこそ表れているんじゃないか?

 と、

「戯言だな」

 ぼくは言った。そしてもう一つ、言う。

「――有希ちゃんは、誰に殺されたんだろうね」

 体育座りで塞ぎこんでいたハルヒちゃんが、じとりとぼくの顔を見やった。
 今まで目も合わせようとしなかったのに、急に睨んできたのだ。
 そりゃ、そうなるだろうけど。

「……有希が、誰かに殺されたっていうの?」
「そりゃそうだろう。ここで自然死や事故死なんてのはありえない。さっきの十人の死因は、他殺一本で縛れるよ」
「自殺って線もあるでしょ。それに、事故死だってないとは言い切れないじゃない。交通事故なんかはないにしても、転落死とかさ」

 ごもっともで。それに気づけるくらいには冷静なようだ。
 それでいて、有希ちゃんが誰かに殺されたという事実を否定したいという気持ちも、わずかながらにある。

「これはちょっとした疑問なんだけどさ、有希ちゃんは誰かに恨まれてたりとか……もしくは、恨まれるような性格だったりするのかな?」
「はぁ?」

 カエルを押し潰したような表情で、ハルヒちゃんはぼく睨んだ。ここまでくると、せっかくの美少女が台無しだ。

「馬鹿なこと言わないで。有希は我がSOS団が誇る優秀な団員よ。恨みとか、殺されるとか、そんなわけ……あるはず、ないじゃない」

 ハルヒちゃんは過去形にしなかった。
 語調が徐々に弱まっていったのは、別に思い当たる節があったからではないのだろう。
 認めたくないから。どこかでまだ、信じ切れていないから。だから言葉にするのに抵抗を感じる。

 でもだとしたら、それはおかしな話なんだよハルヒちゃん。
 なにせきみが望むなら、長門有希は死んでいないと――そう断ずることだってできるはずなんだから。

 絶無ではないが絶対ではあるこの環境において、涼宮ハルヒの《力》は如何ほどに意味を残すのか。
 ぼくは今、見極められる境遇に、立っているのかもしれない。
250創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 00:59:25 ID:Hj5rLXMB
 
251創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:01:04 ID:Hj5rLXMB
    
「あー……もう!」

 ハルヒちゃんは唐突に声を張り上げ、そして立ち上がった。

「なんでそう、暗い話をしなくちゃならないのよ。なに? あんた、さっきの放送に不満でもあるわけ?」
「不満というよりは疑問かな。どうにもぼくには、あの人類最悪の言っていることが疑わしくてね。《世界の端》の件も含めて」
「あいつが嘘をついているとでも言うわけ? 有希や、朧ちゃんの言う《弦之介様》は、実は死んでいないとでも?」
「そこまでは言わないけどね。ただぼくたちには、《信じない》という選択肢もたしかにあるっていう話だよ」

 そう――信じられない、信じたくない、そう思うなら信じなければいいだけなんだ。
 一樹君はハルヒちゃんのことを、妄想癖の強いメンヘラ少女みたいに言っていたけれど、とんでもない。
 この娘は人並み程度には現実を見ているよ。与えられた事実を真っ向から否定してみせるほどの子供っぽさは、ない。

 認めたくなんてないのに、認めてしまっている。
 無知ではいられない大人としての性質。ハルヒちゃんの場合は、無自覚か。
 それははたして、《無為式》と呼ばれたぼくとどっちがマシなんだろうな――なんて、これこそ戯言。

「とにかくね、いー。あんたが考えているような怨恨の線、あるわけがないのよ。
 ここはミステリー小説の世界でも、二時間ドラマの世界でもないんだから。そんなのに意味なんてないの。
 恨みとかなくたって、人が人を殺す理由はちゃんとある。有希だって、そんな傲慢な考えの人間に襲われて――」

 ああ、この娘は本当に聡明なんだな。無自覚なのではなく、能ある鷹が爪を隠している可能性もありうるのか。
 人が人を殺す理由。サバンナで強者が弱者の肉を食らうのと同じ真理。それがあたりまえとなっている環境。
 あるいは、あたりまえとしてしまっているのはこのぼくたちなのか。どちらにしたって、ミステリーは不成立。

《この鹿の肉はどの群れのライオンに食べられたのか》なんて謎、解く意味もなければ興味をそそるテーマでもない。
 ただこの場には、骨となった鹿と同じ群れに属していた《神》がいる。
 神は鹿をどう悼むのか、鹿を食べたライオンをどう処罰するのか、答えはここに、諦観という形で出てしまっている。

 ぼくが言うのもなんだけれど。
 本当に、ぼくなんかには相応しくもない言葉だと思うけれど。
 ハルヒちゃん。
 きみって――案外、薄情な奴なんだね。

「――なんにしても、ね。あたしは立ち止まるつもりなんてないわよ。止まったって意味なんてないもの。
 あんたもいつまでも俯いていないで、自分の足で立ちなさい。階段なんて三段飛ばしで駆け上がる気構えよ!」

 ぼくの脚はそんなに長くない。
 しかし、呆れるくらいにわかりやすい空元気だ。
 これは他人に弱味を見せまいとしているからだろう。ぼくがいなければ反応も変わったのかもしれない。
 友達の死に泣き崩れる涼宮ハルヒ――想像できないってほどでもない。根は少女だからね、この娘も。
253創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:02:49 ID:Hj5rLXMB
 
 
 
254創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:03:50 ID:Hj5rLXMB
 
   
「はいはい……で、その立ち止まらない足で、きみはどこに向かうのさ? 有希ちゃんを殺した犯人でも捕まえにいくのかい?」

 ぼくがそう言うと、ハルヒちゃんはあからさまに不機嫌そうな顔を作った。
 鋭く尖った嫌悪感が、むしろ清々しい。素が美人だから、睨まれるのもそう悪くない。

「……あんた、そういう種の冗談を平気で口にする人間なわけ?」
「冗談はあまり言わないな」

 戯言は言うけど。

「あいにくだけど、あたしはあんたが思い描いているような人間に納まる気はないの。
 それともなに、あたしがあんたの前でシクシク悲しんでいたとして、あわよくばそれを慰め取り入ろうっていう魂胆?
 だとしたらとんだ悪趣味ね。軽蔑に値するわ。というか、これ以上あたしを怒らせないで」

 残念、ぼくは慰めるより慰められるほうが好きなんだ。
 怒られるのも実は嫌いじゃない。もちろん相手は選ぶけどね。

「じゃあさ、ハルヒちゃん。きみは有希ちゃんを殺した犯人を――許せる、そう言うのか?」

 これは突き刺さる怒気の針を、抜き取るための所作。
 ぼくの質問に対して、ハルヒちゃんは怒ることをやめる。
 怒ることをやめて、それで別の感情が表に競り上がってきたわけでも、ない。
 その瞬間、《涼宮ハルヒの感情》という世界は静止したのだ。

 友人を殺した人間について考えないこと――それはとても勇気ある行いだと、ぼくは思う。
 感情を抑制して、きっちりと物事の分別をはかれているということだから。
 決して悲しんでいないというわけでも、恨みを抱いていないというわけでもない。
 ただ単に、我慢しているだけ。自分を保つために必要な、ハルヒちゃんなりの我慢なんだ。

 ぼくは、その奥底が知りたい。
 無自覚を責める気はないが、少しは自覚してもらわないと困るんだ。
 だからぼくは――きみに期待する。

 数秒の静止の後、ハルヒちゃんは乱暴に髪を掻き毟ってから、億劫そうにぼくを見た。
 怒気はやはり消えている。代わりに凍てついた、蔑みの色が瞳に宿っていた。

「あんたがこんなにも話しててつまらない男だとは、思わなかった」

 そりゃまた随分と買いかぶられていたものだ。
 ハルヒちゃんはぼくに対しての興味をなくしてしまったのか、気だるそうに納屋の出入り口へと進む。

「どこに行くのさ」
「朧ちゃんを迎えに行くのよ」
「迎えに行ってどうする。慰めでもするのか?」
「うっさい」

 見事に一蹴されて、ぼくは彼女の後ろ姿を見送る。
 これ以上突っかかろうものなら、肉体的な制裁が飛んできそうだった。
 出入り口は引き戸になっている。
 立て付けが悪いのか、戸はハルヒちゃんの我武者羅な力加減にガタガタと揺れ、悪戦苦闘の果て豪快に開け放たれる。
 どこぞの誰かさんみたいに、《開かない扉は蹴破ってしまえ》と考えないのがまた、彼女の比較的まともな部分だ。
 いや、内心は考えていて、ただそれを実行に移さなかっただけなのかもしれないが。

 さて、それはそれとして戸は開けられたわけだ。
 戸の先には当然、外の光景――朝を迎えた明るい世界が広がっている。
 その世界に、朧ちゃんは颯爽と君臨していた。
 両手に刀を握り、これを上段に構えて。

「――えっ?」

 声を漏らしたのはハルヒちゃんだった。彼女もまさか、納屋を出たすぐそこに朧ちゃんが立っているとは思わなかったのだろう。
 一人にして欲しい。ぼくたちにそう言ったのは朧ちゃんで、それを無言で承諾したのはぼくとハルヒちゃんだ。
 一人で出て行った後なにをするつもりなのか。問いも考えもしなかったのも、ハルヒちゃんなのだ。

 ――剣先は真上よりも少しだけ後ろに傾いていて、前ではなく天を突くように。
 ――柄を握る両の拳は額よりもやや上の位置、腕が目線に被らない程度に。
 ――このスタイルは獣の威嚇にも似ている。自らの体を大きく見せようというあれだ。
 ――剣道家の目からはどうだか知らないが、素人の目からすれば見事な上段の構え。

 涼宮ハルヒが驚愕している。
 朧ちゃんが、刀を上段に構えていたから。
 振り下ろしたら刃が触れる距離に、自分が立っていたから。
 朧ちゃんの顔からは涙が消えていて、表情は涙ごと凍っていたから。

「ハルヒちゃん!」

 叫んだのは、ぼくだった。
 座っていた状態から一気に体を持ち上げ、戸の前に立つハルヒちゃんのもとへと一歩二歩、三歩四歩五歩、六歩。
 硬直したまま反応が遅れている体を抱え込み、ハルヒちゃんごと全身を翻す。
 必然、朧ちゃんにはぼくの背を向ける形になった。

 ハルヒちゃんの正面を捉えていた凶刃は、そのままゆったりと振り下ろされ――ぼくの背中を狙う。
 決して速くなどない、しかしまっすぐで正確な振り下ろし。それが背中に、来た。

「――あっ、ぐ」

 衣服が裂ける音。
 ちくしょう、斬られた。
 痛覚よりも先に音で知ることができた。
 ぼくに訪れる、その場に倒れてしまいたい衝動。
 腕の中のハルヒちゃんだけは巻き込まないようにと、あえて仰向けになりながら倒れた。

 ぼくが倒れて、ハルヒちゃんが立ったまま、朧ちゃんは刀を振り下ろし終えていた。
 わざわざ仰向けに倒れたせいで背中を打ってしまったけれど、おかげでそんな最悪の状況を見渡すことができる。
 幸いにも、朧ちゃんに第二撃目を放つ様子はない。斬ったぼくと、斬りそこなったハルヒちゃんを、交互に見比べている。

「……なに、やってんのよ」

 そんな中で、ハルヒちゃんは声を絞り上げた。
257創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:06:51 ID:Hj5rLXMB
 
  

 
「なにやってんのよ、あんた」

 先ほどまでぼくに向けていた蔑みの眼差しを、そっくりそのまま朧ちゃんに対して転用する。
 眼力に宿っているのは、否定と拒絶と決別の意思。
 よりにもよって、《あの》涼宮ハルヒに対して。
 朧ちゃん――きみはやっちゃいけないことをやってしまったんだ。

「どうして……どうしてこんなこと――!」

 ハルヒちゃんが叫び切るよりも先に、朧ちゃんは脱兎のごとく逃げ出した。不意打ちが失敗しての判断だろう。
 斬られたぼくが言うのもなんだが朧ちゃんの太刀筋は素人のそれだったし、ハルヒちゃんには殺傷能力抜群のクロスボウがある。
 正面切手の殺し合いは不利。ハルヒちゃんの決意やら覚悟やら腕前やらはどうあれ、朧ちゃんはそう判断したに違いない。

「なんだってのよ……っ」

 ギリッという音が聞こえた。ハルヒちゃんの歯軋りだ。
 悔しそうに、心底悔しそうな表情を浮かべて、朧ちゃんの後背を見つめる。

「追わないの?」

 なにげなく、ぼくは訊いてみた。

「怪我人放っておくわけにもいかないでしょ」

 さも当然と言わんばかりに即答して、ハルヒちゃんはぼくのほうを見やる。
 ああ、そうか。ぼくが斬られたから。心配で追いたくても追えないってわけか。
 うん、やっぱり冷静じゃないかハルヒちゃん。それでいて見事にツンデレだ。

「こんなつまんない男の怪我、放っておいてくれていいのに」
「つまんないこと根に持たないでよ」
「つまんない男ですから」

 殴られた。

「とにかく傷口見せて。荷物の中に包帯やらなんやらがあったはずだから、応急手当くらいなら今ここで……」
「それよりもさ、ハルヒちゃん。さっきの質問、もう一度繰り返させてもらっていいかな?」

 強引に。
 ハルヒちゃんの優しさを振り払って、訊き直す。

「今度は《有希ちゃんを》とは言わない。きみは――人を殺す人を、許せるのかい?」
 そして、また。
 またまた、《涼宮ハルヒの感情》という世界は止まってしまう。

 問い――おまえは人殺しを許せるか?

 ある者にとっては、戯言中の戯言。
 人殺者の是非を問う愚かしさ。
 傑作と笑い飛ばされそうな、ばかばかしさ。
 それでも、涼宮ハルヒを止めるスイッチにはなってしまう。
 停止のスイッチと再動のスイッチは同じ。
 スタートもストップもリスタートも、これ一つで賄える。

 ハルヒちゃんは数秒、迷う仕草をして、今度こそはぐらかさずに答えるのだろう。

「――許せるわけないじゃない」

 言った。
 言い切った。
 言い切りやがったよ。

 まったく。
 なんていうおひとよし。
 ぼくはなんていうろくでなし。
 薄情だなんてとんでもない、前言は撤回だ。

 一樹君から崇められる無自覚神様、涼宮ハルヒ。
 神であるよりもまず、SOS団団長であることを自覚する少女。
 その心根は純真すぎるほどに――友達想いだ。

「あたしはね、いー。SOS団の団長なのよ。団長が団員の心配をするのは当然ってものでしょう?」

 これは体裁。

「だからこそみくるちゃんや古泉君やキョンのことが心配だし、有希を殺した奴は絶対に許せない」

 これは表面。

「どんな理由があったってね……人を殺す奴は最低よ。ちゃんとした法の下で裁かれるべきだわ」

 これは内面。

「けどここに法の裁きは適用されない。裁くべきか裁かざるべきか、裁くべきだとしたら――」
「あたしが裁く」

 これが奥底。
260創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:09:22 ID:Hj5rLXMB
 
 
   
261創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:09:35 ID:t/ogNofD
「有希を殺した奴とは、いずれケリをつけてやるわ。それが、あたしの務めだから」

 強い意志。
 屈強な精神。
 粋な団長意識。
 並外れた行動力。

 わがままで、傲岸不遜で、夢見がちだったとしても。
 きみはどうしようもないくらいに人間だ。素晴らしい種の人間だ。
 ぼくみたいな欠陥製品と並べたら、ほら――こんなにも輝かしい。

「いずれっていうことは、《まず目先から》っていうことと取って構わないのかな?」
「もちろん、朧ちゃんだってこのままにしちゃおけない。無理やりにでもあんたの前に引っ張ってきて、謝罪させてやるわよ」

 ハルヒちゃんにとって、SOS団の仲間たちは大きすぎる存在なのだ。
 かといって目の前のことを蔑ろにしてしまうほど、彼女は盲目でもない。

「《弦之介様》を探してあげるっていう約束は、もう果たせないけど。そこでぷっつり縁が切れるだなんて、あたしは認めないわよ」
「……ハルヒちゃんは、どうして朧ちゃんがぼくたちを襲ったのかわかるかい?」

 流れは動機の話へ。
 少なくとも、朧ちゃんとのファーストコンタクトは誰の目から見ても穏便に経過したはずだった。
 それがなぜ、今になって。いや、今になったからこそなんだろうけど、ハルヒちゃんはそれをわかっているのだろうか。

「……そんなの、わかんないわよ」

 それは、わかっているのにはぐらかしているのか。わかれるはずなのにわかろうとしないのか。
 はたまたわかってはいるけれど理解はできないから言葉という形で認めてしまえないのか。
 まあ、有希ちゃん殺しの件について《復讐》やら《仇討ち》やら《野郎、ぶっ殺してやる》やらの単語が出ないところを見ると、本当にわからないのかもしれないが。

「いー。あんたにはわかるっての?」
「わかるさ。わかりたくなくてもわかっちまう」

 ぼくは言った。

「朧ちゃんはね、ただ単に八つ当たりしたいだけなんだよ」

 ハルヒちゃんがきょとんとする。
 今度はカエル顔ではない。小首を傾げるという、いかにもな美少女のポーズできょとんとしている。

「弦之介様が逝ってしまわれた。とても悲しい。どうして弦之介様は死なれたのか。どうしてこいつらは生きているのか。
 ああ忌々しい。弦之介様ではなくこいつらが死ねばよかったのに。忌々しい、忌々しい、忌々しい忌々しい――ってね」
「なにが《ってね》よ。朧ちゃんがそんな短絡的思考に陥るばかだっていうの? あんたの妄想でしかないじゃない」
「短絡的思考に陥るんだよ。あれだけ慕っていた人を亡くしたんだからね、そりゃそうさ」
263創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:10:40 ID:stPKdQGr
264創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:11:25 ID:stPKdQGr
265創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:12:04 ID:Hj5rLXMB
 
 
266創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:13:22 ID:t/ogNofD
267創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:13:30 ID:Hj5rLXMB
   
《弦之介様》のことを語る朧ちゃんの様子は、それはそれは楽しそうだった。
 語るのは美点ばかり。伴う表情は笑顔ばかり。そこに恨みや妬みがあろうはずもない。
 誇らしげに、まるで恋する乙女のように、男を語る女――ったく、なんて戯言だよ。

 鈍感なぼくにだってわかるぞ。
 朧ちゃんは、《弦之介様》が好きだったんだ。
 そしてその想い人は、死んだ。
 意味なんて一つじゃないか。

「でも、だからって……それであたしたちを、襲う?」

 ハルヒちゃんは確かめるように訊いてくる。
 この娘、やっぱりわかってるな。考えてみれば、ぼくにわかってハルヒちゃんにわからない道理もないか。

「襲うね。少なくとも、ぼくだったら襲う。朧ちゃんにとって、《弦之介様》との再会は最重要課題だったんだ。
 それが果たせなくなったとしたら、もうどうでもよくなる。一以外の数字は目にも入らない。てっぺんしか見えていない。
 朧ちゃんはさ、最初からぼくたちを殺す覚悟があったんだと思うよ。弦之介様を生かすためなら、それくらいやってのけた。
 でももうその行為に意味はなくなってしまった。だからといってやらないとは言い切れない。もう朧ちゃんは、正常じゃないから」

 あの人の名前が呼ばれたら、きっときみは、ぼくたちを裏切るのだろう――。
 間違っちゃいなかった。予想どおりではあった。けどその裏切りは安易すぎた。

 優先順位の頂上が脆くも崩れ落ちる。
 人は次点の目標に意義を見出せるだろうか? 答えは否だ。
 最優先に置かれるからにはそれ相応の意味がある。他じゃ賄えない絶対の意味が。

 誰だって、大概はそうだろうさ。ぼくだって同じ。
 朧ちゃんとぼくの境遇を重ねてみたら、はっ、重ねるまでもない。
 ハルヒちゃん。ひょっとしたら、きみに斬りかかっていたのは――ぼくかもしれなかったんだよ。

「じゃあ朧ちゃんは、これから先……ここで、なにを――やるつもりだと思うのよ?」
「さあ?」

 さて。
 朧ちゃんは逃げた。
 逃げた先で、いったいなにをするのだろう。
 ぼくたちに対して反撃の機会を窺うか、別の標的を探すのか。
 まだ生きているかもわからない甲賀弦之介の仇を探してさまよい歩くのか。

 どう転んだって、ろくでもないことになるんだろうな。
 環境に支配されるならともかく、怨恨絡みの殺意なんて本当にろくでもないよ。
 そんなろくでもないことに付き合ってやる義理はないんだけど、ないんだけどさ。
269創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:14:34 ID:Hj5rLXMB
     


 
270創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:14:36 ID:t/ogNofD
「ぼくにはわからないよ。けどハルヒちゃん。きみは《さあ?》で終わらせるつもりでも、ないんだろう?」
「あたりまえでしょ。前言を撤回するつもりはないわ。朧ちゃんは、絶対にあんたの前に連れてくる」

 涼宮ハルヒに曇りはなかった。
 それにしても、《団長》か。なるほど確かに、彼女には相応しい称号だ。
 仮とはいえ、ほんの数時間程度の付き合いとはいえ、こうも甲斐甲斐しく《団員》の面倒を見ようとしているのだから。

「いー。あんたはここで大人しくしてなさい。いい? 動いちゃだめよ。もし勝手に動いたら、死刑だからね!」
「了解です、団長」

 ぼくは言って、ハルヒちゃんは駆けて行った。
 走りながら、クロスボウを装備している様子が見えた。
 一戦交える気なのだろうか。はてさて朧ちゃんをどう罰するつもりか。

「死刑、ね」

 絶対ではあるが絶無ではないこの環境、法の裁きなんてないものだと思っていたけれど、案外言い切れないかもしれない。
 断罪の意思は誰もが持っているとして、執行権を持っているのはハルヒちゃん、おそらくきみだけだ。

 だとしたら、あれ、なんだ?
 涼宮ハルヒは神なんかではなく、《裁判官》か?

「うん、素晴らしいくらいに戯言だ」

 戯言続きの朝だった。



 ◇ ◇ ◇


272創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:14:49 ID:stPKdQGr
273創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:15:27 ID:t/ogNofD
274創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:15:53 ID:stPKdQGr
275創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:16:03 ID:Hj5rLXMB
   
 
 【幕間 彼女と彼の会話】


「きみは人の死というものに対しどれだけの感慨を得られるというのかね?」

 いきなりそんなこと訊かれたって、答えられるはずもない。
 そうね、とりあえず《ご愁傷様》とは思うでしょうね。喜んだりはしないわ。誰だってそう。

「いや、そうとも言い切れないよ。きみは知らないだけかもしれないが、人の死に喜びという感慨を得る人間は少なからず存在する」

 あ、そう。で、だからなに?
 質問の対象はあたしであって、その少なからず存在する誰かさんじゃないわけでしょ?
 ならあんたの言ってることはこの質問には関係のない戯言よ。

「まあ、それはそのとおり……そういえば、きみはごくごく最近、人の死に直面したことがあったね。たしか夏のことだ」

 そういやあったわね、孤島での殺人事件が一件。
 なんであんたがそんなこと知ってるのかしらないけれど、あれって結局はお芝居だったのよ?
 殺されたと思っていた人は実は生きていたわけだし、こんなところで思い出す話題でもないと思うけど。

「それでも考察の材料にはなるだろう。たとえばきみはその殺人事件の折、死体を見てどんな表情を浮かべただろうか。
 驚愕か? 悲哀か? それとも《待ってました!》だろうか? あのときのきみは少なからず事件を望んでいただろうしね」

 ふざけないで。

「ならきみは、本当は殺人事件など望んではいなかったということだろうか。嬉々として推理にあたっていたというのに?
 いや、《所詮は他人事》とその程度の感慨しか抱いていなかったからこその探偵ごっこか。
 ではあの夏の日、殺されたのが身内の人間であったならばどうだろうか? きみはおそらく、冷静ではいられなかっただろう。
 今のきみが《先》か《前》かは知れないが、その身内が死の一歩直前に踏み込んだこともあったな。
 三日三晩寝袋に包まってまで看病に努めたのはどこの誰か、そうきみだ。きみはそれだけ怖かったのだ。
 身内の、あるいは彼の、死が、あるいは喪失が、一人残される自分が、あるいは孤独が、きみはどうしようもなく怖かった」

 台詞が長い。

「きみはとても正直な人間だ。死というものに抱く感慨、これもまた正直に出る。
 他人は他人、身内は身内、正直だからこそ差別化も激しいだろうさ。
 さて、長門有希は死んだ。きみは正直に感慨を抱いただろうさ。ずばり、《嫌だ》とね」

 そもそも、あんた誰なのよ。

「ただし、きみは現実を否定するには至れなかった。あれだけの前科、いや実績があるというのに。
 きみの《力》は長門有希の死を否定する方向には働かなかったわけだ。
 どうして……いったいどうしてなんだろうね。こればかりは誰にもわからない。わからないだろうさ。
 わからないが、仮説を立てることはできる。この場ではそうだな、こんな仮説を立ててみるがどうだろう」


 どうだろう、なんて言われたって。


「きみは、  なんかじゃない」


 あたしにだって、わかんないわよ。



 ◇ ◇ ◇


277創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:16:41 ID:stPKdQGr
 【2】


「――見つけたっ!」

 塀に囲まれた迷路のような区画を抜けて、あたしは堀の際に立つ朧ちゃんの姿を発見した。
 手にはまだ凶器が、いーを斬った刀が握られている。
 朧ちゃんはあたしの声に気づくと、ぐるり、とまるでからくり人形のようにこちらを振り返った。

 ――見ているだけで吸い込まれそうな、瞳。

 初めて朧ちゃんを見つけたときも、目が印象的だった。
 外人みたいに瞳の色が違うってわけでもないのに、どうしようもなく目がいってしまう。
 その黒と白で彩られた瞳には、なにか人の注意をひきつけるような秘密でもあるのかもしれない。

「…………」

 あたしと目を合わせても、朧ちゃんは無言だ。
 なにを思い、なにを考えて、こんなことをしているのか、あんなことをしたのか。
 仮にいーの言うとおりだったとしたら、あたしは朧ちゃんを許すことはできない。

 その手に握った刀を放さない限りは。
 あたしだって、このクロスボウを手放したりはできない。

「なんで追われてるのか、それくらいはわかるわよね――朧ちゃん」
「…………」

 朧ちゃんは表情を変えなかった。あたしが正面からクロスボウを突きつけても。
 そういや、いーと出会ったときもこんなシチュエーションだったわね。
 あのときのあたしは、引き金を絞ることができなかった。けど、今回ばかりは違う。

「返答しだいじゃ撃つわよ」

 言葉を投げかけるよりも先に、あたしはそう前置きした。
 対決する覚悟を示して、それでも朧ちゃんの表情は変わらない。

「まずは説明。なんでいーとあたしを襲ったのか。そこから話してちょうだい」

 無言。初っ端から無言。朧ちゃんはまるで悪びれた風でもなく、無表情。
 あたしは少しだけカチンとなり、引き金に込める力を強めた。

「喋んなさいよ。これは警告のために構えてるんだからね。どっちが速いかなんて、一目瞭然でしょ?」

 朧ちゃんとあたしの距離は優に十メートルほどはある。もちろん、間に遮蔽物はない。
 これの有効射程距離は三十メートル。届くという意味では過不足ないけれど、近すぎても問題、そういーは言っていた。
 だからなに、と今のあたしならそう返すだろう。

 もし近すぎるがゆえに矢が外れて、その間に朧ちゃんが迫ってきたとしても、そのときは徒手空拳でやってやろうじゃないの。
 次の矢を装填する必要なんかない。聞き分けのない団員は殴ってわからせてやるんだから。そう、だから。
279創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:17:55 ID:Hj5rLXMB
 
 
280創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:17:58 ID:stPKdQGr
 だからあたしに、引き金を絞らせないで。
 無言を、今すぐやめて。

「喋りなさい。これは団長命令よ。あなたはSOS団に仮入団を果たした仮団員なわけだから、団長の命令には絶対服従」

 朧ちゃんはそれでも無言。刀を握ったまま、口を閉ざしたまま、あたしと見つめ合ったまま、動かない。
 和服が似合う可愛い女の子――それこそ、まるで日本人形のような。本当はこれ、元から動かないんじゃないかって思えるくらい。

「……ねぇ朧ちゃん。あたし、無視されるのが嫌いなの。説明が難しいようならまず、なにか反応の一つでもしてみなさいよ」

 朧ちゃんの一挙手一投足を注意深く観察する。それにしたって動きはないっていうのに。
 あたしの言葉なんかてんで無意味。朧ちゃんの口を動かす魔法になんかならない。
 ああもう、嫌になる。

「……っ」
「…………」

 クロスボウの意味も、刀の意味も、これじゃありゃしない。
 黙って黙って、黙りこくって、それで黙りとおせると思ってるなんて、考え方が子供っぽいのよ。
 時間はなにも解決しちゃくれないし、巻き戻ったりもしない。ただ無為に過ぎていくだけ。
 有希も弦之介さんも死んじゃったけどさ、あたしたちはまだ生きてるのよ? 明日があるのよ。
 こんなとこで時間を無駄にしていいわけがないでしょ。ただでさえあたしはSOS団の団長なんだから。
 今頃みんなはどうしているのだろう。みくるちゃんなんて、絶対にぴーぴー泣いてるわよ。
 古泉君やキョンだって、平静ではいられないはず。有希が死んじゃってSOS団の内部はガタガタ。
 本当にもう、どうしてくれるっていうのよ。惨事だわ、ええ、大惨事よ。ホント、嫌になる……。

「――っ、なにか喋んなさいよっ!」

 呆れるくらいの無言。嫌気が差すほどの無言。声を忘れてしまうほどの無言。
 無言なんて声帯の無駄遣いよ。沈黙はなにも生まないし価値もない。忌むべきは無言。
 無言、無言。無言、無言、無言――無言無言無言無言無言無言無言、無言ッ!

 いいかげんに、しろ! 

「喋ってくれなきゃわかんないじゃない! どうしてあんな真似をしたの、どうしていーを斬ったりしたの!
 弦之介さんが死んだから? もうなにもかもどうでもよくなったから、それであたしたちに八つ当たりしてやろうって!?
 ふざけんじゃないわよ! こっちは親切心であなたに協力してあげたっていうのに! SOS団への入団は申請却下よ!
 それにあたしだってね、有希が死んじゃっていろいろ胸に溜め込んでるんだから!
 黙ってれば許してもらえるだろうなんて、そんな魂胆でいる誰かさんには付き合ってられないのよ、ねえ!」

 ……違う。
 本当は、こんなことが言いたいんじゃないの。
 あなたとお話がしたいのよ。
 でもそっちが喋ってくれなきゃ、なにも話せないじゃない。

「なにも話さないっていうんなら、それでもいい! とりあえず抵抗できなくしてから、いーの前に引きずり出す!
 そんでもってあたしたちに斬りかかったことを謝罪させるから! 団員同士のいざこざは、ご法度なんだからね!」

 困っている人は、助けるのが道理。そしてそれは、あたしのスタイル。
 最初はそんな、軽い気持ちだった。放送の後になったら、もう見ていられなくなった。
 あたしはおひとよしなのかもしれない。そんな自覚はなかったけれど、ここにきてそう思う。
282創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:19:24 ID:stPKdQGr
 ああ、もう、面倒くさい。
 あんな刀がなんだっていうのよ。怖がってらんないわよ、あんなの。
 あたしはクロスボウを放り捨てて、自らの足で前に進む。
 相手がなにを持っていようが関係ない。
 ひっぱたいてその腕引いてやるんだから。

「一緒に来るのよ、朧ちゃん」

 何歩か踏み出して、
 そう告げて、
 やっと気づいた。

 いつの間に、だろう。
 朧ちゃんの表情は変わっていた。
 無表情ではありえない、くらい。

 笑って――ううん。

 口元を緩めて、眉を落として、瞳から威圧感を消して。

 嗤って、いた。

「朧、ちゃん……?」

 その、次の瞬間だった。
 ずぶり。
 そんな音が耳に入ってきたのは。

 我が耳を疑った。
 だって、ありえないもの。
 距離はまだ、こんなにも離れている。

 なのになんで――刺さって、



 ◇ ◇ ◇


284創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:20:15 ID:stPKdQGr
285創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:20:22 ID:t/ogNofD
286創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:20:40 ID:Hj5rLXMB
   
287創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:21:31 ID:stPKdQGr
288創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:21:31 ID:t/ogNofD
289創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:22:24 ID:stPKdQGr
290創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:22:53 ID:Hj5rLXMB
     
291創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:23:21 ID:stPKdQGr
 【幕間 彼女と彼女の会話】


「朧よ。おまえは伊賀鍔隠れ衆頭領の娘でありながら、ついになんの忍法も身につけなんだふつつかな子じゃ」

 いつの日だったか、お婆様はそう申されました。
 返す言葉もございませぬ。わたしは伊賀鍔隠れ衆においても一等のおちこぼれ。
 剣を振れぬ、闇に忍べぬ、技を放てぬ、人を殺せぬ、敵を討てぬ、それどころか同胞の者すら穢してしまう。……

「ただ……そなたの目のみ、生まれついての不思議な力を持っておる」

 わたしの目。
 生まれ持っての破幻の瞳。
 如何な忍法とて打ち消してしまう、滅びの術。

「それは忍法ではない……婆が教えたものでもない……婆はその目が……おそろしい……」

 伊賀鍔隠れ衆の中で、誰がこの瞳を好いてなどいましょうか。
 忍法破れるは忍者にとっての致命傷。大敵は身内にこそ有りと、自覚できぬ彼らではありますまい。
 わたしが伊賀鍔隠れ衆頭領の娘でなければ、討たれたとて文句は言えぬ身の上。……わたしとて、この目が忌々しい。

「おまえのその目は、いつか鍔隠れを滅ぼす……その内から、禍の根幹となろう……」

 もう、手遅れなのですお婆様。
 このわたしはもはや、鍔隠れ衆とは言えぬおおばかものなのです。

 陣五郎の術を破った。
 小四郎の術を破った。
 天膳の術を破り伊賀を滅ぼした。

 わたしは伊賀永年の繁栄よりも己の恋を取り――そして、破れたのです。
 この目が仲間の忍法を打ち破るがごとく、己が命すらも。

「ふびんや! しょせんは星が違うたか……」

 いいえ、不憫などではありませぬ。
 この身は弦之介様に捧げるが星のさだめ。
 わたしはあの方に斬られ命を落とすのです。
 そのためならば、たとえ鬼にもなろうと。
 それが今のわたしの本望にして本懐。

「斬られるために生きるとは……恋うた男はそれほどか。さすれば朧よ、その破幻の瞳……このときばかりはおまえに味方しようぞ」

 わたしの目が、わたしの力になると仰られるか?
 長らく忌んできたこの目が、弦之介様への想いの助けとなりましょうか?
 お婆様。それは戯言(たわごと)が過ぎますぞ。――
293創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:24:42 ID:stPKdQGr
294創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:25:10 ID:Hj5rLXMB
     
 
295創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:25:24 ID:stPKdQGr
「否! 朧の瞳が破るは忍法のみにあらず! 幻を! 魔を! 異を! 神を! 戯言とて破ろうぞ!」

 神を、そして戯言を……と?
 お婆様、わたしの目はなにを見据えようものですか。
 わたしにはわかりませぬ。なにを見、なにを見なければよいのか。

「見えるものを見れば良い! これぞ忍法・戯言破り――神すら落とし至る破幻の秘術なり!」



 ◇ ◇ ◇



 【3】


 朝焼けの光を投じた堀、水のたゆたう様のなんと美しいことでしょうか。
 黄昏色とはいくまいが、あの日あのときの安倍川を思い起こさせるには十分。
 伊賀の朧が一度は死んだ土地。水辺にて葬られしこの身が、再び水辺に辿り着いた。

 ここが、
 この地こそが、
 到達点なのでしょうか。

「――見つけたっ!」

 後ろから追ってきたのは、《すずみやはるひ》なるかぶきの者。
 共に弦之介様の御身を探してくださると、このような状況下で申してくださった豪気なる方。
 ああ、しかしこの地において弦之介様の命ほど価値のあるものがありましょうか。
 あるはずもない。あるはずがなかろうが。弦之介様以外の命は、この朧が絶つと誓った。――

「なんで追われてるのか、それくらいはわかるわよね――朧ちゃん」

 ゆえにわたしは顔を変えぬ。
 声も発さぬ。
 文言を交わすは至上の無為。
 気づかぬか。
 気づきいや、女人のかぶき者。

 わたしはおまえを斬る。おまえと共にいた男のほうも斬る。
 おまえが語った《えすおうえすだん》なるものたちもみな。
 剣術も殺法も知らぬ伊賀のおちこぼれに、斬られるのだぞ。

「返答しだいじゃ撃つわよ」

 暗器と思しきもの――弓であろうか?――を取り、こちらを威嚇する。
 あれがどういったものかは知れぬが、あれに込められし殺意が放たれれば、たちまち死に至りましょう。
 されとて、死ぬわけにはいかん。死ぬわけにはいかぬのです。

 ゆえにわたしは刀を下ろさず、これを斬って捨てる覚悟で待つ。
 さあ、放たれよ。鍔隠れ直伝の一刀が、その矢を切り払おうぞ。
297創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:26:59 ID:stPKdQGr
「まずは説明。なんでいーとあたしを襲ったのか。そこから話してちょうだい」

 交わす言葉など、ありはしませぬ。
 放ちなされ。わたしはおまえらを斬ろうとした者なれぞ。

「喋んなさいよ。これは警告のために構えてるんだからね。どっちが速いかなんて、一目瞭然でしょ?」

 ……なぜ。
 なぜ、放たぬ。
 おまえはわたしを討つためにやって来たのではないのか。
 己が野望のために慈悲を捨て、おまえらに手をかけようとした哀れなる咎人を。――

「……ねぇ朧ちゃん。あたし、無視されるのが嫌いなの。説明が難しいようならまず、なにか反応の一つでもしてみなさいよ」

 なにゆえ言葉を交わしたがる。
 互いが身命と刃を構え合い、どうして正気でいられる。
 常在戦場の理を知らぬかかぶき者。ここでは誰が誰に殺されようとも不思議ではあらぬ。

 なのになぜ、わたしを斬らぬ。
 なぜわたしは、あの者を斬らぬ。

「喋りなさい。これは団長命令よ。あなたはSOS団の仮入団を果たした仮団員なわけだから、団長の命令には絶対服従」

 あの者を斬ったところで――我が願いは叶わぬからだ。
 なぜ、今の今まで気づかなんだか。
 天の思し召しによれば、弦之介様は死なれたと申す。――

 いったい誰が。
 どこの誰ぞが、弦之介様を討たれた。
 小四郎か、天膳か、この地に潜みし伊賀者か。――?

 否。

 甲賀弦之介を討てるのは鍔隠れ広しといえど、この朧のみ。
 あの奇怪なる瞳術に対抗しうるは、生まれ持っての破幻の瞳のみ。
 弦之介様がわたし以外の者に討たれようはずもない。
 討たれようはずが、ないのだ。
299創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:27:53 ID:Hj5rLXMB
     
「あっ」

 わたしの口から声が出た。
 誰の耳にも入らぬほどの小さな声が、零れた。

「――っ、なにか喋んなさいよっ!」

 おまえの――あなたさまの声はもはや、この朧の耳には届きませぬ。
 いや、あるいはあなたさまのおかげかもしれませぬな。
 わたしはここに――彼岸にと至り、ようやっと真相に辿り着きました。

 最強の瞳術を持ってして、弾正亡き甲賀を支えた弦之介様。
 我ら伊賀者にとって大敵となろうそのひとが、わたし以外の者に討たれようはずもない。

 ならば答えなど一つ。
 弦之介様、あなたは討たれてなどおりませぬ。
 ただ少しばかり、朧よりも先に逝くことを決められただけ。

 そうでありましょう?

 あなたさまは、自らその命を絶たれたのでありましょう。――?

「――そんな魂胆でいる誰かさんには付き合ってられないのよ、ねえ!」

 なんと。

 なんと、愛しげな。

 彼岸の先にてこれを待つ、と。

 あなたさまに斬られようとしたこの朧に、お教えなさるか。

 わたしのすぐ後ろに控える水の底が、なによりの証拠。

「ああ……弦之介様の瞳の前では、わたしの浅はかな望みなど見透かされているも同然……」

 あの地。あのときは。
 安倍川ほとりにて、伊賀最後の一人は甲賀最後の一人を斬れなんだ。
 同じく甲賀最後の一人も、伊賀最後の一人を討つことはできなんだ。

 選び取ったは愛ゆえの自決。
 此度の一件は順逆が変わっただけのこと。
 変わらぬ。なにも変わってなどおりませぬ。
301創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:28:51 ID:stPKdQGr
「ああ、ああっ」

 弦之介様。

 すぐにとはいきませんでしたが、ようやっとわかりました。
 あなたさまが導いてくださったのですね、弦之介様。
 さすれば二人のかぶき者は、彼岸よりの遣いか。

「一緒に来るのよ、朧ちゃん」

 歩みましょう。
 またいつぞやのように、おぶってもらうことはかなわぬ。
 自らの足で、あなたさまのもとに追いつくほかありますまい。

「朧、ちゃん……?」



《伊賀の朧が愛せし男は、冥土にてこれの到来を待つ》。



 参りましょう。

 朧は、これよりあなたのお傍に参ります。

 どうかいまいちど、いまいちどだけ、この朧を愛してください。



「大好きです、弦之介様」



 ◇ ◇ ◇


303創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:29:57 ID:stPKdQGr
304創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:30:02 ID:Hj5rLXMB
   
 
 【4】


 背中の治療、といっても人間の目は自分の背中を見渡せるようにはできていないわけで、一人でやるとなると当然難儀する。
 いくら治療のための道具が手元にあるからといって、素人仕事ではかえって傷を抉りかねない。
 それに傷もどれだけ深いかわからないし、どうにも面倒なので、ぼくは治療を放棄した。

 今はそんなことよりもまず、ハルヒちゃんと朧ちゃんの行く末だろう。
 追う立場と追われる立場に分かれた二人は、はたしていったいどうなったのだか。
 後日談として語ってくれる親切な請負人はここにはいない。
 なら億劫ではあるけれど、自分の目で確かめに行くしかないだろう。

 しかしどこに行ったのか、あてもない。探すのは治療よりも難儀する。
 と思っていたら、案外簡単に見つかった。堀のすぐそばに二人はいる。

 実体の知れぬ涼宮ハルヒと、上の名前が知れぬ朧。
 互いに刀とクロスボウを向け合い、にらみ合っている。

 第三者の目線で言わせてもらえば、遠距離射撃武器を持つハルヒちゃんが圧倒的に有利。
 ただしそれは二人が敵対していれば、結果と勝敗がイコールならば、という前提つきの分析。
 本当はもっと深刻で残酷な状況。それに伴う結末は、もちろん深刻で残酷な結末。

 ハルヒちゃんにとっても、朧ちゃんにとっても、もしかしたらあの人類最悪にとっても。

 では、ぼくにとってはどうだろう?

 それはきっと、まだ明らかにはならない。

 しばらくして、ハルヒちゃんが動いた。
 なにを思ってか手に持っていたクロスボウを放り捨て、丸腰で朧ちゃんに歩み寄る。
 なんて《らしい》。この数時間で、涼宮ハルヒの《らしさ》とはなんなのか、そんなところまでわかったのか。
 自惚れるなよ戯言遣い。人の心なんてわかるものか。ただでさえ、《機関》なんて団体に神と崇められているような少女の心だぞ。

 まったく、戯言だ。

 どちらにしたって、ハルヒちゃんのこの行動がなにを誘発するかなんてわかりきってるってのに。
 いや、朧ちゃんの心だって見透かせるような代物じゃないんだから、なにが起因になったかなんてわからないけれど。


 結果として、朧ちゃんは自分の胸を刺した。


 左乳房のやや下あたり。
 スッと差し入れ、続いてグッと横にずらす。
 鮮やかなはした色の着物から、鮮血が滲むのが見えた。

 朧ちゃんの表情は、妖艶な微笑。
 ハルヒちゃんの表情はここからでは見えないが、その足は止まっている。

 やがて朧ちゃんの体が、ぐらりと揺れた。
 瞳の色は変わらぬまま、しかし体は激震。
 しだいに立っていられなくなり、後ろへと傾く。
 朧ちゃんが立っていたのは堀の際、だから。
 そのまま堀の中へと、落ちた。
306創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:31:08 ID:stPKdQGr
 城砦周りの水掘りは、敵の侵入を防ぐため容易ならない深さになっている。
 落ちたらまず這い上がってはこれない。這い上がるための格子みたいなものがないし、なにより。
 自分のおなかに刀なんて刺したままの娘が、水の脅威に抗えるはずもない。

 切腹。
 ハラキリ。
 公開自決。

 三人だったそこは、二人になった。
 二人だったあそこは、一人になった。
 一人が欠けてしまった。

 ぼくとハルヒちゃんの目の前で。
 朧ちゃんは死んでしまった。

「…………」

 ぼくは朧ちゃんの《死そのもの》を受け止めるため、堀の際へと歩み寄った。
 鮮やかな水色が、赤く淀んだ色に変わっている。
 朧ちゃんの影は、ない。

 ハルヒちゃんは立ち止まったその場から動かず、いつの間にかへたり込んでいた。
 視線は朧ちゃんが沈んだ堀へと向いていて、ぼくの存在には気づいているだろうが声をかけない。

 じっくり、観察する。
 その表情は自然、古泉一樹が提唱したあの説を呼び起こさせる。

《涼宮ハルヒを絶望させる》。

 これ、か?
 これこそが、一樹君の求めていたものか。

 ぼくにはわからない。
 ひょっとしたら、これからわかるのかもしれない。

 さしあたってどうするべきか。
 とりあえず、無言ではいられないだろう。

 ここでトドメを刺すか、救いを齎すか、戯言遣いならどうするべきだ?

 まったく。

 戯言遣いが慎重に言葉を選ぶだなんて、それこそ戯言だよ。



【朧@甲賀忍法帖 死亡】


【D-4/堀付近/一日目・朝】

【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:不明
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
 基本:この世界よりの生還。
 0:???
[備考]:
 クロスボウ@現実、クロスボウの矢x20本は涼宮ハルヒのすぐ近くに転がっています。

【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、基本支給品、22LR弾x20発
[思考・状況]
 基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
 0:ハルヒちゃんにどんな言葉をかける――?
 1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。
 2:一段落したら、世界の端を確認しに行く。
 3:涼宮ハルヒを観察。ハルヒの意図がどのように叶い、どのように潰えるのかを見たい。
[備考]
 涼宮ハルヒは、(自分も気づかないうちに)いーちゃんの『本名』を言い当てていたようです。



 ◇ ◇ ◇


309創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:32:37 ID:stPKdQGr
310創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:33:34 ID:stPKdQGr
311創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:34:16 ID:stPKdQGr
 【幕後 彼と彼女の会話】


「――戯言っていうより傑作だな、これは」

 そうですか? 個人的には戯言まみれだったと思いますけど……具体的にどのへんが?

「全部だよ、全部。なにからなにまで仕組みっぱなし。こうも思いどおりにいくと、全体で見りゃ傑作だろう?」

 思いどおりに、ね。
 思いどおりにいったことなんて、なにひとつありゃしない。
 ぼくもハルヒちゃんも朧ちゃんも、三人とも誰かさんに意図を外されっぱなしでしたよ。

「おまえにしちゃ白々しい嘘だな。いや、白々しいからこそおまえらしい、かな? ん? いーたん。
 ずばり言わせてもらうけど、おまえは最終的にこうなることを読んでたんだろう? だからいくつか布石しといた」

 占い師じゃあるまいし、ぼくに未来を見通す力なんてあるわけないでしょう。

「未来なんて大層なものじゃないさ。これはいくつか数のある《当然の結果》、そのうちの一つだよ。
 おまえはその中で最も確率の高いほうに駒を動かしておいた。
 そしたら万事計画どおり、駒は勝手に動いてくれた。そのへんは戯言遣いの十八番ってところだろう?」

 仮にあの結末をぼくが想定していたしましょう。だからどうだって言うんですか?
 結果だけ言えば朧ちゃんは死んで、ぼくとハルヒちゃんは精神的にどん底だ。
 誰がなにを得したわけでもない、後味の悪い終わり方。それを読んでいたからどうなると?

「《もったいない》と思ったのさ、おまえは」

 もったいない?

「ああ。《朧がただ単純に自殺するのはもったいない》。動機みたいなものがあるとしたらこれだな。
 おまえはこの結末を読み終えてから、この一件を《演出》することに決めた。――涼宮ハルヒがより絶望を背負い込むように」

 …………。

「お、早くも沈黙したないーたん? なら続けるぞ。おまえは朧との出会いで涼宮ハルヒを絶望させる好機を得た。
 だから《試しに》涼宮ハルヒを絶望させてやろうと思ったわけだ。古泉一樹の唱えたあの仮説があったから。
 話の内容は荒唐無稽だし、付き合ってやるのもばかばかしいけど、試す機会があるなら試してみるのが人だろう?
 それも比較的デメリットが少ないやり方で実験できる。これ以上の好機はなかなかにしてない。だから実行に移した」

 ……まるで、ぼくが朧ちゃんを殺したみたいな口ぶりですね。

「は、まさか。あたしはそうまで言っちゃいないさ。朧を殺したのはあくまでも朧本人だ。
 いや、強いて言うなら《朧を斬る》という役目を果たせず先立っちまった甲賀弦之介のせいか?
 まあ内情はともかくとして、これは誰がどう見ても自殺。犯人も加害者もいやしないよ」

 ぼくが口八丁で朧ちゃんを自殺に追い込んだとしたら?
 それは十分に、ぼくの非に――ぼくが殺したと言えるんじゃないですか?

「口八丁、ね。ないない。だっておまえは今回、朧と一言も会話していないじゃん」
313創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:35:31 ID:stPKdQGr
 ええ、そうですね。

「戯言遣いが言葉もなしに人を殺すことなんてできるかよ。それこそ自惚れだ」

 まったくもって、そのとおり。
《寡黙な戯言遣い、ただし武闘派殺人鬼》――なんて、埒外にもほどがある。

「かはは、それなんて傑作」

 声真似するのやめてください。

「うにー。いーちゃんがおこった。いーちゃんきらいっ!」

 やめろ。

「む、ここぞとばかりに凄んできやがって。ここが《別枠》だからって調子に乗ってるな?」

 調子に乗ってるのはそっちでしょう。
 出張してくるなら正規の手続きを踏んでからにしてくださいよ、まったく。

「ははっ、まあ許してやろうじゃないか。と、どこまで話したっけ……」

 ぼくが《涼宮ハルヒをより絶望させるために演出した》とかなんとかって話でしょう。
 朧ちゃんが死んだのはぼくの仕業じゃない。ならいったいぜんたい、ぼくはなにをしたっていうんですか?

「涼宮ハルヒと朧を一対一にした」

 即答ですか。

「ああ、即答さ。話を遡るが、おまえはあらかじめ朧の思惑を予想していたわけだ。《ああこいついつか裏切るな》って。
 その動機に関しても、大体は予想できてたんだろう? 甲賀弦之介を生かすために他の人間を皆殺し、っていう風に」

 愛しき人のために、ね。
 ぼくが赤の他人の愛やらなんやらを、ハルヒちゃん以上に悟ったと言いますか。
 それこそ極大級の戯言だと、ぼくは思いますがね。

「そんなに難しいことじゃないさ。要はおまえがここで初めて会った古泉一樹。あいつの目的をストレートにしただけなんだから」

 そんなに単純ですかね?

「単純だよ。実に単純だ。少なくとも、ああいった環境に置かれた人間の思考は単純になりやすい。
 朧の場合は特殊で、なんか既に一度死んでるみたいでもあったしな。そのへんは最初っから吹っ切れてたんだろう」

 そんな本人しか知らないような情報引っ張ってこないでくださいよ。

「なんにせよ、そういう単純な人間の思考は読みやすい。人の心がどうのこうの、愛がどうのこうの、そういうんじゃないんだよ。
 どちらかというとあれだ、読唇術の心得に近い。未来予知やテレパシーなんぞ使えなくても、人間は先読みってものができるのさ」

 ぼくの場合は経験則からっていうのもあるんですがね。
 表面上の朧ちゃんみたいなキレイな人間、そうそう身近にいるはずもありませんから。
315創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:36:39 ID:stPKdQGr
「けどその予想は、ちょっとばかし外れちゃったんだよな」

 外れましたね。ぼくはてっきり、朧ちゃんが癇癪でも起こすものかと思っていたんです。

「朧は放送で甲賀弦之介の死を知った。取ったリアクションは《泣く》だ。純粋な悲しみから来る失意。
 そこに殺意が入り込んでくる余地なんてあるはずもない。それだけ朧にとってはショッキングだったんだろうな」

 悲しみが怒りを凌駕するなんて、真にその人のことを想っている証明ですよ。これは小説の受け売りですけど。

「まあなんにせよ、朧はその時点ではおまえらに襲い掛からなかった。悲しむのでいっぱいいっぱいだったから。
 じゃあ悲しみ終わったら朧はどうするか? これも簡単な予測だよ。生きていて欲しいと願った男が死んだんだ」

 ――当然、後を追って自分も死ぬに決まってる。

「それだけの深さだってことを、おまえは放送の後に思い知った。だからその上で利用するべきだと思い至った。
 当初の予想からは少しばかり外れたけれど、おまえにとっちゃ都合がいいほうに転んだってところだろう?
 上手く演出さえしてやれば、こっちのほうが絶望は大きくなる。計算高いねぇ、まったく」

 けど朧ちゃんが後追い自殺したからって、ハルヒちゃんはそれほど絶望しませんよ。
 いくらハルヒちゃんだって、出会って間もない人間にそこまで肩入れはできないでしょう。
 それがなにをどう演出すれば、自分に凶刃を向けられるよりもさらに絶望するっていうんです?

「だからさっき言ったじゃねーか。朧と涼宮ハルヒを一対一にする。そうすることで、おまえは涼宮ハルヒに重荷を背負わせた」

 つまり?

「おまえは涼宮ハルヒに最終的にこう思い込ませたかったわけだ――《あたしが追い詰めたから、朧ちゃんは自殺した》」

 ……どうやったって無理でしょう、そんなの。

「かもな。おまえにしても、だめでもともとだったんじゃないか? どっちにしたってデメリットは少ないだろうし」

 けどメリットは多かった。そしてそれは成功と言える結果に至った。そう言いたいんでしょうけど。

「わかってるじゃん。朧が一人で出て行った後、おまえ涼宮ハルヒにいろいろ喋りかけてただろ?
 変に人殺しについて討論したりしてさ。長門有希を殺した犯人と、この後おまえらに襲い掛かる朧を、ダブらせようとした。
 これが朧と涼宮ハルヒを一対一にさせるための布石。涼宮ハルヒが朧に構わなけりゃ、話は始まらないからな。
 ただ涼宮ハルヒに揺さ振りをかけるだけじゃ、条件は揃わない。ある一人の邪魔者を排除する必要があった」
317創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:37:29 ID:t/ogNofD
318創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:37:47 ID:stPKdQGr
 誰ですか、それ?

「おまえだよ、いーたん。登場人物三人なんだからおまえしかいねーだろうが。
 朧が出て行った後、おまえ自分から斬られに行っただろう。あたかも《名誉の負傷退場》と思わせるみたいに」

 自分から斬られに行った、って……どんだけマゾなんですか、ぼくは。
 デメリットが少ないのが前提だったんでしょう? 《ただしリスクは大きい》、なんて策としてはばかげてる。
 一歩間違えてりゃ死んでるじゃないですか、ぼく。今回に限って言えば、簡単に死んだりはできないってのに。

「でも、死ななかった。名誉の負傷退場どころか、その実態は茶番劇だろうが、ええ?
 なにが《ちくしょう、斬られた》だよ。斬られたっていうよりは、裂けただけじゃんか。
 それも背中の目立たない部分がちょこっと。《血》が出た描写もない。せいぜい後姿が格好悪くなったくらいじゃねーの?
 わざとらしく仰向けに倒れたのだって、涼宮ハルヒにそれを悟られないためだろうが」

 綱渡りを楽しむにしても趣味が悪すぎですよ、それ。
 その言い分だとやっぱりぼく、一歩間違えれば死んでます。
 出たとこ勝負に生死を委ねるほどマゾじゃないって言ってるじゃないですか。

「あたしはさ、おまえをそこまで過小評価した覚えはないよ。《一歩間違えれば》? 一歩も間違えないさ。
 殺人鬼と渡り合えたりクロスボウの射程読んだりできる奴が、あんな素人の剣筋に殺されたりするもんかよ。
 首の皮一枚で避けるくらいの結果を求めたって、お釣りがくるさ。悪くてかすり傷、そう踏んだんだろう?」

 ……そりゃあなたなら簡単でしょうけど。
《かすり傷を作る程度に避ける》だなんて、完璧に避けきるよりずっと難しいと思いますよ。

「だが悪くてかすり傷だ。避けて然るべき勝負じゃない」

 悪くて一刀両断も……。

「ないって言ってんだろうが。相手の力量を見る目と、致命傷を抑えるくらいのスペックは持ってるだろ、おまえ」

 ……はい、持ってます。

「だろ。で、朧はこれで《いーを斬った憎い奴》に変わっちまったわけだ、涼宮ハルヒの中ではな。つまりそれは――」

 持ってますけど、もう一つ。
 どうして、朧ちゃんが出て行った後すぐ外で待ち構えているだなんて予想できたんですか?

「変な質問だな。予想したのはおまえなのにさ」

 そういや変ですね。まあそれはそれとして、答えてくださいよ。
 朧ちゃんが一人で出て行って、人知れず一人で自殺する線だってあったはずです。
 朧ちゃんはどうして、襲う理由をなくしていたはずなのにわざわざぼくたちを襲ったのか。
 ぼくはどうして、それを予測することができたのか。

「なーんかクイズの解答者の気分になってきたな。けど、もうとっくのとうに答えは言ったはずだぜ」

 え、どこで?
320創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:38:33 ID:stPKdQGr
「『いくつか数のある《当然の結果》、そのうちの一つ』、あたしはそう言ったぜ?
 おまえはあの時点ではまだ、先の予想を一本には絞っちゃいなかった。
《朧が戸の外で待っていないパターン》もそれはそれで想定していたわけだ。
 条件的には一度襲ってくれたほうが都合がよかったんだろうけどな。まあそこはラッキーだった。
 朧がいなかったらいないで、涼宮ハルヒは一人でそれを探しに向かっただろう。
 たとえ朧が見つからず、ハルヒのいないところで死んでたとしても、そりゃ《お試し》が失敗しましたってだけで終わる」

 微妙に質問の答えになっていないような気がしますけど。
《あるかもしれない》くらいには思っていたとしても、朧ちゃんはどうして、ぼくたちを襲ったっていうんです?

「さあね。それこそ当初の予想どおり、癇癪でも起こしたのかはたまた混乱してたのか単なる八つ当たりか。
 そのへんの動機は重要じゃないだろう。どちらにせよ最終的には自害。これはもう、目に見えてたんだから。
 たとえおまえの目が節穴で、朧がしぶとく生き残りを目指したとしても、撃退するり逃げるなりすりゃ済むしな」

 ……………………。

「お、三点リーダ八つ分。そろそろラストオーダーか?」

 ええ、これで最後にします。
 しっかり答え、用意してくださいよ。

 ――はたしてぼくは、どうしてハルヒちゃんを朧ちゃんのもとに仕向けることができたのでしょうか?

「…………………………………………」

 そこでぼくの倍沈黙するのはやめてください。

「いや、こりゃまた、いーたんにあるまじき質問だったんでね。
《どうやって涼宮ハルヒを仕向けたか》なんてそりゃ、それこそ戯言遣いの本分じゃん。
 朧とは一言も口利いてないわけだけど、涼宮ハルヒとは会話しまくりだったんだから」

 いくらぼくが戯言遣いだからって、限度があるでしょう。
 ハルヒちゃんとは知り合ってまだ数時間ですし、彼女の考えていることなんてこれっぽちもわからない。
 彼女の行動を予測を交えたうえで操作することなんて――


「――涼宮ハルヒはいつの間に、おまえや朧をSOS団の一員にしちまったんだろうな」


 ――ああ。
 そうか、そういうこと。

 時間は時間、付き合いは人となりを知るには短かったけれど。
 判断材料は常に、ハルヒちゃんの破天荒な言動の中に混じっていたわけだ。

 SOS団。
 構成団員は団長、涼宮ハルヒ。
 副団長に古泉一樹、他にもキョン、朝比奈みくる、長門有希。
322創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:40:20 ID:stPKdQGr
 そして今回、ハルヒちゃんはぼくや朧ちゃんを《仮団員》だのなんだのと言っていた。

 ハルヒちゃんにとって、《SOS団》というのは仲間の証なのだろう。
 少ないがゆえに強烈すぎる仲間意識。それはぼくと朧ちゃんにも向いていた。

 まったく、なんていうおひとよし。
 勝手に引き込んで、勝手に仲間扱いして、勝手におせっかいをやく。
 大した障害もなく、ぼくと朧ちゃんは《涼宮ハルヒとその仲間たち》の一員に組み込まれていた。

 ぼくにはそれがわかっていたから、だからああも簡単に、ハルヒちゃんの行動が読めた。

 そのへんまるっと、この人には見透かされてる。


「――で、どうかね。まだなんか問題はある?」

 この後、世界はどうなっちゃうんですかね。

「知るかよ。そりゃクイズでもなんでもない。おまえが自分で考えるべきことだ」

 考えたって答えが出てくるものでもないと思います。

「じゃあ考える必要はないよ。事のなりゆきをただ見守ってりゃいいじゃん」

 はい。まったくそのとおりで。

 しかしまあ、なんというか。

 やっぱりこれ、傑作じゃなくて戯言だよなぁ……。

「どっちにしたって、《次》で答えは出るだろうさ。涼宮ハルヒは落ちるのか、踏ん張るのか。
 そこが見極めどころかもしれないし、迂闊な戯言遣いはチャンスを棒に振るってしまうかもしれない」

 自分のことだけど、まったく予想がつきませんね。

「かくして! 涼宮ハルヒなる女人は戯言遣いの文言により沈み逝くのであった。……
 慶長十七年五月七日夕刻、駿府城西方安部川ほとりにと執り行われた決着と同じく。
 伊賀の忍者朧は腹に一閃、そのむくろを水へと流し男とともに極楽浄土へと至る。
 女はこわい、女はこわいぞ……しかし恐ろしさを凌ぐほどに、女は男を愛すのだ!
 ゆえに死は巡ろう。腹を斬ってまた死のう。朧の末路は男のもとしかあるまいに。
 戯けた言葉にて希望を破り、神を絶望へと落としうる――これぞ忍法・戯言破り也!」

 山田風太郎ですか。

「戯言だよ。ま、なんにしてもだ。置き忘れだけはないようにしとけよな、っと」





《※朧の死体と荷物、弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖はD-4の堀に沈みました》
324創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:42:21 ID:stPKdQGr
325創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:42:34 ID:Hj5rLXMB
     
 
326創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:42:57 ID:jBqc4uom
327創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:43:02 ID:stPKdQGr
328 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/17(木) 01:43:38 ID:iwqAJC6O
投下終了しました。
夜分遅くの支援感謝です。
329創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 11:45:33 ID:7y785Xkw
投下乙。

うわぁ、これは凄い……なんという戯言節。
3人3様、実に「らしい」。ハルヒも物語が「始まった」感じだなぁ。
さてこの後どうなる……!? GJでした。
330創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 17:29:25 ID:Hj5rLXMB
投下乙です
それぞれが、らしい色を出してるなぁ
戯言好きとしてはここのいーちゃんがいーちゃんで最高すぎるw
動き始めた彼らがどうなるのか超楽しみです
 
改めて乙でした
331創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 21:19:51 ID:vkL8/RN/
ここまで戯言を再現できるとは驚いたw
332創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 21:39:56 ID:IxIxTVjC
いの字てめえ
やってくれる
もうハルヒの精神状態不安過ぎるぞ
333創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 22:52:03 ID:DpW2NKP7
投下乙
まさかの朧の自殺。
しかしある意味幸せな方かもしれんな
それがハルヒに与えた影響が恐すぎる。しかし何と間の悪さ。
全ての状況がハルヒにとって悪い方に転びすぎだ。
そしてなんといってもいーちゃんがまさに戯言すぎてたまらない。
マジでGJ

あと一つ気になった所、山田風太郎の名前出すのはやり過ぎなんじゃないかね
匂わせるぐらいに留めておいた方がいいんじゃないかと思った。
334創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 02:20:36 ID:CWM9dHYy
友にとうとう予約がwww
335創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 06:05:56 ID:QxPTlr1m
そして第二回放送終了までまた出番がないわけですね、わかります。
336創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 07:37:09 ID:yTVmAJLp
友は動かそうと思っても、一人じゃ摩天楼から降りられないからねぇ・・・。
337創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 07:42:16 ID:yTVmAJLp
すまん、上げちまった
338創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 08:19:42 ID:jLRuyc7a
ネコソギ下巻以降からの参戦なら…
339創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 09:03:05 ID:8wV5aoL2
見た感じその様子はないけどな
340創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 13:51:51 ID:yTVmAJLp
二十三幕よりは後だけど、天才を捨てるよりかは前って事なんじゃない?
341創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 17:04:01 ID:8wV5aoL2
俺としては中巻の狐さんの敗北宣言のあたりかと思うんだけどな
342創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 17:09:48 ID:SuZKsm5x
投票も今晩でしめきりか。けっこうたくさん入ってるし、結果が楽しみだなw
343創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 20:50:07 ID:0W93Kyxa
投票も締め切りだし予約延長も期日
投下ラッシュと結果発表がもうすぐ……楽しみだじぇw
344創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 22:51:13 ID:yTVmAJLp
>>341
登場話に
[備考]
 登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
って書いてあるよ
345創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 22:56:32 ID:8wV5aoL2
本当だ。見逃してた
346創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:48:48 ID:LixKySl6
したらばの仮投下スレに投下された◆UcWYhusQhw氏の作品を代理投下します。
お手隙の方いましたら支援のほどをよろしくー。
347What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:49:32 ID:LixKySl6
「…………え?」

朝日が既に高くまで昇った6時を境に流れた放送。
街の路上を進んでいた二人の少年少女は歩みを止め聞き耳を立てていた。
その放送にいの一番に呼ばれた名前に未来から現れた少女、朝比奈みくるは驚きの余り動きを止めてしまった。
破れかぶれのメイド服を抑えていた手を思わず離し、そのまま顔を覆ってしまう。

自分が所属するSOSの団員長門有希。
そして、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースであった彼女が。

「…………亡くなった?」

死んだのだ。
その告げられた事実がみくるにはただ信じられなくて。

「えっ?……ふぇ?…………え?……」

驚愕がみくるの心を支配していく。
みくるが知る長門有希は少なくとも簡単に死ぬような人物でないはず。
情報思念体が使わした対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースはみくるが知る限りでも万能に近かったのだ。
事実、彼女の力によって問題が解決していった事が幾つもあった。
その彼女が事もあろうか一番最初に呼ばれてしまったのである。

「嘘……そんな…………」

ただ、信じられなかった。
哀しみより驚愕がみくるの心を侵食していった。

「長門さん…………嘘……ふぇ…………」

長門有希の死亡。
それはSOS団の朝比奈みくるだからこそ。
長門有希の万能さを知っているからこそ。
彼女と接しているからこそ。

「そん……な……」


朝比奈みくるはただ、驚くしかなかった。


「…………大丈夫か」

そのみくるに対して声をかける少年――土屋康太。
彼は眼鏡をかけ直しながら心配そうにみくるに近寄る。

「……あ……ああ、はい。びっくりしたけど大丈夫です」

みくるはそんな彼の気遣いに気丈に笑いながら応えた。
彼を心配させてはならない、その一心で。
内心を悟られないように無理に笑ったのだった。
みくるの誰が見ても無理しているような仕草に土屋康太は無表情のまま、でも心配するように

「…………辛かったらいつでも言えばいい」

そう声をかけ、みくるを見つめている。
ただ、見つめている。
そんな彼の心遣いにみくるは顔を朱に染めて手をばたばた振りながら言う。
348創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:49:46 ID:4IgEKJIX
っと先越された、じゃあ支援
349創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:50:14 ID:ON5EHePF
 
350創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:51:08 ID:4IgEKJIX
 
351創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:51:27 ID:ON5EHePF
 
352What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:51:43 ID:LixKySl6
「ありがとうございます。わざわざ私の心配をしてくれて」
「…………どうと言う事は無い」
「ありがとうございます」

謝辞の言葉を述べてみくるはお辞儀をする。
彼の心遣いに感謝しながら。
余りにも予想外の出来事に気が動転しそうだったのを抑えてくれたから。
心からの感謝の意を籠めて彼に送った。


……最も土屋康太の目論見はそれだけではないのだが。

(…………グッ!)

土屋康太ことムッツリーニは心の中で指を立てる。
それは今も稼動しているこの眼鏡式のビデオカメラ。
そのカメラにみくるの溢れんばかりのボディを接近してとれた事。
しかも、服の切れ間からみれる柔肌。
余りのエロさに鼻血が噴出しそうだったがそこは我慢。
ただ、我慢してなるべく長い時間接近して映像を写すことが出来た。
その事に自ら賞賛を心の中で与えたのだった。



…………だから、土屋康太は気付いていない。

朝比奈みくるは驚きこそしたものの『哀しみ』すらしなかった事を。
あの長門有希がこんな早くに命を落とした事に驚いただけで。
長門有希の死に対しては哀しみすら見せなかった事に。
むしろ長門有希を屠る事が出来る人物が居た事にも驚いていた。
また長門有希を失った事でこの場所からの脱出方法が難しくなったと言う所まで推測できる。
正直、これからどうすればいいか解らない。
長門有希無しで果たしてこの殺し合いから脱出できるのだろうか。
また、それは可能性的に高いのだろうか。
その答えはもう闇の中でみくるには判断できない。

それほどまでに長門有希の存在は大きかったという事。

だけどそれまで。

その驚きで気が動転しそうになったが、それまで。

朝比奈みくるは長門有希に関して想いを巡らす事をやめた。


そんな様子で二人はあってるようで微妙に噛合ってなかったのだった。
353創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:52:37 ID:4IgEKJIX
 
354What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:52:43 ID:LixKySl6


「ふもーーーーーーーーーー!!!!」


突如、響く奇声。
放送の余韻に浸っていた二人を容赦なく現実に帰す声。
二人が振り返った先に見えるものは


「ふぇええええええええええええええ!? な、何なんですか!?」

緑色の帽子、赤い蝶ネクタイを纏った黄色い動物のような化け物。
みくるにとって未知の生物らしき存在がふもふも叫びながら突撃してくる。
白髪の少女に襲われた時よりある意味衝撃で腰を抜かしそうだった。
みくるはそのまま後ずさりを始め化け物から離れようとする。

「…………下がれ」

そのみくるを庇う様に前に出たのは土屋康太。
ロケット弾を肩に担ぎ化け物に向けている。
何かあれば、即座撃つつもりであった。
勿論、みくるへの好感度稼ぎもかねて。

「ふ、ふも!?」

逆に驚いたのは化け物の方。
向けられた銃口に何か脅える様に後退りを始めている。
そして二人、特に土屋康太に向かって見つめるように眼差しを向けていた。

「ふもっ! ふもっふ!」

手振り身振りで何かを言おうとしている化け物。
みくる達はその意外な行動にきょとんとして逆に戸惑ってしまう。
その様子にみくるは勇気を振り絞って尋ねる。

「害を与えるつもりはないんですか?」
「ふも!」

力強く頷く化け物。
ついでに手を上げて無害をアピール。
みくる達は互いに顔を見合わせて

「え、えと……どうします? 土屋くん、解ります?」
「…………解らない」
「ふ、ふも〜〜〜……」
355創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:53:26 ID:O2MLgrAO
  
356創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:53:26 ID:4IgEKJIX
 
357What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:53:38 ID:LixKySl6
首を振った。何かを伝えたいのは解るがさっぱり解らなかった。
二人はお互いに首を傾げ悩むばかり。
その様子に化け物は落胆した様子でいじけ始める。
みくるはそんな仕草を見てちょっと可愛いなと思ってくすっと笑ってしまう。
とはいえ、状況的には膠着し何も解決にはなっていなかった。

「…………困った」
「困りましたねぇ……どうしましょう」
「ふも……ふも……」

三者三様、互いに困った風に首をかしげる。
考えても、考えても解決するものでもない。
そもそも、言葉が通じないのだから理解しようがない。
まさに頭を抱え込みたいような状況になりかけていた時

「…………やっと追いついた。何を見つけたか知りませんけど駆け出さないでください、吉井さん」

現れたのは黄色のくすんだコートを纏った中性的な整った顔たちをした人。
少しうんざりとした様子で吉井と呼んだ化け物を睨む。
そして、みくる達に気付き話しかけ始めた。

「…………っと、貴方達は?」
「あ、朝比奈みくるです」
「…………土屋康太」
「……どうも、ボクはキノです。とりあえず害は与える気はないので。えっと彼は吉井明久さんです。今きぐるみの中ですけれども」

簡単な名乗りとついでに化け物――吉井明久の紹介をしたキノ。
キノは気だるそうに彼らを見て顎に手をを乗せ何かを考え始めていた。
そんな時だった。

「…………吉井明久?」

普段はむっつりした表情の土屋康太の顔が驚きに変わったのは。
それは聞きなれた名前が聞こえたから。
しかも、その人物が熊だかネズミだかよくわからない化け物に変わっている。
驚きと不思議が彼の心を染めていく。

「ふもっふ!」

反応する化け物もとい吉井。
何か変なポーズをとり存在をアピールし続ける。
どうやってこんな姿になったかは知らないがとりあえず吉井である事が判明した。
土屋康太はそんな吉井を見続け、そして

「…………馬鹿だ」
「ふもっ!?」

ただ、そう一言だけ呟いた。
過剰な反応をしてへこんでいる吉井もとい化け物。
そんな様子に大きな溜息をキノは吐きながら

「知り合いですか?」
「…………(コク)」
「……ああ、だからいきなり駆け出したんですか、なるほど」
「ふも!」
「……で、再会したのにまだ脱がないんですか?」

吉井が駆け出した理由をキノは理解したが新たに発生した疑問が一つ。
それは何故彼が未だにきぐるみを脱がないかという事。
キノは頭を抱えながら吉井に尋ねる。
358創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:53:38 ID:ON5EHePF
 
359創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:54:14 ID:O2MLgrAO
 
360創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:54:51 ID:4IgEKJIX
 
361What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:55:22 ID:LixKySl6

吉井が駆け出した理由をキノは理解したが新たに発生した疑問が一つ。
それは何故彼が未だにきぐるみを脱がないかという事。
キノは頭を抱えながら吉井に尋ねる。

「ふも、ふもふも、ふもっふ!」

それを吉井は身振り手振り鳴き声で説明する。
だけど当然の事ながら3人に伝わらず困惑するばかり。
首をかしげ吉井を見つめている。

「ふも! ふも!」

吉井は必死に身振りを大きくするが全く伝わらない。
キノと土屋康太は顔を見合わせ、

「解りますか?」
「…………(ふるふる)」
「ですよね」
「ふも〜〜〜〜〜……」

落胆する吉井。
その姿を見てみくるは傾いていた首を更に傾け。
そして、何かが解った様に頷き

「…………もしかして脱がして欲しいんですか?」
「ふもっ! ふもっ!」
「やっぱりそうだったんですか〜何となくそんな気がしたんです」

大きく頷く吉井に会心の笑みをみくるは浮かべて喜ぶ。
その極上の笑みに土屋康太の心は癒されながらもどうして解ったんだろうと疑問が浮かぶ。
それはキノも同様で不思議そうに呟く。

「…………なんでわかったんでしょうね」
「…………さあ」
「……まぁいいか。脱がせましょう。手伝いお願いできますか?」
「…………(こく)」

互いに頷きあって吉井の下に向かう。
そして互いに息を合わせて吉井のきぐるみの頭の部分を一気に外した。
その瞬間

「あーーーーー苦しかった! 暑い!」

現れた極普通の少年で額に沢山の汗がにじんでいる。
そして、きょろきょろ辺りを見回して、そして左側に居る少年を見つけて。

「会いたかったっ! ムッツーリニ!」
「…………苦しい」

土屋康太ことムッツリーニに強く抱きしめたのだった。
吉井にとってまさか彼が名簿外の十人に含まれているとは思わなかった。
でもこの殺し合いの場で、生きて出会えた事、それはとても幸運で嬉しい事には違いなかったから。
だから、この久し振りに会った少年に喜びを露にして抱きしめる。
土屋康太も無表情ではいるが心のそこでは再会を喜んでいた。
こんなにも早く出会えた事は幸運の何者でもなかったから。

だからこそ、互いに再会を喜びあったのだった。
362創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:55:31 ID:4IgEKJIX
 
363創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:55:54 ID:ON5EHePF
 
364What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:56:05 ID:LixKySl6
それをみくるは微笑ましげに見つめ。
キノは呆れたように見ていた。

こうして、一騒動の後に彼らは再会を果たしたのだった。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






色々あったけど、僕らは無事、ムッツリーニと合流する事ができた。
ついでにあの可愛らしくも忌々しい着ぐるみも脱ぐ事がやっとできたしね!
今はムッツリーニの提案に乗って病院に向かってる所だ。
本当は南下する予定だったんだけど実に魅力的な提案だったから僕もその通りにした。
なんたって……

「ナース……」
「ふぇ……どうかしましたか?」
「い、いえ、別に! 決して妄想してたわけじゃありませんからっ!」
「……ふ、ふぇ?」

不思議そうに首を傾げる朝比奈さん。
危ない、危ない。妄想していた事を口に出しそうだったよ。
しかし、こんなむっちりな子と一緒にいたなんて羨ましいね、ムッツリーニ。
僕はムッツリーニを横目で見るとグッと親指を立てやがった。

この野郎と思ったけどまあいいか。
なんたって病院にいく目的は朝比奈さんのナースを見るためなんだからね!
乗らない訳にはいかないから!
それを提案したムッツーリニに多大なる拍手を送りたいぐらいだ。
簡潔に一言『…………ナース』と呟いただけで意図も汲めたし!
持つべきものは友達だよ、やっぱり。
365創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:56:41 ID:O2MLgrAO
 
366What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:57:01 ID:LixKySl6
……だけど、気がかりといえば余り木野君が乗り気でなかった事だ。
今は渋々後ろをついてきている感じだけど、最初は護衛の役割をここで打ち切っていいかと提案してきたんだ。
僕とムッツーリニが合流できたのもあっての提案だったけど、その提案を僕は蹴った。
折角ここまで一緒に着たんだんだし、折角気もあったんだから一緒にいこうよとね。
朝比奈さんも乗ってくれて、木野君は本当に渋々という感じで付き合ってくれた。
うん、気の合うもの同士が行動する……こういうの呉越同舟(本来の意味は仲の悪い者どうしが同じ所に居合わせたり、行動を共にしたりすること)というけどいいもんだ。

でも、放送の件で姫路さんが呼ばれなかったのは本当によかった。
他にも色々言っていたけどその事柄だけは本当安心したんだ。
ムッツリーニと合流できたし早く姫路さんも合流しないと。
姫路さんは僕が護らなきゃ!

そんな決意を改めてした所で僕達は目的地である病院に辿り着く事が出来た。

「……ひゃあ……大きな病院ですねぇ」
「…………ここに目的のものがあるはず」
「うん、そうだね楽しみだねムッツリーニ!」
「………………(ぐっ!)」
「……何でそんな無駄にに気合入っているんですか。いきますよ」

木野君は盛り上がる僕らを冷ややかに一瞥し大きな赤い十字が掲げられてる病院の入り口まで先導し向かう。
どうしたのだろう? 放送を聴いてから余り機嫌がよくないようだ。
僕は不思議に思いながら彼の背を追った。
そして自動ドアの前に立って自動ドアが開けかかった瞬間、木野君が声を張り上げ

「……っ下がって! この匂いは……!」

僕達を急いで下がらせた。
僕はよくわからないまま木野君の指示に従い入り口から下がっていく。
木野君は僕達を下がらせた後、病院のガラス、自動ドアなど、割られるガラスに大きな石を投げて次々割っていた。
僕はこの行為を不思議に思いながらただ、木野君を見ている。
……一体何が起きたんだ?

やがて木野君も戻ってくる。
そして、皆、無言の時間が続いた後暫くしてから木野君が立ち上がった。

「……よし、もういいでしょう」
「……あの何があったんですか?」
「有毒な匂いがしましたから……何かの毒ガスの類でしょう」
「ど、毒ガス!?」
「ええ。まぁもう空気に流れて大丈夫なはずです」
367創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:57:36 ID:O2MLgrAO
 
368創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:57:36 ID:4IgEKJIX
 
369What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:58:06 ID:LixKySl6
木野君が淡々といった事に僕は驚くばかりだった。
木野君は何か場慣れしているような感じで、対応もなれたものである。
……凄いなぁ木野君は。

木野君は何事もなかったように歩き出し病院の入り口からはいっていく。

「さて、行きましょうか。もしかしたらここで何かあったかもしれません」
「ま、待ってよ木野君!」

僕達は慌てながら、慣れた様子で戸惑う事無く行動する木野君の後を追った。
そして綺麗に整った病院のロビーに入り僕が見たのは

「ひっ…………?!」
「ふぇ!?」
「…………っ!?」

倒れ伏せる中年の男。
赤い水溜り……いや、これは血だ……
つ、つまり……し、死んでる。

うわぁ………………

僕は余りの恐怖に後退りし、尻餅をついてしまう。
それは朝比奈さんも一緒でその場に座り込んでいる。
ムッツリーニは唖然とその光景を見ているだけ。

き、木野君は……


「――――そんな事が……可笑しい……有り得ない」


誰よりも驚き狼狽していた。
あの場慣れした木野君の表情が驚愕に染まり、視線は定まらない。

……あれ?

何か可笑しいな……
僕は、いや僕達はこの死体があった事にただ恐怖するだけなのに。

木野君はそんな死体の事より、何かそれ以上の事に驚きを隠せない様子で。
それなのに誰よりもその事が信じられない様子だった。
死よりも何かに驚き、そして戸惑っている。

木野君はそのまま恐れず中年の遺体に向かっていく。
そして中年の遺体を見て何かを呟いている。

「……撃った……治ってる…………有り得ない……何でここにいる……まさか……いや、ちゃんと死ん…………じゃあ…………」

木野君は遺体を見て何かを呟いているけどここらではよく聞こえなかった。
それでも、ここからただ驚いているのは解った。

…………僕は。

僕はただ、戸惑っていた。
はじめてみる死体に僕は動く事もできなかった。
ただ、そこに人が死んでいる。
それだけが怖くて堪らない。
370創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:58:25 ID:4IgEKJIX
 
371創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:58:38 ID:ON5EHePF
 
372What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 00:59:05 ID:LixKySl6
情けない事に震えて動けなかった。
僕らがそうなる可能性。
姫路さんがそうなる可能性。
そんな事さえも考えて、ただ恐怖で。

僕は脅えるしかなかった。



そんな、恐怖に脅えてる時だった。


「――――なっ!? ま、まさか……な……!?」


木野君がその死体を見て改めて声をあげ驚愕して。
何か非常に戸惑って。

そして

「…………生きています。何とか一命を取り留めているみたいです」


そう冷静を努めて呟いた。


生きてる……?

「生きてる? 本当に?」
「ええ、いきてます……」
「よ、よかった……」

僕は安堵の溜息を大きく吐く。
死んでると思ったのにどうやら、生きているようだ。
その生存に僕はただ喜びを感じている。

よかった……本当に生きていてよかった。

朝比奈さん、ムッツリーニも安堵しているようで表情が明るい。
僕らはそのまま木野君とその男の下に駆け寄っていく。


「すいません……吉井さん達はここで看病してもらってていいですか?」
「……いいけどどうして?」
「まだ、この人をこうした人がここに居るかもしれません。ちょっと探索してきます」
「解ったよ、木野君も一人で大丈夫?」
「ええ、平気です」
「……気を付けてくださいね」
「はい」

朝比奈さんの気遣いに木野君は言葉を返して踵を返して病院の奥に向かう。

……そんな木野君の様子に僕は何処か違和感を感じていた。
なんだか、解らないけど何かに動揺しているような。

木野君が何かに揺れてるような感じが何故かして。


僕はそれを、見送ったのだった。
373創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 00:59:47 ID:O2MLgrAO
 
374What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:00:26 ID:LixKySl6








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






……有り得ない。

何が起きたんだ……?
ボクは戸惑うしかない。

吉井さん達は始めてみたらしい遺体に驚いたらしいけどボクは別の事に驚いている。

何故ならあの遺体は…………僕が『一度殺したはずの遺体』なんだ。

始まった当初、森であの男をパースエイダーで撃ち殺した。
そして、あの男は死んだ。
ボクはそれを一度確認している。
確かに死んでいたはず。

それなのにあの男は森から病院に移動した。
そればかりじゃない。
撃った銃創。それすらも無くなっている。

……正直、訳が分からない。

つまり、あの男は『死んだ』はずなのに蘇って、また病院で毒によって『死んだ』という事。

何かのトリックかと最初は思った。
最初の時、なにかしらによって死んだフリをしたとか。
だけど、それは間違いだという事に否が応にも気付かされたんだから。


それは……あの止まっていたはずの心臓が『再び』動き出した事実。


完全に止まっていた。
実際、ボクが確かめた時には動きもしなかったのだから。
それなのに突然、蘇生を始めていた。
正しく……蘇りが起きていたんだ。

ボクはあの男を吉井さんたちに任せて離れた。
もしかしたらあの男が吉井さんたちを襲うかもしれない。

まぁそれでも一度彼を撃ち殺したボクが居るより安全かもしれない。
ボクも撃ち殺した手前顔を合わすわけにもいかないし。


――――そもそも、撃ち殺した人間ともう一度顔を合わすという自体、有り得ない非常識なんだけどね。
375創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:00:30 ID:4IgEKJIX
 
376What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:01:12 ID:LixKySl6








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「むおっ!?」

そのキノに撃ち殺された男、薬師寺天膳の復活は急であった。
毒殺からの蘇生に目を開けるとそこに居るのは三名の少年少女。
天膳は寝かされていたロビーのソファーから起き上がるとその三名が反応する。

「あ……大丈夫ですか?」
「ああ、起きたんだね!」
「…………大丈夫か?」

天膳に駆け寄るみくる達。
天膳は状況がつかめず、目の前に居る三名は自分を毒殺した小僧の仲間かと考えるも自身を心配した事から違うと判断する。
ならば、蘇生の秘密を知られたかと思い、少し焦るも

「何か気絶してたようですけど……何があったんですか?」

その焦りもみくるの一言で雲散霧消した。
どうやら彼らは心臓が動き出してから見つけたらしいと天膳は考え少女に応える。

「おう、ちと……な。うぬらは何者じゃ?」
「あ、はい。朝比奈みくるです」
「…………土屋康太」
「僕は吉井明久」
「……ふむ、朝比奈、土屋、吉井か」

天膳はその三名の名を聞いて顔をそれぞれ見る。
どれも、普通の少年や少女のようで害は無さそうに見える。
つまり、自分は看病されていたのかと気付き、少し気をよくした。
友好的に此方に接しているのだから一先ず邪険に扱う必要は無い。
だから天膳は名乗った。

「俺は薬師寺天膳よ。うぬらはここで何をしておった?」
「えっと……私達は手当てなどをしに……そこで薬師寺さんが倒れていて」
「なるほどのう……」
「何があったんですか? 襲われたりしたんですか?」
「む……」

少女の先程と変わらない質問にどう答えようかと迷う。
正直に話してもよいのだが、天膳とて完全に信用しているわけではない。
目的は変わらず朧との脱出なのだ。
必要な情報さえ知りえればよい。
できるのならば、みくる達からも情報を聞き出したい。
それならば対価になるものは必要であろうとも思う。
なにより、先程の二回強行に事を進めようとして殺されてしまったのだ。
ならば、穏便に事を進めたほうが情報を得られるだろうと天膳は判断し
377創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:01:43 ID:ON5EHePF
 
378創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:01:56 ID:4IgEKJIX
 
379What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:01:56 ID:LixKySl6
「何、ちと不覚をとってな。襲われてしまったのだ」
「そうなんですか……どうりで毒ガスの匂いが」
「……何、毒か……ふむ、あれは毒だったか……あの小僧め。小癪な真似を……」
「小僧……?」
「うぬらと同じような小僧だ、それに襲われたのだ」

事を正直に話した。
それを聞いた三名は驚きや籠めた顔をしている。
天膳はそれを見るに、表に生きる人物なのであろうと改めて思う。
殺し合いや、自分らのような闇に生きるものと無縁のものであると。
そんな事を思いながらも話を進める。

「うぬらは俺に会う前は何をしておった?」
「えっとですね……放送を聞いて」
「……放送?」
「ああ、はい。あの狐さんが話していた放送です……もしかして聞いていませんか?」
「……うむ、気を失っていたからのう」
「そうですか……では、話しますね」

本当は死んでいたのだがなと心の中で笑いながら天膳はみくるの話を聞く様にする。
そういえば、彼らの衣装は面白いものだと思いながらも。
南蛮のものだろうか、それとも自らが知らぬ世界のものかと期待しながら。
そして、みくるの露出された柔肌が気になりながらも。

みくるが語る放送を聴き始めたのだった。








◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
380創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:02:33 ID:ON5EHePF
 
381What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:02:46 ID:LixKySl6
どうやら、吉井さん達は無事に話せてるようだ。
ボクは陰で隠れながらも彼らの会話を聞いている。

そして、薬師寺天膳といったかな……あの人も無事生き返ったみたいだし。
まぁボクが表立つ必要性も無いだろうし。

しかし、参ったね。
エルメスが居たなら聞いて欲しいぐらいだ。

どうやら放送によると僕らと彼らとでは文字通り生きている世界が違うらしい。

そう『世界』が。

つまりは国とか大陸とか海とかそういうものじゃない。
吉井さんの話を聞くと確かに別の世界である事がわかる。
日本という国、六つの大陸、国名がしっかりついている。

ボクと吉井さん、朝比奈さん達の世界ではまるっきり違ってる。

つまりは……この生き残りゲームみたいの上に立つ人はそもそも次元とかそこら辺が違うみたいなんだ。
何だかボク自身何言っているかさっぱり解らないけどね。

違う世界から切り取られてきた。

つまり、ここもボクが住んでいる世界と違うのかもしれない。

ねぇ、エルメス。

君はどう思うかな?

こんな世界すらも違う場所で『脱出』なんて可能なのかな?

素直に従った方が早い気がする。


……ああ、何かもうごっちゃごっちゃだ。

与えられた情報がスケールがでかいや。

まぁ……いいか。

もうちょっと……話を聞いてみようかな。









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
382What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:03:27 ID:LixKySl6
「はっ……死におったか。そうか死におったか! 甲賀弦之介!」


みくるが語った放送。
その呼ばれた死者に天膳は心の底から笑った。
あの怨敵、甲賀弦之介がもう死んだのだ。
それは心の底からの大願であったのだから。
これで忍法勝負にも圧倒的に有利になるのだ。
小四郎が呼ばれたのが、多少痛いがそれに比べても弦之介の死亡は天膳にとって痛快であった。

少し朧の身が心配ではあるが、今はそれよりもまず始末したいものが死んだ喜びが勝っている。
この目で奴が死ぬ所が見えなかったのが唯一の残念だと思いながらも。

「……え、えと。こんな感じです。薬師寺さん」
「うむ、朝比奈、わざわざ難儀であったな」
「い、いえ別に……それよりも沢山の事がこの放送でわかりましたね」

死者の発表に何故か喜んだ天膳にみくるは少し驚きながらもこの放送で判明した事実をいう。
しかし、吉井はそれが理解できず

「…………ええと、どういう事? 朝比奈さん」

それをみくるに尋ねる。
土屋康太も頷き吉井同様解らない様だ。
みくるは苦笑いしながらも彼らにもわかりやすいように話し始める。

「えと……まず大きくわかった事は私達が居る『世界』が別々という事ですよね」
「うん、薬師寺さんなんて僕らの生きる四百年前の世界だったなんて……」
「それは俺の方が驚きじゃ……なれば、あの見慣れる世界は遥か先という事なのか……ふむ、面白い話よ」
「私も召還戦争なんて知らないですし……でも吉井君達と時代は一緒みたいですね」
「…………(こくっ)」

まずは彼らが住む世界が別である事。
本来ならば到底信じられないような話であっても薬師寺天膳という存在がその世界が別である事を認めている。
彼の話す世界、それはみくる達の遥か昔の事なのであるから。
それを吉井達は信じ固いものだったが受け止め、天膳もまた受け止めていた。
みくるはその彼らを見て話を続ける。

「まず……世界が別という事が判明した時点で狐さん、あるいはそのバックに居るものは持ちえる力は常識では考えられないものだと思います」
「…………何故?」
「それは、時間軸の移動、別次元の世界から人を集める事が出来る事が出来る人間……土屋君は知ってますか?」
「…………いや」
「普通は居ませんよね。だから、彼らは恐るべき力を持っていると推測できるんです」
「……でも、ちょっと変じゃない?」
383創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:03:41 ID:4IgEKJIX
 
384創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:03:49 ID:O2MLgrAO
 
385創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:03:53 ID:ON5EHePF
 
386What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:04:13 ID:LixKySl6
みくるの推論に疑問を呈したのは吉井。
頭を傾けながら、多くの人に馬鹿といわれている彼の頭が思いついたのは単純な事。
それはある意味当たり前の事でもある。

「……そんな事出来る人。誰も知らないんじゃ無理じゃ……」
「……いえ、私は知ってます。少なくとも時間軸の移動に関しては出来ると断言できます」
「……朝比奈、それは何故じゃ」
「私自身が…………いえ、すいませんこれは【禁則事項】で詳しくは……」
「………………禁則事項?」
「はい、詳しくは話せないです……御免なさい」

深々と頭をするみくる。
こんな大事な時なのに未だにそれに縛られているのを心苦しくも思っていた。
そんなみくるに天膳は言う。

「……ふむ、掟のようなものか?」
「あ、はい」
「ならばよい。話せない事であろう。少なくとも存在する。それは確かなのだな?」
「はい、それは間違いないです」

天膳は知っている。
自らが忍者であるように人に言えぬ厳しい掟が存在する事を。
また、それを破る事はできず、強要されたならば自決も問わない覚悟もある事を。
同じようなものだと解釈し、天膳はみくるの立場に理解を示した。
みくるは感謝しながら話を続ける。

「兎も角、上にそんな者が居ると解釈して問題ないと思います。そして今回もう一つ明らかになった事があります」
「さっき纏めて言った『異端』という存在?」

吉井の返答にみくるは笑顔で頷きながら答えを言う。

「そうですね……魔法や、超能力や、忍法やら、殺人技術といったものです」
「…………召喚も同じものか」
「多分そうですね、超能力に関していうなら私にも知り合いが居ます」
「……忍法もまぁそうであるか」
「はい、そんなある意味非常識な存在といえますね。幸い私達は皆知っていますが……」

こほんと一息を吐いて真面目な表情を浮かべる。

「それを持たないもの、知らないものも沢山居るって事も解りますよね?」
「え? どうして?」

疑問を呈した吉井に対してみくるは笑いながらわかり易く伝わるように

「”海水魚ばかりになれば水槽の中の塩分濃度は高まり成分は海のものに近づく。また逆も然り。” ってこの言葉には色んな解釈ができますが……」
「…………ふむ」
「海水魚を『異端者』とするならばその逆も然りですよね。つまり『一般人』としましょう」
「成程……」
「まぁ実際私達も一般人と変わりませんし。でも薬師寺さんはその……忍者なんですよね?」
「……いかにも」
「しかし、私達は一般人です……このように沢山の異端と一般が混ざってますね」
「僕たちも召喚無ければただの学生だしね」
「………………(こくっ)」
「しかも今使えないし…………ああ、姫路さんが心配だ。頭がいいといってもただの学生だし」

吉井は姫路さんのことを心配して暗くなっていく。
みくるはそれに表情を曇らせながらも言葉を紡ぎ続ける。
387What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:04:59 ID:LixKySl6
「つまり、異端者ばかりになると異端者本来の実力がだせたりする……逆に一般人ばかりになると更に力が出なくなると解釈で着ます」
「……それは解ったんだけどつまりどういう事かな?」
「……それを自由に操る事が出来るかもしれないって事です。狐さんは」

みくるはそう重々しく告げる。
つまりは、人の力の上限すらも自由に扱えるという事は恐るべき事であるという事。
その言葉に三人は黙ってしまう。
みくるはそれでも気丈に笑顔で振舞って

「放送に関してはこんな感じですけど…………それを踏まえてどう脱出できるかを考えて見ましょうか」
「どのような形なのだ?」
「まず…………この狭くなっていくこの場所で黒く消失するもの解明。そしてその先が続いているものかどうかを確かめないといけません」
「手立てはあるの?」
「……まだ、ありません。そして、たとえその手立てがあろうと狐さんたちが監視してるでしょう。脱出する為には彼の目をごまかさないといけません」
「手段はどうだ?」
「打倒か、それとも情報隠蔽かのどちらかでしょう」
「…………どちらも出来る見込みは」
「…………まだありません。そもそも何処にいるかさえ知りませんし。何者すらもわかりません」
「だよね……」
「兎も角脱出のプロセスとしては
 @この場所からの脱出方法を見つけ出す。この島の場所の解明。
 A狐さんを何とかする方法を探し出す。狐さんの情報集め
 ですね。大雑把に言うと……しかしながら、これができる手立てや手段は無きに等しいです」

その言葉に更に場が重たくなってしまう。
脱出の見込みがほぼ無いに等しいといってるのだから。
皆が暗くなる中、一人だけ吉井が声を上げる。

「……皆、たとえ暗中もずくだとしてもさ、きっと何とかなるよ! 希望を持とうよ!」

暗中もずくという意味の解らない言葉を発しながら。
その言葉に一度、沈黙して。
そして。

「ぷ……ふふふふふふ」
「……………くっくっ」
「……可笑しいな事を言い寄るわい」
「……え、なんでさ!」
「そ、それ暗中模索じゃないですか?」
「あ……ああ! そ、そうだった!」

そしてみくるは笑いながら間違いを指摘する。
吉井は酷く恥ずかしくなりながらも、それを無視して。

「と、兎も角さ! 何とかなるって! 何とかするよ! 希望を持たなきゃ始まらないと僕は思うんだ!
 だからさ、皆元気出して、そして皆で脱出しよう!」
388創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:05:02 ID:4IgEKJIX
 
389創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:05:15 ID:ON5EHePF
 
390What a Beautiful Hopes ◇UcWYhusQhw:2009/09/20(日) 01:05:56 ID:LixKySl6
そう、元気を出して強く言った。
希望をもって脱出をと。
たとえ道がなくても。
皆が強く思っていれば何とかなるはず。

そんな希望を持って。

「……そうですね。そうしないと始まりませんね。希望を持たないと」

みくるはそれに笑いながら応えて。

「…………(こくっ)」

土屋康太は強く頷いて。

「……ふむ、まぁそれも悪くはないよの」

薬師寺天膳もまんざらではない表情を浮かべた。


「うん! だから、頑張ろう!」

そして吉井明久は大きく笑って。


手をつきのばした。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
391創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:06:14 ID:4IgEKJIX
 







なんだか、もう。

凄く、大変のように聞こえる。

別の世界が存在する事。

薬師寺天膳の忍法がもし、不死に関することだというのなら。

他にも存在するという魔法、超能力とはどのような現実離れしたものなんだろうね?


しかも、彼が言うようにあの狐の人はとても恐ろしい力を持っているようだ。
そんな相手に反抗して、果たして生き残れるのかな?

エルメス。君が居たらボクにどう言うかな?


ああ、何かもう考えるのすら面倒だ。
朝比奈さんの話はまだ続いてるけど。
何か気の遠くなる話だなぁ。
正直、ボクには想像つかないや。
脱出なんて。

吉井さんがいった姫路さん。
彼女ならぱっぱと脱出できる方法でも思いつくのかな。
あれだけ自身もっていったんだからきっと考えているの……




…………うん?
吉井さん。
今……君、こういったよね。
393創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:06:41 ID:ON5EHePF
 
頭がいいといってもただの学生って。

なんだ、結局その程度なのか。
あの時、考え無しに言ったのかな。
そのまんま信じちゃったや。

…………うん。ってことは。

誰も脱出の手立てなんて無いのか。



ああ、なんというか……もう。

脱出方法のプロセスとして。

 @この場所からの脱出方法を見つけ出す。この場所の解明。
 A狐さんを何とかする方法を探し出す。狐さんの情報集め

と提示していたけど漠然して、そして余りにも無策すぎる。

出来るわけ無いと思うけど。
ボクが思うに。
正直、こんなプロセスを3日以内に出来るとは思えない。
そして、余りにも手立てが無いし難しい。
情報すら与えられていないのに。
砂漠の上で針を探すようなものだ。


ああ……なんかもう。

うん……。


希望……かぁ。

希望だけで脱出できるのかな?
希望だけで人は生きれるのかな?
希望だけで全てが解決できるのかな?

そんな縋りの言葉で。

脱出できるのかな?






―――有り得ない。
395創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:07:55 ID:O2MLgrAO
 
396創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:08:03 ID:4IgEKJIX
 


現実を見ていないだけの言葉。


うん。


ああ――もう、いいや。



決めたよ、エルメス。




――――もう、面倒だ。




そんな甘い言葉より。


もっともっと



――――現実的な道をとろう。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
398創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:08:19 ID:ON5EHePF
 
「さて、ちょっと休憩しましょうか……お茶でもあるといいんだけれども」

朝比奈さんの言葉に皆が伸びを始める。
僕はそんな、明るい光景に少し満足していた。
うん……希望を持っていればなんとかなる。

「しかし、この世界は面白いのう」

薬師寺さんはそう呟く。
まるで子供のように辺りを見回して、そして何処か楽しそうだ。
殺し合いの舞台である事を忘れているように。

「もっと見たいものだ……この世界の全てをな」

そう言って大きく笑っていた。
うん、大丈夫。
姫路さん、待ってて。
今、護りに行くからね!

「………………ジー」

ムッツリーニはずっとみくるさんを見つめている。
何かいつもと変わらないようだ。
そんな光景に僕は安心して。


「………………かはっ」


そんな、ムッツーリニの断末魔を。



聞いてしまった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
400創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:09:53 ID:4IgEKJIX
 
401創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:10:44 ID:ON5EHePF
 
402創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:11:29 ID:4IgEKJIX
 
403創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:11:34 ID:ON5EHePF
 
土屋康太、ムッツリーニは見ていた。
己がヴィーナスといった朝比奈みくるを。

ムッツリーニにとって今の朝比奈みくるは

癒しであり、
エロスであり、
とても可愛いものだった。


そんな朝比奈みくるをビデオカメラで取り続けていた。

正直鼻血が溢れそうである。

というか溢れ出てきていた。

何故なら、ナースみくるを妄想していたから。

そしてその着替えのシーンを。

なんというか、もう最高である。

こうなったら最後まで撮り続ける気である。

彼女の姿を。

そんな、エロスにまみれた思考をしながら。


ムッツリーニの首に、無骨なナイフが突き刺さっていた。


鼻血以外に溢れる赤い赤い血。


彼は結局、殺し合いを理解する事ができず。

405創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:12:36 ID:ON5EHePF
 
そして彼の欲望のまま。


最期に思ったのは朝比奈みくるの姿。


これも着せたいと思いながら。


「…………バニー」


そんな普段通りの妄想と共に。


土屋康太―――ムッツリーニは命を散らしたのだった。



【土屋康太@バカとテストと召喚獣 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
407創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:13:05 ID:4IgEKJIX
 
408創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:13:21 ID:O2MLgrAO
 
「きゃあぁああああああああ!?!?」

朝比奈さんの悲鳴が響く。
よく……わからなかった。

僕の目線の先には首にナイフをさしたまま壁によっかかっているムッツリーニ。

赤く染まりながら……息絶えていた。

どうして?
どうして?

そして、物陰から現れる人。


「貴様っ……あの小娘っ!」


その姿は見慣れたされた黄色いコート。
黒装束の少年。

木野君。

明確な殺意を持って僕らに迫ってくる。

僕はその場に動く事ができずソファーの上で座っているばかりだった。
朝比奈さんも、動けず尻餅をついている。

「あの時、し止めていればっ……!」


薬師寺さんが木野君に向かって駆け出す。
薬師寺さんは尋常でない速さで向かうが武器も無い。

右、左、はたまた上と跳びながら木野君に迫っていく。
木野君はその動きに対応できないのかその場から動かない。

あわや、木野君に襲いかかろうとした瞬間。


「……がっ!?……小娘……おのれ……」

一発の銃声が響いた。

結末はあけなく。

薬師寺さんは倒れ伏せる。
……違う、対応できていないんじゃない。
ただ、おびき寄せて狙いが定まるのを待っていただけだったんだ。

…………あぁ。

どうしてなんだ?
木野君?


僕は自分の体に動け、動けというけど動きやしない。


木野君はそのまま、朝比奈さんの方に駆けて行く。
朝比奈さんは気付いて背を向けて逃げ出そうも。

「あぁぁああああああ!!!…………ど、どうして……キノ君」

そのまま、取り出した刀で切り伏せた。
朝比奈さんは……そのまま動かなくなってしまう。


僕は。

僕は動けなかった。
怖くて。
怖くて。

動く事なんて出来やしない。

畜生……

僕は何で弱いんだ。
411創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:14:53 ID:O2MLgrAO
 
412創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:15:35 ID:4IgEKJIX
 
木野君が此方を向かい駆け出していく。
次は僕の番なのかよ。

何か。
何か出来ないのか!

僕は必死になってディバックを漁ってみる。
まだ、一つ支給品があったはず。

そして、取り出したのは。


無骨な黒い銃。

重たくて大きい黒い散弾銃だった。
僕はそれを木野君に向け声を張り上げる。

「う、動くな!」

木野君は気だるそうに止まって僕を見つめる。
僕は……僕はどうしても聞きたかった。

「なんで……?……希望を信じれば皆で脱出を……」

そう言い掛けた瞬間。
木野君は本当にどうでもいい風に。
詰まらなさそうな表情を向けて。

「……希望? 信じるだけで生き延びる事ができますか?」
「……きっと、できるよ!」
「……そうですね。そんな淡い幻想を抱き続けてください」
「……木野君!」

木野君はそういって、僕に向かってくる。
……え?
じゅ、銃が怖くないのか!

ど、どうして!?

僕は戸惑うばかりで。

木野君は相変わらず向かってくる。
距離にして五メートルぐらい。

「う、撃つよ!」

僕は気丈に威嚇する。
でも、歩みを止めることは無い。
僕はトリガーにかけた指が強くなって。

「撃つからな!」

そういって。

震える指で。


トリガーを
414創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:15:58 ID:ON5EHePF
 
「――――あれ?」


引けなかった。


「……それ、安全装置ついたままですよ。それに見た所、ポンプアクション式ですから一度引かないと撃てないです」


そう、木野君は僕の目の前に立って。
淡々と言って僕の銃を奪う。


「それと希望なんて信じるより―――ボクは生き延びる確実な道を選択します」

安全装置を外して。
弾を装填して。

そう簡単に言って。

何も感慨も無い顔をして。


「それじゃあ……さようなら」



銃を撃ち放った。


散弾によって貫かれる僕の体。

僕の意識は闇に落ちていく。


ああ、こんな銃の使い方も知らないなんて……馬鹿だなぁ僕も。

姫路さん。

逢いたかったな。



ううん……もう一度。

Fクラスの皆と。

ムッツリーニと。
秀吉と。
雄二と。
美波と。
姫路さんと。


「……馬鹿騒ぎが……したかった……なぁ」




【吉井明久@バカとテストと召喚獣 死亡】
416創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:16:49 ID:O2MLgrAO
 
417創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:17:25 ID:4IgEKJIX
 
418創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:17:46 ID:ON5EHePF
 
419創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:18:41 ID:ON5EHePF
 
420創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:18:53 ID:4IgEKJIX
 





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





痛い。
痛い。

痛みが私を襲う。

キノ君に斬られた傷が痛い。
致命傷らしい。

けど私はまだ生きている。
だから、何かを残したい。

SOS団の皆に。
脱出を目指している皆に。

何かを残したい。

何か……
何か……


何か……無い?


え……何にも無い?
私がこの島でやってきた事。
何か残せるものは…………無い……?

そ、そんな

ふぇ…………
422創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:19:20 ID:O2MLgrAO
 
な、なら他の事!



あ、でも……【禁則事項】が【禁則事項】で……


これも【禁則事項】で……


あぁ……

何にも無い。


何も残せない。

私は………………誰にも何も……残せない。


あ……あぁ


ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁああああああああああああああああぁぁああああああああ
ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁぁああああああああああああああああぁぁああああああああ
ああああああああああぁぁああぁああああああああああぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「私は……何も……残せ……ない……んです………………か?」




【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
424創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:19:47 ID:4IgEKJIX
 
陽がやや、動いた。――薬師寺天膳の変化は続いている。
じくじくした分泌物の中に、病理学的に言う肉芽組織発生しつつあった。
つまりいわゆる「肉が上がってくる」という状態になってきたのだった。
普通の人間では三日ぐらい掛かるこの治療過程が彼の肉体のうえでは既に始まっていた。
しかも彼は完全な死人だ。

――― いや、耳をすませて聞くがいい。
とどめを刺されたはずの彼の心臓が、かすかにかすかに拍動をしている音を。

ああ、不死の忍者!
いかなる驚天動地の秘術を体得した者も、これを知れば呆然たらざるをえまい。
深き森の中でキノが撃つ銃に心臓を打ち貫かれ、赤い十字の館の中、浅羽直之の毒に毒殺されたはずなのにふたたび、けろりとし顔でこの世に現れた秘密。
それこそが薬師寺天膳の絶大な自信の根源であったのである。

彼は、まだ動かぬ。目は白く、日にむき出されたままである。

しかし何やら、音がする。
鬼哭しゅうしゅうとも言うべき音が。

――

それは天膳ののどのおくから、かすかに鳴り出した喘鳴であった。
そして見開かれたまぶたが、ぴく、ぴく、と動きだしはじめた……。



だが、それは突如響く轟音によって遮られてしまった。
それは天膳の体に迫り来る無数の鉄の弾。
すぐさまに着弾し、天膳の、眼、鼻、耳、口、腕、足、脳髄、五臓六腑、全てを蹂躙し尽くしていったのである。
またその衝撃によって首と胴体は弾け跳んでしまい離れてしまったのだ。

ああ、なんという事か。
薬師寺天膳の体は未知の武器により凄惨に破壊されつくされてしまったのである。
千切れに千切れたその体では不死の忍術も叶わない。

そう、薬師寺天膳は胸に野望を秘めたまま、まだ見ぬ世界に胸を躍らせたまま。


ああ、不死鳥はついに翼を失い、煉獄へと堕ちたのである。



【薬師寺天膳@甲賀忍法帖 死亡】





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
426創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:20:49 ID:ON5EHePF
 
「ふう……」

溜息が静謐な病院に響く。
そのロビーに立っているのはたったの一名。
彼の周りには遺体が四つ並んでいる。
その一つ薬師寺天膳の遺体を手に入れた散弾銃で完膚なきまでに破壊した。

「まぁ……これでいいかな」

立っているのはキノ。
この四つの遺体を作った張本人である。
今は薬師寺天膳の蘇生をしないように遺体を木っ端微塵にした所なのである。
そのまま、キノは散弾銃をディバックにいれ、他三名の道具も回収した。

「さてと……どうしようかな?」

キノは顎に手を当て思案する。
いくら薬師寺天膳の遺体を木っ端微塵に破壊したからといって再び蘇る可能性だってあるのだ。
その可能性を考えて、放送まで病院で待機するのも一つの手。
しかし、ここまで破壊したのだからもう大丈夫だろうと思い、このまま当初の通り南下するのも有りとも考えた。
どっちにしようかと少し考え

「まぁ……後でいいか」

そのまま、ロビーのソファーに倒れるように寄りかかった。
特に疲れることもしてないのだけれども、何となく。
そんな気分でキノは座った。

「……希望か。そんなもの信じて何になるのかな……?」

ふと、吉井の言葉を思い出す。
希望を信じてと言った。
希望とは何だろう?
希望を妄信して何がなるのだろうとキノは考え。

「……生きていれば、食えるものになれば何でもいいか」

そこで思考をやめた。
今、キノが目指すのは一つのみ。
最後の一人になるまで生き残る事。
理由は簡単、そっちの方が手っ取り早く生き残りになると判断したから。
脱出など、あんな面倒な事より手っ取り早く終わる方を選んだだけ。
今まで、停滞していたのが歯痒く感じるくらいに。

まぁそれもいいやと今は置いておく。

今やるべき事は、この身を汚し前を生きていく事。
いつも前を向いて、前を進んで殺し尽くす事。

それだけである。

キノはそう思って大きな欠伸をして。

一つ思い出す。
「…………ああ、お腹減った。何も食べてないや」

ここにきて、まだ一度も食事をしていない事を。

それは一大事だとキノは思い。


「ご馳走があるといいな……」


何かを食べようと思い行動を始めたのだった。



【B-4/病院内ロビー/一日目・午前】

【キノ@キノの旅 -the Beautiful World-】
【状態】:健康、空腹
【装備】:エンフィールドNo2(4/6)@現実、九字兼定@空の境界、トルベロ ネオステッド2000(11/12)@現実
【道具】:デイパック、支給品一式×5 暗殺用グッズ一式@キノの旅、ボン太くん改造型@フルメタル・パニック、12ゲージ弾×72
    :ロケット弾(1/1)@キノの旅 、カメラの充電器、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ
    :ブラジャー、リシャッフル@灼眼のシャナ
【思考・状況】
基本:生き残る為に最後の一人になる。
0:一先ずご飯
1:南下するか病院に待機するか選択する。病院に待機の場合、放送の後に南下。
2:エルメスの奴、一応探してあげようかな?
[備考]
※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。


【トルベロ ネオステッド2000(11/12)@現実】
トルベロ・マニュファクチャラーズ社のアーモリー部門が、2001年より製造しているブルパップ・ポンプアクション方式の散弾銃。
デュアルチューブマガジンを採用し、装弾数は片側チューブに6発づつの計12発である。
装弾は上部のチューブマガジンを跳ね上げて行い、中折れ式散弾銃のように扱える。
排莢は後方レシーバー下部より行われる。照準はチューブマガジン上のキャリングハンドルに付けられた大型サイトで行う。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
429創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:21:58 ID:4IgEKJIX
 
撮っている。

その眼鏡は今も撮っていた。

四人の軌跡と生き様を。

そして一人の人間の三分ほどの殺戮を。

ただ、克明に撮り続けていた。

それは誰にも気付かれる事が無く。

ただ、ただ、今もなお。

映像を撮り続けていた。


【「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅は一部始終をとり、今もなお撮り続けています】
431創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:23:07 ID:O2MLgrAO
 
432創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:23:19 ID:LixKySl6
代理投下終了。
支援くださった方、ありがとうございました。
433創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:41:38 ID:4IgEKJIX
投下、仮投下乙。

なんてこったい……。キノを押し留めてた糸が切れちまったか。
バカテス男勢全滅(秀吉? あれは性別・秀吉)に、みくるに、天膳様に……。
一気に死体の山築きやがったなぁ。しかも追加武装とかw
何気に眼鏡がカギになるのか……? 改めて乙。
434創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:42:47 ID:O2MLgrAO
投下乙ー。
キノが一気に殺害数トップに躍り出たなあ。
天膳様にもしっかり止めをさすし、和み担当が一気に死んだことで空気が変わりそうな予感。
しかし甲賀忍法帖はこれでもう一人しか残っていないのか。
しかも残り一人は大変な状況だし……

なんともロワの非情さを感じさせられたなぁ。
435創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:43:50 ID:LixKySl6
投下乙です。
わぁ……面子からは考えがたかった阿鼻叫喚がw きれーに四人ばっさりw
夢見ちゃってる子たちは現実見てる子には敵わないのがロワの必定なのよね。
ムッツリーニは伊里野に襲われてもあれだったのが上手く生きてる感じだや。
殺る気モードのキノは本当にこのくらい淡々と殺すしな……四人共南無南無。


そしてここからは指摘です。
ムッツリーニの死に関して、彼が持っていた『非常手段』がなんの反応も示さなかったのはどうなのだろう。

>【非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ】
>“逆理の裁者”ベルペオルが、子飼いの部下に持たせている黄金の鍵型の宝具。
>用途に応じた様々な自在法を織り込めており、所有者が死に掛けた際、残された“存在の力”を使って込められた自在法を発動する。
>ちなみに“琉眼”ウィネが持っていたものには破壊の自在法が、“聚散の丁”ザロービが持っていたものには転移の自在法が込められていた。
>この『非常手段』にどのような自在法が込められているかは不明。また、発動の際にベルペオルと会話ができるかどうかも不明。

死の間際に効果が発動する(その効果がなんであれ)とあるので、この時点でなにかしら言及しておかないと、
後々の所有者が死亡した際にはどうなるのか? ムッツリーニのときはなにもなかったが? となりかねない。
所持者のムッツリーニが死ぬなら死ぬで、『非常手段』に関してこの話の中で言及しておくのが筋かと思います。
436創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:50:02 ID:O2MLgrAO
>>435
個人的な見解だけど、非常手段は装備してなかったみたいだからそれで発動しなかったんじゃねーかなー、と思ってる。
437創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 01:57:18 ID:zEpo053G
投下乙。
えらい騒ぎだ。ここまでやるか!
一気に空気が入れ換えられた印象というか。
いやはや、凄い。これは凄い。


しかし、気になった箇所も少々。
今回の作品の要であるキノに対し、違和感を覚えました。
まずキノがここまで常識的通り越して悲観的だったか。
現実的なのはわかるけれど、あの心理は行き過ぎじゃないかと感じてしまってます。
状態表に書いている様に、仲間(明久達)を利用するくらいの強かさもあるのではないかなと。
今回のキノは「現実的」という言葉を拡大解釈されてる様に見えました。
438 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:09:14 ID:LixKySl6
玖渚友投下します。
439箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:11:09 ID:LixKySl6
 【0】


 寝てばっかり?
 人間って普通はこのくらい寝るだろ。



 ◇ ◇ ◇



 【1】


「 ――友! 大丈夫か、助けにきたぞ。一緒にぼくたちの家に帰ろう 」
「 うに? なにいってんのさいーちゃん。ここ、僕様ちゃんの新居。眺めもよくてさいこーだぜー 」
「 そうか。じゃあお前だけは生き残れ、ぼくはここで朽ちる。でも、お前の中からは消えない 」
「 そういうきざっぽいの、いーちゃんには似合わないよ。でも悪い気はしないね、うん、僕様ちゃん惚れなおしちゃう 」
「 あっ、だめだ。この世界はもうお終いだ。二人で一緒に死のう。最後の最後に本当に宇宙を破壊してやろう 」
「 わー! いーちゃんが壊れた! ネガティブ! ネガティブいーちゃん、それでも僕様ちゃんを愛すの巻だね! 」
「 いっそ結婚しよう! ぼくたちは史上最後のアダムとイブだ。世界の終わりまでえっちぃことばっかしようぜ 」
「 おーいえー! 望むところだ! 僕様ちゃんの色香でめろめろにしてやるぜ! チキンじゃないいーちゃん好きっ! 」

 じたばた。
 じたばたばたじた。
 じたばたばたじたばたじたじたばたばた。

 毛布お化けにシーツお化け。
 蒼い色の少女が白に包まりベッドの上を転げ回る。

 それはもはや寝相が悪いの一言で済ませられるほどの有り様ではなく、ベッドの上はフェスティバル状態だった。
 容赦ない現実が襲い来る世界で、蒼色一人だけが夢心地。なにに阻まれるでもなく、大いに憚って、夢に浸る。
 現実逃避などではなく、これは待望。もしくはもっと根本的な、睡眠という名の行為。意味があるとすればそれだけ。
 多くの人間は夜に寝るものである。寝るのが遅けりゃ朝まで寝てる。起きるのがつらけりゃ昼まで寝てる。

 寝ながらに悶えるこの《死線の蒼》。
 いったいつまで寝ているのか。いったいいつになったら起きるのか。
 問題としては難問。しかし回答としては単純でいて明快。蒼色は白の部屋に、唯一の答えを提示する。

 ――いーちゃんが迎えに来てくれるまでだよ。

 白い部屋はうんざりする。漂白したような白の部屋に、《死線の蒼》が放つ色彩は強烈すぎた。
 白と蒼が混ざればどんな色に変わっただろうか。正解は蒼。どれだけ白の比率を多くしようと、蒼は白にはならない。
 ゆえに蒼は白になど構わずのさばり続ける。この領域は既に、白の寝室ではなく蒼の寝室であるから。

 蒼い髪が満ちる白のベッドを、まだ蒼には染まっていない白の扉が見つめた。
 この扉を開け放つ者は、まだ訪れない。訪れるまで蒼は退去を承諾しない。
 蒼に侵略されたままの白い部屋。ずっとこのままですか、と悩ましげに閉まる。
440箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:12:56 ID:LixKySl6
 この白い部屋とて、数十時間後には黒に侵略されてしまうのだ。

 いくら蒼とて、黒と混ざれば蒼を保てなくなってしまうだろう。

 ならばもし、そのときが来たのなら。蒼はどうなってしまうのか。



 ◇ ◇ ◇



 【2】


「――の名前を書き足しておくといい。全く無意味なこと、ではないだろう」

 天から降ってくるぶっきら棒だが親切なその言葉。神託などでは決してない、非情の通告。
 内容が内容なため、放送自体の原理を追求しようとする者はまずおらず、謎として永遠に放置される。
 科学の粋を結集して作製された超高機能拡声器か、はたまた対象無差別の広域テレパスか、
 それとも遠話の基礎を改良し範囲を拡大させた狐オリジナルの自在法か、よもやある国の伝統か。
 誰が興味を抱き、思索し、真相に辿り着くというのだろう。皆が皆、一秒後の自分を憂うこの土地で。
 余裕がある子は考えるべき。頭がいい子は考えるべき。たまの出番を考察にあててみろ、と。

「うにっ?」

 蒼色は――玖渚友は、一時的にだが目覚めた。

「んー……なんだか理不尽なお目覚め気分。いーちゃんいないし。この僕様ちゃんが、いーちゃん以外の目覚ましで起こされるだなんて……」

 仮説。放送の正体は“目覚まし時計”。六時間きっかりに行われるそれは、確かに優秀な目覚まし時計と言えよう。
 ただ、性能は些かきっかりすぎる。六時間後より早く起きたくても、六時間よりも長く寝ていたくても、融通が利かない。
 時間指定できない目覚まし時計など目覚まし時計にあらず。それは単なる騒音。寝ていたいのに起こされる、迷惑な騒音。
 しかも大切な部分は既に終わってしまっているようだった。

「むかつくー! 寝なおすー!」

 蒼色は再びベッドに沈み込んだ。あれだけじたばたとしわくちゃにされたシーツは、なおも柔らかさを失わない。
 蒼と白のグラデーション、いっそのことコラボレーション。時折蠢動してみせるのは、単なる寝返りなのだろうか。

 むくり。

 放送という名のぽんこつ目覚まし時計が鳴り終わり、数十分と数十秒後のこと。蒼色は再び起き上がった。
 不機嫌そうに白の壁面を眺め、睨み、見やり、一箇所だけ白とは言えないそこ、東を映す窓へと目を向ける。

「どうせだから、確認しておこうかな」

 たまの出番に一仕事、なんて思ったのかどうかは白にはわからない。蒼は白には理解できない色だった。
 蒼はどこまでも白に無遠慮で、その奔放さはむしろ自由の色。さて、この場合の自由の色とは何色か。はて。
441創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 02:15:13 ID:4IgEKJIX
 
442箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:16:06 ID:LixKySl6
「うんうん、ちゃんと黒い壁だね。夜のときは気づきにくかったけど、朝になったらくっきりだ」

 窓辺に立ち、東方へと繋がる風景に目を焼く蒼。その遥か先に水平線は見えず、代わりに“黒い壁”が聳え立っている。
 あれこそが、いずれの黒。いつか迫り来る黒。この蒼色とて、この白の寝室とて、未来には蹂躙してしまう無慈悲なる黒。

 窓は東側にしかついていない。ゆえに北と南と西は確かめようがなかったが、蒼は他三方にも黒い壁が立つと判ずる。
 つまり、世界の四方に黒い壁。夜の闇とは似て非なる漆黒。外界では何人の人間がこれに驚いていることだろうか。

「けどそれって、太陽の光が遮られてるってわけじゃないんだよね。天井はちゃんと空色だし」

 窓辺にむぎゅっと顔をくっつけて、蒼色は北でも南でも東でも西でもなく上、あるいは宇宙の方向を観察する。
 朝で、空、と言えば当然そこは青色。蒼ではない、空色と称すのが相応しかろうもう一つの青。雲が混じって白混じり。

「“蓋”は開いているわけだ。当然だね。蓋が開いてなけりゃ、“箱”に詰め物はできないんだから」

 ほわぁ〜、とあくびをしながら語る蒼色。相槌を打つ隣人はそこにはおらず、孤独な講釈が続く。
 空には蓋。北と南と東と西と、それらの方角には壁。蓋と壁。蓋がなくて壁だけがあり、壁の数は徐々に増えていく。

 蒼色はこの世界を“箱”と仮定する。

「思索の時間です。考えるのは僕様ちゃん、寝ぼすけモード」

 以降は玖渚友の思考領域――才ある者にしか理解できないそれを極めて簡易に表した試行錯誤の結果。


「んー、今が六時半くらいだから……箱の中身はこんな感じーっと」


 ■■■■□□
 □□□□□□
 □□□□□□
 □□□□□□
 □□□□☆□
 □□□□□□


「ここの☆んとこは僕様ちゃんの城。■はやられちゃった部分で、□はまだ無事なとこ。
 無事って言ってもずっとじゃないんだよね、これ。三日も経てば僕様ちゃんの城も含めてこうなっちゃう」


 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■■■★■
 ■■■■■■
443創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 02:16:47 ID:4IgEKJIX
 
444箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:17:49 ID:LixKySl6
「うわ、まっくろだ。時計回りにこう、ぐるーってなるから、猶予は意外とあるんだけどね。
 たとえば、僕様ちゃんのお城がだめになっちゃうのははじまりから51時間後のこと」


 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■□□□■■
 ■□□□■■
 ■□□□☆■
 ■■■■■■


「うにうに。最終的には刑務所の中に立てこもるのが一番安全かもね。あんまり居心地よろしくなさそうだけど。
 それにしたって僕様ちゃん、この部屋気に入っちゃったし。となると、いーちゃんはいつ頃ここに辿り着くだろう?」


 1)いますぐ    2)ずっと先    3)ぎりぎり    4)甲斐性なし
 ■■■■□□  ■■■■■■  ■■■■■■  ■■■■■■
 □□□□□□  □□□□□■  ■■■■■■  ■■■■■■
 □□□□□□  □□□□□■  ■□□□■■  ■□□□■■
 □□□□□□  □□□□□■  ■□□□□■  ■□□□■■
 □□□□☆□  ■□□□☆■  ■□□□☆■  ■□□■★■
 □□□□□□  ■■■■■■  ■■■■■■  ■■■■■■


「僕様ちゃん的には1番しかありえないんだけどなー。でもこの後二度寝するつもりだから、2番くらいが好ましくはあるかも。
 どうしよ。目印くらいつけといたほうがいいかな? けど手持ちのアレだと目印どころの騒ぎじゃなくなっちゃうし。
 うにー。拡声器かなんか欲しい感じかなー。探しに行こうかな、どうしようかな。摩天楼の中なら、探せばありそうだけど」


 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■□■■■
 ■■■■★■
 ■■■■■■


「ああ、うん。そう。そうだね。詰め物が70時間分続いたら、最終的にはそうなる。周りは黒で、白はその一点だけ。
 黒い部屋に一箇所だけ白があるなんて、まるで今の僕様ちゃんみたいだね。こっちは白い部屋に蒼色だけどさ。
 けどね、違うよ。これは違う。僕様ちゃんはいーちゃんが来てくれるまではここにいるつもりだけど、
 その後もこの部屋に居続けるってわけじゃないんだよ。だからだから、最終的にはこうなる」


 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■■■■■
 ■■☆■■■
 ■■■■■■
 ■■■■■■
445箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:19:20 ID:LixKySl6
「☆は僕様ちゃんといーちゃん。他にも誰か残るかもしれないけれど、二人が二人でいるのは絶対条件だね。
 最終的には箱の中も■で埋まっちゃうだろうけど、そのとき☆がどうなってるかは――――ふわぁ〜」


 以上が玖渚友の思考領域――誰の役に立つわけでもない、たまの出番に意味を持たせるための一考。

「眠い……僕様ちゃんの出番しゅーりょー。うに、よく働いた。んじゃ、寝るー」

 思考をやめた蒼色は再びベッドになだれ込む。ダイブとともにシーツを巻き込みでんぐり返し、白を纏った。
 そのまま奏でられる寝息の曲。ぐーぐー、と早くも熟睡しているようだった。玖渚友、寝るときはとことんまで寝る子である。
 それでも、いーちゃんが来てくれればすぐにでも起きるよ、と告げておいて。



 ◇ ◇ ◇



 【3】


 これより約63時間後――この“箱”の世界は“黒”に詰められ、“白”一点を唯一の光とする。
 その一点に“蒼”や戯言遣いが残れるかどうかは知れず、“蓋”が閉められる時をただただ待つ。

 6×6の構造は“■”に埋め立てられるか、“□”を残したまま上方の“蓋”を破壊してしまうか。
 玖渚友は、《死線の蒼》は真に“☆”足る存在と言えるのだろうか。“白”い部屋には知れない。

 摩天楼であり、最高級マンションであり、死線の寝室でもある、なのに“白”い部屋。
 たとえるなら“赤”と言える魔術師の音声を遮ってみせたそこは、狐の声だけは届けた。
 部屋に審議を問うほど無為なこともない。死線の寝室は何者にも侵されぬ不可侵領域。

 箱の中の箱――因果孤立空間“封絶”――滞在は三日までという旅人のルール。

 蒼色はいつ頃からこの部屋にいたのか、外の世界は本当に箱なのか、扉はまだ開けられたわけではない。
 蒼色一人、蚊帳の外に置かれた“ただ寝ているだけの存在”なのだとしたら――という仮定。
 起床を求めるのはお門違いなのか、白雪姫の眠りを覚ますあの原理は適用されるのか、考えよ。

 sleeping beauty――覚醒は超難易度――眠りという幻想を壊せるか――巡る――流れる。

 寝るのか起きるのか、枠内なのか枠外なのか、起きるのか起こされるのか、白いのか蒼いのか、
 光なのか闇なのか、開くのか開かないのか、生きているのか死んでいるのか、朽ちるのか果てるのか、
 いーちゃんなのか王子様なのか、蓋なのか栓なのか、櫃なのかサイコロなのか、□なのか■なのか、☆なのか。
446創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 02:19:28 ID:4IgEKJIX
 
447創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 02:20:13 ID:4IgEKJIX
 
448箱――(白光) ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:20:16 ID:LixKySl6
 全部ひっくるめて、まあ、他愛のない戯言。

 出番の無駄遣い。
 出演料は二度寝のしあわせ。
 次の出番はたぶん、狐の目覚まし二回目に。

 人間、起きている間は発情期だから。らぶいお相手が来なければ、起きるに起きられない。
 寝るときは寝る。食べるときは食べる。それが蒼色のスタイル。白部屋に陣取ってまでの、流儀。
 次は昼。おなかが空く頃に、愛しのいーちゃんはどこでなににどれだけ触れているのでしょうか。

 東の窓から見える黒い壁はより鮮明に。北と南と西の壁も同じく鮮明に。見てはいないが見るまでもない。
 何色であろうと玖渚友は慌てない。慌てる玖渚友ならとうに果てている。白の部屋に保護されて。

 まるでこの部屋だけが別世界。



【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・朝】

【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
 基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
 1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
※第一回放送を聞き逃しました。
449 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/20(日) 02:21:14 ID:LixKySl6
投下終了しました。
支援ありがとうございます。
450創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 02:27:19 ID:4IgEKJIX
投下乙です。

友wwww
放送聞いてないのかw でも全然慌てないのかw それでまた寝るのかw
冒頭と、4)甲斐性なし に吹いたw なんという分かりやすいまとめw
短いながらもGJですw
451創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 02:29:17 ID:4IgEKJIX
で、ちょっと遡って。
>>437
んー、でも姫路さんのことで明久は結果的に大嘘ついてて、それキノにバレたからなぁ。
それも、キノが居ないと思っての場の発言、という、キノ視点じゃ最悪の形での暴露で。
少なくとももう、明久については利用する気も起こらんような気がする。
完全対立必至の天膳は利用もクソもないだろうしね。
で、この状況でその2人を切ってムッツリーニ・みるくだけ利用するってのも無理だろうし……
そこまでする価値もたぶん、キノ視点じゃ……。どう見ても明久の同類だろうしなぁ。

印象の面はともかくとして、この流れだと仲間利用諦めて切るのはアリなような。
もちろんキノのことだから、今後、他の人間の利用を考えてもおかしくないだろうけど。
452創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 14:04:48 ID:Oj48bTEx
キノはよくわからんキャラだからな。
リアリストで冷淡でいて、他人に飢えてるような部分もあるような気もする。
裏切られたと感じたらあっさり切りそうだしゲームにも乗るキャラだと思う
453創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 14:23:34 ID:+imZP7Mb
キノは原作でも心理ごまかされてるしなあ。人によって解釈別れると思う
俺は今回全く違和感感じなかったな
454創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 14:48:07 ID:Oj48bTEx
偏見覚悟で言えばキノに限らずラノベのキャラなんて変人、奇人、性格破綻者が大半だからなw
455 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:18:07 ID:7znly5d1
期限は過ぎ去っておりますが、投下します。
456FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:19:31 ID:7znly5d1
少女達は、温泉に到着した。

そして入り口近くで、無残な姿に成り果てた人間らしきものを発見した。

嫌な予感が過ぎった。櫛枝実乃梨の友人である北村という名の学生のことが気になったのだ。

今すぐ室内へと突入し、現状を知るべきだろう。

シャナとアラストールはこの温泉には生きている人間の気配が無いと言い、木下秀吉と櫛枝実乃梨は頷く。

そして遂にいざ突撃。と言わんばかりにそれぞれが一歩踏み込んだときである。

放送が始まった。

放送では、人名が十も並んだ。

その中には少女達が知る者の名が含まれていた。

吉田一美。高須竜児。北村祐作。

最後の名は、今まさにやっと会えると思った相手である。

他の二人とて、ここにいる二人の少女にとって、絶対に欠けてはならぬ存在であった。

茨の道を突き進もうと意気込んでいた最中に出鼻を挫かれたばかりか、親愛なる仲間かつ恋敵である少女を失い、動揺するシャナ。

故に何がなんだかわからない、といわんばかりに呆けたまま放送を聞き終わった櫛枝実乃梨。

学園のクラスメイトの名が並べられなかったことに安堵はするも、だが周りの少女二人の反応を見たことで迷い、沈黙する木下秀吉。

三者三様。反応多々。

だがこうしてはいられないのが現実。

少女達は室内へと飛び込んだ。

シャナは櫛枝実乃梨と共に北村祐作の遺体を目撃した。入り口の"あれ"と比べ綺麗なのが救いか、と考えるのが精一杯であった。

櫛枝実乃梨は沈黙し、遺体を眺めるばかり。

木下秀吉は居なかった。思うところがあったのか、シャナと櫛枝実乃梨には着いてきてはいなかったのだ。

ここでの反応も、三者三様。

そしてシャナは櫛枝実乃梨に自分をしばらく一人にするよう懇願され、承知する事となる。

奇しくも民家での会話の後の如く、一つの施設の中で再び離れ離れとなった少女達。


物語は、そこから始まる。


       ◇       ◇       ◇
457FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:23:30 ID:7znly5d1
温泉に到着した途端、私達はとんでもないものを見た。
そしてそれを見た瞬間、私達はとんでもない放送を聴いた。
そして急いで建物の中に入ったとき、信じられないものを、見た。

もう、いつもの櫛枝実乃梨としての私は、ここで既に崩れてた気がする。
混乱するしかなくて、もう何もいえなかった。唐突過ぎて涙すら流れなかった。
何もかもが嘘だと信じていたかったけど、そうはいかなかった。
なんで? どうして? いつ? なにが? 一体?
色々な疑問系の言葉が浮かぶけれど、喉から向こうには出て行かない。
本当にショックなことが起こるとさ、言葉って出ないものなんだね。
今やっと実感したよ。おかげでわかったよ。

だからさ……ねぇ、誰か教えてよ。
今から私に答えを。誰でも良いから、答えを聞かせて。

なんで、どうして、北村くんは死んでるの?

放送とかいうやつでそう言われて、そんで温泉についてみたら中で倒れてて。
いや、それだけじゃなくて、温泉の入り口には誰か知らない人が血を流して倒れてて。
その人、もう体中傷だらけで、その所為でどんな姿してるのかも解り辛くなってて。
北村くんはお腹刺されて痛そうで、放送でも呼ばれて。
どうしてこんな事になってるの? ここってさ、何なの?
それに……それだけじゃ、ない。

「高須……くん、まで……っ!」

どうして高須くんの名前まで呼ばれちゃってるの? どうして今? よりによって今?
あのさ、放送で呼ばれたって事は、死んでるって事だよね? そういう事だったよね?

駄目だよもう。北村くん、駄目だよ。最初は放送が嘘かもしれないって望みもあったのに。
それなのに、北村くんが放送の言うとおり死んでたんなら、信じるしかないじゃん。
大丈夫大丈夫、って言えないじゃん。
どうして一気に居なくなるの? どうして一緒に消えちゃったの?
大河が泣くよ? あいつ泣き虫なの知ってるよね? それなのになんで死ぬの?
お前らそんなことがわからないような馬鹿じゃねえだろ……!

駄目だ、もう駄目だ。
あんなに言い聞かせてたのに、誰も欠けちゃ駄目なんだって解ってたはずなのに。
出鼻を挫かれたとか、そんなレベルじゃない。最初から駄目だったんだ。
もう駄目だ。あの時の私は、もうどこにも居ない。

ねぇ、北村くん、お願い。また名前を呼んでよ。
櫛枝! って、元気良くさ、呼んでよ……呼んで! 呼べよ!
いつもみたいに……ねぇ、解るよね!?
そうじゃないと、さっきも言ったけど、高須くんまで死んじゃったんだって余計に実感しちゃうじゃんか!
起きてよ、死んだなんて嘘だって立ち上がって言ってよ! あんたクラスのボスだろ!?

大丈夫だって、言ってよ。
起き上がって、何事もなく、さ。名前、呼んでよ……。


       ◇       ◇       ◇
458FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:25:34 ID:7znly5d1
櫛枝実乃梨の懇願に合わせ、シャナと我は共に別の場所に移動した。
とは言え室内であることには変わりは無く、彼女の見えぬ場所に移動しただけの事である。
因みに木下秀吉も何か思うところがあったのか、全員での死体発見後には外へと退出していた。
その行動に至ったのは、櫛枝実乃梨に気を使った事も起因しているであろう。
同時に先刻の櫛枝実乃梨の如く、独りで整理するためか。
まあ、そんな事は良いのだ。

さて。
我等がこの温泉という施設に到着した時刻、あの"人類最悪"と名乗りし男の"放送"が開始された時刻。
これは正しく同刻。一点のずれも無い、ある種"偶然の無駄遣い"とでも言えるものであった。
ではその放送などと言う悪趣味かつ不愉快極まりない催しの開始と
目の前に存在する亡骸との邂逅までもが同刻であったのも、偶然というものなのであろうか。
シャナが辺りを警戒する中、放送を聴いたことで激しく動揺したらしい櫛枝実乃梨が無防備にも建物に突入し
あまつさえ知り合いであったという少年の遺体をも発見してしまったのも、偶然と呼ぶべき事象なのであろうか。
ではその放送で他に高須竜児という名と、この我とも深い関わりを持つ少女、吉田一美の名が同時に呼ばれたのは?
よりにもよってこの様な悲劇が、"間髪入れず"という言葉が良く似合う程に重なったのは?
悩ましいことに、実に腹立たしい事にそれらすらも是。偶然であろう。

何もこうまで重なる事は無いのではなかろうか。

入り口には誰とも知れぬ人間の骸。
放送で流れしは、事実であると認めるにはあまりにも酷であろう名の羅列。
建物の中に隠されていたのは、櫛枝実乃梨の友人らしき少年。これもまた骸。
更には鷹の屍骸と何者か……の、骸。
ここまで連続して事件が起こるとは我も想定外であった。正しくこれは"まさかの出来事"である。
結局は我も油断、もしくは楽観視に近いものを抱いていたのだ。今更の事ながら理解する事が出来た。
何たる失態か。これでは天罰神の、アラストールの名が泣くというものではないか。

放送を聴いたシャナは沈黙を貫いていた。否、沈黙せざるを得なかったという表現が正しいであろう。
無理も無い。あの吉田一美が死んだという信じ難き悲報が届いたのだ。
シャナの"友人"という言葉には収まりきらぬ程に関わった人間。
一人の調律師との邂逅によって、この世界における"我々の領分"にまで踏み込まざるを得なくなってしまった人間。
だがそれでも強く生きていた。シャナと遜色無き程に堅き決意に満ちたあの眼は、美事な宝石とも呼べよう。
我も認めた、坂井悠二も認めた、"蹂躙の爪牙"や"不抜の尖嶺"も、そしてシャナも認めた強き少女。
そして同時に、ある種"あのシャナの最大の宿敵"と化して立ち塞がる事ともなった人間。
その様な、我々にとっては云わば"特別の存在"の内の一人であるあの吉田一美が、我々の及び知らぬ場所で命を落とした。
腹立たしい。と同時に、哀しく思う。吉田一美の死自体にも、そしてシャナがそれに心傷める姿を見せられる事にも。
"人類最悪"よ、やはり貴様の名は貴様に相応しい。全く以って最悪である。

「アラストール……」

シャナが、ようやく口を開いた。だがその声色からして宜しくない。
何を言おうとしているかは想像がつかぬが、だが内容が正負どちらに傾いたものかは想像がつく。

「最低だね、私……最低だ」

やはり、そうか。自分をそう責め立てようと言うのか。
その様な姿は見たくは無い。炎髪灼眼の名に似合わぬぞ。
責めるにはまだ早い。一つも取りこぼさぬ様に茨の道を進むという姿勢は確かに見た。
何、決して仕方が無かったとは言わぬ。互いに覚悟は足りなかったのだ。
次回からは気をつけよ、という言葉は不適切であろう。故に今は何も言わぬ。
笑えなどという無理難題を押し付けるつもりも無い。
正直我も今、何を言うべきか言葉に詰まっておるのだが……。
お前があの覚悟を表現したあの言葉をお前自身が嘘にする事を、我は望んでおらぬだけなのだ。
もう何も言うな。シャナよ、あの時の民家での事は何……

「違う!」

違う?
459FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:30:35 ID:7znly5d1
「違う……私、もっと醜いこと、凄く酷いこと考えた! 最低なこと、考えたの……。
 私、一美が死んだって言われたとき……一瞬だけど、少し、安心した自分が居た……!
 一美とは正々堂々勝負するって、闘うって言ったのに、そんな事考えた!
 そんな事で勝っても誰も嬉しくないのに……これなら私の元に来てくれるんじゃないかって……そんな……!」

湧き上がり吐露された感情は、我の予期せぬものであった。
シャナがフレイムヘイズとは違う、"人間"へと近づいている事は理解していた。
だが、それ自体は決して間違ったものだとは我は思っておらぬ。
近づいた事を否定一辺倒で台無しであると考えようとは露にも思わん。
だが人間に近づく事が、シャナにこれ程の感情を抱かせるものであったとは予測出来なかった。

「軽蔑、した……? って、聞くまでも無い、か。
 ねぇ、私って、こんなのだったかな? もう、自分が解らない……!」

否。そんなことは無い、と我は全力でそう考える。
シャナよ、少し気が動転しているだけなのだ。何も自分を傷つけることは無い。これは一時の気の迷いではないだろうか。
恐らくは吉田一美も、遠くでそう考えているであろう。あの少女は人の心を理解する事に長けた人間であると我は認識している。
問題ない。何も、問題はないのだ。

だが、それをどう伝えれば良いものか。

我は最近、口下手だと思い知らざるを得なかった。
千草殿も居らぬ今、果たしてどの様な言葉が適切であるのかがどうにもわからぬ。
話し方次第では、相手と自身の抱く感情に齟齬が発生するかもしれん。それが、今の我には怖い。

嗚呼、正にここに千草殿さえ居れば。


       ◇       ◇       ◇


どうにも中に入る気にはなれんし、かと言ってあの無残な姿にされた誰かを見る気にもなれん。
故に結局、仕方が無いので玄関に留まっておった。これが木下秀吉の限界、と言ったところ……か。
温泉の奥まで進んでいったのは櫛枝とシャナ、そしてアラストールのみ。
情けなくも、ついていく気にはなれんかった。流石に入り口で"あれ"なら、嫌な予感もする。正直見たくはない。
あの二人もなかなか戻ってこん時点で、大方察せられるというもの。
おったのであろうな……仏さんが。

なめておった。

ああ、全く、本当に自分は馬鹿じゃったな。
皆には心配せんでも良いと思っておった。自分はどうにかなると、思っておった。
危機感が無かった。楽観視しかしておらんかった。なんという痴れ者か、ワシは。
自分で自分に腹が立つ。放送曰く、今は現にあの女子らの仲間が死んだのだ。
……それを確認する勇気は今はないのじゃが。駄目人間じゃな……全く。

不幸中の幸いというか、地獄に仏とも言える事といえば、明久と姫路が死んでおらぬらしい事か。
……それ故にシャナと櫛枝から離れたいと思ってしまう部分もあるのじゃが。
何故だか後ろめたく感じてしまうが……それは明久と姫路に対する最低な罵りじゃな。
すまぬ二人とも。これでは"どちらかでも死んだ方が良かった"と戯言を発すると同義であった。
……全く。十分に心乱されておるな、ワシも。

しかし、明久と姫路は大丈夫じゃろうか。今回の出来事は他人事とは思えぬ。いや、思ってはいかん。
心配じゃ。居場所さえわかっておったらすぐに駆けつけたいのが本音と言わざるを得ぬ。
二人が存命である事自体は判明しておるが、二人がどの様な状況に立たされているかは解らんのだ。
今頃何をしておるのだろうか。悪意ある人間に追われてはいないか。
ここでは文月学園での様においそれと召喚も出来ぬし、苦戦は必至であろう。
いや、そもそも明久が使役するもの以外の召喚獣は常人に対しても何の意味も成さぬ。
戦力にならんのだ、最初から。
学園の外では、教師が居らぬ場ではワシらはただのヒト。こんな悪意に満ちた場では、もしやすると……。
460FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:33:09 ID:7znly5d1
じゃが、明久は苦境に立たされた際には、常に知恵と勇気で乗り越えておった。
あやつには天稟がある。いざというときの大胆な行動と閃きはまさにそれじゃ。
断言しよう。テストの得点だけでは表現出来ぬ何かを、あの男は持っておる。
何せその姿には男のワシでも惚れ込んでしまいそうになるものじゃ。女子達もまんざらではなかった様じゃしな。
……それでも今回ばかりは不安を抱くしかないのが現実なのじゃが。

しかし、それよりも更に心配なのは姫路じゃ。
あやつは優しい。優しすぎる。こんな場所では悪い虫に纏わり付かれるのではなかろうか。
明久も心配なのは確か。しかし姫路の場合は更に上を行く。嫌な予感すらする。
稀に暴走する事はあれど心は澄んでおる。そんな女子がこんな場所に放り込まれては……。
…………やめよう。もうやめじゃ。きりが無い。無さ過ぎる。

相変わらず入り口からは、もうシャナと櫛枝の姿は見えぬ。
かなり奥の方まで進んでいったのであろう。もしくは見えぬ角度に存在する部屋にでも入ったか。
暫く戻ってこんという事は、やはり……。
いっそ温泉に入って気分転換でもしていた、とかいうことであれば良いのじゃが。
いや、流石に緊張感に欠けるか。
こんな場所で服を脱いで武器を置いて、というのも些か危険であるとも思えるしのう……うむ、そうじゃな……服、を……。


…………服?


考えないようにしておった不安が蘇る。
我慢が出来なくなって衝動的に建物から外へと出て行き、ワシは再び外の遺体の方へと向かった。
十秒も経たず現場に到着し、ワシは再びこの凄惨な現場を眺める。

「服…………ッ」

目的は遺体の観察にあらず。もっと違う、目的。

「やはりか! 視界に入れておいて気付かぬとは……ワシの大馬鹿め……!」

そう、ワシは目先の衝撃に気圧された所為で気付けなかった"それ"を、思考を巡らせた事でようやく気付けた。
故に、"それ"を実際に確かめる為に、考えを確実にする為にワシは現場へと戻ってきたのだ。
そして見つけた。ワシに対し延々と不安を煽っておったものの正体。それが、改めて目の前に現れた。
しかし、これには気付かなかったほうが良かったのかもしれん、とも思ってしまう。
流石に、"これ"は……遺体の近くにあった、"これ"は!

この"文月学園の制服"の存在は、あまりにも酷ではないか!

上下揃った衣服、そして何故だか一緒に置かれていた下着。
それらのサイズから体躯を想像すれば、姫路の姿が即座に浮かび上がる。嫌でも浮かび上がってしまう。
いや、もしやワシ以外にも"名簿に名が刻まれておらぬ者"がおるのやもしれん。
勿論そうだとしても由々しき自体なのじゃが……この服のサイズ等を見ては、とてもそうは言えぬ……!
日頃から姫路の姿は明久達と共に見てきたのだ。それに実際に名簿に名前が乗ってしまっておるのだ!
他の誰かの可能性を考えるなど、愚かな現実逃避以外の何物でもないではないか!
しかし、そうなると……

「何故、服だけが……?」

ハッキリ言って理解に苦しむ。これが姫路のものであるならば、何故放置されているのか。
裸で逃げたというのか。しかしその様な羞恥心の欠片も無いような行動に出る女子では決して無いというに……。

「まさか……」

まさか、この今死んでいる男が姫路を襲ったとでも言うのか。
そしてこの斧のような奇妙な形をした刃物で男を斬り、良心の責務に耐えられなくなった、とか。
いや、もしくは温泉に入っていた際に第三者に襲われた、とか。またはその第三者に……。
461創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:33:40 ID:7gNZtVjG
 
462創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:34:27 ID:7gNZtVjG
 
463創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:35:24 ID:7gNZtVjG
 
464創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:36:07 ID:7gNZtVjG
    
465FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:36:39 ID:7znly5d1
いや、よく考えればこの衣服は姫路の物ではあれど、姫路のものではないのではないか?
例えばこの男が、もしくは第三者がこの制服を支給品として引き当て、「必要ない」と捨てたのかもしれん。
しかしそうなるとおかしい。何故"人類最悪"はそんなものを支給するのか。
ある人物が着ていた衣服が支給されたところで、サイズが合わねば宝の持ち腐れに他ならぬ。
ワシらの支給品にはピンからキリまで種類があるといえど、不自然に過ぎる。
果たしてここまで多数にとって使えぬ可能性の高いものを支給することなど有り得るのか。
やはり、遺憾な事ではあるが……この制服は、姫路の物である可能性が……。
ええい! 結局のところワシの直感は、姫路が何か危険な領域に足を突っ込んでいると叫んでいるわけじゃな!
これが姫路の着ていたものであったと認めるのは癪じゃが……しかし、もうワシもわかっておるのだろう……?

もう、いてもたってもおれぬ。

袋に手を突っ込む。目当てはエルメス。あのバイク、でなくモトラド。
理由は単純。質量、重量を無視して再び出てくるこのモトラドに言伝を頼む為じゃ。
そして遂に「うおっ、まぶしっ」と呟きながら登場したエルメス。
ここに来るまでに袋に入ったままであった所為で、少し状況がわかっておらぬようだが仕方が無い。


       ◇       ◇       ◇


最初に動いたのは、木下秀吉。


       ◇       ◇       ◇


アラストールには、悪いことをした。
フレイムヘイズとしても、人間としても駄目な感情を、吐き出してしまった。
こんなことは初めてだ。アラストールをここまで困らせてしまうなんて、最悪だ。
アラストールは何も言わない。やっぱり、軽蔑したのかもしれない。

どれくらい時間が経っただろう。櫛枝実乃梨がこっちに来る様子も無い。
それに今やっと気付いたのだけれど、木下秀吉は着いてきていなかったのかここにはいない。
相変わらず、アラストールと二人きり。

あんな事を言った手前、どうしよう。
本当は今すぐエルメスも含めた五人で集まって、話をするべきなんだと思う。
でも櫛枝実乃梨は今は"あんな状態"だ。
木下秀吉も、仲間が死んだわけではなかったらしいけど、それでもショックなんだろう。
かく言う私も、今はどうしても動く気にはなれない。理性では早くどうにかするべきだって、わかってるのに。
ばらばらだ。皆、心がばらばら。虚しく時間だけが過ぎていく。

…………悠二が死んでたら、私はどうなってたんだろう。

と、不吉なことを考えようとした時、変化が起こったことに私は気付いた。
足音が聞こえる。しかも間隔は短く音は大きい。まるでそう、走っているような。
聞こえたのは櫛枝実乃梨がいた方角!

「シャナ!」
「う、うん! でも何が……!?」

アラストールが叫び、それを合図に私は急いで廊下を走る。
思えば無意識に随分と気を利かせ過ぎたのか、足音の元への道のりは妙に遠い。
それでも櫛枝実乃梨の元へ急ごうと走り続けると、遂に視界の端でその本人の姿を捉えた!
どこに向かっている? どうして走っている? 後者の疑問は解けないけれど、前者だけならわかる。
466創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:36:48 ID:7gNZtVjG
          
467創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:37:37 ID:7gNZtVjG
     
468FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:37:42 ID:7znly5d1
「櫛枝実乃梨! 独りでどこに行くの!?」

彼女は、外に出ようとしていた。
建物の奥に位置していた殺人現場から、走って、外に。

「こら! 待って! 待て!」

ソフトボールとかいうスポーツらしきものをやってると言ってた所為か、櫛枝実乃梨は人間の中では足が速い部類に位置していた。
ひ弱な人間だったら追いつけないかもしれない。でも私はフレイムヘイズだ。大丈夫。
最初に面食らった所為でかなり距離は離されている。もう相手は外に出てしまったけれど、私はまだ室内。入り口には少し遠い。
けれどこれで追いつけないわけがない。ここで足止めされたりしない限りは、必ず!


       ◇       ◇       ◇


次に動いたのは、櫛枝実乃梨。

最後が、シャナ。


       ◇       ◇       ◇


モトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)としては、僕を巧みに扱ってくれる人に乗ってもらうのが一番なんだけど。
いやはや。
僕を最初に引き当てた子はいなくなっちゃうし。勿論言伝はきちんと預かったし言う通りにするけど、放置はないんじゃないの?
やれやれ。
北村って人はどうなったのかな。結局ここにはいなかったんだろうか。じゃあ暫くしたら、結局また手押しか袋の中か。
あーあ。

っと、あれ? 誰か出てきた。櫛枝実乃梨(注・人間。シャナを先生と呼ぶものだけを指す)か。どうしたんだろ。
あのさ、言伝預かってるんだけど。木下秀吉から。おーい。
……あらら、聞かずに行っちゃった。凄い走ってるよ。体力持つのかな。
参ったな。早速約束を違えちゃったよ。これが"ファッションニッポンビビル"ってやつ?

あ、もう一人出てきた。今度はシャナ(注・フレイムヘイズ。いざという時に髪の毛が燃えるものだけを指す)か。
こっちも走ってる。早く止めないと。って、あら? 勝手に止まってくれた。
え? 木下秀吉(注・人間。性別が秀吉のものだけを指す)? どうしていないって? ああ、それを今から言うところ。

あの子さ、ちょっと人探しに行ってるから。
しばらく見つからなかったら戻ってくるってさ。
後、勝手に行ってごめん、だって。

え? いや、何で止めなかったんだって言われてもさ。こっちにも事情があるんだって。
急に外に出されたと思ったら言伝だもの。誰が? って、だから木下秀吉が。本人が。
それにほら、そもそも人間にはそれぞれ不可侵的な自由を持つ権利があると思うしねー。
って……あらら、また行っちゃったよ。

やれやれ。





あれ? 僕今度こそ放置?


       ◇       ◇       ◇
469創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:38:31 ID:7gNZtVjG
ぐう、時間的に支援ここまでだ。すまん
470創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:38:47 ID:Oj48bTEx
sienn
471FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:39:45 ID:7znly5d1
私は、我慢が出来なかった。
北村くんが死んだ理由に、一歩だけでも近づきたくて。
でもあの温泉は"全部が終わってしまった跡"だったから、じっとしてても意味が無いって、そう思った。

私は、私自身が、この櫛枝実乃梨がここまで我慢弱い人間だとは、自分でも思わなかった。
気がついたら走ってた。後ろから先生が何かを言いながら追いかけてきたけど、答える時間も惜しかった。
それに、答えたら、もう走れなくなる。皆に止められる。そう思った。
だから全部を無視して、私は今こうして走り続けるんだ。

目的はただ一つ。北村くんの事を教えてくれたあの二人に会う。それだけ。

私達の話を聞いてくれたあの二人は、北村くんと一緒にいたと言った。
皆で一緒に話をしてたと言った。なら何故、どうしてあんな事になってるの?
直球に言う。私はあの二人を疑ってる。
北村くんを、そしてあの入り口にいた"誰か"と、更に室内にいた"誰か"を"あんな風にした"犯人だと、考えてる。
勿論あの二人が犯人じゃないって考えてる部分もある。出来るならそうであった方が嬉しいとも思う。
でも、駄目だ。あの温泉からやってきた二人が、私の頭の中でどうしてもちらつくんだ。
誰もいない建物。物言わぬ死体。そんな大変な事態が起こってた場所から来た、二人。
もう、怪しすぎるよ。

ねぇ、教えてよ。あのとき私達と話してたとき、北村くんの事を教えてくれたとき、本当は心の底で笑ってたんじゃないの?
今から行っても無駄だけどな、って裏で悪態をついてたんじゃないの? ねぇ、どうなの?
二人ともいい人だと思って話してたよ? だから、あの時は何も思わなかったけど!
もう、どんどん怪しく思えてって仕方が無いよ。違うんだって信じたい自分もいるけど、不甲斐無いよ。

それに、怖い。
北村くんが死んだ。高須くんが死んだ。いきなり、何の前触れも無く死んだ。死んじゃった。じゃあ次は?
大河は? あーみんは? どうなるの? こんな場所なんだよ? あの高須くん達が死んじゃったんだよ?
会いたいに……会いたいに決まってるじゃん! ちょっと無謀かもだけど、少しでも早く会いたいって思うじゃんか!
じゃあどうする!? 探すよ! そりゃ探すってば!

「櫛枝実乃梨!」

唐突に声が聞こえて、振り返る。声を追って無意識に視線を向けた先はすっかり明るくなった空。
薄い蒼、なんていう目に優しい絨毯の中に、よく目立つ紅がある。あれは……先生!

逃げ切れるなんて思ってなかったけど、逃げ切りたかった。
エルメスと何か話してたようだからいけると思ったんだけど。
なんて事を考えてる内に、先生が近づいてきた。

タックルをかまされた。地面にそのまま倒れた所為でめっちゃ痛かった。


       ◇       ◇       ◇


エルメスから木下秀吉の弁を聞いたとき、私は愕然としてしまった。
どいつもこいつも、なんで勝手に行動するの? 私に着いてて欲しいって言ったのはそっちなのに!
勝手に私から逃げてしまう二人には怒りを通り越して呆れの念すら生まれそうになる。
何で、どうして皆そうやって自分勝手に行動をするの?
何でも許されると思ってるの? フレイムヘイズは聖人君主じゃないのよ?

なんで、勝手に、行くの。どうして、何も、言わないの。
我慢出来ないのは、こっちも、一緒なんだってば!

櫛枝実乃梨の姿が見えなくなったのは私を撒くためにどこかに入り込んだから。私はそう結論付けた。
ならもう良い。怒った。本気で鬼ごっこしてやる。問題ないわ。空から見ればどこにいたって同じ!


というわけで、とっ捕まえたわ。
472FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I :2009/09/20(日) 16:42:02 ID:7znly5d1
空を飛んで暫くして、相手の姿をどうにか目撃。それからタックルして、停止。簡単だった。
このフレイムヘイズから逃れようなんて甘いのよ。ハニートーストより甘々。

「なんで、よ」

そう、甘い。全部甘い!
……そんな甘々な考えで、どうして勝手に行くの?

「自分だけ悲しいなんて、思ってるんじゃないわよ」

我慢出来そうに無いのは、おまえだけじゃない。
現に、木下秀吉だって勝手に出て行った!

「皆が揺れてるときに、もっと揺さぶるような事……っ、するな!」
「……!」

言いたい事を全部言えた訳じゃない。けれど、言葉はここで止まってしまった。
正直、疲れた。一美が死んで、木下秀吉と櫛枝実乃梨は勝手に暴走して。
でもその理由は私も理解できるものだから、余計に"たち"が悪くて。
だから、もっとやりようはあったんだろうけど、叫んでしまったから。
次の言葉が咄嗟には出てこなくなってしまって、だから沈黙してしまった。

相手は何も言わない。私が何も言えないのも重なって、静かだ。
空気が重い。居心地が悪い。
ちょっと、何か言いなさいよ。返事ぐらい、しなさいよ。
ねぇ、早く。ちょっと。人の話聞いてるの!? 答えて櫛枝実乃梨!

「先生は! 先生はさ……今の放送聞いて、どう思った?」
「……え?」

突然、質問された。
答えは単純。"とても悔しくて腹立たしい、そう思った"だ。
けれどそれがなんだって言うの?

「吉田一美って、女の子だよね? 先生の、友達なんだよね?」

だから、それが、何。まさか男が死んだら悲しくて、女だったら別に良いっていうつもり!?

「そんな極論じゃない! でも、でもさ、じゃあ今放送でっ、吉田一美だけじゃなくて坂井悠二って人も呼ばれてたら!?」
「……ッ!?」
「私ね、なんとなくわかってたよ。先生さ、その坂井くんの話をするとき、凄く嬉しそうだった……!
 自分では冷静にしてるつもりだったんでしょ!? 甘いよ、先生。女子の嗅覚なめんなよ、先生。
 勿論他の知り合いの話をするときもなんやかんやでポジティブだったけど……その坂井君って時だけは違ってた!」
「う、うるさいうるさいうるさい! そんな事……!」
「そんな事、ある!」

急にどうしたのよこいつ。なんで、そんな事言うの。
違う、そんなの知らない。なんなの、見透かしたような事ばかり喋って。
それになんでそんな突飛な質問するの!? そんなの、そんなの考えたくないのにッ!
ねえアラストール! アラストールも何か言ってよ!

「すまぬ……言葉が見つからん」
「アラスト……っ!」
「しかしこれだけは言わせて貰う。冷静になるのだシャナよ。
 櫛枝実乃梨の今の言葉、決して否定は出来ぬ。自らの今までの行動を顧みてみよ」
「それ、は」
「今の姿には、シャナらしさが見えぬ。どちらに向いても、奇妙な姿にしか移っておらん……!」

確かに私は、悠二が、その、えっと、好き、だけど! でも、でもだからって、でも!
なんで、一美やヴィルヘルミナ、千草くらいにしか言ってないことを、今日初めて出会ったばかりの人間が、それを……!
473創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 16:46:26 ID:Oj48bTEx
さるか?
支援
474 ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 16:47:58 ID:Qa19nNti
投下待ちで支援!
475代理:2009/09/20(日) 16:54:19 ID:Oj48bTEx
「それを踏まえて、もう一度訊く。先生が私と同じ状況に立たされたら、どうする?」
「同じ……」
「うん、同じ状況に。私は今ね、北村くんと、好きだった人が……高須くんがいっぺんに死んで、悲しいんだよ!
 そう、私はね、高須君が好きなんだよ! 先生以外にはオフレコ、大サービスで話してやるよ! 好きだよ!
 でもさ、私なんかよりももっと可愛くて素敵でお似合いな女の子が今いるの!
 その二人は絶対欠けちゃいけないって思った。より一層そう思った! 先生達と話してたときも、考えてた!
 でも、でももう欠けちゃった……大河の、私の、大事な存在が、いきなり、消えた……っ!
 それに、それに北村くんだって! 私のクラスの皆にとっても大事な奴だったんだ! 知らないだろうけどさ!」

……でも、そうだとしても!

「だからって……! じゃあ、おまえ達を護るって決意した私の立場は……!」
「だから私は今、一番のヒントを持ってるはずのさっき会った二人を探しに行こうとしてる!
 危険かもしれない! でも、行かなきゃ二度とチャンスは来ない気がする! どうしようもないの!
 犯人もわからない。じゃあ北村くんと話してたって言うあの人達は何!? わからないなら……会うしかない!
 もう自分が止められないの……こうでもしないと、私が私じゃなくなってしまいそうで、全部失ってしまいそうで、怖いの!」

櫛枝実乃梨の捲くし立てる言葉には納得出来る部分もある。
それに言いたい事もわかる。どうしようもない状況を看破したいと思う気持ちは、わかる。
でも、だからって……! こんなの、滅茶苦茶じゃない!

「せめて北村くんの事だけは知りたいから……高須くんの助けに欠片も間に合わなかったから、せめて……。
 ねぇ、これはいけない事なの? もし今の放送で吉田一美って子と一緒に坂井くんの名前が呼ばれてたら、先生ならどうしてた?」

それは、私は……私だったら……!

「で、温泉にその一美さんの死体があって、事件を解くためのカギがないノーヒントの状態だったら!?
 ねぇ、先生だったらどう思う!? どんなに冷静に取り繕っても……先生、結局、私と同じと思う……!」

もうアラストールは沈黙に徹してしまった。
櫛枝実乃梨の言葉には、横槍を入れるのは許さないという意志が見えていたから。
そして今、そんな強い言葉が向けられている私は……私は……私まで、言葉に詰まってしまった。
……そうだ、結局そんな"仮"の話も考えないようにしてたんだ、私は。
急に引きずり出されてしまった。答えが出せなくて封印していた"IF"が、ここに来て私に牙を向けた。

もしかしたら、って考えてしまう。

今はともかく、これからも私は冷静に動こうと考えていた。
自分がしっかりしなくてどうするんだって、そう考えていた。
けれど、それはあくまで"考えていた"だけ。
もしものときのイメージトレーニングなんかをしていたわけじゃない。

「先生、どうなの?」
「私は……」
「答えてよ」
「私は、私も確かにそうよ! おまえに言われた通り! 悠二のことが、その……そういうことよ! 
 だからでも、だからって私は! 私はおまえみたいに……無謀なことは、私は……そんな……しな、い」
「なんで最後自信無さげに言うの? 私を説き伏せようとしてた先生は、どこに行ったの? ねえっ!?」
「私は私よ! 私は……だって…………っ!」

相手の声が怒号に変わっても、私は声を荒げるだけで……いや、それすらも続けられなくなって答えられなかった。
私には、私には自負があった。悠二も一美も、皆護ってみせる! って意志もあった。気合もあった。自信もあった。
せめて自分が目に見える範囲の全てを護ろう。そう考えていた。だから闘えた。フレイムヘイズの力を行使して、戦った。
でも、気付けばこんな場所にいて離れ離れ。贄殿遮那まで無くなってて、頼りになるのは一振りの木刀。
けれど、それでも私は決意した。櫛枝実乃梨達と共に行くのが茨の道と解っていても、そうしようと考えた。
仲間は誰一人欠けない、そんな理想へと辿り付く為に必死に走ろうと決めた。
でも、駄目だった。少し時間が経ったら"吉田一美が死んだ"なんて報告されて、いきなり計画は無に消えた。
いきなりすぎて、出鼻を挫かれて、こんな事が今までに無さ過ぎて、どうすれば良いのか。
476人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 16:56:02 ID:Qa19nNti
 ホールから出た二人、ステイル・マグヌスと白純里緒。魔術師と猛獣は一先ずの進路を北へと、正確に言うならば北へと進むためにまずは西へと取った。

 その理由は簡単だ。
 この地で目覚めてからずっと、ホールにいたステイルとは違って移動してきた結果、ホールへとたどり着いた白純が移動してきた方向が南であったからである。
 もっというならば、南から移動してきた白純が、ステイルが守りたい少女、インデックスらしき存在さえ捉えていなかったからである。
 もちろん、ステイルとてその程度のことで、インデックスがいる方向が北だと決めつけたわけではない。
 白純が移動してきた範囲だって、ステイルに比べればまだましというだけで、決して広い範囲をカバーしているわけではないのだから。
 だから、彼らのいる地点よりも南にインデックスがいる可能性、西にいる可能性、東にいる可能性。全ての可能性はまったく同じだ。
 だが、それでもステイルが北へと動くことを決めたのには他に大きな理由がある。
 
 ステイル・マグヌスはインデックスがどのような少女なのか、こんな状況下に置かれた彼女がどのように考えるのか、それを誰よりもよく知っている。

 そう、ステイル・マグヌスがよく知るインデックスという少女ならば、こんな状況であろうとも、こんな場所から皆を救おうと、脱出させようとして、動き、考えて、行動している筈だ。
 そうして脱出を志す彼女は、目覚めた地点がどこであろうとも、この場所が「椅子取りゲーム」となっている要因である二つ、「世界の果て」と「世界の消失」。
 この二つを何とかしようと動くだろう。

 そのためにはまず、「それ」がどのようなものなのか確認することが重要だ。

 「世界の果て」の方は目覚めた地点がどこかによって、確認しに行く方角は異なる。だが、「消失」の方は話が別だ。 
 スタートしてから半日の間、舞台の消失を確認できるのは北のエリアに限られる。
 そして、彼女がむざむざとその半日分ものロスを受け入れるとは考えがたい。……だとするならばステイルが向かうべき方角は決まっているも同然だった。
 仮に彼女がとっくに確認を済ませているとしても、そのときには彼女の痕跡を見つけてそれを追跡すればいいだけのことだし、
彼女がステイル達よりも遅れて北にたどり着くような場合には、ステイル達が先行して北にたどり着くことは、北にいるかもしれない危険人物の露払いをおこなえるということだ。
 どんなケースであろうとも、ステイルにとってのデメリットといえる要素は無い。
 そして――

477代理:2009/09/20(日) 16:56:18 ID:Oj48bTEx
私は、慢心していたのかもしれない。
心のどこかで、不幸なんて全て切り伏せられると妄信していたのかもしれない。
"櫛枝実乃梨や木下秀吉にも大切な人や好きな人がいるだろうからそう決めた"?
その志は結構だけど、なまじ大事な存在がいる所為でこんな暴走を起こされる可能性を考えなかったの?
……答えが出ない。はっきりとした言葉で表現が出来ない。感情の篭った問いに、全く答えられない。
そうか、アラストールもこんな感じだったのかな。それに、あの時あんな事言ったから、余計に。

「先生。いや……シャナ。今はシャナっていう。"本当のシャナ自身に言いたい"から」

櫛枝実乃梨の声が、重い。

「私は、"決めた"。立ち止まりそうになったらまず"決める"のが私のやり方だから。
 そしていつでもはっきりとする。はっきりと立って、はっきりと返事する。
 でも先せ、シャナは、ハッキリしてないよ。今の放送と私の質問で揺れちゃったって、わかるよ」

空気も、重い。
言い返せない。

「でも、私はその気持ちもわかる。っていうか、今の私の質問はちょっと、いや、かなり卑怯だとも自分で思う。
 感情に任せてるんだなって自分でも理解してる。でもこの質問は、私の我侭かもしれないけど、シャナに"答えて欲しかった"!
 あやふやな、揺れてるシャナに、自己矛盾って奴に囚われそうになってるシャナには私は止められないし、止められたくない!」

いつから、私はこんな弱い奴になったんだろう。

「私を止めたいって思うなら、模範的な先生なんかじゃない"本当のシャナが決めてから"にして。
 私は行くね。言ってなかったけど、大河とあーみんだって探したいんだ、私。だから、うん。それじゃ」

そう言えば私も"もう決めた!"の一点張りで、ヴィルヘルミナと言い争ったことがあったっけ。
ああ、悠二に好きって言うって決めた時だ。今の状況は、それと一緒なんだ。
今は私があの子で、ヴィルヘルミナが私。

「いつかまた……それまでさよなら、シャナ」

櫛枝実乃梨が走っていく。私は、立ち尽くすだけだ。
西へ西へと進んでいくあいつの姿が豆のようになって、消えた。


……。


結局私は何がしたくて、本当のところ私には何が出来たんだろう。
何が間違って、何が正しいんだろう。


ああ、でも、一つだけわかる。

結局私、遠まわしに言われちゃったんだ。


「お前に私の気持ちはわからないんだ」


って。

       ◇       ◇       ◇
478 ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 16:57:56 ID:Qa19nNti
うわ、失敬!
479代理:2009/09/20(日) 16:59:04 ID:Oj48bTEx
"SIG SAUER MOSQUITO"。それがエルメスと一緒に支給されたこの銃の名らしい。
いや、一緒にとは言ったが別にセットで着いていたわけではない。
むしろセットにされてたのは予備の弾であって、そういうわけではない。
単にワシにはきちんとした武器もあったという事じゃ。うむ、それだけの事。

その拳銃を護身用として持ち、ワシは走る。射撃の経験? あるわけがなかろう。
つまりは、辺りに悪意ある何者かが潜んである可能性を考慮した上で、姫路を探しておるのだ。
そうでもせんと今は自分自身を納得させられぬ故に、ワシは独りでこうしている。
シャナに櫛枝よ、勝手をしてすまん。

そして姫路よ、もしも近くにいるならば、どうか、どうか、出てきてくれる事を望む。
本当に、望む。


       ◇       ◇       ◇


先生は……シャナは、もう追いかけてこない。
何度か後ろや空を振り返るけど、着いてきてない。

まるで試合中、いや、それ以上に走っている気がする。
いや、いつもそうか。私、騒いではしゃいでばっかだった。
楽しかったな。高須くんがビックリしてたり、北村くんが「いつも楽しそうだなあ」と一緒に笑ってたり。
大河も可愛いやつだよなー。あーみんもあれはあれでナイス。

もう、そんな"いつも"には戻れないね。

ねぇ、戻れないんだよね?
だってもう、さっき言ってた四人の中でもう二人死んじゃったよ。
あの男前の二人組が、死んじゃったんだよ。
大河とあーみんだって、悲しむ。私だって悲しい。
もう戻らない。元のあの楽しいグループは、無くなった。
物を壊すのは簡単だけど、直すのは大変なんだから。

「やだ……やだ、よ……やだよお!」

そんなことはもう、解ってるのに。
だからせめて大河とあーみんは、って思ってるのに。
その為に走ってるのに……!

「あうっ、あ……うあぁああぁあ……」

なんで今更、泣いてんの? 前見えないじゃん……やめろよ、私。
走りながらそんなの、みっともないよ……前、見えないよお……。


       ◇       ◇       ◇
480代理:2009/09/20(日) 17:01:18 ID:Oj48bTEx
温泉は再び静寂に包まれる。

残ったのは暇を持て余したモトラドのみ。

もはやこの建物は、骸のみが佇む寂しげな廃墟の様。

手がかりを追う櫛枝実乃梨。

それを追えなかったシャナ。

見えざる姫路瑞希の影を追う木下秀吉。

再びの集結は、あるのだろうか。



【E-2/一日目・朝】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。はずだったが。
1:???
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。

【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:全身各所に絆創膏
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。つもりだったのだが。
1:上条当麻、千鳥かなめを捜索。西に向かう。
[備考]
※少なくとも4巻付近〜それ以降から登場。

※エルメス@キノの旅がE-2の温泉入り口前に放置されています。



【E-3/一日目・朝】

【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:SIG SAUER MOSQUITO(10/10)
[道具]:デイパック、予備弾倉(数不明)、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
1:姫路瑞希の捜索。発見次第温泉に戻る。しばらく探して見つからない場合も温泉に戻る。
2:エルメスの乗り手を探す。


【SIG SAUER MOSQUITO】
ドイツのSIG社およびその傘下SAUER社が開発した自動拳銃。
「オリジナルP226の90%のサイズ」というのが謳い文句。
前述のP226の練習用としての趣が強い為、オリジナルの特徴を忠実に引き継いでいる。
MOSQUITO(モスキート)とは蚊の意味。小口径弾薬「.22LR弾」を使用する事からその名を冠した。
481代理:2009/09/20(日) 17:02:59 ID:Oj48bTEx
: ◆MjBTB/MO3I:2009/09/20(日) 16:58:41 ID:64YsE/260
投下終了です。期限を過ぎての投下、失礼しました。
現在代理投下をしてくださっている方には感謝。
そして支援を下さった方にも感謝を。

◆ug.D6sVz5w氏には謝罪を。申し訳ないです。
投下時間を考慮しておりませんでした。すみません。
482人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:05:17 ID:Qa19nNti
 
「おい、猛獣」
 移動を開始してからしばらく、おもむろにステイルは同行者へと話し掛ける。

 インデックスの行動は目覚めたときからわかっていた。
 それでもステイルが動きの予想できる彼女の後を追跡しようとはせずに、篭城を行うことを決意したのは彼では彼女の動きには追いつけないからに他ならない。
 それを逆に言うならば、ホールから離れて、インデックスの足取りを探して移動している今は、彼女に追いすがることが可能になったということ。 
 それを可能にした要因にして、不安要素の塊のような同行者。決して気を許すことも、油断することさえできない相手にステイルは再び釘をさしておく。

「ん? 何だ、魔術師?」
 彼の言葉に先行している同行者、白純里緒が振り返る。
「念のために確認しておくが、『殺してもいい』相手の条件を間違えるなよ?」
 それを聞いて、白純は呆れたような失笑を漏らした。
「はっ! 見かけによらず心配性だな。わかってるって、一応、契約は契約だからな。ちゃんと脱出の為に目的をもって行動しているやつは見逃しといてやるって」
「それを見極めるのは僕だということも忘れるな。あくまでお前は先行して、確認するのが第一だ」
 白純の言葉にかぶせるように、ステイルは言い放った。

 彼としてもここは譲れないところだ。

 確かに白純とステイルとの約束では、白純が襲っていいのは殺し合いに乗ったものと、役立たずの流されるだけの参加者達。
 ステイル自身はいまのところは殺し合いに積極的に乗るものを優先的に片付けたいだけが、白純を仲間に引き込むためにそこは譲歩している。
 しかし、ここで問題になってくるのは流されるだけの参加者をどのように決定するのかだ。

 ステイルは白純にインデックスや上条当麻などの彼の知り合いについての情報を一切明かしてはいない。
 この相手にそう簡単にこちらの弱みを見せるわけにもいかないからだ。
 しかし、それゆえの危険というものも出てくる。
 例えば、ステイルからみれば、上条当麻は脱出の為に「何をするべきか」を考えている集団の中にあっては、ただ流されるだけの参加者と変わりない。
 奴はお世辞にも頭がいいとはいえないのだから。
 そんな集団の中にあっては、奴にできるのは集団の決定に従って行動することぐらいだろう。それはある意味、流されているだけの参加者といえる。
483人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:06:57 ID:Qa19nNti
 しかし、だからといって上条当麻が役立たずなのかといえばそうではない。
 奴の右手はありとあらゆる異能を叩き潰す。
 もちろん、奴もここに呼ばれている以上は、単純に奴を舞台の端に連れて行けば脱出できるなどという甘い考えは通じないだろうが、それでも右手に秘められている力を考えれば、上条当麻は役立たずとは言いがたい。
 またその逆に、上条当麻が活躍できるような環境、行動に移っている集団とインデックスが合流している場合には、彼女の集団内に占める重要度は大きくおちる事となる。

 そんな例は他にもあるだろう。
 例えば道具が無い技術者。
 仲間がいない、一人きりで行動中の指揮官。
 他ならぬステイルにしても、ルーン文字を刻んだ媒体が無ければその能力は大きく落ちる。
 故に、だ。白純とて、ステイルにそこまで露骨なごまかしが通じるとは思ってはいないだろうから、はっきりと積極的に脱出を目指している参加者を襲う事態には早々陥らないだろう。
 しかし、第一印象のみで有用か、そうでないかを決められるのも少々困る。
 キャスティングボードはこちらに握っておきたい。

 ――当然のことながら、ステイルのこの言葉に白純はあからさまに不満げな様子を見せる。

「はぁ? 冗談も程ほどにしておけよ、魔術師。何で殺人鬼であるこの俺が、殺しをするのにいちいちお前の顔色を伺わなくちゃいけないんだ」
 そんな白純にステイルは無表情に相対する。
「――不満か? ならどうしろと? まさかお前が全ての判断を下すというのかい? ……勘違いするなよ猛獣、まだ始末されたくないだろう」
 
 ほんの数秒、ステイルと白純は沈黙したまま視線を交錯させる。

 ――先に視線を逸らしたのは白純だった。

「…………ちっ! ああ、わかったよ! とりあえず他の奴を見かけたら、そいつをどうするのかの判断はお前に任せる。それでいいんだろう」
「ああ」
 投げやりに言った白純の言葉にステイルは頷いた。
 ただ、白純の言葉はそれだけでは止まらなかった。
「だけどこれだけは言っておくぜ。先に向こうから手を出してきたりしたら、基本的な考えが脱出を目指す奴だろうがなんだろうが、手加減はできないからな」
「……うーん、ま、そのくらいはいいだろう。ただし、その場合もお前に手を出した奴以外は、例えばそのまま逃げようとした奴は襲うな」
「…………」
484創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:07:53 ID:ON5EHePF
 
485人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:08:47 ID:Qa19nNti
 白純はさすがにもう反論する気はないのか、返事の言葉は無く、ただステイルの言葉に不承不承といった感じに頷く。

(……やれやれ)
 内心でステイルは小さく息を吐き出した。
 最初からこんな感じでは先が思いやられるというものだ。
 きっとこれから先もこのケモノは事あるごとにステイルの手から逃れようとするのだろう。そしていつかは、ステイルさえも食い千切ろうとするのだろう。
 決して油断できない関係。それをステイルは改めて意識する。

(ま、ひとまずは多少不満を和らげてやるかな)
 不満げな白純を見ながらステイルは苦笑交じりに非情な決断を下していた。
 そう、だからといって、このケモノとの同盟関係はステイルも望むところではあるのだ。後々どうなるか、まではわからないが、
少なくとも当分は同盟を続ける以上は、いらぬ禍根をいつまでも残しておく必要性はない。

 ケモノの気を落ち着かせる鉄則は、十分なえさを与えてやることだ。
 だから最初に出会う参加者がよほどしっかりした、はっきりと脱出にむけて動いていると判断できるような相手でもない限りは、流されているだけの参加者とみなす。
 あのケモノだってステイルの評定がゆるいと思えば、判断を下すのをステイルに一任することをそれほど不満には思うまい。
 

「後は……おい、猛獣。少し待て」
「……まだ何かあるのかよ」
 不機嫌極まりない白純の様子にステイルは苦笑し、告げる。
「落ち着けよ――時間だ」

『――聞こえているか? 言ったとおりに放送を開始する。』
 あたかもステイルがそう言うのを待っていたかのようなタイミングで、《人類最悪》による放送は始まった。


……。

…………。

………………。

486創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:09:29 ID:ON5EHePF
 
487人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:10:26 ID:Qa19nNti
『では、縁があったまた会おう――』
「成る程、ね」
 そして短い放送は、終わる。
 今回の死者は全部で十人。多いとみるか、少ないとみるかは人それぞれ。
 そしてステイルにしてみれば、それはどうでもいい話であっただけ。
 予想通りといえば、予想通り。ステイルの知り合いである土御門や上条当麻、インデックスの名前は今回の放送で呼ばれることは無かったのだから。

 まあ、妥当な話ではある。
 ステイルと同じ『必要悪の教会』(ネセサリウス)の一員にして、凄腕のエージェントでもある土御門元春。
 殺しても死なないような、いかに特別な右腕を持とうとも真正面から魔術師と戦い、それを突破してきたばかげたうたれ強さの持ち主である上条当麻。  
 そして、一切の記憶を無くした状況下にあっても彼や神裂火織といったネセサリウスでも屈指の使い手たちの追撃を数ヶ月にわたって逃れつづけたインデックス。
 そんな面々があっさりと死ぬはずも無い。

 とはいえ、万が一という思いが無かったわけでもないし、それ以外にも今回の放送はステイルには十分に聞くだけの価値があるものだった。
 一つはほとんど全ての参加者が興味を惹かれたであろう、この舞台の特異性について。
 
「舐められたものだよ、まったく」
 ステイルは半分は自嘲の、半分は自分を過小評価したあの《人類最悪》を嘲笑う、笑みを浮かべた。
 この舞台内においては特に能力の秀でた者達はその力を一部制限されているらしい。だが、ステイルに化せられた制限は、ほとんど無かった。
 彼にとっての基本であるルーンは問題なく力を発揮したし、彼の切り札、イノケンティウスも発現した。
 まあ、確かに言われてみれば使用枚数の割りには、やや威力が抑え目になっており、魔力の消費も多少大きくなってはいたが、逆にいうならばその程度、ルーンの使用数を増やすだけで十全にカバーできる。
 それはつまり、彼に課す制限はその程度で充分だと判断されたということだ。
 魔術師ステイル・マグヌスを馬鹿にするにも程がある。
 その判断が誤りであることを知らしめてやる。そう、怒りとともにステイルは誓う。
 
 とはいえ今は、その怒りばかりに気を取られるわけにはいかない。

 先の放送には後二つ気になる点があったのだから。

488創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:10:40 ID:ON5EHePF
 
489創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:11:21 ID:ON5EHePF
 
490人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:11:44 ID:Qa19nNti
 一つはステイル達も含めて集団を創りあげた参加者が少なからずいるらしいこと。
 特に放送前から、”元の世界”の世界の非同一性に気付くような者達が複数いるということは、ステイルにとっては喜ばしい放送だ。
 ステイル自身は気付きえなかったが、きっとインデックスならば、十万三千冊におよぶ魔道書の知識を持ち合わせる彼女ならば、きっとこの世界の異常性には気付くはずだ。
 しかし、それは複数の世界の話を聞いて、そこから違和感を感じること、そのため他の参加者と、
それもさっきの少女や今彼のそばにいる獣とはちがう、ちゃんと脱出を目指すような話が通じる参加者との出会いが前提となる。
 そもそも最初の放送でわざわざ伝えてきた以上は、異世界という発想を持ち合わせる参加者自体がそれほど多くいるとは考えにくく、なおかつインデックスの名前が呼ばれなかった以上は、
彼女がすでに集団に入り込んでいる可能性が高いことを指し示している。
 ただし、それが完全な安全に結びつくとは限らないのが困ったところだ。 

 何故ならば、それが最後にもう一つ気になった点、すでに二人呼ばれた、名前のない十人に関してである。 
 その十人がどういう意図で集められたのか、ステイルは二つほど予想を立てていた。
 
 一つはこの殺し合いを積極的に進めるための好戦的な殺人者。
 もう一つはステイルにとってのインデックスのような、他の参加者にとって命に代えても守りたい誰か。
 
 白純と出会ったことで、前者の可能性が高いとステイルは踏んでいたが、その割にこんなにも早い段階で二人も呼ばれるというのもおかしな話だ。
 だからおそらくは両者の混合。ステイルは今はそう予想する。
 ただ、そうなってくると不安も出てくる。

 当然、呼ばれた二人は後者、誰かにとっての大事な誰かということになる。
 その誰かを失った結果、集団の誰かが暴走し、崩壊するようなことになっては目も当てられない。
 やはり、早めにインデックスを保護下に置くことが望ましい。
 
 ……とはいえ、いつまでも思考するだけでは始まらない。放送から数分、思考にふけっていたステイルは再び行動を開始しようと同行者へと視線を向ける。

「おい、そろそろ行く……ぞ? …………猛獣?」
 そう、思考に気を取られすぎていたせいで、ステイルは白純の異常に気がつくのが大きく遅れた。
 
「有りえねえ……」
491創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:12:24 ID:ON5EHePF
 
492人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:12:40 ID:Qa19nNti
 放送終了直後から、いや放送途中、ある名前を聞いた直後から白純は震えていた。
 その名前は黒桐幹也。
 ホールに向かった直後に出会って、まだ時期尚早であったが故にこの舞台の危険性のみを教えて逃がしてやった一人の青年。

「有りえねえだろ……おい……うそだ、そうに決まっている」
 そう、彼には充分にここの危険は教えてやったはずだ。おまけに彼が自分から危険な目に会いに行くことが無いように、同行者は排除してやったはずなのだ。
 
 その彼が死んだ。
 せっかく彼を特別な存在にするための道具、ブラッドチップが入手できるめどが立ったというのに。

「お、おい……猛獣? どうした?」
 彼が行動をともにしていた魔術師が彼に何か声をかけてくる。
 ああ、うるさい。
 今はそんなことよりも幹也のことのほうが大事なことだ。
 どうして彼は死んだのか? 誰が彼を殺したのか?

「確かめないと……」
「は? おい、何を言っているんだ!」

 白純が幹也のもとを離れてから、まだ数時間しかたってはいない。きっと今ならまだ彼の痕跡を辿れるはずだ。

「くそっ! おい、待て! 猛獣!」
 何か聞こえている気もするが、今の彼にはどうでもいいことだ。
 ケモノは再び南へと走り出した。



 ◇ ◇ ◇



 ――同時刻。
 同じ人物の死は、彼らにも影響を与えていた。

 ――黒桐幹也。
493創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:13:15 ID:ON5EHePF
 
494人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:13:48 ID:Qa19nNti

 その名前が呼ばれた瞬間に、黒桐鮮花は呆然と立ち尽くした。

 彼らのひとまずの目的地であったホールと同じエリア、数エリアをぐるりと囲う堀を渡ってしばらく進んだところで流れた放送は、彼女の心からそれまでの目的全てを失わせるのに、十分な破壊力を持っていた。
 
 誰が、どうして、どこで、どうやって、なんで、そんな無数の疑問が彼女の頭を駆け巡る。
 そんな中ふと、視線を動かすと、冷たい目でこちらに注意を向けている土御門とぎゅっと唇をかみ締めながらも、やはりこちらに注意を向けているクルツの姿が目に入る。
 そんな彼ら二人を見て、幹也のことだけでいっぱいになった頭を無視して、口が勝手に言葉を紡ぐ。

「――別に心配しなくても、不安がらなくても平気です」
 ああ、と鮮花は自分で口にした言葉に納得した。
 土御門もクルツも鮮花のことを心配しているわけではない。むしろ鮮花が心配の原因なのだ。
 
 黒桐幹也の為に殺し合いに乗ることを決意した黒桐鮮花。彼女が幹也が死んだそのときにどうするのか、後を追うのか、それとも――錯乱して、暴走するのか。
 
 彼らにとっては、彼女が自殺するというのなら、別段止めてやら無くてはならない義理は無い。鮮花の好きにさせてやればいいだけの話だ。
 だが、錯乱した場合はそうはいかない。そのときに被害を受けるのは、他ならぬ彼らなのだから。
 故に彼らは鮮花の一挙手一投足に注意を払っていたのだが、そのことを理解した鮮花の言葉と、何よりも彼女の目を見て、彼らは理解する。
 自分自身や他の無関係な何かにぶつけるだけの余裕が無いくらいに、彼女の怒り、彼女の思いの全てはまだ見ぬ仇、黒桐幹也を殺した誰かに向けられている。
 今の彼女にそれ以外のことに思考を向ける余裕は、ない。

「ま、そういうことなら安心だぜい」
 ふう、と緊張の糸を解きほぐすように息を吐き、土御門が話し掛けてくる。
「だな。ま、こうして組んでいるのも何かの縁だ。手伝いくらいはしてやるぜ」
「――結構です」
 続けて言ったクルツの言葉をぴしゃりと鮮花は遮った。

 ……彼女の怒り、黒桐幹也の復讐は彼女一人だけのものだ。それを他の誰にも――そう、式にだって分け与えてやるつもりは無い。

495創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:14:33 ID:ON5EHePF
 
496創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:15:26 ID:ON5EHePF
 
497人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:15:40 ID:Qa19nNti
 だが、そんな鮮花の返答にクルツは口元を吊り上げる。
「ま、そう焦るなって。別に俺だって復讐に横槍を入れるほど野暮じゃねえ。俺が言う手伝いって言うのは、その一つ前。アンタの兄貴を殺したのが誰なのか、そいつを見つける手助けのことだ」
「…………」
 今度の返答は沈黙だった。

 もちろん可能ならば、最初から最後まで幹也の仇討ちは彼女一人で成し遂げたかった。
 もしも幹也が殺されたのが放送で言っていた“元の世界”での出来事だったとしたら鮮花は必ず一人で仇を見つけ出して、一人で全てを終わらせていたことだろう。
 ――しかし、この場においては少々事情が異なってくる。
 ここは被害者と加害者が一瞬後には入れ替わる「殺し合い」の舞台。
 ほんのわずかの動きの遅れが鮮花の仇を永久に彼女の手が届かない場所へと連れて行ってしまう可能性は常に付きまとう。
 ……だから。

「――わかったわ。ありがとう」
「別に礼には及ばないさ。――ついでだしな」
 とりあえず、といった風に礼を述べる鮮花にひらひらと手を振って返事を返すクルツ。その言葉に土御門が反応を示した。

「ついで……? って事はクルツ、どっちかが……?」
 先の情報開示の際に出てきた名前は今の放送では呼ばれなかった。嘘をついたというならばここであっさりばらすというのはあまりにもまぬけ。だとするならば、二人呼ばれた名前の無い十人の誰かということとなる。
 そしてクルツは頷いた。
「まあな。メリッサ・マオ。俺やソースケの仲間にしてリーダー。マオの姐さんを殺してくれたヤロウにはきっちりと礼をしてやるさ」
 昏い目つきでクルツはぱん! と拳を平手に叩きつけ、そして土御門の方をじろりとにらんだ。

「もちろん、今から会いに行くステイルや他のお前の知り合いがマオを殺していたっていうんなら……土御門、そん時は覚悟しろよ?」
 脅しとしかとりようが無いクルツの言葉に、鮮花もその可能性に思い至ったのか、厳しい目つきで土御門をにらみつけ――

「好きにしろ。……というかありえないぜい」
 土御門は苦笑を浮かべた。
「どうしてそんなことが断言できるのよ?」
498創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:16:16 ID:ON5EHePF
 
499人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:17:00 ID:Qa19nNti
 鮮花の詰問に土御門の苦笑は一層深くなる。
「だってクルツの同僚って事は傭兵で、そっちの方は普通の一般人。今のステイルのスタイルを考えてみろっての。あいつがやっているのは一箇所に留まっての篭城戦だぜい?
 ――わざわざ自分から危険なことに首を突っ込むような馬鹿以外は襲われることは無い」
「ならいいけどな」
「ま、実際あいつとあって話をすりゃ、すぐにわかるだろ。……ああ、とりあえず先に名乗るなよ? そうすりゃあ俺が上手いこと聞き出してやるぜい」
 その言葉にクルツは頷いた。
「ま、確かに後は話してみてのお楽しみ、か。そうだな……いつまでも話をしていても仕方が無いし、とっとと会いに行こうぜ。時間がもったいな―――」

 不意にクルツの言葉も、歩き出そうとした足も止まる。
 同時に土御門も、そして遅れて鮮花も気がついた。

 ――北から何か、いや誰かが近付いてきている。

 三人は顔を見合わせると、小さく頷きあい、それぞれの獲物を取り出すと身構えて、迎撃体勢を整える。
 そうする間にも信じがたい速さで近付いてきた誰かはその姿を見せて――

 そのシルエットは鮮花にとってはひどく見慣れたものだった。

 真っ赤なジャンパー。
 肩まで伸びた、デタラメに切りそろえられた髪。

 それはつい先ほど名前を呼ばれた彼女最愛の兄、黒桐幹也の今のところの恋人。
「――式!?」
 鮮花の驚きの声があたりに響いた。


 ◇ ◇ ◇



「――式!?」
 茫然自失のままに、先ほど黒桐幹也と別れた地点を目指して駆けていた白純里緒の頭に、その声はビックリするくらいに大きく響いた。

「……なんだ幹也の妹じゃねえか」
500創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 17:17:03 ID:ON5EHePF
 
501人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w :2009/09/20(日) 17:17:56 ID:Qa19nNti
 白純は足を止めると、未だに距離が離れているにもかかわらず、油断無く身構える三人へと視線を向ける。
 
 ――幹也の妹。
 ――銃を構える金髪の外人。
 ――油断無く無手で身構えている金髪の、ただしこちらは染めたものに過ぎない男。

「……へえ」
 小さく笑みを浮かべると、白純はぺろりと唇をなめた。

「――いえ、違うわ。……あなた誰?」
「……」
 白純はそれに答えない。
 その様子に三人が三人とも警戒のまなざしと、そして敵意を向けてくる。

 ――それが実に心地いい。
 頭に上っていた血がスムーズに流れ始める。

 そうだ、よくよく落ち着いて考えてみれば、まだ「特別な存在」になってはいなかった黒桐幹也の価値なんて、白純里緒には二の次だ。
 今の彼がそれよりも必要とするのは彼と同じく外れてしまった仲間。彼と同じ殺人鬼である両儀式こそが彼にはもっとも必要なのだ。
 ――だから鮮花の、幹也の妹の言葉は彼の耳にひどく障った。

「式じゃない、か。はっ! お前、あの幹也の妹のくせにずいぶんと見る目がねえなあ」
「……っ! どうしてわたしを、そして幹也を知っているのよ! ――まさか」
 はっ、と何かに気がついたように目を見開く鮮花を見て、白純は大きく笑った。
 ああ、やはりこいつは幹也の奴とは大違いだ。
 的外れにも程がある。

「――は、ははは、あはははははははははははっははははは!
 やっぱりお前、幹也と全然似てねえよ。――鈍すぎる」
 その言葉に何をどう勘違いしたのか、鮮花は刺すような目で白純をにらむ。
「――殺す!」
「――はっ! 面白い――やって見せろよ!」
 言うが早いか、白純里緒は獣のように路面を走り出した。
 そのヒトでは有り得ない速さに真っ先に反応したのは土御門だ。

「っ! 下がれ!」
502代理:2009/09/20(日) 17:41:47 ID:Oj48bTEx
 走り出そうとした鮮花を引止め、クルツに向かって彼は叫ぶ。
「クルツ!」
「お…………うえっ!?」
 土御門の叫びに応じて、エアガンを構え、放とうとしたクルツの表情が驚きに彩られる。
 クルツの動きを察知した、その瞬間に敵の動きは蛇へと変わった。
 低く、速く、のたくるように蛇行を繰り返すケモノの動きは、鮮花はおろか、土御門やクルツでさえも捉えきれない。
 銃口を向けることも、その動きに反応することさえもできぬままに、間合いはあっという間に狭められて――
 三匹の獲物が白純の間合いの中に入ったその瞬間、あたかも爆ぜるかのような勢いで、蛇の動きは肉食獣のものへと再び変わる。

「――くあっ!」 
 そして苦鳴が響いた。
 ケモノの間合いに捕らえられたその一瞬、
 傭兵としての直感に、魔術師としての経験に、それぞれ従うがままに大きく回避行動をとることができたクルツと土御門とは違って、鮮花はその行動が遅れた。
 故にケモノの一撃を避ける事はできずに、駆け抜けざまに放たれたナイフの一閃によって左腕を切り裂かれていた。
 傷はそれほど深くは無い。が、皮一枚といったわけでもない。
 事実、咄嗟に傷口をおさえた右手から零れるように流れた血が彼女の左腕を紅く、赤く染めあげていく。

「……ちっ! おい、大丈夫か?」
「う、っく……ええ」
 注意の大半を相対する相手に向けながらも、二人は鮮花の様子をうかがう。鮮花も痛みに顔を歪めながらも応えてみせる。
 
 ――その一方、ケモノの方はというと、一撃を放った後、追撃を避けるかのように斬りつけた勢いそのままに大きく前方へと跳躍した。
 それは明らかに普通では有り得ない動作だった。ほんの一跳び、それにもかかわらず、それだけで数メートルの距離を稼ぐと余裕を持って彼は振り向き、ニヤリと笑みを浮かべた。

 その笑みを見て、彼らは悟る。

 ――次は本気、今よりも速い攻撃が来る。

「…………ヤバイな。どうする、土御門?」
 冷や汗を流しながらクルツは言う。
503代理:2009/09/20(日) 17:42:38 ID:Oj48bTEx
 相手の戦闘能力は予想を大きく越えていた。
 万全の装備があるというのならばともかく、今の彼らの武装、彼らの能力であの相手にここまでの接近を許してしまった時点で、”詰み”だ。
「にゃー、俺に聞かれても困るぜい。……そうだな、こういっそバラバラに逃げ出して運悪く襲われた一人を囮に逃げ出すってのはどうだ?」
 土御門の言葉にも力は無い。
 そんな男二人をよそに、鮮花は一歩前に出る。
「お断りよ。わたしは例え刺し違えることになろうと幹也の仇を取るんだから!」
 彼女の瞳は純粋な憎悪に燃えている。

「…………」
「…………」
 そんな彼女の様子に二人は黙り込み、そしてはあ、と溜息をついた。

「しゃーねえ、付き合うか」
「にゃー、ま、確かに逃げ切れる可能性もそんなに高いわけじゃねえ」
 そう言うと二人は改めて身構えた。

 ……そんな言葉とは裏腹に、二人の思いはちらりと、目配せをするだけで一致した。二人の思いは鮮花を捨て石にすることに決まった。
 彼女が襲われている間に二人は逃げる、そんな生ぬるい話ではない。
 土御門も、クルツも鮮花を利用して、この強敵を排除する、そう決意したのだ。

 確かに彼らでは先の動きも捉えられなかった以上、本気でくる次の攻撃、より速い攻撃をどうにかできる可能性は低い。
 しかし、相手に重しがついているとなると話は別だ。
 人間の肉というものは意外と抵抗が強く、また人一人分の重量は重い。
 それがどういう事かというと、だ。
 つまり相手が本気で来る、止めを刺しに大きく斬りつけてくる瞬間こそが彼らにとっては最大のチャンスということにもなる。
 襲われる相手の重量と、その肉の抵抗は同時に奴を地獄へと引き摺り落とす重りへと、なる。

 そして戦場での鉄則は弱い奴から確実にしとめること。
 奴にとっても先の交錯でこちらの戦闘能力はほぼ、筒抜けだろう。ならば狙われる相手なんて、一人しかいない。

「覚悟は決まったか? なら、行くぜ!」
 そして、彼らの様子を余裕を持って、眺めていた白純も全員が再び身構えたのを見て、再び彼らへと躍りかかる。
 土御門達の予想したとおり、その動きはさっきの一撃をなお上回る速さ。
 先ほどの攻撃がケモノのような速さというならば今度の攻撃はケモノ以上。
504代理:2009/09/20(日) 17:43:29 ID:Oj48bTEx

 狙いは――言うまでもなく、黒桐鮮花。

「あぶねえっ!」
 予想通りの動きに土御門とクルツも動く。
 セリフだけは仲間を気遣う、しかし実際には鮮花を救うには一拍遅く、その隙を突くには最適のタイミングで彼らも走る。

 そして、鮮花は。
 いかに相手が速かろうとも、反応できない動きをしようとも、鮮花とてむざむざ殺されるつもりは無い。
 交差必殺。
 相手が自分を狙うつもりならば、その瞬間に自分の攻撃だって、あの相手へと当たるはず。
 彼女は拳を握り締め、
「AzoLto――」
 拳の着弾を確認する前に、詠唱を解き放つ。
 彼女の呪文にしたがって、火弾が生まれ――拳も火弾も空を切った。

 鮮花が一撃を放ったその瞬間に、相手はスピードは落とさず、ただ姿勢のみをさらに落とすことで低く放たれた鮮花の一撃をかいくぐったのだ。

「――――っ!」
 見下ろす鮮花と見上げるケモノ、刹那の間に両者の視線が交錯する。
 鮮花の総身を悪寒が襲う。

「――――」
 ……声は、出なかった。
 腹部を貫く衝撃にただ、肺の中の空気が圧迫されて出ていき、げえっ、とそんな音が漏れただけ。
「「な!?」」
 だから代わりに響いた声は土御門とクルツのもの。
 理由は異なれど、まったく同じ驚愕の声を二人は漏らした。

 クルツの驚愕は自分目掛けて、吹っ飛んできた黒桐鮮花に驚いて。
 そして、土御門の驚愕は――自分目掛けて襲い掛かってくるケモノの姿に驚いて。 

 鮮花の一撃をかいくぐった相手は、手にしたナイフで鮮花を貫くことなく、体当たりを食らわせると――いや、体当たりをしたかのような勢いで鮮花にぶつかり、
そのまま彼女の体を足場にして土御門の方へと勢いを殺さずに方向転換を果たしたのだ。
505代理:2009/09/20(日) 17:45:10 ID:Oj48bTEx
「……っ!」
 蹴り飛ばされた鮮花がクルツへと衝突し、二人まとめて吹き飛ばされる光景を視界の端に捉えながら、土御門の脳裏を死の予感が埋め尽くし――
(……舞花っ!)
 彼が守るべき、大事な妹の姿を思い出し、土御門は一撃を放つ。
 だが、相手は火弾と拳の双撃すら容易く回避してのけた猛獣だ。
 いかに土御門の攻撃が鮮花より速く、鋭い一撃であろうとも、彼に避けれぬ道理はない。

 ――そんなことは土御門自身わかっていた。

(――甘いんだよ!)
 土御門の拳は空を切る。
 ケモノがはっきりと笑みを浮かべるのが見えた。
 だが、彼の攻撃はここからが本番なのだ。
 空を切った拳は勢いを殺さず、いやむしろその速度を増して弧を描く。
 先の一撃が高速ならば、この一撃はまさに神速。
 敵の後頭部へと一撃は叩きつけられる――

 ――事はなかった。
「ば……ま……」
 鮮血と共に土御門の口から言葉が零れる。
 引かれる拳の速度さえなお上回り、白純の一撃は駆け抜ける勢いそのままに、今度は間違いなく土御門の腹部を貫いた。
 
「く…………う……」
 人一人分、××キログラムがぶつかった衝撃とその痛みに顔をしかめつつ、クルツはそれを見届けた。
 この距離、この状態ではとてもではないが、想定していたような攻撃を加えることは不可能だった。
 こうなってしまっては、逃げることさえできるかどうか。
 最悪というのも生ぬるい状況の悪さにクルツは歯噛しみした。

 ――しかし、彼はまだ知らない。
 この状況はまだ最悪ではなかったことを。

「よお、遅かったじゃねえか」
「…………?」
506代理:2009/09/20(日) 17:46:26 ID:Oj48bTEx
不意に、土御門を貫いたその体制のままでケモノは先ほど自分が向かってきた方角を向くと、にやりとそんなことを言って笑った。
 どうしようもなく嫌な予感を感じながら、クルツもその方向を向く。

「冗…………まじか……」
 絶望的な呟きが知らず、彼の口から漏れる。
 道路を小走りにやってきたのは一人の長身の男だ。

 派手なアクセサリー。
 赤く染めた長い髪。
 おまけに右目の下にはバーコードの刺青。
 
 そんな容貌の男、見覚えは無かったが、聞き覚えはあった。

 魔術師、ステイル・マグヌス。

 この瞬間をもって、状況は最悪になったというべきだった。

「逃げるぞ!」
「う……」
 そう叫ぶと、クルツは鮮花の体を無理矢理引き起こすと駆け出した。
 土産代わりに銃以外の支給品、缶ジュースの内二本を取り出すと投げつける。
「ガラナ青汁」「いちごおでん」
 二十本のジュースの中から選んだ、とりわけ禍々しい雰囲気の二本のジュースはその中身を散らしながらも狙い外さずケモノの元へと飛んでいき、
「ぐあっ!?」
 悲鳴が聞こえた頃には、路地裏に飛び込んだクルツと鮮花は最初の曲がり角を曲がったところだった。
 いつ、追いつかれるのかわからない、恐怖と絶望に満ちた逃走を続けることしばらく、それは数分か、それとも数十分か。

「はぁ……はぁ……」
「くっ、まけ、たのか……?」
 曲がり角があれば曲がり、必死に走りつづけた彼らは堀へと到達したところでようやく一息つく。
 クルツは注意深くあたり様子をうかがってみるが、とりあえず彼のすぐ側で、荒い息をついている鮮花以外には人の気配は無い。
 はあ、と安堵の息をついたところで隣の鮮花が彼をにらみつけてきた。
「……なんで!」
507代理:2009/09/20(日) 17:48:31 ID:Oj48bTEx
「ああ?」
「何で、逃げるのよ! あいつは、あいつらは幹也の仇なのに!」
 そんな彼女の言葉をクルツは鼻で笑った。
「何言ってんだ? 一緒に走って逃げたのは鮮花ちゃんだぜ?」
「そ、それは! その……」
 鮮花は言葉に詰まる。
 それはそうだ。彼らが逃亡した時間はそれほど短い時間ではない。
 しかし、彼女は走って、逃げつづけた。

 そんな様子の彼女にクルツはさらに言葉をかける。
「なあ、鮮花ちゃん。君がやりたいのは敵討ちなんであって自殺じゃないだろう?」
「……?」
 クルツが何を言いたいのかわからずに、疑問の表情を浮かべたままで、とりあえず鮮花は頷いた。

「仇はわかった。それが簡単に殺されるような相手じゃないこともわかった。じゃあ、やるべきことは一つだろ?
確実に奴らを殺せるだけの準備を整える、違うか?」
「でも、そんなのどうやって……?」
 それを聞かれて、クルツはにんまりと笑った。
「プランはあるぜ。とりあえず、ここを目指す」
 そう言いながら彼はがさがさと地図を取り出すと、その一点を指し示した。
「え? ここって」
 鮮花はさらに疑問を浮かべた。
 クルツが指し示したのはエリアE−5、摩天楼。鮮花がスタートした場所だった。
「今更あそこに何の用があるというんです?」
「今の俺たちに必要なのは武器、とりわけ飛び道具の類だ」
 クルツは言う。
 それは確かに間違ってはいない。
 制限されていようともあれだけの運動能力を持つ相手がいるのだ。今後の状況如何ではより高い能力を持つ相手と戦う可能性も考慮するべきで、そんな相手に接近戦を挑むのは自殺行為以外の何ものでもない。
 
 しかし、と鮮花は言う。
「でも、ここに集められた施設のほとんどは日本のものが基本です。……銃や殺傷能力を持つ武器が売っているとは思えませんが?」
「ふっふっふっ、まだまだ甘いな鮮花ちゃん」
 しかし余裕たっぷりにクルツは笑った。
「どういうことですか?」
508代理:2009/09/20(日) 17:49:39 ID:Oj48bTEx
「例えばさっきの喫茶店、ちゃんと皿やら何やらが揃っていただろ?」
 言われてみて思い返せば確かにそうだ。
「ええ、それが何か?」
「俺と土御門の奴が最初に詳しい情報交換をした家もそうだった。それこそ少し前まで住んでいた奴がいたみたいにいろんな道具が残されていた」
「回りくどい話は結構です。結論から言ってください」
 強い口調の鮮花にしょうがねえなあ、とクルツは笑うと答えを言う。
「摩天楼の高層マンション。どう考えたって金持ち専用の場所だ。そして基本的に家や施設にはさまざまな道具が残されたままだ。そん中の一軒ぐらい狩猟ややばい趣味をお持ちの方がいてもおかしくない」
「あ……」
 言われてみればそのとおりだ。
 そしてクルツは続けて言う。
「ああ、ちなみに鍵とかそういうのは基本的には心配いらないだろ。これまでのところ全部鍵はかかっていなかったからな。そんな中で鍵がかかったところがあれば……」
「そこには誰かがいる。場合によってはその人の支給品を《譲ってもらう》という手もありますね」
「そういうこと、じゃあ行こうぜ。いつまでもここにいたんじゃ追いつかれるかもしれねえ」
 そうして二人は行動を再開する。
 その前にクルツは一つ、缶ジュースを取り出すと堀へと投げ捨てる。

「……? 何をしているんですか?」
「別に、ここで死んだわけじゃないけどあいつへの手向けってところかな」
 
(じゃあな、土御門。俺は死なねえ)
 中身の入った缶ジュースはとぷん、と堀に沈んでいった。
509代理:2009/09/20(日) 17:51:24 ID:Oj48bTEx

【D-4/ホール西の堀付近/一日目・朝】


【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ 、疲労(中)、復讐心
[装備]:エアガン(12/12)
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×17(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサとの合流を目指す。
1:摩天楼に向かい、マンションエリアを物色して銃器を入手する。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:ステイルとその同行者に復讐する。
5:メリッサ・マオの仇も取る。
6:ガウルンに対して警戒。
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。


【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:腹部に若干のダメージ、疲労(大) 、強い復讐心
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也の仇をなんとしても取る。
1:土御門と行動。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
※白純里緒(名前は知らない)を黒桐幹也の仇だと認識しました。



 ◇ ◇ ◇


「……ぐ……う」
 ずるり、と腹部を貫いた腕が引き抜かれて、土御門の体が力なく地面へと落ちた。
 そんな彼には構わずに
「ぐっ、あいつら、何をぶつけやがったんだ」
 顔を、体を塗らしたジュースを拭いつつ、不機嫌に白純里緒は吐き捨てる。
 味も、匂いも不愉快だ。

「何をしている、猛獣」
「よお、遅かったじゃないか魔術師。約束どおり襲われたから殺してやったぜ」
 全身を多少拭った後で、最後に頭から支給品の水をかぶると、白純はステイルへと話し掛ける。

「見ただろ? あと逃げた獲物も二匹いる。さあ、殺しに行こうぜ」
 このコンクリートの密林は彼にとっての狩猟場だ。
510代理:2009/09/20(日) 17:52:25 ID:Oj48bTEx
 例えどれほど逃げ出そうとも、逃げ切れる道理はどこにも無い。
 
「待て」
 しかし、意気揚々と追跡をしようとした彼をステイルは呼び止める。
「何だ、魔術師? 言っておくが逃げた奴らも俺に危害を加えたんだぜ」
「そうか」
「ああ、気はすんだか? なら俺は行くぜ?」
 そう言うと今度こそ里緒は背を向けて、
「ま、今となってはどうでもいいんだけどね」
 背後から聞こえた言葉にどうしようもない悪寒に襲われた。

「炎よ(Kenaz)―――――」
 聞こえてくる言葉は先ほども聞いた魔術師の呪文。

「魔術師――!」
 振り向く、その一瞬の動作が致命的なロスとなった。

「――――――――巨人に苦痛の贈り物を(purlsazNaupizGebo)!」

 それはつい先ほども里緒が見た光景。
 火の粉を散らしたオレンジのライン。
そして轟と爆発し一直線に生まれた摂氏3000度の炎の剣。
それを構え、振るうのは『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』の名を持つ魔術師、ステイル=マグナス。

 ただし先ほどとは違う点もある。
 一つは彼の体勢。振り向こうとした今の体勢はさっきよりも悪い。
 もう一つはステイルはすでに炎剣を振るっている!

「くそっ!」
 それでもケモノの運動神経はギリギリのところで炎の剣を回避することを成功させていた。
 ――だが、ギリギリでは逃げ切ったことにはならない。

「――がっ!?」
 剣が白純の体のわずか前を通り過ぎた瞬間に、炎剣は爆発し、その爆風に吹き飛ばされた白純は炎と共に手近なビルの壁面へと叩きつけられた。

「な……んの、何のつもりだ! 魔術師ぃ!」
「へえ、やっぱりしぶといな」

511代理:2009/09/20(日) 17:53:38 ID:Oj48bTEx
 痛みをこらえて叫ぶ白純を興味深そうにステイルは見る。
 その瞳は檻の中のモルモットを見るような、無慈悲な色をたたえている。

「こたえろ! 何のつもりだ!」
「うーん、まあ一言で言うとだね。猛獣ならばともかくとして、誰彼構わず噛み付くような狂犬はいらないってことさ」
 言うとステイルは無造作に近付いてくる。

「くそっ! 畜生! ちくしょう!」
 白純はうめく。
 彼の体に刻まれたダメージは大きかった。
 なんとか身を起こしはしたものの、がくがくと震える足にはまともな機動力は残されては、いない。

「じゃあな、猛……いや、違うね。じゃあな、狂犬」
「うわわああああああぁぁああああ!」
 絶叫をあげつつ、白純は体を横に転がした。
 
 ――奇跡が起きる。
 
 ステイルの一撃は見事に空を切った。
 勝機はいま、ここしかない。
 即座に彼は身を起こし―― 

「灰は灰に―――(AshToAsh)
  ―――塵は塵に―――(DustToDust)
    ―――吸血殺しの紅十字―――(SqueamishBloody Rood)!!」

 奇跡が起きるのは一度だけ。
 二本目の炎剣は白純の体を捕らえ、次の瞬間、彼の体は爆炎に包まれた。

「ま、まるっきり役に立たなかったわけじゃないし、これぐらいが妥当なところかな?」
 もはやぴくりとも動かない、右腕を完全に炭化させた白純に向かって取り出した、一つまみ分のブラッドチップを取り出すと、彼の周囲にぱらぱらと撒き散らして、ステイルはケモノに背を向ける。

 そのまま彼が歩み寄ったのはつい先ほど腹部を貫かれた土御門の元だ。
 ステイルは土御門の腹部から胸にかけて開いた5つの穴を見て軽く眉をしかめた。
512代理:2009/09/20(日) 18:23:28 ID:Oj48bTEx
「まだ、生きているかい? 土御門」
「にゃー……使い魔の手綱ぐらいはきちんと握っていて欲しいものだぜい……」
 ステイルの言葉に力なく土御門は応じた。
 彼の下の地面はすでに赤く染まっている。

「ま、僕も今それを思い知ったところだよ」
「遅いっての……」
  そう力無く毒づいてから

「良いか、ステイル……」
 土御門はステイルに先の放送を聞いて、より深まった考察を伝える。

「聞いたとおり、ここが異世界とか言うのは間違いないぜい……。けほっ、ってあんまり余計なことを言っている余裕は無いみたいだにゃー」
 げほっ、と土御門は一度大きく咳き込み、そして言葉を続ける。

「結論だけいうと、やつらの力は魔術が基本かもしれないし、科学技術かもしれない。
だから、だ。可能な限り、禁書目録と、レベル5、御坂はなるべく死なないようにした方がいいぜい……。
ま、……あの……海水の話を信じるなら……俺たちの世界からきた人間だけに、てめえが知らない名前だと御坂美琴と白井黒子だけを会場内に残せば、
かみやんの「幻想殺し」で状況を、どうにかできる可能性はある……」
「なるほどね」
 短くまとめた土御門の言葉にステイルは理解を示した。

「礼代わりというのもおかしな話だが、止めはいるか?」
「けっこうだぜい……、魔力は無駄遣いするもんじゃない、ぜい……」
「そうか」

 それだけ言うとステイルは土御門に背を向けて、歩き出した。

「ぁ」
「…………」
 歩きながらも彼は静かに考え込む。
 土御門が短くまとめて伝えた言葉、それを解釈すればインデックスをただ一人の生き残りにする以外の、脱出の為に彼ができることが二つあることがわかる。
 ただし、その方向性は正反対といえるものだ。
513代理:2009/09/20(日) 18:25:02 ID:Oj48bTEx
一つは機械や、魔術、そのほかありとあらゆる異能に対して何らかの知識を持つ人間を可能な限り生かしておくこと。
 一つ一つの知識では皆無に見える脱出のための手段も、それぞれの知識の穴を別の知識によって埋めていくならば、
彼の同僚、神裂のようにそうすることで打開の道が開く可能性はひょっとしたらあるかもしれない。
 だが、そうでない可能性もある。

 そして、もう一つの道は彼らの世界以外の人間を皆殺しにすること。
 今更あの《人類最悪》が嘘を言うとは思えないし、完全に元通りにまで威力を高められた「幻想殺し」ならばあの壁を打ち破ることはできるかもしれない。
 何よりこのプランの場合は、失敗に終わってもインデックスをただ一人の生き残りにするのが簡単だという点がメリットだ。

「――僕は、どうするべきなんだろうね」
 幻想殺しの少年ならば迷うことは無いであろう、この問いの答えを求めて魔術師は一人、町をさ迷っていく。


【D-4/ホール近く西の道路/一日目・朝】 


【ステイル=マグヌス @とある魔術の禁書目録】
[状態] 健康
[装備] ルーンを刻んだ紙を多数(以前より増えている)、筆記具少々、煙草
[道具] デイパック、支給品一式、ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
1:どうする……?
2:上条当麻へ鬱屈した想い……?
3:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。
514代理:2009/09/20(日) 18:26:05 ID:Oj48bTEx
◇ ◇ ◇


 ――そしてしばしの時が過ぎ。

「ふう、ステイルの奴はようやく行ったか」
 血色こそはよくないものの、土御門元春はゆっくりと、その身を起こした。
「くっ、いやあ、危ないところだったぜい」
 そんなことを呟く彼の腹部からはすでに血が流れていない。よくよく見れば傷口をかさぶたとは違う、薄い膜のようなものが覆っていた。
 これこそが土御門が魔術と引き換えに手に入れた超能力。

 レベル0の肉体再生(オートリバース)。

 傷口に薄い膜を張る程度が限界のしょぼい能力ではあるが、今はその能力によってかろうじて命をつなぐことができていたのだ。文句の言葉なんて出てくるはずが無い。

「ふう、ステイルの奴はとりあえず北に向かったか。とりあえず次の放送で名前を呼ばれる誰かが治療してくれたって事にするかにゃー。
そしてその誰かは治療した俺をかばって殺人者と戦って死亡した。……うんうん、美しい話だぜい」

 そして、その能力をステイルに明かさなかったのはこれは彼にとっての切り札でもあるからだ。
 この力によって、魔術の使用も何とか耐え切ることができるが、それを前提にされるというのも勘弁願いたい。
 他の人間よりかはましというだけで、魔術の使用が命にかかわるのは彼もまた同じなのだから。

「さてと、もう少し傷が回復したらクルツ達を追うか」
 先ほど逃亡していった同行者達のことを土御門は考える。
 さいしょのほうの道取りは見えていたが、その後どこまで彼らが走っていったのかはわからない。
 とはいえまあ、あれほど余裕が無い状態での逃走劇だ。
 そこかしこに彼らの痕跡は残されているだろう。

 ――今の彼にできることはほとんど無い。

「んじゃ、少し休むか」
 とはいえ、まあ、このまま路上で休むというのはありえない。
 土御門はゆっくりと手近なビルの中へと歩いていった。
 

 【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜2、H&K PSG1(5/5)@ 予備マガジン×5
[思考・状況]
515代理:2009/09/20(日) 18:26:50 ID:Oj48bTEx


――ぞふり。

 不意に、そんな衝撃が足元に走った。

「……ん?」
 疑問に思って、視線を下に向けようとして――バランスを崩して土御門は地面に倒れこむ。

「あ……、あ……?」
 声が、漏れる。

 ――足首から、先はなくなっていた。

 その事実を視認した瞬間、

「ぐわああぁあぁああぁぁあああああAAAAあああっ!?」

 閉め忘れた水道のように無くなった足首から大量に血が噴出し、激痛が脳髄で炸裂する。

「て、め――!?」

 最後まで言い切ることはできなかった。
 襲撃者の姿を視認した瞬間、それは相手が彼目掛けて飛び掛ってきた瞬間でもあり、

――相手の爪が土御門の喉を刺し貫いた瞬間でもあったからだ。

(んで、なんでおまえが!)
 襲撃者を視認して、土御門の脳裏を疑問が埋め尽くした。そこにいたのは死んだはずの人物だったからだ。
とはいえ、土御門の疑問は一瞬後には霧散した。
 
回答が与えられたわけではなく――疑問を抱くだけの余裕が彼から消えてしまったために。

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜Ma、いKKkkkkkkkkkA!!!!)
 全身を蹂躙される。 
 文字通り生きながら食われるおぞましさと、それを上回る激痛。
 思考は形にさえなっていなかった。
516代理:2009/09/20(日) 18:27:55 ID:Oj48bTEx

 早朝の町には似合わない無気味な音が響いていた。

 ごしゃり。
 ぺきり。
 ぱき。
 ぐしゃ。
 ずるずる。
 ぐちゃ。

 人一人分の肉体、その大半を十分少々で食い散らかすと、ふらふらとケモノは路面へと出た。

 白純里緒、魔術師の炎剣をその身に浴びて、それでもなお彼は生きていた。

 ステイルが犯したミスは二つ。

 一つはケモノの生命力を見誤ったこと。
 例えば、サメなどは例え心臓を抉り取られようともしばらくは生き続けるほどの強い生命力を持っている。ありとあらゆるケモノの特性を併せ持つ白純里緒の生命力はそれに劣るものではない。
 だが、逆にそれだけでは右腕を完全に消し炭に変えられて、全身遍く炎に包まれて行動不可能なまでのダメージを受けていた彼は、遠からず死んでいたこともまた間違いのない事実。
 だからそれがステイルが犯した二つ目の失敗。
 白純里緒が欲していたブラッドチップは起源覚醒のために必要な道具であるよりも先に、強力な麻薬であり、そして理性を吹き飛ばす強力な毒物であった。

 だが、毒はまた薬にもなる。

 ブラッドチップはまた強力な代謝促進作用も併せ持っていた。その効果の程は額から頬までをナイフで深々と切り裂かれた黒桐幹也がその命を取り留めるほど。

 ばら撒かれたブラッドチップを摂取することでケモノは急速に回復をはたしていた。

「……ロして……」
 ぶつぶつと呟きながら白純里緒は歩き出す。
 その歩みは少し前までとは比べ物にならないほど、ゆっくりとたどたどしい。

「こ…………や……」
 しかしそれは当然といえる。
 いかに代謝が促進されようと彼が受けたダメージは極めて甚大なものであったし、炭屑とかした右手は失ったままだからだ。
517代理:2009/09/20(日) 18:29:11 ID:Oj48bTEx
「殺してやるぜ! 魔術師いぃぃ!!」
 だが、そんなことは関係がない。
 今の白純を突き動かすのはただの怒りそれだけだ。

 かくして、手負いのケモノは野に放たれた。

【土御門元春@とある魔術の禁書目録 死亡】
【D-4/ホール南の道路/一日目・朝】


【白純里緒@空の境界】
[状態]:右腕消失、聴覚低下、右半身を中心に広範囲の火傷、薬物摂取、判断能力の低下、強い殺意
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:殺す!!!
[備考]
※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦
※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません
※全身に返り血が付着しています


[備考]
※ 白純里緒のデイパック、中身は基本支給品(未確認支給品0〜1所持。名簿は破棄)が入ったものとアンチロックドブレード@戯言シリーズがホール南の道路に放置されています。
※ 付近のビルの側の一つに大量の血痕と、土御門元春の体の一部が残されています。

以上です。
割り込み投下という失礼な真似をしでかしたことをお詫びします。
そして支援ありがとうございました
518創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 19:24:19 ID:4IgEKJIX
なんという投下ラッシュ。感想が追いつかないw

>>481  FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜 ◆MjBTB/MO3I 氏
投下乙。
うわぁ、惨劇に真正面に突っ込んで放送を真正面から受け止めて、グループ完全崩壊か……。
置き去りにされたエルメスが誰かに何かを伝える日は来るんだろうか。
打ちのめされたシャナ、暴走する実乃梨、するりと抜け出しちゃった秀吉。それぞれ先が楽しみだ。

>>517  人をくった話―Dig me no grave― ◆ug.D6sVz5w 氏
こちらも投下乙。
暴走するかと思われた鮮花は意外とすんなり……。しかし、里緒が大暴走とは。
そしてある意味で順当な結末かと思いきや、ぎゃぁぁ! 最後の最後にぃ!
残ったこいつが何やらかすか怖くて仕方ない。
てか各種の火種がバラバラにバラ撒かれた感じがするな、これ。見事。
519創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 23:47:55 ID:LixKySl6
投下乙です。

>FRAGILE 〜さよなら月の廃墟〜
うわっはぁ……小細工抜きで正面から受け止めにいったか。
重い……空気が底知れず重い……書いてて途中で気が滅入るのではないかというくらいに重い……。
それを見事書ききった書き手氏の根性に感服。傷心の三人が危なっかしくて見てらんないや、もう。
一方でエルメスw 『シャナ(注・フレイムヘイズ。いざという時に髪の毛が燃えるものだけを指す)』てw

>人をくった話―Dig me no grave―
こっちでも大惨事がw 幹也の死亡はやっぱりでかかったかw
ステイルと土御門の会話がいい感じだにゃー。綺麗に閉めるかと思ったら一転して、また一転だと……。
猛獣の思考がステキなくらいにクレイジーw このロワでは珍しいタイプのマーダーと成り得そう。
そしてクルツと鮮花が摩天楼、それもマンション階に向かうだと……? 安眠妨害の予感!
520創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 19:52:51 ID:3Fg1h9ab
ここは大作多いなw
そして新しい予約も来たな
521創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 00:07:03 ID:KxfVOc/D
そういや、したらばの方にキノ無双の修正版きてたー
あれで問題ないかな? 個人的にはあれでいいとも思うが。
って向こうで表明すべきかな。次々作品来るし、書き手本人も規制巻き込まれ中のようだしね
522創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 00:36:24 ID:ONDE+7r3
俺もあれでいいと思うけど?
523創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 01:05:49 ID:Zk3d8rh2
とか言ってる間に新しい予約入ってるなw
しかし反応薄であれ24時間くらいは様子をみるべきでは?と苦言を呈してみる

ゴルディアンノットについてはまあ妥当な落としどころか
キノ関連はややこしいので新たにツッコミ入れるが人いないなら、って感じかね
524創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 01:15:59 ID:YDWJliJU
どうせ修正するなら誤字も直して欲しかったところだ
あの人いつも大事なところで誤字あるから台無しなんだよな
525創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 01:19:21 ID:8DhPtU50
そういえばこのロワって死者スレって無いの?
したらば行っても見あたらなくて…
526創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 01:23:03 ID:ldPMBBah
内容的にはもう大丈夫だとおも
 
>>525
作っちゃっていいんじゃない?
527創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 01:37:07 ID:KxfVOc/D
なくてもいい気もするが……どうなんだろな
528創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 01:43:54 ID:KxfVOc/D
補足すると、初期の死者がネタ的に広がりそうになかったし、あんま作る流れにならなかったんだよな。
無理やり無茶な歪んだ属性つけられてもアレだし。変なことされても修正要請とか言い出すこと自体がナンセンスだし。
複数の他ロワで死者スレの暴走(無理なカップリングとか)で荒れたりしたのも災いした。
そんなこんなで、いまのとこ、無い。
あった方がいいなー、って声が増えてくればまた違うだろうけど。
529(代理投下):2009/09/22(火) 02:10:25 ID:KxfVOc/D
364 : ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 01:58:42 ID:fZ.4mqYI0
お待たせしました。規制中なのでこちらで投下を始めます。


ってことで代理投下
530思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:11:15 ID:KxfVOc/D




  私はこうして失っていく。
  
  大切なものも、
  
  大切な想いも、

  みんな、みんな。 

  そして、私に残るのは何だろう?


                  /思慕束縛









◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
531思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:12:05 ID:KxfVOc/D
黒桐幹也。

呼ばれた名前に私は止まった。
放送の時間に調度起きた私は静かに放送を聴いていただけ。
なのにその名前が呼ばれただけで、何もかも終わってしまった気がする。

「何だ……もう死んだのか、お前」

まるで、嘲るような口調でそう呟いた。

死んだのか?

死んだんだ。




ああ……今、私はどんな表情を浮かべている?

喜び?
怒り?
哀しみ?

解りたくない。
解りたくもなかった。


ただ、解りえるのは黒桐幹也って存在が死んだって事。


それだけなのにこんなにも止まっている。
火がつく所が更に静まるようで。

私はただソファーに埋没していくだけだった。


そうか、死んだのか。
何だ、早すぎるぞ。
どうして、お前なんだ。


そうか、もう無理なのか。

きみが私に語りかける事も。
きみの呼吸を感じる事も。
きみと一緒に居る事も。

もう、存在する事は無いんだな。
532思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:12:51 ID:KxfVOc/D
ああ―――なら、もういいのか。


両儀式を押し止めていた存在はもう、居ない。
両儀式の心の半分以上を占めていた存在はもう、居ない。

ならば、私に残るのは何だろう。


―――殺人。


そんな言葉が反芻する。

なんだ、結局それか。


結局の所、私はそれをどうしようもなく嗜好としているのだろう。
黒桐幹也を失ってまず最初に出てきたのが、それだ。

私は殺人をしたくて、堪らないのだろう。
その証拠に今、私は黒桐幹也を殺した存在を殺したくて仕方ない。

そして、そのまま私は殺人鬼になるしか残っていないのだ。

―――だって、黒桐幹也が、もう居ないから。

私はこんなにも殺し合いを求めている。
私はこんなにも殺人を嗜好している。

それはもう止める事が出来ないんだろう。


だから、もう、いいや。

黒桐幹也が居ないんだったら。




―――――後は堕ちるしかないだろう?
533思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:13:41 ID:KxfVOc/D
『――――でも人殺しはいけない事だよ、式』




っ!?


そんな、呟きが響いた。

おい、何で今そんな呟きが聞こえるんだ?

コクトー。

いいだろう?
もう、お前は居ないんだ。
お前を失った私は残されてるのは一つなんだ。


なのに。
それなのに。

そんな言葉を。
そんな想いを。


私にかけるな。


私にはもう、それしか残されてないんだ。


だから


『――――――君を、許さないからな』




――――ああ。


そんな事を言うな。


私から、殺人すらも奪わないでくれ。
534思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:14:39 ID:KxfVOc/D


じゃあ、私に残るのは何だ?


何も、残りやしない。


なのに。
なのに。


その呟きを聴こえたせいで。


私は何もできないじゃないか。




じゃあ、何も残らない私に何をさせたいんだ?


言ってくれよ。
言ってくれよ。




なぁ―――言ってくれよ黒桐幹也。


きみの言葉が好きだった。
きみの笑顔が好きだった。
きみが存在が好きだった。


きみが居てくれて嬉しかった。

そんな君と居れた日々は夢のようだったんだよ。



なのに、お前は居ないんだな。
535思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:15:28 ID:KxfVOc/D


最期に殺人すらもとろうとして。



じゃあ、私はどうすればいい?


空っぽにはもう戻れないんだよ。


両儀式はこれから……どうすればいい?


それすら応えてくれないのか?


酷いなきみは。



なあ。


殺人すらも奪うのなら。


私はどうしたらいいんだ?


「……あぁ」


目が滲んでいる。

そうか。

泣いて……いるのか。
536思慕束縛 Tears ◇UcWYhusQhw(代理):2009/09/22(火) 02:16:45 ID:KxfVOc/D

ああ、駄目だ。

こんな表情見たくない。
こんな表情見せたくない。


私はそっと仮面を被る。

涙が流れないように。
涙を隠すように。


仮面で全てを覆い尽くした。


その仮面の中で。


私は黒桐幹也が永久に居なくなった事を確認し。


誰にも見られないように。

心も。
顔も。


全てを仮面に隠して。



――――涙を流していた。



【B-6/海沿いの倉庫街/一日目・朝】

【両儀式@空の境界】
[状態]:???
[装備]:狐の面@戯言シリーズ、伊里野のナイフ@伊里野の空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:?????????
1:????????

[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は革ジャケットの背中の下に隠すように収められています。
537(代理投下):2009/09/22(火) 02:18:21 ID:KxfVOc/D
372 :思慕束縛 Tears ◆UcWYhusQhw:2009/09/22(火) 02:06:44 ID:fZ.4mqYI0
投下終了しました。

申し訳ありませんが規制中のみのですのでよろしければ代理投下よろしくお願いいたします



代理投下終了〜
538創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 02:47:04 ID:ldPMBBah
一個飛ばしてない?
539創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 13:49:50 ID:HlXFrCbC
>>538
思慕束縛のことなら、全部投下されてるように見えるけど?
540創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 17:19:43 ID:kq53twnX
投下乙です
ああ、この人はどうなるのか期待してましたが本当に揺さぶられてるな
でもそのまま堕ちなかったか
これから先がどうなるか期待してます
541創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 00:18:01 ID:6Fk/yauM
投下乙。
涙をお面で隠すか……ってそのお面相当ヤバいぞw
まだ暴走はしてないようだが、先が楽しみだ
542創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 00:20:45 ID:sly0Ksx8
投下乙!
式! 生きてた! 式!
だが不安定だなぁ。それに不器用だ。
今は派手に動いてはいないが、これからだな。
これから色々な奴らと出会っていって、どう思考が固まるか。
……影響を受けちゃうと拙い奴もいるからなぁw
543創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 02:58:53 ID:KseEc+Vo
ところでデカイ本屋とか行くとラノベのポスターや宣伝紙とかあるけどそれで
女性キャラとか笑ってるのが多いんだよ
それ見てロワに放り込んで泣かしたいとか恐怖で怯えさせたいとか考える俺は壊れてるかな?
544創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 07:42:43 ID:VnFGYxUK
ウザ
545創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 12:25:38 ID:exlQ+A0A
>>543
ラノベ見てたりして極々普通に『あ、こいつロワに出したら面白そうだな』なんて考えてしまう俺もいるんだから気にすんな
546創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 14:01:48 ID:kS4/ZcxW
確かにそういうのはあるな
血生臭い話だったり鬱成分が多めだったり
547創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 22:04:42 ID:brihbPo5
気になったんだけどこの身汚し頷く〜だけなんか未収録の形になってる?
548 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:13:53 ID:0IeCXD/r
坂井悠二、キョン投下します。
549ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:14:58 ID:0IeCXD/r
「――吉田さんが死んだ」

 あえて、声に出して確認する。
 声にせずとも理解している事実を、わざわざ言葉に直す。
 腹の内で消化するには些か難儀だったその結果を、もう一人の自分に吐露することで。

「吉田一美は“紅世”に関わった。これはその末路と言えよう」
「“紅世の徒”が……吉田さんを喰らったっていうのか?」
「そうではない。そうではないとしても、吉田一美がこの地に『いた』因果は、“紅世”が齎した災厄とも取れる」
「……僕の、せいなのか」

 少年は問う。
 半身は答えぬ。

「もとより、彼女とおまえとでは歩む道が違ったのだろう。選ぶよりも先に選択肢が一つ消えたというだけのこと」
「それでも、僕は彼女に死んでほしくなんてなかった。仮に、『もう答えが決まっていた』としても――だ」
「ならばこの地で選ぶのもよいではないか。己の意思で道を選択し、そして――成れ」

 少年は黙る。
 半身もまた黙る。

 鏡の向こう側に存在するもう一つの存在。
 関わりを持ったあのとき、打ち込まれた楔が今日ここで成る。
 なくしてしまった心臓、その代替物としてある『零時迷子』、所有、管理する少年。

「まだ、そのときじゃない」

 目の前には、ひたすらに黒い水面が広がっていた。
 少年はまだ、そこに浸りきることを拒否し、
 半身は、残念そうに半身を眺めていた。


 歩め。
 拒むな。
 踏み出せ。
 受け入れよ。


 囁きかけてくる、声。


「 余と 共に―― 大命の、王道 を 」


 ◇ ◇ ◇


 以上が、坂井悠二と何者かの会話。

 以降が、坂井悠二と何者かの遭遇。


 ◇ ◇ ◇

550ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:16:09 ID:0IeCXD/r
 現在地、『C-4』。
 目的地を警察署と定めた坂井悠二が辿り得る道筋は、大きく分けても三通りあった。

 一つは堀の外側を東に回り、半周して警察署を目指すコース。
 これは百貨店を拠点に構えていると考えられる“狩人”との遭遇の危険性が高く、進路としては最悪。
 迷う要素はないが、地図を眺めるに三通りの中でも一番遠回りな道になるだろうと取れ、まずこれを却下。

 続いて二つ目、地図中央に位置する城の敷地内を突っ切り、警察署を目指すコース。
 遠くから見るに、土塀だらけの迷路のような区画とも思えたが、幹線道路が敷いてあるようなので車での通行も可能ではあるだろう。
 迷う要素もあるにはあるが、大通りを通ればその心配は薄い。反面、進路が限定されるので襲撃の可能性も高くはあった。

 最後の三つ目、堀の外側を西回りに迂回するコース。
 そこはちょうど山と市街地の境目にもなっており、道路らしい道路も敷かれていないので安全には進める。
 すぐ近くには天守閣が建っているため、それを目印に歩けば方位磁石にも頼らず警察署に辿り着けてしまうだろう。

 どこを通ったとしても、大差はないように思える。
 警察署までの最短距離、他の参加者との遭遇の可能性、敵からの襲撃の危険性、諸々を考慮し、熟考する。

 すでに放送は終わっていた。
 放送が終わってから、すでに結構な時間が流れていた。
 今になって、悠二は進路を選択する。

「……西、かな」

 夜もとうに終わっていた。
 日が昇った空を眺めやり、さらにその奥に聳え立つ『黒い壁』も逃さず目視する。
 あれが、この世界と元の世界の繋がりを遮断する因果の境界線。
 夜の闇にも似た、だからこそ朝になるまで気づくことができなかった、悠二たちを閉じ込めるための檻である。

 ――“人類最悪”。

 放送によって再びの声を聞こうとも、その正体は判然とせず、黒い壁の謎も明かされはしなかった。
 あれが“封絶”の高位種と仮定するなら、“人類最悪”は“紅世”最高の天才と謳われた“螺旋の風琴”をも越える自在師か、
 または彼の後ろに立つ存在がそうなのか。そもそも“紅世”縁の者であるという根拠すら、希薄だった。
 人類と言うからには人間であるのかもしれないが、しかしあの仮面の下に素顔が隠れているとも限らない。
 正体不明の狐面。一回目の放送が経過しようと、“人類最悪”に関する情報がたいして増えたわけではなかった。

 なんであれ、ぼやぼやしている暇はもうないのだ。
 もはや悠二には、異変解決のために奔走する道しか残されていない。
 そういう意味での選択は、すでに完了していたのだろう。

 だから彼は、道を選び取った。
 その選択とて、遅すぎたというのに――。

(あれは……?)

 襲撃の可能性に気を配りつつ、なるべく堀に近づかぬよう進んでいくと、悠二はそこである人物に行き当たった。
 そこ、とはつまり、道端。一車線ほどの道幅しかない、人目にもつきにくそうな道ではあったが、自然とそれは目に留まった。
 むしろ見逃せというほうが難しい。人と相対することを避けて進んでいた悠二とは違い、その人物は堂々たる構えで、

 ボリッ、と。

 朝食を取っていた。


 ◇ ◇ ◇

551創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:17:21 ID:uv/m7bfB
552ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:18:17 ID:0IeCXD/r
 不味くはないが美味くもない。しいて言うなら質素なお味。
 それが俺の支給物資、見るからに保存食料丸出しなカンパンの缶詰様に下した評価だ。
 そりゃあちらさん方としてはわざわざ俺たちに豪勢なメシを振舞う必要もないわけで、サバイバルの食料として持たせるならこういうものが相応しいだろうよ。
 そもそも滞在期間は最大でも三日なわけだからな。気張れば飲まず食わずでも生きていける。いや、さすがに水は必要だろうか。

 零時きっかりに始まったこの椅子取りゲームは六時間が経過し、第一回放送という一大イベントを超えてようやくの朝を迎えた。
 普段ならトーストに目玉焼きといった一般家庭さながらのブレックファーストに興じるところ、俺は虚しくカンパンを齧っている。
 なにも料理ができないってわけじゃない。俺にだって玉子焼きくらい作れる。見た目と味は保障しないが。
 食材だってそのへんのお宅を訪問すりゃなにかしら冷蔵庫に眠っているだろうし、家主が不在なんだから窃盗の罪に問われることもない。
 とはいえ手間。そして面倒くさい。というかそれほど腹が減っているわけでもない。カンパン一缶でも十分足りるってもんだ。

 そのカンパンが今、ちょうど空になった。
 ヤロウ、なにが青年男性一日分の食料だ。食い尽くすのに三十分とかからなかったぞ。
 エネルギーとしては青年男性一日分のそれを摂取できたのかも知れないが、口にはぱさぱさとした食感だけが残っていてどうにも切ない。
 突撃!隣の晩ごはんよろしくやっぱりお宅訪問にでも繰り出そうか、などと考えていると、俺の目の前にそれは突然やって来た。

「…………」

 ――古泉と国木田を足して二で割ったような顔が、珍妙そうに俺を眺めていた。

 断っておくが、間違ってもそこに谷口や俺の成分は入ってない。入り込めないと言ってしまったほうが適切だろう。
 良くて中性的な、悪くて無個性とも言える、総合して普通という印象の拭えない同年代男子(推定)がそこに立っていた。

 俺を見つけてまず、どんな言葉をかけるべきかと悩んでいるのだろう。
 このまま見なかったことにするか、という葛藤すら渦巻いているやもしれん。
 俺だったらスルーだろうな。君子危うきに近寄らず、つまり変な人には近づかぬが吉という教えだ。

 この場合の変な人、というのはずばり俺である。
 夜も明けて間もないこの時間、俺は人通り皆無の道端で、堂々あぐらをかきながらカンパンを頬張っていたんだからな。
 そら声もかけづらいというものだろう。わかるぞ少年、おまえの判断は正しい。だが俺は助け舟なんか出してやらない。
 なにか話があるってんなら、そっちから喋りかけてみろ。

「……あの、なに、やってるの?」

 第一声まで普通だった。


 ◇ ◇ ◇


「朝メシ」

 恐れ知らずにも往来のど真ん中で食事を取っていた少年は、悠二の問いに対してそう答えた。
 そのあっけらかんとした表情はどこか挑発的で、こちらの接触をあまり好ましく思っていないのか、忌々しいと目で訴えてくる。

(この状況下、どこから誰に狙われるかもわからないっていうのに)

 少年の行動に悠二はただただ呆れ、なにも言えなくなってしまった。
 それでも名前くらいは聞き出しておくべきだろう、とこれを尋ねると、
553ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:19:12 ID:0IeCXD/r
「ジョン・スミス」

 平然とそう返された。
 ブレザータイプの学生服を着衣とするこの少年は、容貌のほどから見ても悠二と同年代と見て間違いない。
 顔つきは誰がどう見ても日本人。欧米版山田太郎の名前に相応しいとまでは言わないが、没個性タイプ。
 ジョン・スミスという名簿には載っていなかった名前も、抹消された十名の内の一人というよりは偽名の可能性が高い。
 悠二はこれを虚言だと断定し指摘すると、

「いきなり話しかけてきた見ず知らずの他人に、なんでわざわざ本名を名乗らにゃならん」

 至極もっともな返答をされてしまう。
 悠二は多少むっとしたものの、感情を表にあらわしたりはしなかった。

「名前を聞くんなら自分から名乗るのが筋ってもんだろうが」

 これもそのとおり。
 悠二は内心は渋々と、表面ではもちろん秘して、少年に自身の名を告げる。

「坂井悠二ね。名前まで普通ときた」

 これにはさすがにカチンときた。
 悠二は堪えきれず、なにか言ってやろうと口を開きかけたところで、

「俺はキョン」

 少年が己の名を告げた。

「一応言っておくが、もちろんあだ名だぞ。どういうわけか知らんが名簿にゃそう載ってたんだ。名乗る名前があるとすりゃそれだろうよ」


 ◇ ◇ ◇


 以上が、坂井悠二とキョンの初邂逅。

 以降は、坂井悠二とキョンの前哨戦。


 ◇ ◇ ◇


 どうにも緊張感に欠ける出会いだった。
 六割がたは俺の態度に問題があったのだろうが、坂井も坂井で対応の仕方が常識人のそれだしな。
 まったくもって普通すぎる。久しぶりじゃないか? 俺の身近にこんな『普通』の二文字が似合う人間が現れたのは。
 宇宙人も未来人も超能力者も関係ない、善良な一般市民様を俺はこよなく愛す。普通は親しみの称号であると言えよう。

 ちなみに、互いの名を教え合ってすぐ「おまえは涼宮ハルヒの関係者か?」と尋ねてみたところ返答は返ってこず、
 代わりに浮かんできた神妙な顔つき一つでこいつが嘘をついていないということは理解できた。
 うむ、機関の一員でも情報統合思念体のヒューマノイド・インターフェイスでもない、実にスタンダードな人間だ。
554創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:19:13 ID:oNec8MAP
555創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:20:18 ID:uv/m7bfB
556創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:20:41 ID:oNec8MAP
557ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:20:54 ID:0IeCXD/r
「で、なんで道端でカンパンなんて食べてたのさ?」
「腹が減ったから。朝メシの時間だから。おまえだってこのくらいの時間にはメシを食うだろう?」
「まさか、今がどういう状況かわからないってわけじゃないだろう?」
「ああ、よーくわかってるよ。道端で一人安穏とメシ食ってるなんて、とんだ気狂いだってこともな」

 はい、これ自分のこと。
 だがまあ、そこにはちゃんと意味も備わっていたわけさ。
 他人には到底理解できない、深いようで本当はどうしようもなく浅い、馬鹿な意味がな。

「ここでこうしてりゃあ、俺を見つけた誰かがなにかしらしてくるだろうと思ってよ」

 俺の意図がまるで理解できないのか、坂井は首を傾げている。

「要するに運試しだったのさ。運が良けりゃ素敵なお姉さま方に優しく声をかけられるだろうし、悪けりゃ適当な高台から鳩撃ちにされて終わりだ」

 ちらり、とここからでもその全貌が眺められる天守閣を見た。
 あそこなんて絶好の狙撃ポイントだろう。生き残りの方法としては、城に陣取るってのも良策と思う。

「他人と接触の機会を得るために、わざわざ隙を作ったっていうのか?」
「そういうこと。馬鹿げてると思うか?」
「馬鹿げてるよ」
「だろうな」

 感性まで普通だな、こいつ。

「……なにか、ショックなことでもあったんじゃないか?」

 それでいて妙に鋭い。
 あの自称超能力者の古泉でさえ、テレパシーは専門外と言い切ってやがったのに。
 このなんの変哲もない少年Aみたいな坂井少年がどうして俺の胸の内を読めるのか。それはただ単に俺がわかりやすいだけだった。

 いつまでも遠回しに語っているのもあれだな、かったるい。
 ここできっぱりすっぱり断言しちまおうか。

「ショックなことね。該当するものがあるとすりゃ、知り合いの名前がさっきの放送で三人ほど呼ばれたってくらいか」

 俺は自分でも認めてしまうくらいに、自暴自棄になっていた。
 なんかもう、どうでもいいや。深く考えるのはやめやめ。
 ここから先は運の向くほうに歩いていこうじゃないか。
 そんな風に。

 俺の話を受けて、坂井は途端に押し黙る。
 それはそれは、どうもこのたびはご愁傷様です、と言わんばかりの表情だ。
 はっ、よしてくれ。今の俺はたとえ朝比奈さんに膝枕つきで慰められたって立ち直れる気がしない。

「ちなみに訊いておくが坂井、メリッサ・マオって人とアリソン……ええと、アリソンさんって人と面識があったりはしないか?」

 ……ちくしょう。
 あれだけのことがあったってのに、俺は結局アリソンさんのフルネームすら覚えてないじゃないか。

「東のほうから来たんだよな? じゃあ途中で女の人の死体が転がっちゃいなかったか? 金髪の、綺麗な人だったんだ」
558創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:20:58 ID:uv/m7bfB
559ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:21:47 ID:0IeCXD/r
 俺の質問に対して、坂井は黙って首を振る。
 こいつにしたって、あの放送でそれなりの精神的被害を被ったかもしれないのだ。
 わかっちゃいる。わかっちゃいるが、俺はお構いなしに自分の不幸話ばかりを語ってしまう。

「じゃあ……長門有希。こいつの名前はどうだ?」

 坂井はこれにも首を振った。
 期待なんざ最初からしていなかったが、こいつが長門のことを知っていようが知っていまいが、なにも変わるまい。
 そう、変わらないんだ。今回ばかりは繰り返しもやり直しも適用されない。聡いことに、俺はそれに気づいちまってる。

「この三人が死んだから……ってわけじゃないんだがな。長門。そう長門だ。こいつが死んだのが一番マズイ。
 どうにかできる人物がいたとすれば、それはハルヒじゃなく長門だったんだ。なのにあいつは、もういない」

 こんな最悪な状況から脱出できる方法があるとすれば、その鍵を握るのは間違いなく長門有希であったはずだ。
 その長門が、なんの間違いか早々にリタイアしちまった。はっきり言って由々しき事態である。

 ああ、そうさ。俺は心のどこかであいつに頼りきっていた。
 ハルヒ絡みでトラブルが起きたときも、大抵は長門がなんとかしてくれたからな。

 しかしどういうわけなんだ長門。どうしておまえが死ぬ。誰かに殺されたんだとしたら、再生したりはできなかったわけか?
 ドラえもんに頼りすぎたのび太くんへのお仕置きなのかね。あの狐野郎、四次元ポケットだけ渡しやがってどうしろってんだ。
 この鞄の中が野比家の押入れに繋がっているってんならある意味救いだが、そんな灯台下暗しなオチは御免被る。

「まあ、言っちまうとだな」

 鏡があれば見てみたい。
 それが今の俺の心境だ。
 大層酷い顔なんだろう。
 嫌気が差してくるねぇ。

「もう、夢も希望もないって感じなんだわ」


 ◇ ◇ ◇


 酷い顔だった。

 表皮の色は青く、その内側は葛藤と落胆に満ちていて、瞳は完全に輝きを失ってしまっている。
 運試しだったという言葉も、おそらくは本当なのだろう。
 仮に悠二が殺人を肯定していたとして、彼を標的と定めたならば――大人しく殺されていたに違いない。

 死を受け止めてもいいと思えるほどの、失意。
 アリソン、メリッサ・マオ、そして長門有希という三人の死が、キョンの肩に重くのしかかっているのが見えた。
 落ち込む姿は見ていられない。存在感も希薄で、その胸に宿る“存在の炎”も、印象はどこか儚い。
 まるで消滅寸前のトーチにも似た危うさが、悠二の心に揺さ振りをかけた。

「ときに坂井。おまえ、宇宙人の存在を信じるか?」

 上辺だけを取り繕った見え見えの空元気で、キョンはそんなことを訊いてくる。

「いるんだよ、宇宙人。さっき言った長門がそうだ。正確には情報統合思念体っつーものらしいんだが。
 いや、長門はその情報統合思念体に作られたヒューマノイド・インターフェイスだったか?
 まあ言っちまえば宇宙人みたいなもんだよ。姿形はちゃんとした人間だけどな。間違ってもE.T.とか思い浮かべるなよ?」
560創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:22:20 ID:oNec8MAP
561ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:23:07 ID:0IeCXD/r
 知り合いが宇宙人という、俄かには信じがたい話を咀嚼するように聞いていく。

「要するにそれだけ人間離れしたヤツだったってことなんだが……長門なら、この最悪な状況もどうにかできたはずなんだ。
 それがたったの六時間でリタイアしちまった。頼みの綱がたった六時間だ。もうだめ。もう万策尽きた。そんな感じでよ」

 宇宙人である長門有希ならば、この状況を打開することができた――これも信じがたい。
 たとえばあの“黒い壁”を壊すにしても、“人類最悪”の一派を倒すにしても、できたというならなぜ生きている内にやらなかったのか。
 条件が揃わなかった、条件が揃う前に他の参加者に殺されてしまった、そんな想像が頭に浮かんでくるが、どれも無意味。
 長門有希がどういった存在であろうと、キョンの言葉の信憑性がどうであろうと、すべてもう終わったことなのだ。

 大事なのはそれらを受容し――諦めるか、それともまだ抗うかの、選択。

「ちなみに、名簿に載ってた古泉ってヤツがいたろう? あいつは超能力者だ。かなり限定的なもんだがな。
 あいつは長門ほど万能ではないし、ただでさえハルヒを神格化して持ち上げているようなヤツだ。
 事態解決のために積極的に動くことはあっても、結局はハルヒを中心に考えているだろうことが目に浮かぶ。
 未来人の朝比奈さんなんてもってのほかだ。あの人は存在自体は天使だが、こういったトラブルへの対処能力は著しく低い。
 朝比奈さん(大)が未来から助けに来てくれるってんならわからないでもないがな。そういうご都合展開はないだろうぜ」

 宇宙人の次は超能力者、そして未来人ときた。
 悠二にはもはや、キョンがなにを言いたいのかがさっぱりわからない。
 いや、あるいはこの言動の一から十までが皆、諦めの一環とも取れるのだろうか。

「ハルヒ――いや、あいつの力に頼るなんざそれこそ本末転倒だな。あいつの願望がいい方向に転んだ試しがねえ。
 そもそも、古泉の言うとおりハルヒが神様だってんなら、こんな馬鹿げたゲームは早々にぶっ壊してくれてるだろうぜ。
 いくらハルヒでも、こんなイベントを望んだりはしないだろうからな。長門が死んだともなりゃなおさらだ。
 ああ、そうだよ。長門が死んだんだぞ? じゃあ今頃ハルヒはどうしてる? あのSOS団団長様は、
 団員が死んじまっていったい全体どうなさるおつもりだ? 現実否定して殻に閉じこもるのが妥当な線か?
 だがこの世界はなにも揺らいじゃいねぇぞ。閉鎖空間だってできてないし、《神人》だってまだ暴れちゃいない」

 もはや悠二に話を聞かせるつもりはないのか、キョンの口ぶりはどんどん饒舌になっていった。
 発言の内容は、変わらずの後ろ向き。必死になにかと戦っているような葛藤も、見えはしたが。
 それでもキョンは依然、下を向いたまま、悠二とは目を合わせずに、喋り続けるのだった。

「そのハルヒにしたって――――あっ」

 かと思えば、急に止まった。
 口を半開きにして、地面に向けていた視線をつーっと、悠二のほうに移してくる。
 戸惑いと訝りの気持ちを半々に、キョンの動向を注意深く観察していると、

「あ……アッ――――!!」

 今度は唐突に叫びだした。
 あぐらの体勢からほとんどカエルのような勢いで飛び上がり、悠二の両肩に掴みかかる。

「そうだよ、忘れてた! まだ可能性は失っちゃいない、どうにかできるヤツがもう一人いたじゃねーか!
 だがあいつに頼るってのもどうなんだ? そもそも頼りにできるようなヤツでもないだろう?
 いや、むしろこいつは賭けだ。どのみち俺一人だけでできることなんてないんだからな、ちくしょう!」

 キョンは完全に、悠二からの返答は求めていないようだった。
 ただ独り言をぶつけるためだけの案山子。今の悠二に役割があるとすればそれだ。
 どうリアクションを返せばいいのか、むしろなにも返さないほうがいいのか、悠二は考え、
562創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:23:13 ID:oNec8MAP
563創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:24:01 ID:oNec8MAP
564ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:24:24 ID:0IeCXD/r
「おい坂井。ここで会ったのもなにかの縁だ、ちょっと俺の人探しに付き合ってくれないか?」

 答えを出す前にキョンからの誘いがかかった。

「人探しって、いったい誰を?」

 悠二が尋ね、キョンは一瞬、固く口を閉ざした。
 傍目にも言いづらそうな雰囲気を破り、なんとか声には出してみるが、

「……朝倉涼子。さっき言った長門の、お仲間みたいなもんさ。ああ、たぶん」

 それは不安に塗れた、非常に弱々しい発言だった。


 ◇ ◇ ◇


 朝倉涼子。
 我らが北高一年五組のクラス委員長で、先生からの評判もたいへんよろしい優等生さんだ。
 常日頃女子生徒のチェックに余念のない谷口からはAAランクプラスと太鼓判を押されるほどの美少女でもある。
 そんな彼女も急遽父親の都合でカナダにお引越しされたのだが、どういうわけかこのゲームに参加していらっしゃった。

 まあ引越し云々は長門の情報改変の結果なんだがな。
 朝倉の正体。それは長門と同じく情報統合思念体に造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースであり、
 ハルヒの観測役としては長門と意を違える急進派なるものに属していたため、俺に対し殺人未遂という名の強行を働いた、
 要は俺にとっての油断ならない人物なのである。一度は殺されかけたんだからな、そりゃ警戒もするってもんさ。

 長門によって消滅させられたはずの朝倉がどうしてここにいるのか、という疑問については深く考えない。
 あいつはそもそもが長門のバックアップみたいな存在だったようだし、
 なにかしらの手順を踏んで復活されたと考えても不思議ではないように思える。
 人間とは違う……そう言っちまえれば楽なんだろうが、だとしたら長門が死んだってのは――だめだ。
 俺なんかが考えたところで、納得できる解は巡ってこないだろう。時間の無駄だ。

 で、朝倉涼子。
 こいつは長門との直接対決で負け、その存在を消滅させてしまったわけだが、スペックは長門級と見て問題ないだろう。
 長門でどうにかできることならば、朝倉でもどうにかできるはず。そんな単純な思考に、俺は至った。
 至ったうえで考えついたのが、朝倉に協力を求めるという、他力本願丸出しな弱々しい目論みだった。

 しかしこれは仕様がないことと言えよう。なんせ俺は宇宙人でも未来人でも超能力者でもなく、ただの一般人なんだからな。
 この状況をどうにかできる人間がいるとしたら、それは間違いなく非一般人。俺以外の誰かだ。
 そして長門亡き今、それに最も近いのは朝倉涼子。彼女を置いて他にないと断言してしまえる。

 問題なのは朝倉がこの状況をどう認識し、どういった目的で動いているかってことだ。
 前述のとおり、あいつは過去に俺を殺そうとした。ハルヒが起こすという情報フレアとやらを観測するためだったか。
 ではこの状況下でも朝倉の行動方針は変わらないのだろうか。ハルヒのリアクション目当てに、俺を殺そうとしているのか?
 はっきり言ってわからない。朝倉に関する判断材料を俺はそんなに持ち合わせちゃいないからな。
 ただ頼れるだけの力は持っているはず、俺がわかるのはそれくらいだ。

 頼っていいのか? 頼れるようなヤツなのか?
 どうにも煮え切らない。しかし可能性がゼロとも言えない。遭遇自体がデッドエンドフラグかもしれないってのに。
565創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:24:24 ID:uv/m7bfB
566創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:25:09 ID:uv/m7bfB
567ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:25:29 ID:0IeCXD/r
「探してみる価値はあるんじゃないかな」

 俺の話を聞いて、坂井はそう言った。

「正直な話、僕には判断つかないけれど……攻め手の一つとして考えるなら、十分に有りだと思う。
 仮に敵対は免れない相手だとしても、そのときは逃げるなり撃退するなりすればいいわけだし」

 軽く言ってくれる。おまえは朝倉のキラースマイルを見たことがないからそんな風に言えるのだ。
 あいつと対等に渡り合えるヤツなんざ、それこそ長門くらいなものだろう。
 ショットガンを持ったマオさんやあのシズって野郎でさえ、朝倉の前じゃ足下にも及ばん。

「……うん。朝倉涼子、ね。キョン、って呼んでもいいかな? 僕も君の人探しに協力する。その代わり、君も僕の人探しに協力してくれないか?」

 俺の頼みをあっさりと了承してくれた坂井少年は、ギブ&テイクの精神に則りそんな交換条件を出してきた。

「おまえはおまえで、誰を探してるっていうんだ?」
「探しているのは――いや。今『探すべき』なのは、二人。一人はシャナっていう名前の女の子。もう一人は」

 淡々と告げていく坂井の言葉を、俺はこれまた淡々と頭に入れていったわけだが、

「“人類最悪”」

 この瞬間にはさすがに、「は?」と珍妙な表情を浮かべてしまったに違いない。


 ◇ ◇ ◇


「僕は遅すぎたんだ」

 言う。
 今さら、としか形容できない事実を、ただ言葉で確認するかのように。
 停滞、諦観、自暴自棄、他力本願――その果ての一つを味わい、経て、坂井悠二は道を選び取った。

「僕は当初、ここから南に建つ警察署を目指していた。そこから、僕の持っている携帯に電話がかかってきたから。
 犯行予告みたいなものだったんだけどさ。参加者の中にはこの催しを明確に『殺し合い』と捉え、動き出している人間がいる」

 悠二はそれを止めるために、だからこそ警察署への道をひた走っていたのだ。
 途中、マネキン型の“燐子”や“狩人”フリアグネ縁の人物と捉える“少佐”との邂逅を経て、危難への認識はより強固なものとなった。

「まずは目先から――って、そんな風に考えていた。これ自体がもう既に、遅すぎた。
 僕は早々に道を選び取るべきだったんだ。悩んでいる内に……選択肢の一つは消えてしまった」

 悠二の意味深長な語りを、キョンは黙って聞いていた。
 先ほどとは逆の構図が展開され、悠二は構わず続ける。

「……吉田さんは、もういない。その上でシャナまで失うなんて、僕には耐えられない。『この戦いは、いつか』――いや」

 悠二は思い、口にする。
568創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:26:14 ID:uv/m7bfB
569ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:26:32 ID:0IeCXD/r
「今はただ、この状況から脱出するためだけに行動しようと思う。そのために必要なのが、“人類最悪”の発見なんだ」

 毅然としてはいるものの不明瞭なその物言いに、キョンは肩を竦めて言う。

「“人類最悪”を見つける、なんてご大層なことを言うが、あの狐のお面野郎がどこにいるのかなんてわかるのか?」
「確証もない、現段階では勘程度の推測だけど……“人類最悪”はたぶん、僕たちと同じこの会場の中にいる」

 それはキョンからしてみれば、推測の域にも達しない荒唐無稽な戯言と取れただろう。
 しかし悠二には、予感がある。両儀式との邂逅を果たす以前から感じていたそれは、言うなれば『モヤモヤ』。

 この会場全域に浸透する、違和感とも言い表せる異質な空気……御崎市のそれとは明らかに違うものの、正体。
 はじめは単なる環境の違い、田舎と都会の空気の差のようなもの、そんな風に考えていた。
 しかし『吉田一美が死亡し、改めて危難への意識を高めた今』、振り返ってこれを考えてみれば――辿る答えは違ってくる。

 誰が教えたのか。
 誰が感じ取らせたのか。
 誰がそう訴え導いているのか。

 悠二はわからない、が。
 坂井悠二の、“ミステス”としての異常に長けた感知能力が、そう告げている。

 この会場全域に、“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じる――と。

(だとすれば、あの“人類最悪”という存在はあるいは……“依代”に過ぎないのかもしれない)

 すべてを“紅世”の常識で語ることは愚。それは心得ている。
 だからといってこの感覚が全否定しうるだけの曖昧なものとも、到底思えない。
 心臓のない胸元、『零時迷子』を宿す存在の遥か奥底からは――確かに。

 悠二に向けて、声が響いてきている。

「この状況を破壊するっていうんなら、行動は早い段階から起こしておくべきだったんだ。
 まずは知り合いとの合流を優先――なんて、そんな前置きを踏んでいる場合じゃない。
 あの名簿にしたって、それ自体が思考を誘導させるための罠とも言えるかもしれない」

 悠二の言葉に、キョンが割って入る。

「おいおい。聡いこと言ってるが、俺やおまえになにかできるっていうのか?
 自慢じゃないが俺は一般人の代表みたいなヤツだと自認しているし、特殊なのは周りの環境だけだ。
 本来ならこんなところにお呼ばれされる筋合いもない。他力本願上等、面倒な役割なんて願い下げだぞ」

 彼は本当に、自認するとおりの一般人なのだろう。
 宇宙人や未来人、超能力者の話が真実だとしても、彼自体は極めて普遍的な存在だ。
 悠二にはそれが見て取れる。こんな異変にも、もちろん“紅世”にも、関わるべきではない少年。
 それが悠二のキョンに対しての認識。無理やりこちら側に引き込もうという気には、なれない。

「構わないよ。っていうか、先に人探しに協力してくれって頼んできたのはキョンだろ?
 ただ一緒に、さっき挙げた三人……シャナと朝倉涼子っていう子、“人類最悪”を探してくれればいい」

 これもまた因果の交差路の途上と、そう言えるのだろうか。
 なんにしても今はもう、『警察署に向かう』、『知り合いを探す』、『殺し合いを止める』、そんなことに時間を費やしている段階ではない。

 たとえ、坂井悠二とキョンの考えにわずかな差異があったとしても――
570創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:26:55 ID:uv/m7bfB
571創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:27:19 ID:oNec8MAP
572ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:27:23 ID:0IeCXD/r
「あと、一つ断っておくけれど」
「なんだ?」

 ――途端、悠二の手に、銀色の炎が点る。
 キョンの目にはそれが、手品かなにかと映ったことだろう。
 悠二はそれをおもむろに、キョンの眼前へと近づけた。

「おわっ!?」

 触れるか触れないか――というほどの距離で、銀色の炎は掻き消える。
 それは悠二が消したわけでも、ましてやキョンが防いだわけでもない。
 キョンの首にかけられていたお守り――おそらく彼はその程度にしか認識していない――の効果だった。

「宇宙人でも未来人でも超能力者でもない……けど、僕はたぶん、君の感覚で言うところの『異世界人』だと思うから」


 ◇ ◇ ◇


 自身を形作る“存在の力”を統御し、力を拳に集め炎として具現化させる。
 これは“紅世の徒”やフレイムヘイズ、そういった“存在の力”の扱い方を知っている者が得意とする、炎弾なる一芸らしい。
 閉鎖空間における超能力少年古泉一樹か、はたまた未来からやって来た戦うウェイトレス朝比奈ミクルとどっこいどっこいか。
 つまりこの坂井少年は俺と同じ一般人なんかでは到底あらず。

 ついに異世界人が現れやがった!

 ってことらしい。
 そういや放送で人類最悪が言ってたな。魔法やら忍法やら異世界やら。はぁ、なるほどね。
 いや、なにがなるほどなものか。結局はこいつも長門や古泉や朝比奈さんの側ってことじゃないか。
 それに比べたらまだマオさんやアリソンさんのほうが普通だったってことなのかもしれん。

 ……マオさんはたぶん、シズに殺されたんだろうな。支給品枠の陸はどうなったのかわからんが。
 たった六時間程度の付き合いとはいえ、だ。知り合った人間が殺された。目の前で息を引き取った。
 どちらも初めての経験だ。それなりに思うところはあったが、いつまでも引き摺ってはいられない。

 自分の力で空を飛んでみて、か。アリソンさんには悪いが、たぶんそんな機会は一生訪れないだろう。
 リリアとトラヴァスって人に伝えて欲しいと言っていた遺言にしても、まったく覚えちゃいない。
 だいたいこの発音の通りに、と簡単に言ってくれるが、英会話も満足にできない俺に、
 一度聞いた程度の言葉をそっくりそのままリピートできたりするもんか。

 ああ、本当に。俺があの人たちの死に関わっちまったのはいったいどういう因果だったんだろうな。
 なにも残せちゃいない。なにも報われちゃいない。考えれば考えるほど、申し訳なくなってくる。

 ……ただまあ、今はそうやってうじうじと悩んでいる段階でもないのだろう。この妙に聡い少年、坂井に言わせれば。
573ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:28:17 ID:0IeCXD/r
「こいつはおまえが持ってろ。“存在の力”の使い方なんざ俺にはわからんからな」
「いいの? 緊急時にも機能はするから、お守りくらいにはなると思うけど」
「俺は普通でいたいんだよ」

 朝メシを取ろうとした際デイパックの中から掘り出したその紐付きの指輪を、専門家らしい坂井に譲渡する。
 この指輪は『アズュール』という火除けの指輪らしく、つけているだけで炎から身を守ってくれるアイテムなんだそうだ。
 しかしそれには“存在の力”という人間の生命エネルギー的なものを消費するらしく、
 またその扱い方を心得ていない限りは満足な効果も発揮されない、となんだか怖い説明を受けて俺はそれを手放すことに決めた。

「さて」
「うん」

 その“存在の力”やら“紅世の徒”やらフレイムヘイズやら、いろいろ聞いておかねばならんことも多そうだ。
 どうにも専門用語ばかりで倦厭してしまいそうだが、文句も言ってられないんだろう。なんせ異世界のことらしいからな。

「行くか」

 とりあえずは、立ち上がって人探しだろう。
 最優先は朝倉とシャナ、そして本当にいるのかどうかも疑わしい“人類最悪”。
 古泉や朝比奈さん、ハルヒは悪いが後回しだ。それくらい割り切る必要がある――と坂井は言う。

 さて、北か、南か、西か、東か?
 進行ルートは坂井に委ねよう。俺はそう思った。


 ◇ ◇ ◇


 以上が、坂井悠二とキョンの結託。

 以降が、坂井悠二とキョンの今後。

 直後が、坂井悠二と“■”の問答。


 ◇ ◇ ◇

574創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:29:18 ID:oNec8MAP
575創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:29:24 ID:uv/m7bfB
576ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:30:09 ID:0IeCXD/r
「新たな命の可能性、一つ一つを苦しみ齎し、またその子らが次の子らを産み育て、
 世界は連綿と続き広がってゆく。フレイムヘイズは、その世界の正常な営みを守る者」

「そしておまえはいつか、その営みを守る者として、シャナと共に歩むと、そう決める『はずだった』」

「それは選択肢の一つとして。もう片方の選択肢を……僕は失ってしまった」

「ならばもう決めた、ということか? 否、二つあった選択肢が一つになっただけのこと……そのときはまだ」

「そう、まだなんだ。でも、たぶん、僕はシャナと会ったそのときに……選ぶ。その、残された選択肢を」

「では、選んだその果ては――なんだ? おまえは、『この戦いを、いつか』、そう――」

「だからそれは、まだなんだ。シャナと会うにしても、“人類最悪”を先に見つけるにしても、それはまだ」

「――成るはそのとき、か。しかしおまえは、既に一歩を踏み出した。自らの望みに向けて、己の意思で」

「そうだ。だからたぶん、それは時間の問題なんだろう。一つ目の扉は、吉田さんが死んでしまった時点でもう潜っている。
 炎弾をああも容易く練れたのも、この会場全域に広がっている『それ』の気配を感じ取れたのも、そういうことなんだろう?」

「余が大命はまだ、幕を上げてはおらん。ならばそのときを待望し、そしてこの場は選択を望もう。もうすぐだ……」

「そう、もうすぐ。選ぶのはもうすぐ。決めてはいる。だからもう、後は選ぶだけ――」


 選択肢は残り一つ。
 なにを選びなにを望むかはもう決めた。
 銀色の向こう側の半身は囁きをやめぬ存在としてそこに在る。

577創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:30:12 ID:uv/m7bfB
578ゆうじスネイク ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:31:22 ID:0IeCXD/r
【C-2/北東部/一日目・朝】


【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:シャナ、朝倉涼子、“人類最悪”を探す。目先の危難よりも状況打破のために活動する。
1:改めて進路を検討。
2:“少佐”の真意について考える。
3:シャナと再会したら――。
[備考]
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
※会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。


【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:両足に擦過傷、中程度の疲労
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2(食料一食分消費)、カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック! 、カノン予備弾×24
[思考・状況]
基本:坂井悠二と共に行動。朝倉涼子を探しここから脱出するための協力を求める。
1:“紅世”やらなんやらに関して悠二からもっと詳しく聞く。理解できるかどうかはともかく。
2:そう容易くはいかないだろうから朝倉からの協力を得るための策も考えておく。
3:涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹を探す。


【アズュール@灼眼のシャナ】
“狩人”フリアグネのコレクションの一つ。指輪型の宝具。
熱量を伴った物理的な意味での炎を消去する「火除けの結界」を球状に展開し、所持者を炎から守る。
結界は“存在の力”を込めることで発動するが、所持者の拒絶する意思に反応して自動的に発動することもある。
579創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 00:32:53 ID:uv/m7bfB
580 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/24(木) 00:32:58 ID:0IeCXD/r
トウカ終了です。
支援ありがとうございました〜。
581創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 01:05:38 ID:oNec8MAP
投下乙。
うわぁ、キョンがそういう投げやりになるとは予想外だったw で、次なる希望が……朝倉かよっ!w
悠二はなんか凄くヤバいものと会話してません?w ってかそれヤバいよほんとw
これから2人、いったいどうなるのだろう……?w
582創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 01:08:46 ID:uUGKSub5
投下乙ー
583創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 05:31:07 ID:uv/m7bfB
投下乙ですー
悠二……そいつと話しているのか……w
どうなるんだ本当……
キョンはちょっとなんと言うか凄い下がってるなぁw
朝倉に期待するようだけど……していいのか本当に。
なんと言うか……先が怖い二人だw
GJでしたw
584創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 14:16:25 ID:s1BNvRRX
ところで、箱――(白光)の図がずれていたけど、どうする?
585創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 15:31:19 ID:oNec8MAP
>>584
アスキーアート表現用の@wikiの構文を仕込んどいた。
これで大抵の環境で投下時と同じように見えるはず
586創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 15:37:29 ID:Rrah2V0J
久しぶりに練習用ページ見たら、みくるビーム吹いたw

>>585
乙乙
587創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 19:45:47 ID:s1BNvRRX
>>585
文句ばっかりで悪いけど、□と■逆の方が良くない?
その方が、「塗りつぶされてるって感じがする気がする。
588創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 23:34:17 ID:H+RHpcuY
しかしキョンはロワが変わると雰囲気変わるな
同行者の違いの影響もあるが
589創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:10:34 ID:eAZEtqny
確かに、一般人なだけに染まりやすいのかな
590創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:19:40 ID:WYT7SSZU
まあ原作でもズルズル流されるキャラだからな
591 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:30:24 ID:6ZleVXb3
お待たせしました。これから投下を始めます
592 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:32:18 ID:6ZleVXb3

ひとつ、あるお姫様の御伽話をしましょう。


ある所に一人のお姫様が居ました。

そのお姫様の生活はとてもとても充実していたものでした。

お姫様は幸せでした。

何故なら、彼女が通う学校には素敵な友人達がいて、その友達に囲まれて楽しい毎日ばかり。

友人達はお姫様と比べると決して優秀と呼べる人達ではありませんでした。

しかしながら、その友人達はとても優しく温かい心の持ち主ばかり。

そんな友人を今まで持たなかったお姫様にとってそれは新鮮で。

そして、たまらなく幸福なものでした。

何故なら、お姫様にはその生活の中でずっと恋焦がれた少年に出逢えたのですから。

恋する少年の傍に居る事が出来る生活はとてもとても素晴らしくずっと続いて欲しいとお姫様は願っていました。


永遠に続くようにと。



ですが。



その願いは叶う事が無く、お姫様はその生活を奪われてしまうのです。





殺し合いの舞台という、幸せとは程遠い哀しみに溢れた場所に連れて来られてしまったのです。



そしてお姫様はその哀しい舞台の上で―――――――



――――全てを奪われていくのです。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





593創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:33:20 ID:eAZEtqny
 
   
594あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:33:32 ID:6ZleVXb3

お姫様はただ、恐怖で素足で街をさ迷うばかりでした。
彼女を怯えさせているのは死。
彼女をを怯えさせていてるのはお姫様自身。

ただ、怖かったのです。

道をがむしゃらに走り続けて。
何かに逃げるように。
何かに贖罪を願うように。

ひたすらに傷ついたお姫様は逃げていたのです。

何故なら、お姫様は犯してはならない罪を負ったのですから。
誰にも許されない罪を。
しかしながらこの場所では許される行為。


そう、殺人。


お姫様は自分を助けようとした青年を恐怖の余り、逆に殺してしまったのです。

それは余りにも不幸な結果が重なっただけなのでした。

世の恐ろしい事を知らないお姫様に対してある少女が恐怖を植えつけたのです。
それはお姫様の命を奪いかねない行為。
そしてお姫様を脅し続け、それはお姫様にとって深い傷になるのです。

その深い傷をその青年は不幸にも掘り返したのでした。
お姫様はその恐怖に負けて助けようとした青年までも、殺してしまったのです。

死ぬのが怖いから。
怖いのが怖いから。

そんな感情だけで狂気に負けて人を殺してしまったのです。

ですが、お姫様は本来はとても優しい性格をしていました。

そのせいでその罪に怯え。
そのせいで後悔に苛まれ。

お姫様は全てを失っていくのです。

それは輝かしい日々。
懐かしい温もり。
友人達のふれあい。

そんな優しいもの。

お姫様はその生活に戻りたいのに。
お姫様はその大切なものを取り戻したいのに。


それを願い続けたいのに。

595創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:34:38 ID:5LOEhTRv
596創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:36:01 ID:5LOEhTRv
597あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:36:04 ID:6ZleVXb3


神様はそれすらも許す事はしませんでした。
更に神様は彼女に更なる罰を与えたのです。


それはお姫様の声を奪ったのです。


可哀想な事にお姫様はもうしゃべる事ができなくなってしまいました。
大好きな少年の名前を呼ぼうにも呼べず。
誰かに助けてとすらも叫べず。
泣く事すら許されず。

お姫様は何もかも奪われていったのです。

お姫様は恐怖と哀しみにくれてただ走るばかりでした。

思うのは恋した少年。
思うのは温かい日々。
思うのは贖罪。


温かいものを奪われ、冷たいものに侵食されていったお姫様の心。

苦しくて、痛くて、怖くて。

今まで経験した事ないものに怯えながら。
彼女は全身を震わせていました。

その時の事です。

冷め切った心を更に冷たくさせるものがその時聞こえてきたのです。

それは、彼女が此処で知り合った二人の男の死を告げるもの。
その男達はお姫様を優しく扱っていてお姫様も心を許していました。

その二人が死んだというのです。

お姫様は声鳴き叫びを上げ、涙が溢れて、ただ泣き続けました。


心をしめるのはただ恐怖。

無残に死んだ青年。
お姫様の心を壊した少女。
598創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:36:07 ID:ypMTP1bX
599創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:36:13 ID:eAZEtqny
 
600創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:36:53 ID:ypMTP1bX
601あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:37:20 ID:6ZleVXb3
彼らの顔が交互に浮かび、お姫様の罪の意識を強めていったのです。


男達が死んだのも自分のせい。

自分のせいでこんなにも沢山の人が死んだ。

そう、お姫様は思い、心を壊していったのです。


恐怖。
痛み。
罪悪感。
後悔。
懺悔。


お姫様の心にはそれしかもう残っていなくて。
喋れないまま泣き続けて。
ただ、ひとつ、恋しい少年を思い続けて。

ただ、何かに逃げるように走り続けていたのです。


そして、お姫様はあるものを見つけたのです。
彼女の元の日常であった幸せの象徴というのを。

それは、学校でした。


彼女は懐かしい日々と温かい友人を思い出して
まるで、それに縋るように学校に向かっていきます。

そこに恋する少年がいるかもしれない。
そこにいけば温かい日々を取り戻せるかもしれない。

そう、願い、思い。

ただ、願望のまま、逃避のまま。
学校に駆け込んで行ったのです。


お姫様はもう耐えられなかったのです。

602創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:37:38 ID:5LOEhTRv
603創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:38:02 ID:ypMTP1bX
604あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:38:05 ID:6ZleVXb3
恐怖に。
罪に。

全てに。


そして、心の安寧を求め。


かつての温かいものの象徴。


学校にむかっていたのです。


願うのは恋する少年が居る事。
恋する少年が助けに来てくれる事。


そんな、恋する少年を求め。

まるで白馬の王子を待つかのように。

お姫様はその少年の助けを求め続け。


学校に向かっていたのです。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








605創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:38:36 ID:5LOEhTRv
606あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:39:03 ID:6ZleVXb3

しかし、現実は残酷で。



お姫様が恋をし憧れた白馬の王子である少年は――――



―――もうこの世を去っていたのですから。


そう、お姫様を助ける王子様はもういません。


彼女の救いの手を受け取るものは。
彼女の心を支えてるものは。


もう、居ないのですから。



ああ、お姫様の心はどうなってしまうのでしょう。


恐怖と、罪と、痛みに潰されそうになっているのに。


恋する少年の死によって。


お姫様はどうなってしまうのでしょう。


その続きの物語はまだ存在せず。


これからどうなるかなんて誰にも解りません。


わかるもがいると言うのならば。

607あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:39:58 ID:6ZleVXb3
これから更に残酷な現実を知る、哀れなお姫様かもしれません。


哀しい、哀しい御伽話は、一旦此処で御終い。


そこに救いはあるのでしょうか?


それはまだ誰にも―――――解りません。





【E-2 学校前/一日目・朝】

【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2
     ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:ごめんなさい。ごめんなさい。助けて。助けて。助けて。
1:朝倉涼子に恐怖。
2:明久に会いたい
608創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:40:01 ID:5LOEhTRv
609あるお姫様の御伽話 ◆UcWYhusQhw :2009/09/25(金) 00:40:59 ID:6ZleVXb3
投下終了しました。
支援感謝します
610創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:46:11 ID:eAZEtqny
   
611創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 00:57:21 ID:C9+4boPt
投下乙です。

ところがどっこい……! 明久くんはもう死んでいる……!
姫路さんが本能的に学校を求めるというのはわかる気もするなぁ
しかし明久死亡直後にこういう話がくるとはとことんカワイソスなw
612 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/25(金) 01:16:03 ID:C9+4boPt
シズ投下します。
613「葬儀の話」― Separation ― ◆LxH6hCs9JU :2009/09/25(金) 01:17:15 ID:C9+4boPt
 幼稚園でのことでした。
 園内の片隅にある花壇の中で、緑のセーターを着た青年がしゃがんでいました。
 園児用の小さなシャベルで、せっせと花壇の土を掘っているようでした。

「なかなかに作業だな、これは」

 小さいシャベルでは穴を掘るにも一苦労で、青年は額に汗をためていました。
 そのうえ花壇にはチューリップが植えられていたため、それらの花を別の空いたスペースに植えなおすという作業も必要でした。
 時刻はすでに朝になっていたので、懐中電灯に頼らず作業できることだけが幸いでした。

「少し休憩だ。朝食にしよう」

 青年は立ち上がって言いました。
 すぐそばに置いておいたデイパック(注・鞄。黒くて四次元なものだけを指す)から携帯食料を取り出し、それを食べます。
 携帯食料は味も素っ気もないカンパンでしたが、旅をしていた青年の舌はこれに不満を覚えることもありませんでした。

「もうじき放送か」

 青年はデイパックからペットボトルを取り出し、水を飲みます。
 一緒に参加者名簿とこの世界の地図も取り出し、六時に行われるという放送に備えました。
 左手にはめた腕時計で時刻を確認します。時計の針が六時ちょうどを示したとき、それは鳴り響きました。

「――聞こえているか? 言ったとおりに放送を開始する」

 時間通りの正確な放送でした。
 聞き覚えのあるこの声は、狐のお面を被った人類最悪という男の声だったでしょうか。
 人類最悪はいくつかこの椅子取りゲームについて重要っぽいことを言って、それから本題に移りました。

 脱落者の報告でした。
 椅子取りゲームの参加者は誰もが皆、青年にとっての赤の他人ばかりでした。
 なので、誰の名前が呼ばれようともこれといった感慨はありません。
 メリッサ・マオ、アリソン・ウィッティングトン・シュルツの名前が呼ばれてもそれは同様でした。

 放送が終わると、青年の参加者名簿には十本の線が引かれていました。
 その線のどれもが、脱落者の名前の上に引かれていました。

「さて、そろそろ再開するとしようか」

 腹ごしらえも済ませたところで、青年は再び穴を掘る作業に戻りました。

 ざくっ。ざくっ。ざくっ。

 小さなシャベルで、何度も何度も土を掘り返していきました。
 やがて穴を掘る作業が終わり、青年は立ち上がってうーんと背筋を伸ばしました。

 できあがった穴は、とても人間が収まるような大きさではありませんでした。
 それでも、犬を一頭埋めるには十分な大きさの穴でした。

 青年はデイパックの中から、犬の死体を引きずり出しました。
 白い、ふさふさした毛を持つ大型犬でした。
 心臓の辺りが赤い血で滲んでいるものの、その表情はとても安らかでした。
614創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 01:17:59 ID:ypMTP1bX
 
615「葬儀の話」― Separation ― ◆LxH6hCs9JU :2009/09/25(金) 01:18:15 ID:C9+4boPt
 生前の白い犬は、どんなときでもにこにこしていました。
 食料が底をつき水しか飲めなくなったときでも、笑みを絶やしませんでした。
 動物嫌いな人間に犬臭いんだよぉと不平を言われても、笑みを絶やしませんでした。
 主人であった青年が酷いことをしても、いつもそばでにこにこと見守ってくれていました。

 白い犬は、青年にとっての忠犬でした。

「おまえには、本当にすまないことをした」

 青年は白い犬の亡骸に謝り、黙祷しました。
 もうこれでお別れなのだと思うと、寂しくて仕方がありませんでした。

「おまえも私と一緒に、こいつを弔ってやってくれないか?」

 青年は黙祷を終えると、デイパックの中から鳥かごを取り出しました。
 鳥かごの中では、インコちゃん(注・鳥。おしゃべりでブサイクなものだけを指す)が忙しなく羽を動かしていました。

「……ト、トム、トム……ラァァェ……?」

 インコちゃんは、白い犬の亡骸を前に動揺しているようでした。
 腐肉色のくちばしから変な泡をたらたら垂らし、半開きの瞼をぴくぴと震わせ、ぼさぼさの羽毛を痙攣させていました。

「ア、ア、アバヨッ。ジャーナ!」

 インコちゃんの無駄に鋭い眼光は、死に顔も笑顔な白い犬のそれと比べるとことごとく対照的でした。
 青年は嘆息し、白い犬の亡骸に手をかけました。

 ふさふさの体を抱きかかえ、花壇の穴に移しました。
 大きな体はすっぽりとそこに収まり、青年はしばらくの間、穴の中の忠犬を眺め続けました。

 埋めてしまうのが、少しだけ惜しくなったのかもしれません。

「……」

 またしばらくして、青年は無言のままシャベルを握りました。
 穴の中で眠る白い犬の上に、花壇の土を被せていきました。

 ざくっ。ざくっ。ざくっ。

 土を被せる間、青年は呼吸の音すら止めてしまいました。
 傍らのインコちゃんもまた、羽ばたきの音を抑えました。
 静かな埋葬でした。

 ざくっ。ざくっ。ざっ。

 白い犬の亡骸は、あっという間に土に隠れて見えなくなってしまいました。
 色鮮やかなチューリップが植えられた花壇の真ん中に、白い犬は眠っています。
 ここならば花たちに見守られながら、誰に眠りを妨げられることもなく安らげるでしょう。
 これが、今の青年にできる精一杯の弔いでした。
616「葬儀の話」― Separation ― ◆LxH6hCs9JU :2009/09/25(金) 01:19:02 ID:C9+4boPt
「一段落したら、もっときちんとした墓を作ることにするよ」

 青年は白い犬が眠る花壇にそう告げて、墓標代わりの木の枝を土に差し込みました。

 そしてもう一度、黙祷します。
 インコちゃんも黙祷しました。

 そうやって、小規模な葬儀は終わりました。

「さて」

 すべてが終わると、青年は花壇の隅にシャベルをつきたて、不在の園児たちにこれを返却しました。
 デイパックを肩にさげ、インコちゃんが入った鳥かごを手に持ち、腰には大太刀を差して、歩き出します。
 背後には白い犬の墓が残り、青年とインコちゃんの旅立ちをチューリップたちと一緒に見送りました。

「シ、シ、ズシ……クリ、ク!」

 幼稚園の敷地から出ようとしたところで、インコちゃんが急に騒ぎ出しました。
 背後の墓に向かって、懸命な形相で誰かの名前を叫んでいました。
 青年は微笑み、インコちゃんに教えてあげました。

「シズ。陸。だよ」

 それは、青年と白い犬の名前でした。



【C−4/市街地・C−4の北東の隅のあたり・小さな幼稚園内/一日目・朝】


【シズ@キノの旅】
[状態]健康
[装備]贄殿遮那@灼眼のシャナ、パイナップル型手榴弾×1、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)、
[道具]デイパック、支給品一式(食料・水少量消費)、トンプソン・コンテンダー(0/1)@現実、
    コンテンダーの交換パーツ、コンテンダーの弾(5.56mm×45弾)×10
[思考]
基本:優勝して、元の世界・元の時間に戻って使命を果たす。
1:さて、どこに行こうかな。
2:未来の自分が負けたらしいキノという参加者を警戒。
3:インコちゃんを当面の旅の道連れとする。
[備考]
※参戦時期は、「少なくとも当人の認識の上では」キノの旅6巻『祝福のつもり』より前です。
 腹部に傷跡が残っているかどうかは不明です。


※陸@キノの旅の亡骸はC−4の北東の隅のあたり・小さな幼稚園内の花壇に埋葬されました。
617創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 01:19:11 ID:9CCxuPx5
 
618 ◆LxH6hCs9JU :2009/09/25(金) 01:19:51 ID:C9+4boPt
投下終了しました。
619創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 01:25:25 ID:9CCxuPx5
どちらも投下乙!

>あるお姫様の御伽話
 うわぁ、姫路さん大変だ……。そして行く先が学校とは。
 でも追い詰められて思わずそっちに足が向くの凄く分かるなぁ。
 先の見えない彼女に救いはあるんだろうか。GJです。

>「葬儀の話」
 シズが穏やかになってる……!
 感情表現を控えめに抑えているのにこの染み渡るような穏やかさ。流石。
 旧パートナーの陸と、新パートナーのインコちゃんの対比も上手い。GJです。
620創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 04:44:44 ID:6ZleVXb3
投下乙ですー。
シズが凄い穏やかだ……
短いながらもガンガン気持ちが伝わってくる。
シズと陸の関係がよくわかると思います。
GJでした。
621創る名無しに見る名無し:2009/09/26(土) 00:39:53 ID:JOIFtYoE
投下GJ!

まず姫路さん。相変わらず可哀想だから困る。
そして学校かよwwwwwよりによって過ぎるwwwww
休む暇も無く不幸な方へ不幸な方へと……。
人間ってさ、運が向かないときってとことんだよね……。


そしてシズ。なんとまぁ、落ち着いたか。
陸は残念だった。だが大丈夫、インコちゃんがいるさ。大丈夫大丈夫。
大丈夫、大丈、夫……大……駄目だ、むしろインコちゃんが大丈夫じゃないw
一人と一羽はどうなることやら。
622 ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:39:45 ID:CJYQ9Fp7
お待たせしました。これより投下を始めます。
623行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:41:22 ID:CJYQ9Fp7
【0】


死ぬよ。


624行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:42:46 ID:CJYQ9Fp7
【1】


人通りの絶えた街に慌ただしく響く一つの足音。似たような表現を演劇のト書きで見たことがあるが、実際に体験してみるとひどく心細いものだと木下秀吉は思った。
自分の息づかいさえ普段の何倍にも聞こえる。秀吉は走っていた。毎日の早朝ランニングの成果か、すぐにへばってしまうようなことはない。
秀吉は若くして演劇の道を志す身である。そのために初めた基礎訓練が思わぬところで役に立った形だが、あまり嬉しくなかった。

明け方に特有の肌寒さと静謐さを併せ持った空気の中、無人の街をひた走る。せわしなく目を配りながら、停止を促す白塗りの警告が書かれた道路を曲がった。必要とする者がいるのか疑問である。
なら自分が従ってやろうと思ったわけではないが、更にいくつか細かい路地を通った後、秀吉は立ち止まった。上気した頬がほんのり染まっている。気息を整えながら、肩ほどの高さのコンクリート塀に体を預けた。

何も分からぬままに放り出されて6時間と少し。同じように誘拐された数十人を除けば、猫の子一匹見あたらないこの世界がこんなに寂しいものなのだと、秀吉は初めて気付いた。
失って分かる大切さ、という奴だ。激情に駆られ飛び出してきたのは秀吉自身なので、文句を言うこともできない。
温泉からは大分離れてしまっている。しかし、まだ帰り道を忘れるほど呆けてはいない。昭久ならやりかねん、そう思ったところで同時に姫路への心配がぶり返した。

急がねばならぬと気持ちばかりが先走るが、火照った体とは裏腹に、走ることでクールダウンされた頭はそれではいけないと理解していた。三日しか保たない儚い世界は、それでも人一人探すには広すぎる。
がむしゃらに動き回って徒に体力を消費してはならん。あの角を曲がれば、その先に行けば、悪魔の誘惑にも似た甘美な言葉だが、得られるのは後悔だけだ。
戻ろう、と秀吉は思った。手がかりとしたのは一着の制服だけで、姫路が本当にいるという保証さえない。さっきはそれでも、という思いが勝っていたが、冷静に考えればまるきりの暴走行為である。

会いたい人がいるのは秀吉だけではない。櫛枝やシャナはもっと酷い現実を突きつけられている。二人を慰めこそすれ、無策のまま飛び出すなど決して許される立場ではなかった。
625行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:44:05 ID:CJYQ9Fp7

秀吉は身に付けていた銃を取り出した。特に警戒することがあったわけではなく、収めていた場所的にもたれるには座りが悪かったのだ。
銃に関しては素人だがさすがに銃口を覗くような真似はしない。思ったより重いのだと、そういう表現を何度も目にしてきたせいか、秀吉は逆に軽く感じた。

『って、何思い切り覗いてんだバカかお前はっ!?』
『え!?いやだって雄二、凄い速度で銃弾が飛び出る仕組みって気にならない?』
『・・・・・・・・・・・・危険』
『危ないです明久君!暴発したら・・・・・・』
『アキ、引いちゃだめよ。絶対に引き金を引いちゃだめよ!』
『ちょっと遠回りだけど美波だけ僕に死ねって言ってるよね!?』

唐突に、そんな会話を幻視した。毎日のように繰り広げられた騒がしい、それでいて穏やかな日常も、今は幻の中でしか見ることができない。だが、永遠に消え去ったと決まったわけでもなかった。
放送を信じれば、秀吉の仲間はまだどちらも欠けていないのだ。気休めにもならないことは承知の上だが、今はそれを頼みにするよりしようがなかった。

区切りを付けるように一つ息を吐いて、秀吉はもときた道を歩き出した。本能の訴えは、理性で退けた。
だが、完全に騙し切れたわけでもなかったらしい。再び仲間の影がちらりと脳裏をかすめる。引き金にそえられた指に自覚以上の強ばった力がかかり、乾いた炸裂音とともに銃弾が一発発射された。

「ぬお・・・・・・じゅ、銃の引き金というのは意外と軽いのじゃな・・・・・・」

実際は逆なのだが、銃の機構に暗い秀吉はただ怪我をしなかった幸運に感謝した。
いわゆる暴発、誤射というもので、これで自分や誰かを傷つけていたら目も当てられないが、銃声は虚空にむなしく響くにとどまった。これでは幻の中で笑われるのは明久ではなく秀吉の方だ。

やはり慣れぬ道具は危険かと、秀吉は持つことを止めて銃を仕舞う。グリップからはがされた手のひらが、じんわりと赤く染まっていた。
再度周囲を確認し、もう一度名残を惜しむかのように通りの向こうを見やって、秀吉は今度こそ迷いなく道を引き返し始める。

飛び跳ねた弾丸は、道路に僅かな焦げを作っただけで、どこかに消えてしまっていた。
626創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 01:44:34 ID:NtxWvQ31
 
627行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:46:57 ID:CJYQ9Fp7
【2】


人間頑張ればできないことはないと言うが、それは嘘だ。
腹が減っては戦はできぬのたとえ通り、飯を食わねば動きは鈍る。水が枯れれば立ってはおれず、翼がなければ空も飛べない。
無理難題を永久に考えることなどできないし、結果紫木一姫は眠くなる。

姫ちゃんちょっと疲れたですよ。呟いて選んだのは喫茶店の待合い用にと、店外に置かれた木製のベンチだった。くすんだ色合いが長年風雨にさらされていたことを想わせるが、利用するべき人間は店の外にも中にも見あたらない。
人影の絶えた住宅街、生活音が消えた世界というのは想像以上に不気味だ。まともな人間であれば、よく知る世界がほんの少し覗かせた別の顔におののかずはいられないだろうが、まともではない一姫には関係がない。

言うことを聞かない道具については玖渚機関のついでに聞けばいい。そう思って今は仕舞ってある。
質問が一つ増えたところで一緒ですよー、でもあんまり増えると姫ちゃんが覚えられないですよ。一時の安心を得たことへの反動か、まどろむ気のなかった意識がいつの間にか遠のいた。
放り捨てられたタオルのようにくたりと横になる姿は、たとえ平時であっても無防備きわまりないものだったが、安全危険を意識している様子は微塵もない。
体力のなさを超絶的な技巧で補う一姫のこと、数時間とはいえ歩き詰めるだったのが、思いの他こたえていたのかも知れなかった。
あるいは、周りに人がいないのでここは安全ですよー、その程度の鈍い認識だったのかも知れない。

628行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:47:54 ID:CJYQ9Fp7
目覚まし代わりの放送が聞こえるまで、何事もなく過ごせたのは幸運だったと言えよう。誰にとっての、かはともかく。

「難しい話はよく分かんないですよ」

何やらくどくどと並べ立てていたが、三分の一も理解できなかった。まだ意識半分を夢の中に、目をこすりながら聞いていたのが悪かったのかも知れないが、きちんと聞いていたら完全に寝ていたかも知れない。
水槽が魚で大変がどうとか、ちょっと理解が追いつかない。師匠が無事であるという情報はだけは何とか得られたので、後はどうでも良かった。
休息を終え一姫は歩き始めた。速くはない、どちらかと言えば遅い速度だ。しかし、ためらいのない足取りは迷いを抱えた者よりはずっと速かった。

方針に変わりはない。師匠に出会わないようにしながら、人を殺し続ける。
することは三つ。
機械の不調について聞く。
玖渚機関についても聞く。
そしたら、殺す。

どこかで音が鳴った。爆竹がはぜるような軽快な音だが、あれは銃声だ。
無音の街は普段とうって変わって音を通すので判断しづらいが、それでも、そう遠くない場所に人がいるのは間違いなさそうだ。

とりあえず、そちらに行ってみよう。
629行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:48:53 ID:CJYQ9Fp7
【3】


道路の向こうから自分のものではない足音が聞こえてきたとき、秀吉は一瞬自分の心臓が破れたんじゃないかと思った。それくらい、もの凄くどきりとしたのだ。
反射的に身構えて、といっても具体的なことは何もできずただ体を縮こまらせただけなのだが、緊張に汗を走らせる。隠れられるものはないかと探す間もなく、足音の主が姿を現した。

「あ、やっぱり。こっちから音がしたと思ったですよ」

ちょうど秀吉の進行方向に対面するかのように、別の角から顔を出したのは、えらく小柄な少女だった。
妙に黒の強いセーラー服を着ているため恐らく中学生くらいなのだろうと分かるが、そうでもなければちょっと背が高めの小学生と思っていたかも知れない。少女と呼ぶにもまだ抵抗があるくらい、彼女は小さかった。
どうもさっきの銃声を聞きつけられたらしい。秀吉を見つけるや否やぱっと顔を輝かせた女の子は、小走りにとことこと眼前まで迫ると、どうも初めましてですです姫ちゃんは姫ちゃんなのでよろしくしてくださいですよー、と舌足らずな発音で一気にまくし立てた。
独特の間のびした空気に呑まれそうになりながら、秀吉も自己紹介を返す。要領の得ないやりとりを何回か繰り返して、少女のフルネームが「紫木一姫」であることを何とか聞き出した。

たったそれだけの会話で何だか疲れてしまったのだが、一姫の方はそんなのはどこ吹く風ときょとんとした表情をしている。いや、流れ的にきょとんとしているのはおかしいので、これが彼女の素の表情なのだろう。暇を持て余すように、指をぷらぷらと振っている。
ペースの掴めない相手に、どうやって交流したものかと困惑していると、指の振りを止めた一姫が半歩下がってすっと制服を撫でた。
その行動には多分、居住まいを正すという意味があったのだろう。どこを見ていたのか分からなかった表情が幾分真剣なものに変わっている。
先に本格的な会話の糸口を開いたのは、明らかに年下の一姫の方からだった。

「さて、それではちょっとヨエロ寸ねたいことがあるですよ」
「・・・・・・なぜ分解したのかはともかく、"尋ね"たいことがあるなら聞こう」

少々、いやそれ以上にぼけぼけしておるが、さすがに危険人物ということはなかろう。
そう判断し、秀吉は緊張を解いた。
630行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:50:04 ID:CJYQ9Fp7
【4】


櫛枝実乃梨の姿が遙か西方へと消え去ってから、幾分か経った。
彼女は今も駆け続けているのだろう。友を想って走る少女の細い足は、炎髪を押しとどめるほどに強く、灼眼では捉えられないほどに速い。
シャナはいまだに一歩も動けずにいた。隆盛にたとえられる早朝の太陽が僅かな動きしか見せていないところを見ると、実時間で言えば微々たるものなのだろうが、彼女の中では既にその何倍もの時間が消費されていた。

「シャナよ、辛いだろうが今は・・・・・・」
「分かってる。アラストール」

遮るように短く言う。小さな手が潰れそうなくらい握りしめられ、凛とした表情は前髪に暗く伏せられてしまっているが、少なくとも口調にだけは本来の気の強さが残されていた。

「ここは戦場。迷ってる暇なんてない。速いとこ木下秀吉の方もとっちめてやらないと」
「うむ・・・・・・」

踵を返して温泉へと戻るシャナに、アラストールはうなることしかできない。言っていることは正しいのだが、つかつかと早足で歩くシャナは明らかに無理をしている。
櫛枝の言葉を噛みしめ、しかし飲み込むことはできなかったのだろう。坂井悠二が危難に遭ったらどうする、などと、シャナにとっては想像さえ厭う話なのだ。
シャナの胸元で小刻みに揺られながら、アラストールは気休めの言葉さえかけられずにいた。
どこに身の危険が潜むか分からない以上、戦う術を持たない木下秀吉を放ってはおけないのも確かである。だが、伝言には捜し人が見つからなければ戻るとの言もあった。
供にした時間は短いが、アラストールは木下秀吉のことを落ち着きと気品を持った、どちらかと言えば聡明な人間であると考えている。
仲間の心配に一時我を忘れたとしても、それがいつまでも続くとは考えにくい。己の無謀を察し、早晩戻ってくる可能性は低くはない。
少なくとも、忠言としてシャナに伝える程度の価値はあるはずだ。そう思いはしたものの、実行に移すまでには至らなかった。
今のシャナが、何もせずじっと誰かを待つなどということができる状態にないことが、アラストールには分かっていた。
悪い想像が膨らんで破裂しそうになるのを、せめて体を動かすことで少しでも紛らわせようとしているのだ。どうして止められよう。そのために、何を言えばいいのだ。
我が身の不明を恥じる。

温泉に着いた。居眠りしていたエルメスを叩き起こし、木下秀吉の向かった大まかな方角を聞き出す。
北へ向かったという。東西までは分からない。
シャナは炎の翼を発現させると、紅蓮の火の粉を散らし飛び立った。
631行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:50:59 ID:CJYQ9Fp7
【5】


「ふむ、この機械が急に動かなくなったのじゃな」
「ですです」
「他の人間の場所が分かるレーダーとは、便利なものも支給されておるもんじゃな」
「その分、壊れたら怖くて歩けないですよ。姫ちゃんマイガでした」
「迷子なのか、それとも『ガッデム!』的な意味合いがあるのか悩むところじゃ・・・・・・」
「直せるなら直して欲しいですよ」
「そうは言っても、ワシも機械に特別強いわけではないからのう」
「第一印象で言わせてもらえば、お姉さんは手先が器用っぽく見えるですが」
「なぜワシをナチュラルに女と判断するのじゃ!?」
「女じゃない・・・・・・だと・・・・・・!」
「口調まで変わっておる!」
「普通に美人さんなので姫ちゃんびっくりして時代を遡るかと思ったですよ」
「それは、流石にちと大げさすぎるのう」
「くりびつです」
「本当に遡っておる!?もはや悲しむ気も起きん・・・・・・む、なんじゃ。これは単に電池が取れておるだけじゃの」
「電池ですか?」
「うむ。裏側は確認したかの?カバーが外れて電池が片方取れてしまっておる」
「おおー、姫ちゃんそこまで気が回らなかったです」
「代わりが見つかればすぐに動くじゃろう。とりあえず、壊れとるわけではなさそうじゃ」
「助かりましたですよー。ありがとうございですです」
「いやいや」

一姫はおだやかに笑う秀吉からレーダーを受け取る。
これで、一つ。
残りは、二つ。
632行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 01:52:09 ID:CJYQ9Fp7
【6】


覚悟はあるのかと聞かれた。私はあると答えた。
櫛枝実乃梨と木下秀吉のことだ。最近は色々と子供扱いされることの多い私だけど、戦いに関してならその辺の奴らになんか負けない。
今いる場所の異常さも、そこに素人を抱えることの危うさもきちんと認識して、その上で覚悟があると言ったのだ。
戦いになったら護る気でいた。悠二みたいなサポートができなくたって、みっともなく逃げ回るだけだって、できる限りカバーしてみせるつもりだった。
でも知らない。こんな事態は予想してない。櫛枝実乃梨があんなに踏み込んでくるなんて、考えてもいなかった。
そのことで私がこんなに落ち着かない気持ちになるなんて、想像さえしていなかった。

木下秀吉は見つからない。櫛枝実乃梨はこれでもかってくらい簡単に見つかったのに。
あっちは大通りをまっすぐ走っていたけど、木下秀吉の向かった方角は住宅街で、さっきよりずっと狭くて入り組んでる。高さの違う建物がバラバラに並んでいて、空からだと死角が大きい。結局、時間ばかりがかかる。
場所が悪い。フレイムヘイズの能力を活かしきれない場所になんか向かうんじゃない。冷静に考えれば危険なことぐらい分かるだろう。

冷静。そう冷静だ。櫛枝実乃梨のせいで私の頭はぐちゃぐちゃにかき回されたみたいになったけど、今はそんなことを考えている場合じゃない。
一旦棚上げにして、そのお陰で私は冷静な思考を取り戻している。木下秀吉を捜さないと行けないのは本当で、その判断に間違いはない。
だから、さっきより何倍も時間をかけているのに見つからないのも、単にあいつが分かりにくい場所に行ってしまったせいだ。
私は冷静だけど、フレイムヘイズは万能じゃない。

視界の端をちらりと影が掠めて、私は三階建ての鉄筋のビルに窓から飛び込む。人影が動いたように見えたんだけど、それは完全に私の気のせいだった。
飛び込んだフロアには何もなく、ただ複数のデスクが無機質に並んでいるだけだった。割れたガラスが足下に飛び散り、風がカーテンをゆらゆらと揺らしている。たしなめるアラストールの声がやたらと大きく響いた。
私はくちびるを噛みしめる。木下秀吉は見つからない。
633創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 01:52:22 ID:NtxWvQ31
 
634創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 01:54:26 ID:Cm4BgWYz
635創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 01:55:16 ID:Cm4BgWYz
636創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 01:57:40 ID:Cm4BgWYz
637創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 01:58:27 ID:Cm4BgWYz
638創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 02:11:51 ID:HMm/o7Gb
 
639行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:49:39 ID:CJYQ9Fp7
【7】


「玖渚機関じゃと?いや、すまぬが聞いたことはないのう」
「本当ですか?疑うのは気が引けるですけど、ク渚機関と言えばメジャーもメジャー、トップクラスでさえない頂点ですよ?」
「そう言われてものう・・・・・・世事に疎いつもりはないのじゃが」
「だったらなおのこと、信じられないです」
「うむむ・・・・・・そうじゃなぁ、さっきの放送の通りと考えることもできるが、しかしあまりにも荒唐無稽じゃ」
「放送?実は姫ちゃんあまりきちんと聞けなかったですけど、何か言ってたですか?」
「耳を貸したいものでもないがな。もって回った言い方をいておったが、つまりはこうじゃ・・・・・・」
「・・・・・・平行世界、パラレルワールドというやつですか?」
「というよりは異世界、アナザーワールドかの」
「いかにも、無惨臭い話です」
「胡散臭くもあるな。まぁ、信じろというのが無理なのかも知れん。ワシもまだまだ半信半疑というところじゃ」
「半分信じられるだけで十分偉いと思いますよ。普通の人なら疑うこともせずに笑ってお終いです」
「笑ってすませられればどれだけよいかと思うの。まぁ場合が場合じゃ。少なくともワシが玖渚機関とやらを知らんということは信じてもらって構わんよ」
「う〜ん・・・・・・まだ納得いかないところはあるですが、了解しましたですよー」
「しかし、一姫は冷静じゃのう」
「そうですか?姫ちゃんは普通にしてるつもりですが」
「それこそ落ち着いておるということじゃ。ワシなどはみっともなく慌ててしまって、情けないことよ」
「まぁ姫ちゃんはお気楽ですからね。脳天気なのが外からはそう見えてしまうのかも知れません」
「見習いたいものよ」
「気持ちだけは毎日がエブリウェアです」
「お主の明日はどっちなのじゃ・・・・・・」

一姫は秀吉となごやかな雰囲気を形作る。
これで、二つ。
残りは、一つ。


640行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:50:44 ID:CJYQ9Fp7
【8】


人一人を捜すことの難しさを私は痛感する。
土地鑑もない。行きそうな場所も分からない。封絶を張れば動きを止められるけど、今はそれもできない。
段々と、私の中でもう見つからないんじゃないかという気持ちが湧き上がりはじめた。もちろんすぐに頭を振って否定するけど、それくらい木下秀吉の居場所は一向に知れない。
高く飛んで俯瞰しても、コンクリートの道路に降りて路地裏を走っても、目指す相手の姿はない。それどころか、街はどこもかしこも奇妙に整然としていて、人間が存在していた気配さえなかった。
そのせいで、捜索の選択肢も無限に広がってしまう。右に曲がるのも左に曲がるのも条件は対等で、目標に近づいているという実感が得られない。逆に、どんどんと離れているような、そんな錯覚さえ感じる。

頭が悪い方に傾いてしまうのは気持ちが負けかけているせいだ。そう思って私は一際強く前を睨みつけた。
これが済んだら木下秀吉をふん捕まえて、温泉までひとっ飛びに戻る。言い訳なんて聞いてやらない。一発や二発ひっぱたいてもいいくらいだ。それで温泉に戻ったらエルメスを回収して、櫛枝実乃梨を追いかける。
追いついたら言ってやる。何を言うかは決まっていない。悠二が死んだらどうするかなんて、そんなの答えられるはずない。さっきはちょっと考えようとしたけど、頭の芯がジンジン痛むような変な感じがして、とても続けられなかった。
櫛枝実乃梨が北村や高須という人間をどれだけ好きだったかは知らないけど、もの凄く悲しいんだってことは分かる。正直、私も取り乱さずにいる自信はない。それはさっき少し想像しただけもすぐ分かった。
だから、櫛枝実乃梨に返す言葉は見つからないけど、それでもこのまま終わりになんかしてやらない。すぐに追いかけられなかった分はこれから取り戻す。

フレイムヘイズが一度立てた誓いをそう簡単に反古にすると思ったら大間違いだ。護ると言ったものは護る。私自身の決意のために。
多少のトラブルは承知の上だ。今度は拒絶されたって一緒にいてやる。そしたら悠二を。
悠二を。

悠二は見つかるのだろうか?
ぞわりとした感覚が全身に走った。思わず立ち止まってしまう。不審がるアラストールに、何でもないと告げる。
ずっと一緒にいた木下秀吉を見つけるのにさえ、こんなに苦労してるというのに、どこにいるかも分からない悠二を見つけることなんてできるのだろうか。
違う。そんなのは間違っている。悠二とは会える。理屈じゃないけど、これは絶対。

でも。
もしかしたら。
いやだ。考えたくない。前を向きかけていた気持ちが再び萎えそうになる。
早く木下秀吉と合流しよう。そう思い私はもう一度空に翼を広げた。

会えないなんてこと、ない。
641行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:51:25 ID:CJYQ9Fp7
【9】


最後の、一つ。


「姫ちゃん、人を捜してるですよ」
「人捜しか。ワシも同じじゃ。仲間が無事でいるかどうか心配でたまらん気持ちでおる」
「まったくです。姫ちゃんの場合は師匠ですけど名簿に載ってる師匠ではなくてですね。ええと、名簿では『いーちゃん』で載ってる人ですよ」
「ふむ、『いーちゃん』か・・・・・・」
「どこにいるか知ってるですか?」

答えたら、最後。


「いや・・・・・・」


これで、お終い。


「知らんのう」


くいと上げて、ついと振る。
その瞬間――。
642行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:53:13 ID:CJYQ9Fp7
【10】


――邪魔するものは、何もない。


643行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:55:05 ID:CJYQ9Fp7
【11】


ころころと転がしたらきれいにどこまでも転がっていくんだろうなと思わせる円柱形の物体が8つ。それぞれ大きさは違うけど小は手のひらサイズから、大きいものでも片手でつかめないことはない。
物体はすべてが円柱形というわけではなく、ほっそりと細長く伸びているものが11本ある。同じ形のそれはどれだけ多くても10本は越えないはずなのだが、良く見ると内の1本が半分に割かれていた。
ちょうど見えない位置に切り口あったので気付かなかったのだ。
細かいものはそれくらいで、あとはどれもごろごろした大きめのものばかりだ。落下の際に自重で潰れてしまったのか、何々形と言える程形を保っているものは少ない。
中からはみ出していたり、飛び出していたりするものもあるのだが、そこにあるはずのそれらは正直あまり視界に入っていなかった。白。黒。ところどころ赤い。
糸の切れたマネキン人形という奴だろうか。違う。確かに組み立てられる以前のマネキンと通じる部分はあるだろうが、一つの素材から作られているに過ぎないマネキンはバラそうが切断しようが同じようにのっぺりした側面を見せるだけだ。
少なくとも、バケツを2杯も3杯もぶちまけたような、大量の液体をこぼすようなことはしない。
立ちこめる臭いもそれは酷いものだったのだが、ここで鼻を塞ぐのは冒涜になるような気がしたので、気力でごまかしている。

紅世。徒。燐子。トーチ。ミステス。いずれの場合もこんな風にはならない。基を一にするはずのフレイムヘイズでさえ例外ではない。
死してなお形を遺すことができるのは、唯一人間だけにのみ許されている。
木下秀吉は、全身を鋭利なワイヤーのようなもので細かく切り刻まれ、バラバラになって死んでいた。
644行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:56:23 ID:CJYQ9Fp7
道路を浸食するように染めているのは血液で、無数の物体になり果ててしまったもの達は元は一つの肉体だ。
頭部だけは分かたれることなくその形をとどめていたが、良く見ると登頂部の右側あたりに円形に小さく切り取られた跡があった。

「シャナ」

歴戦のフレイムヘイズとして誠に恥ずかしいことなのだが、シャナはこの一言に体が数メートルは飛び上がる程に、本気で驚いてしまった。胸元から響くアラストールの言葉が、とうにもの言わぬ身となった木下秀吉から発せられたものと一瞬誤解してしまったのだ。

「シャナよ、察してやりたいのは山々だが状況が状況ゆえ敢えて言うぞ。木下秀吉に対し凶行に及んだ者はまだ近くにいるとみて間違いない。その上、そやつは宝具か、それに準ずる強力な武器を持っている。
そのような場で、こともあろうに我を失するとは何事か!」
「ご、ごめん・・・・・・アラストール」

言われて初めて、シャナは自分が馬鹿みたいに呆然と突っ立っていたことに気付いた。やっとの思いでこの場にたどり着いてからまださほどの時間は経っていない。慌てたように夜笠を顕現させ、常態に戻っていた眼と髪を赤く染める。
厳しい表情で油断なく周囲に気を配るが、その動きは常に比べるとやはり僅かに精彩を欠くものだった。
紅世とフレイムヘイズの性質上死体慣れをしてこなかった弊害がこんな形で仇となったかと、アラストールは苦々しく思う。
同時に、慰めることより叱責を優先せざるを得ない状況と、それをもたらした何者かに対し、ないはずの腑が煮えくりかえる程の怒りを感じた。
645行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:57:40 ID:CJYQ9Fp7

シャナは思った。人間が死ぬとはこういうことなのだと。
木下秀吉は死んでしまった。恐らく、自分達がくるほんの少しだけ前に。
自分と、アラストールと、ヴィルヘルミナはこうはならないけど、それはあまり関係ない。いなくなってしまうのは一緒で、近しい人がどう感じるかも、多分一緒。
櫛枝実乃梨は。櫛枝実乃梨はただの人間なので、普通は木下秀吉と同じようになる。
今はどうしてるのだろう。無事なんだろうか。

二人は知らない。木下秀吉を殺害したのが紫木一姫であることも、情報を摂取し終えた瞬間一姫がなんの躊躇いもなく張り巡らせた糸を引いたことも、秀吉の鞄から愛用の曲弦糸と手袋を発見し、現在上機嫌で着々と二人から離れつつあることも。何もかも。

悠二の場合はどうだろう。櫛枝実乃梨は悠二が死んだらどうすると聞いてきた。
そんなことは分からないと思ったけど、本当に分からないことをシャナは理解していなかった。
出会ったときから既にミステスだった悠二は死ねば消えてしまう。そうなったら、その後は。
そのとき、残された自分はどうなってしまうのだろう。

シャナは。
悠二は。
悠二は、どこにいるのだろうか。

汗が一筋、頬を伝って流れ落ちた。


【木下秀吉@バカとテストと召喚獣 死亡】


646行き遭ってしまった ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 02:59:06 ID:CJYQ9Fp7
【E-2/一日目・朝】


【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:この世界を調査する
1:周囲を警戒
2:悠二に会いたい
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。


【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、裁縫用の糸(大量)@現地調達、レーダー(電池なし)
[思考・状況]
1:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
2:SOS団のメンバーに対しては?
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。


※木下秀吉の最後のランダム支給品は「曲絃糸&専用手袋」でした。
※その他の道具(デイパック、SIG SAUER MOSQUITO(9/10)、予備弾倉(数不明)が死体のそばに放置されています。

【曲絃糸&専用手袋】
曲絃師が用いる糸。本来は総称だが今回支給されたのは萩原子荻を切断したものと同種のもののみ。自分の手を傷つけてしまわないよう、専用の手袋もセットで。


647 ◆olM0sKt.GA :2009/09/27(日) 03:00:24 ID:CJYQ9Fp7
さるさんが解けたので、仮投下した残りを投下しました。
もう一度、支援に感謝を。ありがとうございます。
648創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 07:40:15 ID:54CcKUkO
投下乙。眠気が完全に醒めた…

にしたってバカテス男勢がここまであっさり、また早々に退場とは。
649創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 11:02:35 ID:pCKWyEzJ
秀吉を男勢に入れていいのやら。
650創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 11:14:49 ID:eSsCvLV+
こ、このロワ唯一の秀吉(性別)が…
きりきりきた、投下乙です
651創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 12:06:37 ID:iH8Yf4nL
投下乙。
うわぁ……着実に刻まれるカウントダウンが怖すぎる。ってか冒頭が不穏すぎる。
結末は十分予測できたってのにこの衝撃。シャナの空回りが辛いなぁ。GJ。
しかしバカテス勢の消耗が凄まじいことになってきた
652創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 14:20:26 ID:IagNvpSP
乙です。
さすが、姫っちは容赦ないなぁ・・・。
653創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 15:23:58 ID:J2DtHR+e
 
654創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 15:27:08 ID:J2DtHR+e
投下乙です。

おおう秀吉……
単独行動があだになったかぁ……
カウントダウンされながら死に向かう様は怖かった。
姫ちゃんも淡々とあっさりとやりおったw
シャナは秀吉までうしなちゃってどうなることやら
GJです。

少し指摘ですが曲絃糸&専用手袋の姫ちゃん専用アイテムに近いものを描写無しに状態票だけで追加するのはどうかと。
姫ちゃんなら反応するだろうし、本文中の描写が欲しい所です
655創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 16:18:49 ID:ccEEFpbM
曲絃糸を手に入れた姫ちゃんは能力制限しなくちゃ強すぎるだろう。
曲絃糸の射程は、遊馬でさえ山一つなんだし。曲絃師たる姫ちゃんはそれ以上だろう。
しかも。
ヒトクイマジカル直前ならば。出っぱりのない所では弱体化するという弱点を
克服してるし。
656創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 16:58:42 ID:KP/eg4S8
射程については、市井遊馬こそが特別なんじゃないか?
成り損ないだけど一部に限っては曲弦師以上、って言ってるし。
他を捨てて射程と感知能力を取った感じと思えるが。
あれで感知以外のこともできたなら竹取山の展開はまた違ってきたでしょ。
萩原子荻も、その効果範囲については代替できる人材はない、って言ってたしね

まあ危惧するところは分かるけどさ。
657創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 17:23:22 ID:CGpoT9UE
まあ能力の制限はともかく、状態表だけで支給してしまったことじゃない問題視する所は
状態表はあくまで書き手の補助のものだ。
だから本文にかいてあるものでいくべきだとおもう
658創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 17:55:00 ID:16IOhGua
描写してあるし、良いんでね
659創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 18:14:42 ID:WLQyY/G4
専用装備なんざ、ロワでは単なる死亡フラグだしね
660創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 20:12:11 ID:F64uBw9x
でもこのロワではその図式は当て嵌まりそうにないぜ。
今のところ殆どの戦闘タイプのキャラは専用武器確保してるしな
それでも死なねえ。むしろヒートアップしてる
661創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 21:14:23 ID:DIQDWHqQ
先が読めないもんなぁ
誰がいつ死ぬかわからんから予約の度にハラハラするw
662創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 22:36:21 ID:m3p9owie
投下GJ! 秀吉ィィィィィィィ!
ふふ、単独行動はとんだデンジャラスだぜ……難易度ベリーハードでスキュアリー。
ショックで自分でも何言ってんのか全然わかんね。これは泣いても良いかもわからんねw
シャナも涙目コースだが、これは放送を聞いた姫路さんとみのりん、そんで某SOS団特派員はどうなるのか。
特にバカテス勢はキノ大フィーバー事件のこともあって、放送の際の影響力は更に激しいだろうし……。
いやはやマジどんだけですかwwwww腐れ外道の所業だろwwwwww本当にGJ!wwwwwwwww


で。
専用武器なのは良いが、それをゲットしたならゲットしたなりのリアクションが本文中で欲しい。
>>654の意見はそういう意味なのでは。>>657の言うとおり、あくまで状態表は「補助」だしね。
自分もそう思います。そして>>655に関しても焦ることは無かろうと思う次第。
仮に問題が起こってしまったらその際に「冷静に」対処すればよし。
自分の意見はこれだけです。
663創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 23:09:53 ID:KP/eg4S8
拾って喜んで立ち去った……とはあるけど、別になくても立ち去ってたのは同じだろうしな。
あってもなくても大差ない展開だから気になるのかも。
あんまリアクション直接書いても流れ悪いし、喜びのあまり今まで使ってた糸捨ててっちゃうとかか? やるとしたら。
664創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 01:00:02 ID:JcIP9LEP
シャナは作中で封絶内で戦う時に死体がゴロゴロ転がるから慣れがないってことはなかろう。
665創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 01:12:59 ID:5qsDUmhU
最近、予約スレを見るのが楽しみになってきたw
666 ◆olM0sKt.GA :2009/09/28(月) 17:10:37 ID:BSp34wTS
みなさん、感想&指摘ありがとうございます。

承知いたしました。一姫のパートを追加し、1,2日中に投下いたします。
667創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 18:22:54 ID:wQ0lo03b
あーん!秀吉が死んだ!
ガウルン×秀吉本&秀吉F.Cつくろー!って思ってたのに…
くすん…美形薄命だ…

・゚・(ノД`)・゚・うっうっう…ひどいよお…ふえーん!!
この間「今、時代は性別:秀吉だ!」の書き込みをしてまだ2週間じゃないですか!
どーして、どーして!?あれで終わり!?嘘でしょ!?
信じられないよおっあんな姫ちゃんごときに殺られるなんてっ!!
キョンと差がありすぎるわっ!!生き還りますよね?ね?ね?
……泣いてやるぅ・゚・(ノД`)・゚・

私はあのおそろしくかわいい彼(?)が(たとえ性別:秀吉でもさ!ヘン!)大好きだったんですよっ!!
秀吉ぃっ!死んじゃ嫌だああああああっ!!
◆olM0sKt.GA先生のカバッ!!え〜ん・゚・(ノД`)・゚・
668創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 18:44:57 ID:+PUf4FNu
スト様wwwwwwwwww
669創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 20:07:59 ID:2pUCxVLz
ネタっぽいキャラ一気に死んだなー。
もうこうなったらあいつとあいつとあいつに全てを託すしか無いんだろうか
670 ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 20:58:47 ID:X2e3miWP
予約延長していた9名分、投下します。
671『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 20:59:57 ID:X2e3miWP

「――そうだね、建物の様式などからはあまり絞り込めないね」
「改修が重ねられて年代も特定し難いしな」
「明治以降の神仏分離や国家統制で、強引に様式を統一されちゃった部分もあるしね」
「せいぜい素人目には、稲荷神社ではない、という判断がつくくらいか。狐の石像も連なった鳥居もないと」
「お稲荷さんじゃないけど、一応、有名な神社から祭神を勧請されてるっぽいね。
 でもそういう由来って捏造されたりもするし、後付で神さま持ってきたりもするし、あんまり決め手にはならないんだよ」

 ――明るみ始めた空の下、神社の境内。
 大きなケヤキの木の傍に、その男女はいた。
 男は長身で眼鏡、どこか日本の学校の夏服らしき、シンプルな制服に身を包んでいる。
 少女の方は小柄で、銀髪。純白の修道女らしき服を纏っているが、よく見ればその随所に大きな安全ピンが光っている。
 体格も服装も不釣合いな2人は、あたりの狛犬やら拝殿やらを、見るともなく見回している。

「ただね、神社と山との位置関係や鳥居の向きとかから、多少は推測もできるかも」
「ほほう」
「たぶん、最初はこの山自体が信仰の対象、御神体だったと思うんだ。分かりやすい山岳信仰の形だよね。
 ただ山頂じゃ祭祀を執り行うのに不便だし、でも街の中じゃ場所もないし、ってことでココに参拝の場を設けたんだろうね。
 ひょっとしたら、山頂のあたりにも簡単な奥宮、あるいは祠みたいなのがあるかも。
 信仰上ではそっちが本体、こっちは出張所みたいなもの。
 日本の神社ではよくある形なんだよ。里宮とか前宮とか言うんだけどね」
「詳しいものだな。だが言われて見れば、そういう位置関係にある神社は結構あるやもしれん。園原ではどうだったか」
「で、後付で他所の偉い神様を分霊して追加で祭ることになっても、神社そのものの位置はそう簡単には動かせないんだよ。
 だから、ココにこの神社が出来たのは相当昔のこと」
「つまり?」
「つまり、ここは日本だね。それも、北海道や沖縄は除外していいと思う」

 純白の少女・インデックスは断言する。
 珍しくも聞き役に回っている長身の男・水前寺は、黙って説明の続きを促す。

「神社という建物だけなら、北海道や沖縄、それに台湾や朝鮮半島とかにあってもいいんだけど。
 こういう風に、位置的に古い信仰の形を残した格好にはならないんだよ」
「ふむ。それに、どう見ても『使われている』神社だしな。
 つまり、本州・四国・九州のどこか、か。あまり絞り込めていないな」
「あるいは――そういった日本本土を模して作られた場所の可能性もあるね。
 作った人たちがそこまで山岳信仰に詳しくなくても、既にあるものを『そのまんま』模していたら同じことだから」
「……可能かね? これだけ大掛かりな会場だぞ?」
「ロシア成教では、心霊現象の解析・研究のために『現象管理縮小再現施設』っていうのを作っているんだよ。
 建物から小物からぜーんぶ再現して、今じゃ街が2つ3つ入る規模になってるんだって。
 つまりそれって、時間とお金はかかるけど、人間技で可能なことだよね。
 この会場も、それと同じかもしれないんだよ」
「なるほどな。……しかし、他の連中の話も聞いてみたいものだ。特に、あのメイド服姿の――」

 2人の視線が、境内の中にある1つの建物に向けられる。
 鳥居と拝殿を結ぶ参道から少し横手に逸れた所にある、小さな建物。僅かに俗っぽい生活感も匂う建物。
 普段はお守りやおみくじを売っているのであろう窓口をカーテンで閉ざした、社務所だった。
672『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:01:36 ID:X2e3miWP

   ◇


「――これは?」
「自然治癒力を高める自在式を織り込んであるのであります。それに痛みの緩和も少々。
 現時点でもだいぶ動きやすくなったはずでありますし、折れた肋骨もほどなくして繋がるでありましょう」
「本格治療」
「へぇ、便利な能力ね、その『自在法』とかって」

 ほんのりと明るい畳敷きの部屋の中、メイド服の女性は少女の肩に手を置き、淡々と自らの処置を解説した。
 対する少女は、半裸。
 その裸の胸には包帯のように、あるいはさらしのように白いリボンが巻きつけられている。
 少女はささやかなサイズのブラジャーを仕舞いこむと、脱ぎ捨てていた制服のシャツに袖を通した。

 神社の中の、社務所――境内に建てられた、小さな建物の中。
 メイド姿のヴィルヘルミナ・カルメルと、少女・御坂美琴は2人きりで傷の手当てをしていた。
 山道での遭遇の後、6人は紆余曲折の末、この神社まで降りて少し落ち着こう、ということになったのである。
 立ち話で済ませるには積もる話は多すぎたし、ほぼ等距離にあった天文台へは登り坂だ。
 誰からともなく、この神社で、とりあえず朝食でもしながら話を、という流れになっていた。

 ただ、食事と情報交換の前に、まずは怪我人の手当てが先だった。
 美琴の肋骨の骨折、確かに外見からは分かりづらいが、見る者が見れば分かる。
 呼吸のたびに痛むのは傍目に見てても辛いし、今後もしそこに打撃が加われば、折れた肋骨が肺を傷つける危険もある。
 早急な手当てが必要で――そして、ヴィルヘルミナの多彩な能力なら、それも可能だったというわけだ。

「ともかく、ありがとね」
「貴重な戦力でありますからな。平時であればともかく、今はゆっくり傷を癒して頂く間も惜しいゆえ」
「謝礼無用」
「……ヴィルヘルミナに、ティアマトーだっけ。それでも、ありがと」

 美琴は苦笑する。苦笑はしてしまうものの、しかし、この『2人』の飾らない率直さには嫌悪よりも共感を覚えていた。
 元通りきっちり制服を着直して、彼女は立ち上がる。

「ところで今更だけど、あの『殺人鬼』、外に放っておいて大丈夫かしら。特に他の3人」
「大丈夫……でありましょう。もとより殺意はなく、また戦闘狂ではあっても愚かではないようでありましたから。
 彼にとっても多くの情報を得られるこのチャンス、手放してまで逃走する恐れはないと思われるのであります」
673『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:04:08 ID:X2e3miWP

   ◇


「――そいつは、『曲絃糸』だな」
「きょくげんし?」

 鳥居の下。
 顔面に奇怪な刺青を刻んだ青年は、少女の話を聞いてすぐに即答した。
 地面にしゃがみこみ、土の上に文字を書いてみせる。

「『曲』がる『絃』の『糸』、あるは『曲』がる『絃』の『師』、って書いてな。
 扱う糸の方が『曲絃糸』、それを使う使い手のことを『曲絃師』、っつーんだ。
 摩擦力やら張力やらを利用して、人間の身体くらいなら簡単に切り刻むことができる。
 特に、滑車の要領で糸を引っ掛ける場所に事欠かない屋内じゃ、その多角的な攻撃はかーなり強くってな。
 ま、口で言うとキワモノっぽい技だがな、これでもけっこう昔からある戦闘技術らしいぜ」
「きょくげんし……ねぇ。ドイツ語だと何て言うのかしら」
「いや、ドイツにもあるかは知らねーけどよ。てかなんでドイツなんだ」

 顔面刺青・零崎人識は、そこで言葉を切って懐から『何か』を取り出し、立ち上がった。
 よくよく見れば、それはワイヤー。鋼の糸。
 話を聞いていた少女・島田美波を片手で制して下がらせると、何も無い虚空に向かってそれを振るう。
 ひうん、ひうん、と糸が空を切る。
 見えない敵を切り刻むかのように、鋼線が宙を斬る。

「たぶん……こんな感じだったんじゃねぇか?」
「そ、そう! そんな感じよ! もっと糸は細くて軽い感じだったけど!」
「やっぱりな。俺の場合、射程距離は3メートルを越えないし、そうなるとナイフとか使った方が早いんだけどよ。
 話聞く限り、その曲絃師はホンモノだ。そんなんと屋内でやりあうなんざ、俺でもできれば避けてー話だぜ」

 空中に手をかざすようにして鋼糸を回収しながら、零崎人識は不敵な笑みを浮かべる。
 まるで、今の弱気な発言が全部冗談だとでも言うように。
 美波には、その発言が虚勢か否かを判断することができない。どこからが本気でどこからが戯言か、分からない。

 路上での遭遇から、簡単な自己紹介をしつつ、神社まで6人揃って降りてきて――
 今ここで何をしているかと言うと、ヴィルヘルミナ・カルメルによる御坂美琴の手当てが終了するのを、待っていたのだった。
 そして水前寺とインデックスの2人は「軽くこの神社を見て回ってくる」と2人揃って小走りに走り去ってしまい。
 残された美波と人識は、話すともなく学校での出来事を話しながら、歩くともなくふらふらと鳥居の辺りまで来ていたのだった。

「さて……いーかげん、あいつらの手当ても終わる頃かな」
「あ、そろそろ戻らなきゃね」
「おう。そろそろ戻りな。んじゃな」
「んじゃねー。……って、ちょっと待ちなさい!」

 ごきっ。
 さりげなく片手を挙げて鳥居の外に出て行こうとした零崎人識の腕から、一瞬嫌な音が響く。
 咄嗟に彼の手を掴んだ美波が、反射的に関節を極めたのだ。
 どこか呆れたような、どこかうんざりした様子で、零崎人識は振り返る。

「おいおい、離してくれねーかなぁ。ってか、こいつぁ傑作だ。油断してたのは確かだけどよ」
「そんなことより、あんたドコ行く気よ!? たった1人で!!」
「ん〜、どこ行くかはまだ決めてねーんだけどな。さっき言った曲絃師がいるっぽい学校はやめよう、ってくらいで」

 青筋を立てて怒る美波に、人識は飄々と答える。
 答えながら、掴まれた方とは反対側の手を、ポケットに突っ込んで。

「まあただ、このままココにいると、面倒なことになりそうなんでな――
 あっちのメイドは好みのタイプだったから少し残念なんだけどよ」
674『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:05:49 ID:X2e3miWP

 ひうん、ひうん。
 美波の耳に、風を切る音が響く。思わず身が硬くなる。
 あの高須竜児を細切れにした音。今まさに零崎人識が演じて見せた音。
 曲弦糸。

「つーわけで、ここでサヨナラだ」

 あまりにアッサリした別れの言葉と共に、鋼線が宙を舞った。


   ◇


「――かははっ。それにしてもあいつら、殺人鬼に手綱つけて飼いならそうとはな。傑作な発想だぜ」

 昇り始めた朝日に照らされて、零崎人識は1人山を降りる。
 市街地に入ったところで、幹線道路から離れ、正面に見える城の天守閣の左側へと歩を進める。
 ちょうどお堀の北側を回って東側の市街地に向かうルートだ。

 人識は、しっかり聞いていたのだ――
 あの路上での戦いの終わり、ヴィルヘルミナや美琴たちの小声の会話を。
 何のために彼女たちの会話の最中、彼は手を出さなかったのか? 簡単だ。
 単に、聞き耳を立てていたのだ。
 目の前で露骨にヒソヒソ話をされて、気にならない人間がいるわけがない。殺人鬼だってそこは変わりない。
 そして全神経を耳に集中させていたからこそ、誰よりも早く接近するバギーの存在に気付けたのだ。
 種を明かせば、あまりに簡単な話。
 もちろん会話の全てを聞き取ることなどできなかったが、2、3の不穏な単語と彼女たちの表情を見れば、大筋は分かる。
 零崎人識に監視をつけ、手綱をつけ、『できるだけ被害が出ないようにする』――おおかた、そんなところだろう。

 この不穏な会話を耳にしていながら、人識がいままでのんびり留まっていた理由はたった1つ。
 ヴィルヘルミナが推測した通り、情報不足を補うためだった。
 せっかく他の人々と接触したのに、何も聞かずに別れてしまうのは勿体無い――だが。
 人識は島田美波から大雑把な話を聞いただけで、それで十分と判断した。
 まだまだ聞き出したい話はあったのだが、ここは逃げることが先決、と割り切ったのだ。

「鏡の向こうのアイツを探すのも、飽きてきちゃぁいるんだがなー。
 でも、だからって『家族』以外と長々とつるむ気もねーしなぁ」

 その『家族』ってのも、実際には随分と範囲が絞られるんだが。
 そんな風なことを口の中で呟いて、零崎人識はかははっ、と笑った。

 ぶらぶらと街を歩く殺人鬼を、昇る太陽が照らす。
 街の中、たった1人で、零崎人識は『放送』を聞いた。
675『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:07:49 ID:X2e3miWP

【C-3/市街地・堀の外側/1日目・朝】
【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:疲労(小) 背中に軽度のダメージ
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ8本@空の境界、
     七閃用鋼糸5/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
0:面倒なことになりそうだから、この場はすたこらさっさ。監視も手綱も真っ平御免だぜ。
1:城の北側を回って、城の東の方をぶらついてみる。(学校と神社、双方から離れる方向に進んでみる)
2:両儀式に興味。
3:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探す。飽きてきてはいるけど、とりあえず。
4:学校にいたという曲絃師(名前も容姿も聞いてない)とは、面倒なので会わずに済ませたい。

[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです

神社に居た面々とは、ほとんど情報交換をしていません。
学校に曲弦糸の使い手が居たことは聞きましたが、それ以上のことは突っ込んで聞いていません。

七閃用鋼糸を1本、消費しました。

676創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:10:02 ID:vyKwovA3
677創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:10:51 ID:vyKwovA3
678『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:10:59 ID:X2e3miWP

   ◇


 鳥居に鋼線で縛り付けられ、ご丁寧に猿轡まで噛まされていた島田美波は、さほどの間も置かずに発見され、解放された。
 その頃にはもう、零崎人識は街並みの中へと姿を消していた。
 インデックスと水前寺に支えられて悪態をつく美波の頭上に、『人類最悪』の『放送』が響き渡った。


   ◇


 島田美波が助けられた、そのほぼ同時刻。
 神社の反対側、拝殿の裏手で、ヴィルヘルミナと御坂美琴は疲れきった3人の少女を保護していた。
 御坂美琴の手当ても済み、姿の見えない島田美波と零崎人識を手分けして探そうとして、思いがけず見つけた3人組。
 アッシュブロンドの軍人風の少女。中学生くらいの制服姿の少女。
 そして――片手を失った小柄な少女は、精魂尽き果て気を失って、他の2人に介抱されているところだった。
 小柄とはいえ女の子1人。担いで運ぶのも難儀する。
 途方に暮れていた少女たちは、思いもかけぬヴィルヘルミナたちの登場に、警戒はしつつもホッとした表情を浮かべていた。

 聞けば彼女たち3人は、川を渡れる場所を探してこんな所まで登ってきてしまったとのこと。
 山道を歩き通すのは流石に疲労が激しく、近くにあった神社で休もうか、という話になって……
 ようやく神社が見えた、と思った矢先に先の放送だ。
 どうやら知り合いが呼ばれたらしい小柄な少女は、その場に崩れ落ち、気絶してしまったのだった。

 機関銃を相手に大立ち回りを演じた緊張感。延々山道を歩いてきたことの疲労。身体中に負った細かい傷。
 そして何より、片手を失った傷の痛みと、出血。
 少女自身も気付かぬうちに積もり積もった消耗は、いつしか限界近くまで彼女を追い詰めていて。
 そんな所に、先の放送だ。
 虚勢交じりの空元気を支えるモノが損なわれた途端、彼女は耐えきれず意識を失ってしまった――ということらしかった。
 ヴィルヘルミナが軽く見た限りでは、命に関わる状態ではない。少し寝て体力が回復すれば、自然と目を覚ますだろう。
 簡単な自己紹介を交えつつ、ヴィルヘルミナは彼女を抱え上げる。


   ◇
679創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:11:21 ID:wzO2uKTD
 
680創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:11:56 ID:vyKwovA3
681創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:12:01 ID:wzO2uKTD
 
682『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:12:14 ID:X2e3miWP

 ――かくして。
 いまや狭い社務所の中に、8人もの人々が集まっていた。
 6人から零崎人識が抜けて5人。そこに、さらに3人の追加。
 片手のない1人は、未だ気を失ったまま。何人もの手で畳の上に横たえられ、毛布代わりに何枚かのタオルをかけられて。

 そして始まったのは――なんとも騒がしい、無秩序な会話だった。

「おなかがすいたんだよ。そう言えばもう朝ごはんの時間なんだよ!」
「夜中にあれだけ食べておいて、もう、でありますか?」
「おお、須藤特派員っ!! 久しぶりだなぁっ!」
「ぶ、部長っ!? 部長……ほんとに部長なんですか?!」
「おれがおれ以外の何に見えると言うのだ。宇宙人に脳みそでも弄られたか? んんっ??」
「えーっと、テスタロッサさん、だっけ。私は御坂美琴。改めてよろしく」
「あ、はい。よろしくお願いしますね。あと、『テッサ』でいいですよ、御坂さん」
「……え? あの子が高須の言ってた逢坂大河? ホントに?!」
「発見した時には既に気絶していたのでありますが、テレサ・テスタロッサ、須藤晶穂の両名から確認を取ったのであります」
「ごはんを食べなきゃ元気も出ないんだよ! 栄養摂取は大事なんだよ!!」
「ねえヴィルヘルミナ、あの子の手、なんとかならない? 私のアバラみたいに、アンタのあのリボンで」
「難しいでありますな。切られた直後であればともかく、欠損したものを補うというのは流石に」
「ああ、それなら確か大河さん、義手を持ってたはずよ。ちょっと待ってね。……勝手に荷物漁っても、怒られないわよね?」
「おれが気になるのは、その手が失われた経緯だ。どうにも見覚えのある斬られ方のような気がしてな」
「わたしたちがここに来るまでに聞いた話では、顔面に派手な刺青のある、小柄な男性にワイヤーで切り落とされたとか」
「へー、顔面に刺青。そして小柄で曲絃糸。……それってまんま零崎じゃない! あったまきた! 今からでも追いかけて、」
「落ち着きたまえ島田特派員。その件は『今更追っても捕まるまい』ということで決着したはずだぞ。それに『曲絃糸』って何だ」
「そういえば部長、いつの間に特派員を増やしてるんですか? それも高校生なんて」
「ふむ。説明書を読んだ限りでは、義手の接続もなんとかなりそうでありますな。治癒の自在法と合わせればさらに効率的に、」
「その義手がアームスレイブと似たシステムの機械式だったなら、私もお役に立てたと思うんですが」
「新聞部ではない! SOS団だ! 『水前寺邦博と特派員諸氏が大手を振って帰還する為に総力を結集する団』だ!」
「はいはいはいはい。まったく、部長のネーミングセンスはどうしてこう……『電波新聞』もそうだったけど……」
「……誰も私の切実な訴えを聞こうとしてくれないんだよ。仕方ないから勝手にカップラーメン作って食べちゃうんだよ」
「あれ? 晶穂と同じ学校、ってことは……ええっ!? 水前寺アンタ、中学生だったのっ!? そのガタイで!?」
「おや、言わなかったか?」
「聞いてないわよっ! 普通、中学生が車の運転するなんて思わないわよっ!」
「でも、どのみち日本ではハイスクールの年齢だったとしても、自動車の運転免許は取れないはずじゃ……?」
「待つのでありますインデックス。冷たい水など注いでも仕方ないのであります。熱湯でなくては台無しなのであります」
「運転免許かー。そういや、さっきの放送で気になったんだけどさ。私たちの『世界』そのものが違うってことは、」
「むしろおれとしては島田特派員やそこで寝ている逢坂大河が年長者ということの方が信じがたいのだがな」
「ああ、確かに逢坂さんの年齢を聞いた時は正直驚きましたが……でも島田さんは別に……?」
「いや、特にそのまな板の如き胸のサイズとか……ぬおおっ! 両目が痛いっ!? まるで目突きでもされたよーに痛いっ!」
「完全に自業自得です、部長」
「『世界』が違うってことは、『学園都市』を零崎が知らなかったのも……って、ちょっとアンタたち、誰も聞いてないのっ?!」
「ううむ、一切の躊躇なく眼鏡の下の隙間から抉るように穿つとは。島田特派員おそるべし」
「ううっ、どうせテッサみたいな子には分からないわよ、ウチらの切実な悩みなんてっ……!」
「そ、そんなこと言われても……」
「ごーはーんー!」
「混沌極致」
683創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:12:20 ID:cxvJHhDC
 
684創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:12:50 ID:wzO2uKTD
 
685創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:12:52 ID:vyKwovA3
686『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:13:21 ID:X2e3miWP

 まとまりのない会話がとりとめもなく溢れる部屋の中、ただ1人、姿なき『紅世の王』が溜息のような声を漏らす。
 再会を喜び合うもの。自己紹介をするもの。断片的な経緯の説明をするもの。地図や名簿を広げて考察を開始するもの。
 寝息を立てる少女の様子を心配そうに窺うもの。空腹に耐えかね勝手に食事の準備をするもの。それを取り押さえるもの。
 まさに混沌、大混乱である。
 見るに見かねたのか、ヘッドドレス型の神器に意思を現す『紅世の王』ティアマトーが、己の契約者に向けて一声を放つ。

「自重要請」
「……はっ!? い、いけない、私ともあろうものが……猛省であります」
「要統制」
「確かにこの場は、私が仕切るしかないようでありますな……なれば……」

 どんっ。
 少し思案したヴィルヘルミナは、そして、インデックスから取り上げたカップラーメン入りの箱を、騒ぎの中心に放り込んだ。
 一瞬、皆の会話が止まる。
 その期を逃さず、メイド服の、外見年齢では最年長の彼女が少年少女に提案する。

「ここはひとまず、インデックスの提案を採って、皆で朝ごはんと致しましょう。
 そして食事でも致しながら、改めてこれまでの経緯などを語り合うべきでありましょう。
 重複する話もあるやもしれませんが、重要事項の聞き漏らしを避けるためにも、1人ずつ順番に語っていくべきであります」
「会食会談」


   ◇


 広い拝殿や本殿ではなく、狭い社務所に皆で集まっていたのは、そこにある程度の生活感があったからだ。
 社務所というのは、言ってみれば神社の「事務所」だ。直接的な祭事以外の全ての雑務を行う場所だ。
 建物としても、さほどの決まり事はない。神社の境内にあって違和感がなければ、それで構わないわけだ。

 そんな実務的な建物だから、必要最低限のものはしっかり揃っている。ちょっとした事務所にあるものは全て揃っている。
 片隅には流し台もあり、水道もあり、ガスコンロもある。ヤカンもあったから、お湯も沸かせる。
 咀嚼している間は他人の発言にツッコミを入れる余裕もないし、腹が膨れれば多少は冷静にもなる。
 ようやく頭を軍人モードに切り替えたテレサ・テスタロッサが、作戦会議の要領で話を整理していったのも大きかった。
 皆で輪になってカップラーメンを啜りながら、寝ている逢坂大河を除く7人、改めて自己紹介からやり直す。

「ヴィルヘルミナ・カルメル、インデックス、御坂美琴、島田美波、テレサ・テスタロッサ、逢坂大河、須藤晶穂。
 そしてこのおれ、水前寺邦博。以上8名か。ティアマトーも数に入れれば、実に総勢9名。
 我がSOS団も規模が大きくなったものだな」
「いつ誰がアンタの部下になったってのよ」

 次いで、それぞれのここまでの経緯。
 インデックスとヴィルヘルミナの出会いから、ホテルで少し休み、ここに至るまで。
 御坂美琴と零崎人識の出会い、ガウルンとの一戦、会話、そしてここに至るまで。
 島田美波と水前寺邦博の出会い、学校での死闘、そしてここに至るまで。
 須藤晶穂と逢坂大河の出会い、浅羽との戦い、そしてテッサとの出会いまで。
 テッサはテッサで、晶穂や大河と出会う前、出会い頭に「KILL YOU!」と叫んだ少年との出会いも余すことなく語った。

「……性格といい容姿といい、どうやら間違いなく私たちの知る『ガウルン』のようですね」
「死んだはず・討滅されたはず、と言えば、我々が遭遇したフリアグネもそうなのであります」
「浅羽特派員が須藤特派員もろとも、そんなことを、な……。まったく、あいつは……!」
「ねえテッサ。その男の子について、もう少し詳しく教えてくれない?」
「ええと、その、あんまり特徴はなくって……強いて言えば、悪口になってしまいますが『バカっぽかった』、としか……」
「バカっぽい……他には?」
「他には……『とってもバカっぽかった』くらいで……すいません、お役に立てなくて」
「アキね。吉井明久。間違いないわ。それだけ確固たる証拠が揃ってたら他にはありえないわ。まったく何考えてんだか」
「ちょ、ちょっと島田さん、本当にそれだけで分かっちゃうの!?」
687創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:14:02 ID:vyKwovA3
688創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:14:51 ID:iaBhcoxI
 
689創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:14:56 ID:cxvJHhDC
  
690『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:15:02 ID:X2e3miWP

 そして――これが最も肝心なポイント。
 互いの常識のズレのこと、互いの知人の名前、知人との大雑把な関係について。
 『人類最悪』が示唆した、『複数の異なる世界』について。
 話がそこに至った時、ふと思いついてインデックスが口を挟む。

「『世界』が違う、って言い方すると、ヴィルヘルミナの言う『紅世』と『人間の世界』の話と用語が被っちゃうんだよ」
「なるほど。確かにあの放送の中では、『紅世』と『人の世』とを合わせて1つの『世界』、とみなしているでありましょう」
「用語混乱」
「では、とりあえずこの場はあの『人類最悪』の言葉を借りて、『個々の常識の範囲』を『物語』とでも称することにしようか。
 現時点で我々には、最低でも6つ、おそらくは8つ、あるいはそれ以上の『物語』があることが分かっている。
 それぞれの『物語』に、複数の参加者が所属していることも分かっている」
「うわ、水前寺が真面目……」
「何か文句あるのかね、島田特派員?」
「いや、まあ……いいわよ、さっさと先進めましょ」


 まず第一の『物語』――『学園都市のある物語』。
 東京の西半分に能力開発を行う巨大な『学園都市』が鎮座し、また、世界中の教会に魔術師が所属する『物語』だ。
 ここに属するのは、インデックス、御坂美琴、上条当麻、白井黒子、ステイル=マグヌス、土御門元春。
 全て御坂美琴、あるいはインデックスの知り合いである。

「黒子は後輩よ。本人がいる前じゃ言えないけど、こういう場では信頼できる子わ。……ちょっと性癖がアレだけど」
「ステイルと土御門は、『必要悪の教会』の関係者なんだよ。何度かその関係で会ってるんだよ」
「全ての異能を打ち消す『幻想殺し』、でありますか……上条当麻という人物、ぜひとも接触しておきたいのであります」


 第二の『物語』――『ミスリルとアマルガムの物語』。
 ソビエト連邦が未だ健在な世界を、AS(アームスレイブ)という巨大な人型兵器が闊歩する『物語』。
 ここに属するのは、テレサ・テスタロッサ、相良宗介、千鳥かなめ、クルツ・ウェーバー、ガウルン。
 そして故人として名前の挙げられた、メリッサ・マオ。
 かなめは微妙な立場ではあるが、そのほとんどがミスリルの関係者。ガウルンだけは敵であるアマルガム側の人間である。

「本来であればミスリルの存在もアマルガムの名前も秘中の秘なんですが……いまさらそんなこと言っても仕方ないですしね」
「巨大ロボットに超巨大潜水艦、ね……こっちの『学園都市』のテクノロジーと、どっちが上なのかしら」
「それから、メリッサは私の優秀な部下であり、超一級の兵士です。ASの操縦のみならず、白兵戦などにも長けています。
 彼女が殺されたなんて、今でも信じられません……まさかメリッサだって、この状況なら十分に警戒していたでしょうから」


 第三の『物語』――『園原中学校新聞部の物語』。
 『北』との緊張続く情勢下、基地の街・園原で日々を過ごす新聞部の部員たちの『物語』だ。
 ここに属するのは、水前寺邦博、須藤晶穂、浅羽直之、伊里野加奈。
 全て、園原中学校の非公認クラブ・新聞部のメンバーである。
 また故人ではあるが、名簿に「榎本」とのみ書かれていた人物もここに属する可能性が高い。

「おれの聞いた話では、伊里野特派員の『自衛軍にいる兄貴のような人物』の名が、確か『榎本』と言ったはずだ。
 そう珍しい苗字でもないし、下の名前は知らないし書いてないし、同姓の別人かもしれんのだが」
「兄妹で名前が違うの? なんで?」
「よく分からん。家族構成もそうだが、どうにも伊里野特派員には謎が多いのだ」
691創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:15:18 ID:vyKwovA3
692創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:15:38 ID:iaBhcoxI
 
693『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:15:55 ID:X2e3miWP

 第四の『物語』――『フレイムヘイズと紅世の徒の物語』。
 歩いていけない隣・『紅世』から来た『紅世の徒』と、それを討滅する『フレイムヘイズ』の果てしなき戦いの『物語』だ。
 ここに属するのは、ヴィルヘルミナ・カルメル、シャナ、坂井悠二、フリアグネ。
 そして故人として名を呼ばれた、吉田一美。
 シャナとヴィルヘルミナはフレイムヘイズ。坂井悠二はミステスという存在だが、フレイムヘイズ側に属する。
 フリアグネは、そのフレイムヘイズたちが討滅の対象とする『紅世の徒』、その中でも強力な部類に入る『紅世の王』の1人だ。

「ちなみに、吉田一美は『紅世』の存在を知っているだけの『ただの人間』、だったはずなのであります。
 同じ『物語』の中では、最も生存が困難だろうとは思われていたのでありますが……やはりこの訃報は堪えるのであります」
「黙祷」


 第五の『物語』――『文月学園と試召戦争の物語』。
 科学とオカルトと偶然によってシステム化された『召喚獣』、それを使ってクラス間戦争を行う文月学園の『物語』だ。
 ここに属するのは、島田美波、吉井明久、姫路瑞希。
 全てFクラスで机、いや卓袱台を並べるクラスメイトであり、親友であり、戦友である。

「支給品にあったこの『ルールの覚え書き』の『物語』なんだね。召喚獣を呼び出す原理にはちょっと興味があるかも」
「ふむ。どうもこの島田特派員の『物語』だけ、妙に人数が少ない感じだな」
「そうねぇ。ウチもそうだったけど、ひょっとしたら、他にも誰か『名前の伏せられた10人』の中に入ってるのかもね。
 アキと瑞希とウチだけじゃちょっと不安だし、こーゆー時には坂本とかがいて仕切ってくれると嬉しいんだけど……あ。
 …………ま、まさかとは思うけど、美春は居ないわよね…………?? 大丈夫よね……?!」


 第六の『物語』――『逢坂大河と高須竜児たちの物語(仮称)』。
 この『物語』は当事者である大河が絶賛気絶中なので、大したことは分かっていない。
 無理に叩き起こせば話を聞くこともできたのだろうが、この場にいる全員が「そこまでする必要はない」と遠慮した。
 だが、テッサと晶穂が道中で話を聞いた限りの印象では、ある意味とても平和で平凡な学生生活を送っていたようだ。
 『学園都市』もない。ASもない。『北』との戦争もない。『試召戦争』もない。
 ここに属するのは、推測も混じるが、高須竜児、逢坂大河、櫛枝実乃梨、川嶋亜美、そしてたぶん、北村祐作。
 この5名の間の関係も詳しいことは分からない。どうやら、同じクラスのクラスメイトであるようなのだが。

「大河さんが気を失う寸前、放送の直後、呆然とした様子でこう呟いてたのよ。『竜児……? 北村くん……?』って。
 たぶん、名簿に載ってなかった『北村』って人も知り合いなんだと思う。元の『物語』での、ね」
「高須は、3人の女の子を命を捨ててでも守るつもりだったみたいよ。たぶん、すごい親しい関係なんじゃないかな」


 残る2つは、第六の物語以上に推測に拠って立つものとなる。
 それぞれが独立した『物語』であるという確証もない。
 ひょっとしたら次に挙げる2つは同一、あるいは既に挙げたどれかと同一の『物語』なのかもしれない。
 それでもここでは暫定的に、別々の物語とみなしてリストアップしておくことになった。
694創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:16:48 ID:wzO2uKTD
 
695創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:17:19 ID:vyKwovA3
696『物語』の欠片集めて(前編) ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:17:44 ID:X2e3miWP

 第七の『物語』――『殺人鬼のいる物語(仮称)』。
 ここに属するのは、零崎人識、紫木一姫。
 どちらも最大級の危険人物だ。『曲絃糸』などという殺人技術が普通に存在する『物語』の住人たちなのである。
 また、名簿上の名前は分からないが他にも2名、ここに属しているらしいことが分かっている。
 情報が少な過ぎてロクに推測すらできないが、なにしろ「あの」零崎人識の知り合いだ。どちらも警戒しておくべきだろう。

「零崎は去り際に、とりあえずは『欠陥製品』と『死線の蒼』、って人を探すみたいなこと言ってたわ。
 どっちもあだ名なんだろうけど、名簿では別の名前で載ってるんだろうけど……気になるわ」
「私の『超電磁砲』みたいなものかしら? ともあれ、その通り名だけでも思いっきり不穏な気配があるわね」


 第八の『物語』――『涼宮ハルヒのいる物語(仮称)』。
 ここに属すると分かっているのは僅かに2名、古泉一樹と涼宮ハルヒのみ。
 古泉一樹は殺し合いに積極的なようだったが、しかし、涼宮ハルヒについてはほとんど情報がない。

「超能力者……ねぇ。その話だけだと、その古泉って人、とても『超能力(レベル5)』に届いてるとは思えないわね。
 能力の種類は絞りきれないけど、高く見積もっても『大能力(レベル4)』、たぶんせいぜい『強能力(レベル3)』程度……。
 こんな状況で『レベル5』を詐称してもあんま意味あるとは思えないし、『学園都市』の外に能力者がいるとも思えないし。
 たぶん、私たちの『物語』とはまた違う『物語』なんでしょうね」
「涼宮ハルヒ、というのが何者なのかも気になるのであります。
 『皆が揃って助かるかもしれない方法』とは、一体……? 優秀な自在師の如き者なのでありましょうか?」


 以上、8つの『物語』。
 それぞれに拠って立つ常識、『人類最悪』の言葉を借りれば『文法』が異なっている。

 他にも独立した『物語』はあることだろう。
 例えば、『人類最悪』が口にした『忍法』とやらが存在する『物語』は、この8つの内にはない。
 ひょっとしたら第七・第八の『物語』にはあるのかもしれないが、ここは第九の『物語』を想定しておいた方がいいだろう。

「うむ、これだけ異なる『物語』があれば、1つくらいUFOやエイリアンが実在する『物語』があってもおかしくないな。楽しみだ」
「もし万が一宇宙人が参加者に紛れ込んでて怪光線でも撃ってきたりしたら、全部部長に押し付けて私たち逃げますからね」


   ◇


697創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:17:58 ID:iaBhcoxI
 
698創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:18:31 ID:cxvJHhDC
    
699 ◆02i16H59NY :2009/09/28(月) 21:18:42 ID:X2e3miWP
すいません、スレの残り容量を失念していました。
ちょうど前編終了なので、ここで新スレを立て、後編は次スレに投下することにします。
しばらくお待ちください。
700創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 21:23:07 ID:X2e3miWP
新スレ立てました。

ラノロワ・オルタレイション part6
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1254140541/l50

テンプレ投下後、再開します
701創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:45:59 ID:lbohCS5E
ところでこちらは残り少ないけど雑談に使う?

それにしても放送直後でもう7人も死んだな
これで死者17人か ハイペースだな
702創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 22:49:48 ID:2pUCxVLz
今まで通りゆっくりじっくり書いても良いと思うんだがな
703創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 23:34:33 ID:oTCJ35sB
スロークイックスロークイックなんじゃね?w
704創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 23:50:02 ID:q2s3l8S5
死亡者AA投下
3分間隔くらいで投下します



.       ///
      .ノ' /                             .
.       / /      .                         }
      / イ    i !斗 l 「!{       フ7lト li
     ′ | i l  ´il l l |Ul从       / //l| l|`l 、     /
.      {   | | |{  i|Nィf干云ミ、丶. __/ ィf;云干ミjxj |   i⌒V
.       . _乂八 |l 卦 f_刈        {_,刈  }形;|   |' }|
       \/  Y! 弐_弋ツ       弋'ツ_,ノ弄'j  |} 八
        ´ \   } l|´^'宀冖’       ‘冖宀'^~//,   |イ
             / 八 .:.:.:.:.:.:.   }     .:.:.:.:.:.:.ノイ ′ ト、 |
         / /∧丶._    ヽ       ´ |.   | ヽi|
           / // l     r v'^v 、       |U  |  l\
.          / //, U l |丶. | |  l ト   . イl |U  |  |
         / ///   l  l |  | | | | 「    //l |U  |  |

705創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 23:53:16 ID:q2s3l8S5
土屋康太……のAAが無いため、朝比奈さんのエロAAをお楽しみください


















                  /
   ,. ァ':. ̄ ̄`ヽ、      /    へ          へ|\ へ     √ ̄|        へ
 /:./:.:.:.:∧:.:.:.:.:.:.:.:.:\    l    ( レ⌒)  |\   ( |\)| |/~|  ノ ,__√    /7 ∠、 \ .  丶\      _ __
/:.:.:.l:.:.:.:.:/ ヽ:.ト:.:.:.:l:.:l:.l   l |\_/  /へ_ \)   | |   | |∠  | |__   | /   !  |     | |_〜、  レ' レ'
:.:.:.:.:V:.:./--  --ヽ|:.l:.}   l \_./| |/   \     .| |( ̄  _) |     )  | |    i  |  へ_,/    ノ   ,へ
:.:.:.:rXV --   ‐‐ レ:N    l   /  / ̄~ヽ ヽ.   | | フ  ヽ、 ノ √| |   ! レノ  |  !. \_  ー ̄_,ー~'  )
:.:.:.l /:.|    |   |:.|   <  / /| |   | |   | |( ノ| |`、) i ノ  | |   \_ノ  ノ /    フ ! (~~_,,,,/ノ/
:.:.:.ヽi:.:.l       l:.:},    l  | |  | |   / /    | | .  し'  ノ ノ   | |       / /     | |   ̄
:.:.:.:.:l:.:.:l   ‐‐   /:.:.l:',   l  \\ノ |  / /      | |___∠-".   | |      ノ /       ノ |  /(
:.:.:.:.:l:.:.:|ヽ、 _ /:|:.:.l:.:.',   l   \_ノ_/ /     (____)     し'      ノ/      / /  | 〜-,,,__
:.:.:.:.:.l:.:ト,   ト、:.:.:.:|:.:l:.:.:.:l   ヽ     ∠-''~                        ノ/         (_ノ   〜ー、、__)
:.:.-'´.V ヽニニ| `T:.V:.:.:.:.:.l    ヽ、
706創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 23:56:17 ID:q2s3l8S5
: : : : : : : \ _,
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: :/ : : : : : : ヽ\        、- 、
/: : : : : : :/: :/i ヽ -‐== 、ヽ:::ヽ       ヾ:、 ___,
: : `丶/: :/= ! i |  /:::::::::::::::_. ┴ ニ:::: ̄::`::::::<
: // /ヽ/ ! : : l: |:レ'/ ̄ ̄ソ::::::/:::::::::/::::::::::::、:::::::\
/ ャ=-レ、ハl: : :/ :l |/    /:::::::/:::::::::/::::::::::::;:::::::}:::::::::::::..
    /  /:// :/jハ    /::__ノ:::::::::/:/\/ }:::/ヽ:::::i::::::::ヽ
 、  ′ /イ//|:::::::ヽ-‐'7::;:`7:::::::::::/:::/:::\//   j,.イ:::::::i::|`
ヽヽ´  {    l:::::::::{  {::::':;::::::::::::'//ィァ 、/`¨ '"V::l:::::ハ|
      〉ヽ.__ノノ_,ィヽ_ハ ヽ, --{::::::{ {、 r'|   ん'}レ'|::/
u  _  / `7ー'7\   }ハ  { ヽハ::::l 乂り   rリノ{:::lイ
  ´ , ′  ヽ:::::`ヽ.\/ハ }ヽヽ.  ヽ| "'"   ," }/リ
` ー      _ ,ゝ、::::、ヽノ jノ \ ーr'  u       ノ'´
 ̄ヽ    〈 V_,/ } ) }/`}   /ヾ. 丶    '/ i>く,_
   l    '.  `ヽj=く/ /  ,ノ、  ` ー<`ニア / /_.ゝつ
   |      ヽ.       Y  / _. ゝ 、  /-}ト、\ ´ く/
   ト、       }   ; ,ノ / / ` ー-\{ー〈ハ`; \   `:、
/  ∧    ,′   l  / /       }|::::::∨ | /`  }
 /   ヽ  /     l / /    _ __ト;::::::::ヽ l、/    ,′
   / 〉 /      l ; 〈           ヽ::::::/ r7   /
ー ´  / /       l l 、ヽ         \),/   /
  /、 , ′    ′   \ヽ       _. く´ , ′   /
 ̄   V      / /     `{    /  /     /
      ヽ      / /   /  ヽ /、        /
      `   / /   /     ー‐ ヘ      /
ヽ        / /   /    /  / /\   /
  \    / ノ   /  、  /  / /  | ` ´
   \ /  ヽ   {    \!__ イノ   {
     `    イハ ノ     / _ノ_}_. -┴―:::::::::: ̄ ̄ ̄
        ,{:.:.:ヽ >-‐   ̄::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
      /-‐ ´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

吉井明久&島田美波(は死んでねぇよ)
707創る名無しに見る名無し:2009/09/28(月) 23:59:18 ID:q2s3l8S5
                                           /!
                r_y'ニユ __                     / : :|    ./:
       ,. -- 、   f>:´_:_:_/´、 ―-、`丶、    /!      /: : : : :!  /: : :
.     /    \f/:/´      \::.. \  ヽ-、./ : :|    /: : : : : : :l/: : : : :
   /       f/:/ / /_/\ 、  ヽ::::.. l  .l/: : : : :!  ./: : : : : : : : : : : : : : : :
  /    /  .::::::ヽ!::l_ | .! ,|≧、ヽl\:lz⊂ニ/ : : : : : : !/: : : : : : : : : : : : : : : : : :
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  /   /   :::::|:::::::::||::: ヘ!` 、` ー' .イ: ',::::::::::::::,. --、| |/_T′   |/
/   /   ::::_|:_:_:_:|ヽ::::.. ヽー-、_T´  !:::. ヘ.⌒/   `TY´ ヽ    冫
.    /     /    ̄ハ::::!、 |、:_:_n:_}<ヽ::::.. ヽ      /|〈      ,. '´
   /  _/-―      〉l/ | |  ノHヽ、L_ヽ:|ヽ|        | j ,.  '´
.  /  f´           〉 _」ノ≦、  __≧=r‐-、 /     | }'´
 /   ノ⌒ヽ      l  f´      `ヾ !  ` ̄ ヽ. __ノヾ!
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 l /`ヽ.__丶._    j'´::',::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::}:::l::::::::,|::|
ヽ!/    >、}--‐ 'ヽ.__ヽ、::::::::::::::::::,__、:::::::::::::::::::,.イ::/!:::::/j;/
. /   /   r‐- 、  ヽ::::::l` ー一'´|  l`ーr一'´ /' j/
〈    ヽ.    !:::::::::::\__|:::::!: : : : Oヽ,.イO::!‐┐
 ヽ.   ヽ  /::::::::::\::ノ::::::l : : : Oィ´ヽO/::::/
   \ r-ヘ/:::::::::r‐f´::. `丶!: : : : :/   !:/ィ:/

朝比奈みくる
708創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 00:02:18 ID:fDjn8uXf
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           |::::::::::>ヽ -‐==-‐-   / / ∧ー、::::::::i
            |::::::r┤iヾ  -‐--   // / ハ トn-
           _厶イ /ヽヾ 、   _/ /, ' | V|
         ´ / / ハ  \\ ̄   //    |彡!=!
          /彡王j   \\ //      イ彡三

薬師寺天膳
最期くらいは普通のAAで
709創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 00:05:21 ID:fDjn8uXf
          _  j   Y    /     .∠_    |     |
        rイ Y.. -丶── ‐- く   )    |     |
      /⌒Y /:.:.:.:.:.::.:.:.:.:.::.:.:.:.::.:.::.:.:.:.\´ー┐  |     |
      ,エ /.::.:.:.:._>:ハ:ノ"´  ̄`'ミ:.:.::.ヽ イ  |     |
      /  V:.:彡'´             ヾ .:.::|. (  |    |
     _>Y:.:./              }:.:.:.| .〉  |     |
      |  !/ハ          -===- . ミ:.:.!/:|  _|    |
      L_ノ|:.:.く  ,..=-        _    ゞj.: ! !ヽ!      |
     〈  i:.:.:.( /   _     'ィ≡ ミ   rこY!j  \   |
       下:Y:./  ォ≡ミ          /// ) ム.:\  \  @
       |.:..|彡 〃       i        rゥイ: : : : : |ヽ  \_ト、
       |:.:f⌒ヽ ///   _ .  --┐    ! |人: : : : :.|:.:.\   ノ
       | 人(:.ハ     X   |    ! | ノ:): : : : : : : :`ー{
       |:.:.:.:ハーへ.     ヽ _ノ  .イ| `ー 、: : : : : : : : :.:|
      ノ |:/|.:.:.:.:::::: > _       イ、 |:|    ): : : : : : : : :.|
      ,.イ^!-:!:.:.:|:.:.:.:.::.:.:.: 下   ̄ ノ  Y!/ イ:.: : : : : : : : :/
    /   ヽ ヽ:.トヾ人/∨ノ ><     !'  /: : : : : : : : : : :人
   {___       \r‐Y __/ L._ノ|\.イ  {: : : : : : : : :.:/:.:.:.:ヽ
     丁 ̄ `   | |´:/ /|: :トト.、_\ ___ヽァ一、: :.イ::.:.::.::.:.: |
     f´ ̄     | |ノ イ i: |ト、 ¨∧      }: :..|/ ::.:. _ノ
    |          ! !`´:..||: ||: `イ }     ノ: :/:.:.r一'ノ
    人 __ ..-   ! !: : :ノ|: |├ -く_ノ  /: : : :!:../|/
   /: : : : :. ノ    人|: : Vー ヽ!─ -|  イ: : : : : :!/:.:ヽ

土御門元春……のAAが無いため、代理の土御門舞夏
710創る名無しに見る名無し:2009/09/29(火) 00:08:03 ID:fDjn8uXf
             _, -――- .._    _
          , '   . : : : : : : : : : : `<   \
     ,-、 ノヽ/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : \__ ∧
     }/  ̄ ミ/ヽ: : : / : : : : : : : :ヽ: : : : : :.ヽ{  |
.   /      {_ノ: : :/.: :/ : : : : : : : :.\: : : : :∨ l
   }      /ヽ : : /: :/: : :ハ:.:l: : : : :|:l\/: : :',/
   |l    /ヽノ.: .:i: : l\/  }: |: : : : :lノ‐-ヽ: : :| ̄ `ヽ
   廴 __,/´(:. : : .:l: : |: :.| -‐ヽl : : .: :|    l: : :iー<´
   /ノl⌒.: .:. .:.|: : ヽ/    _\{ヽノ,ィ示ヾ:.|.:|\, 〉
  く ./,イ |l : : : : : |l : : :|,ィf芹ミ、    ヒ::リi :リ.:|  )/
   )/ '/: : : : : :|: : : {{ ヒ:::リ      ""ムイ:.:|
  <_/ / |l.: : : : : :.|\: : :\ ""   ,` ,イ.:.:| : |
      ⌒'l: : : :/V丶: :.ヽ: : :.>‐-  _ イ/|.: :| : |
        Vi.:.:{   \: :\:. :.\::::/:::::',从}ル′
        \ハ    ト-...< ̄/::::::::::::i /
       r-―'∧    ',:::::::,X_> :::::::::::/ /
        }::::::::::::ハ     ::/::::::::::::::::/ / ヽ
     _r'¨i...:::/:::::ハ,   i::::::::::::::::/  /、  \
  ,ィ≦彡! ヽ....::::::/::::',   廴_:::/   ,′ `ヽ  \
 /   }il \ \ _ _ i   ∨/    / _,-===―- _、
 !    |   \_Z   |    !_,'    / \.:::/      `ヽ
 i   l       \   l    | l   / ̄/ ∨        i
 ヽ   \         ̄\._ /,r‐--{  /   ヽ_  ____ノ
.   \   `¨ヽ.   /\  ヽ{     /-――-'
.    \     \/ヽ:::::\/ 、  、_>-ーュ
 ̄  ̄¨  >      )::/  ヽ  \   ー} 
           `ヽ          ',  } __つ
、          \        }_}_ノ

木下秀吉



ラノロワ・オルタレイション part6
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1254140541/l50
711創る名無しに見る名無し
              ..-  .
            /. . : : : : : :`: . 、
          / : :,: :、: \: :ヽ: :,: .\
         '@:/: :i:|\厶: :∨ : : : ヽ
         .: :W.: :从´ 丶V. :. : : : : : :.
.        i.: :|{.ヽ/' ィ'弐}|: :ト、: : : : j:|
.        |: :ハ._,,   '''|: :レ': : :i:|:从
.        |:/.: :{'' ′_  , |: i|:i : j从'^ `
        八: :i 〕iァ== 个:|: リjL〔 ′`
           ヽ|:リ广ア¨´ :レ'    ヽ
          / j/廴__ ノ{    
            / /      :. ヘ    :.
.           / .′     \∧   :,
          / j          /     ',
.          ' 厶 ====ミ:、 /    〉  〉
           /       `V   /  /
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容量、2KB足りなかったか……引き続き秀吉でお楽しみください