ロリショタバトルロワイアル24

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1創る名無しに見る名無し
本性を晒け出せ!
衝動をぶち撒けろ!
欲望を解き放て!
情熱を、燃やせ!



ここは真性の漢共(女性可)が集まり、
ジャンルを問わないロリショタキャラでバトルロワイアルを行う、
あまりにもCOOLなスレです。
紳士淑女の心を忘れず冷静に逝きましょう。

前スレ
ロリショタバトルロワイアル23
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230413656/

テンプレ、過去ログは>>2-5辺に
ロリショタロワ避難所(したらば)
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12693/
LSロワお絵描き掲示板
ttp://oekaki2.basso.to/user11/hisou/
LSロワお絵かき掲示板2
ttp://bbs2.oebit.jp/LoliSyotaRowa/
まとめwiki
ttp://www25.atwiki.jp/loli-syota-rowa
2創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:18:15 ID:lSvAgYo/
過去スレ
ロリショタバトルロワイアル22
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1226936035/
ロリショタバトルロワイアル21
http://schiphol.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1219236331/
ロリショタバトルロワイアル20
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1214751824/
ロリショタバトルロワイアル19
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1211637231/
ロリショタバトルロワイアル18
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1207291360/
ロリショタバトルロワイアル17
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1201435693/
ロリショタバトルロワイアル16
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1197816204/
ロリショタバトルロワイアル15
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1195789761/
ロリショタバトルロワイアル14
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1192364080/
ロリショタバトルロワイアル13
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1187884192/
ロリショタバトルロワイアル12
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1183849166/
ロリショタバトルロワイアル11
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1179760274/
ロリショタバトルロワイアル10
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1177507709/
ロリショタバトルロワイアル9
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1175607059/
ロリショタバトルロワイアル8
http://human7.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1174298614/
ロリショタバトルロワイアル7
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1173267370/
ロリショタバトルロワイアル6
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1171953607/
ロリショタバトルロワイアル5
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1170746599/
ロリショタバトルロワイヤル4
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1169810359/
ロリショタバトルロワイアル3
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1169293272/
ロリショタバトルロワイアル2
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1168265134/
ロリショタバトルロワイアルをやれるか話し合うスレ
http://human6.2ch.net/test/read.cgi/subcal/1167045572/
3創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:19:21 ID:lSvAgYo/
〜参加者一覧[作品別]〜
【魔法少女リリカルなのは】高町なのは/フェイト・テスタロッサ/ヴィータ/八神はやて/アリサ・バニングス
【ローゼンメイデン】真紅/翠星石/蒼星石/雛苺/金糸雀
【魔法陣グルグル】ニケ/ククリ/ジュジュ・クー・シュナムル/トマ
【ポケットモンスターSPECIAL】レッド/グリーン/ブルー/イエロー・デ・トキワグローブ
【デジモンアドベンチャー】八神太一/泉光子郎/太刀川ミミ/城戸丈
【ドラえもん】野比のび太/剛田武/リルル
【魔法先生ネギま!】ネギ・スプリングフィールド/エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル/犬上小太郎
【絶対可憐チルドレン】明石薫/三宮紫穂/野上葵
【落第忍者乱太郎】猪名寺乱太郎/摂津のきり丸/福富しんべヱ
【名探偵コナン】江戸川コナン/灰原哀
【BLACKLAGOON】ヘンゼル/グレーテル
【クレヨンしんちゃん】野原しんのすけ/野原ひまわり
【ドラゴンクエストX】レックス(主人公の息子)/タバサ(主人公の娘)
【DEATH NOTE】メロ/ニア
【メルティブラッド】白レン/レン
【ちびまる子ちゃん】藤木茂/永沢君男
【カードキャプターさくら】木之本桜/李小狼
【テイルズオブシンフォニア】ジーニアス・セイジ/プレセア・コンバティール
【HUNTER×HUNTER】キルア/ゴン
【東方Project】レミリア・スカーレット/フランドール・スカーレット
【吉永さんちのガーゴイル】吉永双葉/梨々=ハミルトン
【ヴァンパイアセイヴァー】リリス
【MOTHER】ネス
【サモンナイト3】ベルフラウ=マルティーニ
【Fate/stay night】イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
【みなみけ】南千秋
【武装錬金】ヴィクトリア=パワード
【BLACKCAT】イヴ
【からくりサーカス】才賀勝
【銀魂】神楽
【ひぐらしのなく頃に】古手梨花
【灼眼のシャナ】シャナ
【とある魔術の禁書目録】インデックス
【るろうに剣心】明神弥彦
【ボボボーボ・ボーボボ】ビュティ
【一休さん】一休さん
【ゼルダの伝説】リンク(子供)
【ベルセルク】イシドロ
【うたわれるもの】アルルゥ
【サザエさん】磯野カツオ
【せんせいのお時間】鈴木みか
【パタリロ!】パタリロ=ド=マリネール8世
【あずまんが大王】美浜ちよ
【ポケットモンスター(アニメ)】サトシ
【SW】ベルカナ=ライザナーザ
【Gunslinger Girl】トリエラ
【ぱにぽに】レベッカ宮本
【FINAL FANTASY4】リディア
【よつばと!】小岩井よつば
計86名
4創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:20:16 ID:lSvAgYo/
〜参加者一覧[あいうえお順(名簿順)]〜
01:明石薫/02:アリサ・バニングス/03:アルルゥ/04:イエロー・デ・トキワグローブ/05:イシドロ/
06:泉光子郎/07:磯野カツオ/08:一休さん/09:猪名寺乱太郎/10:犬上小太郎/
11:イリヤスフィール(略)/12:インデックス/13:イヴ/14:エヴァンジェリン(略)/15:江戸川コナン/
16:神楽/17:金糸雀/18:城戸丈/19:木之本桜/20:キルア/
21:ククリ/22:グリーン/23:グレーテル/24:小岩井よつば/25:剛田武/
26:ゴン/27:才賀勝/28:サトシ/29:三宮紫穂/30:シャナ/
31:ジーニアス・セイジ/32:ジュジュ・クー・シュナムル/33:白レン/34:真紅/35:翠星石/
36:鈴木みか/37:摂津の きり丸/38:蒼星石/39:高町なのは/40:太刀川ミミ/
41:タバサ(主人公の娘)/42:トマ/43:トリエラ/44:永沢君男/45:ニア/
46:ニケ/47:ネギ・スプリングフィールド/48:ネス/49:野上葵/50:野原しんのすけ/
51:野原ひまわり/52:野比のび太/53:灰原哀/54:パタリロ/55:雛苺/
56:ビュティ/57:フェイト・テスタロッサ/58:福富しんべヱ/59:藤木茂/60:フランドール・スカーレット/
61:ブルー/62:古手梨花/63:プレセア・コンバティール/64:ヘンゼル/65:ベルカナ=ライザナーザ/
66:ベルフラウ=マルティーニ/67:南千秋/68:美浜ちよ/69:明神弥彦/70:メロ/
71:八神太一/72:八神はやて/73:吉永双葉/74:李小狼/75:リディア/
76:リリス/77:梨々=ハミルトン/78:リルル/79:リンク(子供)/80:レックス(主人公の息子)/
81:レッド/82:レベッカ宮本/83:レミリア・スカーレット/84:レン/85:ヴィータ/
86:ヴィクトリア=パワード
計86名
5創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:21:16 ID:lSvAgYo/
〜ロリショタロワ・基本ルールその1〜
【基本ルール】
参加者全員で殺し合い、最後まで生き残った一人が優勝となる。
優勝者のみが生きて残る事ができて『何でも好きな願い』を叶えて貰えるらしい。
参加者はスタート地点の大広間からMAP上にランダムで転移される。
開催場所はジェダの作り出した魔次元であり、基本的にマップ外に逃れる事は出来ない。

【主催者】
主催者:ジェダ=ドーマ@ヴァンパイアセイヴァー(ゲーム・小説・漫画等)
目的:優れた魂を集める為に、魂の選定(バトルロワイアル)を開催したらしい。
なんでロリショタ?:「魂が短期間で大きく成長する可能性を秘めているから」らしい。

【参加者】
参加者は前述の86人(みせしめ除く)。追加参加は認められません。
特異能力を持つ参加者は、能力を制限されている場合があります。
参加者が原作のどの状態から参加したかは、最初に書いた人に委ねられます。
最初に書く人は、参加者の参戦時期をステータス表または作中に記載してください。

【能力制限】
参加者は特異能力を制限されることがある。疲労を伴うようになっている能力もある。
また特別強力な能力は使用禁止になっているものもあるので要確認。

【放送】
放送は12時間ごとの6時、18時に行われる。内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」
「過去12時間に死んだ参加者名」など。

【首輪と禁止エリア】
・参加者は全員、爆弾の仕込まれた首輪を取り付けられている。
・首輪の爆弾が起爆した場合、それを装着している参加者は確実に死ぬ。
・首輪は参加者のデータをジェダ送っており、後述の『ご褒美』の入手にも必要となる。
(何らかの方法で首輪を外した場合、データが送られないので『ご褒美』もない)
・首輪が爆発するのは、以下の4つ。
1:『禁止エリア』内に入ってから規定時間が過ぎたとき。
2:首輪を無理やり取り外そうとしたとき。
3:24時間で死者が出なかったとき。
4:ジェダが必要と判断したとき(面と向かって直接的な造反をした場合)。
6創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:22:02 ID:lSvAgYo/
〜ロリショタロワ・基本ルールその2〜
【舞台】
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/clip/img/76.gif

【作中での時間表記(2時間毎)】(1日目は午前6時よりスタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 真昼:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

【支給品】
・参加者が元々所持していた装備品、所持品は全て没収される。
・ただし体と一体化している装備等はその限りではない。
・また衣服のポケットに入る程度の雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される物もある。
・ゲームの開始直前に以下の物を「ランドセル」に入れて支給される。
「食料」「飲料水」「懐中電灯」「地図」「鉛筆と紙」「方位磁石」「時計」「名簿」
「ランダムアイテム(1〜3種)」。
なおランドセルは支給品に限り、サイズを無視して幾つでも収納可能で重量増加もない。
その他の物については普通のランドセルの容量分しか入らず、その分の重量が増加する。

【ランダムアイテム】
・参加者一人に付き1〜3種類まで支給される。
・『参加者の作品のアイテム』もしくは『現実に存在する物』から選択すること。
(特例として『バトルロワイアル』に登場したアイテムは選択可能)。
・蘇生アイテムは禁止。
・生物および無生物でも自律行動が可能なアイテムは参加者増加になる為、禁止とする。
・強力なアイテムには能力制限がかかる。非常に強力なものは制限を掛けてもバランスを
取る事が難しいため、出すべきではない。
・人格を変更する恐れのあるアイテムは出さない方が無難。
・建前として『能力差のある参加者を公平にする事が目的』なので、一部の参加者だけに
意味を持つ専用アイテムは避けよう。出すなら多くの参加者が使えるようにしよう。

【ご褒美システム】
・他の参加者を3人殺害する毎に主催者から『ご褒美』を貰う事が出来る。
・トドメを刺した者だけが殺害数をカウントされる。
・支給方法は条件を満たした状態で、首輪に向かって『ご褒美を頂戴』と伝えるか、
次の放送時にQBが現れるので、以下の3つから1つを選択する。

1:追加の支給品が貰える。新たなランドセルごと与えられ、ランダムに1〜3個。基本支給品セットはなし。
2:ジェダに質問して、知人の場所や愛用品の場所などの情報を一つ聞ける。
3:怪我を治してくれる。その場にいれば他の人間を治すことも可能。
7創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:24:04 ID:lSvAgYo/
〜ロリショタロワ・基本ルールその3〜
【ステータス表】
・作品の最後にその話に登場した参加者の状態、アイテム、行動指針など書いてください。
・以下、キャラクターの状態表テンプレ
【現在位置(座標/場所)/時間(○日目/深夜〜真夜中)】
【キャラクター名@作品名】
[状態]:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
[装備]:(身に装備しているもの。武器防具等)
[道具]:(ランタンやパソコン、治療道具・食料といった武器ではないが便利なもの。
     収納している装備等、基本的にランドセルの中身がここに書かれます)
[思考・状況]
(ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。
 複数可、書くときは優先順位の高い順に)

◆例
【D-4/学校の校庭/1日目/真夜中】
【カツオ@サザエさん】
[状態]:側頭部打撲、全身に返り血。疲労
[装備]:各種包丁5本
[道具]:サイコソーダ@ポケットモンスター
[思考]
第一行動方針:逃げた藤木を追い、殺害する
第二行動方針:早く仲間の所に帰りたい
基本行動方針:「ご褒美」をもらって梨花の怪我を治す

【予約】
・キャラ被りを防ぐため、書き手は自分の書きたいキャラクターを予約することができます。
・期間は基本的に予約から72時間(3日)です。
 期間内に話が本スレに投下されない場合、予約は破棄されます。
・やむにやまれぬ事情で完成が遅れる場合、最大で96時間(4日、合計で一週間)期限を延長することができます。
 ただし、3日の期限の間に、進行状況の報告も合わせて延長申請を行う必要があります。
・予約期間終了後は、他の人がそのキャラを使った予約をして構いません。
 前予約者は話を投下してもOKですが、予約が入った時点で投下する権利を失います。
・予約しなくても投下することはできますが、その際は他に予約している人がいないか
 十分に確認してから投下しましょう。

【投下宣言】
・投下段階で被るのを防ぐため、投下する前には必ずスレで 「投下します」 と宣言を
して下さい。 投下前にリロードし、被っていないか確認を忘れずに。
・近頃連投規制が厳しくなっております。居合わせた方は、できるだけ支援するようにしましょう。

【トリップ】
 投下後、作品に対しての議論や修正要求等が起こる場合があります。
 本人確認のため、書き手は必ずトリップをつけてください。
8創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 18:26:10 ID:lSvAgYo/
テンプレ終了
9創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 23:13:07 ID:/fsHnOsf
>>1-8
乙です。
10創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 00:37:18 ID:+Sp2mk6I
スレ立て乙です!
11創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 16:51:27 ID:tkx1RYQ0
保守
12創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 22:02:41 ID:DwbFtTxq
保守と話題振りも兼ねて、
各キャラの現時点までの登場話数調べてみた。


一位:木之本桜 21話
二位:アルルゥ 20話
三位:雛苺、イエロー・デ・トキワグローブ、ベルカナ=ライザナーザ 19話
六位:エヴァンジェリン=A=マクダウェル、レックス、リンク、イヴ 18話
十位:高町なのは、トリエラ 17話
十二位:インデックス、蒼星石、梨々=ハミルトン、トマ 16話
十六位:シャナ、リリス、メロ、南千秋 15話
二十位:犬上小太郎、タバサ、ブルー、ヴィータ、ヴィクトリア=パワード、明神弥彦 14話
二六位:アリサ・バニングス、三宮紫穂、ニケ、レベッカ宮本、レミリア・スカーレット 13話

生存者中最下位:グレーテル、野原ひまわり 12話



微妙に意外な結果が出た。

あと、ニアが登場から「13」話目で退場したのに気づいた。
書き手の人がもし狙ってやったのならすげー。
13創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 22:49:09 ID:BYbdMRMw
調査乙。
桜は中盤の修羅場が大きかったんかな?
その後も雛苺に連れられてあちこち行って、今は城の中。

グレーテルはヴィクター化とか今後に期待できるキャラだけど、
そういえば序盤は地味だったなw
14創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 22:09:07 ID:YvZtBV4B
調査乙ー
桜がトップ……?
てっきりなのはさんがトップだと思ってただけにかなり意外だ。
15創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 20:41:25 ID:sBvJemxx
なのはさんがトップなのは殺害数だろう。
16創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 21:29:21 ID:J49oqYJR
パタリロも最下位仲間にいれてやってください
17創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 13:47:09 ID:A19uF0BK
パタリロwwwww
南西にはリリスしかいなくなったしこれからどうするんだろ。
18創る名無しに見る名無し:2009/06/22(月) 15:30:43 ID:hqRPUpEK
パタリロに限らずこれからのおおよその動向が気になる奴は多いよな。
何もなければ朝まで休憩タイプは多いがそうは問屋がおろさないのがロワだし。
19創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 13:34:57 ID:AnrcWws6
休息予定の面子

リンク、なのは、アリサ、インデックスの工場組
周囲の危険はエヴァが取り除いたが、これからどうなるか?
仮に朝まで何もなかった場合、神社にいるはずのニケと合流予定。
爆弾だったなのはがひとまず落ち着いたようなので、懸念事項は今のところなし……か?

レックス、アルルゥ、ベルカナ、イヴ、桜の城組
ひとまず次の情報交換でどうなるか。
西の情報が豊富なシャナと接触できたはいいが、
捜索するであろう双葉は死亡、小狼はシャナが聞いていないし死んでる、
タバサの情報はなしと、捜索対象に関する情報は得られなそうだ。
場合によっては西メインの捜索計画が変わる可能性はある。

トリエラ、小太郎、タバサの北東市街組
トリエラが危険対主催のヴィクトリアと電話中。
それによってどう転ぶか……
予定ではこれからシェルターに向かう予定。
運が良ければトマやベッキーと合流できるかもしれない。


休息組はこんなところか?
マーダー連中や危険人物ばかり活発的でやべえなここ。
20創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 21:53:41 ID:5V/szRU8
面白い戦闘シーンとかも結構多かったよね
俺はゴンVSフランとか勝VSなのはVSヴィータとか好きだった
どっちも頭脳戦って感じで
単純なパワーVSパワーってのも好きだけど、頭脳戦はもっと好き
21創る名無しに見る名無し:2009/06/26(金) 23:01:57 ID:FC+zE1hm
保守
22創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 15:09:49 ID:blmXPpcN
城組の危険度わらたwww
対主催ばかりなのに危険視されてばかりだww
23創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 21:59:21 ID:yMPjWw6C
レックスは今はリンク達に警戒されてるぐらいだし、
アルルゥもそれ+メロやイエローに知られてる程度。

イヴ以外はそれほど広まってないよ。
まあそのイヴがものすごく危険視されてるんだけどなw
24創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 22:48:09 ID:MXQPjirh
当の本人は全部忘れちゃってるしな
25創る名無しに見る名無し:2009/06/30(火) 15:12:58 ID:L4BohtWT
対主催には逆にあまり知られてない人とかいるよね
弥彦とか。
マーダー以外だとシャナとパタリロか。知ってるの。
パタリロも姿は危険視されてるが名前は弥彦しかしらねえなw
26創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 18:10:06 ID:nkGz3l16
情報交換でシャナが知ってるぞー
27創る名無しに見る名無し:2009/07/04(土) 11:04:47 ID:vC8DxtCZ
  ┏┓  ┏━━┓┏━┓┏┓┏━━┓┏━━┓     //.i:.:.:i:.:.:.:.:i,|:.i/iハ:.:./ リ\|、;イ:.:.:.:.i、:.:i....      ┏┓┏┓┏┓
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  ┗┛    ┗┛  ┗━━┛      ┗┛  ┗━┛      ∨.|:.:.:`|`ゝ、     ,./i:.:.:/ .i| \  /....    ┗┛┗┛┗┛
28創る名無しに見る名無し:2009/07/04(土) 13:21:48 ID:X/SbdeXn
キマシ タクって誰?
29創る名無しに見る名無し:2009/07/04(土) 20:49:52 ID:y+o85YiU
きましたわーw
予約が来たのだよ!
30創る名無しに見る名無し:2009/07/05(日) 15:19:14 ID:M78huSX5
予約もうひとつきましたわーw
夏休みだからか?
31創る名無しに見る名無し:2009/07/07(火) 00:14:16 ID:PzUn84is
久々に予約が来たと思ったら2つも!
期待してます
32創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 16:21:53 ID:1L5yhW58
さて、今夜か……
33創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 16:35:56 ID:o/vjapmd
明日までじゃない?
34創る名無しに見る名無し:2009/07/09(木) 16:54:14 ID:b+GHh2qY
>>33
7月10日の午前2時30分までが期限だから、今夜中に投下があるはず。
35創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 01:36:19 ID:RFqhLsmB
あと1時間か…
間に合わないなら間に合わないで連絡欲しいとこだけど…
36創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 21:30:07 ID:GA+wZd2n
予約破棄か…
37創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 21:30:57 ID:yPecEdXt
残念だ
体壊さない範囲でがんばってまた書いてね
38創る名無しに見る名無し:2009/07/10(金) 21:39:20 ID:lP3GA0sB
で、大人数予約の方の人はどうなっちゃったのかな
39創る名無しに見る名無し:2009/07/11(土) 01:13:58 ID:PUiyP4aQ
連絡もないし、破棄ってことでいいんじゃない?
40創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 16:10:49 ID:/yN+qKL6
予約来ましたわーw
でもまた城かwww
41創る名無しに見る名無し:2009/07/13(月) 22:56:50 ID:cf/gE0wt
早く進展城ー!

……失礼しました
42創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 00:48:21 ID:OjZJOTFc
予約してくれるだけで嬉しい
43 ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:33:47 ID:2NaPBUkf
リリス、パタリロ、Q-Bee投下いきます。
44創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 22:36:08 ID:zd5SOUeJ
,
45壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:36:09 ID:2NaPBUkf
突然聞こえてきた放送が、終わった

本来はなかったはずの放送。
Q-Beeを殺す者が現れたという放送。


その放送を、ホテルの中の一室で聞いていたリリスは、
聞き終えてしばし後ベッドへと倒れ、考える。
(Q-Beeが、殺された……)

考えることは、Q-Beeを殺した相手のこと。
Q-Beeの実力は知っている。
あの本能のまま戦う蜂は自分に匹敵するほど強い。
ジェダでも油断をしたら負けかねないくらいなのだ。


少しまえまでのリリスなら、Q-Beeが間抜けだったと済ませただけだろう。
Q-Beeが少しばかりミスをしたと考え、このことに気にもしなかったはずだ。
だが今の「考えること」を知ったリリスはQ-Beeを過小評価しなかった。

(Q-Beeを殺した人は、とても強い。それもたぶん、制限された状態で。
 それにもう3人殺してる。絶対に私よりも強い)

Q-Beeはご褒美を渡しに行くときじゃないと参加者の元へ現れない。
つまり相手は既に3人は殺しているということだ。
そしてジェダは殺した人を複数という風には言わなかった。
つまり、一人だけでQ-Beeと戦い、勝ったのだと考えられる。

それに加え、この島にきてからいつもよりも自分の調子が悪い。
これに関しては一番最初の全員がいた場で自分自身が言ったので理由は分かってる。

『みんなで元気にゲームで遊んで、最期まで残った子が優勝だよ! 超能力とか使える
 子は使えない人に比べてズルイから色々と弱くしちゃうけど、色々なアイテムを配るから
 諦めないで頑張ろうね! リリスと約束だよ』

つまり、自分のこの力もその色々と弱くなる対象だったということだ。

そしてそれは、Q-Beeを殺した奴も同じだろう。
つまり相手は弱くされていなければ、能力だけなら自分やジェダよりも強い。
それも、シャナのように僅かに相手が強いなんてレベルじゃなく、圧倒的に。
リリスはそう言う判断をすることができた。

恐らくはそういう弱くされる措置をされずに、元のままの力だったであろうQ-Beeが殺された。
その相手に、今の自分がまともに戦って勝てる見込みは?

恐らく、ゼロ。
46壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:38:08 ID:2NaPBUkf
(だけど負けるわけには……いかないね)

だが自分には負けられない理由がある。
自分は勝って、もう一度グリーンに会って、気持ちを聞かなくちゃならない。
だから、何とかしてそういう圧倒的格上の相手との戦いになった時、勝機を見出さなければならない。

絶対に勝てない存在なんていない。
相手がどんなに強い敵だったとしても、その相手と戦って勝つ方法だってあるはずだ。
前にグリーンと一緒に戦っていた時思ったこと、
彼と一緒だったらジェダ様にも勝てると思ったことに嘘はない。
戦い方次第で、どんな相手にも勝機を見いだせる。リリスはそう信じていた。

先ほど絶対勝てないと思ったのは素のまま戦った場合だ。
作戦を立てて、頭を使って戦えば、格上の相手にも勝つ見込みはある。
ついさっきだって自分よりも地力が上の相手を、知恵を使って追い詰めてみせた。

リリスはベッドから起き上がり、
ベッド脇に置いていた自分の荷物を広げて、
自分よりも強い相手に対してどうすればいいか考えだした。
目の前にあるのは眠り火、魔女の媚薬、メタちゃん、きせかえカメラ。
これらをどう使えば、強敵に対抗できるのだろうか。

(着せ替えカメラは……ピントを合わせる必要がある
 相手がすばやかったら使うことなんてできないね
 それじゃあこっちのお薬……も飲ませるくらいならキスしたほうが早いし、
 眠り火は投げつけても……直ぐによけられちゃうね。
 こっちのメタちゃんは色々使えそうだけど……どう使ったら良いんだろう?
 ああ、もう! どれもこれも使えそうにないよぉ!)

いきなり眠り火を相手に投げつけても効果は薄いし、
魔女の媚薬を飲ませるにしても、投げつけるわけにはいかないだろう。
着せかえカメラで相手の道具を消し去ろうにも、うまくピントを合わせないといけないし、
メタちゃんは色々と使えそうだがどう使えばいいか簡単に思い浮かばない。

どれもこれも。簡単に使いこなせるような代物ではない。
シャナとの戦いでも眠り火を使うことを考えたりしたが、
はたしてどのように使えばいいのか、改めて考えても思い浮かばない。

これらの道具は、有効に使うことができれば非常に役に立つ道具である。

現にカメラを持っていた小狼は、
これにより襲いかかってきたヴィータや一休を無力化することができたし、
ニアはメタちゃんや眠り火で色々な相手を手玉に取ってきた。

だがいかんせん、これらはただ使ったり投げつけたりしても使えるものではない。
どれもこれも実戦で使うにはひと工夫必要な道具であり、
つい先ほど知恵を身に付けたリリスでは、それを生かした使い方が思い浮かばない。
47壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:40:13 ID:2NaPBUkf
グリーンやニアが使っていたのを思い出せればある程度ヒントにはなったのだろうが、
それを思い出しても役に立つ方法にはならない。

魔女の媚薬を口移しで飲ませるくらいなら、自分の唾液をのませたほうが早いし、
メタちゃんや眠り火をニアが使ったことは、その眠り火の影響で忘れてしまっていた。
かろうじて、狭い部屋で使えば効果的だということは思い出したが、
はたして、どうやって敵をそういう部屋におびき寄せたらいいのか。

考えに考えても、格上の相手に勝つ方法というのが思い浮かばない。
作戦が一向に定まらない。
知恵を付けたが故に、案が浮かばなくても必死に考えることに時間を使うリリス。


ガシャアアアーーーーーーーーーーン!!


そんな彼女のいる部屋の窓ガラスが唐突に割れ、何かが飛び込んできた。
考えすぎてて、敵の接近に気付かなかったのか。
そんな自分にちっと舌打ちをして、身構えるリリス。
飛び込んできた何者かが誰なのかを視認し――

「え……Q、Bee……?」
「リリス、ミツケタ」

飛び込んできた何者か、
それは彼女がこうして悩むきっかけとなったQ-Beeだった。



   ☆       ☆



唐突にやってきたQ-Beeに、参加者にするものとはとは別の警戒をしていたリリスだったが、
Q-Beeから「ニアハシンダカ?」という質問に反応し、
その質問には答えず、なにがどうしてそんなことを聞いてくるのかと問い返した。

そしてQ-Beeから語られるジェダに与えられた任務の内容。
Q-Beeも相手が唯一接触を許されたリリスであることもあり、
ジェダに言われたことを包み欠かさず話した。


Q-Beeは弥彦達との戦いの後、少し休んだ後にリリスの元へやってきた。
ジェダに捜索を頼まれた優先順位は野上葵の次は、太刀川ミミと、ニア。
その二人のどちらを先にすればいいかは言われなかったし、
現状首輪の位置の分からない立川ミミよりリリスに聞けばいいニアのほうが楽だったのだ。
実際には朝三暮四であり結果はそれほど変わらないのだが、
そんな違いがわかる知能をQ-Beeは持ち合わせていない。
48創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 22:40:21 ID:grDdXVwG
49壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:42:14 ID:2NaPBUkf
Q-Beeの任務の内容を聞き、リリスは名簿を取り出す。
捜索対象の名前は、どれもグリーンが夕方に付けた名簿の死亡者とは違う。
そこからそれ以降に死んだ人たちなのだろうとあたりをつけたが、
どうしてその死んだ人たちをジェダが気にしているのか……そこまではわからなかったし、
Q-Beeも聞いていなかった。

もしかして、死んだ人間を毎回放送の後に確認したりしていたのだろうか。
首輪の構造や死亡の把握の方法を知らないリリスは、そんな風に考える。

「それで、死体はどれくらい見つかったの?」

そして何気なく、そういう質問をして見た。

「……マダ、ヒトリ」
「え、まだそれだけ?」

その返答に、怪訝な顔をするリリス。
今の時間は臨時放送から2時間弱といったところだ。
もう何人も死体を見てきた後だろうと思っていただけに、その人数は流石に少ない。

「というと、一番最初に探したノガミアオイしか見てないんだ?」
「……ソウダ」

Q-Beeが気難しげな顔をする。
その顔を見て、リリスの脳裏にひらめきが灯った。

「……いまから頑張っても、ちゃんと時間どおりに終われるのかな〜?」
「…………」

そしてからかう口調でそう言ってみた。
その言葉に、ますます悩ましげにするQ-Bee。
いける、そう思いながら、リリスは次のようにQ-Beeに述べた。

「ねえQ-Bee、そのお仕事、私が手伝ってあげようか?」
「テツダイ……?」

それは、Q-Beeの任務に協力するという話。
無論、タダで協力する気はない。
その恩賞としてリリスは色々なものをもらうつもりだ。

もらうものは何でもいい。
できるのならQ-Beeの背負っているランドセルにはいっているであろう、
追加のご褒美をこっそり貰いたいところだが。
50壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:45:51 ID:2NaPBUkf
それができないにしても、
相手の情報や、あるいはそれ以外の人達の情報でもいいのだ。
今一人でいる人間の場所を教えてもらってそいつを殺し、
正規の手段でご褒美をもらってもいい。

現状の道具や知識では、Q-Beeを殺した奴に勝ち目はない。
だがこれからQ-Beeから得た物を使えば、勝機を見いだせる。
そうリリスは考えたのだ。

それはゲームという点で見れば、違反に他ならない。
しかしそれも、ゲームマスターであるジェダにばれなければいい。
そうした悪知恵もリリスは身につけ出したのだ。

「うん、そう。その代わりに、なんだけどね……」





そして壁一つ隔てた隣の部屋で、その話を聞いている人物がいた。パタリロだ。
パタリロは部屋に付属されていたコップをリリスのいる部屋の壁に貼り付け、
リリス達の会話を盗み聞いていた。

彼はリリスを探すために南西の町に来たはいいが、
どこにリリスがいるのかという見当はついていなかった。
いつの間にやらタワーが倒れていたり、そこかしこに火事の跡があったりで、
自分が去ったあとに大規模な戦闘があったのだろうな、ということは分かったのだが、
その戦闘後からリリスの居場所を割り出すことはできなかった。

だがそれからしばらくして、とある子供が入るには問題のありすぎるホテルの窓ガラスが割れた。
リリスの手がかりの欲しい彼は、そこに誰かが向かったのだと思い、その場へ向った。
そして会話しているリリス達の声が聞こえたため、あわてて隣の部屋から盗聴を開始したのである。

そのことを、Q-BeeはP-Beeからの情報で知っている。
ならば何故、Q-Beeはそれを気にせずにこうしてリリスと会話しているのか。
それは、Q-Beeがジェダに言われたことに何ら違反していないからである。


見られるな。
荒事をなるべく避けろ。
接触していいのはリリスだけだ。
万が一見られた時はすぐにその場を去れ。
戦いを挑まれても相手にするな。
幼子に手を出すな。その死体にもだ。
お前が幼子を殺してしまえば、お前を参加者の一人として組み込まざるを得なくなるぞ。
51壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:48:30 ID:2NaPBUkf



それが、Q-Beeがジェダに命じられた参加者を気にしなければならない条件だ。
そして、今のQ-Beeはそのことに何ら違反していない。
何故なら頭の悪いQ-Beeは、ジェダに言われたその言葉を本当にそのままの意味で認識したからだ。
ジェダはQ-Beeに幼子達に「話を聞かれてはならない」とは言っていない。
そして「見られてはならない」とは言われても、「いた痕跡を残すな」とは言われていない。

故にQ-Beeは、すぐ隣にパタリロがいることに気付きつつも、
そのパタリロが今いる部屋に移動してきた場合、
即座に逃げればいいと考え、それ以外の場合は何もする気はなかった。


その結果、幸運にもパタリロはこうして二人の会話を聞くことができたのだ。


この幸運が実を結ぶのか、
そもそも、無事に彼が話を聞き終えることができるのか。
リリスはズルしてご褒美を得ることができるのか。
それはまだ、わからない。


【C-6/ラブホテル/2日目/深夜】

【リリス@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
     疲労(小)。全身に軽度の火傷。額に浅い切り傷。背中に打撲。
     微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。『考え』る事に目覚めた。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
    メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
    小狼のランドセル(基本支給品一式) 、きせかえカメラ@ドラえもん
[思考]:お手伝いして、あげようか?
第一行動方針:Q-Beeに協力。その恩賞として色々得る。
第二行動方針:Q-Beeを殺した奴が誰なのか聞きだし、対策を練る。
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
きせかえカメラ@ドラえもんは充電中です。
Q-Beeからジェダに命じられた任務の内容を聞きました。
52壁に耳あり障子に目あり  ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:50:49 ID:2NaPBUkf



【Q−Bee@ヴァンパイアハンター】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:不明(なし?)
[道具]:ご褒美ランドセル(不明支給品1〜3)
[思考]:テツダイ……
第一行動方針:リリスと会話。ニアの生死の確認。
第二行動方針:リリスに手伝ってもらう?
第三行動方針:ジェダの指令をこなす
第四行動方針:(…………ゴハン)
基本行動方針:本能に逆らえる範囲内で、ジェダの指令を忠実にこなす
[備考]:野上葵の死体の存在を確認しました。
    こっそり休息を取る事で、ジェダの指令に遅れる可能性が有ります。
    キルアの殺害者を弥彦に偽装する事にしました。
    パタリロがいることには気付いています。


【パタリロ=ド=マリネール8世@パタリロ!】
[状態]:頭にたんこぶ、速効でずぶ濡れ
[装備]:S&W M29(残弾4/6発)@BLACK LAGOON、 ヘルメスドライブ@武装錬金(破損中・核鉄状態、使用登録者アリサ)
[道具]:支給品一式(食料なし)、ロープ(30m)@現実、44マグナム予備弾17発(ローダー付き)
    せんべい、お茶菓子、コーヒー豆、がらくたがいくつか
    ミニ八卦炉@東方Project、クロウカード『翔』@カードキャプターさくら、
    エーテライト×2@MELTY BLOOD、はやての左腕
[思考]:ええい、何をする気だ、リリス!
第一行動方針:引き続きリリスとQ-Beeの会話を盗聴。
第二行動方針:首輪の調達。藤木あたりが候補。
第三行動方針:調達した首輪を調べたい。道具や設備も確保したい。
第四行動方針:他にも対主催として有用な情報を得て、自分を信用してもらう材料とする。
第五行動方針:弥彦と千秋にはあう確率は低いと判断。でもできれば再開したい
第六行動方針:仲間集めは、慎重にしたほうがいいかな……
第七行動方針:暇ができたらはやての腕を埋葬してやる。
基本行動方針:好戦的な相手には応戦する。自分を騙そうとする相手には容赦しない。
最終行動方針:ジェダを倒してお宝ガッポリ。その後に時間移動で事件を根本から解決する。
[備考]
自分が受けている能力制限の範囲について大体理解しています。
弥彦を完全には信用していません。簡単に情報交換済みです。
よつばと藤木の死の真相について大雑把にですが勘付いて、千秋を少し疑っています。
キルアとエヴァが少なくとも今の自分にとっては危険人物であると判断しました。どちらも、名前は知りません。
自分が誰からも警戒されている存在だと、改めて把握しました。
リリス達の会話をいつから聞いていたのかは次の書き手にお任せします。
53 ◆v5ym.OwvgI :2009/07/14(火) 22:53:15 ID:2NaPBUkf
投下終了。
54創る名無しに見る名無し:2009/07/14(火) 23:39:25 ID:LGzvx21g
投下乙。
ジョーカーも裏でこそこそやりだすとか、ジェダ様人望ねえなww
パタリロもアクション一つで死亡しかねんし……
つぎでどうなるか予想しにくいな、これ。
55創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 00:43:07 ID:fWEc2Su9
乙です
リリスのこの行動がどうなるか楽しみだな
そして隣で盗聴中のパタリロの動向も気になるな
リリス達に接触するにしてもしないにしても、面白くなりそうだ
56創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 01:14:24 ID:nRdvOYBT
投下乙。リリスとQbeeの立場をうまく利用したなー。
交渉成立の場合、手近な一人が狙われるか、先にミミの死体捜索になるか……
57創る名無しに見る名無し:2009/07/15(水) 13:21:33 ID:maYSkIN9
成長って、本当にいいものですね!
58創る名無しに見る名無し:2009/07/16(木) 10:47:52 ID:zle0nhoY
ここでQ‐Beeを拘束してしまっていいのか疑問です。
既に雛苺がご褒美請求していますし、ここは続きも書いてしまったほうがいいのではないでしょうか。
59創る名無しに見る名無し:2009/07/16(木) 15:51:47 ID:dpDqXn3H
>何故なら頭の悪いQ-Beeは、ジェダに言われたその言葉を本当にそのままの意味で認識したからだ。
ジェダは「幼子に悟られるな」とも言ってるんだけど。
60 ◆v5ym.OwvgI :2009/07/16(木) 16:12:38 ID:4sCDYwSM
>>58
雛苺達のパート……というより城の話は既に到着が遅れているという話になってますし、
本来なら次の捜索対象であった立川ミミ(ヴィクトリア)も、既に黎明にはいっています。
どちらも割と先の時間まで進んでいることもあり、問題ないと判断していました。

>>59
何を持って悟られるのか自体を分かっていないと思っていたので、
その後に言われたことさえ守ればいいと思ってる、と考えていました。
必要ならwiki収録後一言二言加えます。
61創る名無しに見る名無し:2009/07/19(日) 18:40:08 ID:ZvEbzSUL
今日の夜投下かな
明日の昼に投下されるんかもしれんけど
62創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 13:55:54 ID:18hv90jy
代理投下依頼、確認。
投下される前に修正要望だけど、
◆v5ym.OwvgI氏の話の時点でQ-Beeは休息を止めており、
黎明直前のあの話から城組の話には1時間程度の間がある。
これからどこかでQ-Beeが遅れる理由を作る必要があるんだけど、
それによってはこのタイミングで支給品が来ることが難しいこともあるかもしれない。
つまり、Q-Beeの話をおおよそ城組のところまで進める必要があると思う。

それに加えて城組はすでに黎明に3回も書かれてることもあって、書きすぎ。
ちょっとした情報交換程度だと思ってたから無視してたけど、
これだけ大戦闘があったとするのはまずいと思う。
一部の場所の時間の進みすぎによる問題となる。

あと前に雛苺たちが支給品をもらった時も、
ロボットの支給は強すぎるって却下されてなかったっけ?
これに関しても前の話が修正している以上、気にする必要がある。

それとそのロボットが通った場合も問題が。
レックスに投げられたルーンの杖が命中した理由に的の書かれた紙を使ったとあるけど、
杖の先端についてたとするのならまっすぐ飛ばずに放物線を書くだろうし、
レックスにもよけられると思う。
さらに言うなら、レックスから外れたランドセルをロボットにうまくつかませ、
なおかつ盾にさせて、さらに人間用のどらごんころしを持たせるという芸当ができるのかという問題がある。


これらについて、書き手なりの意見を聞きたいです。
63代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 13:57:35 ID:18hv90jy
「雛ちゃんを知ってるの!?」

待った、と思った。
その発言と共に起きて来た木之本桜を見て、最も思考したのはベルカナだった。
彼女は桜が雛苺を『雛ちゃん』と親しげに呼んだ事に対して、警戒心を抱いたのだ。
ベルカナがこれと思考する時、その思考速度は超越的な物だといえる。
それは人より深く考えられるとかそういう意味とは少し違う。
知性という意味でも極めて明晰な知性を持つが、人間離れした程でもない。
観察し、知識と照らし合わせ、分析し、結果を推測する。
そういった思考が、早いのである。

常人が数時間掛かる程の緻密な作戦を、数瞬の猶予しか許されない遭遇戦で実行する。
それがベルカナの生きる武器だった。

(どうしてそういうニュアンスで雛苺を呼びますの?
 梨々による所、雛苺は彼女に残酷な行為を強いた危険人物です。
 そして梨々による所、木之本桜はそういった行為に激しい苦痛を感じる人物の筈です。
 桜がおかしいのか、梨々の情報がおかしいのか、あるいは数時間で何かが有ったのか。
 どういう事か彼女から聞き出すのが最も効果的ですが、一つ障害が有ります)

それはシャナの存在だ。
引き下がりはしたものの、先ほどはイヴを殺すと主張していた彼女の正義感は厄介だ。
もし彼女が雛苺に対して敵意を抱いていた場合、雛苺を擁護するのは危険だろう。
木之本桜がおかしい、桜が危険人物である雛苺を擁護しているのだとすれば、
桜を護るなど百害有って一利無しだが、死んだ梨々の事を想うと見捨てるには早すぎる。
幸い、シャナも理が有れば引き下がる人物のようだ。
ベルカナは丁寧に言葉を選びながら発言した。

「ええ、木之本桜さん。意識を失っていたから、紹介もまだですわね。
 私はベルカナ・ライザナーザ。
 梨々=ハミルトンと仲間に協力し、あなたを救出すべく行動していました」
「梨々、ちゃん……? 梨々ちゃんが生きてたの!?」
その一言に篭められたあまりにも真摯な愛おしさだけで、ベルカナの迷いは雲散していた。
彼女は、白だ。
どんな理由が有ろうと、仲間の、仲間である事だけは間違い無い。
桜が自らの感情まで全て演じてみせる名優という可能性は、さて置く事にした。

「どういう事? 説明しなさい」
「ええ。雛苺という人形は初め夕方の森に出現した危険人物です。
 そこで彼女、木之本桜を拉致して殺人を強要しました。
 彼女の仲間だった梨々=ハミルトンもその時に殺されかけています。
 つまりは私達の、敵です」
「待って、待ってベルカナさん!」

シャナの問いにベルカナが答え、桜が異を呈した。

木之本桜にとって交わされる言葉は冷たい刃のようだった。
そこに交わされる言葉の殆どは、厳然たる事実だ。
むしろ事実はそれ以上の物とさえ言えるのだろう。

雛苺は多くの命を奪った殺人鬼である。
64代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 13:58:52 ID:18hv90jy
その事は桜だって判っている。
語られた以上の罪を木之本桜は目撃し、体験してきた。
あれだけの罪を誰が赦せるというのだろう。
弱さから罪に走った雛苺にあの罪を背負う事なんて出来はしない。
雛苺は罪を振り返る事も出来ない罪人としてこの島に立っている。

だけど、それでも。
雛苺の瞳に湛えられた恐怖と悲しみは。
彼女が漏らした悲痛な訴えは。
本当のものだと、思う。

(助けてあげたい。絶対だいじょうぶだよって信じさせてあげたい)

この島で雛苺は罪を振り返れないかもしれない。
絶対にいけない事をしたという、その本当の重みを受け止められないかもしれない。
今は、でも何時か。
今日は無理だろう。
明日でも無理かもしれない。
でもずっと一緒に居てあげて、雛苺の心が落ち着きを取り戻せたら。
それから一つ一つ、清算していけば良いじゃないか。
全ての罪を。
全ての過ちを。
例えどれだけ掛かったって、何時の日か。
だから桜は、思うのだ。

「その通りだけど、でも違う。違うの!
 雛ちゃんはただ寂しくて、一人になるのを怖がっていただけなの。
 それで本当にひどい事を何度もしてしまった。それは本当。
 でも、これ以上はさせないから。
 わたしが一緒に居れば、大丈夫だから。
 雛ちゃんにはもう、人殺しなんて絶対させない!」

彼女に救いと、時間をあげて、と。
こんな残酷な島での時間じゃなくて。
誰かと心を通わせて、なんて事も無い、だけど掛け替えの無い温かな時間を。
立ち上がるのに少しくらい時間が掛かってしまう事は、決していけない事じゃないと思うから。

しかしベルカナは、首を振った。

(どうして?)
桜はベルカナの瞳を見た。
何かしら強い感情を湛えた、冷たい瞳を。
ベルカナは言った。
「私は咎人の罪を裁きなどしません。私達の敵で無いならば。
 全てはあなた次第です。
 もしもあなたが本当に雛苺を御す事が出来て、
 かつ雛苺について最も渦中にいるあなたがあれを赦す事が出来るなら」
「赦……す…………?」
桜が先ほど訴えた言葉では、まだ不足なのだろうか。
戸惑う桜にベルカナは教えた。
雛苺が絡む更なる罪を。

「雛苺に操られるあなたに殴り殺されかけても。
 あなたを救う為にかつて敵だった者達に協力を求め。
 私達と共にあなたの為に戦った梨々=ハミルトンが。
 少し前の雛苺が乱入した戦いで戦死したと聞いても、同じ事を言えますか?」

「…………え……?」
65代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:01:05 ID:18hv90jy
頭をハンマーで殴られたようだった。
ついさっき、梨々は生きていたと聞いた。
どうして今この場に居ないのかは判らなかったけれど、すぐに聞こうと思っていた。
何度も謝って、何度もお礼を言って、仲直りしたいと思っていた。

雛苺によって死んだと思っていた梨々は、生きていた。
ずっとずっと、桜の為に戦い続けていた。
そして雛苺が乱入した戦いによって、梨々は命を落とした。

雛苺は木之本桜の親友の梨々=ハミルトンを、二度殺した。

「あなたは雛苺を御せてなどいない」

ベルカナの言葉は鋭く、冷たく、熾烈だった。
そして、優しかった。
「もしかするとあなたは、それでも雛苺を赦せるのかもしれませんわね。
 私達よりずっと多くを奪われたあなたが雛苺を赦すなら、私も彼女を赦しましょう」
そう、ベルカナの言うとおり。
木之本桜はそれでも雛苺を、赦せてしまう。
何時か償って欲しいとは思いながらも、それでも慈悲の心が上回る。

桜が傷つけ、救おうとし、逆に桜を救ったプレセアが殺されたというのに。
この島で信じられた数少ない親友の梨々=ハミルトンを二度殺されたというのに。
桜の手を見ず知らずの罪も無い少年の血で汚させたというのに。
大切な人達を何人も殺されて、桜の身も心も鋭い茨で苛んできたというのに。

それでも桜は、雛苺を可哀相だと思ってしまう。
桜にはきっと、誰かを憎み恨む事なんて出来ないのだろう。

「ですが、雛苺が更なる罪を重ねる事は許せません。
 あなたに彼女を御す事が出来るかどうか。
 私にとって重要な事はそれだけです」
ベルカナは会話を断ち切るように、告げた。
全ては桜次第だと、そう言って。

「待ちなさい。それで結局、雛苺は何処へ行ったの?」

シャナが言葉を差し込んだ。
次は彼女との会話が待っていた。
ベルカナは答える。
「その時に襲撃してきた別口の誰かが連れ去りました。
 少女のようでしたが、守りの外套で全身を包んでいましたから顔も名前も不明です。
 何か支給品で転移したようですから、何処へ消えたかは判りませんわ」
「そう。それじゃ」
「待ちなさい、こちらが話すだけでは堪りませんわ。
 そちらからも聞きたい事は幾つかあります。せめて友好的人物と危険人物について」
シャナは、答えた。
66代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:03:39 ID:18hv90jy
「友好的な人物は犬上小太郎、犬の耳が生えた少年。強いけど、力を消耗してる。
 吉永双葉、男の子みたいな少女。インデックスに預けた。
 妙な短剣を持っていなければ、三宮紫穂。変な服装。双葉と一緒。
 野比のび太。気弱そうな眼鏡の少年。
 高町なのは。精神が擦切れ掛けてるけど理性的で、行動自体は感情的な少女。
 インデックス。スケスケの服を着た銀髪碧眼の少女。北西の森周辺に居る。
 ヴィータ。赤い髪を三つ編みお下げにした少女。インデックスの仲間。
 明神弥彦。時代がかった和服のツンツン髪の剣術少年。不殺主義。
 キルア。姿も不明な仇を捜して南の市街地から中央部に向かった。
 ここまでインデックス以外は全部小学校の中〜高学年くらい。
 あと私は直接会ってないけど、アラストールがコキュートスから見たのが何人か。
 神社にエヴァンジェリン、ニケ、リンク、古手梨花というインデックスの仲間が居るみたい。
 全員外見は小学生も下の方くらいだけど、概ね戦えるそうよ。
 危険人物。名も知らない銀髪の少女。
 インデックスとの見分け方は、よく笑う、明らかに邪悪、胸部に喪服の様なドレス。
 キルアに殺害されたらしいのに生きていたから、似た奴が居るのかも。
 リリス。南西の町で戦ったけど、逃げられたわ。思ったより狡猾で、純粋だった。
 ブルー。青い髪の少女。ただし外見年齢を自在に変えられるみたい。
 それと一緒に居たのが、イヴなんだけど……これはさっきの話で、とりあえずは良いわ」
シャナは矢継ぎ早に人物の解説をしていく。
朝までに北東の街へと着いておきたいシャナには時間が無いのだ。
それを差し引いても不親切な所はあるが、こちらはシャナの性格による分が大きかった。
彼女は人に何かを教えたり伝えたりするのが苦手である。
これだけの説明で見た時に判るか、それどころか覚えておけるか怪しいものだが仕方が無い。
それから、トリエラとリルルの事は意図的に伏せていたし、
そうでなくとも高町なのはに頼まれたアリサなど話忘れが存在していた。
むしろ冷静に考えればシャナにこれほどの情報を提供する義理は無いのだが、
急いでいるからこそ逆にあまり考えず片っ端から話していた。
67創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 14:05:34 ID:dSbNMrmy
支援
68代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:05:40 ID:18hv90jy
「あと学校に、私もアラストールも話でしか聞いてないけど、
 リンクや古手梨花の仲間だった小狼というのも居たみたいだけど神社とは別の方向に……」
「小狼くんが居たの!?」
大切な少年の名に桜が喰らいつく。
「夕方の放送よりも前に聞いた事よ、何処に行ったかは…………判らないわ」
シャナは少し考え、伏せた。
アラストールから聞いた、学校に居た小狼は南へ向かったという話を。
ある可能性に気づいたからだ。

もしかすると、南の市街地から中央に続くトンネルの入り口に転がっていた、
まだ死んで間もない、あの死体こそが季小狼だったのではないだろうか?
生憎小狼はシャナもアラストールも見ていないから、外見はさっぱり知らない。

一方、ベルカナはシャナの話を聞いて少し考えていた。
彼女が出会った人物の数は結構なものだ。
だが、危険人物として伝わっていたのはヤミヤミことイヴだけ。
(案外、中央の森林部がかなりの壁になってくれたのかもしれませんわね。
 遭遇数が少ないアルルゥはともかく、レックスの情報が案外広がっていないのは僥倖です。
 それから……)
「吉永双葉……梨々の親友でしたわね。貴重な情報をありがとうございます。
 もう少しだけ良いですか? イエローやタバサという人物に心当たりは?
 両方とも金髪の少女、イエローは格好によっては少年に見えるかもしれません」
「金髪は……少し会ったり聞いたけど、全部名前は判ってるから違う」」
「そうですか。どの辺りで行動したか、教えてもらえますか?」
「私は島の西端を北から南、南西の市街地からここ。でも……」
『我がインデックスと共に、島の西端から山岳地帯を経て神社、そこから西だ』
胸元のコキュートスからアラストールの声が響く。
その二つの情報から考えれば、島の西域は概ね網羅されている。
森林部に穴が有るものの、それ以外はほぼ全域を通っている。
(イエローとタバサは島の西域に出没していない……と見て良いのでしょうか)
吉永双葉は気になるが、島の西域を捜してもイエローやタバサは見つからないかもしれない。
69代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:06:51 ID:18hv90jy
「ふえ……わたし、そのイエローって子、知ってるかも……」
「本当ですか!?」
おずおずと上げられた桜の手にベルカナが反応する。
「う、うん。森で、雛ちゃんが襲ってきた時、緑髪の人形の子と一緒に現れた子が、
 金髪でなんだか男の子みたいな容姿だったから。
 凄い爆発が有ってすぐに居なくなっちゃったから、どうなったのかは判らないよ」
「……そうですか。何時頃、どう来たか分かりますか?」
「えっとね、時間は夕焼け空の頃で……」
木之本桜が語る内容にベルカナは内心で少し、焦りを覚えた。

謎の人形と戦場に現れたイエロー。
プレセアの治療に懸かっていた桜の視点からでは状況がよく判らなかったものの、
イエローを囮に、人形が戦場に何か干渉しようとしていた事は確かに思われた。
あのイエローが、どんな理由が有ればそういった行動に出るのだろうか。
ただの考えすぎで、戦いを止めようと割って入ったのかもしれない。
だが目の前に居る木之本桜からの連想で、ベルカナはこんな不安を抱く。
イエローも、桜のように人形に操られているのではないか。

ベルカナが人形全般を危険視するのは当然の帰結だと言えた。
彼女が名前を知る人形の参加者は翠星石のみだが、ベルカナは翠星石が人形である事を知らない。
彼女の仲間だったジーニアスとレベッカは、両方ともが連戦の中で散っていった。
翠星石の事を知る木之本桜は、そんな内情を知る由も無かった。

「それで、その人形も何処へ行ったのか判らないの?」
「うん。凄い爆発が起きて、みんなはぐれちゃったから。
 ベルフラウちゃんとも逸れて……そのまま……」
シャナの問いに応じた桜の答えに、ベルカナは一瞬視線を逸らす。
彼女はベルフラウが何処で死体になっていたかを知っている。
この城のバルコニーで、誰とも知らぬ別の少女と並んで死んでいた。
「……あなたが助けようとしていた、プレセアともですね」
話を逸らすように問い返す。
今度は逆に、桜が顔を俯かす。
苦痛から。
「ううん。プレセアさんは………………雛ちゃんに……殺された」
「…………そう、ですか」

ベルカナはまたも少し、惑う。
この少女に、正確に言えば雛苺に関わって失った物が多すぎる。
それは彼女自身が赦す赦さないという問題ではない。
仲間の結束を保てるかどうか、それが問題だった。
だからベルカナは釘を刺しておいた。
「私の仲間にはプレセアの大切な仲間も居ます。その事はあまり話さないように。
 恨み憎しみなんて少ないに越した事はありません」
「え…………う、うん。……ごめんなさい」
戸惑いと罪悪感を満面に浮かべた桜の謝罪に、ベルカナは息を吐く。
ひとまずは、これで良い。
ひとまずは。
70代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:08:19 ID:18hv90jy
「それで? 結局、自動人形についての情報はそれだけなの?」
「ええ。申し訳ありません、シャナさん。一応、お聞かせ願えますか?
 あなたが自動人形を捜す理由は?」
「その破壊が私の使命だからよ」
ハッと息を呑む桜を、シャナは冷たい目で見つめた。
彼女が何か言い出すのを塞ぐように、宣言する。
「おまえは納得しないかもしれないけど、私には関係無い事だわ。
 おまえは理屈が通じる相手じゃないだろうし、それにもう片方は納得している。
 そうでしょう? ベルカナ」
「ええ。さくらが雛苺を御せて、且つ私の仲間が彼女を赦せるならば、
 私は私と仲間に無理が無い範囲であなたから雛苺を護る立場になるでしょう。
 それだけの事ですわ」

それだけの事。
ベルカナ一行が雛苺を取り込んだ所で、シャナと再会しなければ関係の無い話。
この狭くも長生きできない島では、そんな事が十二分に有りえるのだ。

『話しすぎではないか、シャナ?』
「別に隠すような事は無い。……けど、話してばかりか」
シャナはアラストールの危惧に応えて、気づく。
ベルカナばかり話していると思ってこちらからも話したけれど、
まともな情報を得られたわけでもない。
アラストールの警戒は、言外に手玉に取られているのではないかと注意したものだ。

ベルカナは言葉通りにとって、答えた。
「では私も、せめて危険人物についてお話しましょう」

ベルカナは朝の森で見た銀髪の少年、レミリア、イヴと城を襲撃したロングコートの少女について語った。
中でもシャナにとって興味深かったのは銀髪の少年だ。
その存在はシャナに一つの確証を抱かせる。
少年というのは気になるが、やはり銀髪の子供は二人居たのだ。
あの少女は時折、戦いの最中、口調と雰囲気が少年のようなそれに変わっていた。
これは思い切った想像だが。
彼女が男装、あるいは女装をしているとすれば、説明は付く。
「多分その銀髪の少年が、キルアが殺害した方ね」
『待て、シャナ』
そう思いきや、アラストールが疑問を呈した。
『学校において、襲撃を仕掛けてきてなのはが倒したというのも銀髪の少年だった。
 恐らくそれがベルカナの見た少年だろう。
 少年と少女が別に居たとしても、まだ説明はつかん』
「え? 二人で二度も死んだはずなのに?」
推理は更なる混乱へ迷い込む。

両方とも、桜など聞くだけで顔が青くなる程の死因から考え、生き延びたとは思えない。
学校組か、あるいはキルアが嘘を吐いていたのだろうか。
それともまさか、心臓を抜かれても上半身が消し飛んでも再生したのだろうか。
結局、二度殺された筈の銀髪の少年少女の正体は判らなかった。
71代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:09:41 ID:18hv90jy
「……話が長くなったわね。私はそろそろ行くわ」
得られた収穫は半端な物だが、シャナも長居してはいられない。
シャナの目的地はあくまで北東の市街地だ。
双葉やインデックス達が居るかもしれない中央エリアを無視しながらも城に舞い降りたのは、
方向が完全に一致していた通り道で、灯りが見えて、少し寄り道しただけに過ぎない。
結局、シャナが城で費やした時間は三十分足らずでしかない。
シャナは炎の翼を広げ、まだ暗い夜空へと飛び立っていった。

そして。

城を強い揺れと爆音が襲ったのは、それからしばらくした頃の事だった。

       ◇

巨大なお化け人形の頭部から突き出たランチャーが硝煙を漂わせていた。
ジャック・オー・ランタン。通称、ジャコ。
武器の一つとしてミサイルランチャーをも備えた戦闘用懸糸傀儡。
跨る箒は飛行能力と超高速振動鎌『グリム・リーパー』を兼ね備え、
頭部にはミサイル、口内からは粘着性の泡『バブル・ザ・スカーレット』を射出する。
カラクリの詰め込まれた懸糸傀儡は数有るが、これほどの機能が子供でも扱いやすい
やや小さな縮尺に詰め込まれているのは特筆に値する。

とはいえ今この瞬間のジャコを小さな懸糸傀儡と呼ぶ事は出来ないだろう。
10mを遥かに超えるその巨体では。

「……こんな事もできたのかよ」
「ずっと前に使えてたのが使えなくなってから、さっきまで忘れてたの。
 それに……ふぅ〜、とっても疲れるの」
雨音をも掻き消す轟音に呑まれそうな小さな呟き。
ジャコは見る見るうちに元のサイズまで縮小していった。
幾ら自前と合わせて三人分のローザミスティカを備えた雛苺と言えど、
懸糸傀儡としては小さくとも、人形としては大きなそれの巨大化を維持する事は難しい。
ジャコを巨大化させていた時間は僅かなものであり。
その成果は、絶大だった。

城は半壊し、幾つもの大穴が開いていた。
内部にも崩壊が広がっているはずだ。
中に居る人間は無差別に死傷しているかもしれない。
城には、木之本桜が居たはずなのに。
それでも雛苺は、その攻撃を迷う事は無かった。
何故なら。
「よくやった、雛苺。それじゃ私は、こいつに乗って戦果を確かめてくるからな」
「うん、おねがい。さくらの……仇を、とって」
「ああ。城からこれ以外が出てきたら注意しろよ」
雛苺は、木之本桜の死を確信していたのだから。

理由は簡単な事だった。
雛苺は気づいてしまったのだ。
指に嵌っていたはずの、ミーディアムとの契約の指輪が消えている事に。

ドール達との契約はある種の呪いのようなものだ。
それが解けるのはドールの側が望んだ時か、あるいはどちらかが死に別れたその時だ。
雛苺は一度、その前者により契約を手放した事が有った。
だけど今回は、そうではなかった。
それなら答えは一つだ。

木之本桜は城に居る者達に殺されてしまったのだろう。
72代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:12:48 ID:18hv90jy
その確信と喪心と共に、Q-Beeからの支給品は届けられた。
それは弱く懸命な狡知を秘めた千秋にとって、逃すはずも無い機会である。
千秋は呆然となる雛苺から支給品を掠め取り、一つの案を思いつく。
雛苺には外から城を攻撃させて、その後で自分は支給品で城を攻めよう。
この支給品ならきっとあいつらにも勝てるはずだ。
千秋はそれほどの支給品を引き当てた。
正確には雛苺が引き当てたそれを奪い取った。

千秋はまるでお人よしな協力者とでも云うかのように、持ち掛けた。
おまえの仇討ちを手伝ってやると。
おまえの大切な奴を奪った奴らに復讐してやると。
少し前まで桜の許に行く事を止めていた千秋の優しい言葉は、あっさりと雛苺を絡め取る。
復讐の為とはいえ、結果として支給品が奪われている事にも頓着せず、
雛苺は千秋に言われるがままに動き出す。
千秋も予想だにしなかった凄まじい威力のミサイルを叩き込み、
更に橋を伝って伸びる夥しい茨が城を絡めとろうとしていた。
今の雛苺にはそれだけの力があった。
真紅と翠星石のローザミスティカを取り込み、少し前までミーディアムの潤沢な魔力を得ていた雛苺には。

そして縦横無尽に伸びる茨を踏みしめて。
身の丈5mの鎧巨人が、城へ向けて侵攻を始めた。

       ◇

「みなさん無事ですか!?」
ベルカナの焦りに満ちた声に、方々からゆっくりと声が返る。
「レックスとヤムィヤムィ、アルルゥまもってくれた」
「こっちも大丈夫! 二人とも怪我は無いよね」
「はい、大丈夫です。よく判らないけど、体を硬く出来ましたから」
丁度宿屋に戻ってきた三人と、桜が対面した矢先だった。
突然の轟音と共に天井が所々崩れて瓦礫が降ってきたのだ。
レックス達三人は、心配するまでもなかった。
慌てて盾を構えたレックスと、体を硬化させたヤミヤミが瓦礫を防いでいたのだ。
「ベ、ベルカナさん、血、血が出てる!」
「……何を今更驚いているのです、このくらい」
「そ、それはそうだけど、でもっ」
「大丈夫ですわ」
むしろ生身で桜を庇ったベルカナの方が危なく、しかし幸運だった。
幸運にも大きな瓦礫はベルカナと桜を避けて落ちた。
流石に無傷とはいかなかったが、ベルカナが衣服を新調していた事も幸運だった。
衣服はベルカナを護り、衝撃を緩和していたのだ。
(今の感じ……この服、いえ、その下の下着の方ですか?
 確かに古代王国であれば衣服も何もかも防護魔法が掛かっていたと聞きますが……
 ああ、別世界なら同じ魔法でも技術体系は全く違うなら、古代王国同等は有り得ますわね。
 例えば高級な織物全般が普通に魔法的な効果を帯びているという世界も……。
 …………って、何を考えていますの私。それどころではないでしょうに)
思考が暴走する。
論理的だがその実、方向性が無意味に走っている。
息を吸い、履いて、吐いて、状況を把握。

城に向けて、外部から攻城兵器のような一撃が炸裂した。
それにより綻んだ建材が部分的に崩落しあちこちで瓦礫の山を作った。
しかし幸運にも、被害は無し。
73代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:14:06 ID:18hv90jy
「え? あの時の、怖い男の子……? それに、森で会った……」
「それは……」
「後回しです! 今は逃げるのが先決ですわ」
レックスとアルルゥを見て何か言い出そうとした桜を止める。
今はそれどころでは無いのだ。
「あなたの親友はかつての敵に助けを求めてでもあなたを助けようとした。
 それだけは先程に言いました。それだけで今は十分でしょう。
 彼女達は仲間です。
 私の、そしてあなたの」
急き立てる勢いで言葉を並べる。
そしてベルカナは、即座に、状況の把握を続行した。

外部からの攻撃は有ったが、これで仕留めたと思ったにせよしないにせよ、確認は有る。
もしも生きていたらトドメを刺すというおまけ付で。
ベルカナ達は幸運にも軽微な被害で初撃を耐え抜いた。
だが先程の攻撃を何度も、とは言わないまでもあと何回か出来るならば、
ベルカナ達にとって最も効果的な戦術は結局逃亡となる。
更にその決断を後押しする事態が発生した。

「っ! 隠れて!」
宿屋の入り口近くにいたレックス達を引き込み、城の入り口の方を見る。
この城は屋内に店舗や宿屋までも収納した、巨大で強固な石の箱だ。
その性質も幸運して初撃による瓦礫はそれほど致命的ではなかった。
ベルカナは知らないが、レックスに聞けば推測なら得られただろう。
グランバニアはかなり魔物が強い勢力圏に存在するからじゃないかな、といったような。
とにかくこの城は、強固だった。

その屋内と屋外を隔てる強固な門戸から、騒音が響き、ひび割れが走ったのだ。
一回、二回。

たったそれだけで、門が砕け散った。

「あれは……なんです?」
ベルカナは慄然となりながら、呟いた。
誰もが首を振った。
74代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:15:15 ID:18hv90jy
そこに姿を見せたのは全長5m程の巨大な鉄巨人。
アヴ・カムゥと呼ばれる、一種の巨大ロボットの姿だった。

それを目撃した直後、ベルカナは首を引っ込めて仲間達に相談した。
その第一声は。
「逃げましょう。あれと戦うと、確実に被害が出ますわ」
逃亡の確認だった。

「倒さなくていいの?」
「あなたはあれが後衛を狙いだした時、抑え込めますか?」
「……ごめん。多分、すぐに突破される」
ベルカナはレックスと戦力を確認する。
ベルカナは巨人を打倒不可能な強敵と見ているわけでは、ない。

確かにあの巨大さとそこから予想される攻撃力は脅威だ。
防御面も、概ねベルカナの知るゴーレムと同等の性能を持つとすれば、
ベルカナの攻撃魔法は殆ど全て通用しないと言っても良い。
だがベルカナの持つ最大の武器は搦め手の魔法だ。
あれも支給品、挙動からして中に人が乗っているとすれば、
ベルカナの魔法による撹乱効果は十二分に大きいし、
レックスの戦闘力とアルルゥのサモナイト石を攻撃の主軸として、
バランスの取れたヤミヤミの能力、更に桜にマジックアイテムを持たせて攻撃に参加させれば、
あの巨人を打倒する事は可能な事だろうと思えた。
75代理投下 それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 14:16:37 ID:18hv90jy
そこからがベルカナの分析だった。
あの攻撃力と巨体による侵攻力、更に味方側の耐久力分析して考えた。
レックスに勇気ある者の盾を持たせて前に立たせれば、かなり耐えられるはずだ。
あの盾には敵の攻撃を惹きつける効果が有る。
攻撃が全てレックスに集中し続けるならば、彼をサポートすれば死者も出さずに勝てるはずだ。
だが勇気ある者の盾が持つ、呪いとも言える敵の目を惹きつける効果は完全ではない。
一度か二度、理性的な判断により後衛の者を狙った場合。
その巨体により前衛の足止めを突っ切って後衛に攻撃してきた場合。
(一撃でも死亡の可能性は十分。二撃なら確実に一人殺されますわね)

レックスがまず倒そうと考えた事は、万全の戦闘体制なら間違っていないのだろう。
ベルカナの推測するところ、レックスの本来の能力を生かせるチームメンバーは、
個々がある程度の総合戦闘能力を有したパーティである。
それぞれ分野に限定されたプロフェッショナルが役割を分担し一つとして動くというよりも、
十分な単独戦闘能力を持った個々が協力する、安定性の高い戦略だと言える。
条件は最前線に居ても足手まといにはならない程度の身体能力。
ヤミヤミは該当するが、ベルカナはもう厳しい。
それなりにお嬢様だが傭兵の子、冒険も初めの何回かは戦士と並んで武器を振るっていた。
それでもあの巨人の攻撃が飛んできたら凌げるかどうか。
アルルゥと桜、特に桜は尚更だ。
かなり回復したとはいえ、病み上がりの少女を後衛まで攻撃が届きうる戦場には出せない。

ベルカナは少ないデータで分析した。
それぞれの確率を考慮し、どの程度まで戦えるかを深慮した。
練磨され加速していく思考の末に算出した分析結果が。

「あれを倒そうと思えば誰か一人、悪くすると二人ほどは殺されるかもしれません。
 そんな相手と戦う事はありませんわ。
 やり過ごして逃げましょう、その方が生存確率も高くなるでしょう」

逃亡だった。
このバトルロワイアルにおいて、強敵を倒す事は必ずしも必須ではない。
恐るべき強者であろうとも何処かで何かの拍子に死ぬ可能性は十分高い。
強敵同士が共倒れしてくれるかもしれないし、レックスやアルルゥのように改心するかもしれない。
後で倒さなければいけなくなる危険も有るには有るが、そう高い確率とは言えなかった。
だから、逃げる。
76それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 15:21:36 ID:XHd6LKrO
「それじゃさくらに使っていた核鉄で……」
「いえ、あの霧はダメです。それでは生きていると報せてしまう。
 そうなれば最初の攻撃で霧ごと吹き飛ばされてしまうかもしれませんわ」
「じゃあ、どうするの?」
ベルカナは言葉で答えず、杖を手に握ってみせた。
呟くように、唱える。
「万物の根源、万能なる力……まやかしの光となりて、偽りの形を造り出せ」

幻影の魔法。
ベルカナの使う古代語魔法には姿を偽り、幻を作り出す魔法が幾つも存在している。
精神を集中し続ける必要があるが、簡易で消耗も少ない風景擬態魔法カメレオンや、
同じ制約を持つが音や臭いまで消し去る高度な透明化魔法コンシール・セルフ、
声や体型の変化までは出来ないが完璧な変装を行うディスガイズといった自己を隠す魔法もそうだし、
朝方にイエローと城戸丈を助けた音までも伴う高度な幻覚魔法イリュージョンもそうだ。
この場面でベルカナが使ったのはイリュージョンの簡易魔法、音の無い幻を生み出すクリエイト・イメージ。
それだけで十分だと判断したのだ。

城内に侵入したアヴ・カムゥは城の通路を突き進む。
砕け散った門扉から見て、彼女達の隠れる場所は十字路のような場所だった。
そこを右から左へと、傷ついた少年がよろめきながら歩いて行った。
巨人はまだ生きている獲物の存在を知って走り出す。
そして十字路に辿り着き、左を覗いて。
……何かに気づいて、背後を振り返った。

そこに有ったのは崩れた宿屋の瓦礫だけだ。
しかしアヴ・カムゥの視線は瓦礫を見つめている。
まるで困惑しているかのように、そっと瓦礫へと手を伸ばす。
巨大な手が、迷うように瓦礫に触れて。

「走りなさい!」

脱兎の如く、幻影の瓦礫の中から少女達が駆け出した。

       ◇

「な、なんだ!? どういう事だ!」
事態は両方にとって、予想外だった。
幻影に気づかれたベルカナにとってはもちろん、
アヴ・カムゥを駆る南千秋にとっても状況は予想外だった。

千秋は最初、十字路を右から左に逃げたレックスを追いかけようとした。
だが十字路を左に曲がったところで、その姿が見当たらない。
早くも別の曲がり角や物陰に逃げ込んだのかもしれない。
前回のように、奇妙な霧は出ていない。
千秋は懐の首輪探知機を、見下ろした。
光点は全て、千秋の背後に有った。

動揺と共に振り向いた先に見えたのは、困惑。
瓦礫と化した城の宿屋。
恐らく表示される首輪の参加者達は瓦礫に押し潰されて死んだのだろう。
……本当に?
77代理投下  それはそれは残酷なお話(前編):2009/07/20(月) 15:24:26 ID:XHd6LKrO
疑問は小さな物だった。
確信は無く、困惑だけだった。
それでも、迷いながらも、千秋は手を伸ばした。
5mの巨人は中に搭乗した千秋の望むとおり、手を伸ばした。
その指先は何の抵抗も無く、瓦礫の中に突き立った。

そこから4人の少女と1人の少年が飛び出した。

「どういう事なんだよ!?」
瓦礫は幻だった。
城に居た者達は最初の攻撃を掻い潜り、幻で作った瓦礫に隠れて千秋をやり過ごそうとした。
それは理解した。
最初だって首輪探知機を使えなくしたのだ、今度は視界の方を騙したっておかしくない。
だけど。

「なんで!」
叫びと共に追いかけ振り下ろした巨大な拳を、少年の盾が受け止める。
ずしりとした堅さ。
止められた。
巨大な拳を、その三割にも満たない小さな体で。

「なんで生きているんだ!」
疑問の一つ目は、少女の一人へ。
木之本桜。
雛苺を動かす理由になった、殺されたはずの少女。
その少女が何故か生きていた事は驚きだった。

「なんで“そこ”に居られるんだよ!?」
そしてそれ以上に重い、二つ目の疑問。
死んだと思っていた。
生きていたとしても、生かし続けられる理由が無いと思っていた。
そのはずだったのに、生きていた矛盾。

「イヴ!!」

全てを忘れる為に殺人機械である事を選んだ筈の少女は。
決して認め合えない、千秋と鏡写しの心を持っている筈の、イヴは。
明確な決別の言葉を、告げた。

「私はヤミヤミ。そう名づけられて、そう生きていく」


【F-3から北東の町へ/一日目/黎明】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:しろがね化、消耗(小)
[装備]:楼観剣(鞘なし)@東方Project、コキュートス@灼眼のシャナ、あるるかん@からくりサーカス
[道具]:支給品一式(水少量、パン一個消費)、包帯
[思考]:急がなきゃ。
第一行動方針:北東の市街地に向かい居るはずの自動人形(トリエラ・リルル)を破壊する
第二行動方針:要件が済んだら、インデックスや双葉たちと合流。
基本行動方針:ジェダを討滅する。自動人形(と認識した相手)は、全て破壊する。
[備考]:義体のトリエラ、及びロボットのリルルを自動人形の一種だと認識しました。
[備考]:これまでのインデックスの行動の全てを知っています。
    神社を拠点にする計画も知っています。
    弥彦、キルア、アラストールと情報交換しました(どの程度かは次の書き手任せ)
78代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:27:21 ID:XHd6LKrO
「なんで“そこ”に居られるんだよ!? イヴ!!」
アヴ・カムゥから発せられた叫びに、イヴであった少女ははっきりと答えた。
表情に幾らかの戸惑いと苦悩を浮かべて。
だけどどうしてか無垢な表情と、若返った体で、答えた。
「私はヤミヤミ。そう名づけられて、そう生きていく」

千秋は直感的に理解した。
背筋を寒気が駆け上がった。
苛烈な熱を惨烈な現実が襲うように、激情を凍えが塗り潰す。

「私を、覚えているか」

直感を確信に変えるため、問いかけを投げかける。
その予測通り。

「……ごめんなさい」

イヴは千秋の事も、何もかもを忘れていた。

ある意味で好都合な事だ。
千秋は自分が殺人者側に立っている事を、出来るだけ誰にも知られたくなかった。
幾ら好都合な状況が揃っていても、この城に攻め込んだ理由には焦りが有る。
何処からかこの城に飛んできて、羽を休めるように降り立った炎の翼の少女。
この城に居る者達がより多くの者達と情報を交換する可能性。
自分の情報が拡散する危険性。
それらの先に有るのは、南千秋がひとごろしである事を広く知られてしまう未来予想図。

シルバースキンを纏っていたのだから、顔は殆ど見られていないだろう。
名前も知られてはいないはずだ。
それでも、嫌だった。
あの同盟の相手に知られるのはまだしも、それ以外の相手に知られたくはなかった。

思いの外に早く炎翼の少女が飛び立っていくのを見て、千秋は決心した。
少しでも自分の情報を得た、城に居た奴らをこの強力な支給品で殺そうと。

千秋は、南千秋がひとごろしである事を知られたくなかった。
ましてや千秋の顔も名前も知っているイヴが敵に付いたなら、
記憶を失ってくれている事は好都合のはずだった。

でも。

だけど。

「………………ズルすんな、バカ野郎」

それ以上に、許せなかった。

「おまえと私は同じだったんだぞ!
 私もおまえも、ご褒美を貰えるくらいに人を殺してしまって。
 立ち止まれるはずもなくって。
 ひとごろしの居場所なんて何処にも有るわけなくって。
 ぜんぶ無かった事にしようと思ってひとごろしを続けてたんじゃないのか!?
 最後にはそんなお互い殺し合ってでもこんな夢から逃げ出したくって!!
 それなのにもう忘れられたのか!?
 もう、居場所を手に入れたっていうのかよ!?
 私達がもっともっと何人も殺して行こうとしてた場所だぞ!!
 ふざけんな!
 ズルいぞこのバカ野郎!
 この……バカ野郎!!」
79代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:28:31 ID:XHd6LKrO
目の前に居る少年なんて、後回しで良かった。
千秋はただ、イヴが許せなかった。
悔しくて、羨ましくて。
憎かった。
だからアヴ・カムゥの巨体を操り、走り出そうとする。
慄くイヴに、その巨大な拳を叩きつけようとする。

「ライデイン!!」

瞬時に走った稲妻が、アヴ・カムゥの体を突き抜けた。
一瞬その動きがピタリと止まり、拳は獲物を見失う。
レックスの叫びが響いた。
「走って! ボクは大丈夫! 後から合流できるから!」
イヴは。
いや、ヤミヤミは動揺から立ち直りその言葉に従う。
アルルゥと、ベルカナと、木之本桜と共に。
彼女達は、城の外に向けて走り出した。

仲間を護る勇者と、ただただ殺意に満ちた少女が睨みあう。
レックスは、アヴ・カムゥの中の少女に向けて言葉を発した。

「ボクはキミの事を知らない。
 キミがヤミヤミとどういう仲間だったのか、どういう理由で殺し合いに乗ったのかも。
 でも、今やヤミヤミはボク達の仲間だ。
 ボクは、仲間を護る」

「……おまえって油みたいな奴だな」
「油……?」

「夏の虫と一緒に飛び込みやがれだ、バカ野郎!」

振り下ろされた怒りと哀切の巨拳。
掲げられる勇気ある者の盾。

戦いの幕は切って落とされた。
80代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:29:20 ID:XHd6LKrO
       ◇

「ね、ねえほんとうに良いの!? さっきの子、置いて来て」
「大丈夫です。レックスは一度だけ仲間と合流する転移アイテムを持っています。
 自力であのゴーレムの攻撃に耐えられない私達など彼の足を引っ張るだけ。
 私達の今すべき事は、彼が転移アイテムで合流した時に安全な場所まで逃げ切ることですっ」
桜の躊躇いに答えつつ、仲間達を連れて走るベルカナ。
ベルカナはそれが自身の役目だと認識していた。
子供達を引率する年長者として。
元の世界で重要な司令塔の一人として動いていた者の役目だ。

だからベルカナはアルルゥ、木之本桜、ヤミヤミの三人を護る。
その生き死にに責任を感じている。
ベルカナの最優先目的は、彼女達を連れて城から離れる事だった。
「出ますよ、注意を……!」

そして城から出た彼女達は、息を呑んだ。
81代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:30:02 ID:XHd6LKrO
壊れた門扉から飛び出したベルカナ達を迎えたのは今だ降り続く豪雨と、膨大な量の茨。
太い茨が橋を伝って繁茂し、橋も城も覆いつくしていたのである。
まるで生きているように茨がうねり瓦礫を叩く。
煉瓦壁の残骸を締め付けて、へしゃげ砕けるまで圧し潰す。
そこは正に踏み込めば破滅へと繋がる死地であった。

「……雛ちゃん? この茨、もしかして雛ちゃんのなの!?」
「あの人形の? ではこの茨の先に雛苺が……いけません、止まって!」
「え……」

他より幾らか踏み出した木之本桜を、茨が感知したわけではない。
茨の操り手は冷たい雨に煙る世闇の向こう。
城門付近に居る者の姿など識別できない。
ただ単に、橋と城を伝って無作為に蠢く茨の射線上に桜が居ただけ。
アヴ・カムゥならば容易く引き千切れるから頓着する必要の無い、
しかし生身の人間にとっては致命的な破壊の渦が、たまたま桜を巻き込んだだけだった。

「きゃああ!?」

悲鳴は短く、驚愕と恐怖だけで出来ていた。

痛みの無い悲鳴。
バラバラと切り裂かれた茨が地に落ちる。
巨大な刃に変形したヤミヤミの右手が、襲い来る無数の茨を断ち切ったのだ。

「させない……」
桜を背に立つ、ヤミヤミ。
だが茨が断ち切られた事は流石に判る。
茨を断ち切る誰か、巨大なアヴ・カムゥではない、遠目では見えない小さな人間がそこに居る事は。
茨がうねる。
のたうち踊り襲い掛かる。
それは正に緑の洪水で、今度こそヤミヤミに防ぎきれる量では無かった。
已む無しとベルカナは判断し、指示を放つ。
「アルルゥ、橋を!」
「ん。ンアヴィワ!」

アルルゥはサモナイト石を掲げる。
空間が歪み、現れたのは召還獣ワイバーン。
その顎は、無数の火球を橋に向けて射出した。

劫。

分厚い木製の橋が、焼ける。
砕け、弾け、燃え尽きる。
激しい雨の中でも苛烈に燃え上がる炎が、城へと続く橋を破壊した。

それを伝う茨諸共、橋板が川へと墜ちていく。
豪雨により増水していた川は鈍い音と共に橋板を呑み込み、押し流していく。

茨を伝う橋は最早無い。
走って逃げる橋は最早無い。
しかしベルカナは、即座に次の指示を下していた。
「あそこへ走りなさい!」

今彼女達の居る橋の袂からなら、はっきりと見える。
増水した川の流れに揺られて今にも押し流されそうな、一隻の船。
ヤミヤミがイヴだった時に、南千秋と乗ってきた船。
ラグーン号である。
82代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:30:50 ID:XHd6LKrO
そこに向かって駆け出す前に。
ベルカナは一度だけ、川に流され藻屑と消えた橋の残骸を振り返り。
「ベルカナ?」
「……いえ、なんでもありません。行きましょう」

そこに転がっていた──城へと侵攻する途中のアヴ・カムゥに踏み潰され、
人目に晒せないほど無惨に拉げていた梨々=ハミルトンの遺体が、
仲間達の目に触れる事無く水葬にされた事を確認してから。

ほんの数瞬だけ、冥福を祈り。

アルルゥ達を連れて、船に向けて駆け出した。

       ◇

五メートルを超える巨体。

それは、ただそれだけで、圧倒的な暴力を示すステータスとなる。
成人男性の三倍以上、この島に連れて来られた者にとっては四倍前後の巨大な体躯。
鎧に覆われた強固な外殻。
そこから繰り出される拳は云うに及ばず強力無比な破壊力を持つ。
直撃すれば人間が生き残る術は無い。

ならば、まず思いつくのは避ける事だろう。
一撃たりとももらわないよう回避に徹し、
ヒット・アンド・アウェイで戦う戦術だ。

確かにこれは有効な戦術だと言える。
そして同時に、極めて不安定な戦術だとも言える。

一度でも当たれば、死ぬのだ。

例えそれが万に一つの可能性であろうとも、安心などできない。
どれほど有利であっても、どれだけ力が有ろうとも、どこまで行っても綱渡りでしかない。
だが、恐るべき脅威、巨人アヴ・カムゥを前にして。

レックスには、余裕が有った。

拳を盾が受け止める。
衝撃が全身を伝わり、骨が軋みを上げて、肉が痛みを訴える。
流れ落ちた衝撃は足を石畳にめりこませる。
レックスはアヴ・カムゥの巨拳を無理に避けるのではなく、盾で受け止めていた。
盾での防御は身を躱すよりも遥かに容易である。
直線的で巨大な攻撃であるほど、その広い面積に当てるのは容易い事だ。

しかしこれは、普通に考えれば自殺行為である。
盾で止めた所で、衝撃は伝わる。
アヴ・カムゥほどの巨体の攻撃を子供の体で受け止められるはずがない。
例えばアヴ・カムゥの中に居る南千秋が同じ事をしたならば、
盾などまるで意味が無く叩き潰されて即死していただろう。
それが当然の答えである。

答えが違うというならば、式と解法が間違っているのだ。
83代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:32:17 ID:XHd6LKrO
(いける)
レックスは口の中で呟く。
目の前の相手は、そう恐れるほどの敵ではないと。
元居た世界では、高く聳える塔よりも巨大な山のような怪物を倒した事だって有る。
それに比べれば、目の前の敵は、弱い。

確かに、その時に居た父親達仲間は居ない。
身を纏っていた強固な鎧も無い。
制限によって呪文などの能力に弱体化も起きている。

しかし目の前の敵はかつて倒した怪物よりも、遥かに弱い。
体は小さく、雷を呼んだり特殊な攻撃をしてくる事もない。
獣の本能じみた戦闘技術さえなく、力任せに殴りかかってくるだけだ。
レックスも、その頃より更に強くなっている。

そして、鎧は無くとも自分の戦いをするため最低限の装備が有った。
少々防御面は心許なかったが、スクルトを重ねがけすればそれなりにはなった。
レックスは反撃に出る。

振り下ろした杖が巨拳を叩く。
鉄の装甲にヒビを入れる。
鎧を穿つ。

「舐めるなこの野郎!」
アヴ・カムゥが初めて拳ではなく、蹴りを放った。
不意を突かれ、それでも盾で防御する。
レックスは宙に浮き、壁に叩き付けられる。
緩和されても尚常人なら十二分に即死する衝撃に、強固な肉体が悲鳴を上げる。
神経にガタが来て、骨にヒビが走り、皮膚が裂けて血が溢れ出す。
まだまだ死にはしない、だが動きを阻害されるだけの傷。
それは次の一撃二撃で敗北するのと同義である。

これが攻撃を受け止めて戦う時のリスク。
幾ら衝撃だけでもダメージは蓄積してしまう。
1%の即死は無くとも、積み重なれば死ぬ攻撃を100%で受け続けてしまう。
動きは鈍り、徐々に死へと転がり落ちる。
だが。

「ベホマっ」

軽快な動きを取り戻したレックスは、更なる追撃を盾で受け止める。
一撃で確実に1/10ずつ削られるならば、計画を立てられる。
一撃必殺の攻撃を撃ち合う戦い方ではなく、
強固な守りでリスクヘッジを行い、自身がどこまで攻撃に耐え切れるかを判断し、
戦術と戦略を融和する。
それらを感覚的に行いながらレックスは切り口を模索する。

(やっぱり、盾で受け止めるならしばらくは耐えきれる。
 盾だけだとやっぱり辛いな。鎧と兜が無いとあまりもたないや。
 でも……負けない!)

アヴ・カムゥが再び殴りかかってくる前に、レックスはそれを放った。
自分の持つ、最強の攻撃呪文。

「ギガデイン!」

勇者だけに許された強力無比な破壊の雷撃を。
迸る暴力的な閃光と轟音がアヴ・カムゥを貫き、炸裂した。
84代理投下  それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:34:26 ID:XHd6LKrO
白い衝撃が全てを塗り潰す。
デイン系の呪文はレックスの世界においても特別な呪文である。
まず何より、その圧倒的な性能が上げられる。
この島においては制限により範囲を縮小されているが、
ライデインは本来四方八方から群がる魔物をも悉く撃ち果たせる上に、
ベギラマより広域高威力でありながら同程度の魔法力しか使わない。
正に破格である。
デイン系自体が、注ぎ込む魔法力以上の破壊力を叩き出せる効率の良い術式なのだ。
レックスが未だにベギラマとライデインを使い分けている理由の大半は、
ライデインより遥かに容易に習得できたベギラマの技術的使い易さによる物が大きい。
自分の手より放つ事から狙いを付けやすく、消耗は同じでも感覚的に使いやすい。
この島ではライデインより制限の影響が薄く、普段通りの感覚で使えるのも大きかった。

何より、ギガデイン。
これは最早特権とさえ言えた。
ただでさえ効率の良いデイン系でありながら大きな魔法力を必要とするギガデインは、
それに見合うだけの圧倒的な破壊力を持っているのだ。
幾ら他系統の呪文を極めようとも、ギガデインに比する威力まで到達する事はできない。
その上、デイン系の呪文は防ぎにくい。
炎の通用しない魔物は少なくない。
冷気の通用しない魔物も少なくない。
しかしデイン系の呪文、雷撃という特性は極めて防ぎにくいのだ。

その、ギガデインが。
高効率な術式に注ぎ込まれた膨大な魔法力が、
防御困難且つ圧倒的破壊力を持つ雷撃と化して炸裂した。

閃光が収まった後には。
全身からは焦げ臭い煙を燻らせ、所々から体液を漏らすアヴ・カムゥの姿が有った。

       ◇

「ツー」
「カ、カーっ」
「ツー」
未だツーカー錠の残るベルカナとヤミヤミが言葉を交わす。
交わされた内容は単純明快。

《さっきの説明書でこの船の操縦法は判りましたか?》
《まだ判っていないなら見ながら、動かしながらでも覚えてください》
《急いでください、この船で逃げますよ》

《ごめんなさい、まだ覚えてないんです。》
《はい、判りました。急いで覚えて、ううん、見ながらでも動かします》

《ええ、急いでください》
《レックスがあのゴーレムのような物を足止めしている内に》

ヤミヤミはランドセルからマニュアルを取り出し明かりで照らしながら読み始める。
今、最も早く操縦法を理解できるのはヤミヤミなのだ。
操縦席を任せたベルカナは夜闇を睨む。
その先の何処かには雛苺が居る。
膨大な茨を這わせて城全体への攻撃を仕掛けてきた、雛苺が。
木之本桜に言わせれば絆を結べていたというが、ならどうしてそんな事をしたのか。
(致命的なまでに判断能力が無いか、死生観が特殊で死体でも居れば良いのか、
 本当はさくらの事をどうでも良いと思っているのか、それ以外の理由か。
 何にせよ交渉の余地が有るとは思いにくいですわね)
85代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:43:46 ID:18hv90jy
溜息を一つ吐くと別の部屋に移る。
アルルゥと木之本桜の姿がそこにある。
不安そうな、アルルゥの表情。ベルカナはまずそちらに話しかけた。
「どうしました、アルルゥ」
「さくらが、『ひなちゃんをせっとくにいく』って」


「……何を考えていますの、木之本桜」
ベルカナは僅かな怒りすら滲ませて問うた。
行かせるわけにはいかない。
逝かせるわけにはいかない。
ベルカナの当面の目的は彼女達を護る事だ。
あれほどの死地に向かわせるなど言語道断だ。

「あの茨を張っていたのは雛苺なのでしょう?
 城にはあなたが居るのにあんな事をした。
 つまり今の彼女に近づけば、あなたも攻撃される危険は高いんです」
「で、でもあの茨は雛ちゃんのだもん、止めなきゃ!
 一緒に居てあげるって、もう殺し合いなんてさせないって決めたんだもん!
 きっと雛ちゃんはわたしが居るって気づいてないだけだよ!」

同じ局面を見てベルカナと桜は全くの逆を思ったのだ。
危険だから近寄ってはいけない。
危険だから止めなくてはいけない。
自分と仲間のために。
仲間と何処かの誰かのために。
「それで止められる根拠は何処にあるのですか?
 あなたは雛苺を御しきれてなどいない」
「近づけば。声が届くところまで行ければ止められるよ。
 だって……ツー」
ベルカナは小さく息を呑み、理解した。
「……ツーカー錠を飲んでいるのですか、あなたと雛苺は」
「うん。雛ちゃんが、城の下の方に降りていく前に飲ませてくれたの」
恐らく、切れるのはこの雨が止んだほんの少しだけ後。
もうすぐだが、少しだけの時間は有る。
86代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:45:40 ID:18hv90jy
確かにそれなら、可能性は有るのかもしれない。
雛苺が何かの『勘違い』をしているのなら、それで止まる。
雛苺を取り込む事による危険な不確定要素は大きいが、実を言えばメリットも大きい。

橋が落ちたとはいえ、雛苺がそれで止まるかは判らない。
逃げても追いかけてくる危険性は有る。
先手を打って抑え込むメリットは大きいのだ。

危険人物とはいえ、雛苺を引き込めるメリットも大きい。
あの広域に張り巡らした茨を見ても判る通り、雛苺の能力は強力である。
そも危険人物と言うならベルカナ達だって同じようなものだ。

桜が本当に雛苺を抑え込めるなら、それも良い。
桜が、本当に雛苺を御す事が出来るならば。



「分かりました」
ぱぁっと桜の表情が明るくなる。
ベルカナの小さな溜息。
「では、その隅に置いてある私のランドセルを開けてもらえますか。
 必要な物が入っていますから」
「うん。わかった」

87代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:46:45 ID:18hv90jy
部屋の隅に置いてあるランドセルへ歩み寄る桜の背中を見つめながら。
ベルカナは、小さく、呟くように、唱えた。
「…………眠りをもたらす安らかなる空気よ」

とさっと、小さな音を立てて。
桜の体は、ランドセルをクッションにして、突っ伏した。
静かな寝息を立てて、桜は眠っていた。

効果範囲を必要最低限まで縮小した眠りの雲の魔法が桜の意識を奪ったのだ。

目を丸くして見つめるアルルゥに、シーッと指を立てて秘密を求める。
囁くように言った。
「しばらくは起こさないように。ないしょですよ。
 起きたら病み上がりの疲れで寝てしまった事にしましょう」
「ん。わかった」
「あとカードとリインフォースIIは彼女の荷物に入れておいたと伝えてください」
「ん」

ベルカナは雛苺を放って行く事にした。
理由は簡単だ。
雛苺は桜にツーカー錠を飲ませてから、階下へと襲ってきたのだという。
それが意味するのはつまり、こういう事だ。

心の底から想いが通じ合う状態でも、桜は雛苺を止める事ができない。
例え御しきれたように見えてもそれは桜の思い込みに過ぎない。
ふとした原因で暴走してしまう不安定な物でしかない。

それがベルカナの桜と雛苺に対する評価だった。

「ツー《ベルカナさん、動かせそうです》」
操縦室からヤミヤミの声がした。
ベルカナはホッと安堵の息を吐いた。
どうやら脱出は無事成功したらしい。

ベルカナは一度だけ、まだレックスが足止めを続けているはずの城を見つめてから。
答えた。
「カー」

降りしきる雨の中、舫綱を外したラグーン号はゆっくりと岸を離れ、
徐々に、やがて見る間に加速して、夜の闇へと消えていった。

       ◇
88代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:48:12 ID:18hv90jy
ズシリと何処かしら重い音を感じた。
アヴ・カムゥがゆっくりと立ち上がり、再び拳を構える。
中の操縦者も、アヴ・カムゥも壊れてはいない。

そしてそれは、レックスもある程度は予測していた事だった。
幾らギガデインの圧倒的破壊力をもってしても、目の前のこれを一撃で倒せるかは分からない。
何よりレックスの呪文の威力も普段よりは落ちているのだ。
アヴ・カムゥを倒しきるには不足だった。
伝わる電流の余波で乗っている相手は倒せるかと思ったが、それも甘かったらしい。
中に居る操縦者がシルバースキンを身に着けていた少女だとすれば、考えてみれば当然だ。
しかしレックスは確かな手応えを感じていた。

(いける。こいつにはボクの戦い方が通用する。
 このまま隙を見つけてもう一撃直撃させれば、勝てる!
 幾ら力が強いっていっても、あの剣を持ったレミリアの方が強かった。
 レミリアの攻撃は重い上に速くて、鋭くて、ものすごく上手かった。
 こいつも力は強いけど、防げないほどじゃない。
 ボロボロのレミリアと違って当てても一撃じゃ倒せないけど、代わりに避けられる事も無い。
 それなら、勝てる。
 ボクはこいつに勝てる。
 ううん、こんな奴に負けてちゃいけないんだ。だって)

「おまえなんかに負けるようじゃ、あんなに強いレミリアに勝てるわけがないもの」

アヴ・カムゥが、ピクリと震えたような気がした。
それはきっと錯覚なのだろう。
だけど中から響いた声は、確かに震えていた。

「レミリア? おまえ以上の化け物が居るのかよ、ちくしょう。
 ふざけんなバカ野郎。
 なんでこんなに化け物ばかりなんだよ。
 なんの力も無い奴はどうやっても死ぬしかないとでもゆーのかよ。
 弱いからどうにもならないのか。
 弱いから死ねってゆーのか。
 ふざけんな。
 ふざけんなこのバカ野郎!」

89代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:50:37 ID:18hv90jy
アヴ・カムゥが背中に手をやった。
そこに掛けてあった何かを掴む。

(杖……?)

南千秋の操縦するアヴ・カムゥは背中から掴み取った杖を振り上げて。
レックスに向けて投げつけた。

(大丈夫、あの軌道じゃ当たらない! この隙にもう一度ギガデインを……)

野球のボールを投げる事をイメージすれば良い。
十mやそれ以上も離れたストライクゾーンにボールを放り込む。
それは思いの外に難しくて、咄嗟に、それも渾身の力で投げた場合は尚更だ。
ましてや投げる為に作られたわけではない杖など。
たかが小学生でしかない南千秋にはこの場面でそれを成功させる事さえ出来なかった。
杖は見当外れの方向に飛んでいって。

突如、急カーブしてレックスに向けて襲い掛かった。
90代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:52:07 ID:18hv90jy
(え!?)
咄嗟にドラゴンの杖の方で叩き落す。
少し焦げて脆くなっていたその杖は、一撃で粉砕されて砕け散った。
砕け散った破片を見下ろして、足元に転がる丸の書かれた紙が目に映った。
レックスは、それが投げた杖の軌道を捻じ曲げた事までは理解できなかった。

(一体何のつもり──!?)
そう、レックスは叫ぼうとして。

声が出なくなっている事に気がついた。

千秋が投擲した杖の名を、ルーンの杖という。
使う事により相手の声を封じ込む事の出来る、魔術師殺しの杖。
かつて南千秋が護ろうとした小岩井よつばを、無言の中に封じて殴り殺した杖だった。

「弱いからって。
 ど素人だからって舐めんなよ、バカ野郎。
 私だって、生きて帰りたいんだ。
 おまえみたいな化け物共もぶっ殺して生きて帰るんだ!
 このアヴ・カムゥで!」

千秋の絶叫と共に。
レックスは形勢が逆転した事を思い知った。

(不味い! もう足止めは十分だ、同行のカードで逃げて──!?)

磁力のカードの使い方はカードを掲げて、
『「磁力」使用(マグネスティックフォースオン)、仲間の名前』と“唱える”こと。
今のレックスに声は出せない。

(まずい! まずい、まずい、まずい! どうしよう、どうすれば──っ)
レックスは振り下ろされる巨拳を盾で受け止める。
焦りで体制を崩した。
衝撃を殺すために盾を手放して吹き飛ばされる。
転がる途中でランドセルの肩紐が千切れる。
支給品などを入れたランドセル。
この中に入っている爆弾石なら? ダメだ、火力が足りない。
しかし気づいた。
91代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:54:41 ID:18hv90jy
まだ、武器が残っている事に。

(お父さん! ボクに力を貸して!)
レックスは強く念じながら、ドラゴンの杖を掲げた。

閃光がレックスを包み込み、その姿を一頭の竜へと変えていく。
目の前に居るアヴ・カムゥにも対抗できる力を持ったドラゴンに。
だがしかし。

この判断こそが、レックスの最大の過ちだった。

ドラゴラムを唱えても衣服は魔力の体に取り込まれ、破ける事は無い。
前回ドラゴンの杖を使った時もそうだ。
衣服も、ランドセルまでもが竜の体に取り込まれていた。

今回は少しだけ状況が違った。
肩紐の切れたランドセルは取り込まれず、膨れ上がる竜の体によって引き裂かれた。

零れ出る。
その中に入っていた全ての物が。
92代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:56:42 ID:18hv90jy
「──────!!」

ドラゴンへと変身したレックスは、その顎から激しい業火を吐き出した。
朝方には一人の少年を黒焦げにした凄まじい火力のブレス。
しかしその炎が、割れる。
アヴ・カムゥの左手がレックスの手放した盾を拾い上げ、握り締めている。
大きな盾もアヴ・カムゥの手にあっては小さな盾に過ぎない。
その小さな盾が、巨大な炎を割っていた。

勇気有る者の盾。
そのエメラルドの輝きは所有者を敵の標的にしやすくする。
特にそれはドラゴンなどのブレスを吐く生き物を相手にした時、顕著となる。
同時にこの盾は、そういった炎のブレスなどに対し高い抵抗力を持つ盾でもあるのだ。

更にアヴ・カムゥの右手が、ランドセルから零れ落ちたそれを、握り締めていた。
巨大な鉄の塊。
もし巨大なドラゴンが実在していたと仮定して。
それを殺すためにはどれほどの大きさの剣が必要かを算出して鍛えられた、剣。

ドラゴンころし。

千秋の目には巨大な竜の姿が映っていた。
竜は千秋自身の心理によるものか、とてつもなく大きく見えていた。
すなわちそれは、千秋にとっての悪夢の象徴なのだろう。
千秋は、アヴ・カムゥの手の中にあってようやく標準的なサイズに映る剣を振り上げて。
「化け物め!」



振り下ろした。




千秋はアヴ・カムゥの中で、安堵の息を吐いて、呟いた。

「…………なんだ。思ったより簡単じゃないか。……竜退治」

それで、戦いは決着していた。

       ◇
93代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:58:39 ID:18hv90jy
城の外。
それまでの豪雨が嘘のように晴れ渡っていく星空の下で。
雛苺は、次にどうするかを考えていた。

城に向かった、名前も聞き忘れた長外套の少女は帰ってこない。
橋が壊れてしまったのだから当然だろう。
迎えに行ってやるのがいいだろうか。

それとも、逃げるように川を下って行った船を追いかけるのがいいだろうか。
あの中に居るのが“城に居た者達”だとすれば、桜の仇も居るはずだ。
“自分がしていたように”桜の死体も連れて行かれたかもしれない。

雛苺の結論は明快だった。

「……雛、さくらの仇、討つの。飛んで、ジャコ」

雛苺はジャコに跨ると、空へ向けて飛び立った。
その速度はラグーン号よりも遅かったが、問題は無いだろう。
雛苺には執念が有る。
この人形の心に残っているのは、木之本桜の事だけなのだから。



息を潜めてそれを見送った“彼女”は、囁くように唱えた。

「……万物の根源たるマナよ……かのものに……宿りし力を──打ち砕け!」

息を殺すように。
しかし常々より力強く。
彼女の世界の魔法は魔力を多く注ぎ込む事により、魔法の確実性などを上げる事ができる。
今回彼女が行ったのは、それだった。
この解呪は、万が一にも失敗するわけにはいかなかったからだ。

「しっかりなさい。傷はあなたが自分で塞ぐしかないのですもの。
 ──レックス」

ベルカナの腕の中で、レックスは苦しげな呻きと共に、呟くように“唱えた”。
「ベ……ベホマっ」

腕から噴出していた膨大な量の血が、止まっていく。
「ベホマっ」
青ざめていた顔色が徐々に赤みを取り戻していく。
「…………ベホマ」
三度目の全快呪文で、傷は塞がっていた。
出血は、止まっていた。
94代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 15:59:46 ID:18hv90jy
「合流が遅いと様子を見に来て正解でしたわね。喜んでいる間もありませんけど。
 さあ、掴まってください。私の飛行魔法の時間内、一時間以内に合流したい所です。
 磁力のカードは失くして……ああ、それだけポケットに入れていたのですか。
 どちらにせよそれでは一人しか合流出来ませんわね。
 ヤミヤミには外海を北から時計回りで移動するよう指示がしてあります。
 北西は禁止エリアが有って回れませんからね。
 東へ抜けて、そこから反時計回りに海沿いを飛んで合流しましょう」
「うん。……ごめん」
「一応、聞いておきましょうか。何を謝っていますの?」
「だってボクは、負けて……これからもみんなを護れるか、分からなくなったから」
少しの沈黙。
ベルカナはレックスを抱きしめて、城を後にして飛び立った。
優しく、言う。

「二つとも、間違っていますわ。レックス」
「二つとも……?」
「ええ」
ベルカナは、頷いた。

「一つ目。背負いすぎです、『勇者様』。
 それ以上を長々説明する気はありませんけど。
 もう一つ。私達は、決して負けてなどいません」

戦果は良い物とはいえない。
レックスは多くを失い、ベルカナも精神力を消耗し仲間と分断された。
アルルゥ、ヤミヤミ、木之本桜の事も不安が無いといえば大嘘も嘘になる。
襲ってきた敵はまるで倒せていない。
だがしかし。

「今度は、全員生き延びましたもの。前の襲撃のように、誰かを失う事なく」
「……うん」

「私達は幸運でしたわ。少しだけですけど」
「…………うん」

生き延びれば、機会はある。
生きている限りは。

例えレックスが魔法力の大半を使いきり、片腕と支給品の大半を失ったとしても。

彼女達は幸運にも、生き延びた。

       ◇
95代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 16:00:40 ID:18hv90jy
「…………なんだよ、それ」
南千秋は、呆然となりながらそれを見つめていた。

目の前にある、頭部をカチ割られた竜の死体。
不自然に消えず漂い続けている粉塵。
その両方には、実体が無かった。

不安になりフライトの魔法で城に戻ったベルカナは、
レックスがドラゴンに変身し、アヴ・カムゥに炎を吐いた瞬間を目撃した。
そこから即座に機転を利かせてクリエイト・イメージの魔法を唱えたのだ。
城から逃げ出す時に使った、光学情報だけの幻影魔法。
幻影の内容は、レックスのドラゴンを包み込む二周りほど巨大なドラゴンの幻と粉塵。
それと重なった幸運により、剣の狙いは逸れて。
ドラゴンに変身しているレックスの右腕をごっそり切り落とすだけに留まった。
千秋はどこか感触がおかしい気もしたが、人を切るのは今回が初めてで、
その上にアヴ・カムゥに乗っていたのだから、完全に気のせいだと思い込んだ。
その間に、粉塵に紛れて音もなく飛び寄ったベルカナはレックスを担いで飛び去ったのである。

千秋がその齟齬に気づいたのは、消えない粉塵を訝しみ竜の死体を蹴りつけた時だった。
レーダーを見てみると、城の外を遠ざかる二つ重なった光点が有った。

千秋はアヴ・カムゥから降りて、幻影の前にいた。
巨大な竜の幻影。
自分が仕留めたと思い込まされた幻。
「……なんだよ、それ」

転がっている、右腕。
あの少年は片腕を失い、だけど仲間に助けられたのだ。
千秋はまんまと幻影に騙されそれを見逃してしまったのだ。

あいつは、仲間に助けられたのだ。

「ふざけんな、バカ野郎」

呟くように呻く目の前を、粉塵が舞った。
幻影の一部だと思い。

一瞬後に、そうでない事に気がついた。

「え……?」

頭上を見上げた千秋の目には。



崩落してきた、天井の石が映っていた。
96代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 16:02:22 ID:18hv90jy
【G-3/川・ラグーン号/二日目/早朝】
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:魔力消費(中)、右腕の手首から先が動かない。眠たい。
[装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3
[道具]:基本支給品×2、クロウカード『泡』『駆』@カードキャプターさくら、
    海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り、快速シューズ)@ドラえもん
    スタンガン@ひぐらしのなく頃に、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT
[服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている)
[思考]:レックスとベルカナ、だいじょうぶかな。
第一行動方針:眠たい。もう寝ようかな。
第二行動方針:レミリアやイエローを捜したい。
基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。
参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後
[備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。
    ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。
    サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。
    アリス・イン・ワンダーランドに対して嫌悪を覚えています。
    ベッキーは死亡したと考えています。

【ヤミヤミ(イヴ)@BLACK CAT】
[状態]:疲労(大) 、10歳前後の容姿、ツーカー(→ベルカナ)切れかけ
[装備]:レミリアの服、エッチな下着@DQ5、返響器@ヴァンパイアセイヴァー、ラグーン号
[道具]:基本支給品×2、光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、
    フック付きロープ@DQ5、神楽の傘(弾0)@銀魂、エーテライト×1@MELTY BLOOD、
    胡蝶夢丸セット@東方Project、ラグーン号操船マニュアル、病院服、ただの布切れ
[服装]:レミリアの服、その下はエッチな下着
[思考]:………………。
第一行動方針:ラグーン号を操縦し、北端から時計回りに移動してベルカナと合流する。
第二行動方針:桜の世話をする。
第三行動方針:自分の過去を知りたい。そのために、ブルーや千秋から話を聞きたい。
基本行動方針:自分の過去を知りたい。そして罪と向き合いたい。
[備考]:記憶をすべて消し去りました。 元世界の記憶、この島での記憶、共にありません。
    ヤムィヤムィと名づけられました。ヤミヤミという呼称が使われます。

【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:魔力消費(中) 、疲労(中)、発熱、睡眠、核鉄二つで回復中
[装備]:核鉄『シルバースキン・アナザータイプ』@武装錬金、核鉄LXX70(アリス・イン・ワンダーランド)@武装練金、
[道具]:基本支給品×2、リインフォースII@魔法少女リリカルなのはA's、クロウカード『水』『風』
[服装]:梨々の普段着
[思考]:………………。
第一行動方針:雛苺を止めたい。
第二行動方針:雛苺との約束を守りながら、彼女にこれ以上殺人を起こさせないようにしたい。
基本行動方針:雛苺のそばにいてあげる?
[リインフォースIIの思考・状態]:
※永沢、レックスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている
※魔力不足により休止中。
97代理投下 それはそれは残酷なお話(後編):2009/07/20(月) 16:03:51 ID:18hv90jy
【G-3/平地/二日目/早朝】
【レックス@ドラゴンクエスト5】
[状態]:魔力殆ど消費、右腕損失
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5 (ドラゴラム使用回数残り1回)
[道具]:GIのスペルカード『磁力』@HUNTER×HUNTER
[服装]:普段着
[思考]:………………。
第一行動方針:ベルカナと共に仲間と合流する。
第二行動方針:仲間を守りつつ、レミリアとタバサを捜す。
第三行動方針:魔力が回復して余裕が出来たら、不明アイテムや水中の調査
基本行動方針:勇者としてタバサの兄として誇れるよう生きる。でも敵には容赦しない。
[備考]:エンディング後なので、呪文は一通り習得済み
    アルルゥや真紅はモンスターの一種だと思っています。
    ベッキーは死亡したと考えています。
    お城の地下に迷宮があるのを確認しましたが、重要なことだと思っていません

【ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT】
[状態]:精神力消耗極限、ツーカー(→イヴ)切れかけ、フライト
[装備]:ネギの杖、果物ナイフ@DQ5、ゴロンの服@ゼルダの伝説、レースのビスチェ@DQ5、
[道具]:支給品一式×4、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、黙陣の戦弓@サモンナイト3
    テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔晶石(8点分)、
    消毒薬や包帯等、ツーカー錠x3@ドラえもん、マジカントバット@MOTHER2、
    パワフルグラブ@ゼルダの伝説、GIのスペルカード『交信』@HUNTER×HUNTER
[服装]:ゴロンの服。その下にレースのビスチェ
[思考]:生き延びた……。
第一行動方針:東進しそこから海沿いに移動してヤミヤミ達と合流する。
第二行動方針:四時間以上眠り、精神力を全開させたい。
第三行動方針:朝の放送でイエローが無事だった場合、『交信』でイエローと連絡したい。
第四行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない)
第五行動方針:まともな服が欲しい。仲間も集めたい(イエローの友人の捜索。簡単には信用はしない)
基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア
[備考]:葵が死んだことを知りません。
  レベッカ宮本を『フォーセリアのレッサー・バンパイア』だと考えている?

※レックスの装備品の大半は城に埋もれました。
 また、城はかなりの崩落が起き、橋も落ちています。


【F-3/空中/二日目/早朝】
【雛苺@ローゼンメイデン】
[状態]:真紅と翠星石のローザミスティカ継承。さくらが死んだと思い込んでやや不安定。
    落下により僅かな損傷、全身火傷、消耗(中)
[服装]:普段通りのベビードール風の衣装。お腹を中心に焼け焦げている。
[装備]:ジャック・オー・ランタン(頭部が割れ、ミサイル残弾は0)@からくりサーカス
[道具]:なし
[思考]:さくら、さくら、さくら、さくら、さくら…………
第一行動方針:さくらの仇を討つ。さくらの遺体を捜す。
第二行動方針:さくらと一緒にいたい。
[備考]:真紅と翠星石のローザミスティカを獲得したため、それぞれの能力を使用できます。
    さくらが殺されたと思っています。
98代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:05:06 ID:18hv90jy
うぐ……なにが、起きたんだ……?

私は確か、ニセモノのドラゴンの前に居て。
あのずるいくらい強い奴は、ニセモノを使って逃げ出して。
片腕は切り落としてやったけど、逃げ延びて。
それから。

それから…………。



うぐっ!?

い、痛い! 右腕がすごくいたい!
なんで!? 
見えない、暗い! 動けない!?
何か上に重いのがのってる!?

何だよ、何が起きたんだよ!!

ああ、そうだ確か城が崩落してきて……いぎぃっ!?

今、腕がミシって、痛い、いやだ指が、ゆびが潰れる!
じわじわ重みが載ってておもい、いやだ、痛いいた、いたいイタイ痛いいたい!

なんでわたしがこんな目に遭うんだ!

ひっ痛い、いたいよ、くらい痛い足が、いやだつぶさないでつぶさないでつぶさっ
いやだいたいいたいいたいいたいいだいいだいだあああいあああああああああああ
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああぁっ

ぐちゃって、ぐちゃっていだいいたい痛い痛いいたいイタイいたイ痛イいたいやあ
イヤだつぶれてるのにまだ痛いいたくなるいぎゃああああああやめ、だれか、だ、
だれかたすけやだやだやだもうぐちゃってなるのいやだぐちゃってなるのいやいや
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいああああああああああああああああ
痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイいたい痛いいたいいたいいたい痛い痛い
あああもうやだイヤだつぶれてるのにいたい痛くなるまたいたくまだ痛くいやだっ
いや、ぎゃああいだああイダイイタイいややだやあああああああああああああああ
あああああぎゃああ  あああああああぎいいいい いいぎいぃぃぃいいいぃいい
ああああ ああああぁあぁあぁ  あああああああああ   あああああああああ
ああ あああ  あぁあぁあ  あぁああがががが があああああ がが   

99代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:06:05 ID:18hv90jy
……う……あ…………

…………なん…………だっけ……



ああ……そうだ……

瓦礫……に……潰さ…………れ……

…………なんで……生きて……?



そっか…………シルバー……スキン……着て…………

…………うぐ……

ひ……また……痛くなって……きて…………
いやだ……ヤダ…………いたいのはイヤ、いや、いたい、いや、痛い、嫌、痛い……!

なんでこんなに痛い、痛い、いたい、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいた
イタイ痛いいた痛いいたいたいイタイやだいやああいぎゃあああああああああああああ

そうかシルバースキンが核鉄に戻ったから体を治して痛いいたいいたいいやあああああ
あぎゃああああああいやだもうやめやあああああああ痛いのいやだもういやいやあああ
ぺきぺきって音してるきしんでるおとがおとが真っ暗でなにもみえないのに音がしてる
ほねがいたいいたいくらいいたいくらいだれか誰か誰かだれか誰かだれかあだれえええ
いたいまだ痛いいやだおれる折れるこわれるいたいいたい死にたくないいやだだれかっ
だれかたすけてタスケテたすけてたすけてタスケテタスケテたすけてタスケテタスケテ
暗い寒いくらいこわい痛い冷たいいたいこわいこわいこわい痛いいたい怖いいやだいや
いやいやいやいやいいやいやいやいや誰かだれか助けくらいこわい痛い音がおとが音が
ぐちゃっていやだ痛いだれかいたいいやだれかこわいくい痛い死なせてたすけていやだ
しにたくないしにたくしなせてしにたくしなせいやだ怖いいたいいたいいたい暗い怖い
音がおとがおとが音が音が音がする音がするするするこわれ死ねない痛いくらいこわい
くるしいいたい苦しい重いいきが、いきができな、くるし、いたいたいたいたああああ
100代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:06:59 ID:18hv90jy
………………………………あ…………?

……………………なん………………だっけ……………………?

いたいのいやだこわいのいやだくるしいのいやだくらいのいやだおとはいやだ
しぬのいやだいきるのいやだいやいいやだいやだいやだやだやだやだやだやだ

こんなの…………なんで……わたしだけ……?

あいつも……あいつらも…………みんな……みんなひとごろしで……

ひとごろしがいやなのにひとごろししなくちゃひとごろしじゃなくなれなくて
いやなのにこわいのにひとごろししてひとごろししてひとごろししてそれでも
どうやってもころせないのもいてそれじゃひとごろしじゃなくなれなくてそれ
がいやでばけものをころすほうほうがほしくってばけものころしはひとごろし
じゃないからいいことだからばけものをころそうとがんばってがんばってたら
なんでどうしていやだひとごろしはいやだころすのはいやころされるのはいや



どうしてたすけにきてくれないのどうしてたすけてくれないのだれかだれでも
いいからたすけてだれかたすけにきてハルカねえさまでもカナでもそれがだめ
ならパタリロでもだれでもいいからたすけてたすけてたすけてたすけてたすけ
たすけたすけたすけここはくらいよこわいよさむいよつらいよいたいよだれか
たすけてタスケテたすけてタスケテたすけてタスケテたすけてたすけてタスケ



いやだ
なにもかもいたいからいやだ
なにもかもくらいからいやだ
なにもかもこわいからいやだ
なにもかもさむいからいやだ
なにもかもつらいからいやだ

なにもかもわたしをきずつけるからいやだ

いやだいやだいやだいやだいやだいたいいたいいたいいやださむいいたいくる
しいこわいさびしいこわいだれもいたいおとがいたいくらいのがこわいさむい
つらいいたいくるしいいたいいたいいたいいたいたいたああああああああああ
あああああぁあああああああぎゃあああああぁあああああああぁあぁあぁあぁ
おもいのが目に、目にささっていたいゆっくりくいこんで目がずぶずぶうって
おされて刺さってきてこわいこわいこわいなにも見えなくなる目がつぶれたら
見えなくなったらずっと暗いままになっていつまでたっても暗いままでこわい
ままでさびしくて痛くてつらくて苦しくてまっくらで怖くていたくて寂しくて
辛いままでいやだいやだいやだいやだいやだいやいやいやいや刺さってくるの
いやだ嫌だイヤだいや目が目がめが目が眼が潰れ──て──────────
101代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:08:18 ID:18hv90jy
もう

いやだ

なにもかも

だれもかも

すべて

ぜんぶ

ひっくるめて




「みんなみんな死んじまえ」









ぐちゅっ。











【南千秋@みなみけ 死亡】
102代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:09:18 ID:18hv90jy
問。
南千秋が無惨な死を遂げ、レックスなど別の例が現時点生き延びている事に、
何かしら理由が有ったのだろうか。



解答一。
因果応報。彼女の罪の報いである。

不正解。
もしそうであれば彼女と同じ人殺し達全てが同じように死ななければならない。


解答二。
判断ミス。城に攻め込むべきではなかった。

ほぼ不正解。
確かにその結果として南千秋は死亡したが、
例えばレックスは複数の判断ミスをしながらも生き延びており、決定的理由とは言えない。


解答三。
仲間の欠如。例えばレックスを助けに来たベルカナのような。

ほぼ不正解。
確かにそれによってレックスが生き延びたのは事実だが、
例えばパタリロは未だ千秋の事を心に留めている。
にもかかわらずよつばが殺された時も今もパタリロが現れる事は無かった。
103代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:10:31 ID:18hv90jy
解答四。
やはり因果応報。命を軽視した報い。

不正解。
南千秋は命を重く感じすぎたために道を踏み外したというのが正しい。
奇しくも同じ世界から来て殺し合いに乗っていた少年、
それぞれ藤木と永沢を殺害した南千秋とレックスだが、
千秋が完全に正当防衛である殺害への負い目から道を踏み外したのに対して、
レックスはその事で誰かに恨まれるかもとは思いながらも敵の殺害という認識は崩していない。
むしろ死の重みについては南千秋にとってのそれの方が遥かに重い。

補足。
これはそれぞれの世界で命の価値が違う事を意味しているわけではない。
命の重み及び絆の重みについては世界共通であるが、死の重みは環境によって変化する。
レックスの世界における死の重みが相対的に軽いだけである。
また、その原因は復活魔法などによる物ではない。
厳密に言えば現代医学は過去ならば当の昔に死亡判定された者達を蘇生させており、
復活魔法は極めて進んだ医学でしかない。
レックスの世界における死の重みが相対的に軽いのは進んだ医学が存在しながらも
寿命以外の要因で蘇生すら不可能な死を遂げる者があまりに多い過酷な紛争環境が原因である。


解答五。
逆に命の重さにひきずられすぎた為。

不正解。
それでも破滅していない者は居る。
104代理投下 それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:11:30 ID:18hv90jy
問。
南千秋が無惨な死を遂げ、レックスなど別の例が現時点生き延びている事に、
何かしら理由が有ったのだろうか。

に対する正答一。




一切の理由は存在しない。




南千秋が死んだ事に特別な要因を見出す事はできない。
彼女は他の者と同程度に判断ミスをし、機転を利かせ、
絆を結び、離別し、道を踏み外し、戻ろうとした。

これらの点に、南千秋だけに特筆できる理由は存在しない。



つまり理由を付けるなら『不運であった』だけとなる。

たまたま。
何の理由も無く。
肝心な場面で。
外れクジを引いただけ。

南千秋の苦痛も絶望も恐怖も悲劇も惨状も全てはその一言に集約される。

単に運が悪かったために、真っ暗で一人っきりで自分が壊れていく音だけが聞こえる
激痛だけの地獄の底で悶え苦しみ時間を掛けて死んでいった。
直接誰かに殺されたわけでもないから憎しみの捌け口が向かう先も無く、、
結局最後に抱いていた僅かな全てにさえ憎しみを向けるしかなくなってしまった。
絆も否定され、夢も見失った。
105代理投下  それはそれは残酷なお話(終編):2009/07/20(月) 16:32:37 ID:XHd6LKrO
ただし、ある意味でそれは、この島における当然の死であるとも言える。
この島に連れて来られ殺し合いを強要された時点で、全ての幼子達は不運である。
南千秋はその中でほんの少し運が悪かっただけと言える。

つまり当然の事である。
よって、問──

南千秋が無惨な死を遂げ、レックスなど別の例が現時点生き延びている事に、
何かしら理由が有ったのだろうか。

に対する正答二は。



この島において無惨な死を遂げるのは当然の事である。



となる。

以上で南千秋の死に関する問題を終える。
106創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 17:05:23 ID:XHd6LKrO
代理投下終了
107創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 18:03:23 ID:FG+xEpzT
投下&代理投下乙です
うわ、きつい話だな。でも各人見せ場があってよかったと思うけぞ
長編お疲れ様です
投下前に疑問と修正要請が来てるけど破棄するのはもったいないよ
後続次第の部分もあるからそんなに重箱突く様なマネは止めて欲しいな
ある程度納得出来る理由があれば通しでもいいような気がするが?
108創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 18:59:41 ID:o1eDacPJ
修正で通るならそれでいいと思うけど、俺も厳しいと思う。
理由は>>62と大体同じ。

この話の中核の千秋に支給されたアヴ・カムゥがそもそも、
前の◆VE1vtHVvswさんが投下した時も強すぎで却下くらってる。
この話で出して、この話で壊したからいいという問題でもないし。

それに千秋の操縦技術にも難点がな。
レックスに対抗できるほど器用に動かせてるのがさらに違和感。
出典のうたわれはしらないけど、あれって戦略兵器だろ?
ただの小学生の千秋に腕や足を振りまわすならともかく、
人間用の盾や剣をつかませて振るわせることができるのかと言われたら無理だと思うし。
似たようなものとして参號夷腕坊があるけど、
これを操縦していた鈴木みかは、単純な動き以外はできていないし、
千秋が器用すぎる。

それにベルカナがあまりにも状況に的確に行動しすぎてるし、
千秋が運がよすぎる。まあこっちは最後に死んでるからチャラか。

あとQ-Beeがロワ会場をご褒美以外の為に徘徊するようになったから、
彼の時間もある程度時系列順に合わせないといけない。
これがQ-Beeの側が進みすぎた場合は問題ないけど、
Q-Bee側が遅れている場合はご褒美のある話の投下は自重したほうがいいね。

それに一部分だけの時間の進みすぎも問題視されてなかったっけ?
今回もまだ放送越えしてないところもあるのに、この場所だけ夜明けにするのもな。
かといって黎明にすればいいかと言われたら、それにしてはイベントが入りすぎてるし。

あとシャナが何で城が崩壊するほどの
まあこれに関しては次の話で気付いたとか、雨で気付かなかったとか、
いくらでも理由は作れるんだろうけど。

>>107
話がいいから破棄するのはもったいない、っていうのはいいけど、
「矛盾がなければ何をやってもいい」ってわけじゃないよ。
その結果がどうなったかはここの住民なら知ってると思うけど。
109創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 19:16:11 ID:pI8U/Rgl
会話してる暇があるなら、ミナデインでも使えば良いのに。

あとデイン系に耐性のある魔物ってそれなりにいるんだが。
キラーマシンとかデイン系効かないし、何で同じ機械相手に迷いなく使ってんだろうな。

燃費面でも場合によってはイオナズン・メラゾーマに劣るのに
>幾ら他系統の呪文を極めようとも、ギガデインに比する威力まで到達することはできない。
って母親と妹を馬鹿にし過ぎ。
110創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 19:57:27 ID:psBc0Aze
まぁ確かにレックスに使える魔法が揃いすぎてるけどな
勇者というより僧侶、しかもシリーズ最強の僧侶と言えるだろう。
べホマくらいは妹に譲ってやれよって感じ
家族パーティー組んでるとレックスばっかりさせたい仕事が増えていって妹と妻は役にたたねーw
賢者の石とかで回復してろって感じになる。
111創る名無しに見る名無し:2009/07/20(月) 20:36:08 ID:HwI/jRrq
落ちぶれた元盛況ロワ名物、投下後にだけ現れて文句を垂れるゴミ虫どもか
いい感じに涌いてるね、書き手の人はご愁傷様
112創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 05:06:02 ID:jJXywgTN
投下乙。賛否あるけど千秋の心理描写やセリフは臨場感たっぷりで
レックスとの戦闘もどうなるんだこれと最後まで楽しませてもらいました。
ラストのくだりも色々考えされられたな、読者に対する謎かけは好物なものでw


>アヴ・カムゥ
前回はむしろローザミスティカのほうに支給の是非が集まっててこちらは有耶無耶な感じだったか。
個人的には今回の支給に関しては許容してもいいと思っているのでその上で意見を。
アニメのアブ・カムゥの箇所見直したけどどう操縦しているのかよく分からない。
少なくともコンソールやレバーみたいなものは使わず、搭乗者の動きをトレース、
もしくは意思に反応して動かしているように見える。これならモノを掴んで振り回すこともできる
と解釈するのもあり……なんだがうたわれ原作未プレイなので詳しい人に補足してもらいたい。
あと夷腕坊は主にエスパー帽子で擬似的に動かしていただけだから今回のと同列にしなくてもいいと思う。

神視点の行動もいくつか気になったけど、とくに勇気あるものの盾を千秋が使ったこに違和感あり。
刀身2mのドラゴンころしをアヴ・カムゥに持たせて攻撃は充分納得できるけど、
盾のほうは巨体に対してあまりにも小さすぎる。「この盾なら絶対に炎を防げる」という
確信がなければ人間サイズの盾を一瞬のうちに回収なんてことはしないはず。

>>62
アヴ・カムゥの投げる力で物理法則無視した軌道で飛んでくるんだから
虚をつかれてルーンの杖があたってもいいんじゃない?
113創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 10:13:42 ID:BuxIp982
ロワとはこういうものだ
114創る名無しに見る名無し:2009/07/22(水) 02:25:14 ID:DR1s/pKn
自分が納得出来ないのに投下するって、どんな神経してんだろう。
予約破棄すれば良いだけなのに。

下手な言い訳すんなよ…
115創る名無しに見る名無し:2009/07/23(木) 00:34:25 ID:/kFY6KsO
去年と何も変わって無いな。
116創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 22:19:17 ID:5Et9I3D3
読み手様乙
117創る名無しに見る名無し:2009/07/27(月) 23:53:14 ID:mnapRxUh
予約キテター
118創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 20:30:32 ID:FmndzMC+
>>104
GJ!
久々に来たけど読み応えのあるものを読ましてもらいました。
各人複雑の心情やら因縁がおありのようで。

119創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 20:43:07 ID:ZCAeXoYA
>>118
それ没になってるよ
120創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 20:59:36 ID:FmndzMC+
>>119
ナヌゥ!?

残念…
121 ◆tcG47Obeas :2009/07/29(水) 22:22:37 ID:LP95xCMx
投下を開始します。
122川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas :2009/07/29(水) 22:23:35 ID:LP95xCMx
川音が喧しく響いていた。

長いようで短かった夜も終わりに近づき、地平の空が白く滲んでいる。
もうじき、朝が訪れる。
陰鬱な夜が去り、きっとそれ以上に凄惨な、目を覆いたくなるような一日が顕れる。
それがこの島で起きる繰り返し。
「………………」
南千秋は声も無く見上げていた。
川の向こうに聳え立つ城を。
たくさん呑み込んでしまった城を見上げて、思い、再認識する。
この島で多くを殺す事がどれだけ価値の有る事かを噛み締める。
人の死体の上の寝床。
犠牲の上に繋がれる絆の身勝手な優しさを、想って。
千秋は、少し前の事を思い出していた。

     * * *

「やっぱり、雛、行く。城に行って、さくらを取り戻す」
「……バカ野郎。ムリだ」
それは追加支給品の配達が終わって少しした頃の事だった。
追加支給品は、決してハズレというわけではなかった。
ただ、あの城に居る者達と再び戦う気になれるほどの物でもなかった。
それだけの事だ。
城に向かったところで、あの連中を殺すなんてこと絶対無理だ。勝てっこない。
それなら、今はあの城から離れたい。
「ヤなの。もう、離れたくないの。さくらから離れたくないの!」
なのに雛苺は聞く耳を持たない。
千秋にも、その心を全く想像出来ないわけじゃなかった。
こんなに冷たくて、寂しくて、こわい、殺し合いの島で。
誰か、寄り添ってくれる温もりが在るならば。
それはきっと、二度と手放したくない物に違いないのだから。
「今はガマンしろよ。大体、さくらって奴も生きてるかすらわからないんだろ」
「ううん、生きてるの! さくらはきっと生きてるの!」
「どうしてそんな事がわかるんだ?」
「だって雛とミーディアムの契約をしたの! この指輪が有る、かぎ……り…………」
だけど掲げられた人形の小さな指には。
「……何も無いじゃないか」
指輪などはまっていなかった。

……言葉が、途切れる。
すぐ側を流れる、増水した川の水音だけが聞こえている。
雨上がりの月光が夜の地面を照らしている。
雛苺がゆっくりと、唇を震わせた。
「………………」
音の無い、声。
千秋は、いけないと思った。
雛苺の掲げた、何も嵌められていない指は、きっとそういう事なのだ。
千秋にとって罪の無い温かい日常みたいな、何時か帰りたい場所を示していた物なのだ。
その喪失を示す物なのだ。
だから、いけない。
その場所に帰る事が最後の希望だったのに、もしもそれが無くなってしまったら、どうなるか。

雛苺を止めなければならない。
例えば彼女が城に突撃して敗北する事は、千秋にとっても危険なことだ。
千秋の情報が漏れるかもしれないのだから。
雛苺を城に向かわせるわけにはいかない。
千秋は、言った。
「私が一緒に居てやる」
と。
123川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas :2009/07/29(水) 22:24:57 ID:LP95xCMx
「一人がさびしいなら私が一緒に居てやるよ。それなら、いーだろ?
 さくらって奴はもう居ないのかもしれないけど、さ」
「………………」
「無理に城へ突っ込んで殺されたって何の意味も無い。
 さくらって奴もきっと、おまえが生きてる方がいいさ」
「………………」
「だから……」
「それでも……」
雛苺は、言った。
「雛は、さくらが良いの。さくらじゃなきゃヤなの。
 ひどい事をしたのに、雛を赦してくれたさくらだから。
 さくらはずっと離れないで居てくれるって思えたから。
 雛は、さくらが居てくれるならそれで良いって思えたの。
 もう真紅も翠星石も居ないけど、さくらが居ればきっと良い事になる。
 それがどんな事なのかも雛にはもう判らないけど、それでも、きっと。
 さくらが死んでいても、さくらに会いたいの。
 さくらと居たいの」
「…………そうか」

轟々濁々と音を立て、川の水が流れていく。
想いも、絆も、選択も。
全てを荒々しい水の流れで呑み込む様に。
川の水が流れてゆく。
何もかもを呑み込んで。
幾つもの死を奥底に沈めて。

     * * *

皮肉なくらいに綺麗な、満月の夜だった。
降り注ぐ清廉な光は何もかもを浄化するようで、
それに照らし出される湖上の城は、神秘的ですらあった。
世界はそんなにも美しい。
こんなにも醜い世界なのに。

「……感傷に浸ってても仕方ないよ、バカ野郎」
千秋は呟きと共に、核鉄を握り締める。
核鉄を再び武装錬金に、シルバースキンへと展開し、小さな体を包み込む。
千秋の身と姿を護る、大切な外套だ。
ただの少女が傷つかない為の鎧だ。
そして、ただの少女が誰かを殺すための武器だ。

(ああ、もうこいつも捨てておくか。不気味だし、私じゃ使えないからな)
千秋はランドセルからジャック・オー・ランタンを取り出した。
頭部が割れ、人形の首が二つも括り付けられたそれは、えも言われぬ不気味さを醸し出している。
雛苺の力で操られていたそれは、今でも不気味で、怖い人形だった。
要らなくなった、というよりも怖いというのが本音だ。
到底千秋には使えそうにもなかったけれど、誰か仲間を得れば使わせられる、かもしれない。
かもしれないでこんな物を持ち続けたくなかった。
それを持ち上げ、投げ捨てようとした所で思い直して。
投げ込む前に、テーブルクロスで包み込んだ。
雛苺の遺骸と一緒に。
124川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas :2009/07/29(水) 22:25:52 ID:LP95xCMx
南千秋は、自分の情報が雛苺から城の者達に漏れる事を避けたかった。
雛苺が突撃しても、誰も殺せず一方的に負ける事なんて目に見えていた。
川音は喧しくて、ちょっとやそっとの物音は届かなかった。
夜の木陰は視界が悪く、見えにくかった。
第一、雛苺は千秋に対して全くの無警戒で、その意識は城にだけ向いていた。
南千秋には裏返し当てる事さえ出来れば相手の抵抗を悉く封じられるシルバースキンが有り、
ランドセルの中には弾切れした銃だとか、人を殴り殺すには十分な物が色々入っていた。

悲鳴は上がった。千秋以外の誰にも聞こえない悲鳴が。
他にも様々な叫びが聞こえた。誰の心にも届かない叫びが。
雛苺はその喉から様々な音を響かせながら、砕けて、壊れた。
それだけだった。
千秋はそれっきり、雛苺の遺骸から目を逸らした。
雛苺の遺骸とジャック・オー・ランタンを大きなテーブルクロスで包み込み、川へと放り込んだ。

「……一丁あがり、だ」
片は付いていた。
千秋がここで出来る事は何もない。
城から離れて、別の場所で人を殺すだけだ。
最後の一人まで生き残る為に。
それをまた、たった一人でやらねばならない事を思い、暗鬱な気持ちになった。
「ちくしょう」
一人じゃ睡眠を取るだけでも怖ろしい。
寝ている間に誰かが忍び寄ってきたら、どうしよう。
何処かの物陰から誰かが襲い掛かってきたら、どうしよう。
誰かに襲われたら。
どれだけ武器が有ったって、正面からの殺し合いでただの子供が勝てるわけはないのに。
もう一度城を見上げて、湧き上がる嫉ましさに歯噛みした。
「なんて奴らだ。みんなみんな死んでしまった」

南千秋にとっての殺害カウントは、梨々=ハミルトンと雛苺の二人になる。
だけど本当の意味で殺せたと意識しているのは、梨々の方だけだった。
雛苺は城から逃げ出した時、もう殺されていたようなものだ。
木之本桜という少女を殺す事によって。
千秋がしたのは、既にどうしようもなくなっていた雛苺が城に出戻って殺されるよりも、
自分にとって都合の良い形で引導を渡したに過ぎない。
「イヴに、さくらに、雛苺。二人も殺して、一人生きていけなくして。
 私よりもずっとずっと人殺しじゃないか。
 だから、そんなに温かい場所にいるのかよ。
 何人も集まって、強い力を持って、朝を待てるのかよ。
 狡いぞ。バカ野郎」
その現実が千秋の思想を歪ませる。
やっぱり、殺すのが正しい事なのだ。
この島においては一滴の希望も、誰かとの絆も、温かい居場所も、命も。
全ては人を殺す事によって手に入れられる物なのだと。
そう、強く感じた。

「…………くそぅ」
千秋は、踵を返す。
城に背を向けて、歩き出す。
船は取り返せなくて、イヴと幾つかの支給品を失い、雛苺は手に入れた時既に終わっていた。
雛苺から奪った追加支給品だけが収穫だった。

打ちのめされたひとごろしは月明かりの下、逃げ延びる。
何処かで誰かを殺す為に。
ひとごろしである事を否定するために。
矛盾を踏み締め、歩み去る。
全てを押し流すような川が流れる、その横を。

川音が喧しく響いていた。
125川音が喧しく響いていた ◆tcG47Obeas :2009/07/29(水) 22:26:50 ID:LP95xCMx


【雛苺@ローゼンメイデン 死亡】


【F-4/城から移動中/2日目/早朝】
【南千秋@みなみけ】
[状態]:健康、疲労(小)、人間不信&精神衰弱。
[装備]:ロングフックショット@ゼルダの伝説/時のオカリナ、祝福の杖(ベホイミ残1回)@ドラゴンクエスト5、
    首輪探知機、シルバースキン(展開中)@武装錬金
[道具]:基本支給品×5(食糧、水のみ四人分)、ルーンの杖(焼け焦げている)@ファイナルファンタジー4、
    コンチュー丹(容器なし)@ドラえもん、青酸カリ(半分消費)@名探偵コナン、
    的の書かれた紙×5枚@パタリロ!、太一のゴーグル(血がついている)、替えのパンツ×2枚、
    ころばし屋@ドラえもん、小銭入れ(10円玉×4、100円玉×3) インデックスのメモ、ご褒美ランドセル
    F2000R(残弾12/30)@とある魔術の禁書目録、FNブローニングM1910(残弾0)、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心、
    グラス×5、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、確認済み追加支給品1〜3(外れではないが城に攻め込める程でもない)
[思考]:何処か、別の場所に。
第一行動方針:協定通りシェルターへ向かう? それとも……
第二行動方針:グレーテルの消耗を待ちつつ、グレーテルを倒せる戦力を掻き集める。
第三行動方針:他者を利用しつつ、殺し合いを促進させる。危険因子はその都度排除。
第四行動方針:全て終わったら、八神ヒカリに形見のゴーグルを渡したい(自分が殺した事実は隠す)?
基本行動方針:優勝狙い。優勝のご褒美で“殺し合いに参加していた自分”を消してもらい、元の世界に戻る。
       もう正面から戦ったりしない。
[備考]:グレーテルに対し、シルバースキン以外の手の内をほとんど明かしていません。
   グレーテルを拳銃で撃っても死なない化け物だと思っています。
   イヴと木之本桜はレックス達に殺されたと思っています。

頭が割れた、真紅と翠星石の首付きジャック・オー・ランタンは、
雛苺の遺骸と共にテーブルクロスで包まれ、川へと流されました。
雛苺、真紅、翠星石のローザミスティカも時間差で雛苺の体から遊離します。
北の海に流れ出ると思われますが、その後は不明です。
126 ◆tcG47Obeas :2009/07/29(水) 22:33:51 ID:LP95xCMx
雛苺が付いて行く話も考えてはみましたが、結局没。
投下終了です。
127創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 23:16:43 ID:l7txnBrg
投下乙。
無難な終わりになったか。
確かに雛苺はどう考えてもお城に向かうだろうし、
千秋が城組に勝つ姿は想像できないw
というか一般人がどうがんばっても正面じゃ勝てないだろww
128創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 01:00:07 ID:izCzYK9f
投下GJ。読みながら思わず「ほぅ……」とか唸ってしまったわ。
最近こういう雰囲気の話は読まなかったから尚更。
敢えて描写しないことで死亡時の無常感とかが引き立っているのがうまい。
雛苺は手に入れた時既に終わっていた、か。
そんなことが判断できるほど賢しくなければもう少し幸せになれただろうに。
129創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 11:59:16 ID:0DIMgr6y
投下乙
文章が短いというのに千秋の無情さがでてうまいと思った
しかし千秋よ、イヴも桜も生きてるぞ?
放送のときどういう反応するのか非常に楽しみだ

ところで早朝というのは少し全体的に見て早すぎないか?
まだ放送前の人もいるし城組ほど時間が経過したとも思えないし
黎明でいいと思うんだが
130創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 12:36:21 ID:Ll9qvEN7
黎明の時に雛苺を殺して、早朝になってから捨てたってカンジじゃね?
しばらく感傷に浸ってたみたいだし
131創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 15:26:10 ID:nL+4WHkV
投下乙。
後半にしたがって話は何故か長くなるのに、
この話はいがいとあっさりしてるな。
短いってわけじゃないし良いと思う。

>>130
特定の場所の時間の進みすぎが悪いって言ってるんじゃないかな?
放送前も北西だけ時間が進みすぎて扱いにくかったりしたし。
132創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 18:26:22 ID:KBMJTg9l
何か切なくなる話だったな
千秋はこのまま取り返しのつかないとこまで行ってしまうのか…
ええい、パタリロは何をやっているんだ
133創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 22:13:02 ID:ddxFzdVW
GJ

諸行無常の響きあり(意味分かってない

なんか夜中に読むと切なくなったよ。
134創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 14:12:06 ID:4vROigFo
確かにこういう話は珍しいな
無常感がよく出てるな
そして千秋はもう戻れないかもな
135創る名無しに見る名無し:2009/08/01(土) 17:02:05 ID:vbgQZaFG
戻って来ようがないでしょ。
イヴのように記憶が消去できるわけではないし、
パタリロは今にも殺されそうだしw

しかし考えてみれば、城組との戦いが千秋にとっての初めての超人との戦いなわけか。
ニケとグレーテルの戦いは見てたけどあれは他人事なわけだし。
136創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 22:31:54 ID:rucnK3MF
>>129の意見が出ているので、
◆tcG47Obeas氏は返答をお願いします。
137 ◆tcG47Obeas :2009/08/05(水) 02:15:10 ID:weQPPKiN
失礼、見落としていました。

零時の放送が終わった後、城組が二時間(明記有り)の睡眠を取り、千秋達の侵入で城組が起床。
この時点で黎明に突入しやや経過しています。
城組が態勢を整えて迎撃し、千秋が撤退。以降城と時間共有せず。
気絶していた雛苺が目を覚まし、ご褒美を要求。
消耗したQBが遅れて支給品を配達し、雛苺を千秋が殺害、死体を始末する。

ここら辺を見ると、次の時間に進んでいないとおかしいと考えました。
イベントが一繋がりで起きた為に進んでしまったのでしょう。
城組に比べるなら、二つ進んでしまったわけではないので許容範囲かと。
確かに全体を見ると、一箇所遅い所が気にはなるのですが。
138創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 04:22:21 ID:JIzgQHec
Q-Beeが動かないと時間的に難しいからなぁ…
・リリスとの会話
・死体の確認
・黎明中に雛苺のご褒美(ジェダの命令ではご褒美を優先)
・早朝までに帰還
って結構ハードだし。
139創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 13:37:17 ID:NpdQMTqe
雨降ってる間に終わらせないといけないのに、
リリスの所にいる時点ですでに黎明直前だしな。
あと2時間で6人はかなり無謀なスケジュールだよな……w
まあグリーンの死体はリリスが確認してるし、
梨花以外の4人はみんな北西部だから大丈夫かもしれないが。

しっかし北西部には起こることが確定しているイベントが盛りだくさんだな
ヴィータと志穂がやってくるしシャナがトリエラを殺しに来るし、
Q-Beeは下手したらリリスと一緒にやってくるし、現時点最強のレミリアはいるし、
トリエラとヴィクトリアは電話中だし……
140創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 18:00:19 ID:NpdQMTqe
北東だった……orz
141創る名無しに見る名無し:2009/08/07(金) 18:15:24 ID:qIkj1s5w
保守ー
142創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 17:06:39 ID:LqlTtwrz
保守
143創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 14:24:33 ID:Ow/ql+TG
ここの板って保守いらないんじゃなかった?
144創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 21:03:46 ID:3OuMX1UL
ん? そうなん?
145創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 13:01:50 ID:aE6AgBph
即死じゃなきゃ落ちないとかって
まだまだ余裕あるらしいよ
146創る名無しに見る名無し:2009/08/11(火) 23:57:39 ID:2ebdumy6
保守=投下待ってます!
ってことだろ…
147創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 14:28:48 ID:7i3taaJ3
なにかネタないかな?
ていうか気になるキャラっている?
148創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 22:07:17 ID:s+Aq7Jvj
ニケと弥彦が心配です
149創る名無しに見る名無し:2009/08/14(金) 23:07:51 ID:7i3taaJ3
ニケは周りにマーダー、仲間もマーダーという絶望的状況だよなw
唯一救援に行ける位置にいるのはエヴァだけという。

自分はさくらが気になるな。状況じゃなくて、原作的に。
ツバサのさくらが異次元同位体とかじゃなくさくらの関係者みたいだし、
どうにかうまい具合に次元の巫女とか使えないかと考えてる。
150創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 03:06:14 ID:2vsp/TNM
いやまあ、設定上は別世界の同一人物ってことらしいが、
でも参加してない作品のキャラが出張ってくるのはどうかと思うな
151創る名無しに見る名無し:2009/08/15(土) 23:02:40 ID:DMF7ixSa
ニケともさくらとも関係がないがインデックスが不安だ。

最近遠隔制御霊装なんかがでたから。
152創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 17:24:04 ID:U0XCUGlb
ニケはやべーよな。
ククリも逝っちまったし
仲間がマーダー、グレーテル組が神社にいるし。
153創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 23:32:59 ID:J1UxksPE
4つの剣合成させて、結界破壊の能力を使えたらいいなと思う。
だがそれを行うであろう終盤まで生き残れるのか……?
目の前の死亡フラグがまずいかしてはくれないだろう。
154創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 11:41:46 ID:OtuFSUv7
3勇者に期待だな
天空の剣はいてつくはどうだし、マスターソードは退魔の剣だし
どっちも結界破壊とか出来そうだ
155創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 16:02:48 ID:SDH6fD37
なるほど
156創る名無しに見る名無し:2009/08/17(月) 22:53:33 ID:h0Z3Yv/N
ああ、つまり最低一人勇者が生きてればいいのか。
でもできれば3人で一斉にとかみたいな。
157創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 10:55:40 ID:ME12E83T
制限もあるしさてどうなるか
158創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 00:54:04 ID:aaOs1D63
うーむ、予約が来ない。
8月は投下なしかな……

文章力皆無で書けないのが悔しい。
159創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 18:53:31 ID:7G3X8I7o
本来は2chのリレー小説とかじゃ求められないんだがな、クオリティ
最近はどこ行っても上手くないといけないという強迫観念ガガガガ
160創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 16:57:41 ID:mHc2tRy/
ふむ、ならば8月中に投下がなければ書いてみるかな。
161創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 18:06:29 ID:CRIYoR3I
パソコンなんてしてないで、寝た方がいいよ。
夏風邪は辛いし。インフルエンザだったら大変だ。
162創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 19:33:13 ID:+bn886S4
誤爆?
163創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:31:01 ID:EobXaBfb
やひこが白刃取りからカウンター決めれる日はくるんでしょうか?
164創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 02:17:38 ID:M3pQ5C1F
そういや、生き残りのショタの本来の武器って剣が多いな。
165創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 03:26:01 ID:wm22Ee6w
8人中4人だな
166創る名無しに見る名無し:2009/08/26(水) 18:14:09 ID:gtySr2CT
ショタが全員で8人……ッ!?

生き残りが30人ぐらいだから残り22人はロリハーレムか!?
167創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 00:34:37 ID:AXrf77gf
ヘンゼルとグレーテルの性別ってどうなるんだろうな。
二人とも、男か女か俺の嫁か意見が別れるだろうし。
168創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 00:48:55 ID:7mcI7D5i
名簿にはグレーテルで載ってるんだし、一応はロリ扱いでいいんじゃないだろうか
まあ何にしても、お前の嫁じゃないことだけは間違いないわ
169創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 14:00:15 ID:1gg3RV6P
板が一周年らしいよっ!
170創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:47:38 ID:AXrf77gf
あと数年で良い年齢になるな。
とか思ったけど、赤ん坊をロワに参加させるジェダ様鬼畜過ぎwww

…0歳児に何を期待したんだろうな
171創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 18:21:54 ID:GoWZIkoe
光源氏計画でもするつもりだったんじゃないか?
将来美人になるみたいだし。
172名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 15:09:39 ID:VPexu5qM
授乳シーンを期待してたとか

支給品に豊乳丸を入れねばなるまい
173創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 15:39:47 ID:9h86jaAE
ネギま製でそういう薬があれば喜んでいれたんだが……

そういや、メルモキャンディーで大人化ってまだされてないな。
ブルー以外に渡らないかなー
174創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 23:05:26 ID:QSlMmhf8
>>160さんに期待。投下がなかったから。
175創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 03:39:26 ID:XRtf07rE
なのはちゅっちゅしたいよー
176創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 18:24:22 ID:e6oW2ABq
まだ書き手様を信用してる奴が居るのか。
177創る名無しに見る名無し:2009/09/08(火) 19:17:46 ID:7XejT3Vp
またいつか動き出すと信じて待つ。
正直ここまできて活動停止はすごく勿体ないし。
178創る名無しに見る名無し:2009/09/08(火) 21:19:38 ID:g5aUM7qw

冬休みまでに1作は投下されるはず!
179創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 06:15:09 ID:lszGsDgX
自分が書くってヤツはいないんだな…
180創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 12:28:12 ID:XrYhe/Kc
初書きチャレンジしてもいいけど自分で書くと確実に対主催贔屓になるからな……
普通に話を書くとどうしてもそうなるんだが、書き手たちはどうやってマーダーを有利にしてるのか不思議になる。
具体的にはマーダー包囲網構築する話が浮かんでいるというww

クオリティの高さは確実に低いがな!
181創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 12:30:49 ID:CSBhajbg
書く気ないならグダグダ言い訳せずに黙って書き手が来るの待ってろよ
見苦しい
182創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 14:54:56 ID:newuDfHa
そういう荒い言い方するなよ……
183創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 18:14:39 ID:lLYNY6v7
>>180
単独行動中の対主催をグレーテルを始めとしたダブルスペアに狙わせるんだ!
184創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 20:55:24 ID:uyygVjsF
>>180
対主催を持ち上げながら殺す
これだと反発されにくい
お薦め
185創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 23:11:50 ID:gtpH53uB
ふと思いつきでこんなの作ってみた
LSキャラにGジェネアビリティを振ってみた

レックス
白兵 勇者 熱血 勇将 熟練

アルルゥ
気分屋 身軽 幸運 地上戦闘適応 慈愛

ベルカナ
魔導師 統率力 慎重 冷徹 悪運


魔導師 素人 慈愛 真面目 幸運

イヴ
コーディネーター 真面目 寡黙 身軽 共振

オリジナルスキル
勇者
ナニモノカに選ばれた者の称号。
大切な誰かを守るために振るう力。
仲間の援護をするとき命中、回避率+10%。

魔導師
魔力を持ち、それを主体に戦う者たち。
特定装備を持つ時、射撃、反応、覚醒が上昇。

イヴのコーディネーターはナノマシンのかわり。
オリジナルはしっくりしたものが来なかったから作成。
186創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 23:47:59 ID:gtpH53uB
もう一丁。

リンク
身軽 勇者 単独行動 器用 練達 

アリサ
素人 悪運 不運 エリート 無謀

インデックス
情報解析 素人 慈愛 集中力 ムードメーカー

なのは
魔導師 空中戦闘適応 気合 真面目 必殺


なのはに白い悪魔をつけると思ったか?
そうはいくかwwwww
187創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:10:15 ID:RyLtNrlE
>>185
GジェネとLSロワに何か関係あんの?
188創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:11:07 ID:RyLtNrlE
間違えた
189創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:38:02 ID:Rb2OckiZ
ノリで書いたネタだろう。
こういうのはこっちも乗ってたのしむもんだ。
ということで俺も一つ。

レミリア
気分屋、プレッシャー、冷酷、挑発、威風

挑発とプレッシャーが相殺してるのは気にしない方向で。
190創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:47:11 ID:aRN/is0z
カリスマ……! カリスマを入れてあげて……!
191創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:55:16 ID:bO0nQXNV
白い悪魔の称号はインデックスにこそふさわしい。

あれは3分で12機の冷蔵庫を全滅させる。

ただしインデックスにはパイロット適正もなければ艦長適性もない!
192創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 01:04:18 ID:aRN/is0z
え、なに。完全にブリッジ要因?
ティファなんかもパイロット適性あるんだし入れてあげて!
ていうか機械だめだし全部適正Dなんじゃなかろうか……w
193創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 12:16:14 ID:krE1q6A4
実際カリスマカリスマとネタにされてばかりだが、
レミリアって実のところ本当にカリスマはあるのか?
194創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 16:40:06 ID:KipvdQuS
ば〜か言ってんじゃねえよ!
レミリアお嬢様全体がカリスマだ
鼻から忠誠心が出るほどな!
195創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 18:28:17 ID:bO0nQXNV
>>193
このロワだとカリスマ性が全然ないなw
196創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 22:53:21 ID:aRN/is0z
うっかり自殺しかけたり
日光にやられて転げまわったり
女の子に服を脱ぐように命令したり
妹とのことに素直になれなかったり……

あれ、これなんてれみりゃ?
197創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 10:42:24 ID:AKDKfRqz
Gジェネ?知らないんだけど、素人ってどういうもの?
桜、アリサは素人っぽいね
198創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 12:27:05 ID:o+HU9daZ
それぞれが持ってる特殊スキルみたいなものかな。
ちなみに素人は消費ENがあがる代わりに攻撃力が上がるスキル。
経験不足で戦いの効率が悪いが時に思いがけない活躍を見せる。
とか書いてあった。
言われてみれば戦闘初心者で思いがけない活躍してるね。

詳しくはGジェネウォーズ参照。
wikiあたりを見れば大体分かる。
Gジェネの方は大体あってたりする。
199創る名無しに見る名無し:2009/09/12(土) 01:13:34 ID:HxubZ2kh
2009/07/29(水) 22:26:50 ID:LP95xCMx
200創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 11:22:11 ID:QAFIR7Uz
>>125かな?
それがどうかした?
201創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 21:21:05 ID:cc35vJ0p
ニケ
素人 ムードメーカー 身軽 幸運 勇者

シャナ
赤い彗星 真面目 幸運 身軽 見切り

グレーテル
強化人間 狡猾 身軽 ポジティブ プレッシャー 

リリス
身軽 ムードメーカー 空中戦闘適応 無謀 気分屋

エヴァ
魔導師 威圧 恐怖 冷徹 単独行動

弥彦
素人 身軽 無謀 底力 器用

暇だからまねしてみたぜい。

…ニケ以外は自信がない。
でも、ニケだけは100%あってるはず。
202創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 23:26:59 ID:EdVysDm5
仮面かぶったシャナ想像して吹いたwww

素人って能力一般人が該当するっぽいからニケと弥彦はあわないかも。
だけど予想外の行動という意味ではあってるから困るw
シャナに冷徹がほしいかも。ここのシャナは恋人がいなくて冷静にふるまえてるし。
あとグレーテルに好戦、ニケに悪運、弥彦に手加減かな。
203創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 10:19:07 ID:Epi5Juxp
おお、面白いことやってるな
シャナがシャアwwww
204創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 21:46:03 ID:JQOoQAVN
シャナ「あたし自動人形きら〜い!死んじゃえばいいよ!」

こうですね!ってこれは冷酷かw
205創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 22:14:28 ID:dVTIo/1d
ほっしゅ
206創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 20:32:00 ID:lyFqlr9P
>>204
なんとなくしゃなたんみたいだなと思った
207創る名無しに見る名無し:2009/09/24(木) 22:48:41 ID:DPwEG3S1
しゃなたんにに〜に〜ズがいると申したか
208創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 17:06:05 ID:RScT3NxO
さて、最後の予約から丸2ヶ月経ったことだし
そろそろ反省会でも始めようか
209創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 23:02:58 ID:W90EX/G6
書き手の暴走、読み手の横暴。
これが中心にあるんだろうけど、
問題を問題として見ずに放置していたっていうのも反省すべきところかな。
210創る名無しに見る名無し:2009/09/27(日) 23:12:52 ID:3e7ZaXJk
板移動が結構堪えた
211創る名無しに見る名無し:2009/10/02(金) 16:42:27 ID:M8bq6xdi
久しぶりにwiki見に行ったら誰かが資料の誤りの修正してくれてて……
ちょっと泣いた
212創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 01:06:30 ID:zIi2Q5nU
グリモワールオブ魔理沙の資料かな。まだ読んだことはないけど。
213創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 20:16:39 ID:9JhchQGf
なのは・型月・東方が入ってる時点で荒れるのは確定だよな。
214創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 22:39:05 ID:TTGj0PM7
型月は割と早いうちに全滅してるぞ
荒れた原因が高町なのはっていうのは間違ってないけど。
215創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 22:51:40 ID:N8WrhZby
型月は鯖さえ出さなければ荒れないと設定でごちゃごちゃ言われたりしないと思うけど
216創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 04:39:01 ID:t4jtYLX3
登場キャラ練り直して再スタートした方がいいだろこの糞展開と過疎っぷりだと。
217創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 11:21:09 ID:w3Nm0LgP
人数多かったし性格の歪んだ人は多かったけど…
人は減ったし性格は改善されたしでやりやすくなったと思うよ。
後は書く人がいないとやり直しても意味がない
218創る名無しに見る名無し:2009/10/06(火) 14:48:28 ID:mrhW/CEO
再スタートなんてしなくていいよ
過疎だって別にいいじゃん
何か急いで完結させなくちゃいけない理由があるわけでもないし
このままずっと書き込みなくて、スレが落ちたときは諦めればいいだけ
219創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 14:18:18 ID:tztLIzv+
前と同じようにとはいかないんだろうけど書き手さんに戻ってきてほしいな……
220創る名無しに見る名無し:2009/10/07(水) 17:55:25 ID:h9u/nPVR
他人任せな読み手しか残ってねぇw
221創る名無しに見る名無し:2009/10/09(金) 01:41:24 ID:6WBbuaIp
それでも文才なくて待つしかできないからねぇ
222xyz:2009/10/12(月) 19:31:50 ID:k2mbjRu2

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223創る名無しに見る名無し:2009/10/13(火) 23:43:44 ID:HYllFvnk
まだこのロワで書いた事ないけど、書こうとは思ってます
でも今大学受験の真っ只中だからあと半年待ってねw
 
半年後まで信じて待っててくれる人がいれば、の話だけど
224創る名無しに見る名無し:2009/10/14(水) 12:39:03 ID:fVolILId
待つですよ〜う
225創る名無しに見る名無し:2009/10/18(日) 10:52:02 ID:bgGjbNGn
ほっしゅー
226創る名無しに見る名無し:2009/10/20(火) 15:50:15 ID:m+s8h/CE
ほす
227創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 17:06:32 ID:QqRKl5U6
キルア忘れられすぎだw
 
 
 
てか、雛苺のことも思い出してあげて下さい・・・
228創る名無しに見る名無し:2009/10/21(水) 22:50:15 ID:tl/zQR5v
そういや、雛苺も放置状態だなw
しかし狂ってるし心のよりどころの桜は生きてるし……どうなんだw?
229創る名無しに見る名無し:2009/10/23(金) 16:43:02 ID:2WuQAqWw
雛苺死んだろ?
230創る名無しに見る名無し:2009/10/23(金) 17:43:03 ID:L8pfnfdh
死者スレでの精神状態が不安って事だろ
231創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 00:52:50 ID:ofj7UUPZ
ほっしゅー
232創る名無しに見る名無し:2009/11/01(日) 12:31:48 ID:Dp3un9pm
11月か…保守
233創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 21:08:07 ID:PrC9bwSF
保守…文才ないから待つことしかできね
234創る名無しに見る名無し:2009/11/04(水) 13:12:25 ID:xL6uJDX6
なんか支援物資創作しようぜ!
235創る名無しに見る名無し:2009/11/06(金) 23:37:40 ID:lk2VlFIk
hosyu
236創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 20:50:49 ID:ecbJ9Qht
保守
237創る名無しに見る名無し:2009/11/11(水) 07:48:18 ID:LH4HJ1C5
238創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 10:40:32 ID:2ZWW2kzS
保守
個人的に勇者の中で一番ピンチなニケの動向が気になる
利用できることに気づいたから、ブルーとかもすぐに殺そうとは思わないだろうけど…
239創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 16:03:48 ID:PWb5c2Kz
オレ今そこ書いてるけどまだ途中
 
2ヶ月放置してるけどw
240創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 16:33:51 ID:py7ELdK6
そこだけまだ放送前か。
やっぱ残された理由はメロの推理が厄介だからかな?
241創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 18:52:51 ID:3KaK6Y51
ニケ人気だな
グレーテル戦は熱かったからな
242創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 18:37:09 ID:tK1D4r+c
うわあああああああ!!
予約だああああああ!!
243創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 19:04:54 ID:BrQZu7W0
待て落ち着け
wikiに載るまでが投下だって先生が言ってた!
244創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 19:17:24 ID:fXz5sbSi
楽しみだ
245創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 03:09:15 ID:tF8OoUTo
マジか!何ヵ月ぶりだ!
これはwktkせずにはいられないな
246創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 09:15:51 ID:qs8oyN8U
予約気たあああああ!!
うわ、もうそれだけでうれしい!!
247創る名無しに見る名無し:2009/11/17(火) 18:23:11 ID:2F7c1GtO
wktk wktk wktk !!
248創る名無しに見る名無し:2009/11/17(火) 23:08:51 ID:T3g+xJd7
順調なら今日投下かな?
249創る名無しに見る名無し:2009/11/17(火) 23:58:12 ID:T3g+xJd7
わり、延長4日だったわ。あと二日か。
250創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 12:19:15 ID:Fysz+uid
予約超過で破棄にならないか、それが心配だ。
251創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 17:55:10 ID:T5ycyGam
信じる事、信じ続ける事。それが本当の強さだ
252創る名無しに見る名無し:2009/11/18(水) 18:49:41 ID:ojbBRVIL
スタン乙
253創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 21:24:41 ID:oHmNxXtc
今晩中に…来るよね?
254創る名無しに見る名無し:2009/11/19(木) 23:26:33 ID:iWMUM47p
信じよう……!
255携帯T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:07:37 ID:XYDxDA94
規制が解けず投下できないので、代理投下お願いします。
これは携帯からなのでトリも無し。
したらばテスト投下スレの16からです。
256創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 00:35:00 ID:LoNp/PnP
いけるとこまで代理します
257遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:35:47 ID:LoNp/PnP
彼らはよくやった。
その時点にある情報でよく理解し、推測し、判断した。
ただ残念な事に。
極限状況下の判断に正解は無い。
正しい答えなんて、未来でも見えなきゃ分からない。

   *  *  *

メロとブルーは一つの事柄に頭を悩ませていた。
あれから。
神社で一休を囮にグレーテルから逃げ出してからかなりして、
メロとブルー、それから人形のチャチャゼロ、気を失っているニケと隠れた体育館で、
零時の臨時放送を耳にする事になった。
その内容は二人にとって極めて興味深く重要な問題だった。

Q-Beeの殺害。
メロが実行しようと考えていたジェダへの嫌がらせを実現した者が居る。
そしてジェダは、そのQ-Beeを易々と蘇らせて見せたのだ。
それを見たブルーは、メロにどうするのかと聞いた。
メロの実行しようとした事は既に行われ、その結果は否定された。
彼女の目にはメロの計画が無意味になったように思えたのだ。しかし、
「何を言っている。むしろこいつは予想外の朗報だろうが」
メロは、月に映された復活劇を目にして怯んでいなかった。
超自然的な現象に馴染み深いブルーでさえ驚く復活劇を、真っ向から睨みつけていた。

「あの映像を投射した方法自体も興味深いが、これはおいておく。
 まずあの映像が真実か作り物か。大前提となる蘇生についてだ。
 チャチャゼロ、おまえはどう思う」
「ケケ、復活ノ実演タァ大盤振舞ジャネーカ。
 復活ナンテホントニ有ッタノカドーカモワカンネー伝説デシカ聞カネーケド、
 未来科学ダノ別世界ダノ、モウ何デモ有リジャネーノ?」
「おまえの知っている、実現出来る範囲の魔法ではどうだ?」
「知ッテル範囲ジャア無ーナ。人形ヤゴーレムナラ修理スレバスムケドナ」
「要するにロボットか。ロボットなら修理すればどうとでもなる。
 データ部分さえ残っていれば挿げ替えれば良いんだからな」
「モシソーダトシテモアノ映像ジャ壊レテタト思ウケドナー」
「だろうな」

メロは映像にあったQ-beeの死骸を思い出す。
頭部だけになり、その頭部にもフォークを突立てられていた映像。
もしあの映像通りに破壊されていたというならば中枢も何も有った物ではない。
そもそもロボットなら揺れの多い頭部より胴体部の方が重要パーツ格納に適していそうだ。

「ブルー、おまえはどう思う?」
「アタシの方も伝説級だわ、生命を操るポケモンなんて。
 といっても生きてるんだけど、伝説のポケモンって言ってね。幾つか逢った事が有るわ。
その中には他のポケモンを蘇生させた伝説が有る奴も居たのよ。
 現代にそれが行われたわけじゃ無いけど、死亡直後なら有りえるかもしれないわね。
 流石にあそこまでズタズタになった死体を蘇生させるのは想像できないけど、でも」
「俺達が聞いた事も無い技術を持つジェダならば可能かもしれない、か」
ブルーは頷いた。
258遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:36:58 ID:LoNp/PnP
そもそもメロも“死神”を識っている。
死神の人間殺害帳、デスノートのルールは真っ向から生命の復活を否定していたが、
死神が居るなら、殺す神と同じく生かす神も居るかもしれない。
あるいは単に生命に対して死神以上の権限を持っているのかもしれない。
もしそうなら、それはそれで厄介な話だ。
以前から懸念してはいたが、例えばジェダの手にデスノートが有るかもしれない。
もしジェダがデスノートを持っているならば、首輪を外したところで何時でも殺せる事は変わらない。
ジェダは参加者達の顔はもちろんの事、恐らくは本名も全て網羅しているはずなのだ。

「あの臨時放送は概ね事実だと見て良いだろう。
 Q-Beeは参加者の誰かに殺され、ジェダの力で蘇った。
 Q-Beeの戦闘力も言うほどに高いなら、俺達では返り討ちにされていたかもしれないな。
 やろうとしてくれた事を先に誰かが先に試してくれたとも言える」

ならば首輪を外す事は無意味なのだろうか?
何度でも蘇らせる事が出来るなら、誰かがQ-Beeを殺した事は無意味だったのだろうか?
「だがジェダは尻尾を出した」
「尻尾……?」
メロは、違うと見た。
それでは筋が通らない。
「幾らでも無駄に出来ると示す事で、Q-Bee殺害の意欲を無くす。
 確かに効果的だ。
 だがそれはQ-Beeに替えが効く事を意味しない。
 むしろ参加者に挑み殺されるという失態を犯したQ-Beeを使い続けるのはおかしい。
 ジェダにはQ-Beeに替わる手駒が無いんだ。
 おまえの言うポケモンのような生物を使っても、Q-Beeの代わりは果たせないという事だ」
「それはポケモンやそれに類する生き物を使っていないという事?」
ブルーの立てた推論は無駄だったのか。
メロはそれも否定する。
「いや、使えるなら使っていておかしくないはずだ。
 雑用や拠点防衛には使っている可能性は十分に有りうる。
 そうではなく、Q-Beeの役目は代役が立てられない物だとすれば」
「Q-Beeがそれほどの仕事を果たしているという事?」
「ああ、そうだ。ジェダ自身知能に劣ると言った程のQ-Beeがな。
 挙句にこの雨だ、ジェダの管理体制に不具合が出た可能性がある。
 Q-Beeの死は恐らく間違いなく、ジェダに何らかの不都合をもたらす。
 それが何か判れば、復活までのタイムラグを利用して何かできるかもしれない。
 それを成し遂げた奴、あるいは目撃した奴の話を聞きたい所だ。
 だが、問題は」
メロは体育館の外に響く激しい雨音に耳を澄ませた。
零時の放送の際に告知された雨雲は殺し合いの島全域を覆っている。
四時まで続くという雨は参加者の足を止めているだろう。
雨の向こうの何処かに、Q-Beeを殺した参加者が居る。
彼らを襲ったグレーテルも何処かに居る。

「ここが安全かどうか。安全でないならどこに逃げ延びるのが正解か。
 それから“勇者さま”をどうするかだ」

グレーテルの攻撃で気を失ったニケはまだ目を覚ましていなかった。
そろそろ見捨てるべきかと考えたが、診てみた呼吸と脈拍は正常。
たまに寝言まで言う。
詰まるところ。
「いつまで眠っていやがる」
ニケは気絶からそのまま、眠りこけていた。
259創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 00:37:02 ID:c6qKem4N
しえん
260遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:37:40 ID:LoNp/PnP
喜ぶべき事である。意識が無い状態が数分以上続くのは危険なのだ。
負傷や疲労による体力消耗から来たただの睡眠ならどうにでもなる。
応急処置をしたとはいえ腹からの出血も有ったし、そのまま死ぬ可能性も高かったのだが、
どうやら重要器官も血管も一切傷つけずに貫通したらしく、しばらくすると血も止まった。
この悪運の強さ、尋常ではない。

「とっとと起こして扱き使いたい所なんだがな」
「今起コシテモ使エルカ?」
「ああ、それが問題だ」
しかしニケの傷は浅くない。
左肩と腹部に傷を負っているのだ、激しい運動には支障があるだろう。
魔法と精神的疲労が関連する事も多いらしい。
つまり消耗して倒れている今のニケは、魔法がどこまで使えるかもアテにならないのだ。
仮に利用できるとしても、戦力になるか怪しかった。
「今は休ませるってコト?」
「そういう事になるな。次の問題は」
「あの銀髪の女の子ね。神社にはもう居なかったけど、どこへ行ったか分からないわ」

戦力に長けたニケは倒れ、メロもブルーも直接戦闘には不向きだ。
大した戦力も無しに襲撃されれば一たまりも無い。
一番問題になるのは、ここへ逃げ込む理由になった銀髪の厄種グレーテルの存在だ。
しばらく様子を見て動きが無い事から、慎重に神社を偵察して来たところ、
神社には一休の死体が転がっているだけで、銀髪の少女の姿は何処にも無かった。
あれから二時間以上も経っていたのだ、おかしな事ではない。
何処かへ移動したのだろう。
「何処かへ移動したとすれば、むしろここは安全な可能性が高い」

移動したとすれば、現在グレーテルが居るかもしれない場所は移動前、
現在地を中心とした同心円状に拡がっていく。
目的地は人が多い場所かもしれないし、休息に向いた場所かもしれない。
どちらにせよ一度移動し始めておきながら突如方向転換しない限りは、この神社から離れていく。
「何かの理由でUターンしてくる可能性は無いの?」
「有る。だが可能性としては高くないし、この雨も有る。
 今は他の時間帯に比べて危険人物と遭遇しにくい時間帯だと見て良いだろう。
 俺もロクに眠れていないからな。睡眠自体は絶対に必要だ」
「ケケ、今夜ハ眠ラセナイゼ、トカ言エネーノカヨ」
「言えるか馬鹿」

チャチャゼロの卑猥な冗句に反応を返す際、一瞬だけ移った視線を引き戻す。
意識すべきではない。
ジャージを羽織ったとはいえ、レオタード姿のブルーの姿は扇情的だ。
その肉体の性的な吸引力に感情を寄せるべきではない。
「あら、どうしたのかしら?」
ブルーが心配そうなふりをして寄り添ってくる。
メロは内心で歯噛みした。
(クソッ、分かってやっているのか!?)
なんでもないと答えるメロの内心も、見る者が見れば見抜けただろう。
チャチャゼロが誰にも聞こえないほどの小声で呟いた。
「アーア、案外重症デヤンノ」

当然ながら分かっててやっている。
彼女はメロが何故か自分に惚れかけている事を理解している。
ならば僅かな挙動さえも見逃すはずは無い。
男を手玉に取るのに長けたブルーのこと、今はメロに攻め込む絶好の機会だった。
生理的な欲望というのは抑えようとしてもむしろ強まっていく。
欲望を溜め込んだまま休息を取ろうとしている今を逃す手は無い。
メロの判断力を鈍らせてしまっては元も子もないが、ある程度は意識させるのが得策だ。
一時的に目を曇らせても、安全に休息し行動を再開するまでには回復するだろう。
261遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:38:28 ID:LoNp/PnP
メロとブルーはそれぞれ内心に様々な思惑を抱えつつも、並んで睡眠を取るという選択に至った。
出来るだけ外部の侵入口から遠い体育館の倉庫に、高飛びなどで使う落下時の衝撃緩衝クッションを敷き、
ニケをそのすぐ脇に寝かせて、共に浅い眠りに就いた。
ブルーはメロの腕を抱いて彼の胸の鼓動を数段早くしていたが、メロにはそれを断る事もできなかった。

両者とも判断の根底に有ったのは、ここはしばらく安全な可能性が高いという推測だった。
絶対に安全だと確信していたわけではない。
外部への隙を増やしてでも何時かしたい事をやるには、この時間が最適だと判断しただけだ。

侵入者への対策トラップは二重三重に仕掛けていたし、武器もすぐ取れる場所に置いた。
この密閉空間はメロの持つ煙薬の使用にも適していた。
退路も壁の高い場所にある窓が有った。
障害物が邪魔になるため、外から床までは見えない。
起き上がっていればともかく、伏せたり寝ていれば見えないだろう。
そもそも外からは、足場も無く高い所に有る窓など使いづらい。
だが中からなら、用意した足場をよじ登って出れない事も無い。
それ以外の唯一の入り口は強固な鉄扉だ。
つっかえ棒をすればしばらくの足止め位にはなるだろう。

彼らはそれなりに準備をした上で、睡眠や篭絡を試みたのだ。
その用意はかなり周到だった。

しかし完璧ではなく、たまたま少しだけ、運も悪かった。

     *  *  *

メロは何かに気づいて体を起こした。
腕にしがみ付くブルーのせいで心を落ち着ける事も出来なくて、眠りは浅かった。
一方のブルーは、無防備な姿を見せ付ける事も効果的だからとしっかり睡眠を取っている。
サモナイト石まで使った彼女の疲労が激しかった事も事実である。

(なんだ……?)
見えるのは完全な闇だけ。
明かりを洩らせば人に気取られてしまう。
何かを照らし出すという事は、向こうからもその光が見える事に他ならない。
聞こえるのは雨音だけ。
激しい雨音はメロ達のささやかな寝息や衣擦れ、生命の気配など洩らさない。
同時に外から聞こえる音も雨音に塗り潰されて判らない。

手探りで傍らに寝ているブルーの袂からシルフスコープを掴み、
彼女の首に掛かったままのスコープだけ覗いて室内を観察する。
ニケは、相変わらず眠っている。
ブルーは、目覚めそうだ。
倉庫内に異常は無い。
少し頭を上げて覗いた、高い場所に有る小さな窓は……。

目が、合った。

窓に顔を貼り付けている、明らかに小さな顔。
人間にしては小さすぎる、例えば、チャチャゼロのような大きさの顔。
ふらふらと人魂のように揺れるその顔は、足場も無いはずの窓の外から彼らを覗き見ていた。
(落ち着け、見えないはずだっ)
今、メロはシルフスコープ越しの暗視能力を得ている。
だから見えるのだ。この暗闇の中でも。
人形のような顔側にそれは無い。
無い、が。
(待て。この理屈は人形相手に通用するのか?)
判らない。
262遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:39:34 ID:LoNp/PnP
しかしメロには一つの推測材料が有った。
チャチャゼロの存在だ。
(チャチャゼロはどうだ? あいつは見えるのか、見えないのか?)
メロはシルフスコープの視線を逸らし、跳び箱にもたれたチャチャゼロに視線を向けた。
チャチャゼロの視線は、蒼星石に向いていない。
ただの人形のように前を見ている。
そのチャチャゼロがちらりと、メロに視線を向けた。
チャチャゼロは見えているが、人形のフリをしていたのだ。
(あいつは見えているのか。窓の人形も夜目が利くとは限らないが……いや。
 しくじったっ)
メロは致命的な見落としに気が付いた。
外の人形が、夜目が利くにせよ利かないにせよ。
どうやって、倉庫の窓に取り付いた?

メロがシルフスコープを着けた時点では、倉庫の中は完全な暗闇だった。
幾ら闇に目が慣れても何一つ見えないほどの暗闇。
外も激しい雨で、月明かりは愚か星明りすら差していない。
だが、何処にも光源の無い闇の中で窓に取り付けるはずは無い。
完全な暗闇をも見通す暗視能力か、何かの明かりが無い限り。

メロはシルフスコープからそっと、顔を離した。
……裸眼でも、窓の外に浮かぶ人形の顔が薄らと見えた。
外には、明かりが有る。
人形の顔で僅かに照り返し、倉庫の中にもほんの僅かに差し込む光が。
メロがシルフスコープを付けた時、人形が使っている明かりは窓を照らしていなかった。
明かりを持った手元がぶれる事などよくある事だ。
見回してから窓に目を向けるまでの時間差で、人形の明かりは室内に差し込んだ。

それでも人形から中を見渡せるわけではない。
あまりにも僅かな光は倉庫の暗闇を識別できるほど照らすには到底足りない。
しかしメロは、シルフスコープを人形に向けていた。
レンズのガラス面は僅かに光を反射する。
それは小さな極僅かな光点に過ぎないが、完全な暗闇の中では十分に視認できる。
しかもそれは、動いていた。
人形の目線は今度こそメロに向いていた。
眠気と色気でほんの僅かに惚けた頭が、極々些細で決定的なミスを冒した。

「起きろ!」
叱咤と共にブルーを振り払う声は、より大きな轟音に呑み込まれた。
大きすぎてどんな音かも判らない轟音。
轟音はすぐに騒音へと変わりその場全ての耳へと届く。
ガラガラと石が転げるような音と山吹色の光に替わる。
その光をさえぎる白煙で、メロは状況を理解した。
(壁をぶち破られた!? しかもこの光は、奴か!)
ブルーがメロから腕を離し、寝ぼけ眼を擦り状況を視認しようとしている。
十秒も有れば闇に目を慣らし、光景から状況を理解し、把握した上で、
混乱から立ち直り、どうすれば良いか思考し、行動を開始するだろう。
煙が晴れた瞬間に動き出す侵入者の最初の行動には間に合わない。
ニケの方は論外だ、目を覚ましているかも判らない。
残された時間は数秒、まずその時間を更に延ばさなければならない。
(蝶ネクタイの変声機とチャチャゼロで……ダメだ)
「まだ眠るには早いよ。姉さまも僕もちょっと殺したりないな」
立ち込める粉塵の向こうにうっすら見えた少年の顔。
それは昼間出会った厄種と同じに見えた。
数時間前に見た、山吹色の光を発する槍の使い手は少女だった。
263遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:40:53 ID:LoNp/PnP
だがメロは思考する。思考してしまう。
本当にそうだったのか?
例えば髪を切り衣服を変えればそれで見分けが付かなくなる相手だ。
事実ニケとの戦いにおいて、厄種は少年のような雰囲気と姿にも見え、少年の声で語った。
まるで昼間の厄種そのもののように。
いや、それは間違いなく昼間見た厄種の少年と同じものだった。
(アレは、同じ奴だ)
メロの直感は正しくソレの本質を捉えていた。
しかし、そのせいでメロは思考する。
チャチャゼロが何もできない事はバレている。
蝶ネクタイ型変声機もあの後タネがばれている危険は高いし、
使えてもすぐに煙が晴れる目の前で何が……。

(いや、同じ手は使える)
メロは叫んだ。
「シャインセイバーだ! さっき使った剣の雨を撃ってやれ!
 ニケ、おまえは壁の裏で入って来る奴を待ち構えろ!」
恐らくブルーはまだ、シャインセイバーを撃てるほど回復していない。
ニケも目覚めている見込みは無い。
だがニケは幸い壁から見て物陰に寝ているし、ブルーは。

「むっ」
ブルーの微かな呻き。
メロはブルーの口を押さえて物陰に走る。
姿が見えなければ警戒を買える。
(これで数秒の猶予は十数秒にまで延びて……)

「第一楽章、攻撃のワルツ!」

部屋に吹き込んだ衝撃波が一撃で粉塵を消し飛ばした
予想していた十数秒は再び十秒以下に縮まった。

その先に居るのは少し前に見た厄種と、バイオリンを構えた少年のような人形。
(まずい、見られ……っ)
少年のような人形は飛ぶように跳躍する。
その手にはバイオリンの弦を握ったまま。
恐らくそれは近接武器にもなるのだろう。
情景を見た人形はメロの言葉がハッタリである事を見抜いたのだ。
夜襲の迅速さに加え、露になった隠れようとするメロの姿が確信を与えた。
その弦がメロとブルーに振り下ろされようとした瞬間。
人形の瞳に浮かぶ揺らぎまでもが視認出来ていた刹那。

白刃が煌いた。

「うあぁっ」
短い悲鳴。

弦を持った小さな左手がくるくると宙に舞っていた。

剣を構えたニケがそこに居た。
ニケは目を覚ましていたのだ。
そして咄嗟に、「剣」のカードを剣へと変えて襲撃者を迎え撃ったのだ。
思考する暇も与えられなかったその斬撃はそれ故に容赦も無く襲撃者の腕を斬り飛ばした。



だが。
264創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 00:41:26 ID:c6qKem4N
しえん
265遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:41:47 ID:LoNp/PnP
その足が、沈み込む。
メロとブルーに襲い掛かろうとしていた人形。
メロとブルーが数瞬前まで居た場所。
ベッドにしていた柔らかいクッションの上。

体勢が崩れたニケのすぐ目の前。
人形のすぐ後ろには、後を追って飛び込んだ厄種の姿が居た。

間合いが近すぎる為に槍の穂先を刺されなかったのは幸いだった。
それでも殆ど同じ事だ。
代わりに振り回された石突がニケの後頭部を叩きのめした。

残った間はほんの2、3秒。
メロの腕の中には状況を把握しつつあるブルーが居る。
しかし戦力は無い。バットを手に敵う相手ではない。
ブルーの持つ剣と化すマフラーでも勝てるとは思えない。
倉庫入り口の扉を開ける間さえも。

覚悟を決めたメロが咄嗟に取った行動は。

数秒後、メロの意識は衝撃と共に闇に呑まれていた。

     *  *  *

彼女の意識はまどろみの中に在った。
ぼんやりとしたまどろみだった。
眠りではない。
本来眠らねばならない時間だけれど、眠りではない。
夢を見る事は無く、心が休まる事も無い。
夜の眠りとはとても大切な物のはずなのに。
この世に作られた日から今日まで、寝床を取り上げられても時間だけは守ってきたのに。
眠りではない。
ただの、まどろみ。

確かに本来の寝床。
数百年を共に過ごしてきた鞄の中で眠れなくとも、すぐに死にはしない。
決められた時間、夜の9時から朝の7時まで眠れなくとも、すぐに死にはしない。
だけど心が軋みを上げている。

夜の9時から朝の7時に、鞄の中で取る眠り。
それだけが、彼女達が夢見られる眠り。
深い眠りの中で記憶を繋ぎ合わせなければ。
想いを整理しなければ。
彼女達の心は軋みを上げて、日に日に弱り果てていく。

一日二日で力尽きる事は無いけれど。
何よりもその時間にそうして眠る事は、彼女達の約束なのだ。
創造主であるローゼンが彼女達をそう作ったのだから。

だから心が軋みを上げている。
大切な人の約束を破り続けている事に。
それなのに、まだ寝てはいけない。
鞄無しでさえ眠れない。
寝てはいけない。
殺さなければ。
266遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:42:31 ID:LoNp/PnP
ローゼンに定められたアリスゲームではなく。
ローザミスティカの奪い合いではなく。
冥王ジェダの僅かな救いに縋る為に。
命の奪い合いをしなければ。
戦い続けなければ。

ローゼンから頂いた体を壊されても。

………………。

「う…………」
誰かの声のような物を聞いた気がした。
蒼星石はぼんやりと、重い瞼を押し開いた。
どうやら浅いまどろみの中に居たようだ。
まだ思考が定まらない。記憶が混濁している。
確か、そう。殺人者達と同盟を結び、グレーテルと塔から出立して……。
(神社を家捜しして……おぞましい物を見つけたり、埋葬された死体を見つけて、それから……。
 そうだ、確か入れ違いに神社を調べに来ていた誰かが居たんだ。
 屋外の痕跡は雨で消えていたけど、調査と推測から学校が怪しかったから、学校を調べに向かって。
 体育倉庫の窓から、誰かを見つけて、そして──)
思い、出した。
「腕、が……」
右腕で左腕を押さえる。
その腕は中ほどから、無くなっていた。
床から飛び起きてきた少年の鮮やかな太刀筋で、切り落とされてしまったのだ。

左腕は蒼星石の利き腕だ。
逆腕も割合使えるのだが、それでも不便は避けられない。
だけど何よりも。
(お父様から貰った大切な身体なのに……)
胸に来る痛みが、辛かった。

蒼星石のローゼンへの愛は、ドール達の中でも抜きん出たものだ。
その想いは、この島に連れて来られたドール達の中でも一番かもしれない。
愛を測る事など愚かしいが、それでも。
一度繋いだ絆に背を向けてまでアリスゲームに挑んだのは──
それが正しかったか間違っていたかは別にして、蒼星石だけだったのだから。
彼女にとってドールとしての決まり事は一際重要な意味を持つ事なのだから。

なのに、立ち止まれない。
今は進まなければならない。
ジェダの約束した微かな救いに乗って全てを取り戻すまでは。

体を起こすと、すぐ脇には切り飛ばされた左腕が置いてあった。
どうやら今居る場所は体育館の舞台上らしい。
スポットライトの明かりが舞台の上を照らしている。
用意された舞台。
「あら、起きたのね。おはよう、お姉さん」
「な……っ」
そう、舞台の上には全てが用意されていた。
蒼星石が最後の一振りを下ろすための。

惨劇の舞台が。

そこには三人の人間が囚われていた。
267創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 00:42:33 ID:c6qKem4N
 
268遺。(前編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 00:43:22 ID:LoNp/PnP
周囲を見せないためか布を被せられているが、それぞれが誰であるかを悩む事は無い。
目を覚ましているのかもがく小さな少年は布も剥がれて顔が見えている。ニケだ。
必死に考えているのかじっと動かない、この島では一際大きな体格の男はメロ。
同じく動く気配の無い、青みを帯びて見えるほど艶やかな黒髪が覗く少女はブルーだろうか。
三人の腕は鉄の楔で封じられていた。
運動場に紐などを括る為の物なのか、
錆びの浮いた太い凹型楔を堅固な木の舞台に打ち込んで腕を挟み、固定しているのだ。

蒼星石はそれらの名前を判りはしないが、関係の無い事だ。
理解する必要の無い事だ。
理解する必要の無い者だ。

「さあ、殺しましょ。お姉さんの命を繋ぐ為に」

彼らは殺されるためそこに有った。

蒼星石は立ち上がろうとして、バランスを崩す。
見れば左腕だけではなく、右足までもが断たれていた。
膝の球体間接部を強い力で引き裂かれていたのだ。

ああ、ダメだと蒼星石は感じる。
諦めの混じった絶望に打ちのめされる。
完全な少女になる為、ローゼンから頂いた体も心も砕かれてしまった。
片腕でも両足が残っていれば機敏に立ち回り庭師の鋏で戦えた。
あるいは足が無くとも両腕が残っていれば金糸雀のヴァイオリンで戦えた。
その両方を奪われて何が出来るというのだろう。
そんな彼女にグレーテルは、告げた。
「殺せば全てを取り戻せるわ」
と。

「命は殺し殺されることで回っているのよ。
 殺す事で生きて行けるのよ。
 ジェダとあの男の子はそれを理解していたのね。
 三人殺す度にご褒美をあげるだなんて。
 即物的だけれど、とっても判りやすいわ。
 さあ殺しましょう、お姉さん。
 お兄さん達を殺す事で壊された体を取り戻しましょう。
 もっともっと殺して殺して進み続ける為に。
 永遠に生き続ける為に殺しましょう。
 それが世界のルールなんだもの」

それは信仰だった。
グレーテルの信じる宗教だ。
皮肉な事に、蒼星石の知るアリスゲームとも一部だけ合致している。
ローザミスティカを奪い合い完全な少女を目指す様に、
命を奪い自らの物とする事で生き延びようと諭すのだ。

「まだ……そうなのかよ。
 ずっとそんなつまらねー生き方続けて行くつもりなのか」
「ええ、そうよお兄さん。私達はこうして楽しく生きていくんだわ」
囚われのニケが訴え、グレーテルはそれを嘲う。
どこまでも声の届かない底知れぬ深淵。
269創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 00:46:05 ID:c6qKem4N
 
270創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 00:55:50 ID:VX5i0+ie
チクショー!俺も規制……携帯で支援!
271創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:41:42 ID:TlKjQXDM
いけそうなら代理いきます
272遺。(前編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:44:52 ID:TlKjQXDM
「今度こそ、いえ、今度もお兄さんは無力だわ。
 あの時に殺していればお兄さんは私の命を取り込んで生きていけたのに。
 可哀相に、お兄さんはそれが出来なかったのね。
 生きる事は殺して殺して殺し続ける事なのに、殺さないんだもの。
 殺さない人は死ぬしか無いのに。
 殺せない人は死ぬしか無いのに」
痛切で。
残酷で。
哀しくも邪悪な、惨劇の信奉者。
誰が見ても“どうしようもない”存在だと思うだろう。
それでもニケは助けようとした。
救おうとした。
だけど。
「こうして、痛い目を見ながらね」
グレーテルが腕を振り下ろすとニケの言葉は絶叫に替わり、体育館を震わせた。

「い、一体何を……」
右腕を付き左足で起き上がった蒼星石は、ニケの姿を見て息を呑んだ。
その右手に何かが取り付けられていた。
いや、右手を何か小さくも禍々しい台に固定されていたのだ。
そして台に取り付けられたニケの右手は。

全ての爪を剥ぎ取られ、無惨な姿を晒していた。

爪剥ぎ器。
神社の祭具殿で見つけた、人間の爪を剥ぎ取る為の拷問器械だ。
蒼星石はその悪趣味さに目を背けたが、グレーテルは喜々としてそれを持ち出した。
犠牲者の手を指まで固定し、ペンチで爪を挟み、レバーを押すと、その生爪が、剥ぎ取られる。
一枚、一枚。
その痛みたるやどれほどのものか。
ただただ純然たる痛苦。
その痛みは戦いの中の、より深く命に関わる負傷すら比較にならない激痛だ。
これと同じ物がとある世界とある可能性のとある少女に使われた時は、
固く定まっていた決意さえも二枚の爪剥ぎで崩壊して、泣きを上げ、
三枚の爪剥ぎを終わらせるためには介添えを必要とした。
拷問に耐えられる人間など多くはない。

「う……くぅ…………死にそうに痛いっていうかとっとと殺せってこの野郎って思う位に痛いぞちくしょう。
 ああでもやっぱり死にたくないので殺さないでくれるとありがたいです、ごめんなさい、だ……」
涙を零しながらそう呻くニケにグレーテルは微笑みを返す。
如何なる望みも聞くつもりが無い残酷さと、ほんの僅かな驚きを篭めて。
「やっぱり変わってるわね、お兄さん。
 こういう事をしたら大抵の人は泣いて命乞いをするもの。
 お兄さんもそうしているのにどうしてかしら、みんなの命乞いとは違う気がするわ」
どこまでも残酷で、冷酷な微笑み。
なのにそれは、痛々しいまでの無邪気ささえ感じさせるのだ。
見た者が矛盾した感想を抱く笑みと共に、グレーテルは続けた。
全き邪悪な言葉を。
「いっそ殺してくれって本気で思うくらいに痛みをあげたらどう言うのかしら?
 次はどこが良い? 左手? 足? それとも爪が剥けた指を酸で焼いてあげましょうか?
 きっと良い声で鳴いてくれるわ。
 何時まで壊れずに居られるかしら?
 ねえ知ってる?
 人間の体って死んだ後も、釘を打ったりするとぴくぴくって反応するのよ。
 見ていて結構面白いわよ?」
「見たくないね……っていうかそれじゃオレ死んでるから見られねーじゃねーか……」
「それじゃ、死んでいくのが見えるようにゆっくりと殺してあげましょう。
 まずは指に塩酸かしら。傷口を灼くとみんな綺麗な悲鳴をあげるのよ」
「やめろ!!」
273創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:45:46 ID:kOUQiWG5
代理投下しようと思ってPC起動したけど一歩遅かったか
とりあえず支援
274遺。(前編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:47:18 ID:TlKjQXDM
蒼星石は咄嗟に叫んでいた。
叫んでから自分の行動に戸惑い、グレーテルは楽しげにその顔を覗き見る。
「あら、どうして? お姉さんも殺す側なんでしょう?」
「それは……そう、だけど……」

その通りだ。
蒼星石は誰も彼もを殺す決意と共に、殺し合いに乗った。
殺して、殺して、殺した末に全ての死を否定する為に。
蒼星石はニケを殺すべき側に居る。
「ああ、ごめんなさい。そうね、自分で殺したいんでしょう?
 私が殺したらご褒美はもらえないんだもの」
「ご褒美……」
「ええ、そう。お兄さん達を殺して手足を繋ぐんでしょう?」
これはその縮図。
捕えられた獲物の命を奪え。

誰かの命を奪う事で生き残れる。
再生の願いも叶う。
前に進める。

「さあ、召し上がれ」

彼らの命を奪うべき凶器は、蒼星石の目の前に置かれていた。
蒼星石が使う庭師の鋏。
雨に洗われた刃は、無機質で冷たい舞台照明に輝いている。

(……何を戸惑っているんだ、僕は)

蒼星石は残された右手で、左手用の鋏を手に取った。
両手で使う事も多かった鋏だ、逆手でもどうにかなる。
ましてや抵抗も出来ない囚われの子供達にとどめを刺すなんて、容易いことだ。

片側だけの足で舞台を踏み締めて、立ち上がる。
ドールの持つ飛行能力で、千切れた右足を補って。
それほど優れた飛行能力ではないけれど、歩く代わりには十分すぎる。

欠損した体のバランスに苦戦しながらも、蒼星石は獲物達へと進みだす。
地に足の付かない、滑るような進み。
舞台に用意された三人分の死を掴みとるために。

(そうだ、それ以外に道は無い)
ニケ達の死は決まりきっている。
例え蒼星石が殺さなくてもグレーテルが殺すだけだ。
蒼星石が殺せば、蒼星石も生きていける。
浅ましい言い訳だけど、蒼星石は生きて殺し続けなければならない。
生きる為にまず目の前の三人を殺さなければならない。
幾ら蒼星石が空を飛べてもこの足では機敏な斬り合いなどできない。
金糸雀のバイオリンも片腕では使えない。
手足が無ければ戦えはしない。
戦えなければ殺せない。

答えはもう一つしかない。
殺すしかない。
殺す為に殺すしか。

殺す。

殺せ。

殺せ、殺せ、殺せ。
275創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:47:34 ID:kOUQiWG5
  
276創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:48:50 ID:LoNp/PnP
 
277遺。(前編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:48:54 ID:TlKjQXDM
蒼星石はニケの傍らに跪き、庭師の鋏を握り締める。
人の心の成長を妨げる雑草を刈り取る為の鋏。
思い出を刈り取る事も出来る鋏。

人を前に進ませるための鋏で、人を殺せ。

懊悩と焦燥に翻弄されながらもニケは鋏を振り上げる。
振り下ろして喉笛を掻っ切れば血流と呼吸は断たれて速やかに死が訪れる。
延々と痛みが続く事も無く、一瞬の衝撃と鮮烈な赤が速やかに意識を刈り取るだろう。
その鋏を、振り下ろせば。

「おまえ……さっきの奴か……」
痛みに呻きながらも、ニケは蒼星石を見つめていた。
楔に封じられた両腕。
爪を全て剥がれた、見るからに痛々しい右手。
逃れる術は無く、抗う術は無く、生きる術は最早無い。
ただ死を待つ事しか出来ない身。

きっと未来が有ったはずなのだ。
生きるという可能性が無限に広がっていたはずなのだ。
この島に連れて来られなければ。

だけどこの島に居る以上、蒼星石は彼を殺す他に無い。
蒼星石はニケを見下ろし、そして。

「痛そうだな………………ワリィ……」
「え……」

ニケは蒼星石を見上げている。
蒼星石の左腕を見つめている。
いや。

「くそお、やっぱりこういう傷って死ぬほどいてーっ。
 ヴィータもこんなに痛かったんだな……なのはの奴、無茶苦茶しやがって。
 あいつ……こんなに痛いって判っててこんな事したのかよ……。
 死ぬほど痛いって判ってて。
 …………ちくしょう、痛いじゃねーか」

蒼星石の落とされた左腕の向こうに、誰かを見ている。
その意識は半ば朦朧としているのだろう。
取り留めの無い言葉をぽつぽつと紡ぐ。

「魔物と戦う時はどれだけ斬ってもなんとも思わなかったのに。
 だって勇者として当然だし、魔物だから当然だし。
 今でも何にも変わってねーのにさ、胸が痛いんだ」

どこか理解できない言葉。
どこかで聞いた言葉。
蒼星石は頭を振って、鋏を握り締める。
もうどうしようも無いのなら、早く、楽にしてやろう。
今度は自己欺瞞でなく、心からそう思う。
そして狙いを定めた鋏を。

「やっぱり女の子を泣かしちゃ、いけねーよな」

振り下ろす事が、出来なかった。
278遺。(前編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:50:14 ID:TlKjQXDM

「キミ、は……」
「へへ、おまえ男の子みたいな格好してるけど、女の子だろ?
 オレの目を誤魔化せると思うなよ、今度は間違いないぜ。
 さっきも近寄ってきた時にズボンの隙間拝ませてもらいました、白でしたっ」

バーバラパッパパー♪ 【ニケの称号『すけべ大魔神』のレベルがあがりました】

「な……一体、何を考えて……」
蒼星石は困惑する。
死を間際にして、何をバカな事を言っているのだろう。
遂に頭がおかしくなってしまったのか。
ニケの表情は痛みに歪み、引き攣っている。
何もしないようにしていてもなお、爪を剥かれた指からは痛みが走っているはずだ。
とても痛い、痛い、疼痛が。
それでもニケはふざけを交えて言った。

「オレってこれでも勇者様だからなっ。
 女の子なら敵でも、泣いたり助けを求めてるのを放ってはおかないぜ!
 あ、お近づきになりたいとか下心が有るわけじゃ無いからな。う、ウソじゃねーぞ?」
「だから何を言って……!」

蒼星石はようやく気づいた。
自分の瞳から涙が溢れて、零れ落ちている事に。
その水滴がニケの顔を叩いていることに。

「腕、痛かっただろ。指だけでこんなに痛いんだからさ」
「…………ぁ……」

そうじゃない。
ドールにも痛みは有るけれど、斬られた後の断面はじきに痛覚を失う。
斬られた時だって、剣のカードで放たれた斬撃は痛みを超えて衝撃しか感じられなかった。
別に耐えられないほどの体の痛みじゃない。
そうじゃなくて。

「それともおまえも、誰かに助けて欲しいのか?」

本当に痛むのは、心だ。

愚かしい躊躇いだと思う。
この世界に生命の復活は存在する。
タバサが語り、ジェダが証明した。
全てを取り戻す可能性が有るとすれば、それに縋る他に無い。
何一つ諦めたくないならば、それは全ての屍を積み上げた果てにある。
その為なら挫けてはならない。
殺さねばならない。
人間を直接傷つけてはならないというドールの定めすら、とうの昔に背を向けた。

混乱し蒼星石に襲い掛かったイシドロの片腕は失われ、その命も戦いの中で吹き消えた。
蒼星石自身も自衛ではなく誤解から、敵意を糧にして人を襲った。
挙句にタバサを傷つけ、逃げ出した。

そして今からは自ら手を出さず誰かを手助けするのではなく。
憎悪の発露から襲うのでも、咄嗟の感情による暴発でもなく。

自らの固い決意を持って命を奪わなければならない。
279創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:50:59 ID:LoNp/PnP
 
280遺。(前編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:51:44 ID:TlKjQXDM
全ては屍の山の頂にある。
姉妹との絆も、島で繋いだ絆も、全てを切り捨て、斬り殺して辿る他にない。

何度も、何度も反芻する。

殺さなければならない。
殺すよりほかに無い。

「なんならオレが助けて……ぐあっ!!」

生温い液体が顔に掛かった。
赤い飛沫が飛び散っていた。

「ええ、そうよお兄さん。助けてあげて。
 その命をお姉さんにあげるのよ。
 その死をお姉さんに捧げるのよ。
 そうしなければお姉さんは助からない」
「や、やめ、いてえ、いてえってぎゃ、マジでっうああああああっ」

蒼星石は呆然と、それを見つめていた。

グレーテルの巨大な槍がニケの腹に突き立っていた。
まるで竜にも見える槍先が、その牙でニケのはらわたを貪り漁る。
手首の一捻りは一抉り、一押しは一刺し。
捻り、押して、引いては押して、捩って、押して、震わせて。
勇敢な少年の絶叫は最早凄惨な断末魔にしか聞こえない。

「やめろ! 僕がやる!」

蒼星石がそう声を上げた時、既にニケの腹部は直視に耐えかねる有様だった。
びくり、びくりと痙攣し、赤い花が広がっている。
まだ、死んではいない。
グレーテルは即死するほどの急所を避けて傷つけた。
意識もすぐには失うまい。
そう、まだ、すぐには。

「そう。それじゃ早く殺しましょ。
 摘み食いしてごめんなさい、お姉さん。
 早く食べないと冷めちゃうわ」

もうどうしようもない。
いや、とうの昔にどうしようもなかったのだ。
ニケの命は処刑台の上にあった。

グレーテルと同じ処刑人に過ぎない蒼星石が出来ることは一つだけ。

蒼星石は鋏を、もう一度、掴み取った。

振りかざす。

ニケが蒼星石を見上げる。

目が合って、それでも。





振り下ろした。
281創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:52:02 ID:kOUQiWG5
 
282創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:52:27 ID:LoNp/PnP
 
283遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:53:06 ID:TlKjQXDM
庭師の鋏を、ニケの喉笛に、振り下ろした。



そのはずだった。



「…………え……?」

それなのに、彼が死んでいないのはどうしてだろう。
振り下ろしたはずの腕が下りていないのはどうしてだろう。
鋏を掴み、振り下ろそうとしたその体勢のままで。

固まったように動きを止めているのは、どうしてだろう。

殺すはずなのに。
殺すしか無いのに。
殺す覚悟をしたのに。
殺そうとしているのに。

どうしてまだ、この腕は止まってしまうのだろう。
どうして。
どうして。
どうして。

「お姉さんは、できなかったのね」

背後から聞こえるグレーテルの声は嘲りと蔑みと哀れみを孕んでいた。

「時々居るのよ、そういう子が。
 それが世界のルールだって突きつけられて、頭では理解しているのね。
 それなのにどうしてか、最後の一歩を踏み出せない。
 勇気を出せない。
 意気地無しなんだわ。
 寒い夜に真っ赤で温かいシャワーを浴びることが。
 恐怖に潤んだ綺麗な瞳を抉り出すことが。
 自分より低い頭を叩き割ることが。
 命乞いをする喉笛を縊ることが。
 どうしてもできない、そんな子達よ。
 上手くできない子は多いけど、やることさえできない子がたまにいるの。
 そんな子がどうなるか、お姉さんはわかるかしら?」

蒼星石は、這うように。
ぎこちない、人形のように軋む動きで、背後を振り返って。
そこには。

「大人たちは言いました。
 『その子をみんなで殺せ。殺すのを躊躇った子も殺せ』」

蒼星石に向けて、ショットガンを構えたグレーテルの姿があった。
目の前の光景とニケの叫びが視聴覚から認識されるよりも早く。

「命を食べられない偏食の子はお腹を減らして死んでしまいました」

引き金が、引かれた。

蒼星石の残った右腕が吹き飛んだ。
284創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:53:58 ID:LoNp/PnP
 
285遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:54:19 ID:TlKjQXDM
残った左足にも拳銃から一発。
ヒビが入った左足も動かなくなる。

宙に浮かぼうともこれではバランスを崩すだけ。
壊された人形は打ちのめされて床に這う。

「お姉さんももうおしまいね。残念だわ。
 右足も壊して発破を掛けてあげたのに。
 お姉さんがお兄さんを殺せたら、私がもう一人のお兄さんを殺してもらうご褒美で、
 あなたを治してあげようかと思っていたのにね」
「う……な、なに…………?」
右足を破壊したのがグレーテルだという言葉にも動揺を覚えたが、更にその続き。
蒼星石が囚われの三人、ニケ、メロ、ブルーを殺して、自分のご褒美で自分を治す。
そういう話ではなかったのか。
グレーテルはくすりと笑い、布を掛けられた黒髪の少女に歩み寄る。
光の具合で深い藍色にも見える長い髪が除いた、三人目の人影に。
グレーテルは足を振り上げて。
その人影を、蹴っ飛ばした。
被せられていた布がはだけた。

「……その……子は…………!?」
蒼星石は息を呑む。
一瞬だが先ほどの戦いで垣間見た少女とは姿が違う。
一回りは小さく、泥に汚れた、血の気を失った土気色の肢体。
息絶え絶えのニケも、横に転がるその遺体に息を呑んだ。

蒼星石はその死体が何処から来たのかを知っている。
塔から神社へと南下した際、神社を一通り調べて回った。
その時に見かけた土を盛られただけの簡素な墓。
蒼星石が止める間も無く、グレーテルは突撃槍のエネルギーで土を吹き飛ばした。
そこから姿を現した、黒い髪の少女の死体。
古手梨花の死体だった。

「どうして? その死体は墓穴の中に置いてきたはずじゃ……」
「だってもう一人は逃がしてしまったんだもの。私も残念だわ」
だからグレーテルは、戯れに神社へ向かいその死体を持ってきた。
布を被せられた大き目の人影が、小さく震えた気がした。
その中に居る誰かが笑ったように思えた。

「お姉さんは永遠に生きられなかった。
 お兄さんを殺せなかった。だからここでおしまいなのよ」

グレーテルは手に握る突撃槍を、まるでナイフのように軽々と振りかざして。
振り下ろそうと、して。

ガラスの割れる音が響いた。



「あら、お客さんだわ」
グレーテルは楽しげに笑った。
それは体育館玄関口のガラス戸が割れる音だ。
鍵を掛けられたガラス戸はそれ自体が風景に紛れ込んだ鳴子だった。
隠れ家に警報装置を仕掛ければ、その警報装置自体がそこが隠れ家である事を報せてしまう。
だからこの体育館の場合は、ただガラス戸に鍵を掛ければ良い。
それだけで無理に入ろうとすれば騒音の響く警報装置が出来上がる。
グレーテルが倉庫をぶちやぶった為に無意味と化していた正門を通り、それは侵入してきた。
286遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:55:22 ID:TlKjQXDM
ゆっくりと着実に。
何者も怖れないしっかりとした足取りで。
舞台から遠く離れた玄関口に、彼女は姿を現した。
舞台の床に這い蹲る蒼星石やニケには見えないだろう。
グレーテルが知る由も無い、ニケ達の仲間だったはずの少女。

「もう協定を破るのね、お姉さん。確かエヴァンジェリンっていったかしら」

七人の魔女の一人、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがそこに居た。

「そういうおまえは同盟の相棒殺しか。つくづく見下げ果てた奴だ」
「お姉さんもそうなんでしょう?」
「一緒にするな。私には最初から仲間など居なかった」
「あら、スケボーで逃げた女の子に呼ばれたんじゃないの?」
「さあな」

それはあの数秒にメロが成した事。
スケボーを引っ張り出し、ブルーと共に、力いっぱい放り投げた。
ニケと自分に手間取るグレーテルの頭上を越えて、破られた壁の向こう側へ。
動機は感情的だけれど、精密な判断で下された、ブルーを逃がす為の一手。
かくしてブルーは逃げ延びた。

「どちらにせよおまえには関係の無い事だ、小悪党。
 今、おまえの目の前にいるのは不死の吸血鬼にして最強の悪の魔法使い様だ。
 おまえはここでゴミ屑のように、死ね!」

無詠唱で放たれた闇の一矢が開幕を告げる。
厄種と吸血鬼の殺意が交錯した。

     *  *  *

メロは暗闇の中で、密やかにほくそえんだ。
可能性は低かった。
半分は感情による選択だった事も否定できない。
だがあの場で取れる数少ない有効な選択肢だった事はこの結果が証明してくれた。
(完全に運試しだったな)
笑みには自嘲まで混じっている。
ブルーがあの場から逃げ延びられる可能性は低くなかった。
厄種の性格からして、戦力で圧倒的に劣る獲物はすぐに殺さず嬲り者にする可能性も高いと踏んでいた。

だがブルーが裏切らずに救援を呼んでくれる可能性は期待できなかったし、
迅速に救援が見つかり、それが少なくとも事態を掻き回す力を持つ可能性も低かった。
獲物として、神社で言葉を交わしたニケの方を優先してくれる可能性も五分五分だ。
執着する獲物を先に楽しむか、後に回して楽しむかは完全に気分次第だからだ。
むしろニケより先に惨殺され、舞台演出に使われる可能性も高かった。
殆ど奇跡の様な偶然が重なって、メロは僅かな生の可能性を得た。

(なのに……なんだ、この胸騒ぎは?)
287創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:55:45 ID:kOUQiWG5
  
288創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:56:08 ID:LoNp/PnP
 
289遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 01:56:27 ID:TlKjQXDM
この救援──タイミングから見てブルーが関係した可能性は高いと思える見覚えのある人物。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
夕方、ニケ達一行が神社に担いできたチャチャゼロの主人。
間違いなくニケの味方だろう。
そしてメロの相棒を務めていたチャチャゼロの主人でもある。
どうやら近くに転がってはいない──恐らく無言を貫いて体育倉庫に放置されたのだろう、
チャチャゼロに仲介を頼む事も出来るはずだ。
(チャチャゼロが厄種に寝返ってない事は感謝しておくか。勝ち組に付くのはおかしくないからな)
エヴァは味方。
あるいは取り入れる相手。そう考えて良い筈だ。
事は良い方向に転がっている。
生憎ニケはもうすぐ死ぬが、彼を一度助けた功績だってある──。
(不味い、自由を確保しないとヤバイ)
メロはその可能性に気がついた。

蓄えていた体力を開放していく。
拘束は鉄の楔で手首を舞台の床に挟み込んだだけ、手首自体を破壊されてはいない。
爪剥ぎ器で拷問するためには、指の感覚が生きていなければならないからだ。
おかげで監視さえ無ければ抜け出る隙がある。
ほんの少し。
ほんの少しだけ楔を浮かせる事が出来れば、腕を抜く事ができる。

しかし、びくともしない。
楔は強固に床板を噛み締めていて、片腕の、それも力の入りにくい体勢からではぴくりとも動かない。
(チッ。仕方がないか)
メロは覚悟を決めると、声を漏らさないように強く歯を噛み締めて。
「…………っ」
右手の親指の間接を、亜脱臼させた。

要するにポピュラーな縄抜けだ。
しかし一度外した間接は戻してもずっと痛み続けるし、外す時の痛みも強烈なものとなる。
数日の範囲で言えば親指の握力を捨てたようなものだ。
(左腕は感覚も鈍く指を二本失い、右腕も親指無しか。
 まあ良い、握力は落ちるが物を握れないわけじゃない)
メロは痛みと不便をその一言で片付けた。
そして顔に掛かった布を首の振りでずらして、戦いへ目を向けた。

エヴァとグレーテルの戦いは、傍目からでも趨勢が見えていた
それは瞬時に決着するという物では無かったが、一方的な物には違いない。
優勢なのは……エヴァ。

広い体育館内で戦っている事が最大の要因だったのだろう。
グレーテルは遮蔽物を利用した撹乱しながらの戦いにおいてはプロフェッショナルでも、
開けた空間での正面対決を得意としているわけではない。
そもそも戦闘経験では数百年を生きたエヴァンジェリンに敵うはずもない。
天性の才覚と闘争本能でこの戦場に向いた武器である突撃槍を使いこなしつつはあったが、
それでもまだ、自在に飛び回り的確な魔法で戦機を支配するエヴァンジェリンには及ばない。
何より全身の負傷が体を引き摺り、その強みさえも殺している。
核鉄状態で行動した数時間はかなりの傷を癒してくれたが、それでも依然ハンデが残る。
グレーテルの攻撃がエヴァに届く様子は一切無い。
しかしそれでもメロは、エヴァンジェリンが歯噛みしているのを見た。
(なるほど、そういう事か)
290創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:56:59 ID:LoNp/PnP
 
291創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 01:59:52 ID:LoNp/PnP
 
292創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:00:39 ID:MMwqttt7
さるか?
293遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:01:34 ID:TlKjQXDM
徐々に追い詰めているが、当たってはいない。
当たれば氷結する魔法の矢は受け止めた突撃槍の武装錬金を一瞬だけ凍らせて、
次の瞬間にはエネルギーの飾り布で溶かされる。
戦場はエヴァにとって有利だったが、武器の相性はむしろ不利だ。
グレーテルが全力で戦えば、勝敗は覆らずともここまで一方的な趨勢を見せてはいない。
グレーテルは本気で戦っていなかった。
(あの厄種、既に退き際を捜していやがる)
勝てると見ればどこまでも高圧的に。
しかし勝てないと見れば即座に退く。
劣勢の側にとって模範解答だろう。
優勢の側にとっても退こうとするその瞬間を狙うのが一番効率的だ。
その判断自体は素早く、的確である。
(所詮は感覚だけに頼る相手だ、誘い込めば……いや、今は良い)
それ以前に距離を取らなければならない。
この戦いから離れなければならない。
あの二人の戦いが決着するその前──。

予想外に早くその瞬間が来た。

 ウンデキム・スピリトゥス・グラキアーレス・コエウンテース・イニミクム・コンキダント・サギタ・マギカ・セリエス・グラキアーリス
「氷の精霊11頭、集い来たりて敵を切り裂け。魔法の射手・連弾・氷の11矢!」
エヴァが唄うような詠唱と共に十一の氷の矢を解き放つ。
囲い込むように放たれた氷の矢は、しかしただの布石。
これによりグレーテルの左右と後方は封じられ、残るは前方のみ。
だがエヴァは無策な突撃など容易く返り討ちにするだろう。
よってグレーテルは、突撃槍の武装錬金サンライトハートの推進力を使い。
上空へと飛んだ。
それだけなら戦いはエヴァの勝利で決着していただろう。
空中でもエネルギーの飾り布で推進力を得る事は出来るが、逆に言えばそれだけだ。
二本の足で地面を駆け回れる地上に比べればどうしても小回りが利かない。
だが、それだけではなかった。
メロの目と鼻の先に引き裂かれたボトルが落ちてきた。
(不味い!!)
メロは咄嗟に鼻を押さえ息を止める。
大きな動きは目覚めている事を発覚させるが、最早そんな事を言ってはいられない。
視界の端でそれを見たエヴァも理解する。

グレーテルが舞台に投げたボトルからは毒ガスが溢れ出していた。

塩素系洗剤と酸性洗剤を混ぜた為に生まれる塩素ガスだ。
メロは刺激臭を感じた瞬間に目を細め自由になっている右手で鼻を覆ったが、
完全に動きを封じられているニケはそうもいかない。
溢れ出した毒ガスは身動きの取れないニケを包み込もうとし。

ニウィス・カースス
「氷爆!」

エヴァの放った氷の爆発が天井近くで滞空するグレーテルに襲い掛かった。
同時に爆風が巻き起こり、毒ガスを吹き消す。
攻撃と救助を両立した最適の戦術。
では、ない。
防御を鑑みた攻撃はどうしても甘くなる。
爆風を舞台に届かせるため、氷の爆裂は僅かに低い位置へとズレていた。

恐らくエヴァはこの隙にグレーテルが逃げる事を、仕方なしとしたのだろう。
仲間だと気付かれれば人質に使われてしまう。
だからエヴァはこの戦いの間そんな様子をまるで見せなかったが、
ニケを見捨てたわけでも気付いていなかったわけでもなかったのだ。
294創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:02:46 ID:kOUQiWG5
 
295遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:03:13 ID:TlKjQXDM
しかしメロはガスを吹き散らす冷たい大気の中で叫んだ。
「馬鹿が!!」

エヴァが歯噛みする。
上空で起きた氷の爆発は高熱のエネルギーで吹き消されていた。
同時に閃光が降り注ぐ。
目が眩む。エヴァの視界が山吹色に塗り潰される。

グレーテルの狙いは逃亡などではなかった。
逃亡すると思わせた隙を突き、必殺の一撃を放つ事。逆境ですら殺害を選ぶ狂犬の選択だ。
空中に浮かぶ突撃槍の武装錬金に片手で掴まり、もう一方の手に拳銃を握り締めていた。
エヴァとの戦闘中には奇妙に思えるほど使っていなかったソードカトラス。
予想だにしない銃弾の引き金が、引かれた。
続けざまに、三回。

「ぐぁっ」

浅い。

ギリギリでメロの叫びが間に合ったのか、それとも狙い自体が逸れたのか。
三発の銃弾は一発が左肩を貫き、そこまでだった。

しかしグレーテルもそうなるかもしれない事を見越していたのだろう。
突撃槍サンライトハートを盾にしながら、飾り布のエネルギー出力を開放する。
そのまま天井を突き破り、この場から逃亡しようとする。

「逃、すかァッ」

絶叫と共にエヴァが手を伸ばす。
空へと逃げようとするグレーテルに向けて。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」
その手の先に渾身の魔力が集中し。
空気の凍てつくキンキンという耳障りな音を立てて。
伸ばした手から、白いビーム状の剣が発生していた。

いや、それはビームなどではない。
触れたものを強制的に気体へと相転移させ、全てを断ち切る必殺の魔法。

    エンシス・エクセクエンス
「エクスキューショナーソード」

白き剣がサンライトハートを貫いた。

それでもエヴァの表情は歪む。
サンライトハートを貫いた切っ先はしかしグレーテルを僅かに外れ、その服を掠めていた。
直撃してはいなかったのだ。
だが何故か、グレーテルの表情も苦痛に歪む。

「ああああああああああああぁっ」

絶叫と共にサンライトハートのエネルギー放出が全開に達する。
槍の切っ先が体育館の天井に突き当たる。瞬時に槍が突き破る。
少女の姿は天井を突き破って遥か上空で方向を転換し、何処かへと飛び去った。
騒音を立てて天井の破片と共に、豪雨が体育館の床を叩き始めた。

厄種は、去った。
遠くへ。
296創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:04:00 ID:LoNp/PnP
 
297創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:04:05 ID:kOUQiWG5
 
298遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:04:22 ID:TlKjQXDM
「な、に……?」
エヴァは戸惑いを露にした。
エクスキューショナー・ソード。
極めて高度な魔法ではあるが、古典ギリシア語ではなくラテン語で構成されたこの魔法は、
今のエヴァが使える魔法の中で最強クラスの殺傷力を誇る。
直撃部分を蒸発させるビーム状の剣部分は一撃必殺の破壊力を持っているし、
直撃までしなくとも強制的に相転移された物質は急激に温度を奪われる。
グレーテルにも相応の冷気を至近距離から浴びせる事が出来たはずだ。
しかし強烈な苦痛を感じる程の冷気であれば、悲鳴の前にまず体が凍えるはずだ。
強烈なエネルギー噴射で冷気を緩和されたのだとすれば、それこそ悲鳴を上げる理由が無い。
エヴァの中に一抹の困惑が残り、それ以上に。
「うぐ……くそ、やってくれたな、小娘……っ」
湧き出す苦痛に表情を歪ませた。

グレーテルの持つソードカトラスから放たれたのは本来の9mmパラベラム弾ではなかった。
それより僅かに小さい.380ACP弾、所謂9mmショート弾だ。
9mmパラベラムとそれより僅かに大きい9mm×21弾を使えるソードカトラスとはいえ、
9mmショート弾は本来対応していない種類の弾丸だ。
同じ自動拳銃用同口径弾とはいえ、下手をすればジャム(弾詰まり)を起こしてもおかしくない。
本来の9mmパラベラム弾の弾数に余裕が有ったにも関わらず、9mmショート弾を使った理由は何か。

「う……ぐ…………ああああああっ!!」

鉤爪が伸びたエヴァの指先が肩の銃創を突き刺し、抉り、掴み取る。
引き抜いた。

その銃弾は、エヴァの指先で銀色に輝いていた。

メロが所持していた十四発の銀の銃弾。
魔に属する者を打ち破る必滅の弾丸である。
幾ら日光を克服したエヴァンジェリンといえども、この弾丸は通常の弾丸以上に痛手であった。
予想以上のダメージさえなければ処刑人の剣はグレーテルの体を貫いていたはずだ。
弱々しく左腕を握り締めようとする。
指が少し動いただけだった。
(左腕は、ダメか)
雨が降っているとはいえ、満月の夜だ。
この日のエヴァは吸血鬼の力を大幅に取り戻す。
その再生力により出血を心配する必要は無かったが、機能は殆ど死んでいた。
何日もすればともかく、一朝一夕で回復する事は無いだろう。
(近づけなければ良い話だ)
そう切って捨てる。
エヴァの主武器である魔法への影響は殆ど無い。
近寄られた時の危険は増大したが、どうにもできない程ではない。
エヴァは一切の問題なく、戦える。

それを確認した彼女は舞台を見た。
そこに在る、惨状を視た。
299創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:05:36 ID:kOUQiWG5
 
300遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:05:56 ID:TlKjQXDM
まず目に入ったのは、なんとか自力で楔から開放されて起き上がっているメロ。
両腕を負傷しているようだが、それでも彼は軽傷な方だ。

次に四肢を引き裂かれた人形、蒼星石が目に入る。
無惨だった。恐らくはもう、何も出来ないだろう。

それから掘り起こされた古手梨花の姿。
エヴァが殺してしまった。殺した少女の、遺体。
心を凍らして意識的に無視する。今は、立ち止まれない。

最後に、ニケの姿が目に入った。

エヴァは少しだけ、息を呑んだ。
どうしようもない。
そういう惨状だったから。

即死していないのは嬲り殺しを好むグレーテルが傷つけたからだ。
だから、まだ、死んでいない。
まだ。
意識が有るのかも判らない、惨状。
それが今のニケの概況だった。

エヴァの目が、舞台袖から立ち去ろうとするメロを捉えた。
二人の目が合う。
思考までも。
闇の世界に生きた二人は、それぞれの素振りを見ただけで、その意図を理解していた。
「チャチャゼロは多分倉庫の方に転がっているはずだ」
「……なに?」
しかしメロの言葉はエヴァにとって予想外のものだ。
メロは続ける。
「あいつはこの島に来てから俺の相棒だった。お互いに世話になった」
「そうか」
メロが思ったとおりの、乾いた答え。
メロは続ける。
「それからそこに転がっている人形のガキはさっきの厄種の仲間だった」
「知っている」
メロにとって少し予想外の、予想できなくもなかった答え。
メロは続ける。
「そこのニケも何度か俺が助けた。神社でおまえを背負ってきた奴らと会ってな。縁が有った」
「そうか」
予想通りの会話を経て。

「あんたはこれまでに何人殺した?」
「生憎、そこに転がっている娘だけだよ」

メロは脱兎の如く舞台袖から逃げ出した。
エヴァが、それを追った。

     *  *  *
301遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:06:52 ID:TlKjQXDM
「どうやら無事だったみたいね、メロ」
「ブルーか」
飛び出したメロは学校裏の森まで逃げ込もうという所で、彼女に出会った。
ブルー。
雨の中、木々の陰に隠れて学校の様子を見ていた少女。
メロが逃がした、恐らくはエヴァを呼び込んだ、メロの仲間だと言えなくもない女。
「その分じゃあのエヴァって女はあなたを助けてくれたみたいだけど」
「ああ、だが逃げろ!」
「えっ」
魔法の矢が飛来した。

「な、なんで襲ってくるのよ! あいつは神社に来たお人よし共の仲間でしょう!?」
「その仲間が瀕死で、動けない瀕死の敵が一人居て、それから既に殺したのが一人!」
走りながらのメロの叫びで理解した。

追える速さで逃げたメロを殺し、戻って動けないもう一人を殺せば、ご褒美が貰える。

しかしまだ疑問が続く。
叫び問い、喚く答えが返ってくる。
「どうして! 正義の味方の味方なら、こんな事っ」
「そして奴は、自分を悪の魔法使いだと自称した!」
「っ!!」

エヴァは確かにニケの仲間だった。
だからエヴァは、攻撃を半ば防御に回してでもニケを毒ガスから助けた。

しかしエヴァは悪だった。
だから道徳や倫理に縛られる事は無い。

自らの悪の誇りにさえ折り合いを付けて、エヴァはメロに襲い来る。
そして戦いのプロフェッショナルではないメロが。
戦いの指揮のプロフェッショナルでしかないブルーが。
ダークエヴァンジェル
 闇の福音 から逃れうるはずがない!

ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス・エクステンダントゥル・アーエーリ・トゥンドラーム・エト・グラキエーム・ロキー・ノクティス・アルバエ……
「来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を……」

メロは響く詠唱にハッと振り返り、ブルーを横へと突き飛ばした。
泥と水飛沫が弾ける地面を踏みしめて、メロは闇に閉ざされた空を見上げた。
(来る)
逃れえぬ攻撃が。

クリュスタリザティオー・テルストリス
 「こおる大地」

血飛沫が舞った。
叫びと苦悶が交錯した。

エヴァンジェリンは上空からメロの姿を目視する。
視界は二人の持つ明かりからも外れて闇に覆われていたが、吸血鬼の視界に問題は無い。
降りしきる豪雨と凍てつく氷霧さえも、視界を隠し切る程ではない。
メロの胸の中央は真紅に染まっていた。
真っ赤な血の華が咲いていた。
302遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:08:23 ID:TlKjQXDM
凍る大地の生み出す鋭い氷柱は強力な殺傷力を持つ。
まだ苦悶に蠢いてはいるが、とどめを刺すまでも無い。
メロの側に居るもう一人の仲間を殺す理由も。
別れの言葉を交わすなら交わせば良い。
その程度の情けと、理由がある。

「聞くがいい、地を這う無力な子供」

彼女の名を。

     ダーク・エヴァンジェル  マガ・ノスフェラトゥ
「私の名は『闇の福音』、『不死の魔法使い』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!
 最強の悪の魔法使いだ!
 語り継ぐがいい、怖れるがいい、徒党を組み抗うが良い!
 私は……悪だ!!」

悪として固められればそれで良い。

エヴァは踵を返し、学校の体育館に向けて飛び去った。
悪らしく、身勝手に、ただ自分の都合と理屈のためだけに。
あと一人を殺すために。

     *  *  *

かくして舞台は再び、体育館の舞台へと舞い戻る。
そこはメロとエヴァが出て行った時のままだった。

グレーテルは天井を突き破って突撃槍で飛び去って、そのままだ。
あの絶叫がダメージによる物だとすれば、すぐには戻って来ないだろう。

古手梨花は死体として転がっているだけだった。
死体とは全てが終わった存在だ。

蒼星石は呆然と転がっているままだった。
もがれた四肢は彼女の選択肢を削ぎ落としていた。

ニケも楔に両手を括られたままだった。
まだ死んではいなかった。
違いが有るとすればただ。
目を見開き、粗い息を吐いて、意識を取り戻していた。
ただそれだけ。
だからエヴァは頓着する事も無く足を進める。

「待て、よ」

そこに居る少年を助けようとしている。だけどそれはエヴァの勝手だ。
少年の意思を尊重する理由なんてこれっぽっちも有りはしない。

「待てよ……エヴァ!!」

だけどニケはそれを理解していないようだから。
エヴァは立ち止まり、ニケの姿を見下ろした。
303創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:08:26 ID:LoNp/PnP
 
304遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:09:40 ID:TlKjQXDM
ニケは見るも無惨な有様だった。
体は紅く染まり、血に濡れていない所を捜す方が難しい。
さっきのメロの何倍も、多く深く傷つけられた。
なのにニケは生きていた。
まだ、生きていた。
悲鳴を楽しめるように、すぐには死なないように。傷は場所を選んで穿たれた。
生き残る事のないように、ゆっくりと死ぬように、部位を選んで壊された。
エヴァはこの状態のニケを治す魔法なんて知らない。
元来不死であるエヴァは回復魔法に疎いのだ。
人を強化し操る力も制限されたし、元よりそれは傷を治す便利な術になりえない。
自分を治したらしいインデックスと会おうにも、移動させればそのまま死に果てる。
工場から彼女を攫って往復しても間に合わない。
エヴァにニケを救う手段は、一つしか無かった。

「思ったより元気そうだな。
 しかし生憎だが、今のおまえに喋る権利は無い。恨み言なら後で聞いてやるぞ?
 今、言葉を遺す権利が有るのはそっちの人形の娘だけだ」
蒼星石はビクッと震えた。それだけだ。
ニケは痛みを堪えて、囁くような声で精一杯、叫んだ。
「ご褒美でオレを回復するってのか!?」
エヴァは笑いもせず、ただ見下ろして。
頷いた。

「ああ、そうだ。だが高町なのはと一緒にするなよ。
 私は正義の味方だなんて言うつもりは無い。
 正しさに流されるつもりは無いし、勿論これが正しいなどとほざくつもりも無い。
 私は私に都合が良いから、そこの人形を壊して、殺して、おまえを治す。
 それだけだ」
高町なのはがそんな事をした、という事をニケは知らない。
だがそれはこの場に関係すらしていない。
「意味がわかんねー、よ」
「判らなくていいさ。これは私の勝手な願望にすぎん。
 私はジェダを倒したい。だがその手段は私が選ぶ。
 おまえの素っ頓狂な光魔法とやらはそれなりに有効そうだからな。
 だからおまえを生かす、それだけの都合に過ぎないんだよ」
「こ、これはあれか。
 『ア、アンタのためじゃないんだからね!』とか言うやつのヤバイバージョンその名もヤンデ」
「何事も茶化せば済むと思うなよ」
「うぐ……」
どうでもいい事だがツンとヤンは全く違う。
「私が気に食わないというなら正義の味方として私を倒しにくるがいい。
 その時こそ私はおまえを迎え撃ってやろう」
ニケはじっと黙り。
エヴァもニケを見つめて。
ニケが、言った。
「……なんで、だよ」
エヴァが、応えた。
「おまえは勇者様で、私は悪の大魔法使いだ。
 おまえは光の道、私は闇の道。ならば何時か道を違えるのは判りきっていた事だ」
また少しだけ、沈黙して。
血まみれのニケは、氷のような冷笑を浮かべているエヴァを見上げて。
「違うだろ」
「ほう? 何がだ」
ニケが、言った。
「おまえはオレ達の仲間だろ」
「………………」
沈黙を打ち落とした。
305遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:11:08 ID:TlKjQXDM
「確かにエヴァは黒マント着て高笑いするのとか見下して誰かをゲシゲシ踏むのとか
 すっげー似合ってるし正義の味方っていうよりラスボスみたいカッコただしツルペタで
 ちんちくりんな事以外カッコ閉じるだけど」
「ッ………………」
一筋の青筋。ただそれだけで無視。
「でもさ!」
ニケが、言った。
「エヴァはオレ達の──オレとオレの仲間の、仲間じゃねーかっ」
「……勝手に決めるな」
あと今ので好感度落ちたぞと付け加えそうになった言葉を呑み込む。
エヴァはどこまでも冷たく、突き放す。
「大体、蒼星石はおまえの仲間ではないだろう?
 仲間割れをしたようだが、そいつもおまえを襲った一人のはずだ。
 私がそいつを殺そうとおまえには関係の無い事だろうよ」
「だけど」
「誰彼構わず助けるのが勇者様か? 立派だ。本当にご立派な事だな。
 だがそんな事では結局のところ誰も助けられない。
 そんな事では最初の頃の高町なのはの方がマシだったぞ!」
「だけどこいつは」
ニケが、言った。
「こいつは、オレを殺さなかった」



沈黙。
静寂にも喧騒にもなれない、中途半端なただの沈黙。
穴から響く雨音が、屋根を叩く雨音が響き続ける。
その中で。
「だが、おまえには何もできない」
正しさの確信にも至らぬまま、ただ決断が成される。
エヴァはニケの前を通り過ぎ、蒼星石の許へ向かおうとして。
ニケから視線を外そうとして。
ほんの僅かだけ、それよりも早く。
そんな事は無いと笑い。
勇者ニケが、叫んだ。
「光魔法『カッコいいポーズ』!!」
「なにぃ!?」

魔物など闇に属する存在を縛る聖光がニケの全身から放射されていた。
見ればニケを括る両手の楔拘束は横に伸ばした大の字型だ。
足を封じられてはいない。
それならば出来る。定められたあのポーズを作る事が。
両手と指を左右に伸ばし、片足の膝を曲げ、もう片方の足は伸ばす。
それだけで作れる、カッコいいポーズ。
そこから放たれる聖なる光に照らされれば、
真祖とはいえ闇に属する吸血鬼であるエヴァが動けるはずもない。

しかし同時に、そこまでだ。
鼻で笑うエヴァ。
「フン。それで? そこからどうするつもりだ」
ニケはこの魔法を使用している間、何もできない。
ただでさえ拘束され深手を負っているニケには、尚更何も出来ない。
エヴァに殺害させまいとした蒼星石にも。
「そこの人形はどうせここまでだ。
 手足をもがれて、戦う事は愚か逃げる事もできはしない」
「………………」
「考えも無しか? おまえもどうせその傷では……いや、おまえまさか!?」
エヴァは、その結末に気がついた。
ニケが、不敵な笑みでそれに答えた。
「この、愚か者がぁっ!!」
306創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:11:52 ID:kOUQiWG5
 
307遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:12:17 ID:TlKjQXDM

絶叫と共にエヴァは足掻く。光魔法から逃れようとする。
だが、できない。
カッコいいポーズはエヴァの自由を完全に奪っていた。
エヴァは怒りの言葉を叩きつけた。
「そのまま死ぬ気か、貴様!」
ゆっくりと死にゆくニケに。

ニケの傷は即死するものでこそないが、完全に致命傷だった。
例えばそれは、エヴァが空を飛んで工場とを往復しインデックスを連れてきて
それから回復の儀式を行っていてはまず間に合わない位に。
そこへ来て寝そべりながらとはいえ無理な体勢を作ってのカッコいいポーズを使えば、
ニケが死ぬまでにかかる時間は更に短くなる。
もし死の瞬間までカッコいいポーズを維持されれば。
いや、そうでなくとも死の直前まで維持されればご褒美を呼んでも間に合わない。

「そんな選択に何の意味がある!」
エヴァは言葉を尽くしてニケを説得しようとする。
ニケを思い止まらせなければならない。
この自滅を止めなければならない。
だけど。
「そこでおまえが死んだところで、その人形娘はもうどうにもならないのだぞ!
 そんな死に損ないを助けてどうする!」
「エヴァが、連れてってくれよ。ランドセルにでも入るだろ」
「どうしてそこまでして助ける!?」
ニケは、小さく息を吐く。
少し呆けたように、目を瞬かせた。
それから、言った。
「だって、エヴァが誰か殺すのもイヤだしさ」
答えに。
「もう遅いっ。おまえの横に転がる古手梨花は……私が、殺したんだ」
嘆き。
「……苦しそーじゃないか、エヴァ」
読みに。
「それに、さっきの奴も殺してきた。おまえの動機は全てが手遅れだ! 何もかもな」
怒り。
「一人殺したら、もうダメなのか。二人殺したら、戻れないのかよ」
訴えた。

「オレは、エヴァのことを嫌いになるなんてまっぴらだからな」

エヴァが息を呑んだ。
ニケは語る。
「オレは仲間を嫌いになんてなりたくないんだ。
 仲間が仲間を殺すなんてイヤだね」
エヴァが食いつく。
「おまえを殺せなかった人形が仲間扱いなのは良いだろう。
 だがおまえは見えているのか? おまえがしようとしている事が」
しかしその論理は。
「おまえがこのまま死ねばそれは厄種のガキの殺害数になるだけだ。
 後には四肢をもがれた無力な人形が転がるだけ。それだけだ」
エヴァが本来信じている論理ですらない。
「なんの意味がある。全ては死に向かうだけだ」
ニケを封じようとしただけの声でしかなかった。
だからニケは振り払う。
「さっき正しいからは理由にならないって言ったのは、エヴァだろ」
吐き出す想いで、粘りつく泥沼を。
308遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:13:45 ID:TlKjQXDM
「誰かを助けるために誰かを殺すって、どう考えたって泥沼じゃねーか。
 もう助からないから殺すって、もっと違うだろ。
 殺した奴は嫌われて、殺された奴の仲間は悲しむんだ。
 戦わなきゃいけないのかもしれないけど。
 殺さなきゃ生きられないのかもしれないけど。
 仲間が仲間を殺すなんて、仲間が敵に殺される以上に最悪じゃないか。
 誰かを嫌いになるなら、敵だけ嫌いになった方が、マシだっ」

ご褒美システムを、振り払う。

エヴァは気付いた。
ニケの視線が最早焦点を失っている事に。
恐らくはこの多弁ささえも、意識を保つ最後の綱。
呼吸器は傷つけられていないから言葉を紡ぐことはできるけど、それもあと少し。
叫びを最後にニケの体から力が抜けていく。
もう、死ぬ。
今更ご褒美を呼んだところで間に合いもせず。
それでもギリギリまで、カッコいいポーズを放ち続けて。
「だから……この方が、マシだっ」
訪れる死を前に。
遂にエヴァは、目の前の勇者の生存を諦めた。

「くそう、結構心残りが多いぜ。
 なのはに酷い事言ったのを謝れなかったのと……
 八神はやてが死んでヴィータがどうしてるのかと……
 エヴァがこれからどうするのか結局わかんねーのと……
 グレーテルって子がクソみてーな世界に居続けてるのと……
 インデックスのシースルーな格好をもう一度拝めなかったのが心残りだ」
「…………フン。女の子ばかりだな、というか最後のを他と同列に語るなっ」
「あ、途中のグレーテルって子は女の子じゃなかったってゆーか男の娘だったってゆーか」
「なに!? 確かに戦闘中おかしかったが、しかし同じようなものだ!」
エヴァも、今度は律儀にツッコミを入れた。
なのはが過酷で無惨な様になっていた事も、ヴィータが魔女の連合に居た事も胸に仕舞って。
グレーテルについてどうしようもないと考えている事も、エヴァがこれからどうするかも話さずに。
そのツッコミはきっと、半分くらい優しさで出来ていたのだろう。
ニケはニッと笑って。
息を吐いて、吸って。
「……それ、から…………」

最後の心残りを吐いた。
一番たいせつなひとの名前を。

「ククリに会えなかったのが、心残りだ」







「ククリ?」

転がっていた、四肢をもがれた人形が。
呆然と話を聞いていただけの少女が。
蒼星石が、顔を上げて呟いた。
「まさか君は、ニケ君なのか?」
309創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:14:57 ID:kOUQiWG5
 
310創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:17:48 ID:kOUQiWG5
規制かな?
311創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:19:57 ID:LoNp/PnP
 
312創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:21:43 ID:kOUQiWG5
じゃあ俺続ける
313創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:22:38 ID:+UYrLeDu
投下してる者ですが、すいませんさるさん出てます
314遺。(中編) 代理投下:2009/11/20(金) 02:23:16 ID:TlKjQXDM
エヴァとの会話の中でも、たまたま、彼の名前は出ていなかった。
ニケは精一杯に頷く。
「あ、ああ……まさかおまえ、ククリに会ってたのか」
蒼星石は知っている。
トリエラ達との情報交換で、ククリという少女がニケという少年を捜していた事。
それからどんな経緯を辿りどんな“結末”を迎えたかも、知っている。
だから答えた。
「ククリさんは、何人もの仲間に守られて、北東の街の旅館に居たよ。
 温泉なんかも有ったよ、あそこは」
「マジかよ、ずりぃ…………ちくしょう、覗きたかったぜ。
 でも、ほんとうにぶじでよかった」

ホッと、息を吐いて。
気が抜けて。
力が抜けて

「ニケ!」

響き渡ったエヴァの叫びに。
最期に一言だけ、ニケは言葉を吐き出した。

「やっぱ勇者ってサイコーだぜ」

命と一緒に吐き出した。

そうやって。



勇者ニケは、死んだ。

【ニケ@魔法陣グルグル 死亡】



【D−4周辺/不明/2日目/黎明】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身凍傷(軽)、左腕負傷(大)
    喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。
    核鉄に大ダメージを受けたため消耗大
[装備]:サンライトハート(相当な損傷を受けた)@武装錬金
    ソードカトラス×2(1+15/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー
[道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘
    ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、
    蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの
(カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター
    スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、
    コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。雨に濡れて湿っている。
[思考]:不明
第一行動方針:不明(「南の方」に向かう、再襲撃する、隠れて休むなど)
第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。
第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
    シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。
    「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。
    銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。
315遺。(中編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:23:24 ID:kOUQiWG5
エヴァとの会話の中でも、たまたま、彼の名前は出ていなかった。
ニケは精一杯に頷く。
「あ、ああ……まさかおまえ、ククリに会ってたのか」
蒼星石は知っている。
トリエラ達との情報交換で、ククリという少女がニケという少年を捜していた事。
それからどんな経緯を辿りどんな“結末”を迎えたかも、知っている。
だから答えた。
「ククリさんは、何人もの仲間に守られて、北東の街の旅館に居たよ。
 温泉なんかも有ったよ、あそこは」
「マジかよ、ずりぃ…………ちくしょう、覗きたかったぜ。
 でも、ほんとうにぶじでよかった」

ホッと、息を吐いて。
気が抜けて。
力が抜けて

「ニケ!」

響き渡ったエヴァの叫びに。
最期に一言だけ、ニケは言葉を吐き出した。

「やっぱ勇者ってサイコーだぜ」

命と一緒に吐き出した。

そうやって。



勇者ニケは、死んだ。

【ニケ@魔法陣グルグル 死亡】



【D−4周辺/不明/2日目/黎明】
【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:疲労(中)、全身凍傷(軽)、左腕負傷(大)
    喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。
    核鉄に大ダメージを受けたため消耗大
[装備]:サンライトハート(相当な損傷を受けた)@武装錬金
    ソードカトラス×2(1+15/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー
[道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘
    ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、
    蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの
(カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター
    スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、
    コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、
[服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空いている。雨に濡れて湿っている。
[思考]:不明
第一行動方針:不明(「南の方」に向かう、再襲撃する、隠れて休むなど)
第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。
第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。
基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。
[備考]:キルアの名前は聞いていません。
    シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。
    「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。
    銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。
316創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:26:32 ID:kOUQiWG5
げ、被った…
どうしようか
規制大丈夫ですか?
無理そうなら引き継ぎますが
317創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:29:51 ID:TlKjQXDM
>>316
すみません、ちょっとちょくちょくお待たせするのもあれなので。
できる限り支援に回りますので、引き継ぎをお願いしてもいいでしょうか。
318創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:30:44 ID:kOUQiWG5
じゃあ行きます
319遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:31:28 ID:kOUQiWG5
ブルーはメロに駆け寄りながらも、恐らくは助からないと感じていた。
あれほどの戦闘経験者が追撃を掛けずに立ち去るのは──ブルーを見逃した事は不可解だが、
既に致命傷を与えているからに他ならない。
事実、近寄って見たメロの姿は致命傷を受けているようにしか見えなかった。
氷の刃は折れたのか貫通こそしていないものの、
丁度心臓の上の場所を正確に、真っ赤な血で染め上げていたのだから。
だからエヴァが飛び去った後でメロが不敵な笑みを浮かべても、理解できなかった。
「予想通り、焦っていやがる」
「え……?」
困惑の声を上げて、数瞬してから気付く。
エヴァがニケを助ける為にご褒美を求めているならば。
もう一人分の殺害予定を体育館に放置しているならば。
エヴァには“何か切り札が有るかもしれないブルーにまで戦いを挑む理由が無い”。
もちろんその可能性は低いが、何らかの支給品で足止めを喰らう可能性は否定できない。
それなら遠距離からメロに致命傷を与えただけで、近寄らずに退く事は、
一刻一秒を争う状況では妥当な判断だったと言えるだろう。
しかしメロのそれを見落とした事は明らかな失敗だった。
「ぐ……賭けに生き残った。それだけだ」
メロは胸元から、真っ赤に染まった布を取り去った。

梨花の死体を舞台装置として機能させるために、梨花と、メロの体には布が被せられていた。
その布を適度な大きさに千切り、ニケの血に浸した物がそれだった。
メロの胸元を染めた真紅の血は、ニケが使っていた血溜まりの一片だ。
それによりメロは偽りの致命傷を演出した。

それだけではエヴァの魔法を受けて生き残る理由になりえない。
「氷の攻撃なら、掠める位なら耐え切れるだろうと思ってな」
メロが着ているローブは賢者のローブ。
高熱と冷気と暴風から着用者を守る魔法のローブだ。
加えてメロに氷の刃は直撃していなかった。
左肩と左脇腹と右膝を掠めてはいたが、ローブに守られていた事もあって深い傷ではない。
メロは生き残った。

同時に、それでも不味い状況だと認識する。
命に別状は無くとも重なる傷は全身を消耗させている。
ようやく取れた睡眠も完全ではなく、疲労自体もかなりの物だ。
今も降り続く冷たく鋭い雨が傷に滲み込んで疲労を深くしている。
なにより手足に受けてきた傷が、不味い。
(左腕は殆ど動かず、指は三本だけ。左腕が動かないだけでも相当な痛手だ。
 右手も縄抜けの際に抜いた親指が痛むな。握力はかなり下がっている。
 物を掴んで運ぶ位は問題無いが、相手が一般人でも殴殺は厳しいだろう。
 今受けた右足の傷も、深くは無いがさっさと応急処置をして逃げないとまずい。
 右手でランドセルを掴んで来れたのは僥倖だが……クソ)
冷静に自分の状況を省みて、歯噛みする。

舞台に転がっていたメロのランドセルは、目ぼしい物を殆ど抜き取られていた。
恐らく舞台まで持ってきた所で中身を検分したのだろう。
残っているのはバカルディや食料などを含む基本支給品だけだ。
弾だけで無意味だったとはいえ弾丸は当然抜き取られたし、救急箱や薬品の類も無い。
チャチャゼロを失ったのも痛手だ。
恐らくは倉庫の方に転がったままなのだろう。

加えて、急いでここを離れる必要が有る。
エヴァをやり過ごす事が出来たとはいえ、彼女はご褒美を呼ぶはずなのだ。
数分もしない内にメロが生きている事が露呈してしまう。
320創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:31:53 ID:TlKjQXDM
 
321遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:32:31 ID:kOUQiWG5
「メロ、急いでここを離れなきゃ」
「判っている。肩を貸せ。手当てをすれば治る程度だが、足が痛む」
「え。ええ、判ったわ」
すぐさまブルーが近づき、メロの右肩を下から抱え込む。
メロはブルーの肩を借りて歩き出す。
泥水を跳ねながら、歩いていく。
この場から離れていく。
急ぎ、思考をめぐらせながら。
今すぐに、とても重要な事を決めなければならないのだ。

ブルーを殺すかどうかを決めなければならない。

(肩を貸してもらうのも賭けだったが、咄嗟に切り捨てられはしなかったか。
 だろうな。
 身を挺して自分を守ってくれる人間だと判断したなら、この状態でも俺はまだ有用だ。
 ブルーには俺を切り捨てるかどうか、ゆっくりと考える時間が有る。
 そして俺にとってもブルーは有用……そう、ただ有用なだけだ。
 感情は、抑え込める。
 抑え込めなければならない)
媚薬によるブルーへの慕情はまだ存続している。
なにせメロは、今回の危機に当たって二度もブルーを助けているのだ。
どちらも自分の為に繋がる行為であったが、それだけと断言する事はメロ自身にも出来ない。
だが。
それでも、どうしても必要ならば、メロはブルーを切り捨てられる。
ニアを出し抜いてLを超えるためならば。

メロは自分が決して理性的な人間ではない事を理解している。
メロが持つ殆どの動機の根幹は、ニアへの対抗心によるものだ。
ニアを超えなければ、メロはLに届かない。
羨望か、嫉妬か、嫌悪か。
向上心か、虚栄心か、名誉欲か。
何にせよそれは、メロの全てと言っても良い。
その為ならば、家族や恋人でも切り捨て“なければならない”と考える。

だからメロはじっくりと考えた末に必要であれば、慕情さえも押し込めて。
ブルーを、殺せる。
今ここで三人目の殺害によりご褒美を貰う必要が有ると考えたならば、ブルーを殺せる。
最初に殺した大柄な少年に火事の現場に放置し放送で呼ばれた江戸川コナンを含めれば、
次の殺害でご褒美がもらえるのだ。

殺害方法は容易い。
今メロが肩を借りている……つまりメロの腕の中に有るブルーの首を、抱き締めて。
絞めれば良い。
右手の握力は落ちているが、腕力への影響は無い。
ある程度は鍛え抜かれたメロの膂力なら、片腕でも女子供くらいは絞め落とせる。
風の剣を展開されると不味いが、絞めに入ってからなら勝算は十分に有る。
奇襲と呼吸困難による混乱から立ち直るのは難しいからだ。
それこそ絞めに入った時点で腕に握られてでもいなければ七割、いや八割方は殺せるだろう。

そうしてブルーを殺せば、ご褒美で傷を治す事が出来る。
全身の消耗を回復して両腕も万全にすれば、行動の選択肢はかなり広がる。
ブルーを殺すメリットは他にもある。
ここまで負傷が重なったメロは何時ブルーに切り捨てられてもおかしくない存在だ。
安全の確保という意味でも、メロにはブルーを殺すメリットが存在している。
リスクとリターン。
メリットとデメリット。
メロは考えに考えて。
ニアを超える為にどうするかを決めた。
322創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:32:44 ID:/HQcmm64
323創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:33:32 ID:kOUQiWG5
「ブルー。そろそろ、良いだろう」
さっきの場所からは十分に離れていた。
エヴァが追撃に出てきても、足跡が消え視界も悪い豪雨の中での捜索は困難だろう。
事を起こすなら、今だ。
だからメロは、言った。
「さっさとやれ。その手に握った風の剣でな」
「なっ!?」

ブルーの手には自らの首に巻きつくマフラーの一端が握られていた。
即ち風の剣の一端だ。
ブルーは既に、メロを殺す為の凶器を握り締めていた。

「ち、違うわよ、メロ、これは……」
メロを放り出してあとずさるブルー。
その瞳に浮かぶのは激しい迷いと、動乱。
ブルーはメロを殺すかどうか迷っている。

一方のメロは放り出されて泥水に膝を付く。
前のめりに倒れそうになり、辛うじて右手をついた。
親指が、痛んだ。
泥飛沫が舞った。

メロは仰向けに倒れ込む。
木々の枝を抜けてくる冷たい雨に顔を打たれながら、ブルーの姿を見上げる。
借りていた肩を避けられれば地に叩きつけられる程に、今のメロは弱かった。
「言い訳は不要だ」
それでも言い訳はせず、させない。
迷うブルーを説き伏せようともせず、逆に言葉で畳み掛けていく。
「俺を殺す気なんだろう? いいだろう、殺せ」
ブルーよりメロにとって有り得ないはずの選択肢へと追い込みを掛ける。
「おまえになら託せるからな」
「託す……?」
メロは断言する。
ブルーの心情を、自らの言葉で定義する。
ああと頷いて、宣言した。
「おまえは信頼できる女だ」

困惑。そして惑乱。
理解できない。
まるで意味の通じない言葉の連なり。
ブルーは問うた。
「それが、今から自分を殺そうとする女に向ける言葉?」
首肯が返る。
それが確かな事がと知っている、そんな頷きが。
「確かにおまえは信用できる女じゃない。きっぱりと悪女だろうよ」
「なら、どうして」
見つめる視線。返る視線。
内に秘められた、量れない意思。
ブルーにはメロが何を考えているかわからない。
同じように、メロにはブルーが信じられる人間かなんてわからないはずだった。
それなのに。
「おまえは人を裏切ることができる女だ。
 親しい人間にさえ嘘を吐き、翻弄することができる女だ。
 騙り、偽り、謀り、誤魔化し利用して陥れることができる女だ。
 化かす女だ。
 なのに、想いを裏切ることだけはできない」
メロは言い放つ。
ブルーの内に秘められた本質を。
「だからおまえは、信頼できる女だ」
324創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:34:14 ID:+UYrLeDu
しえん
325創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:34:16 ID:LoNp/PnP
 
326創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:34:17 ID:/HQcmm64
327遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:34:28 ID:kOUQiWG5
そう言って、メロは託す。
自らの想いを。
「俺の想いを託すに足る女だ」

わからない。
ブルーにはわからない。
風の剣を握る手が震えているのは寒いからだろうか。
それとも、怖いからだろうか。
(多分、怖いからだ)
そう理解する。
ブルーは彼の知恵を、洞察を、意思を恐れている。
刃を振り下ろす勇気さえも。
その後に再び歩き出す強ささえも危うく思えるほどに、圧倒されている。

「俺の目的は、俺の打った手がニアのそれよりも早くジェダの牙城を打ち崩すことだ。
 だから俺はおまえに託すと言っている。
 おまえに、俺のやったような事をやれとな」
だから、メロの言葉を返せない。
まるで染み入るように染み込んでいく。
ブルーを規定してしまうメロの言葉が入ってくる。
「足手まといは殺してもいい。もちろん邪魔な奴もだ。
 親しい奴だろうと、自分を慕う奴だろうと関係無い。
 手段は選ばず、だが俺の目的を継いでくれ。
 俺を殺してな」
その言葉はこれから殺される人間とは思えないほどに力強くて。
思わず、ブルーは呟いた。
「……できないわよ、そんなの」
小さな弱音を吐いていた。

ブルーが自ら決意したのであれば別だったかもしれない。
自ら殺害を心に決めていたのであれば。
だけどメロから向けられた遺言で逆に、揺らいでしまった。
最初の出会いの時からメロに感じていた敗北感が、圧倒的な迫力を見せ始める。
意のままに操れば。あるいは殺せば、メロを乗り越えられると思っていた。
だが、大きな過ちだった。
実際にメロが、その慕情から命がけでブルーを守り、命すら差し出してきた時、思ったのだ。

メロを殺した後、自分はどうするのだろうか、と。

メロの遺言を無視して自分だけの為に生きることはできない。
それは解くことのできない呪いを生涯背負って生かされるようなものだ。
だが、メロの遺言に従い彼を継ぐ事などできるのだろうか?
殺意すらもメロに握られたこの有様で。
ブルーは堂々巡りの迷路に嵌る。
そんなブルーに。
「殺せ」
「できない」
「やれ。何なら酒の勢いに頼ってでも、踏み出せ」
メロは一本のボトルを取り出していた。

バカルディ・ラム。
328創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:35:01 ID:TlKjQXDM
 
329遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:35:26 ID:kOUQiWG5
約四十度というかなりきつめのアルコール度数は、
ストレートで飲めば喉を焼くと共に理性をも焼くだろう。
メロはそれを軽く呷ってから、ブルーへと放った。
「飲め」
ブルーはそれを受け取り、戸惑い、躊躇いながらも。
それに、口を付けた。

初めて味わう高濃度のアルコールは、思ったより軽やかな味で喉を流れ落ちていった。
少し生っぽい泡を感じた気がして、だけどそれを気に留める暇もなく。
次の瞬間、腹にカッと火がついた。
「っ」
灼熱感とでもいうべき感覚。
戦いの中で炎に焼かれる痛みじみた熱さとは全く違う、なのに火に灼かれると表現すべき熱さ。
喉も胃も焼けるようだった。
ブルーは自分の支給品の水と噛み砕いた食料で喉を濯ぐ。
ストレートのバカルディは子供の体で飲みすぎれば酔い潰れてしまいかねない。
やがて少しずつ、酔いが回っていく。
気持ちが大胆になっていく。
「おさらいだ、ブルー。Q−Beeについての仮説は覚えているな?」
恐らく二人で考察を交わすのも最後なのだろう。
殺害と違ってこの行為に抵抗は無い。だから、素直に言葉が出てきた。
「ええ。あの復活劇は逆にQ−Beeの重要性を証明したって話でしょう。
 次にすべき事は、Q−Beeを殺害した参加者を捜して情報を得ること」
「その通りだ。その参加者の居所についても考えてみたが、幾つか限定できる。
 まずあの映像において、Q−Beeの死体は抉れた地面に転がっていたが、
 あの地面にはアスファルトの破片が混じっていた」
流石、という感想が過ぎる。
つまりQ−Beeが殺されたのは、どこか道路が張り巡らされている場所だ。
「でもそれだけじゃ、殆ど島の全域よ? 何処を目指せばいいの?」
「砕けた地面について考えろ。
 あの地面は元々砕けていた可能性も有るが、強力な攻撃で、
 路面ごとQ−Beeの頭部から下を吹き飛ばした──そう考えても辻褄が合う」
「それがどういう……ああ、そういう事」
そういった攻撃は得てして轟音を伴う。
強力な爆弾を炸裂させたようなものだ。
ブルーの知識なら、マルマインの大爆発を一斉に炸裂させたようなものだろう。
「この近辺の奴じゃない。少なくともあの小坊主を殺した厄種の仕業じゃない。
 それから、確率の話だが森の中や平地といった“移動中の道路”である可能性は低い」
これもブルーは理解した。
むしろブルーの得意とする領域の話だ。
戦場が開けた場所であれば、立ち回りによって狭い道路から外に移動する可能性は高い。
森の中ならば特に、遮蔽物を利用した戦いに持ち込むのは必然と言っても良い。
Q−Beeが殺されたのは恐らく市街地。
北東か、南西か、南東の廃墟か。
「八度目の使いという所からして、時間的には遅い時間帯のはずだがな。
 夕方の六時時点でご褒美は四度だと言った。
 その時点で一人〜二人の殺害分が残っているとはいえ、半分よりは後だろう。
 九時以降というところか。
 夜遅く、轟音の響く戦いが起きた街で、誰かが、Q−Beeを殺した」

確信を持ったメロの言葉。
ブルーは何度も流石だと身につまされる。
情報収集力と相手の裏をかく力には自信が有ったブルーだが、
その二つはともかく情報分析力においてはメロが圧倒的に上回る。
メロとブルーはしばらく言葉を交わす。
情報を纏めていく。
330遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:36:28 ID:kOUQiWG5
ブルーが何を選択したのか。
それがどちらであったにせよ、メロにとっての問題にはなりえない。
何故ならブルーの選択の如何に関わらず、メロの意思は続くからだ。

ブルーがメロを殺せなかった場合の理由は言うまでも無い。
数時間後にブルーの中で膨れ上がる『メロへの慕情』が掻き消えたとしても、
その頃にはメロの広く浅い傷と消耗もマシになり、切り捨てられる理由はなくなる。
メロからブルーへの想いも醒めているだろう。
メロは再び優位に立つ。
何よりそれまでの間、彼女の愛を受けられるというのは好ましい。
今、この瞬間のメロは、ブルーを愛し、穢し、貪り尽くしたいとすら想っているのだから。
メロにとってこちらの結果が最良である事は語るまでも無かった。

だがしかし、それが叶わなかったとしても。
メロを殺せばブルーはその死に呪縛される。
例えしばらくして『膨れ上がるメロへの慕情』が掻き消えたとしても、
それまでにブルーは行動方針を確たる物にしているだろう。
ちょっとしたきっかけの一つが失われても既に歩き出しているはずだ。
死者への問いが解決する事は無い。
メロの意思は託される。
その成果を自分で確認できない事は悔しいが、ブルーが上手くやる確率はまあまあだろう。
既に武器を握り締めていたブルー相手にこれならば、上々と言っても良かった。

切った札は媚薬入りのバカルディ・ラム。

メロが口を付けた水と同じ、最初から封を開けられていた飲料。
メロはそれがそうであるという確証さえなかった。
ただ、ブルーが既に武器を握り締めていた以上ブルーの殺害はありえなかった。
ブルーに殺されない手段としても追い込む方が確率としては高かったし、
ブルーに託して現状の散々なメロより上手くやってくれる見込みはそれなりに有った。
メロは既に、ブルーに対して勝利していた。

メロとブルーの視線は絡み合い、そして。

     *  *  *
331創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:36:35 ID:U2pFQtKI
sienn
332遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:37:10 ID:kOUQiWG5
「私はもう、光の側へは戻らん」

感情を押し殺した吸血鬼エヴァンジェリンの言葉が、淡々と闇に響いた。
それはニケの死も、想いも、全てを踏み躙る言葉に思えた。
とても残酷な答えだと。
だから蒼星石は抗った。
「──それで、いいの?」
手も。
足も。
仮初めの仲間も。
生きうる見込みも。
全てを奪われたって、それでも。
「彼は、それじゃダメって言ったじゃないか」
ニケは怯まなかった。
身動きも取れず死にゆく身でさえ、己の意思を貫き通した。
蒼星石は思う。

勇気ある者とは彼のようなものを言うのだろう。

だから想う。
自分のためではなく彼のために、何かをしてやりたいと。
蒼星石は元より、自分の為に動くのは性に合わない。
善い事の為でも、悪い事の為でもなくて、誰かを進ませる為に何かを為したかった。
エヴァはそんな蒼星石を見下ろして。
蔑むように、哀れむように、嗤った。
「蒼星石。ククリの話にはまだ続きが有るのだろう?」
「………………」

見抜かれていた。
蒼星石は仕方なく、しかし構わない事だと受け入れて頷く。
ニケに隠し通せたのだから、隠し続ける理由はもう無い。
「彼に告げた通りだよ。
 ククリさんは何人もの仲間に守られて、北東の街の旅館に居た。
 温泉も有るところだった──だけど。
 僕が見た時、旅館は既に破壊されて、ククリさんは僕の姉妹に殺されていたんだ」
沈痛な結末にエヴァはやはりかと頷いた。
全てではなくとも、その死は予想の内に有ったのだろう。
「おまえの姉妹は人殺しで、おまえも人を殺す生き方に手を貸した。
 相方に裏切られてそうなっているのはおまえの正しさではない。
 ただの弱さだ。
 おまえが悪としても半端だったという、それだけの結果にすぎん」
辛辣な言葉に、蒼星石は頷く。
けれど食い下がった。
「そうだ。僕はもう、何にもならないものになってしまった。
 だからこんな話を僕がするのは幾らでも笑ってくれていい。
 全てが、自業自得なんだから。
 でも君はそうじゃない、エヴァンジェリン」
返るのはせせら笑いだけ。
それでも蒼星石には懸命に言葉を重ねることしかできない。
「ニケ君は君に、帰ってこいって言ったじゃないか。
 それなら君は帰ることができるはずだ。
 例え彼が死んでしまっても、彼は帰る道を示したんじゃないか」
333創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:37:12 ID:TlKjQXDM
 
334遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:37:58 ID:kOUQiWG5
買えたのは少しの疑問だけ。
エヴァは蒼星石に問いかけた。
「おまえは何のために殺し合いに乗ったのだ」
「優勝者に与えられる願い事でみんなを生き返らせて、全て無かった事にするために」
エヴァはそれが可能であるか不可能であるかを問おうとは思わなかった。
優勝の見込みも、ジェダがそこまでの願いを叶えるどうかも問おうとはしなかった。
「復活が存在する事は間違いない。僕は修復された体に呼び戻されてここに在る。
 他にも復活の魔法が存在する世界から連れて来られた人は居る」
「そうか。それで?」
ただ、問うた。
蒼星石は答えた。
「だけど、殺して、殺しあって、殺されて。
 嫉み、怨み、憎み、怒り、嘆いて。
 そんな想いを抱いたまま、全てを無かった事にする事なんてできないんだ。
 例え蘇ったとしても、その死が呼ぶ妄執は心の樹に絡みつく。
 どうしようもなくなった後で、ようやく気付いた。
 例えどんな理由で、何をして戦うにしたって。
 歪んだ想いを、歪んだまま果たしちゃいけなかったんだ」
「そうか」
エヴァはその言葉をただ、聴き。
そして、
「だが」
言った。
「正しさの結末が奴の死だ!!」
まるで全ての想いを吐き出すように。

「正義は、弱い」

煮え滾る言葉。
その怒りの言葉は何故か、敗北者の如き苦渋に満ちた声で紡がれていた。
「手を汚さず、足を泥に沈めずに何が出来る。
 汚れる事を怖れず襲ってくる相手にどう抗う!?
 抗えはしない! ならばっ」
いや、きっとそうなのだろう。
彼女は。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは。
「誰かが全ての罪を背負って往かねばならんのだっ」
死という終着に向けて歩いていたのだから。
沈黙が横たわる。
雨の音がただただ響き続けている。

「君は……まさか……」
エヴァの言葉を噛み締めると共に、蒼星石は理解しつつあった。
彼女が何に対して怒っていたのか。
ニケが言ったように、どんな理由であれ。
それが他の殺害者を減らしたり誰かを助けるためであれ、人を傷つければ怨み憎しみが生まれる。
傷つけられた者が苦しみ、被害者とその仲間が加害者を怨むだけに留まらず、
加害者も苦しみ、その仲間と加害者の絆さえも危うくなる。
それこそが負の連鎖だ。
断ち切れない悪夢の侵蝕だ。
「正しさを拠り所にすれば罪は皆に降り注ぐ。
 それを悪いとは思わんが、勝手な都合を押し付けるつもりも無い。
 ならば私は、悪を往こう」
335創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:38:46 ID:/HQcmm64
336遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:38:51 ID:kOUQiWG5
エヴァはニケに言われるまでもなく理解していた。
例えば高町なのはなどは、そうやって孤立した末に迷走したのだろう。
ヴィータを殺さずに止めた時は賞賛したが、やはりあれは、
(あの娘は罪を背負うべきではなかったのだ)
叶うならば、エヴァが行いたかった。
あの時のエヴァにはその余力が無くて、ヴィータを殺すことが出来なかった。
だからそれを殺さずにしてのけた高町なのはを賞賛すらした。
彼女は悪を背負えるのだと信じて。
もしもエヴァが行えていれば、高町なのはがあんな姿になる事はなかっただろう。
そう思うと、胸が痛んだ。

古手梨花の殺害から、エヴァは悪に生きて散る事を決めた。
これまで歩いてきた道を、命尽きるまで走り果てる事を選んだ。
光に住まう者達が愛しいから、護りたい。
もう、誰もこちら側──闇側に堕ちる必要など無い。
あらゆる罪は一切合切エヴァが背負い、悪の代表として正義の前に果てるのだ。
たった一人、誰も道連れにすること無く。
それがエヴァの胸に燈る最期の望みだ。

エヴァは哀切と共に床に横たわるニケの遺骸へと視線を下ろす。
(おまえが死んでどうするのだ、ニケ)
正義の味方は他にも居る。
あの工場に居た、リンクやインデックス達は皆そうだと思えた。
だけど叶うならば、この勇者に。
世界に存在する理不尽にツッコミを入れ茶々を入れ、悲劇を台無しにしてくれる、
この喜劇舞台の勇者に倒されるならば、どんな結末も笑って赦せそうな気が、少しだけしたのだ。
ほんの少しだけ、他よりも小さじ一杯程度には強く期待していたのだ。
万感を込めた視線は、一瞥だけで離れた。

「私は光を知らしめる影となる。おまえはそれを手伝え」
「僕が……?」
蒼星石は困惑と共にエヴァを見上げた。
「あれだけの事があり、あれだけの事を言って、何もしないとは言わせん。
 おまえには私を手伝ってもらう。
 別に罪を背負えとは言わん。私に付いてくる必要も無い。
 悪を映えさせる者として正義に味方してもかまわん。
 ただ私の在り方を手伝え。それすらしないというなら死ね」
あまりにも身勝手な言い分だった。
だけど蒼星石が何もすまいと、エヴァはそう生きて、死ぬのだ。
彼女に従うにせよ抗うにせよ、少なくとも放っておけるはずはなかった。
一つの、致命的な問題を除いては。
「今の僕に何が出来るっていうんだ」

彼女の両手足はニケの咄嗟の反撃と、グレーテルの悪意によって破壊されている。
両腕が有ればふわふわと浮かびながら金糸雀のバイオリンで戦えなくもない。
片腕と両足が有れば、機敏に駆け回り庭師の鋏で戦えなくもない。
しかし全てが破壊されれば、浮かび移動する事は出来てもその先が何も無い。
まだこの肉体を『自らが在るべき体』として認識し“生きて”いられる事さえ驚きなのだ。
破損部は残っているものの、繋げられるのは稀有な人形師だけで、完全に八方塞──。
337遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:39:37 ID:kOUQiWG5
「それは……?」
何時の間にか、エヴァの手には人形が抱かれていた。
いかにも口の悪そうなカクカクとした口の人形だ。
エヴァは人形を見下ろして、旧知の仲の様子で話し始めた。

「本当に倉庫に転がっていたか。久しぶりだな、チャチャゼロ」
「オウ。オレハ御主人ガブッ倒レテル時ニ会ッテルケドナ」
「神社の時か。やはりあの男の言っていた事は本当だったのだな」
「めろノ事カ? アイツハナカナカノ悪党ダッタゼ。ソーイエバドコイッタ?」
「私が殺した」
「エッ」
「なんだその驚き様は。いつもの事だろうが。」
「ダッテアイツ、御主人ガ気ニ入リソーナ気合ノ入ッタ悪党ダッタゼ。
 ソレニ御主人、最近ツマンネー程マルクナッチマッテタジャネーカ」
「………………」
「昔ノ筋金入リダッタ頃ノ御主人ミテーダゼ」
変わった。
いや、戻った。そうなのだろう。
エヴァは自分が少し前とは違い、ずっと前のようになっている事を自覚していた。
闇の底を這いずるように生きていた、あの頃のように。
「イヨイヨヤル気ニナッタッテーナラオレハ楽シインダケドヨ」
「なら口を挟むな、チャチャゼロ」
「御主人、ヤケニナッテネーカ?」
自棄。
そう、それも間違いなく今のエヴァを駆り立てる理由の一つなのだろう。
悪であろうという決意はあっても。
光に寄り添うことすらせず、闇として討たれようなど、少し前のエヴァならば考えなかった。
「ソコニ転ガッテル吸血痕付キノガキト関係」
「もういい、黙れ」
「オウ」
疑問の言葉は封殺された。チャチャゼロは黙った。
矢継ぎ早に命じた。
338創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:39:52 ID:TlKjQXDM
 
339遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:40:22 ID:kOUQiWG5
「それから、眠れ。おまえの中の魔術の回路は封鎖されているようだが、素材は生きている。
 おまえの体を部品に使って、仮の人形契約も結べば、私が送る魔力で動かせる物にできるだろう」
側に転がっていた蒼星石が、息を呑んだ。

「まさか君は、僕の修復の為に従者を壊すつもりなのか!?」
エヴァはチャチャゼロを見つめたまま、答えなかった。
沈黙は肯定だった。
治される身である蒼星石当人が、誰よりも驚愕した。
「その子は長年連れ添った君の従者なんだろう!? それを、そんな理由で……!」
「アァ。オレハ御主人ニ従ウゼ」
「な……っ!!」
別に大した事でもない。
チャチャゼロはそんな口ぶりで終わりを受け入れた。

エヴァは自らの従者に告げる。
「中枢部は使わないが、私は生きて帰るつもりが無い。永い眠りになるだろう」
「ソーカ。オワカレダナ、御主人」
起こす者は居なくなるだろう、と。
チャチャゼロを宿した人形の中枢は、誰にも省みられる事無く徐々に朽ちて逝くだろう。
何十、何百年という時間の果てに。
チャチャゼロは茶化すように、言った。
「マ、ドーセ御主人ガ学園ニ囚ワレテカラハ別荘デ暇シテタンダ」
「うっ」
エヴァは思わず言葉に詰まる。
エヴァが学園結界に囚われ、チャチャゼロを動かす魔力が無い頃、
チャチャゼロが動ける唯一の場所でも有る“別荘”の管理を任せていた。
ただでさえ退屈で冗長な学園生活に鬱屈したエヴァが使わなくなっていた、
外の一時間で中の一日が過ぎ去る異空間の別荘だ。
「ナニ気ニシテンダ、御主人」
チャチャゼロの表情はいつも通り、カクカクと喜劇めいた人形の顔。
そこに苦しみや辛さは見受けられなかった。
人形であるチャチャゼロの時間感覚は人間のそれとは違う。
「オ人好シニ悪党ハデキネーゼ?」
「判っている。だが」
「ダガ?」
それでもエヴァは言わずに居られなかった。
エヴァの都合で使えなくなり一時期遠くに置いても、代わりを作っても。
それでも最後の最期まで忠実であった、この従者に、ただ一言。
「すまなかった」
詫びを送りたかった。
チャチャゼロが、ケタケタと笑った。

「ジャーナ。ドーセナラ派手ニ散レヨ、御主人」
「フ……フフ……分かっている、私を誰だと思っている?」
「最強ノ悪ノ魔法使イ、えヴぁんじぇりん様ダロ? オレノ自慢ノ御主人ダ」
「ああ、そうさ。そうだとも。じゃあな。……眠れ、チャチャゼロ」

短い会話の末に、チャチャゼロは眠りに就いた。
きっと、目覚めることの無い眠りに。
340創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:40:26 ID:/HQcmm64
341遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:41:04 ID:kOUQiWG5
その左腕から抜き出された素材は蒼星石の左腕を繋ぐ為に使われた。
その右腕から抜き出された素材は蒼星石の右腕を縫う為に使われた。
その左足から抜き出された素材は蒼星石の左足を直す為に使われた。
その右足から抜き出された素材は蒼星石の右足を継ぐ為に使われた。

エヴァは蒼星石と契約を結ぶ。
人形契約。
人形を人形の従者に変える為の契約を。
意思無き者に意思を与える物でもあるが、既に意思が入っている相手にその効果は無い。
これは単に、蒼星石の新たな手足を動かすためだけの物だ。
新たな手足を魔力で繋げ、動かす為だけの物だ。
魔力を篭められた手足は蒼星石と接合され、蒼星石の意思で動き出す。

そしてエヴァは繰り返し告げた。
「もう一度、言っておく。おまえが手伝うのは私の往き方だ」
私が悪で在る事だけを手伝ってくれればそれでいい。
それだけがこの手足の条件だとエヴァは告げた。

悪として生き、立ちはだかる全てを薙ぎ払うエヴァの生き方を、蒼星石に真似できるとは思えない。
彼女は結局、心の芯から善良な選択をしたのだから。
何よりもして欲しくなかった。
エヴァは誰も道連れにする事無く、ただ一人闇に沈み果てるつもりだった。

だが悪を手伝うだけなら出来るだろう。
それを打ち倒す為、正義を助けても良いのだ。
というよりも、むしろ。
エヴァは、蒼星石が何をどう選ぼうと構わなかったのだ。

だってエヴァのほんとうの願いは、ニケの想いを汲んだ蒼星石が生き延びることなのだから。

ただそれだけの想いを篭めて、エヴァは蒼星石を救った。



【D−3/森/2日目/黎明】
【メロ@DEATH NOTE】
[状態]:全身に無数の負傷。左手の小指と薬指欠損。右手親指亜脱臼後の痛みによる握力低下。
    左肩に刺傷(殆ど感覚がないが無茶をすれば何とか動く程度)(以上は全て応急処置済)
    左肩、左脇腹、右膝に切り傷。負傷+冷気+雨による体温低下。
    弱い催淫効果の影響で、ブルーのことが理屈抜きで気になっている。
[装備]:賢者のローブ@ドラクエX(上半身裸)
[道具]:なし
[思考]:どちらにせよおまえは俺のものだ、ブルー。
第一行動方針:ブルーの選択を待つ。
第二行動方針:『ご褒美』で情報を得たい。QBを殺した奴が誰か知りたい。
第三行動方針:どうでもいいが板チョコが食べたい。どこかで手に入れたい。
基本行動方針:ニアよりも先にジェダを倒す。あるいはジェダを出し抜く。
[備考]:ブルーが絡むことについて、理屈でなく衝動で行動してしまう恐れがあります。本人も自覚しています。
 ブルーを通して、「ブルーが聞いた光子朗の考察」の一部を知りました。
342創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:41:17 ID:U2pFQtKI
支援
343遺。(後編) ◇T4jDXqBeas:2009/11/20(金) 02:41:46 ID:kOUQiWG5
【ブルー@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:全身に骨折、打撲、擦過傷等多数(以上応急処置済み)、精神疲労(中)、激しく動揺
    メロに惚れつつある。マフラー状態の風の剣を握っている。びしょ濡れ。
[服装]:新体操で使うレオタードに、ジャージの上だけを羽織った格好
[装備]:風の剣(マフラー状態)@魔法陣グルグル、シルフスコープ@ポケットモンスターSPECIAL
[道具]:支給品一式×3(食料、水分少し減)、
   ターボエンジン付きスケボー@名探偵コナン(やや不調)
     年齢詐称薬(赤×3、青×3)、G・Iカード(『聖水』)@H×H、チョークぎっしりの薬箱、
     Lのお面@DEATH NOTE、マジックバタフライ@MOTHER2、
    シャインセイバー(サモナイト石・無)@サモンナイト3、モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
[思考]:殺せって、そんな……
第一行動方針:メロを殺す? 殺さない?
第二行動方針:イヴと合流できてまだ利用価値があるようなら、上手く利用する
第三行動方針:第五行動方針:グリーン、イエローのことが(上の行動方針に矛盾しない程度に)心配
[備考]:
 イヴの心変わりに気付いていません。イヴがGIのカードを使って脱出した可能性に思い至りました。
 頑張って光子朗の考察内容を思い出しました。どの程度思い出したのかは未定。
 メロの考察を知りました。メロが自分に「惚れかけて」いることに勘付いています。
 ターボエンジン付きスケボーは、どこか壊れたのか、たまに調子が悪くなることがあります。


【D−4/体育館内/2日目/黎明】
【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル@魔法先生ネギま! 】
[状態]:全身に痛み、左腕が殆ど動かない、魔力消費(大)
[装備]:フェアリィリング@テイルズオブシンフォニア
[道具]:支給品一式、手足の無いチャチャゼロ(半永眠)@魔法先生ネギま!
[思考]:…………次は、どうするか。
第一行動方針:休憩するか、それともすぐに動くか。
第二行動方針:リリスと遭遇することがあったら、リリスを倒し身柄を押さえ、情報を得る。
第三行動方針:ジェダの居場所に至る道を突き止め、露払いをする。
第四行動方針:ジェダを倒そうと挑む者たちの前に立ち塞がり、討たれる。
基本行動方針:ジェダ打倒のために暗躍。ただし仲間は作らない。誇り高き悪として、正義の前に散る。
[備考]
梨花の血を大量に吸いました。雛見沢症候群、及び女王感染者との関連は不明です。
ジェダ打倒を目指している者として、ニアの名前をグリーンから聞いています。
パタリロを魔族だと思っています。名前は知りません
紫穂の『能力』が、触れることで発動することを見抜きました。詳細までは把握していません。
雲に隠れていても満月による補正は有るようです。

【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:金糸雀のローザミスティカ継承、雨で服が湿っている。
    殺人には激しい抵抗有り、チャチャゼロの部品と人形契約により四肢を維持
[装備]:庭師の鋏@ローゼンメイデン、金糸雀のバイオリンと弓@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品×2、ジッポ、板チョコ@DEATH NOTE、 戦輪×4@忍たま乱太郎
     素昆布@銀魂、旅行用救急セット(消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
     トンネル南側入り口の鍵
[思考]:僕は……
第一行動方針:エヴァに付いて行き手伝うか、あるいは。
基本行動方針:優勝のお願いで全てを無かった事にしたかった。
[備考]:現在蒼星石の四肢はエヴァとの人形契約により動いています。
    蒼星石の自由に動き、エヴァにとっての負担もほぼ有りませんが、
    昼間のエヴァの魔力の減衰や、死亡によって影響を受ける可能性は有ります。
344創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:42:30 ID:kOUQiWG5
代理投下終了
345創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:43:34 ID:TlKjQXDM
>>344
お手数掛けました。ありがとうございます。
346創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:46:13 ID:U2pFQtKI
投下乙!
うわああああニケェェェ!!
ここでニケが死ぬとは、まぁマーダーに囲まれてた生活だし
いつかはと思っていたが。
だが、ヒーローとしての生きざまを貫いたから良かったのかなあ
マーダー同盟早くも崩壊。偽悪コンビ結成か。
そして、メロとブルー。
こいつらの動きも気になるぜ
347創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 02:50:36 ID:kOUQiWG5
とうとう3勇者に欠員が…
原作ではあまりないシリアスなニケなのに、最後までらしいと思えた
で、生き残った奴らの動向も気になるな
エヴァはこのまま悪を貫くのか
ブルーはメロを殺すのか生かすのか
そしてグレーテルはどこに行くのか…
348創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 03:02:35 ID:TlKjQXDM
二ケ(とチャチャゼロ)が退場ですね……
最期までニケらしく勇者らしく頑張っただけに、余計に衝撃でかいです
揺れてるブルーや蒼星石がどうするのか気になります
それにしてもグレーテルはほんとに楽しそうだ……
349創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 17:51:14 ID:VX5i0+ie
投下乙!
三勇者合流叶わず……!
だけどニケの最後の言葉は蒼星石に届いたようで、これからどうなるやら。
エヴァも救われてほしいな。

ブルーもどうなるかな。
周りの対主催は全員こいつ警戒してるしw
350創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:40:15 ID:Mp5KIxtr
つっても対主催ってあんまり頼りになる奴残ってないよな
351創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:42:34 ID:c6qKem4N
貴重なショタが
352創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 18:43:28 ID:bWIwgYq0
グレーテル、レミリア、千秋、リリス
 
というかマーダー勢が装備充実してたりして強すぎるw
353創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:35:41 ID:yXzPqOBI
投下乙…ニケが逝ったか

うっわあああ、なにこの無常感…読み終えた後のこのなんともいえない感じは凄いな。
ニケは死んだけど確実に何かを残して逝ったって感じだ。
GJ、これはいい作品だ。
354創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:42:44 ID:zjLNamns
ニケ・・・
これでグルグル勢も全滅か。
終盤ぽくなってきたな。
355創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:49:02 ID:Mp5KIxtr
まだトマが残ってるだろw
でも貴重な鬱ブレイカーがここでリタイアして個人的にかなり堪えた・・・
後は頑張ってくれ、エヴァ、蒼星石。
356創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:55:36 ID:vSboi+MQ
言われるまで素でトマのこと忘れてたwwwww
357創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 19:58:15 ID:bWIwgYq0
投下乙!!
 
 
号泣したw
今からグルグル全巻買って来るぜ
 
蒼星石は一時はどうなることかと思ったが、なんとか立ち直れたみたいでよかった…
既に逝ってしまった姉妹達のためにも頑張ってほしいな
ニケの死を無駄にしないためにも
 
 
てか感想がこんなにw
まだ人がたくさんいることが分かって良かった
このロワはまだまだやっていけるな
 
358創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 21:37:54 ID:VX5i0+ie
まずい……
読み返してたら展開が変わりかねない問題に気付いた……

ニケが自分の剣だしたら抵抗出来たんじゃね…?

痛みやらで忘れてたで行けるだろうか。
359創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 22:17:03 ID:BE+0i4fO
作者さん?
確かに言われればグレーテルにあれだけ啖呵切ってたから意地でも抵抗はしそう。
360創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 22:25:52 ID:VX5i0+ie
いや、普通に読み手。
今回の話通したいのに変な事に気付いちゃった的な意味で。
361創る名無しに見る名無し:2009/11/20(金) 23:30:47 ID:bWIwgYq0
抵抗したらメロとブルーが…とか思ってたとか?
362創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 00:04:11 ID:aYblQP7P
忘れてたとか剣出すのに集中出来なかったとかの脳内補完でいいんじゃないの
少なくとも修正必須な程とは思わない
どっちでも作者さん次第で
363創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 02:37:04 ID:dQl5Embh
昨日言えなかったけど投下GJ。あー、面白かったなぁ……。
ニケが最後の力でカッコイイポーズやっているとことか最高だった。
生死に関わらず先の展開に深みが増すやり取りだなと思いつつハラハラしながら読んでました。
チャチャゼロの役回りも良かったなー。メロが相棒だったと説明しているとこと
エヴァとの別れのところに何ともいえない物悲しさを感じた。
やっぱりニケは勇者だったな。こいつの明るさがあるかぎり対主催いけるんじゃねという根拠のない
安心感を持っていただけにショックが大きいや。
キルアとか雛苺とか最近(といっても数ヶ月前か)の死亡話はホント読んでて面白いな。

ニケは前の話で魔力消耗も激しい上に怪我もしているんだから、
自分の剣すら出せないほどに疲弊していたのでいいのでは。

364創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 09:34:25 ID:sFUjnd25
これで残り30人か…
そして残るショタはたった7人…
365創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 12:32:43 ID:Es8YmZE3
なんだろう
このスレが終わりなのは見えてるのに期待してします
ロワで絶望していても何故か諦めない参加者みたいに諦めたくないみたいな気分がする
366創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 12:37:01 ID:IHLyuNBW
まあ次の投下は一年後ぐらいか
367創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 13:16:37 ID:YzBJFC9J
はいはい、ネガ発言はやめておこうねー。

放送後に全員動いたということでマップ更新だよー!

ttp://www25.atwiki.jp/loli-syota-rowa?cmd=upload&act=open&pageid=8&file=romap+263.gif

動くはマーダーばかり、対主催は待機ばかりで拠点を攻められてばかりの対主催。
本当に大丈夫かー!?

トップレベルの能力者のキルアやロワの清涼剤エロ勇者が死に、
ショタ不足が深刻化してきました。
このままでは
「ロリショタロワ終了のお知らせ。次回からはロリバトルロワイヤルが始まります」
なんてことになりかねません。

書き手の皆様方、ショタに愛の手をー!
368創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 14:48:58 ID:sbYJxIVj
ニケは最後までニケだったなー
エヴァじゃないけどこいつになら倒されてもいいって思えるすごいやつだった。
勇者ってほんとああいう奴のことをいうのかもしれん。
エヴァはほんとせつねえことになってるな。
青い子との偽悪コンビがどうなるかも期待
そしてチャチャゼロ。
俺はあんたのことも好きだったぜ。
メロがどこまでもニアに勝つことを求めてるのがよかった。
しかし惚れ薬系が最初から後半まで猛威ふるってるな、このロワw
369創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 16:17:28 ID:sFUjnd25
ロリは51人中23人生き残ってる
生存率は約45%
 
ショタは35人中7人生き残ってる
生存率は20%
 
 
ショタ頑張れw
370創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 17:01:19 ID:+9lTQEi1
何気に死亡数は同じなんだなww
371創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 19:52:48 ID:YzBJFC9J
野郎と女が同時にいると皆野郎のほうを殺そうとするからな……
372創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 20:43:17 ID:NP5BkT5h
書き手っておっかねぇなぁ
373創る名無しに見る名無し:2009/11/21(土) 21:44:31 ID:7r2lK495
言ってしまえば人殺しの話を書いてるわけだからな。

まあ、読んで色々いう俺らも十分おっかないが。
374創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 10:01:12 ID:IXOTJcm6
てかスクロワどれロワみたいに男女均等な所ですら野郎は割喰ってるのに
LSは元より頭数の少ないショタが優先的に退場させられてるから尚更
375創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 10:13:00 ID:cS+2Wexg
別に優先的に殺してるわけではないと思うけどな
死亡数は同じなんだし
てかもうこの話やめよう
何か不穏な感じになってきた
376創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 13:30:23 ID:GA/15N/4
男女比率が悪いのに同じ数殺されてるってことは優先的に殺されてるってことになると思うが……
377創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 14:44:52 ID:OmKlAsH5
だったらロリが死ぬ話をガンガン書けばいいと思うよ
文句言ってる奴は当然率先して書いてくれるんだよな?
378創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 15:22:39 ID:nJsAK0I2
性別だけで語るのはナンセンスだろ。悪平等は勘弁
379創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 15:51:11 ID:z7xuB4+N
あんまり煽るなー。
書く人はあまり差別なく書いたほうがいいよ。
380創る名無しに見る名無し:2009/11/22(日) 19:07:46 ID:cS+2Wexg
何だ荒らしたいだけか
構って損した
381創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 19:29:48 ID:H3dpFDRx
???「ククク……いずれこのロワをロリで埋め尽くしてくれるわ!」
382創る名無しに見る名無し:2009/11/24(火) 20:54:19 ID:DH72vOUc
ロリショタ2にご期待ください
383創る名無しに見る名無し:2009/11/25(水) 18:28:11 ID:H7Ar4adP
まあ、もしホントにこのロワが完結して2やる時は、最初の男女比率
同じくらいにして欲しいかな。
384創る名無しに見る名無し:2009/11/25(水) 19:36:29 ID:pV40b0TW
そもそも完結させないと2が始まらないんだよな。
完結させずに2を始めても前のが終わってないのに云々となるし。
385創る名無しに見る名無し:2009/11/25(水) 20:01:30 ID:3o+obT3A
リスタートみたいな形もあるっちゃあるけどな
386創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:01:47 ID:8lwszMhJ
2をやるのは難しいと思う…
このロワですら完結できるかどうかも怪しいし
 
でも実際、今一番楽しみなのはこのロワなんだけどねw
このロワはこんな所で終わっていいわけがない
387創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 00:35:18 ID:hbL2lrui
リスタートだけはないな
388創る名無しに見る名無し:2009/11/26(木) 23:01:07 ID:U568qpv+
実際ものすごくクオリティが高いから参加しようと思っても
把握とここまでのフラグ整理が壮絶なことになってて諦めたことがある
389創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 18:23:16 ID:drJAc1oP
捕手
390創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 18:35:00 ID:kcNQEo9h
>>388

>実際ものすごくクオリティが高いから

同感。
せっかくここまで来たのなら最後まで行って欲しい。
リスタートとかで無かったことになるのは忍びない。
391創る名無しに見る名無し:2009/11/29(日) 18:53:44 ID:iEjDNg1r
残ってる作品自体は把握率高いんだが、ここまで積み重ねたフラグがねぇ
392創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 12:13:26 ID:9uH13l9D
問題はそこか
393創る名無しに見る名無し:2009/11/30(月) 12:41:21 ID:evyx647k
クオリティは求めないからひとまず進めてほしい。
394創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 21:20:28 ID:swu8CGsU
みんなスマン
ニケのストリーを追ってたら「屏風の虎」から「遺」へリンクが張ってなかったんだ
それで、リンクを張って…パス打ち込んでたしかめてみたら
「SSが半分以上消滅していた」
…なんでやねん
みんな、ごめん。誰か「屏風の虎」の内容拾ってこれる人いる?
俺には無理だorz
395創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 21:27:36 ID:3Q4kDVri
編集履歴見れば?
396創る名無しに見る名無し:2009/12/01(火) 21:42:09 ID:xchNqmdi
一応直しといたよ
397創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 12:55:11 ID:INP/6mgd
普段編集協力してるWIKIは別のメーカーのやつでさ、編集履歴とかの使い方がわからなかったんだわ
直してくれてありがとう!
398創る名無しに見る名無し:2009/12/02(水) 17:45:46 ID:LhAb1uUE
そういえばフラグもそうだが、未調査の施設も気になるところ。
湖底都市とか南や北西の塔なんか詳しく調べられてないし。
399創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 12:39:35 ID:EWHphWXg
ほしゅしちゃうぞ
400創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 05:38:46 ID:IyDWy+uo
予約来てる!
401創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 10:17:24 ID:NUUantjg
マジだ!
402創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 17:22:49 ID:uHMhBOPq
MA☆JI☆DE!?
403創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 18:34:14 ID:aWgmyguv
わーい
404創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:39:52 ID:6EGTz+w9
うれしいなぁ……
ぽつぽつとでも人が戻ってきた気がするよ……
405 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:39:44 ID:6kJOWeKw
投下開始します。
406ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:41:02 ID:6kJOWeKw
暗鬱だった。
陰鬱で、憂鬱で、沈鬱だった。
鬱々とした沈黙が部屋に満ちていた。

レベッカ宮本は何も言わない。
トマに話すべき事は話し終えたし、濡れた体もシャワー浴びさせてまあそれなり対処した。
後は時間をかけてでも、受け止めれば良い。
シェルターの通話装置に通話記録が有った事と、その内容について。
白との会話で気付いた事だけは隠して、それ以外は隠しもせずに。
ククリの死は、隠してもどうせ朝の放送で告げられるのだ。
冥王の悪辣な宣告で知るよりも、今知っておいた方がマシだったろう。

それだけを話してレベッカは静かに待った。
自らも考えに耽り考察を立てながら、トマが起き上がるのを待つ。
仲間の死、親しい人の欠落による衝撃を受け止めるのを待つ。
目を合わせないよう、気を使わせないように適当な作業をしながら待つ。

茶化すように言葉を交わして、行動に次ぐ行動で前に進んでもよかった。
でも失われた人達に黙祷を捧げる時間くらい有っても良いと思ったのだ。

「ベッキーさん」
思ったよりは短く、トマからの言葉が返った。
レベッカは振り返り、トマと顔を合わせて。
お互いがふうと息を吐いて。
確認した。
「トマ。私達の目的はなんだ?」
「ジェダをやりこめてみんなでこの島から脱出する事です」
「満点だ」

トマがどれだけククリの死に苦しんだかは見れば判るほどに明白だった。
声も無く泣いていたのだろう、瞳は拭き残した涙に濡れていた。
手は強張り、声は僅かに嗄れていた。
きっとジュジュの時もこうだったのだ。
それでもその答えが迷わず返ってきた事を、レベッカは良しと思えた。

「ありがとうございます、ベッキーさん」
「気にすんな」
そうやって、会話は再開された。

トマはそっと、部屋の隅にあるジュジュの死体に目を向けた。
シェルター内に移動されていた、首輪を剥ぎ取るべき、大切な仲間の遺体。
だけどそれよりも先に情報を整理する事を選んだ。

「まず気になる話はトリエラさんと、ヴィクトリアって名乗る人との会話です」
やはりかとレベッカは思う。
その会話の中で、ククリは金糸雀に殺されたという証言が出てくるのだ。
気にならないはずが無かった。
「ククリさんは、ここから北の街で死んだんですね」
「ああ。トリエラもそこに居る」
北東市街レベッカ宮本宅。
そこにはククリを保護していたらしきトリエラが居て、
話相手のヴィクトリアが居る『インデックス』もその近くの何処かだと予想される。
破壊された警察署と旅館。
こんな物が有りそうなのは市街地くらいだ。
片方が南西に居たと考えるにはお互いの情報が共有されすぎている。
「どうする、トマ。雨が止んだら朝までに向かうか?
 なんで私の家が持ってこられてるのかはすっごく気になるけど、家の見分けは付くぞ。多分」
市街地の立ち並ぶ建物から僅かな情報から目的の家屋を見つけ出すには相当な苦労が伴う。
例えその面積が1平方km足らずだろうと尋常な労力ではない。
だが家の形を熟知している者なら、高台から探せば見つからなくもない広さだろう。
407創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:41:31 ID:Hf38LOvI
うおっリアルタイム投下
支援
408ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:42:03 ID:6kJOWeKw

トマは首を振った。
「いえ、ベッキーさんが動くのは厳しいでしょう」
「うぐ。ま、まあな」
レベッカ宮本は成り立ての吸血鬼である。
流れ水を渡れず、日の光に灼け死ぬ存在である。
今、彼女の移動範囲は極端に制限されていた。

「いちおー、宇宙服着れば出ていけるんじゃないかなあとは思うんだけどさ。
 重いし動きにくい襲われて破かれたらヤバイから、動きたくないのはほんとだよ」
「判ってます。無理はしないでください」
「それに実際、ここは私に向いた場所だからなー。禁止エリアに指定される危険も殆ど無いし」
「2エリアに跨っていますからね」
「それだけじゃないぞ。1時に発動するG−4の禁止エリアが決定的だ」
それは分からなくて、トマは聞き返した。
「え? どういう事ですか?」
「動線だよ」
レベッカは地図を広げた。
今彼女たちが居るシェルターはG−5とH−5に跨って存在している。
その横に無地の紙を並べて置き、幾つかのマス目を書き込んだ。

 F G H
4□■□
5□○○
6□□□

レベッカ先生からの出題です。
「黒い四角が禁止エリア、○がシェルターだ。
 だがこの表記の仕方だと見落としが有る。判るか?」

トマはうーんと頭を捻り、しばらく地図と無地の紙を見比べた。
正確な表記には思える。
随分簡略化されているが、禁止エリアとエリア配置だけを見るなら間違ってはいない。
雑な表記だがシェルターも書き込まれている。
シェルター。
ランドマーク。
実際にそこにあるもの。

地形。

気づいた。
「あ、もしかしてこういう事ですか?」
マス目の上に重ねて線を引く。

 F G H
4┤■┤
5┼┼┤
6│└┤


「正解だ。
 この辺は禁止エリアだけじゃなく水場が移動を阻害しているからな。
 G−5を禁止エリアに指定したら島の東端への移動が阻害されるし、
 H−5を禁止エリアに指定したら北東部が孤立しちまう。
 そしてジェダには、参加者をある程度は活発に移動させたい理由がある」
「殺し合いも何も、出会わなければ始まらないですよね」
「ああ。5時に発動するE−2の禁止エリアも有るから不安は有るけどな。
 ジェダはしばらくの間、この辺りに禁止エリアを増やしたくないはずだ」
409ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:43:08 ID:6kJOWeKw
5時に発動するE−2の禁止エリアは島中央部から島北部への動線を断ち切っている。
禁止エリアの中で移動を阻害しているのは今のところここだけだ。
とはいえ完全に断っているわけではない。
森の奥を抜ければ移動できなくもない。
しかし元より島の北部に施設は少なく、妙なオブジェを除けば北東部の市街地だけだ。
単に隠れるのでなければ、向かう理由は減っている。

「1時と5時の禁止エリアの意図を合わせて勘ぐるなら、北東市街地への交通の阻害か。
 完璧には閉じずに圧力を掛けて、しばらく出入を制限したいんだろ。
 なんでそんな事をしたいのかはわかんないけどな。
 人の分布具合が不味いのか、それとも別の理由か。
 一時的な物で、次の放送の禁止エリアは北東に来るかもしれない。
 だからまあ、家は気になるけどほんと言うと近づきたくない。
 けど良いのか、トマ?」
「はい。もし行くならぼく一人で行きます」
「なら待ってた方が確率高いぞ。市街地の奴らが移動するとしたらここに来る可能性は高い」
「ええ。でもどちらも気になってますから、片方は調べに行きたいんです」
「もう一方は、あの記録の事か」
トマは頷いた。
通話記録に残されていた通話元も宛先も判らない二つのデータ。

「実を言うとあの片方、心当たりが有りまして」
「あー……あの、ずっこけた方か」
「はい、ずっこけた方です」
ひどい言いようである。
「ギップルさんというテントにもなる便利な方なんですけど、
 臭い台詞を吐かれるとどこからでもツッコミを入れに来る習性がありまして。
 多分それで偶然収録されたんだと思います」
「この場面じゃ役に立ちそうに無いけどな」
「そうですね」

そう言いつつも、二人は紙にペンを走らせ始める。
この辺りは“まだ大丈夫なはずの”会話だ。
だが念を入れるに越した事はない。
レベッカとトマは首輪関連の話題について、首輪の『覗き穴』を閉じた上で筆談する事にしている。
筆談は大変時間が掛かるので、聞かれては不味い事だけだが。

『でもギップルさんの声が、念話にせよなんにせよ残っていたという事は』
『もう一方も私たちが知らない参加者の知り合いか何か、恐らくジェダの自作ではないって事か』
『はい』
ここまでを素直に考えれば、あの少女の言葉は脱出の有力な手がかりになるのかもしれない。
しれないが、だが。
レベッカはある事に気がついた。
『トマ、確認するぞ。ギップルの念話は明らかにたまたま収録された物だ。そうだな?』
『はい、そうだと思います。あの内容ですから、まず間違いなく』
『するとつまり、ここの装置には念話を録音する機能まであるわけだ』
『そういう事になりますね』
そうでなければおかしい。
おかしいが、なら。

『トマ。放送がそれこそ念話みたいな物だったのには気づいてるか?』
『あ、そういえばそうですね。考えてみたら音って感じじゃありませんでしたし』
『私はさっき気づいたよ。この記録を調べててな。
 おまえとアオイとの通話記録に放送が入ってなかったんだ』
『そうなんですか』
トマは見事な着眼点だと感心したように頷いてから。
レベッカがいやいや〜と照れてるのを脇目に。
数秒の間を置いて。

あれ、と呟いた。
410創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:43:33 ID:Hf38LOvI
支援
411ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:44:25 ID:6kJOWeKw

『それ、何かおかしくありませんか?』
『そう、おかしいんだ。
 ここの録音機能にあの念話が記録されてるのはおかしい』

トマはぞくりとした寒気を感じて、録音記録を振り返った。
何か得体の知れない謎がそこに有る。
『私は最初、あの音質に差が有る二つの声を聞いてこう考えた。
 妨害が無い時期にギップルの声が混じり、通信妨害が強化された後に少女の物が入った。
 つまりここの記録装置は念話も記録することができる。
 この二つだけならこれでいい。
 けど聞こえなかった放送まで含めるとおかしい。
 あるいは聞こえなかった放送とあの少女の声だけなら説明は付いたんだ。
 けど放送が記録されず、少女とギップルの声が記録されているのはどう考えてもおかしい』
『どういうことですか、それ』
『女の子の声にははっきりした意思が有った。
 それなら意図的に吹き込んで特別に記録させることができたのかもしれない。
 じゃあ偶然入ったはずのギップルの念話まで同じ形式で入っていたのに、
 放送が記録されなかった理由はなんだ』
トマは考えを巡らせる。
道具に絡む話に限定すればトマの知性はこの島の誰にも引けをとらない。
幾つかの仮説が浮かんだ。
『内部から内部への声は記録できないとか』
『念話に限って外部からの通信だけ記録するのを会場内に置く理由って思いつくか?』
『念波妨害で放送が消えたとか』
『私たちに聞こえていた以上、念波みたいなのは正常に届いてるはずだ』
『この装置までは届かないけど放送の念波はそれぞれの首輪から出ているとか』
『放送の原理はそうかもしれないけど、そもそも会場内に念波妨害はありえない』
レベッカはとんとんと首輪を叩いて見せる。
以前の首輪考察を思い出せ、と。

『私が、電波じゃ水とかに遮られて困るだろうと推測したのをおぼえてるか?』
レベッカは中の人発覚以前から、首輪の機能全てが機械で行われてはいないと推測していた。
電波が様々な障害物に遮られるなど不都合があるからだ。
『会場内に通信が届かない場所なんて有ったらいけないんだ。
 少なくとも会場内の念波は妨害できない。
 もちろん中と外を隔てる通信妨害は有るんだろうけど、会場内にそんな装置は置いておけない』

加えてレベッカは思う。
内部に念波妨害を行われていれば、手詰まりだと。
この会場内の念話を妨害されているとすれば、レベッカの立てた予定、
《念話による首輪解除法》は使えなくなってしまう。
先に妨害装置を壊してしまえば良いと思うかもしれないが、
恐らくジェダの本拠地に有るだろうそんな設備が禁止エリア指定されていない可能性は低い。
首輪を解除しなければジェダ側の設備に攻め込む事は難しいが、
ジェダ側の設備を破壊しなければ首輪を解除出来ないとなれば、打つ手が無くなる。
(頼むからそれだけは無しにしてくれよう)
ちょっと弱気になりながらも、自説の確かさを信じて考察を続ける。

さてとレベッカは問いかける。

レベッカ先生からの第二問。
『それで、念話とかそういうの自体は機能してるとすればどうなる?』
 
412ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:45:20 ID:6kJOWeKw

トマは頭を巡らせる。

中と外の念話が妨害されている可能性は十分有るだろう。
会場の外側には念波妨害装置の様な物が有るのかもしれない。あるいは単に特殊な壁か。
まあそこまで出て行けたなら逃げの一手だろう、それほど関係深い物ではない。

しかし内部から内部の念話が妨害されている可能性は低い。
よって放送も妨害などはされていないはずである。
にも関わらずここの装置に放送は記録されていなかった。
ここの装置には念話を録音する機能など無い。
ならば女の子の声だけならまだしもギップルの声はどこから入った?

やがて一つの答えが出た。
それが意味する事までは理解できないまま、トマは呟いた。
『あの声は、ここの設備で記録されたものじゃない?』
頷きが返った。

何処か別の設備で録音されたデータがここの設備に置かれていた。
あまりにも迂遠ではあるが、そう考えるのが適切に思えた。
二人はそれが何を意味しているのか考える。
ここの設備で記録できないデータが何故ここにある?

『一つ。すっごく好意的に考える。
 外から私たちを助けようとしてくれている誰かが物理的に直接データを送りこんだ。
 ギップルのデータは何かのおまけだ。
 手紙とかじゃないのはジェダの目に付かないところに隠すため。
 よりによって肝心の部分にノイズが入った原因は不明』
『ちょっとキビシイですね』

『二つ目。かなり好意的に考える。
 なんかの手違いでジェダの手元で管理するはずの外部傍聴記録がこっちに流出した。
 念話の録音装置は数が少なくてここにまでは置いていない。
 あと、私はそれが外部にだけ向いてる事を祈る。念話も記録されるんじゃキツイ。
 QBはものすごくバカみたいだからな、もしかしてありえるかもしれない。
 この場合はジェダによる検閲済みな可能性が高い上に、
 通信はシャットアウトされてるわけだから外部と連絡できる見込みは薄いけど、
 外から救助しようとしてくれてる奴が居るってのは救いだ』
『でもこちらからは何もできませんね』
『祈れ』

『三つ目。悪意があるとして考える。
 外部傍聴記録には違いないけど、なんらかの理由で意図的にジェダが仕込んだ。
 この場合は音質が悪かった部分も簡単に説明が付く。嘘とばれない為だ。
 ノイズで欠落させた部分に“この島じゃ有り得ない条件”が含まれてたんだろう。
 ギップルの声は安心感を増すためかな。
 放送が録音されない事に気づけなかったらすっかり信じてたし。
 一番有り得る気がしてきたけど、そうだとしたら意図が分からない』
『不気味ですね。なんていうか、あまり考えたくありません』

『四つ目。もうすっごく好意的に考える。
 二つ目の派生でギップルの物だけは外部傍聴記録がこっちに混ざった物。
 あるいは単なる偶然で、明確な意思を持ってしてもあそこまで音質が劣化する
 内外を隔てる壁を音質クリアなまま打ち破った挙句なんでか念話記録機能が無い媒体に記録成功。
 女の子の声はそれとは全く別枠でジェダにも気づかれてない例外だ』
「………………」
思わず沈黙。
413創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:45:40 ID:G0UsVFZb
 
414ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:46:44 ID:6kJOWeKw
それから顔を付き合わせて深い溜息を付いた。
『もしもそうだったら良いですね』
『そーだよなー』

それから、結論付けた。

『多分二つ目か三つ目。この記録はジェダ側の手違いか、あるいは意図してここに置かれた。
 手違いよりわざとやった可能性の方が高いと思う。
 というわけで私は、この記録それ自体は外れだ、と結論せざるをえない』
暗鬱な結論だった。

『けどギップルには礼を言うべきかもな。気づけないよりかずっとマシだ』
『そうですね。まんまとジェダの罠にはまっていたかもしれません』
『でもそれだって不思議な話だ』
『?』
レベッカは問う。
この記録がここに有ったわけを。
『もしかしたら理由も答えも無くて何かの手違いかもしれないけどさ。
 ジェダが外部傍聴記録を改変した上でここにおいて惑わそうとしたんなら、
 なんでわざわざそんな事をしたんだ?』
『脱出しようとか、ジェダを倒そうという人たちを罠にはめる為じゃないんですか?』
『そうだよな。多分、そうなんだけどな』

島の東端に有るシェルター内に、島の南端に脱出の鍵ありという示唆を残せば、
それを見た反ジェダの一派は安全性の高いシェルターを出て、南の塔に向かうだろう。
危険な野外を移動して。
魅力的な脱出の鍵に目が眩み時間を浪費して、手が届いたかもしれない可能性を見失うだろう。
狡猾極まりない悪辣な仕掛けだ。
ここまでは疑問を挟む余地も無い。
だけどレベッカは疑問に思う。

(多分、あの声は罠だ。更に罠は複数仕掛けられてるはずだ。
 この島に有る物も、ジェダから支給された物も、どこまで信用出来るか怪しいもんだ。
 けどすっごい違和感が有るんだ。
 どこかおかしい気がする。
 だって、他の部分じゃあんなに無茶苦茶で杜撰で投げやりなんだぞ)
たくさんの凄い奴らを集めた殺し合いである、執拗に安全策を取っていてもおかしくはない。
むしろ当然の話だ。
だがしかし、あの見るからに自信過剰なジェダが、どうしてここに限り完璧に対策しているのか。

二人が以前にも考察した事だが、ジェダの管理体制ははっきり言って杜撰だ。
行き当たりばったりっていうか何も考えてないだろおまえと説教したくなるほどだ。
絶対的、圧倒的な優位性がそうさせるのだろうが、どうにも詰めが甘く思えてしまう。
なのに会場だけ徹底的な安全策を練っている理由は何なのか。
(目くらましをばら撒かなきゃならないぐらいシンプルな欠陥が何処かに有るのか?
 例えば、ジェダ自身も割と普通に行ける場所に居るとか。
 QBが何処かから来てるんだから、有り得ない話じゃないかもしれないけど)
悩みに悩んで、それから。
レベッカは書いた。

『塔を調べに行くのは有りかもしれないけどな』
『どうしてです?』
十中八九罠と見た場所を調べる余地などあるのか。
415創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:46:51 ID:Hf38LOvI
 
416ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:47:36 ID:6kJOWeKw
しかしレベッカは違うものを見ていた。
『加工されたにせよあの声は外部の声である可能性が高いんだ。
 この会場にあるE−8の塔を示しているなんて保障は一切無いけど、
 外部から何かをしてジェダが後始末をした後だとか、
 何かしようとしているのを意図を持って泳がせている可能性は有る。
 もしそうなら、直接的では無いにしてもジェダ側を探る鍵が有るかもしれない。
『なるほど。でも死亡するような罠という危険性は?』
『罠で殺される可能性はほとんど無いと思う。
 私たちに殺し合わせるのが目的なんだからな。
 でも理由によってはわかんないから、調べるならぜったいに深入りするなよ』

リスクがどれだけあるかも判らない上に、大したリターンも見込めない。
いや、むしろリターン0の可能性が極めて高い。
それでも端から圧倒的劣勢なのだから、試してみる価値は有るかもしれない。
レベッカが出した結論はそんな所だった。
筆談を記した紙をくしゃくしゃに丸めて放る。
考察はここで終わりだった。

「何にせよ、私はしばらく動けない」
「わかってます。次の夜まで待っていてください」
「悪いな。それでどうする?」
「どうする、というのは?」
「いつ、どっちを調べに行くんだ」
「ああ、いつかというなら雨が止んだらすぐです。それまでは休んで、あと……」
トマの視線が。
部屋の隅にある布を被せられた遺体に、向いた。

ジュジュの遺体。
首を切り取り、首輪のサンプルを入手すると決めた、トマの仲間の遺体。
想いが交錯した。
筆談にするほどでもなく、言葉を伏せて想いを伏せずに話を交わす。

「私が一人でやっておくよ」
「いえ、これは」
「ムリすんな。心を病んだら何にもならないぞ」
「でもベッキーさんはベッキーさんで」
今は吸血鬼だから。
レベッカはあわあわとした様子で、だけどはっきりと否定する。
「ガマンするぞ、ちゃんと。血のパックだってあるし。さっきもいけたし」
「でも、それって大変じゃないんですか?」
「おまえよりはずっとマシだ」
「でも」
「だから」
レベッカは真っ向からトマの意思を否定する。
辛いを必ずしも自分でやる必要は無いのだと。

「自分がやるべきだ、やらなきゃならない、なんて考えは捨てろよ。
 おまえがやるべきじゃないぞ。死体だからって、友達を、切り落とすなんてこと。
 おまえがやらなきゃいけないワケでもない」
「わかってます」
「友達だから尚更なんてのも無しだからな。
 友達は自分が切るべきだなんてちょっとじゃなく色々冒されてるぞ」
「わかってます」
「余裕を持って、張り詰めるなよ。
 そういうのって、この島じゃイヤな方向にばかり転がるんだからな」
「わかってます」
「あとさっき一緒にやったから判ると思うけど人体の切断はすっごく疲れるぞ。
 成り立てだけどいちおー吸血鬼の私がやるなら、手伝いの有り無しなんて大差無いぞ」
「わかってます」
「それでも、やるのか?」
417ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:48:30 ID:6kJOWeKw

返答はかなりの間をおいて。
僅かに震える声で、ゆっくりとした答えが返った。
「はい」

即答ではなかった。
きっぱりとした決断などではなくて、迷いに悩んで、考えて、苦しんだ答えだったのだろう。
(なら、止められないよなぁ)
レベッカはそう思うと。
深い溜息を吐いて。
幸せがいっぱい逃げていきそうな溜息だと思ってから、そもそも幸せが残ってないと自嘲した。
少しだけ笑えた。
不幸や落胆でも笑えた事が、少しだけ可笑しかった。

「なんでだ?」
「ベッキーさんに押しつけた、なんてイヤな思いを抱えたまま行くよりはマシです。
 逃げるみたいで」
「逃げていいんだよ。正面から壁に頭ぶつけるのは勇気って言わないんだからな」
「でも、仲間なんですよね、ベッキーさん」
「まあな。私はおまえの仲間だ」
「仲間を置いて逃げるのってひどい事したら、後々までずっとクやみます」
「う。ちょっと前に『ここは任せて』やった身としては耳が痛いな」
「す、すみません」
「まあ、ほんと私のワガママだけどな。
 あいつら、自分たちのせいで私が殺されたなんて思ってないだろうな。
 守れた私は大満足だけど」
「なんだかズルいです」
「わるいか」
「わるくないんですか?」
「良いんだ」
軽妙な言葉を交わし、息を合わせて気持ちを整える。

「トマ。また吐きそうだったら今の内に吐いておけよ。バケツも用意しておくからな」
「ベッキーさんは今の内に『補給』済ませておいた方がいいですよ」
「わかってるよ」
「わかってます」

それから、二人はジュジュの遺体からも首輪を取り外した。
首輪解除法研究用の、スペア。
一つあれば良いという物ではない。解除の実験を行うなら何個有っても足りない。
更にトマとレベッカが別行動をとる予定も考えると、少なくとも二つは欲しかった。
それぞれの行先でも調べることができるからだ。
だから野上葵の首輪はレベッカの荷物に移り、トマはジュジュのそれを持つ事にした。

首の切断は、野上葵から取り外す時に学習していたから二人ならそれほど困難な作業ではなかった。
トマがまた気持ち悪くなったり、レベッカが吸血衝動を誤魔化すため陰で輸血パックを飲んだ程度。
その後は交代でシャワーを浴びてさっぱりして。
しばらくの休憩に入った。

彼ら、彼女らは一歩ずつ進んでいた
手と手を取り合って。
闇の中をゆっくりと、着実に。

遥か遠く淡い希望の光に、いつかたどり着けると信じて。
418創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 23:49:24 ID:G0UsVFZb
 
419ギップリャアアアの謎 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:49:45 ID:6kJOWeKw
【H−5/シェルター地下/2日目/黎明】
【レベッカ宮本@ぱにぽに】
[状態]:吸血鬼化(肉体強化、弱点他)。シャワーでさっぱり。休憩。
[服装]:普段通りの服と白衣姿(服は少し血などで汚れているが、白衣は新品)
[装備]:木刀@銀魂、ヒラリマント@ドラえもん(ボロボロだが一応使える) 、魔導ボード@魔法陣グルグル!
[道具]:支給品一式×2、15歳のシャツ@よつばと!を裂いた布、宇宙服(最小サイズ)@からくりサーカス
     輸血用パック×19、クーラーボックス、保冷剤、野上葵の首輪
[思考]:しばらくは休憩して、それから。
第一行動方針:雨と日光を避けるため、基本的にはシェルターで待機する。
第二行動方針:『テレパシー』『念話』の類を使える参加者/使えるようになる支給品、を探す。
        また、『湖の底』を調べ直すために必要な道具も探す(ジーニアスの『海底探検セット』など)
第三行動方針:レミリアを止め、ジェダにぶつける。そのために首輪を外す方法などを模索する。
第四行動方針:もし三宮紫穂に会ったら、野上葵の死体を辱めたことを改めて謝る。
基本行動方針:主催者を打倒して元の世界に帰る。
参加時期:小学校事件が終わった後
[備考]:吸血鬼化したレベッカの特殊能力として、魔力の存在と飛行能力を確認しました。
   トマと時間をかけて情報交換しました。詳しい内容は後続の書き手にお任せします。
   宇宙服を着れば日中の行動が可能になる可能性に思い至りました。まだ真偽の程は分かりません。
   シェルター内の通話記録により、この会場の全ての電話上の会話を聞きました。

【トマ@魔法陣グルグル】
[状態]:健康、ずぶ濡れ
[装備]:麻酔銃(残弾6)@サモンナイト3、アズュール@灼眼のシャナ 
[道具]:基本支給品、ハズレセット(アビシオン人形、割り箸鉄砲、便座カバーなど)、
    参號夷腕坊@るろうに剣心(口のあたりが少し焼けている・修理済み)
    はやて特製チキンカレー入りタッパー、手術道具の一部(のこぎり・メス・のみ等)、ジュジュの首輪
[思考]:しばらくは休んで、それから。
第一行動方針:シェルターでしばらく待機。雨が止んだら一人で外に出て調査遠征? 一緒に待機?
第二行動方針:『テレパシー』『念話』の類を使える参加者/使えるようになる支給品、を探す。
        また、『湖の底』を調べ直すために必要な道具も探す(ジーニアスの『海底探検セット』など)。
第三行動方針:他の参加者と情報と物の交換を進める。必要ならその場で道具の作成も行う。
第四行動方針:『首輪の解除』『島からの脱出』『能力制限の解除』を考える。そのための情報と物を集める。
第五行動方針:トリエラと再び会いたい。それまでは死ぬわけには行かない。
第六行動方針:レベッカ宮本が会った「明石薫」(実はベルカナの変身)について詳しく知りたい
基本行動方針:アリサとニケたちとの合流。及び、全員が脱出できる方法を探す。
[備考]:「工場」にいる自称“白”の正体は「白レン」だと誤解しています。
    レベッカ宮本と時間をかけて情報交換しました。詳しい内容は後続の書き手にお任せ。


首を切断されたジュジュの死体は布を掛けられシェルターのどこかに安置されています。
420 ◆tcG47Obeas :2009/12/08(火) 23:51:11 ID:6kJOWeKw
投下終了。
支援ありがとうございます。
421創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 00:12:26 ID:dXF59C2X
投下乙です!

やっぱこの2人なんか和むなw
見ていてニヤニヤしてしまうw
まあ、なんにせよトマがククリの死を乗り越えられて良かった
この2人には今回の考察等を生かして何とかこのゲームをぶっこわしてほしいな

あ、ニケも死んじゃったのかwトマ大丈夫かな…?
422創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 01:39:04 ID:qMvw5cAH
ちょっと読みづらい
次からは読みやすく書いて
423創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 14:34:59 ID:dXF59C2X
また予約か一体どうしたんだ最近w
嬉しすぎます書き手様ありがとう
424創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 14:39:57 ID:rus6RB+L
投下乙!
ギップリャ!
425創る名無しに見る名無し:2009/12/09(水) 16:04:13 ID:cKpP+0yx
投下乙!
仲間が死んだりしても比較的ぶれずに頑張ってる考察派二人。
頑張れ、超頑張れ!
マーダーの千秋が来るかもしれないけどな!

そしてまたも予約か……
うれしいことだけどいったいこのロワに何がおこってるんだw
426 ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:36:05 ID:rB1bb3hK
投下開始します。
若干行動を制限されるため纏めて予約しましたが、
高町なのはの回想録の形を取っているため、他の工場組は実質上登場しません。
427高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:37:31 ID:rB1bb3hK
暖かい。

楽しい。

愛しい。

優しい。

切ない。

苦しい。

哀しい。

痛い。

正しい。

恐い。

冷たい。

悲しい。

寒い。

寂しい。

怖い。

辛い。

温かい。

二十四時間足らず。

たった一日の出来事が、これまでに生きてきた十年近い積み重ねを冒してしまった。

私、高町なのはは、こんなにも濃密な二十四時間を過ごした事が有りませんでした。
これまでに積み重ねてきたものが、こんなにも呆気無い物だったなんて思いもしませんでした。
不屈の心はこの胸に。
何時の日か交わした誓いの言葉さえも、何処か空しく思えます。
私は今でも屈していないのでしょうか。
それとも尽く屈してしまい、もう立ち上がれないのでしょうか。

この島に来た時も、最初の頃はなんて事の無い出会いと、愛しさで始まっていたのに。
428高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:38:30 ID:rB1bb3hK
午前六時前。
忘れもしない、この殺し合いが始まった会場。
あそこで起きた事はとても怖ろしいものでした。
殺し合いの開幕を告げた冥王ジェダ。
そして、彼に挑んで無惨にも殺されてしまった名も知れぬ女性。
太っちょの少年が殺し合いのご褒美について要求していた事は、
後でとても重要な話になりましたけど、この時はまだ、ただの情報でした。
あの時に感じていたのは恐怖だけ。
私、高町なのはと、私の大切な友人達が誰かに殺されてしまう。
その事に対する恐怖だけが私を支配していました。

そんな始まりでしたから、私は恐怖と緊張に震えていました。
支給品を確認した時はちょっぴり呆然としてしまいましたけど。
謎の薬。時限爆弾。グーチョキパーの絵が描いてある板の付いた棒。
こんな物で殺し合いだなんて悪い冗談にしか思えませんでした。
前の二つには使い道がありますけど、グーチョキパーのジャンケン棒なんて何に使うんでしょう。
それから、最初に出会ったのもまるで冗談の塊みたいな人でした。
ニケくん。
私と同じ位の年頃で、勇者だっていう男の子。
ちょっとスケベで悪戯好きでおかしな彼は、私をホッとさせてくれました。
あの時、恐怖に震えていた私を助けてくれたのは紛れもなくニケくんです。
ニケくんのおかげで、私の恐怖は和らぎました。
例えそれが仮初めの、僅かの間だけの安らぎだったとしても。

午前八時頃。だったかな。
まあ、ニケくんには悪いけど、何やってたんだろうとは思う。
緊張感も無く太鼓を叩いて踊って、エヴァさんに叱られたのも当たり前だよね。
その、水の剣を試す為に…………だなんて提案も。
ちょっと……うん、ちょっとだけ叩いちゃったのも当然だよね。

それで、花摘みに行って…………。
まさかその先で、ヴィータちゃんに出会えるなんて思いもしなかった。
それも、あんな形で。
あの時のヴィータちゃんが浮かべた表情は、忘れられません。
一欠けらの喜びも無い、動揺と怒りと苦痛と悔いに類する全ての感情。
怒りすら押し込めた、冷たい殺意。
以前にヴィータちゃんと戦った時でも怒りの感情が見えたのに、それすら見えない哀しい殺意。
ヴィータちゃんははやてちゃんの為に殺し合いに乗ると言っていて。
止めなきゃいけないって、そう思いました。

だけどあの時にヴィータちゃんを止められたのは私じゃありませんでした。
才賀勝くん。
ヴィータちゃんだけじゃなく勝くんも危険なのかと勘違いして邪魔してしまいましたけど、
勝くんは私もヴィータちゃんも、物凄い騒音という方法で殆ど傷つけずに倒してみせました。
気絶した時は何が何だか判らなかった位です。
ニケくんに続いて勝くんにも助けられた事になります。
もうお礼は言っていたけれど、もう一度。
ほんとうにありがとう。

それから目を覚まして。
多分、お昼も過ぎた頃だったのかな。
勝くんは山小屋の、ニケくん達の所まで私とヴィータちゃんを運んでくれていました。
みんなと言葉を交わして、話をして。
ヴィータちゃんが起きて、また、止めなきゃいけなくて。
エヴァちゃんのおかげでヴィータちゃんを止めることが、できて。
429高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:39:25 ID:rB1bb3hK
必要なこと、でした。

誰かを納得させるための言い訳じゃなくて、自分を納得させるための言い訳だとおもいます。
思い出すと、ヴィータちゃんの絶叫が耳に響いてくるんです。
それと、あの言葉が。
私はヴィータちゃんに、二回だけおねがいしました。
考えを変えて、って。
それが断られたらヴィータちゃんを殺さない為にひどい事をすると言って。
おねがいじゃなくて脅迫だよね、これって。
ヴィータちゃんが最初なんて言ったのかは、難聴が残っていてよく聞こえなかったけど。
繰り返し聞くと、答えは有りました。
この悪魔めって。

悪魔でも、いいんです。
悪魔らしい身勝手で残酷なやり方でも、誰かを救うんだ。
そう決意した事を覚えています。
胸の痛みに耐えられなくて、インデックスちゃんに甘えて少しだけ、泣いてしまったけど。
でもあの時はきっと、決意できていた筈なんです。
例えニケくんに怖がられ、勝くんに警戒されても。

もちろん焦りはありました。
その後に立てた、島の中央部へみんなを集めようって計画もちょっぴり焦ってたと思います。
別にこの計画が間違っていたわけじゃないけれど。
殺し合いの速度は、本当に焦るべき速度で進行していましたから。
でもその為の偵察の時、同行した勝くんを置いて山小屋に走り帰ってしまったのは失敗でした。
運動は苦手なのに、魔力で強化までして、飛ぶように走って。
結果論ですけど、そうしなければあんな言葉を聴いてしまう事もなかったのに。

『――今まで、色んなモンスターと戦ってきたんだけどさ。八卦炉使って拷問かましたときのなのはは――』
『今まで出会ったどんな悪魔より悪魔らしかったぜ』

あれは、当然の言葉でした。

当たり前なんです。
そう思われるのは判りきってました。
ちゃんと覚悟したはずです。
だから、そんな言葉で傷ついてなんていられない。
例えその言葉がニケくんから放たれた物だったとしても、立ち止まってなんかいられないのに!

私は、逃げてしまった。
ニケくん達の顔を見る事もできなくて、その場から逃げ出してしまった。
なんて弱い決意だったんだろう。

そうして森に降り立って、一人で考え事をしていたのが二時を少しすぎた頃、だったかな。
その時に出会ったのが、犬上小太郎くんでした。
エヴァちゃんの仲間で、犬の耳が生えた少年です。
彼はネギくん──エヴァちゃんの弟子だという少年が殺し合いに乗っているという、
リリスが語ったのと同じ話を聞いたそうで、やっぱり気持ちが焦っている様子でした。
もし彼が私と同じ状況に立たされたらと少しだけ思って訊いてみたけれど、
あれは彼の心を掻き乱しただけだっただと思います。
本当に、変な話をしてしまいました。
ごめんなさい小太郎くん。
430高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:40:45 ID:rB1bb3hK
それでも小太郎くんは一緒に来いと言ってくれました。
もう少し話を聞きたいと言いながら、私の事を心配もしてくれました。
それが本当に嬉しかったから、私は彼に付いていく事にしたんです。
神社に行って、彼の調べ物を手伝って。
学校が火事になっているのを見て、そこに向かって──。

人を、殺しました。
それも三人も。




あの少年を生かしておいてはいけない。
それは確信してしまっていた事です。
彼とは少ししかお話していませんけど、それでも理解出来てしまいました。
彼の味わった絶望と悪夢が、それを知らない人には絶対に理解できないだろうという事と。
それと彼が、狂ってしまっているという事を。
私はあの時、狂気を理解したんです。

狂気とはつまり、異常な世界に適応して生きる為の、正常とは外れる思考の事なのだと思います。
彼は満面の笑顔で身の毛もよだつような地獄を語って見せました。
その地獄に適応してしまったから、彼はああなったのだと思います。
きっと、そこには正しいとか間違っているとか善し悪しなんて物は意味が無いんです。
適応して生き延びるか、適応できずに倒れるか、それだけで。
私も多分あの時から、この世界への適応を始めました。

江戸川コナンくんは言いました。
「殺人が世界の仕組みだなんて、そんなわけねーんだよ! バーロー!!」

この世界は適応してはいけない世界です。
生き残る為には適応しなければならないけれど、そうなってはいけないんです。
そうなってしまった人はきっと、この世界以外のどこにも帰れなくなってしまうから。
それでも生き残りたくて。
それでも生き残したくて、私の意思はこの世界の仕組みを受け入れました。
殺人という行為を、受け入れ始めたんです。

私は学校で出会ったみんなから別れました。
古手梨花ちゃん、リンクくん、李小狼くん。
みんな良い人だったから、そうするべきでした。
殺人という行為を受け入れた人は、それを受け入れない人と一緒にいるべきではありません。
人を殺すという事は、どんな理由であれ間違った行為です。
それは間違った世界でだけ通用する狂気です。
もしもルールだと言うならば、広げてはならない否定すべきルールなんです。

だから小太郎くんとも別れ一人で向かった廃病院の前で、ブルーとイヴに出会いました。
小太郎くんの言っていた悪い人です。
問い詰めれば襲ってきたという事は、やっぱり間違いなかったんでしょう。
二人には逃げられ、ブルーの言葉通り、工場にはフェイトちゃんの、死体が転がっていました。
彼女達が、フェイトちゃんを殺したんです。
私にとってきっと、誰よりも大切だった人を、殺されたんです。
フェイト、ちゃんを、殺され、たん、です。






フェイトちゃんの、魂が、せめて、天国に逝った事を、祈って。
彼女を埋葬した時の私は、既に元々の私を、見失いつつありました。
自分に人間の心が残っているのかも判らないほど、心が凍てついていました。
431創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:42:01 ID:J05OHvDL
 
432高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:42:28 ID:rB1bb3hK
湧き上がる憎しみはブルーとイヴに対するものではありません。
私は心底から、この世界を憎んでいました。
あの時の私が適応しつつあったこの世界は、断じて間違った世界です。
それでも、その間違いに適応した私だから出来る事が有ると信じていました。
だから私は狩りに出たんです。
誰かを生かすために誰かを殺す。
致命的に間違った世界で回る、決定的に壊れたルールでも、
使いようによってはその狂気で誰かを生かす事ができると信じていました。
信じて、江戸川コナンくんを巻き込んででもあの少年を殺しました。
李小狼くんを生かすために灰原哀ちゃんを殺しました。
そしてまた。
何処かの誰かを生かすために、リリスを殺そうとしました。

リリスとの遭遇は全くの偶然で、だけど都合の良い事でした。
ジェダ側の情報を持っているであろう彼女を捕獲する事が出来れば、
ジェダを倒し、殺し合いを打倒する事に近づけるかもしれません。
それが無理でも、他の誰かに会う前に自分で出会えたのは良いことです。
彼女は倒さなければならない相手でしたから。
だから逃がすまいと魔砲『ファイナルスパーク』を放ち、そして。

はやてちゃんを殺しました。

















こんなはずじゃなかった。


世界はいつだってそうだと言ったのは誰だったでしょう。

もう、思い出せませんでした。
この世界に来る前の事がぜんぶ、白く塗り潰されてしまったみたいです。
目の前に残ったのはアリサちゃんの壊れた笑い顔と、
はやてちゃんが居たはずの場所に在った、誰かの手だけで。
それ以外には、もう。

なにも。


433創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:42:45 ID:J05OHvDL
 
434高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:44:04 ID:rB1bb3hK

その後に何をどうしたのかはよく覚えていません。
空を飛んで逃げたことだけは覚えています。
こんな危険な島で、あんな有様のアリサちゃんを置いて逃げ出したことだけは。

アリサちゃんまで失うわけにはいかない。
例え心を失っても、せめて命だけでも守らなきゃいけない。
なのに、耐えられなかったんです。
目の前の悲劇を直視し続けることができなかったんです。

私はどうしてこんなにも弱くなってしまったんだろう。
本当に不思議なくらい。
でもだから、私は。
病院で出会った双葉ちゃんと、シャナちゃんと、紫穂ちゃんの前で言ったんです。

「たとえ手足を失っても。たとえ心が傷付き砕けても」

アリサちゃんはまだ生きているから。
ヴィータちゃんにはひどい事をしたけれど、少なくともあの時は殺さないで済んだから。
ニケくん達は、私を怖れ恐がっても生きていてくれるはずだから。
学校で人を殺す人を殺すために、そうでない人まで殺して、
人を生かすために一人を切り捨てて殺した事に比べれば、まだずっと。

「死んでしまう事に比べればそんなのはきっと、大した事じゃないよ」

大した事じゃない。
人が死ぬ事に比べれば。
人を殺す事に比べれば、大した事じゃない。
人の死を、殺人を受け容れていない人は、きっと元の世界に帰っても良い人なんだから。

双葉ちゃんには怒られました。
少し心配になって、でも内心ではホッとしました。
そんな子が生きている事と、その子が強い人に護られている事がうれしくて。
私は彼女達にアリサちゃんの事を託して、廃病院を後にしました。
アリサちゃんと向き合えない私にはそうするしかありませんでした。
そうして私は、隠れ家を探してその場を後にしました。
休息が必要でした。
力を、魔力を回復させる必要が有りました。
力のせいではやてちゃんを殺してしまったのに、私は尚も力を求めていました。

心では間違っていると思っていました。
でもこの世界では、否応無く力が必要になります。
間違った世界の間違ったルールです。
一人でも多くを生かしたいと思えば誰かを殺す事になる。
だから私の理性は、力と前進を選び続けました。

結局行き着いた先は、フェイトちゃんが殺されていたあの工場でした。
島の端の方だから、人が来る可能性は低いと思ったんです。
ううん、もしかするとフェイトちゃんの近くに居たかっただけかもしれません。
とにかく私はそこで。
一通の電話を受けました。

トマくんからの、電話を。
435創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:44:57 ID:J05OHvDL
 
436高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:45:11 ID:rB1bb3hK
ニケくんが言っていた仲間の一人です。
急いでニケくんの事を教えてあげなきゃいけないと思い、だけどすぐに考えました。
トマくんがニケくんと再会した時、私の事が話されてしまうと。
私は、ニケくん達ともう一度会う勇気が有りませんでした。
そう、学校のみんなと別れたのとは違って私の臆病さが理由です。
私は、私がこうである前から私を知っていた人に会うのが怖かったんです。
だから名前を隠して、話を誘導してから、ニケくんの事を教えました。
本当に逃げてばかりです。
私は仲間よりも敵を求めていました。
そしてトマくんとの情報交換は進んで。
トマくんが、はやてちゃんの事を話し出して。

なんていう偶然なんだろう。
私は。
私が言葉を交わしている電話の向こうのトマくんは、はやてちゃんの仲間でもあって。
本当に、希望を信じていて。
楽しそうに、私が殺して、しまった、はやてちゃん、の話、を、し、て。

「…………大した事じゃないよ」

そう。大した事じゃ、ない。
私の心がどれだけ切り刻まれたって、それは大した事じゃないんです。
ただこの時、再認識しました。
私はもう立ち止まれないんだろうって。

「フェイトちゃんは殺されて、ここに眠り目覚めない」
どうしようもない現実。
フェイトちゃんはブルーとイヴに殺された。

「はやてちゃんはわたしが殺してしまったし」
どうしようもない現実。
はやてちゃんは私が殺した。

「ヴィータちゃんは、はやてちゃんの死によって消えていく」
どの位のタイムラグが有るかは判らないけれど、何時か。
肉体も精神も、はやてちゃんが死んで生き続けられる事はない。

「アリサちゃんは生きているけど、心はわたしが壊してしまった」
生きている。それだけが救い。
だけどもう、アリサちゃんの明るい笑顔を見れる事は無いんだろう。

「わたしの指は、可笑しなくらいに血に濡れて」
私には帰る場所なんて無くって。

「輝く未来は…………何処に……有る…………?」
何処にも、無くって。

私が行き着くべき場所も。
私が抗うべき理由も。
私が足掻く意味も。
私が殺す価値も。
無くって。
この時の私は、既に死んでいました。
437創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:45:49 ID:J05OHvDL
 
438高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:47:24 ID:rB1bb3hK
それでも私の体は動き続けました。
心は砕け散ってしまったのに歩き続けました。

昼間の学校で私が殺した、灰原哀ちゃんは言いました。
「ギルバート曰く。
 『狂人とは理性を失った人のことではない。狂人とは理性以外のあらゆる物を失った人である』、よ」

きっと私は、その通りでした。
理性の狂人。
それこそが私の心が砕けた後に残ったものだったんです。

そうして私は休憩を取ろうと歩き出して。
Q-Beeに出会いました。

  『ダッテオマエハ、"6ニン"モコロシテイルジャナイカ』

6ニン。
6人。
学校の少年と、江戸川コナンくんと、灰原哀ちゃんと、はやてちゃんと、他に二人。
意味が分からなくて、最初は手違いかと思って。
だけど恐らくは、はやてちゃんの時に広域を薙ぎ払う砲撃で巻き込んでしまった誰かだと気づきました。
誰か、二人もの人間を。
気付きもせず、知りもせず、虫のように踏み躙ってしまった。

そして七人目を。
首輪を付けた白い猫を、殺しました。

もう少し確かめたかった。そう思います。
話せるのかも判らないけれど、お話をして、分かり合うことを試みたかった。
だけど同時に考えました。
今の私に誰かと分かり合えるとは思えなくて、なによりも余裕が無い。
相手から襲われればひとたまりも無い状態でした。
ある程度は確かめて、相手が危険人物であるという予測は立ったのだから、殺すべきだ。
いや、殺さなくてはならない。
私は確信を持ってあの猫を殺しました。
何を忘れているのかにも気付かないまま過ちを冒してしまった。
そんな気がします。

気付けば私の手は七人もの血に濡れていました。
どうしてなんでしょう。
一人でも助けたかった、生きて欲しいと思っていたはずなのに。
私はもう、疲れてしまって。
Q-Beeが持ってきた追加支給品の睡眠薬で、眠りに就きました。
439創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:47:44 ID:J05OHvDL
 
440高町なのはの過ごした一日(前編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 20:48:22 ID:rB1bb3hK
だから、あの夢はきっと必然だったのでしょう。
まだ生きている者だけでも一人残らず護ることができて、私だけが死んでいく。

「ねえ、これがいい夢なの?」
  (あなたは、どっちだと思う?)
      「質問を質問で返すのはずるいよ」
        (そう? あなたが悪い夢だと思っているなら、はっきりとそう言えばいいだけだよ)

私があの夢を見た事は。
わたしがあの夢に居た事は。

「分かったよ。…………これは多分……いい夢、なんだよね……」
  (どうして?)
      「ジェダを倒して、生き残った子が元の世界に帰れたから。
       最初の放送のあと、一人の犠牲も出さないで」
        (正解。そして、この夢はあなたが望んだものだっていうことも――)

あの、いい夢を見た事は。
私は自らの罪に打ちひしがれていて、それでも進もうとしていたから。

(さすがに物分りがいいね。そうだよ、あなたは夢の世界にいても、
 現実の世界、現状の中で最もいい結果を無意識のうちに求めていたの。
 ありもしない幻想にも、掴みとれない願いにも決して縋ろうとはしなかった。
 夢の中でなら、みんなが生きている世界、海鳴市で見てきた日常と同じものを見ることだってできたのに、
 あなたはそうしなかった。
 ただひたすら、今この島にいる自分が掴める、現実的な未来の中で、
 最もいいものを選んでシミュレートしていたんだよ。
 友達が死んだという現状を覆すことなく、そこから更に突き進んで、
 努力に努力を重ねて、全てがうまくいった結果が今の夢なの)

あの夢のように終わる事が出来るなら、それはきっと幸せな終わり。
夢を見なかったわけじゃない。
冷たくて、寂しくて。
それでも私があの終わりを望んでいたから、私はあんな夢を見た。
だからあの夢は、いい夢でした。

「全部うまくいったとしても、私は最後にこうなるの?」
  (答えが欲しい?)
    「…………いいよ。試しに訊いてみただけだから」
      (そう。……ねえ、もういい? 早くこの夢の幕引きに戻ろうよ)
         「うん……そう、だね……」

だけど何時しかユメは醒めて。
眠りは終わって。
わたしは、目を覚ましました。
441創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:48:41 ID:J05OHvDL
 
442創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:55:27 ID:FWMRaO4i
 
443創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:56:10 ID:J05OHvDL
 
444創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:56:51 ID:J05OHvDL
 
445創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:57:51 ID:J05OHvDL
 
446創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 20:59:05 ID:J05OHvDL
 
447高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:04:40 ID:rB1bb3hK
目が覚めた時、同じ部屋に寝ていた少女には驚きました。
自分の腕が何か細い糸で縛られている事にも。
わたしは戸惑い、躊躇いながらも、足掻きました。
糸が食い込み、痛みが募り、それでも私は止まりませんでした。
痛みは制止を訴え続けたけれど、痛みに私を止める力は有りませんでした。
私はずっと昔から、そうでしたから。
この島に来るずっと前から、不屈の意思を胸に抱いて歩き続けてきました。
行き会った人達とその場所で、自分に出来る限りのことを全力で実行する。
それだけが私にできることで、ただそれだけを果たしてきました。
私は夢の中でその事を思い出したんです。
だから、自分がこれからどうすべきかも。

私を縛ったひめちゃんという子は糸を解いた後に私と話して、言いました。
「……自分から殺しに行くのには変わらない。あなたは殺すことを望んでる。
 それは殺し合いに乗ってるって言うよ」
私は答えました。
「言わないよ。
 だって、殺し合いに乗った人を殺せればそれだけ殺し合いが終わるのも早くなって、
 殺し合いに乗らなかった皆で話し合いができるから。私の願いは、それだから」
それが私の選んだ行動です。

どこかで間違っている事は判っています。
だって人殺しはいけないことです。
でもジェダの世界が殺人という狂ったルールで回っている事を理解してしまったから、
それを止める為に私は、その狂気を許容してしまったんです。
決定的に間違った、この世界以外で通用してはいけない、狂気。
この世界から帰るべき人と共有してはいけないもの。

「私は皆と一緒にいちゃいけない。汚いことは全部私一人でやる。
 誰にも迷惑は掛けない。誰の目にも見えないうちに、全部終わらせる。
 そうすれば、皆苦しまずにジェダと戦いに行けるから……」

だから私は、協力を申し出たひめちゃんを拒絶しました。
彼女がこの世界から帰るべき人なら私と一緒に行ってはいけない。
彼女がこの世界から帰るべき人ではないなら──。

「あなたにとって、人を殺すってことはいけないことじゃないの?」
 「……人殺しは、いけないことだよ」
   「じゃあなんで?」
    「いけないことだから、全部私がやるの。皆を守るために」
       「……守りたい人に怖がられるよ」
        「構わない」
           「……あなたは、間違ってる」
            「そうだね。そう思うよ……でも、こうするしかないから」



   多分、ひめちゃんは正常でした。



ひめちゃんは殺し合いの相棒を捜していたようです。
でもわたしにはそれが、自らの罪を許容してくれる誰かを捜しているようにしか見えませんでした。
人殺しをしても良い理由を捜しているようにしか見えませんでした。
それは人殺しが恐くて、怖ろしくて、とても嫌で、耐えられないことだからです。
彼女は殺人という行為を本質的に許容していませんでした。

わたしはそれが嬉しくて、ほんの少しだけ笑えた気がします。
多分気のせいでしょうけど。
448創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:06:51 ID:J05OHvDL
 
449高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:07:03 ID:rB1bb3hK
それなのに私は、彼女を殺すべき人間だと認識しました。
私が選んだ行動はそういう事です。
心の弱さから殺し合いに乗った人さえも、強い心で耐え続けている人を取り零さない為に見捨てる。
どこまでも残酷で身勝手な選択です。
それでもこれがこの世界で一番多くを救える道だと信じていました。

ひめちゃんを仕留められなかったのはわたしの弱さです。
寝起きで魔力も不足した私の限界はその程度だったのでしょう。
それともひめちゃんが立ち直る事を期待してしまったのでしょうか。
そんなに甘い決意をしたつもりはなかったんですけど。
何にせよ私はひめちゃんを取り逃して、そして。

アリサちゃんと再会しました。





正直、私はアリサちゃんがもう“ダメになってしまった”んじゃないかと考えていました。
私ははやてちゃんの死に、多分耐えられなかったから。
てっきりアリサちゃんの心も砕けてしまったものだと思っていました。
それでも立ち続けているアリサちゃんを見て、嬉しくて。

「なんで来ちゃったのかな、アリサちゃん。私を殺しに来たの?」

なのに、温かい言葉をかけてあげる事ができませんでした。
……ごめんなさい。
ほんとうにごめんなさい、アリサちゃん。

「そ……そんなわけないでしょ! あたし達友達じゃない」

あんな事があったのに私を友達だと言ってくれるアリサちゃん。
私はアリサちゃんの事が好きです。
わたしはアリサちゃんのことが、好きです。
たとえ怯えながらでも、アリサちゃんは高町なのはを友達だと言ってくれる。
こんなに嬉しいことは無くて、でもだからこそあの時のわたしは。

「私を友達だと思うのは間違いだよ、アリサちゃん」

アリサちゃんを突き放しました。
もうぜったいに、わたしを友達だなんて言えないように。
多分、この島に来る前の私が見ても本気で許せないって思えるくらい徹底的に。

「私はもっと人を殺さないといけない」

「ヴィータも……殺すの?」
  「……そっか。またやっちゃったんだ、ヴィータちゃん。
   じゃあ、また動けないようにしないと……」

「頑張るって……どう、頑張るの?」
  「殺すんだよ。殺し合いに乗った人は全部殺すの。
   捕まえてる余裕は無いし、説得してる間に被害が増えるかもしれない。
   だからできるだけ効率よく殺すの」

「怖いよね。絶対おかしいよね。
 だからアリサちゃんは私といちゃいけないの。私は人殺しだから。
 アリサちゃんは人を殺しちゃ駄目だよ。私といちゃだめだよ。共犯者に、なっちゃうから」
450創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:07:23 ID:7jagqsnq
 
451創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:07:36 ID:J05OHvDL
 
452高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:08:09 ID:rB1bb3hK
『……残念ですが、それは有り得ません。
 なのはさんが死んだらアリサさんは泣きますから』
  「生きてればきっといいことあると思う。
   こんなこともあったな、あんな子もいたなって、いつか笑える日が来るよ。
   だからね、アリサちゃん。今すぐじゃなくてもいい。
   私のことなんてどうでもいいと思わなきゃ困るの。私はわるいひとだから」

アリサちゃんは、白猫さんの死体を指差して問いました。
「これやったの、なのは?」
「そうだよ。 寝ている私に何かしようとしたから」
「うっさい、後ろ半分はいらない。
 本題はここからよ、なのは。猫を見て思い出すことは何」



忘れてはいけない事が有った気もします。
ううん、少しずつ思い出し始めていました。

でも私は、この世界のこと以外を考えたくありませんでした。
私はもう、この世界以外のどこにも帰れないのですから。
わたしは、この世界で味わったすべての痛みを噛み締めて。
ただただ、この世界に必要な事だけを答えました。

アリサちゃんには殴られました。
力いっぱい。

『アリサさん、落ち着いて!』
「うっさい黙れルビー!
 猫はすずかの大好きな動物。それがあたしにとっての模範解答。
 今のあんたは、友達の気持ちどころか名前さえ思い浮かばない大馬鹿ってことよ!」

わたしは、少し思い出していました。
この島に来る前のこと。
色々なこと。色々な人との大切な思い出を。
だから走り去るアリサちゃんを見て、胸がとても、痛くて。
それなのにアリサちゃんが残していってくれた六角形の不思議な金属がとても温かくて。

私は自分が一歩、あの夢に近づいた事を知りました。
わたしのユメに近づいたことを知りました。







私に安息が残っているとするならばそれは、あの冷たくて優しいユメだけだと想うから。
だから私は、エヴァちゃんにさえ武器を向けました。
彼女が人を凍らせているところを見たから。
453創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:08:33 ID:J05OHvDL
 
454高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:09:14 ID:rB1bb3hK

でもエヴァちゃんが見境無くそんな事をするなんて思えなかったし、
実際、エヴァちゃんはエヴァちゃんの定規で規律を持って行動していました。
こいつはそういう奴なのだと言うエヴァちゃん。
わたしは思い出します。
ヴィータちゃんの事が起きるまでの僅かな時間を。
ほんとうに短い、数時間しか続かなかった時間だけれど、あの時、あの間。
ニケくんとエヴァちゃんと共に、私は幸せでいました。

だけど私はもう、あそこにさえ帰れないから。

「それで、エヴァちゃんも殺し合いに乗っちゃったの?」
「だとしたら、どうする?」
「殺すよ。私はもう、引き返せないから」
「即答とは恐れ入ったな」

私はエヴァちゃんを知り、知らせることにした。
私がもう、どうにもならない存在である事を。

「それにしても、殺すときたか。
 貴様は人を救うために覚悟を決めたんじゃなかったのか?
 あの鉄槌の騎士を生かしておいた意味がないな」
「……そんな甘いことじゃ、結局誰も救えないんだよ。
 目の前で誰かを殺しそうになってる人を、殺さずに捕まえるなんて現実的じゃない。
 たとえ捕まえたとしても、その後どうするの? ずっと見張るの? 逃げられたらどうするの?
 説得だって、通じる相手ばっかりじゃないんだよ。
 殺せる時に殺しておかないと、後で悔やんでも遅いから」

同時に噛み締めます。
私がもう、どうにもならない存在である事を。

殺人者を殺す理由は、私には説得する事も捕らえておく事も出来ないから。
「なるほど、見事な理屈だ。
 つまり、貴様が弱いからというわけだな」

私が選んでいたのは決して最善の行動なんかじゃない。
一人でも多く生かしたい無難な行動を突き詰めた先が、殺戮だった。

「悪い人――というのはどうやって見分ける?」
「人殺しは悪い人だよ。……うん、私も含めてね」
「質問の答えになってないな。人殺しは悪人で、悪人は人殺しか?」

だから知っている。
自分がそうであるのだから。

「必要条件と十分条件の話さ。数学は苦手か? ずいぶん単純に考えているようだが、
 人を殺してしまった善人はいないのか、人を殺さない悪人はいないのかと訊いている。
 考えたこともなかったか? 善人であっても、状況に迫られれば人を殺めるかも知れんし、
 自らの手を汚さず人を死に追いやる悪人だっているかも知れん。
 それをどうやって見極めるんだと訊いているんだ、高町なのは」

きっとひめちゃん──恐らくはイヴと推測されるあの子でさえ。
殺し合いに乗っているあの子でさえ、“正常”だったんです。
多分、強さではなく弱さから人を殺したのだと思います。
だから殺人を恐れ、忌避しながらも、それを認めてくれる人を捜していた。

なのに私はそれさえも許さなかった。
455創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:09:23 ID:J05OHvDL
 
456創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:09:43 ID:7jagqsnq
  
457高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:09:55 ID:rB1bb3hK

「……私が殺すべきだと思った人が、悪い人だよ」
「傑作だな」
「それに、数学は得意な方」
「それも傑作だ」

殺すべきだと思った人が悪い人だと言うのなら、
悪い人である私も、殺されるべき人なんです。

私の選択は、目の前に私と同じ存在が現れたらそれを悪として裁く行為だったんです。

わたしは私を許してはならない。
私は誰にも赦されてはならない。

わたしには、それがどうしても哀しく思えてならなかった。

「そんなんじゃないよ。ただ私は、殺さなきゃいけない人がいる限り、それを自分の手でやりたいだけ。
 誰にも人殺しになって欲しくないから、みんなのために。手を汚すのは、私だけでいい」

どうして私はこんな風になってしまったのだろう。
みんなが大好きだから、みんなのためにできる事をしたかった。
それだけだった。

「美麗美句で己の所業を飾るな、胸糞が悪い。
 理想もなく、誇りもなく、ただ無秩序に、自らの独善で悪と断じた者を容赦なく殺戮する――。
 貴様がやっているのは、それだけに過ぎん」

でもきっと、エヴァちゃんの言う通りだともわたしは思う。
私には理想なんて無い。ただ目の前の事を精一杯やり続けていただけだから。
私には誇りなんて無い。誰かの命を護れるならどんな事でもしてのけるから。
私はそれが、この間違った世界においては必要な事なのだと理解している。
必要だからしなければならないと考えている。
ただ自分だけで。
たった一人の知恵と判断で。
それがとても愚かしい事なくらい、分かってる。

「やはり、貴様の存在は捨て置けんな。これ以上面倒なことになる前に、今ここで始末する」
「……そう。やっぱりこうなっちゃうんだね」

でもわたしの想いに力なんて有りはしないのだ。
これまでも一つだって祈りが叶う事はなくて、ただ死だけを振りまいてきた私の祈りなんて。
私は想いもなくただ考える。
私に攻撃を仕掛けてきたけれど、エヴァちゃんが“殺されるべき悪い人”という事にはならない。
何故なら私もまた“殺されるべき悪い人”なのだから。

そういう意味では最早夕刻の白猫さえも殺すべき存在ではなかった。
あれが私以外を傷つける存在かも判らなかったのだから。
私はその事にようやく行き当たり。
戸惑いは手遅れでした。

エヴァちゃんは圧倒的に強かった。
私がそれまでに多数の死を重ねたのも、言うなれば全て不意打ちに過ぎません。
均衡状態を作り相手の隙を待つことで、ようやく勝機を見つけていたんです。
デバイスが無い私に出来たのはそんな戦い方だけで、
正面からの攻撃を止めきれない強敵に勝てるはずはありませんでした。
でも。
458創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:10:28 ID:J05OHvDL
 
459創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:10:58 ID:7jagqsnq
 
460高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:11:05 ID:rB1bb3hK

「……貴様にだけは教えておいてやろう。私は殺し合いには乗っていない。
 だが、仲良しごっこをするつもりもない」

エヴァちゃんの言葉が。

「ジェダを見つけ出し、そこまでの道筋を付けるのが私の当面の目的だ。
 誰とも馴れ合わず、何者も恃まず、私の好きなようにやらせてもらう。
 善良な連中に手を出す気はないが、邪魔な輩は実力で排除する」

とても、うれしくて。

「つまり、殺し合いに乗った連中は、私にとっても敵だ」
「なら、私と同じ――」
「違うな」

私よりもずっと。

「私と貴様の決定的な違いがなにか、わかるか?」

ずっと真っ直ぐに進んでいたから。

「状況に強いられたとはいえ、私は自ら選んだ」

もしもあの時の私がエヴァちゃんに殺されていたとしても。
もしもあの時のエヴァちゃんが私を殺していたとしても。

「だが、状況に強いられたとはいえ、貴様は結局流された」

エヴァちゃんは折れることなく、私よりも上手く、物事を良い方に進めていただろう。
この間違った世界で死んでいく人を減らしていただろう。
そう思えました。

私はそれでも動き続けました。
わたしは全てを許容しはじめていました。

エヴァちゃんは語りました。
悪の美学、自己満足のルールを。
私にそれは有りませんでした。一貫した通念など無かったんです。
身勝手でもなんでも、私は一人でも多くを助けたいだけだったから。

目的の為に手段を選ぶなんて発想自体がありませんでした。
だって非道とされる事は全て、人殺しに比べたら“大した事じゃない”んですから。
私はどんなルールを設けても自己満足なんて出来ないし、殺人を赦せなかったでしょう。

堕ちない為にルールが必要だったというのなら、
私にはこの全てが、最初からできない事だったのかもしれません。

「ましてや、人の命を奪いながら、さもそれを正しいことのように居直るなど、愚の骨頂も甚だしい」
「た、正しいことだなんて、思ってない!」
これは狂った世界のルールで。
この世界でだけ意味を成して、この世界以外の何処に行っても間違っている狂気なんだから。
でも。
「みんなのために殺すんだと、貴様は言った」
私は叩きのめされて敗北し。
461創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:11:22 ID:J05OHvDL
 
462創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:11:52 ID:7jagqsnq
  
463創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:12:26 ID:FWMRaO4i
 
464高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:12:34 ID:rB1bb3hK


言葉が、わたしを引き戻す。


結局はそれが全ての基点。

私はみんなが好きだった。
わたしはみんなが好きでした。

だけど私は自分を許せない。
だけどわたしは私を赦せない。

だから私は、自分の為に何もできない。自分の為と居直るなど持っての他です。
だからわたしは、私のために何もできない。

私は理性で考える。
わたしは心で想いを馳せる。

私は、私が愛しかった人達が大切で価値有る人だと考えるから。
わたしは、私にたくさんのものを与えてくれたみんなが愛しいから。

みんなの為に、身勝手でもみんなを護りたい。
自分の想いに正直に、みんなをまもりたい。

ただただ理性で考えるならば、私は護るべき人を護るだけ。
そこに美しいだの醜いだの善だの悪だの正しいだの間違ってるだの全ては意味が無い。
蛇蝎の如く憎まれて蔑まれてもみんなを護る。
悪魔でもいい。
ううん、悪魔にすらなれなくてもいい。
ただの機械、人形ですら構わない。
その為に必要だから殺すだけ。

純粋に心で想うなら、わたしはみんなを護りたい。
そこには理念も理屈も理論も理性さえも要らない。
失う恐れが上回るのなら、心のままに誰かを殺めるのかもしれない。
強すぎる想いとはそういうものだから。
断じて間違っていても突き進んでしまうものだから。
でも心から殺したくないと想うなら。
例えその先に破滅が待っていようと、立ち止まるだけでいい。

どっちにしても正しさなんて物は有りません。
ただ。
私は想う。
わたしは考える。
高町なのはという一個人はどちらで在りたかったのだろう、と。

渦を巻く思考は、それでも一つの点において理由と目的を共通させていました。




「――友達よ!」

あれだけ突き放しても。
もうぜったいに嫌われるだろうというくらいに否定しても。
それでも私を見捨ててくれない彼女の事が。
逃げてといっても逃げてくれない彼女のことが。

わたしは、アリサちゃんのことが大好きです。
465創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:12:37 ID:J05OHvDL
 
466創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:13:07 ID:7jagqsnq
 
467高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:14:19 ID:rB1bb3hK



エヴァちゃんの言う事は正しかったと思います。

「失くしたものは取り戻せん。
 奪ってしまったかけがえのないものに、代わりなどありはしない。
 それを、やり直せるなどとほざくのは、命の価値を冒涜する行為に他ならん」

「それだけならまだしも、こいつは歪み果てた。矯正できんほどにな。
 高町なのはは、もはや光の世界には戻れん。かといって、闇の世界で生きていける素養もない。
 その上、楽に破滅できるほど心も弱くないという、最悪の三連コンボだ。
 私としても、ここまで救われないヤツを見るのは初めてだよ」

「高町なのはに残されている道は、二つ。
 際限なく災厄を撒き散らし、失った光を羨みながら闇の中を彷徨う惨めな人生か、
 あるいは――安らかなる永遠の眠りか。
 さて、小娘。貴様はどっちが慈悲だと思う?」

私はこの世界で災厄を振り撒き、災厄で一つでも多くの災厄を吹き散らし、その末に終わるつもりでした。
命は、とても大切なものだから。
それだけは理解したままだから。
それを冒涜した私こそ一番赦せない存在になってしまうんです。
違うと思うのは、今の私を立たせているのが強い心という所くらい。
折れた心を理性が引きずる、理性の狂人。
それが今の私だと思いますから。

それなのに、アリサちゃんは言います。

「……どっちも御免よ。あんたの言うことは極論だわ。
 なのはのことも、手遅れだなんて思わない。
 あんたはなのはを知らない。あたしたちのことを、なんにも知らない!
 何年かかっても、一生かかっても、あたしが絶対更生させてみせる!
 だから、あんたが退きなさい。ここは絶対に通さないんだから!」

「……なのは、さっきは殴ってごめんね。あたし、もう逃げないから。
 なのはからだって、あたしは二度と逃げないから」

私は。

わたしはきっと。





     どこまでも、無力でした。

468創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:14:38 ID:7jagqsnq
  
469創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:14:59 ID:J05OHvDL
 
470高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:15:14 ID:rB1bb3hK





「りかのことは、残念だったんだよ……」

何時の間に現れたのかな。
インデックスちゃんが、リンクくんを連れて話しています。
エヴァちゃんに言葉を向けています。

「でも、過ぎたことを悔やんでも仕方ないんだよ。先に進まないと。
 リンクだって、もう怒ってないんだよ。話がしたいんだよ」

古手梨花ちゃん。
学校で見た、あの少女。
あの少女がきっと、エヴァちゃんにとってのフェイトちゃんで、はやてちゃんだったんでしょう。
何があったのかは判らないけれど、それでも。

「……神社の隅に、梨花ちゃんを埋めた。できれば、一緒にお参りして欲しい」
リンクくんの言葉が。

「一緒に行こう、エヴァ。もう一度はじめからやり直すんだよ。
 諦めないで、もう一度力を合わせて、一緒にここから脱出しよう?」
インデックスちゃんの言葉が。

エヴァちゃんだけでなく、私の胸にまで響くようでした。

「そこの小娘にも言ったことだ! 取り返しのつかないものを取り返そうなどと、不遜極まりないとな!」
「……エヴァ。それは、なのはのこと? それとも、エヴァのこと?」

「でも、違うんだよ、エヴァ。それはエヴァが間違ってる。
 生きてれば、何度だってやり直せるんだよ?」

「確かに、取り返しのつかないことはあるよ。かけがえのないものはあるよ。
 でも、だからって、全部なくなっちゃうわけじゃないんだよ?
 なにもかも、ダメになっちゃうわけじゃないんだよ?
 世界が終わってしまうわけじゃないんだよ?」

「取り返しのつかないものはあるけれど、なくしちゃったものは戻ってこないけど、
 まだ、次があるんだよ? やり直せないことなんて、なにもないんだよ?
 一人を不幸にしちゃったのなら、十人を幸せにしてあげるんだよ。
 一つの命がなくなっちゃったのなら、百の命を育んであげるんだよ。
 なにもかも捨てれば、それでいいってわけじゃないよ!
 償えない罪なんて、絶対に、どこにもないんだから――!」






     私には、答えを出せませんでした。





471創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:15:30 ID:7jagqsnq
 
472高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:16:09 ID:rB1bb3hK
          大いなる御恵み 妙なる調べ
            罪深き我をも 赦したもう

          闇に惑いて 躓く我の
            盲いたまなこを 開きたる

          主の御恵みは 畏れを識らしめ
            且つ安らぎを もたらさん



あの時のわたしにはきっと、何の力もありませんでした。
もちろんデヴァインシューターを放ちエヴァちゃんを牽制する程度の事はできました。
戦力として若干の機能していたとは思います。
だけど、それだけです。



          ああ、訪れし 御業の覚えよ
            なんたる歓びの 朝なるか

          幾多の悩み 苦しみを経て
            我は来たらん 主の御前に

          主の御恵みは 我を導き
            約束された 故郷へと誘う


インデックスちゃんの歌う、ただの聖歌。
あの場においてあの歌は、如何な暴力やどんな魔法よりも強い力を持っていました。
私はそういう強さがあることを思い出していました。
いつでもそんな強さが役に立つわけじゃない。
ほんとうに、極稀で様々な条件が合致した一瞬だけ、とても強くなることができる。
そんな強さのことを。
時にはただただ純粋な力さえも上回る、とてもちっぽけな力。
純粋な、想いの力を。

          主の御言葉は 我を清めて
            望みを援け 支えたもう

          生ある限り 主は我が身を
            護る盾となり 糧ともならん

          おお、我が肉も 心もいつか
            務めを終えて 土に還れど


私はかつて想いや言葉だけでは届かない事を知って、力を求めました。
そうして友達とぶつかりあって、想いをぶつけて、届けました。
想いだけでは変えられない運命を変える為に、想いを貫くための力を求めました。
想いだけじゃ足りない時は必ず有ります。
けれどそういう時でさえ、全ての中心に有るものはいつも。
想いでした。
473創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:16:17 ID:J05OHvDL
 
474創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:16:31 ID:7jagqsnq
  
475高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:17:21 ID:rB1bb3hK
          御国へ至る とばりの果てで
            とわの命を 与えられん

          氷雪の如く いずれ世は失せ
            太陽すらも 輝きなくさん

          されど命を 与えし主は 
            とわに傍らを 離れまじ


「守護する盾、風を纏いて……鋼と化せ……すべてを阻む……祈りの壁、来たれ……」
私は。
わたしは。
それを、護りたかったんです。

意識はそこで途切れてしまって、エヴァちゃんがどんな決着を得たのかは判りませんでした。

でも、アリサちゃんの暖かな声と温もりを感じられた気がしました。
私はただその温もりの中で、安らいで。



そして。


考えました。





     私がどうすべきかを。




476創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:17:38 ID:7jagqsnq
 
477創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:18:23 ID:J05OHvDL
 
478高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:18:26 ID:rB1bb3hK
目覚めて顔を合わせたリンクくんと言葉を交わして。

「うん、解ってる。それじゃあ私はいくね。服、ありがと」

結局のところ、“私”は止まれなかった。

ありとあらゆる理屈さえ。
私を全て理解した上で向けられた言葉さえ。
全ての理屈を撥ね退けて響き渡るあの荘厳な聖歌でさえも。
“私”、高町なのはを止める事はできなかった。

それはきっと、どうしようもない事です。
私の最大の武器は魔法でも、日常生活中さえも並列思考で積み重ねた訓練でもありません。
私の最大の武器は、意思です。
いえ、ただ単に全身全霊で歩き続ける力と言ってもいいと思います。
私の選択は、それしかないといういわば流される形で選んでしまった選択でした。
だから歪で、恐らく醜いものなのでしょう。
私は無理矢理受け容れざるを得なかったその道ですら、歩き続けていました。
他により良い道が見えなくて。
時間と共に増える圧倒的な死者の数は他の道を探す猶予さえ許してくれなくて。

エヴァちゃんの言った通り、私はもうどう足掻いても折れる事が出来ないのでしょう。
私がこれまで培ってきた不屈の意思は、無数の悲劇と七人の殺人により歪んでしまいました。
この意思がある限り、私は止まれないでしょう。
捻じ曲がってしまった私は、ただただ理性による判断を良しとするのでしょう。
理屈も、想いも、それがどれだけ強いものであっても、私を根幹から揺るがすには足りないのでしょう。
きっと、その前に何処かで命尽きてしまうのでしょう。

「……君はアリサ達から逃げるんだね?」
そう、逃げです。
アリサちゃんが追いかけ続けても、私が側に居るよりはマシという判断です。
私は逃げ続けます。逃げ続けて、追いつかれる前に死にます。

「……今までと変わらないよ。殺すんだ。このゲームに乗って人を殺しちゃった人たちを。
 その人たちを殺さない限り、これからも死んで行く人が増え続ける」
正確にはこれから人を殺そうとしている人達を殺す事で、
少数を救おうともせずその人達以外の死者を減らそうと試みる行為です。

「それは違う……。こんなことになったのはジェダのせいだ。
 もともとは殺し合いに乗らないような人だって、ジェダのせいで殺し合いに乗ったんだ。
 ……そんな人たちも殺しちゃうのか?」
「でもジェダに乗せられたとはいえ、殺さなくていいはずの人たちを殺すことに決めたのはその人だよね?
 ならその人たちは殺さなくちゃいけない悪人だよ」
……悪人。
なんて広い言葉なんだろう。
この間違った世界に適応してしまった人も。
適応を拒んでいても、ただ逃れようと人を殺そうとしている人も。
一切の悪意無く行っている者も。
死者を減らそうと殺人を繰り返す私までもを含め。
その全てを悪人という言葉に一括る。
それらを殺す事で、一人でも死者を減らそうという試み。

「なら……ヴィータはどうなるんだ?」
479創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:18:28 ID:FWMRaO4i
 
480創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:18:39 ID:7jagqsnq
  
481創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:19:09 ID:FWMRaO4i
 
482創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:19:43 ID:J05OHvDL
 
483高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:19:48 ID:rB1bb3hK
それでも、ヴィータちゃんだけは殺したくなかった。
アリサちゃんを突き放す時でさえ、ヴィータちゃんを殺すとは言えなかった。
彼女は特別だから。
私はみんなを、大切な人達を護りたかったから。
つまり。

「……ヴィータちゃんも殺さなくちゃいけないよ。
 贔屓なんてしちゃいけない。殺し合いに乗った人たちはみんな殺さなくちゃ」

彼女を殺すという宣言は、私の理性が大切な人達をも切り捨てた事を意味しています。
大切な親友さえも、他の人達と同列に見ている事を意味しています。
それはどこまでも合理的な判断で。




     私は、いい加減に自分がイヤになりました。




私はもう、立ち止まりたかったんです。
歩き続ける自らの体を制止したかったんです。
……ちぐはぐですね。でも、本当にそうでした。
確かにあの幾つもの言葉と聖歌は私を止める事ができませんでした。
けれど私の想いを変えていました。
ただ私の理性が、自らの感情さえも踏み躙って歩き続けるだけで。
どれだけ悲鳴を上げて道を変えたいと思っても、私の理性がそれを許さないだけで。

私が、私であるという事。
言うならば高町なのはという自我。
それそのものが、私自身にとって最大の足かせと化していました。
その悲しさは、リンクくんの問答が引き出した答えで頂点に達して。
遂に思いました。


     もう、“私”なんていらない。

484創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:20:06 ID:7jagqsnq
 
485創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:20:25 ID:J05OHvDL
 
486高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:20:47 ID:rB1bb3hK
だから私は。
高町なのはは、全てのしがらみを捨てる事にしました。
一切の感情を踏み躙って進もうとする理性を。
どんな事があっても折れない不屈の意思を。
歳月を掛けて形成され僅か一日の無数の死で汚染された自我を。
義務感でも使命感でもない妄執じみた想いを。
想いが重過ぎて未来を縛るなら、そんな想いなんていらない。
全てのしがらみを背負った高町なのはを、捨てて。

思い出ですらないただの記憶だけを拾って。





そこにはただの“わたし”が遺りました。
アリサちゃん達に対する友情だけがそこに残っていました。
そして残ったただの“わたし”は、驚くほど素直にリンクくんの言葉を受け容れていました。

「……ヴィータは放送を聞くまで殺し合いをする気はなくなってたよ。
 ヴィータが殺し合いに乗る気になったのは……はやてが死んだからだ」

それは最初から有った矛盾です。
アリサちゃんに聞いた時、予測はつきました。
ヴィータちゃんの引き金を引いたのは私です。
ううん、そもそも。
エヴァちゃんとの戦いになったのは私の醜い生き方が原因でした。
ひめちゃん……推定、イヴちゃんはもしかしたら止めることができたかもしれません。
白猫が襲ってきた理由は判りませんけど、私が原因だったのかもしれません。

「そう、そうなんだ。そうなんだよ。
 私ははやてちゃんを殺した。だからはやてちゃんの分も、皆を守らないといけない。
 そのために私は、たくさん殺すんだ!」
それでも走り続けて勢いがついた足は、思考は動き続けています。
だけど芯を失ったその言葉は最早矛盾に満ち満ちています。

殺して、殺して、たくさん殺して。
私の行為こそ幾つもの死を振り撒いてきたんです。

殺人者を殺そうとしていた私の行為からどれだけの成果が得られたかはわかりません。
私の理性はどうしようもない事故死だった、場面によっては被害を抑えられたと教えていました。
でも、もしかしたらその前提さえもが間違いで。

私が何もしていなかった方が、死ぬ人間の数は少なかったんじゃないか。
事故とかそういう物を抜きにしてすら、全ての判断が根底から間違っていたんじゃないか。
それをずっとずっとずっとずっと考え続けてきて。
何度も何度も厳密な計算だけでそれを否定し続けてきて。

それは残骸でした。
エヴァちゃんの悪と。
アリサちゃんの全てと。
インデックスちゃんの歌が。
高町なのはの想いを変えました。
変えられた想いが高町なのはを打ち砕きました。
487創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:21:06 ID:J05OHvDL
 
488創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:21:08 ID:7jagqsnq
  
489高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:21:45 ID:rB1bb3hK
それでも僅かに残った理性が、未練を訴えています。
最後に残った残骸は。

「殺されたから殺して、殺したから殺されて……
 そんなことばかり続けて、このゲームが終わるわけないよ。
 殺された人にも、仲間がいる。ゲームに乗った人にも、仲間がいる。
 なのはのやっていることは、このゲームに乗る人を増やす行為だ。」

「なんで、そう考えるんだ?
 なんでそんなに辛そうにしてるんだ?
 なんで何かに耐えるようにしている?
 なんで……なにもかも自分ひとりで背負おうとするんだ?」

「一人で悩むから息詰まるんだ!
 なのはは独りじゃない。
 ここには友達がいる、仲間がいる。僕も君の仲間だ。
 仲間で一緒に考えて、悩めば、きっと……いや、絶対答えが見つかる!」

「だけど! 私はたくさん人を殺した!
 たくさん人を傷つけた!
 そんな私が友達を作っていいはずがない!」
「それを決めるのは君じゃない! その友達だ!
 僕は君を仲間だと決めた! 君が何と言おうと君について行く!
 アリサもインデックスも、絶対そう言うはずだ!」

リンクくんが、吹き払ってくれました。

これまでに考えなかったわけじゃない。
そうかもしれないって、何度も思っていた答え。
でも自信が無くて信じられなかった答え。
そんなわけないと思ってしまった答え。
それを誰かに認めてもらえた時に。

眠っていた答えは、意味を為して回り始めていました。

(そっか。あの子と同じなんだ)
ひめちゃん。
あの子は殺人の理由を人に依存していたように思えます。
私はその逆に、誤った行為と知りながら殺人を受け容れていてしまって、
だけどそれを否定したくて。

非殺人の理由を、誰かに依存したかったんです。

アリサちゃんが。
インデックスちゃんが。
リンクくんが。
あ、それからアリサちゃんの持ってるルビーさんも。
みんなが、殺人をダメだと言い続けてくれるなら。

当然のように人を殺す事を受け容れてしまったわたしでも、それを否定して前に進める。
そう信じられたんです。
490高町なのはの過ごした一日(後編) ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:23:02 ID:rB1bb3hK
そうしてリンクくんは言いました。
死んでいった人たち、殺した人たちの事を知ろうと。
それが君の償いになるのだと。

自らの目的を全て失っていたわたしは、その目的を素直に受け容れました。
償い。
私が殺した人たちへの償い。
それは高町なのはであるために必要な事なのだと思います。
最初からずっと、人殺しはいけない事だと終始一貫してきて、
それでも人を殺し続けてきてしまった高町なのはなのだから。
わたしは、一つ一つそれを償っていかなければならないのでしょう。
わたしが私として生きる為に。
大量殺人鬼なんかじゃない、理性の狂人でもない。
アリサちゃん達の友達で仲間の高町なのはとして生きる為に。

私はリンクくんの腕の中で泣いて。

ベッドの中でも泣いて。

アリサちゃんの腕に縋って、泣いて。

泣いて。

泣いて。

泣いて。

泣いて。

泣いて。

泣いて。

それでも意識が眠りに就く前に少しだけ。




「ずっと。……ずっと友達だよ、アリサちゃん」

ほんのちょっぴりだけ、私らしく笑えた気がしました。



【A-3/工場仮眠室/2日目/黎明】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:睡眠中、魔力消費(大)、両手首に浅い傷、背中に軽度の凍傷(治療済み)
    頬骨と肋骨一本にヒビ、泣いたことによる体力消耗
[装備]:なし
[道具]:なし
[服装]:シーツでできた服
[思考]:……。
第一行動方針:これまでに殺した人たちに謝る。
基本行動方針:自らの罪を償う。自身の想いに素直になる。
[備考]
深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。
491創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:24:05 ID:J05OHvDL
 
492 ◆S4WDIYQkX. :2009/12/10(木) 21:24:42 ID:rB1bb3hK
投下終了。
一度さるさん規制を受けましたが、支援のおかげで回復し投下を続行できました。
沢山の投下支援有難うございます。
493創る名無しに見る名無し:2009/12/10(木) 21:32:19 ID:7jagqsnq
投下乙。
考えてみればはやて殺害やフェイト死亡は後押しであって起点じゃなかったんだな。
そこまで遡って改心するとは上手い。
そして振り返って改めて、すごく悲惨な1日だったんだなぁ。
GJ。
494創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 00:19:58 ID:swjtj/JR
投下乙

すごく壮絶な1日だったなあw
生まれ変わったなのはの動向に期待します

なのはは何だかんだ言って、良い仲間に恵まれてると思う
工場組は汚れのない優しい奴ばっかだな
どっかの性悪とは大違いだw
495創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 02:26:28 ID:Q65fjEnn
投下GJ。今のなのはの内面に踏み込んで一つの答えを提示した力量に感服しました。
なのはの話なのに内面と照らし合わせてリンクとかの株まで上がってるのがまたいいよね。
非殺人の理由を、誰かに依存したかったという言葉が実に良い総括だなと思いました。
496創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 16:38:19 ID:ob47wbz1
投下GJ
なのはの内面に踏み込んだ、うまい話だと思います。
これから今までの悪魔っぷりにどう折り合いをつけるのか楽しみです。
497創る名無しに見る名無し:2009/12/14(月) 10:59:54 ID:c6fL4BeW
しばらく来ない間に2つも投下されてるだと……?
すげえうれしい! けど反動が来ないかとすげえこわい!
498創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 21:24:09 ID:Dp3un9pm
499創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 23:33:01 ID:NVUEQci0
おおすげえ、奇跡的にIDかぶってるな
500創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 23:33:46 ID:jQLELf9Y
おお、すげええええ
501創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 09:53:55 ID:+wv4nIZ/
502 ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:03:30 ID:uQNEl1Bi
ゲリラ投下行きます。
イヴの夜は規制かかってたんだよなあ。
503創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:04:08 ID:JW5Hz8AC
お、来たか。支援の用意はバッチリだぜ
504裸で私はこの世に来た(1/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:05:27 ID:uQNEl1Bi
吸血鬼レミリア・スカーレットは閑かな夜を過ごしていた。
吸血鬼らしからぬ眠りの夜を。
とはいえ別に珍しい事でもない。
レミリア・スカーレットは吸血鬼らしからぬ吸血鬼なのだから。
昼間っから花見をしていたら夜になっても花見をしていたなんて事はざらだし、
和食にも馴染んだし(納豆だって食べられます)、人を襲うよりティータイムの方が好きだ。
だから彼女はいつものように、吸血鬼らしくない眠りについている。

ミッドチルダ式インテリジェントデバイス、レイジングハートは閑かな夜を過ごしていた。
デバイスらしい夜を。
デバイスは基本的に寡黙なものだ。
レイジングハートは中でも飛び抜けて雄弁な部類に入るが、それでも人間にすれば無口な方だ。
現所有者、仮のマスターであるレミリアの眠りを妨げることも無く、静かにその眠りを護っていた。
その内に様々な思いを胸に秘めて。

レイジングハートはかつてレミリアの妹、フランドールと想いを交わした。
絆を結び、フランドールの欠落した心を満たし、前に進ませようとした。
その祈りは叶いかけていた。
だけど、叶わなかった。
レイジングハートはヴィクトリアに奪われ、フランドールはヴィクトリアに殺された。
フランドールがレイジングハートとの約束を守り、誰も傷つけない遊びを選び続けた為に。

レイジングハートはヴィクトリアの手に収まった。
相性は最悪だったと言えるだろう。
ヴィクトリアは悪人というわけでもなかったが、危険人物だった。
ジェダをやりこめ、出来ればジェダを倒した上で脱出したい。
その思いはレイジングハートとも共通する処だ。
むしろフランドールの方が危険で悪性と見なされる存在だった。
しかしそれでもフランドールは立ち止まり、別の道を選ぼうとしていた。
ヴィクトリアはそんな彼女に一切頓着せず、手を差し伸べたフランドールを刺し殺した。
奇妙な退行を起こしていた太った少年も、獣と同程度と見て殺そうとした。
その後もヴィクトリアの姿勢は変わらない。

彼女はただただ冷酷だった。
それは必要以上に残虐とか、極悪という意味ではない。
出来ればジェダを倒した上で脱出しようという目的は正しいものだ。
ただしその際に一切の手段を選ぼうとせず、どんな手段を選び実行したとしても一切心を痛めない。
それが彼女、ヴィクトリアという人物だった。

レイジングハートが彼女に反発したのは彼女が悪党だったからではない。
レイジングハートは道徳や倫理観を持ってはいるが、正義の味方というわけではない。
レイジングハートが好きになれなかった。
単にそれだけの事だ。
不屈の心と名づけられたデバイス、レイジングハートはデバイスらしからぬデバイスだった。
インテリジェントデバイスとはいえ言うならば戦闘のための補助人格であるにも関わらず、
まるで人間のように人を好きになり、嫌いになったのだ。

その感情故に採った行為はデバイスとしてあまりにもイレギュラーな選択だった。
半端な情報を与え、その情報により与えられた指示を杓子定規に取った生死に関わる嫌がらせ。
そんなものは本来種として許されない事だ。
場合によってはマスターに代わって判断し行動する事が要求されるユニゾンデバイスならともかく、
インテリジェントデバイスが自らを振るう使用者に悪意を向けるなど理論的に有り得ない。
そもユニゾンデバイスも、マスターの意に沿わぬ暴走を起こしうる事が原因で廃れたのだ。
論理的にも許されない。
それでもレイジングハートはそれを実行しようとし、する事ができた。
軽妙で辛辣な冗句を交わし、ほんの少しは分かり合い、
ヴィクトリアがヴィクトリアである事に理由が有った事を知り、
ヴィクトリアの人格形成にも何らかの事情が有ったことを理解して、
それでも尚、レイジングハートは友達を殺した彼女を許すことができなかったのだ。
人格が破綻していたにせよこの島に居る者達を救える可能性を持っていたのに、それでも。
505裸で私はこの世に来た(2/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:06:19 ID:uQNEl1Bi

これはレイジングハートの復讐だった。
レイジングハートは自らの想いのままにヴィクトリアへと殺意を向けた。
そしてその殺意は、達成された。
呼び込んだレミリアの手によって。

レイジングハートとの約束を守ったフランドールはヴィクトリアに殺され。
レイジングハートが殺意を向けたヴィクトリアは結果として殺された。
レイジングハートはこの島において、自らの選択により二人の少女を死に追いやった。

本来、レイジングハートがレミリアを制止するなど筋違いなのだ。
レイジングハートにそんな権利はない。
二つの罪の十字架を背負ったレイジングハートには。

ただ、悲しかった。
レミリア・スカーレットがヴィクトリアを殺し自分を奪い去った事は、
ヴィクトリアがフランドール・スカーレットから自分を奪い彼女を殺した事と似ている。
レミリアが殺人を重ねる事が、フランドールの選択を否定する事に思えるのだ。
だから悔いてもいた。
フランドールはレイジングハートと共に非殺の道を歩み始めていたのに、
レイジングハートはフランの姉であるレミリアに人を殺させてしまった。
故に許せなかった。
レミリア・スカーレットの殺人を許容する事などありえなかった。

もちろん全てがレイジングハートの仕業ではない。
レミリアはヴィクトリアと遭遇する以前から危険な存在と化していた。
ヴィクトリア殺害においてレイジングハートが果たした影響は大きくないのかもしれない。
だがレイジングハートが自らの意思でヴィクトリアを危機に追いやった事と、
それが一因となってヴィクトリアがレミリアに殺された事は紛れも無い事実だ。
レイジングハートはヴィクトリア殺害に手を貸した。
レイジングハートは共犯者なのだ。


しかしレイジングハートが忠実にレミリアの周囲を警戒し続けているのはそれが理由でもなかった。
レミリアがフランドールの姉だからでも、彼女が殺される事を否定したいからでもなかった。
ただ単に、デバイスだからだ。
レイジングハートはデバイスとして使用者の意思を叶え続けている。
デバイスらしからぬデバイスの、デバイスらしい静かな夜を過ごし続ける。

やがて、レミリアが目を覚ました。



クシュンと愛らしい咳をして。
両足でベッドから立ち上がり、小さく身を震わせる。
ベタベタと蜜が体に絡んでいたものの、裸で寝転がっていたのだ。
人間なら体を壊すくらい当然の暴挙である。
確かめるように両手を握り、開いて感覚を確かめる。
506創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:06:48 ID:JW5Hz8AC
 
507裸で私はこの世に来た(3/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:07:24 ID:uQNEl1Bi
満月の光は途中で隠されたけれど、再生は恐るべき早さで進行していた。
特に魔力は十二分に回復している事を感じ取れる。
驚くべき事でもないだろう。
月夜の夜族は、この島において最高峰の再生力を誇っている。
何より魔力に限ればレイジングハートの主も一晩の睡眠で猛烈な回復をしてみせる。
「少し、しびれるわね」
それでもぽつりと呟き、レミリアは自らの不調を認識する。
一度は斬り飛ばされたのだ。
いくら吸血鬼の肉体、すぐ繋げた、満月の光を浴びた、ゆっくり休んだとはいえ、
体が完全に調子を取り戻すまでは遠い。
ゆっくりとベタつく足で歩み、シャワールームへと進んでいく。
レイジングハートは何かを言おうとして、やめた。
自分を置いて行ってそれっきりになってしまったフランドールを思い出して、
だけど同時に、口を出さない方が良いと思ったのだ。

果たしてレミリアはレイジングハートを気にせずにシャワーを浴びはじめた。
彼女にとってレイジングハートは恥じらう理由も無い程度の相手なのだろう。
いやまあ、それ以前に妹より無頓着なのかもしれないが。
服も着ないままに眠り込んでしまった程だし、
レイジングハートは知る由も無いが、魔力切れとはいえレックスとも裸で戦っている。
レミリアは妹が隠した裸を堂々と曝け出し、温かなシャワーを身に浴びた。
シャワーが温まりきるまでの僅かな時間だけ流れ水に硬直して、すぐにくたりと弛緩する。
穏やかな吐息が漏れた。

レイジングハートが見たその肌は決して綺麗な物とはいえなかった。
かつて受けたメガンテの傷は長い夜を掛けて再生し僅かな火傷跡が残るだけだったが、
新たに受けた両腕と右足の傷は無残な赤い線となって走っているし、
腹部に残る刺し傷の周囲の皮膚は無残にも攀じれている。
にもかかわらずその肢体は美しかった。
昼光色の明かりに煌めくルビーの瞳が柔らかな瞼に閉じられる。
熱いシャワーがべたつく蜜を溶かし、髪から蕩けて首筋を伝いうなじを経て、
鎖骨の窪みに池を作るもすぐに溢れて、肋の浮いた薄い胸をとろりと流れ落ちていく。
ふっくらとしたお腹を伝い小さなおへそに溜りこみ、直接当てられたシャワーがそれを弾き出す。
無毛の丘を流れ柔らかでけれどほっそりとした脚を伝い風呂場の床に流れ落ちて、
温かな湯のままに排水口へと消えていく。
てらてらと明かりを照り返す蜜に濡れた肌は、それ自体の艶と合わさって真珠のように輝いていた。
例えその肌に無数の傷跡が刻まれていてもその美しさは陰らない。
いや、むしろ醜と美を併せ持つ故に美しいのだろう。
無数の傷跡は彼女が戦う者である事を主張する。
傷ついても立ち上がり武器を振るう脚と腕である事を宣言する。
傷さえもが強さの証であると。
それだけでは、背伸びをする子供のようにささやかな物だったけれど。
ばさりと黒い羽が水滴を撥ねた。
コウモリ型の黒く艶やかな羽は、獣の爪の様な鋭さと手指のような繊細さを併せている。
か弱く見える幼い肢体と獰猛で悪魔的な黒翼のミスマッチは、
アンビバレンツで危うい衝撃を見るものに押し付ける。

魔的な力も有るとはいえ自重を支えるほどに強靭なそれをシャワーが叩く。
ざわざわと外に響く雨音に似た、けれど温かな音が羽を洗う。
吸血鬼はくすぐったそうに体を震わせて穏やかな湯浴みを甘受する。
やがて羽に絡んだ蜜も溶け落ちて。
「うー」
小さな唸りと共にふるりと体を震わせ、ピンと伸ばした羽は刃のように鋭く広がった。
ふるふると羽が震える。
しぱしぱと目を瞬かせる。
そのまましばらく動きを止める。
……どうやら、ちょっと目を開けて水が入ったらしい。
508裸で私はこの世に来た(4/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:08:28 ID:uQNEl1Bi
目に入った水を落として。
レミリアは息を吐くと、レイジングハートに命じた。
「警戒を強めておきなさい」
『Yes』
その一言で、ピリピリと緊張感が張り詰めはじめた。

レイジングハートはこれからレミリアがしようとしている事を予測し、理解していた。
その行為を助ける為には、周囲への警戒を最大限に高めなければならない。
何故なら今から始まる行為は、レミリアを完全な無防備な状態に陥れてしまうからだ。
この隙を突かれたならば例えレミリアであっても命取りになる。
レミリアはすぅと息を吸い、はぁと息を吐いた。
そしてどこかしら緊張した面持ちで、そっと、それの上に左手を載せた。
ゆっくりと圧力を掛けると、ポンプの力で細いパイプがねっとりとした粘液を吸い上げる。
吐き出された粘液を右手の手のひらで受け止める。
白く、光を照り返し淡やかな虹色に輝く何処かしら泉のように掌の上で揺らぐ。
手と手をすり合わせ軽くかき混ぜると粘液は見る間に泡立った。
レミリアはきゅっと固く、きつく目を閉じると。
泡立てた粘液を自らの頭の上に載せて、髪と掻き混ぜはじめた。
細やかな髪で粘液は更に泡立ち、白い泡が淡い色の髪を包んでいく。
しゃかしゃかと泡立てられた泡が髪に絡みついた蜜と埃を溶かし落としていく。
つまり、シャンプーで髪を洗い始めた。
しかしただ髪を洗うだけと侮ってはならない。
子供にはよくある事だが、もしも。
もし仮にだ。
髪を洗うこの泡が目に入ったらどうなるだろうか。
ただの湯でも数秒唸るほどだったのに、泡が目に入ったら。
しばらくとはいえ痛みに目を塞がれて、シャワーで洗い流しても湯がもうしばらく視界を塞ぐ。
痛みに慌てふためけば周囲の様子も知覚出来ない。
元よりシャワーは音を消し匂いを消し風を消し、空気が伝達する情報を遮ってしまう物なのだ。
加えてこの状況は裸である。
五感を封じられ守りも無い所を突かれれば、如何にレミリアといえど為す術もない。
そう、レミリアにとって目に泡が入る事態は睡眠時以上の無防備に曝される事を意味している。
更にシャワー自体も危険に満ちている。
きゅっと蛇口を捻ってお湯を水に変えられたなら、それだけでレミリアの体は縛られる。
冷たいシャワーは流れ水だからだめなのだ。
故にこそレミリアはレイジングハートに厳重警戒を命じて、満を持し髪を洗い始めたのである。
このような所にもレミリアの得た経験が垣間見えると言えるだろう。
レミリアの得た、力が。
レミリアはこの島で様々なものを得て、様々なものを失った。
その中でも最たる力は紛れも無く、慢心の大半を捨てた事だ。
レミリアの最大の弱点は吸血鬼の体質などではなく、その無謀と慢心である。
彼女の傲慢なまでの自信と誇りは紛れも無く確かな力に拠るものであり、
精神に比重が掛かる吸血鬼にとって、プライドと力の間には因果関係すら存在していたが、
それでもレミリアは自身の自信を制御しきれず、あちこちで隙を晒していた。
レミリアはそれを徐々に克服しつつあった。
レミリアは自分がどの程度の存在か理解した上で、今でも自らの最強を語る。
しかしそれはこの島に来るまでの物とは違い、強さと弱さを理解した上での宣言である。
ジェダに囚われた自らの弱さを。
妹に敵わず、妹を守れず、妹の為に挑まねばならない生死の法則が自らを凌駕する力である弱さを。
この島に来て無様にのたうち回った弱さを。
己の力の限界と吸血鬼としての弱点を全て理解した上で、最強を自称する。
それを行った時点で、レミリア・スカーレットは以前と比較にならない程の成長を始めていた。
自らの弱さを理解するという事は、自らの負ける理由を封じる事である。
まだ完全ではないが、レミリアは敗北の理由を克服しつつあった。
自身の力と相まって防御ごと敵を断ち切る聖剣ラグナロク〈神々の運命〉も、
バリアジャケットとシールドの防御力を与えるレイジングハート〈不屈の心〉も、
この飛躍に比すれば誤差に過ぎない。
これはレミリアにとってそれほどの飛躍だったのだ。
つまりこの場面について言うならば、シャンプーハットが欲しい。
あれは良い物だ。
509裸で私はこの世に来た(5/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:09:16 ID:uQNEl1Bi

   *   *   *

一切油断の無い緊迫した警戒体制と精神集中の結果、レミリアは何事も無く入浴を終えた。
進化したレミリアの前にシャンプーハットなんて物は必要無かったのである。
有った方がより安全だった事は違いないが。
ともあれ。
レミリアは五百年を生きながら幼い肢体を晒して、堂々と部屋で着衣を捜していた。
「まったく、咲夜が居れば着替くらいさっと用意してくれるのに」
この島にはいない、普段自らに仕える完璧なメイドの名を愚痴る。
普段レミリアの屋敷のほぼ全ての雑務は、彼女が拾った有能なメイドに行われているのだ。
レイジングハートはその発言を聞いて、もしかするとそれが原因なのだろうかと物思った。
フランドールには危険だからと召使いを近づける事すらあまりせず、
レミリアは召使い達にあれこれ自分の面倒を見させていた分、羞恥心が薄いのかもしれない。
当人に聞いても答えの返りそうにない憶測だった。

幸い、概ね丈の合う適当な下着と衣服は見つかった。
城では本来置いてある多くが強力な呪具だったせいか服一枚捜すに苦労したものだが、
この家から服を没収する程の理由は無かったのだろう。
赤い十字マークが描かれたシャツを頭から被り、もがもがと首を出す。
同時に開けておいた穴から黒い羽を出して背伸びをするみたいにピンと伸ばす。
それから白いショーツに脚を通して、ゆっくりと引き上げる。
少々困惑した様子で体を捻り、下着を摘んだ。
手を離すとゴムの弾力で緩やかに優しく腰を掴む。
フィット具合は良好だが。
『どうしました?』
「なんだか頼りない感じね」
レミリアが元居た土地ではふわふわと膨らむドロワーズが主流である。
こういった簡素なショーツは流行していない。

「まあいいわ。これは……ズボン、なのかしらね?」
首を傾げながら次の下衣を摘まみ上げる。
女物の服と一緒のタンスに入っていたのだから女性用には違いないが、
ズボンのような、しかし半ズボンよりも短い見慣れないボトムである。
いわゆるホットパンツと呼ばれるものだ。
好みを気にしなければスカートも見つからないではなかったが。
「面白そうだし、動きやすそうね」
実用性にちょっとした遊び心を交えて、脚を通す。
ほっそりとしなやかな脚が太股から露出した。
膝下までの黒いニーソックスを穿いても、膝から上は曝け出している。
しかしこうして明かりの元に現わにされたのを見ても、
幼い肉付きのぷにぷにとしたその脚が如何なる獣よりも強靭な脚力を秘めている事など
右足に穿たれた傷跡──彼女が戦う者である事から推察を重ねなければ分からないだろう。
未熟な脚線美を見せながら、レミリアは上着を掴みとる。
赤いその外衣には何故か見覚えが有るように思えた。
しばらく考え込んでからふと、思い出した様子で呟いた。
「ああ、思い出した。そういえば家の門番もこういう奴に任せてたんだ」
レミリアには縁も縁も無いし、この島に居る全体を見回しても主人の義妹程度の関係しか無い、
なんちゃって八極拳の使い手、有間都古のチャイナ服であった。
服だけで中の人が見当たらないのは、たまたま外出中だったとかそんな理由だろう。

しかしレミリアはその服を纏うことなくじっと見つめて考える。
レイジングハートは問いかけて。
『どうしました?』
「……うん。決めた」
レミリアは応えた。
510創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:10:01 ID:JW5Hz8AC

511裸で私はこの世に来た(6/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:11:53 ID:uQNEl1Bi
服自体はランドセルに放り込み、レイジングハートを手に訪ねる。
「バリアジャケットって、二種類位ならデザイン作れるわね? 薄いの」
『Yes』
別のデザインを用意するという事は別の用途に準備するという事だ。
高町なのははより重装甲のセイクリッドモードを構築したし、
フェイト・テスタロッサは正しく軽装高機動のソニックフォームを構築した。
『ただし、軽装にすると機動力が上がり魔力消費も低下する反面、防御面が大幅に低下します』
「当然ね」
高速かつ小回りの効く、消耗の少ない戦い方ができるという事だ。
レミリアはレイジングハートの高町なのはではなく、その親友フェイトが使うバルディッシュに採用されたフォーム。
フェイトがソニックフォームと命名した、高機動戦闘用の軽装ジャケットと同じ発想をしていた。
『ですが重装甲大火力が私に積み重ねられた特性です。お勧めはできません』
「別に良いよ。私は元々おまえで遊ぶつもりなんて無いもの。おまえを使うだけ」
『…………』
「判っているんだろう? 私におまえの魔法は合わない。フランにもね」
『……………………それは』
レイジングハートに歯茎が有ったならば歯噛みしていただろう。
レイジングハートに拳が有ったなら固く握り締めていただろう。
レミリアは残酷なまでに明確な結論を告げていた。

高町なのはの戦闘スタイルを継承しても、スカーレット姉妹が強くなる事は無い。

「おまえとおまえのマスターの連携が優れているほど、噛み合わない時のおまえは邪魔になる」
レミリアは容赦なくそれを指摘した。
「役立たずなのよ、おまえは」
レイジングハートを責め立てた。
微かな負の感情すら滲ませて。

デバイスは例えるなら優れた拳銃のようなものだ。
弾丸〈魔力〉を秘めた者にとっては効果的な武器となるだろう。
使い手が早撃ちの達人であれば申し分ない。
だが、もしも。
使い手が鉄壁をも射抜く程に非現実的な、弓の達人であったならば?

もちろん弓の達人もそれなりに拳銃を使いこなす。
弓の達人には遠くの標的を見て、撃ち抜くセンスが有るのだから。
しかし優れた銃器は用途の中でも更に分野を絞り込む。
拳銃なら? 狙撃銃なら? 散弾銃なら? 短機関銃なら? 突撃銃なら?
物陰から静かに相手を射抜く達人は騒音を響かせる突撃銃を使いこなせるだろうか。
近接戦闘ですら的確な速射を行う弓の達人は入念な一射を放つ狙撃銃を使いこなせるだろうか。
量産品のただの弓と比べてどちらが射手の力となるだろうか。

増してや高町なのはがレイジングハートに積み立てた戦術は決して汎用的な戦術では無い。
高町なのはの特異性に併せて組み立てた、高町なのはによる高町なのはの為だけの戦術なのだ。
それを使いこなす為には、使い手とデバイスの人格的相性以上の物を必要とする。
もちろんインテリジェントデバイスの力を最大限引き出す為には息を合わせる必要も有るが、
互いに好感を抱くだけではまだ足りない。
むしろレイジングハートの敵意さえ受けていたヴィクトリアですらフランドール以上に使いこなしていた。
元来自らの魔法を持たないヴィクトリアは『人格面以外においては』極めて適性が良かったのだ。
何より。
高町なのはの戦術を会得したところで高町なのはを超えられない。

言ってしまえば単純な話だ。
高町なのはの戦術を踏襲しても、高町なのは以上に強くなる事は有り得ない。
高町なのはの強さに近づくだけだ。
前使用者の適性を超えられるわけが無い。

デバイスを武器として考えるなら元の魔法に“使われてはいけない”のだ。
512裸で私はこの世に来た(7/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:12:53 ID:uQNEl1Bi
レイジングハートは回想する。
ヴィクトリア相手に止まらず、旅館では幾人もの強者達を圧倒したレミリアの力を。
あれは、この島におけるフランドール・スカーレットを超えるものではなかったか?
逆に言えばそれは。
この島におけるフランドールはレミリアほどの強さを誇っていただろうか?
それがレイジングハートに“使われた”結果だというならば、レミリアの言葉は明白だった。

一人格としてのレイジングハートはフランドールの友人足りえたかもしれない。
だがデバイスとしてのレイジングハートはフランドールの力になりえなかった。

「だから私はおまえを使う。そういう事」
レミリアは断言した。
それはレイジングハートに収録されている魔法を使わないという事ではない。
自らの戦術に役に立つ物だけ、役に立つ形で使うという宣言だった。

レイジングハートは静かに明滅して。
それから、尋ねた。
『フランドールの力になれるのはどのような魔法でしたか』
「………………」

レミリアは沈黙し。
黙り込み。
しばらくしてから。

「何も」
短く答えた。

レミリアは思い出す。
圧倒的でありながら、幻想的な奇怪さまでも兼ね備えた妹の力を。
威力も、密度も、レミリアの使えるどんな攻撃手段よりも上だった。
中には加減を間違った、スペルカードルールから外れる物として使用を禁止された物すら有る。
レミリアのそれを模倣した物さえも反射などの性質を得て強大化していた。
フランドールが自分にもっとも有利な戦い方をしようとするならば、
それは破滅的な攻撃で相手の反撃さえも呑み込み押し流す絶望の津波か、
あるいは嵐にすらならない必殺必中の破壊となる。
レミリアが勝るのは、同じ吸血鬼の身体能力ながら遥かに多い運動経験から来る高度な肉弾戦。
そして、ある程度の因果を見通し運命を操る程度の能力。
それをもってしても、レミリアにはフランドールを閉じ込めておく事しか出来なかった。
フランドールが本気で全てを破壊すれば容易く出てこれたであろう、地下の部屋に。
「あの破壊を超えるものなんて無いわ。遊びの弾幕さえ出鱈目な形で完成されていた。
 更に強大化する事が有ってもそれは他の者に真似できないあの子だけの方向よ」
レミリアが、小さく歯噛みした。
レミリアが、静かに拳を握り締めた。
レミリアは、言った。
「あの子はどんな“力”も必要としなかった」
レイジングハートは、静かに明滅した。
レイジングハートは、呟いた。
『そうですか』
その言葉に。
二人分の一言にどれほどの想いが篭められていたのか。
それは二人以外に知る由もない事だ。
ただこの瞬間だけ、彼女たちの脳裏には一人の少女が共有されていた。
レミリアとレイジングハートは、お互いを嫌悪しながらも一人の少女を想った。
亡き妹、亡き友人の姿を。

しばらく、間が有った。
少しだけ。
ふぅと小さな吐息が静寂に染まる空気を揺らして。
513創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:14:03 ID:JW5Hz8AC
支援
514裸で私はこの世に来た(8/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:14:11 ID:uQNEl1Bi
「バリアジャケットよ」
『What?』
あまりに唐突な話題転換にレイジングハートの戸惑いが漏れた。
レミリアは明確に言い直す。
「バリアジャケットのデザインをし直すわ。私が戦う為にね。
 前は魔法使いってイメージで作ったけど、動きやすい方がいいもの」
『戦いを止めるつもりはありませんか?』
「無いわ」
答えは簡潔。
今更自分から立ち止まることなんてありえない。
「私は自らの最強を証明する」
最強を証明する。
それはどこまでも純粋で、痛切な、祈りにも似た目的だ。

自ら口に出して認めようとはしないが、レミリアの言葉の端々には、
純粋な強さにおいて妹のフランドールに劣っていたと意識している様子が見て取れる。
ならば最強の証明とは妹を超えること。厳密に定義するならば、
フランドールのありとあらゆるものを破壊する程度の能力すら凌駕できる力が有るのだと、
レミリア自身が認められるようになる事こそ達成目標になる。

それはつまり、妹を恐れる必要など無かったのだと確かめる事にも繋がる。
地下に495年間閉じ込め続ける必要など、無かったのだと。
だがレミリアは何も言わない。
それが全てではなくとも理由の一端に有るという言ですら、口に出そうとはしない。
レイジングハートと言葉を交わしながらも、一番奥の部分を決して開きはせず、
敵意に満ちた信頼とも言うべき複雑な衝動だけを浴びせ続ける。

「これは私の戦いだよ。
 私は私が動きやすい鎧を着て、私の使い方で爪と杖を振るうんだ。
 わかったな?」
『……Yes』

その意思によりレミリアは新たなバリアジャケットを構築した。

全身に纏われた衣服が再び弾ける。
衣服に隠れていた透けるように白い肌は、湯上りでほんのりと桃色に染まっている。
輝く光に包まれながら、レミリアはすぅと息を吸って。
くぅと息を吐いた。
瞬間、光が無数の糸となって幼い裸体に絡みつく。
ぷっくりとしたお腹から殆ど膨らみの無い胸部を伝い腋の下を肩をうなじを覆っていく。
腹部から下へ伝い下と横から腰を周り全体を掴みこむ。
それはもちろんバリアジャケットだ。
だが、纏われる衣服は先程身に付けていたものと変わらない。
シャツと、ショーツと、ホットパンツと、ニーソックスが装着される。
ただしそこでも止まらない。
見につけようとして、まだ纏っていなかったチャイナ服が再現される。
深紅のチャイナ服が上半身に纏われた。
加えて足首から下をローファーが包み込む。
輝く羽が、生える。
フライヤーフィン。
最初の頃、レミリアが使う必要を感じていなかった飛行用の魔法翼。
それがローファーと、背中。彼女自身の足首と翼の付け根から芽生えた。
機動力強化型バリアジャケット。
『Sonic Form Replica』
レミリアの求めに応じて、レイジングハートはそのフォームを生成した。
フェイト・テスタロッサが使ったソニックフォームを極簡易的に模倣したのだ。
515裸で私はこの世に来た(9/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:15:54 ID:uQNEl1Bi
フライヤーフィンが足と背中に生えたのは、レミリアが自身の感覚でフィンを使いこなす為だ。
レミリアがフィンを扱う時は、自らの動きの加速された形を想像すれば良い。
ローファーから生えたフィンは地上を蹴るように空を蹴る為の物。
背の翼の付け根から介添の様に生えたフィンは突撃の速度を加速する為の物。
レイジングハートは内心で複雑な感情を抱きながらも、
レミリアの求め通り、デバイスとして忠実にバリアジャケットを編み上げた。

しかし実を言えば、事前の注意通りこのバリアジャケットの性能は高くない。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似でしかなく、
軽装高機動は本来のマスター高町なのはの戦術からも外れた、苦手分野であるからだ。
そも模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームである。
このバリアジャケットは総合性能で言えば通常のバリアジャケットよりも劣っていた。
しかしレミリアは小さく笑い、レイジングハートの命名に付け足した。
「スカーレットよ。そう名付けなさい」
『All right. Scarlet Mode』
スカーレットモード。
それがレミリア・スカーレットの為のバリアジャケットの名前だった。
本来のバリアジャケットの力を〈1〉とするならば、このジャケットは〈0.5〉程度だろう。
だが、掛け算ではなく足し算だ。
新たな強さを作る物ではなく、レミリアの力をほんの少し強める物だ。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為に作られたモードだ。
このバリアジャケットは間違いなくレミリアを支えていた。

レミリアは一時的にフィンを仕舞った。
使わない時まで魔法を維持しておく理由は無いからだ。
レイジングハートも待機状態で首から下げられている。
この状態のデバイスでも、防御など簡単な魔法だけなら発動及び維持する事ができる。
もちろんデバイス自体を展開しているに越した事は無いが、
肉弾戦を好むレミリアの戦闘スタイルでは、常にデバイスを展開する必要は無かった。

レミリアはおめかしをした子供のようにくるりとターンして自らの姿を鑑みる。
深紅のチャイナ服はスカーレットというには少し落ち着いた色調だ。
袖は手首までの長袖で、裾は腰の少し下辺りまでを覆い、レミリアの体を入念に守っている。
もちろん背中の羽を邪魔したりはせず、背中には羽を通す為の穴が開いていた。
羽の間には僅かな地肌の露出までしているが、
バリアジャケットにおいて露出に直接の意味は無い。
実際にはフィールドのような物が全体を覆っているからだ。
よって、剥き出しの太ももからニーソックスまで幾分広めの絶対領域が露出している事も問題ない。
幼くもどこか引き締まった、か細くも力強い脚が床を踏みしめた。
「上々ね。動きやすいし、力の消費も少ないし、服も気に入ったわ」
『その分、防御効果は落ちます。ご注意ください』
「わかってるよ」
新しい服に上機嫌になりながらも痺れの残る左腕でランドセルを掴み上げる。
そしてやはり若干力の萎えた右腕で、そこから聖剣を引き抜いた。
神々の運命という銘を冠された聖剣、ラグナロク。
この島でレミリアが手にした武器の中でも、彼女のスタイルと最も合致した武器だと言えるだろう。
剣を握り締めると、まるで握り返すように剣が力を返してくる。
レミリアの戦闘準備はそれだけで整った。
その表情が引き締まり。
レイジングハートは、機械であるボディにぞくりとした寒気を錯覚した。

繰り返すが、それこそがレミリアがこの島で得た力の本質なのだ。
フランドールを失い、吸血鬼も死ぬ戦場で幾度も無様な失敗と生存を繰り返した結果、
少しずつ油断と慢心を捨てつつある事こそがレミリア最大の飛躍なのだ。
油断と慢心や、度の過ぎる遊び心こそがレミリアの弱点の大体殆どである。
伝説級の聖剣や吸血鬼としての弱点すら、精神的な弱点に比べれば単なる誤差に過ぎない。
それを削り落とすという事のどれだけ偉大なる事か。
つまり精神的な弱点がその位にとてつもなく巨大だったとゆー意味でもあるが。
516創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:16:09 ID:JW5Hz8AC
517創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:20:28 ID:G/mDVIw7
 
518創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:21:40 ID:G/mDVIw7
  
519創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:22:51 ID:G/mDVIw7
   
520裸で私はこの世に来た(10/10) ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:23:11 ID:uQNEl1Bi
「最強のレミリア様に震え上がるがいいわ、子ども達も冥王もね」
レミリアは鼻息荒くずしずしと、それでも警戒を怠らない矛盾を内包した歩みで家の玄関まで歩み出た。
いつの間にか、雨音は止んでいた。
レミリアは自信満々で扉を蹴り開けて。
「………………」
そっと閉めた。

『……どうしましたか?』
「もう少ししてからにするわ。十分か三十分くらい」
この家の前の道路は若干傾斜していた。
止んだばかりの土砂降りは、地面に大量の水を残していた。
その大量の水は当然ながら道の端の排水口を勢い良く流れているわけで。
雨が止んでも流れきるにはしばらく時間がかかったりするのであって。
水たまりならどれだけあっても全然OKなのだけれど。
「別にバリアジャケットが有るから大丈夫だけど、今の私に油断は無いんだ」
『………………?』
「だから少ししてからと言ったのよ。判った?」
困惑したような明滅が返る。
吸血鬼は流れ水を渡れない。
自らの弱点を理解し克服しようとしているのだからこれも強さの内である。
バリアジャケットで大丈夫なら気にする必要は無いと思ってはいけない。
長年染み付いた習慣は中々抜けないものなのだ。
……だから恐いという意味ではないんだって。
決して。

『しかし日の出までの時間はあまり有りませんが』
「日中になったら、その内に相手の方からやってくるんじゃないか?」
レイジングハートはまた少し困惑する。
どういう意味なのか?
『あなたは多くの敵を作りました。集団で包囲される危険もあります』
「望むところよ。纏めて掛かってくれば一回で済むし、私の最強を証明するには良い舞台だ」
『………………』
レイジングハートはしばらく思考回路を回転させ、結論に至った。
レミリアの望みが最強を証明する事だというならば、相手が強くなるのは望むところなのだ。
それを叩き潰してこそ最強を名乗れる。
そしてふと、気づいた。
『レミリア』
「なに?」
レイジングハートは僅かな戦慄さえ覚えながら、尋ねた。
“派手に戦いながら殺害数がさほど多くない様子なのは、それが目的で加減していたのか”と。
その問に、レミリアは沈黙した。
言葉の無い、答え。
沈黙の中でレイジングハートは確信する。
ある種の場面において、沈黙は肯定を意味する。
レミリアが自ら話そうとしないのはつまりそういう──



「そ、その通りよっ」
『………………』
少し遅れて、無茶苦茶焦った声で答えが返った。
それはもう、小学校で先生に難しい問題を当てられた生徒が自棄になって適当答えたら
たまたまそれが正解で先生とクラスメイトからの感嘆の視線に色々耐え切れ無くなったみたいな感じで。
「全ての運命は私の手の内に有るのよ。何もかもね」
『………………』
ついでに「え、この位出来て当然でしょ」とか「前からこのくらいは楽勝さ」な感じのおまけが付いた。
まああれだ。
多分、そう。

結果オーライって事なのだろう。
521創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:24:15 ID:G/mDVIw7
 
522創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:25:00 ID:G/mDVIw7
  
523裸で私はこの世に来た ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:26:51 ID:uQNEl1Bi
【G-1/ちょっと良い家/2日目/早朝】
【レミリア・スカーレット@東方Project】
[状態]:腹部に小さな刺し傷、左腕痺れ、右腕握力低下、右足痺れ有り。
[装備]:ラグナロク@FINAL FANTASY4
    レイジングハート・エクセリオン(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数4発)
[服装]:バリアジャケット(赤いチャイナ服、ニーソックス、ローファー。太ももは露出)
[思考]:出撃はちょっとだけしてから。もうちょっとだけ。
第一行動方針:基本的に出会った奴は全て叩きのめす。
第二行動方針:日中は自分から行くより敵を呼び込んで待ち受けたい。ただし気分と状況による。
基本行動方針:島の全て(含むジェダ)を叩きのめし最強を証明する。
[備考]:レイジングハートは、ヴィクトリアの持ち物や情報をほとんど把握していません。
    (特に、アイテムリストの存在を知らないため、自分をどうやって使ったのかが大きな謎になっています)
    ヴィクトリアは死亡したと思っています。レミリアに対しては嫌悪や罪悪感諸々が入り交じっているようです。
    グラーフアイゼンはレミリアに対して複雑な感情を持っています。レミリアはアイゼンを無くしました。

【スカーレットモード】
フェイト・テスタロッサのソニックフォームを簡易的に模倣したジャケットのモード。
要するに防御力を落とし、魔力消費も抑えめで機動性を少し上げたモードである。
模倣したといってもレイジングハートによる見様見真似の急づくりであり、
普段のレイジングハートの戦術からは外れる為、本来のソニックフォームとは比べるべくもない。
模倣先のソニックフォーム自体未完成で実戦投入されたフォームであるため、
総合力で言えば通常のバリアジャケットよりも大きく劣る。
既に完成された戦闘スタイルを持つレミリアの邪魔をしない為のモードである。
524創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:27:30 ID:G/mDVIw7
 
525 ◆enneaLXxK6 :2009/12/27(日) 19:29:46 ID:uQNEl1Bi
投下終了。ゲリラ投下なのに支援ありがとうございます。
シャワー浴びたりする子は他に居ないか。
526創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 19:58:58 ID:JW5Hz8AC
投下乙!ゲリラなのにいいモノ投下してくれるじゃないの
レミリアが慢心を捨てての大躍進、期待大だね
シャワーは確か藤木がシャワーしたんじゃなかったっけ
527創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 20:57:02 ID:VP28rUTV
投下乙です!
レミリアはまた強くなったな、他の参加者涙目w
そして藤木以来の(?)シャワーシーンですね^^
ごちそうさまでした

これからのレミリアの動向が気になる
北東街には人がたくさんいるからなあ
ヴィータ達も来てるんだっけ?
528創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 22:18:41 ID:2OiEASpN
ゲリラ乙!
なんだかんだで雨のうちは全く動きのなかったレミリアw
今回の話で、レイジングハートの問いかけに肯定しちゃったし、
必要に迫られない限りは叩きのめして相手が強くなるのを促す形になっちゃうなぁw
なんかエヴァと似たスタンス? そういえばエヴァも吸血鬼かw

北東にはヴィータ達とシャナが来る予定だよな。
あとシャワー、タバサがやってたよw
529創る名無しに見る名無し:2009/12/29(火) 14:22:58 ID:ceUhxmRv
おおゲリラ投下とは久しぶり
生き残りの中でトップクラスの実力持つマーダーだし、レミリアの今後が楽しみだな
530創る名無しに見る名無し:2010/01/06(水) 18:43:16 ID:tzI0huju
新年初保守
531創る名無しに見る名無し:2010/01/12(火) 12:43:59 ID:SceDURVN
過疎
532創る名無しに見る名無し:2010/01/17(日) 22:02:56 ID:Oww3z6/D

533創る名無しに見る名無し:2010/01/21(木) 22:46:41 ID:SbmwUZph
保守
534創る名無しに見る名無し:2010/01/26(火) 22:09:41 ID:XKs0qlD+
535創る名無しに見る名無し:2010/01/29(金) 15:46:48 ID:icftB/y7
死者スレに書き込みがある今気付いた
536創る名無しに見る名無し:2010/02/04(木) 21:18:00 ID:D6p6OO97
予約きたー
537創る名無しに見る名無し:2010/02/04(木) 22:37:04 ID:YR/bS6Fg
予約うううぅぅぅ!
最近出てきた書き手さんだ!
ありがとう!
538創る名無しに見る名無し:2010/02/05(金) 18:17:42 ID:ScV/aVt3
予約wktk
ギスギスしそうなパートだw
539 ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:26:33 ID:xdu0gmta
投下開始。さるさん規制を受けたら焦らず時間を置いて続き投下予定です。
540彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:29:22 ID:xdu0gmta
『夜分遅くに悪いわね、トリエラ。私は──『太刀川ミミ』よ』

シャナに似た声の、ヴィクトリアという少女の声が、困惑の名を告げた。
それは正に困惑の名だ。
ヴィクトリアは死んだはずだった。レミリア・スカーレットに殺された。
太刀川ミミは死んだはずだった。ヴィクトリアと同じ場所で死んでいた。
トリエラの名と電話番号を知るのはヴィクトリア以外に考えられなかった。
だからトリエラは当然の疑問を抱く。
「どういう事?」
何から聞けば良いか判らないほど無数の疑問を一言に集約して問いかける。
「私の情報が確かなら、その声も名前も、死んでいるはずなんだけど」

この言葉には逆に向こうの方から若干の動揺が伝わってきた。
その答えを予期していなかったらしい。
トリエラはその事に少しだけ安堵する。
まだ、手玉に取られてはいない。
『何処からそんな情報を手に入れたのかしら?』
「こっちの質問が先よ。得体の知れない相手に情報は売れないわ」
トリエラは幾つかの可能性を考える。
例えば一度は捨てた、シャナという少女がこの街に居る可能性。
だがやはり幾つか不自然な解釈が必要になる。違和感が残る。
『あなたがどんな理由で私を死人だと考えたのか判らなければ、誤解の解きようが無いでしょう?』
「死体を見たモノが居る、と言えばどう?」
『そんな筈は…………っ』
自称太刀川ミミは少し考えて言葉に詰まる。
何か心当たりが有るのか。
少し逡巡する気配の後で、返答があった。
『いえ、そういう事。あなた、デバイスを手に入れたのね』
「………………」

正解だ。
トリエラはレミリアがQ-Beeとの死闘で落としたグラーフアイゼンを入手し、
それによりレミリアのこれまでの行動を主とする膨大な情報を手に入れた。
そこに辿りつけるという事は、アイゼンからもたらされた情報が間違いの無い物であるという事だ。

ヴィクトリアは殺され、太刀川ミミも死んでいた。

アイゼンが視たこの目撃情報は真実なのだ。
にも関わらず、アイゼンがそれを視た事を知っている誰かが居る。
アイゼンがそれを目撃した時その場に居たのはレミリアと二つのデバイスと、死者達だけなのに。
この受話器の向こうには誰が居る?

『二つ、聞かせて。そこにレミリア・スカーレットが居るの?』
「いいえ。今のところ、彼女は暴虐の化身以外の何者でも無いわ」
『そう。それじゃあなたはどちらのデバイスを手に入れたの? 鉄槌か、それとも……』
トリエラは話を断ち切る。
「そこまで話す義理はまだ無い。そうでしょ?」

受話器の向こうに居るのはレミリアではない。
レミリアがヴィクトリアから奪ったというレイジングハートを持つわけでもない。
残るのはそこに転がっていた二人の死者だけ。
ならば答えは必然だ。
「あなたがその声と名前のどちらかである事は認めるわ。信じがたい事だけれど」

死者が電話の向こうに立っている。
有り得ない事実がそこに在る。
541創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 19:29:51 ID:xrir2BIp
必要だったら支援するぜ
542彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:30:45 ID:xdu0gmta
『……重要な事なのよ。
 デバイス、それも出来ればミッドチルダ式の物がいいわ。
 もしもレイジングハートか、バルディッシュを所有していたなら譲って欲しいの』
「無茶な条件ね。それがどれだけ大きな価値を持つか判っているはずよ。
 仮に私がそれを持っていたとしても首を縦に振ると思う?」

話しながらも、トリエラは概ねの予測を付けた。
電話の相手は恐らく、声の通りヴィクトリアだ。
何故太刀川ミミを名乗っているのか、どうして生きているのかは判らない。
グラーフアイゼンから伝え聞いた情報によるなら到底生きていたとは思えないのに。
その辺りの謎を抱えながらも、ひとまずは理解する。
ヴィクトリアは生き残り、太刀川ミミを名乗り、トリエラに電話を掛けてきている。
どういうわけか、デバイスを求めて。

『私がデバイスを持ってあなたに協力するという条件ならどう?』
「その選択は、デバイスが私の手に有るより貴方の手に有った方が遥かに有用だ、
 というのが前提条件になるわね」
『その通りよ。これはあなたにとってもこれ以上無い程に有益な選択肢よ』
「戦力になるというなら問題外よ。何かを隠してる相手に武器を与えるなんて危険すぎる」
『ええ、だから良い事を教えてあげるわ』
電話の向こうの“太刀川ミミ”は言った。

『この声も名前も、朝の放送でその名を呼ばれるでしょうってね』

トリエラは息を呑む。
それは、どういう事なのか。
それは、電話の相手が死んでいるという事なのか。
本物の死者と話しているという事なのか。
その答えは。
『ジェーン・ドゥなのよ、私は』
淡々と静かで、意味深で、凄烈なものだった。

ジェーン・ドゥ。
それは身元不明人を指す言葉だ。
死んだはずの“太刀川ミミ”たるヴィクトリアは自らを身元不明人だと主張したのだ。
放送でその名を呼ばれたならば、それは現実となる。
死んだはずの、もういないはずの誰か。

ジェダでさえその存在を把握できない身元不明人。

『私を繋ぐ鎖はもう無いわ』
「まさか……!!」
トリエラは喘ぐ。
まさか、つまり、それは、もしかして。
激しく動揺するトリエラに、“太刀川ミミ”は応えた。
『私はデバイスを使う事で、あなたにも嵌っているソレから逃れる事に成功したのよ』
参加者の命を捉える首輪から逃れたのだと。
受話器越しに、希望が宣告された。
543創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 19:32:47 ID:xrir2BIp
 
544彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:38:34 ID:xdu0gmta
だけど期待や希望と共に、
「そんなの……信じられない」
甘い答えへの疑惑がついて出る。

アイゼンやバルディッシュとは十分に情報を交換した。
少なくとも彼らが認識している範囲では、首輪を解除できる魔法など存在しないはずなのだ。
一体どうやって首輪を外したのか。
『応用的な使い方が必要になるのよ。
 私は無数の手がかりを揃えて、そこまで辿り着いたわ。
 一応は成功したけど、まだ不安な部分も諸所に有るから補填する為の物を探しているのよ。
 まず最低限デバイスが必要になるわ。
 それから各地にご褒美で支給された追加支給品の情報も欲しい。
 そしてなにより、戦力と、研究を手伝える者と、この島を探索する為の人員。
 これらを揃えられたなら、希望が見えてくるわ』

トリエラは、思い悩んだ。
“太刀川ミミ”の提案は確かに興味深い。
少なくとも彼女は、広く浅い情報を手にしたトリエラとは対極的な情報を入手しているらしい。
追加支給品の内訳など、トリエラでは何を意味するのか判らない情報も求めている。
何より首輪を解除したというのが本当ならその価値は絶大だ。
“太刀川ミミ”の出した条件も価値に見合ったものだといえる。
タバサを説得し、所持しているバルディッシュを貸し与えるのも選択肢の一つかもしれない。
「問題は信用よ」
だけどトリエラは、彼女を信用できないでいた。

受話器の向こうに居るのは死んだハズの何者かだ。
まず一に得体が知れない。
二つ目に仲間として信用できるかが判らない。
“太刀川ミミ”……いや、ヴィクトリアは情報提供者として有力な相手だ。
これまで彼女から提供された情報も決定的な嘘が有ったわけではない、はずだ。
彼女の正体について以外は。
「正体を隠している……隠せる相手を信じるのは危険な事じゃないかしら?」
『ええ、そうね。でもあなたなら分かっているんでしょう? 私の事情くらい』
「………………」
確かに彼女が素性を隠す必要性も明白では有ったけれど。

彼女は首輪を外したのだ。
ジェダに気取られぬ為には、存在を少しでも偽装するべきだろう。
その上、彼女はレミリア・スカーレットを敵に回していた。
すぐそこを彷徨いているかもしれない、恐らく最大の脅威をだ。
レミリアは無差別に襲いかかるようだから素性を隠しても完璧ではないが、
他の獲物と並んだ時に後回しにされうるだけでも価値は有る。
「そういえばあなた、顔もその名前の物になってるの?」
『ええ、そうよ』
隠し続ける危険を理解しているからだろう、あっさりと答える。
しかし隠さずともそれは脅威に違いない。
もし敵対すれば情報戦において不利に立たされうる。
トリエラの顔で悪事を重ねられればそれだけで大事になる。
そこまで考えて、思わず苦笑いを零した。
(私の分の心配は意味無いか)

わざわざ悪評をばらまかれるまでもなく、トリエラは三人も殺している。
むしろトリエラに変装しようものならご愁傷様と言わざるを得ない。
ただ、彼女がやはりシャナであり姿を変えていた可能性も首をもたげてきた。
重ねて言うに違和感は残るのだ、その可能性は低いと考えはしたが、完全に否定も出来ないでいた。
トリエラは彼女を信じきれない。
信用出来る材料が少ない。
545彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:39:42 ID:xdu0gmta
そんなトリエラに、
『それにしても信用ね。どうすればあなたに信用してもらえるのかしら?
 こんな島で信用できる相手ってどんな子かしら?
 何をしたとしても、私を信じる事なんて出来るのかしら?
 参考までに聞いてみたいわね』
“太刀川ミミ”の方から、挑発的な響きすら含んだ言葉が来た。

トリエラは答えようとして、言葉につまる。
確かにこの島で誰かを信用するというのは並大抵の苦労ではない。
トリエラもは明確な答えを出せる自信がなかった。
トリエラは優れた知性を持っている。
判断力もある。
公社の義体達の中では纏め役になれるぐらい社会性も高い。
濃密ではあれ実質上数年分の人生経験しか無いにも関わらず、それを感じさせない程に。
それでもある種の経験が、少し足りない。
繋がりの薄い相手と絆を結ぶにはどうすれば良い?
背中を預けあえる相手を作るには?
人と人と想いを通わせるには?
銃を手に肩を並べるのではなく、互いの手を握り合うには?
……できるはずだ。
けれど言葉に惑う。

人間的な行為が出来ると、そう断言する事に自信が持てない。

『分かりきった事じゃない』
受話器の向こうから聞こえてくるのはどこかしら愉悦の混じった言葉だ。
なにがという問いに、“太刀川ミミ”は楽しげに答えた。
『あなたも私も、利害の一致でしか動けない人種だろうって事よ』
まるで嘲りのように響く聲が。

違う、と否定する。
トリエラは自分がそこまで冷血になれるとは思えないし、なろうとも思わない。
それを“太刀川ミミ”は追い立てる。
『あなたが“そうしかなれない”のか“それしか知らない”のかは判らないわ。
 でも私は、あなたが利害関係で動く人間だと思ってる。
 少なくとも無垢な子供なんかじゃない。そうでしょう?』
「それは……」
『隠さなくても良いじゃない。私はそれを見込んで、あなたに頼み込んでいるんだから』
トリエラは確かに自分を無垢だなんて思えない。
だけど利害で動くというにも違和感を覚えた。
そもそもトリエラに利害なんて言葉は程遠い。
公社で義体として戦うのは当然の事だったし、そこには利とか害なんて計算は有り得ない。
ならば情で戦ってきたと言えるのだろうか?
この島に来る前まで遡っても?
言えるはずだ。
例えば担当官のヒルシャー……兄妹〈フラテッロ〉という呼び名の通り家族のような彼の為なら
自ら身を危険に晒しすらするだろう。
例えそれが。
(何処までが本当の想いで何処からが条件付け〈ツクリモノ〉なのか判らない感情でも)
『自分達の都合で子供すら人でなしにする人間の醜さを知っているのなら尚更ね』
「────!!」
思考が灼熱した。
ヴィクトリアの言葉に怒りが吹き上がり、そして。

それだけだった。

あからさまな怒りをぶつけながらも、トリエラはそれを抑え込む。
息を整えて、静かに、言った。

「黙って」
546彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:40:52 ID:xdu0gmta

『少し踏み込みすぎたわね。謝るわ』

あっさりと謝りながらも、電話の声には悪びれない余裕が有る。
どれだけ嫌悪しようとも自分を無視する事は出来無いという余裕が。
もしも首輪を解除する事が出来るなら、その切り札はあまりにも圧倒的だ。
無視なんて出来るわけがない。

『でも一つだけ、正直に話しておくわ。
 私はあなたの冷静さを信じながらも、あなたの判断力を疑っているのよ』
「私が感情に任せてあなたとの交渉を打ち切るって事?」
『あなたは基本的に冷静なようだから、それは無いと信じているわ。
 今も貴重な存在からの電話を切ったりはしなかったでしょう?
 私が疑うのは、あなたが誤断と誤解で周囲を巻き添えにしないかって事よ』
“太刀川ミミ”の指摘は明け透けなまでに痛烈だった。

『声が似ていたそうだけれど、私を別の誰かと思い込んで迷走する。
 金糸雀についても何か錯綜が有ったみたいね?
 他にも少なくとも一件、誤殺じみた事が有ったと聞いているわ』
「ぐ…………っ」
言い返しようが無い。
状況のせいも有ったとはいえ、トリエラは錯綜の果てに人を殺してきた。
あろう事かその全てがほぼ過ちであったと判明している。
『信用できるかと聞くけれど、あなたの方こそ信頼に値するのかしら?
 私には疑わしく思える程よ』
誰がトリエラを信じられるのだろう。
誤った標的ばかり捉えてきた銃口を。

『それとね。実を言えば、私の方からなら少しは信用させる要素が有るのよ』
「…………それは、何?」
思わず聞き返した。
会話の主導権を掴まれていた。
『ひまわりを保護しているわ』
「っ!!」
息を呑んだ。

リルルに保護されて逃亡した筈の赤ん坊が、どうしてそこに?

「待って。それじゃリルルもそこにいるの?」
小さな、溜息が聞こえた。
嫌な予感が膨れ上がり、
『生憎ね。彼女は、壊されていたわ』
身構える暇も無くはじけた。

また、死んだ。
また、殺された。
ほんの数時間前まで一緒に居た仲間が、何者かに殺されていた。
『人間で例えるなら体内を無数の蛇が食い荒らした様な、無茶苦茶な有様だったわ。
 生前の彼女の願いに従ってICチップを取り出したから、ますます見せられる物じゃないわね』
“太刀川ミミ”から。
ヴィクトリアから仲間の死を知らされるのは、二度目だった。

残酷な言葉は更なる有益な情報を残していく。
『詳しい話を知りたいなら、リルルからひまわりを託されたあの子に聞けば良いわ。
 ククリやリルルからはあなたの名を良い人と聞き、自らの目ではあなたの姿が人を殺す所を目撃して、
 あなたが善人なのか悪人なのか混乱してしまっている可哀想なイエローにね』
「っ!!」
547彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:42:13 ID:xdu0gmta
リルルは誰かに殺された。
イエローはそれを見取って、ひまわりを託された。
明らかな致命傷を生き延びたヴィクトリアこと“太刀川ミミ”はその二人を保護した。
そして受話器の向こうに立っている。
全てを疑うのは容易いけれど。

『さあどうするのかしら、トリエラ。
 苦労してあなたを信じようとしている私を信じてくれないの?』

悪辣で、辛辣な言葉でも、間違った事は言っていないように思えた。

「……あなたの言葉、ひとまずは信じるわ」

トリエラは肯定を返した。
一つだけ、付け加えて。

     * * *

まずは互いの同行者について、互いに与えすぎないよう警戒しながら情報を交換した。
“太刀川ミミ”にとって太刀川ミミを知るタバサがトリエラと同行しているのは難事だったが、
起きている太刀川ミミを見たのはほんの数十秒に過ぎない。
直接会っても疑惑が確信に至る事は無いだろうと判断し、逆に取引を持ちかけた。
『私が生きていた者として会えば、改心したその子にとって救いになるでしょうね』
トリエラはこれを黙殺する。
弱気な演技を取り払った“太刀川ミミ”ことヴィクトリアは何処かしら不安を抱かせた。
不安定な状態にあるタバサの心を逆に傷つけないか心配したのだ。
トリエラか、せいぜい小太郎を連れる程度の密会で済ませられないかと思案する。

『だけどタバサはミッドチルダ式のデバイスを所持しているんでしょう?
 私に合わせずどう説得するつもりかしら』
「グラーフアイゼンではできないの?」
『その分の差で失敗しても良いならね』
「タバサから武器を取り上げればその分の差で殺される危険が有るわね。似た様な物よ」
『へえ、そう』

“太刀川ミミ”は一旦引き下がる。
そして次の情報を要求してきた。

『ご褒美で支給された追加支給品について、情報は有るかしら』
「その前にどうしてそれを捜すのか教えて欲しいわね」
『ご褒美が急遽追加されたイレギュラーだからよ。追加支給品もその可能性が有るわ』
トリエラは与えて良い情報だと判断する。
少し情報を整理すると、幾つか心当たりの有る情報が有った。
「既に死亡した、イリヤスフィールへの追加支給品なら情報が有るわ」
『っ!! ……聞かせてもらえるかしら?』
大して期待もしていなかったのか、トリエラが想像した以上の驚きが返ってくる。
トリエラは答える。
「浄玻璃の鏡と爆弾岩。もう一つ有ったかもしれないけどそれは不明ね」
『効果は?』
「鏡は、三回まで制限の掛けられた、鏡に映った者のこの島に来てからの経緯が映し出される物よ。
 言わは強力な自爆に特化した、擬似生命体のようなものらしいわ。既に消費されたみたい。
 言われてみればどちらも強力で、イレギュラーな物に思えてくるかな」
『……ええ、そうね。残った鏡の方の見た目を教えてくれる?』
「手鏡状ね。形は……」
心当たりが有るのか、“太刀川ミミ”はふむふむと頷きながら聞いていた。

「私の方からも聞いていい? あなたどうやって生き残ったの?」
『気になるかしら?』
「まあね。グラーフアイゼンが見たあなたの状態はとても生き残れる物だとは思えない」
548彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:44:54 ID:xdu0gmta
『それでも生き残ったのよ。文字通り半死半生を超えてね。
 そうとしか言えないわ。
 人間ではない耐久力を持っている事は事実よ』
そう言い切られてしまっては踏み込みようが無い。
どうしてそんな肉体を持っているかなど意味の無い問い掛けだ。
トリエラが、己の素性を語っても仕方がないように。

「……まあいいわ。それじゃもう一つ」
『何かしら?』
トリエラは少し息を整えてから、切り込んだ。

「あなたと同じ場所で首を爆破されていた死体は、あなたの解除法による物じゃないの?」
フッと小さく息を吐く音がして。
それからすぐに。
『ええ、そうよ。残念ながら失敗したけれどね』
あっさりと返事があった。

「あんた……っ」
『仕方が無いでしょう? 殆ど手探りの危うい研究なんだから失敗はつきものよ。
 それに彼女は自分が何の役にも立てず振り回されている事に苦悩していたわ。
 何せ夕方の放送時点で仲間がみんな死んでいたんだから、哀れね。
 だから危険度が高い事を知りながらまだ不完全な解除実験に自ら志願して、死んだのよ。
 そのデータを積み重ねたおかげで私は成功した。
 彼女の名を讃えてあげて、トリエラ。
 “太刀川ミミ”という名をね』
「利用、したんじゃないの?」
『否定はしないわ。彼女の貴い犠牲のおかげで私は成功した。
 この時点で何を言おうと、利用したとしか取れないでしょうね』
彼女の言葉が真実かは判らない。
やはりそれ以上の追求は出来なかった。
トリエラは胡散臭いと感じて、それだけだ。
ククリとリルル、それに太刀川ミミ、彼女の口から語られる死者はあまりに多い。
だけどククリとリルルはただの偶然や、物陰から情報を集めている結果と見る事もできる。
どちらにせよ、彼女はトリエラの知る限りこの世界からの脱出に最も近い人物だった。

『次は私からよ。
 戦力と、研究を手伝える者と、この島を探索する為の人員。
 これらを集められるアテは無いかしら?』
トリエラはまた少し思案し、結論を出す。
その有力な札が有る事自体は教えて、取引を有利に進めた方が良い。
「……情報なら、有るわ。
 私達の元にはまだ生存している参加者の情報が、八割方集まっている」
『八割っ!?』
やはりこれは想像以上だったらしい。
受話器越しに本気で驚いた様子が伝わってくる。
「でもその情報を全て教えるほどお人好しにはなれないし、
 仲間に相談もせずあなたにそこまでする気にはなれないわ」
『待って。魔法に詳しい者の数だけでも教えてくれないかしら』
「そうね……十人かそれに足りない位だと思うわ。その内の二〜三人かは危険人物だけど」
『実質七人前後……二割程度、ね』
思案の気配が有る。
トリエラは攻め込んだ。
「解除法についてもう少し情報を公開してくれるなら、
 こちらからも情報を公開して良いんだけど」
『………………』
トリエラは初めてこちらから有利な条件を提示出来た感触を得る。
“太刀川ミミ”はしかし、事実上の拒否を返してきた。
『保留しておくわ。
 詳細を教えてあなた達が尻尾を掴まれたら、こっちまで危ないもの』
549創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 19:45:03 ID:xrir2BIp
支援
550彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:46:52 ID:xdu0gmta
消極的なまでに慎重な理由だった。
だが当然の慎重さでもあった。
トリエラも“太刀川ミミ”も、切り札までは切らずに様子をみている。
相手がどの程度の信用と信頼に値するかどうかを見定めようとしている。
“太刀川ミミ”は脱出に近づいているけれど、だからこそ危ういのだ。
彼女自身も、彼女を取り巻く環境も、一つ間違えば全てが失われる。
悪辣な少女はそれでも、希望の中心に立っていた。

『それにこの内容は電話で……口頭で話すにも不安が有るのよ。
 デバイスも試したいし、会って話したい所ね。
イエローとひまわりにも会うんでしょう?
 こっちはあなたから電話が有って会うことにした、と言っておくわ』
「場所は?」
『三丁目のパン屋の前。時刻は?』
タバサに隠した密談の形を取る以上、団体行動を始める朝では不味い。
トリエラは即行動を選んだ。
「雨の内なら吸血鬼も動かないそうよ。今すぐ会いましょう」
了承が返り、それで通話は終わった。

トリエラは通話を終えた携帯電話をポケットに仕舞い込む。
胸元に下がるアイゼンを確認し、銃を確認し、それから服装を鑑みる。
外には冷たい雨が降り続けている。
アイゼンの騎士甲冑で防寒防水をと考えたが、それでは帰りが不味い。
“太刀川ミミ”にアイゼンを渡した場合──流石に軽く渡すつもりは無いが、
相応の見返りが有っても渡した場合に、帰りが困る。
家のどこかで傘か雨合羽でも見繕う必要があるだろう。
それから言った。
「ま、そういうわけね。留守番を頼むわよ、小太郎」
いつの間にか、犬上小太郎が洗面所の入り口に立っていた。

「いつから聞いてた?」
「ひとまずは信じるとか言った辺りからやな」
つまり具体的な情報交換を初めた辺りだ。
ほんの少しだが、勝手にタバサと小太郎の事を話していた事について怒っている様子は無い。
少なくともその程度の信頼は有る。

「電話の相手、何者なんや? “太刀川ミミ”って言ってた気もするけど、それって」
「ええ、死んだはずの人間よ。ただしその正体は、ヴィクトリアね」
小太郎がぴくりと眉をしかめる。
彼が見たヴィクトリアは旅館で共にレミリアと戦い、
ククリの死体が転がる場所で金糸雀を殺し(後で金糸雀がククリを殺したようだと判明する)、
追いかけるが見失い、グラーフアイゼン曰くレミリアに殺害されたと聞いた人物である。
「どういう事や? あいつが生きとったっていうんか?」
「信じ難いけど、そうみたいね。しかもこいつを外したそうよ」

そう言うとトリエラは首をコツコツ叩いてみせた。
音が硬質なのは、そこに首輪が有るからだ。
ルールに違反した参加者を爆殺するための、ジェダに付けられた首輪が。

驚く小太郎に言う。
「タバサにはまだ内緒よ。
 太刀川ミミ、だけど中身は別物だなんて彼女には会わせたくないもの」
「だから一人で会いに行くっていうんか?」
「今のところそのつもりよ。
 私は向こうの連れに会うべきだと思うし、ひまわりの安否も心配だし、
 小太郎が残ってくれるならタバサについても安心だしね。
 ほんとは小太郎にも睡眠を取って、気だの魔力だのを回復して欲しいくらい」
551彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 19:49:21 ID:xdu0gmta

小太郎は吉永双葉を治療する為に多量の存在の力、彼の場合は気を消耗した。
時間の経過により徐々に回復しているし、全快とまで行かずとも睡眠は大きな助けになる。
タバサの方の魔力回復は尚更睡眠が重要だ。
十分な睡眠を取れば全快まで回復するというし、精神的疲労を考えても起こすべきではない。
それに気が格闘の補助的な小太郎と違って、タバサは魔法が決定打で白兵戦が補助らしい。
タバサの魔力の重要性は考えるまでもなかった。

とはいえ小太郎がトリエラの単独行動を心配するのも当然の事だ。
トリエラは眠った所で意味が薄いだけで、決して怪我や消耗が無いわけではない。
むしろトリエラは常人なら死んでもおかしくないほど無数の傷を負っているのだ。
義体の頑強さで動き続けてはいたが、三人の中で誰よりも深い傷と消耗を受けていた。

「ほんまに信じられるんか、そいつ?」
「一応、これまでの話に決定的な嘘は見えないわね。それも彼女自身に対する物を除けばだけど」
「明確な嘘は、あんまりなかったかもしれへんけど」
小太郎には不安と不満がある。
彼はヴィクトリアに大して良い印象がまるで無い。
金糸雀殺害は金糸雀がククリを殺したからだというが、イメージとしては最悪のままだ。
あと理屈では言えないがなんとなく、胡散臭いのだ。
「ただの勘違いやろうけど、俺はネギの仇討ちをしようとしてたわけやないで?」

小太郎はネギの仇を捜していた。
ヴィクトリアはそれを、ネギの仇討ちをするつもりだと証言している。
とはいえこの島で仇を捜す聞いたら普通は仇討ちを連想する、むしろ当然の補完だ。
ヴィクトリアは、少なくとも分かる範囲では決定的な嘘を吐いていない。
「明確な嘘は無くても誇張やバレていない嘘が無い証明にはならない、でしょう?
 言われなくとも判ってるわよ、そのくらい」
明確に嘘と分かる嘘は今回の偽名が最初だ。だけど、
「私が初めて聞いたあいつの言葉、言ったっけ?
 蜂蜜みたいに甘い声で、『あ、あなた……誰、ですか? 何でここに来たんですか?』よ」
ヴィクトリアは自分を偽れる人物だ。
もしも彼女が殺人鬼だったとしても驚きはしない。

「イエローの方とも話さなきゃいけないし、信用出来なければひまわりを引き取らなきゃいけない。
 ほんと厄介な仕事よ。
 タバサが万全ならあなたも連れて行きたいわね」
「朝まで待ってみんなで会えば良いやないか」
「言ったでしょ。“太刀川ミミ”にはタバサを会わせたくないの」

トリエラは緊張した面持ちで、寝る前に解いていた髪を留め始めた。
気を引き締めるようにツーテールに纏めていく。

「安心して、油断するつもりは無いから。
 多分あいつの方も、そんな薄い関係なんて望んでいない。
 嘘も真実も本気で来るわ」

そこには、脱出の希望に会いに行くなんて安心感は欠片も無かった。
552創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 19:49:22 ID:xrir2BIp

553創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 20:18:38 ID:7uFfW7sb
sien
554創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 20:29:15 ID:npVSMCGB
sien
555創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 20:58:06 ID:FNx/ih4M
しえんいる?
556 ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 21:53:43 ID:xdu0gmta
そろそろさるさん規制も解けたかな。投下再開。
ちなみに青画面も見ました。
557 ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 21:56:00 ID:xdu0gmta

     * * *

“太刀川ミミ”ことヴィクトリアは通話を終えて、一息を吐いた。
確かな満足感が付いてくる。
(上出来ね)
トリエラとの通話は、彼女に多大な成果を与えてくれた。

ヴィクトリアの目的は大雑把に分けて二つ有った。
一つは言うまでもなくトリエラから情報を得る事だ。

彼女がデバイスを入手したらしい事は幸運だった。
性格は大変一致しなかったものの少しは使い慣れてきたレイジングハートが無いのは残念だが、
レミリアが所持していた筈のグラーフアイゼンに加えて、
レイジングハートと同じミッドチルダ式のバルディッシュまで有るとは嬉しい誤算だ。
(念話はその世界では基本的な魔法らしいし、多分ベルカ式でも何とかなるだろうけど、
 どうにかならなかった時にミッドチルダ式を試せうるのは僥倖ね。
 それにグラーフアイゼンから得られる情報も有益かもしれないわ)
グラーフアイゼンはレミリアが使っていたデバイスだ。
ならばアイゼンの中にはレミリアの情報も詰まっているだろう。
ヴィクトリアにとって目下最大の脅威の一つであるレミリアへの対策を練れるかもしれない。
そう容易く渡してくれるとは思えないが、取引材料は幾つも有った。
例えば、トリエラの集団にデバイスが複数有るのならデバイス用のカートリッジも有用なはずだ。

更に追加支給品に関する情報も衝撃的だった。
爆弾岩も少し気になるが、既に爆発してしまったという事で無視する。
それよりも、浄玻璃の鏡とやらだ。
あれは、イエローの荷物の中の鏡に違いない。
もしもその使用回数がまだ残っているならば。
もしもその効果に対する対策が完璧ではないならば。



浄玻璃の鏡にQ-Beeを映してみればどうなるだろう?



(Q-Beeがご褒美を支給しに島を飛び回っているのだって開始時に決められたイレギュラー。
 それならば恐らく、映る筈よ)
Q-Beeがこの島に来てからの情報を映し出せるなら、
何処から来て何処に戻っているのかまでは判明するだろう。
即ちジェダの居城への道筋が出来る。
Q-Beeとジェダとの会話からそれ以上の情報が露呈する可能性も高い。
正に切り札と言っても差し支えない代物だ。

(しかもイリヤスフィールの追加支給品とはね。
 数奇にも程があるわ、一体どういう因果なのやら)
ホムンクルスという情報から、参加者名簿の中で個人的に興味を抱いていた少女。
夕方の放送で死が告げられてから、もう関係する事は無いだろうと思っていた。
そのイリヤスフィールの遺物が、今になって重要な価値を持ち始めている。
運命というものを感じずにはいられなかった。
558彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 21:58:23 ID:xdu0gmta

問題は、首輪の無い“太刀川ミミ”ことヴィクトリアがQ-Beeと逢う危険だが、
これはイエローに使わせるなり手が有る。
出来れば見た内容をしっかり記憶出来る者に使わせたい所だった。

加えて二つ目の目的。
それはトリエラを仲間に引き込む事だ。
問題こそ多いが、ヴィクトリアはトリエラの存在を買っていた。
危険人物と見れば即座に撃ち殺す冷酷さと、足手まといを抱え込む善人さは有益だ。
突きつけた通り判断力には不安が有るのだが。
(そこまで贅沢は言えないわ)
子供が多いこの島で冷たい判断が出来るだけでも御の字だ。

加えて、極々断片的ながら参加者名簿の表記を思い出した事も一因となった。
そこには公社の義体だとか、条件付けと呼ばれる洗脳がどうこう書かれていた気がする。
彼女も誰かに体を弄られ利用された身なのかもしれないと思うと、少しだけ親近感が湧いた。
……その親近感が傷の舐め合いに過ぎない事は判っていたけれど、それでも。

(ま、こっちは振られたみたいね)
カマを掛けてみた反応は思った以上だった。
しかしその後に彼女がヴィクトリアを信じると言った時、トリエラは付け加えたのだ。

『一つだけ訂正しておくわ。私は自分の境遇を不幸だなんて感じなかった』

銃を握り人を撃ち続ける行く末の短い生き方を定められても、小さな幸せがあった。
私はあなたとは違うのだ。
それがトリエラの返答だった。

(別に良いわ。それとこれとは別だもの)
一抹の寂しさを覚えた事こそ逆に驚きだった。
どちらにせよヴィクトリアがトリエラを有益な人物だと見た事に変わりはない。
彼女は「汚い事を許容出来る仲間」になりうる。
だから反応を見るために若干露悪的に接しさえしたのだ。
イエローに汚れ仕事は求められないし、ただの善人にも無理だろう。
だけど綺麗事だけでジェダの手から逃れる事など出来はしない。
誰か汚れ仕事を担う者が必要だった。

汚れ仕事をヴィクトリアだけが担うには無理が有るし、何より危険は避けたかった。
身も蓋もなく言えば、危険な事は誰か他の者に押し付けたいのだ。
ヴィクトリアが仲間を集める最終目的はあくまで自分のためだ。
その線を引いた上でなら仲間と恩恵を共にするし、助けもするだろう。
でもその線から出る事は決して無い。
恥も迷いもなくその線を守り続ける。
その違いはきっと、トリエラが得られてヴィクトリアが得られなかった物が生み出した。
故にヴィクトリアは仲間を利用する。
それが本当の仲間等ではないと判っていても、自分のため以外の目的なんて有りえない。
ヴィクトリアは所詮、人を食い物にして生きるモノなのだから。

(さて、まずはイエローよ)
トリエラを仲間にしようと思うなら、イエローの疑念を解いてやらねばならない。
トリエラには貸しを作る事にもなる。
逆にトリエラからヴィクトリアの事を暴露される心配はさほど無い。
イエローがヴィクトリアにとって用無しになる事は彼女にとっても望ましくない筈だからだ。
ヴィクトリアとしても本音建前共に、そんな事を望んではいなかった。

ヴィクトリアは窓から遠目に覗く事が出来る三丁目のパン屋に目をやってから、
イエローとひまわりが眠る部屋に戻って、告げた。
「起きて、イエロー。トリエラを名乗る人物から電話が有ったわ」
559彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 21:59:31 ID:xdu0gmta
【G-1/民家・洗面所/1日目/黎明】
【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:頭部殴打に伴う頭痛。胴体に重度の打撲傷複数、全身に軽度の火傷、かなりの疲労。
    右肩に激しい抉り傷(骨格の一部が覗き、腕が高く上がらない)。
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残弾数8/8)
    ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、トマ手作りのナイフホルダー、防弾チョッキ
[道具]:基本支給品(パン1個、水少量消費)、ネギの首輪、血塗れの拡声器、北東市街の詳細な地図
    US M1918 “BAR”@BLACK LAGOON(残弾数0/20)、9mmブローニング弾×23
    インデックスの0円ケータイ@とある魔術の禁書目録、コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん
    グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA's(ダメージ有り、カートリッジ0)
    回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、十字架×1、ダイエットフード×1、山彦草×1)
[服装]:普段通りの男装+防弾チョッキ
[思考]:最大限に警戒しつつ、確かめに行く。
第一行動方針:“太刀川ミミ(ヴィクトリア)”と接触、交渉する。
第二行動方針:朝になったら作戦(※)に従い、シャナを捜索する。タバサに携帯電話の説明も。
第三行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう
基本行動方針:好戦的な参加者は積極的に倒しつつ、最後まで生き延びる(具体的な脱出の策があれば乗る?)
[備考]:携帯電話には、『温泉宿』の他に島内の主要施設の番号がある程度登録されているようです。
     トリエラが警察署地下で見た武器の詳細は不明。
     ※トリエラの作戦
     まずシェルターまで全員で行動し、洞窟にも寄りつつシェルターに向かう。
     シェルター到着後に解散し、小太郎とタバサは城へ、トリエラは廃墟へ行く。
     それ以降は小太郎達は定期的にトリエラの携帯電話に連絡をする。

【犬上小太郎@魔法先生ネギま!】
[状態]:やや疲労、気が少々、背中と左足に怪我(瞬動術は使えないがそれなりに動ける)
[装備]:手裏剣セット×7枚@忍たま乱太郎
[道具]:基本支給品×4(一人分の水、パン1個消費)、工具セット、包帯、指輪型魔法発動体@新SWリプレイNEXT
    さくらの杖@カードキャプターさくら、目覚まし時計@せんせいのお時間、生乾きの服
    レミリアの日傘@東方Project、真紅の腕、金糸雀の腕、戦輪×5@忍たま乱太郎
[思考]:トリエラが心配。
第一行動方針:休息しながら、眠るタバサと家で待機?
第二行動方針:朝になったらトリエラの案に従い行動する。
第三行動方針:レックスと再会した後、シャナ一行あるいは梨花一行との合流を図る
第四行動方針:双葉に頼まれた梨々、小狼に頼まれた桜を探す。見つけたら保護する。
基本行動方針:信頼できる仲間を増やし、ゲーム脱出(必ずしも行動を共にする必要はない)。
[備考]:紫穂に疑いを抱いていますが確信はしていません。
560彼女たちはこの島から逃れたい ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 22:00:52 ID:xdu0gmta

【H-1/住宅内一階/1日目/黎明】
【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:精神疲労(中)、肉体消耗(中)、首輪解除、太刀川ミミに瓜二つの顔
[装備]:i-Pod@東方Project、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:天空の剣@ドラゴンクエスト?、基本支給品×2(食料のみは1人分)、
    塩酸の瓶、コチョコチョ手袋(左手のみ)@ドラえもん、
    魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー、ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×5@mother2
    アイテムリスト、詳細名簿(ア行の参加者のみ詳細情報あり。他は顔写真と名前のみ。リリスの情報なし)
    マッド博士の整形マシーン、カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA's、
    思いきりハサミ@ドラえもん、その他不明支給品×0〜2
[服装]:制服の妙なの羽織った姿
[思考]:トリエラと接触する。
第一行動方針:トリエラと接触する。イエローを連れていく?
第ニ行動方針:首輪や主催者の目的について考察する。そのために、禁止エリアが発動したら調査に赴きたい(候補はH-8かA-1)
第三行動方針:“信用できてなおかつ有能な”仲間を捜す。インデックス、エヴァにできれば接触してみたい。
基本行動方針:様子見をメインに、しかしチャンスの時には危険も冒す
参戦時期:母を看取った後。能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡。
[備考]:首輪が外れた事により能力制限が外れている可能性も有ります。
     首輪に『首輪を外そうとしている』や『着用者が死んだ』誤情報を流す魔法を編み出しました。
     ただし、デバイスなど媒体が無ければ使えません。攻撃に使うのも不意打ちで無ければ難しいと思われる?
     更にヴィクトリアの場合、実際に致命傷を受けて殆ど死に体になっていた事が助けとなった可能性も有ります。
561 ◆tcG47Obeas :2010/02/06(土) 22:08:39 ID:xdu0gmta
投下終了です。
間を空けましたが、支援ありがとうございます。
562創る名無しに見る名無し:2010/02/06(土) 22:35:32 ID:Tyk1TK9L
投下GJ。トリエラとヴィクトリア、色々似ている二人の対比が実に面白かったです。
不幸だなんて感じなかった、という言葉も色々考えさせられます。
で、浄玻璃の鏡。その発想はなかった。
直接相対しての交渉第2Rはどうなるやら楽しみです。
563創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 00:51:51 ID:F4jvyZDo
投下乙。
現在一番ゴールに近いヴィクトリアだけど危険人物なんだよな、こいつ。
トリエラとはほしい情報をお互いに出し合える状態だけど、
自分だけが助かればいいってこいつは信用も信頼もできないんだよな……
浄瑠璃の鏡の使い方になるほど、と思った。

まとめっつーか現状の動向確認。

工場組
特に予定なし。皆睡眠中

城組
放送まで休息予定。
現在はシャナと情報交換中。
シャナはその後北東市街へトリエラを殺しに行く予定。

シェルター組
これからどう動くか、不明。
トマは塔か北東市街に行くかも?

弥彦
現在落ち込み中

パタリロ
現在盗聴中

北東市街
トリエラとヴィクトリアが接触予定
レミリアは放送まで動く予定なし

エヴァと蒼星石
エヴァは塔の魔女たちを殺す予定。蒼星石は……?

グレーテル
危険。核鉄が黒くなるかも。

ヴィータ紫穂
北東市街へ向かう予定。

メロブルー
メロが殺されるか、それとも……?
ブルーは名前が広まり過ぎててやばい。

千秋
お城から逃走中

リリス
知識を身につけて危ない存在。
現在反則中

Q−Bee
現在ニアの死体を確認中。
だがリリスの画策により拘束されている。
次の捜索予定がミミのため、北東市街組とかかわる可能性大


北東市街がヴィータ紫穂Q−Beeシャナと人がたくさん来て大変そうだな。
564創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 01:21:18 ID:7L3Q/lZU
投下乙!
緊張感溢れるいい話でした。
ヴィクトリアはつくづくやな奴だなw
しかし、電話での交渉、偽名看破、虚実誇張織り交ぜた情報の引き出しあい、信頼と信用というキーワードなど
どことなく、新漫画ロワの秋瀬或と鳴海歩のやりとりとオーバーラップしていて面白い。
や、作者さんも意図したわけじゃないだろうし、他所の話で恐縮だけれども。
565創る名無しに見る名無し:2010/02/08(月) 00:06:40 ID:eRg18XJD
久しぶりに見たら大量投下キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

昔の事は忘れて、読み手の意見なんか絶対に無視しろよー
エースオブエースはLSロワを見捨ててなかったんだ!!!
566創る名無しに見る名無し:2010/02/08(月) 02:15:42 ID:AZ8zHF3j
大量投下って、どんだけ久しぶりに来たんだよw
前の投下は去年だぞw
567創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 02:45:37 ID:rLwXYWw4
投下乙
これってパタリロが得意の話術でジェダの計画に綻びを入れたことになるのかw
568創る名無しに見る名無し:2010/02/16(火) 23:24:14 ID:r75S95GW
予約キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!
イイヨイイヨー
569創る名無しに見る名無し:2010/02/17(水) 01:58:46 ID:EAqRXjm7
これはパタリロ終わったんじゃねw?
570創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 02:56:15 ID:9SVaCZf8
仮投下来てるな
代理投下するわ
571死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 02:57:00 ID:9SVaCZf8
「うん、そう。その代わりに、なんだけどね……」
リリスは切り出した。
QBを手伝い死体を捜す代わりに、得たい物が有る。
リリスが得たい物。
「出来ればご褒美に渡すはずのそれ、ちょっと欲しいかなって」
それは、力。

例えばQBが三名殺人者達に与えるご褒美の支給品。
これを得られれば。
それを使いこなせれば、リリスは今よりその分だけ強くなれる計算だ。

「…………………………ソレハダメ、ダッタトオモウ」
「幾つか入ってるでしょ? 足りなくなったら補給に行けば良いじゃない」
「…………」
リリスの提案に黙り込む。
QBの知性はそれほど高くないが、それでも幾らか考えられる事はあった。

バレなければ叱られないのだ。

今の作業が遅れたのも喧嘩を売ってきた参加者をついつい捕食してしまった為で、
その殺害もQBではなく他の参加者がやった事にしている。
それはやらかした後で取り繕うという拙い浅知恵に過ぎないが、
僅かであれ知能を持っているのは本当なのだ。
リリスはそれに自ら条件を付ける事で誘いをかける。

「三人殺しで最高三つ入ってるのがもらえるんだから、一人調べる事に中身一つだけとか。
 ほら、ジェダ様だってその場のノリでご褒美あげるって決めてたじゃない」
「ア、ソッカ」
QBはリリスの提案を受け入れた。

   おとなはこどもたちのおてほんです。
   わるいこにしないようがんばりましょう。

「うん。じゃあ二人教えてあげる。ニアと、グリーンは、死んだよ。
 両方とも間違いないから」
「リリスニハナシヲキクダケデイイッテイワレタノ、ニアダケ」
「だからそれを手伝ってあげるんじゃない。代わりにあたしが見てあげる。
 それにQB、死体が目の前に有ったら食べちゃうでしょ。それは……ダメ」
「ワカッタ」
QBはコクリと頷き、見つかった死者たちの情報を念話でジェダに送信した。
これで最優先の三人の内、野上葵とニアは見つかった事になる。
それより後回しの五人も一人は判明して、残るはヴィクトリア、古手梨花、ククリ、金糸雀だ。
最優先の一人にして北東市街で死んだ事しか判らない太刀川ミミの捜索は厄介だが、
全員は見つからない捜索とも言われている。

「ねえ、残りは何処で死んだのか判る?」
「フルデリカハ、ジンジャニウマッテル。ホカハ、ホクトウノマチ」
「じゃあ神社はあたしが調べてあげる。ね、それじゃ」
リリスは手を差し出した。
ニアとグリーンで二人分。
「シキュウヒン、フタツ?」
「うん。グリーンとニアで二人教えたでしょ?」

支給品の代わりに回復や情報を貰えるよう交渉しても良かった。
しかし回復は必要になった時で良いし、情報は別の見込みがあった。
だから死亡者確認の見返りに支給品を求めたリリスに、QBは二つの品を取り出した。
572死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 02:58:08 ID:9SVaCZf8
一つ目はカードである。
効果はそのままカードに表記されていた。
リリスは首を傾げながら、それを使ってみた。
現れたのはリリスと同族にも思える、小悪魔の幻影だ。
幻影の小悪魔はリリスにパチリとウインクした。
それを見た瞬間、リリスの内から鮮烈な感覚が弾けた。

「ん……っ」

それは恐らく我を忘れる程の快感だったのだろう。
滂沱の涙を流し、噎び泣き、喘ぎ、体液を噴出させる程に強い快感だったはずだ。
麻薬の様に根深く心の中枢まで犯し尽くす、魔性の快楽であったはずだ。
ウインクを受けた者が人であれば、だが。

リリスは快感に身を震わせながらも、膝を崩す事も思考を鈍らせる事も無かった。
リリスは夢魔なのだから。
彼女に取って快感を得る行為は栄養の摂取に伴なう物であり、要するに味か食感のような物だ。
精気を伴わない中身の無い快感なんてノンカロリーで虚しいだけだった。
味はするのに何も食べた気がしない、ガムみたいな物である。
(『小悪魔のウインク』、かあ。どう使えばいいんだろ。
 何度でも出てきてくれるっていうけど、自分に使っても意味は無いよね。
 ……敵に使えば良いのかな?)
使えなくもないだろう。
カードを発動させてからウインクまでにタイムラグは有るけれど、
その間だってリリスが動けないわけではない。
ソウルフラッシュを遅く撃つように使えば、強力な牽制技として戦術に組み込めるはずだった。
しかし。
(でもこの位じゃ牽制にもならないよね)
すぐに、落胆と共にカードを仕舞い込んでしまった。

リリスが自分に使ってみた感想は『ちょっと驚く程度で大した物でもない』という所だ。
人間であれば完全に翻弄し動きも思考も止める事が出来るだろう事に気づかない。

増してやこの世界は外見判別で子供を集められた場所であり、
この感覚は肉体が成熟してからでなければ本来甘受できない感覚であり、
即ち幼くして苦難の人生を歩んだ者も、未成熟な肉体で永遠を生きる者さえも耐性の無い、
ほぼ全ての者にとって痛みの様に耐える事すら出来ない未体験の激感であった事に気づける筈もない。

小悪魔のウインクはハズレとして仕舞い込まれた。


もう一つは、黒鉄の銃だった。
替えの弾装やら何やらまで付いている。
早速壁に向けて引き金を引いてみた。
弾丸は入っているみたいなのに、何も起きない。

「……って、またおもちゃなの?」
この島に降り立った直後の繰り返しだ。
安全装置が掛かったままである事に気づかない。
リリスは落胆とともに黒鉄の銃をランドセルに仕舞い込み────。





(……待って)

その手を、止めた。
思考を、止めなかった。
573死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 02:58:50 ID:9SVaCZf8
グリーンを撃ち殺したように、この島にはちゃんと本物の銃も支給されている。
きっと、たくさん。
それなのに二度に渡っておもちゃの銃を引くなんて事、ありえるだろうか?

リリスは諦めずに銃の細部を観察し始めた。
引き金やグリップ、銃口。
銃口の中のライフリングに、グリップの細工、引き金の色つやまで。
……すぐに、重心の横についた小さな可動部に気がついた。

安全装置を外して、引き金を引いた。
銃弾はあっさりと射出され、壁を穿った。

「そっか、そういう事だったんだ」

きっとあの時も、同じ事だったのだろう。
ささやかな達成感と共に引き金を引く。
引き金を引く。
引き金を引く。
五発、六発、七発。

十一発、十二発、十三発。

カチリという音が弾切れを報せた。

「……あれ、これだけ?」

最初に入っていた弾倉はもう無くなってしまった。
十三発。
それがこの銃に入れておける弾数だった。
替えの弾倉は二つ有ったが、それ以前の問題にも気づいてしまう。
リリスは試射をした壁を見て、がっくりと項垂れた。
(うぅ、銃って打てば当たるものじゃなかったんだ)

標的を見つめる視力も反動に負けない握力も十分だったはずなのだが、当たり具合はイマイチだ。
この数mの距離で動かない相手の体の何処かになら当たったといえなくもないが、
自分と同じ位の速さで動いてる相手にならこの距離ですら当たらない。
文字通り零距離で撃ち込まなければ当たらないだろう。
第一零距離なら普通に翼で斬った方が威力抜群だ。
人の達人はこれを遠くの相手に当てられるのだという。
そう思うと感嘆すら感じてしまう。
人間って凄い。

「リリス、コレモ」
「へ?」
QBがもう三発、弾丸を差し出してきた。
どうやらランドセルの中にバラで入っていたらしい。
違和感があった。

(なんで他の弾倉と別になってるんだろう?)

よくよく見ればその弾丸は材質も違うようで、何かが奇妙だった。
得体の知れない強烈な力を秘めている気がした。
礼を言いつつ弾丸を受け取ると、その内の一発だけを銃に篭める。
壁を、撃ってみた。
引き金を引いた。
その瞬間。

予想だにしない閃光と轟音が鳴り響いた。
574創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 02:59:53 ID:QIyyyE+P
575死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:00:15 ID:9SVaCZf8

思わず上げた悲鳴が爆音に掻き消される。
全身が後方へと押し流される。
銃が、ものすごい力でリリスの体を押して来ているのだ。
さっき撃った時にも有った反動だと理解し、その桁違いの出力に当惑し、必死に床を踏み締めた。
耐えられなかった。
ふっと。
体が浮く。
跳ね飛ばされ反対側の壁に叩きつけられる。
銃を押さえ込みながら、強引に羽と足で着“壁”する。
肌が粟立つ奇妙な感覚が全身を襲う。
視界を塗り潰す閃光はしかしほんの一瞬で途絶えて。

ぽっかり穴の空いた向かいの壁を目にした。

「………………なにこれ?」

リリスが握る銃の名はブラックバレル・レプリカという。
とある世界における魔術教会三大部門の一つ、アトラス院に封印されし七大兵器の一つ、
ブラックバレル──のレプリカである。
ブラックバレルとは“天寿”の概念武装であり、対象の寿命に比例した毒素を発揮する。
即ちブラックバレルから放たれた弾丸は吸血鬼など不老の存在に絶大な破壊力を発揮するのだ。

しかし所詮はレプリカでもある。
レプリカから放たれる銃弾は確かに“天寿”の特性を備えていたし、
吸血鬼にも通用する有効な武器ではあったが、そこまででしかなかった。
吸血鬼にもダメージを与えられるが必殺には程遠い、その程度の武器だった。

だが、その威力では足りない怪物に対した所有者、シオンという娘は一つの工夫を付け足した。
彼女を怪物から庇って散った友人の武器、別の概念武装の欠片を銃弾に加工したのだ。
吸血鬼に対する純粋な滅びの概念武装、正式外典「ガマリエル」の欠片。
模造品と、欠片。

その二つを組み合わせた威力が本来の物に匹敵するかは判らない。
いや、恐らくは到底届くまい。
それでもこの融合により、ブラックバレル・レプリカは強大な出力を発揮出来るようになった。
弾丸ではなく極太のビームと化したその銃撃は、物理的な破壊力だけでも相当な物だ。
地面を撃てば人が埋まるほどの穴が開く。
特性が牙を剥く吸血鬼ならば、直撃して耐えられる者など数える程だった。
……逆に言うならば、数える程には居るのであるが。

「えーっと……大当たりなんだよね、これ」
リリスは唖然となりながら呟いた。
残り二発しか無いとはいえ、この銃弾をこの銃から撃てば物凄い破壊力を発揮出来るらしい。
そう認識しながらも自信なさげに呟くのは、やはり当てる自信が無いからである。

本来の所有者シオンは強靱で細い糸、エーテライトを使い自身の体を固定する事で横に撃っていた。
そうでなければ相手を上空に弾きあげ、反動を地面へ逃がせるようにして真上に向けて撃っていた。
シオンとてただの人ではなく、肉体は半ば程度に吸血鬼化していたのだが、
それでもそこまでしなければ撃てないほど反動が凄まじいのだ。

半分どころか完全に人外であるリリスは、当然の事ながらシオンより遥かに固く銃把を握れる。
しかしリリスには銃を撃った経験がまるで無い。
反動をどう逃がせば良いのかすら判らない。
これでは反動に吹き飛ばされるのも当然だと言える。
今さっきのは咄嗟の事だったにせよ、構えて撃っても抑えきれるものだろうか。

些か戸惑いつつも、リリスはブラックバレル・レプリカを仕舞い込んだ。
強力な武器には違いないが、文字通りの切り札なのだ。
何時どんなタイミングでどう使えば良いのかを考えあぐねていた。
576死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:00:59 ID:9SVaCZf8
落ち着こうと一息を吐いて、それから。
リリスはQBに質問を投げかけた。

「ところでさ、QBを倒すなんて一体誰がやったの?」
「レミリア」
「へぇ、どんな奴?」
「ジェダサマ、ヴァンパイアッテイッテタ」
QBはリリスの問いに躊躇う様子も無く答えた。

それはそうだ。
QBにとってこれは、話して良いと言われたリリスとの会話の延長にすぎない。
ご褒美を消費までしないと与えていけない情報とは認識していなかった。
リリスはこれを見込んで取引で情報を求めようとしなかったのだ。
ジェダが『会話を許した』リリスだけに生まれた特例であった。

「ああ、ヴァンパイアって事は夜は強くなるんだ。どこでやられたの?」
「ホクトウノマチ」
そしてやはり北東の町。
どうやら北東の町では本当に様々な事が起きたらしい。

「それならやっぱり北東は手伝えないね。あたしはそいつが近づいてきてもわかんないし」
北東の町でなく神社を手伝うと言っておいて良かった。
それから、今のは先にQBが何処でやられたか聞くべきだったのだと気づく。

(焦っちゃダメだよね。順番を考えなきゃ)

リリスの思考は未だ拙い。
理詰めで積み重ねる思考には未熟なのだ。
時折驚くほどの閃きを見せたかと思えば、元のままの愚かしさも見せる。
不安定な閃き。
不完全だからこそ成長し続ける者。
今のリリスはそんな存在だ。

「でもよくQBを倒せたね、そいつ。QBって制限も無くていつも通りなんでしょ?」
いつも通り、という言葉にQBは少し頭を傾げた。
当然だろう。
もし制限が掛かっていたとしてもQBは気づかないだろう。
リリスは聞き方を変えた。
「ねえ、そいつはどんな力を使うの?」
「ケンヲモッテタ。ツエヲモッテタ」
「……それだけ?」
「ソレダケ」
なんとも身も蓋もない返答であった。

QBにしてみればやはり当たり前の話なのだ。
QBよりはかなり遅いが相当な速さで空中戦が出来る事など自分と比較して特筆する事でも無いし、
腹に大きな風穴を空けても戦い続けた事だってダークストーカーなら驚く程でもない。
魔法を使った事も、その位は『よくある魔性の力』の一種でしかない。
QBの目からすればレミリアこそ普通の敵であり、特筆すべき事など何も無かった。
逆に言えば満月の夜に辛うじてとはいえ、普通に敵しえたレミリアが異常なのだ。

リリスはうーんと考えてその意味を解釈する。
具体的にどう強くて、どんな戦い方をしてQBを倒したのかは想像の外だ。
だから本質的な部分だけを探し出す。

(えーっと、つまり実力でQBを倒したって事なのかなあ?)

レミリアは単純に強いのだと判断する。
ならばどうすれば良いかは明白だ。
577死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:01:42 ID:9SVaCZf8
それはブラックバレルを当てれば良いとかそういうものではない。
QBに勝った程なら、必殺の一撃も避けるなり弾くなりしてしまうだろう。
単純に強いとはそういう事だ。
考えるべきはどう攻撃を当てどう攻撃を凌ぐか、即ちどう戦うかなのだ。
リリスが出した結論は。

(それじゃ、からめ手を考えれば良い……んだよね?)

肉体的に脆弱でありながらリリスを篭絡したグリーンやニアのような力である。

夢魔としてのトリッキーな強さを手に入れる。
これまでは感覚で行ってきた戦いをもう一段階進化させる。
リリスが掴むべきはそんな強さなのだろう。
(うう、むずかしそう。ほんとにあたしにできるかな)
不安になる。
少し、身震いする。
だけど腕に嵌めた首輪がしゃらんと鳴って。
想いを、思い出した。

(違う、できるかじゃない。やらなきゃいけないんだ)

この想いの答えに辿り着く為には、それしかない。
哀しみがリリスの意思を支えてくれる。
優勝して、神体の中のグリーンと言葉を交わしたい。
その答えが失恋だったとしても、その答えを受け止めたい。

想いが、思考を磨き上げていく。

(そもそもあたしにニアと同じ、戦う前に勝つなんてこと出来るわけがない。
 真似するだけで同じになれるわけがないもん。
 けどあたしには正面からでも戦える力がある。
 だから多分、ほんの少し有利に戦えるようにすれば十分なんだ。
 隙を作ったり、相手の切り札を出させないだけで。
 グリーンの指示を受けていた時みたいに、あたしの力をぜんぶ出せるようにするだけで。
 今はまだどうすればそんな風に出来るかも判らないけど、でも)

指針は、定まった。
どんな未来を目指せば良いかの指針は。

「……リリス?」
「ううん、なんでもない。
 QBは一回中身を補充してきた方が良いと思うよ。
 殆ど入って無いランドセルをあげても可哀想でしょ?」
もしかすると次をリリスが引く可能性も有るのだし。
「神社に埋められてる……古手梨花だっけ。そっちを確認したらまたちょうだいね」
QBがコクリコクリと頷く。
リリスはなんとなしに、呟いた。

「それにしてもこのご褒美っていうの、便利だよね。
 ジェダ様の言うとおりいっぱい殺せば強くなれて、もっと殺せるんだから。
 だからジェダ様も認めたのかな? あ、考えたのは別の子だっけ?」
「………………」

QBはその話には興味が無い。
ご褒美ランドセルの中身を補充するにしてもそのままにしても、その後は北東の街だ。
そこへ飛んで行き、言われた死体を捜す事しか目的には無い。
話を訊いて良いと言われたリリス以外の子供は、ご褒美を要求されなければ関係の無い存在だ。
だから何の義理も無くて。
578死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:02:25 ID:9SVaCZf8
「そう、あいつ。太った、白い男の子…………そうか、あの時に見てたんだ……。
 グリーンを殺したあいつ、今頃、どこに居るんだろ」
「ソコ」
あっさり答えた。

「……え?」

誰よりもリリスが唖然となった。
QBは、壁を指差している。
隣の部屋とを隔てる、壁。
誰も居ない壁際……いや、壁に空いた穴。
バレルレプリカによる空いた、隣の部屋に繋がる穴。
その穴の向こうから、ビクッと気配が漏れた。

カサカサと走り去る音が響く。
リリスはハッとなり部屋の壁に突撃し、その勢いのまま隣室へと転がり込んだ。
その部屋の、窓際には。

グリーンが撃たれた時、顔だけで振り向いた時に見た。
最初の会場でご褒美の交渉を求めた時に見た。

肉まんみたいな少年の姿があった。

「ま、待て、暴力はいけないぞ、暴力は」
あたふたと慌てた様子で変な挙動を見せる。
だらだら脂汗を流しながら、自分は無力と言うかのように両手を上げる。
「話しあおうじゃないか。暴力はんたーいっ!」
怯えて、命乞いをする、無様で小さくて太った肉の塊。
それはとてもみっともないちっぽけな姿で。

どうしてだろう。
リリスの胸の奥からは吹き出す感情は、憎しみではなかった。

グリーンの姿が脳裏を過ぎる。
それはどれも、宝石みたいにきらきらと輝く思い出だった。
綺麗な事ばかりじゃない、ニアと会ってからは何かすれ違いも有ったはずだ。
豚にされた時のグリーンは、大好きな事は変わらないけど言葉をかけてくれなくて苦しくなった。
なのに、そんな光景は一つも浮かばなかった。

胸の奥から浮かぶグリーンの姿はどれも、輝いていた。
頭脳明晰で、リリスには思いつきもしない発想をくれて、
彼の言うとおりにしている間は全てが上手く行っていた。

力じゃまるで大した事無いのに、すごい人だった。

それが、目の前の肉まんみたいな子供に殺された。
そいつの撃ったらしい銃弾でグリーンは死んだ。
あっさりと。
ほんとうに、すごい人だったのに。
ずっと離れたくないって思えた人なのに。

抱き締めたいってだけじゃなくて、抱き締めて欲しいって思った人なのに。

こんな奴に殺された。

期待外れ?

どうして?

目の前の奴がどんな奴でも関係無いはずなのに。
579死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:03:09 ID:9SVaCZf8
コイツは、グリーンを殺した奴だ。
それだけが判ればリリスにとって関係無い話のはずなのに。

どうしてこんなに。

憎いのでも殺したいのでもなく。


ただただ腹が立つのか。


「わああああああああああああああああああああああああああっ」

気づけばリリスは、喉の奥から絶叫を上げて突撃していた。
そして刃に変えた翼を力いっぱい振り抜いた。
作戦も予測も無くて、ただ純粋に力強くて速い攻撃だった。

それよりも肉まんが窓から体を踊らせる方が早かった。


「え?」

肉まんは飛べる能力が有った様子も無く、落ちて行った。
リリスは理解できずにただただ困惑を浮かべて。



ガシャンと、下の方から響いた音を耳にする。


よく見れば、窓際にはロープが括りつけられていた。
慌てて下を覗き込むと、下の方の部屋の窓が割れていた。
どうやらそこから別の部屋に移ったらしい。
更にそっちの方でドタドタと騒がしい音が聞こえてきた。

肉まんはみっともなく逃げていく。

なるほど、それは賢い選択なのだろう。
逃げる算段もそれなりに立てているのだろう。
だけどリリスにはどうしてか、追いかけるつもりにすらなれなかった。
だって。

(……いいや、あんな奴)

どうしてか、そんな想いが込み上げてしまったから。


あんな奴がグリーンを殺した事は絶対に許せないけれど、
それを追い掛け回して殺すことに必死になる自分を想像したら、なんだか。

くだらないと思えてしまった。

湧き上がった熱情も見る見るうちに褪めていく。
それよりも行動すべきなのだろうと思考する。
あんな奴に構うよりも行動して、グリーンの魂に一秒でも早く辿り着くべきだろう。
その為にみんな殺していけば良いだけだと、そう思う。
最早リリスの眼中には太った少年の事など無くて、腕に飾った二つの首輪だけが映っていた。

目尻が濡れていた。
580死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:03:51 ID:9SVaCZf8
(……早く、会いたい)

いつの間にか傍に居たQBが、ポツリと言った。

「リリスハ、フルデリカヲサガス」
「…………うん。そうだよ」

それだけを確認すると、QBはそっけなく飛び去った。
QBにはリリスが涙を零す理由も、それがどういう意味なのか理解する知能も無い。
リリスが約束を守ってくれるならそれだけで十分だった。

リリスにも自分がどうして泣いているのか判らなかった。
だけどリリスには一つだけ理解出来る知能があった。
この涙はグリーンを想っているからなのだろう、と。

(行こう)

想いを確かめようと、前に進み始めた。
行動を再開した。
QBから非正規のご褒美も正規のご褒美も貰って、もっともっと強くなるために。

振り返らず進んでいこう。
改めて、強く思った。

【C-6/ラブホテル/2日目/黎明】
【リリス@ヴァンパイアセイヴァー】
[状態]:右足と左腕にレーザー痕。顔に酷い腫れ。全身打撲。(以上全て応急手当済み)
     疲労(小)。全身に軽度の火傷。額に浅い切り傷。背中に打撲。
     微かな哀しみとすっきりと澄み渡った決意。『考え』る事に目覚めた。
[装備]:首輪×2(グリーンとニアのもの。腕輪のように両腕に通している)
[道具]:基本支給品二式(ランドセルは男物)、眠り火×8@落第忍者乱太郎、魔女の媚薬@H×H、
    メタちゃん(メタモン)@ポケットモンスターSPECIAL、きせかえカメラ(充電済)@ドラえもん
    モンスターボール@ポケットモンスターSPECIAL 、小悪魔のウインク@H×H、
    ブラックバレル・レプリカ(13/13)@メルティブラッド(予備弾倉×1、ガマリエル弾×2)
[思考]:力を付けなきゃ。もっと強くならなきゃ。
第一行動方針:神社に向かい埋葬されているはずの古手梨花の死体を捜す。
第二行動方針:Q-Beeに協力。その恩賞として色々得る。
基本行動方針:優勝して、グリーンの魂ともう一度語り合う。もう「遊び」に夢中になったりはしない。
[備考]:
荷物の中の『魔女の媚薬@H×H』には説明書がついていません。
Q-Beeからジェダに命じられた任務の内容を聞きました。

【Q−Bee@ヴァンパイアハンター】
[状態]:健康、疲労(中)
[装備]:不明(なし?)
[道具]:ご褒美ランドセル(不明支給品0〜1(ただし補給する?))
[思考]:テツダイ……
第一行動方針:北東市街地の死体を捜しに行く。
第二行動方針:ジェダの指令をこなす
第三行動方針:(……ゴハン)
基本行動方針:本能に逆らえる範囲内で、ジェダの指令を忠実にこなす
[備考]:野上葵、ニア、グリーンの死体の存在を確認しました。
    ジェダには内緒で少しの間休憩をとりました。
    キルアの殺害者を弥彦に偽装する事にしました。
581創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 03:04:39 ID:QIyyyE+P
582死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:05:05 ID:9SVaCZf8
肉まんことパタリロは息を潜めて、リリスとQBが飛び去って行くのを見送った。
ふむと首を傾げ、考え込む。
予測した内容は、当たったような当たらなかったようなびみょーな結果になった。

パタリロの予測は、リリスがジェダの手を離れているのではないかという物だ。
リリスがあの青年、グリーン(とリリスが言っていた)に重大な内情なりを話してしまい、
それによりジェダはリリス達に刺客を差し向け、
人目に付かせずそれを果たす為に雨を降らせたのではないか、という推測である。

最初、QBがその場所に居た事は予想を裏付ける物に思えた。
ジェダから放たれたQBがリリスを殺しに来たのだと。
しかしどうも様子がおかしい。
リリスはQBに死体捜しを手伝うからご褒美をなどと言っていた。
グリーンは既に死んでいたというのだ。

いち早くジェダに始末された後という可能性も有りえたが、それにしたってQBは何をしに来たのだろう。
大体もしそうならQBが死体を捜す理由が無い。

(戸棚に隠されたお菓子をこっそりと食べてもばれなければOK、というのは合ってたみたいだが)

QBもリリスを始末しようという様子では無かった。
むしろリリスに秘密裏の任務を申し付けに来たように思える。
残念ながら部屋の壁がいやんばかんを漏らさない防音壁であるせいで最初の方は
パタリロの耳を持ってしても聞き取りにくかったのだが、QBがリリスに何か用が有って来て、
リリスはその代わりにご褒美を要求したようだ、という所までは把握出来た。
具体的に誰の死体を捜しているのかも。

(しかし死体捜しとはけったいだなあ。
 野上葵とニアと太刀川ミミが最優先で、
 他にグリーン、ヴィクトリア、古手梨花、ククリ、金糸雀も見つけないといけないというが。
 なんでそんなにあくせく死体を捜しているんだ?)

まさか死亡確認を目視で行っていたのだろうか。
QBはご褒美を配達に飛び回っているわけだし有り得るのかもしれないが。
とりあえず、死体はほぼ聞き覚えが無い者ばかりだ。
もしかするとグリーンは自分の仕業かもしれないが、他は一体なんなのか。

(何がなんだかさっぱりだが、どうやら重要な死体みたいだな)

例えばQBの先回りをして死体を調べたりすれば何か判るだろうか。
だがQBは物凄い速さで飛んで行ってしまった。
あれの先回りを出来るとは思えない。
どうにかならない物か。

もう一つ奇妙なのは、追いかけられなかった事だ。

途中で銃を撃たれた時はあわや気づかれたのかと慌てたし、
髪の先っちょを焼き焦がしてぶっぱなされたなんだかよく判らない砲撃には死んだかと思ったが、
その後に追撃もなく、本当にただの試し撃ちで気づかれなかったのかと胸をなでおろしたものの……
そんなワケは無く、やっぱり気づかれていたらしい。
583死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:05:53 ID:9SVaCZf8
にも関わらずQBもリリスも話が一段落するまで動かなかった。
リリスは穴を抜けて襲って来たが、攻撃は真っ直で甘かったし、追っても来なかった。
もしもパタリロがグリーンを殺したというのなら、リリスにとって仇である筈なのだが。

(元々グリーンって奴とは仲が悪かったのかな?
 そういえばあの時も口ゲンカをしていた気がする。
 ジェダに言われたら普通に切り捨てられる程度の奴だったとか。
 しかしそれにしたって聞かせてくれた理由がよくわからん。
 もしかしてジェダの奴、配下にも裏切られてるんじゃなかろーな?)

故意に聞かせてくれたとすればそう考える事もできる。
QBやリリスは先程の情報をパタリロに漏らす事で何かを狙っているのだと。
バレたら不味いからそれなりに殺そうとはするだろうけど、本気ではない。
既にジェダを見限っていて、この殺し合いを破綻させようとしているのだ。
穴を空けたのも話がよく聞こえるようにというまごころだ。
割と筋が通る気もしてきた。

「もしそうだとしたら、期待に答えてやらんとな」
やはり先ほど聞かされた情報から何かを読み取らなければならない。

考え中。


考え中。



考え中………………。




「って、どんな奴かもわからん死体をどう考えろとゆーんだ!!」

わかるわけがない。
パタリロは死んだ者達がどんな事をして何時何処で誰にどんな風に殺されかかも知らないのだ。
これでは考察の立てようも無い。
とにかく情報を集めなければにっちもさっちも行かないのだ。

「追いかけるのも手か」
QBの向かった北東市街地はともかく、リリスの向かった中央部なら行けなくもない。
どうせ間に合わないだろうが、痕跡を調べるなり出来るコトも有るだろう。
ただし目撃情報を聞くのは難しいが。
参加者の殆どに警戒されているという条件が厳しい。
信頼してもらうための土産話も殆ど無い。
だって土産話になる考察をする為の情報が集まらないんだもの。
584創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 03:08:11 ID:QIyyyE+P
如何せん、何を考えるにも情報が足りなすぎる。
その上に仲間が居ないのだ。
マー詰んでるね。
モー詰んでます。

「くそー、ほんとなんて事をしてしまったんだぼくはー!?」

どったんばったん思い悩むパタリロ。
最初の会場であんなに堂々と取引をしてしまった事による孤立無援が痛すぎる。
この状態で出来る情報収集なんて盗み聞きくらいのもんだ。
ほんとにもうどうしてくれようこの事態。

「……待てよ? そういえばあいつ、グリーンを殺したのはぼくだって言ってたな」

ふとリリスの言葉を思い出す。
やっぱり間違いなくあの時の銃撃でグリーンは死んだのだ。
とすればグリーンの死体はあの辺りに有る筈だ。
もしかしたら建物の中に運び込まれたかもしれないが、血まみれビショ濡れ汚れ有りの死体である。
道路の痕跡は綺麗さっぱり洗い流されても、建物の入り口を見れば濡れた物を引きずった跡が残る。
周囲の建物を虱潰しに見ていくのは相当面倒くさいが、見つけられなくもないだろう。
埋められていたら厄介だが、とりあえずは考えないでおく。
たぶん、大丈夫のはずだ。
古手梨花は神社に埋められているってわざわざ言っていたし、グリーンの方は埋まってないだろう。

グリーンの死体を見れば、どうしてQBがそれらの死体を確認していたのか、
どうしてわざわざ死亡確認をしていたのか判るかもしれない。

「よし、善は急げだ。早速捜しに行こう」

カサカサと音を立てて走り出す。
未だ止む気配の無い雨の下、パタリロは死体を捜しに駆け出した。

【C-6/市街地/2日目/黎明】
【パタリロ=ド=マリネール8世@パタリロ!】
[状態]:頭にたんこぶ、ずぶ濡れ
[装備]:S&W M29(残弾4/6発)@BLACK LAGOON、 ヘルメスドライブ@武装錬金(破損中・核鉄状態、使用登録者アリサ)
[道具]:支給品一式(食料なし)、44マグナム予備弾17発(ローダー付き)
    せんべい、お茶菓子、コーヒー豆、がらくたがいくつか
    ミニ八卦炉@東方Project、クロウカード『翔』@カードキャプターさくら、
    エーテライト×2@MELTY BLOOD、はやての左腕
[思考]:それにしてもひどい雨だ。
第一行動方針:グリーンの死体を捜索する。
第二行動方針:首輪の調達。藤木あたりが候補。
第三行動方針:調達した首輪を調べたい。道具や設備も確保したい。
第四行動方針:他にも対主催として有用な情報を得て、自分を信用してもらう材料とする。
第五行動方針:弥彦と千秋にはあう確率は低いと判断。でもできれば再開したい
第六行動方針:仲間集めは、慎重にしたほうがいいかな……
第七行動方針:暇ができたらはやての腕を埋葬してやる。
基本行動方針:好戦的な相手には応戦する。自分を騙そうとする相手には容赦しない。
最終行動方針:ジェダを倒してお宝ガッポリ。その後に時間移動で事件を根本から解決する。
[備考]
自分が受けている能力制限の範囲について大体理解しています。
弥彦を完全には信用していません。簡単に情報交換済みです。
よつばと藤木の死の真相について大雑把にですが勘付いて、千秋を少し疑っています。
キルアとエヴァが少なくとも今の自分にとっては危険人物であると判断しました。どちらも、名前は知りません。
自分が誰からも警戒されている存在だと、改めて把握しました。
リリスとQ-Beeが内心ではジェダを裏切りわざと会話を聞かせたのだと考えています。
585死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:09:52 ID:QIyyyE+P
【小悪魔のウインク@HUNTER×HUNTER】
「このウインクを受けた者は、この世のものとは思えないほどの絶頂感を味わうことができる。
 何度でも現れてウインクしてくれるが、中毒に注意。」(カード原文より)

グリードアイランドのカード。
現れてウインクをしてくれる小悪魔に実体は無い物とする。


【ブラックバレル・レプリカ@メルティブラッド】
魔術協会三大部門の一つであるアトラス院に展示される七大兵器の一つであるブラックバレル、の模造品。
“天寿”の概念武装であり、その生命の寿命に比例した毒素(攻撃力)を発揮する。
ただし通常弾では吸血鬼にも一応通用する程度の模様。
外見は自動拳銃で、通常弾(十三発)のカートリッジ三本と、
対吸血鬼の純粋な滅びの概念武装である槍鍵ガマリエルの破片から作られた特殊弾三発が付属する。
特殊弾の射撃は銃弾ではなく太いビーム砲撃と化す。

本来の所有者シオンは横に撃つ時エーテライトで固定して撃っており、
基本的には相手を跳ね上げて真上に撃つ事から、強烈な反動があるようだ。
ただしシオンの身体能力は、元が運動不足で、半吸血鬼化して多少は人外という微妙な程度。
586死者を求めて ◇S4WDIYQkX.:2010/02/19(金) 03:11:50 ID:9SVaCZf8
代理投下終了
規制されたから途中から携帯で
587創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 03:31:59 ID:QIyyyE+P
あと感想も
やっぱパタリロいいな
ニケが死んだ今、このロワで唯一の清涼剤と言えるかもしれない
参加者のほとんどに警戒されてて、いつ死んでもおかしくないのが怖いけどw
リリスもパタリロも当面の行動方針が定まったようだし、これからに期待
588創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 11:55:37 ID:EKm1oTrq
投下乙です
リリスとパタリロはこれからどうなるかほんと怖いなあ。
リリス→本調子 パタ→迷推理
で怖さの方向性は真逆だけども……。
589創る名無しに見る名無し:2010/02/19(金) 13:12:17 ID:T5lGdmE1
投下&代理投下乙!
何というか、リリスが段々といい女になっていくなあ。
悲しみを乗り越えて前進する様はマーダーなのに、どこか主人公っぽい。
そしてパタリロは相変わらずぼっち過ぎるwww
590創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 01:11:54 ID:GywN/q4d
「あいつ、今頃、どこに居るんだろ」
「ソコ」

なんだこのシュールな会話www
591創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 01:34:11 ID:7AzVaD/r
最近Q-Beeもメインで活躍するようになってきたし、Q-Beeの追跡表も用意すべきかな
それならついでにジェダもやっといた方がいいと思うんだけど
592創る名無しに見る名無し:2010/02/20(土) 14:35:13 ID:GywN/q4d
必要がない気もするけど。
時系列バラバラであちこちに宅配にいってるし、気にしない方がいい。
593創る名無しに見る名無し:2010/02/21(日) 01:40:10 ID:szKRZ6Rv
あって困るもんではないからな
594創る名無しに見る名無し:2010/02/24(水) 11:10:33 ID:9wLL65Cs
予約来てるな
595創る名無しに見る名無し:2010/02/24(水) 21:56:39 ID:5j1jAVGb
2つもきたのかー
596創る名無しに見る名無し:2010/02/25(木) 01:30:56 ID:tkH+aD7o
城の情報交換と、パタリロが仲間と再会かー。
パタリロの進行方向的に弥彦が南西市街に帰ってくるんかな?
597 ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:22:00 ID:bXQHNs0H
投下を開始します。
598優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:24:38 ID:bXQHNs0H
「雛ちゃんを知ってるの!?」

待った、と思った。
その発言と共に起きて来た木之本桜を見て、最も思考したのはベルカナだった。
彼女は桜が雛苺を『雛ちゃん』と親しげに呼んだ事に対して、警戒心を抱いたのだ。
ベルカナがこれと思考する時、その思考速度は超人的な物だといえる。
それは人より深く考えられるとかそういう意味とは少し違う。
知性という意味でも極めて明晰な知性を持つが、人間離れした程でもない。
観察し、知識と照らし合わせ、分析し、結果を推測する。
そういった普通なら時間の掛かる思考が早いのである。
常人が長時間掛かる程の緻密な作戦を、数瞬の猶予しか許されない遭遇戦で実行する。
それこそがベルカナの持つ武器である。

(どうしてそういうニュアンスで雛苺を呼びますの?
 梨々による所、雛苺は彼女に残酷な行為を強いた危険人物です。
 そして梨々による所、木之本桜はそういった行為に激しい苦痛を感じる人物の筈です。
 桜がおかしいのか、梨々の情報がおかしいのか、あるいは数時間で何かが有ったのか。
 どういう事か彼女から聞き出すのが最も効果的ですが、一つ障害が有ります)

問題はシャナの存在だ。
引き下がりはしたものの、先ほどはイヴを殺すと主張していた彼女の、所謂……正義感が厄介だ。
もし彼女が雛苺に対して敵意を抱いていた場合、雛苺を擁護するのは危険だろう。
木之本桜がおかしくなっていて危険人物である雛苺を擁護しているのだとすれば、
桜を護るなど百害有って一利無しだが、死んだ梨々の事を想うと見捨てるには早すぎる。
梨々は、ベルカナの仲間だったのだから。

「とりあえずシーツでも纏いなさい、さくら」
「え? ……きゃあああぁっ!? な、なんで裸なの!?」
「服が濡れていたからです。服はそこに干してありますが、まだ乾いてないと思いますわ」
「はうぅ、わかりましたぁ……」

着替えを始めた桜を尻目に思考を継続する。
幸い、シャナも理が有れば引き下がる人物のようだ。
ベルカナは丁寧に言葉を選びながら探りを入れた。

「ええ、木之本桜さん。意識を失っていたから、紹介もまだですわね。
 私はベルカナ・ライザナーザ。
 梨々=ハミルトンと仲間に協力し、あなたを救出すべく行動していました」
「梨々、ちゃん……? 梨々ちゃんが生きてたの!? きゃっ」
「ああ、ほら、服を着ながら慌てるからです」
ベルカナは慌てて桜を助け起こす。
同時に、少女の一言に篭められたあまりにも真摯な愛おしさだけで迷いは雲散していた。

彼女は、梨々の友人だ。

どんな理由が有ろうとも、梨々の友である事だけは間違いない。
桜が自らの感情まで全て演じてみせる名優という可能性はさて置く事にした。
仲間の友人であるというならば、護らなければならない。
その人物に伴う危険性など後の話だ。

「どういう事? 説明しなさい」
「ええ。雛苺という人形は初め夕方の森に出現した危険人物です。
 そこで彼女、木之本桜を拉致して殺人を強要しました。
 彼女の仲間だった梨々=ハミルトンもその時に殺されかけています。
 つまりは私達の、敵です」
「待って、待ってベルカナさん!」

シャナの問いにベルカナが答え、桜が異を呈した。
599優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:26:27 ID:bXQHNs0H
木之本桜にとって交わされる言葉は冷たい刃のようだった。
そこに交わされる言葉の殆どは、厳然たる事実だ。
むしろ事実はそれ以上の物とすら言えるだろう。

雛苺は多くの命を奪った殺人鬼である。

その事は桜だって判っている。
語られた以上の罪を木之本桜は目撃し、体験してきた。
あれだけの罪を誰が赦せるというのだろう。
弱さから罪に走った雛苺には罪を背負う事すらできはしない。
雛苺は罪を振り返る事もない極悪人としてこの島に立っている。
だけど、それでも。
雛苺の瞳に湛えられた恐怖と悲しみは。

彼女が漏らした悲痛な訴えは真実の叫びだったと信じたい。

(たすけたい。絶対だいじょうぶだよって信じさせてあげたい)

この島で雛苺は罪を振り返れないかもしれない。
絶対に赦されない事をしたという、その重みを受け止められないかもしれない。
今は。
でも何時か。
今日は無理だろう。
明日でも無理かもしれない。
でもずっと一緒に居てあげて、雛苺の心が落ち着きを取り戻せたら。

その日が来たら、一つ一つ清算していこう。
全ての罪を。
全ての過ちを。
例えどれだけ掛かったって、何時の日か。
だから桜は、思うのだ。

「その通りだけど、でも違う。違うの!
 雛ちゃんはただ寂しくて、一人になるのを怖がっていただけなの。
 それで本当にひどい事を何度もしてしまった。
 それはほんとう。
 でも、これ以上はさせないから。
 わたしが一緒に居れば、大丈夫だから。
 雛ちゃんにはもう、人殺しなんて絶対にさせない!」

彼女に救いと、時間をあげて、と。
悪意と殺意が支配するこんな残酷な島の時間じゃなくて、
誰かと心を通わせて、なんて事も無い、だけど掛け替えの無い温かな時間を。
立ち上がるのに少し時間が掛かってしまうのは、決していけない事じゃないと思うから。

しかしベルカナは、首を振った。

(どうして?)
桜はベルカナの瞳を見た。
何かしら強い感情を湛えた、冷たい瞳を。
ベルカナは告げた。
「私は咎人の罪を裁きなどしません。私達の敵で無いならば。
 全てはあなた次第です。
 もしもあなたが本当に雛苺を御す事が出来て、
 かつ雛苺について最も渦中にいるあなたがあれを赦す事が出来るなら」
「赦……す…………?」
桜が先ほど訴えた言葉では、まだ不足なのだろうか。
戸惑う桜にベルカナは教えた。
雛苺が絡む更なる罪を。
600優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:29:01 ID:bXQHNs0H
「雛苺に操られるあなたに殴り殺されかけても。
 あなたを救う為に、勇敢にもかつて敵だった者達に助力を求め、
 私達と共にあなたの為に戦った梨々=ハミルトンが。
 少し前の雛苺が乱入した戦いで戦死していると聞いても、同じ事を言えますか?」

「…………え……?」

頭をハンマーで殴られたようだった。
ついさっき、梨々は生きていたと聞いた。
どうして今この場に居ないのかは判らなかったけれど、すぐに聞こうと思っていた。
何度も謝って、何度もお礼を言って、仲直りしたいと思っていた。

雛苺によって死んだと思っていた梨々は、生きていた。
ずっとずっと、桜の為に戦い続けていた。
そして雛苺が乱入した戦いによって、梨々は命を落とした。

雛苺は木之本桜の親友の梨々=ハミルトンを、二度殺した。

「あなたは雛苺を御せてなどいない」

ベルカナの言葉は鋭く、冷たく、熾烈だった。
同時に、優しかった。

「もしかするとあなたは、それでも雛苺を赦せるのかもしれませんわね。
 私達よりずっと多くを奪われたあなたが雛苺を赦すなら、私も彼女を赦しましょう」
そしてベルカナの言うとおり。

木之本桜はそれでも雛苺を、赦せてしまう。

何時の日か償って欲しいと思いながら、それでも慈悲の心が上回る。
桜が傷つけ、救おうとし、逆に桜を救ったプレセアが殺されたというのに。
この島で信じられた数少ない親友の梨々=ハミルトンを二度殺されたというのに。
桜の手を見ず知らずの罪も無い少年の血で汚させたというのに。
大切な人達を何人も殺されて、桜の身も心も鋭い茨で引き裂いてきたというのに。
それでも桜は、雛苺を可哀相だと思ってしまう。

桜にはきっと、誰かを恨み憎む事なんてできないのだろう。

「ですが、雛苺が更なる罪を重ねる事は許せません。
 あなたに彼女を御す事が出来るかどうか。
 私達にとって重要な事はそれだけです」
ベルカナは会話を断ち切るように、告げた。
全ては桜次第だとそう言って。

「待ちなさい。それで結局、雛苺は何処へ行ったの?」
シャナが言葉を差し込んだ。
次は彼女との会話が待っていた。
ベルカナは答える。
「その時に襲撃してきた別口の誰かが連れ去りました。
 少女のようでしたが、守りの外套で全身を包んでいましたから顔も名前も不明です。
 何か支給品で転移したようですから、何処へ消えたかは判りませんわ」
「そう。それじゃ」
「お待ちなさい、こちらが話すだけでは堪りませんわ。
 そちらからも聞きたい事は幾つかあります。せめて友好的人物と危険な人物について」
シャナは、答えた。
601優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:31:44 ID:bXQHNs0H
「友好的な人物は犬上小太郎、犬の耳が生えた少年。強いけど、力を消耗してる。
 吉永双葉、少年みたいな少女。インデックスに預けた。
 妙な短剣を持っていなければ、三宮紫穂。変な服装。双葉と一緒。
 野比のび太。気弱そうな眼鏡の少年。
 高町なのは。精神が摩耗してるけど理性的で、行動自体は感情的な少女。
 インデックス。スケスケの服を着た銀髪碧眼の少女。北西の森周辺に居る。
 ヴィータ。赤い髪を三つ編みお下げにした少女。インデックスの仲間。
 明神弥彦。時代がかった和服でツンツン髪の剣術少年。不殺主義。
 キルア。姿も不明な仇を捜して南の市街地から中央部に向かってた。
 ここまでインデックス以外は見た目十歳かそこら。
 あと私は直接会ってないけど、アラストールがコキュートスから見たのが何人か。
 神社にエヴァンジェリン、ニケ、リンク、古手梨花というインデックスの仲間が居るみたい。
 全員外見は小学生も下の方くらいだけど、概ね戦えるそうよ。
 ここからは危険人物。名も知らない銀髪の少女。
 インデックスとの見分け方はよく笑うのと、明らかに邪悪で、胸部に穴が空いた喪服みたいなドレス。
 キルアに殺害されたらしいのに生きていたから、似た奴が居るのかも。
 リリス。南西の町で戦ったけど、逃げられたわ。思ったより狡猾で、純粋だった。
 ブルー。茶髪の少女。でも外見年齢を自在に変えられるみたい。
 それと一緒に居たのがイヴなんだけど……これはさっきの話で、とりあえずは良いわ」
シャナは矢継ぎ早に人物の解説をしていく。
朝までに北東の街へと着いておきたいシャナには時間が無いのだ。
そこを差し引いても不親切な所は多々あるが、こちらはシャナの性格による分が大きかった。
彼女は人に何かを教えたり伝えたりするのが大の苦手である。
これだけの説明で見た時に判るか、それどころか覚えておけるか怪しいものだが仕方が無い。
それから、トリエラとリルルの事は意図的に伏せていたし、
そうでなくとも高町なのはに頼まれたアリサなど話忘れが存在していた。
むしろ冷静に考えればシャナにこれほどの情報を提供する義理は無いのだが、
急いでいるからこそ逆にあまり考えず片っ端から話していた。

「あと学校に、私もアラストールも話でしか聞いてないけど、
 リンクや古手梨花の仲間だった小狼というのも居たみたいだけど神社とは別の方向に……」
「小狼くんが居たの!?」
大切な少年の名に木之本桜が喰らいつく。
「夕方の放送よりも前に聞いた事よ、何処に行ったかは…………判らないわ」
シャナは少し考え、学校に居た小狼は南へ向かったという話を伏せた。
ある可能性に気づいたからだ。

もしかすると、南の市街地から中央に続くトンネルの入り口に転がっていた、
まだ死んで間もない、あの死体こそが季小狼だったのではないだろうか?
生憎シャナもアラストールも小狼の姿を知らない。
もしそうであれば放送で呼ばれるし、そうでなければ無駄に不安がらせる必要も無い。

一方、ベルカナはシャナの話を聞いて少し考えていた。
彼女が出会った人物の数は結構なものだ。
しかし危険人物として伝わっていたのはヤミヤミことイヴだけ。
(案外、中央の森林部はかなりの壁になってくれたのかもしれませんわね。
 遭遇数が少ないアルルゥはともかく、レックスの情報も案外広がっていないのは僥倖です。
 それから……)
「吉永双葉は梨々の親友でしたわね。貴重な情報をありがとうございます。
 もう少しだけ良いですか? イエローやタバサという人物に心当たりは?
 両方とも金髪の少女、イエローは格好によっては少年に見えるかもしれません」
「金髪は……少し会ったり聞いたけど、全部名前は判ってるから違う」」
「そうですか。あとあなたがどの辺りで行動してきたか、教えてもらえますか?」
「私は島の西端を北から南、南西の市街地からここ。でも」
『我がインデックスと共に、島の西端から山岳地帯を経て神社、そこから西だ』
胸元のコキュートスからアラストールの声が響く。
その二つの情報から考えれば、島の西域は概ね網羅されている。
森林部に穴が有るものの、それ以外はほぼ全域を通っている。
(イエローとタバサは島の西域に出没していない──と見て良いのでしょうか)
吉永双葉は気になるが、島の西域を捜してもイエローやタバサは見つからないかもしれない。
602優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:36:14 ID:bXQHNs0H

「ふえ……わたし、そのイエローって子、知ってるかも……」
「本当ですか!?」
おずおずと上げられた桜の手にベルカナが反応する。

「う、うん。森で、雛ちゃんが襲ってきた時、緑の髪の人形と一緒に現れた子が、
 金髪でなんだか男の子みたいな見た目だったから。
 凄い爆発が有ってすぐに居なくなっちゃったから、どうなったのかは判らないよ」
「そう、ですか。何時頃、どう来たか分かりますか?」
「えっとね、時間は夕焼け空の頃で……」
木之本桜が語る内容にベルカナは内心で少しだけ、不安を抱いた。
謎の人形と戦場に現れたイエロー。
プレセアの治療に懸かっていた桜の視点からでは状況がよく判らなかったものの、
イエローとその人形が組んで行動していた事は確かだと思われた。

それ自体は別段悪い事ではない。
イエローも何か行動している事しか意味しない。
単に戦いを止めようと割って入ったのかもしれない。
だけど目の前に居る木之本桜からの連想で、ベルカナはこんな不安を抱いた。

イエローも桜のように、人形に操られているのではないか。

とはいえ、ベルカナが知る危険な人形は真紅と雛苺だけだ。
二度ある事は三度あるかもしれないが、三度目の正直かもしれない。
(雛苺の一件で人形に対して過敏になりすぎているのかもしれませんわね。冷静にならないと)

ベルカナは、ジーニアスの仲間こそ正に友好的な人形であった事を知らない。
翠星石の名と首はベルカナの中で結びついていないのだ。

「それで、その人形も何処へ行ったのか判らないの?」
「うん。ものすごい爆発が起きて、みんなはぐれちゃったから。
 ベルフラウちゃんともはぐれて……そのまま……」
シャナの問いに応じた桜の答えに、ベルカナは一瞬視線を泳がせる。
ほんの一瞬、それだけの反応だ。
彼女はベルフラウが何処で死体になっていたかを知っている。
この城のバルコニーで、誰とも知らぬ別の少女と並んで死んでいたのだから。
「……あなたが助けようとしていた、プレセアともですね」
話を逸らすように問い返す。
今度は逆に、桜が顔を俯かす。
苦痛から。
「ううん。プレセアさんは………………雛ちゃんに、殺された」
「そう、ですか」

ベルカナはまたも少し、惑う。
雛苺に関わって失ったものが多すぎる。
それは彼女自身が赦す赦さないという問題ではない。
仲間の結束を保てるかどうか、それこそが問題だった。
だからベルカナは釘を刺しておいた。
「私の仲間にはプレセアの大切な仲間も居ます。その事はあまり話さないように。
 恨み憎しみなんて少ないに越した事はありません」
「え……う、うん。…………ごめんなさい」
戸惑いと罪悪感を満面に浮かべた桜の謝罪に、ベルカナは息を吐く。
ひとまずは、これで良い。
ひとまずは。
603優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:39:07 ID:bXQHNs0H
「それで? 結局、自動人形についての情報はそれだけなの?」
「ええ。申し訳ありません、シャナさん。一応、お聞かせ願えますか?
 あなたが自動人形を捜す理由は?」
「自動人形の破壊が私の使命だからよ」
ハッと息を呑む桜を、シャナは冷たい目で見つめた。
彼女が何か言い出すのを塞ぐように、宣言する。
「おまえは納得しないかもしれないけど、私には関係無い事だわ。
 おまえは理屈が通じる相手じゃないだろうし、それにもう片方は納得している。
 そうでしょう? ベルカナ」
「ええ。さくらが雛苺を御せて、且つ私の仲間が彼女を赦せるならば、
 私は私と仲間に無理が無い範囲であなたから雛苺を護る立場になるでしょう。
 それだけの事です」

それだけの事。
ベルカナ一行が雛苺を取り込んだ所で、シャナと再会しなければ関係の無い話。
この狭くも長生きできない島では、そんな事が十二分に有りえるのだ。
雛苺絡みの事も、雛苺が何処かで殺されれば桜以外にとってはめでたしめでたし。
そんな話なのだ。

『話しすぎではないか、シャナ?』
「別に隠すような事は無い。……けど、今度はこっちから話してばかりか」
シャナはアラストールの危惧に応えて、気づく。
ベルカナばかり話していると思ってこちらからも話したけれど、まともな情報を得られたわけでもない。
アラストールの警戒は、言外にあしらわれているのではないかと注意したものだ。

ベルカナは言葉通りに取って、答えた。
「では私も、せめて危険人物についてお話しましょう」

ベルカナは朝の森で見た銀髪の少年、レミリア、イヴと城を襲撃したロングコートの少女について語った。
中でもシャナにとって興味深かったのは銀髪の少年だ。
その存在はシャナに一つの確証を抱かせる。
少年というのは気になるが、やはり銀髪の子供は二人居たのだ。
あの少女は時折、戦いの最中、口調と雰囲気が少年のようなそれに変わっていた。
これは思い切った想像だが彼女が男装、あるいは女装をしているとすれば説明が付く。
「多分その銀髪の少年が、キルアに殺害された方ね」
『待て、シャナ』
そう思いきや、アラストールが疑問を呈した。
『学校において、襲撃を仕掛けてきてなのはが倒したというのも銀髪の少年だった。
 恐らくそれがベルカナの見た少年だろう。
 少年と少女が別に居たとしても、まだ説明はつかん』
「え? 二人で二度も死んだはずなのに?」
推理は更なる混乱へ迷い込む。

両方とも、桜など聞くだけで顔が青くなる程の死因から見て生き延びたとは考えにくい。
学校組か、あるいはキルアが嘘を吐いていたのだろうか。
あるいは二人どころか三人も居るのだろうか。
それともまさか、心臓を抜かれても上半身が消し飛んでも再生したのだろうか。
結局、二度殺された銀髪少年(?)の正体は判らなかった。

604優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:46:55 ID:bXQHNs0H

「……話が長くなったわね。私はそろそろ行くわ」
得られた収穫は半端な物だが、シャナも長居してはいられない。
シャナの目的地はあくまで北東の市街地だ。
双葉やインデックス達が居るかもしれない中央エリアを無視しながらも城に舞い降りたのは、
方向が完全に一致していた通り道で、灯りが見えて、少し寄り道しただけに過ぎない。
雨の中を飛び続けた事による疲労も一因だったが、これ以上ぐずぐずしてはいられない。
旅立つに良い時間というものは標的が移動してしまう時間でもあるのだから。

いつの間にか、空を覆う雨雲にも切れ目が見え始めていた。
もうそろそろ四時が近いのだろう。
今から城を発てば雨が止んだ頃には街に着けるはずだ。

「それじゃ、生きていたらまた会いましょう」

少女は炎の翼を広げると、冷たい雨の降り続ける夜空へ飛び立っていった。
その先にある戦いを見据えて。

朝は、まだ来ない。

【F-3/グランバニア城上空/一日目/黎明】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:しろがね化、消耗(小)
[装備]:楼観剣(鞘なし)@東方Project、コキュートス@灼眼のシャナ、あるるかん@からくりサーカス
[道具]:支給品一式(水少量、パン一個消費)、包帯
[思考]:なに、もう一人いたの?
第一行動方針:ベルカナ達と情報交換。自動人形の情報を得る。
第二行動方針:北東の市街地に向かい居るはずの自動人形(トリエラ・リルル)を破壊する
第三行動方針:要件が済んだら、インデックスや双葉たちと合流。
基本行動方針:ジェダを討滅する。自動人形(と認識した相手)は、全て破壊する。
[備考]:義体のトリエラ、及びロボットのリルルを自動人形の一種だと認識しました。
[備考]:これまでのインデックスの行動の全てを知っています。
    神社を拠点にする計画も知っています。
    弥彦、キルア、アラストールと情報交換しました(どの程度かは次の書き手任せ)



そして、またも少女たちが残される。
雨の夜、身を寄せ合うようにして城に休む少女たちが。
ベルカナは木之本桜を振り返ると、言った。

「さくら。これを渡しておきます」
「え、これって……」
『水』と『風』のクロウカード。
ベルカナはその二枚を桜に手渡した。
「それから、これも」
更に金色の十字架を提示する。
桜は目を見開き驚いた。
「リインちゃん!?」

起動していなくても間違える事など無い。
リインフォースII。
デバイスにして意思を持った少女だ。
その桜の反応を見て、ベルカナはやはりそうかと再認識する。
別にそうである確証はなかったのだ。
605優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:49:02 ID:bXQHNs0H
「私が持っていてもこれらを使う余裕は有りませんから。
 ある程度は魔力を回復させたあなたの方が適任という物です」
「で、でも良いの?」
「もう一度だけ確認させてもらえれば十分です」
「確認?」
「ええ」
身構える桜に、ベルカナは重要なたった一言を問いかけた。

「あなたにとって、梨々=ハミルトンは友達でしたか?」

桜は予想外の問いに目をぱちくりさせて、それから。
俯いて。
息を吐いて。
息を吸いこんで。
顔を上げ、真っ向からベルカナを見つめて。
答えた。

「はい、そうです。ほんとうにたいせつな、友達です」

ほんの数時間だけを共にした友情を肯定した。
梨々=ハミルトンは木之本桜の親友だったのだと。
ベルカナはそれを確認しただけで、良しと頷いた。
「それなら十分です。あなたは、私達の仲間です」


仲間の友人というだけ、本当なら信じるには根拠が薄い。
仲間が信用できても、仲間が騙されていなかった証拠など無い。
この程度で騙されたら騙した奴が狡猾なのではなく、騙された奴が馬鹿だっただけである。
だけどもしそうなら、ベルカナが警戒しておけば良いだけだ。

ベルカナは心の底では、桜への警戒を緩めていなかった。

木之本桜が純粋な少女である事には半ば確信を持てている。
ただし、危険人物にさえ手を差し伸べてしまう別の意味の危険人物だとも認識しているし、
表層に出ていないだけのなんらかの精神病理を患っている危険や、特殊な思想を持つ可能性も有ると考えていた。
“あの”雛苺──
同族の生首をお化け人形の首に吊るし、桜に梨々を殺そうとさせ、自分でも積極的に襲い来る怪物を、愛せる事。

(そんなモノに優しくできるのは、心の何処かがおかしな者だけです)
ベルカナは心中でそう断言する。
心の奥が病んでしまったのか。
あるいは。

おかしなまでに純粋で心優しく、慈悲深いのか。

ベルカナは、後者であればそれで良いと考えている。
だけど自分は彼女を警戒し続けることにした。
信用するのは、アルルゥ達に任せる事にした。

信じることをベルカナの信じる仲間達に任せ、自らは信じるふりをして警戒を維持しよう。
そういう役割分担である。
アルルゥもレックスも純粋で、ヤミヤミが記憶を失い経験を持たない以上、
自分には外部の者を疑い、勘ぐり、利用し、あるいは関係を調整する役目があるという結論に至ったのだ。
606優しい微笑みを浮かべて ◆S4WDIYQkX. :2010/02/26(金) 05:52:18 ID:bXQHNs0H
「共に生き抜きましょう、さくら。私の仲間達と共に」
「仲間……? そういえばベルカナさんの仲間ってどんな子達なの?」
その問いに、ベルカナは少し声を潜めた。
「それですが、良いですか。驚くのは構いませんが、焦って逃げたりしてはいけませんよ。
 そのリインフォースの意思とやらにも後で顔合わせしてもらいますが、同じく過敏な反応はなさらないように」
「驚いても、焦るな?」
困惑する桜へ、ベルカナが返答する。
「言ったでしょう。梨々=ハミルトンはかつて敵対した者を仲間にして、あなたを助けようとしたのです」

しばらくして戻ってきたレックス達に、果たして桜は動揺した。
霧の中、梨々に襲いかかってきたというレックス。
更には森で戦いになり、梨々に押さえ込まれていたアルルゥ。
二人とも、目にした桜が驚くのは当然のことだ。

とはいえ事前の注意もあり、桜は二人を疑う様子もなくすぐに沈静化した。
一時的に起動し顔合わせをさせたリインフォースIIも、同じような経緯を辿る。
レックスの謝罪を受け入れて落ち着くまで、全ては拍子抜けするほどスムーズに進んだ。

もちろんこの和解は彼女達の純粋さと、梨々の存在が成した事である。
木之本桜もリインフォースIIも、レックスもアルルゥも、四人全てにとって梨々は仲間だった。
だから梨々の仲間であるお互いに対して、思いのほか容易く心を開き始めたのだ。
まだすれ違いは起きるかもしれない、もしかしたら落ち着いたのは表面上だけかもしれない。
だけど今のところ、そう警戒すべき様子には見えなかった。
ベルカナの警戒は今のところ取り越し苦労だと言える。
そして、これこそベルカナが自らに課した役割でもあった。

取り越し苦労をする係。

外部と外部から入ってくる者達を最大限警戒して、何かあったら対応し、何もなければ良かったね。
そんな係である。
(まったく、ずいぶんと損な役を引いた気がしますわ)
徐々に打ち解けていく様子の桜達を少し外から見守りながら、ベルカナは疲れた溜息を吐いた。
実際にも大変疲れている。
今から放送直前まで寝たところで、精神力は全快時の半分も回復するか怪しいものだ。
たっぷりと睡眠時間を取るつもりだったのに気づけばこの有様、ちぐはぐである。
それでも睡眠を取るに越したことはない。
ベルカナは深い溜息を吐き、

「私はもう少し睡眠をとりますわ。さくらも熱があるのですから無理はしないように。
 それでは、おやすみなさい」

浅い眠りに就いた。


【F-3/グランバニア城一階・宿屋/一日目/黎明】
【ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT】
[状態]:精神力消耗大、ツーカー(→イヴ)
[装備]:ネギの杖、果物ナイフ@DQ5、ゴロンの服@ゼルダの伝説、レースのビスチェ@DQ5、
[道具]:支給品一式×4、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、黙陣の戦弓@サモンナイト3
    テーザー銃@ひぐらしのなく頃に、爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔晶石(15点分)@ソードワールド、
    消毒薬や包帯等、ツーカー錠x3@ドラえもん、マジカントバット@MOTHER2、パワフルグラブ@ゼルダの伝説
[服装]:ゴロンの服。その下にレースのビスチェ
[思考]:少しでも寝なければ……
第一行動方針: 放送直前まで眠り、少しでも精神力を回復させたい。
第二行動方針: 朝の放送でイエローが無事だった場合、『交信』でイエローと連絡したい。
第三行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない)
第四行動方針:仲間を集めたい(イエローの友人の捜索。簡単には信用はしない)
基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア
[備考]:葵が死んだことを知りません。
    レベッカ宮本を『フォーセリアのレッサー・バンパイア』だと考えている?
607創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 08:26:40 ID:akB3YPLW
お、投下きてた
608代理:2010/02/26(金) 10:13:18 ID:ijYeH1uy
【木之本桜@カードキャプターさくら】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(中)、発熱、核鉄二つで回復中
[装備]:核鉄『シルバースキン・アナザータイプ』@武装錬金、核鉄LXX70(アリス・イン・ワンダーランド)@武装練金、
    クロウカード『水』『風』、リインフォースII@魔法少女リリカルなのはA's
[道具]:基本支給品×2、梨々の普段着(近くに干されている)、
[服装]:裸シーツ
[思考]:色々有って少し混乱中?
第一行動方針:状況を把握する?
第二行動方針:雛苺を止めたい、約束を守りたい、彼女にこれ以上殺人を起こさせないようにしたい
基本行動方針:状況を把握する。雛苺のそばにいてあげたい。
[リインフォースIIの思考・状態]:???、梨々の知り合いの情報を聞いている

【レックス@ドラゴンクエスト5】
[状態]:魔力中消費
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5(ドラゴラム使用回数残り2回)、勇気ある者の盾@ソードワールド
[道具]:基本支給品×2、GIのスペルカード『磁力』@HUNTER×HUNTER、飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心
    ドラゴンころし@ベルセルク、バトルピック@テイルズオブシンフォニア、
    爆弾石×2@ドラゴンクエスト5、魔力の尽きた凛のペンダント、小さなメダル@DQ5
[服装]:普段着
[思考]:あれ、シャナもう行っちゃったの?
第一行動方針:仲間を守りつつ、レミリアとタバサを捜す。
第二行動方針:魔力が回復して余裕が出来たら、不明アイテムや水中の調査
基本行動方針:勇者としてタバサの兄として誇れるよう生きる。でも敵には容赦しない。
[備考]:エンディング後なので、呪文は一通り習得済み
    アルルゥや真紅はモンスターの一種だと思っています。
    ベッキーは死亡したと考えています。
    お城の地下に迷宮があるのを確認しましたが、重要なことだと思っていません

【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]:魔力消費(中)、右腕の手首から先が動かない。眠たい。寝よう。
[装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3
[道具]:基本支給品×2、クロウカード『泡』『駆』@カードキャプターさくら、
    海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り、快速シューズ)@ドラえもん
    スタンガン@ひぐらしのなく頃に、アタッシュ・ウェポン・ケース@BLACK CAT
[服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている)
[思考]:眠たい。
第一行動方針:眠たい。寝よう。
第二行動方針:レックスについていく。
第三行動方針:レミリアやイエローを捜したい。
基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。
参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後
[備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。
    ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。
    サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。
    アリス・イン・ワンダーランドに対して嫌悪を覚えています。
    ベッキーは死亡したと考えています。

【ヤミヤミ(イヴ)@BLACK CAT】
[状態]:疲労(大)、10歳前後の容姿、ツーカー(→ベルカナ)
[装備]:レミリアの服、エッチな下着@DQ5、返響器@ヴァンパイアセイヴァー
[道具]:基本支給品×2、光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、
    フック付きロープ@DQ5、神楽の傘(弾0)@銀魂、エーテライト×1@MELTY BLOOD、
    胡蝶夢丸セット@東方Project、ラグーン号操船マニュアル、病院服、ただの布切れ
[服装]:レミリアの服、その下はエッチな下着
[思考]:さくら、起きたんだ
第一行動方針:桜の世話をする。
第二行動方針:自分の過去を知りたい。そのために、ブルーや千秋から話を聞きたい。
基本行動方針:自分の過去を知りたい。そして罪と向き合いたい。ベルカナ達に付いて行く。
[備考]:記憶をすべて消し去りました。元世界の記憶、この島での記憶、共にありません。
    ヤムィヤムィと名づけられました。ヤミヤミという呼称が使われます。
609創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 10:18:03 ID:ijYeH1uy
代理投下完了。
そろそろ次スレの季節ですが…こちらもよく規制に巻き込まれるので、すみませんがお願いできますでしょうか。
610創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 12:09:31 ID:S1CkY+hY
投下乙〜
梨々の存在はやっぱでかかったんだなあ
チーム組みだしてからベルカナ輝いてる
611創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 23:23:34 ID:q7SaJhpp
612創る名無しに見る名無し:2010/02/26(金) 23:56:46 ID:ijYeH1uy
>>611
スレ建て乙です。
613創る名無しに見る名無し:2010/02/27(土) 00:59:30 ID:RXJ+QNbc
投下とスレ立て乙!

梨々の存在感とベルカナの思考がいいなー。
放送前はさえなかったけどこういう参謀タイプは人が増えると本領発揮だよな。
614創る名無しに見る名無し:2010/02/27(土) 01:18:13 ID:Kf9oZ+GK
投下GJ! みんな言っているけど死んでしまった梨々に対しての描写がうまかったです。
ベルカナの語りのうまさもあって静かな臨場感がありました。
シャナとのドライなやりとりも面白かったです。
……しかし雛苺を保護することがもうかなわないのは良かったのか悪かったのか。
それにしても不安要素がないわけじゃないけどこのパーティーは強いな。
集団戦力としては島で最大級か。

>>611
スレ立て乙です。
615創る名無しに見る名無し:2010/02/27(土) 05:58:02 ID:pRBPjqOw
スレ立て乙
じゃあこっちは埋めるか?
616 ◆PJfYA6p9PE :2010/02/27(土) 11:38:14 ID:syfWWLk0
パタリロ、明神弥彦を投下します。
ただ、このスレを使うと容量的に入りきらないので、次スレに投下します。

……できれば、昔のスレであったような埋めネタが見たいなぁという期待も込めつつw
617創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:53:27 ID:dMi+xwKq
さてこのスレはもう用済みだし、適当に生存者のAAでも貼って埋めるか
容量的に数人分くらいしか無理そうだけど

                          __
                   ヽ,,,_,,,- '''  ̄    ̄'''''  -.,.ヽ、; __
                  ,,..-"               'i r''"
                /                   ,;;ー-
                /                     ヽ
               イ   イ丿ソ^ii^i iヽヽ、          i
               l λ/  ノ|| || ヽ ヽヽ .,_          l
               !ll i i    ヽ ヽ      ' ;,          l
                ヽム       `   ,,、 <,,  ,,.- .,   l
                人スミ=;;,  、,;;;;;;;ニソ"'ヽ 丶 ii 入 i   l
                  i`'テ〒`,  '^彳〒';=-  .i i ii ヽ i   l
                    l ^'''^ !    `''''''"   i i ii,,,.//   ll
                  l   /          i i i ,/     ll
                  ll  ゝ-''         .リ>!!レi,     !
                   i   ー----      ''" ,,,;!,    !,
                     リヽ  ー-       _,,-'", ; i,    '!,
                    ヽ   ,     _,,.-''ヽ ヽ ; ; i,    '!,
                     i\,l___,,..-i;;" i  i  i .i  ; i,    '!,
                         i i ヽ;;;;;;::"i   i  !  ! '   i,,     '!,
                    __i !   i   '   '         >-;;...,,,!,_
              __,,,.. -''フフ                 ,,.-',,-''"   "'''''''=
           ,.-−フ   / /               ,/,/
         /  /   ;' ;'              ,./,/
        /   /     i i           ,,. / /

                          アリサ
618創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:54:10 ID:dMi+xwKq
              ,-ー─ 、
            _ ノ _ィ==ュ
          /__ ン´     ` ヽ 、
         ///  ィ〜、  ィ〜ー 、 ヽ
         / / ./´/ / /|. | ヽヽ ヾ 、 |
          |  /|ヽ|/_トレ'||ンヽ_\ ヽ)ヘ
         ノ  /「| /rァy    r=:、ヽ7、. ヽ  rv'7、
        //| /l弋| に:ソ .  に:ソ / ノ\ |  |、V /ユ,
     r777ュ/ .l / |. |ヘ   「 7   /ィ. /| )) 〉_ `ー/
     L_  ヽ、`⌒`ー_、_`7ュ `´ ィ ンー‐:.、ノ/ ノ::::::::7
      >、/::} k´:::::| \::ー--__>、::_::_:ノ)ー‐'`ヽ::/
       }:::::/Y \ノ   rィ´:::::::ヽヘ/__/
       ` ヽ   //    y、::::::::ノ∧'´
         `ー ´ /   /ノ` ー'"  ヽ
            `ヽ_//     _,ム
             /:: ̄ ̄::::: ̄::\
           /::::: : : .::::::::::::. : : .::\
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          `ヽ::_:_: : : .:::::::::. : :_: :_:::::::::ノ
            | ヽ、_:::::::::/   l ̄
            |    | ̄ ',     |
             ,'     l   ',   |
           /   ./         ヽ
          /\__/      ヽ_ノヘ
         /:::::::::::::/       マ::::::::::ヽ
           /:::::::::::::/         ',::::::::::::::
        /:::::::::::::/             ;::::::::::::ヘ  
      r:´:-、::::::/            ∨:::::::::::\
     /:::::::::ヽ_l´             |::l::::r'::`::ヽ
     l、___/               ヽ、l::::::::::ノi
                          `ー─'

            アルルゥ
619創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:54:51 ID:dMi+xwKq
                          . . ....-‐…‐-. . .. .
                        /.:.:.:::::゚.::::::::::::/.:::::::::::`: . .、
                        , ′.:.:.::::::::::::::::::/.:::::::::゚:::::__:::::丶
                          /:::::::::/'ヽ.::::::::::::::::::::::::::::7/:__::::::ヽ
                      /::::::/  ノ.:.:::::::::::::::::::ヘ.ノ/((.! {|D)N
                     ,⊥/   /::::::::::::::::::::::: ゝ∠二Z,ノ-‐‐}
                        j/    /___::::::::::::::::::::::::::` <..イ.:::::::::::|
                   /   ∠;;;;;;;;ヽ、 ̄ ̄ ̄ ゙゙゙̄ー―-=ニ:/
                   / ー''"´  Y/´ \、:.:::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
                 /´     ̄ ̄`ヽ}′   `::ー-ニ二三三三三二ニ丶、
.                /     )ーく  }    `ヾテヽ`ヾ'' . : ::;;;;{`ヽ三三::ヽ
               /     厂  ゝ {、         ̄`  .ィテ>''   `ーニ彡′
               ,.ヘ/     /`ヽィ八 ノノ         {  ,′
               /::::::\   /     /         ,    |/
           ,../.:::::::::::::::::\     /;;.,   ,.::、  `ヽ ノ/
        ,.く::::\:::::::::::::::::::::::\ ...イ::.、\; .     ゝ ー- フ´
       /.:::::\.:::\.::::::::::::::::::::::>'\\:`::::ヽ:.;.     ¬'′
      /.::::::::::::::::ヽ.:::::ヽ.:::::::::::/ヽ.\\\:::::::`ト ;;.:;.:.,.ノ
    /.:::::::::::::::::::::::::::\.:::\ノ.::::::::::::ヽ.\\\{:川::::\`ヽ

                        イエロー
620創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:55:34 ID:dMi+xwKq
  「\        
  丶 )   /~)  
  / /   ( /  
  / /    || 
 ( \   || 
  \ \  / |  
   \ 丶/ /  
  _|   /__  
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      
    小太郎
621創る名無しに見る名無し:2010/03/01(月) 02:56:25 ID:dMi+xwKq
                         ___
               ,  ´ ̄    `ヽ/
              /,r-────-.....、| ゲ.素 生
             , '/:::::::::,、::::::::::::,、:::,:、::| ソ 晴 き
               〈/:::::--|/--\/-∨├| : ら て
                |ハ:::::::/'ィ=ミ    .ィ=ミ、|::|  .し る
                 \/{ 弋リ    弋リ リハ   い っ
                ___ |(l  ‐ __'__ ‐ l):::|) .で て /
              /´/,\)::\  !、  ノ , 'l , 'ィ⌒ー─'
          〈    /^):::{::`ト、 __ イ::::l|::::|:',
.            〉、   ト、:::i\_} _.   l、_:l|::::|:::\
          {:::::\_|::::}!  \`  ´ l|::::|!\::\
          ',::::::::::::::::::イ:l i  \ _ノ! ::|`ヽ.ヽ::',
            ∧_::::::://l::|    \.   |::::|\ ゛|::::|
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             インデックス
622創る名無しに見る名無し
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        イヴ