【参加作品/キャラクター】
5/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
○キョン/○涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/○朝比奈みくる/○古泉一樹/●長門有希
6/6【とある魔術の禁書目録】
○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/○御坂美琴/○ステイル=マグヌス/○土御門元春
6/6【フルメタル・パニック!】
○千鳥かなめ/○相良宗介/○ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/○メリッサ・マオ
5/5【イリヤの空、UFOの夏】
○浅羽直之/○伊里野加奈/○榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂
5/5【空の境界】
○両儀式/○黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/○白純里緒
4/5【甲賀忍法帖】
●甲賀弦之介/○朧/○薬師寺天膳/○筑摩小四郎/○如月左衛門
4/5【灼眼のシャナ】
○坂井悠二/○シャナ/●吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ
4/5【とらドラ!】
●高須竜児/○逢坂大河/○櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/○北村祐作
5/5【バカとテストと召喚獣】
○吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/○木下秀吉/○土屋康太
4/4【キノの旅 -the Beautiful World-】
○キノ/○シズ/○師匠/○ティー
4/4【戯言シリーズ】
○いーちゃん/○玖渚友/○零崎人識/○紫木一姫
4/4【リリアとトレイズ】
○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/○アリソン・ウィッティングトン・シュルツ
[56/60人]
※地図
http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/?plugin=ref&serial=2
【バトルロワイアルのルール】
1.とある場所に参加者60名を放り込み、世界の終わりまでに生き残る一人を決める。
2.状況は午前0時より始まり、72時間(3日)後に終了。
開始より2時間経つ度に、6x6に区切られたエリアの左上から時計回り順にエリアが消失してゆく。
全エリアが消失するまでに最後の一人が決まっていなければゲームオーバーとして参加者は全滅する。
3.生き残りの最中。6時間毎に放送が流され、そこで直前で脱落した人物の名前が読み上げられる。
4.参加者にはそれぞれ支給品が与えられる。内容は以下の通り。
【デイパック】
容量無限の黒い鞄。
【基本支給品一式】
地図、名簿(※)、筆記用具、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂歯磨きセット、タオル数枚
応急手当キット、成人男子1日分の食料、500mlのペットボトルの水4本。
(※名簿には60人中、50名の名前しか記されていません)
【武器】(内容が明らかになるまでは「不明支給品」)
一つの鞄につき、1つから3つまでの中で何か武器になるもの(?)が入っている。
※以下の10人の名前は名簿に記されていません。
【北村祐作@とらドラ!】【如月左衛門@甲賀忍法帖】【白純里緒@空の境界】【フリアグネ@灼眼のシャナ】
【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】【零崎人識@戯言シリーズ】【紫木一姫@戯言シリーズ】
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】【島田美波@バカとテストと召喚獣】【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。
【状態表テンプレ】
状態が正しく伝達されるために、作品の最後に登場したキャラクターの状態表を付け加えてください。
【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
[状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
[装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
[道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
[思考・状況]
基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
[備考]
※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)
方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
備考欄は書くことがなければ省略してください。
時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。
[00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
[06:00-07:59 >朝] [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
[12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
[18:00-19:59 >夜] [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
以上、スレ建て、テンプレ貼り終了。
次スレは
>>970を踏んだ人、480KBに達したことに気が付いた人が建てましょう。
なんで戦ってるの?
戦うことに意味はあるの?
殺し合いをして楽しいの?
人が死んでいくのを空想して、罰を受けないとでも思っているの?
なんてね
EA氏への感想は此方で。
投下乙です。
土御門とクルツの腹を探りながらの情報交換がよく書かれていました。
解りやすく各キャラをどんな感じで見ているかが面白かったですw
ステイルへの反応は呆れるか……w
とはいえそれを逆手に行動方針を立てるとは流石。
次がどうなるか楽しみですw
GJでした
新スレ建て乙。そして投下も乙。
>戦場という日常
プロフェッショナルだな二人とも。
並行世界の情報フラグが立ったので、互いの向き不向きをサポートできれば
幾つかの武闘派コンビにも引けを取らないかもね。
前スレを埋めたAAですが、
>>707-710から順に、
長門有希、甲賀弦之介、吉田一美、高須竜児、です。
吉田さんが黒いのは仕様。
前スレ投下乙。
うーむ、クルツ土御門ともにクールだ。
阿吽の呼吸で、短い言葉で互いの意図が伝わるあたり、いいコンビ。
南北どっちに行くのか、誰とどう出会うのか、かなり楽しみになってきた。
あ、細かい指摘になってしまいますが、
2人の行動方針に「ステイルとの合流」が残ったままですよー。
少なくとも、他のメンツと並べて置いておくのは違うのでは。
投下乙。
クルツに魔術が使えないとする理由がよくわかんなかった
まぁあくまでも土御門説にすぎないけど
投下乙
それにしても前から気になってたがクルツと土御門は何で殺し合いに乗ってんの?
基本、「自分と身内以外どーでもいい」じゃないの? 2人とも。
ついでに土御門は、「他に手がなくなったら優勝も視野に入れる」つもりだし。
で、生存率アップのために装備と有能な奴が欲しくて、その手段として殺しを否定していない、と。
現在地表記じゃ赤文字だけど、マーダーよりは「危険な対主催」に近い思考だろうね。
原作を読むとクルツと土御門が危険人物にものすごく強い違和感を覚える
クルツは無関係なやつまで巻き込むからって復讐を諦めるような中途半端な奴で
土御門は関係無い赤の他人のために自分が傷つく魔術を躊躇無くうつようなお人よしって印象なんだが
んーそうか?
二人とも有事になったり命令だったら容赦しないぜ?
後今回は最初にあったのがこの二人だったと言うのはでかいぜ。
互いに軍人とかスパイであったしな、同業者達ばっかと考えれば別に可笑しくはない
異能はあれども立場的にはただの民間人ってのが自分の知り合いだけでも混じってるよ
土御門にしろクルツにしろ、立場的にはただの民間人かもしれないけど
当麻やかなめは重要人物という位置付けだからね。
黒子は御琴の関係者でレベル4だし、他の参加者とは顔をあわせてないから、
>>14が言ってるように「同業者ばかり」と考えているかも。
でも殺し合いとかに巻き込んじゃいけない人間って認識はあるだろ?
土御門も上条利用しようとしてるアレイスターだっけ?に怒ってたし
殺し殺されるのが日常の人間ばかりじゃないって認識はあるはずだけど
んーそもそも殺しは最後の手段って事だろ。
本当にやばい奴とか。
多少は危険な思考をしているも自身の生存を目標として知り合い探しなんだし。
有能でなくても「可愛い女の子」だったら保護する気のようだし、
現時点じゃ赤文字表記は行き過ぎ、くらいでFA?
土御門だけ赤文字、くらいでもいいかも
――1998年、7月のこと。
不良たちがたまり場としていた元酒場の廃屋にて、四体の変死体が発見された。
その変死体というのは、街でも悪評高い少年グループのものだった。
揃って、四肢が捻じ切られるという奇異な死に様を晒していた。
人間の仕業とも思えぬ猟奇殺人事件……犯人の正体は未だ掴めず、真相は闇に葬られた。
◇ ◇ ◇
――喧騒とは無縁の時間を刻む、深夜の街路。
深々とした空気の中を、一人の少女が突き進む。
整った顔立ちは小さく、鋭角的な輪郭が美を表出する。
燃えるような内情とは裏腹な落ち着いた眼が、進むべき道を見据えた。
一歩、また一歩、重い体を引き摺るかのように、靴底で大地の感触を確かめるかのように、真剣に。
教会のシスターが着るそれに近しい、とある女学院の制服を纏った少女の名は、浅上藤乃という――――。
ここ数日で、夜の街も随分と歩き慣れた気がする。
きっかけはやはり、あの五人に連れ回されるようになってからだ。
あれから無断外泊も多くなった。寮長の心象も日に日に悪くなっていくばかりだったろう。
連れ添う彼らがいなくなった後も、いや殺した後も、一人で街を徘徊する日が何日か続いた。
理由は彼だ。
ひとつ、足りなかった物。
逃げた、追っていた、者。
復讐心を注ぐ唯一のもの。
湊啓太。
今と同じように、浅上藤乃は湊啓太を探し出すという目的で街を何度か徘徊していた。
不良グループの一人であった彼を見つけるために、同類と見て取れる男性に幾度となく話しかけた。
卑猥な目で見られること、気安く軟派な声を返されること、裏路地に連れ込まれること、多々あった。
それでも、藤乃は湊啓太の居場所について尋ねるのだ――――そして。
返ってきた答えが「知らない」だったならば。
藤乃はその相手を、無知ゆえに殺してしまう。
殺人は忌むべき行為だ。そんな常識は、小学生だって持ち合わせている。
この浅上藤乃という人間とて、殺人を正当化する大儀は持ち合わせていない。
しかし藤乃には、良識を凌駕する恨みと欲望……なにより『痛み』がある。
湊啓太を含む五人の不良たちに陵辱されていた彼女はあの日、今さらとも言える痛みを知ったのだ。
その痛みは、傷が完治した今でも残っている。藤乃が手で押さえる腹部に、あの日の痛みが残留しているのだ
一時間、二時間と街を歩き、ふと思い出す。
先ほど殺害した、時代劇風の男についてだ。
彼も藤乃の疑問には答えてくれなかった。
よくよく考えてみれば湊啓太と親交がありそうな人物ではなかったが、状況が変わった今となっては対象は誰でもいい。
ここは既に、見慣れぬ土地なのだ。深く考えたとて答えは出ないが、これだけはわかる。自分は拉致されたのだ、と。
あの男も同じだったのだろう。されとて、ここにいる以上は訊かなければならない。大事なのは湊啓太との面識の有無だ。
藤乃がこの催しについて思うことは、今のところはなにもない。
それよりもまず、湊啓太への復讐を果たし、この痛みを解消するところから始めなければならなかった。
だから――知らない者は殺す。
それは無知を罪と断定し、自身を傷つけるかもしれない者への復讐の前払いを済ませる、という意味があった。
もしくは、共感のためか。
他人の痛みを知ることで、自分の痛みを知ることができる自分。
他者を死に至らしめることで、他者より優れていることを自覚できた自分。
誰かを殺すことで初めて、生の実感と愉しみを得ることができる――それしかない、自分。
藤乃、傷は治れば痛まなくなりますからね――と幼き日の藤乃に母は言った。
しかし自身を陵辱していた不良に刺された腹部は、傷が消えた後も痛みを残している。
消えない――自覚してしまった痛みは、消えないのだ。復讐対象の最後の一人である、湊啓太を殺すまで。
湊啓太を殺し、この痛みが完全になくなるその瞬間まで。
浅上藤乃は、こんな生き方しかできない。
こんな、殺人を重ねる生き方しか。
◇ ◇ ◇
ああいう連中がいかにも寄り付きそうな場所を、虱潰しに探してみた。
具体的に言えば、バーや娯楽場、地下階層に構えている店などだ。元々無人に近い街なので、人気の有無は考慮していない。
結果を言えば、湊啓太はおろか、彼と繋がりがありそうな人間、無関係だろうと思える人間、誰一人として見つからなかった。
まさしく無人の街だ。ここに集められている人間は少ないらしいが、それでも一人も見つからないというのはおかしい。
――いや、単に巡り合わせが悪いだけなのだろう、と藤乃は考えを改める。
実際、あの時代劇風の男には一度会っているのだから。
求めるのは湊啓太の居場所である。それ以外に探し人はいない。
ならば、要は湊啓太の所在さえ掴めればいいわけである。それ以外の人間など情報源としての役割しか持たない。
情報は巡るもの。だからこそ、他者に訊くのが一番の近道だと思った。しかし、それが望めないというのであれば――。
◇ ◇ ◇
浅上藤乃は、一目でそれとわかる巨大な建物の前に立った。
周囲に散らばる白黒の車を見渡した後、夜空に照らされる上階を見上げ、最後に玄関口を眺め据える。
目の前に聳える建造物は、警察署――しかし街と同じく、中に人の気配はない。
法律的には罪人としての資格申し分ないであろう湊啓太が、罪の意識を自覚し出頭するという可能性も、なくはない。
ただ、その可能性は極めて低いだろう。そのような見込みがある人物ならば、逃げ出したその日に警察に駆け込むはずだ。
湊啓太が逃げてから、今日で二日目、いや三日目だったろうか。消息は依然として掴めないが、声だけは昨日も一昨日も聞いていた。
居場所は掴めないが、連絡は取れるのだ。
湊啓太は、犯人グループのリーダーの携帯電話を持ち出している。
番号は既に頭の中だ。決して忘れることはない、湊啓太との唯一の繋がり。
彼が逃げ出した直後に、藤乃は電話をかけていた。そこで彼に、こう釘を刺したのだ。
――あなたを捜す。絶対に見つけ出す。もし携帯電話を捨てたら、殺す。
怯える彼の声が、今でも容易に思い返せる。
おそらく、彼はどこかに引き篭もって身を隠しているのだろう。
そこまで推測できた藤乃は、電話越しに彼の恐怖を煽り、外に引きずり出そうとした。
――今日は昭野という人に会った。あなたの居場所を知らないと言うから殺した。
――良かったわね。見つからなくて。友達が大切なら、そろそろ会いに来ない?
どんな口調を用いたかまでは思い出せないが、大体そんな感じだったと思う。
今を思えば、彼の知人を殺すことは無知への断罪ではなく、見せしめのような意味もあったのだろう。
自分はなんと惨いことを続けているのか、と客観的に捉える視点は、今の藤乃にはない。
黒桐鮮花は言った。
繰り返す言葉は呪いになる、と。
電話という手段が、彼に呪いをかける唯一の方法だ。
だからこそ藤乃は、今夜も湊啓太に電話をかけるべきだろうと思い至った。
警察署の玄関口を抜け、署内に潜入する。
電話はすぐに見つかった。受付に設定されていた白いそれの受話器を取り、藤乃は笑む。
この笑みも、本人に自覚はないのだ。腹部の痛みに苛まれながら、湊啓太を追い詰める所業にひた走っているだけ。
浅上藤乃から見た浅上藤乃の表情は、苦悶に歪んでいる――それは、殺人の瞬間とて変わらない、決定的な矛盾。
気づく、気づかないといった話は見当違いのなにものでもない。今の彼女にとっては。
記憶を呼び起こし、数字の刻まれたボタンを数回、リズムよく押す。
間違えるはずがない。彼と藤乃を繋ぐ、唯一のナンバー。
もし、本当に、いや万が一、この地に湊啓太の携帯電話が存在するのなら。
浅上藤乃がコールする、殺意ある呼び出しには……誰かしらが答えるのかもしれない。
【D-3 警察署/一日目/黎明】
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:腹部に強い痛み※1
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
1:湊啓太が持っているはずの携帯電話に電話をかけた。そして――?
2:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。街を重点的に調べる。
3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
※1腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。
※「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
※そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
※「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。
※「痛覚残留」ラストで使用した千里眼は使用できません。
代理投下終了しました。
感想は読んでから書きますので暫しお待ちください。
投下&代理投下乙。
予約なかったから不意打ちだったぜ
藤乃怖いなあ。優先順位が色々壊れてる。
内面への丁寧な切り込みが、ゾクッとする凶気を醸し出してて……。
そして、とうとう電話が登場か。
「湊啓太の携帯電話」の有無に関わらず、これは面白い新ギミック。
警察署という場所にたどり着いたのも、面白い感じだし……先が楽しみです。
あ、予約なかったというより、予約後すぐの投下か。
こういうのも嬉しい不意打ちでイイね
投下乙です。
藤乃がらしい……凄いなぁw
藤乃の境遇がわかりやすく簡潔に述べられてよかったですw
そして電話のギミック。
携帯電話まだ出てきていないけど……どうなる?
続きが楽しみです。
GJでした
ダム板に飛ばされるかと思った
投下GJ! 浅上怖いッス!
藤乃はいきなりクライマックスだなぁw
行動も冷静に考えると相変わらずぶっ飛んでるしな……。
原作の行動が延長した結果どうなるのか、凄く続きが楽しみだ!
――しかし本当どうなるんだろう、結果。超気になる。
予約ラッシュキターw
予約ラッシュとか、RSSで分かれば便利だなぁと思ったけどレスの更新とかは効かないのね…
新スレ出来たらわかるだけか
ここって過疎なのかなと思ったらポツポツと予約が入る感じ。
それにしても決して広い会場でもないはずなのに中々遭遇しないね。
……前に7人位予約していた人、体調はもう治っているだろうし、
できれば再予約してくれないかな。
まだ序盤だしこんなもんでしょ
6×6kmの空間に60人って事は上手いこと振り分ければ1km四方におよそ2人も人間がいないって事だし
>>33 いや、既に藤乃がかかれているし無理じゃないか?
まあそういう事は割とマナー違反なわけだし
いや、別に藤乃はいいだろw
予約期限をオーバーしたの予約しただけなんだしw
俺が言ってるのは再予約に関してな
そりゃ藤及の話はなんも問題ないさ
ああ、成程。
勘違いスマンorz
街全体で夜逃げでも敢行したのか、辺りには灯りの点った家が見当たらなかった。
満遍なく行き渡っている闇の中に、一箇所でも光源があったならば、すなわちそこに人がいることは明白。
自らの居場所を知らしめることは、この地では致命傷になりかねない。
知恵の働く人間ならば、灯りを用いず、活動する上での制限が緩められる朝を待つだろう。
しっかり者と見せかけてどこか抜けている部分もある未来人、
紳士な態度の好青年と見せかけて頭は桃色なむっつりスケベ、
このおかしなコンビ、双方共にそこまでの思慮は働かず、夜道を堂々とランタンで照らしながら進行していた。
本人たちは誰かを見つけたがっていたのだが、出会いはまだなく、進む道先は静寂に包まれている。
他者を見つけられなかったことは不幸としても、他者に見つからなかったことは不幸中の幸い。
そんなことにも気づかず、朝比奈みくると土屋康太の二人は過ぎていく夜に、意気消沈のため息を零した。
――そういえば。
と、クール系の美男子を装う土屋康太が話を振る。
――はい?
と、可愛らしく小首を傾げて朝比奈みくるが返す。
――『それ』の他に、なにか人捜しに役立ちそうなものは入っていなかった?
と、朝比奈みくるの着るメイドさん衣装を指して、土谷康太が問うのだった。
――これは元から着ていたもので〜
と、注釈などを加えながら。
◇ ◇ ◇
【第一問】
問 以下の問いに答えなさい。
『土屋康太に支給された黄金の鍵。これの正体を答えなさい』
■“逆理の裁者”ベルペオルの答え
『デミゴールドという金塊を元にして作り出した宝具の一種。[仮装舞踏会]の捜索猟兵に勲章として渡したもの』
■教師のコメント
正解です。あえて書かなかったのでしょうが、正式名称は非常手段(ゴルディアン・ノット)といいます。
■朝比奈みくるの答え
『ゴルディアン王が結んだ複雑な縄の結び目を断ち切った別の王様の伝説で……よく覚えていません。ごめんなさい』
■教師のコメント
博識ですね。そちらはおそらく名前の由来になった部分だと思われます。あと解答用紙で謝る必要はありません。
■土屋康太の答え
『女子更衣室の鍵』
■教師のコメント
欲望に忠実な解答ですが、不正解です。
◇ ◇ ◇
無人の街は、どこもかしこも照明が消えてしまっている……というわけではなかった。
二十四時間営業のコンビニエンスストアなどは店員がいなくとも電灯がつけっぱなしで、街にはそれなりの灯りがあったのだ。
真っ暗になっている民家に押し入り、わざわざ灯りをつけることは愚の骨頂。
利用するなら、こういった灯りがついていてもなんら不思議ではない施設が最適だ。
と、考え至って手頃なコンビニに踏み込んだわけではないのが、朝比奈みくると土屋康太の二人。
単に見慣れぬ人様の家よりは、近づくだけで扉が開かれるコンビニのほうが入りやすかっただけのこと。
二人はやや広く取られた雑誌コーナーの前に座り込み、自身らの荷物、ランダムに分配される『支給品』の検証に取り掛かった。
まず土屋康太が朝比奈みくるに披露したのが、紐のついた黄金の鍵。
デザインは古風ながら、放つ色は鍍金とも思えない高級感がある。
鍵といえば銀色が定番と捉える二人には、この品が値打ちものの貴重品に思えてならなかった。
「鍵……っていうことは、扉か金庫を開けるためのものなんでしょうか」
「……持ってて損はない」
わかったことと言えば、付属の説明書らしき紙に書かれていた『非常手段』という名称のみ。
使い方が記されていなかったのは意図的なものなのか、鍵の使い方など一つしかないということなのか、二人は考える。
SOS団団長の涼宮ハルヒ、Fクラスのトップエースである姫路瑞希らがいれば他にもいくつかの選択肢が挙げられたのだろうが、
お着替えするマスコット団員と認知徹底されたむっつりスケベたる二人では、保留、温存といったありきたりな解答しか求められない。
方針はあくまでも人捜し、考え事に時間を費やすのはよくないから……と、黄金の鍵は土屋康太のデイパックに収納された。
人類最悪を名乗る男が『武器』と称した支給品、これは一人につき一個から三個まで配られるという話だったが、土屋康太の所持する品はあいにくと黄金の鍵一つのみだという。
実際のところは彼がいま装着している眼鏡も支給品に類するものなのだが、その事実が朝比奈みくるに告げられることはなかった。
バレたら事――ムッツリーニこと土屋康太、否、土屋康太ことムッツリーニは元からメガネっ子だった、と嘘を貫き通す方針である。
◇ ◇ ◇
【第二問】
問 以下の問いに答えなさい。
『朝比奈みくるに支給された猫の耳を模したアクセサリー。これの有用性を説明しなさい』
■某国家元首(焦げ茶猫耳男)の答え
『我が国の伝統です。人間の可愛らしさを引き出し、見る者を和ませ、人間関係を円滑にします。あなたもどうでしょう?』
■教師のコメント
素晴らしい伝統だと思います。ですが、先生は遠慮しておきましょう。
■朝比奈みくるの答え
『わぁ……とってもかわいいと思います。つけて歩くと、耳のところがぴこぴこ動くんですね〜』
■教師のコメント
先生も可愛いと思いますが、それは説明ではなく感想ですね。
■土屋康太の答え
『メイド服+スク水+猫耳=三種の神器』
■教師のコメント
他国の伝統を侮辱して怒られないように。
◇ ◇ ◇
土屋康太の荷物には有益なものがないと判断され、検証は朝比奈みくるの鞄に移った。
理想としてはGPSなど捜し人の位置情報が掴めるような機器が欲しかったのだが、二人とも籤運はそれほど強いほうではない。
朝比奈みくるが手に取ったのは、辞典ほどの大きさの箱。開けて中を見てみると、シックな黒い猫耳セットが入っていた。
なぜ、猫耳――?
という当然の疑問に、両者は揃って首を傾げた。
この催しは、ただ一つの椅子を巡って他者を蹴落としていくゲームなのだと理解している。
人類最悪が『武器』が配られると言っていたのも、他者の殺害を企画の範疇に据えているからだろう。
先ほどのような用途不明の鍵に加え、こういったアクセサリーまで与えられる実情、企画運営者は参加者たちになにをやらせたいのだろうか。
それはそうと、この猫耳は実に可愛らしい。これは朝比奈みくると土屋康太、双方の評である。
せっかくの品、このまま捨て置くというのも些かもったいないような気がしてならず、土屋康太が、
「…………(じー)」
眠たげな眼差しを朝比奈みくるの頭頂部に向け、目だけで主張を訴えた。
視線を感じた彼女は、眼鏡の奥から放たれる期待感と、胸の内から湧き上がってくる好奇心に誘導され、気づけば箱から猫耳を取り出していた。
慎重な手つきで猫耳を運ぶ。頭の上にそっと置くようにすると、猫耳は元の鞘に納まったかのように自然に定着した。
「あの、どうでしょう……? に、似合いますか?」
「…………!(コクコク)」
猛然とした勢いで頷くムッツリーニに、もはや言葉はない。満面の笑みを浮かべる朝比奈みくるは、今や太陽にも等しい存在となった。
本職と思わせること容易なメイド服に、その下がスクール水着であることを踏まえ、さらにぴこぴこと動く猫耳に目をやれば、
お近づきになれた男子としては光栄の極み、女体の神秘ばかりではなく女性の可愛らしさを探求するムッツリーニとしては、幸福の一言だった。
結局、この猫耳にどんな意味があるのかはわからない。否、意味などなくても構わないのだ。
スクール水着の上にメイド服を着込む朝比奈みくるの頭に、シックな黒の猫耳が装着されている。
これだけで天下は統一したも同然。軽すぎず重すぎず、ムッツリーニの観察眼からしてもパーフェクトな按配と言えた。
◇ ◇ ◇
【第三問】
問 以下の問いに答えなさい。
『朝比奈みくるに支給されたロケット弾なる道具。これの正式名称を答えなさい』
■相良宗介の答え
『これはRPG-7だな。ソビエトが開発した対戦車擲弾発射器で、某国では巨象や鯨を狩るのに使われていると聞く』
■教師のコメント
さすがの解答ですが、ここはあなたが答える場面ではないと思います。
■朝比奈みくるの答え
『黒くて、大きいけど……形を見るにラッパじゃないでしょうか?』
■教師のコメント
物騒な答えじゃなくて先生安心してます。けど吹くのは絶対にやめましょう。
■土屋康太の答え
『黒くて、大きい……』
■教師のコメント
前の人の解答に反応しないでください。
◇ ◇ ◇
三品目は、前の二つと比べると些か、いやかなり物騒な代物だった。
木箱に入っていたそれは、子供の背ほどの細長い筒で、グリップと、肩に載せるパッドがある。
片方の端には、円錐形を底で張り合わせたような、太目の出っ張りもあった。
付属の説明書によると、名称はロケット弾≠ニいい、爆薬の詰まった先端を、火薬で飛ばす道具のようだ。
至って平穏な日常を送る高校生二人でも、これが人類最悪の言っていた武器、どころか兵器であることは想像容易かった。
試しに持ってみようとすると、柔腕では支えきれない確かな重みが伝わってくる。
人間に向けて放てば、その五体は間違いなく木っ端微塵。考えるだけで怖気が走った。
一撃必殺の重火器は、護身用の枠を飛び越え殺戮の権化となるだろう。
所持しているだけでも危険、しかし破棄して誰かに拾われても事、自ら破壊するには骨が折れる。
使う意思があろうがなかろうが、割り振られた時点で管理は徹底しなければならない。
朝比奈みくるはあらゆる意味での重みを実感し、しかし同行者となる土屋康太が、
「……預かる」
いつもと変わらぬ表情で、ただその言葉だけを強く、言い切った。
女性にこんな危ないものは持たせられない、という紳士的な瞳が、朝比奈みくるの視線とぶつかって揺るがない。
「土屋くん……」
「…………(コク)」
余計な口は挟まず、土屋康太は貫禄のある頷きを返した。
それに対する朝比奈みくるの反応は――屈託のない、土屋康太に邪念などないと信じて疑わない純真無垢な笑顔だった。
土屋康太は朝比奈みくるの見えないところでグッと親指を立て、口元が緩まないよう必死に堪えていた。
男子高校生たるもの、可愛い女の子からの好意を受け取ることは至上の喜びである。
スケベは一日にしてならず。覗きや痴漢を繰り返すだけではただの変態であると、ムッツリーニは幸福を噛み締めた。
◇ ◇ ◇
【第四問】
問 以下の問いに答えなさい。
『朝比奈みくるに支給された卒業証書入れのような黒い筒。これに備わっている機能を答えなさい』
■マリアンヌの答え
『これはご主人様のコレクションの一つです。これを使って、私とご主人様はときどき……きゃっ』
■教師のコメント
恥ずかしくても最後まで書かなければ正解はあげられません。
■朝比奈みくるの答え
『両端にレンズが付いているんですね。望遠鏡なのかな……?』
■教師のコメント
形状は似ているようですが、どうやら望遠等の機能は備わっていないようです。
■土屋康太の答え
『透視。皮膚や骨などの人体の透過は望まず、衣服のみ透けるのが好ましい』
■教師のコメント
もはや答えではなく願望ですね。
◇ ◇ ◇
(――Venus=\―)
ローマ神話における愛と美の女神の名を心中で告げ、土屋康太ことムッツリーニは朝比奈みくるを高く評価した。
可愛らしさは罪だ。そして罪に対して可愛いと思ってしまう己は罪人、否、罪人でなくてなにが男子高校生と言えようか。
この未曾有の事態に巻き込まれて早々、ムッツリーニが朝比奈みくるに出会えたことは幸運――いや、運命に違いないのだ。
土屋康太。彼の通う文月学園において、その本名は知らずともムッツリーニ≠ニいう異名を知らない者はいない。
誰が称したか『寡黙なる性職者』。恥も外聞もなく、いかなるときとてむっつりスケベとして生きることが彼の信条だ。
眼前に覗けるスカートがあろうものならば、即座に身を屈め、ヘッドスライディングを敢行してでも覗きにかかる。
勉強が苦手であろうとも、性に関わる知識ならばすべて一般教養と捉え、ドイツ語まで学習の範囲を伸ばす。
それでいて直接的な痴漢行為などには手を伸ばさず、あくまでもむっつりと、スケベ道を探求するのが彼という男なのだ。
ムッツリーニがビーナスと評す目の前の少女、朝比奈みくるはルックス、性格共にAAAランクは固い逸材と言えよう。
Fクラスのマドンナ的存在である姫路瑞希と比較しても並ぶ、いやその上をいくと言ってももはや過言ではない。
できることならばもっとお近づきになりたい……という男子高校生としては当然の欲求が、早くも疼きだしてきた。
二年生に進級して早々、クラスメイトの坂本雄二に正体を暴露されたことを思い出す。
ムッツリーニがムッツリーニと呼ばれるゆえんは、スケベ行為を働いても頑なにそれを否定する彼のスタイルにあり、
決して土屋康太という男子がスケベであるという事実が隠せているわけではないのだ。
しかし、この朝比奈みくるは数時間前に知り合ったばかり。ムッツリーニの本性など気づきもしていないだろう。
ならば、もっと親密になりスケベなこともし放題な関係になることとて――とそこまで考え、ムッツリーニは首を振る。
むっつりスケベという種が欲求を向けるのは、この世の可愛い女の子すべてに、等しくだ。
視力が悪いわけでもないのにかけているこの眼鏡とて、記録する映像が一人分のみではあまりにももったいない。
たとえば、朝比奈みくるの知り合いであるという涼宮ハルヒや長門有希。彼女らとてどのようなスペックを保持しているのかわからない。
(…………雑念、雑念)
そもそも、自分はなにを深く考え込んでいるのか。ムッツリーニは戒めの意味も含めて、また首を強く振る。
寡黙なる性職者の異名を持つ土屋康太――その本懐は、自らの欲求に逆らわず生きるところにある。
欲求を満たすために策を弄することはあれど、言い訳や優先順位をつけることなどもってのほか。
朝比奈みくるは可愛い。可愛い女の子の着替えやスカートの中はぜひ覗きたい。いたってシンプルな考え方。
状況がどのようであれ、ムッツリーニはムッツリーニとしての生き方を全うするだけなのだった。
「最後はこれ、ですね……なんなんだろう、これ?」
始まって早々、朝比奈みくるの生着替えが記録できたのは僥倖。次の機会が待ち遠しい。
そして今は、人捜しに集中するべき時だ。荷物の確認に時間を割いているのもそのためである。
ここまでで役に立ちそうなものは見つからなかった――猫耳は素晴らしかった――が、最後の一品はどうだろうか。
「……筒?」
朝比奈みくるの小さな手が掴み取ったのは、卒業証書を入れる筒にも似た、黒い棒のようなものだった。
両端にはレンズが嵌めており、太さが均一であるところから見ても、望遠鏡ではないように思える。
「なんでしょう? 大きくも小さくもならないし……万華鏡っていうわけでも……」
朝比奈みくるが筒を覗きながら辺りを見渡すが、別段見えるものが変化しているというわけでもなさそうだ。
また用途不明のハズレアイテムだろうか、とムッツリーニも訝しげになる。
ふと、朝比奈みくるが筒の片端に目を当てたままムッツリーニのほうを見やり、
視界が暗転した。
◇ ◇ ◇
回復した視界の中で、朝比奈みくるはおかしな像を見た。
「ふぇ?」
それは、両端にレンズのついた黒い筒を覗き込む自分――によく似た姿。
猫耳とメイド服が似合う、SOS団部室の鏡で見慣れたその姿は――紛れもない、自分。
朝比奈みくるの目の前に、朝比奈みくるがいた。
「ふぇ、ふぇぇぇ〜!?」
毎度のごとく情けない悲鳴を上げる、その声がいつにも増して低いことに、みくるは違和感を覚えた。
「あ、あの、土屋くん! あ、あれ? ええ!?」
土屋康太の名を呼びかける、その声も低い。まるで男の子のような、いや男の子としか思えない声質に変わり果てていた。
目の前の朝比奈みくるの姿をした誰かは、黒い筒を下ろして今は硬直している。
驚きを顔に表出させ、しかし安易に声を漏らさないところは、どことなく土屋康太少年のそれと雰囲気が似ていた。
と、いうよりも。
「も、もしかして……ううん、もしかしなくても!」
予感に急かされ視線を下にやると、男物の学生服を着ている自分がいた。
顔のほうに手をやると、眼鏡をかけている自分がいた。
慌ててお手洗いに駆け込み、鏡で確認すると――そこに土屋康太の姿をした、自分がいた。
「そ、そそ、そんな、そんなことってぇ……」
おそるおそる発してみる声は、やはり低い。
いつもよりやや高い目線の位置も、自然と大きくなっている歩幅も、予感が実感であると知らせている。
雑誌コーナーの前に呆然と正座したままでいる朝比奈みくるの傍まで戻り、土屋康太の姿をしたみくるは声を振り絞った。
「つ、つつつ土屋くんですか!?」
朝比奈みくるの姿をした――おそらくは『土屋康太』の反応は、鈍い。
キョトンとした瞳でみくるのほうを一瞥し、すぐに視線を逸らした。
緩慢な動作で両手を動かし、控えめに自身の胸を触って確かめている。
男性ならば掴み得ないはずの感触を、彼女のような彼は今、噛み締めているに違いない。
その証明として――朝比奈みくるの姿をした土屋康太は、恥ずかしさが度を越えたのか鼻血を噴出し卒倒した。
「つ、土屋く〜ん!」
慌てて体を揺すってみるが、土屋康太は目を回しているようで、すぐには再起できそうになかった。
心配ではあるが、それよりも先にまず確信する。彼女――朝比奈みくるの中身が、土屋康太になっていると。
つまり、入れ替わっている、と。
なぜ、どうして、なんで、そんなことが、まさか、【禁則事項】、目まぐるしい勢いでみくるの脳内が攪拌される。
両者の意思総体が入れ替わる現象など、【禁則事項】の【禁則事項】を鑑みても【禁則事項】以外にありえない。
気になるのは、この現象が起こったタイミングだ。あまりにも唐突だったために混乱してしまったが、よくよく考えてみれば、
「……ひょっとして、この筒が?」
自身に武器として支給された黒い筒を掴み、土屋康太の姿をした朝比奈みくるは、これが原因だと思い至った。
再びレンズを覗き込んでみるが、特にこれといった変化は訪れない。それは倒れ込む朝比奈みくるを見ても同じだった。
なにかヒントはないのもか――と鞄を漁ってみると、どうやらこれにも説明書がついていたようで、そこにははっきりと使い方が記されていた。
「リシャッフル……覗いた者と覗かれた者の意思総体を交換する宝具……」
“存在の力”の注ぎ方を知らずとも効果が発現してしまう、ただし互いの心の間に壁があると効果が発現しない、
そして再び覗くことで元に戻ることができる――という細かな点まで、詳しく書かれていた。
宝具や“存在の力”という単語にはまったく聞き覚えがなかったが、元に戻る方法さえわかれば他はどうでもいい。
みくるは早速、リシャッフルの片側から朝比奈みくるの目に焦点を合わせてみるが、
「……変わら、ない。ええ〜!? な、なんでぇ〜?」
やはり変化はなく、泣くような声がコンビニ内に反響するだけだった。
まさか説明書の内容が嘘なんじゃ、とも考えたみくるだったが、今の朝比奈みくるに意識がないことが気になった。
朝比奈みくるに、いや土屋康太に意識が戻り、またお互いにリシャッフルを覗き込めばきっと――。
「それまでは……このまま? それって……つ、土屋く〜ん! 早く、早く起きてくださぁ〜い!!」
切迫した想いが危機感となり、みくるにこれまでにない焦りを与えた。
このまま男の子としての生活を送る、男の子が自分の体で暮らす――どちらも考えたくはない。
自分の顔は今、青ざめているのか、それとも赤くなっているのか。
鏡を確認するよりもまず、朝比奈みくること土屋康太を起こすのに無我夢中だった。
「う、う〜ん……」
「土屋くん!? 起きて、早く起きて! おーきーてーくーだーさ〜いっ!」
みくるは自分の体を我武者羅に揺すり、中の土屋康太が覚醒することをただただ祈った。
気だるい唸り声の後、朝比奈みくるの体はゆっくりとその身を起こしていく。
その寸前、
「ハッ!」
彼女が、いや彼が意識を覚醒させた後の展開を考え、みくるはさらなる危機感に襲われた。
瞬時に――間を与えてはならない!――と思考し、リシャッフルを目元へとあてがった。
先端を、今まさに目覚めようとしている朝比奈みくるの双眸に向けて――。
◇ ◇ ◇
――目を覚ますと、平然とした様相の朝比奈みくるがそこにいた。
「あ、土屋くん。急に気を失っちゃったみたいで、心配したんですよ?」
可愛らしく小首を傾げ、朝比奈みくるは土屋康太の容態を気にかける。
当の本人は、けろっとした表情で彼女の笑顔を眺めていた。
……朝比奈みくるの鼻の辺りが、かすかに赤い。
鼻血でも出したのだろうか、と気にはなったが、女性にそれを訊くのは躊躇われた。
そもそも、なぜ自分は気を失っていたのだろうか。どうしてだか思い出せない。
人捜しに役立つものがないかどうか、互いの荷物を確かめていたところまでは覚えているのだが、
「結局、役立ちそうなものはなにも入っていませんでしたね。時間も惜しいですし、そろそろ出発しましょうか」
何事もなかったかのようにそう告げる朝比奈みくるを見て、もう終了したのだろうと解釈した。
土屋康太は眼鏡とスクール水着と黄金の鍵、朝比奈みくるはロケット弾と猫耳が支給された、と再確認する。
確かに、人捜しに役立ちそうなものは入っていなかった。
土屋康太はそう認識し、しかし妙な違和感を覚えてもいて、どうにも釈然としない気持ちに襲われた。
……それになんだか、両手の平に柔らかい感触が残っているような気もする。
夢の中で女性の胸でも揉んでいたのだろうか、とまで考えてすぐに、はははっそんなまさか、と打ち消す。
妄想にばかり浸ってはおれず、次なる記録(覗き)のために、土屋康太ことムッツリーニは精進することを誓った。
そして、朝比奈みくると土屋康太はコンビニを発つ。
朝になれば、誰か知り合いが見つかるだろうか。そんな淡い期待を胸に抱きながら。
◇ ◇ ◇
(なんて、危ない道具……)
朝比奈みくるは土屋康太に表情を窺われないよう、前を歩きながら思う。
意思総体の入れ替えいう一騒動を起こした宝具『リシャッフル』は、今はみくるの鞄に人知れず収納されている。
危険な代物は逆に捨てられない。ロケット弾と同じく、徹底した管理が求められるのだ。
土屋康太がリシャッフルの詳細を知り、それを悪用する……などとは考えたくなかったが、どうにも話す気になれない。
(涼宮さんに話すわけにもいかないし、長門さんに相談するのも難しいし……あ、キョンくんに……って、もっとダメ〜!)
ほんの数分のこととはいえ、男性としての経験を蓄積してしまった朝比奈みくる。
思い返すだけでも赤面ものの事件が、この地に来て早速の、消えない傷跡となって胸に残った。
【D-5/一日目・黎明】
【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱、スクール水着、猫耳セット@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラジャー、リシャッフル@灼眼のシャナ
[思考・状況]
基本:互いの仲間を捜索する。
1:土屋康太と同行。
2:これ(リシャッフル)どうしよう……。
【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式、カメラの充電器、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ、ロケット弾(1/1)@キノの旅
[思考・状況]
基本:女の子のイケナイ姿をビデオカメラに記録しながら生き残る。
1:朝比奈みくると同行し、彼女の仲間を探す。
【非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ】
“逆理の裁者”ベルペオルが、子飼いの部下に持たせている黄金の鍵型の宝具。
用途に応じた様々な自在法を織り込めており、所有者が死に掛けた際、残された“存在の力”を使って込められた自在法を発動する。
ちなみに“琉眼”ウィネが持っていたものには破壊の自在法が、“聚散の丁”ザロービが持っていたものには転移の自在法が込められていた。
この『非常手段』にどのような自在法が込められているかは不明。また、発動の際にベルペオルと会話ができるかどうかも不明。
【猫耳セット@キノの旅】
キノの旅W巻第四話「伝統」より。
キノが訪れた国の伝統で、国民は全員この猫耳をつけていた。色は、キノに渡されたものと同じ黒。
人間関係を円滑にする手段として国全体に普及している……という話だったが、実はそれは旅人を騙すための嘘だったりする。
【ロケット弾@キノの旅】
キノの旅W巻第六話「分かれている国」より。
北と南で分かれている国が、それぞれ鯨と象を狩るために使っていたもの。大昔には戦争で使われていた。
その形状からして、USSR RPG-7と同じものと思われる。
【リシャッフル@灼眼のシャナ】
”狩人”フリアグネが所有していた宝具の一つ。形状は、両端にレンズを嵌めた黒い筒。
覗いた者と覗かれた者の意思総体を交換することができる。原作ではシャナと悠二がこれによって入れ替わった。
その経緯が偶発的なものであったため、意識して“存在の力”を込めずとも使用できると思われる。
元に戻るためには再び覗き合う必要があり、互いの心の間に壁があると効果が発現しない。
111 名前: ◆LxH6hCs9JU [sage] 投稿日: 2009/05/10(日) 02:39:51 s08lbsAs0
投下終了しました。
ご意見等ありましたらぜひぜひ。
代理投下もどうかお願いします。
----
代理投下完了
タイトル:朝比奈みくると土屋康太のバカテスト
投下&代理投下乙です。
合間合間のテストがそれっぽいのと朝比奈さんにメロメロなムッツリーニが良かったと思います。
ただしムッツリーニの台詞は「…………〜」という風に「…」を四つ使うのが基本です。
あとリシャッフルは扱いが少し難しいかも知れませんね。
「心の壁があるとダメ」と言葉にしたら簡単でも客観的な定義はし辛いですし、
入れ替わった状態で死んだら死亡者は体と心、どちらの持ち主になるのかなんてのもあります。
まあ、そのときはそのときですかね。
投下乙&代理投下乙です。
2人とも生き生きしてるなあw
ただ荷物を確認してるだけなのに、実に「らしい」w
リシャッフルは……出展が微妙? 画集収録・文庫未収録の短編でしたよね。
とはいえ機能はもうこの作品まんまですし、なんとかなる……かなw
制限とか異常事態発生時の扱いは、いざ必要になってから決めてもいいですしね。
投下&代理投下乙です
テスト部分がらしいなぁw
ムッツリーニもみくるもらしくて素晴らしい
荷物確認というシンプルの流れの中、とても彼らのらしさが出ていたとおもいます。
リシャッフルはまぁ出展微妙ですが……なんとかなるかな?w
GJでした
予約していた、インデックス・ヴィルヘルミナ組、投下します
ぺりぺり……がさっ。
「……ようやくこれで食事ができるのであります」
「熱湯確保」
「……はっ!? 空腹のあまり思わず意識が飛びかけてたんだよっていうかここドコいま何時っ!?」
「近くにあった高級ホテルの一室なのであります。あれから小一時間ほども経過したでありましょうか。
カップラーメンを食すのに必要な熱湯の確保に手間取っていたのであります」
「探索難航」
「それでもこうして、客室に電気ポットを発見し、今ちょうどお湯が沸いたところでありますが……」
「ごはん?! ねえごはん!?」
「慌てずとも、今お湯を注ぐのであります。ついでに私もこれで食事とするのであります」
「栄養摂取」
ごぽごぽごぽごぽ……。
「ごーはーんー!!」
「ちょ、ちょっと待つのであります。今開けては台無しなのであります」
「待機三分」
「ごはん! ごはんごはんごーはーん! らーあーめーんー!」
「さ、さっきまで死にそうな気配すらあったのに、何でありましょう、この暴れっぷりは……!?」
「緊急拘束」
しゅるしゅるしゅる……。
「……はっ!? リボンが絡み付いてくるっ!? しかもこれ結構マニアックな緊縛術かもっ!」
「下手に押さえ込んで、怪我や火傷でもされたりしたら馬鹿らしすぎるのであります。
完成までの僅かな時間だけでも、大人しくして貰うのであります」
「自重要請」
「こ、こんなにいい匂いしてるのに食べちゃダメなの!? ねえそれなんて拷問!?
でも拷問だって言うならイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)』を甘く見て欲しくないかもっ!
それに10万3000冊の魔道書の中には古今東西の拷問技術について触れたものもあるんだよっ!
魔女狩りの歴史は拘束具の歴史でもあるからねっ! だから、この程度の縄抜けなんて簡単に……!」
「無駄な抵抗はやめるであります。
……と言っても、どうやら本気で抜けられてしまいそうでありますな。それならば」
「作戦変更」
「あれ? な、なんか抜けても抜けてもキリがないんだよー!
かっぷらーめんはソコにあるのに、全然近づけない!? これはひょっとして空間歪曲か何かの魔術!?」
「そこまで高度な自在法は使っていないのであります。
言うなればこれは、簡単なベルトコンベアーの要領なのであります」
「自動歩道逆走」
「らーあーめーんー!」
『――も関係無しに僕は貴様達に対して宣言する。貴様達のような愚かな者たちに――』
「……何か聞こえるでありますな」
「屋外演説」
「てきとーなこと言っても誤魔化されないよ! ごはんごはんごはん、らーあーめーんー!!」
「しかしうるさくて、ろくに聞こえないでありますな」
「辛抱後一分」
「1分も待たされたら飢えて死んじゃうんだよ! しょーうーゆーらーあーめーんー!!」
「飢え死にからは程遠い、その元気な様子にむしろ安心したのであります。
……しかしこの、機械で増幅されたらしきこの声の意図は、やはり、」
「挑発」
「で、ありますな。おそらくは、待ち伏せての戦い、場の状況を整えての戦いを得意とする者でありましょう。
断片的にしか聞き取れぬゆえ、その意図や真意は図りかねるでありますが……
まあ、捨て置いてもさほどの問題はないでありましょう。挑発をする側も、それに乗る者も」
「(ガジガジガジガジ……)」
「っ!? インデックスとやら、そのリボンは食べられないのであります!」
「麺類類似」
「らーめんきしめんそうめんー!! たべるたべるたーべーるー!」
「も、もうすぐ出来上がるので、あと少しだけ我慢するであります!」
「刻限到来」
「……待たせたのであります。どうぞ存分に――」
「やっと脱出っ! ら〜〜あ〜〜め〜〜ん〜〜〜〜!!」
「っ!? そっちの1つは、私の――」
「再奪取困難」
はふはふ。ずるずるずるーっ。むしゃむしゃ。ずずずーっ。
「……多少は人心地ついたでありますか?」
「ん。おかわり」
「食欲旺盛」
「私の分まで奪っておいて、いったいその小さな身体のどこに入るのでありましょうか。
まあいいでしょう。お湯はまだあるのであります。ついでに私も、今度こそ頂くのであります。
ただ、食べながらでも良いので、お話を」
「それは構わないんだよ。私もいくつか聞きたいことあるしね。
えーっと、ヴィルヘルミナとティアマトー、って呼べばいいのかな?」
「呼称肯定」
「呼びやすいように呼んで貰って構わないのであります」
「それで、『フレイムヘイズ』……だったっけ。改めてその辺から詳しく説明しなおして欲しいかな」
「こちらも、その『ネセサリウス』とやらの話を、きちんと話していただきたいのであります」
「情報交換」
かくかくしかじか。
かくかくしかじか。しかじか。かくかく。
かくかくしかじか。
「……なるほど、なんだよ」
「……なるほど、なのであります」
「成程了解」
「いろいろ気になることはあるけど、ひとまず『そっち』の事情は分かったかも。
『こっち』でも『異界』の存在を示唆するような奇跡や術もあるからね。
『魔術師に知られていない異界』がいくつかあったとしても、全然おかしくないんだよ。
でも……」
「こちらとしても、人の世の全てを把握しているわけではないのであります。
我らの知らぬ『魔術』や『魔術結社』が存在してもおかしくは、ない。
けれども……」
「「やはり、不可解なんだよ/なのであります」」
「不可解事態」
ずずーっ。しゃくしゃく。ごっくん。
「そこまでの規模で『紅世』からの干渉があるなら、『それ』に言及している書物があってしかるべきだよね。
それに、『外界宿』が組織としてそこまでの活動をしてるなら、その動きは察知されるはず。
『必要悪の教会』の監視の目は、節穴じゃないんだよ」
「こちらもであります。
教会組織がそれほどの力を秘めているのであれば、何も聞こえてこないのはおかしいのであります。
フレイムヘイズの有力者の中には『元』聖職者もおり、それぞれ情報網を広げているはずなのであります。
また細かいことではありますが、『十字教』や『イギリス清教』などの単語は聞いたことがないのであります。
こちら側で言うところの『キリスト教』とは、微妙に異なる印象を受けるのであります」
「相互不知」
「となると……」
「おそらくは……」
「結論一致」
「『そっち』で言う『紅世』と『人間の世界』のように、『こっち』と『そっち』は『違う世界』、なんだろうね」
「いわゆる『歩いていけない隣』が、1つきりである保障などないでありますな」
「傍証は他にもあるんだよ。たとえば、これ」
がさがさ……ぱさっ。
「チラシ……? いや、支給品でありますか。
『文月学園におけるクラス設備の奪取・奪還および召喚戦争のルール』……?」
「ザッと流し読みしたけど、『召喚獣』ってのを日常的に使っている学校があるらしいんだ。
でも、こんな魔術、私の知る10万3000冊の魔道書のどこにも記されていないんだよ。
こういう風に安定して使えるものなら、基礎理論くらい広く知られていてもいいはずなのに。
だからきっと、これも……」
「独立異世界」
「我々2人の『世界』の他にも、全く違う『世界』がいくつかある、ということなのでありましょうな」
ずるるるっ。ちゅるん。ずぞぞーっ。
「でも……『異界』の存在を前提とすると、余計に理解し難いこともでてきちゃう」
「おそらく、同じことを我々も考えていたのであります。つまり……」
「越境困難」
「そう。『別の世界』があったとしても、その『別の世界』に渡るのは、かなり無理があるの。
テレズマ使って擬似的存在を構築するとかならともかく、『そのまんま』の人間を運んでくるってのはね。
頑張れば1人くらいはどうにかなるかもしれないけど、この人数を考えると……」
「紅世の常識に沿って考えても、その点は納得いかないのであります。
紅世と人の世の間を『渡る』のが困難であればこそ、フレイムヘイズのような存在も生まれたのであります。
力と意思があっても危険極まりない旅なのに、半ば誘拐のような形で、これだけの人数を集めるのは……」
「荒唐無稽」
「やっぱりココが一番の謎なんだよ。力技や小技でなんとかなる問題じゃないの。
『異界』の『情報だけ』を拾ってくるならともかく、『モノ』や『ヒト』を直接連れてくる、っていうのはね。
きっと、どこかで前提が間違ってる……何か、間違ってる……!」
ずる〜〜。「ごちそうさまなんだよ」「ごちそうさまであります」
「常識で考えればありえない、と言えば、もう1つあるのであります」
「死者蘇生」
「さっき言ってた、フリアグネって人のことだね。あ、ヒトじゃなくて“紅世の徒”か」
「そうなのであります。確かにかの者は討滅されたはずなのでありますが……」
「……魔術師にとっても、『死者を蘇らせる』というのは究極の目的の1つなんだよ。
だから、いくつものアプローチが試みられてきたんだけれど……いずれも欠点や欠陥が避けられない」
「詳細説明」
「例えばギリシャ神話にも日本の神話にも、黄泉の国に降りて死人を連れ戻そうとする話はあるんだよ。
でもいずれも、完全には成功しない。死者と会えても、完全には連れ戻せない。
成功してないから、こういう神話や故事を元に構築された魔術はどこかに穴を抱えてしまう。
有名なところでは『死霊術師(ネクロマンサー)』と呼ばれる魔術師の一系統があるね。
死体を前に『その死を誤魔化そう』としても、出来上がるのはいわゆる『死に損ない(アンデット)』だけ。
肉体・精神・魂のいずれか、あるいは、その全てに問題が発生しちゃうんだ」
「完全な復活は不可能、ということでありますか」
「覆水難収」
「これが予め状況を整えた『場』で死んだりしたなら、その『死』を覆すことは不可能じゃないと思うんだ。
例えば輪廻の概念に拠る転生魔術は、上座部仏教のある宗派のトップに対して行われているけど……
あれだって、準備万端、術を整えたところで死を看取るからこそ可能なことなんだよ。
あとは……そうだね、錬金術方面の究極の魔術としては、
『術者が思った通りの現実』を作り出す、っていう『黄金練成(アルス=マグナ)』なんて魔術もあったね。
でもあれだって理論上、術者がイメージできないものは実現できないし……
死者再生も行ってたみたいだけど、あれも事実上、掌の上で起きた『死』を否定するのが精々じゃないかな。
術者の与り知らぬ所で死んだヒトを蘇らせるほどの力は、実際問題として無いんだよ」
「つまりは……死者復活そのものは可能でも、その大前提として」
「要準備」
「となると、伝え聞いた『フリアグネが滅せられた時の状況』とは、いささか噛み合わないでありますな。
討滅する側にもされる側にも、イレギュラーな事態であったようでありますし」
「何より十字教最大の奇跡ってのは、『神の子の復活』、なんだから。
復活ってのは、神様の領域になっちゃうんだよ。
人間が努力してなんとかなるような難易度じゃ、ないんだよ……『異界』への越境と同じく、ね」
「それは紅世の徒やフレイムヘイズにとっても、でありますな。
紅世の王の中でも特別な存在、“神”の名を冠せられる『天罰神』や『創造神』とて、果たして可能かどうか」
「想像不能」
(……かち、かち、がち、かち…………)
「しかし、事実は事実として、フリアグネ、いや『フリアグネを名乗る存在』は確かにいたのであります。
本人には『自分が討滅された』という自覚すらなかったようでありますが……」
「要説明」
「1つの可能性としては……あくまで、私の知る範囲で考えるなら、だけど。
『本物のフリアグネそのもの』でなく、『フリアグネのコピー』を用意する、という方法があると思うんだよ」
「コピー、でありますか」
「模倣存在」
「さっき“紅世”について説明してもらった時、“トーチ”の話を聞いて思いついたんだけどね」
「人間が消滅することで生じる歪みを軽減するための、代替物でありますな。
基本的に『対人間用』の技術で、“紅世の徒”の代替物など話に聞いたことすらないでありますが」
「実例皆無」
「『そっち』の『自在法』とは根本的に原理が異なるとしても、発想だけを借りることはできると思う。
ピグマリオンの伝承を持ち出すまでもなく、『精巧な偽者』は魔術的に『本物』に近い存在となるわけだし。
有名なのだけでも、ホムンクルスにゴーレム、自動人形。
世の中には『人間に近い人形』を作ること『だけ』に専念している魔術師の一派も存在するんだよ。
で、そうして創られた『人形』に、『自分は本物である』と思い込ませることは、あんまり難しくないんだ」
「人形遊戯」
「真実であれば、人形型の“燐子”作りを得意としていたフリアグネには過ぎた皮肉でありますな」
「もちろん出来の悪いものを用意しても、ヴィルヘルミナたちの目は誤魔化せないと思う。
それに、完璧なコピーを作って完璧に動かすのも、言葉で言うほど簡単じゃないんだよ。
でも……その運用を予め用意した魔術的な『場』に限るとするなら、一気にハードルは下がる。
一気に、人間にも可能な領域の話になるんだよ。
伝承上のホムンクルスが瓶の中でしか生きられなかったみたいにね。そして、この場では」
「この『会場』自体が、一種の『瓶』、ということでありますか」
「閉鎖領域」
「まだ確証はないよ。『そう考えれば一応説明できる』っていうだけなんだよ。
新しい情報があれば、この仮説も一気にひっくり返るかもしれない。
でも、考慮しておく価値はあると思う」
(……どこかで蒸気が上がっている。しゅごー、しゅごー、と、絵本にあるような音が――)
「しかし……正直な話、あまり楽しい仮説ではないでありますな」
「自意識危機」
「そうなんだよね。この『コピー仮説』を採るなら、『異界を越える困難』も解決しちゃうんだよ。
『異界』から『情報だけ』取ってきて、『ここ』でその『コピー』を作っちゃえばいいんだから。
それだって簡単じゃないけど、神様の領域から、人間でもどうにか手が届くかもしれない所まで下りてくる。
cogito, ergo sum. 我思う故に我あり。魔術というより、哲学のお話になっちゃうけれど……。
こうして話し合っている『私たち自身』も『コピー』である可能性を、否定できなくなっちゃうんだよ。
『ここにいる私』たちとは別に、『元の世界にはホンモノがいる』可能性がでてきちゃう」
「不快」
「全く、考えただけでも不快でありますな。
……しかし、そう考えると、封絶などの一部の自在法が使えぬことも説明できてしまうのであります。
要は『そういったモノが使えない』よう、『コピー』を弄っておけば良いわけでありますから。
完全なコピーが作れるのであれば、不完全なコピーを作ることも可能でありましょう。
そして、その『コピー』がこの『会場』の中でしか生きられぬというのであれば、制御も簡単なのであります」
「反抗不可能」
「よもや“紅世の王”をそのまま模倣し再現することは不可能でありましょうが……
その確認のためだけにティアマトーを“顕現”させてみるわけにもいかないのであります」
「……まだ決め付けるのは早いかも。
『予想』と『期待』は、違うんだよ。良かれ悪しかれ、ね」
「…………」
「…………」
「それに、まだ一番大事なことが分からないんだよ――
『何のために』こんなことをしたのか、ってことが。
渦巻きのように……いや、いびつな螺旋のように消えていく地面。
蠱毒の呪法を思い出させるような、生き残りゲーム。
あそこで嘘をつく理由も考えにくいから、『最後の1人』が生き残れるってのは本当なんだと思う。
蜘蛛の糸、っていう表現も意味深だよね。
結局、まだ分からないことの方が多い。今の話だって、勝手な思い込みなのかもしれない――
結論を出すには、まだまだ調査が必要なんだよ」
(――それはきっと幻聴。ただ、蒸気の音と、水の泡立つ音だけが…………)
「……それでこれから、どうするでありますか?」
「方針確認」
「ん〜っとね。色々考えたんだけど……とうまを探そうにも、どこにいるか分かんないし。
だからとりあえず、星が見たいかな、って」
「星、でありますか」
「天体観測」
「この『会場』が僅かなりとも魔術的要素によって形作られているのなら、星の位置は重要なんだよ。
これが普通の状況なら、一等星だけ確認して、あとは星図を思い浮かべれば用は足りるんだけど……」
「今回のこの場においては、もう少し詳しいところまで確認したいわけでありますな。
なるほど、この星空もまた作り物の可能性があるのであります」
「うん。一度しっかり、小さな星の配置まで確認しておきたいんだよ。
占星術も魔術の一分野だし、魔道書も多く書かれている。『正しい星図』は、私の頭の中に入っている。
僅かな異常も見逃さない。作り物じゃないなら、緯度や季節も分かる。
でも、市街地じゃ街灯が眩しくて、そこまではっきりとは分からないんだ。だから」
「天文台」
「で、ありましょうな。そこまで行かずとも、多少なりとも山に入れば見え方も違ってくるでありましょう。
ここからであれば……川と堀の隙間を抜けて、北西方向に進むことになるのでありましょうか。
どこかで川を越えてみてもいいのであります」
「そういうわけで、私は天文台を目指そうと思うんだ。
日の出までに着かなかったとしても、きっと何か手掛かりはあると思うし。
あとついでに、この『会場』の『端』もどうなってるのか、一度確認しておきたいしね」
「なるほど、理解したのであります。では我々も同行させてもらうのであります」
「護衛」
「……いいの?」
「最後までお付き合いする、との保障はできないでありますが、今しばらくであれば。
それに、私が抱えて跳んで進んだほうが、遥かにスピードが出るのであります」
「移動支援」
「じゃあ……ありがとう、なんだよ!」
(――音はない。幻聴も聞こえない。ただの気の迷いだったのかもしれない…………誰、の?)
【C-4/ホテル近辺/一日目・黎明】
【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康。とりあえず満腹。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、
未確認ランダム支給品0〜2個
[思考・状況]
1:星空を確認したいんだよ
2:地図の「端」も確認したいんだよ。「なくなったエリア」も外から確認したいんだよ。
3:だから山に行って、天文台に行きたいんだよ
[備考]
※タイミング悪く騒いでいたため、D−4ホールでのステイルの宣言に全く気が付きませんでした。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『灼眼のシャナ』の世界について基本的な知識を得ました。
【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(16/20)
[思考・状況]
1:当面、インデックスに付き合って、山または天文台を目指す
[備考]
※封絶使用不可能。
※D−4ホールでのステイルの宣言は、部分的にしか聞き取れませんでした。大して重要視していません。
※自分を含めた、一部(あるいは全て)の参加者が「コピー」である可能性を疑っています。
※『とある魔術の禁書目録』の世界の魔術サイドについて、基本的な知識を得ました。
[備考]
※歯車の音や蒸気の音などが、本当に聞こえていたのかどうかは不明です。
【試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣】
文月学園における『試召戦争』のルールをまとめたプリント。
基本的に、原作1巻67ページに掲げられた表と同じもの。
また、この表から漏れた「細かいルール」にも言及がされている。
しっかり読み込めば、『バカとテストと召喚獣』世界の『召喚術』及び『試召戦争』について誤解なく理解できる。
(ただし、表層が理解できるだけなので、別にそれだけで召喚術が使えるようになったりはしない)
以上、投下終了。支援感謝です。
本文中、( )で括った歯車や蒸気の音は、「空の境界」出展のイメージ音(?)です。
ただ、それでもまずいようなら、修正も考えています。
投下乙です。
おおぅ見事な考察……
難解なシャナ世界と禁書魔術サイドの知識がいい具合に混ざり合っている。
それをキャラらしく面白く仕上げるとは凄いです
空の境界部分は……まだスルーも出来るようですしいいかなとおもいます
GJでした。
投下乙
何か和んだW
今まで鬱話が多かっただけに新鮮で良かった
マーダーがワラワラいる中生き残れるかかなり不安だがこれからの活躍に期待
朝倉涼子、師匠 を投下します。
【0】
――オレたちゃこれで飯食ってんだ! 負けたら明日はねえんだよ!
【1】
星をちりばめた深い藍色の空。その中央に薄い雲をショールのようにまとった白い月が浮かんでいた。
そこから視点を地上へと下ろすと、月光を受け蒼く染まった風景の中を横切ってゆく一台のバイクの姿が見える。
サイドカーを持ったそれは、夜の市街へと高いエンジンの音を響かせ、デコボコの道の上をガタゴトと揺れながら走っている。
大きくて頑丈そうなバイクにまたがるのは水色の襟が目立つセーラー服を着た綺麗な顔の少女で、
サイドカーの中には黒いスーツを着こなす妙齢の、そしてこちらも美しい女性が身を収めていた。
少女と女性の二人は、ともにその艶やかな黒髪を後ろで一つにまとめ、それを流れる風にそのままにしている。
東から西へ。しんと静まり返る夜の中を一台のバイクはただ走って行く。
【2】
目の前に現れ、そして流れ消えゆく風景を朝倉涼子は見る。
罅割れたアスファルトの道路。頑丈そうなコンクリートの塀。漆喰が塗られた白い壁。粘土を焼いて作られた固い瓦。
金属とプラスチックで組上げられた街灯。立ち並び、緑の葉を揺らす街路樹達。その足元に見える赤い土。風に流される黄色い砂。
窒素を主成分とし人が生命活動を行うに必要な酸素を含む空気。その中に漂う微粒子。嗅覚でのみ感知しうる、匂い。
照らし跳ね返り視覚に情報を送る光。そしてその視覚では捉えられない、電波や電磁波といった波。
有機物も無機物も、光も波も、解析され最終的には情報というものに置き換えられ、彼女には理解される。
大宇宙の彼方に存在する実態を持たない情報生命群である、情報統合思念体。
その中より切り出され、地球へと送り込まれた朝倉涼子は人の形をして人として振舞うが、実態はそこから大きく異なる。
見えている世界も、感じ方も、解釈の仕方も、考え方も、何もかもが人間とは違う。
彼女は、宇宙人なのだ。
「復元能力に関しては、概ね問題なしか……」
びゅうと耳を叩く風切り音の中で朝倉涼子は鼻の頭をこすり小さく呟いた。
その高く通った鼻に先程受けた手痛い一撃の痕跡はなく、綺麗に最初の状態へと元通りに直されている。
これは、情報の改竄、再構成を活動の基本とする彼女達宇宙人にとっては通常の振る舞いだ。
身体の物理的な損傷は”治す”ではなく、”直す”ものなのである。
「けど……」
感知の仕方が違うゆえにそうすること自体に意味はないが、人間らしい振る舞いとして彼女は目を凝らすように細める。
そのジェスチャーは、視界が悪いということを表している。宇宙人の感覚に合わせれば、情報が読み取りづらいという意味だ。
「有機生命体の近眼って状態はこういった感覚のことを言うのかしら?」
有機体の眼によって受け取り、脳で知覚する光学的な意味での目の前の風景になんら違和感は覚えない。
しかし情報生命体としての感知能力で見るそこには大きな変化があり、随分と”ぼやけた”ものとしか感じられない。
開けた場所に出て初めて気付いたが、どうにも10メートルほど離れるとそこにあるモノの構成情報が読み取れなくなってしまう。
「私も長門さんみたいに眼鏡をかけていればよかったかも」
と、朝倉涼子は軽口を叩き、少しだけ自嘲気味な笑みを浮かべた。
もっとも、わざわざ眼鏡を構成してかけるぐらいなら、直接有機体の情報を書き換えたほうが早いし効率的だ。
そしてそのフィジカルサポートは現在十分に機能している。運動能力は人類の範疇を超え、負傷の回復にも特に問題はない。
問題があると言えるのは、近眼と例えた情報感知能力の範囲が大きく狭まっていること。
そして、この世界に来てより早々に確認した情報改変能力が手の届くより少しの範囲でしか発揮できないということ。
以上の2つの問題と、体内やその表面上で行われる事柄に関しては特に問題がないこと合わせて考えると――
「(全ては”距離”なのね)」
――彼女の能力を制限しているのは、外圧でも内部干渉でもなく、距離ということになる。
推測するならば、この世界の端という空間とやらがそもそも彼女達が扱う種類の波を伝えづらいのかもしれない。
水の中では空気中より運動エネルギーが伝わりにくい。そういう風に解釈すれば解りやすいだろう。
「(”電波”が届かない……かぁ。原始生命になった気分)」
能力を制限されている状況ではあるが、それ自体は単体のユニットとして行動している分にはさして問題はない。
問題となるのは、彼女の帰属する情報統合思念体との通信が全く行えないということだ。
技術や技能などの新しい情報のダウンロードが行えないのはともかくとして、こちらから報告を送ることすらできないのは大きな問題だ。
果たして最終的に涼宮ハルヒを確保したとして、この事件そのものを解決する能力が自分に存在するのか?
「(長門さんはどうしているかしら?)」
朝倉涼子は大元を同じとする宇宙人の仲間である長門有希のことについて考える。
互いに、本来の目的は涼宮ハルヒとその周辺事情の観測。そして、そこから未知の進化の可能性を発見、抽出することであった。
となればこの場において本来の仕事仲間として彼女とはうまく連携できるだろうと朝倉涼子は考える。
以前は些細な方法論の食い違いから衝突することとなったが、今回においてはそれも考えられないだろう。
加えて、朝倉涼子は他のSOS団団員。つまりは、涼宮ハルヒの周辺人物についても考えてみる。
まずはキョンと呼ばれるある意味において最も重要な、鍵と呼ばれる人物。
彼が死ぬと涼宮ハルヒがいかなる反応を見せるのかというのは依然として興味深くはあるが、今はそんな場合ではないだろう。
あずかり知らぬところで死ぬのはかまわないとしても積極的に狙う理由はない。
そも、彼は長門有希のお気に入りでもあるのだ。ここでわざわざ彼女と敵対する理由を作ることもない。
そして、涼宮ハルヒを沈静する為の存在である超能力者と、別時間平面――平たく言えば未来より来た使者。
古泉一樹。朝比奈みくる。と名乗る彼と彼女に関してはどう扱うべきか?
SOS団という特別な枠組みの中にいる人間ではあるが、超能力者としても未来人としても他に代替が利く為その価値は低い。
また、その枠が空くというならば新しく情報統合思念体の側から新しい人員を滑り込ませられる可能性もあるだろう。
「(となれば、あの2人はここで消えてもらうのがいいかもしれないわね)」
朝倉涼子は再び笑みを浮かべる。
元々、柔和で人当たりのよい表情をデフォルトとするが、しかしこの場で気付いてからは妙に興奮している節があった。
その有機体で構成された身体自体は通常の人間と大体において同じだ。
しかし彼女は宇宙人である。自らをそれと見せかける為に人間らしくは振舞うが、本来は0と1の羅列でしか思考しない存在のはず。
「(”運”が向いてきた……か。それは、つまり……あぁ、なるほど)」
運とは、知覚範囲と予測能力に著しく劣る原始的なレベルの知性体が持つ、知覚範囲外の事象を自身の因果より切り離し
その境界面状で受け取る結果を指して表現する、あまりにも大雑把で正確さを期待できない概念のことである。
とすれば、何故計算の権化とも呼べる彼女がその概念を自身の中で使用したかというと、つまりそれは――
「(私は今、”人間”に近い状態に陥っている)」
――そういうことに他ならない。
元々、ヒューマノイドインターフェースとして人間としての思考形態のサンプルは持ち合わせている。
そして現在、彼女を宇宙人足らしめている超知覚能力は大幅にその範囲を減じている。未だ人間以上ではあるが、以前とは比べくもない。
つまり、彼女の中で感覚による部分の比率が大きく”人間”の側に寄っているということであった。
「(どうりで”興奮”しているわけだわ。
知覚範囲が狭まったことによって”不安”が生じ、その反射として有機体の脳が興奮を強いている)」
朝倉涼子はまた、そして今までより強く笑みを浮かべる。
人間のコミニティの中に紛れ込み、応対すること情報を更新し彼女は僅かながら生み出された時よりもその個性を強くしている。
それは、今現在のこの状況の中で大きく加速していくだろうと彼女自身は予感した。
そう。それは予感。
宇宙人としての知覚を減じられ、情報統合思念体よりのキャリプレーションを受けられない今、彼女は一切の正解を得られない。
与えられた、人間としての感覚と思考形態を基準とし、今までより遥かに不明瞭な時間を過ごして行かねばならないのだ。
「(こういう時って、人間は”おもしろくなってきた”って言うのかしら?)」
その胸の中に湧き上がる興奮が、期待なのか不安なのかそれともまた別のものなのか、それを今の彼女は断言できない。
しかしその衝動に今の彼女は面白さを感じていた。自身が唯一無二のユニークな存在となるのもまた新しい価値の発見なのだから。
彼女は、人間になるのかもしれない。
【3】
ガタゴトと揺れるサイドカーの中で、師匠と人に名乗る彼女は考える。
「(これは、今まで見てきた銃の中でもかなりのものですね)」
先程、動く標的を相手に”試射”を終えたばかりの短機関銃を抱え、彼女は感心したと小さく息を吐いた。
フレームや機構、弾薬などは予め確かめていたので、どの程度の性能があるのかというのは予測していたが、結果はそれ以上であった。
放浪の旅人である彼女は基本的に同じ銃を使い続け、性能のいかんに関わらずそれを交換したりはしない。
何故ならば、己の命を守る為に備えてある銃に最も必要とされるのは信頼性だからだ。故に、旅人は皆、自分に馴染んだ愛銃を持っている。
しかしそれでなお、この初めて手にする短機関銃は信頼がおけると彼女は判断した。それだけの性能がその銃にはあったのだ。
「(もっとも、元よりの銃がなければあるものを使うのが当たり前ですが)」
元々所持していた武器の類は気付いたら手元にはなかった。
その理由はある程度察することができるが、ともかくとして彼女の元には配りなおされた新しい武器が届いた。
狐面の男はその武器の内容に関して運試しだと言ってたが、今回に関しては幸運があったと断ずることができるだろう。
脇に置いたデイパックの中には弾丸の詰まった弾倉も十分に用意されており、たかだか60人程度を殺すにあたっては十分以上であった。
「(こちらも随分とよいものですね。あまり趣味というわけではありませんが)」
短機関銃を脇に置き、彼女は一本のナイフを目の前にかざし、また感心する。
細身ではあるが、繰り出された刀と打ち合わせたにも関わらず全く歪みが生じている様子もなく、随分と頑丈なのだとわかる。
本来の持ち主であるらしい”両儀式”というのが鍛冶師なのかどうかは知らないが、その世界ではさぞや有名なのであろう。
「(さて、これとこれは問題ないとして……)」
ナイフをケースに仕舞い、彼女は先程手に入れた3つ目の武器の方へと視線を傾ける。
なにが楽しいのかにやにやとした笑みを浮かべながらバイクを運転している少女。つまり、朝倉涼子と名乗った彼女のことである。
見た目は年若い少女にすぎないが、実際には常識の範疇を超えた運動能力と不可思議な力を振るう怪物である。
「(パワーに関しては文句はありませんが、いささか単細胞のきらいがありますね)」
あえて自分を発見させてから撃ったにせよ、それを感知し実際に銃弾を避けてみせたのはまさに動物並の反射速度であった。
次の掃射を避けた際の運動能力も、また見事だと感心せざるを得ない。
この時点では逆襲による敗退も頭をよぎったのだが、しかしそれは彼女の次の行動を見て幻と消えてしまう。
「(戦闘の経験はないと見るべきでしょうか)」
力任せに振り回す刀。そこにはいかなる術も見られず、子供が棒を振り回しているのと大差ない。となれば回避も容易かった。
続けざまの蹴りや防御にしてもその場しのぎで、次に繋がる姿勢や、展開を考慮してるとは見て取れなかった。
そして最終的に拳の一撃をもらうことになったが、そこでこちらがその威力を殺していたことにも気付く様子がなかった。
となれば、所謂喧嘩や格闘といったものに関してはド素人だと判断を下さざるを得ない。
「(椅子を槍へと変形させた……超能力ですか)」
そして、推測するに、途中で見せたあの槍を撃ち込む攻撃こそが彼女本来のスタイルなのであろう。
おそらく今まではあの力でもって相手を一方的に撃破してきたに違いない。そしてあれだけの力があるなら他の力は不要だとも言える。
だとすれば彼女の見せた戦闘の組み立て方の拙さにも納得がいくというものだ。
もっとも、あれにしても最初から使ってこなかったことと、立て続けに使ってこなかったことを見るに、連続した使用は難しいらしいが。
「(……まぁ、及第点をあげておきましょうか。なにとなにやらは使いよう、です)」
戦闘そのものだけでなく、交渉やその他の判断にもやや不安はあるものの、しかし”自分の武器”だと考えればそれも問題ない。
考える力に乏しいのなら考えさせなければいい。武器は、その使い手が最大の力を発揮させるのものなのだから。
狭いサイドカーの中でそんな結論を出すと、師匠と呼ばれる彼女は己の武器に声をかけバイクを停車させた。
【4】
「どうしたのかしら? まだ目指している診療所までには距離があると思うのだけど」
停車させ、そしてバイクから降りた師匠にむかい、朝倉涼子は浮かび上がった疑問をぶつける。
その周囲には夜の中に沈む町並みがあり、道路沿いに立ち並ぶ街灯の光が来た道から行く道へと点々と明かりを灯していた。
「私達が向かうと考えた以上。
そこに同様の目的でやって来る、またはすでに到達している人間がいると考えるべきです。
更には、あなたが水族館の中で気付いたように、診療所の中で気付きその中で潜んでいるものがいる可能性もあるでしょう」
街灯が作り出す即席のステージの中を避け、師匠は暗闇の中から朝倉涼子へと丁寧な説明をする。
この状況において、自分以外の人間は原則的に敵性である。故に、接触の可能性がある場合はそこに細心の注意を払わなければならない。
今現在の場合。仮に診療所の中かその付近に人間がいた場合、バイクのエンジン音をたてて近づけば先制を許す可能性があるのだ。
「なるほどね。でも、それじゃあこのバイクはどうするのかしら? ここに放置? それともまさか押してゆくの?」
朝倉涼子は問い。そしてそれを聞いた師匠は彼女の前でわかりやすい溜息をついた。
そして冷ややかな目で彼女を見つめ、その肩にかかったデイパックを指差す。
「入っていたのならば戻せない道理はないでしょう。このバイクは元通りあなたの鞄の中に仕舞っておきなさい」
やれやれと首を振ると、師匠は自身のデイパックを片手に持ちバイクと悪戦苦闘している朝倉涼子を尻目に道を西へと歩き出した。
【5】
「……まったく人使いが荒いんだから」
目視で診療所を確認できる位置まで来て朝倉涼子は一人ごちる。
その近くに師匠の姿はない。二手に別れて進入することを提案すると、返事を聞く間もなく裏手側の方へと行ってしまったのだ。
ともかくとして、朝倉涼子は一人正面玄関より診療所への侵入を試みる。
「西東診療所……」
診療所の前に掲げられた看板を見て朝倉涼子はその名前を口にした。
何の変哲もない。特に大きな意味もなさそうなただそれだけの名前ではあるが、しかし一つだけ大きく不自然な点があった。
それは、その看板は随分と年季が入っているらしく擦れて文字が全く読めないということだ。
「やっぱり、いつの間にかに知識が増えている。それも、ここで使う為のようなものばかり……」
彼女の地球に来てからの行動範囲というのは大きく限られており、実質的には学校と家との間ぐらいでしかない。
故にこんな世界の端などという場所に来たこともなければ、目の前の診療所に見覚えなんかあるはずもない。
なのに知っている。奇妙なことにその名前だけをはっきりと知っていた。それが間違いでないという確信がある。
そして、師匠が持っていたFN P90という名前の短機関銃。また、バイクの運転技術。
通常の生活に必要な情報を最低限持った状態で生まれ、日々の活動の中で知識を得たり、必要に応じて情報都合思念体より
新しい知識や技術をダウンロードしてそれなりの知識と経験を持ち合わせてはいたが、どちらの知識も以前は知らなかったものだ。
これまでの活動中にそれを必要としたり、ダウンロードの申請を情報統合思念体へと送った記憶はない。
「新しい知識を注入された。それはいい。問題は、”何者”がそうしたのかよね」
根本的な問題として、彼女にはここで気付いた段階より持っている大きな疑問が存在していた。
それは、”何者が朝倉涼子を再生したのか?”ということである。
彼女は以前、涼宮ハルヒに関する事態を独断で大きく進めようとし、長門有希より問題のある固体としてその存在を抹消されているのだ。
では一体何者がというと、この状況を作り上げたものがそうしたのであろうというのがほぼ間違いのないところであろう。
それが涼宮ハルヒであれ、情報統合思念体であれ、または狐面の男か全く未知の存在であれ、その点に関しては変わらないはずだ。
この状況に関する何らかの要請により、消失したはずの朝倉涼子はいくらかの知識を付与され再生された。
「まぁ、いいか」
疑問をそのままに置いておき、朝倉涼子は看板の前を離れて診療所の正門へと歩いてゆく。
ここで状況が開始されてよりすぐに同じことを考えたが、どの可能性を論じても辿り着く解答は、”自分自身が知る術はない”だ。
記憶そのもの、引いては自分そのものに対し完全な信頼がおけない以上、確定的な答えを出すことはできない。
そういうことならば、結局は自分自身が自分自身として疑いをもたずに事を進めてゆくべきだと彼女はそう結論を出した。
「(……人がいる気配は感じられないけれども)」
正門を潜り、朝倉涼子は二階建てで大きめの一軒家である診療所の中を窺ってみた。
目の前の玄関扉や一階二階にある窓など、どこからも光は漏れておらず、また物音もせずしんと静まり返っている。
右側を見れば車5台分ほどのスペースの駐車場があり、いくらかの車やバイクが止められていたが、しかしその物陰にも気配はない。
足音を立てないよう慎重に玄関扉の前にまで移動すると、そこに鍵がかかっていないことを確認し彼女はその扉を横に引いた。
【6】
「(さて、あまり時間をかけている暇はありませんね)」
朝倉涼子が玄関より診療所の中へと進入した頃、別行動をとっていた師匠はすでに診療所内へと進入していた。
別れる際には、狭い屋内で固まっていれば敵がいた場合一網打尽にされる可能性があるなどと彼女は理由をつけたが、それは真実ではない。
ただ彼女は単に、一人先んじて金目のものがあれば頂いてしまおうと考えただけであり、それはそうする為の方便であったのだ。
「(とはいえ……)」
ミシ、ミシ……と、足をのせる度に軋んだ音を慣らす廊下を進みながら、ここは期待薄と師匠は判断する。
医者という肩書きを持つ人間は大金持ちかもしくは逆に赤貧かと相場は決まっているものだが、ここは少なくとも前者ではないらしい。
そもそもそれは診療所という規模から押して知るべしといったところだったが……。
「(まぁしかし、何があるとも限りません)」
適当な扉を潜り、師匠は懐中電灯を片手に物色を始める。
どうやらそこは書斎の様な部屋らしく、彼女は事務机の引き出しを片端から開け、本棚へと光を走らせ、衣装棚へと手を伸ばす。
成果はあまり芳しくはない。特別に価値が高そうなものは見当たらず、得られるのは部屋の持ち主が几帳面であるという情報ぐらい。
しかしそれでも彼女は捜索の手を緩めようとはしない。業突く張りだからというのもあるが、彼女には一つの確信があったからだ。
それは、朝倉涼子のデイパックに入っていた金の延べ棒という名の”武器”により発想を得たものであった。
金というのは重たい金属でありそれで叩けば武器となるかもしれないが、しかしこの場合は武器とはそういう意味ではないだろう。
彼女と朝倉涼子がそれを媒介に契約を結んだように、その”価値”こそが武器となるのだ。
そして、その価値が有効であるとこの状況を作り出したものが認めているのだとすれば、それはあることを意味すると考えられる。
まず、この3日後には消える世界の端で行われているのはルール無用のバトルロワイアルで、その中では価値そのものに意味はない。
外の――元いた世界に通じた時に初めて価値は価値として認められるのだ。
だとするならば、金の延べ棒がブラフやハズレでないという限り、それは”持って帰れる”ものだと考えるべきだろう。
「(持ち帰りが可能ならば、いただける物は遠慮なくいただいてゆかなければ――)」
勿体無い。と、師匠は薄闇の中でまだ見ぬお宝を求め、屋内を徘徊しその手を伸ばす。
【7】
診療所に到着してより一時間ほどの頃、屋内で合流した二人は和室にて卓袱台を挟んでお茶を飲んでいた。
「残念ながら、この建物の中では労に見合った収穫は得られませんでした。次に期待したいところです」
「ここには医療品を探しにきたんじゃなかったっけ?」
「ああ、それだったら十分に確保しました。しかしこんなものは子供のお小遣いにもなりません」
「……私にはまだ有機生命体の考えることがうまく理解できないみたいだわ」
そんなことはさておき。と、湯飲みを卓袱台の上に戻して師匠は朝倉涼子へと本題を切り出した。
特別、当ても急ぐ理由もないわけだが、別にただゆっくりする為にわざわざお茶を淹れさせたわけでもないのだ。
「私とあなたとの契約ですが、一つ失念していたことがありました」
「それは一体、何かしら?」
「この先、運良くあなたが保護すべき涼宮ハルヒさんとやらを発見し、そして無事に合流できたとします」
「ええ。そうなってほしいものであるわ」
「しかし、私達3人以外の者達が存命していれば、彼女は依然として危険にさらされ続けることは変わりませんね?」
「そのとおりよ。だから、私達は私達以外誰もいなくなるまで彼女を守り続けなければならないの」
「はい。でしたら――」
――涼宮ハルヒを終わりの時まで健やかでいさせる為の料金。”SOS料”を払いなさい。
「ちょ、ちょっと待って、それはすでに契約の内に入っているんじゃないかしら?」
「物事を都合よく解釈しないでください。先程の契約の際にはあなたはそんなことを言ってませんよ」
「……えーと、じゃあ、金の延べ棒をもう1本先渡しするから」
「詐欺をするつもりですか? こうなれば即刻契約はなかったことにしたいと思います」
「そ、そんな……それは待ってよ!」
「でしたら、何か他に料金に見合った物を探すことですね」
「今から……?」
「涼宮ハルヒさんと合流するまでの間に、ですね。でないと彼女が流れ弾で死にかねません」
「こういう時、人間は血も涙もないやつだなって言うと思うのだけど」
「何を言ってるんですか。人間は血も涙も流しますよ」
「理不尽だわぁ……」
「シビアなんです」
【8】
そして、淹れたお茶が冷め切っている頃。二人は家屋より出て、場所を駐車場へと移していた。
「とりあえずは予定通りに温泉へ向かおうかと思います。その後は天守閣へと向かいましょう」
「お城に?」
「ええ。あそこらへんは最終的に残るエリアですし、早めに拠点となる場所などを確保できれば都合がよいでしょうから」
「私は、お城だからって金銀財宝があるとは思わないんだけどな」
「夢は大きいほうがいいとどこかの国の偉人も言っていました」
「………………」
そんなやり取りで今後の行き先を定めると、師匠は駐車場に並んだ車の中で一番小さなものの前に立ちその扉を開いた。
そしてきょとんとしている朝倉涼子に構うことなくその中へと乗り込む。
「えっと、今度はそれに乗ってゆくわけ?」
「襲撃を受けてしまう場合。生身を曝すバイクよりかはこちらの方が安全です」
あなたも早く乗りなさい。と言う師匠は、当たり前のように助手席へと座っている。
なので、釈然としないところがあったものの朝倉涼子は仕方なく運転席の方へと腰を下ろし、その手にハンドルを握った。
幸か不幸か、自動車の運転に関しても何時の前にやらに身についているというのが何故か彼女には悲しく思える。
「では、速やかに発進してください」
「……はい。師匠」
ほどなくして、ブルル……と音をたててフィアット500という名の黄色い車が駐車場を抜け出し、夜の市街の中へと滑り込んでいった。
「ところで、この車の鍵ってどうしたの?」
「二階の寝室にかけられていた上着のポケットの中から見つけましたが、それが何か?」
南から北へ。しんと静まり返る夜の中を一台の小さな車はただ走って行く。
【F-3/診療所付近/一日目・黎明】
【師匠@キノの旅】
[状態]:健康、ポニーテール
[装備]:FN P90(30/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x19)@現実、両儀式のナイフ@空の境界
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、フィアット・500@現実
[思考・状況]
基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
1:朝倉涼子を利用する。
2:まずは温泉へと向かい、その後天守閣の方へと向かう。
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、ポニーテール
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実
[思考・状況]
基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
1:師匠を利用する。
2:まずは温泉へと向かい、その後天守閣の方へと向かう。
3:SOS料に見合った何かを探す。
[備考]
登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
【FN P90@現実】
突撃銃の威力と拳銃の取り回しのよさを両立する為に開発されたコンパクトな短機関銃。
全長:500mm 重量:3.0kg 口径:5.7mmx28 装弾数:50
使用されている弾丸も専用に開発された特殊なもので、ライフル並の貫通性と強力なマンストップ力を併せ持っている。
【フィアット・500@現実】
まんまるいフォルムが特徴の小型自動車。色は黄色。
正確にはシリーズの2代目にあたる「NUOVA 500」で、フィアットというとこれが連想されることが多い。
窮屈ながらも一応は5人乗りの仕様で、エンジンタンクがフロント部分にあるのが特徴。
ちなみに、500は”チンクェチェント”と読む。決して”ごひゃく”とは読んでいけない。絶対に。
以上。投下終了しました。
新作乙! 投下GJ!
なんという投下ラッシュ……凄いんだよ。
「キャラのらしさ」がキラリと光るGJなラインナップだ! やっほい!
>朝比奈みくると土屋康太のバカテスト
うーむ、支給品を確認する話でここまで二人の"らしさ"が具現化されるとは。
いつ修羅場に巻き込まれてもおかしくないのに、どこか和むなぁw
そしてやはりみくるは巻き込まれ体質なのだなと再認識w
支給品については……大丈夫、と思うかな。
仮にまずい事が発生した際には、そのとき思い切り話し合えばいいかと。
> COGITO_ERGO_SUM
セリフだけで二人が活き活きしてるのがよくわかる逸品。今日の作画はやけに動くぜ。
まずはお前らあの「鰐が最小なんたらさん」の話を聞いてやれよっていうwwwww
いやはや、これからどうなるかに期待。二人の行方も、そしてこれからの考察に関しても。
しかし本当、ここまで二つの世界観が自然に混ざるとは……素晴らしい。
ティアマトー萌え!
>ART OF FIGHTING――(作法)
師匠何やってはるんですかwwwwwwwwwwww
SOS料ってwwwwwwもうwwwwwなぁにこれぇwwwwwwwwww
診療所も難なく調べ終わり、今度は車ゲットとな。
朝倉は不幸だが、マーダーコンビ結成後としては実に悪くないスタート。
こちらのコンビにも期待せざるを得ませんな。頑張れ師匠、負けるな朝倉!
投下乙。
人間に近づきつつある朝倉。がめつい師匠。
ただ無人の施設を調べてるだけなのに、なんか緊迫感あるなあw
そしてフィアットを確保か。その気になって調べればけっこう色々出てきそうだな、この街。
投下乙です。
おお、二人ともらしいなぁw
朝倉は人間に近い……?
何か楽しみな感じだw
師匠は相変わらずがめついなぁw
GJでした
投下乙
何まったりしてんだこのマーダー共はW
何か余裕、超マイペースでサボってるかと思ったたらしっかり殺し合いについて考えてるし。
本当こいつらは一筋縄じゃいかんな
支給品、偏りが凄いな。キノの旅が13ってw
機能的に現実と変わりないものが出しやすいんじゃない?
毎話ごとに舞台の国が変わるから、色んなタイプの支給品が出せるってのもあるね
それこそ核爆弾からメガネまで
いろいろおもしろいのおおいからなぁーw
予約ktkr
面子から見るに、警察署が火薬庫となりそうだが…
式と悠二の移動スピードが気になった
サイドカーでも手に入れたかな?
式と悠二は電話じゃないか?
ハルヒといーちゃんがやばそうなのは同意
予約来た!
あの面子じゃ確実に何かが起きるな
そっか、ふじのんの電話忘れてた
ハルヒ達とふじのん遭遇は無いんじゃないか?
ハルヒ達は真っ直ぐ北にいくといってたしふじのんは電話中だ
予約メンツ変更か。
しかし式悠二に榎本が遭遇? こっちも楽しみだ
戯言だけ全然わかんないんだけど押さえておくべきだろうか
あとはほとんどアニメの知識ばっかり…
フルメタとらっきょは全巻読んでるけど
ハルヒも半分くらい
割とアニメ知識で融通利かない面子が多いかなぁ
シャナは展開とか違うし
戯事はあの文体を楽しく読めればけっこうスイスイいけると思うけどな
まあ時間の無駄と思う事は無いと思うから気が向いた時一度読んでみ
残念ながら、戯言はロワ内だけの知識で動かすのは難しいなあ。
書いた人が下手とかじゃなくて、きっと誰が書いても難しい。
リリアとトレイズは、アニメだと結構欠落してる要素がある。
残酷シーンとか、言語問題とか。
クビキリサイクルっての買ってきた
これが1作目でいいのかな
最近のラノベってどっから読めばいいのかよくわからんのが増えたよな
ハルヒとかもそうだし、フルメタは新装版になってわかりやすくなったけど
前の富士見の装丁はカスだったな……
カッコつけてサブタイを前面に押し出してるせいでナンバリング分かりづら過ぎる。
書店でバイトしてたころとか検索に引っかからなくて最悪だった
今月新刊が出る聖刻群龍伝なんて章ごとに1〜4巻て書いてあるけど通算何冊目か書いてないから
初見でどっから読んでいいかわかんねーんだぜ
オーフェン買おうとした時もどれが最初かわからなくて困った記憶があるな
某所でもうすぐロワ語りするということで、語れるほど投下されてるかなあと
何気なく話数見てみたら、既にリスタート前と並ぶ数になっててコーヒー吹いた
クビキリサイクル読んだけど、カルト的人気作ってイメージだったからさぞかし厨二的設定
満載なんだろうなと思っていたけど、普通に推理小説だったな…
登場人物は歪んでたけどトリック自体はいーちゃんと同じところまでは大筋は読める
程度の難度だったし
(人間を踏み台にしたところまではわからんかったが)
まぁ読ませる事が目的だったわけだからこれが読めたからといってトリックの難度が低いとは
言えないか
つーか最後のは反則だろ。
このロワで使用されてるような設定はもっと後の作品からなのかな?
戯言シリーズはミステリの皮を被ってシリーズを開始し、最終的には超人バトルものへと進化します
後の作品読んでからクビキリサイクル読み返すと吹く。その程度の謎、力技でどうにでもなる連中が山と出てきて。
やっぱりそうなんだ
イメージとあまりにも違って、ええ、こういう話だったの!?って思った
しかし西尾はけっこうミステリーの皮を被ろうと頑張って書いてるよな
まあ最後には関係なくなったけどな
とりあえず本投下の前に思いついた小ネタ
――さあ、本投下をはじめよう
さて、かるーく本投下でもはじめるっちゃか
本投下をはじめるのも悪くない
RRRRRRRR
――1回
RRRRRRRR
――2回
特に深い意味もなく、呼び出し音の数を数えながら浅上藤乃は思い出す。
最初の晩は――確か2回、ちょうど今のコール音で湊啓太は電話を取った。
確かあの日殺したのは昭野とか言う男だったか。
あの日は湊啓太を殺せなかった、そして男は彼の場所を知らなかった、ただそれだけの理由で殺した男。
どんな相手だったけ、3回、4回と増えていくコール音を数えながら、ぼんやり頭の片隅で殺した相手のことを思い出そうとして、すぐに藤乃は諦めた。
ああいう類の人達はどれもこれも似たり寄ったりのあたまの悪さと性格で、正直あまり区別がつけられなかったし、無理矢理区別しても無駄なんだろうなと思ったのだ。
RRRRRRRR
……これで、5回。
機械的にコール音は聞こえてくる。
最初の日の電話でよほど怯えてしまったのか、湊啓太が次の日の晩に藤乃からの電話をとったのは、9回目のコール音がなり終わった直後のことだった。
昨日……といっていいのだろうか、あの日の自分を思い出して、くすくすと小さく藤乃は笑う。
あの日も彼の友達らしい男を殺した後に、彼に電話をかけた。
ところが、湊啓太がなかなか電話に出ないのだ。
正直な話、あの時は少しだけ藤乃も焦った。
もちろん、彼のような人間に自らにとっての命綱、実際には藤乃にとっての釣り糸であるはずの携帯電話を捨てたりするだけの勇気や、
あたまのよさはないはずだとは思ったが、万が一ということもある。
もしかしたら、そう藤乃が不安になり始めた直後、我慢しきれなくなったのか湊啓太は電話をとり、藤乃は安心したのだった。
RRRRRRRR
……これで6回目。
今日は彼は何回目で電話を取るのだろうか。
そう藤乃は考える。
ここに彼がいないかもしれないという考えは藤乃にはない。
彼がいないというのなら、彼女は一体どうやってこの傷の痛みを消せばいいのだろう。ずくりと疼いたお腹に藤乃は手を当てる。
……痛い、……痛い、……痛い。
痛みが消えない。消えたはずの傷はいつまでも痛みを残している。
それはきっと、痛みの原因が残っているからだと藤乃は考える。
無痛症である彼女は痛みというものをよく知らなかった。だから、きっとそういうものなのだと彼女は思った。
例え傷が治っても、傷の原因が消えない限りは傷は治っていないのだ。
だからこの痛みを消さないと。
RRRRRR……ガチャ
『えーっと……もしもし?』
――やっぱりいた。
電話から聞こえてきたのは男の声。
藤乃が感じたのは二つの感情。
殺すべき存在が確かに電話の先にいることを感じ取り浅上藤乃は安心する。やっぱり殺さないといけないんだと浅上藤乃は苛立つ。
痛みを与える自分、与えられた痛みに苦悶の声を上げる男。
この2日、いや、ついさっきの男も含めればこの3日間、繰り返された光景を藤乃は思い出す。
またあんなことをしなくてはならないかと思うと、藤乃はやりきれない奇妙な苛立ちを感じる。
転載
110 名前: ◆EA1tgeYbP. 投稿日: 2009/05/19(火) 00:03:41 ID:Tm6NdObY0
すみません、本投下中ですが私用のために今晩中に投下できなくなりました
明日まで待ってください
おーいw
豚インフルにでも罹ったのかな?
再投下開始します
――でも、それはやらなくてはいけないこと。
だから今日も浅上藤乃は電話の向こうにいる相手に優しく告げるのだ。
――今日もあなたの友達を殺したと。
――あなたが出てこない限り、この殺人は止まらないのだと。
電話する藤乃の表情は、ひどい事をしているという自覚と共に苦悶に歪んでいる。
……はっきりと笑みの形に歪んでいる。
◇ ◇ ◇
RRRRRRRR!
「うわっ!?」
突然なり始めた機械音に、僕は思わず声をあげていた。
僕、坂井悠二が式さんと行動し始めてから数時間。
二人の間で交わされる会話は、最初の自己紹介やお互いの知り合いに関する物を除けばほとんどなく、やや気まずい思いを感じていたところへの不意打ちのような突然の呼び出し音。
自己弁護になってしまうけれど、僕が変な声を上げてしまったのも正直無理のないことだと思う。
RRRRRRRR!
呼び出し音は続く。
慌てて僕は、服のポケットなどを調べてみるが持っていたはずの携帯電話は出てこなかった。
RRRRRRRR!
3回、4回と呼び出し音は続いていく。
「何をやってるんだ悠二」
「ご、ごめん」
呆れたような顔でこちらを見てくる式さんに謝りながら、僕はようやくこの呼び出し音が普段ぼくの持っている携帯の着信音とは違っていることに気が付いた。
「えーっともしかして……」
慌てながら僕はさっき名簿を取り出したデイパックの中を調べる。
RRRRRRRR!
「……あった!」
すぐにそれは見つかった。やはりぼくの持っている携帯とは機種が違っている。
……つまりどうやらこれが僕に支給された「武器」の一つであるらしい。自分の運のなさに苦笑しながら、僕はどこから電話がかかってきたのかを見る。
液晶画面にはナンバーは表示されずに、代わりに「警察署」と表示されている。
そんなところから一体誰が、いやそもそもその誰かはどうやってこの番号がわかったんだろう。
RRRRRRRR!
そんな疑問を思い浮かべる暇もなく、呼び出し音は鳴り続ける。さすがに電話の向こうの誰かを待たせつづけるというのも悪い気がする。
「えーっと……もしもし?」
電話先にいる相手がわからない不安からか、僕の声は自分でもちょっと聞き取り辛いんじゃないかと思うくらい小さかった。
もしもしという僕の言葉に電話の向こうの誰かは特に言葉を返してこない。
向こうも不安に思っているのか、それとも僕の言葉が聞こえなかったのか。僕がもう一度電話に向かって喋ろうとしたその時だった。
――…………。
何か、聞こえた。
僕は目を閉じて、じっと耳を済ませる。
耳に神経を集中させると、小さく聞き取りづらいけれどはっきりと聞こえた。
――…………。
くすくすと笑っている声がはっきりと聞こえた。
どうしてだろう、僕はその笑い声に
――ひどく不吉な物を感じた。
◇ ◇ ◇
『もしもし? もしもし?』
今日の彼は前の二日間の声と比べると少し違って聞こえた。
最初に藤乃はそう感じた。
この二日間の彼はそれこそ今にも死にそうな声を出していたというのに。
どうしてだろう、何か彼に変化でもあったのだろうか。少し藤乃は考えて、彼女への恐怖を和らげる何かを手に入れたのだろうと予想した。
この手の不良少年の考えとしては、知り合いから銃か何かでも手に入れることができたのだろうか。それとも彼の友人とやらが持っていた麻薬の類でも手に入れたのだろうか。
そう考えて、藤乃は目の前にはいない少年を嘲る。
――ばかなひと、例え銃を手に入れたところで自分に勝てるはずなんてないのに。
あるいはせめて、その事実を隠して藤乃の不意をつけば何とかなったかもしれないというのに。
まあ別にどうでもいいことである、彼と相対する時にそうしたものを持っているかもしれないと用心していればいいだけのことだ。
そう藤乃は割り切ると、いつものように彼に告げようとして、ふと思い出す。
そういえばあの時代劇風の男は、彼とは交流を持っていなさそうな雰囲気であった。
ほんの一瞬藤乃は悩み、まあいいでしょうと結論する。
どうせ、あの男が湊啓太のせいで死んだという事実には違いあるまい。ならばせめて友人であったという役目くらい背負ってもらってもいいだろう。
そして、藤乃は今度こそ電話の向こうにいる「湊啓太」に向かって告げた。
「ついさっき、あなたの友人を殺しました」
「……え?」
……なんて薄っぺらい。
たった一言告げただけだというのに、彼の声にはいつものように不安が混じる。
「殺したって……」
「よかったわね、あなたは無事で」
優しく優しく、藤乃は告げる。彼に向かって祝福の言葉を言う。
今日もまた、あなたは隠れて出てこなかった。
そのおかげであなたは生き延びることができた。
だからまた、あなたのせいで一人、あなたの友達は死んでしまった。
あなたが私の前に出てくるまで、あなたの友達は死んでいく。
「殺したって……誰を! いや、大体君は誰なんだ!?」
そんな藤乃の言葉が聞こえていなかったのか、「湊啓太」は叫ぶような声でこちらに尋ねてきた。
――おかしな事を言う。
彼にこんな電話をかけるのは浅上藤乃以外にありえないというのに。
(……きっと、あたまが悪いせいでしょう)
ただそれだけだと藤乃は思う。
きっとあたまが悪いせいで、そんな子供めいた言い訳で、藤乃が許してくれると思ったのだろう。
それともあたまがわるいせいで、たった3日、藤乃に会っていないというだけでほんとうに彼女のことを忘れてしまったのか。
そのどちらであろうとも藤乃がするべきことは変わらない。
……また少しお腹が痛んだ。
もうすこし、もう少しでこの傷も消えてくれる。
だから、今だけはこの痛みを、浅上藤乃が生きているという実感を味わおう。
『……!』
電話の向こうの「湊啓太」はまだ何か言っている。
けれど彼が何を言おうとも、例えどれほど情けなく、あるいは真摯に謝罪をしようとも藤乃が彼を許すことはない。
電話を切ると藤乃はゆっくり歩き出す。
もうそろそろ夜も明ける。
そろそろいつものように休息を取るべきだろう。
――目的地は決まっている。
確かに浅上藤乃は彼女に支給された地図を確認してはいない。
しかし、彼女の動きに迷いはない。何故ならばつい先ほど彼女は署内で地図を見たのだから。
そして、休息するのにふさわしい場所がそう遠くない地点にあることがわかったのだから。
【D-3 警察署/一日目/夜明け】
【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:腹部に強い痛み※1
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:湊啓太への復讐を。
1:ひとまず休憩のためにホテルへ向かう。
2:ホテルへ向かう途中、あるいはホテルで他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
3:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
※1腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。
※「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
※そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
※「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。
※「痛覚残留」ラストで使用した千里眼は使用できません。
※湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
※警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。
◇ ◇ ◇
「もしもし! もしもし!」
すでに耳に入る音はツーツーという機械音に変わっている。
とっくに電話が切れたことを認識していながらも、僕は何度も電話に向かって呼びかけていた。
アレは一体誰だったんだろう。
電話先の聞き覚えのない声をした誰かは優しく、そして小さく笑いながら『あなたの友人を殺した』と宣言してきた。
「どうしたんだ? 悠二」
「……」
僕の様子を不審に思ったのか、式さんが僕に声をかけるが、僕にその問いに答えるだけの余裕はなく、僕はじっと考え込む。
――僕の友達。
少なくとも名簿に載っている名前の中で、知り合いという区分からそう呼ばれても不思議ではないのがシャナ、吉田さん、ヴィルヘルミナさんの三人だろう。
その三名のうち誰かを殺した?
そう考えた瞬間、背筋にぞっと冷たい物が走り抜ける。
(……いや、待て、落ち着け)
彼女達が殺されるところをリアルに想像してしまい、不安のあまり、がちがちとなる歯を僕は必死になってこらえる。
そう、落ち着かなくてはならない。
そもそも電話してきた相手は一体誰だったんだろう。
少なくともあの声に僕は聞き覚えはなかった。知らない相手からそこまでの恨みを買うようなことをした覚えは……無いとはいえないのだろう。
例えそれが正当防衛のようなものであるとはいえ、僕は今まで何人かの『紅世の徒』という、名の歩いて行くことのできない隣の世界からの来訪者達をシャナと共に倒してきた。
今まで僕たちが倒してきた従の仲間達からしてみれば、僕やシャナ、ヴィルヘルミナさんなんかは殺したいほどの復讐の対象に……。
そこまで考えた瞬間、ぞっとした。
もしも電話の相手が僕を誰かと勘違いしたわけじゃなく、純粋に僕、坂井悠二という『フレイムヘイズに力を貸す存在』に対しての恨みを持っているとするならば――ここに呼ばれた僕の友達の中で、真っ先に誰を狙うのかなんて決まっている。
僕はデイパックから地図を取り出した。
電話がかかってきた場所は警察署だった。
すぐ近くに見える海、そして遠くに見えるお城から僕が今どこにいるのかは大体わかる。
「ごめんなさい、式さん! いかなくちゃならない場所ができました!」
それだけ言うと僕は全力で走り出した。
きっと何かの勘違いだと思いたい。でも、今から僕が向かう警察署には確実にこの殺し合いに乗ってしまった「誰か」がいて、彼女はひょっとしたら僕に対して恨みを持っている相手なのかもしれない。
……だとしたら、そんな僕の都合に式さんを巻き込むわけにはいかない。
でも、勘違いかもしれないということを確かめるためだけに、後二時間もしないで流れる放送を待つ気もなかった。
だって、「彼女」が次に狙うのはシャナなのかもしれないのだから。
だから僕はただ全力で警察署を目指す。
きっと、もう少しで流れる放送では僕の知り合いの名前が呼ばれることなどなく、この不安は僕の早とちりということになるのだと信じて。
そんな言葉ではごまかしきれないぐらいに絶望的な不安感を胸に抱きながら。
【B-6/一日目・夜明け】
【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、強い不安
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0〜2個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、ヴェルヘルミナを捜す。
1:警察署を目指す
2:他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
[備考]
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)
※警察署に殺し合いに積極的な殺人者がいると思っています
【湊啓太の携帯電話@空の境界】
正確に言うと「湊啓太が持ち出した彼のチームのリーダーの携帯電話」
元々入っていたデータに加えて天文台、病院、飛行場、神社、ホテル、百貨店、図書館、警察署、ホール、教会、学校、温泉、映画館、診療所、水族館、灯台以上の施設の番号が入っている。
◇ ◇ ◇
「やれやれ……」
何か黙り込んだかと思ったら、不意にどこかへと走り去っていった悠二の奴を、オレは黙って見送った。
元々奴が勝手についてきただけだったのだから、悠二が自分の意志でどこかへ行くというのならオレが止めることはできないし、それに――
「で? 何の用なんだオマエ」
「とりあえず、うごかな――」
誰何の声と警告の言葉とはほぼ同時に。
もしかしたら近寄ってきているのを気付かせていないつもりだったのか、機先を制された男はなんともばつが悪そうな表情を浮かべた。
「まいったな……まあいい、とりあえず俺は殺し合いには乗ってない。少しばかり聞きたいことがあるだけだ。……だからお前さんも変な動きはしないでもらえるか?
あんまり撃ちたくはねえんだ」
「人に銃を突きつけて言う言葉か? それは」
男の言葉にそんなふうに返しながら、オレは男との距離を測る。
距離は大体23、いや24メートルだろう。
刀を持っているのならば一瞬で詰める事のできるその間合いも、今のオレにとってはやや遠い。
さてと、どうするか……。
オレがじりと足に力を込めた瞬間
「ま、もっともな話だな」
あっさりと男は銃をしまった。
「……いいのか?」
「いいさ。ま、このくらい離れてりゃ、嬢ちゃんがいきなりやる気になってもなんとかできるしな」
相手がやる気がないというのにオレだけが本気でいるというのも馬鹿馬鹿しい、とりあえず警戒はしたまま全身から力は抜く。
「で、聞きたいことって何なんだ」
「そうだな……とりあえずこの場所で目がさめてから、今までの間にどんな奴に会ったか教えてもらえるか」
「オマエを除けば坂井悠二って奴一人だけだ」
別に隠すまでのこともない。オレの返答に男はへっ、と小さく笑った。
……面倒くさい、オレは次に男が聞いてくる言葉が何なのかわかってしまった。
「じゃあ、なんでお前は一人なんだ?」
「さあな、あいつは自分でどっかに行ったんだ。オレの知ったこっちゃない」
予想通りの問いかけに、オレは面倒に感じながらも正直に答えてやる。
オレの答えに男は納得したのかうん、と軽く頷いた。
「逆にオレもも聞くぞ、オマエはどんなヤツに会ったんだ?」
「俺が会った……といっていいのかどうかは知らんが、会ったのは飛行場にいた眠り姫みてえにねこけたまんまの金髪の外人が一人きりだ。……なんだ、お前も誰か探しているのか」
「オマエに教えてやる必要があるのか?」
「さあな、ただ別に俺は殺し合いに乗っていないってだけだから、相手が殺し合いに乗っているようなら殺すかも知れんぜ」
言われて俺は考える、幹也や鮮花が殺し合いに乗っている可能性……?
「好きにしろ、オレの知り合いはそこまでバカじゃない」
そう言うとオレはまた適当に歩き出した。
「なるほど、じゃあな。ここで出会ったのも何かの縁だ。お互いと、お互いの無事でも祈っといてやるよ」
男もまた別の方向へと歩き出した。
……そういえば、男の姿が見えなくなってオレはふと気が付いた。
オレも、男もお互いの知り合いがどんなヤツなのかはおろか、お互いの名前さえ知らなかったということに。
まあいいか。
どうせむこうがやる気じゃなければ、オレとは関係ないのだろうし。
◇ ◇ ◇
――そして辺りから人の姿はなくなった。
浅上藤乃は知らない。彼女が捜し求める少年はこの地に招かれてはいないということを。
坂井悠二は知らない。彼が無事を祈る少女はすでにこの地で命を落とし、その敵は彼の目指す場所とは別の場所にいることを。
そして両儀式と榎本も知らない。 黒桐幹也を除いては彼らが探している相手は皆、この殺し合いに乗っているということを。
彼らは全員知りはしない。
今、それらに関する真実を知りうるものがいるとすれば、それはこの殺し合いの舞台装置たる西東天より他にない。
では彼らがこの物語でどのような役割を果たしていくのか、それを知りうるものは
――天より他に知るものもなし。
【B-6/一日目・夜明け】
【榎本@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ M92(16/15+1)
[道具]:デイパック×1、べレッタの予備マガジン×4支給品一式ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考・状況]
1:浅羽、伊里野との合流。
2:水前寺を見つけたらある程度裏の事情をばらして仲間に引き込む。
(いざとなれば記憶はごまかせばいい、と考えているためにかなり深い事情までばらしてしまう可能性があります)
3:できるだけ殺しはしない方向で
[備考]
※原作4巻からの参戦です。
※浅羽がこちらの話を聞かない可能性も考慮しています。
※両儀式と面識を持ちました(名前は知らない)
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本:主催者とやらを殺す。
1:黒桐幹也、黒桐鮮花を捜す。
2:フレイムヘイズというのに興味、殺せるならば……?
[備考]
※坂井悠二が走っていった方向までは知っていますが、目的地は知りません
※榎本と面識を持ちました(名前は知らない)
一応こちらでも宣言
投下完了です。大変申し訳ない
おお、投下乙です。
ちょうど「投下終了」を転載しようとした所でしたw
そして電話は悠二に行ったかー。
ホントは下手人は違うけど、どう考えても吉田さんのこととしか思えませんありがとうございます
確かにこの状態の藤乃なら、相手の声の違いなんて分からないw
ホテルという目的地もヤバい。激戦必至の城の中を突っ切るコースじゃないか!w
式が藤乃の電話に気付いてれば、また違ったのかもしれないがなあ……。悠二、1人で大丈夫だろうか。
先が楽しみになる仕掛けが一杯でした。GJ。
投下乙
藤乃怖え
壊れてるのがわかるだけにこれからの悠二の行く末が不安だ
そして式と榎本コイツらドライだ
赤の他人の事なんて構ってられないんだろうがもうちょっと気にかけてやれよ
GJでした
投下乙です。
いやはやどいつもこいつもドライ。
この誤解が一波乱起こすのかどうか。
そういえば、式の一人称なんですが
地の文ではオレじゃなくて私が正しいのではないでしょうか。
登場話からずっと気になってはいましたが、せっかくなのでここで。
投下乙です
藤乃はやっぱせっぱつまってるなぁ……
そしてそっちにいくかwww
悠二は単独で……でも吉田さん死んでいるし。ああ、大丈夫かな。悠二。
式と榎本はやっぱりドライでらしいなぁ
GJでした!
っと、時間表記が「夜明け」になってますけど、「早朝」の間違いでしょうか? それとも「黎明」の間違い?
前の話での時間表記が、藤乃が「黎明」、榎本・式・悠二が「深夜」。
話の流れや移動距離を考えると、式悠二が2、3時間も経過してないと思うので、「黎明」ではないかとは思いますが。
>>145 式視点の一人称は、原作では一貫して「私」だね
口に出すときは「オレ」だけど
予約きたー! まさに火薬庫w
予約していた摩天楼周り、投下します。
【共通問題】
摩天楼について、思うところを書きなさい。
■朧さん(伊賀鍔隠れ衆暫定頭目、女性)の答え
「まてんろう……天を摩(す)る程の高楼、の名に恥じぬ立派なものですね。
城のちかくにあるということは、きっと敵の軍勢を見張るための物見櫓なのでしょう。
ずいぶん頑丈な石造りのようですが、やはりいくさを意識してのことでありましょうや。
整然と並んでいるのは、鉄砲狭間……いえ、矢狭間でありましょうか。
おなじ形に切りだされた石を、これほど見事に積み上げて揺るぎないこの技、驚きです」
■教師のコメント
「摩天楼」という単語の説明は、まさにその通りです。より正確には、「Skyscraper」の訳語ですね。
ですが、それ以外は全くトンチンカンです。
摩天楼は軍事施設ではありませんし、展望室はあっても物見櫓ではありません。
あとこれ、石を積み上げてるわけではないですよ。その線は表面に張られたタイルプレートの継ぎ目です。
並んでいる窓も、別にそこから矢や鉄砲を射るためのものではありませんから。
ま、未だ戦国の世の余韻残る時代の人からは、そう見えてしまうのかもしれませんね。
◇ ◇ ◇
「弦之介さま……」
継ぎ目も見えない不思議な石畳(アスファルト)の道を踏みしめ歩きながら、朧は愛する男の名を呟く。
彼女の願いは、たった1つ。
かつて将来を誓った甲賀の若君、甲賀弦之介の手によって討たれること。ただそれだけである。
逆に言えば、それ以外のことは、ほとんど「どうでもよい」。
彼女は背後に遠ざかる2本の巨搭の方を振り返りもせず、歩き続ける。
彼女は考える。
この不可解な催しのことではなく、この不可解な街のことでもなく、過去のことを考える。
なぜ自分はこうして生きているのか。
確かに自らの胸を刺し貫いたはずなのに、なぜ生きているのか。
この場に放り込まれるよりも前、伊賀甲賀の血を血で洗う凄惨な忍法勝負のことを考える。
あの時、朧は自らの胸を自らの刀で貫いたはずだった。
弦之介の瞳術にかかってみせたフリをして、自害して果てたはずだった。
だが、そこから意識を取り戻してみれば、自分はこうして生きており、胸には傷1つ残ってはいない。
もちろん、忍びの世界において、「誰かが死んだ」という情報ほどアテにならぬものはない。
世の中には、殺しても死なない忍者がいる。
他ならぬ伊賀鍔隠れ衆が1人、薬師寺天膳がまさにそういう忍法の使い手だ。
彼ならば、死して後に復活してみせても不思議ではない。
朧の「破幻の瞳」を用いて確実に「殺した」はずだが、あれから時間をかけて蘇ったとしても、驚きはしない。
世の中には、死んだフリをしてみせる忍者もいる。
いや、死んだと見せかけて敵を欺くのは策略の基本だ。もし必要なら、味方ごと欺いてでも確実を図る。
筑摩小四郎も確かに死亡したはずだが、しかし、実は朧は、その眼で彼の死体を確認していない。
ちょうどその時、七夜盲の秘薬で視力を失っていたからだ。
あの時の朱絹の嘆きが嘘だったとも思えないが、朱絹さえも欺かれていた可能性はなきにしもあらず。
ゆえに、このたびの殺し合いにおいて人別帖に筑摩小四郎の名があることにも、そう驚きはしない。
世の中には、他者に化けてみせる忍者もいる。
甲賀卍谷衆が1人、如月左衛門などがその好例である。
直接見たわけではないが、彼は味方である甲賀弦之介に化け、影武者を演じていた時期もあったようだ。
誰かが討たれた、と言われても、それが身代わりではない保障などどこにもない。
しかし、それが朧自身のこととなると別だ。
彼女は蘇生の忍法など知らぬ。蘇生の術どころか、一切の忍法を知らぬ。
彼女は己の生死を偽ってなどおらぬ。偽るどころか、確実に死ねる方法を選んだつもりだった。
もちろん、彼女は身代わりなど立ててはいない。身代わりなど立ててしまっては何の意味もない。
となると、死んだハズの自分が生きている、その道理は限られてくる。
「やはり、弦之介さまの瞳術か……」
弦之介の瞳術には、謎が多い。
その発動を一度ならずと見ている朧とて、その術理を正確に理解しているわけではない。
一種の催眠術で、弦之介に向けられた殺意・敵意を跳ね返すのだ……との説明はされているものの。
例えば2人が同時に切りかかり、黄金色の視線を向けられれば、同士討ちをして果てる。
例えば1人きりで切りかかり、黄金色の視線を向けられれば、その場で自害して果てる。
どうやら、状況に応じ細かな反応は異なっているようなのだ。
さて、そんな弦之介の眼前で、あえて自ら望んで死を選ぼうとする者がいたら、どうなるか。
あの時、弦之介の眼は七夜盲の秘薬により閉じられていた。
しかし同時に、秘薬の効果が切れようとする刹那でもあった。
朧自身も気付かぬうちに、あの黄金の閃光放つ視線に射られていた可能性は、否定できない。
「わたしは……弦之介さまに、とめられたのだ……」
どういうからくりなのか、夜道は点々と灯る明かりに照らされている。
石造り(鉄筋コンクリート)の物見櫓(ビル群)の隙間を抜け、彼女は歩き続ける。
物見櫓の隙間から見えた、こればかりはよく見慣れた作りの、城郭の天守閣。
なんとはなしにそれを目指して彷徨いながら、彼女は考える。
弦之介はおそらく、その無敵の瞳術をもって朧を止めたのだ。
本来の使い方ではない、応用的な、あるいは場当たり的で強引な使い方で、彼女を止めたのだ。
瞳術の本質が催眠術であるならば、その応用の範囲は幅広い。
瞳術の本質が催眠術であるならば、その前後の記憶が乱れているのも頷ける。
少なくとも、朧はそのように理解する。そのように確信する。
やはり、だめなのだ。
自害などではだめなのだ。
立会い人たる阿福や服部半蔵の眼は欺けても、甲賀弦之介の眼は欺けない。
ただ彼のために命を投げ出そうとしても、そうと知った彼はそれを許さないのだ。
その優しさこそが彼に惚れた理由であり、命を捨てるに足る理由でもあるのだけど。
「弦之介さまが、わたしを殺そうと願わなければ、わたしの願いは叶わない……!」
きっと初志貫徹こそが必要だったのだろう。
朧は土壇場で『自害』という妥協に至った自分を恥じる。
最初に夢見た通り、弦之介の手によって斬られること。それでしか彼女の願いは叶わない。
彼自身が明確な殺意をもって剣を振り下ろさない限り、彼女の望む死は得られない。
しかし、自分は白状してしまった。あの荒寺で、自分は白状してしまった。
卍谷との争いを見たくなくて、自ら盲となったということ。
自分は決して弦之介を裏切ってはいなかったということ。
ただこみ上げる感情のままに、全てを明かしてしまったのだ。
これでは、弦之介が斬ってくれようはずがない。このままでは、弦之介に斬られる道は開けない。
だから。
「もっと、憎まれねば。あの人に、憎まれなければ。
……無辜の人をこの手にかけたら、あの人も私を憎んでくれるのでしょうか?」
いつしか目的と手段が逆転していることに、彼女は気付かない。
とうの昔に思惑が破綻していることに、彼女は気付けない。
事ここに至っては、伊賀と甲賀の忍法勝負など何の意味もなく、彼女が彼のために命を投げ打つ理由もない。
そして甲賀弦之介は既に無惨な骸を晒し、一歩先に黄泉路に旅立ってしまっている。
それでも妄執と化した愛に酔い痴れた彼女は、己の甘美な破滅をただ夢見て微笑む。
朧はその破幻の瞳を除けば、忍法の心得もないただの娘である。
しかし、歩く他に移動手段のない江戸時代の人間。それも、山深い伊賀の里で育った身である。
路面がここまで整備されているとなれば、ただ歩くだけでも相当の速度となる。
現代人の基準で見れば相当な健脚で、しかしさほど息を切らすこともなく、彼女は進み続ける。
石と鉄で出来た頑丈な橋を渡り、広い十字路の中ほどで立ち止まる。
多少なりとも見慣れた場所――すなわち、弦之介と会えるやもしれぬ場所――である城を目指すとして。
この道をどちらに行けばいいのだろう。どちらに行けば、彼女の願いに近づけるのだろう。
声が聞こえてきたのは、ちょうどそんなことを考えていた時だった。
『――この舞台に呼ばれた者達よ、聞こえるか?
我が名は『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』とでも記憶しておけ――』
――朧の顔に、歪んだ笑みが張り付くように浮かび上がった。
人並み外れたこの大声。この大音声もまた、何らかの『忍法』に拠るものなのだろうか?
だが、だとしたらこれは彼女にとっては、うってつけの獲物だ。
全ての『術』を打ち払う力を秘めた『破幻の瞳』、この朧にとっては――!
【D-5/川の西側・路上/一日目・深夜】
【朧@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、精神錯乱?
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:弦之介以外は殺す。そして弦之介に殺してもらう。
1:大きな声(ステイルの拡声器越しの宣言)に興味。挑戦に応じる?
[備考]
※死亡後からの参戦
※拡声器の存在を知らないため、ステイルの宣言を「大声を増幅する忍法」を使ったもの、と判断しました。
◇ ◇ ◇
【共通問題】
摩天楼について、思うところを書きなさい。
■黒桐鮮花さん(高校生、女性)の答え
「ナンセンスですね。
たった1つの建物の中に、何もかも全部詰め込もうだなんて。非効率にも程があります。
お店にマンション、オフィスにホテル……それぞれ必要な機能も構造も違うでしょうに。
しかもそれぞれに管理が異なっているなんて、これなんていう非効率ですか?
ああもういっそ全部燃やしてしまおうかしら……」
■教師のコメント
残念ながら、ナンセンスどころか成功例がいくつもあります。
とはいえ、1990年代後半に生きる鮮花さんの時代感覚としては、無理もない回答かもしれませんね。
似たような建物としては、既に六本木アークヒルズの建設が始まっていますが、まだ未完成ですし。
建築業界に強い関心を寄せてでもいない限り、知らなくても恥じるようなことではありません。
……まあそれ以上に、どうやら複雑な構造に怒ってらっしゃるようですね。でも放火は勘弁してください。
◇ ◇ ◇
まったく、なんとナンセンスな建物なのだろう。
『STAFF ONLY』と記された扉の奥で、黒桐鮮花は何度目になるかも分からぬ溜息をついた。
どうやらこの「摩天楼」、相当に複雑な形状と機能を兼ね備えた代物のようだった。
状況を甘く見ていた自分を恥じると共に、こんな施設を作った物好きな連中に対して微かな怒りを覚える。
ここでひとまず、ざっとその構造を確認してみよう。
まず、敷地は相当に広い。緑地公園のような格好になっている部分がかなりある。
そしてその余裕ある敷地の中に、これまた低層階部分がかなりの広さをもって広がっている。
この低層階部分は、だいたい地上5階くらいまでだろうか。
吹き抜けなども広く取られており、複雑な通路と相まって、これだけでちょっとした街の様相を示している。
しかし、なんといっても目を引くのは、その低層階の上に突き出す格好になった2本の高層ビルディングだ。
単純に「西棟」「東棟」と呼ばれている、ツインタワー構造。
黒桐鮮花がスタートしたのもその片方、西棟の最上階にある展望室だった。
タワーと言っても、それほど細いものではない。かなりの太さと広さを備えた代物だ。これが数十階分。
総述床面積としてはいったいどれほどのものになるのか、想像もできない。
そして――何よりも鮮花にとって頭が痛いのは。
その広大な建物の中に詰め込まれた、多様な機能の数々である。
各種服飾ブランドの店舗スペースが並ぶエリアがある。
和洋中、あらゆる分野の料理の店が揃った高級レストラン街がある。
コンサートや演劇などにも使えそうな、イベントスペースもある。
ビジネス街のように企業が入っている階層もある。
高級ホテルになっている一角もある。
分譲で買ったら確実に億ション級であろう、豪奢なマンションが占めている部分もある。
(どうやら実際には賃貸になっているようだが、いったい家賃がどれほどになるのか想像もつかない)
とにかく思いつくだけの機能を1つの敷地の中に詰め込んでみた。そんな印象である。
鮮花にしてみれば、これだけの敷地面積があるのだ。
マンションはマンション、ビジネスはビジネス、百貨店は百貨店、と個別に建てた方がマシな気がするのだが。
「……何より困るのは、同じ建物なのに、管理が機能ごとに別々なんですよね。ここ」
誰も聞いていないのを承知の上で、鮮花は小さく愚痴を漏らす。
そう――これらの多機能施設の性格ゆえに、鮮花の思惑は出だしからつまづいてしまったのだった。
当初鮮花は、『守衛室』、あるいはそれに類する機能のある部屋を探すつもりだった。
防犯カメラを利用できれば、広い建物を一挙に把握できる。他の参加者が居たとしても、すぐ見つけられる。
そうすれば不意打ちでも何でも思うがまま。……そう、思っていたのだが。
実際に少し調べてみて、その考えは儚く潰えてしまった。
一言で言えば、この広大な設備を一括管理する守衛室のような部屋は、そもそも存在しないのだ。
百貨店にも似たショッピング街を管理している部分は、ある。
マンション部分にも、管理人室はある。
ビジネスフロアの管理室もあるし、ホテルにも警備のための部屋がある。
しかし、それぞれが独立している。それぞれに管理の系統が異なっている。
互いの管理室は相互に連絡が取れるようになっているようだが、しかし人っ子1人居ない今、意味はない。
考えてみれば当然のことではある。
そもそも、それぞれに機能も目的も違うのだ。
無理に一極集中させるより、それぞれの部署が別個に管理した方が早いし便利だ。
また一箇所に集めてしまえば、何かあった時に全ての機能が一挙に損なわれる。分散した方が安全なのだ。
相互の連携さえ確保しておけば、運営していく上で、そう困ることもない。
困るのは、手軽に建物の全体像を押さえたい侵入者……例えば鮮花のような者。
低層階のショッピングゾーンを管理する管理室の中で、鮮花はしぶしぶ決断する。
「となると……ココに拘るだけ無駄ですかね。諦めて次に行きましょうか」
そもそも、マンションやホテルの部分は、居住者のプライバシーも考え、元から監視に穴がある。
監視カメラが設置されているのは、せいぜい廊下などの共用部分だけだ。部屋の内部までは見えはしない。
そんな所に他の参加者が隠れていたら探しようがないわけで、しかし1つ1つ見て回るほどの時間もない。
この会場にある施設は、この摩天楼1つではないのだ。
少なくとも低層階のショッピングエリアには「今は」誰もいない、という辺りで妥協すべきだろう。
今は特に必要とする物資もないし、もうここには要はない。
「もし誰か居たとしても、上のほうで引きこもっててくれるのなら、邪魔にもならないでしょうしね」
従業員用の廊下を早足で歩きながら、黒桐鮮花は呟く。
そう。
彼女の目的は、実の兄であり、また片思いを寄せる対象でもある黒桐幹也の生存率を上げることだ。
禁断の愛と分かっていても断ち切れぬ、その想いに殉じることだ。
黒桐幹也という青年は冴えない外見に反し、それなりに頭も回るし要領も悪くない。
そう簡単に殺されたりはしないと思うが、それでも鮮花に出来ることはあるはずだ。
例えば、幹也を殺すかもしれない、勝ち残り狙いの危険人物を排除しておくとか。
例えば、幹也の足手まといになるかもしれない、何の役にも立ちそうにない弱者を排除しておくとか。
例えば、幹也をの好奇心を刺激してしまうかもしれない、面白そうな背景のある人を排除しておくとか。
……どうにも思考がバイオレンスだ。
そして狐面の男の言葉に素直に乗せられたような格好で、なんともすっきりしない。
摩天楼の裏口の1つに当たる、従業員用の扉を開いて外に歩き出しながら、鮮花は首を振る。
「……だって、仕方がないじゃない。
ここにいる時点で、私たちは既に、完膚なきまでに『負けて』るんだから」
あくまで前向きに歩を進めながらも、口調が愚痴めいたものになることは否めない。
そうなのだ。自分たちは、既に『負けて』いるのだ。
この大前提を忘れてはいけない。
ここにこうして居るということは、普通に考えれば誘拐されてきたということ。
それはつまり、曲がりなりにも魔術を身に刻んだ自分が、敗北を喫したということ。
いや、これはただの敗北ではない。
完敗だ。
身体には抵抗の跡1つ残っておらず、前後の記憶すらも曖昧。
おそらく記憶は「消された」のだろう。これでは敗北を糧に反撃の糸口を探すことすらできない。
そして、一旦は取り上げられたのであろう『火蜥蜴の皮手袋』が、こうして手元に戻ってきているという事実。
単にクジ運が良かったのか、それとも、狐面の男たちの作為的な操作なのかは分からない。
だがどちらにせよ、鮮花にこの手袋が戻ったところで、イベントを覆すような脅威にはなりえない――
そう判断されたのは確かだった。
そのことに腹が立たないと言ったら嘘になる。
そのことに落胆しないと言ったら嘘になる。
だがそれはそれとして、もうこの時点で、このゲーム自体に反抗する、という発想は消えて失せるのだった。
禁断の愛を叶えるための布石として、仮病を使って実家を離れるような真似までする鮮花だ。
勝算のない勝負は、彼女の流儀ではない。
負けん気の強い性格は、決して猪突猛進を意味しない。
取っ掛かりすら見えない「反抗」という希望に、自分と兄、2人の命を賭けるつもりはさらさらないのだった。
それはもちろん、兄と2人、手を取り合ってこの悪趣味なゲームを飛び出せるに越したことはない。
越したことはないが……狐面の男に嘘を言う理由がない以上、それはまず無理なのだろう。
そして無理ならば、次善策を採るしかない。
できることならこの戦場で、兄と自分とで最後のアダムとイブになって、
散々いちゃついて本懐を遂げてから終わりを迎えたいところだが……
まあ、それも「もし可能なら」だ。無理してまで狙うものでもない。
「さて……ここからどっちに行こうかな」
夜の街をただ歩いてきた彼女は、太い道路を目の前に、少しだけ考える。
摩天楼からなんとなく北上してきて、今は、地図の上ではD−5に相当するエリアなのだろうか。
三角州の突端あたり、ちょうど幹線道路が鈍角に曲がっているあたりである。
水族館や灯台に行く積極的な理由はなかったし、「漠然と中央の方」、と思ってここまで来たが……。
声が聞こえてきたのは、ちょうどそんなことを考えていた時だった。
『――この舞台に呼ばれた者達よ、聞こえるか?
我が名は『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』とでも記憶しておけ――』
――黒桐鮮花の顔に、歪んだ笑みが張り付くように浮かび上がった。
もちろんこんな安っぽい挑発に、乗ってやるつもりなどない。
こいつが勝手に『敵』を減らしてくれるなら、鮮花としてもそれに越したことはないのだ。
兄の幹也も、この手合いに関わるような性格ではないし、多分たいした影響は受けないだろう。
だが、この状況は利用できるかもしれない。
集まってくる連中を狙うもよし、あるいは、『城方面』はコイツに任せて、別の方向に向かってもよし……?
【D-5/三角州上・幹線道路の路上/日目・深夜】
【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也以外皆殺し
1:少なくとも拡声器による挑発(ステイルの声)は、直接的には相手をしない。でも……?
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦
◇ ◇ ◇
【共通問題】
摩天楼について、思うところを書きなさい。
■玖渚友さん(青色、女性)の答え
「六本木ヒルズや東京ミッドタウンみたいなスタイルの建物だね。
つまり職住近接。施設1つで全てがまかなえる構造にして、生活を効率化しようっていう発想。
ビジネスの最突端では、一分一秒の差で数億・数兆ものお金が動くことがあるからね。
『いざという時』にも瞬時に対応できる『かもしれない』、という『安心』に大金を払う人は必ずいるんだよ。
(僕様ちゃんなんかは回線を確保しとけばそれで済む気がしちゃうんだけど、それはそれとして、ね)
もちろん、眺めの良さや生活の便利さ、ステータスシンボルとしてこーゆートコに住みたがる人もいるね。
あと、観光や商業の機能も備えることで、どれかが厳しくなっても他で支えられる。経営的にも柔軟なんだ。
テレビ局の移転とか、省庁の跡地とか、広い土地を大きく使える大規模再開発ならではだよね。
ちなみに計画の裏にいるのは、玖渚機関よりも四神一鏡の方なんだよ。表には名前出てこないけど。
僕様ちゃんたちはどっちかっつーと使う方。お金儲けとかあんまり興味ないし。
もし東京に数週間ほど滞在する用事があったら、レジデンスの最上階とか取ることになるんじゃないかなー。
今いるココみたいにね。うにゃうにゃ」
■教師のコメント
ほぼパーフェクトな解答です。
『職住近接』、『大規模再開発』、『経営の柔軟性』など、大事なキーワードが漏れずに入っていますね。
しかし、四神一鏡とかいった裏事情、ここに書いてしまっていいのでしょうか?
先生まだ消されたくはありません。
◇ ◇ ◇
この摩天楼、と地図上に記されている建物は、それ自体が複合施設であり、複合都市である。
職。住。遊。
オフィス、ホテルやマンション、ショッピングやレストラン。
それぞれに高い機能と専門性を保ちつつ、相互に影響を与え合うことで、新しい価値が生み出される。
街の中に聳え立つ2本の摩天楼。
ここには、あたらしい時代の都市がある。あたらしい生活の提案がある。
◇
環境は、全てにとって大事。
働く上での活力になり、暮らす上での潤いになり、遊ぶ上での楽しみとなる。
敷地内に広く取られたガーデンエリアは、都市の中にぽっかり開けた緑のオアシス。
青々と茂る芝生の上には、寝転んでもよし。お弁当を広げてもよし。
週末には野外イベントも開かれることもあるのだろう。
木々の間を抜ける散歩道には、小川が心地よいせせらぎの音を響かせる。
そして、野外のあちこちに点在するオブジェや彫像。
これらもまた、この都市を構成する大事なパーツなのだ。
◇
横に大きく広がった低層階は、主にショッピングのエリアとなっている。
開かれた都市、のイメージで、庭園へのアクセスも多く取られており、天井は高く開放的。
外部からの買い物客が多く来ることを見越して、通路も広く余裕が取られている。
入っている店も、多岐に渡る。
ファッション関係の有名ブランド店。紳士物から女性向け、カジュアルからフォーマル、子供向けまで。
衣類のみならず、靴。帽子。時計。宝飾品。カバン。眼鏡。ベルトにネクタイ。その他もろもろ。
スタイリッシュなアイテムを揃えた高級店の数々は、一箇所に集められることで相乗効果を発揮。
この摩天楼の低層階を巡るだけで、最新流行のアイテムを揃えることができる。
ファッションのみならず、各種の生活雑貨。家具。ステーショナリー。本屋に音楽ショップ。
食料品や惣菜、酒や珍味を扱う店もあるし、片隅にはコンビニエンスストアまである。
高級食材をズラリと並べたスーパーも壮観だ。
郵便局やエステ、美容室なども揃っているし、一角にはクリニックや歯医者まで入っている。
かさむ出費を支えられるのならば、この施設だけで本気で完全に生活が成立するのだ。
もちろん、食事ができる店も豊富で豪華。
和食だけでも、寿司に蕎麦に懐石料理、鉄板焼きにとんかつに、天麩羅おでんに鍋料理。
洋食フレンチ中華にイタリアン、韓国料理にベトナム料理。本格インドカレーに無国籍創作料理。
そのどれもが一流シェフを抱えた一流の名店で、値段も高いが間違いなく美味い。
もちろん、軽食やカフェの店も豊富だ。
コーヒー専門店の他にも、ケーキやドーナツの専門店、和菓子の店、ベーカリー。
毎日ここで外食を続けたとしても飽きが来ないほどの店が揃っている。
ここで暮らす人、ここで働く人、ここで買い物をする人。
それらの胃袋を等しく満たし支えるのが、このレストラン街なのだ。
◇
横に広がった低層階からは、東西2本の巨大な高層ビルディングが聳え立っている。
西側に立つ『西棟』は、主にオフィスとホテルのための空間となっている。
西棟の中層階あたりまでは、オフィスゾーンとなっている。
開放的なエントランス。イベントや国際会議にも使える大型ロビー。
最先端のビジネスを支える様々な設備に、恵まれた交通アクセス。
いくつもの一流企業が拠点を構える、新たなビジネススポットとなっている。
◇
西棟の上層階は高級ホテル、および観光用のスペースとなっている。
優れた展望と至れり尽くせりの誠意あるサービス。
眼下にはこの辺り一帯の街並みが広がり、川の向こうには城が一望できる。その向こうには美しい山並み。
最上級の景色を独り占めしながら、最上級のおもてなしを受ける。実に贅沢な時間を過ごせる場所。
もちろんホテルにはその格に見合ったレストランも付属しており、最高のディナーを楽しめる。
そして最上階は、ホテルとはまた独立した展望スペースとなっている。
観光施設としての側面も持つ、この摩天楼の目玉の1つ。
もちろん、コイン式の双眼鏡なども随所に設置されている。
ちなみに、ホテルはホテル専用の、展望室は展望室専用のエレベーターがあり、1階まで直通。
ショッピングやビジネスの方とは人の動線が重ならないようにして、それぞれの快適さを保っている。
◇
対になる東棟、もう1本の高層ビルは、ほぼ丸ごと全て最高級の賃貸マンションとなっている。
入居者の生活スタイルや家族の人数に合わせ、大小様々な部屋で数百戸。
西棟のオフィスのみならず、周辺に建つビルで働く人が入居することも視野に入れての規模である。
セキュリティ面での配慮も万全で、下層階のショッピングエリアに来た客が迷い込むようなこともない。
窓やベランダの位置を工夫することで、西棟側から私生活を覗かれないような配慮もしてある。
大きな吹き抜けのホールに、生活を支える数々の施設。
地下駐車場にトランクルーム、住人専用フィットネススタジオ。
ハウスキーピングサービスやシェフの出張料理サービスなどは、西棟に入っているホテルが提供。
利便性とホスピタリティを両立させた、まさにラグジュアリーレジデンス。
ちなみに、上層の階に行くに従って戸数は減り、一戸辺りの床面積は増えていく。
最上階に至っては、最高の展望と丸々1フロアを共に一戸で独占するという、超・贅沢設計だ。
そして、その、最も豪勢な部屋の最も豪華な、しかし意外にもシンプルな寝室では……。
◇
窓の外から、声が聞こえてくる。
『――この舞台に呼ばれた者達よ、聞こえるか?
我が名は『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』とでも記憶しておけ――』
――けれども、青色は一顧だにしなかった。
黒桐鮮花がスタートを切った西棟展望台とは異なる、「摩天楼のもう1つの最上階」。
東棟の最高級マンションの最高の部屋。その中でも一番居心地のいい寝室にて。
玖渚友は、寝息を立てていた。
【E-5/摩天楼東棟・最上階(超高級マンション)/1日目・深夜】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]:健康、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:デイパック、基本支給品、五号@キノの旅
[思考・状況]
基本:いーちゃんらぶ♪ はやくおうちに帰りたいんだよ。
1:いーちゃんが来るまで寝る。ぐーぐー。
[備考]
※登場時期は「ネコソギラジカル(下) 第二十三幕――物語の終わり」より後。
※ステイルの挑発には、何の反応も示しませんでした。
そもそも挑発自体に気付かなかったのか、それとも気付いた上で無視したのか、現時点では不明です。
◇ ◇ ◇
【共通問題】
摩天楼について、思うところを書きなさい。
■白井黒子さん(中学生、女性)の答え
「なんとも古臭い都市計画の産物ですわね。21世紀初頭に流行ったとは聞きますが。
そもそも、過去の成功例にしたって、計画が優れていたというより立地条件に恵まれすぎですわ。
あれで成功してなければ、関係者は腹でも切るしかないでしょう。それくらいの好条件です。
で、ざっと見たところ……
この摩天楼のあたり一帯は確かにビジネス街とはいえ、都心の一等地と比べれば数段劣るようです。
この土地にこういうモノを建てても、おそらく採算は取れないのではないでしょうか。
まあわたくしも第三種経済の授業でちょっと齧った程度の学生ですから、断言まではできませんけれど」
■教師のコメント
これはまた辛辣なご意見ですね。
周囲より2、30年は技術の進んでいるという学園都市から見たらそういう評価になってしまうのでしょうか。
……それにしても、第三種経済なんてマニアックな選択授業を取っていることに先生は驚きです。
◇ ◇ ◇
質量の上限、130.7kg。
飛距離の上限、81.5m。
ただし、どちらも上限近くになると精度が落ちる。
距離と質量の間に因果関係はなく、対象が軽いからといって精度が上がるわけではない。
また複雑な計算を要する関係上、その時の精神状態によって能力は大きく変化する。
ぶっちゃけてしまえば、激痛や動揺によって能力が使用できなくなることがある――。
これが、白井黒子の『能力』、『空間移動(テレポート)』に課せられた限界である。
彼女は日々努力を重ね、この能力の上限を上げようと勉強と開発に専念しているわけだが。
今の『大能力(レベル4)』から、御坂美琴と並ぶ『超能力(レベル5)』になる日を夢見ているわけだが。
同時に、一朝一夕のうちにこの数値が上がるとも思っていない。
気合1つでレベルを上げられるなら、学園都市の誰も苦労などしやしない。
だから、この能力値を元に、考えていかねばならない。
何をして、どう立ち回るのか、考えていかねばならない。
「最大に見積もっても、『あと1人』、ですわね……」
「……?」
夜の街を連続して転移移動しながら、白井黒子は小さく呟いた。
小脇に抱えた格好のティーが不思議そうな目で見上げるが、詳しい説明をするのも手間だ。ほうっておく。
ほぼ130キログラム、という壁。
正確な転移と微調整のためには、自分自身も一緒に飛ぶのが一番確実な方法だ。でないと事故が怖い。
だから、ここから自分の体重を差し引いて……
乙女の名誉に賭けて体重の数値は伏せるにしても、残りは成人男性1人分+α。女性や子供なら2人分。
100kgオーバーの高度肥満者や巨漢は、既にそれだけで彼女の手に余ってしまう。
だから、最大に見積もっても『あと1人』。
ティーは小さいし、黒子自身もどちらかと言えば小柄な方だ。ゆえにごく普通の成人男性くらいは何とかなる。
だが、それでもあと1人が限界だ。
白井黒子が保護し、共に『空間移動』で転移することができるのは、あと1人まで。
それも、心身共に最高のコンディションを保ち、持てる能力が万全に発揮できるのなら、である。
元々、逃げに徹すれば相当に強い能力である。
自由にテレポートを繰り返す彼女を捕らえられる者は、そう居ないだろう。
だが、彼女の性格と使命感が、弱者を見捨てることを許さない。安易な選択肢を、選ばせない。
ティーを信頼できる誰かに預けて、身軽になりたい――白井黒子は、すこしだけそんな風に思う。
もちろん、今ここでティーを見捨てる気はない。
彼女もまた、全力を挙げて保護せねばならない対象だ。
けれど自分の能力を最大限に発揮しようと思ったら、やはり1人で動くのが一番なのだ。
信頼できて、それなりの実力があって、ティーやその他の弱者を預けることの出来るような『仲間』。
これから何をするにも、これが必要だ。
御坂美琴や上条当麻はまさに適任だし、ティーの旅のパートナーだというシズや陸でもいいかもしれない。
いかに強力な『能力』を持っていようと、白井黒子1人ではやれることに限界があるのだ。
「とはいえ……その『仲間』を探すアテがないのですけれど、ね」
n
軽く愚痴っている間にも、彼女たちは摩天楼の正面入り口に到着する。
1回の跳躍の限界距離は80メートル程度だが、連続して跳躍することで高速での移動が可能。
時速に換算して、最大で288キロ。それでいて空気抵抗を受けることも、慣性を感じることもない。
今回は相当に抑えて『跳んだ』からそこまでの速度はないが、それでもこの程度の距離、あっという間だ。
周囲を見回し、来訪者用に掲示されている地図を見つけると、その眼前に再度跳躍する。
ざっと地図と照らし合わせて確認したところ、この摩天楼には2つのタワー部分があるようだ。
西側がビジネス・ホテルの棟。東側が賃貸マンションの棟。
西棟最上階には展望室があるということだし、そこから周囲を見渡した方が良いだろうか。
東棟の最上階でもいいかもしれない。さてどっちに行ったものやら。
声が聞こえてきたのは、ちょうどそんなことを考えていた時だった。
『――この舞台に呼ば――者達よ、聞こ――か?
我が名は『我が――最強である理由――こに証――る(Fortis931)』とで――憶しておけ――』
――白井黒子の顔に、困惑の表情が浮かんだ。
どこか遠くで、誰かが挑戦状を読み上げている。ノイズ交じりのこの声は、拡声器でも使っているのだろうか。
だがビル群や複雑な摩天楼内部で反響して、距離も方向も判然としない。内容も途切れ途切れだ。
さて、どうしたものだろう。
捨て置いていいものか、探すべきか、それとも……。
【E-5/摩天楼・正面入り口/一日目・深夜】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
1:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
2:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
3:拡声器越しの声を探す? それとも、西棟最上階展望室に上がって辺りを見回す? あるいは……。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※ステイルの挑発の声はギリギリ届きましたが、ビル群による反響などで、内容・方向ともに不明瞭です。
◇ ◇ ◇
【共通問題】
摩天楼について、思うところを書きなさい。
■ティーさん(旅人、女性)の答え
「…………くろい。とう。」
■教師のコメント
もう少し何か答えてもらえると、先生は嬉しいです。
確かに外見は黒くて、並んで立った塔のようですけど……。
それとも、何か思うところがあったのでしょうか。過去の思い出と被るとか?
■シャミセンさん(三毛猫、オス)の答え
「私には何も思うところはない。
そもそも摩天楼が商業施設であろうと住空間であろうと、猫である身には何の関係もないことだ。
私の時間の感覚が人間のそれと異なっているように、空間の感覚もまた人間とは異なるものなのだ」
■教師のコメント
支給品には聞いていません。
◇ ◇ ◇
声が聞こえてきた時も、ティーは相変わらずの無表情で黙り込んでいるだけだった。
『――この舞台に呼ば――者達よ、聞こ――か?
我が名は『我が――最強である理由――こに証――る(Fortis931)』とで――憶しておけ――』
――どこか遠くで、誰かが何かを言っている。
なんとはなしに、デイパックから出てきたシャミセンを抱きしめながら、彼女は静かに摩天楼を見上げる。
いきなりの空間転移の連続に、混乱しているのかもしれないし、
このいきなりの宣言に白井黒子がどう反応するのか気になっているのかもしれないし、
あるいは――やっぱり何も考えていないのかもしれなかった。
【E-5/摩天楼・正面入り口/一日目・深夜】
【ティー@キノの旅】
【状態】健康。
【装備】RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
【道具】デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×2、不明支給品0〜1
【思考】
基本:???
1.RPG−7を使ってみたい。
2.手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
※ステイルの挑発の声はギリギリ届きましたが、ビル群による反響などで、内容・方向ともに不明瞭です。
ティーはさほどの興味を示さなかったようです。
投下終了。支援感謝です。
途中どたばたして申し訳ないです。
時間帯は「あえて」深夜枠に留めています。
おそらく次の話では黎明に入るものと思われますが、他のキャラとの絡みの自由度も考えてこうしました。
(特に、朧と近いところに居ることになった、土御門・クルツ組に関して)
摩天楼のツインタワー設定や内部設定など、かなり一気に決めてしまった部分もあります。
玖渚友と黒桐鮮花の双方がこっそり「摩天楼の最上階」からのスタートだったことの、辻褄合わせなのですが。
これらの設定、あるいはそれ以外でも、何か問題ありましたら指摘お願いします。
ちなみにイメージ的には、作中でも触れていますが東京ミッドタウン。あるいは六本木ヒルズあたりです。
投下乙
76I1qTEuZwさんの文章は本当にすごいな
識見、文章力、構想力どれをとってもネットSSじゃ数年に一人のレベルだと思うよ
こういう自分には絶対書けないレベルの文章を見ると感嘆のため息しか出てこないな
投下GJ! なんとも凄い群像劇!
各々のやりたいことと合致したりしなかったり……摩天楼は面白いな。
色々な施設に関してだが、自分は全然大丈夫だと思う。
むしろ設定が加わったことで引き込まれた。
かなり火薬庫の印象があった彼女達だが、まだ爆発しなかったか。
それが次回以降にどういう効果を及ぼすのか楽しみだ!
投下乙です。
おおう、摩天楼を機軸に各々がらしく書かれている……
凄くキャラらしいなぁ。
今回はすれ違いだけだったけど……はたしてどうなる?
GJでした
投下乙。
とても見事な群像劇でした。
予約を見た時点では絶対に誰か死ぬかと思ったが、なお火種に燃料を注ぎこむとは・・・
この先が期待できる作品でしたGJ
投下乙!
共通問題で徐々に時代を上げていって最後にネコで落とすとか上手いなあ。
というかそれぞれの摩天楼への感想といい、すげえGJ!
予約来てるぜ
この面子でこの人の予約となれば…否応なしにワクワクしてくるぜっ!
不思議なんだが、なんでどこのスレでもしたらばで予約がくると予約きたとだけ本スレに書き込むんだ
どうせなら詳細も書いてくれればいいじゃないか
一々毎回>>1まで戻って予約スレアドレスクリックしてブラウザ立ち上げてから予約スレ読んで
また元レスのとこまで戻す苦労を考えろよ
どうせ専ブラにしたらば追加してるんだろうけど、みんながみんなそんなコトしてるなんて思うなよ!
お待たせしました。
トレイズ組みとうかします
何処か遠い世界。
そこは大きな一つの大陸しかなくて。
その大陸の中央に聳える山脈と雄大な大河を境に2つの大きな国がある世界。
東の国をロクシアーヌク連邦。通称ロクシェ。
西の国をベゼル・イルトア王国連合。通称スーベーイル。
その2つの国は長い歴史の中、戦争を続けていたのです。
運河を挟んで行われる戦争は終わる事が無くずっと続いていました。
しかし……ある時戦争は終わったのです。
『英雄』の歴史的発見よって。
『英雄』はそれを発表する事により戦争を終結させるに至りました。
そして戦争は終わり平和になって行ったのです。
『英雄』はやがてロクシェ王国に属するイクストーヴァ王国の王女で結婚しました。
その後に娘を儲けたと公式発表されたのです。
しかし事実は少し違い……
『英雄』が儲けたのは『王女』だけではなく―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……ねぇ、トレイズ君。何処に向かってるの?」
「北東。エリアが消えるのを確認したいんだ」
「……それで何かなるっていうの? もしかして、脱出できたり?」
「いや、別に。多分消える瞬間が解るだけ……かな」
まだ暗い住宅街を二人の人間が歩いていた。
前を進むのは年季の入った黒い革ジャケットを纏った黒髪の少年、トレイズ。
表情を変え無いその顔は取りあえず端整と言っても可笑しくはなかった。
そのトレイズの後をゆっくりと歩いている赤い制服を纏まった暗い藍色の髪を持つ少女、川嶋亜美。
全身から気だるさは出してはいるもの流石は現役のモデル。
艶やかな髪、しなやかなで細い足で歩く様はとても可憐で麗しいものだった。
瞳を潤ませ愛らしいまるでチワワのような視線をトレイズに向かって出しているがトレイズは全く気付いてない。
そしてトレイズのエリアの消失への回答に露骨に不快感を露わにして
「はぁ?……何も意味無いのにわざわざ遠くまで見に行くの? 面倒じゃん」
「だって、手がかりが何もないだろ。なら意味が無くても言ってみるしかない」
「……ったく……案外役にたたねー」
「……聞こえてます」
「聞かせてんのよ」
「……」
亜美のその言葉に凄く微妙な表情を浮かべながら歩くのを続ける。
亜美も何だかんだ言っても着いてきているのは信頼をしてくれるのだろう。
最も他に手段が無いというのも有るのかもしれないが。
コホンとトレイズは一息、間をおいて
「兎も角……取り合えずは図書館に。俺の知り合いや亜美さんの知り合いが居るかもしれない」
「わかったわよ……会って……会って……あたしはどうするのかな? どうなるのかな?」
「……うん?」
「何でもないわよ」
あの後亜美は名簿を確認した。
そこには、高須竜児、逢坂大河、櫛枝実乃梨の三名の名前。
亜美はその名前を見て凄く哀しいようなまたは彼らに抱く感情など持ち合わせてないような複雑な表情を浮かべた。
大切な人達では有る、失いたくないとも想っている。
だけど今更何を思えばいいのだろうと。
こんなものに巻き込まれて、そして色々あった彼らに。
もし、この場で合ったとして何が起きるのだろうか、自分がどうするのだろうか……自問するも答えが返ってくる事は無かった。
「うん、何でもない」
だから今は特に想わない。
淡白と言われるかもしれないけどそれがいいと思ったから。
だから今は考えなかった。
まして彼らが死ぬなんて……考えたくも無かった。
「……そっか」
「何よ」
「別に、何でもありません」
「……ったく、むかつくんですけど」
「それは、すいません」
「だから、それがイラつくんだって……あーもう」
亜美のそんな思いを悟ったかは知らないけどトレイズは解ったようにただ頷いた。
そのトレイズの何かを知ってそれでも聞かない態度何処か気に入らず、亜美は突っ掛かる。
それをのらりくらりと交わすトレイズ。
気にかけてそれでも亜美に何も聞かない。
それが嬉しくもありむかつきもしたりで全く複雑だった。
「あー簡単に解決できる手段とか有ったり、何処かに逃げ込むだけで脱出できれたらいいのに」
「……全く仰る通りで」
その亜美の呟きにまたもトレイズは解ったように返事をして。
亜美はムッとするも特に何も言わなかった。
何となく彼の気持ちが判ったから。
でも、それでも。
「あー本当に……簡単に解決できると……思ったのにな」
そう、呟かざる終えなかった。
トレイズは思わず振り返って亜美の表情を見ようとするも亜美は空を見上げていてその表情は解らない。
それでも、何か後悔しているようなそんな気持ちは受ける事はできて。
トレイズは手をさし伸ばそうと言葉をかけようと想って……それを出来なかった。
出逢ったばかりの自分に何ができるのだと思って。
亜美は変わらず空を見上げて。
ただ、見上げていただけだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
また二人は歩き始めて。
言葉もかけることは少なく。
最もトレイズが話を振るも上手く続かなかった。
亜美は何処かそわそわしている様で話をできる感じではなかったのだ。
その様子を見かねたトレイズは歩きながらあるものを探していた。
(しかし……この街並み。ロクシェの首都より発展しているような気がしないでもないけど)
その街並みをみて先ほどからトレイズはずっと疑問に思っていることがある。
道路、時たま見つかる高いビル、明るい街灯などなど。
街並み全体がトレイズが見た事ある都市よりも発展しているのだ。
何処か二十年先の街並みを歩いているような感覚に襲われて。
何か根本的に違うのだろうかと考えて。
(いや……スーベーイルの首都とか行った事ないしな……見識不足かな、俺も)
そこで一旦思考を打ち切る。
そもそも自分もそこまで沢山の街を見たわけじゃないと想って。
見識不足だろうと一旦考えそこで思考で止めた。
今はそれ以上の事を考えるべきではない。
そう考えて。
それでも違和感は消えずトレイズの中に深く残っていた。
トレイズは一旦頭をふってそして探しているものを見つけた。
自分が想定していたものより明るく、大きくてビックリはしたが。
「亜美さん」
「何、亜美ちゃん、可愛くてやっぱり惚れちゃった? 駄目だよそれは〜」
「……いや、そうじゃなくて」
「ガン無視……」
「何か言った?」
「別に〜。鈍感だなって」
「……まあ、いっか。ほら」
「うん……コンビニ?」
「コンビニ……? まぁ雑貨店」
トレイズが指したのは雑貨店、俗に言うコンビニエンスストア。
最もその言葉はトレイズの世界には未だ存在はしていないのだが。
兎も角、それを指差されて亜美は疑問に思う。
「それがどうしたの?」
「いや……さっきからそわそわしてるから」
「……はい?」
「その……トイレとか」
「っ!?」
そのトレイズの言葉で亜美は先ほどのことを思い出す。
トレイズの水鉄砲によるアレを。
急に顔が赤くなってそしてあの事に今更怒り出して。
「ちょ!? はぁ!? 何そんなデリカシー無い事言ってんの!?」
「え? い、いや気にしているみたいだし……さ……って何そんなに怒っている……の?」
「はぁ!? ちょっと信じられないんですけど! あーもうというかあーーーーえい!」
「ぐぇ!?」
そして先程思ったことを実行する。
結構力を篭めてトレイズの右頬をぶん殴った。
トレイズは蛙が潰れたような声を出してぶっ倒れる。
トレイズは解らず未だにキョトンして亜美を見つめていて。
そんな未だに気付かないトレイズに亜美は苛立って
「あーこのうざいんですけど……このヘタレ!」
そう言ってそのままコンビニに入っていった。
亜美はそそくさ女性下着の所からそれを取ってトイレに向かう。
トレイズは未だに頬を押さえそして全力で落ち込んでいた。
「……ヘタレ……ヘタレ……」
その亜美の言葉に。
普段から色々な人に言われているだけあって結構、いや、大いにショックだった。
溜め息を付きながら立ち上がりこのまま待っていてもしょうがないのでトレイズもコンビニに入る。
「……ヘタレ……ヘタレか」
その言葉を幽鬼の如く繰り返しながらあたりを見回す。
やはり、トレイズの目から見ても発展している事が解る。
見た事もない食品、雑貨などなどがあって。
関心と共に驚きを感じながら。
そして目に言った雑誌の一つを手にとって見る。
そこには先程まで自分と行動していた女の子が大きく移っていて。
「あの子……有名な人なのかな」
雑誌の表紙を飾るのは川嶋亜美、その人。
表紙に移る亜美は可愛らしく笑っていて、チワワの様だった。
パラパラと捲って亜美に関するページを見てみる。。
そこにはやはりどれも綺麗に可愛く写っている亜美ばっかり。
トレイズからしても素直に可愛いと思えたのだ。
「モデル……か。やっぱり可愛いんだな」
しっかり今までプロとして生きていたんだろう。
写真からそう感じられて。
だからこそトレイズも思う。
「しっかり返してやらなきゃ……な。だから……護ろう」
亜美を普通の場所に戻す為に護ろうと
そう思って。
可愛い人に殺し合いなどにあわないそう思って。
「終わったわよ……何してるの?」
「いや、別に……いこうか」
トイレと着替えを終えた亜美を見てトレイズはそのまま雑誌を置きコンビニから早々に出る。
ふんと鼻で笑って亜美も追っていこうとしてふとトレイズの置いた雑誌を視線で追った。
そこに写っていたのは自分。
そして少し聞こえていたトレイズの言葉。
「可愛いか……うふふ……護る……か」
浮かぶのは笑顔。
最初に存在していた苛立ちはいつのまにか解消されていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
D-2に位置する図書館。
そこは4階建ての大きな近代的なビルで敷地も大きく立派なものだった。
「凄い……立派な図書館だな……首都にあるみたいのものだ」
「大きい〜亜美ちゃんビックリ〜」
(……やっぱり、何か違う。こんなにも新しくガラスもふんだんに使われて……どういう事だ?)
その立派な図書館に両方とも圧倒されるだけだった。
しかしトレイズの方は疑問の方が多い。
やはり全体的に技術が発達している。
違和感が段々確実なものに近く感じてきている事も。
そんな事を考えながら図書館の中に入っている。
そして早速見つけるのは
「ひっ!?」
「うわっ!?」
広がる血だまり。
輪切りにされたとしか表現できない女――長門有希――の死体。
バラバラに毀れている内蔵。
むき出しの肉と骨。
もはや、人としての形として成り立っていなかった。
「ひ、ひぁあぁ……」
腰が抜けた様に亜美がペタンと座り込む。
可愛い顔からボロボロと涙を浮かべる。
恐怖と哀しみ。
いきなり見せられた恐怖のバラバラの死体。
余りにも唐突で我を失ってしまう。
直視が出来なかった。
思わずトレイズの手を無意識で握ってしまう。
「な、何よ……あれ……」
「…………死体だな……くそっ」
急に現れた死の空気。
襲い掛かる死の現実感。
それに亜美はただ怯えるしかなかった。
この世には存在してはいけないような死体に。
「………………くそっ」
「…………ちょ、ちょっとあんた」
しかしトレイズは舌打ちをしながら死体に向かっていく。
何の躊躇いも無く。
そんな様子に亜美は驚きそして侮蔑の意味で呟く。
「あ、あんた怖くないの? 人が死んでいるんだよ? それなのに興味も無いの? 怖くないの?」
人の死をなんとも思ってないように見えて。
人の死を興味もなさそうに行動を起こそうとしたトレイズが。
侮蔑も篭めて呟いてしまう。
でもそれは違って
「怖いよ……正直怯えてる。情けないほどに。こんな死に方惨すぎるし見た事もない……」
トレイズの膝はガクガク震えていて。
トレイズの全身は小刻みに震えていて。
トレイズの声は恐怖で震えていた。
「じゃあ……どうして」
「だって……」
それでもしっかり歩いているのは。
それでも前を向いて進んでいられるのは。
「―――このまま放っておくなんて可哀想すぎる」
窓にかかっていた大きなカーテンをナイフで切り裂く。
それを長門の前に持って行き全身を覆うように隠す。
白いカーテンが血に染まっていく。
簡易な埋葬であった。
「御免……こんな風にしか出来なくて御免……でもやすらかに……護れなくて……御免」
この子を可哀想だと思ったから。
生者の傲慢かもしれないけどこんな死に方をした彼女が。
ただ、可哀想と。
傲慢なだけだとトレイズでも思う。
でも、それでも弱者であろう彼女を放っておくことは出来なかった。
全部を護れる訳が無い。
リリアや亜美を護ろうと思うだけで精一杯だと思う。
でも、それでも助けられなくて、守れなかった事が悔しかった。
そんなトレイズの想いからだった。
そして静かに冥福を祈る為に黙祷する。
(へぇ……凄い……でも呆れちゃう)
その様子を怯えながらも静かに見ていた亜美。
そんなトレイズを見て思う。
凄いなとも。
冷静に思ってそれで居てあんな行動を取れたトレイズが。
単純に凄いなと思ってしまった。
冷静にもなれない自分からすると。
でもそれと同時に侮蔑の気持ちも少しだけ持ってしまう。
何故、冷静にできるのに。
何故あの人はそんな優しさを他者に向けてしまうのだろうと。
護るべき人が居るんだろうと。
それなのに死者にまでそう悔いて。
冷静な判断ができるのにそんな甘い選択を選んでしまうトレイズ。
ただそれがとても甘い人間と感じさせそして馬鹿らしく思ってしまう。
ほんの少ししか護りきれる訳無いと解っているのにそれでも無数を望んでしまうトレイズ。
甘すぎる考え。
それはあの見た目がとても凶暴だけど……とても心優しい少年を思い出してしょうがなくて。
不思議なデジャブを感じて苛立ってしまう。
トレイズの考えは甘くて綺麗だろう。
凄いと思うし尊敬も少しする。
でも、それでも。
(いつか火傷しちゃうよ……トレイズ君?)
いつか火傷してしまいそうなトレイズに呆れと侮蔑も感じてしまう。
ちょっと無愛想だけど優しいトレイズに。
あの少しだけ気になる少年に同じような言葉を贈る様に。
そう想ってトレイズを見つめる。
見つめ続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ……俺、探索してくるから……でも本当にいいのか。一緒に来なくて」
「別にいいよ……ちょっと休みたい」
「……うん、解った。じゃあちょっと見てくる」
図書館一階の読書スペース。
ココは机とソファが広がる広い読書の為の空間。
そこの一つの机にトレイズ達は陣取っていた。
取り敢えずは休憩を。
最初は取るつもりはトレイズには毛頭も無かったのだがあの死体を見た後だと取らざる終えなかった。
亜美の精神的疲労が高いと判断したから。
そしていくらか互いに落ち着いて探索に行こうとトレイズは提案した。
だが亜美は休みたいと。
亜美はそのままトレイズの反対意見を押し切って休む事に。
そこの押しの弱さがトレイズ由縁ではあるのだが。
トレイズはそう言ってそのまま本棚の陰になって消えた。
亜美はそれを見送ってふぅと溜め息を付く。
デイバックから水を取り出して一気に飲んだ。
ただ、落ち着きたかった、一人で。
トレイズの事は信頼している、でも一人で居たかった、今傍に居られると頼ってしまいそうで。
クルクルとデイバックに入っていた役に立たないコインを回す。
クルクル回るコインを眺め少し考える。
自分もあんなになってしまう?
そんな事を。
訪れるかもしれない死。
いや、実際訪れる瞬間まで来ていたのだ。
トレイズの甘さで助けられはしたが。
怖いと単純に想ってしまう。
でもそれと同時に仲間がそうなってしまうのも怖いと。
もう既に誰かなっているのかもしれない。
そう考えると少し震えてしまう。
嫌だ……とも。
パタンとコインが力を失い倒れる。
それと同時に考えを止めて立ち上がる。
こんな事考えたくない。
だから、あえて興味ない本を読んでそれを無くそうと思った。
亜美は近くにあった本棚を覗き
(『ラムダドライバとアームスレイブの関連性』?……『必要悪の教会の歴史』?……『フレイムヘイズと紅世の徒』?……『十三階段の秘密』……
なにこれ? よく分からない単語ばっかり……)
不思議な本が多くて悩見ながらも違う本棚を覗く。
(『起源について』……『ブラックマンタ』……さっぱりよく解らない。しかもなにこれ、同じ本もあるじゃない。似たようなのも沢山ある)
そんな訳分からない本棚に混乱し始めてくる。
まさか同じ本が何冊も似ている本ならもっと沢山ある。
不思議な図書館でただ戸惑うばかり。
亜美は惑いつつも取り合えず一冊とって見た。
それは
「『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』か……とりあえずこれにしよう、きりないもん」
イクストーヴァ王国の事。
亜美は元の場所に戻り本を広げる。
そこには……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
図書館四階。
本が広がるこのフロアで慎重に進んでいるトレイズ。
とは言うものの異変は感じられず恐らくトレイズと亜美しかいないだろう。
そう思うとほっと一息つく。
ふと右を見ると窓から見れるのは綺麗な景色。
そして明るくなってきた空だった。
日が昇るのが見えてトレイズはふと考える。
リリアの事。
先程の死体を見て何も思わない訳が無かった。
リリアも色々な事件に遭遇はしたものの所詮は力の無い女学生に違いない。
幸運とアリソンら彼女の両親の助けがあったこそとも言えるのだから。
だからこそ。
不安になってしまう。
リリアの事を。
「大丈夫、リリアは大丈夫」
思わず口に出してしまう。
口に出す事で安心させるように。
リリアは強い子だと言い聞かせるように。
今はリリアを信じるしかない。
だから彼女の無事をただ信じて。
明ける空を見ながら胸元にある物を握る。
それは何時か約束したもの。
リリアに贈ると約束したもの。
それをリリアの無事を祈るように強く握って。
トレイズは目を瞑って祈っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「目次……うわ、随分多いのね」
亜美が頬杖を突きながら気だるそうに頁を捲る。
最初に書かれているのは目次。
第一章は「大陸の歴史」
第二章は「長き戦争の歴史とその終結」
第三章は「イクス王国の歴史と秘密」
となっていた。
亜美は第一章を適当に読み飛ばす。
あまり面白そうではなかったから。
取り合えず大きな二国、ロクシェとスーベーイルが大陸の殆どを占めている事だけを知った。
あくまで基礎知識レベルではあるが。
「ふーん、作り物にしてはよくできてるのね」
あくまで亜美はこの歴史を作り物としてみていた。
本来は実在するものだが亜美にとって大陸が一つしかない世界など知る由ものないのだから。
あくまでフィクションとして楽しみながら第二章に進む。
第二章もその二国が戦争をしていた事だけながら読み飛ばしていた。
しかし、ある頁で亜美の興味を引く。
「……『英雄』による絵画発見で戦争が終結……『英雄』……ねぇ」
それは長き戦争を終わらした『英雄』の事。
歴史的発見である絵画を発表する事によって終わらせた『英雄』
かっこいいなと亜美は思う。
ヒーローそのままで。
しかしながら読み進める内に一つの真実を知る事になる。
「『真の英雄』……?」
それは本来では伏せられた真実。
絵画発見をしたのは『真の英雄』である事。
本来はある少年が見つけたと事細かに乗っていた。
その少年の名前も。
「……なんで、隠したのかしら……『英雄』になれたのに」
『真の英雄』の事を不思議に思う。
何で隠したんだろうと。
英雄になれたというのに。
その答えは『真の英雄』しか知らないけど。
そう亜美は思う。
聞く機会があったら聞いてみたいと想いながらも読み進める。
亜美は知らない。
この場所に
『真の英雄』が居る事実を。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トレイズは一階のカウンター前に戻ってきていた。
そこに居るのは白いカーテンを赤く染めているもの。
もう二度と動かない長門有希の死体だった。
その死体にもう一度、黙祷して一度謝ってカーテンを少し捲る。
相変わらずのバラバラに吐き気を催すが我慢した。
確認しなければならない。
どうやって彼女が死んだかを。
(綺麗に分かれている……どういう事だ? どうすればこんな事になるんだ?)
切断面は余りに綺麗で。
刀や剣など刃物で切断したようにはとても見えない。
何か別の方法と考えるが別の方法が出てこない。
トレイズは頭を抑え考えるが答えが出てくる訳が無かった。
「御免……辛かっただろうな」
有希のあいている目を閉じる。
少なくとも苦しかっただろうとだけはトレイズに理解できた。
だから、だからこそ
「仇は……絶対取ってやる」
仇はとってやろうと。
こんな事をした殺戮者に鉄槌を。
そう思えることだけはできたから。
トレイズはそっと心に誓ってふと気付く。
有希の指が有る方向を指していた事に。
それはカウンターの有る箇所。
そこに有るのは
「なんだ……この本?……鍵?」
ハイペリオンと書かれた本。
そして栞に書かれた鍵という文字。
なんだろうと考えるが想いつかない。
何かの情報なのだろうかと思って考えるが答えは出なかった。
「……取りあえず持ってよう」
取りあえず考えを保留に済ませその本をデイバックに仕舞う。
そして有希に最後にもう一度カーテンを被せ
「……護れなくて御免」
トレイズもう一度謝罪をした。
傲慢なのは解っている。
でも謝りたい……そう本心から思ったから。
少しでも彼女になにかしてあげったから。
それがトレイズの優しさだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「イクス王国……本当に凝っている事」
亜美はそのまま第3章まで読み進めていた。
書かれていたのはロクシェに属しているイクスの事。
イクスの地理とかを読み飛ばしながらも興味深いところだけを見る。
「『英雄』さん王女と結婚かぁ……ロマンチック……うん? 秘密?」
『英雄』が王女と結婚したという記述の後にイクスの秘密というのが書かれていたのを発見をした。
それは戦争を終結できたかもしれないロクシェとスーベーイルを繋ぐ回廊の事。
そして
「隠された王族……」
イクスの古いしきたり。
それは王族の子供は一人であるという事。
しかしながら双子が生まれるケースも有るという。
それが現女王とその女王の子供である事も。
片方は世間的には王族とは関係ないものになっているらしい。
とはいえ王族としては振舞えるらしいのではあるのだが。
そして、現在王女とされている中、王子が隠されて存在するらしい。
残念ながら名前は載っていなかったが。
しかし、王子の証として『鷹のメダル』を持っているらしい。
そこまで読んで満足だったのか亜美は本を閉じる。
「隠された『英雄』の『王子』かぁ……ロマンチックだよねぇ……」
うっとりとしながら一息つく。
考えるのはその『王子』の事。
「かっこいいんだろうなぁ……王子というんだし……あーあ、そんな『英雄』の子がもしここにいたら解決してくれるんだろうなぁ……」
もし、王子が居たならきっとこんな殺し合いなんてさっさと解決してくれるのに。
そう亜美は思って溜め息を付く。
そういえばトレイズが王子とか言っていたがブンブンと首を振って否定する。
「無い無い。トレイズ君が王子なんて有り得ない。ヘタレだし」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「へクション……風邪?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あーあ……本当に居たらいいのに」
亜美は居ないはずの王子を夢想をして。
自分を助けに来ないかなぁと。
白馬に乗ってなんて言わないから自分の下にやってこないかなぁと。
そしてその時思い浮かんだのは
「……最悪、なんで高須君な訳?」
何故か高須竜児だった。
王子って柄ではない。
寧ろヤクザだ。
それなのに思い浮かんでしまった。
「何してんのかな……どうせ不用意に優しさ振りまいているんだろうけど」
そう皮肉を言う割には笑顔だった。
それが高須竜児の性格である事を知っているから。
思ったら何故か笑顔になって。
それがやたら腹立たしいような嬉しいような。
「無事かなぁ……無事だよね?」
そして竜児の無事を祈って笑う。
しかし亜美は知らない。
亜美の為に殺し合いに乗った竜児の事を。
そして命を落とした事を。
まだ亜美は……しらない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よし、行くか」
「……ええ」
探索を終えたトレイズが亜美と合流し、図書館を出る準備をしていた。
二人とも疲れは多少とれ、元気に見えたから。
「とりあえず時間が余計に立ったし方針を少し変えよう」
「どういう奴?」
「1、このまま向かう。2、エリア消失でなくなる施設を最優先で向かう。3山に登って山頂から全貌を眺める」
「……うーんどうしようかな」
「亜美さんが決めていいよ」
「じゃあ……」
亜美が希望を伝え方針を決めたトレイズは立ち上がり伸びをする。
窓から見える空はもう完全に明るくなっていた。
そして亜美は不意に思うのだ。
「トレイズ君……なんであんたは護るの?」
「……うん?」
「あたしを……リリアって人居るんでしょ?」
「ああ、簡単だよ」
何で自分を護るのだろうと。
好きな人が居るのに。
何故亜美を護るのだろうと。
優先すべきはリリアなのに。
それにトレイズは笑って返す。
「護るのに理由なんてないし……護りたいから……かな」
「理由になってねーじゃん……」
「理由なんて要らないよ」
「……はぁ……お人好し」
「何か言った?」
「別にー」
余りにも予想できたトレイズの答えに苦笑いを浮かべるしか無い亜美。
それでも何故かはらだたしくは思わなかった。
トレイズを信頼し始めているのかなと思ってブンブンと頭を振って否定する。
(なんで、亜美ちゃんがあんなヘタレに!)
トレイズはその様子を見て苦笑いを浮かべそして思う。
やっぱり護ろうと。
どんな時でも。
それが『王子』の役割なんだから。
そして、胸元に輝くのは。
『鷹のメダル』だった。
隠された王子の証拠の
メダルだった。
【D-2/図書館/一日目・早朝】
【トレイズ@リリアとトレイズ】
【状態】腰に浅い切り傷
【装備】コルトガバメント(8/7+1)@フルメタルパニック 銃型水鉄砲 コンバットナイフ@涼宮ハルヒの憂鬱 鷹のメダル@リリアとトレイズ
【所持品】支給品一式、ハイペリオン(小説)@涼宮ハルヒの憂鬱、長門有希の栞@涼宮ハルヒの憂鬱
【思考】
基本:この世界からの脱出方法の検討と西東天と所在を突き止める
1:このままB-5かC-5に向かいB-6かC-6の消滅の瞬間を確認するかエリア消失でなくなる施設を最優先で向かうか山に登って山頂から全貌を眺めるかどれか一つの通りに行動する
2:リリア、アリソンと早期合流、トラヴァスとも出来れば
3:弱い人は全力で守る
4:長門の敵を討つ
5:亜美は必ず返す
【備考】
マップ端の境界線より先は真っ黒ですが物が一部超えても、超えた部分は消滅しない。
人間も短時間ならマップ端を越えても影響は有りません(長時間では不明)
以上二つの情報をトレイズは確認済
【川嶋亜美@とらドラ!】
【状態】健康 右腕に軽度の打撲
【装備】無し
【所持品】支給品一式 確認済支給品0〜1(ナイフ以上の武器ではない)、バブルルート@灼眼のシャナ、『大陸とイクストーヴァ王国の歴史』
【思考】
1:トレイズと行動。
2:トレイズはまあ信用
3:知り合いの心配。特に竜児
【バブルルート@灼眼のシャナ】
リアグネが所持する、コイン型の宝具。一見普通のコインと何も変わらない。
弾かれるとその飛ぶ軌道上に幾つもの残像を残し、その残像が金の鎖になって相手の武器に巻き絡まる能力を持つ。
鎖は破壊不能で、さらに絡んだ武器の能力を打ち消し発動不能にしてしまい、相手の武器がどれだけ強力であろうともただの金属の塊と同様にしてしまうところが“武器殺し”と称される所以である。
投下終了しました。
此度は延長してしまい申し訳ありません。
支援感謝します。
投下乙です。
地味に時代的な違和感を感じるトレイズ、確かにあの世界から見たら細かい違和感いっぱいだよなあ。
そして、図書館の本は凄いことになってる……w 他の本もめっちゃ気になるぞw
亜美の竜児への微妙な気持ちとか、トレイズの傲慢と知りつつの罪悪感とか、内面への踏み込みが面白い。GJ。
しかしこれで早朝に入った組も出たか……。
心理描写がすげぇなぁUc氏は
投下GJ! うーむ、亜美先生が絶好調w
図書館の本はこれ気になるなぁ。探せばまだ何か……?
トレイズなんかは、本当抱え込んじゃってもう。
あんま抱え込みすぎて袋小路にならないことを祈るばかり。
しかし、遂に早朝までも来たか。
これを気に他の場所も進み始めるのだろうか、と思うとwktk。
投下乙です。
普段スルーされがちな文化的違和感ですが、ここでは誰もきっちりリアクションしていますねw
それと、図書館に並んでいる本やあれこれ等。それぞれの原作由来のものが散見できるのも面白い。
修羅場の経験を持つ男の子と、その後を口数多くついてゆく女の子。
定番だけど、いいものは素直にいいと認めざるを得ないw
トレイズの弱さを認めながらも冷静であろうと努めているところや、それを見透かしてやきもき想う亜美。
”王子様”の事実も含めて、少しだけズレ続けている二人の関係が素敵です。
そして、長門有希が指差していた栞に何か意味があるのか? 気になるところです。
たくみな心理描写、GJでした。 あらためて投下乙です。
代理投下、開始します
途中で止まったら、規制されたと判断してください
闇夜に溶け込む街々が、進む二人の足取りを重く、慎重な色に染める。
浸透する深々とした空気は、舗装された硬い街路の感触も相まって、通行人に緊張を促す。
前を歩くのは、グリーンのセーターを着た二十代前半と見受けられる男だった。
腰には抜き身の大太刀が一本提げられおり、刃が脚を掠めないよう気をつけて進んでいた。
後ろを歩くのは、赤いジャケットにパンツルックの三十代半ばと見受けられる女だった。
腰の後ろで手を組み、周囲の街並みを物珍しそうに観察しながら進んでいた。
会話は少なく、だからといって二人とも気まずいとは感じていない。
前を行く男の名はシズ、後ろを行く女の名前はアリソン・ウェッティングトン・シュルツといった。
ふと、前を行くシズが足を止めた。
釣られて、後ろのアリソンも立ち止まる。
二人が視線を注ぐ前方、立ち塞がるように女が一人、立っていた。
夜風に靡くのはドレスの端、体の凹凸は激しく、手にはなにか突起物を握っている。
暗がりのため表情は窺えないが、雰囲気だけで初対面の相手に向けるべき笑みがないことを、二人は感じ取った。
シズとアリソンは互いに一瞬だけ目配せする。その隙をついて女が走り寄った。
それほど速くはなかった。距離が十分に開いていたこともあり、二人はまったくと言っていいほど動揺しなかった。
なにも言わず、シズがベルトとズボンの間に挟んでいた大太刀を抜く。
片手で扱うには重く、長さもあるそれはいつも愛用している刀と比べても勝手が違ったが、現状を打破するのに問題はない。
シズは大太刀を両手で持ち、一直線に向かってくる女を袈裟に斬った。女は避けなかった。
シズが大太刀を構えている姿が見えていなかったのか、アリソンから見ればわざわざ斬られに走ってきたようなものだった。
「あなたって情け容赦ないのね」
左肩から右の腰にかけて真っ二つに分かれた女を見下ろし、アリソンがシズに言った。
「“これ”に情けもなにもないだろう」
自身がその手で分断した女を見下ろし、シズはアリソンにそう返した。
アリソンは、ごもっともで、とだけ返した。
【B-4/一日目・黎明】
【シズ@キノの旅】
[状態]健康
[装備]贄殿遮那@灼眼のシャナ
[道具]デイパック、支給品一式、不明支給品(0〜2個)
[思考]
0:生き残る。
1:一先ずは脱出を目指す。
2:それが不可能ならば殺し合いに乗る。
3:アリソンは気にしない。
[備考]
※ 参戦時期は6巻『祝福のつもり』より前です。
※ 殺し合いをどこかの国の富豪の開いた悪趣味な催しだと考えています。
【アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]健康
[装備]カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック!
[道具]デイパック、支給品一式、カノン予備弾×24
[思考・状況]
1:シズが心配だから付いていく。
2:リリア達と合流。
◇ ◇ ◇
物騒な世の中になったわねぇ、などといった世間話を軒先でする奥様方の気持ちになったつもりというわけではないが、
世の中本当に物騒になったよなぁ、と高校生の身分ながらに痛感することがしばしばある。
物騒と一口に言ってもその種類は様々で、西の方じゃ公園で遊んでいる女の子にポストの場所を尋ねただけで通報されたり、
東の方じゃ日常のストレスやら抑圧された鬱憤の解放やらで見知らぬ通行人を次々刺していったりと方向性は多岐に渡る。
俺にとって怖いのは後者だ。特に通り魔というわけではないがナイフ、これにはある種のトラウマのようなものさえ芽生えている。
今を思えば懐かしい、あの放課後の教室での出来事。朝倉はシンプルにも、ナイフで俺を刺し殺そうとしてきやがった。
なんで刃物だったんだろうな。長門のお仲間であるところのあいつの素性を考えれば、他にいくらでも殺し方なんてあったろう。
それこそよりハルヒに影響を与えるような、ミステリーに富んだ殺し方だってアリだったはずだ。キャトルミューティレーションとか。
……自分の内臓が何者かの手によって摘出される。外側は一切を傷をつけずに。すまん。想像した数秒前の俺が馬鹿だった。
想像力豊かなのはいいが、安易な想像は自分へのダメージに繋がるんだと実感したところで現在の状況を説明しよう。
夜の街はまだまだ真っ暗闇で、例の声のでかい自己主張に身の危険を感じた俺はマオさんや陸と逃げ出すことしばらく、
とりあえず川でも渡って北東のほうに回ろうかとせかせかしていたところ、見知らぬ女性に行く手を阻まれた。
ここで前述の物騒な話が生きてくる。俺たちの前に立ち塞がる女の方は、なんとこちらに向けて包丁の切っ先を向けているではないか。
いくら今が真夜中とはいえ、深夜勤務ご苦労様ですと前置きしてからおまわりさんに通報したくなるのが小市民の心ってやつだ。
「キョンさん。訊きそびれていたのですが、格闘技かなにかの心得はおありで?」
ない。と俺はスッパリ言い切った。俺が非常時であるにも関わらず素手でいたもんだからかね。
シャミセンもびっくりなこの喋る犬、陸は変わらずにこにこした表情で俺に包丁女の対処を委ねてくる。
そういや訓練された警察犬なんかは武装した犯人に対しても果敢に向かっていくと聞くが、こいつにそういうのを期待するのは無駄だろうか。
まあそれはともかくとして、いよいよもってヤバイ展開である。
暗がりのため顔はよく見えないが、どうやらドレスを着ているらしい女性は今にも俺たちに斬りかかってきそうな雰囲気だ。
陸が期待するように俺が彼女の腕に手刀を打ち込んで包丁を叩き落とし、流麗な動作で一本背負いに持ち込むなんざ逆立ちしてもできん。
ここは三十六系逃げるにしかず、言葉の意味は覚えちゃいないがとにかくすたこらさっさと退散するのが一番だろう。
俺は未だ酔いどれ気分が回復していないだろうマオさんに合図を送るべく、チラリとを後ろを振り向こうとしたのだが、
その瞬間、目の前にいた女性の頭が吹っ飛んだ。
夜目でもわかるくらい、派手にだ。
突然の出来事に俺は唖然とし、表情が変わらないのでどうかは知らないがおそらく陸も唖然としていた。
唯一、俺の後ろで千鳥足を刻んでいるかと思われたマオさんだけが飄々とした態度で声を発することができた。
「あー……ったく、いくらなんでも酔いがさめるってなもんよ」
飄々と、というのは語弊があるな。たとえるなら二日酔いのサラリーマンが渋々、頑張って再起しましたよー、ってな状態か。
マオさんは頭痛でもするのか片手で額を押さえつつ、もう片方の手にはこれまた物騒な長物を持っていた。
銃だ。それも世間一般の方々が連想する拳銃じゃない。両手で構えなければ撃てなさそうなキリンの首のように長い銃だ。
素人の俺にはこれがライフルなのかショットガンなのか判別がつかなかったが、マオさんがこれを持っている意味はわかる。
彼女は生粋のガンマニアだったのだ、などといった素っ頓狂な回答も用意してはいたが今はそれを繰り出せる余裕もなく、
眼前の銃刀法違反者が背後の銃刀法違反者に頭を派手に吹っ飛ばされたのだ、と誰の目から見ても明らかな解を提示しよう。
「キョンさん。これを見てみてください」
バーチャルゲームじゃあるまいし、ただの飲んだくれにこんな代物がいきなり撃てるはずもなく、
ましてや包丁を所持していたというだけの女性の頭を躊躇なく狙えるかと考えれば、半信半疑だったマオさんの経歴も納得できる。
そのへんを再確認するのは先延ばしにするとして、俺は陸に誘われるがまま、頭部を失い果てた女性のもとに駆け寄った。
そこには見るも無残な肉片と脳髄のコントラストが……広がっていると思っちまったんだがな、軽い気持ちで近づいたことを後悔せずに済んだ。
「なんだこりゃ」
「見るも明らかでしょう」
状況を改めて整理してみよう。今は深夜、辺りは暗がりだ。さっきは遠目で、女性の顔は窺えなかった。
突然の事態に動揺してたってのもあるんだろう。だが、今広がっている惨状を鑑みてみれば、なんてことはない。
こりゃあミステリーでもサスペンスでもなくホラーだった。そういう解釈がぴったり当てはまるだろう。
なにせ、マオさんが銃で木っ端微塵にし、俺と陸が今まさに見下ろしているそれは、死体ではありえない代物なんだからな。
「マオさん、これは……」
「考えるのは後よ。派手に鳴らしちゃったからねぇ、とりあえずここから離れるわよ」
「同感ですね。誰かが駆けつけてくる前に退散するとしましょう」
酔いからさめたらしいマオさんはたいへんごもっともな提案をし、その場からとっとと逃走なさった。
陸もそれについていき、俺といえば慌ててこれを追いかける三羽烏のオチ担当、というような構図だ。
この差から見て、驚きが一番大きかったのは俺なんだろう。ハルヒ絡み以外の非日常には慣れてないからな。
今この場での体験談を夏の怪奇特番にでも投稿すれば、おもしろいと採用されるかネタだなとそっぽ向かれるかのどちらかだろう。
ちなみに、俺は後者だと信じて疑わない。こんな話、谷口や国木田はもちろんのこと古泉に振ったって鼻で笑われるだろうよ。
一つわかっていることだけを言わせてもらうとするならば、とりあえずマオさんは殺人犯にはならなかったってことだけだ。
【C-4/一日目・黎明】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:陸@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
0:なんだったんだ、ありゃ?
1:この場から離れる。
2:SOS団との合流し、脱出する。
[備考]
※陸の思考
1:キョンたちについていく。
2:シズとの合流
【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM590(8/9)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)
[思考・状況]
1:この場から離れる。
2:キョンを守る。
3:仲間達と合流。
4:自身の名前が無い事に疑問。
【モスバーグM590@現実】
口径:12ゲージ 全長:1042mm 重量:3.6kg
モスバーグ社が開発したポンプアクション式散弾銃。アメリカ海兵隊などに使用されている。
工具なしで銃身を交換することができるのが特徴。
◇ ◇ ◇
煌々と輝く満月の膝元、それだけでは足りない、と整地された路面を照らす照明灯の連なりがあった。
端にシャッターの下ろされた格納庫を並べ、中央には滑走路を差別化するための白線と黄線が引かれている。
辺りを取り囲むのは草地だ。平坦に整えられた緑の絨毯は、思わず寝転びたくなるような魅力を秘めている。
若輩ながら世界の各地を巡り歩いてきた相良宗介にとって、飛行場という施設はさして珍しいものでもない。
対テロ極秘傭兵組織『ミスリル』所属の彼は、ここに置かれている飛行機はもちろんのこと、
AS(アーム・スレイブ)と呼ばれる人型機動兵器の操縦すら得意とする、専門家(スペシャリスト)だ。
時間の経過により一定の区画が消滅する、島を舞台にしているにも関わらず脱出は不可能、
そういった信じ難いルールの根底を暴くべく、調査に立ち寄ったのがこれまでの経緯。
実際に飛行機を飛ばしてみれば今の不可解な状況が一挙に解明できるだろう、と考え飛行場に立ち寄ったまではよかったのだ。
結果から言って、宗介の打ち立てた計画は第三者の妨害を受けてしまった。
彼は今、望まぬ交戦状態にある。
戦地は滑走路のど真ん中。深夜とはいえ、照明がいくつもついているので活動するには不自由ない。
おかげで、飛行場を訪れてすぐに遭遇し、顔を合わせるなりこちらに襲い掛かってきた者の姿がよく見える。
背丈は同等、知人ではありえず、性別は女、ナイフを得物とし、停戦の様子はなし、こちら側からの警告も効果なし。
制圧は容易だった。しかし宗介はある見極めのため、即座の撃退を選ばず、三分半ほどを対象の観察に当てた。
“これ”はいったいなんなのか、という疑問を解消するべく、相良軍曹らしからぬ戦いが続く。
基本的には女が攻撃し、宗介がそれを寸前で回避するという流れが延々と繰り返されるだけだ。
攻撃方法はパターン性に乏しく、手に持ったナイフによる振り下ろしや振り上げ、稀に突きなど。
それ以外の武器を使ったり、ナイフを捨てての肉弾戦に持ち込もうという気配はまったくない。
馬鹿の一つ覚え、としか言いようがないほどに愚かしい、アマチュア以下の戦い方が宗介の目の前にあった。
やがて十分だと判断したのか、宗介は軽いため息の後、所持していた拳銃を構え女に向かって発砲した。
銃弾が女の額に命中し、決着する。
人間ならば確実に死ぬ急所を狙ったが、宗介は女が倒れても銃を下ろさず、警戒に努めた。
しばらく待ち完全に反応が見られないと判断するや否や、宗介は被弾した女の体を抱き起こし念入りに調べ始めた。
身につけていたドレスを強引に破き、凹凸のハッキリした体の質感を確かめる。
予想していた通りの感触が手の平に伝わり、さらに全身の重量もそう大したものではないと確かめてから、
宗介は女の口内へと指を突っ込み中を探る。同時に、銃弾が命中した箇所の損傷具合も、間近から見て確かめる。
傍目にも怪しい調査が終わり、宗介は悩ましげな表情を一つ浮かべた。
どう対応したものか、判断に困る。
こういった不可思議な事象は戦場というよりもむしろ、陣代高校での生活の中で多く見受けられただろうか。
そのときは警護対象でもあり親しき友人でもある級友、千鳥かなめが代わって対処に当たってくれたりもした。
「リリア、君の意見を聞かせてくれないか」
不測の事態により今は離れ離れになってしまった少女を思い出すと同時、
つい先ほど前に関係を築き上げた同行者の存在も思い出す。
格納庫の裏で宗介の戦闘を見守っていた彼女、リリア・シュルツは険しい顔を浮かべながら歩み寄ってくる。
宗介のすぐ傍に横たわる女の亡骸を見て、リリアはその顔をさらに顰めた。
「……まさか幽霊の仕業!? とでも反応すればいいのかしらね。わたしにだってわかんないわよ」
「そうか。俺は最初、首謀者グループが差し向けてきた刺客かとも思ったんだが。調べてみればなんてことはない」
宗介とリリアは互いに目配せした後、もう一度女の亡骸に目を向け、その揺ぎない事実を再確認する。
「まったくもって不可解だ。これは機械でも、ましてや人間でもない。単なる“マネキン人形”だ」
【B-5/飛行場/一日目・黎明】
【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(ランダム支給品0〜2個所持)
[思考・状況]
0:ひとりでに動くマネキン人形……? ホラーだわ。
1:それはともかくとして、飛行場を調べたい。
2:宗介と行動。
3:トレイズが心配。
4:アリソン、トレイズ、トラヴァスと合流。
【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
0:不可解ではあるが、ただのマネキンに用はない。
1:飛行場を調べる。飛ばせる飛行機があるようなら、空からこの会場を調査してみたい。
2:リリアと行動。
3:かなめとテッサとの合流最優先。
◇ ◇ ◇
会場東部に聳え立つ背の高いデパート、その地上階の中ほどに、一連の事件の黒幕は潜んでいた。
全身を白の長衣で包む美麗の容貌は、過ぎ去る時刻を思い深くため息をついた。
辺り一帯は玩具売り場。御崎市に巣くっていた頃、アジトとしていた環境となんら変わりない。
だというのに、今の自分は酷く見劣りする存在になってしまったのだと、柄にもなく落胆する。
種族の壁を越えて対等に扱われる……ある種、嬉しきことではあった。が、彼女がいなければそれも無価値だ。
「結果は出た。幕を下ろし、甘んじてこれを受け入れよう」
落胆も一瞬、“狩人”フリアグネは表情を毅然としたものに変え、今しがたこの階に踏み入ってきた男に語りかける。
「報告を聞こうか、“少佐”」
その呼称は、人間を名前で呼ぶという行為に慣れていないフリアグネにとって、極めて都合のいいものだった。
軍人の階級など、“紅世の王”であるところのフリアグネと比せば毛ほどの意味もありはしない。
上からでも下からでもなく、この場は単なる呼び名として、一時的同志である“少佐”の返答を待つ。
「管轄外の三体に関しては時間が結果を告げています。私が追った一体についても同じく。“舞踏会”はこれにてお開きです」
レジカウンターに腰を落ち着かせるフリアグネの前に立ち、“少佐”ことトラヴァスは報告を遂げた。
「まさか、全滅とはね。ちなみに“少佐”、君が観察すると言った一体は、どんな人間にやられたんだい?」
「少年でした。歳は十代の半ばか後半かといったところです。鈍器で一撃。威力はそれほど大したものではありませんでしたが」
「つまり、耐久力もその程度だったというわけか。“少佐”、君はその少年を最終的にどうしたんだい?」
「特になにも。今回は観察に努め、不干渉を貫きましたよ。急いては事を仕損じますし、隙もありませんでしたから」
「もっともだ。だからこその“舞踏会”だったんだがね……私としては後味の悪い方向に転がってしまったようだ」
フリアグネは悔しそうに歯噛みし、カウンターから腰を上げる。
対象年齢一桁ほどの玩具が並べられた棚と棚の間を、考え事に耽りながら数歩、足で刻む。
“常ならざる”今だからこその、人間らしい、いや人間の“ような”仕草。
「『玻璃壇』でもあれば、この場に留まる意味も大きいが……彼女たちが偵察にも使えないとなると、盤面はまた厳しくなるな」
「人の世では、“狩人”とは狩りをする者のことを指します。時機に夜も明けるでしょうし、出撃するなら頃合かと」
「それは人間で言うところの軍略かい、“少佐”? 私としての正攻法は別にあるのだが、いつまでも渋ってはいられないな」
考え込むフリアグネの決断を、トラヴァスは表情を変えぬまま待つ。
時計の針は四の数字より南に傾き、窓の外はほんの微かにだが、白っぽい光が見られ始めた。
「出かけようか“少佐”。『万条の仕手』に法衣のお嬢ちゃん、君、そして彼女たちを打ち破った人間。
世界に対しての認識が隔てられていた以前では考えられなかったが、今は実際に交流を図るべき時なんだろう。
蒐集家として自ら集め歩く……なにも珍しいことというわけではないさ。君という頼もしい同志もいることだしね」
程なくして、“狩人”フリアグネが百貨店からの出立を決める。
同志と呼ばれたトラヴァス“少佐”は、首肯して彼の後に続く。
殺し合いに乗った二人が、“舞踏会”を終えて“狩り”に出向く。
【C-5/百貨店・玩具売り場/一日目・早朝】
【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(肩紐片方破損)、支給品一式、不明支給品1〜2個
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:当面、トラヴァスと組んで他の参加者を減らしていく。ただし、トラヴァスにも警戒。
2:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
3:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。
◇ ◇ ◇
「そんな、まさか……フリアグネの“燐子”!?」
両儀式と別れた坂井悠二は、警察署からの謎の電話に応えるべく、南西へとひた走っていた。
その道中、彼の行く手を阻むように現れたのが、ドレスを纏った表情のない女――のマネキン人形である。
周囲は暗がりのため、人の目ではそれが、一瞥しただけで非人間であるとは気づけなかっただろう。
だが、この坂井悠二という少年は違う。
かつての夢想家が宣布しようとした『この世の本当のこと』を自らの消滅と共に認知し、
自身が『零時迷子』という宝具を宿したトーチ、“ミステス”として在ることを自覚した。
ゆえに、見えるのだ。
己が人間として暮らしてきたそれまでの世の中と、“紅世”との明確な境界線が。
命とも言うべき“存在の力”を視覚化したものであり、それが人間でないという確たる証拠でもある、『炎』が。
(あのときのマネキンと同じ……それに、炎の色も。僕の記憶違いじゃないとすれば、まず間違いない)
目の前に立つ女の胸部では、薄い白の色をした炎が、今にも消えそうなほど儚く燃えている。
悠二が初めて遭遇した“紅世の徒”である“狩人”フリアグネもまた、炎の色は薄い白だった。
炎が同色の“徒”は、基本的にはありえないと聞いている。もちろん、色彩に微かな違いがあるのかもしれないが。
その可能性を含めて考えてみても、人形型の“燐子”を使役することは、フリアグネの得意とする分野だった。
つまり、このマネキン人形はフリアグネの“燐子”である可能性が極めて高いのだ。
フリアグネは既にシャナの手によって討滅されており、名簿にも掲載されていなかった、という点を無視すれば。
(考えるのは後だ。相手は“燐子”、そしてこの状況下……やるしか、ない)
マネキン人形は手に刃物らしきものを握っている。ここで逃走を図れば他の人間に標的を変えるかもしれない。
敵と相対して数秒、悠二は相手が襲い掛かってくるよりも前に考えをまとめ、これの撃退に打って出る。
デイパックから取り出したのは、自身の身長の倍ほどはあろうかという長い鉄棒だ。
これは宝具『メケスト』。かつて御崎市を訪れた調律師、『儀装の駆り手』カムシンが所持していたものだ。
棒術の心得などまったくない悠二ではあったが、これが宝具であり、自身“存在の力”をある程度扱える以上、下手な武器よりも心強い。
悠二が『メケスト』を構えたところで、マネキンの“燐子”が一直線に駆けてきた。
真っ向からの突撃は反撃に好都合でもあり、相手の本気が正面から伝わってくるので脅威でもある。
構える鉄棒は決して軽くはない。下手に振るうのは愚策、ならば攻撃法は一つしかない、と瞬時に判断を下す。
軌道を変える素振りがまったく見られない“燐子”の突進に対し、悠二はあえて前に踏み出し、『メケスト』を突き出した。
先端が狙い、穿ったのは、“燐子”の喉下である。
驚くほど綺麗に命中した。と悠二が思うと同時、“燐子”が跳ね返るように後ろへと倒れる。
受け身を取ることもなく地面へと激突し、衝撃で首が取れ、胸元に宿っていた存在の炎は一瞬で掻き消えた。
「――えっ?」
思わず、そんな声が漏れる。
弱い――“徒”やフレイムヘイズなどとは比べられず、そして人間よりも容易く、“燐子”はほんの一突きで壊れてしまった。
元の炎からして見た目脆弱ではあったが、それにしてもあっけなさすぎる。
悠二はなにかしら罠があるのではないか、と存在が希薄になったマネキンを棒で小突くが、当たり前のごとく反応はない。
「いやあ、お見事」
呆然と“燐子”だったものを見下ろす悠二、その背後から、落ち着いた男性の声がかかる。
咄嗟に振り返ると、そこには眼鏡をかけた三十代半ばほどの優男が、こちらに銃口を向けつつ微笑んでいた。
「素晴らしい一撃だ。いや、褒めるべきは判断力と度胸のほうかな。なんにせよ、ただの子供として接することはできないね」
――人間だ。
悠二はまず、目の前の存在が“徒”でもフレイムヘイズでもトーチでもない、純正の人間だと目を凝らし判断する。
その上で、慎重に問うための言葉を選択した。
「……あなたは?」
「本名は教えられない。あえて名乗るなら“少佐”か。それとも、“フリアグネ様”の仲間といったほうがわかりやすいかな?」
――フリアグネ。
この世の人間が口に出すには風変わりすぎるその名を耳にし、悠二は今一度足下のマネキンのへと目をやる。
状況証拠は十分すぎる。マネキン型の“燐子”、“少佐”なる男の発言内容、揃いすぎている。
やはり、この椅子取りゲームに討滅されたはずの“狩人”フリアグネが存在しているのだ。
信じがたくはあるが安易に否定もできない事実に行き着き、悠二が険しい表情を浮かべていると、
「とりあえず手を上げてくれないかな? この銃は警告の意味もあるんだがね」
男が優しげな口調で降伏を促してきた。
悠二は表情を変えず、毅然とした態度でこれに応える。
「……手は上げません。上げる意味がない」
「それは銃が怖くない、ということかな?」
「いいえ、違いますよ」
悠二は、男の目を見ている。
黒光りする銃口ではなく、男の目だけを見つめ言い放つ。
「僕を撃つつもりなら、声をかけるより先にいくらでも機会があったはずだ。
たとえ僕を尋問することが目的だったとしても、邪魔になる手足の一本や二本、撃ち抜いてから声をかければいい。
フリアグネの仲間を名乗るほどの人間なら、それくらいはしてのけるのが普通でしょう? それに、なにより……」
――あなたの銃からは、“殺し”が感じられない。
悠二は、目の前の男にこちらを殺害する意はないと確かに見極め、だからこそ冷や汗の一つもかかずに相対していられた。
悠二の返答に対し、男は無言。いや、無反応だ。銃口はぶれず、引き金も絞られず、電池の切れた玩具のごとく停止してしまった。
さあどう出る、と悠二が唾を飲む――その瞬間、銃声は鳴った。
◇ ◇ ◇
(どことなく“王子様”に印象が似ているようだが、これはこれは……トレイズ殿下よりも頼もしいくらいじゃないかな?)
内心苦笑しながら、“少佐”ことトラヴァスは硝煙を上げる銃をより強調するように持ち直した。
眼前の少年は、さすがにびっくりした表情を浮かべている。が、恐怖で竦んだりしないところがますます好印象だ。
「勘違いしないでもらおうか。用があるのは、君の口だけじゃない。だから下手に傷つけることを避けたまでさ」
銃には消音機をつけていたため、音での威嚇は望めない。なので、少年の足下のマネキンを撃ち抜かせてもらった。
「君はその人形のことを知っている風だったね。“フリアグネ様”の名も、すぐに出てきた。僕はそれについて知りたいのさ」
マネキンを前にした少年の反応。そこが現在の行動に至った分岐点であり、トラヴァスにとっての幸福だった。
発言の内容からして、この少年はフリアグネを知っている。さらには、フリアグネが秘した“紅世”に関する情報もおそらく。
「訝しげな顔だね。答えやすいようにヒントをあげようか……僕は“フリアグネ”の仲間だ。いずれ、裏切るつもりだけどね」
トラヴァスに殺意がないことを容易く見破ってみせたこの少年、はたしてこの言動からどこまで推察することができるか。
綱渡りを楽しむような童心は持ち合わせないのが理想だったが、将来有望な若者に対すると、つい悪い癖が出てしまう。
「互いに背中には気をつけるべき関係なのさ。そんな僕が今最も欲しいものは、なんだと思う?」
「……フリアグネ自身が隠し、あなたも知らない、僕という第三者だけが知っている、情報ですか」
トラヴァスは鷹揚に微笑み、頷く。口には出さないが、大した少年だ、と精一杯の賛辞を秘めて。
「察しがよくて助かるよ。僕はいつかフリアグネを出し抜くための情報が欲しい。特に弱味を握りたい」
「僕がフリアグネについて知っていることは、あまり多くありません。それでも、助かるための行動にはなりますか?」
内容次第さ、とトラヴァスは返した。
少年は悔しそうに歯噛みし、そして訥々と語り出す。
――トラヴァスが教えられなかった、“狩人”フリアグネの情報。
――フレイムヘイズと対したときの戦闘スタイルや、得意な武器。
――人間関係、性格等、そういった彼に囚われた者からの、印象。
――そして、この『坂井悠二』という少年の素性も、それとなく。
すべて有意義なものとして捌き、吸収する。
やがてトラヴァスは、銃を下ろし自ら悠二の言葉を切った。
「なるほど、彼は宝具を扱うことに長け、そして戦略家でもあるのか……同時に、君にも生かす価値が見つかった」
銃を下ろしても、悠二は警戒を解かない。表情に緊張を保ったまま、トラヴァスの言葉の真意を探ろうとしている。
「その、フリアグネを討滅したというフレイムヘイズ。彼女と彼が共倒れになってくれれば、僕としてはこの上なく都合がいい」
トラヴァスは悠二に、一度フリアグネを討滅――殺したという少女、シャナを連れてくるよう指示を出した。
ただでさえ“魔法遣い”のような異能を有する王様だ。自ら討ち取るよりも、専門家の手を借りたほうが早い。
「フレイムヘイズにとって、“紅世の徒”は見過ごせない存在なんだろう?」
シャナという存在がフリアグネを討つ、この行動についての正当性は十分にある。
だからこそ誰に疑われることもない、トラヴァスの見逃しが、単なる甘えでないと知らしめることができる。
悠二は単なる足、シャナという災厄を呼び、フリアグネをそれに巻き込ませるための――だからこそ、この場は見逃すのだ。
「さあ、もう行くといい。僕の気が変わらぬ内に。次はそう、そのシャナという子も一緒に会えるといいね」
それが本心でなく、建前だとしても。
悠二本人が、どこまで了解しているか知れずとも。
トラヴァスは今はまだ、“フリアグネ様”の恩恵に縋る浅ましい人間として。
去っていく坂井悠二の背中を、激励の一つもなしに見送るのだった。
【C-5/百貨店付近/一日目・黎明】
【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、強い不安
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:シャナ、吉田一美、ヴィルヘルミナを捜す。
0:あの人は、いったい……。
1:“少佐”の真意について考える。
2:警察署を目指す。
3:他の参加者と接触しつつ、情報を集める。
[備考]
※清秋祭〜クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻〜14巻の間)。
※警察署に殺し合いに積極的な殺人者がいると思っています。
【メケスト@灼眼のシャナ】
『儀装の駆り手』カムシンが持つ鉄棒型の宝具。長さは三メートルほど。
本来はカムシンが『瓦礫の巨人』で儀装した時に使う武器で、鉄棒は巨大な鞭の柄となる。
調律時のマーキングなどにも用いられるが、ただ単に“存在の力”を込めても効果が現れるわけではない。
◇ ◇ ◇
突如として始まった、『粗悪品共の舞踏会(ダンスパーティ)』。
フリアグネが主催を務め、トラヴァスがそれに乗じた、不可解な催しの真相を曝け出そう――。
まず、同盟結成後に場所を百貨店へと移した二人は、婦人服売り場で四体の“燐子”を精製する作業に入った。
制作者はフリアグネ、“燐子”とは彼が“存在の力”を物体に注ぎ込みむことで完成する、己の命に忠実な下僕のことである。
この“燐子”の精製はフリアグネが“紅世の王”として得意とする技術であり、素材は人形を好むという。
だからこそ実験場に婦人服売り場を、素材に女性型のマネキンを選んだのだが、出来上がった“燐子”はまさに粗悪品だった。
自我を持たない。“存在の力”が希薄。動きが鈍い。命令通りに行動はする。スペックは込める“存在の力”に見合わない。
そのときのフリアグネといえば、酷く憤慨したものだ。封絶が使えない“常ならざる”時とはいえ、異能の劣化は激しすぎた。
もちろん、トラヴァスにとっては都合がいい。無尽蔵に兵隊を量産できる能力など、オーバースキルにもほどがある。
フリアグネは作り出した“燐子”が実際にどの程度戦果を得るか試すため、彼女たちを外へと放逐した。
与えた命令は『人間を見つけたら襲え』、『どんなことがあっても四時までには戻れ』という簡素なものだ。
時間通りに戻ってこれたならば、まだ使い道は――『存在するかもしれないマリアンヌ』を探すくらいの役には立つ。
時間通りに戻ってこれなかったならば、襲った人間に返り討ちにあったと判断し、頼るには危うき力だと判断を下す。
その際、トラヴァスは自らフリアグネに申し立てたのだ。この“燐子”の戦力、自らの目で見極めたい、と。
敵情視察かい、とフリアグネはトラヴァスの狙いを正しく読み取ったが、これにはあっさりと許可を出した。
トラヴァスは四体の“燐子”の内一体を追い、単体での有用性がどの程度のものかを観察、報告するという取り決めで。
そして、トラヴァスは“狩人”フリアグネを自分よりもよく知る少年、坂井悠二に出くわした。
幸運な出会いだった。おかげでトラヴァスは、フリアグネに関する有益な情報を入手することができたのだから。
名乗ってはいないが、“少佐”という人間がフリアグネの傍でなにをしているのか、彼はある程度察してくれたと思う。
確信などがあるわけではないが、短い交戦で垣間見た彼の洞察力、観察眼は、十分評価に値するものだ。
きっと、“少佐”の顔を覚えても僕の不利に働くような動きはしまい、とトラヴァスは踏んでいた。
すべてを明かさず、真相を彼の洞察力に委ねたのは、トラヴァスが“主催者”と定める者たちに悟れないためだ。
彼らとの接触を望むというのであれば、トラヴァスは誰の目から見ても“ゲーム肯定派”でなくてはならない。
このゲームの推移を、彼らがなんらかの手段で眺めているだろうことは明白。ゆえに、スパイ活動は徹底しなければならなかった。
百貨店に帰ってきてみれば案の定、トラヴァスが追わなかった他三体も、定時通りに戻ることはできなかったようだ。
殺意を持った自動人形という存在は怖いものではあるが、場慣れした人物ならば冷静に対応するだけでどうとでもなる。
実際に観察して、安堵すると同時に判断した。フリアグネの“燐子”に、このゲームの参加者を殺すことは無理だ。
フリアグネの持ち札の中で、厄介なカードが一枚潰えた。そう解釈しても問題はなく、当人も残酷な現実を受け入れたようだ。
百貨店に篭城して“燐子”に参加者たちを殺させていく――というトラヴァスにとって不都合な札の切り方も封殺された。
フリアグネは再び実地へと降り立ち、その身で戦いに赴くことを決める。
悠二から聞いたフリアグネの戦闘スタイルを踏まえれば、宝具不足の今、彼はそれほどの脅威にはなるまい。
だとすればトラヴァスとしても御しやすく、被害も最小限に納めることが可能だ。
(それとは別に、気になることもあるんだけれどね)
引っかかるのは、坂井悠二の言にあった『フリアグネはシャナに討滅されたはず』という部分。
悠二の認識によれば、このフリアグネはシャナという名のフレイムヘイズに一度殺されているのだ。
しかし当の本人からそんな話は一切されておらず、シャナという名前も聞き及んではいない。
明らかな情報の、あるいは認識の齟齬。どちらかが間違えているのか、嘘をついているのか、隠しているのか。
もしくは、どちらも正しいことだけを言っている可能性とて、十分にありうる。それが“常ならざる”という考え方だ。
(仮にフリアグネが幽霊のような存在だとしても、目の前で動いている以上、やることは変わらないさ)
今まさに玩具売り場から離れようという“狩人”フリアグネの背後、トラヴァス“少佐”は決意も新たに一歩を踏み出す。
いつもどおりの“汚い仕事”だ。“常ならざる”仕事場だとしても、初心を忘れずにいこう、と。
【C-5/百貨店・玩具売り場/一日目・早朝】
【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個、フルートの予備マガジン×3
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと『同盟』を組んだフリをし、彼の行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。
135 名前: 粗悪品共の舞踏会 ◆LxH6hCs9JU [sage] 投稿日: 2009/05/27(水) 22:51:50 cRs4QRM.0
投下終了しました。
多少型破りではありますが、フリアグネ、トラヴァスのみ時間帯を【早朝】とさせていただきました。
毎度申し訳ありませんが、お手すきの方がいらしたら代理投下お願いします。
----
代理投下完了
支援感謝
投下、代理投下乙です。
うわあ……。この人数この広さを予約して何やるかと思えば、北東の広い範囲全域での遭遇戦×4とは!
これは凄い。それぞれがそれぞれにいい味出してる。
何よりトラヴァスが凄いなあ。
その一方で、フリアグネはフリアグネで怖いし。理不尽な兵士増産能力はないと明かされたけど。
これはGJ。見事な采配でした。
燐子を破壊する光景を他人に見られたら誤解が広まる、というフラグが立つかな?
キョン・マオ組、アリソン・シズ組は同エリアに他の参加者もいるが…
フリアグネ・少佐組の、“待ち”から“狩り”への移行も、周囲にどの程度影響を及ぼすか
乙でしたー
投下GJ! これはまた……凄い。
大勢に迷惑をかけながらのフリアグネの実験、というコンセプトもだが
それを書ききってしまう筆力に発想力、そして真実を徐々に明かす手法が素晴らしい!
ううむ、読み始めた瞬間から引き込まれてしまった……。
さて、実験結果も発表されたところでフリアグネは狩りを開始。
無作為に選ばれていたあの獲物たちがどう動くのか。
そしてトラヴァスの計画や如何に。
どこも続きが気になるなぁ……うーん、巧い!
そろそろ本格的に人死にを出した方がいいんじゃないだろうか
死者が少な目かなとは思うが、まだ下準備段階なのかなとも思う。
そして予約が二件。
手乗りタイガー一行とテッサ。
エルメスハーレム。
しかしエルメスはハーレムでも関係なさそうだな
男だろうが女だろうが秀吉だろうがいつも通りってイメージ
アラストールが居るじゃないか!w
しかし展開に指図する奴はなんなんだろうな
気に入らないなら自分で書けよ
ここの書き手さん達はクオリティ高いからなぁ
楽しみだ!
お待たせしました。投下します。
"天壌の業火"アラストールのフレイムヘイズ、"炎髪灼眼の討ち手"シャナ。
彼女がごく普通の一般人らしき少女と超絶女顔の秀吉、そして喋るモトラドに出会ったのは皆もご存知の通り。
今回の話は、それ以降に彼女達がどう動いたかという結果を描くものである。
◇ ◇ ◇
さて、現在のシャナ達の状況であるが、彼女達は地図曰くE-1と呼ばれるエリア、そこにある一つの民家で体を休めていた。
何もサボタージュに走っているわけではない。最初に決めた"積もる話は民家でする"という指針も、実は既に終了しているのだ。
その内容は後に後述するが、彼女達三人の会話はそこまで長引くものではなかったのである。
「アラストール……」
「うむ」
そして対話終了後。櫛枝実乃梨と木下秀吉が室内にいるのを残し、シャナは玄関を出てすぐの勝手口近くに座っていた。
そうして時折吹く風に髪を揺らしつつ壁に寄りかかっている姿は、最初に櫛枝実乃梨らに見せた毅然とした姿とは少し離れている。
というのも、それは最初に出会ったときと民家で話したときの二人の"願い"によるものだった。
民家で何かをしているであろうあの二人の気配を背中の壁越しに感じつつ、シャナは回想する。
「やっぱり、私は……」
◇ ◇ ◇
「でででででわっ! "これからどうするか決めちゃおうぜ大会"スタートじゃー!」
「……何そのテンションの高さ」
「いやいやだって先生、こんくらい高めとかないと後々しんみりしそうで困るぜよ」
「別に困らない。状況が状況だし」
「シャナの言う通りだ。場の空気作りなどはまず置き、指針通りに始めねば」
「そうじゃな。エルメスも待っておることだしのう」
「んだねー」
彼女達の邂逅後、民家にて。
このような混沌具合を合図として、遂に腰を据えての対話がスタートした。
中に運び込むことが容易ではなかったエルメスには少し外で待ってもらってのこの企画。
"言葉のキャッチボールもままならない"という展開にだけはならぬように注意しつつ。
そんなこんなで"これからどうするか決めちゃおうぜ大会"、スタートである。
まず彼女達は改めての自己紹介ついでに、自分達の住む街についての話に花を咲かせた。
相手がどこから来た人間で、どういう事をしていたのかという次元から、相互の理解を深めようと思い立ったのである。
だが、そこには彼女達の予想も超える非日常への扉が、大口を開けて待っていたのだった。
「"紅世"……? 先生、それヤバいの? ヤバいッスよね?」
「"徒"……"トーチ"……うーむ、えー……」
まず第一の扉は、シャナが持つ情報であった。
だが、まぁ、当然だ。元々この世界は"フレイムヘイズ"のことも"紅世"のことも知らない人間が大多数なのだ。
というより、現代社会ではもはや彼ら彼女はなるべく知られてはいけない存在である。
仕方が無いことではあるのだが、どうにも状況は芳しくない。
「今は全部を理解しなくても良い。後々また説明するわ。色々ショックはあると思うけど、事実よ」
「我々は"その様な世界"に潜む住人である……と理解するだけに留めてくれて良い」
だがこのシャナとアラストールのフォローをどうにか飲み込んだようで、二人はようやく落ち着いた。
先程までは脳味噌が「あばばばばばばば」と悲鳴を上げているかのような混乱ぶりだったが、これは助かった。
自分達の住む世界が知らぬ内に狩場となり、人が陰で喰われていると知った彼女達の心中たるや、大変なものであったろう。
ストレートに言い過ぎたことを少しだけ後悔したが、まあ、結果オーライ。
次は櫛枝実乃梨である。
彼女に関しては、別段気に留めるようなことは――あくまでシャナにとっては、だが――無かった。
ごく普通も普通。自分のような"闘いに身を焦がす生活"とは全くの無縁。
親友である"大河"や"高須くん"や"あーみん"など――秀吉と違い、どれも名簿にあった名だ――と青春を謳歌する日々。
勤労に汗を流し、ソフトボールに汗を流し、遊びに汗を流し、勉強にもそれなりに汗を流し、という生活。
緒方真竹や池速人といったクラスメイトの様に、学生生活を十分に満喫している少女であるというだけ。
いや、闘争に巻き込まれた事すらも無い彼女は、先に上げた二人よりも更に非日常とはかけ離れた存在であると言えよう。
では木下秀吉の方はどうか。
こちらも、話の最初辺りを聞く限りはこちらも似た様なものであった。
と、思っていたのだが。ここで第二の扉発見。
なんと気付けば、きちんと少しずつおかしな話になっていってしまっていたのだ。
正に秀吉の通う"文月学園の特殊な特徴"の話題に入った瞬間だ。
その時既に話を聞く女子二人とペンダント一つは、シャナの周辺とは違うベクトルの非日常に引きずり込まれていた。
決して血で血を洗うような命の削り合いが行われているわけではないらしい。ないらしいのだが。
「終わりの無いテストかー。だが俺としてはその召還獣ってのが一番気になるんだぜ!」
「召還獣……話を聞く限り"燐子"とは違うし……」
「そういった"自在法"ではないのか?」
「なんというべきかその、ワシらの学園は少々……いや、かなり特殊じゃからのう」
どうやら秀吉の学園では、シャナの知る燐子にも似た"召還獣"というものが深く関わっているらしい。
召還獣は一人一つ。学園内で活動する学生なら誰でも召還が可能。更にリスクは皆無という大盤振る舞い。
更に、召還主が受けたテストの得点に比例した戦闘力を有するそれは、主の代わりに"敵"の召還獣と戦うのだそうだ。
そしてそんな平和な戦いを、わざわざ戦争に模した形式で行う下克上もその学校の大きなイベントであるらしい。
下克上の正式名称は"試験召還戦争"。盆と正月が一緒に来たような騒がしさが体感出来る、クラス対抗の大戦争である。
「戦いに使用する、主を模した小さな獣……ますます"徒"の領域ね」
「あの"大戦"のような物騒なものでないのが救いではあるのだがな。しかし、やはり"自在法"か?」
「わからない。その学校自体に"自在式"を組み込んで……でも、そこにいる人間の"存在の力"をそうやって使うと……」
「フレイムヘイズが駆けつけぬわけが無い。もしや"ここ"とも深く関係が……」
「そ、そろそろ良いかのう?」
秀吉の言葉で、自分とアラストールが二人に置いてけぼりを食らわせた事に気付いたシャナは「うん」と頷き、会話を中断した。
そしてそのまま秀吉に対していくつかの質問を投げかけるが、生憎と得られた答えはどうも的を射ないものだった。
どうも、どんな疑問も最終的には秀吉曰く"そういうもの"であるらしい。
更に突っ込んで言えば、学校の謎のオカルト施設がそれを可能としている、というだけ。
生徒にはこれがどういったシステムで、どういう風に稼動されているのかは知る由も無い。上が秘匿を貫いているそうだ。
"もしやこの場所に関連した何かが?" "自分達も知らぬ謎の自在法が?" "何か高名な自在師が関わりを?"
そういった疑問が浮かんでくるが、生徒である秀吉自身が知らぬとあれば仕方が無い。
「この街の秘密に手が届くかもしれなかったのに」と惜しんだところで、そろそろ諦めなければ。
「あ、ところでそれ、今召還出来るの? 出来るんなら見てぇー、超見てぇー!」
と、ここで実乃梨がトスを上げ
「いや、無理じゃな。学園に勤務する教師の許可がないと召還出来んシステムになっておる」
「ありゃ、残念」
られなかった。
こうして、そんな話題を最後に互いの身の上の説明は終了。二つの落とし穴をギリギリで回避しつつ任務完了だ。
そんなこんなで皆がどういう存在なのかが判明したところで、流れは次の議題である"これからの指針"に移る。
このような訳のわからない場所に連れて来られたのだ。各々何か望みはあるだろう。
とは言ったものの、実はこちらに関しては別段真新しいことがあるわけではなかった。
実乃梨は変わらず仲間を求めていたし、秀吉の同級生と再会したいという願いも変わらずだ。
そして何よりシャナ自身とアラストールの指針にも何も変化は無い。
この奇妙な街の調査を進め、そして大切な存在を一人も欠けさせること無く脱出したい。
三人の出会いからは一寸ほどの時間しか経っていないのだから、それは当然と言えば当然か。
後は、シャナの心次第である。
「先生!」
「ん……」
「まぁ、お主が付いていてくれればワシらも確かに安心出来るのじゃが……」
「えっと……」
そう。問題は、シャナの、心。
ここでアラストールの「……状況が状況だ。異例の事態とはいえ、判断を見誤るなよ」という言葉が、彼女の脳内で蘇る。
判断。それは彼女がここで"単独での行動を取る"か"彼女達に付き合う"かの選択の事に違いなかった。少なくとも、今は。
櫛枝実乃梨と木下秀吉が、こちらを見ている。
ここで彼女達と別れての孤高の道を選択した場合、調査もある程度は自由に行えるし、自分の判断で動くことも出来だろう。
自分の匙加減で世界の調査と仲間の捜索を平行し、もし戦闘をせざるを得ない状況に陥った場合でも融通を利かせることが出来る。
護る者がいない、意見の違う者がいないというのはそういう事だ。だからこの様な選択もある。
だが問題は、今回出会った友好的な二人がフレイムヘイズの様に戦闘力を有した存在ではないと言うことだ。
このまま自分が離れて行動すれば、知り合ったばかりのこの少女達はどうなるか。
皆に渡された名簿の中にも、決して危険な"紅世の徒"がいないとも限らないのだ。
何をしてでも最後まで生き残れ、と命じられるというこの奇妙奇天烈な状況。そして封絶も張れぬ不可思議な現象。謎の知らぬ街。
疑問は尽きない。そして、嫌な予感も尽きない。こんな場所に力を持たぬ人間が放り出された場合、どうなるか。
だからこそ、もう一つの選択肢が用意されている。
彼女達と共に行動するならば、自分さえ失敗しなければ先の懸念は晴れるだろう。
かつての坂井悠二の時のように、自分が力を振るうことで護るべきを護る。そんな道。
だが、これは単純なようで実に険しい道だ。この状況下、悠二の時の様に上手く立ち回れるかというと、絶対とは言い切れない。
封絶等の一部の技術も使えない。自分を拉致する工程で人類最悪が奪ったのか落としたのか、我が愛刀も今はこの手には無い。
更に自分の好きな行動も取り辛くなってしまう。いざとなった時の対処から始まり、これからの行動方針など、色々と。
自身の指針を優先し、別れるか。人を護る道を選び、縛られるか。
これは今後に関わる二者択一。
(アラストール……"良い"?)
(既に解っておるのだろう? ……決めるのは我ではない)
さて、答えは。
◇ ◇ ◇
「やっぱり、私は……見捨てられない」
「そう、か。茨の道であるという認識は? 覚悟は?」
回想は終わり、再び舞台は現在へと戻る。
「してる。それでも、やる。覚悟は、ある」
「そうか。ならば我は何も言うまい……だがそうだな、一つ。"決め手"は何だったのだ?」
結局シャナは後者を選択した。一歩間違えれば危うい目に遭うかも知れぬ道を、彼女は選んだのだった。
それは御崎市に住むクラスメイト達を護る様な、多少勝手が違おうとも難儀な道を選んだのだった。
もしもこれが悠二に出会う前のシャナであったなら、"ただのフレイムヘイズ"であったときなら、どちらを選択しただろうか。
恐らく、前者だと思う。単純に自分の行動に支障が無い道を選んでいたと思う。
勿論今でも、自分が自由に動いたいのであればそれが非常に"理に適ってはいる"ことはわかっている。
この状況下では、"徒"との困難な戦いすら知らぬような普通の者を護りつつ、戦いつつ、自分の決めた指針通りに進むのは困難。
故に前者も選択肢としては十分に価値があった。の、だが。
「櫛枝実乃梨と木下秀吉にも……友達がいて、家族がいて、もしかしたら好きな人もいるのかもしれない。
そう思ったら、あのまま離れるのはなんだかなって……そう、思った。ごめん、付き合ってくれると嬉しい」
それでも、彼女は選んだのだ。皆を直接自分の手で護ろうと、そう決めた。
一切の取りこぼしも許されない茨の道。そこに踏み出していくことを、今のシャナは望んでいる。
「決めるのはシャナであると我は言った。その選択に今更口は出さぬ」
「……ありがとう」
その選択を、アラストールが咎める事は無かった。だから、正々堂々進む。
「皆で帰ったら……悠二の鍛錬だってしなきゃだし」
「うむ。更には"銀"についても考えねばならん。なかなかに忙しいぞ」
「うん。帰ったら早速、ね」
そしていつか、悠二に言う。
正面から、「好き」と、言うのだ。
「おおシャナ、ここにおったのか」
と、ここで室内にいたはずの木下秀吉が登場した。
アラストールとの会話が丁度一区切り付いての出現だったので、まさか聞かれていたのだろうかと驚くシャナ。
けれどその彼女の台詞から察するに、それは無いことがすぐにわかって一安心。
やはり同行する人間が増えた状態でも、アラストールとのプライベートタイムは欲しいところなのである。
「っと、木下秀吉……別に黙って行かないわよ」
「それなら良いのじゃが。っと、ふむ……別にフルネームでなくともよいぞ、他人行儀過ぎてむず痒い」
「そう。そういえばおまえの名前、なんだか似合わないわね。女に武将の名前なんて、普通はちょっと変」
一応、心配をかけた点は謝罪しておいた。
するとそこまで気にしていなかったのか、一言返事が。ついでに名前に対しても。
少々ぶっきらぼうな気があるシャナと比べると、相手は丁寧で律儀に思える。
喋り方と名前は少々おかしいが。
「む、いや、おかしくはなかろう。どうも皆勘違いしておるようじゃが、そもそもワシの性別は……」
「シャナが済まぬな。ところで秀吉よ……確認しておきたいことがある」
「む……なんじゃ?」
と、秀吉が何か言っていたのを遮るように――そうなったのは偶然であるが――アラストールが口を開いた。
突然の切り出しではあったが、シャナには彼の言わんとすることがなんとなく理解出来た。
というか、丁度良い機会なのでシャナも聞いておきたいことがあるわけで。
それはきっとアラストールと同じ内容だ。そしてその予感は当たる。
「……受け入れられたか?」
"受け入れられたか?"
それは勿論、シャナ達の異能やそれに繋がる世界の真実――人間にとっては決して嬉しくない類の――についてだ。
シャナもアラストールも解っていた。状況が状況ではあるが、やはり突発過ぎていたと。
かの坂井悠二との初の邂逅の際も、自分達は色々とすっ飛ばして説明を進めてしまっていたのだ。
あの時の悠二は困っていた。自分達が当たり前のように口にする、なんとも不可思議な専門用語に。
そして、"真実"の衝撃に戸惑っていたのだ。自分の身に起きた事を受け入れられずに狼狽していたのだった。
"ただのフレイムヘイズ"であったときは別に何とも思わなかったが、如何せん今は違う。
"そういう事"も少し気になってしまう性質になってしまったのだ。決してそれを「残念ながら」などとは思わないが。
そして、それ以前に自分達は"徒"との戦闘の実演すらもしていない。
ここまで来て話しておいてなんだが、今の自分達は胡散臭く見られても仕方がないのだった。
同行を願い出てきたのは相手からだったので、そういう意味では気にしなくてもいいのかもしれない。
だがこう、なんというか、心のケア? が必要ではないか? ってなんだそれは。いかん、駄目だ、この変な状況に頭が火照ったか。
ひょっとして自分は冷静ではないのではないだろうか、と不安を覚えるシャナ。とりあえず今は答えを待つことにした。
「まぁ、その……受け入れられたか、と言われれば正直……困っておるのが本音じゃ」
秀吉の答えを聞き、シャナは自分にしか解らぬ程度の小さな小さなため息をついた。
まあ、その、やっぱりか。こればっかりは仕方がないだろう、彼女に罪はない。
あの幸福にも理解力と発想力には苦労していない悠二ですら、色々と頑張ってようやく受け入れたのだ。
突発的だとしても、実際に起こった出来事と照らし合わせる事が出来たから、自分達と過ごしてくれる今があるのだろう。
「じゃが、生憎とワシは既にこんな場所に連れて来られておるわけで……既に"今がもう、何かおかしい"のはわかる。
確かに今はお主らの言葉にも困惑しておるが……今こうしてここに立っておるおかげで、何とかなりそうな気はする、かのう?」
だが、それでも彼女はこうして付け加えてくれた。きっと本心なのだろう。
"まだまだ実感は沸いてくることはないが、ひとまずこの状況ではそんな話も有り得なくはないな"とも思える程度、というところか。
最後が疑問形になったのが少し気になったが、まぁ今回のところはよしとしよう。
と、そこでアラストールは更に「櫛枝実乃梨の方は大丈夫なのだろうか?」という旨の質問を続けた。
ああ、そういえばあいつ今何をしているのだろう。
「ああ、外に出てエルメスと遊んでおるようだ。気があったのか、楽しそうに話しておる。
……そうやって、そうしながら整理をつけているのではないかとワシは勝手にそう思っておるが」
ああ、姿が見えないと思ったら。とシャナとアラストールはここで納得した。
そして同時に、実際のところは果たしてどうなのかという心配も生まれるのだが。
「まぁ、大丈夫じゃろう。そもそもお主たちに同行を願ったのはワシらの方なのじゃからな。
というか既に喋るペンダントやバ……モトラド? とこうして普通に喋っておるではないか。
身の回りの変なことに早速浸かっておる以上、将来有望だと思って欲しいくらいじゃがのう?」
そういえばそうか。
「お主の髪にしても、凄い勢いで燃えておったしな」
◇ ◇ ◇
シャナ達が裏で会話をしている間。
外に停められているエルメスの車体、その座席部分にて干し布団が如く垂れているおなごが一匹おった。
名前を、櫛枝実乃梨というそうな。
「……はい、以上! まぁなんていうか凄い話だったんだぜい!
凄いね、本当凄いこっちゃさね。そうは思わんかねエルメぇスの兄貴よ?」
「うん、本当本当。キノが聞いたらビックリするかもねー」
どうも緊張感の感じられない声色で、先程の会話について報告していたらしい。エルメスも合いの手を入れていた。
会議に参加できなかったエルメスとしては結構大事な事であるはずなのだが、如何せん互いの声色がその雰囲気を殺す。
この一人と一台にかかれば、もうショッキングな内容だったシャナの言葉もクラスメイトとの話の種レベルまでに緊張感が減退だ。
そう、少なくとも声色を聞いている限りは。
「本当に、大変だねー……いやいや、本当。頑張らないと。ガンバランスえいえいおーだよ」
「そうだよねぇ」
エルメスには、見えていないのだろうか。もしくは、見えているのに何も言わないだけなのだろうか。
櫛枝実乃梨の顔には、決して声色と同じようなポジティブさに満ちた表情が張り付いているわけではなかった。
声は笑っている。口の形も半月型だ。美人だ、可愛らしい。高須が惚れた顔のままだ。
だが、その両目は笑っていない。
それは勿論"紅世の徒"等の話によって引き起こされたものでもある。ショックだ。凄くショックだ。
現実に今、彼女は木下秀吉の予測通りだった。エルメスと会話しつつ、脳内で必死に情報を整理しているのだ。
だが、それだけではない。決して、それだけではない。
(先生は本当に強かった。そんで解る。あれで全然本気なんかじゃない)
先生=シャナは、強かった。
櫛枝実乃梨程度が奇襲を仕掛けたところで"歯が立つ"だの"立たない"だのの次元ではないのだ。
長い髪は煌々と燃え、親友の大河と似た声からは"彼女の器"が感じられる。
そしてペンダントから聞こえる、ごろごろと響く遠雷の様な声。通信機には決して見えない、それ。
シャナはそれを常々伴って、その"徒"と戦っていたのだろう。本当に、戦っていたのだろう。
それにこのエルメスという喋るバイ……モトラドが出てきた日には、もう間違いない。
普通なら到底信じられない世界は、気付かない間に本当の本当に広がっていたのだ。
そして、全然知らない場所で、シャナという強い子がいたのだ。
(そんな先生が、こんな場所に連れて来られてるんだ。私と同じく……名簿も正しいのなら、大河や高須くんとも同じく)
そんな彼女がここにいるのに、どうすればいいのかわからない。
自分の傍にいてくれるのは嬉しいが、自分の傍にいなければならないと言うことが既に絶望への第一歩だ。
何故あんな凄い子がこんな場所にいるのか。抵抗出来なかったというか。あんなに強いのに。
化け物との戦いの話も、本当っぽいのに。
大丈夫、なのだろうか? 今回ばかりは不安にならざるをえない。
「大丈夫大丈夫。なんでもないの」と煙に巻くのは得意だ。
今までそうして来たのだ。自信はある。
多分、ここには色々な人間がいる。
シャナの様な強い人間がいる。木下秀吉の様な普通の女の子もいる。自分の様なのもいる。
それだけならまだいい。けれど、きっといくら望んでもそれが叶うことはないのだろう。
前触れなど全く無いままトラブルを起こす人間もいるかもしれない。
何を考えているのかさっぱりわからない人間もいるのかもしれない。
他人を傷つける人間も紛れ込んでしまっているかもしれない。
それこそ大河の親のような、許せない人間も、いるのかもしれない。
(……でも、だからって……諦めるの? 諦めるのか櫛枝実乃梨よ?)
だが、だからこそ、諦めてはならないのではないだろうか。
頑張った。自分はどんなときでも頑張った。
ソフトボール部では勝利目指して頑張った。
テスト勉強は良い点取れるように頑張った。
頑張ったのだ。
将来の夢を絶対絶対絶対に叶える為に、部活で忙しい中を何種類ものバイトに手を出して頑張った。
一年前、大河の親の事で自分が大失敗して彼女を傷つけたときも、彼女の笑顔を取り戻す為に頑張った。
それだけじゃない。他にも頑張ったことは、もっと、もっと沢山ある。もっと、もっともっともっと。
「これだ!」と思って"決めた"事を貫こうと、頑張った。頑張った。頑張った。頑張った! 今も頑張っている!
大河がいつか高須くんと素敵な関係になれると信じてるから、だから今だって現在進行形。そう、頑張っているのだ。
(だから、今こんな事で立ち止まるのは、無しでしょ)
だから、弱音は無しだ。
弱音は禁止。諦めるのも禁止。途中で放り出すのも禁止。
もしも途中で体がウボァーと悲鳴を上げたっていいですとも。精神力でカバーするだけだ。
(私は最初に言ったもんね。ねえ先生……あれ、本気なんだよ。「誰一人として失いたくない!」っての、さ)
干し布団のまま、器用に懐中電灯と名簿を取り出し、光で照らして眺めた。
相変わらず名簿の中には多数の名前が書き込まれているのが解る。
木下秀吉の様な取りこぼしが存在する、鵜呑みにするにはまるで危険な名簿。
そこには親友達の名前が数名記載されている。が、ここに巻き込まれたのは本当にこの数名だけなのだろうか。
友達の名前が無かろうが安心出来ないのは、前述の通り秀吉の件で学習済み。
正直、もう2-Cのクラスメイトが全員呼ばれてしまってももうおかしくは無いとさえ思える。
(……いや、だからこそ、絶対この変なゲームから抜け出さなきゃなんだよ。さっきから言ってるだろ。気張れや私!)
やれるかどうかじゃない、やるのだ。
使い古された言葉だろうが、今の実乃梨にとってはそれが全てだった。
(誰一人として、欠けるのは許されん。許されんのだよ!)
決して口には出さず、名簿を覗きながら改めて決心。
名簿にはしっかりと大河と高須の名前が並んでいる。あの二人が、並んでいる。
(大河が、高須くんが。大河と……高須くん、が。大河に……高須、くん……)
二人が、並んでいる。
絶対に、絶対に、絶対に欠けてはならない、二人が。
二人が。
(こんな状況じゃ……ますます"UFOやお化け"なんて見てる場合でもないし、さ……本当、に)
◇ ◇ ◇
明久達は今頃何をしておるやら。
木下秀吉は出発の為にシャナを連れてエルメスの元へ戻りながら、心中でそんな事を考えていた。
が。
試験召還戦争での活躍ぶりを振り返れば、なんだか大丈夫な気がしてしまうのは自分だけだろうか?
正直なところ、それは暢気過ぎるとは解ってはいる。教師がいない以上召還も出来ないはずだ。
だが、シャナ達の話が未だ頭の中を駆け回っているせいかどうも目の前の現実を遠く感じる。
こんな文月学園とは全く違う場所に拉致されたのだろうと言うのに、なんとまぁ気だるいことか。
まあ、最初に喋るモトラドと緊張感の欠片も無い会話を繰り広げてしまった以上、こうなる運命だったのかもしれない。
どうも自分は平和ボケをしているようだ。
だが、同時にそれは自分の冷静さの裏返しでもあるようだった。
何故だろうか、今の自分はとても落ち着いているのだ。それは暢気な心とは別のベクトルである。
あまりにも取り乱したりしない自分が不思議でたまらない。
まるで、未だにあのFクラスのおバカ達と共にいるかのようないつもどおりの自分のままではないか。
決して一人ではないかのような安心感。そんなものに包まれている気がするのだ。
いや、一人ではないことは確かなのだが。そういう意味ではなく、何かこう家や学園での安心感というか。
(ああ、そうか)
わかった、と遂に秀吉は答えを発見した。そう、これはシャナや櫛枝実乃梨がいるからだ。
決して彼女達から知性が感じられないと言う事ではない。ただなんとなく、Fクラスの住人と同じような何かを感じるのだ。
それは彼女らのノリから来るものなのだろうか。もっと別のものなのだろうか。
いや、違う。
多分、見ず知らずの自分を招いて普通に対話をしてくれるという皆の優しさ、そして現状打開の為動く力強さからだろう。
なんだか彼女達に、そして更に挙句喋るペンダントとモトラドにまで普通に受け入れられたおかげで不安が消し飛んでしまったのだ。
(まぁ、なんじゃ。明久達よ……まだワシの事はあまり心配せんで良いやもしれんぞ、案外)
もうすぐ出発だ。これから三人で、ここから脱出する方法を調査しつつ皆を探すのだ。
櫛枝実乃梨からエルメスへの報告終了後、シャナがエルメスからも情報を聞き足し、それから出発だ。
大丈夫、皆すぐに再会出来るであろう。シャナや櫛枝実乃梨にはそのようなパワーが見える。
と、勝手に秀吉は使えるわけも無いテレパシーで、Fクラスの皆の頭にそんな情報を送ろうとする。
両目を閉じて、むーんと唸る秀吉は「本当にそんな力があったら、楽なんじゃがのう……」と独り自嘲の笑みを浮かべた。
(……む? むむむ? そういえば、ひょっとしてシャナ達はまだワシを女だと思ったままではないか?)
だが、その代わりと言ってはアレだろうか。
出来もしないテレパシーの接続テスト中に、未だに自分が不憫な状態である事に彼は突発的に気付いた。
そんな夜。
◇ ◇ ◇
さて、今回の三人での対話は終了。
摩訶不思議な話も聞いたところで、ここを発つ時間である。
突然の邂逅から同行することになった個性的な三人のその行き先は、果たして。
どんな道を取ろうとも、きっと苦難は待っているのだろう。
そうでなければ、このような世界に呼ばれたのは一体なんだったというのだ。
泣いても笑っても、例え胸の中に何かを隠していようとも、もうすぐ出発である。
そういえば、"ドラえもん"については結局どうなったのだろう。
◇ ◇ ◇
【問題】
「ドラえもん」について説明しなさい。
●"蹂躙の爪牙"マルコシアスの答え
「はっはー、こりゃアレの事だろ? 前にご両人から聞いたことあるぜ。
確か狸みてェな猫型ロボットが宝具をポンポン出して、メガネのガキを甘やかす話だ!
どっかのお人形遊びが好きな狩人よりは全ッ然平和な話だわなァ、ヒャーッハハハハ!!」
○教師のコメント
ほぼ正解です。今回は"紅世の王"には無理ゲーかと思いましたが、案外答えられるものなのですね。
敢えて細かく言うならば、彼がポケットから出すアイテムは"宝具"ではなく"ひみつ道具"と言います。
●"不抜の尖嶺"ベヘモットの答え
「ふむ、ドラえもん。ドラえもん……ドラえもん、のう。
以前調律に来たあの街には、昔々にその様な名前の人間が沢山おったようじゃがのう」
○教師のコメント
そうですね。この類は"石川五右衛門"や"近松門左衛門"等、有名人にも多かった名前です。
しかしドラえもん自体についての説明ではありませんので、残念ながら今回は不正解となります。
●"夢幻の冠帯"ティアマトーの答え
「記憶曖昧」
○教師のコメント
不正解。
●"払の雷剣"タケミカヅチの答え
「そのドラえもんとは新たなる"王"や"徒"ですかな?
もしもそうであれば、早急にゾフィー・サバリッシュ君と共に対策を……」
○教師のコメント
すみません、ちょっと軽々しすぎましたね。別にあなた方の敵ではないので心配しないで下さい。
●"破暁の先駆"ウートレンニャヤと"夕暮の後塵"ヴェチェールニャヤの答え
「いきなりドラえもんって言われてもね」
「それ、私たちのキアラに関係あるのー?」
○教師のコメント
おや、どうやらお忙しかったようですね。ハワイ、楽しんできてください。
●"絢の羂挂"ギゾーの答え
「それは……時を超えし物語。
遥かなる時間の彼方より、少年の下に現れし来訪者は……統計二種の抱きし夢にて、未来を紡ぐ幸福の使者。
後者の不幸に繋がりし運命の鎖を断ち切るべく、少年と共に悠久の時を翔ける。
胸に秘めし時空の狭間に、夢と希望と未知なる世界のからくりを抱き……少年を時の彼方へと誘うのであった」
○教師のコメント
どこかで見た解説文ですね。遺憾です。
先生はパクリは許しませんので、後で職員室に来なさい。
今ハワイだから無理? 知りませんよ、今すぐ来るのです。
【E-1/民家/一日目・黎明】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
1:エルメスからも情報収集後、出発。用心棒になりつつこの世界を調査する。
2:みんなが少し心配。
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。
【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット、エルメス@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
1:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。
[備考]
※少なくとも4巻付近〜それ以降から登場。
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
1:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
投下完了。支援感謝です。
投下乙です。
各キャラの内面が、丁寧に書かれてるなあ……。
あえて茨の道を選んだシャナ。
まだ実感湧かないながらもマイペースを崩さない秀吉。
空元気も元気!を地で行く実乃梨。
情報交換もきっちりこなして決意も固め直して、実に丁寧な仕事でした。GJ!
投下乙です!
相変わらず各キャラ毎の描写が上手いなぁ
それぞれの決意や想いもわかり
丁寧な文でとても引き込まれました
改めまして、乙です!
すみません、早速訂正があります。
>>293の最後辺りに書き忘れた部分がありましたので、以下のようにごっそり追加を。
失礼いたしました。
×
大丈夫、なのだろうか? 今回ばかりは不安にならざるをえない。
「大丈夫大丈夫。なんでもないの」と煙に巻くのは得意だ。
今までそうして来たのだ。自信はある。
↓
○
大丈夫、なのだろうか? 今回ばかりは不安にならざるをえない。
「大丈夫大丈夫。なんでもないの」と煙に巻くのは得意だ。
今までそうして来たのだ。自信はある。しかし、それでもこれは"キツい"と思ってしまう。
投下乙です。
おお3者が3者らしい……
心情がわかっていいなぁ。
情報交換もわかりやすくいいものでした
GJでした
お待たせしました。ぎりぎりですが投下始めます
わたし――須藤晶穂――が浅羽直之を気になったのはいつだろう?
そう頭の中でその言葉を反芻させて直ぐ答えは見つかった。
それは夏が始まる前の春。
わたしの級友である清美の時の事。
意地悪い先生が清美を責めていてた時の事だった。
その時浅羽が浅羽らしくない行動を起して意地悪い先生を止めたときのことだった。
その時……ちょっと気になったのだ。
それから新聞部に入って。
自分自身も新聞を作る事に興味が無かった訳ではない。
寧ろ作りたい方だった。
それでもその部活に入った理由……
それは浅羽のせいだと思う。
浅羽が気になるから……。
そんな理由で。
浅羽があの水前寺邦博といるのが気に食わなかったのかもしれない。
兎も角……何かしら浅羽が関わっていたと思う。
切っ掛けなんて本当些細なもので。
よく考えても途轍もなくあやふやのものだった。
でも、それでもわたしはそれでいいと思っていた。
ゆっくりとした平凡とした日常の中で浅羽と居られればよかった。
そう思っていたんだと思う。
変らない日常の中でゆっくりと。
そのはずだった。
なのに、それなのに。
あの長い夏にあの子がやってきた。
大嫌いなあの子――伊里野加奈――がやってきたのは。
あの子は日常を尽く破壊していった。
クラスメイトに溶け込もうともせず一人特別扱いみたいに。
クラスメイトに対して「あっちいけ」なんて言って遠ざけた。
いつの間にいなくなったりあの子を呼ぶ放送なんてよくあった。
そんな何処か特別な存在。
でもそんな事よりもっと嫌だった事。
あの子は何故か浅羽と仲が良かった。
そして何より浅羽が彼女を気にかけていた事。
それが無性に腹に立ったのだった。
あの子も同じ新聞部に入って浅羽もっとあの子に気を使って。
浅羽のそんな様子を見てさらに苛立つわたし。
そんなこんなで私は伊里野加奈を嫌いになっていた。
単純な嫉妬かもしれないけど……それでも嫌いに。
わたしが望んでいた浅羽との平穏な日常があの子によって滅茶苦茶になった。
浅羽はあの子を気にして。
あの子の事ばっか考えて。
いやだった。
そして浅羽をそうしたあの子を嫌いになった。
特別の代名詞のようなあの子を。
嫌いになったのだった。
……そんな理由で人を嫌いになった私への天罰なんだろう、これは。
ある意味最悪だった。
とても手痛くとても哀しい。
それは浅羽があの子の為に、伊里野の為に殺しなんかやろうとした事。
浅羽があの子に全てを懸けて殺そうとした事。
それは浅羽があの子の事を好きだって事を証明して。
私の想いの終わりだった。
……あは……あはは。
何なんだろう。
何で……だろうな。
何となく解っていたというのに。
いや……解っていない風に思い込もうとしていただけで解っていたんだと思う。
でも。
それでも。
こう見せつけられると……
……とても切なく哀しい……な。
何か。
何でか。
……どうでもよくなっちゃった。
浅羽があの子を選んだ事による哀しみなのか。
殺すという愚かな選択を浅羽に対する怒りなのか。
もう……よかった。
今は……何も考えたくない。
今は……何も知りたくない。
そうすれば……罰などこれ以上を受けなくていいのだから。
浅羽の事も。
あの子の事も。
失恋の事も。
今は……いい。
そうすれば……これ以上の哀しみはないのだから。
……思考停止なのだろうか?
……そうなのかもしれない。
……単なる逃げなんだろうか?
……そうなのかもしれない。
でも……だからといって考えろってのは……できない。
今何をしたいかなんて……思いつかなかった。
だから……
だから……?
わたしは……
「痛てて……まだ痛いけど……でも応急処置はこれでいっか……?」
ふとその声にわたしは現実に帰る。
目の前に居るのはふわふわとした茶髪の小柄の少女。
だけど何処か勝気で虎のような……実は年上のひと。
可愛い人だけど見ただけでも痛そうな右手の欠損が。
逢坂大河といった少女がその欠損した箇所の応急処置をしていた。
最も彼女に医療知識など無いから本当に素人知識のものでしかなかったけど。
「あの義手は……?」
「説明書見てつけようと思ったけど難しい……何処かしっかりとした施設で付けたいわ……」
彼女に支給された義手はどうやら上手くつけなかったらしい。
大河さんはやや不機嫌な顔をしながら無くなった手を見つめていた。
傷口には消毒し包帯を巻きつけた上で切ったタオルをその上に巻きつけたもの。
乱暴で且つ簡素なものだった。
とはいえ大河さんは義手をつける気らしく説明書をもう一度精読していた。
その顔を途端に上げ
「それであんたは結局どうするの……?」
ギラギラとしためをわたしに向けてきた。
もう一度わたしの意志を確かめる為に。
わたしが最初同じ彼女の質問に答えられなかった時彼女は鼻で笑いつつも治療の後でいいと言ってくれた。
それが大河さんの乱暴で不器用ながらの優しさだと知りながらわたしは甘えてしまった。
でもそれはポジティブな甘えではなく本当にただの甘え。
その間何も考えなくていいというただの甘えでしかなかった。
それで今もう一度同じ選択を問い返している。
時間だ、答えなければならない。
でも思いつくわけが無い。
どうしよう……?
どうしよう……?
喉が渇いてく。
声を出そうにも上手く出なかった。
「え……あ、あの」
ようやく搾り出した声。
その時だった。
「ホールドアップ。すいません、大人しくして下さい」
背後から凛とした静止を求める女の声が響いたのは。
その声に緊張しながらも……答えを出さずに済んだ事に安心してしまった。
なんて答えを出そうとしたのか知らずに。
ただ安堵した自分が憎かった。
「有難う……そのままこっちを向いてください」
そしてわたし達はゆっくりと顔を上げる。
顔を上げた先には声と同じく凛とした銀髪の綺麗な女の人が存在していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は何をしているんだろう。
頭の中でその言葉が反芻がしていた。
私――テレサ・テスタロッサ――は深い山の中を歩いていた。
目的は切り取られたエリアを確認する為。
近くに流れている川の分岐点から私がBー3地点に居る事は想像できたからだ。
となると西に向かえば切り取られたエリアが見れるはず。
そう判断して歩き始めていたのだ。
……なのだけれども足取りは重い。
脱出の為。
そういった目的があるのに何故だろう?
私は何をしているんだろうと疑問に思ってしまう。
……思い起こすのはあの一件。
先ほど襲ってきた少年の事。
あの人は殺し合いに乗っていたのだろうか。
ただ混乱していただけなのだろうかと思ってしまう。
もし一般人なら錯乱していただけかもしれない。
それなら……もしそうだというのなら。
つまり私はこう思ってしまう。
私の対処が間違っていたと。
あの少年にやるべき事を間違っていたという事。
もし、あの時私が不用意に銃を向けていなければ。
もし、あの時何か言葉をかけて少年の言葉の真意を確かめていれば。
もし、もし……
イフばかり思いついてしまう。
いくら死ねといわれても……装備も無い人間に何が出来るのだろうか。
格闘技を極めているというのならば遠くから殺人宣言するならば逃げられるのは解っているというのに。
つまり彼はこんな殺し合いに巻き込まれて錯乱していた善良な一般人とするのならば。
私の判断は間違っていたのかもしれない。
そう、間違っていた……
「……違う」
それでも確かに殺すと言っていたのだ。
あの少年は。
しっかりと殺すと。
もし殺し合い乗っているのならば危ないのは確かなのだ。
だから私の対処は間違ってはいない。
何かが起きる前に排除しなければならなかった。
だから間違い無い……はずなのに……
……あぁ、でも。
……あの子は怯えてなかっただろうか? 私に。
私は銃に怯えたと思っていた。
でも、それは違ったんじゃないだろうか。
銃より……殺そうとした私に。
例え銃だけ有っても撃たなければただの鉄の塊だ。
もし、彼が一般人の少年であるのとするのなら。
錯乱した上で殺し合いをするしかないと考えたのなら。
またはそもそも最初から殺す気ではなかったとするのならば
銃ではなく明確な殺意に怯えた。
そう考えるのが自然だ。
……つまり、あの子は……私の行為に怯えていた……
「……あぁ……馬鹿ですね」
……あぁ。
私はなんて馬鹿なんだろう。
どうしてこう間違えるんだろう。
あの時もっと冷静になっていれば。
あの時もっと考えていれば、優しくなっていれば。
……私は間違えなったのだろうか。
もし彼が本当に一般人だったとしたならば。
……私は最初から間違っていた……のだろう。
一般人は保護しなきゃと考えていたのに。
何で……かなぁ。
こうやってとるべき選択を間違っちゃうんだろうか。
そうしてこうやって後悔するんだ。
あはは……はぁ。
もっとしっかり考えればよかったんだろうか。
もっと違い選択肢を取っていれば……結果はいいものに変ったんだろうか。
いつもこうだ。
こうやって間違いをする。
こうやって後悔する。
駄目だなぁ……私。
強くなきゃ駄目なのに。
強くならないと駄目なのに。
強く振舞わなきゃ駄目なのに。
サガラさんの時も。
もっと早く色々していれば。
違った決着になっていたかもしれない。
ミスリルがああなった時も……
あれも……これも。
もし、もっと私がしっかりしていれば……
もし……もし……
もし……
「……こんな事……考えても仕方ありません」
頭を大きく振って思考を止めた。
そんな事考えても仕方ないのだ。
だから、今は行かなければ。
そう割り切って歩き始める。
心はモヤモヤして解決しないまま。
そうして目撃する。
少し急になっている崖に近いところに居る二人の少女を。
二人別の違う制服を纏い地べたに座っていた。
一人は小さく愛らしい様子。
もう一人は勝気そうだけど何処か沈んでいる様子の
彼女達はどうしたのだろう?
彼女達は安全なのだろうか?
どうコンタクトを取ろうか考えて……そして自分に失望してしまった。
彼女達に危険性がある可能性も考えて銃を付けつけようと決めた自分に。
冷静な判断だ。
一般人にしか見えないのにそう判断をしたのだから。
そしてそんな選択を選んだ自分に失望する。
結局、これしか選べないのかと。
でも、それしかないのだ。
それしか選べなかったのだから。
「ホールドアップ。すいません、大人しくして下さい」
彼女の達の背後からそう声をかける。
彼女達はそのまま従って手を上げる。
私は冷静であるように振る舞いながら言葉を続ける。
自分に嫌悪しながら。
「有難う……そのままこっちを向いてください」
彼女達はそのまま振り向いてくれた。
可愛らしい子は敵意を向けて。
少し沈んでそうな子は驚きを向けて。
そして私は続けて
「貴方達はころ……」
「見れば解るでしょ、この手」
「……あ」
言葉を失う。
小さな子の右手が……無い。
巻きつけられている白いタオルは生々しくて。
明らかに最近失った事を示していた。
「こんな手で真面目に殺そうなんて思える?、あんた」
「……い、いえ……すいません疑って……」
「別にいいわよ……だからさっさと銃を下げて」
「……は、はい」
小さな女の子の言葉に従う。
いつの間にか主導を奪われていた。
それでも言葉が失っていた。
手を失っていても強い瞳を放っていた彼女に。
私は辛うじて言う。
「貴方の名前は……?」
「逢坂大河よ……あんたは?」
「テレサ・テスタロッサ……です、テッサとよんでください」
「あっそ。こっちは須藤晶穂」
「……あ、そうです。私は須藤晶穂」
「……宜しくお願いします」
大河さんはそうもう一人の少女に対しても説明する。
私はその手を失っても気丈に振舞う彼女に戸惑うばかり。
大河さんはやがて口を開き
「取りあえずここから離れましょ、こんな崖に近い所に何時までも居たら危ないわよ」
「ええ、そうですね」
「話はそれからでいいよね?」
「……ええ」
大河さんに従い頷く。
そのまま、大河さんに着いて行く事に。
大河さんは強かった。
普通の少女にしみえないのにこんなに強い。
なのに。
私は……なんで。
強くあろうとしているのに。
強くならなきゃいけないのに。
なんで、なんで……
こんなに駄目なんだろう……
本当……駄目だなぁ……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
わたし達は新たにテッサさんを含めて進んでいた。
山を登って少し上流に。
やがて川の流れはゆっくりになって穏やかなものになった。
川も足を膝につくかつかないぐらいの浅さになっている。
川の麓といった感じで傾きも無く穏やかな感じで。
わたし達はその川のすぐ近くの草に腰を下ろしていた。
「……そうだったんですか」
そのなかでわたし達は話をしている。
大河さんがわたしにあう前のこと。
テッサさんがわたし達にあう前のことを。
テッサさんは何処か沈みながら話していた。
後悔しているように。
そして
「晶穂さんの知り合いが……」
嫌がおうにも浅羽の話が出てくる。
言いたくないのに。
聞きたくもないのに。
耳を塞ごうにも聞こえてくるのだ。
「そ、後は晶穂から聞いて」
「……え?」
……え?
大河さん?
どうして、わたしに?
……やめてよ、ねぇ。
これ以上苦しめないでよ……
「おーつめた!」
大河さんはさっさと川に行った。
我関せずという風に。
……どうしよう。
……どうすればいい?
テッサさんが見つめてくる。
わたしは……
わたしは……?
「浅羽っていうんだけど……馬鹿で……殺し合いに乗ってた」
言えてた。
哀しいけど、言えてた。
どうでもいいはずなのに。
言えていた。
「好きな人の為に全部殺すつもりで……ばかみたい」
「……」
言葉が勝手にでてくる。
全てを吐き出すように。
嫌だ、これ以上哀しみたくないのに。
なのに……
なのに……
涙が出ていた。
「本当……ばかみたい……ばかみたい」
考えたくないのに。
それでも想いが溢れて。
「あんな事するなんて……」
そして。
告げたくないのに。
行ったら全部壊れてしまう気がするのに。
「……そして、わたし失恋しちゃった……好きだったのに」
言ってしまったのだ。
涙が溢れて止まらない。
これでよかったのだろうか?
言わなかった方がいいのに。
考えない方がいいのに。
いっちゃった。
「変ですね……御免なさい」
溢れる涙を拭いながら。
それでも言葉が溢れて止まらない。
「なんだろ……哀しいんですよね……浅羽がこんな事したのが……」
テッサさんに言ったってしょうがないのに。
溢れて仕方ないのだ。
感情が想いが。
「……何処で間違ったのかなぁ……わたし……今ならちゃんとした選択肢選べたのかなぁ」
そんな言葉を言ってしまう。
その言葉にテッサさんが反応する。
テッサさんも言葉を紡いで
「……私も失恋したんですよ」
「……え?」
私は顔を上げる。
テッサさんは哀しそうに顔を上げて。
「好きな人が居て……でもその人も違う好きな人がいてその人を護るって言われて振られちゃった」
「そうなんですか……」
テッサさんもそう笑う。
哀しそうに。
わたしは何時もの癖で踏み込んでしまう。
「振り切ったんですか?」
「どうなんでしょうね……?」
テッサさんの顔が歪む。
哀しそうに。
聞かれたくなかったと思うように。
ああ、またやってしまった。
そうやって踏み込んで誰かを気付けてしまう、わたしは。
「駄目だなぁ……私は」
「……」
だから、こうやって天罰を受けるのだ。
本当にわたしは……
「間違ってないと思ってるのに後悔していないと思うのに……駄目だなぁ」
そうやって呟くテッサさん。
自嘲する様に。
でもわたしも思う。
「わたしも……もっとやり方変えてれば……違ったのかな?」
「私も……サガラさんの時も……あのときの事も……たったさっきの事も」
わたしも違ったのだろうか?
やり方を変えていればこの結末は無かったかもしれない。
テッサさんもそう呟いて顔を明け始めた空を見ていた。
涙が流れていたかはわたしは解らなかった。
言葉が無くなる。
わたしはどうしたいんだろう?
こうやって人に話して。
そのせいで誰かの古傷さえ抉って。
こんな事なら……浅羽を好きにならなかったほうがよかったのかな?
ねぇ……わたしは。
どうしたいんだろう……?
解んない
わかんな……
「わぷっ!?」
「ひゃぁ!?」
その時唐突に冷たい水が顔にかかった。
頭が醒めていく。
振り向くとそこに居たのは
「あーーー……このばか晶穂! ばかテッサ!」
荒ぶる猛虎。
逢坂大河だった。
人を馬鹿呼ばわりして。
「あんたら……間違ったとか……違ったとか……何いってるのよ!」
怒りを全身から露わにして。
浅羽に向けたような怒りをわたし達に向けている。
「確かに上手くいかなかったかもしれない……望んでない答えかもしれない……後悔するものかもしれない」
左手を強く握って。
眼を決意に滾らせて。
「でも……それで止まるなぁ! 止まっちゃったら何も……生れないっ! 今のあんた達は止まったままだっ! 間違っても……それを糧に進めばいい!」
それでいてわたし達を諭すように。
停止を否定した。
「失恋した……だから何?……それで諦めるの? 全部? 失敗した……だから何?……それで諦めるの? 全部?……ふざんけじゃないわよ」
そして言う。
「あんた達の想いはその程度? 違うでしょ? だったら『今』を見据えろぉ! 諦めたら終わり! 諦めるなぁ!」
強く。
逢坂大河がそうしてきたように。
止まろうとしているわたし達に。
強く優しいエールを送ってくれる。
今を見て。
止まるなと。
停止をしようとしていたわたしに。
そういった。
言ってくれたんだ。
「ばか晶穂っ! 吐き出してすっきりした?」
「う、うん……」
「だったら! 晶穂!」
「は、はいっ!?」
「だったら晶穂は何がしたい!? 直ぐに全部決めなくていいけど……でもとりあえずとまらない為に!」
……わたし。
わたしは。
何をする……?
浅羽……
浅羽。
うん。
「……もう一回、浅羽に会いたい……わたしも私自身がまだ判っていない……だけどもう一度浅羽に会って……しっかり決めたいよぉ……」
「それで! いい!」
浅羽に会いたい。
どうしたいかわかんない。
わたしの心だってよくわかっていない。
でも、これだけはそう思ったから。
浅羽にもう一度会わないまま終わるなんて嫌だ。
そう思ったから。
そう……言えた。
「テッサは!?」
「私は…………選択を間違っても……それを信じたい、駄目だと思わないようにします!」
「それで、いい!」
テッサさんも笑顔で言えた。
強く、諦めないように。
そう言えていた。
大河さんは笑う。
すすめたわたし達を祝福するように。
「それでいい! うん!」
その笑顔にわたしも笑えた。
わたしはそのまま元気を出して川に向かって走っていく。
お返しをする為に。
「この、大河さんやったな!」
「こ、こら、晶穂、みずかけるなぁ!」
「おかえし!」
「この……こら、テッサも! かけるな!」
「えへへ、お返しです!」
「この、ずるいぞ!、二人ががりで!」
「そんなことない!」
「ずるくないですっ!」
「こ、このーーーー! みてろ、このばかども!」
「わ、わぁ!?」
「ひゃあ!?」
三人笑えていた。
うん、笑ってる。
笑えてるよ。
進む為に一歩踏み出して。
笑えている。
わたしたち三人。
笑ってた。
【B-1/川辺/一日目・早朝】
【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:右手欠損(止血処置済み)、全身に細かく傷(軽い打撲や裂傷)、怒りと強い意志
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、フラッシュグレネード×2@現実、
無桐伊織の義手(左右セット)@戯言シリーズ
[思考・状況]
0:こ、このー!?
1:他人を蹴落とそうなんて考えるバカは、ぶっとばす! もちろん返り討ちに会わないよう頭は使うけどね!
2:そのためにも、どこかに腰を落ち着けて、この義手をしっかりと取り付けておきたい。
3:3人で行動
[備考]
※原作3〜4巻のあたりからの参戦です。
【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康。
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
0:おかえし!
1:浅羽にもう一度あいたい
2:3人で行動。
[備考]
※原作二巻終了後からの参戦
【テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500 残弾数5/5
[道具]:予備弾15、デイパック、支給品一式(未確認ランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
0:お返しです!
1:宗介、かなめ、ウェーバーとの合流。
2:3人で行動。
3:ガウルンにたいして強い警戒。
投下終了しました。
此度は延長且つぎりぎりの投下になってしまい、まことに申し訳ありませんでした。
支援感謝します。
投下乙。
そうだよな、同じ痛みを知ってる子たちなんだよな。
晶穂の不安。それがテッサに感染して、大河が前向きになるために叱咤する。
内面への踏み込みが深い分、凄く納得しちゃいました。
最後の笑顔がほんと目蓋に浮かんだよ……。GJ。
投下GJ! なんとまぁこれは……心理描写の鬼め! おにー!
三人出揃って何かを乗り越えようとする。それは共通していたり、していなかったり。
ううむ……それをこうもナイスに表現されちゃうともう……凄いとしか言えませんぜ。
しかし、あれだ。持ち直したのうこの子達。良かった良かった。
これから苦難も訪れるんだろうが、その中でも輝いて欲しいものだ。
あぁ……だからこの人の作品は嫌なんだ
心理描写が凄くて、深くて…ついつい引き込まれてしまう
痛みを知ってなお立ち上がる三人娘が、すっごく輝いて見えた
本当に、投下乙です!
榎本と両儀式で予約来てる!
楽しみだぜー
ちょっと質問ー
お絵かき掲示板っている?
必要なら立てようと思うけど
>>351 いるいる!
っても俺が書けるわけじゃないしな…
是非お願いしたい
おぉ…乙!
なんだこの予約ラッシュ
また増えたww
姫路さん逃げてー、美波より恐ろしいポニーテールの二人組とか危険すぎるからー
お待たせしました投下始めます
ある一人の少女が居ました。
その少女は大人たちから道具のように扱われていました。
世界を救う為。
そんな理由で彼女は大人たちから言いように扱われているだけだったのです。
だけれどもその少女はそれでも世界の為という理由で戦い続けたのでした。
それしか生きれなかったのだから。
身も心もボロボロになっても戦い続けたのです。
自分の為でもなく大人の為でもなく誰の為でもなく。
己が戦う意味すら解らずただ戦い続けていました。
でもやがて彼女は共に戦う仲間を失っていったのです。
そして戦うしかなかった彼女は仲間の喪失という戦う理由すらも失っていったのです。
戦う意志も消失し彼女はただ解らなくなっていき
何の為に居るのか。
何の為に生きるのか。
何の為に戦うのか。
そう、解らなくなっていったのでした。
ただ言えることは少女は全てが嫌になっていたのです。
そんな少女に大人たちは困り果てました。
ほかの仲間も死にもうその少女しか残っていなかったのです。
その少女が戦わなければ世界は滅んでしまうのですから。
大人たちは必死に考えました。
少女の意志や心なんて考えずに。
少女が扱いやすい道具、人形である為に。
そして大人達は思いついたのです。
少女―――伊里野加奈―――を戦うさせる為の手段を―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女――伊里野はただ街の中を走っていました。
暗闇の中に光るビルの光に興味を示しながら。
しかし伊里野の心を占めているのは一人の少年への想い。
伊里野加奈が大好きな浅羽直之の事だけでした。
伊里野にとって浅羽はまるでヒーローの様で。
伊里野をいつも支えてくれていると信じていて。
浅羽は伊里野を心から想っていると信じていて。
伊里野はそんな浅羽が心から大好きだったのです。
そんな浅羽がいるからこそ伊里野は想ったのです。
浅羽以外は要らないと。
浅羽が助かればそれでいいと。
だから、浅羽の為に殺すと。
余りにも身勝手な意見にみえるでしょう。
でも伊里野にとって浅羽しか想える人が居ないです。
広大な世界の中でたった一人しか想えない。
無数の人の中でたった一人しか想えない。
伊里野の想いはとても純粋かもしれません。
しかしそれは
たった一人しか信じれない。
たった一人しか想えない。
とても寂しいものでしょう。
それはなんて孤独なんでしょう。
でも。
それでも伊里野は知りません。
何故なら伊里野は浅羽しか知らなかったのですから。
勿論彼女の周りにも人が居ました。
共に戦い心を少し交し合った須藤晶穂。
同じ部活であり伊里野を受け入れた水前寺邦博。
兄の様に見守っていた榎本。
でもそれでも伊里野は要らないと言い切ったのです。
浅羽の為に。
浅羽しか思えなかった故に孤独に自ら進んだのです。
だから伊里野は思えたのでした。
浅羽の為に晶穂も水前寺も榎本も殺せると。
そう心に深く刻み込んでいたのです。
世界なんて要らない。
命なんて要らない。
他の人なんて要らない。
ただ、浅羽だけでいい。
そう想った伊里野の決断。
伊里野は迷わず今も走っています。
浅羽の為に。
自らが永遠の孤独にいる事に気付かず。
純粋な思いを向けて。
――ただ、浅羽直之を想い街の中を走っていたのです。
―――だけど少女は知らないのです。その余りにも純粋な想いさえも大人たちによってつくられたものだということを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大人たちが考えた伊里野を戦わせる手段。
それは戦う理由を作る事。
伊里野に子犬――パピィ――を与えるという事でした。
そう、浅羽直之を近づけさえ懐かせ伊里野にとって掛け替えない人にするという事だったのです。
その大人たちの人の感情さえ操る卑劣な手段に伊里野はあっさり嵌ってしまいました。
伊里野は浅羽に惚れ懐き浅羽のことを強く想いました。
そして大人たちの思惑どうり浅羽の為に死ぬと。
浅羽のを守る為に死ぬ、それは結果的に世界を護るという余りにも計画通りの行動を……してしまったのです。
ああ、彼女は結局最後まで人形だったのです。
なんて哀しいのでしょうか?
なんて愚かなのでしょうか?
やっと想った純粋な想いでさえ仕組まれたのです。
その仕組まれた事に最後まで気付かなかったのです。
……なんて哀しく……そして愚かなのでしょうか?
……しかし愚かにみえても。
それでも
誰か一人の為にこんなにも想っていられる事は。
その想いの為にこんなにも行動できている事は。
それを行っている伊里野加奈は。
美しく見えるのではないでしょうか?
彼女はまだ走ります。
その純粋な想いの為に。
彼女がどんな人であるか。
その答えが示されるのは
まだもう少し先の事
そう、先の事なのです――――
【E-6/中央部/黎明】
【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(8/8)+予備弾薬(弾数残り100%)、刺身包丁、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。
1:他の人間を探す。
2:晶穂も水前寺も榎本も躊躇いも無く殺す
投下終了しました。
支援感謝します。
今回少し特殊な形態をとったので何かありましたらよろしくお願いします。
投下乙です。
やばい、浅羽と違って、伊里野は本気で殺る気だw
晶穂も榎本も水前寺も「いらない」って言い切れるの怖いなあ。
投下GJ! 絵本みたいだ……俺にはクレヨンで描かれた伊里野が見える。
淡い文体で書かれた伊里野の姿が凄く切なく映る……畜生、やられた。
もうすげー可哀想じゃねぇかァァァァァ! 誰か救ってあげてェェェェェェ!
特殊な形態に関しては、自分は何も問題ないと思いまする。
投下乙です!!!
うぅ……伊里野ぉぉぉぉぉ…
伊里野の姿が頭にはっきり浮かんできてさぁ
…なんだろう、すっごい切ない…
一時投下乙です。
感想そのものは後回しにするとして、おそらく書き手さんが気にしてるあたりについて。
……難しいなあ。
支給品を精査する話が既にあったからでしょうか、なんか微妙に引っかかる感じが……。
まああの時に精査したのは、確かにアリソンの荷物の方でしたが……。
本が入ってたことには気付いてたわけだし、こっちの気にしすぎかな。
この支給品も、確かにこれならギリギリなんとかなりそうですし……。
むしろ式と榎本が「また会った」ことの方が気になるかな? 分かれた直後なのに、と。
仮投下乙です
個人的には大丈夫じゃないかぁ、と
確かに式と榎本がまた会ったのは気になりますが…
そこまで気にすることはないと思います
仮投下乙です
私も支給品に関しての問題はないと思います。
ただ上の方が書いたように式と榎本の再会は少し苦しいと思います。
その理由として、前の話で式は榎本の進んだ方向を確認した上でわざわざ別の方向に進んでいます。
つまりかなり不自然に榎本が方向転換して動かない限り、再会は難しいと思われるのです。
あたりをしらみつぶしに探してるなら榎本が停滞してる間に式が自分の進行方向探し終わって
榎本の行った方向を探すのも有りなんじゃね?
仮投下乙です。
支給品に関しては榎本が精査しているのが気になるなぁ。
1〜3全部確認済みになっていただけに。
まして使えないハリセンを捨てているのだから本にしか見えないマルコを取っておくとは思えないし。
それにマルコは喋るだろうしw
式と榎本もちょっと厳しい。
お互い別れて式のそれまでの描写が無かっただけに尚更。
ちょっとマルコを出す為に無理したかなぁという印象があります
んー今更だなあマルコ
榎本がしらべているだけに不自然すぎる
無理にだしたかったのかな
皆さん、様々なご意見ありがとうございます。
なんとなく傾向と言いますか、大まかな問題が浮き彫りになったようなので、一旦ここでまとめ。
◇問題1
式との合流に至るまでに描写が無く、無理がありすぎる。
◇問題2
そもそも榎本は荷物を確認済みである為、マルコに今更感が漂う
問題1ですが、「式の行動の描写」を追加しようと思っています(まだ未完成ですが)。
皆さんの「式の行動が謎過ぎる」というご意見は「正しくその通りだ」と、自分も判断いたしました。
後日、出来る限り早く一時投下スレに投下したいと思います。
が、もしそれが「未だ無理がある」と判断された場合、式の出番全面カットも視野に入れております。
問題2ですが、こちらも解決策を練る必要ありと判断いたしました。
この場合「榎本がマルコを捨てずに所持していた理由」が必要、という事で良いのでしょうか?
もしこれが問題点の解決法として正しいのであれば、ひねり出せるよう努力をしたいと思います。
こちらも、出来る限り急いで一時投下スレに投下するということで。
ちなみに「鈍器としては使えそうだよな……と思ってた」といったフォローは、流石に単純でしょうか……?
それが無理であれば、「未練がましい」と言われる事を承知でもう一つ。
むしろマルコを榎本ではなく式に支給させる……という変更案も考えております。
そうなると、シナリオを一気に変更する事になりますが……(主に式と榎本の立ち位置で)。
勿論「それはナンセンスに過ぎる」ということでしたらこの選択肢は捨てます。
と、まずはここまで表明させていただきました。
自分で書いて、一時でも投下した立場。認められるよう努力はしたいと思っております。
とは言え、その前にまずは「修正案を投下しろ」という話ですが。
では、以降も皆様のご意見を確認しつつ加筆にあたろうと思います。
お返事、お待ちしております。至らぬ箇所がありましたら、指摘して下さると嬉しいです。
失礼しました。
鈍器……の一言で済ますのは、流石にどうでしょう。
その発想なら、重さや固さなどを手にとって調べていそうなものですが……。
「捨てずに持っていた理由」のみならず、
「本が手に取られすらしなかった理由」が欲しい所ですから。
できれば、ですけど。
あと、とりあえず、「式にマルコシアス」案は全く別個の作品になってしまうかと。
少なくとも修正案としてのソレはないのでは、と思います。
一旦破棄後、改めて書くのなら決して否定するものではないですが……。
他はちょっと、実際の修正案見ないとコメントし難いですね。
通したい、という強い意志は感じますし、修正後の作品に期待しています。
意見有難うございます。
ですが……そもそも前の確認時マルコを見つけた場合マルコは喋らないのでしょうか?
マルコの性格上その段階で喋ると思うのですが……
鈍器として取っておくにはあんまりかと。
飛行場という場所上それよりも頑丈な工具があると思いますし。
「式とマルコシアス」案は正直別物だと思います……
そこまでマルコを出したいのかと思ってしまいますし……
兎も角修正案をみてから……ですね。
修正お待ちしております
正直、マルコと式に支給させるという変更案を出した時点で「マルコを出したいだけ」としか受け取れないのですが……。
喋る支給品を出すことはキャラを増やすことと同義ですし、もう少し慎重であるべきだと思います。
マルコシアスをいきなり喋る本と判断してるのが気になった
初見だと高性能スピーカーつき本っぽいような
色々と考えてみましたが、修正案と話自体の必要性が迷走し始めたので破棄します。
お騒がせして申し訳ありません。次から気をつけます。
あらら。
今回は残念ですが、次また期待しています。
◆MjBTB/MO3I氏
残念です。次回に期待しております。頑張ってくださいね
そして大変申し訳ない
数分遅れてしまいましたが投下開始します
しまったorz
大変申し訳ないのですが次回からトリは変えさせてもらうということで
この前から間抜けなミス多すぎだ……orz
――エリアD1。
今となっては5つとなったこの閉ざされた世界の最西端の場所の一つ。
そこに一人の男が立っている。
「ふむ……奇妙な物よな」
この箱庭の最果て、内界と外界を隔てている真っ黒な「闇」を見上げつつ、男は小さく呟いた。
この「壁」へとたどり着いた直後から色々試みた結果、これに強度はないことはわかっている。
しかしだからといって、これを無理に突破しようというのもまた無謀な話といえるであろう。
男は視線を己の手の中へと向ける。そこにはつい先ほど彼が引きちぎった草が数本ある。
「世界が切り取られるか……正直な話、わしにはそれがどんな物なのかはようわからんが――少なくともあの闇に飲まれては一巻の終わりであることは確かであろう」
その手の中にある草は長さが不自然なほどに揃ってはいなかった。
ある草の長さは男の中指さえ超えているというのに、別の草の長さは小指の半分にも満たない。
しかしそれらの草の種類が違っているというわけではない。
同じ種類の草の長さが不自然に違っている理由はただ一つ。それらの草がまちまちな長さで切られているからに他ならない。
これらの草は「壁」とそうでない場所の境目に生えていた草を無作為に引きちぎった物だ。
一本一本調べてみたところ、全ての草はこの「壁」より先が一切ない。
つまりあの男が語った言葉に偽りはなく、この闇に飲まれてしまえばこの身とて跡形もなく消え果てしまうのであろう。
「ふっ、都合が良いわ」
男は小さく口の端を歪ませた。
もしもここにその男の風貌を知る者がいたのならば、全員が全員その男の名は甲賀弦之介と断じるであろう。
しかし、それは誤りだ。
なぜならばこの地において、甲賀弦之介は存在不適格者浅上藤乃によってすでにその生命を散らしている。
ここに立ちたる男の名前は如月左衛門。
次期頭主たる甲賀弦之介に仕える者にして、数多いる甲賀の忍びの中においても十指に数えられる使い手。
「泥の死仮面」と名づけられたる忍術。
すなわち泥を用いて他者の顔を写し取り、その泥を使って写し取った顔そのままに己の顔かたちを変貌させし魔技によって、主君である甲賀弦之介そっくりに己の姿を変えたる男こそが彼である。
当初の目的であった弦之介を生き残らせるという考えが実行不可能になった今、彼の新たな目的はただ一つ。
この舞台より抜け出した後にも続く甲賀卍谷と伊賀鍔隠れの忍術勝負、その戦いをより優位に進めるためにただの帰還ではなく、己の忍術、泥の死仮面を封印し、この甲賀弦之介の風貌を保ちしがままに勝ち残ることこそ彼の目的。
では優勝を狙う彼が何ゆえに人の集まりそうな舞台の中央、城下のエリアではなく、ここ舞台の端へと赴いたのであろうか。
その理由の一つはただの確認のためである。
そう、ただ一人生き残るそのときまで「誰もこの箱庭から逃げられない」事こそ大事なのだ。
いかに他の者どもが殺し合い、どれほど如月左衛門が上手く立ち回ろうとも、夜明けまでのわずかな時間にこの舞台に存在する最大で58人もの参加者全てを殺し尽くすことは叶うまい。
ならばこの地にいる幾人かは夜明けとともに弦之介がこの地で果てたことを知るであろう。
その事実自体はこの風貌によってごまかすつもりゆえに構わぬが、その事実を知る者が彼と出会うこともなくこの箱庭から出て行くようなことがあれば問題だった。
甲賀弦之介がこの地で死したという事実は甲賀の仲間以外には決して知られてはならぬ秘中の秘。
その事実を知るものは決して生かしては置けぬ。
だが、こうして「壁」を確認することでその心配は杞憂に終わった。
獲物どもは逃げられぬ。
もはや何人たりとてこの地より生きては返さぬ。
彼は決意を新たにする。
――そして。
「消えてなくなるか……お許しください弦之介様。拙者に思いつくのはこれが最善なのです」
この果てまで赴いた最大の目的を果たすために如月左衛門はきびすを返す。
彼がこの箱庭の果てがどのような物か調べにきた最大の目的、それは弦之介の遺体をどのようにするかということであった。
そう、弦之介の死は何が何でも隠さねばならぬ。
彼自身や弦之介のような異能のものが六十も集められしこの殺し合い。
あるいは遺体の身の上を克明に知る者がいるかも知れぬ。
あるいは伊賀の朧姫のように何らかの方法で異能を見破るすべを持つものがいるかも知れぬ。
彼がそのような者どもに出会うというのならばともかく、ここに在りし弦之介の遺骸より真実がもれることがあるやも知れぬ。
ならば弦之介の遺体は何らかの方法で始末をせねばならなかった。
この場合最も簡単なのは新たに手にした刀を以って、身元が判別できぬよう弦之介を切り刻み、彼の顔をつぶすことだ。
だが、彼が愚鈍であったが故に守ることさえ叶わなかった弦之介を、どうしてこれ以上辱めることができようか。
だからといってこのまま埋葬するというのも論外である。
どれほど上手く埋葬しようとも、犬のごとき嗅覚を持つものがいれば容易く遺骸は見つけられるであろう。そのような者がいないとは言い切れぬ以上、不確かなその案をとるわけにも行かぬ。
ならばどうするべきか、しばし悩んだ如月左衛門は天啓を得た。
そう、この闇に飲まれた者が全て消え去るというのであらば、埋葬方法としては上の分類であろう。跡形なき遺体より情報が漏れることもない、全てが闇と消えるのであれば、これ以上弦之介さまの骸を辱めることもない。
そうして確かめた結果、間違いなくあの闇に飲まれたモノは消えうせる。
かくして如月左衛門は弦之介の遺骸の元へと歩を進める。
かの遺体の元までの距離はおおよそ5、6町程度。
付近に目印こそはないものの、距離はわずかで未だわずかに残る死臭があるが故にその位置を見失うということもなく、彼は弦之介の遺体の元へと近付く――があとわずかというところで、不意に彼は足を止めた。
弦之介の遺体のそばになにやら動く者がいる。
(……さいさきがいいわい)
こうも容易く一匹目の獲物を見つけた喜びに、彼の美貌に似合わぬ凶悪な笑みをにい、と如月左衛門は浮かべた。
◇ ◇ ◇
「ちっ、この俺を差し置いて勝手に楽しみやがって」
草原の只中、無残にも手足がちぎれ、うち捨てられていた死体を見つけ、不機嫌そうにガウルンは愚痴をこぼした。
学園都市第三位「超電磁砲」御坂美琴。
零崎一賊の鬼子、人間失格零崎人識。
この二人との連戦をしのいだ彼が道を外れ、このエリアまでさまよって来たのには理由がある。
彼がここまでやってきたのは、少し前にここまで来た如月左衛門と同様、死の気配を感じ取ってきたからに他ならない。
傭兵として、テロリストとして、ガウルンが今まで奪ってきた命、接してきた死の量は優秀な忍びである如月左衛門さえ比較にならず、それ故にはるかに容易にこの地までたどり着いていた。
病気のせいで残りの寿命があとわずかしかない彼は、この舞台にいる他の誰よりも自分の命を軽く見ている。そう、彼としては優勝や生き残りなどに興味はない。
彼はただこの殺し合いを楽しめればそれでいいのだ。
その結果として彼自身を含め何がどうなろうとも知ったことではない。
今だってそうだった。
彼が死の気配を辿ってきたのはそこに争いがあると思ったからだ。
やられたのがよほどの間抜けでもない限り、人と人とが争えば音はする、火器を使えば光が見える。
そうして周囲に異常を知らせれば、最初に出会った美琴のようにくだらない正義感から、そこに誘蛾のように引き寄せられるバカもいるだろう。
そして彼はそいつらを相手に血生臭い遊びを楽しもう。
――そんな彼の思惑はあっさりと空振りに終わったのだった。
よりにもよってここで殺されたのは、そのよほどの間抜けであったようだ。
調べてみても周囲に争いの後もなく、残された物も何もない。どうやらこの馬鹿は反撃することさえ許されず、あっさりと文字通り全てを奪われたらしい。
「けっ、ご立派なカラダは見た目だけですってか? この役立たずが」
ぺっ、と唾を遺体へと吐き捨て、腹立ち紛れにちぎれていた手を蹴っ飛ばすと、ガウルンはここから立ち去ろうとし――
「くく、悪いな。アンタ実は役に立ってくれたみてえだな」
そのまま彼は足を止めた。
闇の中、幽鬼のように、怨霊のように薄い気配に殺気をまとって、一人の男が立っている。
「おいおい……何の冗談だ、こりゃ」
あまりに異様な光景に冷や汗を一滴流しながらガウルンは呟いた。
なにせ目の前にいる男はガウルンの足元に転がっている死体と体格といい、顔かたちといいまさしく瓜二つだったのだ。
それはまさしくこの無残に殺された男が幽霊として黄泉帰り、遺体を辱めたガウルンにその恨みを晴らさんとばかりに襲い掛からんというべき光景。
肝の小さい者ならば、そのまま気を失っても不思議ではない怪異を前に、ガウルンは不敵に笑みを浮かべ――その次の瞬間、男は音もなく襲い掛かってきたのであった。
◇ ◇ ◇
(……殺す!)
如月左衛門の心のうちが怒りと殺意に染めあげられる。
弦之介の遺体のすぐそばに男の姿を見つけた如月左衛門が取った対応は「男の観察」であった。
彼にとっての第一の使命、弦之介の顔を保ったままの生き残りと比べればやや比重は落ちるとはいえ、弦之介の仇を取ることも彼にとってはまた大事なのである。
だが、その仇を見つけるための方法「伊賀の者ではない今の彼の顔を見知っている者を探す」という手段が遺体を見つけたものには無意味なのだ。
いかな如月左衛門とて無慈悲な男ではない。仇に対してならば地獄の責苦にもなお勝る苦痛を味わあせてもなんら心は動きはせぬが、それ以外の無関係な者達くらいはせめて楽に死なせてやりたいと思う程度の情けは持っている。
はたして月明かりに男を観察してみれば、負傷は首筋にすでに血の止まった浅い切り傷が一つきり、おまけにでいぱっくとやらも持っている。
周囲を探る様子からも確実にあるはずの荷を探すというよりは、あるかないかもわからぬ何かを探すよう。
ここに男への疑いは晴れ、不意を討った一閃でなるだけ楽に殺してやろうと彼が刀を抜いたそのときだった。
あろうことか男は弦之介へと唾をはきかけ、その遺骸を足蹴にしたのだった。
瞬時に怒りが燃え上がる。そしてその怒りの半分は彼自身へと向けられた物だった。
またもや己は間違えた、せめて見つけるや否や襲い掛かっておれば、あのように弦之介さまの遺骸が辱められることなどなかったであろうに。
燃え上がる怒りを胸に彼は男へと襲い掛かり、不意に円かに進む方向を変える。
「……ちっ!」
わずかに遅れて響いた銃声と、男の舌打ち。
「甘いわ」
小さく呟くと、横手に回っていた彼はそのまま男へと切りかかる。
別に彼は男が短筒を隠し持っていたことを知っていたわけではない。だが、何か武器を隠し持っていることは男の体捌きや、わずかに開いていたでいぱっく。
そして開いた取り出し口の近くからほとんど離れなかった男の手などからほぼ確信していたのだ。
そしてその場合、小刀の類であれば彼が突っ込んでくるのを見た瞬間にわずかでも攻撃を受けるのに優位な位置へと動くはず。
だがそのような動きはみられず、ならば男が持ちたるは小型の飛び道具の類と当たりをつけていただけのこと。
如月左衛門の袈裟懸けの斬撃を男は手にした短筒で受け止める。
が、相手の武器故に鍔迫り合いなど初めから考えていなかった如月左衛門の流れるように放った蹴りをかわすことはできず、男は衝撃によろめいた。
「がっ!?」
「……せいっ!」
男の苦鳴とほぼ同時に彼は蹴りの勢いさえも利用して、逆袈裟に手にした刃を振り切った。
闇夜にわずかに朱が混じる。
一撃は浅く、わずかに男の肉を削いだのみ。
(浅いか……)
あの一撃ではとどめはおろか、戦闘能力を奪うことさえ適わぬであろう。心の中で舌打ちながら、彼は振り切った勢いそのままに再び大きく横に飛ぶ。
短筒使い相手に一箇所に留まる愚は犯さぬ。
不規則に動き回りつつ、刃を振り上げ彼は再度男へと襲い掛かった。
◇ ◇ ◇
闇に再び朱色が混じる。
これでもう幾度目か、決定的な一撃こそはかろうじて避けつづけてはいるものの、ガウルンの腕や足には幾条もの傷跡が刻み込まれていた。
ガウルンと如月左衛門。
この箱庭にいるもの達にとっては、その目的といい、その腕前といい、害悪としかなりえない両者の争いは一方的なまでに後者の優位で進んでいた。
……本来、兵士として、工作員としての総合的な能力で見た場合、ガウルンの持つスキルは如月左衛門に劣るどころか彼を圧倒して余りある。だが、その総合的なスキルの大部分が今のこの戦いにおいては役に立たない物であった。
例えば情報通信技術、例えば爆薬の知識、狙撃術。そして……AS操縦技術。
それにたいして如月左衛門にそうしたことに関する知識などは一切ない。だが、それ故に彼は己の持ちたる才能の全てをより少ない分野へと注ぎ込んできたのだ。
万能職と専門家。
例え才能と経験で上回っていようとも、この場の戦闘においては上回っていたのは専門家のほうであった。
「ぐっ……!」
また1つ新たな傷がガウルンに刻まれる。
「ったく、何を本気になってるんだ?」
ガウルンの軽口を聞き流し、如月左衛門は静かに息を整えた。
そのまま先のように襲いかかろうとして、ふとわずかばかりの仏心が彼の胸中に沸いたのであった。
もちろん、男を見逃すつもりはない。だが、いかに男が弦之介を辱めた許しがたき存在であるとはいえ、その責の一部には如月左衛門の過失もある。
彼が最初から弦之介の遺体を運んで箱庭の果てを確かめに行っておれば、先の蛮行は防ぎえた。そしてそうなしえなかったのは、偏にどうなるかわからぬ故に体力の無駄な損耗を嫌った己の怠惰にほかならぬ。
ならばせめて眼前の男が死後迷うことなきように、己の殺される理由ぐらいは話してやってもいいであろう。
彼はそう判断し、確実に短筒をかわせる程度の距離を取る。
「殺される理由が知りたいか?」
静かに彼は語りかける。
「うぬが今足蹴にした男はな、名を如月左衛門といい、このわしの、甲賀弦之介の影武者にして忠臣よ。
わかるか? わしとそこのものの忠義を辱めた罪は重い。死して償え」
そうして語る言葉は先に創りあげた偽りの物語。否、これはすでに偽りではない。
あの狐面の男を含めた全てのものにとっては以後、これが真となるべき物語。
「へえ……そりゃあ知らなかったとはいえ悪いことをしちまったみてえだな」
「謝る必要なぞないわ、冥府にて悔やめ」
謝意の雰囲気をカケラも見せずに、にたにたと笑いながら言うガウルンに甘さを見せたことを無駄に思いながら、如月左衛門は問答無用と躍りかかった。
例え一旦間合いを外そうが、ガウルンが狙いを定めるより先にその間合いを詰めることなど如月左衛門にとっては容易きこと。不規則なる円かの動きにて、ガウルンのそばへと近付いた如月左衛門は二度、三度と続け様に刃を振るう。
ガウルンの持つ二つの武器、銛撃ち銃とデザートイーグルでは達人の振るう刃を受け止めきることは難しい、それでも重傷を負わずに済んでいるのは、目の前の相手に劣るとはいえ、ガウルンもまた超一流の兵士であることの証明といえた。
とはいえ技量と装備で劣っているのだ。それに加えて、先ほどから刻み込まれている幾つもの傷。流血は体力を消耗させ、集中力を奪っていく。
――かくしていかなガウルンといえども限界は来た。
「クソがあっ!」
ガウルンが地面に倒れこむ。
……直前に、上段からの一撃を何とか防ぎはしたものの、それで体勢が崩れたガウルンは続けての一閃、如月左衛門が横に振るった刃の一撃をそれまでのように避けきる事ができなかった。
それでも何とか致命の一撃を避けたのは見事といえよう。しかし、その代償として地面に倒れ伏したのでは、決着をわずかに先送りにしたに過ぎない。
「……終わりだな」
そして如月左衛門は刃を振りかぶる。が、それを振り下ろす直前に
「まだまだぁ!」
ガウルンは隠し持っていたもう一つの武器、銛撃ち銃を発射する。
――だが甘い。
止めもさしておらぬ相手に油断する如月左衛門ではない。わずかに体をひねると、ガウルンの起死回生の一発をかわし刃を振り下ろす。
ざぐっ!
しかし、刃が抉ったのはただの大地。
撃つが早いかガウルンはそのまま身を翻して逃げていたのだ。
「ええい、見苦しい! 足掻けば黄泉路で迷おうぞ!」
そのような不確かな体勢で忍びから逃げようとは片腹痛い。
即座に追いつくと、彼は今度こそ無防備なその背中へと己の手にある刃を振るい――――
ぴたり、とそれを中空にて静止させた。
頭が止めようと思うより先に、体が全力で静止していた。
その理由はただ一つ。
彼が刃を振り下ろす直前に、振り返ったガウルンが刃からの盾にしようと構えたモノを見たからに他ならない。
男の手にしていたモノ、それは間近に倒れていた弦之介の遺骸であった。
「残念!」
言葉とともにガウルンは如月左衛門に躍りかかる。
「くっ!」
咄嗟に後ろに飛びながらも、如月左衛門の背中を冷たい物が走り抜ける。
状況がまずい。
体勢がまずい。
一瞬、驚きに我を忘れて先手を許した。
無理に刃を止めたせいで初動に勢いがない。
せめてもの救いは男の第二の武器に次弾がないことであろうか。だが、その救いとてこの初弾をかわさねば意味がない!
刹那の一瞬が一刻のように長く感じられる。
男が選んだ攻撃は下方からの天を打ち抜かんばかりの一撃。この崩れた体勢ではとてもかわしきれぬような鋭い一撃。
だがどうして諦めることなぞできようか。
彼は必死にに後ろに飛び下がりつつも、大きく体をひねる。
――そして。
「はあっ!」
ガウルンの一撃はわずかに掠めた程度。大きく突き上げるような一撃を放った彼は体勢が崩れているが故に追撃はない。
危機をかわしえた安堵に息を吐きつつも、如月左衛門は一度大きく間合いを外そうとして、
不意に何かにぶつかった。
(……何!?)
何たる不思議か、いつのまにかそそりたつ壁が彼の側にできているではないか。
かくしてようやく如月左衛門は気が付いたのだった。
いつのまにか己が地に伏しているという事実に。
ガウルンの突き上げるような一撃は外れたわけではなかった。
彼の狙いは最初から顎。つまり頭蓋骨の付け根を支点としてテコの原理で脳を揺らすことを狙っていたに過ぎない。
現代においては解明されているその技術とて、如月左衛門にとっては異能と変わらぬ魔性の技。
そのダメージは数秒もあれば回復するとはいえ、今このときの数秒とは永遠に等しい。
かくして。
「いやあ、惜しかったぜえ」
(……不覚!)
心の臓に叩き込まれる衝撃に、甲賀の忍び如月左衛門の意識は底知れぬほど深い闇へと沈んだのであった。
◇ ◇ ◇
「む……ぐわぁ!?」
目覚めると同時に胸に走った激痛に如月左衛門は苦鳴を漏らした。
だが、その痛みゆえに一瞬で意識は覚醒する。そうして彼は思い出す。つい先ほどまで、己が何をしていたのかを。
「……わしはなぜ……ぐっ!」
「いよお、目がさめたかい?」
『わしは何故生きている?』そのような疑問を口にするのに先んじて、再度胸に走った激痛によって彼はようやく気がついた。
胸の痛みは気を失う前に受けた一撃のみが原因ではなく、この男が今もこの身を足蹴にしているが故。
あまりの雪辱に如月左衛門は身をよじろうとする。だが、この男はよほど上手く彼の重心を抑えているのか、踏まれている胸以外の総身をも走る痺れによって、その程度のことさえ叶わない。
「……貴様ぁ」
「そうそう、自己紹介が遅れたな。俺の事はガウルンと呼んでくれや」
「貴様ぁ」
「おいおい、聞こえなかったのか? ガウルンだってのガ・ウ・ル・ン」
「がっ!」
そう軽く言いながらガウルンは足に力を込める。途端に走る激痛に如月左衛門は声をあげる。
「が、がウ……ル……ん」
「そうそう、あんまり間違えないでくれよ? 俺ってば繊細だからな?」
「があ……」
痛みにうめきつつも如月左衛門は必死に頭を働かせていた。今一番の懸念はどうしてこの男は自分を生かしているのかという点だ。
襲い掛かってきた相手をわざわざ助ける道理なぞ見当たらぬ。
押し黙る彼にガウルンは声をかける。
「で? お前さんの名前はなんていったっけ?」
「もう忘れたか。……くっ、わ、わしの名は甲賀弦之介よ」
「ああ、そうそう、そうだった。確か一度名乗ってくれていたなあ。くっくっ悪かったねえ……如月左衛門君?」
「な!? 何を……?」
不意に呼ばれた本名に彼は思わず声を荒げる。
己の忍術は解けてはおらぬ。このような男に見覚えなぞない以上、彼の変装がばれる理由がどこにあろうか。
「如月左衛門はうぬが唾を吐きかけ、足蹴にした男の名よ! わしのことではないわ!」
「だってさ〜。 くくく、どうするよ弦之介? お前の名前取られちまったぜ?」
「な!?」
笑いながらガウルンが取り出したのは、紛れもない甲賀弦之介の生首。ぽたぽたと滴り落ちる鮮血は首を切り落とすという蛮行が行われたのが、つい今しがたであるということの何よりの証。
「貴様! よくも我が忠臣を……!」
「おいおい、だーかーら嘘はいけないぜ。如月左衛門君?」
なおも偽りを貫き通さんとする彼の心に不安が沸き起こる。
何故にこの男はこうも自分の嘘を見破れるのだ?
いやそればかりではない、此度の人物帖には載ってはおらぬはずの自分が何故に正体がばれるのだ?
あるいはもしや……この男は妖のさとりのごとく人の心を読む異能でも持ちたるのか?
ならば……どうすればよいというのだ?
外見とは裏腹に如月左衛門の内心は恐怖と混乱に揺れていた。
もちろん言うまでもなく、ガウルンにも彼の持ち物にも人の心が読める異能などは備わってはいない。
だが、歴戦の傭兵として、凶悪なテロリストとして、そして何より極悪なるサディストとして無数の人間に対して拷問や尋問を行い、
人の嘘を見破るすべに長けてきたガウルンには異能とまでは行かずともそれに近い技能はある。
如月左衛門とて甲賀の忍び、嘘をつくときには眉一つとて動かさぬ。
……だが、それでは足りぬのだ。
意識せずとも動く眼球のわずかな動き、不随意筋の緊張、わずかの鼓動の加速。そのようなところから真実は漏れ出す。
――種を明かせばこういうことだ。
最初の会話、如月左衛門と対峙した時の彼の嘘はただの無視できる違和感だった。
それはそうだ、いかなガウルンとはいえ、月明かりの下で触れてもいない相手の嘘がわかるほどではない。
だがそれが無視できなくなったのは遺体を盾にしたときである。
忠実な部下を馬鹿にされたことで怒るところまではいい。だがもしも、本当にこの遺体がただの影武者であったというのであれば、それを守るために、しかもただ死体の欠損を守るというだけのために己の好機をどぶに捨て、なおかつ致命的な隙を作るのはどう考えてもおかしい。
そして、尋問してみれば外面的には素人にしては満点レベルの無表情もプロフェッショナルのガウルンにしてみればバレバレな嘘。
相手の名前が如月左衛門とわかったのだって、名簿に載っていない名前をわざわざ述べるのはおかしいという推測半分でかまをかけた結果、見事に相手が引っかかったに過ぎない。
「で? もう一度聞くぜ。お前の名前は何だって?」
「…………」
あまりの口惜しさに唇をかみ破る。つう、と赤い血が流れ落ちるのにも頓着せずに如月左衛門は沈黙を貫く。
あえて男が尋ねる以上、嘘を見破ることはできても心の中までは読めはしまいと判断してのことである。
そんな彼の様子をみて、ガウルンはやれやれと首を振った。
「いやあ困った困った」
「…………」
「困ったなあ、弦之介」
「……!?」
ガウルンが不意に呟いた言葉に目線を上げる。
見れば片手に生首を携えたまま、いつのまにか先までは己の手にあった刀、ふらんべるじぇをガウルンは持っている。
「なあ、弦之介。一体なんでこいつは返事をしてくれないんだと思う? ああ、なるほどなるほどそういうことか……
え? どういうことかわかりやすく見せてやってくれって? しょうがないな」
ざぐっ
「なっ……!?」
思わず如月左衛門は声をあげていた。
何を思ったのか、ガウルンはいきなり手にした刀で弦之介の片耳を切り落としたのだ。
「ガウルン! 貴様ぁ、何を!」
「うんうん、そうかあ。なるほど耳がないならオレの質問が聞こえないから返事ができなくてもおかしくはないか。
……え? 片耳がなくなっても音は聞こえるって?」
おどけた口調で不吉極まりないことを言うガウルンにぞっとしたものを彼は感じる。
「よ、よせ!」
「え? 名前も知らない誰かが何か言ったか?」
とぼけた口調でそう言うと、ガウルンは弦之介の残ったもう片方の耳に刃を当てる。
「う、ぐう……」
如月左衛門は必死に頭を働かせる。
甲賀の里の未来のためにどうすることが最善なのか。
――そして
「わ、わかった! 話す! わしの名前は如月左衛門じゃ」
結局彼は折れたのだった。
少なくとも相手の名前やその風貌から判断すると相手は渡来人。ならば他の者に比べればまだ、忍術争いとは関係なかろうと判断してのことである。
それに、それに弦之介の遺体も大事ではあるがただ一人の生き残りをかけたこの争い、何か理由があって相手もこの身を生かしたのであろうが、下手に機嫌を損ねれば我が身もあっさり殺されかねない。
例え泥をすすって生きることとなろうとも彼は決して死ねぬのだ。
「おお〜よくできました」
ざぐっ
「きさ……がっ!」
「ガウルンだっての、忘れんなって」
真実を述べたにも関わらず、弦之介の耳を切り落としたガウルンに文句をつけようとして、痛みにうめく。
「な……何故じゃ?」
「ん〜? いやあ、あんまり返事が遅いからちょっとむかついてちやって、な。次からは気をつけようぜ?」
「ぐ、うううう」
ぎしぎしと如月左衛門は歯軋りをする。
そんな彼には取り合わず、ガウルンはもっとも大事な質問を彼へと投げかける。
「で? お前の本当の顔ってのはどんなんなんだ? みせてみろよ、ええ?」
「な、何故!? きさ、いやガウルン! 御主は一体どこまで知っておるのだ!?」
彼にとっての秘中の秘。泥の死仮面のことをあっさりと聞かれて思わず彼は声をあげた。途端にガウルンの足に力が入るが、今回ばかりはその痛みさえ気にならない。
そのままねめつけるもガウルンの痛痒さえ感じるふうはない。
「がああああぁぁぁ……」
これで一体幾度か、自分は何を間違えた。
答えの出せぬ迷宮に彼の思考は入り込んでいた。
実のところ両者の間には完全な誤解がある。
その誤解の最大の原因はガウルンと如月左衛門二人の生きている時代が違うことだ。
確かにガウルンの生きている時代であっても人に恨まれている金持ちや政治家本人、あるいはその身内などに影武者を用意することは無いとはいえない。
だが、外国と比べるとはるかに平和ボケしたあの国の人間が、影武者を本人そっくりに整形させるところまで行くだろうか?
答えは九割以上NOである。
そして逆に残りの一割未満、わずかばかりいる日本においてもそれだけのことを可能とするような権力や金持ちはガウルンは把握している。そしてその中に甲賀弦之介という名前はなかった。
ただ一つありえた例外の可能性が一卵性双生児の影武者というものであったが、それにしては苗字が違う。
よってガウルンはこう考えたのだ。
この男は何かしら変装道具を持っていると。
しかしこの場合、一つ問題になることがある。それはガウルンが元々持っていた銃やらナイフが全て奪われていたという点だ。
死体を傷つけるのを嫌った点から考えても、男、いや如月左衛門の甲賀弦之介に対する忠義は本物。
それが運良く、彼に変装するための道具を最初から支給されていたなどは……そこまで主催者とやらも甘くはないだろう。
だがここに、その矛盾を解消する考えが一つだけある。
ガウルン自身がそうであったように、服はもちろんのこともう一つだけ彼は道具を持ち込むことに成功している。そう、義足である。
ならば目の前の男も同じであるとガウルンは考えたのだ。
義手、義足、あるいは義眼。それらの中に何か変装のための道具を仕込んでいたのだろうと彼は考えたのだ。
だからこそ。
「……うおっ」
足元の美丈夫の顔があっという間にのっぺりと特徴なき男に変わった瞬間、ガウルンは思わず声をあげていた。
「どういう理屈だい、そりゃ……」
「くっ……」
正体を明かせといった直後のその問いに、先ほどまでと同じく嘘を暴くことが目的だと判断した如月左衛門は悔しげに顔を歪めながらも正直に己の忍術について話した。
「そういう風に最初から正直に話してくれりゃあいいんだ」
にたにたと内心の驚きをおくびにも出さずに、ガウルンは言う。
(ジャパニーズ・ニンジャってやつか……おいおいマジかよ。きいたことないぜ)
だが、聞いた話におそらく嘘はない。
そして術といっても特異体質のような物、道具と違ってガウルンにそれを扱うすべはない。
(さーて、どうするかねえ)
考え込むガウルンに下から声がかけられた。
「もうよかろう! わしの話せることは全部話した。その首を返してくれい」
その懸命な様子を見て、ガウルンの胸の内は決まったのだった。
「ダメだ。くっくっそんな顔するなって。俺だって鬼じゃない。頼みを聞いてくれたら返してやるよ」
「頼みだと?」
「ああ、その前に一ついいことを教えてやろう。オレは実は重い病気で長くないんだ。だから別に優勝できなくったってかまわないのさ」
「……それを信じろと?」
「おいおい、信じてくれないのか? 傷つくねえ……なあ弦之介?」
「よ、よせ! 信じる! 信じるから弦之介さまの遺体を傷つけるのはやめてくれ!」
ふざけた調子で弦之介の生首を取り出そうとするガウルンを如月左衛門は慌てて止める。
今は己の顔なのだ。あの顔に下手な傷でもつけられたときには甲賀弦之介健在なり、という偽りに真実味がなくなってしまおう。
「いや、わかってくれるかありがたい」
「……で? 頼み事とはなんなのだ?」
「何、二人かあるいは三人か……ご自慢の忍術で化けて欲しい相手がいるだけさ」
「……その程度のことならば」
返事を聞き、ガウルンは彼の上から足をどけた。
「いやあ話が早くて助かるぜ」
「くっ……それで誰に化ければよいというのだ?」
「ああ、相良宗介、千鳥かなめ。それから……あるやつの知り合いだな。さあいくぜ」
おら、とガウルンは身を起こした如月左衛門の背中を軽く蹴飛ばし、彼の先を歩かせる。その顔には凶悪にして不吉な笑みが浮かんでいる。
くっくっくっ……カシムに襲われるかなめちゃんや逆にかなめちゃんに襲われて絶望の表情を浮かべるカシム、少しでも速く見てみたいもんだぜ。
それにあの人を小馬鹿にしてくれたあのガキ。あいつだって自分の知り合いに裏切られた時にはこれ以上ない素敵な顔をしてくれるに違いないぜ。
くっくっくっくっくっくっ
ぎゃっははははっは
「ま、待て!」
「なんだあ?」
「せめて弦之介さまのむくろだけでも運ばせてはもらえぬか?」
「めんどくせえなあ……ちっ、さっさとしろよ?」
「ありがたい」
【D-1/草原/一日目・黎明】
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲。 ガウルンに対して警戒、怒り、殺意
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック、弦之介の首なし死体
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:当面はガウルンに従いつつも反撃の機会をうかがう
2:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す
3:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意
[備考]
※ガウルンの言った自分は優勝狙いではないとの言葉に半信半疑
※少なくともガウルンが仇ではないと確信しています
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
【ガウルン@フルメタル・パニック!】 】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(中)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5) IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し
1:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す
2:かなめとガキの知り合いを探す
3:かなめやがきの知り合いは半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる
4:それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる
[備考]
※如月左衛門の忍術について知りました
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています
投下完了です
みなさまご支援ありがとうございます
はぁ……書き手として始めて使って愛着深かったこのトリともお別れです……
投下乙です。
トリバレの件ですが、同一IDが出てるうちに新トリ出しておいたらどうでしょう?
>>439の◆vSi.BMDwnY が新トリなのかな?
それにしても、両者凄い。
ガウルンを圧倒する忍者の身体捌きに、左衛門をだしぬくガウルンの駆け引き。
圧倒されました。
さらに危険なコンビも結成されて、先が実に楽しみです。
なんだろう、まだ1人も殺してない2人なのにこの期待度はw GJです。
投下乙です。
おおぅガウルンと座衛門が輝いている。
座衛門の忍術でガウルン圧倒していくw
しかし座衛門の忠の信念。それ故に弦の介を傷つけられるのは耐えられなかったか……
ガウルンも濃いなぁw
活き活きとして座衛門を追い詰める。
そして自分の為に利用か……えげつないw
両者がらしくかっこよかったです
GJでした
感想ありがとうございます
新トリですが◆vSi.BMDwnYは単なる入力ミスです
次回からはこのトリで予約投下をさせてもらいます
投下GJ! ここで……来たか!
まさかのマーダーコンビ結成。しかも妙に濃いw
これからの期待度がやけに高いのはそのカタログスペックのみにあらず。
二人のポテンシャルを遺憾なく発揮させたのは見事と言うほか無いです。
これは、こいつらがどう動いていくのかが楽しみでたまらんです。
予約していた ハルヒ いーちゃん 投下します。
……ちょっとちょっと! 待ちなさいよ!
誰? じゃないわよ! あんたよあんた! そこのななしの権兵衛!
あーもう、どこまでもしらばっくれる気? このいの字!
いのすけ! いーいー! いっきー! いっくん! いー兄!
『あ』の次に来る字! 『あ』の下『き』の横! 『あ』の1つ後! 『あ』の後に1つ!
戯言遣い! ぎげんづかい! 虚戈言遣! 虚+戈言遣い! 詐欺師!
いいなおすけいいとこなしねいいたくなんかなしいいじんせいだったいいいくぁwせdrftgyふじこlp;……
(以下、言葉にならない言葉が数分に渡って続く。十数行略)
……あ、やっと止まった。ったく、お城から出ちゃうとこだったじゃない。
何よ。変な顔して。
妙な呼び方するな、ですって?
あんたが名乗らないのが悪いんでしょ。こっちは名前聞いてんのに、変なあだ名ばっか喋って。
まあもう、面倒くさいから『いー』でいいわ。
それで、いー。いや、あたしもすっかり忘れてたんだけどさ。
あんたも、『聞こえてた』でしょ?
……そう。さっきの。
あー、確かに、あんたが来た方向からだとよく聞こえなかったかもしれないわね。反響とかで。
そう。スピーカーか何か使って叫んでた、アレ。
なんか長ったらしくて鬱陶しい演説だったけど、確かこんな意味のことだったはず。
まずは『俺は強いぞー!』だったかしら?
で、『僕の女に手を出すなー、手を出したら殺すぞー』。
さらに『だから誰かさっさとなんとかしろー』って。
ああ、『優勝したい奴はかかってこい、ホールで待ってるぞ!』、……みたいな挑発もしてたわね。
他力本願なのがちょっと気に喰わないけどね、まあ嘘はついてないんじゃない?
……別に隠してたわけじゃないわよ。
「忘れてた」って言ったでしょ。仕方ないじゃない。
どうしよっかな、って思ってたとこにあんたが来て、それどころじゃなくなっちゃったし。
あと、あんたにも聞こえてたもんだと思ってたし。
それで? じゃないわよ!
いー、あんたは気にならないの?
だって、挑戦状よ、挑戦状!
かかってこいって言われてるのよ!? 正々堂々決闘よ!
こんな面白いこと、見逃せると思う?
SOS団の辞書に、挑戦から逃げるという言葉はないの!
……自分はSOS団じゃない、って、全くいちいち細かいこと気にする奴ね。いいのよ、そんなこと。
まあそりゃ、あたしは『優勝』とやらを目指してるわけじゃないから、挑戦を受ける義理なんてないんだけどさ。
でも、見てみたいじゃない。
どんな奴がこんなこと言い出すのか、っての。
なんだかやけに自信満々だったし、勝算はあるようだったし、ひょっとしたら凄い奴なのかもしれないわ。
凄腕の殺し屋とか、超能力者とか、宇宙人とか、魔法使いとか。
……何よ。また変な顔して。
まさかとは思うけど、「そんなのいるわけない」、とかつまんないこと言うつもり?
でもあんたも気付いてるでしょ。始まった時の変なワープとか、この妙なデイパックとか。
何があってもおかしくない状況で、何か不思議なことやらかしてもおかしくないあの宣言よ。
これで普通の人が普通のまま殺しあってたら、それこそ興醒めってものよ!
それに、ひょっとしたらあの男は普通のつまんない人間なのかもしれないけど、
アレを聞いて集まってくる奴らの中には、普通じゃないのが混じってるかもしれないじゃない。
こんな機会、逃す手はないわ!
ん? 世界の端を見に行く? ああ、そんなことも言ってたわね。
でも後回し! どうせあんたも、時間的に厳しいから1マスくらい妥協してもいい、って言ってたでしょ。
なら1マスも2マスも一緒よ。妥協なさい。これは命令。
……近づくのは危険だからやめた方がいい?
そうね、危険かもしれないわね。だけどね、あえて聞くわ。
危険。それが何? それがどうかした?
そもそも『安全な場所』なんてどこにもないでしょう!?
逃げてもダメ! 隠れてもダメ! 上手く逃げ隠れできても、時間切れになったら終わり!
なら、どうすればいいと思う?
……ちょっとは考えなさいよ!
いいこと、いー。
こういう時に必要なのは、ズバリ! 『情報』よ!
誰が危険で誰が信用できるのか! 誰にどんなことができて、どんなことしようとしてるのか!
それを集めることが大事なのよ。
多少のリスクを犯してでも、こういうコトを知るチャンスを逃すべきじゃないわ!
今回、相手は『ホール』で待ち構えてる、ってのが分かってるわ。
挑戦を受けようって奴も、まっすぐそこを目指すに決まってる。
場所も進路も大体分かってるんだから、こっそり隠れて見張ることはできるはずよ!
ああもちろん、危なくなったら逃げるわ。
……「さっきは逃げないって言ってた」、ですって? あんた男のくせに細かいこと気にすんのね。
いいのよ、戦略的撤退って奴よ。状況に応じて柔軟な対応していかなきゃ、この3日間戦っていけないわ。
すっごい戦える超能力者や宇宙人と知り合っていれば、「徹底抗戦」っていう選択肢もあったんだけど。
でもあんたじゃね。……何よ、また変な顔して。
心配しなくても、逃げる時の足もちゃんとあるわ。
うんしょっ……っと。
どう? これよ!
サイドカーつきのバイク!
『トレイズのサイドカー』ですって。そういえば名簿にも同じ名前があったわね。同一人物かしら?
まあ、あたしの鞄から出てきたんだから、今はあたしのものよね。遠慮なく使わせて貰うわ。
……何か文句ある?
え? もっと早く出しとけ、ですって? なんでわざわざ走ってたのか、って?
う、うるさいわね。
……そう、大きな音がするから「あえて」温存してたのよ!
さっきまでは、誰にも見つからないように移動するつもりだったでしょ? だから使う機会なんてなかったの!
でも、「いざ何かあって」逃げる時には、そんなこと言ってられないわ。全速力で移動しなきゃ。
だから今出すのは正解なのよ。
免許? もちろんないわ。でもきっと簡単よ、こんなの。
特にコレ、サイドカーつきってことは補助輪ついてるようなモンでしょ。
なら、そう簡単には倒れないわよね。適当に動かしてりゃ運転の仕方も覚えるでしょ。
……あら、そうなんだ。
ちょっと意外ね。見た感じ、ヤンキーってわけでもないのに。
なら、あんたをSOS団専属の運転手に任命するわ!
いざという時は、あんたがコレ運転するのよ。あたしはサイドカーの方に乗るわ。
そうと決まったら、さっさと引き返しましょう。
ほら、いー! 急ぎなさいってば! 置いていくわよ、もう!
重い? 押すの手伝え?
あんたが運転手なんだから、あんたが面倒見るのが道理ってもんでしょ! さあ行くわよ!
【D-4/ホール近く/一日目・黎明】
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:クロスボウ@現実、クロスボウの矢x20本
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
基本:この世界よりの生還。
1:ホールで大声で叫んでた奴、またはそれに惹かれてやってきた奴を遠くから観察する。
2:一段落してから、世界の端を確認しに行く。
3:SOS団のみんなを探す。
[備考]
支給品「トレイズのサイドカー」は、いーちゃんに渡しました。
◇ ◇ ◇
《偶然》とは何か。
その問いはコインの裏表のように、もう1つの問いを内に秘めている。
すなわち、《必然》とは何か。
《偶然》と《必然》の間に引かれる線は何なのか、と言い換えてもいい。
たとえば誰かがカジノのルーレットで赤に全財産を賭けて勝ったとしても、一回だけなら多分《偶然》だ。
けれど、これが5回続けて起こったりしたら、それはもう何らかの《必然》が働いている。
少なくとも、多くの人はそう考えてしまう。
ただ運が良かっただけです、と言われても納得はしない。
確率にして1/2の5乗、32分の1、3%強の幸運を引いただけです、では済まされない。
いくらかの有名なギャンブラーの錯誤だと分かっていても、そこに必然の匂いを探そうとしてしまう。
それは例えば、イカサマだったり、50億人に1人の強運が来る2週間だったり、超能力だったりするわけだが。
どうしたってそこに《偶然》以外の力が存在するのだ、と想像してしまうのだ。
まあ、カジノの場合、ディーラの作為が多少なりとも働くから、最初っから《偶然》ではないんだけどさ。
もちろんこれは戯言。
逆に、あらゆる意味で《必然》なのに《偶然》と認識されることもあるだろう。
さっきのルーレットの例で言えば、ディーラーを買収するか何かして、赤1点賭けで大勝した。つまりイカサマ。
でもそこで勝負をやめてしまった。
この場合は真相を知らない限り、あるいは露見でもしない限り、幸運、の一言で済まされることが多いだろう。
《必然》がそこにあるのに、見逃されてしまうわけだ。
さてこうなると、《必然》か否かを決めるのは、結局のところ観測者の気分次第、ということになるのだろうか。
回数はその気分に影響を与えうる重要なファクターの1つだが、しかし必要条件でも十分条件でもない。
気分、
もしくは理解、
あるいは納得。
なんと呼ぼうと大差はない。
そしてそもそも、《偶然》だろうと《必然》だろうと、実は結果的には大差はない。
まあ、言い訳をするならば。
そういったことに思考を裂かれていたので、
ぼくはハルヒちゃんの言葉に生返事を返すばかりになっていたのだけど。
しかし……ふむ。
ハルヒちゃんが聞いたという、あの《宣言》。
会場に散る善良な参加者に対する督促状であり、
会場に潜む悪辣な参加者に対する挑戦状であり、
会場に彷徨う最愛の参加者に対する決意表明たる、
あの《宣言》。
いやまあ実は、彼女に教えてもらうまでもなく、しっかりちゃんと聞こえてはいたんだけどね。
なにぶんぼくは記憶力が悪いので、彼女が話題を振ってくれるまで、綺麗さっぱり忘れていたというわけ。
まったく戯言である。
しかしこうして思い出してしまった以上、ぼくとしても気になってしまう。
1つだけなら《偶然》と流せた。でも、こう重なってくると《必然》を疑わざるを得ない。
それは、ぼくとハルヒちゃんが揃ってあんな自殺志願者の長口上を忘れていたこと、ではなく。
自分以外の誰かのために、人類最悪言うところの《椅子取りゲーム》に乗る奴がいることについて、だ。
学校で出会った自称超能力者・古泉くんは、目の前のハルヒちゃんのために自作自演の悲劇を作ろうとした。
ホールで挑戦者求む! とブチ上げた男は、大事な誰かのために皆を脅迫し、また危険を排除しようとした。
ここに、友のために行動しようと決めたぼくを加えれば、既に3人。
ハルヒちゃんだって、古泉の「目的」たる人物だ。
この短時間に直接・間接問わず出会った相手が、揃いも揃って同類、あるいはその対象というのは……
これはちょっと、《偶然》とは思えない。
ここまで重なると、《偶然》では流せない。
あるいは、ひょっとしたら。
この《椅子取りゲーム》に放り込まれた連中は、そういう連中ばかりなのかもしれない。
そういう傾向の者だけではないにせよ、そういう傾向の者が多いのかもしれない。
自分より誰かが大事。
利己主義者ならぬ、究極の利他主義者。
なるほど、これはこれで《ゲーム》は進行することだろう。
守るにせよ、攻めるにせよ、逃げるにせよ、だ。
そう考えた理由は、他にもある。
例えばこの、サイドカー。
もちろん、本来の持ち主から取り上げたついでに適当に支給しただけ、という可能性もないわけではない。
けれど基本的に、サイドカーは2人乗りを前提とした乗り物だ。
彼女は補助輪、なんて言ってたけど、バイクとしての使い勝手を考えれば、外した方がいいに決まってる。
そしてサイドカーを外すだけなら、そう難しい作業でもないのだ。
2人で行動しようと望む者が出るだろうから、あえてつけたままにしておいた。そう見た方が自然だ。
まあ……現時点では戯言くらいにしかならない考察だけどね。
で、そんなわけで。
ぼくはこうして、意気揚々と道を引き返すハルヒちゃんの後を、バイクを押しながらついていっているわけだ。
うん、『情報』を集める。確かに重要なことだ。
世界の端を確認する、なんてことも、他に当てがないからのこと。
いつかはやらなきゃいけないけど、そんなのいくらでも妥協していい話だ。
けれど、ハルヒちゃん。
それ以上に、ぼくが気になるのはね。
きみがどうやら、本物、らしいということだ。
古泉くんの言った通りの《神》なのかどうかは、まだぼくには分からない。
そこまでは断言できない。
ただ、どうやらただの夢見る少女、ではないらしい。
それくらいは分かった。分かってしまった。
少なくとも《アレ》は、《偶然》では済まされない。
《偶然》と《必然》とを分ける重要なファクターの1つは回数だけど、それは必要条件でも十分条件でもない。
1回限りでも、十分《必然》を疑わざるをえない状況というのはある。
ぼくにとっては、彼女が口にした《名前》が、まさにそれだ。
でたらめに大量に言った内の1つが、たまたま当たっただけ。それは分かる。
でもそれは、ぼくにとっては《偶然》では済まされない。
それが《必然》である理由が必要になってしまう。
涼宮ハルヒには、無自覚ながらも自らの願望を実現する力がある――古泉くんの言葉だ。
つまり彼女は、「ぼくの名前が知りたい」と思った。
だから、言い当てた。
少し遅かったけど、見事に言い当てた。
彼女自身も、与り知らぬうちに。
たぶん、彼女はまだ気付いてない。ぼくの名前を当ててしまったことに、全く気付いていない。
自分のしでかしたことを、理解していない。
……そういうことに、なるのだろうか。
……まったく。
いくらなんでも、無茶苦茶だ。
子荻ちゃんの時のように、十分なヒントがあったわけではない。十分な知識と知恵があったわけでもない。
なのに、ただでたらめに、思いつくままに言葉を口に出していって、それで見事に正解を引いてしまう。
これはもう、常識を超えた「何か」がある。
例えばそれはあの、空前絶後の占い師のように。
《神》は大袈裟にしても、それを《必然》とする「何か」がそこにあるんだろう。
超能力。ESP。神の力。それを何と呼ぶかは重要じゃない。
なるほど、これは戯言殺しだ。
これもまた、立派な戯言殺しだ。
無自覚なままに発揮される才能。発揮されても自覚されない才能。
そこには戯言が食い込む余地はなく、事故頻発性体質が挟まる隙間もない。
そこには戯言を言っている暇もなく、無為に帰すべき意図もないのだから。
ぼくの周りでは、何もかも上手くいかない。誰の望みも叶わない。
ぼくが何もしなくても、周囲が勝手に狂いだす。
けれど――
彼女という中心では、何もかも上手くいく。彼女の望みは叶ってしまう。
彼女が何かすることで、周囲が勝手に従っていく。
それ自体が一個の特異点。
だけどね――ハルヒちゃん。
きみは、《4人目》なんだ。
一人は井伊遥奈。
一人は玖渚友。
一人は想影真心。
一人は死んだ。
一人は壊れた。
一人は焼かれた。
この場合、意識して呼んだわけじゃないから例外扱い、なのかもしれないけれど――
きみはいったい、どうなるんだろうね?
どうでもいいと言えばどうでもいい。
気にならないと言ったら戯言になる。
――なんてね。
やれやれ。
まったく、ぼくらしくもない。
ぼくはひとつ溜息をつくと、サイドカーを押して歩き出したのだった。
【D-4/ホール近く/一日目・黎明】
【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、基本支給品、22LR弾x20発
[思考・状況]
基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
1:ハルヒに付き合ってホールに近づく。危なくなったら逃げる。
2:一段落したら、世界の端を確認しに行く。
3:涼宮ハルヒを観察。ハルヒの意図がどのように叶いどのように潰えるのかを見たい。
[備考]
涼宮ハルヒは、(自分も気づかないうちに)いーちゃんの『本名』を言い当てていたようです。
(ハルヒパートの冒頭付近。『以下十数行略』の中に含まれている可能性もあります)
(なお、「あのつぎにくるじ」「あのした・きのよこ」などは、「本名候補の1つ」として考察されているものです)
なお、いーちゃんの『本名』は不明です。
【トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ】
『リリアとトレイズ』T・U巻で登場した、サイドカーつきのバイク。
以上、投下完了。支援感謝です。
投下乙です!
ちょ…ハルヒぃぃぃぃぃぃぃ!?
何普通に死亡フラグ立てちゃってんのさ…orz
ロワだしさほど気にする事ではないのかも知らんが
怖すぐる
投下GJ! なんだ、仲良しじゃないか……仲良し、でいいのかこれ?w
なまじ古泉と出会ってしまったことで、いーちゃんがどういう行動に出るのやら。
何気に自衛には困らないくらいの武器や移動方法も備えているが、それが逆に不安だよなぁw
投下乙です。
ハルヒのまくしたてが凄いw
いーちゃんたじたじだなぁw
いーちゃんもらしい……いい味出してるなぁ
GJです
ちょっと気になった点ですが
ステイルの放送を忘れてたってのはちょっと違和感あるかもです
前回はそれも含めて世界の端へ行こうと提案したと思っていたので
名前に関しては一度いーちゃんと言ってるしちょっと気になったかなw
ハルヒの力でなんとかなるかもですがw
確かにちょっとハルヒが気になるかな。
流石に明らかに危険&実力も分からないやつに突っ込んでいくほどではないだろうし
>>473-474 では、ハルヒの言動についてちょっと考えてみます。
具体的には、思い出して方向転換をするあたり、
及び、実際にどの程度のことをするつもりなのか、といったあたりについて。
明日の夜ぐらいには修正案を出せるかと思います。
名前については、修正を入れるかどうか、判断保留で。そちらにも手を加えるかもしれません。
他にも指摘等ありましたらお願いします。
規制中の ◆LxH6hCs9JU 氏の仮投下、転載します
踏み慣れぬ硬い土。足疲れは普段よりも激しく、鷹が羽ばたく音にもどこか戸惑いを感じられる。
前を行く姫路瑞希。忍者でもない、どころか“やんごとなき”身分である可能性すら高い女性の歩は、また頼もしい。
後ろの筑摩小四郎。伊賀甲賀あいまみえる忍法合戦の中途において、不覚ながら盲となった男は、この地でも暗闇に縛れていた。
時折空に舞い上がり、またふらりと男の肩に降り立つ、といった挙動を繰り返す鷹はともかくとして、
筑摩小四郎と姫路瑞希――生きた『時』を大きく違える男と女の間に、会話はなかった。
忍法殺戮合戦、試召戦争、どちらを経た身とて異常極めるこの『座盗り遊戯』。
直接的な要因はなかれど、誰もが奇異を感じ危機を自覚している。
この二人も、また。話題がない以上に、緊張からの無言が。
「――明かりが」
と、前を行く姫路瑞希が久々の言葉を切った。
と同時に足も止め、後ろの筑摩小四郎といえば、鷹を飛ばせ周囲を探る身構えだ。
「どうなされたか、瑞希どの」
「懐中電灯の明かりが……前のほうに、誰かいます」
耳慣れぬ単語に、筑摩小四郎はまったくの理解も得られなんだが、気配だけで前に誰かがいるとわかった。
数は、ひとつ、ふたつ。姫路瑞希を除いた新参者が、やはり姫路瑞希と同じように己を“曝け出している”。
なればこそ、盲の身である筑摩小四郎の目にも、それが映る。
気配を断ち、また断たれた気配を探るが忍の日常。
鷹を飛ばすまでもなく、筑摩小四郎はそれを知り、問うた。
「何奴か……朧さま、よもや天膳さまではあるまいて……」
「こっちに向かって手を振っています。二人……います」
盲である筑摩小四郎に、前方の人影二つが取る挙動までは見えない。
闇夜に両の眼を凝らした姫路瑞希が、それを代わりに見て伝えた。
それは、どちらも知らぬ男と女であると。
それは、極めて好意的にこちらを手招きしていると。
◇ ◇ ◇
街中に構える温泉施設、そこはえらく風変わりな場所だった。
銭湯なみの大浴場を完備し、天然の露天風呂まで備わっている、さらには宿泊施設としての客間も少し。
自動販売機やマッサージチェアといった備品も過不足なく置かれたそこは、現代の労働者を標的にした極上の娯楽施設。
普段なら出歩かないような夜の街々を数時間ばかり放浪したが、この“舞台”がどこかはわからなかった。
一回りして、どこにでもありそうな街並みであったと感想を抱くのは――姫路瑞希である。
文月学園高等部に在籍する彼女の故郷は、田舎とも大都市とも言うほどではないごくごく平凡な町である。
道先の看板の表記などが日本語であったことから、ここは日本のどこかでは、と漠然と当たりをつけてはいたが、
それがあまりにも浅はかな、今という非日常では既に通用しない、過去の常識なのだとこの邂逅で思い知らされる。
「AS(アーム・スレイブ)……学園都市……私も記憶にありませんね……」
神妙な面持ちで座布団の上に正座する瑞希。彼女の周囲には、他にも二つの座布団が置かれていた。
そこに座るのは、同年代の男子と女子が一人ずつ。どちらも、つい先ほど出会ったばかりの人間だ。
三人の中央には卓袱台が置かれている。床は真新しい畳が敷かれており、壁際には襖まで確認できる。
まるでFクラスの教室を思い出させる(比べればこちらのほうが綺麗だが)ここは、温泉施設の宿泊用客室。畳部屋だった。
「文月学園だったか? 試験召喚システム……そんな画期的な教育を取り入れいてる進学校、俺も聞いたことがない」
「私も右に同じ。ASや学園都市っていうのも知れ渡らないような話じゃないし、みんなの認識に齟齬があることは明白ね」
この“舞台”が段々と時計回りに消失していくというのなら、人が集まるのはやはり中心部。
そう考えた瑞希は、筑摩小四郎を連れ添い、南の海岸寄りから北の町を巡り歩いていた。
その道中、恐れを知らぬ懐中電灯のアピールにより、瑞希と小四郎の二人はここへと招かれたのだ。
瑞希と小四郎が招待客なら、温泉の主は現在瑞希と話し合いを進めているこの男女である。
詰襟タイプの学生服を着た、知的な印象を漂わせる眼鏡の少年の名前は、北村祐作。
青を基調としたセーラー服を着る、ポニーテールの似合う少女の名前は、朝倉涼子。
二人は友好的な態度で瑞希と小四郎を温泉に招き入れ、ぜひ話を聞きたいと持ちかけてきた。
安心した、というのが瑞希の正直な感想である。
共に学生であるらしい北村と朝倉の“普通”な雰囲気が、緊張で張り詰めていた気持ちを弛緩させた。
小四郎はやや戸惑い気味だったが、瑞希にこれを断る理由はなく、誘われるがままここに腰を落ち着けたという次第だ。
「拉致されたときに、頭の中身でもいじられたとか? なんだか怪しいよね、このへんの食い違い」
「ゾッとする話だな。普段だったら笑い話だろうけど、今がもう普通じゃないからなぁ」
まず手始めに、三者が所有している世間的常識の照合を済ませた。結果はやはり、曖昧なままだ。
姫路瑞希が在籍する文月学園は、『試験召喚システム』という制度を試験的に採用している、有名な進学校である。
試験召喚システムとは、科学と、偶然と、オカルトによって生まれた未知の産物であり、
多くのメディアから注目されてはいるが、県を跨いだ他校の生徒からして見れば、知名度はまだまだ低いかもしれない。
だが、今は別行動を取っているという北村の仲間――上条当麻の言う『学園都市』や、千鳥かなめの言う『AS』などは別だ。
東京の三分の一を占め、外部と隔離されたその一帯が一つの巨大都市として確立している事実など、瑞希は知らない。
戦車や戦闘機にかわって、人型機動兵器が軍事運用されている事実など、瑞希は知らない。
北村や朝倉も同じく、しかしこの二人は『試験召喚システム』についても知らない。
明らかな情報の齟齬は、いったいなにを意味するのだろうか。
朝倉の言うように、脳内をいじられた可能性とて否定できない不一致が、瑞希の頭を悩ませた。
このあたりの食い違いに、なにかこの企画の根底を覆す鍵が隠されているような気がしないでもない。
しかし、今は考えるだけでも手詰まりだ。学校のテストとは違って、安易に正解が求められるものでもない。
「あの……そういえば、北村くんの名前で気になることがあるんですけど」
とりあえずは保留にしておくべきだろう、と瑞希は考え話を切り替える。
「北村くんの名前って、名簿には載っていませんでしたよね?」
「ああ、載ってなかったな。たしか十人だったか? 未掲載の奴もいるって言ってただろう」
「あの狐のお面を被った人の言葉ね。どういった意図があるかは知らないけれど」
北村は卓袱台の上に名簿を広げ、羅列されている名前を指で追っていった。
そこには『姫路瑞希』や『朝倉涼子』の名前はあれど、『北村祐作』の名前は載っていない。
「どういった意図、か……なぁ、姫路に朝倉。ちょっと確認したいんだが、いいか?」
北村は胡坐をかいたまま腕組みをし、おもむろに訊いてきた。
「ここに載っている瑞希の知り合い……吉井、って奴だけで間違いないか?」
「はい、明ひ……吉井君一人だけですっ」
「朝倉。おまえが知っている人間は涼宮と、このキョンってやつ。二人で間違いないな」
「ええ。どちらも私のクラスメイトよ。キョンくんがなぜあだ名で載っているのかは知らないけれど」
瑞希と朝倉の回答に、北村はふむ、と唸る。
「俺の知り合いは高須と逢坂、川嶋と櫛枝って奴らだ。同姓同名とは思えない……よな」
「北村くん、なにか気になることがあるんなら言ってくれない? 私と姫路さんも力を貸すわ」
言う朝倉の表情は、堂々としていて心強い。
北村もそれに安堵したのか、躊躇わずに言葉を継ぐ。
「これは俺の推測なんだが、拉致された人間たちの人選は、集団単位なんじゃないかと思うんだ」
瑞希と朝倉が首を傾げる様を見て取り、北村はさらに続ける。
「みんな、ここには誰かしらの知人友人がいる。俺たち三人はいま確認したとおり。
別行動中の上条や千鳥にもいる。姫路と一緒に来た筑摩にも、知り合いはいるんだろう?」
北村の視線は客間の隅、壁に凭れるように座っている一人の男へと注がれる。
顔の半面を真新しい包帯で覆い隠し、身は黒の装束で包んだ、一見して忍者のように思える男。
声の若さで捉えるなら皆と同年代であろうが、なにぶん顔が隠れているため、詳細は定かではない。
しかし構わず、また相手が面妖だからといって臆したりもせず、北村は気軽にその男――筑摩小四郎へと話しかける。
「……朧さま、それに天膳さま。お二人とも、おれが仕える主にござる」
盲目の小四郎は北村と視線を合わせることができず、明後日の方向を向きながら応えた。
彼の肩には鷹が止まっている。カラスなどに比べても巨大なそれが、大人しくも獰猛な瞳で代わりに北村を睨んでいた。
「やっぱり、誰かしら知り合いはいるんだ。ここにつれて来られた経緯なんかは覚えちゃいないが、
俺たちを拉致した奴は、きっと俺たちの交友関係を把握しているんだ。だからこんな風に、名簿の一部を隠したりする」
北村の名簿の欄外に、手書きで『北村祐作』の名前が記される。
北村を抜いたとして、残り九人。この地には名前の知られていない人間が存在しているのだ。
そこで、瑞希は気づいた。
「その九人っていうのは……私たちの知っている人である可能性が高い、ってことですか?」
「正解。俺が言いたいことはつまりそれさ」
おずおずと開いた口が、力なく閉ざされる。
考えたくはないが、考えなくてはならない心配事がまた一つ、増えてしまう。
「参加者六十人。知人同士である程度グループが形成されているのだとしたら、俺は高須、逢坂、川嶋、櫛枝の班に入る。
けど、高須たちからしてみれば俺は認知されていない存在だ。同じようなことが、姫路や朝倉にも言えるかもしれない」
北村はつまり、こう言いたいのだ――まだ見ぬ九人の中に、大切な友人が紛れていることもあり得る、と。
たとえば、姫路瑞希の場合。名簿上で彼女と唯一接点を持つ人間といえば、吉井明久である。
瑞希と明久の関係は、妥当なところでクラスメイト。だとすれば、残り九人の中に同じFクラスの人間がいてもおかしくはない。
たとえば、それは明久の親友の坂本雄二。瑞希の親友であり二人しかいないFクラス女子の片割れでもある島田美波。
明久や雄二とよく行動を共にしている木下秀吉や土屋康太、須川亮あたりが含まれている可能性とてあり得る。
もし、明久以外にも友達が巻き込まれているとするなら――瑞希も気が気ではない。
明久一人の安否を気遣うだけでも心臓が鷲掴みにされる思いだというのに、それ以上ともなればいずれ不安に押し潰されてしまうだろう。
「なるほどね。ひょっとしたら恋人や家族なんかもいたりするかもしれないってわけか」
「ああ。名簿の一部を隠しているのは、そうやって俺たちの不安を煽るためでもあるんだろうな」
「そんなの……悪趣味です! 私たちがこんなに必死な思いをしてるっていうのに、そんな嘲笑うみたいに……」
「この椅子取りゲームの狙いなんてわからないさ。けど、姫路の憤慨はもっともだ。――でも」
北村はそっと微笑み、険しい顔つきの瑞希へと目配せする。
「案外、そう危ない状況にはならないんじゃないか……俺はそう思うんだ」
その発言はどこか余裕に満ちていて、北村の度量の深さが窺えるような、不思議な安心感があった。
「朝倉。このゲームの趣旨って、なんだかわかるか?」
「なにって、『生き残りを目指す』、ただそれだけでしょう? あの男の人の言葉を信じるならね」
「そう。そして、その生き残りとやらの席は一つらしい。なら姫路、たった一つの生き残りの席をどうやったら絞れる?」
「それは……席が一つに、つまり生き残りが一人になるまで、他の人たちが消えれば……」
口ごもりつつ応える瑞希の顔は、俯いている。
それを口にしてしまうのは、なんとなく怖い気がしてならなかった。
「本当は言いたくないんだろうが、あえて代弁させてもらう。生きるの対義語は死ぬ。生かすの反対は殺す。
六十の人間がいたとして、『生きる』を一つに絞りたいんなら、答えは簡単。他の五十九は『死ぬ』しかない」
北村は毅然と言い放った。瑞希は浮かない表情のままだったが、これを静かに肯定する。
「直接『殺せ』とは言わなかったあたり巧妙だがな。手っ取り早く生き残りたいなら、他を殺せばいいんだ」
「そう。北村くんの言うとおり。冷静に考えれば、誰だって物事の本質には気づく。だからこそ、危険な状況にも陥りやすいと思うんだけど?」
「いや、そうでもないさ。これも冷静に考えれば誰だって気づくと思うんだが……この椅子取りゲーム、いや殺し合いには、猶予がある」
猶予、という言葉を強調させ、北村は卓袱台の上にこの会場の地図を広げる。
「最終的に生き残れるのは一人だけ、って言っても、他の五十九人はすぐに死ななきゃいけないわけじゃない。
誰かが誰かを殺さない限り、その命は三日間……地図上の全部の升目が埋め尽くされる瞬間まで、保障されるんだ」
期限は七十二時間ジャスト。それが、このゲームに定められたルールの死角だった。
地図を見てもわかるとおり、この会場は三十六のエリアで区分されている。
そしてそのエリアは、北西から外側を東回りに“消滅”していき、やがて内側へと至り、最終的には中央のエリアも食うという。
消滅に巻き込まれれば、おそらくは死。徐々に狭まっていく会場を思えば、“敵”は早々に始末してしまったほうが得策と思える。
しかし、そんなことはないのだ。
狐面の男が言ったとおり、このゲームの趣旨は『生き残る』ことであって、『殺し合え』とは一言もなかった。
主催者としても、最終的に一人が選び出されれば文句はなく、ゆえにそのときまでは誰が誰を傷つける必要もないのである。
それはたとえ――三日の時が経過するその瞬間まで、六十人の人間が一致団結して脱出策を模索していたとしても、だ。
なので北村は、これを“猶予”と捉える。今は足掻くことが認められた時間だからこそ、精一杯足掻いて見せよう、と。
「これが爆弾付きの首輪でも嵌められてたんなら話は別だけどな。なにも一日目から向こうの趣旨に乗ってやる義理はないのさ」
「たしかに……そうですよね。誰だって、人殺しなんてしたくないはずですし。錯乱した人が相手でも、がんばって説得すれば」
「でも、それはあくまでも猶予であって、問題の解決に至れるわけじゃない。平和はいずれ破綻してしまうわ」
「もっともだ。七十二時間が経過したら、どの道ゲームオーバー。そうなる前に、別の解決策を探らなくちゃな」
生き残った一人が、五十九の屍の上に築かれた一つの椅子に座るという結末。
そんな最悪とも取れる最後を回避するためには、別の解決策を練る必要があるだろう。
誰も死なず、皆が生きて帰れるような、抜け道のような解決策が――はたして、あるのだろうか。
瑞希としては、不安にならざるを得ない。
心細さから欲したのは、吉井明久の隣の席。
だが、明久を見つけたとて心の安寧が得られるだけで、後の生には繋がらない。
大元の事件を解決しなければ、どの道死んでしまう運命なのだ。
そちらのほうもなにかしら考えなければならないのだが、まったく妙案が浮かばない。
「まあ、そっちは地道に進めていくしかないさ。上条と千鳥が戻ればなにかわかるかもしれないしな」
瑞希や小四郎、そして朝倉よりも先に北村と接触したらしい上条当麻と千鳥かなめは、会場の端を確認しに行ったという。
地図を見る限り、瑞希たちが放り込まれた場所は絶海の孤島というわけでもない。
一見したところ脱出は容易なのではないかと思えるが、はたしてそう上手い話があるものだろうか。
それもまた、二人が無事に帰還すれば判明するだろう。
「あなたの考えはよくわかったわ。でもね北村くん。あんなに堂々と人を呼び止めるのは、危機感に欠けると思うのよ」
「はっはっは。まあそう言うな朝倉。おまえも瑞希も……あと、“師匠”だったか? 話が通じる相手で幸運だったよ。
リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツさんとか、どこの国の人かもわからないからな」
あっけらかんと言ってのける北村の横顔が、瑞希にはとんでもない大物のように思えた。
温泉を拠点とし、近くを通りかかった人々に片っ端から声をかける。
北村が行っていた人集めは、極めてシンプルなものだった。
瑞希と小四郎が懐中電灯の明かりに導かれたのも然り。
朝倉涼子と、彼女の仲間であるという“師匠”もまた、瑞希よりも早く北村に招かれた客人だった。
「その師匠さんという人は、どんな方なんですか?」
上条当麻や千鳥かなめと同じく今は別行動中だと聞いてはいたが、その詳しい素性までは知らされていない。
すれ違いの仲間に抱いた興味を、瑞希はそのまま質問に移す。
「強い上にとても親切な人よ。無償で私の警護をしてくれていたの。本名は教えてくれなかったけれど」
「彼女には付近を回って人集めをしてもらってる。六時前には戻ると言っていたから、姫路もそのときに顔を合わせるさ」
朝倉と北村の言から、瑞希は頭の中で空想の師匠像を作り出す。
性別は女性、髪形は朝倉と同じポニーテールで、温和な性格の人物らしい。
名簿にも載っている人物ではあったが、その名が“師匠”という肩書きであることが少し気にかかった。
とはいえ、他にも本名かどうか怪しい人間はいる。朝倉から直々にあだ名認定された“キョン”などその典型だ。
細かい疑問点は、考え出すときりがない。今はただ、師匠なる人物との邂逅に期待しよう、と瑞希は思う。
「上条くんと千鳥さんが戻ってくるのはもう少し先なのよね。その間、私たちはどうする?」
「そうだな……また外に出て、近くに人がいたら呼び止めるか……ああ、そういえば」
数秒考える仕草をし、北村が発言する。
「朝倉たちの“武器”を確認させてもらってもいいか? なにか役に立つものがあるかもしれない」
武器というニュアンスに一瞬、身を強張らせた瑞希だったが、すぐに北村の意図を理解した。
武器とはつまり、狐面の男がそう呼んでいた支給物のことだ。
名簿や筆記用具といった六十人共通のものとは別に、一人につき一つから三つの割合でそれらが支給されている。
拳銃や刀剣のような文字通りの武器であったり、また用途不明のものであったりと、種類は様々であるとも説明されていた。
北村の要望どおり、瑞希は自分の鞄から支給物を取り出して見せる。
といっても、彼女が見せたのはなんてことはない、その辺りの民家でも手に入りそうなフライパンだ。
元々は小四郎に支給された品であるが、瑞希に支給された蓑念鬼の棒と交換しそれぞれ所有者を変えた。
「あとは、小四郎さんの持っている棒と……肩の鷹が、そうだそうです」
「鳥もありなのか!? いや、まあ猛禽類は獰猛だとも聞くが……」
「この分だと、犬や猫なんかも支給されているかもしれないわね」
北村が鷹に対し苦笑いを浮かべたところで、朝倉も自身の支給物を提示する。
「朝倉のは、刀と……なっ、金か、これ? 本物の?」
卓袱台に置かれた場違いなまでに輝かしいそれは、紛れもない金塊である。
棒状のものが五本。換金すればいったいいくらになるのだろうか。瑞希と北村は揃って想像し、感嘆の息を漏らした。
「ちゃんとした武器もある一方で、こういう使い道に困るものもあるみたいね」
朝倉はいたって冷静な素振りを見せ、金の延べ棒を指で弾いた。
如何な値打ちものとはいえ、この状況ではあまり意味がない。
財布が潤っていたとてなにかしらの買い物ができるわけでもなく、ましてや金の塊など、鈍器にしかならないだろう。
「ま、朝倉の言うとおりではあるなぁ。これで探偵でも雇える、っていうんならともかく」
「そういう北村くんの鞄には、いったいどんなものが入っていたんですか?」
「ん? 俺か」
瑞希と朝倉の提示した物品の中に、人集めに有益なものが含まれていたかと言えば、結果は否だ。
ともなれば、気になってくるのは言いだしっぺである北村の荷物。
瑞希が問うと北村は不適な笑みを見せ、自分の鞄を漁り始めた。
「数で言えば、とりあえず運は良かったほうだな……入っていたのは三つ。一つはこれだ」
卓袱台の上に置かれたのは、厚みのある茶封筒だった。
表面には、宛名ではなく『お宝写真!』とだけ書かれている。
確認してみてくれ、と北村に促され、瑞希がそれを手に取り封を開けた。朝倉も横から覗き込む。
中に入っていたのは、数枚の写真――ある特定の人物に限って言えば、たしかに『お宝』と言えるだろう代物だった。
「正直、ハズレもいいところだ。いったいこれで俺になにをしろっていうのか……」
「そうですね。たしかにこれはハズレかもしれません。ですから、私が預かっておきます」
「ああ、そうだな。じゃあ二つ目を……ん? 姫路、今の流れになにか違和感を覚えなかったか?」
「いえ、全然! それより、他の二つも早く見せてもらえませんか!?」
「あ、ああ」
瑞希は写真入の茶封筒を懐にしまいつつ、北村を催促する。まるで言及の隙を与えない。
ここに“こんなもの”があるとは思いもしなかった。しかし幸運だ。
これは、他の誰の目にも触れさせないほうが安全だろう。
瑞希の手で大事に保管しておく必要がある。後々の鑑賞のためにも。
「次はこれだ。朝倉の金塊ほどじゃないが、値打ちもの……というより、骨董品だな」
これもやっぱり用途はわからんが、と付け加え北村が卓袱台に置いたのが、古風な巻物だ。
広げてみると、紙面には墨で書かれた文字が敷き詰められている。
達筆ではあったが、どれも読めない漢字ではない。
北村がこれを読み上げていく。
◇ ◇ ◇
甲賀組十人衆
甲賀弾正 鵜殿丈助
甲賀弦之介 如月左衛門
地蟲十兵衛 室賀豹馬
風待将監 陽炎
霞刑部 お胡夷
伊賀組十人衆
お幻 雨夜陣五郎
朧 筑摩小四郎
夜叉丸 蓑念鬼
小豆ろう斎 蛍火
薬師寺天膳 朱絹
服部半蔵との約定、両門争闘の禁制は解かれ了んぬ。
右甲賀十人衆、伊賀十人衆、たがいにあいたたかいて殺すべし。
のこれるもの、この秘巻をたずさえ、五月晦日駿府城へ罷り出ずべきこと。
その数多きを勝ちとなし、勝たば一族千年の永禄あらん。
慶長十九年四月 徳川家康
最後にこれをかくものは、伊賀の忍者朧也。
◇ ◇ ◇
記された名には、すべてに血の線が刻まれていた。
名簿にも名を連ねる朧や薬師寺天膳、甲賀弦之介、そして筑摩小四郎の名も、そこにあった。
現役の高校生である閲覧者三名、慶長や徳川家康といった名称に聞き覚えがないはずもなく、揃って首を捻る。
と、
「それはまことか……!」
今の今まで会話に加わろうともしなかった小四郎が、急に声を荒げ立ち上がった。
三人が驚くと同時、彼の肩に止まっていた鷹も奇声を上げ、客間を忙しなく飛び回る。
「姫路どの、それはまことかと問うておる……!」
包帯に覆われた顔面からは、表情が窺えない。荒い語気からのみ、鬼気迫るものが感じられる。
小四郎の問いに、瑞希は言葉を失った。驚きのあまりにではなく、単純な恐怖心から、声を枯らしてしまったのだ。
今にも掴みかからん勢いの小四郎を宥めようと、代わりに北村が返す。
「本当かどうかは知らないが、文面はさっき読み上げたとおりだ」
「……左様か。さすれば北村どの。その人別帖は我ら伊賀組のもの。ゆえにおれが貰い受ける」
「そりゃ渡すのは構わないが……これがなんなのかは、訊かないほうがいいか?」
小四郎は黙って頷いた。北村もそれ以上はなにも言わず、巻物を小四郎へと手渡す。
程なくして鷹も落ち着き、小四郎の肩に戻った。小四郎自身も、平静を取り戻しまた腰を落とした。
「さて、と。それじゃ、これが三つ目になるんだが……」
北村は何事もなかった風を装い、再び鞄の中身を漁り出す。
瑞希はまだ怯えが抜けないのか、寡黙となった小四郎から目が離せないでいた。
「……造りが精巧というか、なんというか。あまりおもしろいものじゃないけど、それでも見るか?」
「もう、ここまできてもったいぶるのは禁止。さ、早く見せて」
「ふっふっふ……朝倉は怖いもの知らずのようだな。よーし、ならば見るがいいさーっ!」
高々と叫び、北村は三つ目の支給物を鞄から勢いよく引っ張り出した。
出てきたのは、人間の頭部である。
北村の手に鷲掴みにされた頭が、抵抗することなくずるずると、鞄から引きずり出される。
瑞希と朝倉は絶句。徐々に姿をあらわにしていく、鞄以上の体積を持つ人間の体が、卓袱台の上に横倒しになった。
悲鳴を上げる間もない唐突さは、しかし注意深く観察してみると、それが人間ではありえないということがわかる。
瞳の閉じられた顔は安らかな寝顔のようにも見え、まったくと言っていいほど生気が感じられない。
肌の色は自分たちのものと比較してもどこか人工的で、触ってみると硬かった。
纏っているのは、なぜかは知らぬがウエディングドレスである。
「マネキン、ですか?」
「マネキンね。どう見ても」
「マネキンにしては造りがいいが、まあマネキンだろう」
北村の三つ目の支給物は、ウエディングドレスを纏ったマネキン人形だった。
◇ ◇ ◇
汗の臭い染み込む下着を脱ぎ捨て、裸体は湯気のヴェールに包まれる。
外界との境界を担う引き戸は、ほんのちょっとの力で容易く開かれた。
靴下もない素足が踏みしめるのは、水滴に塗れたタイルの敷かれし床。
目指す場所はそう遠くはなく七歩ほどの距離――そこに浴槽はあった。
温泉施設のメインとも言えるここは、女性用大浴場。
むき出しの胸元をタオルで少しばかり隠した入浴者の名は、姫路瑞希。
彼女は今、湯の張られた浴槽を前にして、入るべきか入らざるべきかと悩んでいる。
(こうしている間にも、明久君は……でも、もう服も脱いじゃったし……)
瑞希が温泉に立ち寄ったワケ。それは、北村がここを拠点としていたからであって、なにも入浴が目的であったわけではない。
彼女とて、身だしなみには気を使う今どきの女の子だ。動き回ることが必定のこの舞台、体を清められる機会はぜひともほしい。
しかし、はたしてそれが今であっていいものなのだろうか。
つい先ほどまで後の指針を話し合っていただけに、急激に緊張が紐解かれるのには抵抗があった。
「どうしたの姫路さん。ひょっとして、熱いお湯は苦手?」
「あ、いえ、そういうわけではないんですけど……」
瑞希の後ろから、脱衣を済ませた朝倉涼子がタオルの一枚も持たずに、堂々と己の体を曝け出しながら歩み寄ってくる。
その羨ましいくらいの大胆さに瑞希は赤面し、思わず目線を外してしまった。
朝倉といえば、恥ずかしげもなく首を傾げる始末だ。
「なら、早く入りましょう。風呂は心の洗濯……って、そんな言葉をどこかで聞いた覚えがあるわ」
温泉に入ろう、と一番に言い出したのはこの朝倉涼子である。
理由は、せっかくだから。北村は、いいなと返した。瑞希のみ、同意し切れなかった。
北村の論によれば、このゲームにはまだまだ猶予がある。だからといって、のんびりしていられる暇などないのだ。
本来ならもっと手早く人を集め、大人数でもって事態の究明と対処に当たるべきなのだ。そのはずなのだ。きっと。おそらく。
……とはいえやはり、リフレッシュは必要だろう。
結局、瑞希も裸で浴場の真ん中に立っている。朝倉の申し出に、最終的には同意したのだ。女の子ゆえに。
それにもうじき夜が明ける。さらに多くの人を集めるならば、明るくなってからのほうが活動もしやすいだろう。
時間は大切だが、慌てるべきではない。瑞希は今回の入浴について、そう正当性を持たせる。
つま先が湯船に触れ、徐々に沈んでいく。
お湯の温度は熱すぎず温すぎず、心地よい。
下半身のみ浸すと、間を置いてから膝を折っていった。
豊満に膨らんだ胸元まで浸かり、そこで初めて、瑞希は極楽の息をついた。
「……ふぅ」
湯気で上気した頬が、朱に染まりわずかに笑む。
頬だけでなく、心までもが弛緩してしまいそうだった。
(暖かい……広い……お風呂……ふゃ〜っ)
緩み切った頭で思い出すのは、学力強化合宿での出来事だ。
今では大親友とも言える存在になった同じFクラスの島田美波や、DクラスEクラスの女子たちと入浴したのが特に思い出深い。
吉井明久や坂本雄二、彼らを中心とした文月学園高等部二年の男子たちが、総戦力でもって覗きに励んだことは忘れもしない。
百四十九人ものの男子生徒が同時に停学処分を受けた学校というのも、おそらくは文月学園が初めてだろう。
それら、楽しい思い出が頭の中に呼び起こされ、同時に不安の波も押し寄せてきてしまう。
名簿に名を記されていた、瑞希のクラスメイトにして、彼女が――――な男の子。
吉井明久は今、同じ空の下でどのような想いを馳せているのだろうか。
「明久君……」
「明久君っていうと、吉井明久のことかしら? たしか、姫路さんのお友達だったわね」
「へっ!? あ……はい」
意識せず口に漏らしてしまったのか、朝倉に明久の名を拾われた。
「気になるの? なんだか思いつめたような顔をしているし……それに、心拍数も上昇しているみたい」
「そ、そう、ですか? えへへ……自分では、全然わからないんですけどね」
朝倉は興味津々といった様子で、瑞希の傍へと進み寄ってくる。
如何にここが女湯で、相手が同性であろうとも、知り合って間もない女の子と裸を向け合うのは恥ずかしい。
瑞希は湯気の熱気とは別の要因で顔を赤らめ、朝倉の体に釘付けになりそうだった視線を外す。
「ただ、その……や、やっぱりお友達ですからっ。危ない目にあっていないか心配で」
「お友達、か。本当にそうなのかな?」
朝倉の何気ない問いが、瑞希の胸にちくちくと刺さる。
思い当たる節は、あった。言ってしまえば、ドキリ、としたのだ。
「あなたの反応と身体状況を私の知る事例に当て嵌めると、その感情は好意ではなく恋情に近いものだと思うのだけれど」
「そうですね。私は明久君をお友達としてではなく、恋……って、え? え、ええぇっ!?」
平静を装い隠蔽しようとした感情は、しかし見透かされたように言い当てられ、瑞希は慌てふためく。
「私には有機生命体の恋愛の概念がよくわからないのだけれど、これでも健全な女子生徒を演じてきたわけだから。
クラスメイトと恋愛に関するお話をしたりもするし、“恋する女の子”の特徴なんかも逐一観察して記録していったわ。
今のあなたは手持ちのパターンに適合する。姫路瑞希は吉井明久に恋をしている。どう? 当たりじゃないかしら」
ところどころに違和感のある言葉が浮かぶが、朝倉の熱弁には首肯せざるを得ない。
とはいえ安易にそれを認めてしまうのは恥ずかしく、瑞希は必死になってお茶を濁すための言葉を探した。
「それは、その、えっと、ええと……あの、その、あのですね……う〜んと……」
「その反応は高確率で“照れ隠し”よね。ここに来たからかな。私も随分と、有機生命体の感情というものが理解できるようになったみたい」
一人、感慨深げに頷く朝倉。
彼女が口にする“有機生命体”という単語が、やけに気にかかる。
他人行儀を通り越した言葉の選択は、先ほどの話し合いのときと比べても異質だ。
照れているのは自分でも理解できている。しかし照れながらも、瑞希は朝倉の会話の仕方が気にかかった。
「で、ここからが本題。あなたは吉井明久というたった一つの存在に対して、他のすべてを棒に振るうだけの覚悟があるかしら?」
そして、この質問である。
「あの、言っている意味がよくわからないんですけど……?」
「そうね。簡単に言うと、吉井明久一人を生かすために自分も含めた他の五十九人を殺せるか、っていう質問。どうかしら」
ますますもって不審だ。質問の内容は読み取れても、朝倉の真意が読めない。
赤面していた瑞希は表情に冷静さを取り戻し、恐々と答えを口にしていく。
「それは……できません」
「どうして?」
「どうしてって……私、人を殺したくなんてありませんし、殺そうと思ってもできないと思います。それに」
「それに?」
「……明久君はそんなこと望みません。もし私がそんな馬鹿げたことをやっていると知られたら……軽蔑されちゃいます」
朝倉の質問について、真剣に考えてみる。
このゲームの勝者は一人。それ以外の者はすべて敗者。生きて帰れるのもまた、一人だ。
ならば、特定の一人を生かすために自分や他者を犠牲にするという方法も、選択肢の一つとしてはあり得る。
しかしこれは、あまりにも身勝手な選択ではないだろうか。
自分が生き残らせようとしている一人――たとえば吉井明久、彼の身になって考えればすぐに気づく。
彼は、自分一人生き延びたいがために他のみんなを犠牲にしたりなどしないし、誰かにそうしてもらうことも望まない。
瑞希がそのような行動に出ていると知れば、まず間違いなく止めようとするだろう。それが吉井明久という少年だ。
(正直で、頑張り屋で、だから私は――)
異郷の地で離れ離れになってしまった男の子のことを想い、瑞希は湯船に顔を埋める。
思わず鼻先まで湯に浸けてしまったのは、やはり照れ隠しなのだろう。
表情を読み取られたくないと、本能が体を動かしたのだ。
「なるほどね。私が涼宮ハルヒの保護に務めようとしているのは一種の奉仕活動とも思えたのだけれど」
瑞希の回答を受け取った朝倉は、何度も頷き、独り言のように言葉を紡ぐ。
「それは別に、私が涼宮ハルヒに特別な感情、たとえば恋心を抱いているからというわけではない。
逆にあなたは、特別な感情を向けている吉井明久が対象だとしても、そういった行動には走れない。
これは覚悟の差? ううん、違う。きっと恋愛感情というものの捉え方が間違ってるのね。もっと試してみるべきかも」
言って、朝倉は瑞希の頭の上に手を置いた。
飛び出た杭を押し込むように、真上から瑞希の頭を湯に沈める。
「――っ!?」
咄嗟の出来事に抗う暇もなく、瑞希は口から鼻から進入してくる熱湯に悶え苦しんだ。
すぐに湯から上がろうとして、頭を押さえつけていた朝倉の腕を取り払う。
勢いよく水飛沫が上がり、視界が戻ると驚く朝倉の表情があった。
「なっ、なにをするんですか朝倉さん!」
「驚いた。意外と押し返されるものなのね。次はもう少し、力を強くしてみようかな」
むせる瑞希への対応もそこそこに、朝倉の手が伸びる。
今度は頭頂部ではなく首根っこを乱暴に掴み、瑞希の体を湯船へと押し倒した。
勢い余って浴槽の底に背中がぶつかる。全身は当然のごとく湯に満たされ、酸素を得る術はなくなった。
藁をも掴まんと瑞希が両手で湯を掻くが、その所作に意味はなく、朝倉の目には見苦しい様としか映らない。
全身の穴という穴から湯が流れ込んでくるような感覚。慌てれば慌てるほど、侵攻の速度は速まった。
まず初めに『苦しい』と脳が訴え、『息ができない』と体中に危険信号が発せられ、最終的には『死ぬ』と予感が過ぎった。
(わたっ、し……こんな、ところで……!)
瑞希の長い髪が、湯船の上でクラゲのようにたゆたう。
当の本人の顔は、依然として呼吸運動不可の領域内。
懸命に脱出を試みようとするも、朝倉の腕力がそれを許さない。
息苦しいというだけではなく、首の締め付けによる痛みまで襲ってきた。
間近まで迫ってきた生命の危機。何者かが、瑞希に死ぬぞ、死ぬぞと警告を発し続ける。
だが抗えない。朝倉の怪力から逃れる術が見つからない。脳にも酸素が回らなくなる。
溺れるという経験は、なにもこれが初めてではない。
成績優秀で知られる瑞希の数少ない不得意なことと言えば、水泳だった。
水に浮くくらいしかできない自分を恥じ、親友の美波に教えを乞うたのが今年の夏のこと。
こんなことなら、お風呂で誰かに沈められそうになったときの対処法も聞いておくんだった――と。
「……がっ、はっ!」
考えるうちに、瑞希は湯船の中からわずか、顔だけを出すことに成功した。
まだ、死にたくない――!
あの夏のプール清掃の日、Fクラスの仲間たちと作ってきた数多の思い出が、奮起の原動力となった。
「あき……ひっ、さ、くん……っ!」
朝倉の手は未だ振り解けない。意地だけで逃れようとする。生命活動の危機に瀕した人間の底力。
無我夢中となって生を渇望する少女、姫路瑞希が意識せず呟いたのは、やはり吉井明久の名前だった。
「たす、けて……っ!」
湯を掻く手が、己の首を掴む腕の先、朝倉涼子の顔面へと向いた。
瑞希の指先が、朝倉の頬を掠める。
ただ、それだけ。
「うん、それ無理」
懇願の回答は、無慈悲に。
◇ ◇ ◇
姫路瑞希、朝倉涼子、北村祐作の三人が入浴に向かった頃、怪我人の筑摩小四郎は一人、客間で待機していた。
相変わらず壁に背をやり、肩には鷹を止まらせ、そして手には北村から譲り受けた巻物が握られている。
この巻物は、ただの巻物ではない。
服部家が定めし伊賀と甲賀の『不戦の約定』……それが解かれたことを意味する、忍法殺戮合戦の象徴であるのだ!
実際にその目で確かめること叶わぬが、北村が読み上げた文面は正しく、
伊賀と甲賀の国境、土岐峠のうえで薬師寺天膳が読んだものと同じであった。
そう、同じであったのだ……不足がない、という意味では。
小四郎が頭を悩ませているのはまさにそこ、あそこで確認したときにはなかった、追記が為されていたのである。
つまり、伊賀組十人衆と甲賀組十人衆の計二十名が死に、最後に朧が伊賀の勝ちを綴った――と。
(解せぬ……いつぞやじゃ、いつぞやおれは死んだ? おれはこうして生きておる……朧さまや天膳さまとて、生きておる)
ここに連れて来られる以前の記憶を辿る。
池鯉鮒の東にある駒場野の原野で、小四郎は主、薬師寺天膳とはぐれてしまった。
盲の身ながらに主の姿を探しさ迷い歩き、気づけば斯様な事態に巻き込まれ、姫路と出会った。
その間に、決着がついたのだろうか。
一人はぐれとなった小四郎は死んだと見なされ、何者かが己の名を血で消したのか。
(ありえん。天膳さまとはぐれてからまだ半日も経っておらぬ。その間に決着など、ありえようはずがない!)
そもそも、朧や天膳、敵方の甲賀弦之介とて、小四郎と同じくここに連れ去られたはずなのだ。
この事実から読み取るに、やはり手元の秘巻に記されているのは偽りの死亡と戦勝報告。
長らく続く伊賀と甲賀の因縁、その終止符となるであろう戦が穢されるとは、腹ただしいにもほどがある。
(しかこれは事……このままでは、朱絹どのお一人で室賀豹馬や如月左衛門、陽炎を相手にせねばならなくなる)
同時に、このまま見知らぬ土地で燻っていては、この秘巻のとおり四名が死んだと取られる可能性もある。
もとより、即刻戻らねば伊賀と甲賀の一対三。一人残してきた同胞、朱絹の安否が気にかかるというものだ。
汗が溜まり気持ち悪いという女の心はわかる。しかし己は忍者也。
盲とはいえ休んでばかりもいられない。忍者だからこそ、主と怨敵は足で探し出す。
小四郎の具足が畳を強く踏みしめ、ゆらりと長躯を持ち上げたと同時に、突然鷹が騒ぐ。
肩から飛び立ち、甲高い鳴き声とはばたきの音。
何事かと小四郎は訝る。二つの音はすぐにやんだ。
代わりに、鷹が畳みに落ちる音が聞こえた。
鼻は、血の臭いを嗅ぎつけた。それも、鳥の血だ。
ああ、なんということか……お幻の鷹が死によった!
唐突な別れに小四郎は感慨を得る間もなく、鷹が死んだ要因を気配に捉えた。
人だ。人が立っている。
小四郎の眼前、十数歩ほど先。障子戸の前に、何者かの気配が感じ取れる。
「誰か。姫路どのか、北村どのか、朝倉どのか」
気配だけではその正体までは掴めず、声で判断しようにも相手は問いかけに答えない。
しかし、既に鷹は死んでいるのだ。
鷹はなぜ死んだのか。突然死の原因もまた、眼前の者が知っているに違いない。
「答え申されよ。誰か――」
より強く問う、小四郎の総身に震えが走った。
デジャヴ――既視感のある殺気が、眼前の人と思える方から放たれたのだ。
すかさず身構え、鎌がなかったことに一瞬だけ躊躇するも、蓑念鬼愛用の棒を振り翳す。
「まさか、甲賀弦之介かっ」
あの日、鍔隠れの里で相対した際、体に覚え込まされた嫌な空気。
その鋭い眼光から放たれる、魔のごとき殺意は目を離すこと不可能にさせた。
結果、小四郎の顔面は拉げ、目が使い物にならなくなった。
今、眼前から放たれる底なしの殺気はまさしく――甲賀卍谷衆が首魁、甲賀弦之介のものとしか思えないのであった。
なればこそ、今この場で逆襲を果たす好機也!
小四郎はあれ以来目が見えない。見えないということは、つまり弦之介が誇る瞳術も通じないということである。
あのときは目をそらせなかったばかりに負けた。しかし今度は見ろと言われようが見えぬ状況。望むべき再戦。勝てる。
――――ひゅる。
風が鳴いた。小四郎のみ気づけた。
伊賀一党、弦之介を討てる見込みがある者がいるとすればただ一人。この筑摩小四郎である。
小四郎の忍法は必殺必中。如何な忍者といえども、間合いに踏み込みさえすれば死は免れない。
それが恐るべき瞳術を秘めた忍者、甲賀弦之介であったとしても。
瞳術の要たる目が、小四郎の瞳に映らないともなればなおのこと。
(来い! 朧さまに代わり、今この場でおまえを討つ)
弦之介が障子戸の前から一歩、また一歩と、客間の中へ踏み込む。
足音は壁際に立つ小四郎のもとへ、一直線に進み寄ってくる。
小四郎と弦之介の間に、見えぬ凶器が形成される。
虚空に生まれしは小旋風。その小旋風の中心に、わずか真空が生じている。
姿形を成すとすればそれは小さな、しかし真空に触れたが最後、犠牲者は鎌いたちに襲われるがごとく内部から弾けだす。
これこそが、筑摩小四郎の妖術とも言うべき忍法。
強烈な吸息により、虚空に小旋風を生み出す技也。
警戒すべきは、吐き出しではなく吸い込み――しかし誰がそれを警戒などできようか。
小四郎の忍法はいわば呼吸。封じる策など、呼吸を止めさせる以外にありはしない。
そして呼吸を止めさせることなど、口元を痰で覆いでもしない限り不可能なのだ。
風待将監ならいざ知らず、瞳術以外に奇異な忍法を持たぬ弦之介では、不可避は必定。
一歩、また一歩と、弦之介が歩み寄る。
小四郎は棒を構えながら待った。息を吸いながらに待った。小旋風を作りながら待った。
やがて、ぱっと空気がはためいた。
肉柘榴の出来上がる音が、豪快に聞こえてきた。
どしり、と重みのあるものが、眼前で倒れた音も聞こえた。
(手応えは、あった。音も、あった。殺気も……消えた)
戦いが決しても、小四郎に惨状を見やることはできない。
弦之介は今やどんな変わり果てた姿となっているのか。
爆ぜた肉の色は、飛び出した眼球の行方は、刻まれた神経のほつれは、確認が取れないでいる。
しかしこれだけはわかる。手応えと倒れた音と失せた殺気が証明している。歓喜に身が震えた。
怨敵は今や、物言わぬ躯へと変わり果てた!
「甲賀弦之介、討ち取った――」
次の瞬間、小四郎の意識はどこぞへと飛び、その命も潰えた。
◇ ◇ ◇
「いやぁ、実にいいお湯だった。これで二度目だが!」
男湯の脱衣所、備え付けの浴衣に身を包んだ湯上りの北村祐作がいた。
左手を腰に当て、右手には瓶のコーヒー牛乳を掴み、天を仰ぐようにしてぐいっと一気飲みする。
願望としてはこのままマッサージチェアに雪崩れ込みたくもあったが、さすがにそれは自重しておこう。
北村がここで湯に浸かるのは、今回で二度目になる。
一度目は上条当麻との接触の際。北村は初対面の相手を前にしても物怖じせず、平然と入浴を楽しんでいた。
そして今回、朝倉涼子の申し出により再び入浴の時間を設けることになり、せっかくだからと二度目の入浴にしゃれ込んだのだった。
それはなにも、彼が無類の風呂好きだからというわけではない。
焦っても事は無し。こんなときだからこそ、平常心を保ち体力を温存させる必要がある。
クラス委員長兼生徒会副会長の役職に就く彼は、物事を冷静に捉えられる視点に立とうと務めたのだ。
北村が尊敬してやまない生徒会長――狩野すみれなら、そうやって皆を導く側に立つはずだから、と。
(三日間の猶予、か……我ながら楽観した考えだよな)
朝倉と姫路、いや上条や千鳥の前でとて、北村は弱気を秘めることに必死になっていた。
先ほどの話し合いで自らが提示した論も、嘘ではないにしてもいろいろと不安が内包されている。
七十二時間が経過すれば全員が死ぬ運命、しかしそれまでは誰が誰と争う必要もない。
本心でこそそう思ってはいるが、他の五十九人すべて同じ価値観を持っているとは限らないのだ。
中には、他人の死など歯牙にもかけない者とているだろう。
中には、他のすべてを犠牲にしてでも生き延びようとする輩もいるだろう。
中には、自分すら含めた五十九人を殺害してまで守りたい女がいる男だっているだろう。
北村がほのかな恋心を抱く相手、狩野すみれに対しそこまでできるかといえば、答えは否だ。
まだまだ先の長い生涯、もちろん死にたくなどないし、高須竜児や逢坂大河といった友人たちを犠牲にする気にもなれない。
そもそもここに狩野すみれがいるかどうかとて不明瞭だ。
いるかどうかもわからない人物を探し回るよりは、地道な人集めに徹したほうが効率的である。
(会長がここにいるなら、きっと俺と同じように、もしくは俺よりも上手いやり方で人を集める。
逢坂たちだって黙っちゃいないだろうが……高須あたりは例のごとく、初対面の人間に誤解されてそうだな)
見た目恐々とした三白眼の友人を思い描きつつ、北村は空になった瓶をその場に置き捨てる。
脱衣所を出て、小四郎が待っている客間へと向かった。おそらく女子二人はまだ入浴中だろう。
(あの人は俺なんかに守られるほど弱くはない。亜美や櫛枝も、怒らせるとなにをしでかすかだ)
しんとした廊下をスリッパで歩む。窓の外からは、かすかに朝焼けが差し込んできていた。
(一人でできることは少ない。だけど一人一人が協力し合えばなんとかなるさ……そうだろみんな)
やっぱり楽観してるかなぁ、などと声に漏らしている内、北村の身は客間の手前まで来た。
引き戸に手をかけようとして、ふと止める。中から話し声が聞こえてきたのだ。
「だから言ったでしょう。他の二人はともかく、この男だけは違う、と」
「私には予想もできなかったなぁ。だって有機生命体の呼吸器官じゃとても無理な芸当よ」
「素性は知れませんが、只者ではないというのが一見してわかりました。まあ、それも既に死人です」
「そうね。さすがに首を裂かれて生きているなんてこともないでしょうし……念のために、もいでおこうかしら?」
声色は女性、それが二組。
一人は朝倉のもので、もう一人は姫路のものではない。
どこか大人びた、聞き覚えのある声は……朝倉と一緒にいた“師匠”という人のものだろうか。
(風呂に入っている間に戻ってきたのか? それにしても、首がどうとか……)
考えながら、北村は障子戸を引いた。
客間の光景が視界に飛び込んでくる。
朝倉涼子と師匠はそこに立っていて、北村のほうへと振り返った。
朝倉は湯上りなのか、服装がセーラー服から浴衣に変わっている。
朝倉の右手には刀が握られており、足下に目をやれば――凄惨極まりない血の海が広がっていた。
「……っ」
北村が息を呑む。戸を開けるべきではなかった、と今さらの後悔に苛まれる。
惨状を目の当たりにして、嘔吐の波も押し寄せてきた。今はまだ、と懸命に我慢する。
事実を言葉にして問うのは躊躇われた、それでも口にしないわけにはいかなかった。
「朝、倉……っ、なんなんだ、これは!」
絞り上げるように叫ぶ、北村の表情からは余裕が消えていた。
朝倉はにこやかに、北村の絶叫とも言える質問を受け取る。
「あのね、北村くん。あなた――」
「刀を貸しなさい」
朝倉が答えようとした寸前、横に立つポニーテールの女性が、右手の刀を奪い取った。
その女性、師匠は自分の手に刀を握り直し、先端を北村に向け、
「あ――?」
腹を刺した。
血が逆流する。口内に血の味が充溢する。口から血が零れる。腹にも血が滲む。目でも血を見た。出血で倒れ込む。
脳はスプーンで抉られたのかと錯覚するほどに機能を失い、揺らぐ視界で狂気に淀む二人の殺人者を捉えた。
血に混じった畳の匂いが、うつ伏せになった北村の鼻にかかる。
視点が低くなって、その惨状はより鮮明に頭の中に入ってきた。
(筑摩に……姫路……っ)
死体が二つ、転がっている。
黒い装束の男と、裸の女と思える死体が、二つ。
男のほうは服装からして筑摩小四郎に違いなく、喉には鮮血の華が咲いていた。
女のほうは顔が潰されており何者かわからなかったが、消去法でいって姫路瑞希に間違いなかった。
それ以外にも、鷹の死骸が転がっていた。一羽と二人、北村も入れて三人、仲良く血の海を泳いでいる。
「まだお話中だったんだけど」
「これ以上、あなたの回りくどいやり方に付き合うのは御免です」
「だからって、すぐに殺しちゃうのはどうかと思うわ」
「必要な情報は引き出せたのでしょう。“試験”も終わりました。生かす価値は皆無です」
「もう。本当にシビアなんだから」
この二人は、いったいなにを和やかに談笑などしているのだろう。
北村にはわからなかった。自分がなぜ刺されたのか、姫路と筑摩がなぜ殺されたのか。
朝倉と師匠は、なぜ人を殺すのか。それだけが知りたかった。
なのに。
もはや言葉を口にする力も残っていなかった。
たかが腹を刺されただけだというのに、いや腹を刺された経験などないが。
それとも、胸だったのだろうか。刺されたのは心臓か、肋骨に阻まれたりはしなかったのか。
どうにも瑣末なことばかり考えてしまう。死の間際だというのに、走馬灯すら見ることができない。
(なんか……想像してたのと違う、なっ)
案外、苦しくはなかった。痛みを実感するよりも先に、死が駆け抜けたのかもしれない。
師匠の殺し方は実に的確だったと言えよう。北村は感慨を得る間もなく、黄泉路へと旅立った。
◇ ◇ ◇
「それで、点数は?」
「そうですね……一点といったところでしょう」
「それは何点中?」
「十点中、一点です」
「採点の仕方を詳しく訊きたいのだけれど」
すべての騒動が一段落した後、制服に着替えた朝倉と、服装変わらぬ師匠の身は、温泉の外にあった。
「まず、あなたが自ら作戦を考案し提案してみたところで加点一。
北村祐作、姫路瑞希、筑摩小四郎の三人に気取られることなく輪に溶け込んで見せたところで加点三。
姫路瑞希を誘い出し、殺害を滞りなく済ませたところで加点六。この時点であなたの点数は十点です」
ふむふむ、と頷きながら朝倉は小型乗用車の運転席に乗り込む。
師匠は相変わらずの図々しさで助手席へと乗り込んだ。
「知恵を絞って見せたのは評価に値しますが、やり方が回りくどく、時間をかけた割には収穫が少ない。よって減点二。
筑摩小四郎の力に気づかず、私から忠告を受けたことで減点一。実際に私が止めなければ死んでいたでしょうから減点五。
殺害が露見した後、北村祐作の殺害にさらに時間をかけようとしたところで減点一。この時点であなたの点数は一点です」
ハンドルを握ろうとしたところで終了した採点に、朝倉は異を唱えた。
「それ、減点が厳しすぎないかしら?」
「実際に死に掛けたのですから、本来は減点どころの話ではありません。そもそも」
「あー……わかったわ。なんだか長いお説教をくらいそうだから、一点で我慢する」
朝倉は渋々といった様子で、師匠の評価を受け入れた。
温泉での“試験”は――朝倉にとっては“実験”とも言える過程は、終了したのである。
朝倉と師匠が温泉を目指し車を走らせていた頃のことだ。
目的地を目前にしたところで、北村祐作という少年に呼び止められた。
師匠の目的は皆殺しであり、朝倉の目的は涼宮ハルヒの保護だ。
自分たちや涼宮ハルヒを害する可能性のある人間は、すべからく殺害の対象となる。
なので師匠は、出会いがしらに北村を殺そうとした。しかし、朝倉がそれを制したのだ。
理由はこうだ――『ちょっと試してみたいの』。
(単細胞と捉えていましたが、向上心はあるようですね。まるで生まれたての赤子……心は、の話ですが)
朝倉涼子は外見に釣り合わぬ異常な運動神経と怪力、そして椅子を槍へと作り変えた、あの異能を持っている。
ただし戦闘経験に乏しく、仲間ではなく“武器”として使いどころを見極める必要があるとも思っていた。
それが彼女は自分から、他の人間を殺すための作戦を考案し、実行に移して見せたのだ。
それも刀で斬りかかる、という直接的な方法ではない。殺害対象の仲間を偽り、潜り込むというものだった。
『これでも、涼宮ハルヒのクラスメイトを演じてきたわけだから。設定された身体年齢に近しい有機生命体とのお話は得意よ』
というのは、当時の朝倉の言だ。どうやら彼女には潜入工作の心得があるらしい。
こちらには武器が揃っており、殺害対象である北村に警戒は見られなかった。
朝倉の言うような策を持ち出さずとも、殺害は容易であったのだ。
ならばそんな回りくどいやり方を取る必要はない、と師匠はこれを却下しようとして、しかしやめた。
興味を抱いたと同時、こちらも試してみようと思ったからである。
この朝倉涼子が、自分の契約主に相当する存在となり得るかどうかを。
(失敗してしまうようならそこまで。利用する価値なしと見なし切り捨てる予定でしたが、まあ及第点でしょう)
結果、朝倉は見事北村の仲間として潜り込んで見せた。
師匠はその間、適当な理由をつけて別行動を取っていたのだが、実は温泉内に潜み朝倉の首尾を観察していた。
直後に姫路瑞希、筑摩小四郎の二人が加わったが、それすらも欺いて見せた。演技は得意なのかもしれない。
素人と見るには明らかに異質だった筑摩小四郎を、ただの人間としか捉えなかったのが大いにマイナスではあるが。
「なんにせよ、次はありませんよ。あなたの手腕はもとより、この方法は時間をロスしすぎです」
「わかったわ。でもね師匠。私に下された採点をさらにプラスする要因は、まだ残っているのよ?」
出発に踏み切る直前になって、朝倉は得意気にそれを取り出して見せた。
入浴の間、客間にまとめて置かれていた荷物。その中から抜き取った北村の支給物だろう。
朝倉の手には『お宝写真!』と書かれた茶封筒があり、師匠は黙ってそれを受け取った。
中身を確認すると、出てきたのは三枚の写真である。
「姫路さんの服からこっそり抜き取っておいたの。それ、お宝らしいから“SOS料”としてどうかしら?」
入っていた三枚の写真をしげしげ眺め、師匠は唖然とした。
一枚目に写っていたのは――メイド姿のアキちゃん。
二枚目に写っていたのは――メイド姿のアキちゃん(パンチラ☆エディション)。
三枚目に写っていたのは――ブラを持って立ち尽くすアキちゃん(着替え中メイド服着崩れバージョン)。
ため息を零し、これを朝倉に返却した。
「採点を改めましょう。減点一。あなたへの評価は――零点です」
「ええ、どうして!?」
人当たりのいい優等生として知られる朝倉涼子が、初めて零点を取った瞬間だった。
【E-3/温泉付近/一日目・早朝】
【師匠@キノの旅】
[状態]:健康、ポニーテール
[装備]:FN P90(30/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x19)@現実、両儀式のナイフ@空の境界
[道具]:デイパック、基本支給品、金の延棒x5本@現実、医療品、フィアット・500@現実
[思考・状況]
基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
1:朝倉涼子を利用する。
2:天守閣の方へと向かう。
【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康、ポニーテール
[装備]:シズの刀@キノの旅
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4、金の延棒x5本@現実、軍用サイドカー@現実、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、
フライパン@現実、人別帖@甲賀忍法帖、ウエディングドレス、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣
[思考・状況]
基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する。
1:師匠を利用する。
2:天守閣の方へと向かう。
3:SOS料に見合った何かを探す。
[備考]
登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
【アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣】
明久に送られた脅迫文に同封されていた、アキちゃん(女装した吉井明久の意)の隠し撮り写真。
通常のメイド服バージョン、パンチラ☆エディション、着替え中メイド服着崩れバージョンの三種類が茶封筒に収められている。
世間に晒されてしまえば吉井明久の底辺に近い評価をさらに落とすこと確実な代物だが、
一部女子には好評で、とりあえずスキャナーを購入し全世界にWEBで発信する者も現れかねない威力を持っている。
【人別帖@甲賀忍法帖】
伊賀と甲賀の「不戦の約定」が解かれたことを記した巻物。
記された忍者二十人の名には血のすじが引かれており、末尾に忍法合戦決着の模様も書き加えられている。
原作ラストにおいて、甲賀弦之介が書き加えた状態のもの。
【マリアンヌの器@灼眼のシャナ】
坂井悠二を攫った直後、シャナとの決戦においてフリアグネの“燐子”であるマリアンヌが器としていたマネキン人形。
花嫁を模したのかウエディングドレスを纏っており、またマネキンの造りは他のものと比べても精巧。
これが単なるマネキン人形であったのか、マリアンヌの意思総体が混在していたのかは、定かではない。
◇ ◇ ◇
空が白み始め、夜の帳は朝の日差しに天壌の席を譲る。
眩しさはまだ訪れず、直視するには問題もない。
なので、しばらくはこうしていても大丈夫、と。
――少女は、思う。
温泉裏手の街路に置き捨てられたむき出しの肢体に、力はなく。
ぼうっとした意識だけが残り、閉じかけの瞳で天を仰いでいた。
――衣服を纏わず、地べたを背中に、仰向けとなって外気を味わうのは、姫路瑞希だった。
朝倉涼子に殺されるかと思ったところでこのような仕打ちを受けた彼女は、思う。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。ただそれだけを、後悔とともに念じる。
◇ ◇ ◇
「……驚いたなぁ」
朝倉涼子による、浴場での突然の暴行。
まさかの溺れ死にを味わうかと思った姫路瑞希は、我武者羅に腕を振り回し、どうにか朝倉の魔手から逃れ、浴槽から脱したのだ。
「火事場の馬鹿力ってやつかしら。あなたにそんな力が残っていたなんて、予想外」
「けほっ、かぁ……はっ」
咳をするように飲んでしまった湯を吐き捨てる瑞希。
傍らには、同じく浴槽から出てきた朝倉の裸体がある。
暴行から一時的に逃れることはかなっても、逃げ続けることはかなわない。
朝倉は依然微笑を浮かべたまま、タイル敷きの床に膝をつく、瑞希の体に触れた。
「ねぇ姫路さん。あなた、さっきこう言ったわよね。助けて、って」
「……っ」
息苦しさが癒えるよりも先に、朝倉が語りかけてくる。
表面上は可愛らしい女の子なのに、その中身は得体が知れない不気味さが秘められている。
どう受け答えをしたとしても、助かりはしない。助けを願ってはいても、本能は既に諦めかけていた。
「“恋する女の子”のパワーってやつなのかな……うん。あなたに少し、興味が湧いたの。
どうかしら、私のお願いを聞いてくれるって言うんなら、この場は助けてあげるのだけれど」
嘘だ、と腹の底から叫びたい衝動に駆られた。
先ほどまでの朝倉の行動は、明確な殺意あってのものだ。
今さら悪ふざけでしたなど、どうして信じられようものか。
「あなただけじゃないわ。あなたの大切な吉井明久くんも。これは交渉。姫路さんには、私の手伝いをしてほしいのよ」
怯える瑞希は未だなんの言葉も返せないまま、朝倉の底冷えするようなまっすぐすぎる目を見てしまった。
身が竦む。この少女は平然とした顔つきで、狂気にまみれた言動を繰り返しているのだ。
「ここであなたを殺すのは簡単。でも、あなたみたいに脆弱な有機生命体一人蹴落としたって、実りは少ないわ。
どうせなら、師匠にも知られないところでもう一つくらいコミュニティを築いておきたいのよ。
よく聞いてね。私は涼宮ハルヒという存在を生き残らせるために行動している。具体的に言うと、
涼宮ハルヒを害するかもしれない存在の排除、平たく言えば、涼宮ハルヒ以外の全員を殺害することが私の目的ね」
先の朝倉の質問を思い返す。吉井明久一人のために、姫路瑞希は殺人者になれるか、否か。
瑞希は、なれないと答えた。しかしこの朝倉は、涼宮ハルヒのために殺人者になったというのだ。
内包されているのがどのような想いなのかは知れないが、それが瑞希のような恋心でないことだけは見て取れた。
「でも、それは私たちだけじゃとても手が追いつかないの。北村くんの推論が当たっているとしたら、
最悪七十二時間が経過しても大勢の人間が残ってしまうと思うし。そしたら涼宮ハルヒ共々全滅よ。
それだけは回避したい。だから、ね。姫路さんにも涼宮ハルヒ以外の有機生命体を殺して回ってほしいの」
饒舌に語る朝倉の顔から、目が逸らせない。
瑞希は戦々恐々としたまま、聞き漏らすまいと努めた。
「あ、でもこの行動は契約に反すると思うし、師匠はこれ以上の同行者を良しとしないだろうから……うん。
姫路さんは姫路さんで、私たちとは違うところで頑張って。涼宮ハルヒ以外なら、誰を殺してくれても構わないから」
姫路瑞希は運動があまり得意ではなく、性格も温厚で、争いごとは苦手だ。
自分でもそう思っている。だからこそ、朝倉が見当違いな願いを言っているように思えてならない。
「引き受けてくれるなら、私はあなたを殺さないし、吉井明久くんに会っても殺さないでいてあげる。
計算どおりにいけば、最後は私と師匠、涼宮ハルヒ、姫路さんと吉井明久くんの五人になるでしょうから、
そうなったら改めて殺し合うといいわ。私としては、師匠の存在が最終的な懸念にもなると思うし、
あなたという不確定要素がいてくれればやりやすいことこの上ない。つまり、約束は残り五人になるまで継続ね」
もし、朝倉涼子と吉井明久が対面してしまったならば――考えたくもない。
今の自分の身以上に、彼の安否を気遣えばこそ、朝倉の提案は魅力的であるはずだった。
「贅沢を言うとね、あなたというちっぽけな存在がどこまでやれるか、観察したいところではあるの。
この熱意は涼宮ハルヒに向けていたものとは違うし、情報統合思念体の意思というわけでもない。
有機生命体――人間に近しい存在となってきている“私”のための、まあ努力と言ったところなのかしら」
朝倉は瑞希に殺人者としての才覚でも見たというのだろうか。
彼女が自分に対して、なにをそんなに期待しているのかわからない。
朝倉の腕を振りほどいたこととて、無我夢中だっただけなのだ。
それを暴力として、他人の命を刈り取るために使えるかといえば、
「私の言葉が信じられない? じゃあ、これならどう?」
答えは語るまでもない。
そのはずなのに――朝倉涼子は、姫路瑞希の左手中指に手をかける。
爪と皮膚の間に、朝倉の指の爪が食い込んだ。
なにをされるのか、わからなかった。
爪と皮膚の密着部が、べりり、とわずかに離れた。
少しばかりの痛みを感じて、身が縮こまった。
爪が皮膚から、べりりりっ、と音を立てて剥がされた。
激痛に、瑞希の絶叫が木霊した。
「姫路さんが断れば、私は今からあなたを殺して、その後にすぐ、吉井明久を殺しにいくわ」
そう言ってから、朝倉は爪を剥がした指の隣の指、瑞希の左手薬指に手をかける。
逃れたくても逃れられない。朝倉に手首をきゅっとつままれ、足だけがじたばたした。
「これが、私の本気。自分以外の存在のために……私とあなた、それぞれ頑張りましょう?」
薬指の爪が、乱暴に毟り取られる。
二本の指の爪が、そうしてなくなってしまった。
◇ ◇ ◇
ちらり、と自分の左手に目をやる。
中指と薬指の爪がない。
綺麗に剥離された指は、まだ血が残っている。
真っ赤になったそれは感覚も薄く、ずきずきと痛んでいた。
あの後、朝倉は師匠に気づかれぬようこっそりと瑞希を運び出し、裸のまま裏手に放置した。
本人としては種でも撒いた気分なのだろう。どこか純真にも見えたあの瞳は、本当に瑞希を殺人を期待している。
瑞希といえば、それどころではなかった。
爪を剥がされた痛みよりもまず、殺されそうになったというショックが、彼女を打ちのめしていた。
空が明るくなり始めても、起き上がる気にはなれない。
街路のど真ん中で、恥ずかしげもなく裸体を晒している。
羞恥よりも恐怖が勝っていた。
動けばなにかが崩壊するような気がした。
命は助かったが、瑞希が求めた助けは訪れなかった。
振り分け試験の最中、高熱を出した自分を気遣ってくれた声は、
清涼祭のとき、チンピラに暴行されそうになった自分を助けに来てくれた彼は、
手作りのお弁当を美味しそうに食べてくれた男の子は、いつだって隣にいてくれた瑞希の好きな男の子は、
「明久君……明久、くん。うっ……あ、あぁ……」
助けに来てはくれなかった。
ここは、そういう場なのだ。
でも、
だからといって、
いやだからこそ、
朝倉の言うとおりに、殺人を肯定することなどできない。
体以上に心をずたずたにされ、それでも瑞希の意思は強くあった。
と、そこへ。
「……君、大丈夫?」
まったくの事情を知らない優しげな声が、瑞希の上より降りかかった。
◇ ◇ ◇
それを見た瞬間、黒桐幹也の心臓は肋骨を突き破り外に出た。もちろん比喩である。
心臓が跳ね上がる、どころではないざわめきが、彼の思考を支配し身を束縛した。
あれはなんだろうか。人間だ。一糸纏わぬ裸の人間が、道の途中に転がっている。
空は既に明るくなり始めていた。だからこそ気づけた。ピクリとも動かぬ女の体に。
これはいったいどんな状況だろう。考えるよりも先に過ぎった予感は、忌避したいほどの可能性。
どこの世界に、往来で裸を晒しながら寝る女性がいようものか。まさか、と前置きしなくとも。
死体じゃないか。
朝焼けもそろそろという時刻、黒桐幹也は進路上に横たわる女性を発見して、動けなくなった。
思い起こされるのは、数時間ほど前の一件だ。黒桐は今と同じように、女の子の死体を発見した。
守れなかった、己が死なせてしまったにも等しい、吉田一美との別れ。
その次なる邂逅は、先の一件とまったく酷似した、できることならこのまま逃げ出したいほど悲惨なものだった。
(それでも、もう逃げることはできない)
罪悪感とは使命感と同じもの。それは人によっては正義感とも呼ばれ、安易に掲げる者は偽善者として罵られる。
それも甘んじて受けようじゃないか、と黒桐は一歩を踏み出した。
転がっているそれが、本当に死体なのか否かを確かめるために。
「明久君……明久、くん。うっ……あ、あぁ……」
声が、聞こえてきた。
足下から発せられる、弱々しい嘆きの声だった。
黒桐はほっと胸をなでおろす。安堵も早々に、彼女を救おうと身を屈めた。
「……君、大丈夫?」
上着を脱ぎ、裸体を隠すようにして少女に覆い被せる。
少女は横目でこちらを見た。目と目が合い、彼女がひどく消耗していると気づいた。
女性の裸体ゆえ、しげしげ眺めることは躊躇われたが、一見しただけでは外傷は特になかったと思う。
なにか、目立たぬ部分で酷い目に合わされたのか。
すぐに吉田一美の――そして白純里緒の顔が頭に思い浮かび、しかし首を振る。
今はなによりも、彼女を保護することが先決だ。
黒桐は少女を安心させようと、懸命に声をかける。
「なにがあったかは聞かない。僕は君になにもしない。だから落ち着いて」
「あ……う、あぁ……」
「体は動くかい? 無理に喋る必要ない。でも立てるなら、どこか落ち着ける場所に移動したほうが――」
慟哭が激しくなり、少女はゆったりした動作で黒桐の胸元に飛び込んできた。
「あっ……あぁ、ああぁぁぁ…………っ、あぁ〜…………っ」
嗚咽とも、涙とも取れない、純粋な悲しみ。
黒桐はこの偶然の出会いを、どう受け取るべきかと悩んだ。
今はただ、少女が泣き止むまで待とう。
そう心に決め、胸を貸すのだった。
――いったいここでなにがあったのか、と目の前の温泉施設を睨みつけながら。
【E-3/温泉付近/一日目・早朝】
【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離
[装備]:黒桐の上着
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくない。
0:明久君……。
1:朝倉涼子に恐怖。
【黒桐幹也@空の境界】
[状態]:健康 、罪悪感、強い悲しみ、使命感
[装備]:なし
[道具]:デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実、七天七刀@とある魔術の禁書目録、ランダム支給品(確認済み)1〜3個
[思考・状況]
基本:式、鮮花を探す。
1:少女(姫路瑞希)を落ち着かせる。
2:吉田さんの知り合いを見つけ、謝罪しレコーダーを渡す。
3:浅上藤乃は……現状では保留。
4:先輩ともう一度話をする。
[備考]
※吉田一美の殺害犯として白純里緒を疑っています。
※白純里緒が積極的に殺し合いに乗っていることに気がついています。
※温泉施設の客間に『お幻の鷹@甲賀忍法帖』の死骸と、『マリアンヌの器@灼眼のシャナ』が頭部を損壊した状態で放置されています。
【筑摩小四郎@甲賀忍法帖 死亡】
【北村祐作@とらドラ! 死亡】
以上、代理投下終了。
投下乙&代理投下乙
ただ一つだけ突っ込ませてもらうと、
小四郎の鎌鼬でマネキンは壊せないんじゃ無いかと。
小四郎の鎌鼬は意図した空間に真空を作り、対象の生物の体内圧で自爆させる忍法。
無機物のマネキンにそもそも効果は無いかと。
追記
リアルだと真空中に人体を放り込んでも自爆しません。
詳しくは1971年のソユーズの事故でググってください。
まあこの事故以前は爆発する説が主流だったらしいし、1958年発表の甲賀忍法帖もそれに基づいてるわけだが
投下乙ですー
小四郎ぉおおおおーーー
北村ーーーーー
なんてあっさり殺すんだ……師匠朝倉。
無常すぎる……
姫じさんは残ったけど可哀想に……コクトー君が癒せるかどうか。
しかしなんて悲壮……
GJでした
代理投下から改めて、投下乙です。
風呂シーンで和みかけたらやっぱり死屍累々……と思ったら姫路さん生きてた!?
朝倉と師匠の微妙な関係のズレが今後どうなるのか期待です。
GJ!
>>559 そこまでの術理、原作中で明言されていましたっけ……?
追記の方はなるほどなトリビアですが
投下GJ! 来たよ来たよ波乱が来たよ!
朝倉と師匠KOEEEEEEEEEE! ここまでやるか! ここまでやれたか!
北村と小四郎は残念だったのう……惜しむらくは現状への慢心か。
そしてなんとも意外に助かっちゃった姫路さん! どうする? どうすんのこれ。
んで黒桐はまたこんな面倒極まりない場所に飛び込んでお前……馬鹿w
俺もイマイチよくわからんのだけど、師匠が姫路の生存に気付いていないところを見ると
朝倉がマネキンを死体っぽく見えるように加工したんだよね
そこまで精巧な偽物が出来るとも思えんから顔潰したのはその時だと思うんだけど、
小四郎の術を防いだのは何だったの?
師匠が防いでやったんだからマネキンじゃないと思うんだけど。
ちょっとえっちで残酷な話にどきどきしました
投下乙
>>559 色々とツッコミどころ満載な指摘だけど、小四郎の忍法は原作でも無機物ぶっ壊してる
そして追記は蛇足と言わざるをえない
>>563 そういう解釈もありだなぁ
俺は殺害現場が風呂場だったから、死体は持ち出さず師匠にはただ口頭で姫路殺したと伝えただけなんじゃないかと思った
マネキンは小四郎を警戒した師匠が試しにぶん投げてみただけじゃないかと
ウエディングドレスは剥がされてるからそのあたりの描写もあっていい気がするが、まぁ演出の問題なんだろう
乙です
こういうトリック探る話は好きよw
鷹の死骸でも投げつけたのかな
>演出の問題
目が見えない人間の視点だから何が起こってるのか読者もわからずドキドキするよね
でもあとで種明かしとかしてほすぃ
先日投下した「神威(無為化)」の修正版を、仮投下・修正スレに投下しました
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10390/1234718913/190-194 手を加えたのは、前半のハルヒパートのみ。後半のいーちゃんパートは先日のままです。
主な修正点としては、
・ハルヒはステイルの拡声器が聞こえなかったのではなく、聞こえていてスルーしていたことに。
また、思い出したのではなく、急に気が変わったことに変更。
・偵察だけで、危なくなったり見つかったりしたらすぐ撤退するつもりでいることを明言。
状態表にもそのように明記。
としました。
>>473で指摘されたいーちゃんの名前については、悩みましたがハルヒの力かも?ということで、そのままとしました。
これで問題なく収録される場合、ハルヒパートは上の修正版を、いーちゃんパートは本投下分を収録して下さい。
以上、報告までに。
修正御疲れ様です。
これで問題ないと思います。
修正乙です!
問題は消えていると思います。問題ないかと。
修正乙です
問題はないと思いますー
割とどうでもいいけど、ふと気づいたこと
今回の話でとらドラの男性キャラが全滅(といっても元々二人だけだけど)したが、
両方ともバカテスのキャラ(美波・姫路さん)とハルヒのキャラ(古泉・朝倉さん)に遭遇しているんだよな。
となるとみのりんがキョンやハルヒと遭遇すると死ぬ?
あと黒桐さんは巨乳に縁があるね。
姫路さん助かった気もしたけど、黒桐に保護されたのが死亡フラグにしか見えないw
予約していたパート、投下します。
木々の間から見える空も、少しずつ白んできた。どうやら相当に時間が経っているらしい。
森の中というものは歩くだけでも大変で、当然のように時間が早く経つものだ。
手間がかかるからスピードも遅くなるし、周りも見えにくいから道にも迷いやすくなる。
それが暗い夜となると更に危ない。いくらなんでもあまりお近づきになりたくない、そんな場所だ。
まぁ、こういう獣道にも慣れているんだろう木野君が前を歩いてくれるおかげで、どうにか自分は迷わず進んでいるようなんだけど。
というわけでこんばんは。脱ぎたくても脱げない呪いのきぐるみの中の人、吉井明久でっす。テヘ☆
いや、あのね。聞いてよ。
さっきからね、木野君が全然僕とおしゃべりしてくれないの。さびしいの。
いや、わかるよ? 「ふもっふ」としか言えない僕と会話が成立する人間はいないだろうってことはわかるよ?
知ってるけど何この仕打ち。っていうかのっけから僕の扱い酷くない?
っていうかこのきぐるみどうやって脱ぐの? 僕には何も出来ないよ?
木野君、脱がせて。お願いだからこれ脱がせてェェェェェェェ!
「ふもおおおおおお!」
「……どうしました?」
「ふも……ふももっ! ふもっふ!」
「大丈夫です。このまま進めば無事に東に……街に出られますから」
あーもう! 駄目! 駄目でしたぁー! ほら駄目だ! ほーらね! ほら!
誰だよこんな変なもの作っちゃったの! 出てきてよ! 謝って! 僕に!
そりゃあ不用意に着ちゃった僕も僕だよ! でもこんなの想像だにしないもの!
アバ○ムやシ○ナクとかそんな魔法も使えない僕に、こんな状況でどうしろって!?
……不幸だ。凄い蹴りとか入れてもらったら壊れたりしないかな? 僕の体も壊れそうだけど。
「ふもぅ……」
何気なくついたため息が、ボン太くんスーツ越しに外に行く。
けれどそんなことはどうでもいい。今は、別のことが気にするべきだ。
木野君がまたもやこっちを怪訝そうに振り向いたけど、もうなんか、いい。
きぐるみよりまず……姫路さんは、大丈夫だろうか?
名簿に僕と一緒に名前を書かれていた姫路さん。
優しくて、試召戦争では常に僕達を助けてくれた姫路さん。
無自覚のままその殺人料理で僕を遥か高み――あの世的な意味で――へ連れてってくれる姫路さん。
自分に自信が無くて、いつも自分を卑下してしまうけれど、本当はとっても凄い姫路さん。
その笑顔で、僕だけじゃない、周りの皆を癒してしまう姫路さん。
さっきの僕みたいに、危険な目には遭ってはいないだろうか?
とはいっても僕よりも頭も要領もいいから、ちょっとはマシなはずだけど。
でも、それでも心配だ。変な人に追い掛け回されてたりしてないだろうか。
Fクラスの皆がいないせいで、たった一人で苦労しているかもしれない。
まぁあのクラスメイトがいたら別の意味で大変だったかもしれないけど……。
ただ、今は僕しかいない。姫路さんの友達は、僕一人なんだ。
そう、今は、僕一人。
雄二もいない。美波もいない。秀吉もムッツリーニもいない。
これは本当は喜ばしいことなんだけど、喜ばしいことなんだけど……。
やっぱり、寂しいと思ってしまうのは馬鹿な考えなんだろうか。
いや、馬鹿だな。「友達も巻き込まれてれば良かった」なんて最低じゃないか。
本当駄目だな僕は。もっと気合を入れる所だって言うのに。
……けれど、色々と不安なものは不安だ。
「ふぅもふ…………」
また、ため息。
木野君はもうこっちを見なかった。大体察してくれたんだろう。
逆に助かる。
しかし……どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
答えを掴むために最初に言われたこと――覚えてない部分もあるんだけど――を思い返す。
生き残るのは最後の一人。ここからは出られない。端っこから消えていく。
食料や水、生きていくための道具、そして武器が渡される。
……ここから、出られない。端っこから、消えていく。消える。消えていく。消えて……。
ああ、そうだ。"さっき見たあれ"は、やっぱりそういう事なんだ。でもあの"黒"の仕組みは、一体……。
そう、僕達は実はもう既に、"端っこが消えている"という状況を目撃していた。
というのも、それは木野君がまさにその「端がどうなっているかが気になる」と言ったのが始まりだ。
姫路さんを探すのが先決だとは思ったけれど、木野君としては"ここ"がどうなっているのかを先に知りたかったらしい。
正直なところそれは僕も気になってはいたから、断る理由なんて無い。だから文句は言わず木野君についていくことにしたのだ。
そして木々や草を掻き分けて到着。木野君曰く、地図にしてB-2。その場所自体には何の異常も無かったんだけど……。
その北の方を見ると……黒い黒い何かが現れていた。
はっきり言って、異常だった。こんな不思議なことは周りで起きたことも見たことも無い。
時間が経っていたおかげで森の中も少しずつ明るくなっているのに、あの一角だけは真夜中のままのようだった。
流石の木野君もこれには驚いたのか、逆に何も言わないままでしばらく立ち尽くしたままになって。
あれはそう、「どうしたものか」と迷っていたんだろう。気持ちはわかる。
あんな得体も知れないものが出てきてたんじゃ、言葉だって失うよね。
森の中、東へ東へと引き返しながら今も思い出す。
僕もあれはかなりぞっとした。本当になんだったんだろう。
わからない。でもあれがどうにか出来ないままじゃ、ここから帰るなんて事は出来ないんだ。
あれは一体……僕達の道を塞いで立ち退かせるあの黒いのは一体……。
と、ここで僕の頭の中にファンタジックな熟語が浮かび上がった。
難しい話じゃ無い。ゲームや漫画によく出てくる、アレだ。
"結界"
ありがち、といえばありがちだ。でも、だからってどうしろっていうんだ。
大体本当に結界だったとして、対処法はおろか仕組みすらもわからないし。
それどころかこんな曖昧な事を口に出したら、皆から「ゲームと現実の区別くらいつけなさい」と罵られると思う。
でも、こんな所にいつの間にか呼ばれて、あんなものを見ちゃった日には……なんでもありな気がしてしまう。
そもそも今がまさに趣味の悪いゲームみたいな状況なんだ。何が起こったって不思議じゃない、絶対。
木野君に言ったら笑われるだろうか? 雄二の場合は……ひとしきり笑った後に、なんだかんだで乗ってくれそうだけど。
でも本当に、あれは一体何だったんだろう。文月学園でもあんなものは見たことが無かった。
もしあんなものが作れるなら、試召戦争の時にも何らかの形で使われているかもしれないけど、そんな様子も無い。
あれの正体が掴めたなら、僕達はこんなところで最後の一人になろうともがき苦しまなくたっていいんだろう。
けれど解らない。僕にはあれが何なのか全然わからない。理解も追いついてない部分もあるし、正直。
あんなのさえなければ、皆が傷つけあわないで済むのに……!
誰かが傷つけあうのは、嫌だ。それが名前を知ってる人でも名前を知らない人でも、僕は絶対に見たくはない。
でも残念なことに、僕が話しかけた女の人は僕に銃を突きつけてきた。これだけでも僕はもうかなりのショックだ。
試召戦争は違う。あれは学業の一環。決して血で血を洗うものじゃあない。基本は。
Fクラスのたまの暴走……は、まぁ似たようなものかもしれないけど……でも、こんなのとは違う。
こんな最悪の状況は、ありえない。こんな最低な椅子取りゲームは、許せない。
でも、だからってどうすればいい? 何から手をつければいいんだ? それ以前に僕なんかに手がつけられるのか……!?
誰かが死にそうになったりとか、そんなのは嫌なのに……!
◇ ◇ ◇
さて。
"黒い何か"を目撃してしばらく歩いていた僕達は、なんだかんだで遂に森を抜けることが出来た。
B-2で"何か"を――結界、と結論付ける勇気は無い――見た後、素直に回れ右して引き返したおかげだ。
木野君が欲を出さずに冷静に行動してくれたおかげで、こうして道に迷わずに元の場所に戻ることが出来た。
あのまま更に進んでいたら、道に迷うどころか何かの拍子にまたあの女の人と出会っちゃったかもしれないし。
とはいっても、今は僕の心の中に森が出来てしまっていた。
辺りは平地。もう天然の木々が僕と木野君を囲っていたりはしない。
けれど僕は心中、不安を具現化させた木々の中で、ゆっくりと迷子になっている。
「姫路さんはどうなっているだろうか」「学校は今頃何をしているだろうか」
「自分と姫路さんがこんな場所にいる事に皆気付いているだろうか」「雄二達が心配してはいないか」
「そもそも姫路さんの身に何が起こってもおかしくない」「むしろ自分はどうなんだ。生き残れるのか」
「あの黒いものはなんだったんだ」「自分程度の力なんかで、争いを止める事なんて出来るのか」
沢山の木が、まるで絵本の世界の住人にでもなったかのように僕に話しかけてくる。
それは全部僕の心に不安を植えつける内容だ。良い事なんてちっともありゃしない。
姫路さんだったら、美波だったら、雄二だったら、秀吉だったら、ムッツリーニだったら、答えは出せたかもしれない。
けれど僕には今すぐに答えを出したくても、出せそうにはない。頭の動きが鈍いのは鉄人からのお墨付きだ。
でもそっちがそうくるならと、あれからこっちはこっちである策を披露していた。
答えが思いつかないなら……そう、"考えないようにすれば良い"。
そう。今僕がどんなに背負い込んだって、正直何も変わるとは思えない。
むしろこうやって不安に縛り付けられたままじゃ、万が一何かが起こったときに動きが鈍る。
頭の鈍さが今すぐに変えられないなら、せめて体だけは鈍くならないようにしないと駄目だ。
だから、今はあえて何も考えない。逃げるわけじゃない、保留にするだけ。空元気かもしれないけど、今はこれが精一杯だ。
今はただ木野君の事を信じて姫路さんを探す! 勿論寄りかかるだけじゃなく、理想としては互いに力をあわせて……。
とは言っても今は意思疎通が出来ないんだけどね! ああもう、こっちは今すぐ何とかしなきゃ!
どうしようか! 教えて木野君! 教えて! ……ああ、この問題だけでもう現実逃避してしまいたくなるんだけど。
色々と保留にしたばかりなのに、何考えてるんだろうね僕は。ああもう本当、どうしようこのきぐるみ。
「さて、少し聞きたいことがあります」
そんな風に悩んでいた最中。木野君が突然足を止めて、僕に振り向きながら話しかけてきた。
気付けば目の前には橋。すぐ傍には流れる川。遠くを見渡せば街が見えた。
随分歩いたもんね……ああそうか、橋を渡って街の中に入る前に確認したいことがあるんだろうな。
でもどうやって意思疎通を図れば……。
「このまま僕は街に向かいたいんですが……それからどうするか、悩んでます。
まずは病院に行き、あるかもしれないし一つも無いかもしれない医療品を探すか。
それとも東海岸沿いを進んで、そこが消滅する前に少しでも辺りを見ておくべきか。
もしくはこのまま南下して中央へと行き、少しでも人との接触の機会を多くするべきか。
または飛行場に向かい、何らかのイレギュラーに期待するか……どうするべきでしょうか?
一応僕は護衛役という名目でここにいるので、出来る限りあなたの意見を尊重したいと思うんですけど」
いや、だからきぐるみ越しじゃ……どうするの? どうするの?
「まず、病院に行きたい場合は……そうですね、縦に頷いてください。
そして東海岸沿いに行きたいと思うなら、首を横に振ってください」
ああ、なるほど! アクションで判断するのか!
考えたね木野君。これなら選択問題な限りは安心だ。でも、残り二つは?
「南下したい場合はその場で回転。飛行場に向かう場合はジャンプでお願いします」
あれ? 急にアクションが派手になったね。どうして? 右手挙げるとかで良くない?
慣れないきぐるみだからちょっと大変なんだけど。なんか君、そこまで僕に求めちゃうんだ?
うーん、病院の場合……医療品って、こんな最後の一人を決める戦いで用意されてるかな?
僕なら用意しないと思う。だってあの狐面の人は、僕達に死んで欲しいんだから。だから病院は、今はやめとこう。
それに今は人探しをしてるんだ。どうせなら南下して人の集まる場所に行きたい。南下の場合は……ああ、その場で回転か。
せーの、いっかいてーん!
しえn
くるーん♪
ふらふらふら……☆
ばしゃーん!
「ふももももももももー!」
「ああっ!」
と! 一回転したはいいものの!
慣れないきぐるみでそんな激しいアクションを決行した僕は、バランスを崩してしまった!
しかもあろう事か川に転落! 水音が聞こえる! うわ! どうしよう! ひょっとして流される!? 沈む!?
どうしてこんな事に!?
___
/ || ̄ ̄|| ∧_∧
|.....||__|| ( ) どうしてこうなった・・・
| ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/
| | ( ./ /
___
/ || ̄ ̄|| ∧_∧
|.....||__|| ( ^ω^ ) どうしてこうなった!?
| ̄ ̄\三⊂/ ̄ ̄ ̄/
| | ( ./ /
___ ♪ ∧__,∧.∩
/ || ̄ ̄|| r( ^ω^ )ノ どうしてこうなった!
|.....||__|| └‐、 レ´`ヽ どうしてこうなった!
| ̄ ̄\三 / ̄ ̄ ̄/ノ´` ♪
| | ( ./ /
___ ♪ ∩∧__,∧
/ || ̄ ̄|| _ ヽ( ^ω^ )7 どうしてこうなった!
|.....||__|| /`ヽJ ,‐┘ どうしてこうなった!
| ̄ ̄\三 / ̄ ̄ ̄/ ´`ヽ、_ ノ
| | ( ./ / `) ) ♪
木 野 君 の 所 為 だ よ !
なんだよあの求められたアクションの難易度! 無理だってヴぁ!
またよく僕もやったもんだよ! そりゃバランス崩すってもんですよ!
うわぁぁぁぁん! このままどうなってしまうんだ僕わー!
www
◇ ◇ ◇
【第一問】
結界について、説明しなさい。
●椎名真由美の答え
「秩序を維持するために区域を分けて、聖と俗の領域を区切るもの……で良い?」
○教師のコメント
正解です。ある雑誌でこれをテーマにした漫画が連載されていますね。
●『弔詞の詠み手』マージョリー・ドーの答え
「そうね……フレイムヘイズとしては、"封絶"や"テッセラ"とかから入りたいとこだけど。
まぁ面倒だから凄く簡単に言うわ……来て欲しくない奴を退ける為のもの、ってのはどう?」
○教師のコメント
確かに実に簡単……しかしそれは主にフィクションの世界で語られる要素が前に出た答えですね。
ですがあなたの世界で「"結界"と言えばこれしかない」というのであれば……不正解だとばっさり斬って捨てるのも野暮でしょう。
●蒼崎橙子の答え
「結界、ね。あまり会いたくは無いが、知り合いにそれのエキスパートがいるぞ。まぁそれはどうでも良いか。
では本題と行こう。まずその結界というのはな、聖域と不浄域を隔離するものだ。面ではなく、線でな。
上でも話しているが、理由はそうして区域を分けることによって秩序を維持しようと考えているからだ。
随分と閉鎖的な話だが、こればかりはそういう由来のものなのだから私にはどうしようもない。
そしてこれは本来は仏教用語なんだが、古神道や神道における神社などでも同じ概念が存在しているために使われている。
まぁ同様に私達魔術師も勝手に言葉を拝借してしまっているんだがな。魔術師が身を護る術の総称となってしまったわけだ。
ちなみにこの結界という単語だが、サンスクリット語では"Siimaabandha"、大和語としては端境やたんに境ともいう。
この辺りはまだまだ初級。ネットが普及した今では簡単に手に入る情報だ。魔術師が語れどもまだ何の自慢にもならん程度だな」
○教師のコメント
詳し過ぎです。
◇ ◇ ◇
さて、大混乱の淵にいた僕だったけれど。
実は僕が転んだ場所は思ったよりも浅かったので、結局溺れたりすることは無かったのだった。
おかげで"吉井の川流れ"だけは避けられたわけで。ああ、助かった。なんか本当に死ぬかと思った。
木野君が手を伸ばしている。僕を起き上がらせようとしてくれているんだろうか。
おのれ木野君めェ、後で覚えておくが良い……でもきちんと助けてくれてありがとう。
とまぁ、結局僕は川の浅瀬で仰向けになっていただけで、木野君の手を借りて難なく起き上がることが出来たのだった。
なんだかんだで素直に助けられる僕。ああ、出来るならこのままこれ脱がせて欲しいんだけど、無理か。
……そうやって必死に川から上陸した後、木野君はちょっと申し訳なさそうにこちらに謝罪をしてきたのであった。
「まぁ、その、軽率ですみませんでした」
でも、いや、いいよ。結局助かったんだし無問題だ。
「怪我とかして……ませんよね?」
大丈夫大丈夫。と、頷いて返事をする僕。
こうやって心配してくれるんだから、木野君はやっぱり良い人だよね。
「良かった。では予定通り南下しましょうか。見つかるといいですね、姫路さん」
また僕は頷いて返事を返す。うん、本当に見つかって欲しいよ。
結局僕の意見を尊重してくれる君を、僕は本当に尊敬する。
さっきは「覚えておくがいい」とか考えちゃってごめんよ。
「そういえば、浸水とかしてません?」
これには否定をするように首を横に振った。
大丈夫だよ木野君、そこまで心配しなくても僕は平気だから。
大丈夫大丈夫。それはともかく出発だ。そんなに気を使わずに、一緒に行こう!
姫路さん、見つかるといいなぁ。実は近くにいたりして……なんて期待しすぎるのはやめよう。
僕達は進む。姫路さんを探すために、ここから逃げるために。
こんな危険な椅子撮りゲームは間違っているんだと、その想いを現実にする為に。
やってやる、やってやるぞ!
……と、このときには何故だか僕は気付けなかった。
何にって? それはね。
"「浸水したかどうか」を尋ねられたときに嘘でも頷いておけば、木野君はきぐるみを脱がせてくれただろう"ということにだ。
ちなみに僕がこれに気付いたのは、一緒に歩き始めて十歩目を過ぎた辺りからです。
………… 僕 の 馬 鹿 ! !
sien
◇ ◇ ◇
【第二問】
「河童の川流れ」と同じ意味の諺を挙げなさい。
●喜緑江美里の答え
「"弘法も筆の誤り"、"猿も木から落ちる"、などですね」
○教師のコメント
正解です。諺の勉強をする際には、こういった類義語から始めるのもいいかもしれません。
●コルネリウス・アルバの答え
「"Even Homer sometimes nods"」
○教師のコメント
なるほど、そう来ましたか……正解です。
●エルメスの答え
「……"猿も木から落ちる"?」
○教師のコメント
そうそれ。
●蒼崎橙子の答え
「略)――――という事もあって、これは日本に仏教が流れ着いた際の一種の随方毘尼であると言える。
随方毘尼というのは仏教の戒律の一種で、TPOにあわせた規制や緩和を行うことだ。随処毘尼などとも言うんだがな。
毘尼とはサンスクリット語で戒律を意味するVinayaの音写。つまり訳せば"随所戒律"――もう、言わなくても解るだろう?
少し話がずれたな。そもそも仏教用語における結界というものは、広義で言えば襖に障子に縁側といった形でも残ってはいる。
日本はどうも空間を仕切るという意識に乏しくてな。だからこそ結界が"面"ではなく"線"として形作られたのだろうが。
故にこの現代の日本でも日常的に"結界"というものは好んで張られているのさ。現代人が気付こうが気付くまいがな。
例えば暖簾。これは下げることで往来と店を柔らかく仕切り、また時間外には仕舞うことで営業していないことを表示する。
店舗と外を区分しているわけだ。区域を分けることで秩序を護る、とは最初に言ったが覚えているな? つまりはそれだよ。
仏教用語そのままの意味での結界は、ある意味一種の精神論が絡み合って出来ているものだと考えても差し支えは無いだろう。
だが私達魔術師の言う結界となるとまた別の意味を孕んでくる。何せ私達は"身を護る為"に学習し、使用しているからな。
魔術師は主に魔力や道具を媒介にし、"護るべき対象"へと他の"様々なもの"が近づくのを避ける為にと結界を張る。
一定の区画を隔離させるわけだな――――どうだ、先程の仏教用語から離れているのを感じるだろう? 解ったら続けるぞ。
結界の形は様々。それらは魔術師のレベル差と目的と趣味によって枝分かれしているが、勿論いくつかに区分けも出来る。
例えばそうだな……本当に壁を作ってしまったり、見えない壁を作ってしまったり。フィクションの世界でもよくあるものだな。
だがな、そんなフィクションで馴染み深いものよりも上等なのは、"誰もが自発的に近づかない"という結果を引き起こす結界だ。
つまりは"ここに近づいてはいけない"と周りの人間に"強制観念"を与える方法だな。勿論一般人に異常と思わせないレベルでだ。
人間の無意識下に、さっきも言った強制観念を訴える。決して一般人が想像するようなステレオタイプの形としては現れない。
だがこれは楽だぞ。何せ誰も怪しまないし近づかない。結界が張られている事すら気付かれないから滅多なことでは破られない。
見えたり見えなかったりといった壁を作って怪しまれ、余計に人が集まっては結界も本末転倒というものだからな。
因みに更に高等技術を駆使した結界もあるにはあるが――――この業になると魔術師ではなく魔法使いの領域になってしまう。
だがまあ、最初に言った知り合いは才に非常に恵まれていて、遂に空間遮断の域に到達していたが――あれは特例中の特例だ。
ああ、それとだ。半端に力を持つ者がみだりに結界を張ろうとしていたら止めてやれ。あれは面白半分に張るものじゃない。
何故かって、答えは簡単だ。"力試しをしたい気質をもつものは、人間だけとは限らない"ということさ。
ついでに話は変わるが、結界を張った後に歴史を長く紡いだ武器を抜くのも禁止だ。並の結界なら消え失せる。
歴史を長く長く刻んできた武器というのは、それだけで魔術への対抗が出来るモノとしての力を蓄えて神秘と化しているからな。
そもそも、力が大きいものが更に力が大きいものに潰されるのは、この地球上における弱肉強食という形でも既に現――――(略」
○教師のコメント
結界についての問題は既に終了しました。
【B-4/橋の前(北側)/一日目・早朝】
【キノ@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:エンフィールドNo2(5/6)@現実、九字兼定@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式×2 暗殺用グッズ一式@キノの旅
[思考・状況]
基本:生き残る為の手段は問わない。ひとまずは明久と行動し、貰った道具分くらいは護衛する。
1: 明久と南下する。
2:「姫路さん」が脱出の鍵を持っていないようなら、彼らを見捨てることも厭わない。
3:エルメスの奴、一応探してあげようかな?
[備考]
※参戦時期は不詳ですが、少なくとも五巻以降です。
※「師匠」を赤の他人と勘違いしている他、シズの事を覚えていません。
【吉井明久@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:ボン太くん改造型@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式(未確認ランダム支給品0〜1個所持)
[思考・状況]
基本:姫路瑞希と共に脱出する為行動する。
1:ふも、ふもう、ふもふも(木野君と南下する)
2:ふもっふふもっふ……(木野君これ脱がしてくれないかなあ……)
[備考]
※西東天の言ったルールを一部理解していません。少なくとも名簿に名前が載っていない参加者がいることは覚えていません。
※「KILLYOU」の意味が「あなたは殺し合いに乗っているか?」で正しいと思ってしまいました。
投下完了です。最後の最後にさるさんを喰らってしまいました。失礼。
支援してくださった方、感謝です。助かりました。
AA自重しるwww明久はいつも通りバカで困るw
橙子さんも落ち着けw
投下乙でした
>all
現在450KBだけど、何KBくらいで次スレ建てればいいかな?
>>597 自己レス。前回は480KBくらいで次スレ建ててた
投下乙。
どうしてこうなった、じゃねえよ!w そもそもそんなの迂闊に着込んだお前が悪いw
あと橙子さん自重w ほんとこの人が呼ばれなくて良かった。こんなの延々続けられたら書き手が死ねるw
投下乙!
ちょww
明久…お前どんだけ馬鹿なんだよwwwwww
ちょっとは真面目に緊迫してるかと思ったってのに台無しじゃねェかw
そして橙子さん自重w
投下乙です!
明久馬鹿すぎるww
折角のぬいぐるみから抜け出すチャンスを…w
なんかまったりするコンビだなぁ
キノもけっこうノリノリだなWW
明久のハイテンションが移ったかWW?
雑談振ってみる。
今まで投下された中で好きな話って何だ?
俺はテッサ、大河、晶穂の三人の話が好きだw
心理が凄くてもう素晴らしいw
◆76I1qTEuZw氏の作品全部
と言いたいところだがひとつ選ぶならCOGITO_ERGO_SUM
まるで違和感のない二人のやりとりで和み、
二つの作品世界の概念による見事な考察にうなり、
素晴らしいSS技量に感服した
「栞――(死因)」かな。
なにげに初死者話。下手すると万能無敵便利キャラになりかねない長門をまさかの参戦時期でまさかのズガン。
ついでに今も最有力マーダーの1人である姫ちゃんをきっちりキャラ立て。
誰でも容赦なく死ぬ時には死ぬんだぞーという緊張感をロワ全体に与えてくれた作品だと思う。
上位六人から作品一つを選んでみる
旧◆EA1tgeYbP氏 「明久のパーフェクトえいご教室」
最後の一言が全て。バカをバカとして決定させた作品。
何気にこの人これ以外の作品ほとんどがマイナス方向に突っ走っているんだな。
◆76I1qTEuZw氏 「ドラゴンズ・ウィル」
個人的に今のところ一番好きな作品。
全員が輝いていたの一言。
◆MjBTB/MO3I氏 「 零〜zero〜 」
覗きは犯罪行為ですw
寡黙なる性職者がらしすぎてワラたw
◆UcWYhusQhw氏 「Triangle Wave」
上のほうでも書かれていたけど心理描写が神がかっていた作品。
女子三人のこれからに幸あれ。
◆LxH6hCs9JU氏 「粗悪品共の舞踏会」
あれだけのキャラをきちんと動かしていった手法が凄い。
まるで舞台のようにキャラ一人一人の動きに無駄なところがない。
◆EchanS1zhg氏 「栞――(死因)」
ふじのんと並ぶマーダー姫ちゃん登場話。
言いたいことは上の方にほとんどとられたので省略。
ドラゴンズ・ウィルだな
話の面白さは今のところピカイチだと思う
Triangle Waveだなぁ
心理がやっぱ凄いって
すでに概出だけどやっぱりドラゴンズ・ウィル
第一回放送前のなかだとたぶん一番だと思う
次点でTriangle Wave 粗悪品共の舞踏会
Triangle Waveだなぁ。
あんなにキャラが活き活きするなんてビックリだ
散々出てるがTriangle Waveだな
心理描写が凄すぎてもう大好きだもん!
やっぱ明久のパーフェクトえいご教室かな
明久の馬鹿さ加減には盛大に吹いたww
ちょいと質問です。
掲示板のほうで予告編もどき投下したものですが、もう2,3ネタが
あるのでこっちで投下して構わないでしょうか?
よし、待ってる
どうぞどうぞw
かもんかもん
ちらっとしたらば見てみたら予約が二つもあったぜー
みくる&ムッツリーニ&榎本&伊里野
天膳&浅羽
楽しみだww
618 :
予告編:2009/06/15(月) 00:21:26 ID:1YHIU8Im
すれ違いのその果てに彼は一匹の獣となった
――闇を見通すその瞳
――全てを捕らえしその耳
そのケモノの名は――
ラノロワ・オルタレイション第43話「バカと誤解とボン太くん」
闇の中にケモノの鳴き声が響いた……
うん、嘘は書いてないなw
予告編乙w
そして、ちょ、なにこの予約ラッシュw
良作評価効果か?
確かに嘘は書いてないけどwwこれはw>予告編
そして更に予約が来ていた…だと…?
どこも楽しみだぜー
――痛みがあった
――哀しみがあった
――誤解があった
それでも必ず日は昇る
ラノロワオルタレイション第55話「Triangle Wave」
わたしたちはまだ笑える
622 :
予告編:2009/06/15(月) 23:51:21 ID:1YHIU8Im
深く暗い森の中をケモノを連れて少女は進む
危機のきっかけはほんの小さなミス
差し伸べられた少女の手をケモノは取るのかそれとも――
ラノロワ・オルタレイション第60話「はじまりの森」
ケモノは人には戻れなかった……
「ねぇ、『上条くん』」
「なんですか、『千鳥さん』」
「「…………」」
「いい天気よねー。雲一つない快晴。気温は暑すぎもせず、寒すぎもせず」
「そうだな。星が綺麗に見えるっつー意味では快晴だな。まだ夜だけど」
「「…………」」
「ああそうそう。私の荷物の中にこんなものが入ってたんだけどさ。じゃ〜ん、暴徒鎮圧用のスタンガン」
「へぇ〜。最高出力二十万ボルトだってよ。これなら覗き魔も一発でお陀仏だと、そう言いたいわけですか」
「「…………」」
「って、そうじゃなくてね。仮に危ないヤツと出くわしたとしてもよ。自分の身くらいは守れるってこと」
「そうかいそうかい。んじゃ、ここは勇敢な千鳥かなめさんに任せるとしますかね。俺はここで待ってるからよ」
『ちょ、ちょちょっ、木下くんってば! ちゃんと後ろ支えててよ? 絶対離しちゃダメだかんね!?』
『無理じゃ! 自転車じゃあるまいし、支え切れるわけがなかろう!?』
「……あー、でもなんか取り込み中みたいだからさ。ここはスルーしときましょうか。うん」
「……おいおい。あっちのバイクに乗ってる子、おまえと同じ制服着てるぞ? 同級生とかじゃないのか?」
『ノゥ! 揺れる、崩れる、あがががががが……がらごらがっしゃーん!』
『く、櫛枝ー!? 口で言うほど派手には転んでおらんからしっかりするのじゃ!』
「違う違う。この制服はあくまでも借り物だって……あ、こけた」
「こけたな。って、ここいらはバイクの教習所かなんかですか!?」
「知らないわよ。んなもん、本人たちに直接訊いてみりゃいいでしょうが。上条くん、ゴー」
「嫌だね! 俺の勘が告げている、絶対ろくなことにはならね――」
「…………おまえたち、さっきからコソコソなにやってるの?」
「「はぅあっ!?」」
◇ ◇ ◇
町外れの海岸線沿いには、背の低い草むらが広がっている。
土の地面とアスファルトの境界線付近から南の方角を眺めれば、あとはもう海まで一直線だ。
闇夜のため、足下はひどく暗い。草に覆われた大地を全力疾走でもしようものなら、距離感も掴めず海に飛び込む結果を迎えるだろう。
交通事故とは恐ろしいものである。
いついかなる理由でタイヤがスリップし、進路を逸れるかわかったものではない。
熟練した運転手でも走り慣れない道では注意するというのに、ノウハウを知らない素人が挑むのはもはや自殺行為と言えよう。
「教訓――触らぬ神に祟りなし」
「一朝一夕でに身につくものでもなかったのう」
「いや、まったく」
遠く広がる海を前方に、冷たい感触を伝える塀を背に、櫛枝実乃梨と木下秀吉が水を飲んでいる。
実乃梨は体のあちこちに絆創膏を貼っていて、しかし笑顔を絶やさず、横目で見る秀吉は失笑気味だ。
彼女たちの傍らには、一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が停められていた。
「だから言ったでしょ。扱えないものを無理に扱おうとしたって、痛い目を見るだけだって」
休憩中の二人に、炎の長髪ではなく黒の長髪を持つ少女、シャナが言った。
厳格な言に実乃梨と秀吉は殊勝な態度を示し、はーい……と揃ってうな垂れる。
「事実、“鍛錬”はこやつらに目撃されていたのだ。命永らえているのは、単に運が良かっただけのことと覚えよ」
シャナが首から下げるペンダント型の神器“コキュートス”から、遠雷のような声が響き渡る。
これはシャナの身の内にその存在を宿す“紅世の王”、“天壌の劫火”アラストールによるものだった。
「あっはははー……うす、反省しております。で、でもさぁ! やっぱ無視できない問題だと思うんだよね」
「たしかにのう。本人の意思を無碍にするわけにもいかぬし、かといってシャナの弁がもっともであることに変わりはない」
「モトラドはね、走っているときが一番幸せなんだ。あんな地に車輪もついてないようなところに閉じ込められるのはゴメンだよ」
「しかし経験者がいなかったのも事実。だからこそ鍛錬の機会を与えてやったのだ」
「そして、それは失敗に終わった」
まるで仲のいい女の子グループが、下校中に道草を食っているような光景でもあった。
その実、討論の種となっているのは、日常では考えられない“喋る二輪車”である。
実乃梨、秀吉、シャナとアラストールの三人は、“武器”としてここに在るエルメスの処遇について、意見を交し合っていた。
「あー……つまりだ。そのバイク……っと、モトラドだったっけか。モトラドのエルメスは、誰か運転手が欲しいと。
でも、おまえら三人の中にバイクの運転をできる奴がいないんで、櫛枝が今の今まで運転の練習をしてたってわけだ」
「ただまぁ、目立つ上に危険な行為だし、あたしたちみたいな部外者に発見される可能性も大だから、彼女が止めたと。
実際、あたしたちに害意があったら格好の的だったわけだし、端から見てもなにしてんだか、ってのは思ったけどさぁ」
三人の輪からわずかに離れたところで、一組の男女が体育座りをしている。
ツンツン頭の少年と腰まで届く黒髪の少女は、上条当麻と千鳥かなめという名を持つ。
二人、西に向かって歩を進めていたところで鍛錬の現場を発見し、そこをシャナに捕獲されたのだった。
「とにかく、鍛錬の結果は出た。エルメスには大人しく――鞄に戻ってもらう」
運転の心得を持たない実乃梨が、なぜエルメスを走らせようとしていたのか。
それはエルメス本人の『走りたい』という要求と、『鞄の中は嫌だ』というわがままによるところが大きい。
これから各地を巡り歩くにあたって、押すという運搬方法を続けていては、エルメスは大きな荷物となってしまう。
ただでさえどこから襲撃が迫るかもわからない現状、手荷物は少なくしておくべきなのである。
だが、物とはいえ本人に意思がある以上、鞄の中に収納しておくのを嫌がられては、他の案も考えざるを得ない。
そうして実乃梨が閃いた。ここにいる誰かがエルメスを運転できるようになればいいじゃん、と。
勤労女子高生に演劇馬鹿、そして世俗に疎いフレイムヘイズと、もともと自動二輪車の運転技術を持っている者はいなかった。
指導官がいない以上、技能は一から身につける必要があり、まずは実乃梨がチャレンジしてみたのだが、あえなく玉砕。
その途中に、シャナが懸念していた第三者――上条とかなめによる現場の目撃があり、挑戦は中断となったのだ。
「先生! 恥を忍んでお願いがありやす!」
「なに」
「ワンモアチャンス!」
「ダメ」
「現実は非情だーっ!」
今は非常時、たかが自動二輪車の運転技術を身につけるために時間を割いているわけにはいかない。
シャナは実乃梨の懇願に対して冷厳に答え、よよよ……と一人の少女の泣き崩れる絵が出来上がった。
(なんか、北村といい櫛枝といい……危機感持ってる奴って意外と少ないんじゃないかと思えてきた)
(奇遇ね。あたしも今そう思ってたとこ……あれ、北村くんといえばさ)
初対面の人間が見せるオーバーリアクションに戸惑いを覚えつつも、かなめが会話に割って入る。
「あのさ、櫛枝さんだっけ? ちょっと訊きたいんだけど……その制服は拾い物とかじゃないわよね?」
「およ? そういうあなた様はあっしと同じ学校の制服を着ていらっしゃる……もしかしてスクールメイト!?」
「や、これはあたしの私物じゃないんだけど……それはそうと、北村くんって知ってる? 眼鏡かけた男子なんだけど」
「北村くん……? 北村くんといえば……おお! 我がクラスのボスでねーか! なぜにその名を!?」
「つい数時間前に会ってるのよ、その北村くんと。こっちの覗き魔も含めて」
「おい、おまえやっぱり根に持ってんだろ?」
シャナに捕獲されたものの害意はないと判断され、この場に腰を落ち着かせていた二人からは、まだ詳しい素性を聞いていなかった。
実乃梨の友人、北村祐作の名がかなめの口から出てきたことを発端に、会話の軸はそちらへと移る。
◇ ◇ ◇
「北村祐作……名簿に記されていない十人の内の一人が、櫛枝実乃梨のクラスメイトってわけか」
「ワシも含めて、これで二人埋まったの。やはり、各々の知人が名を連ねている可能性が高そうじゃ」
「うっそ。ってことは、キョーコなんかもいるかもしれないってわけ……? あぁもう、サイテー」
「数名の名を伏せているのは、そういった不安を煽るためのものでもあるのだろうな」
「おいおい勘弁してくれよ……こちとら、ただでさえ頭がパンクしそうだってのによ」
「とりあえず、北村くんは温泉にいるんだよね。うん。となると……ごめんよ、エルメス!」
「えぇっ、いきなりなにさ?」
各々の交友関係、警戒対象や懸念事項、そして温泉施設で北村が待っていること等を軽く話し終えたところで、実乃梨が唐突に頭を下げた。
下げられた側のモトラド、エルメスは訳がわからないといった様子でこれを訝る。
「残念だけど、私じゃエルメスの運転手にはなってやれないんだ……ごめんよ……本当にごめんよ……」
「そりゃあ何回も転ばれるのはイヤだけどさ。さっきまであんなに頑張ってたのに、どうして急に?」
「いやー、そりゃま、目的地が定まったともなれば、遊んでもいられないしねぇ」
「つまり、さっきまでのは遊びだった……ということかの?」
「あらら、ひどい話」
友人である北村の居場所がわかるや否や、手の平を返したように運転技術の習得を断念する実乃梨。
振り回された気分を味わっているだろうエルメスに、悪びれもせず言葉を続ける。
「おっと、しょぼくれるのはまだ早いぜ。なんたって、これから合流する北村くんは……バイクの運転ができるのだ!」
「おおー」
「ただし、これ校則違反だからオフレコでお願い!」
「他言無用、ってやつだね」
実乃梨の話によれば、北村は自動二輪車の運転免許を持っているらしい。
無事に合流と相成れば、めでたくエルメスの乗り手も見つかるという寸法だ。
モトラド本来の主人である旅人は未だ影も噂もないため、この場は代行の運転手に席を譲るしかない。
エルメスとしても早く走りたいというのが本音であり、ならばとっとと温泉に向かおう、と自ら鞄に収まることを承諾した。
「それじゃあ、ワシらはこれから温泉に向かうということでいいかの?」
エルメスを鞄に収納しようと悪戦苦闘しながら、秀吉が確認を取る。
「知人との合流は早急に済ませておいたほうがよかろう。この世界の調査を合理的に進める上でも、な」
「……そうね。おまえたちはどうする? 私たちはもう行くけど」
「北村に頼まれた仕事があるしなぁ。それを済ませてからそっちと合流するよ」
「仕事?」
モトラドを支給された本人である秀吉がこれを収納し終えたところで、シャナが問う。
上条は鞄から地図を取り出し、指で図の外側をなぞりながら説明した。
「ああ、ここの端っこ……地図でいうところのこの部分な。ここが気になるんだとよ。だから……」
「それならとっくに調査済みよ」
「……なんですと?」
他愛もない疑問に、シャナが即座の回答を下す。
「今はまだ夜だから遠目じゃわからないと思うけど、会場の端は『黒い壁』よ。
闇に覆われているとかじゃない。あれがなんなのかは、まだよくわからないけれど……。
少なくとも、おまえたち二人が足を運んだってなにか新しいことがわかるとは思えない」
指で海の向こうを示しながら、シャナは淡白に言ってのけた。
上条も目でそれを追うが、広がっているのは夜空ばかりだ。
たしかに黒くはある。が、これが壁と言われようとも、肉眼では納得しがたい。
「……いや、逆に興味が湧いた。やっぱ俺たち行くわ。情報ありがとな、シャナ」
既に確かめたというシャナの言を噛み砕き、それでも上条は会場の端に向かうと告げた。
シャナもそれを無理に止めようとはせず、了承する。
「ってなわけで、行きましょうか『千鳥さん』。いいかげん機嫌直せよな」
「あら、あたしとしては女の子同士団体行動でも良かったんだけどねぇ、『上条くん』」
「ほほう。な〜んか含みのある言い方だな。つーかねちっこいぞ」
「どっちがよ。まぁ、一人じゃさびしーでしょうから、仕方ないけどついてってあげるわよ」
「この……っ、んじゃそういうわけで! 北村に会ったらよろしく伝えといてくれ!」
別れも手早く、上条とかなめは西への進行を再開した。
去り行く背中を見送りながら、シャナは実乃梨と秀吉に向き返る。
「さ、私たちも行きましょう。そろそろ夜も明けるだろうし」
「うむ。鍛錬で時間を浪費した分、遅れを取り戻さなくてはな」
「いえっさ! 待っててくれよクラス委員長! いま櫛枝が駆けつけるぜ!」
(気のせいじゃろうか……今、千鳥にまで女子扱いされたような気がしたのじゃが……)
どこか釈然としない気持ちの秀吉を最後尾に、シャナたちもまた、温泉への道を進み出した。
◇ ◇ ◇
「で、その物騒なもんはなんだ?」
「櫛枝さんに貰ったのよ。護身用に。彼女、刃物はいらないって言うんでね」
西への進路。
千鳥かなめは、櫛枝実乃梨から譲り受けた小型の鎌を弄くりながら歩いていた。
「スタンガンに鎌に……そこまで防備を固めてどうする気ですか」
「いつどこで暴漢に襲われるかわかったもんじゃないからね〜」
「……やっぱ根に持ってやがる」
入浴の場面を覗かれたことを未だ怒っているのか、それともただからかっているのか、かなめの表情には含みがある。
隣を歩く上条は辛辣なため息を零しつつ、シャナから頂戴した情報を反芻していた。
(世界の端……黒い壁、ね)
夜が明ければ、その黒い壁というものに関しても現実味を帯びてくるのだろうか。
シャナの言によれば、壁より向こうは一切の闇に包まれ、どれだけ目を凝らしたとて不可視の境界線が敷かれているらしい。
手で触れまではしなかったものの、試しに石を投げてみたら、そのまま闇に吸い込まれたとのことだ。
実は踏み越えられるのではないか、とも思ったそうだが、それを確かめるにはリスクが高すぎる。
人類最悪なる男の放った“消滅”という言葉を信じるならば、人体で触れるのは避けたほうが無難だろう。
そこまで聞き及んで、上条当麻は逆に興味を抱いたのだ。
黒い壁。無限の闇。そんな原理不明の異常なる現象。
それが“異能”の一端だと仮定するならば。
(俺の右手……『幻想殺し(イマジンブレイカー) 』で触れれば、壁はどうなる?)
上条当麻の右手は、幻想殺しと呼ばれる異能封じの右手だ。
如何な魔術、如何な超能力であったとしても、この右手に触れればたちまち打ち消されてしまう。
この右手自体はどういった代物なのか、というのは上条が生来抱えている謎であり、今になっても解明はされていない。
インデックス曰く魔術ではなく、風斬氷華曰く超能力でもありえないという、謎の力。
ただ、異能ならば打ち消せるという情報だけを持ち――上条は、試してみる価値はあると踏んだ。
(壁だかなんだか知らねぇが、変な力で俺たちを閉じ込められると思ってんなら……まずはその幻想をぶち壊す!)
決意は変わらない。
指針も変わらない。
軸はぶれず、我が道を信じ、上条当麻は世界の端を目指す。
「……なに? 急に黙りこくっちゃって。まさかあんた、思い出したりしてたんじゃ……っ」
「思い出す……って、なにをだ、なにを! 妙な勘繰りすんな!」
相方に覗き魔の汚名を引き摺られつつ。
【E-1/一日目・早朝】
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:健康
【装備】:無し
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品1〜2)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:西部の端を確かめに向かう。壁があるなら『幻想殺し』で触れてみる?
2:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。
3:第二回〜第四回放送までに北村と落ち合う。
【千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
【状態】:健康
【装備】:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品×1)、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
【思考・状況】
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:西部の端に行きどうなっているか確認する。
2:知り合いを探したい。
3:第二回〜第四回放送までに北村と落ち合う。
【備考】
※2巻〜3巻から参戦。
【二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣】
坂本雄二お手製の暴徒鎮圧用スタンガン(20万ボルト)。
服の上からでも通電するタイプ。違法改造の気配がしてならない。
【小四郎の鎌@甲賀忍法帖】
伊賀鍔隠れ衆が一人、筑摩小四郎愛用の鎌。
刃は折り畳んで収納できるようになっており、投擲にも向いている。
◇ ◇ ◇
「それで、その北村という男子はどんな人物なのじゃ?」
「う〜ん、一言で言うとだね……まるお、って感じ?」
「……まるおって、なに?」
東への進路。
櫛枝実乃梨は、これから合流する北村祐作の人柄について話しながら歩いていた。
「先生、ドラえもんだけでなくちびまるこちゃんも知らないの? サザエさんは?」
「この子は世俗に疎いものでな。そういったものに関しての知識は乏しいのだ」
「要はテレビアニメーションでしょ。たしかに詳しいわけじゃないけど……」
鍛錬のために幼少期を費やしてきたシャナにとって、人間の世はまだまだ広大だ。
トーチであった平井ゆかりの存在に割り込み、一介の高校生として振舞うようになってからも、充分ならしさを得るには至らなかった。
知るべきことはまだまだいっぱいある。
実乃梨や秀吉のような――坂井悠二や吉田一美と同じ年代の人間には、親近感を抱いてしまうのも事実である。
非常時の最中、テレビアニメについて話しながら目的地への道を歩むなど、フレイムヘイズとしての使命を思えば考えられない。
(でも)
これは必要なことなのだ。
現在陥っている非常は、シャナの知る“紅世”の常識では語れない。
ゆえに様々な方面から情報を吸収する必要があり、人類最悪が零していた『ドラえもん』の話とて、無関係であるとは限らない。
櫛枝実乃梨、木下秀吉、エルメス、上条当麻、千鳥かなめらの持ち寄った情報は皆、等しく考察の材料として頭の中に収めていく。
「とにかく、北村くんは頼りになること間違いなしだよっ! 今頃は余裕かましてお風呂にでも浸かっているかもしれない!」
「いや、それはさすがに緊張感がなさすぎじゃろう。まあ、櫛枝の友達という時点でありえん話でもないような気はしてきたが……」
見聞は広めるべき。情報は好き嫌いせず吸収するべき。未知は、知るべき。
これから向かう先、街中の温泉施設ではどのような出会いが待つのか。
シャナはわずかながらの期待を胸に、櫛枝実乃梨の――友達に会える喜びに共感していた。
(……みんなとも、その内きっと)
未だ見ぬ、友人たちの動向を按じながら。
【E-2/一日目・早朝】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)
[思考・状況]
基本:櫛枝実乃梨の用心棒になりつつこの世界を調査する。
1:温泉に向かい、北村祐作と合流する。
2:みんなが少し心配。
[備考]
※封絶使用不可能。
※清秋祭〜クリスマス(11〜14巻)辺りから登場。
【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:全身各所に絆創膏
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。
1:温泉に向かい、北村祐作と合流する。
[備考]
※少なくとも4巻付近〜それ以降から登場。
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1〜2個所持)、エルメス@キノの旅
[思考・状況]
基本:シャナに同行し、吉井明久と姫路瑞希の二名に合流したい。
1:温泉に向かい、北村祐作と合流する。
2:エルメスの乗り手を探す。第一候補は北村祐作。
代理投下終了です
投下&仮投下乙。ってか、予約から投下までが早いw
実に丁寧なお仕事。モトラドの運転を断念させつつ、丁寧な情報交換。
誰も彼も「らしく」ていいな〜。
そして……実乃梨ー! いま、温泉では、その北村君が……!
え、えぐい……この誘導は、えぐい……! GJ!
投下乙ですー
キャラが実にらしいw
情報交換をした上で今後の行き先提示。
大集団にもなる事もなくとても上手い流れだと思いましたw
だけどそこは北村の死体がーwwww
GJでしたw
643 :
創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 01:31:51 ID:vaoStLJ+
「壁」。コレの詳細がのちのち明かされていくんだろうか。
とにかくGJ
投下GJ! やることが酷いぜ旦那!w
うーん、このまま温泉か……どうなる。どうなるよw
そして世界の端についてもこちらもリアクションが。
「実際に見た」という参加者がせいぜい、というこの状況でどうなるのやら。
予約していた投下分ですが、容量的にキツいので次スレ立ててそちらに投下します。
こちらの残りは、埋め立てネタか雑談で適当に……。
>Lx氏
投下乙です!
うあぁ…このまま温泉に向かっちゃったら色々とヤヴァい事になる気が…
楽しみなんだがすっごい怖いのは気のせいじゃないはずw
そして幻想殺しが壁に触れちゃったらどうなるのか
次にwkwkが止まらない展開本当にGJです!!
>76I
了解しました!
投下楽しみにお待ちしていますー
スレ立て乙です!
スレ立て乙
スレ建て乙
前回に引き続き、AAで埋めるぜ
_-===-、-ミヽ、\
_.二ニ=`⌒ミ::::::`ヾ\ヽヽ 、
_ニヲ´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ:Yiji
,rニィ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`ミ=、
/彡':::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::``ヽ、
/;::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ト、ヽ
r勿:::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ::::、:::::::::::::::::::::::::::::::::::`ミヽ
〃:::::::::::::::::::::ハ:::::::::ミ:::::::::::::::_::::::::::::::::::::::::::::::::ハ
//ィ:::::::::::::::::::;`_''::::::::::::、rx癶ソヽ,::::::::::::::::::::::::::ヽ
イハj::::::::::::::Nゞ'弋t、 ミヾ\ ̄´ Y!::::::::::::::::::::::i、\
|! /|::i!::::::::〈ミ、 冫\:ヾミ 川i::::::::::::::::::::ト\
|:::;:::::::::::ト、` ヘ ヽ\:\ ノ!::::::::|}:::::::ハ、
l;/|:::::::::::トミ _,、 `~^ //::ィ::::::::::::::':::ハ
//ノ:::::::::::::、 /^一'⌒ヽ /::ク!:::::::::::::::::::::ト、
/ノ/イ::::::::::::::ヽ '⌒ ヽ,、 ノ/,イi::::::::::::::::::::トミ、
〃ノ}:::::::::::::::::ゝ `';、}>' 〃/}::::::::::::::::::ハ `ヽ
ハ!:::::::::::::i{ ト 、 / ///〃:::::::::irリ
/ !n:::::ト、::i ヽヽ ̄ ̄ / /::::::::::ハ∧
/ { !::::トミ \丶ヽ / /〃:::イ:/ \
 ̄ X!::ト、 \____/ / /イノ/ノ ヽ
ヽい `マヌヌヌタ /´
YXY
';::..;;;.;;....>'⌒\.:.:.:.:.:.:.:.___\ / : :}
`''ー'''" ∨.:./ ____ `丶、 / . : :/
// /:::::::::::::::`丶、__〕_, / . : / {
_〔_/::/{::メ、:/}:::,::::::::::::ノ∨. : :/ }
___/⌒ 、 }>::::;=f´ ̄`</|/j厶ヘ:::: ̄> / ,′ j
/ / `二ニ=ー- ,_/:::::/^弋__ノ、r'─‐<:::::〈: :/ : / /
{ : : : : ヘ : : : : : : : . j:::ル′"" r仏人___ ノ、:::ニ=- . : ,′
∨ : : : ⌒\ : : : : : : : : : : : : : :f⌒' /二ニ -' ""∧:∨ . :
: : : : : . ヽ: : :_:. -――{(. { |_/::::::::: ̄刀 〃::ゝ| . : : : : /
`、: : : : : . `く ゙'rヘ | ::::::::::::::::{_/ /^V/{ . : : : : /
ヽ : : : : : : . \ Yゝ 弋^⌒'⌒∨ノ / ノ: : ,'{ : : : : : :/
\ : : : \: : : ヾ ̄`ヽ ,} : :\`ー=ニ/ _ イイ ,{ j.: : : : : :/
\: : : :丶 : . '; `ァアノ : : : :>‐==≦二/ : . : : : : : ; '′
丶、 : : : 、: . : . : : // ; : : : : : : : : : /.:| レ′ / : : : : : イ
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{ | | | |,ハ| ,ィfx、 | ', !八 !八` 、 ! | 八
| 八 |{ 《 {灯ハ ヽ | ヽ| ヽ \ | l /
j/ ,小. lハ ハノr'l| ヽ. l ,.rzx、 \ | ,' ,/
ノ / | ∨,ハ 込.ソ \ イ灯⌒心、 〉 || / /
|,イ ̄` { Xxx }rトr':::}リ》}ハ | || ,/|〈
/|| |八 〈 ヽ廴.ン´ / Y /|,イj| |
/ 八 |小ヽ、 、_ Xxx. , ′ , l| / /l/ l从|
r‐く ̄}_,rく ヘ.|リ ヽ}\ `´ / / |,/ / ノ
r'ト、 ヽrく / V/ j/ヽ、 _, ..イ/ , イ /}/
,厶 ヽ. | \ / ____,/ ̄「/ ̄/ /ヽ| /
{ `ヽ |_ト、 } ヽ / ::::::/ // /ー< \_」∧
| `ヽ._}_,ハ/^\l__,}トr‐、_/:::/:::::/ // / }' ハ
八 { | ∨/\':::::/ //―‐、 , ′ }
ヽ /{ 〉、/:::\ .ィ'゛_ \ / ヽ、
. ∧ /::::〉 /::: ト、_/ jトrく/__ \ \,/ \
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}ヽ:::∧ /:::::::: \ | :/::/ ,/ \__/ .. ――‐\
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/ / ..:::::::::::: ::::.. ::::::::::::::: ..:::::::::::::: ..:: //:/ ヽ:::::: ノ  ̄
てて、天膳殿が、また 死んでおるぞ!
/ | 丶 \ ヽ
,′ j. ト '. | '.
| { _/{ l \_| _ . │
| ∧ ハ`ヽ| | / \|\ | | i
| j. | x-=ミ八 |'゜x-=≠ミヽ | | │
| 八 {. | 〃 う心ヽ\ 、 { うテ心 ヾ、 ' /ト |
'.{ ∧ N {{ ト/j | \厂 ト//j | }}ヘ. / | } |
ヽ| \い. 弋)ソ 弋)_ソ !∨ |ノ |
| i `.:::::::: ::::::::.´ | | |
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|. '. ,′ j │
| ゝ r‐、 / , |
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ヘ八 | /_>‐ァ'´\ | /__/| `ヽ
∨\ | ,/ / } | / | '.
{ \| | ̄ ̄|、 j/|──‐| }
ヽ | | `丶 -― ´| │ /
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.: ::.::.::.::.: l:| |:j.::._∧::.:/ ハ.::.::. }::.::.:|^';.::.::'.
.: ::.::.::.::.: |:!=-、 ノ:'!.::;仁∨ j:ハ.:: ;'::.::.::|ノ} :.::.'、 ふ〜ん …で?
.::.::.|.::.::.::.|:ヽ ∨ '弌示圷 j/.:: /.::| '.::.::.::.:ヽ
.:|.: |.::.::.::.'ャ弌示 ゝ.:ソ /.::./ :.::|/.::.::.::.::.::.::\
.::!八.::.::.::ヘ ゝ.:ソ  ̄´厶:イ :.::.:|、.::.::.::.::.::.::.::.:\
、ヽ.:\.::.::.:.. ` , |:i.::.::.::| \.::.::.::.::.::.::.::.:. \
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