RPGキャラバトルロワイアル Part4

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1創る名無しに見る名無し
このスレはRPGゲーム(SRPGゲーム)の登場キャラクターでバトルロワイヤルをやろうという企画スレです。
作品の投下と感想、雑談はこちらのスレで行ってください。


RPGロワしたらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11746/
RPGロワまとめWiki
ttp://www32.atwiki.jp/rpgrowa/pages/11.html
前スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1234895863/

テンプレは>>2以降に
2創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:12:22 ID:abYhNLrm
参加者リスト

5/7【LIVE A LIVE】 
○高原日勝/○アキラ(田所晃)/○無法松/○サンダウン/●レイ・クウゴ/○ストレイボウ/●オディ・オブライト
6/7【ファイナルファンタジーVI】 
●ティナ・ブランフォード/○エドガー・ロニ・フィガロ/○マッシュ・レネ・フィガロ/○シャドウ/○セッツァー・ギャッビアーニ/○ゴゴ/○ケフカ・パラッツォ
5/7【ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】 
○主人公(勇者)/●アリーナ/○ミネア/●トルネコ/○ピサロ/○ロザリー/○シンシア
6/7【WILD ARMS 2nd IGNITION】 
○アシュレー・ウィンチェスター/●リルカ・エレニアック/○ブラッド・エヴァンス/○カノン/○マリアベル・アーミティッジ/○アナスタシア・ルン・ヴァレリア/○トカ
5/6【幻想水滸伝II】 
○2主人公/○ジョウイ・アトレイド/○ビクトール/○ビッキー/●ナナミ/○ルカ・ブライト
5/5【ファイアーエムブレム 烈火の剣】 
○リン(リンディス)/○ヘクトル/○フロリーナ/○ジャファル/○ニノ
4/5【アークザラッドU】 
○エルク/●リーザ/○シュウ/○トッシュ/○ちょこ
4/5【クロノ・トリガー】 
○クロノ/○ルッカ/○カエル/●エイラ/○魔王
4/5【サモンナイト3】
○アティ(女主人公)/●アリーゼ/○アズリア・レヴィノス/●ビジュ/○イスラ・レヴィノス

【残り43名】
3創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:13:08 ID:abYhNLrm
【基本ルール】
 全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
 勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。

【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。
 「地図」「コンパス」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランタン」「ランダムアイテム」
 「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。詳しくは別項参照。
 「地図」 → MAPのあの図と、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
 「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
 「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
 「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。
 「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。写真はなし。
 「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
 「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
 「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。

【禁止エリアについて】
放送から1時間後、3時間後、5時間に2エリアずつ禁止エリアとなる。
禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。

【放送について】
0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。

【舞台】
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0087.png

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24
4創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:13:50 ID:abYhNLrm
【予約に関してのルール】
・したらばの予約スレにてトリップ付で予約を行います。
・予約は必須です。予約せずに投下できるとしても、必ず予約スレで予約をしてから投下してください。
・修正期間は審議結果の修正要求から最大三日(ただし、議論による反論も可とする)。
・予約時にはトリップ必須です。また、トリップは本人確認の唯一の手段となります。トリップが漏れた場合は本人の責任です。
・予約破棄は、必ず予約スレでも行ってください。

【議論の時の心得】
・議論はしたらばの議論スレでして下さい。
・作品の指摘をする場合は相手を煽らないで冷静に気になったところを述べましょう。
・ただし、キャラが被ったりした場合のフォロー&指摘はしてやって下さい。
・議論が紛糾すると、新作や感想があっても投下しづらくなってしまいます。
 意見が纏まらずに議論が長引くようならば、したらばにスレを立ててそちらで話し合って下さい。
・『問題意識の暴走の先にあるものは、自分と相容れない意見を「悪」と決め付け、
  強制的に排除しようとする「狂気」です。気をつけましょう』
・これはリレー小説です、一人で話を進める事だけは止めましょう。

【禁止事項】
・一度死亡が確定したキャラの復活
・大勢の参加者の動きを制限し過ぎる行動を取らせる
 程度によっては雑談スレで審議の対象。
・時間軸を遡った話の投下
 例えば話と話の間にキャラの位置等の状態が突然変わっている。
 この矛盾を解決する為に、他人に辻褄合わせとして空白時間の描写を依頼するのは禁止。
 こうした時間軸等の矛盾が発生しないよう初めから注意する。
・話の丸投げ
 後から修正する事を念頭に置き、はじめから適当な話の骨子だけを投下する事等。
 特別な事情があった場合を除き、悪質な場合は審議の後破棄。

【NGについて】
・修正(NG)要望は、名前欄か一行目にはっきりとその旨を記述してください。
・NG協議・議論は全て議論スレで行う。本スレでは絶対に議論しないでください。
・協議となった場面は協議が終わるまで凍結とする。凍結中はその場面を進行させることはできない。
・どんなに長引いても48時間以内に結論を出す。
『投稿した話を取り消す場合は、派生する話が発生する前に』

NG協議の対象となる基準
1.ストーリーの体をなしていない文章。(あまりにも酷い駄文等)
2.原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている場合。
3.前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている場合(死んだキャラが普通に登場している等)
4.イベントルールに違反してしまっている場合。
5.荒し目的の投稿。
6.時間の進み方が異常。
7.雑談スレで決められた事柄に違反している(凍結中パートを勝手に動かす等)
8.その他、イベントのバランスを崩してしまう可能性のある内容。

上記の基準を満たしていない訴えは門前払いとします。
例.「このキャラがここで死ぬのは理不尽だ」「この後の展開を俺なりに考えていたのに」など
  ストーリーに関係ない細かい部分の揚げ足取りも×

・批判も意見の一つです。臆せずに言いましょう。
 ただし、上記の修正要望要件を満たしていない場合は、修正してほしいと主張しても、実際に修正される可能性は0だと思って下さい。
・書き手が批判意見を元に、自主的に修正する事は自由です。
・誤字などは本スレで指摘してかまいませんが、内容議論については「問題議論用スレ」で行いましょう。
・「議論スレ」は毒吐きではありません。議論に際しては、冷静に言葉を選んで客観的な意見を述べましょう。
・内容について本スレで議論する人がいたら、「議論スレ」へ誘導しましょう。
・修正議論自体が行われなかった場合において自主的に修正するかどうかは、書き手の判断に委ねられます。
 ただし、このような修正を行う際には議論スレに一報することを強く推奨します。
5創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:15:42 ID:abYhNLrm
【書き手の注意点】
・トリップ必須。 騙り等により起こる混乱等を防ぐため、捨て鳥で良いので必ず付けてください。
・無理して体を壊さない。
・残酷表現及び性的描写に関しては原則的に作者の裁量に委ねる。
但し後者については行為中の詳細な描写は禁止とする。
・完結に向けて決してあきらめない

書き手の心得その1(心構え)
・この物語はリレー小説です。 みんなでひとつの物語をつくっている、ということを意識しましょう。一人で先走らないように。
・知らないキャラを書くときは、綿密な下調べをしてください。
 二次創作で口調や言動に違和感を感じるのは致命的です。
・みんなの迷惑にならないように、連投規制にひっかかりそうであればしたらばの一時投下スレにうpしてください。
・自信がなかったら先に一時投下スレにうpしてもかまいません。 爆弾でも本スレにうpされた時より楽です。
・本スレにUPされてない一時投下スレや没スレの作品は、続きを書かないようにしてください。
・本スレにUPされた作品は、原則的に修正は禁止です。うpする前に推敲してください。
   ただしちょっとした誤字などはwikiに収録されてからの修正が認められています。
   その際はかならずしたらばの修正報告スレに修正点を書き込みましょう。
・巧い文章はではなく、キャラへの愛情と物語への情熱をもって、自分のもてる力すべてをふり絞って書け!
・叩かれても泣かない。
・来るのが辛いだろうけど、ものいいがついたらできる限り顔を出す事。
 作品を撤回するときは自分でトリップをつけて本スレに書き込み、作品をNGにしましょう。

書き手の心得その2(実際に書いてみる)
・…を使うのが基本です。・・・や...はお勧めしません。また、リズムを崩すので多用は禁物。
・適切なところに句読点をうちましょう。特に文末は油断しているとつけわすれが多いです。
 ただし、かぎかっこ「 」の文末にはつけなくてよいようです。
・適切なところで改行をしましょう。
 改行のしすぎは文のリズムを崩しますが、ないと読みづらかったり、煩雑な印象を与えます。
・かぎかっこ「 」などの間は、二行目、三行目など、冒頭にスペースをあけてください。
・人物背景はできるだけ把握しておく事。
・過去ログ、マップはできるだけよんでおくこと。
 特に自分の書くキャラの位置、周辺の情報は絶対にチェックしてください。
・一人称と三人称は区別してください。
・ご都合主義にならないよう配慮してください。露骨にやられると萎えます。
・「なぜ、どうしてこうなったのか」をはっきりとさせましょう。
・状況はきちんと描写することが大切です。また、会話の連続は控えたほうが吉。
 ひとつの基準として、内容の多い会話は3つ以上連続させないなど。
・フラグは大事にする事。キャラの持ち味を殺さないように。ベタすぎる展開は避けてください。
・ライトノベルのような萌え要素などは両刃の剣。
・位置は誰にでもわかるよう、明確に書きましょう。

書き手の心得3(一歩踏み込んでみる)
・経過時間はできるだけ『多め』に見ておきましょう。
 自分では駆け足すれば間に合うと思っても、他の人が納得してくれるとは限りません。
 また、ギリギリ進行が何度も続くと、辻褄合わせが大変になってしまいます。
・キャラクターの回復スピードを早めすぎないようにしましょう。
・戦闘以外で、出番が多いキャラを何度も動かすのは、できるだけ控えましょう。
 あまり同じキャラばかり動き続けていると、読み手もお腹いっぱいな気分になってきます。
 それに出番の少ないキャラ達が、あなたの愛の手を待っています。
・キャラの現在地や時間軸、凍結中のパートなど、雑談スレには色々な情報があります。
 本スレだけでなく雑談スレにも目を通してね。
・『展開のための展開』はNG
 キャラクターはチェスの駒ではありません、各々の思考や移動経路などをしっかりと考えてあげてください。
・書きあがったら、投下前に一度しっかり見直してみましょう。
 誤字脱字をぐっと減らせるし、話の問題点や矛盾点を見つけることができます。
 一時間以上(理想は半日以上)間を空けてから見返すと一層効果的。
 紙に印刷するなど、媒体を変えるのも有効。
 携帯からPCに変えるだけでも違います。
6創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:17:15 ID:abYhNLrm
【読み手の心得】
・好きなキャラがピンチになっても騒がない、愚痴らない。
・好きなキャラが死んでも泣かない、絡まない。
・荒らしは透明あぼーん推奨。
・批判意見に対する過度な擁護は、事態を泥沼化させる元です。
 同じ意見に基づいた擁護レスを見つけたら、書き込むのを止めましょう。
・擁護レスに対する噛み付きは、事態を泥沼化させる元です。
 修正要望を満たしていない場合、自分の意見を押し通そうとするのは止めましょう。
・「空気嫁」は、言っている本人が一番空気を読めていない諸刃の剣。玄人でもお勧めしません。
・「フラグ潰し」はNGワード。2chのリレー小説に完璧なクオリティなんてものは存在しません。
 やり場のない気持ちや怒りをぶつける前に、TVを付けてラジオ体操でもしてみましょう。
 冷たい牛乳を飲んでカルシウムを摂取したり、一旦眠ったりするのも効果的です。
・感想は書き手の心の糧です。指摘は書き手の腕の研ぎ石です。
 丁寧な感想や鋭い指摘は、書き手のモチベーションを上げ、引いては作品の質の向上に繋がります。
・ロワスレの繁栄や良作を望むなら、書き手のモチベーションを下げるような行動は極力慎みましょう。
7創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:18:15 ID:abYhNLrm
【身体能力】
・原則としてキャラの身体能力に制限はかからない。
 →例外としてティナのトランス、アシュレーのアクセス、デスピサロはある程度弱体化
【技・魔法】
・MPの定義が作品によって違うため、MPという概念を廃止。
 →魔法などのMPを消費する行動を取ると疲れる(体力的・精神的に)
・全体魔法の攻撃範囲は、術者の視野内にいる人物。(敵味方の区別なし)
・回復魔法は効力が大きく減少。
・以下の特殊能力は効果が弱くなり、消耗が大きくなる。
 →アキラの読心能力、ルーラやラナルータやテレポート(アキラ、ビッキー)などの移動系魔法、エルクのインビシブル
・蘇生魔法、即死魔法は禁止
【支給品】
・FEの魔導書や杖は「魔法が使えるものにしか使えず、魔力消費して本来ならばそのキャラが使えない魔法を使えるようになるアイテム」とする
・FEの武器は明確な使用制限なし。他作品の剣も折れるときは折れる。
・シルバード(タイムマシン)、ブルコギドン、マリアベルのゴーレム(巨大ロボ)などは支給禁止。
・また、ヒューイ(ペガサス)、プーカのような自立行動可能なものは支給禁止
・スローナイフ、ボムなどのグッズは有限(残り弾数を表記必須)
【専用武器について】
・アシュレー、ブラッドのARMは誰にでも使える(本来の使い手との差は『経験』)
・碧の賢帝(シャルトス)と果てしなき蒼(ウィスタリアス)、アガートラームは適格者のみ使用可能(非適格者にとっては『ただの剣』?)
・天空装備、アルマーズ、グランドリオンなどは全員が使用可能
8創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:19:39 ID:abYhNLrm
テンプレは以上です。
尚、>>2においてサモンナイト3勢の残りが、4/5のままですが、実際は3/5です。
間違ってしまい申し訳ありません
9創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 02:50:34 ID:NonP5DMA
スレ立て乙です!

>>4
【予約に関しての追加ルール】
予約期間は五日です。
さらに、三話以上投下した書き手の方は、三日間の延長を申請することができます。
ただし、延長するときは必ずトリップをつけて、予約スレか本スレか避難所スレに延長すると一言書き込んでください。
10創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 03:39:17 ID:QFTBhHg5
スレ建て乙!
しかしもう新スレとは早いなw
11 ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:48:16 ID:HlcRGMET
>>1
スレ立て乙!
前スレにも書きましたが、容量が厳しいのでこちらに投下します。
12トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:50:07 ID:HlcRGMET
 真っ暗で何も見えない道を、あたしは一人で歩いている。
 静謐で何の音もしない世界を、あたしは一人で横切っている。
 何一つ存在しないその場所が、何処かなんて分からない。だからといって、知るつもりも考えるつもりもない。
 どうだっていいのだ、そんなことは。
 大切なのは、あたしがここにいるという証だけだ。
 <剣の聖女>の血を引いて生まれたこのあたしが、存在している証拠だけを、貪欲に欲している。
 そう、ただそれだけだ。
 だからあたしは、あらゆる『魔』を祓える力が欲しい。
 そのために、多くのものを捨ててきた。そしてこれからも、捨て続けていくのだろう。
 それでいい。
 力さえあれば、他に何もいらない。力さえ手に入るのなら、何を失ってもいい。
 それはあたしにとって絶対不変の真理だ。誰に何を言われたって揺るがない、あたしの根幹に当たるものだ。
 その強い想いを胸の奥に抱くあたしの前に、不意に女が現れる。
 そいつは、あたしの過去だ。
 時の彼方に棄て去った、かつての『あたし』が、眼前に佇んでいる。
 『あたし』は何も語らない。
 ただその両目や口で、表情を形作るだけ。
 
「何故だ……ッ!?」

 思わず立ち止まり、問いかける。
 『あたし』は余りにも哀しげで、憂いでいたから。
 伏し目がちな瞳と俯き加減の顔は、確かに何かを求めているはずなのに。
 それは、今のあたしが求めているものとは違うように思える。
 『あたし』は答えない。表情も変わらない。
 その代わりに、何処かから声が聞こえてくる。
 禍々しい声音だ。一度聞いただけだが、忘れるはずのない音だ。
 体が興奮に打ち震える。心底から昂揚が滲みあがってくる。
 魔王オディオ。
 そいつの声音が名を告げているが、そんなものなどどうでもよかった。
 重要なのは、その声が『魔』そのものであるということのみ。
 そう、それが魔の王ならば、あたしは祓わなければならない。
 何故ならばあたしは『英雄』の血族なのだから。
 そうだ。
 あらゆる『魔』を祓って、祓って、祓い抜いた先で、あたしは『英雄』になれる。
 そのために、力が欲しい。そのためなら、何もいらない。
 それは紛れもない、あたし自身の望みなんだ。
 だから。
「そんな顔を、するな……」
 だから。
「そんな目を、向けないでくれ……ッ!」
 何を言っても、『あたし』の様子は変わらない。
 あたりに落ちていた闇が広がっていく。
 周囲に満ちていた黒が、あたしと『あたし』を呑み込んでいく。

 ◆◆
 
 眩い陽光が、採光窓から真っ直ぐに差し込んでくる。
 目を細めたくなるような光は、神殿の中を照らし上げて温もりを注ぎ込んでいる。
 その荘厳な建造物を支える柱に、拳が叩きつけられた。
 乱暴にその柱を殴りつけたのは、濡れ鼠になっている茶髪の少年だった。
 少年――アキラは、奥歯を潰しそうなほどに噛み締め、眉間に皺を寄せている。
 もう一度、全力で柱を殴りつける。
 手の甲の皮膚が剥がれ、骨に硬質な感触がぶつかってくる。関節が砕けそうだった。
 オディオが告げた、死者の名。
 耳に残ったそれが、アキラを苛立たせる。
 十一人。
 僅か六時間の間に死亡した人数だ。
 その中には、知っている名も含まれていた。
13創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 23:51:06 ID:NonP5DMA
                              
14トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:52:01 ID:HlcRGMET
 レイ・クウゴ。
 武術に秀でた仲間の死に、アキラは歯噛みする。
 彼女を死なせずにいられたかと問われれば、ノーと答えざるを得ない。
 放り出されてこの方、レイと出会ってはいないし、情報を得たわけでもないのだから。
 だが、だからといって。
 仕方なかったと割り切れるほど、アキラは白状でもないし諦観してもいない。
 彼女は何を思って死んでいったのだろう。
 心を読めても、死者の気持ちは分からない。
 届かないところにいってしまった声を拾うことなど出来はしないのだ。
 悔しかっただろう。無念だっただろう。
 その無念さえ、もう、レイは晴らせない。

 ――ならば代わりに、晴らしてやる。
 
 レイの仇を取り、魔王をぶっ潰す。
 ただそれだけが、死してしまったレイ・クウゴのために、今、できることだった。
 
 柱から手を離し、デイバックを掴む。
 レイの他にも、仲間がいるかもしれないのだ。
 まだ目を通していない名簿を取り出そうとしたとき、アキラは気付く。
 
 先ほどまで横たわっていた女――カノンがいつの間にか起き上がっていたことに、だ。
 彼女は片手で額に触れ、あたりを見回している。
 その右目が、アキラへと向く。鋭い視線に宿るのは、疑念だった。

「……あたしをここに連れてきたのは、お前か?」
 威圧するような声色に、しかし、アキラは怯まず頷いた。
「狙ったわけじゃねーけどな。必死でテレポートを使ったらここに出たんだ。
 禁止エリアに飛び込まなかったのはラッキーだったぜ」
「あの男は、どうした?」
 アキラの脳裏に、哄笑を上げる長髪の男の姿が思い出される。
 そいつは、圧倒的で絶対的な力を振るう破壊者として立ちはだかっていた。
 あらゆるモノを焼き払い叩き潰しぶち壊そうとするその姿は、人の形をした化物のようだった。
 思い起こすだけで、怖気が走る。
 あの暗く鋭い、獣のような目は、彼の強さと共に焼き付いている。
「さぁな。まだ森にでもいるんじゃねーか」
 思い起こしたイメージを払い落とすように、頭を振る。
 そんなアキラの仕草に構わず、女は立ち上がった。
「魔王の声が聞こえた。奴は、何と言っていた?」
 カノンの問いに、アキラは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまう。
 感情のコントロールが上手くできそうにない。
 それを隠すように俯き、禁止エリアの場所と死者の名を告げた。
 すると彼女は、そうか、とだけ呟くと、硬い足音を立てて歩き出した。
「おい、何処行くんだよ?」
「ここが神殿なら、まだあの男は近くにいるだろう」
「冗談だろ? さっきだってヤバかったじゃねーか!」
 アキラの制止に、カノンは足を止めると肩越しに振り返る。
 その右目の奥からは、思わず息を呑んでしまうほどの、剥き出しの戦意が見て取れた。
 冗談という単語は失言だったと、瞬時に理解する。
「あたしはまだ戦える。ならば戦うだけだ。邪魔をするなら、斬る」
 彼女の背から、一気に殺気が立ち昇る。
 それが自分に向けられていると知りながらも、アキラは言葉を継ぐ。
 あの人を超越した、獣じみた化物の元に行かせるわけにはいかなかった。
 奴は、一人や二人で倒せるような相手ではない。
 対峙したアキラがよく分かっている。
「あいつの強さは半端じゃないって、あんたも分かってるだろ?
 情けねーけど、頭数を集めて――」
「そんなものは必要ない。あたしは一人で戦える。
 ……戦って、みせるさ」
 アキラを拒絶するかのように、カノンはぴしゃりと言い放つ。
15トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:54:10 ID:HlcRGMET
 頑なに閉ざされた鉄扉を思わせるその様子は、もはや語ることなどないと言外に告げているようだった。
 ならばと、アキラは駆け足で近寄る。
 カノンは怪訝そうに目を眇めるが、構わずその目に視線を重ね合わせると、意識を細く集中させて耳の感覚を研ぎ澄ませる。
 ゆっくりと、徐々に、カノンの胸中を見透かすために。
 するとやがて、声が響いてくる。
 音ではない声の中に、嘘偽りの色はないはずだ。
 自分自身の心を、何時如何なるときも騙し続けるなど出来はしない。
 
 ――そう、戦ってみせる。戦って戦って戦って、強くなる。そうすればあたしは『英雄』になれるんだ。
 
 アキラはそうして心を視る。
 語られざる言葉を読み取っていく。
 彼女の心は、渇き飢えていた。
 彼女はひたむきで病的なまでの貪欲さで、何かに執着している。
 一体何を求めていて、どうすれば満たされるのか。
 その鍵は『英雄』という言葉にあるように感じられる。しかしそれは、本質ではないような気がした。
 根拠や論拠があるわけではない、経験による直感だ。
 何度か人の心を読んだことのある、アキラの経験が、望みの本質が別のところにあると告げていた。
 その本質に、カノン自身が気付いていないのか。黙殺しているのか。偽っているのか。気付いていないフリをしているのか。
 そこまでは、アキラの知る由ではない。
 このまま彼女の奥深くへと潜っていけば分かるだろうが、そんな風に、他人の心を侵すような行為はしたくない。
 だからアキラは、カノンの心から視線を外す。
 その瞬間、意識が急激に重さを増した。
 最速で回り続けたコーヒーカップから降りた直後のような感覚と強烈な目眩、そして猛烈な吐き気に襲われる。
 くず折れそうになる足腰を支えるため、手近にあった柱に肩を預ける。冷たい石の触感に頼りがいを覚えてしまい、アキラは眉間に皺を寄せた。
 突然襲ってきた最悪な感覚の原因を回らない頭で考えようとして、気付く。
 カノンがいつしか背を向けていて、その手に蛾の形を模した短剣を握り締めていることに。
 彼女の顔は見えない。息遣いも分からない。
 だがそれでも、誰かに向けて、臨戦態勢を取っていることは紛れもなかった。
 鈍った脳が、現状を捉えようとする。
 アキラの目が女の向こう――神殿の出入り口に、焦点を結んだ。
 そして初めて、アキラは、近づいてくる人影を認識して。
 
 目を、見開いた。心臓が圧迫されたかのように、一気に跳ね上がった。
 
「くくく……」

 そいつは、嗤っていた。
 地獄の底から響きあがってくる唸り声のような音が、聞こえてくる。
 
「ははははははは……!」

 そいつは、濃厚なまでの殺意を身に纏っていた。
 冷や汗が背筋をなぞっていき、全身の産毛が総毛立つ。ともすれば、すぐに歯の根が合わなくなりそうだった。
 
「ふははははははははははははははははははははははははははははは――ッ!!」

 その哄笑はあらゆる音を飲み込んで、神殿の壁を、床を、柱を、天井を震わせる。
 暴虐的な高笑いを上げるそいつは、人のカタチを与えられた邪悪という概念そのものとしか思えなかった。
 どす黒い笑みを顔中に浮かべるのは、鎧を纏った長髪の大男――ハイランドの狂皇子、ルカ・ブライトに他ならない。
 獣の瞳が、アキラを捉える。そこから目を逸らさないようにするだけで、精一杯だった。
 
「おれは運がいい。こうも早く、貴様に会えるとは思ってもいなかったぞ」

 ルカは、禍々しい形状の長剣を携えている。先ほど対峙したときに持っていなかったその武器は、余りにも彼に似合いすぎていた。
16創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 23:54:34 ID:NonP5DMA
                  
17トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:55:39 ID:HlcRGMET
「今度は逃がさんぞ、小僧ッ!」

 剣がゆらりと持ち上がる。その切っ先が自分に向けられていると分かっても、未だ重い意識は、体を即座に動かしてはくれなかった。
 狂皇子が一足、踏み込んだ。
 呆けたように眺めるアキラへと、呪われた刀身が真っ直ぐに迫り来る。
 命を奪わんとする分厚い刃が、アキラの元へと届く前に。

 がきん、と、重厚な金属音が響き渡った。
 
 ◆◆

 アキラへと振り下ろされた一撃の前に、機敏な動作で滑り込んだカノンの両腕に、強烈な負荷が掛かっている。
 カノンは、間に入ると同時にレフトアームエッジを展開し、毒蛾のナイフと交差させて、呪われた刃をなんとか受け止めた。
 しかし、重い一撃に篭められた力は緩められない。
 短剣と刃を叩き折り、腕を押し潰し、カノンの身を断ち割って、強引にアキラへ届かせる腹積もりのようだ。

「運がいいのは、あたしの方だ」

 だが、カノンは揺るがない。屈しない。
 真正面から力を受け止め、睨み返す。
 
「お前とその剣、それぞれを探す手間が省けた。この場でお前を滅し、その魔剣を祓ってみせるッ!」
「からくり人形風情が、邪魔立てするか!」
 ルカは不愉快そうに吐き捨て、カノンを両断しようとする。
 そのための一撃を、カノンは、武骨な刃の角度を変えて受け流す。
 力を流されてもしかし、ルカは、バランスを崩さずに佇んでいた。携えた剣を構えなおす間にすら、隙は見られない。

「よかろう、まとめてかかって来い。命が惜しくなくばな――ッ!」

 薙がれる魔剣を、カノンは膝を曲げて姿勢を低くし、回避する。
 刃が頭上を通過した直後、義体の女はバネのように跳ぶ。人ならざる身体は僅かな挙動で速度を生んだ。
 折り曲げられた膝が正確に、ルカの腹へと猛進する。
 生半可な鎧など叩き割り、内蔵を無理矢理押し潰す一撃だ。
 しかしそれは、届かない。
 無造作に振り上げられたルカの左足が、カノンの膝を真下から蹴り上げていた。
 具足に包まれた爪先が突き刺さり、宙に飛ばされる。空中で受身を取ると、膝下の皮膚を構成する部位がぼろぼろと落ちた。

 内部構造に破損はなく、戦闘に支障はない。
 体勢を整えるカノンの下で、ルカはしかし、上を見ていなかった。
 猛烈な殺意を乗せて、ルカはアキラへと突撃を敢行していた。
 いつしか狂皇子の片手には、炎の槍が握り締められている。
 その殺意を打ち破ろうとするように、カノンは落下しながら左手を射出した。
 ワイヤーで結ばれた左拳の先、鈍い光沢を放つ金属円錐が、けたたましい轟音を立てて回転を始める。
 高速回転する勇者ドリルは、その破壊的な外見を誇示しながら飛んでいく。
 ルカはそれを、容易く槍で弾いて見せた。
 軌道を逸らされたドリルが、甲高い音を立てて神殿の柱に穴を開ける。
 舌打ちをしつつワイヤーナックルを引き戻し着地したとき、ルカの剣が中空を切り裂いた。
 斬撃を転がって回避したアキラが、カノンの横で立ち上がる。
 彼と擦れ違うようにカノンは地を蹴り風を切り、背を向けているルカとの距離を一気に詰める。
 勢いのまま再度跳躍した彼女は、流れるような動作で跳び蹴りの体勢を取る。

 パイクスラスター。
 投擲された槍のような鋭い蹴りであるその技が、ルカの後頭部を狙う。
 だが、当たらない。
 全方位のレーダーを搭載しているかのように、ルカは短いサイドステップで回避する。
 そして振り返りざまに裏拳の要領で、皆殺しの剣をブン回した。
 勢いを込めた攻撃には、急制動をかけられない。
 避け切れない。
 せめて直撃は免れようと、レフトアームエッジと毒蛾のナイフを重ね防御姿勢を取り、衝撃を覚悟する。
18トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:58:03 ID:HlcRGMET
 そんな彼女の横を、ブーメランのような青い何かが複数通過した。
 方向感覚を狂わせるアキラの超能力、スリートイメージ。
 それらがルカを惑わしかく乱するように飛び回った直後、カノンの目の前で、呪われた凶刃は停止した。
 アキラの力を知らないカノンは不審に思う。
 だが、頭を捻るよりも先にすべきことがある。落ちているチャンスを拾わない理由など、ない。

 カノンは、防御姿勢のまま強引に右足を振り上げた。左足を軸にして独楽のように高速回転を行う。
 右の踵に遠心力をたっぷり乗せて、渾身の回し蹴りを、ルカの背へと躊躇わずにブチ込んだ。
 重く鈍い音が、鳴る。
 鎧の硬い感触が靴裏に触れ、僅かな振動が生まれる。
 その触感は次の瞬間に遠ざかり、巨体が勢いよく盛大に吹っ飛んでいく。
 それを悠長に見守るほど、カノンは敵を過小評価してなどいない。
 ルカ・ブライトは恐ろしく強い。しかも、その手にあるのは呪われし武器だ。
 『魔』を携えた『邪悪』そのものの男と、カノンは戦っているのだ。
 堪らなかった。
 体の奥が病的に熱い。なのに心はゾクゾクと震えている。
 自分の全身に、未だ血液が駆け巡っているかのような錯覚が、昂揚感を沸きあがらせる。
 昂揚感が生むのは、異常とも呼べる熱だ。
 その熱さを解放し使役し力にするように。
 義体に組み込んだ新たな力――パワーユニットに指示を出す。
 
「『魔』を『邪悪』を『穢れ』を『呪い』を『厄』を『禍』を――」

 滅し、清め、禊ぎ、落とし、濯ぎ、祓うために。
 そしてそれ以上に。
 願い、求め、祈り、欲し、望み、乞い、ひたすら天へと手を伸ばすように。

「――焼き祓えェッ!」

 瞬間、吹き飛んだルカ・ブライトを中心に、爆炎と轟音と焦熱が炸裂した。
 
 ◆◆

 耳を塞ぐ暇すらなかった。
 そのせいで、神殿中を震わせる爆音をまともに受けた鼓膜が麻痺し、耳鳴りが響いている。
 神殿の壁が砕け、巻き上がった煙と埃の向こうに、男の姿が消えて見えなくなった。
 爆音が引き、静けさがやって来る。
 だからアキラは、胸を撫で下ろし肩から力を抜いた。
 いくらルカが化物じみていても、高速の回し蹴りと爆発が直撃すれば無事では済まないだろう。
 深い息を一つ吐くと、全身に疲労がのしかかってくる。倒れないよう、それを気合で受け止めた。
 努めて意識を保ちつつ、カノンへと目を向ける。
 彼女は腰を落とし、砕けた片膝を床に付けていた。

「膝、大丈夫か?」
 尋ねるとカノンは、変わらない鋭い視線でアキラを一瞥する。その瞳には未だ、気丈な光が宿っていた。
「駆動系に問題はない」
 短い返事は淡々としていて、痛みや弱音の色は交じっていない。
 アキラは横目で、彼女の傷口を見る。
 割れた皮膚の奥から覗けるのは、赤い血液でも有機的な筋細胞でもない。
 人工的で無機的な、大小さまざまな機械の集合だ。
 タロイモとは少しも似つかないそのボディを藤兵衛が見たら、どんな顔をするだろうかとアキラは思う。
 その構成はとても精緻で、高度な技術で作られているようだった。
 だがほとんどの部品が古ぼけ磨耗しており、いつ壊れてもおかしくなさそうな危うさが漂っていた。
「大丈夫そうには見えねーけどな」
 苦笑して呟いても、カノンは答えない。
 ストイックさと無愛想さが入り混じったような態度に、アキラは思わず溜息を吐いた。
 そのとき。
19トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/02(土) 23:59:06 ID:HlcRGMET
 がたりと、物音がした。
 その音が何処から聞こえたのか。
 それを考えた瞬間、心臓が握りつぶされた様に縮み上がった。
 音は終わらない。
 がたりがたりと、何かが落ちる音は連続し、声へと続く。

「……温い、温いぞ、人形」

 その声は静かなはずなのに、耳鳴りを押し分けて聴覚を刺激してくる。
 アキラの身体を、不愉快な緊張感が支配していく。発汗と心拍と呼吸数が増えていく。
 カノンが、跳ね上がるように膝を伸ばし立ち上がる。
 その様子を尻目に、アキラは恐る恐る視線を動かして、そして。
 双眸が、捉える。
 捉えてしまう。
 
 ぶち壊されて転がった、かつて神殿の壁だったものを足蹴にする、狂皇子の姿を。
 瓦礫の中心に立つその姿は、戦闘が未だ続いているという事実を無理矢理に突きつけてくる。
 戦慄せずには、いられなかった。

 ルカ・ブライトは目を見開いて、笑みを浮かべていた。
 額から流れ落ちた鮮血で容貌をどす黒く染めながらも、凄絶に残酷に暴虐的に、嗤っていたのだ。
 血塗られた笑みは、この世のものとはとても思えない。
 悪寒が止まらない。
 まるで、神経を直接硬貨でなぞられているようだった。
 
 そんなアキラを、叩き落すように。
 ルカは笑みを深くして、咆える。
 
「炎とは、このようなもののことを指すのだ!!」

 その咆哮に誘われたように、天から炎が舞い降りる。
 螺旋を描いて飛来する火炎を迎撃するため、アキラは咄嗟に構えを取った。
 しかしその火炎の矢は、アキラにもカノンにも、牙を剥かなかった。
 炎は、ルカ・ブライトへと向かっていた。自身の身に降りかかる炎を、ルカは愉快そうに眺めている。
 そうして。
 ルカはその身に、紅蓮の炎を纏う。
 真っ赤に揺らめく業火に包まれて、ルカは残虐な哄笑を上げる。
 赤の世界で、その漆黒の長髪が、際立っていた。

 息を、呑んでしまう。
 その姿は神々しくも威圧的で、まるで、焦熱地獄の君主そのものだった。
 髪を靡かせ、ルカが跳ぶ。
 炎を散らす巨体は、獣の機敏さで距離を詰めてくる。
 火炎を躍らせ、剣を振り翳す。それが狙うのは、アキラではない。
 カノンが回避を試みる。
 だが、ルカの方が速い。
 今一度スリートイメージで狙いを逸らそうにも、間に合わない。
 アキラは、がむしゃらに地を蹴った。
 策などない。考えている余裕もない。
 ただ、突っ立っているままでいられず、決死でルカに向けて突進する。
 それすらも、遅い。
 アキラがルカに接近するより早く、カノンは、炎を抱いた呪われた刀身に吹き飛ばされていた。
 痛々しい打撃音が轟く。
 それでもカノンは、超反応を見せていた。
 アキラの脇をすり抜け、反撃のワイヤーナックルが飛んでいく。
 先端で回転するドリルはしかし、またも槍に弾かれ軌道が逸れた。
 ルカは止まらない。
 消えない炎に包まれた皆殺しの剣をアキラに突き込むべく、巨躯に似合わぬ速度で猛進する。
 獰猛な肉食獣にも匹敵する、勢い。
20創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 00:00:17 ID:fvMxsxkK
しえん
21トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:01:08 ID:2U4LyH5W
 ――それが、唐突に落ちた。

 先ほど弾かれたカノンのワイヤーが、ルカの左手に巻きついていたのだ。
 ルカが、つんのめるようにして立ち止まる。
 からりと、左手から槍が地に落ちた。
 ワイヤーの先では、ドリルが耳障りな音を立てている。
 その直撃を避けるべく、ルカは、アキラの身を貫くべく構えられた刃を振るいワイヤーを叩き切る。
 その動作のせいで、無防備な胴が眼前に晒された。
 
 それは初めて見えた、アキラが付け込める隙だった。
 
「おおおおおおお――ッ!」

 頼れる兄貴分の熱い鉄拳か、あるいは、流水の如く静かな心から放たれる拳を真似るように。
 思い切り、腕を振りかぶる。
 その動作は洗練されておらず、先のどちらの拳にも似ていない。
 だがそれでも、少しでも近づけるように、届かせるために、思念を込める。
 不屈の決意と抗いの証明――ド根性を詰め込んだ、渾身のホーリーブロウを、ルカに叩き込んだ。
 
 ◆◆
 
 放たれた拳は雑で稚拙で未熟で、お世辞にもいい一撃とはいえなかった。
 それでも、それを食らったあの邪悪の塊が、よろめいてたたらを踏む。
 充分だった。
 カノンは体勢を立て直すこともなく、フルスピードでルカへと迫る。
 ワイヤーを切断されたせいで左腕から先はなく、レフトアームエッジは使えない。
 だからカノンは、右手にあるナイフを強く握り締める。
 体が熱い。
 悲鳴を上げるように、体がみしみしと軋んでいる。
 それでもカノンは減速などしない。制動など考えない。
 それどころか貪欲に、更なる速度を求めるように義体を酷使する。
 パワーユニットや勇者ドリルといった規格の異なるパーツを強引に装着し使用したせいで、耐用年数などとうに過ぎている義体には強烈な負荷がかかっている。

 ――構うものか。
 
 いらないのだ。
 『魔』の一つや二つ祓えず壊れてしまうような脆弱な体など、いらない。
 心から希求し渇望し、何よりも追求し熱望するものは。
 力を得て『魔』を滅し『英雄』の血に相応しい存在となることであり、そして。
 そして――。

 ルカがバランスを立て直す前に、飛び込んだ。
 その腹に真っ直ぐ蹴りを、ぶち込む。
 その一撃をきっかけに、肘を叩き込み拳を叩き付け膝を叩き入れる。
 一撃が終わるよりも早く、カノンは身を躍らせて次の攻撃を繰り出していく。
 人体では容易に再現することの出来ない、高速の連撃。

 嘆きを訴えるように、体がぎしぎしと軋んでいる。
 それでもカノンは力を弱めない。限界など意識しない。
 それどころか強欲に、更なる威力を欲するように義体を使い潰す。

 風が生まれ大気が流れる。
 掻き混ぜられる空気に包まれても、体の熱は収まるどころか、強くなっていく。
 ぎしぎしと、みしみしと、軋みは次第に大きくなる。
 カノンは止まらない。
 だから軋みも、止まらない。
 それでもやはりカノンは攻撃の手を緩めない。義体が上げる声を黙殺し続ける。
22トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:03:15 ID:2U4LyH5W
 荒ぶる闘志を剥き出しにした無数の体術が、ルカの手へと、肩へと、胸へと、腹へと、足へと、次々に飛び込んでいく。
 続けて、右手に握り締めた毒蛾のナイフを、鎧の隙間に捻じ込もうと突き出す。
 限界を超えた、フルパワーの攻撃。
 それ故に。
 負荷も、強烈なものとなる。
 風を切り裂く右腕が、一際大きくみしりと軋んで、そして。
 鈍い断末魔を、上げた。
 肘から先の感覚が消失し、腕が千切れ落ちて、毒蛾はルカへと至らない。
 
 無意識に舌打ちを漏らす。これ以上連続攻撃は続けられそうになかった。
 だからカノンは、跳んだ。
 この連続攻撃を締めくくる一撃を、ルカの脳天にぶち込むために。
 レフトアームエッジがなくとも、右腕で武器が握れなくとも、まだ足が残っている。
 ならば、ガトリング・メテオドライブを締めくくることは可能だ。
 素早く身を回し体勢を整え、カノンは右足を掲げて。
 
「終わりだ……ッ!」
 
 天の裁きの如き踵を、全力で振り下ろした。
 
 ◆◆

 今度こそ決まったと、そう確信した。
 疾風怒濤という熟語を体現したような素早い連続攻撃は、完全にルカを圧倒していたからだ。
 ともすれば意識が飛びそうな状態である上に、それほど格闘技術が高いとはいえないアキラが介入できる余地などなくて、半ば呆然とその戦闘を伺っていた。
 彼女の右腕が自壊した瞬間は、肝を冷やした。
 だが、急いで援護に入ろうとしたがアキラよりも、カノンはずっと冷静だった。
 鉄槌を思わせる踵落としを、一分の無駄も見受けられない動きで放ったのだ。
 完璧な攻撃だと、思った。
 視線の先、ルカは、空になった左手を頭上へと伸ばす。
 そして。

「な――ッ!?」

 思わず驚愕の声を上げたアキラの方を、ルカは振り返りもしない。
 狂皇子は、ギロチンのように落ちるカノンの足首を、左手一本で受け止め掴み取っていた。
 
「調子に、乗るな――ッ!!」

 怒気に満ち満ちた叫びと共に、ルカはそのまま左腕を振り上げる。
 今度こそ援護に入ろうとするアキラに、力を見せ付けるように。
 ルカ・ブライトは思いっきり、カノンの身を、硬い床へと叩き付けた。
 ぐしゃり、と。
 嫌な音が、した。
 それは砕ける音でもあり、潰れる音でもあり、爆ぜる音でもある。
 ルカは無造作に、左手に握った脚部を放り捨てる。

 銀の鎧に覆われた手から投げられたのは、脚部だけだった。
 
 両手を失い右足をもがれたカノンは、怒濤の猛攻で完全燃焼してしまったかのように、微動だにしない。
 それでもルカは容赦などしない。情けなど見せるはずがない。
 ボロボロになったカノンを乱暴に踏みつけ、皆殺しの剣を、ゆらりと動かす。 

「……止めろ。止めろ、止めてくれェッ!」

 振り絞るように、アキラが叫ぶ。
 カノンと出会ってからほとんど時間は経っていない。積み重ね共有した思い出など、皆無と言っていい。
 だが彼女は先ほど、アキラを庇うように、ルカの剣を受け止めてくれたのだ。
 そんな人物が、ここまで残虐に残酷に残忍に蹂躙される様を目の当たりにするのは、吐き気がするほど気分が悪かった。
23創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 00:04:28 ID:fvMxsxkK
                    
24トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:05:24 ID:2U4LyH5W
 アキラを一瞥すると、ルカは、心底愉快そうに口の両端を吊り上げる。
 自身の残虐さを誇示するように、アキラの弱さを嘲るように、剣を思い切り振りかぶる。
 
 止めたいと思った。止めなければと思った。
 
 疲れ果てた意識に鞭打って、急ぎイメージを練り上げる。
 するとアキラの周りに、彼と同じ姿をしたイメージが現れた。
 そのイメージは四方八方に飛び回り、サイレンのような音を立てると、赤紫の光を放つ。
 マザーイメージ。
 母の映像を見せ、戦意を喪失させる技だった。

 それは、アキラがまだ超能力に不慣れだった頃から使える技だった。
 また、母すら食い殺してしまいそうなルカには、効果が薄そうだと思った攻撃手段でもあった。
 だとしても、疲弊し意識が朦朧としていて、技を選んでいる余裕などなかった。

 やがて、イメージが消失する。

 無限に湧き出る戦意の泉を心に抱いているような男、ルカ・ブライトの剣は。
 振り翳されたまま、止まっていた。
 ルカは、額から噴出す血に塗れた顔を大きな左手で覆い、その動きを止めている。
 
 ――効いた、のか?

 使っておきながらも、以外に思う。
 だが、この好機を逃すわけにはいかない。
 ただカノンを救おうと、床を蹴り飛ばし駆け出す。
 
「ぐ……ッ」

 近づくにつれ、ルカの呻き声が聞こえた。
 警戒するように、そちらを伺う。

 その行動を、アキラは、瞬時に後悔した。
 赤黒い液体で顔面を染めたルカ・ブライトと、まともに目が合ったからだ。
 ハイランドの狂皇子は。
 嗤ってなど、いなかった。 

 眉間に深い皺を刻み歯を食い縛り、アキラを睨め付けてくる。
 その瞳は、映したもの全てを丸呑みにし喰らい尽くす深淵を思わせた。
 そこを満たすのは黒く昏く深く、純粋で攻撃的で暗澹とする、たった一つの感情。

 あの魔王オディオにも匹敵するほどの、圧倒的な憎悪だった。
 あらゆるものを憎み尽くすような痛烈な感情は双眸だけには収まらず、顔中に広がっていた。
 
 濃厚な憎悪を前にして、アキラは直感する。
 殺される、と。
 カノンに向けられていた刃が、憎しみのままに向かってくる予感が、駆け抜けた。
 死は恐怖そのものであり、斬られても構わないなんて思いもしない。
 だが仮に、齎される死が避けられないものだというのならば。
 約束された死の宿命が、間近にあるのならば。
 
 ――せめて、一矢報いてやる。
 
 かつて、無法松がそうしたように。

 ――命を燃やし力にして、戦ってやる。

 たった今、カノンがそうしたように。

 ――この俺の意地を、通してやるッ!
25トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:06:45 ID:2U4LyH5W
 決意を抱き拳を握り締める。
 持てる限りの全力を叩き込もうと、構える。
 
 ルカはそれを忌々しそうに睨みつけ、後ろに跳んだ。僅か一足で一気に距離を開けると、低い声で呟く。
 
「貴様は、貴様だけは、許さんぞ……。次は、ないと思え……ッ!」

 呪詛のような言葉を投げると、彼は、アキラの直感に反する行動を取る。
 ルカ・ブライトは背を向け、足音を響かせ、神殿の外へと撤退していったのだ。

 予想外の行動に、アキラは呆気に取られてしまう。
 だが、追う気にはとてもなれなかった。
 追走して交戦したところで勝算などなかったし、何より。
 このままカノンを放置しておくことなど、できるはずがない。
 
 起き上がらないカノンに、急ぎ駆け寄る。
 酷い有様だった。
 左手首はワイヤーだけが伸びていて、右腕は半分しかなくて、右足はもぎ取られ、左膝の表面が砕けている。
 それだけではない。
 床に触れる後頭部からは、赤い液体と薄茶色の液体が混ざって零れ、床に広がっている。
 鉄臭さと生臭さが、鼻を突いた。
 そこで、この液体が血液と脳漿だと気付いて、アキラは息を呑んだ。
 満身創痍という言葉は、今の彼女を表現するには余りに軽過ぎる。
 大丈夫か、などと尋ねられるはずもない。
 だからアキラは黙って側にしゃがみこみ、うつろな瞳を覗き込むと、そっと彼女の額に触れる。
 
 ◆◆
 
 体が、動かない。
 右手も右足も左手も左足も首も口も瞼も、何一つ動かせない。
 額に温かい何かが触れているような気がするが、その確認すらできなかった。
 義体にガタが来てしまったのか、数少ない人間の体である脳が壊れてしまったのか。
 考えるのも、億劫だった。
 考えることをやめてしまえば、考えずとも分かる事実が、あたしの胸にじわじわと染み込んでくる。
 それは、即ち。
 あたしが、弱いという厳然たる事実だ。
 悔しかった。口惜しかった。辛かった。
 そんな感情を吐露するすら、今のあたしには不可能だ。
 不可能になってしまったのも、弱いせいだ。
 力が欲しい。
 何処までも際限なく只管に強くなりたい。
 だって、あたしには『英雄』の血が流れているんだから。
 血に相応しい力を得なければならない。
 それがなかったから、あたしは、あたしたちは、蔑まれてきたんだ。
 だから、力が欲しい。
 他には何もいらないから。何一つ望まないから。何を捨てても構わないから。
 『英雄』に、なりたいんだ。 

「――あんたは、『英雄』だよ」
 
 突然、声が聞こえた。
 知っている気がするけど、馴染みのない声だ。
 誰のものなのか、分からない。
 だからあたしは、無駄だと思いながらも、瞼を持ち上げようとする。
 右瞼が、持ち上がった。
 そのことに喜びよりも驚きを感じながら、右目代わりの探知ソナーで周囲の様子を探る。
 すぐに見つかった。
 声の主は、茶色い髪を逆立てた少年だった。
26創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 00:07:18 ID:NonP5DMA
                      
27トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:08:38 ID:2U4LyH5W
 あたしは彼を知っている。
 だが彼の名を、知らない。

「あんたは、俺を守ってくれた。今俺がこうしていられるのも、あんたのおかげだ」

 お前を守ったわけじゃない。
 そう言おうと思っても、作り物の唇も仮初の喉も人工の声帯も、動いてはくれなかった。
 ただあたしは『魔』を滅ぼし『魔』そのものを滅そうとしただけだ。
 ふと、思う。
 それならばどうして、見ず知らずのこの少年に向けられた刃を、受け止めたのだろう。
 敵を倒そうとするだけなら、もっと効率的で非情な選択を取るべきだったのに。
 
「だからあんたは、俺にとっての『英雄』だ。
 ――ありがとうな」
 
 少年の言葉が、優しげな音律が、あたしの心に響き渡った。
 渇きが癒され、飢えが満たされていくような、そんな心地よさを覚える。

 ああ、そうか。そうだった。
 いたずらに強さを求めていたわけでも、『魔』を祓うことそのものに快感を覚えていたわけでも、ただ『英雄』になりたかったわけでもなかった。

 あたしが――『あたし』が本当に求めていたものは、これだったんだ。
 強くなれば『魔』を祓える。『魔』を祓えば英雄と称えられる。そうすれば。
 あたしを――荒れ果てたスラムで生まれ育った、ちっぽけなアイシャ・ベルナデットを、受け入れてくれる人が現れてくれると、思ったんだ。

 だたっぴろい荒野にひとりぼっちだった。孤独だけがずっと、隣にあった。
 寂しくて辛くて、でも、義体の身では泣くこともできなかった。
 だから、欲しかった。
 絆が、仲間が、欲しかった。
 あたしの口元は小さく、勝手に綻んでいた。
 喜びと嬉しさと充足感が強く大きくて、心に留めておけなくなった結果だ。
 心地よくて、温かくて。
 眠気が生まれてくる。瞼が、堪らなく重くなってきた。
 
 少しだけ、眠ってしまおう。
 
 次に目が覚めたなら、きっと。
 きっと、そのときは。
 『あたし』は、笑えると、そう思うんだ――。
 
【カノン@WILD ARMS 2nd IGNITION 死亡】
【残り42人】

 ◆◆

 神殿が鎮座する小島から伸びる橋の上で、大柄の男が足を止めた。
 朝日を浴びるその男――ルカ・ブライトの顔は血液と憎悪に染まっている。
 凶悪な目つきが憎々しく睨むのは、半ばで崩れ落ちた橋だった。
 橋落としは、戦における常套策だ。常套ゆえに、その効果は絶大でもある。
 飛び越えられなければ、引き返さざるを得ないのだ。
 橋の下には深く広大な湖がある。鎧を着た身で落ちるのは避けたい。

 だがルカは、転進を選ばなかった。
 彼はぞんざいな手つきで、デイバックから道具を取り出す。
 それは先端に太い鉄鉤のついた、丈夫そうな長いロープだった。
 カギなわと呼ばれる、忍が愛用するその道具を、ルカは対岸へと投擲し縄を張る。
 それを利用し、恐れも迷いもなく、ルカは橋を渡り切った。
 回収する際に神殿が目に入り、思わず顔を歪めた。
 そのせいで、未だ垂れ落ちてくる血が口に入り、粘ついた鉄の味が舌の上に広がった。
28トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:10:19 ID:2U4LyH5W
 不愉快そうに、吐き捨てる。
 脳裏に浮かぶのは、忌々しく小賢しい男の姿だ。
 
 からくりを叩き斬ろうとした瞬間、ルカの頭にイメージが流れ込んできたのだ。
 異常なほどにリアリティを持った、母のイメージが。
 もうこの世にはいない彼女の姿は、ルカに一つの事件を思い起こさせた。
 思い出したくなどない幼い頃の記憶であり、ルカ・ブライトの憎悪の源泉となる出来事。
 
 それは母と共に都市同盟に拉致され、捕虜となったときの記憶だ。
 
 その際、都市同盟の人間は、母に暴行を行った。
 一度だけなどという、生易しく生温いものではない。
 母は何度も何度も何度も傷つけられ、犯され、陵辱された。

 まだ幼かったルカ・ブライトの目の前で、だ。

 恥辱と絶望と恐怖で塗れた母の絶叫が。
 屈辱と苦渋と激痛に溢れかえった母の顔が。
 汚され辱められ傷だらけになった母の体が。
 
 目に耳に脳裏に、押し付けるようにして、生々しく甦ったのだ。
 津波のように土砂崩れのように、掘り起こされた記憶は圧倒的な物量と勢いを以って、ルカ・ブライトの精神を圧し潰していった。

 誰の仕業かなど、疑うまでもない。
 ずけずけと心に土足で入り込んできて荒らし回った糞豚を、すぐに殺してやりたかった。
 だが、トラウマを直視したせいで疲弊を増した精神が、ルカの行動を阻害していて、撤退せざるを得なかった。
 折れそうなほどに強く、歯を噛み締める。
 痛みすら感じるが、全身に広がるそれに比べれば、大したものではない。
 そもそも、だ。
 ルカ・ブライトは、痛覚などに屈しはしない。
 この程度の痛みを凌駕できないような、温く甘い感情など、ルカの胸にありはしないのだ。
 まだ体は動く。両腕があり両足があり体があり頭がある。
 ならば戦える。ならば壊せる。ならば殺せる。
 
 夜が明けても、狂皇子の胸中は、真っ暗でしかなかった。

【C-9 森林 一日目 朝】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]疲労(大)、精神的疲労(大)、全身打撲、軽度のやけど、額からの出血で顔面血塗れ。
[装備]皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、
    魔封じの杖(4/5)@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、聖鎧竜スヴェルグ@サモンナイト3
[道具]工具セット@現実、基本支給品一式×3、カギなわ@LIVE A LIVE、不明支給品0〜1(武器、回復道具は無し)
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:少し休む。
2:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る4人及び、アキラを優先。
3:あの狼(トッシュ)は自分の手で殺したい。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※召喚術師じゃないルカでは、そうそうスヴェルグを連続では使用できません。

 ◆◆
 
 神殿の北側、湖の縁に、アキラは佇んでいた。その視線はじっと、湖に注がれている。
 ゆっくりと、機械の亡骸が水の中に沈んでいく。
 胴体から少し離れて、ドリルの装備された左手と右腕、左足も沈んでいく。
 できるならば、直してやりたかった。
 たとえそうしても、彼女が――アイシャ・ベルナデットが息を吹き返すわけでないとしても。
 だが、工具も設備もなく、藤兵衛のところへも行けない現状ではそれも叶わない。
 だから迷った挙句、穴を掘る手段がないこともあって、水葬を行うことにしたのだ。
 それが、彼女にしてやれる最後のことだったから。
29トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:12:09 ID:2U4LyH5W
 そもそも、死に瀕した彼女にできることなど、ほとんどありはしなかった。 
 悪あがきのように使ったヒールタッチと、心を読み、彼女が望むであろう対話を行うのが、アキラにできる精一杯だった。
 それが功を奏したのか、水の底に消えたアイシャは、生前では見られなかったような、安らかな死に顔だった。
 その程度のことしか、できなかったのだ。
 アキラは、デイバックから一本の瓶を取り出す。
 それは、一升瓶だった。
「悪いが、あんたの持ち物は貰っていくぜ。その代わりと言っちゃなんだが」
 清酒・龍殺しと書かれたその瓶を傾けた。
 無色透明の液体が、朝日を反射しながら、落下する。
 穏やかな湖に波紋が生まれ、水面が揺れる。アルコールの匂いが、澄んだ空気に溶けていった。
 
「どうか、これで勘弁してくれ」

 アイシャが酒を嗜んでいたのかなど分からない。
 第一、彼女の身体は機械なのだ。酒どころか、水や食事も不要なのかもしれない。
 だけど。
 アルコールの入ったグラスを傾ける仕草が、アイシャにはよく似合う気がした。

 やがて、瓶は軽くなる。
 空になった瓶をデイバックに戻すと、代わりに名簿を取り出した。
 
 相変わらず頭が重く意識は覚束ない。
 原因は分からないが、心を読むと異常なほどに疲れを感じるようになっていた。
 しかも、あまり詳しく読むことはできなくなっているらしい。
 アイシャの心を視たときも、彼女の強い『望み』しか分からなかった。
 自分の能力が、普段に比べてかなり使い勝手が悪くなっていることを自覚する。
 だとしても、立ち止まっているわけにはいかなかった。
 そのためにも死者が増えないうちに、信頼できる仲間を集めるべきだった。
 
 そのための、名簿の確認だった。
 結果アキラは、二つの疑問を抱くことになる。
 一つ目は、アイシャ・ベルナデットの名が記されていなかったこと。
 二つ目は、死んだはずの兄貴分の名が記されていたこと。
 気にはなる。
 気にはなるが、考えるよりもとにかく動くべきだとアキラは思う。
 思考に意識を費やしたり、魔王を倒す手段を模索するのは、仲間と合流してからでいい。

 立ち去る前に一度だけ、目を伏せる。
 散ってしまった命に祈りを捧げてから、彼は、朝日を背に受けて歩き出す。
 アイシャが使っていた毒蛾のナイフを握り締めて。
 男が落としていったフレイムトライデントを背負って。
 
「またあの野郎に会わなきゃいいけどな……」

 ぼやくような呟きを聞く者は、誰もいなかった。
30トゥルー・ホープ ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:13:07 ID:2U4LyH5W
【C-8 神殿周辺 一日目 朝】
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(かなり大)。
[装備]:毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストW 導かれし者たち、激怒の腕輪@クロノ・トリガー
[道具]:拡声器(現実)、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドU、
     ランダムアイテム1〜2個(確認済み。カノンのもの)、
     清酒・龍殺し@サモンナイト3の空き瓶、基本支給品一式×3
[思考]
基本:オディオを倒して殺し合いを止める。
1:高原日勝、サンダウン・キッド、無法松との合流。
2:レイ・クウゴ、アイシャ・ベルナデット(カノン)の仇を取る。
3:どうにかして首輪を解除する。
[備考]
※参戦時期は最終編(心のダンジョン攻略済み、魔王山に挑む前、オディオとの面識は無し)からです
※テレポートの使用も最後の手段として考えています
※超能力の制限に気付きました。
※ストレイボウの顔を見知っています
※拡声器はなんてことのない普通の拡声器です
※カノンの名を、アイシャ・ベルナデットだと思っています。
※名簿の内容に疑問を持っています。

※勇者ドリル、Pファイアバグは、カノンの亡骸と共に湖に沈められました。
31創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 00:13:15 ID:fvMxsxkK
                    
32 ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/03(日) 00:14:08 ID:2U4LyH5W
以上、投下終了です。
支援してくださった方、ありがとうございます。助かりました。

何かありましたらバシバシ言ってください。
33創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 00:54:06 ID:fvMxsxkK
投下乙! カノーーーーーーン!!! 貴重な女性キャラが……。
ルカ様やべー……。速いわ強いわタフだわ魔力あるわで手に負えんw
ルカの描写がまた怖い。一挙一動から狂気が滲み出ててゾクゾクした。
カノンは頑張ったけど、相手が悪すぎた……。
機械の身体を生かした立体的なバトルは手に汗握りました。
身体を犠牲にしても戦い続ける壮絶さは、義体のカノンならではの展開。
マザーイメージは意表を突かれた……。ルカの唯一といっていい弱点かも。
とにかく壮絶! 全てを犠牲にしても、まだ届かないという展開は見事でした、GJ!!!!

ところでルカってあれ長髪なんですかね? 俺もよくは分からないんだけどw
34創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 08:32:26 ID:NZZd5A6U
投下乙です

カ、カノーーーーーーーーーーーン!!!!!
貴重なおにゃの子がまた一人……orz
参戦時期からして報われない死に方しそうな感じだったけど、最後にアキラに認められてよかったよかった……
ルカ相手は分が悪かったけどよく頑張った、感動した
ルカも意外な弱点発覚したけど、弱体化した気がまるでしないのはさすがといったところだねw
35 ◆6XQgLQ9rNg :2009/05/04(月) 22:05:22 ID:DjUtdAQb
皆さん感想ありがとうございます。

>>33
なんか長髪の印象があったので確認してみたら…それほど長くないですね。
何と勘違いしてたんだろう。wiki収録後に修正させた頂きます。
指摘感謝。
36創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 03:13:48 ID:szEQTn9A
ヒャッホウ!気がついたらまた予約がはいってるじぇい!
いいね、この気がついたら予約が入ってたって状態
最近◆Rd1氏がコンスタントに予約入れてるし新人さん来るし他の書き手さんも変わらずに投下してくれるしでうれしいこと続きだw
37創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 22:32:00 ID:WDKDVOei
そしてFR氏も来たか!
頑張る上位4人に、ここんとこの新人さん
未来は捨てたもんじゃない!
38創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 22:33:04 ID:WDKDVOei
上げすまそ
39創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 22:45:12 ID:l83J/27q
放送以降でまだ書かれていないのは、あとたった5人か。
放送が投下されて一ヶ月ちょいなのにw
40 ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:38:05 ID:XSn3Ai4d
それじゃあ、投下します
41ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:39:32 ID:XSn3Ai4d
「リルカ……エレニアック…………だと……?」
ブラッドの瞳。
視線が射抜いただけで、相手にダメージを与えてしまうかと思われるような凶暴な眼光。
その左右の目が、驚愕と言う色を帯びて大きく見開かれる。
彼は普段から、我の強いARMSメンバーたちを冷静に纏める役割に回る事が多かった。
そんな彼が、これほどまでに動揺したのは相当珍しい事である。
しかし、それも仕方ない事だ。

たった今、放送で呼ばれた死者の名前……リルカ・エレニアックとは、彼の仲間の少女の名前だった。
信じたくはない。だが、決して聞き間違いなどではない。
魔王オディオは確かにそう告げた。

「そうか…………参加して、いたのか……」
静かに目を閉じ、すっかり明るくなった空を見上げる。
まるで天に祈りを捧げるように。
そのまま十数秒静止して、驚きと悲しみに襲われ続ける心を静める。

この殺し合いが開始してすぐに魔王と戦い、生き長らえはしたものの気絶してしまう。
そして目覚めて間もなく、降り注いだこの放送。
彼は、名簿を確認していなかった。
そんな暇がなかったから。
だから、自分のかつての仲間たちがこの殺し合いに参加させられていたことを知らなかったのだ。

(間に合わなかったか……)
ヘクトルは下唇を噛み締める。
自分の知り合いが皆無事出会った事実にすら、安堵の表情を一切示すことはない。
ただ、ジッと目の前の男が驚く様を悔しげな目で見つめていた。

ブラッドが名簿を見ていなかったことは、知っていた。
殺し合いに参加してから今に至るまでの動向を、お互いに報告し合っていたからだ。
ブラッドの知り合いがこの孤島にいるだろう事は、ヘクトルも予想はしていた。
それは、自分の仲間たちだけでなく、セッツァーの知り合いも参加させられていたことからも推測できる。
この殺し合いの参加者は全員が全員見ず知らずの他人というわけでなく、数人の知り合い単位で参加させられているようなのだ。
その事に気付いていたヘクトルは、早いうちに名簿を確認しておく事をブラッドに勧めた。

だが、少しばかり遅かった。
彼が自分のディパックを漁ろうとしたその時、空から落ちてきたのは忌々しい主催者の声。
その結果、ブラッドがディパックから取り出したのは、名簿ではなく放送の情報を書き留めるための筆記用具とメモ帳であった。
スラスラと、顔に似合わない綺麗な文字を刻んでいたその手が……止まった。
その瞬間に呼ばれたリルカという名前が、彼にとって大切な人の名前であったのだろう。
ヘクトルにそう悟らせるには充分過ぎる表情が、彼の顔に張り付いていた。

「ブラッド
……実は……」
未だ瞼を閉じて天を仰ぐ大男に、状況の説明を試みる事にした。
時限爆弾を解除するかの如く、慎重に言葉を吐き出していく。
こういう繊細な作業は性に合わないと知りつつも、彼なりに穏やかな表現を必死に選び抜こうとした。
そんな彼の言葉を遮ったのは、ブラッドの力強い言葉。

「いや、大丈夫だ」
一度だけ大きく息を吐き出すと、小声で「すまなかった」と付け加える。
その目には先ほどまでの狼狽はなく、しっかりと未来を見据える強い光が宿っていた。
信じられない話ではあるが、彼は全てを把握し、受け入れていた。
仲間の少女が、自分と同じ殺し合いを強制させられ……。
その結果、命を落とした事を。

「ならば、他の奴らもいるのだろうな」
ディパックに手を突っ込み、今度こそ名簿を引っ張り出す。
記された名前の羅列を一読すると、「ほぅ……」と小さく呟いた。
42ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:40:34 ID:XSn3Ai4d

本当に信じられないような話である。
彼は受け入れた事実に感じたはずの怒りや悲しみを、封殺したのだ。
溢れた末に暴発したとしてもおかしくない感情の濁流を、ほんの1分でせき止めてしまった。

「……強いんだな」
ヘクトルは、短い付き合いながら知っている。
目の前の男が、仲間の死にそ知らぬ顔を出来るような男ではない事を。
また、少女がブラッドにとって取るに足らない存在だという事は、有り得ないだろう。
少女の名前が呼ばれた瞬間に見せた、驚きと悲しみと怒りに染まった表情を、ヘクトルは目撃しているのだから。

ならば、男が感情を押し殺す事が出来たのは、彼が強いからだ。
おそらくは幾人もの仲間を失うような戦場を、何度も経験してきたのだろう。
誰かの死に動揺する仲間たちを支える役割を、担ってきたのだろう。
その強い精神に素直に敬意を払う。

「『覚悟』と、『信頼』だ」
だが、彼の答えは、ヘクトルの予想したものとは少しだけズレたものであった。
リズミカルに、しかし重みを帯びて言葉は紡がれた。

「友に誓った約束を、何があっても果たすという『覚悟』」
眼前に広がる何もないはずの空間を、鋭く睨みつける。
まるで、獲物に狙いを定めた肉食獣のように。
夢の中で、ブラッドは『アイツ』に再び誓った。
『英雄、ブラッド・エヴァンス』が掲げていた馬鹿げた理想を、ここでも証明してみせると。
力を束ねる象徴としての『英雄』の勤めを果たすのだと。

「そして、リルカが最期まで自分の信念を貫き通したのだという『信頼』」
ブラッドの目が、ゆっくりと細められる。
まるで、上下の瞼で悲しみを噛み締めるかのように。
リルカは『魔法使い』だった。
だが、それはクレストソーサを使いこなすとか、ミレニアムパズルを攻略するとかそんな能力を言っているんじゃない。
『魔法』とは、誰にでも使えるもの。
誰もが、自分にしかないもの、つまり『魔法』を持っている。
それが彼女が示した答え。

そして、彼女の『魔法』は失敗してもつまずいても、絶対にめげない事。
自分がそれを信じてやらなければ、彼女の命は報われないではないか。
彼女の事を『悲劇の少女』だと嘆き悲しむ事が、どれほど無礼な事であるかをブラッドは知っている。
今、自分がすべき事は、最期まで頑張っただろう少女を労う事だ。

そんな彼女を思えば、さっきまで迷いに迷っていた自分の不甲斐なさばかりが引き立ってしまう。
もう悩み悲しんでいる時間はない。
自分も彼女に習って突き進まねばなるまい。
それこそが、彼なりの『信頼』であった。

「その2つがあったから、俺は『俺』でい続けられるんだ」
腹の底から、心の奥から、搾り出したような声。
握り締めたドラゴンクローが、拳の中で軋みを奏でる。
それから数秒経った後、ヘクトルの方に向き直ったブラッド。
その口元には、僅かな笑みが垣間見えた。

「……それを強いって言うんだよ」
ヘクトルは、ホッとしたように頭を掻く。
湿っぽいのが苦手な彼にとって、目の前の男が見せた反応は非常にありがたいものだった。
自分が仲間の死を聞かされたとしても、さすがにこうは行かないだろう。
目前の大男を信頼したのは間違いではなかったと、自分の直感に心中で拍手を送る。
43ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:41:30 ID:XSn3Ai4d

「ところで、気になる事が1つある」
ヘクトルの言葉を笑って流したブラッドが、そう告げながら名簿を広げた。
何事か、とヘクトルが眉間に皺を寄せながら覗き込む。
すると同時に、ブラッドの太い人差し指が、トントンと紙面に書かれた1つの名前をノックした。

「アナ……アナスタシア……ルン……ヴァレリア……か。そいつが?」
自分や仲間たちに比べて、随分複雑な表記である。
読み上げるのにも少しばかり苦戦してしまった。
だが、それ以外にはこれといっておかしな点は見当たらない。

「彼女は……この殺し合いに呼ばれる以前に、既に死んでいる」
「……なに?」
死者んだはずの人間が参加している事は、ヘクトルも知らない事実であった。
彼の仲間も、セッツァーの知り合いたちにも、そういった人物はいなかったからだ。
それに、死者を生き返らせることなど、どれほど高位な司祭やヴァルキュリアにも不可能な奇跡であった。
尤も、ネルガルの造り出すモルフを用いれば、『それらしい人形』を生み出す事は、一応可能ではあるだろうが……。

「それだけじゃない。彼女が死んだのは、何百年……もしかしたら、それ以上も前の事だ……」
「……馬鹿な!」
普段であれば一笑に付すような世迷言だが、ブラッドの真剣な表情を見る限り、真実であると判断せざるを得ない。
あまりの事実に、驚きの声を上げたヘクトル。
それと同時に彼の頭に湧き上がってきたのは、1つの疑問。

「……ちょっと待てブラッド。なぜ、そんな古代の人物の事を知っているんだ?」
「……ファルガイア、あぁ俺たちの住んでいる星の事だ。そこでは誰もが知っている神話がある」
先ほどの情報交換時に、ヘクトルがファルガイアの人間でない事は聞いていた。
トカゲーコンビのような異星人か、もしくは突飛過ぎる発想やもしれないが異世界人という可能性も存在するだろう。
どちらにせよ、ファルガイア以外に人間の住まう所があることは、ブラッドにとって大きなカルチャーショックであった。
それと同時に、そこでも大きな戦いがあった事を聞き、平和の難しさを改めて知る事となったのだが。

「剣の聖女と呼ばれる話だ」
ブラッドが緑の草原に座るのを確認すると、ヘクトルもそれに続いて腰を下ろした。
それを確認するなり、呆れるほど語り聞かされた神話を伝え始める。


かつて、ファルガイアを絶望に陥れた災厄があった。
焔に包まれた真っ赤な未来に目を伏せている人々は、たった1つの可能性にすがりついた。
アガートラームに導かれし、下級貴族の娘。
彼女が振るう剣は人々の希望であり、彼女の進む道は人々の未来であった。
そして、彼女が剣と出会って7日目。たった7日。
……彼女は消えた。焔の災厄と共に。
唯一、ガーディアンブレード『アガートラーム』だけを大地に残して。


「……と、ここまでが神話となって、今となってもファルガイアで語られて続けている」
子供の頃から誰もが何度も耳にした事がある寓話。
それを要約して話し終えたブラッドは、小さく深呼吸をしてから支給された水を口に含む。

「なるほど、彼女は確かに『英雄』なのかもしれないな。だが……」
今まで眉一つ動かすことなく、話に聞き入っていたヘクトル。
話が終わるなり、彼は眉間に皺を寄せ、嫌悪感を露わにする。
その嫌悪感は、焔の災厄に対するものも少しはあったのかもしれない。
だが、その大部分は……。

「……本当のところは、そんな簡単な話じゃないはずだ。
 たった1人に世界を背負わせて……なにが『英雄』だ」
……少女に全てを押し付けた当時の人々。
それと、少女の辛さなど考えもしないで『英雄』などと奉り続けている現代の人々への、嫌悪感である。
ヘクトルは腐った食べ物でも口にしたかのような、悲しく苦しそうな顔をしていた。
44ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:45:12 ID:XSn3Ai4d

ヘクトルは、戦う事の辛さを良く知っている。
自分やリンやエリウッド、それだけじゃない……フロリーナやニノ。
戦いに身を投じる全ての人に、それぞれの悩みがあって、それぞれの傷があった。
それは敵も同じこと。あのネルガルだって例外じゃない。
それぞれが支えあって、足りないところを埋めあって、傷を癒しあって、なんとか脆い体を奮い立たせて……。
そうやって、人は初めて戦えるのだ。

「その通りだ。今俺が話した『事実』は……『真実』じゃない」
無表情で説明しつつも、ブラッドは内心驚いていた。
ヘクトルが、この神話に隠された悲劇を探り当てた事に。
そして同時に思う。
彼のような人間があの時代にいれば、彼女ももしかしたら救われたのではないか、と。

ブラッドは全てを伝える。
欲望が強かっただけで、たった1人で世界を背負わされた彼女の苦悩。
そんな彼女に、全てを押し付けた世界の過ち。
時は流れ、アシュレーが次元の果てで邂逅したアナスタシアのこと。
そして……自分達ARMSが冒険の末に辿り着いた結末。
『英雄』を不要とした世界が今度こそ、ロードブレイザーを消滅させるに至ったこと。

「……なるほど。世界は今度こそ立ち上がったわけだ。……ってちょっと待て」
それを聞いて、ヘクトルは憑き物が取れたように、落ち着いた表情を取り戻した。
だがその直後、また新たな疑問が彼の頭に湧いてくる。

「それでよブラッド、剣の聖女は結局どうなったんだ?」
彼の話では、世界は救われた。
もう災厄に人々が脅かされることはないだろう。
しかし、肝心のアナスタシアの顛末が示されてはいない。
次元の狭間を彷徨っていた彼女はどうなったのだろうか。

「……それは、俺にも分からない。だが、彼女はきっと生まれ変って……」
アナスタシアとコンタクトをとる手段がない以上、ブラッドにはもう彼女がどうなったを知る由はない。
それでも彼女は解放されたのだと信じたい。
だから、その希望に満ちた答えを語ろうとしたブラッドだったが……。

「彼女は! ずっと、ずっと」
彼の言葉を遮ったのは、凛とした女性の声。
それでいて、悲しみに満たされた掠れ声。

「ずうっと独りで、彼方と此方の狭間を彷徨っていたわ」
突然の声に驚いて振り返る男2人。
彼らの目に映ったのは、その声から想像する通りの美しい女性の姿であった。
彼女の隣には、艶やかな赤い髪が特徴的な小さな子供。
狼狽する男2人を見た少女は、首をかしげて頭上にハテナを掲げる。

「……あ、貴方は…………」
ブラッドは直接彼女に会ったことはない。
だが、その姿や雰囲気は神話で語り継がれている姿と同じ。
教会のステンドクラスに描かれていた姿と同じ。
アシュレーから聞いた彼女の印象とまったく同じ。
幼い少女の手を引いて、悲しげに俯いてみせる彼女はまさに『聖女』だった。


「おい、ブラッド。まさか、コイツが……」
「剣の……聖女だ……」
名簿に書かれていたのだ。
この会場に彼女がいることは頭では分かっていた。
だが、それでも実際に会うまでは信じられなかった。
まさか、彼女までもを召還できるとは……と、魔王オディオの能力に驚嘆する。
45ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:46:17 ID:XSn3Ai4d

「ブラッド・エヴァンス君……ビリー君と呼んだ方がいいかしら?」
「いや、ブラッドでいい……」
薄く笑い顔を滲ませたアナスタシア。
ブラッドが彼女に警戒心を抱いているのは、別に自分の名前を言い当てられたからじゃない。
アシュレーが言うには、次元の狭間は凄く暇な場所らしく、彼女はファルガイアの事を除き見てずっと過ごしていたらしい。
おそらくブラッドの事も、そうやって知ったのであろう。
とにかく、そんなことはどうでもいい。
問題は彼女が抱えている物騒なモノ。
少女と繋いでいる手ではない方に握られているモノである。

「そう。それじゃあブラッド君、話の続きをしましょうか」
未だその笑みを止めないまま語り続ける『英雄』が抱えるその武器。
長い柄の先に付いているのは、大きく曲がった刃。
その禍々しい見た目からイメージされるのは、絶望。
あの逃げ場のない炎の中で感じた絶望を、凝縮したような禍々しさ。
そう。この武器は、先ほどブラッドが成す術なく敗れた魔王が使っていた武器。

「世界が救われてもね、私はずっと救われなかったの」
それを抱える彼女は、もはや『聖女』のイメージとはかけ離れている。
『希望の剣』を、『絶望の鎌』に持ち替えた彼女はまるで……。

「ずっとずっと……地上で幸せそうに笑っている君たちが……」
苦悩を吐き出しつつも、彼女は笑顔を崩す事はない。
震えた声で、負の感情を撒き散らす彼女はまるで……。

「羨ましくて仕方がなかったのよ」
……まるで死神のようであった。
独りぼっちの空間で、彼女は見ていた。
災厄なき平和な世界で人々が楽しそうに笑いあったり、好きな人と手を繋いだり、幸せそうに死んでいったりしていくのを。
世界の為に自分が捨てたはずの幸せの数々を……。

「そうか。それは辛かったな。
 で、だから殺し合いに乗るつもりか?」
そんな聖女の苦悩を耳にしても、彼の心は震えなかった。
ブラッドは、心の中では素直に同情しているし、彼女の過去の功績に尊敬もしている。
しかし、だからといって殺し合いに乗るならば黙って見過ごすわけには行かない。
冷酷に聖女を問いただした。

「…………」
その言葉に、アナスタシアは否定も肯定もしない。
おそらく、未だ迷っているのだろう。
殺し合いに乗るか、否かを。
彼女の横の子供を見る。
事態を把握できていないのだろうが、ニコニコとブラッドに満面の笑みを投げかけていた。
彼女が生かされているという事は、アナスタシアが無差別に人を殺して回ってはいないはずだ。

「だとしたら、止めておけ」
「…………」
言葉を続けるブラッドに、未だ笑みの歪曲を描いたままの口を開かないアナスタシア。
対峙する2者の横で、ヘクトルは何も言わないままで事の成り行きを見守っていた。
自分は立ち入るべきでないと思っているのだろう。
この問題は、ファルガイアに付けられた深い傷痕だ。
出来れば、当事者同士で解決するのが一番だ。
46ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:47:43 ID:XSn3Ai4d

「貴方には、向いていない」
ブラッドらしからぬ、諭すような優しい声であった。
戦うことが専門の彼にとって、このような説得行為は最も苦手とする部類のミッションのはずだ。
さっき夢の中で友と言葉を交わしたときも、『説得する気は更々ない』と宣言していた。
それでも彼が拳ではなく言葉を用いているのは、目の前の女性にそうする価値があるという事だろう。
単なる有象無象の悪党とは違う。

「今、話しているだけでも分かる。
 貴方は嘘が苦手だ……自分に正直すぎる」
アシュレーたちによって世界が救われた今でも、アナスタシアは剣の聖女として語り継がれている存在である。
ブラッドだって、まさか彼女が人を殺すなどとは思ってもいなかった。
そんな彼女であれば、殺意すら悟らせる事なくブラッドの首を刈り落とす事も可能であったはずだ。
だが、彼女はブラッドに殺し合いに乗ろうとしている事も気付かれ、挙句の果てにはその動機すらも吐露してしまったではないか。

「どうか武器を捨てて欲しい。でなければ、俺は貴方を……」
「貴方を?」
思いつめたように語るブラッドに、微笑みの聖女が聞き返した。
しかしその顔には、追い詰められた者が持つはずの焦燥感はない。
寧ろ、ある種の余裕すら伺える。
もしかしたら、少女を人質に取るつもりだろうか。
だとしたら……甘い。

「貴方を……叩き潰さなければならないッ!」
叫ぶと同時に、強く拳を握り締めた。
戦闘の臭いを感じ取ったヘクトルも、ゼブラアックスを構えて一歩前に出る。
もしものときは、気が進まないだろうブラッドに代わって、自分の斧を赤く染める覚悟をしながら。

「……私を? 叩き潰す、ですって?」
ファルガイアの誰もが憧れる剣の聖女。
その彼女を前にしても、ブラッドの決意は揺るがない。
だが、アナスタシアはその強い意志を、笑って流した。
まるでやってみろと言わんばかりに。

「そうか。……それは残念だッ!」
叫んだ直後、ブラッドは走り出した。
目標は、堕ちた英雄アナスタシア。
その目には闘志さえ宿ってはいるものの、殺意は微塵も感じられない。
殺すことなく無力化するつもりだろう。

10メートルほどあっただろう距離を一瞬で無くしたブラッドは、聖女の腹部目がけて拳を振るう。
その手にドラゴンクローは握られておらず、殺傷能力を極限まで抑えた一撃である。
しかし、アガートラームなき今のアナスタシアの戦闘力は、ただの少女のソレと大差ない。
徒手空拳とはいえ、ARMS1の戦闘能力を誇る男の拳を受けたら、彼女は一瞬で草原に倒れこんでしまうはずである。
気遣いも、遠慮も排除した一撃。
少女に鎌を向ける暇すらも与えなかった。
……にも関わらず、アナスタシアは笑っていた。
迫り来る拳を避けもせずに。

その事を不思議に感じたが、振りぬいた拳を止めることはない。
眼前の相手に意識を集中して、生まれてきた雑念を振り払う。
スレイハイムの『英雄』の名を告いだ男は、かつて世界を救った『英雄』に拳を向かわせた。
一切の迷いなく。

必中のタイミング、そして無力化するには申し分ない威力。
その一撃が……『彼女』に命中する。
47ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:49:09 ID:XSn3Ai4d

「……なんだとッ!」
驚きの声を上げたのは、ダメージを与えたはずのブラッド。
彼の拳は、ちゃんと『彼女』の腹部にめり込んでいた。
だが、その少女とはアナスタシアではなく、聖女の前に猛スピードで飛び出してきた小さな子供であった。

「うわぁ!」
拳を受けて少女が吹き飛ぶ。
アナスタシアに命中する事を想定していた一撃は、体重の軽いこの少女には重すぎたのだ。
赤い髪の少女は3メートルほど高く空に舞い、アナスタシアの隣の地面に頭から落下して……動かなくなった。
ドサリ、と小さな体が大地に落ちる音だけが、空しく草原に響く。

「ブラッド!」
慌ててヘクトルが駆け寄る。
彼が覗き込んだブラッドの顔は、驚き一色に染められていた。
子供を殺してしまったショックは大きいのだろうと、ヘクトルは彼を励まそうと試みる。

「…………気にするな。戦場では……」
「あの子供……何者だ?」
ヘクトルの予想に反し、ブラッドは罪悪感に苛まれているわけではなかった。
驚きに見開かれたその両目は、少女を殴ってしまった方の拳を凝視している。
ヒリヒリと痛むのだ。
まるで鉄塊でも殴りつけたかのように。
そして、飛び出してきたときの、あのスピード。
拳を当てる事だけに集中したとはいえ、全く知覚出来なかった。
速いなんてもんじゃない。

「……そうか。そういう事だったのか」
ブラッドが小さく舌打ちをする。
自分の宣戦布告も笑顔で聞き流し、その拳を避ける事もしなかったアナスタシア。
彼女のあの余裕の原因……それはあの少女。
そしてアナスタシアが少女を殺さなかった理由。
ティムよりもずっと幼いあの少女こそが、死神と化した聖女の隠していた秘密兵器だ。

「気をつけろヘクトル。あの子供、恐ろしく強いぞ」
「なんだって……!」
ブラッドのセリフに驚いたヘクトルが振り返る。
倒れて動かなかったはずの少女が、何事もなかったかのように立ち上がっているではないか。
血を吐く事も、咳き込む事すらもせずに。
思えば、ブラッドのパンチを食らった瞬間、少女は「うわぁ!」と叫んでいた。
あれが、腹部に思い拳をめり込ませた人間が吐き出す音か?
普通なら「ぐえぇ」とか「ごほぉ」など、搾り出すようなうめき声が漏れ出るはず……。
本当に拳のダメージが深刻なら、そんな声を出せるわけがないのだ。

「それじゃあいくよー!」
少女が叫ぶ。両手を空へと掲げながら。
屈託のない満面の笑みを浮かべた少女に宿ったのは、大量の魔力。
その魔力は少女とアナスタシアを中心として渦を巻く。
回転していく魔力は周囲の空気をかき回し続け、やがてその流れは風へと変貌していく。
小さな2本の腕は、タクトとなって大気のオーケストラを支配。
グルリグルリと空間をかき回していく、幼い魔術師。
そして、遂にそよ風は竜巻へと進化した。

「これは魔王と同じ……いや、それ以上?!」
舞い上げられた雑草たちのダンスを前にして、背筋に寒気が走った。
魔王のファイガと対峙したときに感じた、絶望的な魔力量。
それは、ブラッドが出会ったどの人物がもつものより強力だった。
だから、この殺し合いを破壊する上で最大の障害となるのは魔王だろう、とブラッドは考えていた。
だが、目の前の幼い少女から感じられる魔力は……余りにも強大すぎる。
魔王の見せた力に勝るとも劣らない。
48ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:51:40 ID:XSn3Ai4d

「とーんでけーーーーーー!!!!」
少女が両腕を勢い良く振り下ろすと、竜巻は更に勢いを増す。
少女の魔力の爆発に呼応して、さらに急成長した暴風。
それは遂に、男2人を空へと持ち上げるに至った。
フワリと足が大地から離れた。
今さっきまで大地に根付いていた大量の緑色とともに、ヘクトルとブラッドが宙を舞う。

「ちょっと待てよオイ!」
「ヘクトル! 意識だけは失うなッ!」
その言葉を最後に、彼らはもの凄いスピードで空へ向けて上昇していく。
溺れたかのように手足をバタつかせるが、この強大な災害の前にはなんの意味も持たなかった。
落とさないようにディパックだけは強く握り締めたまま、空をグルグルと旋回させられる。
空を埋め尽くした風圧はもの凄く、目を開ける事すらままならない。
そんな中でお互いの意思疎通が成立するはずもなく、飛ばされた男たちはお互いが今どのような状態にあるのかも把握できない状況にあった。

(あのガキ……ムチャクチャしやがるぜ……)
盛大に風に揉まれながら、ヘクトルは恨み節を噛み締める。
今自分たちは、どれくらいの高度にいるのだろうか。
十秒以上も上昇を続けているのだから、かなりの高さにいることは間違いないだろうが……。

しかし、ブラッドはともかくとして、重い鎧を背負っている自分までも舞い上げてしまうとは凄い威力である。
加えて、あの魔法の範囲はとても広い。
恐らくは、この竜巻の被害によって、支給された地図が書き換わってしまうほどだろう。
そんな凄まじい魔法を、あんな幼い少女が放ったのである。
ニノよりも、ニルスよりも幼い少女が。
世の中には、常識を超えた超人が存在するのものだ、と呑気に関心する。

ヘクトルが宙に飛ばされて20秒ほど経過したころ。
ふと、風が止んだ。
辺りを包んでいた暴風は、ピタリとその活動を停止。
今までの慌しかった状況が嘘のように、穏やかな空気がヘクトルを包み込む。
自分を押し上げていた力がなくなったことで、ヘクトルの上昇速度も少しずつ小さくなっていく。
最早落下まで成す術がなければ、やる事もない。
仕方がないので、能天気にもこの風景を満喫する事にした。
上を見上げれば晴れ渡った空。
下を見下ろせば遠く広い大地。

(そうか、アイツはこんな風景を見ていたのか……)
気弱な天馬騎士を思う。
ペガサスに乗れない自分は、こんなにも高い位置から地上を見下ろすのは初めての経験であった。
彼女と同じ目線に立てた事に嬉しさを感じる。

「さて、どこに落ちるやら……」
いつの間にかヘクトルの体は上昇を止め、下へ下へと向かっていた。
地上を見渡した記憶を頼る限り、考えられる落下先候補としては、平原、荒野、砂漠、川、森くらいだろう。
この高さから考えると、平原と荒野にさえ落ちなければそれほどのダメージは受けはしない。
あとは、運を天に任せるだけだ。
そう心に決めると、ヘクトルは静かに目を閉じた。
願わくば、生きてブラッドと再開できる事を……。
願わくば、フロリーナに空を飛んだ感想を伝えられる事を……。


◆     ◆     ◆


「なんとか、助かったようだ」
ブラッドは、体に纏わりついた木の枝を乱暴に振り払う。
彼は幸運にも、森に落下したおかげで軽症で済んだ。
49ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 03:56:41 ID:XSn3Ai4d

(いや、違う。生かされたのだ……)
隣の木にヘクトルが引っかかっているのに気付いた。
彼ら2人が同じ場所に落下したのは偶然ではないだろう。
あの少女の馬鹿げた魔力ならば、風力を制御して自分の望む場所に相手を落とせるとしてもおかしくない。
つまり、自分たちはわざと安全な場所に落とされたのだ。
恐らくは、アナスタシアの指示。
あの少女は殺し合いのルールすら知らないのだろう。

(まだ、救いようがあるというわけだ)
剣の聖女はまだ堕ちきってはいない。
人を殺す踏ん切りがついていないのだ。
それはつまり、まだ彼女は引き返せる余地が有るという事。
だが、やはり自分は説得が下手だ。
慣れない事はするものではないなと痛感する。

今一度、思い出す。
この殺し合いの地でもう一度、『英雄』の勤めを果たす。
道を違えてしまった者や、ふざけた幻想に惑わされている者に『勇気』を与える。
言葉ではなく、この拳で。
それが友に誓った約束。

それは日に2度の敗北を経験した今でも揺らぐ事はない。

「失敗してもつまずいても、絶対にめげない……だったな」
リルカの『魔法』を思い出す。
こんな事で挫けていたら、彼女に笑われてしまう。
彼女は、それ以上の失敗を何度も何度も味わったのだから。
ならば、彼女のその『魔法』を受け継ぐことをリルカに誓おう。

「約束が増えてしまったな……」
随分と多くのものを背負ったものだと、男は笑う。
心にズッシリと重みを感じた。
だが、友から貰った『名前』も、リルカから貰った『魔法』も、自分に充実感を与えてくれる。
それは、この殺し合いを破壊する為の原動力となる。

ブラッドは立ち上がって1本の木に近づくと、大きな足で思いっきり蹴り上げた。
キックブーツがなくても、この程度の木に振動を与えるのには何の不足もない。
木が大きく揺れ、葉が擦れる音がカサカサと心地よい音を奏でる。

「……ぬおぉッ!」
ドスンという音と共に木から落下してきたのはグレートロード、ヘクトル。
彼もブラッドと同じく、大したダメージはないらしい。
ずさんな救出方法に怒りを露わにしていた。

「……俺はクワガタか!」
「俺はカブトムシの方が好きだがな」
そんな事は聞いてねーよと更に怒り出すヘクトルを、笑って受け流すブラッド。
彼はもう一度、アナスタシアについて考える。
ロードブレイザーが消滅して世界に平和が訪れても、彼女はずっと救われないままでいたのだ。
永遠に救われないまま孤独に苦しむ日々が続いていたはずだ。
それは言わば、ファルガイアに残された最後の戦禍。
しかし、もしかしたら彼女はこの殺し合いで、その永遠の孤独から解放されるのかもしれない。
ブラッドにとってそれは、やり残した戦災復興ができるチャンスなのだ。
50ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 04:00:44 ID:XSn3Ai4d

(オディオよ。それだけは礼を言うぞ……)
ブラッドが『英雄』として救う対象として、彼女も例外ではない。
この拳で、堕ちた『英雄』を救う。
出来ないはずがない。
この『名前』がある。この『魔法』がある。
この拳には、仲間が2人も宿っているのだから。



【H-6とH-7の境 森 一日目 朝】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)、疲労(小)
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドU
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、
     基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:現在位置が知りたい
2:仲間を集める。
3:フロリーナ達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間を探す。つるっぱげも倒す
4:セッツァーをひとまず信用。
5:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、エドガー、シャドウを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 ティナ、エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。


【ブラッド・エヴァンス@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:全身に火傷(多少マシに)、疲労(中)
[装備]:ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
[道具]:不明支給品1〜2個、基本支給品一式
[思考]
基本:オディオを倒すという目的のために人々がまとまるよう、『勇気』を引き出す為の導として戦い抜く。
1:現在位置が知りたい。
2:仲間を集める。
3:自分の仲間とヘクトルの仲間を探す。
4:魔王を倒す。ちょこ(名前は知らない)は警戒。
5:アナスタシアを救う。
[備考] ※参戦時期はクリア後。


◆     ◆     ◆


「おねーさん、ちょこやったのー」
「えぇ……偉いわね」
バンザイをして飛び跳ねるちょこの頭を優しく撫でる。
掌に伝わる柔らかな熱は、間違いなく人間が放つものだ。
この目でその現場を目撃した今でも、このあどけない少女があの巨大竜巻を巻き起こした張本人だとは到底思えない。
尤も、竜巻を起こすようにちょこに命じたのはアナスタシア自身なのだが。
51ヘクトル、『空』を飛ぶ ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 04:01:57 ID:XSn3Ai4d

(それにしても……凄い威力ね)
東西南北、見渡す限りは荒地と化した。
ここは、地図上では平野が広がっているはずの場所であるはずだ。
現に、ついさっきまでは確かに緑色の雑草が当たり一面にびっしりと生えわたっていた。
それをこの少女は、一撃で全て吹き飛ばしてしまった。
ただ一点のみ……竜巻の中心に位置する場所を除いて。
少女とアナスタシアが立っていた場所だけ、ポツンと緑色の大地が取り残されている。

(これなら、生き残れる……)
少女の常識はずれも甚だしい魔力を前に思う。
まだ殺し合いに乗るか否かも決まってはいない。
だが、どちらにせよ死んでしまったら終わりなのだ。
少女のこの異常な破壊力と耐久力を駆使すれば、どう転んでも自分の命だけは守りぬける。
彼女がファルガイアを覗き見て知っている人間の中で1,2を争うほど強いブラッドすらも、あっさりと撃退してしまったのだから。

(しかし、なぜブラッド君が……)
放送で名前が呼ばれた少女もそうだ。
名簿を見ていない彼女は、彼らが参加させられている事を不審に思う。
勇者ユーリルと分かれた後、腹が立つほど暑い砂漠を脱出したアナスタシアたち。
踏みしめる大地がこげ茶色から薄緑色に変わったころ、最初の放送を耳にした。
ちょこは、相変わらず何の事か分からないといった様子。
何もない空から声が聞こえた事が余程面白かったのだろうか、わいわいと喧しくはしゃぎ回っていた。
唯一、違う反応を示したのは、リーザという名前を聞いたとき。
知り合いだったのであろう、「リーザおねーさんだ!」と何故か笑顔で走り回っていた。

そんなちょこを無視して、放送でリルカの名前が呼ばれた事実について考えていた。
アシュレーやマリアベルを初めとした、他のARMSメンバーも参加しているのだろうか……?
そんな事を予想していた彼女の耳に次に飛び込んできたのは、他でもない自分の名前。
何事かと思い声のするほうへ忍び寄ると、あの男、ブラッド・エヴァンスがいたというわけだ。
彼がもう一人のヘクトルという男に聞かせいていたのは、剣の聖女の伝説。

やがて話題は、アナスタシアが今どうなっているのかという事に移り変わる。
焔の災厄滅した後、次元の果てを彷徨っていた聖女はどうなったのか。
アナスタシアは救われなかった。
ずっと孤独の中で、平和なファルガイアで暮らす幸せな人々を見せ付けられていた。
だから、ブラッドが『アナスタシアはきっと生き返って』と口にした瞬間……。
気付いたら、叫んでいた。
自分の苦しみをブチ撒けてしまっていた。

自分の軽薄さに呆れてしまう。
そのせいで、殺し合いに乗ろうとしていることを悟られてしまったのだから。
ブラッドの洞察力にも感服する。
戦場を潜り抜けてきた経験の賜物だろう。
説得の方はてんで下手糞だったが……。

(向いてないかあ……)
唯一胸に響いた彼の言葉。
彼に言わせれば、自分は殺し合いに向いてないらしい。
自覚はある。
さっきの竜巻のときも、彼らを殺さないようにちょこに指示していた。
まだ、誰かを殺したくはなかったのだ。
実際に命を奪うのが、自分ではなくちょこの役目だったとしても。

「どうしよっかな……」
あと一歩を踏み出す事ができない自分に溜め息が出る。
元々、戦う事が好きなわけじゃない。
ましてや、人間を殺すなんて経験がないのだ。
52創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 04:03:30 ID:XSn3Ai4d

でも、せっかく掴んだチャンスだ。
この狂った宴は、普通の人生を歩める最初で最後の機会。
やはり、それは逃したくない。

「おねーさん、どうしたの?」
ちょこが大きな目をこちらへ向けていた。
文字通り『無邪気な』瞳は、アナスタシアの心の黒いモヤすらも、なぎ払ってくれる。

まぁ、いいか。

「次、どこに行こうかな……って考えてたの」
それを聞いたちょこが、キャッキャとはしゃぎ出した。
もう一度、彼女の頭を撫でてやる。
その小さな頭を、やけに愛おしく感じた。

今はそれでいい、と思う。
めんどくさい事は後にしよう。
生きていれば、そのうち答えは出るだろうから。
ついさっき悩みだしたあの勇者も、そうなのだろう。



【H-6 東部 一日目 朝】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:絶望の鎌
[道具]:不明支給品0〜2個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:どこへ行こうか?
2:施設を見て回る。
3:『勇者』ユーリルに再度出会ったら、もう一度「『勇者』とは何か」を尋ねる。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこを『力』を持つ少女だと認識しました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
※襲ってきた相手(ビジュ)の名前は知りません。
※アシュレーやマリアベルも参加してるのではないかと疑っています。


【ちょこ@アークザラッドU】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品1〜3個(生き残るのに適したもの以外)、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
1:おじさんを2人飛ばしたの! ひゅるるーなの!
2:『しんこんりょこー』の途中なのー! 色々なところに行きたいの!
[備考]
※参戦時期は不明。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※襲ってきた相手(ビジュ)の名前は知りません。
※放送でリーザの名前を聞きましたが、何の事だか分かっていません。覚えているかどうかも不明。
※ちょこの竜巻でH-5とH-6の平野の一部が荒地になりました。
53 ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 04:04:22 ID:XSn3Ai4d
以上、投下終了です。
54創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 10:03:35 ID:uBuOp7aJ
投下乙!
ブラッド渋くてカッコイイぜ。強いんだが戦果が振るわないのは、相手が悪いなw
リルカの魔法を受け継いだことだし、諦めずに頑張ってほしいな。
そしてアナスタシア…恐ろしく人間味溢れているな。やはり彼女は英雄なんかじゃないと再認識させられた。
非常に魅力的なキャラだと思う。今後の動向に期待だ。
そんな彼女にとって、まさにちょこは秘密兵器だな。
加減したのに地図を塗り替えるくらいの魔法とは、強すぎw
55創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 11:23:35 ID:RLveg23V
投下乙だぜ!

やっべえええええええええええちょこTUEEEEEEEEEE!!!!!!
ブラッドはいきなり最強クラスの二人と出会ってめっちゃ不運だなw
まぁ生きてるだけマシかw
ヘクトルもオディ・オブライトに続いて負けたし黒星続きの二人に幸あれw
えっちなお姉さんはマジ外道(誉め言葉)
56 ◆Rd1trDrhhU :2009/05/09(土) 17:08:08 ID:XSn3Ai4d
感想ありがとうございます。
アナスタシアの状態表、絶望の鎌の出展がないのでwikiで修正しときます。
あと、すいません。ちょっと一部抜けてました。>>47>>48の間に↓が入ります。


「オイオイ……そりゃあ反則だろう!」
容赦なく顔に叩きつけられる暴風を、腕で遮りながらヘクトルが吐き捨てる。
ヘクトルの世界では、魔法使いは脆いものと相場が決まっていた。
魔法を放つものは、他の兵士に比べて防御力や生命力が劣っており、アーマーナイトなどが彼らの盾になってやる必要があったものだ。
だが、この少女はブラッドの拳を全く意に介さないほどの耐久力を持ちながら、こんな馬鹿げた魔力も持ち合わせているのだ。
規格外だと言わざるを得ない。
57創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 19:28:11 ID:AU+MHhGR
投下乙!

さすがちょこ、チートだああw
ヘクトルの突っ込みに至極同意w
ご安心を、あっこまで攻防魔が揃ってるキャラはRPGひろしといえどそうはいまいw
アナスタシアはいい感じで人間やってるなあ。
うん、彼女がどうなったのかは本編じゃ語られてねえんだよなあ。
ブラッドの理想的な想像をばっさり切り捨て登場したときには鳥肌が立った

58創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 19:32:47 ID:z2Q12emW
投下乙!

ちょこTUEEEEEEEEEE!!
この火力なのに頭の方は……だから余計に恐ろしい!
そりゃ、お姉さんも余裕ですねw

ブラッド&ヘクトルはいいコンビの予感。
彼等がどうなっていくのかも、非常に楽しみ!
59創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 14:58:16 ID:/x3k/7Mc
作品が投下されるまで暇だから一つ提案
過去ログを読み返そうにもDAT落ちして読めないから、wikiに過去ログの項目でも作りたいがいいかな?
単に過去ログ見て、投下した作品に対する感想とか見てニヤニヤしたいだけなんだけどな
俺以外の人のメリットとしては、興味持ってくれた新規住人がスレの雰囲気掴むために過去ログ読みたくなることとかがあると思うんだ

問題としては、仮に許可が出て過去ログ作ろうにも、俺がついさっき落ちた3番目のスレのログとこのスレのログしか持ってないこと
協力してくれる奇特な方がいたら1スレ目と2スレ目のログをwikiのどこかにうpして欲しい
60創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 15:47:23 ID:laDiczcD
◆Rd1trDrhhU氏の作品で誤字発見しました。

「ビッキー、『過ち』を繰り返す」のケフカを巻き込んでテレポートしたあたりの所
性格にはテレポートが暴発したからだ。
→正確にはテレポートが暴発したからだ。

「ヘクトル、『空』を飛ぶ」でのひゅるるー直前で
あれが、腹部に思い拳をめり込ませた人間が吐き出す音か?
→あれが、腹部に重い拳をめり込ませた人間が吐き出す音か?


あといままでの作品で召喚が召還とされてるのが多いです。
wiki検索したら分かるけど…直していいですか?
61創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 20:32:34 ID:t3mTBzJP
>>59
いい案だと思うが、残念ながら俺は協力できそうにないな…すまん
62 ◆Rd1trDrhhU :2009/05/12(火) 21:40:04 ID:jys5RSw0
>>60
教えてくださってありがとうございます。修正しました。
誤字程度なら、俺の書いた奴であればですが、自由に修正してくださって構いません。
……というか、ぜひ修正してくださいw

>>59
いい提案ですね。
janeで作ったdatでいいんですかね?
ttp://takukyon.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/free_uploader/src/up0223.zip.html
DLパス:RPG
63創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 02:06:23 ID:4YLV1Y3w
まさか◆Rd1氏からログを頂けるとはw
ありがたくいただきますが、現在外出中なので帰宅してから過去ログ作成に入りますね
64創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 12:46:56 ID:4YLV1Y3w
はい、wikiに過去ログの項目作成終了しました
ログ提供してくれた◆Rd1氏に感謝します
デカい口叩いといてアレですが、アーカイブ機能とか使うの初めてなんで何か不手際ありましたら教えてください
65 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/13(水) 14:48:51 ID:u/4MS/qO
◆Rd1trDrhhU氏、ID:4YLV1Y3w氏過去ログの件有り難うございます。

すいません、私の予約のことでちょっといいでしょうか?
放送を挟んでいますがビクトールが自己リレーになってることに気付きました。
ビクトールはいなくても話は動かせるのでビクトールだけ予約破棄ってできるでしょうか?
66創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 22:46:33 ID:9ay47vjV
>>65
個人的には期間開いたキャラは自己リレーしてもいいと思うけど、氏が破棄した方がいいと思うなら破棄しちゃってもいいんじゃないかな。
67 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/15(金) 00:11:53 ID:qKwzPeR1
すみません。じゃあ、予約どうりにいきます。

68 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:37:50 ID:OQy62yqJ
これより投下します。
69時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:39:51 ID:OQy62yqJ
はーいこんにちは。頭脳明晰で才色兼備な天才科学者ルッカ・アシュティアよ。
全くなんなのかしらね。家で『時の卵』について研究していたはずだったのにいつのまにかオディオとかいう魔王に拉致されていたのよ。
うん、それだけならまだいいんだけどオディオとかいう魔王は拉致した人達で殺し合いのゲームを始めるときた。
それからはいろいろ大変だったわよ。呪われた剣を持った少女に追っかけ回されるわ、燃える森で津波に遭うわ、凄まじい殺気と恐ろしい強さを持った男―――ルカ・ブライトに襲われたりね。
そして、今もあんまりいい状況とは言えないわ。目の前の金髪の少年は明らかに私に敵意を向けてきてる。見るからに「がんばって殺意を抑えている」といった感じね。
これは、一歩間違えれば殺されるわね私。
もちろんこんなところで死ぬつもりなんてさらさらないけど。
ナナミに助けて貰った命―――そう無駄にしてたまるもんですか。



……
………


「答えて……くれないだろうか?」

どうしたものかしらね。私が殺してないっていう証拠がないわ。
証人は今ここにはいない。
こんなことになったのもあのむかつくピエロのせいね。…後で覚えてなさい。
っていっても正直に答えるしかないわよね。今度余計なこと言ったらさっきの黒い剣が今度こそ私の方に飛んでくるだろうし…。

「私じゃ…ないわ」

相手はそれを聞いても未だ敵意を向けてくる。
そりゃそうよね。この状況どう考えても私が怪しいわ。

「…なら誰が殺したか知っていますか?」

目の前の少年は静かにそう言ってきた。
やっぱそう来るわよね。殺したのはルカ・ブライトだけどその証拠も無い、か。
私って運無いわねー。

「…ルカ・ブライトよ間違いなく、はっきり見たわ」

最初は呪われた剣のせいかと思っていたけど。ビッキーから聞いた限り元々ああいう奴らしい。
言っても何も問題ないだろう。それに…嘘も言ってないし。
そういえばあの剣を持った少女は助かったのかしら?

◆     ◆     ◆
70時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:40:59 ID:OQy62yqJ

「…ルカ・ブライトよ間違いなく、はっきり見たわ」

なるほど…その答えは確かに納得できる答えだ。あの狂皇子ならナナミを殺すなど容易いことだろうしナナミの体には火傷の痕がある。
だがそれではまだ完全に納得するには足りない。
ルカ・ブライトの残虐さ非情さ強さ―――それは濡れ衣を着せるには非常に都合がいい。
それになによりも引っかかるのがー。

「君は…どうして生きているんだ?」

あの狂皇子に会ってどうして生きているか、それとも遠くから見ていただけなのか?
それをはっきりさせるべきだ。ルカは放送で呼ばれていない。もし放送後に倒したなら都合がいいが…。

「……ルカ・ブライトに出会ってなぜ生きているっていう意味ならテレポートで逃げた…これが答えよ」

テレポート…確かにそれなら逃げることくらいなら出来るだろう。
目の前の少女はそれが出来るのだろうか?見たところ額にも両手にも紋章は無いが…。

「…これで最後です。火でも雷でも何でもいい…出せるなら見せてくれませんか?」

目の前の少女は紋章を宿していない。クレストグラフも持っていないようだ。
それでいてそういうことが出来るなら異世界の者と見て間違いない。
リルカの情報、遺跡で会った魔王の魔法。異世界は確かに存在する。
そして異世界の者なら名指しでルカ・ブライトに罪は着せないだろう。
この舞台に来るまでルカのことは知らなかったはず。ならばルカに出会ったというのも事実のはずだ。

「…?分かったわ」

不意打ちで攻撃を受けないよう身構える。
少女の手に火が集まって―――天に向かって炎を放った。

「ファイア!!!」

使ったのは炎。ナナミの体に火傷が有るにもかかわらずそれを使った。
わざわざ疑いを強くするかもしれないことを。この子が殺したのならナナミの火傷を意識して火は使わないはずだ。
もしかしたらそれしか使えないのかもしれないが…。
そしてさっきのルカの情報…この子が言っていることは本当のようだ。

「すみません。どうやら本当のようですね」

ひとまず警戒を解く、頭もだいぶ冷えたようだ。
ここで目的を放り出して感情に走るわけにはいかない。

「さっき君が言いかけた質問の答えですが…ナナミは僕の幼馴染みです」
「……ッ!!!」

◆     ◆     ◆
71時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:45:00 ID:OQy62yqJ
ルッカとジョウイはナナミの埋葬を始めていた。ルッカがナナミを弔いたいと言ったのだ。
ジョウイもナナミを弔う手伝いをする。合理的に考えればこの状況でのその行動は時間と体力の無駄だ。
それでもジョウイは手伝うと言った。もちろんルッカが持っている情報を得る為とかルッカを利用する為とか、そういう打算もあった。
しかし何よりも―――大切な幼馴染みをこのまま放っておけなかったのだ。
もしかしたらジョウイがナナミを殺さないといけない状況もあったかもしれない。ジョウイは放送でナナミが呼ばれた時もちろん悲しかった。
悲しかったけど安堵もしたのだ。『自分が手を下さなくて良かった』と。
ジョウイはそう考える自分を嫌悪した。だからせめてナナミは自分が弔おうと考えたのだ。
幸いにもジョウイが持っていた回転のこぎりもオートボウガン同様頑丈でスコップの代わりになった。
そのため作業は順調に進んだ。

「こんなところね」

ルッカがナナミを穴に寝かせる。
首輪は取らない。人の首に付いていない首輪のサンプルは確かに欲しい。
でもルッカはそんな合理性だけで命の恩人の首を落とすことが出来る子じゃなかった。
二人でナナミに土を被せていく―――。

「ナナミ…安らかに」

ナナミが眠っている場所にこの花園で見つけた小さな花を乗せる。
来世で幸せになることを願って。

「有り難う。助かったわ。私はルッカ・アシュティアよ。あなたは?」
「いえ…僕がしたかっただけです。僕はジョウイ…です」

作業が終わった二人は自己紹介を始める。
もうお互いに警戒は無い。

「あなたがビッキーの言っていたジョウイだったのね」

ルッカはほぼ完全にジョウイを信頼していた。
ビッキーからはジョウイの事をリオウとナナミの幼馴染みとしか聞いていなかった。
そう、ジョウイが元の世界でやってきたことは聞いていなかったのだ。

「ビッキーの能力で北の城から花園に来たんだけど…ビッキーはくしゃみでテレポートが暴発してしまっちゃってね。
 むかつくピエロを巻き込んでどっかに行ってしまったのよ」

故にジョウイに情報を与えてしまう無防備に。

「それとルカ・ブライトは神殿あたりにいたから神殿には行かない方がいいわよ。
 あ、そうそう…今リオウは北の城にいるわよ」
「ッ!!!!!!」

ジョウイが知りたかった、そして知りたくなかった情報も…与えてしまった。
ジョウイの心が…揺さぶられた。

「ありがとう。僕が出会ったのはこれで三人目です。
 一人はリルカ…さっき放送で呼ばれました。
 もう一人は魔王…オディオとは違う魔王です。虹色の刀を持ってました。
 遺跡でそいつに襲われてリルカは…」
「!!…魔王」
72時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:45:58 ID:OQy62yqJ

今度はルッカの心が揺さぶられた。
そう魔王が殺し合いに乗った事実を聞かされてしまったから。
絶対にゲームに乗っているとは言えないが、同時に絶対に安全とも言えなかった。
ゲームに乗っている事自体は驚くことではない。
だが魔王は仮初めだとしても仲間だったのだ。乗っていて欲しくは…無かった。

「そう…なの。ごめんなさいジョウイ。私はあなたに謝らないといけないわ
 ナナミは私を庇って死んだの。そして…その魔王は私の知り合いだわ」
「なん…だと…」

一瞬の静寂。その場で動いているのは風で揺れる周りの花々がだけだった。ルッカもジョウイも動かない。
怒りを堪えているのかジョウイは黙ったまま。ルッカも何も言わない。
やがてジョウイが口を開いた。

「それでルッカさんを恨むのは筋違いです。ルッカさんは…悪くありません」
「…有り難う」

ルッカはジョウイがそれを聞いてなお自分を許したと思ったが、実はそれだけではない。
ルッカは気付いてないが、ジョウイはゲームに乗っているのだ。
そのジョウイがゲームに乗ってないルッカを責めることなど出来るわけがなかった…。

「厄介な事になったみたいね。わたしの持っている人物情報は元々の仲間がクロノとカエルね。
 ミネアって人もゲームには乗ってないわ。彼女の話によればユーリルとロザリーって人達は大丈夫だって。
 アティとアズリアも大丈夫だと思う。イスラとピサロって人は…とりあえず警戒しておいて。
 もしかしたらゲームに乗っているかもしれないし特にピサロはものすごく強いらしいから。
 後はゴゴとあなたも知っている人達よ、あなたは?」
「元々の知り合い以外では…リルカから聞いた人達だけです。
 アシュレー、ブラッド、カノン、マリアベル、この四人がリルカの仲間らしいです。
 あとアナスタシアは安全だと聞いてます。この五人は安全だと…。
 トカっていうトカゲはよく分からないです。リルカは意味不明って言ってましたが…」

本当ならここで情報操作したいのをジョウイは抑える。まだそれをするのは早い…情報が足りないのだ。
まずはルカや魔王のような強者を優先的に倒さないといけない。
あの魔王が殺し損ねたブラッドも強者のはずだし、どれほどかは分からないがピサロという者もかなりの強さとのことだ。
それに…もしかしたらリルカの仲間を悪者にしたくないという気持ちもあったかもしれない。

「あ、あいつの事忘れてた!!」

何かを思い出したように突如ルッカが叫んだ。
ジョウイはそれを聞いて少しびっくりする。

「さっき言ったピエロみたいな奴には気をつけて、ゲームに乗っているという証拠はないわ。
 でもね…馬鹿の塊みたいな奴だったけどあいつの魔力…あれは魔王クラスよ。私の知り合いのね」
「!!!!!!」

ルッカとて魔王ほどではないが極めて高い魔力の持ち主だ。ケフカに秘められた力を見破ることぐらいは出来た。
それを聞いたジョウイは愕然となる。ここにはいったいどれだけの強者がいるというのか…絶望感が増す。

「さてと…悪いけどここでさよならね。用事ができちゃったわ」
「え?」
73時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:46:59 ID:OQy62yqJ

ジョウイはいっしょに行動すると思っていたが、ルッカは突然そう言いだした。

「ジョウイ…これは私の問題。あなたを巻き込めない。
 ビッキーが無事ならここに戻ってくると思うし、
 ここで待っていたらリオウに会えるかもしれないわ。
 あ、ビッキーに会ったら私は歩いて城に行ったって伝えといてね
 待ちきれなくなったら北の城に向かってみて。そこでまた会いましょう」
「ルッカさん…何を!!!」

ジョウイが叫ぶ。
嫌な予感がする。
なんとなくこれからルッカがどうするか予想出来てしまう。

「魔王に返す物があるのよ…。それにあなたは納得しないかもしれないけど説得もしたい。
 それが駄目なら私の手でけじめをつけるわ」
「そんな…無茶だ!!!」

あの絶望的な強さを持った魔王にたった一人で挑むなんて看過出来ない。
しかしルッカは静かに諭す。

「大丈夫よ。魔王の強さや戦い方は知っているし、
 私のとっておき…すごいのよ。あの魔王を倒せるかもしれないぐらいにね。
 ビッキーはいつ戻ってくるか分からないし、彼女なら自力で城に戻れるわ。
 それにミネアも探したいしね。私は仲間を捜しがてら城に戻るだけ。
 そしてルートは三つ。ルカがいるかもしれない北から行くか、険しい山頂を越えるか。
 後は遺跡を経由してF-6の橋を通るかのね。私は三番目を選んだだけよ。
 魔王に必ず会えるという保証もないわ。心配しないで…」

そう言ってルッカはコンパスを取り出して方角を確認。
遺跡に向かって歩き出した。…たった一人で。

「僕は…どうすればいい?」

取り残されたジョウイはそう呟いた。どうすればいいか分からなかった。
ルッカから聞いた更なる強者の情報には愕然となった。
魔王クラスがもう一人いる。ならどうすれば自分は勝てるのだろう。
方法が無いわけではない。それは二十七の真の紋章の一つ『始まりの紋章』だ。
『黒き刃の紋章』と『輝く盾の紋章』の元の姿。
その力があればあるいは何とかなるかもしれない。そしてその道も見えた。
自分が持つ『黒き刃の紋章』と対になる『輝く盾の紋章』を持っているリオウは北の城にいるらしい。
彼から紋章を受け継げば…。
74時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:47:51 ID:OQy62yqJ

しかし、その道が四つあるのだ。まずルカがいるかもしれない北から行くのは論外。
いまさらルカに取り入るのは不可能……。
間違いなく一番危険なルート。勝算がない以上メリットが見当たらない。
問題は残りの三つ。
ここでビッキーを待つか。山頂を越えるか。ルッカを追いかけるか。

ビッキーを待つ…
あの子はそこまで自分を敵視していない。話せば何とかなるだろう。
北に行くなら間違いなく一番安全。ピエロがいっしょに来るかもしれないが。ビッキーが無事なら当分安全と見ていい。
しかしあのテレポートは時間も超えるらしいし、ビッキーが無事であるという保証もない。
待ち続ければ最悪次の放送までここに留まることになるかもしれない。

山頂を越える…
危険度は不明だが北や遺跡から行くよりは安全と思われる。肩透かしを食らう心配もなさそうだ。
道は険しいが一番堅実なルート。

ルッカを追いかける…
魔王がいるかもしれないのでかなり危険だがメリットもある。
一つはルッカという同行者だ。一人より二人の方が心強いのは言うまでもない。
そしてもう一つが魔王打倒の可能性。ルッカがとても賢い子ということは分かる。そんな彼女が勝算も無しに向かうとは思えない。
さらに最後にリルカが見せた大爆発。魔王は放送で呼ばれなかったが、相当の深手を負っている可能性もある。
それにさっきの戦いでは『黒き刃の紋章』は使ってない。通用しないと決まった訳じゃないのだ。
できれば使用は控えたいが魔王には使う価値がある。
多少の無理はあるが選ぶ価値があるルート。あるいはこっそり後をつけるのも一つの手だが…。

「早く決めないと…」

ルッカと同行するなら悠長にしてたら追いつけなくなる。
どうする…。どうする…。

『黒き刃の紋章』を受け継いだ少年は悩む―――別れた三つの道に。
『輝く盾の紋章』を受け継いだ少年に会った時の事を先送りにして。
その時、ジョウイは本当にリオウから紋章を受け継げるのか?その覚悟は有るのか?
それはまだ…分からない。

◆     ◆     ◆
75時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:49:01 ID:OQy62yqJ

「リーザとナナミが呼ばれたか…」

神殿付近の湖畔にいたビクトールが放送で禁止エリアと死者を確認して東に向かった。
リーザ――トッシュの仲間。特別強くはなかったらしいが、ゲームに決して乗らない心優しい少女だったらしい。
ナナミ――都市同盟の仲間で先ほどまで一緒に行動していた少女。いつもリオウを気遣っていた良いお姉ちゃんだった。
彼は幾多の戦争を乗り越えて――死に慣れてしまっていた。
だが慣れているのと何も感じないのとは違う。
ハイランドとの戦争だけじゃない。トラン解放戦争で解放軍の一員として戦っていたときもだ。
オデッサやグレミオが死んだときだって悲しかった。だがいつまでも悲しみに囚われていたら前には進めない。
先に逝った者達の為にも自分の足で歩かなきゃいけないから。

「禁止エリアか…急がねえと」

平屋が見えたら南下して花園に向かう―――ひとまずこれでいいだろう。
北にはルカがいるかもしれない。トッシュが同行してない以上、北に向かうのは下策と判断したのだ。
あいつなら一人でも大丈夫だろう。駆け引きがあまり得意そうじゃないのが心配だが…。


……
………

「そろそろ花園に着くと思うんだが…なんだあれは炎か?」

空に炎が見えた。戦闘中なのだろうか?
様子を見に向かった先は――花園。

「一番扱いに困る奴が現れたな…」

遠くに見えたのは一人は見知らぬ少女。
もう一人は―――ジョウイ。ある意味ではルカ・ブライトより厄介な奴。
とりあえず身を隠す。なにせ相手はジョウイなのだ。慎重にならないといけない。
ここからじゃ声は聞こえないがこれ以上近づけば気付かれるだろう。見たところ険悪な感じじゃないが…。

「それにしてもナナミ、ルカ、ジョウイともう三人も見つけるとはな。
 出会った奴の半分以上が知り合いなのは運がいいのか悪いのか」

しばらくすると少女は一人でどっかに歩き出した。ジョウイはその背中を見ている。
一人で行動したいのだろうか?ジョウイに聞いたら分かるだろうが…。

「さて…どうすっかな」

いつまでもここに隠れているわけにはいかない。
ジョウイは少なくとも積極的に殺して回っていない様だ。
それに根はいい奴だって事はよく知ってる。
見張りを兼ねて同行するのもいいが――問題がある。

情報だ。自分はかなりの情報を持っている。
それをどこまで話すか…それが問題だ。
ルカが北にいた事ぐらいなら問題ない。
いまさらルカに取り入ることは出来ないはず。
76時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:49:51 ID:OQy62yqJ

重要な三つの情報は

一つはルカをたった一人で追いつめた男の存在。
一つは首輪を外せるかもしれない男の存在。
そしてもう一つは第三回放送の頃に座礁船に参加者が集まる予定のことだ。

「早く…決めないとな」

ジョウイとビクトールは花園で考える。
自分がどう動くべきかを。
道が決まった時――運命の歯車が回り始める。

【E-9 花園 一日目 午前】
【ジョウイ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]:右手のひらに切り傷
[装備]:キラーピアス@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
[道具]:回転のこぎり@ファイナルファンタジーVI、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:更なる力を得て理想の国を作るため、他者を利用し同士討ちをさせ優勝を狙う。(ルカや、魔王といった突出した強者の打倒優先)
1:僕は…どうすればいい?ルッカを追う?山越え?待機?
2:北の城に向かってリオウと決着をつける?
3:利用できそうな仲間を集める。
4:仲間になってもらえずとも、あるいは、利用できそうにない相手からでも、情報は得たい。
[備考]:
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所で2主人公を待っているときです。
※リルカと情報交換をしました。ARMSおよびアナスタシア、トカ、加えて、カイバーベルトやクレストグラフなどのことも聞きました。
※魔王のこともあり、紋章が見当たらなくても、術への警戒が必要だと感じました。常識外のことへも対応できるよう覚悟しました。
※ルッカと情報交換しました。ピエロ(ケフカ)とピサロを特に警戒。
※E-9花園にナナミが埋葬されました。埋葬された場所には小さな花@WILD ARMS 2nd IGNITIONが供えられています。
※近くのビクトールには気付いてません。
※紋章の一つはバランスの紋章です。

【ビクトール@幻想水滸伝U】
[状態]健康
[装備]魔鍵ランドルフ@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品0〜1個(確認済み)
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ジョウイと接触するべきだろうか…?
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトール・トッシュの仲間をはじめとして、ルカおよびオディオを倒すための仲間を探す。
3:第三回放送の頃に、無法松と合流するためA-07座礁船まで戻る。その時、松に謝る。
[備考]参戦時期はルカ死亡後のどこかです。詳細は後の書き手さんにお任せします。
※ティナの仲間とトッシュの仲間、アキラについて把握。ケフカを要注意人物と見なしています

◆     ◆     ◆
77時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/16(土) 23:51:18 ID:OQy62yqJ

「……追ってくる様子は無し……か、ここまでくれば大丈夫だろう」

城下町での激戦を繰り広げたカエルはかなり疲労していた。
故に森の中に駆け込んでシュウが追ってきてないことを確認して休憩をとった。
ここでは回復魔法は制限されている。使えばすごく疲れるのだ。
そろそろ疲労を無視出来なくなっていた。

「…正直助かった。もう一度戦ったら勝てなかっただろう」

先ほどのシュウとの戦闘を思い出す。自分は完全に押されていた。
しかもあの時の自分はほとんど全力だったがあいつにはまだ余裕があった。
出方を伺っていたか。あるいは無力化を考えていたか。
しかも、あいつは素手で獲物を持っている俺に物怖じせず戦っていた。
あいつの余裕…恐らくあいつは俺を遙かに超える剣の使い手と戦った事がある。

「問題はまだ山積みだ…」

自分は素手のシュウ一人にすら勝てない。
城下町では相性の良さやニノの情けが会ったからこそあそこまで戦えたに過ぎない。
しかも城下町で実質強いと感じたのはマリアベルだけだ。
もしシュウが城下町での戦いに関わっていたら自分はあっさりと倒されていただろう。
結果的に勝てただけなのだ。

しかも、誰一人として止めは刺せていない。
マリアベル、ロザリー、サンダウン。三人を瀕死に追いやっただけだ。
あのまま放っておけば死ぬくらいのレベルだったが…サンダウンという男の言っていた事を思い出す。

―――エリクサーを……

エリクサー、それは死んでない限りどんな傷でも治す魔法の霊薬。さらにいえば魔力も回復できる代物だ。
このことを考えるなら最低一人は助かっていると見て間違いない。
そして合理的に考えたらあの三人で最も強かったマリアベルに使うだろう。
最悪回復魔法が使える奴がいて全員助かってるかもしれない。

シュウ、マリアベル、ストレイボウ、ニノ。
少なくともこの四人は生きている。あの巨大兵器の事もある。
あいつらにはどうやっても勝ち目がない。
だが、ぐずぐずしていたらあいつらは仲間を増やし本当に手に負えなくなる。

ならばどうする?
78時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:01:30 ID:P/SSONLA

あいつらの悪評をばらまく…
…いや駄目だ。シュウはそういう駆け引きは得意だろう。
それに、俺の姿を見て信用する者がどれほどいるか…。

クロノやルッカを焚き付けて利用する。そして共にあいつらを…
これも駄目だ。あいつらとの連携技はたしかに強力だ。
だが、クロノやルッカと共にいれば俺は外道で居続けられる自信がない…。
クロノ達を殺せば完全に戻れなくなる。むしろクロノ達はすぐ殺すべきだ。

ならばやはり…

殺し合いに乗った参加者と組む…
俺のように痛い目を見た奴だっているはず。
すでに徒党を組んでいる者だっているだろう。
もちろん、足手まといにならない強い参加者である必要であるが…。

そうだな…出来れば強力な魔法を使う者がいい。
今は後ろを任せられる者が必要だ。
そして組む上では手の内が読める奴がいい。
相手の手札が分かっているのは同盟を組む上でちょうどいい。

よし、これでいこう。

後は武器の入手だ。
バイアネットは確かに武器としては優秀だ。
すでに使いこなしていると言ってもいい。強力な弾丸だって撃てる。
だがこれは『斬る』というより『突く』事に特化した武器だ。しかもかなり大きい。
だいぶ慣れたがやはり剣に比べると接近戦では劣る…。

剣を探さないといけない…。
どこで探す?
ストレイボウが持っている剣は…。
駄目だ。今戻っても返り討ちにあるだけ。
それに…今は勇者バッジとストレイボウには近づきたくない。

「…遺跡」

ここから一番人が集まりそうな場所だ。
ここで武器を探すなり、誰かと同盟を組むなりすればいい。

「………」

休憩を終えたカエルは軽快な足取りで森を進む。
彼は幼い頃の遊び場はガルディアの森だった。森は彼のフィールドだ。

向かう先は…遺跡。

◆     ◆     ◆
79時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:03:13 ID:P/SSONLA

「…だいぶ魔力が戻ってきたな、そろそろ地上に戻る頃合いか…」

剣の魔女が放ったファイナルバーストのダメージはまだ抜けてない。
魔法だってあれほど使ったのだ。魔力も四時間以上休んだにもかかわらず完全回復とまではならない。
だがこれ以上悠長にしていたら他の参加者が集まって大集団が出来るかもしれない。
それに、さっきの剣の魔女のこともある。この場に自分より強い者はいると考えていい。
あのエイラだって呼ばれたのだ。油断は出来ない。
殺したと思っていたブラッドも生きていた。どうやって助かったかは知らないが…。

「剣の魔女よ…。ブラッドを『弱き者』と言った事は訂正しよう」

剣の魔女――たしかリルカと呼ばれていた。
彼女は放送で呼ばれていた。
やはり、あの時の反動で死んだようだ。
脅威が一つ減ったようだ。
魔王は彼女に言った。

――ヤツは死んだ!弱き者は虫ケラのように死ぬ、と

その事は訂正しないといけないと思った。
ブラッドは自らをここまで傷つけた者の仲間なのだから。

「……どうすべきか」

地上に戻った後のことを考える。
今自分に必要なのは利用できる仲間。
ブラッドは生きている。クロノ達もだ。
これから一人で生き残るのは厳しいだろう。

たしか魔力には自信がある。
しかしこの場には自分より優れた接近戦が出来る者は沢山いるはず。
それに自分は回復魔法は使えない。
接近戦が出来る者、回復魔法が使える者と組みたい所だ。

「…考えていても仕方ないな。利用できる者を見つけたら利用すればいい」

玉座から立ち上がって階段に向かう。この遺跡はかなり大きい。
身を隠すにはちょうど良かったが、このまま引きこもるわけにもいかない。
階段を上がろうとするが―――
80時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:05:25 ID:P/SSONLA

―――ゾクリ

「ッ!!!!!!!!!!!」

ふいに恐ろしい気配がした。これは…。

「誰だッ!!!!!!」

魔王は周りを警戒する。
自分を圧倒的に絶望的に上回る魔力。完全に次元が違う。
それは古代女王ジールや先ほど出会った剣の魔女なんていうチャチなものじゃ断じてない。
もっと恐ろしいものだ。

(この気配は…ラヴォスや姉上すら超えている!!!!下手をすれば魔王オディオすらも…)

気配は…下から!!!それもかなり深く!!!
幸か不幸か魔力が回復したせいでこの気配を探れてしまった…。
こっちに来る様子はないが…。

「…早くここから離れるべきだな」

魔王は踵を返して地上に向かう階段に向かった。

◆     ◆     ◆
81時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:06:31 ID:P/SSONLA
「待ってなさいよ…ジャキ」

ルッカは遺跡に向かっていた。
お守りの返す為に、嘗ての仲間とけじめをつける為に。
会えないならその時はその時だ。

「まあ、流石にこれを持っていればいきなり魔法をぶっ放されることもないでしょう」

勝算がない訳じゃない。魔王だってまともにフレアを受けたらただじゃすまない。
それに魔王程度の身体能力なら自分でも対処できない事もない。
だがそれにしたってものすごく無茶だ。

「私も…クロノの事は言えないわね」

海底神殿でラヴォスのエネルギーをまともに受けて消滅してしまったクロノを思い出す。
死の山でクロノと再会したときルッカは彼に言った。

―――大バカ者、と。

海底神殿でラヴォスの圧倒的な力に見せつけられ。私たちはボロボロだった。
そんななか一人動くことが出来たあいつは私達を守るために一人でラヴォスに立ち向かっていったのだ。
―――勇敢に。

そんな彼だから好きになったのかもしれない。
表には出してないけどクロノの事が好きだったんだ。
だからだろう。死の山でそんなことを言ったのは。

「あんただけに無茶させるのは…割に合わないわ」

ナナミに救って貰った命を無駄にする気は無い。
今から無茶をしに行くのはナナミに救って貰った命を活かす為だ。
ジョウイの話を聞く限り魔王は『にじ』を持っている。
それをクロノに渡せれば大きな力になる。


「それにしても…やっぱりここの参加者は……」

ルッカは参加者について考える。
参加者はある程度知り合いで固められている事。
あるいは同じ世界ごとに何人か集められていること。
それはすぐに分かることだが、彼女が考えたのは…。
82時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:07:39 ID:P/SSONLA
―――同じ世界の参加者の中に平行世界から連れてこられた者がいる。
―――あるいはここに連れてこられた時間をずらされている者がいる。

最初はただの仮説だった。
カエルやエイラが参加していることからオディオが時を越えた力を持っていることは分かっていたんだから。
それを確信したのはジョウイの話だ。
彼は放送で呼ばれたリルカと会っていた。
彼女の事は知っていた。カノンから話を聞いていたミネアからの情報によって。
この仮説が正しければジョウイを混乱させかねない。
だから、リルカを知っていたジョウイの前ではリルカの仲間のことは話さなかったのだ。

仮説は当たっていた。
カノンはリルカの事は安全と言っていたが。立場上は敵対関係にあると言っていた。
アシュレーには魔神が憑依されていて危険であることも。
ジョウイが話した情報とは違う。
リルカはカノンを仲間だと言っていた。そしてアシュレーが危険とも言ってない。
この状況を考えれば話すべき事だ。例え仲間だとしても。
それを放置するのは問題の先延ばしにしかならない。
アシュレーの為にも話すべき事実。

この食い違いはどちらかの扇動とは思えない。
恐らくオディオの仕業だ。
こうすれば疑心暗鬼の種をまける。
誤解からの衝突も有り得る。殺し合いが円滑に進むのだ。

「なめないでよ…オディオ。サイエンスの力見せてあげるわ」

不敵な笑みを浮かべて遺跡に向かう。
負ける事なんて考えてない。イメージ出来てたまるか。

「見てなさいクロノ。あんたと違って死んでなんかやらないんだから」

◆     ◆     ◆
83時の回廊 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:08:25 ID:P/SSONLA
星の夢の物語を紡いだ三人の物語が始まる。

オディオの願いを求める者が二人。
オディオに反逆する者一人。

【E-8とE-9の境 森 一日目 午前 】
【ルッカ@クロノ・トリガー】
[状態]:わずかながらの裂傷、疲労(小)、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:オートボウガン@ファイナルファンタジーVI、17ダイオード@LIVE A LIVE 、サラのお守り@クロノトリガー
[思考]
基本:首輪を解除する、打倒オディオはそれから。
1:遺跡を経由して北の城に戻る。
2:魔王に会ったらけじめをつける。エイラとアリーゼの死を悲しむのはその後。
3:ミネア、ビッキー、ゴゴ、リオウたちと合流したい。ルカ、ケフカ(名前は知らない) は警戒。
4:首輪の解除、オートボウガンの改造がしたい。そのための工具を探す。17ダイオードの更なる研究もしたい。
5:オートボウガンに書かれていた「フィガロ」の二人を探す(マッシュ、エドガー)
6:クロノ達と合流、魔王は警戒。でも魔王に『お守り』は返したい。
[備考]:
※バイツァ・ダスト@WILD ARMS 2nd IGNITIONを使用したことにより、C-8東側の橋の一部が崩れ去りました。
※参戦時期はクリア後。 ララを救出済み。
※C-9の中心部にルッカの基本支給品一式入りデイバッグが放置されています。
※機界ロレイラルの技術の一部を解明し、物にしました。
※ビッキーと情報交換をしましたが、リオウとは情報交換をし損ないました。
※北の城が別の場所から運ばれてきた物だという事に気付きました。
※参加者は知り合い同士でも異なる時間、異なる世界、平行世界から連れてこられたと考えてます。

【G-8とH-8の境 森 一日目 午前】
【カエル@クロノ・トリガー】
[状態]:左上腕に『覚悟の証』である刺傷。 疲労(大)
[装備]:バイアネット(射撃残弾1)
[道具]:バレットチャージ1個(アーム共用、アーム残弾のみ回復可能)、基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:遺跡に向かう。
2:剣と利用できる仲間が欲しい。
3:仲間を含む全参加者の殺害。特に仲間優先。
4:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい。
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。

【F-7 遺跡(アララトスの遺跡ダンジョン50階) 一日目 午前】
【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:疲労(小)、全身打撲、瓦礫による擦り傷多し
[装備]:にじ@クロノトリガー
[道具]:不明支給品0〜2個、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝して、姉に会う。
1:地上に戻る。
2:敵を探して皆殺し 。
3:場合によっては他人と組むことも視野に入れる 。
[備考]
※参戦時期はクリア後。
※ブラックホールが使用できないことに気付きました 。
※遺跡の下にいる『恐ろしい存在』に気付きました。



―――時の引き金は既に引かれた。
84 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/05/17(日) 00:14:26 ID:P/SSONLA
投下終了です。なんか一人でフラグ立てすぎたような気が…。
指摘が有れば遠慮無くお願いします。
『恐ろしい存在』はあの子のつもりで出しましたが…
作中では明確にしてません。分かる人には分かるでしょう。
(というかみんな知ってるだろうな)

クロノ得意な人に後を託します。
85創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 00:17:21 ID:wKqoVW2k
…ア○ラ…恐ろしい子!


ごめん、何でもない
86創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 22:53:38 ID:C9eQR8HI
投下乙。
ルッカとジョウイ、意外とあっさり打ち解けたなw
お互い頭がいいということか。
カエルと魔王が組むか、そこにルッカが向かうとなると…先がどうなるか気になるぜ。
ジョウイやビクトールがどんな選択をするかも見所だな。
87風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:00:10 ID:19f20tI+
投下します
88風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:01:16 ID:19f20tI+
「ねえ、起きて、起きて!」

その声を聞いた時、思わずぼくは涙が出そうになった。
ロックアックス城での戦い以来、二度と聞くことのなかった筈の大切な人を思わせる声。
毎朝ぼくに一日の始まりを告げてくれてた鐘の音。
その元気いっぱいな明るい響きは、いつもぼくに力を与えてくれた。
どんな眠気も、重責も、悲壮感も吹き飛ばしてくれた。
でも、今回に限ってはこのまま目を開けたくない自分がいる。
眠気にしがみつき逃げ続けていたい弱さがある。

「ほら、起きて、起きてよ、リオウ」

これは幻想。
目を開けるだけで吹き飛んでしまうような儚い幻想。
シンデレラにかけられた魔法は、鐘の音と共に終わりを告げる。
けれども、嘆くことはない。
魔法が解けた後も残るものはある。
ぼくは瞼の裏に焼きついた義姉に笑いかける。
大丈夫、大丈夫。

「……んー。おはよう、ゴゴ……」

下ろしていた瞼を上げ、現実を直視する。
目の前にいるのはヘアバンドをつけた姉とは重なりようもない、エキセントリックな服装に全身を包んだ人とも判断し得ぬ人物。
いつの間にか呼び捨てにしてしまっていることに気付き、失礼だったかなと思うも、ゴゴは全く気にする素振りもなくぼくを覗き込んでくる。
随分遠くに感じられてしまう日々に、姉がそうしてくれたように。

「おはよう、リオウ! よく眠れた?」

不思議な話だった。
ゴゴの顔は身体同様奇抜なデザインの布に覆い隠されているというのに、確かに笑っていることと、こちらを心配していることが見て取れる。
だから安心させたいという想いと、本当によく眠れたことへの感謝を込めて力強く頷いた。

「うん」
「そっか。うん、うんうんうんうん!」

最後に。
どこか寂しそうな、ほっとしたような笑みを浮かべて。
ゴゴが纏っていたナナミの――お姉ちゃんの幻影は。
完全に霧散した。






頃合いだ。
どちらもかってな想像に過ぎないとはいえ、さっきは俺に涙さえ流させたナナミが、今は笑みを浮かべさせた。
もうこれ以上の変化は死者たる少女に求めることはできまい。
あるとすればジョウイという人物に会った時くらいか。
そうこうするうちに俺の中でナナミという一人の少女が時を止め、眠りにつく。
憑き物が落ちたかのように、俺に物真似をやめさせることを躊躇わせた何かも消えていく。
なら、ここいらで仕切りなおしだ。
89風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:02:21 ID:19f20tI+
「ビッキーから聞いているとは思うが名乗っておこう。俺はゴゴ。物真似師だ」

誰の、何の物真似をするのか。
俺の生の核をなすそれらを選ぶときにのみ表出させる素の声、素の人格で名乗る。
モノマネに流されていた自らを一度白紙に戻し、新たな対象を己に重ねる為の儀式みたいなものだ。

「どうせだ。俺が誰の物真似もしていないうちに教えておこう。お前の持っているその石だが身につけておけ。
 きっとお前の力になってくれるだろう」

ナナミがリオウに渡したがっていたトンファーを返すついでに覗いたデイパックに入っていた魔石を指差し告げる。
もう物真似をすることのないある少女の父親が姿を変えたもの。
瓦礫の塔で砕け散ったはずのそれを。

「これ?」
「そうだ」

せめて世界を救った少女の縁の品を殺し合いを打倒しようとしているものに使って欲しい。
それが世界を救うというたいそれた物真似を楽しませてもらったせめてもの礼だ。
正直、一つ、ティナに関しては惜しかった点もあるのだが……。
気を取り直そう。
この数時間で実物のリオウに触れたことで、彼の癖も性格も完璧に把握した。
若干ナナミ視点に引き摺られているところもあるかもしれないが、彼女の物真似を止めた今の俺なら客観的に判断し微調整をかけることは容易い。

「ビッキーが喜んでた。ゴゴさんの物真似はほんとすごいって。ぼくも、そう思う」

僅かながらも憑き物が取れた笑みを浮かべるリオウ。
なるほど、それがお前の本来の笑顔か。
よく覚えた。

「そうか。なら遠慮なくお前の物真似をすることにし「おおっと! ここは理想の科学者像1位タイたる我輩をこそ物真似するべきではッ!?」む……」

と、ついに待ったリオウの物真似に取り掛かろうとした俺の声が乱入者によって遮られる。
部屋の扉を押し開きつつ、馴染み深いマシンに乗って突如現れたのは緑のトカゲ。
思わぬ乱入者にリオウが目を見張る。
忘れてた。どうもリオウの物真似へのリベンジにらしくもなく心が急いていたらしい。
そもそもリオウが起きるのを待つのではなく、自ら起こしたのはこいつの侵入に気付いたからだったものを。
まあ、気付いたというのにはあるか
我が身を隠すこともなく、あんな巨大な機械で堂々と城門から乗り込んできた上に、歌まで歌って闊歩していたのだ。
気づけないほうがおかしい。

「我輩の名はトカ。この辺一帯は見ての通りの雪原地帯。
 無駄に降り積もっている雪を飲み水なんぞに平和利用すれば、我輩の生存率は鰻登りで木に登り、この長い優勝坂を上り始めたばかり。
 これぞ科学者の本懐ッ! 止められません、飲むまではッ! 止まりません、殺るまではッ!」

魔導アーマーの竜の頭を模したような先端部にトカゲがよじ登り、腰に手を当てポージング。
席を離れたのはそうしないとトカゲの低い身長上、あのままではこちらに全身どころか顔も晒す事ができなかったからか。
その好意(?)に甘え、今や瞳の中に納まっている奇怪な生物を改めて凝視する。
ほう、確かに面白そうな対象だ。
モーグリとも雪男とも違う。
世界を救う旅の最中でもこんな生物には出会ったことがない。
ふむ、念には念をいれるのもありか。
先ほどまでポリシーに反する死者の物真似を長時間続けていたばかりだ。
ここは調子を取り戻すためにも手慣らしをしておくのも悪くはない。

「とは言ったもののッ! 我輩の頭脳とッ! 魔導アーマーのパワーッ! さらに加えて、我輩のカッコ良さッ!
 どこをとっても一流の我輩たちを、二流の諸君らに真似しきれるとは思っていないぜ!」
90風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:03:22 ID:19f20tI+
いいだろう。
誰かに見てもらうために物真似をしているわけではないが、そこまで言うのなら目にも見よ。
俺の、物真似を。

では手始めに。
魔導アーマーに乗っているお前の物真似から始めるとしよう。
流石に俺の支給品にはそっくりそのまま魔導アーマーは入ってはいないが、何、この程度の問題、いくらでもクリアしようはある。

「我輩ダー、オーンッ!!」





「え、えーっと……」

ぼくは反応に困って肩車の要領で乗っかってきたゴゴを見上げる。
これでも変わった人を多く見てきた方だと思う。
人だけじゃない。変なコボルトにも、変なウイングボードにも出会ってきた。
でも、だからって、誰かの奇行に慣れているというわけじゃない。
これはいったいどういう状況なのだろうか?
肩の上にはゴゴ、目の前には緑のトカゲ。
あ、なんかマントしているし、ムクムク達を思い出すな。
なんて現実逃避をしてみたり。

「可憐炸裂ッ! 純真無限ッ! 行け行けボクらの魔導アーマートカ、なんトカ!
 なに? どこをどう見ても魔導アーマーではないと? 
 そこはほれ、溢れ出る我輩の科学のオーラとお客様のインスピレーションでなんとかするんじゃ、ボケー!」

つまりぼくは魔導アーマーとやらの代わり、ってことなのかな?
あくまでもゴゴが真似する対象は、アーマーを操縦しているトカゲのヒトの方だけみたいだし。
ちょっと前にカレンの真似をして踊ったことはあるといえ、流石にあれの真似はちょっと。
もしもからくり丸のように変形されたりしたらお手上げもいいところだ。
そんなぼくの困惑をゴゴもトカも一向に汲み取ってくれずにヒートアップするばかり。

「わ〜〜おッ! いきなり友情クロスとはやってくれるじゃねえかーッ! だがしかし、偽者は本物に敗れて果てるがお約束。
 なぬ? 最近では偽者が主役側で本物に勝っちゃう展開も多いとな?
 知ったことかーッ! こちとら世紀末の魔王が恐れられていた時代に生を受けたのですぞーッ!」

メグちゃんがやってたように、ぽちっとボタンが一押しされて、胸部の球体状の部品に赤い光が集いだす。
火炎槍の起動初めはあんな感じの光を放ったっけ。
だっとしたらまずい。
即座に左手を宿した紋章ごと突き出す。

「うっひょ〜ッ!! 可憐爆発ッ! 大胆素て……なんですとーッ!?」

からくりから発射された怪光線を吹き荒れる風の力で巻き取り、運動ベクトルを変換。
そっくりそのまま打ち返された熱線がトカゲを襲う。
嵐の予感。
明らかに紋章とは違うぼくの常識をはるかに超える科学力相手に不安ではあったけど、上手くきまってくれたみたいだ。

「甘い、甘いですぞ! セオリーに乗っ取って巨大メカにはバリアがつき物! 
 そんな攻撃なんざへのへの河童の川流れーッ!」
「えっ〜っと……。ゴゴ、ぼくが塞げなかったらどうしてたの?」
「古今例の無い緊急事態にただうろたえるばかりは青二才ゆえトカ」

物真似対象であるトカゲの人は充分に慌ててるんだけど。
再度ぼくの心の声は聞き取ってもらえず、ノリノリの二人はどんぱちを続けていく。
91風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:04:47 ID:19f20tI+
「「レッツゴー、ブシドーッ!」」

光線が効かないと判断したトカは魔導アーマーの巨体で突撃。
鉤爪の付いた爪を上段から叩きつけてくる。
ぼくもペダル操作を真似て肩を足で踏み込んでくるゴゴに付き合って前進。
閃光の戦槍で右の爪を受け止めると同時に回転。
爪を巻き込み地に叩き落す。

「まさに撃墜王の名はほしいがままに。フフフ……」
「まだまだあッ! 我輩には幻の左が残っているのですぞッ!
 ここに来るまでに何度か左の爪でも殴った気もしますが、それはそれ。
 撃墜王の経歴には委細関係無いことゆえに。チョヤーッ!」
「……はっ!」

続く左腕部による貫き手も回転の勢いを落とすことなく躍らせた槍で脇にそらす。

「無駄無駄無駄無駄ーッ!
 リオウくんがキミの攻撃を防ぐ手立ては科学的裏付けがとれているだけでも両手に余るほどだトカ。
 つまり腕が二本しかないキミではどこまでいっても我輩達に一撃を入れることは不可能。
 ほら、もっと力を見せるのだ、リオウくんッ!」
「はうッ! 科学ッ!? それでは勝ち目がないーッ!?
 いや、我輩たちには尻尾があるではないですか。
 しなやかにして、たおやかなこのシッポ。
 狭いところにあったスイッチも押した実績のあるこれはまさに第三の手。
 どうです? 羨ましいですか? 受け止めがたいまでの熱視線で見つめられてもあげませんぞ。
 所詮、カラダは一つ。一つだからこそ素晴らしいトカそうでないトカ」

あのー、何で攻撃はきちんと回避したのに、こんなにぼくの心は疲れだしてるんだろ?

「ねえ、ゴゴ? 思うんだけどこのままあの人の物真似をしぱなしじゃ延々と事態に収拾がつかないんじゃないかな?」

幸い戦い自体は優位に進めれているけれど。
敵も味方もこの調子じゃ、5分ですむ戦闘が10分にも30分にも膨れ上がっていく気がする。
ぼくを元気付けてくれた恩人の生き甲斐を気の済むまでやらせてあげたいとだけど、状況が状況だ。
それに気になることもある。
いつまで経っても帰ってこないルッカとビッキーだ。
起きた当初は気を遣って席をはずしたままでいてくれたんだ程度にしか考えなかったけど、いくらなんでも遅すぎる。
これだけ派手に城内で戦っているのに何の反応もないのもおかしい。

「だからぼくの物真似で一気にかたをつけよう」
「バカか? おめぇッ!? ンなコトやるわけないだろうがッ!
 我輩らのあすなろ伝説は今、始まったばかりだトカ。
 殺しちまったらこれ以上物真似できねえーッ!!
 こちとら愛を知り人になったティナの物真似をし足らずに無念無想の境地なのですぞ。
 すごすぎる物真似ののノウハウを独占したいからって見損なったぜ。
 バカにかかっちゃ我輩もだいなしだトカ」

怒涛の気魄で言い返される。
ティナ。
覚えのある名前だ。
確かオディオの放送でナナミよりも前に名前を呼ばれていた人物。
口調こそはふざけているし、言ってることも結局は自分よがりの内容のはずだけど、どこか心の底からゴゴが仲間の死を悲しんでるように思えた。
そうだね、ゴゴ。
ぼくだってむやみやたらに人も、モンスターも殺したくない。
ううん、本当はどんな理由であれ殺したくなんてなかった。
既に血にまみれたぼくにこんなことを言う資格はないけれど、でも、それは殺さないように頑張ったら駄目だってわけじゃないから。
92風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:26:38 ID:19f20tI+
「大丈夫。魔導アーマーの方を鎮圧したら、トカの方は風の紋章の力で眠らせるだけだから。
 これなら最善手だよね? ……その、科学的に」
「はうッ! 科学ッ!? 科学とくればいたし方ありませぬな、科学者のはしくれとして。
 よござんしょ。チェエエエエンッジ、トッカー2!」

最後の一言が効いたみたいで、あっさりとゴゴは納得してくれた。
今のゴゴはトカなのだ。
トカゲの人に効果が抜群そうなセリフで説得に当たれば上手くいくと思ってのことだったけど、大当たりだ。
ぼくの肩から降りたゴゴの手にはこれ見よがしに点名牙双。
彼の支給品のひとつだったそうだ。

そこから先はあっという間の出来事だった。
ホイのようなかっこだけの真似事なんかじゃない。
ゴゴはぼくの一挙一動を遅れることなくトレースしきったのだ。

「「はああああああああああああっ!!」」

ナナミが残してくれた天命牙双が唸りを上げる。
片方しかない愛用の武器が番いを求める紋章の宿った右腕の中で回転。
ゴゴが突き出した左の点名牙双と共に勢いを味方につけたそれが、鈍色の装甲を貫く。

「きゅ、急に奴の動きがよくなった! ハッ、我輩としたことがこのセリフは死亡フラグーッ!?」

にせもの攻撃には違いがないのに、相方の模倣の腕によってこうも差が出るのか。
ナナミの物真似を止めたゴゴがサボるはずもなく、着々と魔導アーマーを追い詰めていく。
いつ以来だろう。
ゲンカクおじいちゃんから習った流派を使う人が隣に並ぶのは。
そうだ、あの日だ。
ナナミがぼくの前からいなくなった日。
ジョウイ、きみと最後に会った日。
あの時きみは本気でナナミの為に怒ってくれた。
ぼく達がそうであったように、きみもぼく達の事をずっとずっと思ってくれていた。
ねえ、ジョウイ。
今、やっぱり悲しんでるだろうきみの隣には誰かいてくれてるかな?
悲しみを共有してくれる誰かが。
慰めてくれる誰かが。
叱咤してくれる誰かが。
沈んだ空気を吹き飛ばそうと笑ってくれる誰かが。
いてくれたらいいと思う。
いなかったなら待っていて欲しい。
迎えに行くから。
そしたら。

「まずい、まずいですぞーッ! これは緊急脱出装置の出番? 助けてぼくらのパラシュートッ!
 え、そんなのないですとッ!? わ〜〜おッ! この艦と運命を共にッ!!」
93風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:27:30 ID:19f20tI+

もう一度、もう一……あ。
しまった、やりすぎた。
考え事にふけっていたぼくは眠らせることも忘れ魔導アーマーごと叩きのめしてしまっていた。
ぼくの真似をしていたゴゴもまたしかり。
反省したときには既に遅し。
がちょんがちょんと跳ね飛んで、火を噴きながら広い城の廊下を転がっていく魔導アーマー。
だ、大丈夫、だよね?
うん、前向きに考えよう。
アダリーさんみたいに科学者だと自称していたトカも今のショックで首輪を外す方法が浮かんだりしたかもしれない。
ちょっと調子が良すぎるかもしれないけれど、そこまでいかなくてもあれ程のからくりを手足のように扱えるのだ。
首輪の仕組みや解除方を調べるにおいてぼく達の力になってくれるはずだ。
そう……ぼくはトカを仲間に引き入れようと思っている。
トカからは殺気みたいなものは殆ど感じられなかった。
ルカ・ブライトのような悪人には見えなかったのだ。
きっとあのトカゲにとっては殺すことは二の次で、何か叶えたい目的や、元の世界に帰りたいが為に殺し合いにのったのだろう。
だったら交渉の余地はある。
そういうのは自慢じゃないけど得意なほうだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫!
姉の口癖を心の中で何度も唱え、ぼくはゴゴとトカの転がっていった方へと駆け出した。





なぜに我輩が負けっぱなしなのですかな? それも死を宣告せんとするイキオイでッ!
金髪キザ野郎にリベンジを誓い、近場の屋根のある建物に飛び込んでみればこれですぞ。
はひー、はひー……。
いまわの際に『死んでも死にきれぬわ』と自己暗示をかけておらねばやばいところだったぜいッ!
ちみもそう思うだろ、魔導アーマーくん。
はて、バチバチ?
何を火花を散らせたりしてくれちゃっているのかね。
ボロボロパーツも落としてますし。
動きもカクカクで、踊念仏のよう……あれ、これってみんなが愛してくれた魔導アーマーとも涙のお別れ間近ということでは?
まずい、まずいですぞーッ!

「こ、この中にお医者様はいないトカ〜〜ッ!」

死んじゃう、魔導アーマーが死んじゃう!
せめて、せめて新たな科学の子のお産に立ち会うまではもってぼくらの魔導アーマーッ!
そうですとも。
ここいらで我輩パーティの戦力アップというのをこなしてみようと思うのです。
この城からは間違いなく科学の匂いがするのですな。
そして機械仕掛けの城といえば思い出すのはならず者戦闘部隊ことARMSが使っていた空にそびえるクロガネの城!
あれ、ARMSってどういう意味だったトカ?
アームズ……腕がいっぱい?
ひいいいっ! それならあの強さも納得だトカ! 
さっきの物真似野郎達のガードだって余裕でかいくぐれるじゃねえか。くわばらくわばらーッ!
腕が十一本、腕が十二本、腕が十三本、腕が十四本……二本足りないいいいいいッ!
ひぃぃぃイイイイイッ!
と、失敬。
我輩の巧みすぎる想像力が風雲急を告げているうちになんともそれっぽい部屋に到着!
操縦盤やらは城が動くと思ってもいないもの達には分かりづらい場所に設置されてたであるが、我輩の目を見抜けねえと思ってかーッ!
ご親切にもマニュアルなんざも置いておりましたが、そこはそれ、我輩の科学的インスピレーションの前にはかようなもの粗大ゴミー!
って、しまったー!
500円とられるーッ!
我輩、つい最近お財布落としたばかり。
そんな大金払えるはずも無く、またもや黒服ないかつい兄ちゃんに追われる生活?
いえいえこんな時こそ持つべきものは友ッ!
ゲーくん、きみにつけておく我輩を探さないでください、マル。
94風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:28:48 ID:19f20tI+

「さあ、気を取り直してスイッチオーン! 別れろ切れろは離陸の時に言う言葉ッ!
 蝶のように舞い、蜂のように地に這いずる愚民を刺す為、我輩の夢を乗せてはっしーんッ!
 御覧になってますかーッ!? 現代科学の到達点は、見る者にあまねく夢と希望を与えてますかーッ!?」

が、いつまで待っても心地よい飛翔感は我輩には降りかからず。
むしろこれは、この懐かしい感じは……。
落ちてる!?
我輩地上で墜落!?
た、助けてーッ! 頼れるマニュアルさーんッ!
おや、ページを開いて早々大文字で説明文が。
なになに、
『フィガロ城は蒸気機関を始動させることで地下施設間を城ごと潜行させ自動で高速地中移動できます。
 尚、一度この機能を使えば、次の放送後まで使用不可なのでご注意を』
…。
……。
………。
地下? 地価でもなく千佳でもなく治下でもなく地下とな?
つまり我輩、星の海からまたもや遠ざかりコースの急転直下?

「な、なんですとーッ!?」


【B-4 南東地下 フィガロ城(蒸気機関制御室) 一日目 午前】
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(大)、尻尾にダメージ小。
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー(大破。一応少しずつ回復中?)@ファイナルファンタジーY
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)、基本支給品一式
[思考]
基本:リザード星へ帰るため、優勝を狙う。
1:地面の下なんざ冗談じゃねーッ! 星の海カムバ〜ック
2:あの金髪キザ野朗〜〜〜!(エドガーのことです)
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。
95風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:29:37 ID:19f20tI+
【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:リオウの物真似中、健康、点名牙双
[装備]:花の首飾り
[道具]:不明支給品0〜2個(確認済み。回復アイテムは無し)、基本支給品一式
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:リオウの物真似を続行する。
2:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
3:トカの物まねもし足りない
4:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。


【リオウ(2主人公)@幻想水滸伝U】
[状態]:健康
[装備]:天命牙双(右)、魔石『マディン』@ファイナルファンタジーY
[道具]:閃光の戦槍@サモンナイト3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルに乗らず、オディオ打倒。
1:信頼できる仲間を集める。ジョウイ、ビクトールを優先。まずはトカを追って引き入れたい
2:ルカ・ブライトを倒す。
3:首輪をなんとかしたい。
4:エイラが残した『黒』という言葉が気になる
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期は獣の紋章戦後、始まりの場所へジョウイに会いに行く前です。
※ビッキーからナナミの死の状況を聞きました。





遅かったか。
聞き慣れた駆動音と、床の振動に身を委ね、俺は城の内部を見渡す。
一面に広がるのは闇。
壁のくぼみに設置された松明により無明というわけではないが、元よりここは日の恩恵無き地下の世界。
それっぽっちでは焼け石に水だ。
ただ、俺にとってはこの程度の闇、なんら問題ない。
むしろ好都合だ。
シャドウと名乗る前、列車強盗を相棒と生業にしていた頃から、闇は常に俺の味方だったのだから。
城主のエドガーに連れられ何度も入った場所だ。地の利もある。
地中に潜られ篭城されては面倒だと踏み、全力で向かった甲斐があった。
目視できた位置から若干距離があったため、潜行を防ぐには間に合わなかったが、逆に誰にも邪魔されず、この城を地に沈めた者達を殺せるというものだ。
狩の場としてはこの上ないと言っていい。
こんなことを面と向かって言えばあの王様にまた殴られるだろうな。
全く、つくづく貴様とは縁がある。
96風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 05:30:20 ID:19f20tI+

そしてあの娘、ティナとは縁が無かった。

それだけだ。
例え貴様が、貴様を母と慕う子ども達を置いていったことに、僅かながら思うことがあったとしても。
俺にはその感情に身を任せる資格は無いのだから。

「……ッ!?」

らしくもなく物思いにふけっていた俺の目を覚まさせるように城が一際強く揺れる。
この衝撃にも覚えがある。
フィガロ城には地下の断層に引っかかり動きを止めた前科が一度あるのだ。
どうやら少しばかりややこしい事態になってしまったようだ。
俺は一度覆面の下で溜息をつく。
まあいい。
やることに変わりは無い。
休息と効き目は薄かったとはいえ回復魔法で体力は回復させた。
殺した女から奪った支給品も確認済みだ。
準備は万全。
後は戦友と己への誓いの一環として、この城に巣くう者を殺しつくすまで。


【B-4 南東地下 フィガロ城 一日目 午前】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:疲労(小)、左肩にかすり傷、腹部にダメージ(小)
[装備]:アサッシンズ@サモンナイト3、竜騎士の靴@FINAL FANTASY6
[道具]:エイラのランダム支給品1〜3個(確認済み)、基本支給品一式*2
[思考]
基本:戦友(エドガー)に誓ったように、殺し合いに乗って優勝する。
1:有利な現状を存分に活かしフィガロ城内の人間を殺す。
2:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
3:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。





「分かれ道でミスったか?」

セッツァーと分かれてどれ位経っただろうか。
俺は未だに地下の世界で迷子になっていた。
失敗だった。
効率よく地上へ帰るために頭のよいパートナーを探していたっつうのに。
せっかく出会えたセッツァーと早々に別れてしまった。
休むにしろせめて地上にまで連れて行ってもらうべきだったのだ。
そんな簡単なことでさえ思いつかねえ程リーザとナナミのことは響いていたらしい。
馬鹿か、俺は。
今でも地上じゃリーザやナナミを殺した奴、ルカにくされトカゲはのうのうと人を殺し続けているかも知れねえってのに。
エルクやちょこは言うに及ばず、冷静なようでいて人一倍仲間想いなシュウも悲しみを押し留めて抗っているだろうに。
なに一人こんな人っこ一人いねえような場所を彷徨ってんだよ!
一向に光射さない世界も相まって、苛立ちは募るばかり。
いい加減、生き埋め覚悟で天井に真空斬でも連発して穴を開けてやろうかと思い出したときに、それは起こった。
97風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 10:05:25 ID:19f20tI+

「うおおっ!?」

何かがぶつかったような衝突音、遅れて振動。
洞窟は相当頑丈に作られていたのか、幸い落盤なんざはちっとも無かったが、相当な衝撃だった。
不意打ちとはいえ崩しかけちまったバランスを立て直し、即座に音のしたほうへと走る。
どう考えてもただ事じゃねえだろ、こりゃ!
まさか俺やセッツァー以外にもあの津波に巻き込まれて地下に流された奴らがいて、そいつらがおっぱじめやがったつうわけか!?
もしそこにエルクが首を突っ込んでたら。もしシュウの奴が関わってるとしたら。もしちょこの奴が馬鹿みてえに暴れているなら。
居ても立ってもいられず走り出す。

「こりゃあ……」

城だった。
どっからどう見ても目の前にあるのは城にしか見えなかった。
俺は迷いに迷った末に振り出しに戻ってきちまったのか?
いや、そうじゃねえ。
俺がさっきまでいた城と違い、この第二の地下の城は死んじゃいねえ。
傷が全くねえわけじゃねえが、きちんと手入れもされている。

「……オディオの中じゃ地下に城を建てるのがブームなのか?」

陰険根暗なあの野郎にゃあお似合いなこった。
正直未だにオディオのことはナナミから聞いた以上には思い出せねえが、殺し合いなんて馬鹿なことを考える奴だ。
そうに決まってらあ。

「さてと、正面の城門はしまってるみてえだが……」

あの轟音がこっちの方からしたのは確かだ。
多分中で誰かが闘ってるんだろ。
ならやることは一つだ。
城門を押し破るなり飛び越えるなりしてでも中に押し入るのみ!
98風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 10:09:21 ID:19f20tI+
【C−5北西 古代城への洞窟、移動してきたフィガロ城前 一日目 午前】
【トッシュ@アークザラッドU】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ひのきの棒@ドラゴンクエストW
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式 、ティナの魔石 、果てしなき蒼@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:地下の城その2に乗り込む。地上への出口は一時後回し
2:果てしなき蒼は使わない。
3:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい(特にシュウ)。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
7:あのトカゲ、覚えてろ……。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※果てしなき蒼@サモンナイト3はトッシュやセッツァーを適格者とは認めません。
※セッツァーと情報交換をしました。ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。



※フィガロ城は蒸気機関を始動させることで地下施設間を城ごと潜行させ高速で自動地中移動できます。途中停止不可。
 遺跡ダンジョン、背塔螺旋だけではなく、古代城への洞窟など地図に載っていない地下施設にもいけます。
 一度この機能を使えば、次の放送後まで使用不可。
※D-7南部からは入れる地下水路は途中で古代城への洞窟とフィガロ城到着ポイント方面に分岐しています。
99風雲フィガロ城  ◆iDqvc5TpTI :2009/05/18(月) 10:12:47 ID:19f20tI+
投下終了。規制が解けたため自分で投下しました。
感想・意見があれば幸いです
100創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 21:14:50 ID:dqD6oo57
投下乙。
トカとゴゴ自重しろwww
付き合わされたリオウが災難過ぎるぞw
しかし彼らのおかげで悲しみからは抜け出せたと考えれば結果オーライなのかな。
地下に潜ったフィガロ城という閉鎖的場所だけに、シャドウが怖い。波乱の予感がするぜ。
101創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 03:35:32 ID:f0eOQmds
まず◆E8Sf5PBLn6さん、投下乙!
クロノ勢3人が集結しそうですね。カエルに出会ったときのルッカの反応が楽しみ。
ジョウイと熊さんも再開っぽいかな。こっちもこっちで一波乱ありそう……。
出会いと別れが多くなってきて、個人個人の持っている情報が分かりづらくなってきましたが、しっかりと把握されていて分かりやすかったです。
個人的には遺跡の『彼女』に期待。出てきたらそれはそれでやば過ぎるけどwGJ。

◆iDqvc5TpTIさん投下乙!
誰もが待ち望んだ(?)ダブルトカ! これは酷いw素晴らしく酷いw
シリアスからギャグまでこなして、ゴゴはなんて万能キャラなんだろうかw
フィガロ城を動かしてくれたのは個人的にGJです! いろいろと面白い事ができそう……。
常に先のことまで考えて話を書いてらっしゃるその姿勢には、ほんと頭が下がります。
しかしシャドウが怖いな。覚悟完了した強マーダーが地の利まで得て、最悪の敵じゃないですかw
トッシュまで参戦して、とてつもない激戦の予感……。もうトカは今のうちに家にでも帰れよw
個性豊か過ぎる登場人物の中でも、特にゴゴの凄さを再認識しました、GJ!!!


あと、過去ログを作ってくれた人もGJ!!
存分にニヤニヤさせて貰いましたよw
102創る名無しに見る名無し:2009/05/19(火) 22:59:35 ID:STYK2zH/
投下乙!!

これはいいフラグを作ってくれましたね。
フィガロ城が移動機関と化して戦場へ…
トカをよく書けるなあ。あの難しいのを。
点名牙双は予想外だった…
GJ!

指摘
点名牙双がゴゴの装備欄に無く状態欄にあります。
103創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 02:10:50 ID:7e0SDPh7
予約期限過ぎてない?
104創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 02:14:50 ID:QZwo8kl1
予約は5日有効。これは投下数は関係なくみんな一緒。
んで、3話以上投下した人は、更に3日の延長が出来る。
まだ予約は切れてないよ。
105創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 14:31:09 ID:vMqIMBiB
いやっはー!
また予約が入ったぜい!
自己リレーOKですよー、放置されてたし
106◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 16:52:06 ID:vMqIMBiB
悲しみも、不安も、恐怖も、辛さも……今はすべて忘れていよう。

何もかも、真っ白にして。

揺れるこの心も、これから先、私が選ばなければならない道も、いまだけは桃源郷の彼方。

そう、ここに嫌な物は何一つない。

苦手の男の人も、怖い魔王も、襲ってくる誰かも、ヒヨコも……。

あるのは何もかも忘れて、身を委ねたくなるような温かいものばかり。

うん、分かってるの。

それが私の我が儘だって。

リンとヘクトル様をお助けしないといけないのは分かってる。

でも、今はとても疲れていて。

ここに来てから誰かに心を許したこともなくて、ずっと緊張の糸を張り詰めていたから。

その緊張の糸が一気に切れたとき、どうしようもなく眠くなった。

痛みと疲れで、抗いがたい欲求が込み上げてきた。

だから、今だけはエドガーさんの背中を借りて眠った。

ずっと迷っている考え事を先送りにしてたけど……。

起きた後でそのことについてまた考えればいい。

性急な決断をしてもいいことは何もないから。

それに、罪もない誰かを殺すのはやっぱり気が引けるから……。

だから今はもっと深く、深く意識を沈める。

今だけはこの淡い温もりに浸っていよう。

そして、チョコレートのように甘い夢を見るの。

リンもヘクトル様も、ニノもいる素敵な夢を―――。
107◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 16:54:27 ID:vMqIMBiB



◆     ◆     ◆



美しい女性だと、私――エドガーは一目見たその時から思った。
エメラルドグリーンの色を持つ、絹糸のような繊細な髪の毛も。
彼女の持つ、神秘的な雰囲気と佇まいも。
憂いを帯びたその表情でさえも、彼女の美しさを一層引き立てる要素に思えた。
幾多の女性を口説いてきた私でも、一瞬口説くことを忘れ思わずため息を漏らしてしまうほど。
それほどまでに、ティナ・ブランフォードは美しい女性だった。

でも、同時に幸の薄い女性だとも思った。
ガストラ帝国によって思考を奪われ、物言わぬ人形へと変えられ、したくもない人殺しをさせられたのだから。
記憶を失って、自分が何者であるかも分からない内から、失われた魔法を使えるという理由で特別視され、帝国への反抗組織「リターナー」へと協力を依頼された。
もちろんそこに、帝国と同盟しておきながら「リターナー」に協力していた私自身の計算や狙いもあったのだが。
そこから、目まぐるしく彼女の周囲を取り巻く状況は動き続け、ケフカを始めとする数々の敵と戦い続け、ようやく平和と幸せを手に入れたはずだ……はずだったんだ。
戦いの中で、幻獣と人間のハーフだったということが判明したティナ。
故に、と言うべきかは今となっては分かりようもないが、彼女は愛や恋といった感情を上手く認識できずにいた。
そういう概念がないのではない。
上手く認識できなかっただけなんだ。
だから、いつもそのことに苦しんでいた。
自分が他の人とどこか違うと、彼女は真剣に悩んでいた。

世界が崩壊した後、小さな村で暮らす内にようやく愛情などの自分に欠けていた感情の正体を知り、人としての幸せを得られるはずだったんだ。
でも、ティナに待っていたのは幸せな日々ではなく、未知の島での無念の死。
ああ……まったくもってやるせないな。
彼女に死なないといけないほどの、一体どんな罪があったというのか、誰か教えてくれるのなら教えてほしいものだ。
それに、許せないじゃないか。
ティナを殺した誰かも、こんなことをさせるオディオも、そして、仲間の死に駆け付けることもできなかった私の無能さも。

だから、俺は皆を纏め上げる『王』を探し求める。
『王』なんて大仰な肩書でなくともいい。
『リーダー』でも、『まとめ役』でもいいのだ。
とにかく初対面に等しい人間の間に生じる衝突や軋轢といったものを緩和し、オディオを倒すという目的に正しく導ける役目を持った逸材。
右も左も、どうすればいいかも分からないこの絶望の状況の中から、一筋の輝く希望を見いだせる存在。
そういった『王』を見つけ出すのがここでの俺の役目。

それに、それ以外にもやらないといけないことは多い。
例えば、ケフカへの対策。
ティナが死んだことにより、対ケフカへの重要な戦力が一つ失われてしまった。
幻獣と人間のハーフであるティナは、幻獣の力を解放する「トランス」を使えば、絶大な力を発揮できる。
無論、ティナ一人がトランスしたくらいであのケフカを倒せる訳ではないが……。
ティナやシャドウや私、セッツァー、そして弟であるマッシュや他の多くの仲間の力を合わせた上で、それでもギリギリの勝利だったのだ。
対ケフカにおいて、ティナは重要な戦力として計算していたが、大幅に修正を余儀なくされてしまった。
108◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 16:56:09 ID:vMqIMBiB
……戦友が死んだ割にやけにドライじゃないかって? 
ああ、確かに人からは切り替えが早すぎだと思われるかもしれない。
でも、私は――エドガー・レネ・フィガロは国王であり、皆を導くと心に決めたのだから。
敵と対峙した時、睨みつけるだけでは敵は倒せないだろう?
それと同じで、誰かが死んだ時に悲しんでいるだけでは、オディオもケフカも倒せたりはしないのだ。
それに、ご心配なく……。
外見は平気なように見せかけているだけで、私自身内心では嵐のような感情がうねり狂っているのだから。
シャドウのこともあったし、平静なように見えて私自身も色々と思うことがある。
かつての私の仲間が、盤石の意思で統一されているということはない。
シャドウとは少しだけ心を通わせることができたが、それでもシャドウと私の目的が今のところ相反するものであることに否定の余地はない。
ケフカへの対策のこと、ここに集められた人間全員にはめられたこの窮屈で忌々しい首輪を外す方法の模索、
魔王オディオ打倒のこと、もっと多くの仲間を集めること、シャドウをはじめとする目的を異にする者への対処。
やらなければならないことは山積みだ。

でも、今は休憩の時間だ。
フロリーナが寝ているからな。
死者の発表の時間になっても、寝ていたままだった。
緊張の糸が一気に切れたのか、泥のように眠っている。
私も眠ってくれていた方が好都合なので、起こすこともしなかった。
開始から六時間経って、そろそろ睡眠が必要になってくる時間帯でもあったし、シャドウとの戦いの影響もあるだろう。
男性が苦手なようだから、もう一度私の目の前で眠ってくれ(安全のためであって、他意はない)と頼んだところで、素直に聞いてくれる確率も低い。
ここは起こすことなく熟睡してもらおう。
どうせこれから過酷な戦いがいくつも続くはずだ……フロリーナの戦いの相手が誰なのかは置いといて。
人間は睡眠しないと生きていけない動物だ。
いつか寝ないといけないのなら、今寝てもらった方がいい。

それに……この気持ちよさそうな寝顔を起こすのは紳士として躊躇われる。
ああ、若さとあどけなさと幼さと美しさとかわいさが同居したいい寝顔だった。
よほどいい夢でも見ているのだろうか?
少しくらい、この顔を私の前でもしてくれたらいいのになと思う。
警戒されるような、怪しいことはなにもしていないはずなのだがね。
ヘクトルという男の前でなら、こういう顔をしているのだろうか?
まぁヘクトルという男に会えば、その辺りのことも分かるだろう。

私は睡眠は後回しでいい。
元々、国王という激務についていたからな。
普通の人の半分以下の睡眠でも問題なく活動できるつもりだ。
だから、この村に着いてフロリーナを安全な場所に寝かせた後は、ある程度の探索はしておいた。
そして、村の中にある一番大きな家、壽商会(ことぶきしょうかい、と読む)の一室で機械弄りをさせてもらっている。
商会という名ではあるが、ここで何か売っていたような形跡は見受けられない。
どちらかというと、研究所とかそういった名称の方が適切なように思える。
ドリルもノコギリも、およそ工学的な道具類を全くもってなかった私が機械弄りをできている理由は、この壽商会に様々な工具類が置いてあったからだ。

そこにあった見たこともない技術系統に、マシンナリーとしての血がざわめいてしまった。
昭和ヒヨコッコ砲をみたときと同じ気持ちが湧き起こってきたのだ。
フロリーナが寝ていたこともあったし、私はここに置いてあったものを渡りに船とばかりに解体しては再度組み立てたりして、好奇心を満たしていった。
正直、最初にこの建物に入った時はこの家の持ち主のセンスを疑ったりしたものだ。
茶色い壁に、意味不明のオブジェクトが所狭しと並んでいたのだから。
変なお面があったり、いかがわしい模様の壺がいくつもあったり、ピンクのゾウがあったり、そんな訳の分からない物がいっぱいある中に木琴という常識的な楽器が一個だけ置いてあったり……。
およそ私の備えているセンスとか常識とかいったものでは、理解しがたい構成がされていた。
しかし、この私でさえ未知の部分といえる領域に踏み込んでいる技術だけは感心できる。
願わくば、この建物の主と酒を飲みながら、お互いの持つ機械の知識を大いに語り明かしたいものだ。
無論、その相手が美しい女性であるなら言うことはない。
相手が犯罪になる年齢でなければ、基本的に私はノーボーダー。
年齢で好きになる人の対象の範囲を狭めるのは愚かだと言うものだ。


109◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 16:58:41 ID:vMqIMBiB
「ふぅ……」

カチャカチャと音を立てていた行為をやめ、夢中になっていた機械弄りを中断し一時休憩に入る。
現在のところ、私の好奇心を最も刺激しているのは「物質転送装置」なるものだ。
読んで字の如く、何かを遠い場所に転送できる装置のようだ。
しかもこの機械、おそらく人間でさえも転送できる設計がなされている。
マシンナリーとしての私の勘がそう告げている。
この機械でさえも夢中で解体していたところ、設計の随所にそういう意図が見受けられたからだ。
勘というのは当てずっぽうなどではなく、豊富な経験に裏打ちされた重要な能力の一つだ。
それを勘で悟った時、今度は私の好奇心と同時に使命感が膨れ上がってきた。
人間でさえも転送の対象に入るのなら、必ずやこれは我々の便利な移動手段になる。
森や山を越えるのは大幅に体力を消耗するからだ。
しかし、残念ながら解体していたこの機械の配線の構造などを見ていた時、少し設計に齟齬というか、不備を見つけてしまった。
便利な装置を見つけ無警戒に使用しようとした人間をはめるオディオの罠なのか、設計者の単なるミスなのかはよく分からない。
おそらく、このまま使用していれば、装置が壊れたり爆発してもおかしくなかったんじゃないかと思う。
私が一番に見つけたのは僥倖というものだろう。
しかも、ミスしていた部分は私の知識でもカバーできるものであった。
これ幸いとばかりに、私はそのミスの部分を直していたのだ。

「少し休憩するとしようかな」

神経をとがらせて作業していたため、少し疲れが残る。
大体工程の半分くらいは消化できたと思う。
特に作業に詰まったところもないが、機械弄りというのは精密な作業な要求されるから、見た目以上に疲れる。
背筋を伸ばして、伸びをする。
凝った肩や腰を揉み解しながら、もっと下の階層に階段を使って降りていく。
同じような間取りの部屋がを10回、カツカツと靴の音を立てながら降りた。
降りても降りても同じような空間が続いてたから、最初にこの階段を利用していたときは自分が同じ場所を延々ループさせられているような錯覚に陥った。
だが、数えながら階段を降りること10回目、私は無事ループさせられたのではなく、ちゃんと迷うことなく最下層にたどり着いた。

この壽商会を逗留場所に選んだのには、二つほど理由がある。
一つはさっきも言ったように私の好奇心を満たすため。
そして、もう一つは安全上の問題だ。
階段を降りても降りても同じような空間が続けば、同じ場所を延々と迷ってるような感覚に陥るのは分かるだろう。
そこで、人によっては何者かによる罠などの可能性も考え、階段を最下層まで降りきることなく、引き返す可能性もあるからだ。
また、誰かが襲ってきても、上の方の階層にいる私が敵を食い止めることができる。

フロリーナは最下層に横たえて寝かせてある。
睡眠という、生物に欠かせない欲求を満たす上で問題になるのが、寝込みを狙った襲撃。
ここはそんな安眠を貪る上で、ベストとは言えないがかなりの好条件だ。
最下層にたどり着きフロリーナの寝顔を盗み見ると、そこには先ほどと変わらない、安心しきった寝顔を浮かべていた。
多少寝心地は悪いだろうが、それは安全の確保という名目上、我慢して欲しい。


110◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:00:35 ID:vMqIMBiB
そしてもう一つ、最下層の主とも言うべき物体と対面する。
それは私とフロリーナがここに来たときから、ずっと鎮座していた。
一言で形容するならば、「ブリキを材質に使った超巨大な魔導アーマー」か。
名前はブリキ大王というらしい。
大王……王である私よりも偉い存在なのか……などという他愛もない思考が過ぎる。
何故材質がブリキなのかはよく分からない。
確かに腐食しにくいという特性はあるが、それならミスリルなどを使ったほうがよさそうなものだが……。
ブリキ自体に何らかの儀式によって、効果や属性が付加されているのかもしれない。
それよりも、これを超巨大な魔導アーマーと呼称したのはちゃんと訳がある。
明らかに、これは戦闘を目的とした設計が成されているのだ……しかも、「肉弾戦」を主眼とした設計方法が。
もちろん、ミサイルやレーザーなどを射出するための機構らしきものはあるにはあるが、それはこの機械のメインウエポンではない。
頑丈に作られている巨大な腕と脚部は、明らかに物を掴むため巨体を支えるためというよりは、敵の破壊を目的にされている。
仮に魔導アーマーとこのブリキ大王が戦ったとき、それはもはや勝負とはいえない一方的な惨殺になるであろう。
勝者がどちらかは言うまでもない。
ガストラ帝国の物でもない、ましてや我がフィガロの物でもない。
そんな巨大な戦闘兵器がこの壽商会で沈黙して、訪れる客を待ち構えていた。
初めて見たとき、私は思わず圧倒されたものだ。
この兵器が襲ってくる可能性も懸念したが、頭部にあるコクピットらしき場所に誰かが乗り込まないと操縦できないようだ。

頭部に乗る方法はご丁寧にここの一階に丁寧に貼り紙がしてあった。
ちなみに貼り紙に書いてあったのはこうだ。
『ブリキ大王に乗る方法
 まず ピンクのゾウをさわり 
 本を読む。
 そして もっきんをたたき
 青いマスクをさわったら
 地下のブリキ大王を よ〜く
 おがむ(手を二回叩いてな〜む〜、と言う)
 しかる後、
 ちゃんと手をあらってから
 トイレにしゃがむのじゃ』
……一応、ゾウも本も木琴もマスクもトイレもあるにはあったが、何故ここまで面倒な方法なのかは理解に苦しむ。
有事の際に、ここまで複雑な手順を取る余裕があるのだろうか?
そうは言っても、実のところこの手順を忠実に試したわけではないが。
仮に、これで本当にブリキ大王が起動したとしても、操作法を誤って同じく最下層にいるフロリーナを踏み潰したりしては笑い話にもならないからだ。
それに、あの巨体が地下深くからどうやって地上に出るのかという疑問も尽きないが、ここは海岸近くにある建物。
これを海に通じていてそこから出てきたりする、というのは都合がよすぎる考えだろうか?
それも含めて、試すのはフロリーナが起きてからになるだろう。
111◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:01:55 ID:vMqIMBiB
図らずも、使いこなせば強力な兵器と便利な装置が見つけられた私だが、未だに光明は見えない。
魔王オディオに対抗する足がかりも、首輪を外す目処もまだ立ってない。
ここにある設備なら多少は首輪の解析もできるかもしれないが、如何せんサンプルとなる首輪がない。
私自身やフロリーナの首輪を、首に嵌めたまま解析するのは言語道断だからだ。
さっきも確認したが、やることは本当に山積みだ。
だが、今の私はへこたれない。
やるべきことをキチンと思い出せたからな。
腑抜けていた時ならともかく、今の私には使命感がある。
それに戦友に――シャドウに誓ったからな。
我が弟であるマッシュも、その場にいたら腑抜けている私は私なんかじゃないと言っていただろう。
未だ眠りから覚めない眠り姫の寝顔を最後に拝んでから、決意を胸に秘めて私は階段昇っていった。



◆     ◆     ◆



私の名前はフロリーナ。
イリア天馬騎士団の見習いで、今はキアラン侯爵家に仕えているの。
傭兵稼業が盛んなイリアの天馬騎士団に入団するためには、ある一つの条件がある。
それは、「一定期間、他国の騎士団、または傭兵団に仕えた経験があること」
外で得た知識と経験は、必ずその人の血と肉になって役立つかららしい。
イリアにいるだけでは決して得られないものが手に入る。
だから、私もそれに習ってキアランの騎士隊に入隊した。
男の人が極端に苦手な私にとって、他所の騎士団はイリアと違って男の人ばかりで窮屈だったけど、
そこは親友のリン――今は主従の関係だからリンディス様と呼ばないといけないけど――がいる場所だから頑張れた。
男の人が嫌いなわけじゃないの、でも……どうしてか男の人が目の前にいると緊張して声がどもってしまって……直さないといけないのは分かってるけど……。

とにかく、リンがいたし、いつか立派な天馬騎士になってお姉ちゃんたちを喜ばせたいから、私はいつも頑張ってこれた。
極寒の地であるイリアは一年中雪が降り続け、作物がまともに実らないの。
主な稼ぎ口は他国で傭兵をするとか、そういうのしかない。
だから、イリアの人間は他国では嫌われることもある。
戦争好きだとか、人殺しが趣味だとか、そういう謂れのない嘲笑や侮蔑の対象にもなる。
昔は、そう言われるのが私もいやだった。
だって、そうでしょう?
人殺しとか言われてうれしい人間なんていないもの。
昔は、じゃあ皆で他の国に移り住めば傭兵なんかしなくてもいいって思ってたけど、それは現実的じゃないと、思春期を過ぎてから気がついた。
イリアは豪雪地帯だけど、かなりの人口が住んでいる。
そんな大量の職も持たない人間が安住の地を求めて他国に行くとどうなるか?
それは、つまり『難民』と呼ばれる存在になる。
働く気力と意志があっても、いきなり押し寄せてきた難民全てに衣食住そして労働環境を提供なんかできない。
結果として、已むに已まれぬ事情で犯罪に手を染める人間も増えて元の木阿弥になる。
それに、他国に移住しようとしてもお年寄りや病人など、したくてもできない人がいる。
私が小さな頃に考えていた素晴らしい考えは非現実的だったのだ。
112◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:04:29 ID:vMqIMBiB
どれだけ嘲笑や侮蔑を受けても、イリアに積もる雪は決して融けてくれない。
私が将来の夢を考えるようになったのは、非情な現実を受け入れてからだった。
その頃には、二人のお姉ちゃんも見習いを終えて立派な天馬騎士になって、イリアの人にお金や食料を与えていた。
その姿を見て、傭兵という職業でも誰かを幸せにできると気がついて、私もお姉ちゃんたちのような立派な天馬騎士になることを夢見た。
すでに一部隊の隊長を任されるほどになったフィオーラお姉ちゃんや、いつもすごい金額を稼いできてくれるすご腕のファリナお姉ちゃんみたいになりたかった。
天馬騎士の道を志すようになってから、相棒である天馬のヒューイ、親友であるリンと出会って、楽しい時間があっという間に流れた。
そして、穏やかな時間が流れてから少し後に、激動の時間が待っていた。

切っ掛けはリンの部族がリン以外皆殺しにされてからだった。
無口だけど優しかったリンの父親も、どこかの貴族のお姫様みたいに綺麗だったリンの母親も、すべてが殺された。
そこから、リンがリキアの貴族の血筋を引いてることが分かって、キアランという領地に行くことになった。
そこにリンの祖父がいるという話をケントさんやセインさんに聞いたから。
リンのおじいさんと出会って、リンが侯爵の孫娘になってから、私もリンの傍にいたかったし、傭兵の経験を積む上でも一石二鳥だから、そこで働いた。
でも、同盟を組んでいるはずのラウス候の襲撃を受けてからまた状況は大きく変わり、いつの間にかネルガルという世界の平和を脅かす脅威と戦うことになっていた。
戦いの最中で、どこかで傭兵をしているはずのフィオーラお姉ちゃんともファリナお姉ちゃんとも再会して、ヘクトル様にも出会った。

世界が今度こそ平和を取り戻して、平穏な日々が待っているはずだったのに……。

でも、今はそれを考えるのはやめよう。
とても疲れているから。
リンかヘクトル様かどっちかしか生き残れないような過酷な戦いのことは今は忘れよう。
エドガーさんには悪いけど、今はこの想いに浸っていたい。

リンもヘクトル様も、フィオーラお姉ちゃんもファリナお姉ちゃんもニノもいるこの夢を見ていたい。
そこではリンとヘクトル様が私に笑いかけてくれている。
仲たがいしているはずのお姉ちゃんたちが手を取り合っている。
ニノと私が仲良くお話をしている。
リンが侯爵の娘なんていう堅苦しい身分から開放されて草原で笑っていて。
ヘクトル様が私に好きだと言ってくれて、私も好きだとハッキリと返事ができて。
お姉ちゃんたちと一緒に立派な天馬騎士になって、部隊を率いるようになって。
ニノとも変わらない友情をずっと続いて。
ああ、なんて素敵な夢なんだろう。
男の人が苦手のはずなのに、克服してヘクトル様とも真正面から話せる。
まだ未熟なのに、お姉ちゃんたちと肩を並べて戦えるようになってる
チョコレートのように甘い夢。
甘くて、甘くて、虫歯になってしまいそうなほどの楽しい夢。


113創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:06:15 ID:CkCCWSQd
 
114創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:07:57 ID:XLRk4G3j
支援
115◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:07:59 ID:vMqIMBiB






―――――――そんな夢が、不意に中断させられた――――――






胸に熱いものを感じて、私は飛び起きた。
夢から覚めたばかりで頭はボーッとしていて、辺りを見回してもここがどこなのか分からなかった。
でも、ようやく気がつく。

ああ、これは夢の続きなんだ――。

ものすごく大きなブリキの巨体がこの世に存在するはずないし、エドガーさんの背中に揺られていたのにエドガーさんもいない。
極めつけは、『もう一人』私がいることだ。
私は私、フロリーナが二人もこの世に存在するはずがない。
だから、これは怖い夢なのだと思った。
もう一人の私が紅いナイフを持っているのも、さっきから眠くてしょうがないのも、夢の続きだから。
そう、目を閉じればヘクトル様やリンがこっちにおいでと手招きしている。

(ああ、あそこにいかなくちゃ……)

私は再び意識を深くに沈める。
楽しい夢をまた見るために。
そして私は永遠の夢路へと旅立った。

永遠に……。

永遠に…………。

永遠に………………。




果たして彼女の何がいけなかったのだろうか?
決断の遅さが招いた事態なのか、それともエドガーたちを裏切ることを一瞬でも考えた罰なのか?
答えは分からない。
だが、彼女はこの上もなく幸せな死に方をしたと言える。
痛みをほとんど感じることもなく、苦しみを味わうこともなく、幸せな夢を見ながら死んだのだから。
そう、覚めることのない、永遠の旅へと――



◆     ◆     ◆



エドガーが最下層から戻ってきて、再び物質転送装置の修復をしていた頃だった。
階段を昇る音が一つ、エドガーの鼓膜を振るわせ感知する。
もとより、下の階にいる人間などフロリーナただ一人。
ようやく起きたかと、機械弄りを中断して服装を整えて、紳士らしい笑みで出迎えた。
116◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:10:12 ID:vMqIMBiB
「やぁフロリーナ、目覚めはどうかな?」
「はい、大丈夫です」

寝ぼけた様子もなく、フロリーナはエドガーの問いにハッキリと答える。

「それよりも、大事な話があるんです」
「何かな? 私に話せることでよければ、何でも話して欲しい」
「じゃあそっちに行きますね」

昇って来た階段付近に留まっていたフロリーナが、無言でエドガーの傍に寄ってくる。
大事な話だから、傍で話をしたいということか。
そう思い、エドガーもフロリーナが近くに来るのを待っていた。
見れば、フロリーナの手には一本のナイフがある。
デーモンスピア、ダッシューズに続く、フロリーナの最後の支給品だとエドガーは推測していた。
眠りから覚めてみれば、傍に誰もいない状況では不安になって、支給されたナイフを護身用に持ったまま探索をしていた、というのは有り得ない可能性ではないからだ。そして、フロリーナがあと一歩踏み込めばエドガーに触れる距離まできたところで――

フロリーナが突如、右手に持っていたナイフで襲い掛かる!

しかし、エドガーもまた易々と死んだりはしない。
フロリーナの隠していた真意に元から気づいていたからだ。
大事な話をしたいからというのも、如何にも殺すために近づきたいという意図に見えたので、初めからエドガーは身構えていただけだ。
刹那の交差の瞬間、エドガーはナイフを持っていたフロリーナの手首を掴み取り事なきを得る。

「痛ッ! 離して!」
「そういう訳にはいかないな。 少なくともこれを離してもらうまでは」

エドガーがフロリーナの手首を強引に締め付け、フロリーナは痛みに震える声を漏らしながらナイフを手から離す。
金属音を立てて、ナイフが地面に落ちる。
徒手空拳でなら、フロリーナがエドガーに勝てる勝算はもうない。

思えば、フロリーナの行動は最初からおかしかった。
いきなり近づいて話をしようというのも、口調も、何もかもがおかしいのだ。
フィガロ城で、エドガーがフロリーナとお互いの知人などの情報を教え合おうとした際にも、多大な労力が強いられたのだ。
さらに、男が苦手なフロリーナのはずのフロリーナが、自分から近づきたいのというのもおかしな話。
口調ですら、一つの単語を喋るのにも時間がかかっていたフロリーナとは思えないほど、ハキハキとした口調だった。
エドガーでなくても、警戒するというものだろう。

「私は君の考えていることに気がついていた。 君自身は自分のことをどう思っているか知らないが、君は隠し事が極端に苦手なようでね」

つまり、来るべき時が来たのだと、エドガーは覚悟する。
フロリーナの中の天使と悪魔の戦いは、悪魔が勝利したのだと。
だが、恐れることはない。
フロリーナの心の中の葛藤はエドガーも出会ったときから知っていたし、今のエドガーには使命に燃える強い心がある。
そう、フロリーナのような人を殺すことを選んだ少女を正しく導くのも、エドガーのなすべき役割の一つなのだ。
いつまでも問題を先送りにしているより、今ここでフロリーナの葛藤をスッパリと清算させ、正しき道へと戻す方がいい。
つまり、エドガーにとって、ある意味この状況は好都合。

「安心してくれたまえ。 君の捜しているリンもヘクトルの名前もまだ呼ばれていない。 君はまだ大丈夫、戻れるんだ。 
 私がここでのことを口外しなければ、君はいつだって戻れるし、もちろん私も決して誰かに密告したりしないと、エドガー・ロニ・フィガロの名にかけて約束する」
 
そう、誰も殺していないし誰も傷つけてない。
感情に流され一時の過ちを犯しただけだと、諭すような口調でフロリーナに語りかける。
しかし、それは無駄な説得に過ぎない。
目の前にいる少女はそもそもフロリーナではないのだから。
117◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:12:01 ID:vMqIMBiB

「離して!」

エドガーの力が緩んだ一瞬の隙をついて、フロリーナはエドガーの手を振り解き、逃げ出す。
昇ってきた階段を降り、再び最下層に行く。

(だが、逃げ場はないぞフロリーナ。 君は私と真正面から思いの丈をぶつけるしかないんだ!)

上に逃げたのならともかく、下に逃げては逃げ場がない。
一瞬で仕留める計画だったが、意外にも阻止されて狼狽するままとりあえず近くにあった階段を降りたか、エドガーはそう結論付ける。
移動スピードを高めるダッシューズも、逃げ場がないのではそもそも意味がない。
さぁ、うまくやれよエドガー。
皆を導くための、最初の一歩だ。
彼女を説得して、本当の意味での味方にする。
フロリーナから遅れること数秒、エドガーも最下層への階段を10回降りて、ついに追い詰める。
追い詰めたはずだ……そのはずだった。

しかし、目にしたのは――




胸から大量の出血をして、息絶えたフロリーナの姿。




「何だと……馬鹿な!?」

おかしい、なにもかもがおかしすぎる。
さすがのエドガーでさえも、混乱し、狼狽せざるを得ない。
何故自分自身を殺そうとした女が、少し目を離した隙間に死んでいるのか。
まさかエドガーを殺すべく行動を開始したのはいいが、いざやってみたら罪の意識に耐えかねて自殺したか?
その他にも様々な可能性を考えるが答えは出ない。

実際はフロリーナの死体にはおかしな点が多々ある。
自殺したのなら凶器を握り締めていないといけないのに持ってないこと。
フロリーナの手にはデーモンスピアもナイフも手元にない。
エドガーから逃げて自殺を測ったにしては、あまりにも死ぬのが早い。
出血の量が数秒前に胸を刺したにしてはあまりにも多すぎる。
最後にフロリーナが階段を降りていたとき、彼女の足には移動を速くするダッシューズではなく、ヘイストのかかるミラクルシューズを履いていたこと。
しかし、エドガーもこのまま混乱したままではいない。
いずれエドガーはフロリーナの死体にある不審な点を検証して、外部犯の可能性を見出すかもしれない。
エドガー・ロニ・フィガロとはそこまで優秀な男だから。
実際、彼が狼狽していたのもほんの一秒ほどだけ。
フロリーナが死んだ事実は悲しいものの、彼は国王たる責務を思い出し、すぐに立ち直っただろう。

だが……。

だが、しかしだ……。
118創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:12:05 ID:XLRk4G3j
119創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:12:47 ID:XLRk4G3j
支援
120◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:13:00 ID:vMqIMBiB





その一秒は……かくれみのを使っていた『暗殺者』にとって十分すぎる時間だった。





エドガーの背中から、暗殺者はそっと、音もなく心臓に刃を突き立てる。
一瞬の後、エドガーに思わず声を漏らしてしまうほどの激痛が走る。

「うぉ!?」

突如背中に襲い掛かった暗殺者の追撃を許さなかったのは、さすがエドガーといったところか。
前のめりに倒れそうになるが、気力で脚を動かし何者かからの攻撃範囲から離れる。

「何だ……一体何が!?」

激痛に顔を歪めながら振り返ったエドガーの前にいたのは、闇のような黒衣に身を包んだ赤い髪の少年……いや、青年か。
この青年は音も立てず、気配も感じさせることなくエドガーの背中を取った……。
これと似た雰囲気を持つ男とさっき会ったばかりのエドガーの心が、激しく警鐘を鳴らす。
目の前の男は、間違いなくシャドウと同じ暗殺者。
実力も、シャドウに勝るとも劣らないプロの中のプロだろう。
だからこそ、ヤバイ……。
シャドウがエドガーの前に姿を現したのは、エドガーとシャドウが知り合いだから。
では、何故エドガーの目の前に現れた新たな暗殺者は必殺の一撃を加えた後にも姿を消さず、姿を見せているか。

暗殺者がターゲットの目の前に姿を現すのはどんな時か?
ターゲットを殺すためか?
否、それは二流三流の暗殺者がやることだ。
ならば、一流の――真の暗殺者がターゲットに姿を見せるのはどんな時か?

(俺は……皆を導くと決めたんだ!)

致命傷を負わされながらも、意味不明の事態が連続して起こっても、アルマーズを構えるエドガーの判断力の高さは賞賛されてしかるべきだ。
心臓を深く貫かれても、己が使命を忘れない辺りはさすが国王といえよう。
121創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:13:30 ID:XLRk4G3j
122◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:14:03 ID:vMqIMBiB

「うっ……おおおおおぉぉぉぉぉ!」

最後まで諦めず、アルマーズを持って暗殺者にエドガーは向かう。
だが、それは悲しいまでに無意味は抵抗だった。
話を元に戻そう。
一流の暗殺者がターゲットの前に姿を現すときとはどんな時か?
それはつまり、もう姿を隠す必要がないから。
暗殺者が仕事を終えたことを意味する。





―――――つまり、エドガーの命はもう―――――





僅かばかりの時が経って、壽商会のドアを開けて二人の男女――いや、今は男の二人組が出てきた。
暗殺組織『黒い牙』における最高の暗殺者に贈られる称号『四牙』の異名を持つ死神、ジャファル。
そして、死ぬ直前にフィガロ国王エドガー・ロニ・フィガロの姿を借りたシンシア。

エドガーにはいくつか誤算があった。
それはつまり、壽商会には自分とエドガー以外誰もいない、というもの。
実際は、エドガーがこの壽商会を訪れたとき、すでに先客がいたのだ。
だが、先客は身を隠すことのできる支給品『かくれみの』を使って、本来は一人用のこの隠密道具で器用に二人分の姿を隠し、エドガーの認識をやりすごしたのだ。
だが、エドガーもさるもの。
ジャファルとシンシアが身を隠してからも、一向に襲撃できる隙は見せなかった。
壽商会の探索をしていたときも、機械弄りをしているときも、いつ如何なるときも。
国王という立場上、暗殺の危険を知っているエドガーだからこその芸当だった。
また、フロリーナの安全を確保するため、常に注意を張り巡らせていたのもある。
だが、シャドウの殺気を察知できたのはエドガーの感覚の鋭さもさることながら、シャドウが知り合いだったというのがある。
エドガーの知らないプロ中のプロの暗殺者が隠密道具を使ったとき、さしものエドガーでもその気配を捉えるのは不可能だった。
以上のような理由から、ジャファルとシンシアはまずフロリーナを殺害し、フロリーナに化けたシンシアがエドガーを不意打ち。
失敗した場合は、逃げ出してフロリーナの死体を見せ付けて驚愕させ、その瞬間にジャファルが仕留めたのだ。

歩く二人の距離は依然として一定の距離が保たれたまま。
言葉だって交わすこともなく、無言のままに歩き続ける。
新たな戦利品、アルマーズはジャファルのデイパックの中に入り、デーモンスピア及び昭和ヒヨコッコ砲はエドガーになりすましたシンシアのデイパックに。
神将器アルマーズの威力の強大さを知っているジャファルは、これがレプリカでないことを確信すると、デーモンスピアとヒヨコッコ砲を譲る代わりにアルマーズをもらった。
使うアテはない。
ただ、これが誰かの手に渡るのだけは阻止しておきたいから。
フロリーナをシンシアが殺す瞬間を目の当たりにしても、ジャファルは眉ひとつ動かさずに見ていた。
ニノは悲しむだろうが、しょうがない。
男は黙々と、歩き続ける。
次なるターゲットを見つけるため。
123創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:14:21 ID:XLRk4G3j
124創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:15:25 ID:XLRk4G3j
125◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:15:46 ID:vMqIMBiB

暗殺者にとって、ターゲットの氏素性は関係ない。
名のある剣士なら、剣を抜かせなければいい。
魔道士なら、魔法を唱える前にころせばいい。
国王だろうが、マシーナリーだろうが、やることは変わりない。









それが――暗殺。
相手の本領を発揮させることなく、仕留める者。








物質転送装置は完全に修復されることはなく。
古より伝わるブリキの巨人もまた目覚めることなく、新たな主を待つ。









【エドガー・ロニ・フィガロ@ファイナルファンタジー6  死亡】
【フロリーナ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡】
126◇SERENA/7ps 代理投下:2009/05/30(土) 17:17:32 ID:vMqIMBiB
【A-6 村 壽商会入口  一日目 朝】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@FFVI
[道具]:不明支給品1〜3(内一つはフロリーナの支給品で、武器ではない)アルマーズ@FE烈火の剣 基本支給品一式*2
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:シンシアと手を組み、参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
2:いずれシンシアも殺す。
3:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]:
※名簿確認済み。
※ニノ支援A時点から参戦


【シンシア@ドラゴンクエストIV】
[状態]:モシャスにより外見と身体能力がエドガーと同じ
    肩口に浅い切り傷。
[装備]:影縫い@FFVI、ミラクルシューズ@FFIV
[道具]:ドッペル君@クロノトリガー、かくれみの@LIVEALIVE、基本支給品一式*3 デーモンスピア@DQ4、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE
[思考]
基本:ユーリル(DQ4勇者)、もしくは自身の優勝を目指す。
1:ユーリル(DQ4勇者)を探し、守る。
2:ジャファルと手を組み、ユーリル(DQ4勇者)を殺しうる力を持つもの優先に殺す
3:利用価値がなくなった場合、できるだけ消耗なくジャファルを殺す。
4:ユーリル(DQ4勇者)と残り二人になった場合、自殺。
[備考]:
※名簿を確認していませんが、ユーリル(DQ4勇者)をOPで確認しています
※参戦時期は五章で主人公をかばい死亡した直後
※モシャスの効果時間は四時間程度、どの程度離れた相手を対象に出来るかは不明。


※次にジャファルとシンシアがどこに行くかは、後続の書き手氏に任せます
※A-6村に壽商会@LIVEALIVEがあり、ブリキ大王と物質転送装置があります。
 物質転送装置の不具合はエドガーによって多少改善されましたが、それでも使用にはまだ不安が残ります。
※A-6村の壽商会、フロリーナの死体にはダッシュ―ズが履いたまま残っています。
127創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:17:47 ID:XLRk4G3j
128創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 17:49:03 ID:XLRk4G3j
投下乙!

なっにイイイイイイイィィィィ!!!!!まさか両方かよ!?
ブリキ大王とか出た時、来た!エドガー生存フラグ来た!これで勝つる!とか思ったのにw
まぁ確かにアキラも松もいるし、ルッカにマリアベルもいるからエドガーじゃないとダメってこたぁないが……w
これは意外すぎる展開だったw初めての複数死亡が出たか……
予想通り女が死んだしやっぱり自ロワはry

では最後にもう一度投下乙!
129創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 19:06:40 ID:D7Fimb9c
投下乙!!

ま さ か の展開!!!
首輪どうにか出来そうな奴けっこういるからな。
ブリキ大王か…なんか終盤になると遺跡の『あの娘』まで出てとんでもない大戦になる予感が…

気になるところ

移動距離が気になるかな
シンシア達が早い早朝エドガー達が遅い早朝(シンシア達は陽が昇り始めた頃)そしてフロリーナを背負っているエドガーたちとミラクルシューズシンシアとジャファル。
これらの要素を差し引いても追い抜くのは厳しいような…(追い抜いたとしたらエドガー村にかなり近かったしジャファルはともかく村に入るシンシアには気付きそう平野だし)
どっちも同じ方向から村に来てるからなぁ。
なんとかシンシア達は後から来たけど同じ展開に出来ないかな。

かくれみのを二人で使うのはいいと思う。

エドガーは一度休憩したときフロリーナは生きてるけどそれは警戒されないように生かしてただけってことでOKかな?そしてエドガーに隙が無かったからこの作戦に移った…。

ジャファル達はなぜへんぴな最下層にいた?たまたまかな。

あとは工具かな…絶対駄目とは言わないけど簡単に現地調達っていいのか?武器よりまずい気が…。
すでに支給品にあるし。(個人的にいいと思うけど客観的意見って所)

じゃあ自分ももう一度投下乙!
130創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 19:23:42 ID:D7Fimb9c
あ、もう一つ指摘。
最後にエドガーが持つ獲物はアルマーズじゃなくてデーモンスピアだと思う。斧より槍が得意だし。
131創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 06:58:37 ID:owa3Es0/
投下乙

まさかまさかの二人死亡……ますます対主催涙目だな……
そして、まさかのブリキ大王wwwwww
よーし、ブリキ大王も出たし後はブルコギドン出すだけだなw←オイ
現地調達に関しては俺はおkだな。むしろしないと不自然な状況だってある
支給品に武器が一個もなかったら、道端に落ちてある丈夫な樹の枝とかを拾うってのはごく自然な思考展開というか現地調達だし、空気読めばいいよ
結局エドガー死んだし誰かが強化されたんでもないから今回はセフセフ

移動距離については問題ないが、ジャシン組が先についたのは確かに違和感ある
まぁ平原が360度地平線が広がってるってことはないだろうから途中で二組が出会う可能性はあまり考えなくてもいいとおもう
けどなんの説明もなく壽商会に先についたのがジャシン組なのはおかしいかな
これは多分エドガーが村についてどこに潜伏するか迷ってる内に遅れてジャシン組が村に到着
んで、ジャシン組は迷わず壽商会に入ったとかいう展開なら問題なくね?
村は1エリアほとんどに広がってるからバッタリ出会う可能性も低いし

長くなったがこれくらいでいいか
にしてもRPGロワ初の複数死か。前作のといい氏の作品は展開が読めないわw
フロリーナ死亡は読めたがエドガーもか。なんかオラワクワクしてきたぞ!
132 ◆SERENA/7ps :2009/06/01(月) 15:43:08 ID:uxwWsFxD
すいません、リアルが忙しく現時点でもまだ修正が完了しておりません
出来上がるのは期限の3日フルに使うことになるかと思いますので、皆様にはご迷惑おかけします

多分一番の問題の移動に関しての修正は、>>131氏の案が大筋を変えることなく多少の補足を加えるだけでよさそうなので使わせて頂きます
提案ありがとうございます
133創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 23:22:32 ID:Ey5TP+1v
遅くなったけど、投下乙!
エドガァァァァアァアアアアアアアアアアァァ! 嘘だあああああああああああ!!!
ブリキ大王出てきて、活躍フラグかと思った矢先に……これは凄く予想外。
ジャファル相手に奇襲かけられたら仕方ないな。そのテの戦いならアイツは最強に近いしね。
フロリーナはまぁ予約の時点で……w
モシャスの使い方が上手いです。このコンビでなければ出来ない戦い方ですね。
時系列の描写の順番が巧みで、それが驚きと臨場感を生み出して素晴らしい!
とにかくもう色々と予想外でした。これぞパロロワ、GJ!!!

指摘ってほどでもないけど、修正するときに、死亡表記の下に残り人数を↓のように書いておいてください。

【エドガー・ロニ・フィガロ@ファイナルファンタジー6  死亡】
【フロリーナ@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡】
【残り40人】
134 ◆SERENA/7ps :2009/06/02(火) 16:14:36 ID:wY7GlmUc
したらばにも書きましたがこちらにも
修正完了しましたが、一度仮投下スレに投下して判断を仰ぐか、もうwikiに直接収録してもいいか迷ってます
なにぶん、今日も忙しいので17:30までにゴーサインいただければ自分で収録しますが
時間までにゴーサイン出ないorやっぱり一度仮投下した方がいいのであれば仮投下します
135 ◆SERENA/7ps :2009/06/02(火) 17:08:18 ID:wY7GlmUc
やっぱり仮投下スレに投下してきました
問題ないか判断願います
136 ◆SERENA/7ps :2009/06/04(木) 13:52:34 ID:TnYLLoad
wikiに収録&デーモンスピアに関する描写の修正しました
しかし前後編になるかと思いきや予想外に1ページに収まってしまった……
ページ名変更しようにもログイン権限もない……

ということでwiki管理人様、これを見られておりましたら間違って作ってしまった(前編)を消去願います
重ね重ねスミマセンorz
137創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 14:01:48 ID:CvR3GxTq
wiki収録乙です。

おそらく消し忘れと思いますが

フロリーナの近くに転がっているデーモンスピアには血が〜
という一文はまるまるカットでいいんですよね?
138 ◆SERENA/7ps :2009/06/04(木) 14:12:00 ID:TnYLLoad
あれ?そこも修正したはずですがされてない……?
たぶん修正した後に編集終了ボタン押し忘れたかな?
まぁどっちにしろ修正しときます。ご指摘感謝感謝
139曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:46:12 ID:MvIW3Pc6
投下します
140創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 01:46:30 ID:BOjYDOiF
                   
141曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:47:01 ID:MvIW3Pc6
(気持ち悪い)

身体の内側に巣くうその熱を形容するのに、これほどぴったしの言葉はない。
熱いでもなく、焼かれてしまいそうだでもなく、ただひたすらに気持ち悪いという異物感。
一瞬でも気を抜いてしまえばどろどろに溶かされ、ぐちゃぐちゃに混ぜられた上で、肌が裏返ってしまいそうだった。
そしてそれはあながち間違ってはいない。
アシュレーの身に宿った魔神は虎視眈々と意識を取って代わる瞬間を狙い続けているのだから。

「ぐッ……、がッ……」

聖剣が無き今、人の苦しみを糧とする魔神が大人しいままでいるはずがなかった。
打ち寄せては退き、打ち寄せては退き。
波を思わせる感覚で襲い来る不快感。
見守るというロードブレイザーの言葉に間違いはない。
確かにこの不快感は魔神による破壊衝動の押し付けとは別物だ。
その方がどれほど気楽だったことか。

――ガ、ぐおあ、ぎぃァおどかおdjぱおjでぃぱんそdこp@あs−ーーッ!!!!――

それは何処かの誰かの言いえぬ恐怖

――ぎお、あ……あsにp、l;d…………あああああああああアアアアアアアアアアッ!――

それは何処かの誰かの声無き嘆き

――……◆■■@、………ーーーひふぉsdjllfぢおfjぢ;……クッ、おおおおおお――

それは何処かの誰かの抱えた後悔

それら、自分のものともロードブレイザーのものとも違う感情が、
アシュレーの心へと――正しくはアシュレーの内的宇宙に宿ったロードブレイザーの中へと吸い込まれていく。
いや、吸い込むなんていう生易しいものじゃない。
喰らっているのだ。
ロードブレイザーはこの地に渦巻く負の念を。

(強く、もつんだ。心を、強くッ!)
142創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 01:48:06 ID:BOjYDOiF
                                          
143曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:49:12 ID:MvIW3Pc6
誰かに不幸が降りかかるたび、誰かが悲しみに暮れる度。
ロードブレイザーは歓喜する。
暗き炎は水では渇きを満たせない。
悲鳴、憎悪、失望をこそ薪として自身にくべる。
悲壮な決意を唾液で汚し。
罅割れた幻想に牙を突き立て。
絶望の淵に沈む心を噛み砕く。
ぐしゃり、ぐしゃりと口内いっぱいに広がる苦渋の味を魔神は至上の寒露として飲み干すのだ。
果ては、紛いなりにも死という終焉をもって苦しみから解放されたはずの魂すらも逃がすことなく貪り嚥下する。
他人の不幸は蜜の味。まさにロードブレイザーの為にある言葉だった。

焔の厄災。かって一度は乗り越えたはずの恐怖。
倒せることは証明されているのだ。ならぼもう一度乗り越えればいい――とは楽観できない。
考えても見て欲しい。
例えば娯楽であるお化け屋敷やホラーゲームの場合なら、一度経験していれば、次の時には何が起こるかわかっており大なり小なり怖さは減るだろう。
しかしこれが命の危機に関わるも回避しがたいものならどうか?
一度治療が上手くいき回復したはずの癌に再度かかったとしたら?
誰が今度もまた大丈夫だと楽観的になれようか。
むしろようやく乗り越えたはずの恐怖に再度苛まれる絶望は言葉に表せないほど大きい。

事実、アシュレー達が為した事は奇跡としか言いようがなかった。
ある男による仕込みがあったとはいえ結果的に一つの惑星に住む全ての人間が国家や民族の枠を超え、
心を繋げ数多の災いに立ち向かい勝利したのだから。
国家間の争いや侵略行為ばかりを目にしてきたヘクトルやエドガー達が知れば目を剥いたことだろう。

それがこの地ではどうか。
数億どころかたった数十の人々が絆を育むことなく殺しあっている。
既にアシュレーは二人の少女が志半ばで命を落としたことを知っている。
裏を返せばそれだけ殺し合いに乗った人間もいるということだ。
ロードブレイザーが力を増していく頻度からも、一人や二人の話ではない。
何人もの人間が人を殺すことをよしとし、幾多もの悲劇が既にして生まれ出ている。
果たしてこのような様でロードブレイザーに、しいては魔王オディオに勝てるのだろうか。
人も、時間も、足りなさ過ぎるこの世界で。

(弱気になるなッ、アシュレー! 僕は、帰るんだ。みんなと、あの場所へッ!)

不信感を募らせてばかりだったケフカとの会話の影響もたかってか悪いほうに悪いほうへとばかりものを考える自分を叱咤する。
刻みなおすは二つの約束。
思い浮かべるのは帰るべき場所である最愛の女性と、欠けてはダメだと誓った大切な仲間達。
だというのに、そんな時に限ってこそ悪魔は心を砕きにかかる。

『そうそううまくいくまのかな?』

どういうことだと意味ありげな問いに対して深く聞き返す間すらアシュレーに与えず、

――さて、時間だ……始めよう。
『さあ、待ちに待った放送の時間だ』

ロードブレイザーは、魔王オディオは運命の時を告げた。
144曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:51:07 ID:MvIW3Pc6






ロードブレイザーは笑う。

『心地いい、心地いいぞ! 『お前』も『私』なら感じるだろう? この湧き上がってくる力をッ!』

黒く、黒く、どす黒く。

『友の、仲間の、恋人の悲報を耳にし嘆き悲しむ人間の声をッ! オディオも粋なことをしてくれる』

死を、悲しみを、嘲笑う。

『命が燃え尽きる間際と、否応無く知らされる瞬間……一度の死をもって二度も人間どもから負の念を搾取する機会を与えてくれたのだからなッ!』

言葉の通り、アシュレーの内側で灯火程度だった魔神の気配が地獄の業火もかくやという程に膨れ上がる。
死に際の人間が残す未練や怒りに比べれば僅かながらに質は劣るも、その分量が段違いだ。
生存者達にとっては禁止エリアと死者の名前を継げる忌まわしい放送でも、ロードブレイザーからすればデザートの時間を告げる鐘の音といったところか。
会場中に蔓延する不安や疲労感等の細々とした負の念さえも取りこぼすわけにはいかない傷ついた魔神には、
一定時間ごとに大多数の人間から糧を得られる放送の存在はこの上なくありがたかった。

更に至れり尽くせりなことに、初回には付き物の特典までついているのだ。
笑うしかあるまい。

「リル……カ?」

想像通り。
ほくそ笑むロードブレイザーが居座る内的宇宙に超新星爆発でも起きたのかとばかりに莫大な思念が激流となって流れ込む。
驚愕、衝撃、動揺、戸惑い、疑念、混乱、緊張。
仲間の死を告げられた人間が抱くには当然の感情だろう。
しかし、最もあるべきものが欠けていた。
見ず知らずの誰かが呼ばれている時に感情の大部分を占めていた怒りや悲しみがそこにはなかったのだ。
何故か?
簡単な話だ。アシュレーには少女の死が信じられなかったのだ。

(……嘘だ)

聖剣が間に入っていない今、アシュレーの心の声はロードブレイザーへと筒抜けだった。

(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だッ!)

理性が働き出すよりも速く、感情がすぐさま仲間の弔報を否定する様が面白いほど見て取れる。
まあ、アシュレーが仲間の死を信じられないのは無理も無い。
一度目はブラッド、次はアシュレー自身。
今まで二度もARMSはメンバーが欠ける危機を回避してきたのだ。
二度あることは三度あると儚い希望に縋ってしまうのも無理は無い。
145創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 01:51:23 ID:BOjYDOiF
                               
146曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:54:32 ID:MvIW3Pc6

(いや、そうではないか……)

ロードブレイザーは考え直す。
これは喪失を受け入れられないが故の都合のいい逃避の類の弱さではない。
絶望的な状況でも仲間の力を、はてはその生きた道のりを本気で信じぬける強さだ。
放送直後であるからこそ、心に乱れは生じているが、このままでは後数分もせずに落ち着くだろう。
リルカ・エレニアックという人間を心の底から信じているからこそ、その生死に関わらずアシュレー・ウィンチェスターは止まらない。
死んだということを認めざるを得ない状況になっても、少女が望んだように一刻も早くオディオを倒すことこそが弔いになると一層覚悟を強めるだけだ。
悲しくないわけが無い。苦しくないわけが無い。それでも、楽しかった思い出を曇らせることなく、希望を持ち続けることのできる人間。
それがアシュレー・ウィンチェスターだ。
異心同体として共にすごし、危うく最後には討滅されかかったロードブレイザーは、そのことを嫌でも知っていた。

(……それではつまらんな)

幸せというぬるま湯に浸っている最中、突如殺し合いの場にいざなわれたこと。
二人の少女を救えず、あまつさえ滅ぼしたはずの脅威の再来。
魔剣から逃げるがままに北上してきたものの、倒すべき殺人者にも、守るべき人々にも会えないままでいる徒労感。
加えて仲間の死を知らせる放送。
これだけの出来事が立て続けに襲い掛かってきたからこそ、少なからずもアシュレーは揺れている。
落ち着かせる暇を与えては再度追い詰めることは難しくなるだろう。
カードを切るには今しかなかった。

『嘘ではないさ。そのことは貴様もよく知っているはずなのだがな?』
「どういう、意味だ……ッ!?」

放送前の時となんら変わらない詰問を放るアシュレー。

『では聞こう。デイパックの中の首輪は誰のものだ?』

されど今度は黙止することなくロードブレイザーは面白そうに問い返す。
実体を伴っていたのなら、口元を邪悪に歪めた笑みを浮かべていたに違いない。

「まさ……かッ」

知れずアシュレーの口から乾いた声が漏れる。
途端にデイパックがやけに重く感じられた。
待て、どうしてだ。あの中には何が入ってった?
まさか、まさか、まさかッ!
そんなはずは無いと、あってたまるかと。
どれだけアシュレーが思い込もうとしても、手は止まらずデイパックから目当てのそれを探り当て取り出してしまう。
黒く焼け焦げた誰かの首に巻きついていたはずのその円環を。

リルカ・エレニアックの首輪を。

『その通りだよ、アシュレー・ウィンチェスター。それはあの小娘――リルカ・エレニアックのものだよッ!
 気付かなかったか? 見えなかったか? クックック、よくよく目を凝らせば炭化した肉片くらいなら見つけれたかもしれぬぞ?
 まあ、大切なお仲間の墓標を前にして花を供えることも無く、経をあげることもせず、私と魔剣から逃げ出しただけのお前には気付けというほうが無理だったか。
 ククク、フハハハハ、アハハハハハハハッ!!』
147創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 01:55:25 ID:BOjYDOiF
                               
148曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:57:58 ID:MvIW3Pc6
沈静などさせてなるものかッ!
ロードブレイザーの胸中を激情が荒れ狂う。
矮小だと見くびっていた人間達に絶望を味わわされた屈辱は、都合のいい寄り代としてしか見ていなかったアシュレーへの復讐心へと魔神の中で転じていた。
聖剣による束縛が無いことも相まって、常に無い程饒舌にロードブレイザーはアシュレーをせせら笑う。
効果は覿面だった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!
 ――ロォォォーードッ、ブレイザァァァアアアアア!」

カイーナとの一件もあり、魔神を抱えた身での感情の爆発がどれほど危ういものなのかアシュレーには理屈では無論分かっていただろう。
繰り返し落ち着くんだと宥めにかかる冷静な部分も認識していたはずだ。
けれども無力感に打ちひしがれていたアシュレーの心は、行き場を得てしまった怒りを抑えるだけの強靭さを保てていなかった。
そしてそれは。
魔神を制御することに必須である仲間を守るという感情を欠いた純粋な憎悪の奔流は。
人間に絶望し、世界を呪った魔王の名の由来たる負の念の吐露は。

ロードブレイザーが付け入る恰好の隙となるッ!

『そうだ、それでいい。それでこそ『私』だ。一体化しているからこそ、お前の生み出す負の感情は私にとってこの上ない餌となるッ!!』

蓄えていた力を解放し、アシュレーの四肢へと意識を伸ばす。
一本ずつ、一本ずつ、神経の端々へと同調していく。
さもアシュレーが魔神の力を引き出さんとしていた時のように。

『――アクセスッ!』

あらん限りの皮肉を込めてロードブレイザーは叫んでいた。
その意味にアシュレーは気付き昂る心を抑えようとするももう遅い。

――さて、ここでクエッション。
  未だ聖剣を宿していない身で復活したてのロードブレイザーに憑かれてしまった時、アシュレーは一体どんな姿になってしまったのだったか?

  黒騎士ナイトブレイザー? 
   不正解。
    灼熱騎士オーバーロードブレイザー?
     大間違い。
      焔の厄災ロードブレイザー?
       惜しいッ!
        剣の英雄アシュレー・ウィンチェスター?
         失格ッ!!

答えは簡単。
聖剣による加護もなく、しかれども魔神もまた不調だった結果。
――怪物になったのだ。
人でもなく、怪人でもなく、英雄でもなく、魔神ですらもないただのモンスターに。
異常発達した僧帽筋に広背筋。
常人の二倍はあろうかという長く伸びた両腕。
形成し切れなかった胸部粒子加速砲器官。
何よりも目を惹くのは皮を剥がされた人間を思わせる白いボディに剥きだしの紫色の筋肉。
149創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 01:58:32 ID:BOjYDOiF
                           
150曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 01:59:24 ID:MvIW3Pc6
「ああッ、ああああああああああああああああああああ……ッ!」

誰がそれを人間だったと判断できよう。
誰がそれを心は人間のままであると判断できよう。
さらにロードブレイザーは突きつける、アシュレーの心に負い目として残っていた一つの過去を。

『お前には力がある。私という力が。帰りたいのだろう、生きてあの女のもとへと。ならば……
 何をはばかることがある? 同じではにか、生き残るために私の力を使い化け物となった特殊部隊の仲間達を皆殺しにしたあの時とッ!』

表向きはテロリストの襲撃として事実を握りつぶされていた為に、誰からも責められることなく、一人ずっと抱え続けていた罪がアシュレーを犯した罪が苛んでいく。
魔族を降ろされたのは皆同じだったのに何故お前だけが生き残り幸せになっているのだと怨嗟を漏らす声が責め立てる。
本来ARMSと呼ばれるべき部隊に所属していた隊員達。
仲間だったと言いながらも帰りたい一心で引き裂いてしまった者達がぎらついた目でアシュレーを見下ろし、一斉に口を開く。

『潰せ……ッ!』

化け物として、怪物として、彼らを殺したときのように。

『壊せ……ッ!』

そしてお前もこっちに来い。化け物としてむごたらしく殺されろ。

『破壊せよ……ッ!』

そうだ、真に、真に破壊されるべきは。

『『『お前自身だ、アシュレー・ウィンチェスターッ!!!』』』

亡者達の合唱を受けアシュレーが膝を突き、頭を抱える。
まるであの運命の日の再現のように。
只一つ足りないのは縋る寄る辺たる銀の腕。

「そレでも……。ソレデモ僕は僕としテ日常に、マリナの傍ニ、帰りタイんだッ!」

だからこそ銀の輝きには到底及びはしないくすんだ白き左腕にありったけのフォースを込めて自身を殴りつけ、強引に魔神の力を押さえにかかる。
一切の手加減を排除した本気の拳の直撃にアシュレー自身も地を転がったが、内部の魔神も堪ったものではなかった。
殴られた箇所からロードブレイザーに明日への希望を失わない心が浸透してきたからだ。

『ふん、僅かながらの力を取り戻したに過ぎぬというのに調子に乗りすぎたか。いいだろう、私はまた黙っているとしよう』

所詮は全盛期には程遠い状態。
本体は概念存在であるもののアシュレーの身体に受肉してしまっているロードブレイザーにとって、この一撃のダメージは思いのほか大きかった。
アクセスを続行したままでいるにはたかが会話にも無駄なエネルギーを裂いている余裕はなくなってしまった。
151創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 02:00:23 ID:BOjYDOiF
                              
152曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 02:00:46 ID:MvIW3Pc6

『ああ、そうそう。精々気をつけるのだな、アシュレー。
 外見のせいで誤解でもされようものなら、善人ですら貴様を襲うかもしれん。
 私を押さえ込め切れない今、うっかり自衛で殺してしまうかも知れぬぞ?』
 
最後に不安を煽るようありったけの悪意をのせた嘘を残して、魔神は再び闇へと沈む。
もう少し殺し合いが進めば話は別だが、魔神は悟られないようにしてはいるが、一方的に強行しての『アクセス』では精神はおろか肉体すらてんで支配できていない。
表象的に魔神よりにひっぱってくることっだけで精一杯だったのだ。
とはいえ実際に無理やりアクセスされてしまったアシュレーに魔神のはったりを見抜けというのも酷な話だ。
魔神の脅威を身に染みていたこそ騙されてしまった。

「――よお。誰だい、あんたは? いや、なんだいって聞いたほうがいいのか?」

だからこそ魔神との問答が終わるのを狙っていたかのように声をかけて来た灰髪の男の登場に、

「逃げてクレ……ッ!」

アシュレーは悲鳴のような唸りを上げて後ずさった。






地下水路を抜けてしばらく経った時、セッツァーがそれに気付いたのは偶然でもなんでもなかった。
骨のような白と血肉を思わせる赤で彩られたプロトブレイザーの姿は、緑の木々の中では目立ちすぎたのだ。
おまけにはたから見れば宙に話かけているようにしか見えないのだから、怪しいことこの上ない。
普通なら

(首輪はついてはいるがモンスターか?)

むしろ幻獣に似た何かを感じる。
セッツァーの知るシヴァ達とは違って随分凶悪な姿この上ないが、不思議とそう思えてならないのだ。
そこまで考えて一つの可能性に思い至る。
トランス。
死したティナ・ブランフォードが存命時に振るっていた力。
幻獣と人間のハーフであることが可能としたその能力を発動しているときのティナも人間離れした姿へと変身していた。
もっとも人間から皮だけを剥ぎ取ったようなグロテスクな化け物とは違い、ティナの変身体は神秘的な妖精じみたものではあったが。
153曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 02:02:52 ID:MvIW3Pc6

(自然に得た力ではなく、セリスやケフカ同様、人工魔導士という線もあるな)

それならばあの醜悪な姿も納得だ。
人工魔導士とは文字通り人為的に幻獣から取り出した力を注入することで魔法を扱えるようになった者達のことだ。
無論、本来宿ることの無い強大な力を付加されることに、なんら副作用がないはずはない。
ケフカが精神に異常をきたしたように、初期の被験者なら外見が醜く変異していることも充分ありうる。
一時期トランスしたままのティナが暴走状態に陥っていたという話も踏まえると、あながち間違った推測には思えなくなってきた。

(気になるな……)

いつしかアシュレーの方へとセッツァーは踏み出していた。
普通に考えれば優勝狙いの人物がとるには余りにもリスクが大きい行動だ。
見かけで判断すれば間違いなくプロトブレイザーは言葉が通じず戦うしかない相手だったからだ。
それでも元来のギャンブラー気質がセッツァーに退くことを選ばせなかった。
首輪がついていることからいずれ戦う羽目になる可能性もあると判断。
未知を未知して放っておいて予期せぬピンチにあうよりも覚悟して事前に下調べしておい。
何よりもセッツァーは賭けた。
ギャンブラーとして磨いた観察眼が怪人に見た化け物らしからぬ苦悩の表情に。



そしてセッツァーは賭けに勝った



幸い怪人ことアシュレーの暴走は現状では肉体変化だけに止まっていたようで、精神面は消耗してはいたが健全そのものだった。
こちらを傷つけたくないから近づかないでくれと気遣われたくらいだ。
とんだお人よしだったとセッツァーは思い返してほくそ笑む。
件のティナの話を引き合いに出しなんとか納得してもらって得た情報はどれも中々に興味深いものだった。
中でもガーディアンのことは幻獣といくつか共通点がるとこじつけることで、アシュレーの誤解を深めるいいきっかけになってくれた。

「ケフカに会ったのか。あいつは暴走した幻獣を沈静化する方法にも長けていた。
 もしかしたらデミガーディアンとやらにもその技術は有効かもしれないな。
 少々というか、かなり臆病で気難しくてひねくれた人間なのが欠点なんだが」

ガストラ皇帝にしたように上手く立ち回る気なのか、はたまたアシュレーが馬鹿なだけなのか。
ケフカは現時点では分かりやすく大暴れというわけではないらしい。
ケフカの白黒を判断しかねていたアシュレーを騙そうと、特別に追加して与えた情報を復唱してセッツァーは自嘲する。
臆病で気難しくてひねくれてはいるけど本当はいい奴なんだぜ?
我ながら定番でぞんざい過ぎる嘘だ。
もっとまともなものを言えなかったのかと思う反面、どれだけ自分の口が回ろうと流石にケフカを擁護しつくすのには無理があるかと納得してもいる。
まあ何もかもが嘘というわけではない。
確かにケフカは暴走した幻獣を沈静化していたとも。
無理やり石化するという暴挙をもって。

(後はケフカ次第だ。あいつのことだ、いいようにアシュレーを利用しつくしてくれるだろ。
 ……もっとも、順当に地下のほうに行けばケフカとアシュレーが再会する可能性はぐんと減るんだがな)

アシュレーに教えたのはケフカの偽情報だけではない。
人目につかず精神を集中できそうな場所として脱出したばかりの地下水路の存在を真っ先に挙げておいたのだ。
トッシュのことも心強い人物だと知らせてある。
地下水路のことよりもそっちこそがメインといってもいい。

(三闘神の力を手に入れたケフカに、俺にとって相性最悪のトッシュ。どちらも俺が優勝するにおいて大きな壁になる)

故に押し付けようと画策した、アシュレー・ウィンチェスターといういつ爆発するかも分からない爆弾を。
154創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 02:04:15 ID:BOjYDOiF
                         
155曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 02:04:20 ID:MvIW3Pc6

(どちらが抱えることになっても俺には悪くない展開だぜ)

当然ながらヘクトルのことや、彼が介抱していたブラッドらしき人物の情報は一切渡していない。
この島に来る前からの知り合いの偽情報を渡した後すぐにアシュレーとは別れた。
暴走による他人への被害を恐れていたアシュレーも別行動に異論は無く願ったり叶ったりだった。

(山で洪水にあった時には俺の運も尽きたかと思ったが、どうやらそうでもないみたいだな)

上機嫌でアシュレーとの接触における一番の成果を指で弾く。
使い道の無かったトルネコの支給品と交換して手に入れたチンチロリンセット付属のダイス。
陽光に照らされて輝く3っつの正方形は存外綺麗に思えた。


【D-7 一日目 午前】
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:若干の酔い
[装備]:つらぬきのやり@ファイアーエムブレム 烈火の剣、シルバーカード@ファイアーエムブレム 烈火の剣、
    シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:扱いなれたナイフ類やカードが出来れば欲しい
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後〜セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレーと情報交換をしました。

ティナ・ブランフォード。
愛を知らず魔導アーマーという兵器を使って敵軍の兵士を何十人も殺戮したことのある危険人物。
帝国を襲い、世界を滅ぼしかけた幻獣と呼ばれる生物の血を引き、その絶大な力に呑まれてしまい暴走を引き起こした少女。
アシュレーがセッツァーから教えられた情報は大体以上のものであった。
意図的に編集されてはいるが、断片的に見ればどれも事実であり、ティナのことをよく知らない人物からすれば充分な説得力があっただろう。
現にアシュレーもセッツァーの話したティナの情報に一切疑いを抱いてはいなかった。
その上で他人と話をしたことで少し落ち着けたアシュレーは思う。
多くの人間を虐殺し、けれど最後にはトッシュという人物が聞いた話では一人の男を助けて命を散らせたという。
彼女はどんな気持ちで人を殺してきたのだろうか。何を想って最後に人を助けたのだろうか。
せめて死ぬ間際には己を取り戻せてたのだとしたらそれは少女にとって救いだったのだろうか。

(……違う。これからだったんだ、ティナ・ブランフォードは。
 血の呪縛から解放されたのなら一人の少女として幸せな日常を生きられたんだ。
 そこには見たことのない明日が広がっていたはずなのにッ!)

――アシュレー、大好きだから遠くに行っちゃいやだよ?

そう言ってくれた少女は、自分を置いて先に逝ってしまった。
遠く、遠く、もう会えないところへと。
でもきっと。
逢えなかったらもっと悲しかった。
ティナを初めとして多くの人間が死んだことは悲しかった。悲しいだけだった。
悲しみとしてしか記憶にこの先も残らない。
156曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 02:05:57 ID:MvIW3Pc6

――そんなことしたらほんとに……ほんとに悪者になってしまうんだよッ!! だから、やめてッ!!!

ほら、こんなにも残してくれた言葉がある。
リルカの死はとてもとても悲しいけれど。
悲しいことだけじゃなくて、幸せな思い出でも満たしてくれる。
生きていたらこんなにも嬉しい出会いがあるんだって教えてくれた。
だから、大丈夫。戻れないところに行ったりなんてしないから。

「へいき、ヘッチャラ」

知れず目から涙が零れる。
せっかくセッツァーから譲ってもらったリルカの傘はちっとも涙雨を妨げてはくれなくて。
握りつぶしてしまわないよう優しく掲げたそれは空に虹をかけるばかりだった。


【D-7 一日目 午前】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:プロトブレイザー。怒り、後悔、無力さを感じている。少し持ち直した?
[装備]:ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドU、レインボーパラソル@WA2
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式×2、焼け焦げた首輪(リルカの首輪)
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:地下水路で精神を集中してロードブレイザーを抑える
2:ブラッドら仲間の捜索
3:トッシュ、ケフカら他参加者との接触
4:アリーナを殺した者を倒す

※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※内的宇宙にロードブレイザーが宿ったため、アクセスが可能になりました。
 ロードブレイザーからの一方的な強制干渉は身体のプロトブレイザー化が限度です。現段階では。
※焼け焦げた首輪が、リルカのものだとは気付いていません。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュを善人だと思い込んでいます。
 ケフカへの猜疑心が和らぎ、扱いにくいが善人だと思っています。
157曇りのち嵐のち雨のち――  ◆iDqvc5TpTI :2009/06/05(金) 02:07:26 ID:MvIW3Pc6
投下終了。
158創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 02:51:02 ID:BOjYDOiF
投下乙!
アシュレーやべぇ! 順調におかしくなってるw
リルカの話からの追い詰め方が最高。抉るわ抉るわw
そんでプロトブレイザーとか、もう鬱展開再現するのかと思った……一先ずは安心安心w
あとはセッツァー、勝負師っぷりが光る。地味に戦場かき回しまくってるんだよねー、コイツ。
何かと不吉なフラグが立ってきましたが、それもまたよし、GJ!!!
159創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 22:46:05 ID:LtbqQXPQ
GJ!
ギャンブラーっぷりが冴える冴える。セッツァーのかき回しっぷりは毎回楽しみにさせられるぜ。
そしてアシュレーの今後に不安が。どうなるんだこのロワの対主催w
160創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 23:58:23 ID:ZSV0h6VP
投下乙だぜ!!!

アシュレーがじわじわ危険になってきているなぁ。
アガートラーム入手には神殿西の森(超危険地帯)越えなきゃいけないし大丈夫かほんとに。
それにしても氏はフラグをうまく立てるなぁ。私もその力があったらいいなと思わせられる。
セッツァーはいまだ危険人物に遭遇してないな。運のいい奴め。セッツァーの情報戦の行方はどうなることか…

これらは誤字かな?
>>143至上の寒露→至上の甘露
>>143ならぼもう一度乗り越えればいい→ならばもう一度乗り越えればいい
>>143『そうそううまくいくまのかな?』→?
>>148オーバーロードブレイザー→オーバーナイトブレイザー
>>150同じではにか→同じではないか
あとは
備考欄の「焼け焦げた首輪が、リルカのものだとは気付いていません。」はもうないのでは?
161創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 20:04:20 ID:ijln26rr
遅れたが投下乙ッ!

やっぱプロトブレイザーなるよなそりゃw
セッツァーはアシュレーの生け贄になるかと思ったがそんなことはなかったぜ!
このままロードブレイザーの侵食が進めばアシュレーの行き着く先はロードブレイザーそのものかオーバープロトブレイザー……w?
オーバープロトブレイザー=ロードブレイザーかもしれんが



そして大・人・数・予・約……キタ―――――――(゚∀゚)―――――――!!!!!
ユーリルまで来るのかよ!?wwwww
いくら動揺してるからって方向音痴すぎだろwwwwww
奉仕マーダー二人が早くま奉仕対象に再会?トカルカ様無双再び?トカ気になることはあるが展開予想になりそうだから自重するぜ!
これは楽しみ過ぎる予約だw
今日あたりケフカたちの投下も来るかもしれないしテンションが上がりまくるwwwwww
162 ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:47:11 ID:KBTLRLjk
よし、投下します。
ちょっと長めなので、支援をいただけるとありがたいです。
163シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:50:15 ID:KBTLRLjk
嘘みたいな静寂だ。

風を頬に感じながら、サンダウンは思う。
ここは……本当に城下町なのか。俄かには信じ難い。
これが、ついさっきカエルと死闘を繰り広げた、あのフィールドのなのだろうか。
戦闘の後からずっとこの町を彩っていた賑やかさは、3人の少女達がみな時空の穴に持ち去っていってしまった。
隣で自分を見つめる忍者は自分と同じくらい寡黙であり、彼女たちのような騒がしさは全く期待できない。
尤も、サンダウンにとっては、こちらの静かな相方の方が居心地が良いのではあるが……。

「……さて」
無人の町を一通り感じたところでガンマンは思考を停止させ、意識を研ぎ澄ませた。
頬で感じるのは、左から右へ吹き抜ける風。
こんなもの、最早微風といっていいだろう。
射撃には、うってつけの日だ。
打ち抜くべき目標までの距離は五十メートルほどあるだろうか。
近い。余りにも近い。
そして背中にぶつかる朝日は、特に視界の邪魔にはなり得ない。
とはいえ、たとえ逆行が邪魔をしたところで、射撃の名手である彼には何の障害にもなりはしないのだが。
絶好のコンディション。
外す要素は皆無だ。
腰に手をやると、あとは一瞬のことだった。

「…………!」
目の前の男が動いたのを確認したシュウ。
その瞬間から始まった一連の神速を、彼の眼は全て完璧に捉えきっていた。
サンダウンが腰元にぶら下がっているピストルを掴み取る。
グリップを握る。親指で撃鉄を起こす。視線は常に目標物へ。風向きの変更はないかを肌で感じ続ける。
これらの作業を並行して行いながら、銃口を的に向けた。

躊躇いもなく引かれる引き金。
銃声はしない。
銃を持つ手にかかるはずの、発砲に伴う反動もない。
そもそも、この銃に弾は装填されていなかった。
もちろんだが、銃口からは何も出てはこない。

……そのはずである。

この銃、『使い捨てドッカン爆発ピストル』はその名が示す通り、銃としての役割を発揮するのはたったの1度だけ。
1度でもその引き金を引いてしまえば、別の弾を込めようが何をしようが、最早使い物にはなりはしない。
そしてこの銃は、もう既に1度使用されていた。
先ほどのカエル戦でのことである。
国の為に、全てを犠牲にする覚悟を決めた異形の騎士。
彼が放ったバイアネットの弾を、サンダウンはなんと『発射されてから』打ち落としたのだ。
そんな事が可能なのか?

信じられないのは分かるが、本当に可能だったのだ。
なぜ可能なのかと問われれば、『サンダウンだからだ』としか答えようがない。
魔法も使えなければ、シュウのような体術も会得していない。
身体能力は高いといっても、一般人の物差しでの話である。
彼の仲間である高原やレイにはもちろん、アキラにすら劣るかもしれない。
そんな彼ではあるが、ただ一つの条件化においては話が変わってくる。
銃を手にしたとき、その瞬間に彼は『世界で最も神の領域に近い男』となるのだった。
彼の手元から解き放たれた鉛弾は、彼の意図したとおりの軌道で飛び、彼が狙ったまさにその場所を貫き、彼の望んだままの傷痕を残す。
彼が銃を手にしているその間では、『あり得ない』はあり得ないのだ。

そして、彼の隣に立つこのシュウという忍者も、銃の名手だ。
サンダウン程ではないのかもしれないが、彼もその指先で数々の奇跡を演出してきた。
そう、ここにいる2人は銃のスペシャリスト中のスペシャリストである。
164シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:51:15 ID:KBTLRLjk

だから、なのだろう。
響いた銃声。
サンダウンの右手に生じた反動。
そして、もう銃としての役割を果たす事はないその銃口から……装填すらされてないはずの弾が発射された。

もちろん、いくらサンダウンが神に愛されたガンマンだといっても、銃弾を具現化する能力など持ち合わせてはいない。
これは、イメージだ。
目標までの距離。
周囲の環境。
引き金を引かれた瞬間の銃の角度。
それらから予測される、銃弾の軌道が、2人の銃使いには明確なイメージとして再現された。

彼らの脳内で発射された鉛弾は、風を切り裂きながら死に絶えた町を突き進む。
かつては賑わっていただろう、寂れた商店街。
子供達がはしゃぎ回っていたはずの、侘しい広場。
この絶望の世界ではなんの慈悲も与えてはくれない、朽ちた教会。
それらを尻目に、架空の銃弾は与えられたルートを微塵も逸れることなく辿り、ついに目標と定められた小さな木の実を打ち抜いた。
風で折れてしまいそうなほど細い枝にぶら下がっていた小さな命が、音を立てて破裂する。
そこまでを鮮明に脳内で再現してから、2人の男は現実へと帰還した。

「見事だ……」
民家の外壁に寄りかかっていたシュウが、腕組をしたままその神業を褒め称える。
実際に銃弾が発射されたわけではないので、第3者がこの光景を見たらサンダウンの銃を撃つポーズのカッコ良さをシュウが評価するという、なんともマヌケなシーンに映ったはずだ。
しかし、シュウもサンダウンもそんなことは全く気にする様子はない。
この男たちは、『他人に自分がどう見られているか』などには、全く興味を持っていないのだ。
シュウが今興味を持っているのは、サンダウンの放った弾が描き出したはずの軌道だけである。
彼は一流のハンターであるとともに、一流のガンマンでもある。
銃の扱いには絶大な自信があった。
だが、彼の銃は、どちらかと言えば魔法や体術などと組み合わせる事に特化している。
高速で走り回りながら、銃を扱う術には長けていた。
実際に大勢のモンスターを前にすれば、その強力さが実感できるはずだ。
しかし、連射や射撃精度など、純粋に銃の腕それのみで比較すればサンダウンに軍配が上がる。
今の空想の一撃は、シュウに白旗を揚げさせるには充分すぎるものであった。

「…………」
彼の知る中ではトップレベルのガンマンからの賛辞であるにもかかわらず、当のサンダウンはその言葉に何の反応も見せない。
自分が引き金を引いた銃をジッと見つめて、考え事に耽っていた。
内心では、嬉しさや誇らしさを感じている。
だが、サンダウンという男がそれを表に出す事はない。
それは、彼が長年荒野で生きていく中で、自然と身に付けてしまった性格である。

ここで少し、昔の話をしよう。
彼は、超高額の賞金首だった。
罪もない誰かを殺したとか、そういった理由じゃあない。
この莫大な賞金は、彼が自分で自分の首に賭けたものだ。
戦いが好きだったわけでは決してない。
名保安官として名をはせていた彼は、その世界の誰よりも平和を愛する人間であったのだから。

自らをお尋ね者と化したのは、愛する町を護るための苦渋の決断であったのだ。
だが、平和を愛したその思いも空しく……当然のことながら、多くの男たちがこぞって彼の命を狙いに来た。
ある者は懸賞金を求めて。またあるものは彼を殺したという名声を求めて。
放浪生活を始めてからというもの、彼に近づくのはそういった人物ばかりであった。

鼓膜を響かせるのは、聞くに堪えないほど汚い罵声と無数の銃声。
鼻をつくのは、噴出した血液と立ち込める硝煙の臭い。
目に映るモノは、向けられたススまみれの銃口と孔の開いた無数の死体。
そんな日々を送る中で、サンダウン・キッドは少しづつ愛を忘れてしまった。
少しづつ友情を忘れた。
ありとあらゆる絆を、絆を紡ぐ心を、彼は失った。
165シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:52:43 ID:KBTLRLjk

どの人物が自分の命を狙っているのかも分からない以上、人を信じるという概念もない。
酒場でマスターの与太話を聞き流している最中でさえも、『誰かが突然銃口を抜かないだろうか』と常に警戒をする日々。
その警戒と不信こそが彼の人生の大半であり、彼にとっての日常だ。

……だからなのだろう。
シュウという男は、サンダウンにとって居心地のいい男であった。

(忍者……だったか……)
銃を仕舞い、再び歩き出したサンダウンは思う。
シュウの『警戒心』は尋常ではない、と。
おそらく彼は、この殺し合いに呼び出されてから、誰1人として『信頼』してはいない。
カエルやストレイボウはもちろん、サンダウンやマリアベルすらもだ。
かつての自分がそうであったように、常に警戒心を仲間に対して張り巡らせていた。
いつ襲い掛かられても、すぐに反撃に移られるように。
マリアベルとロザリー、ニノの3人が談笑しているときでさえもである。
その僅かな警戒心に気付いていたのは、サンダウン以外ではマリアベルくらいなものだろうが。
それが、忍者の性なのだろう。
サンダウンは自分以上の用心深さを、眼前の男に感じていた。

だが、その『遠すぎる』と言っていい程の距離感は、荒野のガンマンにとってはとても心地のいいものに思えた。
正直に言ってしまえば、あの喧しい3人娘の笑顔を眺めているのも実は悪いとは思わない。
ここが平和な街中ならば、彼女たちを見守って過ごすのも一興だろう。
しかし、ここは魔王オディオの開催した殺し合いの会場。
その中で銃を握るのならば、シュウのようなパートナーの方が『やりやすい』のだ。

この殺し合いの破壊と弱者の保護という『任務』の遂行を第一に考え、いざとなったらサンダウンのような仲間ですらも躊躇なく切り捨ててくれる。
そして、必要以上の信頼を欲せず、自分を語らず、言葉による無駄なコミュニケーションを必要としない。
こういう男が、彼にとって絶好のパートナーと言える。

そういえば、シュウはオディオの放送すらも疑ってかかっていたようだ。
確かに、彼の言うとおり、『嘘の放送によって殺し合いを促進させよう』と主催者が目論んでいるという可能性も充分考えられる。
あの主催者の言うことなど、サンダウンだって信じたくはないのだから。
全くの疑念すら抱くことなくあの放送に一喜一憂する方が、間違っているのかもしれない。

(少し、過剰だとも……思えんでもないが…………)
それにしたって、シュウの警戒心は自分と比較しても異常なレベルにある。
目の前の男に目をやると、彼は相変わらず多少の警戒心を孕んだ瞳をこちらに向けていた。
この男から信頼を得るには、相当な時間を共にしなくてはならないのだろう。

(もし主催者を倒しこの殺し合いから解放することができたら……その時は……)
だが、一度信用すると、その絆は何よりも強い。
トッシュやエルクの事を、彼は微塵も疑ってはいなかったのだから。
強い信頼の宿った瞳で、彼らのことを『殺し合いには乗らない』と断言した。

(……いや、そんなこと、考えても仕方がない…………)
忍者から視線を反らして、帽子を深く被り直した。
自分は信頼など必要としていないのだ。
この男が誰を信じ、誰を疑うかなど考えても無意味なこと。
警戒されるくらいが、ちょうどいいのだ。
この男が『信頼できる仲間だ』と称したトッシュやエルクたちを、少しだけ羨ましく感じたのも気の迷いだったのだろう。


◆     ◆     ◆
166シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:53:46 ID:KBTLRLjk


「あれ? あれれ?」
左右に頭をブンブンと振り回して、キョロキョロと辺りを見渡す少女。
綺麗な黒髪が、オーロラ景色のようにユラユラと揺れる。
どうやら彼女は、ここがどこだか分かっていない様子であった。
見渡せば、視界いっぱいの緑。
さっきまでのカラフルな景色はどこへいったのだろうか。
一緒にいたはずの眼鏡の少女もいない。
弔ってやりたかったはずの仲間の亡骸も消えていた。

「……また、やっちゃったんだ…………」
そこまで確認すれば、ドジで鈍い彼女でも、流石に自身の犯した失態に気付いてしまった。
クシャミをした弾みで、こんなわけの分からない場所まで飛んできてしまったということだ。
溜め息を吐いてションボリと俯いたビッキー。
彼女の心に湧いてきた感情は、悲しみと……そして自責の念。
いつもいつも、事あるごとにテレポートを暴発させる自分に嫌気がさしてくる。
このミスのせいで、リオウたちには毎回迷惑をかけてしまっているのだ。
大事な戦いの前にテレポートを失敗して、要らぬ体力を使わせてしまったりしたこともあった。
どこだか分からない場所にリオウを連れ去ってしまい、一緒に飛ばした仲間とまとめて行き倒れになりかけたこともあった。
敵との戦いの最中に間違えて仲間を数人吹き飛ばして、残された自分とリオウ、ナナミが殺されかけたこともあった。
そして今回も……。
親友である少女を弔ってやる事が出来なかった。
彼女を花園に埋めてやろうと提案したのは、他でもない自分だったはずなのに。

「ナナミちゃん……」
名前を口にすると、少しだけ胸に痛みが走る。
チクリという刺激は胸元から喉、鼻へと徐々に上へと昇ってきて、少女の瞳を再び湿らせた。
もう泣いてはだめだ、と空を見上げて必死に瞼に力を込める。

何ともおかしな話だが、ビッキーがナナミの死を経験するのはこれで2度目となる。
以前は、ロックアックス城で、彼女がゴルドー軍の矢に打たれたときだ。
ナナミが死んだという知らせを聞いた彼女は、大急ぎでホウアンの医務室へと駆けつけた。
テレポートを使わずに、ちゃんと自分の足で。
そこで彼女が見たのは、蹲って泣いているリオウの姿。
心を無くしてしまった幽鬼のような表情で、少年は声を上げずに泣いていた。
そんな少年に声をかけてることなど、ビッキーには出来なかった。
不用意に話しかけたら、トランプタワーのように脆くなっていた彼の心が完全に壊れてしまう気がして。

もはや、ナナミの死体を見る気すら起こらなかった。
ただ、ただ、悲しかった記憶しかない。
会議室では、これからの戦いをどうしようとか、どうやって都市同盟を纏めるか、などという話をアップルとシュウがしていたはずだ。
が、ビッキーはそんな話、聞きたくもなかった。
正直に言えば、もう全て止めて欲しかったのだ。
こんな悲しい争いなんて。

もう……リオウとともに、どこか知らない場所にテレポートで逃げてしまいたかった。

ルカ・ブライトと戦ったときもそうだ。
彼女は悲しかった。
あの狂皇が、沢山の人を殺して、いろんな町を炎で包んだ事は知っている。
でも、それでも……大勢の精鋭でたった1人の人間を攻撃して、フラフラに弱っても、弓矢で滅多打ちにして……。
見ていられなかった。
可愛そうで仕方がなかった。
シュウは『平和のための戦いだ』なんて言う。
リオウは『僕がやらなければいけないんだ』などと言う。
誰かは『死んで当然だ、あんな外道』なんて言っていた。
167シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:54:50 ID:KBTLRLjk

(でも……)
でも、分からない。
大切な人を失って、憎い人を殺して……。
そこまでして手に入れなければならないものとはなんなのだろうか。
大勢の血の上に平和を手に入れたって……そんな大地には綺麗な花など咲かないのだ。
血を吸い続けた大地には、赤黒く変色した花しか咲かない。
さっき見たような綺麗な花など、決して……。

「……あ、ルッカちゃん…………」
花と言えば……。
花畑に置いてきてしまった少女の事を思い出した。
きっと、城に帰る術を失って路頭に迷っているに違いない。
もしかしたら、酷く危険な状況におかれているのかもしれない。
それも、自分の失敗のせいだ。

「……しっかりしなくちゃ……ダメ……」
早いところ、眼鏡の少女の下に戻らなくては。
彼女まで失ってしまうわけにはいかない。
そのためには、まず現在位置を把握しなくては……。

よし、と気合を入れなおしてディパックから地図を取り出そうとした……。

「またお前ですかーーーー!!!!」
聞き覚えのある方向から、聞き覚えのある怒鳴り声。
カエルの潰れたような、酷く汚いダミ声だ。
驚いて足元を見下ろすと、花園で出会ったあの道化師の姿がそこにあった。

「な、な、なにしてるの?」
「いいから退きなサーイ!」
真っ白く塗られた顔を怒りで赤く染めて、ピエロが叫ぶ。
ビッキーが彼から足を退けると、ゆっくりと立ち上がり、肩で深く息をつきはじめた。
ぜーはー、ぜーはー、と何度も繰り返し、少女の踏みつけによって生まれた疲労を回復しようとする。
その姿を見て、ビッキーは気付いた。
この道化師をテレポートに巻き込んだ上に、踏みつけてしまった事に。

「あ……あの、怒って……ます、よね?」
恐る恐る問いかけるビッキーの表情は固い。
どうやら、テレポートしてからずっと踏み続けていたらしい。
彼の必死の叫びも、悲しみと自責にくれるビッキーには一切届かなかった。

「ぜーはー、ぜーはー……怒ってるか……ぜーはー……だとぅ……?
 ぐ……ぐぐぐぐ……グギィーーーー!!! 怒ってるに…………決まってるダロ!
 2度目ですよ! 2度目! パン泥棒だって2度もやったら死罪ケッテイだっ!
 なぁぁぁんなんですかオマエ! 人を踏みつけて喜ぶシュミでもあるのか?!
 どれだけ歪んだ性格をしてるんだマッタクモーーーー!!!!」
10回足らずの呼吸で完全に息を整えると、凄まじい剣幕で少女を罵倒し始めた道化師。
発明少女との言い争いで、気が立っていたこともあったのだろう。
大量の唾を撒き散らしながら、少女へと言葉の弾丸を放ち続ける。
……『性格がゆがんでいる』などというセリフ、どの口がいうのだろうか。

「あ、あの、ゴメンなさい。私、ドジだから…………」
両手を合わせて、本当に申し訳なさそうな表情を見せた。
どれだけ汚い言葉を浴びせられようとも、ビッキーはキチンと謝罪の言葉を述べる。
こんなワケの分からない男など、普通の人間なら関わりたくはないはずだ。
一刻も早く、友人を迎えに行かなくてはならないこの状況なら、尚更である。
それでも彼女は、限りなく面倒くさそうなこの男と対話を試みた。
そんな健気な姿を目にしたら、それだけでビッキーを許してしまうものだ。
一般人100人がいたら、100人全てが彼女の味方につくだろう。
だがしかし……。
168シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:55:47 ID:KBTLRLjk

「ボクちんが知るものか! そんな事!!!」
……それは一般人の話。
一般人という集団が存在する為には、その対となる『狂人』が存在しなくては話にならない。
そしてケフカというのは、その狂人の中でも更にイカれた存在。
少女の真摯な対応に、なぜか更に怒りの炎を燃やす。
むき出しにされた犬歯の隙間から、罵声が放出された。

「きゃあ!」
遂に道化師の堪忍袋の緒が、プチンと音と立てて切れる。
ビッキーに襲い掛かる雷。
青緑に光る閃光が彼女の傍に落ち、地面に生えていた雑草を黒く焦がした。
プスプスという音と共に、焼け焦げた嫌なにおいがビッキーに届けられる。

「キィィィィー!! 上手く利用できそうだから生かしておいてやろうと思ってたのに!!
 ふんっ! 下手に出れば、つけ上がりやがって! バラバラに引き裂いてやるぞ!!!」
ついにその悪魔の本性を現した(最初から悪意丸出しではあったが……)ケフカ。
ありったけの恨みを込めて少女を睨みつけ、殺害を宣告した。
辺りに充満した毒々しい邪気を少女も感じたらしく、身を縮こまらせて怯えだす。
その真っ黒なプレッシャーは、あのルカ・ブライトと対峙したときに感じたソレと大差ない。

「ひゃっひゃっひゃ! ボクちんが怖いか? そうかそうか……ファイラ!」
少女が震えてるのを確認すると、一転して楽しそうな表情を見せる。
詠唱なしに放たれた魔法。
周囲の景色が歪み、朝の草原にまさかの蜃気楼を発生させる。
凝縮された魔力は、熱という悪意となり、少女の体で爆発した。

「きゃぁ! あぁ……あああぁああぁぁ!」
「まだ終わらんじょー! サンダラ!」
「ぐ……はぁ……はぁ……え? きゃあああああああぁぁぁ!」
赤き魔法の熱に苦しんでいる少女に、更なる魔法で追い討ちをかける。
雷の魔法が、ビッキーの体を直撃。
痺れた少女が叫び声を上げるのを、男は愉快そうな目で眺めている。
ジワジワと殺すために、わざと手加減をして高位の魔法を使わないでいた。

「はぁ、はぁ……どうして、こんなこと……」
魔法の応酬に立っていられなくなり、思わず膝をついてしまう。
汗が顎から滴り、大地に生えている雑草を湿らせる。
ビッキーは魔法使いであり、魔法に対しては丈夫に出来ている。
それでも彼女が目に見えるレベルのダメージを与えられているのは、ケフカの魔力がケタ外れだからだ。

「どうして……だってぇ?
 フォッフォッフォ! 決まってるでしょー! ユカイだから……さッ!!!」
「……あがっ!」
自らの言葉の語尾に合わせて、ビッキーの顔を蹴り上げた。
顎につま先をめり込ませた少女は、蹴られるがままに宙を舞う。
ふわりと力なく持ち上がった肢体は、重力に逆らえぬまま、頭から地面にぶつかった。

「……あう! ……う、うぅ……もう、嫌だよ…………どうして……みんな……」
仰向けのまま起き上がる事もできない。
体力はあっても、起き上がる気力がなかった。
汗に混じって流れた涙が、大地を一層湿らせる。
今受けた魔法が、蹴りが痛かったからじゃない。
死ぬのが怖かったからじゃない。
彼女が泣いていたのは……。
169シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:57:26 ID:KBTLRLjk

「ほら、踏まれるのは痛いでしょ」
「ぅぇぇ…………!」
さっきまでのお返しだとばかりに、胴体に足を乗せて思いっきり押しつぶした。
呼吸を封じられた少女は、息も出来ずにパクパクと口の端から泡を吹き出す。
それに血が混じっていたのは、蹴られたときに舌を噛んだせいだろう。

「ひゃっひゃっひゃ! う〜ん、なかなかユカイなオモチャでしたよオマエは!」
一通り少女を痛めつけて満足した道化師。
トドメを刺すために、最大級の魔法を展開する。

(なんで……なんで! …………悔しいよ……ナナミ……ちゃん……)
ボロボロの状態の中で、少女は悔し涙を流す。
こんな酷い事をされても、少女は道化師に恨みを感じていなかった。
今受けた数々の痛みすらも、どうでもいい。
置いてきたルッカが心配だという事も、忘れてしまっていた。
ただ少女は悲しかった。
世界が争いで満ちていることに。

「とっとと死ね! …………フレア!」
詠唱が完了したと同時に、魔法を放つ。
少女の体を四散させるために。
ピエロの魔力に呼応して、高密度のエネルギーを帯びた無数の光球が発生した。
それらが、一斉に仰ぎ倒れる少女に向けて集約される。
少女の体を爆心地とせんために。

(ごめんね……ルッカちゃん……リオウくん……もう、嫌だよ……)
抵抗する気もないビッキーは、涙を流して全てを諦めた。
さしてダメージのない体も、動かす気にはなれない。
支障なく仕事を全うできるはずの手足も、働かせる気になれない。
間に合うのかどうか、一か八かテレポート魔法も、使う気にはなれない。

ただ、深い悲しみの中で、少女はひとり……。

涙を流しながら……。

眼前に迫った死を……甘んじて受け入れた。

そして道化師の魔法は、その少女の生命に幕を……。







「そうは……させん!」







男が、飛んできた。
と言うのも比喩ではない。
本当に男は、どこからか飛んできたのだ。
170シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:58:18 ID:KBTLRLjk

「…………」
全てを諦めた力なき身体。それを抱きかかえた男。
ついでに彼女のディパックを拾い上げると、そのまま風のように速く、そして音もなく走り抜ける。
フレアの合間を縫って、その攻撃範囲からいとも簡単に脱出。
爆発によって舞い上がって土煙が晴れる前にその場から離れる。
あまりに華麗な脱走劇。
おそらくケフカは、乱入者がいたことにすら気付いていない。
水色の髪の毛が、まるで闇夜に光る火の玉のようにおぼろげに揺らめいていた。

「大丈夫か?」
そう問いかけた忍者を、ビッキーは返事もせずに見つめる。
口元は真っ赤なスカーフで覆われて確認できないが、その目は鋭い。
ビッキーは知っている。
これは『狩るもの』の目だ。
大空で獲物に狙いを定めるフクロウ。
水中で弱者を食い散らかす鮫。
そして地上で敵に殺意を向けた忍者。

自分を抱え上げた男は、彼女の仲間であるカスミやサスケたちと同じ目をしていた。

「あ、あの……えっと……」
お礼を言わなければ、と分かってはいる。
だが、急すぎる展開に、紡ぐべき言葉が出てこない。
わたわたと、口を開いては閉じを繰り返す。

「……え?」
ふいに、男の親指が顔に押し付けられる。
乙女の心臓が、ドキリと強く跳ね上がった。
男が自分の涙を拭ってくれた事に気付くのに、数秒を要してしまう。
気が動転した彼女は、泣いていた事すらも忘れてしまっていたのだ。
今度こそお礼を言わなければと、再び男の顔を見つめた。

「あの……ありが……」
「ちぃ!」
またもや、言葉は届かない。
叫ぶが早いか、男がビッキーを抱えたまま飛びのいた。
予告なしに男がジャンプしたものだから、思わず下を噛みそうになってしまう。
何事かと不審に思いながらも、振り落とされないように男の身体にしがみ付く。
その直後であった。
さっきまで2人がいた場所に、雷が降り注いだのは。

「……サンダウン、彼女を頼む」
誰かに向かって呟くと、いきなり展開された雷魔法に驚く少女を、優しく地面に下ろす。
涙は枯れても、その身体は小刻みに震えていた。
全身は所々焦げたり服が破れたりボロボロで、口元には血が滲んでいる。
少女が味わった恐怖と苦痛を感じ取り、男の瞳が怒りに尖った。

立ち上がって振り返り、今の雷を放った道化師に向き直ろうとした。
だが、それができない。
原因は、心配と不安のあまり、忍者の手を握ったまま離そうとしないビッキー。
簡単に振り払えるほど弱い力ではあった。
しかし、男はそんなことはせず、少女を見つめなおして手を一度だけ強く握り返す。
ゴツゴツとした固い掌から、温かな熱が皮膚を乗り越えて伝わってくる。

その2つの手に更に別の男の手が重なる。
171シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 22:59:07 ID:KBTLRLjk

「……あ…………」
「……心配は……いらない……」
その持ち主を追いかけた彼女の瞳に、金色の髭を生やした男が映った。
たった今、サンダウンと呼ばれた男だ。
大切な贈り物の包装を解くように、忍者の手から少女の手を丁寧にほどくと、力強く頷いて仲間を見送った。
サンダウンに倣って振り返れば、あの忍者はもうすでに道化師に向かって走り出している。
その背中を見て、『お礼を言いそびれてしまった』と、ビッキーはそんなくだらなことを後悔していた。

「あの……危険です。あのピエロさんは凄く……強くて……」
さっきまで受けた攻撃の数々を思い出す。
明らかに手加減していたのにもかかわらず、あの威力。
ルカ・ブライトに匹敵する禍々しさを思い出して、戦慄する。
恐怖に汗を滲ませた少女を、いとも軽々と抱え上げたサンダウン。
仲間の戦いを邪魔しないように、走って戦線を離脱する。
彼の右腕には、『いかりのリング』が光っていた。
先ほど、風の忍者が少女の元に飛んできたのは、この腕輪のおかげである。
『仲間を投げる事ができる』という、このアクセサリーの効果で見事爆発からビッキーを救ってみせたのだ。
展開されつつあった魔法の合間を縫って正確に投合できたのは、サンダウンが世界一のガンマンだからこそ。

「シュウは……負けん……」
それでもサンダウンが心配そうな瞳をしていたのは、カエル戦での疲労が馬鹿に出来ないからだ。
さらに重くて少女救出の邪魔になるだろうリニアレールキャノンは、シュウに変わってサンダウンが未だに所持していた。
彼は万全の状態とは決していえなかった。

(シュウ……さん……)
シュウ……男の名前を心の中で数回復唱する。
自分の知り合いと同じ名前であった。
あぁ、だからあんなに頼もしいのか、と彼の強さに納得する。

軍師、シュウ。
涼しい顔で戦局を分析し、常に数手先を読む。
周りの人間が焦りの汗を流す中でも、彼だけは顔色1つ変えないでいた。
そして最後には、彼が描いただろう通りの筋書きで戦いは幕を閉じる。

多くの屍を残して。

アップルは言う。
『兄さんは被害を最小限に留めたのだ』と。
分かってはいる。
争いを避ける道などない。あったら最優先で実行している。
そしてその止む終えず選択した戦争という選択肢の中で、シュウは出来る限りの努力をしたのだ。
出来るだけ、血を流さないように。

それでも、ビッキーはずっと考えて、悩んでいた。
戦わないで、皆が幸せになる道はないものかと。
そんなものはないと分かっていても、理解していても。
心のどこかで、ずっと、皆で笑える方法を探していた。

走り去った、男の背中を追いかける。
彼もまた、争いに身を投じた。
この戦いの結末は、どちらかの、もしくは両方の死を持って終わるのだろう。
酷く、胸が痛い。

「そんなのって……ないよ……」
風にすらかき消されるほど、小さな声。

少女は、白い花が好きだった。
172シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:00:21 ID:KBTLRLjk

「…………」
サンダウンは1人、少女の嘆きを聞いていた。
少女の涙を見ていた。
それと同時に思い出されるのは、あの村での戦い。
O・ディオ一味と戦ったあの戦いの事だ。
そこで彼は、ある大事な事を学ぶ。
長い放浪生活で、不信と憎しみの輪廻に晒されている中で、サンダウンが忘れてしまっていた大事な『感情』。
それをサクセズタウンで、もう1度教えられたのだ。

あまりジロジロ眺めるのもかわいそうだと思い、少女から目をそらすと。
サンダウンの視界に、彼女のディパックが映りこんだ。

「…………これは!」
中から何かが零れ見えているモノをサンダウンは確認する。
瞬間……気分が高揚した。
それは、サンダウンの心にたった今生じた『感情』に引き寄せられてきたものだったのだろうか。
運命を感じた。

「……すまない。……名をなんと言う?」
「え? あ! 私? ビッキーです」
胸元を押さえて苦しそうにしている少女に話しかける。
寡黙なサンダウンが、自分から会話を始めるのは珍しい事だ。
少女も、まさか話しかけられると思っていなかったのだろう。
焦った様子で返事を返す。

「そうか……ビッキー。支給品を…………見せてもらっても……」
「あ、はい。構いませんけど……」
ビッキーのディパックを覗く。
やはりか……。そうサンダウンが呟いた。
そこにあったのは、自分がずっと捜し求めていたもの。
手にすると、それは確かな熱を帯びてサンダウンの心に呼応した。

「……ビッキー。頼みがある」
「え? はい。どうぞ。差し上げます」
鉄面皮ながらも嬉しそうな様子が見て取れたのだろう。
サンダウンが尋ねるまでもなく、ビッキーが快諾。
男の顔から僅かな喜びが漏れ出たのを感じ、少女の悲しさを少しだけ中和する。

「ありがとう」
「……いえ。どうせ私には使えませんから」
一瞬で6発の弾丸を込めてみせる。
そのクイックリロードが相当凄い事なのは、銃に疎い彼女でも充分に理解できた。
そうだ、当然ながら、あの銃は誰かを撃ち殺す為に使われるのだ。
短く謝礼を述べると、そそくさと立ち上がって戦場へ向かおうとするサンダウン。
それをビッキーは残念そうな眼で見つめていた。

「もう1つ……」
「え?」
少し進んで立ち止まる。
ビッキーへの、もう1つの頼みを忘れていた。
切なげな表情の少女に、驚きという感情の波紋が生じる。

「笑って…………くれないか」
振り向いて、静かに呟く。
サンダウンは、荒野に咲いた白い花が好きだった。


◆     ◆     ◆
173シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:01:13 ID:KBTLRLjk


「ファイガ!」
呼吸をするかのように軽々と、道化師は巨大な炎を生み出した。
ビッキーのときとは違い、必要以上の手加減はしない。
かといって最初から隙の大きい最大級の魔法をぶつけるほど、愚か者でもない。
この上級魔法は、ケフカにとっては相手の力量を確かめるためのジャブだ。
ファイガの目標は、こちらに向けて信じられない速さで走ってくる忍者。
巨大な炎は、逃げ場のない高熱の檻となって男を包囲する。
ゴフゴフと大型獣のような雄たけびを上げて、男に牙を向く。
鼓膜を破壊しかねない轟音と共に、赤き獣は男を完全に飲み込んだ。
ビッキーに食らわせたものとは、段違いの一撃だ。

「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! もう終わりですか! 期待して損したよ!」
炎の中から男が姿を現さないのを見て、ケフカは勝利を悟った。
随分とあっけないものである。
尤も、あの1撃を食らって生きていられる人物など、ケフカの知る中でも両手の指の数程いるかどうか。
こんな事なら、もう少し下級の魔法で嬲り殺しにしてやればよかった、と今更ながらに後悔した。

「さて、正義のヒーローは、どんなマヌケ面をして…………なにィ?!」
おびただしい黒煙が晴れた後には、何も存在してはいなかった。
そこに生えていたはずの草は、全て焼け焦げて消えてしまった。
そして死んだはずの男の姿も、そこにはない。
彼も燃え尽きてしまったのか。
しかし、あの男がそこまで脆いとはとてもじゃないが考えられない。
つまり、導き出された答えは1つ。

「ど、どこだ!?」
男はファイガを回避した!
しかも、ケフカの気付かない間に。
男の姿を探して辺りを見渡すが、緑の大地が続くばかりで誰もいない。
バニッシュを使用して透明になったのか。
だとしても、気配すらもこんなに完全に消せるのか?

「……甘い!」
必死に身体を回転させて、東西南北を見渡すケフカ。
だが、唐突に響いた男の声と、同時に発生した気配。
それは、ケフカが今まで失念していた方向から……。

「……上だな!」
すぐさま魔力を展開。
敵の姿を確認すると同時に魔法が放てるように。
しかし、ケフカが見上げたそこには誰もいなかった。
確かにそこから声がした、気配がしたはずのなのに……。

「遅い」
彼は、ケフカの背後にいた。
次の攻撃の為の予備動作を、しっかりと完了させた上で。

道化師の放ったファイガの魔法を、後方に高速で下がる事で回避したシュウ。
魔法が止むまではその爆炎に遮られて、ケフカからシュウの姿を確認する事はできない。
そして煙が晴れると同時に空高くジャンプ。
上空から超高速で落下しながら、着地する直前にわざとケフカに呼びかけた。
自分を悟らせる為に。
敵が空中にいると知ったケフカは、当然その方向を見て意識を集中させる。
それこそがシュウの狙い。
その『ケフカが空を見る』行為の最中にシュウはその背後に着地していた。

そして発生させた絶対の隙。
174シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:02:24 ID:KBTLRLjk

「ぐぇ!」
遠慮も躊躇もない。
あらん限りの力を込めた、全力の蹴りだった。
それを背中にモロに食らって、道化師が大きく吹き飛ぶ。
小手調べのジャブを放ったはずのケフカに、強烈なカウンターをお見舞いする。
相手の隙を探すのではなく、無理やりにでも相手に隙を作る。
これこそが、戦闘のプロであるシュウの戦い方だ。

(……固い!?)
ケフカの背中にめり込ませた足に、痺れを感じた。
絶好のクリーンヒットにはつき物のはずの、確実な手ごたえ。
それが今の1撃からは感じられない。
この防御力は、イーガやグルガのような『強靭な肉体』のものではない。
そういったレベルを超えたこの反作用は、ちょこのような『異なる者』が持つもの。

「なるほど……」
『蹴り心地』から、敵の分析を完了させる。
あの男、人であることを捨てたものか……。
あるいは、元々が人でない出生なのか……。
どちらにせよ、異形であることは確かであった。
大きく吹き飛んだ道化師が、ゆらりと起き上がったのを見る。
やはり、大したダメージは与えられてないらしい。

(ならば……叩き続けるのみだ!)
どんな化け物だろうと、蹴り続ければ……死ぬ。それだけの事。
だったら、何十発でも何百発でも与え続ければいいだけの話だ。
相手が体制を立て直す前に、猛スピードで肉薄。
そのスピードを殺すことはせず、とび蹴りとしてケフカにぶつける。

「ふげぇ!」
腹部に踵をめり込ませたケフカが、無様な叫び声を上げる。
だが、やはり大した手ごたえは感じない。
この苦しそうな声も、本当なのかどうか疑わしくなってくる。

「ごのぉ!」
ケフカもただ黙ってサンドバッグになるつもりはないらしい。
蹴られながらも、シュウの顔に拳を振りかぶる。
全力のとび蹴りを放った直後のシュウには、絶大な隙が出来ていた。
空中にいては、大した回避行動もとることは出来ないはず。
そこを狙っての1撃だ。

「ふん……」
道化師が反撃を繰り出してきた事に驚きつつも、彼は冷静であった。
飛んできた拳を目で確認するや否や、頭を後ろにずらす。
ケフカの拳はアッサリと避けられ、ただ空気を撫でただけで終わる。
そしてシュウはそのまま背中を大きく反らせると、ブリッジをするように地面に両手をついた。
逆立ちの状態になったら、足でケフカの顎を思いっきり蹴り上げる。
ガツンとした衝撃が、シュウの足にも伝わった。
しかし、それ以上の衝撃が、ケフカの脳を大きく揺さぶる。

「ごへぁ!!!」
狂人の口から、涎が撒き散らされる。
生憎、血は一滴も流れてはいない。
それはつまり、内部へのダメージは殆どないということだ。
それでも、顎を蹴られたら誰だって悔しい。
ケフカが怒りのままにシュウを睨みつけようとした。
175創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 23:03:18 ID:GF4NI7a4
支援
176シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:05:01 ID:KBTLRLjk

「……喝ッ!!!」
だがその目に映ったのはシュウの足。
忍者はいつの間にか体制を立て直して、攻撃に移っているではないか。
浮いた状態という最高の隙を作った敵に、戦闘巧者のシュウが大技を仕掛けないはずがなかった。
全力の回し蹴りがケフカの喉めがけて炸裂する。
ミシリ……と嫌な音が響き渡った。

「ごぉっっっふ!!!!!!」
最も脆いだろう箇所に、最大級の攻撃を受けたケフカ。
その口から、少量ではあるが血液が噴出す。
受けた蹴りの勢いのままに、大きく吹き飛んだ。
何度もバウンドした末に倒れ付して……遂に動かなる。

(やった……か?)
シュウも今回ばかりは確かな手ごたえを感じていた。
期待を込めて、道化師の様子を観察する。
致命傷に至らないまでも、戦闘不能にはなったであろう。
そう、予想していたのだが……。

「ぎ、ぎ、ぎ……」
「…………チィ!」
歯軋りのような耳障りな音は、確かに倒れたままのケフカから聞こえたもの。
そしてこの禍々しい魔力も、間違いなくそこから発せられている。
敵の持つ桁外れの耐久力、そして魔力を前にして、シュウの額から初めて汗が流れた。

「キィィィィィーーーー!!!」
サイレンの様な奇声が響く。
イルカなどは、この音を耳にしただけで気絶してしまうのではないか。
シュウの生存本能が告げる。
逃げろ、と。
1人では、決して敵う相手ではないと、ハンターの勘が告げる。

(引き際も、見極めねば……)
この戦いでのミッションを『勝利』から『生存』へと切り替える。
侮っていた。目の前の敵は、一種の『山』だ。
かつてのガルアーノやヤグン、アンデルのように。
信頼できる仲間、強力な武器、綿密な準備。
それらの要素を、完璧に兼ね備えて臨むべき敵なのだ。
たった1人で、大した武器もなく、カエル戦のダメージと疲労を引きずったままで挑むべきではない。

「キィィーー! 私が手加減してあげてるのをいいことに、お調子に乗っちゃってーー!
 ヒャヒャ! いいだろう、このケフカ様がちょっとだけ本気を出してあげますよ!」
怒りから歓喜へ……狂気はそのままで。
仰向けのままで、長ったらしいセリフを一息で言い切ったケフカ。
ヌゥ……と、軟体動物のように不気味に立ち上がる。
海老反りの状態から、まるで倒れる様子を逆再生するかのように起こされた上半身。
露わになったその顔は、この世のものとは思えないほど邪悪なものだった。

「第2ラウンド、始めようか」
ニヤリと、口を大きく歪めて笑う。
毒薬を丹精込めて、3日3晩煮詰めたような目の色。
あの猛攻を受けても全く剥げない白いメイク。
思わず後ろに飛びのいたシュウに、巨大な雷が迫る。
予備動作もなしに突如発生した魔法は、ゴーゲンの生み出すソレとは比較にならないほどの威力だ。
自分目がけて疾走してきた雷撃を、サイドステップで何とかやり過ごす。
魔法が通り過ぎたのを目で確認すると、それを放った張本人に向き直る。
177創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 23:05:19 ID:GF4NI7a4
支援
178シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:06:02 ID:KBTLRLjk

「……な!」
振り返った彼の目の前に、ソイツはいた。
密着するほど近い位置で、シュウの驚く顔を観察している。

「まさか、逃げるなんて言わないよねえぇぇぇ?」
そう囁いただけで、何もせずに距離を取ったケフカ。
絶好のチャンスを手放したという事は、『いつでも殺せるんだ』という宣言のつもりだろう。

(……不味いな)
冷や汗が止まらない。
魔法に気を取られていたとはいえ、こうも簡単に懐にもぐられるとは……。
スピードも、魔法も、耐久力も、全ての要素が出会ったときの分析を上回っている。
今になってやっとシュウは気付いた。
自分が今まで、遊ばれていたことに。

「そら、避けないと痛いヨ。 ブリザガ!」
開戦のゴングは、冷気の魔法であった。
この瞬間から、両者の攻守関係が逆転。
ついに、ケフカの魔法ラッシュが開始した。

「……!」
自らの周囲の温度が、急激に下がっていくのを感じた。
忍者は、これが氷の魔法である事を悟る。
だが、気付いたからといって、それに応じた対処が出来るわけじゃない。
この冷気を相殺できるような炎の呪文は持ち合わせてはいない。
出来る事といえば、この魔法の有効範囲から逃れる事のみ。
事前にスピードアップをかけておかなかった事を、今更ながら後悔した。

「オミゴト、オミゴト。 じゃあ次は……ファイガ!」
何とか氷塊から逃れたシュウに、今度は炎が襲い掛かる。
この魔法は、最初にケフカが放った魔法なので、その範囲も知っていた。
だから、避けると同時に、それを反撃の機会としようとしたのだが……。

(……早い!)
炎の勢いが以前に比べて速くなっている。
魔法が唱えられてから実際に熱が発生するスピードも、熱が生まれてからそれが燃え広がるまでのスピードも上昇していた。
以前放った『ファイガ』は、手加減されたものだったのか?

(違う……!)
そんな考えが浮かんだが、シュウはそれをすぐに否定した。
感じたからだ。
風と、それになびく草。
それらすらも、さっきまでの倍近くの速度で活動している。
そう。この世界の全てが加速していたのだ。

(『俺が遅くなった』のだ……!)
ケフカは、シュウの最大の長所である『速さ』を殺しにかかっていた。
実際にスロウを食らってから、その事実に気付くまでに要した時間は約1秒。
信じられない状況判断力である。
それでも、ケフカの前ではその1秒さえも致命的。
避けきれなかった分の炎を、右腕でガードする。
直撃したわけではないのでこれといったダメージはないが、それよりも視界が遮られたことのほうが大きい。

「ヒャハハハハハ! こっちですよ、サンダガ!」
「ぐがあ!」
視界不良という絶大な隙に加え、スロウまで食らっている。
この状態で、最大級の雷を避けるなど不可能な話だ。
真後ろから放たれた魔法が、遂にハンターに命中した。
179シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:07:02 ID:KBTLRLjk

「グラビデ!」
カエル戦での疲労もあるが、シュウが元々魔法に強くない事も決め手だった。
増加した重力は、オリハルコンの鎖となってシュウを大地へと縛りつける。
疲労の溜まった身体に、魔法の直撃まで受けた忍者は限界であった。
足元がぐらついた直後……遂に膝をついてしまった。

「……ぬぅ……!」
「おやぁ? もうオシマイですか?」
ヘラヘラと笑いながら歩み寄るケフカ。
その手には、いつの間に盗んだのであろうか、シュウの支給品である刀。
大切な戦友の愛刀だ。

「言い残す事はあるかな〜?」
死刑執行人気取りの道化師は、芝居がかった口調で問いかけた。
大仰な仕草で、紅蓮をシュウの喉元に突きつける。
切っ先が皮膚を薄く裂いて、紅き液体を滴らせた。

(ここまでか……!)
せめて手傷を負わせようと、立ち上がろうとするが、どうにも力が入らない。
そんなシュウを見て、ケフカは手にした凶器を無言で振り上げた。

「あの世に行ったら、ティナに伝えてちょーだい。
 『ザマーミロ』ってね!」
握り締めた柄に力を込める。
ありったけの憎しみを込めて、刃は振り下ろされた。
辺りに噴出した血飛沫。
紅い飛沫は草原の緑と共に、妙に綺麗なコントラストを生み出していた。






さて、太陽はもうじき、空の頂点に昇ろうとしている。
光は真上から参加者達を照らし、その視界を逆光で遮る事はもうなくなっていた。
そして風は比較的穏やかで、大した影響はない。

やはり今日は、絶好の射撃日和だ。

サンダウンキッドは引き金を引きながら、そんな事を考えていた。

「なにぃ?!」
銃弾に貫かれたケフカの手首から、血が流れる。
ここに至って初めて、道化師がダメージらしいダメージを受ける事となった。
思わず振り下ろそうとした刀を取り落としてしまう。

「ぐげぇ!」
そんな隙を、超一流のハンターが見逃すはずがない。
重力の枷がなくなった忍者が、ケフカの腹に拳をぶつける。
反撃しようとしたケフカに、サンダウンの銃弾が襲い掛かった。

「チ、チクショー!」
あの銃の威力を身をもって知っているケフカ。
シュウの殺害を諦め、距離を取って正確に繰り出された銃撃を避ける。

「……苦戦……してたようだな」
「……すまない」
駆けつけたサンダウンの手には、彼の愛銃である44マグナムが握られていた。
あのケフカの身体に傷を負わせた千両役者は、未だに銃口から白い煙を吐き出し続けている。
180シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:08:37 ID:KBTLRLjk

「……そんなに、強いのか?」
このシュウが殺されかけていた事が、未だに信じられないサンダウン。
ケフカをみると、傷ついた腕に回復魔法を必死にかけていた。
どうやら回復の利きが悪いらしく、何度も何度も腕に向かって手を翳している。
あのふざけた男が、それほどの強者だとはとても思えないのだが……。

「カエルが可愛く見える程にはな」
「……そうか」
シュウが言うならそうなのだろうと、アッサリ信じ込む。
一言だけそっけなく感想を述べると、そのセリフよりも短い時間でリロードを完了してみせた。
通常よりも一回り大きな弾薬であったが、サンダウンにしてみればこれが最も使いやすい標準形だ。

「さて、どうしたものか」
サンダウンの扱っている銃、おそらくあの少女の支給品か。
同じガンマンとして興味をそそられたが、今はそんな事を言っている場合じゃないだろう。
今はあの道化師を何とかしなくては。
サンダウンの銃がケフカに通用したのは、シュウも確認していた。
だが、あれは不意打ちだから命中したようなもの。
今後は、相手もこの銃を警戒してくるに違いない。
ケフカに向かって銃口を構えたら、引き金を引く前に強力な魔法が飛んでくるに決まっている。
どう考えても命中しないリニアレールキャノンなど論外だ。

「方法なら……………………ある」
遠くでこちらを忌々しそうに睨みつけるケフカと、ずっと睨めっこを続けているシュウに告げる。
忍者の片眉が持ち上がった。
異形の力を持つあのピエロすらもを殺す方法を、サンダウンは知っている。
だが、そこには1つだけ、大きなハードルが存在した。

「シュウ……俺が、信じられるか?」
それは、彼の信頼を勝ち取ること。
世界一疑り深い男に、夢物語を信じさせる。
それこそが、ケフカ撃破の唯一にして最大の課題であった。


◆     ◆     ◆


「はぁっ……はぁっ……サン、ダウン……さん……」
胸が締め付けられるのは、全力疾走しているせいだけではないだろう。
息を切らせて走るのは、シュウを助けに行ったサンダウンを追いかける少女。
自分の支給品には銃があった。
どうやら、サンダウンが本来使っていたものらしい。
元々、戦うつもりなどなかったので、ビッキーにとっては無用の長物であった。
ビッキーが付属の弾薬と共に譲り渡すと、眠っていた銃は急に生き生きと嘶き始める。
ガン、ガン……と数発の試し撃ち。

(戦うつもりなんだ……)
恐るべき速さで鳴り響くその銃声を聞きながら、ビッキーは後悔していた。
また、血が流れるのかと。
あのオディオの思惑通りに殺し合い、無意味な悲しみが上澄みされていく。
もう、嫌だった。
冷たくなった身体に涙を零すのは、もう沢山だ。

サンダウンに『笑ってくれ』と頼まれたときも、笑みを見せることは出来なかった。
戦場に向かう彼を見るのが、悲しかったからだ。
181シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:10:35 ID:KBTLRLjk

「はぁ……いっつぅー……!」
あの道化師につけられた傷が、ヒリヒリと痛む。
もう疲労も限界だ。
ドジだけど元気が取り柄のはずの精神もズタズタ。

いっそのこと、倒れてしまいたかった。
倒れたって誰も責めはしない。

それでも、少女は走る事を止めなかった。

ケフカのような強力な攻撃魔法も、シュウのような鍛え上げられた体術も、サンダウンのような洗練された射撃もない。
この絶望を止める手立てはなに1つなく、危機に瀕した誰かを救う術もなに1つない。

「あう! ……はぁ……それでも……嫌なの……」
盛大に転んでも、細い腕に力を込めて立ち上がる。
お気に入りの白い服は、泥だらけで酷い有様だった。

少女は走れば何かが変わるのだと信じていた。

何かを変えようと必死だった。

「もう、嫌なの……!」
ボロボロの足はなんとか動く。
亀の歩みだけど、まだ進める。

その勇気は、この戦局の結末を、確かに動かす事となる。

「行かなきゃ……」
大切なのは、ある『感情』。
悲しみを解放する鍵は、そのある『感情』に秘められていた。
そして、絶望の連鎖を引き起こすのもある別の『感情』。

こうして、役者は戦場に集う。

最後に笑うのは、悪魔のピエロか。
荒野のガンマンか。
風の忍者か。
無力な少女か。

「行かなきゃ!」
最終ラウンド開始のゴングは、少女の決意の声であった。


◆     ◆     ◆


「何を企んでいるのか知らないですケド、逃げた方が良かったんじゃないかな〜?
 さっき死にかけたのにねえ。頭ダイジョウブー?」
「…………ふん」
サンダウンを後方に残して、単身でケフカに挑む事になったシュウ。
カエルにケフカと、強者との連戦の疲れは流石に隠しきれない。
戦局は、さらにケフカ有利に傾いてしまっていた。
にも関わらず、頼みのガンマンは仲間に加勢することなく、遥か遠くで目を瞑って棒立ちになっているではないか。
182シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:14:09 ID:KBTLRLjk

「ま、さ、か、仲間だけでも逃がすつもり? うひゃひゃひゃひゃひゃ!」
そうは言いつつも、ケフカはサンダウンに注意が向いてしまう。
あのガンマンの持つ銃器の威力を、身をもって知ってしまっているせいだ。
あれを何発も食らっては、流石のケフカも身が持たない。
注意が逸れたところをズガンなんて事は、絶対に避けたい事態である。
だから、目の前の男とは早期に決着をつけたかった。

その為に狂人が選択した戦い方は……。

「スロウ!」
前回と同じく、シュウの長所を殺す事。
先の戦いでケフカは理解する。
この忍者は、回避力は凄まじいものがあり、攻撃魔法を当てるのは至難の業である。
だが、当ててしまえば脆いのだ。
魔法に対する防御力はそれほど高くない。
寧ろ、あのテレポート娘よりも下なはず……。
だから、アキレス腱を潰す。
それこそが、道化師が学んだ事。

「あ〜あ、ざんねーん。これでオマエは……」
「はぁ!」
だが、学習したのはシュウも同じ。
天から金色の、光が降り注いだ。
と言っても、別に天使が迎えに来たわけじゃない。
輝く円柱はシュウを囲んで、その身体に加護を与える。
スロウをかけられる直前に予備動作を済ませたスピードアップで、ケフカの魔法を即座に無効化したのだ。
そして、これは魔法の『相殺』ではなく、『上書き』である。

「……! ふ、ふん! ちょっとは学習したようだけど……」
「喧しい」
故に、この魔法の重ねがけの結果として残ったのは、スピードアップの効果のみ。
シュウもまた、長期戦など狙ってはいなかった。
凄まじい勢いで繰り出されたシュウの蹴りを、ケフカが何とかガードする。
サンダウンにも注意を取られている分、道化師の動きはいささか精彩を欠いていた。

「ファイガ!」
「……く!」
それでも疲労の差が大きい。
ケフカが有利な事は変わらなかった。
ガードしたまま、得意の魔法で反撃に出る。
それをシュウは距離を取る事で、回避した。

「あれれれ? まさか、あのピストルヤローは、ただの案山子なのかな〜」
「……さて、どうかな」
ここで、ケフカの心に疑念が生まれる。
サンダウンの存在は、ただのこけおどしではないか、と。
つまり、ケフカの注意を散漫にする為だけに、ただ立っているだけ。
銃弾が飛んでくる気配もなければ、2人の戦いを見ている様子さえないのだから。

(ひゃひゃひゃ、そうなんだな?)
嬉しそうに笑う。
一晩かけてジグソーパズルを完成させた子供のように。
シュウの目が泳いだ。
知られてはいけない秘密を、探り当てられた顔をした。
183シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/06(土) 23:15:12 ID:KBTLRLjk

生まれた疑念が、大きく膨らむ。
だとしたら、目の前の男にだけ注意すればいいのだ。
そうなれば、ケフカがこの忍者に負ける要素はない。
ケフカは、心の中でガッツポーズを繰り出した。
目の前の忍者に、ピントを合わせる。
確実にこの男を殺すために。

だが、それこそがシュウの目的だった。








今から数分前のことである。

「ふざけているのか?」
シュウの容赦ない不信が、サンダウンにクリーンヒットした。
ケフカを殺す方法。
サンダウンが提案したその唯一にして絶対の方法は、あまりにも現実離れしたものであった。

「至って真面目な話だ……ハリケンショットならば……ケフカを…………」
「…………12連射なんて……不可能だ……」
サンダウンの持っている44マグナムの回転式拳銃を見やる。
リボルバーな上にシングルアクションという、連射にはまるで不向きなその性能。
おそらくは威力重視して造られているのだろう。
だが、そんな点はサンダウンのテクニックならば障害にすらなり得ないだろう。
シュウが言っているのはそんな事ではない。
彼の主張は、それ以前の話であった。

「リロードをしないで、どうやって12発も……」
シュウが呆れたような声で尋ねる。
サンダウンの拳銃の装弾数は6発。
これは標準的な拳銃の装弾数に等しい。
つまり、この銃はそもそも12発の連射など不可能な作りになっているはずなのだ。

「リロードはするさ……一瞬でな」
実際にカシャリと弾を込めて見せた。
神速のクイックリロードである。

サンダウンの言いたいことは分かった。
6発撃って、すぐさま弾を装填。
そして続けて6発を放つ。
すなわち、リロードを挟んでの連射をすると言っているのである。

「信じられると……思うのか?」
確かに、そんな技が命中すれば、ケフカすらも殺しきる事ができる。
だが、この場でただリロードするのと、連射の合間にリロードを挟むのではわけが違う。
そんな事が可能だとは、シュウはどうしても信じられない。
連射というからには、前に放った6発から間髪いれずに次の6発を放たなければいけないのだ。
そんな馬鹿げた話、長年銃を扱ってきたシュウでさえも聞いたことがない。

「信じてくれとしか言えない」
「…………」
シュウは、ケフカと睨みあいを続けながらサンダウンと会話をしていた。
一瞬だけ、サンダウンの瞳を見つめる。
真剣な瞳は、今の話に嘘も虚勢もない事を証明していた。
184創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 23:44:35 ID:GF4NI7a4
しえん
185創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 23:45:54 ID:GF4NI7a4
sien
186シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:00:24 ID:csnktq1s

「…………頼む」
「………………」
忍者の沈黙が続く。
サンダウンの本気の眼。
そして彼の必死の願い。
それを受けて、シュウが出した結論は……。

「無理だ。逃げるぞ」
「シュウ…………!」
シュウがジリジリと後ずさりを始める。
逃走のタイミングを計っていた。
やはり、信じられない。
その技の難易度や、失敗したときのリスクを鑑みれば、当然の判断だといえる。

「次がある。あの少女を探して逃げるぞ」
「…………」
逃げようと足に力を込めたシュウ。
だが、サンダウンはそれに追従しなかった。
ケフカに向き直って銃を強く握り締める。

「ならば1人で行ってくれ。ビッキーなら東にいるだろう」
だんだんと強くなってきた風が告げる。
射撃を止めるように。
今はその時ではない、と。

「サンダウン! なぜ……」
「……俺には」
ザクザクと、道化師に向かって歩みを進める。
その背中をシュウは、『信じられない』といった目つきで睨みつけた。
サンダウン1人だけで敵うような相手じゃない。
たった1人であの悪魔と戦ったところで、ハリケンショットを撃つ暇などないはずだ。

「護りたい……ものがある……」
サンダウンが今、どういう目をしているのかシュウには分からない。
彼のいる方向からでは、その背中しか確認できない。
それで、充分だった。

「だから俺を置いて…………。……シュウッ!?」
歩き出したサンダウンの肩を、ガッシリと引き止めた。
そして変わりに自分がズイと前に出る。
直後、サンダウンに降り注ぐ光の柱。
シュウがスピードアップの魔法をかけたのだ。

「……3分までなら稼げる」
サンダウンのハリケンショットは、撃とうと思ってすぐに撃てるものではない。
リロードを挟んでの12連射という矛盾を可能にするには、それなりの精神統一が必要だという。
そのためにシュウが安全に稼げる限界が3分。
蓄積した疲労や、ダメージなどを考えると、それ以上は命に関わる。

「なんとか……5分、稼いでくれ」
「…………分かった」
それほど長時間、無防備な状態を晒すなど、シュウのサポートなしでこの技を放つのは不可能ではないか。
そんな様なのに、サンダウンは1人でケフカに挑もうとしていたのだ。
その無計画さに、思わず笑ってしまいそうになる。

「…………行ってくる」
「あぁ…………」
風が更に強くなってくる。
どう考えても、射撃には不向きな天候であった。
187シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:01:15 ID:csnktq1s









「……ぐぉッ!」
雷撃だけは、何とかわすことができた。
だが、その隙を狙って繰り出された道化師の拳が、忍者の顔面に命中。
グラリと足元がふらつくが、何とか踏ん張って倒れないように努める。
たたらを踏みつつも、何とか立ったままで次の攻撃に備えた。

ケフカが交戦を始めて3分。
その注意をサンダウンから完全に逸らす事には成功。
だが同時に、シュウの体力にも限界が来ていた。

「あひゃひゃひゃ! 動きにキレがなくなってきましたねえ」
ケフカの高笑いすらもが、肩で息をするシュウのなけなしの体力を削り取ってしまう。
それでも、意識を集中して気を失いそうになるのを必死でこらえる。
大地を踏みしめ、まだ足がマトモに機能する事を確認した。

「はぁ!」
大口で嗤う道化師に、とび蹴りを向かわせる。
作戦もなにもない。
戦闘巧者が聞いて呆れる、愚直で真っ直ぐな攻撃であった。

再確認するが、これは防戦だ。
生き残ればそれでいい。
いや、死んだとしても時間さえ稼ぐ事ができれば成功なのだ。
だが敢えて、シュウは自分からケフカの懐へと飛び込んだ。

ケフカにこの戦いの目的を悟らせない為に。

『まだ自分は、お前を殺すつもりなのだ』と思い込ませるために。

しかし、そんな単調な攻撃が当たるわけもない。
安易な攻撃をした、その代償は大きかった。
横にスライドしただけで蹴りを避けたケフカは、大きな隙を作ったシュウにファイガをお見舞いする。

「がぁッ!」
「ヒャハハハ、ブザマですねえ」
追撃をせずに、爆風で吹き飛んだシュウを指差して笑う。
もうサンダウンの事などこれっぽちも気にしていないケフカには、短期決戦で済ませる気は皆無なようだ。
なぶり殺しにシフトしてくれた事は、シュウにとっては忌々しい反面、好都合であった。

(サンダウン……まだか……!)
ドロリと吐き出した血が、健気に生えている雑草を汚す。
ここにきての魔法の直撃は、あまりにも痛い。
体力をごっそりと奪われてしまった。
立ち上がろうと四肢に力を込めるが、限界を超えた肉体はそれの作業にすらも悲鳴を上げる。

4分経過。
もうそろそろ、ハリケンショットとやらが発動してもいいころだ。
もはや、いつ殺されてもおかしくない。
あと1分という短いはずの時間が、永遠に終わらないような気にさえなってくる。
188シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:02:15 ID:csnktq1s

(やはり、無理だったのでは……?)
そんな疑いが浮かんできた。
そんなネガティブな考えを、どうにか脳から消し去る。

信じると誓ったはずだ。
かつて共に世界を救った、トッシュやエルク。
今だけは、彼らと同じように、サンダウンの事を信頼すると決めたのだ。

(嵐は必ず……起こる!)
限界を主張する足を無視して、なんとか立ち上がる。
魔法でつけられた傷口から、軽く血が噴出した。

もう、目の焦点が定まらない。
ケフカが、5人くらいに見える。
遥かに続く平坦な筈の草原は、大海原のように波打っていた。

「……はぁ……っぐ!」
横から吹き付けた風に煽られて、よろけてしまう。
シュウがいつも支配しているはずの風。
それすらも、敵となって彼の前に立ちはだかる。

4分30秒経過。

強風は、ここにきて更に強さを増してきた。
天が、サンダウンの射撃の邪魔をしているのだ。
人の分際で、嵐を起こそうとしている愚か者を制裁しようとしているのだ。

「まだ立つんですか? そういう暑苦しいの、ダーイキライなんです!」
そう叫びながら両手を掲げ、魔法を展開する。
それが炎なのか、冷気なのか、雷なのか、もうシュウには分からなかった。
感覚器官が正常に機能していないのだから。
限界など、当の昔に通り過ぎた。
彼は、気力で立っているのだ。

(…………立つさ)
本当ならば、ケフカにそう言ってやりたい。
だけど、喋る体力すらも惜しいのだ。
そんな彼が選択した攻撃は、突進。
捨て身とか、そんなレベルじゃない。
ただ、それしかできないのだ。

だが、その選択は、結果的には正解であった。

「……なぁにぃぃぃ!」
巧みな戦術で自分を翻弄してきたこの忍者から、まさかタックルが飛び出てくると思っていなかったケフカ。
油断する余り、不用意に近づいてしまっていた事もあり、その対処が遅れる。
さらに、ケフカが使っていた魔法は高位の魔法で、その効果範囲も広い。
スピードアップ状態のシュウが避けられるかどうかギリギリだった事からも、その範囲の広さが伺える。
だから、タックルしてきた相手に使用したら、自分も巻き添えになる可能性だってあった。
結果として、道化師はその魔法をキャンセルし、忍者の突進を両腕でガードする事となる。

「ふんッ……調子に、乗るんじゃないッ!」
「……ぐあ!」
予想外の攻撃に、怒りを露わにするケフカ。
そのアッパーが、シュウの腹部を捉える。
続けて繰り出されたストレートが顔面にヒットし、忍者はまたしても地面に倒れこんだ。
血液の飛沫が、赤い虹を形成する。
それがケフカには、たまらなく汚いものに映った。
189シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:03:54 ID:csnktq1s

「ヒャヒャヒャヒャ! そうして這い蹲っているのがオニアイですよ!」
もはやシュウには、その笑い声すらも聞こえない。
もう、敵が誰だとか関係なかった。
ゆっくりと、老人のように立ち上がる。
ただ彼は、嵐を待っていた。

(……立つさ…………)
中腰になったあたりで、一度派手に転んだ。
傷だらけの身体が、地面と擦れる。
だが、シュウはその痛みすらも感じることはできない。
間髪いれずに、もう一度立ち上がろうとする。
嫌になるほどの晴天の中で、馬鹿みたいに嵐を信じいてた。
酷く、惨めなで誇らしい気分だった。

4分50秒。
カウントダウンが始まる。

(……何度でも…………)
強風に背中を押されて、立ち上がる。
動かないはずの両腕に、『まだ行けるよな?』と問いかけた。
『当たり前だ』と、右腕。
『愚問だ』と、左腕。
『それでこそ俺の身体だ』、と忍者。

強くなった風は、やがて暴風に変わるのだろうか。
その答えが出るまで、あと10秒。
いや、もう残り8秒になる。
途方もなく、長い。

「……シィッ!」
渾身のパンチは空を切り、勢い余った忍者がよろける。
屈んだ忍者の後頭部に、唾を吐き捨てピエロが笑った。
これが好機とケフカは魔法を発動させようとした。
だが、忍者はまだ終わらない。
重力に逆らう事を止めて素直に地面に手をつき、その手を軸にコマのように回転。
しゃがんだままで回し蹴りを放ったのだ。

あと5秒。

「どこにそんな体力があるんダヨ?!」
足払いを受けて、ケフカの身体が宙を浮く。
だが、そのまま転んでくれるほど甘くはない。
地面に手をつくと、そのまま側転。
クルリと一回転して華麗に着地を決める。

その瞬間に生まれた余りにも短い隙を、好機と言っていいのかは微妙である。
だが忍者は、そこを狙って最後の攻撃に出た。

あと3秒。

(嵐よ……来い……)
バネのように立ち上がって、走り出す。
その手には、友の刀。
不慣れな武器ではあったが、殴るよりは威力が高いだろうと踏んだのだ。
刹那のチャンスを見計らい、シュウの斬撃が放たれた。
190シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:05:21 ID:csnktq1s
もはやケフカにも、軽口を叩く余裕などない。
紅蓮の一撃を右手で簡単にいなすと、右フックをシュウの頬に浴びせる。
グラリとその身体が揺れるが、それでもシュウは倒れない。
だが、刀は今の衝撃でどこかへと吹き飛ばされてしまった。
最後の攻撃は、あっけなく失敗に終わる。
攻撃が空振りに終わったとて、そんな事を嘆く余裕はない。
元よりこれは、時間稼ぎ。
魔法だけは出させないよう、接近戦を続けさえすればそれでよかった。

あと、2秒。

即座に繰り出されたケフカのキックを受け止める。
両腕に響いたがぁんという衝撃は、骨を伝って全身に伝わる。
更に、ガードが降りたところに頭突きを食らい、意識が遠のきそうになる。
流れ出た血が目に入るが、その影響は少ない。
定まることのないフラフラの視界など、使い物になるはずがなかった。
今となっては、皮膚感覚のほうがまだ頼りになる。

(なんでもいい、かわさなくては)
距離をとったケフカが放つのは、パンチか、キックか、頭突きか。
次の1撃さえ、かわせれば……。

道化師が最後に放った攻撃は……。

「ファイガ」
当然ながら、魔法であった。
距離を取ったのだから、得意の魔法を使わない手はないだろう。
限界を迎えたシュウは、そんな事すらも考えられなかったのだ。
脳に供給する分の酸素を、無意識下で運動の方に回していたのかも知れない。
巨大な炎が……弾けた。

あと、1秒。

「風は、吹く……」
全身から血を噴出しながら、シュウが倒れる。
男は、まだ死んでいなかった。
限界を超えて戦い続けた身体に魔法を受けても、まだ生きていた。

意識して魔法を避けたわけじゃない。
ただ、彼は前進したのだ。
先述したように、ケフカの魔法の効果範囲は広い。
そして、ある程度距離を取ったとはいえ、ケフカとの忍者はそれほど離れてはいなかった。
シュウを中心として魔法を展開してしまうと、ケフカ自身も巻き込んでしまう。
191シュウ、『嵐』に託す ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:06:35 ID:csnktq1s

それを恐れて、道化師は忍者の後方に魔法を放ち、彼をそれに巻き込ませようとした。
だが、忍者は高速で前進した。
道化師と戦い続けようとしたから。
その結果、魔法はシュウに殆ど命中することはなかった。

「必ず……吹く!」
体内時計が、正確に5分を告げたのを忍者は感じた。
強くなった風は、更に勢力を増して嵐と生まれ変わるのだ。
そう、忍者は信じる。

あと、0秒。約束の時間だ。

戦い続けた男に対して、天は残酷であった。
風が……止んだ。
だんだんとその強さを増してきた風が、ピタリと止んだのだ。

銃弾は飛んでこない。
もう、限界であった。

「そうか……」
前進を続ける身体の力が抜ける。
前のめりに傾いた忍者は、そのまま地面に倒れ付した。
男が待ち焦がれた嵐は……起きなかった。

「そうか、失敗したか」
サンダウンは責めはしない。
彼はおそらく、嘘などついてなかったのだから。
彼を信じた事に、後悔はなかった。

グルリと回って、仰向けになる。
見上げた空は、憎たらしいほど青く静かだった。
そう、こんな日は…………。
192サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:07:41 ID:csnktq1s





ニノが笑っている。
ロザリーが笑っている。
マリアベルが微笑んでいる。
サンダウンは、静かにそれを眺めていた。

サクセズタウンで彼が教えられた事。
それは、人を護る事だ。
放浪生活の中で忘れてしまっていたその大切さを、彼はもう一度心に刻み込む。

ビッキーが泣いている。
サンダウンは、それを見ていた。

彼女が泣いている理由は分からない。
だけど、理由なんてどうでもいい。
ただ、彼女が笑えるような世界が欲しかった。

シュウが自分の背中を見ている。
それだけで、彼はこんな馬鹿げた夢物語を信じてくれた。
全てを賭けてくれると誓ってくれたのだ。
それだけで、空だって飛べる気がした。

全ての想いが、彼の指先に集中する。

その瞬間……風が、止んだ。
あれほど強さを増していた風が、完全に止まったのだ。

「……最高の……射撃日和だ……」

道は開けた。
晴天が嵐を祝福している。

「シュウ、少し遅れたが……約束は、果たしたぞ……」
撃つ前に成功を宣言。
もう、失敗する道理はなかったからだ。

少女達は命を賭けてカエルと戦った
魔法を駆使しながら。
衝撃波を起こし、火を起こし、水を生み出して戦ったのだ。
血を流し、瀕死になりながらも、その力で奇跡を起こしてみせた。

(それに比べたら……)
握り締めた銃。
なんて軽いのだろうか。

  『ヴォル……テック!』
腹を刺し貫かれても、ロザリーが放った魔法。
無数の風を起こす奇跡。

  『バリバリキャンセラーッ!』
無数の弾丸に撃たれても、マリアベルが放った魔法。
カエルの魔法を無効化する奇跡。

  『ゼーバー! え……って、あれ?』
限界を超えたても、ニノが放とうとした魔法。
魔力を相手にぶつけ続ける奇跡。
193サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:08:40 ID:csnktq1s

少女たちは血みどろになっても、魔法を操って見せたのだから……。

(人が造りし44ミリの鉛弾など……操れぬはずがない!)
ガガガガガガと、まるでガトリングのように6発発射。
そして、神速のクイックリロード。
続けてガガガガガガと、また6回響いた。

12発全てが、等間隔。
その矛盾も、また1つの奇跡であった。




「成功……した、のか……!」
シュウの耳に確かに届いた、嵐の音。
なるほど、確かに12回。
その全てが同じ間隔で聞こえてきた。

(ケフカ……終わりだ……)
流れ来る弾丸の嵐を確認して、同時に勝利を確信した。
1撃でも、容易く身体を抉り取るほどの弾丸。
それが、12発もいっぺんに襲い掛かるのだ。
たとえケフカでも、これを食らっては生きているはずがない。

そして、サンダウンが発した弾は必中。
彼の腕から発射された弾は、必ず狙った場所を貫くのだ。
避けられる可能性もゼロと断言できた。

「勝った……のだな……」
身体はボロボロ。
プライドもズタズタだ。
それでも……何とか生きながらえる事もできたようだ。

来るべき勝利に向けて、もう動かせないはずの腕を持ち上げようとする。
拳を掲げ、自分達の勝利を掲げた拳で祝福するために。

もう目を瞑ってもいいだろうか。
友の勝利を見届けるまでは、気絶したくはないのだが……。

襲い繰る眠気と戦いながら、シュウはもう1度弾丸を見る。
空を突き進む12の小さな鉛塊は、腹をすかせた龍のように全てを破壊しつくさんと突き進む。
その進路を遮るものは何もない。
空は清清しいほど青く静かだ。
もう天はサンダウンの邪魔などはしない。

あれほど強かった風だって、もう既に……。

(…………?)
突き上げようとした拳を止める。
嫌な予感がする。
風が、吹いたのだ。
止まっていたはずの風が。
それは、異常な早さで強くなり、瞬く間に強風から暴風へと変わる。
弾丸にぶつかった風は、その推進力を削り取り、そのジャイロ回転を鈍らせた。
弾丸の殺傷能力を、風が少しずつ弱めていく。
194サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:09:29 ID:csnktq1s







「トルネド」







ケフカらしからぬ、淡々と事務的に発せられた言葉。
酸素が充分に行き渡らないシュウの脳は、微かに聞こえたその意味を理解するのに3秒もの時間を必要とした。
それが魔法の名前だと悟り、彼は深く後悔する。

(俺の……せいだ……)
道化師との戦いが、ちょうど5分に達した瞬間のこと。
シュウは数秒だけ、サンダウンを疑った。
ハリケンショットは失敗したのだと、彼の腕を疑った。

だから、全てを諦めて倒れてしまったのだ。
結果的に、それはケフカに魔法の詠唱をさせる余裕を与えてしまった。

(もし俺が、最後まであいつを信じていたら……)
掲げかけていた握りこぶしを、地面に叩きつける。
最後まで諦めずにケフカに立ち向かっていたら、ケフカがハリケンショットの存在に気付くのも遅れていたはずだ。
ケフカの呪文を詠唱も、邪魔することができたはずなのだ。

ハリケンショットの威力は、とてつもないものがある。
おそらく、あの程度の魔法ではじき返されるような事はないだろう。
だが、あの呪文によって、ハリケンショットの威力は確実に削られる。
もしかしたら、ケフカを殺しきれないかもしれない。
そんな悲劇の可能性が生まれてしまった。

もしそうなったら、生き残ったケフカにサンダウンは確実に殺される。
ケフカの魔法を避ける事など、あのガンマンには敵わない。

(そんな事、させてたまるか……!)
立ち上がろうとしたのに、それが出来ない。
身体には力が入らず、視界がグラつく。
限界を遥かに超えたシュウの身体は、やがて来るであろうハリケンショットを支えにして何とか戦っていた。
そしてその肉体は弾丸の嵐の発射と共に、もう気絶する準備に入ってしまっていたのだ。

(まだ……俺は……)
助けに行きたいのに、意識はどんどん闇に沈んでいく。
聖櫃に封印されていく闇の支配者は、こんな気分だったのだろう。
目を開こうとしても、その瞼はリニアレールキャノンよりずっと重く感じた。
眠りの世界を酷く心地よく感じるのが、なんとも不愉快で仕方がない。
だけど、もうそれに身をゆだねる他に道はなかった、

(あ……れは……)
意識が途絶える直前だった。
霞みゆく視界の中で、ソレだけが妙にハッキリと映し出される。
何度も、何度も、見ているからだ。
その刀が、美しく敵を切り刻むのを。
その刀が、戦場で自分を救ってくるのを。
195サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 00:11:31 ID:csnktq1s

(また……助け、て……くれる、の……か)
手を伸ばし、掴み取る。
刃を握り締めた手から、ドクドクと血が流れるが知ったことじゃない。
太陽の光を吸収して熱を帯びた友の刀が、吼える。
『思いを貫いてみせやがれ!』と。

(すま……な、い……)
そのまま手繰り寄せると、反射した太陽の光が目に入ってくる。
酷く眩しい光は、襲い掛かる眠気をほんの少しだけ、中和してくれた。
だが、こんなものではまだ足りない。

一瞬躊躇もない。

手にした刀で、右目を貫いた。

悲鳴など上げない。
そんな体力など、どこにあろうか。

瞬間、途方もないほどの電気信号が、男の脳を錯綜。
休息モードを強制的に中断した。

(まだ、往ける。これが、最後だ)
刀を大地に突き刺して杖の代わりに使い、なんとか立ち上がる。
もう、刀を地面から抜く力も存在しない。
親友に別れを告げると、男はゆっくりと、だが確実に歩き出す。

風は、全く吹いていない。

『行ってこい』と、紅蓮は答えた。


◆     ◆     ◆


(シュウ……無事でいてくれ……)
サンダウンは走っていた。
息を切らせて、流れる汗を拭うことなく。
友の事が心配だったから。

今は逃げるべきだと、シュウは言った。
だけど、サンダウンはそれを拒否して、ケフカに挑んだ。
逃げるのが最善の手である事を、頭では理解していたはずなのに。

シュウは、その覚悟に乗ってくれた。
自分の我侭に、命を賭けてくれたのだ。

そのくせ自分は、約束の5分を数10秒もオーバーしてしまう。
なんと自分勝手で情けない事だろうか。
そのせいで、シュウが死んだら……。

「チッ! 土煙が…………」
モクモクと辺りを埋め尽くしているのは、舞い上がった土煙。
空気を濁らしては視界を悪くし、目に入っては痛みを与える。
この厄介な置き土産は、ケフカが最後の悪あがきで繰り出した竜巻によるものだ。
196サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:00:12 ID:csnktq1s

サンダウンがハリケンショットを放った直後、ケフカもそれに合わせて魔法を放った。
それがあの竜巻。
シュウとの戦いに気を取られていたにも関わらず、あの短時間であんな大規模魔法を展開したことは、素直に尊敬に値する。
マリアベルたち3人と比較しても、かなり高位の魔術師であることが伺える。
あれならば、シュウが殺されかけていた事も納得である。

しかし、ルクテチアでありとあらゆる魔物を葬り去ってきた弾丸の嵐の前には、その魔法ですらも余りに非力すぎた。
竜巻などという2流の自然災害など、台風の前には木枯らしのようなもの。
道化師の最後の呪文は、弾丸の勢いを殺しきる事はできずに終わってしまった。

銃のプロフェッショナルのサンダウンなら分かる。
あの魔法によって殺された分の威力を差し引いたとしても、その威力はケフカを殺すには充分だった。
弾丸はケフカの胸を抉り、四肢を破壊し、頭を砕く。
おそらく道化師は、精肉後の家畜のように成り果てているに違いない。

(シュウの無事を確認したら、あいつも弔ってやらねば)
少しだけ感じた罪悪感をそうしてやりすごすと、気絶しているだろうシュウを探して歩き出した。
晴れかけていた土煙が不自然に揺れる。
直後に、鼓膜を響かせたのは、絶望の音。




「ア゙ァァァァァァ………………」




「……馬鹿……な!」
そんな彼の耳に届いてしまった声。
嘘だと思いたかった。
だが、幻聴なんかじゃない。




「ルゥゥゥゥゥゥ………………」




(あり得ない……!)
だが、声はハッキリと、土煙の中枢から。
それはつまり、竜巻の中心部から聞こえてきたという事で。
さらにそれは、魔法を放った張本人が喋っているという事である。




「デェェェェェェ………………」




「…………クッ!」
即座に銃を構える。
ハリケンショットを撃った後、弾を補充しておいて良かった。
即座に攻撃に移れるのだから。
だが、その神速も今回ばかりは役に立たなかった。
197サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:01:10 ID:csnktq1s




「マ゙ァァァァァァア゙ア゙ア゙ア゙ァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!」




「……これ……は!」
銃を構えたその手が驚愕と絶望に固まった。
とてつもない勢いで噴出した汗が、44マグナムのグリップを湿らせる。
まるで、銃も一緒になって汗をかいているかのようだった。

ケフカが放ったトルネド。
あれも実はかなり高位の魔法で、対象の体力をゴッソリと奪い取る恐るべき破壊力を持つ。
また、ケフカがハリケンショットにその魔法をぶつけたのは、呪文を詠唱する時間が殆どなかったから。
ハリケンショットが自分に接近する前に放てる中で、最も高位の魔法を選んだのだ。
それであの威力。

ならば、ケフカが充分な余裕を持って繰り出した魔法はどれほどの威力なのだろうか。
その答えが、これ。

「う……うおおおおおおおお………………!!」
寡黙なサンダウンが、何年ぶりかになる大声をあげる。

何と形容すべきか。
もはや、ハルマゲドンだった。
あまりに巨大な爆破。

青白いエネルギーの半球はサンダウンを覆いつくし、その身体に無数の傷を刻んでいく。
そのひとつひとつが致命傷。
ハリケンショットを超える破壊力が、そこにあった。

(なぜ……生きている……!)
魔法という名を持借りた地獄が過ぎ去った後、そこには荒れた大地でポツンと倒れ付すサンダウンの姿。
草原の緑すらも、『アルテマ』は消滅させてしまっていたのだ。
身体に走る痛みを無視して、ガンマンは必死に考えを巡らせる。
ハリケンショットは必中で、その威力もケフカを殺しうるには申し分のないものであったはず。
道化師が生き残る術など存在していていないはずなのに。
生きながらえているだけでなく、魔法まで放っているではないか。

「ゲホッ! ウゲェ! ……ホントーに…………」
土煙から現れた道化師。
身体は血みどろで、口からは血液らしき赤黒いモノを吐き出している。
腹部や肩には、弾痕らしき穴さえ見受けられるのだ。
ハリケンショットは命中していたと見て間違いはないようだ。

(ならば……なぜ……)
サンダウンはが気付けなかったのも、仕方のない事ではある。
それは、彼の知らない概念だったから。
魔法を知るものには簡単な話。
プロテスを使った、それだけである。

「ホントーに、死ぬかと……思ったよ……」
ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ……。
と、あり得ないほど口の端を吊り上げて笑う。
ハテナマークを顔に貼り付けたサンダウンに、血走った目を向けた。
198サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:02:13 ID:csnktq1s

「誇っていいんじゃないカナァー……」
フラフラと歩み寄るケフカからは、かなりの疲労とダメージが確認できた。
それでも、サンダウンを絶望が包む。
ハリケンショットで死ななかったのだ。
もう2度と、あれを撃つ暇など与えられない。

そして目の前の悪魔の強さ……。
たった一撃で、戦闘不能になってしまったのだ。
シュウは5分間も耐え続けていたというのに。

「あの忍者があと数秒稼いでいたらさぁ……
 君があと数秒早く引き金を引いていたらさぁ……」
ケフカの手に、冷気が宿る。
それが魔法である事も、自分に向けられていた事もサンダウンは分かっていた。
でも避ける術はない。
もう、どうしようもなかった。
それでも、諦めたくはなかった。
サンダウンはふらつく手で銃を構える。

「……君たちの勝ちだったよーーーん!!!!」
だが、それより先に、氷柱がサンダウンを包んで、割れる。
ただでさえ大怪我を負った体から、更に大量の血液が流れ出した。
右足が二度と使い物にならなくなったのが分かる。
ガンマンとしての生命は経たれたも同然。
それでも、サンダウンは諦めない。

「……ッぐ……まだ、だ……!」
右腕で、引き金を引く。
だが、震えた手で発射された弾丸は、あらぬ方向へ飛んでいく。
銃を引いた腕にかかった反動で、肩の骨が悲鳴を上げる。
もう、本当に打つ手はなかった。

「おっとォォォォ……アブナイナー。そんな悪い子には、オシオキだじょォォォ」
ケフカもかなりの体力を消耗しているのだろう。
その動きは鈍く、魔法1つを打つにもかなりの時間を必要としていた。
それでも、それがサンダウンにとっては好機にもなんにもなりはしない。
銃は当たらず、逃げる事も敵わないのだから。
だが、折れた足で、なんとか立ち上がろうと試みる。
まだ、サンダウンは戦うつもりでいた。

「まだ…………俺は…………」
感じたエネルギー。
これは、ビッキーを殺そうとした魔法である。
ビッキーを殺しそこなったので、サンダウンを同じ魔法で殺そうというつもりらしい。
傷口がヒリヒリと焼かれて痛む。
それでも、サンダウンは、魔法に焼かれるその瞬間まで、諦めるつもりはなかった。
シュウの繋いでくれた結果を、そう簡単には手放す気に離れなかった。

「……俺、は……まだ……」
魔法が全てを包んでから、サンダウンはようやく諦めた。
手の力を抜く。
愛銃がガランと、地面に落ちる。
ケフカを倒せなかった後悔と、シュウに対する申し訳なさだけが、その胸を支配していた。


「まだ…………」
本当に、悔しかった。
こんな気持ちは初めてだ。
199サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:03:15 ID:csnktq1s

「ならば、止まるな」
だから、その声は、幻影なのだろうとサンダウンは思った。
死ぬ直前に、脳が見せた幻なんだと。
絶望の衝撃の中で、そう『疑って』しまった。


◆     ◆     ◆


目を開ける。
そこには、ずっと自分たちを見守ってくれていた青空。
背中の感触を確かめる。
確かに、自分たちを支え続けていた大地がある。

(なぜ……生きている?)
自分の身体は未だ存在していた。
前にも増して痛みを上げる腕も。
使い物にならない足も。
そして、捨てたはずの銃も。
全てさっきと同じ状態で、現世で確かに脈打っていた。

「止ま、るな……サン……ダウ、ン・キッ…………ド……!」
忍者が、立っている。
刹那、全てを理解した。
あのシュウの声は夢ではなかったのだ。
情けない自分を庇って、ケフカの魔法をその身に受けたのだ。
こんな、自分勝手な男の為に。

「シュウ……お前……!」
「チクショー! しぶといゴキブリめ! 死ね! 死ね!」
ケフカが魔法を連発する。
疲労した魔導師から繰り出されるのは、どれも低級の魔法ばかり。
放たれた炎が、忍者の肉を抉る。
氷が、シュウの皮膚を剥ぎ取る。
雷が、男の意識をそぎ落とす。
それでも、全身を真っ赤に染めても、シュウは倒れない。

「お、まえ……の……ガァ! ……まも、り……たい……もの……グゥッ! ……とは……な、んだ…………」
容赦のない魔法は、男の身体を次々と破壊。
胸の筋肉を食らい尽くして、遂に破壊すべきその心臓を露出させた。

さっき、他でもないサンダウンがシュウに言った言葉。
『護りたいものがある』。
その一言で、シュウはハリケンショットなどという冗談みたいな話を信じてくれたのだ。
それの背中信じて、シュウはこんなになるまで戦ってくれたのだ。

「俺は…………」
ボロボロの右腕を見る。
何か寂しいと思ったら、銃が握られていないではないか。
慌てて地面に落としたそれを拾う。
それだけで、右半身全体に痛みが走った。
もう少しだけ頑張ってくれ、と銃に願いを込める。

『待っていたぞ』と、44マグナムはそっけなく答えた。

「ヒャヒャヒャヒャヒャ! これでオシマイです!」
ケフカの魔法が、シュウの心臓に放たれる。
もう、避ける事も、耐える事も忍者はしなかった。
氷が拳ほどの小さな臓器を包み込む。
200創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:03:32 ID:k/F2lSue
 
201サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:04:19 ID:csnktq1s


ニノが笑う。
ロザリーが笑う。
マリアベルが笑う。
俺はそれを見ていた。

ビッキーが笑う。
俺はまだそれを見ていない。

それこそが、彼の答え。
その願いだけで充分だ。

『俺のいる、世界に戻りたい』だって?




          笑わせるな。




そんなこと、もうこれっぽっちも思ってはいない!
彼が果たすべき全ては、この悲しみの世界に在ったのだから!


「俺は……あの『笑顔』を護りたいだけだ……!」


パキン……と氷が割れる。
シュウの心臓を道連れにして。
その身体が一度だけ大きく跳ねて、前のめりに倒れこむ。

「やっとくたばりましたか! これで…………」
氷の呪文でシュウを殺害した道化師。
しつこい忍者をやっと始末できた事に、喜びの声を上げる。
だが、その歪んだ笑い顔が凍りつく。

「な……ら、ば……つ…………ら、ぬ………………け……!」
シュウが倒れる。
その言葉を残して。
その後ろから現れたのは、銃口だった。
さっきまでの照準の合わないソレとはまるで違う。
確実に道化師に狙いを定めた銃口が、そこにはあった。

(この距離なら……俺みたいな3流でも、外す事はない……!)
ガチリ、と撃鉄を下ろす。
同時に、身体のどこかで、ミシリ……と嫌な音がした。
だが、それでいい。
指先さえ動けば、それで構わないのだ。
指先さえ動けば、撃鉄を引ける。
指先さえ動けば、銃に命を与えられるのだ!

「ぐぎぎぎぎぃぃぃぃーーー!!! 次から次へと……死になさい!」
ケフカが魔法を展開する。
バチバチとピエロの両手から発生する、青緑色の光。
最後は、雷だった。
神速の銃と、電速の魔法の速さ比べ。
202創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:04:30 ID:k/F2lSue
 
203サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:05:09 ID:csnktq1s

「食らえェ! サン…………」











「砕け散れッ!」











そんなもの、勝負にもならなかった。
ガンガンと二発。
その反動が、元々ボロボロだった右腕を完全に破壊。
大量の血液を撒き散らして、サンダウンがその場に倒れる。
四肢の殆どが砕け散った。
もう、長くはない。

「なにィィィィーーーー! グエッフ!!」
ダブルショットがケフカの腹部を直撃。
うち1発がその身体を貫通した。
たった1発では致命傷にはなりはしない。
あまりにしぶとい。恐るべき生命力だ。
ゲホゲホと血を吐き出しながらも道化師はまだ生きていた。
シュウが命を捨てて、サンダウンが全てを賭して……。
……それでもなお、ケフカには届かない。

「ケ……アルガ! くそ……ぐ……そォッ!」
この男の無尽蔵とも思える魔力が、ついに枯渇のときを迎えた。
最後に放たれた高位の回復魔法がケフカを包む。
だが、その回復魔法はオディオによって制限されている。
なんとか死は免れたものの、追撃を受ければ確実に死ぬ。
そこまでケフカは追い詰められていた。

「お……わ、りだ……」
そして、道化師の目に映ったのは、銃を左手に持ちかえたガンマン。
もう立ち上がることも出来ずに、上半身だけを起こして銃を構える。
右腕は肩から先が欠落しており、そこから血が垂れ流しになっていた。

力の入らない指で撃鉄を下ろして、グリップに力を込める。

「ヂ、ク……ショー! ク、ソォ! チ……グ、ジョウ!
 うぞ……だ! ご、んな゙…………の! ヂグ…………ジョ……!」
自分に向けられている銃口を忌々しげに睨み付ける。
そんなことしか、今のケフカには出来ない。
男の弾丸が確実に自分に死を与えるだろうことは、流石の狂人だって理解していた。
204サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:06:05 ID:csnktq1s

「く、た……ばれ…………バ、ケモ……ノ、が」
やっと終わる。
シュウとサンダウンの全力が……やっと悪魔に届く。その瞬間がやってきた。
心の中で、忍者と固い握手をかわす。
意を決すると、引き金に指をかけ、力を込めた。
……込めようとした。



「貴、様……何を、して……るんデスか?」
「何を、し……てる、んだ……?」



ガンマンと道化師の目が、驚愕で大きく見開かれる。
銃声の変わりに響いたのは、ケフカとサンダウンから同時に放たれた疑問。
その全く内容の同じ質問の対象は、少女だ。
まるでケフカを守るように、両手を広げてサンダウンに立ちはだかるビッキーに向けて放たれたものだった。

「……サンダウンさん。……もう、やめてください」
戦っている男たちを捜しながら、息を切らせて走り続けていた少女の息は荒い。
その呼吸の合間に、言葉は搾り出すように紡がれた。
流れた汗が、大地に流れる真っ赤な血を少しだけ洗い流した。

「自分……が、何を、して……るの、か……」
「分かってます」
少女の行動を、サンダウンは信じられなかった。
まるで異星人をみるかのごとく、間を丸くしている。
あのケフカは、少女を殺そうとした悪魔なのだ。
それを忘れてしまったとでも言うのだろうか。

「こむ……す、め……! なに、を、たくら……ん、デ……!」
「……もう、嫌なの!」
ケフカの方へ振り向いて少女が叫ぶ。
少女が涙が、サンダウンにはとてつもなく悲しかった。

「……おかしいよ。誰かを殺さなきゃ、未来がこないなんてさ」
「イカ、レて……るん、じゃ、ない……の……」
どの口がそんな事を言うのか。
ケフカが真っ赤な唾を吐き捨てる。
だが、サンダウンも同じ事を感じていた。
少女が、おかしくなってしまったのではないのかと。
この異常な状況で、ついにその未成熟な精神が崩壊してしまったのではないかと。

「どく……んだ。……でな、い……と……きみを……」
サンダウンが少女に銃を構える。
彼女がどんなつもりでこんな事をしているかとか、何を狙っているとかは、最早関係ない。
これは、シュウが命を捨ててまで繋いでくれた結末である。
自分の我侭に付き合ってくれた男の為にも、それをこんな形で終わらせるわけにはいかなかった。

「サンダウンさん、言いましたよね。『笑ってくれ』って……」
ガン、少女の言葉を待つことなく、1発の銃声。
『黙れ』と『どけ』を表した1発である。
それは、少女の顔を掠めて、その頬に一筋の赤を刻む。
ビッキーは驚いた拍子に一瞬目は瞑ったものの、悲鳴を上げることも、それ以上うろたえる事もなかった。
205サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:07:08 ID:csnktq1s

「た……の、む……ど、け……」
煙を吐き出す44マグナム。
脅しとは言え、少女に向けて銃を撃った事に酷く胸が痛む。
それでも、今ケフカを殺さなくては、また別の誰かが死ぬ。
絶望は、銃弾でしか打ち破れないのだ。
もう時間がない。もうまもなく、この身体は活動を終える。
銃の中には、もうあと2発しか弾丸は入っていない。

「でも、やっぱり私……笑えない。そこにいる皆が笑顔じゃなきゃ……笑えないよ」
「…………ッ!」
サンダウンの目が一瞬大きく開いて、すぐに静かに細められた。
脳裏に浮かんだのは、ビッキーの涙。
そして、『笑ってくれ』と頼んだ自分に向けられた、彼女のあの切なげな表情。

(そう……だったのか)
サンダウンはやっと気付いた。
少女が泣いていた理由。
彼女は誰かが死ぬのが嫌なんだ。
悪とか、正義とか関係ない。『誰か』が死んだら嫌なんだ。
たとえそいつが味方を殺した張本人でも、明日親友を殺すかもしれない殺人ピエロでも。

「…………し、かた、が……ない……」
馬鹿げていた。
そんな事で、この少女はシュウの切り開いた未来を台無しにしようとしているのだ。
サンダウンは銃やるに手をかける。
全てを終わらせるために。

「これ、で……お、わり……だ」
「…………くぅ!」
流石に怖くなったのか、目を閉じて震えるビッキー。
サンダウンは覚悟を決めると、握った銃に力を込めた。
その瞬間に……全ては決着。

少女が聞いたのは、銃声ではない。
カランカランと2回。

「……え?」
予想していなかった音。
少女が、涙で湿った目を開く。
そこには、愛銃のシリンダーを開いて、弾丸を排出したサンダウン。
引き金は、引かれなかった。
弾は、発射されなかった。

「な、らば……つ、らぬ……け」
それはシュウがサンダウンに送った言葉。
彼は、この言葉を残して、死んでいった。
シュウからサンダウンへ。そして、ビッキーへ。

立つ事ができないので、這って少女の元へ行こうとする。
それを察したビッキーが、サンダウンに歩み寄ってしゃがみこんだ。

「その……やさ、しさ……を」
少女の頬に手をかざす。
血がその顔に付着したが、少女は嫌な顔一つ見せなかった。
優しい子だ、とサンダウンは思う。
206サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:08:15 ID:csnktq1s

ケフカに懐柔が通用するか?
そんなはずはない。
十中八九、殺される。
そんな事はサンダウンも分かっている。

だけど、シュウは言った。『思いを貫け』と。
サンダウンは少女の笑顔を護りたかった。
そしてこれが、サンダウンが思いを貫く、唯一の方法。

「き、みは……な、にも…………ま……ち…………がっ……て………………は…………い…………な…………」
その言葉を最後に、サンダウンは力なく崩れ落ちた。
その上半身をビッキーが抱きとめる。
そして零れ落ちそうになった銃を、しっかりと握らせた。
彼の身体が硬直するまでずっと……。






後悔はないさ……。
最後の最後で、少女の笑顔を見ることができた。

後のやっかい事は、残った連中に押し付けるとしよう。

さて……それじゃあ、シュウに殴られに行くとするか……。


【シュウ@アークザラッドU  死亡】
【サンダウン@LIVE A LIVE 死亡】
【残り38人】


◆     ◆     ◆


「……どう、する……つも、りだ?」
「決まってる……ふんっぬ! ……でしょ!」
血だらけのケフカの身体を抱え上げる。
子供のような性格をしてるくせに、その身体はやたらと重かった。
それでも少女は、泣き言も言わずに道化師を負ぶった。
お気に入りの服は、もう血だらけで見るも無残な状況である。

「シュウさん、サンダウンさん。ごめんなさい……もう少し待ってて」
本当だったら、彼らにも死んで欲しくなかった。
もっと早く辿り着けば、助けられたかもしれないのに……。

「お、まえ……バ、カで…………しょ……?」
少女は、命の恩人の死体を野ざらしにする。
生きているケフカの治療をする為である。
それがケフカには信じられなかった。
命を捨ててまで自分を助けた男達をほったらかしにして、自分を殺そうとした男を治療しようというのだ。

「ぜっ、たい……こ、ろし……て、やる…………から……な…………」
ケフカが殺意を全開にして宣言する。
屈辱だった。
殺されかけた上に、自分の代わりに命乞いをされ、更に治療までされる。
ハラワタが煮えくり返りそうであった。
207サンダウン、『花』を見守る ◆Rd1trDrhhU :2009/06/07(日) 01:09:16 ID:csnktq1s

「いいよ。殺しても」
走り続けて疲労が溜まった身体に、この重労働は酷だ。
ケフカも少女の疲労は理解している。
だからこそ、少女の行動が理解できなかった。

「その代わり、私で最後にしてね」
背中のケフカのほうも見ずにアッサリと答えると、「よいしょ」と一言。
どこへ行けばいいのか、開いた地図を開いて確認する。

「は……はは……シン、ジラ……レ、ナー……イ」
本当に、信じられない。
思わず、笑いがこみ上げてきた。
おかしな女に捕まったと、ケフカは後悔する。

「おい……血が……出、てる、ぞ…………」
ビッキーの肩から、出血しているのをケフカは確認した。
そして気付いた。
これは、自分が蹴り上げたときについたものだと。
大地と衝突したときに、怪我を負ったのだ。

「痛くない!」
そう叫ぶと、地図に再び目を通す。
そんなビッキーに道化師はもう1度「シンジラレナーイ」と告げて、意識を失った。

少女は白い花が好きだった。
少女を見守って死んだ男も、荒野に咲く白い花が好きだった。

もしかしたら、限り無く続く憎しみの連鎖を断ち切るのは、無数の銃弾ではなく……。
208創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:11:52 ID:fj+2hrow
209創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:16:49 ID:KF2i4JY8
支援
210創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:18:49 ID:L9e4pfwT
【I-8 荒野 一日目 昼】
【ビッキー@幻想水滸伝2】
[状態]:疲労(中)、服が血まみれ、肩から出血
[装備]:花の頭飾り
[道具]:不明支給品0〜2個(確認済み。回復アイテムは無し)、基本支給品一式
[思考]
基本:もう、誰も死んで欲しくない。
1:どこかの施設でケフカを治療する。
2:1の後、シュウとサンダウンを埋葬する。
3:ルッカと合流して、北の城に帰りたい。
[備考]
※参戦時期はハイランド城攻略後の宴会直前
※ルッカと情報交換をしました。
※現在位置を分かっていません。


【ケフカ・パラッツォ@ファイナルファンタジーY】
[状態]:気絶、疲労(甚大)、全身に銃創
[装備]:無し
[道具]:タケシー@サモンナイト3ランダム支給品0〜2個(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:全参加者を抹殺し優勝。最終的にはオディオも殺す。
1:目覚めたらビッキーを殺す。
2:積極的には殺しにかからず、他の参加者を利用しながら生き延びる。
3:アシュレー・ウィンチェスターの悪評をばらまく。
※参戦時期は世界崩壊後〜本編終了後。具体的な参戦時期はその都度設定して下さい。
 三闘神の力を吸収していますが、制限の為全ては出せないと思われます。
※サモナイ石を用いた召喚術の仕組みのいくらかを理解しました。
※現在位置を分かっていません。
※回復魔法の制限に気付きました。



※戦闘により、I-8の殆どが荒野になりました。
※いかりのリング@FFY、パワーマフラー@クロノトリガー、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、
 44マグナム&弾薬(残段数不明)@LIVE A LIVE はI-8 中央部のサンダウンの死体に装備されたままで放置、
 紅蓮@アークザラッドU、リニアレールキャノン(BLT1/1)@WA2 はそれぞれI-8か、またはその周辺に落ちています。
※シュウとサンダウンの死体はI-8 中央部に並んで放置されています。
 2人の死体は城下町から西の方向にありますが、初めからこの進路を取っていたかは不明。
 よって、彼らと別方向に進んだストレイボウが、西に進路をとっていたとしても問題はありません。
211創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:19:13 ID:k/F2lSue
 
212創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:20:35 ID:KF2i4JY8
213創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:20:56 ID:L9e4pfwT
以上、投下終了です。

−−−−−−−−−−−−

ここまで代理投下です。

>>210にタイトル入れ損ねました申し訳ありません。
214創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:32:23 ID:KF2i4JY8
投下乙ッ!

エ、エドガーさんに続いてまたしても頼れる大人が死んだ……
サンダウンは44マグナムが手に入ってようやくこれからだと思ったら最後にビッキーの笑顔を守るためにああなるとは……
ビッキー、そいつ改心するような奴じゃないからッ!
お前が助けたのはルカ様並に危険人物だからッ!
この後ビッキーが回復したケフカに瞬殺されたら涙目ってレベルじゃねーよ……
しかしまた地形が変わったかw地図役に立たないなw
もう放送毎に自動で更新されたりしねーかないっそw
215創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 01:54:36 ID:3iEhRlD2
投下乙!!
サンダウンさんとシュウとケフカの大バトル
白熱した!いいSSだ。最後に銃弾を扱えたサンダウンとってもよかったぜ!
そしてビッキー。誰かが死ぬのは嫌だが、あのケフカがこのまま終わるとは思えないな
でも、とても面白かった
216創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 03:53:18 ID:k/F2lSue
シュウううううううううううううううう!
サンダウンんんんんんんんんんんんん!
ビッキーいいいいいいいいいいいいいいいい!←死んでねえw

投下乙!
かっちょいい、かっちょよすぎるよ、こいつら!
合理主義的っぽくて、大人で、でも最高に熱いコンビだった!
背中で語るサンダウンやシュウさいこー!
己を貫いた生き様だったぜ!
ビッキーも切ないなあ。うん、好きだよ、こういうがんばるアホの子。
そしてケフカ凶悪だああああ!
ラスボスの威厳といやらしさをとくと見せ付けてくれたぜ!
でもこの話でのいっちゃんすきなとこはこいつのシンジラレナーイの使い方だったり…いいな、うん

ハリケンショットの謎にもメスを入れてくれたすんげええ面白い話でした、GJ!
217創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 10:11:29 ID:n73ZcWNS
投下乙! ガンマンコンビの戦い方がかっこよすぎた…!!
しかしサンダウンとシュウ…強くていい奴がどんどん死んでいく…!
でもこれでこそバトルロワイヤル、悲しいのにワクワクしてきた
シュウの死を知ったトッシュ・エルクがどうなるかも気になるな 二人とも激情化だし

ケフカ、助けてもらっても思考は「目覚め次第ビッキーを殺す」なのな
ビッキーが自分からでっかい死亡フラグに飛び込んでるのが非常に怖い
まあ魔力切れてたらタダのヒョロっちいおっさんだから心配ないか…?

魔法も機械も知識あるんだから思考が「このゲームを破壊する」に向いたら心強いんだがなぁ
無理だろうけどw
218創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 21:37:49 ID:t0otJB8d
イキマ「善人化の匂いを嗅ぎ付けて!」
アミバ「ここに飛んできたぞ!!」
ヴィンデル「外道であるケフカも、元を糺せば哀れな犠牲者だからな!!」
ガライ「可能性はゼロではないッッ!!」

シャギア「お前ら楽観視しすぎだ。あと私を巻き込むな。それと、投下乙」
219創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 22:06:22 ID:k/F2lSue
>>218
けえれw

しかしほんと地味に順調だよなあ、うち。
大人数に、長文新人さんの3回目の予約ー。
うん、いい感じに進んでるぜ
220創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 22:31:50 ID:KF2i4JY8
まぁヴィンちゃんやらイキマやらはちゃんとした思考回路もってるから改心できたけどケフカは完璧壊れてるからなw
改心するなとは言わんが相当難易度高いぜw
221創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 12:01:19 ID:x4DCWHSb
シュウさんーーーー!!!!
サンダウンさんーーーー!!!

orz

うわマジかよ。一気にプロの銃使いが会場から完全に消えたーーー。
シュウさんまさにルカ様状態だったな。ガ魔法何発か直撃、フレア直撃それでも倒れない!!!
すげーよ。魔法に強くないのに。その上ケフカの魔法なのに。
つーかブリザガ一発でKOされたアリーナっていったい……。

と、投下乙なんて言わないんだからねッ
222創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 15:47:05 ID:x2D0lanI
あの時のシュウはガラフ状態だったんだよ!

それにしても大人数予約にまたキャラ追加されてる…
こんな大予約に興奮するのはkskロワ以来だ!
223創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 21:10:51 ID:DyEIM3YS
なんだってー!?
言われるまで気付かなかったw>キャラ追加
224創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 05:24:31 ID:cZttIrHU
すまん。もしかしたらスレ違いかもしれない。

ただこの流れなら言えると思った。今日たまたま見つけた。
「ケフカ セリス」でググってみて最初に来たやつ見てみて。
す・ご・く!納得してしまった。
そこまでの考えはなかった。 
225創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 08:22:05 ID:9HHGQGjQ
もしかしなくてもスレ違いだな
それに、あれはあくまで一つの解釈であって、正解ってわけじゃない
テリー=エスタークみたいな、根拠に乏しい妄想に過ぎない
納得するのは自由だけど、この手の考察はあまり鵜呑みにしない方がいい
226創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 08:34:57 ID:rtxuG34/
>>225
地味に凄いIDだな
227創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 09:50:37 ID:eT+nqEnM
くそっ、このスレの影響でライブアライブ買っちまったぜ!
高かったけどすごい楽しみだ

あと持ってないのはDQ4・WA2だけだけど、これもうっかり買っちゃいそうで怖いw
228創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 21:30:57 ID:70JEIAFv
>>227
君は実にいい買い物をしたッ!
DQ4もWA2もいいよー。特に後者は、俺がWA信者になるきっかけとなった作品だ。
229創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 12:11:30 ID:fEYULbPp
>>227
予言しよう、君はいつかうっかりではなく純粋に自分の意思でその二つを買うと
230創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 19:34:46 ID:MbJBZPC8
知ってる作品は五作なんだけど、ここ読んでると知らないヤツをやりたくなってきて困るw
時間と金があれば買うのだが……ぐぅ
トカが原作でもああなのかとか、めっちゃ気になるんだけどなぁ
231創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 21:48:15 ID:dAINS2vR
知らないのはサモンナイトとFEだけだな
幻水もアークもWAも当時はまったゲームだけど、こんなに人気あるとは知らなかった

>>230
まあだいたいあんなノリだ
232創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 22:19:27 ID:CnJoTfPg
>>231
俺もその二つが未プレイだった。
サモンナイトは買ったが、烈火の剣売ってないんだよなぁ…
233創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 23:54:11 ID:1nLFpuNK
FEはスマブラでしか知らないけど、
リンディスがエロいのだけはわかった
やっぱふとももだよね
234創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 15:06:59 ID:qVlr2TSx
リンは15だか16歳だかであの乳とふとももだからけしからん
235 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 17:47:54 ID:JHU2dp36
すいません。少しいいですか?
自分の期限は19時19分ですが延長しようか迷ってます。
もう話は出来ているのですが投下時間はいつ頃がいいかなって。
みなさんが普段何時にここを覗いているか教えて貰っていいでしょうか?
236創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:09:11 ID:qVlr2TSx
俺はいつでもおk
今からならささやかながら携帯で支援もさせてもらおう
237 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:42:26 ID:JHU2dp36
>>236
ありがとうございます。

ではこれより投下します。
話が錯綜してるのでちょっと分かりづらいかもしれません。
238創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:43:57 ID:qVlr2TSx
拙僧に支援は任されよ
239Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:45:24 ID:JHU2dp36
「…アリーナ」

急いで来た甲斐あってなんとか放送前に教会に着くことが出来た。
教会の中を散策してみたがまだクロノは来ていないようだ。
まだ陽が昇り始めたばかりだ。「朝に教会で」と言ったがさすがに急ぎすぎたようだ。
しばらく待ってみたらやって来た。クロノじゃない…忌まわしい魔王オディオの放送が。
クリフトにトルネコ。今度はアリーナだ。また僕は仲間を失った。
僕だけじゃないクロノの仲間のエイラもだ。クロノは…きっと悲しんでる。

涙が出てきそうだ。クロノが来るまで泣いてしまいたかった。
でもまだ今は泣けない。やることが出来てしまったから。
九時からF-4――――つまり砂漠の塔が禁止エリアになるらしいのだ。
空から聞こえたこの放送の仕組みは分からない。
そう分からない―――だからこそ砂漠の塔に行かないといけない。
もしかしたらあの二人は―――アナスタシアとちょこは深い所に潜っていて放送が聞こえてないかもしれないから。
放送が聞こえなかったため禁止エリアに気付かず首輪が爆発する―――それは避けたい。
あの場所にはいい思い出は無いが流石にこれは看過出来る状況じゃなかった。
今から禁止エリアになるまで三時間弱―――まだ間に合う。

クロノはまだ生きている。時間的に考えれば灯台にはとっくに着いているはず。
だとすれば多分、灯台では危険はなかった。あるいは危険を乗り越えたか、だ。
今こっちに向かっているところだろう。だが何時来るか分からない以上、待ってられない。
メモを取り出して伝言を書く。

――――『すまない、用事が出来た。九時半過ぎには戻る。
                           ユーリル』

クロノには悪いがこうすることが多分最良だ。ギリギリまで捜索するつもりだから遅ければ九時半を過ぎるだろう。
普通に考えたら次の目的地は港町だ。そこを待ち合わせの場所にする方がここで待たせるより良かったかもしれない。
だが誰かにメモを破棄される可能性がある。それで自分だけ港町に行くのはまずい。
それにメモが無くても放送で呼ばれない以上クロノはきっと待ってくれるはず。
安心させるため一応メモは残しておこう。

メモを置いて僕は全速力で砂漠の塔に向かった。

◆     ◆     ◆

――――深い。
螺旋状の下り階段を駆け下りながらそんなことを考えた。
さっき二人がいた大きな石版が有った場所にはもう誰もいなかった。
だけど石版の所に有った仕掛けは解かれていた。
いやそれだけじゃない。その下のフロアの仕掛けもそのまた下の仕掛けもさらに下の仕掛けもだ。
ばたばたと足音を立てながら降りていく。もう足音なんて気にしてられなかった。
240Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:46:54 ID:JHU2dp36

――――なんでこう仕掛けを解いて行ってるかなあ。
そう考えずにはいられない。仕掛けが解かれていなければ今すぐ引き返せるのに。
最初に来たときは長い螺旋階段二つ降りるだけだったのが今回はもう十もの螺旋階段を降りていた。

――――あの二人は一体どこにいる?
もう既にここから出てくれていれば、ひとまず安全だ。
だけど自分にとってここにいてくれた方が都合が良かった。あるいはもうここに居ないと思える何かが有ればと思う。
しかし二人は見つからない。おまけに仕掛けが解かれていて先に進む道が出来ている。
これじゃとても引き返せない。

降りる。

降りる。

降りる。

ひたすら降りる。


……
………
…………
……………
………………

――――もしかしてここは不思議のダンジョンじゃないか?
何処までも続いている螺旋階段を降りてそんなことを感じていた。
これを降りれば十八もの螺旋階段を降りたことになる。
長い長い階段だ。早く最下層に着かないだろうか…。

十八番目の螺旋階段を降りた所にあったフロアに辿り着いた。
何かエネルギー体のような物が浮いている。続く道は無さそうだ。
どうやらここが最下層のようだ。

――――あの二人はもう出たみたいだな。
ひとまず安心だ。これで戻れる。
そのまま帰ろうと思ったがふいに床の魔法陣が目に入った。

――――なんだろう?
何かそれは妙にこの場所で『浮いていた』。気になって近寄ってみる。

「…………ッ!!!」
魔法陣の中心に立ったとたん周りが輝きだした。

――――罠か?
そう考え身構える。おかしな事があればその瞬間『アストロン』を発動するつもりだ。
光が僕を包み込んだ。

気が付いたら全く別の場所に僕はいた。
どうやらあれは攻撃ではなく転移だったようだ。
すぐに状況を把握する。あの二人はいないかどうか。

――――いないな。
あたりを調べたところ誰もいない。そこにあるのは転移の魔法陣と沢山の石像だけだ。
241創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:47:25 ID:qVlr2TSx
242Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:48:16 ID:JHU2dp36

――――これはなんだ?
石像を見る。それぞれの石像は全く違う形をしていた。
その台座に彫られている名前を見てみる。

『ルカ・ブライト』
『ケフカ・パラッツォ』
『デスピサロ』
『ディエルゴ』
『ロードブレイザー』

「???????」
これには何か意味があるのだろうか?
なぜデスピサロの石像がここに?
そしてルカ・ブライト、ケフカ・パラッツォ。
この二つの名前は参加者名簿に書いてあった。
何か関連性があるのだろうか?
よく分からないな…。
中心にある一際大きい石像を見てみる。

『勇者オルステッド』

台座にはそう彫られていた。

「『勇者』…か」
石像を見上げる。その石像は――――オルステッド像はとても悲しそうな目をしていた。

――<剣の聖女>は『勇者』でも『英雄』でも『聖女』でもないわ。
――彼女は、絶対的な脅威の前に差し出された『生贄』よ。
――『勇者』って、何?

アナスタシアが言ったことを思い出す。
なぜ自分が『勇者』なのか?それが分からない。
いや分かってはいるんだ。だって天空人の血を受け継いでいるんだから。
第一天空人の血がなんだっていうんだろうか?
それによって起こせる奇跡は分かる。例えば雷の呪文などがそうだ。
だけど考えてしまう。世界を救うのは『勇者ユーリル』である必要があったのか?
いや自分だけじゃない。ライアン。アリーナ、クリフト、ブライ、トルネコ、ミネア、マーニャ。
そして――ピサロ。
本当に『導かれし者たち』でなくてはいけなかったのだろうか?
ろくに戦う力を持っていなかったトルネコだって共に戦ってくれた。けっして足手纏いではなかった。
世界の人々だってもっと何か出来たのではないか?

『考えてもみろ。なぜお前は世界を救う旅に出た。その発端はなんだ』
そんな声が聞こえてきた。いや聞こえたんじゃない。頭に響いてきている。
これは――――自分の声だ。
243創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:48:35 ID:qVlr2TSx
244創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:49:34 ID:qVlr2TSx
245Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:50:59 ID:JHU2dp36
「きっかけはデスピサロに村を襲撃されたからだ」
頭の中の声に応える。自分が苦しんだ旅のきっかけを。

『ああ、その通りだ。ならばなぜデスピサロはそんなことをした?』
『僕』は言葉を続ける。僕に対して。

「それは『勇者』を殺すためだ」
僕は『僕』の言葉に応える。

『なぜ『勇者』を殺す必要がある?』
そんなもの考えるまでもない。

「予言で魔族を滅ぼすと示されていたから」
そうだったはずだ。

『なぜ『勇者』は魔族を滅ぼす?』
ああ確かにそうだ。なぜ『勇者』は――――魔族を滅ぼす?

「『勇者』は…世界を守る者…だ」
アナスタシアに言ったように一般的な勇者論で僕は応える。そうとしか応えられなかった。

『なぜデスピサロはなぜ『人間』の世界の敵になった?』
いまだ『僕』の言葉は止まらない。

「ロザリーさんが殺されたから」
そうだ。デスピサロ――――いや…ピサロは絶対的な『悪』ではないのだから。

『それは違うな。あの時はまだロザリーさんは殺されていなかった』
ああそうだった。だったら――――

「エビルプリーストの奸計で『人間』を憎むように仕向けられたんだ」
あの狡猾な悪魔のせいだ。

『確かに間違ってはいない。だが本当にそれだけだったのか?』
まだ言うか…。いいかげんうんざりしてきた。

「それ以外何があるというんだ」
僕には分からない。

『簡単なことだロザリーさんを守りたかったからじゃないのか?』
『僕』はそう言う。

『ピサロほど賢い者であれば『人間』に全くの非が無ければ
 エビルプリーストの謀略にかかっただろうか?』
「…………何が言いたい」
『僕』は一体何を考えているんだ。

『分からないか?『人間』は傲慢で愚かで罪深い生き物だ。
 ピサロを最初に動かした『感情』は『憎しみ』では無い。
 彼は『愛』の為に人を滅ぼそうと思っていたんだ』
「…………ッ!!」
平然と『僕』は言い放つ。人間は醜いと。。
246創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:50:59 ID:qVlr2TSx
247創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:52:10 ID:qVlr2TSx
248Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:52:16 ID:JHU2dp36
『そう『人間』こそお前が『勇者』として辛く、苦しい旅をさせた元凶。
 悲劇を引き起こしたのはお前が護るべき『人間』だッッ!!!!!!』
「…………」
僕は言葉を失う。『僕』は――――いや僕は人間をそう見ていたのだろうか。

『お前は『勇者』はどうやって生まれるか知っているか?」
「天空人の血だ」
…こいつは何時まで話すんだ。

『違うな…答えは『勇者が必要な世界から生まれる』だ。
 平和な世界において『勇者』は『勇者』たりえない』
「それは…」
その答えに少し納得してしまった自分にいらだつ。
僕も天空人の血が『勇者』に必要とはもう思えなくなってきた。 

生まれた時から――――自分の意志なんて関係なく『勇者』であることを宿命づけられた。
『勇者』は本当に『人間』の都合で生まれたものなのか?
その『人間』の護るための体のいい『生贄』なのか?
だったら僕は――――『勇者』は…『導かれし者達』は一体なんだったというのか。
文字通り『生贄』――――それ以上でもそれ以下でもなかったというのか。
だけど――――

「全ての『人間』が悪い訳じゃないさ…」
『確かにそうだ。世界中旅をしていろんな人を見てきた。
 だがお前が見てきた人は世界の一部に過ぎない。
 それに見てきた人の中にも醜い心を持った『人間』がいたのではないか?』
そう、それは事実だ。否定しない。

「それでも僕は『人間』を――『世界』を守りたいんだッ!!!!」
それは確かに僕の心にある。

『本当にそう言えるか?お前はピサロの『愛』という感情に気付かなかっただろう。
 もともとお前は村の仇を取りたかっただけじゃないのか?
 世界を救ったのは結果的なものではないのか?
 それはお前の気持ちか?それとも『勇者』の使命感か?』
『僕』は嗤う。

「僕の気持ちだッ!!!!」

ああそうだ。『勇者』の血から逃げるつもりなんてこれっぽちもない。
そんなものが有っても無くても僕は僕の意志で『勇者』になる。
うん。アリーナもそうだ。彼女はちゃんと『自己』を持っていた。
『王女アリーナ』じゃない『ただのアリーナ』として。
後悔はないさ――――だって自分で選んだんだから。
辛かろうと苦しかろうとそれは自分が作った道だ。
そうだ『勇者ユーリル』じゃない『ただのユーリル』として『勇者』に。
『勇者』がいるならきっと誰だって『勇者』になれるはずだ。
きっといつか世界は繋がる。みんなが『勇者』になれる。
いずれ『勇者』がいらない世界がやってくる。その時まで。

<剣の聖女>だってそうだ。人々が無責任だったことは否定しない。
でも結局の所彼女は自分で『英雄』になることを『選んで』いる。
宿命から逃げることだって出来た。でもそれをしなかった。
彼女のいる『世界』じゃない『彼女の世界』を守るために。
例え望まなかったにしても『選んだ』のは他でもない彼女だ。
249Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:54:07 ID:JHU2dp36
「僕は<剣の聖女>を、『導かれし者たち』を、シンシア達を『生贄』なんて呼ばせないッッ!!!」
僕は『僕』に対して気持ちを思い切りぶつけた。

「お前は…誰だッ!!」
『知っているだろう。『勇者』だよ『ユーリル』。お前が今まで心の拠り所にしてた存在だ』
『勇者』は応える。

『お前が望む道を行け『ユーリル』。そして見つけろお前にとっての『勇者』の意味を』
そう言って『勇者』は僕の頭から消えようとする。もう用は無いとばかりに。

「待てよッ!!!違うだろ…お前も『ユーリル』だろおおおおおぉぉぉッッッ!!!」
僕の頭の中から気配が完全に消えた…。

――――ありがとう。

そんな声が聞こえた気がする。

◆     ◆     ◆

――――そろそろ危ない。急いで戻ろう。
アナスタシアとちょこはもうこの塔から出たみたいだ。
ならばここにいる理由はもう無い。禁止エリアにならないうちにここから離れるべきだ。

ひたすら螺旋階段を昇る。またこの長い螺旋階段と付き合うことになるみたいだ。
だが降りているときのような嫌な感じはしない。
『降りる』ことより『昇る』方が確かに辛いだろう。
でも精神的なものが大きく違う。
降りているときは先が見えなかった。だけど今度は先が見える。
時間だって余裕がある。九時にはこのエリアを抜けられるはずだ。
だからといってゆっくりする余裕はないが。
程なくして出口が見えてきた。

……
…………
………………

――――ここまで塔から離れたらもう安全だろう。
もうかなりの距離をとった。禁止エリアには引っかからないはずだ。

「ふぅ…」

――――クロノは怒ってるだろうか。
もしかしたらそうかもしれない。六時半に教会に来たなら三時間ほどの待ちぼうけだ。
溜息が漏れた。

――――結局あの石像は何だったんだろう?
いくら考えても答えが出ない。
でも考えてしまう。しばらくはあそこには行けなくなったのだから。
次に行くことがあるとすれば首輪を解除した後だろう。

――――あの石像。悲しそうな顔してたな。
もしかしたらオルステッドなるものも『勇者』という称号に翻弄された物だろうか。
自分にとっての『勇者』はまだ見つけていない。
でもきっと見つけられるはずだ。

――――遠くに教会が見えてきた。もうすぐだ。
教会に入ったらクロノの謝らないと。その後情報を交換して港町に行こう。
250創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:54:36 ID:qVlr2TSx
251Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:55:45 ID:JHU2dp36
◆     ◆     ◆

そこに至るまでの道は苦難の連続だった。
やっとだ。やっと追いつめたんだ。

「魔王ッ!!!まさかゲームに乗っていたとは…」
モップを構え臨戦態勢に入るクロノ。

「ふん。貴様らの命など我が願いに比べれば些細な物に過ぎん」
魔王はただクロノを見下して嗤う。

その言葉を聞いてクロノは激怒した。
凄まじいスピードで魔王に接近する。

「おおおおおおおお。くらえ魔王!!!全力乱れモップ斬り!!!!
「さあ来いクロノ!私は実はモップで一回叩かれただけで死ぬぞおおおお!!!」

――ぱこん。

「ぐああああああ。この『シスコン』と呼ばれる私が
 ……こん…な…小僧に馬鹿なあああああああ」
「お前の敗因はたった一つだ魔王。
 たった一つのシンプルな答えだ。てめーは俺を怒らせた」
「くくく…だが安心するのはまだ早いぞ。
 私はマーダー四天王の中でも最弱…あ……あいつらに敵うものか」

それが魔王の最後の言葉だった。

【魔王@クロノ・トリガー 死亡】

◆     ◆     ◆
252創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:55:47 ID:qVlr2TSx
253創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 18:56:29 ID:qVlr2TSx
254Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:56:53 ID:JHU2dp36
見慣れない天井が見えた。
眠りから覚めたときに見る自分の家見慣れた天井じゃない。
それもそうだ。目が覚めた場所は自分の家ではないのだから。
いまだオディオのデスゲームは終わっていないのだから。
…それにしてもなんか変な夢を見た気がする。

「起きたか。クロノ」
「………おう」
マッシュが声をかけてきた。眠くなってきたので少し寝かせて貰ったのだ。
休息はとれるうちにとっておいた方がいい。
というのも――

『すまない、用事が出来た。九時半過ぎには戻る。
                       ユーリル』

こんなメモを発見したからだ。何処に行ったか分からない以上時間まで待っていた方がいい。

「…11472…11473…11474…11475…11476…11477…11478」
高原は自分が寝る前からやってたスクワットを未だに続けてた。
休んだ方がいいもするのだが、高原曰く。

――――トレーニングしてる時は落ち着く。

とのことだ。

「そろそろ九時半だが…」
「大丈夫…ユーリルはきっと来る」

ばたーーん。

「………やあ、待たせてごめん」
すごい勢いで扉は開かれた。
そこにいたのはまぎれもなくユーリルだった。

◆     ◆     ◆

教会についたユーリルは三人の人間を見つけるその中にクロノがいた。
ユーリルはクロノを見やって――――

――――クロノ、彼らは?
――――灯台で出会った仲間。
――――そうか…。ごめん待たせて。
――――気にしてない。おかげで少し休めた。

瞬時にアイコンタクト。
この間わずか0.1秒。

その後はお互いの情報を素早く交換して、その後はお互いの支給品確認に移った。
255Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 18:59:34 ID:JHU2dp36
「おっ 最強バンテージか」
ユーリルが装備していた最強バンテージは高原の愛用している物らしく高原に渡すことになった。
ちなみに最強を目指す高原が何故最強バンテージなどというドーピングアイテムを付けるのかというと。
一言で言うなら『気付いてない』のだ。最強バンテージの力に。
高原が最強バンテージをつけて力が漲るのは『気持ちの問題』と高原は解釈している。
ただそれだけのことであった。
ついでにいえば名前も気に入ってるらしい。

そしてサンダーブレードは武器の無いユーリルに渡った。
マッシュは素手で戦えるしクロノはモップで十分らしい。
一緒に遺品であるトルネコの首輪も返すことにする。
マッシュが持っていたミラクルショットはルッカの発明らしく、この中では一番銃に身近なクロノに渡ることになった。

次の目的地は港町だ。
方や灯台。方や砂漠の塔から来たのだからそれ以外で一番近い施設に向かうのは当然だろう。
異論を挟む者は誰もいなかった。

……
…………
………………

(シンシア…君が庇ったのは『ユーリル』なのか?それとも『勇者』だったのか?)
自分にとっての『勇者』の答えはまだ出ていない。
分からないけどそれはきっと『生贄』などではないはず。
ただその称号によって『ユーリル』を否定されるのは嫌だと思った。

「…ユーリル、これ」
そんな考えを巡らせていたらクロノが鯛焼きを渡してきた。
彼の手にはバナナクレープが握られている。
受け取って食べてみる。
……甘い。それは何か心地いい甘さだった。

「……あまり無理はするな。ユーリルは『勇者』である以前に『ユーリル』なんだから」
「………ッ!!!!」
素直にうれしいと思った。僕と出会って間もないクロノが『ユーリル』を認めてくれたんだ。
うんうん。きっと世界は繋がる。人間だって捨てたもんじゃない。
もしかしたら僕は今まで周りが見えてなかったのかもしれない。

「ユーリル、いい顔になった。聞かせてくれないか?
 ユーリルのこと、ユーリルの仲間達のことを」
「……ん」
僕は応えようと思う。彼の想いに。

「…おーい、行く…ぞ…?」
出発の準備を整えたマッシュは驚愕した。
無口なユーリルとクロノ。
その二人が楽しそうに何時になく饒舌に話していたのだから。
256Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:04:00 ID:JHU2dp36
【F-1 教会 一日目 午前(昼直前)】

【無口二人と脳筋二人】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち】
[状態]:健康
[装備]:サンダーブレード@FFY、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:港町へ向かう。
2:打倒オディオのため仲間を探す。
3:ピサロに多少の警戒感。
4:ロザリーも保護する。
5:自分にとっての『勇者』の意味を見つける。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※背塔螺旋最下層の転移魔法陣の先に有る石像を見つけました。アナスタシアとちょこも石像を見つけている可能性があります。

【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:モップ@クロノ・トリガー 、魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:ミラクルショット@クロノトリガー、基本支給品一式×2(ランタンのみ一つ) 、
[思考]
基本:打倒オディオ
1:港町へ向かう。
2:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
3:魔王については保留 。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
 日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?
257創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:05:09 ID:qVlr2TSx
258創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:06:20 ID:qVlr2TSx
259創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:07:18 ID:qVlr2TSx
260創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:08:16 ID:qVlr2TSx
261Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:09:08 ID:JHU2dp36
【高原日勝@LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(小)、背中に裂傷、心地よい疲労(小)
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:港町へ向かう。
2:武術の心得がある者とは戦ってみたい
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
 夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)

【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(中)、心地よい疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:港町へ向かう。
2:首輪を何とかするため、機械に詳しそうなエドガー、ルッカを最優先に仲間を探す。
3:高原に技を習得させる。
4:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。

◆     ◆     ◆
262創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:09:11 ID:qVlr2TSx
263Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:14:22 ID:JHU2dp36
夢を…夢を見ていたんだ。
一つ目は悪夢だった。
二つ目で悪夢を乗り越えたんだ。

――次に眠ったら、どんな夢を見んのかな。

なら三つ目の夢は何なのだろう?

……
…………
………………

殺し合いに乗った者は残り三人だ。
もう少しでこの地獄から抜け出して元の世界に帰ることが出来る。

「あれは…誰だ」
人影が見えた。近づいてみる。
こいつはケフカだ。殺し合いに乗っている!!!
向こうもこっちに気付いたようだ。
炎の剣を構えて急接近する。

「うおおおおおおお!いくぞケフカ!連続なっろー斬!!!」
「さあ来いエルク!!!実はぼくちんはハリケンショットで瀕死だから
 一回刺されただけで死ぬじょおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

――――ぐさッ

「ぎょええええええええ!こ…この『アドリブピエロ』と
 呼ばれた私がこん…な…クソガキに…シ…ンジランナーイ!」

ケフカを倒したら一人の男が現れた。デスピサロだ。

「フッ…驚いたな。ケフカを倒すとは。今回はこれで手を引こう。
 だが忘れるな。奴は尖兵にすぎん。我々の力は…」
「なっろー!!!なっろー!!!なっろー!!!」

――――ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!

「ぐあぁ!!!話の途中で…攻撃するとは!
 くくく…だがまだあいつが残っている…
 あいつに…『狂皇子』に敵うもの…か…ぐふっ」

【ケフカ・パラッツォ@ファイナルファンタジーY 死亡】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV  死亡】

◆     ◆     ◆
264Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:16:02 ID:JHU2dp36
夢の内容はよく覚えていない。
でも、幸せな夢だった気がする。
リーザもシュウもアズリアもイスラもアティもアリーゼもアシュレーもカノンも死なない。
みんなで殺し合いに乗った者を倒していくような…そんな夢だった気がする。
そんな幸せな夢を見ていたんだ。

それをオディオの放送が打ち砕いた。
リーザが、リーザが死んでしまった。
これ以上仲間を殺させてなるもんか!!!

村が見えてきた!!!
誰か!!!誰か居ないか!!!

そこは『村』という割には異様に広かった。
人を探すため縦横無尽に動き回る。
広い村の一際大きい建物に辿り着いた。
『壽商会』――――そこから血の匂いを感じた。

「……まさかッ!!!!」
まさかまさかまさかまさか。
ここで誰かがッ…。
匂いは下からだ。階段を何度も降りる。
ただひたすらに。

「………ちっくしょう!死んでる…」
一人の男と一人の少女が死んでいた。
少女は胸を深々と刺された割には安らかな顔をしている。
多分寝ている間に殺されたんだ。
男の方は背中から心臓を一突きだ。
その上碌に争った後が無い。これはきっと不意打ちだ。
下手人は暗殺者だろう。
この二人が危険人物であった可能性も否定は出来ないが高い確率で殺した奴は殺し合いに乗っている。
血の固まり具合、体温から判断すれば殺されてから―――特に男の方は―――それほど時間が立っていない。
下手人はまだこの近くにいる可能性が高い。
いや、恐らく―――

「まだ村の何処かにいるはずだッ!!!」
階段を昇ってこの二人を殺した奴を探しに行こうとする。
その瞬間、炎の少年の背後に赤い『死神』が出現した。
『死神』ジャファルは少年の心臓に向かって音もなく短刀を踊らせた。

(心臓を一突き…それで終わりだ…)

少年は地に倒れ伏した。

◆     ◆     ◆
265Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:18:05 ID:JHU2dp36
「はあ…はあ…。一向に追いつけないな。エルクは本当にこっちに向かったのか?」
「簡単に追いつけないのは当然だ。あいつは只でさえ私達より遙かに速い。
 その上…………恐らくは魔法を使って移動力を上げているだろうからな。
 あいつが止まらない限りは追いつけないだろう。…多分こっちでいいはずだ。
 お前の勘を信じるなら今のエルクは移動方向を変えることに頭が回らないだろう。
 それにもう草原に足跡は残っていないが土を強く蹴った跡が幾つか有った」

無法松とアズリアはエルクを追ってひたすら西に進んでいた。
いまだ炎の少年の姿は見えない。エルクに何か危険が起こる前に急いで合流しないと行けない。

アズリアはとても不安だった。
確かにエルクは強い。
エルクの身体能力はアズリアを大きく上回っている。
その上それはエルクの強みの一つに過ぎない。
彼の最大の攻撃は強大な炎の力なのだ。
あの炎の力にかかれば生半可な相手―――いや相当の強者でも一溜まりもないだろう。

しかし、しかしだ。
今の彼はとても危なっかしいのだ。
彼は広い視野で物事を捉える事が出来てない。
冷静さを欠いている状態では何が起こるか分からない。
彼は真っ直ぐすぎるのだ。

それにエルクが言っていた危険人物トッシュ。
そのレベルになるとエルクでも勝てるとは言えない。
強さを訪ねたところ彼は言っていた。

―――悔しいが絶対に勝てるとは言えねえ。

直接戦った事は一度も無いと言っていた。
だがアーク一味の強さは彼の世界で最高峰を誇っているらしい。
不本意ながらもエルクはそれを認めていた。
それも数に頼る集団じゃない―――実質動いているのは十人に満たないらしい。
つまりそれぞれが精鋭中の精鋭―――いや…エルクが言うにはもはや一人一人が戦略兵器の領域を超えているという。
巨大女神像を一撃で破壊した魔力。
世界中のプロハンターが総出でかかっても誰一人倒せない捕まらない。
そして破格の賞金額―――1000000ゴッズ。
それも一人あたり、だ。
貨幣価値は分からないがそれだけあれば彼の世界では一生―――いや…何代かは遊んで暮らせるらしい。
アーク一味以外の手配書の賞金額が10000ゴッズを超えることは無いという。
例えそれがドラゴンだろうと悪魔だろうと。
それほどの賞金が一人の人間に懸けられているという、完全に規格外な強さを持つ犯罪者だ。
話を聞いただけでも私やさっきの魔人程度じゃ話にならないことは分かった。

故に今、エルクを一人にするのは危険だ。
急がないといけない。
地図上で近い施設は座礁船と村だ。距離はそれほど離れてない。
ならきっとエルクが向かったのは少し遠いが村だろう。
そっちの方が人がいる可能性が高い。

「間に合ってくれッ…」

◆     ◆     ◆
266Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:22:37 ID:JHU2dp36






ボキッ!ガァン!!!






「…ぐがぁ……」
「遅えよ」

―――しくじった。
そう言わざるを得なかった。

エルクを襲撃した赤い髪の少年―――ジャファルは片腕を折られて地面に叩き付けられていた。
そう、奇襲は失敗したのだ。
その上、手痛いダメージを受けてしまった。

エドガーとフロリーナを殺害した後の事だ。
『壽商会』から出たとき猛スピードで村の中を動き回る少年を見つけた。
ジャファルの戦闘スタイルは暗殺。
それが意味するのは『先手必勝』。
そして『一撃必殺』である。…いや『一撃瞬殺』と言うべきだろう。
『先手必勝』だけならシンシアの戦闘スタイルにも当てはまる。
そのため再び『壽商会』に身を隠し、エルクを暗殺する計画を立てたのだ。
エドガーを殺したのと同じように。
隠れ蓑で身を隠し、二つの死体を見せ付けて驚愕させた隙を狙う。
だが一度接触して最下層に誘い込む方法は使えなかった。
あのスピードではその前に追いつかれるからだ。
だがしばらくすると少年は都合良くこっちに向かって来た。
そして実行に移った。

だが幾つもの誤算があった。

一つはエルクがハンター稼業に身を置いていて血の匂いを嗅ぎ慣れていた事。
わずかな血の匂いを感じ取っていたのだ。
つまり誰かが死んでいるかもしれないということは容易に予想が付く。
最も死体がリーザやシュウのものだったなら話は別だっただろうが。

二つ目はエルクの気配察知能力が高かった事。
ジャファルとて完璧ではない。過去の仕事でしくじって大怪我をしたこともある。
シャドウにも奇襲は失敗してる。
そして今のジャファルは暗殺対象を息をするように殺せなくなっていた。
『殺さないといけない。でないとニノが死ぬ』という意識があるからだ。
エルクに戦い方を仕込んだのは超一流ハンターシュウだ。
シュウは格闘技、射撃術、忍術、盗賊の技などの様々な分野の戦闘のスペシャリストだ。
そしてその中の一つに『暗殺術』もある。嘗てのシュウは暗殺のプロだった。
最もハンターになってからは『暗殺術』を使う事は無かったが。
当然エルクに『暗殺術』を仕込むことはしなかった。
だが『暗殺術』に対抗する術はしっかりと仕込んでいたのだ。
エルクもシャドウの様に寝ているときでも周りの気配を察知出来るまでになっていたのだ。
たとえ戦場じゃなくても自然に気配を消せるシュウと長く共にあったことも大きい。
267Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:23:56 ID:JHU2dp36
そして三つ目は警戒意識の方向の問題だ。これがかなり大きかった。
エドガーは国王という立場上、暗殺の危険を知っている。
故に常に周りを警戒し隙を見せなかった。
だが、それはいままでジャファルが暗殺してきた者だってそうだ。
そう言った立場の者をジャファルは何人も暗殺してきた。
鉄壁の警備から『俺は死なない。俺は安全だ』などと高を括っている者もいたがそんな者達ばかりではないのだ。
だからジャファルにとってもやりやすかった。
ならばエルクは?エルクとエドガーの違いは何か?
エドガーは危険人物の排除よりも味方との合流に重きを置いていた。
無論それはエルクも同じだ。
しかしエドガーは危険人物に会いたいとは思って無かった。
少なくともフロリーナが起きるまでは。
『襲われれば対処する』と言ったところだ。
危険人物を捜索するという考えは無かった。フロリーナもいるのだから。
エルクは違う。仲間を守る方を重視こそするが、危険人物なら自分からぶちのめす考えだ。
『危険人物上等!』と言ったところ。
つまり、エドガーは隙を見せないことを重視した受動的な警戒。警戒意識の方向が内側なのだ。
意識をしていたのはほとんど入口だけだったのだから。
エルクはひたすら周りから気配を探る能動的な警戒。警戒意識の方向は外側。勿論隙を見せないことも忘れない。
元々誰でもいいから人を捜していたということもある。
『暗殺者を待ちかまえる』など極めて特殊なケースだ。
それがジャファル達にとって都合が悪かった。

エルクは最初から気付いていたのだ。
ジャファルとシンシアが隠れていることに。
シンシアは完全にバレバレだった。
隠れ蓑は姿を消せるだけで気配は消せない。
現にシンシアは過去にあっさりジャファルに見破られている。
そしてジャファルは『不自然に気配が無い』空間があったから気付けた。
ここは森じゃない、闇じゃない。とけこめるものがなかった。
出来ることは気配を極力消すことだけだったのだ。
だからばれた。
最もエルクがその気になれば周りの熱から気配を探れるのだが。

そしてエルクは身を翻し『わざと隙を晒した』のだ。
隠れている者は十中八九危険人物だがそうでない可能性もある。
隠れている者の真意を確かめるために。
そしてシュウの教えの一つ。

―――隙が無いなら作れ。

それを実行するためだ。
隠れている者の隙を晒けだすために。

後は向けられた短刀を持っている手を掴んでそのまま力を込め折る。
その後地面に叩き付けたのだ。

腕を折られた。その上叩き付けられたときに内臓にもダメージを受けた。
奇襲は失敗。
ならばこの場で戦うか?
否、それは二流三流の暗殺者のする事だ。それに腕を折られ勝ち目は薄い。
一流暗殺者はターゲットを殺すことに失敗すればもう一度身を隠す。
ならばもう一度身を隠す?
否、それがこの少年に通じるわけがない。さっきの様子から判断するに最初から気付いていたはず。
この場所は狭い。シンシアの魔法じゃ少年を倒すには遅すぎる。
となれば―――
268創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:24:32 ID:mV1e2548
 
269創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:25:29 ID:mV1e2548
 
270Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:25:36 ID:JHU2dp36



ボンッ



ジャファルは素早くデイパックからけむりだまを取り出し、それを爆発させ撤退した。


ジャファルとシンシアは『壽商会』を出た。
すぐここから離れないといけない。
奇襲は失敗した。あの少年にいつまでも関われない。
身を隠すのは無駄。つまり村には留まれない。
遠くに、出来るだけ遠くに。

(足手纏いだったか…?)

ジャファルはシンシアを見やる。
さっきの奇襲が失敗したのはシンシアの気配による所が大きかっただろう。
判断する。こいつは本当に役に立つのかどうか。
その気になればいつでも殺せるから組むにはちょうどいい。
それにエドガーの時は役に立ってる。
だからまだ殺すときではないがあまり足を引っ張り続けるようならすぐさま切り捨てないといけないだろう。

そんな考えを巡らせ村の出口に向かっていたが『壽商会』からエルクが出てきた。
そして猛スピードでジャファルとシンシアに追いすがった。

「………ッ!!!」

(速い、速すぎる。あの長い階段をもう昇ってきたというのか)

それなりに距離はあるがすぐに追いつかれるだろう。
あいつの速さは盗賊やアサシンが持つ『電光石火』、『疾風迅雷』といったものではない。
そういう単純な敏捷性も確かにあるが恐ろしいところは別にある。
それは『縦横無尽』。圧倒的な機動力。
ジャファルが今まで見てきた戦場で言うならファルコンナイトやドラゴンマスターの長所。
追い駆けっこでは勝ち目が無い。
271Live a Live ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:26:44 ID:JHU2dp36



―――不意に猛烈に感じる死の予感―――



(まだ…終われない…ニノを…)
(まだ…死ねない…彼を………)

死の予感を感じたジャファルとシンシアはすぐさま散開。
一瞬後さっきまで自分達がいた場所を強大な炎が襲う。
それはシンシアの知識で言うならメラゾーマやベギラゴンを遙かに超えた炎。
それはジャファルの知識で言うならフォルブレイズと見紛うような強大な炎。
大した予備動作も無しにそれほどの炎をエルクは生み出したのだ。
それは何故か?エルクの炎は『力』であって『技術』じゃない。
先天的に持っていた力だ。エルクの魔法は炎の攻撃に限れば溜めは無いのだ。
速くて当然だった。
自然魔法を超越したエルクの精霊魔法は村の入口を出て弾け、平野を巨大な煉獄に変えた。

◆     ◆     ◆

村から離れた場所でアズリアと無法松は炎を見た。

「アズリア!!!ビンゴだ!!!」
「ああ間違いない…エルクはあそこにいる」

あの遠くからも分かる巨大な炎はエルクの炎と見て間違いない。
やはり村に向かっていたようだ。

「松、気を引き締めろ。村の中に高い確率で危険人物がいる
 エルクの炎にも気を付けろ。まともに受ければ即死するぞ」
「あいよ」

エルクがあれだけの炎を放ったんだ。村では間違いなく戦闘が起こっている。
どんな奴がいるかは分からないが油断は出来ない。
エルクの炎もそうだ。巻き添えを受けるわけにはいかない。
エルクと合流すればその危険も少なくなる。
早く見つけねば…。

二人は村へ急ぐ。エルクと合流するために。
272創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:27:03 ID:mV1e2548
 
273創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:28:35 ID:mV1e2548
  
274創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:28:40 ID:aNE13Kht
275創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:29:21 ID:mV1e2548
 
276創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:30:33 ID:aNE13Kht
277創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:30:53 ID:mV1e2548
 
278創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:31:29 ID:aNE13Kht
279FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:31:31 ID:JHU2dp36
◆     ◆     ◆

「ここはどこだろう?何かの建物みたいだけど」
「何か変わった物が置いてますね」
「………………」

『壽商会』の物質転送装置から三つの花が表れた。
ゲートをくぐってやって来たマリアベル、ロザリー、そしてニノだ。
本来なら珍妙な物が沢山置いてある事にマリアベルが反応する所だが何故か黙っている。
何かを感じたようだ。

「……ロザリー…ニノ…血の匂いがするぞ」

下に通じる階段からそれを感じた。
ノーブルレッドが生きるのに吸血は必要ない。
だが血の匂いにはかなり敏感だ。

「……危険……なんだね」
「…………………………」

それを聞いて警戒する二人。ここは安全ではない。
最もこの島で本当に安全な場所なんて無いだろうが。

「……行くぞ……ロザリー、ニノ」

マリアベルは二人を促す。
血の匂いがする方をへ足を運ぶ。
調べないといけない。何が起こったか。
この先に待っているのは十中八九死体だ。
ロザリーとニノに死体を見せるのは気が引ける。
しかし、まだここが何処かも分かってない。
近くに誰がいるのかも分かってない。
地の利も無い。情報も無い。
そんな状態で『何処かに隠れておれ』とは言えなかった。
別行動を取ってる間に二人を殺させるわけにはいかない。
只でさえ前衛がいないパーティだ。三人で固まっていた方がいいだろう。
今二人を護れるのは自分しかいないのだ。


―――とててててててててて


マリアベルは足が分身しているような軽快な足取りで階段を駆け下りる。
何度も同じ階段が続いたがループはしてないようだ。血の匂いは近くなってきてる。
そして自分たちが向かっている方向は地上じゃなくて地下だということも気圧の変化から読み取っていた。
そして階段は終わりを迎えマリアベルは扉を開ける。
三人の瞳に映ったのは巨大なブリキのメカ。そしてエドガーとフロリーナの死体だった。

「……そん…な…嘘だよ。フロ…リーナ…」
「ニノちゃん…」

おとなしい子だった。優しい子だった。
共に戦った仲間―――いや友人の死を知ったニノはショックを受けた。
戦場では人の死は見慣れていたが、まだそれに耐えられるほど心は強くなかった。
それにこの島では初めてなのだ。オディオの放送以外で人の死に直面するのは。
動揺は隠しきれなかった。
280創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:31:45 ID:qVlr2TSx
281創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:32:37 ID:mV1e2548
 
282創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:32:39 ID:aNE13Kht
283FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:33:15 ID:JHU2dp36
「…む」

―――なんじゃ?この馬鹿げた魔力は…

黙ってニノを見ていたマリアベルが上を見やった。
上の方でものすごい魔力を感じたのだ。
つまり上に誰か居るという事。
魔力を放出していることから考えれば戦闘中だろう。
最低二人は上にいるということになる。

この魔力は誰のものだろうか?
マリアベルの心当たりは五人だ。
シュウの仲間のエルク、トッシュ、ちょこ。
エルクとトッシュの精霊の力はそんじょそこらの魔法とは比べものにならないという。
ちょこに至っては『完全に別格』とシュウは言っていた。
そしてロザリーの仲間ユーリルと大切な人であるピサロ。
ユーリルは『勇者』の力を持っている。
ピサロも魔王と言うからには強大な力を持っているはず。
ピサロは危険かもしれないがロザリーがいれば話す余地はあるだろう。
この中の誰かならいいが……。

「……ニノ、ロザリー、上に行くぞ。誰か居るようじゃ」

マリアベルはロザリーとニノに声をかけた。
ここは袋小路。危険人物がここに来る前に広いところに出る必要がある。
ニノも悲しんでるだけじゃ事態は好転しないことは分かっていたからすぐに動いてくれた。
もうすぐ戦闘になるだろう。前を向かなければ。

(鬼が出るか、蛇が出るか…じゃな)

◆     ◆     ◆

(まずったなあ…どうしよう)

エドガーの姿を借りたシンシアは村の中で思考を巡らせていた。
どうすれば生き残れるか。
村の外の平野の惨状を見てしまった
あんなものを見せられては易々と外には出れない。
村から出れば遮蔽物がない。一瞬で黒焦げ…いや消滅させられる。

(それにしてもジャファルのおかげで助かったわ)

あの少年はジャファルの方を追いかけてくれた。
自分が選ばれていたらと思うとゾッとする。

(あの少年の体は欲しいけどリスクが高すぎる)

あの少年はすごい炎の力を持っている。
シンシアは体を動かすよりは呪文の方が得意だ。
あの体ならもしかしたら使いこなせるかもしれない。
だがあの少年に近づくのはハイリスク。
モシャスはある程度対象を『観察』して効果を発揮するもの。
少なからず詠唱時間も必要なのだ。
あの姿を得るというリターンも有るだろうがそれであの少年に勝てるとは言えない。
自分は戦闘慣れしていないのだから。
284創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:33:25 ID:aNE13Kht
285創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:33:29 ID:qVlr2TSx
286創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:34:00 ID:mV1e2548
 
287FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:34:44 ID:JHU2dp36
(何か……打開策は……)

「……おい。ここで何があった」
「…………ッ!!!」

知らない男と女の二人組だ。
その顔をみれば警戒していることが分かる。
この二人…利用できるか?

「…いや…ちょっと襲われてね」
「…どんな奴だ」
「すまない。よく分からなかった」

この二人があの少年の仲間だったら迂闊なことは言えない。
もう少し情報を―――

「そうか…。ならば炎を使う少年を知らないか?私の仲間なんだ」

心臓が跳ね上がった。
危なかった。
「炎使いの少年に襲われた」なんて言ったら詰んでいた。
でも…これは利用できるかも。

「ああ、さっき見たよ。私を助けてくれた少年だ。
 今何処かで戦っていると思う」

ジャファルは利用価値があるけど…もう、そうも言ってられない。
このままでは彼を助けられないまま死んでしまう。
それに私よりジャファルにアドバンテージがあった。
ここいらで死んで貰った方がいいのかもしれない。

「そうか…すまない。行くぞ、松ッ!」
「おう!行くぜアズリア!」

―――せいぜいがんばってね。ジャファル。

◆     ◆     ◆

「ジャファルッ!!!」
「ッ!……ニノ…」

『壽商会』から外に出たマリアベルら三人。
村の中を調査していたところ二つの人影が目に映る。
目に入ったものは髪が逆立った少年とジャファルが戦っている光景。
見ればジャファルは既に血まみれである。

「……ゼーバー!」
「ッ!なっろー!」

―――バアン!バアン!


ニノはエルクを敵と判断しすぐさま魔力を展開しエルクに向かって魔法を放つ。
爆発が起こる。が、エルクは無傷だ。
ゼーバーが向かってくることを確認したエルクは剣で魔法を両断した。
爆発が二つ起こった理由がそれだ。
288創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:34:59 ID:mV1e2548
  
289創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:35:14 ID:aNE13Kht
290創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:35:44 ID:mV1e2548
 
291FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:36:05 ID:JHU2dp36
「ジャファルに何をするの!」
「てめーらもこいつの仲間か!」

まさに一触即発。
やりとりを聞いたジャファルはせめてニノを救おうと動こうとするが―――。

「…待て、ニノ。お主エルクじゃろ?シュウから話は聞いとる。
 状況を説明してくれんかの?わらわ達は今ここに来たばかりじゃ」

その前にマリアベルが制した。

「ああ実は、こいつが…!!!…てめえッ!」
「!」

ニノの命が脅かされることは無さそうだったからジャファルは逃走を開始した。
エルクは追いすがろうとするが…。

「…手を離せ。あいつは俺を殺そうとした。
 このゲームに乗ってる奴だぞ」
「…離さないよ。ジャファルを殺さないって約束してくれないと」

ニノがエルクを遮る。
今ジャファルが逃走した事から考えるとジャファルがゲームに乗っている事はニノを含む全員が何となく分かった。
そしてニノはジャファルがゲームに乗った理由も何となく感じていた。
自惚れかもしれないけど自分のせいだと。
カエルの時の失敗を忘れた訳じゃない。
放っておけばジャファルは人を殺すかもしれない。
でも、それでも!
ニノはジャファルには生きていて欲しい。
ずっと一緒にいるって約束したんだから。

「あたしに話さして!説得してみる…」
「…………」
「お願い………」

ニノは願う。
自分の幸せを。
ジャファルの幸せを。
みんなの幸せを。

「……分かったよ」

その願いはエルクに届いた。

エルクはニノを信じることにした。
ジャファルも嘗てのシャンテの様に守りたい者があったということ。
そう思うことにした。
シャンテの時のように許せるかどうかは分からない。
でも、ニノの願いを無視したくはなかった。

「有難う!」

◆     ◆     ◆
292創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:36:24 ID:aNE13Kht
293創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:36:50 ID:mV1e2548
 
294FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:37:16 ID:JHU2dp36

「ごほっ…ごほっ…」

物陰でジャファルは膝を突いた。 
受けたダメージは大きい。
しばらく戦うことは出来そうもない
回復しなければ…。

あの集団にいればしばらくはニノは安全なはずだ。
今のうちに村を…出なければ。
 

―――とすっ


「…ッ」

肩に短剣を刺された。
その瞬間体が動かなくなった。

「……お前…ッ!」
「言ったでしょ?私も、貴方を殺すつもりだって」

エルクの姿をしたシンシアが嗤う。

アズリア、無法松と別れた後の事だ。
シンシアはたまたまジャファルとエルクの戦闘を目撃した。
そのおかげでじっくりとエルクを『観察』出来た。
結構遠くからでもモシャスは有効だったようだ。

「………くッ」

ジャファルは攻撃の気配には気付いたがすでに瀕死だったため完全に回避できなかった。
シンシアの手には炎が宿っている。

「じゃあねジャファル。地獄でまた会いましょう」
「終わりか……」

◆     ◆     ◆
295創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:37:51 ID:aNE13Kht
296創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:38:12 ID:mV1e2548
  
297FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:38:20 ID:JHU2dp36
「ジャファルッ!…ジャファルッ!ずっと…一緒だって…約束…したじゃない…」

ジャファルを捜索していたニノ達はついにジャファルを発見した。
―――最悪の形で。

ジャファルの体は至る所が黒焦げになっていた。
そしてもう―――心臓も動いてなかった。

「一体誰がこんな…ッ」

エルクとはあれから一緒に行動している。
ならば怪しいのはジャファルと一緒にいたらしい男だが…。

「………ん?」

遠くにアズリアが見える。
追いかけてくれたのか…。

「……あぁ?」

なんだあれは…。
俺…か?
そういえば…ジャファルと一緒にいた男は地下の死体と同じ男だった。
だったらあいつは―――

「アズリアァァァァァァァァァッ!そいつは偽物だあああああッ!!!」

◆     ◆     ◆

アズリアは無法松と二手に分かれてエルクの捜索を続けていた。
もうかなり動き回ったが―――

「エルク…何処に……」

エルクは一向に見つからない。何処に行ったんだ。
全く苦労をかけさせてくれる。

「……ん?あの姿は…」

エルクかッ!!!
そっちに駆け出そうとした瞬間―――

「アズリアァァァァァァァァァッ!そいつは偽物だあああああッ!!!」
「!」

この声はエルク?ならばあいつは―――

「邪魔よ…どいて」

エルクの姿をしたシンシアは素早くアズリアに接近してその首に短刀を踊らせる。
それは完全に不意打ちで避ける事にはなんとか成功したがバランスを崩してデイパックを落としてしまった。
デイパックを落とした際に宝石のようなものがこぼれ落ちた。

「待ちやがれえええええええ!」
「待てって言われて待つ者がいますか!」
298創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:39:12 ID:mV1e2548
 
299創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:39:26 ID:aNE13Kht
300FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:39:54 ID:JHU2dp36
エルク達が追撃してきたためシンシアはアズリアを殺害することをあきらめる。
ここは逃げる場面だ。
今は無法松とアズリアがいる。炎の魔法を使えば二人が巻き込まれる。
シンシアはアズリアが落としたデイパックを回収しようとするが―――

「させるか!」

槍に阻まれそれは出来なかった。
仕方がないので落ちている宝石だけを回収。
そこに槍が追いすがる。とっさにデーモンスピアを取り出して受ける。
しかし無理な体勢だったからデーモンスピアは弾き飛ばされてしまった。
そのままミラクルシューズの力を借りて素早くそこから離脱した。

「おおおおおおおお」
「待てッエルク!あいつと姿が同じならお前は単独行動するな!」

アズリアがエルクの手を掴んで諫める。
そうこうしているうちにシンシアを見失ってしまった。
騒ぎを聞きつけた無法松も駆けつけてきた。

「アズリア!エルクは見つかったか!」
「松か…」

情報を整理するためにアズリアはエルク達に事情を聞いた。

◆     ◆     ◆

「はっ…はっ…」

シンシアは『壽商会』にいた。
見つかりそうになってとっさに隠れたのだ。
どこか…どこか抜け道は…

「おい!お前!」
「見つかった…」

こうなったら賭だ。 
階段を駆け下りて物質転送装置が置いてある部屋に辿り着く。
そしてすかさず隠れ蓑を展開した。
最下層まで行ったらやり過ごしづらい。
これで気付かずに降りてくれたら助かるかもしれない。

(お願い!下に行って!)

シンシアが強く願う。
きっと大丈夫。
きっと大丈夫。
きっと大丈夫。
きっと大丈夫。
きっと大丈夫。
階段から無法松が降りてきた。
301創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:40:09 ID:mV1e2548
 
302FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:40:47 ID:JHU2dp36
「ヘビーブロウ!」
「きゃ…ッ!」

シンシアは迷い無く飛んできた拳を受け止める。
シンシアの願いも虚しく隠れ蓑でやり過ごすことは出来なかった。

「なんで…」
「勘だ…そこにいる気がした」

あっさりそう言ってのけた。
事実…シンシアを見つけたのは勘だった。

「イナズマアッパーッ!」


バチンッ!!!


無法松の攻撃をまともに受けたシンシアが吹き飛び強く体を打ち付けた。
そして何故か周りがバチバチと音始めた。
そしてその空間が―――爆発した。

――――――物質転送装置、暴走。

シンシアはそれに巻き込まれた。

◆     ◆     ◆

気が付いたら私は森にいた。
さっきまで村にいたのに何が起こったのかしら。
まあよく分からないけど助かったみたいね。
とりあえず現在地を―――。

「ふはははは!また豚が自ら殺されに来たか」
「………ッ!」

そこには恐ろしい顔をした男が居た。
303創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:41:12 ID:mV1e2548
 
304創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:41:34 ID:aNE13Kht
305FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:42:00 ID:JHU2dp36
―――殺される。

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ
逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ

死ぬ。逃げないと死ぬ。私は逃げ出した。
私には魔法の靴があるきっと逃げられる。
走る走る走る走る走る―――私は走った。
男は追いかけてこない。きっと追いつけないんだ。
大丈夫きっと助かる。きっと――――――。


一閃―――――『真』


ブシャアッ!


あれ?なんでこんなに体がズタズタなの?
後ろを見てみれば男は100メートル以上離れている。
どういう訳か私と男の間に沢山あった木は全て薙ぎ倒されていた。
――――痛い。

「くくく…やってみれば出来るものだな」

ひた
ひた
ひた
ひた
ひた

男が近づいてくる。足は動かない。もう逃げられない。
だったら炎で焼き殺す。
この少年の体なら私でもメラゾーマ位の威力は出せる。
それっ!
炎が男に向かっていく。顔に直撃した。
やった…。倒せたんだ…。
306創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:42:21 ID:mV1e2548
 
307FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:42:57 ID:JHU2dp36
「くくくくく…この程度か?」

なんで顔に直撃したのに平気そうな顔してるの!
どうして私にはあの少年のような炎が出せないのだろう?
それならこの男を『観察』して――――――。



憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂狂
恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨恨
死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死
血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血
呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪



この男に化けるのは無理だ…この男を理解できない、理解したくない、理解できるか!
ならもう一度炎を…あれ?炎が出ない?
男が持っている杖は…魔封じの杖?ああだから炎が…
男の剣が私を貫いた。
――――痛い。
でもこれはきっとチャンス。男の剣は私に刺さっている。
今なら男の顔に短剣を突き刺すことが出来る。
私は男の顔に短剣を――――――。


ガキンッ!バキンッ!


この男は何なんだろう?短剣を歯で受け止めてそのまま噛み砕いてしまった。
人間なのかしら?ああ何処かに遠くに逃げたい。

ユーリル、あなたは今どこで何をしているの?
会いたい…『ユーリル』に…。

――――――その時持っていた宝石が輝いた。

◆     ◆     ◆
308創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:43:04 ID:mV1e2548
 
309創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:43:27 ID:aNE13Kht
310創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:43:51 ID:mV1e2548
 
311FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:44:16 ID:JHU2dp36
あれ?ここはどこかしら?
また変なところに出たみたい。
あれ?遠くにあの男が居るわ今度こそ…

「ええええええええええええい!」
「さあ来い豚が!俺は実は一回刺されただけで死ぬ」

ドスッ

やった!刺すことが出来た。倒したんだ!

「……とでも思ったか糞豚がぁッ!!!!!」

ザシュッ

…それからは地獄だった。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る
裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く裂く
刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す
潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す
そんなことが何度続いただろうか。

ああ、誰か助け…
312創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:44:49 ID:mV1e2548
 
313創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:45:17 ID:aNE13Kht
314創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:45:33 ID:mV1e2548
  
315FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:45:42 ID:JHU2dp36
「助けに来たぞ!」

えっほんと?私は地獄に現れた救世主の顔を見た。
わたしの瞳に映った者は――――――。

                                   ス
                 ,・ ̄ ̄ ̄\            |
               `,/       ヽ,          ビ
                 |:} __ 、._ `}f'〉___        エ
                ,ヘ}´`'`` `´` |ノ    ヽ 
          .    ,ゝ|、   、,    l|      }
             / {/ :ヽ -=- ./       | 
         .. / ...ヽ、  \二/       /  
               ヽ、._、  _,/    /|
          ..  ヽ                |
          ...  |ヽ      Y      / __ト、
        ヽ、    | ヽ・__ / ヽ__・/Y-'゙, .\

…駄目だこりゃ。この烏賊男まともに陸で活動できてない。

「ならば第二形態だ!」

                     / ⌒ヽ._,ノ丿  
                     { 、(⌒'ー-‐'´
                      ヽ、\
                        \ `ヽ、
                      農¨ヽ、Y :} _   
             `,/     ヽ、 `ヽJノ.〃´.__`ヽ.  
     人__人トハ_{个 : __ 、._ `}f' }ヽ、'・ ,ハ.〈  `ヾj_ 
  ヾご..√ `ヽ._丿.! ・}´`'`` `´` |ノ{.'イ、.`<__丿 ・}   
  `ヾご.ノ^ヽ、' ・厶ノ|、   、,    l|ヾ!・ し'⌒ヾ、.'_ノ    
       `ーく.〈_,r‐-:ヽ -=- ./ べ,_ ._ン⌒ヾこ´     
      ,  __. ィイ´ `''-、\二/  ";;-'''" `i,r-- 、_     
      〃/ '" !:!  |:| :、 . .: 〃  i // `   ヽヾ      
     / /     |:|  ヾ,、`  ´// ヽ !:!     '、`   
      !      |:| // ヾ==' '  i  i' |:|        ', 
     |   ...://   l      / __ ,   |:|::..       | 
  とニとヾ_-‐'  ∨ i l  '     l |< ノ  ヾ,-、_: : : .ヽ
 と二ヽ`  ヽ、_::{:! l l         ! |' リ__ -'_,ド ヽ、_}-、_:ヽ

こいつ馬鹿だ。鯨みたいになってとうとう立つ事も出来ずぶっ倒れてしまった。

「すまん、そろそろ限界だ。早く海に連れて行ってくれ…」

何しに来たんだお前。もう帰れ。
316創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:46:18 ID:mV1e2548
 
317FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:47:26 ID:JHU2dp36
◆     ◆     ◆

「ああ良かった…さっきのは悪い夢だったんだ」

シンシアは港町にいた。遠くに行きたいという願いがテレポートジェムを発動させたのだ。
一命を取り留めたことに安堵する。

「それにしても炎が思ったより…使いこなすには時間がかかるのかしら?」

シンシアは炎が弱いことを訝しむ。
その答えは簡単な事である。
『モシャスでコピー』出来なかったのだ。
モシャスでコピー出来ないもの…それは『精霊の加護』だ。
『観察』から始まる以上…人自体しか真似られない。
最もエルクはピュルカ一族で特別才能があったからそれを考えない自然魔法でもメラゾーマレベルの炎を出せる。
だがメラゾーマ『程度』でルカ・ブライトを倒せるわけがないのだ。

「とにかく傷の手当てを――――――」
「邪魔だ」

(え?何が起こったの?背中を斬り裂かれた?)

「………ユーリル」

◆     ◆     ◆

「はははははは!この靴はすばらしいな!頂いておこう」

ミラクルシューズを手に入れたルカ・ブライトは上機嫌だった。
それを履いただけで体の傷が治っていくのだ。

ミラクルシューズはすごいアクセサリだ。
速さを上げる『ヘイスト』
物理攻撃に強くなる『プロテス』
魔法攻撃に強くなる『シェル』
じわじわ傷を癒す『リジェネ』
それらが同時にかかるもの。

そして『リジェネ』はその者の体力と生命力が高いほど効果を強くする。
支給品は回復魔法に比べてろくに制限も受けていない。
一時間程度でルカ・ブライトの怪我は治るだろう。

「…この靴はいらんな」

ルカは羽根をあしらった靴を投げ捨てる。
シンシアが元々履いていた靴だ。
サイズが合わないし使えそうにない。

「くくくくくく……」

テレポートジェムが一人用だったらシンシアは助かっただろう。
よりにもよってそれはルカ・ブライトをも巻き込んでしまったのだ。
ここはユーリル達が向かう予定の港町。
シンシアは結局ユーリルを守るどころか危険にさらしてしまうことになった。
318創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:47:37 ID:aNE13Kht
319FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:48:30 ID:JHU2dp36
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは………」

少女は最後まで道化だった。
本当に守りたかったものは『勇者』でも『世界』でもなかったのに。
たどり着いた先に光はなかった。
そこは狂皇子の高笑いが木霊する地獄だったのだから。
踊れなくなった道化は眠る。夢を見るために。
『勇者』ではない『ユーリル』が幸せになる夢を。

「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははは―――――――――――――――――――――――ッッ!!」

【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣 死亡】
【シンシア@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち 死亡】
320FIGHT WITH BRAVE ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:49:46 ID:JHU2dp36
【D-1 港町 一日目 午前(昼直前)】
【ルカ・ブライト@幻想水滸伝U】
[状態]疲労(中)、精神的疲労(大)、全身打撲(回復中)、中度の火傷(回復中)、額からの出血で顔面血塗れ(回復中)。
[装備]皆殺しの剣@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、ミラクルシューズ@ファイナルファンタジーVI
    魔封じの杖(3/5)@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち、聖鎧竜スヴェルグ@サモンナイト3
[道具]工具セット@現実、カギなわ@LIVE A LIVE、アルマーズ@ファイアーエムブレム 烈火の剣
   かくれみの@LIVE A LIVE、昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE 、ドッペル君@クロノトリガー
   アサシンダガー@ファイナルファンタジーVI 、ティナの不明支給品0〜1個(武器、回復道具でない)
   フロリーナの不明支給品1個(武器ではない)、ジャファルの不明支給品0〜1個、基本支給品一式×9
[思考]基本:ゲームに乗る。殺しを楽しむ。
1:もう少し休む。
2:会った奴は無差別に殺す。ただし、同じ世界から来た残る4人及び、アキラを優先。
3:あの狼(トッシュ)は自分の手で殺したい。
[備考]死んだ後からの参戦です 。
※皆殺しの剣の殺意をはね除けています。
※召喚術師じゃないルカでは、そうそうスヴェルグを連続では使用できません。
※1時間程度で肉体的ダメージは完全に回復します。
※C-9の中心部のルッカの基本支給品一式を回収しました。

※シンシアの死体は元の姿に戻ってます。
※けむりだま@ファイナルファンタジーVIは使い捨てのため無くなりました。
※テレポートジェム@WILD ARMS 2nd IGNITIONは使い捨てのため無くなりました。
※真空斬によりC-9 森林の一部が荒野になりました。
※シンシアの死体のそばにシンシアの靴が落ちてます。
※影縫い@ファイナルファンタジーVIはC-9 森林で破壊されました。
321創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:49:59 ID:mV1e2548
 
322創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:50:06 ID:aNE13Kht
323創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:50:52 ID:mV1e2548
 
324Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:53:08 ID:JHU2dp36
◆     ◆     ◆

エルク、マリアベル、ロザリー、ニノ、アズリア、無法松は『壽商会』に集っていた。
シンシアはもうあきらめるしかなかった。
物質転送装置の事を無法松が知っていたためもう村には居ないという結論になったのだ。
その物質転送装置は爆発を起こして壊れて使用不能の状態だ。

「どうやら…盗聴はされておらん。そして何故か火薬や薬品といった爆発物が無かった」

マリアベルは首輪についてそう言った。

いま彼女の手には三つの分解した首輪がある。エドガーとフロリーナとジャファルの首輪だ。
ニノに気を使って首は斬っていない。
そのまま調べさせて貰った。
そして意外にも『あっさり』外せたのだ。
三人の遺体は村にあった墓場に埋葬している。

盗聴は有るかもとは思ったが調べたところそれらしき者はなかった。
放送の死者が呼ばれる順番は規則性が無く恐らく死んだ順番と推理はしていた。
だがそれだけなら生存を確認する装置だけでも事足りるのだ。
もしかしたら盗聴する必要もなく自分たちを知覚できるのかもしれないが…。
だとすれば生存を確認する装置は死者確認の為じゃなく生者の首輪と死者の首輪のなんらかの要素を変えるスイッチに過ぎないのだろう。

不可解なのは爆発物が無かった事だ。
それらを入れない理由がない。
最初の会場で犠牲になった者だけ爆発物が入っているというのもおかしな話だ。

「はぁ?なんでだよ?」
「さてな…でも恐らく爆発はするぞ」

訝しんだエルクにマリアベルが答える。

マリアベルはこれが普通の首輪ではないと思っている。
そもそも火薬や薬品程度で殺せない参加者もいるだろうと思っていたからだ。
現にアシュレー――――――ナイトブレイザーはTNT火薬18000t分の爆発に耐えている。
ならば弱体化の呪いか強力な爆発を起こせる『何か』――――あるいは両方が考えられる。

「……悪いが今は首輪を外せん……もう少し調べてみるわ…」

外し方は分かったが…まだ情報が足りん。
生きてる者の首輪を外すにはリスクが高い。
それにまだ『時』じゃない。
首輪を外したら放送で呼ばれてしまう可能性がある。
それがカエルの様な者を生み出すことに繋がるかもしれないのだ。
理想としては外すのは殺し合いに乗ってない者がしっかり集まってからだ。
まだ…早い。

「……とりあえず情報交換せぬか?」

◆     ◆     ◆
325Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:54:18 ID:JHU2dp36
「実は第三回放送の頃に座礁船に参加者を集めようと思ってるんだ」
「…ほうほう」
「出会った奴らなんだが―――――――――――」

……
…………
………………

情報交換は滞りなく進んだが
実はこの情報交換ですれ違いが起きている。
それは主に一人の侍のことだ。

無法松は第三回放送の頃に座礁船に集まる予定のメンバーにトッシュがいると告げた。
エルクはそれを聞いて思ったのだ。
『トッシュはそれを利用するつもり』だと。
あいつは強い。参加者をまとめて殺せる自負もあるはずだ。
それほどの強さがあるなら一人ずつ殺していかず、情報をばらまいて参加者を集め一網打尽にする方が手っ取り早い。
おそらく一緒にいたナナミという少女はそれに気付いてしまったため口封じに殺された可能性が高いとも思っていた。
だが、エルクはそれを突っ込まなかった。何故か?
それはニノに自分と同じ名前の知り合いがいると聞いてしまったからだ。
これによって別人の可能性が出てきた。
無法松は完全にトッシュを信頼していた。
これで別人だったらごめんなさいじゃすまない。
事態をややこしくしないために黙っていたのだ。

参加者名簿は知り合いごとに固められていることは鋭い者なら分かる。
だがエルクの名前はよりにもよってリーザとニノに挟まれていた。
名簿だけではどちらの『エルク』か分からないだろう。
そしてそれはトッシュにも言えた。シュウの一つ後そしてちょこの一つ前。
エルクはまだちょこに会ったことがない。
つまりトッシュは自分の知り合いのグループの最後ではなく次のグループの最初かもしれないのだ。
情報交換でちょこが安全だとは聞いている。
ちょこがシュウの知り合いならその前のトッシュも自分が知ってるトッシュだ。
だが只でさえ人数が多く情報のソースをわざわざ言ったりはしなかった。
『この人は安全』、『この人は危険』この程度の情報交換だったのだ。

トッシュが自分の知ってるトッシュと確信できたならエルクは『トッシュは危険』と言ったであろう。
だがそう言えばマリアベルから突っ込まれて誤解を解く足がかりになったかもしれないのだ。

そしてマリアベルは無法松が先にトッシュの名前を出したから自分からトッシュの情報を言わなかったこともすれ違いの一つだ。
もしマリアベルが先に言っていればエルクはその情報の元を問いつめただろう。
情報の元はシュウ。
その場合でも誤解が解けていたかもしれない。

そしてカノンの事も先にマリアベルに言われたため話さなかった。
これらの偶然が重なった結果―――――。

エルクは事前にトッシュの危険性を告げていたアズリアにだけ話した。
―――――自分の知ってるトッシュなら恐らく罠だ、と。

◆     ◆     ◆
326創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:54:57 ID:mV1e2548
 
327Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:56:17 ID:JHU2dp36
地理を把握するため一行はそれぞれ村を散策していた。
そこでマリアベルは見つけた。興味深いものを。

「ん?なんじゃ…あれは…」

目に入ったのは墓だった。
沢山並ぶ墓の中で一際大きい墓。
他の墓とは違う何かを感じる墓。
気になったので近づいて様子を見ることにする
近づけばその墓が大きいことがよく分かる。
ブラッドくらいの大きさがありそうだった。
マリアベルは墓を覗き込んでみた。

「なんじゃこれは?古代文字か?」

マリアベルはすぐさま自分の知識と墓の文字を照らし合わせてそれを読んでみた。

「我、古の記憶と闇の力、アクラ・エルヴァスをここに封じ、帰らざる時の環を閉じん…?」

訳が分からない。
何か重要な意味があるのか?
これは墓じゃなくて封印柱じゃないのか?
マイマイクを持って歌ってみれば何かが起こるのだろうか?

「…………この後は…読めんのう」

それもそうだろう。
その先が読めるのはこの島で二人だけだろうから。

◆     ◆     ◆

「………………………………」
「えーと、すごいねエルクさん」

目の前は見渡す限り荒野だった。

少し前のことだ。
エルクは村の入口でニノを見つけた。
足にはダッシューズを履いている。フロリーナの遺品だ。
見ればとても悲しそうにしていた。
ニノにとってジャファルとフロリーナの死のショックは大きかったようだ。
そしてそんなニノを励まそうとした。
何か適当な話題を探していろいろ言っていた。
ニノの持っている本に話題が移ったときになんとなく本を借りた。
そして適当に本を捲ったときに『文字が読めないのに理が理解できた』のだ。
魔導書で重要なのは文字が読めることでなく理を理解すること。
そしてうっかり魔導書を発動させてしまった結果がこれ。
平野に二度目の煉獄が訪れたのだ。
ニノのように文字が読めて理が理解できない事はよくある事。
その逆は普通あり得ない。文字を読んでそこから理を理解するのだから。
エルクは何となく分かるとしか言えない。
文字が読めないのに理が理解できるのは炎の一族が炎の一族たる所以だろう。
328創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 19:57:04 ID:mV1e2548
 
329Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:57:41 ID:JHU2dp36
「悪い…返すわ。俺が持ってると危ない」

自分の炎とほぼ同等の威力だが制御が難しい。
わざわざこれを使う意味がない。

「あ…うん」
「元気…出せよ」
「…へいき…へっちゃら…」

◆     ◆     ◆

「はっ! はっ!」

どういう訳だろうか?
なぜ私は二本の槍を同時に扱えるのだろう。
私が一番得意な剣だって二本同時に扱ったりしない。

「はっ! はっ!」

私の腕が大きく上がったと言うわけでは無さそうだ。
ただ、すごく手になじんで片手で扱えるようになっている。

「……手段の一つとして考えてみるか」

とはいってもどうしても両手を使わないといけない槍の技は使えない。
それに『扱える』だけでそれに『慣れている』訳じゃない。
基本、一本の方がいいだろう。

…そろそろ戻るか。

◆     ◆     ◆

『壽商会』の最下層に無法松はいた。

「…これは…ブリキ大王か」

思い出す。自分の最後を。
こいつは自分の魂だ。
意地を通す、無理を通す。

だが俺は…
あの時俺は…ティナを…

「すげーなこいつ、ガルムヘッドより強そうだ」

振り返ればエルクがいた。
何か用が有るのだろうか…。

「何か用か?」
「いや何となくさ」
「……………」
「早まった真似はすんなよ?」
「ブリキ大王がある限り、俺は…死なない」

◆     ◆     ◆
330Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:58:31 ID:JHU2dp36
「じゃあ、私達は神殿に向かうぞ」

長い間村に閉じこもってるわけにはいかず動くことになった。
まだ探すべき人物は沢山いるのだ。
北の城に行くには禁止エリアを避けて行く必要が有り時間がかかる。
そこで神殿付近の様子を見に行くことにした。
第三放送の頃には座礁線に行くので探索後すぐ村には戻るつもりだ。
無法松の話では山火事があったらしいが今は鎮火してるようだ。
ルカ・ブライトも何時までも森に居座らないだろう。
神殿は警戒する必要がありそうだが…。

そして神殿に行くのはアズリア、無法松、ロザリー、ニノの四人に決まった。

戦闘力の高いエルクとマリアベルが残るのには理由がある。

理由の一つに、放送後に暴走したため『少し頭を冷やせ』と説教されたのだ。
まあ、これはエルクに限った話で小さい理由だが。

大きな理由は二人が機械をいじれるからだ。
まず物質転送装置の修理。
マリアベル曰くデータタブレットの情報も気になるとのこと。
首輪も詳しく調べたいらしい。

ロザリーとニノには少し危険かもしれない。
だがロザリーは早くピサロと会わせた方がいい。本人も早く会いたいようだ。
ニノはジャファルとフロリーナが死んだこの村にはあまり留まりたく無いだろう。

そして前衛二人に後衛二人。
マリアベルとロザリーとニノの三人でいたときよりバランスだけを考えればいいと言える。

「うむ!気をつけるのじゃぞ」

マリアベルは村の入口で四人を見送った。今エルクには物質転送装置の修理を担当して貰っている。
あれは出来るだけ早く直したい。
タブレットを調べるための道具も探さなくては…。
これから『壽商会』に入って機械いじりだ。
ブリキ大王にはすごく興味がある。
あれがアースガルズと戦ったらどうなるのだろうか?
材質がブリキというのにも興味をそそられる。
だが残念なことに後回しになりそうだ。
仕事はかなり多い。
物質転送装置はかなり損傷が酷い。
そして首輪もまだ謎だらけなのだ。
軽く伸びをする。しばらくは働き詰めだ。

「さて…たまには人間のためにわらわの悠久たる時間の一部を使ってやろうかの」
331Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 19:59:39 ID:JHU2dp36
【A-6 村 壽商会 一日目 昼】

【二人の特技は機械いじり】

【エルク@アークザラッドU】
[状態]:疲労(小)
[装備]:炎の剣@アークザラッドU
[道具]:データタブレット@WILD ARMS 2nd IGNITION
    オディ・オブライトの不明支給品0〜1個(確認済み 回復道具ではない)、基本支給品一式
[思考]
基本:みんなで力を合わせて、オディオを倒す。
1:村に待機。物質転送装置を修理する。その後データタブレットを調べる。
2:仲間と合流。
3:カノンを止める。
4:トッシュを殺す。
5:第三回放送の頃にA-07座礁船へ
[備考]:
※参戦時期は『白い家』戦後、スメリアで悪夢にうなされていた時
※カノンからアシュレーの情報を得ました。
※データタブレットに入っている情報は不明です。
※アズリアから第一回放送の内容を聞きました。
※フォルブレイズの理が理解出来ます。

【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(少)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、マタンゴ@LIVE A LIVE
    基本支給品一式 、解除済の首輪×3
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:村に待機。物質転送装置を修理する。その後データタブレットを調べる。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:ピサロ、カエルを警戒。
9:第三回放送の頃にA-07座礁船へ
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※村にある謎の墓石を見ました。
332Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 20:00:47 ID:JHU2dp36
【A-6 村 一日目 昼】

【兄貴と姉さん…そして仲のいい姉妹】

【アズリア@サモンナイト3 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ロンギヌス@ファイナルファンタジーVI 、源氏の小手@ファイナルファンタジーVI(やや損傷)
[道具]:アガートラーム@WILD ARMS 2nd IGNITION、 デーモンスピア@ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
    ピンクの貝殻、基本支給品一式
[思考]
基本:力を合わせてオディオを倒し、楽園に帰る。
1:神殿に向かう。探索後再び村へ。
2:仲間と合流。合流次第、皆を守る。
3:トッシュを警戒。
4:『秘槍・紫電絶華』の会得。
5:第三回放送の頃にA-07座礁船へ
[備考]
※参戦時期はイスラED後。
※軍服は着ていません。穿き慣れないスカートを穿いています。

【無法松@LIVE A LIVE】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジーVI、不明支給品0〜2個(本人確認済)
[思考]
基本:打倒オディオ
1:神殿に向かう。探索後再び村へ。
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。
3:第三回放送の頃に、ビクトールと合流するためA-07座礁船まで戻る。
4:ブリキ大王…か。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナの仲間とビクトールの仲間とトッシュの仲間について把握。ケフカ、ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
 ジョウイを警戒すべきと考えています。
333Resistance Line ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 20:03:06 ID:JHU2dp36
【ロザリー@ドラゴンクエストW 導かれし者たち】
[状態]:疲労(小)衣服に穴と血の跡アリ
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:第三回放送の頃にA-07座礁船へ
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(大)、深い悲しみ。
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION、導きの指輪@ファイアーエムブレム 烈火の剣
    ダッシュ―ズ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:フォルブレイズ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:神殿へ向かう。 探索後再び村へ。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
4:第三回放送の頃にA-07座礁船へ
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。



※エルクの炎とフォルブレイズにより、B-6の殆どが荒野になりました。
※エドガー、フロリーナ、ジャファルはA-6 村の墓場に埋葬されました。
※エドガー、フロリーナ、ジャファルは首輪が外されています。
※物質転送装置について
 指定した施設の何処かに飛びます。
 行きは自由ですが帰りはゲートホルダーが必要です。
 何度でも使えます。
※外した首輪について
 少なくとも生存を確認する装置は付いてます。
 盗聴装置は付いてません。
 どういう訳か爆発物が入ってません。
334 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 20:07:36 ID:JHU2dp36
投下終了です。
まず敬愛する◆6XQgLQ9rNg氏申し訳ありません。
エルクの夢がよりにもよってあんなので。
>>315はやばいならそこだけまるまるカットで

ああ突っ込みどころが多すぎる。
果たしてこの話は対主催贔屓かマーダー贔屓かどっちなんだろう?
335 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/11(木) 20:10:25 ID:JHU2dp36
後残り人数はわざと入れてません。
時系列で言うなら二人とも午前に死亡しているからややこしくなりそうで。
336創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:31:22 ID:18jhgxzp
では、僭越ながら批評を。
対主催贔屓かマーダー贔屓かどちらなのかとのことですが、完全に対主催びいきです。
というよりも、問題はそこだけではありません。
順序だてて行きましょう。
まずはユーリルの移動距離ですがいくら早朝(4〜6時)から9時までを使ったとはいえ多すぎます。
『勇者』の意味〜の最後から精神状態が不安定であるものの全力疾走してはいますが、
それでも背塔から教会を往復すれば背塔に戻ってきた時点で9時になっていそうです。
そうでなくとも背塔はご存知の通りWA2のラスダンであり、かなりの長さです。
探索中にどう考えても時間切れになります。その上最深部で葛藤もしていますし。
どうにかして時間内になんとかなったとこちら側を納得させようと苦心した跡は見受けられますが、無理です。

メタ的なギャグにはノータッチで。危惧されていたAAの使用ですが、
ロワでは一部ロワを除き使用されていないとはいえ、そこは人の好みによるものであり、私一人ではなんとも言えません。
エルクが知らないはずの人間を夢見たことも本人が覚えていませんし、夢の話なので百歩譲ってありかもしれません。
後になればなるほど、話の展開もあいまってふざけるなという感じは否応無くしてしまいましたが。

ジャファル暗殺失敗の理由を見てみましょう。
1、エルクがハンター稼業に身を置いていて血の匂いを嗅ぎ慣れていた事
2、エルクの気配察知能力が高かった事。(ジャファルうんぬん
3、警戒意識の方向

1"ゲーム序盤という参戦時期的にこのロワのエルクよりもクリア後からのエドガーが劣っていたとは絶対に思えません。
2”3”シャドウに慣れていたエドガーでもジャファルを発見できなかった事実はありますが、
   シュウが暗殺への対応策を教えていたというのはそれなりの説得力のある話でした。
   ただ、リーザのこともありエルクは今かなり気が立っています。状態表にもかかれるほどに。
   そんな冷静さを欠いているエルクが、そうひょいひょいとあのジャファルを発見できるでしょうか?
   シンシアを発見できたことは上記理由から納得ですが、『不自然に気配が無い』空間にまで気を回したのは不自然に思えます。
   むしろ、隠れていると確信したシンシアに向かって出て来いと言ったり、斬りつけたりと、彼女だけに集中してしまった方が自然かと。

また、万一ジャファルに気付きエルクがカウンター気味に反撃したところで、どうしてもエルクが一撃でジャファルの腕を折れるようには思えません。
一流の暗殺者であるジャファルがこの事態を全く想定もしていなかったはずはない、いくらなんでも迂闊すぎる!
といった私情を抜きにしても、正直基礎能力が低いエルク(しかも初期)で、体力も力も回避力もなんでか全部高いジャファルに対してこの成果は……。
そうです、確かにエルクの万能性は中々のものですが、所謂器用貧乏。アズリアの感想全否定ですが魔力も身体能力もアズリアには全く及ばないくらいです。
……むしろアズリアがジャファルを撃退していたのならまだありだったのですが。
まあ、このロワのアズリアはイスラエンド後でかなり鈍っているとのことですし、エルクに模擬戦も負けてはいますが、少なくとも魔力が高いとエルクを称さないかと。
精霊の力云々と理由付けしていますが、色んな意味でこの話のエルクは強すぎます。贔屓と取られても仕方ありません。
ゲーム本編のイベント的に強力そうに書かれているといわれればそれまでですが。

ついでに今のシンシアはエドガーなため、それなりの近接戦闘力を持っています。
魔法も即座に撃てるでしょう。エドガーが全く魔石から習得していなかったなんて事態でなければですが。
ああ、FFのゲームシステム的に為が必要とか言われたら唖然とするしかありませんが。

物質転送装置から3人娘が現れたことについては保留。
物質装置が直りきっていない点からすると少し疑問には思いますが、元々の縁のあるあるアイテムであるゲートホルダーを所持していますし。
本編でも装置はペンダントに反応したの抜いても完全と言い切れるかどうかでしたし
337創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:32:14 ID:18jhgxzp
ジャファルがシンシアにあっけなく刺されたのも間抜けが過ぎます。
チートエルクとの戦闘で疲弊していたとはいえ、この二人はそれまで何度もぴりぴりした感触を描かれていた利益重視の協力関係。
共に相方が自分を隙あらば狙っていることは重々承知です。
そんな状況で素人に毛の生えた程度であるシンシアの方がならともかく、ジャファルが全く気付くそぶりもなしに不意打ちされるなんてありえません。

ルカ様のラーニングはそんな能力原作じゃありませんが、皆殺しの剣の機能なども踏まえてできないこともない、かな?
ちなみにミラクルシューズはリジェネとかの魔法がかかりっぱなしになる道具なので、そうなると回復魔法ととられ威力は制限されるかと。
ここについてはどう取るかによりますので保留。

首輪については誰かが進めないとならなかったことでもあり、他の書き手さんの意見にもよりますが私はそこまで問題には思えませんでした。
あくまでこれ単体で見たらの話ですが。

アクラフラグは正直いただけません。
前の話では名指しされていなかったので、ディエルゴとかに代用しても通るかと黙認していましたが、こうなると話は別です。
彼女は完全にちょこが死亡すれば死にフラグです。
かといってちょこ抜きで参加者外であるアクラが出張ったら目にもあてられない状態になります。
アシュレーと登場話で一体化したブレイザーとはわけが違います。
ジョーカーとしてという意図があったのかもしれませんが、その場合、他の書き手さん達との合議は必須です。
一人で進めていいものではありません。

フォルブレイズは保留。
今回の話でどうしてとってつけたようにフィールドを荒野にしなければならなかったのかは理解に苦しみますが、
エルクの魔力の低さも確かに相性でカバーできるかもしれませんので。


全体を通して。
これは真っ先に述べたユーリルの時間超過行動にも関することですが、正直この大人数で予約した意味が分かりかねます。
最後のシンシアの想いでユーリル組みに繋がっていなくもないと言いたいのかもしれませんが、本来ならこれは二つのSSに分けてしかるべきです。

また非情に私情なのですが投下後のコメント部分が喧嘩を売っているようにしか思えません。

338創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:33:03 ID:18jhgxzp


これまでの氏の話を通しても言えることですが、氏はどうも自分の望む展開や流れに全体の話を持っていきがちです。

前話で余裕がなくてんぱっていたカノンが急遽他人を気遣いだしたり、
ほぼ素手状態エルクが前の話で圧倒的強さを誇った格闘家のオディを倒したり。
炎の剣が出てきたことも都合が良すぎますが、まだ原作再現ともとれます。
ただ、炎の剣に隠れてちゃっかりと支給品とは別にオリジナルなピンクの貝殻を別枠で装備したままだったり。

チートトッシュがルカに一方的に優位だったのはそれだけの強さが確かにないわけではないのですが、
次の いつか帰るところ で豚は死ねをよりによって死亡後参戦で自分のしてきたことに負い目のあるイスラに平気で使わせるのは二重の意味でどうかと。
言わずと知れたルカの名台詞であり、RPGロワでもいつか使うのではないか、いつか使わせたいと思っていた読み手や書き手を最悪の形で裏切っています。
ルカにこのセリフを言わせずらくなった、イスラのキャラが違う、正確に把握できていないのでは? という意味で。
後、今回の話にも言えることですが、他ロワのパロディが多すぎます。
一度や二度ならともかく、書き手ロワでもないのに、無断で他者のネタを使うのは人によっては不快感を感じます。
内輪ネタとして嫌う人もいますので、ご注意を。

時の回廊においても、後続の展開縛りが見受けられます。
カエル・魔王コンビをその話中で結成するのなら問題ありませんが、結成して欲しいなと書き手の思惑が見える形でふるのはどうかと。
無論、続く書き手さんの裁量でどうとでもできなくもないですが。
前述したアクラフラグは言わずもがな。アクラを魔王視点で強く書きすぎて相対的に魔王が弱く見えてしまうことも問題かも。


以前の話にまで指摘が延びてしまい申し訳ありません。
幾分私情が入っていることは否めず、何を今更と思うこともあるかもしれません。
ですが、氏には一度自分が参加している企画が自分ひとりのものでなく、
皆で力を合わせて一つの物語を紡ぎだすリレー小説であることを今一度踏まえていただきたいのです。
そしてその皆には読み手も含まれます。
書き手たるもの自分の書きたいものを書き、好きなキャラを魅力全開で書くことは決して悪とは言えません。
しかし、アーク勢が贔屓にとれることや、一人でマーダーを4人も殺していたりと完全に対主催マンセーが過ぎます。
好みや感性の範疇で納まらないレベルに達していると感じる人もいるのです。
読んでもらいたいと、誰かと一緒に書きたいと。
そう願ってリレー小説企画に参加している以上、共に歩む仲間達のことも想って下さい。
ここまで長文失礼しました。
339創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:39:12 ID:QntGbSE6
投下乙です。
貴方の把握の広さにはいつも感心させられます。
多人数を捌くのも、それぞれのキャラの背景をしっかりと知った上で書かれているのは伝わってきています。
それぞれのキャラが好きなのが感じられ、私も見習うべきところが沢山あります。
そして、それらに対してハッピーエンドを望もうとする意識も痛いほど伝わってまいります。

ですが、他の方も指摘してくださっていますが、今回ばかりは言わせていただきたい。↓の議論スレに書き込んだので。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/11746/1219587734/

今後、この話の問題についてはこの議論スレで話しあってください。
340創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:44:03 ID:sYdK5+ky
言いたいこと言われたわ
341創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 23:48:24 ID:qVlr2TSx
まぁ色々な意味で酷いからな
どこが酷いの?って聞かれたらどこが酷いが分からないの?って返したくなるくらいには
342創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 01:55:10 ID:B76o5gxn
そういや順調なら大型新人氏の新作の投下も明日にはあるんだなw
よし、氏が投下しやすいよう空気を入れ替えよう。

リンのふとももが破壊力抜群なのは認めるが、マリアベルのキュートさも大威力だろ、JK!
343創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 02:44:34 ID:Wk8Ze7B2
そうか。チーム★(黒星)の予約は明日の昼までなんだ! 期待しちゃうよ、俺。

ルッカが好きな眼鏡フェチは俺だけでいい。
344創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 04:24:32 ID:/1QICW73
黒髪ロング+ぽややんなビッキーも捨てがたい

そして今更エリなんとか氏が出てないことに気づいたぜ
主人公なのにロワでも影薄いなと思ってたら元からいなかったのかw

その分若様とリンには頑張って欲しいなー
345創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 07:10:14 ID:C7gfYFoD
もう死んでしまったが、リルカの笑顔と絶対領域は至高ッ!
346創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 19:21:53 ID:2kJhfmu4
総発治ったー!
6X氏の予約きたあああああ!
347創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 21:55:56 ID:dkfVkeWM
ミネアは生き延びられるのかw
348 ◆E8Sf5PBLn6 :2009/06/14(日) 07:51:45 ID:7yyVnkz0
やった、本スレ復活。
問題起こしてすいません。
今回の話を破棄します。

今回の話のタイトルの事ですが。

Live a Live(LIVE A LIVE 曲)←WIKIでかぶるから小文字
FIGHT WITH BRAVE(サモンナイト3 曲)
Resistance Line(WILD ARMS 2nd IGNITION 後期オープニング)

この3タイトルは私に遠慮せずに使ってくれてかまいません。
特にResistance Lineは使いたい方もいると思うので…
私のせいで神タイトルが使えないのもあれなので。


そして予約来ましたね…期待してます。



349創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 15:25:33 ID:W9vck/J8
そういやピサロ、まだ名簿を確認してないんだっけ
見ても無差別→奉仕マーダーにクラスチェンジするだけかもしれんがww

予約にwktkが止まらない
メガザることになってもならなくても、
瞬殺されたアリーナとトルネコの分まで頑張って欲しいなー
350創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 17:29:32 ID:XjVwEsl2
トルネコが活躍したパロロワってあったか?
毎回序盤に死んでるような
351創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 17:47:48 ID:bchKowA7
永遠の終盤戦DQロワで、終盤まで粘って頑張ってたぞ>トルネコ

むしろ問題はミネアだ
彼女、いつもだいたい序盤超えたか超えないかなーってくらいの時期に死んでるんだよな
つまり……今回くらいのタイミングで、だ。ヤベェ
352創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 20:39:45 ID:ECJNB4nz
DQロワじゃほんとトルネコはかっこよかったぞw
燃えたw りゅうおうへの影響もでかかった覚えあるし

ミネアはほんとどうなんだろw
353創る名無しに見る名無し:2009/06/16(火) 22:32:59 ID:ZJHXYUJl
破壊の鉄球振り回すトルネコはかっこよかったw
354創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 03:32:23 ID:Tmkqrfun
RPGロワのトルネコも一話退場なのにかっこよかったジャマイカw
やったことは完全に空回りに終わったが
355 ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:19:07 ID:v1xSm+aK
それでは、投下します
356ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:20:27 ID:v1xSm+aK
「まだ、クロノは……来てない……か」
飛び込んできた、聖母を象った鮮やかな光。
教会の扉を開いた勇者を、巨大なステンドグラスが出迎えた。
海を臨むこの建物には、風に乗って潮の香りが絶え間なく届けられる。
鼻をつくソレはなんとも心地よく、悲しみに押しつぶされそうな彼の心を少しだけ軽くしてくれた。

「……アリーナ」
適当な椅子に座って、放送で呼ばれた名前を思い出す。
呟いたその4文字は、名残惜しそうに何度も反響してユーリルの耳を振るわせ続ける。
思わず溢れそうになる涙をこらえる為に見上げた天井は、随分と高い。
あぁ……声が随分と響き渡るのは、この高さのせいか。
そんな事を考えながら、ユーリルは必死に悲しみから逃避する。
勇者は泣いちゃいけない。
本当に泣いてはいけないのかはさて置き、少なくても彼はそう思っているのだ。

アリーナは強い。格闘術なら世界最強と言えるほどに。
あのおてんば姫に屠られた魔物は数知れず。彼女よりも遥かに大きな獣だっていた。
その拳に倒れた魔物を列挙した本を綴れば、人を撲殺できるくらいの厚さにはなるだろう。
そんな彼女が、死んだ。誰かに殺されたのだ。

とは言え、彼女だって人間だ。決して無敵の存在というわけではない。
おそらくは、魔法。
高位の魔法を放つものなら、彼女を殺すことも可能かもしれない。
彼女は、冒険の日々の中で何度も魔法に倒れていたのだから。

冒険……。彼が魔王を倒す為に繰り広げていた旅のこと。
そこで、彼は導かれし者たちと出会い、絆を深めていったのだ。
何度も死にそうな目にあった。
それでも、仲間たちがいたから、苦難の道のりも何とか乗り越えられた。
だが、その導かれし者たちも、既に3人死亡。この殺し合いの会場には、ユーリルを含めてあと2人しか残っていない。
随分と、減ってしまったものだ。

「なんで……こんな……」
天井にも見飽きたのか、ユーリルは下を向いて頭を抱えた。
体勢を変えたせいで、座っている椅子が軋む。
涙を堪える勇者の変わりに、泣いてくれているかのようだった。
溜め息とともに搾り出された彼の嘆きの後半部は、声にもならない。
言いたかった言葉は、『なんで、こんなつらい事ばかり起きるんだ』。
彼が言う『つらい事』とは仲間たちの死。

……そして彼自身の激動の半生のことだ。
ただ、幸せな日々を過ごしていた。
変わり映えのない毎日。規則正しく、平穏を引き連れて現れては去っていく太陽。
それだけで良かった。
シンシアや、村のみんながいればそれでよかった。
鳥の囀りに木々が葉音でコーラスを添えるのを、彼らと共に聞いていられれば充分だった。

だが、その平穏が完全に破壊される。
思えば、それが全ての始まりにして、最初の悲劇だった。
ピサロ率いる魔王軍。
みんな殺された。特に、勇者のフリをしていたシンシアは、目も当てられないほど酷く痛めつけられていた。
村のみんなには一切の罪はない。もちろん切り刻まれた少女にも。
ただ、勇者がいたから悲劇は起こった。
勇者ユーリルを殺すために、全ての悲劇は用意されていたのだ。
その結果、生き残ったのは皮肉にも火種となった弱き勇者のみ。

まったく、笑えない冗談だ。
357ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:21:19 ID:v1xSm+aK

「……ごめん、遅くなった」
その声に、考え事の最中にいたユーリルの首が跳ね上がる。
まるで、狼を前にしたリスのような動きだった。
教会の扉が、ギィィィ……と竜の欠伸に似た音を立てて開かれる。
現れたのは、ユーリルがこの殺し合いで初めて出会った人物。
彼は無口だが、とても熱い心を持つ。逆立った赤い髪はその象徴か。
無口なのはユーリルも同じなので、彼らの意思疎通に過度な会話は必要としない。
それでもお互いに剣を得意とするなどの共通点が多いことが、その信頼関係の構築を手助けしていた。
似ているようでどこか異なる2人の少年は、まるで2色のツギハギのようなコントラストを生み出している。

「……クロノか。いや、僕も今来たところ…………」
「お! お前がユーリルか。クロノから聞いてるぜ!」
クロノの謝罪に、無理をして必死に作った笑顔で応じようとしたユーリル。
しかし、その言葉は最後まで紡がれることはなく、荒々しい声によって遮られることとなった。
赤髪の少年の後ろから現れたのは、金髪の大男。
その腕は非常に太く、ユーリルの足くらいあるのではないだろうか。
頭部を凝視し、角が生えていないかどうか確認するも、どうやら牛の魔物ではないらしい。

「俺はマッシュ。マッシュ・レネ・フィガロだ」
突き立てた親指で自分の顔を指したマッシュ。
白い歯がステンドグラスの光を反射して、七色に瞬く。
裏表がなさそう、というか嘘が下手そうな人物だ。……というのがユーリルが彼に抱いた第一印象
ガハハと豪快に笑う男に、まるでアリーナを汗臭くした印象を抱いた。

「……よろしく、マッシュ」
「おう! よろしくな」
マッシュの握力は強く、ガッシリと握られた掌に軽い痛みが走る。
そんな事気付きもしない大男は、更に強い力で勇者の手をキリキリと締め上げた。
そこで嫌な顔1つ見せない優しさが、ユーリルが仲間たちから慕われている所以だろう。

「んで、こいつは高原」
マッシュの大きな身体に遮られて見えなかったが、彼の後ろにもう1人の大男が立っていた。
高原と呼ばれたその男は、マーニャの舞台を見に来た客のようにユーリルをジッと見定める。
数秒ほど眺めた後、感心したように「ほぅ……」と一言だけ呟いた。
どういう意味だと気になりはしたが、それ以上問いただせない勇者であった。

「高原日勝だ。最強の格闘家を目指してる。高原でいいぜ」
「……よろしく」
一転して笑顔を見せた高原と固く交わした握手は、やはり痛みを伴う。
挨拶というのは、こんな苦行だっただろうか。

単純で豪快。
この高原という男にユーリルが抱いた印象も、大体はマッシュに対するものと同じだ。
あえて違いを挙げるとすれば、少しだけ彼の方が知力が低そうに感じた。……明確な根拠はないのだけれど。

「……何かあったのか?」
ユーリルの様子がおかしいことに気がついたクロノが、心配そうな声で尋ねた。
アリーナの死に動揺しているのかと思ったが、どうもトルネコのときとは様子が異なる。
数時間前の彼は、仲間の死体を前にしても嘆き悲しむことはなく、未来に向かってしっかりと進んでいたのだ。
それなのに、今の彼の目からは、仲間の首をねじ切ったときのような意志の強さが見られない。

「いや……ちょっとね……」
再び俯いて、床のシミを数え始める勇者。
『なんでもない、大丈夫だ』と言えなかったのは、彼が本気で滅入ってしまっている証拠。
自分と別れてから何があったのか、本気で不安になったクロノが問いただそうとする。
だが、投げかけられようとした少年の質問が、ユーリルに届くことはなかった。
358ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:22:11 ID:v1xSm+aK

「そういう時はなぁ! 戦って忘れちまうのが一番だ!」
無神経にも、ズイとクロノの前に割り込んできた高原。
落ち込むユーリルの手首を掴んで、無理やり外へ連れ出そうとする。

精神をすり減らした相手を心配するどころか、高原の眼は彼の強さへの期待に満ち溢れているではないか。
どう見たって、自分がユーリルと戦いたいだけのようにしか思えない。
ユーリルの気持ちも考えろと、クロノが慌てて追いかけようとする。

「高原……! そんな無理やり…………」
「まぁ、いいんじゃねぇの」
しかし、その言葉もまた、別の格闘家によって阻まれることとなった。
クロノの肩を掴んで静止したのはマッシュだ。
彼は告げる。これが高原なりの励まし方なのだ、と。
同じ拳に生きるものとして、マッシュはそれをなんとなく理解していた。
その言葉に驚いてユーリルを見る。
勇者の顔にうっすらとだが笑みを確認して、クロノはさらに驚いた。

「さぁ、俺たちも行こうぜ」
「……あぁ!」
マッシュに背中を叩かれて、前に進む。
高原の無理やりさが、今のユーリルには必要だったのだ。
なにも一緒になって悲しんでやるだけが仲間じゃない。こういう『やり方』もある。
クロノは反省しつつも、高鳴る胸を抱えて外へと飛び出した。
彼もまた、ユーリルと手合わせするのが楽しみだった。

余談ではあるが、この殺し合いで無事仲間と合流できたのなら、まず最初に情報交換をするべきである。
そんな事は、子供でも分かる基本中の基本。
じゃあ、何故彼らはそれをしなかったのか。
何故、いきなり外へ出て戦いをおっ始めるのか。
答えは単純。……アレが足りないからだ。

どうやら、馬鹿は伝染するらしい。
それも、結構なスピードで。


◆     ◆     ◆


「なかなかやるじゃねぇかユーリル。最初に見込んだ以上だったぜ!」
「いや……高原こそ、やっぱり凄いね」
戦いも終わり、北へ向けて草原を歩いている一行。
模擬戦とはいえ、激しい戦闘をしたにもかかわらず、1人として息を乱してはいなかった。
ユーリルの予想以上の腕っ節の強さに、興奮が隠せないのは高原。
彼の立ち回りと、腕力、そして体力を、大声で素直に評価した。

ちなみに、本当ならばユーリルには、徒手空拳で高原やマッシュたちと渡り合えるほどの腕力はない。
彼が実力以上の力を発揮していたのは、身に付けていた『最強バンテージ』のおかげ。
この装備品の効力によって、ユーリルの腕力と体力は本来の実力よりも遥かに高められていたのだ。
尤も、その立ち回りの巧みさは、勇者本来の実力であるが。
当の高原は、彼が『最強バンテージ』を装備している事にまだ気がついてはいない様子だ。
それが自分の愛用品であるのに、だ。

「……これで魔法まで使えるってんだからなぁ」
ちゃんと洗っているのか心配になる髪の毛を、高原がポリポリと掻き毟る。
幸いフケは落ちてこないようなので、ちゃんとそこら辺のケアはしているらしい。
359ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:23:02 ID:v1xSm+aK

「……見て、みるかい?」
笑顔で提案したのは勇者ユーリル。
先ほどまで心を押しつぶしていた重圧から、見事に解放されている様子だ。
彼の心は、大海を進む船上で風を感じたときのような、何とも言えない爽快感に包まれていた。

「いいのか?!」
「もちろん。じゃあ……イオラ!」
呪文と共に、広げた掌を前方にかざす。
魔法はすぐに具現化されて、広範囲の爆発を発生させた。
イオ系の中級魔法『イオラ』は、彼の使用する呪文の中でそれほど強いという物でもない。
だが、その派手な見た目と爆発音はデモンストレーションにはうってつけだ。
勇者の魔法に、高原だけでなく傍観していたクロノも思わず拍手とともに歓声を上げた。

「へっへっへ……」
「なんだマッシュ気持ち悪い」
そんな中で1人不適な笑みを浮かべるマッシュ。
高原から明らかな罵声を浴びせられたところで、その笑い顔は崩れる事はない。

「高原く〜ん。実はな……お、れ、も、使えるんだよ!」
「……マッシュ、魔法、使えたのか?」
まさかの告白に、クロノが目を見開く。
別に隠していたというわけではない。
今まで魔法を使う機会もなかったし、これから使うつもりもなかったので、わざわざ言う必要がなかっただけだ。
だが、高原が魔法に目を輝かせていたのを見て、『これは驚かせてやるいいチャンスだ』と目論んだわけである。

「いくぜ……サンダラ!」
選択した魔法は、サンダー系の中位魔法。
中級魔法なので、理論上はユーリルの『イオラ』と同レベルの威力という事になる。
……あくまでも理論上は。

ゴロゴロと音を立てて現れた、天空と大地を繋ぐ緑色の鎖。それは、紛れもない雷だった。
しかし、余りにもショボい。
確かに雷は雷でも、この程度の威力で殺すことが出来る参加者はいないと断言していいだろう。

「だっはっは! 勇者様のと比べて、随分とヘボいんじゃねぇのか?」
「う、うるせぇ! 1個も使えないやつに言われたかぁねぇよッ!」
ミミズでも召喚したんじゃねぇか、と高原が声をあげて笑う。
マッシュの、と言うよりもマッシュの世界の名誉の為に補足しておくが、この魔法がチンケなのはマッシュに魔法の才能が皆無だからである。
ティナやセリスなど、魔法に通じる者が使えばこの魔法だってかなりの威力になるのだ。

パンパンと腿を叩いて大笑いする高原に、マッシュが真っ赤になって抗議する。
魔力が乏しい事は本人も自覚しているし、さっきの爆発より遥かに脆弱なのにも反論の余地がない。
だが、ユーリル本人ならまだしも、なんで魔法を一切使えない高原に馬鹿にされなくちゃならないのか。

「マッシュも……サンダラ、使えるんだな」
そんな2人を見て、今度はクロノの肩眉がつり上がった。
まるで、面白い事を発見したルッカのような表情である。

「ん? どういう意味だ?」
「こういう意味さ……サンダラ!」
ニヤリと笑って、クロノがその手を天に掲げた直後……マッシュの生み出したものと同じ現象が空から降り注いだ。
彼も魔法を売りにしているわけではないが、先ほどのミミズと比べればその緑の龍は随分と強大。
少なくとも、実戦で活用できるレベルにはあるだろう。
そんな魔法を見て、彼以外の3人の顔が同時に驚愕で染まった。
だが、その驚愕の理由はそれぞれ異なるものである。

マッシュが驚いたのは、魔石も知らなかったはずのクロノが、なぜか自分と同じ魔法が使えた事実にだ。
そして高原は、魔法が使えないのが自分だけであるという、まさかのマイノリティ化に驚いていた。
流石の彼も、魔法はラーニング不可能だろう。
360ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:23:54 ID:v1xSm+aK

最後に、ユーリルが驚いていた理由は……。

「……………………は?」
マッシュとクロノが、『雷』を放ったと言う事がその原因。
呆然と、魔法が残した黒い煙を見つめて、ユーリルが擦れた声を上げた。
さっき高原たちと手合わせしたとき以上の汗が、次から次へと噴出しては垂れていく。

雷魔法。それは勇者のみが使える呪文だったはず。
雷撃を起こせるのは勇者の証で、彼だけに許された特権であったはずだ。

そう、勇者の証だ。

これを持っていたから、彼の住んでいた村は滅ぼされ、大切な幼馴染は嬲り殺され、人類を代表して魔王を倒す使命を与えられた。
この『特別』があったからこそ、そう信じていたからこそ、辛い日々をなんとか耐え抜く事が出来た。
『特別』な自分にしか、世界を救えなかったのだから。
なのに、彼らはこうも易々と……。

「へぇ……同じ魔法でも、クロノの方がマッシュのよりもデカいんだな〜」
「ち、畜生ーッ! こんな誰でも使えるような魔法、どうせ役に立たねぇよ!」
魔法なんか2度と使わないぞと、両腕を左右に大きく広げて開き直った。
このサンダラだって、何も考えずに魔石を装備していたら覚えてしまっただけだ。
彼の世界ではサンダラはそれほど珍しい魔法ではない。
共にケフカを倒した仲間たちは、ほぼ全員がこの魔法を当たり前のように習得していたのだから。

「基本的な……だと……まさか、みんな、使えるのかッ?!」
その言葉に、異常な反応を示したのはユーリルだ。
普段の彼からは想像もつかないような早口で、質問を乱暴に放り投げた。
相手の肩を、両手でガッシリと掴んで前後に大きく揺する。
スプレー缶でもあるまいし、振ったところで質問の答えが早く得られるわけじゃないのに。
何を焦っているんだと、マッシュの顔に困惑の表情がへばりついた。

「落ち着けって……。あの程度なら、段階さえ踏めば誰でもな」
「な…………ッ!」
まさか、サンダラを習得したいのか。
マッシュはそう思ってユーリルに回答したが、彼はその答えを聞いて言葉を詰まらせてしまう。
それは、トルネコの死体を発見したとき以上の狼狽っぷり。
クロノも心配そうに彼を見つめていた。

「どうしたんだよ……」
「そうか……いや、悪かった……」
スルリと、崩れるようにマッシュの肩から手を離す。
ユーリルが謝罪するも、その顔は青ざめたままだ。
誰が見たって何かあるのは明白。
だが、尋ねられるような雰囲気ではない。

「……そろそろ、出発するか」
さすがの高原だって、その重苦しい空気は感じていた。
先ほどのように、彼を無理やり励まそうとはしない。

ユーリルはそれから、何も話さなかった。
誰かが大丈夫かと尋ねても、首を横に振るだけだった。
361ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:25:02 ID:v1xSm+aK







僕以外の3人……高原とマッシュ、クロノが今後の事を相談している。
しばらく歩いても誰にも合えなかった為、今後はチームを2つに分割した方がいいのかなどを話し合っていた。
優しい彼らは、たまに僕にも会話を振ってくれる。
だけど僕は、それに反応を示すことすら出来なかった。
彼の言葉が耳に入っても、頭に入ってこないのだ。
僕を支配しているのは、さっきの『雷』のイメージと、『彼女』の言葉。

     『勇者』って、何?

アナスタシアの言葉が、何度も僕の脳みその重要な回路に立ちはだかっては消えていく。
剣の聖女の伝説が、僕の冒険を根底から否定していく。

      どういう存在なの?

それに対する答えを探そうとしても、僕のポンコツの脳みそはいつも誤答しか算出しない。
根拠なんかないけど、絶対にその答えは間違いなんだよ。
だってその答えは、とてもとても酷いものだから。
ソレをこの脳みそが弾き出したとは、僕は信じたくはなかった。
でも…………確かに…………。

      もう一度訊くわね。

「……………………うるさい」
僕の呟きはとても小さなものだったけど、クロノの耳には届いてしまったらしい。
驚いたように、見開いた瞳で僕を見る。
でも、優しい彼はすぐに聞かないフリをしてくれた。
そんな彼に『ありがとう』すら言えない自分はなんなんだろう。
本当に、嫌になる。




勇者。
その資格を持つものは、世界で僕のみ。そのはずだ。
そう信じていたから、悲劇も苦しい戦いも耐えられたんだ。だって『自分にしか出来ない』んだから。

勇者。
雷魔法を放てる存在。これは僕以外では誰も扱う事はできない。クリフトもマーニャも……あのピサロですらも。
誰もが憧れる。けど、なりたくてもなれない。なれるものなら喜んで。そういうものじゃないのか?

勇者。
だけど、他の世界では雷魔法なんか誰にでも使えて、お手玉でも覚えた方がまだ自慢になる。
また他の世界では、天空人の血なんか引いてもない一般人が世界を救っている。救いたい奴が勝手に救っているんだ。

勇者。
僕たちが血を流している間、人々は自分の家で温かい紅茶をすすりながら焼きたてのパンを頬張っている。
人々は平穏な日常の中で、『勇者』が魔王を倒すのをただ待っている。雨が止むのを待つかのように。

勇者。
誰も僕の悲劇なんか知らない。シンシアが殺されたことも。魔物と戦わなくちゃいけなくなったことも。
と言うか、勇者の名前すら知らないんだ。誰もそんな事興味ない。
362ユーリル、『雷』に沈黙する ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:25:56 ID:v1xSm+aK

勇者。
もしも僕が『勇者』じゃなかったら、この殺し合いにも呼ばれなかったんじゃないかな?
そしたら、クリフトだってトルネコだってアリーナだって死ななくて済んだんだよ。

勇者。
大体、アリーナたちだって天空人じゃないじゃないか。
普通の人間なのに僕に協力してくれて、戦いでは僕なんかよりもずっと頼りになったんだよ。

勇者。
そうだよ。あの人の言う通り、世界が立ち上がればよかったんだ。
みんなで魔物に立ち向かえば、僕たちが死ぬような思いをしなくても済んだじゃないか。

勇者。
自分や、その周りの人間に起こった全ての災いが、この称号のせいで降りかかったならさ……。
ただ、人々が辛い事や苦しい事を『生贄』に押し付けていただけだとしたらさ……。







人間って……なんて、身勝手な存在なんだろうか。







【D-2とE-2の境 一日目 午前】

【ユーリル(DQ4男勇者)@ドラゴンクエストIV】
[状態]:疲労(小)。『勇者』という拠り所を見失っており、精神的に追い詰められている。
[装備]:最強バンテージ@LIVEALIVE、天使の羽@ファイナルファンタジーVI
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:打倒オディオ
1:…………。
2:打倒オディオのため仲間を探す。
3:ピサロに多少の警戒感。
4:ロザリーも保護する。
[備考]:
※自分とクロノの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期は六章終了後、エンディングでマーニャと別れ一人村に帰ろうとしていたところです。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。
 その力と世界樹の葉を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
363創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 04:27:12 ID:v1xSm+aK


【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:健康
[装備]:サンダーブレード@FFY
鯛焼きセット(鯛焼き*1、バナナクレープ×1)@LIVEALIVE、
魔石ギルガメッシュ@ファイナルファンタジーVI
[道具]:モップ@クロノ・トリガー、基本支給品一式×2(名簿確認済み、ランタンのみ一つ) 、トルネコの首輪
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ユーリルが心配。 ユーリルと情報交換がしたいのだが……。
2:打倒オディオのため仲間を探す(首輪の件でルッカ、エドガー優先、ロザリーは発見次第保護)。
3:魔王については保留 。
[備考]:
※自分とユーリル、高原、マッシュ、イスラの仲間、要注意人物、世界を把握。
※参戦時期はクリア後。
※オディオは何らかの時を超える力を持っている。その力と世界樹の花を組み合わせての死者蘇生が可能。
 以上二つを考えましたが、当面黙っているつもりです。
※少なくともマッシュとの連携でハヤブサ斬りが可能になりました。
 この話におけるぶつかり合いで日勝、マッシュと他の連携も開拓しているかもしれません。
 お任せします。 また、魔石ギルガメッシュによる魔法習得の可能性も?


【高原日勝@LIVE A LIVE】
[状態]:全身にダメージ(小)、背中に裂傷(やや回復)
[装備]:なし
[道具]:死神のカード@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:ゲームには乗らないが、真の「最強」になる。
1:どこへ行こうか……。チームを分割するのも手だな。
2:武術の心得がある者とは戦ってみたい
[備考]:
※マッシュ、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済。
※ばくれつけん、オーラキャノン、レイの技(旋牙連山拳以外)を習得。
 夢幻闘舞をその身に受けましたが、今すぐ使えるかは不明。(お任せ)
※ユーリルの装備している最強バンテージには気付いていません。


【マッシュ・レネ・フィガロ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:全身にダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:スーパーファミコンのアダプタ@現実、ミラクルショット@クロノトリガー、表裏一体のコイン@FF6、基本支給品一式(名簿確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:ユーリル、どうしたんだ?
2:首輪を何とかするため、機械に詳しそうなエドガー、ルッカを最優先に仲間を探す。
3:高原に技を習得させる。
4:ケフカを倒す。
[備考]:
※高原、クロノ、イスラ、ユーリルの仲間と要注意人物を把握済み。
※参戦時期はクリア後。
364 ◆Rd1trDrhhU :2009/06/17(水) 04:28:00 ID:v1xSm+aK
以上、投下終了です。
365創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 20:32:21 ID:uwLeeZtt
投下乙!
やっぱりマッシュと知力25は脳筋だ!クロノも感化が進んでるw
最強バンテージには気付けよw
そして打って変わって後半は重いな。
雷魔法の使い方が上手い。揺れてるね、ユーリル。
彼が今後どうなるかはホントに気になるぜ。
366創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 20:51:35 ID:Uq0wb8+X
投下乙!

>>どうやら、馬鹿は伝染するらしい。
それも、結構なスピードで。

吹いたwww
ユーリル視点のマッシュや日勝の第一印象もいいなーw
そして彼らが善人だと分かっていても、その輪の中で安穏を得られないユーリル。
ちゃくちゃくと積み立てられていた雷魔法フラグだけど爆発のさせ方が想像を超越してうまい!
徐々に徐々に伸ばされる影にユーリルの心が捕まっていくようでいいなー
面白かったです、GJ!
367創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 20:52:22 ID:Tmkqrfun
投下乙ッ!!

時間的にマリアベルとロザリーとかが同じような会話してた時にユーリルはサンダラ見ちゃったのか
普段ならなんとも思わなかっただろうけどアナスタシアと会話した後だからめっちゃダメージ受けてるなw
368創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 18:57:49 ID:u2EUZBko
ただ、ドラクエW世界に関しては悪いのはマスドラで世界の人達は割と頑張ってるようにも思う
369 ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:11:09 ID:/4njZih7
投下しますね。
370Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:14:02 ID:/4njZih7
「邪魔を、邪魔をするなぁァ――ッ!」
 木々が薙ぎ倒され吹き飛ばされた山裾に、絶叫が迸る。
 たった一人の人間が抱えきるには、余りにも巨大すぎる激情が溢れ出したかのような咆哮だった。
 大気と大地が震えているような感覚を肌で感じ、リンディスは身震いを隠せない。
 それでもリンは、絶叫する伐剣者から目を逸らさず、鞘に納められたマーニ・カティを握り締めている。
 臨戦態勢を取るのは、真っ白な感情を撒き散らす女性――アティを、碧の魔剣から救うためだ。傷つけ命を奪うのは本意ではない。

 だが、しかし。
 手加減できるような相手では、ない。
 破壊の鉄球を片手で軽々と振り回し、アティが突っ込んでくる。
 低い唸り声を上げる鉄球の直撃を受ければ、アーマーナイトやジェネラルでさえ無事では済まないだろう。
 ただし鉄球の一撃は、その絶大な破壊力故に、速度と精度を欠いている。
 中空から振り下ろされ落下軌道に入った鉄球を一瞥すると、リンは、躊躇せずに地を蹴った。
 跳ぶ先は、アティの懐だ。
 鉄球が地面に叩きつけられるよりも早く間合いを詰めると、即座に抜刀する。
 細身の刀身が、陽光の元で閃いた。鉄球とは対照的な速度で空を斬る刃が狙うのは、碧の賢帝。

 アティを救おうと、精霊の加護を受けた剣が魔剣へと飛んだ。
 二振りの剣が音を立てて衝突し、交差する。
 強烈な負荷が刃を駆け抜け、リンの手を痺れさせる。
 大切な剣を離ないよう、碧の魔剣に押されないよう、掌を柄に食い込ませるように握り締めた。
 それでもじりじりと、精霊剣は押し込まれる。
 リンは悔しげに顔を歪め、剣を両手で握り込む。それでようやく拮抗できた。
 相手は片手持ちだというのに、それでやっとだった。
 重なり合う剣の先、碧の瞳が目に入る。明確な殺意が宿った瞳が、リンの眼に映り込む。
 きっとついさっきまで、リンも、そんな目をしていたのだろう。
 だからこそ余計に、救いたいと思った。
 できるならば、斬りたくないと思った。

 ――本当はきっと、彼女自身の意志が、あるはずだから。

 だから。

「返事はしなくていい! ただ私の声を聞いてッ!」
 声を張り上げる。
 彼女の心に届かせるために。呪いに打ち勝つ力を呼び起こすために。
 呼びかけただけで解けるなどと、思ってはいない。
 だとしても、無駄だとは思わない。無意味だとは考えない。
「気をしっかり持って! 強く強く、自分の意志を持つの!」
 声を振り払うように、碧の賢帝が、マーニ・カティを薙ぎ払う。
 その衝撃を受け流しきれず、リンの小柄な体躯が宙に投げ出された。
 器用に空中で身を捻り、慣れた動作で受身を取る。
 膝を曲げて着地したリンの視界が、翳った。
 暴力的な外見をした鉄球が、日差しを遮って、落下してきていた。

 だが、遅い。
 曲げた膝を伸ばし地を蹴って、再疾走を開始する。
 後ろで響く激突音と跳ね上げられた土砂を置き去りにして、リンは再び間合いを詰める。
 風と一体化するような感覚に包まれながら、リンは行く。
371創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 23:16:19 ID:emT8h3iE
 
372Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:16:22 ID:/4njZih7
「あなた自身の声に、耳を傾けて! あなた自身が望むものを、よく見て!」
 振るわれた魔剣に、もう一度精霊剣を叩き付ける。
 リンは一撃の破壊力よりも、技量と速度に秀でているため、単純な力比べは得意ではない。
 だからつばぜり合いを避け、コンパクトな動作で剣を振るい続ける。
 刀身がぶつかり合う甲高い音が、連続する。
 その音に、リンの声が重なっていく。
「魔剣に惑わされないで! あなた自身を見失わないで!」
 碧の賢帝は折れそうにない。
 されどリンは手を止めない。
 白の殺意は溢れ続けている。
 それでもリンは声を止めない。
 
 取り返しのつかない事態を、アティが招いてしまわないように。

「――大切なものを、捨ててしまわないでッ!」

 そうやって手を差し伸べるリンの全てを、真っ向から拒絶するように。
 あるいは、苦しみを吐き出そうとするかのように。

「あああああああああああああアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ――ッッ!!」

 伐剣者は絶叫し魔剣を振るう。
 大振りな斬撃をサイドステップで回避しながら、リンは思う。
 
 ――これは、骨が折れそう。
 
 だとしても。

 ――諦めてなんて、やるもんか。
 
 振り抜かれた碧の賢帝に、握り締めたマーニ・カティを、叩き込んだ。
 
 ◆◆
 
 緩やかに湾曲した刀が、飛び退ったミネアの眼前を通り過ぎた。
 その一撃を回避したところで、安堵などできるはずもない。
 ミネアは急ぎ、呪文を詠唱する。
 ロザリーが死亡していると思い込んでいるらしいピサロが相手では加減はできない。
 生半可な呪文など容易く突破され、憎しみのままに命を奪いに来るだろう。
 だから、全力だ。
 一言ごとに風が戦慄き大気が震えだす。
 空気が刃となるまで、時間はかからない。
 震える風は笛のような鳴き声を撒き散らし土砂を巻き上げ、旋回を始める。
「バギクロスっ!」
 やり過ぎとは思わない。
 荒っぽい手段だが、戦闘力を奪わない限り、ピサロを止められるとは思えなかった。
 荒れ狂う風が魔界の王を切り刻むため、竜巻を形作る。
 形を得た大気を、ピサロは、回避も防御も取ろうとせず、髪を靡かせていた。
 ミネアが整った眉を顰めてピサロを注意深く観察したとき。
 彼の口が動いていることに、気付く。

「イオナズン」

 次の瞬間、竜巻の中心で、大爆発が生じた。
 炸裂音は竜巻の鳴き声をかき消し、拡散する爆風は竜巻の形を強引に消し飛ばす。
 鼓膜が震え、耳鳴りが響く。
 竜巻の残滓と爆発の余波が、土煙を立ち昇らせる。
 もうもうと舞い上がる土煙の中、一つの影が突っ走ってくる。
373Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:18:39 ID:/4njZih7
 ミネアは大きくバックステップを踏みつつ、手の中にあるデスイリュージョンを三枚、投擲した。
 薄いカードのうち二枚はピサロが握る短剣に叩き落され、一枚は見当違いの方向に飛んでいく。
 一瞬で距離を詰めてきた魔族の王は、鋭い刀を突き出してくる。
 必死で横に跳ぶミネアの左腕を、その刀身が貫いた。
 肉が抉られ鮮血が溢れ出す。鈍い痛みに顔を顰めるが、致命傷ではない。
 ピサロが地を蹴って宙に躍り上がる。
 その見覚えがある動作から、ムーンサルトが来ると判断したミネアは回避に意識を注ぐ。
 髪を翻し繰り出された攻撃は、ミネアの予測と寸分違わない技だった。
 たとえ精密な攻撃でも、その技や使い手の癖を知っていれば、対処は不可能ではない。
 だから回避は、成功する。
 ピサロと共に旅をし戦った経験が、ミネアに最善手を取らせていた。

 だが同時に、ミネアは奇妙な違和感を抱いていた。

 ピサロが刀を、大きく振りかぶる。
 それは、魔人の如く重い一撃を放つための予備動作。
 当たれば大ダメージは免れないが読みやすい太刀筋の一撃――魔人斬りが繰り出された。
 それをミネアは、見切る。
 魔人斬りはその高い攻撃力ゆえに、外した際の隙も大きい。
 その隙を突くように、ミネアは再度デスイリュージョンを投げつけた。
 ピサロは刀を振り切った体勢のまま舌打ちをすると、後ろに跳んだ。
 不自然な体勢からのバックステップでは、距離を稼げない。
 ピサロは、左手を振り翳した。
 すると再び風が鳴き始め、真空の刃が波となる。
 生まれた真空波は、ピサロの眼前でデスイリュージョンを絡め取り斬り刻む。
 その程度で波は収まらず、ミネアへと押し寄せる。
 それすらも、ミネアには、読めている。
「バギマ!」
 ミネアも同様に、風に鋭さと指向性を与える。
 先ほどの逆巻く竜巻に比すれば、小さく弱々しい印象の風は、真空波に向けて飛ぶ。
 ミネアの風はピサロの波に、あっさりと飲み込まれ消えてしまう。
 だが、ミネアは顔色を変えない。
 もとより相殺など考えてはいないのだ。ミネアの狙いは、波の軌道を逸らすことだけ。
 その思惑通り、真空波の軌道は捻じ曲がり、あらぬ方向へと飛び退った。
 リンたちの方へ飛んでいないことに胸を撫で下ろしつつ、距離を置いたピサロの様子を窺う。
 ピサロの顔に浮かんでいたのは、忌々しさと驚愕だった。
 ほぼ確実に攻撃を見切られ、回避され、届いていないことに、驚きを禁じえないようだった。
 
 ――やっぱり、おかしい。
 
 ミネアは胸中で独りごちた。
 ここまでピサロの攻撃を見切れるのは、ミネアが全ての攻撃を予知しているからではない。
 仲間として彼と共に戦ってきたからだ。
 ミネアの知るピサロは、常に冷静さを保つ男だった。
 事実、今対峙しているピサロはその通りで、驚愕を抱きながらも、冷静さを失してはいない。
 冷静さを保っているピサロだからこそ、ミネアのよく知るピサロだからこそ、なんとか彼の攻撃に対処できている。

 ――もしも彼自身の言動が事実なら、こんなに落ち着いていられるはずがないのに。
 
 ミネアは知っている。
 ピサロという男が、一人の女性を誰よりも大切に愛おしく想っていることを。
 ミネアは知っている。
 ピサロという男が、激情に衝き動かされ人間を完全に根絶やしにしようとした原因を。
 
 仮に、だ。
 リンと剣を交えているあの女性が――あるいは他の誰かが、放送後に、ロザリーを殺害したのなら。
 その死を、ピサロが知ってしまったのなら。
 彼が、ここまで冷静でいられるとはとても思えないのだ。
374創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 23:20:56 ID:emT8h3iE
 
375Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:22:11 ID:/4njZih7
 かつて。
 かつて、ロザリーの死を知ったピサロは、彼女を殺した人間を皆殺しにしようとした。
 ピサロは愚かな男ではない。
 もしもあのとき、ロザリーの死を、冷静に見つめられていたのなら。
 ロザリー殺害の黒幕がいたと、気付けたに違いない。

 だがピサロは、冷静でなどいられなかった。
 愛しい人が殺された直後に、冷静でいられるはずがなかった。
 結果、彼は、深い憎しみに衝き動かされて、人類滅亡を揺るがぬ決意とした。
 進化の秘法を用い、美しい外見や高潔な自我も大切な想い出さえも捨て去ってでも、だ。
 
 なのに、今のピサロは。
 人間に対する激しい憎悪はそのままだが、研ぎ澄まされた冷静さは保てている。
 例えるならば、憎しみを凍らせて作り上げた刃のようだ。
 もしも今、ロザリーの二度目の死を、突きつけられていたのなら。
 憎悪を火種とした、あまねく人類を燃やし尽くす火炎のような感情を、爆発させていてもおかしくはないのに。
 
 まさか、とミネアは思う。
 そんな、とミネアは疑う。
 ピサロは今、放送後に、ロザリーの死を叩きつけられたのではなく。
 
 ――ロザリーさんが、ロザリーヒルで死んだままだと思い込んでいる……?
 
 確証はない。あまりにも不確かな推測にすぎない。
 それでも、その疑念を確かめることは、大きな意味があるように思えた。
 もしも、ピサロが思い違いをしているのなら。
 戦わずしても、止められるかもしれないのだ。
 そしてそれは、きっと、ロザリーの願いでもあるだろう。
 
「ピサロさん、一つ、教えてください――」

 だからミネアは深く息を吸い、真摯な瞳をピサロに向け、尋ねる。
 
「ロザリーさんは、いつ、亡くなられたのですか?」

 ◆◆
 
 ミネアの問いに、ピサロは不愉快そうに眉を顰めた。
 それが、腹が立つほどに下らない問いだったからだ。
 答えることに意味など感じられなかった。たとえ意味があったとしても、答えたくなどなかった。
 ロザリーの死を思い出すたび、悲しみに胸が詰まり喪失感に苛まれてしまう。
 それが余りにも辛く苦しく寂しいから、ピサロは、人間に対する憎悪を積み重ねて、悲しみを埋め立てていた。
「汚れた口でロザリーの名を呼ぶな」
 だから問いには答えず、憎しみだけを吐き捨てる。
 それでも、勇者の仲間である占い師は、必死に言葉を紡ぐ。
「大切なことなんです! もしかしたら私たちは今、大きなすれ違いをしているかもしれないんです!」
 そんなミネアを、ピサロは嘲笑する。
 魔族と人間の道が、交差するはずがない。そんなものを、ピサロは望んでなどいない。

「ふん、戯言を」
 話している時間すら惜しかった。 
 ピサロが再度、手を翳す。
 理由は不明だが、あの占い師は的確にこちらの攻撃を見切ってくる。
 ならば、見切られたところで避けきれないほどの広範囲に、攻撃をかけてやればいい。
 ピサロはちらりと、ミネアの向こう側に目を向ける。
 そこでは、白い女と緑の髪の少女が、剣戟を繰り広げていた。
 丁度よかった。
 ピサロにとっては、この場にいる全てが敵なのだ。
 加減してやる理由など、何処にもない。
376Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:27:28 ID:/4njZih7
 晴れた空に暗雲が立ち込める。その雲間から、稲光が垣間見えた。
 だが、まだ弱い。
 連戦による消耗のせいで、魔力の巡りが悪い。
 地獄の雷を呼ぼうとするピサロの耳に、懇願するような声が届いてくる。

「名簿を、思い出してくださいっ!」

 喚く占い師にピサロは耳を貸さず、魔力を練り上げる。
 爆ぜるような雷鳴が、断続的に聞こえてくる。
 その合間を縫うように、声が、飛んでくる。

「ロザリーさんの名前があったでしょう!?
 あなたはこの島で、ロザリーさんの死に直面したんですかっ!?
 もしそうでないなら、ロザリーさんはまだ、生きているんじゃないですか!」

 耳を貸すつもりなど欠片もなかった。
 聞く価値など粒ほどもないはずだった。
 それでも、愛しい人の名は、真っ直ぐにピサロへと飛んでくる。
 たとえそれが、忌まわしい人間の口から放たれたものであったとしても、だ。
 ピサロの両目が、見開かれた。
 この女は、勇者の仲間は、ロザリーがこの島で生きていると言いたいらしい。
 ピサロの胸に、熱く黒い激情が駆け上がる。
 たった一人の人間は、魔族の王であるピサロを、惑わそうとしているとしか思えなかった。
 しかも、よりにもよって。
 
 ――よりにもよって、ロザリーの名を出そうとは……!
 
 憎悪をくべられたどす黒い炎が、胸中で燃え上がり理性を焦がしていく。
 ピサロは唾を吐き捨てるように、言い放つ。

「白々しい嘘で私を謀ろうとは、勇者の仲間も愚劣な人間に変わりはないようだなッ!」

 名簿に目を通さず消し飛ばしてしまったピサロに、ミネアの声は聞こえない。
 世界樹の花で甦ったロザリーのことを知らないピサロに、ミネアの言葉は届かない。
 だが、それでも。
 焦土と化した森の中心で、ミネアは真摯にピサロを見つめ、ひたむきに声を投げかけていた。
 
「嘘なんかじゃありません!
 今でもきっと、ロザリーさんはこの島のどこかで、あなたを待っています!」
 
 ばちばちと、雷が鳴いている。
 あまねく命を喰らいたいと、その牙を研ぎ澄ませている。
 天空の光を思わせる、勇者の雷とは対極に位置する地獄の雷は、獲物を求めていた。
 それでも。
 ミネアは、武器も構えず呪文も唱えず逃げようともせずに。
 口を、開く。

「あなたの顔を見たいと、声を聴きたいと、肌に触れたいと、そう望んでいるに違いありませんっ!
 ですから、一緒に、捜しましょうッ!」
 
 ピサロの胸で、黒い感情がざわめいた。
 奥歯を食い縛りミネアを睨みつける彼に、苛立ちが広がっていく。
 許せなかった。
 愚かしく矮小なくせに、知ったような口を叩く、目の前の人間に怒りを覚えた。
 騙そうとしているくせに、何処までも真っ直ぐで一片の曇りすら見られないその態度が、腹立たしかった。

 ピサロの奥歯が、ぎりっと音を立てた。
 雷は、爆ぜ続けている。
 だがまだ、この場にいる三人を皆殺しにするには、足りない。
377Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:31:02 ID:/4njZih7
「……言ったはずだぞ」

 足りないと、分かっていた。
 それでも強くなる苛立ちは、ピサロから集中力を奪い、判断力を焼き、冷静さを呑み込んでいく。
 もう、我慢がならなかった。
 
「汚い口で、ロザリーの名を、呼ぶなと……!
 そして、貴様如きが――」
 
 ピサロは、翳した手を、振り下ろす。
 猛獣使いが、獣に指示を与えるように。
 その、直後。
 
「ロザリーを、語るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!」

 絶叫と共に、轟音が大気を震わせた。
 予定よりも弱々しいが、それでも、黒い雷光は地獄の使者を連想させる。
 雷が迸る先で、ミネアが遂にピサロから目を離し、無念そうな表情をして、緑の少女に向けて何かを叫んでいた。

 そんな様子を見ても、ピサロの苛立ちは、消えなかった。
 
 ◆◆
 
 何度剣を打ち交わしたか分からない。
 どれだけの声を投げかけたか分からない。
 少なくとも、息が荒くなり喉に不愉快さを覚えるくらい、リンは碧の賢帝と切り結び、アティに説得の言葉を投げかけていた。
 対し、アティは息切れ一つしていない。
 異常な重量を誇る鉄球を片手で振り回し、リンの速度に追随する程度の動きをしているのに、だ。
 そんな両者の間には、ダメージは見られなかった。
 アティにダメージがないのは、リンが意図的に剣へと攻撃を集中させているからだ。
 だが、体力をかなり消耗をしているリンが無傷なのは、アティの攻撃のキレが、少しずつ落ちてきていたからだ。
 その原因を、リンは、自身の声が届いている証だと解釈する。

 ――大丈夫、いける!
  
 確信を支えにして疲れを振り解き、リンが続けて口を開こうとした、瞬間。
 不意にアティが、飛び退った。
 突然の行動に眉を顰めたリンの耳が、
  
「リンさんっ! 逃げてっ!」
 
 ミネアの悲鳴めいた絶叫と、聴覚が壊れてしまいそうな轟音を、ほぼ同時に拾う。
 思わず、振り返る。
 漆黒の雷が、荒地の上で暴れ回っていた。
 のたうつ大蛇のような雷光は、暴虐的な破壊力を誇示している。
 背筋を冷や汗が垂れ落ちた。これはまずいと、直感が伝えてくる。
 へばっている暇はない。リンは、急いで足を動かした。
 必死で地を蹴り膝を曲げ、力を振り絞って疾走する。額に汗が浮かぶが構っていられない。
 雷にはどうやら、明確な指向性は与えられていないらしい。
 闇雲に暴れ回るだけなら、なんとか当たらずに済むとリンは判断する。
 迫り来る二条の雷を後ろに跳んでで回避し、真横から飛んできた一撃を転がって避ける。
 それを最後に、黒の雷は姿を消した。
 荒野に一時の静けさと、眩い日の光が戻ってくる。
 幸いにして被弾は避けられた。だが、リンはすぐに安堵せず、立ち上がる間も惜しんでミネアを探す。
 すぐに、見つかった。
 息を呑まずに、いられなかった。
 しゃがみこむ彼女の美しい肩には、細い腕には、緩やかな首筋には、痛々しい火傷が刻まれていた。
 脂汗を浮かべるミネアの、痛みを食い縛るような表情が、ゆっくりとリンへと向く。
 そして。
378Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:33:51 ID:/4njZih7
「危ないっ!!」

 再び、ミネアが叫んだ。
 直後、影が、リンに覆いかぶさった。
 振り仰ぐ。
 心臓が、跳ね上がった。
 
 荒野に未だ座り込んだままのリンに、傷一つ受けていないアティが、魔剣を振り下ろそうとしていたのだ。
 リンの目が、いっぱいに見開かれる。
 お構いなしに、剣は、リンへと落ちてくる。
 その動作が、やけにゆっくりに見えた。

「逃げてっ! 早くっ!!」

 ミネアがずっと、叫んでいる。怪我を押して、駆け寄ってくる。
 それが、やけに遠いように、思えた。
 まだ、剣は届いていない。
 これならば避けられるような気がして、身体を動かそうとする。
 だが、自分の動きさえも、やけにゆっくりに感じられた。
 刃は真っ直ぐ近づいてくる。
 遮るものは何も、ない。
 時間が引き延ばされたかのように、あらゆるものが鈍かった。
 ミネアの声も。
 アティの剣も。
 リンの動作も。
 全てが、遅かった。
 
「うっ、く……ああ、うあああああああぁぁぁぁぁ……っ」

 異常に緩やかな世界で、唸り声が聞こえる。
 リンは刃越しに、声の主を見る。

 そこには、苦悶と辛苦と絶望と悲嘆と哀惜と悔恨をこね回し混ぜ合わせたような、見るだけで胸が痛む表情をした、たった一人の女性がいた。
 多すぎる感情を抱えすぎたせいで、その顔は、余りにも歪だった。
 彼女から感じられたのは、余りにも圧倒的な感情だった。
 そんなものを抱えた彼女に、何かを伝えたいと思った。
 だけど。
 さっきまで、あれほど説得していたにも関わらず。
 その感情を癒すような言葉は、すぐには見つからなくて。
 抱えた想いを肩代わりできるような魔法の言葉は、簡単に浮かんではくれなくて。

 ただ、微笑みを投げかけるしか、できはしなかった。
 すると、彼女の顔は、一層辛そうに、歪んだ。
 歪過ぎた表情は、それ故に、とても脆かったらしい。
 
 剣を振り下ろすアティの顔中に、泣き出す寸前の赤子のような表情が、一気に広がった。

 振り下ろされていた刃先が、リンの目の前までやってくる。
 それでもリンは、今にも泣き崩れそうなアティに、微笑みを向け続けていた。
 そして。
 碧の魔剣は。
 その鋭い切っ先を。
 
 リンの鼻先で、止めた。

 リンがその事実を認識し、把握するよりも早く、伐剣者の口が、小さく動く。
 その動きは、繰り返されていた咆哮とは、似ても似つかないほどに弱々しかった。
379Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:37:03 ID:/4njZih7
「――ごめん、なさい」

 ぼそりと。
 それだけを残して、アティは踵を返して駆け出した。
 その足は思いのほか速く、背中はどんどん遠ざかっていく。
 リンは必死で手を伸ばす。
 待って、と。
 叫んで、引きとめようとする。
 だけど掌は空を切り、言葉に拘束力なんてなくて、彼女の足を止めることは、叶わなかった。
 ようやく元に戻った時間の中、リンは急ぎ立ち上がる。
 アティを追いたい気持ちは、決して弱くない。
 あの泣き出しそうな表情は網膜に焼き付いていて、放っておきたくなんてなかった。
 しかしリンは彼女を追おうとしない。
 まず、ミネアのことが気がかりだったからだ。

「リンさん! 大丈夫ですか!?」
 それはミネアも同じだったようで、彼女も、対峙していた相手を顧みずリンへと駆け寄ってくる。
 心配になって周囲を見渡すが、いつの間にか、彼女の知り合いらしい男の姿も消えていた。
「私は大丈夫。それよりも、あなたの方が……!」
 ミネアの美しい褐色の肌は、無残な火傷に荒らされていた。
 首筋から肩、上腕の皮膚が剥がれていて、筋繊維が見え隠れしている。
 その露になった筋繊維のところどころは黒ずんでいて、痛々しい。
 見ているだけで、皮膚の下が疼くような大怪我を、ミネアは負っていた。
 それなのに、彼女は、笑みを浮かべていた。
 血の気の引いた顔色で、脂汗を垂らしながら、ミネアは、笑っていた。
「よかった、怪我、なくて……」
 絶え絶えの息の合間で、優しい言葉を紡ぐと同時、ミネアの膝が崩れ落ちる。
「ミネア!」
 倒れるミネアを、慌てて受け止める。
 目を閉ざした彼女は、汗にまみれ、苦しげな呼吸を繰り返していた。
 腕の中で感じる体重は、予想以上に軽くて不安になる。
 衣服は、汗でぐっしょりと湿っていた。
「ちっともよくないじゃない……」
 呟いても、返事は返ってこない。猛烈な不安と嫌な予感が、リンの胸に去来する。
 ミネアの手を強く握り締めてみる。しかし、リンの手を握り返してはくれなかった。
 
 これほどの怪我なのだから、痛みも尋常ではないだろう。もっと早く気を失っていてもおかしくはないはずだ。
 それにもかかわらず、リンのことを気遣う一心で、意識を繋ぎとめていたのだろう。
 リンの胸が強く締め付けられる。
 ミネアには助けられっぱなしだ。
 皆殺しの剣を持っていった男にやられた傷を治してもらい、気絶していたところを看病してくれた。
 今だってそうだ。
 ミネアが警告してくれなければ、雷の直撃を受けていたか、魔剣に両断されていただろう。
 リンはミネアのように、回復術は使えない。薬を持っているわけでもない。
 だとしても、助けたかった。
 握るミネアの手には温もりが残っている。血が通っている。
 ミネアはまだ、確かに生きているのだ。
 絶対に死なせたくなんて、なかった。
 
 リンは急いでミネアを背負う。
 できることといえば薬か、回復術の使い手を捜すことくらいだ。
「必ず、助けるからね」
 事態は一刻を争う。立ち止まっている時間が惜しくて、リンは駆け出した。
 流れていく視界の端、胸を貫かれた少女の遺体が映る。
 まだ幼さの残る彼女をこのまま放置してしまうことに罪悪感を覚えるが、しかし、立ち止まれなかった。
 内心で謝罪をしつつ、リンはただ祈る。

 ミネアが助かるように。
 そして、白い女性も無事であるように、と。 
380Trust or Distrust ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/18(木) 23:40:06 ID:/4njZih7
【C-7 一日目 午前】
【ミネア@ドラゴンクエストW 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(大)。気絶中。上腕、肩から胸元にかけて火傷。
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドU
[道具]:基本支給品一式(紙、名簿欠落)
[思考]
基本:自分とアリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:ロザリーがどうなったのかが気になる
2:ピサロを説得し、行動を共にしたい。
3:ルッカを探したい。
4:飛びだしたカノンが気になる
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
 また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。
※ブラストボイス@ファイナルファンタジーYは使用により機能を停止しました。
※ピサロがロザリーを死んだままであると認識していると思っています。
※アリーゼの遺体に気付いていません。

【リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:腹に傷跡
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:なし
[思考]
基本:打倒オディオ
1:ミネアを治療できる人、あるいは薬を急いで探す。
2:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
3:白い女性(アティ)が気になる。もう一度会い、話をしたい。
4:少女(アリーゼ)の遺体を弔いたい。
[備考]:
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A

 ◆◆

 苛立ちが消えなかった。
 森を歩く魔族の王――ピサロの美しい顔には強い憤りが溢れかえっている。
 勇者の仲間である占い師の、確信めいた顔や澄んだ瞳が、脳裏に焼きついていた。
 彼女が必死に訴えかける声と叫びが、未だ鼓膜を震わせていた。
 
 ミネアは言っていた。
 ロザリーが生きていると。
 生きてピサロを待っていると。
 
 その表情も声も、確信に満ちていた。
 真っ直ぐな瞳と必死の訴えからは、虚偽の色は見て取れなかった。
 だがそれでもピサロは、彼女を素直に認められないでいる。
 できるはずがない。
 勇者とその仲間はピサロにとって倒すべき敵であり、何よりも憎むべき人間に他ならないのだから。
 それにピサロは、知っている。
 冷たくなったロザリーの身体を。
 喋らなくなったロザリーの唇を。
 二度と笑みを浮かべないロザリーの顔を。
 ロザリーヒルで、人間の手によって、ロザリーが命を奪われたことを、ピサロは知ってしまっている。
 
 自身で確かめたことと、相容れない人間が口にしたこと。
 どちらの方が信憑性が高いかなど、問うまでもない。
381Trust or Distrust ◇6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:53:50 ID:mx/e2cfZ
 そのはずだ。
 そうに決まっている。

「下らぬ、妄言だ……」
 
 言い聞かせるように、呟く。
 胸中で、数え切れないほど、占い師の言葉を否定する。

 それなのに、ピサロは苛立ちとざわつきを押さえられなかった。
 どれだけ否定しようとしても、何度も違うと言い聞かせても。
 それでもピサロは、ミネアの声を完全に否定し切れなかった。
 何故ならば。
 心の片隅で願っていたのだ。
 小さく微かに、確かに望んで止まなかったのだ。
 
 ――ミネアの言葉が、真実であればよい、と。

 たとえ、血生臭い殺し合いの盤上であっても。
 今一度、温かくて、言葉を紡げて、微笑みかけてくれるロザリーと会いたいと、切望してしまっていた。
 もしも、ミネアの言葉が確かならば。
 また、ロザリーと同じ時間を共有し、同じ道を歩めるのなら。
 
 それは、どれほどまでに幸せなことだろうか。

 忌むべき人間の言葉から垣間見えた、不確かな事実でしかない。
 だがそれは、ピサロにとって、紛れもない希望だった。 
 その芽生えた希望を自ら摘み取ってしまいそうな気がして、ピサロは、ミネアの命を奪えなかった。
 だから、苛立ちを抱えながらも、止めを刺さず立ち去ったのだ。

 白い女――アティの存在は、それほど問題視していない。
 何故ならばピサロは、対峙していた少女一人殺せず、逃げるように走り去る、アティの後姿を見ていたからだ。
 その小さな後姿は、黎明に見た背中と重なっていた。
 結局のところ彼女は、下らない言葉しか吐けない、臆病で矮小な存在でしかないのだ。
 とはいえ無論、ミネアやその仲間、アティを始めとした参加者を――人間を、殺すつもりがなくなったわけでは決してない。
 優先順位が変わっただけのことだ。人間に心を許してなどいない。
 ただ、今のピサロを動かすのは、憎悪だけではなかった。
 それでも、苛々する。
 ひたすらに、苛々する。
 いつしか、ミネアに対する苛立ちだけではなくなっていた。
 ろくに名簿に目を通さず消し飛ばしたせいで、ロザリーの存在に気付けなかった自分自身を許せなかった。
 そして。
 憎むべき敵の言葉に希望を見出し、それに衝き動かされて走っている自分自身に、苛立っていた。
 余りにも愚かしいと、ピサロは自嘲する。

 結局、ミネアの言葉を信用してしまっている自分が、人間以上に愚かしく思えて、仕方がなかった。 
 
【B-7 森林 一日目 午前】
【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。
     疲労(大)人間に対する憎悪。自身に対する苛立ち。
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0〜1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:ロザリーの捜索。
2:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。ロザリーが生きている可能性を認識しました。
※参戦時期は5章最終決戦直後
382Trust or Distrust ◇6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:54:41 ID:mx/e2cfZ

 ◆◆
 
 呼吸がうまくできない。どんなに酸素を吸っても、胸が苦しくてたまらなかった。
 鼻の奥が詰まっている。瞳が濡れそぼっていてよく前が見えない。
 でも、苦しいのは、そのせいだけじゃない。
 荒い呼吸を繰り返し、それでもアティは走り続けていた。
 アティは逃げるように、絶え絶えの呼吸をしながら走っている。
 涙目になっていてまともに前が見えないが、走っている。
 それは、黎明の頃にレイを置き去りにしたときのアティと、酷似していた。
 そう、白い髪や碧の瞳は、いつしか元に戻っている。
 リンディスの諦めない説得が、剣に支配されたアティの意思を引っ張り上げていたのだ。
 アティの手に武器はない。
 元の姿に戻った際に、破壊の鉄球を手離していた。
 あんなものを持っていたら、走れなかったから。
 どこに向かっているのかなんて考えていない。
 そんなことを考えられるような余裕が、今のアティには欠片も存在しない。
 ただ。
 ただ、誰にも会いたくなくて、そして、逃げたかった。
 
 アリーゼが、死んだ。
 目の前で、命を落としてしまった。
 それも、アティを庇って、死んだのだ。
 
 ――私が、守らなきゃいけなかったのに……!
 
 無力だった。無様だった。無念だった。
 情けなかった。哀しかった。悔しかった。辛かった。
 だから。
 もっと強さがあればと思った。力が欲しいと望んだ。
 そうすればきっと、こんな想いをしなくて済むと思ったから。
 強く強く強く、願った。
 レイを、アリーゼを殺した男を、許せなかったから。
 心底憎いと、思ってしまったから。

 そして、その願いは、叶えられた。
 
 いつの間にか、圧倒的で強大な力をアティは手にしていた。
 その力は本当に強く、あの男と互角に戦うことができた。
 超重量の鉄球さえ軽々振り回せるようにもなったし、強力な術も行使できるようになった。
 だが、その代わりに。
 力は、殺意と破壊衝動で、アティの理性を塗りつぶしていった。
 アティを呑みこもうとするような強力さに抗えるほど、追い詰められた彼女の精神は丈夫ではなかった。
 その結果が、あの暴走だ。
 自分の意思で自分の身体を制御できない感覚は、とてつもなく恐ろしかった。
 禁忌とも呼べる行為に走る自分の身体を止められないのは、気が狂いそうなほどに恐ろしかった。
 
 いや。
 既にもう、何かが狂い始めているような気がした。
  
 確かに力を欲した。強さを求めた。
 だけどそれは、大切な人たちを守るための強さだ。
 なのに。
 それなのに。
 力を手にしたアティが取った行動は、彼女が最も望まないものだった。
 いくらレイやアリーゼの命を奪った男が相手でも、本当は殺したくなんてなかった。
 ましてや、殺意と破壊衝動に塗りつぶされたアティを救おうとしてくれた少女を殺したいなど、思うはずがなかった。
383Trust or Distrust ◇6XQgLQ9rNg:2009/06/18(木) 23:55:31 ID:mx/e2cfZ
 たとえここが、殺し合いを求められる場であっても、だ。
 だというのにアティは、魔剣に意識を支配され乗っ取られ侵食され、行動も衝動も抑えられなかった。
 もしも、ミネアとリンディスが割って入っていなかったら。
 もしも、リンディスが説得を諦めていたら。
 今頃、アティの手は血に塗れていたに違いない。
 
 自分自身がどうしようもなく狂っていくようで、震えが止まらない。
 自分が自分でなくなる感覚は、どうしようもないほどの、真っ黒な恐怖だった。
 まるで、足元から伸びる影が『アティ』になって、今の『アティ』が影になってしまうように思えた。
 アティ自身を、失ってしまうように感じられた。

 喪失の恐怖から逃れるように、アティは走る。
 怯えを、影を、自分の中にある『何か』を振り切るように、当てもなく走る。
 それでも、足元の影は、離れてくれるはずなどない。
 誰にも会いたくなかった。
 何かの拍子で、あの凶暴な自分が現れるか分からない。
 そうなったら、取り返しのつかないことを起こしてしまう可能性が高い。
 そうなったら、もう一度戻れるという保証は存在しない。
 もう二度と、自分を取り戻せなくなるのかもしれない。
 
 怖くて堪らなかった。
 恐怖は心にこびり付いていた。

「私は、どうなってしまうの……?」 

 震える問いに答えは返らない。
 だが、聞いている存在はアティの中にある。
 アティの中で、魔剣は、確かに声を聞いている――。

【C-6 森林 一日目 午前】
【アティ@サモンナイト3 】
[状態]:コートとパンツと靴以外の衣服は着用していない。
    強い悲しみと激しい自己嫌悪と狂おしいほどの後悔。コートとブーツは泥と血で汚れている。
    水の紋章が宿っている。疲労(大)ダメージ自体は目だってなし。
    自分が自分でなくなるような恐怖。
[装備]:白いコート
[道具]:基本支給品一式
    モグタン将軍のプロマイド@ファイナルファンタジーY
[思考]
基本:誰にも会いたくない。
1:当てもなく、自分の中の『何か』から逃げる。
[備考]:
※参戦時期は一話で海に飛び込んだところから。
※首輪の存在にはまったく気付いておりません。
※地図は見ておりません。
※暴走召喚は媒体がないと使えません。

※アリーゼの遺体、天使ロティエル@サモンナイト3、アティの眼鏡がC-7荒地に落ちています。
※C-6とC-7の境界に破壊の鉄球が落ちています。
384創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 23:56:21 ID:mx/e2cfZ
226 名前: ◆6XQgLQ9rNg[sage] 投稿日:2009/06/18(木) 23:52:53 ID:ob26IHjM0
以上、投下終了です。



代理投下終了です
385 ◆6XQgLQ9rNg :2009/06/19(金) 00:04:16 ID:/4njZih7
支援&代理投下、ありがとうございました。
386創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 00:14:58 ID:0LSbutqD
投下乙!
やった! ミネアさんが窮地を乗り切った! 道理で最近天気が悪いはずだわ。
しかし満身創痍……。リンもついていてくれてるけど、これはまだ油断は出来ないか。
ピサロ、信じるかは別にしてロザリーの事を一応知ったか。これはどう転ぶか楽しみ。
アティ先生はちょっと持ち直したみたいだけど、大変な事になってるなwもう、手遅れかもしれんw
なんか魅力的なフラグが立ちまくって、全員今後が楽しみになってきました、GJ!!
387創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 03:20:18 ID:yI/3sp60
投下乙ッ!

セーフ!
なんとかセーフ!
リンもミネアも死ぬ予想だったから生きていてよかったよw
アティは正気に戻ったけど色々やばいなぁ
ピサロはロザリーのこと知って殺しは控えてロザリー捜索を優先かな?
388創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 03:46:18 ID:GXlXWYFa
投下乙!
いよっしゃああ、アティ先生戻ったあああ!
理性を取り戻してしまったこっからが本番だよなあw
どう進むんだろw
そして転機といえばピサロもついにロザリー生存を知ったか!
信じられないけど信じたがる自分を哂うピサロが切ない…
リンとミネアは良く頑張った! お疲れ様!
389創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 21:46:49 ID:0WX092Mg
まだ放送後の死者は5人なんだな
しかも二人死亡が二つだから死亡話はたった三つ
理想としては放送毎に10人ずつくらい死ぬペースなんだが、これから死亡ペースが加速するといいな
390創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 22:16:38 ID:Uz8wUh/6
死者が出ないと完結がどんどん遠のくし、現実的にみてそのくらいの死亡ペースは欲しいのは分かってる。
分かってるんだが……誰が死んでも惜しいんだよなあ、このロワ。
391創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 22:28:57 ID:1TDlt+hb
まあその分、いざ死亡話となれば
一話で数人、大量虐殺という展開がかなりやりやすそうな状態ではある
量より質、的な
気長に待とうぜ
392創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 22:33:31 ID:K5k/0QTC
脱出、優勝、全滅・・・どの結末にしても、人数が減らなきゃ始まらないんだよな。
たまには優勝もいいかなと思うが、某ロワの影響でそれも救えない結末な気がしてしまう。
393創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 23:20:54 ID:fqz+Yuwa
今は中盤に入ったくらいになるのかな?
これからは今まで以上に誰が死ぬのか気になりそうだなー。
394創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 03:02:47 ID:2AN69FhM
どちらにせよ俺たちは最強の過疎ロワ目指して邁進するだけだ。そうだろ、松ッ!!
395創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 04:32:34 ID:G9eOqHd5
盛況ロワ目指せよw少数精鋭に拘るなw
396創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 05:29:32 ID:FWOo2s8r
盛況とか言い出すと色々面倒だから今くらいでいいよ
てか普通こんなもんだろ
397創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 09:17:56 ID:7PGkHg4V
個人的にはもっと雑談とか感想あると嬉しいかなーとは思う。
贅沢かしら。
398創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 10:45:41 ID:FWOo2s8r
ならもっと積極的に話題振ってみたらいいんじゃないかしら
399創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 12:35:55 ID:89C5OAYg
よし、なら今までの話内でのクロスオーバーについての感想でも語ろう!
ジャファル・シャドウ登場話での装備アサシン尽くしに吹いたw
400創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 12:55:07 ID:2ku40YUL
アサシンダガーにアッサシンズだもんな。
似合いすぎだw

俺はやっぱり脳筋コンビだな。暑苦しくて馬鹿だが、それがいい。
しかも馬鹿伝染中だし、性質が悪いぜw
401創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 19:00:13 ID:2AN69FhM
感想の数はこれくらいだと思う
今コンスタントに投下している書き手が5人前後で一話につく感想の平均は3〜4だし、書き手全員が毎回ちゃんと感想書いている計算にはなる
読み手は完全にROMの人もいるしあまり感想を強要はできんしな

それよりも個人的にはwikiの書き手のページにコメントもらえると嬉しい
俺は一度ハイパー自演タイム駆使して自分の分も書いたから、誰か他の人のコメントも欲しいんだぜ
402創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 01:29:24 ID:lwaIFxV7
クロスオーバーの話ではないが
とある対主催キャラが上手くいけば夢幻闘舞覚えた高原よりもチートになりそうだから期待している
403創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 06:15:23 ID:owcAF7lo
シュウとサンダウンのコンビかなー
似た者同士って雰囲気が好きだった、死亡話も格好良かったし

あと、あのビジュの召喚獣の時点で不運なのに
ケフカというでっかい地雷に引っ掛かったタケシーが地味にかわいそうです
主人に恵まれなさすぎだろw
404創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 22:30:05 ID:5V/szRU8
アークザラッド当時好きだったから軽い気持ちで漫画版読んだら酷いことになった
リーザの眉毛はよかったけど
405創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 22:37:07 ID:98OvjTwd
炎のエルクは下手なホラー漫画よりはグロい
406創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 23:10:57 ID:f71K6Hxn
ねぇ、若い者を導くって豪語した次の話で死ぬのってどんな気持ち?
        ∩___∩                     ∩___∩
    ♪   | ノ ⌒  ⌒ヽハッ    __ _,, -ー ,,    ハッ   / ⌒  ⌒ 丶| ←フロリーナ
        /  (●)  (●)  ハッ   (/   "つ`..,:  ハッ (●)  (●) 丶     女の子を口説けも守れも出来なかったのって
       |     ( _●_) ミ    :/       :::::i:.   ミ (_●_ )    |        ねぇ、どんな気持ち?
 ___ 彡     |∪| ミ    :i        ─::!,,    ミ、 |∪|    、彡____
 ヽ___       ヽノ、`\     ヽ.....:::::::::  ::::ij(_::●   / ヽノ     ___/
       /       /ヽ <   r "     .r ミノ~.    〉 /\    丶
      /      /    ̄   :|::|    ::::| :::i ゚。     ̄♪   \    丶
     /     /    ♪    :|::| エドガー ::::| :::|:            \   丶
     (_ ⌒丶...        :` |    ::::| :::|_:           /⌒_)
      | /ヽ }.          :.,'    ::(  :::}            } ヘ /
        し  )).         ::i      `.-‐"             J´((
          ソ  トントン                             ソ  トントン

ついやってみたかった。反省。
407創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 23:20:23 ID:cUDnWLex
左だれだよ
408創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 23:23:00 ID:ZATy8qzS
シャドウじゃね?
409創る名無しに見る名無し:2009/06/23(火) 23:38:34 ID:s1E4zhJI
アーク2かあ
リーザやシャンテが何気に魔力低かったんだよなあw
回復役に魔力いらねって配慮なのかもしれないがエルク並だったしw
410創る名無しに見る名無し:2009/06/24(水) 00:03:43 ID:BuTcU2+T
ラヴィッシュのレベル上げるためにヂークの経験値全部つぎ込んだから俺のリーザは強かったぞ
411創る名無しに見る名無し:2009/06/24(水) 20:56:31 ID:tLGkg51c
死者語りなら本編に影響ないし俺ものるー!

リーザはロワ的には調べるをぜひとも他作品のキャラにやって欲しかったw
あの地味に毒舌なコメントでさw
412創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 13:37:41 ID:sU7yfios
リーザはトカ先生をラヴィッシュして欲しかったw
あとは、アリーナ対高原が見たかったな。

ところで、このスレ残り19KBしかないから、投下するときは注意してくださいね。
413創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 19:43:16 ID:MVZ2d7Dk
その発想はなかったわw>トカラビッシュ

ふむ、なら新スレまた立てるかー
414創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 02:19:25 ID:U963hqEO
RPGキャラバトルロワイアル5
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1246382270/l50

新スレ立ててきた。
順次張っていくが途中で止まっていたら規制されたってことだから続き頼む
415 ◆iDqvc5TpTI
新スレのほうで投下はしました。