RPGキャラバトルロワイアル5

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504創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 22:32:10 ID:7TiILKdP
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505グリーン・ディスティニー  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 22:34:05 ID:W+M4qaOh

その毒気は否応なくモンジの身体に巣食っていたネクロマンサーの邪気のことを思い出させる。
仲間の死を告げられたばかりだったことが更に胸糞悪い想像に拍車をかけた。

「てめえはロマリアの野郎の仲間か?」
「ロマリア? すまない。何を言っているのか分からない」
「とぼけんじゃねえッ!! 俺には見えてんだよっ、てめえの心んうちから溢れ出しているどすぐれえもんがッ!!」

数々の情報を手に入れていながらも異世界の存在を当然の如く考慮していないトッシュからすれば他に考えようが無かった。
出会った人間の中にアシュレーの知り合いが誰一人いなかったのも不運だった。

そして不幸は加速する。
誤解を補強してしまう出来事が起きてしまったのだ。

「ウゥオオオオオォォォォォォォォッ!!!!」

トッシュがねめつけるアシュレーの背後。
雄たけびを上げながらそいつはやってきた。

「もう一体いやがったか!」

ぽっかりと胸部に空いた穴。
白い肌と僅かな衣服を盛大に赤く染める渇ききった血液。
何を映すでもなくただただ緑色に輝くだけの硝子球のような眼。
生気と共に色さえも失ってしまったかの如く白い肌と髪。

その全てが全て生きているもののそれではなかった。

にも関わらずそれは生者のように二本の足で立ち蠢いていた。
女。
人間という種族に無理やり当てはめるならそいつは女。
かってアティと呼ばれた教師の成れの果ての姿だった。





振り向くことの無かったセッツァー=ギャッビアーニは気づかなかった。
彼の背後、突き殺した死人同然だった女の身体に起きた異変に。
同時に彼は恐ろしく幸運だった。
一度も脚を止めることなく殺害現場から立ち去ったからこそ、そいつの標的にされなかったのだから。

ぴくりと、死んだはずの女の手が動いた。

のろりのろりと虚空へと伸ばされた腕には先程までは無かったはずの一本の剣が握られていた。
透き通る美しい碧の色に反した禍々しさを纏う剣。
碧の賢帝シャルトスである。
そしてかの魔剣には死に瀕した契約者を無理やりにでも助ける一つの能力があった。

死亡覚醒。

分かりやすい言語で名づけるならばそう表すべきか。
瀕死状態で意識の弱まった主に一瞬だが魔剣が取って代わり身体を操作し強制的に剣を召喚させその魔力で傷を癒させるのである。
棺桶に片足を突っ込んでいる状態からの回復でさえ全ての世界の始祖と想定される超常の存在から汲み上げる力をもってすれば容易い。
いや、たとえどれだけ手間のかかっても幾星霜を経て漸く見つけた自らの身体になりうる適格者を魔剣が死なせはしまい。
506グリーン・ディスティニー  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 22:36:11 ID:W+M4qaOh

しかし、である。

アティは死んだ。
魔剣に生かされること無く死に果てた。

何故か?
非常に限定的とはいえ死者蘇生にも通じる力であることを嫌い、オディオが制限を課したからか?

違う。
それがただ単にリスクの無い延命機能だったのならオディオも魔剣に細工しただろう。
だが、魔剣による復活は剣に込められた数多の死者の念による精神侵食という副作用がある。
人間の愚かしさを知らしめんとしている魔王にとってはむしろ喜ばしい特性だ。
故に魔王は死亡覚醒については剣から流れ込む怨念の量を十数倍にした以外は一切の制約を課さなかった。

そして結果的にはそのたった一つの制約がアティの命を奪うこととなった。

魔剣の力は共界線から取り込む世界の力以外にも適格者の意志力にもよるところがある。
適格者が自らの行いや信念に迷えば急激に力を失う。
現にこの島にいるイスラ・レヴィノスの世界では彼に精神的に揺さぶられ続けたアティの剣はあっさりと折れている。
それほどまでに剣から適格者にだけではなく、適格者から魔剣へと及ぼす影響も大きいのだ。

さて、ここで思い出してみて欲しい。
セッツァーに殺された時のアティの精神状況を。

海賊に襲われ、嵐に呑まれ、オディオの説明も聞けずわけも分からないまま殺人遊戯に巻き込まれた。

――最初から散々なものだった。次々と起こる事態に心休まる時も無かっただろう

殺人者に己が信念を否定され、守ってくれた人を見殺しにし、守りたかった生徒も彼女の目の前で殺された。

――殺人遊戯の前に彼女の寄る辺であった理想は瓦解した。後には守りたかった人達の死骸しか残らなかった

遂には怒りのままに暴走。心と言葉を捨てあれだけ否定していた武力に頼り止めようとしてくれた草原の少女を傷付けた。

――他者を傷付けるたびにアティの心も傷ついた。傷つき罅割れ女は自他と向かい合うこと無く逃げ惑った

度重なる不幸。度重なる迷走。その果てに出会ってしまった男によって齎されたのは死。

――皮肉にも彼女の心は止めを刺された。彼女が信じて止まなかった言葉の力で

ああ、これのどこを見て強く輝く魂といえるだろうか?
罅割れて砕け散った心の破片。
暴力と言葉で蹂躙され尽くし自他の双方から否定されてしまったアイデンティティ。

そのような状態ではいかに強大な魔剣といえど力を発揮できるわけがないではないか。

砕け散ったアティの心に引きずられ力を落とした魔剣は適格者の死に間に合わなかった。



   間に合わなくとも主導権を握ることには成功してしまった。
507創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 22:40:02 ID:7TiILKdP
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508グリーン・ディスティニー  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 22:42:01 ID:W+M4qaOh


何もおかしいことではない。
魔剣の存在した世界ではこの世に残った怨念がその想いの強さゆえに年月をかけて実体化して人を襲うこともあった。
魔剣の片割れに触れ魔神に憑依された男の世界でも狂気山脈という剣に染み込んだテロリストの首領の妄念が生前の姿をとって猛威を振るった。
上二つに比べれば実体化するのではなく単に死して間もない身体に乗り移り操ることのなんと容易いことか。
元からそういった機能が備わっていたこと。
加えて魔剣に封入されていた死者の嘆きがそれらを為すのに十分な年季を得ていたことも醜悪な奇跡を可能にする助けとなった。


それが更なる悪夢の始まり。
アティが死後見たイメージは決して幻影などではなかった。
襲い来た「ソレ」は剣の意思そのものだったのだ。

「gいぎゃh■pkl……」

人の耳では理解できない音階の声を発し、アティだったものが立ち上がる。
図らずも剣の悲願であった適格者を取り込むことには成功したが、その表情に愉悦は無い。
あるのは生きとし生ける者への憎しみのみ。

――憎いいぃ……っ
――恨めしいぃぃ……
――苦しい、よぉ……

所詮は死した身。
遠くないうちに剣から溢れ出る共界ごしの魔力により自壊するのは目に見えている。
無理したところで適格者が死んだ身ではろくな戦いもできはしない。

些細なことだ。
動ける時間が短かろうと長かろうとやることに変わりは無いのだから。

「ご”お”お”ろおおしいいいてえええやああるうううう!!」

殺してやる。
それこそが彼らの願い。
唯一にして至上の行動原理。

その決して渇くことの無い願望を叶えるために、亡霊伐剣者は命の集うフィガロ城に現れた。
或いは――それは蒼き魔剣が導いたからだったのかもしれない。





「まさ、かッ!」
『気付いたか、アシュレー・ウィンチェスター? 
 そうとも、奴もまた我のような存在に憑かれたのだろうなあ。
 死んだのが憑かれた先か後かは知らんが。大方犯人はあの剣といったところか? 
 ほれ、覚えがあるのではないか? あの剣が発するおぞましい気配にッ!!』

分かる。
色も形も違うが今アシュレーが感じているのは紛れも無くあの時と同じ恐怖だった。
数時間前についぞ抜くことなく逃げるように置き去りにした魔剣。
やはり勘は正しかったのだ!
あれは、あの剣はロードブレイザーと同質の呪われた武器だったのだ!
509グリーン・ディスティニー  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:03:05 ID:W+M4qaOh

『抜いてなくて助かったなあ、アシュレー。まあお前があの剣を放置したせいで他の誰かが生贄になったかもしれないのだがな』

魔神の皮肉に一気に心の臓が冷える。
そうだ、何故そのことを考えなかった!?
アシュレーが魔剣に感じた寒気は剣に降ろされたロードブレイザーのせいだけではなかった。
あの後誰かが剣を回収していたらその人に危機が及んでいることとなる。
最悪、アシュレー達の前に立ち塞がっている女性のように身体を乗っ取られている可能性もある。

どうする、どうすればいい?
我が身可愛さに逃げたツケを誰かに支払わせるわけにはいかない。
今から回収しに戻るか?
愚問だ。
気にかかるのは確かだがそれより先にしなければならないことがある。
死して尚恐らくは望まぬ戦いに駆り出された女性を止めねばならない。

「こ”お”お”わああしいいいてえええやああるうううう!!」

亡霊伐剣者から渦巻く暴風めいた魔力に飛ばされぬようアシュレーはディフェンダーを腰だめに構える。

『いいのか、我が力を使わないでも。手負いの獣は恐ろしいかもしれぬぞ?』

語りかけてくる魔神の声は無視。
吹きつけて来る風は目を開けることを阻むほどに強力だったが、
ロードブレイザーの言うとおりだったとしても、魔剣の犠牲者にこれ以上呪われた力を行使したくはなかった。

血と泥に塗れた足が踏み込んでくると共に碧の魔剣が叩きつけられる。
お世辞にも重いとは言えない一撃だった。
身体能力こそ魔力により強化されているが無理やり動かしている分、その力を上手く攻撃に転用する身のこなしが圧倒的に欠けていた。

よってアシュレーがたたらを踏んだのは剣撃自体にではない。
碧の魔剣をディフェンダーで受け流す刹那、いくつもの声が流れ込んできたからだ。

――ぎいやあぁぁぁっ!!
――いや……っ ひっ、あぁぁぁっ!!
――痛いぃぃっ!! し、死にたく……ながあぁぁぁっ!?

アシュレーが感じ取ってしまったのは魔剣の中核をなす亡者達の怨嗟の念だった。
剣の力に頼りすぎ剣の意識に飲み込まれつつある適格者にしか聞こえないはずのものだった。

ロードブレイザーだ。
負の感情を取り込み力に変える事ができるデミ・ガーディアンが魔剣に込められた憎悪を喰らいつつ、アシュレーへと内容を伝達しているのだ。

「くっ、これが、この人を飲み込んでしまった力なのかッ!?」

人間から取り込んだ負の念の総量だけなら魔剣はロードブレイザーには遠く及ばない。
島一つ分と星一つ分ではスケールが違いすぎる。
しかし一点のみ魔剣がロードブレイザーに勝っている部分があった。
魔剣は文字通り島の全ての痛み――山や木に川といった自然の痛みをも吸収していたのである。
ロードブレイザーから与えられたことの無い慣れぬ嘆きに動きを鈍らせるアシュレー。

亡霊伐剣者の肌の表層を這い回る碧の紋様が揺らめく。
刻一刻と形を変える光の刺青はどこか人間の表情のようで。
アシュレーには見下ろしてくる無数の顔が、お前も同じだ、仲間になれと叫んでいるような気がした。
510BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:04:40 ID:W+M4qaOh

その叫びを打ち消したのはそれ以上の怒号。

「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」

体勢を崩しているアシュレーを尻目にトッシュが迎撃に放たれた魔力波を受け流しつつ亡霊伐剣者へと切り込んでいた。
何の冗談かその背に光るデイバックから零れ出たのは亡霊が持つのとそっくりの剣。
アシュレーは反射的にその蒼き剣へと手を伸ばし、直後予期せぬ衝撃に打たれ意識を失った。





亡霊伐剣者が死に逝く身体を無理やり引き摺り一目散にトッシュへと飛び掛る。
アシュレーを苦しめる亡霊伐剣者の姿がぶれ、知った誰かと重なっていく。
最初はモンジの顔だったそれが、次々と失ってしまった人々のものへと変わっていく。

もし、もしもだ。
ナナミが、リーザが、エルクが……シュウの野郎が親父やこいつみてえな形で姿を現したなら。

トッシュは想像してしまった。
殺人マシーンとしてでももう一度あいつらの顔を見ちまったのなら。

俺は――

きっと驚いて、

やっぱそう簡単にお前が死ぬわけねえよなって一瞬喜んじまって、

けれども一切迷うことなくぶった斬っるんだろうなぁ。

……ちきしょお。

ちきしょお、ちきしょお、ちきしょお。
ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう、

「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!!」

自分でも整理のつかない悔しさを怒号と化し、剣に乗せて渾身の一撃を叩き込む。
狙ったのは腹立たしいまでに目に付く気の集約点。
意識した上ではなかったが、その動作は彼が親父と慕っていたスメリア一の剣豪が編み出した奥義に似ていた。

――似ているだけで本物には届かない出来損ないの奥義だった

無意識のうちに繰り出したその技が、完成された形であったならば。
凝り固まっていた所を両断されたエネルギーは力を失い霧散したであろう。

そうはならなかった。

見ようとして見たのとひょんな弾みで見てしまったのでは気の流れを読む精度が違う。
しかもトッシュに流れを読むきっかけを与えたのは性質は核識では無くロードブレイザーだ。
いくら性質が似通っているとはいえ、両者は別物。
事象平面に潜むロードブレイザーを見るつもりで境界から流れ込む核識の意思を視認しようにも正確に捉えられるはずも無く。
僅かに目測を誤った刃は気の集うところではなく、気が流れている経路の方を断ち切ってしまう。

途端膨大な力は行き場を無くし、送り込まれる勢いのままにゴーストの体外へと溢れ出し氾濫する。
制御を失った大量のエネルギーが城の隅々にまで浸透していく。
地下の閉じられた城内に充満した魔力が飽和状態に達するまでにそう時間はかからなかった。
511創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 23:06:56 ID:7TiILKdP
512BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:07:36 ID:W+M4qaOh





轟音と共に衝撃が走り天井が、壁が、床が、城のありとあらゆる部位が軋む。
揺さぶられたのはフィガロ城だけではない。
その中にいた人もまた等しく激しい振動に晒されることとなった。
ゴゴに頼まれリオウを弔おうとしていたトカもその一人だった。
制御室を漁って見つけてきたルッカが中身を持ち出したことで空になっていた予備動力炉を収めていた箱。
急造の棺代わりとしてそこに遺体を収めようとしていたトカは急な足場のぐらつきをもろに受け倒れてしまったのだ。

「な、何ですとー、この揺れは!?
 まさかまさかの巨大ロボが地下より現れる前兆!?
 であるなら我輩も呼ばねばなるまいッ! ブールーコーギードーンッ!
 さあさ、みなさんごいっしょにッ! ブールーコーギードーンッ!!」

が、当然のことながら一緒に声を上げてくれる人もいなければ、返ってくる巨大ロボの駆動音も無い。
無人の制御室に一人寂しく延々と声が木霊するのみ。

まあ一人とはいえ十人分くらい騒ぎ立てているのだが。

「じ、地震だーーーーッ!!」

これはまずい。
非常にまずい。
地底で生き埋めになった日には二度とお日様を拝めないこと間違いないしだ。
しかも悪いことには常ならばコロコロとコミカルに転がっていたであろうその矮躯は、運び途中だった遺骸に押しつぶされていた。
リオウは決して大柄ではないとはいえ、人の子程度のサイズしかないトカからすれば全身を覆って余りある大きさだ。
鍛え上げられていることもあって中々重いリオウの身体をどかすのはインドア派のトカには手間取ること必須である。

「いよいよもって大自然の反乱ッ! こいつぁ、一級品のハードSFだトカ。
 ……おのれ、あじなマネを。だがしかしッ! 我輩達にはあるではないか、科学の力がッ!
 そう、科学ッ! 科学が我輩を救うのだッ!! 
 ほら、ちょうどいい具合にあそこに緊急浮上レバーがあります。む、レバー?
 何故かその単語を口にするだけでほのかな頭痛が。全身もこうぴくぴくと。
 あれだトカ? 予知というものだですか?
 否、そんな迷信に躊躇していては人類に進化はこーっず! それ、ぽちっと……ひゃい!?」

現状を打破しようと手短なスイッチに手を伸ばすも届かない。
というか手を伸ばす先にスイッチが無かったりする。
後ろだ。レバーはうつ伏せになったトカの後ろにあったのである。
人類からすれば打つ手なしの展開だった。
しかしトカはさっきまでとは打って変わって余裕綽々の笑顔だった。
彼は人間ではないからだ。

「ふっ、この程度の問題既に一度乗り越えておるわー!
 さあ出番ですぜい、しなやかにして、たおやかな我輩のシッポ!
 今度こそぽちっとな」

リザード星人特有のよくしなる長い尻尾を動かしてレバーを押す。
傷に響いて若干痛かったが、こんなもの、石像の口に尻尾を挟んで抜けなくなってしまった時に比べれば何とも無かった。
513BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:09:42 ID:W+M4qaOh

「ふう。これですこぶる良好ッ!
 我輩のおしげもなくさらしたまばゆいばかりの智将っぷりに、亡きリオウくんもきっとご満悦の様子?
 青春の虚像と我輩には、どこまで行っても追いつけぬものトカ。
 地下の世界のセミ達よ、さなぎ時代最後の思い出に、去り行く我輩らの姿を節穴同然のドングリまなこに焼き付けたまえ。
 アデュー、いつの日か星の海でッ!!」

程なくして鳴り響く駆動音を耳に、大したアクシデントも無くスイッチを入れられたという生涯でも数少ない功績に気をよくするトカ。
我が身に降りかかっていないだけで既に城内には問題人物だらけだということを彼は知る由も無い。





いたる所で築き上げられた瓦礫の山が城が浮上する振動に揺れ、がらりがらりと音をたてる。
トッシュが頭を抑えつつ這い出てたのもそんな瓦礫の底からだった。

「っつう、いってえなあ」

飽和した魔力は爆発を起こしトッシュと伐剣ゴーストが居た位置を中心に周囲を球状にごっそりと破砕していた。
前後左右上下四方をだ。
その証拠に気配を感じ顔を上げてみれば呆れ顔で手を伸ばしてくる彼の仲間がいた。

「……随分と派手にやったものだな、トッシュ」

偶然にもトッシュ達はゴゴとシャドウが戦っていた階下まで落ちてきてしまったのだ。
ゴゴの身体や衣服に見られる傷、そして口は動かしつつも気を張り詰めたままな様子から戦っている最中だったことを察しトッシュは謝る。

「へっ、わりぃな。邪魔をしちまったかい?」
「問題ない。むしろちょうどいいタイミングだった。言いたいことは言った。後はけじめを取らせるだけだ」
「おっしゃあ!! そいつあいいところに乱入できたぜ! リオウの仇、やっぱ俺もこの手でとらねえと気がすまなかったからな」

手を借りて立ち上がったトッシュが浮かべたのは怒りと笑み。
変なところで器用な男だとゴゴは感心する。
感情に正直すぎるとむしろこうなるのか。
早速得た新たな情報に更新してトッシュの物真似に移行する。

「分かっているさ。焚きつけたのは俺なんだしよっ! にしてもこの爆発、何したんだ、てめえ」
「ちいっとばっかし厄介な乱入者も現れちまってな。けっ、噂をすればなんとやら。おいでなすったか!」

不協和音を撒き散らしながら魔力の風が吹き荒れ、トッシュが埋まっていたのとは別の瓦礫の山が爆ぜる。
舞い散る粉塵をものともせずゆらりと立ち上がるのは言うまでも無く伐剣者の亡霊だ。

「てめえトッシュ、厄介なもん連れて来やがって!」
「うっせえ!そういうならお前の方こそもうちょいあいつに傷を負わせておけ!」

トッシュを助け起こす間もゴゴが警戒していた方角。
二人を挟んで亡霊とは逆方向にシャドウは姿を現していた。
このままでは挟み撃ちにされてしまう。
素早く背中を合わせ、両者に剣を向けるトッシュとゴゴ。
されどことは単にシャドウに挟撃できる位置を取られただけでは済まなかった。

「おい、何かやばそうなもん構えてやがるぞ! あいつ投擲の腕はどうなんだ!?」
「必殺必中だ!!」
「めちゃくちゃまずいじゃねえかあああ!」
514創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 23:10:13 ID:7TiILKdP
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515BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:11:56 ID:W+M4qaOh

ゴゴ同様ゴーストをゾンビと捉えたシャドウの判断は早かった。
敵二人に、敵も味方も無いアンデッドが一匹。
道を塞がれる形で逃げること叶わず、実質3人を相手にしなければならなくなったシャドウは遂にカードを切ったのだ。
クレッセントファング。
それこそがエイラから奪い取った最後の支給品にしてシャドウにとっては最強の支給品。

奇しくもある世界において修羅の道を歩んだ処刑人が使っていた武器と同じ名を冠した投擲具。
ただでさえ強力な月狼の牙を投擲のスペシャリストたるシャドウの腕で使用すれば、
かの一兆度の炎を操る百魔獣の王さえも半殺しにするは容易い。

ただ、抜け道もある。

「……幸いなことにあいつの投擲は精度を重視しているがために一人相手に使うのが前提だ」
「ああん? 何が言いたいんだ、てめえ」
「二手に分かれれば確実に一人は助かるはずだ。俺がつけた分の傷もある。もう一方を追おうとはしないだろう」

最善の結果を得れはしないが、確実に一人は生き残れる寸法だ。
そしてその一人とは恐らくゴゴではなくトッシュだ。
暗殺者が己が手の内を知り尽くしている輩を逃すはずも無い。
ゴゴとてそのことは承知の上だ。
分かっていて物真似を解いてまで提案したのだ。
だけどトッシュはふてぶてしい笑みを浮かべて申し出を一掃した。

「おい、ゴゴ。馬鹿言ってんじゃねえ。てめえ今俺の真似してんだろ? だったら俺がどういう奴か分かってんだろ」

さっき出会ったばかりで。
守りたかった人の敵の仲間でもある相手を。
トッシュは犠牲にすることを良しとしなかった。

面白い男だとゴゴは思った。
もっともっと真似してみたいと。
こいつの真似をし続ければ何だか炎の物まねをするのがより上手になりそうだとも。

「すまない。……いや、すまねえ。どうやら俺も焼きが回ったみてえだ!」

途中で物真似を再開して答える。
炎のように獰猛でけれどどこか清清しい笑い方は真似してみて気持ちいいものだった。

「へっ、わかりゃあいいんだよ。……てめえがどうしてんなことを言ったのかくれえは分かるつもりだ。
 だがよお、死んじまったらこれ以上誰も守れはしねえんだ」
「ああ。要するに選ぶべき道は一つだけってことだなッ!!」

合わせていた背を離し、二人は並び立つ。
目指すは前。死人が手招く後ろにではなく、生者が立ち塞がる前へと進め。

「「避けられないなら正面から斬り捨てるまでッ!!」」

異口同音。
重なるは心、重ねるは刃。
剣の柄に手をやり二人ともが生き延びる最高の未来を目指してシャドウの方へと疾駆する。

ここが勝負どころなのはシャドウも変わらなかった。
シャドウにのみ狙いを絞ったことで、トッシュとゴゴは一時的にとはいえ二対一の形に持ち込めるようになる。
対してこのまま二人の接近を許せば彼らを背後から追いすがる亡霊伐剣者も含めた三人をシャドウは一度に相手しなければならなくなってしまう。
それだけは防がねばならない。
516BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:13:43 ID:W+M4qaOh

「シィィィィィイイイイイイイ……」

暗殺者らしからぬ雄叫びを上げ身体を引き絞る。
乾坤一擲。近づかれるより先に確実に仕留めなければ活路が無い以上、少しでも威力が上がるなら気合を入れることさえも怠れなかった。
イメージする。
この身は弓、我が心は弦。
放ち穿つは必殺の――駄目だ。
足りない、ただの弓矢のイメージでは足り無すぎるっ!!
もっとだ、もっと強い武器を。
暗示しなおせ。お前は知っているはずだ、複数体の的を一斉に射抜く機械の弓をっ!!
強敵が握っていたそれをっ!!

「ャャャャャヤヤヤヤヤヤヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

この身は弩弓、我が心は撃鉄。
オートボウガンをイメージに添えクレッセントファングが撃ち出される。
高速回転する人が手にした最も古い狩猟用兵器は数多もの残像を巻き起こし軌道を決して読ませない。

必要ない。
トッシュとゴゴに元より避けるための軌道計算なんて不要だ。
望むは直線。
シャドウを切り伏せられる最短距離。
その射程上さえ開いていればそれでいい!

「「真空斬――」」

トッシュが走る動きさながらに剣を抜く。
軽さと鋭さを重視した細身の剣では受け止めるのは不利。
なればこそその軽さと鋭さが生きる神速の抜刀により生じる大気の刃にて切り裂くことこそ漢は選ぶ。
ゴゴもまた壊れた誓いの剣にてオリジナルと寸分のずれも無い動作で技を為す。
どころかリオウやルッカの物真似をして得た他人と合わせる呼吸を活かし、即興で連携技を成立させる!

「「――双牙っっっ!!!!」」

生じた衝撃波が重なり巨大な一つの刃となる。
一太刀でさえ大樹を容易く切断する真空の刃を二つ束ねたのだ。
並みの武具や防具では受け止めようにも持ち主ごと切断していたであろう。
だが真空斬・双牙が撃ち落さんとするのもまた一級品の上を行く超級の代物だった。

月狼牙の名に恥じぬ白銀色をした巨大な飛去来器が空を舞い逝く。
直進するのみの真空斬・双牙とは異なり三日月の刃は円形の軌跡を描き回転しながら飛翔する。
その姿は三日月ならぬ満月の如し。

そしてその一撃が満月であろうものなら衝撃波如きが抗えるはずは無い!
どれだけ勢いがあろうとも、花鳥風月と並び証されようとも所詮は風。
夜天に一際映える真円の星を揺るがすには至らない。
そもそも月とは真空状態の宇宙において浮かんでいるものなのだ。
突発的な真空波など敵ではない。

豪ッ!!
真空斬が、引きちぎられた。
無残に、それでいて綺麗に。
双牙の名を冠された技は更に鋭き牙に食い殺された。

もう月狼の歩みを止めるものは居ない。
もうトッシュとゴゴに死から逃れる術は無い。
517創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 23:14:03 ID:7TiILKdP
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518BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:17:09 ID:W+M4qaOh

飛来するブーメランが二人の視界を埋め尽くす。
直感が無駄だと叫ぶのを無視して、希望を掴み取る為に二人は振り抜いたばかりの刃を引き戻す。
その背後からもう一つの脅威が迫り来る。
亡霊伐剣者。
消え逝く蝋燭の最後の輝きさながらに威力を増した暴風を纏って、死者が魔剣を振り上げる。
トッシュとゴゴにその剣に応戦する余裕は無い。
二人がかりで挑んで尚勝ち目の薄い戦いを挑む彼らは眼前のクレッセントファングに集中するしかなかった。
たとえ必殺を防いだところで無防備な背を亡霊に晒すのは致命的過ぎた。

なのに

二人は諦めることをよしとはしなかった。
最後まで剣と己と仲間に賭けた。
目を閉じることなく勝負の行方を追い続けた。

だから

彼らは見た。
挟撃されんとするまさにその時に飛び込んできた一筋の光を。
蒼い魔剣を掲げたヒーローの姿をッ!!


「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!アクセスッ!!!」





それはいつかの光景の再演だった。
極光に彩られた意識と無意識の狭間。
光の中に浮かぶ一人の女性。
彼女が口を開き、僕が今まで何度も何度も投げかけられた問いかけを口にする。

「あなたはもう知ってますよね。あなたが望んでいたもの。本当に守りたいものがなんなのかって」
「僕が望むのは平和な日常……。みんなの笑顔を、マリナの笑顔を、僕は守りたい」

僕はずっとその答えを抱いて生きてきた。
絶え間のない変化に触れて移ろい行くことはあったけど、それは僕の願いが僕と共に明日を歩み続けているということなんだ。
二十年間生きてきて、やっぱり僕は他に命をかけられるものを知らない。

――わたしにとって、アシュレーはアシュレーなんだから、ね……
  だい、じょうぶだよ ふたり、どんなに、離れていても
  アシュレーを見失ったりしないよ
  だから……アシュレーも、見失わないで……自分の、帰る、場所を……

だったらその日常に、マリナの為に命を賭けるのが僕だ。
魔神に再び蝕まれようと、この手に聖剣がなかろうと、その想いを抱いている限り僕はアシュレー・ウィンチェスターだッ!

「その通りです。あなたのそれは正しい答えじゃないのかもしれない。
 独りよがりのわがままと何も変わらないのかもしれない……。
 だけどそれがあなたなんです。
 その答えはあなたにとっては満点です」

女の人が手を伸ばす中、宙にあの蒼い魔剣が現れる。
極光の世界を優しく包み込んでいく蒼い光に照らされた顔には憂いを浮べていたアナスタシアとは違い温かい笑みがあった。
519BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:18:52 ID:W+M4qaOh

「ウィスタリアス、私だけの剣。
 適格者であったとしても多分わたし以外には使えません。
 今覚醒できているのも、もう一人の私とこの剣の前身が近くにあるからこそです」

もう一人の私とこの剣の前身。
その言葉の意味に気がつきはっとなる。
剣の類似性にばかり気を取られていたけれど、確かに光の中の女性の顔立ちは魔剣の犠牲者のものとそっくりだった。

「ごめんなさい。あの子のことは本当は私が、私の持ち主であるあの子とは別世界のアティが眠らせてあげないといけないのは分かってます。
 けれど魔剣と引き離されたアティは異常に気付くことはできても、何が起きているのかさえ知りえません」

アティ。
その名前には覚えがあった。
カノンの名が最初に呼ばれた放送の最後の最後で告げられた名前だった。
そして同時にそれはこの人の名前でもあるということ。

「だからお願いです。みんなの笑顔を絶やすこの殺し合いを止めてください。
 私も力を貸します。戦う力にはなれないけれど、ハイネルさんが私にしてくれたように、私があなたの心を魔神から守ります。
 もしもあなたが私を信じてくれるなら。私に力を貸してくれるなら。
 剣を、果てしなき蒼(ウィスタリアス)を手にして……」

僕は、迷わなかった。
迷わずに握りしめた。

光の中の女性の右手を。

「え……?」
「力は貸したり借りたりするものじゃない。合わせるものだッ!!
 君が僕を守ってくれるというなら、今から僕達は仲間だ。一緒に、戦おうッ!」

彼女は笑った。笑って頷いてくれた。
そして僕達は剣を抜く。合わせたままの二人の手で。

「「アクセスッ!!!」」






変身を遂げたアシュレーにシャドウとゴゴはその姿に一人の少女のことを重ねていた。
人と幻獣の間に生まれ、人形として扱われ、それでも最後には人としての心を得た少女のことを。
あの少女のように男もまた人ならざる身でありながらも人としての道を選んだのか。
修羅の道を歩む暗殺者と正体不明の物真似師は人としての心の輝きを眩しげに仰ぎ見る。

トッシュは仇に成り下がった親父から生前に託された大切な言葉を思い出していた。
『この世界には、こんな俺達にしか守れない者が、大勢いる。そいつを守っていく為に、お前は生きろ』
あんたもそうなのか? そんな邪悪なものに取り憑かれたあんたでしか守れないものの為に戦っているのか?
目に映る今のアシュレーの気の集中点には流れ込む黒い力も霞む程に煌く光が灯っていた。

ロードブレイザーは驚愕していた。
ありえない、何なのだこの姿は!?
変身したアシュレーの姿は魔神の知るどの形態にも当てはまらなかった。
姿だけならナイトブレイザーのそれだが、彩色は本来あるべき黒と赤とは真逆のものだった。
520創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 23:19:10 ID:7TiILKdP
支援

521BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:20:01 ID:W+M4qaOh

即ち白と蒼。
全てを飲み込む絶望の闇の如く黒かった装甲は青みのかかった白に染まり、
万物を焼き払う赤き炎を模していたマントやゴーグルといった細部パーツは母なる海の蒼を思わせる色に輝いている。
まるで手にした魔剣の色を写し取ったかのように。
新生したナイトブレイザーはどこか優しい
名づけるのならば――蒼炎。

“蒼炎のナイトブレイザー!!”

その背部装甲は大きく切り裂かれていた。
亡霊の凶刃からトッシュやゴゴを我が身一つで庇った代償だった。
決して軽くはないはずの傷だ。
纏っていたマフラーの半分は千切れとび、白かった装甲には真紅が滴っている。
そんな状態で蒼炎のナイトブレイザーはトッシュとゴゴの二人の間に立ち、二本の剣で共にクレッセントファングを受け止めていた。
右腕に握られしは使い慣れた破壊剣ナイトフェンサー。
そして左腕にあるのは蒼い、蒼い綺麗な刀身。
全てを包み込む母なる海のような暖かさすら感じさせる果てしなき蒼の色。
破壊の力で亡霊伐剣者を葬送することを拒んだアシュレーが創造した新しい剣。
ウィスタリアスを模したこの剣は、アシュレーとアティの絆の証だった。

「ウィスタリアスセイバーッ!!」

“救い切り開く蒼き剣”
蒼炎の騎士が声高らかに宣名するのを待っていたかのように、アシュレー達三人の背後で何かが崩れる音がした。
それは屍が屍に返る音。
ナイトブレイザーを斬りつけた碧の賢帝は、直後生成された救い切り開く蒼き剣によるカウンターで両断されていたのだ。

果たして冠した名前通りにアシュレーの一撃が魔剣に翻弄され続けた女性の魂にとって救いになったのかは分からない。
ただ、数多の呪いを発していた彼女の口は今際の際には一切の断末魔も漏らすことなく静かに閉じられたままだった。

アシュレーは振り返らなかった。
悲しみと悔しさを蒼炎の仮面で覆い隠し前を見据えていた。

「二人とも、伏せろッ!!」

蒼炎のナイトブレイザーの胸部装甲が展開される。
そこから溢れ出す光は魔剣から発する蒼き光とは違いただ敵を焼き尽くす為だけの禍々しきもの。

アシュレーの号令にトッシュとゴゴは一瞬顔を見合わせる。
クレッセントファングの勢いは死んではいない。
三人がかりで受け止めて尚、じわりじわりと剣の刃に食い込んできている。
伏せるのであれば二人分受け止めている牙城が緩むこととなる。
自殺行為も甚だしい。

構わない。
悩むまでも無かった。迷う必要もなかった。
トッシュはアシュレーを信じることにした。
ゴゴはそんなトッシュの真似をすることを選んだ。

「「後で話くらい聞かせろよ!」」

二人は同時に素早く身を伏せる。
その上を極太の光の矢が貫いていく。
黒騎士ナイトブレイザーに内蔵された決戦兵器にして蒼炎の騎士にも受け継がれた必殺の一撃。
人ならぬ魔神の論理によって実現した荷電粒子砲。
名を
522BLAZBLUE  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/07(月) 23:23:25 ID:W+M4qaOh

「バニシングゥゥゥウ・バスタアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

トッシュ達の命を刈り取る寸前だったクレッセントファングは光の奔流に打たれ押し戻されていく。
自らを投げ放った主、シャドウの方へと。
しかしブーメランが主の手に戻ることは無かった。
シャドウが手に取り盾として使うよりも早く、白き闇に呑まれて消し飛んだ。
もっともたとえ無事シャドウのもとへと辿り着いていたところで結果に変わりは無かっただろう。
クレッセントファングが光に消えた刹那の後に、暗殺者も滅びの焔の洗礼を受けたのだから。

爆発。いっそう眩い閃光。

世界が色を取り戻し、トッシュとゴゴが立ち上がった時。

そこには暗殺者の姿も白騎士の姿も無く、粒子加速砲が空けた大穴より差し込む陽光に照らされた一人の青年が立っているだけだった。



【G−3 砂漠に移動してきたフィガロ城 一日目 日中】
【アシュレー・ウィンチェスター@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(中)、右肩から左腰にかけての刀傷
[装備]:果てしなき蒼@サモンナイト3、ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドU
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0〜1個(確認済み)、基本支給品一式×2、
    焼け焦げたリルカの首輪、レインボーパラソル@WA2
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:トッシュ達ときちんと話がしたい
2:ブラッド、ケフカら仲間や他参加者の捜索
3:アリーナを殺した者を倒す

※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュを善人だと思い込んでいます。
 ケフカへの猜疑心が和らぎ、扱いにくいが善人だと思っています。
※蒼炎のナイトブレイザーに変身可能になりました。
 白を基調に蒼で彩られたナイトブレイザーです。
 アシュレーは適格者でない為、ウィスタリアス型のウィスタリアスセイバーが使用できること以外、能力に変化はありません。
 ただし魔剣にロードブレイザーを分割封印したことと、魔剣内のアティの意思により、
 現段階ではアシュレーの負担は減り、ロードブレイザーからの一方的な強制干渉も不可能になりました。
 

【ゴゴ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:トッシュの物真似中、ダメージ(小)、全身に軽い切り傷
[装備]:花の首飾り、疲労(中)、ティナの魔石、壊れた誓いの剣@サモンナイト3
[道具]:基本支給品一式 、点名牙双@幻想水滸伝U
    ナナミのデイパック(スケベぼんデラックス@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式)
[思考]
基本:数々の出会いと別れの中で、物真似をし尽くす。
1:アシュレーの話しを聞く。
2:後に制御室へ戻り、トカと行動を共にする。
3:ビッキーたちは何故帰ってこないんだ?
4:トカの物まねをし足りない
5:人や物を探索したい。
[備考]
※参戦時期はパーティメンバー加入後です。詳細はお任せします。
※基本的には、『その場にいない人物』の真似はしません。
523創る名無しに見る名無し:2009/12/07(月) 23:24:05 ID:7TiILKdP
支援
524DARKER THAN BLACK  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/08(火) 00:01:12 ID:W+M4qaOh



バニシングバスターの光条に触れ、クレッセントファングが溶解されていく。
いかな夜空の支配者といえど灼熱の太陽が相手では敵わない。

このまま光が到達すればシャドウもまた同様の末路を辿るのは目に見えていた。

「ああ、ようやくか……」

迫り来る白き闇を前に思う。
これで俺の悪夢は終るのだと。
ビリーの元へ行けるのだと。

今ならティナやエドガーも待っていてくれるだろう。

……エドガー?

――本当に俺はこのまま死んでもいいのか?

そうだ、エドガーは宣言した。
命を落とそうとも、全てを失おうとも、若きものを導くと。
だったらエドガーが死んだところであいつの誓いは続いていく。
あいつの意思に導かれた誰かが、あいつが残した何かが殺し合いを打破すればエドガーは誓いを果たしたことになる。

それに比べて俺はどうだ?
身一つしかない俺はここで死んだらどうなる?

……終わりだ。
俺が死ねばそこで俺の誓いは果たせなくなる。
戦友に応えることができなくなる。

ダメだ、俺はそのような結末を望まない。
友を裏切るのは二度と御免だ。

「俺は――」

ならば、足掻け。

「俺は、まだ」

死を受け入れるな。死に逃げるな。

「死ねない!!」

最後まで足掻いて見せろ!

殺した女から奪った最後の支給品を取り出す。
俺の命を脅かす光に負けずとも劣らない輝きを放つその石は太陽石。
紙に書かれていたその名前以外、用法も効果も一切示されていなかったアイテムだ。
未知数だからこそ状況を打開しうる希望だった。

その希望を……

――シャドウは投げた。

望みを捨てたとか、やはり諦めたという意味ではない。
太陽石を俺を射殺さんとする粒子の槍の穂先へと全力で投擲したのだ。
525DARKER THAN BLACK  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/08(火) 00:02:22 ID:+k10P5z3

確証があったわけではない。
むしろはたから見れば余りにも馬鹿げた行いだっただろう。
だがシャドウには磨き続けたこの投擲技術以上に命を預けられるものはなかった。

「シャアアアアッ!!」

太陽石がバニシングバスターと激突する。
それは文字通り激突だった。
バニシングバスターの光線と衝突した瞬間、太陽石からその名に違わぬ太陽のエネルギーが開放されたのだ。
暗黒石に約六千五百万二千三百年もの時をかけて蓄積されたパワーが一気にだ!

星一つを焼き払う魔神の業火といえどそれだけの時の積み重なりを一蹴することはできなかった。
いずれも計測すら困難な程のエネルギーを持つ熱量が、その全てをぶつけ合い、反発し、瞬間的に放出される。
これがアシュレー達が見た爆発の正体だった。
彼らがシャドウの抗いに気づけなかったのも無理はない。
屋外で生じていたなら二エリア先にさえ軽く届くほど光は強いものだったのだ。

シャドウはこの機に乗じて目くらまし代わりの光に紛れて一度退こうと身を翻す。
その目がふと人影を捉えた。

――ゴゴにでも動きを読まれ先回りされたか?

真っ先に浮かんだ可能性に目を細めるが、よくよく見ればそれはあの奇特な衣装を来た仲間のものではなかった。
人間ですらなかった。
文字通り人間の、俺の影だった。
強烈な閃光によりフィガロ城の壁の表面に遮蔽物である俺の影をくっきりと残していたのだ。

その影が蠢きビリーの声で囁いてくる。
どうした、死なないのかと。
また俺を見捨てていくのかと。

――ああ、その通りだ。

過去は戻らない。クライドがビリーを見捨てた悔いは一生残り続けるだろう。
ならせめて俺は、シャドウはこの俺自身も友も裏切ることなく生き抜こう。

「だからお前はそこで眠っていろ、“死神”」

光が消えいく中、すんでのところで竜騎士の靴によっていつしか地上へと戻っていた城の外へと一気に跳び出す。
罪を背負い、逃げることを捨て、新たに芽生えた生きる意思を抱えて。







俺の背に死神はもういない。






526創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 00:02:32 ID:M/IyHA/3
支援
527DARKER THAN BLACK  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/08(火) 00:04:15 ID:W+M4qaOh
【G−3 砂漠 一日目 昼】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI】
[状態]:疲労(大)、全身に斬り傷、腹部にダメージ(小)、軽い火傷。
[装備]:アサッシンズ@サモンナイト3、竜騎士の靴@FINAL FANTASY6
[道具]:蒼流凶星@幻想水滸伝U、基本支給品一式*2
[思考]
基本:戦友(エドガー)に誓ったように、殺し合いに乗って優勝する。
1:どこかで傷を癒す。
2:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
3:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。





『おぉぉぉのおおおれえええええええッ!!』

ロードブレイザーは激昂していた。
あらん限りの声で叫んでいた。
だがその声は今となってはアシュレーには届かない。
焔の魔神の意思は幽閉されてしまったのだから。
アシュレー・ウィンチェスターの内的宇宙に突き刺さる蒼き魔剣の中へと。

碧の賢帝(シャルトス)、紅の暴君(キルスレス)、果てしなき蒼(ウィスタリアス)。
これら3本の剣の本質は手にした者に莫大な力を与える宝剣、というわけではない。
世界を支える超存在――エルゴから流れ込む力をを人為的に制御することで世界の全てを支配できる人間「核識」。
魔剣はその核識や核識たりえる人物の意思を封じることでその膨大な力を振るえるようになったに過ぎない。
つまりだ。
剣自体の本領はその他者の意思を封印する能力の方にこそあるのだ。

果てしなき蒼に込められたアティの意識はその機能を利用した。
アクセスにより活性化されアシュレーを取り込もうと目論んだロードブレイザーを魔剣へと誘導。
取り込めるギリギリの範囲までを剣に閉じ込め封印することに成功したのである。
魔剣がロードブレイザーを封印する器足りえることは皮肉にもロードブレイザーを導いたオディオ自身が証明していた。
加えて他の二本とは違い果てしなき蒼に込められているのは怨念とは程遠い希望と優しさに満ちた強い意志。
絶望を力とするロードブレイザーにとっては糧にならないどころかマイナスにしかならない。

『行かせません』

今もアティの精神体はロードブレイザーが魔剣の戒めを破ろうとするのを防がんと両手を広げて立ち塞がっていた。
憎らしい。
これでは何のために魔剣のことをちらつかせアシュレーの後悔の念をかきたてたというのだッ!
思わぬ邪魔と自らの煽りが裏目に出てしまったことがロードブレイザーを更に苛立たせていた。

無論これで全てが丸く収まったわけではない。
力を取り戻しつつあるロードブレイザーを封印しきるのは魔剣一本では不可能だった。
未だにアシュレーとロードブレイザーは繋がったままなのだ。
またアティの精神体もいつまでも存在し続けることはできない。
力を増していくロードブレイザーに適格者と引き離され内包する意思の補充が叶わない果てしなき蒼の精神体は徐々に力を削がれていく。
現に碧の賢帝を破壊した時に散った核識の残留思念を取り込んだことでロードブレイザーは既に果てしなき蒼を圧迫しだしている。
このまま何もせず手をこまねいていれば自ずと焔の災厄は魔剣を乗っ取り我が物とするだろう。
そうでなくとも心のバランスが崩れオーバーナイトブレイザーになろうものなら。
マリナのいないこの島では今度こそアシュレーは暴走を抑えられないかもしれない。

忘れる事なかれ。
災厄は未だ去らず。
恐怖せよ。
果てしなき蒼が果てるその時を。
528DARKER THAN BLACK  ◆iDqvc5TpTI :2009/12/08(火) 00:06:56 ID:+k10P5z3
投下終了です。
529創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 19:29:58 ID:P7GwDixC
投下乙!

蒼炎のナイトブレイザー、だと?
このロワならではの熱い展開! 個人的にこういうノリは大好物w
アシュレー&アティのアクセスに、胸の高鳴りは最高潮だった!

ゴゴは回を負う毎にいい味が出てくるな。トッシュも熱血通り越して、もはや炎そのものw
二人の真空斬・双牙は鳥肌立った。
シャドウはここにきて死神と決別か。エドガーとの約束もあるし、一皮も二皮も剥けていよいよ目が離せなくなってきた。

しかしロードブレイザーは何処に行っても、力ある剣に邪魔をされる宿命らしいww
そら叫びたくもなるわなww
530創る名無しに見る名無し:2009/12/08(火) 22:27:40 ID:WA4DdQYz
投下乙!
もうね、マジで鳥肌モノだった。
シャドウにクレッセントファングとか真空斬・双牙、そして蒼炎のナイトブレイザー。
氏のクロスオーバーの上手さは異常。俺の腕のなさを実感してしまうくらいに。
熱すぎる展開は、熱いゲームを実際に遊んでいるときのようだった。
アクセスの瞬間、脳内でバトル・ナイトブレイザーが流れっぱなしだった。
心から言わせてもらう、超GJ!
531創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 19:31:59 ID:2VSgjsGR
投下乙!
俺たちのヒーローついにキターーーーーーーー! マジで手汗が止まらない!!!www
誰もが待ち焦がれていたナイトブレイザーを、予想を遥かに越える燃え展開で登場させてくれやがったぜ!
ウィスタリアスの中のアティ先生も、まさかの活躍!
もう一人のアティ先生は死後も完全に鬱展開だけどw
ゴゴのキャラも素晴らしい。ここまで人間臭い(いい意味で)キャラになるとは誰が予想しただろうか。
淡々と述べられた、「一流すぎるのも〜」の台詞が格好良すぎる。
本性もこんなにカッコいいのに、モノマネしたら真空斬・双牙とかゴゴさんマジでMVPw
シャドウもシャドウで、簡単にブレイザーのかませにはせずに逆に覚悟完了で面白くなってきた!
本当にすべてのキャラが格好良くて活き活きしていて、快心の一作でした、GJ!!!!!
532創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 01:20:57 ID:DH/MHI5m
考えたらシャドウって本人使えないような武器でも投げたら必殺技クラスの威力を発揮できるんだよな
533創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 09:11:46 ID:+BTe5tdr
確かに、遠距離から高威力で攻められるのはパロロワでは結構な武器だな

マッシュ・エドガー・シャドウ・セッツァーをスタメンにしてたから、
この4人が活躍する回は物凄くwktkして見られる
そのうち2名はマーダー、1名は死亡してるけどな!
534創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 09:51:13 ID:VEWu32o2
>>533
4人とも輝いてるよな。
セッツァーは暗躍しつつも美味しいトコ持ってってるし、シャドウは積極的なマーダーとして申し分ない。
エドガーはちょっと早い退場だったがカッコいいシーンもあったし。
マッシュは今まで目立った戦闘はしていないが、今は側にルカ様いるからなー。
楽しみだ。
535創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 16:01:47 ID:XjxadUaT
>>532
実際エイダを槍投げで殺してるしなー
536創る名無しに見る名無し:2009/12/12(土) 16:25:12 ID:ZB3TxPex
おまwwwwwwwwww テラバイオハザードwwwwwwwwwwwwwwww
537創る名無しに見る名無し:2009/12/19(土) 18:03:23 ID:vdG94WO6
保守
538創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 03:58:49 ID:jeYEWTdq
保守がてら
今幻水2やってるがルカ様の強さにワロタw
やっと倒すとこまでストーリー進んだが、マジで全滅寸前にまで追い込まれたw
539創る名無しに見る名無し:2009/12/25(金) 20:25:05 ID:XSK2j1NE
レベル上げればそれほど大変でもないけどな
ただインパクトはあるよね
3連戦+一騎打ちだし
540創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 09:01:26 ID:TVkoREFU
ルカ様はラスボスの風格だからなぁ。
初回プレイ時はマジで苦戦したわ。
541創る名無しに見る名無し:2009/12/26(土) 22:23:14 ID:3EoTG7HK
幼き日の俺はルカ様で詰んだ
今はハンフリーですけどね
542創る名無しに見る名無し:2009/12/27(日) 03:07:34 ID:MUgca6cu
弓矢でめったうちにされた状態であの強さだからな…
543創る名無しに見る名無し:2010/01/01(金) 15:09:11 ID:0bD17AD+
あけおめ!
544創る名無しに見る名無し:2010/01/02(土) 14:57:05 ID:X1TYAaEy
あけましておめでとう
今年中に完結とは言いませんが、第四回放送位まではいきますように
545創る名無しに見る名無し:2010/01/09(土) 02:45:26 ID:xBsVicpd
容量もギリギリなので新スレ立てました
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1262972320/

代理投下いっても大丈夫?
546創る名無しに見る名無し:2010/01/09(土) 03:19:40 ID:xBsVicpd
代理投下します
547代理:2010/01/09(土) 03:20:43 ID:xBsVicpd
 少女の死体に土をかける。
 綺麗な白い肌を、少しずつ茶色が隠していく。
 まるでその存在ごと、大地の下に封じ込めてしまうかのように。

「……はぁ…………」
 両の手のひらで土をすくって、魔法で開けた大穴に横たわらせた少女の身体に乗せていく。
 それだけの単純な作業なのに、酷く心に疲労がたまる。
 一すくい毎に心がすり減らされていくのを、ストレイボウはひしひしと感じていた。
 それに呼応して、だんだんと身体の力までもが抜けていってしまう。
 抗いようのない虚脱感が自分を包んでいくのだ。

 ふと、死して尚艶やかさを保っている少女の顔から、小指の先ほどの土の塊が転がり落ちた。
 スゥゥ……と目元から頬を伝って、地面へと流れ落ちる。
 無力感に苛まれていたからだろうか。魔導師の目には、それが少女の流した涙に映った。
 黄土色の固形物は、大粒の涙に他ならない。

(すまない……な……)
 少女の頬に残された、茶色い一筋の涙の跡。
 これから土に包まれるのだから、そんな些細な汚れなど放っておいてもいいのだが……。
 それでもストレイボウは、冷たくなった頬を親指で一拭いしてやった。

(彼女が泣くのも当然だ)
 ちょっとは綺麗になった少女の顔を直視できずに目を伏せる。
 彼女の生い立ちも、彼女の死に様も、彼女の強さも、何にも知らない。
 その美しい死に顔意外……何も…………名前すら……。
 それでも確かな事がある。
 少女は若い。聡明そうな顔つきの中にも幾らかの幼さが残っていた。
 この子には、まだ可能性があったはずだ。
 混沌とした未来を変えてゆけるだけの可能性が。
 この絶望を覆すことのできる可能性が。

(本当に死ぬべきなのは、償いきれぬ罪を背負った俺じゃないか……!)
 なぜ、そんな少女が死ななくてはならなかったのだ。
 唇を噛み締める。
 虚脱に注ぎ込まれたのは、とろみを帯びた絶望。
 鉄の味がした。

 出会ったときには彼女は虫の息だったし、助けられる術など持ち合わせていなかった。
 だから、どうしようもなかったのだ。
 自分に責任があったわけじゃない。
 それでも……それでも、目の前で散り逝く命を前に何もできなかった自分が情けなくてならない。
 惨めで仕方がない。


(オルステッド。こんな俺を見て、お前は笑っているのだろうな……)
 誰もいるはずもない青空を見上げる。その遥か向こうに、彼がいる気がした。
 そこから、自分を嘲り笑う声が聞こえてきたような気がしたのだ。
 この殺し合いの主催者でもある男には、今の自分の姿が滑稽に見えるに違いない。
 得意のはずの攻撃魔法は糞の役にも立っておらず、未だこの無力な男は誰一人として救うこともできていない。
 この少女だけではない。
 ニノやマリアベル、ロザリー……血に染まった彼女たちを、ただ呆然と見ていることしかできないでいた。
 それどころか、信じていた男にすらも裏切られる始末。
 仲間だと信じていたはずカエルは外道へと墜ち、その凶刃を守るべきものたちに向けて振り下ろした。

 自分自身がかつて犯してしまった『友への裏切り』という罪が、そっくりそのままこの身に返ってきたのだ。
 これ以上ない喜劇。
 自分の業の上で踊る自分は、道化師そのものじゃないか。
548代理:2010/01/09(土) 03:21:57 ID:xBsVicpd

(なんて、情けない……)
 もしかしたらこうして死体を埋葬しているのも本当は、少女を弔いたいのではなく自分の惨めさを地中に隠しこんでしまいたいだけなのかもしれない。
 また誰も救えなかったという事実から目を背けたいだけなのかもしれない。
 そんなことを、不意に思ってしまった。

(俺はもう、挫けそうだよ……)
 目の前が霞んで、身体にはもう力は入らない。
 死体を埋めることすらも、ままならないでいた。
 無理もない。どれだけ頑張っても空回りするばかりで、彼の心労は限界を超えていた。
 いつ倒れても、いつ挫けてもおかしくないところまで彼は来ていた。

(それでもまだ……)
 それでも彼は踏ん張っていた。頼りない二本の足で、それ以上に頼りない上半身を支えながら。
 倒れることなく、狂うことなく、今だ現世で戦っていた。
 ニノやマリアベル、ロザリーは生きている。
 シュウにサンダウンだっている。
 まだ、全ての希望が潰えたわけじゃない。

(まだ、倒れるわけにはいかないんだよな)
 力を振り絞って、両手で土を掬い上げる。
 限界を迎えたはずの五体は、軋みをあげながらも彼の命令通りにちゃんと動いてくれていた。 

 ロザリーから貰った言葉がある。
 彼女はこんな罪にまみれた男を、仲間だと言ってくれた。
 そして、こんな男に道を示してくれた。
 彼女たちがまだ戦っているのに、自分がこんなところで挫けるわけにもいかない。

 少女の亡骸を冷たい自然の棺桶に眠らせると、ストレイボウは音もなく立ち上がる。
 不意に、視界が揺れた。
 酔っ払いのように二、三度よろける。
 それでも、泣き言を言う両足に鞭打って不自然なほどの大股で歩き出す。
 木に寄りかかり蹲ったまま一切動かない少年の元へと。

「そろそろ落ち着いたか? 話を聞きたい」
 少年に近づき、できるだけ刺激しないように声をかけた。
 少女の死を確認してから、ずっと彼はこうしてジッとしていた。
 ただのしかばねのように、話しかけても返事がないため、情報交換すらできない始末。
 おかげで、少女の名前すら知らないストレイボウが彼女の死体を埋める羽目になってしまった。

 少年がゆっくりと顔を上げる。
 木漏れ日を浴びた金髪が輝きながらユラユラと揺れた。
 それとは対照的なのは、輝きを失った瞳。
 焦点の合わさらない目線は、空虚の海を漂うばかり。

「俺はストレイボウ」
 焦りつつも静かに語りかけた。
 少年のうつろな目が自分の姿を捉えるのを待つことなく。
 しゃがみ込んで、蹲った少年と同じ目線に合わせる。
 もし少年が懐に隠し持ったナイフでも振るおうものなら、避ける術などないほどの至近距離。

 今声をかけている相手が悪人である可能性は低い。先ほどの彼は、死んだ少女を必死に助けようとしていたのだから。
 だが、彼が安全であるという確証だってない。
 さっきほどの慟哭も、もしかしたら演技なのかもしれないのだから。
549代理:2010/01/09(土) 03:22:50 ID:xBsVicpd

(この殺し合いを渡り歩くには、ちょっと警戒心が足りないな)
 自身の行動をそう評価する。と、共に彼が思い出すのは、数時間前に殺し合いに乗った騎士の事。
 シュウの『カエルに気をつけろ』という助言に声を荒げて反論したものの、結局はあの忍者の言う通り。
 最終的には疑り深い男が正しく、信じ続けた男が馬鹿を見る羽目となったのだ。
 ひたすら後悔し、傷ついた。
 そのはずなのに、今彼は目の前の少年を信じようとしている。

「君の名前は?」
「……僕は…………」
 ストレイボウの姿を見つけた少年がゆっくりと唇を開く。
 獲物を待つ食虫植物のような緩慢な動作。
 それでも彼の口から紡がれるだろう言葉を、ストレイボウは待ち続けた。
 待つのは慣れている。
 オルステッドに殺されてからずっと……あの暗い洞窟の中で立ち尽くしていたのだから。

 ストレイボウは待ち続けるつもりだった。
 一時間でも、一日でも。
 やっとこちらの呼び掛けに答えてくれたのだから。
 一週間でも、一ヶ月でも。
 体力も精神も、とうに限界を超えている。
 一年でも、一世紀でも。
 それは、裏切り、裏切られた男に残された最後の意地であった。

『時間だ……』
 しかし、現実は冷酷に彼の足掻きを踏み潰す。
 少年の声を待っていた魔法使いの鼓膜を震わせたのは、一番聞きたくなかった声。
 そして告げられたのは、待っていたはずの少年の名前などではなく……一番聞きたくなかった男たちの名前であった。


◆     ◆     ◆


 突然の爆発音に驚いて、久しぶりに顔を上げる。
 目に映るのは、一心不乱に穴を埋める男。
 魔術師らしき身なりの男が、ついさっき力尽きた少女の死体を埋葬してくれていた。
 どうやら今のは、遺体を眠らせるための穴を魔法で開けた音であったらしい。

(あの人…………)
 先ほどまで、ジョウイは自分を助けるために重傷を負ったルッカを助けようと奔走していた。
 あの魔術師はそのときに必死で手助けをしてくれた人物である。
 その時の様子を思い出す限り、彼はあの発明少女のことを知らなかったみたいであった。
 つまりあの男は、安全かどうかも分からない人間を助けてくれたのである。
 その人の良さにジョウイは幼馴染みの姿を思い出した。
 だからだろうか。あの魔術師に話しかけられても、返事をすることができなかった。
 言葉を返してしまったら、親友のことを思い出してまた泣き叫んでしまいそうで……。
 次々に襲い掛かる喪失という悲劇に、押しつぶされてしまいそうだったから。

(みんな、死んでしまったんだね……)
 目を伏せる。そうすれば、全てから逃げてしまえるような気がしたからだ。
 あの親切な魔術師からも、巡り合った人々が死んでいった悲しみからも。
 どこかで、この殺し合いを主催した魔王の高笑いが聞こえてくるようだった。

 自分と出会ってすぐに死んでしまった二人の少女。
 この狂宴の中で失った大切な人たち。

 ジョウイ・ブライトにとって、出会った人物は駒だった。
 全ての人物は、彼がこの殺し合いで自分が優勝するための踏み台でしかない。
 弱きものは利用し、強きものは同士討ちさせる。
 五十余人ばかり、理想のためならば安い代償、のはず。
550代理:2010/01/09(土) 03:23:33 ID:xBsVicpd

 ジョウイ・アトレイドにとって、リオウとナナミは障害であった。
 直接は戦う覚悟だってできていた……彼ら二人もまた敵なのだから。
 自分の知らないどこかで勝手に死んでくれるならば……それはそれで。
 自らが手を下すよりはその方がずっとまし、のはず。

 それなのに。

「なんで僕は、こんなに……つらいんだ」
 かすれ声で呟きながら、何か求めるように天を仰ぐ。
 木々の隙間から見えるのは、誰もいない青空。
 夜空に溶けた魔法も、土に眠る炎も、天寿の星も、緑の盾もそこには存在しない。

 返事のない天を見上げるのがつらくなって、ジョウイは再び顔を伏せた。

 大地と睨めっこをしながら、流した涙の理由を探していた。

 ナナミの死体を前にしたとき、彼は確かに怒っていた。
 そしてリオウの死を知ったときには、泣き叫んだ。
 あの瞬間、彼は理想を忘れていた。
 あふれ出した感情の波が、目指していたはずの平和の国を脳の外まで押し流してしまった。

 彼は考える。
 もしかしたら、理想なんてどうでもよくなってしまっていたのかもしれない、と。
 この殺し合いが始まったときから既に、そんな願いなんか捨ててしまったのでは……。
 敗れた願いをもう一度追うことよりも、もっと別の望みがあったのではないか?

 例えば、リオウとナナミと……。

(ダメだッ!)
 グッと強く目をつぶって、思い描いた可能性を必死に否定する。
 ……そんな勝手は許されない。
 この理想のために、どれだけ死んだ? どれだけ騙した? どれほどの人が悲しんだ?


 矛盾しているではないか。
 かつての戦いでは、何千何万の死を平和のための犠牲として片付けてきた。
 名もなき敵兵も、自軍の兵士も、ついてきてくれた家臣たちも。
 遺された者たちの悲痛な叫びも。
 それらのすべては未来のため。そう納得してきたのだから。
 自分だけが絶望し、未来をあきらめる事など許されない。
 何を失っても、どんな汚名に塗れようとも、理想のために走り続けないといけないのだ。

(そうだ……)
 顔を上げる。
 目の前で、あの魔術師が自己紹介をしている。
 彼はストレイボウと言う名前らしい。
 見ず知らずの人間のために、土塗れになってくれるようなお人よし。
 この男もまた、自身の理想のために戦い続けているに違いない。
 自らを犠牲にしても、この殺し合いを止めるつもりなのだろう。
 でなければ、落ち込んでいる子供とはいえ、安全かどうかも分からない人物にこんなにも不用意には近づかない。
 それができるのは、彼が危険を冒してでも誰かを救いたいと心に誓っているからだ。
 彼には覚悟がある。ジョウイにはそう見えた。
 それに比べて……。

「……僕は…………」
 不意にこぼれた声。
 誰に聞かせるでもない、ただの弱音。
 だけど、ストレイボウにも届いてしまったようだ。
 彼はジッと二の句を待ち続けている。
551代理:2010/01/09(土) 03:25:41 ID:xBsVicpd

 このまま、この人に全てを吐き出してしまおうか。そんな考えが過る。
 争いのない国を造りたいこと。
 そのために優勝を狙っていること。
 そして、少女を騙した末に見殺しにしてしまったことも。
 そのくせ自分は覚悟が揺らいでしまっていることも。

 そうしたら正義に燃える魔術師はジョウイをどうするだろうか。
 殺し合いはいけないことだ、と説得してくれるのか?
 悪は成敗するべし、と殺そうとするかもしれない。
 可愛そうだから、と少年を優勝させるために殺し合いに乗ってくれる可能性だってゼロじゃない。

 そんな馬鹿な考えが現実逃避であることに気づいて、慌てて脳内から追い払おうとする。
 だけど、そうするよりも先に、彼は無理やり現実に引き戻された。

『時間だ……』
 魔王オディオの放送。
 ジョウイとの対話を試みていたストレイボウが立ち上がり、放送に耳を傾ける。
 それを確認した黒き刃の持ち主もまた、声の雨が降り注ぐ晴天を見上げる。
 力なく見上げた空。何故だかさっきよりもずっと不愉快に見えた。




(ビクトールさん……やっぱり……)
 放送ではリオウとルッカに加え、ビクトールの名前も呼ばれた。
 魔王たち二人組に殺されたのだ。
 ついさっき親友の死に泣き崩れた少年。その彼に追い討ちをかけるのは、命の恩人である男の死の知らせ。

(そして魔王たちは生き残ったようだ……それ以外にも、まだ危険人物はたくさん残っている……まずいな……)
 しかし、今のジョウイにはさっきのような狼狽はない。
 あーでもない、こーでもない、と生き抜くためにどうすればいいのかを冷静に試行錯誤していた。
 彼にとって、優勝は夢でも目標でもなく、もはや義務だった。
 平和のためだと人々を散々悲劇に巻き込んでおいて、気が変わったから別の未来を目指します。
 そんな理屈がまかり通るわけがない。
 そんな無責任が許されるはずがない。

 だから忘れることにした。
 三人で描くはずだった幸せな未来を。
 一時の迷いであったのだと、記憶の奥底に封じ込めた。
 理想を揺るがす迷いとともに。

(……優勝しなくては。僕のために死んでいった人のためにも)
 スゥ……と立ち上がった。何かに操られるように。或いは亡霊が如く。
 一転してしっかりとした足取りで、ストレイボウに歩み寄る。
 背を向けたまま突っ立っている魔術師。ジョウイからでは、その表情を読み取ることはできない。
 もしかしたら、知り合いの名前が放送で呼ばれたのかもしれない。

「あの……」
「……急がなくては!」
 金髪の少年は、魔術師に接触を試みようとした。
 しかし、その呼びかけはストレイボウの叫び声にかき消された。
 蒼い長髪をなびかせながら振り返って走り出すが、焦るあまり真後ろにまで接近していたジョウイとぶつかってしまう。

「……え? ……ッ!」
「……ッ! す、すまない!」
 尻もちをついた少年を見て、ストレイボウは回りが見えていなかった事をようやく自覚したようだ。
 慌てて彼が差し伸べた手に、ジョウイは「大丈夫です」との言葉で答える。
 自力で軽々と立ち上がって、ズボンに付いた土を叩き落とそうとした。
 が、ルッカの血液で赤く染まってしまっていた事に気づいて、一瞬だけ目を細めると、すぐにストレイボウに向き直った。
552代理:2010/01/09(土) 03:27:03 ID:xBsVicpd

「ストレイボウさん……でしたよね?」
「あぁ、すまなかった」
「いえ。気にしないでください」
 さっきまで呼びかけても反応がなかった少年が話しかけてきたことに多少驚きながらも、ストレイボウは改めて謝罪の言葉を述べた。
 その誠実さに笑顔で応じる。
 いつの間に、こんなに演技が上手くなったのだろう。最終的に自分は、この男の死すらも望んでいるというのに。
 リオウと一緒だったころとは随分と変わってしまった。
 そんな自分自身が、酷く虚しく感じた。

「僕はジョウイ。ジョウイ・ブライトです」
 差し伸べた手をストレイボウが軽く握る。
 正義感だと思っていた魔法使いの手は随分と冷たかった。


◆     ◆     ◆


 ジョウイと情報交換をしている間も、ストレイボウの鼓動は収まってはくれなかった。
 バクバクと自己主張する心臓を「大丈夫だ」となだめ続けていた。
 あのシュウが死んだ。
 この殺し合いを生き残るための技術ならば、誰よりも優れているはずの男が。
 サンダウンが死んだ。
 そのシュウさえも白旗を揚げるほどの腕を持つ最高のガンマンが。
 それほどの強者である男たちが二人とも殺されたのである。
 彼らと行動を共にしているはずの少女たちのことが心配で、気が気じゃなかった。

 本当ならば、この少年を無視してでも彼女たちの元へ駆けつけたかった。
 だが、少女たちを保護しようにも、その居場所すらわからない。
 ストレイボウがニノたちと分かれてから、もう既に数時間が経過していた。
 積極的に仲間集めに動いていた一団が、会場の隅に位置する城にあのまま引きこもり続けているはずもない。
 気が動転するあまり、勢いのままに当てもなく走り出そうとしてはみた。だが、スタート直後に少年を転倒させてしまうという有様だ。
 相変わらず空回り続けている自分自身に呆れ返るが、そのおかげで冷静さをとりもどすことはできた。

(大丈夫。彼女たちを信じよう)
 大量の唾を嚥下する。
 心配そうにこちらを覗き込んでいるジョウイに、ぎこちない笑みを返すことが彼にできる精一杯であった。
 落ち着いて考えてみれば、少女たちの名前は放送で呼ばれなかった。ということは、おそらくは命だけは助かっているということなのだろう。
 ……放送の時点では、の話ではあるが。
 もしかしたら、放送直後に殺されたのかもしれない。
 それとも、殺されていないだけでどこかに監禁されているのかもしれない。
 ストレイボウはできる事なら彼女たちの無事を一刻も早く確認したかった。

 しかし、ここまでずっと自分が空回りしてきていることは、ストレイボウも自覚していた。
『急がば回れ』の言葉を、熱暴走寸前の頭に刻み込む。
 今は無闇に南下して入れ違いになるよりも、ジョウイから情報を得ることが先決だ。

 その判断は正解だったかどうかは、今の彼には分からない。
 だが、有益な情報を入手できた事は確かであった。
 金髪の少年が言うには、この殺し合いに対抗する意志を持った参加者たちが次の放送までに北の座礁船に集うらしい。
 今から向かえば、集合時間には間に合う。
 少女たちもそこに向かっている可能性だって……僅かながら。

 さらに、重要な事がジョウイの口から告げられた。
 先ほどストレイボウが救えなかった少女……ルッカを殺したのは、皮肉にもストレイボウが追いかけていたカエルであった。
 どうやら、あの異形の騎士も北に向かっているようであった。
553代理
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