だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ2

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1創る名無しに見る名無し
・これまでのガンダムシリーズの二次創作でも、
 オリジナルのガンダムを創っても、ガンダムなら何でもござれ
・短編、長編、絵、あなたの投下をお持ちしてます
・こんな設定考えたんだけどどうよ?って声をかけると
 多分誰かが反応します。あとはその設定でかいて投下するだけ!

携帯からのうpはこちら
ttp://imepita.jp/pc/
PCからのうpはこちらで
ttp://www6.uploader.jp/home/sousaku/

前スレ
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219832460/

これまでの投下作品まとめはこちら
ttp://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/119.html
2創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 21:34:17 ID:wYL2aMK9
>>1

さて、前スレはボチボチやるか。

SS楽しみにしてるぜい!
3 ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 21:38:58 ID:8ybZTJs0
>>2
そう言ってくれると嬉しいぜ
22時から投下します
約40レスなので、お時間ある方は支援をお願いします
4創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 21:39:56 ID:+2WusN8T
>>1乙!
5創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 21:58:18 ID:q/7ZNeZp
>>1
乙!

今回も期待してるぜ
6 ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:00:02 ID:8ybZTJs0
しばしお付き合いを!
投下!投下!投下!
7滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:01:26 ID:8ybZTJs0
プロローグ

 1/38
 どこから私のことを聞いたのだろうか、彼が電話をしてきたのはまったく唐突だった。
普段ならば、そのようなことには一切応じない私だが、彼の言う言葉は私の興味をそそら
れたし、それに何よりやっとその日が来た事に、私は内心狂喜していたのだ。もうあれか
ら、10年の月日が経とうとしている。
 ドアを開けて入ってきた青年は、電話口から受ける印象そのままの、実直で活発そうな、
そしてなにより年齢より幼い顔立ちをしていた。丸く大きな茶色い瞳と、緩くカールした
ブラウンの髪の毛がその印象を強めていた。ダークグレーのスーツに紺色のネクタイを締
めてはいるが、あまりスーツ姿が似合っているとは言い難かった。
 挨拶と握手を交わし、店内をちらりと見回した彼がカウンター席へと腰掛けると、ボイ
スレコーダーや使い込まれた分厚いメモ帳を広げていった。
「良い店ですね」
「小さいがね、やっと開けた店だよ――珈琲でいいかい?」
「ええ、ありがとうございます」
 珈琲がすっかり下に落ち、いつものせわしない音を立てて空気が入り込み、ごぼごぼと
泡立ってくるまで、私達はお互い無言のままだった。珈琲を2つのカップに注ぎ、彼の前
に出してやる。
「いただきます」
 軽くカップを持ち上げてそう言った彼が珈琲を啜る。それを見ながら私も一口口に含む。
「……おいしいですね、豆はキリマンジャロ?」
「ありがとう、正解だ。最近はコロニーにいても地球産が手に入りやすくて助かる。少し
前までは滅多に手に入らなかったらしいが」
「ああ、グリプス紛争ですか? 地球圏でも戦闘が激しかったですからね」
 薄く笑って、訂正してやる。
「いや、もう1つ――いや、二つ前か。ジオン独立戦争の頃だよ。あの頃はよっぽどツテ
のある者じゃないとキリマンジャロ産の豆なんて宇宙じゃ手に入らなかった」
「あ、ああ。すいません」
 慌てて謝る姿は、青年と言うよりもやはり少年のそれだ。
「いや、謝ることじゃないさ」
 私がそう言った時、唐突にドアが開いた。唐突に、と言ったのは彼の為にこの店を昼か
ら貸切ということにしておいたからだ。無論店の表にも「本日貸し切り」の札が掛かって
いる。
「よう、マスター!」
「おいおいブルーノ、表の札が読めなかったのか? 酔っ払うにはまだ早いぞ」
 そう言いながらも私は、すでに彼の珈琲を作り始めている。彼が昼間に店に来る時は、
大して長居はしない。1杯か2杯珈琲を飲み、それと一緒に煙草をふかすのだ。どうせ向
かいの彼との話も始まっていない、構わないだろう。
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。今日は良い煙草を仕入れたもんで、一本ぐらいマスターに
も分けてやろうかと思って来たんじゃねぇか」
「へぇ、そいつは有難いな。すまんが今日は俺にお客さんが来ているから、一杯だけだ
ぞ」
「へへっ、すまんね、坊主」
「いえいえ、どうぞ。この店は"吸える"店なんですか?」
「おいおい、目の前の灰皿が目に入らないのか? すっかり煙草呑みも肩身が狭くなっち
まった。家でかみさんに小言言われながら吸ったんじゃ旨くねぇし、かといって外じゃ吸
える所なんてほとんど無い。ここは近所の煙草呑みのほとんどが集合している店さ。煙草
と美味い珈琲、これがある所には俺達はどこへだって行くぜ?」
「褒めてもサービスが良くならないってことは、もう知っている筈だと思ってたんだが
な」
 珈琲を出して、そう言う。
「無愛想なマスターの代わりに可愛い女の子でもいりゃ完璧なんだがな」
「娘にこの店の手伝いは絶対にさせないでおくよ」
 無言で彼は珈琲を啜り、煙草をソフトケースから一本振って出し、口に咥える。懐から
オイルライターを取り出して彼はそれに火をつけた。何度も行われたであろう、儀式めい
た手順。紫煙を盛大に吹き出し、彼は無言でこちらにその内の一本を差し出した。
8創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:01:34 ID:Z4qP3rH0
9創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:01:44 ID:/bxKa/pu
  
10滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:02:07 ID:8ybZTJs0
 2/38
「ありがとう」
「本物のバーレイ葉とバージニア葉、それにトルコ葉を旧世紀から変わらない比率でブレ
ンド、香ばしさを出すために最後に加熱した一品さ。ラッキー・ストライクと言ってな。
旧世紀は兵士が良く吸っていた煙草らしい。なかなか手に入らんぞ」
 自慢げな顔でそう言った彼の言葉、そして煙草に刻まれたマークには見覚えがあった。
あの時はすぐにマークのことなど忘れてしまい、後で後悔したものだがまさかこんな時に
なってから思い出すとは。
「……随分昔に、吸ったことがあるよ」
「なんだ、そりゃいつごろに?」
「俺がまだ、兵士だった頃さ」
 そう言って私も、もう10年も使っているオイルライターでもって煙草に火をつけ、一
口吸い込む。あの時吸った味と、なんら変わるところはなく、あの時の記憶までもが蘇る
ようだった。
 彼は良く喋る男だが、煙草をくゆらしているときは不思議と喋らない。私も、そうだ。
居心地が悪そうに、向かいの彼が身をよじる。
 彼は灰皿で名残惜しそうに煙草を揉み消し、最後の一口を飲み干す。
「ごちそうさん」
 彼は満足げにそう言った後、テーブルに小銭を置いて出て行った。私も小さくなった煙
草を灰皿に押し付ける。
「すまないね」
「いや、いいですよ。しかし随分愛されているようですね」
「有難いことに、ね。それじゃあ、そろそろ始めるかい?」
「ええ、えーと、ケーニッヒ中尉」
「元・中尉だよ。ミスタでいい」
「失礼しました。ミスタ・ケーニッヒ」
 珈琲をもう一杯、二つのカップに注ぐ。
「しかし、何故私なんだ? 他に聞く者ぐらい幾らでも居ただろうに――例えば、ノダッ
ク少佐や」
 彼に尋ねるが、この質問には二つの意図があった――彼がどこまで知っているのか、そ
して何より、私の長年の疑問だ。
「ノダック少佐――リッター・ノダック機動軍少佐は戦後の軍事裁判でB級戦犯として処
刑されています」
 酷くためらいがちに、彼はそう言った。私は思ったほど動揺しなかった。月日の為せる
技なのだろうか、あるいは半ばそのことを予想していたからなのだろうか。長年の疑問の
一つが、やっと解けた。だが疑問は山ほどあるのだ。
「そうか、そこまで知っているのか。ならば、むしろ、私が聞きたい。10年前の、あれ
は、『ルビコン計画』とは一体なんだったんだ? <リボー>の中で一体何が? 私たち
は本当のところなぜ<リボー>を吹き飛ばさねばならなかったのだ?」
 ある程度調査をした上で私のところに来たのだろう。ならば、私の疑問、長年の疑問も
知っている可能性がある。
 事実、知っていた。彼は話した。『ルビコン計画』について、その驚くべき――と言う
より呆れた全容を。そして<リボー>内の出来事。サイクロプス隊。バーナード・ワイズ
マンとクリスチーナ・マッケンジー。
「……と、これが私の知っている全てです」
「世界最大の獲物とは言い難いな」
「……そうですね」
「大勢の素晴らしい男たちがみんな無意味に死んだ――そしてあやうく1000万の人々
が無意味に死ぬところだった。君も含めて――しかし、バーニィとは、また懐かしい名前
が出てきたものだ」
「彼を知っていたんですか?」
 彼は驚きのあまり、その輝く目をまん丸に見開いてそう言った。
「ああ、そうさ。しかし彼が本当に一人でも任務を遂行すべく戦ったとは、な」
 やはりこれも、疑問の一つ。そして、ある程度の予想はしていた――いや、願望と言っ
たほうが良いのかもしれない。ノダック少佐のことを聞いた時は心が沈んだが、このこと
は私の心を躍らせた。やはり、見込んだ通りの、一端の男だったのだ。
「彼の最後の場に、私も居ました。私は、何もすることはできなかった」
 彼もまた、かけがえの無い"戦友"を失った一人なのだ、と私は思った。戦友は、歳や性
別を超越し、家族よりも強い絆で結ばれるのだ。それを失うことは、自分が死ぬことより
も、恐ろしい。
11創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:02:16 ID:Z4qP3rH0
12創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:02:21 ID:/bxKa/pu
  
13滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:02:41 ID:8ybZTJs0
 3/38
「やるべきことを決めた男を止めるのは、至極難しいんだ。私も、経験があるが」
 すっかり冷めてしまったコーヒーをすする。私の淹れた珈琲は、酷く苦い味がした。
「それでは、話そう。彼らと、私がこれまでに知った最高の船乗り、ゲオルク・フォン・
ヘルシング。そして同等の愚か者、カール・シュトロープについて」
 彼は黙ってレコーダーのスイッチを押した。
「私は父がいなかったからな。ヘルシング艦長はそうだな、私の中ではまさしく父親のよ
うな存在だった……」

 私が話し終えたとき、すでに辺りは暗くなり始めていた。
「ありがとうございます。とても参考になりました」
「これで一本、話を作るっていうのは本気なのか?」
 彼は最近流行りの戦記小説を書こうとしているらしいのだ。それゆえに、彼はわざわざ
ここまでインタビューをしに来ていた。最近と言っても、一年戦争後からその手の物はい
ささか書店に氾濫しすぎていたが、需要があったのだろう。多くの本がベストセラーにな
っていた。アムロ・レイの自伝「白き流星伝説」や、T・ディミトリー著「大空の騎士」、
M・ニノリッチ著「第08MS小隊戦記」などは、テーブルでもよく開かれていた。
「こいつでベストセラー、取ってみせますよ」
「大した自信だな」
 そう言って私は笑ったが、私も彼の作品が世に出る事を望んでいた。敗戦国の宿命だろ
うか――公国側が主役の作品はあまり無く、大抵の場合公国は憎むべき、または間抜けな
敵として描かれていた。それが私の一年戦争を経験したにもかかわらず、その手の作品を
積極的に手を取らなかった理由の一つだ。
 しかし彼は、どうやら違うらしかった。それだけで、私がインタビューを受けるのに充
分な理由となった。
「私の長年の夢――というより使命だと思っていますから」
 使命――彼もまた、そうなのだ。私と同じように。私の"使命"はたった今、果たされた
が。
「誰もそんな話、信じないだろうよ」
 そう私が言うと、彼は顔をクシャクシャにして少年のような笑みを浮かべた。どういう
意味を持った笑みなのか、私には分からなかった。
「そう言えば、まだそれのタイトルを聞いていなかったな」
「『鷲は舞い降りた』か、『ポケットの中の戦争』にしようと思っています」
「そうか。『ポケットの中の戦争』の方が私は好みだな。もっとも、誰を主人公にするか
で変わってくるだろうが。ま、もし出版されたら買うことにしよう」
「いえいえ、贈らせてもらいますよ。それと、もしもは余計です」
 茶目っ気たっぷりに彼――アルフレッド・イズルハはそう言ってまた笑った。
「大した自信だな」
「彼に――バーニィにできる、これが僕の精一杯のことですからね」
「ああ、そうだな。違いない。さて、私たちは少なくとも彼らに乾杯できる。『カフェ・
ツェッペリン』から『バー・ツェッペリン』になるにも、ちょうどいい時間だ。付き合っ
てくれるか」
「ええ、喜んで」
 私は棚からグラスとブッシュミルズを取り出し、ロックを二杯作り彼に差し出した。
「『滅びゆく者の為に』」
 グラスを掲げ、彼にそう言う。彼もそれに応え、グラスが二つ、宙に掲げられる。
「……それは一体何ですか?」
「あの時流行っていた言葉さ。皆ジオンの行く末に希望なんて見出しちゃいなかった」
「へぇ、使わせてもらいます」
 良い笑顔を作った彼は、すぐさまそれをメモに書き留めた。作家根性、というのはこう
いうものなのだろうか。
「じゃあ改めて、『滅びゆく者の為に』」
「ああ、『滅びゆく者の為に』」
 アルコールが、ついに使命を果たしたのだという心地良い感覚と共に体中を駆け巡って
いる。次は彼が、私の代わりに――いや、私以上にそれを果たしてくれるだろう。彼らを
良く知る者と、彼らの為に、グラスを掲げる。死んだ者らの為に、今はこれが私の出来る
精一杯のことだった。
14創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:02:49 ID:Z4qP3rH0
15創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:03:07 ID:bwwQFmVC
 
16滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:03:14 ID:8ybZTJs0
第一章

 4/38
「キリング、本気でアレを使う気なのか?」
 "アレ"を目一杯強調してヘルシングは言った。何とか決定を踏み留まらせようという
決意が、その言葉の端々に表れていた。
「司令部の決定に、反対かね?」
 艦橋のメインディスプレイに投影された、中佐と基地司令を示す階級章をつけた男はさ
も当然と言った風に答えた。その声音は聞く者に金属のような冷たさを覚えさせた。
「いや……」
「お前が有能だからこそ、与えられた任務なのだ。分かっているんだろうな?」
 命令を出したキリングは中佐、そしてその命令を受けたヘルシングの階級は大佐である。
よって、階級から言えばキリングは命令を出す立場ではない。だが、グラナダ基地司令と
いう役職が彼にそれを可能にさせた。そして何よりもう一つ、ヘルシングに命令を受領さ
せる存在があった。特務少佐、カール・シュトロープ。彼がキリングの寄越した監視役で
あることは誰の目にも明らかだった。
「ああ――ところで、ルーゲンス司令は?」
 彼は何気ない風を装ってキリングに尋ねた。基地司令の交代など、何も聞かされてはい
ない――それも一介の中佐が基地司令というのはいささか不自然すぎた。
「ああ、彼は敗北主義的発言が目立ったのでな」
 ディスプレイ一杯に広がった彼の口元が歪む。冷笑というにも、いささか歪すぎた。
「粛清させてもらった」
 やはりそういうことかとヘルシングは胸中で呟いた。粛清――つまりは殺害したのだろ
う。通常の軍隊ならば、断じてそのようなことが許されるはずは無い。しかし、79年1
2月――追い詰められ、その内なる狂気を曝け出した公国軍では許されるのだ。
 ゲオルク・フォン・ヘルシングは端的に言って優秀な艦長であり、指揮官である。開戦
時に砲術科の大尉だった彼の階級は羽と星を増して今や大佐になり、旗艦である最新鋭の
チベ級ティベ型高速重巡洋艦<グラーフ・ツェッペリン>とその同型艦<アドミラル・グ
ラーフ・シュペー>、四隻の後期生産型のムサイ級軽巡洋艦<ジークフリート101>、
<ブリュンヒルデ102>、<ヴァルキューレ103>、<アルベリヒ104>で構成さ
れた艦隊を指揮していた――もっとも、今の艦隊戦力は半減し三隻を残すのみだが。彼は
士官学校を優秀な成績で卒業して以来ずっと宇宙艦隊勤務であり、幾度もの艦隊戦を経験
している。凄まじい損耗率の中を生き延びてきた貴重なベテランの一人だった。そして、
だからこそ彼はその狂気の暴風のあおりをくらっていた。
「それでは、成功を祈っている」
 通信回線が閉じ、ディスプレイに投影されていた『基地司令』の顔が消え失せる。それ
と同時に、ヘルシングの胸中には苦いものが広がっていく。
「くそっ、馬鹿馬鹿しい。冗談事に付き合わされて死ぬかもしれない兵らの気持ちを考え
てみろ」
 思わずそう毒づいていた。特務少佐とやらは核弾頭搬入の作業監督をしているらしい。
 『ルビコン計画』最終フェイズ、作戦秘匿名『賽は投げられた』――サイド6<リボー
>コロニーに対する核攻撃。それが彼の艦隊に課せられた絶対の任務であった。
 その作戦は、狂気の沙汰であった。新型ガンダム一機の破壊のために、コロニー一基を
吹き飛ばす。それも南極条約で禁止された核弾頭で! 目的から手段までも、何もかもが
狂っていた――少なくともヘルシングにはそう思える。だがしかし、下手なことを言えば
キリングの化身とも言える彼、シュトロープに粛清される。一片の命令書と『特務』少佐
の階級。二個分隊の完全武装の憲兵が彼を特別な存在――艦長と同等、もしくは凌駕する
権限を彼に与えていたのだ。
 キリングは、いつからああなってしまったのか。士官学校を同期で卒業したヘルシング
は彼を良く知る一人であったが、あのような彼は、知らない。確かに彼は熱烈なザビ家信
者であったが、少なくとも今の彼のように歪んではいなかった。彼は戦場に軍事的なもの
以外は一切持ち込まない軍人だったが、それが今はどうだろう――。
 神々の黄昏に直面し、誰も彼もが歪んでいく――そのあおりを受けるのは兵達だ。戦争
の最大の犠牲者はいつだって兵隊なのだ。ヘルシングはそのことを痛いほど理解していた
――そして自分がどうすることも出来ないことも、また。
17創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:03:21 ID:Z4qP3rH0
18滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:04:04 ID:8ybZTJs0
 5/38
「――どうなさるのですか? 艦長」
 副艦長であるリッター・ノダック少佐がそう尋ねた。青ざめた顔をしている。幾多の戦
場を共に駆けた彼がこれほどまでに衝撃を受け、動揺を露にしたのは初めてだった。無理
も無い、私だって艦長という立場でなかったらこのように、とヘルシングは思った。
「どうもこうもないだろう、少佐――私たちは突撃機動軍軍人なんだぞ」
「軍人として任務を遂行する、と? 命令通り<リボー>を吹き飛ばすおつもりなんです
か。一体ザビ家のやつらは何を――コロニー住民ごと新型MSを消し飛ばすなんて正気の
沙汰とは」
「特務のヤツが居なくて良かったな少佐。彼らに言わせると、それは敗北主義的発言にあ
たることになるんだろうな」
「ザビ家の遣いは死神よりもタチが悪いですからね。特にここ最近は酷いと聞いていま
す」
 特務というのは総帥府直属――つまりはザビ家直属を示す。任務は政治将校のそれと同
等――総帥府、つまりザビ家が寄越した監視役であり、罷免から銃殺まで何でも行える権
限を有していた。
「やるだけのことはやるが、やってどうしようもなければ彼らも納得するだろう」
「付き合わされる兵が可愛いそうですな」
「……まったくだよ」
「敗北主義的発言ついでにもう一つ言わせてもらえば、司令部はまともな補給もなしに任
務を遂行しろと? モビルスーツ一機寄越さずに、寄越したのは核弾頭、それにあの特務
と黒衣の骸骨付きの憲兵だけとは!」
 ノダックがさらに言葉を続けようとした時、件の特務少佐――カール・シュトロープが
艦橋へと上ってきた。慌てて彼は口をつぐむ。

「艦長! 補給作業の進捗状況は順調か?」
「元々の量が少ないのでね、すぐに終わるでしょうな」
「そうか、それは重畳――何せ戦局が押し迫っている。急ぎ任務を達成し、戦局を挽回せ
ねばな。アレの破壊には総帥にも多大な関心を寄せておられる。勲章物だぞ、大佐」
「ふむ、1000万の命と引き換えにもらえる勲章とは、一体どれほどのものでしょうな」
 シュトロープはそれを聞き眉をひそめた。不快感をあらわにして彼は言う。もっとも、
同様なものをヘルシングも感じていたが――それを表に出さないだけで。
19創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:04:09 ID:Z4qP3rH0
20滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:04:41 ID:8ybZTJs0
 6/38
「……勲章に値する戦功、という意味だよ大佐。戦争はまだまだこれからなのだぞ。あの
新型が連邦に配備されていては、勝てる戦も勝てなくなる」
「戦争はまだまだこれから、ね――勲章、と言えば、サイクロプス隊には授与されるので
すか? 『ルビコン計画』において多大なる貢献をした、と思いますが」
「サイクロプス隊? ああ――あのわけの分からん特殊部隊か。彼らは現に任務を失敗し
ているではないか。その彼らになぜ勲章をやらねばならんのだ」
 さも当然のごとく、黒衣の少佐は唇の端をゆがめて言い放つ。
「今更勲章をやることで彼らが報われるとも思えませんが、無茶な事をさせ、使うだけ使
っておいて失敗すれば用無し、と。それでは余りに彼らが――」
「フンッ、生き恥を晒さなかっただけ彼らはよくやったと私は思うがね。私はいつだって
大儀と理想を胸に殉じる覚悟がある。彼らだって公国軍将兵ならば同じだろう――ならば
本望ではないかね。ま、元々彼らは随分と汚れ仕事もしてきたらしい。そのような部隊に
やる勲章など、あると思うかね?」
(捨て駒に使っておいて、貴様――!)
「それに、特殊部隊一個、コロニー一個が今更どうだと言うのだ。我々はスペースノイド
の真の開放を掴み取るのだ、そのためには必要な犠牲ではないか」
 ヘルシングの顔面から怒りによって表情が一気に消え失せる。口を開きかけたその時、
割って入ってきたのはノダック少佐である。
「特務少佐殿! まだ部屋へのご案内がお済ではありませんでしたね、ご案内いたします。
曹長! 案内しろ!」
「ハッ! 特務少佐殿、こちらです」
 曹長も、ノダック少佐も過剰なまでに動作がきびきびとしている。声を張り上げ、背筋
は芯を入れられたかのように伸ばされている。まるで教練ムービーのようである。
「すでに我々は血塗られた道を歩んでいる――カエサルがルビコン川を渡ったときのよう
に、最早引き返すことなどできんのだよ。私も、君もね、大佐」
 シュトロープは去り際にそれだけ言うと、艦橋を降りて行った。
「……コロニー住人の虐殺が、スペースノイドの真の開放だと? 他にやり様ぐらい、い
くらでもあったろうに」
 能面のような顔で、ヘルシングが呟いた。一言ずつ、搾り出すような声で。言葉は強く
ないが、それでも計り知れない怒りがこもっているのがノダックには感じられた。その怒
りの矛先は、自らにも向いているのだと思うと未だ30にもならない若い少佐は胸が痛く
なった。
「補給作業、完了とのことです。パプワ、離れます」
「パプワより発光信号『貴艦の任務達成と武運長久を祈る』」
「あのパプワには作戦の事など何も聞かされていないのだろうな。無邪気なものだよ、ま
ったく」
「笑えませんな」
「まったくだ」
「これからが大変ですな。今までも酷かったですが、今回は極め付きですよ」
「……まったくだよ」
 ヘルシングは制帽を深くかぶり直し、航行艦橋中央の艦長席に腰掛けた。
 公国軍人の自分、ツェッペリン艦長の自分、個人としての自分。一体どの自分が正しい
のか、彼には分からなかったし、誰にも分かる筈がなかった。それでも彼は命令を下す。
「両舷前進微速、針路、サイド6へ」
21創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:04:54 ID:Z4qP3rH0
22滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:05:17 ID:8ybZTJs0
 7/38
 彼と彼らの艦、<グラーフ・ツェッペリン>は僚艦である<ジークフリート>、<ヴァ
ルキューレ>の二艦と単縦陣を組んだ。一つ目の転換点を巡って少ししたあと、ブリーフ
ィングが行われた。艦長と副長はもちろん、艦内各部署の責任者、モビルスーツ隊隊長、
各小隊長を集めての会議である。無論、シュトロープ特務少佐も参加している。
 ヘルシングが部屋に入ると全員が起立、敬礼。軽く答礼。
「さて、諸君。我々に新たな任務が下命された。言うまでも無いだろうが、これまでと同
じように『ルビコン』絡み。つまり、総帥直々の命令だ」
 言葉を区切り、揃った面々の顔をゆっくりと見渡す。皆いぶかしげな目。今更どのよう
な内容でも驚かないとでも言いたげな目。
「任務の目的は連邦軍新型MSの破壊。艦隊はサイド6領空内へ侵入、核弾頭ミサイルで
もって<リボー>コロニーごと目標を破壊する」
 沈黙。皆一様に何を馬鹿馬鹿しいと思った。だがどうやらそれが冗談ではないことに気
付き呆然とした。誰も口を開くものはいなかった。彼らの胸中は痛いほどに把握できた―
―自分とまったく同じだろう、と。それ故に、ヘルシングはあえて何も聞かず、話を先へ
進める。
「<ジークフリート>、<ヴァルキューレ>は、副長?」
「両艦とも航海、戦闘共に支障は無さそうです」
「艦の状態はどうか」
「資材が届けられたので一両日中に応急修理は完了するでしょう。それでも万全とは言え
ませんが、これ以上の修理はドックに入らねば不可能です」
 副長、リッター・ノダック少佐が答える。
「機関は?」
「最大戦速はとれますが、あまり快調とは言えませんな。長らくオーバーホールもしてい
ないもので」
「兵装」
「対空砲が何基か無い以外は最大火力を発揮できますが、二番砲塔の縮退機にガタがきて
います。こればかりは砲塔そのものを交換しなければどうにもなりません」
「燃料、弾薬はどうなっている」
「補給を受けましたが、潤沢とはとてもじゃないが言えません。燃料はサイド6とグラナ
ダ間を往復する量ギリギリで、激しい戦闘機動を繰り返すとすぐに底を突きます。弾薬は
特にMS用の弾薬が足りていません。最大でも一交戦が限界かと」
「サイド6宙域にはどれほどかかる?」
「正確には計算せねば分かりませんが、経済速力でおよそ25日の早くには到着するでし
ょう」
「MS隊、状況は?」
「あまり芳しくはありません。定数を大きく割っています。予備機を動員しても実働機は
ドム三機、ザク二機、ゲルググ一機です。<ジークフリート>はザクが二機とドム一機、
<ヴァルキューレ>にザクとドムが一機づつ――合計11機です。全艦で予備機含めて2
0機超だった艦隊MS戦力が半減しています」
「戦力半減、か」
「<リボー>内外の陽動作戦で随分と戦力をすり減らしてしまっています」
 それぞれ機関長、砲術長、主計長、航海長、MS隊隊長がそれぞれの部署についてを明
確に答える。艦はある程度独立した作戦行動が可能な唯一の兵器システムであるが、それ
にも限界がある。当然、港での整備もドック入りも無く、ろくな補給もなしに長い航海と
度重なる戦闘を繰り返していれば当然、様々な弊害が起きてくる。彼らの答え、そのどれ
もが長きに渡って作戦を続けてきた結果であり、現状であった。
「艦隊が健在、MS一個中隊の戦力があれば、作戦の実行は可能だな、艦長」
 ヘルシングが口を開きかけたとき、シュトロープが結論付けるように言った――いや、
そう宣言した。
 敵の戦力も分からず、ただ戦闘が可能ということだけで作戦が実行可能とは、まったく
おめでたい頭をしている――憎悪に近い感情を抱いたヘルシングだが無視して話を続ける。
「……予想される<リボー>コロニー周辺の敵戦力は?」
「前の戦闘時にコロニーの守備に就いていたのは、サラミス級二隻を中心とした戦力でし
た。現在はそれよりも遥かに増強されているでしょう。<リーア>政府から連邦軍へ要請
が出ている筈です。また、現地の情報員からの報告によれば、ペガサス級一隻を含む艦隊
が<リボー>港に入港したとのことです。連邦軍の戦力は一個機動艦隊ぐらいにはなりま
すな」
 ゆっくりと、まるで諭すような口調でノダック少佐が言う。
23創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:05:34 ID:Z4qP3rH0
24滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:06:00 ID:8ybZTJs0
 8/38
「サラミス級二隻プラス、ペガサス級一隻を含む艦隊とその艦載機群を相手取らなければ
ならんか――あまり分が良いとは言えんな。特にMSの数にかなりの開きがありそうだ
な」
「三艦合わせてやっと一個中隊ですからね。客観的に判断して戦力対比は数だけでも一対
三といったところです」
 客観的に判断して、という言葉をことさら強調して少佐は言う。特務の少佐が語気を荒
げて口を挟む。
「一対三程度の戦力差がどうだというのか! 連邦軍の弱兵など、大儀をもって戦う我々
の敵ではないだろう。数的劣勢なぞ、いくらでも覆せる!」
「しかしな、特務少佐。問題はそれだけでは無い。我々は、彼らが手ぐすね引いて待ち構
えているところへ飛び込んでいかなければならないし、乗組員は連戦につぐ連戦で疲弊し
てきている」
「全ての公国軍将兵が今も命をつくして戦っているのだ。この作戦には公国の命運が懸か
っている。多少無理してもらわなければならんのは当たり前だ」
「……それは、それは私たちが命を懸けるのに足る目標ですか」
 あらぬ方向からの言葉に、誰もが一斉に目を向ける。視線の先にはゲルググJパイロッ
ト、ヴェルター・ケーニッヒ中尉――撃墜数15機のトリプルエース。彼の胸元にはMS
白兵戦章と白兵戦功章、5機撃墜を示す金色のMS撃破章が三枚、イェーガー・ドライ
バーを示す猟兵徽章、そして喉元のジオン鉄十字章。中尉昇進と同時に授与されたものだ。
「貴様! 総帥直々の特別任務だぞ!」
 シュトロープの激昂。
「総帥直々が何だと言うんです。新型MSとやらたかが一機の破壊のために、1000万
の市民を核で吹き飛ばすのが任務と! 命令とあらば、やり遂げる覚悟はあります、しか
しこのような任務に――」
「――もういい、中尉」
 ヘルシングが遮る。静かに冷徹に、有無を言わさぬ声。口を閉じるケーニッヒ。口を開
こうとするシュトロープ。それよりも早く彼は続ける。
「中尉、君は自室に戻って休め。少々疲れているようだな」
「待ってください艦長! 今の発言は――」
「この艦の最高責任者は私だということを忘れるなよ、特務少佐。命令書に記載されてい
る特別権限とやらは作戦についてのみだろう? あとで私の部屋に来い、ケーニッヒ。た
っぷり絞ってやろう」
 無言で席を立ち、敬礼して部屋を出て行く若き中尉。対してシュトロープは憤怒の形相
で艦長を睨んでいる。
「……この件は報告させていただく。あなたの名前も報告書には乗るぞ、ヘルシング大佐」
 そうとだけ言い放ち、特務少佐も席を立つ。敬礼はせず、肩を怒らして無言のまま部屋
を出る。
「彼がサイド3に帰ったあと、報告すべき相手がいることを祈るね」
 二人を無言で見送ったあとに肩をすくめてヘルシングは言った。
「私もケーニッヒの坊主と同意見ですがね。まったくもって馬鹿げた任務ですな」
 せいせいしたといった顔をして、ノダック少佐が言った。他の面々も同じといった顔を
している。
「言うな、少佐。我らが公国も、戦争病の末期ということだ」
「戦争病、ですか。艦長も随分、病魔に蝕まれているようですな」
「それもとびきり悪性だよ――艦長という病気は。さて、それでは病状をさらに悪化させ
るとしようか諸君。連邦軍の防衛線を突破して、核を叩きこむための作戦を練ろうか。や
れるだけ、やってみようではないか」
 諧謔溢れるヘルシングの言葉に、ノダックが返す。
「それで、出来なければ?」
「その時は勿論、両手と白旗を挙げるしかないだろうな」
 苦笑とため息。全員が艦長の意図を掴み、そしてこの艦に配属された我が身の不幸と、
そして幸運を呪った。
「君たちとの付き合いも長かったが、次が最後になるかもしれんな」
「最後の瞬間まで、公国軍人としての責務を果たすまでです。私はそれで満足――この艦
と艦長の下でならなおさらですな」
 ノダック少佐が微笑みながらそう言う。集まった全員が同じ気持ちだった。ヘルシング
は感じた――艦長としての幸福と、そして自らの罪の重さを。
25創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:06:09 ID:Z4qP3rH0
26滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:06:40 ID:8ybZTJs0
 9/38
 言われた通り、ケーニッヒが艦長室に出向くと、彼はジオン国旗を背負ったデスクで何
か書類仕事をしていた。小さく、低くクラシックが流れていた。デスクの前まで進み、直
立不動の姿勢をとる。
「先ほどは申し訳ありませんでした、艦長」
「まぁいい――とは言わんが、もう少し発言には気をつけるべきだな。ま、私もほぼ同意
見だがね。それに、その鉄十字章も剥奪されかねんぞ」
「どうせ士気高揚のために乱発されていますからね。構いやしませんよ」
「勲章は大事にしたほうが良いぞ――ああ、私も、といったが皆もそのようだったな。し
かし、いつまでその姿勢をとっているつもりだ? 私の肩こりを悪化させる気かね」
 こってり絞られると思っていたケーニッヒは拍子抜けした思いだった。艦長はあごで椅
子を指し、座るように促す。
「しかし、本当に私も同意見だよ。目的から手段まで馬鹿げた――いや、狂った作戦と言
ったほうが良いか、そんな作戦に君達のような健気な若者をつき合わせねばならんとは、
まったく度し難い」
「そんな、艦長の責任というわけでは」
「いや、私の――というより私たちの責任さ。私とシュトロープ、中身は何も違わないさ。
ただ多少立場が違うというだけで、公国をここまで来させてしまったという点ではまった
く同罪だ」
 ヘルシングがこのように雄弁に語るのは初めてだった。彼の目はケーニッヒを見るとい
うより、その向こう側のどこかを見つめているようであり、なんの感情も現れてはいなか
った。ただ行く末を見つめることしか許されていないような、そんな目をしているとケー
ニッヒは思った。
「多くの戦友を失くしました。ルッツも、私がついていながら……。バーニィも、もう生
きてはいないでしょう」
 ルッツ少尉、彼の列機だったパイロットだ。ゲルググJ・623番機を駆っていたが、
前回の戦闘で出撃したまま戻らなかった者の一人だ。
 そんな事を思い出しながら、ヘルシングは頷いた。
「ワイズマン伍長か。親しかったのだな」
「ええ、なかなか見所のあるヤツでした。鍛えてやれば、良いパイロットになったでしょ
う。ちょうどこれから反吐を吐くまで鍛えてやろうっていうときに、特殊部隊に補充兵と
して取られて……」
 何か声をかけようかとも考えたヘルシングだったが、結局彼が喋るまま、喋らせておく
ことに決めた。軍隊生活では、本心を思いのまま喋ることは滅多に無い贅沢だ。
「操縦は下手糞でしたけど、意地っ張りで、負けず嫌いでした。きっと一人だけで残され
ても、任務を遂行しようとしたでしょうね」
「そうだろうな、ああ、違いない」
「ああそれと、嘘も下手糞でしたね、ヤツは……っと、すいません。喋りすぎました」
 ヘルシングはちらりと微笑んだ後、ケーニッヒに尋ねた。
「いや、いいんだ。それより、珈琲、飲むか?」
「え? ああ、ありがとうございます。いただきます」
「おい、珈琲二つ頼む」
 兵が盆に載せたカップを二つもって来る。湯気と共に部屋中に素晴らしい香りが広がる。
「滅びゆくものの為に」
 そう言って彼は、カップを掲げた。ケーニッヒもそれに無言で応えた。
27創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:06:52 ID:Z4qP3rH0
28滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:07:33 ID:8ybZTJs0
 10/38
 ケーニッヒが一口すすり、ヘルシングをちらと見る。どうだ俺の珈琲はすごいだろうと
でも言いたげな顔。艦長の初めて見る表情と素晴らしい味に思わず笑みがこぼれる。
「キリマンジャロ産だ。地球に良い友達が居て助かった。ま、しばらくアフリカは持つか
もしれんが、俺のところまで届かんのが残念だよ。こんなことなら降下作戦に参加するべ
きだった」
「そういえば、今流れているこの曲はなんていう題名で?」
「バッハのコラール前奏曲、『死する者の為に』という曲だ。今の私達に、最適な曲だと思わんか」
 ヘルシングは自嘲的に笑うと一口珈琲をすすり、年代物のシガレットケースを取り出し
て自分も口に咥えて言う。
「一本どうだ」
「珈琲に煙草、至れりつくせりですな。無茶な任務でもくれるんですか?」
「ま、似たようなものだよ――上物だぞ。味わって吸えよ」
 受け取った一本を咥えると、心地よい芳香がする――確かに良い品らしい。艦長がやは
り年代物のオイルライターで火を差し出す。彼も煙草を差し出す。彼には父がいなかった
――父親というのはきっとこのような目をするのだろう、と無言で火をつけるヘルシング
の目を見て思った。
 息を軽く吸い込む。支給される煙草とは比べ物にならない味気――良い小麦を使ったパ
ンをトーストしたような香ばしさと甘さ。良質の毒が肺を満たす。気持ちが不思議なほど
落ち着く。同じように紫煙を吐き出したヘルシングが自慢するように言う。
「本物のバーレイ葉とバージニア葉、それにトルコ葉を旧世紀から変わらない比率でブレ
ンド、香ばしさを出すために最後に加熱した一品だ。なかなかお目にかかれんぞ」
「ジオン・ザ・スターがこれほど酷いものとは。これも地球のお友達から?」
「階級が上がって良かったことはこれぐらいしかないな――もっとも、こうなってしまっ
てはどちらも手に入らんから損しかなくなるが」
 二人とも、しばし無言で静かに煙草をくゆらし、珈琲をすする。二本の煙草から立つ豊
かな紫煙がヘルシングの姿を曇らす。薄靄の向こうから、唐突に彼は口を開いた。
「――公国は、私たちは負ける。新型MSを破壊しようと、どう足掻いたところで結局は
負ける――それが分かっていてなお戦い、戦わせる私は許しがたい存在だろう? 中
尉?」
 名残惜しそうに彼は煙草を灰皿に押し付ける。ケーニッヒもまた、煙草を消し、珈琲を
胃に流し込んだ。決然と、言い放つ。
「私は公国軍のMSパイロットです。公国のために、戦場で死ねるならば本望です」
 何度も繰り返してきた言葉――だが今この瞬間の言葉は紛れも無く本心だと断言できる
だろう、と彼は思い、続ける。
「特に、艦長の指揮下で死ねるならば、まさしく本望ですよ」
「そう――そうか、すまんな中尉」
「煙草と珈琲、ご馳走様でした。ヘルシング艦長」
 ケーニッヒの敬礼、ヘルシングの答礼。無言のやり取り。
 室から出るケーニッヒを見送ったあと、彼はもう一本煙草に火をつけた。
『なんとむなしいことか、我らが人生はつかの間の夢……』
 リピートされたプレーヤーからは、オルガンの音が高まりそんな歌詞が流れ始めていた。
まったく、今の私達に最適な曲じゃないか、と彼は一人そのようなことを思い、未だ半ば
ほど残っていた煙草を灰皿に押し付けた。
29創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:07:45 ID:Z4qP3rH0
30滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:08:07 ID:8ybZTJs0
 11/38
「諸君、ツェッペリンの将兵諸君、私は艦長だ」
 スピーカーからその声が流れたとき、艦内の全ての場所で全ての会話が途絶えた。あと
に残ったのは低く、僅かな機関の音とモーターの響き、換気装置の唸りだけが残った。
 誰もが耳を澄まし、放送に集中した。肌で感じられるような緊張と静寂。
 シュトロープが少し離れたところでじっと放送を行おうとするヘルシングを伺っていた。
"不適切な"表現で放送するのを恐れたためだ。真面目な馬鹿というものはこれだから困る
なとヘルシングは思った。
 彼は再び放送スイッチを押し込み、静かに喋り始める――彼が愛する乗組員へと、冗談
のような真実を、心地よい言葉で塗り固めて。
「諸君らが知っている通り、私はいつも航海の始めに君らを待ち受けている事態を出来る
だけ早く伝えてきた。諸君らには知る権利が、私には伝える義務がある。大抵、諸君らに
とっておもしろく無い内容であるし、私もあまり愉快な義務だとは思っていない――ここ
数ヶ月は特にそうだった。そして、今から話すことはこれまでの中でもとびきりのしろも
のだ。
 我々は総帥府から命令を与えられた――これはギレン総帥閣下直々の命令を示している
ことは言うまでも無いと思う――そしてそれが、どんなに栄えある任務かということもま
た、言うまでも無いだろう。無事任務を達成して帰還すれば、諸君全員にたっぷりの休暇
が久方ぶりに与えられ、私も名誉なことだが、諸君らの中から昇級、もしくは勲章の授与
をうける者が何人も出てくるだろう。」
 苦い丸薬の甘い衣――言えることでおよそ良いことといったらこれぐらいしかない。そ
してそれすらも保障はないのだった。彼は言葉を続ける。
「命令の内容を、話そう。またもサイド6、<リボー>コロニーだ。そう、『ルビコン計
画』だ。今回の任務はその最終フェイズに当たる。我々はサイド6へと向かい、<リボー
>コロニー内の連邦軍新型モビルスーツおよび軍事基地を跡形も無く破壊する。諸君らの
中の何人かは知っているかもしれないが、我々には核弾頭ミサイルが与えられた――無論、
核兵器の使用は南極条約で禁じられている。しかしこれは最終的な手段に過ぎない。諸君
らが一番良く分かっていると思う――すでに<リボー>内外での二度の戦闘で彼らがいか
に手強いか、我々は良く知っている。彼らは我々の再度の到来を予見して、さらに増強さ
れて待ち受けている。しかし我々はこれを使うまでも無く連邦軍の防衛線を突破し、コロ
ニー内へと強襲して彼らのピカピカのモビルスーツを破壊するだろう」
 これはゲオルク・フォン・ヘルシングの、薄っぺらな願望だ――そんなことができるは
ずが無い。心のどこかで悲鳴を上げるが、艦長として鍛え上げられた精神力でもって、彼
の声は平静さを崩さなかった。
31創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:08:16 ID:Z4qP3rH0
32創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:08:29 ID:bq3cqr2k
支援
33滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:09:03 ID:8ybZTJs0
 12/38
「サイド6宙域への到着予定時刻は25日0800である。彼らにとっておきのクリスマ
スプレゼントをあげよう。そして、我々には勝利の美酒がプレゼントされる。容易い任務
では無い――いや、はっきりと言おう。この一連の作戦の締めにふさわしい、困難な、危
険な任務だと。心して任務に掛かれ、諸君。公国軍人として、果たすべき責務を果たして
ほしい。
 私が諸君らにどのようなことを頼んでいるか、良く分かっている。諸君は公国、連邦合
わせても並びうる者のいない最良の船乗りだ。だからこそここまで――疲れ、傷つき、苦
しい思いをしながらもここまで来れたのだ。私にはそれがよく――誰よりもよく分かる。
それでも私は諸君らに、かつて無いほどの困難に立ち向かうことを頼まなければならない。
だが、私にはどうすることもできない。ただ私は信じるしかない――君たちツェッペリン
の全乗組員は必ずやってくれるだろうという事を知っていて、また信じている」
 放送の締めくくりに、職務熱心なシュトロープへのささやかな本音での反撃。
「滅びゆくものの為に、幸運と神のご加護を――私たちにはそれが大量に必要だ」
 放送が終わった後でも、沈黙は長く続いた。歓声も、『我等地球へ進撃す』も歌われな
かった。そこには彼らの士気を高揚させるものは何も無かった。かといって、悲嘆も、憤
りも、落胆があるわけではなく――ただ"ああ、またか"という諦観の念があるだけだった。
それは全ての乗組員に共通した感情だったが、彼とシュトロープ、骸骨付きの憲兵隊は違
った。そして、ノダックや彼を良く知る何人もの男たちもまた、彼の胸中を容易に想像す
ることができた
 ヘルシングの胸中――愛する部下を騙し、彼らを狂気の渦へと向かわせたのだという強
い怒りと嘆き。今までそんなことが無かったとは言わない、だが今回はその中でも最低の
部類の、決して許されざる行為なのだと自責した。
 彼は艦長室に戻ると、すぐに珈琲を兵に注文した。彼には熱い珈琲と上物の毒、そして
一握りの赦しが必要だった。

 24日の夜も、艦隊は粛々と航行していた。クリスマスの前日だと言うのに彼らの緊張
の糸は張り詰め、ふとしたきっかけで切れてしまいそうな空気が艦内に満ち溢れていた。
艦内の誰もが疲れきり、ただ黙々と自らの仕事をしていた。無茶なスケジュールと資材の
不足で休息は殆どなく、僅かな時間を見つけて眠りについた。
 艦隊は着実にサイド6へと近づいていったが、何度か連邦軍航宙機の接触を受け、確実
に連邦軍に補足されてもいた。偵察機がブンブンと艦隊の周りを飛び回りはしたが、攻撃
はまるでなかった。連邦軍がサイド6で待ち受けているのは明白だった。
 彼らに夜明けはなかった。気まぐれに外を覗いても、吸い込まれるような漆黒の宇宙が
ただ闇雲に広がっているだけである。いつまでも変わらぬ光景と、時を刻むだけで無常に
流れていくジオン標準時。これが宇宙の戦争だった。緊急総員配置のベルが鳴り、すぐに
解除された。それが何度も繰り返され、彼らの短い休息はその度に中断された。彼らは疲
れ果て、ろくに眠れず、灰色にやつれていった。それでも彼らの表情はどこか明るかった。
それは、何もかもをあきらめきったような、悲しみすら覚える明るさだった。
34創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:09:32 ID:/bxKa/pu
  
35滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:09:40 ID:8ybZTJs0
 13/38
 予定時刻よりも少し遅れ、サイド6のコロニー群を最大望遠で目視できる位置についた
とき、総員ノーマルスーツ着用、総員戦闘配置の号令がかかった。だが艦内では簡易ベッ
ドから飛び起きたり、ラッタルを駆け足で上り下りするといったような慌しさは感じられ
なかった。既に艦内の全員がしかるべき配置につき、麻痺した心で襲いくる戦闘の重圧を
はねのけていた。
 艦隊は単縦陣を解き、<ジークフリート>と<ヴァルキューレ>のニ艦がツェッペリン
を追い抜いて前に出て戦闘隊形を組んだ。<ヴァルキューレ>が先頭に立ち、<ジークフ
リート>がその右後ろ上方。ニ艦の後ろに隠れるように旗艦が位置についた。
 ケーニッヒはゲルググJのコックピットで永遠とも思える時間を過ごしていた。戦闘を
前にした時の、いつも通りの緊張感と、僅かな興奮。様々な感情が入り乱れ、時間の流れ
を通常よりも遥かに遅くしていた。仲間といつも通りの軽口を叩き合う。兄弟、だとか戦
友といった言葉が飛び交い、リラックスした表情と声が彼らのコックピットの孤独を癒し
ていた。ケーニッヒの口は真一文字に結ばれ、未だ活力溢れる目からは決意の光が見て取
れた。
 <グラーフ・ツェッペリン>の照明が落とされた戦闘艦橋で、ヘルシングはいつものよ
うに艦長席に悠然と座っていた。顔には疲労の色が濃いが、双眸は力を失わず、口には僅
かながら笑みが――不敵な笑み浮かんでいる。歴戦の艦長だけが持ち得る、部下たちを奮
い立たせ、戦闘へと駆り立てる表情――あるいは仮面をしていた。彼は艦長席で孤独と重
大な背信をしているような後ろめたさを感じていた。それを全て艦長としての責任で塗り
隠していた。
 ヘルシングも、ケーニッヒも、やるべきことを心得た男の表情だった。いや、彼らだけ
ではない――艦内の、いや艦隊のどこを見渡しても、その表情は見て取れた。彼らは決意
していた。公国のためでも、公国が与えてくれた大義名分のためでもなく、ただ隣の自分
に良く似た水兵のために――戦友のために戦うことを決意していた。その中には無論ヘル
シング艦長も含まれ、誰も彼を憎む者などいなかった。彼はこの艦の父だった。艦は家族
であり、彼らは家族よりも強い絆で結ばれていた。
 ただ一人を除いて。シュトロープはそんなことは微塵も考えなかったし、また思われて
もいなかった。彼は孤独だったが、スペースノイドの真の解放という大儀と、それを果た
すための総帥命令を授かったという思いが彼に孤独を感じさせなかった。
 彼らは進んだ。サイド6へ向け、渦に――狂気という名の渦に巻き込まれるように粛々
と突進した。
36創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:10:02 ID:/bxKa/pu
  
37滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:10:17 ID:8ybZTJs0
第二章

 14/38
「レーダー波を感知。方位042、プラス9。発信源複数、出力上昇中」
 戦闘艦橋で電測員が報告する。それは、戦闘の開始を告げるような緊迫した声のようで
――まさしくそのとおりだった。
「ミノフスキー粒子を戦闘濃度に」
 ヘルシングがそう告げたのと、大型汎用ディスプレイにレーダーマップが投影されたの
はほぼ同時であり、それを追うようにして電測員が報告する。
「捜索レーダーに感あり。感ニ、後方にさらに敵艦続く……」
 冷静な声が増大していくレーダーに映った艦艇の数をカウントしていく。位置関係から
言えば、ツェッペリンより先行している二隻が先に補足するはずだが、艦隊、あるいは戦
隊旗艦としての能力が求められたチベ級はレーダー、通信といった装備はムサイに比べて
上であり、チベ級の余裕のある設計を活かして改装したティベ型はさらにそれが顕著だっ
た。しかし、それでも連邦軍はこちらを先に探知した。レーダー技術は未だ連邦軍の方に
分があるらしい。
「敵艦艇総数7、距離5万8000。方位同じ」
 レーダー反射波はそのどれもがほぼ同じ規模だった。連邦軍お得意のサラミス級巡洋艦
だろうとヘルシングは予想をつける。開戦当初こそ、その脆弱さから羊という蔑称がつけ
られた艦種だったが、宇宙世紀の戦闘――すなわちミノフスキー粒子下での有視界戦闘の
ノウハウを知り、それに合わせた改装とシステムの構築により今では公国軍の充分な脅威
となっているサラミス級。連邦軍の不屈さと、プライドを象徴する艦艇だった。
「画像、出ます」
 最大望遠された画像が戦闘艦橋の大型汎用ディスプレイに投影される。最大望遠でも敵
艦の画像はマッチの箱程度の大きさであるが、艦影の照合は充分にできた――案の定サラ
ミス級、特徴的な艦首部のMSラッチにより4機のMS運用能力を持たせたタイプの艦で
あることが分かった。
 残りの一隻は横に引き伸ばしたかのような箱型の艦影をしていた。アンティータム級補
助空母――コロンブス級輸送艦を改装し、MS母艦として急造した艦だ。あくまでも輸送
艦を改装した艦に過ぎず、MS8機がその艦の全戦闘力だった。
38創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:10:19 ID:Z4qP3rH0
39創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:10:26 ID:W3YXrO8I
40滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:10:49 ID:8ybZTJs0
 15/38
 6隻のサラミス級と1隻のアンティータム級は堂々とした戦闘隊形を取り、その艦首を
巡らしてこちらへ向けようとしていた。
「サラミス級だな。恐るるに足りん」
 艦長席の隣で立つシュトロープ特務少佐が言う。戦闘艦橋に残るとごねたのでそのまま
居さしたが、やはりそれは間違いだったなとヘルシングは思い、彼の言葉を無視して次の
命令を矢継ぎ早に下す。彼が相手をするのは今は特務ではなく、連邦軍の方だった。
 ここでヘルシングは判断を問われた。敵艦隊と正対すべきか否かである。艦隊戦のセオ
リーは敵と正対せよ――正対すれば敵に対して投影面積を小さくすることができ、それだ
け被弾を減らすことができる。しかし、正対してしまえば敵を撃破しないかぎりは突破は
不可能。両艦隊の火力はほぼ同等、もしくはこちらが少し優勢――だが、MS隊の戦力差
はいかんともしがたい。
「針路そのまま。第一戦速から第三戦速へ」
「針路そのまま、第三戦速! 加速警報!」
 結局、彼は現針路を固守することに決めた――位置関係は彼らから見て連邦軍は右上方。
正面突破ではなく、連邦軍艦隊を振り切ることに決めたのだった。矢継ぎ早に命令が繰り
出され、戦闘艦橋は喧騒を増していく。
「モビルスーツ隊、全機発艦させろ。対空・対艦戦闘用意。各艦に命令伝達」
 すでにツェッペリンの搭載全機にパイロットが乗り込み、ジェネレータには火が、兵装
は可能な限り装備されている。パイロットが今すべきことはジェネレータ出力をアイドリ
ングからミリタリーへと引き上げ、愛機の最終チェックを手早く行うのみであった。整備
員が出来ることは大きく手を振って彼らを見送るだけである。
 発進位置へと前進した隊長機のザクU改の右胸部には、縦に三分割された青白赤の三色
旗、その中央に鉄十字があるシンボルマークが描かれていた。ヘルシングMS戦闘団と描
かれている――正確にはヘルシング艦隊隷下MS大隊だが、愛情をもってその名をシンボ
ルマークにも使っていた。
 電磁カタパルトがザクの両足を固定する。イエロースーツのカタパルト士官が大きく手
を振り上げ、そして拳を突き出した。同時にグリーンランプが点灯。どちらも発艦の合図
――ザクは弾かれたように加速し、虚空が大きく口を開けたような宇宙へと飛び出してい
く。MSの種類こそ違うがそれが何度か繰り返され、両腕にMMP−80を装備したケー
ニッヒもゲルググJを駆ってその後に続いた。漆黒の宇宙に伸びる青白い光芒は、まるで
鬼火――彼らの覚悟を代弁するかのようだった。
41創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:10:51 ID:/bxKa/pu
  
42創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:10:52 ID:Z4qP3rH0
43創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:11:21 ID:bq3cqr2k
支援
44滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:11:36 ID:8ybZTJs0
 16/38
「距離3万5000で砲戦を開始する」
「了解。3万5000で砲戦開始。右舷上方、砲戦用意!」
 全艦が搭載機を吐き出し終わったとき、彼我の距離は刻一刻と縮まり距離4万5000
を割っていた。レーダースクリーンではヘルシング戦闘団に所属する全てのMSがすでに
所定の位置に展開し、敵MS隊を今や遅しと待ち構えているのが見て取れた。
 MSは艦艇に比べればはるかに小さな目標である。ミノフスキー粒子によってその本来
の実力を著しく制限されたレーダーは、未だ敵MS隊を発見できずにいた。
「敵モビルスーツ! 距離1万6000。およそ20。急速接近中。防空戦闘圏まで20
0秒」
「ミサイル戦闘。80秒後に発射。防空戦闘圏突入で対空砲撃ち方はじめ。<ジークフ
リート>と<ヴァルキューレ>にも伝えろ」
「了解。7番から12番。ミサイル装填、タイプC。HEAT弾頭。諸元入力」
 ミサイル士官が艦長の命令を受けて素早く命令を下す。ティベ型には計20門のミサイ
ル発射管が搭載されており、その内の8門は艦首部に搭載された対艦大型ミサイル発射管
である。残りの12門は甲板に埋め込まれるように設置された多目的ミサイルセルであり、
対MS、対航宙機、対ミサイル戦闘を担っている。
 7番から12番は艦体右舷部に搭載されている。今それに装填されたC型ミサイルは、
対MS戦闘用のセミ・アクティブ・ホーミング方式の中型ミサイルである。HEAT弾頭
を用いれば一撃でMSを撃破する威力があるが、ミノフスキー粒子下ではその命中率はあ
まり期待できるものではない。
「何を考えている! なぜ我が方のモビルスーツ隊を迎撃に充てない! それに、なぜ今
すぐミサイル発射を行わないのか! サボタージュか、ヘルシング大佐!」
「特務少佐、前にも言ったはずですが、あなたに艦隊指揮を行う権限はないはずだが」
 微笑すら伴いそうな表情で言い放ったヘルシングだが、そこには有無を言わさぬ迫力が
――長年指揮官を務めてきた者だけが持ち得る迫力が込められていた。
「敵艦隊との距離は?」
「4万2000です、艦長」
 ヘルシングが下した80秒は永遠とも思える時間となった。レーダースクリーンに映し
出されたMSの機影は徐々に鮮明となっていき、大まかにではあるが機数、編隊の形が分
かるようになってきていた。敵機は3つの編隊に別れ、対艦攻撃態勢を取っている。一つ
の編隊のMSの数を二個小隊、8機と考えれば、敵機の数は24機――分が悪いどころで
は無かった。絶望的な状況と言ってもいいだろう。質も量も劣るこちらのMS隊がまとも
にぶつかれば、早々に壊滅してしまう――しかし、まともにやる気は毛頭無いのがヘルシ
ングであった。
「7、8、9番発射! 続いて10から12番、発射!」
 もっとも前方に位置した<ヴァルキューレ>が同様のミサイルを発射し、それに少し遅
れて<グラーフ・ツェッペリン>、<ジークフリート>が続く。三艦合わせて16発のC
型ミサイルが発射された。その内5発はミノフスキー粒子によって艦からのレーダー反射
波を捉えられず、ただ直進を行う飛翔体となった。レーダー反射波を捉えて連邦軍MS隊
に向かったのは11発。それらは各個に指示された目標へと突進するが、チャフの散布に
よる欺瞞を突破できる性能も、MSの複雑な機動に追従できる性能も持ってはいなかった。
それらを潜り抜けて命中したミサイルは僅かに二発。一発は防御に構えたシールドを吹き
飛ばしたに過ぎなかった。残る一発はジムへと突き刺さるように直撃。爆発の威力を一転
に集中させた対MS用成形炸薬弾頭はその正面装甲を貫通、これを完全に撃破した。16
発のミサイルの内、二発が命中したのは幸運と言えよう――当てられたパイロットにとっ
ては不運だったが。
「命中2、内一機の撃墜を確認」
「敵編隊、防空戦闘圏へと突入!」
「対空戦闘はじめ。高射長、近接信管だ」
「撃墜は狙えませんが」
 宇宙艦艇の対MS戦闘では、対空砲のような小口径の砲がMSのような重装甲を持つ機
動兵器を狙う場合、徹甲弾を用いるのが普通である。命中率は格段に下がるが、通常の対
空戦闘に用いられる近接信管ではMSの装甲を貫くのは不可能だからであった。
「構わん。徹甲弾じゃ当たらんよ。とにかく近づけず、態勢を整えさせなければそれでい
い」
「了解! 対空戦闘はじめ。信管VT。レーダー、光学複合射撃。高射長より各砲座、撃
ち方はじめ」
45創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:11:43 ID:Z4qP3rH0
46創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:11:43 ID:W3YXrO8I
47創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:11:49 ID:/bxKa/pu
  
48滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:12:11 ID:8ybZTJs0
 17/38
 ミサイルの脅威が去った後、MS隊を襲ったのは宇宙空間そのものが火を吹いたかのよ
うな濃密な対空砲火だった。ミサイルを回避するために編隊を崩したMS隊は、127ミ
リや155ミリの対空砲による統制された集中砲火を浴びることとなった。ミサイル攻撃
は敵機の撃墜を狙ったわけではなかったのだ。
 近接信管の効果により対空砲火はパイロット達にとって異常なほど強力なものとして映
った。ディスプレイ一杯に尾を曳く曵光弾とその炸裂が爆炎と共に広がる。しかし、見た
目ほどの効果は挙げられない――炸裂した破片はMSの装甲に突き刺さるのみである。僅
かに数機が火器を失ったり、メインスラスターノズルを切り裂かれはしたが、それ以上の
損害は出なかった。
 対空砲火ではMS隊の組織的対艦攻撃を止めることはできない――それを公国軍は戦果
として、連邦軍は教訓として知っていた。艦艇の対空砲火のみで叩き落とせるならば、M
Sは戦場の王者となり得ていない。敵機はいくらか速度を落としながらも前進を続け、踊
るような回避運動をしながらも距離を詰めていく。彼らの目標はもっとも近い位置に位置
する<ヴァルキューレ>だった。まずは外堀から埋める――戦力で勝る連邦軍にはその余
裕があった。
「艦長! このままでは<ヴァルキューレ>が危険ですが」
「分かっている、ノダック。モビルスーツ隊が<ヴァルキューレ>から4000の距離に
なったら報告しろ。こちらのモビルスーツ隊はきちんと所定の位置にいるな?」
「え、ええ――ご命令どおりの位置で待機させております」
「ならば、何も問題はない」
 状況は控えめに言っても絶望だった――少なくとも、ノダックにはそう思える。両艦隊
の火力が互角というのが唯一の希望だが、主砲が火を吹く前にMSの攻撃により我が艦隊
は壊滅してしまうだろう。彼らはすでにこちらの死のレンジに突入しつつあり、我が方の
MS隊をただぶつけても易々と突破されるのは明白。せめてはじめからMSを投入し、あ
る程度敵の数を減らしてから対空戦闘に移れば被害を抑えられ、<リボー>までの距離を
少しは稼げただろう。だがヘルシングはそうはしなかった。
 ヘルシングはこれまでも冷静さを失わず、的確な命令を下す指揮官だったが、それにし
てもこの冷静さはなんだろうか――ノダックは思う。まるで、自暴自棄の果ての、全てを
あきらめたかのような冷静さではないか、と。
「<ヴァルキューレ>まで、残り5000!」
 電測員が緊張を増した声で言う。すでに機関砲までもが対空戦闘に参加していた――懐
に入られたも同然の距離。
「4500!」
 轟然と無音の宇宙で吼える対空砲は、もはや漆黒の宇宙空間に曵光弾による彩りを加え
る以上の効果は果たしていない。
「4300!」
 ヘルシングは動かない。編隊は崩れたが二機の小編隊となって組みなおされ、編隊間を
広く取って回避運動を取りやすくしていた。
「4100!」
 MSの最大有効射程は火器にもよるがおよそ3000――そこまで入り込まれることは、
艦艇にとっては死を意味していた。
「――4000!」
「全対空砲、撃ち方止め。10秒後に再開。」
 10秒間、僅かに10秒間でもこの状況で対空砲火を放つことを止めるのことは、自殺
を意味していた。なんの脅威もない10秒間は、MSがどれほど接近しやすく、絶大な攻
撃力を持たせることか!
「大佐! 貴様――」
「モビルスーツ隊に通達、出番だ。対艦攻撃仕様の機を優先して攻撃させろ」
 またも声を上げたのはシュトロープだった。それを遮って、ヘルシングは力強い声で命
令を下した。
 ノダックは先ほどの考えを改める事になった。彼はあきらめているのではない――この
状況にあっても"いつも通り"、責務を果たそうとしているだけなのだ。
49創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:12:18 ID:Z4qP3rH0
50創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:12:18 ID:QtfwlhiE
支援  
51創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:12:21 ID:/bxKa/pu
  
52創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:12:34 ID:QtfwlhiE
  
53創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:12:52 ID:W3YXrO8I
54滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:12:53 ID:8ybZTJs0
 18/38
『出番だぞ、諸君――優先は対艦攻撃仕様の機。長筒持ちか、砲担ぎを狙え、いいな?』
『このまま出番無しで幕引きかと思いましたぜ』『随分待たされた』『主役は遅れてやっ
てくるってね』『お人形さん達は任せましたよ』『教育してやりましょう』
 じっとその巨体を潜め、彼らは待っていた――号令を、出番を。囁きだした口々には興
奮と冷静が同居している。
『各機、全兵装使用自由!――突撃!』
 彼らは踊りだした。彼らは襲いかかった。

 彼らは訝しんだ。
 すでにこちらは全ての火器を射程距離に収めようというときに、なぜ彼らは対空砲火を
一斉に止めたのか。今までMSを見ていないが、彼らにはもう一機のMSとて残っていな
いのか――降伏でもするつもりなのだろうか。そうはいかない――もう遅い、もうあと1
0秒足らずで有効射程距離にたどり着くと戦術コンピューターは告げていた。その10秒
間はこちらに勝利を、彼らに敗北を与えるだろう。
 量産型ガンキャノンが肩の240ミリキャノン砲を引き出す。何機かのジム・コマンド
がバズーカを構える。残りのジム・コマンド、あるいはジム・スナイパーUは沈黙した対
空火器を掃討しようと散開する。安全装置は外され、トリガーに指がかけられる。死は整
えられた。
 彼らは確信していた。

 その確信は、ほんの数秒で崩れ去ることなった。なんの脅威もない10秒間は、連邦軍
MS隊にとって勝利を与えてはくれなかった。彼らに与えられたのは損害と混乱だけだっ
た。
 ヘルシング戦闘団は連邦軍MS隊へと、その本来の役割を果たすべく襲いかかった。公
国軍MS隊はその身を寄せ合って<ヴァルキューレ>の艦底部に潜み、好機と獲物を待ち
うけていたのだ。<ヴァルキューレ>の右舷上方より接近した連邦艦隊、及びMS隊の
レーダー波や、アイカメラは彼女の巨体の下に隠されたガンメタルの爪と牙を警告しては
くれなかった。
 彼らは厚い装甲と大火力、そして瞬発力を持ったリック・ドムUを先頭に押し立てて突
撃する。それにザクU改、ケーニッヒの駆るゲルググJが続く。
 今まさに艦隊へと全戦力をもって攻撃せんとする連邦軍には、彼らの機動にまったく対
応できなかった。連邦軍パイロットらから見れば、モノアイのMS達は降って沸いたかの
ような、それほど唐突な、予想外の攻撃だった。
 全開にされたスラスターから伸びる光と、曵光弾の尾を曳く光が短く伸びる。半呼吸ほ
ど置いて、閃光と爆発が続いた。5機のドムUはさながら急降下爆撃のように加速、無防
備な――あるいは戸惑っているかのようなジムや、ガンキャノンへとほとんどすれ違いざ
まに攻撃を行ったのだ――ジャイアント・バズや、シュツルム・ファウストでもって。ど
ちらもMSを一撃で撃破、あるいは致命的な損害を負わせられる火器である。
 連邦軍部隊は完全に戦術的奇襲を受けた――2機のMSが撃破墜され、1機が戦闘続行
不能、2機が修復の意味をなさないほどの損傷を受けた。何人かの反応の早い、ベテラン
パイロットが怒号を発し、状況を把握しようと、あるいは飛びぬけて行ったドムに追いす
がろうとした――しかし、彼らは2機1組となった公国軍MS隊に行く手を阻まれる。彼
らは散開していた連邦部隊に対し、極局所的な数的優勢を得ている。2機のザクU、ある
いはザクUとゲルググJのツーマンセルは、彼らに対し無駄のない、精確な攻撃を行った
――狙いを1機に絞り、1機が攻撃、ペアの1機が周りを牽制するといった攻撃である。
たちまち2機のジムが90ミリで蜂の巣にされて火を吹いた。
 ほんの何十秒か前、連邦軍が攻撃態勢を整えた時点で26機であったMS隊が、僅か1
0秒足らずで7機ものMSを一瞬にして失った。損傷を受けた機もほぼ同数。なんの脅威
もない10秒間は、MSにとって確かに絶大な攻撃力を持たせた――もっとも、公国軍側
にであるが。ヘルシング戦闘団が充分離れる、あるいはドッグファイトに突入したことを
確認して、対空砲火は再び鉄火を撒き散らし始める――極近距離で集中砲火を浴びれば、
MSとてただではすまなかった。炸裂する破片と40ミリ徹甲弾でも、容易にMSをぼろ
雑巾のような姿に変えてしまう――ゴーグルアイのMSは一機、また一機と火線に絡めと
られていった。
55創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:13:05 ID:Z4qP3rH0
56創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:13:12 ID:/bxKa/pu
  
57滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:13:27 ID:8ybZTJs0
 19/38
 MMP−80から連射された90ミリは曵光弾の短い軌跡を残してジム・コマンドのイ
ングニシアホワイトとマルーンレッドの装甲にほぼ全てが命中。いくらジムの装甲が厚い
とは言え、至近距離からの高速徹甲榴弾の連打に耐えられはしなかった。ジムは全身の装
甲を撃ち砕かれ、その破片を撒き散らしながら火を吹きだした。ケーニッヒはその戦果を
横目で確認する。ゲルググのモノアイと一体化した視線はすでに撃破したジムから外され、
辺りを油断なく見回していた。
 彼は自分の置かれた状況を良く分かっていた。すでにMSの性能で勝っていた素晴らし
い時代は終わりを告げ、不屈の連邦軍パイロットは経験を積んで恐るべき敵となっている。
さらには彼我の機体数の差――絶望的な状況をひっくり返すためには、無茶をしなければ
ならないことを。
 ヘルシング戦闘団にとっての戦闘は、MSとの戦いではない――時間との戦いだった。
連邦軍が混乱してくれている時間は貴重で、かけがえの無いものだ。その短い時間の間に
できる限りの損害を与えられなければ、物量に圧死させられる事となる。
 彼は良く分かっていた。ゆえに彼は鋭く命令を下す。
「フリッツ、あそこでぼんやり飛んでいるジムにお見舞いしてやれ! 援護してやる」
『了解――!』
 ペアを組んだザクU改パイロット、フリッツ一等兵の声は未だ少年のそれである。もっ
とも、ケーニッヒとて対した年の違いがあるわけではなかったが。彼はケーニッヒの命令
どおり攻撃を行った。マシンガンを連射しすぎのようにもケーニッヒには思えたが、ジム
の反応が遅れたために多数が命中。コックピットを撃ち抜かれ沈黙する。
『フリッツ、1機撃破――初撃墜!』
「よし、よくやった。次は女だな。今度の休暇には奢ってやるぞ、フリッツ」
 どんな状況でも冗談を楽しむ余裕がケーニッヒにはあった。いや、むしろそれだけの余
裕を常に持っていたから、彼はエースになったのだ。冗談を言いながらも、彼は警戒を解
かず、牽制に短い射撃を放つ。
『来ますよっ! 敵機2時上方、ジム2機!』
「くそ、思ったより立ち直りが早い――行くぞ、ついて来い!」
 ケーニッヒは、少なくとも彼は守ろうと密かに誓っていた――列機を、戦友を失うのは、
もうごめんだ。

 連邦軍が攻撃を受けたショックから立ち上がるのに大した時間は要らなかった。彼らと
て、もはや素人ではないのだ――彼らには圧倒的劣勢の戦局を挽回したという自負心と不
屈の心を持っていた。散開した部隊を素早く立て直す。ガンキャノンや重武装機は編隊を
堅く組みなおす。戦闘の序章は終わりを告げた。
 艦の対空砲火は誤射を避けるために最小限に絞られ、最強の機動兵器同士が存分に高速
戦闘を楽しむ舞台が整えられた。
 強硬に<ヴァルキューレ>に対する攻撃を行おうとしたジムが、激突するかのごとく接
近したザクのヒートホークにハイパー・バズーカの砲身を切り落とされる。
 列機を援護しようと無理な機動を行ったザクが、その背後からマシンガンの猛烈な射弾
を受けて崩れ落ちる。
 戦列を整えたガンキャノンが、同じように戦列を整えたドムの編隊に蹂躙される。
 お互いの機動が幾重にも交錯し絡み合うような猛烈なドッグファイトの末に、ジムが
ヒートホークの致命的な一撃を受けて崩れ落ちる。
 高速性を活かし一撃離脱を繰り返していたドムがついに包囲され、何条ものメガ粒子
ビームに貫かれる。
 戦闘は激しさを増し、加速していく。公国軍パイロットらは作戦目的――<リボー>コ
ロニーの破壊のために戦っているわけではなかった。連邦軍パイロットにしても<リボー
>を守るという使命に燃えていたわけではない。すでに作戦を完遂しても戦争の帰趨に変
化が訪れるわけではない――それは両者共に分かっていた。ならばなぜ、彼らはこれほど
までに熱狂的に戦っているのか――今、彼らは命令と、そしてとりわけ戦友のために闘っ
ていた。
58創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:13:38 ID:Z4qP3rH0
59創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:14:04 ID:W3YXrO8I
60滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:14:08 ID:8ybZTJs0
 20/38
 MS隊は勇戦していた。数に勝る連邦軍機と互角に戦闘を繰り広げているのだ――それ
を勇戦と言わずして何と言おう。いまだアトバンテージを取り戻せない連邦軍は、ヘルシ
ング戦闘団によって艦隊の懐から押し出されていた。なんとか突破しようとする連邦軍だ
が、鬼気迫る勢いで戦う戦闘団の気迫と、突破したとしても濃密に打ち上げられる対空砲
が彼らを押しとどめていた。
「すごい――」
 思わず驚嘆の声をあげたのはノダックである。指揮次第で部隊の戦力は増減する――士
官学校で叩きこまれた戦術の初歩の初歩だが、艦長はこの状況でも見事にそれを実践して
いる。
「悪くないってところだ。さっさと両手を挙げて降伏するほど私は性格が良くないし、や
けくその突撃をさせるほど愚か者ではない」
「一番性質が悪い手合いですな」
「まったくだ。ろくな死に方をしないだろう」

 ヘルシングは苦笑混じりにそう言った。
「敵艦隊加速! 距離3万9000にまで縮まる!」
「やつら、焦り始めたぞ――<リボー>までの距離は?」
「距離、約30万ってところです」
「まだまだ遠いな。結局、やつらを突破せんことには、とてもじゃないがミサイルは撃て
んな」
「渡されたのがたったの2発、それも旧式の核弾頭ですからね。せめて20発もあれば一
発ぐらいは迎撃をすり抜けてくれるでしょうが」
 敵艦隊は、未だ遠い<リボー>とこちらを結ぶ線上に、立ちふさがるように布陣してい
た。ミサイルが射線上に位置した彼らの迎撃を突破できるとは思えなかった。
「ないものねだりは良くないな。どうせ、ほとんど何もないんだ」
 ヘルシングはそう言うと、また笑った。まるで状況を楽しんでいるようではないか、と
ノダックは思った。
 <グラーフ・ツェッペリン>に最初の命中弾が命中したのはその時だった。MS隊を突
破し、対空砲火も掻い潜ったガンキャノンは、僚機を失い、全身に命中弾を浴びながらも
両肩のキャノン砲を発射した。高初速をもって右舷前部甲板に命中した二発の240ミリ
徹甲榴弾は装甲を完全に貫通。着弾の振動で艦が揺れる。
 命中箇所には弾頭の倍近い50センチほどの破孔が二つ、めくれ上がって開いている。
飛び込んだ徹甲榴弾は内部でその威力を炸裂させた。爆圧が兵員室ごと兵一人を宇宙へと
吹き飛ばし、破片が四方八方に恐るべき威力を持って撒き散らされる。
「各部被害報告」
「右舷第二兵員室損壊。負傷2、行方不明1。火災なし。他、損傷なし。戦闘可能」
 ガンキャノンはすぐさま離脱しようとするが、砲撃の反動を上手く機動につなげられず、
対空砲の集中砲火を浴びる――さらに、母艦の危機と見てとったケーニッヒのゲルググが
対空砲の誤射も恐れずに突撃。ほぼ零距離で両腕のMMPを連射。全火力を至近距離で叩
き込まれたガンキャノンは、その全機能をパイロットの生命と共に停止した。彼のゲルグ
グにも幾多の被弾の跡が痛ましい、だが健在ぶりをアピールするかのように軽く艦橋へと
手を振ったゲルググは、すぐさま猛烈な機動を再開して戦闘空域へと再突入していった。
 小さくため息をついたヘルシングは、何事もなかったかのように尋ねた。
「敵艦隊までの距離は?」
「3万6000を割っています。5000まであと僅か!」
「砲術長、準備はよろしいな? 第一射と同時に加速をかける。二射目はそのつもりで計
算しておけ」
「了解。射撃準備はすでに完了しています。敵、先頭艦はサラミス級。距離3万5000」
 砲術長はあえてそう報告した。普段ならば省略される、儀式めいた、定められた手順。
 艦首に搭載された三連装メガ粒子砲が身じろぎするかのように僅かに砲身を震わせる。
敵艦隊の概略位置に向けられていた砲身が、射撃データが指し示す位置――砲撃位置へと
指向されたのだ。
61創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:14:14 ID:Z4qP3rH0
62滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:14:48 ID:8ybZTJs0
 21/38
「砲術長、撃ち方はじめ。目標は敵の一番艦」
「――撃ち方はじめ!」
 その言葉を待っていたと言わんばかりに、主砲長が「フォイア!」と叫び、砲手が引き
金を引き絞る。戦闘艦橋に投影されているディスプレイの一つ――第一艦橋からの視点を
写したものだ――が閃光で満たされる。
 縮退と融合が繰り返されて発生したメガ粒子は、砲身内の加速リングと収束リングを駆
け上がり、圧倒的な破壊力を持ったメガ粒子ビームを撃ち放った。<グラーフ・ツェッペ
リン>の前部に搭載された三連装砲塔から長い尾を曳き、一直線に光の矢が伸びていく。
それに<ジークフリート>と<ヴァルキューレ>のニ連装二基、計四門のメガ粒子砲が続
いた。
 ディスプレイには敵艦隊の望遠映像が投影され、着弾までの予想時間が気の狂ったよう
な速さで減っていく。体を震わす快感にも似た鳴動もなく、稲妻のような轟音や、黒煙も
ない。ただそこには閃光があるだけだ。宇宙そのもののような、冷たい戦争。そういう戦
争を彼らはやってきたのだった。ヘルシング艦隊が放った7本のビームは、そのどれもが
目標から外れ、遥か虚空へと突き進んで行った。
「全艦に砲戦回避運動を許可。総員対ショック・対加速防御用意。噴射30秒、第四戦速
まで持っていけ」
 矢継ぎ早にヘルシングは命令を下す。メガ粒子砲の登場は宇宙空間での艦隊戦のやり方
に大きな変化をもたらしている。超高速で突き進むメガ粒子ビームと高度な射撃計算コン
ピュータは、艦に回避運動を強要した。同じ針路、同じ速度で進んでいれば、ミノフス
キー粒子下でも僅か数射で射撃データを更新、捉えられてしまうのだ。
「敵艦発砲!」
 ほぼ同時に連邦軍艦隊も艦砲射撃を開始した。彼らはアンティータム級を後方に下がら
せ、二列の単縦陣を組んでいた。先頭は二連装砲塔を装備した火力増強型のサラミスのよ
うだ。
 砲火はやはり彼らから見て最前面の<ヴァルキューレ>に集中した。二隻の火力増強型
サラミス、一艦当たり4門、計8門のメガ粒子砲が火を噴き、<ヴァルキューレ>の狭い
前後左右を包み込む――夾叉だ。このまま射撃を受ければ命中してしまうことを意味して
いる。
「初弾から夾叉を出してきますか。いい腕をしていますね」
「言ってる場合か。<ヴァルキューレ>には回避運動に集中しろと伝えろ」
 <グラーフ・ツェッペリン>にもメガ粒子ビームが降り注ぐが、いずれも距離は遠い。
「第二射、撃てぇ!」
 彼女は第一射で得られたデータをもとに射撃データを修正。再び閃光がきらめいた。が、
やはり遠い。射撃データを修正すると言っても、こちらは加速し、連邦艦隊も回避運動を
取っているために満足な修正が行えるわけではない。さらに、指向している砲が前部一基
しかないのも修正を難しくしていた。
「取り舵40度。三射目まで舵そのまま」
「取り舵40、よーそろー!」
 加速と減速、変針を繰り返し、敵の射撃を読み、ギリギリのラインで機動を行う。敵の
射撃のタイミングを読み間違えれば即座に被弾し、あまり長い間同じ機動をしていればそ
こを狙われ、逆に過度の機動は推進剤の消費を莫大なものにしてしまう。一発の被弾が致
命的な損害となることも多く、回避運動は慎重かつ大胆なものが求められる。
 宇宙での艦隊戦は砲戦と言うよりも機動戦だ。艦隊の規模が小さければ小さいほどその
傾向ははっきりする。そして、それならば艦隊の戦闘力の優劣をつけるのは艦の性能では
なく、艦長の能力に由来するものとなる。
63創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:14:55 ID:Z4qP3rH0
64創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:15:02 ID:/bxKa/pu
  
65創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:15:15 ID:bq3cqr2k
支援
66滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:15:32 ID:8ybZTJs0
 22/38
「<ヴァルキューレ>に至近弾!」
 メガ粒子砲の光芒が彼女の脇を掠め、収束し切れなかったメガ粒子が装甲表面に細かい
破孔を開けていく。もう少し機動が遅れていたならば直撃していただろう。
「A,B砲塔、主砲斉発! 第三射、てぇ!」
「スラスター全開。急ぎ舵戻せ」
 大角度で舵を切ったツェッペリンはほぼ横腹を敵艦隊に見せる形となっている。後部砲
塔が旋回し、ツェッペリンは敵艦隊へとその全力をもって射撃を行った。彼女が放った6
発のビームは先頭のサラミスを挟み込むように飛びぬけ、至近弾となる。
 すぐさま旋回用の艦首と艦尾のスラスターが噴射し、投影面積を小さくしようとするが、
それよりも早く敵のメガ粒子ビームが降り注いだ。4発の内の1発が艦尾を掠めていった。
「ミサイル群をキャッチ! 数、およそ20。後方にさらに20続く!」
「面舵一杯――艦とミサイルを正対させろ。第二戦速に減速。対ミサイル戦闘、ハードキ
ルおよびソフトキル用意」
「カウンターミサイル発射! 全CIWSをミサイル迎撃に割り当てろ。デコイ、チャフ射出用意!」
「カウンターミサイル、1番から6番まで発射! 次発装填中」
 戦闘が激しさを増していくように、戦闘艦橋でも命令と報告が激しさを増して飛び交う。
 対艦用の大型ミサイルは破壊力以上に大型ゆえの命中率が恐れられる兵器だ。大型のた
めに探知機器が優れているのだ。ヘルシング艦隊が対ミサイル戦闘に忙殺されている間に
もサラミスのメガ粒子砲は次々と放たれ、彼らに回避運動を強要する。
「CIWSの迎撃を前面に集中させろ。道を閉じさせるなよ」
「<ヴァルキューレ>、前面に出ます! 機動合わせますか?」
「くそっ、そうしてくれ」
 素早く単縦陣を組んだ三隻は出来る限り正面への投影面積を少なくし、被弾を避けよう
と機動を開始する。
 連邦軍はメガ粒子砲で機動を制限し、ミサイルの命中を確実なものにしようとしていた。
しかし、ヘルシング艦隊は見事と言うほかない、縫うような機動で襲いかかるビームやミ
サイルを避けていく。
 熟練した艦長らの相互の信頼関係によって生み出される複雑な艦隊機動は、それだけで
一つの兵器システムのように機能していく。だが、襲いくる弾雨をすべて避けきることな
どできはしなかった。<ヴァルキューレ>に一発のメガ粒子砲が文字通り突き刺さる。
「<ヴァルキューレ>に命中弾!」
 誰もが彼女の最後を思い描いた――だが、彼女は持ちこたえた。その身を貫く激痛に怒
り狂うかのように二基の主砲を斉射する。
「<ヴァルキューレ>より入電。全戦闘力、未だ発揮可能。本艦戦闘に支障なし、とのこ
とです」
「針路そのまま、対艦ミサイル連続発射」
 艦首のミサイル発射管から、連邦軍とほぼ同様な大型対艦ミサイルが一斉に射出された。
無論それに二隻が続く。
67創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:15:37 ID:Z4qP3rH0
68創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:15:40 ID:W3YXrO8I
69創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:15:59 ID:/bxKa/pu
  
70滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:16:06 ID:8ybZTJs0
 23/38
 状況は混乱の極みにあった曳光弾とメガ粒子ビームが無数に飛び交い、幾重にも噴射炎
の軌跡が絡み合うその空間――文字通り、魔女の大釜の中のような光景だった。死の弾丸
が煌き、死の華が次々に咲いていく。未だケーニッヒはその中心で踊り続け、列機である
フリッツはそれについていくのがやっとだが、なんとか飛び続けている。
 二機とも、損傷が目立っていた。ケーニッヒのゲルググは左腕のマシンガンを吹き飛ば
され、さらに機体各所には弾痕が数え切れぬほどに刻まれている。フリッツのザクに至っ
ては左腕そのものがなくなり、シールドやあちこちの装甲が歪な形に曲げられていた。
「ザイドリッツ3、左にブレークしろ!」
 ディスプレイの隅に見えた光景に、思わず叫んだケーニッヒはすぐさまスロットルペダ
ルを踏み込むと、敵機に追撃されているザイドリッツ3――<ジークフリート>所属のリ
ック・ドムUを援護すべく行動を開始した。
『すまんな、援護を頼む!――くそっ、こいつ!』
 本来ならばすぐさま僚機による支援が入るはずだが、どうやら彼の列機は敵に食われて
しまったらしい。
「フリッツ、ついて来い!」
『了解!』
 ゲルググはケーニッヒの操縦に的確に反応し、スラスターノズルからは青白い噴射炎が
さらに伸びる。フリッツのザクがそれに続く。
 ザイドリッツ3はケーニッヒの言うとおりに左へと急旋回、加速力を活かして敵機との
距離を開けようとするが、ドムの動きは焦りからか、無駄な機動で運動エネルギーを失っ
てしまい、思うような加速が得られない。それに対し、彼を追うジムスナイパーUの動き
は滑らかで、無駄のない動きで着実に間合いを詰めていく。時折織り交ぜられる正確な射
撃がドムの機動をさらに追い込む。
「くそっ、ライフルがあれば――!」
 一直線に加速したケーニッヒはジムをサイトに納めるが、未だ距離が遠い――マシンガ
ンでは充分な効果は得られない。射撃を行うが、牽制程度だ。敵機はドムを深追いしよう
とはせずに、新たな獲物に狙いを定めたかのようにゲルググへと機体を向け、手持ちの
ビームライフルを放つ。
「フリッツ、俺のケツを守ってくれ。あいつとダンスする――くれぐれも俺のケツにキス
してくれるなよ!」
『生憎そんな趣味じゃないんですがね――了解!』
 ケーニッヒは未だフリッツと飛び続けていた。彼に自分の後ろを守らせ、ドッグファイ
トのための安全を確保した。敵機の得物はライフル――ならば、距離をつめなければなす
すべもなく落とされてしまう――。
 ビームライフルの火線を最小限の機動でかいくぐり、僅かな隙間を飛びぬけるケーニッ
ヒ。敵機はビームライフルを放つ一瞬だけ機体を無駄のない動きで反転させ、射撃を終え
ればまた反転。スラスターを全開にして距離を取るということを繰り返していた。機動力
は互角。彼我の距離は思うように縮まらない。
「――ッ!」
 敵機が反転、ライフルを構える少し前、そのタイミングを見計らってケーニッヒはさら
に加速した。慌てて放たれたビームを掠めるように回避。ターゲット・イン・サイト――
トリガーを引き絞る。90ミリが猛烈な勢いで吐き出される。反動すらもコントロールす
る正確な射撃。
 ジムのパイロットも伊達にスナイパーUを与えられていたわけではなかった。回避され
た瞬間、すぐさま不利を悟ってシールドでその身を守り、ライフルを捨てた右手では接近
戦に備えてサーベルを抜き放っている。
 だが、ケーニッヒはそれを凌駕する。ゲルググも左腕にサーベルを握らせる。ジムが
サーベルを振るう。ケーニッヒは急減速――軌跡を残して宙を斬るジムのビームサーベル。
さらに斬撃を放とうと振りかぶるジムを、何発ものビームが貫いた――ゲルググJの左腕
に搭載されたビーム・スポットガンが火を噴いたのだ――彼が抜き放ったサーベルはフェ
イントであった。彼を次に襲ったのはフリッツの悲鳴のような報告だった。
『新手です!』
「くそっ、息つく暇もない――」
 双方のMS隊は文字通り弾雨の中での戦闘を余儀なくされた。大口径メガ粒子砲が飛び
ぬけ、ミサイルが乱舞し、大小の対空砲弾が炸裂する。機関砲は狂ったかのような勢いで
連続で火を吐き続けている――彼らは多種多様の致死性の弾丸に満たされたその空間を縦
横無尽に駆け抜け、命をすり減らして死のためのダンスを踊り続ける。
71創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:16:10 ID:yvWEApkU
72創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:16:18 ID:Z4qP3rH0
73創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:16:27 ID:W3YXrO8I
74滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:16:39 ID:8ybZTJs0
 24/38
 戦闘は絶頂を迎えようとしていた――両艦隊ともほぼ全速で突進し、その主砲を放ち合
い、複雑な機動で彩られる戦闘。距離は縮まり、射撃の精度は増していく。それに反比例
して回避運動の猶予は減っていく。両艦隊が比較的小規模、高速発揮が戦闘のテンポアッ
プに拍車をかけていた。
 戦況はほぼ互角で進んでいた。ヘルシング艦隊の艦長誰もが開戦以来、あるいは戦争初
期から艦隊勤務のベテランだったことが、この状況にもかかわらず戦闘を互角に進められ
ていたのだ。
 熟練した艦長に指揮された艦の動きというのは、切れの良い、鮮やかな機動をする。そ
の慎重かつ大胆な艦の動きは戦場で安全かつ、一方では厄介極まりない存在とする。ヘル
シングの指揮する<グラーフ・ツェッペリン>はその好例であった。
 旗艦<グラーフ・ツェッペリン>には何発かの命中弾をもらっていたが未だ致命的な直
撃弾はなく、彼女を狙った砲火はそのことごとくを掠めるような機動で回避された。まる
で翻弄するような機動――相対したサラミス級の艦長はその機動に畏怖すら覚えた。
 <ジークフリート>もやはり目立った損傷はなかった。全身に浴びた至近弾とミサイル
の破片が、モスグリーンの艦体に無数の傷をつけていた。また、彼女の二基の主砲は敵艦
を捉え、一隻を戦列から落伍させている。
 もっとも損傷が激しいのは矢面に立っていた<ヴァルキューレ>だった。一隻を撃沈す
る戦果を挙げているが、その損傷は無視できないレベル――いや、満身創痍と言って良い
だろう。先ほどの直撃弾を耐えたとは言え、ダメージがないわけではない。さらに、後方
へ下がれという命令を頑なに拒否したために損害は拡大し続けているのだ。
 戦闘の絶頂は、あるいは彼女らの戦闘の絶頂と――いや、この戦闘における公国軍の絶
頂とも言っていいだろう。つまり、彼ら、彼女らの時間は終わりを告げたのだ――素晴ら
しき、あるいは苦難の時間が。
 すべての責務からの、すべての苦難からの開放を告げる時間は、差し迫っていた。その
意志を問わずに。

 破滅の時間は訪れようとしていた。MS隊隊長――名をヴィンターと言ったが、ベテラ
ンの域に達していた彼は与えられたリック・ドムUを部下に譲り、慣れ親しんだザクU、
その最終発展型であるタイプFZを駆って戦場を疾駆していた。
 MS−06FZ、一年戦争の傑作機、ザクUの最終発展型であり、幾多の改良が施され
初期型とはその外見以外はほぼ別機と言っても良かったが、それでも装甲厚は初期型から
対した変化はなく、指摘され続けた防御力の低さと、対弾性の無さはついに改善されるこ
とはなかった――それがザクという機種の限界だったのだ。そして、その防御力の低さが
ヴィンターが撃破される要因となったのだった。
 彼が未だザクに乗っていたのはザクという機種への愛着以外の何者でもなかったが、そ
れ故に彼はザクの活かし方を知っていた。ザクUの小回りの良さを存分に活かし、彼は性
能で勝る連邦軍機をドッグファイトに持ち込み、3機もの敵機を血祭りにあげていた。内
一機はジム・スナイパーU、この時点で最強の量産型MSともいえる機種である。
 しかし、破局は唐突に訪れた。連続したドッグファイトと、幾多の被弾に機体自体がつ
いに限界を迎えたのだった。高G旋回を終えたとき、彼の機の右腕は正常な動作を果たさ
なかった――つまり、右腕のバズーカを構えることができなかったのだ。疲弊しきった装
甲を90ミリ弾は易々と貫いた。被弾による故障、製造品質の低下、整備不良、突発的な
故障――理由はいくつも挙げることができるが、その故障が彼の死因となったことだけは
間違いがなかった。
75創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:16:50 ID:Z4qP3rH0
76創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:16:59 ID:yvWEApkU
77創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:17:15 ID:W3YXrO8I
78滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:17:16 ID:8ybZTJs0
 25/38
 ヴィンター機の撃破は、公国軍の限界を象徴していた。彼らの時間は終わりを告げよう
としていたのだ。
 戦術的奇襲を受けるというアドバンテージを連邦軍は見事にひっくり返した――その数
の暴力と、強固に構成された組織戦闘ドクトリンによって。
 ヘルシング戦闘団はその数を7機にまで減らしていた、それに対し、連邦軍は少なくと
もその倍以上――疲弊の見え始めたヘルシング戦闘団に、その数の差を埋めることなどで
きはしなかったのだ。
『くそっ! ハンス、今行く。それまで持ちこたえろ!』
『もう、いいんです少尉。僕の方は、自力でなんとかできます』
『そういうわけには――畜生、こいつら!』
『さようなら少尉。敵機をできるだけ引き付けて、艦隊への攻撃を遅らします。お元気
で』
『……ヴァルハラでまた会おう、ハンス』
『ええ、ヴァルハラで』
 ヘルシング戦闘団はこの状況でもなんとか今まで2機分隊を保っていたが、連邦軍に攻
め立てられてすぐさま分断されてしまう。一対二、あるいは一対三で戦う構図がそこかし
こで見え始め、圧倒的不利なドッグファイトを強要された彼らを横目に、艦隊の懐へとM
S隊が飛び込んでいく。
 なんとか突破を阻止しようとベテランが気を吐くが、何機ものジムに取り囲まれては思
うような機動はできない。ついには無茶な機動をしたところを狙い撃たれる。散り際に一
機でも多く敵機を道連れにしようと突進するが、それすらも叶わなかった。
 自機へと敵の注意を引き付けようと派手な機動を行った新兵は、その目的を果たせるほ
どの操縦技術を持っていなかった――つまり、すぐさま機動を捉えられて撃墜されてしま
った。彼の最後の言葉は母の名でも、恋人を呼ぶ声でもなく、謝罪の言葉だった――それ
は一体、誰に宛てられた謝罪だったのだろうか。
 数に圧され、分断され、各個に撃破されていくヘルシング戦闘団。彼らは徐々にその数
を減らしていく。誰もが状況に抗い、その最後の瞬間まで戦友を救おうと必死の想いで戦
う――だが、死は、その健気な想いさえ飲み込んでいく。
 絶望的な状況は、絶望そのものへと変わろうとしていた。
79創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:17:20 ID:Z4qP3rH0
80創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:17:53 ID:liq4jRkB
81滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:18:04 ID:8ybZTJs0
第三章

 26/38
 ヘルシング戦闘団の壊滅は、そのまま彼らの艦隊の終わりを意味していた。次々と懐に
飛び込んでくる連邦軍機を止める手立ては、もうなかった。
 破局が最初に訪れたのは、やはりと言うべきだろうか、最前面で奮戦する<ヴァルキ
ューレ>だった。全ての障害を突破した二機のジム・コマンドはその手に握られたハイ
パー・バズーカを、彼女が回避運動を終えたそのとき――不可避のタイミングを狙って発
射された。
 直撃――B砲塔基部に命中した280ミリの一弾は、砲塔をその下から吹き飛ばした。
さらに、爆圧はその上のA砲塔の二本の砲身を捻じ曲げ、射撃を不能ならしめた。彼女の
戦闘力のそのほとんどが、一瞬で奪われたのだ。艦体右舷に突き刺さったもう一発は、さ
らに致命的な損害を彼女にもたらした。何枚もの装甲を貫通し、艦の中心部近くで炸裂―
―大きく口を広げた破孔からは様々な破片が――人間の物も含めて噴出していた。
 よろめくように、あるいは猛烈な怒りに耐えるかのように、彼女の200メートル超の
巨体が震えた。彼女は、この一撃も耐えた――耐えた、と言っても、即座の爆沈を逃れた
というだけである。主兵装を失い、幾多の被弾をその身に刻んだ彼女に、戦闘力は最早残
されていない。満身創痍のその体は、いつ轟沈してもおかしく無い状況。
「……<ヴァルキューレ>より発光信号、『我レ被弾、戦闘続行不能なれど任務継続
ス』」
 彼女の状況を歯を食いしばるように見ていたノダックが、<ヴァルキューレ>艦長から
の発光信号を、一音一音、噛み締めるかのように読み上げる。
「<ヴァルキューレ>に返信、艦隊司令より<ヴァルキューレ>艦長。貴艦の義務は終了
セリ。避退を許可ス。速やかに本宙域より離脱セヨ、だ」
「返信、『貴信了解。我レ、これより任意の方向へ避退セントス』」
 それを報告したノダックは、小さくため息をつき――そして目を見張った。彼女は、<
ヴァルキューレ>の取った行動に理解しかねるといった声音で言った。
「一体どこに避退してるんだ、<ヴァルキューレ>は!」
 <ヴァルキューレ>は身をよじるように陣形から離れていく。だが、彼女の鼻先は連邦
軍艦隊のいる方向を向いたところで止まり、加速を開始した。轟然と。未だ健在の対空砲
を怒り狂うかのように猛然と振りたて、ただひたすらに前方へ、敵艦隊へ、真正面からの
突撃。
「――くそっ、全砲、<ヴァルキューレ>を援護!」
 二基の熱核エンジンからは光芒が見たことの無いような勢いで流れ出、それは太く、長
い尾を曳いて輝いていた。敵弾が彼女に集中し、その身を引き裂いていくが、彼女はそれ
でも突撃を止めない。その光景は戦士たちの魂を、ヴァルハラへと導くかのようだった―
―その戦乙女の名の通りに。
『我レ、これよりヴァルハラへと突撃ス。幸運を。幸運を』
 ヘルシングはその光景、その行動に名状しがたい何かを覚えた――しかし、いつまでも
見とれているわけにはいかなかった。彼らの意図、それを忘れてしまっては彼らの献身に
応えることはできない――そしてそれは、この世で最も恐ろしいことだ。
「取り舵、敵艦隊の目の前を横切るぞ。最大戦速」
 僅かに遅れて、復唱。急激な加速Gと旋回Gに、ツェッペリンの巨体が震える。
「どうせ海で死ぬのなら、ああいう風に死にたいものですね」
「……私は、彼らのような者たちを見るたび、つくづく自分が嫌になる」
 そう言ってヘルシングは制帽を深く被りなおした。まるで自分の表情を隠すように。
「……あれこそが、公国軍人の鑑だ」
 ただただ状況に圧倒されているように押し黙っていたシュトロープが搾り出すように呟
いた。
 慈悲深き一撃は訪れた。何条ものメガ粒子ビームが彼女を貫いたとき、その体が一瞬膨
らみ――そして、内部から産み出た炎に飲みこまれるかのように巨大な火球と化した。何
人もの男の命と、そして自身を燃料とした彼女の炎の華は一際大きく、見る物に畏敬の念
すら抱かせた。
 ヘルシングは離れていく彼女をずっと眺めていた――いや、ヘルシングだけではない。
艦橋の男たちは、その華を食い入るように見ていた。
 爆発の後に残ったのは、爆発を逃れた僅かな艦首部と、艦橋の男たちの敬礼だけだった。
82創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:18:08 ID:/bxKa/pu
  
83創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:18:09 ID:Z4qP3rH0
84滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:18:42 ID:8ybZTJs0
 27/38
 <ヴァルキューレ>の最後は、自分の行く末を暗示しているかのようで、ケーニッヒは
少し嫌になった――それと同時に、少し嬉しくもあった。自分の抱いている気持ちが、自
分だけではないことに。
 すでに状況は戦術以下の問題になっていた。ヘルシング戦闘団は壊滅――残っているの
は僅かに3機だけである。フリッツとも散りじりになり、ケーニッヒは単機で群がる敵機
との死闘を繰り広げていた。
 感慨に浸っている暇は、彼に与えられなかった。敵のMS隊は一時<ヴァルキューレ>
へと向かったものの、すぐにその矛先をツェッペリンへと向けている。彼女を守るものは
自身の対空砲以外には何も無い。
 今、2機のガンキャノンがジムに護衛されてツェッペリンへと向かっていた。ケーニッ
ヒはすぐすまそちらに機を向け――そのとき、ディスプレイの隅の光景が、彼の目に飛び
込んでくる。最早この戦場ではほとんど見かけられなくなったザク。無論、敵機の執拗な
追撃に晒されていた。ザクは左腕と頭部、さらには右脚まで失い、幾多の被弾で酷い有様
となっているが、なんとか飛び続けている。だが、すでにその運命は決まっているような
ものだった――フリッツの運命は。
「――フリッツ!」
『中尉……』
 ミノフスキー粒子の影響か、あるいは通信機の不調か分からなかったが、フリッツの声
の感度は酷く悪かった。だが、それでも彼の声が喜色に満ち、そしてまた、それには苦悶
が混じっているのがケーニッヒにはすぐに分かった。
「待ってろ、すぐに援護に行く!」
『来ないでください。中尉――』
 ケーニッヒは、言葉を失う。彼もまた、そうなのだ――未だ二十歳にもならぬ彼でさえ、
少しでも艦隊を守ろうと戦っている。その身をもって、健気にも。
『……中尉、艦隊です。僕じゃない、艦隊が危ない。……もう僕は駄目です、怪我をして
います。帰ったって、助かりません』
 彼はずっとうわ言のように艦隊へ、艦隊へと繰り返していた。ケーニッヒは歯を割れん
ばかりにかみ締め、操縦桿を握り締める。己の無力さを、そうすれば緩和できるかのよう
に。
『……今までありがとうございました。ここまでです。すいません』
「……お前が謝ることは、何もないだろう、フリッツ」
 声を出すのが、ひどく苦しい。無力感は、怒りに。それは体内で膨れ上がり、暴発の時
を待っている。
『中尉、ケーニッヒ中尉。お元気で。僕は、ヴァルハラに、僕もヴァルハラに行けます
か』
「ああ、きっと。またそこで会おう、フリッツ」
 通信が途切れた――ケーニッヒは、怒りを叩きつけるかのようにフットペダルを一杯ま
で踏み込んだ。強烈な加速Gに体がシートに押し付けられる。彼は歯を食いしばる――G
と、怒りに耐えるために。
(何度目だ、これで!)
 声に出さぬ彼の激情が乗り移ったかのように、ゲルググはそれ自体が一個の弾丸と化し
たかのように加速していく。
(畜生、畜生――どいつもこいつも!)
 背後で爆発の光が広がっていく。彼は振り返らない。その激情を叩きつけるべく、ただ
真っ直ぐ。
85創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:18:45 ID:Z4qP3rH0
86創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:19:16 ID:W3YXrO8I
87滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:19:17 ID:8ybZTJs0
28/38
 まったく、酷い有様だと彼は受領したばかりの愛機、ジム・スナイパーUのコックピッ
トで思った。あのような部隊に、ここまでやられるとは、まったくふがいない。すでにソ
ロモンは陥ち、戦争の帰趨は分かりきっている。こんな宇宙の片隅で死ぬのは、ちっとも
面白くない。
 3機のジム・コマンドと彼によって構成される小隊は未だ全機が健在だった。細かい損
傷こそあるものの、戦闘に支障はないレベル。すでに彼らの小隊は3機のジオン機を撃墜
し、彼自身もその内の2機を撃墜していた。連邦内にもいくらも無い最新鋭機を受領した
のだから、これぐらいの戦果は挙げてしかるべきだ――それも、こんな戦場ならばなおさ
らそうだ、と彼は思う。
 すでに戦闘は彼の目から見れば終わりかけていた。少なくとも彼の獲物、ジオン機はも
う見られない。撃墜確実二機では、すこし物足りないと彼は思っていたが、獲物がいない
のならば仕方が無い。大物は自機の火力ではとてもじゃないが撃沈できるものではない。
ゆえに彼と彼の小隊は手近にいた量産タイプのガンキャノンと臨時の編隊を組み、その援
護を行っていた。
 しかし、奴らあのような戦力でサイド6に殴りこみをかけるとは、一体何を考えている
のか。付き合わされるこっちの身にもなってほしいと彼は思う。
 彼の名はアンドレイと言ったが、さして彼の名前は関係ない。
 その彼、アンドレイの目は降ってきた厄災を捉えられなかった。油断していた、としか
言いようが無いが、この時に限っては、理由は結果に関係しない――たとえアンドレイが
気付いていたとしても、ケーニッヒを止めることはできなかったろうから。

 頭上から、『何か』が降ってきた。その『何か』は少しも速度を緩めることなく――い
や、さらに加速。猛烈な勢いで降り来たる。
 それが飛びぬけたとき、閃光が二つ咲いた――それは、アンドレイらが護衛していた2
機のガンキャノン。一機を左手に逆手に握られたビーム・サーベルで切り裂き、反転。両
腕を突き出すように構え、右腕のマシンガンを、左腕のビーム・スポット・ガンを連射し
た。その全火力を叩き付けられたガンキャノンは耐えられるはずも無かった。何の造作も
なく、瞬く間もない、鮮やかな殺陣。
『――な、一体なんだ!?』
『畜生、二機ともやられたぞ!』
「馬鹿野郎! 敵モビルスーツ! なんで気づかなかった!」
 アンドレイはうろたえる部下たちを怒鳴りつけ、すぐさま機体を捻る。彼のパイロット
としての勘が彼にそうさせたのだ。そして、それは結果として彼の命を救うこととなった。
 彼の眼前には未だビームサーベルの赤い軌跡が残っているかのようだった。かろうじて、
避けられた。少しでも機動が遅れていたならば、やられていた。斬撃を放った機は追撃し
ようとせず、反転、すぐさま離脱にかかった。
 返り血を浴びたかのように赤いゲルググ。血に飢えたかのような紅い単眼。その輝きが
未だ彼の目に残っていた。背中に冷たいものが流れる感覚。
「追うぞッ! フォーメーションをしっかり組め、手練だ!」
 背中を這う感触を振り払うかのように叫ぶ。すぐさまゲルググを追う――戦慄を覚えた
ことを忘れるために。
88創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:19:21 ID:Z4qP3rH0
89創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:19:44 ID:yvWEApkU
90滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:20:20 ID:8ybZTJs0
 29/38
 自分を追ってくる4機の敵機を確認して、一人ケーニッヒは頬を吊り上げた。獰猛な、
野性的な笑み。
 もはやこんなことをしても、もう何の意味も無いのではないか、と彼の心の中の、どこ
か冷めた部分からそんな言葉が浮かんだ。だが、すぐにその言葉は打ち消される。未だツ
ェッペリンは健在。ヘルシングも戦闘艦橋で指揮を執り続けているだろう――ならば、ま
だ戦う。それになにより、新たな約束を交わしたのだ――ヴァルハラで会おう、と。
 自機のスピードを巧みにコントロールして、敵機とつかず離れず、攻撃を受けるギリギ
リの距離で敵機を引っ張り続ける。ゲルググJにはそれを可能にするスペックが、ケーニ
ッヒにはそれを可能にする技量があった。
 適当なタイミングを見計らい、反転。マシンガンを連射。すぐさま敵機は散開。その動
きにあまり簡単にはいきそうに無いな、と彼は思う――だが、何も敵機を撃墜しなくても
良い。こちらが落とされても良い。ただできるだけ長い間敵機を引きつければとりあえず
は良い。だが距離が問題だ。ツェッペリンから離れすぎれば、援護ができなくなる。
 散開した際、僅かにその挙動が遅れた敵機へと距離を詰める。すぐさま左右から敵機が
挟みこもうとするが、それをすり抜けて敵機へと肉薄。
 パイロットのうろたえる様が、そのままMSの挙動に現れたかのような出鱈目な射撃。
意に介さず、斬撃。逆手に握られたサーベルの描く弧は、そのままジムに上書きされる。
彼はそれを確認する暇はない。一際動きの良いジム――ジム・スナイパーUがすぐさま接
近してきている。
 これで、彼らはこちらを無視できないはずだ――そう思った自分が、酷く残虐な、血に
飢えた猛獣のように思えたが、あまり気にはならなかった。怒りが心を麻痺させているの
か、戦場では贅沢な考えだと自分でも分かっているためか。
 ちらりと艦隊を確認する。艦隊は全速力で連邦艦隊の眼前を横切ろうとしていた。<ヴ
ァルキューレ>の献身により、その企みは半ばまで成功しているかのように見えた。まだ
艦長は諦めていないらしい――ここが正念場か。ケーニッヒはそう思い、小さくため息を
つき、ジムの無表情なバイザーアイを見据える。
 すぐさま激しい戦闘機動は再開された。敵機は攻め方を変えてきていた。残されたジ
ム・コマンドは常に2機ワンセットで動き、こちらを攻め立ててくる。その2機の連携を
崩そうとすれば、絶妙な位置でジム・スナイパーがそれを邪魔する。まずはあのジムを片
付けなければ――ケーニッヒは高速機動で揺すぶられるコックピットの中でそう思う。だ
が、そう簡単にはいきそうにない。
 ケーニッヒの死闘は未だ続く――彼がそれを望んでいるかどうかは、分からない。
91創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:20:23 ID:Z4qP3rH0
92創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:20:57 ID:bq3cqr2k
93創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:21:06 ID:/bxKa/pu
  
94創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:21:09 ID:W3YXrO8I
95滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:21:13 ID:8ybZTJs0
 30/38
 <ジークフリート>艦長にも、無論その覚悟があった。三機のジム・コマンドが艦隊へ
と接近した時、それが証明された。左舷スラスター全開――ツェッペリンの盾となること
を素早く命じた。すでに一基のみとなったメガ粒子砲が吼えるが、敵機は素早く散開して
それを回避。各個に攻撃態勢。
 ヘルシングはその光景を見、表情を歪めた――彼らがその身を差し出したことへの感謝。
そして猛烈な自己嫌悪――自らが命令するまでもなく、彼らがあのような行動をとったこ
とに、自分は安心感を覚えていることへの。
 ケーニッヒはその光景を見、ただ感謝した。その行動を取らせたものを共有していると
いう感覚に、彼は打ち震える。すぐさまそちらへと機をめぐらせ、フットペダルを一杯ま
で踏みつけて加速する。
 ジムがバズーカを腰だめに構える。
「ウオォォ――!」
 加速は緩めない――やらせはしない。自分が叫んでいることに、ケーニッヒは気付いた。
 手は届いた。彼は感謝した。
 彼のゲルググは彼の想いに応えるかのような速度で、ジムへとその速度の全てをぶつけ
た。最も手近に位置した一機に激突、鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合い、火花とともに破片が飛
び散る――その衝撃でバランスを崩し、弾き飛ばされていく敵機。彼は激しく揺れる機内
で、執念に取り付かれたかのように照準をつける。照準は、未だ立ち直れていない機では
なく、別の一機。
 獣じみたケーニッヒの叫び声とともに曳光弾が吐き出され、弾丸はジムの機体を縫うよ
うに着弾。手にしていたバズーカを小爆発とともに叩き落とし、頭部を打ち砕き、コック
ピットを貫通した。すぐさま照準を最初の機に付け直す――パイロットは失神したのだろ
うか、機体を立て直す気配は無い――だが、慈悲もなく、射撃。咆哮。全弾命中。沈黙。
 二機のジムを瞬く間に、一寸の無駄さえ無い、流れるような動作で撃墜したそのゲルグ
グに、アンドレイは恐れを覚えた――まるで、猛獣が獲物を襲うかのようではないか。
「あと、一機ィッ!」
 三機目、最後のジムは、攻撃態勢を取ってはいなかった。周囲の状況にまるで注意を払
わないかのように、飛び続けている。ケーニッヒはその行動に一瞬訝しんだが、その未来
位置へと素早く照準。有効射程距離内。ジムの背中を貫く弾丸の軌跡が見えるようだった。
トリガーを引き絞る、満足げに。徹甲榴弾が連発される――だが、曳光弾は闇と敵機を切
り裂く奔流とはならなかった。
 発射された90ミリは僅かに3発。内2発が敵機の脚部に吸い込まれるが、敵機は何ご
ともなかったかのように飛び続ける――<ジークフリート>を越え、ただただ<グラー
フ・ツェッペリン>へと。打ち上げられる対空砲火は、もはやなんの脅威もジムに与えな
かった。ジムは悠々と赤い艦体に狙いをつけ、ハイパー・バスーカを発射。身を翻し、離
脱間際にもう一発。発射された二発の280ミリは、寸分違わずツェッペリンの赤い艦体
に命中――半ダースの対空砲と機関砲だけでは、MSは止められない。当たり前のことだ。
 ケーニッヒはその光景を呆然と眺めていた。残弾無しという警告灯の瞬きと、ツェッペ
リンの爆発が暗いコックピットを照らしていた。
 彼にただ呆然としている贅沢など与えられるはずがなかった。衝撃が襲った――だが、
攻撃を受けたのは彼のゲルググではない。後方カメラが<ジークフリート>の終末の姿を
捉えていた。
96創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:21:22 ID:Z4qP3rH0
97創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:21:46 ID:QtfwlhiE
98創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:21:54 ID:W3YXrO8I
99滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:22:05 ID:8ybZTJs0
 31/38
 猛獣の如く戦っていたゲルググが、一転、力が抜けたかのように直進し始める。アンド
レイはピタリと狙いをつけると、一人ほくそ笑んだ――もらった。
 引き金を引く瞬間、それを邪魔する者がいたことに、彼は激昂した。機関砲弾が次々に
着弾し、彼に不快な音と振動を与える。
「クソったれがぁー!」
 毒づき、すぐさま機体を射線から逃し、そのうるさい相手へとライフルを向ける。ジ
ム・スナイパーUの装甲はCIWSの40ミリでは貫けない。
 トリガーを引く。連射する。ただただ怒りをぶつけるかのように連射する。部下もそれ
を受けて手持ちの火器を放つ――<ジークフリート>へと、猛烈な射撃を浴びせる。
 アンドレイのジム・スナイパーUが装備していたビームライフルは、連邦軍の開発した
MS用ビーム兵器の中で最も高威力を持つ火器だった――つまり、MS携行火器としては
両軍合わせてもトップクラスの火力。満身創痍の<ジークフリート>は、それが生み出す
破壊力に耐え切れなかった。
 疲弊しきった装甲を易々と貫き、何条ものメガ粒子ビームが一発ごとに彼女を死へと確
実に追いやる。左舷エンジンが脱落し、直撃を受けたそれは、光芒と共に爆発。爆発が収
まったとき、彼女の艦体は未だ健在だったが、エンジンは止まり、対空砲火はもう打ち上
げられなかった。<ジークフリート>は完全に沈黙した。
「――そう、分かりゃいい。そうやって黙りゃいいんだ」
 アンドレイは笑いと共にそう言った。巡洋艦一隻共同撃破――こいつは良いじゃないか、
とてもとても良い戦果だ。最後にこんな大物を食えるとは、愉快でたまらない!
 彼の笑いは、そう長く続かなかった。ゲルググが攻撃を終え、離脱しようとするジムを
その牙にかけた。ゲルググの腕の中では、ジムが痙攣するかのように震えている――その
紅いモノアイがこちらを向いた――紅い瞳から受ける印象は、やはり猛獣――それも、憎
悪に狂う獣の目だ――彼の笑いは収まった。

 ゲルググはゆらり、と腕の内のジムを引き剥がした。無造作とも思える動きで距離を詰
める。
 アンドレイはその動きに、ある種の根源的な恐怖を感じた。それを否定し、打ち払うか
のようにライフルを放つ。ゲルググは当たらない。ゆらり、ゆらりと緩慢な機動でそのこ
と如くを回避した。またしても、背中を冷たいものが這う感触。今日何度目かの戦慄。体
が震え始める。だが腕にまで、その震えが伝わってこないことが、彼には信じられなかっ
た――ならば、ならば何故当たらない!
 ケーニッヒの鍛え抜かれたパイロットとしての技量は、ほぼ無意識下でも機に回避運動
を取らせていた。<ジークフリート>は、自分がもっと上手くやれば撃破されることはな
かったのではないか。自分はもうこれ以上喪うのは嫌だと口では言いながら、結果はこの
ザマではないか。まったく、度し難い――ケーニッヒの頭の中でそんな言葉がグルグルと
回る。ただ、少なくとも一つ、分かりきっていることがある――彼らを生きて返すことは、
きっと自分はしないだろう――スラスターペダルを、一気に限界まで。
100創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:22:14 ID:Z4qP3rH0
101創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:22:16 ID:QtfwlhiE
102創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:22:21 ID:/bxKa/pu
  
103創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:22:56 ID:bq3cqr2k
104創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:23:00 ID:liq4jRkB
 
105滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:23:16 ID:8ybZTJs0
 32/38
 ゲルググの爆発的な加速。それと共に、赤いゲルググの内部から気迫までもが解放され
たようにアンドレイは感じた。恐怖と共に。体は忠実に反射運動――機を下がらせ、間合
いを詰めまいとさせる。自らのパイロットとしての反応に、彼は冷静さを取り戻す。落ち
着けアンドレイ、敵はどう見ても満身創痍、得物は右腕のビームサーベルのみ。気迫に呑
まれるな。冷静に対処すれば、負ける相手ではない。
「02、04、状況報告!」
『残エネルギー僅か。これ以上は――』
『自分も同様です!』
 部下に言われ、自分も先ほどの連射でそう長くは戦闘を続けられないことにアンドレイ
は気付く。
「馬鹿野郎、言ってる場合か! 行くぞ、援護しろ! 俺が決めてやる――」
 全力で逆噴射をかけながら、ライフルを放つ。ゲルググは先ほどとはうって変わった、
鋭い、無駄の無い機動で回避。それを見、アンドレイはすぐさま機体を反転させた。距離
を取り、こちらのレンジで戦う。1対3、ヤツは俺の獲物だ。負けるはずは無い――だが、
この不安はなんだろう――もしかしたら、獲物は俺ではないのか、そういった不安が頭か
ら離れない。
「クソクソクソ! ヤツの足を止めろ!」
 加速Gと不安に押しつぶされるのを否定するように、アンドレイは部下へと指示を飛ば
し、さらに加速。だが、部下からの返答は返ってこなかった。頃合を見て、機をゲルググ
へと向け――彼が見たのは、両断されたジムと、今まさに串刺しになっているジム――僚
機の変わり果てたその姿。断末魔を挙げる暇もなく、牙を剥いた神速の斬撃。ゲルググは
どこまでも狡猾――あくまで猛獣の如く。赤いビームサーベルはジムのコックピットを貫
き、その機をもって射線からの盾としている。
「畜生、上等だよ……やってやる!」
 アンドレイは回り込み、射線を確保。ゲルググはジムの盾を牙を突きたてた獣が首を振
るかのように、無造作に振り払う――今まで人が乗っていた機体とは、露ほども考えてい
ないように。彼は叫び声と共にライフルを放つ。身軽になったゲルググは最小限の動きで、
ビームを掠めるように回避。
「ゥアァァ――!」
 すでにアンドレイの叫び声は、声になってはいない。もう一発、さらに連射。ゲルググ
はもう回避しなかった――直撃しても、その戦闘力を奪われないよう被弾すらコントロー
ル。右腕を大きく捻り、唯一の武装、ビームサーベルを守る。一発が残っていた左肩を吹
き飛ばし、もう一発が右脚をもぎ取る。意に介さないように、ただただ前へ――ゲルググ
の紅い単眼が、瞬いたような気がした。その時、アンドレイは不安が的中したことを知る
――今更ながら、もう全て手遅れじゃないか――彼は笑う。彼が最後に認識したのは、そ
の紅い牙が自分へと突き立てられる光景だった。
106創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:23:21 ID:Z4qP3rH0
107創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:23:42 ID:W3YXrO8I
108創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:23:43 ID:/bxKa/pu
  
109創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:24:04 ID:wYL2aMK9
支援多すぎw
100越えちゃったwww
110滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:24:38 ID:8ybZTJs0
 33/38
 緊急時を示す嫌な赤色の蛍光灯に照らされた戦闘艦橋は、戦闘時だというのに奇妙なほ
ど静かだった。声が無く、静かだというわけではない。飛び交う種々の報告の声が先ほど
までとは変わり、重く、沈んでいただけだ。
「……<ジークフリート>、総員退艦が発せられました」
「そうか。艦長には羅針盤に体を括るような真似だけはするなと伝えておけ」
 ヘルシングはそれだけ言うと、椅子に深く腰掛けた。体が重い。これまでの疲れがどっ
と襲ってきたかのようだった。
 ヘルシング艦隊。最早、そのように呼べる艦隊は存在しなかった。一瞬の出来事だった
――彼らが戦闘力を喪失したのは。打ちのめされた唯一の僚艦<ジークフリート>の復旧
は不可能と判断、総員退艦が命じられ、乗組員は急ぎ脱出をしている。彼らは連邦軍が救
助してくれるだろう。
 旗艦<グラーフ・ツェッペリン>もまた、その損害は甚大なものだった。280ミリの
一弾が、機関部に直撃したのだ。それにより機関出力は出せても30パーセントが限界だ
った――この戦場で脚を失った彼女に、作戦の遂行はもう、不可能だった。数々の被弾に
よる損害も、ボディブローのようにじわじわと後から彼女の体を蝕んでいた。必死にダメ
コンンチームが艦内を駆け巡るが、その努力は報われない。
 ヘルシングは最終的な決断を迫られていた――最も、答えは決まっているが。
『第二生命維持装置室、復旧は絶望的』
『このままでは火がヴァイタルパート内に進入します。止められません――ハッチ開放を
お願いします。俺達のことは構わんで下さい――ノーマルスーツだけでも、艦にたどり着
いて見せますよ』
『エアの流出、止まりません!』
 ダメージコントロールに駆けつけた男たちを、まるで炎は弄ぶかのようにその努力にも
かかわらず燃え盛る。火を消そうと空気を抜けば、それだけ艦の寿命は短くなる――生命
維持装置に損傷が出ているこの状況ならば、なおさらだ。宇宙戦闘艦とは、かくも微妙な
バランスで成り立っているのだ――ゆえにそのバランスを乱されれば、艦は沈む。連邦軍
だけが彼らの敵では無い。
 今ツェッペリンを襲っているのは連邦軍ではなかった。連邦軍は、ツェッペリンの損害
を確認し、これ以上の攻撃は無意味と判断したのだろう。攻撃は中止されていた。
 艦内電話から次々と、嫌でも入ってくる絶望的な報告は、彼女の断末魔の喘ぎなのだろ
うか――ヘルシングは制帽を深くかぶり直し、大きなため息を、一つついた。
「この辺で、お開きにしようか、諸君。ご苦労だった」
 ツェッペリンの戦闘艦橋で、聞いたことの無いようなヘルシングの悲痛な声を聞いた者
の反応は二つに分けられる――安堵した者、ここまで来てなぜ、という者。シュトロープ
は無論後者である。
「何を言うか、貴様!」
「特務少佐、この艦が浮いていられる時間は、あまりに長くは無いぞ。我々は連邦軍へ降
伏する。貴官はどうするかね?」
 子供をなだめるかのように、淡々とヘルシングは言う。
「降伏、降伏だと! ここまで来ながら、連邦へ降伏すると言うのか――ならば、途上で
果てた者たちはどうなるのだ!」
「逆に聞こう、特務少佐。これ以上死者を増やして、一体どうするつもりか」
「散っていった者たちに、顔向けできんとは思わんのか! 貴様の我侭で、この艦の全て
の者に生き恥を晒せと!?」
「――我侭はどちらか! 確かに私は多くの部下、戦友を死なせた! これ以上、私は部
下を死なせることを拒否する――それのどこが我侭か!」
 滅多に見せぬ、ヘルシングの激昂。シュトロープはその一瞬の気迫に呑まれる。
「……我侭は特務少佐、あなたの方だ。皆が皆、あなたのように大儀と理想を胸に、殉じ
る覚悟があるとは思わないことだ。現実はこれだよ――大儀と理想とやらでは、敵艦一隻、
モビルスーツ一機とて落とせやしない」
「それでも公国軍人か、貴様は!」
「公国軍人だが、その前に私は、この艦の艦長だ。これ以上の戦闘行動は無意味だ――も
っとも、続けたくても続けれんがね。それでもなお、艦に残るというのなら私は止めない。
むしろ、皆が退艦するまで付き合ってやろうじゃないか――私とて責任をとる必要がある。
降伏は、その責任をとる一つの手段だと、私は思うが」
 薄く、小さく笑いながらそう言うヘルシングに対し、シュトロープが取った行動はおよ
そ、最悪なものだった。
111創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:24:44 ID:Z4qP3rH0
112創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:24:53 ID:W3YXrO8I
だって昨日からwktkだったんだもんw
113滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:25:23 ID:8ybZTJs0
 34/38
「どうしても、降伏するというのなら……私は貴様を即座に処刑する権限をもっているこ
とをお忘れなく。罪状ぐらいは、聞いてやってもいい」
「……ほう、まるで子供だな。自分の意見が通らなければ実力行使か。公国が負けるのも
頷けるな」
 シュトロープの手には、士官に支給される自動拳銃が握られている――銃口は、ヘルシ
ングへとピタリと向いている。ヘルシングはそれを一瞥しただけで、シュトロープの顔―
―その表情から怒りは感じられない――を睨みつける。シュトロープは堂々としたものだ
った。こういう状況には、慣れている、とでも言うように。
「これ以上喋るな。貴様はすでに指揮権を剥奪されている――お前たちもだ! おかしな
動きをするなよ!」
 シュトロープの突然の凶行に、艦橋のものたちは即座に反応することが出来なかった。
だがヘルシングは余裕を崩さない。その様子に、シュトロープの怒りは増す。
「拡大解釈というのは、便利なものだな」
「喋るな、と言ったはずだが? それとも喋れなくしてほしいのか」
 シュトロープの声は先ほどより遥かに落ち着いているようだった――だが、そこには膨
大な怒りが混ぜ込まれている。
「滅びゆく者の為に、何ができるのか。何を為すべきか。もう一度よく考えるべきだ――
少なくとも、私に銃を向けることではあるまい」
「公国の為に、私はいつもそうしてきた。今も例外ではない――」
 銃声。一片の躊躇も、容赦もなく。あっけない、間の抜けたような、乾いた音。ヘルシ
ングの士官用重ノーマルスーツの胸部から、赤い液体が球状となって浮かび上がる――
次々と、とめどなく。ぐらり、と彼の体が艦長席から崩れ落ちる。
「――貴様ァ!」
 ノダックの絶叫――銃を抜き放つ前に、銃口を向けられる。シュトロープの顔は、奇妙
なほどに表情というものが喪失していた――いや、僅かにあがった唇と、見開かれて輝く
瞳が、彼が笑っているのだということをノダックに認識させた。
「落ち着きたまえ、少佐。君も士官ならば、敗北主義者が一人死んだぐらいで取り乱して
はならない」
 彼は何がおかしいのか、そう言って笑った。ノダックはそのとき初めて彼の笑顔を見た。
「さぁ少佐、行くぞ。全速前進だ」
「あんたは――」
 ノダックの言葉は、新たな銃声に遮られた。硝煙がたなびく銃口は、シュトロープの物
ではなく、その背後――情勢を見守っていた電測士官の拳銃からである。
 即死だった。その顔は何かに驚いているかのようだった――まるで自分の死すら理解で
きないかのように。
「特務少佐殿は名誉の戦死を遂げられた、だ」
「その言葉すら、勿体無いよ……」
 艦橋で誰かがそう囁いていたが、ノダックの耳には入らない。すぐさまヘルシングの元
へと駆け寄り、その身を抱き起こす。
「艦長! ヘルシング艦長!」
「……取り乱してはならない、か。彼が言った、唯一の……的を得た言葉だな」
「喋らないで下さい! 軍医を、早くしろ!」
「彼を、憎むなよ――私と彼、その罪は変わらないからな……」
 彼の声は、途切れ途切れで、掠れていた――まるで命をすり減らして喋っているかのよ
うに。
 男は最後まで、許してほしいと言って、眠りについた。
 男たちは、それに敬礼で応えることしかできなかった。
 死んだ者の為にできることは、それぐらいしかないのだ――死する者の為にできること
よりも、遥かに少なく。
114創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:25:27 ID:Z4qP3rH0
115滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:25:56 ID:8ybZTJs0
 35/38
 ゲルググもまだ自分を生かしておくつもりらしい。暗いコックピットの中で、ケーニッ
ヒは何をするでもなく、そんなことを考えていた。機体の損傷は激しく、戦闘力のその全
てを失ってはいるものの、機の中枢システムはまだ生きていた。
 停船しているツェッペリンの様子は、ゲルググJの光学カメラをもってすれば簡単に捉
えることが出来た。随分とツェッペリンからも離れてしまった。帰還しようと思えばでき
るが、一体自分はどんな顔をして戻ればいいと言うのか――死すべき時すら逸したこの俺
に。
 もう俺には、何も残っていない。戦友も、帰る場所も。このまま宇宙を漂流して、ぼん
やり宇宙でも眺めながら死のう。悪くない死に方じゃないか――自分にはピッタリだ。彼
はそう決めた。
 彼はノーマルスーツのポケットに忍ばせたジオン・ザ・スターを手に取り、その内の一
本を取り出すと、やはり忍ばせていたターボライターで火をつけた。こんなことなら、何
本か艦長に煙草をもらっておくべきだった。あれを吸った後では、ジオン・ザ・スターで
は満足出来るものではない。こんな時なら、なおさらだった。すぐさま生命維持装置が警
告音を発し始める――もっとも、コックピット内で煙草をふかしているのだから当たり前
だが。今際の一服ぐらい、許してくれたっていいじゃないか、と彼は紫煙に満たされたコ
ックピットの中でぼんやりと思った。
 ノイズ混じりの通信が流れ出したのは、その時だった。
『……諸君、ツェッペリンおよびヘルシング艦隊の将兵諸君、私は、私は副長、リッ
ター・ノダックだ』
 ケーニッヒはそれを聞き、彼の声がひどく重く、ためらいがちなのに気がついた。
『辛い知らせだ。私も、伝えるのがとても、辛い』
 降伏を伝達するのだろう。だが、その役目は本来ならば艦長がするべき仕事であり、そ
の義務から彼が逃れるようなことはしないだろう。ならば、なぜ副長が?
『遺憾ながら――遺憾ながら……』
 ノダックは声を詰まらせる。ケーニッヒはその身を強張らせる――これは、もっと酷い
何かだ。彼はゆっくりと、喋り始めた。
116創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:26:01 ID:Z4qP3rH0
117創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:26:36 ID:QtfwlhiE
118滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:26:39 ID:8ybZTJs0
 36/38
『ヘルシング艦長は、たった今、逝去なされた』
「――なんだって?」
 ケーニッヒは思わず声に出していた。悪い冗談だ――ツェッペリンの艦橋には被害は見
られないじゃないか。ならばなぜ――。
『総帥部、シュトロープ特務少佐に撃たれ、不本意ながら……』
 今度は、言葉すら、出なかった。通信機はケーニッヒの意思を無視するかのように声を
垂れ流すが、そのほとんどは彼の耳には入らない。味方に撃たれて死ぬだと? そんな馬
鹿なことが、あってはならない筈だ。それも、彼のような男が――!
『――艦長の最後の言葉を、私は、諸君らに記憶通りに伝える義務がある――「彼らに伝
えてくれ――彼らは私を良く助けてくれた。彼らがいなければ、私はここまで来れなかっ
ただろう。彼らこそ、神が私に与えてくれた最高のものだ――彼らは、一艦長に授けられ
た、最高の船乗りだ。そして最後まで私につき従い、その身を差し出して散っていった彼
ら戦友諸君。私は彼らにどれだけ感謝しているかを、不本意ながら私が彼らを見捨ててし
まうことをどんなにすまなく思っているか、伝えて欲しい」これが、艦長が最後に遺した
全てだ』
 ケーニッヒは、いやツェッペリンの全乗組員がそれを聞き、自分たちがどれほどあの男
を愛し、敬っていたのかを知り、悲しみと怒りに狂わんばかりとなった――だが、それを
ぶつける相手はどこにもいない。だがそこに、ケーニッヒは含まれない。
『私たちは彼の最後の意志を継ぎ、連邦軍へと投降する。また、最後に、艦長は一つの命
令を遺された――捕虜となっても、最後まで私の最高の、最愛の船乗りとして振舞え――、
と』
 ケーニッヒは決意した――その怒りとともに。俺はまだ生きている。そして、まだやる
ことがあるのだ。ゲルググも、まだ生きている。14Jは独力でも一週間、戦闘行動で無
ければそれ以上の作戦行動が可能なよう、設計されている――猟兵は伊達で付けられた名
ではない。何度目かの愛機への感謝。
 すぐさま煙草をもみ消し、こんなことならば、煙草なんて吸わなければ良かった、と彼
は少し後悔した。コックピット内の空気は生命維持装置によって循環され、ある程度は綺
麗になるが、それでも限界はある。
 全てを伝える必要がある、その決意を胸に彼は機をグラナダへと向ける。ツェッペリン
に連絡を取ろうかと一瞬迷った後、それを止めた――きっと自分は、最初で最後の命令違
反を犯すだろうから。ヘルシング戦闘団、ヴェルター・ケーニッヒ少尉は死んだのだ。
 償うべき者に、その罪を知ってもらう必要がある。死んだ者の為にできることは、それ
ぐらいしかないのだ。
119創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:26:43 ID:Z4qP3rH0
120創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:26:54 ID:liq4jRkB
 
121滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:27:33 ID:8ybZTJs0
エピローグ

 37/38
「――この……ゲルグ……きているの――応答せ……」
 私が意識を失う前、最後に認識したのは哨戒艇が出す小さな光と、途切れがちな通信だ
った。生命維持装置こそ動き続けたものの、コックピット内の空気は汚れきっており、
ノーマルスーツもまた排生物で不衛生の極みだ。推進剤は尽きかけ、常備していたサバイ
バルパックの食料はとっくに尽きていた。それでも私が生き続け、半ば漂流しながらもこ
こまでたどり着いたのは執念に他ならないだろう。
 気づいた時、私がいたのはゲルググのコックピットではなくベッドの上だった。どれほ
ど意識を失っていたのだろうか。哨戒艇に救助されたのが12月30日だった筈だ。ほぼ
五日間、漂流を続けていた計算になるのか。
 誰かに聞こうと思ったが、なぜかこの部屋には誰もいなかった。ベッドがいくつか並ん
でいるが、寝ているものは誰一人としていない。何かあったのだろうか?――いや、どう
やらその手間はなさそうだ。デジタル式の時計を見つけた。表示は、31日。それももう
すぐ変わり、宇宙世紀0080年を迎えようとしていた。ほぼ24時間以上寝ていたこと
になるらしい。道理で体が重たい。
 特に外傷はないらしく、包帯も何も巻かれていなかった。それどころか、点滴のチュー
ブ一つすら刺されていない。腕に絆創膏が貼ってあったので、点滴をした後外したのだろ
うか。それほど私の体は頑丈だったのか、と自分でも少し可笑しかった。まぁ、そちらの
方が都合は良い。
 <グラーフ・ツェッペリン>は一体どうなったろう。連邦軍へと投降し、無事捕虜とな
っただろうか。連邦軍は捕虜を処刑するようなことは無いだろうが、艦内から核弾頭ミサ
イルが見つかれば南極条約違反として軍事裁判は避けられないだろう。最上位の指揮官は、
ノダック少佐か。安否が気になったが、やはりそれを確かめる術は持っていない――いや、
これからも訪れないかもしれない。
 起き上がり、軽く体を伸ばし、体の状態を確認する。私物の入った箱が傍らに置かれて
いた。制服もそこにあったので、とりあえずそれに着替え、身につけるべき物を身につけ
る。自分の拳銃も、そこにあった。手に取った重みが、決意を、殺意の重さを再確認させ
るようだった。私はそれを少し眺めた後、懐に入れた。
 意識は不思議とハッキリとしていた。為すべきことは、何も忘れていない。部屋を出、
少し周りを見回した後、一路司令官私室へと向かう。
 キリング中佐に全てを報告する。そして、償うべき者に、その罪を知ってもらう――懐
の拳銃を使うことになるだろう。あのような作戦のために、彼らが死ぬことはなかった筈
だ。
 責任を、取ってもらう。こんなことをしても、どうにもなら無いことは分かっている―
―だが私が彼らの為に出来ることは、それぐらいしかないのだ。私は心の中で、ヘルシン
グ艦長に謝罪した――命令は、守れそうにありません、と。
122創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:27:38 ID:Z4qP3rH0
123創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:27:38 ID:bq3cqr2k
124滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:28:21 ID:8ybZTJs0
 38/38
 殺意を弄びながら、私は最後の角を曲がった。警備の兵に、どう言って入るべきか。ま
た、全てが終わった後、どうするべきなのだろうか――その場で射殺されるだろうが、ま
ぁいいだろう。
 司令官私室の前に警備の兵は居なかった。普通、衛兵が就くものだがいなかった――確
かにそちらの方が都合は良いが。しかし、おかしい――ここへと来るまでにも誰とも会わ
なかった。いくらなんでも異常すぎる。しかしそれを確かめる術は、やはり私は持ってい
なかったのだ。
 大仰な扉をノックする。半ば予想していたが、反応は無かった。もう一度扉を叩く。や
はり同様。いささか装飾過多とも思えるノブを回すと、以外にもノブは回り、扉は開いた。
人は誰も居ないかとも思ったが、そこには、その部屋の主が、きちんといた――もっとも、
出迎えてはくれなかったが。
 私をまず迎えたのはギレン・ザビ総帥の大きな、天井まで届くような大きさの肖像画だ
った。
 その前に、この部屋の主は居た――キリング中佐は、まるで肖像画にかしずいてい
るかのようだった。その傍らには、拳銃が転がっている。赤い絨毯に、それより幾分か黒
い液体が広がり、染みを作っていた。彼の表情は、頭を垂れているような姿勢のため、確
認できない。彼は、その命を自ら絶ったようだった。
 大きな掛け時計がその鐘を打ち鳴らし始めた。零時を、宇宙世紀0080年を迎える鐘
は、誰が為に鳴るのか。
 放送は延々と同じ内容を繰り返していた――地球連邦政府と、ジオン"共和国"との間
で停戦協定がなされた、と。
 彼は責任を取って、自ら人生の幕を降ろしたのだろう――だが、そこに私と彼らの戦い
は含まれていたのだろうか。もうそれを確かめる方法はないが。
 憤りも、無力感も、敗戦の悲しみや、むなしさといったものを感じない自分が不思議だ
った。ただ、伝えるべき相手も、激情をぶつける相手も居なくなったことへの深く、重た
い悲しみを覚えただけだった。
 私は部屋を後にした。さて、私はこれからどうするべきなのだろうか。また生き永らえ
てしまった。
 決意の一つは為された――自らの意思に関係なく。もう一つの決意、自分と、彼らの戦
いを後世へと伝える為にはどうするべきなのだろうか。
 なるほど、自分が生き永らえたのは、どうやらその為らしい――ヘルシングはきっと、
彼の寛容でもって全ての義務から解放してくれるだろうが――私はそれを、為したいがた
めに為すのだ。宇宙の片隅で散っていった男達の、その鋼鉄の意思を、その献身を、その
悲哀を後世へと伝えるのだ。
 まったく厄介な役目だ。私は少し笑った――私にはちょうど良い罰だろう。
 滅びゆくものは、もういない――死んだ者らの為にできることは、それぐらいしかない
のだから。
125創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:28:25 ID:Z4qP3rH0
126滅びゆくものの為に ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:28:56 ID:8ybZTJs0
39/38
アトガキ
長々とここまで付き合ってくださり、ありがとうございます。
本当は一ヶ月前には書きあがっていたのですが、なんやかんやで改稿に
時間が取れず、結局投下するまでにこんなに時間がかかってしまいました、
すいません(誰も待ってねーよ?ハハッ確かに)

一ヶ月も書いたものに触らないと、改めて見直した時にわけが分からなくなりますねw
このままお蔵入りにしてしまおうかとも思いましたが、
Gやら感想スレで読んでくださった皆さんのおかげで投下できました。ありがとうございます。

三作目の今回も長くなりました……いや、一応短くしようとはいつも心がけるんですよ?
なのになぜこんな分量にw それもほとんどが戦闘シーンwww
精進します、ええ、しますとも

それでは、ここまで読んでくださった皆さんに感謝を!
感想、批評、指摘、何でも下さいな

あ、それと最後にブログを立ち上げました
今までの作品もまとめてありますので、良かったらこちらもどうぞ
ttp://kwacker.blog67.fc2.com/
127創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:29:24 ID:liq4jRkB
乙だ!!
128 ◆30AKLWBIYY :2009/03/07(土) 22:29:49 ID:8ybZTJs0
支援ありがとうございました
2スレ目立ったすぐにこんな投下してすまんかった
129創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:30:15 ID:wYL2aMK9
乙&GJ!!
ハードだなあ。
力作投下お疲れ様!
130創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:30:23 ID:bq3cqr2k
俺が、俺達が乙だ!
131創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:30:37 ID:W3YXrO8I
マスター、>>128に特大乙を!!
132創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:32:34 ID:bwwQFmVC
風呂行ってて支援できなかったが乙だ!
133創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:39:47 ID:QtfwlhiE
これはなんという長編
乙すぎるんだぜ!
134創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:49:35 ID:O8qEqsc3
大作乙です!ナイスボリューム!
支援できなくてごめんよう
135創る名無しに見る名無し:2009/03/07(土) 22:51:41 ID:+2WusN8T
ちょっと目を離したスキに
なにが起こったんだwwwwww
136創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 00:05:31 ID:A21ycpKM
投下乙!いきなり大作だなw
137創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 00:22:45 ID:xYrsol8E
乙。艦隊戦の描写が丁寧で良いね。
いきなりの傑作にちょっとビビったwwwwww

しかしこのスレも結構人が集まってきたな。
138創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 10:51:47 ID:h1/b1kAA
>>137
俺は昨日はじめてこの板の存在を知ったw

前スレにもデカい投下が来ているな。
新ネタ、雑談はもう、こっちに移動した方がいいのかな?
139創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 12:31:50 ID:h1/b1kAA
昔シャア板に書いてたネタの設定でも晒してみる。

『機動武闘伝ガンダムG2』、主役機アマテラスガンダム他一体。

・アマテラスガンダム

DG細胞化を起こさない新たなUG(アルティメットガンダム)細胞によって構築された
ゴッドガンダムの後継機のうちのひとつ。


通常のMF/MSのような「エンジン」が搭載されておらず、
生まれながらに新UG細胞の原種を持っている特殊なファイター(主人公シオン・ミカムラ)が
自身の中にある活性化状態のUG細胞データを叩き込み機体の全UG細胞を直接活性化させることで
はじめて自力運動することができる。
(外部から緊急起動が必要な場合は、二重螺旋型のビームでデータを送り込むガントレット型のデバイスを使用。)

本来、ガンダムファイトや戦闘のために作られた機体ではないため
武装や装甲の類いはほとんど装備されておらず、
また、搭乗者との一体化を最優先した、小柄な女性そのものの華奢なフォルムをもつ機体となっているが

新UG細胞のもたらす高度な人機一体と
搭乗者の持つ父親譲りの格闘センスによって
各国の強豪ガンダムと互角に渡り合うだけの戦力を発揮してゆく。


・アーマーイワッド

ネオジャパンの制式重装甲MS『ムッシャー』をベースに開発された
アマテラスガンダム護衛専用モビルスーツ。

完全な外骨格(鎧)型MSであり、休眠状態のアマテラスガンダムの機体に「着せる」ことで
同機を機体の内側に収納し防御、運搬する。
(このとき、両機を連結するコネクターからイワッド側パイロットの操縦内容をアマテラス側にも伝達し
 イワッドの運動を模倣させることで、
 アマテラスに負担をかけず通常通りに動くことができる。)

本来は一切の戦闘行為を想定されていなかったアマテラスガンダムを
輸送中のありとあらゆる危険から確実に脱出させるために、
MF以上に堅牢な重装甲と大出力ブースターを搭載されている。

また、機体の外観も一見「鎧武者風の重装甲ガンダム(顔部分はマスク)」に見えるため、
このアーマーイワッドの姿が当初は「ネオジャパンの新ガンダム」として
事情を知らない他国の人間にひろく認知される。
140創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 12:36:44 ID:dAP8C9tN
>>139
Gガンの二次か。
シャア板でも風当たり強かったんじゃない?
141創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 12:41:18 ID:h1/b1kAA
>>140
いや、俺も途中までしか居なかったけど
特にそういうのは無かったなw

もともとGガンスレで続編妄想ふくらませてるうちに立っちゃったスレだったし。
142創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 12:44:10 ID:dAP8C9tN
ああ、シャア板ならGガンのスレもあるかw
だったら大丈夫だな。

設定だけなら前スレの埋め草でも良かったんじゃない?w
形にするならアレだけど。
143創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 16:15:50 ID:fgpu1O0e
家畜人ヤプーみたいなグロ話書きたいんだけどスレチかな? ガンダムである意味はあんまりないけど
144創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 16:19:32 ID:dAP8C9tN
>>143
そのネタでどうガンダムになるのかがわかんないなw

グロは多分取り扱い注意になると思うけど。
なんせガンダムだし。
145創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 16:22:55 ID:fgpu1O0e
>>143
書き忘れた。一応SEEDの二次創作で、キラッ☆とピンクの圧政による狂った世界を予定してます
146創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 19:05:05 ID:xYrsol8E
リバイアスだかリバイアルだかリバイバルだかを思い出した
147創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 05:46:03 ID:2P2+sBBz
>>145
PINKの方なら許容するスレがありそうな気がする
書き手の自由度も高いだろうし
148創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 06:15:01 ID:ZxMwA8ka
ところで、ここの人たちってどんなのからガンダムに入ったのかな?
自分はゲームから入った、ジオニックフロントが良くてそこからガンダムだな
まあ折りしも身内がSEEDハマってたこともあるが
149創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 06:26:06 ID:dprszRnF
友達にムリヤリ見せられたWでどっぷりハマったw
その後ガンウォーに手をだして、他の作品に興味もった
150創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 06:37:33 ID:JO4wcpT3
Wは組織とかの関係がいまだにはっきり掴めてないんだよなw
むしろそこがおもしろいとこなんだけど
アニメは見てないけど、小説とか読んだ覚えがあるなあ

Wは…白だっけ、ガンウォーはあまりやってなかったけど
151創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 12:31:45 ID:zCoc8w3a
>>148
リアルタイムで見たのはVが最初だな。
「たしかに独特だな」という「リアルロボット戦争モノ」の雰囲気が新鮮だった。

Gは最初にやった紹介特番と一話を見て投げ出してたものを
たまたまテレビつけた終盤の展開(シュバルツの正体が判明する回だったと思う)を見て
あまりの面白さにその後慌てて全話録画。
あとになって一話からぶっ通しで全話見た。

W、Xはその流れで全話見てた。
152創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 12:52:30 ID:GjGLAW78
俺はGから入ったな
でも他の作品も普通に好きだ
153創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 13:57:31 ID:DQ9hXrKW
ガンダムX(SFCのF91がパッケージに出てるソフト)→初期Gジェネと入ってビデオでGガンから見始めた
TVで初めて見たのは種
154創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 13:59:40 ID:WS04sbYV
偶々このスレを開いたら>>128氏の傑作が投下されてて読みふけってしまった。
RSBC読んでるとニヤリとさせられる場面が結構あって非常に良かった。
155創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 14:12:09 ID:gB2SAZxv
>>148
G、W、X直撃世代だったんで若干刷りこみが入ってる
最初にリアルタイム以前の作品を見たのはV。中学の時周りのガノタがZ、ZZ、08信者だったから対抗意識で借りた。でタイヤ戦艦に目が点になった
156創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 21:34:05 ID:epDmifU7
>>151-155
90年代多いんだな
そん時はガンダムとか興味薄くてリアルタイムはほとんど見れんかった
まあガンダム系統でいろいろ繋がってたりするから、まったく知らないわけじゃないけど
157創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 00:46:40 ID:E3422vAF
ファーストをリアルタイムで見てる自分は最古参か
158創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 01:32:14 ID:9Jlumydz
俺はスパロボのドーベンウルフを見たときだなぁ
雑魚のイメージが一気に覆った
159創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 06:59:04 ID:ih84agoa
なんで前スレ20KB以上残ってるのに次スレがこんなに進んでるん?
早く立てすぎじゃない?
160創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 10:41:37 ID:RFKPcFHZ
>>148
幼稚園ぐらいにZZから入って兄貴のガンプラの影響→ポケ戦、逆シャアのビデオレンタル→テレビアニメだな

小学生時代は武者ガンダムとかナイトガンダムの漫画からSDガンダムのプラモにハマったなw
懐かしい…
161創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 13:20:36 ID:3F3tiNfc
MS描きたいんだけど、こんなMS描いてほしいみたいなのないですか?
162創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 14:14:32 ID:Pi2JkEzG
ヘビーガン

マイナーかw冗談でし
163創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 15:28:27 ID:Acgdvkbk
ジンクスU
164創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 17:04:19 ID:+EZg/dZF
オリジナルでってことじゃないのか?
165創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 17:12:10 ID:RFKPcFHZ
>>161
オリジナル量産MSで装備換えれるの
166axis:2009/03/11(水) 23:48:56 ID:Y5a5ctHk
旧スレからの続きを投稿しようと思ったけど
なにぶん10話を越える話で文字数が多すぎて、全部載せられそうにない。
新スレ支援もしたいのにどうにもならん〜

なもんで続きはブログに載といた
ttp://wato555555.blog120.fc2.com/

長編過ぎるのも難点だな。
支援できずに申し訳ない。
短くまとめて支援しようと考え中
167創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:14:35 ID:pIl6oF3z
168創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 16:20:34 ID:sbSn5W/y
>>161
リ・ガズィ頼みます
169創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 17:36:39 ID:gmUzoeGo
>>163
ちょwwwww無理だろwwwwwwww
170創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 17:42:18 ID:BtxcAAHC
アンフ
171創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 17:56:12 ID:BtxcAAHC
ごめん訂正。

ミスターブシドー専用アンフ
172創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 18:12:31 ID:rFKk34UH
>>161
ジンクスIIIの外装弄って無理矢理ガンダムっぽくしてみました!ってのを

ほぼスローネになるだろうけど
173創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 23:30:19 ID:pIl6oF3z
マリナ・イスマイール専用アザディスタンアンフカスタムで
174創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 03:04:04 ID:SGh65/W6
最後にアムロ主役のストーリーをみたいな
ゼータの後の話
175創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 12:49:51 ID:6eRdMXpV
>>172
というかそれがスローネだ
176創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 18:30:55 ID:xVKG0jna
>>175
でもベースがジンクスIIIならスローネよりは高性能機になるだろうし……

劣化版アルケーが関の山か
177創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 21:19:08 ID:5VpbBqwB
>>172
ジンクスを改良していったらガンダムに似て来ちゃったよ!!
……とりあえず外装いじってガンダムには見えない様にしよう……
ってのがジンクス3だよな?
178創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 21:43:06 ID:xVKG0jna
>>177
ソレはアヘッドでなかったっけ?
179創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 01:36:58 ID:FplW6ttW
高さ18メートルは大き過ぎで人とマシンとのドラマが描きにくくないか
もう一度ヴィクトリーガンダムサイズに挑戦して欲しい
180創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 17:59:01 ID:c0tk3IAj
http://f42.aaa.livedoor.jp/~imawaka/imgboardphp/src/1237021078341.png
>>161じゃないですけど、量産機っぽいの描いてみた
太っちょです
181創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 19:12:15 ID:1ChJn6Ba
>>180
おぉ!!これはカッコイイ!
腰周りがロシア軍のボディーアーマーみたいでイイ!
182創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 22:51:06 ID:1V7x05D5
見た目は鈍重、だけど素早いとか
183創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 22:55:10 ID:DVz76AQu
>>182
パイロットが「想像力が足りませんね」とか言うんか
184創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 23:08:55 ID:1V7x05D5
気づいたら機体の後ろに回り込まれてたとか

突貫するというか格闘戦が得意そうなイメージがある
185創る名無しに見る名無し:2009/03/14(土) 23:42:27 ID:wuLD8BXw
こういう機体こそサブマシンガンとグレネードが似合う
186創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 01:08:46 ID:LgQHn7uX
>>180が主役で作ろうぜ
187創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 02:34:40 ID:4yf1uX2Q
まわしを外して高速機動モードに。
188創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 03:24:15 ID:qGpZaPIA
高機動モードw宇宙用か
189創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 04:33:51 ID:M8tnQEap
>>180
創作意欲の湧くデザインだ
190創る名無しに見る名無し:2009/03/22(日) 23:10:47 ID:5zReYbV1
動け! 動けよ!
191創る名無しに見る名無し:2009/03/22(日) 23:43:58 ID:l+jsKW16
ふんっ! ふんっ!
192創る名無しに見る名無し:2009/03/22(日) 23:55:29 ID:U2f1BFmf
GN粒子が尽きかけている……。
193axis:2009/03/24(火) 16:15:28 ID:fKTbhm5S
俺も描いてみた
イメージはU.C.0090年代の大型MS?

http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_9494.jpe
194創る名無しに見る名無し:2009/03/24(火) 20:55:02 ID:BQT8egVY
盾からはビームが出るイメージ
195創る名無しに見る名無し:2009/03/25(水) 04:19:35 ID:pEcvXJpK
短編で考えている小話のネタを一つ。プロジェクトXみたいな。

・あらすじ
舞台はU.C.0079、12月。ルナツー整備工場では今日もまた地上より送り出されてきた
MSを宙域戦闘用へ仕様変更させる作業が続いている。星一号作戦も中盤を迎えて
終戦の灯が見えつつあった今日、
第3整備部隊所属のジュストは、地上より打ち上げられた物資の中から興味深い代物を見つける。
それは二か月程前にこの基地を訪れた独立遊撃部隊のMS。
「ガンダム」の象徴とも言える、デュアルアイカメラの部品であった……。


ガンダムという存在が神聖化しつつあった当時において、それに似通ったMSを俺達で
作っちゃわね? と整備班達が企んでしまう話。ガンダムエースで言う『デベロッパーズ』みたいな?
196創る名無しに見る名無し:2009/03/25(水) 10:08:09 ID:jA72xek5
斬新だのう。読んでみたいな
197創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 02:35:04 ID:PNCIS7vh
>>193
コクピットが頭部にも胸部にもありそう
このデザイン活かそうかな
198創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 05:13:22 ID:kvLl+Ht7
長文失礼

人口制限された大国による統一世界
統一国は宇宙開拓に至るまでの技術を手に入れたが
開拓に要する人員が不足していた為、主に従属国家群からの移民で賄われた

宇宙開拓が進んだ頃、宇宙海賊による略奪行為が頻発する様になったが人口制限があった事もあり
それらに対する処置は統一国の直轄区以外ではあまり対処されなかった
これに対し、宇宙に在する国々は海賊の取り締まり、並び航路の安全確保の為自警団を組織する事になる

これを心良く思わなかった統一国は、自警団設立から数ヵ月後に海賊討伐を名目に宇宙軍設立を宣言
統一国には人口制限が為されていたが、宇宙における人口制限はかかっていないとの拡大解釈によりこれを通す
しかし、それは単なる軍部の肥大化に他ならない為
これに反発した宇宙国家群は宇宙共同連盟を組織し独立を宣言する

技術こそ統一国が上だったものの、宇宙軍が設立して間もなかった事と
地形的不利、実践経験の差、また独立軍がゲリラ攻撃を得意としたため戦線は半ば膠着していた
これを打破する為に、宇宙軍の象徴として独特のフォルムをした最新鋭の機体が開発されようとしていた・・・

こんな感じで独立軍がガンダム奪って、ガンダムが宇宙独立の象徴になっちゃう妄想してる
199創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 05:35:33 ID:kvLl+Ht7
追記
今考えてるストーリーの流れは
独立軍が、ガンダムを主力とした統一国のエネルギー供給源を奪取して停戦へと向うも
地球の従属国家群が支援して独立軍で反乱が起き、それを統一国家の元宇宙軍と
独立軍残存部隊とで再編した新生宇宙軍でやっつけにいくって流れ

保守派 対 革新派の構図だけど、やっぱり超能力的な何かが無いとガンダムとしては駄目なんだろか
2部とかだったら、連携する為に情報を随時交換するシステムみたいなのができてて
それに反応して人間自体が進化していくって流れにもできるんだけど
200創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 05:39:50 ID:kvLl+Ht7
ごめん下げ忘れた
201創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 09:59:38 ID:pYyffRN5
>ガンダムが宇宙独立の象徴

独立の象徴のようになっていくというふうに解釈していいんだろうか
202創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 15:49:37 ID:/YiYc8hb
タウエガンダム
普段は田植をしている
田んぼを守るために戦うMS

ハタケガンダム
普段は畑を耕している
畑を守るために戦うMS

ガンダムデンバタ
両機体の合体機。主人公とライバルが協力して共通の敵と戦う


主人公は農民のイケメン(CV 保志)
ライバルは農民のイケメン(CV 石田彰)
203創る名無しに見る名無し:2009/03/29(日) 01:42:37 ID:SrzYVTj7
>>201
主人公側(保守派)が統一国と和平交渉を行う事でパワーバランスを保とうとしてるのに対し
反乱軍(革新派)は腐敗した統一国による一局支配を崩そうとして、保守派にやられる流れ
だから前半は独立の象徴で、後半は新生宇宙軍の象徴になるのかな

ラストは宇宙にあるエネルギー供給源に何かぶつけて、デブリ大量発生
数年の間地球との移動が不可能になって、その間に地球人と宇宙人との確執が生まれ2部ってのも良い
204創る名無しに見る名無し:2009/03/29(日) 02:19:10 ID:ILFUCfTF
>>202
メーカーはヤンマー、クボタ、ホンダかww
205創る名無しに見る名無し:2009/04/03(金) 23:56:39 ID:YY6tYKXG
一作品中にガンダムは何機だすのが丁度だと思う?
世界観はU.CやC.Eみたいなのと仮定してさぁ
206創る名無しに見る名無し:2009/04/04(土) 03:00:46 ID:MhW2v9vN
ガンダムのパイロットは一人であるべき、と思っている
その方がありがたみがあるから
207創る名無しに見る名無し:2009/04/04(土) 09:11:04 ID:SFQzeatw
乗り換えに燃える俺としては最低でも2機は欲しい。
単純に強い機種と捉えるならCE並に出してもいいと思う。
208創る名無しに見る名無し:2009/04/04(土) 13:21:26 ID:JENGsmvZ
世界観による、としか言えないかなぁ。機体数自体は。
種はもうどうでもよさげに使ってるけれど、WやX、00なんかは
結構ガンダムって単語に独自のニュアンスを加えることに成功してるよね。
アニメではそれなりかもしれんが、刹那の『ガンダム』に対するこだわりは
小説版に詳しい。というか上手く表現している。
Wではコロニー側の兵器の象徴としてだったっけ?
それぞれ「ガンダム」に対するこだわりがあって面白いと思う。
その世界の概念に破たんしていなければ、別に何機でもいいんじゃないかな。
209創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 23:50:29 ID:cv7x70zR
前スレ落ちてたか
210創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 17:25:04 ID:DtsZtv9y
Gガンダムは許されるか許されないかで機体数が決まります
211創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 18:33:51 ID:iM9s3mL3
許されるも何もGがなんかしたのか
212創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 18:56:52 ID:vWWBDjX7
マーメイドガンダム以外は普通に許せる俺は心が広い
213創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 19:12:08 ID:ZB3m9yJ1
>>212
他は許容できるのに何故マーメイドだけが悪いのかを教えて欲しい
214創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 19:25:23 ID:vWWBDjX7
かっこわるい

変形して魚型になるのはいいが、変形前も魚のキグルミに入ってることはないだろ
マーメイドっていうか、サカナガンダムじゃん・・・
確かに資金不足かなんかで古めって設定はあったかもしれんが(記憶違いならすまん)
中の人はイケメンなのにね

ちなみにいちばん好きなのはジョンブルガンダムです 次点はミナレットガンダム
215創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:04:15 ID:Wn9bywN5
何故かネロスガンダムとライジングガンダムが好きな俺
216創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 00:12:34 ID:J0YLbMNN
>>214
だいたいどういう趣味だか理解はできたんだが
それではマンダラガンダムなど絶対に許容できんだろう。

あまりにも不快すぎて記憶が欠落したのか?
217創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 01:09:55 ID:MHB3BP61
いい加減スレ違いだ
218創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 02:17:00 ID:vEZoq9j2
>>216
趣味や好みに一貫性なんてないよ俺の場合w
マンダラは中のファイターや作中のポジションもあってむしろ好きな部類
・・・確かに俺の好みなんて誰も興味ないだろうしそもそもここは創作発表板だしで以下自重
219創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 02:29:58 ID:J0YLbMNN
>>217
すまんすまん。では真面目に考えてみよう。

「1作品に何機が丁度か」と言うと数だけが問題なように思うが
実際問題として、登場するガンダムの数が同じでも
それがどういうポジションを占めるかで変わって来ると思う。

同じく「二機」でも、「主役機が途中で交代」と「ガンダム同士が一騎打ち」とでは
話の内容が全然違うからな。
220206:2009/04/07(火) 16:36:43 ID:fbjIY86v
乗り換えで二機、三機出るのは全くOKだが「単なるエース仕様機」としてのガンダムは嫌だなと思う
逆に一般量産機に至るまで全部がガンダム顔してる方がむしろ突き抜けてて納得する
221創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 19:56:20 ID:Nz4kXpNd
過去にどの程度ガンダムが存在した世界観か?ってのも重要でないの

最新鋭の試作機として「ガンダム」そのものが作られたってんなら
2〜3機くらいが妥当だと思うけど
過去に「ガンダム」と呼ばれる名機があったんだったら
それこそ量産機レベルまでガンダム顔とかもアリだろうし
222創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 22:29:35 ID:KbQr1kMQ
いやいやいや、どうしたんだよ
223創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 22:40:02 ID:XNkr6jbz
なんだこれ
おい誰か
224創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 00:54:20 ID:JLcM+xFN
ええい、蒼の残光の続きはまだか!?
225創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 01:12:14 ID:G1TJnOaa
30の人もなんか書いてっ!
226創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 10:24:29 ID:ZQNFEr3j
お前そんな事言うと書き掛けの投下しちまうぞ
227創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 10:42:39 ID:UhX8NFuF
>>226
来いやァ!
228創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 10:46:39 ID:ZQNFEr3j
俺まったく違う人なんだけど良いのか?
229創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 10:48:47 ID:UhX8NFuF
>>228
バッチ来い
楽しみが増えるんだから、歓迎しない理由が無いぜ!
230創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 10:56:59 ID:MrjL3rw/
オリジナルMS書いてみた。ジオンで、位置的にはサザビー、ナイチンゲールらへん
231創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 11:08:51 ID:ZQNFEr3j
>>230
よし、うp
ここは任せた。
俺は長い推敲に入る。
232創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 11:15:04 ID:G1TJnOaa
>>231
待ってる。干支が変わっても待ってる
233創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 11:42:23 ID:Vd+rFy64
>>231
横顔しか書いてないけど

http://imepita.jp/20090418/420400
234創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 12:01:50 ID:ZQNFEr3j
全身見ないと何とも言えないが、侍っぽいからサザビーが近い印象かな
バイザーの中はモノアイ?
235創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 12:04:18 ID:Vd+rFy64
>>234
うん。正面を向いてる
236創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 12:23:15 ID:G1TJnOaa
>>233
赤くてトゲトゲしてて強そうだな
237創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 12:27:24 ID:ZQNFEr3j
おおアレか、ちと分かり難かった。
全身図待ってる
238創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 12:58:02 ID:5Byt4lkD
>>237
俺のオリジナルだぞwwww
239創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 12:58:53 ID:5Byt4lkD
>>236
ありがと
240創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 18:41:48 ID:uZdOHhA1
「冷戦中に秘密裏にロシアがMSを大量生産して、今頃にアメに喧嘩ふっかける」
ってテーマで創作しようとしたら、途中で陸戦MSは全部イーグルとラプタソに駆逐、潜水MSは潜水艦と哨戒ヘリに全滅されたぜ!ヒャッハー!!
241創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 18:44:04 ID:JLcM+xFN
ミノフスキー粒子が無けりゃ
MSなんてただのデカい的だからな〜
242創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 03:11:43 ID:Z4b46LGM
そんなにオリガン読みたかったら、ここ覗いてみたら?
完結作品ばっかだし

http://wato555555.blog120.fc2.com/
243創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 14:19:37 ID:yvcgV/Pp
よし、推敲オワタ
オリガン投下開始
世界観は設定メモ56参照
嫌いな人はコテトリNGで
244Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:25:17 ID:yvcgV/Pp
 宇宙世紀の時代が終わって数百年、幾度目か知れない地球連邦軍とコロニー連合軍の大戦争の結果は、
又しても地球連邦軍の勝利に終わり、コロニー連合軍は解体させられた。
 しかし元はと言えば地球連邦政府のコロニー連合に対する傲慢な態度が原因で始まった戦争。コロニー連合軍の
一部は聖戦団を名乗り、敗戦後もテロリストとなって地球連邦を苦しめた。
 地球連邦軍は正規の戦闘終了後も尚、“後片付け”に追われる事となったのである。

 そんな中、地球連邦もコロニー連合も注目する出来事があった。逃亡中の敗残兵、ハロルド・ウェザーとダグラス・
タウンが、地球連邦軍のスイーパーの手によって、遂に捕らえられたのだ。
 2人はコンビを組んで1機のMSに搭乗し、大戦中最も地球連邦軍を苦しめたコロニー連合のエースだった。
彼等が捕縛された事実は瞬く間に世界中を駆け巡り、その裁きが如何にして行われるかに世間の関心は集まった。
245Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:28:09 ID:yvcgV/Pp
「はぁあ……」

 黴臭い取調室の壁に凭れ、ハロルド・ウェザーは溜息を吐いた。草臥れた軍服は血と垢で汚れている。
逃亡生活中、身嗜みを気にする余裕など、彼には無かった。無精髭にボサボサの茶髪、疲れた灰色の瞳に
希望は無い。戦中多大な功績を挙げた立派な体格も、今は当時の面影無く痩せ細っている。

 今は取調べ中の小休憩、彼は人権も何も無視した長時間の拘束に辟易していた。

(怠い……死ねよ連邦の取調官、何度も同じ事を訊き返しやがって)

 腹立ち紛れに分厚いコンクリの壁をガンと蹴り付ける。それと同時に鉄製の取調室のドアが開いた。
 入って来たのは、恰幅の良い中年の男性取調官。ハロルドには見飽きた顔だ。

「おやおや、御立腹の様だな」
「チッ! お蔭様で」

 涼しい顔の取調官に悪態を吐くハロルド。囚われの身とは思えない太々しさで、ドカッとパイプ椅子に腰を下ろす。
取調官は彼の対面に着き、煙草を吹かした。

「君に是非お会いしたいと言う人物を連れて来たぞ」

 ハロルドは首を捻った。彼に身内と呼べる人物はいない。こんな所まで面会に来る暇人は、真実の探求者を
気取ったジャーナリストか、顔も覚えていない元上官くらいのものだ。彼はどちらも好かないし、興味も無かった。
それを表すかの様に顔を背け、冷たいコンクリの床にペッと唾を吐き捨てる。
 取調官はハロルドの態度の悪さに顔を顰めた後、鉄製のドアに向かって声を掛けた。

「おい、入れ」
「失礼します」

 よく通る低音に、ハロルドは顔を上げた。声の主は、連邦軍の制服を着た身形の良い銀髪の青年。
 ……ハロルドの全く見知らぬ男だった。
246Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:32:26 ID:yvcgV/Pp
「……誰よ?」

 ハロルドは不快を露わにして取調官に問う。

「本人に聞き給え」

 取調官は溜息混じりに答えた。ハロルドは青年を睨め上げる。

「アステロイドベルトの屈辱から、今日で丁度一ヶ月になる」

 ハロルドと目を合わせた青年は、淡々とした口調で語り始めた。

「連邦軍は連合軍のたった一機相手に敗走した」
「そんな事もあったかねえ?」

 ハロルドは小指で耳を穿り、興味の無い風を装う。

「あの日貴方が撃墜した機体に、赤い指揮官用ヘッドのガンダムが無かったか?」
「知らん。一々憶えていられるか」
「……あったのだ! 私の兄が搭乗する機体が!」

 小隊長だった青年の兄は、敵機の追撃から仲間と母艦を守る為、アステロイドベルトに散った。腕の立つ
パイロットだったが、ハロルドの記憶には残らなかった。ハロルドは指揮官機を狙って叩くコマンダーキラー
だったからだ。戦場には数多くの指揮官機が存在し、他に目立つ機体など幾らでもいた。

「答えて欲しい! 兄は強かったか!?」

 しつこく食い下がる青年に、ハロルドは声を大にして怒鳴った。

「墜とした奴の事なんか知らんっつってんだろうが!! 誰でも死ねば同じだ!!」
「くっ……」

 悔しさに視線を落とし拳を固く握り締める青年。しかし、ハロルドの目には生気が戻っていた。
 横目で青年を嘲笑うかの様に挑発する。

「母艦を墜とせば10倍、指揮官機を墜とせば3倍の賞与だぜ? これを墜とさんでどうするよ」
「きっ、貴様!!」
「落ち着け」

 殴り掛かろうとした青年を取調官が片手で制する。青年は怒りに燃える瞳をハロルドに向け、逸らさない。
 ハロルドは頬杖を突きながらニヤリと笑って取調官に話し掛けた。

「なあ、提案なんだが……こいつと一騎打ちをさせてくれないか?」
「何だと?」
「どうせ死刑にするんだろう? 俺は最期まで連合軍の戦士でありたい。死ぬのはMSのコックピットの中、
 戦友達と同じエリュシオンさ。それに……」

 ハロルドは青年を見遣る。

「これから何人殺した所で、罪状に大した差は無かろうよ」
「その言葉、忘れるな!」

 青年は容易に怒りを煽られ、売り言葉に買い言葉で決闘を承諾した。

 普通なら認められる筈の無い決闘だが……果たしてその3日後、もしハロルドが勝てば即座に釈放するという
馬鹿げた決闘が、連邦軍の監視の下、公然と行われたのである。
247Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:37:09 ID:yvcgV/Pp
 決闘当日。ハロルドは相棒のダグラスと共に、バッドランズ国立公園に搬送させられた。
 護送車に揺られながら、ハロルドはダグラスに話し掛ける。

「よう、久し振りだな。元気してたか? ……って、お前何だか小奇麗だな」

 痩せ型で引き締まった長身、鼠色の髪はオールバック、髭は剃ってあり、制服の皺も目立たない。ダグラスは
ハロルドとは違い、清潔な容姿を保っていた。

「お前さんみたく無意味に反発したりせず、大人しく言う事を聞いてりゃ、待遇は良いさ。問題児振りは聞いてたぜ」
「納得行かねー」

 腕を組んで不貞腐れるハロルドを見て、ダグラスは声を抑えて笑った。 

「御蔭でスマートになったじゃないか」
「言ってろ」

 ……それから会話が途絶える。ダグラスは笑みを消して、真顔になった。

「決闘だってな」
「ああ」

 ハロルドは平然と答えた。その目は格子付きの護送車の窓に向けられている。ハロルドは視線も表情も変えず、
小さく零した。

「……付き合わせて、悪かったな」
「なぁに、気にしちゃいない。生き残ろうぜ」

 ダグラスの答えを聞いたハロルドは、僅かに口元を歪めた。
248Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:42:17 ID:yvcgV/Pp
 公園には勝敗の行方を見届け様と多くの報道陣が詰め掛けていた。
 護送車から降りて広大な草原に立ったハロルドは、嵐の様なフラッシュとシャッター音を他所に、大きく伸びを
しながら深呼吸をする。

「ここが決闘の広場か。良い所じゃないの。あの物々しいガンダム集団さえ無けりゃ……」

 遥か地平線まで伸びる風景を邪魔しているのは、量産型V7ガンダム。直立不動で公園を取り囲んでいる。

「お前は呑気だな。ハル、あれを見ろ」
「あー?」

 ダグラスが指差した方向を見たハロルドは間抜けな声を上げた。そこには2つの巨大な球状の物体。
 全高10m弱。底面から生える作業用の簡素な2本のアーム。頭頂部にはキャノンが据えられている。

「何だありゃ?」
「あれが俺達の乗る機体だ」
「は? あの丁髷だかリーゼントみたいなキャノンで撃ち合えっての?」
「所がどっこい、相手はあれだ」

 ダグラスは続いて1機の青いガンダムを指差した。マウスピース型の口部装甲が、鼻髭の様で特徴的な……。

「ガンダムガンシューター。通称ガンマンガンダム。ガンダムマックスターの派生後継機。中近距離銃撃戦に
 特化した……所謂、趣味のガンダムだな。主武装は両腰のギガンティック・マグナム」

 ハロルドはダグラスの説明に沈黙した。

「対する俺達の搭乗機は、宇宙戦用のボール。改良型でも何でも無い。博物館に飾ってある様な旧型だ」
「死ねっての?」
「言ってしまえば、そうだろうな。当時の通称は動く棺桶。動かないなら本物の棺桶だ。これなら裁判を受けていた方が
 良かったかも知れん」

 ダグラスは淡々と言った。それが己を責めている様に感じられたハロルドは、苦笑いしながらも努めて明るく言う。

「ははは……だが、撃ち合いなら勝負は分から……」
「どうかねぇ? 期待は出来ない」

 ハロルドの弁明を遮り、ダグラスはボールに向かって歩き出した。ハロルドは決まり悪そうに頭を掻き、後を追う。
 2人は拭い切れない不安を胸に、棺桶に足を踏み入れた。
249Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:53:15 ID:yvcgV/Pp
 搭乗したハロルドとダグラスに、連邦軍の指揮官が通信で声を掛けた。

「あー、聞こえるか? 連合軍のエース、ハロルド・ウェザーにダグラス・タウン。何か質問はあるか?」

 ハロルドは無視して機器を弄る。応えたのはダグラスだった。

「はい。聞こえます。えー、まず動作確認をしても宜しいでしょうか?」
「許可しよう。しかし、少しでも妙な真似をしたら蜂の巣にされると思え」

 指揮官の言葉に、ダグラスはモニターに映るガンダム集団に目を遣った。全機、ビームライフルをボールに向けて
構え、微動だにしない。

「……だそうだ、ハル」
「はいはい」

 ハロルドの生返事に不安を募らせながらも、ダグラスは続けて問い掛けた。

「地上で宇宙戦用の機体、しかも相手はガンダムタイプ、性能差が酷過ぎると思うんですが?」
「撃ち合いならば影響は少なかろう? それに2体1だ。加えて君達の機体のキャノンはビーム、相手の武器は実弾。
 私の目から見て、フェアーだと思うよ」
「俺は一騎打ちを望んだんですがねえ?」

 得意気に説明する連邦軍の指揮官に、愚痴を零すハロルド。

「ほう、では一騎打ちにするか」
「冗談じゃない! こんな玩具で!」

 ハロルドの怒鳴り声に、連邦軍の指揮官は高笑いした。

「決闘開始は今から約5分後、3時の鐘の3度目が合図だ。幸運は祈らん。そうそう、キャノンは開始前には元の
 位置に戻せよ」
250Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 14:56:46 ID:yvcgV/Pp
 一方的に通信を切られた後、ハロルドは八つ当たり気味に怒鳴り散らす。

「フェアー? 何処がフェアーだ!! キャノンの動作遅いんだよ!! 狙う前に風穴が開いちまうぜ!!」
「ハル、怒りを抑えろ」

 ダグラスが注意したのは、コクピット内の会話が盗聴されている可能性を考慮しての事。
 しかし、ハロルドは全く聞き入れる様子無く、喚き散らす。

「知るか!! どうせ死ぬんだ! 好き勝手言わせやがれ!」
「おいおい」

 ダグラスはハロルドが自棄を起こしたと思ったが、それは違った。

「天地が逆転でもしない限り、俺達に勝ち目なんて無い!! 2秒以内にキャノンが撃てなけりゃ死ぬんだ!!」
「2秒って……」
「ガンダムが俺を撃ち抜くのに、1秒も掛からないってのに!! ああ、お仕舞いだぜ!!」

 大袈裟な取り乱し方に、ダグラスは気付いた。これは態とだと。ダグラスは変化を悟られない様に、演技に乗る。

「落ち着け、ハル」
「俺は落ち着いている!! もう終わりだ! ダグ、俺が死んだら、遺体は宇宙に……」
「お前が死んだら俺も死ぬだろうがっ! 希望を捨てるな!! お前が殺られる前に、俺がガンダムヘッドを
 撃ち抜いてやる!」
「……お、おう、済まんかった」

 ダグラスの熱演にハロルドは噴き出しそうになったが、鼻を啜って誤魔化した。

「じゃあ、“2秒後”、頼んだ」
「任せろ。何時も通りだな」
「ああ」

 互いに頷き合い、通信を終える。ハロルドは誰にも聞こえない様、独り呟いた。

「フェアーで無いのは、果たしてどちらか? ククッ、後悔するなよ」

 ハロルドに余裕などあろうはずもない。しかし、自然と笑みが零れる。それは相手が強ければ強い程燃え上がる、
不屈の闘志だった。
251Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 15:00:51 ID:yvcgV/Pp
 残り1分を切った所で、ハロルドは再び独り言を始める。今度は大声で。

「よおよお、弱虫の坊ちゃん! 1対1で勝てないからって、こんな卑怯な真似、恥ずかしいねえ? まぁ、仕方が
 無いのかな!? 戦場に出た事も無いボンクラを勝たせる為には、こうでもしないとなぁ!」

 “自分を狙え”という挑発。ハロルドも制止する振りをして煽る。

「止せよ、ハル。聞こえているかも知れんぜ」
「フフン、聞かせてやれば良いのさ! 盗み聞きする様な連中なら、それこそ恥知らずだ」

 判り易い挑発に、ガンダムに乗った青年は歯軋りをした。

「おい、安い挑発に乗るなよ。冷静になれ」
「……解っています」

 指揮官の忠告を聞き入れ、青年は深呼吸をする。射撃の腕には自信があった。モビルトレースなら、彼の動きを
正確に反映出来る。確実に仕留める為に、冷静さを欠いてはいけない事は、よく承知していた。

 青年の緊張した精神状態を他所に、傍観する連邦軍の指揮官は落ち着いていた。パラソルの下の椅子に座って
悠々と仰け反り、パイプを咥える。

「随分と余裕だね?」
「はっ! これはマッセン殿!」

 不意に掛けられた声に、指揮官は起立して振り返り、敬礼した。視線の先には、スーツに身を包んだ色黒の中年
女性。彼女は地球連邦政府の高官、ベルガドラ・マッセン。豪胆な性格と同時に、好事家で有名な女性官僚。今回の
決闘を承諾し、その上に釈放という余計なオマケを付けたのも彼女だった。

「相手は連合のエースだよ。暢気に構えていて良いのかな?」
「どう転んでも、負ける事は有り得ません!」
「ほう? では、お手並み拝見といこう」

 マッセンは愉しそうに笑いながら指揮官の隣に立ち、腕を組んだ。彼の迷惑そうな顔を気にも留めず。

 地上戦、正面からの勝負、そしてボールのビーム砲……。事実、ガンダムがボールに負ける要素は一つも無く、
全ては周到に仕組まれていた。
252Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 15:08:38 ID:yvcgV/Pp
 ゴーン。

 3時、1度目の鐘が鳴る。

 ゴーン。

 ハロルドのボールは、高い唸りを上げていた。一方、ダグラス機は静かに時を待っている。

 ドドォン!!

 3度目の鐘の音の代わりに、2つの爆音が響き渡った。
 1つはガンマンの発砲音、もう1つはボールのブースター音!

 ガガン!

 青年は張り詰めた空気に押し潰される事無く、マグナム射程外のハロルド機を正確に狙っていた。
 しかし着弾の直前に、ハロルド機のキャノンからオレンジ色のビームが放たれる。2本のアームを梃子に、
ブースターで機体を前傾させ、砲口を直接ガンダムに向けて!
 普通にキャノンを動かしても到底間に合わないのを見切っての荒業だった。

「おおおおおっ!?」

 ボールの装甲を巨大な銃弾が突き破り、コクピットのハロルドを襲った。咄嗟に身を屈めたハロルドの頭上を、
恐ろしい風圧が通り抜ける。弾丸は鉄屑を散らしながら貫通した。
 幸運な事にハロルドは無傷。機体が傾いた分、僅かに狙いが逸れた。機体も外観の損傷の割りには、
行動不能に陥る様な深刻なダメージは無かった。

 ボン!

 一方、ハロルドが撃ったビームは、ガンダムの右手のマグナムを溶かしていた。青年は焦る。
「狙ったというのか!?」
 直ぐ様、左腰のマグナムに手を掛けるが……。
「ダグ! 今だ!」
「ああ! 計算通りだな!」

 バシュッ!

 ダグラスが正確に狙いを付けたビームが、ガンダムの頭部に命中する!

「……何っ!?」
253Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 15:12:43 ID:yvcgV/Pp
 しかし、驚きの声を上げたのはダグラスだった。ビームは装甲の表面に沿って滑る様に弾かれ、分散する。

「ビームコートぉ!?」
「ひでぇ!!」

 頓狂な声を上げ、ショックを隠せないダグラス。ハロルドは半笑いになって呆れた。
 青年はビームを直視したはずだが、デュアルアイカメラには遮光フィルターが噛ませてある。即ち、全く影響なし。
 ガンダムは再びマグナムを構える。

「この……どっせえぇい!」

 未だ終わらない。ハロルドはアームで地面を押し上げた。機体が前傾から戻る反動で、起き上がり小法師の様に
砲身を持ち上げ、再びキャノンを撃つ!

ボン!

「しまった!?」

 破壊したはずのハロルド機の攻撃は、青年にとって全くの予想外だった。ハロルド機は反動で転げて全壊したが、
ビームは再度マグナムに命中し、ガンダムは攻撃手段を失う。

 しかし2機のボールも、対ビームコーティングに対して成す術が無い。
 そして沈黙が訪れる。

「なあ……これ、どうなるんだ?」
「分からん」

 ハロルドの問いに、ダグラスは厳しい表情で答えた。その砲身はガンダムの足元を狙って……。
254Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/04/19(日) 15:14:46 ID:yvcgV/Pp
 結果は引き分けだが、決闘を挑まれて生き残ったので、ルール上はハロルドとダグラスの勝ち。

「ははあ、やってくれる!」

 マッセンは目を見開き、感心した様に声を上げた。その表情は驚きと興奮の混じった笑顔。隣の指揮官は舌打ち
しながら通信機を掴み、大声で青年に怒鳴り掛かった。

「止まるな!! 前進しろ! 踏み付けて、粉々に砕いてやれ!!」
「し、しかし……」

 狼狽する青年に、指揮官は続けて捲くし立てる。

「兄の仇を討ちたくないのか!?」
「見苦しい真似は止め給え。私に恥を掻かせる気か」

 呆れて口を挟んだマッセンに、指揮官は猛烈に反発した。

「勝手に決闘の段取りをした癖に、恥が何のと知ったことか! これは我々の……」
「尉官風情が! 誰に口を利いている? 貴様は黙って言う事を聞いていれば良いのだ」
「なっ……?!」

 マッセンの高圧的な態度に、指揮官は口を閉じた。軍属でないとはいえ、立場が上の相手に手向かうのは賢くない。

「まさか、この様な結果になろうとは……」

 連邦軍の指揮官は脱力して肩を落とす。
 多くの証人が居る中、約束を反故にする訳にも行かず、連邦軍は2人を釈放しなければならなかった。
255創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 15:17:42 ID:yvcgV/Pp
以上で一話完です。
長文失礼しました。
256創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 15:20:51 ID:SB+EnVZW
GJ!
主人公らとマッセンとの今後の絡みが非常に気になるw
257創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 17:05:38 ID:hPQIiWGQ

これはまた期待できそうだw
258創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 20:06:12 ID:rpj+XV+I
乙で
宇宙世紀の時代が終わり……という言葉がいい
そこにこめられたのが良い意味か悪い意味かは分からないけど
なんか象徴的な意味合いのように感じる

マッセンあんた喜んでるように見えるがいいのかww
259創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 23:01:43 ID:gF8TV6Cg
これは続きが気になる良いオープニング
ガンダムが早くも結果的にとは言え敗れる形になってるし、どの作品の機体を引っ張ってくるかも楽しみ
260創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 07:35:05 ID:leo2tA2V
他人を褒めるより自分の成長をryとは
良く聞かされる話だけど、これは面白い。
板の看板にしても恥ずかしくない。(セミプロ?)
って事で本板の方にもリンク貼ってきた。
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/x3/1240175293/
261創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 16:53:43 ID:GoBpTlRk
>>244
入り方抜群で勉強になるな〜

今書いてる小説(U.C.0095年代もの)
の登場MSなどアップしてみる

現在12話まで書けてるけど、
完結しだいアップしてみよかの〜


主役機
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10199.jpg

ジェガン上位機
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10200.jpg

敵主力機
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10201.jpg

敵ボス機
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10202.jpg
262創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 18:03:00 ID:mPtbtNde
おお、カッコイイ!
敵勢力は見たことないタイプ…
投下期待
263創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 19:21:50 ID:t6DxPa4A
敵いきなり強そうww
見た目じゃな分からないけど
264創る名無しに見る名無し:2009/04/20(月) 20:03:48 ID:CWoSlcj6
>>261
確か一番下のグレーの奴、このスレで見たことあったな。
期待
265創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 10:30:52 ID:L+0AigK0
ファンによる二次創作だから
しょうがないっというのも確かにあるんだが

出来の良い物の中には

コレ、『ガンダム』である必要全く無いんじゃね?って言うものが
あるな
266創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 15:18:18 ID:52eLLyIb
>>265
それ前スレで結論でてるよ
267創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 15:43:29 ID:HLYXs7Zq
コメもらったんであげてみま〜す
20話越えそうだから、先は長いけど第一話などを

宇宙世紀0095.2.25
シャア・アズナブルの連邦への反乱があってから、2年余りの月日が流れた・・・
小惑星アクシズを地球に落下させるという、とてつもない悪業はライバルでもある、アムロ・レイ率いるロンド・ベル部隊により辛くも避けられることとなった。
しかしこの出来事が世界に及ぼした影響は、少なくはなかった。
一応平穏を装っている世界だったが、連邦政府はネオジオン残党達の討伐に力を注ぎ始める。
また第二、第三のシャア・アズナブルが生み出されるのを恐れたからだ。
軍備を増強し裏でネオジオン残党を捕らえるべくいくつかの独立部隊が設立され、静かに行動を行っていた・・・
平穏に見えるこの世界でも、戦いは未だに続いていたのだ・・・・

「機動戦士ガンダム 0095 ー闇を統べる者ー 」

第一話 命がけの脱出

「くっそ!!追ってきやがった!!」
まだ青臭い表情を見せる少年は、黒き異様なMSのコックピットで焦りを見せていた。
しきりに全周囲モニターの後ろを気にしながらも、
最大加速で宇宙空間を突っ切ってきたが、その後方から5つのバーニア炎の光が迫ってきているのを見て心臓の鼓動が高鳴るのを感じる。

「性能の問題じゃない、俺の腕が伴ってないってことか」
彼の乗る黒きMSはアナハイムエレクトロニクスの新型であり、この時代での最高水準の性能を有していた。
申し分ないその性能にもかかわらず、後続の追撃部隊に追いつかれてしまったのは、
彼が充分に機体の性能を引き出していなかったからにほかならない。

しかしそれもやむをえないのかもしれない。
パイロットでもない彼が、このRXR−98 Φ(ファイ)と呼ばれるMSをサイド4のあるコロニーから持ち出したのだが、
彼はMSには数回しか乗った経験がなく、素人に毛が生えたようなものだったからだ。
追撃してくるMS達はそのサイド4のコロニーの者たちであり、
彼というよりもこの黒きMSの奪還に向かってきているのだ。

「もう少しで連邦の管轄宙域に入るってのに!!」
まだ16歳のゼル・イールズは、後続から迫る赤黒いMS達MSK−001 ドゥーラ・ドゥーラ の姿がはっきり見え始めたことに、
焦りが募る。
ドゥーラ・ドゥーラは彼が持ち出したコロニー、サイド4の名家、アーバレンスコロニー国家の主力MSであり、この黒きMSもアーバレンス国の所有物であった。
何故彼がこのMSを持ち出したのか・・・
それには深刻な訳が隠されていた・・・
一気にゼルのΦ(ファイ)に追いついた、ドゥーラ・ドゥーラ達は彼を取り囲むように周りを取り巻いていく。
あくまでもこの機体を破壊するのが目的ではなく、鹵獲することが彼らの目的でもあった。
それはビームライフルを構えるだけで、威嚇するその姿からも理解できた。

「ゼル・イールズ!!お遊びもここまでだ、すぐにその機体を引き渡せ!!」
ドゥーラ・ドゥーラ部隊の中の、指揮官らしき色違いの機体から、Φ(ファイ)のコックピットのゼルに向けて通信が開かれる。
若い男性の声が、ゼルを知っているような素振りできつく命令する。

「カバード部隊長・・・・」
高鳴る鼓動と額の汗を抑えながらゼルはその声の主が乗っている機体をおそるそそる振り返る。
その男の事はよく知っており、自分を連れ戻そうとしていることも彼にはよく分かっていた。
彼はアーバレンス国のMS部隊の見習いであり、カバードというその男はゼルの上司でもある男だったからだ。
そんなカバードに対して、突如ゼルは怒りの表情を見せる。

「あんたはあの国がこれからどうなろうとしているのか分かっていながら!!アンナまでその気にさせて何をたくらんでるんだ!!」

「君が知ってなんになる?それにアンナ様は自ら世界を敵に回そうとお考えなのだ、私がそそのかせたというのは勘違いだよ」
お互いに意見が交錯する両者。
彼らが言っているアンナという女性は、現在のアーバレンス国代表である少女、アンナ・アーバレンスその人であった。
アンナもゼルと同じ、若干16歳でありながら、前国王(アンナの両親)が死去したことにより、一代名家アーバレンス国の代表に即位していた。
ゼルは彼女とは幼馴染であり、よく知る間柄でもあった。
268創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 15:46:26 ID:HLYXs7Zq
「また嘘を・・・俺は知ってるんだこいつや、イヴァカランが特殊な機体であり、アンナの為に作られた物だってことがなぁ!!
アンナまで戦場に借り出そうとしている貴様らは、悪魔だ!!」
ゼルはいつも何かを隠しているガバードという男に、不快感を感じていた。
彼のの不安が確信に変わったのは、このΦ(ファイ)とイヴァカランという二体の黒きMSの存在だった。
アナハイムから買い取ったこの新型機は、防衛と呼べるMSの性能を明らかに逸脱していたのである。
戦争を仕掛ける立場にないものが持つには、大きすぎる力でもあり、
そのことからもゼルはアーバレンス国が、連邦政府に対して戦いを仕掛けようとしていることがおのずと理解できたのだ。
しかしそのゼルの言葉に、カバードは不敵にニヤリと微笑む。

「なるほど・・・馬鹿ではないようだな、だったら聞くがその機体たちをアナハイムに受注したのが、アンナ様だったとしたらどうだ?」

「な!!なにを!!」
カバードの自信に満ちたその言葉は、ゼルの心を大きく揺さぶる。
それはゼルの中にもおぼろげだが、可能性として考えられる事柄でもあった。
アンナ・アーバレンスは連邦政府に少なからず不信感を抱いていたことを彼は知っていたからだ、
彼女の両親、前国王と王妃は1年前連邦政府に防衛部隊の存在を示唆され、あらぬ疑いをかけられた。
国防衛とはいえ充分すぎるほどの戦力を有するアーバレンス国に、連邦政府は危険な存在であると判断し早々に潰しにかかったのだ。
しかし反発した前国王達は、弾圧にも似た反逆の罪を着せられ連邦政府に捕らえられた・・・
彼らが自ら命を落としたのは、それからすぐのことだった・・・

「アンナ様は、今の世界に憎悪を抱いているのは知っているだろう?平和に見えるこの世界で連邦は裏で何をしてきたのか?
それを知ってしまった彼女を止めるすべはないということだよ」
ガバードの力強い言葉に、ゼルは唾を一つ飲みこむ。
彼とてその事柄は理解していたが、幼馴染としてずっと一緒だった彼女の本当の心の中も、誰よりも充分理解していた。
人一倍他人を気遣い優しく接する、そのうえ芯が強く頑張りすぎるところもあるが、王女として育てられたことからも、他の人間にはない気品というものも感じさせていた。
ゼルはそんなアンナに、いつの日からか幼馴以上の感情を抱いていた。
269創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 15:48:34 ID:HLYXs7Zq
「信じられないね!!そうだとしてもそれを止める為に俺はすべきことをしてるまでだ!!」
ゼルはそんな彼女だからこそ、自分の気持ちを信じ強気に言い返す。
そのために彼はこの機体を持ち出し、連邦にアーバレンスで起ころうとしている事実を公表しようとしていたのだ。
ゼルのそんな姿に、ガバードは再び不適な笑みをみせる。

「させんよ、そのために我々はここにいる!!」
ガバードはそういうと、周りのドゥーラ・ドゥーラ達にマニュピレーターで指示を与える。
それに答えるように一つ目のメインカメラを光らせた4体のドゥーラ・ドゥーラは一斉に、Φ(ファイ)に両手を広げながら掴みかかろうとする。
Φ(ファイ)を無傷で捕らえようと、行動を起こしたのだ。

「だったらーー!!」
そんな姿に、ゼルはΦ(ファイ)の操縦桿を握り締め構えを見せる!!
すでに汗ばんだノーマルスーツの中は汗でびっしょりであり、操縦桿を握る手も湿って不快感が募る。
5対1のこの状況だが、ゼルには自分の未熟な腕を信じてどんなことをしてもこの状況を切り抜ける他、生き残る道が残されていなかった・・・・

第二話に続く・・・・

RXR−98 Φ(ファイ)
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10226.jpg


MSK−001 ドゥーラ・ドゥーラ
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10227.jpg

長文失礼しました
270創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 19:18:09 ID:QDeRDI+K
乙!
これからどう展開していくか楽しみ
271創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 21:18:26 ID:52eLLyIb
乙!
細かいけど文脈的には「受注」ではなく「発注」かな?
しかし自分でMS描けるってのはいいね。
続きが気になるな
272創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 22:42:31 ID:HLYXs7Zq
>>270
>>271

ありがと
たしかに発注だわ、間違え申し訳ない

あと「おそるそそる」になってた
これから気をつけます
273創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 22:44:21 ID:NmGf0Jc0
>>272
誤:おそるそそる
正:むしろそそる

ですね!
274創る名無しに見る名無し:2009/04/21(火) 23:02:42 ID:mN3eWKmc
>>233の全身かけました。

http://imepita.jp/20090421/811800
275創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 17:42:14 ID:4CqMg4De
トンガってるなあ
キュベレイが思い浮かんだ。
276創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 19:55:33 ID:wSBvhYSA
>>274をモデルに、上手に書いてくれる方いらっしゃいませんか?

あと、名前も募集中です
277創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 20:29:09 ID:UkLX1Yq+
>>276
ではクワンユーという名前を進呈
278創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 20:35:15 ID:wwC/6fSU
あえて言おう!
ビギナ系であると!
279創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 22:28:37 ID:1yqA5PKO
ビキナ・レイ
280創る名無しに見る名無し:2009/04/22(水) 22:42:28 ID:/6MLTThN
人口が数百億になった世界。
減らさなきゃどうしようもない。

でも地球の上で無茶な事して減らしても元も子もない。
醤油パックにみたいな筒を空の海に浮かべ、そこで問題を解決しよう。

あと争うための口実が必要だ。
地球生まれのエスパーだけど、こいつらに口実になってもらおう。

これをマジに受け取ったどっかのボンボンが、『自分らの世界を作ろう』とかいって、
インド人や反抗期の子供や改造人間を囲ったりして逆襲してくるかもしれないけど、
立案者の役人1人を差し出しておとなしくしてもらおう、か。
281創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 00:34:31 ID:Y+JQMsHB
保管庫誰も更新してないね
282創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 00:25:00 ID:PRAsaIS+
こんな物ドット絵でチマチマ作ってみた

http://imepita.jp/20090423/851450
283創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 00:59:59 ID:zbJNxVQ6
>>269の続きなど

第二話 女達の部隊

ゼルのΦ(ファイ)を4機のドゥーラ・ドゥーラが、手を広げ掴みかかろうとする!
四方を囲まれたゼルはその威圧感を感じながらも、
全周囲モニターから迫る紅き機体たちの動向を食い入るようににらみつける。
いくつも状況を打開するための考えを巡らせるが、未だにそれがまとまらないもどかしさを抱えながら、バーニアに直結しているフットペダルを踏みしめる準備に余念がない。
ここでつかまるようなことがあればゼルは、すぐさまその身を捉えられ自由を奪われてしまうだろう。

そんなことを思うと踏みしめるフットペダルの足にも自然と力が入る。
それを拒むように思いっきり踏みしめたその足により、機体を一気に加速させる。

「逃げ足だけは得意なんだよ!!」
4機のドゥーラ・ドゥーラがその姿に面食らうが、すぐにそれに反応してΦ(ファイ)に飛び掛る。
まるで逃げ回る子供を捕まえるように右往左往しながらも、何とか捕らえようとする彼らだったが、
その合間を基本のパイロットからは想像がつかないほどの無茶な操縦でΦ(ファイ)の機体をスルリスルリと逃れさせていく。
さすがに機動性は抜群であるΦ(ファイ)だったが、腕が乏しいゼルの操縦とはいえ気をてらったようなその彼の操縦は、追い詰められた焦りも伴いとても操縦とはいえない代物だった。
がむしゃらに操縦桿を倒し、フットペダルを何度も踏みしめる。
ただつかまりたくない一身で操縦するその機体は急加速と急制動を繰り返し、ドゥーラ・ドゥーラ達もその動きを捉えるのに難儀する。

Φ(ファイ)の動きに気をとられ攻撃をしてこないドゥーラ・ドゥーラ達の姿に、一瞬の勝機を見出したゼルは、右手に持つビームライフルを前に構え一機のドゥーラ・ドゥーラに狙いを定める。

「落とす気がないなら勝てる!!!」
ゼルは自分の機体を無傷で鹵獲しようとしている相手に、自分は容赦なく攻撃を仕掛けられるということに、一筋の光明を見出していた。
いくら数でかなわないこの状況とはいえ、攻撃を仕掛けた隙に乗じて逃げ延びることも可能であると考えていたのだ。

それを体現するようにゼルはビームライフルのトリガーを勢いよく引くと、ドゥーラ・ドゥーラ達にビームを放つ!!


しかし戦闘経験に乏しいゼルの狙いは甘く、そのドゥーラ・ドゥーラの上方数メートルの空間に灼熱のビーム光は消えていく。
ここで本来ならばドゥーラ・ドゥーラの反撃がゼルを襲うところだが、ゼルは彼らがそれをできないことをいいことに、尚もビームライフルのトリガーを何回も引き続ける!!
いくつものビーム光が宙空に散りばめられるが、ドゥーラ・ドゥーラ達は散り散りになりながらも余裕を持ってそれを交わしていく。

闇雲にも感じるその攻撃をしながらも、ドゥーラ・ドゥーラ達の行動をゼルは鋭い目でそれを見逃さない。

「穴だらけの今なら!!」
攻撃を避けるために空いた空間ができたことに、ゼルはフットペダルを踏みしめ、Φ(ファイ)を一気に加速させる!!
闇雲なビームライフルの攻撃も、敵を分断させその隙間を駆け抜けるというゼルの考えだったのだ!!
空いた空間を見事に突っ切っていくΦ(ファイ)は、尚も加速を強めその宙域を後にしようとする。

「こ・こいつが!!」
ゼルの考えを知らないドゥーラ・ドゥーラのパイロット達もさすがに咄嗟には反応できない、それに対応するのに一呼吸遅れてしまう。
ドゥーラ・ドゥーラの間をすり抜けるように、背部のバーニアを全開にしたゼルの黒き機体が、一瞬で通り抜けていく。
見事にゼルがこの窮地を脱したかに思われた
284創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 01:03:08 ID:zbJNxVQ6

「甘いな、そんなものが私に通用するとでも思うか?」
しかしそんなゼルの前方の空間に、すでにその考えを予見していたがごとく薄紫のドゥーラ・ドゥーラが一体、彼を制するようにビームライフルを構えこちらをにらみつけていた。
ゼルの奇抜な考えに思われたその行動さえ、指揮官であるガバード・シンクにはお見通しだったのだ。
そのことからも彼が卓越し、戦術に長けたパイロットであることが伺えた。

「くっそ!!」
目を見開き驚きを見せながらも、ゼルはガバードという男がそれだけの能力を秘めているということを改めて思い知らされていた。
彼の上司でもあるこの男には、模擬戦を行ってもいつもものの数秒で撃墜シグナルを聞かされてしまう。
一つも二つも先を読む彼のパイロットとしての技量は、トップパイロットとしての実力を遺憾なく発揮していたのだ。
それはゼルや他のパイロット達があこがれる存在であり、いつも絶対的な存在として今のように彼の前に立ちはだかっていた。

今のゼルはその圧倒的な威圧感を感じながらもガバードのドゥーラ・ドゥーラに対して、即座にビームライフルを構える。
追い詰められたからの本能なのか、ガバードのその強烈な威圧感への防衛本能かは分からないが、その瞬時の動きは常軌を逸した速度であった。

しかしゼルが瞬時に引き金を引くよりも早く、一筋のビームが狙い済ましたようにΦ(ファイ)のビームライフルを貫いていく。
それは機体を傷つけないようにと、これ以上ない精密かつ絶妙の狙いで放たれた一撃であり、文字通りビームライフルの砲身だけを貫いていた。


「なっ!!!」
ガバードの彼を上回る俊敏かつ正確無比な攻撃に、一番大事な対抗すべき武器を一瞬で破壊されたゼルは、その衝撃をコックピットで感じながらも思わず機体を後方にのけぞらせる。
腕の差ではかたずけられない、絶対的な資質の差がある相手に全身が鳥肌が立つほど震えさせながら、感じたことのない脅威を感じていた。

「ひよっこ以下のお前に、万が一でも勝ち目があるとおもうか?」
ガバードはそう呟きながらも、まるで手ごたえのないゼルの存在をあざ笑いながら、機体を一気にΦ(ファイ)に近づけようとする。
彼の中ではゼルが脅威を感じたこの攻防も、いつもの模擬戦程度にしか考えていないほどだったのだ。
ゼルの動きは彼の頭の中で容易にイメージできる事柄であり、それを逸脱する行動がなければ彼に意外性を感じさせることができない。
それはいつものゼルの戦い方を熟知している彼には、よほどのことがない限り不可能な出来事だった。
彼はそんなことからも冷静に白いとがった奥歯を見せながら嫌らしい笑みを見せる。
もう対抗する有効な武装を持たないΦ(ファイ)に対して、警戒する必要はなくあとは機体を鹵獲するだけであったからだ。

彼の動きに呼応して他のドゥーラ・ドゥーラ達も、再びゼルのΦ(ファイ)の周囲を取り囲み逃げ場をふさぐ。
こうなればゼルに逃げ道はなくなり、ふたたびどうすることもできない状況においつめられたのだ。

周りを取り囲んだ4機全てのドゥーラ・ドゥーラが、Φ(ファイ)両腕や前後から機体に掴みかかる、
成すすべなく瞬時のその行動にΦ(ファイ)のコックピットが掴まれた衝撃音に響きわたる。
あまりにも連携の取れたその動きに対して、ゼルはコックピットで必死にその腕を振り切ろうと操縦桿を動かすが、
4体ものMSに掴まれた機体は鈍い音を発しながらも圧倒的な力で押さえつけられ、微動だにしない。

「この野郎!!離しやがれ!!俺はーー!!」
ゼルの叫びもむなしく、完全に動きを牛耳られたΦ(ファイ)に対して、
ドゥーラ・ドゥーラ達は壊れ物を運ぶように各々の期待の制御を行いながらゆっくりと、元来た宙域の方にΦ(ファイ)を押しやっていく。
4機ものドゥーラ・ドゥーラの力に対して、さすがのΦ(ファイ)も対抗はおろか身動きをとることも不可能であった。

しかしコックピットで未だに抵抗する意思を示すゼルに対して、ガバードのはドゥーラ・ドゥーラは、突如腰元からビームサーベルを引き抜いたかと思うと、その鋭いビームの刃をΦ(ファイ)の腹部の装甲に静かに近づける。

「ギャーギャーわめくな、もちろんパイロットだけを殺す術も心得ている」
そういうとガバードは尚もそのビームサーベルの刃を近づける。
ジリジリトスパークするビームの火花が、コックピットのゼルの真正面のモニターニ迫ってき、ゼルは思わず腕を前に出し目をそむける。
285創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 01:05:14 ID:zbJNxVQ6
必要なのはこのΦ(ファイ)という機体だけであり、中にいるゼルだけを亡き者にするには、コックピットだけを潰せばいい。
ガバードにしてみれば機体を持ち帰るのが目的でありゼルの命など邪魔なだけなのである。
そのガバードの非情な行動に、ゼルは彼の本気の考えを感じながら思わず息を呑む。
自分の正面に見える全周囲モニターには、赤いビームの刃が刻々とに迫ってきていたか。

「まだなにもしてないのに・・・こんなところで・・・」
ゼルはこのとき初めて、自分の死というおのを感じていた。
いつも感じたことがない平穏な生活の中で、自分の命というものの重みを感じたことはなかったが、この絶対的な状況に立たされた彼は心底体中が震えていた。
唇は振るえ、奥歯はガチガチと音を立てる。
今まさに自分がこの迫り来る灼熱の刃にみを、一瞬で焦がされ世界から消え去ってしまうかと思うと、まだ若い彼にはいくつもこれからしたいこと、大切な人たちのことが頭を巡ってくる。

中でも思い人であるアンナ・アーバレンスの為に、自分が戦う決意決めたというのに、
こんなにもあっさりそれを成しえなくなることへの、自分自身の絶対的な無力さに絶望を感じながら、自然と瞳から一筋の涙が頬を伝っていた。
死ぬということへの恐怖というよりも、何もできなくなることに後悔の念だけが今の彼を支配していた。

「最低の部下だったよ・・・お前は!!」
ガバードはゼルにそういい残し、操縦桿を押しやり一気にビームサーベルを押し込もうとする!!
ゼルはコックピットで声にならない叫びを上げながら、目の前に広がる紅い光のまぶしさに目をつぶった、この世から一人の少年が姿を消すと思われた!!

しかしガバードのドゥーラ・ドゥーラのコックピットに、突如響き渡るアラームにそのビームサーベルを押し込む手の動きを止める。
響き渡ったそのアラームは敵機接近を知らせる反応であり、ディスプレイに目をやると、そのいくつも確認できる点滅する光の反応にガバードも気をとられる。

「なに?敵機だと!!連邦の部隊とでもいうのか!!」
ガバードは周囲のモニターを食い入るように見つめると、後方から接近するいくつもの機影徐々に接近してくる姿が目に入ってくる。
徐々にその全容が見え始めるその機体たちは、角ばったシンプルなデザインからも連邦軍の部隊のMSであることが容易に理解できた。
腑に落ちない表情をしながらもガバードはその機体のデータを照合するが、ドゥーラ・ドゥーラの機体データに照合しないのを見ると、チッとしたうちをする。
たしかに連邦の管轄区域に近いこの宙域で、連邦軍と遭遇するのは不思議ではないが、
それでも確立で言えば相当に低いものでもあった。

ガバードは即座に機体をΦ(ファイ)から離れさせるとその者たちが来る宙域に向かい臨戦態勢に入る。
他の四機のドゥーラ・ドゥーラはゼルのΦ(ファイ)を押さえつけるので、精一杯だったからだ。

「み・味方!?なのか??」
ゼルもその想像し得なかった状況に困惑を見せる。
死を決意していた状況から一瞬だが解き放たれたことに、全身から力が抜けるような感覚だった。

「お前達はその機体を連れて行け!!私が時間を稼ぐ!!」
そういい残しガバードは自らがそのもの達への迎撃の為に、機体のバーニアを吹かせ前方の宙域に突進していく。
ガバードはこの状況に自らおとりになり、Φ(ファイ)を連行するための時間を稼ぐつもりなのだった。
もし万が一連邦と思われるMS達が、無防備なこのΦ(ファイ)とドゥーラ・ドゥーラ達を攻撃すれば、後手に回るのは目に見えており、
作戦遂行が困難になると判断したのだ。
もちろん一人でもそれに対応しようとしている彼には、それだけの自信を持っているからだった。
286創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 01:06:26 ID:zbJNxVQ6
「まったく、私もついてるんだかついてないんだか、戦いを呼び込んじまうのかね?」
そんなゼルたちに迫る、連邦の部隊のMSたちの先頭、RGM−92 ジェンヌに乗る、
イリアーナ・シフォン中尉は、自分がいつも戦いに遭遇する確立が高いことになにか他の人間にはない運命があると感じていた。
このいつも巡回している宙域でも、なにかしらの敵部隊に遭遇する。
確立で言えばそう叩くないのかもしれないけど、平穏な今の世の中にあってこれだけの遭遇を果たすのは、彼女に何か特殊な運命めいたものがあるのだろう。
連邦の一部隊、女性だけの部隊『ワルキューレ』の指揮官であり隊長である彼女は、そんな自分がいつも戦いの緊張感を求めているということが、起因しているのだろうとうすうす感じていた。
今もいつもの宙域を偵察していただけなのに、遭遇戦に巻き込まれようとしている。

これこそ彼女が戦いを引き寄せる、素質なのだろう。

「隊長は男は寄ってこないのにね(笑)」
彼女の後ろから追従する他三機のジェンヌの内の一機から、なにやら彼女の機体になにやら通信が聞こえる。
同じ『ワルキューレ』のメンバーでもある、メイア・ファーガソン少尉は先ほどヘッドフォンで聞いていた、ダウンロードしたてのお気に入りのグループの新曲を思い出し、鼻歌交じりに声をかける。

「ほんとよね、この前も男と喧嘩してるところを見たもの、好かれるより争っちゃうのよ」
その言葉に追い討ちをかけるように、もう一機のジェンヌのパイロット、アリーズ・ペネレセ少尉がコックピット内に貼られている、端整な顔立ちをした男性が写っている写真に投げキッスをしながら、茶々を入れる。
二人の会話に、一斉に笑い声が広がる。
そんな彼女達の態度に、ムッとしながらもイリアーナ中尉は憮然とした表情を浮かべる。

「あんた達、帰ったら腕立て100回追加だからね!!」
イリアーナ中尉は隊長という特権を生かし、彼女達に反撃するように強い口調で答える。
戦場だというのに彼女達は、まるで日常的なようにやり取りを楽しんでいたが、これが彼女達の戦場でのコミュニケーションの一環であり緊張をほぐす作用も果たしていた

「隊長!!一機こちらに向かってきます!!」
そんな彼女達に対して最後方のジェンヌに乗る、レーラ・クリウス少尉は冷静にモニターやディスプレイの情報を確認しながら迫り来る情報を伝える。
他の三人とは違い彼女だけはパイロットとしての基本に乗っ取った、
冷静な状況判断をしているように思えた。
そんな彼女の言葉に、さすがに他のメンバーも一応の緊張感を持つ。

「どうみても味方機が、謎の機体に鹵獲されそうになってる・・・
私にはそう見えるけど、あんたたちはどう思う?」
イリアーナ中尉の前方の最大望遠で見える確認できる範囲の言葉に、皆も同じ状況を確認しながら静かにうなずいていた。
前方の奥の宙域には、不自然に固まったMS達の姿があり、
その異様さからもなにか裏があると感じさせる。
四方を囲まれたゼルのΦ(ファイ)の機体の容姿は、自分達の機体に属するデザインであることからも味方機であり、データにない謎の機体達がそれを連れ去ろうとしているというのが、誰が判断しても正しいと思われた。

「どちらも照合データないですね、しかしどうみてもあのジオニックを思わせる形状は敵機だと思いますけど」

「同感だわ、隊長仕掛けてくるんだからやっちゃいましょうよ」
メイヤとアリーズの言葉に、イリアーナ中尉も状況を判断し対応を見せる。

「よしっ!!あの黒い機体を援護するよ!!全機散開!!」
イリアーナ中尉の号令と共に、一気に前方に加速させた4機のジェンヌたち。
女性だけの部隊『ワルキューレ』隊が華々しく舞い踊っていく!!
女性だけを集めたという特殊な部隊の、真価が垣間見れるときが近づいていた。

第三話に続く・・・

RGM−92 ジェンヌ
http://sageuploader.if.land.to/cgi-bin/1upload/src/sage1_10200.jpg

連続投下失礼
287創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 08:42:24 ID:0CXqvzZR
>>282
F91はサイドストーリー多いのに未開拓だよな
ってかドット絵でこれはすげえ
>>286
投下乙
オリジナル機は画像あるとイメージしやすくていいな
ただ、くだけた感じを出そうとしたんだと思うけど(笑)みたいな表現は避けたほうがいいと思う
288創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 13:11:43 ID:8u5dH45I
>>286
女部隊ってシュラク隊を思い出すなぁ
全滅したりしないよね…
289MAMAN書きOlynpique Lyonnais:2009/04/26(日) 03:48:49 ID:75U6UPYK
もう少し書き進めてからと思ったけど、忘れられそうなので落としておきますね

蒼の残光  再戦
290MAMAN書きOlynpique Lyonnais:2009/04/26(日) 03:49:58 ID:75U6UPYK
 オリバー・メッツはこの時、最も冷静に戦況を確認できる位置にいた。
 彼の位置は戦線の最終ライン、ステーションと彼らの切り札の前であった。オリバーは
その位置で味方の防衛線を突破した連邦軍の駆逐を命ぜられていた。
「ただ抜けてきた奴を叩くんじゃない。防御の手薄な部分、逆に遊兵のできている部分を
見極め、お前が指示を出すんだ」
 アランからはそう言われていた。
 命令を受けた時、オリバーは実のところ不服だった。決して後方支援を軽視するわけで
はないが、戦士ならば戦場にあって最前線に立ちたいと思っている。まして、連邦軍には
あの『戦慄の蒼』がいる。あのエースを一対一で打倒する事が出来るのは自分だけである
と確信を持っていた。味方を信用していないのでも、自分を過大評価しているわけでもな
い。NTの感覚があの連邦軍トップエースの危険性を正確に認識したのだ。
 だがこの命じられた位置での戦いが、彼の成長に必要なものを提供してくれている事を
認めざるを得なかった。後方から全体を眺め、敵味方の位置関係を正確に把握し立体的な
マップをイメージする。同時に理想とする防御陣と実際の戦力配置を擦り合わせ、その誤
差を修正すべく指示を出す。これは全てファンネルの制御に必要な要素だった。攻撃の届
く心配の少ない後方からこの作業に集中できる環境は、最前線にいては、まして『戦慄の
蒼』と対峙していては育てる余裕はなかっただろう。もちろん敵と直接刃を交えながらの
成長は雛鳥が一気に巣立ちを迎える程の成長を促すが、このように実践でありながらもあ
る程度の余裕を持つ中で伸びる能力もあるのだ。
 時折突破してくる敵をファンネルで撃ち落しつつ、それでもオリバーの知覚はユウ・カ
ジマの気配を探していた。失われた視覚はサイコミュ技術の応用で脳に直接映像を送信す
る事で補われ、オリバーはこの機体に乗っている間だけ色と光を取り戻す。ありえない速
度と、分裂するビームを操る蒼いMSの姿を求め、ゲーマルクのモノアイは左右に往復し
ていた。
「――いた」
 声に出していた。巨大なバックパックを装着した蒼いバウが戦闘を行なっていた。相手
は――ドーベンウルフ。アランだ。
 さすがにトップエースであるアランの技術は他のパイロットとは別格であり、インコム
を駆使したオールレンジ攻撃でユウを相手に堂々たる一騎討ちを演じていた。しかし、オ
リバーはNTであるが故に気づいてしまっていた。
「アランは限界だ。だが奴は……!」
 その身に帯びた多数の武装を駆使しアランはユウに迫り、ユウは手にした巨大なビーム
ライフルで反撃していた。しかし、アランの反応速度が既に頭を打っているのに対し、ユ
ウの動きはまだ速さを増していた。インコムも大型のビームライフルも掌から放たれるビ
ームもBD−4の本体から遠ざかっていき、逆にBD−4の分散するビームはドーベンウ
ルフに軽微ながらもダメージを与え始めていた。このまま戦闘を続ければ確実にアランは
撃墜されるだろう。
 エースであり、事実上前線での総指揮官であるアランが敗れれば戦線は崩壊する。それ
は自分たちの完全敗北を意味していた。
「くそ!」
 並のパイロットを一個中隊ぶつけたとしてもこの死神に勝てるとは限らない。更に言う
ならただ一機のMSのためにそれほどの戦力を割く余裕もない。
 オリバーはゲーマルクを駆った。



 マザーファンネルを切り離し、左右に展開、両手と胴のメガ粒子砲を同時に励起し狙い
をつける。
「当たれ!」
 ユウの背後からの奇襲はしかし、回避された。NTであるオリバーをして驚異的な反応
だった。
291MAMAN書きOlynpique Lyonnais:2009/04/26(日) 03:51:08 ID:75U6UPYK
「ちぃっ……」
『オリバー、出てくるな、戻れ』
 アランからの通信が聞こえてきた。
「アラン、あんたこそ自分の立場を自覚してくれ。あんたが落とされたら総崩れだ」
『俺は負けん。まだニトロシステムが残っている』
「僕の前で虚勢を張っても無駄だよ。連続で使うと負荷に耐えられないんだろ?MSもア
ランも」
『…………』
「ここは二人掛りで一気に押し潰す。僕の方にもニトロは積んであるんだ。短時間で片を
つけてやる」
『わかった、だが油断するな。恐らく相手はバイオセンサーを装備している。前の戦いよ
り反応速度は二割増と思っておけ』
「バイオセンサーか」
 それで先程の回避も説明が付く。経験から来る読みの正確さに加えてバイオセンサーに
よる人馬一体の追従性が加わっているのだ。これは当てにくい。
『オリバー、俺が距離を詰めて接近戦を挑む。お前はファンネルで死角を狙え』
「了解」
 ドーベンウルフがスラスターを全開にして突撃、ゲーマルクのマザーファンネルからチ
ルドファンネルを丁度半分射出してBD−4を包囲した。ドーベンウルフはビームサーベ
ルを引き抜き零距離戦闘を仕掛ける。
「……!」
 ユウは咄嗟の判断でシールドを投げ捨て、左手でビームサーベルを構えた。この状況で
ライオットガンから手を離すわけにはいかない。
「さすがにいい判断だ。だが!」
 左手のハンドビームを刃に成形し、二刀流で斬りかかる。さしものユウも防戦に回らざ
るを得ない。
「――行けーい!」
 十四基のチルドファンネルと二基のマザーファンネルが天地左右方向から一斉射撃を行
なった。背後から狙わなかったのは万が一躱されればアランを正面から捉える事になるた
めである。
「むぅ」
 推力を全て集中し背面方向へ滑るように移動するユウ。十六条の光線は砲門の向きを変
えて追ってくる。ユウはバードショットでファンネルを撃ち落そうと試みた。
 二十五に分かれたビームは全て外れた。
「剣を振りながらの射撃が当たるものか。ファンネルを舐めるなよ」
 ドーベンウルフの腹部が光を蓄え始めた。メガ粒子砲か、と悟ったユウが発射の瞬間を
見切って飛び退き、ビームはBD−4の横一メートルを通り過ぎた。発射後の隙を狙うチ
ャンスと斬りかかろうとした時、二発目のメガ粒子砲が放たれた。
「――!」
 ニトロシステムによるジェネレータ反応速度の爆発的な上昇でメガ粒子砲を極短時間で
再チャージしたのだ。そのメカニズムをユウは知らないが、腹部の光を見た瞬間に身体が
反応していた。
「これも躱すのか。しかし」
 オリバーのゲーマルクもまたメガ粒子砲をチャージしていた。BD−4の動きを先読み
した必殺の砲撃は、しかし肩先を掠めただけで虚空に吸い込まれていった。
「たいした反応だ。だが、いつまで逃げられるかな?」
 ユウの反応は疑いなく最高のエースのみ到達しうる領域だった。それでも、多少落ちる
とは言え歴戦のエースとサイコミュを得たNTの二人を相手ではあまりにも分が悪い。
「む!?」
 オリバーの視界からBD−4が消えた。どこだ、と考える前に左から殺気を感じた。
 ビームサーベルを引き抜き斬撃を受け止める。蒼い敵は構わず二の太刀、三の太刀と斬
りつけてくる。
 ゲーマルクの設計は二重のファンネルシステムによる超広範囲遠隔攻撃と多数のメガ粒
子砲による砲撃という、アウトレンジでの運用に特化していた。回避性能や加速力には力
点が置かれてはおらず、その点でキュベレイやドーベンウルフとは設計思想から異なって
いる。誤解を恐れずに言うなら、一年戦争時のゾックにサイコミュを着けたMSと言う表
現が設計思想の点では近い。零距離でのまして斬り合いなどあくまでも非常事態の備え程
度のものでしかないのである。

292MAMAN書きOlynpique Lyonnais:2009/04/26(日) 03:52:14 ID:75U6UPYK
「しまった――くそっ」
 MSの操作に集中力が奪われファンネルの精密制御が出来ない。かつてハマーン・カー
ンはキュベレイに密着した百式をファンネルで半壊させたが、その時百式は後ろから捕ま
えるだけで格闘戦を挑んだわけではなかった。このように防戦に努めながらファンネルで
零距離の相手を攻撃しようとすればコントロールを誤れば自分に当たってしまう。ドーベ
ンウルフも同じく僚機への誤射を恐れて手を出せない。二対一の絶対不利な状況下でこの
最適な解を導き出すユウの戦士としての力量は恐るべきものと言えた。
『オリバー、ニトロで振り切れ!一瞬でも間合いが取れれば何とかする』
 アランの言葉が耳に届き、オリバーはニトロシステムを起動させた。反応炉の状態を示
すモニターが真っ赤になり、ゲーマルクのスラスターは爆発的な加速力を発揮して距離を
離した。
 加速性能ならばBD−4も引けはとらず、そして加速可能時間はニトロよりも長い。ユ
ウもスラスターを全開にしてすかさず追った。いや、追おうとした。
 邪魔をしたのは二本の腕だった。ドーベンウルフの左腕がゲーマルクと入れ違いにBD
−4の前に飛び込んできて掌の砲門をコクピットに向けた。ユウはそれをサーベルの一閃
で破壊する。
 しかしそれは囮だった。更に突進を続けようとするBD−4の今度は左足が何かに掴ま
れた。右腕だった。目前のゲーマルクと周囲に浮くファンネル、それに横から割って入っ
た左腕に気を取られ、右腕が下から迫っている事に気づかなかったのだ。
「いかん!!」
 間に合わない。ライオットガンを自分の左足に向け、バードショットを撃ち込んだ。遠
隔操作で飛ぶ危険な右腕は跡形もなく消し飛んだが、最期の瞬間に放ったビームがスラスターを貫通し、BD−4も膝から下を失った。
「よし!」
「行ける!」
 アランのドーベンウルフは両腕を失ったが、隠し腕でライフルを扱う事も出来、インコ
ムも健在だった。オリバーのゲーマルクのファンネルはBD−4に向いている。一方のユ
ウは左足を失い、バランスを崩している。いかに『戦慄の蒼』と言えどもこの瞬間に一斉
砲火から逃れる術はない。
「終わりだ、ユウ・カジマ!」
 オリバーはファンネルの攻撃指示を発した。
 BD−4のモノアイが禍々しく紅く輝いたのはその時だった。
293MAMAN書きOlynpique Lyonnais:2009/04/26(日) 03:53:26 ID:75U6UPYK



「ここまでか……」
 ユウの脳裏に『死』という単語がよぎった。珍しい事ではない。彼は自分だけは死なな
いと根拠もなく信じ続けられるほど自信家でも、楽天家でもなかった。
 完全にバランスを崩された。しかも立て直すにも左脚を吹き飛ばされてはスラスターで
向きを変えるにも一苦労だ。この瞬間を狙われたらユウは回避できないだろう。そして今
対峙している二人はこのチャンスを見逃す敵ではない。
 妻の顔が浮かんだ。
「マリー……」
 死ねないと思った。ここで死ぬわけにはいかない。持っていかれたのは脚一本だ。ここ
を切り抜ければまだ戦える。
 レバーとペダルを高速で操り、バランスを取り直す。左足のスラスターがない分のバラ
ンスの修正はコンピュータより自分で直接入力した方が早い。経験と能力の全てを注ぎ込
んだ操縦は後一歩で成功するところだった。
 ユウの視界にマザーファンネルが映った。照準を定め、破壊の光が発せられんとしてい
るのが見えた。

――こっちへ

(!?)
 声と同時に回避ルートが正確にイメージされた。そのイメージのルートに沿って機体を
操る。この操作も誰かに手を添えてもらっているような感覚だ。ユウはその声に、感覚に、
覚えがあった。
(マリオン・ウェルチ、君か?)
 かつてEXAMに精神を閉じ込められた少女。一年戦争時、今と同じ名のMSに乗った
時彼女の存在を知り、その声を聞いた。しかしEXAMがすべて破壊されると共に彼女の
精神も開放され、病院内で目を覚ましたと聞いていた。その後の消息はついに掴めなかっ
たが、なぜこの機体にまた現れたのか。

――来るわ

 機体の性能が上がっているわけではない。マリオンの能力により擬似的にユウの認識能
力が上昇し、今まで以上の反応と精度でMSを振り回しているのだ。
 聞こえてくる声は十年前と同じ少女のままだった。声というのはそれほど年をとらない
が、少なくともユウには昔のままに聞こえた。まさかまだ精神がどこかに閉じ込められて
いるのではないか、そんな心配をした。
 そしてユウは奇妙な事に気づいた。目の前のゲーマルクとドーベンウルフがどちらも動
きを止めているのだ。自分の感覚が速くなりすぎたせいか、とも思ったが、どんな理由か
戦いを忘れたかのように棒立ちとなっているのだ。先程までの殺意は全く感じられない。
 ユウはゲーマルクにライオットガンを向けた。気づく様子はない。

――殺さないで

(何故だ?何故そんな事を言う?)

――助けてあげて

(……助けるにしても動きは止めなければいけない)
 ユウは再びバードショットにセットした。この距離ならこれで致命傷を与えず動きを止
めるだけのダメージだけは与えられるはずだ。
「撃つぞ」
 ユウはトリガーを引いた。


ここまで
294創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 03:57:55 ID:/CEyVkC3
乙ッス〜

EXAM復活なのか似たような現象なのか
謎は深まりますな〜
295創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 05:19:59 ID:ZqUtonco
蒼の残光来た!
これで勝つる!
296MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/04/26(日) 10:22:13 ID:75U6UPYK
あ、#忘れてトリップキー公開しちゃった
297創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 10:25:25 ID:nQG4BEY2

更新待ってたぜ
298創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 21:37:37 ID:lyAmcjwn
日本製MSが活躍するSS書きたいんだが
キャラの名前は英字表記じゃなくて漢字表記でもいいのかな?
そこんとこ教えてください
299創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 22:33:38 ID:oRpzoU8J
大丈夫だと思うけど
雰囲気がどうなるかな
UCならカタカナの方が
いや、どうだろう……
300創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 22:36:23 ID:4B1XqkTW
百式とかスザクがあるんだから大丈夫だろ
301創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 22:55:31 ID:UlANpuQp
特殊部隊物書いてたらMS戦より生身の戦闘の方が若干長くなってしまったでござる
こんなんでも投下して良いんだろうか。
302創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 23:33:48 ID:oRpzoU8J
なぁに俺のは会話だけでMS出て来ない話があるんだ
戦闘あるだけ良いと思う
303MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/04/28(火) 03:53:33 ID:Ea8+4vsg
そう言えばバウの漢字は実在するんだろうか
304創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 07:54:59 ID:FlDoqeXB

305創る名無しに見る名無し:2009/04/28(火) 22:35:00 ID:XCaWRq6y
>>274の名前、機体解説をします
MSZ-XXX オマージュ

ニュータイプ専用機。
本機はF.R.A.S(Full Range Attack System)
を搭載しており、頭部アンテナ、アームダクト、ショルダーアーマー、フロントスカート、レッグスカートなど機体の
あらゆる面にバルカンおよびビーム砲が装備されており、どのような体勢、どの方向に対しても攻撃できるようになっている。

そのため、非常に高価でザク50機相当の
コストが必要である。

宇宙での戦闘を目的として作られているため、バーニアの燃料供給システムなどはかなり完成度は高い。

しかし、大気圏突入の際に起きる摩擦熱やエネルギーロスを一切起こさないので、通常の3〜5倍の速度および安定性がある。

ボディ自体の装甲がかなり頑丈なため専用シールドを必要とせず、スムーズに運行ができる。
306創る名無しに見る名無し:2009/04/29(水) 18:41:04 ID:hPbfW3/y
ザク1機に対して
ヅダ=1.8倍
ガンダム=7倍らしい

全方位攻撃できるってことは敵集団に単独特攻する戦法だろうか
コンセプトkwsk
307MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/04/29(水) 22:03:02 ID:6njbBysR
>>305
全方位攻撃はいいコンセプトだけど、その武装がバルカンってのは頼りなくない?
パルスレーザーとメガ粒子砲とかもう少しはったりの効く武器にしてあげたほうが高速機動強襲型ぽくなりそう
イラストに反映される部分かは置いといて話を書くに当たってはだけど
308創る名無しに見る名無し:2009/04/29(水) 22:07:54 ID:vQ5abps7
マシンキャノンつっても
GのとWのでは大幅に威力が違うし
そこら辺は口径や弾薬次第なんでないの?
309避難所よりレス代行:2009/04/29(水) 23:04:43 ID:9NnwbHFb
 そこには、狙撃兵がいた。
 肩の高さにまで引き上げられた右肘と、銃の真下に添えられた左腕は完璧な立射姿勢を
形作り、銃身は揺らぎもせずに死そのもののような黒い銃口を虚空へと向けていた。
 そこにあるのは張り詰めるような静寂だけだった。圧倒的な存在感を放つ狙撃兵すらも
その静寂の一部のように、異様なまでに動かずその時が来るのを待っている。過去も無く、
未来も無く、狩りの時が来るのを待っている。
 漆黒の宇宙の中で、灰色の死化粧を施された巨躯の狙撃兵は待つ。慣性速度を完璧にゼ
ロに保ち、自分の全長ほどもあるライフルを完璧な姿勢で構え、死んだように動かない。
しかしその19.2メートルの巨躯は生きている。光量の絞られた赤黒い単眼がほの暗く
光り、その先のスコープ型センサーを通じて虚空を見、その十字線に獲物を捕らえるのを
待っている。
 やがて、遥か彼方に数個の光が瞬いた。今までまったく身じろぎもしなかった狙撃兵は、
封印を解かれたかのようにほんの僅かながら銃口を動かし、その光を捉えた。
 そこに、薄暗いコックピット内にあるものは何も無い。静寂すらも、ない。ただそこに
あるのは虚無だけだった。その光を何十倍にも拡大された視野の中で捉えても、それは変
わらない。興奮もなく、期待もなく、後悔もなく、不安もない。それは明白な事実を意味
するにすぎない――すなわち、仕事をすべき時が来たことを。
 引き出された照準器の中、投影された輪の中のさらに中、十字線のその中心に、彼らは
いる。獲物はいる。狙われている事など露とも知らず、無邪気に思えるほどにのんびりと
飛んでいる。
 距離、およそ7500。レーザーによる測距は、相手に探知される恐れがあるので使う
ことはできず、投影された拡大率と、像の大きさからの概算――すなわち経験の賜物。M
S狙撃兵としての基礎。敵総数4。C型ジム3、ジム・スナイパーカスタム1。左から右
へと巡航速度で飛行中。敵機の機速から、照準を横方向へといくらか修正。
 これは、不可能な射撃だ――そう、人間ならば。人間と銃の限界を越えた距離、速度、
装甲。しかし、スナイパーはおよそこの時点で最高の機材――つまり自らの手足であり、
目であり、耳であり、照準器であり、銃であるMSに乗っていた。それゆえにこれは不可
能な射撃ではなく、宇宙世紀ではよくある、ありふれた狙撃となっていた。
 スナイパーの精神集中がまた一段と高まる。トリガーにかけた人差し指がもぞもぞとト
リガーを撫ぜはじめる。吸い込まれるかのようにトリガーは軽いが、スナイパーはもう少
しだけ獲物の観察を続ける。早くしろという声と、まだ待てという声がスナイパー自身の
奥深くでせめぎ合うが、スナイパーがそれを感覚することは無く、ただ己の経験からもっ
と良いタイミングが来ることを信じて引き金を撫ぜ続けている。
 その時が来た。先頭の後期型ジムが機速をゆるやかに落とし、反転して列機の方へと正
対する。ほぼ静止したに等しい状態。これ以上ないほどの絶好のチャンス。
 彼らを追っていた十字線がジムのランドセルへとピタリと吸い付いた。
 スナイパーは息を吐き、自らの内部に静謐さを求め、されど意思することはなにもない。
決断も、懺悔も、許容も、容赦も、慈悲もなく。それは、単にそうなるに過ぎない。
 銃身が跳ね上がり、視野が上方へと引き上げられた。一瞬の後、それらが元の位置へと
戻ったとき、ジムの背部が88ミリの超高速徹甲弾に貫かれて爆裂したのを、彼女の目が
捉えた。
310 ◆30AKLWBIYY :2009/04/29(水) 23:09:54 ID:mcLoL5Fu
私です。生存報告がてら、今書いてるのでも投下してみた。
規制に巻き込まれて涙目でござるの私でした。
311創る名無しに見る名無し:2009/04/29(水) 23:18:11 ID:7AXKFjuW
30AK氏キタキタキター
312創る名無しに見る名無し:2009/04/30(木) 00:35:16 ID:5VbnhGxp
>>306-308
反応ありがとうございます。
全方位射撃もできることはできますが、後ろの方はカメラ範囲外なのであまり実用的ではないです。

よって、相手の攻撃を避けながら、相手に向かってビームを発射したりすることになります。

たとえば、でんぐり返ししていても、一点に集中して砲撃できます。

装備ですが、かなり威力の強い弾丸ですので十分に強いですよ。

書き忘れてましたが、大きい肩アーマーの中には、小型核ミサイルがそれぞれ1発ずつ装備されています
313創る名無しに見る名無し:2009/04/30(木) 09:08:15 ID:wHrJYUHO
>>309
ジムを撃ったって事はザクTスナイパー!?
他のスナイパーMSはゲルググしか知らないもので……
それもビームスナイパーライフルでなく実弾とは
314 ◆30AKLWBIYY :2009/04/30(木) 12:17:08 ID:c7hLieGi
それはおいおい明らかに…
ってすぐ明かされるので隠す必要もないですねw
またまたゲルググJです。またかいっていう
実弾は趣味ですハイ

今回も長いよ!覚悟したほうがいいぜ!
315MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/02(土) 01:01:18 ID:f0crvsms
>>312
ああ、どんな体勢からでも反撃できるコンセプトなのか
それなら納得
316Mad Nugget ◆/zDpw52UEQ :2009/05/02(土) 08:40:20 ID:j1uqixNF
見直してばっかりで限が無いから、一気に投下します
317創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 08:41:49 ID:j1uqixNF
トリ違う……
出直して来ます
318Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 08:48:36 ID:j1uqixNF
失礼しました
今度こそ投下
319Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 08:57:01 ID:j1uqixNF
 崩れ落ちたボールから這い出すハロルドと、それを手伝うダグラス。連邦軍の指揮官は2人に歩み寄った。

「貴様等の勝ちだ。約束通り釈放してやろう。しかし、手続きに少々時間が掛かる。一週間後だ」
「はは、有り難い」

 愛想笑いするダグラスを見て、指揮官は恩着せがましく言う。

「あのまま貴様等を潰す事も出来た。そうしなかったのは、連邦軍の誇りだ。銘じて忘れるな」
「フッ、俺達は構わなかったがな! 手前等はダグのキャノンが何処を向いてたか、見てなかっただろう?
 その程度で、よく偉そうな口が叩ける! おい、ダグ!! こんな奴の話は聞かなくて良い! 手を止めるな!」

 彼の傲慢な口振りに、残骸から半身を乗り出して口答えするハロルド。ダグラスは溜息を吐き、彼を止める代わりに
持ち上げていた鉄塊を手放した。

「いっでぇええ!! ダグ、お前、うわっ」

 鉄塊はハロルドの頭に直撃し、ガラガラと大量の鉄屑を雪崩れ落とす……。ハロルドは再び瓦礫に埋もれた。

 遠目にハロルドとダグラスの遣り取りを見ていたマッセンは、小馬鹿にした様に鼻で笑い、密かに通信を始める。

「報告致します。例の2人は生き残りました。予想外でしたが、ベストな結果です。はい。では、プランBに……。
 釈放は一週間後。失礼します。……はい、今度は降伏などさせません」

 彼女は最後を恐ろしく冷徹な言葉で締め、振り返りもせず公園を後にした。
320Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 09:00:02 ID:j1uqixNF
 釈放の日、ハロルドとダグラスはフロリダに移送された。そこから6人の地球連邦警察官と共に、貸切シャトルで
火星へ。約1週間の旅。
 2人の故郷はアステロイドベルトの外。ハロルドは土星圏育ち、ダグラスは木星圏育ち。2度とアステロイドベルト内に
戻らない様、固く念を押されての出立となった。

 ハロルドとダグラスは同室に押し込められ、その両隣の部屋に連邦警察官が3人1組で監視に就く。長く退屈な
旅になると思われたが……。

 ビィーッ! ビィーッ!

 出発から8時間後、機内に警報が鳴り響いた。
 直後、シャトルが大きく揺れ、複数の人間がシャトル内を忙しなく走り回る足音。
 緊迫した雰囲気に、警戒するダグラス。対照的に、ハロルドは欠伸を噛み殺してベッドに横になる。
 暫らくして男性の連邦警察官が一人、ハロルドとダグラスの居る室内に飛び込んで来た。

「おい! 御迎えだ!」
「騒がしい……。 何事よ?」

 ハロルドは面倒そうに体を起こし、文句を言い掛けて眉を顰めた。連邦警察官は拳銃を構えている。
 間も無く、武装した黒い覆面の人物が通路から顔を覗かせ、連邦警察官に話し掛けた。

「分かっているな?」
「そちらこそ」

 連邦警察官と覆面の会話に、ハロルドとダグラスは不信感を抱いた。真っ先にハロルドが口を開く。

「どういうこった? 手前等……」
「喋るな! 黙って外に出ろ! ダグラス・タウン、貴様もだ!」

 しかし、質問は連邦警察官の怒鳴り声に遮られ、その上に銃口を向けて命令された。
 ハロルドは不機嫌な顔をして見せ、渋々ながら従う。ダグラスはハロルドが暴走したりしないかと、冷や冷やしながら
後に続いた。

 個室から通路に出たハロルドとダグラスは、ひたと足を止めた。先程の覆面と同じ格好の集団が、通路を塞ぐ様に
屯している。一目では何人いるのか判らない程……。賢明と言うべきか、数に劣る連邦警察官は動かない。
 覆面の集団は戸惑う2人を取り囲み、彼等の背中に銃を突き付けた。

「歩け」
「……何だと?」

 ハロルドは背後からの突然の命令に怒り、振り返って凄んで見せた。しかし、どの覆面の発言かすら判らない。
 これは拙いと思ったダグラスは、ハロルドの怒りが爆発しない様、冷静に忠告した。

「ハル、ここは大人しく従った方が良い」
「……ああ、ああ、解っている」

 どんなに熱くなっても、相棒の言葉は耳に入る。ハロルドは自らに言い聞かせる様に、小さく答えた。
 そして溜まった怒りを吐き出す様に深呼吸をした後、頭を振って前に向き直る。
 漸く足を進めたハロルドを見て、ダグラスは安堵の息を吐いた。

 一方、連邦警察官は遂に何もしなかった……。
321Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 09:02:39 ID:j1uqixNF
 覆面の集団は一声も発さず、重苦しい空気が漂う。不気味な沈黙の中、ハロルドは懲りずに、今度は前を歩く
覆面に話し掛けた。

「俺達をどうする気だ?」

 答えは無い。代わりに、ハロルドとダグラスの背中に強く銃口が押し付けられる。

「……ハル、頼むから黙ってくれ」

 隣を歩かされているダグラスの疲れた声に、ハロルドは憮然として黙り込んだ。

 そして再び沈黙が訪れる。
 覆面の集団は2人を連れて、シャトルの乗降口に向かっていた。その事に気付いたダグラスはシャトル外の様子が
気になり、通路に並ぶ小窓に目を向けた。
 窓の外は、赤錆色に染まっている……。それが巡洋艦の側面だと気付くのに、数秒の時間を要した。

(ギル級?)

 コロニー連合軍高速巡洋艦ギルバート。長距離航行能力に長けた、ザムス・ジェスの派生艦。赤い艦体は
木星圏所属を示す。

(木星の艦が、どうして地球圏に?)

 ダグラスは小窓に映る艦体を見続けていたが、突然目を見開き、ハロルドの脇腹を肘で小突いた。
 何事かと振り向くハロルドに、言葉を発さず、視線で窓の外を見ろと促す。
 窓の外、艦体側面には、翼を広げた蒼い鳥の紋章が大きく描かれていた。蒼は天王星、翼を広げた鳥は解放を
意味する!

「こいつは嫌な予感しかしないぜ」
「……そうだな」

 隣から聞こえた重い返事に違和感を覚えたダグラスは、横目でハロルドの様子を窺った。
 彼は沈痛な面持ちで、蒼い鳥の紋章を見詰め続けていた……。
322Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 09:06:15 ID:j1uqixNF
 シャトルの乗降口は、乗換用パッセージでギルバートと連結していた。
 ハロルドとダグラスは覆面集団に囲まれたまま艦内へ。兵員室の側を抜け、ブリッジへと向かう。
 同型に乗艦経験のあるハロルドとダグラスには、見覚えのある内観。何処か懐かしさすら感じていた。

 ブリッジに連行された2人の前に、コロニー連合軍の制服を着た一人の壮年将校が立つ。

「初めまして、かな? ハロルド・ウェザーに、ダグラス・タウン。私はコロニー連合軍天王星宙域防衛軍情報部所属
 特別監察官ヒラル・ローマンだ」

 声色は穏やかだが、鋭い目付きと変化に乏しい表情が近寄り難い印象を与える男性。ダグラスは警戒を強める。

 コロニー連合軍は、木星、土星、天王星の各宙域防衛軍から成り、各々の立場は対等。特別監察官を名乗る彼は
味方の筈だが、それは“元”の話。“今”、コロニー連合軍を名乗るのは、聖戦団しか居ない。

 ダグラスは隣のハロルドの反応を待ったが、彼は全く気にしていない様子だった。

「階級は?」

 無駄に長い肩書きを嫌い、不躾に尋ねる。

「大佐であるが」
「俺より下じゃねえか」

 ハロルドは腕を組んで首を傾げ、堂々と答えたローマンを見下した。

 アステロイドベルトで地球連邦軍を退けた功績により、ハロルドは特別大佐、ダグラスは中将に昇格している。
 兵卒に過ぎない2人が将官クラスまで昇格出来たのは、彼等に与えられる敵機撃墜の褒賞が尽きた為だ。

 しかし、ローマンは大きく溜息を吐き、飽くまで平静を保つ事によって、ハロルドを見下し返す。

「話は最後まで聞き給え。私は大佐であるが、コロニー連合総代表アーロ・ゾット閣下より、この艦内での全権限を
 委譲されている。それに表向きには連合軍は解体された事になっている。階級云々など無意味な話だ」
「……で、その偉い様が俺等に何の御用ですかねえ?」

 相手の理を認めるや、慇懃無礼な口調に変わるハロルド。

 ローマンとハロルドの遣り取りを見たダグラスは、やれやれと頬を緩めた。蒼い鳥の紋章を見ていたハロルドは、
ここには居ない。心配する様な事では無かったのだろうと安心したが、それと同時に別の不安が過ぎる……。

(こいつ、閣下の名を口にしたな……。出任せでないなら、大変な事だ)
323Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 09:07:23 ID:j1uqixNF
 ダグラスの憂慮を他所に、ローマンはハロルドと会話を続ける。

「私は君達を木星圏まで送り届ける為に来たのだ」
「……いや、別に送って貰わなくても普通に帰れたし。余計な事するなよ」

 要らぬ御節介だと答えたハロルドにダグラスも頷き、横から口を出す。

「ああ、全くだ。意味が解らない。この艦で木星に帰ったら、連邦軍に誤解される所の話では済まない」
「その通りだ」

 ローマンの答えにダグラスは戦慄する。彼は目を細め、我が意を得たりと笑っていた。

「私達は“続き”をするのだ。未だ戦争は終わっていない」
「冗談じゃない!! そんな事、閣下が御認めになる訳が無いだろう!?」
「私は閣下より全権限を委譲されている。この意味が解らん訳ではあるまい」

 怒鳴るダグラスを嘲笑うかの様に冷淡に返す。

 ダグラスは表情を強張らせた後、俯いて口を閉ざした。
 沈黙した相棒に代わり、ハロルドがローマンに質問する。

「……俺達を解放する気は無いのか?」
「逃げたければ好きにするが良い。しかし、よく考える事だ」

 再びポーカーフェイスに戻ったローマンに、腕を組み低く唸って応えるハロルド。

 聖戦団と接触した事で、連邦軍に関係を疑われるのは間違い無い。正直に事情を説明した所で、信じて貰えるかは
分からない。再び故郷に帰れるかどうか……。

「はあぁ……」

 取調官の顔を思い出したハロルドは、大きな溜息を吐いた。

 思い直してみれば、自分達が連邦軍の下に戻っても、シャトルを襲撃した艦が木星圏に帰ってしまえば同じ事。
 ……瞬間、ある可能性に気付き、ハッと顔を上げる。同時に、ローマンが心を読んだかの様に声を掛けて来た。

「理解した様だな」

 ハロルドはローマンを睨み付ける。
 勝てば釈放という条件を付けられた決闘。抵抗した様子の無かった連邦警察官……。

「合意の上ってか? とんだ茶番だな」
「ははは! そういう事だ」

 吐き捨てる様に言ったハロルドに対し、ローマンは再び表情を崩して見せた。
324創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 09:09:08 ID:j1uqixNF
ここで一旦止め
325Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 10:05:50 ID:j1uqixNF
 ハロルドとダグラスは再び覆面の集団に囲まれ、ギルバートの兵員室に向かわされた。

 ハロルドは隣のダグラスを見遣る。
 ダグラスは個人的に尊敬していたゾット総代表が戦争の再開を目論んでいるという事実に衝撃を受け、
ブリッジを出た後も口を閉ざしていた。

「……中将、御久し振りです」

 背後から掛けられた聞き覚えのある女性の声にも、遅れて反応する。

「誰だ?」
「お忘れですか? 私ですよ」

 振り返るダグラスに、覆面を取って笑い掛ける色白の若い女性。ダグラスは目を見張り、声を上げた。

「班長!?」
「はい! ダナ・ファルメ整備班長であります!」

 敬礼する彼女に続き、全員が覆面を剥ぐ。

「お帰りなさい! 中将殿! 特別大佐殿!」
「皆……という事は、この艦はヴァンダルジアか!? 道理で見覚えがあると!」

 ダグラスは驚き半ば、喜び半ばで立ち尽くす。

 ヴァンダルジア。最前線で地球連邦軍と戦っていた、ギルバート級巡洋艦。ハロルドとダグラスが指揮していた
第1突撃隊の母艦である。
 覆面の集団の正体は、ヴァンダルジアの乗組員だった。
 その中から、大柄の男性……艦長のヴォルトラッツェル中佐が歩み出る。

「この日を待ち望んで居りました。中将、再び共に戦場を駆けましょう」
「艦長……」

 ヴォルトラッツェル艦長は右手を差し出し、戸惑いながらも応じたダグラスの手を自ら確と握った。

「我々は負けた訳ではありません」
「そう……だな」

 雰囲気に呑まれ、頷き返すダグラス。

 しかし……ハロルドだけは再会の喜びの輪から身を引いていた。
326Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 10:15:27 ID:j1uqixNF
 兵員室の前で、ハロルドはダグラスに独りで船内を見て回ると言い、別行動を取った。
 向かう先は格納庫。

「思った通りだな。お前も帰って来てたのか……」

 黄土色の機体を見上げ、懐かしそうに零す。
 愛機バウ・ワウ。バウの後継機。幾多の戦線を潜り抜けて来た、もう1人の相棒……。

 何をするで無しに茫然と眺めていた所、不意に背後から声を掛けられた。

「この子に真っ先に会いに来るなんて、特別大佐らしいですね」

 振り返ったハロルドの目の前に居たのは、ファルメ整備班長だった。ハロルドは無言で機体に視線を戻す。

 特別大佐、中将……。時と場合に依らず階級でのみ呼ばれるのは、敬意と愛嬌から。戦場に出る度に昇格していた
ハロルドとダグラスだからこそ通じる、親愛の表現。

「どうして皆と一緒に居ないんですか?」

 ハロルドは彼女を無視するかの様に黙っていたが、暫らくして小さく応える。

「戦争は終わったのさ……」
「いいえ。未だです」
「……どうして、そう思う?」

 即否定したファルメに、ハロルドは問い掛けた。ファルメはハロルドの背を真っ直ぐ見詰め、揺るがない。

「私達は地球圏にて手痛い反撃に遭いましたが、戦い続けるだけの余力は十分に残っていました。矛を収める必要は
 無かったのです。況して、こちらが折れる等!」
「……兵卒は余計な事を考えるな」

 ハロルドの声に覇気は無い。ファルメは彼を叱咤する様に語気を強める。

「誰より不満に思っていたのは、特別大佐じゃないんですか? 敵地で聞かされた、突然の敗北宣言!
 中将と一緒に敗残兵となって逃げ回っていたのも、私達をアステロイドベルトの外まで退避させる為で……」
「有り得ねぇよ。お前等と揃って間抜けに捕まりたくなかった。それだけだ。少なくとも、俺は」

 ハロルドは振り返って自嘲気味に笑い、彼女の言葉を遮った。視線は合わせない。
 それが果たして本音なのか、嘯いているのか、ファルメには判らなかったが……。

「どうでも構いません。私達は未だ戦える。その事実があれば! 総代表閣下も漸く解って下さったのですから」

 強気の発言を繰り返す。
 踊らされていても構わない。最期まで戦い抜きたい。戦場に命を捧げた戦士だから……。
 ファルメの意志を確認したハロルドは、大きく息を吸って気を入れ直した。

「……良し。それなら良い。俺だって、元の身分に戻れるんなら、戦わない理由なんて無いしな」
「はい!」

 明るいファルメの返事。ハロルドは彼女の顔を見ずに背を向け、天を仰ぐ様にバウを見上げる。

(ダグ、お前は割り切れるか?)

 ……その目は再び憂いを帯びていた。
327Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/02(土) 10:28:07 ID:j1uqixNF
 聖戦団、シャトル襲撃! 連合軍のエース逃亡!
 彼等が捕まった時と同様、ニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。同時に各地の聖戦団は活発化し、民衆は
不安を煽られる。連邦軍は治安維持の名目の下、再び武装を強化し、来るべき日に向けて備えるのであった。

 月、キャピタル・フォン・ブラウン。月周辺宙域警備隊駐屯地格納庫にて。

「大変な事になったなあ……」
「襲撃されたのは、この近くだって言うじゃないか」

 警備隊の整備士は、ガンダムの定期点検をしながら、不安を口に出していた。

「連合のエースって、土星の魔王だよな……」
「Satan of the Saturn?」
「そう、それだ。嫌だねぇ……」

 月は魔王の襲撃を受けた事がある。軍事基地の大半を破壊され、数日と保たずに無力化させられた。

「連邦軍の防衛態勢が整ってなかったとは言え、あれは酷かった……」
「占領されたユノーは奪還戦で欠けたってんだから、未だ良い方だと思わないと」
「……あっ! 巡査長、何処行くんですか?」

 雑談中、整備士の一人が傍を通り抜ける影に気付き、声を掛けた。
 影の主は警備隊巡査長セイバー・クロス。気鋭の若手で、MSの操縦に関しては右に出る者が無く、大戦中は
特別に召集を受け、前線で活躍していた。

 MSの定期点検が行われる日は、周辺宙域の巡回は休み。しかし、彼は青いパイロットスーツを着込んでいる。

「俺の機体の点検、終わってるよな」
「はい。何時も通り、最初に……」
「何て事は無い。散歩だ」

 不安そうな表情を見せる整備士に対し、セイバーは平然と答え、カタパルトに乗った1機のガンダムに向かう。
 彼の言う散歩とは、日常任務であるパトロールの事。暇さえあれば非番でも巡回に出るので、今に始まった事では
無いが……今日は事情が違う。整備士は血相を変えて、持っていた工具を放り出し、止めに掛かった。

「待って下さい!! 今日のニュース聞いてましたか!? 月周辺宙域はシャトル襲撃騒動で、パトロールなど……」
「それが?」
「いや、だから、その……連合のエースに出会したら、どうするんですか!?」
「心配は要らない。今日は良い予感がする」

 それだけ言うと、セイバーは胸部ハッチを開いて機体に乗込んだ。カタパルトの照明が点き、ガンダムの姿が
照らし出される……。鋭い線形の外観はΖの系統!

 ゴォオッ!!

 整備士の制止も虚しく、ガンダムはカタパルトから飛び立ち、無数の星々に紛れた。

「……行っちまった」
「戦争中、行き成り前線に駆り出されて、帰って来た時は連邦軍の撃墜王だ。平穏な生活には戻れないんだろうさ」
「確かに……変わってしまったよな」

 彼等は遠ざかるガンダムを見送るしか無く、その姿が見えなくなった後は、漠然と虚空を見詰めた。
 ……長い沈黙の後、一人が口を開く。

「近くでシャトルが襲撃されたからって、必ず連合のエースに出会すとは限らない。早く仕事を終わらせようぜ」
「ああ、そうだな」

 止めたのに聞かなかったのだから、仕方が無い。彼等は肩を落とし、半ば諦めた様子でMSの点検に戻った。
328創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 10:29:46 ID:j1uqixNF
これで2話分くらい完。
長々と失礼しました。
329創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 22:51:24 ID:ZXAoPtVG
お疲れさん
330MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 03:39:23 ID:1GnrhmpB
蒼の残光 コロニーレーザー
331MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 03:40:39 ID:1GnrhmpB
 準サイコミュにはパイロットにサイコミュの情報を直接フィードバックさせる機構はな
い。あくまでも「脳波による攻撃端末の遠隔操作」というサイコミュの一機能を擬似的に
再現しているだけなのだ。インコム端末からのインフォメーションはディスプレイ上で視
認するしかない。
 今その準サイコミュ用モニターがメインモニターとは別の映像を映していた。BD−4
のモノアイが毒々しい紅い光を放ち、威嚇するように動いていた。メインモニター上の映
像ではモノアイは通常のままであるにもかかわらずである。
 アランは困惑していた。今までこのような現象は一度としてなかったのだ。
「しかもこれは…これでは、まるで……」
 その真紅のモノアイには覚えがあった。クルスト・モーゼスが実験していた、あの忌ま
わしいシステムの現象だ。
 メインモニターを再度確認するが、やはり異常な発光現象は認められない。詳しい原理
は不明だが、準サイコミュのシステムだけが見せられている「幻」なのだ。
 幻であろうがなかろうが、BD−4の動きはそこから更にスピードを増した。片足を失
った状態で素早く方向を変え、不可避に思われたほぼ全方位からのファンネル掃射から逃
れ、逆にファンネルを撃ち落しさえした。
「いかん」
 アランは考える事をやめた。今判っているのはこの相手をこれ以上好きに暴れさせては
いけないと言う事だった。それまでのユウの戦闘技術は十分に「達人」と呼べる域だった
が、今のこの動きは「超人」としか形容しようがない。これがEXAMによるものでもそ
うでなくとも今叩いておかねば危険だ。
 アランはビームライフルを構え、狙いを定めた。長銃身のライフルは命中率は高いが取
り回しが悪い。今のユウをインサイトに置くのは容易ではないが、やるしかない。
 その時、インコムのモニターが茫、と光った。思わずモニターに目をやると、BD−4
の前に影が浮かび、その影が淡く光っていた。
 人影に見えた。
 蒼い髪と紅い瞳を持った人影がアランとユウの間で両手を広げて立ち塞がっているよう
に見えた。
 アランが愕然として動きを止めた。



 ドーベンウルフの準サイコミュでは漠然とした影でしかないが、より高度なゲーマルク
のサイコミュはよりはっきりとした姿を映し出していた。
 しかもオリバーはサイコミュを介して映像データを脳に送り込まれる。彼にとってそれ
は幻ではなく実体だった。
「マリオン!何故君が!?」
 オリバーは先日二十四歳となったマリオン・ウェルチと再会しているが、彼の目は今の
マリオンを見ることは出来ない。故に、彼の中に投影されるマリオンの姿は十四歳のまま
だった。
「何故だ?君はズム・シティで幸せに暮らしているんじゃないのか?」
 マリオンの唇が動いた。それと同時にオリバーは彼女の声を聞いた。声だけは落ち着い
た今の声なのが違和感があった。
『もうやめて…こんな事意味がないわ……』
「マリオン……何を言ってるんだ」
『わかってるでしょう?こんな事をしても時は戻らないわ』
「マリオン、それ以上言わないでくれ」
『悲しみを増やすだけだわ。それ以外何も生み出さない』
「マリオン――そうか、ユウ・カジマか!」
 オリバーは突然に理解した。これは『祈り』だ。
 マリオンの良人とはユウ・カジマなのだ。出撃したユウを案じ、無事を願う強い想いが
ここまで届いているのだ。

332MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 03:43:20 ID:1GnrhmpB
 マリオンはNTの力を失っていると言っていた。しかしそれは戦闘における能力だ。N
Tの本質は「他者を感じる能力」である。それは突き詰めれば親が独立した子の無事と幸
福を願う気持ちに似ている。遠く離れ、疎遠となっていようとも家族に何かあればそれを
感じ取る。虫の知らせと人は呼ぶが、これを自分のまだ知らぬ他人にも感じうる力をNT
と呼んだのである。夫であれば、まして元はNTとしての力を持った妻であれば、これだ
けの距離を越えて意思を届ける事も可能だったのだ。そしてBD−4に積まれたバイオセ
ンサーは人の意思を取り込み、力に変えると言われている。オリバーはこの話を信じては
いなかったが、目の前に立つマリオンを見るに信じざるを得ないようだ。
 オリバーの中に理解しがたい感情が生まれた。パイロットとして自分を凌ぐ実力を持ち、
数々の栄光と名誉に彩られ、更には彼がかつて慕った女性を妻に持った男。自分が持たな
い全てを持っているように見える男に対する理不尽な怒り。それが嫉妬であるとこの時は
まだ知らなかった。
「ユウ・カジマあああああああああああああ!!」
 再びファンネルを起動し、ゲーマルクの全身のメガ粒子砲をBD−4に向けて狙いをつ
ける。跡形も残さず粉砕してやる。
 サイコミュを通して見えるマリオンの瞳から涙が落ちた。
 オリバーの全ての動きが停止した。



「ちっ、何やってやがる」
 ギドのドーベンウルフのサブモニターにもBD−4のモノアイの異変は現れてた。ギド
はEXAMの事を知らないが、何かがBD−4に起きた事は想像できた。
「速いと言っても二人がかりで止められなきゃ誰も勝てねえぞ」
 二人の戦いを見守る余裕があるのは対峙する敵手との性能差もあるだろう。リックディ
アスとドーベンウルフではそれほどの差があった。むしろ一対一でこれだけ戦っていられ
るアイゼンベルグを称賛すべきなのだろう。
「遊びすぎたか」
 もちろん遊んでいたわけではない。しかし隊長クラスとは言えたった一機相手にこれだ
け時間をかけた挙句、左腕まで失ったのは誤算だった。時間稼ぎが目的とは言え味方にも
相当数の被害が出ている。連邦軍の戦力はいくらでも増援があるがこちらにはない。指揮
官機にこだわらず、不特定多数の敵を落とす事に集中した方がよかったのではないか。
「あと何分だ……」
 時計を確認する。残り三分。もう少し敵を密集させておきたかったが、無理に集めて意
図を感づかれるとまずい。それでなくてもこちらにあれがある事は間違いなく知られてい
る。戦力的にはそれほど差がないにもかかわらず散会して戦っているのも一気に巻き込ま
れるのを警戒しての事だろう。
「そろそろ撤退指示が出る頃か」
 発射準備が整えば信号弾が打ち上げられる事になっている。撤退の指揮はアランが行い、
ギドは殿を務めると決まっていたが、このままでは自分はともかくアランは撤退どころで
はなくなってしまう。
「助けに行くべきか――うぉ!?」
 ディアスのミサイルが飛来し、危ういところで避けた。
「よそ見してんじゃねえよ。殺し合いしてるんだぜ!」
 回線が繋がっていなくても相手パイロットの声が聞こえるようだった。
「クソ、いい加減に死にやがれ!」
 ギドは毒づいた。まずこいつを仕留めるしかない。
 インコムを展開しようとしたその時、ギドの視界の隅に信じがたい光景が映った。
 アランのドーベンウルフとオリバーのゲーマルクが一瞬動きを止めたのだ。時間にすれ
ば数秒だが、エース同士の戦いでは致命的と言える間だった。
「馬鹿が!」
 BD−4がゲーマルクに銃を向けている。ギドは目前の敵を無視し、ニトロシステムの
ボタンを押してゲーマルク目掛けて加速した。



333MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 03:44:02 ID:1GnrhmpB
 ユウはトリガーを引いた。バックショットはビームを十二に分散して飛ばす。
 オリバーは相手のビームライフルが自分をポイントし、その銃口にメガ粒子の光が集ま
るのを見て我に返った。
「しまった!?」
 迎撃しなければ。しかし、メガ粒子砲のチャージ時間はビームライフルのそれよりも長
い。Eパックによって常に縮退直前のミノフスキー粒子を蓄えているライフルと、粒子の
活性化からシークェンスが始まるメガ粒子砲の差だが、今まさにその差が生死を分けよう
としていた。ニトロシステムで急速回避をしようにもあまりにも先の使用から時間が短す
ぎる。反応炉の冷却が追いつかない。
「――ッ」
 オリバーは死を覚悟した。
 その眼前に別の機影が重なった。そのMSはゲーマルクに覆いかぶさるように両腕を広
げ、敵に背を向けていた。その全身をビームの散弾が貫いた。
「――ギド!?」
 呆然とオリバーは名を呼んだ。
『……無事か?オリバー』
 ギドの声が聞こえた。
「ギド!僕よりそっちは?」
『コクピットに…破片が飛び込んできた……』
「怪我したの……?」
『たいした事はない…と、言いたい所だが……腹をザックリやられた。少し、やべえ……』
「脱出して!僕が回収する!」
『無理…だ。コクピットもノーマルスーツも……でっけえ穴が開いちまってる……』
 ギドは右手でステーションを指差した。
『行け……もうすぐ撤退信号が出るはずだ』
「ギド!」
『戦場で余計な事は考えるな……殺す気で戦わなければ自分が死ぬぞ』
 咳込むような笑いが聞こえてきた。
『さあ、行け!アランを頼むぞ』
 ギドは突き飛ばすようにゲーマルクを押し出した。
 ギドとオリバーが別れの言葉を交わしている間、ユウに追撃のチャンスがなかったわけ
ではない。
 しかし、ユウにだけ聞こえるマリオンの声は別の危険を告げていた。

――いけない。逃げて

「何?」

――みんな逃げて。大きな光が来る。

「大きな光?まさか、コロニーレーザーか!?」
 偵察隊を消滅させた兵器。ミノフスキー粒子の反応がないと判明した時から誰もがその
可能性に気がついていた。しかし、信じるには大きな疑問があった。

――早く。

「――くっ」
 ユウは全ての回線と信号弾を使用して退避命令を発した。
「全軍退避!大型ビームが来るぞ!」
 艦隊の将兵の中には初めてユウの怒声を聞いた者も多かったと言う。
 ルロワ艦隊の全艦と全MSパイロットが考えるより先に行動した。方向を換え、戦域を
離脱しようとする。アクシズ残党軍は追撃しない。自分達も射線から外れながら撤退行動
を行なっている。
 そして、光が奔った。
334MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 03:44:43 ID:1GnrhmpB
 一五〇〇万メガワットもの光エネルギーが直線上の空間を飲み込むように伸び、その範
囲に入った物質を蒸発させていく。ギド・フリーマンのドーベンウルフも光に飲み込まれ、
影も残さず消滅した。
 既に回避行動を取っていたとは言え、直径3キロに達するエネルギーの柱から全軍が逃
げる事は出来ず、回避した将兵は光の奔流に飲み込まれる同僚の姿を目撃する事になった。
 コロニーレーザー。一年戦争以来幾度か建造された戦略級大型兵器である。その基本技
術は旧世紀に確立されており、現代の水準では工作自体は難しくない。問題はコロニー一
基をそのままレーザーの「砲身」とするその材料の調達と、一発がサイドの全生活電力に
相当すると言うエネルギー源をどう確保するのか、だった。
 エネルギー源は木星のヘリウムを手に入れていた。では材料は?
「――被害状況は!?状況を報告しろ!」
 ルロワの指示で各部隊から報告が集まる。
「『ケツァルコアトル』無事です!」
「『サンシーロ』、MS部隊一個中隊消失!」
「『ヴァスコ・ダ・ガマ』応答ありません……」
 その時、通信士の一人が信じられない、と言った声で叫んだ。
「イノウエ大尉が突貫します!」
 イノウエはこの瞬間を待っていた。彼はMS戦闘においてほとんど戦力とならない。そ
の事を自覚しているから敵MS隊が防戦している間は指揮に徹していた。第一射が撃たれ、
敵が巻き込まれないよう下がったこの瞬間を狙っての急襲だった。
 ジムVにはブースター、ミサイルユニット、スタビライザーからなる追加武装キットが
装着されている。急接近・爆撃・離脱をワンセットで行なうイノウエには都合のいい装備
だ。
『イノウエ大尉、援護する』
 アイゼンベルグが随行する。直進加速はこの状態ではイノウエが勝るが、援護なら実用
の範囲だ。
 ユウも援護に向かおうとした。BD−4ならイノウエ機に遅れはとらない。
 しかし、マリオンの怯えた声がユウを足止めした。

――だめ。

「何?」

――まだ、来る。

「来る?まさか、もう第二射が?」

――逃げて。

 ユウは突貫する二機に通信を送った。
「イノウエ大尉、アイゼンベルグ大尉!攻撃を中止しろ!次が来る!」
 さすがに副隊長を任される両名の反応は素早く、射線から外れるべく即座に直角に方向
転換した。第二射はその直後だった。
 アイゼンベルグは見た。
 コロニーレーザーの本体、シリンダー状のコロニーを。それは五基あった。
335MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 03:46:00 ID:1GnrhmpB
「五基だと!?」
 アイゼンベルグからの報告を受けたルロワはシートから思わず立ち上がった。コロニー
レーザー建設の最大の問題が本体となるコロニーの確保である。廃棄コロニーを利用する
にしても五基ものコロニーをいつの間に入手したのか。なぜそれまで発見する事が出来な
かったのか。
 これこそがリトマネンが一年戦争終了時から立案し、進めてきた最大の戦略だった。複
数のコロニーレーザーを建造、太陽光発電と大容量熱核反応炉による一億三五〇〇万メガ
ワットもの大電力を用いての連続発射を可能とするコロニーレーザー・リボルバー構想。
〇〇八三年のデラーズ紛争で地球圏に接近した際に三基、その後さらに一基の無人コロニ
ーを密かに入手し、一年戦争開戦から十年目に当たる〇〇八九年一月三日に宣戦布告と共
に照射する、と言うのが当初の計画であった。しかしティターンズとエウーゴの抗争が激
化するのを見たハマーン・カーンが計画を変更して地球圏の争いに介入する事を決断、建
造もそのまま凍結される事となった。〇〇八八年にハマーンとの考えの違いからリトマネ
ンが離脱した際に五基のコロニーを全て接収、以後物資不足に悩まされながら建設が進み、
ついに完成したのである。
「連邦軍に告ぐ。私はジオン公国のミカ・リトマネンである。速やかに撤退せよ!当方の
切り札は既に目にしたであろう。この破壊の龍はまだ炎を残している。今は速やかに立ち
去り、然る後に我らの要求を聞いてもらう。繰り返す、速やかに撤退し、後の我らの声明
に応じよ!」
 旗艦「ハイバリー」ではルロワとマシュー幕僚長がこの初めて見る敵手の姿と声をモニ
ターに認めていた。
「どうなさいますか、提督」
「中佐はどう考える?脅しだと思うかね?」
「……五基のレーザーを備えているならば、五発のレーザーが発射可能と考えざるを得な
いでしょう」
「同感だな。それで、今の戦力で押えられるかね?」
「逆に言えば後三発撃たせてしまえば敵の切り札は失われます。しかし……」
 マシューは躊躇い、それでも自分の思うところを述べた。
「敵は艦隊でもこちらと同数に近い戦力を有しております。三発撃ち尽くす前にこちらの
戦力に深刻なダメージを受ける事は十分にあり得ます」
「……つまり、ここは撤退しろと?」
「連邦軍は私たちのみではありません。ここは援軍を請い十分な戦力と戦略の元に復習の
機会を得る方が兵の犠牲も少なく済むと考えます」
「慎重派の貴官らしいな」
 ルロワはやや自嘲的な笑みを浮かべた。
「しかし、私も貴官と同じ意見だ。ここは一度撤退し、体制を立て直す」
 ルロワ艦隊はその場から撤退を開始した。アクシズ残党軍は追撃してこなかった。ルロ
ワ艦隊は巡洋艦二隻他戦力を二割以上失い、ズム・シティに帰還した。



 完敗だった。
336MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 04:06:43 ID:1GnrhmpB
【MSデータ】
RGM-86R ジムV(イノウエ大尉仕様)
登頂高 18.0m
本体重量 38.6t
ジェネレーター出力 1560kw
スラスター推力 116,200kg

ジムVに試作されたミサイルコンテナユニットと増加ブースター、スタビライザーのパッケージを装着したタイプ。
後のスタークジェガンの参考データとして使われる事になる。
パッケージの原型はアクシズMS「ズサ」のブースターユニットだが、ズサと違い大気圏内で飛行できるほどの
推力はない。それでも直進加速ではアイゼンベルグのアサルトディアスを上回り、最短距離を通って目標に
接近するイノウエの戦い方にはマッチしている。

武装
クレイバズーカ×2
8連装中型ミサイルコンテナ×2
脚部6連マイクロミサイル×2
2連装対艦ミサイル×2

ここまで
337創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 10:37:53 ID:49O//e8c
連射出来るコロニーレーザーとか超怖ェ
338創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 10:39:41 ID:x537rtT7
リボルバー式のコロニーレーザー……
連邦オワタ\(^o^)/
339創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 11:40:15 ID:0GLRtW3N
スタークジェガンとズサを繋げたり、廃コロニーの収集に破綻が無かったりすげぇ
ってかギド格好良いよギド
340創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 14:49:30 ID:aoGWKmGj
一番凄いのは愛の力で疑似EXAMを発動させてるユウの嫁だと思う
341MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/05(火) 23:34:21 ID:1GnrhmpB
まとめwiki自分の分だけですが更新しておきました
他の方の分も時間があるときに少しずつやれればやっていこうと思います
342創る名無しに見る名無し:2009/05/06(水) 16:37:32 ID:373pQVaJ
乙です
343創る名無しに見る名無し:2009/05/09(土) 05:55:47 ID:KFwodxqH
344Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 11:15:30 ID:sOv9l+Yn
またしても長文
嫌いな人はスルー
345Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 11:23:10 ID:sOv9l+Yn
 月。アステロイドベルトの内と外に別れる世界では、地球連邦に属する大国。
 戦中は地球連邦軍の防衛態勢が整っていない事を理由に、迫るコロニー連合軍に対して主立った抵抗をしなかった。
 月の思惑通り、コロニー連合軍は月の制圧より地球上の連邦政府施設への攻撃を優先。結果、月は戦争の被害を
最小限に止める。その代償はユノーの壊滅として返って来るのだが、月は無傷……。
 今も変わりなく静かな光を湛え、暗黒の宇宙に浮かぶ。

 ローマンはヴァンダルジアのブリッジで巨大な月を見詰めていた。鋭い視線は、睨み下しているかの様。
 月は蝙蝠。中立を装い、甘蜜に酔う。コロニー連合に、月に対して好い感情を抱いている者は少ない。

「未だ月の都が見えるとは、随分とゆっくりしているな」

 周囲への気配りを忘れる程に思い耽っていたのか、彼は何時の間にか隣に並んでいたハロルドに驚いた。
 しかし、隙を見せていた気恥ずかしさを表に出す事無く、冷静に……飽くまで冷静に応える。

「君達が解放されると聞き、木星圏から飛んで来たのだ。燃料は尽き掛けている」
「……どうやって帰るんだ?」
「案ずるな。火星ダイモスにて聖戦団から補給を受ける」

 疑問は御見通しと言わんばかりの態度。ハロルドは低く鼻を鳴らし、話題を変えた。

「1つ訊ねるが、連邦軍にだって戦争の再開に反対している奴等が……」
「全体の5分の1程度だ」

 ローマンはハロルドが最後まで言い切る前に答えた。ハロルドは疑問を隠さず、横目で一瞥する。
 5分の1。決して多くはないが、少なくもない数字。

「……何処まで信用してんだ?」
「この艦にはステルス機能が付いている」

 的外れなローマンの返答に、顔を顰めるハロルド。ヴァンダルジアは他のギルバート級巡洋艦と何ら変わりなく、
特別な機能など持っていない。
 それが暗に連邦軍内の戦争を再開させようとしている派閥の影響力を言っているのだとしても、反対する派閥が
果たしてヴァンダルジアを放って置くだろうか……。

(血眼になって探し回るさ。連邦軍の防衛網の抜け道を知っていようが、当てには出来んぜ……)

 話は終わりと踵を返したローマンの背を睨みながら、ハロルドは戦いの予感に慄き、独り不敵な笑みを浮かべた。
346Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 11:27:11 ID:sOv9l+Yn
 艦内に敵機接近を知らせる警報が鳴り響いたのは、それから約1時間後の事だった。
 折り良く、ハロルドとダグラスは格納庫にてパイロットスーツを着用し、MSに乗込む所。

「来たか」
「……早いな」

 艦体と同じ赤錆色に身を包んだダグラスの呟きに、愛機と同じカーキのハロルドは小さく零した。
 突然の警報に慌てる整備班員を置いて、タラップを駆け上り、頭部に乗込むハロルド。腹部に乗込むダグラス。
 同時にブリッジのローマンから通信が入る。

「敵襲だ。後方、月方面より1機のみ。連邦軍とは違う。月の警備隊だろう」

 予定外の事態に動揺しているのか、彼にしては落ち着きを欠いた早口。ハロルドは嘲りながら揶揄する。

「断言するのかよ」
「早過ぎる」
(……同感だ)

 ハロルドは心内密かに頷いた。

 聖戦団の活動域は、地球連邦軍の影響力が弱い火星軌道外に集中している。当然、連邦軍の警戒も火星より
外に向いていた。シャトルが襲撃される、つい先日までは……。
 地球圏内でのシャトル襲撃は連邦軍の“意表を突いた”作戦であり、24時間以内に人員を募って新たな部隊を
編成するのは不可能。敵機が単独と言う状況から、月の警備隊が巡回中に“偶然”不審艦を発見した可能性が高い。

 全ては連邦軍の裏切りが無いと仮定しての話。
 ローマンにしてみれば、そうでないと困る。

「直ちに迎撃せよ。この艦……」
「解ってるよ」

 ハロルドは一方的に通信を切り、苛立ち混じりの息を吐いた。

「その為のMSだろうが」

 カタパルトに固定されるバウ。整備班員が格納庫から撤退する。
 ギルバート級の艦体中央底部が前方にスライドし、格納庫が開放される。下がる気圧と共に、バウは宇宙へ!
347Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 11:31:28 ID:sOv9l+Yn
 交戦距離まで数分。ハロルドとダグラスは、感覚を確かめる様に、ヴァンダルジアに添って機体を泳がせた。
 艦体を撫でる様に移動していると、蒼い鳥の紋章がバウの横に並ぶ……。
 ダグラスはシャトル内で見た物憂気なハロルドの表情を思い出し、重々しく口を開いた。

「……ハル、敵機が追い付くまでに話をさせてくれ」
「何だ?」
「蒼い鳥の紋章に……何か、思う所があるのか?」

 ダグラスの問い掛けは慎重だった。彼はハロルドの胸中を誰より……時には本人より、理解している。戦いを前に、
心が揺らいでいないかと訊ねているのだ。
 ハロルドはモノアイを紋章に向けた。全天周囲モニターの真ん中に、翼を広げた蒼い鳥が映る。

「……逃亡中の事を思い出したってだけさ。俺達が逃げれば逃げる程、追跡者を墜とせば墜とす程、蒼い鳥は増え、
 活動範囲を広げて行った。それが……正直、気に入らなかった。真意を曲解されているのが」
「何だ、そんな事か」
「何だとは失礼な奴だな。ダグ、お前は……どうなんだ?」

 軽く脹れて訊き返したハロルドに、ダグラスは笑って応える。

「別に、俺は何とも思っていないぜ」
「そうじゃねえよ……。後悔しないかって訊いてんだ」
「何の話だ?」
「……戦争を始める事、だよ」

 投げ遣りなハロルドの声は、僅かな照れと後悔を含んでいた。

「ハル……お前……」

 彼の意外な一面を垣間見た気がして、ダグラスは口を閉ざした。
 戦争になれば、敵味方問わず多くの人の命が奪われる。その銃爪を自ら引く事に、躊躇いは無いのか……。
 それはダグラスと同時に、己に問うているかの様だった。
348Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 11:35:04 ID:sOv9l+Yn
 微妙な間を感じ取ったハロルドは、答えないダグラスを怒鳴り付ける。

「おい、ダグ! 誤解するな! 俺は別に構わねぇんだよ! お前の話だ!」
「……俺か?」

 ダグラスは悩んだ。迷いが無いと言えば嘘になる。今、自分が信じられる事は……。

「ローマン大佐は、閣下の命で動いていると言った。事実ならば、あの御方の事、何か思惑があるに違いない」

 アーロ・ゾット総代表は戦争の開始を渋っていた。連邦軍が反攻に転じた時は、先行していた突撃隊を捨て、
優劣が明確になる前に敗戦を認め、可能な限り不利にならない停戦条約を結んだ。
 ダグラスは知っている。弱腰とは違う。機を見るに敏で、徹底して慎重、そして冷静。その総代表が戦争を再開すると
決めたのだ。必勝の策を持っている。確証は無いが、確信ならあった。

 ……そんなダグラスの想いを無視して、ハロルドは押し付ける様に言う。

「良し、全ては特別監査官殿と総代表閣下の責任だ。忘れるなよ」
「いや、それは……」
「中将の肩書きは忘れろ。お前は俺と同じ、単なる逃亡者だ」

 勢いに任せて捲くし立てる彼に、ダグラスは閉口した。まさか彼に気遣われるとは思っていなかったのだ。
 どう反応して良いか惑うダグラスに構わず、ハロルドは続ける。

「お前は他人を解ろうとするから、周囲に流され易い。その癖、責任感は人一倍だ。解ってるんだろうな?」
「自分の事なら、言われなくたって……」
「そうじゃねえよ! この艦はヴァンダルジアだ。俺達は艦を守り、木星に行く他に無い。だから……これから先、
 何が起ころうと、お前が責任を感じる事は無い。全部、御上に擦り付けろ」

 押し黙るダグラス。真面目な彼の性格からして、承服しないのは判り切った事。
 ハロルドは外方を向き、独り呟く。

「全く、戦わなくて良くなったってのに……揃いも揃って馬鹿な連中だ。しかし、俺達の機体とノーマルスーツに
 鳥の紋章を付けなかった事は褒めてやろう」

 そしてビームサーベルで払い一閃。蒼い鳥は削り落とされ、塗装が剥げた灰色の跡が残った。
349Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 11:47:09 ID:sOv9l+Yn
 ハロルドとの会話後、ダグラスは気落ちしたかの様に沈黙していたが、敵意の接近に感付き声を上げた。

「……来る! ハル、艦体後方に回るぞ」
「ああ」

 戦闘前は神経質になっていようが、いざ開始となると2人の目付きは急に鋭くなり、呼吸が合う。
 艦の後ろに回り、迫る敵機を迎え撃つべく虚空に向かって構えた時……超高速の青緑色が、彗星の様にハロルドの
視界の隅を過ぎった。ダグラスが叫ぶ!

「ハル! あれだ!」
「何っ!?」

 巨大なキャノンを思わせるMA形態は高機動ΖU]。地球連邦軍最速を誇るガンダムタイプMS。パイロットは撃墜王
セイバー・クロス!

 剰りの高速に、目で追う事すら出来なかった。バウは急いで方向転換する!
 ΖU]は大回りして艦の前方に立ち塞がり、MA形態からMS形態に変形。即座にメガビームライフルを構え、艦橋に
照準を合わせて発射!

 バッシュゥ!!

「間に合えぃ!!」

 信じられない速度で移動するMSの射撃、戦艦では避け切れない。ハロルドは大型のシールドを突き出し、
メガビームライフルの射線に割って入った。

 バァーッ!

 淡い蛍光緑色のビームはバウのシールドに直撃し、四方に分散する。対ビームコーティングが施された専用
シールドは鉄壁。受けた直後に、内蔵されたメガ粒子砲で反撃する!

 ドォオッ!

 しかし、既にガンダムの姿は無い。ΖU]は再びMAに変形し、距離を取りながら艦体右舷に移動していた。
ハロルドは目視を諦めレーダーで追うが、速過ぎる為にワープしている様にしか見えない。
 ΖU]はMSに変形すると、遠方からビームライフルを連射する。

「速っ!! 中の奴は人間か!?」
「高機動ΖU]……連邦のエース、蒼碧の流星群だな」
「流星“群”? 成る程、確かに流星群だ」

 冷静に解説したダグラスに、ハロルドは頷く。青緑色の機体が持つビームライフルから放たれる青。時折、メガビーム
ライフルの緑が混じる。機体と2種類のビームが織り成す流星“群”!

「機動性を重視し、装甲は最低限。軽合金アーマー装備、シールド無し。武装はサーベル、ライフル、メガライフル、
 全てビーム系統。スピードは驚異的だが、こいつのシールドなら背後を取られない限り大丈夫だ」

 バウはヴァンダルジアの盾になりながら、ΖU]を逃がさない様に慎重に迫った。相手は単機、月から遠ざかる
艦を深追い出来ない。艦との距離が開けば追撃を諦める。2人は、そう考えていた。
350Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 12:00:21 ID:sOv9l+Yn
「あれが魔王……。俺の留守中に好き放題やってくれたらしいじゃないか」

 セイバー・クロスは好戦的な眼差しでバウのモノアイを睨み付ける。

 大戦中、彼の戦場は火星周辺宙域。コロニー連合軍の補給艦を襲撃するのが主な任務だった。この時、戦線は
既に地球圏に移った後で、彼は撃墜王でありながら、その功績を認められる事無く終戦を迎えた。

「良い予感は的中だ。その実力、試させて貰う!」

 彼は歯痒い思いをさせられた過去を振り払う様にガンダムを駆る!
 ビームライフルで牽制射撃を行い、高機動を活かして一気にバウに接近。ライフルから伸びるビームが剣になる!

「無駄な事を! メガ粒子砲の餌食になれ!」

 ハロルドは盾でロングビームサーベルを受け止め、同時にメガ粒子砲で反撃して撃ち墜とそうとした。
 瞬間、ダグラスが声を上げる!

「盾を使うな! 切り払え!」
「はぁ!?」

 ガガッ!

 ガンダムはビームの刃を消し、銃身でシールドを突き上げた。盾に大きな引っ掻き傷が付き、発射口が逸れる!

 ドォッ!

 メガ粒子砲は虚空に放たれ、ΖU]はバウを押し退かして通り抜けた。ハロルドは嬉しそうに気を吐く。

「へっ! やりやがる!」
「ああっ、盾に傷がっ!」
「うるせえ! 傷ぐらいでガタガタ吐かすな!」
「馬鹿野郎!! ビームコーティングが剥げるだろうが!!」

 ダグラスの言葉に、ハロルドの心臓はドクンと高鳴った。焦りに声を詰まらせながら、思考を巡らせる。

「ま、未だ大丈夫だ! この位の傷なら! それより奴を追うぞ! 艦に近付かせてなるか!」
「……その必要は無いみたいだ」

 バウはΖU]に向き直って動きを止めた。
 擦れ違ったガンダムはMAに変形し、メガビームライフルの銃口を向けて折り返して来る!

「最初から俺達が狙いだった様だな」
「望む所よ!」

 ハロルドはシールドを立て、ビームライフルで迎撃するが、全く当たる気配が無い。完全に動きを読まれていた。
 砲口が迫る。身構えるバウに、ΖU]は零距離からメガビームライフルを……撃たない!!
351Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 12:02:43 ID:sOv9l+Yn
 ガガガッ!!

 メガビームライフルの砲口は、シールドの塗装を大きく削ってバウを撥ねた。
 ΖU]は直後にMS形態に戻って急旋回し、メガビームライフルを構える。

「ダグ、緊急回避ぃい!!」

 バァーッ!!

 回避は間に合わない。ハロルドは素早くシールドを向けて防御を固めたが、対ビームコーティングを傷付けられた
シールドではメガビームライフルを防ぎ切れない。
 強力なビームがコーティングの弱い部分を破壊し、盾は中央から真っ二つに割れた。
 ハロルドが居るコクピット内のモニターは、全面真っ白に埋め尽くされ、ビームの洪水がバウを呑み込む……。

 後に残ったのは、上半身のみのバウ。モノアイは消え、シールドを持っていた左腕は消失していた。腹部の損傷が
著しく、下半身は吹き飛んだと推測される。

「……大した事は無かったな」

 そう言いながらも、セイバーは気を抜かない。バウの右手は未だビームライフルを握っている。彼は止めを刺そうと、
再度メガビームライフルを構えた。

「去らば、土星の魔王」

 ……瞬間、背後に敵意を感じる!
 コクピット内で振り返ったセイバーは、真っ直ぐに向かって来る黄土色の戦闘機、バウ・ナッターを見た!

「分離!? 俺の背後を取るとは、こいつ!?」

 セイバーは危機感を抱いた。彼の知る限り、バウ・ナッターは武装を持たない。攻撃手段は……特攻!
 不意を突かれ、回避は困難。ガンダムはナッターに背を向けたまま、バーニア全開で回避行動を取る。

「逃がさん! でぇいっ!」

 ダグラスは全速力で突撃しながら変形した。機体を回転させ、右足で無防備なΖU]の背を一蹴!

「だぁっ!? つっ……このっ!!」

 セイバーは機体を振り向かせ、ビームサーベルで下半身のみのバウに斬り掛かろうとしたが……。

 ドドォッ!

 背中に2発の榴弾を浴びてしまう。背後では、モノアイの光が戻ったバウの上半身が、右手の甲を突き出していた。
 ハロルドは死んでいなかった!

 再び変形し、上半身に向かうナッター。上半身はビームライフルを乱射し、ガンダムを牽制する。
 セイバーは追撃を試みたが、先程の蹴りとグレネードが背面のバーニアを破壊していた。
 バウの上半身はライフルを手放してナッターの足に掴まり、遥か遠くのヴァンダルジアへと引き揚げて行く。
352Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/10(日) 12:06:00 ID:sOv9l+Yn
 追撃を諦めたセイバーは、静かに息を吐いてメガビームライフルを構えた。
 狙うはヴァンダルジア。最後に一矢報いる。完全に射程外だが、当たれば儲け物。

 バシュッ!

 ……緑色のビームはバウを追い抜き、真っ直ぐヴァンダルジアに向かった。セイバーは命中を確信する。

(当たったな……と思ったが)

 しかし、ヴァンダルジアは戦艦とは思えない反応で、事も無気にビームを避けた。
 戦艦を追い越し、虚空に消えるビーム。セイバーは肩を落としてヴァンダルジアを見送った。

 ヴォルトラッツェル艦長は追い付いたバウに通信を入れる。

「艦隊機動力に於いて、連邦軍の我が方に優る所無しであります」
「うむ」

 彼の自信に満ちた声に、ダグラスは深く頷く。それは木星圏での緒戦、地球連邦軍を圧倒した際の報告と同じ。
 ヴァンダルジアは半壊のバウを収容し、月を後にした。
353創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 12:07:50 ID:sOv9l+Yn
これにて3話完。
どうやっても短くなりません。
354創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 16:30:55 ID:04MnSiru
投下乙
長編なんだから長くなるのは仕方ないと思うぜ
下手に短くして描写不足になったりしたら元も子もないしな
355創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 17:40:04 ID:1g+Hm+wk
止まりすぎだろ
ここは好きな機体……は既出すぎるから
兵器の名前でも挙げて賑わかすべきそうすべき

まずは俺から
ナックルバスター
356創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 18:00:48 ID:VC+JqZWS
ムラマサ・ブラスター
357創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 18:02:05 ID:yTueB1ch
ショットガンに愛を感じる
358創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 19:21:42 ID:1g+Hm+wk
ビームカノンも捨て難い
359創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 23:39:53 ID:EKEkEqGi
ビームスマートガンとかウィンダムとかΖとかの大振りなライフル
ってかビームライフルのデザインはライフルとは別物のもある気がする
360MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/15(金) 23:38:21 ID:i2Cemqtu
蒼の残光 6.一月十一日
361MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/15(金) 23:39:40 ID:i2Cemqtu
 廃棄宇宙ステーション『タタラ=ラブガ』宙域上の戦闘後、ズム・シティ連邦軍駐留基
地は混乱と喧騒の極みにあった。
 縮小傾向にあった軍の病院は負傷者の収容に追われ、軍医は不眠不休で治療と手術に当
たっていた。ドック内でも船体の修理やMSの整備で担当技師の怒号が飛び交っている。
 司令部にあっても例外ではなく、司令官ギィ・ルロワは地上の連邦軍本部に対し、戦況
の不利と援軍の必要性を繰り返し訴え続けていた。
「――しかしまあ、よくあの程度の損害で済んだものだ」
 ルーカス・アイゼンベルグ大尉が休憩室でビールを手に言った。つい先刻まで愛機の整
備を自ら行なっていたが、ようやく一息ついたところである。本来まだ警戒態勢中で、飲
酒は禁止なのだが、あえて咎める者は誰もいなかった。
「あの程度?MS十八機に巡洋艦二隻、駆逐艦一隻、補給艦一隻。出撃した戦力の二割が
未帰還で?」
 ジャクリーン・ファン・バイク少尉が追求する。一年戦争やグリプスのような大規模な
戦闘ならともかく、ジオン残党相手にこの被害は恐らく他艦隊でも前例があるまい。
「ただのテロリストや海賊の類なら惨敗だが、相手はコロニーレーザーだぞ。半分以上が
やられても不思議はなかったんだ。これで済んだのは上出来だよ」
「運がよかったと思いますか?」
 質問したのはサンドリーヌ・シェルー少尉である。広報部配属であり、ユウ・カジマ中
佐の秘書官としての業務も行なっているが、そのユウとは帰還後ほとんど顔も合わせてい
なかった。
 アイゼンベルグの返答は明快だった。
「運もそうだが、大型兵器が相手にある事がわかってたからな。初めから散開して撃たれ
た時に被害が少なくなるように戦っていた。相手が撃つのを待っている奴もいたようだが
な」
 アイゼンベルグの言葉はわずかながら皮肉の響きがあった。この場にはいないがイノウ
エ大尉の戦い方に対し異論はあった。
「それと、隊長の指示だ。あの時隊長が回避行動を指示していなければ被害はあんなもん
じゃない。その意味でもよくあの程度で済んだと思うよ」
「それで、この先どうなるのでしょうか?」
 シェルーの疑問は誰もが答えを欲するものだった。しかし、質問された側にも答えは用
意されていなかった。
「とりあえず今は援軍を要請して、大軍を以ってひねり潰す、くらいしかないだろうな。
細かい戦術?そんなもん大尉の俺に判るわけねえ」
「サンディ、ユウからは何か連絡があった?」
 ジャクリーンがシェルーに訊いた。ルロワ提督が撤退を決断し基地に戻ってくるその頃、
ユウの妻であるマリー・ウィリアムズ・カジマが官舎で倒れたとの報告が入り、ユウは基
地に戻ると事後処理もそこそこに病院に直行し、そのまま登庁していなかった。事情は理
解できるとは言え今は非常事態であり、他の幹部の間でも口には出さないものの不満をも
たれているとの噂があった。
 シェルーは首を振った。
「一度暫く休むと連絡があっただけです。奥さんの病状はそんなに悪くないらしいんです
けど……」
「せめて隊長ならもう少し事情も詳しく聞けるんだがなあ」
 アイゼンベルグがぼやいた時、休憩室のドアが開いた。
「カジマ中佐でも話せん事は話せんよ」
「ホワイト准将!」
 思わずその場にいた全員が起立した。連邦軍駐留基地防御指揮官ローラン・ホワイト准
将は手を上げて無用の意を示し、コーヒーと棒付の飴を手に取った。
「准将、こんな所へ何を……?」
「執務室は電話が鳴り続けて気が休まらんのでな。できれば酒を飲みたいくらいだ」
 アイゼンベルグは聞こえない振りをしてコップの中身を飲み干した。
「それで、援軍の要請はどうなりましたかな?」
「受理はされた。四十八時間以内にスキラッチ艦隊他が到着する予定だ」
「スキラッチ中将?コンペイ島駐留艦隊のですか?」
 アイゼンベルグは顔を思い出そうと努めた。グリプス戦役後に中将となった唯一の人物
で、確かファケッティ宇宙艦隊総司令官の腹心と言われていた人物と記憶している。
「他、というのは誰なんですか?」
 ジャクリーンが訊いた。
「ブライト・ノア大佐のパトロール艦隊を向けるとの事だ」
362MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/15(金) 23:40:24 ID:i2Cemqtu
「ブライトさんが!?」
 シェルーが思わず声を上げ、周囲の視線に気づいて恐縮した。一年戦争当時サイド7に
住み、ホワイトベースによる脱出行を経験した彼女がブライトやアムロ・レイに憧れて軍
人となった事は基地内では知られていた。
 アイゼンベルグが苦笑を堪えながら、
「まあ、経験豊富な指揮官が来てくれるのはありがたい事だな。兵の士気も上がる」
「そうですね、ルロワ提督もお喜びでしょう」
 しかし、ホワイトはシェルーの言葉に全く同意していない表情だった。
「何かあるんですか?」
「いや、ブライト・ノアについては頼りになると見て間違いない。参加した戦闘の数でも
その勝率も今の連邦に彼以上の人物はいない。その輝かしい戦績にアムロ・レイやカミー
ユ・ビダンと言ったNTの存在があるにせよ、それを考慮して尚彼の指揮能力、作戦立案
能力は大きな助けになるだろう」
「では、スキラッチ提督に問題が?」
「彼とルロワ提督は共に中将だ。作戦指揮権を主張してくる可能性がある」
「でも、あくまでもこの宙域の担当はルロワ提督なのですから、通常はルロワ提督が指揮
権を持つのでは?」
「通常はな。しかし今回、提督はすでに二度、同じ敵にしてやられたと見做されている」
 あっ、とその場にいた全員が声を上げた。
 一月一日の式典襲撃及びヘリウム輸送艦奪取、そして今回の敵本拠地制圧、二度とも事
前にその危険性を予測していながら発生を防ぐことができず、合計すればMS四十機と艦
艇五隻を失っている。大規模な戦闘ならともかく、治安維持活動のレベルでは許されない
損失である。
「そこに派遣されるのが宇宙艦隊総司令官の直弟子と呼ばれる人物だ。ファケッティ大将
の意図が透けて見えよう」
「司令官職の解任もありえますか?」
 アイゼンベルグが訊いた。彼は一定の規律は求めながらも基本的に個人を尊重する今の
体制を気に入っている。
 准将は首を振った。
「それはないだろう。軍には人材が不足している。この任務が終わった後他の宙域に転属
させられる事はありうるが、それまでは部隊の指揮と秩序の面からも現体制を維持するだ
ろう」
「しかし、それではスキラッチ提督が指揮権を要求しても拒否すれば済むのでは?もちろ
ん覚悟はいるでしょうが」
「臨時職権としての上級中将という手段もある」
 ホワイトが答えた。
 宇宙軍の階級では『将官』は正式には全て『提督格』と呼ばれ、他の軍では『少将』に
相当する。これに将官が複数存在するような規模の部隊内での指揮系統の明確化を目的と
して『正提督』『副提督』が職権として与えられ、これが『大将』『中将』に相当する事
になる。つまり、宇宙軍において少将以上は厳密な階級ではなく、例えば、ある基地では
司令官として中将(副提督)であった者が軍本部では単なる提督格(少将)に戻る、とい
う事も起こりえる。
 通常はよほど大きな会戦でない限り中将が複数同一の作戦に参加することはなく、その
ような任務であれば大将も参加し総指揮の任に当たる事になる。しかし、今回のようなイ
レギュラーな事態も想定し『代行権限を持つ副提督』なる職権が存在し、これを俗に『上
級中将』と呼ばれている。
「もしかしたらファケッティ総司令官がスキラッチ提督を上級中将に任命してくるかもし
れないと?」
「いや、さすがに総司令官の一存では任命できない。だが、これまでルロワ提督はあらゆ
る派閥と無縁に生きてきた。逆に言えば特定の派閥を敵に回した場合、頼るべき後ろ盾を
持たないと言う事だ」
「芳しくない状況ですねえ」
 アイゼンベルグは面白くなさそうに言った。
 ホワイトはコーヒーを飲み干した。
「そろそろ執務に戻るとしよう。貴官らも警戒態勢は怠らぬように」
 休憩室を出たホワイトは険しい顔で歩き出した。
(少し喋りすぎたか)
 しかし、余計な詮索をされるよりは話しておいた方がいい事もある。今は必要以上に兵
に動揺を与えない事が肝要だ。
 ホワイト准将は執務室に戻った。諜報部のリーフェイ大尉が待っていた。
363MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/15(金) 23:41:10 ID:i2Cemqtu



 ミカ・リトマネンを首謀者とするこの反乱分子は、その活動規模や所有する戦力、特に
コロニーレーザー・リボルバーという宇宙史上でも類に乏しい強力な兵器を運用した事実
にもかかわらず、知名度が極めて低い。シャア・アズナブルやハマーン・カーン、エギー
ユ・デラーズと言った歴代の首魁に比してイデオロギーが不足しているからだとの指摘
もあるが、例えばデラーズフリートのような、自称他称を問わず的確な呼び名を持たない
事も人々の記憶に残りにくい理由とされている。連邦軍の公式記録では単に「アクシズ残
党軍」または「リトマネン一党」と記されている。
 その無名の反乱軍頭領たるリトマネンはこの勝利に上機嫌だった。
「よくやってくれた、アラン。これで連邦の奴等にわが軍の脅威を伝える事が出来ただろ
う」
「……ありがとうございます、閣下」
「失われた命には冥福を祈ろう。彼らの命、無駄にしないためにもこれからが肝心だな?」
「おっしゃる通りです、閣下」
「二十時間後に全地球圏に向けて布告を発する。それまではゆっくり休んでくれ」
「お言葉はありがたく頂戴します。しかし、次の作戦に向けいくつか修正すべき点もあり
ますので」
「そうか。わかった、まとまったら私に見せてくれ」
 リトマネンは喜んでいたが、アラン・コンラッドはこの戦果に満足していなかった。
 自軍最大の切り札を見せた上にそれに先立つ防衛戦で味方にも相応の犠牲者を出してい
る。せめて敵艦隊の半数は削りたかった。
 先に一度大型ビームの存在を見せたために連邦艦隊が警戒していた事はもちろんある。
しかしそれ以上にユウ・カジマの出した回避命令のタイミングが絶妙だった。
 戦闘中突然見せたあの反応の速さ、的確というだけでは言い表せない回避指示の的確さ、
そして何より準サイコミュの映したあの映像――。
「あれは一体……?」
 EXAMがあの蒼いMSに積まれているとは考えにくい。EXAMの顛末を正確には掴
んでいないが、いくつかの噂や目撃からEXAMはソロモン陥落と同時期に全て破壊され
たと判断していた。また、この数年間オリバーらと少しずつ情報を収集し、戦後マリオン
・ウェルチらしき少女がサイド6の病院にいた事を掴んでいる。そもそも、まだEXAM
が健在ならこの十年なぜ一度も使用されなかったものが今搭載されているのか。
 アランではあの現象を論理的に説明する事が出来なかった。それが出来るのは恐らく一
人しかいない、しかしその男は――。
「オリバー、入るぞ」
 ある部屋の前でアランはドアをノックすると、返事を待たず中に入った。
 オリバー・メッツはベッド上で膝を抱え、頭をその膝に沈めていた。
「オリバー、二十時間後に閣下が連邦政府に対しメッセージを発する。お前も出てもらう
ぞ」
 オリバーは一言も発しない。アランは首を振った。オリバーは本格的な実戦は今回の作
戦が初めてだった。目の前で同胞が死んだ経験自体がない上に、自分を庇って親しい友が
死んだのだ。その悲しみは理解できる。だが、今はその感傷に付き合うには時間も、人材
もあまりにも少なかった。
「オリバー、ギドのいない今、お前の戦闘力は今まで以上に重要となる。立ち直るのを待
つ時間はない」
「…………」
「オリバー、ギドはなぜ死んだと思う?」
「…………」
「答えろ、オリバー・メッツ!」
「……僕の、せいだ」
 ようやく、オリバーが口を開いた。死人を思わせた。
「僕がギドを死なせたんだ……」
「そうだ、お前が弱いからギドは死んだ」
364MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/15(金) 23:42:15 ID:i2Cemqtu
 あえて冷徹にアランは断言した。オリバーの身体が震えるのが見えた。
「だが、弱かったのはお前だけじゃない。お前と俺の二人がかりでもユウ・カジマを倒す
事が出来ず、それどころか翻弄された挙句にこちらが墜とされるところだった。だからギ
ドが身を挺して助けに来なければならなかったんだ。そうでなければお前だけでなく、俺
もユウに殺されていただろう。俺たち二人が弱かったのだ」
 今のオリバーに優しい言葉をかけても立ち直りが早まる事はない。己の未熟を痛感し、
それを責める若者には客観的に事実を見つめさせる事でしか一歩を踏み出させる事は出来
ないとアランは信じていた。
「仇を討たなければならん。ギドの魂のためにも、俺たち自身の誇りのためにも!俺たち
でユウを斃し、この戦いに勝利するんだ」
 アランはオリバーに近づき、肩に手を置いた。
「オリバー、戦いの最中、ユウの動きが突然変わった、あれは何だ?俺の準サイコミュに
は妙な映像が見えていた。お前ならわかるんじゃないか?教えてくれ、頼む」
「……マリオン」
「何?」
「あれは、マリオンの力なんだ」
 アランはその言葉の意味する所を考えた。戦慄が奔った。
「EXAMか……?」
「違う……」
 オリバーは戦場で彼のみが到達しえた真実を語った。話を聞くアランにとって、それは
にわかには信じがたいものであった。人の祈りが距離を越えてサイド3から遠く離れたこ
の戦場まで届き、戦闘に干渉し良人の力となるなど、他人が聞けばオカルトか狂人の妄言
にしか思えないだろう。しかしそれでもなお、オリバーの言葉は事実だと確信していた。
NTの力それ自体が常人の理解を超えているのである。EXAMにしたところで人の心が
コンピュータの内部に取り込まれるという研究者たるクルスト・モーゼスにも説明は出来
ない現象を利用したに過ぎない。NTや人の心にはまだ解明されていない謎があり、今回
の現象もその一つだと思えば受け入れるのは難しくなかった。
 それよりもアランは、オリバーの受けたもう一つのショックをここで知った。
「つまり、マリオンは今ユウ・カジマの妻だと言うのか……」
 オリバーは答えない。アランはあの時、オリバーが攻撃を停止した理由を知った。
 マリオンの良人を殺せなかったのだ。NTの実験によって心を機械に取り込まれ、精神
のみを戦場に持ち出された少女が、十年経って手にした人としての幸福を奪う事を恐れた
のだ。
 その気持ちは痛いほどわかった。アランもフラナガン機関の警備士官としてマリオンの
境遇を知っている。戦後彼は公国軍残党として追われる身となり、マリオンの行方を知る
事は出来なかったが、どこかで彼女が幸せに暮らしている事を願っていた。どのような経
緯で連邦軍人の妻となったのか不明だが、ユウ・カジマを斃すと言う事はマリオンを未亡
人としてしまう事に他ならないのだ。
「オリバー、お前の考えている事はわかる。しかし、それでも俺たちはやらなければなら
ないんだ。ギドだけじゃない、仲間たちの死を意味あるものにするために、ここで立ち止
まるわけにいかないんだ。マリオンはかつての仲間だが、今はもう敵なんだ。今の仲間を
守るためにはユウ・カジマは避けて通れない敵だ」
 オリバーは返事をしない。とっくに判っているのだ。今更ユウと戦わない選択肢などな
いという事を。そしてギドの仇は自分の手で討たねばならない事も。
「今、スティーブ・マオの持ち込んだMSフレームで俺とお前の機体を組み立てている。
コクピットはそのまま移植だが、フィッティングはやり直さなければならない。後でドッ
クに顔を出してくれ」
 言うべき事は言った。後は自分の足で立ち上がってもらうのを待つしかない。アランは
部屋を出た。
365創る名無しに見る名無し:2009/05/15(金) 23:52:34 ID:Ka57Am3a
ん?今回はここまでか?
366MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/16(土) 00:09:35 ID:W3U+mVZW
【キャラクターデータ】

ローラン・ホワイト;
地球連邦軍サイド3駐留基地防衛司令官。准将。
本来の所属は地球圏陸軍であり、陸軍省との人材交流の名目でサイド3に赴任している。
そのため(本作の設定では)宇宙軍に存在しない准将をそのまま名乗っている。
一年戦争時は大佐(騎兵連隊長)としてオデッサ作戦に参加、その功績で准将に昇格するも
自分を取り立ててくれたレビルがア=バオア=クーで戦死、その後コーウェン派に属するも
星の屑作戦の際にコーウェンが失脚、その経緯ゆえにアースノイドでありながらティターンズ
にも入れずと出世コースから外れてしまう。しかしティターンズ壊滅の際にはカラバと連携して
ティターンズ掃討では積極的に陣頭指揮を執った。
身長193cmの長身。敵味方を問わず公正な態度を崩さぬ武人だが、頑固さを嫌う幹部も多い。
地上では愛煙家だったが、コロニーでの喫煙は絶対禁止のため、棒つきのキャンディーを口
にする姿がよく目撃される。0040年生まれ、49歳。

【軍組織について】
連邦軍の組織は体系がよくわからないため、フランス海軍をベースにオリジナルで設定しています。
准将がなく、階級としての将官は少将(提督補佐)までで、拝命する職務に応じて大将(提督)、
中将(副提督)などが任命され、さらに大将不在の軍団で最上位の指揮権を持つものに上級中将
(艦隊指揮権を持つ副提督=Vice-Admiral aquadron)と言う職権がある、と言う構成です。ただし、
フランス海軍の上級中将は臨時職ではありませんが。


ここまで
367MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/16(土) 00:26:14 ID:W3U+mVZW
×Vice-Admiral aquadron
○Vice-Admiral squadron
368創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 00:29:07 ID:xpCkUTKk
ブライトさん登場とな!?
369創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 00:33:00 ID:JtZwHzVw
0083に准将いなかったか?
370MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/16(土) 00:47:34 ID:W3U+mVZW
>>369
今手元で確認出来ないけどジャミトフは准将だったと思う
あとはルウム戦役でレビルの副官がカニンガン准将だったのはなぜか覚えてる
レビルが陸軍ぽいからカニンガンも陸軍と勝手に決定、ジャミトフは政治に近い部分に
いるために地上軍か統合作戦本部みたいなところにいたんじゃないかと推定
准将をそこまで排除する意味もよく考えるとそんなになかったんだけどw


371創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 00:53:40 ID:JtZwHzVw
>>370
ジャミトフは忘れてたが、エウーゴ側だとブレックスは准将だね。
372MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/16(土) 01:14:37 ID:W3U+mVZW
>>371
そう言えば。してみると准将なしは無理があったかな
373創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 07:33:05 ID:j8dsa3dP
投下乙です
0083ではコーウェンさんが准将だった思うよ
374創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 20:41:02 ID:j8dsa3dP
ごめんコーウェンさんは中将でした
375創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 05:06:05 ID:Rc97sxIf
ガンダム戦記っていう一年戦争のゲームでコーウェンは准将で登場したな
ギレンの野望では少将になってたりするが、准将ねぇ……
376Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/18(月) 20:41:04 ID:mxyEXTP3
投下行きます
377Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/18(月) 20:42:56 ID:mxyEXTP3
 地球、南アメリカ大陸中央、コーデリア。地球連邦軍本部にて。

 白い月が見える昼下がり、人の疎らな渡り廊下で、地球連邦政府高官ベルガドラ・マッセンは一人の老将校と
擦れ違う。

「これはこれは、マッセン女史。この様な所に何の御用ですかな?」
「連合のエースが逃亡したとの報せを受けまして」

 老将校の問い掛けに、マッセンは愛想良く答えた。相手は戦争再開反対派の大物、シューダー少将。
 互いに互いを快く思っていない者同士、感情を抑えて和やかに会話する。

「おお、存じて居ります。護送シャトルが聖戦団の襲撃を受けたとか……果て、連邦警察は何処の管轄でしたか?
 御粗末な事で」
「物忘れですか? 御高齢なのですから、無理をなさらず」
「ははは。貴女も数年後は……」
「私は未だ耄碌する気などありません」
「これは失礼……ミス・マッセン」
「ええ、全く」

 何気無く交わされる言葉の端々に潜む棘。冗談めいた皮肉を言い合う様は、如何にも愉しそうであった。
 一呼吸置いて、シューダー少将は態とらしく思い出した様に言う。

「そうそう……連合のエースと言えば、賞金が懸けられましたぞ。賞金稼ぎ共に先を越されぬ様、連邦からも部隊を
 送り出します」
「はい、聞き及んで居ります」
「しかし公には戦争は終了したとかで、民衆の不安を煽らぬ様、人員は最小限に止めよと」
「現場は苦労なさいますね」
「……全くです」

 その苦労は誰の所為なのか……。やや表情を険しくするシューダー少将。
 再び会話が途切れ、今度はマッセンが先に口を開いた。挑発する様に、軽く。

「相手は土星の魔王、仕留められますか? 返り討ちに遭えば良い笑い者。“私達”は構いませんけれど」
「……ベルガドラ・マッセン」

 それまでの雰囲気から一変、シューダー少将の重く低い声に、マッセンは身を硬くする。
 彼女は平静を装って尋ねた。

「何でしょう?」
「アーロ・ゾットを甘く見るな」

 射殺す様な鋭い視線、脅し口調。
 直後、シューダー少将は笑顔に戻り、固まるマッセンに軽く会釈をして別れる。
 マッセンは去り行く彼の背を一瞥し、嘲る様に言った。

「シューダー少将……アーロ・ゾットが何する者ぞ。彼奴が如何に策謀に優れようと関係無い。勝利に必要な物は
 知略では無い。大胆な決断と実行力だ」
378Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/18(月) 20:46:45 ID:mxyEXTP3
 時と所は変わり、月、キャピタル・フォン・ブラウン。月周辺宙域警備隊駐屯地格納庫。

 警備隊巡査長セイバー・クロスが帰還したのは、巡回に出発してから約6時間後の事だった。
 ドックに機体を置いた後、コクピットハッチを開け、メットを外して大きく息を吐く。

 負けたとは思っていないが、強い相手……そして、心躍る戦いだった。互いに命を削った瞬間を一つ一つ思い出す。

(次に戦う時は……)

 そこで思い至って、頭を振った。有り得ない。彼は一人の警備隊員に過ぎないのだから。
 戦闘の余韻に浸り、薄暗いコクピット内で茫然としていると、歳の若い男性警備隊員が覗き込んで来た。

「巡査長、遅かったですね。機体の背中、魔王にやられたんですか?」
「……逃げられた。こいつは戦利品だ」

 遅い帰りを心配して駆け付けた後輩に、溜息をつきながら無愛想に返す。同時に暗い影が横切った。

 視線を上げる後輩警備隊員。音も無く動いた機体の右手に、確り握られているバウのビームライフル。
 後輩警備隊員は、がっくりと肩を落とした。

「流石の先輩でも、土星の魔王は墜とせませんでしたか……」
「どうかしたのか?」
「政府が連合のエースに賞金を懸けたんです」
「……幾ら?」

 セイバーの問いに、後輩警備隊員は片手を広げて見せる。

「ハーフミリオンか」

 直感で当たりを付けたセイバーだったが、後輩警備隊員は首を横に振った。

「5ミリオン? 成る程……」

 独り頷くセイバーに、後輩警備隊員は首を横に振り続ける!

「先輩、違います! 50ミリオンです!」
「50だと!?」
「軍が5ミリオンの懸賞金を発表した後、政府が追加で45ミリオン出すと……」
「……それは惜しい事をしたな」

 逃した魚は余りに大きい。セイバーは何度も溜息を吐き、ガシガシと乱暴に頭を掻きながらコクピットから出た。
379Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/18(月) 20:53:16 ID:mxyEXTP3
 既に勤務時間外。格納庫を後にしたセイバーは、後輩警備隊員と別れ、始末書と報告書を作成する為に、独り詰所に
向かった。無人の筈の詰所には、彼が戻る事を期待してか、未だ灯りが点っている。
 セイバーは更衣室で警備隊の制服に着替えてから、詰所に足を踏み入れた。

「初めまして、撃墜王セイバー・クロス」
「……君は?」

 詰所には人が居た。予想外の事に驚いたセイバーは動きを止める。
 彼を迎えたのは、連邦軍の制服を着た少女。年の頃、10代前半。ティーンエイジを迎えているかすら怪しい。
 不思議な雰囲気の少女は、セイバーに恭しく礼をした。

「私は連邦軍緊急討伐隊のリリル・ルラ・ラ・ロロ少尉です。セイバー・クロス少尉、貴方を迎えに来ました」
「……待ってくれ。緊急討伐隊とは何だ? 俺に軍属に戻れと言うのか?」
「はい。緊急討伐隊とは、逃亡した連合軍のエース、ハロルド・ウェザーとダグラス・タウンを仕留める為に、新しく
 編成された部隊です。人員不足に悩んで居りまして、撃墜王の力を是非、お借りしたいと」

 敬語ではあるが、少女の淡々とした話し振りは何処か高圧的で、異論を許さない迫力があった。

 セイバーは少女の言葉に腕を組む。御役所の公認で連合のエースを追撃出来る等、セイバーにとっては願っても
無い事だったが、二つ返事で了解する程、軽率では無い。

「討伐隊のメンバーは他に誰が居るんだ?」
「艦のクルー以外では、スイーパーが4人と、新人パイロットが1人。MSの操縦者で正規の軍人は私だけです」
「……それで討伐隊?」
「色々と政治的な事情が故です。非常に重要な任務である事に変わりありません。嫌と仰るなら、それはそれで」

 軍とは思えない人選に対して不信感を露にするセイバーに、少女は変わらぬ口調で答える。
 彼女の瞳を見ながら話を聞いていたセイバーは、悪寒に肌を粟立たせた。

 少女から感じる、得体の知れない圧迫感の正体。彼女はセイバーが拒否しないと確信している。
 理解したと同時に走った、心臓の辺りを探られた様な嫌悪感。まるで全てを見透かされている様な……。

(この歳で少尉、という事は……)

 セイバーは目を閉じ、顎に左拳を当てた。

「……隊長の名前を教えてくれ」
「ミッハ・バージ大佐です」

 その名を聞いたセイバーは、ゆっくりと目を開く。

「あの爺さんが俺を御指名か……。良かろう。解った」

 ミッハ・バージとは、大戦中にセイバーが所属していた部隊の指揮官だった人物である。セイバーのパイロットとしての
手腕を見込み、軍経験の浅い彼を教え導き支えた、言わば恩人。
 信頼出来る人物が、己の力を必要としているならば、応えるに吝かでは無い。
 静かに肯くセイバー。それを見たリリルは口元を歪め、凡そ子供らしくない笑みを浮かべた。
380Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/18(月) 20:57:31 ID:mxyEXTP3
 その翌日、月から巨大な白い鳥が火星に向かって飛び発った。

 緊急討伐隊の母艦、スザ級輸送艦ペリカン。ガルダの系統で、宇宙空間で活動可能。従来艦と比較して小型では
あるが、長距離航行能力と機動性に優れる。白を基調としたカラーリングは連邦軍の伝統。

 MS格納庫で、セイバーは艦長のバージ大佐と久し振りの会話をしていた。
 戦争中の思い出話、戦争後の生活の話、そして今回の任務の話……。

「有り難う。そして、済まない。再び君に頼る事になってしまって……」
「気になさる必要はありませんよ。地球から動かない腰の重い連中に、俺の実力を本物と認めさせる良い機会です」

 強気のセイバー。バージ艦長は嗄れた声で嬉しそうに笑う。

「君は相変わらずだねえ……。頼りにしているよ」
「蒼碧の流星群、貴方に戴いた二つ名です。必ずや、その名に恥じない戦果を上げて見せましょう」

 セイバーは撃墜王の勲章を付けた胸を張り、堂々と言った。

 ミッハ・バージは物腰柔らかな好々爺で、人の扱いに長ける。寄せ集めの討伐隊で、果たしてヴァンダルジアを……
戦争の再開を止められるのか? あらゆる意味で、全ては彼の双肩に掛かっていた。
381Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/18(月) 21:12:35 ID:mxyEXTP3
「御談笑の所、申し訳ありません。バージ艦長、出撃許可願います」
「ん? ロロ少尉か。ああ、良いよ」

 話の最中、横からバージ艦長に声を掛けて来たのは、淡いピンク色のパイロットスーツに身を包んだリリル。
 バージ艦長は、あっさり了承した。傍で聞いていたセイバーは何事かと焦る。

「敵襲!?」
「いや、彼女にはギルバートを足止めして貰うんだ」

 落ち着いて説明するバージ艦長。リリルは小馬鹿にした様な笑みを浮かべている。

「バージさん、どういう事ですか? 奴等が何処に居るのか判って……」
「では、行って参ります!」

 リリルは姿勢を正して敬礼し、セイバーのバージ艦長への問い掛けを意図的に遮った。
 そして自身が搭乗するガンダムに目を向ける。

「艦長……足止めと仰いましたが、別に墜としてしまっても宜しいんですよね?」
「出来る事なら、お願いしたい」
「フフ、御任せ下さい」

 バージ艦長の答えを聞き、意気揚々と自機に乗込むリリル。
 彼女のガンダムは背中に大きな輪とロケットブースターを負っている。
 白銀の機体に、黄色のアクセント。ニュータイプ専用機、ガンダムヒマワリ。背中の輪は36基のフィン・ファンネル!

 カタパルトに乗って発進準備を終えたガンダムを、セイバーは厳しい目で見ながらバージ艦長に告げる。

「土星の魔王を見縊らない事です。あの子供は機関の出でしょう。新型試作機の性能が如何程の物かは知りませんが、
 実戦経験の浅い素人では力量不足」
「構わんさ。負けて帰るのも経験の内だよ。鼻っ柱を折られたら、聞かん子も少しは素直になるだろう?」
「貴方という人は……」
「はっはっ! 案外やってくれるやも知れん。期待せずに待とうじゃないか」

 バージ艦長は呆れるセイバーの肩を叩き、豪快に高笑いした。
382創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 21:14:26 ID:mxyEXTP3
これで4話完。
失礼しました。
383創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 21:31:34 ID:sOzs+K9i
今日も乙
投下ペースが早くて羨ましいぜ
384創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 22:45:15 ID:MXtEmCNQ

クオリティ落とさずによくこのペースで書けるな
悪いがガンダムヒマワリで不覚にも
385MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/21(木) 02:57:43 ID:WFDxxLAz
蒼の残光 6.一月十一日 後編

会話劇で少し退屈かも
386MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/21(木) 02:58:37 ID:WFDxxLAz
「――それで、貴官の上司はなんと?」
 ルロワは言った。リーフェイの表情には変化は見られなかった。
「まだ報告しておりません、今この事実を知っているのはこの場にいる三人のみです」
 ローラン・ホワイトの執務室である。秘書官も退席させ、ギィ・ルロワをこの部屋に招
くよう依頼したのもこの情報部大尉だった。
 ルロワはテーブルの上に置かれた写真を手に取った。市内に設置された防犯カメラの画
像をプリントアウトしたものである。
 そこにはサングラスをかけた青年とカフェで談笑するマリーの姿があった。
「この男が反乱軍の人間である事は間違いないのかね?」
「彼は我々がマークしていた実体のない旅行会社のツアー参加者の一人で、過去のツアー
にも度々参加している事が確認されております。当面の敵であるか否かはともかく、何ら
かの意図を持って市内を動いている事は間違いありません」
「過去に彼女とツアー参加者が接触していた事は?」
「それはありませんでした。もっとも、この都市では映像は半年で消去されてしまうので
それ以前については確認できませんが」
「もうそこまでの調査を進めていたのか」
 ホワイトが小さく呟いた。もっとも、ホワイトが思っているほどには困難な作業ではな
い。スーパーインポーズ式人物判別システムにマリーの顔をデータとして入力すれば全て
の映像中からマリーの映った画像を抽出、接触者の中から予め不審人物としてリストアッ
プしたデータとの一致があるかを再照合する。全てコンピュータに作業を一任でき、ルロ
ワやホワイトの想像するような人海戦術は必要ない。
 ただし、例えばマリーが接触したスーパーの店員が実はスパイであり、この店員が件の
来訪者と接触するような間接的な連絡手段をとった場合にはチェックが及ばず、この場合
にはより強力な演算能力を持つコンピュータと、何よりも「らしい」と感じる人物を絞り
込む勘を持った人間の目が必要となる。そこまでするにはリーフェイの権限だけでは動か
せない。
 だからこそ上層部に報告するのがセオリーであり、軍規でもあるのだが、リーフェイは
それをしていないと言う。
「しかし、いいのかね?こういうケースでは……我々に話を通さないケースも多々あると
思うが」
 ルロワの言葉はリーフェイの立場を考えての事であろう。しかし、彼はいささかの躊躇
いも見せなかった。
「情報部の役割は戦場の外で起こる不確定要素を取り除き、軍を勝利に導く事にあります。
今この時点で上層部(うえ)に報告すればユウ・カジマ中佐も査問され、恐らくは潔白が
証明されるまで謹慎となるでしょう。それは戦場で悪戯に敵を利する事になります」
「……なるほど」
 ルロワはそれだけ答えた。どうもこのリーフェイという男、一般的な情報部の人間とは
異なる基準をもって動く男らしい。或いは過去に最前線の兵の誠実を信頼する経験をして
いるのだろうか。
「とは言え、カジマ中佐の奥方が敵と思われる人物と接触を持っていた事は事実です。当
面は本人に知らせる事なく監視を付ける必要があるでしょう」
「ふーむ――」
 ホワイトは目の前の資料の中からマリーに関する経歴を取り上げて目を通した。
「……マリー・ウィリアムズ。宇宙世紀〇〇六五年六月六日、サイド5テキサス生まれ。
両親は観光客相手の土産物屋を経営していたが開戦と共に疎開、サイド6に移住。しかし
同年八月十日に交通事故により両親は死亡、本人も昏睡状態となり同年十二月まで入院。
終戦後高校卒業までサイド6で過ごし、その後奨学金返還免除の規定を満たすためグラナ
ダの軍病院で看護士見習いとして勤務、〇〇八六年六月六日、ユウ・カジマ少佐と結婚…
…。経歴を見る限り不審な点はなさそうに思えるが」
 当時既に少佐だったユウと結婚しているのである。高級将校の婚姻ならば情報部が人物
を調査しているはずだ。その時点で不審な点があれば判明するだろう。
「ごもっともです。しかし、経歴において完璧であるから、現在その人物が潔白であると
言う意味にはなりません。この映像の中の奥方とターゲットは、少なくとも旧知の関係に
ある事は確実と思われます」
387MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/21(木) 02:59:49 ID:WFDxxLAz
 ルロワとホワイトは同時に頷いた。
「音声はありませんが、口の動きから内容を再現する限りにおいて機密と思える内容は出
ていないのも事実であります。むしろ、ターゲットは奥方が連邦軍人の妻である事すら知
らないように思われます」
「だから、上官への報告を後回しに、暫く経過を観察しようと?」
「その通りです。次の戦闘が確実な今の情勢であれば、奥方が何らかの役割を持っていれ
ば間違いなく再び何らかの動きを見せるでしょう。動くのはそれからでも遅くはないと考
えます」
「その間ユウも欺く事になるのか」
 ホワイトはやや気乗りしない様子だった。しかし、リーフェイの言う通り情報部に本格
的に動かれるのはさらに厄介でもある。
 ルロワが結論付けた。
「リーフェイ大尉の意見を採用しよう。暫くは信頼の置ける者をユウ、マリー両名の監視
につける。人選はこれから行おう」
「感謝します、提督」
 リーフェイは謝意を表した。



 その頃軍施設内の病院では目を覚ましたマリーにユウがりんごを切っていた。
「上手いものね。皮をむくの」
「――独身生活が長かったからな」
 基地に戻ってきたユウを待っていたのは、マリーが倒れ、病院に運ばれたと言う報せだ
った。アイゼンベルグに後を頼み、ルロワの許可の下病院に直行、そのまま今日までマリ
ーに付き添っていたのだった。
「お仕事の方は平気なの?」
「俺のような戦場でしか役に立たない武辺、基地に戻れば役立たずだ」
 今最も必要なのはまさに戦場で活躍する武辺なのだが、心配をかけないため、冗談で紛
らわせた。
「余計な事考えずに今は休め」
「……はい」
 マリーはユウからりんごを受け取ると、一口入れた。暫く黙ってりんごを食べていたが、
やがて
「ねえ、ユウ」
「ん?」
「次も勝てる?」
 ユウはマリーの顔を見つめ、慎重に答えた。
「俺はそのつもりだ」
「でも、相手も強いんでしょ?」
「それは、必死だからな。連中には後がない」
「勝つためには……やっぱり殺さないと駄目?」
 ユウは黙ってマリーを見つめた。
「どうした?初めてだな、そんな事言うのは」
「ごめんなさい……」
 マリーは下を向いてしまった。
「やっぱり、元看護士としては、人が死ぬのは――」
「いや、いい」
 ユウが遮った。
「それが普通の反応だ。夫が死ぬのも、夫が人殺しをして還ってくるのも嫌に決まってる」
 ユウは声の調子を変えずに続けた。
「俺は殺さずに済むなら殺したくないとは思っている。だが、戦場で殺さずに勝つ方法を
探すつもりもない。それは戦争の前に考える事で、敵が目の前で銃向けてる時に考える事
じゃない。そうでないと自分が生き残れないんだ」
「うん、わかってる」
「……すまんな。こんな言い方しか出来なくて」
 ユウはいすから立ち上がった。
「飲み物を買ってこよう。何か欲しいものあるか?」
「じゃあ、オレンジジュースで」
「わかった」
388MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/21(木) 03:01:21 ID:WFDxxLAz
 ユウは病室を出ると自販機のある一階まで降りていった。
 オレンジジュースと炭酸を買い、病室に戻ろうとした時、受付に見覚えのある顔を見つ
けた。
「イノウエ大尉!」
 呼び止められた壮年の士官は少し驚いた様子でユウを見たが、すぐに不器用な笑みを浮
かべて見せた。
「隊長」
「外来か。もしやこの前の戦闘で負傷を?」
 イノウエは少し顔を赤らめた。
「いえ、負傷と言うほどのものではありません。ただ、少しばかり神経痛が疼きましてな。
薬を貰いに来ただけです」
「そうか。身体のケアはしっかりしておいて下さい。次の戦闘も遠くはない」
「ありがとうございます。……あの、奥様のご様子は?」
「大丈夫。ストレスらしい。ここに赴任してからの疲れが出たのだろう」
「そうですか」
「それで、情勢はどうなっています?大きな変化がないのはわかるが増援は決まりました
か?」
「コンペイ島からスキラッチ艦隊が来るようです。それとブライト・ノア大佐も」
「ブライト大佐?そうか、シェルー中尉も喜んでいるだろう」
「…………」
「どうした、大尉?」
「少々、肩身の狭い思いをしていましてな」
――中庭に移動し、ベンチに二人腰掛け会話を続けた。
「隊長も内心では思っておいででしょう」
 自嘲するようにイノウエは言った。
「なぜ第一射前にあのコロニーレーザーに攻撃を仕掛けなかったのかと。それなら自軍の
被害はもっと小さなもので済んだのではないかと」
 ユウは答えなかった。それは事実だった。ユウはアイゼンベルグに敵MS戦力への打撃
を、イノウエにはコロニーレーザー――その時点ではまだ未確認建造物だったが――の破
壊を命じていた。端的に言えば、イノウエの突破口を開くためにアイゼンベルグに働いて
もらう作戦だったのである。にもかかわらずイノウエは敵がコロニーレーザーを発射した
直後の空白の時間を待ち、積極的に突撃を仕掛けなかった。
 敵の戦力、錬度が予想外に高く、突破口を見出すのに時間が掛りすぎた事は事実だが、
ある程度のリスクを負ってでも突撃するのがセオリーであり、実際に突撃を試みて撃墜さ
れたパイロットも少なくなかった。
「その批判は受けざるをえんでしょう。しかし、確実にあれに致命傷を与え、なおかつ自
分が生還するにはあの瞬間を待つのが最良でした。その判断に自信があります」
 ただ、相手の兵器があれほど短時間での連射が可能だというのが予想外だったのだ。そ
れは誰にも予想できなかった事だった。
「……隊長はお幾つになりましたかな?」
 イノウエは突然話題を変えてきた。
「今年三十四に」
「三十四ですか。私が初めてジムに乗ったのがその歳です」
 イノウエは遠い目をして言った。
「私の娘はね、一年戦争開戦の日に生まれたのですよ」
 また話題が微妙に変わった。ユウは黙って聞いていた。
「当時の私は空軍の雷撃機乗りでした。私は娘の顔も見れないまま戦闘配備で基地に呼び
戻され、基地内でコロニー落としやルウムでの大敗のニュースを聞き、続くジオン軍の降
下作戦でザクを初めてこの目で見ました」
 その辺りの事情はユウも大差はない。彼は兵器開発局だったので戦場でザクを見たのは
もっと後であるが。
「絶望しました。十七歳で初めて配属されて以来十七年、それまで現場で叩き込まれた戦
術や戦闘技術が全て否定された。これはもう死んだと思いましたよ。
「だから、ジムが量産、配備されると聞いた時には真っ先にパイロットとして手を上げま
した。しかし、戦闘機のコクピットを参考にレイアウトされているとは言え、あまりにも
勝手が違いました――私と同じか上の世代でも同様にMSへの乗り換えをし、上手く出来
た者もいます。しかし、私は新しい技術に馴染むにはもう遅すぎたのです」
389MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/21(木) 03:02:08 ID:WFDxxLAz
 ユウはジムが実戦配備された当時の事を思い出した。戦闘機や雷撃機、戦車で実績ある
パイロットが意外なほど期待に応える事が出来ないまま撃墜される話を耳にした。単一の
機体の扱いに熟達した者ほど、機種転換には苦戦するケースが多かったのだ。
「しかしそれでも私は必死でジムを使った戦闘を身に着けましたよ。なぜなら生き残るに
はこいつに賭けるしかなかったのですからね。みっともない戦い方だろうと、娘をこの手
に抱くまで死ぬわけにはいかん、それだけでジムに乗り込んでいたのです」
 その結果、彼は地上戦を生き残り、宇宙への反転攻勢の際に再編された宇宙艦隊のMS
パイロットに抜擢されたのである。死にたくない一心で戦い続け、生き残り続けた結果、
更なる死地に連れ出された心境はいかなるものだったろう。
「今も私の考えはその頃と変わりません。娘もこの前十一歳の誕生日を迎えた。まだ私は
あれの成長を見届けたいし、孫を抱き上げてみたい。私は任務を疎かにするつもりはあり
ません。味方の被害を軽んじているわけでもない。ただ、私にとって任務の第一義は生還
する事なのです」
 ユウは先程妻に向かって言った。人殺しをしたいわけではないが、敵を前に殺す事を躊
躇しないと。それは自分が生き残るためである。イノウエの理屈も同じだった。まして彼
の隊は対地攻撃に特化してMS戦闘には向かない装備で出撃している。制空権を確保しな
い内に前進しろという命令を出す事が間違いであるとも言えた。
「隊長、私はあなたが羨ましい」
 イノウエがポツリと言った。
「私が?」
「私から見れば、あなたはMS戦闘の天才だ。いや、あなたのレベルで見ればアムロ・レ
イやジオンの赤い彗星のような伝説的エースこそ天才と言うかもしれませんが、私に言わ
せればあの二人はもう人とは別の生き物だ。人の足の速さを豹や馬と比べる意味がないよ
うに、あの二人を引き合いに出すのは基準が違う。あなたは人として到達しうる究極の技
術を持っていますよ。隊長なら大丈夫。今回の戦いでも必ず勝利し、生きて還ってきます。
そう言って奥様を安心させておやりなさい」
「……すまない、大尉」
 ユウはイノウエに詫びた。
「次は貴官らが確実に生きて任務を果たせる指揮を執ろう」
「期待しております。隊長」
 イノウエ大尉はニッコリと笑った。



【キャラクタープロフィール】
レオン・リーフェイ;
地球連邦軍宇宙軍情報部所属。大尉。
一年戦争時は陸軍情報部に所属、戦後の軍組織改革の際に宇宙軍に転籍した変り種。
情報部員と言うよりは諜報部員に近く、彼の持つ空気は大尉という階級に似つかわしくないと噂される。
一年戦争時にはオーストラリアでMS隊の戦闘に参加した記録が残っているが、この時も何らかの任務を帯びていた
との説が根強い。宇宙世紀0048年生、41歳。


イノウエ;
地球連邦軍ジオン共和国駐留艦隊MS隊副隊長。大尉。
この時代には希少なシップ・エース。生家は貧しく、義務教育終了後すぐに軍に入隊、下士官から叩き上げた軍人。
本来は無口で、MS隊の訓練内容の打ち合わせではアイゼンベルグ以外の声が聞こえないと基地内では笑い話の種に
されるほど。一年戦争ではドロワ撃沈の功績があり、彼の軍服にはルロワよりも大きな勲章が下げられている。
宇宙世紀0045年生、44歳。なお、彼の人物のモデルは新撰組の井上源三郎である。


ここまで
390MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/21(木) 03:10:49 ID:WFDxxLAz
空軍じゃなく雷撃機だから海軍の方が適切だね
訂正
391創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 19:19:06 ID:HDSWj2nd
井上源三郎wikiった
ジムみたいな人だ(良い意味で)
392創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 23:23:41 ID:LIf47IgP

戦闘描写無しでも面白いな
ってかBD買ってしまったじゃまいかw
393創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 00:00:20 ID:VHiF7Awq
俺も蒼の残光のおかげで
BDの小説版と漫画版を探し回る羽目になったぜ!

このままだと俺の部屋にサターンが出現する日も近いな
394MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/23(土) 22:58:21 ID:sc5fG4ks
そんな風に言ってもらえると恐縮です
395創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 23:26:20 ID:vWHYKEM4
そういや俺の初めてのガンダムゲーはブルーだったな
だからか今でもブルーには愛着がある…。もちろんMANANの人のも大好きだぜ
396Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 10:46:47 ID:eugbzt2d
と、投下、行きます
397Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 10:50:43 ID:eugbzt2d
 リリル・ルラ・ラ・ロロはニュータイプ養成機関の出身で、同年代の中では並ぶ者が無い程の高い能力を持っていた。
しかし、彼女とガンダムヒマワリが緊急討伐隊に派遣された理由は唯一つ、実戦データを取得する為。
 ニュータイプの訓練生が、嘗ての英雄達と同じく、実戦で即戦力に成り得るか。ニュータイプ専用機に搭乗した場合、
予定通りの性能を発揮出来るか否か。

 単に高い能力を持つパイロットが欲しいなら、多少不安定な精神に目を瞑り、強化人間を使った方が良い。
 それでもニュータイプの幻想に縋る理由は、英雄が単独で戦局を変えるという夢物語が過去、現実に起こったからに
他ならない。所が、先の大戦ではエース不在の量産機がコロニー連合軍を押し返してしまった。
 幻想が崩れつつある今、ニュータイプ研究関連機関は存亡の危機に晒されている。

 リリルは自分の使命を理解していた。連合のエースを倒し、自らの、そして機関の存在意義を証明する。
 他人に対する侮蔑的な態度は、背負わされた期待の大きさ故。押し潰されない様に、自信と功名心の鎧を纏う。
 連合のエースを倒す。誰より先に……賞金稼ぎより、撃墜王より!

 レーダーより鋭いニュータイプの感が知らせる。標的は近いと!
 全天周囲モニターがズーム画面に切り替わり、彼方のギルバートとバウの姿を捉える。
 獲物を目にし、リリルは冷酷な口調に豹変した。

「見付けた! 先ずは小手調べ……これで!」

 ガンダムヒマワリはロケットブースターを切り離し、背面の36基のフィン・ファンネルの内、9基を発射する。
 目にも留まらぬ高速でバウに向かうファンネル!
398Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 10:54:52 ID:eugbzt2d
 ヴァンダルジアの後方で迎撃態勢に入ったハロルドは、視界に映る小さな点に目を凝らした。点の正体は噴射炎か、
それとも粒子か、遥か遠方で仄かに明るく光る。

(こいつは何だ? 1つ、2つ、3つ……全部で9つ……)

 一糸乱れぬ統率の取れた動き。誘導ミサイルにしては異常。彼は記憶の糸を手繰り寄せ、類似の例を思い出す。

「……ファンネルか! 何て距離から攻撃して来やがる!」

 視界、レーダー共に敵影を捉えず。本体を攻撃するのは不可能。
 フィン・ファンネルの群は、その形状が目視で明確に判別出来る距離まで接近すると、鋭角に進行方向を変えて
散開した。同時にダグラスがハロルドに声を掛ける。

「ハル、動きを止めるな!」
「解ってるよ! 高みの見物なんかさせるか! 全部撃ち落としてくれる! ダグ、回避は任せた!」
「了解! ハル、撃ち漏らすなよ!」

 バウは自らファンネルの群に突っ込む!

「こんな玩具で俺の首を獲ろうってか!? 先ずは1基!!」

 ハロルドの声と同時に、バウのライフルからビームが放たれ、高速移動中のファンネルを1基撃墜した。
 次の瞬間、バウの上半身が180度回転する!

「2基!」

 そして背後に回り込んでいたファンネルに向かって1発!

 バウ・ワウは合体分離時の半固定状態を維持する事で、上下半身が無制限に回転する。
 2人乗りだから熟せる、前進しながら後方の標的を狙撃という矛盾した芸当!
 ハロルドは命中を確認する事無く、再び機体の上半身をグルグルと回転させ、次々とファンネルを墜として行く。
399Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 10:58:00 ID:eugbzt2d
「3基、4基! どうしたどうした! 夜店の射的屋の方が未だ当て難いぞ!」

 動目標射撃はハロルドの最も得意とする所。機体だろうが、ミサイルだろうが、ファンネルだろうが、彼にとっては
大差無い。怒涛の勢いでファンネルの包囲を突っ切る。

「こいつで6基、とっ!?」

 しかし、6発目のビームは“避けられた”。そして生じる一瞬の隙。逃さず一斉に攻撃を仕掛けて来るファンネル!
 ビームの包囲網を、バウは巧みに潜り抜ける!

「ダグ!」
「未だ未だ余裕! それより気付いてるか?」
「ああ、御代わりは要らないんだが……」

 撃墜された分のファンネルは、何時の間にか補充されていた。取り囲まれない様に、ハロルドは再びファンネルを狙う。

 バシュッ……キィン!!

「弾かれた!? Iフィールドバリアーか!!」

 しかし、ライフルのビームは分散し、三角形のバリアを浮かび上がらせた。1基を守る様に、3基が編隊を組んで
バリアを張るフィン・ファンネル。ビーム攻撃から互いを守り合う!

「……ハル、そろそろ厳しいぜ」

 落ち着いた声ではあるが、ダグラスは弱音とも受け取れる言葉を吐いた。機動性ではファンネルが上、加えて数が
一向に減らないのでは、避け続けるのにも限界があった。ビーム以外で撃ち墜とそうにも、ミサイルやグレネードでは
高速移動するファンネルに先ず当たらない。

 絶え間無く方々から放たれるビームを、ダグラスは次第に避け切れなくなり……遂に、1基のフィン・ファンネルが
放ったビームが、バウに向かって真っ直ぐ伸びる!

「んなら、こいつでどうだぁあっ!!」

 ハロルドは雄叫びを上げ、ビームを放ったファンネルに向かって盾を突き出した。防御と同時に、反撃のメガ粒子砲!

 ドオォッ!!

 ライフルを上回る威力のビームがIフィールドを突き破る!
400Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 11:01:19 ID:eugbzt2d
 その様をモニターで見ていたリリルは、独り言を呟いた。

「流石にエースと言われるだけはある。この程度では仕留められないか……」

 易々とファンネルに追い付かれ、そのビームを受ける防御力も無く、画期的な新武装がある様にも見えない。
 彼女の目に、バウ・ワウの性能は御世辞にも高いとは言い難かった。それでも36基のフィン・ファンネルの内、
6基が墜とされ、残るは30基。単純に操縦者の腕と考えて良い。

「しかし……所詮、そこまで」

 リリルは口元を歪めてニヤリと笑った。ガンダムヒマワリの背中にある22基のフィン・ファンネルが展開し、粒子を
蓄え黄色く光る。その様は宇宙に咲く向日葵!

「連合のエースは、この私が倒す!」

 リリルの意志に従い、全てのフィン・ファンネルが一斉にバウに向かう!

 8基のフィン・ファンネルを6基にまで減らして善戦していたバウだったが、追加の22基のフィン・ファンネルに瞬く間に
追い詰められる。計28基のファンネルを相手に即撃破されないだけでも大した物だが、バウは回避と防御で精一杯で
反撃にまで手が回らない。

 絶対安全な位置にあるリリルは、焦らず決定的瞬間を待つ。ファンネルの攻撃に逃げ道を作ってバウを誘導。
 罠と知ろうが知るまいが、バウは追い立てられ、詰みに陥る。

「掛かった! 墜ちろ!」

 ファンネルがバウを完全に包囲し、リリルは勝利を確信した。シールドで防げるのは1面のみ。全面から同時に
攻撃を仕掛け、蜂の巣にする!
401Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 11:13:11 ID:eugbzt2d
 その時、リリルは我が目を疑った。何が起こったのか、理解不能だった。
 フィン・ファンネルがビームを撃った直後……初めに3基のファンネルが“消えた”と感じた。次に見た物は、
ファンネルの包囲を突破したバウ・ワウ。
 バウはライフルの代わりにバズーカを担ぎ、ファンネルを上回る速度でガンダムに向かっている!

 ハロルドとダグラスのモニターには、既にガンダムの姿が映っていた。
 窮地を乗り切ったハロルドは、大きな溜息を吐き、ダグラスに話し掛ける。

「危ない危ない。ダグ、土星ロケットエンジンの調子は?」
「良好だ。班長は良い仕事をしてくれる」
「班長様々だな。さぁて、こっから反撃だ!」

 勢い込むハロルドとダグラス。対照的に、リリルは迫るプレッシャーに恐怖を感じた。
 命が危険に曝される、初めての体験。強固な自信の鎧が綻び始める。

「く、来るな……来ないで!」

 リリルの悲鳴はサイコミュを通じて、空間一帯に広がった。

「ぐっ……」
「ダグ、どうした?」

 呻き声を上げたダグラスを気遣い、ハロルドは声を掛けた。ダグラスはメットの上から額を押さえ、モニターの
ガンダムを見ながら答える。

「……いや、何でも無い。それより後ろに気を付けろ」

 ダグラスの言葉に反応し、後方を振り返ったハロルドが見た物は、異常な量の粒子を噴出して加速する25基の
フィン・ファンネル!
 リリルの恐怖心にニュータイプ能力が過剰反応し、フィン・ファンネルの出力の限界を超えさせたのだ。

「チッ、振り切ったと思ったが!」

 舌打ちし、声を荒げるハロルド。一方のダグラスは、ガンダムから伝わって来るリリルの心を感じ取っていた。

「相手は相当焦っている様だ。実際に敵機に迫られた事が無いと見える」
「そいつは何となく解るぜ」
「感じるのか? 怯える心を」

 彼は時々、ハロルドの理解を超えた事を口にする。ハロルド自身、勘が良い方だが、ダグラスの“それ”は確実に
何かを察知している様子で、常人とは一線を画す。“それ”が高いニュータイプ能力を持つ者に、よく見られる性質だと
ハロルドは知っていたが、その事については深く考えない様にしていた。

「悪い、それは解らん」

 ハロルドは興味無い風を装い、バウの上半身を回転させ、追い上げて来るファンネルにバズーカを向けた。
402Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 11:19:00 ID:eugbzt2d
 この時、リリルは土星の魔王の実力を思い知った。
 どのファンネルに狙いを付けていた様子も無いのに、ジャイアントバズーカから発射されたロケット弾は、見事に
ファンネルを破壊した。そしてバウは反動で吹っ飛び、同時に繰り出されたファンネルの攻撃を躱す。

 反動を計算に入れたバズーカでの狙撃。砲口から予測出来ない攻撃は回避困難。
 28基の包囲から逃れた時は、ブーストエンジン発動と同時にバズーカを撃ち、反動を利用した瞬間的な爆発力で
予測不可能な動きをしたのだ。

「あ……有り得ない! 有り得ない! こんな動き!」

 バウは高速で移動しながら、攻撃と同時にファンネルのビームを避ける。最早、フィン・ファンネルだけでは
仕留められないと直感したリリルは、ハイパーメガライフルを構えた。
 しかし、ロケット弾を発射する度に、突風に煽られる紙切れの様に舞うバウに、全く狙いが付けられない。
 恐怖と緊張で照準が揺れる。そうこうしている間にも、バウは距離を詰めて来る!

 リリルはパニックに陥り、冷静な思考を欠いていた。窮地に在りながら、ギルバート撃墜を諦める事など判断の外で、
後退の選択肢を自ら絶っていた。今は向かい来る敵機を墜とすしかない。追い詰められた彼女が取った行動は……。

「来ないで! 来ないで!」

 ハイパーメガライフルを下げ、ビームライフルを持つ。ハイパーバズーカを肩に乗せる。シールドを左腕に固定する。
両腕をバウに向けて真っ直ぐ伸ばす!
 左腕シールドのビームキャノンとミサイル、右手のライフル、右肩のバズーカ、全て一斉発射!!

「うわああああー!!」

 ドドドドドドッ!!
403Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 11:26:30 ID:eugbzt2d
 襲い来る攻撃の嵐。流石のハロルドとダグラスも、これを避ける事は出来ないが……。

「自棄を起こしたか?」
「その様だな。ファンネルの動きも粗くなった。ハル、一気に決めるぞ」
「了解!」

 2人は全く焦らない。ハロルドはガンダムに向けてシールドを構えた。

 ドオッ!!

 シールドの対ビームコーティングがビーム攻撃を弾き、反撃のメガ粒子砲がロケット弾とミサイルを撃ち墜す。
 メガ粒子砲は真っ直ぐガンダムに向かい、右肩のバズーカを破壊した。
 
「きゃああぁっ! お願い……止めて……」

 目を瞑って甲高い悲鳴を上げ、弱々しい声を出すリリルに、戦闘開始直後の勇ましさは欠片も無い。瞳は涙に
潤んでいた。それでも閉ざした目を再び開き、敵機を探す辺りは訓練の賜物か。

「……え!?」

 そのリリルの視線を遮り、モニターに迫る黒い影。それが何なのか、弱った精神状態の彼女には判別出来なかった。
反射的にライフルを持った右腕でフェイスを庇う。

 ガコッ……。

 機体の右腕に当たったのは、弾を撃ち尽くしたジャイアントバズーカ。
 利き腕でガンダムの頭部を防御した事により、ライフルでの攻撃が封じられ、同時に死角が生まれた。
404Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/24(日) 11:36:33 ID:eugbzt2d
 ガンダムの右半身が無防備になった隙を突き、バウは急接近!

「止めて……って、言ってるでしょうがっ!!」

 瞬間、リリルの精神は土壇場で狂乱から復活した。泣き喚いても無駄だと理解し、開き直ったのだ。
 遅れた反応ながら、バウにシールドのビームキャノンを向ける!

 ガシンッ!

 しかし、シールドはバウの右足に押し止められた。密着した状態で、ガンダムにライフルを構え直す余裕は無い。
バウはビームサーベルを右手に持ち、大きく肩を開く。
 リリルは会心の笑みを浮かべた。バウの背後には1基のフィン・ファンネル!

 ドォン!

 ……だが、爆発したのはバウの背中ではなく、ファンネル。バウはファンネルが来る位置を知っていたかの様に、
サーベルを持った右腕からグレネードを発射していた。

「バルカン!」

 思惑を見抜かれていた事はショックだったが、リリルに落ち込む暇は無い。空かさず頭部バルカンで至近距離から
バウを攻撃!

 ガガガガガガッ!

 無数の弾丸が発射されるが……リリルの目に映った物は、モニターの前面を覆うシールド。弾かれるバルカン。
次の瞬間、シールドの中央部が横一文字に避け、砲口が露になる。

 この時、バウの右足は前方でガンダムのシールドを止め、右腕は大きく肩を開いて後ろに伸ばされ、左腕はシールドを
前に突き出し……バウは通常の操縦では有り得ない格好をしていた。
 リリルを上回る先読み。想像も付かない動き。彼女は敗北を悟り、モニターの正面から顔を背けて目を閉じる。

(ああ……負けた……)

 バゴォ!!

 ……ガンダムヘッドは吹っ飛んだ。
 そして、バウのビームサーベルがガンダムの胸部中央を貫く……。
 全てのフィン・ファンネルが動きを止め、勝敗は決した。
405創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 11:38:33 ID:eugbzt2d
相変わらずの長文でお送りしました。5話完です。
406創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 23:40:21 ID:RcNlZ9nA

躍動感があっていいね
簡素に書かれてるから読みやすいし。
パイロットの生死が気になるがこれは…
407創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 21:42:09 ID:mFAdUUga
なんで過疎るの
408創る名無しに見る名無し:2009/05/27(水) 13:35:26 ID:Nuwfi6dV
この板自体が過疎気味だからな
このスレは複数の投下があるしむしろ2chのガンダム系創作スレじゃあ良スレだと思うが
409創る名無しに見る名無し:2009/05/27(水) 17:35:03 ID:ieGHha53
とりあえず話題を振れば俺みたいなのが何人か湧いてくる
410MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 04:50:41 ID:IVWIhcb2
蒼の残光 7.「リトマネンの宣告」

今回もしかしたら途中で連投規制かかるかも
411MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 04:53:15 ID:IVWIhcb2
 ミカ・リトマネンとスティーブ・マオは向かい合って酒を飲んでいた。
「いや、やはり地球圏のワインは美味い。木星は運ぶのに時間がかかりすぎて味が落ちる」
 マオは感慨深げにグラスを揺らした。
「運搬方法が悪かっただけじゃないのか?」
「いや、そんな事はありません。酒もお茶も、片道に三年もかけていれば同じものは望め
んのですよ」
 リトマネンは肩をすくめてそれ以上の議論を避けた。マオはグラスを置くと
「もう原稿の読み合わせはよろしいのですかな?」
 もちろん、連邦政府に向けた宣言書である。リトマネンは頷いた。
「本番で読み違えなどすれば全宇宙に間抜けを配信する事になるからな。もう原稿を見な
いでも諳んじられるよ」
「いよいよですな。ミカ・リトマネンがジオン・ズム・ダイクンやギレン・ザビに並ぶ日
があと十七時間で訪れる」
「スティーブ」
 ミカが手で制した。
「私はそんなものになりたいわけではないのだ。私には彼らのようなカリスマも、才覚も
ない。なりたいと思ってもなれるものではないのだ」
「おいおい、今になってそんな弱気な」
 マオが多少咎める口調になった。
「君がそんな事でどうする。その君に私は今までの地位と保証された老後を投げ打ってま
で賭けているんだぞ」
 実態はヘリウムの横領が明るみに出かけたために逃亡してきたのだが、そんな事を説明
するつもりもない。負ければ未来がないという意味ではマオの言葉は真実だった。
「スティーブ、君の協力には感謝しているし、もちろん失敗するつもりなど更々ない。た
だ、私には首魁としての器はないと言っているのだ。私に出来るのはジオン・ズム・ダイ
クンの遺志を今の世に伝道する事、宇宙市民の自治と独立を実現させる事、それくらいだ。
偉大な先人の理念あってこそ私のような小人が一党を率いる事が出来るのだ」
 マオは面白くもなさそうにワインを継ぎ足した。自分の器を知ると言うのは立派な事だ
が、こうまで言い切られると白けてしまう。マオにとっては、この企てが成功して後は自
分がリトマネンを裏から操るという皮算用もある。もし成功したとして、リトマネンが一
軍人としての職権以上の発言力を望まなければそれもなくなってしまう。
「ミカ、君はもっと自分を評価するべきだ。アラン・コンラッドのような人物が君に忠誠
を誓い、このスティーブ・マオが協力を惜しまない、君にはそれだけの人望がある。士官
学校時代からの付き合いの私からの忠告と思ってくれ」
 リトマネンは曖昧に笑っただけだった。マオはそれ以上何も言わなかったが、内心では
乗り換える先を探しておくべきだろうかと考え始めていた。



「いかがですか、隊長?」
 メカニックの一人がアランに訊いてきた。
「悪くない」
 アランは簡潔に答えた。
「しかし、準サイコミュの――何と言う名前だったかな、あれのアジャストが狂っている
ようだ。調整し直しておいてくれ」
「承知しました」
 マオが持ち込んだ木星開発の汎用型MS機体用素体『ハンニバル』。三機分のフレー
ムの一つをアランの技能に合わせてセッティングした専用機仕様の試験飛行を行っていた。
 アランは『テュポーン』のメカニックの姿を見かけた。相手はアランに向かって笑いか
けながら近寄ってきた。
412MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 04:54:59 ID:IVWIhcb2
「どうですか?木星のMSもなかなかのものでしょう」
「ああ……正直驚いた。随分と自由度の高いフレームのようだな」
 メカニックは我が意を得たりと言うように破顔した。
「ジェネレータ位置からスラスターの配置、内臓火器の搭載、装甲形状や増設装備用ハー
ドポイントまでレイアウトを自在に変更、多様なバリエーションの機体を生み出すMSイ
ージーコンストラクション構想。その三号型フレームがこの『ハンニバル』です。オリバ
ーさんの機体はNT対応の全く別の機体に仕上げますよ」
「そうか。それは頼もしいな」
「TMBBLの感想も聞かせて下さい」
「TMBBL?――ああ、あれはそういう名前なのか」
「はい、インディペンデント・ムーバブル・バインダー&ビームランチャー、通称TMB
BL(インブル)です。遠距離での射撃戦では開放砲身型メガ粒子砲、近接戦闘や回避行
動時にはウィングバインダーとして運動性向上に寄与させる事で大型兵装の欠点である使
用時以外でのデッドウェイト化を避ける画期的兵器です。アクシズでもあのような設計思
想はなかったでしょ?」
「確かに。使ってみても切り替えにもほぼタイムラグは生じないのはよかった」
「実は、木星で研究している間は結構酷評されていたんですよ。使いこなすにはパイロッ
トの腕が四本必要だって。これはドーベンウルフの準サイコミュがあって初めて実用レベ
ルに出来たんですがね」
「なるほど……」
 準サイコミュの技術は元は連邦のものである。木星のMSと兵装に連邦の制御システム。
ジオン一筋に生きた自分の最後の機体となるであろうMSがジオン以外の技術の集積体に
なるとは何かの皮肉だろうか。
「それで、オリバーさんはいつ頃来れますかね?ファンネルを新型のものに変えると言う
んで、その調整もしておきたいんですが」
「ん?ああ、そうだな――」
「……今すぐでも行けるよ」
 アランが振り返ると、ノーマルスーツに着替えたオリバーが歩いてくるところだった。
「オリバー、行けるか?」
「あまり時間もないんでしょ?すぐに始めよう」
「よかった、すぐにでも始められますよ。おい!オリバー機出るぞ、タラップ出しとけ!」
 メカニックが走り去っていく。オリバーはアランに向かって
「ユウ・カジマは僕の獲物だ。悪いけど渡さないよ」
 声は小さいが力強かった。アランは頷いた。
「任せるぞ、オリバー。それとお前は今から副長だ」
「わかった」
 それだけ言って、オリバーは整備兵に手を引かれて自分の新たな愛機に案内されて行っ
た。
(これで一つ問題は片付いた)
 表情には出さず、しかしアランは内心ではかなり安堵していた。少なくともこれで手持
ちの最強のカードを場に出す事が出来る。相当数の戦力が予想される次の戦いではオリバ
ーのファンネルはどうしても必要だった。
 アランは連絡艇に乗り込み、コロニーレーザーの作業の視察に向かった。



「閣下、コロニーレーザーの核パルスロケット、調整を完了しました。出発可能です」
 アランが母艦に戻り、リトマネンに報告した時、リトマネンはマオと報告書に目を通し
ていた。
「ご苦労。では、すぐに出発するぞ」
「はっ……は?すぐにでありますか?」
 思わず訊き返した。予定では出陣までまだ五時間あるはずだ。
「うむ、準備が整ったならここに留まる理由はない。進軍を開始する」
「しかし、作業に当たった者は不休で作業をしておりました。彼らに休養を取らせたいと
思うのですが……」
「彼らにはすまんが、行軍中の艦内で睡眠を取ってもらう。その間は動ける者で対処する
しかあるまい」
「しかし――」
「アラン殿、事情が変わったのですよ」
413MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 04:56:18 ID:IVWIhcb2
 そう言ってマオが自分の報告書をアランに手渡した。アランはそれに目を通し――すぐ
に目を上げた。
「閣下、これは?」
「むしろ好都合だと思わんかね?我々の戦力を今度こそ存分に知らしめる好機ではないか」
「しかし、よくもこのような偶然が……」
 言いかけたアランの言葉が止まった。
「情報をリークしたのですか?」
「どう頑張ったところで、五基のコロニーレーザー、直径三〇キロ全長四〇キロに達する
この巨大なシステムを誰にも気づかれず移動させるなど不可能だ。ならば最高のタイミン
グで発見されてやろうではないか」
 アランはマオを横目で見た。この男の発案か。あえて全軍進撃の情報を相手に流し、艦
隊を誘き寄せて返り討ちに斬り捨て、その光景をジャックした回線で人の目に焼き付けた
上で自らの要求を突きつける。大胆だが成功すれば効果的だ。しかし今将兵共に先の戦闘
と、コロニーレーザーを移動させるためのロケットエンジン取り付けで疲労しており、か
なり高いリスクを負う事になる。いつものリトマネンが立てる策ではない。
「閣下の言う通りです。それに、連邦が我等を過小評価している間に少しでも多く敵を減
らしておいた方がよいでしょう」
 マオが慇懃な口調でリトマネンを支持した。
「……了解致しました。只今より進軍の指揮を行います」
 アランに選択の余地はなかった。



「ルーカス、いる?」
 ジャクリーンがリックディアスの整備をしていた整備兵のビリーに声をかけた。ベテラ
ン曹長は黙って上を指差した。
「ルーカス!どう?」
 ディアスの肩口からアイゼンベルグが顔を出した。
「左肩は駄目だ。そっくり交換しねえと」
「わかった、運ばせるわ」
「……まだ肩の部品なんざ残ってたっけ?」
 ビリーが口を挟んだ。ジャクリーンは一瞬考え、記憶を探り出した。
「モジュールはまだ残ってたはず。最悪はネモかジムから流用するわ」
 特にネモはパーツの互換性も高く、それほど苦労なく流用できる。前線の整備性を考え
て互換性を持たせたのだから当然だ。
「頼む。機体さえ万全ならまだまだ現役で戦える」
 アイゼンベルグが降りてきて改めて頼んだ。
「任せておいて。新品以上の状態に仕上げてあげるわ」
 ジャクリーンが大きく出た。アイゼンベルグは声を上げて笑い、すぐに真顔に戻って、
「で、隊長機の具合はどうだい?」
「左足が吹き飛ばされたけど、そこさえ交換すれば問題はないわ。少し全体的に負荷が高
すぎるのは気になるけど、ここで整備すればリセットできる範囲だわ」
「頼もしいね、うちのメカニックは」
「でも、一体何があったの?レコーダー覗いてみたけど、途中から運動性が異常に上がっ
てるんだけど」
「バイオセンサーじゃないのか?」
 ジャクリーンは首を振った。
「バイオセンサーの効果はパイロットによって幅が大きいけど、それでも今回の数値は異
常だわ。OTの数字じゃない。それに何だか反応速度だけじゃなくて機体の運動性も上が
ってるような……」
 首を傾げて考える仕草をするジャクリーン。いい女だよな、とアイゼンベルグは思った。
「ま、強くなってる分には構わないんだけど」
「いいのか?」
「この強さが計算の立つものなのか判らないのは気に入らないけどね。少しくらい無茶な
使い方されても、生きて帰ってくれば私が直すし」
「そんなもんかい」
「……何があったのか、本人に訊いちゃどうだい?」
 ビリーがあごで指し示した先を二人が追うと、ユウが近づいて来るところだった。
「隊長、いつお戻りで?」
414MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 04:57:55 ID:IVWIhcb2
「ユウ、奥さんはいいの?」
 二人の質問は笑って手を挙げるだけで済まし、簡潔に質問した。
「どうだ?」
 長い付き合いとなる整備主任は主語すらはっきりしない質問にも驚かない。
「後は腕の装甲を取り替えるだけよ。それよりあの運動性の上昇率は何?あんな数字が出
せるなら調整もピークに合わせるけど」
 ユウは答えなかった。答えられなかった。なぜ今マリオン・ウェルチが自分の機体に現
れたのか、説明がつかなかった。まさか蒼いMSに乗っていたからと言うわけでもあるま
い。
「ピークに合わせると、ピーク以外のバンドでは使い難くなるのか?」
「うーん、今とはかなり使うバンドが違うから。でも、今のままだと逆に最大値が出た辺
りでは活かしきれなくなるわよ」
「いや、今のままでいい」
 マリオンが次も来るとは限らない以上、当てにするべきではないだろう。
「ユウがそう言うなら……」
 ジャクリーンはやや不満だったが、パイロットの希望が最優先である。ジャクリーンの
話がついたので、アイゼンベルグが口を開いた。
「敵MS隊はドーベンウルフが一機大破、恐らくはMS隊指揮官クラスと思われます。多
少はやりやすくなりそうですな」
「そう願いたいな。増援はまだ到着しないのか?」
「今の予定ですとスキラッチ艦隊よりもブライト大佐のパトロール艦隊が先に到着しそう
です。それまで敵が動かない事を祈っているところです」
「ブライト大佐か。俺は面識がない。大尉はどうだ?同じエウーゴだろう」
「直接の指揮下に入った事はありません。ただ戦場での大佐の判断力に救われた事もあり
ます。戦場では間違いなく頼りになるかと」
「そうか。少しでも楽になるかな」
「しかし、なぜブライト大佐が選ばれたのかしら?実力はともかく、指揮する艦の数は分
艦隊相当でしかないでしょうに」
 ジャクリーンの疑問は当然のものだったが、ユウも基地との連絡を密に取っていないせ
いせいもあり、詳しい事情は判らない。しかし、その件についてはアイゼンベルグが多少
の事情を聞いていた。
「何でもあの御仁、ジオン残党に対抗するための精鋭部隊の設立を上申しているそうです。
実績作りのために自分から志願したのでしょう。それにブライト大佐は数少ない無派閥で
すからな。ファケッティ派のスキラッチ提督に手柄を占められるのを面白く思わん人種も
いるのでしょう」
 無派閥なら仮に惨敗してもそういう人物に傷が付かないと言う事か。ありうる事だな、
とユウは思った。いかにも上層部の考えそうな事だ。
 その時、ユウの携帯端末が鳴った。
「私だ」
『隊長、至急司令室へお越しください』
「何があった」
 声に緊張がある。ユウの顔も厳しくなった。
『全放送回線を通じてミカ・リトマネンが宣戦布告を行うようです。他の幹部の方はもう
集まっています』
 その時、基地内に放送で全将兵に対しモニターにて放送を見るようにとの通達が流れた。
「すぐに向かう」
 ユウは司令部に走った。



 ユウが司令室に入った時、まさにミカ・リトマネンがカメラの前に現れたところだった。
「この男がミカ・リトマネンか……」
 マシュー中佐が呟いた。情報部が探した十年前の写真に比べると幾分痩せて、髪も白い
面積が広がっていた。しかしトレードマークの大仰な口髭は変わらず、髭を取ると大幅に
印象が変わりそうな点はルロワに共通していた。
 リトマネンの両脇には彼と同年輩の東洋系の顔立ちの男と、ユウと歳の変わらない青年
が控えていた。東洋系の方がスティーブ・マオ、若い男は誰だろうか?
「もしかするとあの若いのがMS隊の隊長かも知れんな。ドーベンウルフか、ゲーマルク
か、どちらかは判らないが」
 ルロワが推論を述べた。ユウも同感だった。
415MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 04:58:40 ID:IVWIhcb2
「始まります」
旗艦『ハイバリー』艦長ニコラス・ヘンリー大佐が緊張の面持ちで言った。カメラを前に、
リトマネンが手を挙げた。



『宇宙市民の諸君、地球市民の諸兄、私はジオン公国宇宙攻撃軍大佐、アクシズ戦略参謀
本部幕僚、そして今最後のアクシズ艦隊司令官、ミカ・リトマネン伯爵であります。

 一介の軍人に過ぎぬ私がこの場に立ったのは他でもない、連邦軍の欺瞞とジオン共和国
と言う名の虚構を糾弾し、宇宙市民の諸君らに今一度立ち上がる意志を取り戻してもらう
ためであります。

 〇〇八〇年一月一日、地球連邦政府はジオン共和国政府との間に終戦協定を締結し、終
戦を宣言しました。しかしながら、ジオン共和国政府なる存在はこの二十四時間前まで影
すらも存在せず、その首相ダルシア・ハバロは公国においても首相であった人物であり、
即ちこれはダルシアが公国を私し己の保身のために国を売り渡した、共和政府思想とは最
も程遠い売国奴との間で取り交わされた無効な宣言に過ぎないのであります。

 国父ジオン・ズム・ダイクンの掲げた理想とは宇宙市民の誇りと主権を守り、地球連邦
政府に対し対等の『国家』としての協調と繁栄を歩むと言うものでありました。今ジオン
共和国は国を名乗ってはいても限定的内政自治権を連邦から与えられているに過ぎず、そ
の実態は属国、衛星国と呼ぶべきものであり、ジオンの名を冠していながら国父ジオン・
ズム・ダイクンの理想を欠片程も実現してはいないのであります。また、その他コロニー
自治体や月面都市郡も同様、地球からの植民地としての立場に安寧している現状に私はジ
オニズムの敗北と己が無力を思わずにはいられないのであります。

 宇宙市民よ、誇りを思い出せ!諸君らは誇り高き宇宙の開拓者であり、宇宙市民である。
宇宙は、スペースコロニーは、諸君らの勝ち得た故郷であり、財産である。それを守り、
権利を主張するのに何のやましい所があろうか。地球連邦政府に対しその権利を行使する
事は当然なのであり、それを放棄し連邦政府の言うがままに生きる事、それこそが悪であ
ると知れ!諸君らが立ち上がり、己が矜持に従って戦うと決めたなら、我々は喜んで諸君
らの剣となり、盾となろう。

 彼らが連邦の横暴から諸君らを守る盾である。そして我々には連邦の理不尽を粉砕する
剣もある!今からそれをご覧にいれよう!』
416MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 05:02:12 ID:IVWIhcb2


 モニターが突然切り替わり、宇宙空間を映し出した。最初は何も見えなかったが、やが
て画面に明滅する光点が広がっていった。
「あれは――?」
 マシューが誰に向かうでもなく問いかけた。答えたのはホワイトだった。
「艦隊……?まさか、スキラッチ提督の!?」
 それをルロワが否定する。
「いや、それはない。スキラッチ艦隊が単独で攻撃を仕掛けるつもりだったとしても、今
あの宙域に到着する事は不可能だ」
「ならば、ブライト艦隊の?」
「画像解析できました!第十八、第二十九艦隊です!」
「第十八?トリスタン大将か!」
 マシューが大声になった。トリスタン大将の第十八艦隊といえば艦艇数、MS数でコロ
ニー駐留艦隊としては最大規模を擁する艦隊である。その兵力はルロワ艦隊のほぼ二倍に
も達する。
 司令官トリスタンはファケッティの政敵として知られ宇宙艦隊総司令官の座を巡っては
裏で相当な権謀術数の応酬があったとも聞いている。
 第二十九艦隊のステファノ中将はトリスタン派の提督であり、確か三日前までトリスタ
ンと合同演習を行っていたはずである。
「スキラッチ提督を派遣したファケッティ司令官に対するあてつけですかな。先にさっさ
と片付けて見せると言う」
 ヘンリーが言ったが、ケイタが疑問を表した。
「しかし、そうだとしてもどうやってこの場所を?最も近くにいる我々でさえ敵が移動を
始めた時には目的地が判らなかったと言うのに」
 全員が沈黙した。コロニーレーザーもろとも全軍が移動を始めた時、その目的地も意図
も全く掴めなかったのだ。
 その時、ユウが唐突に一つの可能性に気が付いた。
「見せしめ……?」
 その言葉にマシューが反応した。
「コロニーレーザーの標的にする気か!」
 ルロワも顔色を失ったが、辛うじて理性は保っていた。
「しかし、コロニーレーザーの報告は読んでいるはずだ。そう簡単に直撃を受けるはずは
――」
「連射式をどう評価しているかによります」
 トリスタン艦隊はそういっている間にもリトマネン艦隊に向けて針路をとり、各艦を散
開させた。コロニーレーザーに対する一般的な対抗策である。
 散開しきる前にコロニーレーザーが発射された。それもユウ達の前で見せたよりも明ら
かに高出力である。
「速い!」
「当然だ。来るのが判っているなら励起も事前に終わらせているだろう」
 ケイタが驚きの声を上げ、ホワイトが冷静に指摘した。
「今の出力……この前は完全な出力ではなかったのか」
 ユウも思わず言葉にした。ルロワが同意する。
「恐らく戦闘後もチャージは続けていたのだろう。今のが最大出力かは判らないが、同じ
出力の射撃が少なくとも後ニ発あるはずだ」
 一同がその言葉に息を呑んだ時、第二射が発射された。数日前の戦闘と同じ、十秒と間
を置かず連続射撃。照準ポイントも的確だった。
「被害状況を分析しろ!どうなった!」
 マシューが叫ぶ。オペレーターが忙しくコンソールを操作し、震える声で報告した。
「第二十九艦隊、ほぼ……全滅!」
「第十八艦隊損耗率……ろ、六〇%!バレロン副司令官乗艦『グローリー』ロスト!」
「なんだと!?」
 その場にいた全員が凍りついた。二割の被害で帰ってこれた自分達が幸運である事を今
更ながら思い知らされた。
「トリスタン提督は!?『サンティアゴ』はどうした!」
「確認しました、無事です!」
 その言葉にケイタが安堵の表情を浮かべる。
「よかった、指揮系統は生きているか。ならこれ以上被害を出す事もなく撤退を――」
417MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 05:03:30 ID:IVWIhcb2
「と、トリスタン艦隊、前進します!」
「何だと!」
 モニター上でも艦隊旗艦『サンティアゴ』を先頭に残存戦力は前進を始めていた。戦力
の過半数を失ったとはいえまだ通常の一個艦隊程度の戦力は残している。それでもこれだ
けの破壊力を見せ付けられてなお将兵の戦意が残っているかは疑問だった。
「愚かな……」
 ホワイトが呟いた。独断での出撃、それで戦力を半分以上失ってただ逃げ帰る事はでき
ないと言う面子のみの戦闘だった。
「救援に向かう!動かせる艦だけでも向かうぞ!」
 ルロワが号令をかけた。しかしその場にいる誰もが判っていた。

 到着どころか出港する前に戦闘は終わるだろう事を。



「まだ向かって来ますか」
 マオが言った。どこか楽しんでいるような声がアランを苛立たせた。
「このまま敗走すれば軍での立場も危うくなる、と言う意地だろうな」
 リトマネンの分析もホワイトとほぼ同じだった。
「オリバー隊に迎撃に向かわせます。許可をいただけるなら私も出撃したいのですが」
 アランが申し出た。こんな所でただ見てるだけと言うのは気質に合わない。
「よし、行け、宇宙市民の盾の力を示せ」
「御意」
 オリバーは既に新しい愛機に乗り、カタパルトに足を乗せていた。
『副長、その機体では初の実戦です。不具合を感じたらすぐに戻ってきてください』
「判っている。――オリバー・メッツ、ハンニバル、出る!」
 黒と紫に塗り分けられたMSが宇宙に放たれる。背部に×字にマウントされたブーメラ
ンのような形状のマザーファンネルを動かすと姿勢制御の一助となった。
 MS戦闘に移行した事はリトマネン艦隊がジャックした回線を通じてユウ達の目にも届
いた。単純な数ならば両軍の戦力はほぼ互角と言え、後は戦術と個々の質と言う事になる。
「ハロルド機、ルイス機、出ました」
「『銀狐』と『火喰い鳥』か」
 ドック内でもアイゼンベルグとジャクリーンが見ていた。彼の機体はまだ出撃できる状
態にない。代わりの機体を使う事になるのだが今は予備機自体が不足しており、このまま
救援部隊に入っても出撃する事は出来そうになかった。
 トリスタンは若手を積極的に起用する事で知られており、彼の元には士官学校を優秀な
成績で卒業したエリートが集まっていた。
 中でも「六十三年組」と呼ばれるMSパイロット、ハロルド・マクファーソン大尉とル
イス・デヤンビッチ大尉は天才パイロットとして軍のみならず一般にも名を知られており、
それぞれ『銀狐』『火喰い鳥』の異称を半ば公然と使用していた。
 二人の愛機はジムVだったが、大胆にカスタマイズされ、ハロルドは銀、ルイスは朱と
黄色に塗装された機体を駆っていた。下半身の装甲を省略し、ムーバブルフレームの一部
が露出したシルエットは一見すると全くの新型機にも見える。
「強いの、あの二人?」
 ジャクリーンが訊いた。
「まあ、模擬戦闘ではな……」
 歯切れの悪い言い方が全てを物語っていた。ジャクリーンは悲観的な表情でモニターを
見ていた。
 モニターに見慣れぬ黒い機体が映ると、アイゼンベルグが動揺した。
「何だ、こいつ?知らねえMSだ」
 ジャクリーンを見たが彼女も初めて見る機体らしい。ジャクリーンが敵味方全てのMS
を知っていると言うわけではないが、新型と考えてよさそうだ。
 見慣れぬ新型は敵の姿を確認すると、まず腹部のメガ粒子砲を発射、前方を牽制した上
で背中のマザーファンネルを射出した。ファンネルは十分な距離を飛行し、それぞれが六
基のチルドファンネルを展開する。
「NTだと!?」
「まさか、ゲーマルクの他にもNTのパイロット?」
「……いや、だとしたら今まで出し惜しみする理由がねえ。多分これがあのゲーマルク野
郎の新しいMSなんだ」
418MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 05:04:13 ID:IVWIhcb2
 ファンネルをモニターで視認するのはかなり難しかった。だがマザーファンネルは追う
事が出来た。そのマザーファンネルが行くところ連邦のMSは見えない攻撃端末によって
次々に駆逐されていく。
『銀狐』ハロルドが勇敢にも新型機に挑みかかった。ビームライフルを撃ちながら相手の
背後を取ろうと旋回する。理に適った戦い方だった。
 新型もハロルドの動きを追って回転するが、動きが追いつかなくなってきた。ついにハ
ロルドは新型の背後を取ることに成功した。
「やった!?」
 ジャクリーンが声を上げる。しかしアイゼンベルグの表情が固さを増した。
「いや、駄目だ」
 マザーファンネルが二基、虚空を切り裂いて接近した。ハロルドはファンネルを手で払
うように動かしたが、サイコミュ兵器は常識で計れぬ精密な動きでそれを躱した。
 その直後に起きた事を、ジャクリーンは理解できなかった。
 マザーファンネルのクローが開き、ジムの首と右足首をそれぞれが掴んだ。次にはファ
ンネルの中程が折れ、反動をつけるようにして掴んだまま背後に回りこむように動いた。
当然、掴まれた首と右足はえびのように仰け反る。一瞬完全な無防備状態が出来上がった。
 その瞬間に一度収納されていたチルドファンネルを再び射出、曝け出された胸部に向か
って集中砲火を浴びせた。『銀狐』はコクピットを無数のビームに貫かれて蒸発した。
「……何だ、今の攻撃は……」
 アイゼンベルグの言葉には表情がなかった。彼は戦いを好み、戦いの中で死ぬ事を望ん
だが、死は恐れていた。
「ファンネルの格闘戦……それも、掴むだなんて」
 ジャクリーンは背中に汗をかいているのを感じた。あのような武器は発想の外だった。
「進化してやがる……ファンネルも、それを使うNTも!」
『銀狐』ハロルドの死は残存戦力の士気に深刻な影響を与えた。みなが浮き足立ち、この
黒と紫に塗装されたMSから離れようとしていた。
 そこにもう一人の死の運び手が現れた。頭部形状などは多少の類似性は見られるものの、
青白い機体カラー、バックパックからは銀色の一対のウィングバインダー、そして何より
もその手には、MSよりも長い朱色の棒が握られていた。
「また新型?」
 アイゼンベルグが声を上げると、ジャクリーンが注意深く訂正した。
「新型は間違いないけど、前のNT機と同型だわ。内蔵火器まで自由に交換できるみたい
ね」
「まさかこんなのが量産されてるんじゃないだろうな」
「いくらなんでもそんな生産力はないと思うけど……」
 新たなMSは機動性に優れているらしい。瞬く間にNTの黒い機体を追い越し、連邦軍
のMSに踊りかかった。
 得物はビームによる格闘兵器だった。先端から槍の穂先のようなビーム、そして側面か
らは通常の斧とは逆の、凹型のビーム刃を形成するアックス。アイゼンベルグは遠い時代
の中国の小説のさ挿絵で似た武器を見た事があった。方天画戟とか言うものだ。
 格闘戦と言ってもそのリーチは文字通り異常だった。躱したつもりでも穂先に貫かれる。
振り回されれば斧刃の餌食になる。銃で応戦するには近すぎ、剣で対抗するには遠すぎる。
ジムもネモも為す術なく逃げ惑った。
 距離をとっていた部隊が遠距離からライフルを撃った。水色の襲撃者は直前で回避する。
離脱に成功したMSもそれまでの復讐とばかりに乱射する。無秩序だが過密な十字砲火は
さすがに回避不可能かと思われた。
 その時、機体がありえない加速を見せた。エネルギーの雨が降り注ぐ前にポイントを離
れ再び敵の群れへ。逃げようと離れる敵の前で横薙ぎに一閃すると四機のジムが胴体を両
断されたのだった――。
「何!?」
 ジャクリーンの声は悲鳴に近かった。
「あれだ、隊長はあれに苦しめられたんだ」
419MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 05:04:56 ID:IVWIhcb2
 アイゼンベルグが唸る。必殺の間合いから離れた幸運な者もいたが、幸運を喜ぶのは一
瞬だった。ウィングバインダーが変形し、コの字に折りたたまれるとそこから極太のビー
ムが放たれ、上半身もろともパイロットを蒸発させた。
「あれがあるからあんな大きな槍を持てるのね」
 敵の技術ながらジャクリーンが感嘆した。
その背後にルイスのジムVが迫った。虚を突いた完璧なタイミング。アイゼンベルグです
ら決まったと思った。
 しかし、敵はその上を行っていた。得物の石突の部分を背後の刺客に突き出し、その攻
撃を止めると、そのまま力比べをするように石突を押し付けたままルイスに迫った。
 力比べではジムは分が悪い。じりじりと後退していく。不意に敵はその柄を引いた。圧
力がいきなり消失したルイスはバランスを崩しながらもビームサーベルの一撃を振り下ろ
す。それを敵は柄で受け止めた。
「ビームコーティングを柄に!しかもサーベルを無効化するほど厚く」
 またもジャクリーンを驚かせた。ルイスは石突で横殴りにされて完全にバランスを崩し、
その隙にこの水色のMSは反転して包囲しようと近づいてきた二機を屠り去り、返す太刀
でルイスのジムVを縦に両断した。この間に何機落としたか、すぐには思い出せないほど
だった。
「何よ、これ……なんでこんなに強いの?」
 ジャクリーンの声は完全に震えていた。アイゼンベルグですら戦慄を覚えたが、それは
敵に対してだけではなかった。
「隊長、こんなの相手に二対一やって生き残ったのかよ」
 ハロルドもルイスも経験不足とはいえ操縦技術では一流のパイロットだった。それを全
く問題にせず圧倒しているのだ。この新型機はドーベンウルフやゲーマルクを上回る性能
なのだろう。しかしそれを差し引いてなお、この二人を同時に相手にして優勢ですらあっ
た自らの上官の異名の意味を知った。

 戦慄の蒼。

 まさにユウ・カジマに相応しい異名だと思った。
 事ここに至ってついにトリスタンは面子より命を大事にする決断をしたようだった。僅
かに残っていたジムを収容し回頭して退却を始めた。
 そこへコロニーレーザーの第三射が光った。
 禍禍しい光の杭は残された命を貪り、宇宙の闇に消えていった。
 実質的な戦力で三個艦隊に相当する戦力が僅か全滅するまでに二十二分だった。



『さて、宇宙市民の諸君、ご覧いただけたであろうか。我々は最強の剣と、無敵の盾を持
っている事がお分かりいただけたと思う。

 恐れるな!躊躇うな!そこにあるのは諸君らが当然有している権利なのだ!その権利を
勝ち取るため、我らと共に歩もうぞ!


 ジーク・ジオン!』



 無駄に終わった救援準備の艦内で、ルロワはこれを見ていた。一言も発さず、しかし目
を逸らさず、じっと連邦軍の消えた宇宙と、首謀者リトマネンの顔を凝視していた。



 軍の病院でも、中継は流れていた。リトマネンの演説の冒頭のみで戦闘が始まる前に切
られてしまったが、それだけでマリー――マリオン・ウェルチには十分だった。
「アラン――あなたもいたのね」
 青い髪と真紅の瞳を持つ女はそういって天井を見上げた。
420MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 05:07:58 ID:IVWIhcb2
【キャラクタープロフィール】
ケイタ:
地球連邦軍ジオン共和国駐留艦隊広報部長。中佐。
中央アフリカにルーツを持つスペースノイド。チョコレート色の肌と柔和な目が特徴。
士官学校ではなく、一般大学を経て軍に入隊し、以降戦闘部隊への配属は一度もないまま中佐にまで昇進した
事は連邦内でも七不思議と言われる。
現在は軍と市民の友好を深めるイベントを数多く企画し、結果として基地内のスケジュールを全て管理している
事から幹部の秘書的な業務も管理している。0046年生まれ、43歳。

ミカ・リトマネン:
元ネオジオン参謀。
元はドズル配下の宇宙攻撃軍所属。終戦後すぐにアクシズを目指し、アクシズ合流後はソーラ・レイの設計図
を元に多連装式コロニーレーザーの開発を担当する。グリプス2奪取もこの構想に組み入れる意図があったようである。
第一次ネオジオン抗争の中、宇宙市民の開放よりもザビ家の再興、更に地球圏の支配を望むハマーンのやり方
に疑問を抱き、袂を別つ。
ある意味ではジオニズムの最も根幹的な部分の信奉者であり、シャアと行動を共にしていればあるいは双方に
とって幸福な結果となったかもしれない人物。0039年生まれ、51歳。

【MSデータ】
PFA-003a ハンニバル(アラン・コンラッド仕様機)
全高 23.6m(頭頂高 19.8m)
乾燥重量 32.6t
全備重量 55.5t
ジェネレータ出力 4950kw
スラスター推力  88500kg

木星独自の設計思想に基づいて設計された汎用型MSプラットホーム「ハンニバル」。小改造や増設オプション
により同一のベース機を支援型、高機動型など多用途に展開させる構想は古くからあるが、これはスラスター
のレイアウトや内臓ビーム砲の搭載位置など内部機構にも極めて高い自由度を与え、一見すると全く別のMSと
言えるほどのバリエーションを用意できる。アラン機では主に運動性の確保と近〜中距離での攻撃力を重視した
構成になっており、大火力で複数の敵に圧倒するより1対1を速やかに勝利する戦いを想定している。ニトロ
システムを考慮した設計で、ジェネレータ出力はドーベンウルフより落ちるものの火力に不足はない。
カラーリングは淡い水色に白のアクセント。

武装:
ビームハルバード
ドライ戦のビームランス同様、両手で振るう長柄の格闘兵器。MSの全高を超える30mもの柄の先に3mほどの
穂先と、側面から三日月のようなビーム刃を形成するゲツガと呼ばれる一種のビームアックスを発生させる
(ただしゲツガの刃は通常の斧とは逆に凹状に中央が谷となる)。真紅に塗られた長柄は分厚く耐ビーム
コーティングが施され、敵のビームサーベルの斬撃で柄を斬り飛ばされないように対策されている。また、
2,3度なら柄で斬撃を受ける事も出来るようである。

IMMBBL×2
Independent Movable Binder & Beam Launcher(独立可動型バインダービームランチャー)通称インブル。
バックパックに接合される小型ジェネレータを搭載した基部と、上下に伸びる2枚のウィングバインダー
から構成される。このウィングバインダーはIフィールド発生装置になっており、基部を中心にコの字形
に変形する事で出力16,5Mwの砲身開放型メガ粒子砲となる。準サイコミュによる制御と従来の肩固定式
キャノンとは比較にならない可動域により、両手を長大なビームハルバードで塞いだままでも射撃戦闘に
不足がなく、また大型ビーム兵器を搭載したMS共通の悩みである「使用できない時は不便なデッドウェイト」
の問題も、ウィングバインダーとしてAMBAC制御に活用する事で解決している。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
文章で書くと複雑に見えますが、要は外見は「飛ばないフィンファンネル」です。飛ばない代わりにバックパック
に固定してバインダーとして使います。
最初はBD-4の新装備にと考えていて、アラン用に考えていた武器がどうも気に入らなくて急遽こちらの武器に変更
したもの。そのせいでフィンファンネルとの形状の相似が単なる偶然になってしまった。考えようによってはユウ
はマリオンとの二人三脚が反則気味のパワーアップなのでこれ以上派手な武器もいらないかと思ったのも事実ですが。

腹部メガ粒子砲
腕部グレネードランチャー×6×2
頭部40mmバルカン砲
421MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 05:09:32 ID:IVWIhcb2
PFA-003b ハンニバル(オリバー・メッツ仕様機)
全高 23.6m(頭頂高 19.8m)
乾燥重量 38.6t
全備重量 62.5t
ジェネレータ出力 7780kw
スラスター推力  80500kg

オリバー機には当然彼専用のサイコミュが搭載され、センサー類もアクシズ製の専用センサーを付けられている。
接近戦では圧倒的に不利なオリバーに合わせ、ゲーマルク同様の移動砲台さながらの重武装MSになっており、ニトロ
システムによる出力増幅機能と併せて異常な攻撃力となる。
カラーリングは黒とパープルのドムカラー

腕部四連メガ粒子砲×2
膝部メガ粒子砲×2

Iフィールドジェネレータ×2
ハンニバルの両肩に設置された小型Iフィールド発生装置。小型と言っても駆動には相当な出力を必要とし、ニトロ使用
時のみ発動する。ニトロによる高速移動を行いながらのIフィールドによりほぼ無敵の防御力を獲得する。
元々はニトロ自体がレイズナーのV-MAXなので、元ネタ的にはこれで完成系とも言える。

マザーファンネル×4、チルドファンネル×24
アクシズ製の武装。マザーファンネル1基当りのチルドファンネルを6基と大幅に減少させ、プロペラント容量を増加させ
稼働時間を延長させている。また、マザーファンネルにはクローと関節が設けられ、AMBACによる複雑な運動と
クローによる捕縛という新たな戦術を手に入れている。バックパックにX字に接続されている。グラップラーファンネルの別名もある。

【テクノロジーデータ】
・コロニーレーザー・リボルバー
コロニーレーザーを5基、円周上に並べ、連続発射を可能にしたコロニーレーザー。厳密にはリボルバー
(回転弾倉)と言うより多銃身式コロニーレーザーというべきである。
輪を描くように配置されたコロニーレーザーの中央部にコントロールルームがあり、電力は太陽光発電と各コロニー
に配置された超大型熱核反応炉で供給する。 
エネルギーチャージとレーザーの励起が終わっていれば10秒間隔でコロニーレーザーを5連発できる。核パルス
ロケットによる移動能力もあり、最悪の戦略兵器だが、5発を撃ちきってしまうとチャージにはグリプス2の
約3倍の時間がかかる、システム全体のサイズが直径30km、全長42kmと異常な巨大さとなり、防衛が困難
と言う欠点がある。基礎研究が終わり、コロニーを調達したところで資材不足からペンディングされ、リトマネン
がアクシズを離れた際に1基ずつ運び出されコロニーの投棄場に隠匿していた。


ここまで
422MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/29(金) 11:39:37 ID:IVWIhcb2
訂正:
×IMMBBL
○IMBBL

オリバー機の武装に腹部メガ粒子砲追加
423創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 18:34:47 ID:ZhaPuUgD
新型の二機は出撃早々無双の上に
コロニーレーザーの前では艦隊は的でしかないってのがまた
トリスタン大将…
424創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 00:06:30 ID:Ss1nL96E
リトマネンが何かやらかしそうだな
ハンニバルはノイエジールみたいなポジションか
圧倒的、とか桁違いって言葉がよく似合ってまさにボス格って感じだ

ところでこの手の質問は野暮だと思うが、ハンニバルってどんな見た目なんだ?
読んでるときはゲーマルクみたいな印象だったけど、ゲーマルクはネオジオンだし
425創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 00:10:20 ID:Ss1nL96E
リトマネンじゃねぇマオだよorz
申し訳無い
426MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/30(土) 00:51:28 ID:DxqW+WOb
絵心がないので上手く表現できませんが、漠然と「基本フレームはダウンサイジングしたパラス・アテネ」
に近い、手足の長いデザインを考えてます。アランは格闘戦ベースで腹にメガ粒子砲収める以外は
ややスリム、京劇の武者ぽいアーマーデザインしてます

オリバーは手にも足にもメガ粒子砲、両肩にIフィールド発生器内蔵の大型アーマーを着けている関係で
重MS化、ジ・Oのモチーフが入ってきます。ちなみにモノアイです
427創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 01:34:37 ID:Ss1nL96E
>>426
シロッコ製のデザインがベースか
Gジェネとかのを除けばジオで血筋が絶えた感じだからシロッコと木星の技術者とかの妄想が広がるぜw

早いレスに感謝
428MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/05/30(土) 02:17:54 ID:DxqW+WOb
もののついでで

ハロルド・マクファーソン、ルイス・デヤンビッチ;
第18艦隊のエースパイロット。大尉。士官学校時代から将来を嘱望されたエース。敵の背後を取るドッグファイトを
得意としており、年齢の同じアムロをライバル視している。0063年生まれ、27歳。


RGM-86R-LA ジムVライトアーマー(ハロルド大尉、ルイス大尉機)
頭頂高 18.2m
本体重量 32.2t
ジェネレータ出力 1720kw
スラスター推力 81,200kg

第18艦隊のハロルドとルイスのチューンアップ機。ジェネレータ出力のブーストアップと軽量化が主眼。
設計思想としてはジム・ライトアーマーだが、頭部側面のマルチブレードアンテナと下半身の装甲を可能な限り
取り外し、ムーバブルフレームを露出させたシルエットは百式を髣髴させる。
中距離支援よりも対MSの制空権奪取に主眼を置いた戦い方をする。ハロルド機は全身銀色、ルイス機は朱色の地に
黄色でデコレートされた機体に乗る。

武装
ビームライフル
次世代主力機用に先行制式採用された、アイゼンベルグのビームライフルの同型モデル。後のジェガン採用モデル

ビームサーベル
バルカン


本当はスキラッチ艦隊に乗せて何かとユウやルーカスに突っかかる役どころで設定したのですが、どうせかませ
なんだから派手に散ってもらおうとトリスタン艦隊に急遽所属変更

トリスタンについては「本人を一度も描写することなく人物像を伝える」事を課題にして作ってみたキャラクターです
出てきた瞬間かませとわかるかませキャラは結構好きです
429創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 09:33:14 ID:LSTn7aBp
俺も好きだ
430Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 10:03:24 ID:iy0q67uC
投下行きます
431Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 10:05:08 ID:iy0q67uC
 ビームサーベルをバウの腕部に収めたハロルドは、沈黙したガンダムヒマワリを睨み付け、ダグラスに問い掛けた。

「ダグ、手前……態とだな?」
「サーベルで突き刺す直前、ガンダムが微かに動いた」
「どうだか……今回は、そう言う事にしといてやろう」

 ハロルドは半信半疑ながらダグラスの言い訳を認め、小さく息を吐く。それでも不満は隠さない。
 詰まらない口論を避ける為に深く追求しなかったが、彼は確かにコクピットを狙っていた。
 しかし、実際に貫いたのは、その僅かに上。ハロルドの感覚では、サーベルがガンダムを貫く直前で“バウが”動いた。
 原因はダグラスとしか考えられない。しかし、戦闘が終わった後で無抵抗の相手に止めを刺すのは、ハロルドの信条に
反していた。今から止めは刺せない。

「チッ……」
「済まない」
「謝るな。殺すぞ」

 申し訳無さそうに項垂れたダグラスに、苛付いた口調で返すハロルド。殺すのはダグラスか、リリルか……。
 しかし、ダグラスは知っていた。それが“己の選択に自信を持て”という意味の彼なりの激励だと。

「有り難う」
「礼も要らん」

 拗ねた様なハロルドの声を聞き、ダグラスは小さく笑う。
 バウはヴァンダルジアを追って、ガンダムに背を向けた。
432Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 10:08:13 ID:iy0q67uC
 ……リリルが目を覚ました時、そこは暗黒の世界だった。バウのメガ粒子砲でモニターが破壊された後、彼女は気を
失っていた。どの位の時間、意識が無い状態だったのか等、彼女自身には判らない。

(私……死んだのかな?)

 当然、違う。手足を動かせば、パイロットスーツの感触。リリルは一命を取り留めた事に、安堵の息を吐く。
 暗闇に目が慣れ、ややすると彼女は自らの情けなさに泣きたくなって来た。

(負けた……)

 挫折知らずの少女に、土星の魔王は厳しい相手だった。大口を叩いて出撃したのに、ギルバートの足止めすら
出来なかった。静かに泣いた後、恥を忍んで救難信号を発信するスイッチに指を伸ばす。しかし……。

(……システムダウン!?)

 リリルは焦った。本来なら、一度押したらスイッチに作動中を示す赤い灯火が点くのだが、何度押しても反応しない。
 頭部が消し飛んだ所為か、サーベルで胸部を貫かれた所為か、理由は明確で無いが、他の機能も死んでいる。
 真っ直ぐ火星に向かうペリカンが、果たして彼女のガンダムを発見出来るか……。

 ネガティブな状況下、絶望的な結論しか出て来ない。養成所で話に聞いた、宇宙漂流刑を思い出す。限られた酸素で、
孤独に死を待つ恐怖!

(誰か……助けて!!)
433Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 10:18:53 ID:iy0q67uC
 ヴァンダルジアに向かい、ガンダムから離れ始めていたバウは、緩やかに速度を落とた。
 ハロルドは何事かとダグラスに問い掛ける。

「ダグ、どうした? エンジントラブルか? 動かないんなら、MA形態で……」
「ハル、戻ってくれないか? あのガンダムから救難信号が出ていない」

 頻りに後方を気に掛けるダグラス。ハロルドは溜息を吐く。

「……だから何だ? 放って置けよ。俺達には関係の無い事だ」
「そうだな。俺を置いて先に行ってくれ」

 ダグラスは何かに心惹かれている様子で、ハロルドの言う事に全く耳を貸さない。2度目の溜息が漏れる。

「やれやれ……俺も付き合うよ」
「済まない」
「謝るなっつったろうが」
「……有り難う」
「はいはい、どう致しまして」

 呆れた声で返すハロルド。ダグラスは再び小さく笑う。厳しい様で優しく、冷淡な様で付き合いが良い。不器用な
ハロルドを、ダグラスは心の底から愛すべき友人として認めていた。
 バウは180度方向転換し、壊れたガンダムの元へと引き返した。
434Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 10:36:55 ID:iy0q67uC
 暗闇の中、絶望に囚われていたリリルは、突然の物音に耳を傾けた。
 ガリガリと機体の表面を削る様な音が、コクピット内の空気を伝わって来る。

「おーい! 聞こえるか?」

 続いて、メットのイヤホンから聞こえた男性の声。味方の救助が来たと思ったリリルは、表情に希望の色を浮かべた。

「……は、はい! 聞こえます!!」
「良し、ノーマルスーツは着ているな? ヘルメットを被れよ! 抉じ開けるぞ!」
「はい!!」

 ガゴン! ギイィ……。

 閉ざされたコクピットの中にMSの手が侵入し、ハッチに指を掛けて強引に剥ぎ取る。空気が吸い出され、気圧が
下がる。僅かに開いたコクピットハッチの隙間から、少女が目にしたのは……黄土色の機体、緑のモノアイ。
 リリルは素早くシートの陰に、その小さな身を隠した。

(……敵!! 捕虜にする気!?)

 警戒するリリルに、先程の男性が呼び掛けて来る。

「怖がらないで欲しい! 君に危害を加える気は無いんだ!」
「……ダグ、何やってんだ?」
「どうやら警戒されている様なんで、呼び掛けている所だ」
「何を間怠っこい事を……引っ張り出して事情を話させりゃ良いだろう?」

 2人の男性の話し声の後、コクピット内に侵入して来る人影。ここで捕まったら、どの様な扱いを受けるか……。
 リリルは意を決して侵入者に飛び掛った!

「えいっ!!」
「どわっ!? 何だ!?」

 侵入者が奇襲に怯んだ隙を突いて、コクピットから押し出す。2人は宇宙空間に身を躍らせた。
435Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 10:50:17 ID:iy0q67uC
 外で待機していたダグラスの目の前で、ハロルドは少女に突き飛ばされた。少女は敵対心を剥き出しにして、
ハロルドを睨み付けている。自己防衛の為の、命懸けの行動。
 ニュータイプの強力な殺気を感じ取ったダグラスは、ハロルドとリリルの間に割って入った。ハロルドに背を向け、
リリルを軽く抱き止める。そして優しい声で諭した。

「能力は、そんな風に使う物じゃない」
「放せっ!」

 暴れる少女に構わず、ダグラスは目を合わせ、真顔で話し掛ける。

「俺はダグラス。ダグラス・タウン。君は?」
「リリル。リリル・ルラ・ラ・ロロ」

 リリルは驚いた。何故、初対面の男性の質問に答えたのか、自分でも理解出来なかった。考えるより先に、口が
自然に動いていた。

「リリル……良い名前だね」

 声と同時に、心に入り込んで来る優しい感情。安心した温かい気持ちになれる。頭では敵と理解しているのに、心が
認めない。リリルにとって初めての体験……ニュータイプ同士の邂逅。

「君の能力は解り合う為にある。人の行動や心理が幾ら読めても、それは半分だ。こんな風に、心を伝えないと」

 リリルはダグラスの言葉に無意識に頷いた後、我に返って首を横に振った。

「わ、私を惑わすな!」
「嘘でも何でも無い。君にも出来る。俺は君の声を聞いて、ここに来たんだから」

 変わらず優しいダグラスの声に、少女は顔を真っ赤にして黙り込んだ。助けを求める声が敵に伝わってしまった事が、
何より恥ずかしかった。

「君は若い。難しく考えなくて良い。今は、俺達を信じてくれ」

 リリルには解ってしまった。ニュータイプとして、人間として、ダグラスが大き過ぎる事に……。
436Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 11:04:56 ID:iy0q67uC
 大人しくなったリリルをシートに固定し、ハロルドとダグラスは機器を調べた。
 数分後、ガンダムの胸部を調べていたダグラスが、原因を究明し、大きな溜息を吐く。

「こいつは完全に駄目だな。発電機がサーベルで焼けている。御丁寧に非常用の予備電源まで逝ってやんの」
「……お前の所為じゃないのか? 回路に異常が無いんなら、電源を引っ張って来れば良いじゃん」

 ダグラスの話を聞いて、ハロルドは平然と言った。ダグラスは首を捻る。

「何処にあるんだ?」
「ビームライフルの……別にサーベルでも何でも構わんのだが」
「成る程、分解してみよう」

 ダグラスがガンダムのビームライフルを弄っている間、ハロルドはガンダムヒマワリを見て回った。
 リリルは何か細工されたりしないかと気になり、そっとコクピットの外へ出て様子を窺う。

 ハロルドはガンダムヒマワリの武装に目を付け、物色し始めた。気に入った物があれば、貰って行こうという魂胆。
先ずは砲身が大破したハイパー・バズーカに手を伸ばす。

「このバズーカ……遠隔操作が出来るのか? これ、良いな」
「そいつは高度なサイコミュ兵器だ。お前さんに扱える様な代物じゃない」

 ライフルのトリガー部分を分解しながら、ハロルドの独り言に応えるダグラス。ハロルドはバズーカに興味を失い、
今度はハイパーメガライフルに触れる。

「良い獲物を持ってるな。こういうの、好きだね」
「これ以上、機体を重くするな。今でもバランスが悪いってのに」
「じゃあ、シールドは?」
「規格が合わん。止めろ」
「ちっ……はいはい」

 ダグラスの態度が徐々に冷淡になって行くのを覚り、ハロルドはガンダムを1周してコクピットの前に戻る。
 そして先程から自分を睨み付けているリリルに声を掛けた。

「冗談だって……心配すんな。何も取りゃしねえよ」

 見え透いた嘘。ダグラスに止められなければ、全部持っていく気だった。
437Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 11:15:35 ID:iy0q67uC
 ハロルドは未だ睨み続けているリリルの頭に軽く手を乗せる。

「しっかし……お前、解ってんのか? 戦場は女子供の遊び場じゃねえんだぞ?」

 ハロルドは乗せた手の指で、トントンとリリルのメットを叩き始めた。体当たりの恨みも込めて嫌味を言う。

「それが女で子供とか……連邦の奴等は頭が可笑しいとしか思えんな」
「違う! 私は能力に目醒めた者! 自ら望んで……たっ!?」

 反論したリリルの頭を、ハロルドは手の平でバシッと叩いた。

「進んで戦場に出た? お前、馬鹿じゃないのか?」
「ばっ、馬鹿!? 撤回しなさい!!」
「良い調子でノコノコ出て来て、撃墜されて、それで馬鹿以外の何だってんだ? ん?」

 言葉に詰まったリリルの頭を、バスケットボールをドリブルするかの様にバシバシと叩き続けるハロルド。
 そこに発信機の応急処置を終えたダグラスが声を掛ける。

「終わったぞ。ハル、その辺で止めてやれよ」
「ああ、解った。さっさと帰ろうぜ」

 バシン!

 ハロルドは最後にリリルのメットを思いっ切り強く叩いた。衝撃でメットのクッションにリリルの口が埋まる。

「じゃあな! 2度と俺等の前に姿を現すんじゃねえぞ!」
「……あいつなりの親切心なんだ。気を悪くしないでくれ。導きがあれば……また逢おう、リリル」

 ダグラスは先にバウに向かったハロルドのフォローをし、慰める様にリリルの頭を優しく撫で、別れを告げる。2人は
バウ・ワウに乗込み、星の彼方へと消えた。

「……ハロルド・ウェザー、殺す」

 メットの位置を直したリリルは復讐を誓い、ビームライフルのトリガー部分に取り付けられた、発信機の赤い灯火を
見詰める。しかし、彼女自身にも解らない不思議な感情が、心を怒りに染め上げるのを阻むのだった。

(ダグラス・タウン……。ニュー、タイプ……)

 少女の心を占めているのは憧憬か、敬慕か、それとも……。
438Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/05/31(日) 11:20:30 ID:iy0q67uC
 明らかにヴァンダルジアを追撃して来た新型ガンダム。ヒラル・ローマン大佐は、ハロルドとダグラスの報告を聞き、
ある決断をした。艦長のヴォルトラッツェル中佐をブリーフィングルームに呼び付け、話した内容は……。

「補給地点をダイモスから火星アマゾニスに変更する?」

 ヴォルトラッツェル艦長は小首を傾げ、ローマンの命令を復唱した。

 火星も月と同じく独立国家扱いではあるが、実質的には軍・政府共に地球連邦の子飼い組織。
 先の大戦では公転周期の関係で突撃隊に素通りされた為、コロニー連合に対する民衆の感情は中立的。しかし、
軍の上層部には地球から左遷された者が多く、大戦で功績を上げる事で面目躍如の機会を窺っていた彼等は、肩を
透かされた格好。
 ヴァンダルジアを今の火星に降ろすのは、飢えた獣の眼前に餌を放り込むに等しい行為。

「ローマン大佐……何故、自ら敵地に飛び込む様な真似を?」
「連邦が何処まで反対派を抑えているか、試す」

 ローマンの答えに、ヴォルトラッツェルは上申する。

「危険です。火星軍は功名心に逸っている」
「果たして、どうかな? 火星は再戦によって得られる躍進の好機を天秤に掛けられるか」

 それは危険な賭け。しかし、ヴォルトラッツェルに権限は無いし、どちらにしろ補給を受けなければ木星まで帰れない。
彼は最後の質問をする。

「敵襲を受けた場合の対応は?」
「変わらない。現地には聖戦団が居る。火星程度の戦力なら抑えられる」
「……では、そこに連邦軍の討伐隊が加わったら、どうなると御考えですか?」
「火星は火の星になる。それだけの事だ」

 ローマンは不敵に笑った。ヴォルトラッツェルは、それ以上尋ねる事を諦め、口を閉ざす。

(全面戦争か……。切っ掛けは何でも良いと?)

 ヴァンダルジアはダイモスからアマゾニスへと進路を変えた。
439創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 11:22:11 ID:iy0q67uC
そして6話完。失礼しました。
440創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 13:26:34 ID:en/3fYvx

ハロルド殴りすぎワロタ
441創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 17:27:44 ID:JRSH1Zhf
age
442MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 03:05:57 ID:UhfEJmn+
蒼の残光 8.英雄の到着

今回のおまけは設定と言うより独り言です。

443MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 03:07:37 ID:UhfEJmn+
 トリスタン艦隊、ステファノ艦隊の全滅は連邦首脳部を恐慌に陥れた。
 事は単に独断専行した提督が返り討ちにあったと言うだけではない。宇宙艦隊でも最大
級の戦力を有する艦隊が僅か二十二分で全滅したのである。そして今回失われた兵力は、
連邦がアクシズ残党討伐の任を命じた三個艦隊の総兵力を上回っていたのである。
 宇宙艦隊総司令官ファケッティは会見の場で連邦艦隊の総戦力はトリスタン艦隊のさら
に十倍であり、一介のテロリストの扇動に乗らぬよう繰り返した。その一介のテロリスト
に連邦艦隊の一割が二十二分で壊滅させられた事への弁明は、ついに語られなかった。
 そして各コロニーの中でも特に若者の間で同調する者が現れ出した。まだ暴動やデモに
発展するほどではないが、コロニーの警備組織や守備隊などは神経を尖らせ、どこのコロ
ニーも剣呑さを増してきていた。
「リトマネンの宣告」と後年呼称される宣言の特徴は、リトマネン本人はあくまでも一軍
人としての立場を越えようとしていない点にある。彼はギレン・ザビや、ハマーン・カー
ンや、後のシャア。アズナブルのように自らが先導者となる事をせず、権利と正義を行使
しようとする者の護り手として自分を位置付けていた。自らのカリスマの不足を自覚して
いるが故の姿勢とも取れるが、その態度は熱病的な、信仰にも似た一斉蜂起は促さないも
のの、深く静かにスペースノイドの矜持を奮い立たせていったのである。
 当然ながらズム・シティでその動きは顕著だった。通常の警察だけでなく機甲警察(パ
ンツァー・ポリッツェ)も警戒レベルを上げて監視体制を強化していたが、その取り締ま
る側もまた「ジオンの子」なのである。ホワイト准将はジオン共和国と表向き協力体制を
強調しながら、万が一相手が寝返った場合の備えもしなければならなかった。
 そのズム・シティ駐留基地の兵の動揺は大きかった。今まで相対してきた敵の真の実力
を目の当たりにしたのである。今まで全滅せずに来れた事を実力と自惚れるにはあまりに
も圧倒的だった。
 何よりも彼らを不安にさせたのはコロニーレーザーよりむしろ二機の新型MSだった。

――ユウ・カジマでも勝てないのではないか。

 その恐怖だった。
 ここまでの戦いではコロニーレーザーは前面に出る事はなく、それ故に正面からの艦隊
戦、MS戦で戦う事ができた。そしてそこには敵隊長機とNTの二人を同時に相手にする
ユウの姿があった。
 あの新型に乗る者がドーベンウルフとゲーマルクのパイロットである事は間違いない。
今まではユウが相手をしている時間がほとんどなので気が付かなかったが、本来専用機を
与えられるエースやNTパイロットが弱いはずはないのだ。そして未知の最新型MSを得
た両名はまさしく一騎当千の強さを発揮した。如何に『戦慄の蒼』と言えどもあの二機を
同時に相手をするのは不可能に思え、仮に一機のみを相手にするとして残る一機を自分達
が抑えられるかどうか、誰一人として肯定的な結論に向かわなかったのである……。
 ブライト・ノア大佐率いる第三十三パトロール艦隊が到着したのはそんな喧騒に包まれ
た一月十二日十四時の事である。



 旗艦『ネェルアーガマ』から降りたブライト・ノアを迎えたのはローラン・ホワイト准
将だった。
「ようこそ、ノア代将」
「お出迎え感謝いたします、ホワイト准将。それから、私の事はブライトとお呼び頂いて
結構です」
「代将」とは佐官に艦隊指揮権が与えられた場合、臨時で本来の階級を超えた職権を与え
られる事に対する通称で、正式な階級でも役職でもない。准将であるホワイトが大佐であ
るブライトに対してあえて同格であるとの敬意を込めた表現である。
「トーレス、暫く頼むぞ!」
 ブライトは後ろを振り返り艦に残っていた士官に声をかけると、すぐに用意されたエレ
カに乗り込んだ。
「ブライトくん、先程の戦闘は――」
「艦内で観ていました。まさか、あれほどの攻撃力があるとは」
「コロニーレーザーをあれだけの短期間で連続発射できるとなればその脅威は単純に五倍
ではなく、十倍、あるいはそれ以上と言えるだろう。加えてあの新型に乗った二人のパイ
ロットだ」
「ほとんど二人だけで残存戦力を圧倒していました」
444MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 03:08:58 ID:UhfEJmn+
「士気がほとんど挫かれていたとは言え、考えられん程一方的な虐殺だった。恥ずかしい
話だが、MS隊の中には完全に戦意を喪失している者も出ている有様だ」
「それはどこも同じでしょう。エースパイロットがその存在を主張するようなマーキング
や塗装を行うのは、味方を鼓舞し敵の士気を挫く意図もあるのですから」
 そこまで言ってからブライトは思い出したように
「この基地にはあの『戦慄の蒼』がいると聞きました。彼はなんと言っています?」
「何も。あの男は戦意高揚のためであっても自分で信じていない事は言わない男だ」
「……なるほど」
 ブライトはその意味を了解し、それ以上は何も言わなかった。
 アムロ・レイやカミーユ・ビダンなど「特別な」エースパイロットの英雄譚の語り部的
な位置で記憶されるブライトだが、この時期の彼は特筆するようなパイロットと行動を共
にしていなかった。軍上層部が彼の軍閥化を恐れたためであるが、一方でブリッジクルー
などは彼の信頼を得る者が何人か残っており、彼らの恐れるものがブライトのNTを惹き
つける力のみである事が窺い知れた。
 基地に到着し、会議室に入るとルロワと幕僚たちが既に揃っていた。 
 挨拶もそこそこに即現状の分析に移る。
「統合戦略本部がアクシズ内のデータを再解析したところ、新たに判明した事がいくつか
あります」
 マシューが説明を開始する。本部からの資料にはコロニーレーザー・リボルバーという
構想についての記述があり、本来なら充電や冷却などで一度使えば数時間から数日は使用
できないコロニーレーザーを、複数のレーザーをまとめて運用する事で連射可能とすると
いう単純かつ荒唐無稽ともいえる計画の存在を発見した、と書かれていた。
「……恐らくは、まさか実現可能とは思わず検証してこなかったのだろうな」
 ルロワが結論付けた。ケイタがやや同情的に
「現実的に見て、五基のコロニーレーザーを同時運用するだけのエネルギー供給など不可
能と判断したとして、それを見通しが甘いとは言えないのではないでしょうか」
「誰かを責めているわけではない。ただ、現実に今連中はサイド3半年分に相当するヘリ
ウムを抱えてこの作戦を決行している。少なくともミカ・リトマネンと言う男は不可能と
は考えていなかったのだ」
 誰一人反論する者はいなかった。
 マシューが咳払いを一つして話を続けた。
「次に、リトマネンが演説を行っている間後ろにいた人物ですが」
 モニター上に演説中のワンシーンが表示された。
「向かって左の人物は木星旅団のスティーブ・マオに間違いありません。右の人物ですが、
恐らくはアラン・コンラッドなる人物と思われます」
「アラン・コンラッド?そんな名前のエースパイロットがいたかな」
 ヘンリー大佐が首を傾げた。マシューが説明する。
「いえ、大佐、彼は一年戦争時のエースではありません。彼はカジマ中佐よりさらに一年
年少で、当時は学徒動員により配備された新兵でした」
「すると、あの技量は戦後身につけたものなのか」
「恐らくは。詳しい事はまだ判っていませんが、彼がアクシズに合流したのは〇〇八三年
以降の事です。それまでは別の勢力で実戦を経験してきたのだと思われます」
「あのNTについては何か判った事はないか?」
「それまだ何も。NTについてはハマーン・カーンについてすらあまり触れられていませ
んので。ネオジオンが内紛で崩壊した際のキュベレイ部隊が、全て同一の少女のクローン
体であったとの投降兵の証言があり、その生き残りである可能性もあります」
「いや、あれは違う、若いが成人した男だ」
 ユウが断言した。
「何故だ?何故そう言い切れる?」
 ホワイトの質問は当然のものであったろう。それに対してユウは
「……いえ、戦った者の直感です」
 とだけ答えた。実際、何故自信を持って若い男と思ったのか判らない。ただマリオンが
彼と同調しビームライオットガンを向けた時、若い男の姿が見えた気がした。それがゲー
マルクのパイロットだと、奇妙な確信があった。
 ルロワとホワイトがちらと目を合わせたが、気づいたものは誰もいない。
「男でも女でも、手強い事に違いはない。今は如何に戦うかを考える時だ」
 ヘンリーが促し、ブライトも頷いた。
「あのMSについては何か残っていたのでしょうか?」
「いえ、何も出てきておりません、ブライト大佐」
 マシューは正規の階級でブライトを呼んだ。
445MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 03:09:42 ID:UhfEJmn+
「本部の見解では、木星のMSではないかと言う事です」
「木星の?」
「木星はAE社とは全く違う独自のデザインと設計思想を持っています。パプテマス・シ
ロッコのような天才なくとも、独自の機構を備えたMSを開発する土壌は出来ております」
「つまり性能に関しての情報はなし、ですか」
 ユウが呟いた。ホワイトが訊ねる。
「どうかね、カジマ中佐。映像から判断する限り、貴官の手に負える相手かね?」
 ユウは目をつぶって考え、慎重に答えた。
「――機体性能ももちろんですが、技量の面でも、特にNTの方は目覚しい進歩を遂げて
います。これまでは二対一でも何とか戦えましたが、次は一対一でも勝てるかどうか……」
 重い沈黙があった。その沈黙の中でブライトだけは別の驚きを以ってユウを見た。
(あれだけのものを見せられて、まだ一対一なら勝てる可能性があるとはな)
 ユウがシミュレータ上でアムロの戦闘データを撃破した噂は聞いている。この自信を見
る限り、ただの伝説ではなさそうだ。
「後はスキラッチ提督が到着してから作戦を詰めるとして、我々への戦力補充はないので
しょうか?特にMSは相当数を失っているのですが」
 ヘンリー艦長の不安はもっともだった。今のままでは単純に戦力が足りない。
「恐らく、ここに補充人員を入れるよりも艦隊一つを追加する方を選ぶだろう」
 ホワイトが面白くなさそうに答えた。ヘンリーは天を仰いだ。



 ジャクリーンはジムVの最終チェックを行っていた。
「――これで、よし、と。じゃ、次は――」
「へえー、これが話に聞いた実験機か。確かにΖに似ているな」
 見慣れない男がBD‐4の前に立ち、機体を眺めていた。
「ちょっと、どなた?判ってると思うけど関係者以外は立ち入り禁止よ」
 ジャクリーンは侵入者に警告した。男はジャクリーンを不思議そうな目で見ると、あ、
と思い出したように声を上げた。
「これは申し訳ない。あなたがここの整備主任?」
「そうよ。あなたは?」
「アストナージ・メドッソ。ついさっきここの関係者になった所だ」
「アストナージ……?ああ、ネェルアーガマの」
 ようやく事情が飲み込めた。ブライト艦隊の旗艦ネェルアーガマにはグリプス戦役の頃
からブライトに随っているメカニックがいて、非常に特殊な整備を要求されるガンダム型
MSを完全に調整したばかりでなく、AEすら思いつかない改良を加えて運用能力を向上
させた天才だと言う。この男がそうなのか。
「ジャクリーン・ファン・バイク。ジャッキーでいいわ」
 ジャクリーンが手を差し出し、アストナージと握手を交わした。どちらも工具ダコの硬
くなった、メカニックの手だった。
「ジャッキー、これがAEから供与された実験機かな?」
「そう、今はBD‐4て呼んでるわ」
「会報で見たときはグリーン系の塗装だったと思うけど」
「『戦慄の蒼』が乗る機体なんだからこれでいいの」
 アストナージは納得したようだった。
「『戦慄の蒼』ユウ・カジマ中佐か。グリプスではハイザックで巡洋艦沈めたとか。な、
ちょっとこいつ、見せてもらっていいかな?ハイエンド機に暫く触れてないから気になっ
ちまって」
 正直に言えば、自分の担当するMSを他所の部隊のメカニックに触られたくはない。し
かし、アストナージは歴代のAE製MSの間違いなく最高峰をその目で見てきたメカニッ
クである。もしかしたら自分が考え付かない視点を持っているかもしれない。
 それに、前回の戦いでの反応値の急上昇もある。ユウはそのままでいいと言ったが、も
し通常域の使いやすさを維持しつつピークバンドでの応答も両立できればよりユウの生存
率を高める事が出来る、そのヒントを持っているのではないか。
「ええ、見ていって。戦闘レコーダーも用意するわ」
 ジャクリーンはコンソールの前に案内した。


446MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 03:10:49 ID:UhfEJmn+
 司令部ではルロワ、ホワイト、それにブライトがアクシズ残党軍の動きを探っていた。
「今もコロニーレーザーは低速ながらも移動を続けている」
 ルロワが状況を説明した。
「どこに向かっているのか、目的地と言える場所があるのか、現在では不明だ。ただ、今
の針路と速度を維持すれば九時間後には我々の担当宙域を抜ける事になる。もっとも、今
更縄張りなど意味を持たないが」
 ルロワの言葉にはどこか皮肉の響きがあった。軍の一向に改まらぬ縦割り意識を皮肉っ
ているのかとブライトは感じたが、ホワイトからはこれで戦わずに済むならどんなにいい
かと嘆いているように見えた。恐らく、両方だろう。
「奴らが移動を続ける意図は何でしょうか?コロニーレーザーを使った最後の作戦がある
のでしょうか」
 ブライトの疑問は当然のものである。どこに移動しようが戦略的な見地において残党軍
は常に包囲され続けている。よって戦術的に少しでも守り易い宙域にいるしかないのだが、
今の針路はそういう意図のものでもないように思われる。
「彼らの主張から考えても、コロニーや月面都市を攻撃するとは考え難い。少なくとも今
の段階では。だからと言っていくらあのレーザーでも地球を狙ってどれだけの効果がある
か……」
 三人にコーヒーが運ばれてきた。シェルーだった。
 ケイタやマシューに頼み込み、今だけ役割を替わってもらったのだった。ルロワもホワ
イトもここにいるはずのない人物がコーヒーを運んできた事に気がついたが、何も言わず
にいた。
「ブライトさん、どうぞ」
 目の前に置かれたコーヒーを何気なく取ったブライトだが、ふと小さな違和感に運んで
きた女性士官を見た。確かに彼自身はファミリーネームや階級で呼ばれる事を嫌がるが、
他所の基地の若い士官は普通「ブライトさん」とは呼ばない。咎める意図はなく、シェル
ーの顔を見上げていた。
「失礼だが、君とはどこかで会った事があるかな……?」
「十年前に何度かお見かけしました」
「十年前……名前はなんと言うのかな」
「シェルーです、サンディ・シェルー。父はヴァンサン、母はマリー=テレーズです」
 ブライトはその名を聞き一瞬考え、すぐに思い当たった。彼は立ち上がった。
「マリー=テレーズ先生!そうか、あの時のお嬢さんか。大きくなったものだ」
「憶えていて下さったんですか」
 嬉しさを隠さずにシェルーが訊ねた。ブライトは頷く。
「ああ、君のお母さんには、色々な意味で世話になった」
「少尉の母君に何か借りでもあるのか」
 ルロワが訊いた。ホワイトベースの難民だと言うのは聞いていたが、あまり細かい事情
までは聞いていなかった。
「彼女の母親は歯科医でした。難民の子供が聞分けがない時、先生の名前は実に効果的で
した」
 ブライトが悪戯ぽく笑った。
「士官学校に入ったというのは挨拶状で知らされていたが、まさかここに配属されていた
とはね」
「私は嬉しいです。こうしてブライトさんにお逢いする事も叶いましたし、ブライトさん
がいれば不安なんてありません」
 ホワイトが何か言いかけたが、やめた。軍に入隊する動機となった程の存在である。彼
女にとって、ブライト・ノアは依然として英雄なのだ。
 その代わり、ホワイトは現状でより重要度の高い質問をした。
「カジマ中佐はもう病院か?」
「はい、先ほど退席しました」
「病院?中佐はどこか怪我を?」
「いえ、中佐の奥様が入院されたのでそのお見舞いです」
「奥方が病気なのか」
「貧血のようなものだと伺ってますが」
「まあ、小隊の再編などもやらなければならないが、スキラッチ提督が来て組織をどう運
用するかによっても左右されるからな。今は特別に許可を与えているのだ」
 ルロワが説明し、改めてシェルーに向かって
「少尉、中佐はどんな様子だった?」
「どんな、ですか?いつも通り、ほとんど何も話さずに『悪いが一度出る』とだけ」
447MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 03:11:57 ID:UhfEJmn+
「何かを持ち出したりしていなかったか?」
「……?何も持ち出してはいないと思いますが」
「そうか、ならいい」
 それだけ言ってシェルーを下がらせた。
「引き続きアクシズ残党軍の動静は二十四時間体制で監視している。何か判ればすぐに知
らせよう」
「ありがとうございます。では私も一度自分の艦隊の様子を見てまいります」
「うむ。もし何か要りようのものがあるならマシュー中佐に言ってくれ。出来る限り用意
しよう」
 ブライトが発った後、ルロワとホワイトは無言で目を合わせた。
 この緊急事態にもかかわらず、幹部であるユウに妻の見舞いを許可したのはリーフェイ
の提案だった。意図的に行動の自由を与え、泳がせる事で不穏な行動がないか確認するつ
もりである。二人とも、そしてリーフェイもユウの無実を信じてはいたが、味方を欺くや
り口は武人の気性には合わなかった。
「これで潔白が証明されるならいいのだが」
 ルロワが言った。
「スキラッチ提督はもちろん、ブライト君にも知られるわけにはいきません。事は慎重を
要します」
 ホワイトが念を押す。
「そこら辺りについては大尉に任せておけばよかろう。こちらでも口の堅い男を選抜して
尾けさせている」
 ルロワはそう言って話題を切り上げた。



・ユウの異称について
 本来の小説を読んだ方はお判りと思いますが、ユウの異称は小説やゲームでは「蒼い死神」「蒼い稲妻」です。
「戦慄の蒼」はゲーム第一巻のタイトル「戦慄のブルー」のアレンジです。
 稲妻はジョニー・ライデンがいるし、死神もありきたりで正直に言うとあまり気に入っていなかったので、
何かオリジナルで考えようと思った時、「戦慄の蒼」とゲームタイトルを総日本語化してみたら思いの外格好よく
異称ぽくなったのでこれに決めました。
 作品の中では敵味方問わず定着していて、連邦ではトップエースとして認知されています。

・シェルー少尉
 彼女は士官学校新卒の軍人ですが、あまり連邦への忠誠心や覚悟がある人物ではありません。
 本来なら士官学校で洗脳に近いほど忠誠心と言うものを教え込まれるはずですが、彼女の在学中はティターンズの
専横から失脚という大転換があり、当然教官も親ティターンズがいきなり追放されるなど混乱が生じていて、そのため
思想的な部分での教育方針が揺らぎ必ずしも軍人として必要な教育がなされたとは言えない部分があります。
 元々やや不純な動機で志願したシェルーは、大学新卒のOL気分が抜けないまま配属されていて、ユウが放任している
事もあって異質な存在になっています。しかし、一方でそんなシェルーが基地内で可愛がられているのも事実です。

・ルロワについて
 本編中だとあまり無能に見えないルロワですが、戦闘指揮官として凡庸なだけで上官としては標準的な統率力は
備えています。ただ、彼は基本的に自分より強い相手とは戦わない主義の男で、派閥争いや政争に巻き込まれない
のもその性格が影響しています。コロニーレーザーを見てさっさと撤退を決めたのも単純に勝てないと思ったから
です。結果的に彼は今まで率いた軍を壊滅させた事は一度もありません。しかし、他に誰もいなければ勇敢に戦います。

・アランの新型機について
 武器が方天画戟と同じ形をしていることから予想されたかもしれませんが、彼のデザインは三国志の呂布をイメージ
しています。それに木星と言う事でジオンとも連邦とも違うジュピトリス系の意匠が加えられている、と言う感じです。
 それにもうひとつ、手には格闘兵器を持ちっぱなし、射撃兵器は外付けされたユニットで、と言うコンセプトは
イフリート改と共通させています。BD-4同様、イフリート改もシリーズの顔としては必要かなと思いました。


ここまで
448創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 18:05:18 ID:vr7N7QJx
ブライトさん来た!これで勝つる!
449創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 21:28:19 ID:ofYSAH3v
昔もっと活気あったよな
450創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 22:14:29 ID:KF8o2EyM
よその板でも思うが過疎だとか人が減ったとか言う人って
盛り上げる話題を振ろうとかしないよな
逆に今残ってる住人に「まだいるの?」と言ってるようにしか見えない
451創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 22:20:24 ID:Kyo7eG5A
まだ前スレが残っちゃってるんだよねえ……
452MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 22:53:43 ID:UhfEJmn+
>>451
もう書き込めない
453創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 22:58:03 ID:Kyo7eG5A
>>452
まあSSは無理でしょ。

落としちゃおうか?
454MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/04(木) 23:00:15 ID:UhfEJmn+
>>453
いや普通にももう容量オーバーしてると思うけど?
455創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 23:03:35 ID:Kyo7eG5A
>>453
失礼。
もう過去ログ倉庫に入ってると出たね。

おれの専ブラの表示がおかしいだけだな。
456創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 23:46:46 ID:ofYSAH3v
>>450
気に障ったか?なんかすまん
457創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 16:00:45 ID:EV1p/yv+
卑屈な古参気取りとか今更はやんねーよwwwww
458創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 20:34:48 ID:ctIG9ILI
そんなピリピリすんなよ。
459創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:19:37 ID:vQTyVPYJ
よしお前らそこまでだ
好きなMAの名前を挙げれ
460創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:22:23 ID:KdedGldT
>>459
ザクレロ
461創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:28:51 ID:lHYs1xk+
メッサーラ
MAはいいな
MSよりもロマンがあると思う
462創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:29:00 ID:vQTyVPYJ
ザクレロか…アレもよくわからんMAだよな
グロムリンとか
463創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:32:57 ID:vQTyVPYJ
MAは自由すぎる
それがいい
464創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 21:36:02 ID:KdedGldT
どうもね。
MAと聞くと半ば反射的にザクレロが思い浮かぶから。

昔ガンダム小説書こうとしてオリジナルなMAを設定した事がある。
どうも上手く煮詰まんなくて投げたけどw
465MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/05(金) 21:43:10 ID:vmJLcqb0
ゾックをMAに入れたい今日この頃
466創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 22:19:51 ID:ctIG9ILI
ボールはMAに入りますか!?
467創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 22:23:38 ID:KdedGldT
ボールはBガンダムじゃないの?w
468創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 11:17:42 ID:aILIn/mU
ゾックは小型モビルアーマー(漫画版ではモビルアーマーと明言)
ボールもモビルアーマー

しかしガンタンクはモビルスーツ な ぜ だ
469創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 13:48:03 ID:U+FB+Ds5
連邦の見栄
470MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/06(土) 14:03:33 ID:ZfLPJLsa
元旦区は戦車に分類すべき
471創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 22:14:29 ID:76lldSLP
重力戦線のガンタンクなんかまさに戦車だよな
472Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 09:40:09 ID:i7TtKvu/
ここで流れを読まずに投下
473Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 09:44:03 ID:i7TtKvu/
 火星。惑星開発の手が伸びても赤を保ち続ける、冷砂の星。厚く薄い大気に包まれた極低温の星は、防護服無しでは
出歩く事さえ出来ない。

 ヴァンダルジアは何事も無く火星の大気圏に突入し、赤砂の広がるアマゾニス上空を飛んだ。
 懸念されていた火星軍による攻撃は無かったが、問題は意外な所で発生した。

 それは聖戦団との接触時の事……。ヴァンダルジアは火星基地への案内役である聖戦団の戦艦バグワムに砲口を
向けられた。アドラステアの発展型、砂色の4輪駆動巨大戦艦は、見る者を圧倒する。

「貴艦がヴァンダルジアである事を証明せよ」

 ヴォルトラッツェル艦長は、通信機の向こうの聖戦団火星分団長と名乗る男性に、訳の解らない要求をされた。
 艦体を赤錆色に染めたギルバート級、ヴォルトラッツェル艦長、ローマン大佐。これだけ揃ってヴァンダルジアと
認められないとは……。

「どういう事か、説明して貰おうか?」

 度々起こる想定外の事態に、苛立ちと呆れ半々で分団長に訊ねるローマン。その問に対する返答は、至って単純な
物だった。

「貴艦には、聖戦団の証である“蒼い鳥”が無い。シンボルを失くした艦をヴァンダルジアとは認識出来ない。許可無く
 降下すれば即座に攻撃を加える」

 杓子定規な対応を誰もが理不尽と感じたが、それより蒼い鳥の紋章が消えてしまった事が問題だった。
 響めく艦橋。その中で、ダグラスは犯人を知っていた。

(ハロルド……)
(俺か……)

 ……当のハロルドも困惑していた。
 啀み合い、延々と平行線を辿る話を続けるローマンと分団長。ハロルドは気不味い思いを抱えながらも他人事を
装っていたが、分団長と名乗った男性の声が聞き覚えのある物だと気付き、乱暴にローマンを押し退けた。
474Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 09:46:06 ID:i7TtKvu/
「寄越せ! この無能!」
「無能!?」

 驚くローマンに構わず、ハロルドは通信機を奪い取る。そして、怒りを帯びた口調で分団長に食って掛かった。

「手前、第2突撃隊のニーデスだな? 偉そうな口を利きやがって!」
「誰だ? 礼儀知らずな奴……」

 突然割り込んで来た不躾者に、不快感を示す分団長。それが逆鱗に触れたのか、ハロルドは声を荒げる。

「俺の声を忘れたか!! ニーデス大尉!!」
「ハ、ハロルド・ウェザー大佐!?」
「“特別”大佐だ!! 間違えるな!!」
「し、失礼しました!!」

 分団長は相手がハロルドと知ると、途端に緊張した声になった。しかし、ハロルドの怒りは収まらない。

「鳥だシンボルだと煩い奴だな!! これ以上グズグズ吐かすんなら、手前等の支援なんぞ要らん!! この俺が
 直々に聖戦団諸共叩き潰してくれる!!」
「いっ、いいえっ! 短気を起こさないで下さい!」
「何だとっ!?」
「す、済みませんでしたっ! 特別大佐!」
「解ったら、さっさと許可を出せぃ!!」
「はい! 今直ぐ!」

 皆が唖然とする中、ハロルドは胸を張って腕組みをする。その場に居た者は、ローマン以外誰一人として彼の言葉を
冗談とは思わなかった。ハロルドなら本気で聖戦団相手に戦闘を仕掛けかねない。戦中のハロルドの活躍振りを知る
者は、全てを破壊し尽くすバウの姿を容易に想像出来た。恐るべき事に、ダグラスとて例外では無く……。
475Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 09:50:36 ID:i7TtKvu/
 聖戦団は地下に基地を構えていた。バグワムに案内されたヴァンダルジアは、砂塵を巻き上げて平原に降りる。
 防護服を着込んだ乗組員と聖戦団員によって、物資がヴァンダルジアに運び込まれる中、ローマンは現在の情報を
整理する為に、数人の聖戦団員と共に地下基地へと移動した。

 ニーデス分団長は、ローマンの背中を見送り、悪態を吐く。

「いけ好かない奴だ」
「ニーデス、どうした? こんな所で突っ立って」

 その肩をハロルドが叩いた。ニーデスは身を竦めて振り向く。

「い、いいえ! 何でもありません!」
「……そう焦るなよ。お前、聖戦団員になったんだな」

 ハロルドは呆れた声で言った。取り敢えず、怒られなかった事にホッと息を吐くニーデス。歳はハロルドより1つ2つ
若いだけなのだが、過去に第1突撃隊と共に進軍した際、何度も救われた事実が彼を萎縮させていた。

「はい! 御二方が敗戦後も逃亡しながら抗戦を続けていると聞きまして!」

 ニーデスの答えはハロルドの表情を曇らせた。何か失言したかと、ニーデスは慌てる。

「あの……何か?」
「……全く、どいつもこいつも……」
「ウェザー特別大佐?」
「ちっ、何でもねえよ! 手前の命だ。精々大事にしろ」
「はいっ!」

 機嫌の悪くなったハロルドから逃げる様に、敬礼して立ち去るニーデス。
 ハロルドは足下の砂を蹴散らし、赤く濁った火星の空を見上げて、小さく零した。

「ダグ……何も彼も、総代表の思惑通りなのか? 下賤の俺には解らんね……」
476Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 09:56:22 ID:i7TtKvu/
 俯いて軽く首を横に振った後、ヴァンダルジアに目を遣ったハロルドは、開け放ってあるMS格納庫に運び込まれる
1機のMAを見た。

 アイボリーの蟹の様な機体は、一見すると小型のビグロに見えるが、その正体は突撃隊と共に地球圏に随行した
応急救護隊のMS、QザクのMA形態。ザクTを祖とし、ガンダムアシュタロンの機能を一部取り入れた、搬送・修理・
補給・回収を一通り熟す、完全に作業用の機体。名はレスキュー・ザクに由来する。大戦中は一撃離脱戦法を応用した
迅速な行動で、突撃隊を支えて来た。

 額に角があるのは指揮官機。ハロルドは眉を顰める。

「おいおい、まさか……」
「ハロルド・ウェザー君、こんな所で何をサボっているのかな?」

 背後から逞しい女性の声。振り返ったハロルドは、先程のニーデスの様に身を竦めた。

「げぇっ、クーラー隊長!」
「特別大佐殿、随分な御挨拶じゃないか」

 爽やかに笑い掛ける女性は、元応急救護隊長フランシー・クーラー少佐。
 未だハロルドとダグラスが士官学校上がり立ての少尉だった頃、何度彼女に怒られながら機体の修理を受けたか
知れない。当時クーラーは中尉で、現在2人は階級では追い越したのだが、救護を受ける側の立場は覆し難く、今でも
頭が上がらない存在となっている。

 ハロルドは頭を抱えた。

「どうして救護隊長まで聖戦団に……」
「好きで入った訳じゃない。終戦後の撤退時、救護隊の仲間を逃がす為に、連邦軍相手に一暴れしてしまってな……。
 木星に帰るに帰れなくなってしまった。ここの連中は似た様な事情を抱えた者ばかりさ」

 悲しそうに目を伏せるクーラー。しかし、直ぐに明るい表情に戻り、ハロルドの肩を叩く。

「それも昨日までの話だ。今日から補充要員としてヴァンダルジアに乗艦する事になった。宜しく頼むよ、特別大佐」

 げんなりするハロルドを見て、彼女は一層嬉しそうに笑うのだった。
477Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 09:59:46 ID:i7TtKvu/
 物資の補給が済んだ後、ハロルドとダグラスは聖戦団の基地内で、ニーデスを始めとする元突撃隊員達との再会を
懐かしんだ。彼等の話によると、聖戦団には敗残兵とは別の集団が存在し、物資の用意等を行っているとの事だった。
背後にはアーロ・ゾット総代表が居る。誰が言った訳でも無いが、皆その様に理解していると言う。
 再戦の時は近い。そこから戦中の話になり、昔語りが始まった。

 昔語りは武勇伝から賞金の話に移り、元突撃隊員の一人が思い出した様に言う。

「賞金と言えば、流石ですね。50ミリオンでしたっけ?」
「何の話だ?」

 ダグラスが尋ね返した所、別の元突撃隊員が答える。

「御存知無いんですか? 中将と特別大佐は、賞金首なんですよ。その額、何と50ミリオン!」

 ハロルドとダグラスは顔を見合わせた。50ミリオンとは、並の人間が何世代掛けても到底稼ぐ事の出来ない金額。
 ダグラスは深刻な面持ちで独り呟く。

「それ程の額となると、軍が手を出さなくとも、賞金稼ぎが放って置かないだろうな……」
「当たり前だ。俺なら軍を辞めてでも仕留めに出るぜ」
「ハル……」

 ハロルドの言葉に反応し、横目で睨み付けるダグラス。ハロルドは決まり悪そうに釈明する。

「いや、飽くまで俺が連邦兵だったらの話。例え話……」
「敵襲っ!! 西方より、こちらに接近するMSの大集団有り!! 総員迎撃態勢に入れ!!」

 直後、スピーカーから聖戦団員の叫び声。ハロルドとダグラスは元突撃隊員達との別れの挨拶もそこそこに、
防護服のメットを抱え、ヴァンダルジアへと急いだ。
478Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 10:08:24 ID:i7TtKvu/
 2人がヴァンダルジアのMS格納庫に駆け込んで間も無く、艦は彼等を待っていたかの様に、浮上を開始した。

「遅い!! 何をしていた!?」

 背後からの怒鳴り声に、驚いて振り向く2人。そこには腰に手を当て、仁王立ちするクーラー少佐が居た。
 彼女の右手に握られている小型の通信機は、メリメリと悲鳴を上げている。怒り様からは、何度も2人に呼び掛けた
痕跡が窺えた。しかし、肝心の受信機能があるメットを置いて話し込んでいた彼等には届かなかった。

「追われる身だという自覚が無いのか!?」
「解っています。50ミリオンの賞金首ですから」

 ダグラスは落ち着いた声で冷静に返す。ハロルドは、これ程までに相棒が頼もしく思えた時は無かった。
 一瞬だが、声を詰まらせたクーラー少佐の隙を逃さず、ダグラスは畳み掛ける。

「クーラー少佐、俺とハルが迎撃に出ます。防塵加工は済んでいるんですよね?」
「あっ、ああ……」
「有り難う御座います。ファルメ整備班長にも、お伝え下さい」

 ダグラスは丁寧に頭を下げる。クーラーとファルメ以下整備班が、敵襲に備えてバウ・ワウに防塵加工を施していた
事は御見通し。鋭い洞察力……そこに在るのはスタッフへの“信頼”。
 勢いを殺がれ、返す言葉を失くしたクーラー少佐を見て、ハロルドは思う。ダグラス・タウン、恐るべし。
479Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/07(日) 10:10:20 ID:i7TtKvu/
 バウ・ワウに乗込んだハロルドとダグラスは、遥か遠方、西方から押し寄せて来るMSの大群を迎え撃つべく、赤い
砂海に飛び込んだ。バーニアを吹かして、ゆっくり砂を踏み締めると、ふわりと周囲に赤い粉が舞う。

 モノアイを前方に向けると、砂煙を巻き上げながら迫り来る、多数の陸戦型ガンダム。各々、武装もカラーリングも
区々。鈍足歩行を置き去りに、ホバー進行、スラスター飛翔、それ等に並んでクラフト、フライト、ビームローター!

 ダグラスは相手が火星軍でない事に、安堵の色を滲ませて息を吐く。

「火星の賞金稼ぎ共か」
「金の力は怖いねぇ……」

 応えるハロルドの声は笑いを含む。突撃隊を知らぬが故に、実力差も解らず飛び込む愚か者への嘲けり。
 しかし、交戦距離に入ろうかという所で、先頭をホバー走行していた陸戦型ガンダムが転げた。
 その足下からはクローアームが伸び、ガンダムの足を確と掴んでいる!

「中将! 特別大佐! ここは俺達に任せて下さい!」

 威勢の良いニーデス分団長の声と同時に、砂の中から姿を現すディゴッグの集団!
 続いてディゴッグの後方から出現した真っ黒なMSは、ゴルカ・ニーデスの愛機、バーバラガ!

 ディゴッグはゴッグの派生後継機。砂漠を海原に見立て活動する水陸両用MS。接地面積を増やす巨大な足に、
土中に潜行するドリルクロー、腹部に内蔵されたメガ粒子砲は水中でも減衰しない特殊仕様。奇襲を掛け、次々と
ガンダムを破壊して行く。
 バーバラガはトトゥガの後継機に当たる重砲撃MS。両肩に載せたビームガトリングキャノン、両腕のビームキャノン、
全身を覆うビームシールド、不動の要塞は敵機の進撃を許さない。

 陸戦型ガンダムを喰い止める火星の聖戦団。元軍属の前では、賞金稼ぎなど幾ら数で優ろうが雑魚同然。
 何もする事が無くなったハロルドは、シートに凭れて手を頭の後ろで組み、元同僚の活躍を見守った。

 ……退屈である。ハロルドは暫らく敵味方入り乱れる戦線を茫然と眺めていたが、ふと浮かんだ疑問をダグラスに
投げ掛けた。

「ダグ、奴等は何処で情報を仕入れたんだ?」
「連邦軍の反対派がリークしたんだろう。表立っては主流派に逆らえないから、裏から手を回したのさ」
「成る程、そういう事か。御苦労な事だが、この程度で……」

 ドザァッ!!

 暢気に会話する2人の目の前で、ニーデスのバーバラガが宙に舞った。

「何事!? あのバーバラガをっ!?」

 身を乗り出して驚くハロルド。重武装MSを吹っ飛ばしたのは、濃い紫色の鎧に身を固めたガンダム。
 バーバラガに劣らない鈍重な外観で、ドライブ粒子と砂塵を吹き上げ、低空飛行しながら猛然と突進して来る!
480創る名無しに見る名無し:2009/06/07(日) 10:16:26 ID:i7TtKvu/
7話くらいまで完。聖戦団の出番は終了。
481創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 00:41:36 ID:XjTcpxNI
最初の宇宙世紀の時代が終わってとかの言い回しといい、∀とは違う方向から全てのガンダムを纏めてるな
まさか名無しの賞金稼ぎの機体までガンダムとは…
投下乙
482強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:36:01 ID:ZgfVwCVl
ガンダムものは初投稿です。
皆様に触発されて書きたくなってしまいました。
いつもクオリティの高い作品をありがとうございます。
僅かでも楽しませることができたなら、これ幸い。
483強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:37:04 ID:ZgfVwCVl
「デーニッツ! アーダルベルトぉっ!」

永遠の夜が支配する星の海の中、華麗な花が二つ、音もなく咲く。
二つの花に近い位置にいたガルム・フェンリス曹長は叫びつつ、
大急ぎでレバーを倒して機体を急旋回させた。途端に『リック・ドム』が軋みをあげてターンする。
余りに非人間的な機動に胃液をバイザーに撒き散らしつつも、
フェンリスは気を失わず、フットペダルを思い切り踏みつける。
途端に鈍重な印象を受けるリック・ドムは背部に背負った大型バーニアをふかし、凄まじい勢いで加速した。
その加速もまた、人間に過ぎないフェンリスの限界に挑戦するものであったが、フェンリスはペダルを放さなかった。
一見美しい宇宙に咲いた二つの花は、30分前まで彼と馬鹿話をしていた戦友の駆るリック・ドムの成れの果てである。
核融合炉に直撃を受け、爆散する機体は360度に超高速で鋼鉄の雨を振りまく。あのままの位置に止まれば、
確実にフェンリスの乗るリック・ドムは破片の雨で大損害を負っていただろう。それは、あの悪魔の前では自殺を意味する。

「くそぉっ! 化け物めっ!」

レバーを倒し、ペダルを操作する。同時にコンピューターを呼び出し、ランダムパターンの戦術機動を指示、
パイロット機動で敵機への進路を取りつつ、パターン機動でかく乱。
更に残った僚機のリック・ドムには予め各機に登録してある
タクティカル・データバンクの中の1パターンを呼び出すよう指示し、
眼前のMSへとフォーメーションアタックを仕掛ける。
こうすることによって、個々のMSは極めて機動が読みづらくなるにも関わらず、全体としてみた場合、
極めて効果的に敵機を包囲することが可能となるのだ。
8機のリック・ドムで仕掛ける、たった一機の敵へのフォーメーションアタック。
かのジェット・ストリーム・アタックをも凌ぐだろう。当然、パイロット達は全員がベテランだ。
だが、

「な、なんでついてこれるっ!?」

敵機――ガンダム――は完全にその動きに追随した。
360度を包囲し、巧みに射線をずらして行われる連続したジャイアント・バズの火線をかいくぐり、
背後を狙って斬りかかるリック・ドムをあべこべに両断する。
目くらましのグレネードも拡散メガ粒子砲も無駄だ。リック・ドムは1機、また1機とその数を減らしていく。
484強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:38:36 ID:ZgfVwCVl
「隊長、コイツ、後ろに目が…うぁぁぁっ! 来るなっ! 来るなぁーっ!」

「ハインツ! 今助ける、なんとしても持たせろ!」

なんたること、自分が最も信頼する副官が恐怖の余りに我を忘れている。フェンリスは自らも恐怖の手前にあったが、
信頼する部下を落とさせてはなるものか、という使命感が彼を駆り立てる。
しかし彼がバーニアをかけた瞬間、全ては終わっていた。

「たいちょ……」

「ハインツっ!」

閃光が舞い、リック・ドムが真っ直ぐに貫かれる。ビームの光条だ。
ハインツのリック・ドムは一瞬膨れ上がり、そして爆散した。
爆散するリック・ドムを背後に、ゆらりと敵が振り返る。フェンリスはそのMSの声を聞いた気がした。

次は、お前の番だ。

ビームライフルをいまや最後の一機となったフェンリスに突きつけるガンダムは、正しくその異名に相応しい
威圧感を以って、フェンリスに迫る。

「12機のリック・ドムがたった3分で……これが、『白い悪魔』……」

フェンリス機は数秒の悪あがきのあと、爆散した。
そしてその直後に彼らの母艦も落ち、艦隊そのものが壊滅した。
生き残りは僅か30名。MS乗りと艦艇乗りを合わせてたったの30名だった。



壊滅したコンスコン艦隊の生き残りの運命は、悲惨を極めた。
元よりドズルの無理な出撃命令に応えて中立サイドまでWBを追い掛け回していた部隊であり、ドズルへの忠誠が強い。
ドズルがソロモンで戦死した今となってはただでさえ鼻摘み者なのに、
その敗北の有様がサイド6のTV局の中継で大写しに報道され、去就を決めかねている各サイドの判断に少なからず
影響を与えたことで、彼らの評価は連邦・ジオンを通じて一つだった。

いわく、無能。

ア・バオア・クーの決戦に向けてただでさえ張り詰めた空気の漂うジオンは、
おめおめと生き残った彼ら無能者を容赦なく最も危険な戦域に配置した。戦死して来いというわけである。
彼らにとって幸いだったのは、分散して配置されたのではなく、まとめて危険な戦域に配属された事だろう。
一人一人では恐らく自殺していたかもしれないし、戦死していたかもしれない。
だが、集中して配属されたことが、彼らの命を助けた。

「絶対に、生き残ってやる」

執念と共に、彼らは戦う。その鬼気迫る戦いぶりは同じく危険な戦域に配属された他の兵士の感銘を誘い、
当初30人だった彼らは、300人にその数を増やした。
戦争が終わる頃、ついに欠けることなく生き残った30人を中核とする300人の精鋭はこう呼ばれていた。

『不死隊』
485強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:42:00 ID:ZgfVwCVl
『敗北の次に悲惨なのは勝利だ』

ワーテルローの英雄ウェリントンはそう言った。けだし名言と言えるだろう。
戦争という行為そのものが悲惨である以上、勝利者も無数の屍の上に立つことでは何ら変わりない。
栄光という光に隠された悲惨さをワーテルローの英雄は語ったのである。
しかし言うまでもなく敗北は勝利より更に悲惨である。
敗北のあとには何も残らない。金も、土地も、命も、誇りも。文字通りのゼロに帰す。
一年戦争を終えて再出発したジオン共和国には、何も残っていなかった。

「兄ちゃん、ここはアンタみたいなのが来るようなところじゃねぇよ。命が惜しけりゃ帰りな」

くたびれた軍服の前を開けっ放しにしたまま、瓶ごと酒をあおる無精ひげの男は、
店内に入ってきた身なりのいい青年に一瞥を加えるとそう言った。

ズムシティの再開発予定地――予定は未定、計画は放り出された――の裏路地にある、いかにも場末といった
感じの酒場で、男は酒を飲んでいた。退廃的な雰囲気の漂うこの酒場は、退役軍人やヤクザ者の溜まり場である。
ここでは流血を伴う喧嘩など日常茶飯事であり、近年台頭してきたマフィアの抗争の場ともなっている。
男はいく当てもなくふらふらしていたところを酒場のマスターに雇われ、店の用心棒としてかつての部下と共に
酒場に入り浸る日々を送っていた。
そんなある晩である、男が場違いな青年の訪問を受けたのは。
青年は仕立てのいいスーツを着込んでおり、顔立ちもいい。片手に下げたアタッシュケースの存在もあって、
エリートビジネスマン然とした印象を見るものに与える。よくこんな酒場まで無事でこれたものだ、と
男が思うほどだ。この格好では路地の入り口から50mで刺し殺されて裸にされても文句は言えない。

「隣、空いていますか?」

青年は男からの忠告にも関わらず、また周囲からの敵意ある視線にも関わらず、真っ直ぐに歩を進めると、
酒場の隅で酒を喰らう男の側にやってきた。その度胸に思わず男は苦笑を漏らす。一目見れば素人でも
わかるというだろうに。酒場から発せられる敵意の中心が、実のところ真っ先に忠告をした男であるということが。

「他にも席はあるぜ」

「貴方にお話があるのですよ。コンスコン艦隊の生き残り、ガルム・フェンリス少尉」

敵意が増加した。店の各所に陣取る男たちが懐に手をやる。
彼らはフェンリスの元部下、それもコンスコン艦隊時代からの戦友である。
不用意に彼らの暗部に触れた者を許すことは、ない。

「兄ちゃん、自殺願望があるのかい」

片手を挙げて仲間を制しつつフェンリスは穏やかに語りかける。だが目は笑っていない。
返答次第によっては、というより、余程面白い返事をしない限りは、この場で絞め殺す予定である。
コンスコン艦隊のことは、彼らにとってそれほどの屈辱であり、余人の立ち入りを許さぬ聖域であり、
ほぼ心の原風景と化していた。
だが青年はたじろがない。

「あなたに、協力して欲しいことがあります」

「へぇ、サイド6で満天下に醜態を晒した俺達にあんたみたいなのが何の用事だい」

もういい、殺そう。そう決めたフェンリスが両手を青年の首に伸ばしかけた時。

「憎くありませんか、ニュータイプが」

どくん、とフェンリスの心臓が鼓動を打った。
486強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:44:14 ID:ZgfVwCVl
思い起こされるのはサイド6での戦闘。圧倒的な、余りに圧倒的な結果。
艦隊司令のコンスコンも、MS隊も、艦隊も、無能だったわけではない。
いや寧ろかなり優秀な部類に入っていたといいだろう。実力主義のドズルの下で鍛えられた、
一年戦争開戦以来の精鋭部隊。それがコンスコン艦隊、だった。
サイド6にいる連邦の戦隊が精鋭なのは知っていた。それが連邦ジオン双方からニュータイプ部隊と
呼ばれているのも知っていた。そのデータには部下ともども何度も目を通したし、驚異的な戦果を上げているのも
当然フェンリス達は知っていた。
だから、怠ることなく艦隊全体でできうる限りの準備をした。質と量で敵を上回ったと判断されるまで。
実際シミュレーターでは最悪の場合でも艦隊戦力半減、されど勝利といった結果が出ていたのだ。

しかし、現実は全く違った。

MS隊はたった1機のMSを相手に僅かな時間で壊滅、直掩を失った艦隊は離脱も敵わずにそのまま全艦撃沈された。
全ては、たった1機のMSによってひっくり返されたのである。
その圧倒的な暴力、人知を超えた能力に、フェンリスは生まれて初めて心の底から恐怖した。
その経験に比べればその後に配属された戦場など子供だましに等しい、そう感じられる程に。

あれが、ニュータイプ。

思い返す程に恐怖が溢れる。旧人類とは桁が違う。
人と人との交流だとか、人類の可能性だとか、宇宙における進化した人の姿だとか、そのような甘い存在ではない。
フェンリスにとってニュータイプとは、恐怖と共に現れて自分たち旧人類を抹殺する、純粋な暴力の塊であった。
怖い、そして憎い。
アレがジオニズムの根源だというのなら糞喰らえだ。そんな思いがフェンリス達を軍に復帰させることなく、
場末の酒場で緩やかな壊死に向かわせていた。

目の前の青年は、自らの首に手を回さんとするフェンリスを前にしてなお動じず、
氷の如き冷たい視線を向けたままである。
だがフェンリスには、その瞳が実際には静かな青い炎であることがわかった。

「わたしは、憎い」

いいながら青年は袖をめくり、片腕を露出させる。醜く焼け爛れた肌がそこにあった。

「わたしはシドニーの産まれです。こう言えばわかるでしょうか?」

シドニー、コロニーの落ちた地。
今はぽっかりと大きな穴が開き、影も形もなくなった、嘗てのオーストラリアの首都。
住民の9割は街ごと消滅し、僅かな生き残りも飢えと寒さと疫病で倒れたとフェンリスは風の噂に聞いていた。
その生き残りと称する男が、目の前にいる。

「ですが私にはジオンに対する怒りは何故か芽生えなかった。
彼らとて人間だと言う事を、わたしは忘れなかったのです。しかし疑問も覚えた。
同じ人間が何故このような惨い事をできるのか、とね。
コロニー落としは史上空前の大虐殺です。事前に行われたガスによる虐殺だけなら、
まだ歴史に例がある。理解の範疇です。
ですがコロニー落としは別だ。それは、敵に対する虐殺であると同時に、
自らの基盤をも破壊する諸刃の刃のはず。
それを敢えて実行させたのは、なんだと思いますか?」

「……ジオニズム、そして……」

「その拠り所となった、ニュータイプ思想です」
487強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:46:18 ID:ZgfVwCVl
青年の憎悪は今やフェンリスに共鳴し、店内の部下たちにまで乗り移っていた。
それは、美辞麗句によって彩られたニュータイプの実態を目の当たりにした彼らが
常日頃思っていた事だった。

奴らを生かしてはおけない。
奴らを放置すれば、人類は抹殺される。
奴らこそ真の意味での宇宙人だ。

だが、無力な自分たちが何を言おうと世界は動かないという諦念が、
彼らを無気力にしていたのである。
そんなフェンリス達の内心を見透かすように、青年は言葉を続ける。

「連邦だのジオンだの、アースノイドだのスペースノイドだのと言っている場合ではありません。
敵はニュータイプ、その事を多くの人類は気付いていない。
だからこそ手遅れになる前に、彼らの危険性を認識する我々が成すべきです。
ニュータイプの抹殺を」

「できるってのかい、それがよう」

フェンリスは自嘲するような笑みを浮かべた。

「俺たちはこれでも精鋭だったんだ。それがたったの三分で全滅だぜ。
いいたかないが化け物だ。もう一度ぶつかれって言われりゃ尻に帆をかけて逃げるぜ」

半分は芝居だ。青年の覚悟を試している。
だが半分は本気だ。恐怖は未だぬぐえない。勝算など現状ではゼロに等しいのだ。

「できます。わたしと共に来れば」

にた、と青年が整った容貌には不釣合いな笑みを浮かべる。

「ただし、あなた方もわたしも、悪魔に魂を売る必要があります」

「へぇ、俺はアンタが悪魔なのかと思ったぜ」

口の端を吊り上げて笑うフェンリスは心を決めていた。
ニュータイプを殺せるのなら、なんでもいい。身でも魂でも捧げてやる。
誰を踏み台にしようが、誰に踏み台にされようがかまうものか、そう思いながらフェンリスは
青年に向かって手を差し出す。無論首を絞めるためではない。

「契約成立だ。あんたの名前は」

「アスティ・モルグ。オーガスタ研究所の対ニュータイプ課長です」

こうして、フェンリスは悪魔と契約した。
488強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/11(木) 11:48:16 ID:ZgfVwCVl
以上で投下終了です。
評価もらえると嬉しいな、と思う余りにSageませんでした。
スレの皆さんの気に障ったなら謝罪します。
評価がよければまた続きを書きますので、どうかお引き立てのほどを。
489MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/11(木) 16:48:52 ID:SD5N1S0z
続き読みたい
490創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 17:32:51 ID:dBPExb2t
素直に面白い!
491MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:24:01 ID:VV2QOGAO
蒼の残光 9.連合艦隊編成 前編



492MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:25:02 ID:VV2QOGAO
 尾行されている、と気づいたのはほんの偶然だった。
 妻のために花でも、と立ち寄った花屋の窓ガラスに男の二人組が映り込んだ。その顔に
見覚えはない。しかし紛れもなくその身のこなしは軍人のものだ。
 ユウは気づかない振りをしたまま花束を作ってもらい、代金をキャッシュで支払って店
を出た。暫く遅れて十分な距離を置いて二人が動き出した。
(何者だ)
 敵か、それとも軍のスキャンダルを暴こうと徘徊するパパラッチか。どちらとも考えら
れる。特に今は終戦記念式典の際の敵襲を隠蔽した事で批判が高まっている時だ。
 パパラッチだとすれば相手をすれば却って面倒な事になる、このまま無視して何事もな
いかのようにするか、とも考えた。しかしもし相手がアクシズ残党であった場合、このま
ま病院に向かってマリーの所在を知られてしまうのはまずいかもしれない。軍施設と言っ
ても基地内にあるわけではなく、病院と言う性質上人の出入りについてそのチェックは完
璧には程遠い。
 ユウは周囲を見回した。記憶ではカメラの死角となる場所がこの近くにあったはずだ。
 追跡者二人は一ブロックほどの距離を保って移動している。ユウは病院の手前で脇道に
飛び込んだ。
 尾行者はホワイトとリーフェイが選出した空挺隊員(SAS)だった。能力と口の堅さ
を見込まれた二人である。彼らもユウが尾行に気付く事、また脇道に入ったユウが待ち伏
せをしてくる事は予想の範囲内だったはずである。それでもなお、自分達がユウに負ける
とは考えていなかった。如何にMS戦闘のトップエースとはいえ、市街地での徒手戦闘で
は逮捕術も含めた専門訓練を積むのSASの敵ではない。
 はずだった。
 角を曲がった瞬間にユウが目の前に現れたが、ユウは手を出しては来なかった。その代
わりにつま先で相手のかかとを蹴り払った。きれいな出足払いが入り、手を着いて倒れた
その顔面にかかとが飛んできた。
 倒された相棒に一瞥もくれずユウ確保に後ろから飛び掛ったもう一人のSASのプロ意
識は賞賛されるべきだろう。しかし、生身とMSの違いはあれ、全方位からの攻撃に備え
た戦いはユウの得意とするところだった。
 振り返りざま手に掴んでいた砂利を顔に投げつける。さすがにSASが目を一瞬閉じる。
その隙に相手の懐に飛び込むと、頭で相手の顎をかち上げた。
狙いやすい腹を狙わなかったのは服の下にプレートを仕込んでいる可能性を考慮しての事
である。関節を裏から狙う、ガードできなくさせてから頭部を狙うと言うのはMS格闘戦
でも基本とされていた。
 ユウは倒れた追手の胸座を掴み、
「何者だ?」
 と問いかけた。
「……空挺連隊の者です」
「SASだと?」
 自分の身分を簡単に明かしたのは、その方がユウの警戒は解けると判断したためである。
事実、アクシズ残党の可能性も考えていたユウはここで攻撃の意思を失った。
 しかし、空挺と言うのは予想外だった。情報部やMPが内部捜査に動く事はあるが、彼
らは独立した捜査権を持っている。対して空挺隊員は対テロ戦闘などの特殊任務に就くが、
その指揮権は基地司令官にある。つまり、ルロワや基地防衛司令官たるホワイトの指示で
尾行していた事になる。
「俺を尾けてどうする?俺の何を調べている?」
「捜査上の秘密です」
 形どおりの回答。ユウは内心で舌打ちした。
「……わかった。ならばそのまま尾行を続行しろ」
 ユウの言葉に相手がさすがに意外と言う表情を浮かべる。
「妻に危害を及ぼす相手でないことがわかればいい。気の済むまで調べろ」
 何を目的にしているにせよ、ここでこれ以上排除行動を行っても不利になるだけである。
これ以上は無視するしかない。
 通りに戻ると何食わぬ顔で病院に向かう。一ブロックほど行ったところで脇道から二人
が出てくるのを確認した。
 ユウはそのまま歩いた。
493MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:25:45 ID:VV2QOGAO



 病院内でもユウは何者かの視線を感じた。間違いなく病院にも誰かいる。
(NTなら誰が俺を見ているかもっと正確に判るのかも知れんな)
 戦場でもNTを羨ましいと思った事はないユウだが、この時ばかりはNTの能力が欲し
いと思った。
 病室に入るとマリーは寝ているようだった。ユウは音を立てないよう気をつけてベッド
の脇に座り、愛妻の寝顔を見ていた。
 もう一緒になって四年になるが、出会った当時のまま、少女のような面影をまだ寝顔に
残している。印象的な紅い瞳を見る事は出来ないが、ユウは顔にかかった青い前髪をそっ
と払った。
「ん……」
 マリーが身じろぎした。
「すまん、起こしてしまったか」
「……ユウ、ごめんなさい、寝てたみたい」
「病人なんだから寝てて謝る事はない」
 ユウは笑って言った。
「具合はどうだ?」
「うん、大分よくなったみたい」
「そうか。少し中庭で外の空気でも吸うか?」
「うん」
 ユウは車椅子を用意してもらうと、そこにマリーを座らせた。マリーは
「自分で歩けるよ」
 と言って恥ずかしがったが、構わず乗せて押していった。
 ズム・シティは密閉型コロニーで、照らしているのは人工太陽の光だったが、中庭の木
々の香りや枝の間を潜る空気の涼やかさは本物だった。人工物の塊であるスペースコロニ
ーも、全てが作り物ではないのである。
「やっぱり外はいいわ」
 車椅子の上でマリーが背伸びをした。
「そうか」
「でも、ユウから見ると変でしょ?ここも厳密に言えば『中』なんだから」
「そうでもない。地球でも大気汚染の酷い地域ではガラスハウスの中でしか自然を再現出
来ないなどよくある事だ。それに小惑星基地じゃもっと箱庭のような緑しか用意されてい
なかったからな」
「ふうん……」
 マリーは暫く目を閉じて光と風を肌で感じていたが、やがて
「ねえ、ユウ」
 と呼びかけた。
「ん?」
「また、戦うの?」
「――そうなる」
「戦わない事って出来ないの?」
「難しいだろうな。それは向こうが武装解除に応じる事が前提になる」
「あの人達はただ、私たちに呼びかけているだけでしょ?連邦に対して権利を主張しろ、
て言ってて、もし連邦が話し合いをしないで押さえ込もうとするなら力を貸す、て言って
るんじゃない。それなら、先に連邦が戦意のない事を示せば――」
「マリー」
 ユウは慎重に言葉を選びながらマリーに話した。
「確かにあの連中は自分から戦闘を仕掛けるとは言っていない。それどころか、自分達が
自ら先導する立場にあろうとすらしていない。動くのは民衆、軍隊はそれを守る盾、理想
的なシビリアンコントロールの理念だ。だが、裏を返せばそれは扇動なんだよ。
「シビリアンコントロールでは軍隊は自分で自分の力を行使することはない。軍隊は常に
政治の管理下に置かれ、政治の判断でのみ抜かれる剣でなければならない。そのあり方は
間違っていない。

494MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:26:50 ID:VV2QOGAO
「しかし、見方を変えるなら、つまり戦争の責任は文治が負う、と言う事だ。軍人と同時
に軍を動かした政治に責任を求める。リトマネンは自分達を剣として、盾として使えと言
う。しかし、リトマネンが呼びかけている相手が、本当にリトマネンほどの力を必要とし
ているのか?軍が政治に対し過剰な軍事力の保有を焚きつけるならそれはもうシビリアン
コントロールではない。相手がピストルでいいと言っているのにミサイルを持たせて、そ
れで大きな被害が出た時それでも最大の責任は引き金を引いた者が負うべきなのか?何よ
りも、それだけの戦力を有する軍隊が自ら売り込みに来て、本当にその軍隊が文民の管理
下に納まっていられるのか?ありえない。主を自ら選ぶ剣は自ら見限る事も出来るんだ。
剣の持主は自分が滅ぼされないために剣の望みを常に考えなければならない。それは傀儡
政権と呼ばれるんだ」
 そう、リトマネンの一党はあまりにも大きな力を持ちすぎた。一個艦隊程度の戦力が同
じ事を訴えたとしても少し規模の大きなジオン残党として通常規模の討伐隊が結成され、
一度四散させてしまえば生き残りの中で顔の知られた何名かが指名手配のリストに加えら
れて終わりだったのだ。しかし彼らは連邦の主力をほとんど一瞬で殲滅させる力がある事
を見せてしまった。連邦軍は彼らと彼らに与する者を威信を賭けて打倒する事になる。後
に続くものを出さないために。
「そう……よね。ごめんなさい、あなたのお仕事に口を出すつもりはなかったの」
「いいさ。戦争する軍人が非難される社会は、賞賛される社会より多分まともだ」
 恐らく今の会話もどこかで盗聴されているのだろう。先々で自分達にとって不利となる
言葉は使わないようにしたつもりだが、果たして上手く行っただろうか?
 マリーがユウを見上げ、微笑みながら手を伸ばして彼を引き寄せた。
「ユウ、私たち誰かに見られてるわ」
 ユウは内心の動揺を隠し、笑い返して囁いた。
「わかるのか?」
「後ろの渡り廊下に二人、私の左にいるベンチの一人、それから奥で雑誌を読んでる一人。
ずっと私たちに意識を向けているわ」
 渡り廊下の二人はユウを追跡していた連中だ。後の二人はユウは気付かなかった。
「マリー、何故――?」
「でも、あまり怖い感じはしない。心配しなくても大丈夫だと思う」
 もう一度マリーはにっこりと笑って見せた。そしてすぐに病室に戻りたいと言い、監視
者についてはそれ以上触れなかった。



 スキラッチ中将は病的に色の白い、顔の大きな人物で、今は航行中に見たコロニーレー
ザーのショックでさらに蒼ざめていた。
「ご苦労様です、スキラッチ提督。お疲れかもしれませんが、よろしければすぐにでも作
戦会議に入りたいのですが」
 ホワイトが早急な申し入れを行ったのは兵は迅速を尊ぶの格言に従った行動だが、この
場での主導権が自分達にある事を言外に主張する目的もあった。スキラッチは特に反論も
不満もなく、そのまま幕僚と共に会議室に入った。
「スキラッチ中将。戦況についてはどの程度――」
「ほぼ全部を把握しているつもりだ。残党どもが今どこに向かっているか、それだけが判
っていない」
「残念だがそれはまだ判明していない。ただ、現在ジオン共和国の領宙を抜けつつある事
だけは確かだ」
 ルロワが伝えた。スキラッチは腕組みして
「フム……彼奴らの主張から考えるに、このジオンはもちろん他のコロニーも、月面都市
も攻撃目標とするのは考え難い。完全な追従こそないが、明確な反対の立場も表明してい
ない今はまだ。すると単純に戦術的に守備のしやすいポイントを探しているのか、それと
も戦略的な攻撃目標があるのか……」
 スキラッチという男、少なくとも無能ではないらしい。それなりに筋の通った思考だと
ユウは思った。
495MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:28:20 ID:VV2QOGAO
 宇宙でコロニーや月以外の戦略的攻撃目標としてはコンペイ島やルナ2、ドック艦ラビ
アンローズ、それにアクシズなどがある。そのうちの一つを占拠し、根城とする気ではな
いか、というのが大方の予想であった。
「時にルロワ司令官。我々はどのような方針で戦うおつもりか、指令のお考えを伺いたい」
 ユウは態度に出さず、ヘンリーは目を軽く見開き、そしてマシューは小さく声に出して
それぞれにスキラッチを見た。到着前にはスキラッチが作戦指揮権を主張するのではとの
噂が流れたが、今ルロワを司令官と呼んだという事はどうやらその意図はないようだ。
 もっとも、スキラッチとしては当初は主導権を握る気でいたのだが、敵の戦力が彼の予
想をはるかに越えて大きかったため、臆したというのが真相だった。この作戦行動はルロ
ワに任せ、失敗に終わりさらに全軍挙げての大攻勢となった時にファケッティ総司令官の
右腕として権勢を振るう方が得策と判断したのである。
 ルロワは少し考えた後、こう答えた。
「あの連射式コロニーレーザーを封じるには敵味方入り乱れる乱戦に持ち込むのが最善だ
ろう。陽動を立て、高速の別働隊で後背を突く。そうする事で乱戦に持ち込みあのレーザ
ーを無力化する」
 本当はもう一つ敵に切り札を使わせない方法も検討されていた。しかしその方法につい
ては世論の批判を浴びるとの判断からブライトとルロワの二人の意見は一致、スキラッチ
に提案される事はなかった。
 スキラッチは頷いた。作戦としては気に入ったらしい。
「なるほど、ではその編成はどのように?別働隊には艦隊規模の小さなノア代将が任を務
める事になると?」
「いえ、自分は陽動に入ります」
 ブライトは即答した。彼の乗る旗艦ネェルアーガマは足も速く強力な艦だが、最大の武
器は艦下部のハイパーメガ粒子砲にある。コロニーレーザーを一撃で破壊しうるその主砲
を相手に見せつける事で陽動の効果を増そうという考えである。一つには、成功すれば勲
功の高い別働隊より危険の高い任務を自ら買って出た面もある。
「今回の作戦では大胆に混成した部隊編成を行い、別働隊には各艦隊から選りすぐりの精
鋭を選抜して挑みたい。どうだろうか?」
「…………よろしいでしょう、それではそれで選抜しましょう」
 会議の結果、別働隊はスキラッチが指揮を執ることになった。実力というよりは派閥の
力学の結果だが、ルロワが作戦司令官の立場に収まった以上主力の指揮をせざるを得ず、
ブライトは既に陽動に入る事を宣言しているのだから選択肢はない。
 別働隊は艦隊よりもMS戦力を重視し、ユウはこの別働隊のMS隊長に任命された。副
長にはブライト艦隊所属の『韋駄天フランク』ことフランク・カーペンター少佐が着き、
速攻を仕掛けて乱戦を作り出す、という任務を最優先すると改めて確認した。これも、ス
キラッチ一人に功を独占させないための人事だが、結果としてはMS戦闘における最強の
戦士が最重要部署を受け持つわけで、不満のある布陣ではない。出撃はルロワに補充され
たMSなどの調整時間を考え、七十二時間後と決定した。ここまでで一度解散し、後は艦
隊司令官三名が残ってフォーメーションを打ち合わせる事になった。



「当然小官も別働隊に加えていただけるのでしょう?」
 話を聞いたアイゼンベルグの第一声である。嘆願ではなく確認といった風だが、実際に
彼のカスタムされたリックディアスはいまだに機動性においては破格であり、その自信も
当然といえた。
「恐らくそうなるだろう。ただし、副隊長ではなく一中隊長としての編成になるが」
「帰って気が楽というものです。周りに気を配る必要なく戦闘に専念できるというもので
す」
「ルーカス、言う事が物騒」
 ジャクリーンが嗜める。彼らはドックにいた。ジャクリーンとアストナージがBD‐4
に一部改良を行ったので見に来て欲しいと言われ、ユウが顔を出していたのである。ドッ
クにはジャクリーンとアストナージの他、アイゼンベルグ、それになぜかシェルーまでい
た。
「ジャッキー、どこを改造したんだ?見たところ変わったようには見えないが」
 ユウが自分の愛機を見上げながら訊ねた。特に形状の変更も、装甲を増加させたように
も見えない。塗装し直されて蒼が強くなった気もするが、外観上の違いはそれだけだった。
 ジャクリーンが悪戯ぽく笑う。予想通りの反応がきて嬉しいという感じだ。
「本体はほとんど変えてないわ。変えたのは武器の方よ」
496MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:29:29 ID:VV2QOGAO
「武器?」
 ユウの顔が険しくなった。ただでも不安定な試作品に余計な手を加えてさらに信頼性を
落とされては、と言う表情だった。ジャクリーンも表情の意味を察して言葉を継ぐ。
「もちろん信頼性が落ちるような改造はしていないわ。むしろ動作の安定性を高めつつ威
力を上げる方向で手を加えたのよ」
「中佐の機体はネオジオンの技術とAEの技術が複雑に絡み合っていて手を加えるにはデ
リケートだったので諦めました。武装はAEだったので主に威力の強化に主眼を置いて改
造しています」
 アストナージが説明しながら室内クレーンを操作し、新しくなった銃を目の前に現した。
「……でかいな」
 アイゼンベルグが見たままの感想を口にした。
 元々一丁の銃に四種類の異なるビーム発射能力を持たせたビームライオットガンは標準
的なビームライフルのサイズを大きく上回る大型の武装だったが、出てきた新型は銃のグ
リップ側、丁度人間用のライフルならショルダーストックの付く箇所が延長され、全長は
完全にBD‐4の全高を上回る超大型となっている。延長された側の端には大型のビーム
砲門らしきものが付いていた。
「Gチェイサーに変形してもちゃんとバックパックに接続できるようになってるわよ。重
量バランスは少し悪化してるけど、ユウなら問題ないわ」
「ライオットガンは加速リングと収束リングのセッティングを調整して初速と有効射程を
向上させています。計算上ではスラッグショットで初速を二十一%、有効射程は十六%上
がったはずです」
「それって凄いんですか?」
 小声でシェルーがアイゼンベルグに訊いた。アイゼンベルグも小声で答えた。
「多分な」
 実のところはアイゼンベルグも使っていない銃なのでよく判らない。しかし、ビームが
速く、遠くに飛ぶ事にデメリットはない。
「反対側のビーム砲は何だ?」
 ユウはむしろそちらに関心を示した。明らかに取り回しを犠牲にしてまで付けたからに
はよほど自信のある新装備なのだろう。
 ジャクリーンが答えた。
「ハイメガキャノンよ」
 その場の全員がメカニック二人を見た。アストナージが少し得意げに説明する。
「ネェルアーガマに残っていたΖΖのモジュールユニットを無理矢理取り付けてみたんで
す。自分としてはMS本体に固定したかったんですが、変形の邪魔になるような仕様変更
は駄目だと言うので……」
「なぜネェルアーガマにそんなものが?Ζ計画で生まれたものは全て軍が差し押さえたの
では?」
 アストナージは曖昧な表情で何も答えなかった。どうやら彼の仕事場にはまだまだ宝が
眠っていそうだ。
「――まあ、いい。続けてくれ」
 アストナージはコンソールを操作し、モニター上にCGを表示させた。
「使う時にはこのようにバックパックにハイメガキャノン側を前に接続して肩に背負う形
になります。威力はΖΖの物と同等ですが、ジェネレータ出力が低いのでチャージに十八
秒、その間はスラスター使用も大幅に制限を受ける事になります」
「ちょっと待てよ、つまり発射体勢に入ったら銃も使えねえ、動く事も出来ねえって意味
か?使えるわけねえだろ、そんな武器」
 アイゼンベルグが指摘したが、ジャクリーンは動じない。
「バックパックのスラスターはそうだけど、脚のスラスターは生きてるから動けないわけ
ではないわ、もちろん不自由しないとは言えないけど。あと、チャージ中の反撃手段だっ
てもちろん考えてるわよ」
 そう言うと再びクレーンを操作し、今度はシールドを引き出した。
「元々専用に開発されてたメガ粒子砲内蔵シールドよ。これなら独立したジェネレータで
ドライブするから問題なく撃てるわ」
「ああ、あったな、そんなの」
497MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/12(金) 01:30:26 ID:VV2QOGAO
「…………」
 ユウはあまりシールドに武装を付けたものが好きではなかった。下手に受けて誘爆でも
したら本末転倒である。
 しかし、この戦いではハイメガキャノンのような兵器が必要だった。コロニーレーザー
にダメージを与えるにも、敵部隊をまとめて殲滅させるにも有効だ。あとはあの新型に乗
った二人が素直に撃たせてくれるかだが……。
「少しサイトの調整をしておきたい。ジャッキー、頼む」
「任せておいて」
 とにかく今は力が欲しい。



RAZ-107 アーツェット(BD−4)B
ビームライオットガン改造型
ビームライオットガンをアストナージが改造、ハイメガキャノンを増設した改造ショットガン。
ビームライオットガンは1本の銃身に4通りのビーム弾用の収束リング、加速リングが付けられているため、1m当たりの
リングの密度が相対的に低くなりビームの初速や有効射程がサイズに対して低い欠点があった。アストナージは加速リング
の一部を収束リングと交換して収束率を上げ有効射程を延ばし、弾頭別に用意されていた加速リングを全タイプで共用する
よう変更して加速リングの密度も確保、性能を向上させた。Gチェイサー変形時にも今までどおりの運用可能。

ハイメガキャノン
ライオットガンの基部に取り付けられた大出力メガ粒子砲。メガ粒子の励起、粒子加速などの機構の一部をライオットガン
と共有しており、システムの小型化に成功している。
出力は50MWとZZと同等を維持しているが、ジェネレータ出力がZZの6割程度しかないため、コンデンサへのチャージ時間が長い。

シールド
メガ粒子砲内蔵式のシールド。機体受領時から用意されていたが、ユウが使用を嫌ったためドックに保管されていた。
合計9基の偏向型メガ粒子砲が内蔵され、1基毎にIフィールドによる射角調整が可能、かなり広い範囲をカバーする。
また、副次的用法としてIフィールドを発生させる事で敵のビームを弾く事が可能。効果が一瞬なので先読みが要求される。



ここまで

498創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 03:06:21 ID:gdDZHfxa
ハイメガキャノン来た!これで勝つる!
499MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/13(土) 19:25:13 ID:f4mvpalI
tesuto
500創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 19:47:25 ID:GWhRzTd3
おお、やっと復旧したか!
501創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 21:49:32 ID:VRepe/A5
みんな消えなくて良かった
502MAMAN書き ◆iLWTGcwOLM :2009/06/13(土) 22:15:12 ID:f4mvpalI
◆elwaBNUY6sさん、◆gQ1F1ucvhkさん、まとめwikiにバックアップしました

編集して気付いたけど◆gQ1F1ucvhkさん、段落の冒頭は一マス開けてみては?
今でもセンテンスが短いので読みづらくはないですが、改行が判りやすくなるので。
503創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 22:43:58 ID:VRepe/A5
乙です!
504創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 23:33:52 ID:vJlg0hBI
>>MAMAN氏
いつも乙
アストナージが本気出せばオーパーツ作れそうだなw
地味だがIフィールドもかなり使いそうだ

>>482
初作品がコンスコンとは渋い
今思えば強化人間でおっさん系はいないな
505Mad nugget ◆FFj5E18ZCE :2009/06/14(日) 09:05:21 ID:AKwU1eWW
>>502
ありがとうございます!

投下行きます
506Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 09:07:10 ID:AKwU1eWW
おっとトリ間違えた
507Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 09:21:20 ID:AKwU1eWW
 撥ねられたバーバラガは、俯せに砂に埋もれた。並みのパイロットなら気絶する所だが、ニーデスも突撃隊員。
バーバラガの左腕を立て、重い機体を起こし、遠方横を通り抜け様としたクラフト浮遊の陸戦型ガンダムに向かって、
右手の連装ビームキャノンを放つ。

 ドドォッ!!

 赤い2本のビームの内、1本が陸戦型ガンダムを貫き、弾き転がした。
 ニーデスは即座に、ハロルドとダグラスに通信を入れる。

「済みません! 1機、突破されました!」
「油断したな? 抜かれた奴の事は気にするな! 後続を許すなよ!」
「了解です! 特別大佐!」

 ハロルドの指示を受け、機体を起き上がらせて再び弾幕を張るニーデス。ディゴッグ集団を潜り抜けて来た機体を
次々と墜とし、2機目は突破させない。
508Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 09:25:14 ID:AKwU1eWW
 問題は濃い紫色の鎧を纏ったガンダム。他の賞金稼ぎのガンダムとは明らかに性能が違う。その正体に気付いた
ダグラスは、ハロルドに声を掛けた。

「ハル! あの機体はV2V3V5ディフェンダーガンダム、火星軍のMSだ」
「軍? しかし、1機しか居ないが?」
「案外、お前さんみたいな奴だったりして」
「……となると、相当な腕前だな!」

 冗談半分のハロルドに、ダグラスは笑って応える。

「ああ、手強い相手に違いない。逃げるとしよう」

 バウは下半身を90度回転させてブーストエンジンで低空飛行を始め、ヴァンダルジアから遠ざかる様に敵機を
誘き寄せた。ダグラスは思惑通りにディフェンダーガンダムが付いて来たのを確認すると、速度を上げて一定の
距離、約200mを保つ。

 ハロルドはバウの上半身を敵機に向けた状態で、ダグラスに話し掛けた。

「適当な所で振り切ろうぜ」
「それは無理だ。あのタイプのガンダムは単機で大気圏離脱出来る」
「うへぇ……バーバラガに当たり勝つ、硬い奴を倒せってのか……」

 文句を言いながら、ハロルドはビームライフルを構える。狙いを付けて、1発! 黄金色のビームが走る!
 直後、ダグラスがアドバイスする。

「多分、ビームは効かない」

 バシィッ!

 彼の言う通り、ガンダムの前面でビームは分散し、半球状のIフィールドバリアが浮き上がった。猛進するガンダムは
全く怯む様子が無い。

「そういう事は早く言えっての!」

 ハロルドはビームライフルをシールド裏に収め、代わりにジャイアント・バズーカを取り出して、右肩に担ぐ。

「ダグ、衝撃注意!!」

 ズドォンッ!!

 凄まじい衝撃で、ぐら付くバウの機体。上半身と下半身の絶妙な姿勢制御で転倒を避ける。

 バウ・ワウのジャイアント・バズーカは無反動バズーカとは違い、衝撃緩和機構を備えていない。ロケット弾は炸薬で
射出した後に加速する型で、バズーカと言うよりロケットランチャーに近い。それは扱い易さ引き換えに、初速と加速と
爆発で絶大な破壊力を生み出す必殺兵器!

 しかし、発射直後にガンダムの両腰脇から1対のノズルが伸び、Iフィールドが淡い赤紫色の光を帯びて輝き始めた。
 ロケット弾は輝くIフィールドに破壊されて爆発を起こし、炎と煙を巻き上げる。
 煙幕を掻き分けて姿を現したガンダムは無傷。ハロルドは目を見張った。

「ビームシールド!?」
「ヴェスバーのビームをIフィールドで固めている! 出力を調整してバリアシールドの強度を変えられるのか!」

 冷静に分析するダグラスだったが、ディフェンダーガンダムにダメージを与える術は思い浮かばなかった。
 後からヴァンダルジアに追い着く為には、余り離れ過ぎても都合が悪い。何とかしてガンダムを倒さなくては、火星に
置き去りにされてしまう……。
509Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 09:40:22 ID:AKwU1eWW
 ディフェンダーガンダムのコクピット内モニターは、前方のバウを映し出していた。

「賞金稼ぎ共の大移動に、何事かと後を追ってみれば……まさか連合軍のエースとは!」

 朱色のパイロットスーツに身を包み、ディフェンダーガンダムを駆る男性は、火星軍でも1、2を争う腕利きパイロット、
マーウォルス・ザンザストン大尉。事前に軍上層部から下されたアマゾニス進入禁止命令を忘れた訳では無かったが、
賞金稼ぎの動きを無視出来なかった。

「上の連中が隠したがっていたのは、奴か? 理由は知らんが、見付けてしまった物は仕方が無い」

 残念そうな口振りとは裏腹に、バウ・ワウを発見した彼の心は躍っていた。
 50ミリオン、魔王退治の名声……。“一生涯に何度も無い好機を逃せるか”と問われたならば、答えは“否”。
 先に受けた2度の攻撃で、敵の攻撃能力は見切っていた。“耐えられる”……即ち、“墜とせる”という確信!

「所詮は地球の連中が付けた名よ……。何が魔王か! 反撃だ! 行けぇい!」

 ディフェンダーガンダムが両腕を前方のバウに向かって突き出すと、その肘から先が外れ、粒子を噴き出しながら
真っ直ぐに飛行する!

 ハロルドは飛来する2つの物体に目を凝らした。

「ダグ、ミサイル来るぞ! 2発……待て、違う! これはガンダムの腕だ!」

 ハロルドの声を聞いたダグラスは、バウの機体を左右に振り、レーダーでアームの軌道を確認する。2本のアームは
バウの細かい動きにも反応し、進路を微修正して来る。

「自動追尾式! ハル、撃ち落とせるか?」
「やってやらぁな!」

 ズドォ、ズゥン!

 ハロルドはダグラスの問い掛けに応えると同時に、ジャイアント・バズーカを2連射した。バウは2度の衝撃で体勢を
大きく崩し、赤砂を吹き飛ばして地表ギリギリを掠める。

「これでどうよ!」

 ドン、ドォン!

 ハロルドの声と同時に、ロケット弾は飛来する2本のアームに狙い違わず命中し、大爆発を起こした。
 その様を目にしたマーウォルスは驚いた表情をしたが、それは一瞬の事で、直ぐに余裕を含んだ笑みに戻る。
 
「バズーカを連射するとは予想外だったが、曲芸に過ぎん。攻撃力の不足を補える物では無い。“20%減”だ」
510Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 09:52:09 ID:AKwU1eWW
 爆発後、広がる煙幕と、ひらひらと舞い散る残骸。見事にアームを撃ち落とし、得意満面のハロルドだったが、
ダグラスは気を緩めなかった。

「来るぞ! 本命だ!」

 煙の中から出現したのは、ディフェンダーガンダムの下半身!
 ハロルドは顔を顰める。

「嫌な思い出が蘇るぜ……」

 突撃隊が地球へ降下し、本格的に重力下での戦いを繰り広げ始めた頃、地球連邦軍がコロニー連合軍への迎撃に
用いた、量産型V7ガンダムによる一斉特攻。雨霰と降り掛かるリムの前に、連合軍は後退を余儀なくされ、それが
連邦軍反攻の切っ掛けとなった。
 ハロルドは過去の怨みを込めた瞳でボトムリムを睨み付け、ジャイアント・バズーカの砲口を向ける。

「木端微塵にしてくれるっ!」

 ズドッ、ドォン!! ガッ、ガアァン!!

 機体を大きく揺らしながら、再び2連射。ボトムリムは一際大きな爆発を起こし、砕け散った。

「“30%減”……」

 立ち込める黒煙を潜り、マーウォルスは不気味に呟く。ガンダムは両腕と下半身を失ったが、それは余計なウェイトを
取り去ったに過ぎない。

「機体重量“50%”。V.S.B.R.シールドスタンバイ。ドライブ全開」

 ディフェンダーガンダムは速度を上げて煙幕を突っ切り、バウ・ワウに迫る!
511Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 09:59:25 ID:AKwU1eWW
「手足を飛ばして、終いは突撃か! ハハッ、こいつは面白い!」
「ハル、笑い事じゃない!! 早く撃ち墜とせっ!!」

 向かい来るディフェンダーガンダムを嘲笑うハロルドに対して、ダグラスは焦る。
 ハロルドは笑い止み、不思議そうに問い掛けた。

「そう慌てるなよ。どうしたってんだ?」
「“V2ガンダム”!! “光の翼”だよ!!」

 デイフェンダーガンダムのドライブから飛散する粒子が、淡い赤紫色に輝いて翼を成す。
 ダグラスの叫びに応えるかの様に、ディフェンダーガンダムは全長100mに及ぶ光の翼を広げて見せた。
 光の翼は見る間に収束して、Iフィールドで形成されたヴェスバーのビームシールドと一体化し、完全な鎧となる!

「なっ、何だぁ!?」
「何でも良い! 迎撃だ!」
「りょ、了解!」

 ズドッ、ドッ、ドォン!

 バウはジャイアント・バズーカを3連射したが、全てビームの壁に阻まれた。最初に命中させた時とは違い、速度を
落とさせる事すら出来ない。これで全8発の通常弾を撃ち尽くし、次は拡散弾を込める!

 バズゥッ、ズゥン!!

 発射された2発のロケット弾は、ビームシールド接触後に破裂し、小さな弾丸を飛び散らせたが、焼け石に水。悉く
オレンジ色の炎を上げながら高熱に溶かされ、辛うじて機体に命中した物もアーマーに弾かれる。
 ディフェンダーガンダムは更に加速し、バウとの距離を狭めて行く。ハロルドは苦し紛れにバズーカを投げ付け、
ダグラスに言った。

「ダグ!! 急上昇だっ!!」
「解っている!!」

 応えるダグラスの声も自然と荒くなる。バズーカはビームシールドに弾かれ、虚しく砂に埋もれた。
 上空に逃れ様とするバウの後を追い、ディフェンダーガンダムは纏っていた光の翼を再び広げる!
512Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 10:05:55 ID:AKwU1eWW
「逃がすかっ……あ?」

 ディフェンダーガンダムが上昇を始めたと同時に、マーウォルスは信じられない物を見た。
 バウの上半身が、急上昇する下半身から外れ、コロッと落ちたのだ。どちらを追うか迷った“一瞬”が命取りとなった。
 ディフェンダーガンダムの真下に潜り込んだバウの上半身は、シールド裏から取り出したショットランサーを右腰に
構えている!

「隙有りっ! 打ち上げ花火だ! 玉屋ぁ!!」

 シュゴォオオッ!!

 ランスが飛び出し、空を裂く! 

「道化が! 小癪な真似を!」

 マーウォルスはドライブを弱め、光の翼を消して機体をバウの上半身に向けたが、遅かった。
 ランサーはビームシールドの弱所、機体底面側を貫いて、右腰のヴェスバーを爆破する!

「くっ、この程度で……うおっ!?」

 ガゴン!

 強がりを吐こうとしたマーウォルスだったが、同時に衝撃がコクピットを襲う。爆風で浮き上がったディフェンダー
ガンダムの背中を、分離したバウの下半身が蹴り下ろしたのだ。

「このオォッ!! 煩い奴等め!!」

 マーウォルスは地面に激突するのも構わず、光の翼を広げて、背面を薙ぎ払った。しかし、怒りに任せた攻撃など、
ダグラスの操縦するバウ・ナッターには掠りもしない。全開のドライブは天に背を向けた機体を地に叩き落とす!
513Mad nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/14(日) 10:13:01 ID:AKwU1eWW
 ディフェンダーガンダムは直後に光の翼を収め、機体を横に半回転させて天を仰いだ。ドライブが大量の砂を
吹き上げ、巨大なクレーターが出来上がる。地面への衝突を何とか避け、バウ・ナッターを追って視線を泳がせた
マーウォルスの目に飛び込んで来たのは、宙返りして急降下して来るバウ・アタッカー!

「全弾、持って行けぇっ!!」

 ドドドドドドォ!!

 ハロルドは両翼のミサイル計6発を撃ち込み、V字に急上昇する。
 襲い来るミサイルを防ぐ為、マーウォルスはビームシールドを展開させ様としたが、右腰のヴェスバーが壊れていて、
完全なシールドを形成出来ない!

「うおおおおおお!!」

 マーウォルスの雄叫びと同時に、大爆発がディフェンダーガンダムを呑み込んだ。
 ハロルドとダグラスは平行に飛行し、モニターの小窓にピックアップされた爆発の跡に目を遣る。

 砂煙が収まった後、クレーター中心のディフェンダーガンダムは、アーマーを破壊されながらも、原形を保っていた。
ハロルドは口笛を吹いて感心する。

「頑丈だな……」
「しかし、これで追っては来られないだろう。既にヴァンダルジアは宇宙に上がった。後は俺達が追い付くだけ……。
 所でハル、済まないが、ナッターのブーストエンジンは限界だ」
「了解。中将殿、ヴァンダルジアまで御送り致します」

 軽く冗談めかしたハロルドは、ナッターを上から抱える様にアタッカーに連結させ、機首を大空に向けた。
 そしてマニュアルアナウンスを始める。

「土星ロケットエンジン作動10秒前。衝撃注意」
「了解。ナッターは進路制御に努める」
「……5、4、3、2、1、ファイア!」

 ゴオオオオオオォ!!

 赤砂で濁った空に、轟音と共に白い炎を噴き、天高く昇る流星。
 賞金稼ぎのガンダムを全滅させた聖戦団員は、真昼の星を見上げ、揃って機体と共に敬礼する。
 バウ・ワウは火星の厚い大気圏を軽々と離脱し、ヴァンダルジアに帰艦した。
514創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 10:19:38 ID:AKwU1eWW
これで8話まで完
度々話の中で上がっている50ミリオンですが、
貨幣単位はドルくらいの価値だと思って下さい

そろそろ容量が厳しいかな?
515創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 20:18:24 ID:nqvgfF/m
ニコニコ一位吹いた
516強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:01:59 ID:Wer5m+P1
おおう、規制に巻き込まれてた……orz
何も悪いことしてないのに。
まとめありがとうございます。御作、いつも拝見しております。あなたに負けないよう、努力します。
517強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:03:49 ID:Wer5m+P1
 闇夜が辺りを覆いつくしていた。星の煌めきは酷く遠く、か細い。
もっと光が欲しい。そうフェンリスが思うと、突如として光が現れ、周囲を照らし出す。
フェンリスは自分が重巡洋艦の中にいることを知った。ジオンの主力宇宙戦闘艦『チベ』級だろう。
その火力は『グワジン』には及ばないものの、『ムサイ』を遥かに越え、連邦軍の『マゼラン』にも対抗できる。
艦橋では忙しく司令部要員たちが動き回り、隷下の艦艇に司令を送り、MS隊の展開を急がせる。
戦場が、すぐ側に迫っているのだ。

(だめだ、行くな)

 フェンリスはこの艦隊の名前を知っている。いや、知っているどころではない。彼は現実にこの艦隊に所属していた。
MS隊の全パイロット、全整備員の名前、司令部要員の高級将校、武器のスペック、すべて知っている。
 そして、その運命も。

(ガンダムには、ニュータイプには勝てない! 引き返すんだ!)

 だが艦隊は止まらない。やがて正面のスクリーンにMSが映し出される。
白と赤と青、いかにも実験機然としたトリコロールカラーに背に負った二本の細い筒のようなサーベル。
そして両手に構えられたビームライフル。
――ガンダムだ。

 閃光が走る。左方向で小さな爆発が生じ、たちまちそれは光を増して巨大な閃光へと変化する。
僚艦が撃沈されたのだ。
チベ艦内は騒然とし、次々とMS隊が発艦。ただちにガンダムを包囲せんとする。

(やめろ! 戻れ!)

 声は届かない。出撃した全てのMSはガンダム目指して走り、何度か火線を交わした後、
光の玉になって消えた。

(あんな、馬鹿げた存在が許されるのか……?
俺たち凡人は、ひと握りのニュータイプに屠られるだけの存在なのか?
俺たちはニュータイプに人類が進化するための、繋ぎなのか?
違う! 断じて違う! 俺たちこそが人類だ!)

 接近するガンダムを前にフェンリスが決意を固めたとき、周囲に変化が生じた。
今まで忙しなく動き回り、状況の報告や司令の伝達を行っていた要員たちが一斉に持ち場を離れ、
ガンダムに魅入っているのだ。
 これはなんだ、とフェンリスが思ったのも束の間。拍手の雨がガンダムに注がれる。

――凄い、凄いぞ。
あれこそ人類の新たな姿だ。
我々とは違う。宇宙に出た人類の正しい姿だ。
きっと、我々を導けるぞ。
彼に従おう。彼についていこう。彼と共に戦おう――
518強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:04:58 ID:Wer5m+P1
 拍手、拍手、拍手。万雷の拍手がガンダムに注がれる。彼らの目は熱に狂っていて、目の前でガンダムが
僚艦を破壊していくのに気付かない。そして僚艦を完全にスクラップにしたガンダムは進路を変更し、
チベに向かう。

(やめろ、奴は敵だ! 俺たち人類の敵なんだ! 何故気付かない!
すぐに応戦しろ、沈められたいのか!? 頼む、戦ってくれ!)

 彼らは戦わない。ガンダムを、ニュータイプを讃えるだけだ。
やがて彼らは一向にニュータイプを讃えないフェンリスを睨みつける。

――オールドタイプめ、お前こそ戦争の源だ。
そんなに戦いたいなら戦うがいい――

 次の瞬間、チベは消え去り、フェンリスは虚空にたった一人『リック・ドム』に乗って漂う自分を発見した。
殺される。そう思ったフェンリスは脱出レバーを引くが、動かない。コックピットを開けようとパネルを叩くが、
これも動かない。そうしている間にもモニターに映るガンダムの姿はどんどん大きくなっていく。
フェンリスは自分の睾丸が縮み上がるのを感じた。
 そして、ビームライフルが突きつけられる。

(助けてくれぇっ!)

 わめき散しながらジャイアント・バズを放つ。無我夢中で放たれたそれは、一発も命中しない。
かち、かちと引き金を絞る音が響くたび、フェンリスは発狂しそうになった。

(いやだ、死にたくない! まだ死にたくないんだ! いやだぁーっ!)

 祈りは届かない。モニターの中で急速に拡大していくガンダムはビームライフルを捨て、
サーベルを引き抜き、リック・ドムの頭部に振り下ろし――
519強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:06:00 ID:Wer5m+P1
「うああぁぁぁぁーーーーーっ!?」

 自分の絶叫でフェンリスは飛び起きた。途端にしゅん、と言う音と共に扉が開き、
部下たちが駆け込んでくる。

「隊長、どうなさいましたか!?」

「あ……あ……、ゆ、夢、か……」

 廊下からの光が見える。その手前では不死隊の部下2人が心配そうな面持ちでフェンリスを見ていた。
荒い息をゆっくりと正し、意識を覚醒させたフェンリスは、ここが地球に向かうシャトルの中であり、
部下2人は左右の部屋で自分の警護をしている要員だということを思い出した。

「……すまない、いつもの悪夢だ。大事無い、戻ってくれ」

「ですが、隊長……」

 フェンリスの頭に血が上る。何故従わない。俺を舐めているのか? それとも貴様らもニュータイプを
讃え、俺のような人間をオールドタイプと見下すのか? 感情が爆発し、口から迸りそうになる。
こいつら、教育してやろうか。残忍な考えすら、頭に浮かんだ。

「大事無い。お前らとて時折見るだろう? 兵士の宿命というやつだ。
おっと、間違っても他の奴らには漏らすなよ? 威厳に関わる。」

 だが口から出てきたのは優しい言葉だった。いつもどおり、強面でありながら身内には優しい隊長を見て
安心した部下2人は口元に笑みさえ浮かべながら、失礼いたしました。と一言残して戻っていった。
後には、闇と静寂が広がる。

「あいつらは俺の体と心の一部だ。無碍にできるかよ……」

 フェンリスとてわかっている。彼らが本心から自分を心配して駆けつけてきたことを。
だが今は一人になりたかった。汗に塗れ、表情をひきつらせた自分など、誰にも見せたくなかった。
 股間に違和感を感じたフェンリスは毛布をめくって心底情けない気分になった。
すぐに鼻をつくアンモニア臭が広がる。漏らしていた。部下たちを下がらせたのは、やはり正解だったようだ。

(こえぇよ。本当に……)

 夢の中に出てきたガンダムを思い出すと、睾丸が縮み上がった。

(だから、許せねぇんだよ)
520強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:07:28 ID:Wer5m+P1


 シャトルはフェンリスと29人の部下を乗せ、北米大陸のオーガスタに降りた。
不死隊300人とは戦争が終わった後も緊密な連絡を取っており、今回の話を回したところ、
誰もがフェンリスと共に地球に下りることを選択した。だが用意できるシャトルには限りがあり、
また、彼らとて戦後の飯の種を得るために何らかの職業についていたため、
すぐにも全員が降下するというわけにはいかず、そこで中核部隊である30人が一先ず降下することになったのである。

「ここがオーガスタ研究所、我々の職場です。もっとも、研究所は多数のセクションに分かれており、
この施設全てが自由に使えるというわけではありません。
我々の属する対ニュータイプ課はもう少し向こうです。エレカを回しました、乗ってください」

 宇宙空間での生活による疲労も、大気圏突入後の1Gによる体のだるさもなんのその、
先頭を切るアスティ課長に導かれ、不死隊30人はエレカに分乗し、広大なオーガスタ研究所の内部を
移動した。
 地球へ向かう旅の途中で聞いたところ、オーガスタ研究所はジオンにおけるフラナガン機関に相当し、
一年戦争の最中から敵軍の真っ只中でニュータイプの研究を推し進めている研究所だという。
しかしジオンのそれがニュータイプの能力の積極的軍事利用――ビットなど顕著だ――に目的を絞り、
『エルメス』『ジオング』など伝説的な成果をあげているのに対して、オーガスタのニュータイプ研究は
政治的な動向やニュータイプへの懐疑、そして技術そのものの遅れなどのためにどうも目的が絞れず、
目標もばらばら、目指す方向もいまひとつはっきりしないままに各セクションが暗中模索で研究を進めている
状態だという話だった。

「もっとも、だからこそ私のような人間がいちセクションを好き勝手に仕切れるわけですよ」

「対ニュータイプ研究か。実際のところ、どんだけ本気なのかね。こいつを立てあげた連邦の有力者はよ」

 ニュータイプとの対決を予期しているからこそ、このような研究も進められているはずである。
ならば理解者が皆無ということもないだろう、と思いつつも、先の話を聞けばこのセクションにどれだけ連邦の本気が
感じられるのかは疑問だった。
 案の定、アスティは苦笑しながら言う。

「可能性としてはあり得るから、立てあげておけ。そんなところでしょうね
ニュータイプの存在そのものにすら懐疑的な人間も連邦の高官には大勢いるのですよ。
アムロ・レイを散々広告塔として利用しておいた癖に、戦後はそれを否定するんですからね。
笑っちゃいますよ」

 そんなところだろうな、とフェンリスは思う。

(まぁいいさ。やがて誰もが気付くことになる。だが気付いたときには遅い。
だからこそ、俺たちがその時に備えなければならんのだ)

「さて、つきましたよ。ここがわたしの研究所です」

 物思いに耽るフェンリスの前に、巨大なMSハンガーに増設された建物が現れた。
521強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:08:47 ID:Wer5m+P1


「おいアスティ、お前さん、俺たちをバカにしてるのか、それともニュータイプに対する理解が足りないのか?」

 対ニュータイプ課を案内されるフェンリスはイライラしながらアスティに詰め寄る。

「当研究所に不満でも?」

 冷静そのものといった様子で答えたアスティに、フェンリスはますます苛立つ。

「大有りだよ、この馬鹿」

 対ニュータイプ課は他のセクションとは少し離れたところにあり、MSハンガーと小規模な演習場を備えているのが
特徴だった。研究所としては異様だが、対ニュータイプ課の研究目的が『MS戦におけるNTの打倒』である以上、
それは当然だろう。当の研究所がボロなのも、フェンリスには余り気にはならなかった。問題は中身である。
 自分達のようなニュータイプへの復讐に燃えた実戦要員と、アスティのような氷の炎を燃やす後方要員が揃っていれば、
どれだけ冷遇されようと結果は出るとフェンリスは考えていた。
 その考えは、研究所を潜って更に強化された。
研究所に詰める白衣の所員達の殆どが、何らかの怪我をしていたのである。
片脚のない男、片腕がない女、目が潰れた女、顔の半面が焼けた男。他の所員たちも、裸にしてみれば恐らく
何らかの怪我を負っている人間が多いだろう。

「シドニー会、と我々は呼んでいます。
コロニー落としで顕著な被害を受け、生きるか死ぬかの瀬戸際に置かれた者たちの連絡会から発展しました。
皆、ジオニズムとニュータイプ思想を絶滅するまでは、死んでも死に切れないと言っています」

 ジオンの軍人を雇ったことは知っているのだろう。刺すような視線を向けてくる者もいる。
何せフェンリスたちがコロニーを落としたのだ。
だがその所員もすぐに興味を失い、自分の研究に没頭し出した。
それが、逆にフェンリス達に信頼を抱かせる。コイツらは本気でニュータイプを消す気だ、と。

 だが、奥に進むにつれてフェンリス達は不安になっていった。
何せ、育児室や保母としか見えない所員がいるのだ。愛くるしいおもちゃに、子供たちの騒ぐ声が響き、
研究所の廊下を走り回る子供たち。
そして止めに奥の部屋に案内され、これこそ私の研究の成果です、と一人の少女を紹介され、
これからあなた方には彼女の相手をしてもらいますと言われたとき、フェンリスの忍耐は限界に達した。

「俺たちはな、ニュータイプを殺しにきたんだ。
元気にはしゃぐガキの相手なんざぁ、ベビーシッターにでも任せるんだな」

「そう仰るのは予想の範疇です。ですが」
522強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:09:42 ID:Wer5m+P1
「いいわ、アスティ。わたしだってこんな大人を相手になんかしたくないわ」

 説明を始めようとしたアスティをさえぎり、少女がフェンリスを睨みつける。

「しかし、ラテア」

「軍施設に子供が大量にいて、奥の奥に隔離されている。
その異様さに気付かずに表面上の事を捉えてああだこうだと言っている大人にニュータイプを殺せるわけがないわ。
こんなのほっといて実験を再開しましょう。付き合っても時間の無駄よ」

 少女は挑むようにフェンリスを睨みつける。歳の頃は12、3歳か。微笑めばさぞ愛らしいであろう
容貌だが、背は低く、服装もどこか幼い。だがフェンリスを睨みつける目は不相応に鋭く、口調は少女とは思えないほど
攻撃的だった。

「ほぉ、中々口の回るガキじゃねえか」

「ガキじゃないわ、ラテアよ。ラテア・リンダム。
最もおじさんのカタイ頭じゃ、そんなことも理解できないのかしら?」

 フェンリスはへらへらと笑うだけだ。だが部下は違う。彼らにとってフェンリスは神に等しい。
侮蔑には、誰であれ制裁を食らわせるのが彼らの流儀だった。
その空気を感じ取ったであろうに、ラテアは動揺した様子もない。逆に鼻を鳴らし、憤然と男たちを見下す。

「いいわ、かかってらっしゃい。格の違いを見せてあげる」

「ラテア! やめないか! 少尉たちも、大人気ないですよ!」

 傍らではらはらしながら事を見守っていたアスティが大声をあげ、場をとりなす。
気勢を削がれた両者はしぶしぶと矛を収めた。

「少尉、説明不足をお詫びします。ですが今一度、言っておきます。
彼女は、間違いなく私の、いえ、オーガスタの研究の一つの結晶なのです」

「すまねぇな、アスティ。俺は嬢ちゃんの言うとおり、頭が固い。
俺もわかるように説明を頼む」

 その積りです、と言ったものの、アスティはどう説明したものか困ったように首を捻る。
痺れを切らしたらしいラテアは前に進み出ると提案した。
523強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:11:12 ID:Wer5m+P1
「アスティ、いい方法があるわ。戦うの!」

「ラテア、きみは黙ってなさい。頭を冷やす必要がある」

「あら、わたしは冷静よ? 安心して、生身で戦うんじゃないわ。MSで戦うの。
試験用のMSが何機かあるでしょう? それで模擬戦をやれば、すぐにわかると思わない?」

 アスティははっとした表情になると、また悩み出した。それを見たフェンリスは気でも狂ったのかと
思い、慌てて詰め寄る。

「おいおい待てよ。元パイロットの俺たちと、このお嬢が戦う? MSで?
アスティ、お前さんがいるべきなのはここじゃなくて精神病院なのかい?
どう見たってこのお嬢ちゃんは12,3歳ってところだろう?」

「アムロ・レイは15歳でガンダムを動かしたわ。最新鋭のMSをね。
ならアムロ・レイを越えるものが12歳でMSを動かすのも当然でしょ?」

「このガキ、MSはオモチャとは違うんだぞ」

「2人とも、やめなさい!」

 再び険悪になりかかった空気を、アスティは両手を強く叩き合わせることで霧散させた。

「いいだろう。ラテア、きみのいうことも尤もだ。少尉、着任そうそうお疲れですが、
表で模擬戦をしていただきたい。機種は2人とも、06J(陸戦ザク)です」

「おいおいまじかよ……泣きべそ掻いてもしらねぇぞ?」

「ふん! ほえ面掻かせてやるわ! 野蛮人!」

 こうして奇妙な決闘が始まった。
524強化人間物語 ◆gQ1F1ucvhk :2009/06/17(水) 18:12:13 ID:Wer5m+P1
本日はここまで、もうちょっとストックあるけど、投下しすぎるのもなんなので。
応援感謝します。がんばりますねー
525創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 19:04:27 ID:v+dDycI5
GJです。
続きが楽しみ
526創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 09:32:00 ID:Fbi9z1eK
何て言うか良いな
反ニュータイプ勢力って本編じゃ描写されてないし強化人間技術もそこまで掘り下げられてないし
続き楽しみにしてるぜ
527創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 17:46:48 ID:hFuzoh2/
容量大丈夫?次スレどうしようか
528MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/06/19(金) 17:50:41 ID:yCMF3lVE
立てておいた方がいいかも
多分あと一人だれか投下したら終わる
529創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 17:56:21 ID:hFuzoh2/
ちょっくらチャレンジしてみる
530創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 17:57:14 ID:hFuzoh2/
…と、テンプレは今まで通りでよかとですか?
531創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 18:05:20 ID:hFuzoh2/
どうせ立てられないだろうと高を括っていたら立ってしまった

だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ3
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1245402223/l50
532創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 18:08:38 ID:hFuzoh2/
取り敢えずはこっちで続けて
投下で容量が危なくなりそうならあっちで
533Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/20(土) 18:32:57 ID:NkcK0yTe
じゃあ埋め投下行きます。
534Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/20(土) 18:35:20 ID:NkcK0yTe
 ヴァンダルジアから遅れる事、数時間……。緊急討伐隊のペリカンが火星を通り抜けた。
 パノラマの窓に手を当て、巨大な赤い星を物珍し気に見詰めるリリル・ルラ・ラ・ロロ少尉。
 その横からセイバー・クロス中尉が声を掛ける。

「火星を見るのは初めてか?」

 振り向いたリリルは、暫しの沈黙後、素直に答えた。

「はい。……クロス中尉、済みませんでした」
「何を謝る?」

 突然、視線を伏せて謝ったリリルに、セイバーは困惑する。リリルは遠慮気味に声を発した。

「私のガンダムの修理を優先させて戴いて……」

 ペリカンに乗艦している整備士の人数は限られている。セイバーはΖU]の修理を応急程度で済ませ、大破した
ガンダムヒマワリの修理を急がせた。

「気にするな。今度から君は、俺の部下として働いて貰う事になるんだ。何は無くとも、機体が使えないと話にならない」

 責める様な言い方を避け、優しく言ったセイバーだったが、“部下として”の件でリリルが微かに反抗的な目付きに
なったのを見逃さなかった。

 戦場での経験豊富なセイバーに指揮を執らせようと言う、ミッハ・バージ大佐の判断は正しい。
 彼はリリルが撃墜された事を口実に、セイバーの階級を一時的に上げてリーダーに任命し、リリルが彼の命令に
従わざるを得なくした。
 リリルも任務失敗後に何らかのペナルティを受ける事は承知していたのだが、他人の思惑通りになっている事が
気に入らなかった。ニュータイプであるが故に、尚更。

 彼女の態度に、セイバーは穏やかな口調で念を押す。

「俺への個人的な感情がどうだろうと、別に構わない。ただ、命令には従ってくれ」

 内心を見透かした様な彼の言葉に、リリルは反感を強めて口を閉ざした。
535Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/20(土) 18:49:09 ID:NkcK0yTe
 気不味い沈黙にセイバーが溜息を吐いた時、背後から彼に声を掛ける者がいた。

「そこに御座すは撃墜王殿じゃありませんか! この様な所で油を売っていて宜しいのですかなぁ? 機体の整備なり
 何なり、やるべき事は幾らでもあるでしょうに……」

 振り向いたセイバーとリリルに、嫌味な笑みを向けるスイーパーの男性2人。共に黒いパイロットスーツに身を
包んでいる。セイバーに声を掛けたのは、気取った態度のズー・カンバーノ。慇懃無礼な振る舞いに、リリルは顔に
表れる不快を隠さなかった。

「名ばかり撃墜王に、素人の子供。土星の魔王を仕留め損なうのも当然だ」

 続いて、冷たく見下す様に言い放ったのは、ブラド・ウェッジ。
 如何にも柄の悪い2人に、どう対応したものか……。セイバーとリリルが困っていると、別の男性の声が聞こえた。

「お前等、出撃前に何をしている?」

 ブラドとズーの背後から歩み寄って来た男女。先程の声の主は男性の方、名はジェント・ルーク。赤いスカーフで
口元を覆っている隣の女性は、ミノ・カレン。共に黒いパイロットスーツを着ている。

 ミノ、ジェント、ブラド、ズー。彼等は“ゴートヘッズ”と呼ばれる4人1組のスイーパー。
 ジェントの言う通り、ゴートヘッズは今からギルバートを追って出撃するのだが、緊張感は欠片も無い。その余裕には
裏がある。スイーパー組織の所属で、場慣れしている事もあるが、何を隠そう、逃亡中のハロルドとダグラスを捕らえた
スイーパーと言うのは、彼等ゴートヘッズの事なのだ。

 ジェントは呆れ顔で、ミノは無言で、諫める様にブラドとズーを見詰める。2人は、ミノとジェントに向かって戯ける様に
肩を竦めて見せ、立ち去った。
 ブラドとズーの背を見送った後、ジェントはセイバーに向き直る。

「悪かったな。同じ獲物を狙う以上、どうも対抗意識が表に出る様で」
「ああ、気にしちゃいない」

 意図的なのか判らないが、セイバーに謝ったジェントは、愛想笑いで応えた彼を無視する様に踵を返した。
 残ったミノは、無表情でリリルの肩に軽く手を置き、一瞬だけ意味不明な笑顔を見せた後、撓やかな所作で悠々と
ジェント等の後を追う。
 リリルは馬鹿にされたと思い込み、すっかり御冠。セイバーは苦笑いするしか無かった。
536Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/20(土) 18:51:52 ID:NkcK0yTe
 ペリカンから出撃する、4機のガンダム。
 目立つトリコロールに青い鎧、右肩に大型カノンを担いでいる機体は、ハイパーウェポンガンダム。
 骨十字を背負い、巨大なブラスターを携えている機体は、ソードボーンガンダム。
 赤いエイの様な外観の機体は、ガンダムエピオンWのMA形態。
 そして、両腕部にブレードを畳み込んでいる白黒の機体は、フーマガンダム。
 ゴートヘッズのガンダムは全機、横一文字線が入った片眼鏡の様なセンサーゴーグルを、左目に装着している。
それが山羊の目に見えるので、“山羊頭”。
 ゴートヘッズは2度目の魔王討伐に乗り出す。その結果や如何に……!

 パノラマからスイーパーを見送るリリルは、未だ御機嫌斜めの様子で、セイバーに訊ねた。

「何故、言い返さなかったのですか?」
「事実だからだ。口先だけなら何とでも言える。言い負かすのではなく、成果を見せ付けなければ」

 リリルは得心出来ず、尚も問い掛ける。

「成果も何も、先を越されては……」
「結構じゃないか。奴等が土星の魔王を仕留めれば、任務完了だ。張り合う事は無い」

 全く動じないセイバーに、脹れて黙り込むリリル。それを見たセイバーは彼女に苦言を呈する。

「リリル・ルラ・ラ・ロロ、少尉を名乗るならば、自身が軍属である事を忘れるな。心配せずとも、好機は巡って来る」

 最後の一言は、傍には単なる慰めに聞こえるだろう。しかし、リリルはセイバーの言葉から、確信めいた物を感じ
取った。彼は軍人としての心得を説きながら、心内では間違い無く、“そう”なると思っている。
 それが果たして何に由来する自信なのか、リリルには理解出来なかったが、根拠の無い予測とは違う様に思われた。
537Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/20(土) 18:54:40 ID:NkcK0yTe
 火星を発ち、アステロイドベルトに向かっていたヴァンダルジアは、後方から迫る3機のMSを捉えた。ブリッジの
モニターに映し出される、ハイパーウェポンガンダム、ソードボーンガンダム、ガンダムエピオンW。見覚えのある
機体に、ハロルドとダグラスは驚いた表情を見せる。
 複数のMSによる追撃に周囲が動揺する中、ハロルドは不敵に笑い、ローマンに声を掛けた。

「奴等か……こんな所でリベンジの機会が訪れるとは! ローマン特別監査官、早く出撃命令を!」
「良かろう。今回は……」
「ダグ、出るぞ! あの時は消耗した状態だったが、今度は違う。目に物見せてくれる!」
「ハロルド・ウェザー、人の話は最後まで聞け!」

 言い終えるのを待たずに駆け出したハロルドに、声の調子を上げるローマン。ハロルドは面倒そうに振り返る。

「未だ何か?」
「相手は腕利きのスイーパーグループだ。クーラー少佐と共に……」

 怒りを落ち着け、努めて冷静に命令し様としたローマンだったが……。

「無用。黙って見ていろ」

 ハロルドは無碍に断った。建前上の上官とは言え、その命令を無視出来るのは、ハロルドが自身を聖戦団の
一員と認めていないからに他ならない。ローマンの部下になった覚えは無いので、気に食わない命令には従わないと
決めているのだ。

 ハロルドとローマンの遣り取りを見ていたクーラーは、横から冷やかす。

「おや、良いのかい? 危なくなっても助けてやらないよ」
「結構だ! 女は引っ込んでろっての!」
「何っ!? おい、待て!!」

 ハロルドは生意気に応えると、逃げる様にブリッジを出て、格納庫へ走った。彼の背を睨み、怒りを溜め込んで
腕を組むクーラー。ダグラスは申し訳無さそうにローマンとクーラーに謝った。

「済みません。しかし、俺も同意見なんです。万一の時は、お願いします」

 そしてハロルドの後を追って駆け出す。開いた口が塞がらない、ローマンとクーラー。
 ヴァンダルジアのクルーは皆、呆れ果てた様子の2人を見て、くすくすと声を殺して笑った。
 第1突撃隊に属する者には、見慣れた風景である。

 ローマンは隣のヴォルトラッツェル艦長を睨んだ。

「何が可笑しい?」
「いえ、思い出し笑いです。済みません」

 ヴォルトラッツェルは何とか笑いを収めて答えたが、にやけた顔は戻らなかった。
 クーラーと揃って、渋い顔で腕を組むローマンが、より可笑しい。ブリッジの不謹慎な雰囲気は暫らく続いた。
538創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 18:58:10 ID:NkcK0yTe
埋まりませんでした、と。
後20KBくらい。
更に微妙になってしまった。
539MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/06/20(土) 23:37:09 ID:2Cz802yr
じゃあ短いけど置いておこう

蒼の残光 9.連合艦隊編成 中篇

540MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/06/20(土) 23:38:44 ID:2Cz802yr
 シェルーと共に執務室に戻るユウは、途中の廊下でホワイトと鉢合わせした。
 ホワイトとユウは互いに目を逸らさず、ゆっくりと歩いた。既にユウが尾行に気付いて
いる事をホワイトは聞いているはずだ。ユウはその件に関してルロワにもホワイトにも問
いただしてはおらず、ホワイトもまたユウに直接は何も言ってこない。大規模な作戦行動
を前に司令官と中級指揮官の間には不信感と言う名の溝が出来上がりつつあった。
 一言も発しないまま両者がすれ違った時、先に口を開いたのはホワイトだった。
「中佐。この度の作戦行動で貴官と確認しておきたい事がある」
 ユウが足を止めた。
「少尉、先に戻っていてくれ。私は准将と少し話してから戻る」
「――はい」
「コーヒーの準備をしておいてくれ。少し薄めに頼む」
「承知しました」
 場に張り詰めた空気を感じていたシェルーは内心ここから離れられる事に喜びながら執
務室に戻っていった。
「――して、確認したい事とは?」
 最低限の礼儀だけを守って質問した。事を構えるつもりもないが盲従するつもりもない。
「私の部屋に来てくれ。そこで話そう」
 ホワイトの執務室に入ったユウは勧められるままにソファーに座り、ホワイトの出方を
待った。ホワイトは自ら紅茶を淹れるとユウの前にカップを置いた。
「中佐、奥方の具合はどうか?」
 ホワイトは訊いた。
「単なる疲労とストレスだと言われました。もうすぐに退院できると思います」
「そうか。それはよかった」
 頷いて、すぐに
「貴官と奥方が知り合ったのは四年前だったな?」
「ほぼ五年になります、准将」
 ユウは訂正した。
「そうか、失礼した。それ以前には面識はなかったのだな?」
 ユウは答えなかった。質問の意図を探っていたからではない。自分自身に同じ問いをし
た事があるからだった。
 サマナ・フィリスが入院した病院で初めて出逢った新人の看護士。しかし、誰よりも彼
自身が強い既視感を感じていた。自分はこの少女を知っている。
 だが場所も、状況も全く思い出せない。さらに言うなら顔にも声にも覚えはない。ただ、
その存在だけは確かに知っている。
 結婚生活を送る中でその違和感は徐々に薄れていき、些細な事として記憶の片隅に追い
やられていたのだが……。
「ありません。同僚の入院先で出逢ったのが最初です」
「……なるほど」
 ユウの答えのタイムラグには触れず、ホワイトは書類の束をテーブルに置いた。リーフ
ェイがルロワたちに示した文書のコピーだった。
「見たまえ」
 ユウはそれを手に取り、ページをめくっていき――手が止まった。
「この写真は?」
「市内の監視カメラの映像から抽出したものだ」
「何故家内が監視対象になっているのです?」
「奥方ではない」
 ホワイトが否定した。
「対象は相手の男だ」
 ユウは写真の男を見直した。見覚えのない男だった。
「その人物はある旅行会社の観光客だ。ただしその会社は実体のないダミー会社で、ツア
ーと称して何度もここを訪れている割にはそれ以外の活動記録が一切ない」
 ケイタ中佐がそんな話をしていた事をユウは思い出した。
「つまり、この男がアクシズ残党の一人だと?」
「その可能性は極めて高い。現実にこの時ではないが、過去のツアー参加者としてアラン
・コンラッドの姿も確認されている」
541MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/06/20(土) 23:39:28 ID:2Cz802yr
 ユウにも話の全容が見えてきた。
「マリーが一味だとでも言うおつもりですか?」
 声が剣呑さを増した。ホワイトは動じる事なく正面からユウを見ている。
「現在まで判っている事は、奥方がこのツアー関係者と接触したのはこの一回だけである
事、この映っている場面の様子から二人がかなり親しい関係である事が予想される事、口
の動きから察する限り、奥方は男を『オリー』と呼んでいる事くらいだ。男は彼女の事を
『マリア』と呼んでいるようにも見えるが、口の動きが小さくて読み取れん」
「…………」
「その映像は一月六日の話だ。その頃の奥方に何かおかしなところはなかったか?」
 ユウは目をつぶっていた。彼の頭にあるのはたった一つだった。つまり、正直に言うか、
ごまかすか、である。
「その日は古い友人に逢った、と言っていました。それが誰なのかは言わなかったし、こ
ちらも訊きはしませんが、とても上機嫌であったと記憶しています」
 そのままを伝えた。これで相手の正体は知らないと准将が判断する事を期待しながら。
 ホワイトも頷いた。
「つまり今の彼の事は何も知らないと言う事か。それが演技である可能性は?」
「ないでしょう、恐らく。演技をするならそもそも何かあったような態度をとる必要があ
りません」
「筋は通っている、か……」
 ホワイトは腕組みをした。
「奥方の経歴を確認してみた」
 ホワイトが話題の方向を変えた。ユウが答える。
「それは結婚の際に当然行われているはずですが」
「そうだ、そしてその書類に一切疑わしい部分はなかった。だが、その書類上の完璧さに
比して、彼女にはあまりにも知人が少なすぎると思わんか?十四歳で両親を失ったとある
が、その後彼女は誰の庇護下で育てられた?保護者の名前はある。だが貴官の結婚式にそ
の養育者が出席していたか?」
「…………」
 ユウは沈黙した。マリーは招待状を出したが、出席は出来ないと返事が来たと説明され
た。一度挨拶に出向いたものの、対面は十五分程でしかなかった。奇妙には感じたものの、
それ以上考えた事はなかった――。
「中佐、この事は基地内でもごく一部の人間しか知らない事だ。無論ブライト大佐もスキ
ラッチ中将も知らん。なぜならこの件を公にする事自体が大きな利敵行為となり得ると考
えられるからだ」
 これを追求すればユウは拘束とまでは言わなくても当面指揮権はもちろん、寝返りの可
能性がある戦場への参加もさせるわけにはいかない。それはただでも強力なNTやエース
を擁する敵に対し、著しい不利を被る事になる。
 言い換えれば、己の潔白は戦場で証明して見せろと言う事でもある。
「……寛大なご処置、感謝します」
 ユウはそれでも謝辞を述べた。この瞬間、ユウと司令部の間には信頼関係とは遠い意味
での共通意識が生まれた。
542MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/06/20(土) 23:40:30 ID:2Cz802yr
RGM-86R-LA ジムVライトアーマーA
第一次ネオジオン抗争終盤、AE社は連邦軍次期主力MSとして量産型百式改を提案するが、主にコスト面で折り合わず
不採用となり、AEは連邦軍開発のジムVをノックダウン生産しつつ、新たに生産性を重視した新型量産MS(ジェガン)
を開発する事で合意した。
しかし、支援機的性格の強いジムVはすぐに前線のパイロットの間から不満の声が上がり、急遽高速空間戦闘能力を
重視した改装型の設計、開発を要請された。
厳しいコスト面の制約の中、一年戦争期のジム・ライトアーマーをコンセプトとすることに決定、アーマーの削減と
軽量化を徹底する事で運動性と関節の可動域を広げる事を目的に改良が加えられる。
ムーバブルフレームを持つジムVはジム以上の大胆な装甲の省略が可能となったが、結果としてムーバブルフレーム
の露出したデザインは量産型百式改に拘ったAEの意趣返しとも言われる。
尚、本来はジェネレータ出力はベース機と変更はないが、一部のエース機の中にはジェネレータ出力をブーストアップ
した機体も見受けられる。


ここまで
やべえさらに微妙になった
543創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 04:06:58 ID:MMI/pJTL


あと容量どれくらいだっけか?
544創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 05:01:40 ID:favPOAtz
だいたい480を越えた辺りで判定が入るはず
545創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 07:17:43 ID:QrZiUpqu
あと10KBだね
546創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 15:19:56 ID:YD4N7izB
1スレ目まだ生存しとるw
480じゃダメみたいだ
547創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 17:13:46 ID:QrZiUpqu
あれは生ける屍だなあ
548創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 17:17:52 ID:V7V9VBNs
容量で落とすなら500KB越えだよー
549Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/21(日) 17:49:36 ID:QrZiUpqu
この投下で落ちるかな?
550Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/21(日) 17:55:59 ID:QrZiUpqu
 ヴァンダルジアから出撃したバウは、艦を戦闘に巻き込まない様に、自らガンダムに向かう。

 向かい来る黄土色のバウを確認したジェントは、ブラドとズーに指示を出した。

「ブラド、ズー! レイジング・テンペスト、フォーメーション!」
「了解!!」

 ブラドとズーは声を揃えて答える。
 ズーが搭乗するハイパーウェポンガンダムは全身からミサイルを一斉発射。続いてブラドのソードボーンガンダムが
ブラスターを構え、ビームを連射。
 ミサイルの雨の中、雷の様にビームが走る。レイジング・テンペスト、即ち、荒れ狂う嵐!

「ダグ、突っ込むぞ!」
「ああ!」

 ハロルドはダグラスに声を掛け、恐れず嵐に飛び込む!
 シールドを前にメガ粒子砲を連射し、ミサイルを掻い潜るバウ。
 ハイパーウェポンガンダムとソードボーンガンダムを狙ったメガ粒子砲は易々と避けられたが、同時にミサイルの
雨が止む。ハロルドは勢い込んだ。

「良し、抜けた……っと、おおっ?!」

 しかし、直後にバウの機体が大きく揺れる。左足に巻き付いた黒い鞭……エイの尾、エピオンのヒートロッド!
 ガンダムエピオンWはMA形態で、バウの左側面に回り込んでいた。

「ズー、呑み込め!!」

 ジェントは声を上げ、エピオンをMS形態に戻して、鞭を大きく振り上げた。無重力の世界、軽々と釣り上げられた
バウに、ハイパーウェポンガンダムの右肩に担がれたハイパー・メガ・カノンの砲口が向けられる!

「ハル、切り落とせ! シールド!」
「このっ!」

 以心伝心。ハロルドはダグラスの声に応え、右手に持ったサーベルでヒートロッドを切断し、左腕のシールド裏に
隠れる様に極大ビームを防ぐ。シールドの対ビームコーティング塗装は完璧。
551Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/21(日) 18:00:58 ID:QrZiUpqu
「甘い! 真っ二つだ!」

 荒れ狂う嵐は止まない。ビームを受け止めて動きが止まったバウの右側面から、ブラドのソードボーンガンダムが
迫る。ブラスターの銃身から7対と銃口から1本、計15本のビームサーベルが伸び、1本の巨大な剣となった。それを
バウの頭上に振り下ろす!

 バシッ!

 ビームサーベルで受け止めるバウだが、ブラスターとの出力差は圧倒的で、ジリジリと押されて行く。

「このまま押し切る!」

 ブラドは機体の出力を上げた。骨十字が火を噴き、フェイスカバーが開いて高熱を排出する!

「ブラド、離れろ!」
「あ?」

 ブラドはジェントの命令を直ぐには理解出来なかった。不意に、ソードボーンガンダムの体勢が右に大きく傾く。

「馬鹿が! 俺と切り結んだが最期よ!」

 気を吐くハロルド。バウの下半身、スカートの下から伸びる隠し腕が、ソードボーンガンダムの右足と骨十字の
右下一部を切り裂いていた。

「どうだい? 俺の相方の逸物は!」
「ハル、下品な言い方は止めてくれ」

 ダグラスはハロルドを嗜める様に言いながら、バウの機体をソードボーンガンダムの左側に回り込ませる。
 同時にハロルドがサーベルでソードボーンの首を刎ねた。ダグラスは空かさず下半身のみを1回転。回し蹴りで、
首無しのガンダムを蹴り飛ばす。

「先ずは1機! ハル、次はエピオンだ!」
「了解! あいつがヘッドらしいな!」

 ビームライフルで残る2機を牽制していたハロルドは、ダグラスの指示を受けてエピオンに狙いを定めた。

 メインカメラと片足、そしてスラスターの一部を失ったブラドは、生存と脱落を仲間に伝える。

「悪い……。リタイアだ」
「功を焦って先走ったか……。ズー、作戦変更だ。お前はギルバートを追え」
「了解。怖い魔王はリーダー達に任せます。楽な仕事で御免なさいよ」

 呑気な声でジェントに従うズー。バウを大きく迂回し、ギルバートに向かう。

 ガンダムエピオンWに突撃し様としていたバウは、ハイパーウェポンガンダムの動きに気付き、進路を変えた。

「おっと、行かせるか!」
「……待て! ハル、左だ!」

 他所見をしていたバウに向かって、2本の短刀が飛んで来る!
 ハロルドはダグラスの助言の御蔭で、何とかシールドでダガーを弾いた。死角からの攻撃にハロルドは驚く。

「今のはエピオン!? それとも骨十字の奴か……?」
「いや、どちらも違う……。ハル、気を付けろ。ヴァンダルジアは艦長に任せて、集中力を切らすな」

 レーダーにはソードボーンガンダムの残骸と、ガンダムエピオンWのみ。しかし、ダグラスはエピオン以外に、もう
1機のMSの気配を感じていた。
552Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/21(日) 18:09:22 ID:QrZiUpqu
 バウ・ワウを振り切り、ヴァンダルジアに接近するズーのハイパーウェポンガンダムに、艦内の緩んでいた空気は
一瞬にして張詰めた。
 機銃による迎撃を、重武装の見た目からは想像出来ない機動力で避けるウェポンガンダム。
 ローマン大佐は苛立たし気に、一度だけ足を踏み鳴らす。

「そら見た事か! クーラー少佐、直ちに迎撃を!」

 頷いて駆け出したクーラー少佐だったが……。

「ローマン大佐、ここは我々に御任せ下さい」

 ローマンの命令に、ヴォルトラッツェル艦長が口を挟んだ。

「MS相手に戦艦で何が出来ると言うのだ!」

 怒りを滾らせるローマンを無視し、ヴォルトラッツェルは格納庫へ向かおうとするクーラーを呼び止める。

「……クーラー少佐、何処へ行く! 特別大佐の命令を忘れたか?」

 クーラーは予想外の展開に戸惑いを隠せない。それでも彼女はローマンの命令に従うのが道理と考え、反論した。

「ヴォルトラッツェル中佐、今は……」
「今は緊急時だろう! 何より、最大の権限を持つ私が命令しているのだ!」

 クーラーの言葉を引き継いで気色ばむローマンに対し、ヴォルトラッツェルは冷たい視線を向ける。

「失礼ですが……ローマン大佐、部隊指揮経験は?」

 鋭い質問にローマンは口を閉ざした。用兵に関して多少の知識はあるが、その程度なのだ。
 ヴォルトラッツェルはローマンとクーラーに目を遣り、自信に満ちた態度で言う。

「……まあ、御覧下さい。これが第1突撃隊の戦い方です」

 その後、声色を変え、艦橋に勇ましい声を轟かせた。

「相手は1機、蹴散らすぞ! 弾幕を張って、敵機を誘い込め! 総員、衝撃に備えよ!」
553Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/21(日) 18:24:12 ID:QrZiUpqu
 ハイパーウェポンガンダムは何の苦も無く弾幕を避け、艦の周囲を泳いで様子を探る。

「……単調な攻撃だ」

 ズーは攻撃の死角を探していた。戦艦には必ずと言って良い程、無防備な部分が存在する。元々、戦艦は接近戦を
想定して造られていない。懐に飛び込めば、後は煮るなり焼くなり好き放題。

 そんな事はヴォルトラッツェルも重々理解している。彼は不安な表情を見せるローマンとクーラーを他所に、不敵に
笑った。普段は落ち着き払っているが、彼もまた突撃隊の一員である。他の突撃隊員に負けず気性は強い。
 ヴァンダルジアを恐れているかの様に、遠巻きに様子を窺い続けるガンダムを嘲る。

「所詮はスイーパー、戦艦の恐ろしさを知らんか……。連邦軍の張子の虎とは違う所を見せてくれる」

 笑みを浮かべたのは、ズーも同じ。艦体側面に死角を発見した彼は、ハイパー・メガ・カノンのチャージを始めながら
安全地帯に移動する。

「これで終わり、と……。本当に楽な仕事で、申し訳無いね」

 ズーが艦体に取り付こうとした時……。

「愚かな……。当てろ」

 ヴォルトラッツェルは低く重い声で命令した。
 巨大な艦体は、ハイパーウェポンガンダムのモニター前面を覆い、距離感を惑わせる!
 ズーが異変に気付いた時は遅かった。
554Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/21(日) 18:28:19 ID:QrZiUpqu
「うおぉっ!?」

 ゴゴォン……。

 ヴァンダルジアの体当たりを喰らい、撥ね飛ばされるハイパーウェポンガンダム。死角から弾き出されたガンダムに、
全ての機銃が向く!

「一斉射撃! 撃てえぃ!」

 ガガガガガガッ!

 ヴォルトラッツェルの号令と共に無数の弾丸が発射され、ウェポンガンダムは爆発に包み込まれる。

「気を緩めるな! メガ粒子砲用意……」

 彼が警告した通り、ウェポンガンダムはカノンとアーマーを捨て、煙幕から抜け出した。

「大人しく沈んでくれないかな!!」

 ズーは怒りに燃え、背中の2本のハイパー・ビームサーベルに両手を掛けるが……既にヴァンダルジアの主砲が
ガンダムを捉えていた。

「発射ぁ!!」
「だあぁ!? 待った待った!! えぇい、Iフィールド作動!!」 

 バッシュゥウ!!

 大口径ビームがハイパーウェポンガンダムを包み込む。
 小型Iフィールド発生装置がコクピットを守ったが、両手足と頭部は消滅し、文字通り手も足も出ない状態。
 ズーは下手な動きを見せず、ヴァンダルジアが遠ざかるのを待ちながら、仲間に通信を入れる。

「これは参った。済みませんでした」
「お前等は……! あれだけ撃墜王を揶揄しといて、何という様だ!」
「撃墜王も失敗してるから、御相子じゃないですか」
「そういう問題じゃない! そこで暫らく頭を冷やしていろ!」
「言われなくても動けませんよ」

 飄々とした態度でジェントの怒りを躱すズー。ジェントは乱暴に通信を切り、苛立ちの目でバウを睨んだ。
555創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 18:29:28 ID:QrZiUpqu
これで前スレと同じ容量。
放って置けば書き込みできなくなるはず。
556創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 19:39:16 ID:QrZiUpqu
埋めついでに、裏設定スレ行きのを晒す。

・ハイパーウェポンガンダム
 ズー・カンバーノの愛機。
 基はフルアーマーΖΖガンダム。所々センチネルやFAZZが混ざったり。ハイ・メガ・キャノンはオミットされている。
 武装はバルカン、ビームキャノン兼ハイパー・ビームサーベル、ダブルビームライフル、ミサイルランチャー、
 ハイパー・メガ・カノン。変形不可。シールド無し。ハイパー・メガ・カノンはジェネレーター内蔵。
 コクピットをビームから守る、小型Iフィールド搭載。
 武器にハイパーって付くからハイパーで良いじゃん→ハイパーウェポンガンダム。
 ゴートヘッズの片眼鏡は、センサーや視覚情報を共有する為の物。横一文字線はザンスカールの狐だか猫だかの目。
 あれは山羊とか羊の目と言うべきだと思うんですよ。
 それと戦艦は置物ではありません。さっさと撃破しましょう。バスとかトラックの幅寄せって怖いよね。

・ソードボーンガンダム
 ブラド・ウェッジの愛機。
 基はクロスボーン・ガンダムX3。最大威力の武器はブラスター。特に変わった設定は無い。シールド無し。
 ブラスターは狙撃・中距離戦・近距離戦と万能の上、ジェネレーター内蔵。
 性能的にもパイロット的にも弱くは無い。基本的に主人公機は弱いので、裏を掻いて勝つ。
 ソードボーンはsword born。bone違い。

・バウ・ワウ・ナッター
 ビームサーベル内蔵の4本爪隠し腕、通称「鳥足」がある。アタッカーと同じく土星ロケットエンジン搭載。
 隠し腕以外の武装は無いが、爆薬のスペースにはプロペラント、ジェネレーターその他が詰まっている。
 鈍重な上半身とハロルドの我儘を、ダグラスと共に支える縁の下の力持ち。
557創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 19:54:11 ID:SiUMUqGM
書き込みできなくなるのは500KB超えてからだからこのスレはまだ17KBも余ってる
SSの一つや二つはまだ余裕でしょ
558MAMAN書き ◆R7VZxu4aYKCk :2009/06/21(日) 20:04:20 ID:XPh5ZbDf
全回は大作投下で前スレを避けて、雑談してるうちに容量超えるかなとか言ってたら廃墟化して書き込みもできな区なった気がする。
入りそうになければ次、僕の一回分と同じくらいならここで丁度いいかもしれない
559創る名無しに見る名無し:2009/06/21(日) 20:31:44 ID:QrZiUpqu
じゃあ前スレは何で落ちたんだろう
容量と放置日数に関係あるのかな
560Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:13:11 ID:+RDZIclK
みんなどこへいった……
561Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:15:04 ID:+RDZIclK
取り敢えず埋め投下します
562Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:17:48 ID:+RDZIclK
 バウ・ワウとガンダムエピオンWの戦いは、膠着状態に陥っていた。

 何度も接近を試みたガンダムエピオンWだったが、バウ・ワウは距離を保って近付けさせなかった。
 バウ・ワウの攻撃はビームライフルの狙撃のみ。大威力のバズーカとメガ粒子砲は決して使わない。

(こいつ……判っているのか? いや、それにしては反応が鈍い。“未だ”捉え切れていない)

 ジェントは心を落ち着ける為、静かに深呼吸をした。焦らずとも、弾切れにさせれば幾分有利になる。ブラドとズーが
墜とされた今、ギルバートは他に譲っても、ここは確実に魔王を仕留めると決めていた。

 対するハロルドのフラストレーションは溜まる一方だった。
 射撃は命中しない。接近し様とすると、ダグラスが正体不明の敵意を感じ、彼を制止する。同じ理由で、大きな隙が
出来る大威力兵器を使わせて貰えない。牽制の為に、当たらないライフル狙撃を続けるしか無かった。

「全く、よく避けやがる。奴もニュータイプか……」
「……判らない。そこまで強力なプレッシャーは感じないが……」

 ハロルドの独り言に答えるダグラスの声は惑いを含む。“その程度”の相手なら先読みも容易い筈なのだが、何故か
“命中する瞬間”が浮かばない。“見えない敵”と相俟って、自然と用心深くなる。

 ガンダムエピオンWには、OZシステムというニュータイプ能力を補助する機能が備わっている。ゼロシステムを基に
完成したOZシステムは、感知能力の拡大と予測補正を行って操縦者に伝える。能力の高い者には余計な荷物で、
非能力者には無用の長物だが、ジェント・ルークとは非常に相性が良かった。それでも……。

(“見えていた”のに、裏切られる。行動が予測と違う。何故……くっ、他所事に気を回すな。優位には変わり無い)

 思い通りの結果が得られない。その度に、ジェントは小さな不安を募らせる。
 逃げの一手を嫌ってランダムに無謀な突撃を試みるハロルドは、OZシステムの予測外だった。
563Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:21:46 ID:+RDZIclK
 互いに仕掛ける素振りを見せては、後退を繰り返す。先に限界を迎えたのはハロルドだった。

「どうにも性に合わん。ダグ、未だ捕捉出来ないのか?」
「難しい。気配を完全に消している。それに敵意を隠すのが上手い。こちらが隙を見せた瞬間、辛うじて殺意が判る
 程度だ。位置を把握出来ない……。可也の手練れと見て間違いない」

 深刻な面持ちで答えるダグラスに、ハロルドは笑顔で言う。

「良し。隙を見せれば良いんだな?」

 その自信に満ちた声に、焦りの色を露にするダグラス。彼にはハロルドが何をする気なのか解った。
 シールドをガンダムエピオンWに向けて突き出すバウの上半身。背面スラスターが炎を噴く!

「止せ、ハル!! 上だっ!!」

 ダグラスはバウの両脚を前方に投げ出し、足裏のスラスターと脚部バーニアを全開にして、突進を止めた。

 カンッ!!

 同時に、バウの角飾りと左腕が、奇麗に斬り落とされる。

「何っ!? こんな近くに!?」

 ハロルドは背面スラスターを停止させ、ダグラスに合わせて胸部バーニアを全開。即座に後退姿勢に入った。

 バウ・ワウの左腕を肘から切断し、シールドと機体の間に割って入ったのは、フーマガンダム。両腕部に畳まれた
ブレードをパタの様に展開し、後退するバウ・ワウを追撃する。

「やってくれたな! よくも自慢の鶏冠を!」

 ハロルドは後退姿勢を保ちながら、ビームライフルを前方に差し出して構えた。
564Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:27:32 ID:+RDZIclK
 フーマ・ガンダムのパイロット、ミノ・カレンは落ち着いていた。必殺の一撃こそ避けられたが、既に得意の距離。
加速して密着すれば、ライフルは無力。後はブレードで機体を貫くだけ……。

 バウがエピオンと対峙している間、ミノは幾度も奇襲を掛けようとしていたが、その度に感の鋭いダグラスに攻撃の
タイミングを外されていた。先のハロルドの迂闊な行動は、意外な好機。それでも彼女は気負わず、焦らず。過ぎた
事を気に留める様子は全く無かった。忍耐強さと醒めた感覚が彼女の長所。

 当たらないバウ・ワウのビームライフルは無視。隠し腕を警戒しながら、先ずは上半身、ハロルドの居るコクピット、
首の付け根を狙う。

 確かに、バウ・ワウのビームライフルはフーマガンダム“には”当たらない。ハロルドが狙うのは……。

「危ない!!」

 ミノの後方から状況を俯瞰していたジェントの声が、彼女の耳に届く。しかし、遅かった。

 メガ粒子砲内蔵、左腕大型シールド。裏面には対ビームコーティングが施されていない。ハロルドは大量の武器を
シールド裏に隠し持つ。ジャイアント・バズーカ、ショットランサー、ハイドボンブレイヤー……当然、その弾薬も。そこに
ビームが当たれば、どうなるか!?

 ドオォン!!

 木端微塵に散るシールド。八方に飛び散る弾。バウ・ワウはフーマガンダムを盾代わりにする。

 拡散弾とシールドの飛礫が、背後からフーマガンダムを貫いた。背を押され、予定外の速度が加わる。同時にバウ・
ワウは後退を止めて前進。装甲の隙間からコクピットを狙ったフーマガンダムのブレードは、バウの後頭部を掠める!
 バウはフーマガンダムと正面衝突。折れた角がセンサーゴーグルを貫いて左目を抉る。

 バキッ……メキッ。

 フーマガンダムは糸の切れた操り人形の様に、完全に沈黙した。

「貴様、リーダーをっ!!」

 ジェントは逆上して、大出力のビームソードを伸ばし、バウ・ワウに急接近。
 バウは迫るガンダムエピオンWに向けて、フーマガンダムを蹴っ飛ばした。
 意外な事に、ジェントは速度を緩めず、フーマガンダムごとバウを両断するかの様にビームソードを振るう!
565Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:33:55 ID:+RDZIclK
 暗緑色に光る巨大なソードが、フーマガンダムを……避ける!
 ショーテルの様に曲がり、襲い来る刀身。ハロルドは思わず叫んだ。

「何っ!? そんなの有りかよ!!」

 ズバッ!!

 ビームソードはバウを横一文字に切り裂いた。
 しかし、緊急回避が間に合い、上半身と下半身に分かれただけ。

「おお、危ない危ない。ダグ、あれは何だ?」
「……知らない。推測だが、ビームソードを形成するIフィールドをサイコミュで変形させたんだと思う」
「自在に変形するビーム兵器か……。迂闊な接近は避けたい所だ」

 敵の新兵器を冷静に分析するハロルドとダグラス。各々、乗機をアタッカーとナッターに変形させて、エピオンの
攻撃が届かない距離を保ちつつ撹乱する。

 フーマガンダムを避けたガンダムエピオンWは、飛び回る2機をメインカメラで追って周囲を見回した。

「目障りな!」

 ジェントが狙うのは、左腕を失ったアタッカー。弱った相手から仕留めるのは戦闘の常識。
 接近してビームソードを振るうと、変化した刃がアタッカーを追跡する!

「ゼロからは逃れられん!」
「くっ、流石に無理か……」

 ハロルドは回避を諦めた。サーベルで受け止め様にも、刃が変形するのでは無意味。
 追い詰められたハロルドが取った行動は……左のウィングを先に斬らせる!

 ドォン!!

 アタッカーは翼に固定されていたミサイルの爆発で吹っ飛び、ガンダムエピオンWから離れる事に成功した。
566Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 08:43:04 ID:+RDZIclK
 ジェントは驚嘆と苛立ちを混ぜ、低く唸る。

「ゼロの予測を上回る!? しかし、高々数秒の命拾いだ!!」

 己を鼓舞する様に気を吐いた彼は、秒の迷いも無くアタッカーを追撃!

 左翼と左腕を失ったアタッカーでは、逃げ切る事は難しい。ハロルドの危機に、ダグラスはナッターで背後から
エピオンに迫る!

「こっちを忘れるな!」
「それで奇襲の積もりか? ゼロが俺を導く!」

 ジェントは振り向き様にヒートロッドを振るった。OZシステムの予測通りに、鞭がナッターに向かって伸びる!

「貫けっ!」

 しかし、ヒートロッドはナッターの機体をcm単位で掠めた。ハロルドがロッドを切断した為、予測に際して僅かな
誤差が生じたのだ。それは本来ならば無視出来る程度の物だが、ダグラスには通用しなかった。彼のニュータイプ
能力は、OZシステムを上回る!

 ヒートロッドを振り切って、接近するナッター。強力なプレッシャーがジェントを襲う!

「ゼ、ゼロ……これは、どういう事だ!?」

 焦るジェントに、OZシステムは絶望的な結末しか映し出さなかった。
 ガンダムエピオンWが幾らヒートロッドとビームソードを振り回しても、ダグラスのナッターには絶対に当たらない。
どう足掻いても撃墜される。それがOZの答え。
 撃墜のイメージから逃れられず、動きを止めてしまったガンダムエピオンWの首を、ナッターの隠し腕が刎ねる!

 ザンッ!

 モニターが消え、ジェントは死を覚悟した。暗黒の中、計器だけが仄灯る。レーダーには何も映らない……。
567Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 09:04:16 ID:+RDZIclK
 エピオンと擦れ違ったナッターは止めを刺さずに、アタッカーを回収してヴァンダルジアを追っていた。
 敵が既に追撃する力と意志を失ったと見抜いての事。

 ダグラスに助けられた格好になったハロルドは、彼の戦い方に注文を付けなかった。内心は快く思っていないが、
無闇に人の命を奪いたくないダグラスの感情も、理解出来ない事は無い。そして何より、彼の実力を評価している。
己の命を預けるに足る者であり、決して“重要な判断”を誤らないと信じているのだ。

 ……正直な所を言えば、ダグラスが“特殊な能力”を持つ者である事も、彼を信頼する理由の1つに入っている。
 “己が持ち合わせぬ物”への微かな嫉妬が混じり、ハロルドは不満を隠す様に軽い調子で礼を述べた。

「助かったぜ、相棒」
「お前は俺の寿命を何年縮めれば気が済むんだ……」

 窮地を救われた者とは思えない彼の態度に、ダグラスは呆れ顔で溜息を吐くのだった。
568Mad Nugget ◆elwaBNUY6s :2009/06/28(日) 10:05:00 ID:+RDZIclK
 ローマンが火星で入手した情報に依ると、ヴァンダルジアを追う討伐隊の母艦はスザ級。
 これから向かうアステロイドベルト暗礁空域さえ抜ければ、簡単に振り切れる。
 ヴァンダルジアと討伐隊は、運命の大きな分かれ道に差し掛かろうとしていた。

「また壊しましたね……。これで何度目ですか!?」

 ヴァンダルジアの格納庫で怒鳴り声を上げているのは、ファルメ整備班長。
 シールド2。同じく左腕2。バズーカ4。ショットランサーとハイドボンブレイヤー、各1。左翼1。ハロルドが破壊、或いは
破棄した回数である。

「そう怒るなよ。火星で補給を受けたから、大丈夫だろう? 命あっての物種って言うじゃないか」
「戦闘中のモニターを拝見しましたが、相変わらず機体と武器を粗末に扱い過ぎです! 予備の機体は無いんですよ?
 何の為に乗機をコヨーテからバウに替えたのか、思い出して下さい!」
「俺が半分壊しても、相方が半分無傷で戻るから。修理の手間は半分だろう?」

 悪びれないハロルドに、ファルメは怒りで顔を真っ赤にする。

「少しは中将を見習って下さい! 考え無しに突貫するから、こうなるんですよ!」
「……いや、だって、あいつは……」

 ハロルドは言い訳し様として口を噤んだ。“それ”を理由にしては、いけない。黙って首を横に振る。

「解ったよ。以後、気を付けるさ」
「お願いしますよ」

 ファルメは急に大人しくなった彼を不信に思いながらも怒りを納めた。
 そのタイミングを逃さず、物陰から一部始終を見守っていたダグラスが姿を現す。

「……お説教は終わったかな? 班長、今回の戦闘記録を見てくれ」

 そう言って彼が携帯ディスプレイで見せたのは、ガンダムエピオンWのビームソード。自在に曲がる刃。

「このビームソード、どんな技術か判るかな?」

 ダグラスの問いに、ファルメは食い入る様に小さな画面を見詰めて呟く。

「D・Iフィールド……」
「ディー、アイ、フィールド?」

 聞き慣れない単語を鸚鵡返すハロルド。ファルメは顔を上げて、説明を始めた。

「支配的ビーム歪曲空間。Iフィールド発生装置にサイコミュを組み込み、“ビームを意の儘に操る”技術です」

 無言で驚いた表情を見せたハロルドとダグラスに、ファルメは早口で補足する。

「しかし、Iフィールドの有効範囲は限られていますし、何よりサイコミュですから、搭乗者に掛かる負担の大きさ故に
 採用は見送られて来ました。仮に実装されても、この様に近距離ビーム兵器を短時間変形させる程度です」
「大した事は出来ないんだな」

 詰まらなそうに小さく息を吐くハロルド。

「成る程。有り難う、班長」

 丁寧に礼を述べるダグラス。対照的な2人の態度。
 ハロルドは気の無い振りをしながら、頭の中で何度もD・Iフィールドに対抗するシミュレーションを繰り返していた。
 一方のダグラスは……D・Iフィールドという技術その物に、得体の知れない不安を感じていた。
569創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 10:06:48 ID:+RDZIclK
もう何話だか分からん……13くらい?
まだ少しだけ残っているけれど、もう投下する余裕は無いでしょう。
570創る名無しに見る名無し