434 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 08:30:31 ID:RbNoBvM4
機動新戦記ガンダムDDD(トライダガー)
>>435 完成したか乙
そして誰からも死を悼まれないマオ哀れw
投下開始します
バウ・ワウは剰りにも目立ち過ぎた。
遅れて発進した事で群から逸れてしまった機体は、その外見と相俟って“異質さ”を際立たせていた。
これは何かある。そう感じたアーロ・ゾットは、パトリア・ジールに意識を集中しさせた。
(あのMSが奴等の切り札か? 解る……あれにはニュータイプが乗っている。しかし、あのプレッシャーは!?)
パトリア・ジールを守っていたヴァルキュリアスが、それに応じて静かに配置を組み替える。
ガンダムに紛れて発進していれば、これが特別な機体だと“直ぐには”覚られなかっただろう。
それが幸いした。
「ここしか無い!」
マーウォルスのディフェンダーガンダムが光の鎧を纏い、ヴァルキュリアスの警護の手薄になった部分を突いて
パトリア・ジールに突進する。
「……鬱陶しい。能力の無い者が粋がるな。退がれ」
アーロ・ゾットの冷徹な一言で、ディフェンダーガンダムは強風に押されたかの様に突進速度を落とした。それと
同時に、纏っていた光の鎧が微細な粒子となって砕け散り、プレッシャーが物理的衝撃と共にコクピットの内部まで
伝わる。
「ぐっ……行けぇっ!」
肺を潰されながらも、マーウォルスは歯を食い縛って叫んだ。光の鎧を剥がされたディフェンダーガンダムの背後
から、サーフボード型シールドに乗ったバウンティハンターガンダムが飛び出す!
「有り難う御座います、大尉!」
エルンストは標的、パトリア・ジールを見据えながら、礼を言った。しかし、未だ遠過ぎる。彼の行く手を10機もの
ヴァルキュリアスが遮る。
エルンスト・ヘル。フルネームはエルンスト=ハインリッヒ=ルトガー・ヘルデンローレ。兄の死後はヘルデンローレ
家の長となる定めだったが、そんな気には全くなれなかった。兄への劣等感から、今の儘では家長の資格は無いと
独り決め込んでいたのだ。
その彼が自らに課した試練は、兄を倒した“土星の魔王”を仕留める事。しかし、それは失敗に終わってしまった。
これでは、兄が死したからと言って、のうのうと家督を継ぐ事など出来はしない。両親には悪いと思いながらも、生まれ
育った家を去る積もりでいた。
今……再び兄が散ったアステロイドベルトで戦うと言う、運命の巡り合わせ。それが地球の命運を賭けた戦いなら、
何も言う事は無い。これは神が与え賜うた最後の機会。エルンストは本気で、そう思った。兄を越える。唯それだけの
為に、命を捨てる覚悟だった。
(生きて還れたら、その時こそ、ヘルデンローレを名乗ろう)
彼は誓いを胸に秘め、バウンティハンターガンダムを駆る。
前方からヴァルキュリアスが1機、シールドからビームサーベルを突き出して、突進して来る。アーロ・ゾットの能力で、
下手な動きは先読みされ、躱して通り過ぎる事は不可能。
しかし、いや、“だから”なのか、エルンストは速度を落とさず、進路も変えない!
ガガン!!
激突すると思われた瞬間、ミサイル型の影がバウンティハンターガンダムを追い越した。
それはディフェンダーガンダムの右腕。対ビームコーティングが施された右腕は、ショットランサーの様にプラネイト
ディフェンサーのビームバリアを突き抜け、ヴァルキュリアスに命中。押し退ける。
「これが俺に出来る最後の手助けだ! 後は自力で何とかしろ!」
マーウォルスはエルンストに向かって叫んだ後、自機に迫り来る3機のヴァルキュリアスと対峙する。
「はい!」
エルンストは振り返らず、真っ直ぐにパトリア・ジールを睨み付けて応じた。
残るは9機、今度は2機同時に襲い掛かって来る!
ヒュン……!
ビームサーベルの間合いから遠く、約4倍の距離。光の帯がバウンティハンターガンダムの右腕から飛び出し、
ヴァルキュリアスの首に絡み付いた。それはビームの投げ縄。本来ならビームは操られるが……。
「何だ、これは!? D・Iフィールドの干渉を受け付けない……! GF用の擬似ビームか!」
ビームに触れているにも拘らず、BMSに損傷が無いのを見て、アーロ・ゾットは理解した。
如何にD・Iフィールドと言えど、その本質は特殊な電磁場に過ぎず、特性の異なる物は操れない。
08に勇気要素を加えて再びリメイク
首にロープを引っ掛けられたヴァルキュリアスは、迂回し様とするバウンティハンターガンダムに引っ張られて
バランスを崩し、もう1機のヴァルキュリアスと軽く接触する。長く伸びたロープが2機に巻き付き、行動を制限した。
バウンティハンターガンダムは、その横を通り過ぎた後、ビームロープを切り離す。
……カッ!!
それと同時に不可知のビーム攻撃が浴びせられたが、ABCマントを犠牲に耐えた。
襤褸切れとなったABCマントを接近して来る4機目に投げ付け、マタドールの様に抜く。
続いて、5、6機目! サーフボード型シールドを踏み締め、波乗りする様に機体を左右に滑らせる!
ズバッ!
ヴァルキュリアスの間を抜ける事は出来たが、避け切れなかったビームサーベルがバウンティハンターガンダムの
右首を掠めた。ぐらぐらと頭部が揺れる。
センサー類は頭部に集中しており、更に都合の悪い事に、この時代のモビルトレースでは、機体の視界が搭乗者の
視界となる。映像は無線で送られるので、盲目には陥らないが、揺れる視界が直進を困難にする。不安定な首は、
何かの拍子に外れないとも限らない。
エルンストはモビルトレース対応パイロットスーツのヘルメットを左手で強引に剥ぎ取った。その動きを機体は正確に
トレースし、自ら頭部を毟り取る。それを左脇に抱え、視界を確保。カメラ映像を切り替え、バイザーからコクピットに
映し出す。しかし、これでは左腕を封じられたも同然。
バシュ、バシュッ!!
2度、閃光が起こり、バウンティハンターガンダムのビームコートを濯ぎ落とした。高熱に灼かれ、外れた首の部分が
熔け出す。コクピット内にアラームが鳴り響き、コアにまでダメージが及んでいる事を操縦者に報せた。
眼前の障害物……ヴァルキュリアスは残り3機。
1機、サーフボード型シールドを衝突させ、その頭上を飛び越す。
2機、両脚を斬らせ、背面スラスター全開。
3機、ここまで来れば、見えなくても構わない。左腕と脇に抱えた頭部を捨てる。
バウンティハンターガンダムは、胴体と右腕1本を残し、遂に標的パトリア・ジールに手が届く位置まで迫った。
しかし、バウンティハンターガンダムは、この敵に対して有効な武器を所持していない。ギガンティック・マグナムの
銃弾も、巨大MAの装甲を貫く事は出来ないのだ。残る手段は……。
「見事だ。ここで自爆すれば、パトリア・ジールに傷を負わせる事が出来るだろう。しかし、詰めが甘い……!」
アーロ・ゾットは、パトリア・ジールの腹部にあるメガ・カノンをバウンティハンターガンダムに向けさせた。
対ビームマントとコートを失ったバウンティハンターガンダムは、これを耐える事が出来ない。
ドッ、バァーッ!!
至近距離。砲口からビームが溢れ出し、避け様も無く、ガンダムを呑み込む……当に、その瞬間! ビームが
バウンティハンターガンダムの右腕に吸い寄せられる!
「何っ!?」
D・Iフィールドを使うまでもなく、防ぎ様の無い攻撃。そして、外し様の無い距離。これがBMAで、自身が搭乗して
いない事もあり、危機感が薄かった。オールドタイプを相手に、アーロ・ゾットは完全に油断していた。
「……危険な賭けだった。これで漸く、私はヘルデンローレになれる」
苦悩から開放されたエルンストは、安らかな笑みを浮かべた。
バウンティハンターガンダムの右腕には、ビームを吸収して蓄えるキャパシターが内蔵されている。倍の威力で撃ち
返すには、メガ・カノンの威力は剰りに大きかったが、それも彼は判っていた。
伸ばした右腕が、メガ・カノンの砲口に突っ込まれる。最初から、これを狙っていた。暴発に巻き込んで破壊する!
ドゴォオオン!!
閃光が、2機を包み込んだ……。
全てのヴァルキュリアスが動きを止める。
爆発に吹き飛ばされ、エルンストの乗ったコア・ランダーが舞う。
マーウォルスのディフェンダーガンダムが、それを右腕で掴んで回収した。火星軍のエースは、殊勲の英雄の功績を
認め、静かに称える。
「よくやった」
応答は無かったが、マーウォルスは損傷したコア・ランダーを丁寧に抱えた。エルンストが本当にパトリア・ジールを
仕留めるとは思っていなかった。敵の注意を逸らす役割が果たせれば、それで十分だった。
エルンスト自身も、仮に自分が失敗しても後に本命が控えていると分かっていたので、迷い無く行けた部分があった。
腹部から2つに裂けたパトリア・ジールの残骸は宙を漂い、小惑星の重力に引かれ堕ちて行った。
これにて30話完。
熱いぜ、乙!
保守
448 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 09:05:35 ID:/dq0EEUF
age
そろそろ容量オーバーかな
「やった……のか?」
ハロルドはパトリア・ジールが破壊されたのを確認したが、警戒を解かなかった。寧ろ、更に前進速度を上げる。
BMSの停止はコントロールシステムの切替に因る一時的な物。機体が戦闘不能に陥っても、D・Iフィールドの
機能まで死んでいるとは限らない。その場合は即座に、止めの一撃を加える積もりだった。
「いえ、未だ!」
プレッシャーを感じ、リリルが叫ぶ。
静止していたヴァルキュリアスが小惑星の周囲に集まり、ビームバリアを展開。パトリア・ジールの残骸は、ブラック
コスモスの蔦に捕らえられ、その内部へと呑み込まれた。
「……詰めが甘かったのは、私の方だった様だ。しかし、惜しかったな。D・Iフィールド発生装置さえ無事なら、問題は
無い。天佑は私にあった。この私を一驚させた貴君等の健闘を称え、小惑星要塞の真の姿を御覧に入れよう……。
後悔するが良い。憖、抗ったばかりに、更なる絶望を味わう事になるのだからな……!」
アーロ・ゾットを覆っていたコードが解ける。姿を現したのは、金属皮膜に身を包んだ青年。
「目覚めよ、アルティメット! 全てを終わらせる為に!」
ズガァン!
小惑星の地表が隆起し、巨大な……剰りに巨大な右腕が突き出る。卵から孵る様に小惑星を砕いて出現したのは、
真っ黒なガンダムの上半身。胸部中央には宝石飾りの様にパトリア・ジールが埋まっている。
これが要塞の正体、アルティメットサイコガンダム!
ガオオオオォォン!!
怨嗟の咆哮は、悪魔の産声。それは衝撃波となって拡がり、アステロイドベルトを震撼させた。
ヴァルキュリアス以外の機体は全て、塵芥の如く戦域外まで弾き飛ばされる。
「嬉しかろう! 貴様等のガンダムが、地球を滅ぼすのだ!!」
キイィン!!
戦意を強制的に高揚させられたアーロ・ゾットは、感極まって溢れる能力を抑えられず、想いの儘に思念を飛ばす。
アルティメット細胞によって若返ったアーロ・ゾットのニュータイプ能力は、太陽系内を覆い尽くし、そこに住まう全ての
人類にミレーニアの悲劇を伝えた。
「恐れ戦け! 己が罪を自覚せよ!」
ペリカンのブリッジで、バージ大佐は激しい頭痛に顔を歪めながら呟く。
「化け物、悪魔……どんな言葉も生温い。あれがニュータイプ? 否、希望と言うには、余りに恐ろしく、そして悲しい」
人の業を知らせる様に、感情が流れ込んで来る。無残に死んで行った者の嘆きと、過ぎた力に溺れた者の驕り。
己の醜さを鏡に映して見せ付けられている気分になる。遠い過去より、私達は何度同じ事を繰り返すのだろうか?
哭いているのだ。これは誰かの感情ではなく、皆に共通する想い。アーロ・ゾットは人類の嘆きを繋いでいる。
「……ああ、そうだ。人と人が解り合う希望の未来を願い、何時の日か、何時の日かと言いながら、私達は結局何も
変えられず、変わる事も出来ずに、こんな時代まで来てしまった……」
重力に魂を引かれた人間に、革新は起こせない。第2宇宙速度を超えられない者は、惰性に囚われ、同じ所を巡り
続けるのだ。
「アーロ・ゾットよ、貴方が終わらせようと言うのか? 確かに……確かに、貴方なら……」
常識外れの強大な能力の前には、オールドタイプもニュータイプも無関係で、抗える者など存在しない。第2宇宙
速度を超えられない者が、第4宇宙速度を超え様とする者の相手になる訳が無い。
虚無に囚われた心に、畏怖すべき者が救いの手を差し伸べる。その能力は“人と”比して余りに大きく、抗う術の
無い事が、恰も天災の様だった。そう、これは避け得ぬ災厄。巨大さの余り、恐怖を通り越して神々しい……!
(熱い……熱い……!)
「何だ? 頭ん中で声が木霊しやがる……」
ニュータイプの能力には鈍感なハロルドですら、死者の声を聞いていた。コクピットモニターには、小惑星の映像に
重なって、燃えるミレーニアの幻影が浮かぶ。
「これは……ミレーニアの記憶? 邪魔だな。前が見難い」
それだけなら未だしも、次第に感覚まで同化し始め、パイロットスーツ内が灼ける様に熱くなる。
「熱っ! こんなの俺に知らせて、どうしようってんだ? 死人は黙って死んでいろ」
苛立ちを口に出した瞬間、不意に、自分が今まで殺して来た人々の事を思い出し、悪寒が走った。
(死にたくなかった……死にたくなかったのに……)
「仕方無いだろうが! 俺が手前を殺さなかったら、手前が俺を殺していた!」
心の底から泡沫の様に浮き上がった罪悪感が、恨み声となって纏わり付く。死人に怒鳴っても意味が無い。舌打ちを
したハロルドは、何も聞こえない振りをした。それより、ニュータイプの2人が気に掛かる。
「流星群、変わり無いか!?」
「ああ」
意外な事に、セイバーの声は落ち着いていた。ニュータイプの彼は、ハロルドより強く感応する筈なのだが……。
「リリル!」
「……大丈夫。あの人が守ってくれている」
(あの人……? ダグ、お前なのか?)
リリルの答えを聞いたハロルドは、直感的に思った。しかし、オールドタイプの彼には、ダグラスの存在を感じられず、
推測は出来ても、確信を持つには至らない。この時、彼は初めて、少しだけ、自身がニュータイプでない事を呪った。
赤いMSが小惑星の望遠機能で明確に捉えられる距離に入った所で、アーロ・ゾットは漸く、その正体に気付いた。
「ガンダムでない!? あれは……バウ・ワウ、ハロルド・ウェザーか!」
何故を問うより先に敵意を向け、迎撃態勢に入る。問題はオールドタイプのハロルド・ウェザーでは無い。機体から
感じられるプレッシャーだ。
「このプレッシャーはダグラス・タウン……他にニュータイプが2人、残留思念を宿したとでも?」
バウ・ワウがD・Iフィールド内に飛び込んで来たと同時に、ビーム攻撃を浴びせる。
バシュ、バシュッ!
しかし、バウ・ワウはアンバランスな体型ながら、宇宙空間に閃くビームを華麗に避ける。
その動き、先の読み方を見たアーロ・ゾットは、これがダグラス・タウンであると確信した。
「ダグラス君、死して尚、私を阻むのか……!」
恐れ半ば、アーロ・ゾットは全体の半数に当たる千機ものヴァルキュリアスを、1機の敵に向ける。
アーロ・ゾットとダグラス・タウンは、よくチェスをして互いの能力を量り合った。盤上の駒を通した手の読み合いで、
ダグラスが総代表に勝った事は過去1度も無い。しかし、その事実にも拘らず、彼はダグラス・タウンの影を恐れた。
「……この儘では追い詰められる。後、210秒」
リリルは起こり得る結果を、冷静にハロルドに告げる。先が読める分、読み合いでは勝てない事を判っていた。
「どうするの? 前進速度を緩めれば、未だ避けられるけど……それも直ぐに限界が来る」
「解っている。お前独りに任せっ放しでいる積もりは無い。進められるだけ前に進め」
少女にはハロルドの考えが全く解らなかった。しかし、彼になら任せられると思う、奇妙な安心感がある。それは
ダグラスの思念が影響しているのかも知れなかった。
しかし、セイバーは違う。彼はリリルに聞こえない様、他の回線を閉じてハロルドに訊ねた。
「どうするんだ?」
「元から子供を当てにはしていない。置いて行く」
「子供、子供と言うが、彼女はダグラス・タウンの思念を引き継いでいるんだぞ」
素っ気無いハロルドの態度に、セイバーは眉を顰め、リリルの能力の正体を明かす。
セイバーとしては、味方と逸れて出撃する事になってしまったマイナス分を補う為に、リリルの能力を今少し有効に
利用したかった。彼はダグラス・タウンの名を出せば、前進一択のハロルドの考えを変えられると思っていた。
「思念だ? そんなの知るか! 連邦のエース、“蒼碧の流星群”様は子供を頼るのかよ」
所が、ハロルドは嫌味で返し、本気にしない。
オールドタイプに、ニュータイプの事は解らないのか……。セイバーは溜息を吐く。
「子供の手を借りたくないからと言って、詰まらない意地を張るな」
「相手は能力者、易い手は読まれるんだよ。解ったら、余計な事には気を回さず、撃ち抜く事だけを考えていろ」
リリルはダグラスの思念を受けて、彼女が本来持ち得る以上の能力を発揮しているが、確かにハロルドの言う通り、
今のリリルを当てにするのは安直過ぎる。何より、“その”リリルでも読み合いでは勝てない事実がある。
しかし、上回る事は出来ていないが、あの化け物染みた能力を相手に戦えているのも、また事実。故に、彼女を
外せば、アーロ・ゾットの予測を外す事は出来るだろうが……。
「当初の想定と状況が違い過ぎる。意表を突くだけの奇策では通用しない」
「いや、それで良い。一瞬、0,1秒を奪う」
ハロルドの声は自信に満ちている。それを聞いたセイバーは、ハロルドが前進を指示し続ける理由を理解した。
「……解った。信じよう」
セイバーは目を閉じ、精神を研ぎ澄ます。己の役割は、一撃を与える事。他は彼がやってくれる。そう信じた。
ヴァルキュリアスの大群と、ビームフラッシュを巧みに避け、バウ・ワウは進む。
発進直後から土星ロケットエンジン全開で加速した事で、その速度は擦れ違ったヴァルキュリアスが追撃を諦める程。
傍目には順調に前進を続けている様に見えるが、リリルには行き止まりが見えていた。そこに近付くに連れ、強まり
行くプレッシャー。しかし、ダグラスの思念が危機を伝える事は無く、それが逆に怖くなり、同調の乖離が起こり始める。
不安になったリリルは、堪らずハロルドに訊ねた。
「……何を、する気なの?」
「そろそろ1分を切った頃だな。カウントダウンを始めろ」
しかし、ハロルドは答えない。リリルは大人しく従うしか無い。ここで迷ったり、躊躇ったりは出来ない。
「56、55、54……」
益々激しくなるビーム攻撃。ヴァルキュリアスの合間を縫う道が狭まって行く。
ルートは限られ、行く果てには態とらしい空白。そして今、アルティメットサイコガンダムが、マスドライバーキャノンで
岩石塊を放ち、空白を埋めに掛かった。最早、誰の目にも明らか。“追い込まれて”、“墜とされる”!
それはリリルがバウ・ワウとの戦いで用いた、ファンネルを使った攻撃と似ている。
(あの時は、バズーカの反動と、ブーストエンジンの加速で乗り切っていた。同じ手を使うの?)
シールドに取り付けられたスラスターは、その為の物だろうと、リリルは推測した。
その後はハロルドに合わせる。ダグラスの助力があれば、あの時、自分でも読めなかった、“ガンダムヒマワリと
戦った時のバウ・ワウの動き”が再現出来るかも知れない。
そうと判れば、不安は幾分和らいだ。自らの声が、刻を報せる。
「10、9、8、7、6……」
「流星群、リリル、衝撃注意! 土星ロケットエンジン、ファイア!」
ガコン……!
ハロルドの叫び声と同時に、機体が揺れる。直後、リリルの“背後から”衝撃!
(反動が逆!?)
違和感を覚えたリリルは、我が目を疑った。巨岩が通り過ぎた後、モニターには炎を噴いて遠ざかるバウ・ワウの
上半身。バウ・ワウは上半身と下半身とに分かれて、岩石塊を避けたのだ。
「ハロルド・ウェザー!! 貴方って人は、どうして……どうして!?」
余りにナンセンス。リリルは自分が置いて行かれた事が信じられなかった。ダグラスの能力を借りないで、どうやって
化け物ニュータイプを倒すと言うのか!?
それは確かにアーロ・ゾットの予測外だった。しかし、これは嬉しい誤算。ダグラス・タウンのプレッシャーと正面から
向き合わずに済むのだから。
「血迷ったか? 彼でなければ、相手にならない。自惚れるな!」
ヴァルキュリアスで取り囲むか、ビームで墜とすか、岩石を当てるか、料理の仕方は自由。彼は勝利を確信した。
先ずはBMSを動かし……動かし……?
「……ダグラス君、無駄だ」
BMSは動かない。ダグラスと能力を合わせたリリルが、死力を尽くしてサイコミュ操作を妨害しているのだ。それでも
彼は無駄と言い切れる。ヴァルキュリアスは障害物としての役目を果たせれば良い。高が1機、ビームとマスドライバー
キャノンがあれば事足りる。
(させない……! 絶対に!)
バウ・ワウに狙いを定めた時、ダグラスの思念と共に、少女の声がアーロ・ゾットに届いた。
「健気だな。その純粋さが、彼の心を呼び寄せたか……」
(ダグラスさん、私に能力を! あの悲しみに満ちた心を止める能力を!)
敵意とは違う。それは“同情”。人を哀れむ心。
「利いた風な事を……不愉快だぞ! 魂を重ねても、他人に成り代わる事など、出来はしない! 貴様の様な子供に
何が解る!?」
彼は激昂し、BMSから逆流して来る思念を拒絶した。
怒りの言葉と共に、プレッシャーがリリルに伝わり、心臓を圧し潰す。しかし、少女は怯まない。
「解るよ! だって、私はニュータイプだから……!」
「子供がニュータイプを語るか! その何たるかも知らぬ者が!」
「貴方の言う通り、私はニュータイプとは何なのかを知らない……。でも、人の心が解るだけでは半分、自分の心を
伝えるだけでも半分と、あの人は教えてくれた! 人の心を解ろうとしない貴方は……!」
「小煩い!」
アーロ・ゾットは苛立ちを顔に表し、リリルの声を無視すると決めた。子供と言い合いをしている場合ではない。今は
バウ・ワウの上半身に集中しなくては……そう思い、意識を向けると、何者かの声が聞こえて来た。
「どうせ聞かないとは思うが、一応、言っとく。こちらコロニー連合ハロルド・ウェザー特別大佐。元コロニー連合総代表
アーロ・ゾット、あんたを国家反逆と背任の罪で拘束する。直ちに投降せよ。これ以上抵抗するなら、撃墜も辞さない」
「反逆罪だと!? 誰の命令だ!!」
彼の知らない所で、何者かが指示を出したのか? 突然の勧告にアーロ・ゾットは驚いたが、ハロルドの答えは至極
簡単な物だった。
「俺が決めた」
「ハロルド・ウェザー!! 貴様、巫山戯ているのか!!」
「いや、本気だ。冗談で命を懸ける程、狂っちゃいない」
ハロルドの態度は飽くまで冷静で、何処か見下しているかの様にすら感じられる。
アーロ・ゾットは彼を屈服させるべく、強い思念を送って問い掛けた。
「ダグラス・タウンの仇討ちの積もりか? 底が知れるな」
「関係無い」
「では何故、出て来た? 貴様には解らないのか? 死者の叫びが! 人類の嘆きが!!」
「俺には何も聞こえない。聞く耳も持たない。あんたは地球連邦の強硬派と結託して、ミレーニアを滅ぼした。俺の前に
ある事実は、それだけだ」
「……オールドタイプが!」
しかし、ハロルドは伝わって来る感情を無視し、理屈で返す。彼に迷いは無い。
上半身だけのバウ・ワウは進む。衝撃波に弾き飛ばされたガンダムを追い越して、アルティメットサイコガンダムを
目掛け、真っ直ぐ……真っ直ぐ!!
ここまで、31話終。残り30KBくらい。
蒼の残光 10.「蒼の残光」 救出
ユウはコロニーレーザーのコントロールブロックに向かってBD‐4を飛ばせていた。
機体は左腕が動かず、銃も、剣も、盾すらも失っていた。残された武器は頭部に取り付
けられたバルカンポッドのみ、戦闘力どころか、今の機体では抵抗もままならない姿で、
それでも真直ぐに飛んでいた。
その前方にザクVが立ち塞がりメガ粒子砲を構えた。ユウはスラスターを逆方向に向け
急ブレーキをかける。どちらに逃げる、右か、左か?
しかしそのザクVはどこからか飛来したビームに頭部を撃ち抜かれ、更に数発のビーム
で爆散した。ビームの飛んできた方角を見ると片腕のリックディアスがライフルを構えた
ままユウに接近して来ていた。
「中佐、そのまま進んで下さい。目障りなのはこっちでどかします」
「すまない」
それだけ言うと再び加速した。今更遠慮する意味がない。
コントロールブロックは巨大な隕石の内部をくり抜いた最大幅一・五キロ程の岩だった。
恐らく資源採掘で破砕された小惑星の破片を改造したものだろう。それを中心に五基のコ
ロニーが同一円周上に配置されていた。
側面に開けられた連絡艇を発着させるための小さなゲートから内部に侵入し、最深部で
着地した。しかし右を足首から失っている事を失念していたため、バランスを崩して無様
に倒れる。
舌打ちをして起き上がったユウの顔色が変わった。目の前に肩にライオットガンがめり
込んだままのハンニバルが肩膝を突いた姿勢で待ち構えていた。
ユウは反射的に遮蔽物となるものを探したが、宇宙艇やMSがスムーズに出入り出来る
事だけを目的にしたスペースに余計なものなど置かれているはずがない。再びハンニバル
に視線を戻したユウは、相手の胸のハッチが開きコクピットが開放されている事に気付い
た。
「……落ち着け、ユウ・カジマ。お前は戦場で取り乱す男ではないはずだ」
声に出して自分に言い聞かせる。それ自体が異例で取り乱している証拠なのだが、今は
気が急いてその矛盾に気付かない。アランがここに辿り着いた。その事実が結うの不安を
駆り立てた。
「……マリー、迎えに来たぞ。どこに行けばいい?」
返事はない。ユウは自分もBD‐4から降りて床に着地した。どうやらドアは一つだけ。
ユウは迷わずドアを開けた。
ドアを出ると廊下が延びている。右か左か。ユウはマリーが自分を呼ぶ声を聞こうと意
識を集中させた。しかし何も聞こえない。ユウは初めて自分がOTである事を恨んだ。
その時、手首に着けられた酸素センサーが反応した。メーターを見るがヘルメットを脱
げるほどの濃度ではない。つまり空気が抜けているか、逆に漏れ出しているかと言う事で
ある。ユウは腕を伸ばしセンサーを左右に振った。
もし酸素のある部屋から空気が漏れ出しているのなら、漏れ出す部屋は『風上』になる
はず。その方角さえ判れば……。
見つけた。
ユウは右に向かって走り出した。
アランは足を引き摺りながらようやく部屋に辿り着き、コンソールにしがみつくように
して身体を支えた。
もう感覚はほとんどない。足にも手にも力が入らず、ここまで歩いてきたのか、ただ浮
かんで漂ってきたのかもよく判らない。とにかく今目的の場所に着いた事だけは事実だっ
た。
「よし……待ってろ」
自分の手とは思えないほどに言う事を聞かない両手でコンソールを操作する。のろのろ
と動く指先が必要なキーを叩く。
「……これで、あとは……」
「動くな!」
アランがすぐに振り向かなかったのは竦んだわけでも、間を取ったわけでもない。身体
を動かすのが億劫だったためだ。
振り返ると連邦軍エースの証である白いノーマルスーツを着た男が拳銃をこちらに向け
て立っていた。
「ユウ・カジマ?」
「そうだ、アラン・コンラッドか?」
「そうだ、こうして生身で会うのは初めてだな」
アランはそう言うとコンソール台に寄りかかりながらその場に座りこんだ。ユウの拳銃
はアランの胸を正確に狙い続けている。
アランは銃には全く関心を示さず、床に腰を下ろすと大きく息を吐いた。
「貴様がここに来たという事は、オリバーは負けたんだな?」
「……いや」
ユウはそれだけ答えた。あの瞬間ユウにはどんな攻撃手段も残されてはいなかった。対
するNTはメガ粒子砲を自分に向けていた。勝負は完全に決していた。
戦場で勝者とは生き残った人間を言う。だからユウは自分が負けたと言うつもりはない。
しかし同時に、自分の勝利と認める事はこの後も生涯なかった。
「強いなあ、お前は」
アランはユウの返答を無視して言葉を続けた。
「何者なんだ、お前は?NTの判定テストは何度も行われた事は知っている。そして全て
の結果がOTだった事も。しかし現実にお前はサイコミュ積んだNT相手に常に互角以上
に戦った。どうなっている?なぜそこまで強い」
ユウは答えなかった。自分にも判らなかったからだ。ユウは質問で返した。
「そこで何をしていた?」
「……ま、最後の手段、と言うところか」
それ以上は答えない。ユウはゆっくりとアランに近づいていった。
「もう無駄だ。勝敗は決したぞ」
「だろうな」
あっさりと認めた。
「これ以上何をしても無駄な死体を増やすだけだ。それも軍人ではないただの市民をだ」
「判ってるさ、そんな事。だが何も出来ずに終われば、俺たちは何だ?」
アランの声は自嘲の笑いが含まれていた。
「俺はこの十年、死ぬ事も元の生活に戻る事も出来ないまま生きてきた。今はもう普通の
市民に戻る事は諦めたが、だからと言って宇宙の片隅で朽ち果てたいわけでもない。これ
は俺達にとっても死に場所なんだよ。何か俺達がジオンの理想を実現するために戦った証
が欲しいんだ。そのために無辜の市民を犠牲にする罪は判っているが、それは地獄で詫び
る事にする」
アランはユウを見つめた。
「ユウ・カジマ、お前はどうなんだ。それほどの力を持ちながら、ただ上層部(うえ)か
ら便利に使われる生き方に疑問はないのか?お前が守るものはその力に相応しい守るに足
るものと胸を張れるのか?」
「軍人が守るのは秩序と人命だ」
ユウは目を逸らさずに答えた。
「理想や未来を守るんじゃない、慎ましくても現実に手に入れている幸福を、未来に繋が
る現在を守るのが俺の仕事だ。お前達の理想や理念が正しいのかどうかは知らない。だが、
お前達に殺される地球の市民は決してお前達の理想を支持する事はない。彼らの命と現在
の生活を守れるなら、俺はそれが守るに値しないものだとは思わない」
「……面白くない答だ。だが、本心で言っているようだな」
アランはそう皮肉混じりに評した。ユウは次に本当なら一番に訊きたい質問をした。
「マリーはどこにいる?」
アランは少し目を見開いた。質問の意味が判らなかったらしい。しかしすぐにもとの顔
貌に戻ると、首を左に振った。
「あんたの女房ならそこにいる」
ユウはその時初めて、カプセル状の機器がそこに設置されている事に気付いた。カプセ
ルは人間が入る大きさで、そこからケーブルが延びているのが見えた。
「マリーと呼んでいるのか」
アランが言った。ユウは答えた。
「そうだ。マリー・ウィリアムズ・カジマ。俺の妻だ」
「そうか……今はそんな名前なのか」
アランは感慨深げにユウの口にした名前を口の中で繰り返し、そしてまたユウに話しか
けた。
「もう知っているかもしれないが、その娘の名前は昔からマリーだったわけじゃない。昔
はマリオン・ウエルチと名乗っていた」
「…………」
アランが軽く声をあげて笑った。
「この場で俺が保証してやろう。彼女は俺達の今の仲間じゃない。俺やオリバーは今まで
何度もマリオンの消息を探したが、居場所を知ったのはここ一週間の話だ。誰の仕業か知
らないが、よくここまで完璧にマリオン・ウエルチとしての過去を消し去ったもんだよ」
それからアランは再び笑った。
「感情の読み取れない男と聞いていたが、それは嘘だったようだな。安堵がはっきり顔に
出てるぞ」
ユウは反射的に口元を手で覆った。
「……彼女を愛しているか」
「もちろんだ」
「即答とはな。あの娘は今お前と一緒にいて笑っているか?」
「――笑っている」
ユウ自身、なぜ素直に答えているのか判らない。もしかしたらこのジオン残党の声に、
心からマリーの幸福を願う響きを感じ取っているのかもしれない。
「そうか。いい笑顔をするだろう?」
「ああ。それによく気のつく女だ」
「……そうだった、よく気のつく娘だったな」
懐かしそうにアランは言った。思い出に浸るように目を閉じた。
「昔からそうだった。研究所でもいつも年少の子供達の世話を焼いていたっけ。……いつ
も周囲の幸せを願っていた……だから俺は、彼女の幸せを……」
ユウはアランの声が途切れてからもなお銃口を向け続けた。しかし相手が死出の旅路に
就いた事を確認すると、短く敬礼をしてカプセルに近づいていった。
ユウがカプセルのカバーに手をかけると、何のセキュリティもなく開いた。
「マリー、……マリー!」
恐怖と共に妻の名前を呼ぶユウ。まさか、遅かったという事は――。
マリーが目を開いた。
「ユ……ウ?」
「マリー!」
ユウがホッと息を吐く。
「ユウ……私……」
「もう大丈夫だ、帰ろう。立てるか?」
ユウが支えてマリーがカプセルから出てくる。消耗してはいるが、意識はしっかりして
いるようだ。
「――アランも逝ってしまったのね……」
「……最後までお前を案じていた。知り合いだったのだな」
「ごめんなさい……」
「いい。その話は老後の楽しみにとっておこう」
ユウはマリーの言葉を遮った。
「さあ、帰るぞ」
ユウに促されたマリーの足が突然止まった。
「どうした?」
「ユ……ユウ!コロニーが……!」
「コロニー?……!」
ユウの頭脳が夫から軍人のそれに切り替わった。自分がアランを見た時、奴は何をして
いた?コンソールの前で何を操作していた?最後の手段と言っていた。レーザーをほとん
ど潰されてまだ何が出来る?
ユウはコンソールの奥の壁に投影されるディスプレイモニタを見た。
半壊したコロニーレーザーが二基、地球に向かって落下を始めていた。
ここまで
初期設定ではアランもNTでした。NTとして高い力を持ちながらNT専用機の不足からやむなく
ドーベンウルフに乗っていると言う設定で、インコムが四基に増やされていたのもNTの力でOSの
力不足をカバーしている予定でした。
没にしたのはアクシズ本体もNT不足なのにこんな途中離脱に2人もNTがいるのはありえるのか?
という疑問があったから。そのせいでユウとオリバーが戦うと別次元の戦いに入っていけない事になりました。
でも彼の死のシーンも書き始めた時からイメージしていた形に収まっています。オリバーもギドも壮絶なので
彼だけは眠るように逝くようにしたかったので、まあ、なんとかそういう形に出来たかな。
次回、最後の攻防。ユウは活躍しませんw
>ユウは活躍しませんw
なん…だと…!?
機動戦士ガンダムSEEDエターニア
主人公:ヴェスペリアガンダム→エターニアガンダム
ヒロイン 可変式Zプラスみたいなの
仲間 ゲルググメサイアー
仲間2 ジムネクサススナイパーズカスタム
>>466 その昔、機動創聖記というのがあったのを思い出した
あれどうなったのかなあ
そろそろ容量が一杯になるっぽいので次スレ立ててみます
テンプレは
>>1のままでおk?
特にテンプレの変更は無しで良さそう
頼む
ではチャレンジしてみましょう
埋めに掛かります
ハロルド・ウェザーとアーロ・ゾットは最早、互いに語る言葉を持たなかった。いや、初めから話さなければならない
事など無かった。為すべき事は一つ、眼前の障害を排除するのみ。
整然と並んで動かないヴァルキュリアスの間隙を縫い、バウ・ワウは加速し続ける。機体をローリングさせながら、
回転する左腕シールドに取り付けられた多数のスラスターを器用に扱い、可能な限り速度を上げる。
動かないヴァルキュリアスがマスドライバーキャノンの射線を遮っている上に、バウ・ワウは高速で移動している為、
狙撃が非常に困難。その姿を目で確認してからでは遅い。しかし、アーロ・ゾットには“見えていた”。
「如何に操縦技術が優れてい様が、所詮はオールドタイプ。思い知れ、これがニュータイプの能力だ!」
ドドドドドドォッ!!
幾つもの光球がバウ・ワウの行く先を示す様に出現した。哀れ、バウ・ワウは高速で移動しているが故に、急には
進路を変えて避ける事が出来ず、ビームの塊に突っ込んで行く。機体の赤いビームコートは、光球を潜る度に薄れ、
下地の黄土色が透けて山吹色になった。
ハロルドはアーロ・ゾットの予測を外そうと、何度も移動ルートを変更したが、光球は的確に進路を塞ぐ。遂に、機体の
分厚いビームコートは完全に剥げ、バウ・ワウは黄土色の姿を曝露させられた。
これ以上ビームを耐える事は出来ないが、アルティメットサイコガンダムは未だ遠い……。
「燃え尽きろ……!」
止めの光球は、一際大きく、そして眩く輝き、バウ・ワウを待ち構える。呑み込まれたが最後、跡形も残らず消滅する
だろう。これを目にして、逃れる術は無い。回避は、間に合わない。
ボン……!
刹那の出来事だった。
バウ・ワウは光球から僅かに逸れ、ヴァルキュリアスに接触。小規模な爆発を起こした。
一体何が起こったのか、ハロルド以外に判った者は居なかった。
急造でシールドに取り付けられたスラスターが、繰り返し浴びせられるビームの高熱に耐え切れず、外れてしまった
のだ。ハロルドは、この“事故”が起こる事を期待していた。
バランスの悪い機体を制御する為に、シールドのスラスターは欠かせない。故に、外れた時には予測される進路を
大きく逸れて、明後日の方向に飛んで行ってしまう。しかも、何時起きるか誰にも判らない。当のハロルドにすら、“対
ビームコーティングが弱まった後”と言う事くらいしか……。
進路を逸れたバウ・ワウは、ヴァルキュリアスに向かって行った。“ハロルドにとっては”、不運な出来事と言える。
正面衝突を避けても、接触は免れない。しかし、不幸中の幸いか、“バウ・ワウの”加速は既に十分だった。
「撃ち抜けーっ!! 流星群!!」
幸運か、実力か? 何れにせよ、奪った“一瞬”。アルティメットサイコガンダムの胸部に輝く、黄金色のパトリア・
ジールへの道は、ヴァルキュリアスの背後に“真っ直ぐ”見えていた。
距離にして、約10万km。0,1秒、反応を遅らせれば、十分に足りる。その為の加速だったのだから……。
小規模な爆発の正体は、威力調整されたグレネード。ハロルドはヴァルキュリアスと接触する寸前に、バウ・ワウの
右腕を前方……ヴァルキュリアスの肩を越えて、その背後に伸ばし、ΖU]を拘束から解き放った。
爆発の後押しを受け、ΖU]は更に加速する。連邦軍最速の機体は、バウ・ワウの2段ロケットと、自身の速度を
足して、光速に迫った。
精神を極限まで研ぎ澄ませていたセイバーは、半トランス状態で、夢とも現実とも付かない、奇妙な物を見ていた。
恨みの叫びを上げていた死者の魂が、怨念から開放され、彼の進む道を拓いているのだ。
ダグラス、ミレーニアの人々、X隊、マッセン、連邦軍兵士、コロニー連合軍兵士、死者だけではない……リリル、
エルンスト、マーウォルス、ゴートヘッズ、ペリカンの乗組員、ヴァンダルジアの乗組員、この戦いを知る者の祈りが、
セイバーを導いている。人の想いを乗せて翔ぶ、その名はガンダム。彼は無意識に呟いていた。
「これが、ガンダム……」
アーロ・ゾットが切り離されたΖU]に気付いた時には、既に遅かった。ビームですらΖU]には追い着けず、
防御する暇も無い。
ΖU]の本体ジェネレーターに直結したメガライフルから伸びるビームが、D・Iフィールドによって巨大な剣となる。
アーロ・ゾットの驚異的な能力を以ってしても、“瞬きの間に”、意志の刃を折る事は出来ない。それ所か、ΖU]の
D・Iフィールドは、アルティメットサイコガンダムやヴァルキュリアスが撒き散らした周囲のビーム粒子を吸い寄せ、
更に巨大な物となって行く!
ズバァーッ!!
100kmに及ぶ長大なビームの剣がパトリア・ジールを貫き、D・Iフィールド発生装置を破壊した。
アルティメットサイコガンダムを突き抜けたΖU]は、緩やかに速度を落とす。
激しい疲労感に襲われたセイバーは、力無く笑みを浮かべてハロルドに感謝した。彼の御蔭で、セイバーは剣状の
D・Iフィールド形成に集中する事が出来た。
「アーロ・ゾット、孤高の王よ……。貴方の敗因は、独りだった事だ……」
時が止まった様に、敵味方問わず、全ての機体が動きを止める。
惰性で漂うΖU]を、端の潰れたバウ・ワウ・アタッカーが回収した。
……しかし、勝利の余韻に浸るには、未だ早過ぎた。悍ましいプレッシャーに、虚空が震える。
ガアアアアア!! グオオオオオ!!
アルティメットサイコガンダムは死んでいない。再び、宙域一帯に衝撃波が走り、ヴァルキュリアスが動き出す。D・I
フィールド発生装置を破壊されたのみで、コアは未だ活きている!
「好い加減、しつこいぜ……簡単には終わらせないってか? 流星群、リリル!」
ハロルドは退却しながら2人のニュータイプに呼び掛けたが、応答は無い。
2人は能力の酷使で、気を失う程に消耗していたのだ。
「チッ、だらしない奴等だ」
バウ・ワウ・アタッカーは下半身とΖU]を両手に提げ、ペリカンに帰艦。
ハロルドは通信でD・Iフィールド発生装置の破壊に成功した事をバージ大佐に伝え、総攻撃を掛ける様に要請した。
バウ・ワウが格納庫に入ると、F1のピットイン宛らヴァンダルジアの整備班員が機体を取り囲み、透かさず補修に
取り掛かる。味方機のリペアをしていたペリカンの整備士は思わず、鬼だと零した。
激闘と大役を終えたばかりの英雄を、息吐く間も無く戦場に送り返そうと言うのだ。鬼でなければ、悪魔か……?
しかし、ここには本当の悪魔、“魔王”が居た。
「医務班! 薬寄越せ、薬ーっ!」
頭部コクピットから身を乗り出して、向精神薬を要求するハロルド。ヘルメットを外した彼の顔には、至る所に紫色の
痣が出来ている。急激な加速や方向転換の繰り返し、更にヴァルキュリアスと接触した衝撃で、内出血を起こしたのだ。
自身の凄惨な容姿には気付かず、大声で指示を飛ばす様は、気絶して運び出されるリリル、グロッキーで声を返すのが
精一杯のセイバーとは対照的。
「ビームコートは掛け直さなくて良い! シールドを付け替えろ! 後はサーベルとライフル!」
ハロルドはプロペラントの補給が済んだのを確認すると、メットを被り直し、コクピットハッチを閉めた。
帰艦してから10分と経たない内に、再出撃しようと言うのだ。この上司にして、この部下あり。成る程、彼は“土星の
魔王”であると、ペリカンの乗組員等は肯いた。
バウ・ワウ・アタッカーのコクピットで、ハロルドはナッターのコントロールを無線に切り替える。視界の片隅に映った
無人の機体が寂しく見え、彼は小さく息を吐いた後、微かな笑みを浮かべて呼び掛けた。
「一緒に飛ぼうぜ、相棒の相棒。ラストフライトだ」
ペリカンの格納庫から並んで翔び発つ、黄土色のアタッカーと赤錆色のナッター。合体したバウ・ワウは、色違いの
上半身と下半身で小惑星へと向かう。
バウ・ワウがビームサーベルを高く振り上げると、刃から粒子が散り、尾を引いてフラッグとなった。これはハロルドが
突撃隊の先鋒として出陣する際の定型行動である。多数のMS、MAを率いて現れる、この黄土色の機体を、連邦軍は
“土星の魔王”と渾名した。
サーベルフラッグを靡かせ、ビームライトが乱れ飛ぶ戦場を突っ切る姿は、敵味方の注目を集める。コロニー連合軍
の黄土色のMS。あれが、あれこそが、“土星の魔王”!
D・Iフィールドを失っても、アーロ・ゾットの優位は揺らがない。MS数から見た戦力差は10倍近く、これに戦艦が
加わったとしても、焼け石に水。連邦軍に小惑星を止める事は出来ない……筈だった。
「最強の矛と盾を揃えようが、手前等には機動力が足りんのよ!」
バウ・ワウは対ビームコーティングが施された盾で、プラネイトディフェンサーのバリアを突き破り、メガ粒子砲を発射。
ヴァルキュリアスに直接、ビームを浴びせる。ほんの一瞬、敵方の防御陣形が崩れた隙を逃さず、土星ロケットエンジン
全開。小惑星表面に取り付き、ライフルの連射でブラックコスモスを蹂躙する。
ハロルド・ウェザーは魔王の名に相応しい働きを見せた。
「どうした連邦兵共! 付いて来いっ!」
“土星の魔王”の存在が、連邦兵の闘志を焚き付ける。故郷を守る戦いを、他星人に任せては居られないと!
「ここが勝負の岐れ目だ! 後れを取るな! 火星軍の意地を見せろ!」
マーウォルスは怒声混じりで味方に発破を掛けながら、心内で密かに思った。
(……地球の連中が“魔王”と名付けた訳だ)
士気の高まった連邦火星軍は、ハロルドに続いて猛攻撃を開始する。ペリカンの格納庫で再出撃の準備をしながら、
その様子を見ていたセイバーは、悲し気に呟いた。
「あの巨大なガンダムは、アーロ・ゾットを象徴しているかの様だ……」
偉大な総代表はアルティメットサイコガンダム。総代表に付き従う人間はヴァルキュリアス。BMSは決して主人に
逆らわない。強大な能力故に、彼は人に囲まれながらも孤独だったのだろう……。
セイバーは交戟の瞬間、アーロ・ゾットの心に触れていた。彼は解り合えない人々の悲哀を、人類の嘆きと言った。
それが嘘だとは思わないが、発せられた感情の底流には、別の感情があった。それは“孤独”。哭いていたのは、
他の誰でもない、アーロ・ゾット自身なのだ。彼は独りを嘆いていた。“人”が自分に追い着かない事を、嘆いていた。
「“悲しい人”、か……」
高い能力を持つ者が、全く能力の無い者に圧されている。能力故に……。
アーロ・ゾットの能力は、余りに高過ぎたのだ。
それでも冷静に見れば、双方は拮抗戦を繰り広げていたが、数の優勢にも拘らず攻め切れないアーロ・ゾットは
息苦しい圧迫感を覚えていた。僅かな攻防の波の押し引きにも過敏になる。
ここは一旦、攻撃の手を緩めて防衛に専念し、BMSの数を増やして、反転攻勢に出たい所だが、今は現状維持が
ベターな選択。短時間でも守りに回れば、敵を勢い付かせてしまう可能性がある。押し切られては元も子も無い。
この様な状況に陥った全ての元凶は、ハロルド・ウェザー。彼を始末しなければ、惑星パイルアップ計画の成否に
係わる。アーロ・ゾットは、そんな気がしてならなかった。不確定要素は排除したい。しかし……しかし!
「何故だ!! 何故、奴の動きが読めない!? ダグラス・タウンのプレッシャーは既に消えていると言うのに!!」
彼は自身の状態を客観的に判断出来ない程に疲弊していた。如何に強大な能力を持つニュータイプと言えど、一人
の人間。限界は来るのだ。アーロ・ゾットは飛び回るバウ・ワウを睨み、恨みがましく吠える。最早、彼は怨念のみで
全ての機能を動かしていた。
「ハロルド・ウェザー! オールドタイプ! 貴様も重力に魂惹かれ、青い星の虜になったか!?」
強い思念波が届き、脳を絞られる様な苦痛がハロルドを襲う。
「地球の重力に引かれてんのは、あんたの方だろうが! 自分の様を、よくよく思い返してみろ!」
怒鳴り返す彼は、回線を開いている訳でも無いのに声が響いて来る事を、疑問に思わなくなっていた。
土星生まれのハロルドにとって、地球は巨大コロニーと変わらない。土星、木星に比して、地球は小さ過ぎる。
地球人ではないハロルド・ウェザーに、新旧の区切りは当て嵌まらない。それがアーロ・ゾットには解らない。
「何故、何故、奴は私の前に立つ? 私は奴に敗れるのか? 私が、ニュータイプが、オールドタイプに……!」
「年寄りが! 張り切り過ぎたんだよ!」
「私がオールドだと!?」
「ああ、オールドの中のオールドさ! 年寄りは人の話を聞かなくていけねえ!」
ハロルドはアーロ・ゾットの息の根を止めるべく、ダグラスが暴いた小惑星内部への入り口に飛び込んだ。
32話終わる。これで放って置けば落ちるはず。
この2作品がスレの中心だったから終わる雰囲気に物寂しさを感じるぜ
本当に乙
乙
2つが終わったら今以上に過疎るんだろうか…
メモ帳の習作を完成させるか
ガンダム、それは特別なモビルスーツの名前。
ガンダム、それは伝説にして神話。
ガンダム、それはあなた、そしてわたし。
「――尉、立ちたまえ少尉! 立て……立てぇ、エンテ=ミンテ!」
マイクへ唾を飛ばす絶叫に、エンテの意識は浮き上がった。
同時に四肢を走る神経へ電流が閃いて、手の感覚がアームレイカーを手繰る。明滅する
オールビューモニターは、重度のダメージにひび割れていた。その中央に歪んで映る敵が、
ゆらりと身を起こす。
鋼の巨人達がぶつかり合う、月の海は今日も凪いでいた。
「大佐、私は何時間位、気を――」
「ものの数秒だ。もっとも、それが命取りになる」
「評価試験の方は」
「続いている。私が終らせんよ……黒歴史の研究はまだ、はじまったばかりだ」
シミュレーターは未だ、黒歴史を、その一部を完全に再現していた。人類が紡いできた
闘争の歴史……その影に葬られた、数多のモビルスーツ達。月の女王がエンテ達へ命じた
任務は、その全容を明らかにする事。
そしてそこから、学ぶこと。
エンテは無言でダメージをチェックし終えると、大の字に伏した乗機にムチを入れる。
軽い震動と共にバーニアを吹かしながら、金色の巨躯が立ち上がった。増設された装甲が
次々とパージされ、地平線の彼方に昇る地球光に煌く。
「さあ、ガンダム。私は身軽になったぞ……百年でも二百年でも戦える。こいっ!」
黄金の秋を髣髴とさせるモビルスーツの中心で、身を声にしてエンテは吼えた。
――遥か太古の昔、ある一人の男が一機のモビルスーツに夢を託した。百年間ずっと、
豊穣の黄昏に輝く機体を作ろう、と。それが今、数字の羅列として黒歴史から抽出され、
改良型としてシミュレーター上に再現されている。
フルアーマーシステムを排除した百式改に、エンテはビームサーベルを握らせた。
「少尉、もうあまり余裕がない。次の評価試験が迫っているのだ」
「了解。……むっ」
強張る痩身をシートへ押し込み、エンテは短く唸った。
今や虚空に浮かぶ巨大な地球を背に、ガンダムもまた装甲を脱ぎ捨てる。紅白の彩りが、
次々と砂埃を上げて月面に舞った。背のプロペラントも、肩のバインダーもかなぐり捨て、
ガンダムもビームサーベルを抜くや半身に構える。
その機体は灰色一色に塗り潰されていた。まるで暗く寒い冬のよう。
「うーん……」
「どうした、少尉?」
「いえ、やはりガンダムは白くなくては。そう、淡雪のように白く……」
「ええいっ! ごたくはいいっ、早くあれを……ガンダムMk3を撃墜してみせろっ」
了解を呟くエンテの、桜色の唇が僅かにほころぶ。
対峙する二機のモビルスーツは、同時に握る光剣にビームの刃を発振させた。お互いに
牽制するように、じりじりと時計回りに歩を進める。汗に濡れた肌がパイロットスーツに
吸い付き、滲む不快感……しかしエンテは、集中力を切らす事無く距離を詰める。
ひりつくような緊張感が、弾けた。
「――っ! おおおっ! ユニバァァァァスッ!」
地を蹴る巨体が加速する。振りかぶるビームサーベルが、一際眩く輝く。
二体の巨人は、真空の宇宙に作動音を響かせ激突した。抉られた機体が幾重にも爆ぜて、
互いに相手へ寄りかかるように崩れ落ち……沈黙。
瞬間、シミュレーションが停止してエンテは長い溜息を吐き出した。
ガンダムMk3との戦いは終った……しかしそれは、新たなはじまりに過ぎない。
「少尉、御苦労……と、言いたいところだがっ! 相打ちではないかっ!」
ヘルメットを脱ぎつつ、ハッチを開放してシミュレーターから這い出たエンテへと、
上官の怒声が浴びせられる。思わずはなじろんだが、エンテは僅かに頬を緩ませる。
長い黒髪をかきあげれば、くすりと笑みが零れた。
「大佐が急げと仰るので。手早く片付けましたが……次、よろしいので?」
「ええい、相変わらず口の減らないっ! 次だ、続けて次の評価試験を開始する!」
慌しくなる周囲の中、エンテは湯気をあげる大佐の背中に舌を出した。
埋め記念カキコ、職人様方お疲れ様です。
クライマックスへ向けて、頑張ってくださいませ。
GJ
シミュレータとはいえ連戦は辛いと思うんだが
自ら申し出るあたり何という鉄人
Mk-IIIとかたまらん