魔女っ子系創作スレ

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1名無しさん@お腹いっぱい。
魔女っ子物にハマった人、またはハマっている人、自分でも作ってみませんか
SSでも絵でも可!
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 17:42:26 ID:ey+oEsQB
ぶっといビーム撃って悪魔だのなんだの言うアニメが人気みたいだが、
あんなモノが魔法少女を語ってほしくないな
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 17:49:45 ID:kWMhXQnN
ブラスターマリ?
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 18:09:27 ID:Me2hnf61
>>2
一応、タイトルに魔法少女とついてるから、魔女っ子物に分類される…のか?
個人的にはバトルヒロイン系のような気がする

>>3
1日ザクナツカシス
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 18:19:01 ID:qAqw7x4r
このスレは二次創作でもおkなの?
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 18:23:45 ID:Me2hnf61
>>5
もちろんアリ。オリジナルも歓迎
つーか最初に書いとけばよかった。不手際スマン
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 18:48:39 ID:qAqw7x4r
魔女っ子業界には詳しくないんだけど、
最近のものでバトルがメインじゃない魔法少女ものってあるの?
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 18:59:52 ID:Me2hnf61
やや前になるがどれみシリーズとか…
まあ昔より数が少ないのは確か
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 19:09:49 ID:qAqw7x4r
そーなのかー
俺の中では魔女っ子って魔法でご町内のあれやこれやを解決する、
みたいな感じなんだが古いイメージなんだろうか
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 19:26:29 ID:Me2hnf61
でもそういうのが正統派だし、本来だと思うよ
とはいえ最近の女の子の趣味嗜好は違ってきてるみたいだね
1110/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/21(火) 20:27:08 ID:n2NuSlQn
二次総合スレに魔女っ子ものの投下があるから、移転をお願いしてみては?
向こうも投下場所に困ってあっちに書いてたみたいだし。
転載だけでも受け入れて貰えれば、こっちも賑やかになるんじゃないかな。
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 20:35:33 ID:2ioGBzoa
ああ魔法少女プリティーサミーのがあったね
13サミー書いてる人:2008/10/21(火) 22:25:37 ID:gKjkwFee
どうも、総合スレでサミーの二次書いてた者です。
こちらのスレを紹介されたので移住することにしました。
これからよろしくおねがいします。

ちなみにあちらのスレで二話分投下済みですが、
こちらのスレにも再投下した方がよろしいでしょうか?

とりあえず、該当場所のアドレスをリンクしておきます。
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219908735/165n-
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 22:29:48 ID:d1rXB1Kj
ここは今日出来たてホヤホヤですもんね。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 22:35:21 ID:Me2hnf61
>>13
ありがとうございます。
再投下、お願いしてもよろしいでしょうか?
このスレは始まったばかりですので、サミーさんの作品がきっかけで賑やかになればいいな、と
1610/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/21(火) 22:39:43 ID:n2NuSlQn
文量が多いし今度こそはみんなで支援するよw>再投下
なので投下するタイミングを教えてください

さるさん避けは、時間の変わり目の投下が推奨だっけ?
17サミー書いてる人:2008/10/21(火) 22:52:15 ID:gKjkwFee
>>15-16
了解です
再投下ついでに誤字とか修正してるので、
アドバイス頂いた通りに時間跨ぐ頃合に投下したいと思います
第一話 『サミー、大地に立つ!』



萌田砂沙美は、海の星中学校に通う平凡な中学生である。
正直に言うと、平凡と称するには平均的な中学生と比べてかなりあちこちズレてはいるのだが、
これから起こる、彼女の人生を一変させてしまう大事件と比べれば些細な問題で、誤差の範疇である。

ともかく、砂沙美は今、学校にいる。
今日は金曜日。時限は5限目。これが終われば下校の時間、そして連休である。
学生なら誰でも待ち遠しい時間だが、砂沙美はことさら待ちきれない様子だ。
ツインテールにした青い髪がせわしなくゆらゆら揺れている。

キーンコーンカーンコーン

「はい、じゃあ今日の授業はこれまで」

終業の礼が終わると共に、生徒達は部活、帰宅など、めいめいの目的に向かって動き始める。
体力と運動神経には自信のある砂沙美だが、とある目的の為にどこの部にも入らず、もっぱら帰宅部だ。
今日は日直でも掃除当番でも無いので、真っ直ぐに家に帰ることができる。
ところが・・・・・・。

「えーっ! 今日の掃除当番あたしだけー!?」

わざとらしく素っ頓狂な声を上げたのは今日の掃除当番であるB美だ。
こういう名前なのは特に重要キャラではないということを示すためであって、決して手抜きではない。
ちなみにA美ではなくB美なのは委員長と名前が被るからである。

とにかく、彼女の班のメンバーは彼女以外の3人は皆図ったかのように病欠であった。
B美は助けを求めるように周りを見渡すが、みんなそそくさと逃げるように教室から出て行ってしまう。
そんな途方にくれるA美に、砂沙美は迷わず声をかけた。

「B美、あたしが手伝うよ!」
「えっ、でも萌田さん、今日は何か用事があったんじゃ・・・・・・」
「いいのいいの。人助けは何よりも優先すべき至上命題だって、ママが言ってたよ!」
「あ、ありがとう・・・・・・」
「気にしないで。あたし、誰かの助けになれてる時が一番嬉しいんだ」

砂沙美はそう言って本当に嬉しそうに笑う。

「砂沙美ちゃん、私も手伝うわ」
「あ、美紗織ちゃん!」

砂沙美に声をかけたのは、小学校から一緒の親友・天野美紗織だ。
流れるような黒髪と、エメラルドグリーンの瞳が印象的な美少女である。

「1人よりマシと言っても、2人じゃまだ厳しいでしょ?」
「うん、ありがとう美紗織ちゃん!」

こうして、B美、砂沙美、美紗織の3人で放課後の掃除をすることになった。
「なんだか砂沙美ちゃんとこうしてゆっくり話すのって久しぶりね」

黒板の掃除をしながら、世間話に興じる砂沙美と美紗織。

「うん、クラス変わっちゃったから・・・・・・」
「それもあるけど、砂沙美ちゃんったら最近すぐ帰っちゃうじゃない」
「ご、ごめんね・・・・・・」
「まぁ気持ちは分かるけどね。それで、天地さんとは上手く行ってるの?」
「そ、それは・・・・・・!!///////」

美紗織の思わぬ攻撃を受け、砂沙美はゴミ袋に移している最中のチョークの粉をぶちまけてしまった。

「ケホッケホッ・・・・・・うぅ〜、いきなり変なこと聞かないでよ〜・・・・・・」
「うふふ、ごめんね。でも気になるじゃない、友達の恋の行方って」
「ま・・・・・・まぁまぁ・・・・・・ってとこ、かな・・・・・・? ・・・・・・え、えへへ・・・・・・」

適当に誤魔化しつつ、砂沙美は手を進める。
そうこうしている内に、作業も大体終わった。




「萌田さん、天野さん、今日はありがとう!」
「ううん、何か困ったときはいつでも言ってね!」

B美は職員室に日誌を届けに教室から出て行った。おそらくそのまま帰るか部活に行くだろう。

「さてと、あたしもそろそろ帰ろうかな。美紗織ちゃんは?」
「私も帰ろうかな。帰ってもすること無いけど・・・・・・」
「あれ、そういえば美紗織ちゃん、合唱部に入ったんじゃなかった?」
「う、うん・・・・・・でも今日はいいの・・・・・・」
「ふ〜ん」

言葉を濁す美紗織だが、砂沙美は気にも留めなかった。

「じゃ、あたし急ぐから帰るね!」
「う、うん・・・・・・またね」
「バイバ〜イ!」

後ろ向きに大きく手を振りつつ、砂沙美は駆け出していった。

(前はいつでも一緒に帰ってくれたのにな・・・・・・)

残された美紗織は少し寂しそうだったが、頭を振って嫌な気持ちを追い払うと、自分も教室を出た。
「おかえり、砂沙美ちゃん」
「えへへ・・・・・・ただいま、天地兄ちゃん!」

垣根に囲まれた和風の家。
その軒先で、純朴そうな青年が砂沙美を待っていた。

砂沙美が急いで学校を帰る理由。
それは、近所に住む高校生・征木天地と会うためだった。
何を隠そう、二人は恋人同士。
中学校入学を期に、砂沙美は想いを打ち明け、天地もそれを受け入れたのだ。

砂沙美は両親とも忙しく、家に居ないことがほとんどだった。
それゆえ、幼い砂沙美は近所の征木家に世話になることが多く、
中でも世話を焼いてくれた優しいお兄さん―――つまり天地のことだが―――に砂沙美が惹かれたのも当然のことであった。

「砂沙美ちゃんが後だなんて珍しいね。いつもは俺の方が後で、家の中で待ってもらってるのに」
「ごめんなさい、ちょっと友達の手伝いをしてたから・・・・・・」
「いやいや、責めてるわけじゃないよ! ただ珍しいなって思ったから」

慌てて弁解する天地。そんな仕草も砂沙美の目から見ると愛らしい。

「じゃ、行こっか・・・・・・天地兄ちゃん♪」

砂沙美は、天地の腕を抱き寄せた。
金曜日の放課後は、二人のデートの時間と決まっているのだ。


デートと言っても、何のことは無い。
適当に公園を散歩したり、せいぜい商店街を見て回る程度である。
主婦のオバチャンや魚屋のオッチャンにからかわれつつも、砂沙美は天地の肩に寄りかかってるだけで幸せだった。

(このまま、ずっとこうしていられたらいいのに・・・・・・なんて)

我ながらこっ恥かしい乙女モードだなぁ、などと思う。
適当にあちこち回っている内に、二人はいつの間にか川原の土手を歩いていた。
砂沙美は何気なく眼下に流れる川に目をやる。

「・・・・・・あ〜〜〜〜っ!!!」

何かに気付き、天地の腕も振り解いて一目散に河川敷を駆け下りる砂沙美。

「どうした、砂沙美ちゃん!?」
「ひどい・・・・・・こんなにあちこちゴミが捨てられてるっ!!」

砂沙美の言う通り、川原には、残飯、空き缶、ビニール、タバコの吸殻など、
ありとあらゆるゴミがぶちまけられている。

「・・・・・・天地兄ちゃん、ゴメン! あたし、ちょっとコレ片付けるから待ってて!」

言い終わらないうちに汚いビニールを拾ってせっせとゴミを集め始める砂沙美。

天地はそんな砂沙美を見て、少し笑った。
砂沙美は昔からずっと変わらない。
誰にでも優しくて、曲がったことが許せない、そんな正義感の塊だ。

「よし、僕も手伝うよ!」
「ありがとう、天地兄ちゃん!」

二人で手分けしてゴミを集めていく。
大した量でもなかったので、割と早く片付けは終わった。
ゴミを処分して手を洗ったあと、二人は橋の上から川の流れを眺めていた。

「ねぇ、天地兄ちゃん・・・・・・」
「なんだい、砂沙美ちゃん?」

砂沙美の顔は、心なしか沈んでいるように見える。
話を聞く天地の顔も真剣だ。

「砂沙美ね、時々思うの・・・・・・。砂沙美は天地兄ちゃんと一緒に居るだけで幸せだけど、それだけでいいのかなって・・・・・・」
「どういうこと?」
「砂沙美、もっと何か大きなことができないかって思うの。
 社会にどげげっと貢献できることが、きっと何処かにあるんじゃないかって」
「なんだ、そんなことか。、砂沙美ちゃんは十分よくやってるじゃない。
 川原のゴミ拾いだって立派な社会貢献だよ、なかなか出来ることでも無いし」
「それはそうかもしれないけど・・・・・・」

砂沙美は納得いかない顔だ。
なんとも曖昧な悩みであることは、本人も良く分かっているのだが・・・・・・。

ふと、天地は腕の時計を見る。針は3時前を示していた。

「あ、ゴメン砂沙美ちゃん! 俺、そろそろバイトの時間になっちゃう」
「もうそんな時間? 分かった、天地兄ちゃん、今日もありがとね!」
「ううん、俺の方こそとっても楽しかったよ!」

天地は急いで仕事場に向かった。
残された砂沙美は天地の後姿を見送り、それが見えなくなると、ゆっくりと帰路に着いた。

「ミャ〜・・・・・・」

帰り道の途中、妙な鳴き声聞いた砂沙美は、足元を見る。
そこには、猫だかウサギだか良く分からない生物が居た。
ふかふかの茶色い毛皮に覆われていても、ぺこぺこにへこませているお腹が良く分かる。
いつ飢え死にしてもおかしくない感じだ。

「あれー、この辺りに野良猫なんて珍しいなぁ」

砂沙美は猫だかウサギだか良く分からない生物を一目で猫と断定した。

「ミャアン」
「なぁに、お腹空いてるの?」

猫だかウサギだか良く分からない生物はコクコクと頷いた。

「う〜ん、でもゴメンね。野良猫への餌付けはしちゃいけないことになってるから・・・・・・」
「ミュ〜ン・・・・・」
「そんな風に鳴いたってダメだよ。仕方ないでしょ、もし居ついちゃったらご近所さんの迷惑になっちゃうんだから」
「・・・・・・ミャ・・・・・ン・・・・・・」

猫だかウサギだか良く分からない生物は、本当に辛そうだ。
流石にこのまま放置するのは良心が咎めた。

「仕方ないなぁ・・・・・・あたしの家まで来る? それなら牛乳ぐらいならご馳走してあげるけど・・・・・・」

その言葉を聞くなり、猫だかウサギだか良く分からない生物は、砂沙美の腕の中に飛び込んだ。

「ミャン!」
「もう・・・・・・」

砂沙美は仕方なく、猫だかウサギだか良く分からない生物を家まで持ち帰った。



『商店街で強盗が〜』
『道端に刺し傷のある男性が倒れて〜』
『議員のB氏が汚職を〜』

「全く、どうして悪い奴らって居なくならないんだろう」

ピチャピチャと牛乳を舐めてる猫だかウサギだか良く分からない生物を尻目に、TVを見ながら砂沙美は一人ごちた。

こういうニュースを見て、真っ先に感じるのが自分の無力さだ。
もっともっと社会貢献して、もっともっと良い社会にしたいのに・・・・・・自分程度の小娘じゃ大したことは出来ない。
できることと言えば、飢えて腹を空かした猫だかウサギだか良く分からない生物を助けてあげることぐらいだ。

砂沙美は猫だかウサギだか良く分からない生物をチラリと見る。

「この子、いっそこのまま家で飼っちゃおうかな。それならちゃんと躾ければ近所の迷惑にもならないし」

猫だかウサギだか良く分からない生物は、牛乳のついでにあげた小魚を手で持ってカリカリとかじっている。
とりあえず頭は悪くなさそうだ。
意外と育ちも良いのか、品もいい。
少々やんちゃなのが玉に瑕だが、これならママも飼うことを許してくれるだろう。
23.:2008/10/21(火) 22:59:12 ID:n2NuSlQn
.
「よし、そうと決まれば名前付けてあげなきゃね」
「魎皇鬼!」
「『リョーオーキ』ねぇ・・・・・・。かっこいいけど、ちょっと長いから縮めて『リョーちゃん』とか・・・・・・」
「やだよ、そんな呼ばれ方! ちゃんと魎皇鬼って呼んでよ!」
「へ?」

砂沙美は足元を見る。

「ボク、もう子供じゃないんだぞ! ちゃん付けなんてカッコ悪いよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

さっきから砂沙美の独り言に割り込んでくる幼い声。
それは紛れも無く、足元に居る猫だかウサギだか良く分からない生物から発せられていた。

「・・・・・・ね・・・・・・猫ちゃんが喋ったーッ!!?」
「ぶーっ、ボクは猫じゃないよ、ウサギだよ」
「ね、猫が喋るなんて・・・・・・あたし、夢でも見てるの・・・・・・?」
「だから猫じゃなくてウサギだってば!」
「嘘だっ!! どっからどう見ても猫そのものだもん!!」
「えー、そんなに猫に見えるー?」
「見えるよ!!」

砂沙美に断言され、猫・・・・・・はションボリしてしまった。

「・・・・・・ちぇっ、ジュライヘルムに帰ったらまた変身魔法の特訓をやり直しだな。
 ま、それはいいとしてさ、お姉さん魔法少女にならない?」
「・・・・・・はい?」

猫が喋っただけでも驚きなのに、『魔法少女にならないか』と来たもんだ。
砂沙美の脳みそはフリーズ寸前である。
「どう? 魔法少女になる気あるの、ないの?」
「・・・・・・いや、その・・・・・・あの・・・・・・」

混乱してしまった砂沙美は、冷静に一つ一つ事実を整理する。
猫を拾ったら突然しゃべりだして、魔法少女に勧誘された。
・・・・・・うん、意外と単純じゃないか!
でも、どうして砂沙美に魔法少女になって欲しいんだろう。
そもそも魔法少女って何ができるの?
いやいや待て待てそんなことは後回しでいい。
このしゃべる猫にはもっと根本的な疑問を尋ねるべきだ。

「ねぇ・・・・・・猫ちゃん」
「魎皇鬼!」
「リョ、リョーちゃん」
「ちゃん付けはやめろ!」
「と、とにかく・・・・・・なんで猫なのに喋れるの? というか・・・・・・キミって一体何なの?」

よくぞ聞いてくれました、といった感じで魎皇鬼がふんぞり返る。

「えっへん! ボクこそは魔法の国・ジュライヘルムの住人にして、エリート魔法少年の魎皇鬼!
 今はウサギの格好をしてるけど、これは仮の姿で、本当は地球人とほぼ同じ姿をしてるんだ!」
「だからどう見ても猫だって・・・・・・」
「うるさいな! ・・・・・・とにかく、ボクの使命は地球に降り立って、正しい心を持つ少女に魔法の力を与えることなのさ!」
「魔法の力を与えて、どうするの?」
「良いことをいっぱいさせる!」
「何の為に?」
「え? そ、それは・・・・・・」

善悪のバランスがうんたら。
地球とジュライヘルムの関係がうんたら。
世界の存亡がうんたら。

それには確固たる理由が存在するのだが、
まだまだ子供の魎皇鬼にはイマイチよく理解できていなかった。

「ねぇ、どうして?」
「それは・・・・・・その・・・・・・」

疑惑の目を向ける砂沙美。

「き・・・・・・決まってるだろ! もちろん正義のためさっ!!」

焦った魎皇鬼は思わず口からデマカセを言ってしまった。

「正義のためっ!?」
「そ、そうさ! 魔法の力を人助けの為に使うのさ! せ、正義を行うのに、理由なんていらないだろっ!?」

その言葉を聞いて、砂沙美は俯いてしまった。

(や、やっば〜・・・・・・デマカセだってバレちゃったかな・・・・・・?)

ガシッ!
凄い勢いで砂沙美の両手に掴まれ、ギクリとする魎皇鬼。
俯いた砂沙美の顔がぐぐぐと持ち上がっていく・・・・・・。

「そ・・・・・・・・・・・・・・・・・・それだぁ〜〜〜〜〜っ!!! それだよリョーちゃん!!」

魎皇鬼を抱き上げる砂沙美の瞳は、これ以上無いぐらい輝いていた。
「魔法という超越的な力で、どうしようもなくて困っている人達を助ける!!
 これぞ究極の社会貢献、あたしの求めてたモノだよぉ〜〜〜!!!」

砂沙美の脳裏に様々なイメージが浮かぶ。

交通事故を食い止める自分・・・・・・
凶悪なテロリストを捕まえる自分・・・・・・。
巨大隕石を跳ね返して地球を救う自分・・・・・・。

「くぅ〜〜〜〜! たまらん! たまんないよっ!!」

ニヤけながらジタバタする砂沙美を見て、魎皇鬼は呆気に取られていた。
ま、まぁ・・・・・・何はともあれ乗り気になってくれたのはいいことだ。

「き、気に入ってくれてよかった、じゃあ早速このバトンで変身してみてよ!」
「うん、うん!」

魎皇鬼がクルリと回って、何だかおめでたいデザインのバトンを取り出す。
バトンを受け取った砂沙美はwktkが止まらないといった様子だ。

「そういえば・・・・・・」

砂沙美は、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみた。

「ねぇ、何で砂沙美を選んだの? 正しい心を持ってれば別に誰でもいいんでしょ?」
「え? いや、なんとなく」
「な、なんとなく?」
「うん。ご飯ご馳走してくれたし、悪い人じゃなさそうだし」
「あー、そう・・・・・・」

魔法の国の女王の生まれ変わりだとか、
水晶玉で見つけた世界一心の綺麗な少女だとか、
そういう設定はどうやら無いようだ。

「とにかく、変身してみてよ。呪文は『プリティミューテーション・マジカルリコール』だよ」

「・・・・・・よし、おまかせっ!」

気を取り直して、砂沙美はとりあえず変身してみることにした。

「プリティミューテーション! マジカルリコール!」

魔法の光に包まれ、砂沙美の服が分解される!
もちろん透過光完備で、プライバシーの保護は万全だ!
髪から始まり、胸、腰、手足に魔法少女のコスチュームが装着される。
仕上げに額に三角のタトゥーが入れられ、小指を頬に突き立てた決めポーズ!

めでたく、魔法少女への変身は完了した。

「へー、これが魔法少女になった砂沙美なんだ!」

砂沙美はドレッサーの前でくるくる回って自分の姿を見てみる。

「こんな一瞬で服装が変わっちゃうなんて、すごい・・・・・・すごいんだけど・・・・・・」

些細なことではある。
砂沙美は地球を救えるほどのパワーを手に入れることができた。(砂沙美の勝手な推測だが)
それに比べれば、看過しても何も問題ない、非常に微小な問題である。
だが、だがしかし・・・・・・。
年頃の少女はとうとう耐え切れず、思わず確認してしまった。
「・・・・・・ダ、ダサくない、このカッコ?」
「うん、ボクもそう思う」

嘘でも否定してくれれば何とか自分を誤魔化せるというのに、
素直な魎皇鬼はあっさりと肯定してくれちゃった。

う〜ん、しかし何度見てもダサイ・・・・・・。
上半身は和服をイメージしてると思われる振袖なのだが、胸部が派手なピンクで、非常に浮いている。
加えて下は短いひらひらのスカートで、明らかに統一感が無い。
素敵な黄色いブーツも、この組み合わせでは子供が履く長靴にしか見えない。

さっきまでは意識しなかったのだが、魔法のバトンも相当ヒドイ・・・・・・。
羽子板を思わせる野暮ったい形状に、でっぷりとした厚み。
頂点部分には恥ずかしげもなく巨大なハートが意匠付けられており、色はもちろんピンクである。

小学生がこの格好をするなら、まぁ許せるかもしれないが、
砂沙美は花も恥らう中学生の乙女である。
はっきり言って、痛い。
痛すぎる。

「くぅー・・・・・・っ」

人として何か大事なものを失った気がしたが、これも正義のためだ。
そう、正義の・・・・・・。

「そうだ、それで変身したらどんな魔法が使えるの!?
 なんたって正義の魔法少女だもん、そりゃあもうド派手な奴が使えるんだよねっ!?」
「えっ・・・・・・そ、そりゃあもちろん!」
「どんなどんな!?」
「え、えーと、うーんと・・・・・・」

魎皇鬼は上司の神官に言われた言葉を必死に思い出す。

(えと・・・・・・確か、新しく使えるようになった魔法は自然と使い方が分かるようになってるはず・・・・・・)

そう、何か魔法が使えるようになったのなら、自分で自然に気が付くはずなのだ。
しかし砂沙美をチラリと見てみても、目を輝かせるばかりで、そんな素振りは見せない。
つまり・・・・・・。

(こ、このお姉さん・・・・・・魔法少女になっても一つも魔法を覚えなかったんじゃ・・・・・・?)

だとしたら、何という才能のなさだろう・・・・・・。
地球産の魔法少女は過去にも沢山存在していたようだが、こんな話はとんと聞いたことが無い。

魎皇鬼は、改めて砂沙美を見る。
・・・・・・ワクワクしている。
真実を告げて、奈落のどん底に突き落とすのは、申しわけなく思えた。

「そ、そう! アレがあるよ!」
「なに? なになになぁに〜?」
「魔法少女になれば、身体能力が1.5倍になるんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

場を、静寂が満たした。
28.:2008/10/21(火) 23:07:09 ID:n2NuSlQn
.
「・・・・・・それで?」

砂沙美は魎皇鬼をジト目で睨む。
流石にこんなことで誤魔化されてはくれないらしい。
魎皇鬼は方向性を変えることにした。

「お・・・・・・お姉さんは甘いよ!
 魔法少女になれたからって、そう簡単に魔法が覚えられるわけないじゃない!」
「えぇ〜、今更そんなのアリぃ〜?」
「ま、魔法少女は一日にしてならずだよ! 魔法を覚えたいなら特訓あるのみ!」
「そんな〜・・・・・・」

落胆のあまり、砂沙美は膝を突いてガックリと肩を落としてしまった。




「ねぇ〜、ホントにこんなことで魔法が覚えられるのぉ〜?」

強弁する魎皇鬼に押され、しぶしぶ特訓をすることになった砂沙美だったが、
その特訓というのが川原でジョギングという、およそ魔法に関係があるとは思えない体力修行だったのが納得いかない。
格好が魔法少女のままだったので、道行く人に後ろ指を差されたりもした。
ある意味、精神修行も兼ねていると言えるが・・・・・・。

「足腰は魔法の基本だよ! つべこべ言わないの!」
「うぅ〜・・・・・・夕日がまぶしいよぉ・・・・・・」

願えば叶うのが魔法である。
一見無意味に思える特訓でも、信じさえすれば、必ず身になり、力になるのである。
・・・・・・多分。

「おや? キミは・・・・・・」
「どげげっ!?」

よりにもよって、砂沙美が一番会いたくない人に会ってしまった。
そう、恋人の天地である。
ちなみに彼がここにいるのはジョギングのためなどではなく、バイトの新聞配達のためだ。

「あ、あの、これは、その・・・・・・」
「ふふふ、何だか面白い格好をしているね」

(ぎゃ〜〜〜〜〜〜!!!)

顔は真っ赤。心の中は悶絶である。
もうダメ・・・・・・2週間は天地の顔を見れない・・・・・・。

「キミ、見かけない顔だけど、この辺りの子?」
「へ?」

天地は真顔で聞いてくる。
からかっているようには見えない。

「あ、あたしは、砂・・・・・・いや、その・・・・・・
 ・・・・・・プ、プリティー・・・・・・そう、プリティサミーって言います!」
「プリティサミーちゃん?」
「は、はい! 今日からご町内の平和を守ることになった魔法少女なんです!」
「ふぅ〜ん?」
「ど、どうぞこれからよろしくお願いします!」

砂沙美、いやプリティサミーはぺこりと頭を下げる。
「そっか、僕は征木天地っていうんだ。こちらこそよろしくね、プリティサミー」

天地は特に動じた風もなく、サミーの頭を撫で撫ですると、そのまま行ってしまった。

「し、心臓が止まるかと思った・・・・・・。でも、素顔丸出しなのによくバレなかったなぁ」
「当たり前だろ、砂沙美ちゃんは魔法少女になったんだから」
「そんなもんなの?」
「うん」
「う〜ん・・・・・・」

砂沙美にはどうも納得いかないが、まぁそういうものらしい。

「ともかく、魔法少女としての名前も決まったし、明日からじゃんじゃん正義の為に働こうね!」
「魔法少女としての名前って・・・・・・・・・・・・え〜、プリティサミーのこと〜!?」
「一度自分で名乗っちゃったんだから、それで通すしか無いだろ?」
「そんなぁ〜・・・・・・事前にもっとマシな名前を考えておけば良かったぁ〜!」

後悔先に立たず。
魔法少女プリティサミーこと、萌田砂沙美の戦いは、まだ始まったばかりである。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


天野美紗織はゲームセンターにいた。
服装は学校の制服のまま。
時間は7時過ぎ。
立派な非行だが、これが初めてというわけでもなかった。

『K・O! YOU WIN!』

女王様というあだ名がつくほど強気な性格と外見を持つ女格闘家が画面内で勝ち誇ると、
美紗織の頭上で連勝をカウントしている数字が、また一つ増える。

美紗織はピアニスト志望だった。
幼い頃から素早く正確に動かす訓練をしてきた指は、画面の中のキャラクターへ彼女の意志を正確に伝える。
加えて、気に入った物のことはとことんまで知り尽くさないと気が済まない性格の美紗織はこのゲームのことを調べつくし、
結果として、美紗織はここいらの界隈では敵なしというほどの強豪プレイヤーとなっていた。

美紗織がゲームセンターに入り浸るようになったのは、ひとえに退屈だったからだ。
小学生の頃からずっと遊んでくれた友達は、今は恋愛に夢中。
家に帰ってもどうせパパはまだ帰っていない。
ならばと入った合唱部はどうにも馴染めなかったため、すぐに行かなくなった。
一人ぼっちの家で時間を持て余すよりは、
このまま不毛な連勝記録を積み上げ続ける方が、美紗織にはよっぽど有意義に思えた。
『K・O! YOU WIN!』
『全く下らない時間を過ごしちゃったわね』

『K・O! YOU WIN!』
『弱いわね! 出直しておいで!』

『K・O! YOU WIN!』
『ママのおっぱいでもしゃぶってな!』

女王様が敗者を罵倒するごとに、美紗織の頭上のカウントが進んでいく。
それに比例して、画面の中の女王様は、どんどん残虐になっていった。
最初は正拳突きや回し蹴りを使った無難な戦法だった女王様だが、
徐々に相手に馬乗りになったり、踏みつけたりといった、相手に屈辱を与える技が増えていく。
裏ワザでセレクトできる勝利ポーズも、どんどん挑発的なものに変わっていく。
弱者を見下し、踏みにじることに快感を覚えている……美紗織には、そう思えた。
……その女王様を操っている自分のことは、意識的に無視をした。
自分のことなど、今は何も考えたくなかった。





8時を回った頃、美紗織は家路についた。
ゲームセンターは深夜までやっていたが、あまり身体が丈夫でない美紗織は夜更かしをすることを嫌った。
適当に買い食いをして腹を満たしつつ、美紗織はゆっくりと歩を進める。
既に家は大分近くなっており、周囲も住宅地だ。
人通りもあまりなく、辺りは静まり返っている。

「あ・・・・・・」

美紗織の目に、道端に倒れて動かない緑の鳥が写った。
小鳥ではない。美紗織の両手に収まりきらないほどの大きさだ。
ぼんやりとしていた美紗織の目の焦点が一気に定まる。

「大変、怪我してるのかしら!?」

あわてて駆け寄り、抱き上げるが、鳥はピクリともしない。
しかし鼓動は感じられるので、まだ生きているのは間違いないようだ。

「・・・・・・獣医さんなら確か2丁目の辺りにあったわよね? 急がなきゃ!」

美紗織は鳥を抱きかかえ、獣医を目指して一目散に駆けていった。

(・・・・・・かあ・・・・・・さん・・・・・・)

鳥がうわごとで人間の言葉を喋ったが、
かすかだったその声に美紗織が気付くことはなかった。



                   〜 第二話へ続く 〜
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 23:12:47 ID:gKjkwFee
すんません、気を使わせてしまったみたいですが、
投下ゆっくりだったのはいちいち文章確認しながら投下してたからです
規制に引っかかったワケではないのでご安心をw

向こうでも書きましたが、この世界観は↓のPVを参考にしてます
ttp://jp.youtube.com/watch?v=cFlcW8GYems

他にTV版サミーも見ておくと、世界観が掴みやすいかもしれません


二話はまた後日投下します
もう一度ゆっくり確認しなおしたいのでw
3310/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/21(火) 23:19:14 ID:n2NuSlQn
再投下乙でした
>>11の言いだしっぺですが、実はプリティサミーはよく知らないというw
ああでも何故か、このノリは懐かしい気がww
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/21(火) 23:58:20 ID:Me2hnf61
乙です〜
サミーらしい展開が表現されてて非常にGJ!

でもぶっちゃけ白状するとオレはサミーはテレビ版とマジカルナイト2しか知らないというorz
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 18:55:44 ID:ODp8UxWQ
>>33
原作知らない人にも楽しめる物を目指しているので、そういう言葉は嬉しいです
とか言いながら筆が進むとつい原作ネタを無駄にばら撒いてしまうのですが・・・w

>>34
マジカルナイト2を知ってるなら十分ツワモノだと思いますよw
ちなみに砂沙美と天地の関係はマジカルナイト2を参考にしている部分が大きいです
作品全体で最も影響を受けているのはもちろんTV版ですけどね


それではちゃっちゃと二話分を再投下しておきます
第二話 『サミー、初陣! 敵は悪の魔法少女!?』



「あ、鳥さん目が覚めた?」
「・・・・・・(キョロ、キョロ)・・・・・・」

緑の鳥は、天野美紗織の家で目を覚ました。
獣医の診断ではただ気絶しているだけとのことだったが、
どうにも心配だった美紗織は、家まで連れて帰って毛布を重ねた布団に寝かせてあげたのである。
今は土曜日の朝8時。
緑の鳥は、丸々半日以上寝てたことになる。

「身体、大丈夫? 痛いところとか、無い?」
「ク・・・・・・クルッポー」
「そう、良かった!」

美紗織は鳥の返事を肯定と決め付ける。
鳥は、少々戸惑っている様子だ。

「ねぇ、少しお話しない?」

美紗織は寝そべり、顔を鳥に近づける。

「私ね、鳥さんって大好きよ。
 自由に空を飛ぶことができるなんて、まるで魔法みたいだもの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

鳥をまっすぐに見つめる美紗織。
その瞳の奥底に、深い悲しみや寂しさが隠されていることに、鳥は気付いた。

「・・・・・・魔法・・・・・・か・・・・・・。魔法があれば・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・ふふっ、私・・・・・・いつまで子供みたいなこと言ってるんだろ・・・・・・」

自嘲気味に目を伏せる美紗織。
そんな美紗織を、鳥が何か言いたげな目で見ていたが、ほどなく顔を逸らした。

「・・・・・・あっ」

ふと、美紗織は壁にかかった時計を見る。
もう9時に近い・・・・・・いつもならピアノを練習してる時間だ。

「鳥さん、まだ無理はしないでね。ここは安全だから、ゆっくり寝ててね」

そう言うと、美紗織は立ち上がり、部屋を出て行く。
去り際に立ち止まり、鳥さんに微笑みかけるのも忘れなかった。
鳥は、布団に横たわりながら自分の今後のことを考えていた。
鳥には留魅耶という名前があった。
彼は地球の住人ではない。生まれも育ちも魔法の国・ジュライヘルムだ。

彼が地球にやってきたのは、不運な事故だった。
空間移動魔法の不具合で生まれた異空間に吸い込まれ、気が付いたら地球に飛ばされていたのだ。
とっさに鳥の姿に変身して魔素の流出を抑えることが出来たのが不幸中の幸いか。

とりあえずは命が助かったことに安堵しつつも、陰鬱な思いは拭えなかった。
留魅耶は知っていた。
地球では、ジュライヘルムの住人が生きていくことはできないことを。
ジュライヘルム人は魔素と呼ばれる魔法物質で身体を構成している。彼らにとって魔素は必須の物質だ。
だが魔素が存在しない地球では、ジュライヘルム人は魔素を大気に奪われ、1分もしない内に空に溶けてしまうのだ。

もちろん、留魅耶が今生きている以上、例外はある。
まだ魔力の弱い子供の内なら、動物の姿に変身することで魔素の流出を抑えられるのである。
しかし、成長期である彼の魔力は刻一刻と強大化しており、いつ臨界点を迎えて魔素の流出が始まってもおかしくない。
このままジュライヘルムの住人に発見してもらえなければ、どのみち自分は死ぬしかないのだ。
だが、地球に居る自分をジュライヘルム人が見つける確率など、砂漠で無くした針を見つける確率に等しい・・・・・・。
ならば望みの薄い救助に期待するよりも、このまま地球で死ぬまで楽しく暮らす方法を探す方が健全かもしれない。

(・・・・・・ごめん、母さん・・・・・・)

留魅耶はジュライヘルムへの帰還を諦めると同時に、未だジュライヘルムに居るであろう母に謝った。
それを最後に一切の未練を捨て、今後の暮らしについて考え始める。

ポロロン・・・・・・ポロン、ポロン・・・・・・。

ふと、部屋の向こうから流れてくる旋律に気付く。
美紗織がピアノの練習をしているのだ。

(・・・・・・そうだ、あの子・・・・・・)

留魅耶は自分を助けてくれた少女のことに思いをめぐらす。

(あの子、鳥の姿をしているとは言え、見ず知らずの僕を助けてくれたんだ。何かお礼できないかな)

優しいけど、触れたら折れてしまいそうな繊細な心の持ち主・・・・・・。
留魅耶から見た美紗織は、そんな印象だった。
お礼のことを抜きにしても、何とか力になってあげたいと思わせる少女だった。

(そうだ、魔法が欲しいとか、そんなことを言ってたじゃないか!)

地球の住人が魔法の力に自然に目覚めることは絶対に無い。
しかし、ジュライヘルムの住人はそれを目覚めさせる力を持っていた。

(あの子なら、魔法の力を正しいことに使ってくれるかも・・・・・・)

もちろん会ったばかりで素性も良く知らない少女だ、その決め付けに何の根拠も無い。
だが、留魅耶はあの少女が悪い子ではないと、直感的に感じていた。

ピアノが鳴り止む。
時計を見ると、時刻は10時を回っている。
向こうであちこち歩き回る音が聞こえた後、美紗織は留魅耶の元に戻ってきた。
「鳥さん、おなか空いたでしょ? ゴメンね、こんな物しかないけど・・・・・・」

美紗織が持ってきたのは、焼いたパンを削り落とした物だ。
お世辞にもご馳走とは言えなかったが、しばらく何も食べていなかった留魅耶はありがたく頂いた。

「うふふ、いっぱい食べてね」

留魅耶がパンくずを食べるのを嬉しそうに見つめる美紗織。

(やっぱり、とても優しい子だ・・・・・・この子ならきっと大丈夫!)

留魅耶は意を決して、美紗織に話しかけてみることにする。

「あ、あのっ・・・・・・!」
「だ、誰っ!?」

警戒心の強い美紗織は、不意にかけられた声に驚いて激しく後ずさる。
声の主を探してきょろきょろするが、それが目の前の鳥だとは思いもよらない様子だ。

「い、いや・・・・・・その・・・・・・」

所在無さげな声を出す留魅耶に、美紗織はおずおずと近づいて、抱き上げる。

「・・・・・・鳥さん・・・・・・なの・・・・・・?」
「う・・・・・・うん・・・・・・」

恐々として美紗織の次の言葉を待つ留魅耶だったが・・・・・・

「なぁんだ、九官鳥さんだったのね」

お約束のボケをかまされてしまったので、とりあえずズッコケておくことにする留魅耶。
が、すぐに気を取り直す。

「違うんだ・・・・・・僕、今はこんな姿してるけど、本当は魔法の国から来た魔法少年なんだ」
「え・・・・・・」

美紗織は、思ったより驚かなかった。
疑っている様子も無い。
そっと、留魅耶を見つめるだけだ。

「本当・・・・・・なの?」

二人の目が合う。
吸い込まれそうなエメラルドグリーンの瞳に気圧され、留魅耶はしばし言葉を失う。

「・・・・・・ほ、本当さ・・・・・・キミが望むなら、キミに魔法の力を与えてあげることも出来る」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

美紗織は少し思索すると、再び留魅耶に話しかける。

「・・・・・・私、天野美紗織って言うの。鳥さんの名前は?」
「留魅耶・・・・・・留魅耶って言うんだ」
「ルミヤ・・・・・・。・・・・・・ルーくんって、呼んでもいい?」
「えっ・・・・・・う、うん、全然OKだよ!」
「えへへ・・・・・・ありがと、ルーくん」

美紗織は留魅耶のおでこに軽くキスをした。
その動作は自然でさりげなく、いやらしさはまるで感じなかった。
「そ、それで、その・・・・・・僕、助けてくれた美紗織にお礼がしたくて・・・・・・」
「魔法の力、だっけ。私、魔法が実在するなら、一度使ってみたかったの」
「それじゃあ・・・・・・」
「うん、お願い♪」

留魅耶は扇形の魔法のバトンを取り出した。
実はこのバトン、同級生の樋香里ちゃんにプレゼントする為に買った物だったのだが・・・・・・。
・・・・・・ええいっ、未練は捨てると決めたばかり!
ジュライヘルムのことはもう考えるまい。

「このバトンを持って、『ピクシィミューテーション・マジカルリコール』って叫ぶんだ」
「うん、分かった!」

嬉しそうにバトンを受け取った美紗織は、力強く・・・・・・しかし控えめに叫んだ。

「ピクシィミューテーション! マジカルリコール!」

光に包まれて、美紗織が変身する。




一瞬の後、光が収まった後には一人の魔法少女が立っていた。
残念ながら、主人公以外の魔法少女の変身バンクを作る予算は無い。

「はーい、本邦初公開! これが魔法少女に変身した美紗織ちゃまよん♪」
「な、なんだか、雰囲気変わったね?」

留魅耶の言うとおり、変身した美紗織はまるで別人のように変貌していた。

まず、変身に伴い、黒かった髪が輝く金色に変わっていた。
口元は赤いベニが塗られ、目元には軽くシャドゥが塗られる。
清楚だった服装は、肩出しへそ出しのボンテージスカートに変わり、
両手足はそれぞれ肘膝まであるロンググローブ・ロングブーツを装着している。
色は全部真っ黒。思わず女王様と呼びたくなるようなコーディネートだ。
目元もキリリと釣り上がっており、元の大人しい美紗織の面影は何処にも無い。
額のカチューシャから一本だけ生えている大きな羽飾りだけが、
このセクシィファッションの中で唯一、女の子らしい可愛らしさを演出していた。

「これが魔法の力・・・・・・何だかパーフェクトにデリシャスな感じねぇ。
 さぁー、ハッピーなエビワン! スーパーな魔法少女がこの世に誕生したことを祝福するのよ〜!」

美紗織はワケの分からないことを言いながら、
いつの間にか現れていたお立ち台の上で一人デビューイベントを行っていた。

(な、なんなんだろう、このテンション・・・・・・)

内気な所も魔法の力で矯正されたのだろうか。
だとしたら、今の美紗織が本来の美紗織の性格・・・・・・?

「うんうん、コスチュームも決まってるわ!
 これなら堂々と悪の魔法少女を名乗ってもこれっぽっちも恥ずかしくないわねい!」

ドレッサーの前でくるくると―――ただし縦回転で―――回って自らの姿を眺める美紗織。
しかし何で名乗りたいのが悪の魔法少女なのか。
アニメとか見てる時に悪役に感情移入するタイプだったのだろうか。
「あーらあら、こんなにどっさりラブリィフラワー!
 う〜ん、人気がありすぎるってのも困ったちゃんよねぇー」

自分の魔法で生み出した花束を積み上げて悦に浸る美紗織。
自作自演のデビュー劇に飽きる様子は一向に無い。

「み、美紗織、一旦ちょっと落ち着こうよ」
「ノンノン! ルーくん、それはミステイクよ! イージーミスよ!」

光の速さで留魅耶の顔前にクローズアップされたハイテンション美紗織は、ちっちっちっと指を振る。

「アーイム、ナット美紗織! アイアム、ミサ! 魔法少女・ピクシィーーーーミサッ!!」

もし突然に魔法少女になってしまった時でも困らないようにと、あらかじめ魔法少女用の名前は考えておいたのだ。
それが無駄になったりしなくて本当に良かったと、美紗織・・・・・・いや、ミサは満足気であった。




あれから、マジックショーや撮影会や脳内インタビュー等々、
延々と一人遊びを続け、小一時間ほどでやっとミサは満足したようだ。
流石に少々疲れたらしく、肘枕で寝っころがっている。

「いやー、マジックガール人生ってほんとハッピーねぃ。
 魔法の力を与えてくれたルーくんに感謝感謝、サンクスギビングだわね」

私見で恐縮だが、寝っころがって耳をほじりながら言われても、感謝の気持ちは伝わらないように思う。

「ねぇ、ルーくん。そう言えば何でルーくんは地球にやってきたの?
 もしかしてミサに魔法の力を与えてくれるためー?」
「いや、それが・・・・・・」

留魅耶はミサに事情を説明した。

「・・・・・・えぐっ、えぐっ・・・・・・なぁんて可哀想なの、ルーくん・・・・・・」

大げさに顔をくしゃくしゃにさせて大量の涙をボロボロとこぼすミサ。
泣いてる時までいちいちテンションが高い。

「えぐっ、ひぐっ・・・・・・ジュライヘルムって、やっぱり遠いの・・・・・・?」
「ジュライヘルムは月の裏側にあるんだ。
 裏側って言っても、物理的な話じゃなくて、別の次元って意味でだけど」
「うぅっ、そりゃ遠いわねぃ・・・・・・母を訪ねて3千光年ってところかしら」

それにしてもミサはいつまでも泣き止む気配が無い。

「い、いい加減に泣き止んでよ・・・・・・同情してくれるのは嬉しいけど・・・・・・」
「それもそーね」

ミサは涙をぬぐうと、パッと泣き止んでしまった。
あまりの変わり身の早さに留魅耶も呆れている。
「さぁってと、泣くだけ泣いたらなんかスッキリしちゃったわねぃ。
 空もイッツファインでいいお天気だし、ちょっくら町におでかけでもしてこようかしらん」

ガラガラっと勢い良くベランダの戸を開けるミサだが、足元の何かに気付く。

「おおっと、このボーイの世話を忘れてたわ!」

ミサは慌ててベランダに出ると、プランターに植えてある薔薇の様子を見る。
この薔薇は美紗織が大事に育てているもので、ミサに変身してもその習慣は変わらないようだ。

「ま、こんなとこね。じゃあルーくん、一緒に町に行きましょ」

薔薇の世話を終えると、ミサはベランダの淵に飛び乗る。

「ま、待って美紗織・・・・・・いや、ミサ!
 変身したまま町に出て、一体何をするつもりなの!?」

「何って・・・・・・決まってるでしょ?」

ミサは留魅耶に投げキッスを飛ばす

「ワ・ル・イ・コ・ト ・・・・・・よ♪」

そう言うと、ミサはベランダから飛び降りる。
ここは高層マンションの5階だ。
思わず声をあげる留魅耶だが、すぐに宙に浮き上がるミサの姿が見えた。

(あっという間に飛行魔法を使いこなしている・・・・・・。この子、魔法の天才かもしれない・・・・・・!)

「ルーくぅん、早く来ないと置いてくわよぉー?」
「ま、待ってよミサ!」

留魅耶は慌てて両手をバサバサさせてミサについていく。

町の何処へ行く気かは分からない、というかミサ本人も決めて無いだろうが・・・・・・。
とにかくミサを一人で行かせるのはあまりに不安だった。
おそらく、というか絶対に何かトラブルを起こすに違いなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ウチの犬が帰ってこないの!」
ガッシャーン

「カラスに婚約指輪取られちまった!」
バサッバサバサッ

「おい、八百屋のゲンさんと魚屋のタケさんがケンカおっぱじめたぞ!」
ドタゴタバッタン




「はぁっ、はぁっ・・・・・・」

萌田砂沙美こと、プリティサミーは疲弊していた。
カラスの巣を目指して木を上るうちに頭はフンだらけになり、
ゲンさんとタケさんのケンカを止めようと身体は痣だらけ。
オマケに足は行方不明の犬を探してクタクタだ。

「ありがとね、サミーちゃん。
 この辺りに砂沙美ちゃんっていう子が住んでるんだけど、あなた、親切なところがその子にそっくりよ」
「は、はぁ・・・・・・それはどうも・・・・・・」

サミーが抱えた犬を受け取ると、主婦のオバチャンはにこやかに去っていった。

「・・・・・・ねぇ、リョーちゃぁん・・・・・・。
 人助けするのはいいんだけど、ホントにこんな原始的な手段しか無いのぉ・・・・・?」
「ボクに言われたって困るよ!
 サミーがとっとと魔法を覚えてくれれば、ボクだってあんな目に合わないですんだんだから!」

魎皇鬼は先ほどオバチャンの犬に追いかけられ、酷い目に合ったのだ。


昨日のサミーは、すっかり日が落ちるまで延々とジョギングを続けたのだが、結局何の成果も無かった。
当然、砂沙美は魎皇鬼に文句を言ったが、それで何かが解決するわけでもない。
二人は話し合った結果、人助けを行っている内に魔法の力が開花するに違いないという都合のいい目論見に賭けることにしたのだ。
・・・・・・まぁ聞いての通り、都合のいい目論見がそう都合よく当たったりはしなかったわけだが・・・・・・。

「はぁ〜っ・・・・・・魔法の使えない魔法少女なんて聞いたことも無いよ・・・・・・」
「くじけちゃダメだ! これは正義のためなんだぞ!」

その後もゴミを拾ったり、横断歩道が渡れなくて困ってるお婆さんを先導したり、子供の怪我の応急処置したりと、
サミーはあれこれ頑張った。とにかく頑張った。それはもう、頑張った。

「・・・・・・よく考えたら、普段とあんまりやってること変わってないじゃん・・・・・・何の為の変身なのよ・・・・・・」
「ま、まぁまぁ・・・・・・そのうちにきっと魔法を修得できるって!」
「だからそれっていつ―――」

「ちょっとヒロアキ、その女誰よ!?」

突如として、商店街に甲高い女の声が響いた。
サミーを含めた通りすがりの人たちは、思わず声の元に振り返る。
そこでは、二人の女が一人の男を取り合っていた。
「あんたこそ誰よ! 私はヒロアキの彼女よ!」
「ヒ、ヒロアキの彼女は私よっ!!」
「ふ、二人とも落ち着いて・・・・・・」
「「ヒロアキは黙ってて!!!」」
「は、はい・・・・・・」

どんどん修羅場はエスカレートし、暴れる女達は周りの店の商品を吹き飛ばしていく。
これは止めねば! 正義の魔法少女として!

「ふ、二人とも落ち着いてください! 落ち着いて三人で話し合えば・・・・・・!」
「うるさいわね、関係ないんだから引っ込んでてよ!!」
「で、でも、周囲の人に迷惑が・・・・・・」
「アンタのその変な格好の方がよっぽど周囲の迷惑よ!!」
「そーよそーよ!!」
「う、うぅ・・・・・・」

取り付くシマもない。
それにこの魔法少女スタイルのことを突かれるとイタい・・・・・・。

「ど、どーしよリョーちゃん・・・・・・」
「ボ、ボクに言われても・・・・・・」

結局、サミー達は遠巻きに騒動を眺めることしかできなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「・・・・・・ねぇ、ルーくん。あれって・・・・・・」
「う、うん・・・・・・信じられないけど、魔法少女だ!」

上空を飛んでいるミサさま御一行は、カップル達の修羅場の前で途方にくれてる魔法少女の姿を見つけた。

「じゃあ隣に居るウサギちゃんは?」
「多分、ジュライヘルムの住人に間違いないよ!」

留魅耶は少し思索する。

「・・・・・・そうか、今はちょうど魔法少女の儀式の時期だったんだ!
 おそらく正式な使命で地球にやってきただろうあいつなら、ジュライヘルムへ帰る手段も持ってるはず!」
「やったじゃないルーくん! これで家まで帰れるわね!」
「うん!」
「さぁ、そうと決まれば早速あのウサギちゃんを拉致監禁よっ!」

力強くビシッと指を指し、作戦の遂行を宣言するミサ。

「え〜〜〜!? 普通に話しに行こうよ!」
「ルーくんったら、おバカさんねぇ・・・・・・そんなの、ちっとも悪の魔法少女じゃないじゃない!」
「うぅ・・・・・・」

意味は良く分からないが、逆らえる雰囲気じゃなさそうだ。

「本体(魔法少女)の方は私が引き付けておいてあげるから、とっととあのウサちゃんを狩り取ってくるのよ!」
「わ、分かったよ・・・・・・」

留魅耶はしぶしぶ頷いた。
ミサは地上に降り立つと、まずコホンと咳をして喉の調子を整える。
しかる後、ポーズを決めてから声を張り上げる。

「はーい、そこのプリティガールとウサギちゃん、こっち注目!」
「えっ?」
「ボクのこと?」

『プリティ』と『ウサギ』にそれぞれ反応したサミーと魎皇鬼が振り返る。

「・・・・・・な、なぁに・・・・・・? サミーに何か用ですか・・・・・・?」

振り向いたら黒ずくめのボンテージファッションの金髪少女が居たのだから、
サミーが怪訝な表情をしたのも仕方のない話だろう。
一方、魎皇鬼はミサが何者なのかを感じ取ったようだ。

「その格好・・・・・・まさか、キミも魔法少女―――うわっ!?」

上空から飛来した留魅耶の足が、魎皇鬼の頭を捕らえた。
ガッシリと固定して、そのまま空に連れ出す。

「な、なんだよ、こら離せ!」

ジタバタもがく魎皇鬼だが、空中ではどうにもならない。

「リョ、リョーちゃん!!」

サミーが叫ぶのもむなしく、魎皇鬼はそのまま連れ去られてしまった。
後を追おうとするサミーだが・・・・・・。

「ハロー、ナイストゥーミーチュー、もう一人の魔法少女!」

行く手に漆黒の魔法少女が立ち塞がった。

「何よ、邪魔しないでよ! リョーちゃんを助けに行くんだからっ!」
「あのウサちゃんなら後で返してあげるわよ。そんなことより・・・・・・」

ミサは自分じゃない方の魔法少女をジロジロと眺める。

「なぁによ、ヘンなカッコしちゃって。ノーセンスもいいとこね」
「あ、あんたに言われたくなーーーい!!」

確かに、いかがわしさのレベルではどっちもどっちである。

「そう言えば、自己紹介がまだだったわね」

ミサが指を鳴らすと、何処からともなくスポットライトが彼女を照らし始める。

「あたーしの名前は、人呼んで魔法少女・ピクシィミサ!!
 破壊と混沌とカオスを愛する、破壊の女神ぃ〜〜〜!!」

名乗りながら、ミサは両手両足を広げて大空を仰ぎ見るポーズを取る。
ここまでやられては、サミーも正義の魔法少女としてはお返ししないワケにはいかない。

「あ、あたしは・・・・・・プ、プリティサミーよ!
 町内の平和を守る正義の・・・・・・・・・・・・ま・・・・・・ままま、魔法少女なんだからっ!!」

バトンをズビシッとミサに突きつけるサミー。
だが、手元は羞恥で少々震えている。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 19:05:37 ID:tir13PP6
「う〜ん、前口上でテレてるようじゃ、まだまだおこちゃまね。サ・ミ・イ♪」
「う、うっさい! サミーは昨日デビューしたばっかりなのよ!」
「ふふん、あたーしなんてついさっきよ、つ・い・さ・っ・き♪」
「ムッキー!!!」

ムカついてるサミーを、ミサは再びまじまじと眺める。

「・・・・・・それにしても、何だかユーとは宿命チックなものを感じるわねぇ。
 なんだか昔からずっと一緒に居たような、ズタボロに虐めてあげちゃいたくなるような・・・・・・」
「全然話が繋がってないよ! 意味わかんないよ!」
「まぁいいわ。あんたの実力、この魔法で試してあげる!」
「何!? 何をするつもり!?」

「コーリング・ミスティクス!!」

ミサは扇形のバトンをおおげさにくるくる振り回して魔力を溜めた後、
正眼に構えて一気に魔力を解き放った!
ちなみにこちらは変身と違い、しっかりバンクが用意されていた。
これからよっぽど多用する魔法なんだね。

放たれた魔力は、未だに言い争いを続けていた修羅場のカップル達3人に命中する。
光に包まれた3人は、一つに纏まって徐々に姿を変えていく。
そして現れたのは・・・・・・。

「ひどぃわぁ〜〜〜〜!! 私とは遊びだったのね〜〜〜!! よよよ」

ウェディングドレスを着た、妙な女だった。
明らかに人間より一回り大きく、顔は絵で描いたようなデフォルメされたブス子ちゃんだった。

「な、なに!? 一体何が起こったの!?」
「この子は破談女!! 人の悪意に私が魔力を与えることで生み出すことの出来る、ラブラブモンスターよ!!」
「ら、らぶらぶ・・・・・・?」

サミーは破談女を見る。
分厚い唇と、泣き腫れる以前の問題でドデカい目玉がブサイクだった。

「モンスターは分かるけど、一体どの辺りがラブラブなのよっ!」
「シャラップ! 人の美的感覚にケチつけるような奴ぁ、大成しないわよ!」
「さ、さっきはサミーの格好をバカにした癖に!」
「・・・・・・ま、それはそれとしてぇ」

ミサはビシッとサミーを指差し、命令する。

「さぁ、破談女! そこのおこちゃま全開な魔法少女さんと遊んであげるのよ!」
「ラジャーです、ミサさま〜! よよよ」

破談女の巨体がじわじわとサミーに迫る。
魔法少女と言っても、こんな危機的状況の経験などないサミーはどうしたらいいのか分からない。

「サミーちゃぁん・・・・・・可愛いわぁ・・・・・・」
「や、やだ・・・・・・近寄んないでっ!!」
「サミーちゃん・・・・・・私と一緒になってぇ〜〜〜〜!!」
「いやだああああああああああああ!!!」

逃げるサミー。
しかし破談女は素早く飛び掛って・・・・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「こ、この野郎! ボクに何の恨みがあるんだっ!?」

スーパーの屋上でやっとこさ開放された魎皇鬼は、当然留魅耶に食って掛かる。

「手荒な真似をして悪かった! でも頼みがあるんだ!」
「頼み?」

留魅耶は深々と頭を下げる。
つっても、鳥の姿ではサマにならんが・・・・・・。

「僕は事故で地球まで飛ばされてしまったんだ・・・・・・。
 でも、僕は空間移動魔法の類は一切使えないから帰れない・・・・・・。
 ・・・・・・頼む、キミの力で僕をジュライヘルムまで送り届けてくれっ!」
「そんなこと言われても・・・・・・ボクだって空間移動魔法なんて使えないよ!」

魎皇鬼は戸惑い顔で言うが、留魅耶は引き下がらない。

「そんなワケないだろう!? なら、お前はどうやってジュライヘルムに帰るんだよ!」
「期限が来たら、自動的に発動する帰還魔法をかけてもらったんだ」

段々と雲行きが怪しくなってきたことを察し、留魅耶の顔が曇っていく。

「じゃ、じゃあ・・・・・・ジュライヘルムと通信する手段は・・・・・・?」
「無い。全部事後報告」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

留魅耶が放心してしまったのに気付き、流石に魎皇鬼もフォローを入れる。

「ま、まぁ心配するなよ! ジュライヘルムに戻ったら、救助の要請をしておくからさ!」
「おまえ・・・・・・帰るのいつ?」
「ん、大体一年後だけど」

それを聞いて、留魅耶は本格的にうな垂れてしまった。

「僕・・・・・・半年後に誕生日があるんだ・・・・・・10歳の・・・・・・」
「げっ・・・・・・」

魔素の流出が始まるのは、微妙に個人差があるものの、10歳の誕生日前後がほとんどだと言われている。

「・・・・・・ま、まぁ強く生きろよ! イイことあるさ!」

ビッ!と親指を立てて力強くエールを送る魎皇鬼。
もちろん、留魅耶の心には届いてはいなかった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あはははは、弱いわサミー! ベリーベリー弱すぎるわよ!」

何とか気を持ち直した留魅耶と魎皇鬼が駆けつけた時、
サミーは破談女のウェディングドレスに押し潰されていた。

「う、うええっ・・・・・・お、重い・・・・・・重いよっ・・・・・・!」
「サミーちゃん、あたしたちはずっと一緒よ〜! よよよ」

ミサの魔力で生まれた破談女の強さは圧倒的だった。
というか、サミーが弱すぎて勝負になってなかった。
「も、もういいよミサ! (不発だったけど)もう話はついたんだっ!」
「えー・・・・・・もおー・・・・・・?」

顔まで青くなっているサミーを見た留魅耶が慌てて仲裁に入るが、
ミサはまだ遊び足りないといった様子で、不満そうだ。

「・・・・・・破談女、どいたげなさい」
「ラジャーですぅ、ミサさま」
「ほへぇ・・・・・・」

破談女が上から退き、サミーはやっと一息つくことが出来た。

「サミー、大丈夫?」
「ダメ・・・・・・」

魎皇鬼が心配して声をかけるが、
サミーはぐったりと脱力して、立ち上がることすら出来ない。

「・・・・・・ま、それはそれとして♪」

ミサはサミーに向き直る。

「さぁ、トドメよサミー! あんたもラブラブモンスターになっちゃいなさい!」
「えぇっ!? 良く分からないけど今ので戦いは終わったんじゃないの!?」

サミーは慌ててガバッと起き上がるが、ミサは既に魔法の発射準備を終えている。

「悪の魔法少女にルールなんてないのよ! 喰らいなさい、コーリングミスティクスッ!!!」
「いやあああああああああああああああああああああああ!!!」

サミーにミサの魔力が襲い掛かる!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



シュポンッ



「・・・・・・・・・・・・あり・・・・・・・・・・・・?」

確かに命中したミサの魔法。
しかし、サミーには何の変化もなかった。

ミサはそそくさと留魅耶に擦り寄り、耳打ちした。

「・・・・・・ねぇ、ルーくん。
 魔法少女にはミスティクス効かないとか、そういうルールがあったりすんの?」
「いや・・・・・・そういうのは関係なく誰にでも効くはず・・・・・・。
 魔法障壁とかで防げば別だけど、今のはどう見ても直撃したし・・・・・・」
「ふふん、オロカなり悪の魔法少女!」

そう言って、得意げに仁王立ち―――場所がサミーの頭上というのが難点だが―――したのは魎皇鬼だった。

「ミスティクスは悪意を増幅してモンスターに変える魔法!
 よって、悪意が存在するはずもない正義の魔法少女に効くワケがないのさぁ〜っ!!」

ズビシ!とミサに人差し指を突きつける。眉毛も何故か濃くなっている。

「あんですって〜〜〜!? 悪意を持たない人間なんてこの世に存在していいの!?
 いい子ちゃんすぎるにもほどがあるっちゅーの!!」

バトンを地面に叩きつけて八つ当たりするミサ。

「チャンスだサミー! 反撃だっ!」

力強く宣言する魎皇鬼。

「は、反撃って言われても・・・・・・」
「パンチでもキックでも何でもいいから! 戦いってのは相手をブチのめせば勝ちなんだから!」

正論かもしれないが、魔法少女としてそれはどうなのか。

「く、くそう、こーなりゃもうヤケだよっ!」

サミーは立ち上がり、ヤケクソでミサに向かって突進する。

「ホワット、肉弾戦を挑む気なの!? 魔法も使わずに!?」
「う、うるさいな、これでも喰らいなさい!!」

サミーはバトンを思い切り振りかぶると、即興でつけた技の名前を叫ぶ。

「プリティ・スラァッシュ!!」

サミーは渾身の力を振り絞り、バトンを振り下ろす!

「甘いわね! そんな見え見えの振り下ろし、簡単に受け止めて―――」

ガキィン!
・・・・・・ゴキリッ。

嫌な音がした。
ミサの手首が豪快に曲がった音だ。

「ぎゃっひぃいいいい〜〜〜〜〜〜〜!!?」

激痛で転げまわるミサ。
攻撃自体はバトンで受け止めたものの、ダメージは深刻のようだ。

「そ、そうか!」

魎皇鬼が叫ぶ。

「ただでさえ魔法少女の身体能力は常人の1.5倍!
 それだけでも十分強力だけど、サミーは昨日の夕方のジョギング、
 そして今日は人々のお手伝いでずっと走り回っていたんだ!
 よって、尋常じゃなく鍛わっている足腰・・・・・・当然、そこから繰り出される一撃は強烈無比!
 あんな魔法に頼り切って堕落した、軟弱な悪の魔法少女じゃ耐えきれないに決まってる!」

要は『身体、鍛えてますから!』ってことだが・・・・・・そんな力説するようなことか?
「・・・・・・や・・・・・・やっちゃいなさい破談女っ!! あたしのか弱いリストの仇を討つのよっ!!」
「はぁーい! よよよ」

自分で言ってりゃ世話ねーなって感じだが、とにかく自分で身動きできないミサは破談女をけしかけた。
今度は遊びじゃなく本気だ。流石に手首の恨みがこもっている。
だが・・・・・・。

「ええーーーいっ!」

再び渾身の力を振り絞ったバトンの振り下ろしが、今度は破談女の脳天に直撃した。

「は、破談女ーーーーーっ!?」
「ミ・・・・・・ミサさま・・・・・・・・・・・・仇討てなくて、ごめんなさい・・・・・・ガクリ、バタッ」

自前で擬音をつけながら、破談女は倒れた。

「・・・・・・あ、恋人は大事にしないとダメよ〜ぅ?」

それだけ言うと、破談女はボムッと消えてしまった。
その後には、破談女の元となったカップル達が折り重なって倒れていた。

「は、破談女・・・・・・あなたのことは忘れないわ・・・・・・オイオイ・・・・・・」

何処からか取り出したハンカチで涙をぬぐうミサ。

「・・・・・・ううっ・・・・・・サミー、そういうワケだから今日のあたしはもう戦えないわ・・・・・・。
 シーユーネクストタイムって言うかー、また来るからよろしくねーって言うかー・・・・・・」

ズズズと鼻をかみながら言うミサ。捨て台詞まで適当かい。

「もう来ないで! ケンカ売られても迷惑なんだから!」
「そう言われてもミサは来る時は来るけど・・・・・・とにかく、バイバイね・・・・・・」

ミサがバトンを振り上げると、光に包まれて彼女の姿は消えてしまった。
取り残されていた留魅耶は慌てる。

「えっ、ちょっと待ってミサ! 僕は―――」
「あ、ワリワリ。ごめんねルーくん、忘れてて」

再び光の中から現れたミサは、留魅耶の首根っこを引っ掴むと、今度こそ光の中に帰っていった。
後に残されたサミーは、プルプルと震えていた。
抑えようにも抑えきれない激情が内からあふれ出しているといった様子だ。

(サミー・・・・・・町内の平和を乱す悪の魔法少女が現れたから・・・・・・)

みなぎる正義感や悪への怒りが彼女を突き動かしているのだろう。
魎皇鬼はそんなサミーを激励しようと声をかけようとしたが・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・ずるい」
「えっ?」
「サミーはあんなに特訓しても何一つ魔法を覚えられないのに・・・・・・。
 ミサは・・・・・・モンスターを呼び出す魔法だけじゃ飽き足らず・・・・・・あんな便利な移動魔法まで・・・・・・」

サミーの震えが増す。
情けなさだかミサへの嫉妬だか色々な物が入り混じって。

「ずっっっっっっっっっっっっる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

サミーの咆哮が、商店街中に響いた。



かくして、正義の魔法少女プリティサミーは、悪の魔法少女を撃退した。
新しく修得した必殺技・プリティスラッシュ(ただの上段振り下ろし)によって。

「うぅー・・・・・・プ○キュアですら決め技は飛び道具なのにぃ・・・・・・」

町内の平和を守るため、がんばれ我らがプリティサミー!
修得魔法が未だゼロでも、負けるな、くじけるな!



                       〜 第三話へ続く 〜
52名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 19:09:32 ID:ODp8UxWQ
途中引っかかってしまってちょい焦りました・・・

三話は現在執筆中です
今しばらくお待ちください
531:2008/10/22(水) 19:31:46 ID:FfrLSv1L
再投下乙です。結局は力技使うあたり、サミー風味が再現されてて非常にGJです
マジカルナイト2は毎週録音していました。高校時代の思い出…
5410/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/23(木) 22:40:04 ID:xB2ppYzt
再投下乙!
悪の魔法少女と正義の味方の魔法少女の対決っていうのは王道だね!
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 12:29:44 ID:k+FOdzMH
ちょっと思ったんだが魔女っ子物の主人公は大雑把に分けると

・最初から魔法が使える異世界の出身(サリー、モモ、スイートミント等)

・人間の少女が何らかのきっかけで魔法を使うようになる(アッコ、ぴえろ系、どれみシリーズ等)

になると思うけど、世間的にはどっちが人気あるのかな
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 13:38:10 ID:EPNWzO9Q
その区別で人気がハッキリ分かれるということは無いと思う。
対象はまだストーリーとか良くわかってないおこちゃまだからな。

ただ、アイテムとかペット的使い魔とかは重要なポイントになろうかと推測。
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 22:08:32 ID:k+FOdzMH
やっぱそこら辺が重要か。アイテムはともかく使い魔はあんまり出張られると萎える
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 13:57:06 ID:NR4IdpHz
>>53
「暴力は正義」ってのがサミーの裏テーマですからねw
まぁそればっかりでも難なので、そろそろ魔法も使わせます

>>54
原作の砂沙美はこんなに正義キャラじゃないんですよ〜
もっとずっとやる気が無くて、保身の為に敵前逃亡することもしばしばというw
拙作でこんなキャラになったのはPVの歌詞と合わせる為と、後は単に話の都合ですね

>>55
特撮ヒーローの話ですが、
「誰でも変身できる」という設定のヒーローは人気が出ることが多かったらしいです
魔法少女も同じ理由で、最近は後者の設定の方が多いのではないでしょうか



それでは、3話が完成したので投下させていただきます
第三話 『サミー、修得! これが魔法少女の必殺技だ!』



今日は土日明けの月曜日。もちろん海の星中学校も登校日である。
萌田砂沙美は、軋む身体を引きずって、何とか校門まで辿り着いた。

「う・・・・・・うぅ〜・・・・・・酷い筋肉痛だよぉ・・・・・・」

そりゃそうである。
連休中は朝から晩まで人助けのために走り回りっぱなしだったのだ。
もちろん、魔法なんて便利なものはミサがテレポートで立ち去ったのを最後にお目にかかっていない。

「おはよう、砂沙美ちゃん!」
「あ、おはよう美紗織ちゃん!」

砂沙美に後ろから声をかけたのは、親友の天野美紗織だ。
振り向いて挨拶する砂沙美。
見ると、美紗織の右手に包帯が巻かれている。

「美紗織ちゃん・・・・・・手、どうしたの?」
「うん、ちょっとぶつけちゃって・・・・・・」
「そっか・・・・・・気をつけてね。美紗織ちゃんはピアニストになるんだから、手は大事にしないと」
「う、うん・・・・・・ごめんね」
「何で謝るの?」
「心配・・・・・・させちゃったから・・・・・・」
「なんだ、いいよそんなこと。だって友達だもん!」

そう言って笑う砂沙美。
対して、美紗織は何だか申し訳無さそうだ。

キーンコーンカーンコーン

「あ、予鈴だ! 美紗織ちゃん急ごう!」
「うん!」

教室に急ごうとする二人だが・・・・・・。

「どげげっ!?」

砂沙美は筋肉痛のことを忘れていた。
急激に動かした節々に電撃が走る。

「どうしたの、砂沙美ちゃん大丈夫!?」
「み、美紗織ちゃんは砂沙美に構わず行って! 遅刻しちゃうよ!」
「そんな、友達を置いていくわけには行かないわ!」
「あ、ありがとう!」

砂沙美に肩を貸そうとする美紗織だが・・・・・・。

「いっ・・・・・・!!」
「ああっ!? ゴ、ゴメン、美紗織ちゃんの右手のこと忘れてた!」

うっかり右手に砂沙美の体重をかけてしまった美紗織は、痛みでうずくまってしまう。

「さ、砂沙美ちゃん・・・・・・私に構わず行って・・・・・・!」
「そ、そういうわけには・・・・・・!」

そんなこんなで、どうどう巡りを続ける砂沙美と美紗織。
結局そのまま本鈴には間に合わず、二人とも遅刻をしてしまった。


「ふぅ・・・・・・このまま家に帰って、今日一日休めば何とかなるかな」

今、砂沙美は学校が終わって下校の途中である。
大好きな体育を見学してまで身体を休めてたので、筋肉痛は大分マシになってきたようだ。

そんな砂沙美を、魔法の国からの使途・魎皇鬼は道端で待ち受けていた。

「待ってたよ、砂沙美ちゃん! さぁ、今日も正義のために頑張ろうね!」

そう言って、砂沙美の腕の中に飛び込む魎皇鬼。

「えぇ〜、今日もぉ〜・・・・・・?
 土日であんなに頑張ったんだからもういいじゃない!」

「ダメだよ! 使命を果たすには善行ポイントを10000点稼がなきゃいけないのに、こんなペースじゃ間に合わないよ!」

魎皇鬼は魔法の手帳を開いて砂沙美に指し示す。
そこには、『現在の善行ポイント:536点』と書かれていた。

「・・・・・・あれ? 土日に頑張っただけでコレなら、結構いいペースじゃないの?」

月に週末は約4回。毎週続ければ、5ヶ月足らずで10000ポイント達成できる計算になる。

「ううん、違うんだ。内訳も見てみなよ」
「内訳? えぇと・・・・・・」

○婚約指輪の奪回      1点
○ケンカの仲裁       1点
○飼い犬の捜索       1点
○ゴミ拾い         1点
○犬のフン処理の指導    1点
○店卸しの手伝い      1点
○お年寄りの先導      1点

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「何コレぇ!? 1点ばっかりじゃない!」
「だって些細な頼まれごとばっかりだもん。こういうのは一律1点って決まってるんだ」
「じゃあどうやって536点も稼げたのよ!?」
「だから、自分で最後まで見てみなって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

○子供の遊び相手になる   1点
○子供の擦り傷の治療    1点
○記念写真を撮ってあげる  1点
○落し物を交番に届ける   1点
○悪の魔法少女の撃退  500点
○大声を出して近所迷惑  −1点
○後片付けの手伝い     1点
○駅の場所を教える     1点
○小銭を貸してあげる    1点
○自動販売機の故障を報告  1点
○〜〜〜〜〜〜       1点
○〜〜〜          1点

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ちょぉっと待てぇ〜〜〜い!!!」

砂沙美は手帳を地面に叩きつけた。

「あぁ!? ダメだよ手帳を乱暴にしたら! これは特別製だから、壊れたらボクじゃ直せないんだから!」
「だってだって、何よ、アレ!? アレだけ明らかに桁がおかしいじゃない!!」
「悪の魔法少女撃退のこと? だって、あんなこと滅多に起きないもの。
 ミサって奴も結局あれ以来現れないじゃん。は○れメタルにでも会ったと思って忘れた方がいいんじゃないかな」
「まぁ、あんなのがしょっちゅう現れてくれても、それはそれで困るけど・・・・・・」

あの耳障りな甲高い笑い声を思い出し、砂沙美は思わず身震いしてしまった。

「とにかく、あの500点を除いたら全然楽観できるペースじゃないんだ! 今日もビシバシ頑張ってくれ!」
「嫌だっ! ただでさえ土日を潰しちゃったのに、平日まで走り回るなんて真っ平ご免だもん!」
「そう言わないで・・・・・・砂沙美ちゃん、人助けが大好きなんだろ?」
「べーっ! ボランティアってのは強制するもんじゃないんだよ!」
「なぁ、頼むよ砂沙美ちゃん・・・・・・期限までにポイント溜め終わらないと、ボクが女王様に怒られるんだ」
「そんなの知らないよ!」
「砂沙美ちゃんは女王様の怖さを知らないから・・・・・・」

押し問答を繰り返しながら、二人はとりあえず家まで帰った。



砂沙美と魎皇鬼は、居間でテレビを見ていた。
流石に家に帰ってからすぐ出発することはせず、一休みの時間を取ることにしたのだ。

「はい、リョーちゃんオヤツ」

砂沙美は皿に盛られたクッキーを差し出す。

「じゃあ、これ食べたら人助けに出発しようね」
「分かったわよ」

砂沙美はとうとう諦めたのか、かぶりを振る。

「・・・・・・リョーちゃん、あたしトイレ行って来る。食べたかったらクッキー全部食べててもいいよ」
「うん、分かった!」

魎皇鬼はむしゃむしゃクッキーを食べ始める。
そんな魎皇鬼をチラリと見ると、砂沙美は部屋を出て行った。



「・・・・・・まだかなぁ・・・・・・随分と長いトイレだなぁ・・・・・・」

魎皇鬼はボヤく。
砂沙美がトイレに向かってから、既に20分は経っている。
皿の中のクッキーもとっくに空だ。
痺れを切らした魎皇鬼は、砂沙美を迎えに行く。

「砂沙美ちゃーん、いつまでトイレに・・・・・・んっ?」

トイレのドアには、砂沙美の筆跡で書かれた張り紙が貼ってあった。

『旅に出ます。探さないでください。夕飯までには戻ります。 砂沙美』

「に・・・・・・逃げた〜〜〜〜〜っ!?」

魎皇鬼は慌てて家を飛び出したが、砂沙美が何処に向かったかなど分かるはずも無かった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



(ふんだ、正義の魔法少女にだって休息は必要だもん!)

砂沙美は、最寄り駅から4駅ほどのビル街まで来ていた。
魎皇鬼をここに連れて来たことは無いので、見つかる心配はない。

「さぁーてと、どこに行こうかな♪」

特に目的は決めずに来たものの、
この辺りは物を買ったり遊んだりする場所には困らない。

とりあえずブラついてみることにした砂沙美の前に現れたのは……。

「て、天地兄ちゃん!」
「砂沙美ちゃんじゃないか。こんな所で会うなんて偶然だね」

恋人の征木天地だった。

「えへへっ、意図しないのに会えちゃうなんて、さっすが天地兄ちゃん!」
「ふふっ、やっぱり二人は赤い糸で結ばれてるのかもしれないね」
「うんっ!」

砂沙美は顔をほころばせる。
溜まっていた疲れやストレスも吹っ飛んだようだ。

「それで、砂沙美ちゃんは今日は何の用でこっちに?」
「ん、特に用ってワケじゃないよ。天地兄ちゃんは?」
「俺はバイトの帰りだよ。今日はもう後は何にも無い」
「じゃ、じゃあ、砂沙美とデートしようよ!」
「うーん、そうだなぁ」

既に心は決まっているが、天地はわざともったいぶってみせる。

「ね? ねー? いいでしょー?」
「ふふ、そこまで言われちゃしょうがないな」
「へへっ、きーまりっ!」

砂沙美は天地の腕に飛びついた。



二人は、ビル街をあちこち歩き回った。
洋服を試着したり、プリクラを撮ったり、ラーメンを食べたりと、色々した。
現役中学生と赤貧高校生のカップルではあまり金のかかることも出来なかったが、
それでも二人の笑顔が止むことは無かった。
互いに、一緒に居るだけで幸せになれる存在だったからだ。

ちょっと歩きつかれた二人は、ベンチで座って休むことにする。
天地の肩に思い切り寄りかかって甘える砂沙美。

(このまま、ずっとこうしていられたらいいのに・・・・・・って、ワンパターンだなあたし)

でもいいや。
ワンパターンでも、とっても幸せなんだもん。
砂沙美の瞳がそっと閉じられる。
そのまま夢の世界へ・・・・・・。
パァーーーン

「うわぁっ!? びっくりした、何!?」

突然の炸裂音に驚いた砂沙美は飛び起きる。

「大変だ、銀行強盗だぁ!!」
「職員や利用者が人質に取られてるぞ!!」

群集がざわめきだし、周囲はあっという間に大パニックになってしまった。

「聞いたかい、砂沙美ちゃん!」
「うん、銀行強盗だって・・・・・・!」
「もしかすると、ここいらも危なくなるかもしれない。急いで家に帰ろう!」
「う、うん・・・・・・でも・・・・・・」

天地は周囲を見渡して状況を確認する。

(こっちの道は人が密集しすぎている・・・・・・多少遠回りでもあっちを通った方が安全だな)

ルートを見定めた天地は砂沙美の手を取ろうとするが・・・・・・。

「さぁ、砂沙美・・・・・・砂沙美ちゃん?」

ついさっきまでそこに居たはずの砂沙美の姿が見えない。
辺りは人ゴミだらけで視界が利かず、何処に行ったのか見当もつかない。

「た、大変だ・・・・・・砂沙美ちゃん、砂沙美ちゃぁーん!!」

天地はあわてて声を張り上げながら人ゴミの中に飛び込んでいった。




(天地兄ちゃん・・・・・・ゴメン!)

砂沙美は、近くの公衆トイレに隠れて天地をやり過ごしていた。

(いくら休息中だからって、正義の魔法少女が悪を見過ごすワケにはいかないもの!)

「プリティミューテーション・マジカルリコール!!」

砂沙美は透過光に包まれ、魔法少女プリティサミーに変身した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「爽やかな午後の一時・・・・・・エレガントな、ア・タ・シ♪」

美紗織、いやミサは自宅でティータイムと洒落込んでいた。
別に変身する必要は全く無かったのだが、
手首の怪我のために外出を控えていたので、ヒマでヒマで仕方なかったのだ。
「いやー、魔法少女になるだけで安物のティーもこんなに美味しくなるのねぃ・・・・・・」

ズズズと音を立ててカップの中の物を飲み干すミサ。
ティーと言いつつ、実は緑茶である。

その時、ミサの見ていた音楽番組(クラシック系)が別の映像に切り替わった。

『緊急速報です! ○○銀行に強盗が入りました! 中継でお伝えします!』

「なぁによ、折角のまったりティータイムを邪魔しないで欲しいわねぇ・・・・・・」

ぶつくさ言いつつ、緑茶を口に含むミサ。
中継映像がテレビに映る。

『コインもお札もサミーにおまかせ!
 プリティサミー、強盗退治に参上でぇす!』

「ぶっふぅーーーーーーーーーーうっ!!?」

テレビに和服姿の魔法少女が現れたことにより、ミサは思わず緑茶を噴出してしまった。
驚きのあまり、気管にも入ってしまったようだ。

『ま、魔法少女を名乗る謎の少女が、現場に飛び込んでいった模様です!!』

「げへっ、げはっ・・・・・・!
 ・・・・・・サ、サミーったら・・・・・・・一人だけテレビジョンに写ろうったって、そうはいかないわよ!!」

ミサはコスチュームにかかった緑茶も拭かないまま、テレポートで現場に飛び出していった。

「あれっ、美紗織?」

他の部屋にいたらしい留魅耶がミサの元にやってくるが、既にもぬけの殻だった。
どうやら今週の彼の出番はコレだけの模様。合掌。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



サミーは人ゴミを飛び越え、銀行内に突入した。
銀行の中には多数の縄で縛られた人質達と、それを取り囲んでいる強盗達の姿があった。

(大変、人質の人達を助けないと!)

サミーは突然の闖入者に驚いている強盗達にバトンを向け、高らかに宣言する。

「強盗さん達! 今すぐ悪いことはやめて人質を開放して―――」

チャキ

「お穣ちゃん、我々は遊びじゃないんだ」

リーダーらしき強面の男が、拳銃をサミーに向けて凄む。

「で・・・・・・ですよね〜!」

流石の正義の魔法少女も、文明の利器を突きつけられては両手を挙げる他無かった。

「さぁ、とっとと金を運び出すぞ」
「分かってる」

強盗達はせっせと札束を集め、袋に詰める。

「こんなところか・・・・・・では急いで逃げるぞ」
「おう・・・・・・って、うおおっ!?」

裏口から脱出しようとした強盗達の前方に謎の閃光が着弾する。

「にょっほっほっほ・・・・・・。
 光あるところに影があり・・・・・・正義あるところに必ず悪あり・・・・・・。
 ・・・・・・というか、サミーの居る所に必ずミサあり!
 華麗なる悪の魔法少女・ピクシィミサ! ただいま参上よん!」

まぁ分かっていたと思うがミサであった。

「って、あれー? サミーはウェアイズヒアー?」

ミサはサミーの姿を探してキョロキョロする。
視界の下端に、他の人質に紛れて何とか身を隠そうとモゾモゾする物体の姿が見えた。

「んん? まさか、もしかすると、ひょっとして?」

ミサはその物体を摘み上げてみる。

「い、いやー・・・・・・たはは・・・・・・ミ、ミサ、久しぶり!」

その縄でぐるぐる巻きにされている物体は、紛れも無く正義の魔法少女、その人だった。

「・・・・・・ぷっ」

ミサは思わず噴出してしまう。

「魔法少女が一般人さんに捕まっちゃうなんて・・・・・・サミーったら何ておマヌケさんなのーーーっ! ぶぉっほっほ!」
「う、うっさい! お願いだから何とかしなさいよ!」
「イ・ヤ・よ♪」

ミサはサミーを放り捨てると、お立ち台代わりにカウンターに飛び乗って宣言する。

「いい子ちゃんなサミーと違って、悪い子ミサは泥棒さん達の味方よ!
 さぁ、ミサの次世代魔法で泥棒さんのお仕事を応援しちゃうわ! コーリング―――」
「動くな」

ミサは複数の拳銃を向けられる。逃げ場は無い。

「・・・・・・ソ、ソーリーソーリー、イッツジョークよジョーク」

ミサは青い顔をして、そそくさと撤退の準備に入る。

「そ、それじゃエブリバディ、これからも魔法少女ピクシィミサをよろし―――」

パァン!

ミサの耳の脇をかすめた銃弾が銀行の壁をえぐる。

「動くなと言ったはずだ・・・・・・」
「ア・・・・・・アンダスタァーン・・・・・・」

悪の魔法少女は両手を挙げた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



天地は街の中で砂沙美を必死に探していた。
たが、一向に見つかる気配すら無い。

「まさか、銀行強盗に捕まっちゃったんじゃ・・・・・・」

あの状況では無いとは言い切れない。
情報を得ようとショーウィンドウに置かれたTVを見ることにする天地。

「あれ・・・・・・捕まってるあの子、あの時の!?」

中継映像に、縄で縛られた青髪の少女が、同じく背中合わせに縛られた金髪少女と口論を続けている姿が映る。
それは間違いなく、新聞配達のバイト中に出会った自称『正義の魔法少女』であった。

「プリティサミー・・・・・・ちゃんだっけ?」

天地の胸にざわめきが走る。

一昨日、川原で挨拶しただけの仲だ。
彼女のことは何にも知らないと言ってもいい。
それでも・・・・・・。

「こうしちゃいられない!」

天地は、サミーを救おうと行動を開始していた。
今の彼の頭の中はサミーを救うことでいっぱいで、その感情に対する疑問すら沸かなかった。

「ミャアン!」
「あれ、おまえは・・・・・・」

魎皇鬼だ。
魔法の力が使われたことを感知して、駆けつけたのである。
ボクも連れてってと言わんばかりに、魎皇鬼が天地の肩に飛び乗る。

「おまえもサミーが心配なんだな、よし一緒に行こう!」

天地は銀行に向かって走り出した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



再び場面は銀行に戻る。

「ミィーーーーサァーーーーっ!!
 あんた大口叩いといて、何あっさり捕まっちゃってんのよ!!」

善悪の魔法少女達は、現場から離れた部屋で二人まとめて仲良くぐるぐる巻きにされていた。

「にょほほほ・・・・・・ロングな物には巻かれろって言うじゃなーい?」
「それで縄巻かれてどーすんのよ!」
「にょーっほっほっほ!! ・・・・・・どーしよ?」
「バカーーーーーーっ!!!」
二人のケンカはやかましかったので強盗達にも丸聞こえだったが、
もうマホウショウジョとやらに関わりたくなかった強盗達は放って置いた。

事件発生から時間も経ち、いまや銀行の周辺は完全に警察に包囲されていた。
これでは強盗たちも逃げたくても逃げようがない。

「ちぃっ、ヘンなガキどものせいで逃げるタイミングを逃しちまった!」
「こうなりゃ篭城戦だ。なぁに、人質はたっぷりいる。向こうも易々とは手が出せないはずだ」

物騒な話が聞こえるが、サミーにはどうにもできない。
バトンはまだ持ったままだったが、魔法が使えない自分にとってはただの鈍器でしかない。

「はぁ・・・・・・」

無力感に苛まれるサミー。
自分は一体何の為に魔法少女になったのか。
こういう時、人々を助けてあげられる為にでは無かったのか。

(力が欲しい・・・・・・みんなを助けられる、魔法の力が・・・・・・)

その時、何かがカタンと外れる音がした。
音がした所に振り向くと、そこには・・・・・・。

「プリティサミー、無事かい?」
「天地兄ちゃ・・・・・・天地さん!? どうやってここに!?」
「通風孔を通ってきたんだよ。前にここのビルの清掃のバイトをしたことがあってね、構造は大体分かってるんだ」

さっきの音は、通風孔の蓋を外した音だったのだ。

「うんうん、流石は砂沙美ちゃんのスイートラヴァーだわね」

一人で勝手に頷くミサ。
本当は自分の正体がバレかねない発言だったが、幸い誰も気にした者は居なかった。

「・・・・・・サミーちゃん、こちらの方は?」
「あー、それは気にしないでください。縄も解かないでいーですから」
「人を『それ』呼ばわりすんじゃないわよ!」
「ま、待って、大声は出さないで!」

慌てて二人を諌める天地。

「・・・・・・とにかく、キミたちの縄をほどくよ。
 何にしろ、二人で一纏めになってるから片方だけほどくなんて無理だしね」

天地が縄をほどき、やっと二人は自由になった。

「うーん、ラブ・フリーダム! 自由っていいわねぇ」
「あ〜あ、服の背中にベッタリとミサの汗がついちゃったよ」
「なぁによ、こっちだってずっと背中ゴワゴワして気持ち悪かったんだからね!」
「だから今はケンカはやめてくれ!」

この二人は何度仲裁させる気なのかと、天地は頭をかく。

「とにかく、強盗達は今は警察に気を取られて人質への注意が薄れている。
 今の内に人質を解放して、上手く裏口から逃げるんだ!」
「そっか・・・・・・分かりました!」

そうだ、魔法など無くても人質を助ける手段はあるんだ!
サミーは改めて気を入れなおした。
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 14:03:40 ID:ziiyqqEH
「ま、ミサはとっととテレポートで帰るけどね」
「あっ、ずっこい!」
「ピクシィ・テレポート!!」

ミサは『腕』を振り上げる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・ねぇ、バトンは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ミサは無言で胸元だの尻の辺りだのまさぐってみる。

「し・・・・・・しぃまった!! 泥棒さん達が居る辺りに落としてきちゃったんだわーーーっ!!」

稲光を走らせてショックを受けるミサ。
流石にあの辺りまで取りに行くのは無理だろう。

「大事な物みたいだけど、ここは諦めて逃げるしかないよ。
 きっと事件が解決した後に警察に回収して貰えるからさ」
「うぅ・・・・・・がっくり・・・・・・」

ミサもしぶしぶ天地の指示に従うことにしたようだ。

「ミャアン!」
「あれ、リョーちゃんも来てたの?」

いつものように魎皇鬼はサミーの胸元に飛び込む。

(これはチャンスだよ、砂沙美ちゃん。ピンチの時こそ新しい力が目覚めるってのがお約束じゃないか)
(簡単に言わないでよ〜! これは本気で命がかかった事態じゃないの!)
(でも・・・・・・)
(とにかく、今は魔法なんて不確実なものに頼ってられないの! あたしと天地兄ちゃんの力でみんなを助けるんだから!)
(・・・・・・分かったよ、確かに人命は最優先だものね)

魎皇鬼も納得し、サミー達の人質救出作戦が始まった。




(さぁ、ゆっくり・・・・・・足音を立てないように・・・・・・!)
(はい・・・・・・!)

そろり、そろりと、天地とサミーは他の人質の下へ向かう。

(ねぇサミー、やっぱりミサは怖いから先にランナウェイしてるわね)
(好きにしなさいよ。ミサのことなんて最初から期待してないし)
(うん、それじゃあね♪)

そう言って、ミサはドタドタ走り出す。

(ちょ、ちょっと足音・・・・・・って、コラぁ!)

走ったせいでつまづいたミサは、周囲の机を巻き込んで派手な音を上げた。

「い、いたた・・・・・・銀行は走るものじゃないわねぃ・・・・・・」
「!? 貴様っ、どうやって縄を抜けた!?」

ミサは駆けつけた強盗に見つかってしまう。
まぁ自業自得だが・・・・・・。
「どうやってって、それはミサちゃまのマジックパワーと言うかぁ、美少女ミラクルと言うかぁ」
「貴様ぁ、もう野放しにしておけん! 今ここで射殺する!」

強盗は今度こそ殺すつもりでミサの胸元に照準を合わせる。

「え? えーっ!? ウェイトウェイト、ミサは丸腰だってばぁっ!!」

あわてて両手を振るミサだが、強盗は容赦なくトリガーを引く。

「ミサっ、危ない!!」
「うおっ!?」

パァン!

サミーが銃を構えた強盗に体当たりをした為、
狙いがそれた銃弾は天井に穴を開けた。

「このガキっ! 舐めた真似しやがって!」
「うぇっ!」

強盗はサミーを蹴飛ばすと、今度は彼女に向かってトリガーを引いた!

「サミー、危ないっ!!!」

倒れたサミーの前に飛び出す天地に、銃弾が襲いかかる・・・・・・!

(だ、ダメっ!! 砂沙美はどうなってもいい・・・・・・天地兄ちゃんを助けて!!!)

ギュッと目をつぶって祈るサミーに反応し、額の三角タトゥーが光った。





「・・・・・・こ、これは・・・・・・!?」

サミーと天地は、ハート型のバリアに守られていた。
いや、それだけではない。
周囲の景色というか背景が、ハートの流れ星のような模様で満たされていた。

「やったぁ! やっとサミーの魔法が発動したんだ!」

魎皇鬼が叫ぶ。

「これは人呼んでプリティ空間! サミーがこの場の魔法を支配してる証さ!」

(プリティ・・・・・・空間・・・・・・)

『まだ死にたくない〜! 誰か助けて〜!』
『ちょうど休暇に入る時間だったのに強盗なんて・・・・・・もう最悪!』
『支店長の私は強盗に入られたことの責任を取らされるだろうな・・・・・・降格処分程度で済めばよいが・・・・・・』

(こ、これは・・・・・・?)

誰も言葉を発していないのに、サミーの心に言葉が伝わってくる。
ここに存在する全ての人の心が、プリティ空間を通してサミーに伝わってくるのだ。
『俺たちには多額の借金がある・・・・・・もう他に方法は無いんだ・・・・・・』
『他人のことを心配する余裕などない・・・・・・金を奪うか、死ぬかだ・・・・・・』
『だが、こんな子供を撃ち殺してまで、こんなことをしなきゃならないのか・・・・・・』

今度は強盗たちの心だ。
凶暴に見えた彼らの心中は、意外に繊細だった。

(強盗さんも、可哀想・・・・・・。
 こんなことをしなきゃならないぐらい、追い詰められてるんだ・・・・・・)

何か、サミーの胸の中に熱いものが灯る。
しかし、それをどうすればいいのか分からない。

『なぁに、このセンスの欠片も無いおこちゃま空間? ツバでもつけたれ、ぺっぺっ』

(・・・・・・ミサのことは無視、無視)

とにかく、今のサミーなら何かすごいことができそうな気がする。
・・・・・・気がするが、どうすればいいのか。
そもそも何が出来るのか。
それがサミーには分からなかった。

『サミー、キミの想いをまっすぐにぶつけるんだ! それがキミの魔法になる!』

魎皇鬼の心が届く。
おかげで、サミーは自分のやるべきことを理解することができた。

(・・・・・・分かったよ、リョーちゃん!)

サミーは、ありったけの想い―――正義の心と慈愛の心―――を魔法に込める!

(強盗さん達、目を覚まして! こんなことをしても何にもならないよ!)

「届け、想いの魔法っ!!!」

上空に放ったハート型のエネルギーが、シャワーのようにふりそそぐ。
その暖かな光は、強盗たちの憎しみに凝り固まった心を徐々に溶かしていく。

『お・・・・・・俺達は、何てことを・・・・・・』
『もう少しで、俺達は人殺しになってしまう所だった・・・・・・』
『自首しよう・・・・・・借金も、何とか自力で頑張って返していこう・・・・・・』

サミーの魔法に感化されて改心した強盗達の心が伝わってくる。

(これでもう安心・・・・・・サミーにおまかせっ、だね♪)

こうして、強盗が戦意を無くしたことにより、事件は解決した。




「・・・・・・ふぅー、振り返ってみればもう少しで死ぬトコだったね、あたし・・・・・・」
「いいじゃない、ついに魔法の力に覚醒したんだし」
「まぁ、ね」

サミーはそっと警察に連行されていく強盗達を見る。
彼らの表情は、まるで憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。
「あ、ありがとう、プリティサミー……俺を助けてくれて……」

お礼を言いに来る天地。心なしか、頬が赤く見える。

「そ、そんな! それはこっちの台詞―――」
「さぁーて、やっとバトンを取り戻したわ! 改めて勝負よサミー!!」

完全に自分の都合、ノリだけで会話に割り込むミサ。
彼女の辞書に空気を読むという言葉は無い。

「何よ、さっきミサを助けてあげたのはサミーでしょ!」
「うっさいわね、悪の魔法少女は3秒で恩を忘れるのよ!」

どうやら彼女は猫の86400分の1の記憶力しか持ちあわせていないようだ。
尤も、猫が恩義を忘れるというのは都市伝説のようだが。

「コーリング・ミスティクス!!」

バトン振り回すバンクを流し、ちゃっちゃとミサはラブラブモンスターを召還した。

「さぁ上司にムカついてパンクロッカーにでも転向しようと思ってるバカ男の悪意から生まれたCD女!
 サミーをロケンロールにコテンパンにしちゃいなさい!」
「イェーイ、ガチンコバトルとはロックだなっ! 了解だぜっ!」

青い全身スーツに、メカメカしいヘッドホンにゴーグルという完璧な未来系装備!
腕輪代わりに装着された光メディアが先鋭的だ!
CD自体が既に時代遅れだってことには突っ込んじゃダメだぞ!

「これって、ゲーム版CD女のデザインじゃない! 何でわざわざマイナーな方を使うの!」
「シャラップ!! メタギャグもいい加減にしないと愛想尽かされるわよ!」

すいません、自重します・・・・・・。

「サミー、さっきの魔法を使うんだ!」
「えっ?」

魎皇鬼の言うさっきの魔法とは、やはり強盗の心を癒したアレのことだろうか?

「さっきはいっぱいに広げた魔法の力を、今度は一点に集中するのさ!」
「・・・・・・うん分かった、やってみる!」

サミーは、バトンの頂点のハートに心を集中させ・・・・・・前方に、一気に解き放った!!

「プリティー・コケティッシュ・ボンバー!!!」

叫んだ技名と共にサミーが放ったハート型のエネルギーは、CD女を一撃で消し飛ばす!

「こ、このデンジャラスさこそ、ロックの醍醐味だぁーーーっ!!!」

出番が短かった割りに、CD女は何だか満足気のようだった。

「どうだ悪の魔法少女! サミーの魔法は悪意を浄化する魔法!
 悪意から生まれたラブラブモンスターに対してこれほど有効な攻撃は無いよ!」
「コ・・・・・・コレは悪意を浄化とか、そういう問題じゃないわよ!」

ミサの言う通り、ハートの弾丸はCD女で止まらず、壁を貫通して奥の部屋の金庫にまでハート型の穴を空けていた。
幸い、人的被害は無かったようだ。
「で、でへへ・・・・・・ちょっと威力ありすぎだったかな?」
「でへへじゃないわよ! もうアンタみたいなクレイジーとは付き合ってらんないわ、ミサは帰る!」

自分のことは棚に上げたまま、ミサはテレポートで帰ってしまった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・私の店・・・・・・・・・・・・」

残されたサミーに、周囲の視線が刺さる。
中には、銀行を破壊された恨みが篭った支店長の目も・・・・・・。

「そ、それじゃみなさん、まった来週〜〜〜!」

場の空気に耐えかねたサミーはそそくさと退散する。
しかし、帰宅は相変わらず徒歩だった。
必殺技を覚えても、移動魔法までは都合よく覚えてはくれなかった。

「プリティサミー・・・・・・また会えるかな・・・・・・」

天地はサミーが立ち去るのを、ぼーっと見つめていた。




「天地さん!」

銀行を出た天地の前に、少女が現れる。
天野美紗織だった。

「天地さん、大丈夫だったんですか?
 強盗さんに銃を向けられているところ、TVで見ましたよ」
「いやぁ、ハハハ・・・・・・面目ない・・・・・・。
 でも、何とか無事だよ。プリティサミーのおかげでね」
「良かったですね」

そう言って美紗織は笑顔を見せるが・・・・・・。

「実は、砂沙美ちゃんとはぐれちゃって・・・・・・大丈夫だとは思うんだけど・・・・・・」
「砂沙美ちゃんも来てたんですか? じゃあ今日もデートだったとか?」
「あはは、まぁね」

美紗織がかすかに表情を曇らせたことに、天地は気がつかなかった。

「・・・・・・これから砂沙美ちゃんを探すんですよね? 私も手伝います」
「うん、頼むよ」

こうして、二人は砂沙美を探すことにしたが・・・・・・。

「天地兄ちゃん!」

二人が二手に分かれた直後、砂沙美が現れて天地に抱きついたのだ。
まだ近くにいた美紗織もそれに気付いて戻ってくる。

「砂沙美ちゃん、今まで何処に居たんだよ!」
「え、えへへ・・・・・・怖かったから公衆トイレの中に隠れてたの」
「もう・・・・・・心配したんだからな」
「ごめんなさ〜い!」

安堵感と再開できた喜びで二人の顔がほころぶ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

美紗織は、そっとその場を離れた。
天地のことは嫌いではなかったが・・・・・・。
彼の前では、砂沙美にとっての自分の存在は限りなく薄くなってしまう。
美紗織にはそれが辛かった。

「あれ、美紗織ちゃんは?」

美紗織がいないことに気付いた天地は辺りを見回す。

「美紗織ちゃん? 美紗織ちゃんがいたの?」
「うん、ついさっきまで一緒に砂沙美ちゃんを探してたんだけど・・・・・・」

いつまで待っても美紗織は戻ってこなかった。
砂沙美は流石に少し気になったが、きっと急用でも出来たのだろうと思うことにした。

「・・・・・・仕方ない、二人で帰ろうか」
「うん!」

歩き出す砂沙美の肩に、魎皇鬼が飛び乗って耳打ちする。

(やったね砂沙美ちゃん、強盗退治は結構ポイント高いんだ!
 加えてまたミサって奴をやっつけたし、これで善行ポイントもかなり溜まったはず!)
(今はいいの、そんなこと!)
(そんなこと、って……今朝はその件で散々ケンカしたじゃないか)
(もう、いいから先に家に帰っててよ!)
(……分かったよぉ)

魎皇鬼はしぶしぶ一人で帰って行った。

「もう、デリカシー無いんだから・・・・・・」
「何か言った、砂沙美ちゃん?」
「ううん、何でもないよ、天地兄ちゃん!」

・・・・・・いや、天地には言いたい言葉があった。
砂沙美は先ほど言えなかった言葉を言う。

(ふふ・・・・・・天地兄ちゃん、さっきは守ってくれてありがとね♪)

サミーだった時のお礼は、今の姿では口に出せない。
だから、砂沙美はそっと心の中でつぶやいた。



                〜 第四話に続く 〜
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 15:18:37 ID:NR4IdpHz
おそまつさまでした。
これでやっと導入部の序盤が終わりました。

大筋は大体完成してるのですが、中継ぎの部分がほとんど出来てないので、
4話以降はちょっとお待たせすることになるかもしれません。
ちなみに、全8話を予定しております。
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 20:51:15 ID:YdaeN+OM
あ、新作できてる!乙です〜。しかし面白い上にサミーっぽさがホントによく出てますなあ
しかもるーくんの出番、本当にあれだけだったとはw
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 21:02:11 ID:YdaeN+OM
っと忘れるところだった

>>75
新作投下、お疲れさまでした。ご自分のペースでゆっくり書き上げて下さいね。では次回も楽しみにしています〜
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 23:06:37 ID:741eKw+W
>>75
いやーサミーとか懐かしすぎる
しかもゲーム版ネタとかマニアックだなこりゃ
まぁ持ってる俺も言える立場じゃあないが…

もう全8話とか言わず2クール(約26話?)くらいやって欲しいなぁ
7923:59まで名無し・1001投票@名無し・1001スレ:2008/10/26(日) 20:29:38 ID:c0zEw9ud
投下乙!
今度は銀行強盗退治とはサミーもなかなかやるね!
80名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 07:39:38 ID:/yhCKWqs
リレイズ
81名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/01(土) 20:44:40 ID:KkFvBBzk
人いないな。魔女っ子は人気ないのかな
確かに人を選ぶジャンルではあると思うが…
82名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/01(土) 20:54:36 ID:7NXZaBHC
魔女っ子物自体、今は無いもんね。
個人的には、「プリキュア」ってどうも同一視できなくってさ。
姪っ子とか好きなんだけど。

「ふたご姫」くらいが現状最後の魔女っ子物になるのかね?
83サミー書いてる人:2008/11/01(土) 20:55:19 ID:PSosQP3s
先日投下した三話は手帳ネタの所のズレが酷いですね・・・。
AAエディタでちゃんと確認するべきでした、失敗です。

>>76
実は最初は完全に影も形も登場しない予定でしたw>ルーくん
でも流石に全くの行方不明だと不適切かと思い、無理やりフォロー入れたんです。
ミサと留魅耶が必ずしも一緒に居るわけではないのも原作との大きな違いですね。

>>78
そこまで楽しんで頂けているのはとてもありがたいお話ですが、
中継ぎ部分のネタがほとんど無いので、2クールはとてもじゃないけど勘弁してくださいw
元々小さくまとめるつもりだったので登場人物も極力少なく抑えてますし、
ジュライヘルムの描写も、設定改変してまでバッサリ切りましたから。

>>79
実はサミーが一般の悪人を成敗することは非常に稀だったりします。
某標準世界の社長や鬼地獄組の組長などは成敗されましたが、あれらはミサ絡みでしたし、
完全に無関係だったのはSS(セガの方w)のゲームで出て来た悪の組織ぐらいでしょうか。


それでは第四話を投下させていただきます。
第四話 『帰ってきた天然ママ!』



「プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!」
「へれへれ〜! 成仏しちゃうわ〜!」
「お、覚えてなさいよ、プリティサミー!!」

冒頭からいきなりで申し訳ないが、
サミーの魔法でラブラブモンスターのゴースト女を蹴散らされ、ミサは撤退した。

「すごいよサミー、魔法を覚えてから向かうところ敵なしだね!」
「へへっ、おまかせっ!」

少し頭を傾けて小指を頬に当てるサミー。
この決めポーズもすっかり板についてきたようだ。

「ルンルン、絶好調〜♪」

魔法の手帳を覗き込んでいる魎皇鬼は、とても上機嫌だ。

「リョーちゃん、何だか嬉しそうだね」
「うん、だってミサのおかげで、どんどん善行ポイントが溜まっていくんだもの。
 悪の魔法少女の癖に全然強くないし、これからもどんどん出てきて欲しいな♪」




「……って、言われてるけど?」

実はまだ木陰に隠れていたミサと留魅耶。
ミサは魎皇鬼の言葉にショックを受けたようだ。

「あ、あんなウサちゃんにまで舐められるなんて……!
 くぅー……一時期は隆盛を極めたミサちゃまがこんな屈辱を受ける日々……。
 盛者必衰、マイトイズライトとはこのことなのね……」

いつミサが隆盛を極めたのかは知らないが、
こうも現れるたびにやられっぱなしではウサ畜生に舐められるのも無理も無い。

「別に負けっぱなしでもいいじゃない。ミサはヒマ潰しがしたいだけなんだろ?」

留魅耶としては、これ以上ミサに面倒ごとを起こして欲しくない。
ミサの暴走をサミーが止める形になっている今がベターな状況だった。

「違うわよーーー!! ルーくん、ミサはね……た・の・し・く……ヒマ潰し、したーいのーーー!」

駄々っ子のように両手を振り回すミサ。

「エブリエブリー、負けに負けてユールーズを宣言され続けたところでぇ……。
 楽しいわけが……ないっちゅーんじゃああああああああああっ!!
 連勝記録も途切れるし、連コインする100円玉の額にも限りがあるんじゃああああああい!!」

そうそう、彼女は魔法少女になってからはゲーセンに行ったり買い食いしたり等は一度もしていないので、
以来、無駄遣いをしてない彼女の財布は丸々と太っている。
これも魔法の力を得たことによるご利益と言えよう。
「はあっ……はあっ……」

憤慨のあまり大声で叫んだり地面を踏みつけたり木に頭突きをしたりしてみたミサだが、
頭にコブが出来て息が切れて喉が渇いただけだった。

「飲む?」
「はあっ、はあっ……あ、サンキュー! 流石ルーくんは準備がいいわねぃ!」

留魅耶が差し出したオレンジジュースを、ミサはぐいっと飲み干した。

「っぷっはーっ、生き返るわこりゃ! 五臓六腑に……って、そりゃ流石にオヤジくさいか」

水分補給を済ませたミサは多少落ち着いたようだが、それでも怒りは晴れなかった。

「大体さー、それもこれもサミーが必殺技を覚えるからいけないのよ!
 あのスカチックバンパーとか何とかをサミーが修得したせいで、
 ミサはアンニューイでモナムーな日常がデフォールトになっちゃったんだから!」
「人のせいにして思考停止って、ダメ人間の典型的パターンだよ」
「シャラップ!! ダメ人間の方がハッピーな人生を送れるのよ!」

自分がダメ人間だという自覚があるのなら、まぁいいか。

「もう、サミーをコテンパンにするには、適当にラブラブモンスターを何体作ったってダメね。
 ドカーンと一発、強烈なラブラブモンスターを一匹作り出さないと」
「強力なモンスターを作りたいなら、悪意の強い人間を探さないとダメだね。
 悪意が強ければ強いほど、それを変換したときの魔力も強くなるんだ」
「ふむふむ、悪意が強ければ強いほど魔力も強くなる、っと……」

ビン底メガネを装備し、みかん箱を机代わりにメモメモするミサ。
もちろんメモ用紙はチラシの裏だ。

「後は裏技として、元々魔力が強い人をミスティクスするって手もあるね。
 尤も、魔法を使える人がほとんどいない地球じゃそんな人は―――」

言いかけて、留魅耶はミサの瞳が自分をロックオンしていることに気付いた。

「……ねぇ、ルーくん♪」
「い、いやだ! 僕は絶対にやらないぞ!」
「まだ何も言ってないじゃない!」
「言ってなくても嫌な物は嫌だっ!!」
「むぅ〜……」

ミサの目が、狩人の目になっていく。

「ならば力づくよ! コーリング―――」
「ま、待った!! 僕をラブラブモンスターにするよりもいい案があるよ!!」
「へ?」

留魅耶の言葉を聞き、ミサの手が止まる。

「いい案って何? 他に強いラブラブモンスターを作る手段があるの?」
「う、うん……ボクを使うよりは……」

留魅耶は心の中で謝りながら、ある人物の名前を挙げた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日も悪の魔法少女を退治した砂沙美と魎皇鬼は、自宅に帰ってきた。

「ふう、今日はちょっと遅くなっちゃったね」

砂沙美の言うとおり、既に夜の7時近い。
急いで靴を脱ぎ、下駄箱にしまう。

「ボク、もうお腹ペコペコだよぉ……」
「ちょっと我慢して。急いで晩御飯作るから。……ん?」

砂沙美は、家の中の異変に気付いた。
既に食事の匂いがする……?

「あら、おかえりなさい砂沙美ちゃん」

奥の部屋から、エプロン姿の妙齢の女性が現れる。
長い青髪を後ろで縛っている、おっとりとした雰囲気の美人だ。

「まっ……」

砂沙美は思わず、手に持っていた靴を落とす。

「マ……………………ママーーーーーーっ!!」

砂沙美は、ママと呼んだ女性の胸に飛び込んだ。

「うふふ、ただいま砂沙美ちゃん。
 お仕事終わったから、これからしばらくは一緒にいられるわよ」

そう言って、その女性はふんわりと砂沙美に笑いかけた。

その女性の名は、萌田津名魅。
砂沙美をそのまま大きくしたような、彼女のお母さんだった。




萌田家の母子は、居間で食卓を囲んでいた。
早めに帰ってきた津名魅が二人分の食事を作っておいたのである。

「ねぇ、ママ。今回のお仕事はどうだったの?」
「途中で酸素ボンベを落として苦しかったんだけど、今回は頑張って三トウも落としたのよ」
「わぁ、ママすごーい!」

得体の知れない仕事の報告をする津名魅と、それを無邪気に喜ぶ砂沙美。
この母にしてあの砂沙美ありといった所だろうか。
何を隠そう、砂沙美に正義について教え込んだのも津名魅なのである。

「お父さんもしばらく帰ってきてないの?」
「うん、研究が忙しいみたい」

本筋にあまり関係ないので忘れてもらって構わないが、
砂沙美の父親は高名な博士なのだ。
「天地くんとは最近会ってるの?」
「え、えへへ……もちろん!」
「そう、仲が良くてヤケちゃうわね」
「てへへっ……」
「美紗織ちゃんは元気にしてるかしら?」
「うん、元気だよ。それに最近、なんだか明るくなった気がする」
「あらあら、何かいいことでもあったのかしらね」

盛り上がり続ける母子の会話。
そうして忘れ去られた存在が、とうとう不満気な声を上げた。

「ミャアン!」
「あら、この子……?」

津名魅はやっと魎皇鬼の存在に気付いたようだ。
さっきからずっと周りを走り回っていたというのに、のんびりマイペースにもほどがある。

「ママ、この子は魎皇鬼って言うの」
「魎皇鬼ちゃん? 立派なお名前ねぇ」

魎皇鬼を抱きかかえて津名魅に見せる砂沙美。
津名魅は、魎皇鬼のことをじっと見る。
その瞳に見つめられると、魎皇鬼は何だか緊張した。

「見て、とっても可愛い猫ちゃ―――」

ガブリ
魎皇鬼が砂沙美の指に噛み付いた。
彼は自分が猫の姿をしていることを決して認めない。

「いっ……!! ……い、いや、可愛いウサちゃんでしょ!」

砂沙美は魎皇鬼を睨むが、彼は横を向いてしらんぷりだった。
まぁいい、文句を言うのは後だ。
まずは津名魅に魎皇鬼を飼う了承を取り付けなくてはならない。

「ねぇママー、この子、ウチで飼ってもいいよね?」
「ダ・メ♪」

ド ゴ ォ ー ン !

表情も声色も変えずに津名魅が即答した為、砂沙美と魎皇鬼は吹き飛んでしまう。
ものの見事に見えない地雷を踏み抜いてしまったようだ。

「……ど、どうして!? ママ、動物は好きでしょ!?」
「ママはね、動物は大抵好きだけど、ウサギは嫌いなの」

あくまでにこやかに、しかしキッパリと言い切る津名魅。
その態度からは、本気なのか、冗談なのかすら全くおぼつかない。
だがどちらにしろ、何らかのリアクションを返さねば、
この何とも言いがたい空気は打開できないだろう。
砂沙美は、覚悟を決めた。

「ご、ごめんママ、ウサちゃんってのは冗談!
 この子、ホントは猫なの! ほら、鳴き声だって!」
「ミャ、ミャアン!」

仕方なく、砂沙美の言葉に同調する魎皇鬼。

「なんだ、猫さんだったのね。それなら飼ってもいいわよ」

津名魅はあっさりと前言を覆し、魎皇鬼を飼うのを了承した。

「あ、ありがとうママ! 良かったね、リョーちゃん!」
「……ミャーン……」

めでたく正式に萌田家の一員となったが、どうにも納得がいかない魎皇鬼であった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



トントントントン……。
萌田家の台所に包丁の音が響く。

今日は土曜日。

今、砂沙美はママのおかえりパーティ用の料理を作っているのだ。
些細なことでもいちいちお祝いして盛り上がるのが萌田家の伝統であった。
ちなみにそのママは、今は買いだしに行っている。

「ねぇ、もっとニンジン入れてよニンジン! こんなんじゃ全然足りないよ!」

脇から覗き込んで注文をつける魎皇鬼。

「もー、りょーちゃんは黙っててよ!」

砂沙美が今作ってるのはクリームシチューだ。
ニンジンは既に6本も入っており、多すぎるぐらいなのだ。
これ以上入れたら、ニンジン入りシチューではなく、シチュー入りニンジンになってしまう。

「シチューの他にニンジンクッキーやニンジンジュースも作ってるでしょ。もう十分じゃない」
「やだやだ、全然足りない! せっかくのお祝いの日ぐらい、もっとニンジンだらけにしてよ!」
「どーいう理屈よ?」
「ボクん家ではそれが伝統なんだい!」
「そーなの。でもここは砂沙美の家だから。郷に入っては郷に従ってもらいますからね」
「ウゥ〜…………」

全身の毛を逆立てて不満の意を表す魎皇鬼だが、砂沙美は相手をせずに作業を続けた。


ピンポーン


「はーい!」

砂沙美は一旦火を止めて、玄関に出る。
せっかくのパーティなので、何人か招待客が居るのだ。その内の誰かだろう。
砂沙美が玄関のドアを開けると……。
「美紗織ちゃん!」
「おはよう、砂沙美ちゃん」

そこには、満面の笑顔をたたえた彼女の親友、天野美紗織が居た。

「ごめん、ちょっと早く来すぎちゃったかな?」
「いや、大丈夫だよ! 上がって上がって!」
「おじゃまします」

砂沙美に招かれて家に上がる美紗織。

「砂沙美ちゃん、今日は招待ありがとう」
「ううん、こちらこそわざわざ来てくれてありがとう!」
「そんな……砂沙美ちゃんのお誘いを、断れるわけないもの……」
「えへへ……」

少々照れくさくなり、互いにちょっと頬を染める二人。

……そこのオマエっ!! まさか百合はぁはぁとか思っていないだろうな!?
これは純粋な友情だ! 断じてそんな不純なものではない!!

「わざわざ否定する辺りが逆に不純に見えるよー」

……………………。
魎皇鬼にやる気なく突っ込まれてしまった。
仕方が無いので本題に戻ろう。

「じゃ、あたしは料理の続き作ってくるから待っててね」
「あ、ゴメンね、途中だったのに邪魔しちゃったんだ」
「ううん、大したことじゃないよ。こっちこそ待たせちゃってゴメンね」

そう言って、砂沙美は台所に戻った。

「ねぇ、お客さん呼ぶなんて聞いてないよ!」

台所で待っていた魎皇鬼は戻ってきた砂沙美に文句を言う。

「言ってなかったかもしれないけど……別に、リョーちゃんには関係ないでしょ?」
「あるよ! ボクのニンジンの取り分が減っちゃうだろ!」

あくまで彼にとって重要なのはニンジンで、他はどうでもいいらしい。

「はいはい、じゃあリョーちゃんの分は意識してニンジンをたっぷり入れてあげるから」
「……他の人の3倍は入れてよ?」
「はいはい、3倍ね」

まともに相手にする気も失せてきて、適当にあしらい始める砂沙美。
ペットと言うより、聞き分けの無い弟を相手にしている気分だ。

(……お姉ちゃんも、あたしが小さい時はこんな気持ちだったのかな?)

砂沙美には、7つ歳の離れた姉が居た。
今は海外留学をしているために家には居ないが、
幼い頃は大分ワガママを言ってしまって困らせた記憶がある。

(今度お姉ちゃんに会ったら、子供の頃はワガママばっかり言っててゴメンって謝っておこう)

人の苦労は自分の身に降りかかって来て、初めて理解できるものだと、
今更ながらに砂沙美は実感した。

ピンポーン


「あ、はーい!」

再びの来客だ。
砂沙美は玄関に走る。

ガチャ

「天地さん!」

美紗織の次にやって来たのは、砂沙美の恋人・征木天地であった。

「おはよう砂沙美ちゃん。招待ありがとう」

天地はそう言いながら、砂沙美がエプロン姿なことに気付くとバツの悪そうな顔をする。

「ごめん、料理の邪魔だったかな?」
「とんでもない! どうぞ上がっててください!」
「それじゃあ、お邪魔します」

天地も家に上がっていく。

「あ、天地さん!」
「おっ、美紗織ちゃんも招待されてたんだ」

和気藹々と談笑する彼らを他所に、不満のうなり声を上げる生物が居た。
魎皇鬼だ。

(ウゥ〜……ボクのニンジン……)

ただでさえ母である津名魅が帰ってきたことで、萌田家の料理は彼の独占ではなくなってしまったのだ。
こんなにどんどん人が増えては、自分の取り分はどれだけ減ってしまうというのか。

(ボクのニンジンは…………砂沙美ちゃんの料理は、ボクだけのものだ!!)

その怒りにニンジン以外のものへの執着が混ざっていることは、
まだ幼い魎皇鬼には自覚が出来なかった。




「津名魅さん、おかえりなさーい!」

パァンパァン!

クラッカーが飛び散る。

「ありがとう、今日はみなさんも楽しんでいってくださいね」

そう言って、嬉しそうに微笑む津名魅。

あれからすぐに津名魅は買出しから帰ってきて、料理も完成した為、
めでたく『ママさんおかえりパーティ』は始まった。
91名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/01(土) 20:59:52 ID:zBwdNwdp
昔、魔法少女プリティサミー・ソーサというネタでSS書いたことがある
「ママさん、これプレゼントです」

美紗織は、包装紙に包まれた小さな箱を差し出す。

「えっ! そんな、美紗織ちゃん……こんな大騒ぎしたいだけのパーティでそんなもの貰っちゃ悪いよ!」

美紗織の思わぬ気遣いに、当事者でもない砂沙美が大慌てをしている。

「うふふ……ありがとう、美紗織ちゃん。嬉しいわ」

一方、津名魅はあっさりと受け取った。

「ママさんに何がいいか分からなかったので、お菓子にしてみました。お口に合えばいいんですけど……」
「あら、大丈夫よ。私は好き嫌いが無いから、何でも喜んでいただくわ」
「良かった!」

二人は顔を合わせて微笑む。

「うーん、美紗織ちゃんに先を越されちゃったな」

そう言ったのは天地だ。

「俺も津名魅さんにプレゼントがあったんです。これをどうぞ」

天地は、美紗織の物よりは多少大きい包みを津名魅に手渡す。

「中身は洗剤です。色気無いプレゼントですけど、長く使えるものがいいと思って」
「あらあら、天地さんもありがとう。私は幸せ者だわ」

そう言って、本当に幸せそうに笑う津名魅。
焦ってしまったのは砂沙美である。

(マ、マズい……何もプレゼントを用意してないのは砂沙美だけじゃん!)

本当はパーティ用の料理を作っただけで十分なのだが、
それが当たり前だと思っている砂沙美の中では大したママ貢献にならないのである。

「まるで魔法にかけられたみたいねぇ、こんなにみなさんに幸せにしてもらえるなんて」
「……!」

津名魅が何気なく言った言葉に、砂沙美は反応した。

(こ、これだ! 魔法の力で何かをしてあげれば、十分にプレゼントになるはず!)

「あれ、砂沙美ちゃん何処か行くの?」
「ちょっとトイレ!」

立ち上がった自分に気付いた美紗織にそれだけ言うと、
砂沙美はニンジンクッキーをかじっている魎皇鬼を引っこ抜いて部屋を出る。

「な、何するんだよぉっ!」
「リョーちゃんお願い、魔法のバトン出して!」

食事を邪魔されてご立腹な魎皇鬼に、砂沙美は頭を下げる。

「……………………」

魎皇鬼は無言でバトンを取り出すと、砂沙美に叩きつけて居間に戻っていった。
一刻も早くニンジンかじりを再開したいのだ。
「よーし! プリティミューテーション! マジカルリコール!」

透過光に包まれて、砂沙美はプリティサミーに変身した。




居間に戻ってきた魎皇鬼だったが、
ニンジンクッキーが食べられつくしてることに気付いてショックを受ける。

「この間の天地さん、かっこ良かったんですよー。
 強盗に勇敢に立ち向かったりなんかしちゃって」
「あらあら、天地くんらしいわね。でも無茶はいけないわ。
 もし天地くんが死んだら、勝仁さんが悲しむでしょう?」
「す、すみません……」

三人はおしゃべりに夢中で、魎皇鬼がうなり声を上げてるのにも気がつかない。
仕方なしに、魎皇鬼はニンジンジュースをちびちび舐めることで我慢をするのだった。

そんな中、あまり広くも無い居間に、ひらひらして非常に邪魔な振袖姿で飛び込んできた少女がいた。

「お祝いもプレゼントもサミーにおまかせ!
 プリティサミー、祝辞を届けに参上でぇす!」
「「プ、プリティサミー!!?」」

天地と美紗織は同時に声を上げる。

「あら、みなさんのお知り合い?」

呆気に取られている二人をゆっくりと見渡す津名魅。
そんな彼女の前にサミーはずいと乗り出し、二人は目が合う。

「ママさん、始めまして!
 あたしは砂沙美ちゃんのお友達の、正義の魔法少女・プリティサミーです!
 今日は、ママさんおかえりを祝してプレゼントを届けに来ました!」
「あらあら、魔法少女さんまでパーティに来てくださるなんて。
 砂沙美ちゃんの交友関係って広いのねぇ、羨ましいわ」

全く動じた風でもなく、笑顔で応対する津名魅。
やはり大物なのか、それともただの天然なのか、非常に判断に困る。

「それで、頂けるプレゼントとは何なのでしょう?」
「えっ! ……えーと、それはですね……」

勢いで飛び出してきた為、サミーは何も考えていなかった。
そもそも良く考えれば、自分はコケボン以外の魔法は使えないのだ。

「え、えーと……あの、その……」

目を泳がせるサミー。
……すると、視界の端にコソコソとこの場を離れようとする美紗織の姿が見えた。

「あれ、美紗織……さん、何処に行くんですか?」
「!! ……ちょ……ちょっとトイレに……」
「あ、失礼しました。どーぞどーぞ」

呼び止められて狼狽した美紗織だったが、何とか部屋を立ち去ることができた。
やはり『トイレ』は場を離れるための言い訳としては最強の呪文である。
「それで、サミーさんから頂けるプレゼントとは何かしら?」
「い、いやー、それは……」

サミーは魎皇鬼に流し目を送って助けを求めるが、
機嫌の悪い彼は完全に知らんぷりだ。

(くぅー……もうこうなったら適当にコケボン撃って誤魔化すしかないや!)

投げやりな決意をするサミーだったが……。


ピンポーン


「あら、まだお友達が来る予定だったのかしら? サミーさん、ちょっと待っててくださいね」

津名魅は立ち上がると、サミーに軽く会釈をして部屋を出て行った。

ピンポーン ピンポンピンポーン

「はい、どちらさまですか?」

津名魅が玄関のドアを開けると……。

「グッドモーニング! ご無沙汰してるわねぃ、砂沙美ちゃんのママりん!」

読者には分かっていただろうが、ピクシィミサであった。
肩には留魅耶が乗っている。
見たかった番組があったのに無理やり連れて来られたので、少々不服そうだ。

「はて……あなたはどちらさまだったかしら?」

ご無沙汰と聞いて、知り合いかと思考を巡らす津名魅だが、
当然、こんなエキセントリックな金髪少女の記憶などあるわけもない。

「あたーしの名前は、人呼んで破壊と混沌とカオスを愛する破壊の女神にして、
 キュートでセクシーなみんなのアイドルという、要するに悪の魔法少女・ピクシィミサーッ!!」

老婆心だが、自己紹介は簡潔にお願いしたい。
無駄に長いと相手も覚えにくい上に、第一印象も悪いぞ。

「あらあら、あなたも魔法少女さんだったのね」

微笑む津名魅。
一歩間違えば(既に間違ってる?)ただの危ない人を前にしてもこの態度である。
この人が平静を失うのは、この世の終わりが来た時だけかもしれない。

「実はぁ、ミサったらお友達にお呼ばれしちゃってぇ〜」
「あら……もしかして、サミーちゃんのお友達?」
「イエース! ザッツライっ!」
「ちがーーーーーーうっ!!!」

奥で話を聞いていたサミーが溜まらず飛び出してきた。

「だぁれがアンタの友達よ!」
「つれないわねぇ、同じ魔法少女同士じゃない」
「だったらもっと友好的な行動を取らんかいっ!」
「あらあら、友達同士は仲良くしないとダメよ」
いつも通りのいがみ合いを続ける魔法少女達と、何処かズレた仲裁を行う津名魅。
そんな彼女らの様子を、魎皇鬼がシチューのニンジンをしゃぶりながら見ていた。

(ウゥ〜……!! ミサと留魅耶まで来たら、またボクの取り分が減っちゃうじゃないか!)

魎皇鬼のイラ立ちは、限界まで達していた。
一方、いがみ合いを続ける魔法少女達は……。

「とにかく、帰って! あんたなんかお呼びじゃないんだから!」
「ヤダ! ……って言ったら?」
「いつも通りの目に合わせてあげるわ!」

サミーはバトンを突きつける。

「ふっふっふ、そうこなくっちゃ!
 実は今日のミサは、ちょっとしたタクティクスを備えてきたのよ!」
「タクティクス? オ○ガバトルのこと?」
「ゲーム脳のおこちゃまはゲラウトヒア! さぁ行くわよ、コーリング・ミスティクス!!」

ミサがバトンを振り回して放った魔力は……玄関にいた魎皇鬼に命中した。

「ええっ!? リョーちゃんに!?」

光に包まれた魎皇鬼は、見る見る内にその影を肥大化させていく。
そうして現われたのは……。

「なのなの〜! お腹いっぱい食べてなの〜!」
「リョ、リョーちゃんが……ケーキになっちゃった!?」

頂上付近にキラキラお目目とお口のついた、特大の3段ケーキだった。
生クリームもたっぷりで、実に食べ応えがありそうだ。
ただしイチゴの代わりにニンジンが乗っているのが難点か。

「さぁ、暴食の悪意から生まれたケーキ女! サミーをコテンパンにするのよ!」
「サミー、あたしを食べて食べて〜! なのなの〜!」

ラブラブモンスターとなった魎皇鬼とは元の姿とはすっかり別人になってしまい、
声も某二等兵ではなく、はにゃ〜んな人の物に変わってしまっている。

「サミー、サミー! あたしを食べて〜! なのなの〜!」
「どわわ〜っ!!」

ケーキ女が飛び掛ってきたのを慌てて避けるサミー。

「……どうしてあたしを食べてくれないなの〜……」

顔面(?)から地面に突っ込んだケーキ女は、土塗れの顔を起こして恨めしげな瞳を向ける。

「うぅっ……戦いにくいけど、やっぱり倒すしかないか……」

サミーはバトンに魔法の力を溜め始める。

「ちょっと痛いかもだけど……我慢してねリョーちゃん! プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!」

放たれたハートの弾丸が、ケーキ女に向かっていく!
だが……。
「バリアーなの〜〜〜!」
「な、なんですとーーーっ!?」

ケーキ女は魔法のバリアを張り、コケティッシュボンバーを跳ね返したのだ。

「……って、どげげっ!? どっちに跳ね返してるのよー!?」

跳ね返ったコケボンは横で高みの見物を決め込んでいたミサに直撃したが、
必殺技を破られてしまったサミーはそれどころではなかった。

「くっ……このラブラブモンスター、強い……。まさかコケティッシュボンバーが破られるなんて……!」

元が魔法の国の住人である魎皇鬼なのだ。
その辺の一般人から生み出したラブラブモンスターとは比べ物にならない強さで当たり前だ。

「今度はこっちの番なの〜! ニンジンミサーイルなの〜!」
「わわわっ!!」

ニンジンが四方八方からサミーに襲い掛かる。
何とか走り回って避け続けるサミーだが……。

「! マ……ママさん、危ないっ!!」
「あら?」

無我夢中で走り回っている内に、横でぼーっと戦いを眺めていた津名魅の前に来てしまったのだ。
しかしニンジンミサイルは容赦なく襲来する。
自分がこれを避けたら津名魅に当たってしまう!

「こ、こうなったらこっちもバリアー! ……って、出ないしぃ〜!!」

とっさに魔法が使いこなせない己の未熟さ故に、
あえなくニンジンミサイルが直撃したサミーは黒焦げになって吹き飛ぶ。

「あらあら、サミーちゃん大丈夫?」
「……な、なんとか……」

身体を張った甲斐あって、津名魅は無事であった。
サミーはその助けた津名魅に助け起こされる。
しかし、瀕死(?)のサミーにケーキ女は、ずいと迫る。

「さぁサミー……これからあたしと一つになるなの〜。
 お腹が破裂するぐらい、サミーの中をあたしでいっぱいにしちゃうなのなの〜!」
「あ、あががっ……ひゃ、ひゃへてっ!!」
「あらあら、サミーちゃんったら食いしんぼさんね」

無理やりサミーの口をこじ開け、ちぎった自分の身体を押し込み始めるケーキ女。
津名魅は傍からその様子をほほえましそうに見ている。
これが深刻な事態だとはこれっぽっちも思っていないようだ。

(あ、意外と美味しい! でもこんなに食べると太っちゃうかも……。
 ……って、言ってる場合じゃなーーーい!! このままじゃ窒息して死んじゃう!!)

いくらサミーがモガモガ暴れても、ケーキ女は微動だにすらしない。
このまま明日の朝刊に『正義の魔法少女、ケーキの食べすぎで窒息死!』と書かれた記事が出回ってしまうのだろうか。
しかし、こういう時はやはりヒロイン補正で救世主が現われるものだ。

「やめろーーー!!」

異変を聞きつけて駆けつけた天地だ。
そのままの勢いで体当たりするが、ケーキ女はビクともせずにサミーに自分の身体を食わせ続けるばかりだ。
ならばと、天地はケーキ女に交渉を試みる。

「俺がサミーの代わりにおまえを食べる! だからサミーは開放してやってくれっ!!」
(て……天地兄ちゃん……!)

サミーを救いたい一心で、天地は必死で懇願する。
流石に天地を無視できなくなったケーキ女は、敵意を込めた目で天地を睨む。

「……あなたになんかあたしを食べて欲しくないなの! これでも食らってろなの!」
「なにをっ……ガボォッ!?」

天地はあっという間に大量のニンジンミサイルを口に詰め込まれてしまう。

「それを全部食べきったら、あたしを食べる権利をあげてもいいなの! まぁ絶対にムリなのなの〜!」

キャッキャと笑って、サミーに身体を食べさせるのを再開しようとするケーキ女だったが……。

「はぁ……はぁ……どうだ、食べきったぞ! これで俺がおまえを食べていいはずだ!」

驚いたケーキ女が振り向くと、そこには確かに顔を食べカス塗れにして腹を膨らませた天地が居た。
ニンジンミサイルの影も形も何処にも無い。全て彼のお腹の中だ。

「そ、そんな!? こんな一瞬であの量のニンジンを食べきったのなの!?」
「赤貧学生を舐めるな! いつでも腹ん中はスカスカだっ!」
「…………く…………くぅ〜、なの〜〜〜〜!!!」

ケーキ女はジタバタ暴れると、キッと天地に向き直る。

「あなたのこと、ずっとずっと気に入らなかったなの!!
 サミーは、サミーは…………あたしだけのものなのっ!!」

ホイップクリームまで真っ赤にして、ケーキ女は怒りを爆発させる。

「こうなったら、何もかもぶっ壊してやるなのなのなのなのなの〜〜〜!!!!」

四方八方、無差別に大量のニンジンミサイルを乱射し始めるケーキ女。

「わっ、わわっ、わわわわわわっ!!」

走り回って何とかミサイルを避け続けるサミー達。
そして、その中にはミサの姿も……。

「く、くおらっ、ミサっ!! アレあんたが作ったモンスターでしょ!! 何とかしなさいよ!!」
「し、知らないわよ!! ウサちゃん自身の魔力が自立して暴走しちゃってるから、あたしにはどうにも出来ないわ!!」
「わ、分かってたけど、この役立たず!!」

何とか暴走を止めようにも、魔法を使うことはおろか、
このままではケーキ女に近づくことさえ…………って、あれ?

「ねぇ、ちょっと落ち着いてくださらない? ケーキさん」

いつの間にかケーキ女の側まで歩み寄っていた人物が居た。
津名魅である。
「ケーキさんじゃないなの!! ケーキ女なのっ!!」
「あら失礼……それで、ケーキ女さん。
 こうやって暴れてパーティを台無しにすることが、本当にあなたの望みなの?」
「なのっ……?」

津名魅の言葉に引き寄せられるものがあったのか、
ケーキ女はいつの間にかニンジンミサイル攻撃を中断していた。

「私はね、せっかくのパーティなんだから、みなさんに楽しんでもらいたいと思うの。
 砂沙美ちゃん、魎皇鬼ちゃん、美紗織ちゃん、天地くん、サミーちゃん、ミサさん……。
 そして、ケーキ女さん…………もちろん、あなたにも……ね?」
「なの……」

津名魅は自分さえもパーティの参加者とみなしていたのだ。
それを知り、ケーキ女の心に罪悪感が生まれ始める。

「それに……私自身も、このパーティを楽しみたいの。
 でもね、ケーキ女さんも含めて、参加している人全員が楽しめなければ……。
 例えどんな素敵なパーティでも……私はきっと、楽しい気持ちになることは出来ないと思うの」
「……………………」

二の句が告げられないケーキ女を見て、
津名魅の心が彼女に伝わったのだと、その場に居た全員が理解した。

「…………ね、おねがいケーキ女さん。
 私のために、一緒に楽しんでくれないかしら?
 一応、これは私のためのパーティなんだもの…………私のお願い、聞いて頂けるわよね?」
「な…………の…………」

ケーキ女はかぶりを振る。
自分の中の何かと葛藤しているのか。
そして……。

「サミー…………おねがい、なの…………」

ケーキ女はサミーに向き直り、無防備な姿を晒した。
サミーも彼女の気持ちを理解し、バトンに想いの力を込める。

「……行くよ、リョーちゃん! プリティー・コケティッシュ・ボンバー!!」

ハートの弾丸が、ケーキ女を貫く。

「サミー……ゴメンね…………なの……」

ケーキ女はサミーの魔法によって浄化され、後には魎皇鬼が倒れていた。
サミーは、そっと魎皇鬼を抱き上げる。


ミサは、一連の様子を困惑の瞳で見つめていた。
ラブラブモンスターが倒されたにもかかわらず、怒りや悔しさは沸いて来なかった。
何というか、得体の知れないむず痒さを感じるのみである。

「……ちっ、ここは砂沙美ちゃんのママりんの顔を立てて撤退してあげるわ!
 せいぜい砂沙美ちゃんのママりんに感謝するのね、プリティサミー!」

適当な言い訳をつけ、ミサは留魅耶と撤退していった。
「……サミー、お腹は大丈夫かい?」

サミーを心配して、天地が傍らにやってくる。

「そんな……天地さんの方こそ!」
「俺は大丈夫さ。胃袋の丈夫さには自信があるからね!」

そう言いながら、流石に腹を抱えている。
今にも吐きそうなのだろう。

「そ、それじゃあ、あたしもそろそろ帰りますんで……」

天地と会釈をして、その場を去ろうとするサミー。

「待って、サミーちゃん!」

呼び止めたのは、妙に神妙な顔をした津名魅だった。

「な、何ですか、ママさん……?」
「サミーちゃん、ずっと気になっていたのに言い出せなかったんだけど……」

思わせぶりな物言いにサミーはぎょっとする。
まさか、サミーの正体に気付いたのだろうか!?

「……あたしへのプレゼントは、結局どうなったのかしら?」
「あ……」

すっかり忘れていた。
とりあえずキョロキョロしてみるサミーだが、プレゼントが落ちているはずもない。
ならばと、サミーが取った行動は……!

「そ、それではみなさん、まった来週〜〜〜!!」

例によって例のごとく、脱兎のように逃げ出すことだった。

津名魅は走り去るサミーの後姿を眺めつつ、何かを真剣に考えていたようだが……。
ふと、何かを思いついたように手を打つ。

「分かったわ! ケーキ女さんとの壮絶なアクションシーンを見せるのがプレゼントだったのね!」

津名魅は一人で納得して、ニコニコと上機嫌であった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あー、結局パーティを抜け出したままになっちゃったわね。まぁいいか」

何となくテレポートを使う気に慣れなかったミサは、歩いて家まで帰っていた。

「それにしてもやっぱり砂沙美ちゃんのママりんは流石ねぇ。
 何にも考えてないように見えて、いつでもあっという間に争いごとを解決しちゃうんだもの」
「やっぱり……お母さんって、いいものだよな……」

留魅耶はジュライヘルムに居る母のことを想う。
もうそのことは考えるのはやめようと決めていたのに。
津名魅と留魅耶の母では全くタイプが違うのだが、
それでも、留魅耶に不思議と母の面影を感じさせてくれた。
それが母親というものなのかもしれない……。

そんな留魅耶の郷愁に満ちた表情を見て、ミサはふと訊ねてしまう。

「……ルーくん……やっぱり、お母さんに会いたい?」
「そりゃあ……でも、それはもう捨てた望みだから……」
「…………分かるわ……だって、あたしも……」
「えっ?」

思わず振り向いた留魅耶は、悲しそうな目をしたミサを見た。
しかし、その表情は一瞬で塵と消える。

「……ノンノン、ダウナー系はミサには似合わないわ!
 さぁルーくん! ミサを存分にユア・マザーと思ってくれていいのよ!」
「か、勘弁してくれよ……」

ぎゅーっとミサの胸元に抱きしめられる留魅耶だが、彼にとっては息が苦しいだけだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


パーティが終わり、天地も帰った後のこと。
砂沙美は、がっくりとうなだれた魎皇鬼を肩に乗せ、川原を歩いていた。
今は夕飯の買出しに向かっている途中だ。

「ゴメン、砂沙美ちゃん……ボクに隙があったばっかりに、ミサにつけこまれたんだ……」

魎皇鬼はラブラブモンスターとなって、サミーに襲い掛かったことを非常に悔いていた。

「別に気にすることないって。大した被害も無く、元に戻れたんだから別にいいじゃない」
「いや、ボクは砂沙美ちゃんに依存しすぎてたんだ……。
 傍から応援さえしてれば勝手に敵を倒してくれるって思い込んで……。
 ボクは…………サミーの…………正義の魔法少女のパートナーとして、失格だッ!!」
「……………………」

砂沙美はポリポリと頬をかく。
そういえば自分も、こんな風に落ち込んで姉と母を困らせたことがあった。
いくら慰めの言葉をかけてもらっても、歯牙にもかけずにずっと落ち込んだままだった。
当時は、自分から反省しているいい子のつもりで居たが……。
それが逆に姉と母に迷惑をかけてしまっていたことを、砂沙美は今になって思い知った。

「しょうがないなぁ……」

砂沙美は、こんな時に姉や母がどうやって自分の機嫌を取っていたのかを思い出す。

「……じゃあ、こうしよう。今日だけ、リョーちゃんの食べたい物だけで夕飯作ってあげる」
「えっ……ホ、ホントっ!?」

魎皇鬼はその言葉を聞いて、急激に目を輝かせ始める。

「うん、でも今日だけだからね」
「やったぁーーーーっ!!! じゃあニンジン炒めに、ニンジンスープに、ニンジンケーキに、ニンジン―――」

次々とニンジン塗れの料理の名前をあげつらう魎皇鬼。
その興奮ぶりは、つい直前まで失意の底にいた少年と同一人物とはとても思えない。
砂沙美は、迂闊な約束をしたことを少々後悔した。


「美味しい! どれもこれも全部、とっても美味しいよ、砂沙美ちゃん!」
「そう、それは良かった」

さっきのションボリぶりは何処へやら、
魎皇鬼はごきげんでいつまでも飽きずにニンジン料理を頬張っていた。

「毎日こうだったら嬉しいのになぁ!」
「……もぉー、リョーちゃんったら全然懲りてないんだから……」

ま、結果的にまたミサをやっつけて善行ポイントを溜められたのだ。
立派に正義の魔法少女として使命を果たせている。結果オーライだろう。

(ふふふ……正義を果たすって、やっぱり気持ちいいなぁ)

砂沙美は自分の行いによる達成感と充実感を噛み締める。
そんな砂沙美に、後ろからそっと近づいた津名魅が声をかける。

「砂沙美ちゃん、今日も立派に正義を果たせたみたいね」
「えっ!? な、なんのこと!?」

あまりに自分の脳内とシンクロすることを言われたので、砂沙美は慌ててしまった。

(ま、まさかママは、砂沙美がサミーだってことに気付いて……!?)

そうして再び開いた津名魅の口から飛び出た言葉は……。

「だって、魎皇鬼ちゃんの為にいっぱいニンジンご飯を作ってあげたんでしょ?」
「…………は?」

砂沙美は、満面の笑顔でニンジンご飯を頬張ってる魎皇鬼を見る。

「どうして、リョーちゃんにご飯を作ってあげるのが正義なの?」
「あら、分からないの?」
「……………………」

砂沙美はもう一度、魎皇鬼を見る。
やっぱり、満面の笑顔だった。

「……ごめんママ、言いたいことが良く分からないや」
「あらあら、砂沙美ちゃんもまだまだ正義について勉強する必要があるみたいね」

くすくす、と津名魅は笑う。

「でも、今はそれでいいわ。無意識で正義を行えるっていうのも、それはそれでスゴイことだもの」
「……………………」

とりあえず、自分の正体がバレたわけではなさそうで安心したが、
いくら考えてみても、やはり砂沙美は津名魅の言いたいことが分からなかった。

砂沙美は再三、魎皇鬼を見つめてみる。
何度見ても、まぶしいぐらい満面の笑顔だった。



                    〜 第五話に続く 〜
102名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/01(土) 21:07:08 ID:PSosQP3s
これでやっと半分終了ですね。
次回の5話からはちょっとシリアスな展開になる予定です。
103名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/02(日) 00:32:30 ID:cauTPrCV
サミーさん投下乙!
「なのなの〜」が小桜ボイスで脳内再生されてしまい悶えてしまいましたww
あとミサの弱さと無責任さwここらへんサミーの肝ですよね

次回はシリアス系ですか。楽しみにしております〜
104名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/02(日) 10:37:49 ID:3r28EAxC
105創る名無しに見る名無し:2008/11/08(土) 11:41:06 ID:hrTe3Ppo
いったん上げるか…
106創る名無しに見る名無し:2008/11/11(火) 00:25:20 ID:i7re1csk
「死ねぇぇぇッ!!!才谷公多ぁぁぁッ!!!」

そんな叫びが聞こえた。
物騒だなぁ。
というか殺されるのか、僕。
少女のようなソプラノだったから、死ぬかどうかは別としても「殺させて」あげるのは吝かじゃないんだけど…
街中で殺人をしようとするのはどうかと思います。
暢気な思考が渦を巻く。
僕と危機意識の相性は最悪らしいね、どうも。
「てやぁぁぁー!」
掛け声は後ろから聞こえた。
なんだこいつ。最初の叫びに何の意味が。
さすがにむざむざ殺されてあげるわけにも行かないから、僕は振り向いた。

そこにいたのは。
金色の髪を靡かせ、
髪の色と全く合わない巫女服を纏い、
何か棒状の物を構えて突貫してくる、
見知らぬ、少女だった。

…いや、思わず目を疑ったよ。
だってそうだろう。近場のコンビニに歩いていく途中、いろいろとちぐはぐな癖に可愛いガイジンさんが襲い掛かってきたら、誰だって固まる。
「ぜぇぇえぇええぃっ!!」
「おうっ!??」
裂帛の気勢と共に繰り出された突きを避けられたのは必然の奇跡。
「なっ」
驚愕する少女。そりゃあねぇ、何の衒いもなく真正面から一直線に、しかも突きですよ。
避けますって。
すると女の子は僕をきっと睨み付けて、
「なんで避けるっ!」
目に涙を浮かべながら叫んだ。
107創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 22:53:28 ID:DiTcFTIj
赤ずきんチャチャと夢のクレヨン王国ぐらいしか知らないな
108創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 11:08:40 ID:DU7nfdvu
夢クレは魔女っ子物と言っていいのかね?

人いないんであげ。投下がない時は魔女っ子雑談でもしてようか
109創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 14:10:09 ID:X6YGS3Ad
シルバー王女変身しないしな。変身しなきゃいけないわけでもないか?
110創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 14:13:29 ID:thULj7De
♪二つの胸の〜 ふ〜く〜ら〜みはぁっ
 なんで〜もでき〜るぅ〜 しょ〜ぉこなのっ!
111創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 16:28:36 ID:DU7nfdvu
>>109
サリーとか魔女っ子メグは変身しないね
細分化すると女児向けファンタジーと魔女っ子物って線引がややこしいな
112創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 16:32:21 ID:thULj7De
クレヨン王国の頃はまだ過渡期だったんだろうな。

今は変身してくれれば、子供用のコスプレ衣装というか、
なりきりアイテムを売る事が出来るから。

まさかバン○イがアパレル事業部まで立ち上げるとは思って無かったわ。
113超理論少女マイティ☆まどか:0/4 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 15:47:36 ID:uVAY3K31
オリジナル変身魔法少女もの投下します。
三回くらいの投下で終わるつもりです。
114超理論少女マイティ☆まどか:1/4 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 15:48:19 ID:uVAY3K31
彫刻のように整った鼻筋。
黒々と光る憂いを帯びた瞳。
鳥の羽のように豊かな睫毛。
血の気に乏しい真っ白な頬や額ににこぼれた、濃紫の艶やかな髪が、少し居たたまれなくなるくらいに色っぽい。
悪山ミランダとは、そんな少女だった。

今日も今日とて、鈴木涼は見とれていた。
隣の席に座る少女の冷え冷えとした美貌を、流れる授業に耳を傾けながらも、十秒に一度くらいの割合で、目の奥へ焼き付ける。
(綺麗だなあ……)
ため息を、もらす。
(なんて綺麗なんだろう)
もう少し涼に詩才があれば、彼女に捧げるポエムの一つや二つは捻りだしていたかもしれない。
ギターができれば歌を送ったし、サッカー部員だったら彼女にハットトリックをショウアップしていたことだろう。
しかし、残念なことに、あるいは幸いなことに、涼は鈴木涼だった。
ちょっと内気で、スポーツは苦手で、芸術もからきしで、ただ学年トップ成績と気立ての真面目で優しいこと以外は何も誇るものをもたない、平凡な少年だった。
そんな平凡な涼が、びくりと跳ね上がった。
視線が合ったのだ。
悪山は涼を横目に眺め、艶やかな唇をわずかに緩めた。
それだけで、彫刻のように硬質だった美貌が、絵画のように完璧な微笑へ変わる。
(あ、わ、あわわわ)
あわてて会釈する。悪山はきょとんとまばたきをしてから、今度ははっきりと笑顔を浮かべて首を傾げた。
しばし戸惑ってから、涼も同じように首を傾げて笑顔をみせる。
一瞬、間があいた。
悪山の、美術作品のような笑顔が、はっきりと崩れる。
「……ぷっ」
吹き出した、らしかった。
「ふ、ふふふっ、何それ、面白いの――」
可憐な笑い声を立てながら、悪山は机に突っ伏してしまう。
「え、え? あ、ご、ごめん、ぼく、変だったかな」
こんなに焦ったのは久しぶりだった。羞恥で真っ赤に熱される顔を意識しながら、慌てて謝る。
「うん、変、すごく変……涼くんったら、カワイイ」
「か、かわ?」
なにはともあれ、なぜだか机から転がり落ちんばかりに笑い続ける悪山を支えようと、涼は席を立って――
すこーん。
このうえもなく小気味よい音とともに額を強打され、のけぞった。
「あンたたち」
投擲姿勢のまま新たなチョークを構えて、いましがたまで授業をしていた数学の女教師が、その瞳の奥に暗い炎を燃やしている。
すらりと背の高い、スレンダーな美女である。明るい茶に染めた髪をきっちりと結い上げて、アンダーフレームタイプの銀縁眼鏡を掛けているのが、この上もなくそれらしかった。
「あたしの授業中に、な〜んの脈絡もなくいちゃつき始めるなんて、いい度胸してるじゃない……?」
「あ、え、えっと」
「悪山、鈴木ィ!」
映画に出てくる鬼教官も顔負けの迫力に満ちた声で、女教師が号令をかける。
一も二もなく、二人は起立した。
「グラウンド10周!」
窓ガラスがびりびりと震えるような声で宣言して、女教師は木枯らしの吹き荒ぶ校庭をびしっ! と指差す。
数学名物、『阿佐ケ谷しごき』だ――阿佐ケ谷というのはもちろん、女教師の名字である。
「は、はいッ」
「……はいはい」
返事はともあれ、マスゲームのような素早さで、二人は校庭に飛び出した。

*****
115超理論少女マイティ☆まどか:2/4 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 15:49:27 ID:uVAY3K31

鼻の奥で、血の匂いがする気がする。
ひびわれたような喉が、ぎちぎちと軋んだ。
きりきり痛む鼻先から、疲れ切った息を吐き、冷たい空気を肺まで通す。
7周目。
涼は、すでにバテバテだった。
「ひっ、ひっ、ひーっ、はーっ、……ふひー」
「だいじょうぶ? 休まないと危ないんじゃない?」
余裕の表情でそう尋ねてくるのは、涼の真横を走る悪山だ。涼の牛歩戦術のようなスピードに合わせて、ほとんど腿揚げのような走り方で並走してくれている。
もちろん牛歩戦術というのはただの比喩で、涼はしんそこ真面目に走っているのだが――
「ら、らいじょぶ、だから、悪山さん、先、行ってっ……」
「嫌ーよ。一人で走るの、さみしいんだもん」
つん、とわざとらしくそっぽを向いて言い、悪山はまた先刻見せたような微笑を見せた。
「いちゃついてた二人が、ばらばらに帰ってくるのもよくないじゃない?」
「そ、その件については、ほんと迷惑かけて……はっ、はっ、ごめんなひゃい」
情けなく歪んだ声に返された悪山の反応は、思ったより激しかった。
ひやりと冷たい指が、涼の手首をぐいと掴む。
「うわっひゃ」
妙な声を上げて、涼はたたらを踏んだ。
仕方なく立ち止まり、荒い息をつきながら悪山を見上げる。
悪山はまた彫刻の顔に戻っていた。長く濃い睫毛を伏せ、豊かな唇から言葉をこぼす。
「わたし、迷惑なんかじゃないよ」
その声音は、思ったより重く、暗かった。
「そ、はーっ、そうなん、ぜはーっ、そうなんだ、はふんっ、よかっ、げふっげふっ」
懸命に真面目な受け答えをしようとしても、疲労がそれを許してくれない。
「僕はぜんぜ、げふっ、迷惑とかないし、ふーっ、はーっ、悪山さんが、かわいそうかなって、すーっ」
必死に息を整える涼に、悪山はそっと表情を緩めてみせた。
慈愛に満ちた瞳だった。何か、雛鳥を守る小鳥のような、ひたむきで、暖かく、切ない目――
「さ!」
その目にみとれる間もなく、悪山は手をたたいた。
快活な笑みを浮かべ、涼に一歩先んじて走りだす。
「あと二周、がんばろ!」
「は、はひっ」
右に左によろめきながら、涼は走りだした。

*****

一時間もせずに襲ってきた筋肉痛と戦いながら、涼は帰途に着いた。疲れ切った体をひきずるように、電車の座席を降りる。
自宅の最寄り駅まで、あと三駅ほどあるのだが――
「どおぞ」
気難しい表情で涼の真横に立っていた老人が、涼の顔と明け渡された座席を交互に見渡してふん、と鼻息を吐き、乱暴に座席へ腰を下ろした。
吊り革に掴まる。足が痛い。体が重い。疲れていた。なんだかわけもなく悲しくなってくるくらいに。
そんな状態でも、目を閉じると悪山の横顔が思い浮かんでしまう。
ずっと見つめ続けていた冷たい表情。今日一日で見せてくれたさまざまな表情。
どれも神話のように美しく、奇跡のように魅力的だった。
(悪山さん)
彼女のことを思うと、胸のうちが熱くなる。心を落ち着けるために静かに吐き出した息が、ほんのりと暖かい。
(……友達に、なれるかな?)
吊り革を掴む左手首を見つめて、あのひんやりした手に掴まれたときの感触を思い出す。
116超理論少女マイティ☆まどか3/4 ◆9QScXZTVAc :2008/11/19(水) 15:50:22 ID:uVAY3K31
―その瞬間、大きく横揺れした電車にほどよくシェイクされて、涼は勢い良くつんのめった。
がくん、と電車がとまった。車内のあちこちに悲鳴が響き、苛立ったような怒号が飛びかう。
人身事故? 故障だろうか。
涼は周囲を見回すが、転んだのをなんとか立ち上がろうとしている乗客や、同じく不安げにあたりへ視線をくばっている乗客が見えるだけだ。
へたに動かないほうがいいのだろう。いきなり発進することもありえる。
不安げに様子を伺う乗客たちの額を、不意に強い風がびしりと打った。
「うっ?!」
風に押され、たたらを踏みながら――
そこにあったものを見て、涼は激しく瞬きをし、目をこすった。
黒い塊。闇のつぶて。渦巻くような暗黒が、車内中央に生まれ、うごめいている。
いくら目を洗い流しても、その事実は変わりそうになかったが――
バシイッ!
新聞紙で机を叩くような音を立てて、闇がはじけた。
痺れるような衝撃が、車内を貫く。
あるものは目を閉じ、あるものは顔を覆い、またあるものは突風に出会ったかのように身を伏せた。
不気味な沈黙に次ぐ、不安なざわめきを圧倒するかのように、脳天をつん裂くような高笑いが響き渡った。

「おーっほっほっほっほ!」

顔を上げる。
闇のあった場所には、二つの影があった。
一つは、巨大な異形だ。
電車の天井まで届きそうな、いびつな肉の塊。
よく見れば、下三分の一ほどは、人間の脚に似た形に枝分かれしている。
棘皮動物じみたぶよぶよした皮に覆われた全身からは無数の肉紐がだらりと垂れ落ち、ときたま風に吹かれるかのようにうごめいている。
そして、もう一つは――
「……」
絶句する。
若い女だった。青白い肌に包まれた、何かの見本のように見事なプロポーションを、ことさらに主張するかのような、恐ろしいほど露出の多い格好をしている。
紫色につやつや光る硬質の素材で、乳房の下半分と腰、そして膝から下と肘から先までのみを覆い、顔には蝶の形をした半仮面。両手に持った長く太い鞭をたわめ、引っ張ると、びしい! と小気味よい音が響いた。
「おまえたち、騒ぐんじゃないよ!」
ゆたかな濃紫の髪をばさりとさばき、沈黙の異形を従えて、女は朗々と言う。
「この電車に乗ってる人間どものエナジー! すべてこのワルダー帝国四幹部が一人、ミランダ・Mが貰い受けるッ!」
涼は、カバンをとり落とした。
そんな涼には気付かない様子で、ミランダ・Mとやらは電車の一角に向けてびしりと指を突き付ける。
「怪人ヌシュフシュよ! やっておしまい!」
「ぬしゅうううう」
不気味な唸り声と共に、ぞわりと持ち上がった怪人の肉紐が、先刻まで涼が座っていた座席に腰掛ける、老人目がけて殺到する――
何を考える暇も、あるはずがなかった。
「ああうっ?!」
思った以上に、紐の力は強い。
とっさに割り込んだ涼の全身を、怪人の肉紐は無慈悲にぎちぎちと締め上げていく。
「あ、ああ、ぐっ、う――」
中空にゆっくり持ち上げられていく感覚に恐怖しながらもがき、喉ぶえを締め上げる肉紐の位置を苦心してずらす。
くらくらする視界の中で、涼は視線をやった。
怪人の脇に立つ女は、仮面の上からでもはっきりわかるほどうろたえて、立ち尽くしている。
「ぼ、ぼく、は」
言いかけて、躊躇する。
確信していた。彼女は悪山ミランダだ。なぜこんなことをしているのかはわからないが、間違えるはずがない。
117超理論少女マイティ☆まどか4/4 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 15:51:19 ID:uVAY3K31
しかし、こんな公衆の面前で、彼女の正体を指摘すれば――
「……お、おやおや! わざわざ縛られにくるなんて、ずいぶん物好きな坊やみたいだねえ?」
鞭をほどいて床を一打ちし、仮面をつけた悪山は声を張り上げる。
「もっと苦しいのがお好みかい? 望みどおりにしてやろうか!」
鞭が頬をかすめ、吊り革を3つほど巻き込んで引きちぎった。
信じがたいほどの痛みが、一拍遅れて襲い掛かる。低い呻き声を上げて、涼は歯を食い縛った。
「ち……ムシュフシュ!」
鞭を器用にくるくると巻き取って、悪山は憮然と吐き捨てる。
「張り合いがないったらありゃしない! 離してやんな」
「ふしううう」
不気味な吐息が漏れだすと共に、戒めがばらりとほどけ、涼はその場にへたり込んだ。
荒い息を吐きながら、悪山を見上げる。目のやりばに困るような、とにかくとんでもない格好をした、憧れのクラスメイト。よく笑う、明るくて優しい女の子――
こちらの視線に気付いたのか、悪山はふいと視線を反らした。背けられた頬が、かすかに赤い。
「さあ――お前たち、動くんじゃないよ! ワルダー帝国の礎となれることを、光栄に……」
ごおん、と響いた爆音が、口上を中断させた。
立ちこめるもうもうたる砂煙が一瞬にして視界を奪い、目に痛みを走らせる。
「な、何だい?!」
喚く悪山をよそに、低く野太い声が土ぼこりの中へ響いた。

「悪に曇った世界なら、正義の光がよく似合う――」

ずうん、と地響きをたてながら、巨大な影が近づいてくる。

「理を超え、論を超え、正義の果てなき道を行く、これぞ正義の超理論!」

砂煙が、晴れた。
巨体だ。
2m強の土台を、巌のような筋肉が余すところなく盛り上げている。
スイカをくっつけたような拳。頭が三つ並んでいるようにさえ見える肩の盛り上がりを包む、少女趣味にふんわりと膨らんだブラウス。赤いリボンとレースに飾られた、岩盤のような胸。フリルだらけのミニスカートから突き出す腿の太さは、涼の胸囲ほどもあった。
(女装……女の子?)
絶句する乗客たちをよそに、巨体は朗々と名乗りを上げた。

「超理論少女マイティ☆まどか、見ッ参ッッッッ!」

「くっ、また貴様か!」 歯噛みしながら、悪山が吐き捨てた。

つづく
118 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 16:11:38 ID:uVAY3K31
今回はここまでです。
ageさせていただきます。
119創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 16:50:55 ID:sEJMmCfE
乙 描写に力入ってるな
魔法少女パターンとしては変則的なものだろうか
続き期待してるよ
120創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 17:27:06 ID:lXlOFRLK
これは魔法少女と言うか……。
不思議シリーズっぽいよねw

敵のネーミングとかはわかりやすい。
女の子物って、雰囲気はこういうもんかもしんないな。

でも、成績学年トップって、おれみたいな奴からすれば平凡じゃないぞwww

まあ本人が悩んでるならそうなのかってことで。
121創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 17:43:18 ID:UERTrqrR

続き待ってる
122創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 10:46:04 ID:n/vEKFHD
これは…CM明けが待ち遠しいです
123創る名無しに見る名無し:2008/12/03(水) 20:40:00 ID:Wm9DDndz
>>122
全然CM開けないな…
このままじゃCM開けどころか他の番組の放送すら無い悪寒
124サミー書いてる人:2008/12/05(金) 21:53:32 ID:cBYTTe9A
遅くなりましたが、続きが書き上がりました
投下させていただきたいと思います
第五話 『牛よりも強い気持ち』



今、まさに日が落ちようとしている夕暮れ時。
美紗織は、自宅のベランダで薔薇に水をあげていた。

「ねぇルーくん、私の魔法の力、どんどん強くなってるみたい……」

美紗織は作業を続けながら、柵の上にとまっている緑の鳥――留魅耶に、そっと話しかける。
その表情は、どこか鬱屈したものをたたえている。

「何でかな……サミーがあの魔法を覚えてからだと思うけど……」

あの魔法……想いの魔法と呼ばれるサミーの決め技、コケティッシュボンバーのことだ。
美紗織の言った通り、あの魔法を目にして以来、彼女の魔力は日に日に高まり続けている。

「…………それは…………」

留魅耶は思った。
サミーへの対抗心だ。嫉妬と言い換えてもいい。
サミーに負けたくないという敵愾心が、美紗織の魔力をどんどん高めているのだ。

(魔法は想いの力……。
 きっと美紗織の心の奥底にある感情……。
 おそらく負の感情が、ミサの魔力の源なんだ……)

その力はとてつもなく強い力だが、しかし同時に非常に危うい力でもある。
いつ美紗織自身を飲み込んでしまってもおかしくないような……。

「……まぁ、理由なんてどうでもいいわよね。
 私は、魔法の力が強くなってくれるなら大歓迎だもの」
「そう……だね」

相槌を打った留魅耶だが、頭の中では一つの単語がぐるぐると回っていた。

『魔法依存症』

己に自信の無い者や、今の生活に不満がある者。
そういった者ほど、魔法という超越的な力に溺れる。
……魔法なしでは、生きていけなくなる。

美紗織はどんどん魔法に魅せられ、生活の比重が魔法に傾いていく……。
魔法のバトンも、以前は必要な時だけに逐一自分が渡していたのだが、
今はお守りのごとく常に携帯しており、一時たりとも肌身から離そうとはしない。

それで彼女が本当に幸せそうならまだいいのだが……。
魔法について語っている時の美紗織は明らかに屈折しており、とても健全な状態とは思えなかった。

(そして、その美紗織に魔法の力を与えたのは、他ならぬ僕自身なんだ……)

留魅耶は美紗織に心配げな目を向けるが、当の本人は薔薇の花びらに向かって微笑んでいる。

「あ……」

美紗織は、時計を見る。

「そろそろピアノの練習を始めないとね」

じょうろを片付けると、美紗織はピアノが置いてある部屋に向かう。
「ルーくん、今日も私の演奏を聴いてくれる?」
「うん、もちろんだよ」
「ありがとう」

そう言って微笑む美紗織からは、先ほどの鬱屈した雰囲気は微塵も感じられない。

美紗織はピアノ用の椅子に腰を下ろすと、ピアノの蓋を開け、カバーを取って畳む。
ちらっと横を向いて留魅耶が見ているのを確認した後、美紗織はいよいよ演奏を始める。

静かに……そして、鮮やかに美紗織の指先からつむぎ出される美しい旋律。
聞いていると心が洗われるような……そんな優しい演奏だった。
これほど美しい演奏が出来るのは美紗織自身の心が美しいからなのだろうと、留魅耶は思った。

(やっぱり、僕はミサよりも、こっちの美紗織の方が好きだ)

ピアノを弾いている美紗織は輝いていた。
ピアノが好きだと思う気持ち……。
そしてそれに全力を注いでいる自分を誇りに思う気持ちが、傍らで聞いているだけの留魅耶にも伝わってくる。
美紗織がピアノを大切に想う気持ちは、魔法による一時の恍惚などより、よほど尊い物だと留魅耶には思えた。

「……ふぅ、私の演奏どうだった、ルーくん?」

一曲を弾き終え、美紗織は留魅耶に感想を求める。

「僕、音楽は良く分からないけど……美紗織のピアノは素敵だと思うよ。
 美紗織なら……きっとプロのピアニストになれるって、僕は信じてる」
「ふふ……ありがとう、ルーくん」

そう言って、美紗織は心の底から嬉しそうな顔を見せる。

(……心配、しすぎだったかな……。
 こんな素晴らしい演奏ができるんだもの……しっかりと自分を持っている証拠だ。
 これなら……美紗織は、きっと大丈夫……)

それでも頭の片隅に残った一抹の不安を、留魅耶は頭を振って追い出した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日の朝。
登校中であった萌田砂沙美は、併走しているウサギネコの魎皇鬼と口論をしていた。

「ねぇリョーちゃん、本気で学校まで来るわけー?」
「もちろん! 学校でも善行ポイントは溜められるはずだからね!」

何で今まで気付かなかったのだろうと、鼻を鳴らす魎皇鬼。

「でも、学校にはペット連れてきちゃいけないんだよぉ」
「学校ではぬいぐるみのフリをしてるよ、それなら大丈夫でしょ」
「中学生にもなって学校にぬいぐるみ持って行くってのもどうかと……」

難色を示す砂沙美だが、魎皇鬼が引き下がる気配は無い。
もうそろそろ学校にも近くなってきた。

「あっ、リョーちゃん隠れて!」
「むぎゅぅっ!?」

人影に気付いた砂沙美は魎皇鬼の襟首を掴むと、無理やりカバンの中に押し込む。
力ずくで詰め込まれた魎皇鬼は苦しくてジタバタ暴れる。
「暴れないでっ! ぬいぐるみのフリをするんでしょっ!」
(そ、そりゃそう言ったけどぉ……!)

いくらなんでもあんまりだ、動物虐待だ。
そう抗議する声さえも、他の荷物に押し潰された状態ではあげることができなかった。

「砂沙美ちゃん、おはよう」
「うん、おはよう美紗織ちゃん!」

やって来たのは美紗織だった。
互いに笑顔で応えて、そのまま並んで歩き始める二人。

(……バタ、ジタバタッ)

「今日、英語のテストが返ってくる日だったよね。砂沙美ちゃんは自信ある?」
「そういえばそれって今日か……う〜ん、全然自信ないや」

(バタバタ、ジタバタバタッ)

ここ最近は正義の魔法少女としての活動が忙しく、ろくに勉強が出来なかったのだ。
選択式の問題の8割ぐらいはカンで選んだ記憶がある。

(……バタ。……バタバタ、ジタバタジタバタジタバタッ!)

カバンが暴れているのに気付きつつも無視を決め込んだ砂沙美だったが、
流石に看過できるレベルでは無くなってきたので、こっそりカバンに耳打ちする。

『学校ついたらウサギ小屋の辺りで放してあげるから、そこまで我慢して!』
『……絶対だよぉ?』

魎皇鬼は仕方なく、辛い体勢のまま我慢することにする。

「砂沙美ちゃん、どうかしたの?」
「えっ、いや、その……」

砂沙美がカバンに向かって話しかけていたのだから、美紗織が不審に思うのも当たり前だ。

「な、なんでもないよ! えへへ……」
「そう、ならいいけど……」

そんなこんなで、校門に辿り着いた二人だったが……。

「ちょっと、待ちなさぁい!」

ザッ!といった効果音つきで二人の前に立ちはだかったショートカットの少女。

「い、委員長っ!?」

彼女の名は伊達映美。
砂沙美とも美紗織とも違うクラスの学級委員を務める彼女だが、
校則違反に異常に厳しく、口やかましい性格のため、校内で彼女の名を知らぬものは居ない。

「悪いけど、ちょっと顔を貸してもらうわよ?」

もしや魎皇鬼の存在がバレたのではと思い、狼狽した砂沙美だが、
当の映美は美紗織の方に詰め寄っていた。

「天野さぁん、何で合唱部に来なくなったのよぉ!」
「そ、それは……」
映美は、美紗織と同じく合唱部の部員でもあった。
女優になるという将来の夢を果たすために歌唱力を鍛えるべく合唱部員となった映美だが、
それなら歌唱力よりも演劇部に入って演技力を鍛えるべきでは?
などという真っ当な理屈は、我が道こそ絶対唯一の正義と信じて貫く彼女には通用しない。

「ピアノ出来るの、ウチでは天野さんだけなのよ! 天野さんが居ないとロクに練習もできないわ!」

合唱部の居た頃の美紗織は、映美にまるで範奏マシーンかのように扱われ、
部活が終わった後まで無理やり練習につき合わされていたのだ。

連日の居残りに流石に嫌気が差した美紗織は、合唱部に行かなくなってしまった。

「天野さんは歌は下手だけど、範奏のためにいてもらわないと困るのよぉ!」
「…………私は…………」
「ちょっと委員長、そんな言い方酷いよ!」

口ごもる美紗織の代わりに反論したのは砂沙美だ。

「美紗織ちゃんには美紗織ちゃんの都合があるんだよ!
 それに歌の練習がしたいならテープを使えばいいじゃない!」
「テープじゃ練習にならないのよぉ、やっぱり生の音と合わせないとぉ」
「そんなの委員長の勝手じゃない!
 大体、それが人に物を頼むのにそういう態度は無いんじゃないの!?」
「あたしはクラス委員よ!? 目上の人の指示には従って当然でしょ!」

口論を続ける砂沙美と映美。
そんな二人を他所に、美紗織は耳を塞いでその場を立ち去ってしまった。

美紗織はケンカが苦手だった。
金切り声を上げてギャンギャン怒鳴りあっているのを聞くと、気分が悪くなる。
顔を合わせる度にケンカを繰り返し、最終的に離婚した両親の事を思い出してしまうのだ。

美紗織が立ち去ったのにも気付かずに口論を続ける砂沙美と映美だったが……。


キーンコーンカーンコーン


「ああっ、もうこんな時間!? クラス委員のあたしが遅刻するわけには行かないわ、急いで教室に……!」
「美紗織ちゃ……あれ、先に行ったのかな? じゃあ砂沙美も教室にいそごっ!」

それを聞いて、砂沙美のカバンが暴れだす。

「ごめんねリョーちゃん! 背に腹は変えられないよ!」

カバンの暴動はますます激しくなったが、砂沙美は構わずそのまま教室に駆け込んだ。

『ひ、卑怯だぞ!! 正義の魔法少女が約束を破るなぁっ!!』

暴れ続けた魎皇鬼だが、しっかりと留め金がかけられたカバンを脱出できようはずもなかった。

結局、魎皇鬼がウサギ小屋に開放されたのは1時限目が終わってからであり、
すっかりムクれていた魎皇鬼に対し、砂沙美は何度も謝るハメになった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


キーンコーンカーンコーン
とうとう英語の時間になった。
砂沙美の教室はテストの結果を待ち焦がれる者、或いは恐れる者達がざわついていた。
ガララッとドアが開き、担任教師が紙の束を抱えて入ってくる。

「この前やった英語のテスト、採点終わったから返すぞー。
 サイテーんな点でも落ち込むなよー」

担任教師は小洒落た(?)ジョークを飛ばすが、
いつものことなので生徒達はリアクションすら返さない。

テストは出席番号順に返されていき、はしゃぐ者、落胆する者、その反応は様々だった。
しばらくして、砂沙美も無事に答案用紙を受け取った。

「うげ……何この点数……」

用紙の右上には、大きく『61』の数字が書かれていた。
表から見ても、裏から見ても……いや、裏には何も書いてないが……とにもかくにも61点だった。
逆さまにしてみたら19点になったが、それはもっと嫌なので元の向きに直しておいた。

「……え、英語なんて出来なくても仕方ないもんね! だって砂沙美、生粋の日本人だもん!」

そうだ、樹雷星だって漢字が公用語だったのだ!
だから砂沙美には、英語という教科自体がフィーリングに合うはずがない!
フィーリングも外来語だが、それは無視してそういうことにしておこう!

ちなみに3日後に返ってくる国語のテストはもっと酷い点数なのだが、
それはまだ先の話なので、今は現実逃避をさせておいてあげよう。

「……美紗織ちゃんは何点だったのかなぁ」

ふと美紗織のことを思い出した砂沙美は、窓越しに隣の教室を覗こうとするが、
教室の中央辺りに席がある美紗織の姿が見えるはずもなかった。




「天野美紗織ちゃん、何と100点でぇーす!」

日系ブラジル人のハーフである担任教師は、大きな声で美紗織のテストの点を公表した。
途端に教室がざわざわと呻き出す。
クラスで100点を取ったのは美紗織だけ。
当然、クラス中の視線が彼女に集まる。

「はい、みなさん! 天下のお利口さんの天野さんを、みんなで拍手しましょー!」

テストを美紗織に渡し、先生は拍手をするが、
生徒でそれに同調する者は一人もいない。

美紗織は、やめて欲しいと思った。
先生に悪意が無いのは分かっているが、こういうのはイジメっ子に目をつけられる絶好の口実だ。

おずおずと席に戻る美紗織。
その帰り道……。
美紗織は何かにつまずいて、大きな音を立てて転んだ。

「いっ……」
「いったぁ〜い! 天野さん、何するのよ!」

美紗織が苦痛の声をあげるよりも早く、そう叫んだのはポニーテールの少女だった。
少女の名は、灰田このは。
美人だが、あまり性格がよろしくなく、美紗織を何かと目の仇にしている。
美紗織がつまずいたのは、彼女の足だったのだ。

このはは痛そうな声をあげた割りに、その目はニヤニヤと美紗織を見下ろしている。
美紗織を転ばせたのも、わざとやったに違いなかった。

「天野さん、灰田さんに謝りなさいよー」
「そうよそうよ、あなたの不注意で灰田さんが怪我したらどうするのよ」

このはの取り巻きである少女達が、口々に美紗織を責める。

「ご、ごめんなさい……」

美紗織は、言われた通りに謝ってしまう。
そのまま痛みを堪えて立ち上がり、自分の席へと戻る。

「天野さんったら、本当にトロイわねぇー」
「運動もせずに勉強ばっかりしてるからじゃないのー?」
「ガリ勉ってキモイわよねぇ。いつも体育を見学してるのだって、肉体労働をバカにしてるからなんでしょー?」

席に戻ってからも、中傷は止まらなかった。
彼女達はあることないこと構わずに、いつまでも美紗織の悪口を言い続けた。

(好きに言っていればいいわ……あなた達なんて、私が魔法を使えばコテンパンなんだから……)

美紗織は、イジメっ子達が変身した自分に叩きのめされ、許しを請う場面を想像する。
そうすると、理不尽なことを言われた鬱憤も、あっという間に何処かへ溶けて行ってしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「美紗織ちゃん、テスト100点だったんだ! すごいよ!」
「あ、ありがとう……」

砂沙美があまりに率直に褒めるもので、美紗織は照れてしまう。

今は中休みで、次の時間は体育だ。
体育はとなりのクラスと合同なので、二人は着替えをしながら話をしているのだ。

「……ごめん、砂沙美ちゃん。私、お手洗いに行きたくなっちゃった。先に行ってて」
「うん、分かった。じゃあまた後でね」

美紗織は砂沙美と別れると、トイレに向かった。


用を足して手を洗っていた美紗織は、ふと目の前の鏡を見る。
そうすると、いやおうなしにエメラルドグリーンの瞳がこちらを見つめ返してくる。

美紗織は自分の瞳の色が嫌いだった。
日本人特有の黒い髪に似合わないエメラルドグリーン。
これは、父方の祖父であるイギリス人の血から受け継いだ物だった。
彼女はクォーターなのである。

自分の瞳のことで今まで何度苛められたことだろう。
それで日本の学校に行くのが嫌になり、
イギリスに夢を見て、祖父の下でお世話になったこともある。
だがそちらでは、今度は黒い髪が仇となって苛められた。
つい、過去の嫌な記憶を思い出してしまった美紗織の脳裏に、
連動されるように先ほどのこのはからの嫌がらせが思い浮かぶ。

そのまま暗いイメージに支配されそうだった美紗織の意識に割り込んだのは、ミサの姿だった。
ミサは笑っている。いつだって明るい。何だってできる。
彼女のことを思い出すだけで、美紗織の心は暗闇から開放された。

金色の髪に、真紅のルビー色の瞳を持つミサは、自分の理想を体現した姿なのだ。
普段は弱い自分だけど、いつだって強いミサになれる……。
そう思えば、辛い時でも気持ちが楽になった。

(私……大丈夫……。ミサが居てくれるから……嫌な事があってもやっていける……)

美紗織は、鏡の中の自分に笑いかける。
その少女は黒髪で、瞳の色も違ったけど、美紗織にはミサに見えた。




美紗織がトイレから帰ってきた頃には、既に教室には誰も居なかった。

急いで着替えようと上着を脱ぐ美紗織。
そこに何か忘れ物をしたらしく戻ってきたのは、このはだった。

「あら、天野さん。まだ教室に居たの?」
「う……うん」

一応返事はするものの、美紗織は非常に居心地が悪い。
ふと、何かに気付いたように美紗織の身体をジロジロと無遠慮に眺め始めるこのは。

「上を着てる時は分からなかったけど……天野さんったらまるで牛みたいな胸をしてるわねー」
「……!」

気にしていた胸のことを言われ、美紗織はうろたえる。
思春期の身で、身体のことをからかわれるのは辛いことだ。

「動きもいちいちトロいしー、野菜ばっかり食べてるしー……本当は牛だったりしてー!」
「……………………」

安っぽい中傷だ、無視すればいい。
そうは思っていても、投げかけられる言葉の棘は、少しずつ美紗織の心をえぐっていく。

それでも美紗織は心を殺して耐えた。ここで怒ったら負けだと思っていたから。
だが……。

「そういえば、天野さんって両親が離婚してお父さんに引き取られたんでしょ?
 ほいほい子供産んでおいて勝手にお別れなんて、まさに牛並みのカラッポの脳みそよねぇ……あははは」

その言葉で、美紗織の中の何かがとうとう切れた。

「あたしも天野さんみたいに牛の子供に生まれれば人生お気楽だったのになぁー、なんて」
「……そんなに……」
「え?」

不意に妙な威圧感を感じ、このはは美紗織を振り返る。

「そんなに牛になりたいなら……望み通りにしてあげるわ!!」

ギラッと目を剥いた美紗織の瞳は……紅く、染まっていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


キーンコーンカーンコーン

「あっちゃー……授業始まっちゃったよ、急がないと……」

砂沙美は、自分の教室を目指して急いでいた。
一旦は体育館まで行ったものの、美紗織があまりに遅いので探しに来たのだ。

「美紗織ちゃん、まだ教室に居るのかな?」

目指す教室までは、もう少し。
そこの角を曲がってちょっと行った所だ。

くいっと角を曲がる砂沙美だが……。

「ブモォオオオオオオオオオオオオーーー!!!」
「う、ううううううう牛ぃいいいいい〜〜〜!!?」

砂沙美の妄想か幻覚か見間違いでなければ、
廊下の向こうからこっちに向かって突っ走ってくるのは、紛れも無いホルスタイン牛であった。

とっさに元来た道に逃げ込み、牛の突進をかわす。
そのまま直進した牛は、廊下の奥に積まれている机や椅子を吹き飛ばす。

「な、なんなのよコレはっ!? 何で学校にこんなデカい牛が……!」
「廊下を走ったから怒ってるんじゃないの?」
「あの牛も走ってるじゃない! ……って、リョーちゃん!」

腰を抜かしている砂沙美の元に駆けつけたのは、魎皇鬼だ。

「何でここに? ウサギ小屋に居るんじゃなかったの?」
「さっき、この辺りで魔法の力が使われた反応があったから来てみたんだ」
「じゃ、じゃあ、あの牛はもしかして……!」
「断定は出来ないけど、きっとそうだよ!」

魎皇鬼はバトンを取り出して砂沙美に渡す。

「さぁ、砂沙美ちゃん!」
「う……やっぱりこうなるのね……」

まさか魔法少女として牛と闘うことになろうとは……。
砂沙美は臆する心を無理やり奮い立たせ、変身の呪文を唱えた。

「プリティミューテーション!! マジカルリコール!!」

砂沙美は透過光に包まれ、魔法少女・プリティサミーに変身した。


「魔法も牛もサミーにおまかせ!
 プリティサミー、闘牛士に挑戦でぇす!」

キメッ☆

「……変身はしてはみたものの、一体あれとどうやって戦えば……」

牛は倒れた机をガシャガシャと押しやり、サミーに向き直ろうとしている。
鼻息は荒く、興奮しきっており、目に映る動くものを見境無く襲っているようだ。
そんな中、テクテクと廊下の向こうから歩いてきた人物が居た。

「あらあらサミー、ジュニアハイスクゥルまでやってくるなんて……。
 なかなかどうして、ワーカーホリックぶりがヘビーじゃないのー!」

それはバトンを扇代わりにばっさばっさとセレブポーズを取っていた、悪の魔法少女であった。

「ミサーーー!! やっぱりアンタの仕業かーーーっ!!」
「ザッツライト! そこの焼肉ビーフちゃんは、このあたーしのジューシーなペットちゃんなのよん」

ミサは牛の頭を撫で回す。
当の牛は既に身を低くして、サミーに向かって突撃する体勢を作り終えている。

「サミー、コケティッシュボンバーだ! 猪突猛進の牛なんて、狙い撃ちだ!」
「よぉし!」

サミーはバトンに魔法の力を集中し、一気に開放する!

「プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!」

サミーに向かって突進した牛は、ハートの弾丸をモロにカウンターで貰って吹き飛ぶ。
だが……。

「ブモォオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

ムクリと起き上がった牛は、怒り狂って再びサミーに突進してきたではないか!

「ええええええええええええっ!!?」

慌てて横に飛んで突進を避けるサミー。
牛は校舎の壁に突っ込み、消火栓の蓋をベコベコにへこませた。

「な、ななな……なんでコケティッシュボンバー食らって無事なのーーーっ!!?」
「ふふん、バカね、サミー」

驚くサミーに、ミサは得意げに解説をする。

「この子はね、れっきとした牛よ。ラブラブモンスターでもなんでもない、正真正銘のただの牛なの。
 つまり、悪意から生まれたワケじゃないから、あんたのコケティッシュボンバーも通用しないってワケ!」
「じょ、浄化が出来ないのはともかく、牛ってあんなに丈夫なもんなのっ!?」

コケボンを食らった上、あれだけ強烈に壁に突っ込んだ癖に、牛には傷の一つも無い。

(こんなに頑丈なんだから、魔法が関係してないわけはない……。
 でも、あの牛がラブラブモンスターじゃないとしたら、一体何の魔法を使ったんだ……?)

脇で牛を観察しつつ考え込んでいた魎皇鬼は、一つの可能性に思い当たる。

「……サミー、あの牛……もしかしたら元は人間かもしれない!」
「ええっ、それ本当?」
「うん……呪いで人間を動物に変えてしまう魔法があるんだ、ミサが使った魔法もきっとそれだよ!」
「ちっ、姑息な談合なんてオーケーしないわよ!」

ミサは二人が会話するのを許さず、牛を再びけしかける。
サミーと魎皇鬼は、逃げ回りながらも相談を続ける。

「それで、一体どうすればその呪いを何とかできるの!?」
「呪いっていうのは、ある意味で最も強い想いが込められた魔法なんだ!
 だから……その想いを読み取ることさえ出来れば、サミーなら解除できるかもしれない!」
「分かった、プリティ空間を使えばいいんだね!」
134創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:03:27 ID:YuQ9fboD
言いながら教室に逃げ込むサミー。
ここなら障害物(主に机)が多いから、牛も易々とは突破できない。

「いや、呪いはその人の心の奥にかけられるものなんだ。
 そこまで辿り着くには、空間越しじゃダメだ! 直接あの牛の身体に触れないと!」
「え」

サミーは、牛をチラリと見る。
牛は、大量の机を跳ね飛ばしながら暴れ回っている。

「あ……あの牛にどうやって触れろって言うのよ!?」
「ど、どうにかしてしがみつくんだ! サミーならできる!」
「どうにかって……どげげっ!!」

牛が突き飛ばす机に押しつぶされそうになったサミーは、慌てて廊下に出戻る。

「え……えぇ〜い……こうなりゃヤケだよ!! 恋する少女は牛より強いんだからっ!!」

距離を取って、牛が教室から出てくるのを待ち構えるサミー。
直に現われた牛は、サミーの姿を見つけると一直線に向かってくる。
サミーはヤケを起こs……腹を括ったのか、逃げる様子が無い。

「正面からとはいい度胸ね! さぁ牛女、サミーを踏み潰しちゃいなさい!」
「ブモォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

ラブラブモンスターでもないのに牛女と命名されてしまった牛は、
その鬱憤を晴らすためかどうかは知らないが、跳躍してサミーに飛び掛った!

「どげげぇーーーっ!!?」

ズズゥーーーン……。

校舎全体を揺らして、地響きが鳴り響く。
この衝撃では、さぞや上質なサミー煎餅が出来上がると思われるが……。

「……ふぃ〜……死ぬかと思った……」

牛に踏み潰されたかと思いきや、サミーはすんでのところで牛の腹部、
具体的に言えば乳房の辺りに取り付いていた。

「ブ……ブモォオオン!? ブモー、ブモォオオーーー!!」

乳房に取り付かれた牛は、顔を真っ赤にしてサミーを振り落とそうと身体を振る。

「わっ!? わわわわっ!?」

振り回されたサミーは落ちそうになるが、
その勢いを逆に利用して上手く手足を引っ掛け、牛の背中に乗り移ることに成功した。

「ふぅ……鉄棒が得意でよかった……」

いやサミー、それは何か違う気がするぞ。

「よしサミー、プリティ空間をその牛に直接送り込むつもりで精神を集中するんだ!」
「分かった、やってみる!」

サミーは牛と同調するように魔法を集中し、そして……。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(……あれ、ここは?)

サミーが気が付いた時、彼女は真っ暗な空間に浮かんでいた。

…………………………………………。
…………………………………………。
…………………………………………。
…………………………………………。

(……………………あっ、そうか!)

やっと自分が何でこんなところに居るのかを思い出したサミー。
牛にかけられた呪いを解くために、その心の中へやってきたのだ。
そして、それにはまず呪いが有る場所を突き止めねばならない。

(えーっと……こっち、かな?)

サミーは、魔法の力を感じる方向にゆっくりと進んでいった。
すると、サミーは白い霧のような物が漂っているのを見つかる。

『なんでこうなっちゃったのよ〜……。
 あたしはちょっとからかっただけなのにぃ〜……』

どうやらこれは、牛にされた人間の心の一部のようだ。
ただただ、我が身を嘆いている。

(かけられた魔法は、もっと奥にあるのかな……)

サミーは牛にされた子の心から離れ、ゆっくり、ゆっくりと……。
手探りで心の奥へ沈んでいく……。

……ズキィッ!

突然、サミーの心に軽い痛みが走った。

(な、何……? 何なの……?)

この痛みは、サミー自身のものではない。
近くにある何かから流れ込んだものだ。

(こっち……かな?)

サミーは意を決して、痛みをより強く感じる方に進んでいく。
そして……。
137創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:04:25 ID:XEebZpZT
138創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:04:40 ID:XEebZpZT
『許さない……。この子は、絶対に許さない……!』

サミーは、とうとうミサの魔法を見つけた。
それは渦巻いている黒い蛇のような物体で、
自分が牛にした人間に対する強烈な憎しみの想いで構成されていた。

『私は何を言われてもいい……どんなに貶されたって我慢できる……。
 でも、私の大切な人……。……パパやママを侮辱するのだけは、絶対に許さない!!』

(…………これが、ミサのかけた呪い…………つまり、ミサの心…………)

悪意に満ちた心……。
これならコケティッシュボンバーを使えば容易に呪いを浄化することがだろう。
しかしサミーは、そうすることを躊躇った。

(ミサがこうやって辛かったり、悲しかったり、怒ってたりする気持ち……。
 それを悪意と一括りにして、あたしが魔法の力で無理やりに消し去ってしまう……本当に、それでいいの……?)

サミーは僅かながら直接ミサの痛みを体験したせいもあり、この心を力ずくで排除することに抵抗を覚えたのだ。

だが、呪いを解かなければ牛にされた子もずっと苦しみ続けることになってしまう。
やはりここは放って置くわけには行かないだろう。

(…………っ…………ごめんねっ…………!)

サミーは懺悔しつつ、バトンに魔法の力をチャージする。

「プリティ・コケティッシュ・ボンバー!!」

放たれたハートの弾丸は、呆気なくミサのかけた呪いを吹き飛ばした。




サミーが正気に戻ると、跨っていた牛が光を発していた。

「ホワット!? あたしのかけた呪いを解いたって言うの!?」

狼狽するミサを他所に、牛の影はどんどん縮んでいく、やがて少女の姿を形取った。

「……こ、このは!?」

サミーの足元に倒れている緑髪の少女は、紛れも無く砂沙美の同級生である灰田このは、その人だった。

「ミサが呪いをかけた相手って、このはだったの!?」

サミーは思わずミサを見るが、彼女は怒りにぶるぶる震えていた。

「……なぁによ……。何よ何よ何よ何よ何よぉっっっ!!」

怒声を上げながら、サミーの下へつかつかと歩み寄ってくるミサ。
このはを巻き込んではいけないと、サミーは横に離れた。
だが……。
ミサは進路を変えない。
(……! ミサの狙いはあたしじゃない、このはだっ!)

サミーは、このはを庇うように慌ててミサの前に飛び出す。

「ま、待ってミサ!」
「どきなさい、サミー!! そいつは絶対に許せない、もう一度呪いをかけてやるわっ!!」

サミーの視線が、ミサの瞳と合わさる。
普段おちゃらけてるミサからは想像も出来ないほど、憎しみに満ち満ちていた。
ミサの心中を推し量り、サミーは少し心を痛めた。

「ミサ……あたし、ミサとこのはに何があったのかは知らない……。
 ……けど、パパやママをバカにされて許せないって気持ちは、あたしにも分かるよ!」
「! どうしてそれを!?」
「でも、でも……。
 このはがミサに酷いことを言っちゃったとしても、それは勢いで思わず言っちゃっただけだと思うの!
 きっと本気でミサを傷つけるつもりじゃなかったんだよ……だからお願い、許してあげて!」

必死でミサに訴えかけるサミー。
そのあまりに一生懸命な様子に、流石のミサも少々気勢を削がれる。

「……ふん、何を根拠に……。こんな奴の肩さえ持つなんて、相変わらずのいい子ちゃんね」

ミサは、じっとサミーの目を見る。
その目は少し悲しそうだが、真剣そのもので……一転の濁りも無い。
倒れているこのはのことはもちろん、ミサのことも本気で心配しているのだ。

ミサはそんなサミーに対し、
ほんの少しの救いと、結構なイラ立ちを覚えた。

「……あ〜あ、やめやめ!
 考えてみたら、こんな女を呪うのに魔法の力を使うなんて無駄遣いもいいトコだわ。
 そもそも、同類扱いしたら牛さんに失礼よね」

興が削がれたのか、ミサは回れ右して撤退を始める。

「ミサっ!」
「んー?」

そんなミサを、サミーは呼び止めた。
ミサは面倒くさそうに頭だけ振り返る。

「ありがとう、このはを許してくれて!」
「……ふん」

笑顔で真っ直ぐにそう言い放つサミー。
それが心底気に入らないと言った様子のミサは、一瞥をくれるとテレポートで帰っていった。

「……………………」

ミサが消えた後を見つめ、サミーは再び悲しそうな顔を見せた。
そんなサミーの横顔を、魎皇鬼は不思議そうな目をして見つめていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
141創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:05:27 ID:XEebZpZT
砂沙美は、授業が終わって下校を始めても、未だ暗い表情のままだった。
魎皇鬼は意を決して、砂沙美に訊ねてみることにした。

「砂沙美ちゃん、一体どうしたの? ミサと戦ってからずっと様子がヘンだよ」
「………………………………」

砂沙美は魎皇鬼をチラリと見ると、少し迷った後、口を開いた。

「ねぇ、リョーちゃん……。あたし、ミサに勝って良かったのかな……」
「えっ、どうしたの急に? ミサを退治するのは別に今に始まったことじゃないじゃん」

魎皇鬼にとって、ミサを退治するのは極当然の行為だった。
そしてそれは、ついさっきまでの砂沙美も同じだったはずなのだ。

「……さっき、このはにかけられた呪いを解いたでしょ?
 その時に、ちょっとだけどミサの心に触れて……それで、あたし思ったの」
「何を?」

そっと、目を瞑る砂沙美。

「ミサは悪いことばかりしてるけど……それも、ミサなりに理由のあることなのかもしれない。
 今日、このはに呪いをかけたのも、パパとママを侮辱されたっていう大事な理由だったみたいだし……。
 だとすれば、それを邪魔するあたしの方が、ミサにとってはよっぽど悪い奴になるんじゃないのかな……?」

魎皇鬼は、なぁんだそんなことかといった様子で言葉を返す。

「それは違うよ。酷いことを言われたからって、相手に酷いことをしていい理由にはならない。
 結局、ミサは自分勝手なワガママを撒き散らしてるに過ぎないんだ。
 みんなの為に戦っている砂沙美ちゃんが、ミサに遠慮する必要なんて全然無いよ」
「でも、あたしだってよくワガママは言っちゃうし……」

どうしても納得できない様子の砂沙美。

「深く考えすぎだって。ミサを退治するのは正義のためなんだ。
 悪を倒すのを躊躇していたら正義は守れない、そうだろう?」
「正義の……ため……」

正義……そうだ、自分は正義のために戦っているんだ。
だからミサが悪である限り、正義の魔法少女である自分が倒さなくてはならない。

「……そう……だよね」

無理やり自分を納得させつつも、やはり砂沙美の心に釈然としない想いが残る。

(ミサを倒すのは、正義のため……。
 じゃあ、その正義って……一体何だったんだっけ……?)

かつてはハッキリ見えていたはずの正義の影……。
それがいつの間にやら、ぼんやりとしか見えなくなってしまっていたことに砂沙美は気付く。
正義……正義って……。

いくら考えてもその答えは出ず、
砂沙美は家に帰ってからも、一日中そのことを考え続けていた。


143創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:06:17 ID:XEebZpZT
(許せない……灰田さんも、サミーも、絶対に許せない……)

場面は変わって、こちらは下校中の美紗織である。
彼女の方も砂沙美と同じく、未だ鬱屈した想いを抱えていた。

『天野さんって、両親が離婚してパパに引き取られたんでしょ?
 どーりで暗い性格してるはずよねぇ、可哀想な天野さん……あははは』

このはが何気なく言った軽口が、美紗織にとっては強い呪詛となり、心を締め付け続けているのだ。

(……違う……私は可哀想なんかじゃない……)

次に脳裏に浮かぶのは、サミーのあの慈しむような瞳だ。
口にすら出さなかったが、あの瞳は確かにミサを哀れんでいた。
惨めで、どうしようもなく可哀想な子だと……ミサのことを同情していた。

(……私……そんな目で見られる理由なんか無い……。だって……私には……)

脇を通り過ぎる通行人の喧騒が、美紗織の耳に入ってくる。

「こいつチョロチョロすばしっこいなぁ。まるでネズミみたいだ」
「豚食いしすぎだろ、また太るぞ」
「このコウモリ野郎! どっちの味方かハッキリしやがれ!」

それらは全て他愛の無い冗談か、些細な口論であった。
そしてもちろん、美紗織には何の関わりも無い会話である。
しかし今の美紗織には、その全てが、自分に悪意を向けているように思えた。

美紗織が通り過ぎると、辺りにいた人影は全て姿を消し、
後にはネズミと豚とコウモリの群れが残った。

(そう……私には魔法がある……。
 この魔法の力さえあれば……誰にも負けない……。
 だから、辛くなんか無い……私は、可哀想な子なんかじゃない……)

紅い瞳を輝かせる美紗織の口元に、酷く冷たい笑みが浮かぶ。
そのくちびるの温度の低さは艶気すら感じさせ、彼女の幼い顔には全く持って不釣合いな物だった。



                              〜 第六話に続く 〜
145創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:06:44 ID:XEebZpZT
146創る名無しに見る名無し:2008/12/05(金) 22:08:13 ID:XEebZpZT
GJ!
美沙緒黒いよ黒いよ
147サミー書いてる人:2008/12/05(金) 22:09:32 ID:cBYTTe9A
前回からかなり間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。

書き進めていくうちに少々話に無理が生まれてしまったため、
大筋から練り直している内にこんなに時間がかかってしまったのです。

前に全8話と言ったのですが、もしかしたらもう少し話数が増えるかもしれません。
148創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 20:43:30 ID:IAJHma+y
GJ!
何話続いてもいいのでお願いします
149創る名無しに見る名無し:2009/01/08(木) 10:57:00 ID:xvE/72GX
保守age
150創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 23:23:31 ID:rEY9XhLP
ここはオリジナルの変身ヒロインもおkだよね?
151創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 23:41:18 ID:K5SjgA07
イグザクトリー(その通りでございます)
152魔法戦士コスモリリス:2009/01/25(日) 23:27:19 ID:621gsV13
普通の高校生、伊達光はある日、学校の帰りに傷ついたハムスターを拾う
帰宅し、ハムスターを治療するため自分の部屋に行く
だか到着するとハムスターは喋りだす。驚き後ずさる光に
今、この世界は悪しき存在に狙われていると話す
話を聞いてるうちに落ち着き、真剣になってく光は
ではどうすればいいのかと問う。
ハムスターはリルと名乗り、光に指輪を渡す
その指輪の力を借り、光は正義の戦士コスモリリスに変身する

とここまでなんとなく思いついた。話し的にはありがちだなぁ
153創る名無しに見る名無し:2009/01/25(日) 23:41:25 ID:naiMpsOX
高校生の魔法少女ってのはかなり高齢な部類に入るね
154創る名無しに見る名無し:2009/01/25(日) 23:45:11 ID:oizuegbn
変身ヒロインとしてなら高齢ではないだろ
大学生までならいける
155創る名無しに見る名無し:2009/01/26(月) 00:28:27 ID:EvSXIAeJ
28歳処女の変身魔法元少女なら知ってる
156ゆるまじょ☆ゆゆるちゃん 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/26(月) 23:09:29 ID:G+NsYkYG
 茶碗によそった白米は、蛍光灯に照らされてキラキラと輝いていた。
 箸の上にほんの少しだけ多く乗せた米を口一杯に頬張り、ゆっくりと噛み締める。
 目を閉じて味覚を研ぎ澄まし、唾液と混じって生じた甘さを俺は堪能する。

 そして、さっきからずっと気になっていた目端の違和感を確認する。

 そいつはきょとんとした顔でテレビを見ていた。
 頭のてっぺんで結わいた髪が、ふらふらと揺れている。

 米は噛むほど旨くなるとも言うが、俺は適当なところで咀嚼を止め、少しばかりごろつ
きの残ったところを飲み込むのが好きだった。
 喉越しというのだろうか。自分がいつごろからそれを楽しむようになっていたのかは覚
えていない。
 熱い塊が食道を通過するのを確認し、俺は口を開いた。ちょっとしたマナーでもある。

「誰なんだ、お前は」

 そいつは口をぽかんと開けたまま、俺のほうへ顔を向けた。
 前髪は眉毛の上で綺麗に切りそろえてあり、実に清潔そうである。

「私、ゆゆる」

 人間、意味不明の事態が起こると叫び声をだしたり、飛び退いたりするものかと思って
いたが、今の自分を鑑みるに、実際はそうでもないらしい。
 とりあえず俺もテレビを見ながら食事を済ませ、用意してあった熱いお茶で喉を流して
からそいつに向き直る。

 そいつは顔をしかめながら、靴下を脱ぎ始めた。
 見た目に似合う子供っぽいクマのプリントが、屈託の無い笑顔を振りまく。

「なあ。誰なんだ、お前は」

「だから、ゆゆるだってば。魔女の」

 そうか、魔女か。
 それにしてもさて、これは一体どういうことなのか。俺は考えてみる事にした。
 こんなものが何時からここに居たのか、さっぱり思い出せない。気づいたのは食事の準
備ができて腰を落ち着けた時だ。
 それにしても魔女とはどういうことなのか、もう一度目を向けてみる。

 そいつは溜め息をつきながら薄汚れたこげ茶色のマントというかローブというか、そう
いった大きな一枚布状の衣服を払い始めた。
 どこで付けてきたのか、砂のようなものがぱらぱらと音を立てて床に落ちた。

「あー、なんか疲れちゃったよ。もう」

 理由は分からないが、大変に疲労しているらしい。
 染みだらけの服もなんとなくはそんな感じを漂わせているし、よくよく見れば膝小僧も
擦りむいたのか、かさぶたができている。

「疲れてるならまあ、キツイ事は言わん。少しぐらい休んでもいいぞ」
「そう?」
「ともかく、君はここに何をしに来たんだ?」

 そいつは、テレビコマーシャルで新製品に驚くような、そんな顔をして口を抑えた。
157ゆるまじょ☆ゆゆるちゃん 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/26(月) 23:10:33 ID:G+NsYkYG
「あ、そうだ! これこれ」

 何も無い場所に向かって水晶占いでもするみたいに手をゆらゆら動かすと、ぽんと音が
して煙の中から何か現れた。

「欲しかったんでしょ?」
「何だい、これは」
「ミニカー」

 俺は次から次へ湧き上がる疑問を押し殺し、そのミニカーをじっくりと眺めてみた。
 青いぴかぴかの車体に、安っぽくて堅そうなプラスチックのタイヤ。実在の車種かどう
かは分からないが、なんとなく格好さそうに見える。小さい頃はよくこういったものに憧
れたものだ。

「俺が、これを?」
「可愛そうだなあと思ってさ。探すのに15年もかかっちゃったよ」
「15年前に俺がこれを欲しがった?」
「うん、おもちゃ屋の前でね。もう無くなってたけど」

 確かにそういった事はあったかもしれない。しかし小さい男の子なら誰でもそういった
記憶はあるのではないだろうか。

「それじゃ、帰るね」
「あ、ああ。これ、くれるのか?」
「うん、あげるよ。大事にしてね」

 とにかく事態は終わりへ進んでいるようなので、黙って頭を掻いてみる。

 そいつは汚れた靴下を腰のポシェットへぐいぐいと詰め込んでいた。
 中には何やらビー玉や、風船など色々なものが入っていた。

「お礼は?」
「ん、お礼?」
「ありがとう、ゆゆるちゃん。は?」
「あ、ありがとう、ゆゆるちゃん」

 ゆゆるちゃんは一度おおきく伸びをすると、眠そうな目で俺を見据えた。

「うん。じゃあ帰るよ。夜は口笛吹いたらだめだよ」

 ゆゆるちゃんはスリッパみたいな靴を履くと、玄関をがちゃりと開けて、ぱたぱたと音
を響かせていった。



 それから暫くの間、ゆゆるちゃんがくれたミニカーを眺めていた。
 不意に外に目をやると、窓に映った俺の瞳が、少年のように輝いている事に気づいた。

 なんだか良くわからないけど、ありがとう。ゆゆるちゃん。



おわり
158創る名無しに見る名無し:2009/01/26(月) 23:13:30 ID:G+NsYkYG
なんとなく思いついてしまったので投下。
こういうのはダメなのかしら。
159創る名無しに見る名無し:2009/01/26(月) 23:23:21 ID:EvSXIAeJ
いいかんじにゆるいwww
前髪ぱっつんは正義だな
160創る名無しに見る名無し:2009/01/26(月) 23:47:12 ID:vw5uKlNj
何だか感動した よいと思う
161サミー書いてる人:2009/01/27(火) 17:52:31 ID:5Udqgo7o
今更ですが、あけましておめでとうございます。
新年一発目の書初めならぬ投下初めと行きたいと思います。

それにしても1月中に間に合ってよかった…。
第六話 『追跡! ピクシィミサの正体を追え!』



今、まさに日が落ちようとしている夕暮れ時。
鳥とウサギ―――留魅耶と魎皇鬼は、塀の上で何かを話し合っていた。

……話し合うと言っても、留魅耶が強引に付き合わされた形なのだが……。

「なー留魅耶ー、ミサの正体教えてくれよー」

まるで親友の好きな子を聞き出すかのような軽い調子で尋ねる魎皇鬼。

「嫌だよ」
「そう言わずにさー。ほら、こっちもサミーの正体教えるからー」

魎皇鬼は他人の秘密を勝手にチラつかせてまで、留魅耶から情報を引き出そうとする。

「別に興味ないよ。サミーが誰だろうと、僕には関係ない」

あくまでそっけない態度を取る留魅耶。
それでも魎皇鬼を無視して飛び去らない辺り、律儀な性格の彼らしい。

「そんなこと言わないでー、ほら頼むよ、教えてよー」

とうとう理屈でも取引でもなくなった。単なる駄々っ子のゴリ押しである。

「何と言われたって言わないよ。彼女に迷惑がかかる」
「なんだよぉ、みんなに迷惑かけてるのはミサの方じゃん……。
 てゆーか、おまえ自分が魔法を与えた子が悪いことをしてるのに、何とも思わないのかよ?」
「……………………」

痛いところを突かれ、流石に留魅耶も押し黙ってしまう。
が、ほどなく口を開く。

「……僕は、余命幾許も無い身だ。その残りの人生、全部彼女のために使うって決めたんだ」
「…………留魅耶、おまえ…………」

ジュライヘルムの住人は、10歳を越えたら地球でその生命を維持することはできなくなる。
そして……留魅耶がその誕生日を迎える日まで、既に1ヶ月を切っていた……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「現われたわね、プリティサミー!」

留魅耶と魎皇鬼が話し合っているのと同じ時間。
最寄り駅から数駅ほどにある電気街……というかオタク街の一角で、
漆黒のボンテージを着込んだ金髪少女と、青髪の和服(?)少女が対峙していた。

「ミサ……もうこんなことはやめてよ!」

複雑な表情でミサを睨みつけるサミー。

背景では大小様々なラブラブモンスターが破壊活動を行っている。
以前のミサに比べ、明らかに迷惑行為のレベルが上がっている。
「街を壊したりしたら、色んな人に迷惑がかかるんだよ! だから、もうやめようよ!」
「やーなこった! ミサはスーパーなマジックガールなんだから、
 普通の人間と違ったスリリングでエキサイトなエンジョイライフを送るのよーだ!」
「ねぇ、あたしの言うことを聞いてよ!」
「なぁーんであたーしがアンタの言うことヒアリングしなきゃいけないの。べーっ、だ!!」

下まぶたを指で下ろしつつ、完璧なまでに憎たらしいあっかんべーを決めてみせるミサ。

「ミサ、お願いだから話を……!」
「しつこいわよ! さぁ、カメラ女!」
「ラジャー!」
「きゃっ!?」

カメラ女が放ってきた黒いフィルムを巻き付けられ、身動きが取れなくなるサミー。

「にょっほっほっほ、他愛ないわねー」
「く、くぅっ……」
「カメラ女、例の作戦よ!」
「ラジャー!」

頭がそのままドラマ撮影用のカメラになったようなカメラ女は、
サミーを縛り上げたまま、彼女の四方八方からフラッシュを炊きまくる。
何で動画カメラでフラッシュが炊かれるのかは気にしてはいけない。

「ちょ、ちょっと! 一体何をしてるのよ!?」
「知れたこと! アンタの恥ずかしい写真を盗撮しまくって、ネットに公開してやるのよ!」
「こ、この……!」

無理やり縛り上げた状態の撮影を盗撮と呼ぶべきか否かは定かじゃないが、
プライバシーに直接ダメージを与えるえげつない攻撃に、流石のサミーの堪忍袋も緒が切れる。

ブチブチッ!!

「こんなフィルムッ!!」
「むっ!?」

青筋を顔に浮かべて撒きついたフィルムを力任せに引きちぎると、すかさず必殺技の体制に入る。

「プリティー・コケティッシュ・ボンバー!!!」
「あぁーーー!!! アナログフィルムは光に弱いのよーーー!!!」

ハートの弾丸に撃ち抜かれ、カメラ女は善良なカメラ小僧の姿に戻った。

「あーらら、折角の盗撮写真が全部ダメになっちゃったわね」

ざーんねん、と言った感じで信号機の上に腰掛けているミサ。

「じゃ、ミサは飽きたからゴーホームするわねぃ。後よろしく」
「待ちなさいよっ、まだ話は終わってないんだから!」

そのまま空中を歩いて立ち去ろうとするミサを追おうとするサミーだったが……。
見ると、電気街ではまだコミック女とカラオケ女の二体が暴れていた。

「くっ……ミサよりも残ったラブラブモンスターを先に倒さないと!」

急いでラブラブモンスターを倒したサミーだったが、
当然のことながらミサの姿は完全に見失ってしまった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミサを撃退し、使命を果たした砂沙美は帰路についていた。
しかしその足取りはとぼとぼと頼りなく、肩も落としている。

「今日も……ミサとちゃんと話をすることが出来なかったなぁ……」

ミサの心の断片を見てしまった砂沙美は、一方的に彼女を敵とみなすことが出来なくなり、
一度でいいからミサと本音でぶつかりあってみたくなったのだ。

「砂沙美ちゃん!」
「あ、リョーちゃん!」

足元にやって来た魎皇鬼を、砂沙美は待ってましたとばかりに抱き上げる。

「どうだった!? 留魅耶くんにミサのこと聞き出せた!?」
「ダメだったよ、思ったより口が堅かった」
「うーん、留魅耶くんなら強めに押せば素直に教えてくれると思ったんだけどなぁ……」

そこまで気が弱いと思われてる留魅耶も哀れである。

「後をつけるのも考えたんだけど、あいつ建物の上を飛んで行くから、追跡は無理だね」
「そっか……」
「もう諦めなよ。悪の魔法少女を説得するなんて、端から無理だったんだって」
「説得なんて大げさな物じゃなくて……お互いにもっと分かり合いたいと言うか……」
「それも十分大げさな表現だと思うけど」
「そ、そうかなぁ」
「何にしろ、いつ何処に現われるか分からない上、すぐに逃げちゃうんじゃ、話し合いどころじゃないよ」
「……だよね……」

砂沙美はしょんぼりしてしまう。自慢のツインテールもしおしおだ。

「だからさー、ミサの事情なんて気にしないで普通にやっつけちゃえばいいんだって。
 そうすれば街は平和になるし、善行ポイントも溜まるし、万々歳だろ?」
「でも……」

『絶対に許さない……私の大切な人を侮辱する奴は、絶対に……!』

強い怒りに満ちつつも、何処か辛そうだったミサの心の声が、未だに砂沙美の耳から離れない。

「……ダメ……やっぱりこんな気持ちのままじゃ、あたしミサと戦うことなんて出来ない……」
「砂沙美ちゃん……」

砂沙美は考えれば考えるほどドツボにハマっていってしまい、家に付く頃にはすっかり失意の底に沈んでしまっていた。




二人が家についた時、萌田家の母・津名魅はテレビを見ながらお茶を飲んでいた。

「ミャアン!」
「あら、おかえりなさい魎皇鬼」

魎皇鬼を抱き上げて頭を撫でる津名魅。

「……ただいま……」

「あら、砂沙美ちゃんも一緒だったの。おかえりなさい」
「…………」

砂沙美は無言で自分の部屋に入ってしまった。
少し不安そうな瞳で閉まったドアを見つめた後、津名魅は魎皇鬼に向き直る。
「最近の砂沙美ちゃん、何かを悩んでいるみたいなの。魎皇鬼、何か知らない?」
「……ミャァン……」

色んな意味で、答えられる訳が無かった。

「……魎皇鬼……側に居て、砂沙美ちゃんを支えてあげてね」

じっと魎皇鬼の目を見てそう言う津名魅。
魎皇鬼は困惑しつつも、娘を想う母の強い気持ちをその瞳の中に感じ取った。

(そうだ……僕が砂沙美ちゃんを助けなきゃ!)

留魅耶がミサの為に尽くすのと同じように、自分も全力でサミーを助けなければ。
そんな強い使命感に駆られ、魎皇鬼は砂沙美の部屋に飛び込む。

―――はずだったのだが、ドアノブに手が届かなかった為、そっと津名魅に開けてもらった。



砂沙美はベットに寝転んで枕に顔をうずめていた。
その横に飛び乗って、魎皇鬼は砂沙美に語りかける。

「砂沙美ちゃん、悩んでても仕方ないよ! こうなったら聞き込み調査だ!」
「……聞き込み調査……?」
「ミサの目撃情報などを収集して、ミサの活動範囲を絞り込むんだよ!」
「……………………」

魎皇鬼の話に興味を持ったのか、砂沙美は枕から顔を起こす。

「……そんなこと、できるのかな?」
「僕が思うに、ミサは砂沙美ちゃんの近くにいる人間の可能性が高いと思う。
 そうじゃなければ、あんなに都合よく砂沙美ちゃんの活動範囲に現われないと思うし」
「……言われてみれば……」
「だから、近所の人達の話を総合すれば、必ずミサに辿り着けるはずだよ!」
「……………………」

少々虚ろだった砂沙美の瞳が、徐々に輝きを取り戻す。

「だよね……だよねっ!! まだ諦めるには早いよね!」

ガバッと身を起こす砂沙美。
その全身に新たな決意が漲っている。

「砂沙美ちゃーん、ご飯できたわよーっ」
「はーい、すぐ行きまーす!」

タイミング良くかかった津名魅の呼び声にも元気良く答える。

「よーし、そうと決まればたっぷり食べてたっぷり寝て、明日からまた頑張ろうね、リョーちゃん!」
「ミャアン!」

互いに相槌を打つと、二人は居間へ向かった。

二人は元気良くご飯を食べ、元気良く風呂に入り、(風呂嫌いの魎皇鬼は嫌がったが)
ニンジン柄のパジャマに着替えると、そのままバタンのQで二人並んで寝てしまった。

様子を見に来た津名魅はその屈託の無い寝顔に安心し、
寝相の悪さでズレてしまった布団を砂沙美の肩にかけなおしてあげた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日の朝。
美紗織は薔薇の手入れを終えると、外出の支度をしていた。

「さて、と……今日はどんな悪いことをしようかしら。宝石泥棒? ビデオジャック? UFO騒ぎ?」

バトンの汚れを拭き取りながら様々な悪事に想いを馳せ、心を躍らせる美紗織。
そこへバサバサと飛んでくる緑の鳥、留魅耶。

「待ってよ美紗織、もうすぐピアノの練習の時間じゃないか」
「何言ってるの、ルーくん? そんなことする必要ないじゃない」
「えっ?」
「だって、私には魔法があるんだもん。
 練習なんてしなくても、魔法を使えばいくらでも凄いピアニストになれるわ」

そう言って振り向いた美紗織の目を見て、留魅耶は戦慄した。
エメラルドグリーンだった瞳は、今やすっかり真紅のルビー色に変わってしまっている。
美紗織の心身は、どんどんミサに……つまり、完全な魔女へと近づいているのだ……!

(……今の美紗織は、完全に魔法の力に魅せられて正気を失っている……。
 魎皇鬼の言うとおり、僕が美紗織に魔法を与えたのは間違いだったのか……?)

留魅耶は未だバトンを磨き続けている美紗織を見る。
あのバトンさえ取り上げれば、美紗織はミサに変身できなくなる。
そうすれば、美紗織は何事も無かったかのように普通の少女に戻れるのでは無いか?

(……いや、ダメだ! 今の美紗織から魔法を取り上げるわけにはいかない!
 今の美紗織は魔法が全てなんだ……そんな彼女から魔法を取り上げたりしたら……!)

全てに絶望して抜け殻のようになった美紗織の姿を、留魅耶は容易に思い浮かべることができた。

(……今の状態が健全とは思わない……だけど今魔法を失ったら、それこそ美紗織の心は壊れてしまう!)

「それじゃ、行ってくるね。ルーくん、お留守番よろしく」

何処か暗さを秘めた表情でニコリと笑うと、美紗織は靴を履いて外に出て行く。
留魅耶は、それをそっと見送ることしか出来なかった。



同じ頃。
砂沙美と魎皇鬼は、聞き込みの為に近所を走り回っていた。

「ピクシィミサ?」
「前にゲームセンターでリアルもぐら叩きで遊んでたの見たなぁ」
「洋服屋でケバケバしいコーディネート作って悦に浸ってた」
「公園のベンチで寝てたよ」

聞けば聞くほどロクなことをしてないが、それでも目撃場所の情報はそれなりに役に立った。

「ふむふむ……」

魎皇鬼は地図上で目撃情報をまとめ、中心点を割り出す作業に取り掛かる。

「どう?」
「……うん、誤差はあるかもしれないけど、多分この辺だよ!」
「あれ、ここって確か……」
167創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 17:55:51 ID:5Ce0PZff
/19か! 支援
紙地図では分からないが、Googleマップで見れば巨大な高層マンションがそびえ立っているはずの場所である。

「……やっぱりそうだ、この辺りって美紗織ちゃんが住んでるマンションがある辺りだよ!」
「へー、それなら道とか分かる?」
「うん、行ってみよう!」

砂沙美の案内で、二人は美紗織の住むマンションまで向かった。


「美紗織ちゃんが住んでるマンションはここだけど……」

マンションの前についた砂沙美は、とりあえず周囲をキョロキョロしてみる。
……が、都合よくミサが見つかるわけも無い。

「……それで、これからどうするの?」
「う〜ん、ミサがこの辺りを拠点にしてるのは間違いないはずだけど……」
「じゃあ、やっぱりこのマンションに住んでるのかな?」

じーっとオートロックの扉を睨みつけてみる砂沙美。

―――と、その時。
その扉が開いて誰かが外に出てきたのだ。

「あ、美紗織ちゃん!」
「え…………さ、砂沙美ちゃん!?」

ぼーっと物思いに耽っていた美紗織は、呼び止められて初めて砂沙美に気付く。

「あ、あれ……ゴメン、今日遊ぶ約束してたんだっけ!?」
「あはは、違うよ。今日ここまで来たのは別の用事」
「そ、そう……ゴメンね、変な早とちりしちゃって……」

妙に狼狽する美紗織を魎皇鬼は不審に思ったが、砂沙美の方は気にする気配も無い。

「それで、砂沙美ちゃん……今日は、また誰かのお手伝い?」
「いや、今日はそうじゃなくて……そうだ、美紗織ちゃんにも聞いておこう!」

ポン、と手を叩くと、砂沙美はメモ帳を取り出す。

「美紗織ちゃん、ピクシィミサって知ってる?」
「!」

美紗織が警戒して身体を強張らせたのに気付いたのは、やはり魎皇鬼だけだった。

「……知ってるよ、最近町を騒がせている魔法少女でしょ?」
「うん、そのミサについて何か知らないかな?
 いつ何処でどんなことをしてたとか、些細なことでもいいから知りたいの!」
「……………………」
鉛筆を握りなおし、インタビューの用意は万全の砂沙美。
美紗織は少しだけ考え込むと……逆に砂沙美に問い返した。

「……ミサのことを知って、砂沙美ちゃんはどうするの?」
「えっ……」

砂沙美は、思わず美紗織の目を見る。
理由は分からないが、美紗織は真剣に聞いているように見える。
少し間をおいて、砂沙美はそれに答えた。

「……ミサが悪いことするの、やめさせたいんだ」
「……どうして? ミサが悪いことをしても、砂沙美ちゃんには関係ないでしょ?」
「そんなことないよ……ミサが悪いことをすると、みんなが傷つくんだよ?
 今は無事だけど、いつかママや天地兄ちゃんや美紗織ちゃんも傷つけられちゃうかもしれない」
「……………………」
「砂沙美、大切な人がいっぱいいる……大好きな人がいっぱいいる……。
 だから、誰かを傷つけようとするミサのことは、許せない」

砂沙美が表情を強張らせたのを見て、美紗織は思わず顔を逸らした。
しかし次の瞬間、砂沙美はふっと気の抜けたような表情になる。

「……だけどね、砂沙美……ある時、思ったんだ。
 大切な人を傷つけられると悲しいのは、ミサも同じなんじゃないかって。
 だから、ミサが悪いことをすることで傷ついてしまう誰かが、
 他の誰かにとっての大切な人だってことを、ミサにも分かってもらえたら……。
 誰かを傷つけるのはとっても悲しいことだってこと……ミサも分かってくれるんじゃないかって」
「…………うん、分かる……分かるよ……。そう……だよね」

美紗織は、少し悲しそうに目を伏せる。

「私も、もし砂沙美ちゃんが誰かに傷つけられたとしたら……きっと、とっても悲しくなるもの……」
「えへへ、ありがとう」

砂沙織は無邪気な笑顔を見せる。

「……ごめんね、変なこと聞いて。ミサ探し、頑張ってね」
「うん!」

美紗織は無理やり笑顔を作ると、砂沙美に手を振りながらマンションの中へ帰っていった。
それに答えるように満面の笑みで手を振り続ける砂沙美に、肩の魎皇鬼がつぶやいた。

「……ねぇ、ミサについて訊ねるんじゃなかったの?」
「あ」

気付いても既に時遅し。
オートロックの扉は閉まってしまった。

「……せめて中に入れてもらえば良かった……」

このままマンションの入り口でウダウダやっていても仕方ないので、
二人は今日のところは家に帰ることにした。

(あの子……もしかして……?)

魎皇鬼の中で美紗織に対する疑念が膨らんで行ったが、
それを裏付けるものは何一つとして無かった。



170創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 17:56:53 ID:5Ce0PZff
あ、18時跨いでるから支援いらんかもだね
ガチャ……

「ただいま……」
「あれっ、美紗織、もう帰ってきたの?」

出て行ったばかりの美紗織が帰ってきたことに驚く留魅耶だが、
美紗織の様子がおかしいことに気付いて表情を曇らせる。

「どうしたんだい美紗織、何かあったのか?」

それには答えず、美紗織はベッドにその身を埋めた。
留魅耶は心配して近くで見守りつつも、美紗織を気遣って何も言わない。

そんな留魅耶の気持ちを知ってか知らずか、
美紗織は独り言のようにポツポツと話し始めた。

「私……最低だ……。魔法の力に溺れて……砂沙美ちゃんに、あんなこと思わせちゃったんだ……。
 大切な人が傷つけられることの辛さは…………私、良く知っていたはずなのに……」
「……………………」

若年ながらも人の気持ちを汲み取る術に長けている留魅耶は、
その一言だけで何があったかを大体察することが出来た。

だが、留魅耶は何も言わない。
じっと美紗織の次の言葉を待つのみだ。


訪れるしばしの静寂……。
数分の後、美紗織は再び口を開いた。

「ルーくん……バトン、返すよ……。私、このままじゃダメになっちゃう……」
「えっ!?」

前向きな言葉が聞けることを期待してはいたが、これには留魅耶も驚いた。

「そんな……いいのかい、魔法が使えなくなっても!?」
「みんな、魔法の力なんて無いのに頑張ってるんだものね……。
 私だけこんなズルをしてたら、砂沙美ちゃんに合わせる顔が無いもの」
「みっ、美紗織……」

若干9歳にして、まるで娘を想うがごとく感情が目から溢れ出す留魅耶。

「……ぼ、僕は嬉しいよ……美紗織が自分でその結論に達してくれるなんて……!」

留魅耶は羽毛で涙を拭う。
びしょ濡れになった羽根は酷い有様だが、まぁ今は言うまい。

泣き止むまで少々時間がかかったが、
時が経って落ち着きを取り戻した留魅耶は、改めて美紗織に言う。

「……でも、美紗織……バトンは、やっぱり君が持っていて欲しい」
「えっ?」
「そのバトンは、あくまで僕が美紗織にプレゼントしたものなんだ。
 それに今の美紗織なら魔法を乱用することは無いと思うから……そうだろ?」
「…………うんっ」
美紗織は改めてバトンを眺めてみる。
このバトンは、魔法の象徴である以前に留魅耶の優しさの結晶なのだ。

そっとバトンを抱きしめてみる美紗織。
そうすると、魔法の力とは違う、暖かいエネルギーを胸に感じることができた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あっ、美紗織ちゃん!」

翌日、クラシックの新盤を買いに商店街にやってきた美紗織。
そんな彼女に話しかけてきたのは砂沙美だった。
やはりいつものように魎皇鬼を肩に乗っけている。

「砂沙美ちゃん、今日もミサ探し?」
「うん、今日はこっちの方で聞き込みしてみようと思って」
「そう……」

砂沙美を騙しているような状況に心を痛めつつも、
美紗織は本当のことを言う気にはなれなかった。

このままピクシィミサの存在なんて風化してしまえばいい。
ミサは私の憧れ、願望の体現者。
でも同時に、悪くて卑怯な、私の最も醜い部分。
時が経ち、全ての人の記憶から消えてしまえばいい。
……それでもきっと、自分の心にだけは永遠に残り続けるだろうけど。

「それじゃ、またね!」
「うん、バイバイ」

手を振って駆け出していく砂沙美を見送る美紗織。
その時……。

「え…………っ!!?」

砂沙美が渡ろうとしている青信号の横断歩道に、居眠り運転のトラックが突っ込んでいく。
このことは砂沙美本人を含め、美紗織以外の誰も気付いていない。

「砂沙美ちゃん、危ない!!!」
「えっ!!?」

砂沙美はやっとトラックの存在に気付くが、時既に遅し。
トラックのバンパーは完全に砂沙美を射程圏内に捉えている。

(ダメ、間に合わない!! こうなったら……!!)


ドギャアーーーーーーン!!


激しい炸裂音が、交差点に響いた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
トラックの進路は大きく曲がり、交差点脇のテナントに突っ込んでいた。
変身した美紗織―――ミサが、猛スピードでトラックに体当たりをしたのだ。

おかげで砂沙美はトラックの暴走から無傷で逃れることが出来たが、動揺と混乱が隠せない様子だ。

「な、な、な…………なんでミサが、砂沙美を…………!?」

そのミサは、砂沙美から少し離れた所で倒れて気絶している。
慌てて駆け寄る砂沙美。

「……よ、良かった……大した怪我は無いみたい」

あれほど凄い衝撃だったにも関わらず、ミサはほぼ無傷だった。

「き、きっと魔法の力が働いたんだ。衝突する瞬間に咄嗟にバリアでも張ったんじゃないかな?」

動揺しつつも冷静に分析する魎皇鬼。
やはり魔法の力はとんでもない物だと、改めて砂沙美は思った。

「……ん?」

突然、ミサの身体が光り始めた。
……いや、正確には光の粒子がどんどんミサの身体から放出されている。

「―――あっ、バトン!!」

見ると、バトンは激突のショックでミサの手元から離れた所に落ちてしまっていた。

「バトンが身体から離れた状態で気絶したから、魔法―――つまり変身が解除されようとしているんだ!」
「と、いうことは…………ミ、ミサの正体がっ!!?」

刮目して成り行きを見守る砂沙美と魎皇鬼。
そして……。

「!!!」

ミサの髪から金色の輝きが失われた先に現われたのは、黒い髪をした砂沙美の親友だった。

(美紗織ちゃんが……ピクシィミサ!?)

「う……ううん……」

美紗織が目を覚ます。

「砂沙美ちゃ……―――あっ!?」

手元にバトンが無いのに気付き、美紗織は慌てて周囲を見渡す。
やがて転がっているバトンを見つけると大急ぎで駆け寄り、拾って抱きしめた。

「……良かった……無くしちゃったらどうしようかと……」
「あ、あの……美紗織ちゃん……」
「……!」

砂沙美に呼びかけられた事により、美紗織はようやく状況を理解した。

「さ……砂沙美ちゃん……これは、その……」

あわててバトンを後ろに隠す美紗織だが、今更そんなことをしても手遅れだ。
「美紗織ちゃん……えっと、その……」

砂沙美の方も目が泳ぐばかりで、次の言葉が出てこない。
そんな中、魎皇鬼一人が厳しい目で美紗織を見つめている。

次第に、周囲に集まってきた野次馬がざわつき始める

(あの子がピクシィミサの正体なのか?)
(この辺りに住んでる子なのかしら)
(今まで好き勝手した責任はちゃんと取ってもらわないとね)

「……………………」

こんな状況では落ち着いて話も出来ない。
とりあえず場所を変えたほうがよさそうだ。

「と、とりあえず美紗織ちゃんの家まで行こう! ほらっ!」
「あっ……」

砂沙美は強引に美紗織の手を取り、そのまま無理やり引っ張るように駆け出した。




高層マンションの5階にある、美紗織の家。
美紗織に招き入れられる砂沙美だが、家まで来たのは久しぶりなのと、
何より状況が状況な為にどぎまぎしてしまう。

「お、おじゃましまぁーす!」
「砂沙美ちゃん……今、この家には私しか住んでないの……」
「そ、そーなの? ご、ごめんね」
「……………………」

そんな二人を、部屋にいた留魅耶は黙って見ていた。
留魅耶は魎皇鬼の存在に気付くと、そこに飛んでくる。

(おい、魎皇鬼……。おまえが居るってことは、あの子もしかして……?)
(しーっ! 余計に話がこじれるから、砂沙美ちゃんが自分で言い出すまではそのことは黙っててくれ!)
(……そうだな。でも、何があったかは教えてくれよ)
(ああ、かくかくじかじかで―――)

魎皇鬼が留魅耶に説明をする一方で、
砂沙美と美紗織の会話もぎこちなく始まっていた。

「そ、それにしても互いに大した怪我が無くてよかった!」
「……魔法のおかげだよ……」
「ま、魔法って凄いよねぇ、あはは!」
「……………………」
「…………あはは…………」

(うぅ……空気が重いよぉ……)

長い沈黙……。
数分の後、美紗織がゆっくりと口を開く。

「……軽蔑、してるでしょ? 私のこと……」
「え、ええっ!? 美紗織ちゃんのことを軽蔑する理由なんて無いよ!」
175創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 18:04:18 ID:uaDbEb3M
.
その言葉を聞いて、美紗織の語気が少々強まる。

「嘘……だって、私はピクシィミサだったのよ?
 砂沙美ちゃん、ミサが悪いことしてるのが許せないって言ってたじゃない!」
「う……確かに言ったけど……」

未だにミサの悪行を許容できたわけではない。
だが、それとこれとは話が別なのだ。
砂沙美は美紗織ちゃんがミサだなんて知らなかったのだ。
というか今でも二人のイメージが砂沙美の中で重ならない。
どうしても重ならないのだ。

「で、でも……今日は砂沙美を助けてくれた!
 つまり、あの時の砂沙美の気持ちを分かってくれてたって、そういうことなんだよね?」
「……………………」
「砂沙美、確かに魔法少女ピクシィミサのことは詳しくは分からない。
 でも、砂沙美が知ってる天野美紗織ちゃんはとっても優しい砂沙美の友達。それじゃダメ?」
「……………………」

(違う……違うの……。私は砂沙美ちゃんが思ってるような良い子じゃない……)

砂沙美がフォローの言葉をかけるたび、無言で表情を曇らせていく美紗織。
その一連の流れが先ほどから四順ほどループしている。

傍から様子を見続けていた魎皇鬼は、このままでは一向にラチが明かないと思い、
砂沙美の肩に飛び乗ると頬をつついて、帰宅を促す。

(砂沙美ちゃん、今日はもう帰ろう)
「でも……!」
(お互いに今は間を置いた方がいいよ。時間が経って頭が冷えてから、また話し合ったほうがいい)
「……………………」

魎皇鬼の言うことも尤もかもしれない。
砂沙美は家に帰ることにした。

「……美紗織ちゃん、あたし、今日は帰るね」
「そう……今日はありがとう、砂沙美ちゃん……」
「ううん、こっちこそ。また明日ね。」

砂沙美は後ろ髪を引かれる想いだったが、
チラリとだけ美紗織の方を見ると、玄関のドアから出て行った。





「……ふぅ、なんだか疲れちゃったなぁ」

自宅のベッドに飛び込んで、大の字に身体を伸ばす砂沙美。

「でも良かった、ミサが美紗織ちゃんで。これなら何の心配も要らないよね」

その言葉は、どこか自分に言い聞かすように言っている。
魎皇鬼にはそんな風に感じた。

「……ねぇ砂沙美ちゃん」
「ん、なにリョーちゃん?」

寝返りを打って、軽い気持ちで魎皇鬼に向き直る砂沙美。
だが、魎皇鬼の表情は思いのほか真剣だった。
「美紗織ちゃんに……大事なことを言ってないんじゃないの?」
「えっ? なんのこと?」
「分からないの?」

追求するような目で砂沙美を見る魎皇鬼。

「うっ……」

魎皇鬼の妙な迫力に押され、砂沙美はたじたじしてしまう。

「ねぇ、本当に分からないの?」
「も、もうっ……もったいぶらないで教えてよ!」
「……………………」

魎皇鬼は目を伏せると、つぶやくように言った。

「……ピクシィミサの敵、プリティサミーは…………萌田砂沙美だってこと」
「あっ!」

そうだ。
美紗織がミサだと知った以上……。
友達として、それが真っ先に伝えるべき事柄だったはずだ。

なのに、何故そのことから目を逸らしていたのか。

「……怖かったんだろ?」

ドキン!
魎皇鬼に核心を突かれて、砂沙美の胸が鳴る。

「自分がサミーだって、美紗織ちゃんに知られるのが怖かった…………違う?」
「だ、だって……」

砂沙美は魎皇鬼から目を逸らす。

「だってだって……それを言っちゃったらどうなるの?
 美紗織ちゃんは砂沙美がサミーと知っても、友達のままで居てくれるの?」
「……………………」
「……もしも、ミサとなって砂沙美に襲い掛かって来たりしたら……」

いざ言葉に現してみると、その想像は強い現実味を持って、砂沙美に襲い掛かってくる。

「ヤダ……そんなの、絶対ヤダよ……っ!」

頭を抱えてうずくまってしまう砂沙美。

「砂沙美ちゃん……」

砂沙美が内心でこれほど苦悩していたとは……。
魎皇鬼は強い語調で問い詰めたことを後悔し、言葉を和らげて再び砂沙美に問いかける。

「落ち着いて、砂沙美ちゃん……君はミサが美紗織ちゃんだって知った時、敵だから倒さなきゃって考えた?」
「……………………」
「友達だから戦いたくない……そう思ったんじゃない?」
「……そうだよ……美紗織ちゃんと戦うなんて、砂沙美には考えられない……」
「だったら、それは美紗織ちゃんだってきっと同じだよ。だって、二人は友達なんだから。違うかい?」
「……………………」

二人の間に長い沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは……。
prrrrrrrr...
prrrrrrrr...

鳴り始めた電話だった。
が、誰も出ない。
津名魅は買い物に行っているようだ。

砂沙美は仕方なく重い腰を上げ、受話器を取った。

「はい、萌田です……」
『ねぇねぇ砂沙美ちゃん、今時間あるっ?』
「えっ、美紗織ちゃん?」

電話をかけてきたのは美紗織だったが、砂沙美はその声を聞いて少々戸惑った。
何故なら、美紗織の声は先ほどの様子からは考えられない快活さだったからだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


少々、時は遡る。

美紗織は、陰鬱な気持ちで毛布にくるまっていた。

(砂沙美ちゃんは優しすぎるよ……こんなことになっても、私を友達と呼んでくれるなんて……)

砂沙美に優しい言葉をかけられるのは嬉しかった。
だが、その度に美紗織は己への失望を強く抱いた。

(美紗織ちゃんはあんなにも強くて優しい……。なのに、私は何も出来ない……)

正義感が強く、人助けのためなら苦労を厭わない砂沙美。
いつも元気で明るく、運動神経も抜群な砂沙美。
両親や恋人、友達に囲まれていつも幸せそうな砂沙美。

それに比べ、自分は身体が弱くて、性格も暗い。
かろうじて特技と言えることは、まだまだ未熟なピアノと…………魔法ぐらいだ。
その魔法も、美紗織にとって一番大事な人を悲しませる結果になってしまった。

(もうこれ以上、砂沙美ちゃんを裏切りたくない……砂沙美ちゃんを傷つけたくない……)

自分が砂沙美だったらいいのに……。
そんなことすら考えてしまう。

(……これからどんな顔をして砂沙美ちゃんと会ったらいいんだろう……)


そんな辛そうな美紗織を見守り続けている者がいる。
留魅耶だ。

美紗織を何とか助けてやれないかと思考を巡らせた留魅耶は、あることを思い出す。

「……そうだ美紗織、さっき手紙が来てたからそこのテーブルの上に置いておいたよ」
「えっ、手紙?」

留魅耶の言葉通り、テーブルの上に封筒が置いてあるのに気付く美紗織。
美紗織は布団を抜け出し、手にとって見る。
その封筒には『美紗織へ』と書いてあった。
「パパからだ……」
 
その筆跡は、確かに彼女の父親が書いた物だった。
多忙故にあまり会うことの出来ない父とは、こうしてよく手紙をやり取りしているのだ。
しかし、美紗織にとっては直接会えないのではやはり寂しい想いが募った。

美紗織は、ペーパーナイフで綺麗に封筒を開け、中身を見てみる。

『美紗織、元気にしているかい?
 なかなか家に帰ることが出来なくて悪いと思ってる。
 ……この前の手紙を読んだよ。
 体育を見学ばかりしてることで、同級生から悪く言われるそうだね?
 気にするな……と言っても無理だろうけど、こればかりは気にしてもしょうがない。
 美紗織は身体が弱いんだから、激しい運動は出来ない。これは仕方の無いことだ。』

「……………………」

美紗織はいつも元気な砂沙美を思い出す。
バイタリティーに溢れた彼女は、美紗織と違って体育が大好きだった。
快活に縦横無尽に駆け巡る砂沙美を、
校庭や体育館の脇でちょんと座り込んで寂しげに眺めるのが美紗織の日常だった。

(分かってる……私には無理だって、分かってる……でも……)

美紗織は手紙の続きに目を通す。

『でもね、いいかい美紗織?
 美紗織には運動が出来ない代わりに、他の子に出来ない何かが出来るはずなんだ。
 だから自分が他の子に出来ることが出来なくても、恥じる必要は無い。
 他に何か出来ることを見つけて、美紗織を悪く言った子を見返してやればいい。
 美紗織なら…………僕の娘なら、それが出来る子だと信じているよ。
                       美紗織のパパ、天野茂樹より』

「…………パパ…………」

パパは自分をいつでも心配してくれている。
美紗織にはそれが嬉しかったが、同時にパパが側に居ないことが恨めしかった。

(……会いたい……パパに会いたいよ……)

美紗織の目に涙が溜まり、零れ落ちそうになる。

……ふと、美紗織は手元の手紙の尺がまだ余っていることに気付く。
広げてみると、まだ何か書かれているようだ。
それに目を通してみる美紗織だが……。

「……ルーくんっ、パパがっ!」

そう言って振り返った美紗織のエメラルドグリーンの瞳は、
溜まった涙を吹き飛ばすほどの喜びに満ち溢れていた。

「ど、どうしたの? 何て書いてあったの?」
「見てっ!」

『追伸:
 来週の日曜日に海の星ホールで僕の演奏会があるんだ。
 良かったら、友達を誘って一緒に見に来てくれないか?』

友達を誘えと書かれていた通り、封筒にチケットは2枚入っていた。
「そ、それじゃあ……」
「パパに会えるのっ!」
「良かったね、美紗織!」
「うんっ!」

微笑んだ美紗織の目じりから僅かに水滴が落ちる。
先ほどの涙がこぼれたか、もしくは新たに湧き出た嬉し涙か。

(これなら砂沙美ちゃんと二人で行ける……。
 ありがとう、パパ! 私、絶対に見に行くよ!)

心の中で父親に感謝を述べる美紗織。
そして、砂沙美を誘うために受話器へ急行する。


『はい、萌田です……』
「あ、砂沙美ちゃん、今時間あるっ?」
『えっ、美紗織ちゃん?』
「うん!」
『えっと……今はヒマだけど、どうしたの?』
「うふふ、それがね……。
 今度の日曜日、パパが近くのホールで演奏会をやることになったんだって!」
『え、ホント?』
「うん、チケットも置いていってくれたんだよ!」
『良かったじゃない、美紗織ちゃん前からパパの演奏を見に行きたがってたもんね!』
「うん、それでね……実は、チケットは2枚あって……。
 砂沙美ちゃんも一緒にどうかなって思ったんだけど……」
『え、ホントっ!? 行く行く、絶対行くよ!』
「良かった! じゃあ今からチケットを届けに行ってもいい?」
『分かった、待ってるよ美紗織ちゃん!』
「うん、今すぐ行くから!」

美紗織はガチャンと勢いよく受話器を置くと、鍵をかけるのも忘れて家を飛び出していった。

残された留魅耶は鳥足で苦労しつつも鍵をかけたが、
美紗織は鍵を持っていくのも忘れていたため、後でまた苦労して開けることになってしまった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


砂沙美は美紗織の勢いに気圧されつつも、そろりと受話器を置いた。

「美紗織ちゃん、ウチに来るの?」
「うん。でも、どうせだから迎えに行こうかな。美紗織ちゃんが使う道は分かってるし」

そうと決めると、家を出て美紗織を迎えに行く砂沙美。
その足取りは軽い。

ここしばらくは少々あれこれと思い悩む日々が続いていたが、
嬉しそうな美紗織の声を聞いていたら、陰鬱な気持ちもスッキリしてしまった。

『砂沙美ちゃん、君はミサが美紗織ちゃんだって知った時、倒さなきゃって思った?』
『友達だから戦いたくない……そう思ったんじゃない?』
『だったら、それは美紗織ちゃんだってきっと同じだよ。だって、二人は友達なんだから!』

「……うん、うん……そうだよね! 美紗織ちゃんは砂沙美の友達、だから大丈夫!」
(やっぱり、正直に美紗織ちゃんに言おう。プリティサミーはあたしだって。
 それで、戦うのはやめよう、魔法少女としても仲良くしようって……そうお願いするんだ!)

そう、決意を固める砂沙美。
その時……。

「ひったくりよーーー! 誰か捕まえてーーー!」

見ると、婦人から高そうなバッグをひったくって逃げる男がこちらの方に向かってくる。

正義の魔法少女の出番だ!
砂沙美は魎皇鬼を引っ掴みつつ、裏通り脇のゴミ箱の裏に身を隠す。

「リョーちゃん、バトン!」
「いいけど……美紗織ちゃんの方はどうするの?」
「素早く変身してとっとと退治しちゃえば大丈夫だよ!
 美紗織ちゃんはいつもゆっくり来るから、まだ時間あると思うし」

砂沙美はバトンを受け取ると、即座に呪文を唱える。

「よし……プリティミューテーション! マジカルリコール!」

砂沙美は光に包まれてプリティサミーに変身すると、
ひったくりを退治するために表通りに飛び出していった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


美紗織は演奏会のチケットを胸元で抱え、砂沙美の家に向かって走っている。
これは大事なチケットなのだ、決して落としたり傷つけたりは出来ない。

急いで砂沙美のところまで行きたかった美紗織は、近道を使うことにする。
あまり人の通らない裏通りだ。


(砂沙美ちゃん……私は、砂沙美ちゃんが大好き……。
 いつも、いつまでも、砂沙美ちゃんと一緒にいたい……。

 だから、砂沙美ちゃんと居ても恥ずかしくない子になろうって、ずっと思ってた……。

 だけど本当の私は弱くて、ズルいから……。
 そんな私を知られちゃったから……。
 もう一緒には居られない……そう思った。

 でもね……パパのおかげで気付けたの。
 自分が出来ないことがあるなら、自分の出来ることで埋め合わせればいい。

 そう……私には、他の誰にも使えない力、魔法がある。
 だから、私はこの力を使ってみんなを助けてあげればいい!

 そうすれば、私は……砂沙美ちゃんの前でも、胸を張れる!)


どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのだろう。
魔法の力があれば、どんなに困っている人も助けることが出来る。
そして悪用でないならば、魔法を使うことを自粛する必要も無い。
(魔法の力で助けられる誰か……)

そのことで真っ先に美紗織の脳裏に浮かんだのは、留魅耶のことだった。
留魅耶は、このままジュライヘルムに帰れないと死んでしまうのだ。
彼にはいつも世話になっているし、何とかしてあげたいのだが……。
ジュライヘルムの場所すら知らない彼女には、どうすることもできない。

(でも、今よりもっと魔法の力を強くすることが出来ればもしかしたら……)

魔法は何でも出来るのだ、留魅耶を救う方法だってきっと何かあるに違いない。
魔法の力を強化する方法を考えてみる美紗織。

(そう言えば、前にルーくんがそんなことを言ってたような……なんだっけ……?)

「……あっ」

そろそろ裏通りを抜けるという辺りで、美紗織はゴミ箱の脇で屈んでいる砂沙美の姿を見つけた。

「―――まだ時間あると思うし」

砂沙美は何かをブツブツ言っていて、美紗織の存在には気づいていないようだ。
美紗織は、そんな砂沙美に声をかけようとする。

「砂沙美ちゃ―――」
「よし……プリティミューテーション! マジカルリコール!」

砂沙美は光に包まれてプリティサミーに変身すると、
ひったくりを退治するために表通りに飛び出していった。











183創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 18:11:58 ID:5Ce0PZff
むむ
引っかかっちゃった?
184創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 18:13:48 ID:5Ce0PZff
支援間に合わなかったか
ごめん><












後に残された美紗織は、呆然としていた。
目の前の現実が、いまいち理解できなかった。
数十秒の後……美紗織は、今見た事実を反芻する。

「そんな……砂沙美ちゃんが……プリティサミー……!?」

声に出してしまったことで、それが紛れも無い現実であることを、美紗織はやっと理性で理解した。
そして……その次にやってきたのは、その現実に対して巻き起こる感情であった。

「砂沙美ちゃんがプリティサミーだなんて……そんな……それじゃあ、あたしは……」

美紗織は、身を振るわせた。
そして、搾り出すように、その心中を吐露する。

「……………………ズルい……………………」

彼女の口をついて最初に出た言葉は、
後悔でも、安堵でもなく――――明確な、嫉妬だった。

「あたしには…………何も…………。
 …………魔法の力しか…………無いのに…………。
 それすら…………砂沙美ちゃんは持ってるんだ…………全部、持ってるんだ…………」

美紗織の振るえが増す。
ワナワナと、震える両腕が頭を抱える。

「…………ズルい…………ズルいよ…………っ。
 砂沙美ちゃんは何でも出来るのに…………。
 ママも……友達も……恋人も…………何だって持ってるのに…………。
 なのに…………どうして、魔法の力まで持ってるの…………?
 …………ズルい…………そんなのズルすぎるよっ!!」

いくらか時を費やすことで、やっと美紗織の震えは収まる。
そうして顔を上げた美紗織の紅い瞳には、歪んだ決意が浮かんでいた。

「…………負けられない…………。
 プリティサミーにだけは…………絶対にっ!!!」

美紗織が手にしていたチケットは、グシャグシャに握り潰されていた……。



                     〜 第七話へ続く 〜
186サミー書いてる人:2009/01/27(火) 19:19:48 ID:5Udqgo7o
おそまつさまでした。
冒頭のようなギャグシーンだったらあっという間に書きあがるんですが、
シリアスシーンはそうもいかないのでなかなか大変です。

それにしても未だに連投規制の仕組みがよく分かりません…。
何にしろ、迷惑にならないような投下を心がけたいです。
187創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 19:28:46 ID:5Ce0PZff
いや、おつかれさまでございました
こちらこそもうしわけない、よそ見してて支援できませんでした><

さるさん連投規制はスレ単位で、この板は10レスを超える投稿をするとひっかかって書けなくなります
制限のカウンタは毎時0分にリセットされるので、17時台に10レス分投稿し、
18時台に残り9レス分投稿したらひっかからなかったかもです
今回の場合、10レス目が丁度18時をまたいでしまったのが痛かったのかも

あいだにある程度他の人の書き込みが挟まってれば連投とみなされなくなるので、
スレであらかじめ分量と投稿時間を予告しておいて、支援を仰ぐのもひとつの手ですよー

あとは引っかかった場合の対処として、雑談スレ等に書き込んでレス代行を頼むとかですねえ
188創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 23:10:50 ID:wKeSoaPh
投下お疲れ様でした。

まだこのスレに来たばかりなので、全ては読めてないのですが
ゆっくり楽しませてもらおうと思いますー

ということで自分も投下。ヒャッハー!
189ゆゆるちゃん☆りたーんず 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/27(火) 23:11:39 ID:wKeSoaPh
 だらだらと延びたネット掲示板のログを遡る。それは放課後の教室に盗聴テープを仕込
んで翌日に聴くのと似ている。
 誹謗や中傷で溢れかえった書き込みのベクトルは、俺が初めて書いた短い小説へと向け
られていた。

 ため息をついて、目を閉じる。
 窓の外から聞えてくるのは、楽しそうな女子高生たちの笑い声だった。

 まあ、なんとはなしに作ってみて、それとなく書き込んでみただけなので、目くじらを
立てるほどでもないかもしれない。とは言え気分の良いものでもない。

 肩の力を抜いて、耳を澄ます。
 「かえしてーかえしてー」

 今度は聞き覚えのある声が近づいてきた。
 聞き覚えがあると言うか、昨晩聞いたばかりの気がしないでもない。

 「ゆゆるのーポシェットーかえしてー」

 声とともに軽快なスリッパの音がドップラー効果を生じさせながら遠ざかっていく。

 とりあえずモニタの電源だけ落としてから、そういえばタバコが切れそうだな。なんて
事を考えてみた。たまには健康の為に走って買いに行くのも良いかもしれない。
 ふと浮かんだ矛盾と疑問は指で弾き、踵の潰れた靴に足を突っ込んだ。



 路地を二つほど曲がると、女子高生達の前でゆゆるちゃんがぴょんぴょん跳ねていて、
頭のてっぺんで結わえた髪がそれに合わせてぴこぴこと上下していた。

「悪いんだけど、それ返してやってくれないかな」
「○△×! □□○△!」
「そう言うわけで、まあ」
「××○、□○△?」

 俺の脳は言語野が未発達らしく、彼女達の言葉を理解するのは難しかったが、とにかく
ポシェットは返してくれるそうなので有難く頂戴することにする。
 笑顔で手を振りながら去っていくそいつらを見送っていると、背後からぽんという音が
聞こえた。

「あいつらめー、ゆゆるを馬鹿にしてー」

 眠そうな声とは裏腹な台詞に振り返ると、ゆゆるちゃんは赤いノートに何かをぐりぐり
と書きながら、穏やかでない気迫を放っていた。
 『運命帳 3ねん2くみ こゆるぎ ゆゆる』と記されたそれをぱたんと閉じる。
190ゆゆるちゃん☆りたーんず 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/27(火) 23:12:33 ID:wKeSoaPh
「見てて、あいつら」

 そう言って遠ざかっていく女子高生を指差すものだから、ぼんやりそれを眺めていると、
まあ何ということもなく次の角を曲がって見えなくなってしまった。

「あれー、おかしいなー。あれー?」

 ゆゆるちゃんは魔女なので、このノートもきっと只ならぬ物に違いない。名前から察す
るに人の運命でも変えてしまうのではないだろうか。
 呆けてお留守になっている手から、それをひょいと取り上げ、ぱらぱらとめくってみる
と、最後のページにはダイナミックな文字で「ころぶ」と書かれていた。

「かえしてーかえしてー」
「こんなことをしたらダメじゃないか」
「うっ!」

 声に目を向けると、飛び損ねて転んだゆゆるちゃんがうずくまっていた。
 驚いて脇を抱え起こしてやると、ぐずぐずと泣きべそをかき始める。

「だって、だってあいつら……」
「泣かない泣かない。あの人たちも悪い人じゃないんだよ」
「そう?」
「だってほら、返してくれただろう?」

 運命帳とポシェットを手渡して頭をぐるぐる撫でてやると、頭のてっぺんで結わいた髪
がプロペラみたいに回っていた。
 面白いので多めに撫でてやる。

「ありがとう」
「お礼が言えるのは良い子の証拠だな」
「もう408歳なんだけどね」
「そうか、そりゃ大変だな」

 まあ、別にどうでも良いことなので、あえて触れることもないだろう。

「うん、それじゃあ帰るよ。みみずにおしっこかけたらだめだよ」
「ああ、気をつけるよ」

 ゆゆるちゃんはそう言って鼻をすすりながら何処へともなく歩いていった。
 あのスリッパの音を響かせて。



 家に着いた俺は、まずパソコンのモニタに電源を入れた。
 画面を上まで戻し、心無いとも思えたそれを、自分の小説に対する正直な感想として読
み直す事にした。

 そうそう。これでいいんだよな、ゆゆるちゃん。



おわり
191創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 23:13:13 ID:wKeSoaPh
ではでは、これにて。
また何か浮かんだら投下しにきますね。
192創る名無しに見る名無し:2009/01/27(火) 23:18:52 ID:ViSD8u4A
ゆゆるちゃんktkr
乙乙☆ 是非是非また♪
193ゆゆるちゃん☆ぐらびてぃ 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/29(木) 21:02:00 ID:TW/MXUDH
 体育館みたいなつるつるした床がずっと広がっていて、先は白んでよく見えない。
 じゃあ、と思って上を見ると、巨大なイワシが群れをなして優雅に泳いでいた。何であ
んなに大きなイワシが飛んでいるのか首を傾げていると、背中でぽんと音がした。

 振り返るとゆゆるちゃんが立っていて、いつもの汚い布ではなく真っ赤なふわふわした
ドレスを着ている。それはなんだかとても似合っていない。

「こんにちは、ゆゆる遊びにきたよ」

 ゆゆるちゃんは基本的に常時呆けた顔をしているのだが、今日はどうも顔つきが違う。
 はてはてと見回してみると、どうやら口紅を塗っているのが原因らしい。

「やあ、ゆゆるちゃん。今日はずいぶんお洒落だね」
「うん」

 ゆゆるちゃんは魔法使いなので、こんなところにいること自体は変ではないし、どちら
かというと俺の部屋なんかよりもこっちの方が似合っている。

「ゆゆるとおどらない?」
「何? 踊るの?」

 最近の俺と言えば何だか分からない事態に陥っても、まあ別にいいやなんて思えるよう
になっているのだが、踊ると言われるとさすがに躊躇してしまう。
 唸りつつシュールな光景に目線を戻すと、不思議な事に沢山の人影が俺達の周りを埋め
尽くしていた。

 いつから聞えていたのか三拍子のワルツに合わせて、緩急をつけながら揺れ動く人影。
 気づけば両手をゆゆるちゃんに掴まれていた。

「飛んだり跳ねたりしようよ、ジャンプ」
「ええ? ジャンプするのかい?」
「楽しいよ」
「うーん、そうか。楽しいならやってみよう」

 まあ仕方ないと諦めて膝を折る。身長差があるのでちょうどゆゆるちゃんと見合う形に
なるわけだが、思った以上に顔が近かったので、驚いて後ろにバランスを崩す。
 それでも手を離さないもんだから、倒れ掛かってきたゆゆるちゃんのささやかな体重を
受け止めた俺はごろりと仰向けになってしまった。

「あははー、たおれたー」

 笑い声は耳から聞える音ではなく、胸から伝わる振動として伝わってくる。
 俺もいつか結婚して子供ができたら、こういう心地よさを得られるのだろうか?

 と、まあそれは自分自身に対する、胸に沸き起こってしまったヘンテコな感情を抑える
ための言い訳かもしれない。

「ゆゆる、楽しいな」
「そうかい? それは良かった」

 俺にまたがったまま起き上がったゆゆるちゃんの頭に、おかしなものがくっついてた。
 いつもは短めに結わえた髪の毛があるはずの場所に、小さな木が生えているのだ。
 とは言っても、それ越しに見える空にはやっぱりまだイワシが飛んでいて、まあそれぐ
らいは別にいいか、と開き直ってみる。

 周りの人影は何時の間にか居なくなっていて、冷たくて堅い床の上で寝そべりながら、
俺はずっとイワシの大群を見ていた。
194ゆゆるちゃん☆ぐらびてぃ 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/29(木) 21:03:22 ID:TW/MXUDH
 ゆゆるちゃんの頭の木がどんどん伸びて枝葉を広げ、やがて果物を実らせた。

 これにはさすがの俺も一言コメントせざるを得ない。

「ゆゆるちゃん。頭のそれ、何だい?」
「頭の木」
「ほう」

 なんとなく予想はしていたが、それ以上聞くのは面倒になってしまったので「頭の木」
という俺の知らないものがあるんだな、と納得してみた。なんだかとても眠い。

「あ」

 そう聞こえたのだが、瞼が重くて持ち上がらない。

「もー、なんでー、なんでー」

 薄ぼんやりした視界の中で、紅いドレスをごそごそしているゆゆるちゃんが見えた。
 頭の中では、ぽこぽこと音が響いている。



 再び目を開けると、そこは俺の部屋だった。
 徐々にくっきりしていく意識の先に見えたのは、変な黄色い棒で床をぽこぽこ殴ってい
るゆゆるちゃんの姿だった。いつもの茶色い布を纏っているので少しだけ安心する。

「なんでー、なんでこわれちゃうのー、いいところだったのにー」

 黄色い棒の先にはタコみたいな赤いものがくっついていて、それが床とぶつかるたびに
ぽこんぽこんと音を立てている。
 ゆゆるちゃんは魔女なので、きっとこの黄色い棒も只ならぬものに違いない。違いない
とは思うのだが、まあどうでもいいという気もする。

「わ、起きてた」

 俺に気づいたゆゆるちゃんは、珍しく困ったような顔をしていた。下がった眉と揃った
前髪、結わえた髪の毛が、ちょうど漢字の「六」みたいだった。

「いつから起きてたの?」
「今起きたところだよ」

 ゆゆるちゃんが棒を背中へ隠すのが見えた。頭のてっぺんで結わえた髪がぴんと立って
いる。

「じゃ、じゃあ今日は帰るよ。夜に爪を切ったらだめだよ」
「またいつでも来ていいよ」
「ほんとう?」
「ああ」

 振り返った後姿には、やはり黄色い棒が握られていた。
 玄関の外で、スリッパの音が遠ざかっていく。



 そろそろ俺もちゃんと考えねばならないのだろうか。ゆゆるちゃんが何者なのか。

 でも、なんかそれも面倒だよね。
195創る名無しに見る名無し:2009/01/29(木) 21:04:53 ID:TW/MXUDH
なんか思いついたら書こうって、なんだこれ。

たった一言でもモチベーションはかなり上がるものですよね。ありがとう。
196創る名無しに見る名無し:2009/01/29(木) 22:24:59 ID:d6C5dd3E
ゆゆるちゃんキタ!俺歓喜!!
てか語り手もそーとーズレてるのねww
そして「六」wwwwwwwww
197創る名無しに見る名無し:2009/01/30(金) 00:16:49 ID:YheKGlrK
六wwww想像できるww
198ゆゆるちゃん☆ばとるあらいぶ 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/30(金) 20:47:08 ID:DhdBDTAj
 電車のつり革に体重を掛けながら、俺は大変な事を考えていた。今日は教室の後ろの方
に座っていたので、前に居ると気づかない事を発見したのだ。
 それは生徒の半数がペン回しをしているという事実である。

 窓の外に目をやる。なんとものどかな住宅街がずるずると流れていく。

 さて、そのペン回しを例えば発電などに使ってみるとどうだろう。そいつらはほとんど
無意識な訳で、回転エネルギーをうまく伝導させて蓄電すれば、こいつは素晴らしい発明
になりえるのではないだろうか。

 改札をくぐる。俺のアパートまでは歩いて5分。

 と、ここまで考えた挙句、心の中で呟いていても誰も突っ込んではくれないので、今日
のクリエイティブタイムは終了とする。明日は休みなので、さて何をしようかな、なんて
歩いていると、ぺたぺたとスリッパで走る音が近づいてきた。

「あ、いた!」

 ゆゆるちゃんとは不思議なもので、存在を確認したときに最初に目が行ってしまうのは、
頭のてっぺんで結わえた髪なのである。
 どこから走ってきたのか、結わえた髪を揺らしながら目には涙を浮かばせていた。

「ゆゆるの事キライになって、引っ越したのかと思って……」
「いやいや、大学に行ってただけだよ」

 俺が世界を救うかもしれない発明を考えていたときに、ゆゆるちゃんの頭の中では一体
どんなドラマが展開されていたのかは知る由もないのだが、とりあえずコンビニでも行っ
て何かを買ってやることにした。

「ゆゆるちゃん、何でも好きなものを一つ選んでいいよ」
「ほんとうに?」

 結局どうして俺を探していたのかは闇の中だが、笑顔は戻ったようで胸をなでおろし、
夜用の弁当を選んでいると、ゆゆるちゃんがシーチキンの缶詰をもって戻ってきた。

「ゆゆる、これすごい好きなの」

 俺はそんなゆゆるちゃんに突っ込むほどの度量は持ち合わせていないし、まあ誰にでも
好き嫌いはあるだろうからシーチキンでも別にいいのである。

「今日はこれからうちに遊びにくるかい?」
「うん」
「じゃあなにか遊べるもの買って帰ろうか」

 簡素なおもちゃが並べられて一角に来たものの、一体ゆゆるちゃんと何をして遊べば良
いのか見当もつかない。

「何もなくてもいいよ?」

 初々しいカップルのような会話に多少の疑問を抱きつつも会計を済ませ、コンビニ袋と
スリッパの音が混ざったガサペタ音を聞きながら歩いていると、後ろから野太い声が聞こ
えてきた。

「君達。ちょっと待ちなさい」

 おっさん警察官だ。
 そいつは俺をじろりと一瞥した後、ゆゆるちゃんの前にかがみ込んだ。
199ゆゆるちゃん☆ばとるあらいぶ 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/01/30(金) 20:48:47 ID:DhdBDTAj
「お嬢ちゃん、年はいくつなの?」
「410歳」
「とてもそんな風には見えないね。……おい君、何をニヤニヤしているんだ」

 そりゃあんたの突っ込みどころがおかしいからだ、とは言えずにため息で答える。
 それより俺はゆゆるちゃんの年齢が二つほど上がっていることが気になって仕方ない。

「ご家族の方ですかな?」
「いえ、多分近所の子かなんかです」

 おっさん警察官の顔が曇った。

「いったん交番まで来たまえ」

 ゆゆるちゃんの手を引っ張るおっさん警察官を見て、ああ、これは返答を間違えたかな、
なんて思っていると、ゆゆるちゃんが警察官に平手打ちを食らわした。ぱちんという音が
響く。ゆゆるちゃんも落ち着けと言いたいところだが、横暴な警察官だから良しとした。

「もー、ゆゆる怒った!」

 ごそごそとポシェットを漁った挙句、出てきたものは今朝見たばかりの黄色い棒だった。
俺はその存在は知ってはいたが、何なのかは知らないのでとりあえず期待をしてみる。

 ゆゆるちゃんが黄色い棒の先についているタコみたいな部分を地面にぽこぽこと打ち付
けると、なにやら口から紫色の煙がぷすーと出てきた。

「あ、なおった」

 これで正常なのかと不安を感じる間もなく、ゆゆるちゃんはその煙を警察官へと向ける。

「こら! 何を……す……」

 驚いた事におっさん警察官はその場にふらりと倒れこみ眠ってしまったのだ。その表情
は次第に苦悶の表情へと変わっていく。
 さすがの俺でも、こうなってしまうとその棒が何かを聞きださずにはいられない。

「ゆゆるちゃん、その棒は一体なんだい?」
「たこぼう」

 予感はしていたが、やっぱりどうでもいいのかもしれない。そんな感じだし。

「いまね、懲らしめてるからね」

 おっさん警察官は次第に脂汗をかきながら、うめき声を出し始めた。
 彼の中では何が起きているのか、考えてみると何やら恐ろしいことばかりが思い浮かん
で、ゆゆるちゃんが怖い人になってしまいそうなので、放っておくことにする。

 ただ、それとは別に気にかかることがあったので、もう一つ質問してみた。

「ゆゆるちゃん、本当の歳はいくつなの?」
「400歳ぐらい」

 なんとも。歳と見た目はどうあれ、俺と気が合いそうなのは間違いない。
 今日はスリッパの音は遠ざからずに、俺のすぐ横でぺたぺたと音を立てている。

 おっさん警察官はあのままでいいのだろうか。



おわり
200創る名無しに見る名無し:2009/01/30(金) 20:51:34 ID:DhdBDTAj
とりあえず投下。
いや、もう自分でも話がどうなるのか全然わからないです。
201創る名無しに見る名無し:2009/01/30(金) 21:55:38 ID:uXtpVw7a
ゆゆるちゃんユル怖ええwwww
たこぼう…字ヅラの割りにきょーあくだなwwwww
作者にすら先が読めないのであればいわんや読者をやwww
日本語崩壊するほどの怪作いつもいつもGJ&乙です♪
202創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 02:17:27 ID:Bn+bzMNF
どうやらエスパー魔美は少女誌に書かれた作品らしい。
http://homepage3.nifty.com/mahdes/manga1d.htm
203創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 07:16:22 ID:yUKsvX30
エスパー魔美にもいたけど、魔女ものにペットみたいのが出てくるのが多いのは何でなんだろう。
204創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 13:35:54 ID:rlpOd/NB
魔女に使い魔がつきものだからだべさ
205創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 13:45:34 ID:dL2owGgd
脚本的な話をするなら、日常と非日常(魔法)の橋渡しをする存在が必要だから
206創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 13:51:11 ID:yUKsvX30
おお、なんか深いのね、、侮りがたし。
可愛さで目を引こうっていう魂胆なのかと思ってたよ、、、
 俺とゆゆるちゃんが二人で過ごす時間というのは、実にその八割ほどが無言の時間なの
だが、これは自然な流れというか摂理なのであって、全く気を使う必要が無い。

 部屋は西日でうっすらと染まり、テレビアニメの賑やかなオープニングが流れ出した。
 音の切れ間にはゆゆるちゃんの鼻息がぴーぴー音を立てているのが聞こえる。

 夕暮れ時というのは中々に切ない時間だな、なんて思えるのはやはり幼少の時からそれ
が友達とのお別れの合図だったからであろう。

 俺の目の前では、ゆゆるちゃんの頭のてっぺんで結わえた髪がゆらゆらと揺れていた。
 テレビ画面が暗転するたびに、呆けた顔が映し出される。

「ゆゆるちゃん、そろそろ帰らないとお家の人が心配するよ」
「えー、もう?」

 ゆゆるちゃんは魔女なので、門限があるのかと聞かれるといささかの疑問を感じ得ない
のだが、見た目は小学生ほどなのでとりあえずそう言っておくのが大人の対処なのである。

「おねえちゃんに聞いてみる」
「お姉さんがいるのかい?」
「いるよ?」
「へえ、じゃあ俺も挨拶しないとな」

 ゆゆるちゃんがおもむろに手をゆらゆらとさせると、ぽんという音とともにスプレーの
ようなものが現れた。
 それが姉なのか、と一瞬疑問がよぎるが、もちろんそんなことは無かったようで一安心。
 ゆゆるちゃんと一緒にいると想像力がたくましくなってしまうのだ。

「えーと」

 スプレーについているボタンをぽすぽす押し、目の前にしゅーっと吹き広げる。
 水色の霧がひらひらと漂い、ああ、これはいよいよ魔女らしいぞ、などと思っていると、
霧の中にぼんやり映し出されたのは、これもまたゆゆるちゃんなのであった。

「ゆゆるのあねです」

 俺はとりあえず目を閉じて、頭の中のレバーで複雑なコマンドを入力し、クエスチョン
マークを封印することに成功した。

「あ、初めまして。ゆゆるちゃんにはいつもお世話になってます」
「ゆゆるはげんきですか」

 聞かれてみると、ゆゆるちゃんは元気かどうか判断するのが非常に難しい顔をしており、
これには即答しかねるので眉を寄せてみた。
「おねえちゃん。もう帰らないとだめ?」
「ゆゆる。あなたはどうして人間界に行ったのか忘れたのですか」

 俺はその理由が何か、ということよりも理由があったこと自体に驚きを隠せなかった。

「えー、そんなのあったっけ」

 しかし、それはゆゆるちゃんも同じらしい。

「しっかり仕事を終えるまで、おうちに帰ってはいけません。ところでそこの方」
「あ、はい」
「ゆゆるの事、よろしくお願いします」
「はい?」

 先ほど封印したはずのクエスチョンマークが鎖をがたがたと揺らしている。危険だ。
 そんなささやかな不安をよそに、ゆゆるちゃんは歓喜に満ちた顔をこちらへ向ける。

「よろしくだって!」
「いや、よろしくってどういう事ですか。ちょっと、お姉さん」
「ゆゆるのあねです」

 突っ込む間もなく、お姉さんは水色の霧とともにはらはらと消えていった。どうやらこ
のスプレー式映像電話のようなものは時間制限があるらしい。

 ゆゆるちゃんは魔女なので色々な不思議道具を持っているのだが、運命帳にせよ蛸棒に
せよ現代科学では計り知れない性能を持っている反面、どことなくアナログな部分を残して
おり、なんだかとても暖かい雰囲気がある。

「でもゆゆるちゃん。今まではどこに帰ってたの?」

「おつきさま」

 そしてそれは、ゆゆるちゃん自身にも言える事だな、と思う。

「おせわになります」

 正座しておでこを床につけたゆゆるちゃんの頭では、結わえた髪も一緒にお辞儀をして
いた。頭のクエスチョンマークは封印を破ったかと思うと、ひらひらと大空へ舞い上がって
いった。

「ま、いいか」

 さてさて、ともかく俺はこうしてゆゆるちゃんと狭いアパートで暮らす事になったのだ
が、ちょっと考えただけでも色々問題がありそうな気がする。
 とはいってもゆゆるちゃんは自称400歳ぐらいの魔女なのであって、そこのところは
何かしら上手くいく仕組みになっているのだろう。

「シーチキンどこー」

 これから一体どういう運命が待ち構えているのだろうか? という部分だけ言葉にして
みて、まあどうせ分からないんだし面倒なのでどうにでもなればいいや、と締めくくる俺
であった。



おわり
209創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 20:55:10 ID:yUKsvX30
5話目投下おわりです。

なんか分かりませんが意外と話がつづくものですね。
だらだらするのもなんなので、話にレールを引いてみた次第。

自分はあまりキャラを立てるのが上手くないので、あまり増えませんが
ペットは出してみようかなーと思います。
210ゆゆるちゃん☆くりーんなっぷ 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/01(日) 21:22:57 ID:NwIFNtdK
 ゆゆるちゃんの表情変化というのは実に微妙で、ごく僅かな眉の上下や口の開き具合、
または声色による気迫などでしかそれを判断できない。
 さらに加えるとその僅かな変化でさえ、綺麗に切揃った前髪の補助線効果により、おお
むね無表情に修正されてしまうのだ。

 ゆゆるちゃんがシーチキンの缶詰をぱきゅると開き、そのまま指でつまんで食べ始める。
 嚥下しては指を舐め、またつまむ。

 そういえば、面倒を見るといっても一番に心配なのは食費のことであり、親からの微量
な仕送りと、少ないアルバイト料の上でこれがやり繰りできるのかというと、これは全く
不可能であり、由々しき一大事なのである。

 俺はソースのすっかり染み込んだ厚い衣のトンカツを口に入れた。
 ぎゅっと噛み締めると、身体に悪そうな油がじわりと広がる。

 一大事なのではあるが、ゆゆるちゃんによると「魔女だからおなかすかない」というこ
となので、理由はともかく俺は弁当をたいらげた後、もう一つの問題を片付ける事にした。

 ゆゆるちゃんは、なんだかとても臭いのである。

「ゆゆるちゃん、お風呂入ろうか」
「4年ぐらい前にはいったよ?」

 ゆゆるちゃんは魔女なのだが、4年分の汚れというとこれはもう想像を絶するもので、
お食事中の方やロマンチックなカップルの為にあえて形容しないのが紳士のたしなみだ。

 一通りシャワーの使い方を教えてやり、服は自分で洗濯機に入れるように教えてやる。

「あれ、いっしょじゃないの?」
「一緒じゃないよ」

 どうもシャワーを使うのは始めてらしく、曇ったガラスの向こうでは裸の少女が白い蛇
に襲われているようなB級スペクタクルが展開されていた。
 稀に光を放ったり、ぽんぽんという音が聞こえてくるのだが、気にせず洗濯機を回す。

 そして茶色いマントは実は純白のマントだったという驚愕の事実が、そこにあった。

 裸で出てきそうになるゆゆるちゃんを制止し、スウェットを渡す。さすがにでかいので
パンツだけで胸までカバーできてしまう優れものだ。

「シャワーたのしかった」
「毎日入るんだよ」
「それはちょっと」

 頭のてっぺんで結わいた髪の毛は解いていないらしく、頭をバスタオルでごしごしして
やるとばたばたと暴れだし、スプリンクラーのように水を飛ばし始めた。
 面白いのでやはり多めにごしごししてやる。

 仕上げにトレーナーを上からすっぽりとかぶせると、清潔な魔法少女が今ここに現れた。
 ゆゆるちゃんはそのスタイルを大層気に入ったらしい。

「ずっとこれでもいいよ?」
「そういう訳にもいかないんだよなあ……」

 魔女ファッションもしくはだらだらのスウェット姿で生活させるのはどうかと思うので、
そこは保護者としてなんとかせざるを得ない。
「あ、まじょりんまじょりん始まってる」
「見終わったら歯を磨くんだよ」

 まじょりんまじょりん。というのはアニメのタイトルであり、カラフルなちびっ子魔女
たちが、見るからに悪そうな敵をやっつける痛快番組である。

「ルビーとエメラルドがたたかってる! どうしてこんなことに!」

 ほかほかと湯気をあげながら叫ぶゆゆるちゃんをよそに、押入れから小さなちゃぶ台を
出して、空いてる角に置いてみた。
 それからくたくたになったクッションと何故買ったのか思い出せないキノコ型ランプを
セットし、俺はその一角を「ゆゆるゾーン」と命名した。

 うむ。なにやら一番楽しんでるのは俺自身なのかもしれないぞ。

「かがみ仮面は強敵だった」

 そんな一言コメントを聞き流し、湯冷めしてしまうとお姉さんに怒られてしまいそうな
ので、歯を磨かせてから今日は寝る事にした。
 ゆゆるちゃんはベッドで俺は床。まあこれもそのうちなんとかせねばなるまい。

 真っ暗になった部屋。徐々に月明かりが部屋を青く照らす。

「ゆゆるちゃん、明日は洋服買いに行こうな」
「ゆゆるのふく?」

 湿気を帯びた壁が、声をゆるやかに吸収する。

「そうだよ、一緒に選ぼう」
「うん……」

 俺の胸のあたりには、ゆゆるちゃんの頭の上で結わえた髪の毛が影を落としていた。

 すんすんと鼻をすする音。それは次第に大きさを増し、やがて嗚咽へと変わっていた。

「ゆゆるちゃん?」
「ひー、うっぐうっぐ」

 一瞬何かと思ったが、どうも泣いているらしい。ホームシックだろうか。
 さてこれはどうしたものか、と考えるより先に、俺はゆゆるちゃんの頭を撫でていた。

 これは母性本能なのか、なんなのか。
 そんな疑問もすぐに掻き消える。この消え方は恐らく正しい。

「ごんだごどざれだら、びゅびゅるおがえじでぎだいびょー」

 ゆゆるちゃんは魔女なので、俺のような凡人には理解できない言葉を話すこともあるの
だろう。ただもう何を言っているのかさっぱりなので、とりあえず結わえた髪を撫で続け
てやることにする。

「おびーぢゃんびゅびゅるざびじいどじっでるどにー」

 しばらくそんなような呪文を口走り続けたあと、何分経ったかは分からないが、ようやく
ゆゆるちゃんの鼻息がぴーぴーと音を立て始める。
 なんだか俺もそれほど悪い人間じゃないんだなー、と眠りに付く次第であった。



おわり
212創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 21:27:45 ID:NwIFNtdK
6話めおわりですです

レスがつかなくてもゆるさ全快でお届けしちゃうのがゆゆるジャスティス。
とりあえず10話ほどで完結するめどをつけましたので、和んでいただければこれ幸い。
213創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 21:56:35 ID:PA5EhW7d
ゆゆるちゃんきてたwこの雰囲気は癒されるなぁ

それにしても…このスレももう少し人いればなぁ
214創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 21:59:48 ID:NwIFNtdK
人がいないのかなーと盛り上げにやってきた部分もあるのですが、
止めを刺さなければいいんだけど、、、

だめだめ! ネガティブになっちゃだめ! 投下してageる!
ゆゆるジャスティス!
215創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 22:09:32 ID:JUJT6FVR
某所でお勧めされて一気に読んだ
魔女の秘密道具が謎すぎるwww
216創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 22:49:36 ID:NwIFNtdK
うう、誰かにお勧めされて読みに来てくれる人がいるなんて、こんなに嬉しい事はない。
魔法道具をもっと登場させてみようかな。とアドバイスとして受け止めてみました。

それではおやすみなさい。
217創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 23:51:10 ID:4vi88Zrq
以前、別のとあるスレで投稿していたことがあるんですけど
そのスレがすっかり消えちゃって、まとめサイトもまるで機能していない
なのでここで再スタートしてもいいですか?
その以前、投稿していた作品の内容は簡単に言うならいわゆるプリキュアとかセラムンとか
戦う変身ヒロインものなんですが。
218創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 00:19:12 ID:GUVQmnKY
>>217
俺に決める権限があるわけじゃないですが、
他に該当するスレが見当たらない感じなので良いんじゃないでしょうか
219創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 00:21:02 ID:GUVQmnKY
追い払いたいワケじゃないですけど、こちらのスレでもいいかもしれません
どうぞお好きなほうで投下してみてください

二次創作総合
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219908735/
220創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 00:53:52 ID:P8ifd9em
すみません、説明不足でした。
一応、二次創作ではなくオリジナル物なんです。
221創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 07:24:15 ID:H1NKEXc7
>>217
全然おっけーではないでしょうかー
楽しみにしておりますっ
222創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 20:04:39 ID:OcJprmsA
>>217
大丈夫だよ、戦う変身ヒロインだって魔女っ子ものには
違いないし。それに別スレ立てたりしてもスレというより
この板の人口があまり多いわけじゃないから分散しちゃうしね。
なんにせよ、新しい人が来るのはいいことだ
223創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 21:25:57 ID:t3cZi6G6
おお、書き手さんが増えてらっしゃる……
サミーの方もいるし、盛り上がってくれるとよいですよね。

そうそう、サミーCB 全部読みましたよー、なかなか読み応えがあってじっくり楽しめました。
原作はアニメも何もしらないのですが、続きも楽しみにしておりますです。


ゆゆるちゃん7話目を22:00ぐらいから投下予定です。
224創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 21:29:52 ID:kqtsGIEz
ゆゆる期待
225ゆゆるちゃん☆ぷらいすれす 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/02(月) 21:58:43 ID:t3cZi6G6
「ねーねー、ゆゆる寝言してなかった?」

 俺はゆゆるちゃんのそんな台詞とともに揺すり起こされていた。
 寒い。さすがに毛布一枚で床に寝るのは身体にこたえる。

「ゆゆるすぐ寝言しちゃうんだよねー」
「うーん、何? 寝言?」

 まだ意識もはっきりしていないところへ、やたら寝言だ寝言だと連呼するものだから、
これはもう昨日の意味不明の呪文のようなアレのことを指しているのだと直感する。

 ゆゆるちゃんは自称400歳ぐらいの魔女なのでかなり年上という事になり、また年上
なのだから気を使ってやるのが年下の努めであり、決してホームシックで泣いてしまった
と言う事はないのである。

「あーんもう、ゆゆるったらはずかしい。寝言なんて」

 艶っぽくそう言うと、腰をぷりぷりと揺らしながら手で顔を覆うのだが、明らかに俺の
様子を伺っているのは間違いない。時計はコチコチと9時あたりを指差していた。

「お店が開くまでまだ時間ががあるから、準備しようね」
「はーい」

 何か後ろめたいことがあると素直になってしまうのは、魔女も一緒のようである。
 
 さてさて、昨日洗濯して干しておいたゆゆるちゃんの服なのだが、予想外に白くなって
しまったマントの他に、つるつるしたノースリーブの黒いブラウスと、ぶわぶわとした茶
色と白のかぼちゃパンツ。あとは彼女のプライドの為にはばかっておくべきものが数点あ
るわけである。

「ゆゆるちゃん。乾いたからこっちを着ていこうか」

 マントをつけた少女というのは中々浮いてしまうところがあるので、とりあえずそれ以
外を着せてからジャンバーを被せる。これならもうその辺を走り回っていてもおかしくない。

「ちょっとくさいよ?」

 こみあがるものをぐっと堪え、朝食はその辺ですませればいいか、と部屋をあとにした。

 電線にとまった小鳥のさえずりにあわせて、ぺたぺたとスリッパの音が響く。

 駅の逆側は発展途上の開発地区で、その中にはぽつんとショッピングセンターが建って
いるのだ。
 歩きながら、ふと思いついたことを尋ねてみる。

「ゆゆるちゃんのスリッパも、魔法の道具なの?」
「そうだよ。そらとぶスリッパー」
「空飛ぶスリッパ?」
「のばすんだよ。パーって」

 核心とずれた部分を突っ込まれつつ、早速その不思議効果を見せてもらうことにした。
 ゆゆるちゃんが足を止め両手を広げる。これは期待せざるを得ない。

「とべー」

 ふわ、ふわりとゆゆるちゃんの身体が浮き始めた。これはすごい、本当に魔女みたいだ。
いや、ゆゆるちゃんは魔女なので当然なのだ。当然なのだがすごいぞ、ゆゆるちゃん。
 そうこうしているうちに、どんどん上昇するゆゆるちゃんが小さくなっていくので、心
配になった俺が大声で呼びかけると、これまた非常にゆっくりした速度で下降してきた。
226ゆゆるちゃん☆ぷらいすれす 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/02(月) 21:59:51 ID:t3cZi6G6
 とん、と地面に降り立つゆゆるちゃんの表情は、微妙なしたり顔である。

「すごいでしょ」
「え、上だけなの?」

 きょとんと口を半開きにするその表情に対し、俺はあまりにも無力だった。

「よこにもとんだらべんりなのだけど、ゆゆるはへいきだよ」
「横に飛んだらこんなに歩かなくていいもんな」
「あ、まって! ゆゆるかんがえついた!」

 何を思いついたのか分からないが、言われるとおりゆゆるちゃんを抱きかかえ、身体を
横向きにしてやる。なるほど、横に向けば横に飛ぶのかもしれない。

「とべー」

 不安定ながらもゆゆるちゃんの身体が水平に浮かび、進み始める。
 心の中で感嘆の声を上げてみたものの、俺の手を離れたとたん、ゆゆるちゃんの身体は
ゆるい二次曲線を描いて結局上へ飛んでいってしまった。

「上に飛ぶだけでも十分すごいよ」
「そう?」

 群れをなして飛ぶ小鳥のさえずりにあわせて、ぺたぺたとスリッパの音が響く。

 子供服売り場に到着したゆゆるちゃんは目をキラキラと輝かせ、色々な服を引っ張った
り試着したりと、実に楽しそうであった。
 一緒に選ぶなんて言ったものの、やはり自分で好きなものを選ぶのが一番であろうと、
財布の心配をしながらレジを済ませる。

 色とりどりの安っぽい服。それを沢山詰めた袋を抱きしめるゆゆるちゃん。
 そう、これぞプライスレスなのだ。

「ゆゆるちゃん。ちょっとお金おろしてくるからこの辺を離れちゃだめだよ」
「うん、ありがとう」

 ゆゆるちゃんは魔女なので食事はとらなくてもよいらしく、稀に食べるシーチキンも本
人曰く「趣味」とのことだった。
 食費がかからないのは誠に助かるのだが、何かと計画的にやらないといけないのが世知
辛い現代のルールであって、俺はめったにしない通帳記帳などをしてみる。
 と、最後の行に見慣れない名前で振込みがされているのに気づいた。

 ユユルノアネテテス ¥6000

 お姉さんもなかなかに妹想いのようである。



 こうして無事に買い物を終えたものの、日はまだ高いので近くの公園にでも行ってみよ
うか、などと計画を立ててみた。
 ゆゆるちゃんと一緒にいると、なんだかゆっくりしたいな、のんびりしたいな、なんて
急に歳でもとったような気分になるのだ。

 俺はそれを「ゆゆリープ現象」と名付けることにした。



おわり
227創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 22:01:45 ID:t3cZi6G6
ということで7話目おわりです。
がんばれ俺
228創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 22:13:55 ID:kqtsGIEz
ゆゆるちゃんよりも誰よりも主人公が変だw
229217:2009/02/02(月) 23:07:14 ID:P8ifd9em
>>218-219>>221-222
ありがとうございます。とりあえず、当時のまま投稿というのも
どうかと思いますので、ただいま書き直ししてます。
まあ、文章力は大したものではないんですが…w
気長にお待ちいただければこれ幸い。
230創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 18:30:30 ID:nd56y5kx
>>227
ゆゆるちゃんがあと3話だなんて…冗談だろ…?…
そうさ、一期が終わりって意味で、第二期からは
ゆゆるちゃんのライバルでしっかり者のきりりちゃん登場! とか
主人公の幼馴染みのなじみちゃん(童顔幼女体型)は実はゆゆるちゃんと同じ魔女っ娘だった!? とか

そんな超展開になるんだ…そうに違いない…
231 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/03(火) 21:07:29 ID:FCU5K0Yr
>>227! おまえの愛のこもったレスッ! ぼくは敬意を表するッ!

22:00ぐらいから投下予定ですです。
「第8話 ゆゆるちゃんときりりちゃん」
232創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 21:20:22 ID:FCU5K0Yr
やだわたしったら、アンカーミスだなんて!
上のはもちろん230様へ心を込めて。
233ゆゆるちゃんときりりちゃん 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/03(火) 22:00:47 ID:FCU5K0Yr
 この「アンダーソンの森」というのは、なだらかな山を丸ごと公園と称して運営されて
いる、市民憩いの森ということだ。
 大変に鬱蒼としており、カラスがぎゃあぎゃあ鳴いたりして非常に不気味なのだが、稀
に開けた場所へ出ると富士山が見えたりして、ちょっとした安堵を楽しむことができる。

「見晴らしがいいからこの辺で休もう」

 腐りかけてそうな木のテーブルベンチに腰掛けると、待ってましたとばかりに買い物袋
を漁りだし、服を広げては「ゆゆるがこれをえらんだのはね」などと熱く語り始める。
 俺はその半分ほどを聞き流し、冷たい風の中に時折感じる暖かな日差しを満喫していた。

「ねー、ちゃんときいてる?」

 体中の血液が胃の中に流し込んであったラーメンと戦っている。要するに、眠い。

「とくにこれがおすすめ、星のキラキラがね――」

 酷く断片的に聞えていた声。それはいつからか不思議な唄へと変わっていた。
 わらべ唄のようなそれは、眠気のせいでほとんど意味が分からないのだが「かくれて、
あそんで、ながされて」という部分がどこか切なげな唄だった。

 そんな唄声も次第に途切れだし、寄りかかってくる小さな重みが魔女であるとはいえ、
一つの小さな生命であることに不思議な安らぎを感じる。

 とまあちょっぴり感傷に浸ってみたものの、突然耳を裂くような木々の揺れと、どすん
と何かが落ちてくる音によって、俺は直ちに現実へと引き戻されてしまった。

 ぱきぱきと小枝を折るような音に目を向けると、緑色のメイドドレスを着た少女が非常
に険しい表情で腰を摩っていた。

「あいたたた……み、見つけたぞ、ゆゆる!」

 ゆゆるちゃんは魔女なのであるから、もちろんこのように不自然な登場をする友達がい
てもなんらおかしくは無い訳で、そう結論してしまえば余計な寄り道をせずに回答に辿り
ついてしまうのだ。そう、この子も魔女であると。

「き、きりりちゃん」
「私を追って人間界に来たんじゃないの!」

 白いエプロンを払いながら詰め寄ってくるその子に対し、ゆゆるちゃんは何か落ち着か
ないご様子である。これは保護者として黙っておく訳にはいかない。

「ゆゆるちゃんの友達かい?」
「うっさいボケ!」

 なんということか、きりりちゃんと呼ばれたその子は大変に言葉遣いが悪く、同じ魔女
とは言え、これではまるでゆゆるちゃんが天使のようだ。

「ゆゆるが捕まえにきたって聞いて、ずっと隠れてたのに!」
「きりりちゃんがわるいことしなければ、ゆゆるなにもしないよ」

 そんなやり取りを背に俺はタバコに火をつけ、遥か遠くに望む富士に思いを馳せていた。
 しかし俺の腕をぐいぐいと引っ張り、こそこそと話すゆゆるちゃんの話は、非常に恐る
べき、かつ驚愕の内容だったのである。

 きりりちゃんは15年前に魔女界を脱走した札つきのお転婆魔女で、人間界を征服しよ
うと企むデンジャラスかつアウトローなバッドウィッチなのだそうだ。

「説明は手短にしてよね! ほんとに!」
234ゆゆるちゃんときりりちゃん 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/03(火) 22:01:40 ID:FCU5K0Yr
 ということで、魔女学校では脱走が問題となり、たまたま隣の席だったゆゆるちゃんが
きりりちゃんを捕まえてくるように言われたのだという。

 くるくるした短めの金髪の中、妖しい目線がこちらを睨む。

「もう! 終わった?」
「だいたいせつめいした」

 アバウト過ぎるので、どうして追われているきりりちゃんが勝手に登場してきたのかは
永遠の謎であるのだが、しかし。そんな謎をよそに俺は一つの驚くべき事実を発見する。

 イライラと地面を踏み鳴らすきりりちゃんのスリッパには、コウモリのような黒い羽が
生えているのだ。
 これは見た目に明らか。ゆゆるちゃんの変なウサギみたいなスリッパよりもどうしたっ
て高性能そうなのである。これは横に飛べるのかもしれないぞ。

「さあ、どっからでもかかってこい!」

 スリッパ基準はどうかと思うが、そういうことなら圧倒的に不利っぽい。

「ゆゆるちゃん。もう行こう」
「うん。じゃあね、きりりちゃん」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 人間界を征服だかなんだか知らないが面倒なことはご免被りたい、と足早に歩を進める
ていると、突然ゆゆるちゃんに袖を引っ張られ盛大に倒れてしまった。
 瞬間、凄まじい速度で轟音が通り過ぎる。

「何だ、今の?」
「あー! あー!」

 聞いた事のないゆゆるちゃんの叫び声の先では、買ったばかりの洋服がメラメラと音を
立てて燃えていた。
 穏やかでない気配を察しつつきりりちゃんに目をやると、口をぽかんとあけて明らかに
「やっちゃった」的な表情で呆けている。

「どどどうなのよ! ここ、これでも逃げるつもりなの!」

 さすがの俺でもこれは許しがたい。許しがたいのだがきりりちゃんの顔にはどことなく
反省の色が見えており、もう少し様子を見る事にしてみる。
 ――と、思ったのはどうやら俺だけのようで、視界の端からはなにやらどろどろと黒い
オーラのようなものが立ち込め始めた。ゆゆるちゃんがすっと立ち上がる。

「……きりりちゃん」



 かくして人類の存亡を握る一戦が、市民憩いの公園「アンダーソンの森」を舞台に切っ
て開かれることになるのだった。

 ただ、まあ俺は一般市民かつ凡人なので、そんなスケールの大きいんだか小さいんだか
分からない戦いに首を突っ込めるはずもなく、とりあえず手に汗握って今後の展開を心配
することしかできないのである。



おわり
235創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 22:03:47 ID:FCU5K0Yr
ということで引っ張りながら終わるのは好きではないのですが
8話終了

感想レスなどあれば積極的に取り入れていきたいと思います。
あと2話だけど。
236創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 22:03:58 ID:sHNiIdzK
次回に続く……なのか?
237創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 23:20:34 ID:FCU5K0Yr
あ、8と9だけ話が続いちゃいます。
なんだか申し訳ない。

と、>>217さんの投下にも期待しつつおやすみなさい。
238創る名無しに見る名無し:2009/02/04(水) 02:35:20 ID:jIvMTCE2
いちいちネーミングセンスが良すぎるwww
239230:2009/02/04(水) 16:02:06 ID:i00xEJi1
SUGEEEEE!ホントにきりりちゃん登場しちゃった!しかもペース早っ!?

…と、一通り興奮したけど…残り2話なのか…
ゆゆるちゃんともっともっとゆるゆるしてたいお(´;ω;`)
240創る名無しに見る名無し:2009/02/04(水) 21:10:53 ID:EPrd1XrA
読んでくれてる人がいるだけでも嬉しいので、あんなふうに書かれてしまうと
テンションが上がってしまうのです。

ただ、もとからいたキャラの名前を変えてみただけなので、決して即興で書いた
わけじゃないんです、とても遅いです。

遅いのですが、22:00より9話「ゆゆる☆まっくすひーと」投下予定なのです。
241ゆゆるちゃん☆まっくすひーと 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/04(水) 21:58:51 ID:EPrd1XrA
「あはは! お、怒ったのかしら!」

 開き直ったきりりちゃんの高飛車な台詞が森を揺らす。
 フリルの付いた緑のスカートがひらひらとはためきはじめ、つむじ風を作り出した。

「あたりまえだよ! ゆゆる、ゆるさないんだから!」

 ゆゆるちゃんは概ね無表情なのだが意外と短気で、怒っているのを見るのはこれでもう
三回目なのである。頭の上で結わえた髪は炎のように激しく揺らめいていた。

「次は外さないんだからねっ!」

 周囲の土砂を巻き込み、きりりちゃんの身体はあっという間に木の上まで飛び上がって
いってしまった。コウモリスリッパはやはり高性能らしい。しかしそれだけではない。
 信じられないことに、きりりちゃんが携える杖はピンク色の柄の先にハート型の飾りが
付いており、ぴかぴかと煌いているのだ。
 俺の直感が囁く。これは蛸棒とは比べ物にならない魔法ステッキなのだ――と。

 夕暮れ赤く染まる空に浮かぶ影、その姿は明らかに魔女。魔女以外の何者でもない不吉
で不気味な存在。その杖の先に光が集まりはじめ、小さな玉を形成する。
 さっき洋服を燃やしたのはアレなのか? そんな風に考えるより早く、ゆゆるちゃんの
前にはいつもの効果音と共に中華鍋が現れていた。

「おもいから、もって」

 ともかくあんな物を喰らってしまえば、凡人かつ人間である俺がひとたまりも無いのは
言わずもがな。ここは言葉に従い颯爽と中華鍋を構えてみる。

「ゆゆるちゃん。これ大丈夫なの?」

 答えず、ゆゆるちゃんは俺と鍋の間で、拡声器のようなものにクランクを差し込むと、
それをぐるぐると回し始めた。
 もう何がなんだか判らないのに、上空からはきりりちゃんの勇ましい声が響いてくる。

「いくわよっ!」

 振り放たれた光の玉が、物凄い勢いで迫る。こんな中華鍋で防げるわけ無いじゃないか!

 と、目を閉じた瞬間、こーんという音とともに光の玉はあっけなくその辺へ転がり落ちて
いってしまった。きりりちゃんは大変に魔法が上手でコントロールも良いらしく、次々に
放たれる光の玉は真っ直ぐこちらに飛んで来るものだから、特に鍋を動かさずとも全てこん
こんと落ちていくのだ。
 図に乗った俺は、悔しそうなきりりちゃんにニヒルで不適な笑みを返してやったのだが、
悦に入る暇を与えず、ゆゆるちゃんの拡声器がうーうーと音を鳴らし始める。

「たまった!」

 言うなり拡声器のグリップを握ると、その先からは強烈な閃光がほとばしり、中華鍋を
突き破った光の筋が森の木々を一瞬にして切り裂いて、きりりちゃんへと進路を変えた。
 俺はおもちゃみたいな拡声器からそんな殺傷能力の高そうなレーザーが放出されたこと
にただただ唖然とするばかり。
 しかし驚いたのはきりりちゃんも同じなようで、波状に追跡する光から逃げ回っている。

 ところで何故波状なのかというと、ゆゆるちゃんはグリップを握ってはいるものの、相
変わらずクランクもぐるぐる回しているので、それが故に発生してしまうブレなのである。

「きゃーー」
242ゆゆるちゃん☆まっくすひーと 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/04(水) 21:59:50 ID:EPrd1XrA
 読めない軌跡を避けそこなったきりりちゃんは、うっかりスリッパが脱げてしまったら
しく、真っ直ぐ森の中へと落っこちていった。
 走って追うと、ばきばきどすんと聞いた事のある音が地面を揺らす。
 もしかして登場した時もスリッパが脱げただけなのではないだろうか。

 たどり着いた場所に居たのは、それはもうお転婆バッドウィッチではなく、両手で目を
こすりながらわんわんと泣きじゃくる、ただのくるくる頭の女の子であった。

「だっでびゅびゅるでんでんぎでぐれないんだぼんーー」

 なんだか聞いた事のある呪文だなと思いつつ、おぼろげに意味を理解することが出来る
ので、そっときりりちゃんに歩み寄ってみる。きっときりりちゃんは寂しかったのだろう。

 いやいや待てよ? 15年もの間きりりちゃんがほったらかしにされてたのは、もしや
あのミニカーのせいではないか? ゆゆるちゃんがずっと探していた、あのミニカー。
 真相は分からないが、一度そう思ってしまうと何やら悪い事をしてしまった、なんて風
に思えてしまい、砂だらけになった金色の髪をくるくると撫でてやることにする。

「ぎりりのごどほっどいでごんだやざじいひどどいっじょだんでずるいよーー」
「もーわるいことしちゃだめだよ? きりりちゃん」
「びぇーー」

 きりりちゃんは悪い魔女らしいのだが、、こうなってしまうとただの可愛そうな女の子
であり、それを責めるのは男としてのプライドが許すはずもないのである。

「なあ、きりりちゃん。よかったら一緒に家にこないかい?」

 きりりちゃんはすぐには答えず、落ち着いて深呼吸を2度ほどしてから俺に向き直った。

「ありがとう……でも私、魔女の世界に帰るよ。ごめんね洋服燃やしちゃって、本当に」
「そうかい。洋服はまた買えるから心配しないでいいよ」

 そう、それならそれでいい。お姉さんが言っていた仕事とやらもそれで達成されたこと
になるのだろう。
 きりりちゃんがポケットから指輪を取り出し、それを自分の指に嵌めた。

「ごめんね、ゆゆる。私ちゃんと怒られてくるから」
「だめーー! きりりちゃん、まってーー」

 突然に叫び声をあげたゆゆるちゃんをよそに、指輪は輝きはじめ、光がきりりちゃんの
身体を包んだかと思うと、砂のようにさらさらと消えていった。

 その傍で呆然と立ち尽くすゆゆるちゃんは口をあんぐりと開けたまま、きりりちゃんの
消えた跡を見つめている。

「ゆゆるちゃん? どうしたの?」

 少し待ってみたが、返事はなかった。



 それからゆゆるちゃんは一言も口をきいてくれず、家に着くまでの間ずっと俺の手に引き
ずられるようにして、ぺたぺたとスリッパの音をならし続けていた。

 それはいつもと同じはずなのに、どこか寂しげな余韻を夜の住宅街に響かせつつ。



おわり
243創る名無しに見る名無し:2009/02/04(水) 22:02:34 ID:EPrd1XrA
9話目これにて終わりです。
そういえばペット出すの忘れてました、が、時すでに時間切れなのです。

次回最終回ということで、おやすみなさい。
244創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 00:46:10 ID:9r6FXJGP
さて、次回クライマックスか……
ここ最近の毎日の楽しみだっただけに残念だぜ
245創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 07:08:50 ID:lCYFAFSc
魔法少女本人が非日常への橋渡し役をやってる場合はペットは別に必須ではないんじゃないの
246創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 14:43:18 ID:BnslQHmp
地の文の台詞回しがいいな
247創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 21:45:55 ID:SnryJ0dM
最終話「さようなら☆ゆゆるちゃん」を22:00より投下予定。
詰め切れずに4レス分もあるのですが、冗長と思われなければこれ幸いであります。
248創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 21:50:47 ID:kHEAEUxS
待機待機
最終話か……寂しくなるなぁ
249創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 21:55:51 ID:EN26fjVl
4レスで冗長とか言われちまったら…
250創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 21:59:44 ID:SnryJ0dM
あ、いやいや今まで2レスでやってたものですから。
ほかの方と比べてとかじゃないですよう。
251さようなら☆ゆゆるちゃん 1/4 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/05(木) 22:05:10 ID:SnryJ0dM
 ゆゆるちゃんが口をきいてくれないのは、どうやら怒っているという訳ではないらしい。
 何故ならゆゆるちゃんは俺の手をずっと握っており、部屋に入ってからもそれは続行さ
れているので何かと行動がしずらいからである。

「あそこ、ゆゆるのばしょ?」

 ようやく聞えた声に胸を撫で下ろし、昨日用意した「ゆゆるゾーン」へと向かう。
 ゆゆるちゃんはへたりと座るとキノコ型ランプをぱこぱこと叩き始めた。

「ああ、ここは自由につかっていいよ」

 この謎のランプは、これはもう本当にどうして購入したのか全く謎なのであるが、キノ
コの頭を押すとオレンジ色のランプが付いたり消えたりするのだ。
 俺はその点滅するキノコを、ただぼんやりと見つめていた。

 突然、部屋の空気が桃色に染まり始め、ゆゆるちゃんの手が止まる。
 霧の中に、すっと人影が映し出された。

「ゆゆるのあねです」

 ええ、それは知ってますよ。とは口に出さず、ゆゆるちゃんの使っていたそれよりもか
なりハイビジョンかつくっきり鮮明であるお姉さんの姿に見入ってしまう。

「ご苦労様でしたね、ゆゆる。きりりが戻ってきたのを確認しました」

 お姉さんはゆゆるちゃんよりも髪が長く、ふんわりと波打つ栗色の髪はどことなくエレ
ガントな雰囲気であり、さすが姉といった風である。
 ただ時折アップになると、やはり前髪だけは綺麗に切り揃っているので、ゆゆるちゃん
と見分けがつかないのだ。

「ずいぶん疲れたでしょう、お家に戻ってゆっくりお休みなさい」
「やだ! ゆゆるかえらない! ずっとここにいる!」

 声に驚き振り返ると、ゆゆるちゃんが肩で大きく息をしながら涙を浮かべていた。

「これ以上そこの方に迷惑を掛けてはいけません、今すぐ戻りなさい」
「やだやだ! おねえちゃんのばか!」

 だだをこねるゆゆるちゃんだが、その手のひらは俺ときつく結ばれており、もちろん俺
の手もバタバタとだだを捏ねてしまう。

 そりゃあ俺もすっかり幻想物語の主人公気取りでわくわくしていたものだから、昨日の
今日で帰ると言われれば寂しくないわけでもない。
 だがゆゆるちゃんにはお姉さんをはじめ、きっと家族がいるわけで、15年間も帰って
いないのならば、それは家に帰ることの方が大事なようにも思えた。

「ゆゆるちゃん、お姉さんもああ言ってるんだ。今日はおうちへ帰ってまた遊びにおいで」
「うー、うー」

 何やら葛藤に唸るゆゆるちゃんだが、こんな風に拗ねてもらえるのは誠に光栄である。

「そこの方、魔女と人間の関係に『また』はありませんよ」
「はい?」

 お姉さんの声はしっとりとしているので、何を言われたのか理解できなかった。

「これは魔女と人間の間の掟なのです。魔女がこちらへ戻る時、それに関わった人間の記
憶から魔女の記憶は失われ、また私たちの残したものは全て消え去ります」
252さようなら☆ゆゆるちゃん 2/4 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/05(木) 22:06:25 ID:SnryJ0dM
 まずい、言っていることが全く分からない。いや、おぼろげには分かる、分かるが納得
できない。できる訳ねえだろうが。

「ちょっと待ってくれ、そんなの無茶苦茶だ。何なんだ、その取って付けたような掟は」
「そうする必要があるから掟があるのです」
「どんな理由があるってんだ!」

 いつの間にか力が入っていた俺の手は、ゆゆるちゃんの小さな手を握りつぶしてしまい
そうになっていた。

「分かりやすく言いましょう。私たちが食事もとらずに人間界で生活ができるのは、傍に
いる人間から、あるものを吸収しているからなのです」
「さあ、何のことかさっぱりだね」
「それはその人間の空想や想像、または夢と呼ばれるものです。これはあなたのためでも
あります。ゆゆるといてはあなたはダメになってしまう」

 ゆゆるちゃんとお姉さんは魔女であり、まあ魔女と言うからにはそういった概念的なも
のをエネルギーにしているのも頷けるのだが、どうでも――って、これのことか!

「構わん、空想や想像なんていくらでもくれてやる。ゆゆるちゃんが家に戻るのもいい。
しかしそんなくだらん掟は今すぐ焼き捨てて、燃えるゴミの日にでも出しやがれ!」
「言ってもきかないならしょうがありません」

 お姉さんの手がゆらゆらと動く。ぽん、という音と共に干してあったマントが消えた。

「おねえちゃん、やめてー!」

 ぽん、という音が響く。玄関においてあったゆゆるちゃんのうさぎスリッパが消えた。

「おい、何やってんだ! やめろ!」

 お姉さんは一度俺を見てから、無情にも再び手を揺らし始める。
 ぽん、と音がして今度は窓辺においてあった、あのミニカーが消えた。

「ゆゆるなんでもいうこときくから、いいこにするから、だからおねが――」

 ついに俺の手のなかで汗ばんでいた小さな手が消え、ジャンバーがばさりと床に落ちる。
 ゆゆるちゃんが消えた。

「別れの言葉ぐらい言わせてくれてもいいじゃないか!」

 お姉さんが目を開く。俺はそのどこか寂しげな表情に、怒る気力を失っていた。

「あなたはとても優しい人。ゆゆるにとってこれは大変貴重な出会いであったと思います」

 ジャンバーを手繰り寄せる。部屋の空気までもが小さな温もりを消し去ろうとしている。

「ではこれより、あなたの中にある私たちの記憶に蓋をします」
「もう、勝手にしてくれ……」

 情けない事に、俺はただうなだれることしかできなかった。

「お聞きなさい」
「なんだよ、もう消えてどっかいっちまえ」
「この記憶の蓋には一つだけ鍵があります、もしあなたがその鍵を見つけることができた
のなら、私たちは再び出会うことができるかもしれません」

 お姉さんは一度大きく深呼吸すると、再び静かに口を開いた。
253さようなら☆ゆゆるちゃん 3/4 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/05(木) 22:07:51 ID:SnryJ0dM
「それは、蓋をされた状態で私たちの名を呼ぶこと。語の連なりではなく、名前として認
識して呼ぶことです。ただ、今までにその鍵を見つけた人間は存在していません」

 俺は立ち上がる。誰もなし得なかったことかなんか知らんがやってやる。そんな掟なん
かぶっ壊してやろうじゃねえか。

「それが出来る人ならば、私たちと共にいても想像や空想が絶えないという証拠であり、
また権利だという、ただの理屈に過ぎないかもしれません」
「覚えとけ! 必ず鍵を見つけてその髪の毛にストレートパーマあててやるからな!」
「あなたのその強い気持ち、ゆゆるに必ず伝えておきましょう」

 その台詞を最後に、お姉さんの姿は桃色の霧と共にさらさらと消え去っていった。


☆ ☆ ☆


 ――ええと、何だっけ。
 あれ、何で俺はジャンバーなんか持って拳を握り締めてるんだ?


☆ ☆ ☆


 さてさて、俺は大学4年間という長いようで短い学習期間を終え、充実していたんだか
なんだか分からないキャンバスライフに、晴れて終止符を打つこととなったのだ。

 就職期間中はやれ一部上場企業だのIT企業だの騒いでいた連中をよそに、俺はといえば
一足先に、森の中にぽつんと建っているヘンテコな研究施設へ見事就職を決めたわけだ。
 理由はそう、「なんか夢があるから」である。

 思い返せるほど思い出もないのだが、まあこの部屋はそれなりにお世話になったわけで、
ここから見える古臭い景色とお別れして新しいマンション風アパートに引っ越すのは、非
常に感慨深いものがある。
 
 部屋のものはあらかた業者に運んで貰っていたので、あとはちょいちょいとした小物を
バッグに詰め、これは新しい門出だ。なんて多少無理して一人で張り切ってみたりして。

 ――さあ、そろそろ時間だ。



 不意に部屋のドアノブがかちゃりと回り、静かにドアが開く。
 そいつは、狭い隙間から恐る恐るこちらを覗きこんでいた。

「こ……こんにちは」

 ぎい、と音をたてて現れたのは、魔女のような格好をしたおかしな少女。
 そいつの頭の上で結わえられた髪は、どことなくおどおどしていた。

「ゆ、ゆゆるのこと、おぼえてる?」

 俺はその切り揃った前髪へと歩み寄り、笑顔でそっと抱きしめてやる訳だ。

「当たり前じゃないか」

 ゆゆるちゃんが力いっぱいに抱き返してくる。
 泣き声を堪えた嗚咽が、次第に熱を帯び服を濡らし始めた。
254さようなら☆ゆゆるちゃん 4/4 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/05(木) 22:08:55 ID:SnryJ0dM
「ごめんな、ゆゆるちゃん。思い出すのに随分時間がかかっちまった」
「おどいよーー、びゅびゅるじゅっとばっでだどにーー」

 まあ、最初だけでも泣くのを堪えた部分は褒めてやろう。
 というか、俺が泣いてしまいそうじゃあないか。

「帰ったらちゃんとお姉さんにお礼を言っておくんだよ」
「びぇー」

 俺がこの前例の無い「記憶の蓋を開ける」という結果を出せたのは、ゆゆるちゃんのお姉
さんによるところが大きい。
 ――自分達の残したものは全て消え去るという魔女の掟。

 そう、俺の手に残されていたのは銀行通帳。まぎれもなく人間が開発した機械「キャッ
シュディスペンサー」によって打ち込まれた謎のカタカナの羅列であった。

 類稀なる想像力を持った俺がその言葉に興味を持ってしまったのは言うまでもなく、し
かしそこから記憶の蓋をこじ開けるまでには実に1年という期間を要してしまったが。
 まあ実際のところ、狙ってやったのか天然ボケだったのかは定かではないのだが、あの
ふんわりヘアーにストレートパーマを掛けるのは勘弁してやろうと思う次第である。

 ゆゆるちゃんが真っ赤になった目で、俺を見上げた。

「ゆゆる、いったりきたりしてもいいって」
「そうか、そいつは良かった」
「ゆゆるはわがままだけど、これからもいっしょにあそんでくれる?」

 俺は言葉ではなく、流れた涙を隠して上を向くというキザなアクションで答えてやった。

 一年という年月が、自称400歳ぐらいのゆゆるちゃんにとってどれほどの価値がある
のかはわからないが、再開して涙を流せるぐらいではあるのだろう。

 ゆゆるちゃんの頭で結わえた髪は、前に見た時よりも少しだけ長くなっている気がした。



 こうして俺は再びゆゆるちゃんとのヘンテコでゆるい共同生活を始めるわけなのだが、
やはり自慢の想像力を吸収されてしまうらしく、一向に筆が進まない。
 進まないのであるからして「それはまた別のお話なんですよ」なんて締めくくってみる
のが俺らしくもある。

 いやはや、もはや人生前途多難なのである。



完 結
255創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 22:09:56 ID:SnryJ0dM
ということで完結でした。
色々とレスくださったり、応援してくれたみなさま、本当にありがとうございました。
256創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 22:11:32 ID:X34quvA9
完結乙!
これで終わりなのはさびしいのう
257創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 22:11:48 ID:kHEAEUxS
やべっ、不覚にもうるっときちまった……

通帳の伏線も綺麗だったし
すげぇぇぇぇぇぇ!!

最大級のGJを! 最大級のGJを!!
また何かあったら書いてくれ
258創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 22:26:37 ID:BnslQHmp

なるほど…通帳は気付かなかった
259創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 22:31:58 ID:9Mupdggk
なにか残してるんだろうなーとは思ったが、通帳は盲点だった
乙!
260創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 00:43:21 ID:bp5RQoRW
一気に読ませてもらいました。
すげえ面白かった。
超乙です。
よければですけど次回作キボンですよ。
261 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/06(金) 17:56:27 ID:oPgOdHxI
ああ、こんなに感想を貰えるなんて、本当に書いてよかった。
反省点は多いのですが、続きに関しては全く考えてなくて、書いたとしてもgdgdに
なってしまいそうなので、今のところ予定はないんです。

ただ、もったいぶるものでもないので、何か出来ればまた投下させて貰おうと思います。
ではでは名無しに戻ります、重ね重ねですが本当にありがとうございました。
262創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 18:29:10 ID:aGjtSfNf
ほいほいー
気長に待ってるよー
263サミー書いてる人:2009/02/06(金) 19:54:45 ID:x8NLpXUd
                            新作を投下する前に言っておくッ! 
                    おれは今スレの過去ログをほんのちょっぴりだが体験した
                  い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれが続きの1話を書き上げたと思ったら
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        その間に新連載が始まってしかも完結していた』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何が起こったのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    超スピードだとか催眠術だとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいゆる魔女の片鱗を味わったぜ…
第六話 『嫉妬と浮気と正義のゆくえ』



prrrrrrrr...
prrrrrrrr...

(ガチャッ)

『はい、萌田です』
「砂沙美ちゃん……私だけど……」
『あれ、美紗織ちゃん、まだ家に居たの?』
「ごめんね砂沙美ちゃん……。身体の具合が急に悪くなっちゃって……」
『そっかー、それじゃ仕方ないね。チケットはパパさんのコンサートに行く時に渡してくれればいいよ』
「うん……それじゃ……」

美紗織は受話器を置いた。




(いい子。悪い子。いい子。悪い子。いい子……)

美紗織は、剪定した部分の薔薇で花占いをしていた。

(悪い子。いい子。悪い子。いい子。悪い子……)

一つ一つ、慈しむように花びらを抜いていく美紗織。

(いい子。悪い子。いい子。悪い子。…………いい子)

最後の花びらは、『いい子』が回ってきた時に抜け落ちた。

(……やっぱり、ね……それが世界の決まりごとなんだわ……)

世の中は、悪い子が認められるようにはできていない。
いい子でなければ、世界は決して存在を許してくれない。

だから、美紗織は今までずっと、ずっとずっと、必死に我慢をしてきた。

父が帰って来なくとも。
母がかまってくれなくとも。
級友にいじめられても。
持病の喘息が苦しくても。
遊ぶ時間を削って塾に通わされても。
テストで100点取れなかったことを怒られても。
……両親が離婚し、父に引き取られることになっても。

美紗織は決して、不満を口にすることはなかった。
不満を口にすれば、自分は悪い子になる。
悪い子になったら負けだ……そう、自分に言い聞かせ続けてきた。

そうすることで自分の中に何か黒いモノが溜まって行くことに気付いたが、
ソレをどうすることもできなかった美紗織は、ソレに蓋をして見ないフリをした。

小学校の高学年の頃、転校した海の星小学校で出会った砂沙美。
彼女の存在は、美紗織にとって救いであり、憧れであった。
彼女と共にいれば、それだけで彼女は笑顔になれた。
自分を偽るまでもなく、いい子のままでいられたのだ。
しかし、砂沙美に恋人ができてから、事情が変わった。
砂沙美は美紗織のための時間をあまり割かなくなった。

美紗織は、ほんのちょっと寂しいだけだった。それだけだった。
だが、そのほんのちょっとの寂しさは、彼女の奥にある黒いモノの蓋を開けるのに十分だった。
そこから漏れ出したソレは、美紗織の中の砂沙美への憧れを、嫉妬という悪意に塗り替えていったのだ。

しかしそんな美紗織に、新たな救いが現われた。
留魅耶の存在、そして魔法の力である。

ピクシィミサとなっている時は本当に楽しかった。
魔法の力のおかげで、本当の自分が解放された気がした。
魔法に溺れすぎて自分を見失ったりもしたこともあったが、
それでも魔法の力があれば、世界に胸を張れる……。
ずっと助けてもらってばかりだった砂沙美を、今度は自分が助けてあげられる……そう思った。

だが、砂沙美がプリティサミーだと知った時……彼女の中の黒いモノの蓋が、再び開いた。

砂沙美は、いい子だ。
そして、魔法の力まで持っている。
……私では、敵わない。

自分だって、いい子であり続けるために限りない努力をしている。
なのに、なぜ砂沙美は易々とその上を行くのか?

簡単なことだ。
悪い子である部分を必死に隠そうとしている自分と違い、
砂沙美には悪い子である部分、そのものがないのだ。
それは、正体が砂沙美であったサミーにミスティクスの魔法が効かなかったことで証明済みだった。


……認めない。
ウソで塗り固めたニセモノのいい子ではなく、正真正銘のホンモノのいい子が存在するなんて……。
絶対に……絶対に認めない…………許さない!!!


(萌田砂沙美……。まずは、あなたの一番大切なものから奪ってあげるわ……。
 その時でさえ、あなたがいい子ちゃんで居られるか……。……ふふふ、楽しみだわ……!)

握り締めた薔薇の棘が手のひらを切っていたが、美紗織がその痛みを感じることはなかった。






美紗織は髪や服装を整えて身奇麗にすると、玄関で靴を履きはじめる。

「あれっ、どうしたの美紗織?」

留魅耶が疑問に思ったのも無理はない。
美紗織は先ほど身体の調子が悪いと言って帰ってきたばかりなのだ。

「ルーくん、私ちょっと出かけてくる。どうしてもやらないといけない用事ができたの」
「!」

振り向いた美紗織の瞳は、紅かった。
それも、以前よりも更に色味が濃くなっている。
266創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 19:56:51 ID:oPgOdHxI
 
(また魔法の力が暴走している!? 一体どうして!?)

「それじゃ、留守番よろしくね」
「ま、待ってくれよ美紗織! 僕も一緒に行く!」

今の美紗織からは魔法の力だけではなく、何か強い目的意識が感じられた。
その様子にただならぬ物を感じた留魅耶は、慌てて後を追った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よーし、そろそろ休憩にすっか」
「うーっす」

土方のバイトをしていた砂沙美の恋人・征木天地は、休憩の指示が入ったことでやっと一息つくことが出来た。
吹き出ていた額の汗を軍手で拭いつつ、どこかに腰掛けて一休みしようと思ったが……。

「おい天地、中学生ぐらいの女の子がおまえを呼んでるぞ」
「あ、すぐ行きます!」

きっと砂沙美だ。
砂沙美はたびたび天地のバイト先に来て、差し入れをしてくれることがある。

天地は急いで工事現場の入り口まで駆けつけるが……。

「あれ……美紗織、ちゃん?」
「こんにちは、天地さん」

美紗織はうっすらと天地に笑いかける。
肩に止まっていた留魅耶は、そんな美紗織をいぶかしむ。

(この人……確か、砂沙美の恋人だったよな……。美紗織は何をするつもりなんだ……?)

一方の天地は、美紗織を疑う様子も無く、爽やかに話しかけてくる。

「どうしたの、俺に何か用事かい?」
「ええ、天地さん…………私と、付き合っていただけませんか?」
「え…………えぇええええーーーーーっ!!?」

突然の告白(?)に驚いた天地は、10mほど飛びのいて後頭部をシャッターにぶつける。

「そ、そ、そ、そんな……困るよ、美紗織ちゃんだって知ってるだろ、俺には……!」
「ごめんなさい……言葉を間違えましたね……」
「えっ?」

美紗織は回れ右すると、肩越しに天地に微笑む。

「ここでは何ですから……ちょっと付いてきてくれませんか……?」
「……あ、あぁ……なんだそういう意味か、びっくりしたぁ……」

ほっとした天地は、そのまま美紗織の後についていった。



人気の無い、ビルとビルの隙間の裏通り。
そこに天地を連れてきた美紗織は、改めて向き直る。
「それで、用事って?」
「えぇ、さっきは言葉を間違えてしまいましたからね……付き合ってくださいなどと……」
「あ、あはは……ちょっとびっくりしたよ」
「おかしいですよね、あんな言い方……。だって、私達は…………既に付き合っているんですから!!」

「うぅっ!?」

美紗織の目から、リング状に赤い魔力が広がる。
マジカル・アイズ。
その目を見た者に催眠術をかけ、意のままに操る魔法だ。

魔法を受けてしまった天地はうずくまる。

「美紗織っ、何をっ!?」
「ルーくんは黙ってて」

紅い瞳にキッと睨まれると、留魅耶は何も言えなくなってしまう。

「さぁ……立って、天地さん」
「……………………」

美紗織の言葉を受け、フラフラと立ち上がる天地。
その瞳は魔力の影響を受けてうす青く光っており、焦点は定まっていない。

「……そう、天地さん……私とあなたは、恋人同士です……。
 あなたがこの世で最も好きなのは、この私、天野美紗織……」
「……ち……がう……」
「んっ……?」
「俺が……一番好きなのは…………美紗織ちゃんじゃ……ない……」
「……………………」

まだ魔法のかかり方が浅いのだろう。

「天地さん……私の目を見て……」

言われるがままに顔を上げる天地に、美紗織は再び魔法をかける。

「うぅゥっ!!」

天地の顔に微かに苦悶の表情が浮かぶ。

「……天地さん、もう一度訊くわ……。
 あなたがこの世で最も愛している人は、この私よね……?」
「俺が……一番好きなのは…………美紗織ちゃんじゃ……ない……」
「…………ッ!」

天地は、頑なに美紗織が恋人であると認めない。
天地の恋心が強すぎて、魔法の力でさえもそれを変えることが出来ないのだ。


美紗織は、何度も、何度も、何度も、魔法をかけ直す。


しかし、天地が美紗織の問いに頷くことは、とうとう無かった。
269創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 19:57:36 ID:oPgOdHxI
 
「そんな……どうして、どうしてよっ……!?」
「美紗織……これで分かっただろ?」

留魅耶は、自分の魔法が通じずに愕然とする美紗織に説く。

「魔法は万能じゃない……。
 いくら魔法でも、人の心だけはどうにもならない。
 だから、魔法に頼らず、自分の心を磨く必要があるんだ」

「うぅ……」

美紗織は胸や頭を掻き毟って悶えている。

「天地さんは、そこまで…………そこまで、砂沙美ちゃんのことを……ッ」

美紗織の顔に、後悔の色が浮かぶ。
一途な天地の心に触れ、捨てたはずの良心が美紗織を苛んでいるのだ。

(良かった……これなら美紗織も自分が間違っていたと気付いてくれる……。
 取り返しの付かない状況になってしまう前で、本当に良かった……)

安堵のため息をつく留魅耶だったが……。

「ち、がう……」
「え……?」

未だ魔法の影響下にある天地が、美紗織の独り言に反応した。

「俺が……一番好きなのは…………砂沙美ちゃんじゃ……ない……」
「……………………」
「……………………」
「…………はは…………」

引きつった美紗織の顔が、徐々に暗い笑みへと変わる。

「あはははははははははっ……!」

乾いた笑いをあげる美紗織。
ミサのように底抜けた明るさが無い分、酷く陰湿に聞こえる。

美紗織は困惑している留魅耶に流し目をくれる。

「……ルーくん、ちょっと予定を変更することにしたわ。
 天地さんは、今は何もせずに解放してあげる。でも……!」

邪悪な笑みを浮かべる美紗織。
彼女の頭の中で、新しい計画が完成した。
より、邪悪な計画が……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「―――いちゃ…………天地兄ちゃんってばっ!!」
「……えっ……ああっ、ゴメン!? なんの話だっけ!?」
「もう…………」

砂沙美はバイト帰りの天地を迎えに来たのだが、天地は何だかぼーっとしている。
普段からぼーっとした所のある天地だが、それでも今日はまた一段と酷い。
「天地兄ちゃん、疲れてるの?」
「いや、そういうわけじゃ……いや、そうかも……よくわからないけど、何か妙に疲れたような気が……」

それは美紗織の催眠術にかけられたことにより身体に負担がかかった為であるが、
もちろんその記憶は美紗織によって消し去られているため、天地はそのことを覚えて居ない。

「そっか、じゃあ家に帰ったら砂沙美が肩を揉んであげるね!」
「ははは、年寄り扱いはまだ早いよ」
「えへへ」
「ふふふ」

他愛ない会話でも自然と笑みがこぼれる二人。
砂沙美の肩に乗っている魎皇鬼は、そんなカップルを冷ややかな目で眺めている。

その時……。

「いっぽぉ〜〜〜〜〜〜ん釣りィっっっ!!!」
「うわぁっ!?」
「天地兄ちゃんっ!?」

天地は突然、空中に引っ張り上げられる。

「あらあーら、大物が釣れたかと思ったら、ただの冴えないヘッポコ男だったわ」

砂沙美は声に反応して上を見る。
そこには釣竿を担いで宙に浮いているピクシィミサと、
見事に襟元を引っ掛けられて釣り上げられてる天地の姿があった。
天地は首を吊られているせいで少々苦しそうだ。

「美紗織ちゃ……ミサっ、天地さんを放して! その人は砂沙美にとって、大切な人なの!」
「あっそ、それで?」

砂沙美の懇願をこともなげに受け流すミサに、砂沙美は戸惑う。

どうして?
ミサは美紗織ちゃんで、美紗織ちゃんは砂沙美の友達だ。
なのに、今のミサは砂沙美の言葉に耳を傾ける気配すら無い。

「さ……砂沙美ちゃん、逃げてっ!」

苦しみながらも砂沙美を逃がそうとする天地。

「そんなっ、天地さんをこのままにして逃げるなんて出来ないよっ!」
「あーら、いいのよー、エスケープしてくれて。あたーしの目的は、サミーを倒すことなんだから」
「えっ!」
「むしろ、いつまでもサミーが現われなかったら……。
 天地ボーイの命運は、このままジ・エンドになっちゃうかも知れないわねぇ」

ミサは天地の顎に腕を回し、喉を引っかく仕草をしてみせる。

(まさか……ミサはサミーがあたしだってことに気付いてるの? そんな、いつの間に……?)

『砂沙美ちゃん、考えてる場合じゃないよ! 今は変身して天地を助けるんだ!』
『う、うん……そうだよね』

魎皇鬼に耳打ちされ、変身する決意を固める砂沙美。
272創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 19:58:38 ID:oPgOdHxI
 
「ミサっ、天地さんに酷いことをしないでよ! 絶対だからね!」
「はいはい、分かったからとっととエスケープしちゃいなさい」

言うが早いか、砂沙美は走り去って向こうの角に消える。
直後、その角から閃光が放たれる。

「待ちなさいっ!! ピクシィミサ!!」

砂沙美が消えた角からズザザッと現われたのは当然の事ながらプリティサミーだ。

「来たわね、社会奉仕精神に溢れた友達思いでいい子ちゃんの正義の魔法少女!!」
「……もしかして褒められてる?」
「いや、そういう雰囲気には見えないと思うけど……」

「サ、サミー……来てくれたのか……っ」

天地は苦しみながらも、嬉しそうな顔を見せる。
顔が赤くなっているのは首が絞まっているせいだろうか。

「ミサ!! その人を放しなさい!!」
「サミーったら、この男のことがそんなに大事なの?」
「だ……大事に決まってるじゃない!!」

顔を赤くしつつも力説するサミー。

「ねぇサミー、それじゃあ賭けをしない?」
「賭け……?」
「簡単なことよ。この男にミスティクスをかけて、何ともなかったら開放してあげる。シンプルイズベストでしょ?」

ミスティクスはかけた人間の悪意をモンスターに変える魔法。
悪意の無い人間ならば、ミスティクスをかけても何の効果も現われない。

「なぁんだ、そんなことならとっととやっちゃってよ」
「あ〜ら、随分と大した自信ね」
「当たり前じゃない、天地さんが悪意なんて持ってるわけないもの」

ミサの話を聞いて、安心するサミー。
天地がさらわれた時はどうなることかと思ったが、ただのミサの軽い悪戯だったのだ。

一方のミサは、サミーが軽く考えていることにムっとしつつも、天地に何かを囁いていた。

「天地ボーイ、あなたには砂沙美ちゃんっていう、とってもキュートな恋人がいるじゃない?」
「そ、それがどうしたって言うんだ!」
「ミサには分かってるのよ。あなた、そのプリティラヴァーに何か隠してることがあるでしょう?」
「お、俺が……砂沙美ちゃんに何を隠してるって言うんだ!?」
「自分でも気付いてないのかしら? まぁいいわ、すぐに分かるから」

ミサは、バトンを構える。

「コーリングミスティクス!!」

放たれた魔力は、天地を包み込む。
そしてその光が収まった時……。


「ふふふ、さぁ出てきなさい、浮気女!!」
「私、だーいすき。恋人がいるけど、他の女の子がだーいすきぃ!」
「!!!」

天地は、『浮気』の悪意を増幅され……浮気女に変身した。
274創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 19:59:31 ID:oPgOdHxI
 





「……コ……コケティッシュ……ボンバー……」

浮気女は、サミーの魔法の前にあっさりと倒れた。
天地が元の姿へ戻っていく。

気を失っている天地は、身じろぎ一つしない。

本来なら、迷わず駆け寄ってその身を案じるはずだった。
だが、そんな天地を前に、サミー……いや砂沙美の中に、今まで感じた事の無い感情が巻き起こっていた。


辛い。悲しい。くやしい。

違う。

憎い。許せない。我慢ならない。


その複雑な感情を、天地の心を奪った誰かへの『嫉妬』と一言で片付けるには、砂沙美はまだ幼すぎた。
ミサは、そんなサミーを愉快でたまらないと言った様子で眺めていた。

「ウフフ……。辛いでしょう、苦しいでしょう?」

ミサは言いながらサミーに近づいてくる。

サミーは動揺が隠せない。
天地が浮気をしていたこともそうだが、
ミサが……美紗織ちゃんが、こんな酷いことを考えるなんて……。

「……嘘だ……嘘だよ、こんなの……」
「嘘じゃないわ、これが現実」

ミサは、サミーに近づき……そっと抱きしめた。

「ミサ……?」
「でも、分かるわ……辛い現実に直面すると、全てを否定したくなる。誰かのせいにしたくなる」
「……………………」

サミーの傷ついた心に、ミサの言葉が染み入ってくる。
全てを忘れることで、何かに奴当たりすることで、今の自分の心も晴れる……そんな考えが脳裏をよぎる。
それではダメだと心のどこかが警鐘が鳴っていたが、その音はどこか遠い。

「そして、そんな気持ち……。その気持ちを、何て呼ぶか知ってる?」
「えっ……?」
「……!! まさかっ!!」

魎皇鬼は、ミサの真意に気付く。

「サミーッ、ミサから離れるんだーーーっ!!」
「今更気付いても遅いわよっ、コーリングミスティクス!!!」

ミサの魔力がサミーに襲い掛かり、サミーは光に包まれる。
276創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:00:05 ID:oPgOdHxI
 
「その気持ちを何て呼ぶか……」

魔法の光が収まった時……。


「そう…………悪意……よ!」


砂沙美の目の前には、自分が良く知っている……しかし、初めて見る姿の魔法少女が立っていた。
自分と同じ身長、体型、髪型。
違うのは、全体的に暗い色調な上、至る所に刺々しい意匠が施されたコスチューム。
そして……悪意に満ち満ちた、その瞳だった。

「ハッピーバースディ、嫉妬女! ううん、これはブラックサミーとでも呼ぶべきかしらね?」

ブラックサミーはミサの方に向き直ると、うやうやしく膝を突く。
そして再び砂沙美に向き直ると、明らかな敵意を砂沙美に向ける。

「あんなヘナチョコ男から生まれたラブラブモンスターが役に立つなんてハナから思って無かったわ。
 私の真の目的は、いい子ちゃんぶってるあなたに悪意を植え付け……。
 ……それをラブラブモンスターとして実体化させることだったのよ!」
「あ…………あたし、は…………」

砂沙美は得体の知れない喪失感に駆られた表情で、頭を抑えて膝を突く。

砂沙美はラブラブモンスターにはならなかった。
ただ、『嫉妬』という悪意のみが砂沙美の魔力を借り、ブラックサミーとして実体化した。
それほど、砂沙美にとって内に芽生えた『嫉妬』への拒絶は強かったのだ。


「こーれで分かったでしょう、プリティサミー? ……いいえ萌田砂沙美!」

普段からは考えられないような凶悪な表情で凄むミサ。
砂沙美は思わず身体をびくつかせる。

「この世にはね、正義やいい子ちゃんなんて物は存在しないの。
 そんなものは……アンタの独善的な思い込みが生み出した、イリュージョンなのよッ!!!」

ミサの瞳は、砂沙美に対する敵意に満ち満ちていた。

「……あ……あたしは…………」

一歩。
二歩。

砂沙美は後ずさる。
その表情には明らかな戸惑いと脅えと絶望が見える。

魔力をブラックサミーに奪われた砂沙美は、コケティッシュボンバーを放つことは愚か、変身すら出来ない。
反撃の手段は、何も無いのだ。

一方、傍らの魎皇鬼は、鬼のような形相でミサを睨んでいた。

(ミサ……よくもこんな卑劣な手を……許せないっ!!)
278創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:00:29 ID:oPgOdHxI
 
怒りに燃える魎皇鬼は、砂沙美を叱咤する。

「砂沙美ちゃん、諦めちゃダメだ!!
 魔法の力は、それを望む者にこそ付いて来てくれる力なんだ!!
 信じれば、きっとブラックサミーから魔法の力を取り戻すことが出来るはず!
 だから、願うんだ、心の底から!! 魔法の力が欲しいって!!
 そしてもう一度魔法の力を取り戻して、今度こそミサをやっつけるんだ!!」


「ヤダ……」

「えっ?」



「…………もうヤダ…………こんなのヤダっっっ!!!」


「砂沙美ちゃん!? 待って、待ってよっ!!」



魎皇鬼の静止も聞かず、砂沙美はミサやブラックサミーに背を向け、逃げ出してしまった……。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



  『砂沙美ちゃん、なんだい話って?』

  『天地さん……そ、その……』

  少女はモジモジとして煮え切らない様子だったが、意を決して青年に気持ちをぶつける。

  『さ……砂沙美と、付き合ってください!!』

  『え…………ええええええっ!!?』

  青年は大げさなほどに驚く。
  相手は妹のように思っていた少女、こんな展開は想像だにしていなかったのだ。

  『……砂沙美……ずっとずっと昔から、天地さんのことが好きでした……。
   でも、砂沙美は子供だったから……だから、ずっと考えてたんです……。
   中学生になったら、絶対に天地さんに告白しようって……』

  青年は平静を取り戻すために少々時間を要したが……。
  それでも、少女の言葉にハッキリと答えた。

  『嬉しい……嬉しいよ……。だって俺も、砂沙美ちゃんのことが好きだから……』

  『そ、それじゃあ……!』




280創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:01:26 ID:oPgOdHxI
 
町の中心から少し離れた小山にある、鐘のついた廃堂。
そこのテラス、鐘の脇で……砂沙美は膝を抱え込んで身体を固くしていた。
お堂の正面は木々が開けているため、そこからは街が見下ろせ、その向こうにある海も良く見えた。
今、まさに海へ沈もうとしている夕日がそこから照りつけていたが、その光も今の砂沙美の心までは届かなかった。

「もうヤダよ……魔法少女になってから、辛いことばっかり……」

砂沙美は一人、やるせない想いを言葉にして吐き出す。

「最初は正義のため、みんなの幸せのためだって喜んだけど……」

そもそも正義とは……自分の目指した正義とは、どんなものだっただろうか?
魔法少女になってやったことと言えば、得体の知れない善行ポイントやらを溜めることだけ。
それが、本当に自分の果たしたかった正義なのか?
いつしか、ミサを撃退することが正義の全てだと思い込んでいたのではないか?

そして、その結果……大切な物をいくつも失ってしまったのだ。

「……そうだよ……考えてみれば……。
 魔法なんて…………ちっとも幸せなものじゃなかったじゃない!!」

砂沙美の悲しみの捌け口は、魔法の存在そのものに向かっていく。

「魔法のバトンなんて受け取らなければ良かった……。
 そうすれば、こんな事に巻き込まれて美紗織ちゃんと戦うことになったり……。
 ……あたしの中にある嫌な気持ちに気付くことだってなかったのにッ!!!」


砂沙美は憤懣を吐き出しつくすと、そのまま身を固めて動かなくなった。


屋根の上で、そっと砂沙美の話を聞いていた影があった。
砂沙美を心配してやってきた留魅耶だった。

しかし、ミサに魔法を与えた彼が、砂沙美にかけてやれる言葉など何も無い。
彼は少し悲しそうな顔をすると、黙ってその場を飛び去っていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



砂沙美を泣かしたることに成功して満足したミサだったが、
折角なので、ブラックサミーと一緒に人の多い繁華街まで来ていた。
ちなみに天地は未だに釣竿にぶらさがったままである。

「さーて、ブラックサミー。早速バッドなことをしてみてちょーだい。方法や目的は任せるわ」
「……………………」

無言で了解の意を示したブラックサミーは、カップルが集まることで有名な喫茶店へ向かうと……。


ガシャァン!!


テーブルを足でひっくり返して暴れ始めたのだ。
282創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:03:05 ID:oPgOdHxI
 
「おらおらどけどけっ!! あたしの前でイチャつく奴らは、みんなぶっ殺しちまうぞっ!!」

横山智佐嬢が密かに得意とする、ドスを効かせたヤンキーボイスで暴れまわるブラックサミー。
当然、カップル達は泡を食って逃げ回る。
それだけではない、ブラックサミーは巧妙にカップル同士を分断するように暴れているため、
中には仲違いを始めるカップルまで現われ始める。

ミサを追ってきていた魎皇鬼は、それを見て慌てて止めに入る。

「や、やめるんだっ!! キミは正義の魔法少女の分身なんだぞ、こんなことしちゃダメだっ!!」
「やかましいっ!! あたしはラブラブカップルと貧乏サラリーマンだけは大っ嫌いなんだよ!!」
「き、危険なネタもやめてくれっ!!」

魎皇鬼の仲裁もむなしく、カップル達はみんなバラバラになってしまう。

「さぁて、ここいらはもういいかぁ。お次はアベックどもがたむろしてる向こうの公園にでも行こうかねぇ!」

喜悦と嫉妬をたぎらせたブラックサミーは、新たな獲物を求めてこの場を去っていく。

「あぁ〜、もう! 顔は可愛らしいのになんて醜悪なのかしら!
 これが般若の面って奴ぅ? にょほほほ、嫉妬に狂った女って怖いわねぇ!」

魎皇鬼はキッとミサを睨む。

「許せない……砂沙美ちゃんはお前のことを信じてた……それなのにっ!!」
「!」

魎皇鬼は全身の毛を逆立てて前傾姿勢になると、ミサに飛び掛った。

……が、ミサにバトンであっさり打ち払われてしまう。

地面に身体を打ち付けられる魎皇鬼。
しかし、すぐに身体を起こして再び臨戦態勢に入る。

「……な、なによぉ。もしかしてウサちゃん、ミサとファイティングするつもりなの?」
「フゥーーーッ!!」

再びミサに飛び掛る魎皇鬼。

……が、やはり結果は同じだった。

ぶつけた身体の節々が痛む。
それでも魎皇鬼は立ち上がり、ミサに牙を剥く。

そんな魎皇鬼を、ミサは戸惑いの目で見ていた。

「……アンタもルーくんと同じで、地球じゃロクに魔法も使えないんでしょ?
 そんなんでミサに勝てるわけが無いのに、どうしてそうも挑んでくるのよ?」
「……………………」

ミサの言葉に己を振り返ったのか、魎皇鬼は独り言のようにつぶやきだす。

「ボクは……サミーのパートナーなのに、何にも出来ない……。
 いつだって、ボクは横で口を出すだけで、実際に戦うのはサミーの仕事だ……。
 でも、それは仕方ないことだ……だって、それが魔法少女に与えられた使命なんだから……」

握り締めた拳(?)を震わせ、悔しさをにじませる魎皇鬼。
284創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:03:48 ID:oPgOdHxI
 
「だけど……ボクはもう、嫌なんだっ!! 使命の為に砂沙美ちゃんが傷つき続けることがっ!!」

魎皇鬼は叫ぶ。
食べ掛けのニンジンを強奪された時だって、ここまで激昂はしなかった。

「この使命が、正義の為の、正しい行いだってこと…………それを疑ったことは一度も無い……。
 でも、それ以上に…………いや、何よりも…………ボクは、砂沙美ちゃんの笑顔が好きだっ!!!
 …………なのに…………正義の為にミサと戦うたびに、砂沙美ちゃんはどんどん笑顔を失っていく…………」
「……………………」
「ボクは…………砂沙美ちゃんにはいつでも笑顔のままでいて欲しい…………。
 だからボクは…………砂沙美ちゃんの笑顔を奪ったお前を絶対に許さない!!!
 使命も、正義も、今は関係ない!! お前だけは、ボクが今ここで倒してやるんだっっっ!!!」
「いっ……!!」

魎皇鬼は全霊を籠めてミサの右手に噛み付く。
しかしその全力の攻撃も、手袋ごしでは軽い痛みを与えるだけだ。
それでもミサは痛みのあまり、担いでいた釣竿を落としてしまった。

「……っくぅ、このっ!!」

逆上して、魎皇鬼を掴み上げて地面に叩きつけようとするミサだが……。

「……あっ……」

魎皇鬼の身体が脱力しているのに気付いたミサは、寸前で止める。
力を出し尽くした魎皇鬼は、既に気絶していた。

「…………魎皇鬼ボーイ…………アナタ、分かってるの?
 アナタがどんなに頑張っても、砂沙美ちゃんが好きなのは…………」

ミサは倒れている天地をチラリと見る。

「……う、うぅ〜ん……」

天地は落下した衝撃で目を覚ましたようだ。
少々寝ぼけているらしく、焦点の定まらない目で周囲を見渡す。

「……ここは……うわっ、ピクシィミサ!?」
「ハァーイ♪」

いきなり目の前にミサがいたものだから、仰天して後ずさる天地。

「……そ、そうだ……俺は、魔法をかけられて……」
「そう、あなたのスイートラバーに浮気してるって事を知られちゃったの」
「…………そ、そんな…………」

天地は頭を抱えてしまう。

「……ゴメン、砂沙美ちゃん……俺、そんなつもりじゃ……」
「あーもう、男がグチグチしてるのはみっともないわよ!」

自分のせいだということは棚に上げて説教を始めるミサ。

「……あ、そうだ。はい、コレ」
「えっ? わわっ!?」

ふと、自分の手に握られているコレのことを思い出したミサは、それを天地に投げ渡す。
「こいつは……砂沙美ちゃんの猫じゃないか!」

天地の言うとおり、それは気絶した魎皇鬼だった。
それにしてもコレ呼ばわりは酷いな。

「その子、怪我してるの。って言っても、やったのはアタシだけどね。
 でも不可抗力なのよ、ミサは戦う気なんて無いのに果敢に挑んできたもんだから」
「そんな……一体何の為に?」
「きっと、アンタを助けようとしたのよ。この子の大事な人にとって、アンタが大事な人だから」
「……………………」

押し黙ってしまう天地。
その胸中を占めるのは、感謝か、罪悪感か。

「ま、とにかく連れて帰って治療してあげてちょーだい。頼んだわよ」

ミサはテレポートで自宅に帰って行った。

後に残された天地はしばらく放心していたが、
手元の魎皇鬼のことを思い出すと、あわてて家につれて帰って治療を始めた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


既に日は落ちていた。
しかし、砂沙美は未だ廃堂のテラスで丸まったまま、微動だにしない。
その時……。

(カツッ……カツッ……)

(!)

何者かの足音が、堂内に響いている。
そしてその音は階段を通ってどんどん砂沙美に近づいてきており……とうとう砂沙美の脇で止まった。

「砂沙美ちゃん、やっぱりここに居たのね」
「……マ、ママ……」

砂沙美が顔を上げると、そこには津名魅が立っていた。

「あんまり帰ってくるのが遅いものだから、心配したのよ。
 でも砂沙美ちゃんは辛いことがあると必ずここに来るから、きっとここだと思ったわ」
「……………………」
「この前は天地くんとケンカした時、その前は天地くんとケンカした時、
 それからあの時に天地くんとケンカした時もここに来てたわね。
 ……それで、今日はどうしたの? 天地くんとケンカでもしたの?」

どんだけ天地とケンカしたことでヘコんでるんだよと思うが、事実なのだから仕方が無い。

「ママ……砂沙美、わかんなくなっちゃったよ……」
「あら……」

深刻な様子の砂沙美を見て、津名魅は少し顔色を変える。

「正義って……一体、何をすれば正義なの?
 ルールを守ること? 悪い奴を懲らしめること? 点数を稼ぐこと?」
287創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:04:23 ID:oPgOdHxI
 
まるで八つ当たりをするかのように、砂沙美は胸の奥から溢れるままの言葉を吐き出す。

「……そのためなら……正義のためなら、どんなことでもしなくちゃいけないの?
 どんな敵でも、問答無用で倒さなきゃいけないの?
 身を裂かれそうに辛い時でも……正義のためなら、自分を押し殺して耐え続けなくちゃダメなの?」
「……………………」

津名魅は、何も言わない。
ただ、砂沙美の言葉に真剣に耳を傾けるだけだ。

「…………分かんない…………砂沙美、分かんないよ…………」

口を開くたび、徐々に涙声になって行く砂沙美。

「……砂沙美……ずっと、自分がいい子だと思ってた……。
 でも、それは違った……!
 砂沙美の本性は、もっとずっと醜くて、身勝手な物だって知っちゃった!!
 だから……もう、戦えない!! 砂沙美は正義のためになんて、戦えないよッ!!」

しゃべりながら涙まで溢れ出たのを隠すため、
砂沙美は自分の膝小僧に顔を埋めた。

津名魅は少し困ったような顔をしていたが、
砂沙美の頭をそっと撫でると、静かに口を開いた。

「……砂沙美ちゃん、正義っていうのは、方法や目的で決まる物じゃないのよ。
 何を目的として、そのためにどういうことをするか……。そんなことは、正義とは何の関係も無いの」
「え……?」

目に涙を溜めつつも、思わず顔を上げる砂沙美。
よほど津名魅の言葉が意外に感じた様子だ。

「人々の笑顔を見たいと想い……また、それによって自分も笑顔で居たいと想う気持ち……。
 人のために働いて、喜んでもらえて、それが自分も嬉しい……そういう当たり前の心こそが、正義の本質なの」
「人の笑顔が見たくて…………それで自分も、笑顔に…………」

砂沙美は、はっとする。
自分の中の原点を見た思いだった。
そう、自分が幼い子供だった頃からずっと……。

『砂沙美ちゃん、本当にありがとう』
『やっぱり砂沙美は正義の味方だな』
『うん! 砂沙美、パパとママのために頑張るよ!』

幼い砂沙美には、正義の意味など分かるはずもなかった。
ただ、両親の笑顔が見たいがため、両親の喜ぶことを進んで行った。
そうすることで、自分も笑顔になれたから……。

「どう、砂沙美ちゃん? あなたはどうしたい?
 ゆっくり考えてみて。あなたの本当の望みは……何なのかしら?」

いつも通りの優しい声だったが……。
今の津名魅は、砂沙美も見たことが無いほど真剣な表情をしていた。

「さ……砂沙織………………砂沙美は…………!」

魔法の力は、今は無い。
だから涙と共に、砂沙美は自分の想いをぶつけた。
289創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:05:09 ID:oPgOdHxI
 
「み…………みんなの笑顔を見たい!! 泣き虫顔なんて嫌だっ!!
 天地さん……美紗織ちゃん……リョーちゃん……パパ……ママ……。
 ……みんなで、ずっとずっと…………ずっとずーっと、笑っていたいっ!!!」

嘘偽りの無い、心の底からの望み。
これこそ、彼女にとっての正義の本質だった。

「なら……笑って砂沙美ちゃん。貴方が笑わない限り……他の人だって笑ってはくれないわ」

そう言って、津名魅は砂沙美に笑顔を見せた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「アンタなんか大嫌い!!」
「こっちこそおまえみたいな女、願い下げだ!!」

額に青筋を浮かばせて怒鳴りあっているカップル達。

既に町は夜が覆っており、道も明るいとは言えなかったが、
ブラックサミーは手当たり次第に魔法を使っているらしく、
仲違いしたカップル達の存在が、砂沙美にブラックサミーへと続く道を教えてくれた。

そうして辿り着いたのは、町の名物である一本杉の下だった。
ここは地元では定番のデートスポットなのだ。

(クスクスクス……)

微かだが、確かにブラックサミーの笑い声が聞こえる。
引き裂かれたカップル達の様子を見て、せせら笑っているのだ。

「ブラックサミー!! おねがい、出て来て!!」
「はーい、ご主人様の仰せの通りに」

ふっと砂沙美の眼前から現われるブラックサミー。
まるで闇から直接生み出された精霊かのようだ。

「さぁ、何なりとお申し付け下さい。あたしはご主人様の願いを叶える者……クスクスクス」
「ブラックサミー……もうこんなことはやめて! そして砂沙美の中に戻って!」

真剣に叫ぶ砂沙美に対し、ブラックサミーは嘲笑を含んだ笑みを崩さない。

「これは異なことを……」

ブラックサミーは、挑むように砂沙美の瞳を見つめてくる。

「幸せそうなバカップル達の関係を引き裂くこと……。
 そして何より、あたしが貴方から離れること……それがアナタが望んだことでしょう?」
「……………………」

否定は出来ない。
ミスティクスのせいとは言え、一瞬でも自分がそれを望んだから、ブラックサミーが生まれたのだ。

(でも……でも違う! もう迷わない、砂沙美の本当の望みは……そんなことじゃない!)

静かに……しかし真っ直ぐに、ブラックサミーの瞳を見つめ返す砂沙美。
291創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:05:57 ID:oPgOdHxI
 
「……ねぇ、ブラックサミー……。
 あなたは、本当にそれで幸せなの……?
 恋人達の笑顔を壊すことで、自分が笑顔になれるの……?」
「笑顔に?」

ピク、とブラックサミーの眉が動く。

「ねぇ、どうなの……? あなたは笑顔になるために、こんなことをしているの……?」
「……………………」

ブラックサミーの表情は、見る見るうちに不機嫌になっていく。

「ねぇ、ブラックサ―――」
「うるさいわね、そんなわけないじゃない!!」

とうとう激昂したブラックサミーは、眉を吊り上げて怒鳴る。

「何のためって、決まってるでしょ!! このあたしを差し置いて笑顔になってる連中が気に食わないだけよ!!」

その言葉を聞いた砂沙美は……ほっと、息をついた。

「良かった……やっぱりブラックサミーも、笑顔になりたいんだよね……」
「なに、なんなのよ……」

砂沙美の反応に戸惑うブラックサミー。

「ブラックサミー、砂沙美の望みを言うよ……。嘘偽りの無い、本当の気持ち……」

砂沙美はそっと目を瞑り、そして開く。
その目は力強く、明確な意志が感じられた。

「砂沙美は…………みんなに幸せになって欲しい!!
 それだけじゃない…………自分自身だって、ちゃんと幸せになるんだからっ!!」
「……!!」

砂沙美に全力で思いの丈をぶつけられ、ブラックサミーは怯む。

「う、嘘よ……貴方は表面だけ取り繕ってるだけよ! 心の奥底では本当は―――」

言いかけて、ブラックサミーは何かに気付く。

「そうよ……それが本心かどうか、確かめてあげるわっ!!」

ブラックサミーは、プリティ空間を発動する。

「どう? ここでなら嘘はつけないわよ!」

この空間に居る限り、心の奥の本当の気持ちがブラックサミーに流れ込む。
その力からは、決して逃れることはできない。

だが……砂沙美は動じてはいなかった。
そっと目を瞑り、祈るように両手を眼前に組んでいる。
293創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:07:30 ID:oPgOdHxI
 
『こうなるのを待ってたの……』
「なんですって?」
『……ブラックサミー……あたしの想いを、受け取って!!』
「! しまっ……!」

砂沙美の心が、プリティ空間を通してブラックサミーに直接流入していく。

激しくぶつかりあう、砂沙美の心とブラックサミーの心。





長い戦いの後……支配権を得たのは、砂沙美の心だった。
ブラックサミーの悪意に満ちた心は浄化され、消えて――いや、砂沙美の中に戻っていく。



(あたしは、アンタの弱い心から生まれたアンタの影……。
 またアンタが目の前の現実から逃げ出すようなことがあったら、その時は……)

(うん、分かってる……ありがとう、ブラックサミー)


砂沙美はブラックサミーの……自分の中にある悪い子の気持ちを受け取ったことで、決意を新たにする。


「砂沙美……逃げずに天地兄ちゃんと美紗織ちゃんに会ってくる! 会って、本当の気持ちを聞いてみる!」


その言葉通り、砂沙美の足は天地と美紗織を探すために走り出していた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ごめんな、俺の為にこんなに傷だらけになって……」

自宅に戻った天地は、魎皇鬼の身体に薬を塗って、包帯を巻いてやっていた。

「これでよし……あとは安静にしてれば大丈夫だろう。さて、と」

魎皇鬼をタオルの上にそっと寝かせると、
ゴソゴソと押入れを漁って、掘り出したものをリュックに詰め込み始める天地。

「……こんなもんかな。善は急げって言うし、すぐに出よう」

結構な大きさになってしまったリュックを背負うと、天地はポツリとつぶやく

「砂沙美ちゃん……。俺はキミを取り返しが付かないほど傷つけてしまった……もう一緒には居られない……。」

そのままふすまを開けて玄関に向かおうとした天地だったが……。
295創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:08:09 ID:oPgOdHxI
 
296創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:34:00 ID:E66VOUmm
さるさん?
「天地ィっ!!!」
「っ!? 誰だっ!?」

天地は周囲を見回してみるが、誰も居ない。

「ボクはお前を許さない!! 砂沙美ちゃんをあんなに傷つけて!!」

しかし、声は止まない。
天地はそこから数十秒かけて、ようやく足元の存在に気付いた。
魎皇鬼がいつの間にか目を覚ましていたのだ。

「やい、何とか言えよ!」
「おまえ…………しゃべれるのか!?」
「そんなことはどうだっていい!! どういうつもりだよ!!
 おまえにとって一番大切な人は、砂沙美ちゃんのはずじゃなかったのかよ!!」
「……………………」

魎皇鬼が喋ったことに驚く間もなく、天地は物思いに沈む。

「…………そのはず……だったんだ……。
 なのに俺…………いつしか、ある女の子のことが忘れられなくなっちゃって……」
「誰なんだよ、その女の子って! 砂沙美ちゃんを差し置いてまで想う価値のある子なのか!?」
「それは……」

天地はすまなそうに、つぶやくようにその名前を挙げた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



砂沙美は、天地の家・征木家の前までやってきた。
先ほど別れた場所に行ってみても誰も居なかったので、とりあえず家まで来てみたのだ。

「おや、砂沙美ちゃん。こんな時間にどうしたんだい?」

玄関を掃除していた天地の父親の信幸が、砂沙美に声をかけてきた。

「信幸おじさん! 天地兄ちゃんいますか!?」
「天地かい? あいつならさっきまでいたんだけど……」

信幸は、ちょっと困ったような顔をする。

「何だか知らないが、急に『田舎に帰る』とか言い出して、荷物まとめて実家の爺さん家に帰っちまったよ」
「そ、そんな……!」

砂沙美はへたへたと座り込む。

(あたし……フられちゃったんだ……)

そんな砂沙美を信幸は困ったような顔で見ていたが、
ふと何かを思い出したらしく、家に上がると、すぐに戻ってくる。

「そうだ、天地からコイツを預かってるぞ」

信幸がひょいと摘み上げたものは……。
「リョーちゃん!? その怪我どうしたの!?」
「ミャアン!」

包帯塗れながらも、『心配ないよ』と言いたげに、元気に砂沙美に飛びつく魎皇鬼。

「天地の奴がいたずらでもしたんじゃねぇか?
 まぁ、今度会ったら俺が叱っておくから許してやってくんな」
「信幸おじさん……ありがとうございました!」

深々と礼をして、征木家を後にする砂沙美。


「リョーちゃん……その怪我……」
「いや、ははっ、ちょっと近所の猫とケンカになっちゃって……」

砂沙美は魎皇鬼を抱き上げ、抱きしめる。

「ちょ、ちょっと砂沙美ちゃん!?」
「…………ゴメン……砂沙美の代わりに、ミサと戦ってくれたんでしょ……?」
「ちっ、違うよ! これは本当に近所の猫と……!」
「ありがとうリョーちゃん……でもいいよ、気を使わなくても……。
 あたし、ミサが……美紗織ちゃんがやったこと、全部受け止めなきゃいけないと思ってるから……」
「……………………」

砂沙美はそっと魎皇鬼を胸元から放し、顔の高さに持ち上げて目を合わせる。
その表情は笑っていたが……無理をしているのが、魎皇鬼には分かった。

「…………天地兄ちゃんは、もう砂沙美に会いたくないみたい」
「……………………」
「砂沙美がしっかりしてなかったばっかりに、リョーちゃんをこんな目に合わせちゃった……。
 ゴメンね、もう天地兄ちゃんのことは忘れるから……明日から、また一緒に頑張ろう」

声が震えている。
泣くのを堪えているのだ。

「…………っ…………」

魎皇鬼がそれを言葉に出すのを躊躇ったのは一瞬だった。
天地に塩を送りたくは無かったが、砂沙美の悲しむ顔を見るのはもっと嫌だった。

「……天地は……浮気なんて、してなかったよ」
「え……?」

魎皇鬼は、先ほどの天地とのやり取りを思い起こす。



299創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 21:05:59 ID:oPgOdHxI
 
  『誰なんだよ、その女の子って! 砂沙美ちゃんを差し置いてまで想う価値のある子なのか!?』
  『それは……』

  天地はすまなそうに、つぶやくようにその名前を挙げた。

  『……プリティサミー、さ……』
  『えっ!!』

  一瞬、混乱した魎皇鬼だったが、すぐに事態を理解した。

  魔法少女に変身したものは、その全ての能力が増幅される。
  そう、本人の魅力そのものも……。

  『……………………』

  (天地が好きなのは、あくまで砂沙美ちゃんだったんだ……。本人ですら気付いていないけど……)

  魎皇鬼は、天地に真実を伝えるべきかどうか迷う。

  そうして互いに無言のまま過ぎ去っていく時間。
  ……先に口を開いたのは、天地だった。

  『おまえの言うとおり、今の俺は砂沙美ちゃんに会わせる顔が無い。
   だから…………今から田舎のジッチャンの所に行こうと思うんだ。
   そうしてそっちでしばらく頭を冷やして……今後の事を考えたいと思う』

  『ま、待てよ!!』
  『ん?』
  『砂沙美ちゃんは…………プリティサミーはっ…………!』

  喉元まで出かかった言葉を、魎皇鬼は飲み込んだ。
  だって、悔しいじゃないか。
  ズルいかもしれないけど、それを教えてしまったら……。

  『……とにかく、やめろよ……田舎に帰るなんてやめろよっ!! 砂沙美ちゃんが悲しむだろっ!!』
  『……………………』

  天地は、軽くため息をつく。それには自嘲の心が見て取れた。

  『……ごめん、本当のことを言うよ。実は俺、前からジッチャンには呼び出されてたんだ。』
  『えっ!』
  『砂沙美ちゃんと別れたくないから、ズルズルと先延ばしにしてたんだ。
   でも、今回のことで逆にふんぎりがついた。俺はジッチャンの所に行くよ』
  『……………………』

  天地は急いているのか、言葉少なめに立ち上がる。
  彼の言葉に嘘は無いのだろうが……。
  今は砂沙美に顔を会わせにくいというのも、やはり事実なのだろう。

  『……分かった、田舎に戻るのは止めない。でも……約束しろ!
   いつか必ず、もう一度砂沙美ちゃんに会いに来て、ケジメをつけるって!!』
  『……ああ、約束するよ。それまで砂沙美ちゃんをよろしくな』

  天地は、寂しげに魎皇鬼に笑いかけた。



「あくまで、あいつの心は砂沙美ちゃんに一途だった……この前のは、ミサに操られてただけみたい」
「ほ、本当!? じゃあ天地兄ちゃんはどうして何処かへ行っちゃったの!?」
「おじいさんに呼び出されてたから、元から実家に帰る予定だったみたい。一段落したらまた戻ってくるってさ」

魎皇鬼は、少しだけ嘘をついた。
天地が好きな相手がプリティサミーだったってこと、これだけは秘密にしておいた。
それが魎皇鬼の、ほんのささやかな抵抗だった。


「良かった……天地さん……やっぱり浮気なんてしてなかったんだ……」

砂沙美の目から嬉し涙がこぼれる。

魎皇鬼は、そんな砂沙美から目を逸らす。
砂沙美が天地のことで泣いているのを見るのは、やはり悔しかった。

(天地、お前に塩を送るのはこれが最初で最後だからな。
 もしまた砂沙美ちゃんを泣かせるようなことがあったら、ボクは絶対に許さないぞ)

そっと、心の中でつぶやく魎皇鬼だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



自宅に帰った美紗織は、薔薇の手入れをしながら独り言のようにぶつぶつと喋っていた。

「ふふふ……おっかしいの……。
 あの正義の味方気取りのサミーから生まれたラブラブモンスター、とっても醜悪だったもの……」

そんな美紗織の後姿を、留魅耶は心配そうな目で見つめている。

歪んだ形でサミーへの報復を成功させた今も、美紗織の悪意は少しも薄まる気配が無かった。
いや、むしろ以前よりも強まっていると言ってもいい。
そして、それに比例して魔法の力も強大になっていく……。
302創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 21:06:40 ID:oPgOdHxI
 
「ねぇルーくん……私、とってもイイこと思いついちゃった……」
「……イイこと?」
「うふふっ」

美紗織は立派に育った薔薇の一本を、ハサミで切り取る。

「……いい子が当たり前の世界だから、悪い子が迫害されるの……。
 悪い子をもっといっぱい、いっぱい増やして……世界中を埋め尽くしちゃえば……。
 世界を……悪い子が当たり前の世界にしてしまえば……。
 ……そうすれば………………悪い子なあたしも…………特別じゃ、なくなるよね……?」

そう言いながら振り向いた美紗織の目を見てしまった留魅耶は、慌てて顔を反らした。
悲しみと寂しさと憎しみを、既に隠そうとすらしてないその瞳を、留魅耶はとても正視できなかった。

「うふふ……簡単よ……。
 砂沙美ちゃんですらあんなに悪い子の部分があるのなら、世界を悪い子ちゃんで満たすなんて、とっても簡単……」

切り取った薔薇を、棚の上の水差しに差し込む美紗織。

(僕のせいだ……僕が美紗織に魔法の力を与えたばっかりに、
 美紗織も、砂沙美も、二人とも不幸にしてしまった……。
 美紗織は本当は優しい子なのに……魔法の力で心を狂わせてしまったんだ……)

今更ながら、安易に彼女に魔法の力を与えたことを後悔する留魅耶。

(でも……だからってどうすればいいんだ……?
 今更、美紗織から魔法の力を奪って、何か解決するのか……?)

留魅耶には、その答えを見つけることが出来なかった。



飾られた薔薇は、美紗織の高まった悪意を象徴するかのように、怪しく輝いていた……。



                     〜 第八話へ続く 〜
304創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 21:07:58 ID:x8NLpXUd
今回は大丈夫かと思ったら急に食らってやんなっちゃいますね。
やんなっちゃうと言えば、あまりに根の暗い展開の連続に自分でもちょっとウンザリして来ましたが、
でも残念ながらもうちっとだけこういう展開が続くんじゃ。

ほんわか成分は、ゆゆるちゃんで補給して下さいw
305創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 21:08:44 ID:aGjtSfNf

だが流石に長いから土日でゆっくり読ませてもらうのぜ
306創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 21:11:07 ID:oPgOdHxI
お疲れ様ー、支援間に合わずごめんよ。
後ほどゆっくり読ませていただきます。

おかげでサミーに興味が湧いたので原作も見ざるを得ないw
307サミー書いてる人:2009/02/06(金) 21:47:22 ID:x8NLpXUd
>おかげでサミーに興味が湧いたので原作も見ざるを得ないw

その言葉が何より嬉しい自分は何と言うAICの回し者・・・w
どれか一つ見るならTV版が断然お勧めですね

回し者ついでに1話を無料視聴できる所を紹介しておきますw
http://www.gyao.jp/sityou/catedetail/contents_id/cnt0045477/
308創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 21:53:30 ID:oPgOdHxI
おお、早速見てみる!

応援してます、これからも頑張ってください。
309217:2009/02/06(金) 23:35:38 ID:DDzBVYqv
ゆゆるちゃんの作者様、お疲れ様でした。
サミーの作者様、投下乙です。
えー、>>217の者です。やっとこさ、投下します。
以前、お話しした通り、戦う変身ヒロイン物です
310217:2009/02/06(金) 23:36:45 ID:DDzBVYqv
炎術剣士まなみ 第一話「参上!天下無敵の女剣士」
 新堂まなみは、眼を閉じ剣道着姿で木刀を構えている。彼女は木造屋敷の庭で、人の形を表した木の細工に向かっている。
風が吹くとまなみはカッと眼を見開き、素早く木人形に打ち込む。その黒く長く、さらさらと流れる髪が揺れる。
次の瞬間、木人形は崩れ落ちた。打ち込んだと思われる個所は大きくめり込んでいた。
まなみがふうっ、と小さく息を吐いていると、屋敷から見た目、二十から三十ほどの女性が姿を見せる。
「あ、母さん」
「まなみちゃん、気の使い方にますます磨きが掛かってきたわね。お話があるから、来て」
まなみの母・悠美は、彼女を呼ぶと屋敷の中へと戻る。それにまなみも続いた。

畳部屋に二人が向かい合わせで正座している。悠美が口を開く。
「いい、まなみちゃん。炎術剣士は代々、人の手に負えない魑魅魍魎を倒してきたわ。
その役目を、私からあなたに託したけど、何か変わりはあった?」
「ううん、今のとこは何も。話ってそれだけ?」
すると、悠美はちょっと残念な表情をする。
「う〜ん、まなみちゃんはまだ感じないかしら?悪しき力を」
「い、いえ。私もまだ修行不足みたい…」
「これが私の取り越し苦労ならいいのだけれど…」
ふと、まなみが壁に掛けてあった時計を見ると、時刻は既に七時半を回っていた。
まなみは少し慌てて、学校へ行く支度を始めた。

「それじゃ、行ってきます」
まなみは悠美に告げると玄関前にあるバイクに飛び乗り、出発した。悠美が気をつけてと
声を掛ける。彼女は遠い空を見つめていた。
バイクに乗ったまなみが青空の下、コンビニの角を曲がり、そのまま桜花高校の校門をくぐり、駐輪場に止まる。
「ふう…ギリギリセーフで間に合った…」
「まなみぃ!教室早く来ないと遅刻だよ!」
校舎の窓から彼女の友人が声を掛ける。
「分かってる、すぐ行く!」
311217:2009/02/06(金) 23:37:58 ID:DDzBVYqv
時は一気に放課後。チャイムが鳴り、眼鏡を掛けた中年の男性教師が教室から出ていくと
机の上で突っ伏して寝ていたまなみは目を擦りながら起きる。
朝、まなみに声を掛けた友人がニコニコ微笑みながら彼女の目の前に現れる。
「まなみぃ、また寝てたんだ?」
「沙羅か…いいの、数学なんて社会に出たら役に立たないんだから」
「まーた、テスト前に泣くことになっても知らないからね。ねぇまなみ、駅前の商店街行かない?
美味しい今川焼のお店が出来たんだって!」
瞳を輝かせながら言う沙羅に少々呆れ顔のまなみ。
「相変わらず、和菓子好きねぇ…まあいいわ、特にこのあと何も無いし」
「じゃ、さっそく行こ!まなみのバイクならすぐ着くし」
「はいはい、後ろで悪戯しないでね」
二人はさっそく二人乗りで商店街へと向かう。

商店街に到着すると、夕方ということもあり、主婦などの買い物客で賑わっていた。
今川焼のお店の近くには、テレビの取材でもあるのか、カメラやらマイクやらが置かれ、
その周辺には、取材陣と思われるスタッフが固まっていた。
「ほら、まなみ。あそこのお店だよ」
「分かったわ…ってすごく並んでるじゃない!」
甘い香りが漂う先にはすでに行列が並び、店が見えないほどであった。まなみは面倒臭そうにはぁ、
と溜息をついたが沙羅はそんなことはお構いなしに、まなみを行列へと引っ張るのだった。
その頃、テレビ局の取材陣の元に、突如、紫色の露出が激しい女性が現れた。
髪は青白く、額に角が生えている。明らかに場違い、浮いた格好である。
「ん?すみません、関係者以外の方はここには入らないでください」
スタッフの一人の若い男が、その女性に注意をするが、彼女はそれを気にも
留めないといった表情で。
312創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 23:39:00 ID:oPgOdHxI
 
313217:2009/02/06(金) 23:39:24 ID:DDzBVYqv
「あなた、聞こえませんでした?」
「うるさい…爆弾蜘蛛!」
暗い声で、何かを呼び出す。すると、アスファルトに禍々しい模様が浮き出て、
そこから、足が八本、灰色の蜘蛛のような怪人が現れた。
「う、うわぁぁぁ!」
「爆弾蜘蛛、この世界での初仕事だ。好きに辺りを破壊しろ」
怪人は口からいくつもの爆弾を発射し、商店街を破壊していく。一瞬にして辺りは騒然となり、人々は逃げ惑う。
まなみたちが並んでいた今川焼の店も当然、被害を受け店員も行列に並んでいた人も
蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
「もしかして…母さんが言っていた悪の気って…!」
「まなみ、早く逃げなきゃ…ああぁぁぁ!」
「沙羅!?」
振り向くと、爆風で沙羅は吹き飛ばされてしまった。急いで彼女に駆け寄る。
「沙羅、沙羅ぁ!」
何度も名前を呼ぶが、彼女から反応は返ってこない。沙羅を静かに横たわらせ、
まなみは怪人と女の方へと向かっていく。女はそれに気づいたようで。

「あら、何か御用?わざわざ殺されに来てくれたのかしら?」
「あなた達…許さない!…炎心変幻!!」
まなみが叫ぶと、彼女の体は炎に包まれていく。当然全裸になって。その炎の中で
まなみは姿を変えていく。まず体に着物が現れ、その上に紅の羽織が。続いてミニスカ状の袴が。
足はニーソックスで包まれ草履を履き、腕には赤い籠手が装着される。
そして最後に眩い光を放ちながら腰に刀が現れる。その姿は女剣士といったとこか
314217:2009/02/06(金) 23:40:50 ID:DDzBVYqv
「ふぅ…私って変身するとこんな姿なんだ…!」
まなみは自分の姿を見まわす。
「貴様、何者!?」
「私は…炎術剣士、新堂まなみ!」
「炎術剣士だと?ふん、面白い!爆弾蜘蛛、やってしまえ!」
指令が下りるや、爆弾蜘蛛はまなみに向かって突進する。それをまなみはひらり空高く飛び背後に回り込む。
「…暁一文字!」
刀の名前を叫び、抜刀。そのまま斬りかかる。斬られた怪人はうめき声を上げながら転げまわる。
「炎流波!」
まなみの腕が赤く発光した次の瞬間、炎が光線状になり怪人めがけて飛ぶ。
だが、それを紙一重で避けるとお返しとばかりに爆弾を発射する。まなみの周囲で爆発が起き
一瞬怯むと、爆弾蜘蛛の姿を見失ってしまう。
「今だ、爆弾蜘蛛!」
「はっ!?」
気配を察した瞬間には目の前に怪人の姿が。素早く刀で防御姿勢を取るが、体勢が悪く
ズルズルと押されてしまう。さらに、怪人の手から糸が放たれ、まなみを絡め取り、身動きを取れないようにしてしまう。
「しまった…!」
「いいぞ、爆弾蜘蛛!そのまま、止めを刺しなさい」
じわり、じわりとまなみに接近してくる。そしてまた爆弾が撃ち出されようとしていた。
だがその時、まなみの身体から炎のオーラが放たれ、糸を焼き切り、怪人を吹き飛ばした。
「なに!?」
「この程度、私には通用しない!たぁ!」
まなみが怪人に飛びかかり、勢いよく、何度も斬りつけていく。態勢を崩したその隙を
見逃さずに、炎の気を刀に纏わせていく。
「はぁぁぁ…!火炎大破斬!!」
怪人の頭から、縦に刀を振り落とし一刀両断。納刀すると同時に怪人は崩れ落ち消滅していった。
「くっ、なかなかやるようね…今日はここまでよ」
「待ちなさい!あなた達、何者!?」
「…我らは次元鬼族。そして私はスクリタ。以後、お見知りおきを…」
そう言い残すと、スクリタと名乗った女は空間の歪みから姿を消した。
315創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 23:41:29 ID:oPgOdHxI
 
316217:2009/02/06(金) 23:42:06 ID:DDzBVYqv
「次元鬼族…それが私が戦う相手、か…」
まなみがこれからのことを考えようとした時、突然、その思考は断ち切られる。
「す、すみません!あなたがあの化け物を退治したんですか!?」
「ふえぇ!?」
振り向くと、カメラとマイクがまなみに向かっており、一般人も野次馬の如く
集まっていた。まなみが驚くのも無理はない。彼らは逃げるか気絶していたと思っていたから。
「いや、その私は…(まずい、適当にやり過ごして逃げなきゃ…)」
「確か、新堂まなみさんと名乗られてましたよね?」
まなみは絶句した。少なくとも名乗りの時点でこのマスコミ集団は目覚めていたということだ。
「すごーい!まなみって、正義の味方だったんだ!?」
「さ、沙羅!?」
追い討ちをかけるように、沙羅まで目を覚ましていた。周囲から質問責めされ、
どうしようもなくなったまなみは、ごめんなさい!と叫ぶと、飛び上がり、一気に
バイクに飛び乗ると、その場から逃げだした。
「どうしよう…母さんに怒られる…いや、もっとひどい目に…!」
すでに次元鬼族より、目の前の危機に対し恐怖を感じているまなみであった。

次回予告「まなみです。なんてこと、第一話で世間に正体がばれちゃった!
母さんはやっぱり、微笑みながらお仕置きしようとするし、マスコミの人も
相変わらずしつこいし、当分静かな暮らしは送れそうにないなぁ…
えぇ?剣士って私以外にもいるの!?次回は『水と力のミニマム剣士』です!」
317創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 23:43:03 ID:oPgOdHxI
 
318217:2009/02/06(金) 23:46:33 ID:DDzBVYqv
というわけで投下終了です。主人公は和風な格好だけど敵の名前は
横文字だったり安定しません。>>217でもお伝えした通り、以前は別のとこで
投下していたのですが、その時は、すごく…仮面ライダーです…って感じでした。
バイクに乗ってるのは名残みたいな。まなみも大学生でした。
マンネリな展開になるかと思いますが、よろしくお願いします
319創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 23:49:50 ID:URORj1B/
おお、新作が来てる!
和風な変身ヒロインってあまりいない気がするから貴重な存在かも
320創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 11:59:50 ID:2GYXrKRs
新作投下きたー

シリアスのようでコメディぽくもあり、これからに期待させていただきます。
色んな意味で楽しみ。
321創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 22:14:51 ID:yYhCQ4hU
書き手が増えるのはいいことだ
いつかまともサイトが出来るくらい発展するといいな
322創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 22:19:20 ID:2GYXrKRs
まとめあるといいねー
書いたものが残るってことになれば、また書き手さんの
モチベーションもあがるかもしれないし。

と、自分にはできなさそうなのでなんとなく。
323創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 23:00:40 ID:XC8FvrE7
遅レスだが、ゆゆるちゃん作者乙。アニメ化決定。w
324創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 23:28:47 ID:uMsP5LUF
wikiなら今すぐにでもつくれるんじゃないかな?まとめ
325創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 23:29:34 ID:phA5Dfb1
このスレが埋まってからでもいいんじゃないか?
過去ログの収容とかと一緒にさ
326創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 23:33:16 ID:2GYXrKRs
そうだね、まだ余裕あるしねー
327 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/08(日) 21:30:53 ID:8ZAktc9j
つい一昨日に「予定がない」なんて書いちゃってからに非常にカッコ悪いこと
この上ないのですが。

ゆゆるちゃん第二部

がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん 第一話
「はじまりトライアングル」

22:00ごろより投下します。
328がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第一話 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/08(日) 22:00:00 ID:8ZAktc9j
『はじまりトライアングル』

 謎の施設「フリーダムエコロジー研究所」に勤め早4ヶ月。俺は大学とは違った人間関
係の中で、一つの悩みを抱えていた。
 それは俺のもっとも苦手とする分野、コミュニケーション能力不足のことである。

 例えば興味のなかった海外ドラマの話など入り込める余地はなく、夏期休暇を利用して
なんとかそれを打破しようと考えた俺は、ゆゆるちゃんの暇潰しも兼ねてレンタルビデオ
店にやってきたはずなのだが――

 周りに目をやる。
 ほの暗い鍾乳洞。ごつごつした岩の壁にいくつもの蝋燭がゆらめく妖しい祭壇。

 ふむ、唐突だが俺は何か只ならぬ事態に巻き込まれているらしい。

 手元に目を戻す。
 しかし持っているのは間違いなく、クソ忌々しい恋愛ドラマのDVDだ。

「すごいわ私ったら! 本当にできちゃった!」

 抱きしめあうブロンド美人とイケメン俳優のパッケージの下には、どことなく見覚えの
ある金色の髪が覗いている。

「人間召喚! これは魔女界でも初めての偉業よ!」
「き、きりりちゃんじゃないか」

 肩口まで伸びたぐるぐる頭をわさりと揺らし、俺を見つめ返す凛とした瞳。
 一体何故――と思う間もなく、持っていたDVDをきりりちゃんに奪い取られてしまった。

「これは何なのかしら!」

 そう言ってパッケージを舐めるように見回し、裏面の説明をしげしげと読みふける。
 一度びくんと身体を跳ねさせると、手を震わせながら差し戻してきた。

「わ、私にはまだ早かったみたい!」

 以前見た時よりも少しだけ大人びた顔とそばかす、その中央の小さな突起から滴り落ち
ている鼻血をハンカチで拭いてやることにする。

「きりりちゃんにはまだ早いかもな」
「あ……」

 おとなしく目を閉じ、頬を薄ピンクに染めるきりりちゃんは、周りに大輪の花でも飾れ
ば少女漫画のヒロインのようにも見える。鼻血を除けば。

「ところでこりゃ一体どういうことだ?」
「私が召喚したのよ、あなたを。それにしてもさすが私が見初めた人間ね、レデーへの気
配りがなってるわ!」

 ゲームやアニメでもよくこういった召喚魔法は見られるが、次からは召喚される側の気
持ちも考えてやりたいなあ、と思わずにはいられない。

「するとここは魔女の世界か?」

 息を弾ませ、俺の手をぐいぐいと引っ張りながら岩の螺旋階段を登る緑のドレス。
 たどり着いた重厚な鉄の扉に手をかけ、押し開く。

「そうよ! そしてあなたは今日から――」
329がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第一話 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/08(日) 22:01:13 ID:8ZAktc9j
 俺は差し込む眩い光に目を閉じた。

「私の下僕よ!」

 あっけにとられた――というのはもちろん下僕どうこうのことではない。

 見るからに豪華なシャンデリアを遥か上空に望み、輝く白い壁で囲まれた巨大なホール。
聞けばここがきりりちゃんの家なのだと言う。

「いやあ、こいつはすごいな」

 きりりちゃんがハートのステッキを振り回すと、ぼよんという音とともに小洒落たテー
ブルセットが現れた。

「さ、さあ、ご主人様と紅茶の時間よ!」

 いやしかし、俺はゆゆるちゃんとDVDを借りに来たのであって、このような場所で落ち
着いてるわけにはいかないのだ。迷子になったら困るではないか。

 そう思った矢先、ぽんと煙が立ち昇り、その中からゆゆるちゃんが現れた。
 頭の上で結わいた髪はメラメラとゆらめき、手に持ったプラスチックのカゴには大量の
アニメDVDが詰め込まれていた。

「あーもー、やっぱりきりりちゃんだ」
「ゆゆる!」

 ゆゆるちゃんが見えるところにいるのならば、俺にとって心配ごとは何もないわけで、
用意された紅茶に口をつけてみた――誠に酷い味である。

「ぴーぴーなってたいへんだったんだからね、ゆゆる」
「ご、ごめん……でも、だって私も一緒に遊んでくれないから!」

 ゆゆるちゃんときりりちゃんは魔女であり、喧嘩などを始めてしまうとこれは天変地異
を巻き起こす大変な事態となるので、ここは人間界を救う助太刀をした俺が止めねばなら
ない。

「まあまあ、それじゃあせっかくだから3人で見ようか」
「うん、きりりちゃんもいっしょにみよう」
「ほんと!」

 なんだかんだ言ってもきりりちゃんは割と素直な子であるので、憎めない存在ではある。
 きりりちゃんがステッキを振ると、ぼよんという音と共に汚れた蓄音機が現れた。

「ブルーレイには対応してないけどね!」

 仕組みはわからないが、どうやらこれで見れるらしい。恐るべし、魔女。

「きりりちゃん、まじょりんまじょりん知ってる?」
「知ってる! 最初の方見てないけど!」
「ゆゆるも! じゃあこれみよう!」



 盛り上がる二人の会話を聞きながら、俺は手にしていたDVDをズボンの中へ突っ込んだ。
 そう、俺にとって今一番大事なのは自分のことじゃない、二人のことなんだから。



つづく
330創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 22:02:31 ID:8ZAktc9j
ということで一話投下おわり。
色々経緯はおいといて、また皆様よろしくお願いいたしますです。
331創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 22:05:41 ID:Z28VMXE+
毎日書けてるってのが何より凄い。
332創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 22:06:32 ID:45WEgH6Q
ゆゆるキター!!
新展開だな? 期待していいんだな?
333創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 22:12:30 ID:XoNkETVy
ゆゆるちゃんの新展開だ!
334創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 00:52:34 ID:5UU3x6X4
お帰りなさいませ、ゆゆる作者様。
第1話からきりりちゃんがメイン。w
そしてブルーレイ非対応ワラタ。
きりりちゃんやゆゆる姉妹の他にまた新たな魔女っ子が登場したりして。
335創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 03:09:52 ID:1kmTzF26
うっかりここをチェックし忘れてたからなかなか追いつけんぜ。嬉しい悩みって奴だぜ
336創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 21:37:30 ID:Z7INWLP3
がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん 第二話
「おてんばカスタネット」

22:00ごろより投下します。
337がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第二話 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/09(月) 22:00:26 ID:Z7INWLP3
『おてんばカスタネット』

 今、巨大なホールの壁に映し出されているのは子供向けアニメ「まじょりんまじょりん」
 きりりちゃんが出した蓄音機のような物は、ちょうどレコード盤のようにDVDをセット
すると、ラッパ型のスピーカーから映写機のように画像が映し出される優れものである。

「あー、きりりちゃんぴょんぴょんしないでー」

 ただ、きりりちゃんがはしゃぐたびに音が飛んだり映像が乱れたりするので、これは大
変見づらい。
 見づらい上に数時間前から1話から3話までをエンドレスに見せ続けられているので、
さすがの俺もこのままでは孵化した挙句、美しく羽ばたいていってしまいそうだ。

「次、どえ見う!」
「これ、ゆゆるこれ、おゆゆめ!」

 とは言っても、舌も回らないほど興奮している二人に対し、そろそろ他のことでもしないか、なんて台詞はどう足掻いても言えそうにないので、高い天井から下がったシャンデ
リアなぞに目を向ける。
 するとここに一つの発見があった。シャンデリアを取り囲むようにして備え付けられた
輪に、いくつものベルがぶらさがっているのだ。

「これ知っ☆△×○○」
「ゆゆ×☆○! いちばん△□!」

 一体何故、シャンデリアにベルが? いやいやただの飾りなんだろう。なんて自問自答
を叩き壊すように、突然ベルががらんがらんと騒がしく音を立て始めた。

「やば! 誰か来た!」
 蓄音機をばこばこ叩き、流れる映像を止めるきりりちゃん。

「おねえちゃんだったらたいへん!」
 DVDをがらがらとカゴへ戻し、そのままぐいぐいとポシェットに詰め込むゆゆるちゃん。

 何がなんだか判らずにホール中を見回すと、壁に取り付けられていた木の扉が開き始め、
その光の筋から現れたのは、あのお姉さんであった。

「ゆゆるのあねです」

 しずしずとこちらへ近づくお姉さん、実物を見るのはこれが始めてなのだが、しかし。

「あ、いやどうも。始めまして。いつも二人にお世話になって……」

 ――まずい、何か非常にまずい。
 床まで伸びたふんわりヘアを引きずりながら、薄水色のワンピースを揺らす。

「こちらこそ。ゆゆるがいつもお世話になってます」

 ――何だこれは、何であの映像電話で気づかなかった?
 頭の上で結わえた髪はとても長く、ゆるいウェーブを伴って横へと垂れている。

 俺は言葉を失ってしまった。直視できない、できないが故にお姉さんの美しさを表現す
ることは不可能だ。

「りりの様! これは違うの!」
「そ、そうだよおねえちゃん! きりりちゃんがわるいの!」

 うつむいた俺の視界では、コウモリとウサギのスリッパがパンダと対峙していた。
338がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第二話 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/09(月) 22:03:06 ID:Z7INWLP3
「許可済みの召喚申請書に目を通してみれば、人間を召喚など不謹慎にもほどがあります。
きりり、これは軽はずみにして良い事ではありませんよ」
「ゆ、ゆゆるはこんなことしたらだめっていったの!」
「ゆゆる、あなたがしっかりしないとダメでしょう」

 大理石の上で繰り広げられる動物劇をみながら、何か言ってあげねばとは思うのだが、
言葉がでない。しかしそれはお姉さまの美しさによるものであり――ってなんだこりゃ?

「学校へはとりあえずのところ黙っておきましょう。しかし、罪は罪――」

 その言葉に続き、俺はこの人生において三本目の魔女杖を目撃することになった。
 ゆゆるちゃんの蛸棒、きりりちゃんのハートステッキ、そして。いや、それは杖と呼べ
るのかどうかすら怪しい、銀色に輝く細身の銃身を持つ、というかほとんど銃である。

「きゃー、りりの様それはー」
「いやー、おねえちゃんやめてー」

 逃げ出したコウモリとウサギ。パンダはそれを追わず、聞えたのは二発の銃声。

「反省なさい!」

 ぱた、ぱたりと倒れた二匹の動物はしばし動きを止め、やがてがくがくと震え始めた。

「びゃーー、ぎりりがわるがっだでじゅー、ぎりりどっでもわるいごでじゅーー」
「びぇーー、びゅびゅるはおでーぢゃんのばんづがっでにはぎばじだーー」

 突然の泣き声に俺はようやく自分を取り戻した。といっても何が起きたのかは分かって
いないのだがそれはしょうがない。なぜならお姉さんも魔女だからだ。

「お、お姉さん。違うんです、二人はただ――」

 それは確かにゆゆるちゃんを少し大人にしたような美しい顔ではあるのだが、さっきま
で直視できなかったはずなのに。これは何かおかしい。

「さすがに2人に想像力を吸収されるのは辛いでしょう」
「え? ああそうだ、そういえばそんな事を言ってましたね」
「今のあなたは現状を受け止める事しかできない状態にまで陥っています」

 言われてみればそうなのだが、それほど落差がない自分に肩を落としてみる。

「ぎりりはひどりぼっぢがざみじがっだでずーー」
「びゅびゅるぎのうおじっごもらじばじだーー」

 いまだ泣き止まぬ二人の鳴き声の中、聞き捨てならない台詞が見え隠れした気がしたが、
そんなことよりも――

「お姉さん、その杖は一体何なんです?」
「反省棒」

 ああ、やっぱりゆゆるちゃんのお姉さんなんだなあと思いつつ、しかし待てよ? 俺は
この二人を叱るなんてことさっぱり頭になかったではないか、と気付かされる。
 と、頭にこつんと反省棒が当たった。

「自分で気付ける方には弾丸はいりませんね」

 お姉さんはどうやら偉い魔女らしいので、大変に素晴らしい性能をもった杖を所有して
いるのだろう、非常に頷ける。しかし俺が多少変になったのはお姉さんが来てからなので
あって、もしやこれは大変な天然娘なのではないかと感じる俺であった。

つづく
339創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 22:06:25 ID:Z7INWLP3
期待をよそに「ボケ=∞、ツッコミ=0」で突き進め、ゆゆるヘヴン。
340217:2009/02/09(月) 22:52:23 ID:uTzOtfxw
ゆゆるちゃん作者様、投下乙です。
続いて炎術剣士まなみ行きます
341217:2009/02/09(月) 22:53:25 ID:uTzOtfxw
炎術剣士まなみ 第二話「水と力のミニマム剣士」
 熱が渦巻き、どこまでも暗黒の空が広がる世界。そしてその中心には石造りの巨大な城が
そびえている。それこそ次元鬼族の本拠地である。城の玉座の間には女が三人いる。
一人目は、前回まなみと対面したスクリタである。そのスクリタの隣には彼女より
少し背が高く、グレーのセミロング。
「スクリタ、あなたまんまと逃げ帰ってきたんだって?よくおめおめと戻ってきたわね」
「ふん…ベルディスお姉さまの作った怪人が弱すぎるのでは?」
「あら、人のせいにするの?あなたの指揮に問題があるんじゃないかしら?
我ら三姉妹に敗北の二文字は相応しくないというのに…この出来損ない!」
「ぐっ…!」
スクリタの姉、ベルディスは妹を嘲笑し、貶める。その様子を見ていた、もう一人の
褐色の肌をした女が口論の間に割って入る。
「お止め、ベルディス。スクルタを責めてばかりいてもしょうがない」
「ウルムお姉さま、それではスクルタはどうするのです。周りに示しが…」
三姉妹の長女、ウルムはその長く赤い髪を揺らし、鋭い目つきでベルディスを睨む。
「ベルディス、我ら次元鬼族が、たかが一人の人間の小娘にやられたのだ。これは今まで
我々が直面したことのない事態なのだ。スクルタを責めるよりも、対策を練らねばならん」
睨まれただけ、しかしその圧倒的な気迫にベルディスは押されてしまう。
だが、それでも口を開くと、ある提案をした。
「では、お姉さま…私を地球に行かせてください。あの、まなみとかいう小娘の
首を取ってきて御覧にいれます」
「何か策があるのか?」
「はい、私の自信作の怪人なら…あんな小娘、赤子も同然ですわ」
不敵な笑みを浮かべながら、ベルディスは、部屋の中央から姿を消した。
342217:2009/02/09(月) 22:54:10 ID:uTzOtfxw
まなみが次元鬼族の爆弾蜘蛛を撃破してから既に一週間が経過していた。初変身で
いきなり正体がバレてしまったまなみはマスコミから連日の取材殺到を頼まれ学校にまで
追われてしまい、家に帰れば母、悠美は古典的正義の味方の考えを重んじる
タイプだったため、いきなり正体がバレたまなみに対し、このお約束破りめ!と
キツいお仕置きを施すのであった。
「お、お母さん…もう勘弁して…」
滝壺に落とされ、命辛々、這い上がってきたまなみは頭上に星がクルクル回り、
目も渦巻き状態でほとんど声量のない声で発する。
「ふふふ、分かったわ。もう一週間もやったし、お母さんも満足したわ」
これは単に悠美にとってはストレス解消に過ぎなかったのかもしれないと思うと
まなみは、底知れぬ恐怖を感じ取るのであった。
「…まなみちゃん、大事なお話があるから後で居間に来なさい」
「は、はい…」
また、何か陰湿な言葉責めでもされるのかと思い、身を震わせながら居間へと向かう。
そこで二人は向い合せに座る。悠美は先程までの微笑み顔から一転、真剣な表情に。
「まなみちゃん。これからの戦い、あなただけでは辛いと思うわ」
「な、なんでよお母さん!私はちゃんとこの前だって戦えたのよ!?」
悠美の言葉に、不服そうな表情で疑問をぶつける。
「この前はそうかもしれないけど、まなみちゃんはまだまだ未熟よ。だから周りの状況も
確認しないで戦っちゃうんじゃない」
「うっ…」
悠美に対し、反論も出来ないまなみは黙りこむ。
「だから、仲間を探しなさい。剣士は炎術使い以外に、水術と雷術使いの一族がいるの」
「えぇっ!?剣士って他にもいるの!?そんなの初耳よ…」
「だって、今まで教えなかったから」
まなみはずっこけた。それはかなり重要なことじゃないのかと。

次の日、ホームルームの時間の出席確認、まなみのクラスは一名除いて全員出席。
「水無瀬さんって、不登校らしいよ」
ホームルームが終わると同時に沙羅がまなみに話しかけてくる。
「なんで?」
「さあてね。別にいじめられたとかじゃないみたいだけど…」
まなみは特に気に留めることもなく、一限目の授業の教科書を取り出した。
343創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 22:54:17 ID:Z7INWLP3
 
344217:2009/02/09(月) 22:55:03 ID:uTzOtfxw
昼休み。食堂でまなみがハンバーグを受け取り、端っこの空いている席に座る。
「さて、いただ…」
「いっただきまぁ〜す!!」
まなみがフォークを持とうとした瞬間にハンバーグは無くなっていた。否、食べられていた。
まなみが隣に視線をやるとハンバーグを頬張ったショートのスカイブルーの髪をした
小さな女の子がチョコンと座っていた。
「ちょ…!なに人の昼食勝手に食ってんの!というかあなた誰!?」
「は〜ごちそうさまぁ〜!」
「人の話を聞けぇっ!」
飯そのものはもちろん、金まで無駄になったまなみは怒り心頭。
「だって、お腹空いてたから…そんなことよりもあなた、まなみちゃんでしょ?」
「そんなことってなによ!…ん、そうだけど?で、あなたは誰なのよ」
「あたしは、水無瀬裕奈だよ!まなみちゃんに会おうと思って久々に学校に来たんだ」
裕奈と名乗った少女は屈託のない明るい笑顔で答える。
「もしかして…今まで不登校だった水無瀬さん?」

放課後。まなみはバイクを押しながら、裕奈と並行して歩いている。
周りからは焼き鳥の匂いが漂い、店の呼び込みの声が響き渡る。
「…それで、あなたは今まで武術修行で不登校だったってこと?」
「うん、学校よりも面白かったから。それで、この前まなみちゃんがテレビで
正義の味方やってるって話を聞いたから、あたしも助っ人しようと思って」
あっさりと言いのける裕奈に、まなみは厳しい表情。
「あのね、水無瀬さん。どれだけあなたが武術を身に付けても、戦いに巻き込むわけには
いかないわ。遊びでやってんじゃないのよ?」
「え〜!でもでも!絶対役に立つよ?」
まるで駄々っ子のようにごね、空手の構えを取って、適当に技を繰り出してみる。
その様子を見ながら、まなみは溜息をつき説得の言葉を考えている。

「あら、まなみさん…お友達と喧嘩かしら?」
「だ、誰!?まさか…次元鬼族!?」
「ご名答。私はベルディス。この前、あなたと会ったスクルタの姉よ」
現れた次元鬼族の女に対し用心深く構えを取る。だが、ベルディスは宙に浮いたまま
無防備に話を続ける。
「あらぁ、そんな怖い顔しないで?今日は炎術剣士さんにプレゼントを持ってきたの」
ベルディスが指を鳴らすと、地面に魔法陣が形成され、そこから岩石で身体が構成された
3mはある、巨大な怪人が現れた。当然周りは大パニックで逃げるか建物に隠れてしまう。
「ま、まなみちゃん…」
「嫌なプレゼントね…下がってて水無瀬さん。炎心変幻!!」
345217:2009/02/09(月) 22:56:12 ID:uTzOtfxw
裕奈を下がらせ、炎術剣士の姿へと変身し、電柱の天辺に飛び上り愛刀を抜く。
「人の生活を脅かし、話の腰を折る次元鬼族!炎術剣士、新堂まなみが成敗します!」
私怨のようなものが混じりながら名乗りを挙げ岩怪人に飛びかかる。勢いよく
斬撃を繰り返すが、怪人は気にも留めないように微動もしない。
「馬鹿ねぇ、まなみ…あなたの力じゃ、岩石熊は倒せやしないわ!やってしまいなさい」
「あぐぅっ!?きゃああああ!!」
怪人に掴まり、大地へと叩きつけられる。クレーターのようになった場所の中心から
砂煙が舞い、まなみが力なく横たわってる。
「いいざまね、新堂まなみ。さあ岩石熊!止めを刺しておやり!」
妖艶に微笑むベルディスからの命令を受け岩石熊がまなみに近づいていく。
「やめて!」
まなみと怪人の間に裕奈が割り込んできた。だが、その足は震えている。
「お嬢さん、命が惜しくないの?」
「うぅ…水無瀬さん、逃げ、て……!」
「やだ!あたし、まなみちゃんのために戦いたいんだもん!」
邪魔な障害を取り除こうと怪人がその拳を裕奈に振るおうとする。裕奈は死を覚悟して
目をギュッと瞑る。しかし、その時、彼女の身体から蒼い光が発せられ怪人を吹き飛ばした。
「な、なんだこれは!?」
「水無瀬さん!?」

「水心変幻!!」
裕奈が無意識に叫ぶと、その小さいボディが全裸となり、まなみと同じように着物と
ミニスカ袴、羽織が彼女を着飾るが、その羽織と袴の色は水色である。
膝までのブーツと、青い籠手が装着され、最後に腰に刀が現れる。
「なっ、剣士がもう一人!?」
突如現れた新たな剣士の姿にベルディスは驚きを隠せない。
「み、水無瀬さん…!水無瀬さんが水術剣士…!?」
「世間を脅かす次元鬼族!水術剣士、水無瀬裕奈が叩きのめすんだから!」
名乗りを挙げた裕奈は岩石熊に向かって蹴りをお見舞いし、転倒させる。
身体が重いからか、起き上がるのに苦労しているようだ。
346創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 22:56:28 ID:Z7INWLP3
 
347217:2009/02/09(月) 22:57:24 ID:uTzOtfxw
「まなみちゃん、大丈夫?」
「うん、ありがとう…水無瀬さんが、水術の使い手だったのね…」
裕奈がまなみを抱き寄せると、彼女は微笑を浮かべ応える。
「あたしも知らなかった…お母さんもお父さんも、そんな話は何もしてなかったし。
それよりも、いつまでも水無瀬さんなんて他人行儀は無しだよ」
「分かったよ、裕奈…一緒に戦って!」
「うん!」
ようやく立ち上がった岩石熊は、裕奈に殴りかかろうとするが、その拳を細身の体が
受けとめる。小さな体型に似合わない馬鹿力により身動きが取れない怪人に向かって
まなみの炎流波が放たれ、背中を焼いていく。
「おぉぉりゃあぁぁぁ!!」
そして炎の押す力を利用し、裕奈は怪人を背負い投げで地に叩き伏せさせる。
「裕奈、今よ!」
「村雨長光!!」
刀を抜刀した裕奈は、再び起き上がろうとしている怪人に向かって飛びかかり
「水迅大破斬!!」
水の気を纏ったそれで一刀両断。斬られた箇所から岩石熊は消滅していった。
「もう一人剣士が現れるなんて…聞いてないわよ!」
ベルディスは悔しそうに歯軋りしながら空間の歪みから消えていった。

「ありがとう、裕奈。あなたのおかげよ」
素直にお礼を述べるまなみに対し、穏やかな表情でいる裕奈。
「ううん、まなみちゃんを助けたいってあたしは思っただけ。まなみちゃんがいたから
あたし、変身出来たんだと思うんだ」
「裕奈…これからも、よろしくね」
「もちろん!裕奈に任せといて!」
満面の笑みでまなみに応える裕奈。こうして新たな剣士が誕生した。

次回予告「裕奈だよ!あたしが入れば百人力!だけど、もう一人雷術使いの剣士が
いるんだって。その剣士の子が見つかったんだけど、戦いたくない!だって。
もう、いろいろ大ピンチなのにワガママね。いいもん、まなみちゃんはあたしだけで
守るもん!次回は『戦う勇気よ、稲妻の剣士』だよ!」
348217:2009/02/09(月) 23:00:08 ID:uTzOtfxw
というわけで第二話でした。しかし、侍姿に変身するって
今年のスーパー戦隊と被ってる…さらに色分けは今年のプリキュアに…
もう少し、早くこのスレの存在に気づいていればなぁ〜と思う今日この頃
349創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 23:05:12 ID:Z7INWLP3
いかん、ちびっ子好きの俺のハートがうずいたwww
この良い意味でのベタ展開とやっぱり変身前は全裸だよねー的な部分が
もーすごい好きです、続きも期待!
350創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 23:53:09 ID:tWRZO2ux
まなみのお母さん絶対ドSだww
力持ちなちっちゃい女の子とかある意味お約束だな
351創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 04:06:45 ID:Vtg4uf5E
>>339

ただ後半が意味不明に感じてしまった俺は
静かに次回を待つことにする

>>348
お母さんいいキャラしてるなwww
352創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 06:57:40 ID:8K40uiu1
>>351 ただ後半が意味不明に感じてしまった

むむ、これはいけませんね。辛らつに受け止め反省いたします。
調子にのっていた感が否めません、お恥ずかしい。
353創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 07:30:13 ID:Vtg4uf5E
お姉さんにも想像力を吸い取られたって解釈でいいのかい?
354創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 07:48:15 ID:8K40uiu1
>>353
その通りです。しかし読み返してみれば確かに意味不明だったかも。
加えて設定自体が分かりずらいものであったかもしれません。

こういった不明な点も、できればお話の中でも解消していければと思います。
本当にご指摘ありがとうございます。

暴走した話であっても、作者が暴走してはいけませんよね。
355創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 22:19:02 ID:704Sd6eg
おお、しばらく見ないうちに作品が増えてる
ほんわか気分にさせてくれるゆゆるちゃんと
コミカルっぽいところもあるまなみと両作品これからも期待
356創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 22:53:15 ID:8K40uiu1
がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん 第三話
「まよなかメトロノーム」

23:00ごろより投下します。
なんかこれちょっとゆるくないのでご注意。
357がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第三話 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/10(火) 23:01:23 ID:8K40uiu1
『まよなかメトロノーム』

 必死に懺悔を続けていた二人の泣き声は、いつからか静かな寝息に変わり、天井に空い
た無数の丸窓からは柔らかな月明かりが差し込み、ホールを青いモノトーンで彩っていた。

 お姉さんが小さくため息をつき、銃のような杖をひらりと振るう。
 ぽん、という音と共に現れたのは、可愛らしくも巨大な天井付きベッドであった。

 釣り下がっている巨大なシャンデリア兼来客ベルは、明かりをともす物ではないらしく、
昼間の光を反射して取り込むだけらしい。

「そこの方、ゆゆるをお願いします」

 お姉さんは自分とあまり変わらない身長のきりりちゃんを背中に抱え、よろよろとベッ
ドまで歩き始める。

「あ、はいはい」

 言ってくれれば二人とも運ぶのに、とゆゆるちゃんを抱きかかえ、きりりちゃんと並べ
てから毛布を掛ける。
 泣きはらした目が、叱ってやれなかった俺に対して何かをちくちくと突き立てていた。

「さて、退屈かもしれませんが少しだけ私の話を聞いてください」

 青白いホールにぺたぺたとスリッパの音が響く。
 出しっぱなしだったテーブルチェアにお姉さんがそっと腰を下ろすと、薄い水色のワン
ピースが僅かに膨らんだ胸をふわりと撫でた。

「まず最初に一つ謝らせてください。本当はすぐにでも人間界へ戻すべきところですが、
一度受理されてしまった召喚申請に関しては多少時間が必要なのです」

 まあ、夏期休暇中だし魔女の世界を観光するのも楽しそうではあるな、などと思い始め
ていたところなのでそれは別によさそうだ。

「基本的には申請書に記された期間を満了しない限り、元の世界へ戻る事はできません」
「ああ、でも四、五日ぐらいだった別に俺は――」
「きりりが記入した期限は二百年です」

 なんと、さすがの俺もそんなに長寿ではないのである。

「ただ、これに関しては私の方で書き換え申請を出しますので、高等部の権限を活かせば
二日ほどで再認可されるでしょう」
「そりゃ助かります」

 床まで伸びた髪をさらりと掻き揚げると、その柔らかい影が俺の足元を撫でた。

「問題はその二日間です。人間がここへ来るのは初めての事なので、私自身も少々戸惑い
を感じますが、確実に言える注意点が二つあります」

 俺は長いものには巻かれる性格なので、魔女の世界に来たのならそれに従うべきなので
あり、それよりなにより、お姉さんは偉大な魔女っぽい風格をもっているので、心して肝
に銘じておかねばなるまい。

「まず、魔女の集まる場所へ行ってはいけません。今のあの子たちのように眠ってでもい
なければ、私たちは意識せずとも近くの人間から想像力を吸収してしまうのです」

 これは分かる。お姉さんが来た時、つまり魔女が三人になった時点で俺の思考力は現状
を認識することぐらいしか出来ない状態になっていたのだから。
「大量の魔女に囲まれでもしたら、自我を保つことすらままならないでしょう」

 ちらりと俺を覗き、一度小さく息を吸ってから、お姉さんは続ける。

「もう一つ、私たち魔女があなたに危害を加えることはないと思いますが、たった一人だ
け例外がいると想定します、これはあくまでも可能性ですが」

 危害といってもきりりちゃんぐらいだろう、と甘い考えを見抜かれたのか、お姉さんの
真剣な目がその危険性を十分に伝える。

「ちるるという名の魔女、これは人間に対し激しい憎しみを抱いています」
「と言われますと」
「何をしでかすか分かりません」

 いや、なんかもうそんな風に言われてしまったら、俺はずっとここで二日過ごしてた方
がよいのではなかろうか? まじょりんまじょりんでも見ながら。

「しかしあなたは初めて魔女界と人間界の往来を許可された人。できれば私としてもこの
世界のことを知って欲しいのです。先ほども言った通り、ちるるの事はあくまでも可能性」

 青いホールの中、立ち上がったお姉さんのシルエットがぺたぺたと近づいてくる。

「私とちるるも昔はいつも一緒でした、もちろん二人で人間界へ行った事もあります」

 その視線の先では、小さな二人の魔女がすやすやと寝息を立てていた。

「ただ、そこでの出会いは千年の時を生きる私たちにとって、辛く悲しい思い出しか残せ
ませんでした」

 うっすらと光で縁取られた頬に、一筋の涙が零れ落ちるのを俺は見た。

「ですから、どうか。ゆゆるたちには……」

 そう言って手を握るお姉さんは偉大な魔女であり、その貫禄から鑑みるに過去にとてつ
もなく悲しい出来事があったのであろう、と俺は考える。
 しかし、ここは男として考えるだけにとどまり、深く聞くのはやめておこうと思う。

「あれー、おねえちゃんたちおきてたの?」

 ベッドの上で起き上がったゆゆるちゃんの頭の上では、結わえた髪もくったりと眠そう
にしていた。

「ええ、お姉さんはもう行きますからね。今日はここでお泊りなさい」
「あーそうだ、ゆゆるのたこぼう、ちょうしわるいんだけど」

 目をこすりながら放たれる欠伸交じりの言葉に、なにか安らぎを感じる。

「では明日にでもこの方と杖の木へ行ってみるといいでしょう」
「えー、いいの?」

 不適な笑い声を漏らしながら、ゆゆるちゃんがぽふんと音をたてて再び眠りにつく。
 
「さきほどの注意、忘れないように。では申請局へ行ってきますので」
「あ、なんだかお手数かけます」

 去っていく後姿を見送り、静かに閉ざされた扉をしばし見つめた後、俺もまたベッドの
端へ潜り込んで深い眠りに落ちていく。
 それは何か、垣間見てしまった魔女たちの寂しさから目を塞ぐようにして。

つづく
359創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 23:05:36 ID:8K40uiu1
と言う訳で三話終了です。
不満点なども指摘していただけると参考にできますので、ぜひぜひ。
360創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 05:18:52 ID:SuhYc/yz
魔女界にwktk
361創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 05:23:05 ID:G0gbVb5k
セカンドシーズンはお姉さん関係の話かな?
魔女界の雰囲気とか楽しみだぜー
362創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 11:32:04 ID:NkrwoINs
ゆゆる描いてみました。
イメージとちがったらごめん。

ttp://www6.uploader.jp/dl/sousaku/sousaku_uljp00897.gif.html
363創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 12:32:31 ID:P6XPBYdS
初めてスレに来てみたが、まさかサミーを書いてる人がいるとは予想してなかったわ

ところで誰も突っ込んでないけど、美紗『織』はわざと?
364創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 13:37:18 ID:o3OsE/YK
>>362
おお、絵だー! かわいい!
ゆゆる書きとして、これにレスをつけないわけにはいきません。
すごいです、ありがとう!

イメージどうこうに関しては僕が熱く語るものでもないので、
ここは本当に読んでくださっているみなさんの中で自由に
思い描いてくれたらいいのではないかと思います。

ではでは
なにやら嬉しはずかしくて尻がむずむずしますので、これにて。
365創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 14:42:54 ID:NkrwoINs
>>364
>>362です。ありがとうw
尻ww
366創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 22:26:08 ID:o3OsE/YK
がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん 第四話

23:00ごろより投下予定ですです。
367がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第四話 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/11(水) 23:00:32 ID:o3OsE/YK
第四話『めざめのシロフォン』

 一体どんな夢を見ていたのか、目じりにうっすら残った涙を拭う。
 内容は思い出せないが、物悲しい記憶の残滓だけが脳裏にこびりついていた。

「ちょっときりりちゃん、それだいじょうぶ?」
「あってるって、絶対」

 二人の声が聞える。とりあえずのところ、俺の精神力は魔女二人までならカバーできる
キャパシティを持ち合わせているらしい。

「へんだよ、なんかくさいよ」
「もー、ゆゆるは細かいんだから。ちょっと黙っときなよ」

 鼻を捻り潰すような酷い匂いに身体を起こす。

「はい、出来上がり!」

 がしゃん、という盛大な音に目を向けると、木製のテーブルの上に濃紺の湯気が妖しげ
に揺らめいていた。

「朝ごはんできたよー!」

 気づけば俺は猛烈に空腹だったりする。それはもう飢えた野良犬のように、それこそ生
ゴミでもあれば漁ってしまいそうなほどに。
 と言うのは過剰な比喩表現かもしれないがとにかく、そんな食欲すら一瞬で失せる悪臭
の元凶をテーブル上に確認した。

「これ、二人で作ってくれたのかい?」
「そう! メインはどっちかっていうと私だけど!」
「ゆ、ゆゆるはちょっとだけ」

 二人の視線が、歩を進める俺の顔色を伺っているのを感じる。
 俺はといえば、こぼした白米の上に青い絵の具をぶちまけたような謎の料理に眉をしか
めるばかりだ。

「そりゃありがたいな。で、これは何ていう料理だろう」
「トルネードライス!」

 きりりシェフのおすすめポイントによると、吹きすさぶ恋の嵐を表現した情熱的な料理
であるらしいのだが、これはどう見たって嵐をなんとか持ちこたえた頑固なピラフである。

「さあ、召し上がれ!」

 ゆゆるちゃんときりりちゃんは魔女なので、人間である俺の了知を超えた恐るべき料理
を食すこともあるのだろう。加えて俺はここにお世話になっている身であり、もちろん彼
女たちのプライドのためにも覚悟を決めねばならない。
 スプーンで一掬い、どろりとした青い粘液がふつふつと粟立ちながら糸を引く。
 俺は何も見なかったことにして口へと運んだ。

「どう?」

 ――それは小学生の頃、図工の時間に使う粘土。俺は何かの拍子にそれを口にしたこと
があるのだが、まさにそれと似ていた。ちょっとしたノスタルジーだ。
 苦々しさのなかにまた苦々しさがある。謎の青いソースと混ざったそれは口中のいたる
ところにこびりつき、なかなか剥がれようとはしてくれない。
 純粋な苦味の執着。これが恋の表現ならば、とんでもない陰湿ストーカーである。
368がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第四話 2/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/11(水) 23:01:13 ID:o3OsE/YK
「まあ美味しくて当たり前なんだけど! きりり、お料理教室通ってるんだから!」
「ゆゆるも! ゆゆるもそれいきたい!」

 もう、どうにでもなれ。俺はそれだけを一心に思い続けながら、一口、また一口とその
山を切り崩し続ける。
 ようやく見えた銀の皿、そこにエンボス加工されているハムスターの絵に涙をこぼした
のは、一体どれくらい経ってからなのだろうか。

 さてさて、しばしの食休みを終えた後、俺たちは「杖の木」なる場所へ行く事になるの
だが、きりりちゃんによるとそれは「ゆゆるとお姉さんが勝手につけたセンスのないネー
ミング」であるらしく、正式名称は「ピアラの樹」と言う神聖な場所らしい。

「わすれものしたらだめだよー」

 と言われても俺は元から手ぶらなので、二人がポシェットやら杖やらをごそごそと準備
する中、扉の向こうに控える魔女の世界に心躍らせていた。

「それじゃあ出発ー!」

 二人の小さな手で押し開かれた扉。光の漏洩が床を走る。
 大きく開いた輝く世界は徐々に色合いを取り戻し、魔女の世界が目の前に広がった。

 黄緑色の芝生が広がる世界。太い杉のような木々が長い間隔をもって立ち並び、そこに
纏った葉はまるで天を突き刺すほどの勢いだ。
 遠くに望む霞がかった青い山、雲ひとつない水色の空。まるで子供が描いた絵のような
世界ではあるのだが、期待しすぎていた俺にとっては少々拍子抜け感が否めない。

「おはよーー」
「森さんおはよーー」

 口に手を添え、そう叫んだ二人の声が、決して近くはない山々でこだまとなって返る。
 かと思えば地震のような響きが大地を揺らし、生えていた木が、ばさり、ばさりと葉を
広げ始めた。巨大なビーチパラソルのように開ききった木々は、いくつもの葉を舞い散ら
せながら、天高くから木漏れ日を作り出す。

「これは……」

 景色は一変して大小さまざまなパラソルツリーの森となり、その光景に呆然とする俺を
見た二人が、くすくすと笑いだした。

「おはよーはだいじなあいさつなのにねー」
「人間には分かんないだろうね!」

 俺をここへ召喚したきりりちゃんに少しだけ感謝しつつ、一歩踏み出すと黄緑色の芝生
がスポンジのようにぱさりと音を立てる。

「あ、きりりちゃん。おべんとうもった?」
「持った、持った!」
「お弁当まで作ってあるのかい?」
「うん、トルネードおにぎり。ゆゆるがにぎったの」

 魔女の世界。それは誰もが子供の頃に思い描いた、夢の溢れるヘンテコな世界ではない
だろうか? これからの二日間が驚きの連続になるであろうことは考えるに易い。
 ただ、トルネードおにぎりに関してはそんなもの思い描いた覚えは全くないので、世の
中なかなか上手くはいかないものだ、と朝日に目を細めてみる俺なのである。

つづく
369創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 23:04:05 ID:oMijeBZI
トルネードおにぎりwww
370創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 23:04:38 ID:o3OsE/YK
第四話投下終了です。
一部と同じく10話で完結しますので、
まったりとお付き合いいただければ至上の極みにございます。
371創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 23:05:51 ID:oMijeBZI
うわぁん
割り込んじまった

本当にすまない
372創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 23:13:35 ID:o3OsE/YK
や、いやいや。そこはもう尻尾みたいなものですから。
レスいただけるだけでもうれしいのです。
373創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 23:53:13 ID:0qKJWX9w
やはりネーミングセンスがいいwトルネードってw
それにしても最近このスレも前より盛り上がってきた感じだね
良いことだ。さらに盛り上がっていくといいね
374創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 01:17:56 ID:7nAPv1OA
トルネードwww
375創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:14:04 ID:zJzLIu/X
炎術剣士まなみ第三話投下してみます。
376創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:14:42 ID:zJzLIu/X
炎術剣士まなみ 第三話「戦う勇気よ、稲妻の剣士」
 次元鬼族の本拠地・亜空魔城の玉座の間。スクリタはベルディスを笑い飛ばしている。
「お姉さまぁ、あんなに大口叩いていた割には…大事な次元鬼をまんまと倒され
敵に背を向け逃げ帰ってきたんですって?」
「まなみだけなら大したことはないのよ!予測なんか出来るわけないじゃない、
もう一人剣士が現れるなんて!」
「あらぁ…この前は散々、私を罵倒していたくせに、いざ自分も負けると言い訳とは…
人のことが言えない情けないお姉さま…」
実の姉妹とは思えないほど、醜い言い争いが続くなか、唐突に玉座から炎が噴き出す。
その炎が止むと、スクリタよりも深い紫色の蛇のように長い髪をし、
黒のボンテージに身を包んだ女が玉座に腰かけていた。
「やめい、スクリタ!ベルディス!見苦しいぞ」
炎の奥から静かに、鋭い声が発せられ、二人は慌てて跪く。
「も、申し訳ありません!フリッデ様!」
「玉座の間での醜い行い、どうかお許しくださいませ!」
二人が恐れ、今は満足に顔も見ることが出来ない相手こそ、次元鬼族の長である
女帝フリッデである。
「まあよい。貴様たちが破れた者たち、油断はならないようだ。
ウルム、次はお前が奴らを始末しにいけ」
「御意。フリッデ様の御心のままに」
物陰から現れたウルムは、しっかりと頭を上げながら静かに応える。

桜花高校は昼休みで、生徒たちは図書室で勉学に励んだり、寝てたり、校庭で
遊びでサッカーなどをプレイする者もいれば、教室や廊下で駄弁っている者もいる。
まなみは裕奈と、担任に頼まれ、教材を理科室へと運んでいる。
「まったくぅ、みんなあたしたちが戦ってるの知ってても労うどころか
こき使うなんてひどいよね、まなみちゃん!」
「ぼやかないの。私は今まで通り接してくれるみんなに感謝してるくらいよ」
377創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:15:39 ID:zJzLIu/X
二人が階段を降り、女子トイレの前を通り過ぎようとしていた。
「ねー、お金持ってきてないの?」
「ちょっと貸してくれって言ってるだけじゃん?」
「ごめんなさい…でも、この前も渡したし…」
「それだけじゃ足りないってこと分かったからさぁ。いいじゃん、ウチら友達でしょ?」
どこからか、女の声が聞こえてきた。声の数からして三人ほど。そのうち二人は
どこか下品な言葉使い、残りの一人は丁寧だが、か細い声で気弱な印象を受ける。
声が聞こえたのか、まなみは立ち止まり、聞き耳を立てる。
「裕奈、ここでちょっと待ってて」
「え?まなみちゃん?…おおっと!」
裕奈に教材を持たせ、そそくさと女子トイレの中に入るまなみ。
「あなたたち、なにしてるの!?」
「うわっ!?…なんだ噂の正義の味方さんじゃん。何ってこの子にお願い事してただけよ」
大声を挙げて中に入ってきたまなみに驚く女だが、誰だか確認すると
不敵な笑みを浮かべながら、あっさりと応える。
「嫌がってる人から無理にお金をもらおうなんて、お願いじゃなくて恐喝よ!恥を知りなさい!」
「ちっ…正義の味方ぶって調子に乗るんじゃないよ!行こう、亜里沙」
「待ってよ、理恵!」

鬱陶しくなったのか、舌打ちしながら二人はどこかへ逃げていく。彼女たちの捨て台詞に
まなみは少し暗い表情になった。が、すぐにいじめられてた少女の方に向きなおる。
少女は栗色のセミロングの髪をし、穏やかな顔立ちをしている。
「大丈夫?」
「はい…ありがとうございます…。あの、新堂まなみさんですよね?」
「そうだけど…あなたは?」
「私は姫倉伊織、まなみさんにお話ししたいことがあって」
そこまで言いかけると、外から裕奈が喧しくまなみを呼び始めたので、彼女とは
放課後に会うことにした。

伊織と待ち合わせている、学校の屋上。まなみは裕奈を連れてパンを食べながら
彼女を待っている。暇そうに裕奈は空を眺めている。
378創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:16:40 ID:zJzLIu/X
「お待たせしました」
ようやく伊織が現れると、まなみは笑顔で彼女を迎える。
「そんなに待ってないから大丈夫。それよりも話って?」
伊織は少し、悩んでいるかのような表情をするが、ようやく口を開く。
「まなみさん…私があなたの探してる雷術剣士です」
「えっ!それって本当なの!?」
まなみはもちろん、ボケっとしていた裕奈もこれには驚いた。
「でも、剣士ってことはあなたも素でかなり強いんでしょ?なんであんないじめっ子の
一人や二人に…」
「ごめんなさい、私…戦うのが怖いんです」
「どうして?」
「だって、死ぬかもしれないんですよ…誰かを傷つけるかもしれないし…」
語る伊織に、裕奈が真っ直ぐ近寄るといきなり肩を掴んだ。
「ゆ、裕奈ちゃん…?」
「あのねぇ…戦うのが怖いのはあたしもまなみちゃんも同じ!伊織ちゃんは勇気が無いだけ!
それに自分が嫌な目にあっても、我慢してなきゃいけないなんて自分はどうなんのさ!
嫌なこと、悪いことには戦わなくちゃ!」
言いたいことを言い切ると、少し照れながら再び空を眺めだした。呆然としている伊織に
まなみが裕奈に続いて
「伊織、戦うのが嫌ならそれでもいい。だけど、時には立ち向かうことも大事だよ。
でも、無理強いはしない。自分の意思で決めて」
「まなみさん…」
まだどうしようか困惑している伊織だが、それも束の間、校庭から何かが
爆発するかのような音が飛び出した。
「な、なに!?」
校庭の方を除いてみるが、土煙がすごくとてもどうなっているか分からない。
「行こう、まなみちゃん!」
「まなみさん!裕奈ちゃん!」
駆け出そうとするまなみと裕奈を呼び止めようとする伊織。彼女にまなみは振り返って。
「伊織、ここで待ってて」
そう言うと、まなみは再び駈け出した。伊織はまだどうするか悩んでいる表情で。

二人が校庭に辿り着くと、そこには巨大な蛸のような生物がその姿を現していた。
「これって…もしかしなくても」
「次元鬼族!あたしたちの学校に何の用よ!」
どこからか、低音の笑い声が聞こえてくる。次の瞬間、蛸の前に次元鬼の女が現れた。
「お前たちが新堂まなみと水無瀬裕奈か。私はウルム。スクリタとベルディスの姉だ」
「へぇ、長女ってこと?妹の二人の仇討ちかしら?」
まなみの言葉に、鼻で笑うウルム。
379創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:17:28 ID:zJzLIu/X
「仇?そんなことはどうでもよい。私は妹たちがどうなろうと知ったことではない。
ただ、貴様らが目ざわりなのは間違いない。死んでもらう!やれ、獣蛸!」
獣蛸の足が二人に襲いかかる。それを飛んで回避すると剣士の姿へと変身する。
刀を抜いて、獣蛸へと斬りかかる。が、まなみは斬りかかれなかった。
目の前に剣を携えたウルムの姿があった。
「…くっ!」
「妹たちは自ら戦おうとするのを忘れていたが、私は違う」
まなみとウルムが斬り合いをしてる中、裕奈は一人、獣蛸に挑む。
「水流波!」
腕から水の気を飛ばし、牽制しながら何度も斬りかかるが、蛸の足に翻弄され決定打が
与えられない。ふとした瞬間、裕奈の体に足が巻きつく。
「しまった!きゃああぁぁぁっ!!」
小柄なその体を足がきつく締めあげていき、裕奈は苦悶の表情を浮かべる。
「裕奈!」
「よそ見をしている場合ではないぞ、新堂まなみ!」
裕奈に気がいったまなみを容赦なく斬りつけていくウルム。
「あぁぁぁぁっ!!」
「獣蛸、そいつも捕まえろ。そして二人とも絞め殺してしまえ!」
地に伏せていたまなみの体が蛸の足が持ち上げ、裕奈と同じように締めつけていく。
「くぅあぁぁ…ゆ、裕奈…!」
「まなみ、ちゃん……」
意識が朦朧とし始め、二人はお互いを呼び合うが、手を伸ばすことも出来ない。
「あっけないものだ…さあ、獣蛸よ。止めを刺せ」
「やめてください!」
校舎の入り口から叫び声が響く。ウルムが振り向くと、そこには伊織の姿が。
「い、伊織…!」
「貴様は…もしや」
ウルムが険しい顔をする。伊織は意を決したかのような表情で叫ぶ。

「雷心変幻!!」
伊織の身体からオレンジ色の光が放たれ、やはり全裸となり、まなみたちと同じように
着物とミニスカ袴、羽織が彼女を着飾る。その色は山吹色で、足首までの足袋と草履、
そして白い籠手が腕を覆い、腰に刀が現れる。
「大切な人を傷つけ、苦しめる次元鬼族!雷術剣士、姫倉伊織が許しません!孫六刀!!」
刀を抜刀する伊織。剣士へと変身した伊織の姿を見ても、ウルムはとくに驚く様子はない。
380創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:18:37 ID:zJzLIu/X
「そこの二人だけではないとは思っていたが…なるほど、貴様が三人目か」
「伊織!」
獣蛸の足が伊織に鋭く突き刺さる。…が、その伊織は霧のように消えうせた。
蛸の足が彼女を探すように足を戸惑わせるが、直後その足は斬り離された。
「なにっ!?」
「まなみさん、裕奈ちゃん!」
予想外の強さを見せる伊織に驚きを隠せず、思わず声を挙げるウルム。
伊織はまなみと裕奈を救出すると、獣蛸に向きなおる。今度は複数の足が襲いかかるが、
それを素早く回避し胸の前に刀を縦に構える。すると、伊織の姿が五つに分裂する。
「っ!?…分け身の術か!」
「はあぁぁぁっ!」
分身全員で稲妻を放射し、獣蛸の身を焼いていく。負けじと蛸の口から溶解液が放たれる。
だが、それを横からの水流が邪魔する。
「さっきのお返しよ!てやぁぁぁ!」
蛸足をつかんだ裕奈が回転しながら投げつける。その様子を見ていたウルムは舌打ちし、
「くっ、情けない!こうなれば…」
「あなたの相手は私よ!」
先ほどと立場が逆転し、今度はまなみがウルムを攻め立てる。獣蛸の方は裕奈と伊織の
攻撃でなされるがまま。

「水迅旋風拳!」
水の気を纏った拳で獣蛸を殴り飛ばし、ダウンさせる。そして伊織は雷の気を刀に集中する。
「雷鳴大破斬!!」
十文字に斬り裂き、斬られた個所から木っ端微塵に吹き飛んでいく。
「火炎閃光キィィィック!!」
「ぐはぁ!…くっ、仕方あるまい…ぬん!」
燃え盛る蹴りを浴びたウルムは状況不利と見て撤退した。
381創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:19:24 ID:zJzLIu/X
夕日がそろそろ沈むかという時間。変身を解いた三人は、その場に固まっていた。
「伊織…決心したのね?」
「…正直言って、まだ怖いんです。でも、二人と一緒なら」
先ほどまでの弱気な表情と比べるとだいぶ明るくなったようにみえる。
「よかったね、まなみちゃん!そうだ、剣士が揃ったんだから、お祝いしようよ!
近くのファミレスでご飯食べよ!まなみちゃんの奢りで!」
「ちょっと、なんで私の奢りなのよ!?」
「だって、まなみちゃんがリーダーだし、お金持ってそうだし」
「いつリーダーになったのよ!?それにお金だって…」
二人が言い争ってる横から伊織が小さく口を挟む。
「あの、まなみさん…私、イチゴパフェが食べたいんですが…」
「って伊織!あなたまで!?私は…」
「だって、自分の意思で決めることが大事って教えてくれたじゃないですか」
「いや、私が言いたかったのは、そういうことじゃ…」
「ダメ、ですか…?」
キラキラとした涙目を見せる伊織にまなみはゲッと困った表情をし、仕方なく
二人の願いを受けることになってしまったとさ。まなみの小遣い日はまだ遠い。

次回予告「伊織です。おいしいイチゴパフェでした。また、ごちそうになれるといいな。
私が加わって剣士は全員揃ったのですが、まなみさんのお母さん曰くまだ未熟だから
三人で修行しなさいとのこと。でも、なんだか裕奈ちゃんが私のこと避けてるような…
裕奈ちゃん、私のこと嫌いですか?次回は『いきなり仲間割れ!?』です」
382創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:22:09 ID:Q1P83uxH
もうね、ゆるるちゃん作者さん…お友達からお付き合いしてください。
ときに、まなみ作者さん。敵キャラの3姉妹は某女神3姉妹を意識してのネーミングで?
383創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:22:23 ID:zJzLIu/X
というわけで第三話終わりです。これでメインは揃いました
それにしてもバランスのまなみ、パワーの裕奈、スピードの伊織となると
これじゃファ○ナルファ○トですな…。おまけで簡単な設定も置いときます

新堂まなみ:17歳。桜花高校に通う高校二年生。母・悠美から剣士としての
役割を受け継ぎ、次元鬼族と戦っている。剣技と炎の術を駆使する。
真面目なようであまり真面目じゃない。スタイルは抜群。

水無瀬裕奈:17歳。まなみと同じクラスだが、不登校だったため面識はそれまで無し
剣と水の術以外に、怪力を発揮する格闘少女。小柄で華奢でぺったんこの幼児体型
大食漢だが、一向に成長は見られない。

姫倉伊織:やっぱり17歳。まなみの隣のクラス所属。剣と雷の術を使い、素早い動きで
相手を翻弄する、侍というより忍者。いじめられっ子で争い事は好まない。
だが、案外ちゃっかりしている。
384創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:26:18 ID:zJzLIu/X
>>382
お答えします。ぶっちゃけその通りです。
でも名前と姉妹ということだけですけどねw他に元ネタの話とか入れることも無いだろうし
ちなみにラスボスの名前も…本当に主人公たちが侍姿になるだけで
和風もへったくれもないです
385創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:30:31 ID:Q1P83uxH
>>384
お答え、サンクスです。
侍は十分和風なキーワードですぜ。wカッコイイ。
そういえば今年のスーパー戦隊のコンセプトは侍だとか。
しかし、あのマスク…。新感覚過ぎますね。w
386創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:36:07 ID:zJzLIu/X
>>385
そう言っていただけると嬉しいですw
>今年のスーパー戦隊
らしいですね。だから、やべぇ今年のそれと被った…!と
微妙に不覚!色の組み合わせはプリキュアだし。
ああ、マスク…ピンクの人が一番強そうですね、『天』だしw
387創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:48:04 ID:bjohZpPz
戦国時代とかが舞台ってわけじゃないから侍姿になりゃ十分和風かとw
変身ヒロインらしく全員ミニスカというのが良い
それにしてもまなみの周りはSな人が多いなあw
388創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:58:26 ID:ajt6lthj
>>382
>ゆるるちゃん作者
ここは声を大にして言わせていただきたい、僕もよく間違えます。

>>まなみさん作者さまへ
いやあ、やっぱりいいですな。三者三様、分かりやすさは正義なのであります。
そういった部分、見習いたいものです。次回予告とかも好き。

>やはり全裸となり
ここは吹かずになんとすべきかw
389創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 23:58:55 ID:Q1P83uxH
>>387
まなみママンとかね。w
まなみママンもかつて、戦士だったのかな。
390創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 21:30:28 ID:gKI2fJ0E
がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん 第五話

22:00ごろより、ゆるゆる投下予告
第五話『おおぞらクラリネット』

 パラソルツリーの隙間から差し込む木漏れ日が、芝生の上にひし形の光を落とす。
 時としてスペードやハートの形になったりするそれを見ながら、これはいよいよ幻想的
な世界に足を踏み入れたものだ、と歩を進める。
 なんでも杖の木へ行くために「添え木の葉」なるものを探さねばならないらしい。

 ぺたぺたとウサギスリッパの音が森に響く。
 俺は一本のロープを握っていた。

「ゆゆるが代わろうか?」
「大丈夫だよ。そんなに重くないしね」

 ぱたぱたとコウモリスリッパの羽音が森に響く。
 ロープの先に結わえ付けたきりりちゃんは、ぷかぷかと浮かんだまま眠っていた。

 きりりちゃんは朝食の仕込みで大変にお疲れだったようで、スリッパを稼動させたまま
眠るという荒業をお披露目中なのである。
 ただあまりにも豪快に眠っているため、大胆に開いた緑のスカートから下着などが丸見
えになっているのだが、周りに人もいないのでよしとする。

「あ、これならいいかんじ」

 ゆゆるちゃんが2メートル四方はあろうかという巨大な葉を拾い上げた。

「これが添え木の葉? ここに座ればいいのかな」
「うん、すわってまってて」

 茎の部分へ蛸棒をくくりつけるゆゆるちゃんを見ながら、しばし待つ。

 ゆゆる博士によると、この添え木の葉というものは、茎の部分に小枝などを添えると、
その親木の元へ戻ろうとする性質があるらしい。なんのこっちゃわからないが、要するに
杖の木から切り出された魔女の杖を添えれば、自然とそこへたどり着くということである。

 間もなくこれが見事に浮かび始め、ぐんぐんとパラソルツリーの葉へ向かって上昇する。
 しかし、それと同時に重大な問題が発生してしまった。

「ちょ、ちょっとゆゆるちゃん」
「なに?」

 俺の握ったロープは下へと引っ張られ、その先では逆さ吊りになったきりりちゃんが、
なんともあられもない格好をさらしているのだ。

「大丈夫か、これ」
「へいきでしょ?」

 コウモリスリッパの上昇力が追いついていないようで、どう考えても平気ではない。
 平気ではないのだが、ちらちらと覗くきりりちゃんの顔は大変安らかな表情をしており、
本当に平気なのかもしれない。

 折り重なった葉の隙間を通り抜け、望む景色はまさに壮観。
 地平線まで伸びた広大な森は、ところどころに湖や広場を覗かせ、青く晴れ広がった
空には、綿菓子のような雲がちらほらと泳ぐように浮かぶ。
 それは単調な景色かもしれないが、何か心の琴線に触れるものがある。

「あれが杖の木だよ」

 指差す先に目を向けると、霞がかった山の上に、これまた巨大な一本の木がそびえたっ
ているのが見えた。その頂上などは空と同化してしまって、はっきり分からないぐらいだ。
「すごいなあ、あれが――」

 ふと視界を遮るものがあった。
 最初は何か分からなかったが、よくよく見ればどうということはない。
 それはようやく追いついてふわふわと浮かぶ、きりりちゃんだった。

 俺はそれをぐいと横に退ける。

「あれが杖の木か」
「いまからだとね、ゆうがたには――」

 ゆゆるちゃんも視界を遮られたのか、その金色の頭をぐいと退ける。

「ゆうがたにはね、つくとおもう」

 上昇を終えた挿し木の葉は非常にゆっくりと移動しているため、目的地は見えているの
だが到着するまでには大変に時間を要するらしい。

「ま、こういうのも悪かないな」
「うん。ゆゆるも――」

 ぐるぐる頭をぐいと退ける。穏やかな寝顔があっちへこっちへ、ふわふわと動く。

「ゆゆるもすき」

 そう言って俺の胸へと顔を埋めると、頭の上で結わえた髪が頬を撫でる。
 ふと目を上げると、巨大なイワシが群れをなして優雅に泳いでいた。
 はて、これはどこかで見たことがある光景だな、と首を傾げるが全く思い出せない。

「ゆゆるちゃん、イワシが飛んでるよ」
「とんでるねー」
「飛んでるなあ」

 その時、イワシに見とれた俺はうっかり力を緩めてしまったらしく、ロープがするする
と手を抜け、きりりちゃんが離れていってしまった。

「ゆゆるちゃん、大変だ。きりりちゃんが」
「何?」

 大の字になって眠るきりりちゃんの安らかな寝顔が、ゆっくりと森へと下降していく。

「大丈夫か、これ」
「へいきでしょ?」

 小さくなっていく緑色のドレスは、やがて森の緑と一つとなり、見えなくなった。

「平気かなあ」
「へいきだよ」

 こうして出発早々、仲間を一人失う事となってしまったのだが、ここでくじける訳には
いかない。俺は魔女の世界に初めてやってきた社会人であり、社会人たるべきもの、常に
ポジティブでないとならないからだ。

「おにぎり持ってたのは、きりりちゃんだったかな?」
「あーそうだ、おひるどうしよう」



つづく
393創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 22:03:42 ID:gKI2fJ0E
第五話 投下終わりです。

実は魔女っ子ものってほとんど見たことないので、なにかお勧めなどあれば
教えていただきたい。
394創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 22:13:47 ID:P6vouLoh
へいきじゃないと思うんだ
395創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 22:51:21 ID:/VdJH+v1
ポジティブっつーか無かったことにしようとしとるw
396創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 23:59:45 ID:EIIuHoxu
やっぱゆゆるちゃんええな。
他の作品も楽しみだ
397創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 16:24:14 ID:r2One5hX
>>393
全力でおジャ魔女どれみシリーズ全200話を薦めます。
398創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 23:00:07 ID:kKMkHhFt
お勧めの魔法少女といえば…あえてマジカルエミとかw
399創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 23:04:48 ID:IsBdbkbB
おすすめと言えばやっぱりどれみシリーズかな

マジカルエミは若干レベル高いぞw
400創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 23:13:23 ID:OOj4H4vv
なのはが好きだけど、お勧めはしない。
うん、俺もゆゆるちゃん作者にはどれみ推奨です。
401創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 23:34:08 ID:kKMkHhFt
まあどれみがおすすめなのはよく分かる
じゃあ花の妖精マリーベルとか
402創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 23:41:13 ID:5oyUoH0n
あまり観る時間が無いなら、
放映期間の短い「ファンシーララ」とか。
全26話だし。
403創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 00:03:57 ID:V8jBlVkM
プリティーサミーをすすめるの忘れてた
404創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 01:33:50 ID:B8rhm0lv
405創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 10:43:49 ID:lZ3WoNBa
色々お勧めしてくださってありがとうございます。
ゆゆるちゃんはなんとなくノリで始めてしまったのですが、他作者さんの作品を読むにつれ
なにやら魔女っ子熱が上がってしまった次第なのであります。

とりあえず、どれみから始めて、雑談にも参加できればと思います。

11時ごろからゆゆるちゃん6話投下予定です。
406創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 10:46:50 ID:6QQaVIiS
wktk
407がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第六話 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/15(日) 11:01:10 ID:lZ3WoNBa
第六話『なかよしファゴット』

 添え木の葉による空の旅は非常に快適で、機嫌のよさそうなゆゆるちゃんも頭の上で結
わえた髪を風になびかせていた。
 ただ、ごく些細な事を言わせてもらえれば、俺は胡坐をかいた上にゆゆるちゃんを搭載
しているので、足腰には少なからず負担が蓄積されつつあり、長時間航行となると少々辛
い予感がする。

「ゆゆるおもくない?」
「ああ、大丈夫だよ」

 とりあえず顔だけを後ろへ向け、どれぐらい進んだのかを確認してみたのだが、景色は
ほぼ緑一色のため、どの辺りから飛び立ったのか見当もつかない。

 と、遥か彼方。眼下に広がる森の海からぱっと小さな葉の飛沫が上がり、何かが飛び出
してくるのが見えた。
 目を凝らしてみると、それは先ほど墜落して名誉のリタイアを遂げたきりりちゃんで、
何やらもの凄い形相でこちらへ近づいてきている。

「きりりちゃんじゃないか! 大丈夫だったか!」
「大丈夫なわけないでしょ! このスットコドッコイ!」

 きりりちゃんのぐるぐるヘアからは、木の枝などが大量に生えており、最後に見た安ら
かな寝顔とはうってかわって、まるで悪魔のような、いや、これはもう悪魔そのものだ。

「私への愛が足りてないんじゃないのかしら!」

 言いながらも速度を緩めず、取り出したハートの杖が光を帯び始める。あれはかつてゆ
ゆるちゃんの洋服を燃やし、被害総額4000円という大損害を叩き出した超兵器である。
これはいよいよもって危険だ。

「ゆゆるちゃん、大変だ」
「げきついしないと」
「いや、大変だけど撃墜したらダメなんじゃないか」

 ぽん、という音と共に見たことのあるプラスチック製の拡声器が現れ、やおらクランク
を差し込みぐるぐると回し始める。

 それを見た俺の頭に、一つの疑問が生じた。
 ゆゆるちゃんときりりちゃんは魔女であるから、ちょっとしたじゃれ合いも命がけなの
ではないかと。俺のような凡人が小さな物差しで計ってはいけないのではないかと。

 すると待てよ、そう考えてみればこの大自然の中で伸び伸びと遊ばせてやるのは保護者
である俺の務めではなかろうか? そうだ、きっとそうに違いない。

 俺は意を決し、胡坐をかいた身体ごとぐるりと後ろへ向き直った。

「目標を補足した。ゆゆる砲、固定完了」

 拡声器がうーうーと音を鳴らし始める。

「はっしゃー!」

 ばしゅん、と一瞬の閃きを伴い、光の筋がきりりちゃんに向かって勢いよく放たれた。
しかしきりりちゃんもさすがといったところ、それを寸前でひらりとかわす。

「ちょ、ちょっと何やってんのよ! バカじゃないのあんたたち!」
「ロープを離しちまったのは悪かったが、バカなことをやめるのはきりちゃんだぞ」

 不規則に波打つレーザーを避けながら、ハートの杖を構えるきりりちゃん。
「これのこと? ははあ、さては何も聞いてないのねっ!」

 振り放たれた光の玉は遥か上空へと発射され、優雅に泳いでいたイワシのうちの一匹に
ぶち当たった。

「ラブミーバトンの真の力、見るがいいわ!」

 巨大なイワシの身体が桃色の光を放ち始める。俺はてっきり燃えるものだと思っていた
のだが――これは一体。

「ゆゆるちゃん、ラブミーバトンって何だ」
「あれにあたると、きりりちゃんのことすきになっちゃうの」
「生なきものは情熱の炎で燃え尽きる! さあ愛の使途よ、二人を森へ落としなさい!」

 イワシの純愛をもてあそぶとはなんたる非道。ここは一言物申したいところだが、今は
それどころではない。飛行船ほどもある巨体がこちらに向かって進路を変え、どんどん近
づいてきているのだ。

「あー、もー」

 あわてる俺をよそに、ゆゆるちゃんはその手を止める。確かに巨大イワシを切り裂いて
しまうと色々とぶちまけて大惨事となりそうなのでそれは同意だ。

「わーー」

 緊張感のない叫び声を抱きしめ、衝撃に備える。
 迫りくる巨大イワシ。俺は落ちても平気なのだろうか? いやいや、ダメだろ絶対!

 と――まさに寸前。ほんの数メートル先で、巨大イワシはその動きを止めた。

「今度は私の勝ちみたいね!」

 安堵に胸を撫で下ろす俺たちの目の前に、光の玉が突きつけられていた。
 イワシに気を取られ、本人のことなどすっかり忘れていたため、俺たちは見事ホールド
アップかつ御用の状態と相成ってしまったのである。

「もう、三人一緒に乗れないんだから、ちゃんと持っててよ!」

 そう言いながら再びロープを俺に手渡すきりりちゃん。もっともな意見でございます。



 空はオレンジ色に染まり始め、巨大な杖の木もいよいよそこまで迫っていた。

「魔女ってのは、生まれた時からあの木の小枝をもって生活するのよ」

 ロープに結わえたきりりちゃんは、のんきに仰向けでぷかぷか浮かんでいる。

「そうやって100歳を迎えたときに、一番強い気持ちが杖の力になるってわけ」

 しっかり者のお姉さんは反省棒。寂しがり屋のきりりちゃんはラブミーバトン。
 なるほど、言われてみれば確かに頷ける。

「もうすぐつくよー」

 でもそれじゃあ蛸棒って一体何なんだ? という疑問はぐっと堪えて、心の内ポケット
へさらりと入れておくのが社会人、といったところではないでしょうか。
 そうですよね、ゆゆるさん。

つづく
409創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 11:03:59 ID:lZ3WoNBa
六話投下終了です。
と、ここまで書いてみてからに>>2で否定的な意見を発見し、失禁しそうです。

でも、これからもよろしくお願いします。
410創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 13:26:16 ID:0ARkDgP/
目立たないが実はタイトルのセンスがずば抜けていい
411創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 21:18:26 ID:95oMfjg8
失禁しちゃいやんw
ブラックになりそうでやっぱりどこか気が抜ける展開がいいです
412創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:08:27 ID:93Y4l8a7
炎術剣士まなみ第四話投下します
413創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:09:14 ID:93Y4l8a7
炎術剣士まなみ 第四話「いきなり仲間割れ!?」
 夜の新宿。街を行き交う人々は真面目そうなサラリーマンだったり、遊んでそうな
男女のカップルだったり、多種多様である。そんな特に変わった雰囲気ではなかったが
突如として、それは打ち破られてしまう。突然空が歪むと中から巨大なゴリラの
ような次元鬼と次元鬼三姉妹のベルディスが現れた。
「次元鬼ゴリークよ、街中をめっちゃくちゃにしちゃいなさい!」
ベルディスの命が下ると、次元鬼は目から怪しい光を放ち、あたりを破壊していく。
逃げ惑う人々。親とはぐれたのだろうか、少女が泣いて、立ち竦んでいる。
そんなか弱き存在にも容赦なく、閃光が降り注がれようとした。
炎のような紅い光が、少女を別の場所へ瞬時に移動させ、それはビルの屋上まで
昇り姿を現す。さらにそれに続くように青と黄の光も同じ場所に現れる。
「お前たちは!?」
誰だかは分かってるけど、こう言わざるを得ないベルディスに答える光の主たち。
「たぶん平和な街を荒す、非道なる次元鬼族!許しはしない!炎術剣士、新堂まなみ!」
「水術剣士、水無瀬裕奈!」
「雷術剣士、姫倉伊織!」
「「「ただいま参上!」」」

三人の背後が爆発しそうな名乗りを挙げると、悲鳴ばかりの街は歓声へと変わった。
それぞれ刀を抜いて、次元鬼に飛びかかり攻撃を仕掛けていく。
まなみと裕奈が次元鬼と空中で接近戦を繰り広げ、伊織が後方から稲妻を飛ばし援護する。
「もらった!おぉぉりゃあぁぁ!!」
裕奈が掴みかかり、投げつけようとする。だが、その時、次元鬼の全身から光が放たれた。
「きゃああぁぁぁ!!」
「裕奈!」
その光をモロに浴びた裕奈は膝からガクッと倒れこむ。彼女を助けようとまなみが
飛ぶが、背中に向かって光線が放たれる。
「まなみさん!」
伊織が光線を斬り払い、お返しに手裏剣を投げつけそれは次元鬼の胸に突き刺さる。
「ありがと伊織!はぁぁぁ!火炎大破斬!!」
真っ二つに斬り裂き、そのまま爆発しながら消滅していった。次元鬼がやられた
ベルディスはやり場のない怒りを空にパンチという形で放ち、撤退した。
414創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:10:11 ID:93Y4l8a7
「裕奈、大丈夫?まったく、無茶しないでよ」
「ごめんね、まなみちゃん…」
心配しながらも、叱責するまなみに対して、裕奈は少し落ち込んでいた。
「伊織、助けてくれてありがとう」
「いえ、私に出来ることをやろうと思っただけで…」
微笑むまなみと、照れ笑いしながらそれに応える伊織。その様子を見ていた裕奈は
プクっと頬を膨らませていた。

次の日、裕奈と伊織はまなみの家に訪問した。というのも、まなみの母、悠美が
三人に話があるからということだ。家に着くと玄関前を竹箒で掃き掃除している
悠美の姿が見えたが、まなみのいる様子はない。
「あら!いらっしゃい裕奈ちゃん、伊織ちゃん」
「お邪魔します!」
「あの…まなみさんは?」
「ああ、まなみちゃんはね、二人が来るからお菓子を買ってくるようおつかいを頼んだの。
もうすぐ、帰ってくるはずよ」
優しく穏やかに微笑む悠美。二人は居間に案内され、まなみが帰ってくるまで待つことに。
この間、二人の間に会話らしい会話はなかった。
「た…ただい、ま……ぜー、はー…」
「まなみちゃん!どうしたの!?」
まなみはすっかり息が上がっていた。
「いや…ここからスーパーまでは遠いんだけどさ…バイクが誰かにパンクさせられてた
みたいで…しょうがないからダッシュで行ってきたよ…本当にいったい誰が…」
まなみが困惑してる時、悠美は台所で黒い微笑みをしていた。

三人揃い、居間のテーブルに広がってるお菓子を裕奈がバリボリ食っている。
悠美がお茶を持ってきた。
「はい、みんな。それじゃあ大事なお話をするわね。みんなで戦うということは
単純に数の面でも有利になったけど…それぞれもっと強くなったほうがいいわ。
そういうわけでぇ…うふふ、みんな庭のほうへ来なさい」
三人を連れて庭へと行く悠美。その表情はなぜかどことなく嬉しそうである
木の人形がいくつも壊れ、横たわってる庭。
415創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:10:48 ID:93Y4l8a7
「あそこの茂みから、修行にもってこいの道を用意したから頑張ってね」
悠美が指さした方角には茂みしかない。だが、よく見るとその奥に一本の道があった。
「あの、悠美さん。修行ってどんなことを…?」
伊織が、少し不安そうに伺う。
「ん?それは行ってからのお楽しみよ。大丈夫、たぶん安全だから♪」
明らかに、なにかあると感じる三人であった。

「それにしても、お母さんったらいつの間にこんな場所用意したんだか…」
修行の道は、山の一部を綺麗に切り開いて作られたといった感じで、自然観賞としては
悪くないところであった。だが、まなみたちがここに来るまでにどこからともなく
弓矢が飛んできたり、虎ばさみがあったり、水滴がポツンと落ちてきたりと様々な
罠が彼女たちに襲いかかってきた。
「すごいところだね…!?まなみちゃん、危ない!」
「えっ!?」
見るとまなみの横から丸太が飛んできた。裕奈がまなみを助けようと飛びかかるが―――
伊織の方が素早くまなみを助けだし、遅れた裕奈は丸太に当りはしなかったが、顔面から
転んでしまった。
「あうぅ…」
「大丈夫ですか、まなみさん?」
「ありがとう伊織。…裕奈、大丈夫?」
裕奈は痛がる様子は特にないが、鼻の頭を軽く擦り剥き、少々涙目になっていた。
「裕奈ちゃん、ほら絆創膏…」
「…いらないもん、そんなの!」
伊織の手を乱暴に払いのける。それを見ていたまなみは裕奈に激昂し
「裕奈!どうしてそんな態度とるの!せっかく伊織が心配してるのに」
「…まなみちゃんには分からないよ!うぅ…うわあぁぁぁん!」
いきなり泣き出した裕奈は、まなみを振りほどくと修行の道から外れてどこかへ
飛び出して行ってしまう。
「裕奈!」
「まなみさん、私が見てきます!まなみさんはここで待っていてください」
そう言うと、まなみをその場に残し、裕奈を追いかける。
416創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:11:50 ID:93Y4l8a7
裕奈は嗚咽を上げながら、森から外れたところで座っている。そこに後ろから
ガサガサと茂みが揺れた次の瞬間、伊織が現れる。
「裕奈ちゃん…いったいどうしたの?私でよかったら話を聞くよ?」
「えぐ…伊織ちゃんのせいでこうなってるんだから!」
「えぇっ!?な、なんで?」
困惑する伊織に、裕奈は答える。
「だって…伊織ちゃん、あたしがやろうとしてること…全部先にやっちゃうんだもん…
まなみちゃんも伊織ちゃんのこと頼りにしてるみたいだし…それに比べて…あたし、
この前だって足引っ張っちゃうし、今回も…いらないんじゃないかな、あたしなんて…」
言いたいことを言ったが、また落ち込み泣き出してしまう裕奈。そんな彼女を
伊織は後ろから優しく抱きしめた。
「伊織ちゃん…?」
「裕奈ちゃん…自分でそんな風におもっちゃダメだよ…裕奈ちゃんはすごく強いんだから。
まなみさんだって裕奈ちゃんのこと、いらないだなんて絶対思ってない。
私が言えたことじゃないけど…もっと自分に自信を持っていいと思うよ…」
最後に少し強く、ギュッと抱きしめると、伊織は裕奈から離れる。
「私、まなみさんのとこに戻るね…ずっと一人で待たせてるから…裕奈ちゃんも
気持ちが落ち着いたら、来てね」
そう告げると、伊織は来た道を戻っていく。裕奈は空に向かってまだ泣いていた。

その頃、まなみはじっと座り込んでいた。これまでの道でも散々手こずってきたし
先へ進むも、戻るもないだろう。それに伊織や、何より裕奈を置いてくわけにはいかない。
「だけど、待つのも少々退屈ね…やっぱり私も裕奈を追うべきだったかな…」
「それじゃ、私が暇つぶしの相手になってあげるわ」
「あなたは!?」
目の前に黒い球体状の光が現れたかと思うと、三姉妹の末っ子スクリタが中から出てきた。
「スクリタ!どうしてここに!」
「三人揃うとやっかいなあなたたちも、分散してる時に叩けば…と思ってね。
この前、ベルディスお姉さまが連れてきた次元鬼を強化改造したのと戦ってもらうわ」
指を鳴らすと、次元鬼が現れる。その姿は新宿で暴れた次元鬼を機械化したような
姿であった。
417創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:12:44 ID:93Y4l8a7
「炎心変幻!!」
すぐに剣士の姿に変身すると、奇襲として腕から火炎を放ち、かく乱してるうちに
刀に炎の気を纏わす。
「火炎大破斬!!」
一気に決めようとすぐさま必殺技を放つ。が、それを受け止められてしまう。
「うそっ…!ああぁぁぁぁ!」
捕まえられたまなみは投げ飛ばされ、木々を何本か倒していく。次元鬼がまなみを
踏みつぶそうとした時、稲妻が飛び、それを妨害する。
「まなみさん!はぁ!」
伊織が割って入り、分身しながら斬りかかる。しばらくその動きに次元鬼は
振り回されていたが、目から怪光線が放たれ、それはピンポイントに本物の伊織に直撃する。
「くぅああ!み、見切られた…!?」

二人を、続けざまに倒した次元鬼は勝ち誇ったように咆哮を上げる。
「さあ、完全に止めを刺しなさい!」
「ちょっと待ったぁ!」
スクリタが驚き、声のした方を向くと、そこには変身した裕奈の姿が。
「まなみちゃん!伊織ちゃん!」
裕奈が次元鬼と格闘戦を展開する。強烈な拳をなんとか刀で受け流し、
一瞬の隙をつき、額に蹴りを放ち、足に掴みかかると投げ飛ばそうと持ち上げようとする。
「グオォォォォ!!」
「うあぁぁ…ま、負けないんだからぁ!」
前回と同じように次元鬼の全身から光が放たれるが、裕奈は気合で投げ飛ばす。
「やったぁ!」
十分なダメージを与えたつもりだったが、それでも次元鬼は立ち上がろうとする。
「裕奈、伊織!私達の持てる力、すべてを発揮するのよ!」
まなみの一声に裕奈と伊織は静かに頷くと、三人は腕を突き出す。
418創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:13:23 ID:93Y4l8a7
「「「龍陣波動!!」」」
三人の叫びが重なり、炎・水・雷の波動が放射され交わりながら、次元鬼に命中する。
その波動により、次元鬼は動きを封じられ、その機械の身体が錆びついていく。
「なっ、これはいったい!?そんなもの押し返してしまいなさい!」
驚愕しながらもスクリタは指示を与えるが、一向に動くことが出来ずにいた。
「いくわよ、二人とも!」
「了解だよ!」
「はい!」
三人が同時に飛び上がり、それぞれの必殺の構えに。
「「「逆鱗超破斬!!」」」
その三つの斬撃は縦と斜めの太刀筋で綺麗に星印に斬り裂いた。三人が納刀すると
次元鬼はゆっくりと倒れていき光を発していきながら消滅していった。
「くぅっー!またしても!」
悔しそうに声を上げるとスクリタは姿を消した。

「まなみちゃん、さっきはごめんね」
「いいのよ、裕奈…それに私もあんな風に怒ってごめん。そして、助けてくれてありがとう」
裕奈は照れ臭そうにしながら微笑む。和やかな空気があたりを包む。
「さあ、まなみさん、裕奈ちゃん。そろそろ帰りましょ」
「そうね、家に着いたらみんなでご飯でも食べましょうか」
「やったぁ!まなみちゃん、だーい好き!」
三人が笑顔で帰宅する。そして爆発した。三人はあっという間に黒こげに。
「……わ、忘れてた…お母さんの作った修行道だってことを…」
三人の頭上でくるくる星が回っている。まなみの自宅では悠美がお茶を啜っていた。
「ふう…みんな、帰るまでが遠足よ」

次回予告「まなみです。まったくひどい目にあったわ…まあそれはともかくとして、
なんでも軍の人が、次元鬼との戦いは私たちだけには任せられないとかなんとか
言って、次元鬼と戦おうとするんだけど…はぁ〜知らないわよ?
次回は『闘いのさだめ?』次回も炎心変幻!」
419創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:17:12 ID:93Y4l8a7
というわけで第四話でした。やっぱり合体技って好き。

>>388
感想ありがとうございます。
変身シーンは全裸ってのは個人的に非常に大事ですw

>>389
そうです、まなみの先代の炎術剣士だったのがまなみの母・悠美です
そんなわけで娘を鍛えてたということで。
420創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:55:21 ID:95oMfjg8
やはり自分は怪力少女好きだと改めて感じたw
ドルアーガのクーパしかり、恋姫の鈴々しかり
あとママンw
421創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 00:45:25 ID:yZYz5ZjZ
好きな話を楽しんで書いてるなーという感じがあふれてて読んでて楽しい
422サミー書いてる人:2009/02/16(月) 06:52:29 ID:zFOQgYuG
ちょっと空けただけでスレが恐ろしく進んでいますねぇ。
ゆゆるちゃんの作者様、剣士まなみの作者様、共にお疲れ様です。
前回投下分以前のものは全部読んだのですが、それ以降はこれから読ませて頂きます。

>>363
すんません、素ボケです…。
裸魅亜とか留魅耶みたいにワケ分からん名前だと逆に間違えないんですけどねぇ。
まぁ今更直すのもアレなんで、とりあえずは美紗織で通します。
まとめサイトが出来た暁には、こっそりと直しておいて頂きたいw

>>386
被ったと言えば、自分も某ライダーとテーマが思いっきり被っててギョッとしましたw
まぁありがちなテーマと言えばありがちなテーマなんですが。

>>393
サミー見なきゃダメなのなのー
第八話 『薔薇の花びらが舞い落ちた時、静かに魔法は消える』



  天野美紗織は、小学校からの帰り道を一人でトボトボと歩いていた。
  彼女には友達が居なかった。
  親の都合で転校したばかりなことに加え、内向的すぎる性格がその原因だろう。

  『みっさーおーちゃん!』

  そんな美紗織の肩を、青い髪の女の子が叩いた。

  『あ……な、なんですか……?』

  突然話しかけてきた子は同じクラスの子だが、名前も知らない子だ。
  思わず身を引いてしまう美紗織だが、青髪の少女は構わず話を続ける。

  『ねっ、美紗織ちゃんは転校したばかりだから、この辺の地理とか詳しくないでしょ?
   だから、砂沙美が案内してあげようと思って!』

  身構えている美紗織の心境を知ってか知らずか、青髪の少女は悪意無くニコニコと笑っている。
  その笑顔のあまりの屈託無さに、美紗織の警戒心も解れていく。

  『は、はい……お願い、します……』
  『敬語なんてやだなー、同い年なんだから、ね?』
  『う、うん……』
  『じゃ、行こ♪』

  青髪の少女は美紗織の手を掴むと、
  行き先も告げないまま、少々強引に美紗織を引っ張っていた。




  青髪の少女が美紗織を連れて来たのは、小山の上にある廃堂だった。
  屋上から見える夕日が町と海を照らして、とても美しい。

  『すごい夕日……綺麗……』
  『でしょ、でしょ? ここ、砂沙美のお気に入りの場所なの!
   ここから見える夕日は、この街で一番綺麗なんだ!』

  美紗織はテラスから身を乗り出すほどに景色に夢中になる。
  その瞳はらんらんと輝いており、黒い髪も海風でたなびいていた。

  『……本当は、滅多なことじゃこの場所を人に教えたりしないんだけどね』
  『え、何か言った?』
  『ううん、なんでもない!』

  砂沙美は、誤魔化すように笑う。

  『でも良かった、美紗織ちゃんが元気になってくれて』
  『え……』
  『美紗織ちゃん、何だか元気なさそうだったから。
   砂沙美も元気を無くした時はいつもこの夕日を見に来るから、
   美紗織ちゃんもきっと元気になってくれるんじゃないかと思って』
  『……!』

  この少女は、美紗織のことをちゃんと見ていてくれたのだ。
  自分のことなど誰も気にしないのだと、美紗織はずっとそう思っていた。
  『……どうして、私なんかのことをそんなに気遣ってくれるの?』
  『えっ、だって砂沙美と美紗織ちゃんは友達じゃない!』
  『とも……だち……?』
  『うん!』

  まともに話したのは今日が初めての自分を、この少女は友達と呼んでくれる。

  『だから美紗織ちゃん、これからいっぱいいーっぱい、一緒に遊ぼうね!』
  『うん……うん……いっぱい遊ぼう、砂沙美ちゃん!』

  パァーっと明るくなる美紗織の顔。
  同時に真っ暗だった美紗織の心には、暖かい光が灯っていた。





美紗織が目を覚ますと、そこは一人ぼっちの真っ暗な部屋だった。

「……夢を……見たわ……。砂沙美ちゃんと、初めて友達になった……あの時の夢を……」

美紗織は周囲を見回してみる。
今はまだ日も昇っていない早朝のようだ。
留魅耶もまだ眠っている。

ほとんど光が存在しないこの部屋の中で、
飾っておいた薔薇だけが、まるで蛍光塗料でも塗られたかのように青白く光っていた。

「そうね……あなたの咲く場所は、あそこがふさわしいのかも知れないわね……」

美紗織は薔薇をそっと抜き取ると、紙に包む。
外はまだ真っ暗にも関わらず、美紗織は構わず外出の仕度を始めた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



すっかり日の昇った爽やかな朝。
砂沙美は、机に向かってウンウン唸っていた。

「えーっと……本日はお日柄も良く……って、何のご祝儀じゃい!
 本日は多忙なところをお越しいただき……って、何の披露宴じゃい!」
「砂沙美ちゃん、さっきから何やってるの?」

ブツブツ言いながら何か書いてる砂沙織に対し、魎皇鬼は怪訝な顔を見せる。

「美紗織ちゃん……ううん、ミサに会ったら何て言えばいいかって、考えてるの」
「砂沙美ちゃん、まだミサを説得しようと思ってるの?」
「だって……」

困ったような顔をする砂沙美。
そんな砂沙美に対し、魎皇鬼もある提案をする。

「ボク、思ったんだけどさ。美紗織ちゃんの、ミサの部分だけを倒すことって出来ないのかな?」
「どういうこと?」
「ミサもブラックサミーみたいに、美紗織ちゃんの悪意が具現化した存在なのかもしれない。
 だとすれば、ミサと美紗織ちゃんを切り離してミサだけを倒すことが出来れば―――」
……ゾワッ!

「!?」

魎皇鬼は突如として強大な魔力を感じ、振り返る。
それも、身体ごと。

「? リョーちゃん、どうしたの?」
「さ、砂沙美ちゃん……あれ見て!!」
「ど…………どげげぇぇっっっ!!!?」

魎皇鬼の目線に従って窓の外を見た砂沙美の目に映ったものは……。
住宅や山々に阻まれていても易々と見えるほどの高さにそびえ立つ……巨大な、薔薇であった。

「……あの薔薇からはとても強い魔法の力を感じる……」
「ってことは、あの薔薇は美紗織ちゃんが……?」

話し合いながらも、薔薇から目が離せない二人。
それほど、巨大な薔薇は怪しい魅力を纏っていた。

……っと、その時。

バササッ!

「どげげっ!! こ、今度は何!?」

突然、砂沙美の目の前に、薔薇を覆うように黒い影が現れる。

「……って、留魅耶くんじゃない。どうしたの?」

逆光でドアップになった留魅耶の影は思いのほか不気味だった。
それはさておき、砂沙美は窓を開けて留魅耶を中に入れてやる。

「……砂沙美、キミに手紙だ。美紗織から」
「美紗織ちゃんから……」

砂沙美は手紙を受け取ると、封を開いて中身を読んでみる。

『サミー、あたしたちの関係に決着をつける時が来たわ。
 日が沈む頃にあの薔薇のふもとで待っているから、とっととカムヒアするのよ。
                          byあなたのピクシィミサ』

「あの薔薇のふもと……」

砂沙美は改めて薔薇の方角を見てみる。
あの辺りは、確か……。

「……やっぱりそうだ、あの薔薇が生えてるのって、あのお堂がある辺りだ!」

砂沙美は、留魅耶に向き直る。

「ありがとう留魅耶くん……必ず行くって、ミサに伝えて」
「……………………」
「……留魅耶くん?」

留魅耶は、無言で砂沙美を見つめていた。
その悲しげな瞳には、何かの決意が浮かんでいた。
「……おねがいだ、砂沙美……どうかミサを、キミの力で倒してやってくれ!」

留魅耶は、砂沙美に頭を下げる。

「る、留魅耶くん……」
「今の美紗織は……魔法さえあれば何でも出来ると思い込んでいる……。
 でも、それは違う……魔法は、完全な存在なんかじゃない……」
「……………………」
「……魔法は、まやかしの術だ。
 魔法を使ってどんなに強くなったとしても、時が経てばその魔法も消えてしまう。
 人は……魔法で幸せになることは出来ないんだ」
「……うん、わかる……わかるよ。
 魔法の力があったって、自分の力で強くならなきゃ何にもならないんだよね」

ブラックサミーの一件で、砂沙美は痛いほどそれを思い知った。

「そう、だから……そのことをよく分かっているキミなら、きっと出来るはず……。
 ……頼む!! キミの力でミサを倒して……美紗織にそれを教えてやってくれ!!」
「……おまえなー、今更―――」

文句を言いかけた魎皇鬼を、砂沙美が制す。

「……留魅耶くん、あたし……ミサをやっつけるつもりなんて無いよ」
「えっ……?」
「さっきも、リョーちゃんに言われたんだ。
 美紗織ちゃんとミサを切り離して、ミサだけを倒せって。
 ブラックサミーと同じように、ミサは美紗織ちゃんの悪い子の部分だからって」

砂沙美がチラリと見ると、魎皇鬼は少し気まずそうな顔をする。

「でもね、ブラックサミーもあんなに凶暴だったけど……話せば分かってくれた。
 それは自分の分身だったからかもしれないけど……。
 だから、ミサだって想いを込めて話し合えば、分かってくれる。
 ……きっと、友達になれる……。あたしは、そう思うの」

砂沙美は、そっと笑う。
しかし、留魅耶の表情は依然として暗かった。

「……無理だよ……キミは、美紗織の悪意の深さを知らないからそう言えるんだ……」

留魅耶は飛び上がって窓のヘリに飛び乗ると、チラリと砂沙美を振り返る。

「キミがあの薔薇のふもとに行くのなら、必ず戦闘になる。……必ず、ね……」

留魅耶は吐き捨てるようにそう言うと、両翼を羽ばたかせて。飛び去っていた。

砂沙美は流石に不安げな表情を浮かべたが、すぐに頭を振って笑顔に戻った。






砂沙美が玄関に向かうと、そこでは津名魅がハイキング用のリュックに荷物を纏めていた。

「ママ、どこか行くの?」
「ええ、ちょっと昔の友達に会いに岡山までね。明日の夕方には戻ってくるわ」
「岡山……ってことは、天地兄ちゃんの家にも行くの?」

岡山には天地の実家があるのだ。同時に津名魅の出身地でもある。
「うーん、勝仁さんにも挨拶したいし、ついでに寄ってくるかもしれないわね」
「じゃ、天地兄ちゃんに黙って帰っちゃったことについて文句言っといてよ」

砂沙美は頬を膨らませてみせつつも、冗談めかした言い方だ。

「ふふっ、いつ砂沙美ちゃんのほっぺが爆発してもおかしくない状況だって伝えておくわ」

玄関に腰掛けて、靴を履き始める津名美。
すると、砂沙美も同じく腰掛けて靴を履き始めた。

「あら砂沙美ちゃんもお出かけするの?」
「……砂沙美もね、友達に会いに行くんだ」

砂沙美はニコッと笑う。

「いつも砂沙美とケンカしてばっかりだった子なんだけど……。
 それでも砂沙美、その子とも一緒に笑いたいって気付いたから……。
 だから、その子の気持ち……今度こそ分かってあげたいんだ!」
「あらあら……仲直り、できるといいわね」
「うん!」
「……そうね、砂沙美ちゃん、一つアドバイスがあるわ」

トン、と津名魅はおでこがくっつくほど砂沙美に顔を近づける。

「仲直りをしたいなら、相手を理解しようと思うだけじゃダメ。
 自分の気持ちを嘘偽り無く、真っ直ぐに伝えることこそ、最も重要な魔法なのよ」
「ま、魔法?」
「そう、魔法。心と心を繋ぐ、とってもステキな力よ」

小首を傾げて微笑む津名魅と、そんな母に戸惑う砂沙美であった。






「ただいま、手紙はちゃんと届けてきたよ」

留魅耶は空いていた窓から、美紗織の家の中に入っていく。
部屋の中が何故か薄暗いことに気付き、留魅耶は怪訝な顔をする。

「……美紗織?」

呼びかけてみても返事はおろか、物音一つしない。
もう薔薇のふもとまで行ってしまったのだろうか。

その時……。


パァン!パァン!


「パンパカパーーーーン♪」

留魅耶の眼前にクラッカーがぶちまけられると同時に、部屋が明るくなる、
仰天している留魅耶を他所に、ミサはパーティーハットを被って満面の笑みだった。

「ちょっと早いけど、ハッピーバースデイ、ルーくぅん♪」
「な……なんなんだよ、一体……!」
「ささっ、早速フゥーしちゃって、ケーキをフゥーって!」
ミサの言葉通り、テーブルの上にはローソクが十本立ったケーキが用意されていた。
部屋もあちこちがキラキラした物で飾り付けられており、
『ルミヤくん、10歳の誕生日おめでとう!』なんて垂れ幕まである。

(何で今、僕の誕生日を祝うんだ……?)

留魅耶の誕生日は近いとは言え、しばらくは先だ。
暇のある時にやっておくならまだ分かるが、
何もサミーとの決戦を間近に控えたこの時にやる必要があることだろうか?
どういうつもりなのか、留魅耶にはミサの意図が読めない。

「それでバースデイプレゼントもあるんだけど……」
「そ、そんなものまで用意してくれたの?」

最初は戸惑っていた留魅耶も、ちょっと嬉しくなってくる。
一方のミサは、赤い顔をしてモジモジしていたが……。

「……でもそれは、今はオアズケーっ!」
「ええーーーっ!?」
「お楽しみは最後まで取っておくものよん♪」

持ち上げて落とされた留魅耶はヘコんでいたが、それを他所にミサはベランダのヘリに飛び乗る。

「じゃ、ちゃっちゃとサミーをやっつけて来るから、ルーくんはケーキでも食べてて待っててネ♪」

ミサは留魅耶に投げキッスを飛ばすと、ベランダから飛び立った。






砂沙美が廃堂に到着した時、美紗織はテラスから砂沙美を見下ろしていた。
薄く微笑んで、砂沙美に小さく手を振っている。

「ありがとう、砂沙美ちゃん……一方的な誘いだったのに来てくれて」
「美紗織ちゃん……」

美紗織はそっと、視線を空に向ける。

「ねぇ砂沙美ちゃん、覚えてる?」
「えっ?」
「ここから見える夕日のことよ。昔から二人でよく見に来たじゃない」
「……………………」

確かに、ここへ美紗織と一緒に夕日を見に来たことは何度もある。

「ここの夕日はやっぱり綺麗ね……昔からずっと変わらないわ。
 ……変わらないから、美しいのよね……私達の関係と違って」

遠い目で夕日を眺め続けていた美紗織だが、ふっと思い出したように頭上を見上げる。

「ところで、この薔薇どうかしら? 素敵でしょう、私が育てたの」

美紗織の言葉通り、目線の先には廃堂を覆うように巨大な薔薇が咲き誇っていた。

「……綺麗……だと思う…………でも……」

怪しく輝く巨大な薔薇は、確かに美しい……だが……。
「でもね……美紗織ちゃんの部屋で見せてもらった薔薇は、もっと綺麗だった!
 こんな魔法の力を借りて大きくなった薔薇より……。
 美紗織ちゃんの心が込もった小さな薔薇の方が、ずっとずっと素敵だった!!」
「……………………」

美紗織は、少し寂しげな顔をする。

「……砂沙美ちゃん、最後に一つだけ聞いていい?」
「…………なぁに?」
「この場所……どうして、私に教えてくれたの?」
「そ、それは……」

砂沙美は、一瞬だけ言葉に詰まる。
それでも答えようとした時、美紗織の言葉にさえぎられる。

「……やっぱりいいわ、聞きたくない。
 その理由が何であれ、今の私にはどうでもいいことだもの」

美紗織はバトンを取り出す。

「……おしゃべりは、この辺でおしまい」

美紗織の髪が金色に……ミサに、変わっていく。
空中に浮かび上がるミサ。

「……プリティ・ウィング!」

砂沙美もサミーに変身し、腰の帯を飛行形態へと展開して空へ飛び立つ。

「さぁ、始めるわよ! あたしとあなたの、ファイナルバトルをね!!」






美紗織の家で待っていた留魅耶だったが、そわそわとして落ち着かなかった。
食べていてと言われたケーキも結局手付かずだ。

(今頃、ミサはサミーと戦ってる頃だろうか……)

鬼のような形相をしたサミーとミサが戦い合う姿を思わず想像し、留魅耶は身震いした。
あの仲の良かった二人が、どうしてこんなことになってしまったのだろう……。

(……僕は、砂沙美にとても残酷なことを言ったのかもしれない……。
 あの友達思いの優しい子に……友達を倒せだなんて……)

今更になって、留魅耶はミサを止めなかったことを後悔し始めていた。

(……やっぱり止めなきゃ……ダメだ、絶対にダメなんだ……。
 親友同士が本気で戦うなんて、絶対に止めなきゃダメなんだっ!!)

留魅耶は衝動的に、薔薇のふもとへ向かって飛び立っていた。





「どうしたのサミー!? ちゃんと戦いなさいよ!」

ミサは飛び回りながら魔法弾をバラ撒くが、一方のサミーは避けるばかりで反撃をしない。

「あたしは戦いに来たんじゃない! ミサ、あなたと仲直りに来たのっ!」
「いまさら仲良しごっこなんて、まっぴらゴメンよっ!」

ミサは取り付くシマもなく、攻撃の手を緩めない。

「ミサ、おねがい、話を……!」
「ちっ……」

ミサは、動きを止める。

「じゃあ、こういうのはどう? ありがちな手だけど、アンタが戦う気になるまでタウンを攻撃するって言うのは?」
「……!」

ミサは、バトンを眼下に見えるビル街に向ける。

口先で言っているだけかもしれない。
しかしサミーには、確実にそうだという自信は持てなかった。

(ミサに話を聞いてもらうには、とりあえず力ずくで戦闘不能にするしか無いのかもしれない……)

「……ミサ、ゴメン!!」

サミーはバトンを思い切り振りかぶり、ミサに向かって振り下ろす!
だが……。

「サミー……こんなことであたしを倒せるとでも思ってるの?」

ミサは、あっさりサミーの攻撃を片手で受け止めた。
想定外のミサの頑丈さに、サミーは一旦距離を置く。

「くっ……以前のミサならこれで倒せたのに……」
「バカね、今のあたしはボディのパワーも魔法で強化してあるのよ。……証拠に、ホラ!」
「!」

ミサは一瞬で距離を詰めると、サミーをバトンで殴り飛ばす。
サミーが吹き飛ぶと、それに安々と追いつき、地面に叩きつける。

「く……くぅぅ……」

何とか身体を起こそうとしたサミーの頭を、ミサはヒールで踏みつける。

「ふふん、格闘ゲーマーとしての経験値がこんなところで役に立つなんてねぇ」
「ま、負けないもん……」

ぐぐぐ、と……ミサのヒールを押し返して頭を上げるサミー。

「砂沙美は、美紗織ちゃんにこれ以上悪いことなんてさせたくない!
 だから、絶対に負けるわけにはいかないんだもんっ!」
「へー、悪いことって、例えばこんなこと?」

ミサがパチンと指を鳴らすと、頭上の薔薇から大量の花粉がボフンと撒かれ始めた。

「……!? なに、何をしたの!?」
「安心して。この花粉は魔法の力を持ってる者には効かないわ」
「だから、何をしたのよ!?」
「ふふふ……」
ミサは怪しく笑うだけで、サミーの問いには答えない。

しばらくすると、二人の周囲に人影が現れ始めた。
一人や二人ではない、何十人といった数だ。

「あれは……八百屋のゲンさんに……魚屋のタケさんに……」

みな、サミーの見知った顔ばかりだった。
そう……やってきたのは、この海の星町の住人だった。

「さ……これからが、お楽しみよね」

ミサが自ら離れたため、サミーはようやく身体を起こす。

「ゲンさん……タケさん……みんな……。一体、どうしたの……?」

サミーは町の人に呼びかけてみるが、返事は無い。
表情が虚ろで……その割りに、目だけは暗い光を放っている。

「ねぇ、みんな―――わわっ!?」

サミーが町の人の一人に手を触れようとした瞬間、突然バットで殴りかかってきたのだ。
慌てて身をかわすサミー。

見ると、町の人たちは皆、思い思いの武器を手にしている。
サミーはあっという間に周囲を取り囲まれる。

「み、みんな…………ど、どうしちゃったの!?」
「サミー……おまえは許さない……」
「正義の魔法少女なんて、この町には要らないの……」

町の人達からは……サミーに対する、明確な悪意が感じられた。

「あの薔薇の花粉を吸った者にはね、悪意が植えつけられるの。
 ミスティクスみたいな悪意を増幅するなんて生易しい物じゃないわ。
 どんな善人、聖人でもね……この花粉を吸った途端、悪の権化に変身するってワケ」

宙に浮いてるミサが、嬉しそうに解説する。

「くっ、プリティ空間!」
「させないわ! ピクシィ空間発動!」

展開しようとしたサミーの空間を、ミサが生み出した空間が邪魔をする。
プリティ空間を完全に展開できないことには、町の人たちの悪意を浄化することは出来ない。

「さ、どうするの? 正義の為に、悪意の塊になった町の人達をぶっとばしちゃう?」
「そんなこと……できるわけないよ!!」

サミーは地を蹴り、ミサに飛び掛る。
打ちかかったサミーのバトンを、ミサは容易に受け止める。

「町の人達は倒せないけど、悪の魔法少女なら倒せるって? まぁ妥当な判断よね」
「おねがいミサ、町の人達を元に戻して!! そうすれば、あたしがミサと戦う理由も―――」

……ゴンッ!

サミーの後頭部に、鈍痛が走る。
痛みから振り向いたサミーに、雨あられと石つぶてが飛んでくる。
町の人達が、サミーに向かって投げつけているのだ。
「なによ、いい子ぶっちゃって……」
「大体、おまえのどの辺が正義の魔法少女なんだよ」
「こっちが苦労して働いてる時に、遊び感覚で人助け気取られて溜まるかよ」
「結局、破壊活動してるだけじゃねぇか。可愛ければ何でも許されるとでも思ってるのか?」

口々にサミーを罵倒する町の人達。

「そ、そんな……サミーは、そんなつもりじゃ……!」

狼狽するサミーを、ミサは愉快そうな目で見つめている。

「どう? 周囲の人全てから敵意を向けられる感想は? 世界に嫌われるってのは、こういうことよ」
「引っ込めサミー!!」
「おまえの味方なんてこの町には一人もいないぞ!!」
「役立たずの魔法少女はこの町から出て行けっ!!」
「……………………」

魔法のせいだということは良く分かっている。
分かってはいても、声を荒げる町の人達の様子に、サミーの心は傷ついた。

「ミサ……美紗織ちゃん……」

サミーは、震える目でミサを見る。
ミサは、サミーをあざ笑っている。

サミーは、腹の底から言い知れぬ激情が湧き出してくるのを感じた。

「……酷い……酷いよ……。こんなの……いくらなんでもこんなの酷すぎるよっ!!」

サミーはそう叫ぶと、ミサに向かって全力で魔法の力を放った。
しかしミサはそれを読んでいたのか、あっさりと瞬間移動してかわす。

「そうよ、もっと怒りなさい、私を憎みなさいよ!
 いつもお利口さんぶってるアンタの顔が乱れるの、ゾクゾクするわっ!」

ミサの顔が、暗い喜悦で歪む。
サミーは、そんなミサに強い憎しみを抱いた。

「プリティ・フラッシュ!! フラッシュ!!」

ありったけの魔法弾をミサに打ち込むサミー。
しかし、ミサはあっさりそれら全てを打ち落とす。

「どうしたのサミー、それでおしまい!?」
「ぜぇっ……ぜぇっ……」

息を切らせるサミーに対し、まだまだミサは余裕だった。
ミサの魔力の深さは、底が知れない。
それでもサミーは諦めず、再びバトンを構える。

「そうよ、もっともっと本気を出しなさい!」
「プリティ―――」

呪文を唱えようとしたサミーの瞳に、あるものが映った。
驚きの余り、サミーの目が見開かれる。

廃堂の窓ガラス。
そこには青い髪の魔法少女の顔が映っていた。
自分のものとは思えないほど、怒りで歪んだ表情。
砂沙美はその顔に見覚えがあった。
そう……。

『あたしは、アンタの弱い心から生まれたアンタの影……。
 またアンタが目の前の現実から逃げ出すようなことがあったら、その時は……』

(そうだ……そうだよ……)

ブラックサミーの言葉を思い出し、サミーは自分自身を諭す。

「サミーは憎しみで戦うんじゃない……。
 みんなの笑顔……そして、自分の笑顔の為に戦うんだっ!!」

サミーは宙返りして距離をとると、小指を頬に立ててプリティに笑ってみせる。

「ホワット!?」

ミサが驚いたのも無理はない。
サミーから放たれる魔法の力が突然強くなったのだ。

その影響で、プリティ空間が一瞬で広がる。

(みんな……元に戻って!!)

サミーの想いの魔法が人々にかけられた悪意の魔法を打ち破り、
人々は花粉の影響下から解かれていく。


「お、俺達は一体……」
「おい、あそこを見ろ!」
「サミーとミサが戦ってる!」

正気に戻った町の人達は、空中で戦闘を続けるサミーとミサを見つけてガヤガヤと騒ぎ出す。


「あれがサミーの力……想いの魔法……」

実はちょっと前から居たけど怖くて割り込めなかった留魅耶。

(やっぱりそうなんだ……サミーの魔法は誰かを守る時、最も強くなるんだ……)

それに対して、ミサの魔法は……。

「やってくれたわね、サミー……。
 やっぱりあんたが居る限り、悪い子ワールドは作れないみたいね!」

怒りに燃えるミサは、全力で攻撃を仕掛けてくる。

「ピクシィ・ブレストファイヤー!!」
「きゃああああっ!!」

ミサの胸元から放たれた巨大な魔力の塊を正面から食らってしまい、
サミーは墜落して地面に叩きつけられる。

サミーの魔法が強まれば、ミサの魔法もそれを上回るようにどんどん強力になっていく。
そう、ミサの憎しみの心が強くなるのに比例して……。
サミーの魔法を光とすれば、ミサの魔法は闇の魔法……。
そう表現できるほど、両者の魔法は対極の感情から生まれていた。
「さぁっ、トドメよサミー……あんたさえ居なくなれば、悪い子ワールドは完成するのよ!!」
「待ってミサ、もう勝負はついたよ!」
「ルーくん!?」

二人の間に割って入る留魅耶。

「どいてよルーくん、サミーにトドメが差せないじゃない!」
「そこまでする必要は無いじゃないか! もうサミーは戦えないよ!」
「サミーが戦えないですって!? 後ろ、見なさいよ!」
「えっ!?」

ミサの言うとおり、サミーは上体を起こして立ち上がろうとしていた。

「サミーは……正義の魔法少女は、負けるわけにいかないんだから……」
「や、やめてくれサミー!! もうミサには敵わないって分かっただろ!?」
「ルーくんは黙ってて!!」

ミサは留魅耶を押しのけると、トドメを差すためにサミーの元へ歩み寄る。

……と、その時。


「サミー、大丈夫か!?」

倒れたサミーを庇うように、町の人たちが立ちふさがる。

「みんな……ダメ、逃げて……!」

痛む身体にムチ打ち、サミーは立ち上がる。

「サミー、無理をするな!!」
「サミーには今まで散々助けてもらったんだ!!」
「そうだ、今度は俺達がサミーちゃんを助ける番だ!!」
「悪い子ワールドなんて作られてたまりますか!」
「…………みんな…………」

そう、これは自分だけの戦いじゃない……。
だから……。

「……ありがとう……でも、やっぱりここはサミーに任せてっ!」

振り向いて、町の人たちにウィンクしてみせるサミー。

サミーには、気付いたことがある。
今の自分には、自分のものではない想いの力も集まっている。
そう、これは……。

(受け取ったよ、サミーを想ってくれるみんなの心……。
 サミーは一人じゃない……だから、絶対に負けないっ!!)

サミーは湧き上がる魔法の力を解き放つ!

「プリティミューテーション・ミラクルリコール!!」

呪文と共に放たれた皆の想いが詰まった魔法は、サミーを包み込む。

閃光が収まった時……そこには、青い髪の女性が立っていた。
魔法の力で大人になったサミーだった。
やはりというか、その姿は津名魅に似ている。
「これは……まさか、伝説の二段変身!?」

留魅耶は驚愕する。
二段変身は、よほど強力な想いの力が一堂に会さない限り不可能な伝説の魔法だ。
その魔法を使った者の力は、軽く十倍以上になる。
それを、サミーはやってのけた。

ミサに…………勝ち目は、無い……。

「なぁによ、ママりんの真似っ子した所で何になるのよ。
 ……そのコケおどしの化けの皮、今すぐに剥いであげるわ!!」

サミーに飛び掛るミサ。

「頑張れサミー!!」
「ミサなんかやっつけちゃってー!!」
「俺達はみんなサミーの味方だぞー!!」

サミーに救われた全ての人々が、サミーの勝利を祈っていた。
誰一人、ミサの味方をするものはいない。

「ひ……酷いよ」

留魅耶の脳裏に、美紗織の悲しそうな瞳がちらつく。
誰にも理解されない孤独を、美紗織はいつも抱えていた。

留魅耶はサミーとミサの戦いを止めに来た。
そのはずだった。
しかし……。

「ミサーーーーーーッ!!
 頑張れーーーっ、サミーなんかに負けちゃダメだーーーーっ!!」

留魅耶は思わず叫んでいた。
誰が彼女の敵になっても、自分は……自分だけはミサの味方でいなければならない。
考えるよりも先に、そう想った。


一方、二段変身で魔法の力が強化されたサミーには、手を触れずともミサの心の奥底まで感じ取ることが出来た。

『私はちっぽけな薔薇と同じ……どんなに頑張って咲き誇っても、誰も手に取ってはくれない……。
 誰か、私と一緒に居てよ……私、どうして一人ぼっちなの……? トゲがあるから、いけないの……?』

(今なら分かる……美紗織ちゃんの気持ち! あの薔薇は、美紗織ちゃんの悲しみそのものなんだ!)

サミーは、ミサの背後にある薔薇を見据える。

(あたし、美紗織ちゃんの中の悲しみをやっつける! そうすれば、きっと……!)

「何をぼーっとしてるのよ! 喰らいなさい、ピクシィ・セクシャルファイヤー!!」

ミサの研ぎ澄まされた魔法の矢がサミーを襲う。
しかし……。

「ハイパー・コケティッシュ・ボンバー!!!」

放たれたサミーの魔法は、そんなミサの魔法をあっさり飲み込んでしまう。
普段より更に巨大なハートの弾丸が、巨大な薔薇を消し飛ばす。
四散した薔薇から生まれた巨大な衝撃波が、ミサの小さな身体を吹き飛ばす。
(……私……負けたのね……)

薄れ行く意識の中、ミサはハッキリとそう認識した。


カラン……カラン……。

お堂の鐘の音が、悲しげに響いていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



吹き飛んだミサを必死に捜索していた留魅耶は、山のふもとの茂みで倒れている彼女を見つけた。
意識はあるようだが、どこかその雰囲気は頼りない。

「ミサっ!! ダメだよミサーーーッ!!
 こんなことをしてまでサミーに勝ちたかったのに、こんなところで倒れてちゃダメだよっ!!!」

泣きそうな顔でまくし立てる留魅耶と対照的に、当のミサはどこか達観したような顔だった。

「いいのよ、ルーくん……。
 あたしの全てを賭けてでも、サミーには勝てなかった……。
 ……でもね、これであたしの目的はきっと果たされるのよ……」
「目的!? 目的はサミーに勝つことじゃ……!?」
「できれば、そうしたかったけどね……。
 でも、それはきっと叶わない願いだとも思ってた……」
「じゃあ……?」
「……だから、今はもう一つの目的を果たすことに、全力を注ぐだけ……」

ミサは、そっと心臓の辺りに両手を当てる。

「……今、サミーと全力で戦って、そして負けたことで……。
 あたしの中にかつてないほど悪意……そして絶望が満ちているわ……。
 それに呼応して、魔法の力も極限まで高まってる……計画通りね……」
「魔法の力を高めるために、わざとこんなことをしてたって言うのか……?
 そんなに魔法の力を強くして何を……一体何をするつもりなんだよ、ミサ!!」
「……………………」

ミサはそれには答えず……代わりにどこか遠い目で、ポツリとつぶやいた。

「……ルーくんのお母さん……美人、ね……」
「!?」
「真っ赤な長い髪……目元はルーくんそっくり……。
 普段は気丈に振舞ってるけど……一人きりの時は、ルーくんを想って泣いてるわ……」

留魅耶は、ミサの瞳を覗き込む。
ミサの瞳の中には、確かに地球では無い世界が映っていた。

「ジュ……ジュライヘルムの様子を、遠視してるの……?
 すごいよ、そこまで魔力が高まってるなんて……!」
「うん、だからもう大丈夫よ……。
 ルーくんは、お母さんのところに帰れる……」
「えっ……!?」

留魅耶の身体がふわりと浮き上がる。
彼の背後に魔力が集まり、魔法で出来た巨大な扉が形成されていく……。
「こ、これは……空間移動魔法!? しかも次元横断級の!?」
「そう……これが、あたしからルーくんへの……バースデイプレゼントよ……」
「くっ……」

複雑な感情が留魅耶を満たし、体内をかき乱す。
それに耐えきれず、彼は叫ぶ。想いが溢れだすままに。

「待って、待ってよミサ!! 僕は確かにジュライヘルムに帰りたい!!
 母さんにも……今すぐにでも会いたい!!
 でも……でも……!!
 こんな状態のミサを置いたまま、帰れるわけなんて……あるはず無いじゃないか!!!
 僕は、ミサと一緒に居るよ…………ずっとずっとずっと、側に居るよっ!!!」
「ダメよ……これはおそらくあたしの最後の魔法……。
 今を逃したら、もう二度とチャンスなんて来ないわ……」

扉はゆっくりと開き、徐々に留魅耶の身体を吸い込んでいく……。

「い……嫌だ……。美紗織…………僕は、キミのことが……っ!」
「……ルーくん!!」
「っ!?」

突然ミサに強い調子で呼びかけられ、留魅耶は硬直する。

「……忘れ……物よ……」

ミサは何かを留魅耶に投げ渡す。
それは、扇形のバトン。
魔法少女・ピクシィミサのバトンだった。

「そ、そんな……ダメだよ美紗織!! これが無かったら、キミは―――」

……バタン。
留魅耶が最後まで言い終わらないうちに、魔法の扉は閉じた。
扉の内側では、留魅耶がジュライヘルムへ続く異空間を飛び始めているだろう。
ミサの最後の魔法は、役目を終えて消滅した。

「……十二時が……来たのよ……」

バトンを失ったことにより、徐々にミサを覆う魔力が消えていく。
金色の髪が、輝きを失っていく。

「魔法は、夢と同じ……そして夢は覚めるもの……。
 ルーくんは元の世界に戻り、ミサという魔法も消えた……。
 後には、美紗織という名の空っぽな子が一人、残るだけ……」

とうとう変身が解け、そのまま気絶してしまう美紗織。



その様子を……物陰から伺っていた人影があった。
人影は美紗織に近づくと、そっと美紗織の身体を抱き上げた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

留魅耶は、ミサの魔法で無事にジュライヘルムに帰ってくることが出来た。
美紗織のことは気になったが、やはり今は故郷に無事に戻ってこれた喜びが勝った。

人間の姿に戻った彼は、母が居るであろう部屋にひた走った。
そうして彼がたどり着いたのは、ジュライヘルムを統べる女王の私室……。

「か……母さぁーーーーーーん!!!」

扉を跳ね除け、中に飛び込んだ留魅耶を出迎えたのは……

「留魅耶ぁーーーーーーッ!!!」
「ぐぇぇっ!!?」

鳩尾にカウンターで入った、母の飛び蹴りであった。

「あぁんた、今まで何処行ってたのよぉーーーっ!!
 こちとら、心配で夜も眠れんかったんじゃあーーーーっ!!」

とても睡眠不足には見えないパワフルさで留魅耶をドツきまわす母。
燃えるような赤い長髪も、本当に火が灯ってるんじゃないかと錯覚してしまう勢いだ。

「あんたのせいで政務に集中できんわ、飯も喉を通らないわで、もう大変だったんだからっ!!」
「ぼ、僕のせいじゃないよっ! だって僕は空間移動魔法の事故に巻き込まれて―――」
「黙らっしゃい!!」

母の鉄拳が留魅耶の頭部を襲わんとしていた、正にその時……。

『ピンポンパンポン♪』

魔法の力で空気を振動させて伝えるアナウンスだ。

『女王様、女王様! 至急、政務室までおこしください!
 繰り返します、女王様、急いで政務室までおこしください!』
「……ちっ!」

母は留魅耶を宙に放り上げると、あっという間に魔法の力で彼を縛り上げて天井に吊るしてしまった。

「反省するまでご飯抜き! 分かったわね!!」
「……はぁ〜い……」

僕のせいじゃないのに……。
留魅耶は納得いかなかったが、今は母の機嫌が直るのを待つしかなさそうだ。

しかし折り悪く、母が今呼び出された理由は神官の汚職の発覚という重大事件であり、
それの対応に追われるハメになった母の機嫌が良くなるはずはもちろんなく……。

結局、留魅耶の受難の日々は、軽く月を跨いでしまった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「―――美ちゃん! 砂沙美ちゃん!!」
「…………あ…………」

サミーは、魎皇鬼の呼び声で目を覚ました。
「あたし…………?」

(……そうだ、あたし……コケティッシュボンバーを使った後……)

サミーは衝撃で吹き飛んだ美紗織を追いかけようと思った直後、ふっと意識が遠のいて倒れてしまったのだ。

「砂沙美ちゃん、あんな強力な魔法を使ったんだもの。そりゃ反動で倒れちゃうよ」
「ほとんど無意識に使ってたんだけど……あれってそんなに凄い魔法だったの?」
「砂沙美ちゃん程度の魔法力で扱えたのが信じられないぐらいの魔法だよ」
「あっそ……」

全然褒められてる気がせず、不機嫌な顔になるサミーだが……。

「! そうだ、美紗織ちゃん!!」

慌てて周囲を見渡すが、人の気配は無い。
ちなみに町の人達の姿が見えないのは、魎皇鬼が帰しておいた為である。

「リョーちゃん、美紗織ちゃんは!?」
「コケティッシュボンバーの衝撃で向こうの方に吹き飛ばされてたのは見たけど……」
「あっちだね!?」

サミーは空を飛んで、木々を見下ろす。
が、美紗織はおろか人っ子一人見えない。

「美紗織ちゃん……どこに行ったの!?」

サミーは、美紗織の姿を町中探し続けた。
美紗織の家も窓から覗いて見たが、美紗織はまだ帰ってはいなかった。
「美紗織ちゃん、居ない……どこにも……」

疲れ果て、住宅地の屋根の上にへたり込むサミー。

「……美紗織ちゃんの心の中、悲しみでいっぱいだった……もしかして……」

最悪の想像が、砂沙美の脳裏をよぎる。

「ねぇリョーちゃん……美紗織ちゃんの居場所が分かる魔法は無いの……?」
「……無いことは無いけど……」
「ホントっ!?」
「でも、今の力を使い果たしてヘトヘトの砂沙美ちゃんに出来るかどうか……」

魎皇鬼は渋い顔をする。
この魔法は、失敗すると危険なことになる可能性があるのだ。

「おねがい……教えてリョーちゃん!!!」
「……うん、分かったよ」

サミーの熱意に負け、魎皇鬼はサミーにその方法を伝えた。




「さぁ、砂沙美ちゃん、キミの心の中を美紗織ちゃんでいっぱいにするんだ!」
「うんっ!」

サミーは目を瞑り、両手を合わせて祈る。

(美紗織ちゃん……何処にいるの……?
 会いたい……すごく会いたい……。砂沙美ちゃんは美紗織ちゃんに会いたい……!)

そのことを、それだけを強く思い続けた砂沙美は、高らかに呪文を唱えた。

「プリティ・テレポーーート!!!」

サミーの身体は光に包まれ、何処かへと飛んでいった。



                     〜 第九話へ続く 〜
441サミー書いてる人:2009/02/16(月) 08:02:28 ID:zFOQgYuG
後書きだけ猿さん食らうとは何たる嫌がらせ…。

ともあれこの物語もやっと終わりが見えてきました。
駆け足展開ゆえに描写不足な部分も多々あると思いますが、ご容赦下さい。

しかし今となっては自分だけが二次で浮いてる悪寒。
一次の魔女っ子ネタでも考えようかしらん…。
442創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 18:11:09 ID:kU0R/qPk
うは、1日たってこの伸びよう、と思えば2つも投下が

>>まなみ作者さま
あれですよね、ばたばた加減が自分にはとてもちょうど良くて楽しいです。
ちびっ子パワーファイターはなんだろう、その体躯と力のギャップが夢。
まさに夢なくしては語れないところが裕奈ジャスティス。

>>サミー書いてる人さま
あー、なんだかクライマックス風で寂しくなってきました。
二次とかどうとか、ここはどちらもおっけーなはずなので気にしなくて良いかと。
サミー少しですが見ましたよ。今ではちゃんとSSの台詞も脳内再生されております。
しかし、それとは別に一次とな、、、ぜひぜひ読んでみたいです。

ではでは
ピーリカピリララ ポポリナペーペルト♪
443創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 23:55:30 ID:pUDqP2BP
そろそろ次スレについて考える?
あと、まなみが二回投下か、サミーが一回投下されれば、ほぼ容量使い切るし。
個人的にはスレタイを魔女っ子&変身ヒロイン創作スレとかに
したらええんではないだろうかと思う。
444創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 01:50:41 ID:zVOlqxy8
なぜ次スレ、と思ったら容量やばいんだな
文字だらけで容量使い切るとかすごすぎる
445創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 08:51:58 ID:R2XaLPe/
>>443
やっぱ魔女っ子単体は需要が低いのかな
446創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 11:15:46 ID:qHf4W5T1
早いなー
それだけたくさんのSSが投下されたってことか
447創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 21:28:47 ID:FzFWj1od
あら、もう次スレですかー。
普段容量みてなかったもので、全く気にしてませんでした。
大事な話を流すのもなんなので、投下後に再度ネタフリしてきますね。

22時ごろより がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第七話『ゆうぐれタクト』投下ですです。
と、予告してみたものの、今日は他の方の投下がないタイミングかもしれない。

なんかちょっと長編を意識して書いたものだから、ここから最後まで引っ張り気味に
なっちゃいますが、どうかお許しください。
448がっかりヘヴン☆ゆゆるちゃん第七話 1/2 ◆GQ6LnF3kwg :2009/02/17(火) 22:00:56 ID:FzFWj1od
第七話『ゆうぐれタクト』

 人間の世界にも偶像崇拝という名の下に、巨大な像や建物などの信仰対象はある訳で、
かくいう俺もいくつか目にしてきたわけだが、それらは力の証明のために作り出された単
なる「手段」だと俺は考えている。

 しかし、それが一つの生命であるとすれば、こいつはどうだろう。
 ただ無言でそびえ立ち、世界を見下ろす巨大な樹木、ピアラの樹。

 別名「杖の木」と呼ばれる眼前のそれは、世の中のことなどひとつも分かってもいない
くせに小生意気な意見を吐く小僧。つまりこの俺ですら自分の小ささを感じ得ない威厳を
纏っているのだ。ありがたや。

「わー、いっぱいある」
「ほんとだ、誰も来てなかったのかしら」

 さてさて、危うく開きかけてしまった悟りを煩悩で修復し、俺は芝生の上に足を投げ出
しながら、そこら中に落ちている小さな赤い実を拾い集める二人をぼんやり眺めている。

 さらりと風が吹けば、間を置いてぽつぽつと芝生を叩く音がする。それは遥か天空で葉
を広げている杖の木の実らしく、蛸棒を直すためにはこれが必要らしいのだ。

「ゆゆるー、多めに持って帰っておこうよー」
「そうだねー」

 辺りはすっかり薄暗くなってはいるが、その嬉しそうな声を聞けばどんな顔をしている
のかはおおよそ思い描けてしまう。
 こうして自然の中で寝転がるのは誠に久しぶりであり、そう思うと中学のときに行った
野外教室なるものは大変に貴重なものだったのではないか、と思わざるを得ない。

 しかし、ここでなにやら不思議な現象が起こっていることに気が付き、目を細めてみる。
 遠くでぱたぱたと走り回る影が、何故か三つあるのだ。

 ゆゆるちゃんときりりちゃんは魔女なので、何かしらの作業を始めると、効率を求めて
分裂することもあるのかもしれない。しかしそのうち二つの影がこちらに走り寄ってくる
に従い、それは間違いだったことに気づく。俺の予想もたまには外れるのである。

「わあー、人間見るのなんてすごい久しぶり」

 それは羊飼いのような牧歌的民族衣装を着こなす笑顔で、白い頭巾の後ろに長い髪を下
ろした少女、いや魔女だった。

「おねえちゃんのともだちの、ちるるさん」
「へ?」

 身体が一瞬強張る。というのも、ちるるさんとはお姉さんが言っていた危険人物であり、
出会ってしまうと何をしでかすか分からないモンスターウィッチだったはずなのだ。

「どうかされました?」
「いや、実はお姉さんから大層人間がお嫌いだと聞いているんですが」
「そそ、そんなことないですよー」

 しかし顔を赤くして手を振るちるるさんは、悪い人にも見えず。思い起こせばお姉さん
も「危ないかもしれない」ぐらいにしか注意してなかった気もする。
 ここは空気を読んで社会人的対応をとらねばなるまい。

「これは失礼しました。はじめまして、ちるるさん」
「はじめまして、人間さん」

 杖の木の下で喚きながら走り回るきりりちゃんを見ながら、ちるるさんが腰を下ろす。
「私とりりのが人間界に行ったのは、もう随分前でね――」

 ――ちるるさんは、か細い声で人間界の思い出を切々と語ってくれた。
 ゆゆるちゃんのお姉さんと好きな人を取り合ったことや、仲直りして旅を続けたこと。
それから、たくさんの人間との悲しい別れも。
 記憶の蓋のせいで忘れられてしまったことや、魔女といえども抗えない寿命の違いなど、
正直俺としては深く考えたくないことも話してくれた。

「でも、たとえいつかそういう日がくるとしても。あなたたちが羨ましいなー」

 夕闇の下に広がっていたパラソルツリーはいつからかその傘を閉じ、オレンジ色の平原
に細く長い影を伸ばしていた。

「ゆゆるちゃんは、このお兄さんのこと好き?」

 唐突な質問にゆゆるちゃんが唸り声を出す。返事を待つちるるさんの笑顔はとても温厚
で、お姉さんとはまた違った魅力を持っている。

「まーまーかな」
「あはは、それじゃあ私がこのお兄さん貰っちゃおうかなー」

 その優しい雰囲気はどこからくるのかと考えてみれば、先ほど聞いたような辛く悲しい
出来事を乗り切ってきたからなのでは、と感じずにはいられない。
 最初に魔女界に来た人間が俺のような凡人であることは、これは人間界の汚点のような
気がしないでもないのだが、それでも、少しでも暖めてやれるのならと言葉を選ぶ。

「そうだぞ、俺だってちるるさんのこと好きになっちゃうからな」

 一瞬凍りつく空気。いかん、俺とした事が盛大に滑ってしまったか、と思うや否や。

「それはぐあいがよくない」
「何だよ、具合って」
「ぐーあーいーがーよーくーなーいー」

 ゆゆるちゃんが俺の手を掴んでぴょんぴょん跳ねるものだから、頭の上で結わえた髪も
ばんばん跳ねる。具合の意味は分からないが、態度だけでもまあ光栄にございます。
 と、ゆゆるちゃんが突然動きを止め、急に力を失ったようにかくりと倒れてきた。肩を
掴むと、ゆゆるちゃんは目を見開き、放心したように脱力している。

「ちるるさん、ゆゆるちゃんの様子が――」

 ちるるさんは膝に組んでいた腕に顔を埋め、笑っていた。

「私のこと、好きなってくれるの……」
「え? いや、それは」
「そんなこと言われたら、私、我慢できなくなっちゃうよ」

 すっと立ち上がったちるるさんの手には、掃除機のような杖が握られていた。
 突然として人が変わったような低い声に、違和感が恐怖へと変わる。

「りりのが言ってたんだって? 私が人間嫌いだって。笑っちゃうわ! 私は人間が好き、
大好きよ? 愛しい、愛しくて、愛し過ぎて、憎いの!」



 のんびり、ほんわかとするはずだった二日間の魔女界旅行。
 俺は何かとてつもない重要な選択肢を、あまりにも軽率な言葉で、ミスったらしい。

つづく
450創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 22:03:24 ID:FzFWj1od
という事で七話投下終わりです。

全部書いてから投下しろよ! という方には誠に申し訳ない。
さらに申し訳ないことに、どれみ1話を見た時点で萌え対象が
ぽっぷだった俺は明らかに変態であり、辛らつに反省します。

さてさて、次スレというとスレタイとテンプレですよねー
個人的にはスレタイは>>443でもいいのではないかと思います。
451創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 23:04:20 ID:F+KTCxoO
俺もスレタイは>>443のでもいいんではと思う
テンプレは、そんな大層なものはいらない感じだね
作者の人は今んとこみんな思い思いに魔女っ子と変身ヒロイン創ってるし
あとは…まとめサイト?
452創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 23:14:32 ID:FzFWj1od
テンプレ作るとかやったことないので、おぼろげに意見まとめだけ。
読みこぼしがあったら付け加えてくれればと。

魔女っ子もの、変身ヒロインものの一次、二次SS、絵でも可
空気を読んでいきましょう
453創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 23:55:59 ID:AyoioeCd
ゆゆる作者様
おお、まさかの衝撃展開に!?次回はシリアス気味になるのかな
次回も楽しみにしてます

>>452
次スレのテンプレはそれでいいと思う。スレタイも前出たので。
まとめサイトか…当方管理力とか低いのでパスで
454創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 00:06:13 ID:qhfI1V8N
500KBでDAT落ち?
455創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 00:09:34 ID:7SxvZMCD
512だよ
456創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 00:11:14 ID:qhfI1V8N
なるほど
次スレ行かないと危ないな
457創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 00:25:13 ID:b/msEhBY
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ2

魔女っ子もの、変身ヒロインものの一次、二次SS、絵でも可
空気を読んでいきましょう

前スレ 魔女っ子系創作スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224577849/



じゃあ、とりあえずこれで1日ほど意見待ちしてみましょうか
458創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 00:40:21 ID:7SxvZMCD
>空気を読んでいきましょう

この一文の意図が良く分からない
459創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 02:40:24 ID:J4R41r4k
いや、500KBを超えた時点で書き込みできなくなるよ
だから割と危ない

≪テンプレ案≫

魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ2

魔女っ子もの、変身ヒロインものの一次、二次SS、絵も可
皆さんの積極的な投下お待ちしております

前スレ 魔女っ子系創作スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1224577849/

――――ここまで――――

くらいにしちゃってもいいんじゃね?
460創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 03:16:54 ID:pneIUTqM
ゆゆるちゃん新話乙〜
こ、これはヤンデレの予感
461創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 07:02:18 ID:b/msEhBY
>458さん
や、これは失礼。たしかに意味不明でありました。
というわけで459さんに同意
462創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 12:26:14 ID:vLvlVi3x
>>459
これでいいんじゃないかな?特に反対意見も無さそうだし
463創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 12:33:20 ID:7SxvZMCD
では早速

魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ2
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1234927968/
464創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 12:45:04 ID:J4R41r4k
>>463


ゆゆるちゃん第二部も全十話構成なのかしら?
465創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 20:33:19 ID:r3kcYh7c
ここまだ書けるぜ。
500KBくらいまでは大丈夫だよ。
書き込めなくなってから次で本格的にやったら?

SSの投下は怖いだろうけどさ。
466創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 20:37:09 ID:b/msEhBY
>>464
10話予定です、ただ前回みたいに最終話だけ伸びちゃったらすみません。

と、とりあえずうめ
467創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 22:57:33 ID:uZdw7mB8
もうね、勝手にゆゆるちゃん第3期決定!と考えている人間が通りますよ。
まなみ作者さんもがんがれ!


ついでにうめ。
468まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/02/18(水) 23:08:20 ID:Upc3ZzCU
>>463
スレ立て乙でした。ではギリギリ入るかどうか…持ってくれよスレ容量!
炎術剣士まなみ第五話投下します
469まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/02/18(水) 23:09:35 ID:Upc3ZzCU
炎術剣士まなみ 第五話『闘いのさだめ?』
 東京都奥多摩には、地球防衛軍の駐在所がある。山中に大掛かりな基地を拵えており
いつでも、隊員たちが出動できるようになっている。が、出動する機会はまるでなかった。
まなみたち、三人の剣士の活躍によりほとんどお役御免なのだ。というより、それ以前も
別に宇宙人が現れたとか、怪獣が出現したとか、そんなSF小説や特撮のような展開が
あるわけでもなく、当然市民たちからは税金の無駄使いだとバッシングを受けていた。
「このままでは我々もリストラかな…」
「なにをのんきなことを言ってるんですか!今度、次元鬼が現れたら、それをあの
剣士の娘たちではなく、我々が退治するんです!」
髭を蓄えた小太りな長官に対し、防衛隊の青年、武田省吾は熱く自分たちの存在価値を
知らしめようと答える。武田は背が高く、いかにも真面目そうな雰囲気を持っている。
「まあ…頑張ってくれたまえよ」
手に負えんと部屋から長官は出て行ってしまう。一人残されると、モニターのスイッチを
入れる。そこにはまなみの戦っている姿が。
「そうさ、我々の力を彼女たちに見せつけ、いずれはこの新堂まなみさんと…!」
先ほどまでのきりりとした顔立ちから打って変わって、色に惚けた表情になっていた。

その週の日曜日。まなみは裕奈と伊織と一緒に、街に遊びに来ていた。流行りの服の
購入や食事を楽しむ予定である。道を歩いていると、彼女たちに向かって中学生ぐらいの
少女たちが近寄ってくる。
「あの、新藤まなみさんと、水無瀬裕奈さんと、姫倉伊織さんですよね!?」
「テレビで見たのと本物だぁ!握手してください!」
答える間もなく、あっという間に三人は囲まれ、握手以外にもサインや写真を求められた。
少し慌てながらも各々対応していく三人。すでに慣れっこである。そんな時が緩やかに
過ぎていく。が、突如としてまなみたちのいた場所の反対側の方から轟音が響きわたる。
それと同時に獣の鳴き声も。
「この気は…裕奈、伊織!」
三人は中学生たちの輪から抜け出して、現場へと向かう。そこには背びれと恐竜型の
体型、黒い皮膚をしたシンプルな怪獣の姿が。頭には角が生え、首には襟巻が。
「この前のゴリラみたいな奴も大きかったけど、今日は一段と大きいね、まなみちゃん」
「まなみさん…どうします?」
「決まってるでしょ、街を襲う輩なら許すわけにはいかないわ!変身よ!」
三人それぞれ、剣士の姿へとその身を変えていく。街の人は既に避難していた。
470まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/02/18(水) 23:10:22 ID:Upc3ZzCU
「来たか、剣士ども」
怪獣型次元鬼の頭上隣に、ウルムが姿を現した。
「ウルム!その次元鬼を成敗するわ!」
「双方とも、お待ちください!」
まなみたちが勇ましく名乗りを上げようとした時、男の声がそれを遮断する。
声のする方を向くと、ドリルがついた戦車とやたらとカラフルな戦闘機が。
「なっ、なに?」
「新堂まなみさん!私は地球防衛軍の武田省吾と申します!ここは我々地球防衛軍に
お任せください!か弱き乙女に戦いを任せっぱなしなど、戦士として、男としての恥!」
戦車のハッチが開き、中から武田の姿が。微笑を浮かべ、ニッとした歯がキラリと光った。
「い、いいんですか?まなみさん…」
「いいもなにも…それよりも暑苦しい…」
まなみが武田に少し引いてるのにも気付かず、武田はテンション高く叫ぶ。
「いくぞぉ、宮本ぉ!スゥゥパァァァクロォォォス!」
暑苦しい叫びに呼応し、武田の相方、宮本の乗った戦闘機が変形していく。武田の乗った
戦車も変形し、足が生え出した。戦闘機は顔と腕が内部から出現、電磁波を出しながら
両機は合体していく。そして次元鬼は律義に見守っている。

「絶対防衛勇者!ガド!ライ!ザァァァッ!!」
「おぉ!なんだかすごそうだよ、まなみちゃん!」
ちょっと興奮気味な裕奈。合体した二機は巨大なロボとなった。下半身は黒く、
ドリルが膝に装着されており、上半身は赤い胴体と緑色の拳が光る。そしてその顔は
マスク状の口元と、鋭い目つきをしている。
「さあ次元鬼!我ら、地球防衛軍が相手だぁ!」
「地球人の愚かな科学とやらか…相手をしてやれ、ゴルスジーラ!」
ガドライザーが胸部ハッチを開くと、エネルギーが集束され、一気に解放した。
「くらえ!ガドライィィんビィィィィィム!!」
極太のビームが次元鬼に命中するが、いたって涼しい顔である。
「ならば、これでどうだ!ガドライナァァックル!」
いわゆるロケットパンチが放たれる。しかしそれを片手で受け止められ投げ返される。
471まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/02/18(水) 23:11:26 ID:Upc3ZzCU
「ちょっと、もーなにやってんですか!それでも地球防衛軍なんですか!?
見かけ倒しもいいとこね!」
見てられなくなったまなみは前に出て、次元鬼に立ち向かう。それに裕奈と伊織も続いた。
「隊長!もう一度やりましょう!あんな小娘たちにずっと任せっぱなしには…って隊長?」
宮本が武田に声を掛けるが返答がない。いったいどうしたのか。
「あはは…それでも地球防衛軍かだって……ぼかぁ、もう生きていけへん…」
「あああ!隊長の病気がぁぁ!」
あまりに真面目で、純情?な武田にとって恋した者に否定されるということは、死ねと
言われてるに等しいことであった。ドバドバ涙を流している武田に宮本が喝を入れる。
「隊長!!ならば、我らの生き様ってのを見せつけてやるんです!
本気で好きなら!やってやりましょうぜ!ガドライザーの最大奥義を!」
宮本の言葉に武田は泣き止むとガドライザーの操縦桿を引いた。

まなみたちと次元鬼の戦闘は激化していた。攻撃が大振りな分、三人はヒョイっと
回避していくが身体が大きく硬いため、決定打を与えられない。
「このままじゃ埒が明かない!裕奈、伊織!」
三人が並び、気力を集中させていく。
「龍陣はど…」
「させるものか!はぁぁぁ!!」
ウルムからエネルギー波が放たれ、三人は分断されてしまい、気の集中が途切れてしまう。
「あう…このままじゃマズイよ、まなみちゃん!」
「一度、距離を置きましょうまなみさん!」
だが、容赦なく次元鬼の鋭い爪が剣士たちに襲いかかる。だが、それは止まる。
ガドライザーが次元鬼にがっぷり四つに組んだからだ。
「防衛隊のロボット…武田さん!?」
「まなみさん!自分は、あなたのために!命を張ります!宮本ぉぉ!!」
「はい!ガドライザー最終奥義!!」
「ガドライィィィジバァァァァクッ!!キノコ雲にぃ!なぁぁれぇぇぇぇ!!」
ガドライザーの身体から閃光が走った瞬間、大爆発が起き、次元鬼を巻き込み
キノコ雲を残しながら消滅していく。
「ちっ、まさかこんなことになるとは…!」
ウルムは舌打ちし、撤退していった。
472まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/02/18(水) 23:12:50 ID:Upc3ZzCU
「武田さぁん!」
まなみが黒煙に向かって絶叫するが、何も見えない。絶望的だと思い、俯いている。
だが、黒煙の中から薄らと人影が現れ、次第に大きくなる。お互いを肩で支えあってる
武田と宮本だ。まなみたちは表情が明るくなり、彼らに駆け寄る。
「武田さん!無事だったんですね…まったく無茶な人ですね」
「ははは!この程度、どうということは…おっとっと、あらら…!」
喋ってる途中に、瓦礫に躓きバランスを悪くした武田はまなみに向かって倒れこむ。
その手の中には何か柔らかい膨らみが。
「すみません、まなみさ…げぇっ!いや、これは…!」
「…どぉこ触ってんですかぁ!!」
「ぶへぇっ!!」
まなみ怒りの鉄拳が武田の顔を歪ませながら炸裂し、哀れ武田は壁まで飛ばされ激突した。
「さいってー!!裕奈、伊織、行きましょ」
怒り心頭に発したまなみは変身を解くと二人を連れて、再び街へ繰り出していった。
残された武田と宮本には後始末と一般市民のクレームが待っているのであった。
「まなみさん…必ず、あなたに相応しい男になってみせます!見ていてください!」
「ちょっと、お兄さん!叫んでないで、そこのでっかい消し炭なんとかしなさい!」
おばちゃんに怒られ、作業に戻っていく武田。冴えない奴である。

次回予告「裕奈だよ!まなみちゃんってもしかしてあたしよりパワーあったりして…?
ん?伊織ちゃん、どうしたの?まだいじめっ子に迷惑してるんだ…今度は伊織ちゃんが
自分でケリを着けなきゃ!次回『真実の心の色を伝えて』頑張って、伊織ちゃん!」
473まなみ作者 ◆4EgbEhHCBs :2009/02/18(水) 23:15:30 ID:Upc3ZzCU
ふう、ギリギリですね…。次回はたぶん次スレになりそう。
474創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 23:21:25 ID:uZdw7mB8
>>473
乙!いや〜笑った笑った。
あの濃いいキャラ、いずれ再登場するんだろうな。
次スレでのまなみ達の活躍が楽しみです。
475創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 23:54:01 ID:vLvlVi3x
投下乙でした!まなみ作者さん、勇者シリーズとか
エルドランとか好きでしょ?あと最終奥義、自爆かよw
476創る名無しに見る名無し:2009/02/19(木) 00:12:31 ID:0j4uHAsv
いかん、まなみおもしろいwwww
でもね、もちろん今回の目玉は武田だと思うんだけどさ、
なんか合体シーンに驚く裕奈に萌えを感じちゃったりするわけで。

ほんとごめんなさい、変態で。
477創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 16:29:07 ID:98lu7UH9
まだ少し書けそうだから聞きますが
まとめサイトとかどーする?
簡単でいいなら挑戦するけども
…まだやらなくていい気がしないでもないが…
478創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 16:36:44 ID:98lu7UH9
次スレよくみたらやってくれそな人がいたので…その人に任せます

俺のレスはこのスレと共に沈めてくれ orz
479創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 16:41:10 ID:ZNPGYr1A
いや、あれゆゆる作者だし
誰もやらなければって言ってるし
ヒマなら是非やってくれ
480創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 16:44:34 ID:V386o1Yw
3つ連載があるから、保存という意味より見易さという点では
まとめは欲しいなあと、読み手意見。
481創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 20:33:21 ID:2f7dsHDw
>>478まだ見てるか?
とりあえず貴方が作れるならそうしたほうがいいんじゃないかな
まとめはWikiで大丈夫だと思う
482創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 20:38:48 ID:TeNMGAQ5
俺も>>478さんに期待
483創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 23:03:31 ID:jq6uJL8C
wiki立てた後の編集は共同作業ですよね、もちのろん
484創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 23:08:35 ID:TeNMGAQ5
それはもちろん、立ててくれる方は善意だと思いますので。
押し付けとかはなしでいきたいですよねー
485創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 23:08:54 ID:DCYf7hqo
特に編集するようなことも無いけどな
486創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 04:51:11 ID:J+0LZr0w
作品まとめてー読みやすくしてー過去スレ保存してーかな?
何か他にするべきことはあるだろうか
487創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 07:27:17 ID:jtPVEm3+
個人的にはそれだけでも十分だと思う
488創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 20:37:26 ID:GNuwsaAW
昔の作品を読める、ってことが重要なわけだしな
489創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 06:55:21 ID:gslEQ+AR
沈もうとした俺を引き上げてくれる声が聞こえた…
今日は忙しいんで、帰ってから動きます

まとめはwikiで、作者の作品ごとに+単発と過去スレまとめ、な感じに作るけど、これでOK?
後、やっぱり共同作業できるようにした方がいいですか?
他にご要望があれば言って下さい

一通り質問したので、行ってきます
490創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 07:00:44 ID:CMck7mXU
作品ごと(できれば各話ごと)に感想欄が欲しい
491創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 07:50:55 ID:sCmhYk1R
>>489
共同作業できるようにしたほうがいいんじゃないかな
一人で背負い込むといろいろ大変だと思うよ
というか、無理しないでね

>>490
感想や作品を書きたい人はぜひスレまでお越しください!
みたいなのはどうかな、と思ってたけど、これはちょっと
デリケートな問題かもしれないなあ
他の人の意見も聞きたいところ
492創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 12:43:02 ID:mCE1vxxO
いや感想は本スレでいいと思うよ
493創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 22:09:04 ID:gslEQ+AR
只今帰宅しました。今から取り掛かろうかと思います。
まぁ、まとめるサイトだもんで急ぐ事なくゆっくり進めさせていただきます。
ご了承下さい。

このスレが落ちる頃にはなんとか終わらせたい…
というか、今やりながら寝落ちしそう……


>>490
感想欄とかは、あらかた完成してから考えましょうか。
494創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 22:12:48 ID:sCmhYk1R
>>493
おかえりー
ゆゆる連載も猛省を残しつつ終えたので
手伝える事があれば言ってくださいね。
495創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 23:50:49 ID:s6YQBzo2
残り12KBという中途半端な容量をどうしたもんか
496埋め魔女ウメ子の大冒険 1/2:2009/02/23(月) 00:57:19 ID:+8ClTaDB
ウメ子は魔法少女である。
使命は特に無い。

「さぁー、やっと私の出番が来たわね!」

まん丸メガネを光らせ、ウメ子ははりきっていた。
使命は無いが、出番が来たからには魔法を使いたい。

「やっぱここは困ってる人を探すべきよね!」

人助けこそ、魔法少女の王道だ。
魔法少女は困った人を助け、困った人は展開に困った作者を助けてくれる。

「さぁさぁ、困ってる迷える子豚ちゃん達はどこかしらー?」

舌なめずりをしながら油断なく周囲に目を光らせるウメ子。
子供が泣き出したが、知ったことではない。

「いや、泣いてる子供が居たら気にしろよ!」

やってきたのは子羊のメウたんだ。
愛らしい外見にも関わらず、言葉遣いが汚い。
根は悪い子では無いのだが……ウメ子の使い魔だということが一番の汚点だろうか。

「やーよ、困ってても子供はイヤ。泣いてる子供とか、よだれベチョベチョで最悪ー」
「子供に優しくない魔法少女とか教育上困るっつーの! つーか泣かせたのテメーだろ!」
「あーん? 立春も過ぎたことだし、その体毛剃って涼しくしてあげよっか?」

いつの間にか持っていたバリカンをぶるんぶるん言わせるウメ子。

「お、おい、あそこにサイフを忘れて困っているオッサンが居るぜ!?」

あわてて話を剃らすメウたん。
その言葉通り、うっかり無銭飲食してしまったオッサンが店員に睨まれていた。

「オッサン、いい歳して無銭飲食とか何のつもりだよ」
「す、すみません、すぐに家からサイフを取ってきますから!」
「とか言って逃げるつもりだろ? 警察に通報させてもらうからな!」
「そ、そんな……どうかご勘弁を!」

オッサン大ピンチ!
こんなことで前科がついてしまっては、オッサンの将来は真っ暗だ!

「出番だウメ子! 魔法であのオッサンのサイフを取り寄せるんだ!」
「ウッメー!(OKの意) さぁ行くわよ!」

ウメ子は目を閉じると、梅の木の枝で出来た安上がりな杖を振り上げる。
さぁゆけっ! 自分の魔法を困ってる人達に見せびらかして、自己顕示欲を満足させるのだ!

「ショーチクバイショーチクバイ、ウメハサクラノゼンザジャナインダッテバヨー!!」

ウメ子が呪文を唱えると、大量のサイフが頭上からドバドバ現れる。

「えええええーーーっ!? これって全部あのオッサンのサイフーーーっ!?」
「んなわけないじゃん。……あったあった、これがあのオッサンのサイフね」

呆気に取られるメウたんを他所に、ウメ子はサイフの山からオッサンのサイフを掘り当てた。
497埋め魔女ウメ子の大冒険 2/2:2009/02/23(月) 00:57:59 ID:+8ClTaDB
「ほら、オッサン! これアンタのサイフでしょ!」
「あっ!? ほ、本当だ、キミがわざわざ届けてくれたのかい!?」

びらびらとサイフをオッサンの前に見せびらかすウメ子。
窮地を救われた喜びで、オッサンは涙ぐんでいる。

「ありがとう、ありがとう……キミのことは忘れないよ!」
「うんうん、それもいいけど肝心のアレも忘れないでね」
「えっ、アレって?」
「んもう、私の口から言わせる気なのぉ?」

ウメ子は顔を赤らめてクネクネしてみせる。

「その……オジサンには何がなんだが……」
「……ったく」

ウメ子はオッサンの耳元に口を近づけると、そっと囁いた。

「謝礼よ、シャ・レ・イ♪ もちろん一割ね!」
「ええええええええええええーーーっ!?」

念のために確認しておくが、
このサイフは拾った物ではなく、ウメ子が勝手に取り寄せたものである。

「なぁに、嫌なの? それなら私は別にいいんだけどー」

サイフをそのまま持って帰ろうとするウメ子。

「わ、分かった! 分かったからサイフ返してくれ!」
「ふふん、それじゃ1割……」

サイフを覗き込むウメ子だが……

「……にっ……にせんえんっ!!?」

入っていたのは野口が二人と、十円3枚だった。

「これじゃたったの200円にしかならないじゃない、このっ!」

オッサンにサイフを叩き返すウメ子。

「もうやってらんないわ、わたし帰る!」

勝手にぷりぷりと怒ったウメ子は、大股歩きでノシノシと帰っていった。

「……あー、オッサンよかったな、警察沙汰にならなくて」
「そ、そうだな、ありがとう羊クン」
「メウたんだぜ」

メウたんとオッサンは互いにニヤリと笑うと、それぞれ別の道へ帰っていった。




その日、無銭飲食事件が町で多発したのは言うまでも無い。
498創る名無しに見る名無し:2009/02/23(月) 00:59:04 ID:+8ClTaDB
謎の埋めSS
しばらくしてまだ埋まってなかったらまた書くかもしれない
499創る名無しに見る名無し:2009/02/23(月) 01:07:07 ID:EO4q1lYQ
じゃあ俺は埋めないことにする
500埋め魔女ウメ子の大冒険・アンコール 1/3:2009/02/23(月) 13:06:52 ID:+8ClTaDB
ウメ子は魔法少女である。
使命は本人も知らない。

「アンコールに答えて出てきてあげたわよ、ウメ子で〜す♪」
「アンコールって、1レスだけだろ。携帯で自演したんじゃねーの?」
「メウたん、本当にレスくれたのに失礼でしょ!
 それにみんなウメ子の活躍が見たくて書き込みを自粛したに違いないわ!」
「はいはい……」
「みんな、応援ありがとう! ウメ子がんばっちゃう!」

うるうるおめめで媚び媚びするウメ子。

「それで、今日は何するつもりなんだよ?」
「もちろん、人助けよ!」

ウメ子はじゅるりと舌をなめずり回す。

「人助けって顔じゃねー! さらって食う気か!?」
「ひっひっひ、ワシゃ茹でた孫が大好物なんじゃ……って、何言わすのよ!」

その時、ぐううとウメ子の腹が鳴る。

「……でも確かにお腹空いたわね」
「そりゃ昼飯も食わずにこんなアホSS書いてりゃな。どっか食いに行くか?」
「ウッメー!」

こうして、一人と一匹は舌なめずりをしながら食堂に向かった。



「ウメー、ウンメー!! 何このラーメン、ウメすぎ!!」

適当に入ったラーメン屋は結構な美味さだった。
一心不乱にどんぶりにがぶりつくウメ子。
スープがはねてまん丸メガネに付きまくりだが気にしない。

「ウメ子じゃないけどホントにウメー! ダシとか何使ってんのコレ!?」
「いやあ、ハハハ。それは聞かない方がいいと思うよ」

店主の目がメウたんを見てキラリと光る。

「……? まぁいいや、ごっそさん」
「ごちそうさま!」
「二人前、合わせて1400円になりまーす」
「もちろんメウたんのおごりよね!」
「おいィ!? 使い魔に金払わすなよ! ってか1円も持ってねぇよ、オレ羊だし!」
「仕方ないなぁ……」

ウメ子は渋々といった感じで、ごそごそと腹ポケットを漁る。

「……あれ?」

何故か眉をひそめるウメ子。
ごそごそする手がスピードアップする。

「…………ない」
「……またかよ」
「どこかに落としてきちゃったんだわ〜〜〜!!!」
501埋め魔女ウメ子の大冒険・アンコール 2/3:2009/02/23(月) 13:07:24 ID:+8ClTaDB
半狂乱になるウメ子と対照的に、メウたんは冷めた目でウメ子を見ている。
ウメ子がサイフを無くしたのは一度や二度ではない。

「そ、そーよ、こうなったら魔法で! …………」

だが、梅の木の枝は手元には無かった。
流石に食堂の中には持ち込めないので、公園の茂みに投げ捨てたのだ。

「そっかー、お金持って無いんだー」

店主は無銭飲食が発覚したにもかかわらずにこやかだった。

「お金持って無いなら仕方ないねー」
「え、まさかオマケしてくれるの!? 神様仏様店主様ありがとう!」
「お金が無いなら、身体で払ってもらうしかないねー」
「かっ……!?」

とんでもないことを言い出しつつも、店主はにこやかだった。

「なぁに、痛いのは一瞬だけだよ。すぐに何もわからなくなってしまうからね……」
「ぎゃああああああああああ!! 近寄るなヘンタイッ!!」

あくまでにこやかなまま、ゆらりとウメ子に近づいてくる店主。
細い手でぶんぶん抵抗するウメ子だったが……店主はそれに構わず飛び掛る!

「メウーーーーーーーーーーーッ!!!?」
「なっ!? メ、メウたん!?」

店主が飛び掛ったのは、ウメ子ではなくメウたんだった。

「うーん、丸々としてでっぷりとして、これは良い身体だなぁ……」

店主はメウたんの身体にスリスリしてご満悦の様子だった。

「や、やメウっ!! 俺にはそんな趣味は無いぃぃぃ!!」
「このヘンタイ獣姦オトコっ!! メウたんから離れなさい!!」
「いやいや、待ってくれ! 誤解だ、誤解だよ!」

あわてて(にこやかなまま)手を振る店主。

「何が誤解だってのよ!?」
「実は、ウチのラーメンのダシは羊肉で取っていてね。
 このまん丸とした子羊ちゃんの身体なら、さぞやいいダシが取れると思うんだ」
「メウッ!?」

メウたんは思わず空っぽのどんぶりを振り返る。
では自分が器の底が見えるほどたらふく頂いたあのスープは……。

「ちょっと待ってよ、そういうことなら尚更承知できるわけないでしょ!
 メウたんは私の大事な大事なたった一匹の奴れ……使い魔なのよ!」
「ウ、ウメ子……!」

メウたんはうるうるしている。
まさかウメ子がそこまで自分を大切に思ってくれていたとは……。

「たった1400円分と引き換えなんて納得できないわ! 最低でもあと10万は欲しい所よね!」
「メウ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

ウメ子の目はすっかり銭の形に変わっていた。
502埋め魔女ウメ子の大冒険・アンコール 3/3:2009/02/23(月) 13:08:04 ID:+8ClTaDB
「ううむ、痛い出費だが……よし、いいだろう!」
「交渉成立ね!」
「ちょっと待て、本羊を無視して話を進めるな! 羊権無視だぞゴルァ!!」
「残念だが、未だ人間社会において動物の権利は認められていないのだ」
「そーそー、犬猫を殺して逮捕ってのも、他の人が迷惑だと思ったからだしねー」
「そ、そんな……メウゥ……」

メウたんはとうとう泣き出してしまった。

「メウゥゥ……かーちゃんごめんよ……。こんなことなら人間界になんて来るんじゃなかった……メウゥ……」
「うっ……流石にちょっとかわいそうになってきたな……」

これは普通の人間なら良心が痛むシーンだ。
店主も思わずにこやかなまま躊躇する。

だが、残念ながらウメ子は普通の人間ではなく魔法少女だった。
メウたんの前に仁王立ちになり、包丁を思い切り振りかぶる!

「さぁ、成仏しなさいメウたん!」
「メウ〜〜〜〜!? テメーの血の色は何色だーーー!?」
「梅干とおんなじ色よ!」

今まさにメウたんの脳天が割られんとする瞬間……!

「待ちたまえ!!」
「むっ!?」

ウメ子を呼び止めたのは……。

「オ、オッサン!? 前話でサイフなくしたオッサンじゃないか!?」
「ふふふ……これを見よ!」
「こ、これは!?」

オッサンが印籠のように突き出したのは、ウメ子のサイフであった。

「これがあればラーメン代も払えるだろう! さぁ、メウたんを解放するんだ!」
「……チッ」

ウメ子はオッサンからサイフをひったくると、店主にラーメン代を払う。
そしてそのままラーメン屋から出て行こうとするが……。

「待ちたまえ、何か忘れてはいないかね?」
「何よオッサン、私が何を忘れているって?」
「謝礼の一割」
「あっ!」

ウメ子は思わずサイフの中身を確認する。
……色んな所から魔法による善行の謝礼をボったくってる為、結構な額が入っている。

「……み、見返りをあてにして人助けするなんて最低ッ! オッサン死んじまえ!」

そう自分を棚に上げた捨て台詞を吐くと、ウメ子は脱兎のごとく逃げ去っていった。

残ったオッサンとメウたんはチラッと目を合わせると、互いにニヤリと笑って別の道へと歩いていった。
そしてメウたんは思うのである。



(今回、魔法使ってねぇなぁ)
503創る名無しに見る名無し:2009/02/23(月) 13:15:45 ID:+8ClTaDB
ウメ子の戦いは終わった
しかしまた新たなスレが立った時、必ずやウメ子はその使命を果たしに現れるだろう

……多分
504創る名無しに見る名無し
今まで色んな板で色んなウメ子を見てきたが、
こんな大変そうなウメ子は初めてだw