河合砂沙美は、海の星中学校に通う平凡な中学生である。
正直に言うと、平凡と称するには平均的な中学生と比べてかなりあちこちズレてはいるのだが、
これから起こる、彼女の人生を一変させてしまう大事件と比べれば些細な問題で、誤差の範疇である。
ともかく、砂沙美は今、学校にいる。
今日は金曜日。時限は5限目。これが終われば下校の時間、そして連休である。
学生なら誰でも待ち遠しい時間だが、砂沙美はことさら待ちきれない様子だ。
ツインテールにした青い髪がせわしなくゆらゆら揺れている。
キーンコーンカーンコーン
「はい、じゃあ今日の授業はこれまで」
終業の礼が終わると共に、生徒達は部活、帰宅など、めいめいの目的に向かって動き始める。
体力と運動神経には自信のある砂沙美だが、とある目的の為にどこの部にも入らず、もっぱら帰宅部だ。
今日は日直でも掃除当番でも無いので、真っ直ぐに家に帰ることができる。
ところが・・・・・・。
「えーっ! 今日の掃除当番あたしだけー!?」
わざとらしく素っ頓狂な声を上げたのは今日の掃除当番であるB美だ。
こういう名前なのは特に重要キャラではないということを示すためであって、決して手抜きではない。
ちなみにA美ではなくB美なのは委員長と名前が被るからである。
とにかく、彼女の班のメンバーは彼女以外の3人は皆図ったかのように病欠であった。
B美は助けを求めるように周りを見渡すが、みんなそそくさと逃げるように教室から出て行ってしまう。
そんな途方にくれるA美に、砂沙美は迷わず声をかけた。
「B美、あたしが手伝うよ!」
「えっ、でも河合さん、今日は何か用事があったんじゃ・・・・・・」
「いいのいいの。人助けは何よりも優先すべき至上命題だって、ママが言ってたよ」
「あ、ありがとう・・・・・・」
「気にしないで。あたし、誰かの助けになれてる時が一番嬉しいんだ」
砂沙美はそう言って本当に嬉しそうに笑う。
「砂沙美ちゃん、私も手伝うわ」
「あ、美紗織ちゃん!」
砂沙美に声をかけたのは、小学校から一緒の親友・天野美紗織だ。
流れるような黒髪と、エメラルドグリーンの瞳が印象的な美少女である。
「1人よりマシと言っても、2人じゃまだ厳しいでしょ?」
「うん、ありがとう美紗織ちゃん!」
こうして、B美、砂沙美、美紗織の3人で放課後の掃除をすることになった。