ZOIDS(ゾイド)とは、タカラトミーの玩具シリーズ及び、それを元に展開されたバトルストーリーやアニメシリーズです。
新旧バトルストーリー、アニメ無印、/0、フューザーズ、ジェネシスetc
このスレでは二次創作からクロスオーバー、オリジナルゾイドストーリーまで幅広く取り扱っております。
職人の方は随時募集中。是非投下してください。
今だからいうけど、俺スラゼロが好きだったんだ。
>>1 乙。
無印、スラゼロ、ジェネシスどれも好きだぞ。
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 23:34:38 ID:dgIXLgz2
ゾイドも立ったか。
GJです。
ゾイド系二次創作SSスレは既にゾイド板にあるけど…とりあえず期待しとく
ストーリーだけ?
改造ゾイドとかは……まあゾイド板があるからいいのか。
クロスオーバーか……
これってゾイドがいればいいってことかな?
何となら相性がいいだろう?
全然関係ないけどさ、
ZOIDS板だと、トランスフォーマーのスレとかよく立ったりするじゃん?
トランスフォーマーのスレがここにあるのかどうかは知らないけど、
エルドランとか勇者はあるの知ってる。
そういうのは?
ゾイド板に立つトランスフォーマースレは、ほとんど乱立荒らし目的なんだよな
残念ながら
この板は何レスくらいあれば落ちないのだろう
まだ落ちたスレというものが存在しないからわかんね
とりあえず、ゾイド板にある創作系ってどんなのがあるかな?
情報をお願いします。
>>14 情報ありがとう。
アニメの二次創作系はないのかな?
ないんだったら、そういったのをここでするとか……
>>15 一応どの板もアニメや小学館のバトルストーリーやらファンブックのキャラがでてきたりはするんですけどねw
主軸にはならない話が多いみたいです。
どのスレも、ね
人いないな
ギブミーチョコレート
ディガルド武国と討伐軍の最終決戦地、自由の丘でジーンは敗れ去った。
その後、討伐軍の中の一部の部隊がディガルドの首都、ディグへ向かっていた。
彼等の目的は略奪。
「ディガルドの首都ともなればお宝がゴロゴロ転がってるはずだ。ジーンが倒れた今、
連中に力は無い。ならこっちの物だ。」
ルージ=ファミロンを中心に結束されていたと思われていた討伐軍だが、決して聖人君子の
集まりでは無い。彼等の様な邪な心を持つ者もいたのである。所詮人間なのだからだから。
しかし、ディグで彼等は想像を絶する光景を目の当たりにする事となる。
「な…なんだ…これが…あの無尽蔵の物量と軍事力を誇ったディガルドの首都…なのか…?」
ディグに到着した彼等の誰もが唖然としていた。何故ならば、そこは地獄だったのだから。
どす黒い煙によって青空を失った空、荒地と化した土地、毒ガスの霧と化した空気、
どう見ても有害ですありがとうございましたと言わんばかりに変な色になった水、
彼方此方に死体が転がり、生き残った者も痩せこけた身体を引きずって水や食料を求め彷徨う、
浮浪者…浮浪者…浮浪者…
まさに地獄、この世の地獄とも言うべき光景が広がっていたのである。
「これは何か悪い冗談じゃないのか?」
「あんな凄い軍団で彼方此方を征服して回ったディガルドの首都がこれって…。」
彼等はディグの恐ろしさの余り、搭乗していたゾイドから下りる事を躊躇っていたのだが、
そこで彼等の存在に気付いたのか、ディグに住んでいた子供達が彼等のゾイドへ歩み寄って来た。
恐らく貧窮の余り、何も食べていないのだろう、もはや生ける屍と化してしまったディグの子供達は
彼等のコマンドウルフやセイバータイガーの足の装甲を弱々しい手で叩きながら呻くのである。
「ギブミーチョコレート。」
「マイベリーハングリー。」
ディグの子供達は必死で食料を求める。もう言葉を発する事さえ苦しいだろうに。
「何故…何故こうなってしまったんだ…。」
「もしかしたら…これがあの無尽蔵な物量と軍事力を得る事と引き換えにした物かもしれない。
考えても見ろ。ディガルド軍があれだけの戦力を用意するのに一体どれだけの軍事費を必要としたのかを。
想像するだけで恐ろしくなる。ジーンは一体どれだけの金を国民から搾り取ったんだ?」
軍を持つのには、莫大な資金が必要となる。そして、それを支えるのが国そのものの国力。
つまり、強力な軍隊を持つにはまず国そのものが豊かとなる必要があるのである。しかし、ジーンは
自国の国力を度外視した軍事力増強政策を行い、ディグをその様な地獄と変えてしまったのだろう。
この光景を見せ付けられた彼等は持って来た食料の全てをディグへ置き、討伐軍本隊のある
キダ藩へディグの復興支援要請を伝える為、ディグを去った。
元々略奪の為にここを訪れた彼等だが、あんな光景を見せ付けられては…略奪など出来ない。
「ジーンよ…あんたが本当に唯一絶対神を名乗るつもりがあったのなら…俺達なんて相手にせず、
まず自国の国民を救うべきだったぜ。」
END
とりあえず書いてみた。時間軸的にはジェネの最終回直後の位置付け。
21 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/20(土) 22:59:59 ID:X9AEPIfb
投下GJ!
略奪者に略奪する気を奪うとはな。
最終回の頃なら、主だった人間もほぼいなかっただろうし、本気でゴーストタウン一歩寸前だったのかも。
ジェネ放送中は「閃光師団がジェネ世界に召還されましたスレ」とか
あったな。
その週の放送に関連して短編をみんなで投下してたこともあって、
放映終了間もなくその役割を終えたが。
「ブレードさんがなんでもRDのせいにする日記スレ」(正式名称忘れた)
ってのも、盛り上がってたな、放映中。
ブルーシティになぜか無印キャラとか/0キャラとかバトストキャラとか
住んでたり召喚されたりしてブレードさんがひどい目にあってRDのせいに
するスレ。
カオスになりすぎて収拾がつかなくなり始めたころに荒らしが湧いて
住人がいなくなっちまったが。
>>22 そこにネタを投下していたけど本編以外のキャラとゾイドを出すな!
とか自治厨が沸いたのが原因だと思う。
タイアップででてきたゲームのVS3や、
同じく正式タイアップで商品化された三体の虎伝説のゾイドすらウザイって騒いだっけ。
>>22>>23 私も「ジェネシス世界に召喚されました」スレとブレードさん日記スレに投下していた者ですが。
スレさびれちゃいましたね。アニメ系統のスレで放映終わっちゃったから仕方ないんでしょうが。
>本編以外のキャラとゾイドを出すな! とか自治厨が沸いた
>タイアップででてきたゲームのVS3や、 同じく正式タイアップで商品化された三体の虎伝説のゾイドすらウザイって騒いだ
なんかそういう変な意見ありましたね。
他にも「召喚されました」スレだとオリジナルキャラが活躍しすぎだと言ってみたり、
(私のSSに対しての意見でしたが)日本被害者感に凝り固まった書き込みをしたりとか…
こういう言い方はアレですけど、たかが個人的な趣味のSSなんだから、気に入らないのはスルーすりゃいいじゃねえかって思ってました。
ああいう人達って、嗜好には個人差があるとか何も入ってない宝箱より玉石混合のゴミ箱のほうがいいとかってのが理解できないんでしょうか?
話変わりますが、このスレへの投下のハードルを下げるために、私SS投下してよろしいでしょうか?
出だしをゾイド板のほうのスレに書いちゃったヤツですが…
>>24 ゾ板でどういう扱いになっているのかはわかりませんが、おれは読みたいです。
26 :
24:2008/09/28(日) 02:59:55 ID:UDilb4SW
>>25 >おれは読みたいです
こう言ってくださる方がいらっしゃるので、投下してみたいと思います。
>ゾ板でどういう扱いになっているのかはわかりませんが、
少なくともこのSSについては完全にスルーされてます。
だからこっちで続きやったからってゾイド板のほうで何か言われることはないと思います。
では次のレスから。
27 :
24:2008/09/28(日) 03:01:24 ID:UDilb4SW
その夜、私はある編集者と飲みながら打ち合わせをしていた。
打ち合わせも大体終り、その日はそこで別れることになって、編集者は先にたち、
私も帰ろうと腰を上げかけた時である。
「すみません。もしかしてあなたは、なにか軍事関係の文筆をなさっているのですか?」
私は顔を上げて自分にかけられた声の来たほうを見た。
そしてそこにあの老人がいたのだ。
私はそのときのことを今でもはっきりと覚えている。
私の着いていた席、他の客の様子、店にかかっていた音楽までもだ。
だが、不思議なことに、あの老人の顔がどうしても思い出せない。
しかし、あの目はしっかりと覚えている。
あの目だけは。
「ええそうですが…」
思い返してみれば、不自然なまでにすんなりと答えたものである。
「そうですか。それでは、実は聞いて欲しい話があるのですが…」
軍事関係のライターなどというものをやっていると、それを人目に触れるところに出したいのか、
「複雑な理由で表には出てこない情報」だとか「実際に体験した者しか知り得ない真実」だとか言う話を
持ってくる人間に会うことも無い訳ではない。
そして私もそんな輩はまともに相手にしないだけの知恵は持っている。
しかし、何故かそのときの私はその老人の話を聞く気になってしまったのだ。
「それでは、こちらにかけて下さい…」
そして私はその話を聞いたのだ。
私にだって、本来、こんな経緯で持ち込まれた話を人目に晒さないだけの理性はある。
しかし、聞き終わると、私はその話を人目に触れるところに出したいと強く思ってしまった。
そして今でもそう思っている。
だが、確かにあった事実としてこの話を公の場に上げるのもまた躊躇われる。
そこで、虚々実々の話がされては消えるこの場を借りて、この話を皆様にお目にかけることをお許し願いたい。
苛烈な戦場で、その命を賭して強大な鋼鉄の獣を狩っていた果敢なる狩人たちの物語を―――――
28 :
24:2008/10/05(日) 16:53:52 ID:6GJjDeBj
書き忘れてたけど、題名は「鉄獣を狩るもの」です。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
海から水分を乗せてきた風は、山脈にぶつかるとその表面を登るにつれて水分を削ぎ落とされ、
山脈の海側に雨や霧をもたらす。
その日もそんなある霧雨の日の一つだった。
“相互観測点射撃準備。陣地転換するまで測距レーザーは使うな”
中隊長の事前指示に従って、全乗員が準備を完了している。
砲弾というものは真っ直ぐに飛ばない。
大気の状態・重力・発砲に伴う熱・砲身の磨耗具合・砲弾に更なる飛躍的な加速を与える電気系統の状態の違い、
それら諸々が、薬室から着弾地点まで砲弾の飛翔経路を曲げる作用を及ぼす。
これら砲弾の飛翔経路の違いをもたらす要素それ自体が直接与える変化は確かに微々たるものであるかも知れない。
だが、僅かに円周の1/6400角度が異なっただけで、それは1000m先では1mの違いとなって現れる。
ゆえに、これらによって与えられる弾道と直線とのずれがどれほどのものになるかを計算し、
砲身の向きにその分の補正を加えてやらなければならない。
そしてその補正には、目標までの距離の情報が必要である。
その情報を得る手段として、極めて高い精度と迅速性を併せ持つのが、
目標にレーザーを当て、反射されたレーザーが戻ってくるまでの時間から目標までの距離を計算する方法である。
29 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 16:55:58 ID:6GJjDeBj
この方法なら、実用上無視できる程度の誤差で素早く距離をはじき出すことが出来るが…
前線に出る戦闘ゾイドの殆どは、レーザー検知器を装備しているのである。
これは、自分を狙う相手が、距離を測定するためやレーザー誘導の火器を誘導するために
照射してきたレーザーを検知するもので、
それにより相手の射撃意図と自分から見た相手の大体の方向を察知することが出来る。
さらに、レーザー検知器により得られた情報は戦闘ゾイド間でリンクされており、
たとえ直接レーザーを検知した戦闘ゾイドがその射撃で破壊されても、残った戦闘ゾイドに情報が受け継がれることになる。
30 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 16:59:12 ID:6GJjDeBj
このことへの対抗となるのが相互観測点射撃である。
任意の三角形の一つの辺の長さと二つの角の角度がわかれば、残りの辺の長さを計算することが出来る。
相互観測点射撃は、このことを利用して距離を計測するものである。
もっとも、先に述べたような計算による距離の計測は、地球で遥かな過去からステレオ式測距として照準に用いられてきたし、
さらに軍事に限らず、写真機のオートフォーカスから測量、他の星との距離の計算にまで利用されてきた、
極めて広く使われる手法である。
相互観測点射撃の特徴は、複数の陸上戦闘ゾイドが、
データリンクにより互いの観測機器を使用して距離を測定する点にある。
手順としては、
まず、複数の陸上戦闘ゾイドが互いの間の距離と適当な同一の指標―――――木や岩、建造物等―――――
までの距離をレーザー測距で測り、
また、指標がそれぞれの陸上戦闘ゾイドの正面―――――正確には安定化された観測器の正面―――――
からどれだけの角度ずれて見えているかを計測する。
すると、基線とそれぞれの陸上戦闘ゾイドの正面方向が成す角度を計算できる。
これで、それぞれの陸上戦闘ゾイドと任意の目標を結ぶ直線と基線との成す角度を、
それぞれの陸上戦闘ゾイドが任意の目標を見る角度から計算することが出来る。
こうして、基線長、任意の目標と基線両端を結んだ三角形の二つの角度が計算可能になり 、
そこからそれぞれの陸上戦闘ゾイドから任意の目標までの距離を算出することが出来る。
実際には、それぞれの陸上戦闘ゾイドの正面方向が成す角度の計算を、
その都度異なった物を指標にして出来るだけ多く行い、
また、基線長の値にも修整を加え、誤差を減らす。
相互観測点射撃ならば、目標となる戦闘ゾイドにレーザーを照射する必要が無いので、
レーザー検知器に捉えられることが無いのである。
31 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:01:08 ID:6GJjDeBj
ただし、弱点もある。
原理から言って、測距に参加している陸上戦闘ゾイド同士の位置関係が変わってしまえば、
再び基線と陸上戦闘ゾイドの正面が成す角度と、基線長の計測からやり直さなければならないし、
また、どうしてもレーザー測距に比べれば距離の算定の誤差が大きくなるので、
ある程度目標の大きさに“拾ってもらう”ことを前提とした射撃法となる。
それゆえ、あまりに遠い目標への射撃は外す可能性が高くなるし、
目標の特定の部位を狙い撃つことには向いていない。
つまり、停止した状態で、当りさえすればどこでもいい
――――――――こちらの火力では装甲の強固な部分を貫くには貫徹力が不足するために
弱点を狙い撃たなければならないような相手ではないということ――――――――
目標に対して行うための射撃法と言えるのだ。
陣地転換まで測距レーザーを使わず座標射撃を行えというのは、
位置を変えるまでは相手に状況を判断する手掛かりを出来る限り与えないことを意図しているのである。
32 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:07:36 ID:6GJjDeBj
“パンツァーに注意。指示があるまで発砲するな”
ライガーゼロパンツァー。奴等はまさしく疫病神である。
高速ゾイドは火力が低い、それがこれまでの常識であった。
搭載量が相対的に小さい高速ゾイドは、大型の砲は搭載できないし、
仮に無理矢理搭載したところで砲弾の搭載量が少なくなる。
砲に比べ発射装置が大幅に小型化できるミサイルにしたところで、
大威力を求めて弾頭を大型化すれば、装薬が減って射程が短くなるか、やはり搭載弾薬数が少なくなる。
搭載弾薬が少なくなるのを承知の上で高速ゾイドに大火力を持たせるということは可能ではあるが、
そうすると比較的近距離での迎撃―――さっと接近して撃ったらとっとと引き返す―――くらいにしか使えなくなる。
絶大な航続力があるという戦闘ゾイドの持ち味を殺してしまうことになるのだ
だが、ライガーゼロパンツァーが、その常識を粉砕してしまった。
野生体コアの高い出力は、小質量ゆえに装薬による加速のみでは重装甲戦闘ゾイド相手には満足な貫徹力を与えられない
比較的小型の弾にさえ高い貫通力を発揮させられるほどの加速を
電磁気力を通じて与えることを可能にし、
技術革新は弾頭の大型化を抑えつつミサイルの大幅な威力増大を成し遂げ、
ライガーゼロの高出力による大きな搭載量とあいまって大火力と必要に足る弾薬搭載数の両立を可能にした。
その上、強固な装甲を纏い、射程も長いときている。
身を隠し息を潜めて待ち構える彼等狩人達の獲物の中には、その危険な鋼鉄の獣が含まれているはずだった。
仮に、パンツァーの前を走る高速ゾイドはこちらの射程に入ったが、
パンツァーはまだこちらの射程に入っていないという状態で射撃を開始すれば、
その射撃でこちらの位置を把握されパンツァーのアウトレンジ射撃を喰らうという
最悪の事態に陥りかねないのだ。
こっちから走り寄って間合いを詰めるなどということは、こちらの弱装甲では不可能だ。
それゆえ、射撃開始はパンツァーがこちらの射程に入ってからにせねばならない。
もっともそのためには、パンツァーに先行する高速ゾイドを
その分余計に引き付けねばならないというリスクを負わねばならないのだが。
被発見率を下げるために共和国高速ゾイド側が隊列を小さくしている、
つまりパンツァーと先行する高速ゾイドとの間がそれほどは離れていないのがせめてもの救いと言えた。
33 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:10:15 ID:6GJjDeBj
ここまで誰のところにも無線は入っていない。
秘匿性を低下させてまで伝えなければならない事項がないということだ。
各乗員は、各表示と無線に注意し、射撃開始の命令を待つ。
そして、そのときが訪れた。
「撃て!」
轟音。
衝撃。
走り来る共和国軍高速ゾイドの一群に向け、
自ら掘り下げた地面に陣取る対陸上戦闘ゾイド自走砲から凶悪なまでの運動エネルギーを纏った砲弾が放たれる。
対陸上戦闘ゾイド自走砲のベースとなったモルガの全長の2/3を超えるほどの長大な砲身から放たれた徹甲弾は
それが着弾したライガーゼロパンツァーの命を奪い去った。
すかさず放たれた第二射がさらに別のパンツァーに吸い込まれる。
しかし共和国側も然るもの、自分達を狙う敵の位置を大まかにつかみ、
照準をそらすため走行を不規則に蛇行してのものに移行、
一部が側後面に回り込むべく機動をはじめ、残りは走行しながらの射撃支援を開始した。
34 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:11:45 ID:6GJjDeBj
だが、この行動は当然予測されているものである。
敵に回り込まれることの阻止と前方に布陣した小隊の陣地転換の支援のため、
中隊は前方の小隊と後方の小隊に分かれて布陣している。
後方布陣の小隊は迂回機動を取る敵との戦闘に備える。
また、前方布陣の小隊は生き残ったパンツァーに備え、
主砲砲尾を覆う装甲の後部に設けられた多目的擲弾発射機から発煙弾を発射する。
地面を掘り下げて陣取り、距離もあるこの状態では、
最も有効射を警戒すべきはパンツァーのトップアタックミサイルである。
これは赤外線画像追尾方式であるが、
戦闘ゾイドは形態の違いの幅が大きく
――――――――同一機体ですら姿勢によって大きくシルエットが変わりさえする――――――――、
また生物であるがゆえの個体差から赤外線放出のパターンにばらつきが大きく、
さらに赤外線放出の抑制・制御という対策がなされており、
このため赤外線画像追尾は認識を緩くするか、送られてくるデータを基に人間が誘導してやらなければならない。
パンツァーのミサイルは、同時に複数を発射することを考慮しているため、前者の方式を採っている。
そのため、そのミサイルは発煙弾に欺かれ易い。
また、この雨も味方してくれるはずだった。
赤外線は空気中の水分に吸収されやすい。
このため雨や霧といった天候下だと赤外線は感知しにくくなるのだ。
もっとも、この赤外線を感知しにくい天候が、ネオゼネバス側を困難な状況に追い込んでもいるのだが―――――。
35 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:13:27 ID:6GJjDeBj
迂回機動を開始した一群を一瞥して後方布陣の小隊長が怒鳴る。
「“ダニ持ち”だ! 歩兵が来やがるぞ!」
高速ゾイドはその機体構成上、内部に兵員輸送のスペースをとりにくい。
かといって、高速ゾイド以外の地上兵器で高速ゾイドの速度と走破力に追随することも難しい。
それゆえ、高速ゾイドはその走破能力の高さを活かして
味方の歩兵が必要となるような地点は迂回するのがセオリーなのだが、
戦争というものはそうそう思惑通りには行かないもので、
このため共和国軍は高速ゾイドに歩兵を随伴させるある方法を実行に移した。
それは、ブレードライガーやライガーゼロといった、高出力の高速ゾイドに多数のフックを取り付け、
そのフックに歩兵を乗せたコマンドゾイドをしがみつかせるという、
ある意味シンプルで、ある意味乱暴なものである。
このコマンドゾイドをつけた高速ゾイドをネオゼネバス帝国軍兵士たちはダニ持ちと呼んでいた。
そう呼ぶ理由は、
歩兵を搭載するスペースを確保するため膨れ上がったダニのような格好をしているコマンドゾイドと、
それにたかられているような母機高速ゾイドの見た目からでもあるが、もう一つの理由があり、それは―――――
“血を吸う”からである。
36 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:15:21 ID:6GJjDeBj
「擲弾撃て!」
対陸上戦闘ゾイド自走砲は防御火器システムの多目的擲弾発射機から擲弾、重機関銃から12.7mm弾をばら撒く。
コマンドゾイドは搭載量が限られるゆえに、
どうしても大型になるKEM(Kinetic Energy Missile;運動エネルギーミサイル)は
搭載弾数が少なくなり過ぎるため、
その狂信的なまでに勇敢な歩兵が使う対陸上戦闘ゾイド火器は化学エネルギー弾頭であり、
またその威力も強力とは言い難い。
だが、Eシールド発生装置も持っていなければ、
巨大な、つまり大重量の主砲を搭載するために装甲に割ける重量が減ってしまい、
極めて軽装甲になってしまった対陸上戦闘ゾイド自走砲にはとっては十分以上の脅威である。
地面を掘り下げて暴露面積を可能な限り減らしているとはいえ、完全に埋まっているわけではない。
小さく対応しにくい歩兵に潜り込まれれば、撃破される恐れが多分にある。
そうならないためにも、味方擲弾兵が周りを固めていてくれればそれが理想なのだが、
それが出来ない事情がある。
擲弾兵の数が足りないのだ。
単純にネオゼネバス軍兵士の絶対数が少ないということにもよるが、
もっと複雑な理由もあった。
それは、パンツァーのミサイルの誘導能力の低下という戦術的不利をおしてまで
共和国軍が霧の中を出撃してきたこととも関係しているのであるが―――――。
37 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/05(日) 17:16:52 ID:6GJjDeBj
こうした対陸上戦闘ゾイド自走砲側の対応を見、
また迂回機動を取ったシールドライガーとコマンドウルフが撃破されさらなる損害を出した共和国軍高速ゾイド部隊は、
動けなくなった機体のパイロットを回収し、交互に火力支援しつつ後退を始めた。
「いい判断だ…」
青(ブラウ)のドーラ、第三小隊四番砲の中で、
ラウル・リヒト・シュメル伍長はあっさりと退いていく敵の姿を目にしながらそう呟いた。
それは皮肉ではなく、素直な感想である。
もたもたしていれば、ネオゼネバス軍側の陸上戦闘ゾイド大隊に後方に回り込まれるハメに陥る。
さらに、高速ゾイドのみで遊撃に出てきた連中には動けなくなった機体を回収して退く方法がない。
対陸上戦闘ゾイド自走砲の側も一門がパンツァーのミサイルで砲を破壊され戦闘不能にされたが、
敵を追い返してしまえば整備部隊に引き渡し修理できる。
だが、向こうは敵の眼前を後退しなければならない。
ギアをニュートラルにすればコロを敷いているような状態になる装軌車両や装輪車両に比べて、
軍用ゾイドの牽引・回収はただでさえ困難なのだ。
この砲火の中、自分と同等のサイズの軍用ゾイドを曳くことは出来ない。
つまり、連中は、自力で動けなくなった戦闘ゾイドは放棄していかざるを得ない。
ただでさえ痛いところへ、軍用ゾイドの調達法が限られる今の共和国軍にとって、これは許容しがたいことのはずだ。
対陸上戦闘ゾイド自走砲が追撃などしようものなら、
さきほど連中がこちらにやられたよりもっと手酷くこちらが連中にやられることになる。
だから追撃は無い。
それはお互いにわかっているから、無益な損害を避けるべくとっとと退くのは全く正しいのだ。
だがそんな軍事的合理性の他に……… ラウルの胸には燻るものがあった。
投下は終わったのかな?
ミリタリーテイストGJです。
ただ、戦場に残されたゾイドたちに哀愁を感じました。
>>38 >投下は終わったのかな?
まだ序盤です… とりあえずキリがよかったので今日はここまでにしました。
ううむ、<続>とでも入れておけばよかったですね。
名前欄に10/10って入れるとかね
>>40 それもいい手ですね。
ただ、実はまだこの話書き終わってなかったりするので、今回は使えないです…
短編を書く機会でもあったら使わせてもらおうと思います。
では、次のレスからまた投下させて頂きたいと思います。
42 :
鉄獣を狩るもの:2008/10/13(月) 01:23:41 ID:UgDeki9+
皆がいつも同じようなところでするのでそこはなんだか小便臭い気がした。
ラウルは一つあくびをすると、また不格好な自走砲の停めてあるほうに戻った。
実際、この自走砲には精練とか全体の調和とかいうものとは全く感じられない。
それは急造の間に合わせ兵器という己の成り立ちをその姿をもって示しているようだった。
そのときの投下分で○/○とか入れたらいいんじゃないかな支援
>>43 !!!
あ、その手があった!
っていうか気付かなかった俺がアホの子だな、さっそくそうさせて頂きます。
ちなみに、
>>42は1/9ということでお願いします。
では次からまた。
戦闘ゾイド、特に高速ゾイドと呼ばれる一群は、極めて高い不整地走破能力を持ち、また路外でも移動速度が落ちにくい。
さらに、その動力源であるゾイドコアは極めて高効率な出力機関であるため、
戦闘ゾイドは絶大とさえ言える長大な航続距離を持つ。
このため、後方への突破経路になることを警戒せねばならない範囲が非常に広く、
また、複数のそれぞれ異なった地点を同時に目標に選択できる可能性も高い。
これに対抗するためには、地理的条件を味方に付けるか、
後方の防御すべき対象それぞれにそれなり以上の兵力を貼り付けるか、
制空権を獲り敵地上兵力の移動を抑え込むか、
もしくは敵の動きに素早く対応して駆け付ける機動防御を展開するか、
これらのいずれかしかない。
高速ゾイドの後方突破を避けられるような地理的条件などそうそう満たされるものではないから、
後の三者のいずれかを採らなければならないのはほぼ決まっているようなものである。
ここでネオゼネバス軍の置かれた状況を見てみると、
後方の防御すべき対象それぞれにそれなり以上の兵力を貼り付けるなどという贅沢極まりない手段は
ネオゼネバス軍の戦闘ゾイドと兵員の絶対数から言って採り得ない。
そして、共和国軍残党の根拠地がある地区を中心として航空軍用ゾイドの戦闘行動半径に入っている範囲では、
航空戦力はストームソーダーやレイノスといった優秀な航空戦闘ゾイドを保持する共和国側の方が優勢であった。
後方にそれなり以上の兵力を貼り付けておくことは出来ない、
制空権を奪って敵の機動を封じることも出来ないとなると、残る手段は一つ。
機動防御を展開するしかない。
だが、機動防御は、ネオゼネバス軍が大量に投入していたキメラブロックスとは相性が悪かった。
機動防御は、敵の進撃路の前面で食い止める足止め部隊と、その間に敵後方に回り込む迂回部隊とで行われる。
こうした行動は、伏撃・狙撃に弱い、目標の戦闘能力喪失の判断問題を抱えている、
「それは気に止めておくだけにしておいてひとまずおいておく」というような行動が取れない、もしくは極めて困難
といった弱点を持つキメラブロックスには難しいものの一つなのである
――――――――この問題が後のロードゲイルやディアントラーといった
キメラブロックス指揮統制ゾイドの開発理由の一つとなっていく――――――――。
そこで、キメラブロックスに任せるのは哨戒任務だけにし、
戦闘を行う予備部隊は有人陸上戦闘ゾイドから編成することとなるのだが、
ここでもやはりネオゼネバス軍の保有陸上戦闘ゾイドの数が問題となった。
攻勢の側後面防御に攻勢の鉾先となるべきバーサークフューラーやジェノザウラーをまわすことは事実上考えられず、
アイアンコングもその絶対数の少なさから軍直轄の独立重駆逐ゾイド大隊を編成して運用せざるを得ず、
残るはレッドホーンとエレファンダーなのだが、これすらも保有数に不安があった。
火力と装甲それぞれに一定以上のものが求められる後方への機動を展開する予備部隊は
レッドホーンないしエレファンダーから編成せざるを得ないとして、
地形を利用することで防御力をカバーできる足止め部隊の方は別の物を用意する必要に迫られたのだ。
それには、真っ先に対ゾイドミサイルを装備する擲弾兵部隊か軽陸上戦闘ゾイド部隊が思い浮かぶところだが、
ここに厄介な問題があった。
Eシールドである。
Eシールドは電磁的な信管の誤作動・弾体通過時の高熱等により
機体から大きく離れた位置で化学エネルギー弾頭を起爆させるため、
起爆位置と装甲との間の距離に貫徹能力が大きく左右される化学エネルギー弾頭はその効果を大きく低下させられる。
また、設計時に企図されたものとは異なる様式の起爆をさせられることでも威力が大きく低下させられる。
その一方、KEMは大型にならざるを得ないので、
携行弾薬数が限られてしまい特にこのような任務では運用に制限が大きい。
そして、対戦闘ゾイドミサイルには最小有効射程の問題がある。
対戦闘ゾイドミサイルは、ある一定以上の距離を飛翔してからでないと操行が安定せず正確な誘導が出来ない。
敵高速ゾイド部隊は遮蔽物の多い地形を突破してくるであろうから、
場合によっては敵と近接して戦闘しなければならない。
これらのことを考慮すると、この任務にはミサイルより砲の方が望ましい
――――――――このEシールドの広範な普及がもたらした歩兵携行対ゾイド兵器の高速ゾイドへの通用しにくさと、
大異変後の大幅な人口減による高速ゾイドの後方侵入を警戒するべき人員の減少、
大型ゾイドの個体数が大きく減ったこと、
大異変によりインフラに打撃を受け大型ゾイドの運用が相対的に難しくなったこと等により、
高速ゾイドの重要性は大異変後さらに増した――――――――。
さらに、また別の理由からも砲が必要となる場面もあった。
こういった状況がこの不細工な自走砲を生み出した。
全有人陸上戦闘ゾイド中最多の生産数を誇るモルガをベースとして、
共和国軍高速ゾイド中最も防御力の高いライガーゼロパンツァーに対しても有効な砲を搭載した
対陸上戦闘ゾイド自走砲の開発が行われることになったのだ。
小型戦闘ゾイドであるモルガをベースとしたものでも搭載弾薬数を稼ぐため、
この対陸上戦闘ゾイド自走砲に使用する主砲弾薬は小型のものとすることとされた。
この選択には相手にするのが最大でもライガー級止まりの高速ゾイドであることも影響している。
ゴジュラスやアイアンコング級のゾイド相手では戦闘能力を奪い切れない大きさの弾体であっても、
高速ゾイド程度のサイズの戦闘ゾイドならば倒し切れるという判断である。
このため、その質量の小さい侵徹体にライガーゼロパンツァーの装甲相手に充分な貫徹力を与えるため、
この対陸上戦闘ゾイド自走砲の主砲には極高初速の砲を選択しなければならなかった。
この条件を満たす砲として選ばれたのが、小型戦闘ゾイドの対陸上戦闘ゾイド戦闘力向上のため計画されたが、
当時いくつかの問題点から開発がほとんど停止していた装薬/電磁砲であった。
これは、まず装薬を燃焼させて砲弾を動き出させ、
そして飛翔体の後方に配された伝導子に通電してフレミングの法則により飛翔体を飛躍的に加速させる方式の砲である。
しかし、いかにゾイドコアが高出力の発電機関とはいえ、
侵徹体にライガーゼロパンツァーの正面装甲を貫徹するに足るほどの運動エネルギーを与えるとなると、
それに必要な電力は、モルガ等小型戦闘ゾイドのコア出力では不足する。
このため、大電力を蓄えることの出来る蓄電機関を搭載して、
発砲時や高速走行時のように大きな出力を使っていないときにはそこに蓄電
――――――――これはエネルギー増幅器と同様の機構である――――――――、
その電力を射撃時にコアから発生している電力に加えて発砲する。
そうまでしているのであるが、それでもやはり必要な射撃回数を確保することを考えると、
発砲の際には出力が足りずに走行速度が大きく低下する。
発砲時にコアから大きな出力を取らなくて良いほどの電力をそれも瞬時に取り出せる蓄電機関は、
撃ち抜くべき対象である装甲の進歩もあって、コスト、サイズ・重量の点から搭載できなかったのだ。
それゆえ、この砲を搭載した戦闘ゾイドは走り回りながら徹甲弾を放つということは出来ない。
この問題を解消するためには蓄電機関の小型高性能化が必須であった。
しかし、エネルギー増幅器が地球人到来直後に開発された戦闘ゾイドにすでに搭載されていることでもわかる通り、
このようなゾイドコアの長時間出力が可能・高効率・高出力という長所を活かせる蓄電機関の有用性は早くから認識されており、その分それまでの研究・開発例も多く、つまり裏を返せば画期的な性能を持ったものが開発される可能性は低かった。
これがこの砲の開発が進んでいなかった理由の一つである。
しかし、今回開発される対陸上戦闘ゾイド自走砲は固定的な防御に使用することを目的に開発された兵器であることから、
このことはやむをえないものとして受け入れられた。
そのため、小型高性能の蓄電機関の開発は断念してこの砲の開発ペースを大幅に引き上げ、
更なる射程の増大を狙って砲身長を伸ばすこととなった。
この問題は、走り回りながらの射撃が要求される高速ゾイドに、
高出力に物を言わせて大威力火器の射撃と高速走行を同時に行える機種にしか
大火力志向のものがいないことの一つの理由を示してもいる。
さらに、進撃経路の自由度の高い、
つまりどこから現れるか予測しがたい高速ゾイドを迎え撃つための兵器であることから、
その射程は近距離から遠距離まで幅広く対応できるものでなくてはならない。
極めて高い初速は、射程の長大化においても要求されるものだったのだ。
このため、交戦距離が事前に想定しにくい対戦闘ゾイド戦において、極高初速砲は有用性が高い。
ただ、いくら最大でもライガー級までの戦闘ゾイドが相手とはいえ、
それでもさすがに当たり所が良くなければ目標の生命を奪い切れないこともある。
だが、冒頭に描写したように、この時期には共和国軍残党は戦場で動けなくなった戦闘ゾイドの回収が極めて制限されていたため、
目標を行動不可能に陥れるだけでも撃破したのと同じ損害を共和国軍残党に与えられる蓋然性が高かった
――――――――目標戦闘ゾイドの生命を奪わずに行動不能に陥れれば、その機体を捕獲・再利用できるため、
戦闘ゾイド不足に悩むネオゼネバス上層部にはむしろそちらのほうが好ましいとされたほどだ――――――。
故に、結果論ではあるが、目標を行動不能に陥れるだけであれば、戦闘ゾイドの生命を奪い切るのに較べ、
要求される内部破壊効果は小さいものとなり、小型の侵徹体でも受け入れられやすい状況ではあったのだ。
これがもし、共和国軍に兵力と回収ゾイドが充実している状況であったとしたら、
少なくともここまですんなりとは受け入れられなかったはずである。
これも、この砲の実用化を遅らせていた要因であった。
また、この大型つまり大重量で、しかも嵩張り重い蓄電機関の搭載が要求される砲を搭載しながらも、
敵高速ゾイドの阻止に間に合わせられるだけの速度を持たせるために、重量増の抑制が必要であったことから、
ゼネバス帝国軍小型ゾイド共通仕様のものをそのまま用いているコクピットを除き、
装甲は弾片や機関砲に耐える程度
――――――――命中部位と距離・角度によっては対物狙撃銃に抜かれてしまう――――――――
のものにされた。
この弱装甲については地形の利用と、モルガの自ら壕を掘る能力を活かすことで対処することとされた。
大重量長砲身の砲を搭載したため、重量バランス・モーメントが変化したが、
ゾイドが生物であるがゆえの冗長性により、
特別な機動制御プログラムの書き換え等は無くとも悪影響は最小に抑えられた。
こうして開発された対陸上戦闘ゾイド自走砲は、各師団の装甲猟兵大隊を中心に配備され、
また、トップアタック対策に、その本体の大きさに対し異様なまでに長い砲身から
金網シュルツェンを胴体を隠すように左右に張り出させた姿から、
兵士達の間で“あばら屋”と呼ばれるようになった。
このいかにもみすぼらしい呼び名からもうかがえる通り、
それは美しさとは全く無縁の自走砲だった。
ID:KKl0SV7kさん、支援多謝。なんか設定書き込みばっかで話進んでなくてすいません。
たぶん明日の書き込みもこんな感じになっちゃうけど、
(言わないほうがいいんだろうが)設定が伏線なんていうキワモノなので許して下さい。
それが終われば戦闘シーンありますので……
GJです。
いや〜こういった丁寧な作り込みはとても大好き。
細やかな積み重ねが作品を形作るのだと改めて思います。
ぜひ続きも頑張ってください。では。
r、
| :.\
____ ノ ;;:: キ
\、 ..::-`"゛ _ iヘ
Y , / ヾ\
/^f:─ f⌒ヽ > } お米が無ければキムチを食べれば良いニダ
|: /:.. .) | ノ /
ゝ:ヽ.. ⌒" ..,イ、イ
\;"ヽ::... ∠ ヽ \
γ⌒:|:: .}" ⌒\ \
| ;/ / ,ィヘ. \ ヽ
| / / ノ \___ノ
| " / /
ゝ__ノ /
/. ..f
ウリナラガ・ド・ピンチ[ Urinaraga do Pinci ]
(1948〜2011)
正直、このレベルのゾイドSSにはそう簡単には出会えない。これは続きが楽しみ
>>57>>58 ありがとうございます!
いや〜、私ってゾイド板に書いてるときにゃ、
シリアス系→ガンスルー コメディー系→そこそこ反応あり ギャグ・ネタ→ときどきヒット
って感じの反応だったんで、こういうレスは本当にうれしいです。
>いや〜こういった丁寧な作り込みはとても大好き。
>細やかな積み重ねが作品を形作るのだと改めて思います。
奇異に聞こえるかもしれませんが、実は私が設定やら作り込みやらするのって、
ミリ好き(まだヲタを名乗れるレベルじゃない)からってのもありますが、
根っこのところで私が「ギャグの人」だからでもあります。
「王ロバ」系統の論理ギャグがもう好きで好きで。
論理ギャグ、ってものが成立することでもわかるとおり、論理と笑いって相性がいいんですよ。
まあ「鉄獣を狩るもの」はどシリアス話なんですけどね。
ではまた次レスから。
まあ、自走砲のことを醜い醜いと言ってきたが、それに乗っている連中だって決して褒められた見てくれはしていない。
不規則な睡眠時間とこの“素晴らしい”環境のせいで、
皆が―――ちょうどラウルと同じような―――ひどい面をひっさげていた。
ZAC2101年、初代皇帝ギュンター・ムーロアの計略により、
共和国軍の大部分をニクスにおびき出したネオゼネバス軍は、
戦力を集結し一挙にヘリック共和国の首都ニューヘリックシティーを陥落させ、
ヘリック共和国を崩壊させることに成功した。
それは少ない兵力を以って採り得る最上の策を見事に成し遂げたものと言ってよかった。
だが、戦力を集結して重要地点を陥とすという手を採るということは、
広範な地域や複数の地点を同時に目標にすることは出来ないということを意味する。
一挙にヘリック共和国の中枢を陥とさねばならなかったネオゼネバス軍は、
しぶとい抵抗を行うことが予測される共和国軍残党の兵站線を断つことを後回しにせざるを得なかったのである。
また、ネオゼネバス軍は、敵地であるニクスから侵攻状況に合わせて物資を適宜輸送するわけにはいかず、
一度にデルポイに運んできており、
デルポイ各地の物資の揚陸が可能な地点を早急に保持する必然性がその分薄かった。
さらに、ネオゼネバス軍としても、各地の揚陸可能地点を抑え、
引き返してくる共和国ニクス派遣軍の上陸を阻止することが有効な手段であることは認識していたが、
上陸地点の予測の問題と、共和国ニクス派遣軍の水際戦闘能力の高さ
――――――――殊に、複数の河川で互いに隔てられた上陸可能地点の間の橋を落とされることで、
それぞれの地点に配置された部隊同士の協力を不可能にされることが重大視された――――――――から、
多数の部隊を広く「撒かなければならない」ことになり、
なにより、各地の上陸可能地点の制圧が、共和国軍ニクス派遣軍の到来に間に合わない恐れがあることから、
共和国軍ニクス派遣軍の到来に対する対策としては、
内陸にいる部隊を上陸してきた敵へと素早く向かわせる機動防御が選択されたことにより、
デルポイ外からの補給が不可欠な共和国軍残党の生命線たる揚陸可能な地点の制圧が後回しになってしまっていたのである。
そうした後回しにされざるを得なかった目標の一つが、このスフレフスク周辺の地域だった。
デルポイ北東に位置するこの地域は、河によって複数に分断された平野を挟み山脈と海が接近する地形となっていた。
この地理的条件から、スフレフスク周辺域は
ガイロス帝国からの共和国軍残党への支援物資の揚陸地点の一つに選ばれたのだった。
この地域を制圧し共和国軍残党の補給線を断つべく、
ネオゼネバス軍は山脈の南から海岸側に回り込む進撃経路で軍を送り込んだ。
スフレフスクから山中に伸び、そこから山脈内で枝分かれしている道以外では、
山岳地の走破性が高い戦闘ゾイド以外は行動が極めて制限され、
特にトレーラーを牽引しているグスタフは、道以外の場所は全く通ることが出来なかった。
故に、山脈中では数少ない道以外には補給路を設定することが出来なかった。
これは、山脈内から山脈外に打って出る場合にも、その逆に山脈外から山脈内の拠点に攻め入る場合でも、
補給路の設定を伴う攻勢は自由な進撃路設定が出来ず、
かつ、山岳地の走破性が高い高速ゾイドに補給路を脅かされ、それへの対応が難しいということである。
従って、ネオゼネバス軍、ヘリック共和国軍とも、スフレフスクを経由しなければ、
攻撃を仕掛けてはすぐまた引き返すという、「通り魔的な」攻撃しか出来ないのだ。
このため、ネオゼネバス軍は、まずはスフレフスクを陥とし、
地上においては擲弾兵師団が、海からの攻撃は海兵師団が防御してスフレフスク周辺を制圧下に保持し、
さらに山脈内の共和国軍残党拠点を攻略して周辺から共和国軍残党を駆逐するという、
「道標(ヴェークヴァイザー)」作戦を立案、発動した。
そして、「道標」作戦参加軍の左翼に配置され、
山脈を根拠地とする共和国軍残党から
軍の主力である第52装甲師団“祖国第七(ファーターラントZ)”側面を守る任を与えられたのが、
ラウル等の第147装甲猟兵大隊が所属する第86擲弾兵師団“フォルクスV”であったのだが、
細切れにされる睡眠のために寝不足が職業病になっている兵士達にとっても、
「道標」作戦の推移は実に過酷なものだった。
睡魔に揺さぶられてふらふら震える地面を歩いてラウルが自分の自走砲に戻ったときにも、
それぞれひどい面を張り付けたスタロニコフ・クルフェル伍長とバーゼル・シュタイン伍長の雑談が続いていた。
「また勲章が送られて来たんだって?」
「そうだってな」
「余計なもん送らなきゃいいのにな。ただでさえグスタフが無えってえのに」
ネオゼネバス軍に少ないのは直接戦闘用ゾイドだけではない。
輸送ゾイドもまた少なかった。
そしてその少なさはある意味直接戦闘用ゾイドの少なさより深刻だった。
ゾイドはある程度の自己修復機能を持っているため、維持が比較的楽である。
また、生物である野生ゾイドを捕獲して改造するという人口ゾイドの製作法から、
そう簡単に新しい種類の野生ゾイドを基にした人工ゾイドを造ることは出来ない。
このため、特にグスタフ等の輸送ゾイドは軍で使われているのと同じ機種が民間でも幅広く使われていた。
そこで、予測される保有軍用ゾイドの少なさに頭を悩ませたネオゼネバス軍は、
輸送ゾイドについては民間からの借受
――――――――占領政策で余計な反感を持たれないように注意が払われていた――――――――
を積極的に行うこととした。
そうすることで軍保有の輸送ゾイドの少なさを補おうと考えたのである。
だが、ことは、それで民間から借り受けした分だけ輸送ゾイドの数が増える、というような単純なものではない。
まず要求される耐久性が大きく異なる軍用と民間用では、
与えられていた自己修復に必要な金属イオンやオイルの品質が違っている。
このため輸送ゾイド本体部の耐久性に軍用と民間用では差が開いているのである。
しかし、その輸送ゾイド本体部の問題は生物ゆえの冗長性に助けられる分まだましと言えた。
もっと深刻な問題を抱えているのは、輸送ゾイドの牽引するトレーラーの方だった。
民間用は、悪路で過酷に使用されることを考えている軍用に比べて要求される耐久性が低く、
人的・金銭的コストの削減やトレーラーにはゾイドの自己修復機能が働かないことから、
民間用トレーラーを牽いた輸送ゾイドは、
軍用トレーラーを牽いた同一の輸送ゾイドほど過酷な条件で使うことが出来なかったのである。
かといって輸送ゾイド本体部に輸送用架台を設けても、トレーラーを牽引するのに比べると輸送可能量が大きく落ちてしまう。
もともとZiではグスタフの必要量はトレーラーを牽引した状態の搭載量を基に算出しており、
トレーラーが使えないとなれば、補給系統が文字通り崩壊してしまう。
そのため、ネオゼネバスは軍用規格トレーラーの増産を進めるとともに、その数が揃うまでは、
戦場から離れた道路整備の進んだ地域では民間規格トレーラーを牽いた輸送ゾイドを用い、
途中で輸送物資を積み替えて、
戦場に近い道路整備の進んでいない地域では軍用規格トレーラーを牽いた輸送ゾイドを用いることにしていた。
だが、この方法は当然手間が増える上、
輸送物資積み替え所が後方に侵入した共和国軍戦闘ゾイドの目標の一つになってしまうという
防御上の問題も抱えていた。
かといって戦場近くまで民間規格トレーラーを牽いた輸送ゾイドでも行けるように進撃路を設定するとなると、
もともと険しい地形が多く、かつまた大異変でインフラに打撃を受けた惑星Ziでは制約が多くなってしまう。
「しばしば賞する者は窮するなり、しばしば罰する者はくるしむなり、か…」
「? なんだそりゃ?」
「“孫子”っていう地球の軍事テキストに書いてあることでな。
しきりに兵に賞を与えている軍隊は士気が上がらなくて困っている、
しきりに兵に罰を与えている軍隊は疲弊して苦しんでいる、っていうことさ」
スフレフスク周辺を重要目標としていたネオゼネバス軍の攻撃の進捗は、順調とは言えなかった。
共和国軍側の目的は、あくまで海を越えてくる物資を受け取る拠点としてのスフレフスク周辺域を守ることである。
仮にその場に敵を入れないというだけの意味でスフレフスク周辺域を守っても、
付近の海域を空からの機雷投下で封鎖されてしまっては何の意味も無い。
また、陸揚げした物資を山岳の奥深くの共和国軍残党根拠地まで運ぶためには、
山中深くまで通っている、グスタフでも通っていくことの出来る道が必要である。
こうした山脈では数少ないそうした道を航空投下地雷で封鎖されてしまっても、
やはり共和国軍側は補給拠点としてのこの地を“失った”ことになる。
ゆえに、共和国軍側はそうした攻撃を防ぐために航空兵力の多くを裂かざるを得ないのだ。
こうした事情があるがゆえに、
共和国軍側はネオゼネバス軍地上部隊に対する攻撃には航空兵力をそれほどまわせない。
それでもネオゼネバス軍地上部隊の攻撃は順調ではない。
これは、この地の重要性をよく理解していた共和国軍が強固な抵抗を行っているのもさることながら、
ダークスパイナーの運用が困難であることもまたその大きな理由だった。
戦闘ゾイドは、状況の変化や機構の不具合の発生に備え、
最新の搭乗者の直接入力が最優先で処理されるように設計されている。
つまり、仮に、制御を奪う対象の戦闘ゾイドに行動パターンのデータをまとめて送っても、
その後その戦闘ゾイドの搭乗者が操作を行えば、その戦闘ゾイドは搭乗者の操作に従う。
制御を奪うためには、その対象となる戦闘ゾイドに対し欺瞞と信号の送信をし続けなければならないのである。
このため、ダークスパイナーの処理能力の高さをもってしても、同時に制御を奪うことの出来る戦闘ゾイドの数は限られている。
さらに悪いことに、制御奪取に不可欠なジャミングブレードは防御が難しい。
ジャミングブレードは、当然のことその装甲を使用する電磁波が透過するようにせねばならず、
かつその装甲は軽いものでなければならず、この装甲に関する制約のために攻撃に対して脆弱なものにならざるを得ず、
しかも大面積を曝さざるを得ないのだ。
敵を操って自らの友軍を攻撃させるなどという奇術まがいのことをやるのは、数の問題を解決するための苦肉の手段なのである
――――――――キャムフォード大統領脱出作戦において、
大統領を乗せたセイバリオンに対して、その近くにいたダークスパイナーが
そうしようとすれば出来たにもかかわらず制御奪取を行わなかったのは、
この問題が理由の一つである。
単独行動しているセイバリオンのような相手にさえいちいち制御奪取をしているようでは、
囮相手にジャミングウェーブを使わせておいて、
その隙に隠れていた他の戦闘ゾイドがジャミングブレードを狙撃するという
手を使われてしまうからだ――――――――。
このため、ダークスパイナーは本来、なかなか無力化できない強力な敵戦闘ゾイド
――――――――この場合、攻撃しにくいところから撃ってくるような、状態として強力な相手も含む――――――――
への対処や、防御陣の一部に穴を開けて友軍の突入経路を開くといった任務に向いており、
複数の敵が潜む地点や、突如側面や後面に回り込んだ敵から反撃を受ける恐れがあるような局面に
攻撃を仕掛けるのには向いていないのである。
さらに、実のところ、ダークスパイナーにとって最も御しがたい敵は、
対陸上戦闘ゾイド火器を装備して待ち伏せる歩兵や地雷・仕掛けられた爆発物等である。
ダークスパイナーは、その機体規模と出力に較べれば貧弱以外の何物でもない小口径火器しか搭載していない。
歩兵の相手が苦手なのは当然であり、また、防御の難しいジャミングブレードが地雷や爆発物に弱いのは理の必然である。
そして―――スフレフスク周辺の戦闘は、その地形的条件と戦闘の様相からいって、
まさに、ネオゼネバス軍側が、歩兵を含む複数の敵が潜む地点や地雷・爆発物が仕掛けられている恐れのある地点、
そして、突如側面や後面から反撃を受ける恐れのある局面に攻撃を仕掛けねばならないものであるのだ。
さらに悪いことに、この頃には共和国軍側はこうしたダークスパイナーの弱点を把握して対抗策を身につけてきており
――――――――そのために、多くの血を代償として払ったのであるが――――――――、
かつ、スナイプマスターやスナイパーライフル装備のケーニッヒウルフ等、狙撃に向いた戦闘ゾイドを有しているのである
――――――――殊に、ケーニッヒウルフはその解析能力の高さから、
ダークスパイナーから策敵電波を出すと逆探知されてダークスパイナーの位置が割れる危険も高い
厄介な相手であった――――――――。
これに対抗するためには、他の戦闘ゾイドと密接に協調し、
敵の抵抗拠点を一つ一つ潰していかねばならないが、
協調の取れた行動のために要る綿密な調整や準備に必要な時間も、
一歩一歩進んでいかねばならないことで掛かる時間も、
進撃の速度を確実に削ぐ。
速度を以って寡兵の不利を補うネオゼネバス軍の戦い方とはまるで合わないやり方なのだ。
このため、ダークスパイナーのパイロットの間では、
「戦闘開始の合図に撃たれる」という泣き言のような発言まで出るほど、こうした様相の戦闘は嫌われていた。
敵の最初の発砲までダークスパイナーを隠しておき、敵の位置が把握できてからダークスパイナーを前方に出せればよいのだが、
デカくて目立ち、かつ特徴的な外見のため他の戦闘ゾイドと見分けがつきやすいダークスパイナーの存在の有無が、
共和国側を支持する住民によって事前に敵に知らされており、上手く行かないことも多かった。
このためどこかの日和った馬鹿が住民に強硬的な対応をしてくれたおかげで、余計な敵が増えちまい、
変な細工されないように寝るときまで戦闘ゾイドへの注意を怠れないほどだ。
それでもまあ、自分達は戦闘ゾイドがあるだけ恵まれているほうかもしれないとラウル達は思っていた。
戦闘ゾイド兵であっても機体がなくて擲弾兵として働かされるなんてことはざらにある。
戦場で戦闘ゾイドに乗ったこともないのに戦闘ゾイド撃破章を持っている戦闘ゾイド兵なんてものまでいる始末だ。
擲弾兵なら住民の間に入っていって警戒活動に従事せざるを得ない。
あんな最悪の任務は想像するだに吐き気がする。
もっとも、戦闘ゾイドに乗っていれば、その分擲弾兵より目標にされやすいわけで、
結局のところどちらが幸運なのかはわからない。
いやそもそも幸運なんてものは存在してるのか?
それは哲学的な思索だ、そして哲学的な思索の追及なんて幸福な連中にしかできないことだ、
だからここではその答えに到達する奴なんか未来永劫現れやしない。
攻勢の果々しくない進捗状況、そして様々な要因から、
「道標」に参加したネオゼネバス軍将兵の士気は、高いとは言い難かった。
その士気を鼓舞するため、ネオゼネバス軍上層部は勲章を乱発しているのである。
もっとも、士気の問題は「道標」参加将兵のみが抱えるものではなかった。
多かれ少なかれ、ネオゼネバス軍全ての将兵が抱える問題であったのだ。
自らの国家を築くという、宿願ともいえる目に見える大きな目標は既に達成してしまい、
さらに敵国の中枢部は抑えたにもかかわらず、敵の抵抗は止まず、終わりが見えない。
自分達は何のために戦うのか、いつまで戦い続けなければならないのか―――
士気の鼓舞はネオゼネバス軍にとって必要不可欠なことであった。
このため、受勲者や英雄が粗製濫造されていたのだ。
この辺りの状況を耳にすると、ラウル達の頭には、
兵士達がお行儀よく延々と一列に並んで、その先頭で国のお偉方があの仰々しくもったいぶった動作で
順繰りに兵士の首に勲章をかけていくなんていう馬鹿げた光景が思い浮かんでしまうものだった。
「…なるほど、確かにその通りだぁな。値踏みされたもんだがな。
しかしまた、そんなことが見抜けるほど賢い地球人って奴が、
どーしてZi人に高度な軍事技術を与えるなんてバカな真似しちまったんかね、バーゼル?」
「俺に聞かんでバーゼルに聞くか?」
ラウルは冗談めかしてひがんでみせた。
「同じ血が混じってるってだけでそいつらが何考えてんのかわかるんだったら情報部の連中は全員失業だって。
この手の話はバーゼルだろう」
ラウルの父方の祖父は地球人、母方の曾祖母は後にヘリック共和国人となる民族の出身者なのだ。
「結局のところそう思うようには出来ないって言うことさ。
人間は状況に縛られる、予測は外す、限界がある、やりたくなくてもやらにゃならん場面に叩き込まれる」
そういうものだよな… ラウルは思った。
自分の血は半分以上がゼネバス人、4分の1が地球人、8分の1がヘリック人、ガイロス人の血は全く入っていない。
では、もし仮に、戦場で見ず知らずのゼネバス人と、やはり見ず知らずの地球人とヘリック人、
そして同じ戦場で戦っていたガイロス人のそれぞれが危機に陥っていたとして、
そしてさらに仮に誰某を助けたからという理由で処罰する煩い連中やらしがらみやらがそのとき存在しなかったとしたら、
自分はどの人間に加勢するだろうか―――――
そうやって考えてみると、これはもう確信に近いものがあるのだが、
自分が味方するのは、肩を並べて戦ってきたガイロス人達だろう。
だが―――――自分はこうして共に戦ってきたガイロス人と決別しネオゼネバス軍に身を投じているし、
そして自分でも何故だかわからないのであるが、
仮にそうせずにガイロス軍に留まりネオゼネバス軍を敵とする途を選ぶことは、
倫理的に許されないような気がするのである。
人間は自分の内面すら思うようにならない―――――
これはラウルにとって確信を越えて体の芯まで浸透した感覚であった。
その後少しの間雑談が続き、装甲猟兵達はそれぞれの自走砲に潜り込み毛布を引っかぶって眠りに落ちた。
投下お疲れ様です。今回もじっくり楽しんで読みました。
生物ゆえのゾイドの柔軟性や補給路の確保、そしてダークスパイナー。どれもとても好感を持てる内容でした。
特に3年の無敵時代を築いたとされるダークスパイナーの弱点。読んでて画面の前で「あーなるほど」と思わず頷きました。
今後とも頑張ってください。ミリでもギャグでもドンと来いです。では。
>>75 こちらこそいつも読んでいただいてありがとうございます。
>ダークスパイナーの弱点
やっかいなんですよね「味方側の万能/無敵キャラ」。
そいつを出すと話がそこで終っちゃうし、あえてのギャグでもないとそいつを使わないのも作中で不自然になるし。
逆に敵側にそういう奴がいる場合は、「そいつにどう対抗するか」で話がつくれるんですが。
かの名作「ドラえもん」でも、巧みにドラえもんが万能キャラになるのを回避しているのがわかります。
というわけで、この時期のネオゼネバス軍視点の話を作る場合、
何らかの「ダークスパイナーが使えない理由」を設定してやる必要が出てきます
(ダークスパイナーを無敵状態で出してネオゼネバス視点で面白い話がつくれる人がいないとは言わない。
ただし凡人にはいない)。
というわけで私なりに設定したんですが、>「あーなるほど」と思わず頷きました とは光栄です!
ではまた今週も。
世の中には堂々とキングゴジュラス主役のSSを書いてる人もいるからね。
色んなタイプのSSがある事は決して悪い事では無いと思う。
やるべきでないことをやらねばならなくなる、ろくでもない日というものはあるもので、
第147装甲猟兵大隊第二中隊にとっては今日がその日だった。
その日は晴れた日で、第二中隊長は工兵と共に地形偵察・打ち合わせに出向いていた。
陸上戦闘ゾイド、特に高速ゾイドは極めて高い走破能力を持っており、
また、それらをもってしても突破できないほどの障害物を構築するためには、多くの時間と資材が必要で、
自然・人工の障害物だけで陸上戦闘ゾイドの迂回機動を封じることは多くの場合事実上不可能と言ってよい。
このため、陸上戦闘ゾイドに対する防御は障害物と火力を綿密に組み合わせたものとならざるを得ない訳であるが
――――――――一例として、対陸上戦闘ゾイド壕の構成が挙げられる。
機動性の高い陸上戦闘ゾイドに跳び越されないほどの壕を掘ることは極めて困難であるので、
曲がりくねった形の壕を複数並行させて掘り、跳び越したときの着地点を限定させ、機動の自由を削ぎ、
そこに集中射を加えられるよう火器の配置と統制を行う――――――――、
共和国軍高速ゾイドの迂回を遮るためには人員、そしてなんと言っても地雷が足りない。
さらに、高速ゾイドは航続距離が極めて長く、かつ走破性が極めて高いため、一旦対陸上戦闘ゾイド自走砲で阻止しても
ネオゼネバス軍陸上戦闘ゾイド大隊が到着するより前にそこから離脱し、また別の目標や経路を選択するという
――――――――対陸上戦闘ゾイド自走砲の防御力と機動力では
そうした行動を取る相手を追うことが出来ない―――――――――
行動をとる可能性もある。
そこで、装甲猟兵と工兵が地形を見ながら協議しあい、敵の接近経路を出来る限り予測し易く、
また、敵の攻撃目標となる対象がある地点が複数あれば、それらそれぞれの間を区切るように、
複合阻止点(陸上戦闘ゾイドの通過を阻むために、地形・障害物と地雷等を組み合わせたもの)の位置を決め
――――――――例えば、高速ゾイドをもってしても走破出来ないような地形(沼等)が点在していた場合、
それら同士をつなぐように複合阻止点を設置して敵が通過出来ない「線」をつくる等――――――――、
工兵は複合阻止点を構築し、
装甲猟兵の側では複合阻止点の位置をディスプレイに表示される戦場情報マップ上に記録、把握しておき、
行動の決定に活かすのである。
先日、新たに地雷が送られてきたため、
第二中隊長は新しく構築する複合阻止点について工兵と最終調整を行う予定だったのだ。
また、弱防御で、かつ出くわしてしまった敵から逃げ切るには図体がでか過ぎる“あばら屋”で、
遭遇戦になってしまうと目も当てられないことになる。
“あばら屋”は基本的に味方からの情報を基に行動するのだが、
伝えられるのはあくまで味方が得ている「情報」なのであって、全ての「事実」なのではない。
味方が捉えていない敵がいれば予期せず遭遇してしまう可能性もある。
このためからも、もし味方の捉えていない敵がいるとすればそれがどこからどう来るのかということを予期しておくために、
装甲猟兵は他科の将兵との情報交換が必要だった。
それでも、全てが錯綜する戦場では予期せず敵と遭遇する可能性はゼロにはならないから、
“あばら屋”を装備する部隊は迎撃位置に向かう際、連絡・偵察用ゾイドを先行させることが多い。
このような先行偵察のためにはキメラゾイドが欲しいところだが、
いかにキメラゾイドのコストが同級通常ゾイドに較べて低いとはいえ、それは決してゼロではない。
一方、連絡用ゾイドはどの部隊にもまず必ず装備されている。
このため、先行偵察のためにわざわざキメラを配備せずとも、もとからある連絡用ゾイドを用いればよいという
理屈が通されているのだ。
ここで、先行する連絡ゾイドに乗るのは部隊指揮官が良いが、
それでは指揮官の自走砲はどうやって迎撃位置まで持っていくのかという問題の発生が懸念された。
だが、この問題にはある「解決」策があった。
数度の戦闘を経験すれば、まず必ず後方送りになる自走砲が出るといってもいい。
そして―――そのままでは兵力不足でまるで戦闘できない、という場合でもない限り―――
キメラもまわしてもらえない部隊に即座に穴埋めが送られてくる、なんてことはない。
つまりほぼいつも自走砲は多かれ少なかれ定数割を起こしていることになる。
そして弾薬・燃料系統と乗員区画が隔てられていることが多く、ガタイも大きい戦闘ゾイドが戦闘で損傷を受けても、
その乗員の方は後方送りになるほどの負傷はしないケースも多い。
また、いかに戦闘ゾイドの稼働率が高い
――――――――もし戦闘ゾイドを知らない地球の軍事関係者が、
何の予備知識も無しに戦闘ゾイドとその稼働率を見たら、
Ziは奇跡が日常になった世界だと思うだろう――――――――
とはいえ、やはり不具合で戦闘に参加できない自走砲は出てくる。
これがどういうことを意味するかというと、
つまるところ部隊には搭乗する自走砲が無い隊員がほぼ常にいるということである。
これにより「解決」を図れる、つまりはそういう隊員に迎撃位置に着くまで指揮官の自走砲を操縦させるのだ。
戦闘中は、指揮官の自走砲を操縦してきた隊員と連絡ゾイドは「そこら辺」に隠れているのである。
「不幸にして」定数割を起こしていないときは、
事務士官や段列の人間が「最大限好意的に見れば言いくるめられて」この役目をやらされた。
こうした状況に、第二中隊長などは
「無人軍用ゾイドを先行させたのでは敵は黙ってそいつをやり過ごすが、
人が乗っていれば撃ってくるから確実に敵を見つけられていい」
などと言っていた。
中隊長が部隊から離れている間、ラウル等第二中隊の人員は補給・点検作業をしていたのだが、
午後に入った頃にわかに霧が出てきた。
嫌な予感がする―――――
Ziでは両軍が敵の人工衛星の破壊を繰り返すため、その科学力に比して気象観測が低いレベルに留まっている。
このため、天候の変わり易い地域の局所的な天候変化の予測は地元民の経験による方が正確なことも多いのだ。
スフレフスク周辺、殊に山脈付近の住民は、共和国軍に肩入れしている者が多い。
つまり、この付近の天候変化については共和国軍の方が正確な情報を有しているのだ。
どこかの馬鹿のおかげでえらいことである。
嫌な予感がする―――――
共和国軍がこの天候の変化を事前に知っていたとしたら……
霧の中シュペースキッパー
――――――――ロードスキッパーの基本構造を流用して偵察・連絡用に開発された、小型ゾイドである。
操縦手席の他にもう一つ座席が設けられているが、
そちらには操作系統が無く、完全な“座席”である――――――――
が走ってきた。
第二中隊長が戻ってきたのである。
中隊長も同じ考えを持ったのだろう。
中隊は作業を中断し、出撃命令が飛び込んでくるのに備えた。
予感という奴は、悪いものほど良く当る。
果たして出撃命令が来た。
補給路上にある橋に、共和国軍高速ゾイド部隊が接近しているというのだ。
>>77 確かに一言で「面白さ」といってもいろいろありますから、キングゴジュラス主役で面白い話というのも可能だと思います。
ただ、そのSSを読んだことがないので、これは私の想像ですが、そのSSは、
1.圧倒的な力を持つ主人公が暴れまわることによる痛快感をうりにしている
2.キングゴジュラスでさえ苦戦するほどの敵・状況を設定している
3.心理描写に重きを置いている
4.ギャグ作品
5.書いている人間がすさまじい力量
のどれかなのではないでしょうか?
私のように、心理描写で読ませることもできず、それほどの力量もない書き手が
非ギャグ話を書く場合、無敵/万能キャラって難しいんですよ。
話として見せ場がなくなっちゃう。
私も痛快な話やギャグは好きだし、非ギャグでもキングゴジュラスが主役でも面白い話、って書けるようになりたいんですけどね。
ああ、またギャグが書きたくなってきた……
じっくりとGJです。
対ゲリラ戦闘の厄介さ。今回はその苦労がにじみ出ていました。人や物資が不足しているのでことさらに。
次回はいよいよ戦闘なのでしょうか。これは期待を膨らまさざるをえません。
では。
追伸
あなたが書くゾイドギャグも読んでみたいです。気が向きましたら是非。
>>85 ありがとうございます。
いやホント、ゾイド板じゃスルーされまくりだったので、ものすごくうれしんですよ。
>あなたが書くゾイドギャグも読んでみたいです。
私が書いたギャグは……、ゾイド板だと結構あるんですが、紹介させて頂くと
・「共和国軍がジェネシス世界に召喚されますた」
(初代スレの「○○!××」シリーズ及び2代目スレのカン博士の話、マルクスの話。ただし、初代スレはもう落ちてる)
・「ブレードさん日記スレ」3スレ目終盤からやたら書いてる。たぶん一番受けた話書いたのがここ。
・「もうゾイドで通勤してやる」実は良スレじゃないか? 荒れてるとき以外は。
・「貴方がゾイドになったとしたら」 「マーダです」以降のギャグは私。ちらしの人のSSがスゲエ。
あと、ギャグは書いてませんが、面白いSSすれなので紹介
・「米軍遂にゾイドを開発。」 私が書いてるのは単発ネタだけですが。 やはり独楽犬氏のSSが面白い。
しっかし俺、いろんなスレに書いてるくせにマイバトストスレには書いてないなあ。
>>86 いいんじゃないですか?無理にあそこに書かなくても。
あそこは何かしら毒のある作風ばかりなのでこっちはこっちでやればいいと思いますよ。
>>86 SSが置いてあるスレ、実はそんなにあったんだな・・・
いくつか全く読んだことがないものがあった。感謝
>>87 確かに私もあのスレには書き込みにくいです。
「鉄獣を狩るもの」も、書き込もうと思っていたスレが落ちてしまっていたので、
あそこに書き込もうかとも思ったんですが、どうも入りにくくて。
長く続いてるスレに新参として入るのが気後れするのかとか、
あそこは本編設定から離れて独自の世界観作ってる話が多いので、
公式設定に無理やりレベルで合わせてる私は書きにくいのかとか考えましたが、
>>86のように他のスレにはやたら書いてるのでどうもそういった理由ではない。
やはりあそこには何か空気ありますね。
>>88 ゾイド板には結構あります。私も全部のスレ見てるわけじゃないので他にもあるかもしれない。
まあ「もうゾイドで通勤してやる」スレに書いてあるのがSSと言えるのか、と言われれば答えに詰まるわけですが。
>>86でも触れてますが、ちらしの人と独楽犬氏のSSはぜひ読んでみて下さい。面白いので。
特にちらしの人、よく自分が書いたわけでもないだろうそれ以前のレス取り入れてあんな面白い話書けるよなあ……
では次レスからお話再開。
もう手遅れだ―――――恐らく中隊の誰もがそう思っただろう。
シュペースキッパーで先行した第二中隊長が橋を目にする位置に到達した時には、
橋を守る擲弾兵大隊のゾイド駆逐中隊のコマンドゾイドと、
対空中隊の自走対空システム(“あばら屋”とは兵装違いの姉妹関係に当る戦闘ゾイドでもある)が煙を上げていた。
高速ゾイドに小規模な部隊に分散されて
被発見率を下げ複数の目標に同時攻撃をかけられると、対応が絶望的なまでに難しくなる。
それゆえ、敵にある程度以上戦力をまとめさせるため、
また、発見が遅れて敵に目標まで接近されてしまった場合に、ある程度持ち堪えて友軍の到着まで時間を稼ぐために、
各防御目標には、擲弾兵大隊内の陸上戦闘ゾイド駆逐中隊から小隊単位で戦力を抽出し貼り付けてある。
擲弾兵大隊内の陸上戦闘ゾイド駆逐中隊は、ある程度決まった場所を守ることが多く、
また、あまり長時間戦闘を継続しないとされている
(そうなる前に装甲猟兵大隊や陸上戦闘ゾイド大隊が駆け付ける「ということになっている」)ため、
KEMを装備したコマンドゾイドから編成されている。
また、いくら共和国空軍が近海上の防空に忙しいとはいえ、
継続的な攻撃をしなければならない補給ゾイド等への爆撃はともかく、
一度破壊に成功すれば少なくともしばらく以上は相手に悪影響を及ぼし続けられる補給路上の橋のような目標への攻撃に、
小規模な部隊を差し向けないとも限らない。
このため、橋にはやはり擲弾兵大隊内の対空中隊から小隊単位で戦力を抽出し貼り付けてある。
また、低高度目標に対処するため、自走対空システムはミサイルの他に発射速度の高い機関砲も備える。
ここで重要なのは、航空軍用ゾイドは戦闘陸上ゾイドに比肩し得るほどの
――――――――かつての地球の軍用機とは比較にもならない――――――――
重装甲と高い構造強度を持っているということである。
かつての地球の対空火器は、軍用機を傷付け、空力的に発生する力に耐えられなくさせて分解を起こさせたり、
パイロットやエンジン、燃料への被弾で飛行能力を奪ったりすることで目標を撃墜していた。
だが、上に述べたように強固な装甲と高い構造強度を持つ軍用航空ゾイドは、
それこそ直接的に飛行機能を失うほどの被弾でもしなければ空中分解などまずしないし、
その機能を直接奪うためには強固な装甲を相手にしなければならない。
つまり、航空軍用ゾイドを撃墜するためには、高い対装甲目標攻撃力が要求されるのだ。
そのために、Ziの対空火器は軽装甲の戦闘陸上ゾイドならば貫徹を免れ得ないほどの対装甲目標攻撃力を持つ。
また、敵歩兵相手の近接防御戦闘を意識し、自走対空システムの機関砲には榴弾も用意されている。
このため、自走対空システムは、その敵となる歩兵部隊や軽装甲の陸上戦闘ゾイドにとって厄介な存在となる。
その分派された部隊の陸上戦闘ゾイドがやられていた。
案の定、それが正直なところだった。
ネットワークにより、個々の戦闘ゾイドは他の友軍戦闘ゾイドの状態がわかるが、
周波数の割り当ての問題
――――――――傍受対策のために周波数をランダムホッピングさせることを考慮に入れると、
周波数の“幅”を広く用意しておかなければならないという事情もある。
量子暗号を使っていても、“ザッピング”による通信妨害を喰う恐れがある。
内容の変質により傍受が行われたことを把握するという量子暗号の原理上、
通信の阻害は却って受け易い面もある。
このため、秘匿性、警戒せねばならない傍受のレベル、受信側への到達性の兼ね合い等を勘案して
暗号の形式が選択される。
例えば、長期的な国家全体の戦略等は、秘匿性が極めて重大で、
また極めて高いレベルの傍受を警戒せねばならず、
それを守るためには受信者への到達に時間を要してもやむを得ないことであるのに対し、
「どこそこに敵が向かっているから急行せよ」といった通信は、
国家レベルの通信に較べれば警戒せねばならない傍受のレベルが低く、
また、手遅れにならないためには
秘匿性がある程度低下するのはやむを得ないことと考えられる――――――――
から全ての戦闘ゾイド同士を双方向ネットワークでつなぐことは出来ない。
このため、あえて情報共有システム用の電波の到達距離を限定させ、
ある程度の部隊間ではそれぞれの特定の戦闘ゾイドがまとめて上級部隊司令部に情報を送り、
異なる部隊間では割り当ての戦闘ゾイドが上級部隊司令部から情報を受け取ることで互いの状態を把握するようにしている。
時宜を見た機動戦が中心で個々の部隊間の空間的距離が大きいことが多い惑星Ziの戦争にあわせたやり方でもある。
だが、ある程度以上の損害を被った部隊の具体的な状態を知ることは難しくなってしまう。
特に、擲弾兵―――今この場での焦点である橋の守備隊の主力である―――の状態は把握しがたくなる。
このため、実際来て見るまでは橋の守備隊の状況ははっきりしなかったが、芳しくないことは確実だった。
撃破されたコマンドゾイドと自走対空システムの位置から見て、
これらを装備する陸上戦闘ゾイド駆逐小隊と対空小隊には、急な攻撃を受け、混乱したまま壊滅させられてしまったのだろう。
恐らくは、KEMの最小有効射程内に素早く潜り込まれ、
そして、近接戦闘用の歩兵携行対陸上戦闘ゾイドロケットはEシールドに阻まれて効果を上げられなかったものと思われた。
実際の経緯は次の通りであった。
山脈に根拠地を持ち、山岳地形の走破性が高く航続距離の長い共和国軍高速ゾイド部隊は、
上流の川幅が狭く水深が浅い地点や源流より標高の高い地点を通過することで、
河のどちら岸にも現れることが出来る。
つまり、橋の守備隊にしてみれば、どちらの岸側からの攻撃も想定しなければならないことになる。
しかし、兵力の問題から、橋の両岸に充分な数の守備隊を貼り付けておくことは出来ない。
このため、両岸に陣地を構築しておき、どちら側に敵が現れたかによって守備隊は橋を渡って位置を変えるのだが、
姿を見せた敵が陽動である場合等を考慮し、部隊を規模の小さい二つと規模の大きい一つに三分割し、
小規模である二つはそれぞれ違う岸側に位置し続け、規模の大きい一つが状況によって位置を変えることにしている。
そうしてはいるのだが、ネオゼネバス軍側は、基本的には共和国軍側は南岸側から攻撃してくるものと想定していた。
共和国軍側からすれば、北岸側からの攻撃はリスクが高い。
ネオゼネバス軍陸上戦闘ゾイド部隊は基本的には河より北にいる。
このため、当然橋へ北岸側から接近する方が途中でネオゼネバス軍部隊に迎え撃たれる可能性が高い。
さらに、南岸側の守備隊を撃破出来なかった場合に撤退が遅れれば、退路を絶たれることになり、
最悪、橋へ攻撃を仕掛けている最中にネオゼネバス軍陸上戦闘ゾイド部隊が到着すれば、
橋の守備隊と駆け付けてきた陸上戦闘ゾイド部隊に挟撃されるハメに陥る。
それに較べて、南岸側から攻撃を仕掛ければ、
接近中に迎え撃たれる可能性が減り、退路も確保し易く、挟撃の恐れも無くなる。
そのため、ネオゼネバス軍側将兵の頭には、共和国軍側の橋への攻撃は南岸側からのみという考えがあったのである。
だが、共和国軍側は、急激な気象変化による自分達の被発見率の低下と奇襲効果を勘案し、
北岸側にも高速ゾイド部隊をまわし攻撃を掛けさせたのだ。
これは完全な奇襲となった。
ネオゼネバス軍は、キメラゾイドに迂回してくる敵戦闘ゾイドの哨戒をさせているが、
スフレフスク周辺のように雨や霧の多い土地では、その哨戒能力が大きく低下する
――――――――短波長レーダーのようなアクティブな索敵手段は、
出力と搭載量の違いからくる有人陸上戦闘ゾイドのキメラゾイドに対する情報処理能力の優位と、
キメラゾイドはレーダー波の“抜ける”空を背景に“浮き上がって”いるが
その捜索対象である高速ゾイドはレーダー波が反射してくる大地に“うずもれて”いることから、
この手の哨戒任務には用いにくい。
放射したレーダー波から相手にキメラゾイドの存在と方向を特定されてしまい、
さらに悪くすればこちらは相手に気付いていないという状況に陥る可能性まであるのだ。
キメラゾイドが後発であるが故の電子技術上の優位も、
共和国軍戦闘ゾイドのアップデートにより潰されてしまっている。
そのため、走破能力の高い戦闘ゾイド部隊は、キメラゾイドがアクティブな索敵手段をとっていれば、
その哨戒から逃れるような経路を選ぶことが出来る。
故に、赤外線画像装置のようなパッシブな索敵手段が選択されることになるが、
雨や霧で大気中の水分が多い環境中では、赤外線による探知への高度な対策もあり、
キメラゾイドの赤外線画像装置の効果が大きく低下するし、
キメラゾイドから送られてくるデータを基にオペレーターが識別するのでは、
捌ける数が大きく減少する――――――――。
このため、スフレフスク周辺のような土地では、擲弾兵も警戒に回さなければならないのだが―――――
いかんせんネオゼネバス軍は人員不足なのである。
どうしても警戒し切れない部分が出てくる。
恐らくその穴を衝かれ、その上、攻撃は南岸側から、という意識に頭を占められていたネオゼネバス軍側は、
北岸側にまわされた共和国軍高速ゾイド部隊の発見が遅れ
―――第147機甲猟兵大隊が受けた命令も、
南岸側から接近する共和国軍高速ゾイド部隊の足を止めろというものであった―――、
不意を衝かれた北岸側の守備隊はやすやすと突破された。
この河には両岸に自然堤防がある。
悪いことに北岸側の守備隊は、この自然堤防の反斜面を盾にして南岸の守備隊を援護しようとしていた。
このため、北岸側にまわされた共和国軍高速ゾイド部隊に対しては逆に自らを暴露する形となってしまったのだ。
もし北岸側からの攻撃を「ある」とは考えないまでも、「あるかも知れない」と思っていれば、
あるいはここまでの状況に陥ることはなかったかもしれない。
しかし、先に述べた「攻撃方向の思い込み」、そしてさらにもう一つの理由が、守備隊の目を曇らせた。
ネットワークを通じて友軍の得た情報が送られてくるとはいえ、それはあくまで「味方の得た情報」である。
「事実そのもの」ではないのだ。
そんなことは誰でも解っているのであるが、
わかりやすさを重視して具体的かつ明確に整理されてモニター上に図示される「状況」は、
必要以上の「真実味」を纏ってしまっている。
このため、被提示者に、当人も意識しないうちに、その情報は全ての事実を映し出していると
―――言い換えれば、その情報は無謬にして欠落は無く、そこに無いものは存在しないと―――
思わせてしまうのだ。
皮肉なことに、技術の進歩で送られてくる情報が詳細になればなるほど、
この「知らせることが出来るが故の欺瞞」は強くなる傾向にあった。
確かに技術の進歩により高度化した情報の共有は極めて有益であり、
一部が得た情報を他の味方が知らないことによる弊害を取り除くことに大きく貢献している。
だが、その情報に誤謬や欠落があるかも知れないという可能性への警戒を
受け取る相手によっては鈍らせているのも一面の真実ではあったのだ。
そして、南岸側の守備隊は予期しなかった背後からの攻撃を受けることとなった。
北岸側から攻撃してくる相手に反撃しようにも、
KEMは最小有効射程を割っており、化学エネルギー弾頭ロケットはEシールドに阻まれる。
その上、北岸側から迫る共和国軍部隊に反撃を加えられる位置につこうとすれば、
先程の北岸側の守備隊と同様に、今度は南岸側から攻撃を仕掛けてくる共和国軍部隊に自らを曝す形となってしまう。
先に述べたように、橋に取り付いている守備隊は敵の分散の防止とある程度の時間稼ぎのための部隊である。
こんな攻撃を受けて敵を止める手立てなどあるはずはなく、敵歩兵に橋に取り付くことを許し、そして―――――
守備隊は壊乱状態となった。
もう手遅れ―――――
“フォルクスV”の陸上戦闘ゾイド大隊はまだ来ない。
対陸上戦闘ゾイド自走砲では攻撃を仕掛けて橋とその周りから敵を駆逐するのは不可能だ。
せめて射撃により守備隊の生き残りの脱出を援護するしか―――――
だが。
「攻撃せよ」
中隊長を通じて“フォルクスV”司令部から下された命令は、それを受けた者全てにとって受け入れがたいものだった。
「無茶です、大尉。それより、陸上戦闘ゾイド大隊が来るまで射撃で橋の破壊の妨害を―――――」
高速ゾイドにはあの橋は落せない。
その極めて長い航続距離を活かし戦闘行動半径を大きくするために、
高速ゾイドの武装は弾薬搭載量を多く出来る小口径砲とビーム火砲を中心に構成するのが主流である。
これには、ゾイドコアという極めて高出力かつ高効率な出力機関や、極めて高度な治金技術の存在により、
大口径砲でなくとも高い装甲貫徹力を与えられることも大きい。
だが、これらの火器は、弾薬のように誘爆しない物資や建造物への攻撃には向いていない。
そういった目標に対処するために、ある程度搭載量に余裕のある大型高速ゾイドには、
比較的大口径で短砲身の、貫徹力より対軟目標威力を重視した衝撃砲を装備するものも多いが、
その搭載弾薬数は少ない。
もっとも、これには理というか言い分があって、
衝撃砲は火点や対陸上戦闘ゾイド兵器を持った歩兵部隊を相手にした
自衛的な戦闘に用いることを主眼に置いているのであって、
高速ゾイドは、その絶大な不整地走破能力を活かして、
そのような機動性の低い障害の待ち受ける地点は迂回に努めることとされているため、
衝撃砲を使うのはあくまでどうしてもそれらとの接触を避け切れなかった場合においてであるから、
衝撃砲の使用頻度、ひいては搭載弾数は少なくともよいという理屈だ。
しかし、いざ障害を迂回して敵後方に回りこんだとき、
物資や建造物を破壊できなければ、後方への侵入自体の意味が無い。
このため、高速ゾイドには格闘兵装を重視しているものが多い。
ゾイドコアは極めて高効率な出力機関であるため、
消費する弾薬の無い格闘兵装は何度も使うことが可能であるし、
動かない物資や建造物には格闘兵装を当て易いからだ
――――――――本来、格闘兵装はこうして建造物や物資を破壊するための兵装であって、
戦闘ゾイドを格闘兵装で攻撃するというのは、本来であれば、
弾薬を使い果たしてしまっているが戦わざるを得なくなった時や、
極至近距離で敵に出くわしてしまった時のような、
切羽詰った状況においてやむを得ず行うものであり、
またそれゆえ危険で、成功させるには高い判断力と技量が要求される。
それゆえ、ネオゼネバス軍においては格闘撃破章なるものが用意されているほどなのだ――――――――。
しかし、グスタフが渡れるほどの橋を格闘兵装で落すのは事実上不可能で
――――――――単純にそれだけのものを破壊し切るのは困難であるのと、
橋を格闘兵装で落せば自分が河に落ちる――――――――、
かつ、小口径砲やビーム砲では、グスタフが渡れるほどの構造的強度を持った橋には、
穴を開けたり表面を抉り取ったり出来るだけなのだ
――――――――この点、高い機動力と大きな戦闘行動半径を持つ戦闘ゾイドでありながら、
このような目標も破壊できるジェノザウラーやバーサークフューラー、
特に拡散荷電粒子砲を持つバーサークフューラーが
いかに画期的な存在として迎えられたかは想像に難くない――――――――。
故に、共和国軍高速ゾイド部隊は、
“ダニ持ち”からコマンドゾイドを降ろし爆薬を仕掛けさせて橋を落そうとしているはずだ。
上手く位置を取れば、射撃でその作業を妨害して、
友軍陸上戦闘ゾイド大隊の到着まで時間を稼ぐことが出来るかもしれない―――――
「そういう判断も成り立つ」ことが、第一小隊長の言葉の根拠となっていた。
「駄目だ。それでは橋を落とされてしまう。わかっているだろう、少尉」
ここはつい先程まで味方がずっと陣取り続けて守っていた地点なのだ。
共和国軍の攻撃経路を限定するように複合阻止点が構築されているのである。
友軍の通行のために塞ぐことが出来ない道路に沿った部分のみが空けられているだけなのだ。
橋の爆破作業を妨害するためには橋の横合いから射撃を加えなければならないが、
敵を駆逐すること無しにそれが可能な射撃位置につくためには、
大きく回りこんで複合阻止点の無い地点を通らなければならない。
迂回にかかる時間と、当然敵がこちらの行動を妨害してくるであろうことを考えると、
橋の爆破阻止は間に合わないのだ。
「そういう判断も成り立つ」というのは、あくまで純粋な理屈の上でそういう可能性があるという話であって、
実際のこの状況に合わせて導き出された話ではない。
「ですが…」
せめて第147装甲猟兵大隊の他の中隊が到着するまで待ったらどうか、と言おうとしたが、
それは無意味だろう、と第一小隊長は実際に口にはしなかった。
装甲猟兵大隊は、ある理由から、戦闘を行っていない待機時は中隊がそれぞれ異なった防御目標の周辺にいる。
そして敵高速ゾイド迎撃の際は、相手の進撃経路の自由度の高さに対抗するため、
装甲猟兵がカバーすることとされている地点の内で互いに異なる箇所に布陣する。
このため、普通なら迎撃位置もそこに向かう経路も中隊それぞれで別々である。
しかし、今回の出動は橋に南岸側から迫る敵を迎撃せよとの命令を受けてのものであるため、
橋を渡って南岸に渡るべく他の中隊も―――それだけでなく“フォルクスV”の陸上戦闘ゾイド大隊も―――
橋の北岸側、つまりここを目指しているはずだ。
今第二中隊だけがここに着いているのは、詰まるところは第二中隊の待機位置が橋から一番近かったという、
第二中隊の隊員にとってはある意味での偶然によるものに過ぎないのだ。
他の中隊もここに来る、だから戦力を増やすためその到着を待つ、しかしこれは今この状況では通らない意見である。
時間、それが今ここでの全てだった。
橋を落とされる、着々と目前に迫るそのときが来る前に何とかしなくてはならないのだ。
そうでもなければ師団司令部もこんなトチ狂ったことなど言わなければ中隊長もそれを容認などしない。
運でこんなマネをしなければならないのか。
いや、あるいはそれが戦場での全てではないのか―――――自分を説き伏せようとしたとき、
ふと第一小隊長はあることに思い至った。
他の中隊が来る前に攻撃する。
俺達がこんなろくでもない状況に陥ろうとしているのは、ある言い方をすれば、
「どうやっても打つ手がないと誰もが認める状況」になる前にここに到着したからだ。
もしや、もしや中隊長は―――――
振り払う。
たとえその自分の考えがあっていようがいまいが、結局は形而下の現象になんら変わりはないのだ。
考えても詮無いこと、第一小隊長は言葉を発しなかった。
第一小隊長の実際のところは数秒ほどの逡巡の間、沈黙はひたすら深く、そして暗くなっていった。
それを破ったのは中隊長だった。
「………、対岸の守備部隊の救出をせねばならん」
重苦しい沈黙を経て、いやにきっぱりとした言葉が発された。
ああ、そうか。やはりその言葉か。
「……了解しました(ヤボール)」
待ってました。支援
携帯から失礼。
やっちまいました。規制です。
やはり俺はアホの子のようだ。
第一小隊長の返事を聞くと、中隊長は一瞬視線を少し落とし、「宣告」を告げるべく口を開いた。
「第147装甲猟兵大隊第二中隊長レーメ・ヴェルファルス大尉だ。今指揮をとっている人間を出してもらいたい」
「第162擲弾兵連隊第二大隊第一中隊第二小隊長代理フェムト・ボルグヴァルト軍曹であります。
現在、小官が指揮をとっております。
平文でありますか、大尉」
あるかないかわからなかったが、生きている無線機があったらしい。
この返答があって欲しいと思っていたのかあって欲しくないと思っていたのか―――――
一瞬、ヴェルファルスの脳裏を、そんな疑問がよぎった。
「……こちらに他にも何か手があると敵も考えていると思うか、軍曹」
「ごもっともです」
「……わかっているとは思うが、これは私から言わせてくれ。
我々は橋に突撃し敵陸上戦闘ゾイドを駆逐、そちらを攻撃している敵歩兵の動きを封じる。
その後、そちらは橋の爆破作業をしている敵コマンドゾイドを駆逐してくれ。
退路は我々が保持する」
「前向きですな」
「思い切りが悪い人間なのさ」
「帰ったら酒でも奢って下さいよ」
「ああ。もし奢れなかったら、悪いがつけにしといてくれ」
「楽しみにしています」
「……すまない」
「あなたが謝ることではありませんよ、ヴェルファルス大尉。では、御幸運を!」
「君にも幸運を、ボルグヴァルト!」
今回はいろいろすいませんでした!
連投規制であせって
>>100とか書いてすみませんでした!
あとありえない間違いして「鉄獣〜○/10」とすべき所を「鉄獣○/12」ってしちゃってすみませんでした!
だから今回の書き込みは
>>101で終わりです!
>>99の支援の後がなんかぐだぐだになって
>>99の人には本当にすみません。
教訓:書き込みのときに実際にやってることはワードから貼り付けるっていう単純作業の繰り返しだからって
テレビ見ながら漫然と作業しちゃいけない。
99です。
投下が無事終了して何より。今回も楽しませていただきました。
焦らず元気に頑張ってください。続きはいつでも待っています。では。
>>103 いやすいません、上のは単なる私の勘違いで普通に書き込みできます。
ただ、そろそろ既に書いてある部分が尽きるので、
次回以降書き込みの間隔が(規制とか関係なしに)開いてしまうとは思います。
では今回の分を次スレから。
「対岸の味方の救出を……」
反駁する。
ラウルは自走砲を前進させつつ周囲の状況に目を配った。
斜め前方には、立ち上がる煙幕と、地表のやや上に連続して発生する榴弾の炸裂が見える。
装甲猟兵中隊は第三小隊が前進、第一小隊が攻撃経路の側面に支援火力を叩き込み続け、
第二小隊が北岸と南岸の自然堤防の陰に砲撃を加える形になっていた。
恐らくは攻撃経路の側面には“ダニ持ち”から降りた敵歩兵とコマンドゾイドの一部が潜り込んでいる。
そいつらの動きを封じるため、火力支援が不可欠だ。
そっちに支援火力を指向していると、
他の敵歩兵とコマンドゾイドに攻撃されている守備隊の生き残りに火力支援をすることが出来ない。
だが、この状況では、この運の無い対陸上戦闘ゾイド自走砲を狙う敵歩兵とコマンドゾイドへ支援火力を指向せざるを得ない。
一秒一瞬でも早く、ケリをつけなければならないのだ。
従来までの高速ゾイド部隊は、
歩兵を追随させられないことによる地点保持能力の欠如と、先述のような苦手とする目標があることから、
その攻撃目標の選択には縛りが大きかった。
このため、敵高速ゾイドの攻撃に対処する側としては、
相手の目標の予測がその分容易であり、
また、予測を外したとしても、敵の真の目標を防御するため部隊を差し向け直すのもある程度容易だった。
これは、極めて高い機動性を持つためその行動を敵に予測されにくいという
高速ゾイド部隊最大の長所の一つの発揮に制限をかけるものだった。
だが、“ダニ持ち”の登場で、その状況は変わった。
その人数が少ないためある程度限定的であるとはいえ、歩兵の追随が可能になったことで、
高速ゾイド部隊の攻撃目標の幅が広がったのである。
このため、高速ゾイド部隊の軍事的価値はさらに高まることとなった。
その“ダニ持ち”による効果の一つが、今この場で現れていた。
攻撃経路の側面に歩兵とコマンドゾイドが潜り込んでいなければ、さすがにここまでこの攻撃は困難ではないはずだ。
ただでさえ側面からの攻撃は厳しいところへ、
壕に入って闘うことを想定している“あばら屋”は、水平方向からの砲火に対して極めて脆弱である。
むしろトップアタック対策を考慮に入れているため上方からの攻撃に対する防御力の方が高いほどだ。
もっともこれは、「上方からの攻撃に強い」というよりも、
「本来最も脆弱であるはずの上方からの攻撃に対する防御力に劣るほど水平方向の防御力が低い」
と言ったほうが正確であるのだが。
そんな“あばら屋”が、攻撃経路の側面で待ち構える敵歩兵とコマンドゾイドの対ゾイド火器の砲火に晒されれば、
何が起こるかは火を見るより明らかだ。
側面を敵歩兵とコマンドゾイドに晒さない攻撃経路を取りたいところだが、それは不可能と考えられた。
選択できる攻撃経路は複合阻止点の設けられていない道路に沿ったものだけで、
しかもその攻撃経路をとる敵に対し効果的に側面から集中射を加えられるように
友軍によって陣地が構築されているのだ。
共和国軍の攻撃を阻むための方策が、今は第二中隊の攻撃を妨げていた。
ツキのない装甲猟兵達はお行儀よく延々と一列に並んで、その先頭であの仰々しくもったいぶった動作で
順繰りにその首に絞首台の縄をかけられていくのだ。
せめてもの救いは、連絡を取り合っていた味方が複合阻止点と陣地を構築したために、
敵のキルゾーンの設定位置と陣取る位置がある程度予測がつくこと、
そして敵も迂回機動を取ってのこちらへの接近ができないことだった。
もっとも、こちらに予測されることへの警戒と、守備隊の生き残りがいることで、
そのままそこにある陣地につくことはしていないだろう。
キルゾーンと陣取る位置を予測できるのは、あくまで「ある程度」止まりなのである。
さすがに防御様式を大幅に変えるほどの時間的余裕は無かっただろうが…
予測される位置を中心に、歩兵とコマンドゾイドが潜めそうな場所に
火力支援の小隊の一つが榴弾と発煙弾を叩き込み続ける。
徹甲弾ほどの弾道延伸性と着速が要求されない、つまり初速の要求基準が徹甲弾より低いそれらの砲弾には、
電磁気力による加速は加えられず、装薬の燃焼のみで撃ち出される。
“あばら屋”の砲身長は、あくまで、装薬の燃焼で動き出した徹甲弾を電磁気力で加速させるのに最適化されているため、
装薬の燃焼のみで撃ち出される榴弾等は、初速が大幅にそこなわれているのみならず、弾道特性も劣悪である。
高度なFCSの存在があって始めて、実戦で用いることができるのである。
さて、ここで問題なのは、“あばら屋”の主砲口径だ。
先述の通り、“あばら屋”は、搭載弾数を稼ぐために小型の弾体を採用し、小口径長砲身の主砲を搭載している。
一方、榴弾の威力や、発煙弾の効果は、基本的に炸薬や発煙物質が多ければ多いほど、
すなわちそれらの容器である弾頭の容積、ひいてはその体積が大きくなれば大きくなるほど高くなる。
つまり、“あばら屋”の榴弾や発煙弾の効果は、その主砲の規模に比して小さいのだ。
このことを補い、より効果的に榴弾を使うため、
時限信管を用い、測距レーザーによる情報を基に起爆までの時間を設定、目標地点地表のやや上で炸裂させる。
もとより自身の秘匿など望むべくもない状況であるから、測距レーザーの使用に躊躇いは無いのだ。
さらに、北岸の、装甲猟兵中隊から向かって橋の左側に位置する自然堤防の陰
――――――――右側の自然堤防の陰では守備隊の生き残りが敵歩兵とコマンドゾイドの攻撃に耐えていた――――――――
からパンツァーが二機、南岸からは敵各高速ゾイドと歩兵、コマンドゾイドが撃ってくる。
共和国軍部隊の多くは南岸にいた。
退路を南岸に設定しているのだろう。
北岸に残っているのは、
守備隊の生き残りへの押さえと
駆けつけてくるネオゼネバス軍陸上戦闘ゾイド部隊―――今はラウル達だ―――を食い止めるための歩兵とコマンドゾイド、
それにネオゼネバス軍陸上戦闘ゾイド部隊への押さえと北岸から撤退する際の殿を務めるパンツァー二機というわけだ。
南岸の敵は自然堤防上に必要最小限だけ姿を現して発砲すると、
さっと身を伏せたり後退したりして素早く自然堤防の陰に身を隠す。
そして隠れた状態で射撃位置を変更してまた最小限だけ身を乗り出して発砲するという動作を繰り返していた。
このような動きは、戦闘ゾイドの特に得意とするところであり、有効な射撃法である。
しかし、どこに地雷があるかわからない状態では、これはなかなか採ることが出来ない射撃法でもある。
だが、攻撃を仕掛けたときの北岸の橋の守備隊の行動から、
共和国軍側は自然堤防の周囲に地雷が設けられていないことを見て取っていた。
まさしく味方が盾として利用することを想定していた地形を、そのまま敵に使われてしまっているのだ。
この忌々しい状況では、敵の姿を見てから照準を開始した射撃ではこけおどしにもならないだろう。
射手が敵を認識してから射撃諸元の計算が終わり実際に発砲されるまでの時間は、
同等の技術水準のFCSが搭載されている―――お互いアップデートを繰り返しているのだ―――以上、彼我にそう違いはない。
となれば、いつ射撃するかの選択権を一方的に握っている分、向こうの方が射撃が疾いのだ。
このため、照準画面を、設定距離を自然堤防までのものとしたピパーモード
―――その時の状態で発砲すれば、設定された距離では弾道がどこを通るかをリアルタイムで計算し、
一定以上の確率で弾道がその中を通る円を照準画面上に投影する―――とし、
縦方向は自然堤防のやや上にピパーが位置するようにしておいて、敵影の出現に合わせて照準を横方向に動かして発砲する。
もっとも、これでも敵にある程度の厄介さを覚えさせるまでのことしか出来ていないだろうが……。
やはり地形と状況を味方につけた敵の動きの方が素早いのだ。
凶悪という表現がふさわしいほどのエネルギーを与えて放つ徹甲弾が、
やり場のない怒りのように空しく虚空に消えていく。
そして、平然と、嘲笑うかの如く敵は再び姿を現す。
火力支援の小隊はひたすら撃ち続け、前進する小隊も適宜歩兵とコマンドゾイド相手に砲弾を放つ
――――――――先述の通り、徹甲弾以外の弾種は電磁的な加速は加えられないため、
“あばら屋”も走り回りながらでもそれらの砲弾は発砲することが出来る。
またこのため、“あばら屋”は大抵は、
移動中に装甲を有する敵と遭遇してしまった場合の自衛戦闘に用いるため
少量の対装甲化学エネルギー弾を搭載している――――――――。
それは、この状況での精一杯の行動、猟兵達はその技量、経験、神経の全てを注ぎ込む。
だが、敵の砲火に衰えは見えず、叩き込まれた苦境を切り抜けられる兆しは無い。
その様は、まるで、状況というものが、ただそこに存在しているだけで、人間を、その抵抗を、歯牙にもかけない、
その光景のようだった。
それでも、人間は、ささやかな力で応じるしかない。
針の先ほどでもより効果的に被害を防ごうとするが、それでも―――――
「青(ブラウ)のアントン被弾!」
側面装甲に穴の開いた第三小隊長の自走砲が動かなくなる。
直後、さらに青(ブラウ)のケーザル(第三小隊三番砲)にも歩兵携行対陸上戦闘ゾイド火器が数発ぶち当たる。
「小隊長! スタロニコフ!」
“あばら屋”に限らず、大抵の戦闘ゾイドは、
乗員区画と弾薬・燃料区画が隔てられ、また可能な限り乗員区画とその周囲に可燃物を設けないようにしている。
このため、内部破壊効果の小さい歩兵携行対陸上戦闘ゾイド火器を乗員区画から離れたところに喰らっただけでは、
乗員は無事であることが多い。
だが、そこから脱出するのが容易というわけではない。
陸上戦闘ゾイドは大きく、また、火器と、動力源であるゾイドコア、駆動装置が互いに隔てられていることが多いため、
被弾により動くことが出来なくなっても撃ち返すことは出来る場合も多い。
そうしたしぶとい陸上戦闘ゾイドから完全に反撃能力を奪おうと、
動きの止まった陸上戦闘ゾイドに攻撃が続けられるのはままあることなのだ。
動けなくなった陸上戦闘ゾイドの乗員は、その中を脱出せねばならないハメに陥る。
さらに、スタロニコフについてはこちらの呼びかけに応答が無い。
よくは見えなかったが、青のケーザルの受けた対陸上戦闘ゾイド火器にはコクピット近くに当ったものもあるようだった。
焦燥に駆られたラウルは、不注意に前に出てしまった。
「ラウル下がれ!」
バーゼルからの通信が入った次の瞬間、
ラウルは斜め前方から飛んでくる歩兵携行対陸上戦闘ゾイド火器の黄色い炎を見た気がした。
巨大な機械の中の一つの歯車の如き、自動的と表現したくなるような反応で、多目的擲弾発射機から発煙弾を放ち、
前進状態から後ろ向きのダッシュをかけようとして一瞬その場で止まった青のドーラは、
機体の後方、モルガであればコンテナとなっている部分に被弾した。
そこは、“あばら屋”においては弾薬庫の設けられている区画である。
対陸上戦闘ゾイド火器のもたらした熱は、瞬間的に弾薬を誘爆させ
ブローオフパネルを吹き飛ばし青のドーラの後方から炎の柱を突き立たせた。
ラウルは自走砲から転がり出た。
戦闘ゾイドは乗員区画に被害が及び難いよう設計されているとはいえ、それはあくまで確率の話である。
例えどんなに低い確率であっても、自分の身の上にそれが起こってしまった人間にとっては無意味な話だ。
この状況では、周りの砲火を気にしている余裕は無い。
幸いにして、見た目に派手にやられたのがかえって良かったらしく、
青のドーラにさらに攻撃を加えようとする奴はいなかったし、
ここの敵には動けなくなった陸上戦闘ゾイドのコクピット周囲に銃弾をばら撒いて
脱出する乗員を撃ち殺す余裕か趣味は無かったらしい。
ラウルは走って後退した。
この道路の周りの開けた地形では、
敵放火の中撃破された自走砲から小隊長もスタロニコフも引きずり出すことは出来ないし、
後退するのに這うのも無意味だと思ったからだ。
バーゼルが突撃銃をつかんで自分と同じように走っているのが目に入った。
青(ブラウ)のベルタ(第三小隊二番砲)も撃破されたということだ。
それを見て、ふと、自分が今拳銃しか持っていないことを思い出した。
なんとなく手のひらで軍服の上からホルスターをなぞって拳銃の大きさを確かめるが、
そうしたからといって何かがどうなるというわけではない。
尤も、突撃銃を持っていたところで駆逐銃相手では喧嘩にならんこともわかってはいるが。
中隊は前進を止めていた。
攻撃は中止され、守備隊脱出の支援と、自分とバーゼルの後退の支援と、
そして青のアントンと青のケーザルを守るための砲撃に専念することにしたのだろう。
この敵砲火の中、“あばら屋”の弱装甲では、
自ら盾になって撃破された戦闘ゾイドから乗員を救出することも出来なければ、
撃破された戦闘ゾイドごと曳いてくることもできない。
第三小隊長とスタロニコフの救出、青のアントン、ベルタ、ケーザル、ドーラの回収は、
“フォルクスV”の陸上戦闘ゾイド大隊が到着して敵を駆逐するか、
敵が―――――その目的を果たして―――――引き上げた後にならざるを得ない。
こんな時ばかりは、“ダニ持ち”のいる共和国軍高速ゾイド部隊が羨ましかった。
あの小さい“ダニ”ならば、地形に隠れやすく、
また、他に戦闘ゾイドがいれば、相手に攻撃してくると思わせる行動をとらなければ、積極的には目標に選ばれにくい。
共和国軍の残党が、戦闘ゾイドパイロットも不足しているだろうに高速ゾイド部隊に浸透攻撃をさせられるのは、
一つには、そんな特性を持った“ダニ”が、
戦場で行動不能となった戦闘ゾイドからの乗員の救出に大きな力を発揮することによるのだ。
だが無いものねだりをしたところで何にもならない。
装甲猟兵中隊は逃げることもできない。
ただ一つ与えられた強力な火力を頼んで、ひたすら撃つしかない。
仲間と己を、敵と、この状況から守るために。
そんな中で、黄(ゲルプ)のベルタ(第二小隊二番砲)が沈黙している。
前胸部に被弾痕。
パンツァーの砲だろう。位置取りを変えようとしたところに喰らったのだ。
黄のベルタの被弾痕はコクピットに近かった。
乗員のニルヴァス軍曹のことが気にかかるが、どうにもしようがない。そのまま走り続ける。
途中、黄(ゲルプ)のケーザル(第二小隊三番砲)がコクピット近くにパンツァーの砲弾を喰らうのを見た。
恐らく乗員のヅィドニック伍長は戦死。
不思議と涙はこぼれてこなかった。
第147装甲猟兵大隊第一中隊と“フォルクスV”の陸上戦闘ゾイド大隊の第二中隊が駆けつけてくるまでに、
さらに黄(ゲルプ)のドーラが撃破され、乗員のヴィルステッド伍長が重傷を負った。
第147装甲猟兵中隊第二中隊がそんな目にあっている間に、
“フォルクスV”の陸上戦闘ゾイド大隊の第一中隊、“フォルクスV”の工兵一個中隊、
そして第91装甲擲弾兵師団“国民第六(ナツィオーンY)”の第807装甲擲弾兵連隊第二大隊第三中隊と
第652独立重駆逐ゾイド大隊の第二中隊第二小隊からなる“後詰”が、
橋の下流にある渡河地点に回り込んでいた。
伝えられる第147装甲猟兵大隊第二中隊の戦況から、
橋を落とされるのは防ぎようが無いと判断した“フォルクスV”司令部は、
橋の防衛は断念し、南岸からの敵の駆逐と南岸側守備隊の救出を行うこととしたのだ。
この動きは、第147装甲猟兵大隊第二中隊と北岸側守備隊の後退の支援になることも期待できる。
橋を落とされてしまえば、スフレフスク征圧に参加している各師団はその補給に重大な影響を被ることとなる。
この事態を防ぐため、虎の子独立重駆逐ゾイド大隊と、
細切れにして補充に当ててきた予備兵力の僅かな残滓である第807装甲擲弾兵連隊からの兵力引き抜きが許可され、
橋へと向かっているところだった独立重駆逐ゾイド大隊の配備戦闘ゾイドであるアイアンコングが
南岸に向かう部隊に加えられたのだ。
ときに幻とさえ言われるほど配備数の少ないゴジュラスに較べればその数は多いとはいえ、
やはりアイアンコングは希少な戦闘ゾイドである。
その、極めて高い対戦闘ゾイド戦闘能力を持つが、数の少ないアイアンコングを有効に活用するため、
特定の師団の傘下には入らない独立重駆逐ゾイド大隊が編成されており、
アイアンコングは基本的にそこに配備されている。
アイアンコングを固有編成内に持つのは、
極一部の―――それこそ「超」がつくような―――エリート装甲師団だけである。
そのような貴重な駒を投入してまで守らなければならない重要地点に、薄い兵力しか貼り付けておけなかったことは、
兵力不足によりネオゼネバス軍が立たされている苦境を端的に示すものでもあった。
渡河地点に到達した“後詰”は、浮橋ゾイドを展開し河を渡り始めた。
「渡河地点」という言葉は、そこがゾイドの徒歩渡渉がし易いところであるような印象を与えるが、
実際にはいまここでいう「渡河地点」は、別に河の他の地点に較べてゾイドの徒歩渡渉がし易いわけではない。
もし仮にこの「渡河地点」がゾイドの徒歩渡渉がし易い地点であったなら、
移動や輸送の選択肢を増やすため「落とされることの無い橋」として川床が補強され往来の一ポイントとなっていたか、
逆に敵の行動の自由度を下げるため通行不能にされていたかのどちらかであろう。
ここでいう「渡河地点」とは、「ゾイドの徒歩渡渉がし易い地点」という意味ではなく、
「浮橋ゾイドを展開させ易い地点」という意味なのである。
戦闘ゾイドにとって徒歩渡渉の最大の問題になるのは、大抵の場合川床の状態である。
川床が軟弱だったり大小の岩が積み重なった状態だったりすると、足をとられてスタックしてしまうのだ。
もしそうなってしまえば、回収には多大な困難が伴うことになる。
そして、この河の川床は、まさにそのような問題を持つ軟弱なものだった。
このため、ここで“後詰”の工兵が
―――このとるものもとりあえず駆けつけなければならないような状況にもかかわらずわざわざ―――
運んできたポントントラックス―――ゲロトラックス型浮橋ゾイド―――を展開したように、
浮橋を掛けることで渡るしかなかったのである。
また、この河が補強によってグスタフが通行可能な補給経路を設けられないような軟弱な川床であったことが、
橋の重要性をより高いものにしていた。
ポントントラックスは、グスタフの通行も可能なように設計されてはいるのだが、
そのためにはマグネッサーシステムにより大きく浮力を補う必要がある。
これは、あくまでポントントラックスが前線における一時的な進撃経路を形成するべく設計されたため、
迅速な架橋が可能ではあるが、架けた浮橋を長期的に使用することは考慮されていないからである。
ゾイドは強力な推力を発揮でき、かつ細かな動作が可能であり、ポントントラックスもその例に漏れない。
このため、ポントントラックスは、自ら架橋のために要求される位置につくことが可能で、
さらに錨を使わずとも自力で流れに逆らいかつ浮橋の形状を維持し続けることができる。
これは、ポントントラックスを装備する工兵部隊に、
艀からなる浮橋によるそれとは比較にならないほど迅速な架橋が可能な能力を与えているのだが、
当然それをするには多量の燃料を食い続けることになる。
浮橋を補給経路の一部とすれば、当然ひっきりなしにグスタフが通行することになる。
このため、ポントントラックスによる浮橋では、マグネッサーによる浮力補助のため多大な燃料を消費し、
かといって、この河の幅では、グスタフの通行が可能な浮橋は、艀では構築不可能である。
さらに、ポントントラックスによる浮橋でも、同時に通行可能なグスタフの数には限りがある。
橋があると無いとでは、補給線の維持に必要なコストが全く異なるのだ。
浮橋を通って南岸側に現れたネオゼネバス軍部隊、しかもそこにアイアンコングがいるのを認めた共和国軍高速ゾイド部隊は、
橋に仕掛けた爆薬が炸裂するのを見届けると、展開していた兵員を集め、とっとと引き上げた。
仮に橋が崩落しなかったとしても、爆発の規模からして、
ネオゼネバス軍側が橋を補給路に使うには補修のため多大な労力、資材と時間を費やさなければならない。
それも新しく橋を架け直すことに較べても決して小さくは無い負担のはずである。
補給線を脅かすという目的は、いささかの程度の差こそあれいずれにせよ達成されているのだ。
その“いささかの程度の差”のために貴重な兵力をむざむざ危険に曝すのは得策ではない、そう敵は判断したのだろう。
まして哀れな守備隊と自走砲部隊を“殺戮”することなど何の価値も無い。
もっとも、兵員を集めて後退する共和国軍高速ゾイド部隊の眼前で、橋は崩れ落ちたのであるが。
敵が立ち去った後、生き残った橋の守備隊と
第三小隊長、クルフェル伍長、ニルヴァス軍曹、ヴィルステッド軍曹は救出され、
撃破された対陸上戦闘ゾイド自走砲は回収された。
負傷の酷いクルフェル伍長、ニルヴァス軍曹、ヴィルステッド軍曹と、重傷を負った擲弾兵は後送された。
前線近くでは軍医が足りず、
後方に送られるまで彼等がもつか装甲猟兵大隊第二中隊と守備隊の生き残りの面々は気掛かりだった。
軍医が足りない一つの理由は、デルポイに侵攻したネオゼネバス軍に病人の発生とその重症化が多いことだった。
デルポイは、ネオゼネバス軍将兵の殆どが育ったニクスとは環境が大きく違い、
また、ニクスに比べて温暖なデルポイでは、病原生物もより多かった。
ネオゼネバス軍は、極秘裏かつ急速にデルポイ侵攻計画を進めなければならなかったため、
ワクチンの確保等、各種疾病に対する予防策の準備は不十分だった。
ネオゼネバス軍将兵は、慣れない気候の中で、未経験の病原生物に晒されながら、
衛生的とは言い難い環境で過酷な任務をこなさなければならなかったのだ。
その血の源流はデルポイにあるとはいえ、ネオゼネバス軍将兵は、やはりニクスで生まれ育った人間だったのである。
この事情を聞いたとき、ラウルの脳裏には「故国の歌」の歌詞が思い浮かんだ。
ほんの子供だった時から何度も何度も聞かされてきたその歌は、こんな出だしだった。
遥か遠く 荒れる空の彼方 逆巻く海の向こう 幾千里を隔て
血の源 父母の祖国 我らの大地 我らの故国はそこにある
風を裂き 波を砕いて 我らは還る 我らの土地へ
陽光(ひかり)溢れ 緑映える 麗しき我らの大地へ
………
後日、師団司令部から「金ぴか野郎」が勲章を持って来た。
第二小隊長はそいつを殴り、新しい第二小隊長が来た。
今日はこれで終わりです。よし、今回は数字間違えなかったぞ。
余談ですが、この板、個別のロボット作品でスレがあるのってガンダムとゾイドだけですね。
ボトムズもマクロスもない。
エルドランと勇者もあるでよ。
タカラトミーつながりで覗いてやっておくれ。
ちなみにおれは勇者スレ住人だw
ここも楽しみにしてる。
本日2度目の投下GJ。
相変わらずクオリティの高い文章をありがとうございます。
今回で一区切りということなので、最初から読み直してみようかな。次回も是非に。
あまりゾイド板の話をするのもどうかと思ったけど、あちらのSSスレに
箱ストーリーの世界観で書いてる人もいたよ(今も執筆中の模様)
まぁ、空気を作るのは自分も含めた住人だから、
あまりあそこはどうとか思い込むのはどうかという話でした
でもこのスレのクオリティ高いな
まだまだ執筆中の鉄狩作者です。進んでません今回は投下できませんすみませんですハイ。
でも雑談したくなったんで少し。
>>118 そうでした、エルドランと勇者もありました! 書き込む前によく見ろや自分。
まあ言い訳をさせてもらうなら、俺の中ではエルドランと勇者はロボット物っていうよりも
それぞれ「少年成長譚」「ヒーロー物」って印象が強いものでうっかり……
もっともゾイドも俺の中では「ロボット物」っていうより「特殊な生物が存在する世界での軍記物」って印象だったりするんですが。
>>117は「そういえばゾイドもロボット物だったな」ってふと思ってあまり考えずに書いちゃったんです。
エルドラン・勇者両スレとも読みました。
今は勇者スレにアドレス貼ってある作品を読んでるところです。
それぞれのスレ読んで痛感するのは、やはりああいうまっすぐな話っていいな、ってことですね。
俺なんか試しに勇者の話考えてみたらギャグ話ととんでもなく鬱な話しか浮かびませんでしたからね。
嫌な大人になっちまった……
あと勇者スレ賑わってていいなあ。
>>119 とりあえず今書いてるパートの予告的なものを……
「戦場、そこにも確かに平穏な時はある。奇妙な来客、苦い遭遇。
だが、何人も残酷なまでに公平な現実から、片時たりとも逃れることはできない……」
先に謝っておきますが、ゾイド出ません。
でも作者的には書きたくて作品テーマ的には重要なシーンなんですよね……
>>120 >あちらのSSスレに箱ストーリーの世界観で書いてる人
これ恐らくロックウッド氏のことですよね。俺も氏の作品は好きです。
ああいう作品も載ってるんだから、別に俺のヤツも構わないとはわかるんですけど、
そこらへんは俺の二の足の踏みっぷりですね……
では執筆頑張ります。
>>121 どもっ!
>>118を書き込んだ者です。
またあちらにも感想なり書いてやってくださいませ。
おれも元々ZOIDSは好きなので、妄想バトストは書こうと試みた事はありますが……。
ガーディアンフォース結成の折に共和国からディバイソンが贈られたなら、
帝國側から共和国側へは貴重なジェノブレイカーとか贈ってそれを主人公機にしようかな? とか
考えた事ありますよ。
無理があるなあと思って挫折したけどorz
執筆がんばってくださいませ。
>>122 勇者スレいよいよ2スレ目突入ですね。賑わっててうらやましいです。
>無理があるなあと思って挫折したけど
無理と思うな無茶振りだと思え。いやマジで俺はこんなノリです。
例えば「何故か警察やら軍隊やらに協力を求めず孤独に闘い続ける変身ヒーロー・何故か戦力を小出しにして散発的な襲撃しかしてこない敵」
「何故か出てくるのが美少女ばっかりで人型ロボット使って戦い続ける話」
っていう、定番ではあるけどよくよく考えてみれば結構無茶な設定をネタに話考えた事あります。
「鉄獣を狩るもの」にも実は結構無理があって、それがプロローグの
>だが、確かにあった事実としてこの話を公の場に上げるのもまた躊躇われる。
>そこで、虚々実々の話がされては消えるこの場を借りて、この話を皆様にお目にかけることをお許し願いたい。
につながってます。あの軍事ライターの心情って、リアルに作者の心情でもあるんですよ。
まあそこを利用して、「鉄獣を狩るもの」は全体の構成と形態の遊びをしてたりするんですが。
そういう形態的な遊びや実験が好きなんですよね俺。今回の投下分もその嗜好がやたら色濃く出ちゃってます。
これまでの文章とは毛色が違って感じられると思いますが、次レスから投下を。
「超人的」とは、使い古されて、その指し示す事柄がまるでありきたりのものであるかのようになってしまった表現であるが、
今の工兵達の努力を形容するにはこの言葉しか無かった。
落とされた橋に代わり、ポントントラックスの浮橋が補給路の一部となった。
同時通行可能なグスタフの数に限りがあることから、浮橋の手前で渋滞が発生し易く、
そのためにグスタフが固まって敵高速ゾイド部隊やゲリラに一網打尽にされるのを防ぐため、
浮橋の両岸の袂に物資集積所を設け、そこに行きのグスタフの物資を積んだコンテナと帰りのグスタフの空のコンテナを溜め、
浮橋の通行用とされたグスタフがコンテナを付け替えて物資集積所を往復していた。
軍用ゾイドも人員も不足する状況にあって、せめてグスタフとその乗員の危険度だけは引き下げたかったのだ。
このため、物資集積所を守る防御コンプレックスが必要になり、
工兵は地雷の敷設と障害物の構築、そして欺瞞工作物の作成に追い立てられた。
その上、目標達成の見通しの立たない「道標」作戦の進捗状況のせいで、
時間は掛かっても“まともな”補給線を蘇らせる必要に駆られ、橋の架け直しまで並行して行わなければならなかったのだ。
第147装甲猟兵大体第二中隊の宿営地は、その工兵達の鉄火場の近くに変更されていた。
不思議なもので、橋を守れなかったことについて、師団の「御偉方」に対してはまるで済まなく思わないのに、
工兵達に対しては、申し訳なさで堪らない気持ちになる。
恐らく中隊の全員が居た堪れない気分に包まれている中のこと、宣伝中隊からカメラやらマイクやらを持った連中がやってきた。
そいつらはまず中隊長のところに行って寝言を言った。
“あばら屋”が敵に攻撃を仕掛けるところを撮りたいという。
敵のいそうなところに行って、少し攻撃を仕掛けてすぐまた退いてくればいいからと言うのだ。
当然中隊長は即座にこの××××供の言うことを拒否した。
阿呆供はそれでもなおいろいろなんだかんだと食い下がったが、
結局それでは“あばら屋”が弾を撃つところを撮らせてくれということに落ち着いた。
黄(ゲルプ)のアントン(第二小隊一番砲)と赤(ロート)のドーラ(第一小隊四番砲)が
この下らない大役に引っ張り出され、
安全の確保と「極めて重要な問題」の喧喧諤諤のせめぎ合いから導き出された位置に並んで、
やはり安全の確保と「極めて重要な問題」の喧喧諤諤のせめぎ合いから導き出された方向に向けて撃った。
それから何度か色々わけのわからない注文をつけられて黄のアントンと赤のドーラが撃った後、
その御大層な茶番を見物していたラウルとバーゼルは声をかけられた。
インタビューを受けさせられるのだそうだ
(そのために、新しい軍服と、髭剃りと、何と、髭剃り用の湯が一人分づつ渡された!
宣伝中隊とは魔法使いの部隊だったらしい。
ラウルは中隊の連中にそれを見せてやりたかったが、急かされたため出来なかった。
それで、後になってこの奇跡を話したとき、なかなか信じてもらえないハメになった)。
ラウルとバーゼルはそれぞれ赤のアントン(第一小隊一番砲)と青(ブラウ)のグスタフの前に立たされた。
カメラが向けられ、インタビューが始まった。
…………「この間の戦闘は厳しいものだったと聞きましたが、その時の作戦についてどう思いますか?」
「確かにあの作戦はとても困難でしたが、あの状況ではああするより他になかったと思います」
「敵の歩兵に伍長の自走砲はやられたそうですが、歩兵のミサイルというのはやはり陸上戦闘ゾイドにとっても脅威なのですか?」
「そうですね、やはり脅威です。特に我々の自走砲のように軽装甲の陸上戦闘ゾイドにとってはそうです。
私は乗ったことがありませんからはっきりとは言えないですが、
重装甲やEシールドを装備した陸上戦闘ゾイドなら、あるいはもう少し違うのかもしれませんが、
歩兵やコマンドゾイドは小さいし物陰に潜り込めるので発見が難しいですし、
こっちを囲むように分散して四方八方から撃ってくるようにしますから、
やはり対応が難しいのに変わりは無いと思います。」
「囲むようにして四方八方から撃ってくるとおっしゃいましたが、それはやはり敵歩兵は数が多いと言うことですか?」
「ええと、それはいろいろあります。
さっき言った、重装甲の陸上戦闘ゾイドは、攻撃を仕掛けるときに先頭に立つ陸上戦闘ゾイドですから、
敵歩兵が待ち構えているところに向かっていく訳です。
そういう場合は、
敵歩兵が多くいて、攻撃を仕掛けてくる相手を取り囲むようにつくった防御陣地から撃たれることが多いです。
私達は、反対に、敵がやってくるのを待ち構えて攻撃を仕掛けるのが本来で、
そういう場合は、敵歩兵の数はそれほど多くありません。
“ダニ持ち”、あ、いえ、歩兵を運ぶ高速ゾイドのことですが、それにはあまりたくさん歩兵を乗せられませんから」
「“ダニ持ち”のことはよく聞きます。歩兵の乗ったコマンドゾイドを乗せた高速ゾイドだそうですね。
それで、“ダニ持ち”は歩兵にとって相当危険で、
“ダニ持ち”に歩兵を乗せる人間は野蛮な連中だという人がよくいるのですが、
伍長自身もやはりそういう人間は野蛮だと思われますか?」
「そう思うこともあります」
「野蛮だと思うわけですね」
「そうですね、野蛮だと思います」
「先程、“ダニ持ち”にはあまり多くの歩兵を乗せられないとおっしゃいましたが、
もしもっと“ダニ持ち”に歩兵を乗せられるようになって、敵歩兵が多ければ脅威になりますか?」
「もちろんです。敵が多ければ脅威になります」
「重装甲の陸上戦闘ゾイドでさえ歩兵のミサイルは脅威だとおっしゃいましたが、
戦闘ゾイドは揃えるのも維持するのも大変だと聞いたことがあります。
それに比べて、歩兵のミサイルはずっと数をたくさん用意できると思います。
そこで、陸上戦闘ゾイドは今後歩兵のミサイルに駆逐されていくことになってしまうとおもいますか?」
「いいえ、そうは思いません。
歩兵のミサイルに対抗する手段もありますし、
それに強力なミサイルを持っていても、
歩兵だけでは強力な敵の守っているところに攻撃を仕掛けて突破することは出来ません。
そういうところは避けて通れば言いというかもしれませんが、どうしてもそう出来ない場合もありますし、
そもそもそういうところを避けて敵の後方に素早く回り込むためにはAFZが必要です。」
「歩兵のミサイルに対抗する手段とはどういうものなのでしょうか?」
「ええと、陸上戦闘ゾイドを狙っている歩兵は物陰などに隠れているわけですけれども、味方の陸上戦闘ゾイドが進んでいく間、
そういう歩兵の隠れ場所になりそうなところに支援の陸上戦闘ゾイドが砲撃を加えて、敵歩兵の動きを妨害します。
発煙弾を撃ちこんで敵の視界を奪うこともあります。
支援砲撃は砲兵がすることもありますし、
敵に向かっていくときは部隊を分けて支援と前進を交互にしながら進んでいくのが基本です。
そして、前進する陸上戦闘ゾイドはそれぞれ別々の方向を警戒して死角を無くします。
それに、対陸上戦闘ゾイド火器でも強力なものは、KEMというものですが、爆発しません。
炸薬の分まで中身を詰めて重くして、その重い弾頭が高速で命中することで装甲を撃ち抜くミサイルだからです。
ですから、KEMは敵歩兵を相手にするのが苦手です。協力してくれる擲弾兵に攻撃してもらえばよいわけです。
もっとも、それは敵もわかっていますから、KEM部隊を守るために機関銃を撃ってきたりして擲弾兵を攻撃しますし、
それに化学エネルギー弾頭のミサイルは爆発しますから、陸上戦闘ゾイドの側も擲弾兵を支援しなければなりませんが。
それから、もし敵がレーザー誘導のミサイルを撃ってくれば、
戦闘ゾイドにはレーザー検知器がありますから、敵が撃ったということと、そのミサイルの飛んでくる方向がわかります。
そうすれば、そこへ砲撃を加えることが出来るわけです」
「なるほど、よくわかりました。それでは、そういう支援や準備があれば、敵歩兵のミサイルに対抗できるわけですね」
「そうです」
「支援は少なくても大丈夫ですか?」
「いいえ、そんなことはありません」
「支援や協力が充分なら大丈夫だと?」
「そういうことです」
「話が戻りますが、もしこの間の橋をめぐる戦闘で、
重装甲の陸上戦闘ゾイドに乗っていらっしゃって、今のお話にあったような支援や協力をうけられていたとしたら、
攻撃が成功していた可能性はあったと思われますか?」
「うーん、それは…、難しい質問ですね。
確かにもしそうだったとしたら、実際より有利になっていたとは思います。
ですが、あそこはそれまで味方が守っていて、機動の自由を奪うように地雷が設置してありましたから、
攻撃が困難だったことに変わりは無いはずです」
「味方が地雷を設置していて機動の自由が奪われたとおっしゃいましたが、
そのことについて地雷を設置した味方が悪いと思いましたか?」
「とんでもない!決してそんなことはありません。
共和国軍の攻撃を防ぐためにやったことですから。決して私達を苦しめるためにやったことではありません。
ただ状況がそうなってしまっただけの話です」
「つまり、状況が敵に味方したから不利になったと?」
「そうです、そういうことです。状況が敵に味方したんです」
「では、もし状況が敵に味方していなければ違っていたということですね」
「その通りです」
「よくわかりました。では、今度は伍長の自走砲についてお聞かせ下さい。
この自走砲はとても強力な砲を積んでいるそうですが、どのくらいの威力があるのですか?」
「ライガーゼロパンツァーも、一撃で撃破できます」
「ライガーゼロパンツァーは、極めて重装甲な戦闘ゾイドだと聞いたことがあるのですが、
そのライガーゼロパンツァーも一撃で撃破出来るということは、
ほとんどどんな敵戦闘ゾイドも一撃で撃破出来るということですね?」
「そうですね、ゴジュラスやディバイソンなどが相手でなければそうです。
ウルトラザウルスやマッドサンダーは例外中の例外なので相手にするのは考慮しなくても良いと思いますがね」
「ウルトラザウルスやマッドサンダーは例外中の例外だとおっしゃいましたが、
ゴジュラスも数が少ない戦闘ゾイドだと聞いています。
それも考えると、事実上、戦場で出会う敵戦闘ゾイドは全て一撃で撃破出来るということですね」
「そういうことですね」
「すごい威力ですね。ということは、先に当ててしまえば怖いもの無しですね」
「先に当てられればですね。あと、そこに他にどれだけ敵がいるかですね」
「やはり、敵が多いのはそれだけ厄介だということですか」
「それはそうです。敵が多いのは厄介です」
「敵が少なければその分楽になりますか」
「それは敵が少なければ楽ですよ」
「この自走砲は軽装甲だということですが、それをどうやってカバーしているのですか?」
「さっきも言いましたが、我々装甲猟兵は基本的に敵を待ち構えて迎え撃つのが任務です。
それで、実際に敵に接触する前に壕を掘ってその中に隠れるのです」
「すると、この間の戦闘で歩兵にやられてしまったのは、壕に入っていなかったからですか?」
「そうです」
「では、何故壕を掘らなかったのですか?」
「あのときは、不意を衝かれて私達が到着した時にはもう橋に敵が到達してしまっていました。
それで、壕を掘って待ち受けるという戦い方が出来なかったのです」
「その戦闘では、橋の守備隊も大きな損害を出したそうですね。
確か、伍長達の部隊が到着する前にコマンドゾイドがやられてしまっていたとか。
これも、不意を衝かれたことが最大の原因だということですか?」
「そうです」
「では、不意を衝かれていなければ、戦闘の様相はまた違ったと?」
「そうです。不意を衝かれていなければ、敵を待ち構えて有利に戦闘を進められていたでしょう。
前にも言いましたが、実際、私達が橋の敵を攻撃したとき、
橋の守備隊が構築した地雷や障害物が原因で非常に困難な状況に追い込まれました。
後からやってきたばかりの敵が利用してそうだったのですから、
自分達で構築した守備隊が利用して敵を待ち受けていれば、
敵はあのときの私達以上に効果的に迎撃されていたでしょう」
「なるほど。
そこで、敵がこちらの擲弾兵が主体である守備隊のつくった陣地を効果的に利用出来たのは、
敵に歩兵がいたことによる部分が大きいと思います。
そして、“ダニ持ち”がいなければ、敵は歩兵を連れてこられなかったとも思います。
やはり、あの戦闘で大きな損害を出したのは、“ダニ持ち”がいたことによる部分が大きいと思われますか?」
「そう思います。“ダニ持ち”がいなければ、あそこまでの被害は出なかったでしょう」…………
インタビューはかなりの時間続いた。ラウルはもうすっかり疲れてしまった頃、ようやく解放された。
闖入者達は礼を言ってにこやかに帰っていった。
数日後、装甲猟兵大隊第二中隊は、自分達の受けた取材の出ている放送を見る機会を得た。
それは他の様々な部隊への取材も入ったものだったが、
第二中隊への取材が出ている場面を抜き出してみるとこんな内容だった。
どこかの部隊の“あばら屋”が走っていく。
ナレーション:この戦闘ゾイドも、日夜果敢に戦い続けている。だが、卑劣な罠が彼等を襲った。
各部がバラバラになり、炎上したようなぼろ屋根の残骸が映し出される。
(中隊の面々:「何でやられたんだ?」
「通路の途中で撃破されたんで工兵に爆破処理されたんじゃないか?」
「それにしてもひでえなありゃ」)
ナレーション:忍び寄ってきたヘリックの残党の歩兵が、戦闘ゾイドに卑怯な攻撃を仕掛けたのだ。
幸いにも、勇敢な仲間達の手によって乗員は救出された。
(「いや、あんなんなったら死んでるって!」)
ナレーション:しかし、このような疑問を持たれる方もいるだろう。
戦闘ゾイドをあんなになるまで破壊するには、強力な武器が要るはずだ。
そんな武器はきっと大きくて重いだろう。
それを歩兵がどうやって基地から運んできたんだろうか?
(「うん、俺も知りたい」「早く教えてくれ〜」)
ナレーション:その答がこれだ。
走る“ダニ持ち”を上空から捉えた映像が映し出されている小さなウィンドウ、背景に
シールドライガーの“ダニ持ち”の線画が映し出される。
(「あんなんねーよ!」)
ナレーション:ヘリックの残党は、足が速くこっそり忍び寄るのに向いた戦闘ゾイドに、
歩兵を乗せた小さな戦闘ゾイドを取り付かせたのだ。
我が軍の古参兵達は、このゾイドを“ダニ持ち”と呼んでいる。
(「その絵の奴は呼んでない」)
斜め上の視点から描かれた、モルガを取り囲んだ歩兵から火線が延びていき、着弾してモルガが爆発するCGが流れる。
ナレーション:被害を受けた部隊の兵士たちも語る。
第二中隊長が映し出される。
(爆笑。「おい、中隊長いつの間に転属したんだよ!」)
「遮蔽物に隠れた敵歩兵は厄介な存在なのです」
バーゼルが映し出される。
「難しい相手ですね」
ラウルが映し出される。
「“ダニ持ち”がいなければ、あそこまでの被害は出なかったでしょう」
ナレーション:歴戦の兵士たちも認めるように、この歩兵の攻撃は厄介である。
しかし、危険に曝されているのは我が軍の兵士たちだけではない。
コマンドゾイドのアップ、次に連射する重機関銃がアップで映り、
コマンドゾイドに機銃からの火線が吸い込まれていく引きの画像になる。
そして穴だらけになったコマンドゾイドの映像がアップで映し出される。
ナレーション:歩兵を乗せる戦闘ゾイドは装甲が薄い。このため、“ダニ持ち”に乗っている歩兵は大変危険な目に会う。
それでは、そんな危険をものともしない勇猛な歩兵が志願しているのか?
ここでこれをごらん頂きたい。
どこからひっぱってきた円グラフが映し出される。
ナレーション:これは、軍の資料を基に作成した“ダニ持ち”の歩兵がどのような人間かを示すグラフである。
新兵と民間からヘリックの残党に入った人間が多いことがお分かり頂けるだろう。
どこかの擲弾兵中佐が映し出される。
「“ダニ持ち”の歩兵は、指揮官は練度が高く、その他はそれほど練度が高くないのです」
ナレーション:ヘリックの残党たちは、新兵や徴用された民間人を、脅して“ダニ持ち”に乗せているのだ。
監視付で、というわけである。
(「いやそれ、入ったばっかで戦闘ゾイド動かせない奴に優秀な指揮官がついてるってだけの話じゃねーか」)
ナレーション:我が軍の兵士たちも口を揃える。
第二中隊長「敵歩兵は極めて高い危険を賭しています」
バーゼル「敵の歩兵は危険を強いられています」
ラウル「そうですね、野蛮だと思います」
シールドライガーの“ダニ持ち”の線画と上空から捉えた“ダニ持ち”の映像がまた映し出される。
ナレーション:敵の歩兵は、戦闘ゾイドにとって捉えにくく対処し難い。
だが、我が軍にも当然擲弾兵がいる。
それでも損害を受けたということは、我が擲弾兵に何か落ち度があるのであろうか?
ラウル「とんでもない!決してそんなことはありません」「ただ状況がそうなってしまっただけの話です」
第二中隊長「あのときは極めて状況が悪かった」
バーゼル「あの状況ではどうしようもなかった」
ナレーション:お聞きの通り、我が軍に落ち度があったわけではない。
しかし、被害を被ったことは動かしようの無い事実である。
それは何故なのだろうか。
第二中隊長「準備が整っていないところを攻撃されたのです」
バーゼル「完全に不意打ちによるものです」
ラウル「不意を衝かれていなければ、敵を待ち構えて有利に戦闘を進められていたでしょう」
ナレーション:彼らは不意打ちを受けたのだ。
いかに歴戦の強者とはいえ、それでは不覚を取るのも無理からぬところである。
また、彼らが不覚を取った理由はそれだけではない。
ヘリックの残党が新兵や徴用された民間人を
むりやり“ダニ持ち”に乗せているとご説明したのを覚えておいでだろうか。
バーゼル「敵に囲まれれば打つ手がありません」
ラウル「敵が多いのは厄介です」
ナレーション:ヘリックの残党は強要して多数の人間を歩兵に仕立て上げるという卑劣な手を使っているのだ。
彼らが不覚を取ったのは、支援を受けられないときを狙った不意打ちと
多数の歩兵の投入を可能にする強制徴用という卑怯な手段によるものに過ぎないのだ。
事実、彼らはこう語る。
第二中隊長「あのとき我々は支援を受けられなかった」
バーゼル「支援がありませんでしたから、酷いものでした」
第二中隊長「歩兵の数は重大な意味を持つ」
バーゼル「歩兵が少なければ話が違います」
ラウル「それは敵が少なければ楽ですよ」
ナレーション:彼らの被害はヘリックの残党が卑劣な手を使ったことによるものであることがお分かり頂けただろう。
(「いや、悪いけどお分かり差し上げられない」「え、何どういうこと?」)
ナレーション:そして、我が軍の歴戦の猛者たちは、このような卑劣な罠にさえ対抗出来る手段を知っているのだ。
第二中隊長「適切な戦闘ゾイドと充分な支援があれば手段が無い訳ではない」
バーゼル「充分な支援と機動の自由が確保出来れば、
火力で敵を拘束して、その隙に回り込んで敵の陣形の弱点を突いたり包囲したりすることが出来ます。
火力による敵の拘束は、機動と火力支援を組み合わせるという、基本的な手段でも行うことですし、
他の部隊や砲兵の火力支援が得られれば、さらに理想的です。
敵の弱点を突く機動や包囲は、常に意識されていると言ってよいです。
これが出来るか出来ないかでは全く違います」
ラウル「そして、前進する陸上戦闘ゾイドはそれぞれ別々の方向を警戒して死角を無くします。
それに、対陸上戦闘ゾイド火器でも強力なものは、KEMというものですが、爆発しません。
炸薬の分まで中身を詰めて重くして、その重い弾頭が高速で命中することで装甲を撃ち抜くミサイルだからです。
ですから、KEMは敵歩兵を相手にするのが苦手です。協力してくれる擲弾兵に攻撃してもらえばよいわけです。
もっとも、それは敵もわかっていますから、KEM部隊を守るために機関銃を撃ってきたりして擲弾兵を攻撃しますし、
それに化学エネルギー弾頭のミサイルは爆発しますから、陸上戦闘ゾイドの側も擲弾兵を支援しなければなりませんが。
それから、もし敵がレーザー誘導のミサイルを撃ってくれば、
戦闘ゾイドにはレーザー検知器がありますから、敵が撃ったということと、そのミサイルの飛んでくる方向がわかります。
そうすれば、そこへ砲撃を加えることが出来るわけです」
ナレーション:優れた戦術を身に付けた我が軍の勇士たちが、ヘリックの残党の卑劣な罠を打ち破り、
我が帝国に勝利をもたらすのもそう遠い話ではないだろう。
その勝利のために、彼らは今日も戦い続けているのだ!
(「少なくとも今日はまだ弾は撃ってねえぞ」「なんなんだかね」)
巻き上がる土煙の中をどこかの部隊の“あばら屋”が走ってくる。
画面が切り替わり、発砲する黄のアントンと黄のドーラが映し出される
(「あ、やっと出た!」「もう出ねえのかと思った」)。
さらに画面が切り替わり、
鹵獲されて射撃訓練用の標的に使用されていると思しきコマンドウルフが化学エネルギー弾頭を被弾して、
コマンドウルフの表面近くで派手な火の玉が上がる映像が映し出される。
画面がフェードアウトして違うニュースが始まる
(「え、もう終わり!?」「あんだけ撃たせといてなあ」「インタビューかなり長かったろ。もっとしゃべってなかったか?」
「しゃべったしゃべった」「どうでもいいけど、“あばら屋”の対装甲化学エネルギー弾はあそこまで派手に爆発しないぞ」
「もっと大口径の砲のヤツだろ」)
一同は笑いの中鑑賞を終えた。
第二中隊の面々がこのフィルムに下した評価は、「バラエティーとしてはまあ上出来」というものであった。
ひとまずここまで。趣味に走ったなあ今回のは。
少し話ずれますが、「初心者のためのスレ」なんかを見ると、
どうも「多くの読み手を意識して書くべし」という内容の意見が多いように感じるのですが、
個人的には違和感があります。
商業目的の作品へのアドバイスであれば真にもっともな意見だと思うのですが、
ネット上に非営利目的で載せるという形態である以上、
「多数には受けないが極めて面白いと思う人間がごく少数ではあるが存在する」作品や、
実験的な手法や表現の作品があってもしかるべきで、
そこに商業的な利潤の追求を考えなくてもよいこういった場の一つの存在意義があると考えるのですが。
……もしかすると俺が間違ってるのかなあ。
この板の設立経緯知らないから俺がわかってないだけで、この板ってもっとプロ目指す人達の発表の場なのかなあ?
すると俺なんかこの板にはものすごく場違いな人間ということになるのだけど。
どうなんでしょう?
自分が楽しんで書ければばいいんじゃないかな
俺もゾイド好きでよく妄想するんだけど
それを文章化するなんて難しそうだしすごい事だと思うよ
まあ,人それぞれにゾイドストーリーがあるんだし書きたいようにやればいいと思う
鉄獣氏、お久し振りです。
いつもとは違ってテイスト(特に部隊員にツッコミが)に今回も楽しませていただきました。
多数向けに書くか少数向けに書くか、何を求め求められるかは人それぞれでしょうけど、
僕も「書きたいように書く」が一番で、なにより作り手自身が楽しむべきものだと思っています。
今後とも頑張ってください。では。
>>138-139 そう言って頂けると気分的に助かります。
基本的に私の書くものって文章的な内容より構造とかネタとかに重きを置いてるものが多くて、
「鉄獣を狩るもの」もその例に漏れないんで……
では今日の分を次レスから。
ラウルに新しい自走砲が与えられた。
回収された青のドーラは後半部分の損傷が酷く、
特に弾薬庫に隣接している蓄電機関
―――弾薬庫が誘爆した際、ゾイドコアとコクピットの盾となることも考慮されて配置されているのである―――と
自走砲本体側の装填機構は完全に破壊されていた。
そこで、同じく回収された青のケーザルは後半部分の損傷は軽微であり、
またゾイドコアが死亡しており、さらにその乗り手が後送されていたため、
青のドーラと青のケーザルの損傷の少ない部分同士を組み合わせて再生され、ラウルに与えられたのだ。
砲というものには一門一門違ったクセがある。そのクセを、実際に発砲を繰り返して掴まなければならない。
スタロニコフのことを思い出すのだろうなと、ラウルは乗り込む動きを止めて自分の新しい自走砲を見上げた。
そのとき、まさにそのときだった。
「よお!」
聞き覚えのある声。
「なかなかの上物じゃねえか」
ラウルは振り返った。そこには、ああ、あの酔っ払ったドワーフみたいな風貌の男が……
「脱走してきたぞ!」
「スタロニコフ!」
「はは、俺様の帰還とあっちゃシャンパンの一つでも開けて欲しいところだが贅沢は言わねーや。そっちゃあ元気そうだな」
「おーい、スタロニコフだ! スタロニコフだぞ!」
ラウルの声に、中隊の面々が集まってきた。
「早いお帰りだな、ドワーフ!」
「あんな寝かされてばっかのトコなんざ退屈で仕方ねえから脱出してきたぜ、ま、銀色戦傷章は惜しいことしたがな!」
「は、どうせおん出されてきたんだろうよ!」
「お前がいなかったせいで髪が伸び放題なんだ、早いとこ切ってくれ」
「ああ、ここまで来る途中でいろいろ流行りを見てきたからな、期待しとけ」
誰もが最初は意外がるが、そのネズミ花火を連想させる言動のくせに、
スタロニコフはなかなかに手先の器用な男で、中隊の“散髪屋”を務めていた。
よくドンパチが終ったら金を払ってもらえる散髪屋になると言っていたが、どこまで本気かは結局わからずじまいだ。
皆が、もうこんな気分には何年もなっていないような気がしていた。
その空気の中に、それと全く異質な声が投げ込まれた。
「呑気なもんだな」
近くに宿営している“フォルクスV”の擲弾兵中隊の隊員である。その眼は、敵意に満ちた光を放っていた。
「そんなふざけた連中だからヘリックとの雑種なんかを飼っていられるんだろうな」
「……ンだとキサマぁ……!」
ほとんど反射的に、一番近くにいたラウルがスタロニコフを抑えにかかり、
それを合図にしたかのようにバーゼル達がスタロニコフを羽交い絞めにして抱え上げる。
つくづくスタロニコフの背が低くて良かったと思う瞬間である。
スタロニコフの足を地面から離せなかったら、
腕相撲で――――相手は片腕、こっちは両腕とはいえ―――第二整備小隊長とそこそこ勝負になるような
バケモノを止める術が無い。
向こうから数人の擲弾兵が駆けて来る。眼前の騒ぎを仲間が聞き付けたのだろう。
緊迫した空気、その中で、バーゼルが一歩進み出た。
「今ヘリックとの雑種と仰いましたね」
ラウルは息を呑んだ。あのトンチ坊主は話をどう持っていくつもりだ?
「なるほど私の戦友にはヘリック共和国人の血を持った人間がいます。しかし――――」
バーゼルの口調がちょっと芝居の色を帯びた。
「祖帝陛下はヘリックU世と兄弟であらせられました。先のあなたの発言は祖帝陛下を侮辱するものと取れますが?」
擲弾兵の目付きが一層厳しくなった。もうバーゼルは勝利を確信しているはずだ。
「まあ我々としても不必要に事を荒立てたくはありません。
このままあなたが引き下がってくれるなら、かの不敬な言葉は聞き流して差し上げましょう」
舌打ちし、擲弾兵はもうこの場に到着していた仲間の後ろに引き下がっていった―――
装甲猟兵中隊の面々が口々にこの勝利の立役者を讃える。
「やるな、バーゼル!」
「さすが中隊長!」
(例の盛大なイベントのときバーゼルがその前に立たされた青のグスタフは中隊長の自走砲なのである。
本人は閉口していたが、あれ以降、彼は何かにつけて中隊長と呼ばれていた)
擲弾兵達は黙ってそれを見ていたが、一人の軍曹が歩み出ると口を開いた。
「すまなかった。だが……、言い訳というわけではないんだが、これは覚えていてくれ。あいつは―――
第801装甲擲弾兵連隊第一大隊の第二中隊に所属していたんだ」
沸き立っていた一同が沈黙する。
第801装甲擲弾兵連隊第一大隊第二中隊。現時点においては事実上書類の上にしか存在していないといってよい部隊。
ネオゼネバス軍がスフレフスクを攻略し共和国軍残党の補給線を断つには、河を越える補給経路を設定しなければならない。
そしてそれには、河に架かる橋を奪取できたのとできなかったのとでは大きく様相が違ってくる。
逆に言えば、共和国軍側は橋を保持し続けるなりそれがかなわないと見れば陥としておいてしまったりすれば、
スフレフスク防衛が大きく有利になる。
共和国軍側は、ネオゼネバス軍がスフレフスク周辺域に攻め込む前からこの地におり、
さらに橋を陥としてしまうという選択肢もあったのだから、
この橋をめぐる駆け引きではずっと有利だったはずである。
にもかかわらず、実際にはネオゼネバス軍側が橋を奪取した。
これは一つには、共和国軍側が、橋を保持しておいて、
将来的に状況が好転した場合に、山脈を経由せずに内陸に物資やゾイドを送り込みたいという色気を捨てきれなかったために
橋を陥とすという決断を下すのが遅れたということもあるが、
つまるところは「道標」初期の作戦行動の目的が完遂されたためである。
すなわち、周辺海域と山脈の防空のため平野部上空が手薄になっている共和国空軍の隙を突いて降下した
降下猟兵部隊が橋を制圧下におき、その制圧状態が保持されている間に装甲部隊と装甲擲弾兵部隊が周辺の敵を駆逐、
橋へと到達し降下猟兵部隊と連絡、橋を完全にネオゼネバス軍側の手中に収めたのである。
この「橋を奪取する」という段階においては「道標」作戦は成功した。
しかし、軍事的な成功不成功の判定においては、被った損害は他のものとひき比べられる「要素」でしかない。
損害により被った被害より作戦行動で得られた利益が大きければ、それは「成功」なのであり、
損害はそうした利益との相対によって語られるものであり、それ単独で意味をなす絶対的な何かなのではない。
この段階においてもネオゼネバス軍側の損害は大きく、
特に重篤な損害を被ったのが戦闘のまさに焦点に投入された第801装甲擲弾兵連隊第一大隊、
わけてもその第二中隊なのだった。
橋をめぐる戦闘後、第801装甲擲弾兵連隊第一大隊第二中隊が部隊として機能するためには、
再編成が必要なのは明白な状態だった。
だが、兵数不足のネオゼネバス軍における、矢継ぎ早に事を進めなければならない作戦中の話である。
書類の上でだけ「引き上げ」られ、残存兵員はバラバラに抽出されて他部隊の補充に充てられた。
「引き上げられた」部隊は未だ再編成中であり、軍事的には書類上にしか存在しておらず、
この有様では、もともとそこに所属していた人間にとっては、消滅したも同じである。
双方とも無言のまま、装甲猟兵と擲弾兵はそれぞれ引き上げた。
その後には具体的な何かがあったわけではないものの、工兵と擲弾兵が近くにいるという状況で、
第二装甲猟兵中隊の面々がどうにも居心地の悪い気分を抱えていたある日のことである。
装甲猟兵達は、“出前持ち”の周りに集まっていた。
通常、食事は師団の補給部隊がつくって、簡易コンロを積んで鍋とバスケットを乗せたコマンドゾイドで持ってきてくれるが、
このコマンドゾイド―――通称“出前持ち”―――さえも不足気味で、
配達に当たった補給部隊員は日に何度もあちこち走り回っていた。
そんなわけで、大抵の師団で一番の“事情通”は補給部隊員である。
このため、補給部隊員は出向いた先の部隊で雑談として根掘り葉掘り質問を受ける
―――それがますます補給部隊員を“事情通”にしていくのであるが―――のが常だった。
それは第二装甲猟兵中隊の食事時でも例外ではなく、
そして当然のことながら、今、装甲猟兵達が最も聞きたがっているのは、あの擲弾兵達のことだった。
「まったくよう、これぞまさに八つ当たりってやつだあな」
補給部隊員が擲弾兵の様子を語り始めたかと思った途端に、スタロ二コフが声を上げた。
はじめて見る人間なら思わずぎょっとしてしまうくらいの声とタイミングだが、
多少なりともスタロ二コフという男を知っている人間にならごく普通のことと受け止められる行動であり、
装甲猟兵はもちろんのこと、補給部隊の誰も特別な反応はしなかった。
普通ならば、こういう発言はラウルを気遣ってのものと感じさせられるものである。
しかし、そのスタロ二コフの発言の自然さが、そんな気遣いなど関係ない単なる感情の発露のように思わせた。
いや思わせたという表現は適切ではない。
そもそも、「気遣いなど関係あるのかないのか」ということを意識の端にも上らせないほど、
スタロ二コフの発言はいかにも彼らしい単純なまっすぐなものだった。
しかし、もしかしたら、この手のスタロ二コフの言動は、「気を遣わせている」と相手に思わせないように、
巧みに単なる反射的な発言を装っていたのかもしれない。
思い返してみれば、スタロ二コフは確かにそうしているのではないかと感じさせるところのある男だった。
「なんであそこで止めたんだよ。俺にだな……」
火のついた火薬庫みたいな暴れん坊は喋りまくっている。このぶんではまた、武勇伝をでっち上げそうな勢いだ。
「まあお前にやらせててもよかったんだがな。
そうすると一人で擲弾兵一個分隊を素手で壊滅させたってことで、頼りになる男が引き抜かれちまうからな」
やはりバーゼルはこの手のあしらいが上手い。
その場の人間はカンシャク玉への対応をこの頼りになる“中隊長”にまかせて、思い思いに意見を表明していた。
その内容は、最初のスタロ二コフの発言とほぼ同様のものが支配的だったが、誰も舌鋒はそれほど鋭くなかった。
「だから結局……」
驚くべきことに、スタロ二コフが途中で言葉を飲み込んだ。
何が起こったかと皆が話を止め、そして気が付いた。
「あ」
その場の誰もが空を見上げた。
「雪だ」
それは今年初めの、そしてここにいる人間にとってはデルポイで初めての風花だった。
「本当に降るんだな」
デルポイにも雪が降るとは話で聞いていたし、降雪に対応するための装備が支給されてもいた。
だが、ニクスに生まれ育った彼らにとって、その極寒の地の象徴とも思われる雪が、
「光に満ちた豊穣の大地」であるデルポイにも降るとは、
まるでおとぎ話のような、奇妙な現実感のない話のように思われた。
デルポイの環境の話について現実感のない感覚に捉われる。
考えてみれば、これはおかしな話だ。
実際に足を踏み入れてまだ間もない土地の話だというのに。
あるいは、全く何も聞かされていない土地だったとすれば、
どのような事象も現実としてすんなりと受け入れられたのかもしれない。
そういうものなのだろうと。
しかし、彼らはデルポイについてあまりにも聞かされていた。
それはこの事象から現実感を奪い去り、ネオゼネバス兵達は幻想的な光景の中に取り残される。
その場の人間の多くが奇妙な感慨に捉われる中、第二中隊長をはじめ、違った意識を持つ者もいた。
―――これは、連中がそろそろ来るかも知れない―――
今回の投下はここで終わりです。次の投下までにはまた間が空いちゃいます。
では。
新展開ですか。次回を待ってます。
なんか久々に投下します。もっとサクサク書けや自分。
では次スレから。
霧の夜。
起きていた人間からの通信に、残りの装甲猟兵は叩き起こされる。
戦闘準備の指令、しかし既に理解を超えて把握している。
彼らは来た。
既に自走砲は各小隊でそれぞれの割当方向に砲身を向けて射撃位置で待機しており、
装甲猟兵達は視界の隅で擲弾兵の布陣状況を確認する。
「射撃準備」
小隊長からそう通信が入る。
もっとも、ことが順調に進むのならば、装甲猟兵達は撃発ボタンを押すことはない。
これから彼らは、“猫撃ち”によって敵を叩こうとしているからだ。
“猫撃ち”とは、各種情報から目標の未来位置を確率論的に計算し、
その広がりをもった計算結果の中で確率の高いそれぞれ別の位置に各戦闘ゾイドの火器を割り当てて行う射撃法である。
未来位置の予測し難い目標を相手にするための方策だが、個々の火器同士の発砲のタイミングがずれると急激に効果が薄れるから、
激発は搭乗員ではなく、各戦闘ゾイド間でリンクされたFCSによって行われる。
その“猫撃ち”という呼び名は、チェシャ猫からきているともシュレディンガーの猫からきているともいう。
そのため、射撃準備の通信を受けた装甲猟兵達が実際に行う射撃関係の操作は、
安全装置強制解除ボタンを押しっぱなしにすることである。
これから“何もない”ところに撃とうというのだ。
通常であれば、安全装置が働き、照準が完了したところで射撃シーケンスが止まって撃発はされない。
このため強制解除ボタンを押しっぱなしにする。実際に乗員が押している間しか安全装置が解除されないからだ。
ラウルは何となく強制激発ボタンに目をやった。
発砲が自分の意志とは離れたところで行われるのは、どことなく不安な気がする。
戦闘ゾイドには、強制激発ボタンが用意されており、それを押せばFCSが如何なる状態であっても発砲が行われる。
つまり、“猫撃ち”にFCSをセットしている今の状態であっても、これを押せば自分の意思で発砲出来る。
だが、今の状況で、強制激発ボタンを使用して自分の意思で発砲しなければならなくなったとすれば、
それは不利な局面に追い込まれたということである。
そうなってしまうのも、やはり不安だ。
矛盾した思考を抱えているというよりも、それぞれ独立した感情が並行に存在しているといったほうが近いだろうか。
ラウルは強制激発ボタンを押す自分の手の動きを思い浮かべ、それから目を放した。
今でもわからない。
強制解除ボタンや強制激発ボタンといったものがあるということは、
人間の方が機械より「正しい」と考えられているからだろう。
しかし、間違いである可能性があっても相手を撃つ人間と、
間違いである可能性が捨てきれなければ撃たずに自分が撃たれる機械とでは、
本当に「正しい」のはどちらか?
だが、「正しさ」が顧みられることはない。
「生き残る」ことの前では。
そして現に、そんなことはお構いなしに全てが動いている。
普段より高度をずっと下げたキメラゾイドが、
複数ずつで同じ“通路”―――計算して用意された複合阻止点の間隙―――を監視下に置きながら不規則機動を取って浮遊し、
その暗視カメラが、割り当てられた“通路”に付けられていく足跡を捉える。
足跡だけを。
その主の姿もなく、ただ足跡だけが進んでいくところを。
その様は、不規則に蛇行していることと相まって、まるで、冥界から迷い出た亡者がさまよい歩いているかのようだ。
ふっと射撃開始の表示が灯り、衝撃とともに何も見えない闇に向けて砲弾が放たれ、残弾表示が一つ減る。
“猫撃ち”だ。
今、装甲猟兵中隊は、
それぞれの小隊の自走砲が同じ“通路”に入ってきた敵を目標としている。
“通路”がその中の目標に射線から外れるだけの左右移動を許さない狭さを持っていれば、
わざわざ部隊として同時に選択可能な目標が減り、また砲弾の無駄ともいえる“猫撃ち”などする必要は無い。
だが、資材と時間と人手からいって、この急造の物資集積所と浮橋の周辺にそこまで複合阻止点を設置することは不可能だった。
ならば、“猫撃ち”と計算された複合阻止点の設置により対処する方が、防御効果が高い。
そうやって、蓋然性の広がりを狭め、更に確率の揺らぎにかけられた複数の射線の網に、敵は捉えられた。
不確かな生の世界から確実な死の世界に出てきたかのように、“無”から現れた戦闘陸上ゾイドの残骸が転がる。
シャドーフォックスだ。
ここで敵は数発ごとに区切られた断続的な射撃を開始した。
射線の元から自らの位置を教えてしまう行動、こちらが足跡を捉えていることを確信したのだ。
キメラゾイドが浮遊していることはとうの昔にわかっていたはずだが、
いかにキメラゾイドが高度を下げており、更にその暗視カメラが高い識別能力を持ち、
そしてその映像が高性能のコンピュータで解析されるといっても、
この闇と霧の中では、ネオゼネバス軍側が足跡を捉えられるかどうかはわからなかっただろう。
それが連中がこの天候と時間帯、そして雪が積もり始める前に仕掛けてきた理由でもある。
それでも足跡は捉えられてしまったのだが、そうなっても彼らは冷静だった。
轍と違って、足跡とは飛び飛びに付くものである。ことに走行していれば、その間隔や並び方は極めて不規則なものとなる。
だから、この状況下では、高度な画像処理システムをもってしても、
足跡から予測できる機体の位置はどうしても確率的な揺らぎを持ったものになる。
「存在自体に気付かれない」という、もはや得られない優位点は切り捨てても、
「位置を一点に絞らせない」という、未だに保持している優位点は守る、
数発ごとに区切られた射撃は、
シャドーフォックスを駆る人間達がこの状況下で即座にそれだけの判断を下せることを明確に示していた。
流石である。流石に光学迷彩搭載機体に乗っているだけのことはある。
光学迷彩搭載機体は、
その全周にエネルギースクリーンを搭載しなければならないという機構から、出力をそれに大きく取られてしまう。
このため、武装や装甲を支えるために回せる出力は制限され、また、“ダニ持ち”化して歩兵を追随させることも出来ない。
そして、自らと同等以上の秘匿性を持たない兵器と行動を共にすれば、その高い隠密性がまるで無駄になってしまうから、
他の兵器から直接支援を受けることも多くの場合不可能である。
光学迷彩搭載機体の搭乗員は、極めて高い秘匿性があるとはいえ、
同規模戦闘ゾイドに比べて弱武装・弱装甲の機体で、強力な支援無しに行動しなければならない。
その上、唯一の長所といっても過言ではないであろうその高い秘匿性も、
今のこの状況のように攻撃任務に就いている場合、実は表面的な数字ほどの効果はない。
弱武装で、また歩兵を追随させることもできず、火力支援も得られないということは、
破壊できる対象に縛りが多いということだ。
すると、わざわざ攻撃目標に選択されるだけの重要性を合わせて考えることで、
光学迷彩搭載機体を迎え撃つ側は、どこに相手が来るか事前に比較的容易に予測できることになる。
実際、装甲猟兵大隊は、襲撃が予測される地点に各中隊の宿営地を定め、工兵はその周囲に防御コンプレックスを構築している。
戦闘ゾイドですら存在が直接捉えられない敵を相手にミサイルは使えないため、
“何もない”ところに撃てる砲を装備しており、そして“防御の専門家”である装甲猟兵が、
光学迷彩搭載機体の迎撃に中心的な役割を果たすのは至極当然のことだった。
そしてそんなネオゼネバス軍側の用意が実って、こうして迎撃できているわけだ。
逆に言えば、光学迷彩搭載機体の側は、敵が自らの襲撃を予測して準備を整えているところに飛び込まなければならない。
そんな悪条件を乗り越えなければならない任務に就かされているのだ、眼前の敵は精鋭中の精鋭のはずだ。
殺すのが惜しい相手ほど、殺さなければならなくなる。
戦場には無用のつまらない感慨だろうか? 元から戦闘のためにつくられた機械には初めからそんなものはないだろう。
現に、機械に制御されている装薬/電磁砲は火を吹き続けている。ただひたすらに。おそらく恐怖もなしに。
人間と機械の違いか?
いや、そんなことはない。
仮に搭乗員が撃発操作をしなければならなかったとしても、
今にして思えば、当時いつもとっていたあの自動的ともいえる反応で、
自分は発砲していたに違いない。
さらに言えば、そんな仮定を持ち出す必要すらない。
あそこで安全装置強制解除ボタンから手を放していれば、射撃はそこで止まっていた。
どうであれ、撃ち続けたのは、最終的には自分の意志なのだ。
それに現に、直接目標の足跡を観測しているキメラゾイドは攻撃はしていない。データを送っているだけだ。
各種情報からの判断により「何もない」ところに攻撃を加えられるようなプログラムをキメラゾイドに組み込むのは、
危険が大きいからというのがその理由である。
そして、今に限った話ではなく通常の攻撃においても、高度な各種欺瞞手段を与えられた戦闘ゾイドを相手にする際には、
同様の理由から、何らかの形で人間の「承認」が必要とされる。
操作系統に精神リンクが組み込まれている戦闘ゾイドの搭乗者にはあまり意識されないことだが、
搭乗者が「攻撃すべきではない」と考えている目標に対しては、
攻撃シーケンスがどこかしらの段階で中断されるようになっている。
「何もないところに攻撃するという判断を下せるのは危険が大きい」か―――
これはやはり、機械より人間の判断の方が優れていると―――人間は―――考えているからだろう。
しかし、本当にそうか?
それは厳格な検証に基づく正確な判断なのか? 実はそれはただの人間の願望に過ぎないのではないか?
だがしかし、確実に機械より人間の方が優れているといえることがある。
相手を敵とみなし攻撃することを決定する能力、これは明らかに人間が機械に勝っている。
闇へと伸びる火線と闇から伸びる火線が幾筋も交錯し、
そして時折、揺らぎの生の世界から確定の死の世界へシャドーフォックスが引きずり出される。
これは連中そろそろ退くな……
ちょうどそう思ったときである。青のドーラは主砲後部に被弾した。
ラウルは即座に自走砲から降りた。戦闘不能となった自走砲に乗っていてもどうにもならない。
ならば、その中にとどまっていても不必要な危険にさらされるだけだ。
敵は青のドーラが戦闘不能となったことに気付いているとは限らない、つまり攻撃の対象から外されない可能性も高いし、
自動消火システムが働いているとはいえ、弾薬区画まで延焼して盛大に誘爆しないとも言い切れない。
そしてそのまま青のドーラの納まっている射撃陣地とつながっている待避壕
―――壕というよりタコ壺に近いが―――に移動しようとした。
しかし、誘爆した際の破片や爆風を防ぐために折れ曲がっている待避壕への通路にも着弾していたため、
そこは崩れて塞がってしまっていた。
これでは待避壕まで行けないし、それ以前に待避壕がどうなっているのかもわからない。
ラウルは射撃陣地の縁に手をかけて頭を出し、飛び込む先を探した。とにかくとっととここを去りたかった。
この射撃陣地には、弾薬庫を内蔵する自走砲ばかりではなく、
弾薬消費の早い“猫撃ち”のために98式搭弾機材T型まであるのだ。
搭弾機材は、戦闘ゾイドへの弾薬搭載のためにいくつかの砲弾クラスに分けて型があり、
それぞれの型でいくつかの高さの弾薬区画に砲弾を搭載できる。
その見た目はまるで砲弾を閉じ込めた鉄組の荒い檻のようで、そこからうかがい知れるように対弾性など皆無である。
おまけにこれはバッテリーとモーターを搭載しており一応は自走できるのだが、
それは弾薬搭載のために対象の戦闘ゾイドとの位置を調整するためだけにあるといっても過言ではないほどで、
戦場で陸上戦闘ゾイドに追随することができるどころか、単独では補給地点まで移動してくることもできないだろう。
搭弾機材を人工ゾイドに搭載して陸上戦闘ゾイドに追随させたいというのは用兵者の積年の夢だが、
ゼネバス軍時代から、ネオゼネバス軍は、軍用ゾイドの数の問題からその夢をかなえていない。
これがヘリック共和国軍なら話が違う。
そういう弾薬搭載用ゾイド―――純粋に弾薬搭載のためだけではなく、他の補給・整備機能も付与する例も多いが―――
をいくつか実用化している。
そしてこのため、例えば、カノントータスのような、その機体規模に比して破格の大口径砲を搭載している、
つまり必然的に搭載弾薬数が少なくなるのに、大量の弾薬を放つことを要求される戦闘ゾイドを開発・配備できる。
対して、ゼネバス‐ネオゼネバス軍においてはそのような戦闘ゾイドはろ獲したものを細々と使うしかなかった。
このあたりに、彼我の支援体制の厚みの差、ひいては国力の差が透けて見えていた。
ともあれ、そんな機械だから、戦闘中に戦闘ゾイドの脇に置いておくならば、それは豪か何かの中でなければならない。
そしてネオゼネバス軍の全て―――それこそ命あるものとないものを問わず―――の例に漏れず数が無いため、
師団の補給部隊にまとめて配備されており、他の部隊も使うからあまり宿営地から離れさせられない。
つまりは、宿営地付近で防御戦闘をするときにしか戦闘中には使えない。
光学迷彩搭載機体を迎え撃つにはどうしても“猫撃ち”をする必要があり、
さらに光学迷彩搭載機体の攻撃目標は先述の通り比較的容易に予測できるから、
そこに宿営地を構えて防御コンプレックスや射撃陣地を整え、夜毎自走砲に寝泊まりしていたのである。
おかげで工兵の鉄火場の隣で日夜気まずい思いをしていたわけだ。
そういったわけで今自分のいる射撃陣地には爆発物がぎっしり詰まっている。
何かの加減で熱を帯びた破片が搭弾機材に落ちたら何が起こるかは想像するまでもない。
しかも、弾薬区画と主砲の位置関係から、搭弾機材はまさに今被弾した主砲後部の真下と言いたくなるようなところにあるのだ。
こんな射撃陣地から一刻も早く出たいというのは、もう生物としての本能とさえいえるだろう。
外界をぐるりと見回して、ラウルは擲弾兵の壕に飛び込むことにした。
火線の網にかからず接近したシャドーフォックスがいた場合に備えて配置されている擲弾兵は、
とばっちりを避けるため、“あばら屋”の納まっている射撃陣地から距離をおいた壕に身を隠している。
その壕はまだ敵の標的となっておらず、そこに向かうのが一番危険が少なそうに感じたのだ。
あんないざこざがあった連中がいるところだが、背に腹は代えられない。
飛び交っているのは徹甲弾だし、敵も大した武器も持っていない人間一人をわざわざ狙いやしないだろう。
ラウルは走り出した。
支援
今に至るも何であいつがあんなことをしたのかわからない。
ラウルがもう一息で眼前の壕に飛び込めるなというところにまで来たときのことだ。
その眼前の擲弾兵の壕に向けて掃射が始まった。
そこへ向けてわざわざ走ってくる人間がいたのでその壕に強力な火器が隠してあるとでも思った敵がいたのか、
とにかく理由はどうあれ、自分がミンチになるのは避けられないと確信した。
おかしなもので、ラウルは伏せていた。
そんなことをしても何にもならないと言う自分もいたが、どうせ今している行為も含めて全ての行動が無駄なのだ。
そして何かが自分に降りかかってくるのを感じた。しかし大して痛くもなかった。
そのうち轟音が去って、ようやっと頭を上げようとして、あることに気が付いた。
自分の上に誰かが覆い被さっている。そのおかげで死なずに済んだのだ。
予感と呼ぶべきか確信と呼ぶべきか、とにかく、そんなものを感じていたから少しばかり動けなかったが、
意を決して自分に覆い被さっていた体の下から出て、やはり思った通りだったのを目の当たりにした。
そいつは死んでいた。
擲弾兵用ボディアーマーも、やはりさっきの至近弾には耐え切れなかったのだろう。
いや、耐え切れたというべきか。
そいつがボディアーマーを着込んでいなかったら、
歩兵が高度な防御装備を与えられている状況に対応して設計されている榴弾は、
擲弾兵の下にいたラウルの命をも奪っていたかもしれなかったのだから。
そしてラウルはもうどうしようもないほど残酷なものを見ていた。
その死体は、自分達のいざこざの元をつくった、あの擲弾兵だったのだ。
戦闘が続いている中をラウルは眼前の壕に飛び込んだ。そしてそのままずっと身を固くしていた。
今回はこれまで。
>>162氏支援多謝。
今この次のパート書いてるんですが、難しいわ。進まない。でもどうしても削りたくない。苦しい状態。
別のゾイド話と、「学園島戦争」スレ見かけて思いついた話が頭の中にあるんですが、
そっちのほうがサクサク書けそうなくらい。
SS投下乙です〜!
シャドーフォックス大好きなんですよ!!
投下GJ。
あのあとすぐ寝てしまってこんな時間になってしまいました。
今後もゆっくり自分のペースで頑張ってください。
では。
こんなスレがあったのか
あけましておめでとうございます。
出来れば昨年中に終わらせたかったんですが、年をまたいでしまいました。今年もよろしくお願いいたします。
>>165 個人的に、光学迷彩搭載機体の搭乗員ってエリートであるという印象があります。
理由は、SSに書いてる他にもあって、その一つが、捕虜になったときに口を割らないことが要求されるだろうから。
光学迷彩搭載機体って、その仕様から考えて秘匿任務が多そうで、
さらにその運用法自体が秘匿性の確保のため機密事項なはず
(他の機体でも詳細な運用法は機密なのが当然でしょうが、ステルス性重視の機体は特にそれが顕著と考えられる)。
捕虜になっても口を割らない。最後まで脱出の機会をうかがう。これ精神的にすごいことですよ。
私のSSの書かれてない部分でも、撃破されたシャドーフォックスの乗員は、
動ける者は決死の脱出、動けない者は将来的な善後策を考えて頭をフル回転させてるでしょう。
まあ、そういうエリートですから、数を多くできないため、
同時選択目標数が少なくなる“猫撃ち”で対処できる、っていう理屈をつけてるんですが。
余談ですが、これに関連して、「実はプーさん根はいい人説」ってのを俺唱えてまして。
その一つの理由が、シュバルツ暗殺の際、ヨハンにゼネバス復興の計画を明かしているから。
あの作戦、ヨハンがとっつかまって口を割ったら、全てが水泡に帰してたでしょう。
にもかかわらず、適当な嘘理由(いくらでも考えられたはず)ではなく、真実の計画をプーは話している。
この辺りに、「目的のためには非常になれるが、パーソナルな人間としてはいい奴」なんじゃないかという雰囲気がします。
単に私がプー好きなだけな気もしますが。
考えたけど結局書かなかった言葉:「光学迷彩搭載機を使いこなせるのは、光学迷彩を使わなくても身を隠せる人間だけ」
>>166 今年もよろしくお願いします。何とか頑張っていきます。
>>168 あけおめ
バトストのギュンター・プロイツェン・ムーロア閣下は間違いなく英雄で、
根っこは良い人だと俺も思ってるぞ。
行動理念の根本が、顔を見た事さえない親父の無念を晴らすってのと、
亡き母親への想いみたいだし。
間近で見て育ったであろう、ヴォルフが優しい人間ってのもあるしな。
ただ、あんな手段をとった時点で間違いなく極悪人、
ただ、自分の所業が悪だと自覚的で覚悟完了してる。
所謂“リアル系ロボアニメ”なら
「アンタ程の人なら、もっと他のやり様だってあったろうに!」
と、主人公に非難されるタイプ。
これからも、自分のペースでじっくりと良いSSを投下してくれよ
祝ゾイドジェネシススパロボ参戦。
これを機にここのスレも暖まればいいな。
171 :
創る名無しに見る名無し:2009/01/28(水) 03:02:27 ID:1S164Pbi
ゾイグラ増刊号についてたオルVSギルを文章にしてみたいがキャラ名思い浮かばない
あれクルーガーなの?
>>171 旧バトストでギルベイダーと合打ちしたのならロイ・ジー・クルーガだな。
やっぱりクルーガだよね
でもゾイドグラフィックの方には相討ちじゃない展開の文も乗ってたから
そっちの方は適当に名前つけたオリジナルキャラでいいのかな
>>173 いいと思う。
完成したら是非投下してね。
文章書いたことないけどみなぎってきた
>>169 プーはいいですよね。
FB4で、ルイーズがプーの姉であることが明かされて、
実はプーの行動原理上の戦争を起こす必要は最初からなかったことが明らかになりますが、
ここでもしプーが(アニメの方みたいな)ただの極悪人なら、それこそプギャーで終わりなわけです。
そこが、プーが根っこは良い人間で、かつ自分の行動が悪だという認識があればこそ、
あれが運命の悪戯による悲劇となっている。
ホント俺はプーが好きで、今ゾイドSSのアイディアが5本くらいあるんですが、
うち2本が「プーすげー」な話になってます。
しかもそのうち1本は共和国軍視点の話であるにもかかわらず。
>所謂“リアル系ロボアニメ”なら
>「アンタ程の人なら、もっと他のやり様だってあったろうに!」
>と、主人公に非難されるタイプ。
見てえ。超見てえ。
>>171 ぜひ投下して下さい。
さて、ようやっと投下できます。ただ最初に謝っておきます。
今回 ゾ イ ド 出 ね え 。
だから描きにくかったってのもあるんですが。
では次のスレから。
ラウルは銃が嫌いだ。
さらに言えば、あの照準器を通して見る光景が嫌いだ。
“あばら屋”の照準画面が捉えるのは、敵戦闘ゾイド、もしくは敵歩兵のいる場所である。
それに対して、銃の照準器を通して見る光景の中にいるのは人間だ。
そこには、決定的な結果が、自分の行為にではなく、相手の運によるという、あの奇妙な気安さが無い。
それは何か、血濡れた刃をすぐそばで見せられるような感覚がした。
中隊の他の面々も、銃を嫌っていた。
もっとも、それは、わざわざ対戦闘ゾイド訓練以外に射撃訓練をしなければならないからだとか、
それらしい理屈がつけられてはいたが、
そんな理屈を取り立てて口にするあたりが、自分と同じ感覚を無意識の中に押しとどめておこうとしているように感じられた。
まあ、スタロ二コフなんかには、
射撃訓練があると、弾を小遣いに変えてしまったのがバレるから、という理由もあったりしたが……。
その銃を抱えて、ラウルとバーゼル、第一小隊のレウム伍長は
工兵との待ち合わせ場所に向かっていた。
わざわざそんな気の重い道具を持ち出してきたのは、工兵の頼みを断れなかったからだ。
現地住民の反感を買わないよう、
ネオゼネバス軍将兵は可能な限り家屋をはじめとする建造物に損害を与えないよう命ぜられている。
だが、それでもやはり、戦闘ともなれば周囲の建造物を大なり小なり破壊してしまうものである。
壊れたものは、直さなければならない。そしてそれは工兵の手に負える数ではない。
すると当然、民間の業者に依頼することになる。
そしてここで厄介な問題が出てくる。
現地住民の反感を買わないようにするという元々の目的からして、先立つものを用意するのはネオゼネバス政府である。
つまり民間業者と契約するのはネオゼネバス政府となるわけであるが、
それには当然、いくつもある業者の中からどれかを選ばなければならない。
ここまでくればもう説明の必要もないだろうが、この選定が、業者間の、そしてネオゼネバス政府への不満の種なのだ。
ことに、地域に密着した小規模の業者の不満は大きかった。
受注を勝ち取るための政府との交渉という点で、既に大規模業者が有利である。
「大業者を不当に優遇している」、そんな声があるのも当然のことだった。
さらに、「ゲリラ狩りにかこつけて、一般市民の生活や経済活動を締め付けている」という非難もあった。
これが、根拠のない被害妄想と言い切れないあたりに、ネオゼネバス政府のつらさがあった。
建造物をつくる、ということは、密かに反ネオゼネバス活動に利する構造にすることもできる、ということである。
このため、そのようなことをしない相手かどうかを見極めて業者を選定しなければならない。
ここでいちいちその土地その土地で業者を確認していては時間と手間が膨大に消費されるから、
広い範囲で事業を展開している業者、すなわち大規模業者に発注することがどうしても多くなる。
さらに、不発弾がないか確認するため等という名目をつけて、工兵等が建築現場に出向いてチェックすることもあった。
そんなわけで、住民は不満を抱く。
そして、その不満を直接ぶつけられるのは、
実際に建造物を破壊した戦闘ゾイド兵や歩兵でもなければ、命令を出しているネオゼネバス首脳部でもなく、
現場で作業監督や交渉をしている工兵であることが殆どである。
因果応報という言葉があるが、原因をつくった人間と結果を受ける人間が一致するとは限らない。
そして、“フォルクスV”の担当区域にも、不満を抱えた住民や業者がいるのだ。
装甲猟兵中隊の断れなかった頼みというのは、
工兵が現場視察に行くから、そうした人間が押し掛けてきたときのための用心棒役に、人手を貸して欲しいというものだった。
そういったわけで、三人の装甲猟兵は、脱出時の自衛等のために自走砲に積んである突撃銃を抱えてのそのそ歩いていた。
本来なら、これは擲弾兵か突撃工兵が適任の仕事である。
だが、そういった面々は既に駆り出されている別の現場があって、これ以上人員を出せないと断られてきたそうなのだ。
無い無い尽しだなあ、ラウルは寒い中を歩きながら思った。
工兵と合流して着いた先では、既に業者が家屋の修理作業を行っていた。
わざわざ修理しているということは、ここに住み続ける―――少なくともそのつもりの―――人間がいるということだろう。
よくもまあ逃げ出しもせずにこんなところに住み続けるもんだ、
そう思ってからすぐに、ラウルは自分のその考えの愚かさ加減に苦笑した。
逃げる? どこに逃げればよいというのだ?
陸上戦闘ゾイドの絶大な不整地踏破能力と戦闘行動半径から、Ziにおける戦闘域は非常に広い。
そしてさらに実際に戦闘が行われる地点の予測が極めて困難である。
いつ終息するか見当さえつかない戦闘からの避難は、それこそ流浪の民になる覚悟が必要だろう。
ならば、陸上戦闘ゾイドや兵士の接近といった、“戦闘の足音”に気を配って、
その時点時点で一時的に逃げるのが現実的な方策なのだ。
あれは何かで読んだのだったか誰かに聞いたのだったか、とにかく、蛇という地球の生き物を捕る男の話があった。
その男は祖父の代から猛毒を持つ蛇という生き物を捕って生活していた。
男が己の生業の危険さを嘆くのを聞いたその地方の役人が、別の仕事に就けてやろうかと言ったところ、
男は、周りの人間は貧窮故に離散の運命を免れない中を、
自分の家族だけは妙薬の材料となるその蛇を献上していることから、時折危険を冒すのみで安楽に暮らしていられることを話し、
その提案を断ったという。
何か、その話を思い出す光景だった。
そんなことを思っているうちに、新しく何人かの民間人がやってきていた。
ああ、こういう奴らに対処するための助っ人に俺達は呼ばれたんだなと、一目見てわかった。
何か喚き散らしているといった行動をしているわけでもない。ただ、雰囲気というものが感じ取れるだけだ。
工兵と何か話している。話してどうにかなるものだったらそもそもここで話す必要が無かろうに。
そのうちに次第に興奮してきた。バーゼルが近付いていく。それを見て、ラウルも傍に寄ろうと足を出した時だった。
工兵と話していた男の一人が、服の陰から刃物を取り出した。
話していた工兵が後ろに飛びのき、周りの工兵とバーゼルが男を取り押さえようとする。
この状況での刃物相手は実は厄介である。
ボディアーマーというものは、限られた重量や資材という条件の下で、
着用する人間を戦場での脅威から効率的に防護するためにつくられている。
ゆえに、砲撃や爆撃の砲弾片からの防護性能が最重要視されており、
それに次いで、ある程度距離からの小銃に対する防護性能が追及される。
銃口を押し付けられるほど近くからの拳銃に対する防護や、刃物に対する防護など、ほとんど考えられていないといっていい。
そういった脅威からの防護性能は、
むしろ活動の場が一般市民の日常生活の中である、警察といった治安組織が装備する防護資材の方が高いくらいなのだ。
特に、狭いコクピットからの脱出・救出を考えなければならない戦闘ゾイド乗員用のものや、
身をかがめたりよじったりして作業しなければならない工兵用のものは、
どうしても継ぎ目を多くせねばならず、そこに刃物のような鋭利なものが当たれば、簡単に貫かれてしまう。
このため、とっとと取り押さえなければならないのだが、男の仲間がいることもあって、なかなか上手くいかない。
自分も加勢に、しかし遠い―――
ここでラウルの意識に自分の持っている突撃銃の存在が飛び込んできた。構える。
だが、どこに銃口を向けて引き金を引けば。離れ過ぎていれば威嚇にならないだろうし、近過ぎれば当ててしまうかも知れない。
ぐるぐると目まぐるしいまでに駆け巡る意識とは逆に、押さえ付けられたように動かない体、
必然、視界は照準器に縛り付けられる、その視界の中で、バーゼルが刺された。
突然自分の体を押さえ付けていた力が消える。
そして突撃銃の発砲音を聞く。レウム伍長が刃物を持った男とその仲間の頭上の空間に向けて射撃しながら走り寄って行っていた。
工兵の何人かもレウム伍長と同じ方に向かう。
ラウルも走り出した。バーゼルの方へ。
走りながら、救急処置ケースをバックルから外そうとする。
落した。止血帯や薬品バッグが飛び散る。冷静そのものの処置指導音声が流れる。
地面にぶちまけられた医薬品を掻き集めようとして、思うに任せない状況に焦ってバーゼルの方を見て、
バーゼルの周りの工兵が救急処置ケースを取り出していることに気が付いた。
手に持っていた医薬品が再び地面に散らばる音を後に、また走り出す。
幾人かの工兵が、緊急処置キットを振り回していた。その中心に、バーゼルが横たわっている。ラウルに気付き、視線を向けた。
ラウルはバーゼルの脇にかがみこんだ。
バーゼルは何か言おうとしていた。聞き取ろうと抱き起こそうとして、やはり止めて自分の頭の方を近付ける。
聞いてやることしかできない。他に何もできない。バーゼルは声を絞り出している。
無様だ。直視できないほどに。惨めなまでに。
そして、ようやくバーゼルの声が意味を持ったものとして聞こえ始めた。
「帰りたいよ」
ラウルはバーゼルの目を見ようとした。だが、何か恐ろしくて、視線を向けることができなかった。バーゼルは続けた。
「家に帰りたい」
連れて行ってやる、と言いたかった。言って、少なくともなにがしかの努力をしてやりたかった。
しかし、その言葉は遂に口から出なかった。
実際にはできないことを口にしないという、誠実さがその言葉を引き留めたからではない。
何か、奇妙な、全てを麻痺させる、絶望ともまた違ったあの諦観の塊が、のどに詰まって、その言葉の出口を塞いだからだ。
バーゼルはもう、何の反応もしなくなった。そしてラウルの目の前からいなくなった。
入れ替わりに、バーゼルが横たわっていた場所には、死んでいく人間の体があった。
そして奇妙なことに、その顔はバーゼルに似ているのだ。
こんなこと現実にはあり得ない。
何かがこの死人の顔をバーゼルの顔のように見せ掛けている。
俺達はあの、全てを気紛れに弄んでいる底意地の悪い連中の、悪質な冗談の登場人物にされてしまったのだ。
この世界から抜け出そうと、その死体にバーゼルと違った所をただひたすらに探す。
視線はその体を這いまわり、記憶が自分の脳の中から片っ端から引っ張り出される。
だが、しかし、そのもがき苦しむような努力は、確かに得られるはずの証拠を見つけ出すどころか、
その死体をバーゼルにますます似させていくのだ。
風が吹いた。
その冷たさにふと顔を上げると、空には風花が舞っていた。
しばし見つめた。舞い落ちてこないかと。
そして手を伸ばした。触れられはしないかと。
しかし、それは遥か高みにあって、彼らの届くところにまで降りてはこなかった。
「畜生!」
ラウルは叫んだ。
叫んだ先の空には、風花が舞い続けている。それは美しかった。全く美し過ぎた。
「畜生、畜生、畜生!」
だが、その叫びは、小石が投げ込まれた水面に現れるようなささやかな波紋すら生むこともなく、
まるで初めから存在していなかったかのように、ただ消えていった。
今回はこれで終わりです。
投下前にも書きましたが、ゾイド出なくてすいません。しかも短いし。
ゾイド文章書いてみたいと言ってる方がいてうれしいです。読んでみたいなあ。
>>170の方も書いてるように、ジェネシスがスパロボ参戦という動きもあることだし、
ゾイド色々と盛り上がるといいですね。もちろんこのスレも。
投下GJです。
今回も読み応えがあり、ハードな内容でした。
こんな時間だというのについつい読みふけってしまうほど。
またの投下を待っています。
では。
誰にも、忘れ得ない日というものはある。
だが、いつがその忘れ得ぬ日となるのかというと、
それは往々にして、その時を迎えるまではそうなるということを予期し得ず、
後から振り返ってみて、初めてそうだとわかるものだ。
ラウルにとっての忘れ得ぬ日も、まさにそのようにして訪れた。
その日の昼食時、第147装甲猟兵大隊第二中隊は突然に出撃を命ぜられた。
そこでスタロ二コフが自分の脚にシチューをぶちまけてしまったりしたものの、まあ中隊はいつものように出撃した。
青のドーラは、まだ修理から戻ってきていなかった。
そのため、ラウルは迎撃地点までシュペースキッパーで先行する中隊長の自走砲を代わりに操縦することになった。
中隊長の自走砲の中で、ラウルは今回の迎撃相手のことを考えていた。
今度の相手は高速ゾイドではない。中型の、二脚で直立した肉食恐竜型ということだった。
近年開発された肉食恐竜型は水平姿勢のものが殆どだから、恐らくいわゆる“再配備組”だと思われた。
いずれにせよ自分達にとっては初めての相手だが、
よもや中型の戦闘ゾイドに“あばら屋”の主砲に耐えられる奴がいるわけもないから、
その辺りについては心配はいらないだろう。
そんな時だった。
ふいに、戦場情報システムのモニターが乱れた。そして見る間に表示がまるで出鱈目なものに変わった。
この自走砲の機器だけの不調か、それとも、戦場情報システム全体の不調か、
他の自走砲の戦場情報システムの状態を聞いてそれを確認しようとして気が付いた。
無線も通じない。
中隊の“あばら屋”が次々とハッチを開く。みんな自分から開いている。
無線が使えなければ、ハッチを閉じていたら互いに話すことも出来ないのだ。やはり自分の乗っている自走砲だけの不調ではない。
「ラウル! そっちも駄目か!?」
スタロ二コフにそうだと答え、ラウルは中隊長のほうを見た。
何にせよ、このままここで止まっているわけにはいかない。
どうするにせよ、自分達で状況を確認しながら移動しなければならない。
中隊長から何かしら新しく命令が下されるはずだ。
その時。
「何だあれは!」
第二小隊長の示す方向を望遠視察機器で確認して、中隊の全員が絶句した。
そこにいたのは、その場には現れることが出来ないはずのもの、
そしてそうであるはずだからこそ、“あばら屋”が迂回してくる敵を止める役目を務められるもの。
「―――ゴジュラス―――」
茫然としてつぶやく。帝国将兵にとっての悪魔、あの死と破壊の権化がそこにはいたのだ。
だが、ゴジュラスがどうやってここまで来たというのか。
ゴジュラスも通行できる山中の道を通ればスフレフスク周辺で山脈から出ることになり、
ここまでの距離からして、とうの昔に最前線のネオゼネバス軍部隊が遭遇しているはずなのだ。
しかしゴジュラス出現などという情報はない。
ということは、ここまで直接山中を走破してきたとしか考えられない。だが、ゴジュラスにそんな芸当が出来るはずが―――
そこで、ゴジュラスがいるという衝撃に注意を奪われてその意味に気が付いていなかったあることの重要性に気が付いた。
姿勢を水平にして疾走しているのだ。速い。
「まさか、あの新型―――」
話には聞いている。中央山脈でステルススティンガーを擁する黒の竜騎兵団を壊滅させた新型ゴジュラスがいると。
そいつだったとしたら、あるいは直接ここまで山中を走破してこられるかも知れない。
「何てことだ……」
シュペースキッパーの上で、第二中隊長は歯噛みしていた。
電子妨害でネオゼネバス軍側の通信を断ち、任意の地点に戦力を集中出来る機動防御を不可能にさせる。
機動防御が不可能になったネオゼネバス軍側が広く薄く戦力をまけば、
その程度の戦力ならあの新型ゴジュラスによりやすやすと突破出来る。
兵力のないネオゼネバス軍には、機動防御か広く薄く戦力をまくかしかできない。つまり、採れる手の全てが破られる。
そして高い機動力を新型ゴジュラスが発揮することで、敵に位置把握を困難にさせ、その効果を高める。
しかし、いくらゴジュラス級の新型とはいえ、
電子戦専用ではないだろうあの新型に、ここまでの通信妨害能力があるとは思えない。
恐らく、別行動で展開している電子戦専用ゾイドがいる。どこかの部隊が何とかそいつを見つけ出して叩けば、あるいは……。
そこまで考えて、ヴェルファルスはその最後の望みを既に断たれていることに気が付いた。
自分達に迎撃命令の出たあの再配備陸上戦闘ゾイド。あれが電子戦専用ゾイドを守っているのだ。
一般に、中型“再配備組”の戦闘能力が高いということは広く知れ渡っている。あの陸上戦闘ゾイドも、恐らくその例に漏れまい。
そうだとすれば展開しているであろう電子戦専用ゾイドをそうすぐに始末することは出来ない。
少なくともあの新型ゴジュラスに突破蹂躙される前には。
数門で戦域全体をカバーできるほど長射程で、なおかつあの新型を撃破できるほどの威力を持った砲を搭載した自走砲があれば、
あるいは何とか出来るのかも知れない……
一瞬、そんな妄想が脳裏をよぎったが、当然のことそんなものはないのだ。
「“詰み”だ……」
もはや打つ手はない。しかし手は打たなければならない。
ヴェルファルスは自分の自走砲に向けてシュペースキッパーを走らせた。
「シュメル伍長!」
自分の自走砲を操縦してきた隊員に呼び掛ける。自分の方に顔を向けるのを見て、シュペースキッパーから飛び降りる。
「通信不能だ! これで直接伝令に走れ! アイアンコングかステルススティンガーならあいつを何とか出来るかも知れない!」
そう、軍直卒の切り札として独立運用されているアイアンコングかステルススティンガーならばあるいは。
この言葉の裏にある意味を、言われた相手が理解出来なかったらどんなに良かったか。
だが、そんなことはあり得ないことなどわかりきっていた。
「しかし、それでは一人だけ……」
ゴジュラスの新型。
当然、装甲は今までのゴジュラスのそれを上回っているとみるべきだろう。少なくとも下回っていることはあり得ない。
“あばら屋”の主砲でさえ、貫徹出来ない可能性がある。
その上、あの巨躯だ。仮に装甲を貫徹出来たとして、“あばら屋”主砲の小型の浸徹体では、生命力を奪えるか。
最低でもゴジュラスレベルである装甲を貫徹することにエネルギーを奪われることを考えると、それはほぼ絶望的だ。
それどころか、弱点を狙い撃たないと、行動能力を奪うことすらできない可能性も高いだろう。
プレッシャーを与えて行き足を鈍らせることができれば上出来、ということさえあり得る。
どうであれ、精密な特定部位を狙う射撃が要求される。測距レーザーを使わねばならない。
こちらの位置を相手に知らせてしまう測距レーザーを。
そんなことくらい当然わかる、自分に命令を下された隊員は躊躇っている。
しかし、行かせなければならなかった。
ああ、自分は何という卑怯者なのだろう。またあの言葉を利用しようとしている。全ての思考を停止させる、魔法のあの言葉を。
「仲間を守るためだ」
仲間。仲間を守る。
だが、その守る仲間とは何だ? それは生きている仲間の命か? それともあるいは、斃れていった仲間の死の意味か?
よもや我々は、死者への供物に生者の犠牲を捧げているのではあるまいか?
ヴェルファルスは部下の顔を真っ直ぐに見据えた。他にどんな顔をすることもできなかった。
そしてヴェルファルスの命令は実行に移された。シュペースキッパーが走り去る。
第二中隊長は自走砲に乗り込み、麾下の自走砲に指示を下した。
ラウルはただひたすらに走る。急を知らせるために。仲間達に報いるために。それだけが全てだった。
ふいに、ざらついた無線の中に、かろうじて聞き取れる音声が混じり始めた。
「……時間稼ぎくらいはできるんだろう?……」
「……ああ……」
「……歌うか……」
「……遥か遠く 荒れる空の彼方 逆巻く海の向こう 幾千里を隔て
血の源 父母の祖国 我らの大地 我らの故国はそこにある
風を裂き 波を砕いて 我らは還る 我らの土地へ
陽光(ひかり)溢れ 緑映える 麗しき我らの大地へ…………」
そして再び、仲間達の声はノイズの向こうへと消えていき、もう二度と聞こえることはなかった。
もう仲間はいない。俺は一人だ。一人きりだ。
共に闘ってきた連中と、もう会うことはできない。
「仲間を守るために」、俺はここに、こうしてただ一人で取り残されている。
俺はもう、一人きり―――
そこでシュペースキッパーが止まりそうになり、ラウルは慌てて加速させた。
勝手に走っていて欲しかった。何しろ、こいつはゾイドなのだ。生きているのだから―――
ああ、そうだ。こいつは生きている。俺は一人きりじゃなかったのだ。
ならば何故、一人きりになったと思っていたのか?
簡単なことだ。
今まで、生けるものに、その命がまるで意味をなさないように接してきたからだ。
ああ、つまり、俺もあいつらと同じ―――
嗚咽とも嘲笑ともつかない呻きが漏れた。
いや、それは声と呼べるものだったのかさえ定かではなかった。
エピローグ
ここで老人のした話は終わりである。
この話にはおかしな点や現実の資料と合わない点も多く、
お話しする前にも述べたように、確かにあった事実として話すのは躊躇われるものである。
しかし、私は抑えきれず、この話をここで皆様のお目にかけた。
それは、やはり同じく与太話にすぎない“ただの年寄り”
――― あんな話をしてもなお、あの眼をしていた老人がそう名乗った―――の存在を、
信じてみたくなったからなのかもしれない。
―――了―――
長いこと書いていた「鉄獣を狩るもの」も、これで終わりです。
自分の苦手分野だったため、書くのが非常に難しかった。本来私は一発ネタ・ギャグの人なので……
書きたかったテーマ上、「現実の中でもがき苦しむ人間」を描写しなければならない話なので、
設定をきっちり詰めなければ本来いけないのですが、どうにもいまひとつな設定になってしまいました。
「お話」としての成立や、わかりやすさのため、そしてテーマを描写するために、結構おかしなことをやってしまっています。
軍事的に見れば、点の付け方もいろいろあるでしょうが、最高でも20点いかないでしょう。
何とかきっちりしながらも話として成り立たせねばならなかった所を、こうなってしまったのは私の力量不足です。
……で、そこまでして書きたかったドラマやテーマがよく書けたのか、というと、自分ではどうにも自信がありません。
プロローグで書いたエクスキューズ、「確かにあった事実として話すのは躊躇われるが、どうしても書きたかった」は、
まさに作者の本音でもあったわけです。
そんなわけで、書くのが大変で、正直何回もやめたくなりましたが、ご覧の通り、何とか完結となったわけです。
これができたのは、ひとえに、「読んでくれている人がいるのだから、最後まで書かねば」 これだけです。
皆様の書き込みがなければ、書き上げることは絶対にできなかった。
そこでお願いがあります、拙作を読んで、もし、わずかでも読んで良かったと思って頂けたのなら、
このスレでなくとも、誰かSSを投下している人がいたら、一言でもいい、何かレスをしてあげて下さい。
それで、その人は自分が一人ではないと知ることができるのだから。
最後に。拙い作品で申し訳ありませんでした、そして、読んで頂いてありがとうございました!
完結おめでとうございます。
ひっそりと終わった物語という感じでした。
そして、初登場のゴジュラスギガの圧倒的な強さ。
にも拘らず、なぜだかほろりくる印象でした。
>>193 こちらこそありがとう。
また気が向いたら、次回作も是非ここに投下してください。
ギャグでもシリアスでも待っています。
では。
>>193 完結おめでとう! そしてお疲れさん!
十分に面白かったよ!
また書いてね!
足掛け五ヶ月近くかな? 連載完結お疲れさまでした
ZOIDとか知らない俺でも軍事描写でwktkさせられる作品でした
いい作品をありがとね
>>195>>196>>197 皆さんありがとうございます。次回作は……考え中と。
アイディア段階は六本あるんですが、うち一本はどうやら私には書けないと判明。
投下がいつになるかはわかりませんが、いずれにせよ、「鉄獣を狩るもの」ほど長くはなりません。
>>197 >軍事描写でwktkさせられる作品でした
それ聞いて安堵しました。正直、軍事描写に目が行く人からは叩かれやしないかとびくびくしていたもんで……
自分のオリジナルから流用してる設定とかあったり(もちろん流用可かどうか検討して)、
ネタ書きの矜持として軍事に興味のある人にしかわからないネタ仕込んでたりして……
ところで純粋な興味で聞くんですが、>ZOIDとか知らない俺 という方がどうしてこのスレをのぞいてみようと思われたんですか?
変な意味じゃなく、ゾイドを知らなければスレタイだけじゃ何のスレか見当がつかないと思うので。
この辺の読んで頂けた理由を聞けば、スレに人を呼ぶ参考になるかと思いまして。
なんだかんだ言っても、新しい人が来なければ先細りですし。
スパロボKが発売された時にどうなるか、ですよね。
自分はこのスレの最初からいるので、新しい人が増えてくれれば凄く嬉しいです。
いままでゾイドに興味を持っていなかった方ならばなおのこと。
200 :
創る名無しに見る名無し:2009/03/01(日) 02:37:16 ID:ryPtiryE
現実→とか転生・憑依とかはありなの?
>>200 その手のSSでよくありがちだけど、度が過ぎるほどの「主人公最強!」ものでなければ。
やっぱりいきなり現代地球から惑星Ziに飛ばされたら滅茶苦茶戸惑うだろうし、役に立たない知識も多い。
それでもあがいてあがいてゾイドと共に生きる道を掴み取るっていうのならありだと思う。
転生・憑依ものも同様かな。
>>198 197っす
単にほとんどのスレのログ拾ってるだけですねん
拾うだけで読むのはスルーしているスレもありますが、
こちらのスレみたいに作品投下のあるちゃんとしたスレの場合は、
時間があるときに中身まで拝読しております
なので人を呼ぶ参考にはあまりなりません、ごめんなさい><
もしもバンにフィーネ命の人が憑依したら…
黒髪派か金髪派かが問題だな
黒髪→第1世代ゾイド
金髪→古代ゾイド人
って感じで設定がかなり違うんだよな、フィーネって。
>>200−201
アニメ無印と/0しか知らない奴が、バトスト世界、ヘリック・ゼネバス間の中央大陸戦争時代に飛ばされて
知識がまるで役に立たないって状態から始めるってネタはどうだろう?
ゾイドジェネシスしか知らない奴が、他のゾイド世界に飛ばされて
そこでゴジュラスやらを見て「バイオゾイドだ!」
とか?
間違えて初代バトロワの戦場に降下してしまい
大混乱に陥る手旗信号の審判さん。
バトストだった。
桐山がゾイドに乗ったら最強だな
ゾイドバトルロワイヤルだばかやろう
あげ
>>207 バイオはデザインラインできちんと差別化して異質な存在だからそれは無理がある
恐竜型がどうこうという知識がなければそんなわざとらしい勘違いはしない
>>206 むしろ話的には逆のほうが自然でしょうね
過去の知識をまるで知らないのは不自然だけど
未来の知識は絶対に得られないからね
過去から来た人が浦島太郎状態で知識が通用せず右往左往するほうが自然だし話として面白い
>>214 ゾイド板の某スレで、未来で得た情報から共和国にネオゼネバス侵攻を警告したんだけど、まるで信じてもらえず……、
ってのを書いたことあったなあ……。
オルテガは腕時計に目を落とした。
十時五十四分五十三秒。
きっかり七秒後に目の前の海面が轟音とともに泡立ち、真っ白な水柱が立ち上がるのを見てオルテガの顔に
微笑みが浮かぶ。
八歳の夏休みに子供部屋を吹き飛ばして以来、人生の大半を火薬の取り扱いに捧げてきたオルテガにとって
正しい場所に正しいタイミングで起こる爆発は膣内射精にも勝る快感だった。
ダワイ島は東西29マイル、南北31マイルのほぼ円形をした島で、クシャクシャに丸めたレースのパンテ
ィのように起伏に富んだ地形と無数の洞窟を持つ典型的な火山島である。
中央大陸戦争時代の要塞跡と小さな漁村、そして猫の額ほどの農地と手付かずの自然を持つこの島は現在本
土のリゾート会社によって観光開発が行われている。
そしてリゾート会社に雇われた現場監督であるオルテガは、入江に大型船が接岸可能な桟橋を建設するとと
もに入港する船が船底を削り取られないよう、海中に
突き出した岩棚をダイナマイトで吹き飛ばす作業をしていてたった今、最後の発破が爆発したところだった。
オルテガは足元に置かれた氷の浮いたバケツの中から冷えたシュナップスの瓶を取り出して一口啜ると、陽
射しを避けてプレハブ建築の事務所の陰に寝そべる作業場の使い走り、飲んだくれのスピロに向って怒鳴っ
た。
「ウィルズは何処にいる!」
ノロノロと身を起こしたスピロが首を横に振るのを見て、オルテガの首の血管が音を立てて膨れ上がる。
「いいか、こっちはくそ忌々しいオーナーに工期が遅れてるってせっつかれててそのうえこのくそ忌々しい
島の海底で作業を進めるにはウィルズのマッカーチスが絶対に必要で、おまけにくそ忌々しいザリガニを扱
えるのはあのくそ忌々しい若造ただ一人なんだ!分かったらさっさとウィルズを探しに行け!十五分以内に
見つけられなかったら首だけ出して砂浜に埋めてこの世の終わりが来るまで毎朝ロバを引いてきて貴様の顔
を便器に使ってやる!」
よたよたと駆け出すスピロを見送ったオルテガは再度シュナップスの瓶を口に運ぶ。
(かまうものか!)
六時間後には工事の進捗状況を、本土のエアコンの効いたオフィスにふんぞりかえる雇い主に報告しなくて
はならないのだ。
工期の遅れを追求するオーナーの罵詈雑言に立ち向かうにはアルコールの力が必要だった。
「どうして夕べ会ってくれなかったんだい?」
「「そんな昔のこと…」」
「じゃあ今夜会ってくれる?」
「「そんな先のこと…」」
件のマッカーチス乗りは島内唯一の繁華街にある島内唯一の大衆食堂兼酒場兼郵便局兼旅館、「虐殺された七
人の英雄亭」一階の食堂で店の看板娘であるコトナとリンナの美少女双子姉妹相手にクダを巻いていた。
ウィルズは強い日差しで色が褪せた縮れ毛と日焼けした鼻を持つがっしりとした青年で、髪を整えて髭を剃
り、パリッとしたスーツを着せれば歌舞伎町のホストといっても通用する美丈夫だが残念なことに髪はボサ
ボサで髭は三日ほど剃っておらず、服装は着崩れたワイシャツに履き古したチノパンという出で立ちの現状
ではせいぜいマカオのポン引きがいいところだった。
「つれないなあ、だがそれがいい!」
図々しくもコトナの腕をとり手の甲に唇を押し付けようとしたウィルズは、次の瞬間何が起こったのかも判
らないうちに店から放り出されていた。
降り注ぐ太陽光と熱く焼けた赤土の熱をうつ伏せに倒れた体の両面に感じ、ようやくコトナに投げ飛ばされ
たのだと思い至ったウィルズが身を起こすと、目の前に鈍く輝くメタリックグレイの獣の顔があった。
「ようヴァルカン、今日はご主人様は一緒じゃないのか?」
「ここにいる…」
黒鉄色のオーガノイド、ヴァルカンの背後から痩せた少女が現れる。
「相変わらず貧相なカラダだなクリテムネストラ」
カプッ!
「ノォォォォォォォォツ!」
「進歩が無い…」
要塞跡に住む考古学者(島の人間からは変人とみなされている)の孫とその従者と知り合って以来、クリテ
ムネストラの身体的特徴をからかい報復としてヴァルカンの牙を受けるのが流れ者のゾイド乗りと孤独な少
女の間で繰り返される儀式になっていた。
「で、今日はどんなお告げがあるんだ?」
ヴァルカンの?からようやっと頭を引っこ抜いたウィルズが訪ねる。
灰色の前髪の下に両目を隠した神秘的な少女は時折電波な発言をするが、後でそれが事故や災害の予言だっ
たことがわかったりするので一部ではクリテムネストラを魔女と見る向きもあった。
「寝た子は起こさないのが吉…」
クリテムネストラはそれだけいうと回れ右して忠実な護衛獣と共に、要塞へと続く坂道を登っていく。
陽炎の中に揺らめくその姿は妙に現実味を欠き、少女の存在を白日夢めいたものにしていた。
もっとも鈍感と無神経を捏ね合わせて朴念仁で揚げたウィルズは(なんか影の薄いガキだなあ、乳酸菌が足
りてないんじゃないか?)と思うだけだったが。
一時間後、マッカーチスのコクピットに収まったウィルズは右目の上にオルテガの腰の入ったいいパンチを
もらい、青あざの浮いた顔をしかめながらゾイドの両腕に装備されたバイトクローを使って海底の土砂を掘
り返していた。
パワーはあれど軽量級のマッカーチスの機体は、海流に煽られ不規則に揺れる。
歩行脚を岩肌に打ち込みアンカーに使おうとしても、海水に侵食された火成岩は簡単に崩れてしまう。
「うん?」
警告音とともにディスプレイにセンサーが捕えた情報が表示される。
爆破によって岩棚の一角に開いた空洞の中に何かがいた。
「金属反応…ゾイド?それにしちゃあ見たことのないパターンだな」
スキャナを精密探査に切り替えスコープの接眼部に顔を押し付けたウィルズは、次第に鮮明になる画像を見
て思わず声をあげた。
「なんじゃあこりゃあ!?」
風邪で寝込んでた間にSSが投下され始めている!
GJです。
続き楽しみにしてますよ。
続きマダー
「フェルミ巡査―っ!」
「な〜に〜」
ガシャンッ!!
派出所に駆け込んだジェミーは執務室のど真ん中にバスタブを据えて行水中のフェルミを見て盛大に
ずっこけた。
「何やってるんですか貴女は!」
「だって暑いんだもの」
慌ててフェルミに背中を向けて怒鳴るジェミーだったが、当のフェルミは恥ずかしげも無く一糸纏わ
ぬ裸身を浴槽に浮かべたまま涼しい顔で鼻歌なぞ歌っている。
「なんでこんな人が島の治安責任者なんだ…」
まさにorzのポーズを取ってボヤくジェミー。
「そんな私の助手をしているあなたも不幸よね〜」
「自覚があるならもう少しシャンとしてください!」
傍から見る限り息の合った漫才師のような二人であった。
「で、何かあったの?」
「そ、そうだ!港の工事現場の海底で見たこともないゾイドが見つかったんですよ!」
半眼に閉じられたフェルミの瞳が妖しく輝く。
「ふ〜ん、それは一見の価値がありそうねえ」
バスタブから出たフェルミはピチャピチャと濡れた足音を響かせながら室内を歩き回る。
「ね〜制服のスカート知らない?」
「知りませんよ!そこら中に脱ぎ散らかしてるのは貴女で―――ッ!?!」
振り返ったジェミーはぱんつ一丁のフェルミがノーブラのままシャツに袖を通しているあられもない
姿を直視してしまい、慌てて回れ右すると思わず前屈みになってしまうのだった。
海底にぽっかりと開いた空洞の中に横たわる異形のゾイド。
その巨体に取り付いたマッカーチスが両腕のハサミを器用に動かしてゾイドの体にワイヤーを巻きつ
けていく。
『オーケーだ』
ウィルズの合図を受けクレーン役を務めるべく砂浜に待機していたジェミーのボルドガルドが、甲羅
の両サイドに突出させたスパイクをわさわさと揺らしながらゆっくりと歩き出す。
やがて尻尾の付根のトーイングフックに取り付けられたワイヤーロープがピンと張り、ガクンと停止
してしまうボルドガルド。
太短い四肢が砂を掻き飛ばすがいっかな前に進まない。
「ここは俺の出番だな!」
オルテガが操縦する黄色と黒の工事現場カラーのハンマーロックが応援に加わり、力強いマニュピレ
ーターでワイヤーを掴む。
『よーは!よーは!』
大刀を背負ったライガーでも出てきそうな掛け声でワイヤーを引く二体の小型ゾイド。
「ワイヤーの先に何が引っ掛ってるのか知らないけどかなり大物みたいねえ〜」
その姿を眠そうな表情で見物しながらフェルミが呟く。
ビーチパラソルの下でデッキチェアに腰掛け、無造作に組んだ美脚の先でサンダルをプラプラさせる
その姿はどう見てもミニスカポリスのコスプレをしたお水のお姉さんである。
やがて海面を割って姿をあらわした恐竜型ゾイドの骨格標本を思わせる装甲が、午後の日差しを反射
して白銀の輝きを放つ。
仰向けの姿勢で砂浜に引き上げられたゾイドはハンマーロックよりふた回りほど大きく、細身の体型
と口から覗く鋭い牙、手足の鉤爪の中でも後足の親指の鉤爪が特に発達し鎌状になっているといった
特徴を持っていた。
そのためこのゾイドがラプトル型らしいということは判ったものの、その生物感を強調するフォルム
と剥き出しのゾイドコアは島民たちや本土からやって来た工事関係者が普段接してきたゾイドと比べ
余りにも異質であった。
海底から引き上げられたゾイドの正体について、周りを取り囲んだ人々が首を捻っているところへマ
ッカーチスも海から上がってやってきた。
「そのデカブツからワイヤーを外してくれ」
操縦席から顔を出したウィルズが言った。
「穴の奥にもう一体いやがった」
「バイオゾイドじゃよ」
ラモン教授は言った。
結局正体不明のゾイドを鑑定するため引っ張り出されたのは島民たちが伝染病患者のように敬遠する
要塞跡の怪人、自称考古学者のラモン教授だった。
「こっちの二足歩行型がバイオメガラプトル、そっちの三本角のがバイオトリケラじゃ」
二体並んで魚河岸のマグロのごとく砂浜に身を横たえた異形のゾイドをステッキで指しながら解説を
加える死神を思わせる風貌の老紳士。
照りつける日差しをものともせずに黒の外套に白手袋という出で立ちで一分の隙も無く決めたその姿
は、野犬の群れに紛れ込んだグレートピレニーズばりに場違いだった。
そんな教授の傍には、オーガノイドのヴァルカンを従えたクリテムネストラが影のように控えている。
「で?バイオゾイドって何なのラドン教授」
「ラモン」
フェルミのボケに毛ほども動じることなく能面のような表情で訂正したラモンは、詳しいことは何も
分かっていないと続けた。
「何分資料がほとんど残っとらんのでな、現代の技術では再現不可能な失われたテクノロジーで作ら
れたゾイドらしいということしか言えん」
「つまり高く売れるってことだな!」
スピーカーで増幅されたその声は、二体のレブラプターを従えてやってきたヘルディガンナーから発
せられたものだった。
何かと悪い噂の絶えない村長のグリアスンと手下のゴメス&ロドリゴである。
「猛烈に悪い予感がしてきやがった…」
その場にいた全員を代表してウィルズが言った。
支援?
投下は終了したのかな?
えー!そのゾイドを組ませるのかよ!? 的なタッグマッチとかチームを見てみたい保守
ゴンベが種まきゃカラスがほじくる……
なぜだか自分でもわからないが、
2基の連装ミサイルランチャーを搭載した改造グランチュラを操縦して伏撃位置に向かっていると、
ラッド・イノウエ上等兵の頭にはいつもこの歌が浮かんでくる。
初めはどこで聞いたのだったか、確かこれは地球の歌ということだった。
どうして知っているのかわからないくらいだから、だいぶ昔、そう、子供の頃から知っているのに違いない。
カラスが寄り付かないなり何なりする工夫をすればよいのに、そう思うが、
この歌が浮かんでくるのはいつもこの改造グランチュラを操縦してえっちらおっちら進んでいるときであり、
この何とも表現し難い操作性に敵の目に触れないため露外走行をしていることが相まって、
その思索が深い所に至ったことはないのだった。
いや実際、この改造グランチュラは「操縦する」と言えるのか?
こいつのコアとパイロットとの間には直接の接続はない。ではどうやって動かすのか?
操縦すると言えるのかどうかというのはこの辺りの機構から出る疑問で、
この改造グランチュラは、コアに操作信号を直接伝えるという一般的な方法ではなく、
もともとのゾイド自体の反射を利用して動かしているのだ。
危険から逃れるため、ある刺激を受けると反射的にその時いた位置から離れるという動物は、
ゾイドに限った話ではなく例えば地球にもいる。
人間が手足に痛みや熱さを感じると反射的にそれを引っ込めるのも、似たようなものと言えるかも知れない。
この改造グランチュラは、もともとのゾイドが持っていた、
空気や地面のあるパターンの振動を感じるとその反対方向にある距離だけ走るという反射を操縦に利用している。
つまり、その振動を感知する感覚器を再現してやり、その感覚器をケースで覆って外部からの振動の伝達を経ち、
ケース内にパイロットの操作で振動を発生させる機構を入れているのだ。
ここからうかがい知れるように、緻密な操作ができるどころか、
前進と旋回をさせられるのみであり―――後ずさりさせることすらできないのだ!―――、しかも前進速度の調整が効かない。
玩具のリモコンの操作性ですらこれより遥かに優れているだろう。
こんな代物に乗らなければならないとなれば、誰だって開発陣を片端から殴っていきたい気分になるだろうが、
そんな難儀な機構に改造されたのは、この改造グランチュラの開発目的からいってやむを得ないことともいえ、
それはすなわち現在の共和国軍の置かれた苦境への対抗策に直結しているから、
最も直接的かつ効果的なやり方でストレスを発散出来るどころか、文句を言ってやることすら出来ないときている。
そしてそのことは、この改造グランチュラの武装の内容、
すなわち“ピノキオ” ARM(Anti-Radiation Missile;対レーダーミサイル)の納まったランチャーを
装備させられていることにもつながっている。
そのうちラッドの乗る改造グランチュラは、進路途上の畑に行きついた。
よく耕されたと思われる土は水を与えられたばかりで十分な湿り気を含んでいるのか黒々としていて、
そしてまだ芽を出している作物はない。
この辺りは“抵抗地域”なので、多少のことは住民に容認されるとはいえ、毎度のこと気が進まないのだが踏み込んでいく。
畑を突っ切るのは土埃が舞い上がりやすくかつ足跡の目立つ道の上より移動を秘匿しやすいからであり、
それは軍事行動というものをしている以上仕方のないことなのであるが、
なにしろこの子供の玩具以下の操縦性の機体では、農地への蹂躙に対する手心というものを全く加えられない。
ラッドの眼前には、農業の知識のない彼には何が植えてあるのかわからない畑が広がっているが、
その端がだんだんと近づいていく。
言い換えればこれは、改造グランチュラの通ってきた距離が長くなっていっているということであり、
つまりそれだけ作物をぐちゃぐちゃに踏み潰してきたということである。
まあ取り敢えず、振り返る気にはならない。
こいつじゃなかったら、損害をなるたけ少なくできそうなところを選んで通ることもできるんだろうが、
左右のレバーをガチャガチャやって動かすような代物に乗ってちゃ、時間の問題でそれは不可能だ。
何しろ、時計に従って行動しなけりゃならないのだ。他の連中も時計だけに従ってるから、遅れるわけにいかないのだ。
と、
「各グランチュラ、配置を急げ」
あの野郎だな、早速世迷言を言ってきやがったか、無線もヤバいんだってのがわからねえのか畜生。だから時計で行動してんだ。
高速戦闘科の少尉ごときが威張ってんじゃねえ穀潰しめ。
お前らがあいつに手も足も出ないってから
陸上戦闘ゾイド駆逐中隊の俺様が歩兵科なのにもかかわらず戦闘ゾイドに乗って闘ってやってるんだろうが。
士官学校じゃ威張る時に効果的な胸の張り方とかしか教わってねえのか。
改造グランチュラは畑を横断し終わり、そこからまたちょこまか進んで納屋の脇まで来た。ここが目的地だ。
ラッドは納屋の脇よりグランチュラの全長二つ分弱ぐらい離れた位置から、
ぐるりと円を描くように半回転旋回して納屋の脇につけるように停止させた。
ミサイルの射界はふさいでいないが敵からは納屋の陰に隠れて見えにくい位置のはず、今回はなかなかいい位置に止められた。
このガタガタ動かす素敵な乗り物で半回転させてこの位置につけるというのはなかなかにコツが要る。
ミサイルという奴は発射時に炎と噴煙を盛大に噴き上げる。
そしてこの改造グランチュラはARMと重機関銃しか火器を搭載していない、
すなわち歩兵相手に防御戦闘―――しかも分の悪い―――をすることしか出来ない。
つまり自殺願望がないのだとしたらミサイルをぶっ放したらとっとと移動しなければならない。
そしてラッドはこのまったくもって忌々しい現世というところにもう少しいたいから、
発射ボタンを押したかどうかくらいでずらかりたい。
そこへもってきてこいつは後進をさせることが出来ないから、今から頭を敵とは逆方向に向けておくというわけだ。
そしてミサイルランチャーは出発する前から後ろに向けている。
さて、と、ラッドは時計を確認した。遅刻はしてない。
納屋の中に住民がいないか確認しに行こうかとも思ったが、どうせいやしないに決まってるのでやめた。
民間人の戦闘の足跡を聞き取る能力は大したものだ、おそらくどんな諜報機関だって敵いやないだろう。
現にここに来るまでずっと人っ子一人目にしていない。
ラッドは表示と周囲の光景をもう一度見まわしてから、予定の地点に視線を向けた。
時計はもうすぐその時間を告げようとしていた。
>>225の書き込みを見て思いついたものを書き始めました。
後悔はし始めている。
乙
GJ
楽しみにしてる
便りが無いのはいい知らせ……か……?
時計は砲撃開始時刻を指した。ラッドに確認出来る意味のある変化はそれだけ。少なくとも今の時点では。
無線も入ってこなければ、戦場情報システムのモニターも待機画面のまま、
周囲の光景も、まるで戦場とは切り離されて別の次元に置き去りにされたかのような山間の農村風景が広がっているだけ。
もっとも、スケジュール通りに事が進んでいても、密かに計画が狂い始めていても、
現時点ではどっちみち同じその状態になるので、果たして自分がどちらの状態に置かれているのか、てんで知りようがない。
まるで民間人と同じだな、そしてつい今しがたもその見事な実例を見たように、民間人は戦闘の足音を聞き取る、
これでは軍人と民間人とどちらが戦闘のプロかわかったものではない。
やれやれ……、とラッドは何となく入隊宣誓をしたときのことを思い起こした。
その場の全員が、馬鹿にしたくなるほどの正しい姿勢で宣誓したものだ。
さてはてどうなっていることやら……。
どうせ向こうもこっちと同じく自分の置かれた状態を確認する術が無いのはわかっているが、
後方監視モニターに映し出されているパンツァーを見やる。
重武装・重装甲のその機体は、盛り上がった地形と倒木を盾にする位置につけている。
他にもコマンドウルフやシールドライガーがそこかしこに隠れている。いい位置に。
歩兵、それも陸上戦闘ゾイド駆逐中隊所属のラッドとしては、
地形に隠れての伏撃は俺達の仕事だろうが、そこを譲れと思わずにはいられないが、思うだけだ。
口に出したところでどうにもならない。
あのデカブツ連中でも隠れられる遮蔽物は限りがある。
だからそういった限られた遮蔽物に隠れられるように連中の位置を決めてから、
それに合わせて小さな改造グランチュラに乗っている自分達の位置が決められたのだ。
不服申し立てなど聞きいれられるわけがない。
そもそも、反射を利用して操縦するように改造するにしても、
同一の野生ゾイドを使用していてかつより新型のエクスグランチュラがありながら、
グランチュラなどという博物館か骨董屋の軒先がお似合いなくらいの旧式機体が引っ張り出されてきて自分達にあてがわれたのも、
遮蔽物を優先的にかすめ取られても隠れ場所を見つけやすいように、小型の機体が選択されたからなのだ。
陸上戦闘ゾイドが優先、陸上戦闘ゾイドが優先か……。
計画通りに事が進んでいると仮定するならば、
今、ネオゼネバス軍部隊の駐留地に砲撃を加えているはずのカノントータスの備砲だってそうだ。
現在配備されているカノントータスの備砲は荷電粒子砲である。
それで射程と威力の増大を得たという触れ込みだが、
射程の方はともかく、威力の方は増大したというのはあくまでカタログスペックの数字の上での話だろうと
―――ラッドは歩兵であるからなおのこと―――思わずにはいられない。
粒子ビームという奴は不器用である。いや、この言い方は不適切か。
砲弾、特に大口径のそれというものは極めて芸達者なのだというべきだろう。
すなわち、いろいろ仕込めるのだ。
間接照準で狙う相手という奴は、様々な防御態勢を取っていることが多い。
単純に伏せているだけというのもあれば、壕にこもっているのもあるし、何らかの遮蔽物を利用していることだってある。
まさに千差万別なのだ。
そのような相手に効果的に損害を与えるには、
相手の種類・状態によって適切な仕組みの砲弾を撃ち分けられる大口径砲が最も適している。
特に、何らかの防護構造を利用している歩兵相手にはだ。
であるのに、間接照準砲撃を担うべきカノントータスの備砲は荷電粒子砲に変更されてしまった。
これも、―――歩兵の立場から言わせてもらえば―――陸上戦闘ゾイドが優先されているからなのだ。
大異変により甚大な被害をこうむった各地のインフラは、未だに十分に復旧されたとは言えない。
当然その中には道路や橋といった交通設備も含まれるから、
不整地走破速度の違いにより、各種陸上戦闘ゾイド間で展開能力に大きな差が出来てしまった。
そして、カノントータスと、クイーバートータス―――カノントータスを改造した戦場弾薬運搬・搭弾用ゾイド―――は、
展開能力の低い部類に属する。
つまり、展開能力の高い部類の陸上戦闘ゾイドを用いた作戦のテンポを遅らせることになりかねない。
陸上戦闘ゾイドという、不整地走破能力・路外速度・航続距離のいずれもが極めて高いレベルにある兵器が存在する
Ziの戦闘とは、すなわち極めて流動性の高い機動戦が主になるものだから、
作戦テンポというものはまさしく死活問題となる。
ではどうすればよいか。
これに対して共和国軍上層部が出した解答は極めてシンプルなものであった―――
カノントータスの備砲を、絶大な射程を持ちかつ必要補給回数が少ないものに変更すればよい。
そしてそれが具体的にどういうものだったのかというと―――荷電粒子砲だったわけだ。
4ともあれ、そうして増大を得た射程が、
今行っているように山間部に押し込められた現在の状況で“嫌がらせ”砲撃に役立つことになるとは、
偶然のイタズラというものの奇天烈さを思い知らされずにはいられない。
地平線の遥か彼方から飛んでくる荷電粒子砲は、
撃たれている側は磁場その他の条件を基に計算してやらなければ射撃位置を割り出せない。
一方、カノントータスの側は、遅いとはいえそれはあくまで陸上戦闘ゾイドの中で走行速度を比べた話であり、
射撃陣地転換は敵による射撃位置特定と対砲兵射撃のための射撃緒割り出しに比べれば十分早いから、
ぶっ放してからそのときの自分の位置がバレてお返しの射撃が降ってくるまでの間にとっとと移動してしまっている。
それでもまあ瞬間移動するわけでもないから、カノントータスが布陣している上空か近くの物陰から観測でもしていない限り、
結局のところ敵は、カノントータスはおおよそこの辺りにいるという程度の情報を持つことになる。
これではカウンターバッテリーなんぞ事実上不可能と考えるべきで、実際ネオゼネバスの連中もそう考えているだろうから、
自分達にボコスカ撃ってくる厄介な奴等を排除するために……
「敵陸上戦闘ゾイド発見、11時―――」直接お出でになるわけだ。「―――、射撃開始!」
パンツァー始め羨ましい位置に陣取っている陸上戦闘ゾイドが射撃を開始する。
乙
2週目のホントに終わりでやっと戦闘開始で御座います。展開遅くて申し訳ありません。
投下GJ。
やっぱりカノントータスは良いゾイドだよね。
大砲が撃つものが実弾から荷電粒子に変更された理由にまで
踏み込んでる2次創作ははじめて見たな
>>239>>241>>242 読んで頂いてありがとうございます。
>>241 カノントータスはいい。実にいい。
面白いことに、小型で低機動性、特殊な能力があるわけでもないという、ロボット作品だと普通地味な役回りになりそうなメカなのに、
旧バトルストーリーだとかなり「おいしい」役どころを貰っているんですよね(ウルトラとの戦闘・フロスト中佐達に対する最期の敵としての登場)。
確かに「ロボット物のお約束」的なものを無視して純粋に機体の特性で考えればそういう役回りになるんですが、
バトストの中の人達もカノントータス好きだったのか?
後何がすごいかって、これだけのものが素人のアイデアで生まれたってことだよなあ(第2回X-Dayコンテスト作品)。
でワタクシ、ちょっとカノントータス中心話考えてみたんですが、何だこの鬱話は……
カノントータスほとんど閣座しっ放しだし(撃つシーンは出てくる)。
>>242 特性のの大きく異なる機体同士の役割分担が、
他のロボット物に対して強く差別化できるゾイドの魅力の一つだと思ってるので、
この辺の設定はしっかりしようと思ってます(反対にキャラの容姿とかはまるで気にしてないんですが)。
まあ俺みたいな病気が進行すると「勢いあるし萌えキャラ出てくるの書いてみよう」と思っても
へリックとゼネバスのそれぞれの社会制度や軍制がああなっている理由やら山岳騎兵という部隊やらといった設定ばっかり出来て
萌えキャラの設定ひとっっつもできねえというザマになったりします。
では次のレスから続きをば。
ラッドは納屋の陰に隠れたまま後方監視モニターと戦場情報システムで戦闘の推移を見守っている。
彼自身も、それぞれの伏撃位置についているだろう他の改造グランチュラも、まだ戦闘には加わらずに時を待っていた。
そのため、秘匿性を低下させないよう、自機情報の送信を行っていない。
故に当然、先程から表示され始めた戦場情報システムのモニターには、彼ら自身の姿はない。
こんな玩具以下の操縦性にされた機構のおかげで、あれの餌食になることはないが、
他の敵からの攻撃に曝される危険があるからだ。
そうなったら逃げ切れたら恩の字、与えられた任務を果たすことなど出来ようはずもない。
まあもっとも、敵が今からこっちの存在に気付いたところで、
一々俺達を標的に選んでいられるかどうかはまた別問題ではあるんだがな―――
それでもやはり見付からないというのはありがたいものだと思いながら、
モニターの中で繰り広げられる光景に、ラッドはそうつぶやいた。
戦闘はこちらが優勢である。
伏撃をした側とされた側では前者の方が圧倒的に有利であるのもさることながら、
やはりパンツァーがあの位置につけているのが大きい。
何をおいても排除したい大火力の持ち主が、重装甲を身に纏いかつ効果的に遮蔽物を利用しているのだ。
しかも共和国軍側は、ある機体に対して回り込もうとする相手に対し、他の機体が側面から射撃できるよう、
陸上戦闘ゾイド同士を配置している。
これでネオゼネバス軍側が手こずらないわけがないのだ。
ああ、また敵が一機パンツァーに喰われた。あの火力の化け物をとっとと何とかしたくて堪らずに焦ったな。
だが、この状況じゃ火力によって撃破するのは無理だ。
火力によっては。
つまりは自分達の出番が迫っているのだろう、ラッドはうっかりキャノピーにロックを掛けていないか確認する。
キャノピーのロックは、この機体では、キャノピーの取っ手にコクピット内にある回転するフックを引っ掛けるようになっている。
今はキャノピーが閉じられているから、それら同士は近くにある。
それらも、その周囲も、塗装が剥げたところどころか、塗膜が薄くなったところさえなかった。
高度な塗装技術のおかげ―――というわけではない。
頻繁に触れる取っ手中央付近の塗装が塗りたて同然なのはそれで説明が付くとして、
ロックを掛け外しすれば金属の部品同士が擦れ合うことになる箇所まで塗装がやれてさえいないというのは、
つまりロックを掛けたことがまるで無いということを物語っていた。
実際、訓練でこの改造グランチュラに数回搭乗して、キャノピーをロックを使って固定しておく必要性の無さを学習してからは、
ロックを掛けたことなんか無い。
陸上戦闘ゾイドのコクピットハッチというものは、トーションバーなりコイルスプリングなり、
何らかのバネがヒンジ部に仕込まれていて、さほど強くない力でも人の手で開け閉め出来る構造になっていることが多い。
モーター等の動力が無ければ開くことが出来ないのでは、脱出しなければならない事態に陥った際に、
破損や不具合で閉じ込められる危険があるためだ。
そのため、ハッチにロック―――といっても、この機体と同様の簡単なものがほとんどだが―――をしていないと、
激しい機動をしたりコクピットが大きく傾いたりした場合に勝手に開いてしまうことがある。
しかし、この改造グランチュラでは跳んだり跳ねたりなんぞ出来ようはずがないから、
最初からキャノピーにロックを掛けてる奴なんかいない。
いないのだが、およそこの世に絶対などというものはない。
無意識にせよ引っ掛かったか何かしたかにせよ、
どこかしらで間違いを起こしてうっかりロックを掛けてしまっている、ということが無いとは言い切れない。
そんなことはまず無く、さらにもしロックが掛っていても物の数秒とかからず外せるとはいえ、
そのことで軍の用意してくれた無駄に豪勢な棺桶を利用するハメになる可能性がわずかなりともあるとなれば、
陸上戦闘ゾイドに乗せられている者にとって、ハッチにロックが掛っているか否かより重要なことなどこの世にあろうか。
ラッドは、フックとキャノピーの取っ手に目をやる。
取っ手とフックは、着座姿勢のまま軽く手を伸ばせば触れられる位置にあるのだが、いつも遠く感じられる。
グランチュラのキャノピーは後ろ開きのため、ロック機構は出来るだけ前方にあった方が効果が高い。
しかし、緊急時にロックを外すときはすぐ手が届く位置にあった方がよい。すなわちあまりに前方にあるのは望ましくない。
この二つの兼ね合いから、着座姿勢で手を伸ばすと操作出来る位置にフックが設けられているのである。
しかし人間とはやはりそのときそのときの自分の都合というもので物事をとらえるもので、
たとえロックなど常にかけず脱出せねばならない羽目に陥った場合でも操作の必要が無いとしても、
手を伸ばさないと触れられない位置にあるというのは、遠く感じられるのだった。
この辺りが、前開きハッチの存在意義だった。
後ろ開きのハッチは、ヒンジの損傷確率が前開きのそれと比べて低い、少し開いて直接視界が得られるなど、
前開きハッチに比べて利点が多い。
にも関わらず、前開きハッチを採用している陸上戦闘ゾイドは少なからず存在する。
それは偏に、ハッチロック機構を後方、すなわち乗員の手のすぐ近くに設置できるということによるのだ。
特に、高速ゾイドと頭部に格闘兵装を持つ戦闘ゾイドに前開きハッチを採用しているものが多い。
高速ゾイドは、多数の被弾が予測される、すなわち多数の敵がいる地点は、
その不整地走破能力を活かして迂回するのがセオリーであり、
また、戦闘行動中は時速100kmを超える程の速度で移動していることが殆どであるから、ハッチを開けていられない。
つまり、被弾による損傷の確率が低い、薄く開けて直接視界が得られるという、後ろ開きハッチの利点があまり活きない。
頭部に格闘兵装を持つ戦闘ゾイドは、ハッチのヒンジを含めて頭部が構造的に強固につくられているものであり、
またその頭部の格闘兵装を使用する際の衝撃に備えてハッチをしっかりロックしていなければならないから、
後ろ開きハッチだとロックをハッチ前端付近に設けざるを得ない。
フックが取っ手には触れずにお利口に回転部からぶら下がっているのを確認すると、
ラッドは再び後方監視モニターに目を移した。
そして予想に違わず、パンツァーのコクピット脇から紫色の煙が立ち上る。
パンツァーのパイロットがハッチを持ち上げて拳銃から信号弾を撃ったのだ。
乱暴におひねりを投げられたようなものだが、カーテンコールとあればやらざるを得まい。
今日はここで終わり……と、「共和国兵士が言ってるジョーク」ってのを考えてみたんで投下してみる。
1:自由の価値とは
西方大陸に進出した共和国軍は、是非とも現地住民の協力が得たかった。
そこで、各族長を集めて説得工作を行うこととなった。
集まったひげ面の男達を前に、まずピカピカの軍服で身を固めた青年将校が進み出て言った。
「諸君! 帝国はこの地にも専制君主制を押し広げようと侵略を行っている! 民主主義のために共に闘おうではないか!」
やれやれ何を言ってるんだという表情を浮かべて、族長達は言った。
「民主主義とやらはあんたらにとっては命をかけるだけの価値があるのかもしれないがね。
しかし、俺達にとってはそうではないんだ」
ほらほら、そんな建前を持ち出したって駄目だ、見てろとばかりに次に前に出たのは目端の効きそうな若い兵である。
「共和国軍に味方していただければ、勝った暁にはあなた方に各地の開発や教育、医療などのサービスを提供して差し上げます」
目を閉じ、肩をすくめて族長達は言った。
「そりゃいいな、だが、帝国の連中も同じことを言っていた。どうせ同じことなら、勝つ可能性が高い方に味方した方がいいだろう。
で、今どっちが優勢か、あんたらにだってよくわかってるはずだがね」
全く無残な結果が出た後で、億劫そうに立ち上がったのはくたびれた風体の中年の下士官だった。
「あー、共和国軍ってのは自由のために戦ってる、
つまりあんたらが共和国軍に協力してくれて共和国軍が勝てば、あんたらにも自由が得られる、
そしてこういう言葉がある、『女房は死んだ、俺は自由だ』」
族長達は何も言わずにそそくさと帰って行ったが、その場にいた族長の全員から協力が得られた。
2:最悪とはすなわちろくでもないことがあることではなくろくなことがないことである
協力を得ようと、共和国の使者と帝国の使者が西方大陸のある有力者のもとを訪れていた。
彼らのそれぞれ自分の国についての説明と、協力の意義と見返りの喧伝を一通り聞いて、有力者は共和国の使者に向かって言った。
「ヘリック共和国は女が国の長だそうだな。女に国が治められると考えるような愚かな者達と手を結ぶことはできない」
共和国の使者は青い顔をし、すかさず何か言おうとしたが、それを遮るように帝国の使者が身を乗り出して言った。
「では、ガイロス帝国に御協力頂けるのですね!」
有力者は眉一つ動かさずに答えた。
「馬鹿を言うな。男に国が治められると考えるような愚かな者達と手を結ぶこともできない」
乙
ラッドは視界に照準モニターを入れ、その十字線の中心をパンツァーの200m程前方の空間に合わせる。
そして発射ボタンを押しこむと、
照準モニターとリンクしたランチャーがARMにデータを送信し終えるまでの、
あると事前に知っていなければ気付くことなどない僅かなタイムラグの後、
お荷物が二つ、噴煙を上げて吹っ飛んでいく。
まるでその勢いに弾き飛ばされたかのように、ARMとは逆方向に急発進した改造グランチュラを操縦するラッドには、
自分が機体を出したのがARMがランチャーから飛び出した直後だったのか直前だったのかを断言することは出来ない。
ただ、この、曲がるというより軌道をいきなり押し曲げられるというふうに進行方向を変える乗り物に振り回されながら、
何とか事前に決めていた観測位置―――ツキに見放されればそこが次発射撃位置―――にたどり着こうとしていた。
少なくとも多分今は、熟練やら勇敢やら英雄的行為やらといった、兵士に与えられる全ての称賛を、
自分達改造グランチュラに乗っている人間が独占したって文句を言われる筋合いはないだろう。
ラッドがまた華麗なターンを決めて観測位置に陣取り、後方監視モニターで確認し出したとき、
ARMは既に直進維持飛行から切り替わり、電波発信源に向けて突き進んでいた。
他の改造グランチュラの放った幾つものARMと同じ先に向かう、そこには……
いた。
撃った時にも探していれば見付けられたのかも知れないものの、
どのみちARMが探し出すか出さないかだけが問題なので探しなどせずにぶっ放したのだが、
当然のことそこに奴はいた。
ラッドがそれを認めたときには既に、
ARMは竜の牙の戦士みたいに一斉に奴―――
ダークスパイナーのジャミングブレードに襲い掛かろうとしていた。
これだけの数相手では迎撃もできまい、
そして誘導を遮るためにジャミングウェーブ発信を停止するか他の電磁波で欺瞞するかすれば、
それはすなわちパンツァーを解き放つことを意味する。
そうすれば今度はそれでダークスパイナーが即座に撃破されかねない。そのために餌(パンツァー)を奮発したのだ。
一方、ARMの方は、命中してもジャミングブレードの機能を喪失させるだけだろうが、
ジャミングウェーブを使えないダークスパイナーなどパンツァーの敵ではない。
つまりもう詰んでいるのだ。
奴に出来るのは、ARMにジャミングブレードを破壊されてから撃破されるか、それとも今すぐに撃破されるか、
そのどちらかを選ぶことだけだ。
羨ましい限りだな、選択肢があるとは。
そしてARMが次々とジャミングブレードに命中、弾け飛ぶような爆発が連続して起こっていく。
その名を戴いたピノキオの鼻よろしく、ARMの長く伸びたノーズコーンが目標に接触すると、
極短い傘の骨のように、斜め外向きにぐるりと放射状に取り付けられている複数の自己鍛造弾頭の信管が作動、
形成された高速の侵徹体はそれぞれ別々の方向に突き進む。
そしてそれらは、ジャミングウェーブの発信を妨害しないような材質と構造でなければならず、更に重量の制限のため
脆弱なものとなっているジャミングブレードの装甲をやすやすと貫き、
その衝撃で繊細な内部構造を貫徹個所を中心に破壊、変形させてその機能を奪い去っていく。
爆炎の中からのぞいたジャミングブレードはボロボロで、これなら機能は死んでいるだろうと思わせられる。
その印象の正誤は確認するまでもない。
直後、ダークスパイナーはパンツァーのハイブリッドキャノンにより沈黙させられたからである。
乙です
「一丁前にケチ付けてきやがったぜ、あの野郎」
アジト、すなわち秘匿基地と呼ぶよう規定されている山中の構造物の中、
ラッドが支給された対拷問訓練機材をせめて家畜の餌にまで向上させるための工夫に思慮をめぐらせていると、
フューリー・バニングス伍長が、こういうことを言うときの彼のいつものやり方で話し掛けてきた。
すなわち、極めて不快だ、気に食わないといった風を装おうとしているのは見て取れるのだが、
話の対象を馬鹿にして喜んでいるような様子が明確にわかり、
一体どちらが隠し切れない本当の気持ちでどちらが周りの人間にそうだと見せかけようとしている感情なのか判断のつきかねる
顔、声、雰囲気で話すのである。
「あのボケ野郎とはあの少尉殿のことでありましょうか、伍長陛下?」
「確認なさる必要などありましょうか、上等兵閣下? 無論でございますよ」
フューリーはラッドの向かいの椅子を脚で下げて腰を落とすと両手に捧げていたトレイをそれは慎重にテーブルに置いた。
見るとそこにのっているのは対拷問訓練機材ではなく人間の燃料だ。
先の戦闘ではダークスパイナーを失ったネオゼネバス軍相手に有利にことを進め、
大規模な反撃が来る前に引き上げることが出来た。
その成果にジャミングブレードを破壊するという多大な功労があったのだから、
自分達全員を対拷問訓練から解放してくれても良さそうなものだが。
「移動デパートの配線に火が回ったんだと。御高説によるとどうやら俺達は味方殺しのろくでなしらしい」
“ピノキオ”は発射時にランチャーを通じて指定された方向に直進するよう飛翔経路を自律維持し、
飛行中ジャミングウェーブを感知すると今度はその発信源に向けて自己誘導するようにつくられている。
“餌”の周囲に向けて撃ち、“餌”に向けて浴びせられているジャミングウェーブを捉えてジャミングブレードを破壊するためだが、
先の戦闘で、幾発も放たれたうちの、
曲がり切れなかったのだか不具合か何かで自己誘導が働かなかったのだかした“ピノキオ”がパンツァーに命中したのだ。
もっともそういったアクシデントが起こることも計算のうちではある。
弱装甲だが大面積のジャミングブレードが目標であるため、
“ピノキオ”の弾頭は斜め外向きに放射状に取り付けられた複数の自己鍛造弾となっている。
複数を搭載するため一つ一つはどうしても小さくなり貫徹力が低くなるが、
複数の侵徹体が放射状に飛ぶため被害面積が大きくなるのだ。
この構造の副次効果なのだが、一つ一つの侵徹体の貫徹力が低いため、
重装甲の戦闘ゾイドならば、“ピノキオ”が命中しても、
余程当たり所が悪かったとしてせいぜい修理無しでは移動出来なくなる程度のはずなのである。
“餌”役にパンツァーのような重装甲の戦闘ゾイドを当てるのは、
火器ではなかなか撃破出来ないためジャミングウェーブの標的に選ばれる公算が高いということの他に、
アクシデントで“ピノキオ”が当たってしまっても実質的な損害が出にくいという理由もあるのだ。
だが、先の戦闘では、パンツァーの蓋が開いていたミサイルポッドの発射面から運悪く侵徹体の一つが内部に飛び込み、
誘爆の炎が配線に回り延焼、自動消火機構に消し止められるまでの間に、
本格的に修理が済むまでそのハードポイントが使用不能になるほどの被害を出していた。
フューリーの言葉に、フン、そいつはまた……と言いつつも、ラッドは覚悟を決めてスプーンを口に運んだ。
一噛みごとに、口の中には永劫に人類がそれを表現する術を持たないであろう感覚
―――これを味だの風味だのといった言葉で呼ぶのは恐らく適切ではない―――が、
頭の中には「なぜこんな目に逢わなければならないのか」というやるせなさと憤りが広がっていく。
まったく良く出来ている。
確かに「拷問などこれにくらべたらたいしたものではない」という気分になる。
極めて優秀な対拷問訓練機材と言える。
わからないのは、これを支給しているのが開発部や情報部ではなく兵站部であるということだけだ。
自分のコップの水の残量に愕然としながら、ラッドはフューリーの発言に応じた。
「ありがたい言い草だな。
そんなに俺達が気に入らないんだったらスナイプマスターかケーニッヒウルフでも引っ張り出しゃいいんだ。
そもそも俺達は頼まれて協力してやってるんだからな」
そうとは言いつつ、
ラッドも今自分達が改造グランチュラで行っている任務にスナイプマスターやケーニッヒウルフを当てるのは
問題が多いことくらい理解している。
ダークスパイナー相手に狙撃を行うということは、ダークスパイナーが出て来るまで隠れていなければならないということだ。
つまり言ってみれば、ダークスパイナーが出て来るまで戦力として使えないということである。
極端な話、遭遇したネオゼネバス軍部隊にダークスパイナーがいなくても、
策敵能力が向こうが上なのと、いるのにいないと判断してしまった場合の深刻さから、
そう簡単にはダークスパイナーがいないとは断定できない。
ダークスパイナーはそう数の多い戦闘ゾイドではないから、常にどこの部隊にもいるわけではない。
するとダークスパイナー狙撃を任されている戦闘ゾイドは、最初から最後まで遊兵になってしまう可能性も高いのだ。
スナイプマスターもケーニッヒウルフも、グランチュラより遥かに数が少ない。
上の考えとしては、その任務をグランチュラがこなせるのであれば、
それにスナイプマスターやケーニッヒウルフをまわしたくないだろう。
更に連中はグランチュラよりデカいため、隠れ場所の選定にその分制約が多い。
そして、改造グランチュラみたいな機械的接続とゾイドの本能だけによるという、
ジャミングウェーブの介入の余地の無い操縦機構に出来ないため、
見付かってしまった場合にどうすることも出来なくなってしまう恐れも高い。
まあもっとも、あの素敵な乗り物の操縦性では、
見付かった場合のどうしようもなさについては違いなどラッドには見出せないのも確かだが。
「日頃の行いってヤツだろうよ。見ろ、俺みたいに日々善行を積んでりゃ報いが違ってくる」
フューリーはそう言って、下に向けた親指で、
テーブルの上に置いたときからラッドの目を釘付けにしている財宝
―――もう少しで全て彼の腹に行ってしまうのを待つばかりの残りだが―――をちょいちょいと指すと、
エラそうに胸を張ってみせた。
それはお前一流の“魔法”のおかげだろう―――
ラッドは一旦視線を持ち上げてフューリーの顔に向けてから、自分が摂取義務をまだまだ負っている異物に目を落とし、
それからまたフューリーの方を見て口を開いた。
「八当たりもいいところだろうな」
電子戦能力に優れた相手に対し、秘匿性を保つためギリギリまで無線を使わないことにしていたところに、
移動中の改造グランチュラに不要な通信を入れたことで、高速戦闘科の少尉は大目玉を食っていた。
ま、そんなところだ―――と言ってみせると、フューリーはいきなり全く別の話題を出した。
「ところでだ、前に言っていたろう、ほら、あのお前が何でか知っている歌ってのはどういうんだったか?」
「ゴンベが種まきゃカラスがほじくる……か?」
「そうそれだそれ。ああ、そういうんだったな」
「それがどうかしたのか?」
「いやなに、別にどうってこともないが何となくちょっと調べてみようと思ってな」
急に出てきた思わぬ話題に不意をつかれたのを悟られるのが何か尺なので、
わざと面白くもなさそうに返したラッドの様子は全く気に掛けた風も無しにフューリーはそう答え、
わかったらお前にも教えてやるぜと言ってテーブルを後にした。
ラッドはコップに水を汲みに行く。
彼はまだまだ孤独な戦いを続けなければならなかった。
今日はここで終わり……と、ゾイドが出なくて申し訳ない。
しかし……ゾイド出てる部分より面白いような気もする(汗
パソコンは規制中なので電話からGJ!
何やかやと気に入らないことが多いものの、
今もまたラッドは伏撃位置に陣取った改造グランチュラの中で発射ボタンを押す時を待っていた。
共和国軍部隊とネオゼネバス軍部隊の戦闘はやはり、共和国軍側優位で展開している。
そして、パンツァーの頭の近くから紫色の煙が立ち上った。
まるで無反動砲の砲弾とカウンターマスのように、改造グランチュラと“ピノキオ” が互いに逆方向に飛び出す。
ラッドはシェーカーの中身に親近感を抱きながら観測位置に乗機を運び、後方監視モニターに視線を向けた。
“結末”を見届けようと。
だが、そこに映し出されたのは“異変”だった。
ダークスパイナーに向かって突き進んでいくARMが、目標に到達する前に次々と弾け飛んでいくのだ。
自爆? ネオゼネバス軍側が何らかの電波によって“ピノキオ”の信管を誤作動させ自爆させているのか?
いや、そんなはずはない。
“ピノキオ”の信管を外部から誤作動させられるような電波を送信し続ければ、
ジャミングウェーブが攪乱されてパンツァーが行動の自由を取り戻す恐れがある。
つまり、何らかの火器によって撃ち落とされたのだとしか考えられない。
だが、あれだけの数と速度の小さな目標を全て撃ち落とせる火器のプラットフォームなんてあるのか?
仮にマリオネットの操作に忙しいダークスパイナーを除くネオゼネバス軍側の機体の全てでかかったところで、
目標の割り振りの問題もあってそれが可能かどうか。
その上、そんな多数でなまじ威力のある火器をバラ撒けば同士撃ちの危険さえある。
しかも、ネオゼネバス軍側にそんなことをしている様子もない。
一体どうやって……。
とにもかくにもダークスパイナーの周辺を観察するラッドは、奇妙なものがあるのに気が付いた。
「トーチカ? あんなところにそんなもの無かったぞ?」
いつの間にか、そこには、
砲弾片を受け流すのに好適そうな、伏せた丸い皿のような形の、小型戦闘ゾイドほどの大きさの物体があったのだ。
少なくともラッドにとっては、それはトーチカなのだが、
それではトーチカがいきなりぽんとその場に現れたか、自力か他力かはともかく移動してきたということになってしまう。
そんなことが……。
と、ラッドはふいに気が付いた。
その“トーチカ”に、ハサミと脚が生えていることに。
「戦闘ゾイドか!」
そう、それはこの場にいる共和国軍将兵の誰もが初めて遭遇するネオゼネバス軍戦闘ゾイド、
EZ-061 キラードーム。
ラッド達には知る由もないが、このネオゼネバスの新鋭水陸両用戦闘ゾイドは、
渡河・上陸作戦時に、待ち構える多数の敵歩兵や火点に対抗するため、
発射速度の高いパルスレーザー砲を八門、全周にバラ撒けるよう、回転する円盤状のレドームの外周にぐるりと装備している。
このパルスレーザー砲は、対戦闘ゾイド戦闘を目標とする火器ではないため、威力はさほどのものでもない。
しかし、爆発物が詰まった入れ物である弾頭を持つミサイルは、そこそこのエネルギーを与えれば勝手に吹き飛んでくれる。
ジャミングブレードに当たってしまわぬよう、
各砲にダークスパイナーの方を向いたときだけ発射にロックがかかるように設定すれば、
同士撃ちの心配は事実上無い。
全くの偶然に、
ネオゼネバス開発陣はARMによる集中攻撃からジャミングブレードを守るのに最適の兵器を生み出していたのである。
「なんてザマだ!」
ラッドは残りのARMを二発ともぶっ放す。どうせ無駄だろうが。
よくわからないが、あのトーチカもどきがARMを撃ち落とすんだろう。他にそれが出来そうなものはない。
いや、今はその推測が合ってるかどうかは少なくとも俺には関係無い。
この改造グランチュラにトーチカもどきを撃破出来るわけも無し、離脱するしかないのだ。
さてどうする、一応どこかの陰からどうなってるか見るか、
調子よく自分を振り回す改造グランチュラの中でラッドがそう思ったとき、無線が飛び込んできた。
「各グランチュラ後退しろ! 三分後に戦場情報システムに自機情報送信開始!」
アーバネット・ヴィリ軍曹だ。
そのまま引き続き軍曹は支援砲撃要請をするよう意見具申―――実質的には指示だが―――しているようである。
まったく頼りになる。
こうなってしまった以上、共和国軍部隊はとっとと後退しなければならない。
その際、自分に近づいてくる歩兵を威嚇して上手くすれば止められるくらいしか出来ない改造グランチュラがグズグズしていたら、
足手纏いどころの話ではない。
真っ先にケツまくらなきゃならないのだ。
更に、他の味方に自分達の後退状況を把握させ続けなければならない。
幸いにしてというかどんな奴にだって取り柄の一つくらいはあるもんだというか、グランチュラは最高速度ならやたら速い。
時速330kmに達する。これはイェーガーのそれと同じ数字であり、何とライトニングサイクスよりも速い。
現在配備されている陸上戦闘ゾイドでこれを上回る最高速度を持つのは、
ジェノブレイカーとバーサークフューラー・シュトルムフューラーしかない。
これはもう、ある程度以上距離をとることに成功すれば、とんでもないヘマでもしでかさない限りは逃げ切れる。
だから万一こちらの戦場情報システムが敵に覗き見された場合を考え、
三分という時間をおいてから自機情報を送信しろというのだ。
ただしかし、それでもやはりなお、可能性レベルの話とはいえこちらの秘匿性を今より低下させる行為は気が進まない。
何だかんだ言っても、「逃げ隠れ」のうちでは「隠れ」の方が効果が上だし、
足に頼らなければならないなんてのは火力と装甲が足りない証拠なのだ。
こいつはこいつでまた一つ別の貸しだぜ、
恐ろしい勢いで突っ走る改造グランチュラの中でラッドはちらと後方監視モニターに目をやる。
恐らくコマンドウルフが展開しているのだろう、煙幕が広がっていくのが見えた。
嫌な奴でも、死んでしまうと不思議とそいつのことがいい奴として思い出されるものだ。
多分、あの少尉についてもそうなんだろう。
あんな奴をいい奴だなどと思いたくはない。
生き延びて欲しかった。
それはそうと、ネオゼネバス軍がARMを撃ち落とす手段を得たとなれば、俺達はようやくお役御免だ。
スナイプマスターやケーニッヒウルフがこの役を代わる必要があるだろう。
ARMと連中の徹甲弾では、速度が桁違いだ。
あのトーチカもどきでも撃ち落とせないはず。
しかし、あのグランチュラよりずっと少なくてデカい奴等をダークスパイナー狙撃につけなければならないとなれば、
共和国軍には様々な問題が増えることになる。
それでもそうしなければならない。
ふと、ラウルは今回の出撃前にフューリーに聞いた話を思い出していた。
例の歌、それに出てくるカラスに種をほじくられるゴンベのことである。調べて分かったそうだ。
フューリーによると、
ゴンベははるか昔の地球にいた人間で、
この男が自分の畑に作物の種をまいていたところ、カラスという鳥がきてそれを食べてしまう。
それを見たゴンベの村の人間が、件の歌ではやしたてた。
しかしゴンベはそれを意に介さず、カラスを追い払うこともせず、もくもくと種をまいていく。
そしてその年、ゴンベの村は飢饉に襲われた。
他の村人の畑は作物がろくに取れなかったが、ゴンベの畑からは十分な収穫があった。
それは、他の村人はカラスを追い払うのに気を取られて種まきが不十分だったのに対し、
ゴンベはそのようなことに気を取られることなく、カラスに食われる分まで余計に種をまいていたからだった。
ゴンベは自分の収穫物を他の村人に分け与え、感謝と尊敬を集めたという。
なるほど、確かにそういうものなのだろう、
ラッドは、その本当の意味を今なら理解出来ると思った。
―――了―――
書き終えてみて
「SSを書こうとしている皆さん、思い付きをよく考えないで書くとこうなりますよ」
「え、皆さんはこんな作品書かないように注意して欲しいんですけれども」
「おい、頭悪そうな話はダメなのか?」
「そんなことねえよ。この作者頭の悪そうなSS好きだし第一自分じゃそんなもんしか書けねえよ」
「「へへ」」
こんな感じですけれども、ずっと書きたいと思っていた
・ 心を通い合わせるとかじゃなくてゾイドの生物ゆえの特徴を利用する
・ 内面の描写のある、戦果とかの方はほとんど関心が無くて自分が生き延びることの方しか考えてないような登場人物
が書けたので楽しかったからよしとする。
読んでいただいた皆さん、ありがとうございました。
バーイ
お疲れ様
GJ!!!
今第一次暗黒大陸戦争の話考えてるんだが、
厨ゾイド盛り沢山になりそうなんでちょっと悩んでるんだが…どうだろうか…
>>269 いいと思う。
しかし、戦力とは相対的なものなので、
厨ゾイドが盛り沢山ならば、それはすなわち厨ゾイドがいないということになるような気もする
(例えば、第二次大戦のドイツ戦車パンターは、まさに厨戦車であったが、
現在ではパンターをより高性能の戦車というのは普通の存在である)。
ゴルドスってよく雑魚メカされてるけど何かうまく生かす方法はあるだろうか…・
電子戦なら大活躍だし、105ミリレールガンと言う強力な武器と、シャイアンなら砲もある
>>271 雑魚扱いされる、つまり直接戦闘能力が低いのを活かすという手もある。
高性能な電子戦機であるゴルドスは、敵にしてみれば撃破すべき優先順位が高いゾイドである。
であるがゴルドスは直接戦闘能力が低いため、ヘリック共和国軍側としては他のゾイドを使ってゴルドスを守らなければならない。
そこで、その防御と攻撃の駆け引き・システムを描いたり、
自分を守るために他人が命を懸けて戦っているが、電子戦機に乗っているため、
自分の方は彼等のために戦っているという実感が持ちにくく苦悩する若いパイロットの心情描写をしたりするのはどうか。
バイオゾイドがジェネシス以外の世界で戦うとか・・・・
第一次全面会戦のころの共和国軍のゲリラ部隊の話を作るとしたら、
地形はどんなところにすればいいだろうか…レッドラスト砂漠
以外に候補地はないだろうか…
保守
骨ゾイドを活躍させるにはどうすればいいだろうか…
強化人間をOS搭載ゾイドに乗せたらどうなるだろうか…・
>>279 強化人間ってのは、PKの色黒のやつみたいな金属細胞を植え付けて感覚強化した連中ね
保守
てか最近ゾイド関連の情報が少ないよな。
ガンスナイパーがHMM化するってくらいかな?
282 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/19(日) 12:10:44 ID:gL9tPL/D
ライジャーを主人公にするとしたら、どんな話がいいだろうか…
ゾイドグラフィックスによると工場で完成したライジャーは
輸送機で帝国勢力圏ギリギリの所まで輸送された後、その速力を利用して
徒歩で配属部隊まで向かったとある。中には共和国勢力圏を突っ切って
配属部隊と合流する頃には既に実戦経験済みになってる奴もいたとか。
それを元にして共和国勢力圏を突っ切るお話とか良いんじゃない?
>>282 厳しい事を言うが借り物のプロットじゃろくな話は書けないぞ
ここは苦労しても自分で考える事を薦める
産みの苦しみがある場所は
書いていて一番楽しい所になるはずだよ
頑張れ!
アイアンコング、HMM化決定!!!
まー、物凄くめでたい話だが
新しいお話的な面での展開や動きにつながるようなもんではないな
手を動かす人であると同時に話を消費する人がほとんどだろうけど
本家のタカトミ小学館が動かんとゾイド全体での停滞感はどうしようもないわな
ブキ屋が一生懸命色々送り出していても
ゾイダーが感じているどうしようもない停滞感は否定できん
武器屋が新ゾイドをつくったと過程した話をSSにしたら…
う〜ん、対空輸送モルガは実質ブキヤ産ゾイドだが
その発表をきっかけにしてゾイドが現状で物語を展開しているとは言えんでしょ
そういうの仮定しても、モチベが動かないものは動かないんじゃないかねぇ?
ブキヤの精力的なキット展開はもちろん涙が出るほどありがたいが
ブキヤキットがあるから満足して満たされるってものではないのもまた偽れない事実でね
ゾイダーってキットを現在進行形で展開する物語とセットで消費してきたからさ
>>288 >ゾイダーってキットを現在進行形で展開する物語とセットで消費してきたからさ
ああ、それはすごくわかる。
このあたりのグッズと「お話」の関係性って、ゾイドはかなり特殊だと思う。
ゾイドの場合、グッズがお話をつくってるんだよね。
説明が難しいんだけど、新キットを出す度に新しい話を進めていったことで、ゾイドの場合の「新キットが出る」ってのは、
他の一般的な作品の場合の「公式で新エピソードが発表される」のと同様の意味を持つようになった
(例えば、ガンダムの場合、新しいプラモデルが出ても、それはあくまで「プラモデルで新しい奴が出た」ってだけのことにすぎない。
極端な話、どこのメーカーがガンダム関連の新製品をだしても、「公式のお話を基としてつくられたグッズ」という意味において、それらはみな同じであるといえる)。
例えが悪いかとは思うんだけど、ゾイドの場合、タカラトミー以外の企業が出した製品って、「同人作品」的な印象を持つところがあると思う。
同人誌がどんなに優れたオリジナルエピソードを発表したとしても、「でもこれあくまでも公的に作品世界内であったとされる話じゃないんだよな」という部分があるところが。
ただ、この例えを引っ張ると、同人作品を愛好したり、三次創作をしたり、っていうのも、確かな楽しみ方ではある。
まあ結論から言うと俺はいろんな人の書いたSSが読みたいってことだ。
>>289 だよね・・・・・・
ゾイドファンって新作のゾイドキットが与えられないと話を考えるモチべが止まるようになっちまった
妄想や考察なんかも含めて、新作キットが展開していないと興味も頭も動かない
しかもそれは1:72のポップアップキットでないと駄目・・・今風のカードホビーとかでは駄目
無印ガーディアンフォースの認識票が発売されたけど、そういう動きでは動きと認識できない
他のロボアニメやシリーズではそういう商品が出るのは「展開継続中」と言えるんだけど
ゾイドオタってのはそうは思えない。理屈ではなく感覚の問題だからどうしようもない
「ガンダムや海外TFだってそんな無茶な基本方針ではやれないよ」という展開方法を求めてしまう
メジャータイトルのマクロスオタやボトオタさえ、どうやって今まで生き残ってきたかを見ると
ゾイドオタってずっと恵まれていて、そのせいで若干の温室育ちの感があるのは否めない
自分もそういう傾向があるから自戒を込めての意見なんだけどね
これだけブキヤが頑張って新作リリースしていても、ゾイドで想像めぐらせようぜってなった際
「完全新作ゾイドをブキヤが作ってくれれば・・・」みたいな声が悪意も他意もなく挙がるのがその証拠っつーかね
コングやガンスナのHMMが提示されても、それだけでは今一つエンジンがかからないんだな
でも、いくらブキヤが頑張ったとしてもそもそも会社の規模がちがう
トミーや小学館がやってきた展開方法をそのままにせよ一部にせよ受け継いでくれるわけがないんだから
ここらでボトオタぐらいたくましく意識変えなきゃならんのだけど、これがなかなか難しいところで(悩)
まあ愚痴っていてもしかたないですな、頑張ってそのうちSSでもひねり出してみようと思う
>>290 そう、実はゾイドって、こと商品展開に関しては、ロボット物の中でもかなり恵まれてるほうなんだよね。
確かにゾイドオタって、もっと柔軟っていうか、はっちゃけちゃってもいいと思う。
話変わってどうでもいいことなんだけど、
今やってるコカコーラのキャンペーンのヤツ、袋とリーフレットの写真、
旧時代のパッケージとキット同梱パンフレットの写真使ってないか?
初見でなんとなくそうかなって思ったんだけど、今日サーベルタイガー入手してリーフレット見て確信したわ。
この青い光が当たってるのは旧パッケージ写真だわ。
各ゾイドのリーフレット解説も旧時代基準っぽい書き方で、旧世代もターゲットにしてるってことかも知れないけど、
何でわざわざ旧時代の写真を使ってるんだろう?
早く誰か書かないだろうか…
>>293 さてどうしたものか……
実は今、投下を始められるものが一本あるんですが、ここで俺が投下を始めると三連投になってしまう……
完結三本、継続中一本のこの状況でそれやってこのスレが俺のチラ裏みたいになるのも……
こればっかりは自分じゃどうしようもない……
あと、その一本って出来がひどい。
>>294 何を迷っているのだ、作品があるなら投下すればいい
296 :
>>294:2009/08/07(金) 02:26:45 ID:u8exbzSj
>>295 そいじゃ投下してみる。では次レスから。
大地が急速に後下方に置き去りにされ、闇に沈んでいく。
夜空の中、四機のサラマンダーF2は急激に速度と高度を上げ続けている、
そのうちの一機の背に設けられたシステム管制士官席に納まるヴィリー・クルペン中尉も、
大地と一緒に置き去りにされているのが当然のはずだ。
現に、行かせまいと伸ばされた力の手はずっとヴィリーを掴んで離さない。
しかし、このシステム管制士官席の存在が、そこに納まる人間に、その力の手に逆らってこの白銀の飛竜と同行することを強要し、
結果、慣性力の手はヴィリーをシートに押し付け締め上げる。
シートのカバーにされてしまいそうな重圧の中、ヴィリーは苛立ちに震えていた。
―――なめてやがる―――
その機体は、ただの一機で飛来してきた。夜の闇の中を。
そしてまるで眼中に無いかのようにレーダーサイトにも地対空火器コンプレックスにも攻撃を仕掛けず素通りし、
中央大陸内陸に向かって真っ直ぐ進んでいる。
だからその飛行の様が、非推測情報の途切れることのない連続としてデータリンクに送られてくる。
そのことは、体の中に膨れ上がる苛立ちがあるために、
迎撃に上がる際の強烈なGに潰されずに済んでいるのだと思わせるに十分だった。
―――なめやがって―――
だが、今まで貴様が墜とされずに済んでいるのは、
共和国軍が、基本的に常に航空戦力が敵に対して優勢であり、かつ優れた通信・統制システムを有するため、
伝統的に地対空火器より戦闘航空ゾイドによる迎撃を重視していることの恩恵を被っているに過ぎない。
決して今が夜だからではない。
こちらの迎撃に制約が出ることを期待して夜間に飛来したのだろうが、
地球人飛来以前ならいざしらず、各種観測手段と通信統制技術が発達した現在にあっては、
夜間戦闘とは各技術とそれらを運用する能力によって左右されるものなのだ。
陸上戦闘ならともかく、
昨日今日ようやっとまともな航空戦力を手に入れたような貴様らが、
防空網制圧もせずに俺達RAF(共和国空軍)相手に夜間戦闘を挑むだと?
その上、対空防御施設に攻撃を仕掛けなかった。対地兵装の節約のつもりだろうが、それが慢心というものだ。
そのことを教えてやる。
そんな間に、体が平らに押し潰されてしまいそうな重圧は、徐々に和らいでいき、遂には感じられなくなった。
サラマンダーの速度の上昇とともに増大し続けた空気抵抗が推力と均衡し、等速飛行に移ったのだ。このまま、目標へと突き進む。
押さえ付けるものが無くなったことで、体の中の苛立ちが、ますます速度を上げて膨れ上がっていくように感じた。
接敵はまだか。目標を探す。
データリンクモニターの、目標の表示、自機との相対角度、自機のレーダーレンジ・火器射程領域表示を見比べる。
手加減してもらえるなんて思うなよ。貴様のそのふざけた真似がどういうことなのか、己を呪いたくなるほどわからせてやる。
そして、ヴィリーの乗る機体―――ルーク(城兵)2自身のレーダーにも、暗黒帝国軍の軍用航空ゾイドの反応が現れ始めた。
299 :
踊る悪夢作者:2009/08/07(金) 02:41:17 ID:u8exbzSj
今回はここで終わり……
短い上にレスの切り方が変な感じですが、全体を分けて投下するのにこの区切り方がいいと判断したので御了承下さい。
お、新作の投下始まりましたね
続き楽しみにしてます〜
新作の投下の合間に、自分も一本SSが書けたので投下してみます
この板を見つけてから1月、ようやく書けたぜい……
設定はバトスト準拠ですがHMMのブレードライガーの説明を読んで、
ちょっと触発された部分があるので一部オリジナル設定込みで、
K.F.Dのエピソードの裏側を妄想してみました
次レスより3レス予定
「K.F.Dか……プロイツェンめ、いつの間にこれだけのものを……」
帝都ヴァルハラ。その中央に鎮座する宮殿の執務室で、資料を片手に思わず愚痴がこぼれた。
今目を通しているのはインターフェイスと呼称される小型のゾイド
――いや、小型などというのは曖昧か。人間とそう変わらぬほどに小さいゾイドで、エウロペの遺跡から発掘されたものらしい――に関してのものだ。
ディハルコン、アイスメタル、エネルギーフィールド、D・L・S、エネルギー変換システム、重力コントローラー……挙げれば枚挙に暇が無い。
我がガイロス帝国軍は常に最新の技術を取り入れることで最強の軍隊たらしめてきたのである。
そして今現在、帝国軍を支える重要な技術の一つがオーガノイドシステム(OS)であった。
今や撤退に追い込まれた西方大陸遠征における数少ない成果であり、……そして諸刃の刃でもあった。
真オーガノイド。
完全なOSとの触れ込みだったそれは、暴走という最悪の形でその力を解放した。
昨年7月のレッドラストでの迎撃作戦に投入された真オーガノイド搭載機、デススティンガーは被弾から暴走。
両軍を見境無しに攻撃、壊滅させた挙句消息を絶った。
そのあまりに不安定で、不完全な真オーガノイドを制御するためのもの、
それがインターフェイスである……らしい。
少なくとも先の会議で提示された資料が確かならば暴走を制御するリミッターとでも言うべきものであるようだ。
――『らしい』に『ようだ』か……こうも曖昧ではな。何かよからぬことを企んでいるのではあるまいな……?
ガイロス帝国軍は常に新しい技術を活用してきた。
これは紛れも無い事実であり、エウロペ大陸での敗退を受け次なる技術を求めるのは当然であり、
インターフェイスなる新技術の研究そのものは否定する気はない。
しかしそれが極秘裏に行なわれていたことが腑に落ちない。
それもあのデススティンガー――正確にはこのインターフェイスを搭載したK.F.Dなる改良機――を既に10体も量産しているというのだ。
まだ件の暴走事故から半年も経っていないのに。これで勘繰るなという方が無理というものだ。
――しかし、裏があるとしても一体何を企んでいるというのだ?
そう、そこが分からない。
新技術の研究にしろ、新型ゾイド・改良型ゾイドの開発にしろ帝国をより強力なものとするものであり、
単純にその成果だけを見れば帝国のためを思ってのことだと言って差し支え無いだろう。
むしろ結果が伴えば帝国への貢献を評価されることになったはずだ。
極秘裏に研究を進める必要性はそこには無い。
仮に結果が伴わない、骨折り損の研究となったとしてもそれが開発というものである。
全ての研究・開発が思い通りの結果を出せるのなら今頃帝国はこの惑星Ziの覇者として君臨していたはずだ。
ましてやプロイツェンはまだ幼い皇帝陛下に代わって政務・軍務のほとんどを取り仕切る摂政の立場に居るのだ。
成果の上がらぬ研究の1つ2つでどうにかなるような地位に居るわけではない。
研究の失敗を恐れて秘匿するような真似は不要なのである。
にもかかわらず、彼自身の特命によりK.F.Dの研究は秘匿されていた。
仮にも内政の面では彼に次ぐ地位にある宰相である自分にすら。
――少し、手を打っておく必要があるかもしれん。
後日、ガイロス帝国宰相ホマレフはこの時の決断を生涯後悔することになる。
何故もっと詳しくこの疑念について摂政を追求しなかったのかと。
「第1装甲師団のクーリム・リン少佐に繋いでくれ」
執務室での自問自答の結果、プロイツェンが進めていたデススティンガー量産計画
――便宜的にK.F.D計画とでも呼ぼう――に関してもう少し詳しい内容が知りたい、
そう思い至ったホマレフは秘書官を通じてここヴァルハラの守備についている第1装甲師団の仕官へと連絡を取ろうとしていた。
摂政プロイツェンは大異変・グランドカタストロフからの混乱を収め、帝国再建に多大な貢献を果した人物である。
それ故に帝国臣民からの人気は絶大で、現皇帝ルドルフがまだ幼いことも後押しし、
事実上の帝国最高権力者の座にあった。
つまり、彼に逆らうのは帝国内での居場所を失うことと同義と言ってもいい。
とはいえ、帝国内の者が全てプロイツェンを支持しているわけではない。
ホマレフ自身、プロイツェンを表立って敵に回すような真似は考えていないが、
宰相という政務における帝国のナンバー2という地位にあって、
プロイツェンの専横にも近いやり口は見過ごせるものではない。
またそういう意味では政敵とさえ呼べる関係だろう。そしてそれは政務に限った話ではない。
元帥を兼任するプロイツェンと反目する軍人達――誇りある帝国の騎士達はあくまでも皇帝に忠誠を誓うが故に、
プロイツェンの独裁を良しとしないのだ――も決して少なくはない。
その代表格とも言えるのが名門シュバルツ家の雄、カール・リヒテン・シュバルツ中佐だ。
名目上は帝国最強の第1装甲師団――予算の流れを追う限り、現状では摂政の私兵とも言えるPK師団こそが、
少なくとも装備面では帝国最強の軍団だと言えるだろう――を預かることからも、彼の有能さを物語っている。
今回のエウロペ出兵に際しても、最後まで反対していた穏健派の軍人でもある。
そしていざ命令が下れば黙々と任務をこなす、まさに絵に描いたような堅物の軍人ではあるが、
しかし彼は実に聡明な軍人だった。
エウロペへの第1装甲師団の派遣が決定された際、彼がまず行なったことは師団を分割すること
――つまり本国に残す部隊を作ることだった。
帝国最強の謳い文句は伊達ではなく、その規模もまた第1装甲師団は帝国随一であった。
彼はその大部隊であることを活かし、万が一の予備兵力として、
そして何よりも本国に残る摂政プロイツェンへの牽制として、
師団麾下の第1突撃大隊を始めとするいくつかの部隊を首都防衛大隊として抽出、再編したのである。
その首都防衛大隊の一角、第1突撃大隊所属の女性仕官、それがクーリム・リン少佐だ。
軍務面でのプロイツェンへの抑えがこの首都防衛大隊とするならば、
宰相であるホマレフは政務面での抑え役とも言えるポジションに居るわけである。
自然、『そういった』派閥や勢力の人間からの接触は多くなり、
彼女もそうして接点を持つようになった人脈の一人というわけである。
「失礼します」
通信モニターが開くなり完璧な敬礼が目に飛び込んできた。さすがは第1装甲師団の仕官と言ったところか。
「急な呼び出しですまんな、少佐」
「いえ。宰相閣下直々のお呼び出しとなれば、断るわけにもいきませんから」
多少毒が入った返答になったのは忙しいところを呼び出されたためだろうか。
現在帝国軍は混乱と多忙を極めている。
エウロペから引き揚げて来た部隊と、本国に残っていた部隊との再編に追われており、
彼女が所属する第1装甲師団もまたその例に漏れず今は部隊再編忙殺されているはずだ。
「先日開陳されたデススティンガーの量産計画だが、第1装甲師団にも資料は回されているはずだな?」
「元帥が秘密裏に進めていた真オーガノイドの制御に関連したものですね」
「話が早くて助かる。それでこの件についてなのだが、君はどう思っているのか意見を聞こうと思ってな」
当然のことながらこれは秘匿回線である。
帝国の実質的な支配者であるプロイツェンの息のかかった者はそれこそ掃いて捨てるほどいるわけで、
逆にプロイツェンの息のかかっていない者を探す方が難しいほどだ。
通常回線で彼への批判や反抗的なやり取りをしようものならあっという間に首が飛ぶ。
事実、プロイツェンは国民からの絶大な支持を背景に政敵を何人も粛清しのし上がった。
宰相という立場上、機密事項を扱うことも多いからと秘匿回線の使用を誤魔化し易かったのは果たして幸運だったのかどうか。
いずれにせよ、先に挙げたシュバルツ中佐を始めとする反プロイツェン派の動向の、
そのほとんどを把握する位置に気がつけば居てしまったのである。
「エウロペの敗戦を受け、戦力の回復と増強が急務となっている今、
単純にデススティンガーの戦力化という点で見れば何ら不信な点は無いと言えると思います」
「そうだ。しかしそれなら秘密裏に行なう理由が無い」
「はい。シュバルツ中佐もそのことを懸念しておられました」
「やはり中佐も気にかかっているか」
「開陳されたインターフェイスとK.F.Dの資料が正確ならば、
K.F.Dはオリジナルの7割程度の戦闘力しか発揮できないことになっています」
「インターフェイスは真オーガノイドを制御するリミッターでしかないと?」
「あくまでも資料の数字を信じるならば、ですが」
そこで一度区切り、やや言いにくそうにしながらもリン少佐は言葉を続けた。
「もし量産型のデススティンガーがオリジナル同等の性能を発揮できるなら、
10機もあればエウロペの共和国の主力部隊を壊滅させることも不可能では無いでしょう。
ですから、このインターフェイスとK.F.Dの開発がそこを目指していたとするならば、一つ仮説を立てれます」
「仮説?」
「はい。元帥はこの計画を極秘裏に進めていました。もしオリジナル同等の性能で、
尚且つ制御されたデススティンガーを大量に配備できれば共和国との戦いで大きな利点となりましょう。
当然、それを推し進めた元帥の発言力は更に強まることになります」
「確かにその通りだが、やつは既に摂政の座にいるのだ。これ以上何を望むというのだ」
「我が軍はエウロペでの戦いに敗れ、このままでは共和国軍の本土上陸を許しかねない危機的状態にあります。
そんな中で、帝国に向けて進んでくる共和国の主力部隊を元帥の私兵団がこれを返り討ちにする……。
実に大衆受けしそうなシナリオだと言えるでしょう」
「なっ、それではまさか……!」
「ただでさえ、元帥は国民に絶大な人気を持っています。ルドルフ陛下はまだお若く、後継者がおりません。
万が一のことがあれば……」
「皇位の簒奪も容易い、というわけか……」
「……はい」
無い、とは言い切れないだけの説得力がある話だった。
現実問題として、リン少佐の語った『仮説』は実現し得るのだ。
名門プロイツェン家の頭首とは言え、摂政にまで上り詰めたことで要らぬ野望を持った可能性は十分に有り得るだろう。
「仮に共和国軍がニクスへ侵攻してきたとしても、再編された第1装甲師団を始めとする主力部隊に加え、
元帥殿が温存しているPK師団もございます。
共和国のニクス侵攻が即座に帝国の体制を揺るがすことにはならないでしょう」
「まるで共和国に乗り込んで来て貰いたいかのような言い方だな」
「まさか。しかしK.F.Dによるニクシー基地襲撃が成功してしまっては、
もはや帝国に元帥を止めることが出来る者は居なくなるでしょう」
「K.F.Dによるニクシー基地襲撃を妨害しろと?」
「資料通り、7割の性能しか発揮でないデススティンガーならば妨害するまでも無いでしょう。
共和国軍は多大な犠牲を払いながらこれを撃退せしめるでしょう」
「ではもしK.F.Dがオリジナルに匹敵する性能を発揮したのであれば?」
「その時は証拠が残らないようにこれを撃滅し、共和国軍との痛み分けに終わったよう見せかけるのです」
「ふむ……しかし、デススティンガーを倒せるような性能のゾイドとなると……」
そう、一番の問題はそこだ。分厚い装甲とEシールドを持つあれを撃破できるゾイドは限られてしまう。
ましてや味方による攻撃だという証拠を残さずに済むようなものとなると数える程しかない。
「隠密性に長けたライガーゼロ・イクス。あるいは超長距離からの荷電粒子砲による狙撃であれを撃破可能な、
バーサークフューラー及び、ジェノシリーズといったところでしょうか」
「どれもこれも、こっそりと用意するのは困難な機体ばかりだな。妨害はあまり現実的ではないのではないかね?」
「まあ、現状それが可能な機体を徴発すれば必ず足が付いてしまうでしょうが……
では宰相閣下、もしそれがエウロペに残っているとしたらどうでしょうか?」
「何だと? ん、もしやリッツ少佐のことかね?」
「いえ、確かにリッツ少佐とその乗機であるジェノブレイカーはエウロペで消息を絶っていますが……
少佐とは別口で、エウロペに残っている改造ジェノザウラーとその機体のパイロットに心当たりがあるのです」
何やらおかしな話になってきた。それがホマレフの率直な感想だった。
OS搭載機であるジェノザウラー及びその派生機と言えば扱いが難しく、帝国軍でも乗りこなせるものは多くない。
逆を言えばあれを乗りこなせれば十分にエースパイロットと呼んで良いだろう。
それほどの腕前を持っているパイロットが機体ごとエウロペに残っているなど不自然極まりない。
だが、逆に興味が湧いたのも事実だった。そもそも何故そのパイロットはエウロペに残っているのだろうか?
脱出する部隊に合流できなかった?
だがそんな凄腕が脱出しそびれたとなれば自分の耳にも入ってきそうなものである。
「自分も南エウロペから帰還した第1装甲師団の兵員から聞いた話しですので、又聞きとなってしまうのですが……」
リン少佐の説明を要約するとこうだ。
エウロペ大陸において主戦場は北エウロペであったが、
エウロペ遠征の主目的は両軍ともにOSを始めとするオーバーテクノロジーの入手、
即ち遺跡の確保であったから、当然南エウロペにも探索と敵軍の排除のための部隊が両軍共に派遣されていたわけである。
しかしながら、最終的に制空権を取った共和国の優位となった北エウロペと違い、
大森林、いや密林と呼んで差し支えない広大な森の広がる南エウロペでは、
空爆や空からの偵察はそれほどの効力を発揮せず、森でのゲリラ戦や遭遇戦が主体となったために、
エウロペでの作戦終盤まで両軍共に膠着した小競り合いが繰り返されていたというのである。
広い密林をカバーするために両軍共に小規模部隊を拡散させることとなり、
それが余計に小競り合い以上の戦闘を発生させ難くすることになったのだとか。
そして大規模戦闘が起こらないというのはある意味で実に都合の良い戦場となったのである。
目撃者が少ないに越したことは無い、新鋭機の実戦テスト場として白羽の矢が立ったのである。
「密林での遭遇戦というやや限定的な環境でしたから、新鋭機の全てがというわけではありませんでしたが、
初期ロットのジェノザウラーやレブラプターなどの一部はこのエリアに展開している部隊に配備され
実戦テストを行いデータの収集を行っていたそうです」
ところが、OSが簡易化されていない初期ロットのジェノザウラーは性能こそ高いが扱いが非常に難しい。
ましてやそれの改造機となれば下手なパイロットではテストにすらならない。
とは言え激戦を繰り広げる北エウロペの部隊からジェノザウラーを乗りこなせるような精鋭を引き抜くわけにもいかない。
難儀した現地の部隊の決断は傭兵を使うことだった。
自軍の新鋭機のテストパイロットに傭兵を使うなど本来ならあってはならないことだ。
しかしながら、誰も乗りこなせないのではテストのしようが無い。
初期ロットのジェノザウラーはそれだけ我侭な機体だったのである。
無論、現地の傭兵達にしてもジェノザウラーを乗りこなせるような人間はほとんど居なかったわけであるが、
幸いというか何と言うか、現地のテスト部隊はこれを乗りこなせるゾイド乗りを見つけたわけである。
「レイヴン、それがそのパイロットの名前です」
傭兵として雇われた彼は見事にジェノザウラーを乗りこなし、 南エウロペ戦線ではそれなりに名が通っていたらしい。
「当然、南エウロペを含めたエウロペ全域から撤退する時に、彼の乗機も回収するはずだったのですが……」
ここからまた話がややこしくなる。
南エウロペ戦線が新鋭機のテストに都合が良かったのは何も帝国軍に限った話ではない。
共和国軍でも同じようなことを考えたらしく、北エウロペ戦線で確認されるよりも前に、
南エウロペ戦線でブレードライガーが目撃されていたほどなのである。
そしてブレードライガーに対抗できるのは同じOS搭載機であるジェノザウラーということになり、
レイヴンとジェノザウラーはこれに対抗すべく駆り出されたわけである。
この南エウロペでのOS搭載機対決は操縦技術でレイヴン、機体スペックでブレードライガーといった感じで、
南エウロペ戦線同様に膠着状態であったらしい。
幾度と無く交戦し、互いに決定打に欠く展開が続いていたわけである。
そして次々にロールアウトする新鋭機や、新装備の投入も休み無く行なわれ、
レイブンのジェノザウラーはジェノブレイカーに、対するブレードライガーもAB装備型となり、
雌雄を決する日も近いかという状況で帝国のロブ基地攻略作戦――第二次全面会戦――が失敗し、
帝国軍はエウロペからの撤退に移ることになったわけである。
「そして、一流のゾイド乗りにありがちな病気がここでも発症したわけだ」
「はい……。彼は所属していた部隊が撤収に取り掛かると、
『奴との決着がまだついてない』と言い残して機体ごと離隊したそうです」
「というか、それでは脱走兵ではないのかね?」
「まあ、そうには違い無いのですが、一応撤退する部隊を支援するための殿として出撃し、
未帰還という報告になっておりまして……その、一緒に戦っていた部隊の者達が彼の腕前に心酔していて、
報告書を改竄していたようでして……」
「なんと……」
「とにかくそういうわけでして、エウロペにはジェノブレイカーが1機残っているはずなのです」
どこから突っ込みを入れるべきか困る話ではあるが、
腕利きのゾイド乗りとデススティンガーにも対抗しうるゾイドがエウロペに残っている。
それも公式記録上はMIAとなっている機体とパイロットが、である。
ある意味でこれ以上の条件は無いというほどに都合の良い話である。
「彼、レイヴンは共和国のブレードライガー乗りとの決着を望んでいたそうですから、
ジェノブレイカーを万全の状態にするための補給物資や装備と引き換えにすれば、
K.F.Dがニクシー基地襲撃を成功させそうになった場合の狙撃を依頼できると思うのです」
「なるほど。それなら失うものは僅かばかりの補給物資とCPユニットだけで済むわけだ」
「はい。しかも先ほど話しに出ましたリッツ少佐が先の全面会戦後に消息を絶った関係で、
ジェノ系列のためのCPユニットが一組行き場を失っておりまして、
これを暗号電文と共にレイヴンに届けることが出来ればあるいは……」
「お膳立てが揃い過ぎている気がしないでもないな」
とは言え、現状他に打てる手があるわけでもない。
失敗しても大して痛くないのであればこれを利用しない手もない。
「分かった、それではステルスシンカーをこちらで用意しよう。
K.F.Dが襲撃する予定のニクシー基地に先んじて到着し偵察を行い、
その後K.F.Dの戦闘データを観測する役目を負う機体が必要となるからな。
派遣する理由としては十分過ぎるだろう。そう、たまたま少し早く到着し、
補給物資のコンテナをこっそりと投下してくるぐらいどうとでもなるというものだ」
「では早速暗号電文とCPユニットの手配の方を」
「詳細は任せよう」
結論から言えば、K.F.D部隊によるニクシー基地襲撃は失敗に終わった。
共和国の守備隊に打撃を与えたものの、オリジナルの7割程度の性能しか発揮できなかったK.F.Dは
共和国のライガーゼロ部隊によって撃破されたのである。
時代はOS搭載機から完全野生態をベースとした次世代機へと移ろうとしていたのだ。
そしてこの戦闘の後、共和国の主力部隊は暗黒大陸ニクスへと歩を進めることとなる。
また、ニクスでの両軍の決戦が始まる頃に、
南エウロペでジェノブレイカーとブレードライガーの戦闘が目撃されることとなるのであるが、
公式記録上には残っていない。
3レスどころか6レスも行ってしまったorz
えー、武器屋のHMMのブレードライガーに、
バンの乗ったブレードライガー・アーリータイプのデータが正式量産機に活かされた
という妄想戦記並みに怪しいバトストもどきがちょろっと記述されているのですが、
バンがありならレイヴンもありだろ! とどうにか彼を登場させることを考えました
まあ、何故かホマレフ宰相のお話になってしまったのはご愛嬌ということで(爆
309 :
踊る悪夢作者:2009/08/16(日) 02:57:12 ID:2+LyL1zc
>>301-308 ようこそ創作発表板へ! 早速の投下GJです。
いいですよね、こういう裏話的な話は。
特に、本編バトルストーリーだとこの手の政治的な話が薄い(形態上当たり前のことだし、それが悪いというわけではもちろんない)ので、
そこも含めて二次でやるのは面白いなあと。
あと、ホマレフとリンの推測が、
「結果だけを見れば外れているが、その時点で彼らが手に入る情報を基にしたものとしては妥当であり、
また、それを行った人物が無能だから間違ったという描写はされていない」
というところが地味だけどいいなあ、と。
人物の行動描写がおざなりな作品だと、
得てして「何故か全能の神のごとく全てを見通す“有能な人間”と、何かもうわざとやってるとしか思えない“無能な人間”」
に分かれちゃったりして、「……いや、これはちょっと……」ってのがしばしば見受けられる。
しかもそれって楽だから、ついやってしまいがちだったり。
そうなっていないあたりが、きっちりした人物描写がされている作品だと示しています。
>何故かホマレフ宰相のお話になってしまった
あるある。なんか最初考えていたのとは違った登場人物が目立ってきちゃうことってある。
拙作「鉄獣を狩るもの」でも、なんかスタロニコフと第二中隊長が想定以上に前に出てきた。
そうかと思えば第三小隊長なんかは出番 負 傷 し た だ け だったけどな!
まあ事前想定と違った登場人物が目立ってくるのは、
「(その)キャラが動いてくれる」ということだと思うので、必ずしもマイナスなだけというわけじゃないかと。
フュザも「ブレードさん主役で話作った方が面白かったんじゃね?」って言われてることだしな!(違
では次スレから続き投下。
モニター内で、長距離空対空ミサイルの射程領域表示の縁に、暗黒帝国軍機体のシンボルが迫る。
「ルーク2、こちらルークリーダー。目標を射程に捉えしだい長距離空対空ミサイルを発射せよ」
「了解、ルーク2」
小隊長からの通信を受け、ヴィリーは長距離空対空ミサイルの発射準備を開始。
必要な機器・システムの状態を確認する、大丈夫だ。
中間誘導に発射母機経由のデータリンク情報使用方式を設定する。
これで長距離空対空ミサイルは、ミサイル自身のレーダーを用いた自己誘導を行える距離まで、
データリンク―――ルーク2のレーダー情報も反映されている―――の情報を基にした
発射母機からの指令で誘導されることになる。
目標のシンボルが、射程領域表示の縁を突っ切ってその内側に入ろうとしている。
パイロットのレヴィン・マコーリック少尉に通話。
「撃つぞ」
操縦席からも操作は出来るが、基本的に長距離空対空ミサイルはシステム管制士官が発射する。
機動性の高い航空ゾイドは、自分が撃ったばかりのミサイルに当たる機動さえ可能である。
後世まで語り継がれる笑い話の主役にはなりたくないから、射撃の宣言と秒読みが必須だ。
ふいに、斜め前方で、一機のサラマンダーF2の姿の一部が、他の部分と強いコントラストを成して闇の中に黄色く浮き上がり、
そして再び闇と同化していく。
ルークリーダーが長距離空対空ミサイルを発射したのだ。
ヴィリーも秒読みを続ける。
「……、4、3、2、……」
各種表示に目を配る。もし各設定に不都合が見付かれば、まだ、別の方式に設定し直すことも可能である。
この辺りが、火器管制要員の搭乗している戦闘ゾイドの強みの一つだ。
搭乗しているのがパイロット一人だけなら、ここまで火器に関する各種情報に注意を配ることは不可能だろう。
航空ゾイドは、飛行制御をゾイド自身とコンピュータに委ね、パイロットは別の操作に専念することが可能だが、
そうするとどうしても周辺監視が疎かになる。
それは、戦場の空ではときとして己の死に直結する。
その点、複座であれば、一人が火器操作に専念していても、一人は周辺監視を続けられる。
もっとも、再設定の必要は無さそうだ。
各表示とも、長距離空対空ミサイルがこちらの操作に従って正常に動作することを示している。
「……1、0、フォックス・スリー」
自分の機体もやはり、一旦推進薬の燃焼光に照らし出されて、そして徐々に闇に沈んでいっているのだろう。
ヴィリーはモニターに目を移し、もう見えなくなった、自分とルークリーダーが放ったミサイルの行方を見届ける作業に入る。
問題無く目標のシンボルに向かっていったミサイルのシンボルは、見続けるうちに消失した。
一方、暗黒帝国軍機体のシンボルの方は相変わらずモニター上に居座っている。
撃墜破ならず。
もっとも、それは最初から期待していない。
別に負け惜しみではない。
長い射程を実現させるため、そして察知されやすいゆえ回避されにくいよう高い機動性を発揮できる構造であるため、
長距離空対空ミサイルはただでさえペイロードが限られる上に、
地球の環境中でさえステルス性を発揮できる技術が使われている戦闘航空ゾイドを、
レーダーの使用が難しい惑星Ziの環境中において捕捉出来るだけの大掛かりなレーダーシステムを搭載している。
このため長距離空対空ミサイルは弾頭サイズに劣る。
詰まる話が威力が小さい。
軍用航空ゾイドは、地球の航空兵器の常識からは到底考えられない防護性能を持つ。
殊に、各種情報から、目標は爆撃航空ゾイド級のサイズであることが分かっている。
防護性能は軍用航空ゾイド中でも高いレベルにあると考えるのが妥当である。
小型の軍用航空ゾイドやドローンならいざ知らず、爆撃航空ゾイド相手では、
長距離空対空ミサイルの威力では、当たったところでそう効果は見込めないと判断すべきところだ。
では何故そんなものをわざわざ撃ったか?
一言で言えば、こちら、つまり攻撃の意思と方法を持つ存在がいることを相手に示すためである。
長距離空対空ミサイルはアクティブレーダーホーミングである。
つまり自分からレーダー波を撒き散らしそれを目標にぶち当てながら飛行していくので、
その目標となった相手は、然るべき警戒装置を有していればミサイルが飛んできたということ、さらにその方向がわかる。
そして然るべき警戒装置を有していない軍用航空ゾイドの存在など考えられないから、
目標は自分が空からミサイルを撃たれた、つまり自分を狙う航空兵器の射程に捉えられていると知ることになる。
そうすれば、護衛無し、一機のみである以上、逃げるにせよ応戦するにせよ、身軽になるため爆装を捨てるはずだ。
“本命”の射程に入る前に爆撃を始められてしまわないための行為である。
だからこそさっきルーク全機でミサイルを撃たなかった。編隊毎に時間をおいて発射し、波状攻撃で牽制効果を上げるためだ。
それゆえ、次の行動は、
「ルーク3及びルーク4、こちらルークリーダー。長距離空対空ミサイルを発射せよ」
「了解、ルーク3」
「了解、ルーク4」
残りの二機に長距離空対空ミサイルの発射が命ぜられるやり取り、企図からして当然の行動だが、
その声にはどこか戸惑いの色がある。
何故か。
その理由は他にあるまい、目標は自分にミサイルが放たれる前と全く同じ調子で飛行しているのだ。
まるでこちらに対する防御手段などとる必要も無いというように。まるでお前らなど問題にならんとでもいうように。
―――いいだろう、そんなに死にたければ望み通り地獄に突き落としてやる!
予測外の事態に、爆撃の阻止を間に合わせるべく速度を上げたルークリーダーに、ヴィリー達も追随する。
再び、平らに押し潰されるかのような重圧。
地球で最初のジェット戦闘機に搭乗したある軍人は、「まるで大勢の天使に背中を押してもらっているようだ」と評したというが、
全く羨ましい限りである。
戦闘航空ゾイドの加速は、悪魔に蹴り飛ばされるようなものだ。
ルーク3とルーク4の放ったミサイルが自分達を追い抜いて進んでいったその先を一瞬睨み据えてから、
ヴィリーは再びモニターに目を落とした。
312 :
踊る悪夢作者:2009/08/16(日) 03:09:09 ID:2+LyL1zc
またしても短くて申し訳ない。
言い訳をさせてもらえば、「次に投下しよう」と思って書いてたヤツが、
はじめと終わりの骨組は出来たんだけど、それを繋ぐ中盤がなかなか出来ず、
「気分転換に厨臭いのでも書いてみよう」と思って書き出したのがコレなので……
もうホントにその中盤浮かばないので煮詰まっててね、同じく気分転換にロボスレにネタ書いてみたり……
では。
313 :
302:2009/08/16(日) 23:36:24 ID:wSM19QQo
>>312 お、続きの投下乙です〜
>軍用航空ゾイドは、地球の航空兵器の常識からは到底考えられない防護性能を持つ。
航空ゾイドの話を考える時の一番の問題がこれの気がします
ギル様とか地球的航空力学ガン無視だし(爆
そういうところの描写が凝っていて、続きが楽しみでありますよ〜
>結果だけを見れば外れているが、その時点で彼らが手に入る情報を基にしたものとしては妥当〜
ありがとうございます! そう、まさにそこは気を遣いました
鉄竜騎兵団関連の流れは当時リアルに「ええっ!?」という展開でしたから、
ホマレフを始めとする非ゼネバス系(ガイロス系とでも言うべきなんだろうか?)
の人達はプー閣下のあれを知らない、あるいはそこまで想像が及びもしないところのはずだと
そういうその当時の反応としてはこうなるはずだ、に注意してみました
314 :
踊る悪夢作者:2009/08/30(日) 22:30:42 ID:HRC241qB
前回の投下から二週間も開いてしまった…… この程度のモン一回の投下でちゃっちゃと終わらしとけやっつー話なんですが。
>>313 >航空ゾイドの話を考える時の一番の問題がこれの気がします
>そういうところの描写が凝っていて
まあ才能の無いオイラみたいな人間がなんか書こうとしたら、
普通の現実では在り得ないことを出してきてそれを理詰めで追求するしかない、
っつーのが大きかったりしますが……
(ホントなんでもないこと描いてあれだけ面白くて人気をはくしているさくらももこは俺には同じ人間という存在とは思えない。
天才っているんだよなー)
では次レスから。
推測通りのことだが、ルーク3、4の長距離空対空ミサイルは無視されていた。
ルーク2の暗視装置で捉えられるまでに近付いた時には、
目標、その長い尾を持つアスペクト比の高い翼の飛竜は、まさに爆撃コースに入ろうとするところだった。
「ルーク2、ルークリーダー。突っ込む、背中をまかせる!」
ルークリーダー、敵爆撃航空ゾイドに向かってただ真っ直ぐに突進。有利な占位なんてあったもんじゃない。
それは一つには、敵は一機のみなのに対し、自分にはルーク2がいるから。
かわされて反対に追われる形になっても、敵の自由は許されない。
下手なことをしてみろ、即座に叩き落としてやる。そのために今、ヴィリーがやることは一つ。
“本命”、汎用対重装甲目標ミサイルの発射準備だ。
ホエールカイザー、デスバードという、ゼネバス帝国軍重装甲大型航空軍用ゾイドとの対峙の経験から、
共和国軍は高い装甲貫徹力と大きな内部破壊効果を併せ持つ空対空兵装を求めた。
そこで白羽の矢が立ったのが、空対地攻撃用兵装の一つとして開発されていた対重装甲目標ミサイルである。
この大威力の運動エネルギーミサイルを、地上目標のみならず、航空目標にも使用出来るように改修することで生み出されたのが、
汎用対重装甲目標ミサイルだ。
母体となった対重装甲目標ミサイルは、デスザウラーへの対抗策として開発されていただけあり、
他の多くの火器からは隔絶したとさえいえる装甲貫徹力を持つ。
汎用対重装甲ミサイルも、その装甲貫徹力をほぼそのまま引き継いでおり
―――“空のデスザウラー”、デスバードに対する火器である以上、それは当然ともいえるが―――、
空対空兵装としては、空前絶後の威力を誇る。
―――しかし、その後の経緯が証明するように、対重装甲ミサイルは対デスザウラー兵器の主流とはならなかった。何故か?
それは、あまりに装甲貫徹力と内部破壊効果を求め過ぎたその構造とシステムによる。
着弾時の弾体質量を可能な限り大きくし、かつ着速も大きなものとするため、
対重装甲ミサイルはラム・スクラムジェットエンジンにより駆動される。
これは、酸化剤を必要としないためロケットエンジンより着弾時の弾体質量を大きく出来、かつ極高速飛行に向いているが、
そのような極高速以下の速度域では燃費が悪いスクラムジェットエンジンの欠点を補うために開発されたエンジンである。
すなわち、速度によってラムジェット方式駆動とスクラムジェット方式駆動を切り替えられるようになっており、
極高速以下の速度域ではスクラムジェット方式よりは燃費の良いラムジェット方式により加速するのだ。
しかし、ラムジェット方式もスクラムジェット方式も、ある程度以上の速度が出ていないと始動出来ない。
そして対重装甲ミサイルは着弾時の弾体質量を大きくするため、初期加速用の補助ロケットを持たない。
その上、ラム・スクラムジェットエンジンは周囲の空気流の急な方向変化に弱いため、
対重装甲ミサイルはあまり小さな半径の旋回は出来ない。
さらに、発射後の母機の行動の自由度の確保と、被探知性の低減のため、
対重装甲ミサイルには可視光‐赤外線画像誘導方式が採用されているのであるが、
この方式は、惑星Ziの戦闘環境では、ある理由により、
少なくとも母機の可視光‐赤外線視察装置で目標を捉えるまで発射することが出来ない。
そして、可視光‐赤外線視察装置の性能は陸上戦闘ゾイドと戦闘航空ゾイドの間で格差らしい格差は無い。
相手がデスザウラー級の大型陸上戦闘ゾイドともなれば、その搭載量と出力の余裕は相手が上、
その上相手は欺瞞の要素が大きい地上にいて、発射母機の方は“余計なものの無い”空に浮かんでいる。
少なくとも、発射母機の可視光‐赤外線視察装置の視程の方が相手よりずっと長い、なんてことは無い。
すなわち、対重装甲ミサイルの発射母機は、
目標の眼前で相手に向かって真っ直ぐ突っ込んでいかないと、この戦神の鎚を振り下ろすことが出来ないのである。
軍事技術の発達した環境において、地上兵器に対する航空兵器の優位とは、
すなわちその神出鬼没さによって各種のタイミングの選択権を握っていることにある。
相手の目の前で真っ直ぐ向かっていくなどという行為をしている、つまり航空兵器ゆえの優位点を捨て去ってしまっている状況では、
搭載量の余裕が大きい地上兵器の方が強い。
しかも相手は、あの荷電粒子砲を備えるデスザウラー、
これでは、対重装甲ミサイルの使用は、大人しく撃ち落としてもらいに行くのと果たしてどれだけ違うというのか!
この事実は、ヘリック共和国上層部、軍関係者の全てを諦観にすら似た落胆の底に突き落とした。
デスザウラーとは、ここまでしないと倒せない存在であるのか……、と。
こうしてデスザウラーへの対抗兵器は、ディバイソン、マッドサンダーという新型重陸上戦闘ゾイドに絞られていったのであるが、
対重装甲大型航空軍用ゾイド兵装においては、汎用対重装甲ミサイルはその中心に据えられている。
それは、何のことは無い、他に手段が無いからであるが
―――航空戦においては、相手の死角に回り込み合うという行為が極基本的なことであるから、でもある。
ふん、とヴィリーは鼻を鳴らす。
「機体(ハード)の方は少なくとも及第点には達しているみたいじゃないか」
彼は汎用対重装甲目標ミサイルへの目標指定操作をしていた。
陸・海・空を問わず、戦闘ゾイドは、形態差異の幅が広く、またその時々で取っているポーズが大きく変わり、
さらに赤外線迷彩のパターンを機体毎に変えており、その上フレア、発煙弾等の欺瞞手段を使ってくる。
このため、可視光‐赤外線画像誘導方式の火器は事前に目標設定をしておくことが出来ず、
その射手は、目標を選択した度に可視光‐赤外線視察装置の情報を基に目標指定をしてやらなければならない。
もし、「どのように見えるものを目標とするか?」「どの程度まで見え方が違っても目標と判断するか?」を
きちんと指定していない可視光‐赤外線画像誘導火器が戦闘ゾイドに当たったら、
それを撃った人間は無残な死を迎える覚悟をしなければならない。
一生分の運を使い果たしてしまったに違いないからだ。
「ゼネバス帝国の連中を掻っ攫って行っただけのことはあるってことか……」
ヴィリーは可視光‐赤外線画像を見ながら操作を進めているが、そこに映し出されている目標の姿は、
その暗黒帝国軍爆撃航空ゾイドに高い水準の欺瞞技術が用いられていることを示していた。
ニカイドス島で、ゼネバス帝国の技術者、軍人を地球人も含め暗黒帝国に連れ去られたから、
碌な航空作戦も出来ない暗黒帝国軍といえども、
少なくともまともではある技術を使った軍用航空ゾイドを開発出来てもおかしくはない。
そしてヴィリーは自分が終えた操作の確認をすると、操縦席のレヴィンに通話、いつでも撃てるぞと知らせる。
各種砲や短射程のミサイルは、彼我の状態や相対位置に合わせて、タイミングをついて射撃しなければならないため、
基本的にパイロットが発射するのだ。
そんなうちにもルークリーダーは敵爆撃航空ゾイドとの距離を詰めていく。そしてレーザーを撃ち掛ける。
破壊の光条に曝される暗黒帝国軍機、と見る間に、そいつはいきなり機首上げをした。
と、突然にラムジェットエンジンの咆哮、衝撃がヴィリーを揺さぶり、闇空の中を光源が飛び去っていく。
一方、目標の方は?
……なるほど、流石はパイロット、レヴィンは自分より見切りも判断も早かった。
暗黒帝国軍機は、さっきの機首上げ動作で “跳ねる毒蛇(ジャンピング・バイパー)”をやったのだ。
飛行中に急激な機首上げを行い、それと同時に機体の軸に対して下方へのベクトルの推力を急激に増大させると、
それまでの進行方向へのブレーキと機体の軸に対して上方への加速が同時かつ急激強力にかかる。
それによって、その機体は斜め後ろに飛び跳ねたような動きをし、それまで取っていた進路からいきなり外れたようになる。
この機動(マニューバ)が“跳ねる毒蛇”である。
地球の航空機には不可能、仮に出来たとしても空中分解必至な、「常識外れ」の機動
(このため、地球人軍事関係者がこれを見た時、
急激な機首上げを行うところが、地球の軍用機で行われていた“コブラ”という機動に似ていたものの、
“コブラ”とは見た目の上で似ている部分もあるだけであくまで異なる機動である、ということを強調するために、
“ジャンピング・コブラ” ではなく、“ジャンピング・バイパー”と名付けたそうだ)
であるが、航空ゾイド、わけても強固につくられている軍用航空ゾイドにとっては極基本的な、当たり前に出来る機動だ。
無論、航空ゾイドは、地球の航空機と違って、その後の失速による制御不能などは無い。
であるから、それまでの軌道から突然外れる“跳ねる毒蛇”は、回避に絶好の機動である
―――と思ってしまうのは素人の浅はかさという奴で、“跳ねる毒蛇”をやると、
それまで飛行していた速度が急激に失われ、
さらにその状態だと、地面という固体を蹴って方向転換する地上の戦闘ゾイドに較べ、
周囲の空気という流体との相互作用により方向転換する軍用航空ゾイドはずっと機動性が低下する。
実戦の状況下においては、“跳ねる毒蛇”をやると、撃ってきた相手の次の攻撃やその他の敵機の格好の的になってしまう。
つまり、今あの暗黒帝国軍機がやったのは、直接攻撃を仕掛けてきた相手のみならず、もう一機自己を狙う敵がいる、
しかも自己は僚機の援護が無いというこの状況において、
およそ最悪の行動なのである。
当然、百戦錬磨のRAFパイロットたるレヴィンはその愚行を見落としたりはしなかった。そして見逃さなかった。
ルークリーダーがあいつに真っ直ぐ突っ込んでいった理由のもう一つ、「あんな奴ごときに共和国の地を荒らされてたまるか」、
それと全く同じ感情で、奴の“跳ねる毒蛇”を逃さずレヴィンが放った汎用対重装甲ミサイルが、
スクラムジェットの光を引く神の雷となって、二本角の飛竜に襲い掛かる。
322 :
踊る悪夢作者:2009/08/30(日) 22:48:30 ID:HRC241qB
今日はこれで終わり…… いや〜、厨くささ全開だな。まあ、次の投下分はもっと厨くさいんだけど。
「踊る悪夢」の次に考えてる奴(
>>312で書いたなかなか中盤が出来ないって奴です)と、その次に考えてる奴がもう、
すごく欝な話で書くのがしんどい(「鉄獣を狩るもの」でさえそういう意味でもしんどかったのに、この二つの鬱っぷりは「鉄獣を狩るもの」の比ではない)
もんで、今のところ逃避してるんだ、ということで御許し下さい。
しかし、中身の無いモン書いてるんだって自覚があると、文章に飾りが増えるな……。
ただいまPC規制中・・・
なので電話からGJ!
・・・一体いつになったら解除されるのかな
324 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/15(木) 00:42:24 ID:6VGE4YaI
ついにレッドホーンがHMM化されたぞ!
325 :
創る名無しに見る名無し:2009/10/23(金) 22:40:21 ID:JxVWVBlv
>>324 それでも
>>286で言ったように
モチベが動くわけでもないんだよなー
と、一週間ぶりに保守しながらつくづく思ふ
キットはすばらしい物が手元にリリースされているんだけどね
まあ何だね、それだけではやはりどうも駄目らしい
326 :
踊る悪夢作者:2009/11/06(金) 23:27:13 ID:MSqZtOsv
規制は解除されたか……?
327 :
踊る悪夢作者:2009/11/06(金) 23:32:24 ID:MSqZtOsv
やった、やっと規制解除された!
なんか前回からエラく間が空いてしまいましたが、「踊る悪夢」投下させて頂きたいと思います。
今回で「踊る悪夢」は最終投下となります。一回の投下で終わらせるべきな内容の話を長々と投下してすみませんでした。
では次レスから。
極高速侵徹体が目標に着弾すると、その極高圧により、装甲及び侵徹体自身の双方が物性上の限界を超え、
侵徹体が自身も損耗しながら、まるで、流体となった装甲の中を掻き分けていくかのように貫徹していくことになる。
ここで、装甲が、自身を貫かれきる前に、侵徹体を損耗させきる、もしくはその存速を失わせることが出来れば、
目標は貫徹されるのは免れることになる。
しかし、汎用対重装甲ミサイルの侵徹体は、まずそれをさせないだけの大質量を持っている。
故に、暗黒帝国軍機のガラ空きの背面に背負われた何らかのユニットに飛び込んだ汎用対重装甲ミサイルは、
自身も損耗しながらも装甲を突き抜け、ゾイドコアを破壊し、暗黒帝国から飛来した飛竜に確実な死を与える
―――筈であった。
歴戦のRAFの戦士達の眼前で、起こり得ない筈のことが起きた。
着弾した汎用対重装甲ミサイルの方だけが、一方的に損耗していったのである。
スクラムジェットにより与えられた極高速で、汎用対重装甲ミサイルは二本角の飛竜の装甲に押し付けられ短くなっていき
―――消滅した。
起こり得ない筈のこと、いや、起きてはならない筈のこと、
その様は、まるで、ミサイルが、現実と悪夢との境界に開いた飛竜の形の穴の中へと飲み込まれていったかのようであった。
魔竜が体勢を戻す。泰然と、忌々しいまでに悠然と。
そして、先程己が飲み込んだ火器を放った相手、
ルーク2のことなど眼中に無いというかのように、いや、元より知らぬとでもいうかのように、
前方にいる相手、“跳ねる毒蛇”により大きく減速していた己を追い越していたルークリーダーの方を向いて―――
「ルーク2、ルーク3だ! 援護しろ、ぶつけて墜とす!」
通信が入った、ルーク3とルーク4が追い付いてきていた。
先の出来事を確認したのだろう、ルーク3は自機をあの暗黒帝国の飛竜に突っ込ませる気なのだ。
確かに、汎用対重装甲ミサイルが効かない相手ならば、墜とせる手があるとすればそれしかない。
極めて機動性の高い軍用航空ゾイド相手にそれをやるには、
ギリギリまで機体を巧みに操り、激突の正に寸前で脱出しなければならないが、
ルーク3を駆るラッゾ・キンメル中尉はRAFでも有数の技量を誇る、十分に可能なことだ
―――相手が常識というものの範疇に収まってくれる奴ならば。
「やめろルーク3!」
ヴィリーの制止は聞き入れられず、ルーク3は、システム管制士官席からリグ・ルーパス大尉を射出すると、
正しく銀の弾丸(シルバー・バレット)の如く魔竜に向って突っ込んでいく。
その軌跡の延長上で、暗黒大陸から来た飛竜は大きく機首を上げた。その速度がみるみる低下する。
また“跳ねる毒蛇”をやる気か!?―――と見る間に、暗黒帝国軍機は背面がほぼルーク3の方を向いたところでハーフロール、
ルーク3に腹面を向けて向かい合う形になった。
まさかと思った予感は的中した。魔竜は、ルーク3に掴み掛ったのだ。
汎用対重装甲ミサイルが効かないほどの防御力があれば、敵からの射撃をある程度喰らってしまうことを前提とした行動が出来る。
先の“跳ねる毒蛇”はその表れ―――そして今のこの行動もだ。
体当たりなど、最初から、魔竜にとっては獲物の方から飛び込んでくる行為に過ぎなかったのである。
そして暗黒帝国の飛竜は受け止めた。音速の三倍を超える相対速度で向かってきた質量90tの物体を。
突然のあまりに予想外の出来事に、ラッゾは完全に脱出のタイミングを逃していた。
掴まれてから咄嗟に脱出しようとしたろうが、それより早く魔竜の顎が開き―――
「ラッゾ!」
ルーク3の操縦席は噛み砕かれた。
暗黒帝国軍機は、ルーク3を簡単に
―――それこそ、破壊することそれ自体が目的なのではなく、まるでそうした方が投げ捨てるのが楽だからとでもいうように―――
バラバラに引き裂くと、また水平姿勢に戻った。
ただし、今度は向きが入れ替わっている。今度は、ルーク2とルーク4の方に機首を向けた。
まるで品定めしているようだ、ルーク2(俺達)とルーク4、どちらを次の獲物にするか決めたら―――
「ルーク各機、逃げろ! 手の打ちようが無い! 逃げ回って地上(下)の奴等の避難する時間を稼げ!」
ルークリーダーだ、その通信はまるで突然の雷鳴のように感じられた。
そうだ、逃がさなければ、逃げなければならない、あのゾイドから、いや、この悪夢から。
ルーク2とルーク4はそれぞれ進路を変えて散開、
一方ルークリーダーの方は暗黒帝国軍機に向けて突っ込みながらレーザーを撃ちまくる。
しっかり狙ったものではない、あの化物にレーザーごときが通用するわけがないのだ、注意を逸らすためだけの射撃だ。
もっとも、あの魔竜からしてみればサラマンダーF2の搭載火器など意に介する必要も無いのは既に証明されている。
注意を逸らすことさえ出来るかどうか―――しかし、暗黒帝国の飛竜はルークリーダーの方に向き直った。
偶然にレーザーが防御上の弱点に当たることを警戒したのか、ルークリーダーも体当たりを仕掛けてくると思ったのか、
あるいは、本来、戦場においてはどんな強者にも許されていない筈の、ただの気紛れかもしれない。
いや、奴がどういうつもりかなどどうでもいい。
いずれにせよ、ルークリーダーの方に向き直ったのならば、今度はこちらが奴の注意を逸らすべきだろう。
そう考え、再び向きを変え始めたルーク2の管制士官席のヴィリーの目に、奇妙な光景が飛び込んできた。
あの魔竜の翼の前縁、その中ほどに、光の円弧が現れたのだ。暗視装置越しでなくとも見えるほど眩い光の円弧が。
次の瞬間、それは撃ち出されるかのように前方に飛び出し、ルークリーダーに向かっていく。
翼から飛び出した際、翼に隠れていた部分が現れ輪の形となっていたその光は、
進路上にいたルークリーダーを通り抜けてそのまま飛び去った。
そして、光輪に置き去りにされたルークリーダーは―――両断されていた。
ルーク2は再び回頭する。
ルークリーダーが墜とされた、となれば次は自分達かルーク4があの魔竜の攻撃目標になる。
ルークリーダーを屠ったあの攻撃は、奴がこちらをやすやすと血祭りにあげられることを如実に示した。
暗黒帝国軍機はルークリーダーの方を向いた、つまりこちらには殆ど背を向けた。
空戦の常識からすると、撃墜の絶好の機会なのだが、何しろ常識など踏みにじっている存在が相手である。
こちらに向き直り、加速が乗るまでの間に、少しでも距離を離さなければ―――
しかし。ヴィリーはその認識でさえ甘かったことを思い知らされた。
状況を確認するため振り返ったとき、二本角の魔竜は、既に追いすがってきていた。
なんという加速だ。悪魔が蹴り飛ばしてきたどころではない、魔王が叩き付けきたかのようだ。
そしてその、まるで嘲笑っているかの如く歪んだ口元が目に入ったとき、
まるで何かを覆い隠していた布が取り去られたかのように、ヴィリーは突如としてわかった。
この魔竜が闇夜を選んだのは、こちらの迎撃能力が下がるときだと思ったからではない。
こちらの避難・救護活動が遅くなるときだと考えたからだ。
「悪魔め!」
呪うしかなくなり、そう言葉を吐き出したことさえ、魔竜の思惑通りなのだと思えた。
ヴィリーは目を開けた。空が見える。
全てを飲み込むかのような、それでいて、全てを拒絶しているような、暗く、高い空が。
彼は、その空の底で、担架に乗せられ仰向けになっていた。
まるで、光の届かない海底に沈んで真上を見上げて水面を見ようとしているような格好だった。
「中尉! 気が付かれましたか!」
担架を運んでいる兵士に尋ねる。
「俺は後席乗員だ。俺の機のパイロットは?」
ほぼ同時にベイルアウトしたはずだから、そう遠くない位置に落ちていていい。
「! ―――それは……」
「いい、わかった」
そして、暗黒帝国軍機の爆撃目標がどうなったかを聞こうとしたが、それはやめた。
呆けたか。わかっているだろう。闇そのもののような空が、視界の隅でだけは赤く染まっている、これがどういうことか。
ヴィリーは目を閉じた。
瞼の裏が赤いのは、瞼を流れる血の色か、それとも燃える空が透けて見えているのか、あるいはそのように思えるだけなのか、
彼にはわからなかった。
後で聞いたところ、レヴィンは、座席の射出に先立って投棄されたキャノピーに叩き付けられたらしい。
射出座席の軌跡とキャノピーの軌跡が、同じ位置・同じ時に交差してしまったのだ。
運が、ヴィリーとレヴィンの生死を分けた。
サラマンダーF2のシステム管制士官席にはキャノピーが無いとはいえ、
操縦席のキャノピーの軌跡とヴィリーの乗った射出座席のそれとが交差していたとしてもおかしくはない。
ヴィリーは暗澹たる気持ちになり、作者はボケが伝わりにくかったかなあと反省した。
―――了―――
334 :
踊る悪夢作者:2009/11/06(金) 23:49:18 ID:MSqZtOsv
無駄に時間かかったけど、これでようやく「踊る悪夢」は終了です。いやホント、一回の投下で終わらせるべきな話を引っ張って申し訳なかった。
見直したら、二ヶ所ほど○/6の数字がおかしいですが、純粋にミスです、すみません。
……で、最後の一文は何だって話ですが……
あまりの厨臭さに、「ギャグでした」と言わずにはいられなかったんです、すみません。
「気に入らん!」という方は、6/6(俺のミスで5/6の二つ目になってしまっていますが)の投下分は無視して下さい。
一応、そこでも「終わり」に出来るように書いて、6/6は分けて投下したので。
次作はちゃんとやります…… ただ、鬱話なので、受けれ入れられない方もいるかとは思うのですが。
それでは、読んで頂いた方、ありがとうございました!
335 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/13(金) 04:28:11 ID:iVNDr5Ru
GJ!!
投下乙!
……やっと規制が解けた……
バトストの歩兵隊ってどうやってゾイドに対抗してるんだろう…
ウルトラマンの防衛チームが拳銃サイズの武器で50M級巨大怪獣相手に大健闘してる様な感じでは?
対ゾイドバズーカ砲とかは一応ある。バトストでも使われていたよ。
でも、ゾイドの関節とかに命中しないと歩兵は踏み潰されるだろうな。
公式ファンブック2に出て来たモルガの突進を受け止める歩兵…
くだらないの早く書け
あけおめ
今年は何か投下するよ
>>342 頑張ってくれ
残念ながら俺はリタイヤする
どうしてもゾイドのSSや考察なんかのモチベーションが出ない
趣味で無理しても辛いだけなのでやめる
ゾイドの話として考えていたプロットが
偶然読んだ某漫画とモロ被りしてて自分でもパクリにしか見えないぐらい似てたw
俺が考え付くぐらいのことはもうプロがやってる、というのをリアルで体験したぜ……
どうせ二次創作なんだからパロディって事で良いんじゃないの?
猿の惑星が上映された後、日本はそれに影響されて猿の軍団を作ったみたいな
>>345 トライガン
主にプラント周りの話が謎のシンクロニシティを発揮してしまった
>>346 今はそれじゃダメだって話してるんだろw
テーマが同じでも作る人によって違う話になるみたいな感じで何とかならんかな?
例えば同じ三国志を元ネタにしていても、一騎当千と恋姫無双は全然別物じゃんみたいな
350 :
創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 15:42:56 ID:TrQ/AIRQ
わざわざ自分が書かない理由をここにズラズラ書くぐらいなら
その程度の思いという事なんだから、無理に書かせるのはお互い労力の無駄でしょ
本当に書きたきゃそんな書かない理由を言い訳する前に
ネタが被ってもどうにか工夫して書くもんだ
別にプロが契約で書いているわけではないので無理強いは馬鹿らしい
本人が本当に書きたいネタ思いつくまで無理する事はない
IDにZiが含まれてるのに気付いて記念に
初代とスラゼロがたまらなく好きなんです
俺は旧バトスト2巻が好きかな
デッサン力あるじゃん
荒々しい野獣な感じが出てる
普通にうまい構図だ。
357 :
創る名無しに見る名無し:2010/07/25(日) 21:19:55 ID:nEaeaDpg
野生っぽくていいな。
358 :
>>354:
>>355-
>>357 ありがとうございます!
凱龍輝は最も好きなゾイドの一つなので気合いが入りました。
それと、SS進んでなくて申し訳ない……