自分でバトルストーリーを書いてみようVol.27

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228王の名を持つ者 5 ◆h/gi4ACT2A :2008/07/29(火) 23:31:18 ID:???
その際、かつてはディガルドに属していたがディガルドの支配者“ジーン”にはこれ以上
従えないと反抗勢力に寝返った者が大勢いた事が大きな理由の一つとなっているのだが、
全ての者がジーンから離れたワケでは無い。中には熱烈なジーン派の者もおり、こうして
ディガルドが滅んだ後も大陸外へ亡命し、百年経過した今でもディガルド再興を狙って
いたのであった。しかし、そうは言っても豊富な資源力を誇っていたかつてのディガルド
と違い、生産拠点を一切持たない彼らはさながら盗賊まがいの真似をせざるを得なかった。
今だってこうしてネオディガルド軍と格好付けていても、やっている事は大して力を
持たない宿場町を狙った略奪行為であるし、使用しているバイオゾイドも百年前の
大戦時に使われていた奴を騙し騙し使っている代物だった。
「しっかし…百年も経ってるのに凄い根性してますね〜あの人達。」
「だが…この町が危ない事は事実。町の自警団では到底対抗出来まい。」
やっとセリフの機会がやって来たスノーの言葉通り、確かに大した戦力を持たない
この町の自警団にネオディガルドのバイオゾイド軍団を撃退する力は無い。
だが、そこでキングが言うのである。
「よっしゃ! ならここは俺に任せてもらおうか? 俺が嘘吐きじゃねぇって事を
教える事も踏まえてな!」
「え〜?」
自信満々なキングに対し、信じられないと言った表情を取るミスリル。しかしキングは
その自信を崩さない。
「まあ良いから。騙されたと思って見ててくれよ。」
「何をするかは分かりませんが? そこまで言うのなら見てあげますよ。」
「ありがとうよ! それじゃあお前等ちょっと俺の周りの半径三十メートルから外に
退避してくれ!」
いきなり半径三十メートルから退避しろと言われて皆はワケも分からないと言った顔を
するが、そこでキングはただでさえ悪い目付きをさらに悪くして言った。
229王の名を持つ者 6 ◆h/gi4ACT2A :2008/07/29(火) 23:32:47 ID:???
「おいおい! 退避しねーと大変な事になっぞ? 死んでも良いならそれでも
構わないが……。」
「ええ〜? 死ぬ位大変な事なんですか〜?」
そこまで言われたら仕方が無いと皆はイソイソとキングの周囲三十メートルから退避した。
「それで良い。それで良いんだ。じゃ…行くぞ!」
その直後だった。キングの水色の頭髪とは全く違う真っ赤なアホ毛が天へ向かって逆立ち、
そこから燃える様な真紅のオーラがキングの全身を包み込んで行く。さながら何かの
イリュージョンの様でさえあり、皆は思わず見惚れる程であったが、その真紅のオーラは
さらに巨大に広がって行き……………
「ゲ…ゲェ――――――――――――――――――――!!」
またもミスリルお約束の叫び声…なのだが、今回はその場にいた全員(スノーを除く)で
叫んでいた。何故ならば真紅のオーラが晴れた時、そこには何とキングゴジュラスの姿が
あったのだから………
「ゲェ――――――!! 男の娘がやたらでっけぇゾイドに化けちまったぁ!!」
「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃ!」
「いやいや! キツネかタヌキの仕業だべぇ!」
余りにも衝撃的な光景に周囲にいた名も無き町人が顔から汗を噴出しながら大騒ぎ。
『だから言っただろうが! 俺ぁ悪い魔女に魔法をかけられて人間のオスに姿を
変えられちまったキングゴジュラスだってな! だがその魔法も完璧じゃねぇみたいで
こうして三分間だけ元の姿に戻る事も出来るんだ! …って言ってる場合じゃねぇ!
もう三十秒も経っちまってるじゃねーか! そんじゃ! ちょっくら行ってくらぁ!』
「三分って…どっかの光の巨人かよ…。」
キングゴジュラスへ姿を変えても、彼の言う自分を人へと変えた魔女とやらの魔法の
影響なのか、人語を話す事も可能でかつ声もエコーが付いているとは言え少女然として
おり、キングゴジュラスとしての姿とのギャップが激しすぎてシュールでさえあった。
しかしキングゴジュラスは構う事無く悠々と町の外へ向かって前身していくのみだった。
230名無し獣@リアルに歩行:2008/07/31(木) 11:15:56 ID:???
エヘヘの代わりにキンタロス
231名無し獣@リアルに歩行:2008/07/31(木) 14:34:34 ID:6yJbIJ1O
ちんぽチャーハン喰わせりゃ解決
(`・ω・´)キャオラッ
ちんぽチャーハン喰わせりゃ解決
すめらぎおっぱいでけぇな
ちんぽチャーハン喰わせりゃ解決
パイズリさせろや
ちんぽチャーハン喰わせりゃ解決
ズギャアアァァッ
鼻兎!紫彩乃!夢乃春香!
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232王の名を持つ者 7 ◆h/gi4ACT2A :2008/07/31(木) 21:51:53 ID:???
町の外では出動した自警団をネオディガルドのバイオゾイド軍団が蹴散らすと言った
光景が繰り広げられていたのだが…町の中から姿を現したキングゴジュラスの参戦に
よって流れは大きく変わる事となる。
「うわぁ! 何だあの巨大なのは!?」
「一体何処のゾイドだよ!?」
案の定、キングゴジュラスの姿を見た途端にネオディガルドの者達は慌てるのだったが…
『あーもー! もう一分経過してんじゃねーかぁぁぁぁぁぁぁ!!』
と、憂さを晴らすかの様な有無を言わせぬスーパーサウンドブラスターが放たれ、
キングゴジュラスそのものの叫び声をそのまま増幅した超音波がまるでゴッド○イスの
ごとく正面に展開されていたバイオラプター・バイオメガラプトル等を次々に吹飛ばした。
「うおわぁぁぁ! 何だ!? 一体何が起こったんだぁぁ!?」
「と…とにかく奴だ! 奴が何かしたんだ!」
ネオディガルドの者達にはスーパーサウンドブラスターが理解出来なかった。しかし、
キングゴジュラスが何かして、それで友軍が部隊単位で吹き飛んだと言う事は辛うじて
理解する事が出来た。故に彼等は攻撃目標をキングゴジュラスへ切り替えるのである。
ここまででキングゴジュラスに残された時間は一分四十秒。
『包囲等させる物かよ! スーパーガトリング!!』
今度は胸部に装備された大型各種ガトリング砲、スーパーガトリングを撃ちまくった。
それもまたキングゴジュラスの武装の名に恥じない冗談の様な威力でバイオゾイドどもを
次々に消し飛ばして行く。バイオ装甲もクソもへったくれもありゃしない。だがこうして
圧倒的な力を見せ付けている物のキングゴジュラスも必死だ。何しろこうしてキング
ゴジュラスとしての姿に戻れるのは三分が限界。それを過ぎれば、彼の言う“悪い魔女”
とやらの魔法が影響して非力な人間へ変わってしまう。そうなれば敗北は必至。一体
どのような経緯でこんな事になってしまったのかは不明であるが…とにかく現時点での
残り時間一分三十秒の間にネオディガルドを壊滅させねばならなかった。
233王の名を持つ者 8 ◆h/gi4ACT2A :2008/07/31(木) 21:52:59 ID:???
キングゴジュラスの冗談の様な暴れぶりは誰もが呆然と見つめる他無かったのだが、
そこでティアがある事に気付く。
「あ! そう言えばこう言う時にはミスリルお決まりのセリフがあるはずなのに…。」
確かに彼女の言う通り。今までならこの様な突き抜けた展開があるとミスリルは決まって
『アワワワワ…オラは見てはいけねぇ物を見ちまったぜよ!』
とか言ったりしていたのだが…今回はそれが無かった。
「どうしてあのセリフを言わないの? ってああ!!」
ティアがミスリルの方を向いた時、そこには腰を抜かしてその場にへたり込んだミスリル
の姿があるのみだった。
「どうしたの!? ミスリル?」
「………………。」
「ミスリル!? どうしたの!?」
ミスリルは返事をする事は無かった。ただただ恐怖に打ち震えた表情のまま…黙り込む
のみ。明らかに普通じゃない。これには一体どうした事だとティアも慌てる他は無かった。

かつてヘリック共和国やゼネバス帝国、ガイロス帝国と言った大国がひしめいていた時代、
キングゴジュラスはヘリック共和国技術陣の手によって生み出され、その絶対無比な力を
当時戦争状態にあった敵国軍へ振るった。その日以来、帝国の流れを汲むゾイドの全てに
“キングゴジュラス恐怖症”と言うトラウマが植え付けられた。それはキングゴジュラス
を直接知らぬ後の世代へも受け継がれ、また直接的に帝国製では無いにせよルーツを
辿れば帝国の流れを汲んだ技術系等によって作られているミスリルにも…その本能、
深層心理の中にキングゴジュラスに対する恐怖心が刷り込まれていたのだ。そしてこれは
彼女の剣であり盾であり脚である特機型ギルドラゴン“大龍神”も同様かもしれない。
234王の名を持つ者 9 ◆h/gi4ACT2A :2008/07/31(木) 21:54:16 ID:???
と、こうしてキングゴジュラスは各種強力な武装を持ってバイオゾイド狩りに精を出して
いたのだが、その最中に……
「キングゴジュラスだ! キングゴジュラスを倒せば俺は名実共に世界最強の男だ!!」
とまあこんな感じで喫茶店でキングと一触即発になっていた世界最強を目指すキザっぽい
男がシールドライガーDCSで背後からキングゴジュラスへ奇襲をかけようとしていた。
キングゴジュラス同様共和国の流れを汲むシールドライガーならば、キングゴジュラス
恐怖症によって戦うまでも無く萎縮する様な事は無かったが…
『お前ちったあ場の空気読めよ!』
今はお前の相手等していられはしないと言わんばかりにキングゴジュラスは尾で軽く
叩き落すのみだった。

キングゴジュラスに残された時間は一分を切っていた。残された時間で効率良く敵を
壊滅させるべくキングゴジュラスが取った方法は敵旗艦へのピンポイント作戦。
すなわちネオディガルドの母艦であり司令塔であるディグへの攻撃であった。
そうしてディグへ向けてスーパーガトリングを向けた時だったが…そこで突然
バイオティラノが立ち塞がったのだ。
『オイオイ! これまたグロいのが来たなおい!』
これには思わずキングゴジュラスも後ずさりしてしまう。どうやら流石の彼もバイオ
ゾイドは苦手の様子だった。もっとも、戦闘力では無くグロテスクなビジュアルに
だが…。そしてバイオティラノは両腕と背の副腕を左右へ展開させ、キングゴジュラスを
威嚇するポーズを取っていた。
「やあやあ我こそはディガルド武国屈指の武将と称えられたバル=サァン!!
ジーン閣下の成し遂げられなかった悲願である世界制覇を成し遂げ凱旋するまで
貴様ごとき相手に躓くわけには…フガァ!!」
せっかく格好良く名乗り上げを行っていたのに、入れ歯が外れて全てが台無しになって
いた。この男、既にネオディガルドでも数が少なくなった百年前のディガルド戦争当時
からの古株なのだが、それ故に既にかなりの高齢となっており、こうしてバイオティラノ
のコクピットに座って戦場にいる事自体が奇跡だった。
235王の名を持つ者 10 ◆h/gi4ACT2A :2008/07/31(木) 21:56:28 ID:???
『何だこりゃ? 爺さんが乗ってるのかよ。もう歳なんだから無理すんなよ。』
「黙れぇ! 貴様ごとき小娘に敗れたとあってはディガルド男児の名がすたるんじゃ!」
『小娘じゃねぇ! 俺ぁキングゴジュラスだ!』
先にも既に説明した通り“悪い魔女”とやらの魔法の影響なのか、キングゴジュラスと
しての姿を一時的に取り戻してもなお男の娘らしい少女然とした声で人語を話す事が
出来る。それ故バルには少女がキングゴジュラスを操縦していると認識していた。
「相手が小娘であろうと容赦はせん! 地獄へ落ちるがいい!!」
バルは再び入れ歯が落ちそうになっている事も構わずバイオティラノをキングゴジュラス
へ向けて突進させた。その強靭な脚力によって忽ち地面を抉り取りながら肉薄するが…
『ええい気持ち悪いんだよ!!』
「んべ!」
悲しいかなキングゴジュラスの掌底による張り手で簡単に叩き落され、そのまま頭から
地面にめり込んで動かなくなっていた。幾らバルが高齢だとは言え、逆に言えばベテラン
であり、かつバイオティラノの性能も相まって並の戦力が相手ならばほぼ負けは無いと
言えたであろうが、いかんせんキングゴジュラスに喧嘩を売るには力不足過ぎた。しかし、
バルに構っていたおかげでキングゴジュラスに残された時間は三十秒を切っていた。
『ゲゲェ!! 後三十秒しか無いじゃん! 早い所勝負をかけな!』
キングゴジュラスは慌ててディグへ向けて駆け出した。旗艦への直接攻撃を狙っていると
悟った他のバイオゾイドが次々に立ち塞がるが、キングゴジュラスを減速させる事さえ
出来ずに弾き飛ばされ踏み潰されるのみ。その光景はさながらラグビーやアメフトの
試合を見ているかの様であった。そしてディグまで目と鼻の先にまで接近した所でキング
ゴジュラスはその巨体からは想像も出来ない程の脚力で大きく跳んだ!
236王の名を持つ者 11 ◆h/gi4ACT2A :2008/08/01(金) 23:07:50 ID:???
『残り時間十秒! 行けるか!? ブレードホーン!! こちとら伊達や酔狂でこんな
頭をしてんじゃねーんだよ!!』
キングゴジュラスは頭部に輝く真紅の角ブレードホーンを煌かせ、ディグへ物凄い勢いで
突っ込んだ。この時点で残り時間五秒。しかしそれで十分だった。ブレードホーンが突き
立てられた瞬間、ディグは真っ二つになっていたのだから。当然忽ちの内にディグは崩れ
落ちて行き、キングゴジュラスはディグ後方へ格好良く着地して………
「ハイ、時間切れ。」
と、キングゴジュラスはキングと言う名の男の娘としての姿に戻っていた。これにて
戦闘は終了と思われていたのだが…このゴタゴタの中、奇跡的に生き残っていたネオ
ディガルド兵士の一人が傷だらけの身体を引きずりながらキングへ向けて銃を向けていた。
「あのバケモノはどうした!? ったく…貴様の様なガキ一人にネオディガルド軍が
壊滅させられるとは…なんたる屈辱……貴様には地獄すら生ぬるいんだよ!!」
「うわぁ! やべぇ! まだ生き残りがいやがった!」
ネオディガルド兵士はキングの事をキングゴジュラスのパイロットとして認識している
らしく、その手に持った銃で射殺しようとしていた。これはキングにとって非常に不味い。
今は脆弱な人間なのだから。かと言ってキングゴジュラスに再変身するにはある程度の
時間経過が必要。まさに絶体絶命のピンチ…と思われていたのだが………
「主人公は私なんだから少しは見せ場を下さいよ!!」
「んべ!」
ネオディガルド兵の頭上からミスリルが降って来てチタン・ミスリル・オリハルコン特殊
超鋼材、略して“TMO鋼”の脚がその頭部を踏み潰していた。キングゴジュラスが
戦っていた時は“キングゴジュラス恐怖症”を発症させ行動不能になっていた彼女では
あるが、人間としてのキングに戻った状態では平気らしかった。何はともあれキングが
取りこぼした分はミスリル達が掃討し、戦闘はこれにて終了した。
237王の名を持つ者 12 ◆h/gi4ACT2A :2008/08/01(金) 23:09:02 ID:???
戦闘のゴタゴタの後片付けは町の自警団に任せて、ミスリル達とキングは町外れにいた。
「と…とりあえず…貴方が嘘を付いていない事は分かりました。」
「そうだ。分かれば良いんだ分かれば。」
若干謝るミスリルに対しキングはさり気無く所有していたサラマンダーの足下に立ち、
腕組みしながら偉そうな態度で応対していたのだが、そこでティアも会話に加わって来た。
「でも性別と性格は男の子なのに顔だけ女の子なんて複雑な体質は不便じゃないの?」
「まあ確かにそうだな。だが何も悪い事ばかりじゃない。少しは良い事もあるんだぜ。」
「え…良い事…。」
ミスリルとティアは首をかしげた。スノーは無反応だが。そもそも男の娘と呼ばれる
人種は、自分の性別と顔のギャップに何かしらコンプレックスを持っている物だが、
キングは良い事もあると言う。それは一体何なのかと考えていたのだが…
「本屋で少女漫画コーナーに入っても怪しまれないからな!」
「あ……さいですか………。」
想像の斜め上を行く発言にミスリルとティアは揃って呆れる他無かった。まあこの状態に
あってスノーは全く動じていないのだが。
「んじゃぁ俺ぁもう行くわ。俺に変な魔法かけて人に変えやがった魔女を捻り上げて魔法
を解いてもらわにゃならんからね。と言うワケで…。」
そこでキングは何か一枚の紙をミスリルに手渡す。その紙には電話番号とメール
アドレスが記載されていた。
「それが俺の携帯の番号とメールアドレスだ。魔女っぽいの見付けたら連絡してくれ。」
「あ…さいですか…。」
238王の名を持つ者 13 ◆h/gi4ACT2A :2008/08/01(金) 23:09:53 ID:???
何か強引にこう言うの押し付けられても困るんだけどな〜と言わんばかりの顔でミスリル
も呆れるしか無かったが、キングは構わずサラマンダーに搭乗し発進させ新たな旅へ
出発していた。そしてキングが夕日へ消えるまでミスリル達は見送る。
「それにしても…本当に変わった人でしたね。」
「そうなのよ。」
「…………。」
まあ世の中本当に色々いると言うお話。だが、ここでミスリル達の背後から何かが
物凄い速度で飛び出し、キングを追うかの様に走り去って行った。それはキザっぽい男が
乗っていたシールドライガーDCSだった。
「キングゴジュラスだ! キングゴジュラスを倒して俺は世界最強の男になるんだ!」
キザっぽい男はまだその様な事をほざきながらキングの後を追っていたが、ミスリル達は
その姿にやはり呆れていた。
「あの人…まだ生きていたんですね…。」
「生きてたのね…。」
「………………。」

キングゴジュラスを人へ変えた“悪い魔女”とは如何なる存在なのか、はたまた如何なる
魔法なのか? キングは元のキングゴジュラスとしての身体を取り戻す事は出来るのか?
様々な謎を残しつつ…先の激戦が嘘の様に静寂に日は暮れて行った。
                   おしまい
239 ◆.X9.4WzziA :2008/08/01(金) 23:47:59 ID:???
定期age
240名無し獣@リアルに歩行:2008/08/04(月) 15:51:57 ID:???
ドキドキ愉快リュウタロス
241 ◆.X9.4WzziA :2008/08/31(日) 22:18:57 ID:???
定期age
242使いと糸無し ◆5QD88rLPDw :2008/09/02(火) 05:15:30 ID:???
「うわああっと!危ない危ない…へぎっ!?」
思わずミレッタ、ジョイス、エリックを纏めて抱き締めダイブしたファイン。
しかしどうやら触ってはならない場所にお触りをしてしまったらしい…。
「そう言うときは事前に声を掛ける!でも助かったわ。」
彼等数秒ほど前に居た場所はマネキンの手刀の突き刺さった跡。
その場に居れば間違いなく串刺しだっただろう。

「ねえ?確か魔銃を持ってなかったっけ?あれ使えば一発でしょ?」
「すいませんねぇ…実は数日前にレッサーデーモンとの戦闘でバレルが…。」
「ばれる…が…?」
「裂けてしまって本国からの支給待ちなんですよ。申し訳ない。」
「…こんなときに限ってですか。」
ミレッタは駄目だこりゃなゼスチャーを執りながら溜め息を吐く。
「しかしおかしいですねぇ?令呪は無くなりましたがマネキンは動いています。
動くだけなら兎も角として少なくとも私達はついさっきまでは気概を加えていません。
それなのにこれだけ恨まれるような状況は明らかにおかしくありませんか?」
ファインが勿体ぶって回りくどく喋ったのには意味が或る。
刑事であるエリックと執事のジョイスはその意味をある程度予測しに入っているが、
肝心のミレッタがまだ真意に気付いていない様子だった。
そんなこんなしている間にもマネキンゴーレムは距離を詰めて来ている。
それ程時間的猶予は無い…。

「…銀次?聞こえますか?アレの所在を知りたいのですが?」
「へい…やっぱりアニキ読み通りのようで。居やした!スパイナーです。」
「ダークスパイナー!?なんでこんな場所に?」
銀次とファインの通信にミレッタは目を白黒させる。
「解りませんか?事件の失敗を減らすためには手段を選ばない…
その場合なら簡易令呪を随時送信できる電波塔が必要不可欠。
その上自衛能力が高い物となればそれは自動的に限定されてしまうと言う事です。」
「銀次!ライトブリンガーをなるべく早く持ってきてください!」
「了解ですアニキ。」
243使いと糸無し ◆5QD88rLPDw :2008/09/02(火) 05:16:54 ID:???
「すいませんエリックさん緊急事態ということで…火薬使用取締法。
アレを一時的に解除してくれませんか?」
「え〜…またですかぁ?しょうがありませんねぇ…。」
ファインの要請にエリックはしぶしぶ了解する。
「それでは了解を頂いたと言う事で!」
ファインはいち早くマネキンの怪力でベコベコに凹み歪んだコンテナに飛び乗る。
その後次々とコンテナを飛び移りマネキンの攻撃を避けながら…
丁度ミレッタ達とマネキンゴーレムを挟み撃ちの状況に置く。
「いけますね?ミレッタさん?」
「合点承知!クロスファイアオペレーションね!」

ファインはズボンのポケットをごそごそ探り無許可での使用がご法度の獲物を、
ミレッタは義手の繰り糸を引き肘から上の部分に有る複数の穴をマネキンに向ける。
「さて…祭を始めましょうか?」
「そうですね。始めましょう始めましょう。」
二人のノリと声は妙に明るくはあるが目は全く笑っていない。
獲物を狙う猛禽類のごとく鋭い眼差しをマネキンゴーレムへ向けている。
「「クロスファイア!」」
掛け声が全く同時に発せられるとマネキンゴーレムもそれをさせじと動き出す。

「おっと?狙いは正確であることが重要なんです。でも偏差射撃ができていませんね!」
マネキンのパーツの弾幕をあっさりと躱しファインは指先に摘んだ物を一斉に投げる。
それは数回転した後マネキンゴーレムへ向けて加速。
キャンディーの様に見えたそれは超小型パンツァーファウスト。
「スティックファウストですか…おつな物を使いますね♪」
そう言ってミレッタの上腕二等筋辺りが伸縮運動をすると多数の何かが発射される。
「相変わらずアームバリスタを愛用しているようで。怖い怖い…。」
戦力の差は圧倒的技量差で覆されそれを示す爆音が倉庫街に響き渡る。
マネキンゴーレムは中枢部を完膚無きにまで破壊され焼ける樹脂の嫌な匂いを上げる。
その匂いは爆発の影響で割れてしまった窓ガラスから外へ流れていく…。
取り敢えずだが殺人マネキンの駆除には成功したと言えなくもない。
244使いと糸無し ◆5QD88rLPDw :2008/09/02(火) 05:45:57 ID:???
「アニキ!動き出しやした!スパイナーの野郎が!」
勝利の美酒に酔いしれる暇は与えられないらしい。
それどころか証拠物件の確保も難しい状況になってきた事も解る。
「逃げましょう!少なくともこの区画から出ないと危ない所の話ではありません!」
エリックは可能な限り撮影機材でマネキンを映しながら器用に逃げる。
「それって一体!?」
ミレッタが唖然としながらエリックに尋ねると…
「これがヘリック共和国の警察機構の秘術の一つ逃げ撮りの一つです。」
「他にも或るのっ!?」
流石のミレッタもびっくりな情報だった。

スピノサウルス種の咆哮が倉庫街に響き渡る。
子飼いのマネキンを失ったことへの怒りか苛立ちかは本人のみ知るところだろう。
立ち上がったダークスパイナーは手当たり次第に近場の倉庫をマシンガンで撃つ。
十秒ほども待たずにその凶弾は一行が居た倉庫を瓦礫に変え更に迫る。
「ライトブリンガーは間に合いそうもないですねぇ…うわったたた!!!」
エリックを抱えファインは全速力で脇の倉庫に身を隠す。
ミレッタとジョイスは完全に反対方向の倉庫へ身を潜ませやり過ごす構えを執る。
しかし狡猾な彼の背鰭は直ぐに彼等の居場所を突き止めるのだが、
一行に攻撃に移ることが無い。それもその筈である。

「ゴジュラスギガ!こんな倉庫街に何故配備を!?」
これには全員が大いに驚く。元来こう言ったオカルティクスな事には疎い共和国。
特に軍部とも成ると端から信じる様子は無く数式で現せない物は畑違い。
そう言って取り合ってくれない事が決まり事だった。
それなのに迅速過ぎるゴジュラスギガの配備は充分驚くに足りる事であった。
旗色が一気に悪くなったダークスパイナーは逃げの一手を打つのだが、
更に驚くことにその退路を防ぐように突然倉庫の瓦礫を突き破り飛び出す影。
桜色に染まったケーニッヒウルフは既にヘッドギアを付け終えており、
自慢の牙を瞬時にダークスパイナーの首筋に突き立てていた。
「エレクトリックファンガー!これで決まりね!」
その言葉通りにダークスパイナーは膝を突き動かなくなった。
245帰ってきたキングゴジュラス ◆cIvjGgItu. :2008/09/05(金) 23:12:55 ID:???
その昔、惑星Ziを巨大隕石群が襲った。隕石は惑星全土に降り注ぎ、あらゆる物を破壊
して行った。その最中、一体の巨大ゾイドが隕石を破壊すべく奮闘していたが…惑星Zi
の被害を最小限に食い止めるのが精一杯であり、最強と呼ばれたそのゾイドの力を持って
しても巨大隕石には敵うべくも無かった。隕石との戦闘により、致命的ダメージを受けた
巨大ゾイドは鎮座し、間も無くして搭乗者の手によって自爆させられた。しかし、炎の
海の中へ巨体を沈めていくはずだった巨大ゾイドの前に一人の少女が現れ…

         「フフフ…お主の命…わらわが預かったわ…。」

     『帰ってきたキングゴジュラス』   ブロック機怪獣ブロットン 登場

ヘリックもゼネバスもガイロスも…その様な大国は既に遥か過去の物となった時代。
その時代の惑星Ziは大小高低多種多様な文明が息付いていた。この時代になってもなお
争いの種は尽きる事は無かったが、惑星全土を巻き込む様な大戦にはなっておらず、
そういう意味では概ね平和だった。

とある小さな町の大衆食堂。老若男女様々な人々が食事を楽しんでいたのだが…そこで
一人の少年が現れた。外見的には十代前半位だが、実年齢は不明。先には少年と表記した
ものの、その顔は実に美少女じみており、俗に言う所の“男の娘(笑)”要するに…
「こんな可愛い子が女の子なワケ無いじゃないか!(笑)」
と言った様相をしていた。加えて水色の頭髪と、頭頂部にのみ一本だけ重力に逆らって
立つ真っ赤なアホ毛や妙にツンデレキャラっぽい雰囲気を感じさせる目付きの悪さと
言った特徴があった。そして、“キング”と名乗る彼は“男の娘”と形容される程の
美少女顔が無意味になる位にズカズカと店主へ不敵に歩み寄った。
「おうオヤジ! この店に魔女っぽい女がいるって聞いたがそれはマジか!?」
男の娘と形容される者は、外見的のみならず、内面的にも何処か女々しい所がある物だが
彼…キングには当てはまらないらしい。まあ声は少女全とした美声であったが…。
「魔女っぽい…女? もしかしてあっちで味噌ラーメン食べてる人かな?」
店主が店の隅っこを指差すと、そこには真っ黒い帽子に黒マントと言う如何にもと言うか、
明らかにわざとらしい位にまでの魔女的ファッションの少女の姿があった。そして闇を
思わせる深く漆黒の頭髪と瞳を持ち、美しさと共に恐ろしい雰囲気を放つ。それでいて
普通に大衆食堂で味噌ラーメン喰ってるんだからシュールとしか言い様が無い。
「アイツだ! 間違いねぇ! オラオラ! ここであったが千年目だ!!」
今度は魔女っぽい少女に対してズカズカと歩み寄るキング。
「なんじゃぁ誰かと思えばお主では無いか。まあ待っておれ。わらわは今味噌ラーメンを
食している最中じゃ。」
「早くしろよ。」
この魔女っぽい少女。外見的にはキング同様に十代前半と言った所の美少女であったが、
その口調は何と言うか…かなり今時とはかけ離れた物だった。まあ待てと言われて大人
しく待つキングもキングだが…。

味噌ラーメンを食べ終え、勘定も済ませた魔女っぽい少女とキングは町外れまで移動した。
「では…お主がわらわに何の用じゃ?」
魔女っぽい少女がキングを見下す様な美しくも冷酷な眼でそう訪ねた時、突然キングが
彼女の首を掴み、締め上げた。
「てめぇ! ついに捕まえたぞ! さあ俺を元に戻しやがれ!! てめぇが俺にかけた
変な魔法とやらを解きやがれ!! じゃなきゃ殺す!!」
憎悪をむき出しにして力一杯魔女っぽい少女の首を締め上げるキングであったが、少女は
全くと言って良い程動じてはいなかった。
「ええのんか? ええのんか? わらわが死ねばお主にかけられた魔法は永遠に解ける
事は無いぞよ。まあ、お主に殺される程柔な身体はしとらんがのう。」
「くっ…。」
首絞めによる脅しが通じないと見るや否やキングも手を解かざるを得ないが、魔女っぽい
少女はやはりキングを見下す表情のまま言った。
「第一わらわ…この“トモエ=ユノーラ”こそ遥か昔に死に掛けていたお主の命を救って
やった恩人だと言うのに何じゃこの仕打ちは? それだけじゃないぞ。お主に人間として
生きる術を教えてやったのもわらわであるし…お主が今使っとるゾイドをプレゼントした
のもわらわじゃ。感謝される覚えはあっても恨まれる覚えは無いはずじゃがのう。」
「そこは確かに感謝してるが…だからって人間の雄に姿を変える事は無いだろうが!?
何でこんな事するんだよ!」
「何って、面白いからに決まっておろう?」
「俺は面白く無ぇんだよ!! いいから戻せ!!」
また首を締め上げ始めてしまうキングであったが、魔女っぽい少女…“トモエ=ユノーラ”
はやはり動じてはいなかった。

“トモエ=ユノーラ”
彼女は単なる魔女のコスプレをしただけの少女では無く、正真正銘の魔女である。だが、
その詳細は謎に包まれている。外見は十代前半の少女の物であるが、実際は数百…
いや数千年の時を生きていると言われる。そして、科学では説明する事が出来ない魔術を
駆使し、遥か大昔においてキングに“とある魔法”をかけており、それがキングの弱みに
なっているらしいのだが…この通り、キングはどうにも彼女に勝てないらしい。

「元の姿に戻してやらん事は無いがのう? 条件さえ満たせばな?」
「何だ!? どんな条件だよ! 言って見ろよ!」
首を絞めたまま問い詰めるキングに対し、トモエはニヤリを微笑みながら…
「わらわの男として一生涯わらわの為に働くつもりなら戻してやらんでも無いがのう?」
「ふざけるな!! 俺に指図して良いのはヘリックU世プレジデントだけだ!!」
「ほ〜そうかそうか…。」
直後、トモエはキングの首絞めから容易く脱すると共に、まるで浮き上がる様に軽やかに
後方へ飛んだ。
「わらわに会ういたくばビース共和国へ行くが良い。わらわはそこにおる。」
「何だと!?」
再びトモエへ掴みかかろうとするキングであったが、その時にはトモエはフッとその場
から消え去っていた。それはグラヴィティーホイール搭載機が持つワープとはまた異なる
全く異質の転移方法だった。これも彼女の魔法の力と言うのだろうか?
「くそ…ビース…共和国か…。」
早速キングはビース共和国へ向かった。トモエの言う通りにするのは癪ではあるが、他に
手がかりが無いと言うのなら仕方が無い。早速彼はさり気無く日常の足としてトモエから
譲渡されていたレイノス(前回…“王の名を持つ者”ではサラマンダーに乗っていた気も
するが、気にしない方向で)に搭乗し、高度文明圏の位置する国家の一つ“ビース共和国”
へ赴くキングであったが……

「ありのまま、今起こった事を話すぜ。俺はトモエの奴を追ってビース共和国へ行ったと
思ったら何時の間にかに逮捕されて牢獄に入れられていた。な…何を言っているのか
わからねーと思うが…俺も何をされたか分からなかった。頭がどうかなりそうだった…。
トンデモだとか超展開だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしい物
の片鱗を味わったぜ…。って事でオッサン! 何で俺が逮捕されなならねぇんだ!?」
キングはビース共和国へ到着するなり、速攻で逮捕されていた。勿論理由は分からない。
それに関し、キングは牢獄の鉄格子を握り締めて看守へ問い詰めていた。
「何故逮捕されたかだと? それはお前が使っていたゾイドに問題がある。」
「ゾイドに問題? あれは至って普通のレイノスでヤバイもんは何も積んではいないが?
まあ多少強化はされてるみたいだけどな。」
「レイノスだからだ。我がビース共和国では恐竜型ゾイドの一切が禁止されており、
無論所有も認められていない。貴様が逮捕されたのは当然の事だ。」
「何だその無茶苦茶な法律…ってかレイノスは翼竜型であって恐竜違うぞ。」
「どっちも一緒だ! 古代ヘリック共和国の後継者であるビース共和国は恐竜型の一切を
認めていない! であるにも関わらず恐竜型ゾイドを持ち込んだ貴様は重罪だ!」
「ヘリック共和国の後継者だと…ハハハ…笑わせてくれるじゃねーか。寝言は寝て言え。」
「重罪人が何を言う!! 子供とは言え容赦はせんぞ!?」
看守は思い切りキングの収監されている牢獄の鉄格子を蹴り付け、周囲に鈍い音が響く。
「おーこわ。ならもう一つ聞かしてくれ。ここの国は何故そうまで恐竜型を嫌う?」
「恐竜型ゾイドは危険だからだ。闘争本能の高すぎる恐竜型ゾイドは我がビースには
不要…いや…もはやこの惑星Ziそのものに存在してはならない存在なのだ!」
「何故そうなる? 恐竜型にも大人しい種はいるし、逆に哺乳類型や昆虫型にも
凶暴で扱いにくい奴とかいるだろ? なのに何故恐竜型のみピンポイントなんだよ。」
「つべこべ言うな重罪人がぁ!!」
またも看守は鉄格子を蹴り付け、鈍い音が響いた。
「おーこわ。でもまあこの国が色んな意味でヤバイってのは分かったわ。」
「ヤバイだと? 貴様の様な考え方の方がよっぽど危険だ! と言っても…牢の中では
そうやって文句を言う事しか出来まい。それに我がビース共和国は全恐竜型廃絶運動を
全世界で実施する予定だ。」
「何だと? そんな…他の国が黙ってると思うか?」
「何を言っている? 恐竜型が存在してはならない様に、恐竜型ゾイドを擁護する国も
また存在してはならないのは当然だろう?」
「そうか…。(ダメだこりゃ…典型的な独善だなこりゃ…。)」
看守の余りの独善的な言葉にキングも呆れる他無かった。ビース共和国が本当に彼の
言う通りの国ならばそれはもう救いようは無いし、キングとしても何時までもこんな
所にいるつもりは無い。
「それじゃ…俺はそろそろ行くわな。そもそもこんな鉄格子なんてその気になれば…。」
キングは鉄格子を両手で掴み、力を込めた瞬間ひん曲げてしまった。男の娘らしからぬ
馬鹿力である。そしてキングは悠々と脱獄する。
「な! 貴様!」
慌てて警棒を構える看守だが、その時にはキングの拳が腹にめり込み、気を失っていた。

牢から出たキングは早速レイノスを奪還し、脱出した。しかし、彼の行為は完全な脱獄で
あり、ビース共和国軍が黙ってはいなかった。
「脱獄囚は禁止ゾイドによって逃亡中!」
「脱獄の上に禁止ゾイドまで…これはもはや極刑ものだぞ!」
「逃がしてはならん! 他の者に対する示しの意味も込め、奴を捕らえろ!」
キングが飛行ゾイドであるレイノスで逃亡した事もあって、ビース共和国もまた空軍の
鳥類型飛行ゾイド、ハリケンホークによって追撃を開始した。

「あれがハリケンホークね…。何っつーか…サラマンダーのモロパクリじゃねーか。
なのに何であっちが良くてこっちがダメなんだよ。ビース共和国ってワケ分かんねーな。」
ハリケンホークの形状がサラマンダーに極めて酷似している事に関して疑問を持ちながら
降りかかる火の手を払う為にキングは自身のレイノスを反転させた。

キングのレイノスはトモエから貰った物である。トモエが何処でレイノスを調達したのか
は不明だが、今はそれをとやかく考えている暇は無い。
「悪いな! 俺ぁここでやられるワケにゃ行かないんだ! それに俺だって遊んでる
ワケじゃねぇ!」
ビース空軍の主力戦闘機ハリケンホークはレイノスと比較して数世代先に存在する機体で
あるが、だからと言ってレイノスも決して負けてはいない。むしろレーダー性能は
レイノスの方が遥か上であり、素早く敵機の位置を把握して的確にビームを命中させ、
次々に落として行った。性能はもとより、キングの操縦技術に関しても目を見張る物が
ある。これも実はトモエの言っていた“キングに教えた生きる術”の一環として含まれて
おり、そこを考えると、普段キングを振り回しているトモエのおかげで、キングが今と
言う状況を生き延びる力を付ける事が出来たと言うのは実に皮肉な話である。

こうして、ハリケンホーク隊を迎撃していたのだが、そんな時…それは起こった。
「ん…? 何だ?」
ハリケンホーク隊とのドッグファイト中にレイノスのレーダーが新たな機体の反応を
キャッチした。しかしビース共和国軍の増援の類では無い。別の巨大な何かが今キングの
レイノス等がいる空域の真下、ビース共和国の都市群を破壊していたのである。
「あ! ありゃ何だぁ!?」
思わずキングは叫んでいた。何故ならば、ビース共和国の都市群を破壊していたのは
巨大な丸い岩石の彼方此方にフジツボが生えている様な…そんな奇怪な形状の正体不明
物体。とりあえずレイノスのレーダー&コンピューターが、その正体不明物体に関し、
数百数千と言う数のブロックスが一つに融合してあの様な形を取っていると言う分析結果
を出し、少なくともゾイドであると理解出来たが…余りにも無機質過ぎて生命体らしさが
感じられなかった。しかも、それがゴロゴロと転がりながら行く手に存在する都市の
ビル群を踏み潰して行っているのである。
「お?」
そこで先程までキングのレイノスと空中戦を演じていたハリケンホーク隊が反転し、
フジツボ状のアンノウンへ向けて攻撃を開始していた。脱獄囚の追撃よりも、未確認物体
から自国の都市や民間人を守る事の方が優先順位が高いと言う事である。他にも地上を
見ると、ビース共和国陸軍のブレイブジャガーやハードベアーと言った面々が出撃して
おり、フジツボ型アンノウンへの攻撃を行っていた。
「さてさて、ビースさん所のお手並み拝見とさせてもらおうか? お前等が本当に
ヘリックの後継者となり得るか…。」
とかなんとか、格好良い事言いながらレイノスと共に上空を旋回しながら眺めていた
のだが…何と言うか…やはりと言うか…全然歯が立っていなかった。

「あらら…ダメだこりゃ。だがこの場合あれが強いと考えるべきか。一体何なんだ?」
キングはますます首を傾げる。レイノスのコンピューターによる分析でも、多数の
ブロックスの集合体によるゾイドと言う点以外は分からなかったが…
「あれはブロック機怪獣ブロットンじゃ。」
「うお!?」
いきなり直ぐ隣から離しかけられて思わずレイノス共々に驚くキングだが、そこには
なんとホウキに乗った状態でレイノスと並んで飛んでいるトモエの姿があった。
明らかに物理法則を無視した様な光景であるが、これに関して彼女いわく…
「魔女がホウキで飛んで何が悪いのじゃ?」
と言う事らしい。何か滅茶苦茶だが、最初から彼女に物理法則を押し付ける方がよっぽど
愚かな行為。だからこそ、キングも彼女はそういう事が出来る程度にしか考えない様にし、
先程彼女の言った言葉に対する質問をする事にした。
「機怪獣って…何だ? 機械獣じゃないのか?」
「機械の獣では無い。機械の怪獣…機怪獣じゃ。最近世界各地で出現する様になった
正体不明の連中でな。きゃつらは並の攻撃では歯が立たん。」
「正体不明? お前でも分からないのか?」
「うむ…。そりゃわらわにも分からない事の一つや二つあるわ。それはそうと、見てみる
が良い。ビース共和国とて決して弱くは無い。じゃが…全くと言って良い程歯が立って
おらんであろう? まるで怪獣映画の様な光景じゃ。」
確かに彼女の言う通りかもしれない。彼女が“ブロック機怪獣ブロットン”と呼んだ
フジツボ型の“機怪獣”はビース共和国の誇る猛獣師団の総攻撃を受けてもなお平然と
しており、悠々と街を破壊し続けている。さながら怪獣映画の様である。
「ハッハッハッ! ざまぁ見ろだ!! 恐竜廃絶なんて考えるから罰が当たったんだ!」
ブロットンに破壊されるビースの都市を尻目にほくそ笑むキングであったが…
「まあ確かにお主の言う通りじゃな。じゃが…このままにしといて良いのかのう?
きゃつはビースを破壊した後は他国にも攻め込むであろうな。そうなれば当然お主にも
降りかかって来るぞよ?」
「う…。」
痛い所を突かれ、キングも黙り込んだ。トモエの言う通り、これは人事では済まない。
とすれば…降りかかりそうな火の粉は今の内に振り払っておくべきである。
「全くしょうがねぇなぁ…。あ、その前にちょっと待った。奴について…ブロックスの
集合体だからブロック機怪獣ってのは分かるが…ブロットンって名前の由来は何だ?」
「わらわがさっき考えたんじゃ。」
「あ…そうかい…。なら行って来る…。」
何か微妙な気持ちになったが…それでもキングは操縦桿を倒し、レイノスをブロットン
目掛け急降下させた。
ブロットンはなおも岩石状の巨体を転がしながらビルを倒し、行く手に存在する物全てを
踏み潰していた。無論ビース共和国の猛獣師団の攻撃もまるでビクともしていない。
陸からのブレイブジャガーやハードベアーの砲撃、空からのハリケンホークのミサイル
攻撃もまともに意味を成さない。むしろブロットンの各部に存在するフジツボ状の物体
から放たれる光線により、逆にやられて行く始末だった。
「オラオラ退け退け! カス共がぁ!!」
そこへ急降下して来たのがキングの乗るレイノス。そしてブロットン目掛けミサイル・
ビーム等各種武装の連射を叩き込むが…やはりこちらもビクともしない。
「やっぱり効いてないでやんの…。こうなったら仕方が無い!」
ブロットンのフジツボから放たれる光線を回避し、一度上昇した後でレイノスの
コックピットを開き、キングは飛び降りた。一見すると単なる自殺行為でしか無いが…
ブロットンへ降下して行くキングの頭頂部に生えた真紅のアホ毛が燃える様に輝き始め、
その輝きが彼の全身を包み込み…巨大な何かへ変化して行き……………

『よぉく見さらせビースのカス共!! これが俺の本当の姿! ヘリック共和国が作った
史上最強のゾイド! キングゴジュラスだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
燃える様な真紅の輝きの中から現れたのは間違い無くキングゴジュラスだった。
デスザウラーよりも頭一つ抜き出た巨体。全身を覆う重装甲。胸部の巨大なガトリング砲。
そして頭部に輝く真紅のブレードホーン。これは紛れも無くキングゴジュラスの持つ特長。
しかも、そこから放たれる声色は若干電子音風にアレンジされてはいるが、紛れも無く
キングの物だった。
これこそトモエがキングにかけた魔法だった。かつて巨大隕石群の迎撃によって大きな
ダメージを受けた上に搭乗者であったヘリックU世によって自爆させられ、そこで
彼の命は尽きるはずだった。しかし、その場をたまたま通りかかったトモエによって
回収され、さらに魔法によって人間の雄へ姿を変えられ現在に至るのである。一体何の
思惑があってトモエが彼を蘇生し、人間にしたのかは不明だが、キングゴジュラスが
今の時代も健在である事は紛れも無い事実。そして、トモエ自身の作為的な物なのか、
はたまた魔法も完璧では無いのか、一時的に自分の意思でキングゴジュラスとしての
姿に戻る事が出来た。

『オラァ!!』
キングゴジュラスの巨大な拳がブロットンへ叩き込まれ、フジツボの一部が砕け散り
そこから数十のブロックス欠片へ姿を変えた。通常兵器の一切通じぬブロットンの身体も
キングゴジュラスの大馬力から繰り出される打撃の前には一溜まりも無かった。
『キングミサイル!!』
間髪入れる事無くキングゴジュラスの口腔部から放たれる一発のミサイルがブロットンの
別のフジツボを撃ち砕く。まさに圧倒的。キングゴジュラスの力は圧倒的だった。

「……………………。」
ビース共和国軍の者達は呆然とキングゴジュラスとブロットンの戦いを眺める事しか
出来なかった。双方共に何の脈絡も無く登場した余りにも住む世界の違いすぎる怪物故、
恐怖の余り泣き叫ぶ事も出来なかったのである。だがそんな時、一人のビース共和国軍
将校が呟いた。
「おい…後から現れた方の化け物…自分の事をヘリック共和国の最強ゾイドとか言って
なかったか? ヘリックって…あのヘリックの事だろ?」
「まさか…。そんなはずはない。我等ビース共和国の前身たる古代ヘリック共和国が
あの様な恐竜型ゾイドを作るはずがない。」
「そうだ。奴は我々を混乱させようとしているだけだ。」
ビース共和国において神聖視されているヘリック共和国もキングゴジュラスを初めとし
様々な恐竜型ゾイドを作っていたのだが…その後継者を名乗るビース共和国の者達は
恐竜型の一切を拒絶する風土で育った為か、その事を一切信じる事は無かった。
『うぉら! でゃぁ!!』
キングゴジュラスとブロットンの激闘は続いていた。やはり戦況はキングゴジュラス優勢。
ブロットンが巨体を生かして押し潰そうとのしかかって来ても、逆に投げられ、尾で叩き
付けられる始末であった。しかし…
『これで砕けて死ねぇ!』
キングゴジュラスが再度拳をブロットンへ叩き込もうとした時、拳が直撃するより先に
ブロットン自身が分散してしまった。元々ブロットンは数百数千と言う数のブロックスの
集合体。故に自分で分離したと言う事なのだろうが…その後が違った。何と分離した
ブロックスの一つ一つが散弾のごとくキングゴジュラスの全身へ撃ち込まれていたのだ。
とは言え、キングゴジュラスの装甲も固く、軽く目をくらませる程度にしかなら無い。
だが、そう思った直後にブロットンはキングゴジュラスの背後で再度一つに融合。
フジツボの穴から発射した光線をキングゴジュラスの背中に叩き込んでいた。
『うわっとっと!』
ダメージそのものは皆無だが、光線に押し流される形で手近なビルへ倒れこみ、そのまま
ビルを瓦礫へと化えてしまった。そうなればビルの近くにいた民間人やビース共和国軍
ゾイド等にも瓦礫が降り注ぐワケで……阿鼻叫喚となっていましたとさ。
『うわ…やば…………知〜らないっと。』
結局キングゴジュラスは知らない振りして立ち上がり、ブロットンとの戦闘を再開した。

力量的にはキングゴジュラスの方が圧倒的に分があるのだが、ブロットンのトリッキーな
戦法の前には予想外の苦戦を強いられた。そうこうしている内に…突然キングゴジュラス
の首下に存在するライト部が点滅を始めたのだ。
『うわ! やば! もうタイムリミットが近いってか!?』
彼がキングゴジュラスとしての本来の姿を維持出来るのにも限りがある。その制限時間を
超えた時、魔女トモエが彼にかけた人間の雄へ変える魔法によって人間としてのキングへ
戻ってしまう。そうなれば…彼は負けたも同然である。
『これは非常に不味い。何とかしなければ…。』
「それそれどうしたどうした? お主の力はその程度かのう? フッフッフ…。」
何時の間にかキングゴジュラスの耳元にトモエの姿があり、まるで馬鹿にするかの様に
囁く。それはキングゴジュラスにとって何よりも耳障りな事だった。
『ムカッ! ならやってやるよ! 貴様共々なぁ! スーパーサウンドブラスター!!』
本気で怒ったキングゴジュラスが口を大きく開けた時、口腔部からスピーカー状の
物体が現れる。それこそキングゴジュラスを象徴する超兵器スーパーサウンドブラスター。
本来ならそこでキングゴジュラスの咆哮を増幅させ放射するのだが…
『ゴォォォォォッ○!! ラ・○ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』
魔女トモエに人間にされ、人間として暮らす中で人の文化に触れた影響か、色んな意味で
危険な叫びになっていましたとさ。だがいずれにせよ強大な破壊力である事は間違い無い。
その威力たるや緑の悪魔と恐れられたゴジュラスギガ“カンウ”の“竜王咆哮破”や
“機械仕掛けの女神”の対である特機型ギルドラゴン“大龍神”の“ドラゴンサウンダー”
を遥かに超越しており…さしもの融合機怪獣ブロットンも数百数千と言う数のブロックス
の一つも残さずに消滅していた…。

キングゴジュラスがブロットンの消滅を確認した時、あの超音波の渦の中を何事も
無かったかの様にトモエが耳元で囁いていた。
「お主もちょいと冷静になりぃ。わらわを殺してはお主にかけられた魔法は永遠に
解けぬと申したはずじゃが?」
『あ! 忘れてた!』
ちっとばかしカッとなっていた故、本気で殺す気でスーパーサウンドブラスターを
放っていた為にキングゴジュラスは大切な事を思い出していた。
「じゃが…それ以上に大変な事があるぞ。周りを見てみぃ…。」
『え……うっ!!』
キングゴジュラスは周囲を見回して初めて気付いた。先のスーパーサウンドブラスターの
余波によって、辺り一面が焦土と化していた事に…。恐らく効果範囲内にいた者達…
軍人や民間人を問わず、多くの人が巻き添えになってしまった事は間違い無い。
『……………。』
これにはキングゴジュラスも非常に気まずくなり…
「俺知―らね! 知―らね!!」
人間の男の娘としてのキングに戻るなり大急ぎで戻って来たレイノスに回収してもらい、
そのまま何処かへ飛んで行ってしまいましたとさ。これには流石のトモエも呆れる他は
無かったと言う。
「ダメだこりゃ…。」

こうして完全にビース共和国を敵に回してしまったキング。しかし、同じヘリック共和国
をルーツに持つ者とは言え、恐竜型を完全否定するビースとは決して相成れぬ存在。
結局敵対する事になるのは必然なのかもしれない。

ビース共和国は本気で惑星Zi全土から恐竜を抹殺するつもりなのか? キングは
キングゴジュラスとしての身体を完全に取り戻す事は出来るのか? 機怪獣とは一体
如何なる存在なのか? 魔女トモエって実はさり気無くツンデレなんじゃないのか? 
等々…様々な問題を残しつつ、物語は一度ここで幕を閉じる。

                  おわり
258糸無し人形姫 ◆5QD88rLPDw :2008/09/13(土) 04:38:58 ID:???
「おや?あの声は…確か…ラブルマン大尉殿ですか。」
桜色のケーニッヒウルフから聞こえてくる声を聞いたファインが呟く。
「ざ・ん・ね・ん・で・し・た!中尉です!」
かなり憤りと言うか怒りの篭もった声がケーニッヒウルフから帰ってくる。
「あんたか!俺達に極太荷電粒子砲を事実関係上ぶっ放したのは!」
ゴジュラスギガの方からも非難の声がファインに飛んで来る。
しかしながら件の張本人からすれば別の物を狙って撃った荷電粒子砲。
その射線上に居ただけなのでその事実すら初めて聞く話である。
「ま…まあまあ落ち着いてください。とにかくそのスパイナーを。」
「あ…忘れてた。えい♪」
不謹慎に楽しそうな声が響くとダークスパイナーの頭部が首から切り離される。

「取り敢えず!ライトブリンガーは禁止!」
コクピットから飛び降りてきたリエット・ラブルマンはイエローカードを出す。
「高々デスステ1機の投入をそこまで嫌わなくても…。」
「シャ〜〜〜〜〜ラ〜〜〜〜〜〜ップ!!!あんなヒーロー然としたのは駄目!」
「なんかとても酷い理由ですねぇ……。」
そんな折りに件のライトブリンガーが到着したのだから間が悪すぎる。
そのリエットの言葉に壮絶に拗ねてしまったらしく丸くなってごろごろ転がっている。
「ほら!拗ねてしまったではないですか!謝罪と保証を!」
「何処かの国の人みたいなことを言わない!」
その後小一時間ほど下らない言い争いが倉庫街の静寂を乱していたらしい。
隣で寂しそうに転がっているデススティンガーの姿が更に非現実感を強調。
他にも伏せていたらしい2機のゴジュラスギガも到着して…
非常に混沌としたロケーションを生み出していたのは言うまでもない。

「笑っている?楽しんでいる?」
自分の表情が崩れている事に気付き遠くから顛末を覗いていたアニマは驚く。
”笑い顔”こんな高度な技術が人形である自分に搭載されていた事に…
そして自覚の全くない感情を生み出した自身に疑問を抱く。
「(少々私は特別な人形のようですね……。)」
この場は既に危険地帯。急ぎ姿を眩ますのだった。
259糸無し人形姫 ◆5QD88rLPDw :2008/09/13(土) 04:42:43 ID:???
結局今回は伏せっていた特殊部隊に拘束されて帰宅の途に就く一行。
「なんで…他の人は手錠とかなのに私は簀巻きで逆さ釣りな訳ですかねえ?」
「あら?あなたの故郷での男の逮捕者はそうなるって話を聞いたけどぉ?」
「それは謝った情報ですよぉ!」
どこでそんな話が広まったのかはこの際関係ない。
ファインが理解できるのはリエットの嫌がらせであるという事。唯それのみ。
「しかしハウンドまで借り出されているとは思いもしませんでしたね。」
唯一お縄を逃れていたエリックがリエットに尋ねる。
「今回教えられるのは…
今度の無差別殺人と帝国ゾイド密輸事件が繋がったと言う事だけね。」
逆さ釣りにされているファインと義手と義足を外されたミレッタの表情は曇る。
今回の事件は絶妙に彼等帝国系の移民に弊害を与える問題。
唯でさえ過激な民族浄化組織が蠢いている共和国領内でこの事件。
風当たりは更に酷くなることだろう。

ファインの事務所に戻ってきたのだが一行の人数は更に膨れ上がっていた。
特殊部隊ハウンドのメインスタッフが4人。更に関係者が多数。
事務所の本来ファインの座っている椅子にはその長官さんらしき人まで居る始末。
「よっ!お久しぶり!」
長官らしき男は深く被った帽子をとって挨拶をする。
「ああ…あなたまで。後おせっかい焼きのおじさんが一人加わればフルメンばぁ!?」
「そう言う事だ。くくくくく…。」
突然寒気が襲ったかと思うとファインは仰向けに床に倒れており、
首筋には共和国特殊潜入部隊愛用の極端に肉薄なナイフの刃が宛てがわれていた。
「あ…相変わらず酷い扱いをされますねぇ…とほほほほ…。」
共和国軍最凶の懐刀。サーベラス・ライエンとザクサル・ベイナード。
敵に回したら確実に人生が終わる二人が一ヶ所に揃っているという異常事態だ。
「私達は三日後生きていられるのでしょうかね?」
「さ…さあ?」
ファインとミレッタは顔を合わせて深い溜め息を吐く。
本当に幸せが逃げて行きそうな思いだろう。
260糸無し人形姫 ◆5QD88rLPDw :2008/09/13(土) 04:51:32 ID:???
「それでは私はイドのお迎えに行ってきます。留守番を…」
「ほう?私に留守番を押し付ける気か?いい度胸だな。」
「その手は喰いませんよ。安い挑発にノリで乗る気はありません。」
ギスギスした空気を漂わせながらファインとザクサルのやりとりが終わり、
ファインとザクサルがイドを迎えに。
ハウンドのメインスタッフはヘリックシティ内の帝国ゾイドの動向監視。
ミレッタとエリック、サーベラスが連続殺人事件の洗い直しと言うシフトが執られる。
午後の昼下がりでまだ夕刻までは遠い時間だが…
何故か行動開始までの間夕御飯のメニューで揉める。
どことなく変な空気が漂う結果となっていた。

やはり一緒に歩いていると雑多な人込みが真っ二つに割れてしまう…
そんなファインとザクサルの二人組。
端から見るとこれから果たし合いをするために人目の付かない場所へ向かう。
そんな風にしか見えないのだろう。
「解るか?」
「解らいでか…この気配はレッサーデーモン級。数は4。」
「級?つまりは気配が安定していないという事か。」
「ええ。どうやら人形騒ぎから目を背けたい…
そんな一心で招喚でもやらかしたと言う所でしょう。」
「で。失敗か。」
「多分。」
会話が終わると同時に両者は我先にと走り出す。
幾らなんでもこの人込みの中でレッサーデーモン級が現れたら目も充てられない。
道を開いてくれる通行人の方々に本当にお礼を言いたいぐらいである。

「来ますね。マテリアライズが発生します!」
「ちっ!この段階で少しは数を減らせないのか?へっぽこ魔術師!」
「やってますよ!最終的な実体化が失敗すれば帰っていきます。先ずはっ!」
シュレーディンガー波動関数を乱す関数変換で実体化しようとした数体が消える。
しかしその間に実体化したのがその数10体。招喚者の生命の安否が疑われる状況。
失敗とは言ってもその結果が過剰招喚とはついていなかった2人である。
261糸無し人形姫 ◆5QD88rLPDw :2008/09/13(土) 04:54:11 ID:???
ー 十数分後 ー

「面倒でしたね。」
「だな。さっさと迎えに行くぞ。」
幾ら魔族とは言え下級種。下手をすれば小型ゾイドさえも素手で破壊する…
そんなザクサルの凶悪な格闘能力の前では荷が重すぎる。
一方魔術師としての才能に他所様からすれば多分恵まれているファイン。
こっちの方は相性問題で通常の人が与えるダメージが100%とすると、
彼の発生源から来る一撃は彼等に対して4000%に匹敵する。
そんな重たい攻撃に複数回耐えられる程の耐久力はレッサーデーモンには無い。
人込みから離れたビルとビルの隙間には無残な肉塊が出来上がっていた。
しかしそれも実体化の期限が過ぎ霧の様に消えていく。

こう言った性質のために共和国の科学者達には眉唾な話なのだ。
しかもこの世界で死亡しても彼等は本来居た場所では無傷だったりする。
結局失われたのは招喚者の体力や活力、スタミナ、精神力だけ。
その為か魔術師の間でも招喚術は難易度の割に実用性が無いと言われている。

「…やはりシャドーサーパントでなければこのザマか。
でもシャドーサーパントでは人相が割れてしまうから奴等の足止めは無理だな。
しっかしレッサーデーモン10体が10分耐えられないとはどう言う戦力だよ。」
足止めを頼まれたらしい招喚士は足を引き摺りながらビルの闇に消える。
「その程度しか稼げんのか?」
その最中すれ違った声に招喚士は飄々と答える。
「最悪の組み合わせだよ。俺だけでなくあんたにとってもな。
奴が同区画に居るだけで招喚の成功率が下がるって余程優先順位が高いんだろ。」
「優先順位まで奴等の手の内か。それは厄介だ。」
声の方は招喚士の言葉には大して動じていない様子だった。
「まあ約束は守ろう。それが貴族というものだ。」
「気前いいねぇ。もしまた入り用なら声を掛けてくれよ。」
その会話が終わると声と招喚士の気配がじわじわと消えていく。
ある種の察知に気付かれ難くする為の定差転移の術を使用したと思われる。
262糸無し人形姫 ◆5QD88rLPDw :2008/09/13(土) 05:00:16 ID:???
「招喚士の方は追わないので?」
「どうせ金で雇われた傭兵の類だ。死んでも口を割らんだろうな。」
気配の消え方に違和感を感じたザクサルとファインはその場に到着した。
しかし既に術の完成が終わった後では介入は無理。
敵対思惟の存在する術なら抵抗を試みたりそれ自体の完成の阻害をできる。
しかし移動に関する術式は殆どの場合自身に掛けるもの。
相手に対してのアクションが無い為取っ掛かりが無いと言う事である。
取り付く島が無ければ動きようが無いと言う話だ。
その上主犯でないなら捕まえて吊るし上げたところで意味も薄い。
更には傭兵ともなれば圧倒的なチップを積み上げでもしない限り依頼主を売りはしない。
全く以て無駄の大安売りなのでさしものサディストも手を伸ばす気は無いようだ。

露店でちょっと買い食いをしながら歩く共和国軍の軍服と帝国軍の軍服。
目立ってしょうがない風貌の男達がイドの通っている学校へ付くのはまだ先の話。
彼等は徒歩で迎えに行くという基本に忠実な行為を行なっていたからだ。
一人だけお車、おゾイド等という贔屓は教育上宜しくないからである。

「ないですね。私が入っていた箱が…
清掃業者など入る筈もないのに?どういう事でしょう?」
アニマは自分の入っていた箱が消失している事に違和感を覚えた。
アレに入ればもう一度休眠状態に入る事ができる。
その上前に接触した人間に自分の出生を調べてもらえるかもしれないと言う狙いも有った。
あてが完全に外れてしまい途方に暮れる状態となったアニマ。
ここはまさにありきたりな古い洋館。
この周辺に住んでいた者なら嘗てその場所が人形館と呼ばれていた事を知っているだろう。

ー 第一夜 終 ー
263魔牛大騒動 1 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/29(月) 23:24:11 ID:???
その昔…惑星Ziに降り注いだ隕石群との戦闘で致命的な傷を負い、搭乗者であった
ヘリックU世に秘匿の為自爆させられた悲劇の最強ゾイド・“キングゴジュラス”
本来ならばそこで彼は炎の海の中にその巨体を沈めるはずだった…。しかし、そこを
たまたま通りがかった正体不明の悪い魔女“トモエ=ユノーラ”に魔法をかけられ、
命を救われたのは良いけど、同時に人間の男の娘(誤植では無く仕様)“キング”に
姿を変えられ、千年以上の時が流れた未来へ放たれてしまった。正直それは彼にとって
かなり困るワケで…自分をこんなにした魔女トモエを締め上げ、元に戻して貰う為、
トモエから貰った強化型レイノスを駆り、世界中をノラリクラリと食べ歩くトモエを
追って西へ東へ、キング君の大冒険の始まり始まり!

       『魔牛大騒動』   魔牛機怪獣ディバタウロス 登場

キングはさり気無く所有していたレイノスに乗り、“カントーリ”と言う牧畜の盛んな国へ
やって来ていた。この国の特長は何と行っても国土の大半を占める巨大牧場で育てられる
大量の牛型ゾイドにある。その牛型ゾイドがディバイソンやカノンフォートのベースと
され、また牛肉として国の内外の肉屋に並び、牛乳を元にした乳製品も多く作られている。
で、トモエ追跡のついでにここで一休みしようとキングは考え、レイノスを降ろすので
あったが…

「おお! 丁度良い所にお主がいるでは無いか! ちょっと聞いてくれ!」
「うわぁ!」
いきなり何の脈絡も無くお探しの魔女“トモエ=ユノーラ”の方から現れ、キングは逆に
驚いた。確かに彼女は魔女なだけに神出鬼没であり、キングでも得体の知れない様々な
力を持っている。こういう事も別に今まで無いわけでも無いのだが、お探しの相手の方
からやって来ると言うのは驚かざる得ない。
「実はのう! わらわはここカントーリ名産の牛肉を食べようと思ったんじゃ! なのに
牛肉は出ないと言われたんじゃ! 何でも今カントーリ中で牛型ゾイド泥棒が横行してて
それで牛型ゾイドが不足がちになっとるんだと! これは由々しき事態じゃ!」
「い…いきなりそんな事言われてもな…。」
264魔牛大騒動 2 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/29(月) 23:24:53 ID:???
有無を言わせず強引に話を進めるトモエにキングも退かざるを得ない。
「このままでは牛型ゾイドの供給が断たれ、ディバイソンやカノンフォートも作れなく
なるし、その他牛肉や各種乳製品不足に陥るのは必至じゃ! そうなれば市場原理に
よって他の分野においても打撃の連鎖が襲うであろう! そうなればこの星の経済は
終わったも同然じゃ! ここはお前が何とかせい!」
「ええ!? 何とかせいって…どうするんだよ!!」
何かいきなり説明めいた事を言われた上に無理矢理この事件を解決させる事を押し付ける
トモエにキングもやはり戸惑うばかり。だが…
「何、簡単な事じゃ! 牛型ゾイドを盗んでる輩を捕まえれば良いんじゃ!」
「全然簡単じゃねーよ!」
確かに口で言うだけなら非常にシンプルであるが、それを実践するとなると大変な事だ。
キングとしてもいきなり色々言われて状況が読めないと言うのに、その上何処からどんな
方法を使って牛型ゾイドを大量に盗んでいるかも分からぬ相手を捕らえろとは…そんなの
出来るか! と誰でも叫びたくなろう。しかし、トモエはキングの弱みを握っていた。
「おやおや…お主が牛型ゾイド泥棒を捕まえて、元通り牛肉が食べられる様になれば…
わらわもお主にかけた魔法を解く事を考えても良いのじゃがのう…。」
「何ぃ!? それはマジか!? やる! やらせてもらうぞウラァ!!」
これこそトモエの握っているキングの弱み。キングを人間の男の娘へ変えたのはトモエ
自身であり、またその魔法を解くのもトモエ以外には無い。だからこそ、それを解いて
貰う為には嫌でも引き受ける他は無かった。

で、結局トモエの頼みを引き受けたキングは牛型ゾイド泥棒を捕まえる為、レイノスに
乗ってカントーリの上空を見て回っていたのだが…そんなカントーリ中から牛型ゾイド
を大量に盗み出す様な派手な事をしてのけそうな奴など見付かるはずは無かった。
「ってか…今になって冷静に考えてみれば…そんな派手な奴は警察の方が先に見付ける
んじゃねーのか…?」
と、キング自身もそう疑問に思う始末であった。
265魔牛大騒動 3 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/29(月) 23:27:26 ID:???
そうこうしている間に夜にった。キングは牧場近くの草原にレイノスを降ろし、カップ
メンを食いながらやはり牧場の方を眺めていた。
「何かこうしてると…俺の方が牛型ゾイド泥棒と疑われそうだな…。」
等と呆れ眼で独り言を言っていた時…レイノスのレーダーが上空から迫り来る巨大な
熱源をキャッチした。
「ん!? 何だ!?」
キングはカップメンを食いながらもレイノスのサーチをその巨大熱源へ集中させる。
その直後だ。上空の濃い雲の中から光り輝く円盤状の巨大物体が現れていたのだ。
「えぇ!? あれってまさかUFO!? やべぇ! UFO見ちまったよ俺!」
キングが戸惑う中、円盤状の巨大物体は円盤底から光を牧場へ向け放射した。すると
どうだろうか。牧場中の牛型ゾイドが次々吸い上げられて行くのである。
「うわ! キャトルミューティレーションだ! キャトルミューティレーションだ!
俺初めて見たよ! UFOのキャトルミューティレーション!」
衝撃的な瞬間を目撃してしまったショックで一人興奮していたキングであったが…
レイノスのレーダーは現在牛型ゾイドを吸い上げている円盤状の物体の正体を割り出した。
「何!? あれUFOじゃなくてタートルシップ!? アホくさ…。」
あの円盤状物体の正体がUFOでは無く、ネオタートルシップの前身たる巨大亀型輸送
ゾイド・タートルシップであった事が分かるなり、キングは呆れてうな垂れてしまった。
確かにネオの付かない初代タートルシップは円盤状の形状をしており、またマグネッサー
システムを応用したトラクタービームも搭載していた。犯人はそこを利用してUFOの
仕業に見せかけようとしていたのだろう。そして、一通り牛型ゾイドを吸い上げ終えた
タートルシップは上昇し、再び雲の中へ潜って行った。
「あ! こうしてる場合じゃねぇ! あれ追わんと!」
牛型ゾイド泥棒の正体がタートルシップを駆る者達である以上、追わねばならない。
キングは大急ぎでカップメンの残った中身を全て口に放り込み、大急ぎでレイノスを
飛ばし、タートルシップを追った。
266魔牛大騒動 4 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/29(月) 23:29:15 ID:???
レイノスはタートルシップを見失わない程度に距離を取って追跡していた。そもそも
タートルシップの中には多数の牛型ゾイドが捕らえられている故、迂闊に攻撃は出来ない。
とりあえずタートルシップが何処に牛型ゾイドを持ち帰っているのかだけでも分かれば
後はどうにでもなる。それ故キングはレイノスをタートルシップから離しつつ追った。

一時飛んだ後、タートルシップが高度を下げた。そこは周囲を高山に囲まれる形で出来て
いたカルデラ地帯だった。そのカルデラ地帯にまるで地上絵の様な巨大な円形の線が引か
れており、タートルシップはその中心部へ降りて行く。
「カルデラか…こんな場所があったとはな…。」
キングも続けてレイノスを降ろして行くが…そこで気付いた。そのカルデラ地帯に
描かれた円形の線の中に多数の牛型ゾイドが犇めき合っていた事を。無論タートルシップ
の中からも多数の牛型ゾイドが降ろされていた。
「盗んだ牛型ゾイドはここに捕らえられてたんだな!?」
犯人が何を考えてここに牛型ゾイドを多数集めたのかは分からないが、とりあえずは
タートルシップ以外に戦力らしい戦力が無い事を確認した後でキングは中心部目掛け
レイノスを急降下させた。

「オラオラァ! そこまでだ牛泥棒!!」
レイノスを急降下させると共にタートルシップの推進部分を対地ミサイルで破壊し、
行動不能にさせた後でタートルシップの近くにいた犯人と思しき男達の所へ向かった。
しかもその男達、これだけの大規模な事をやるにしてはやけに少人数で…かつまるで
カルト宗教団体みたいな怪しげな真っ黒い時代がかった服装をしており、さらには
これまた趣味の悪い装飾のされた祭壇に向かって何かしている様子だった。
「あの…おたく…何やってんの?」
これにはキングも思わず犯人逮捕を忘れて問いかけざるを得ないが…彼等は余裕に溢れた
怪しい笑みを浮かべていた。
267魔牛大騒動 5 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/30(火) 22:05:38 ID:???
「フハハ! 大方我々を牛型ゾイド泥棒として逮捕しようとして来たのであろうが…
今更来てももう遅いわ! もう直ぐ我等の悲願は成就される! ここに集められた全ての
牛型ゾイドを生贄とし…大悪魔ディバタウロス様が復活される!! 平和と言う名の
混沌によって乱れた社会を正す救世主の復活だぁ!!」
「はぁ!? 何言ってんだおっさん達!?」
彼らが牛型ゾイドを多数盗み出した件に関して、そうやって盗んだ牛型ゾイドを別所に
横流しして荒稼ぎするとかそう言った目的があるのかと思いきや、なんとまあ彼等はその
牛型ゾイドを生贄にして悪魔を召喚するという実に漫画チックな目的を持っておられた。
確かに彼らの格好はいかにも悪魔を崇拝してそうなサタニスト風の物であったし、今に
なって冷静に考えるとカルデラ地帯中に描かれた円形状の線も魔法陣の様にも見える。
だが、キングにとって彼らは頭の可笑しい人達でしか無かった。
「悪魔だか神だか分からんが牛型ゾイドを盗んだ罪は償ってもらうぜ!!」
彼らを捕まえ、牛型ゾイドを取り戻せばトモエに認められて自分にかけられた魔法を
解いてもらえる。それ故にキングも必死だ。そしてレイノスのキャノピーを開いて
彼らを捕えるべく飛びかかろうとしていた時だった…。
「うぉ!?」
開きかけていたキャノピーが突然閉じ、レイノスは自動で飛び上がってしまった。
「こら! 何をする!?」
突然のレイノスの勝手な行動にキングも怒りかけるが…その直後だった。カルデラ地帯の
円形状の線が漆黒の光を放ち始めたのは…
「な…何だ? ってうぉ!?」
キングは見た。円形状の線から発せられた漆黒の光がカルデラ地帯中に広がり…そこに
集められた牛型ゾイドはもとより、タートルシップや祭壇で何か色々やっていたカルト
教団っぽいサタニスト風の男達をも飲み込んで行ったのである。そこで初めてキングは
理解した。レイノスの行動はこれを野性の勘か何かで察知しての物だと…
「なるほど…そう言う事か…ありがとな…。」
キングはレイノスに軽く礼を言い、安全そうな高度まで上昇させて行ったが…なおも
漆黒の光はカルデラ地帯中で怪しい光を放っている。
268魔牛大騒動 6 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/30(火) 22:06:47 ID:???
「にしても…これ…何だ?」
キングとしても得体が知れず、恐怖せざるを得ないが…そこでレイノスのセンサーが
カルデラ地帯の中心部からの高エネルギー反応を感知していた。
「ん!? 何かいる!?」
数百匹にも及ぶ牛型ゾイドやタートルシップ、サタニスト風の男達の全てを飲み込んだ
漆黒の光の中から逆に何かが這い出て来る。
「な…な…何だありゃぁ!?」
キングは思わず叫んだ。何故ならば…漆黒の光から現れたのは野性ディバイソンのそれを
さらに禍々しくさせた様な頭部を持ち、全身にグロテスクに思える程の隆々な筋肉と
言う名の鎧を纏った牛面巨人だったのだから………

それこそ、悪魔信仰のカルト教団がカントーリ中の牧場から盗み出した多数の牛型ゾイド
を生贄にして召喚した悪魔…“魔牛機怪獣ディバタウロス”であった!

翌朝、魔牛機怪獣ディバタウロスはカントーリの市街地を破壊していた。誰かが制御
しているのでは無く、彼自身の意思による破壊。何しろカントーリ牧場の大量の牛型
ゾイドを生贄にしてディバタウロスを召喚したカルト教団の者達はどさくさに紛れて
牛型ゾイドもろともに生贄にされてしまった様子であるし、そうでなくてもきっと
ディバタウロスは彼らの言う事等聞いてはくれないだろう。

「あ〜あ〜…どうすっかな〜これ…。」
ディバタウロスの都市破壊により、人々が逃げ惑っている光景を遠くから呆れた表情で
途方に暮れていたキングであったが…そこでトモエが現れた。
「おいお主! これは一体どういう事じゃ!? 一体何が起こったと言うのじゃ!?」
「あー…。」
流石のトモエもこれには戸惑っている様で、キングに組み付いて問い詰めていたのだが、
キングは呆れた表情で嫌々ながら答えた。
269魔牛大騒動 7 ◆h/gi4ACT2A :2008/09/30(火) 22:08:03 ID:???
「例の牛型ゾイド泥棒の正体は何か変なカルト教団っぽいので、そいつ等の目的がまた
牛型ゾイドを生贄にした悪魔召喚で、その結果があの馬鹿でかい牛面の巨人ってこった。」
「悪魔じゃと!? そのカルト教団とやらは何か名前を言っておらなかったか!?」
「あー…確かディバタウロスとか言ってたな〜…。」
「ディバタウロス…じゃと?」
そこでトモエは一度キングを掴んでいた手を離し、やや下がってから語り始めた。
「魔牛機怪獣ディバタウロス…。惑星Zi第一文明人…今の人間達が古代ゾイド人と
呼んでおる連中が栄えた時代に突如この世に降臨した恐るべき魔界ゾイドじゃ。お主を
生み出した文明…第二文明や、現代…第三文明を遥かに凌ぐ文明を誇っていた第一文明人
でも苦戦し、撃退する事は出来ても完全に滅ぼす事は出来なかった程の相手じゃ。現用
兵器では一切歯が立たんであろうな…。」
トモエの言う通り、カントーリ国防軍が出動してディバタウロスへ攻撃を仕掛けているが
全くと言って良い程歯が立っていなかった。
「このまま奴をのさばらせておけば…この国だけの問題では無い。全世界が危機に陥るで
あろうな…恐らく現時点でディバタウロスに対抗出来る存在があるとすれば…。」
「あるのか? あの牛のバケモノに対抗出来る方法…。」
と、とぼけ顔でキングが訪ねた直後、トモエの拳が彼の脳天に打ち付けられていた。
「痛ぇ! 何しやがる!?」
「お主! 自分の立場が分かって言っとるのかそれは!? 自分が一体何者なのか…
よく考えてみぃ!」
「え!? って事は…奴に対抗出来るのってまさか…。」
「そう! そのまさかじゃ! 分かったらさっさと行って倒して来い!」
「え〜?」
トモエに強制されるまま、キングは嫌々ながらなおも街を破壊し続けるディバタウロスへ
向けて走り出した。
270魔牛大騒動 8 ◆h/gi4ACT2A :2008/10/01(水) 23:21:26 ID:???
「オラオラどけどけぇ!!」
ディバタウロスの無差別な破壊によって崩れるビル。わけも分からずただただ泣き叫び、
逃げ惑う人々。それらを掻き分けるかのようにキングはディバタウロスへ向けて駆けた。
一見すると単なる自殺行為にしか過ぎないが…直後にそれは起こった。キングの水色の
頭髪の中に何故か存在する真紅のアホ毛。それが燃え上がる様に真っ赤な輝きを放ち、
キングの全身を包んで行く…そして…真紅の輝きは彼を一体の巨大なゾイド…その名も
キングゴジュラスへと変えていたのだ!

キングゴジュラスとしての姿こそが、彼の本当の姿。普段はトモエにかけられた魔法の
影響で人間の姿となっているが、彼も伊達にキングゴジュラスでは無い。ある一定時間内
ならば自力で魔法を振り払い、キングゴジュラスとしての姿に戻る事が出来たのだ。

『オラァ!!』
変身して早々にキングゴジュラスの鉄拳がディバタウロスへ叩き込まれた。爪では無く
拳で攻撃している点がミソである。流石の古代の悪魔ディバタウロスもキングゴジュラス
のパワーの前には倒れざるを得ない。一緒に周囲に建っていたビルとかも崩れてしまうが
気にしない事にしよう。
『悪魔だか何だか知らねぇがこうなった俺は他の連中と違って優しくないぞ!』
キングゴジュラスは倒れたディバタウロスへ追い討ちをかけるべく上から覆い被さり、
そのまま頭部の二本の角を掴んで捻り折ろうとするが、直後にディバタウロスに
腹部を蹴り上げられ、今度は逆に倒されてしまった。相手も中々強い。しかもディバ
タウロスの両手足は人間の様な五本の指を持っているのだが、その指の一本一本の先端が
牛の蹄の様になっている為、地味に固く痛いのである。
271魔牛大騒動 9 ◆h/gi4ACT2A :2008/10/01(水) 23:23:06 ID:???
『うぉ!』
キングゴジュラスを完全に敵と認識し、牛の鳴き声をさらに低く禍々しくさせた様な
咆哮を上げながら突進して来るディバタウロスに対し、キングゴジュラスは大急ぎで
立ち上ると共に大きく跳んだ。デスザウラーより一回り巨大な躯体からは想像も出来ない
軽快なジャンプでそのままディバタウロスを飛び越え、逆にディバタウロスは突進の
勢いを止められず、忽ち何かの工場へと突っ込み、工場の大爆発に巻き込まれてしまった。
『ハッハッハッ! 文字通りの自滅って奴だな!』
思いの外あっけない幕切れにキングゴジュラスも笑わざるを得ないが…
『なな!?』
巨大な爆炎を上げながら燃え上がる工場の中から…何か巨大な物が姿を現した。話の流れ
からして、あの爆炎の中でもディバタウロスが死ななかったと見るべきなのだが、それを
踏まえても明らかに異様だった。何故ならば…ディバタウロスの体が全身を金属の装甲で
覆った物へ変化していたのだ。強いて言うならば…ディバイソンを無理矢理人型にした
様な…そんなイメージ。特に頭部はそのままディバイソンのそれだった。
『ま…まさか…牧場の牛型ゾイドだけじゃなく…ディバイソンまでもを取り込んだ…
とか言わないよな?』
そこでキングゴジュラスは初めて気付く。ディバタウロスが突っ込んだ工場は、この国で
育てられた牛型ゾイドをディバイソンへ改造する工場だった事に。それから考えるに、
ディバタウロスは工場にあったディバイソンを取り込んだと見るべきだろう。非常識な
事であるが、相手はそもそも魔界の悪魔。常識が通じる方がむしろ異常だ。
『だが所詮ディバイソンだろ!? 恐れる事はねぇ!』
再度キングゴジュラスはディバタウロスへ接近しようとするが…そこでディバタウロスの
胸部の装甲が開くと共に中からディバンソンの十七連突撃砲を思わせる十七門の砲が現れ、
キングゴジュラスへ一斉砲撃を開始したでは無いか!
272魔牛大騒動 10 ◆h/gi4ACT2A :2008/10/01(水) 23:24:48 ID:???
『おわ!』
十七門の大砲から矢継ぎ早に連続発射された砲弾はキングゴジュラスの全身へ次々着弾し、
忽ち巨大な爆煙に包まれていく。ディバタウロスの悪魔としての魔力とやらが影響して
いるのか、その威力は本家ディバイソンの十七連突撃砲を遥かに凌ぐ破壊力であった。
『これはたまらんな…我慢出来ない事も無いが…地味に辛い…。さてどうするか…?』
ディバタウロスがなおも撃ち続ける砲に耐えながら、キングゴジュラスは反撃の機を
伺っていたのだが…その時だった。キングゴジュラスの首下にあるライト部が音を立てて
点滅を始めたのだ。
『うわ! やばい! もうタイムリミットが近いってか!?』
残念ながら彼は何時までもキングゴジュラスとしての形態を維持出来るワケでは無い。
一定時間が経てば、トモエの魔法が再度発動して人間の姿に戻ってしまうのだ。そして、
首下のライト部の点滅こそがそれを伝える合図だった。
『くそ! こうなったら一刻も早く何とかせんと!』
キングゴジュラスは何とかしようと考えるが、辛い状況なのは変わらなかった。そもそも
相手はトモエが第一文明人と呼び、世間一般が古代ゾイド人と呼んでいる現代を遥かに
凌ぐ文明を誇ったと言われる超古代文明人でさえ滅ぼすに至らなかった魔物だ。それを
どうやって倒すのかとキングゴジュラスも悩みそうになったが…
『そうだ! 発想の転換だ! 奴を倒す必要は無い! 元の魔界とやらに強制送還すりゃ
ええんじゃないか!! 奴はあのカルト教団が沢山の生贄を使って召喚して初めて
現れたワケだから…自力でこっち側に来る力は無いんだ!』
その様な考えに至ったキングゴジュラスは右手を強く握り締め、構えると共に突撃を
開始した。その間もディバタウロスの胸部の十七門の砲塔が次々に火を吹き、キング
ゴジュラスの全身へ撃ち付けているが…気にしない! そしてディバタウロスへ肉薄した
キングゴジュラスは己の渾身の右拳を叩き込んだ!
『食らえ!! 超次元拳!! ディメンション…パーンチ!!』
そんな武器あったの!? って突っ込みたくなる気持ちを抑え、ディバタウロスへ叩き
込まれた拳は忽ちディバタウロスの巨体を天高く吹っ飛ばした。だがそれだけでは無く…
273魔牛大騒動 11 ◆h/gi4ACT2A :2008/10/01(水) 23:26:53 ID:???
『牛のバケモノめ!! 次元の彼方まで…吹っ飛びやがれぇぇぇぇ!!』
直後…空間に裂け目が生じ、まるでガラスが割れるかの様に空間に穴が開いた。
それこそこちらの世界と別次元を繋げる次元の穴。ディバタウロスは…それを突き破って
向こう側の世界の彼方まで…飛ばされて行った……………。
『ふぅ…。』
ディバタウロスのロストを確認したキングゴジュラスは…元の人間としてのキングに
戻ると共に、遅れて駆け付けて来たレイノスに掴まって何処へ飛び去った。

それから一時し、カントーリの片隅の草原にトモエとキングの姿が見られた。
「なるほどな〜。もうこれ以上牛泥棒が来る事は無いであろうが…盗まれた牛型ゾイドは
戻って来ぬか…。」
「で…俺を元に戻す事を考えてくれるって話は…やっぱダメだよな。結局牛型ゾイドは
取り戻せなかったからな〜。」
「お主も分かっておるでは無いか。その通りじゃ。ま、牛型ゾイドを取り戻せたとしても
あくまでも考えるだけじゃからという理由で元には戻さなかったじゃろうがな…。」
「おい!」
ちょっとトモエを殴りたくなったキングだが、それより先にトモエは歩き出した。
「まあ良いわ! カントーリ名産のビーフステーキはこの国の復興が完了するまで我慢
って事で…さて次の場所へ行くぞ〜!」
「こら待てよぉぉ!! このアマァァァァ!!」

こうして…時は正午になりつつある中、二人はカントーリを去った。

                 おわり
274鉄獣28号 ◆h/gi4ACT2A :2008/10/02(木) 21:33:59 ID:???
定期ageを忘れてましたorz
275白い走狗 ◆5QD88rLPDw :2008/10/10(金) 03:44:55 ID:???
「何でまたこんな目に遭っているんでしょうね?」
慣れない共和国製のコクピットの中でファインは質問する。
「本当にすまないことをしたと思っている。」
心の奥で絶対に”すまない”と思っていない人間の言葉である。
本来依頼が有った子供の集団消失事件の情報収集を行なっていた筈が…
パイロットの不足という状況でコマンドウルフを駆っている始末。
共和国警察機構特殊追機構。通称ハウンド。
根っこは共和国軍特殊部隊ストレイハウンドを元とする部隊。
「お名前は?」
「そちらも偽名だろう?なら此方もジャック・〇〇〇ーで頼む。」
堂々と過去の映像作品の主人公を名乗る辺り別の意味で大物過ぎる。

元々警察機構からの依頼ということも有って断りきれなかった。
しかしこのコマンドウルフは追跡行動にかけてはかなりの性能を持ち、
その上集団戦法を得意とする風族の盟友ゾイド。
人探しのローラー作戦には正に打って付けのゾイドである。
「やっぱり途中で反応が途切れていますね。ここら辺から閉じ込められて移送。
この街でならば…モルガ辺りでしょうね。」
モルガの反応が無いかウルフに探させると直ぐに複数の反応が現れた。
「ジャックさん。此方ハウンド2です。途中でモルガに積まれた模様。」
「流石は軍人さんだけある。急いで不審なモルガを洗い出せ!」
通信のやりとりを確認する限り犯人の目星はもう立っているのだろう…。
取り敢えずウルフが何かをしきりに気にしているのでソレを咥えさせると、
ファインは素早くウルフの口元に移動しソレを回収した。

モルガ達は全て盗難の被害届があったものであり、それぞれ…
北東と南西に分かれて移動していった事までが解る。
「北東は港。南西は帝国の勢力圏へ街道に乗ってと言う感じですね。」
ファインはぼそっと呟く。
「なら港が妥当だろうが彼方には沿岸警備隊が居る。街道筋に直行する。」
ジャックは素早く判断しコマンドウルフ全機に撤退指示を出だした。
276白い走狗 ◆5QD88rLPDw :2008/10/10(金) 03:48:09 ID:???
「ソレは…?」
「これはハウンド2が発見したものです。ヘアコームですね。」
「被害者のものか。匂いとかは確認できたのか?」
「当然ですよ。雨が三日降ったぐらいなら匂いを記憶していれば…
そのためのコマンドウルフでしょう?」
ファインの言葉にジャックは胸を張り答える。
「そうだな。とりあえずはアシスタントブースターを全機装着だ。
一気に追い付く。こっちが本命ならば勢力圏ギリギリまで近付く事になる。
気を引き締めていけ!」

一方その頃誘拐犯側。
「どうしましょう?結局身代金を要求できる親が居ないんですけど?」
「じゃか〜しい!なら人買いに売ればいいだろ!売・れ・ば!」
「お頭?じゃあどうして共和国のブラックマーケットに売らないんで?」
「知るか!犬っころが動いてんだ!足が付くだろうが!」
部下は思う。モルガ泥棒をした時点で足が付いているような気がする事を。

「…非常に残念な会話ですねぇ?」
「…本当に残念だ。交渉の余地が全く無いとはな。」
地面の下にいれば大丈夫と考えたのだろうか?
因みにハウンド部隊は既に誘拐犯側の直上に布陣を張り終えていた。
地下20m程度ではコマンドウルフの耳で拾えない音など無いのだ。
各種気管を戦闘ゾイド化で引き上げられた結果今でも現役で使えうる数少ない存在。
それはモルガにも言えることだが今回は分が悪いだろう。
総勢4機のコマンドウルフが囲みをじりじりと狭めていく。
人質の体力の関係でもう地面に潜ったままでの移動は無理だろう。
そしてそれ以前に彼等が暗い地面で何時までも耐えられる程忍耐力が強くない。
それも織り込み済みで作戦を開始する。
前足の肩に付けている2連衝撃砲が一斉に地面に対して掃射されたのだ。
激しい振動が中心を液状化させ大きな泥柱を上げ始める。
一斉掃射が一区切り付く頃には街道のど真ん中が泥の池と化していた。
そして…そこで溺れる憐れな盗難モルガ達の姿が悲壮感を生む。
277白い走狗 ◆5QD88rLPDw
その後あっさり御用となった誘拐犯と最大で一ヶ月拘束されていた子供たち。
その内の一人がジャックにおどおどしながらこう言う。
「あの…すいません…。私の…ヘアコーム…。知りませんか…?」
「はい。お嬢さん。探し物はこれだね?」
ジャックは接収していたヘアコームを女の子に返してしまう。
「良いんですか?一応証拠物件は半年ぐらい保管しなければならないのに?」
ファインの小声のツッコミにジャックはにやけてこう答える。
「いやあ?紛失届がもう出てる筈なんだが?」
悪怯れも無くそう答えるジャックにファインは呆れ顔でこう返事を返した。
「いやあ!自由の国は良いですね。不正もしたい邦題で…。」
そこにジャックも負けずにこう答える。
「まあこれは責任問題だが落としたのは協力者の君だし?
俺には全く問題が無いからね〜。」
「酷っ。」
そんな話の脇でコマンドウルフ達は泥に塗れたモルガを綺麗にしようと奮闘中。
転げ回り逃げるモルガを必至に追いかけ回しているのであった。

その姿がハウンド部隊やファインの目に映ったとき、
やっと緊張の糸が切れたのか?一斉にその光景を大笑し始める。
しかし直ぐに港側で大捕物が始まり彼等はもう一仕事するハメになったのだった。
「お役所仕事は大変ですねぇ…。」
「同感だ。本当に済まないと思っている。」
「絶対にそう思っていませんねw」
「なんだ。ばれていたかw」

ー おしまい ー