百合とにかく百合

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1名無しさん@お腹いっぱい。
文でも絵でもポエムでも
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/30(土) 22:37:30 ID:ctI1Lqrq
こな×かがとか二次創作もあり?
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/30(土) 22:42:45 ID:D86CgnKt
とにかく って言ってるしありじゃね
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/30(土) 23:18:37 ID:HZYyCiFt
うん
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/30(土) 23:29:12 ID:btD0qa0m
はやて×ブレードを書いても良いんだな?
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 00:55:11 ID:hCBJiRQf
ソンヤ×ウーフを書いてもいいんだな?
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 07:21:01 ID:/ieXTUAB
>>5
もち
>>6
これは知らないよ。なんなの?
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 08:44:23 ID:6ir71j2R
マリみてでうふふな奴も……
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 09:24:17 ID:w3sC4Ydq
ヤサコ×イサコ を忘れるな
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 12:51:46 ID:cQbKIm07
おまえら語るスレじゃねえよw
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 12:55:25 ID:6ir71j2R
ロサ・ギガンティアパワーが溜まったら書く
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 14:52:31 ID:ao+yKT70
 血の匂いが世界を支配しているようだった。沢山の生物を殺した。大切な仲間も殺された。最早彼の慟哭を優しく受
け止めてくれる者は居ない。故に彼は壊れてしまった。何処を眺めてみようとも転がるのは腐った屍と、ぬらりと光る
血の海ばかり。何故このような世界が存在している? その問いに、彼は答える事が出来なかった。

 彼は歩く想像をした。それと同時に、大地が揺れる。踏んだ土が捲れ、踏み付けた木々が無残に瞑れる。やがては
住宅でさえも踏み潰し、既に動かぬ屍を踏み付けても、彼に如何なる感情も与えはしなかった。彼は虚ろな眼差しで、
透明な世界を見詰める。眼下には奴ら≠ェ潜んでいるであろう、不思議な力で守られた学校がある。如何に破壊力の
ある兵器だろうと決して越えられなかった、屈強な壁。それを打ち壊す力を手に入れた今、彼に残った思考はその学校
の破壊のみであった。
 そこに全ての元凶が居る。それだけで虚ろな瞳には憎しみの炎が宿り、脳裏には自分の目の前で殺されて行った大切
な人達の最後の姿が過って行く。それらが彼の中に思い起こされる度に、憎しみの焔は滾って行き、レバーを握る手に
は力が籠められた。彼は、壁を引き千切る想像をした。目の前に壁などは無いが、手を伸ばせば確かに阻まれる。自分
を阻む壁を、外側に向かって引き裂くように、彼は想像する。目の前の壁は、いとも簡単に引き裂かれ、それが一抹の
不安と歓喜とを、感じさせた。

「殺してやる……みんな、全員、何もかも」

 狂気に摂り付かれた彼の唇は不気味な歪曲を描き、醜穢な呪詛を紡ぎ出す。それは彼にしか聞こえない。だが、それ
を聞き付けたように、眼下の学校の入口からは二つの人影が姿を現した。
 ――或る意味で彼の精神が保っていた均衡を、打ち崩す衝撃と共に。

「そんな……! なんで、なんでっ!」

 均衡を打ち崩された彼の言葉は、最早疑問を問い掛けるより他にない。その声が相手に聞こえていようといなかろう
と、そうでなければ自己を保てない。だが、この時彼は、既に発狂しているのと同義であった。
 頭を抱えて小刻みに扇動を繰り返す彼に向かって、警戒など微塵もしていない様子を見せる二人の人物は、彼を見上
げて悠然と言葉を紡ぐ。彼が搭乗した紫色の巨人は、頭を抱えて不様に跪いていた。

「久し振りだな、シンジ」
「やあ、シンジ君。君が残ってくれて嬉しいよ」

 彼の父親と、親友だったヒトがそこに居た。


こんな妄想をしてみたが、これじゃエヴァキャラが出しゃばり過ぎてるな。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 15:01:33 ID:cQbKIm07
誤爆乙
14名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 15:05:12 ID:ao+yKT70
やっちゃったぜ、ごめんね。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 15:07:08 ID:8EXGnYad
まあでも百合みたいなもんだろ逆に
16名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 15:12:27 ID:6ir71j2R
ここまで投下なし
17投下するバカ:2008/08/31(日) 17:31:29 ID:J2kcBWGw
「良い天気ね、静久」
「そうですね、ひつぎさん」
 麗らかな日差しの射す天地学園生徒会室に天地ひつぎは優雅に天ぷらソバをすすっている。
「そう言えば百合スレが立ったわよ」
「まだSSが投下されてませんけどね」
「この調子だとDAT落ちするわね」
「みんなアニロワスレに夢中ですから」
「私の脳内では既に51スレ目だというのに」
「現実を見つめて下さい」
 ひつぎは物憂げな表情で嘆息する。静久はひつぎの横顔を見て困惑する。
 静久は悩むひつぎの顔を見たくないのだ。ひつぎが悩むと大抵の場合、悪いアイデアを思い浮かべるのだ。
「……ウルトラ……」
「掲載雑誌が電撃大王からウルトラジャンプに変わったのはトラブルがあったからではありませんよ?」
転ばぬ先の杖。
 静久は機先を制して釘をさす。そうしなければグダグダの展開が待っているのだ。
「ウルトラソードのキャラクタ―を天地の剣待生として迎えるのはどうかしら? エロマンガの様な展開になれば……」
「18禁は駄目ですよ!」
 静久は頬を朱に染めて勢い良く反論するが、ひつぎは止まらない。いや、止める術がない。
「大丈夫よ。ウルトラソードにはゾーニングマークが無いし18禁表記はないのだから」


 この直後淫魔・左月の精を受けて暴走した帯刀が乱入したが、ひつぎにバッサリと斬られてめでたしめでたしだったらしいとは静久の弁。

 今日もおかみさんは綾那におかみさんと呼ばれて順は綾那にどつかれたみたいでした。

――幕。

ゴメンね、やっぱり百合は無理だったw
18名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 17:51:23 ID:iZ5yUC8J
http://imepita.jp/20080831/637290

とりあえず投下
19名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 18:07:33 ID:bsSR/Sat
キョン子と小泉も良いのだろうか?
20名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 18:22:47 ID:U7FKfGmT
>>17
そこはちょっとがんばれよw
21名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 18:32:37 ID:6ir71j2R
そういえば18禁でもいいのか? 書けないけど
22名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 18:34:59 ID:wMWUab1t
いちおう2ちゃんでは18禁は禁止って建前だろ?
別にちょっとしたのはいいと思うけど
あんまり過激なのはBBSPINKに行くべきじゃね
23名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 22:17:49 ID:teTKRPhS
行為をkwsk書くのはNGじゃね?
キスくらいならどんなに濃厚なの書いてもおkだと思うけど。
24名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 22:18:36 ID:8EXGnYad
ソフトな手マンは駄目かな?
25名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 22:25:06 ID:6ir71j2R
とびっこプレイは?
26名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 22:33:48 ID:teTKRPhS
エロから離れようという概念はないのかw
27名無しさん@お腹いっぱい。:2008/08/31(日) 22:44:13 ID:6ir71j2R
いいから誰か書けよ
28名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 00:59:33 ID:Te7Xl3FL
二次創作でもいいんだよな?
百合っぽくないけど女の子投下。スレが盛り上がるように祈りを込めて。
http://imepita.jp/20080901/035150
29名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 01:01:05 ID:cDRxKN05
東方キター
30名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 01:14:10 ID:xYCzN9Y/
>>28
十分百合っぽいですハァハァ
31名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 01:24:46 ID:cMYl3CGb
>>28
いいと思うんだぜ
32名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 01:48:34 ID:+XLNDzQX
マリみてだが投下するぜ
33名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 01:49:48 ID:+XLNDzQX
 私の下宿には、お姉さまである志摩子さんがしばしば遊びに来る。
「あら、菫子さんは?」
部屋を確認しながら志摩子さんはたずねてくる。
「あ、今日はちょっとお出かけだそうです」
そう、とだけ相槌を打つと、その場に座り、くつろぐ。
 ふわふわで綿菓子みたいな髪の毛。フランス人形みたいな整った顔立ち。――あぁ、綺麗だ。
 ぽーとした私の視線に気付いた志摩子さんは、ふふふと微笑んだ。照れ隠しだろうか。
 いやむしろ、この場合恥ずかしいのは私なんじゃ。そう考えたら急に恥ずかしくなってきた。
「あ、お茶いれます」
そそくさと台所へ移動。背中が志摩子さんの笑顔を感じ、なぜか汗までかいてしまう。
 志摩子さんは私のいれた日本茶の匂いを楽しみ、少し口に含んだ。
「あっ、もしかして紅茶とかのが良かったかな?」
「いいえ? 乃梨子のいれてくれたお茶、とっても美味しいわ」
ほう……。湯飲みを覆う様に持つ志摩子さんに、その擬音はぴったりに思えた。
 私は煮え切らない思いがもどかしくて、熱いお茶をぐいっと飲む。
34名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 01:52:16 ID:+XLNDzQX
まぁ、続きは需要があれば書くぜ
35名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/01(月) 06:55:21 ID:osEFC1c6
需要あり! 続き期待。
でも、できれば3レスくらいまとめてよろ。
36 ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:34:18 ID:p3CxSkpT
オリジナルです。

中学一年生女子の一人称なのですが、
それにしては妙に理屈っぽいものになりました。
37『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:36:50 ID:p3CxSkpT
(1/9)

 私の家にはクーラーがない。
 毎年、夏が来ると憂鬱な気持ちになる。友達を家に呼ぶのが億劫になる。私の部屋は二
階にあるため、一階に居るよりもなおさら暑い。それなのに一台の扇風機しか使えないの
だ。
 自分ひとりなら構わない。しかし遊びに来た友達が「暑い」とつぶやくたびに私の心は
重くなった。なぜかクーラーを頑として買ってくれない両親のかたくなな態度を思い出し、
それと共に、うちはそんなに貧乏なのだろうかという気持ちが込み上げてきて、心の底か
ら情けなく申し訳なく思うのだった。

 そして今、中学一年の夏が来た。あいにく今年は猛暑になるとのことだった。その予報
は当たった。そして、その中でももっとも暑いと思われる盆の時期がやってきた。私は毎
晩うだるような熱気に包まれ、机に向かった。汗が流れ、ノートがふやけた。
38『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:37:38 ID:p3CxSkpT
(2/9)

 由紀という名前の、同い年の女の子がいた。同じ学校に通う、小さい頃からの友達だ。
 私は自分の部屋に友達を呼ぶことは少ない。夏場はもっと少ない。そんな中、由紀だけ
は比較的頻繁に呼んだ。彼女もそれを喜んだ。
 畳六畳の私の部屋にはそれなりに多くの小説や漫画があった。時間をつぶせるようなも
のは、ほかにほとんど無かった。私たちはいくらか会話し、それぞれ本を読み出し、三十
分程度の時間が経つとまた会話し出す、ということを繰り返していた。
 読書などせずとも、話題はいくらでもあったのだ。でもこの過ごし方はすっかり習慣と
して定着していた。その間中、扇風機は首を振り続け、私の部屋の隅々まで風を運んだ。
とはいっても、しばらくこちらに風が吹いたかと思うと、すぐさま扇風機は別の方向を向
いてしまう。そのときに襲ってくる暑さは、普段の二倍にも感じられた。

 この夏も、私と由紀は何度かそのように過ごした。そのたびにセミの声は大きくなり、
窓から見える入道雲は迫力を増し、熱気はさらに湿り気を帯びてくるように感じられた。
39『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:38:34 ID:p3CxSkpT
(3/9)

 ――小さな音がした。
 ある日の午後、由紀が扇風機の首振り機能を止めたのだった。
「暑いよう、もう限界。ずっと当たってたい」由紀は右手に本を持ったまま、扇風機を抱
きしめるようにして、頬を網目に押し付けた。スカートをはいた彼女は脚を綺麗にたたみ、
言った。「ごめんね、ちょっと独り占めさせてもらうわ」
「いや、こっちこそごめんね、ほんとクーラーないと厳しいよねえ」私は本を閉じ、傍ら
に置いた。「もうこんなところに居るのもなんだから、どこか行こう。由紀の家でもいい
し、ほかの涼しいところでもいいし」
「いや、いい」
 由紀はなぜかいつも私の申し出を断った。彼女はなぜかこの部屋が気に入っていたらし
かった。理由はよくわからない。私も大して気にはしなかった。とりあえず、悪い気分で
はなかった。
「――まだこれ読みきってないし」由紀は軽く本を持ち上げた。
「でも、別の所に持っていって読めばいいじゃん」
「いや、いいの」
 由紀は腕を扇風機から離し、上体を起こしてから、顔だけを前に出して風を真正面から
受けた。
「涼しい」
 彼女はそう言うと、目を閉じ、口の端を少しだけ上げて笑みの形にして、押し黙ってし
まった。風が彼女の前髪を揺らした。

 なぜかはわからないが、私が自分の気持ちを再確認したのはまさにこの瞬間だった。

 どうやら私は由紀に対してただならぬ感情を抱いており、それは友情というよりは恋心
とでもいうべきものらしい、ということには薄々感づいていた。ただ、それがいつ生まれ
た感情なのかはまったくわからなかった。
 そしてそれが明確に結晶化したこの瞬間も、一体なぜ今なのかという疑問が湧き出るば
かりで、私はただ困惑するしかなかった。
 私は彼女に体を寄せ、頬と頬が触れんばかりの距離まで顔を近づけた。私も彼女と同じ
方向を向き、共に風を浴びた。
 こめかみが脈打っている。
40『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:39:25 ID:p3CxSkpT
(4/9)

「日下君、優しい?」私は言った。
「え? うん、優しいよ」身を引いた由紀は、少し慌てながら答えた。

 日下君というのは、由紀が一ト月前から付き合っている男の子だ。中学一年生の段階で
付き合っている男女はまだ少なく、このカップルは何かと冷やかされる運命にあった。日
下君は自分たちが付き合っているということを一向に隠そうともしない、なんとも天真爛
漫な男の子だった。
 仲間内では、好きな男子の話で盛り上がることが多々あったものの、皆なんとなく「自
分が誰かと付き合うのはまだ先のことだろう」と思い込んでいた。そんな話にあまり加わ
らなかった由紀がグループ内で一番最初に男子と付き合いだしたことは、私たちにとって
大きな驚きだった。

「いつも何してるの?」私は声の調子を明るくして、聞いた。
「何って」
「どこ行って遊んでるの」
「まあ普通に散歩したり……」
「適当なお店行ったり?」
「うん、行ったり。ていうか、何? どうしたの?」
「キスしたんだっけ?」
「な、何? したよ。言ったじゃん」
「うわぁ、うらやましいなあ!」
 私は同じようなとりとめのない質問を繰り返し、由紀は眉をひそめながらもいちいち答
えてくれた。彼女が疑問に思うのも無理はなかった。私はこの一ヶ月以内にすでに聞き知
っていたことを改めて質問しているのだった。
 しばらくして、自分の顔がややこわばっていることに気づいた私は、表情を緩めた。そ
して、からかうような笑みをつくった。
「で、もう乳はさんざん揉まれたのかあ?」私は両手の平を由紀の胸の辺りに向け、揉む
ジェスチャーをしながら言った。
 驚いた表情の由紀がそれに答える前に、私はそのまま腕を伸ばし、彼女の両方の乳房を
服の上からすっぽりとそれぞれの手で包んだ。
「ほれほれ由紀ちゃん、おっぱい揉んじゃうぞう」
 私はそう言いながら、勢いよく由紀の乳房を二、三度揉んだ。
 その瞬間、あまりにくすぐったかったのか、由紀は大声を上げて笑い、身をよじった。
畳に倒れこみ体を仰向けにしつつ、なおも私の手から逃れようとしたが、私は手を休めな
かった。「ほれほれ、いいじゃないか、減るもんじゃなし」
 私は乳房からわき腹へと手を移動させ、くすぐった。由紀はなおも笑い続けた。私は片
手で彼女のわき腹をくすぐり続けたまま、もう片手を彼女のふとももの内側へとすべらせ
た。こめかみの脈動がさらに大きく感じられた。
41『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:40:13 ID:p3CxSkpT
(5/9)

 数秒後、先ほどからずっと続いていた由紀の笑い声がふと止んだ。私はそのとき初めて、
自分が手を止めていることに気づいた。私は彼女の顔をまじまじと覗き込んでいた。
 由紀と目が合った。
 その瞬間、彼女が私の表情から何かを読み取ったことは明らかだった。その瞳には動揺
が浮かんでいた。私もまたうろたえた。まさか私が恋心を抱いているだなんて夢にも思わ
ないだろう、いや思わないはずだ、思わないでください、そう考えるだけで精一杯だった。
私は唾を飲んだ。
 いつの間にか扇風機は由紀の足に蹴られ、あさっての方向を向いていた。風の当たらな
くなった私たちの体に、またじっとりと汗が浮かんできた。私はまだ由紀に覆いかぶさっ
たままだった。
 なにかの力が働いているかのように目を合わせたままの私たちだったが、由紀がその視
線をはずした。
「……暑い」
 由紀はぽつりとつぶやいた。まったく私も同感だった。彼女の首筋に、小さな汗の粒が
ぽつぽつと浮かんでいた。それを見つめているうちに、私の顔から汗が雫となって滴り落
ち、ちょうど彼女の首筋へと落ちた。しばらく暑いなかではしゃいでしまったとはいえ、
もう大粒の汗をかいてるなんて思いもしなかった。ああ、いやだ、こんなに暑い夏は。こ
んなに暑い夏は……。言葉がぐるぐる頭のなかで回りだした。私はだんだんぼうっとして
くるのを感じた。私はすべてを夏のせいにしようと思った。セミの合唱が、そのとおりだ、
お前は正しい、と言った。

 私は右手を由紀の股に向かって這わせた。このとき、由紀はどんな表情をしていたのだ
ろう。私にとってはそのとき、由紀の気持ちなどはどうでもよかった。スカートって手っ
取り早いなぁ、なんてことを考えていた。
 私は彼女のスカートの中に手を突っ込んだ。ほんの一秒ほど下着の上から局部を撫で回
したとき、由紀の抵抗がほとんどないことに私はやっと気が付いた。私の体が彼女の上に
覆いかぶさっているのだが、ほとんど申し訳程度の抵抗しか見られなかった。いや、これ
はそもそも、抵抗なのだろうか? それとも、私が触ったことによって体が反応してしま
っただけなのだろうか? その区別もつかないほどに彼女の動きは小さく、また私の判断
力もなくなっていた。
42『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:41:03 ID:p3CxSkpT
(6/9)

 そのとき、「そうだ、彼女はこれを待ってたのだ、こうなることを望んでいたのだ」、
という突拍子もない考えが突如ひらめいた。

 いや、そんなことがあるものか。このようなことが起こるなんて、私ですら考えてもい
なかった。ましてや彼女には彼氏がいる。こんなことを望んでいるはずがない。じゃあな
ぜ彼女は激しく抵抗しないのだろうか。ただ怖くて動けないのだろうか。いや、やはりこ
の状況を楽しんでいるのではないだろうか。そして私を試しているのではないだろうか。
とりとめのない考えが生まれては消えた。
 私は下着の隙間から指を差し入れ、彼女の秘部を直接なぞった。
 由紀の咽喉から押し殺したようなうめき声がもれた。そして体をよじる。
 私は指をさらに動かした。やや大きいうめき声がもれた。
 私は飛びそうになる理性で、先ほど乳房を揉んだときのようになんとかこれも冗談にし
たいと考えた。しかしこれはもう冗談で済むようなものではない、ということもわかって
いた。
「もうセックスしたの?」
 私は右手で由紀の股間をまさぐりながら耳元で問いかけた。私はおかしくなっていた。
自分はなにを言ってるんだろう、などと顧みることもなかった。
 由紀の呼吸が大きくなった。彼女は身をよじり、なんとか耐え抜こうとしているようだ
った。
 その隙に、私は由紀のTシャツの下へと手を滑り込ませた。
43『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:41:52 ID:p3CxSkpT
(7/9)

「奈美、由紀ちゃん」
 部屋のすぐ外、ドアの向こうから、母の声がした。
「暑いでしょう」
 私たちは一瞬にして、完全に凍りついた。まったく動けなかった。見つめ合ったまま、
視線もそらさなかった。
「何か飲む? ウーロン茶かアイスコーヒーかオレンジジュースくらいしかないけど」
 時間が止まったようだった。母の様子からして、由紀の声は聞こえていないらしい。そ
の点は幸運だったが、非常事態であることに変わりはなかった。
 私は、母が部屋をノックし、返事も待たずに入ってくるところを想像した。

 そのとき由紀が口を開いた。
「じゃあ私、ウーロン茶お願いします」
 二人の体勢に似つかわしくない、間の抜けた言葉だった。
 それにつられて、咄嗟に声が出た。「私も」
「わかったわ。ちょっと待っててね」
 母はあっさりときびすを返した。足音が遠ざかってゆく。そして階段をとんとんと下り
る軽快な音が聞こえた。
 私たちは同時に息をつき、呪縛が解けたかのように互いの体から離れた。

 私の想像は、想像のままで終わった。意外なことに、私は失望していた。母がドアを開
けることを私は期待していたのだ。二人の姿を見られることを通じて、私は一体何を望ん
でいたのだろう。

 もし母が入ってきた場合、その後の展開は目に見えていた。母は叫び声をあげ、私を由
紀から引き離し、私に平手打ちを食わせる。そして、「あんた、なにやってるの!」と鬼
の形相で叫ぶ。そこできっと私は妙な笑いが込み上げてきて、こらえきれず口元に薄ら笑
いを浮かべてしまうだろう。そこで間髪いれず、二度目の平手打ち。倒れる私を放ったま
ま、母は由紀を抱きしめ、「ごめんね、ごめんね、こんなことになって……」と涙声で慰
める。

 しかしそのすべては現実にならなかった。
44『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:42:41 ID:p3CxSkpT
(8/9)

 もしそうなっていたとしたら、私の恋はここで完全に終わっていたに違いない。

 ……母に殴られ、その衝撃は私と由紀を正気に戻し、すべてが終わる。そして、「ごめ
ん、私、ちょっとおかしくなっちゃってたみたい、あんまりあの部屋暑いもんだし、なん
かふざけ気分がすぎちゃって、ごめんね、許してね、本当にごめんね」後日そう言って、
万が一うまくいけばいつもどおりの日常に戻っていたかもしれない。事を知った両親は私
を蔑みの目で見続けるだろうけれど、もしかしたら由紀は私を許してくれていたのではな
いかという気さえした。
 でも結局母はドアを開けず、飲み物を取りに戻ってしまった。

 私と由紀は体を離しはしたものの、その余韻はずるずると後を引くことだろう。私には
それがはっきりと分かった。決着がついていないことが、はっきりと分かった。
 数分後、母が持ってきた飲み物にはあまり口をつけず、由紀はほとんど口を開かないま
ま帰っていった。

 のちに、私はいかに自分の考えが身勝手かを何度も思い直した。あの場面で母が入って
きていいはずがなかった。
 あのような状態を人に見られて、誰が平気で居られるだろうか。由紀は尋常ではない傷
を心に負うだろう。もちろん、私のことを彼女が許してくれるはずがない。
 しかしそれでもふとしたときになぜか、あのとき母が入ってきてくれれば、と考えてし
まうのだった。
45『私の家にはクーラーがない』  ◆U4jQgFN8e. :2008/09/02(火) 02:43:30 ID:p3CxSkpT
(9/9)

 ……その日を境に、私と由紀は疎遠になった。
 数日間、私は学校へ行くのが怖かった。自分勝手な話だが、由紀が周りにこのことを話
しはしないか、と恐れたのだ。でも結局、何の噂もたたなかった。私は二週間ほどの間由
紀を避けたが、それ以降は不思議と、淡々とした気持ちになれた。とは言っても、よほど
話す必要がある場合にしか話さない間柄になった。

 あるとき街で、日下君と一緒に歩いている由紀を見た。道路を隔てた向こう側の歩道に
彼女たちは居た。私はすぐさま彼女から目をそらし、視線を前に向けた。その一瞬後、私
を呼ぶ声がした。由紀の声だ。日下君と一緒に、笑顔で私に向かって手を振っていた。私
も手を振り返した。罪悪感と嬉しさが混じった、不思議な気持ちだった。私はうまく笑え
ていただろうか。
 私は歩きながら考えた。由紀は手を振ってくれたが、あれは日下君と一緒に居たためで
はないだろうか。日下君がまず私に気づき、そのことを由紀に耳打ちし、それゆえ仕方な
しに私に声をかけたのではないだろうか。真相はわからない。しかし、もし一人だったと
したら彼女は私に声をかけなかっただろう、と私は思った。

 由紀がうちに遊びに来たあの日以来、ずっと自分の心と取っ組み合っていることに私は
気づいた。気づいた瞬間、初めてそこから一時的にせよ解放されたのを感じた。
 私は立ち止まり、外の世界をありのままに見た。
 道。塀。家々。電柱。空。雲。太陽。
 あの熱気はいつの間にか、どこかへ去っていた。季節がすでに変わったことを、私は知
った。
46名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 03:31:03 ID:KoCPlOkU
>>37-45
。・゚・(つД`)・゚・。ウワァァァァン
47名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 04:13:31 ID:c74Bwss2
>>37-45
(;_;)
48名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 13:01:30 ID:nHX6vAr2
>>37-45
時々、文書が変なところもあるけど(;_;)
49名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 14:07:29 ID:/gXL/mOo
これは切ないな
50名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 18:58:50 ID:nckOY9rF
うお!?
百合スレあったのか
今まで気付かなかったぜ
51名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/02(火) 21:47:40 ID:iMRFLQJA
>>45
切ないけど良かった

やっとこれで少しはみなぎってきたなw
5233 ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/03(水) 00:56:44 ID:ui8Lj338
>>33の続き
「志摩子さんっ」
志摩子さんの体がびくっとする。驚かす気はなかったが、少し声が大きかった様だ。
「急にどうしたの?」
切り出したはいいものの、次の言葉が見つからない。そんな私を電話が救ってくれた。
「はい、もしもし。あ、菫子さん? うん、うん……分かった」
静かに受話器を置く。胸がドキドキしてきた。
「菫子さんみたいだけどなんて?」
当然の志摩子さんの反応。私はぎりぎり、電話の内容を言う事が出来た。
「菫子さん、今日……帰ってこないって」
声、震えてなかっただろうか。

 これはチャンスだ! 志摩子さんに倣う様、機械的に雑誌のページをめくる。私の脳内は雑誌の記事ではなく煩悩で溢れていた。
 夜まで二人っきり。むしろ夜から二人っきり……!? だ、駄目だ。私、落ち着けー落ち着け。
 でもよく考えたらこれって志摩子さんに対して失礼なんではないだろうか? 何となく裏切りみたいな感じもしなくもない。私は途端に罪悪感に苛まれ、気落ちした。ごめんなさい、マリア様にお釈迦様。
 だいたい志摩子さんは普段とまるで変わりない。というより意識してないのだろうか。
5333 ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/03(水) 01:24:48 ID:ui8Lj338
>>52の続き

「そうだ、志摩子さん。夜ご飯食べてく? いいものは出せないけど……」
そうねぇ、と少し考え込む。
「菫子さんもいないみたいだし、泊まっていくわ」
 夕食のお誘いからお泊まりにまでの飛躍。ついでに明日は休み……。時間はたっぷりある。
「えっと、家には連絡いいんですか?」
「父には泊まるかもって言って出て来たの。明日は休日だし、乃梨子と二人っきりでいれると思ったから」
はにかんで微笑む志摩子さん。確かによくよく見ると、鞄がいつもより膨らんでいる
 いや、それよりも思わせぶりな態度。もしや志摩子さんもOK作戦?
 何より私との時間を共有したいって言ってくれた事が嬉しい……。きゃー、何だか照れて来ちゃう。

 志摩子さんとの初めての共同作業……じゃなくて調理。食材は余り物ばかりだが、志摩子さんのお力添えもあってそれは美味しく出来た。
 そして食事の後、やる事はひとつ……お風呂。私の心は期待と煩悩でいっぱいで、かなりワクワクしていた。
5433 ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/04(木) 01:46:08 ID:F/WqmDLb
>>53の続き

 お風呂。簡単に言ってしまえば体を洗うための設備。それでも入る相手によれば、そこはエデンにもヘヴンにもなる。
 さぁ、言え。言うんだ。「志摩子さん、一緒に入ろう」って。
「ね、ねぇ、志摩子さん。良かったらなんだけどさ。一緒にお風呂入んない?」
「ええ、構わないわ」
即答。やはり志摩子さんその気ある? いやいや、焦っちゃ駄目だ。夜は長い。この後、姉妹の仲を深めればいい。ふふ。

 湯船から湯煙が入り込む脱衣所。いよいよ、志摩子さんの一糸まとわぬ姿を拝見出来る。このワクワク感は京都の仏像以上だ。
 絹みたいに綺麗で白い肌。胸は髪の毛よりふわふわしてそう。そして、結構大きい……。
 ごくり、思わず生唾を飲み込む。あまり直視出来ないから不自然に目を逸らした。
「入りましょ?」
にこっと微笑み、片手を差し延べる。
 あぁ、まるでマリア様――。私はさっきまでの背徳感を置き去りにし、志摩子さんの片手に右手を滑り込ませる。
「うん」
私は湯気の中でも、志摩子さんが頬を赤く染めた瞬間を見逃さなかった。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 01:55:48 ID:iUmDv6a3
wktk
56名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 04:17:29 ID:9N9Qvya6
投下乙!GJ

いちいち>>○の続きって書かなくても大丈夫だよ
IDやトリでわかるし、それ書くのも手間でしょ?
57名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 07:23:56 ID:Fby94Rbo
最初の1レスに付けるだけでいいと思う
58名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 10:24:41 ID:F/WqmDLb
つまりどうしろと
59名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 10:44:39 ID:K7O8zJpF
完結させてから投下したほうがいい。感想もつきやすくなる。
60名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 11:49:46 ID:F/WqmDLb
適当に書いてたから完結する見込みがwwwww

次からはそうする
61名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 18:50:13 ID:J2ldrYZf
先日見つけたオススメのブログ。
自分や友達のものでは無いのですが、
凄い百合でレズ以外は普通の中学生の子なんですが
切な過ぎて泣けました
エロサイトなどでは絶対に無いです
先日から始めたらしく、記事もまだ3つしかないのですが
励ましコメントは歓迎と書いてあったので、
皆さん是非行ってみて下さい↓
http://blackpine.jugem.jp/
個人のブログってこーゆーとことかにのせたりしちゃ駄目なんですかね?
もしそーだったら削除します
62名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 18:53:15 ID:TVOi1dCS
荒らしてくれって言ってるの?
63名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/04(木) 18:59:35 ID:TxCDb84f
>>61
ん〜この板でそういうのはいただけないな…
できればご遠慮願いたいところだ
64名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 21:33:28 ID:HprxyFEa
このスレではどこら辺まで際どい描写が許されますか?
65名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 23:27:06 ID:bNKoRf3M
下半身裸とか愛液だだ漏れとかじゃなければだいじょうぶだと思う。最近の少年マンガを見るに。
66名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 23:35:33 ID:9/21tcXe
早朝、畑にニンジンを収穫に行った二人の姉妹。
年のころは姉が16歳、妹が14歳といったところか。

姉はニンジンを一本よいしょと引っこ抜き、
なにを思ったか、突然その先端を妹の胸にグリグリと押し当てた。
ニンジンの先端は服越しに、妹の右の乳首を正確にとらえていた。

体をよじらせ、悶える妹。
「ああん、やめて、おねえちゃん、ニンジンはそんな風に使うものじゃないわ!」

----

これくらいなら大丈夫かな。
67名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/05(金) 23:55:23 ID:mWEnK1zO
乳首は……自主規制かなあw
この板で、今のところペッティングまでは確認してる
68名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 01:01:19 ID:UmXOEvGY
マリみて書くよ
1レスだよ!
69名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 01:01:48 ID:6LZN8x9x
wktk
70 ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/06(土) 01:03:52 ID:UmXOEvGY
 ある雨の日、彼女は窓から外を眺めていた。雨ゆえに別段、変わった景色は拝めない。私は彼女に何を見ているか問う。
「別に」
素っ気なく言う彼女に、これ以上の言及は意味がない。ただこの空気が心地良かった。
 友達とは少し違うし、姉妹とも性質が異なる。親友ってやつの立ち位置は曖昧だ。
 深く関わっている様で、実は入口で右往左往していたり。人の心は難しいものだ。
 しかも、彼女は人一倍気難しい。どんなに戯けようとも、それは簡単には隠せない。
 例えば、彼女の心の奥が決壊して、闇が溢れ出したとしよう。私はきっと全力でそれを受け止める。その損な役回りが何より誇らしい。
 ふっ、と心の中で微笑。そして思い出したかの様に紅茶を喉に流し込む。
 随分冷めてしまった。彼女の手付かずのコーヒーも恐らくそうなのだろう。と思考してまもなく、扉が開いて二人の時間は終わってしまった。
71名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 01:15:17 ID:6LZN8x9x
いいなあこういう空気
72名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 08:32:01 ID:FLmBa/HB
見たことないから知らんけど、マリみては百合好きに人気があるのか。
73名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 13:43:09 ID:YAE0orId
女より男に人気があるコバルト
74名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 14:36:34 ID:UmXOEvGY
むしろマリみて知らない百合好きって駄目だろ
75名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 16:33:26 ID:Cm/LMcpo
すみません。知らないです


いや、存在自体は知ってるんだけど、どうも食指が……
76名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 16:36:16 ID:VyokBVGS
マリみて最初は読んでたんだけど最近はなぁ
本来のターゲットじゃない層に人気が出すぎてわけわからなくなってるような

今野緒雪は昔の夢の宮とか書いてた頃が好きだったのに
77名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 16:58:55 ID:UmXOEvGY
>>76
……確かに最近のは薄くなった
78名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 22:21:18 ID:JaXXTxaX
他スレに投下したSSはあり?
79名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/06(土) 23:15:54 ID:6LZN8x9x
無しにする理由がない
80 ◆NN1orQGDus :2008/09/06(土) 23:50:52 ID:JaXXTxaX
 知らぬ間に女子高という空間の抑圧に負けたぼくは、女に走るようになってしまった。
 つまり、レズビアニズムだ。
 世の男性諸氏が妄想する純粋な物などではなく、倒錯した愛欲だ。
 うら若き乙女が同姓に憧れる疑似恋愛などではなく、爛れ切った肉欲だ。
 可愛い子を見れば手込めにしたいし、綺麗なお姉様を見ても手込めにしたい。
 幸いな亊にすらりと高い身長、カモシカみたいなしなやかな足。
 それに似合ったボーイッシュな顔立ち。
 ぼくは、タチとしての素養を十分に持っているといえるだろう。
 そして、小さい頃に見たテレビアニメのキャラクターに憧れて始めた口調は、違和感がないくらいにマッチしている。
 これはもう鬼に金棒という他ない。

 いや、駄目だ。こんなに完璧なぼくだけど、悔しいことに棒だけは付いていないのだから。


「恭子! 恭子! そこの杜恭子! ぎょうごぉ! もりぎょうこーっ!」
 最近目を付けた同級生の杜恭子は、恥ずかしいのかぼくを無視する。
 それはそれでとても可愛い。
「やめてちょうだいっ! 私には想い人がおりますのっ!」
「良いねえ、その女学生キャラ。そそるじゃないか」
 恭子はレトロな大正浪漫が好みらしく、クラシカルな言葉遣い、仕草、容姿だ。
 ぼくの言葉に恭子は顔を真っ赤にして俯いている。
 こういう仕草はぼくの燃え盛る愛欲の火に油を注ぐ。
「キャ、キャラ……およしになって下さらない? わたくし、るり子さんみたいな色物ではないんですのっ!」
「な、なんだと! ぼくの、このぼくの何処が色物なんだ!」
 駄目だ。愛欲どころか怒りの炎にガソリンを注がれてしまった。
 だけど、ぼくの名前、沖方るり子を覚えていたことは純粋に嬉しい。
「その粗野な口調が! ガサツな存在が! 全てが! 知性を微塵の欠片も感じさせません! ああ、神様っ! わたくしをるり子さんみたいに生ませなかった事を感謝致します。アーメン」
 これ見よがしな大げさな仕草で、恭子は十字を切る。
「きみ、かなり酷いことを言ってるよね、このぼくに!」
「良かったですわね、るり子さん。貴女にも皮肉や嫌味が解るくらいの知性がおありでしたのね。……私は神様の存在を信じてしまいますわ」
 嬉し涙で咽びながら、神様に祈りを捧げる恭子はとても神々しい。
 だけど、事情を知っているぼくとしてはかなり忌々しい。
「……実家はお寺さんのクセに」
81 ◆NN1orQGDus :2008/09/06(土) 23:53:33 ID:JaXXTxaX
「な、なんで貴女がそんなことを知っているんですのっ?」
「だってキミの事が好きだからね。好きな人の事を調べるのは当然だろ?」
 恭子は頬を赤く染めてぼくに熱い視線を向けて来た。
 いやあ、照れるじゃないか。
「こ、このストーカーッ! 犯罪者っ! オトコオンナッ! 東京気取りの埼玉県民っ! えーと、それからそれからださいたまっ! ……悲しい事ですけど貴女に語る舌なんてございませんっ!」
「埼玉県民を舐めるなっ! 彩の国埼玉っ! 浦和レッズに西武ライオンズ! 何処にいった東京ヴェルディ東京ヤクルトスワローズッ!」


 丁々発止のやり取りの後に訪れた沈黙。 そして、二人の視線が絡み付いて凍り付いた時が動き出した。

「分かりましたわ、るり子さん。貴女のように哀れな埼玉県民の為に、池袋を進呈いたしますわ。というよりも、すでに池袋は埼玉県民に占拠されていましたよね」
「あ、ああ……池袋については地元民よりも埼玉県民の方が詳しいな……」
「ええ。本当に素晴らしいですわね、東武東上線。では、わたくしはこれで失礼いたしますわ」

 恭子はぼくに慇懃な会釈をして踵を返して去っていった。
 なんだろう、この不思議な敗北感。
 これがぼくの求めた倒錯した背徳の愛の成れの果てなのだろうか。
 とりあえず叫ぼう。
 カムバック、ぎょうごぉーっ!

――幕。
82 ◆NN1orQGDus :2008/09/06(土) 23:55:02 ID:JaXXTxaX
投下終了です。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/07(日) 00:31:42 ID:2AXEbkCi
何か分からんけど勢いがウケたw
84江利子さまの考察 ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/08(月) 01:24:36 ID:bP+POV8b
 最近、私の関心をくすぐるものが多い。それは別に困った事じゃない。むしろ、楽しみが尽きなくて喜ばしい。
 なかなか進展しないあの人の事もさる事ながら、古巣に残した置き土産も、いい感じになってきてるみたいだ。
 孫の悔しそうな顔。想像するだけで、思わず笑みがこぼれる。
 彼女をからかうのは愛ゆえ。だから、そこの所は理解してもらいたい。……なーんて、言い訳を付けてみる。
 ひとえに“面白い”からだ。だから私は最近、希望を抱いてる。まだまだこの世界も捨てたもんじゃない、と。
 講師が質問してくる。きっと上の空だったからだ。私は講師に“求められる答え”を言って、黙らせる。
 さぁ、今度はどんな意地悪をしようか――。私は考え事に戻った。
85名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 01:26:56 ID:bP+POV8b
あぁ……百合じゃねぇwwwww
86人形にも愛はある ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/08(月) 02:07:10 ID:bP+POV8b
 私はずっと独りだった。独りでも平気、慣れてるから、と自分に言い聞かせる。けれども孤独は消えない。この寂しさが私を覆い尽くす。
 だから慰みに人形を作った。私の人形は踊り、歌い、私を楽しませようとした。でも、私の心は寂しいまま。むしろ、私が人形みたいだ。
 孤独のまま、時は流れて、いつかは死ぬ。その手の想像は、いつも私を恐怖で押し潰す。
「お前、こんな所で人形遊びか?」
 ――だから、私はこの光を忘れない。忘れられる訳がない。
「友達がいない? だったら私が友達になるさ」
 ――だから、私はこの友に惹かれる。惹かれない訳がない。
「私? 私は、魔理沙……霧雨魔理沙。さ、遊びに出ようぜ」
 ――だから、私はこの人を恋慕する。恋慕しない訳がない。
 差し延べられた手を掴む。その時、私は生まれて初めて“愛”を覚えた。
87人形にも愛はある ◆R4Zu1i5jcs :2008/09/08(月) 02:09:23 ID:bP+POV8b
「ねぇ、魔理沙」
急に呼び出したそいつに問う。
「急に呼び出して何よ」
「いや、たまにはアリスと酒盛りでもってさ。ほら、いい酒が入ったんだ」
得意げに酒瓶を見せてくる。その笑顔は反則だ。
「ありがと。いただくわ」
「なんだ、今日は嫌に素直なんだな。明日は弾幕でも降るか?」
そう、今日は素直に喜ぶ。神が用意した出来の良い偶然を。
「それは、幻想郷が戦場になるってこと? いいから飲みましょう」
二つのグラスに深い紫色が注がれる。一口で良い葡萄酒だと分かる。盗品と知らなければ、もっと楽しめただろう。
「そういや、初めて会った時もこんな晩だったよな?」
「あら、そうだったかしら。忘れたわ」
そう。あの時も、月は真ん丸で、星は煌めいていた。私が孤独から解放された夜。冷たい空気が私を歓迎してくれた気がした。
 ふふ、と思わず笑みがこぼれる。それを魔理沙に気付かれてしまった。
「おい、何笑ってんだよ」
「ふふ、何でもないわよ」
あぁ、よく見れば、月があの時とは違う。今晩は十六夜みたいだ。
88名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 02:12:59 ID:bP+POV8b
オラに百合を分けてくれ……
89名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/08(月) 15:12:42 ID:Z3u1B69G
なんでもない二人の何でもない日常の中に潜む思い・・・いいですね
90名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 18:42:02 ID:lDDmywcM
ハスキーとメドレーの後日談みたいなの希望
91名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 19:46:10 ID:u7Ynvwuy
>>90
なんぞ?
92いつもと違う、いつもの放課後(1/2) ◆mf4c05IqKI :2008/09/10(水) 21:18:40 ID:g+cj65i4
「………」
「………」
なにがどうなって、こういう状態になったんだろう?
今は放課後。部活も終わって、後片付け中。今日は軽く台本読みした後、部室…演劇部の部室の隣、
この大道具&小道具置き場の小部屋に、今日使ったものを片付けて…ああ、だめだ。なんか混乱してる。
とにかく、ちょっと足元の小箱に足を躓かせた拍子に、一緒に片付けてくれてたユキに、抱きついちゃって。
…そのまま、何故か動けなくなった。
私より背の高いユキ。目の前には、白い首筋が見えて、不思議とドキドキしてくる。
それを避けようと、顔を上げて…後悔した。目と目が合った。途端に、動悸が激しくなり、顔が熱くなる。
女の私から見ても、ユキは文句の付けようのない美少女だと思う。
実際、「校内でもトップクラス」というのが、男子の評判だった。
そのユキが、じっと私を見つめてる。そして気付く。白く透き通るような、綺麗な肌に紅みがさしている事に。
なんとなく、それに気付くけど、観察する余裕が私にはなかった。
何しろ、私の目はユキの目に釘付けになっていたから。身体を密着させたまま、互いの瞳をじっと覗き込む。
まるで、その目に写る自分を見るかのように…その目が、不意に近付いた。
顔がゆっくりと迫り、少し頭が傾く。目が少し逸れた瞬間、私は無意識に目を閉じた。
何をされるか予想もつかなかったのに、まるで待ち望んだかのように、瞳を閉じ。
その理由を自分で良く解決出来ないまま…唇に、柔らかい感触が触れた。
キス、してる…
頭が、クラクラする。触れ合う身体を通して、鼓動の音が伝わりそうなくらい、心臓は暴走してる。
漠然とした思い…柔らかいな、とか。ドキドキ聞こえてるかな、とか。
こんなときに、そんな事を考えながら、時間が過ぎる。
30分くらいの濃密な時間が、でも実際にはほんの数十秒の時間が経過して、遂に唇の感触が消えて、
私は目を開けた。
ゆっくりと、元の位置に戻るユキの顔。再び目と目が合い、見詰め合うその顔は、何処か困惑したような、
不安そうな。何故か、そんな顔をしていた。
「どうしてそんな顔するの?」
声に出したつもりだったその言葉は、実際には声に出せなかった。出せないまま、
「…そろそろ、帰らなきゃ」
不意に、ユキが顔を逸らす。身体が離れる。私は、
「うん」
そう、一言言うのが精一杯だった。
93いつもと違う、いつもの放課後(2/2) ◆mf4c05IqKI :2008/09/10(水) 21:19:52 ID:g+cj65i4
片づけを始めた頃は、まだ明るかった外は、夕日の残光が僅かに残る程度にまで光を失っていた。
そんな薄暗い道を、私とユキは無言で歩く。
倉庫を出てから、一言も言葉を交わしていない。普段なら、TVの話とか、授業中の話題とか。
殆ど話題も尽きずに、分かれ道まで到着してしまうのに、ただ沈黙だけが続いていた。
私は…凄く落ち込んでいた。
ユキの最後の顔が忘れられない。キスしたことを、後悔してる?してるとしたら、何故?
変な雰囲気に当てられたから?するつもりも無いキスをしたから?
それを受け止めた私の事が、イヤになった…?
一つの不安が、不安を連鎖的に呼び起こして、どんどん心を締め付ける。
そして、気付いた。「ああ、私、ユキが本当の意味で好きなんだ」って。
だから、キスして不安そうな顔されて、ショック受けてるんだ、って。
分かれ道が近付く。もう目で見える距離。歩みは止まらない。このまま離れたくない、でも…
もう、分かれ道に着いてしまった。お互い、その真ん中で立ち尽くす。
せめて、せめて今日の、部活していた頃までの関係に戻りたい。嫌われるのはイヤだ。
帰り際の言葉もなく、歩き出そうとしたユキの手を、咄嗟に掴んでしまった。
まだ、何も話すべき事は用意して無いのに。
驚いて振り向くユキを、私は見てるしか出来なかった。
私、どんな顔してるだろう?少し不安に駆られつつ、何か話そうと、必死で頭を巡らしていると、
「………!!」
再び、ユキの顔が迫って。今度は、目を開けたままキスした。
辺りに人は居なかったものの、流石に道の真ん中だったからだろうか?キスはほんの一瞬で終わり、
ユキが、笑顔を見せる。
「また、明日ね」
それは、いつもユキが帰り際に言うセリフ。
「うん、また明日」
それに対して、私もいつもの言葉を微笑みと共に返し、握った手を離す。
キスされた瞬間、わかった。ユキも、不安だったんだ、って。
私に拒否されたら、嫌がられてたらどうしよう、って…
私の、自分に都合のいい勝手な想像かもしれない。
でも不思議と、それで間違っていないような。そんな気が、私はしていた。
昨日まではいつも通りだった日常が、いつも通りの日常と、いつもと違う日常が織り交ざった今日になって。
だから、明日は、いつもと違う日常が始まる。
そんな予感がした。
むしろ、そう望んでいるのかも…?なんて。
94 ◆mf4c05IqKI :2008/09/10(水) 21:23:12 ID:g+cj65i4
投下終了。

SSなんて書いたの、久々だよ…昔、某ゲームのSSスレで投下しまくってたけど、それ以来だ。
95名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 21:25:54 ID:U8OYvREd
乙。
やっぱり百合はいいねー
96名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 22:56:16 ID:+B/v4dpw
>>94
GJ
自分はやっぱり一次が好きだ
97名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/10(水) 23:08:24 ID:Nqwfvcb1
GJ
98名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 00:03:34 ID:7do96HCN
一次か……

でも一応、二次創作のリクエストやってみる
99名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/11(木) 15:06:04 ID:cY+a5xmv
>>91
【2chスレ】クラスの完璧すぎる女の子の弱点を暴きたい‐ニコニコ動画(夏)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm4130900
10092だけど ◆mf4c05IqKI :2008/09/12(金) 23:13:44 ID:gnDkhJP+
92で投下したSSの、別視点バージョン、というのを書いてるんだが…
ひょっとして、今二次待ち?自重した方が良いかな?
101名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 00:11:59 ID:sJO8loNP
つがんがん行こうぜ
「……」
「……」
一体、どうしてこうなってしまったのだろう?
ただ単純に、部活で使った物を片付けていた。それだけで終わったはずなのに。
なのに、何故私達は抱き合ってしまっているのだろう…?

「あっ」
切欠は、些細な事だった。躓き、小さく声を上げ、こちらに倒れ掛かってくる少女。
「っ!!」
咄嗟の事とはいえ、タイミング的には、手で支えてあげられたはずなのに。
不意に、自分へと飛び込む少女を、つい抱きとめてしまい、気付いた時には後ろに手を回してしまっていた。
完全に、抱きしめる形だ。何とか、力を入れる事だけは自制したけれど、動くに動けなくなってしまう。
…いつかはこうしたい。そんな願望を咄嗟に実現させてしまった。それが危険なことだと分かっているのに。
彼女の柔らかい感触が身体を包む。その感覚が、気持ちを興奮させ、鼓動を高鳴らせる。
だめ。今まで、必死に我慢してきたのに。ここで、こんな形で、悟られてもいいの?
直ぐに身体を離すべきだ。でも、それが出来ない。理性を、感情が押し潰す…こんな事は、初めてだった。
自分の押し隠した思いが吹き出そうになる。
活発的で、少し気が強くて。でも、どこか儚い。そんな彼女が、たまらなく愛しい。
自分が持たないものを持つ、この少女が欲しい。全てを独占して、私のモノにしたい…
そんな叶うはずの無い望み。それが、今、理性を押し殺そうとしている。
見ているだけでいいんだ。この美しく小さな花を、私はただ眺めるだけで良い。
手折ってしまえば、すぐ枯れてしまうかも知れない。だから、近くで眺めるだけ。
それだけで良い筈だったのに。
彼女の頭が動き、こちらを見上げた。紅潮し、少し潤んだ瞳でこちらをじっと見つめる。
その目を私は、ただ引き込まれるように見つめるしか出来なかった。
…いや、それも長くは持たなかった。
今まで、散々押さえていた想いが暴走してしまったのだろうか?
彼女の、あまりにも可愛らしいその表情に、私の中の何かが、崩れた。
半分無意識に、顔を寄せ…その唇を奪う。
キス、してる…
あまりの興奮と歓喜に、身体が震えそうになる。間違いなく、今この時、私はこの少女を独占していた。
けれど。
直ぐに怖くなった。何故、今まで自分がこの気持ちを隠し続けていたのか、その理由に思い至ったとき。
私は唇を離した。もっと、ずっと長く触れていたかったけれど、恐怖心がそれを凌駕する。
やってしまった。彼女に、自分の想いを晒してしまった。
普通に考えれば、女の子が女の愛を受け入れるはずが無い。友情はあっても、愛が芽生える可能性は低い。
これで、私と距離を置かれたら。離れてしまったら…それは、考えるに恐ろしい、悪夢以外の何物でもない。
彼女の顔を見る。今、自分はどんな顔をしているだろう?鏡を見たら、卒倒するかもしれない。
確実に、いつもの自信に満ちた自分は居ない。それが、酷く情けない。
それでも、答えを見極めなければ。少なくとも、彼女はキスを拒まなかった。
拒めなかった、だけかもしれない。でも、まだ可能性はゼロじゃない。
彼女の、少し呆けた、けれど嫌悪は見て取れない顔を見て、更なる答えに迫ろうと思いつつ、
「…そろそろ、帰らなきゃ」
顔を不意に、逸らしてしまった。
「うん」
彼女の答えが、重く胸を締め付ける。
多分、私は生まれて初めて、「逃げて」しまった…
片づけを始めた頃は、まだ明るかった外は、闇が侵食し、辺りを暗く押し潰さんとしていた。
そんな、夕闇の道を私と少女は無言で歩く。
あれから、一言も言葉を交わしていない。いつもなら、他愛も無い話に、二人して笑っていたのに。
そんな些細だけれど、私にとってはかけがえの無い、貴重な時間を…私は、自ら壊した。
あまりの自分の不甲斐なさに、自分が憎くなる。あらんばかりの罵声を浴びせかけたくなる。
…そんなうちに、気が付いたら分かれ道まで来てしまっていて、自分の不明さが更に憎くなる。
立ち尽くす。何をどうしていいかもわからず、ただ立ち尽くして…結局、また愚かな選択をする。
もはや尽くす手を見出せず、黙って歩き出した、その時。
「…!!」
手を掴まれた。
ぎゅっと、強く握り締められた手を見て、それから、彼女に向き直る。
彼女は押し黙ったまま、それでも、必死で何かを伝えようとしていた。
それでも、私は一瞬躊躇した。躊躇して、それから、全ての意を決して、顔を一気に寄せる。
「……」
軽い、一瞬のキス。考えてみれば、道の真ん中だったことを完全に忘れていた。
それでも、私は構いはしなかった。ただ一縷の望みを乗せて、笑顔を作る。
「また、明日ね」
引き止めてくれた。必死に何かを訴えかけてくれた。それを糧として、私は彼女の答えを待つ。
「うん、また明日」
安心したように笑顔を見せ、私の手を離す。
私は一つ頷くと、身を翻して、帰路につく。
答えて、くれた…私を拒否しなかった!!
それがたまらなく嬉しくて、幸せで…今すぐ戻って抱き締めたい衝動を必死で押さえる。
慌てる事なんか無い。ゆっくり、少しづつ進めば良い。
彼女が私を拒絶しないならば、どれだけ私が貴女の事を好きか…少しづつ、伝えよう。
そして、いつもと違う日常が、「いつもの日常」になったなら。
そんな、幸福な日常を夢見て、私は、ただ家路を歩き続けた。
104 ◆mf4c05IqKI :2008/09/13(土) 01:45:23 ID:8rCvOi2X
投下数記入間違えた…orz
とりあえず、がんがん行ってみた。二次待ちの皆スマン。
SSで良ければ、これからもちょこちょこ投下しようと思うのだが。
これ(↑)の続きを書こうか、それとも別路線にするかでちょっと思案中。
105名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 10:04:06 ID:+2BpixSt
期待age
106名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/13(土) 13:35:26 ID:fTtuOb8Z
>>104
GJ
wktkして待ってる
107名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:26:08 ID:P7zJ+2lP
つか、住人少なくね?
やっぱ多くの百合好きはPinkに張りついてんのかな?
俺はエロ無しの方が萌えるんだが…
108名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:30:09 ID:PvF8Cn/a
住人少ないっつーか
なんの書き込みもないのにレスしにくいんだよ
人がいる気配ないと人は沸かないぜ
109名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 00:31:35 ID:1tNSvtAs
エロパロ板の百合スレってエロ有り限定なの?
110名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 01:23:53 ID:QQ4CMpI4
おいら純情だから見たことないんでわからないや、ぐへへ
111名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/14(日) 02:48:16 ID:P7zJ+2lP
一応居たんだな。
や、単純に作品投下されても反応が無いと
作者のモチベーションにかかわるんじゃないかとな。

>>109
どうなんだろな?
でもパロ板は少なくとも、パロ限定で、>>104氏の
ようなオリジナルは板違いになるんじゃね?
112名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 19:14:40 ID:JW6ftiY7
えと、どなたかいらっしゃいます?

もし一次創作でもおけ、というリクエストがあれば、SS一本投下しますけど。
需要、あるのかなぁ?
113名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 19:23:33 ID:/VRt62RQ
むしろ一次に期待
114sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:06:04 ID:JW6ftiY7
おk

ではいきます。
5スレ消費予定。

注意:暗いかも、死人あり。キスすらなし。色気なくてサーセンw。

ではいきます。

115いばらの森奇譚(1) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:10:11 ID:JW6ftiY7

 『二年後のあたしと、道半ばにして逝ってしまった多くの戦友たちに、
  謹んでこのSSを贈ります』
                                                  さくしゃ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 いばらの森奇譚

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あたしは『マリア様がみてる いばらの森』という本を二冊持っている。

 一冊は自分のお金で購入したもの、もう一冊は預かったものだ。

 というか、より正確には返しそびれて、そのまま現在に至るという状態なわけ。

 何でそんなことになったかというと、少し長くなるのだけど。

 あ、ごめん、ちょっと待ってて。今、ドナーカード書きかけだから──。

    ◇

 HCUという単語を聞いたことがあるだろうか。High Care Unitの略だ。
日本語では準集中治療室、集中管理病棟、重症患者病、高度治療室などというらしい。
要するにICU、いわゆる集中治療室に入るほどではないが、それでも高度で緊急が
必要な患者のための病室だそうだ。

 その人に出会ったのは、去年あたしがある大学病院のHCUに入院していた時の
ことだった。その頃あたしはようやく危機的な状況を脱し、歩行器を使ったリハビリを
始めてた。

 HCUは意外に広い。

 そこにはたくさんの人がいた。若い人、老いた人。男の人、女の人。
わりと程度の軽い人、包帯でぐるぐる巻きにされている人、カーテンをきっちりしめて
中の様子が伺えなくなっている人、まるきり意識がなくてぐったりしてる人。
少なくとも二十人は下らなかったと思う。そんな雑多な人たちが、一列にベッドに
横たえられているのを見つめながら、あたしは一歩ずつ歩いていく。
今にも身体が崩れ落ちそうになるのを必死に我慢しながら。

 その中で、ひときわ目立つ女の人がいた。

116いばらの森奇譚(2) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:12:10 ID:JW6ftiY7
 多分、十代後半くらいだと思う。全体にほっそりとした造り。とても肌の色が白くて、
日本人離れした感じ。黒くて長い髪を後ろでまとめていて、きれいに整ったその顔立ちが
とても印象的な人だった。

 きっとあたしは、穴が開くほどその人のことを見つめていたんだと思う。それに
気づいたのか、彼女は読んでいた本から顔を上げ、こちらに視線を投げかけてきた。
まさかそんなことになるとは思いもしなかったあたしは、すっかり動転してしまい、
その場に立ち竦んでしまった。

 距離はもう五メートルとない。

「ごめんなさい」
 とっさにあたしの口から飛び出したのは謝罪の言葉。
「なんで謝るの」
「だって、ずっと見てたから」
 彼女がくすり、と笑う。
「ね、本は好きかな」
「まあ好きですけど」
「じゃあ、この本貸してあげる。おもしろいから」
「え?」
 何を考えているのかわからなかった。ほとんど初対面も同然の相手に、今まで自分が
読んでいた本を差し出すなんて。
「毎日リハビリしてるんでしょ。今度通りかかった時にでも返してくれればいいから」
「でも、悪いですよ」
「だいじょうぶ、私はもう何十回も読んだから。そうだな、もしよかったら、感想でも
聞かせてくれると嬉しいかも」
「その、感想は──苦手かな」
「ふふっ、そんなに構えないでよ。別に学校の宿題とかじゃないし」
 なんて柔らかい笑顔なんだろうと思った。まるで殺風景なHCUが、春の花園に
変わったような気がする。
「どんな感じだったかとか、印象に残った台詞とか、登場人物に共感できたかとか、
まあそんなところ」
 そう言ってから、不意に不安そうな表情を浮かべる。
「ダメ、かな」
 卑怯だ、それ。そんな顔されたら断れるわけない。
「努力はしてみます」
「ありがとう、優しいのね。お名前は?」
「咲夜です、柊 咲夜」
「へえ、咲夜ちゃんか。可愛らしい名前ね。あなたにぴったりだと思う」
 なぜか胸が高鳴るのを感じた。
「じゃあこれ」
 なんともいえない甘い香りが、あたしの鼻をくすぐったことだけは覚えている。
117いばらの森奇譚(3) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:14:36 ID:JW6ftiY7

    ◇

 なんだかふわふわした気持ちを抱えながら、あたしは自分のベッドに戻った。

 その本の題名が『マリア様がみてる いばらの森』。

 それは『いばらの森』と『白き花びら』の二本の中篇が収録されている小説本だった。
正直なところ、あたしは学園モノがあまり好きじゃない。学校にはいい思い出なんか
ほとんどないし、空想にひたるときくらい、現実のイヤなことから少しでも
遠ざかりたかった。でもあの人の不安そうな表情を思い出すと、このまま読まないで
済ませるという選択はありえない。

 読み終わってから、涙が止まらなくなった。

 そのかわり、危うく自分の呼吸が止まりそうになった。薄れゆく意識の中で、
あのイヤらしい電子アラームが警報を知らせていたことだけが、妙に記憶に残ってる。

 翌日のリハビリは中止になった。

 酸素吸入用のカニューレを取り付けられたあたしは、きっと一段とブサイクな姿に
なっていたことだろう。でもそんなことはどうでもよくて、あの人に会えない、
という単純な事実があたしを苦しめていた。

 さらにその翌日。ようやく回復したあたしは、リハビリがてら本を返しに行った。
だけど、あの人のベッドはもぬけの空だった。ただ姿が見えないというわけではない。
きれいにメイクしなおされていて、まるで人の気配がないのだ。まるで最初から
そこには誰もいなかった、といわんばかりに。仕方がないので、通りかかった
看護師さんに聞いてみることにした。

「あの、ここの人ってもう一般病棟に移ったりしたんでしょうか」
「何か用でもあるの」
「本を借りたので、返したくて」
「そっか……」
 一瞬だけ、看護師さんが思案顔になる。
「悪いけどその本、しばらく預かっておいてくれないかな。そのほうが、彼女も
きっと喜ぶと思うし」
 看護師さんの優しい笑顔の奥にしまい込まれた、深い悲しみの色をあたしは見た。

 そして理解してしまったのだ。
 あの人はもうこの世にはいない、ということを。

 その後のことはほとんど覚えていない。


 それからさらに三日間、あたしはリハビリできなかった。
118いばらの森奇譚(4) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:17:46 ID:JW6ftiY7

    ◇

 退院してから『マリア様がみてる』を全巻買いそろえた。そうすることによって、
少しでもあの人に近づきたいと思った。『いばらの森』ももう一冊購入して、
あの人に借りた方は大切にラッピングしてしまい込んである。

 今も週に一度はリハビリのために、月に一度は神経内科の診察のために、片道
三時間かけて大学病院に通ってる。そして再診受付機の行列で、待合室での順番待ちで、ふと気がつくと、あたしはあの人の面影を捜し求めているのだ。名前すら知らない
あの人のことを。

 恋と呼ぶには、この感情はあまりにも儚すぎる。
 無理もない。育てる暇すら与えられなかったのだから。
 だから今もあたしは、この感情をもてあましてる。

 多分あの日、あたしは半分死んでしまったのだと思う。
 でも不思議と悲しみは涌いてこない。

 あの人は一足先に逝ってしまったけど、再会できるのは実はそんなに遠いことじゃない。
一時は持ち直したものの、最近になってあたしの病状は再び悪化し始めてる。この間も
駅のホームで転倒した。杖を頼りに歩いているけど、それを持つ手もだんだんと力が
入らなくなっているんだ。今はなんとか隠し通しているけど、バレるのは時間の問題。

 いつまで自力で病院に通えるかもわからない。
 通えなくなったら、またもや入院だろう。
 そして多分、二度とは退院できない。

 身体中の筋肉が次第に動かなくなり、やがては呼吸筋も麻痺して自力呼吸すら
できなくなってしまう。それがあたしの病気。十代の、しかも女の子がこの病気を
発症するのは、かなりめずらしいことらしい。
119いばらの森奇譚(5) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:20:09 ID:JW6ftiY7

 治療法は、もちろんない。

 死ぬのは別にかまわないけど、呼吸困難を起こした時の苦しさだけは未だに
慣れることができない。ああそれと、親達が哀しむのはちょっとイヤかも。

 ただ、もし許されるのなら、せめて十五歳までは生きてみたいと思う。そうなれば、
あたしの臓器を他の困っている人にあげることができるから。

 残念ながら今の日本の法律では、十三歳のあたしが臓器提供をしたいと申し出ても、
それが許されることはない。だが十五歳になれば、自らの意思で提供できるように
なるのだ。もしあたしの死が誰かの生につながるのであれば、それはそれで意味のある
ことではないだろうか。あたしの人生も無駄じゃなかった。そんなに捨てたものじゃ
なかった。そんな風に思えるかもしれない。いくらなんでも甘すぎるだろうか?

 やがてやってくる未来。
 誰にも変えることのできない未来。
 たとえ神さまにだって変えることのできない未来。

 でもそれは、あの人に会える未来。

 親達には悪いけど、やっぱりあたしは、少しだけ楽しみにしてる。
 あの人と話したいことが、あたしにはそれこそ山のようにあるのだ。

 でもとりあえずは、あの人の名前を聞くことから始めてみようかな。

  (Fin)

120sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/15(月) 20:22:21 ID:JW6ftiY7
以上です。

ありがとうございました。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:30:44 ID:/VRt62RQ
122名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 20:51:07 ID:N4VjNVC5
いばらの森はマリみての話の中でも五本の指に入る話だ
123名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/15(月) 21:57:40 ID:6QZPj3Cs
。・゚・(ノД`)・゚・。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/16(火) 05:54:32 ID:KQ4TiQR9
改行がタイミング良くて非常に読みやすかった。
そして、中身も……感動した。
125sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/17(水) 06:07:28 ID:H0n2ttpl
ども。
こりずにまたやってきました。

『いばらの森奇譚』ですが、お楽しみいただけたでしょうか?

実はこの作品、実在の人物をモデルにしています。作品化するにあたっては、匿名を条件に本人からの許可は取っています。
作中では「治療法はない」と書きましたが、本当は延命させる薬が臨床試験段階にあって、それを使用すれば二〜三年は
生き延びられる可能性があるそうです。しかし彼女は、頑なに使用を拒否しています。

『もしも内臓に薬が残って、それが移植の妨げになったら困るから』

それが理由だそうです。

せめて本作をお読みいただいた方々にだけでも、彼女の物語の片鱗が残っていただければ、と思います。
今の日本にも、これだけ絶望的な戦いを強いられ、それでもなお懸命に前を向いて歩いている女の子がいるのか、と。



さて、本日は「らき☆すた」天原ふゆき先生の誕生日ということで、「ひかるxふゆき」でいってみます。
本当は夜にうpするつもりだったのですが、ちと今夜は別件で忙しいので、出かける前に。

あ、今回はもう少し明るいですよw。

ではいきます。
4スレ消費予定。

126小さな奇跡は今日も続く(1) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/17(水) 06:11:54 ID:H0n2ttpl
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『小さな奇跡は今日も続く』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 九月だというのに、いや,まだ九月だからと言うべきだろうか。今日も朝から残暑が
厳しい一日だった。六時限目が空きでなければ、タバコなしではいられなかったかもしれない。
口にくわえた禁煙パイポを噛み締めながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
もちろん、手を動かすことだけは忘れていない。普段の私をよく知る人間がこの光景を
目撃したら、この世の終わりが来たと嘆き悲しむか、あるいはある種の小さな奇跡などと
評してくれるだろうか。

 こうして貴重な空き時間を利用して、私が職員室の自分のデスクでせっせとネイルケアに
いそしんでいると、世界史の黒井先生が声をかけてきた。
「お、桜庭先生。ずいぶんと高級そうなヤスリですな」
 生徒達には人気があり、背が高い上にスタイルもなかなかのものな彼女であるが、
不思議と色恋沙汰の噂は聞かない。どうもさばけ過ぎている性格に問題があるのではないか、
と私は考えているのだが、もちろん真相はわからない。
「ええ、なんでもクリスタルガラスだとかで」
 隣のクラスの担任の先生のことを、なんの理由もなく無視するわけにもいかない。
しかたなく私は手を休めると、蛍光灯の光を浴びて燦然と輝くクリスタルガラス製の
ヤスリ──確か正式にはクリスタルグラスファイル≠ニか言うそうだ──をかざして見せた。
「そりゃごっつ豪勢ですな。でもそんなに熱心に手入れしとると、そのうち爪がのうなって
しまうんと違いますか」
「ははっ、そうならないように気をつけます」

 お前のチェコの土産物、ずいぶんと好評みたいだぞ、ふゆき。
127小さな奇跡は今日も続く(2) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/17(水) 06:15:03 ID:H0n2ttpl

     ◇

 帰りのホームルームが終わるや否や、さっさと教室を飛び出そうとしていた柊かがみを、
私はとっさに呼び止めた。
「よう、柊」
「なんですか、先生」
 彼女は控えめにいってもかなりの美少女の部類に入るだろう。背は高すぎず低からず、
総合的なプロポーションも水準以上。整った顔立ちに気の強さを表す、ややつり目気味の
瞳が印象的。しかも成績優秀で面倒見もなかなかいいとくれば、これはもう放っておけと
いう方が無理というもの。ただ唯一にして最大の障害は、彼女にはすでに想い人がいて、
それをクラスの大半が認識しているという単純な事実だった。

「まあなんだ、お前の嫁とは仲良くやってるのか?」
「は? ええ、まあ」
 おやおや、てっきり『べ、別にあいつなんかとは……』的な反応が返ってくるものと
期待していたのだが。どうやらこれは、夏休みの間にかなりの進展があったものらしい。
「ほお、どうやら、ほんとにうまくいってるようだな」
「先生のご想像にお任せします」
 柊はしれっと言ってのけた。こういう態度を取られると、ただ引き下がるのもおもしろくない。
「いいのか? じゃあ、あーんなこととか、こーんなこととか──」
「先生?」
 おっと、かなり本気で睨まれてしまった。
「冗談だ。そんな怖い顔をするな。せっかくの美少女が台無しだぞ。まあ泉には別の意見が
あるかもしれんが」
「そ、そんなことないですよ。もう、やだな先生、からかうのもいい加減にしてください」
 泉の名前を出したとたんにうろたえてしまうあたり、まだまだ若いな、柊。
「悪かった。ま、お前達がうまくいってるなら別にいい」
「ありがとうございます」

 ふと気になったので、もう少しだけ揺さぶってみることにした。
「ところでお前、ネイルケアはちゃんとしてるか」
「は?」
 なんのことかわからない、という風に柊は首を傾げた。
「いや、なんでもない」
 この調子なら、あちら方面の指導はもう少し先でいいだろう。
「まあそのなんだ、学生時代に育んだ親愛の情は何物にも変えがたい一生の宝だ。大事にしろよ」
「はい、わかりました。先生方もがんばってくださいね」
「うむ」
 そういうと、一分一秒も惜しいという感じで、柊は廊下へと飛び出していった。おそらく
行き先は、隣の教室で彼女のことを待ち焦がれている泉こなたのところだろう。

 それにしても、だ。

 柊の言う『先生方』というのが、私とふゆきのことを指しているのは言うまでもない。
まったく、あいつのツッコミにも一段と磨きがかかってきたな。だが教師相手に冗談を
飛ばすようなタイプじゃないと思っていたが、どうやら泉と付き合うようになったおかげで
多少は人間が丸くなったと見える。
「先生方、か」
 せっかくだから、今日はひとつ、ふゆきの奴でも誘ってみるか。
128小さな奇跡は今日も続く(3) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/17(水) 06:18:08 ID:H0n2ttpl

     ◇

 放課後の保健室は閑散としている。
「ふゆきー、いるか〜♪」
「せめて学校では先生をつけてください。桜庭先生」
 もちろん、ここの管理責任者として陵桜学園に知らぬものがない美人看護教諭、
天原ふゆき大先生様の存在を除けばだが。
 しかし、どうして彼女と私がこうした関係に陥ってしまったのか、未だによくわからない。

 いい所のお嬢さまのふゆき、まるっきり庶民の私。
 おっとりとした物腰のふゆき、瞬間湯沸かし器の私。
 細やかな配慮が行き届くふゆき、ずぼらな私。
 長身のふゆき、短躯な私。

 こうして並べ立ててみても、およそ共通点などどこにもない。これはもうフェルマーの
最終定理を証明するよりも難しい問題ではなかろうか。時には『小さな奇跡』とでも呼びたい
気分になることもある。もちろん、そんなこっ恥ずかしい台詞は口が裂けても吐けないが。
「他人行儀なことを言うな。私とお前の仲じゃないか」
「どんな仲ですか」
 そして彼女の視線に晒されると、なぜか私は少し落ち着かない気分を覚えてしまう。
すべてを見透かされているのではないか、という怖れを感じるからだろうか。

「ええと、幼馴染?」
「こんな手のかかる幼馴染なんていりません」
「ええと、親子?」
「余計に嫌です」
「じゃあどんなのがお望みなんだ」
「言ってもいいんですか」
「……今日のところは遠慮しとく」
「もぅ」

 二の句を継ぐ代わりに、ふゆきは深い深いため息をついた。それから何かを思いついたらしく、
目をキラッ☆と光らせる。
129小さな奇跡は今日も続く(4) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/17(水) 06:23:03 ID:H0n2ttpl
「そういえば──」
 そう言うなり、ふゆきはおもむろに立ち上がった。そのまま私の方にずんずんと歩み寄ってくる。
そして私の頭に顔を寄せると、すうっと息を吸い込んだ。まったく、いちいちこういう動作が
嫌になるほどサマになる。これが出自の違いという奴だろうか。
「な、なんだよ」
「よしよし、今日一日はちゃんと禁煙できているようですね」
「だからってそういう風に人の頭を撫でるのはやめてくれないか」
 私は抗議したが、ふゆきはただクスクスと笑っているだけだった。どうやら機嫌自体は
悪くないようだ。これなら多少無茶なお願いをしても大丈夫だろう。

「なあ、今日は泊まってけ」
「はあ? 急にそんなこと言われても困ります」
「晩飯はカレーがいいな。骨付きモモ肉のチキンカレー」
「少しは人の話を聞いてください」
「あ、それとビールも買ってきてくれ」
「ビールは嫌です。だって臭いんですもの」
「じゃ、ワインで。安い奴でいい。銘柄はまかせる」
「……ほんとに、今日だけですからね」
 久しぶりに小さな勝利の味をかみ締める。だからつい気が緩んで、余計な一言を
付け加えてしまったのも無理はない。
「そうそう、今日もネイルケアだけはちゃんとしといたからな」
 すると、ふゆきの目がすうっと細くなる。
「下品な人は嫌いです」

 それから機嫌を直してもらうのに、小一時間ほどかかった。

 だいたいお前、そういうことを期待してあのクリスタルグラスファイル≠私に
押し付けたんじゃないのか、とツッコんでみたかったが、そんなたわ言を口走った日には
一生口を聞いてもらえないかもしれないと思ったので、結局黙っていることにした。

 こうして小さな奇跡は、今日も続いてる。

  (Fin)

130sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/17(水) 06:26:27 ID:H0n2ttpl
以上です。

ありがとうございました。
131名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 08:40:25 ID:E30TTbZ7
GJ!

さて。何を期待して爪磨き渡したのかkwsk
132名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 17:20:50 ID:J108I+Yr
長い事ネットから離れてたら、過疎ってて慌てて俺、参上
とにもかくにもGJ!

>>131
そんな事聞くのは野暮ってもんだぜ…俺から言えるのは

つ 風俗の待合室
133名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 17:23:24 ID:7HfCFHXy
「ホモとにかくホモ」スレはないんだな
134名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/21(日) 17:24:39 ID:UxW0xFay
おお、投下来てるGJ!

>>133
立てたいなら立てれw
135sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/22(月) 19:53:34 ID:boPL5szi
>>126
ども。
先日、『小さな奇跡は今日も続く』をうpしたものです。
こりずにまたやってきました。

こんなキスシーンもないようなヘタレなSSに、ご声援ありがとうございました。

自分的には、ふゆきは週末になると、きっとひかるのアパートに泊まってるんじゃないかと思ってますw。
そっちも書いてみたいんですけど……うおおお、い、いかん。自重するっすw。
136sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/22(月) 20:49:15 ID:boPL5szi
こちらは職人の方って、あまりいらっしゃらないんですかね?

あんまり百合っぽくないのですが、支援を兼ねてうpします。
またもや「らき☆すた」の二次創作ですが、今度は少し長いです。しかも趣味全開w。

10スレ消費予定。
ではいきます。
137我等が倶楽部へようこそ(1) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/22(月) 20:51:17 ID:boPL5szi

 ──この崩れかけた世界の片隅で
 ──人知れず朽ち果てようとしていた私の心。

──────────────────────────────────────

『我等が倶楽部へようこそ』

    ──高良みゆきの優しい架空戦記入門──

──────────────────────────────────────


 夢とは何でしょうか?
 たとえば脳の電気信号のなせる技とか、あるいは記憶の整理とか、諸説ありますね。

 そもそも一口で夢といっても、いろいろな種類があります。
 正夢とか予知夢とか、あるいは悪夢とか。

 では私が繰り返し見るあの夢とは、いったいなんなのでしょう。

 わからない、でも、わかっているのです。
 それは遠い昔の、幼いころの自分の姿。
 もう二度と思い出したくない、とても苦い記憶なのでした──。
138我等が倶楽部へようこそ(2) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/22(月) 20:52:44 ID:boPL5szi

    ◇

「にげたぞっ」
 情け容赦なく照りつける八月の日差し。
 抜けるような群青色の空に浮かぶ、まるで綿菓子を思わせる真っ白い断雲。

「あっちだっ」
 陽炎でゆらめく、かなたの色鮮やかな新緑の林。
 整然と並ぶキャベツたち。

「おっかけろっ!」
 心和む用水路のせせらぎ。
 手足にまとわりつく生暖かかい風。
 むせ返るような土ぼこりと自分の汗の匂い。

 そして私たちが駆け抜けていくのは、深いわだちの跡が残る、凸凹だらけのあぜ道。

「みゆきちゃん、がんばって!」
 自分の名を呼ばれ、思わず振り返りそうになりました。
 でもそんなことをしたら最後、あっという間にお目当ての物を見失ってしまいます。
 しかたがないので「うんっ」と返事だけして、手にした捕虫網をぐいっと握り直しました。

 私たちが次の獲物と見定めたのは、一匹のとてつもなく美しいトンボ。
 それは幼い自分の手のひらよりも大きくて、キラキラと羽が銀色に輝いていて、
 クリクリとよく動く黄緑色の頭で私のことを見つめていたのです。
 是が非でもあれを自分のものにしたい。そう思いました。

「えいっ」
 狭い用水路を一息で飛び越え。
 広大なキャベツ畑を猛然と踏み荒らし。
 いつの間にか目前には林が迫ってきていました。
 ですがその頃の私は、まだ『諦める』という言葉を知らなかったのです。

「はあ、はあ、はあっ」
 喉が酸素を求めて震えます。
 心臓が早鐘のように鳴り響きます。
 身体中から滝のように汗が吹き出します。
 でもそんな私のことをまるであざ笑うかのように、トンボは軽やかに宙を舞っていて。
 残念ですがこのままでは、とても追いつけそうにありません。
 それでも絶対逃がしたくない。その一心で、私は無我夢中で捕虫網を振り回しました。

 ──届け。

 もしかすると何か超自然的な存在が、私のことを哀れんでくれたのかも知れません。
 ふと気がつくと、網には件のトンボがしっかりと捕らえられていたのでした。
「やったぁ!」
 嬉々として網に手を入れ、慎重にトンボを取り出すと、私はみなさんにもよく見えるように
高々と獲物を掲げました。
「ほらみて、つかまえたよ。こーんなにおおきなトンボ!」
 ところが、期待した反応はどこからもありません。
「あれ」
 不思議に思い周りを見回すと、先ほどまで一緒にトンボを追いかけていたはずの友達や
親戚の子ども達が、奇妙なことに誰一人として見当たらなかったのです。
「ねえみんな──どこ?」
 そう、私は見慣れぬ景色の中にただひとり、ポツンと取り残されていたのでした。
 それまで生暖かかったはずの風が、なぜか急に嘘寒いものに感じられたことを覚えています。

 そして──。
139我等が倶楽部へようこそ(3) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/22(月) 20:55:03 ID:boPL5szi


    ◇

 いつものように、ここで目が覚めました。

 八畳ほどの私の寝室は、何事もなく暗闇と静寂に包まれています。

 ベッドから半身を起こし、枕もとの時計を手に取ると、まだ午前二時をほんの少し回ったばかり。
ひとりで眠るのがあたりまえになった昨今ですが、あの夢を見てしまった後だけは、ほんの少しだけ
人恋しくなりますね。

 でもまさか高校生にもなって、別室で眠りこけているはずの母の懐に潜りこむ、というわけにも
いきませんし。しかたがないので、朝になるまで膝を抱えて丸くなることにしました。

 本を読むことが何よりも好き。
 ネットで新たな知識の欠片を見つけることが無上の喜び。 
 探せば探すほど、そして識れば識るほど、知の世界は奥が深くて底が知れない。
 それほどまでにこの世界は、新たな発見に満ちている。
 とても、とてもワクワクします。

 この喜びを、誰かと分かち合いたい。
 誰も見たことのない、この私だけが見ている光景を共有したい。
 そう願っていたこともありました。

 けれど。

 何かに夢中になるといつの間にか周りが見えなくなって。
 ふと振り返るとそこには誰もいなくなって。
 いつもひとりっきりで取り残されている。
 私が丹精込めて守り育てた、この秘密の花園を共に眺めてくれる人など、どこにもいない。

 あれからずいぶんと身体も成長した。
 比較にならないほどの知識も身につけた。
 なのにあの頃から、何ひとつ状況は変わっていない気がします。

 どこでも、ひとりぼっち。
 いつも、ひとりぼっち。

 もう、慣れた。
 もう、諦めた。

 ──嘘つき。
140sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/22(月) 21:03:17 ID:boPL5szi
ごめんなさい。
急用ができてしまったので中断させてください。

続きのうpは、少なくとも明日(9/23)夕方以降の予定。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/22(月) 21:38:19 ID:4R4at11c
wktk
142名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 00:21:07 ID:Mk5GoWDs
ワクワクテカテカ
143sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:30:30 ID:0yOrfqwy
すいませんでした。再開します。

書き忘れてましたが「みゆきxかがみ」ですw

144我等が倶楽部へようこそ(4) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:32:40 ID:0yOrfqwy
>>139の続き


    ◇

 翌朝。
 私が眠い目をこすりながら、ダイニングでいつもより少な目の朝食を取っていると、母が
心配そうな表情を浮かべながら話しかけてきました。
「みゆき、なんだか顔色がよくないわよ。ひょっとして風邪でも引いた?」
「いえ、決してそういうわけでは。昨日はあまりよく眠れなかったので、
 おそらくそのせいではないかと」
「そうなの。じゃあ、お母さんがとっておきの飲み物を用意してあげる」
「いえそんな、どうぞお気遣いなく」
「いいからいいから。ちょっと待っててね」

 しばらくして戻ってきた彼女から、私は小さなマグカップを受け取りました。外見は、
まあ普通です。それに香りも特に問題なさそう。試しに一口含んでみます。

 なんとも形容しがたい、摩訶不思議な味が口の中いっぱいに広がりました。

 コーヒーのような、牛乳のような、でもとても甘ったるくて。どうやら通常の三倍は
砂糖が入っているようです。
「あの、これは……」
「アーモンド・オレ。おいしいでしょ」
「は、はあ」

 ニコニコと微笑んでいる母の顔を見ていると、私はそれ以上何も言えなくなってしまうのです。
でもだからといって、このままでは私の味覚神経がどうにかなりそうですね。なんとか口実を
見つけてこの場を切り抜けないと。
「あ、そろそろ用意をしないと遅刻してしまいますね。では、歯を磨いてまいります」
「あらそうなの。でもアーモンド・オレ、まだ残ってるわよ」
 あうう、どこまでも自由な人なのですよね、この人は。母に気取られないよう、ひそかに
私は涙をぬぐうのでした。
145我等が倶楽部へようこそ(5) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:34:22 ID:0yOrfqwy


    ◇

 以前よりは学校もずいぶんと楽しい場所になりました。仲のいいお友達もできましたし。
でも気を引き締めていないと、ついつい暴走してしまうわけで。

「レイテ沖海戦とは、昭和十九年十月二三日から二五日にかけてフィリピン及びフィリピン
周辺海域で発生した、日本海軍と米海軍との間で交わされた一連の海戦の総称です。別名、
比島沖海戦とも呼ばれるようですね」

 私の目の前には、ふたりのお友達がいらっしゃいます。

 泉こなたさんは瑠璃色の長い髪と、常にどこか遠くを眺めているかのような翠色の瞳が
とても印象的な女の子。とにかく話題が豊富で、おもしろいお話もたくさんご存知ですね。
ただ残念なことに、私にはよくわからない概念も含まれているのですけど。たとえば『萌え』とか。

 柊つかささんは菫色のショートカットにリボンがよく似合う、とても可愛らしい印象を
振りまく女の子です。泉さんには時々『天然』とからかわれることもありますが、
そのふわふわとした人当たりのよさが実は最大の魅力なのではないか、と思いますね。

「直接的にはシブヤン海海戦、スリガオ海峡海戦、エンガノ岬沖海戦、サマール沖海戦の
四つの海戦からなります」

 おふたりは何も言わず、黙って私の話に耳を傾けてくれています。それをいいことに、
私は少しばかりヒートアップしてしまいました。海戦の背景、推移、評価など、私はただ
思いつくままに述べ立てていきます。

「というわけで、昭和十九年十月二五日をもって日本海軍の組織的抵抗は実質的に終焉した、
と結論していいのではないでしょうか」

 そう言い終えてからようやく、しまったと思いました。空気も読めないまま勢いにまかせ、
ただ自分の知識をひけらかしてしまう。いつもこうやって周りを白けさせてしまうのでしょうね。
いい加減、少しは私も学習しないといけない。

 ──しょせん、私はひとりぼっちですか。

 そう思って私ががっくりと肩を落とした、まさにその時のことでした。
146我等が倶楽部へようこそ(6) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:37:10 ID:0yOrfqwy

「まあそれはもっともだと思うんだけど、みゆき?」
 ふふっ、といたずらな笑顔を浮かべながら現われたのは、つややかな菫色の長い髪を後ろで
二つにまとめた、ちょっぴり気の強そうな少女でした。彼女は隣のクラスの学級委員で、
柊つかささんの双子のお姉さん。ファーストネームはかがみ。ええ、柊かがみさん。

「はい、何でしょうか」
 私は彼女の目を真正面から見据えると、次の言葉を待ちます。
「もしあの時、サマール島沖で第一遊撃部隊が引き返さなかったとしたら、戦いの行方は
どうなっていたと思う?」
「え?」
 予想外の問いかけに、私は戸惑いを隠し切れませんでした。

 まったく、なんということでしょう。私の話をきちんと把握して、そのうえ想像を超える質問を
返してくれる同い年の女の子が、まさかこの世にいようとは。さすがは高等学校というべきでしょうか。

 どうやら少しばかり甘く見ていたようですね、今の今まで。

「そうですね──」
 一呼吸置いて時間を稼ぎつつ、私は答えをはじき出すために頭をフル回転させます。
「当時サマール沖に展開していたのは、米第七艦隊の旧式戦艦群と護衛部隊ですね。
米軍側は他に第三艦隊として一三隻の正規空母と六隻の新式戦艦を参加させていましたが、
これらは小沢治三郎中将の指揮する日本第三艦隊に誘引され、この時点での戦闘加入は
不可能でした。ですから、おそらくは第一遊撃部隊とレイテ湾突入を阻止しようとする
第七艦隊との間で、海戦史上最後の戦艦同士の戦闘が発生する、と予測されます」
「レイテ湾突入の可能性についてはどう?」
 すかさず、かがみさんが追求してきます。

 ──久しぶりに味わうこの高揚感。

「どうでしょうか。第七艦隊の弾薬については前夜の第二、第三遊撃部隊との戦闘で
ほぼ射耗していたという説、一会戦分くらいは残っていた説など諸説ありますし。
一方の第一遊撃部隊の将兵達も連日の戦闘で疲れ切っていたはずなので、
こればかりは実際に戦ってみないとわからないですね」
「じゃあ仮に突入できた、としてだけど。確かあの時、ダグラス・マッカーサー陸軍大将は
第七艦隊の旗艦、軽巡洋艦『ナッシュビル』に乗って、全般指揮を執っていたはずよね」
「ええ。すでに上陸していたという説もありますが、乗っていた可能性も否定はできません」

 ──それはまるで打てば響くかのようで。

「もし戦闘に巻き込まれてしまった、としたら」
「命を落とすことになっていたかもしれませんね、確かに」
 彼女の意図をはかりかねながらも、私はそう答えました。
「そこでマッカーサーが戦死してしまったら、その後歴史はどう転換したのかな。
 ぜひ、みゆきの意見を聞いてみたいんだけど」
「そうですね。歴史にIFは無いと言いますが、なかなか興味深いテーマですね、それは」
「でしょ。きっとみゆきなら話に乗ってくれると思った」
 ニコニコと素敵な笑顔を浮かべながら、かがみさんは自分の鞄を開けると、そこから何かを
取り出しました。
「そんなみゆきには、ぜひこの本をお勧めするわ」
「これは?」
「ぶっちゃけ架空戦記モノの小説なんだけどね。ただし、そのあたりに転がってる妖しげなヤツとは
一味違うのよ」
「架空戦記、ですか」
 あの、せっかくのところ申し訳ないのですが、その手のトンデモ本はちょっと……。
「まあまあ、そんな微妙な顔しないで。しばらく貸しておくからさ。だまされたと思って
読んでみて。お願い」
「……わかりました。かがみさんがそこまでおっしゃるのでしたら、喜んで」
147我等が倶楽部へようこそ(7) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:40:02 ID:0yOrfqwy
 そんなやり取りを小耳にはさみながら、私はさきほどかがみさんにお借りした、
白いビニール袋の中身を確認してみました。
 そこには少々くたびれた感のある、紺色の文庫本が三冊入っています。周りの誰にも
気づかれないように、私はそのうちの一冊をそっと手に取りました。いかにもそれらしい表紙に、
表題が漢字で二文字。

「『征途』、ですか」

 仕方がありませんね。帰りの電車で読んでみることにしましょう。

 ──何かが、始まろうとしていました。


    ◇

 全国一億三千万人の架空戦記ファンの皆様、本当に申し訳ありません。
 正直、このジャンルを軽く見ていたことを、深く懺悔いたします。

 今までの私の認識では、トンデモ兵器で日本が勝利してしまうとか、後世世界がどうしたとか、
そのようなかなり妖しげなエンターテイメント小説、というモノでした。でも今回、かがみさんから
お借りした本は、そうした私の思い込みを根底からひっくり返すものだったのです。うーん、
これは少しばかり認識を改めないといけませんね。

 かがみさんが私に貸してくれた珠玉の三冊。それは、ひょっとしたらありえたかも知れない、
もうひとつの日本の物語なのでした。

 第二次世界大戦の末期。

 史実とは異なるレイテ沖海戦の日本海軍の局所的勝利により、米軍は甚大な損害を受けて
しまいます。これにより日本侵攻作戦のスケジュールは大幅に狂い、結果的にソ連の北海道上陸
という事態を招きます。このため以後の日本は、分断国家としての歴史を歩むことになって
しまうのです。また同時にそれは、ある一組の兄弟の仲を引き裂くことにもなってしまいました。
この物語は兄弟の数奇な運命をを軸に、展開していくことになります。

 さて、この世界の日本の戦後史は、ある意味とてもドラマチックです。朝鮮戦争と呼応して
発生する北海道戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、そして統一戦争。これらを通じて日本の
国際的な立場は大幅に向上していきます。

 ただし、少なからぬ犠牲と引き換えに。

 そして兄弟たちもまた、これらの戦いに否応なしに巻き込まれていくのです。『見栄と諧謔』と
いう武器を片手に、黙々と死地におもむく人たちの姿はあまりにも魅力的で、それ故にとても哀しい。
独特の乾いた文体も、それを一層際立たせているような気がします。

 主人公の兄弟たちはもちろんですが、彼らと共に歴史に翻弄されていく脇役達も、それぞれに
存在感を発揮しています。

 たとえば、戦車将校の福田定一。

 現実世界では作家『司馬遼太郎』として高名な方ですが、この物語では北海道戦争の開戦と共に
応召し、軍人として半生を過ごすことになります。常に『何のための戦いだ。何のための勝利だ』と
自問しつつ、しかしその優秀な頭脳と決断力で、しばしば劣勢をはね返し自軍を勝利に導いていきます。
ですがその活躍ゆえに反戦派からは目の敵にされ、あまりに政治的な存在になってしまったために、
味方であるはずの自衛隊からも疎まれ、ついには放逐されてしまうという悲劇的結末を迎えます。
148我等が倶楽部へようこそ(8) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:41:49 ID:0yOrfqwy

 そんな救われないエピソードが、この物語には満載されているのです。

 もちろん、首を傾げたくなるような部分がないわけではありません。たとえば、あまりにも
強すぎる『大和』級戦艦とか。まあ基本がエンターテイメント小説ということを考えれば、
仕方がないことかもしれませんね。

 ただ、もうひとりの主人公とでも呼ぶべき戦艦「大和」または護衛艦<やまと>は、
そのような欠点を割り引いても充分な魅力にあふれていています。第二次世界大戦を生き残り、
時代遅れの存在と蔑まれ、ついにはイージス艦として生まれ変わり、幾多の戦争を戦い抜いて
いくその姿には感動すら覚えます。もし彼女に意識が宿ったとしたら、はたしてどのような
感想を述べることでしょうか。

 ぜひとも聞いてみたい、と思うのです。

 なぜなら私は、この物語の<やまと>と、共に戦う人たちにすっかり魅せられてしまったから。

 たとえば目をつぶると、こんな光景が浮かんできますね──。



 そこは北海道稚内沖を驀進する海上保安庁海上警備隊・超甲型警備艦<やまと>の昼戦艦橋で。

 眼前にはソ連の義勇艦隊と『北日本』の赤衛艦隊が展開しています。

 それに目がけて<やまと>の十八インチ主砲が六年ぶりに火を噴く。

 巨大な炎と轟音、そして黒煙が上甲板で炸裂し、それから一瞬遅れて押し寄せてきた
濃密な硝煙の匂いに襲われ、思わずむせ返りそうになります。そしてそのあまりにも壮絶な
光景に何事かを感じてしまい、つい私は大声で叫んでしまうのです。

「四六サンチ!」

 それを聞いた艦橋の人々が私に笑みを向けてきます。でもそれは決して冷笑とかの類ではなく、
たとえて言えば、大事な玩具を友達に見せびらかした子どものような笑い。

 そして艦長の猪口敏平一等海上保安正が、私のほうへ振り返るとこうおっしゃるのです。

「我らが倶楽部へようこそ、高良みゆき」

 なんて──。



 そんな風に考えただけで、なんだか胸がドキドキします。

 あ、でもひょっとすると、少しばかりヘンな娘ですね、私。
 いえいえ、少しどころではないですね。
 かなり、かなり恥ずかしい──かも。
 あまり外では妄想しないように、気をつけなければいけませんね……。

 ──それはとても甘やかな、煉獄からの召還状。
149我等が倶楽部へようこそ(9) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:44:08 ID:0yOrfqwy


    ◇

 日曜日の朝、かがみさんと糟日部の駅のホームで待ち合わせをしました。
「ごめんね、わざわざ日曜にこんなところまで呼び出しちゃって」
「いえ、私はかまいませんよ。ここなら私たちはどちらも定期で来れますから、
交通費の心配もしなくてすみますし」
「いやー、そう言ってもらえると助かるわ。実をいうと今月、結構ピンチだったのよね」
 そう言うと、かがみさんはどこか照れくさそうな笑みを浮かべるのでした。

 私たちは駅を出て、駅前のロータリーの歩道を並んで歩きます。
 春の朝日が意外なほどまぶしいです。
 さわやかな涼風が私の背中を後押しします。

 お休みのせいか、人通りや自動車もとても少なくて、まるでこの世界が、私たちのためだけに
存在しているかのような気がしてきます。そういえば、普段通学に使うこの駅ですが、あまり
周りを散策したことはないですね。せいぜい近所のマクドナルドに、みなさんと立ち寄るくらい
でしょうか。

 まもなく私たちは通りを外れ、狭い路地裏を縫うように進んでいきます。残念なことに陽光の
恩恵は、どうやら路地裏までは及んでいないようでした。辺りには微かに腐臭が漂っています。
それどころか空気自体、ほのかによどんでいるような気がします。さきほどまで歩いていた
駅前とのあまりの雰囲気の違いに、私はすっかり戸惑ってしまいました。

「こんなところは初めて来ましたが、とても興味深いですね」
 すると、かがみさんがフォローするように口を開きます。
「実は私もついこの間、こなたに教えてもらったばっかりなの。あいつ、普段は閉じこもりの
クセに、妙に情報通なのよね。まあ外見はちょっとヤバいけど、中は結構感じのいい店だから、
みゆきもきっと気に入ると思うな」
「そうなんですか。それはとても楽しみです」

 やがて、かがみさんが立ち止まったのは、今にも壁が落ちそうな三階建ての雑居ビルの前。
目の前には長年の風雨にさらされ、すっかりくすんでいる木製のドア。そこには木彫りの
『OPEN』と書かれた札が無造作にかけられています。ひょっとしてお店の名前なのでしょうか、
ドアのそばに小さく『地球の緑の丘』と書かれた、真ちゅう製のプレートがはめ込められていました。

 かがみさんがドアを開けると、カランコロンと涼やかな鈴が鳴ります。
「さ、どうぞ」
 かがみさんの後に続いて、私も中に入ります。
「失礼します」

 ほの暗い室内には、微かにコーヒーの香りが漂っています。
 静かな、それでいて心地よい音楽が耳をくすぐります。
 壁には古ぼけた無数のポスターが貼られていて。
 二人がけの席がみっつと、四人がけの小さなカウンターがあるだけ。
 なにかしら人生を感じさせる初老のマスターが、無言の会釈で私たちを迎えてくれます。

 それはとても小さくて、どこか退廃的で、まるで時間が静止したような喫茶店。
 足を踏み入れて三歩と行かないうちに、私はこのお店のことがすっかり気に入ってしまったのでした。

 ──そして私は世界の境界を踏み越える。
150我等が倶楽部へようこそ(10) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:46:18 ID:0yOrfqwy


    ◇

「ね、なかなかいい感じでしょ」
 ちらりと、かがみさんが笑みを浮かべます。
「ここなら、時間を気にせず思いっきり話せると思うんだ」
「でも大丈夫なんでしょうか。あまり席もないようですし。こういうお店には、意外に常連さん
などいらっしゃるのではありませんか?」
「あはは、へーきへーき。その点は問題なし。実はここ、そんなに繁盛してないし。マックと
違ってコーヒー一杯で何時間粘ってもOKだから」
「そういうものなのですか」
「そういうものなのよ」

 私たちは、二人がけの席のひとつに腰を下ろします。そうなると必然的に私は、かがみさんの
笑顔を真正面から見据える形になるわけで。
「じゃあ、そろそろ本題行くね」
「はい」
 軽い同意のうなずきで私は答えます。

「今日わざわざ来てもらったのは、みゆきと少し遊んでみようと思ったんだけど」
「遊び、ですか」
「ところで、この間貸した本はどうだった?」
「とても、とてもおもしろかったです。ええ」
「そういう話し相手ができる人をずっと探してたわけよ、私は」
「そうだったんですか」
 思わず頬が緩んでしまいます。それはあなただけではないのですよ。

「せっかく見つけた話し相手だから思いっきり語りたいところなんだけど、でも実際問題として、
こなたやつかさがいるとちょっとねー。だから、この店ならいいかなと思って」
「でも、いいんでしょうか、私たちだけで。なんだかとても罪悪感を感じるのですが」
「あー、いいのいいの。あの子達はあとでいくらでもフォローできるし。今はただ、
二人だけの時間を楽しみましょ。ね」
「二人だけの時間──ええ、それもいいかもしれません」

 ──この崩れかけた世界の片隅で。

「ではどこから始めましょうか」
「何かとっかかりが必要よね。たとえば──そうだな。日露戦争あたりからはじめよっか」
「わかりました、日露戦争ですね」

 私の中のモードが、かちりと音を立てて切り替わります。

 すでに、かがみさんの顔からも笑顔はきれいさっぱり消え去り、代わりに彼女の藍色の瞳には、
学求の輩だけに許される色が浮かんでいたのです。私は視線をはずすと、両手でそっと胸を押さえ、
ただ『信頼』の二文字を念じました。

 きっと、大丈夫。
 きっと、かがみさんが相手なら、どれほど暴走したとしても大丈夫。

 私は再び顔を上げると、かがみさんの目を真正面から見据え、口火を切りました。
「あの戦争のターニングポイントというと、黄海海戦、旅順攻囲戦、対馬沖海戦、奉天会戦
あたりでしょうか」
「その中で、なんといっても一番ヤバかったのは奉天よね」
「ええ。乃木将軍の第三軍の戦闘加入が二日遅ければ、日本陸軍は露陸軍を支えきること
はできなかった。また第三軍の実態が明らかになっていれば、やはり同様の結果になって
いたでしょう。当時の露軍は、旅順を陥落させた第三軍を明らかに過大評価していましたし」
151我等が倶楽部へようこそ(11) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:48:39 ID:0yOrfqwy
「黄海海戦については?」
「そうですね──」

 ああ。ここで私は、ある事実に気づいてしまいました。

「あの、先日から、なんだか私が語ってばかり。たまには、かがみさんのご意見も伺って
みたいのですが」
「え、私? うーん、そうか、そう来るか」
 私の指摘に、かがみさんは思わず苦笑い。

「あの海戦において、第一艦隊の運動は明らかに錯誤よね。旅順艦隊の意図を誤解してしまった
ためかな。彼らはあくまでウラジオストックに脱出するという、ただその一点において積極的
だったから」
「それで?」と、私はかがみさんを促します。
「ところが、第一艦隊は相手に決戦の意図ありと誤読しちゃったから、ただ旅順艦隊の進路を
妨害しようと、その鼻先を北東から南西へと横切ってしまった。もし旅順艦隊の意図がひたすら
ウラジオストックに向かうと理解していれば、他にいくらでも方法はあったはず。万一、露海軍の
戦艦『レトウィザン』が浸水しなければ、あるいは──」
 かがみさんがここで言葉を切り、軽く首を傾げて私を見つめます。
 どうやら、続きを、ということみたいですね。

「──あるいは偶然の一弾が旅順艦隊の司令部を直撃しなければ、露艦隊を取り逃がし、ひいては
戦争そのものを失う結果になっていた可能性が極めて高いでしょうね」

 これでよろしいですか? 私は、貴女の期待に答えられていますか?

「いいわ、すごくいい」
 我が意を得たりとばかりに、かがみさんは何度もうなずきます。
「それでこそ、私がここまでひっぱってきた甲斐があるというものよ」
 かがみさんは両手を顔の前で拝むようにあわせると、まばゆいばかりの笑顔を浮かべました。
でもそれは決して冷笑とかの類ではなく、たとえて言えば、大事な玩具を友達に見せびらかした
子どものような笑い。

 そして彼女の唇は、私を金縛りにする呪文を紡ぎだすのです。



「我等が倶楽部へようこそ、高良みゆき」



 もはや身じろぐことすら私には許されませんでした。
 ひょっとしたらこの胸のドキドキが、かがみさんに聞こえてしまうのではないか。
 ただそれだけが心配でした。

 ──私が待ち望んでいたのは、おそらく貴女のこと。
152我等が倶楽部へようこそ(12) ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 18:49:53 ID:0yOrfqwy


    ◇

「やったぁ!」
 嬉々として網に手を入れ、慎重にトンボを取り出すと、私はみなさんにもよく見えるように
高々と獲物を掲げました。
「ほらみて、つかまえたよ。こーんなにおおきなトンボ!」
「おお、さすがはみゆき。すごい、さいこーだよ」
 幼いかがみさんが、まるで我が事のように喜んでくれます。
「きれいだね」と私。
「うん、とってもきれい」と幼いかがみさん。

 とても、とても幸せな気分でした。


  (Fin)

153名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/23(火) 19:18:50 ID:AQ/KILRs
154sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/09/23(火) 23:14:45 ID:0yOrfqwy
すいません、調子に乗りすぎて規制に引っかかってました。

以上です。

ありがとうございました。

>>153
どもです〜。
155 ◆mf4c05IqKI :2008/09/25(木) 02:41:44 ID:VxjdvqAU
sakuya氏の才能に嫉妬しつつ、みwikiスキーな俺大歓喜。104です、お久しぶりです。
前に投下したやつの続きと別物、どちらにしようか悩んでるときに、新たな設定が舞い降りたので
そちらを書いてみたのですが、やたらと難産で時間がかかってしまいました。
ちょっとダーク…というか、偏執的な作品になってます。3レス消費予定です。
156幼馴染は私のモノ(1/3) ◆mf4c05IqKI :2008/09/25(木) 02:46:10 ID:VxjdvqAU
燦々たる日差し。今日も、やっぱり暑いなぁ…
「沙希ちゃ〜ん、待ってよぉ〜」
「待てないってば。遅刻しちゃうぞ〜」
「だって〜。暑くて、走れないよぉ」
気が抜けきった声が後ろから上がる。けれど、いつもの事だから気にしてられない。
事実、この調子で歩きで登校すれば、遅刻ギリギリである。
走りたいが、後ろが”これ”ではそうも行かない。
「ほらほら、キリキリ歩く!!置いてっちゃうぞ、小鳥〜」
「うぅ、沙希ちゃんの意地悪〜」

私と小鳥は幼馴染。小学校からの付き合いで、中学、高校と、同じ学校はもちろん、
同じクラスとその因縁っぷりは筋金入りだ。
小鳥はちょっと我が侭で、甘えん坊。
毎朝毎朝、夏は暑いとダレて、冬は寒いと動かない。だが、それも慣れている。
適当にあしらい、ギリギリ学校に到着。今日も、一日が始まる。

「全く、もうちょっと余裕を持って来れないのですか?」
「遅刻はしてないから別にいいでしょ」
「そういう問題ではありません!!良いですか、私がクラス委員である以上、
誰一人として遅刻は許しませんわよ」
「誰も頼んでないっつーの!!」
「貴方の許可なんて要りませんわ!!とにかく、そのいい加減さをどうにかなさい、
スーパーずぼら脳筋娘!!」
「言ってくれるじゃないの、この成金高飛車女!!」
「ふ、二人ともやめようよぉ」
『小鳥(さん)は黙ってて!!』
「うう、二人とも酷いよぉ…」
学級委員の姫更(きさら)との口ゲンカもいつも通り。
休み時間の三回に一回はバトルを繰り広げている。
お互い一歩も引かず、白熱していくバトル。小鳥はオロオロ。
いつもの事とはいえ、我ながら毎日良くやると思う。
だけど、この時間が一日一回は無いと、逆に落ち着かなくなってきたのはどういう事だろう?

とはいえ、いくらなんでも、放課後に姫更と二人になるのは勘弁して欲しいわけで。
「で、何で帰りの掃除がアンタと二人だけなワケよ?」
「妙に説明的な台詞を、心底嫌そうに言わないで下さいます?
…仕方ないじゃありませんか。他の三人は、一人は休み、二人は部活が大事な時期ですから、
快く引き受けて送り出すのが委員長としての勤めでしょう?」
「委員長の務めなんて私には関係ないでしょ!?」
「いつも迷惑をかけているのですから、多少なりとも償いなさいな」
「勝手に迷惑がってるだけでしょうが!!」
小鳥、待ってるんだろうなぁ…少し心配になりながらも、掃除は中々終わらない。
喧々囂々、お互い罵声を浴びせながらなんだから、進まないのも当たり前か…
157幼馴染は私のモノ(2/3) ◆mf4c05IqKI :2008/09/25(木) 02:48:26 ID:VxjdvqAU
「結局下校時間ギリギリまでかかったじゃありませんか…
もっと真面目にやってくださいません?」
「アンタが突っかかって来るからでしょーが!!」
校舎を後にしながらも、まだ私達のバトルは終わらない。
「…あ、沙希ちゃ〜ん!!」
案の定、校門前で小鳥が待っていた。随分と待たせちゃったなぁ。
『ふん!!』
小鳥の言葉を合図に、バトル終了。今日もいつもの喧嘩別れ。
「ごきげんよう、小鳥さん」
「うん、委員長、また明日ね〜」
にこやかな挨拶に、小鳥は手を振って答える。
全く、委員長も小鳥相手には態度が違うんだから。腹が立つ。
「仲、良いね。」
は?
「ダレトダレガデスカ?」
「委員長と沙希ちゃんに決まってるでしょ〜」
「何処がよ!?」
「だって、二人とも言い合いしてるとき、顔は怒ってても楽しそうだもん」
…?なんだろう?今、小鳥笑顔だったけど…なんだか、ちょっと違和感。
「…とにかく、そんな事は無いって。ところで、今日、一人なんでしょ?」
「うん。沙希ちゃん、来てくれる?」
「もちろん。帰ったら直ぐ行くね」
「うん、待ってる!!」

小鳥の家は、両親共に忙しく、二人揃って家を空けるという事がタマにある。
そんな日は、小鳥の家に泊まりに行くようにしている。
小鳥のご両親も、「沙希ちゃんが居てくれるなら心強い」なんて言ってくれる辺り、
やはり小鳥一人では色々な意味で不安なんだろう。
「えへへ、待ってたよ、沙希ちゃん」
帰宅してすぐこちらに来た私を、嬉しそうに迎え入れる。
気弱で、甘えん坊で、おっちょこちょいで。なるほど、一人にするのは心配だと、私も思う。
そんな事を部屋で考えていると、小鳥は飲み物をお盆に載せて入ってくる。
「お待たせ〜。…今日、委員長と二人でお掃除してたんだよね…?」
「え、うん、そうだけど…?」
それから、小鳥は根掘り葉掘りその時の事を聞いて来た。
どういう順序で作業したのか、どんな話をしたのか、口ゲンカをしただけといえば、どういう内容だったのか…
細かいところまで、詳しく。
それが…たまらなくイヤになって来た。そんなに姫更の事が気になるのか?
そう考えると、何故か無性に腹立たしくなって、
「もう、どうでもいいでしょ?そんな事。小鳥には関係ないんだから!!」
つい、声を荒げてしまった。言った直後に、後悔した。きっと、怒られて沈んでしまうだろう。

パァンッ

だから、その乾いた音が、何の音なのか、一瞬わからなかった。
158幼馴染は私のモノ(3/3) ◆mf4c05IqKI :2008/09/25(木) 02:50:15 ID:VxjdvqAU
でも、顔にかかる衝撃と、ひりひりとした頬の痛みで…
私が、小鳥に、ぶたれたんだと。ようやく理解した。
「こ、とり…?」
「どうでもいい?どうでもいいわけないじゃない。沙希ちゃんは私のモノなのに。
沙希ちゃんは、私以外の人間が独り占めしちゃダメなの!!私以外が必要以上に仲良くしちゃダメなの!!」
キッときつく目を吊り上げ、小鳥が私を睨む。初めて見るその顔は、まるで別人のようで、私は頭が真っ白になる。
かと思えば、いつも通りの柔和な顔に戻り。
「ぶったりしてごめんね、沙希ちゃん。でも、沙希ちゃんがあんな意地悪言うのが悪いんだよ?
いつもいつも、私はずっと我慢して、沙希ちゃんの事見てるだけなのに。
どんどん沙希ちゃんと委員長が距離縮めていくんだもん。酷いよ…」
そっと、私の頬を手で包むと、小鳥は自分の顔を寄せる。超至近距離で見つめられて、
私は顔も逸らせず、息を呑むばかり。そんな私の内心を意に介さず、
「少し、赤くなってる。本当に、ごめんね?」
そう言って、未だひりひりする頬に…小鳥が、舌を這わせた。ゆっくりと、舌で患部を舐める。
怖い…私は確かに、一瞬そう思った。思ったはずなのに。ゾクゾクと背中を駆け上がる感触。
その感触が、恐怖だけではなく…確かに、快感として私の身体を駆け巡っていて。
不意に、小鳥が私を押し倒す。私の上に覆い被さり、私を見下ろす。
「あは、沙希ちゃん、顔が赤いよ?それに、すごく切なそうな顔…」
「小鳥、や、やめようよ。ね?ヘンだよ、こんなの…」
パァンッ
また、乾いた音。さっきぶたれたのとは反対の頬を張られて、私は何も言えなくなる。
「やめない。私、ずっとずっと我慢してきたんだもん。でも、もう我慢しない。
もう沙希ちゃんは私だけのもの。私だけが、沙希ちゃんを自由に出来るの。
例え沙希ちゃんでも…それに逆らうのは、許さないんだから」
言葉とは裏腹に純粋とも言えそうな、綺麗な笑顔。その顔に、言葉に、行動に…
私は間違いなく、捕らわれていた。
「どうしたの、沙希ちゃん。顔、真っ赤だよ?ぶたれたから、とかじゃないよね?それ。
沙希ちゃんの事は何でもわかるよ。…悦んでるんだね、沙希ちゃん」
私が?小鳥に、がんじがらめに締め付けられようとしているのに…悦んでる?
…そうかもしれない。言葉の異常性に否定的な頭とは裏腹に。…私は、気付かないうちに。
間違いなく興奮していた。胸は高鳴り、息が弾む。瞳が潤む。全て、悦びから来るものなのだろう。
「さあ、沙希ちゃん。ちゃんと小鳥に言って?「私は、小鳥だけのモノです。私の全てを小鳥に捧げます」って」
「あ、あ…私、は…」
「私は?」
上手く言葉が紡げない。それでも、ゆっくりと、一言一言口に出す。
「私、は。小鳥だけの、モノです。私の…私の全てを、小鳥に…捧げ…ます…!!」
言ってしまった。言葉にした瞬間、身体を駆け巡る感触…
心の奥に眠る悦びが身体を震わせ、頭がクラクラしてくる。それでも、目は小鳥の瞳から離さない。
ずっと、弱いものだと思っていた小鳥。私が、庇護すべき相手だと思っていた小鳥。
その小鳥に、全てを捧げ、全てを支配される。それがこの上ない快感となり、最高潮に達する。
小鳥は私の言葉に、一層顔を綻ばせ、
「沙希ちゃん…大好き」
私の唇に、唇を重ねる。「ん…ふ…」その吐息は、どちらものなのか?
良くわからないままに、お互いにお互いの唇を貪る。
「ん…沙希ちゃん、もう一回、言ってみて。沙希ちゃんは、小鳥に?」
悪戯っぽい笑みがその先を促す。
「私は、小鳥に全てを捧げます。全部全部、私の全ては小鳥だけのモノです…」
今度は、はっきりと、淀みなく答える。
「ふふっ。良くできました」
ご褒美代わりのキス。私はそれを受け止めて、引き返すことの出来ない、深い深い快楽へと堕ちていった…
159 ◆mf4c05IqKI :2008/09/25(木) 02:52:05 ID:VxjdvqAU
以上です。
なんというか、普通に純愛モノも好きなんですが、こういう偏執的なのも大好きだったりします。
むしろ、こういう方が好きかも…?
160名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/25(木) 04:31:20 ID:+55djJTH
>>159
GJ!!
だけど、やっぱちょっとコワー(((((((( ;゚Д゚)))))))
小鳥みたいな子が今流行のヤンデレっつーのかな?


まあ、こういうのにゾクゾク来る感覚も分かる
161名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 02:48:07 ID:1zfp4B0c
>>159
GJ!!

ヤンデレいいよヤンデレ。
こういう短くてピシッと締まる話も大歓迎。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/26(金) 08:10:59 ID:5WYp3boE
これはいいヤンデレ!
163変態淑女 1/2:2008/09/28(日) 06:25:26 ID:QfmhSh3H
神無月の巫女(姫子×千歌音)です。
内容的にはエロパロ向きかもしれません。



変態淑女

「はぁ…はぁぁ…」
口から漏れる息を手に持った布で押さえ、姫子は自分を高ぶらせて行く。
「だめ……こんなことしちゃ、ダメなのに……」
だが、その言葉と裏腹にそうして手に持った下着、
そう拝借したあの姫宮千歌音のショーツの溢れる匂いを思いっきり吸い込む。
(千歌音ちゃん…ゴメンなさい…)
そうして姫子は自ら達した。

「はぁあああ…」
姫子はベットの上で今更ながらそんな事をしてしまった自分の嫌悪感に苛まれながら溜息を吐く。
また…、やってしまった…。
姫宮の広い屋敷で千歌音と一緒に住む事になった姫子だったが、
千歌音は生徒会のお仕事や…家の社交パーティーとか、
とにかくここ最近は家に早くに帰ってくる事が少ないのである。
使用人に暇を出してしまった今、屋敷の掃除や洗濯などやる事には事欠かないのであるが
そんなある日、姫子は誘惑に負け千歌音の下着に手を出してしまったのだった。

最初は一度きりで辞めるつもりであった。
だが、それは逃れれない麻薬のように甘美な誘惑を伴って姫子を惹きつけるのだ。
結果、今日で姫子は通算6度目の下着に手をつけてしまったのである。



(もういや、こんな自分…)
寝返りを打って姫子は頭を抱えた。
千歌音がもしこんな自分を知ったらどう思うだろうか?
そう思うと姫子は恐怖を感じざるを得られない。
きっと軽蔑されるに決まってる…。
あの暖かな眼差しが、さす様な冷たい眼差しに変わるのだ。
そう考えるとゾクリとして姫子はベットの上で震える。


ああ、千歌音ちゃん…。
この私が変態だと知ったら彼女は一体どんな顔をするのだろう。
彼女はきっと純真な自分を好いてくれているのだ。
彼女は酷く清純な人なのだから…。
164変態淑女 2/2[:2008/09/28(日) 06:26:13 ID:QfmhSh3H
「姫子。ねぇ、姫子、いないの」
ドアのノッカー音と自分の名を呼ばれる音で姫子は目を覚ました。
いけない、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
慌てて、千歌音の下着を自分の後ろに隠し姫子は声を上げる。
「ごめん、千歌音ちゃん!…ちょっと部屋で寝ちゃって。すぐ起きるから待ってて」
ふぅ、と扉の奥から安心した息がした。
「いいのよ、たまには私が夕食を作るわ。姫子はしばらく休んでいて」
「え…でも…」
言って姫子は自分の今の部屋の状況を思い出し、大人しく千歌音の提案に従う事にする。
「ごめんね。ちょっと部屋を片付けたら私もすぐに下に降りるから」
「いいえ、一人でも大丈夫だから…。ゆっくりしてていいのよ」
千歌音はそう言って姫子の部屋の前を離れていった。

台所に向かった千歌音は用意していた鍋に火を入れる。
千歌音はそれから居間に行った。
夕食の下ごしらえは既にしてあったのだから、もう食事の準備といってももう特にすることは残っていなかったのである。
きょろきょろと二階に居る姫子を警戒した後、居間にあった本棚の本をぐいと奥に押した。
ゴゴゴゴ、と本棚が横に移動し、その後には地下へと続く階段があった。
千歌音はその階段を下りていく。
行き着いた先はモニター室だった。様々な画面がこの屋敷の部屋の様子を映し出している。
千歌音は真ん中のモニターに目を移す。
そこには今、部屋の片づけをしている姫子が映っていた。




千歌音は無言でモニター室の機械を操作し、他のモニターに録画した過去の映像を流させる。
庭の掃除をする姫子の映像。お風呂に入る姫子の映像。トイレに座っている姫子の映像。
そして、その中には姫子は千歌音の下着の匂いを嗅ぎながら喘いでいた映像もあった。
頬を上気させ千歌音はその光景を見つめる。
「姫子ったら…今日もこんな事を…」
『はぁ…はぁぁ…』
姫子の喘ぐ声と合わせるように千歌音も熱を帯びた息を吐いていく。
この部屋の秘密は誰も知らない。もちろん姫子も。


腕を組んで千歌音はふと考えた。
姫子がもしこんな自分を知ったらどう思うだろうか?
きっと軽蔑されるに決まってる…。
あの暖かな眼差しが、さす様な冷たい眼差しに変わるのだ。
そう考えるとゾクリとして千歌音はモニター室の中で快感に打ち震える。

ああ、姫子…。
この私が変態だと知ったら彼女は一体どんな顔をするのだろう。
彼女はきっと清純な自分を好いてくれているのだ。
彼女は酷く純真な人なのだから…。
165名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 12:33:03 ID:2c0dmTmB
神無月の巫女キター!! 
大好きなアニメ&漫画だったので嬉しい。
確かにちょっとエロすぎるけどこのくらいなら良いんじゃない? 
姫子と千歌音の対比が良いね! 
166名無しさん@お腹いっぱい。:2008/09/28(日) 19:35:44 ID:fsZhxtGl
ぎりぎりのエロに挑戦するのもそれもまたよし!
167名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/03(金) 00:57:03 ID:DeXLETAo
最近百合分が不足しているんだが、誰かおすすめ教えてくれ
軽く読めるのがいいな
168名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/03(金) 01:52:24 ID:B5Pyror/
>>167
マリみてマジおすすめ
30巻くらいしかないし
169名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/03(金) 12:04:53 ID:b7bZLasP
>>167
マリみてはアニメもおすすめ
まだ3期迄しかないから
170名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/03(金) 16:03:02 ID:xklTWd8g
どっちも読破するのも視聴するのも一苦労だろがw

ネタというか話題の提供になればいいけど、好きなシチュエーションとかある?
俺はレズビアン(敢えて百合ではない)な大人のお姉さまにノーマルな女の子が
徐々に開発されていくのとか好きだな。
堅固な城塞の外堀を埋めていくかの如く、細かな計略の積み重ねの末に最後は
向こうから胸に飛び込んでくるように仕向けるのとか。
しかしこういう謀略タイプってそんなにいないような。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/03(金) 20:04:16 ID:rp02u2Ms
http://blackpine.jugem.jp/
こないだ見つけた中学生の女の子のブログ
超萌えるしなんか切ない
普通の女の子のブログだからいたずらこめとかしないであげてね
172名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/03(金) 21:26:57 ID:N5G4bEWj
サバサバした娘とボケの娘でギャグでもいいな。
173名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 14:17:26 ID:16b+koCD
半ノンケっぽい女の子が親友と接してるうちにだんだん変な感情が芽生えてきて
「これって恋? でも、相手は女の子なのに……」と言いながら悶々とする日々を送り、
親友の事が気になって気になって、もうどうしようもない程の泥沼にはまりこんでいく様を
174名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/04(土) 18:28:42 ID:l2gI6fgf
聖さまマジリスペクト
175名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 15:03:11 ID:oLl6/MmU
ごく普通の女の子×人外の女の子とか超ツボ
176名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 19:01:27 ID:cL+dFDaZ
サクヤさんですね。
177名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 19:05:09 ID:oLl6/MmU
どっちかというとノゾミちゃんの方が
敵or険悪状態から絆を深めていくのも好きなんだ
178名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/05(日) 19:30:48 ID:cL+dFDaZ
アカ花影抄の益田先輩×珠なんかもいいんじゃないだろうか。
179sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/10/05(日) 20:50:17 ID:DQzK1gJ8
>>176
> サクヤさんですね。
えと、呼ばれました?
……ウソです、ごめんなさいw

せっかくなので支援を兼ねて、短いのですけどうpしていきますね。
「ストライクウィッチーズ」の二次創作、サーニャのモノローグです。

2スレお借りします。
180サーニャ/こころのうた(1) ◆GtV1IEvDgU :2008/10/05(日) 20:51:11 ID:DQzK1gJ8
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『サーニャ/こころのうた』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いつの頃からだろうか。

空の向こうには友達がいると信じていた。
ラジオの届けてくれる異国の音が好きだった。
あの空を飛び越えて、いつか異郷の友達に会いに行ける日を夢見ていた。

やがて私は音楽の勉強のためウィーンの町へ旅立った。
だけどやっぱり、友達はできなかった。

ある日、ネウロイが攻めてきた。
ウィーンの町も瘴気に覆われ、人の住めない土地と変わり果てていった。

ブリタニアへと逃げ延びた。
そこで私には、魔女の力があると言われた。
他に行き場もなかったので、そのまま軍に加わった。

だけど私の心は空っぽだった。
両親のことはなるべく考えないようにした。
しばらくの間、ただあてどもなく空を飛んでいた。

181サーニャ/こころのうた(2) ◆GtV1IEvDgU :2008/10/05(日) 20:52:31 ID:DQzK1gJ8

そして私は、エイラと出会った。



彼女はいろんなことを知っていた。

春の喜びを。
夏の狂騒を。
秋の寂しさを。
なによりも冬の厳しさを。

雪の色が本当は白ではなく青だということを。
真冬の夜、ときたま森の木が凍りついて破裂することを。
深呼吸するだけで肺を痛めてしまうことがあるということを。
待てど暮らせど、一日中太陽が昇らない季節があることを。
たとえ晴れていても、ただ風が吹くだけで吹雪が巻き起こることを。
空気中の水分が、光り輝くダイヤモンドダストに生まれ変わることを。
本当の寒さには、塩入りのココアよりウォトカのほうが効き目があることを。



いつの頃からだろうか。

私には飛ぶ目的ができていた。

私は守りたかった。
この世界を守りたかった。
エイラのいてくれる世界を守りたかった。
エイラが愛している人、モノ、故郷。その全てを守りたかった。

ひとりで夜の空も飛べるようになった。
フリーガーハマーも使いこなせるようになった。
遥か彼方のネウロイの声も聞き分けられるようになった。

全ては、エイラのため。

彼女のためなら、いくら寒くたって平気。
彼女のためなら、どんな訓練だって平気。
彼女のためなら、夜間哨戒飛行だって平気。
彼女のためなら、ネウロイとの戦闘だって怖くない。
彼女のためなら、なんだってできるのだ。



今夜も私はひとり基地を飛び立つ。

誰よりも高く。
誰よりも遠く。
誰よりも深く。
そして誰よりも静かに。

地球の丸みが感じられるほどの遥かな高み。

ここは、私とエイラだけの世界だ。

  (Fin)

182sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/10/05(日) 20:54:06 ID:DQzK1gJ8
以上です。

ありがとうございました。
183sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/10/05(日) 20:58:52 ID:DQzK1gJ8
なんとも興ざめなうんちくコーナー。
解説が必要なら作品中に盛り込んどけよ、というつぶやきが聞こえてきそうです(汗)。

サーニャはオラーシャ(ロシア)、エイラはスオムス(フィンランド)の出身です。なので、きっと極北の地に住まう人々だけが共感できる記憶があるはずだ、と勝手に思っています。

・雪の色が本当は白ではなく青だということを。
 これは説明が難しい。実際青いのだ、というしかありません。

・真冬の夜、ときたま森の木が凍りついて破裂することを。
 日本語では「凍裂」という現象。厳冬期に外を歩くと、森の方からたまに「パーン!」という乾いた破裂音が聞こえてくることがあります。行ってみると、木の幹が立ったまま縦に裂けている。
 あまりの寒さに水分が凍りつき、内部から引き裂かれてしまうのだそうです。

・深呼吸するだけで肺を痛めてしまうことがあるということを。
 氷点下三十度くらいになると、不用意に空気を吸い込むことすら自殺行為。肺で痛みを感じることができますよ。

・待てど暮らせど、一日中太陽が昇らない季節があることを。
 フィンランドでは「カーモス」といいます。北極圏では12月〜1月にかけて太陽がまったく昇らない季節があり、春夏秋冬に加えて第五の季節と呼んだりするようです。

・たとえ晴れていても、ただ風が吹くだけで吹雪が巻き起こることを。
 氷点下八度を下回るといわゆる粉雪(パウダースノー)が降り積もるようになります。スキーを楽しむには絶好ですが、住人にとっては始末におえません。
 少し強い風が吹くと、地面から粉雪が大量に舞い上がり、視界を奪ったり低い土地に溜まって道をふさいだりします。ほんの二〜三十分で二メートル以上積もることもあります。
 朝、学校に行けたからといって、帰りもその道が通れるという保障はどこにもありません。

・空気中の水分が、光り輝くダイヤモンドダストに生まれ変わることを。
 これは本当に美しい。特に黄金色の朝日にライトアップされたこれを目撃すると、その日一日なんだか幸せな気分にひたれます。

・本当の寒さには、塩入りのココアよりウォトカのほうが効き目があることを。
 英軍では寒い時の眠気覚ましに、塩入りのココアを飲むという奇妙な風習があるようです。アニメ版SWの舞台となるブリタニアは英国がモデルなので、この風習もあるのかな、と。
 ウォトカ(ウォッカ)はロシア・フィンランドで共通に飲まれているお酒で、アルコール度数六〇〜九〇という大変に強いものです。ここまでくると、もはや味なんかわかりません。ただ舌やノドが痛いだけです。
 あ、日本ではお酒は二十歳になってから、ですね(笑)。

・ネウロイ
 正体不明の敵。アニメ版では欧州本土がほぼ制圧されています。

・フリーガーハマー
 冒頭のイラストでサーニャが担いでいる武器。ロケット砲です。強いです。

では。
184名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/06(月) 23:28:59 ID:xJVX69zm
乙です!エイラーニャの関係はいいよな〜
寒帯うんちくも興味深かったです。でも作品としては言わない方が良かったかも
185名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/10(金) 18:28:35 ID:WwgtrmRp
百合とは良いものだ
186名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/15(水) 04:25:28 ID:FrtBJQJw
age
187アルコールよりぎゅっとして ◆R4Zu1i5jcs :2008/10/16(木) 03:00:07 ID:bFWcavQz
 最近、夜になると独りの時間を放棄し、めぐの病室へ行くようになった。だいたいめぐは愚痴やら不満やらを話し、私は黙ってそれを聞いていた。
「ねぇ、水銀燈。そういえば昔、体温計は水銀を使っていたらしいわよ?」
 水銀中毒などの危険を考慮して今はほとんど使われていないという。
「ふぅん。それが何よ」
「だから、水銀燈も私の体温計れるんじゃない?」
「はぁ?」
 めぐ曰く、私の名前が“水銀”燈だかららしい。全くよくそんな変なことを思い付くものだ。
「ほら、お願い」
 髪をかき上げ、額をあらわにする。仕方なく手を当てようとするとめぐはそれを制止する。
「熱を計るんならおでこくっつけてよ」
「え〜」
 髪をかき上げたまま目をつぶっている。私はゆっくりとめぐの顔へ近付く。口紅がひかれていないにも関わらずやけに唇が色っぽい。
「んっ」
 ぴたと額と額が合わさる。めぐ熱がじんわりと伝わって来る。
「どう? 熱ある?」
 急にぱちりと目が開き、どぎまぎする。めぐとの距離は零。まるでめぐとくっついてしまったみたいだ。
「わ、分かんないわよぉ」
 本当はさほど熱はなかったが、なぜか熱く感じた。私が熱くなっているという錯覚にさえ陥った。
「分かんないの? 仕方ないわね……」
 めぐは上からパジャマのボタンに手をかけ外していく。その光景をただ見ているしかなく、その間私の時は止まっていたかのようだった。
 はらりと上着はベッドの上に脱ぎ捨てられ、めぐの白い肌と膨らんだ乳房があらわになる。その段になって私はようやく反応することが出来た。
「な、何してんよぉ……」
「ふふ、水銀燈がちゃんと計らないからよ」
 ばっと腕を回し私を抱き締める。不意の出来事に反応することが出来なかった。
「どう……」
「うん。めぐ、すごく熱いわ」
 服越しでも伝わるめぐの体温。とても優しい。そこには確かに“生命”を感じた。
「あら、風邪かしら」
 私を放し、いたずらに笑う。めぐの感触がもうすでに恋しい。
「そうねぇ、そんな格好してたら風邪ひくわよぉ」
 私はそう言ってはっとする。知らない内に口元が笑みを作っていた。たまにはこういうのもアリかも知れない。
 めぐはやがて服を着て、布団でうずくまるように寝てしまう。
 ……病なのは私かも知れない。身体のほてりを冷ますために闇夜に飛び出した。今はそれくらいしか思い付かない。

188名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/16(木) 03:01:16 ID:bFWcavQz
一応こっちにも
ローゼンスレから
189名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/16(木) 20:03:27 ID:gjZVivhd
エロい!もっとやれ!
190名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/17(金) 02:47:54 ID:NjNRT0mP
けしからんな!
191名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/22(水) 21:05:32 ID:PIhqKccl
age
192甘やかな暗闇にて (1/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/22(水) 23:56:40 ID:OcfC2+q8
   甘やかな暗闇にて


 世界が引っくり返った。
 耳をつんざく金属質の轟音とともに。
 佳耶の視界は暗転する。

 気がついてみれば床のエレベーターマット。佳耶は、まるでそれに愛情を込めて頬ずり
するかのような格好。カーペットを敷いて跪拝する敬虔なイスラム教徒、もしくは五体投
地のチベット仏教徒を思い浮かべれば分かりやすい。
 乗り込む前にふと足元を見、いったいいつから掃除していないのか訝しく感じた、マッ
トはそれほどの逸品である。うえぇっ、と情けない声が佳耶の口を衝いた。
 ほっぺたを手の甲で何度も擦り擦りしてから、肘立てで身を起こしてあたりを見回す。
 ――真っ暗だ。
 手を目の前に持ってきても見えないのには、少し驚いた。目を閉じていてもいなくても
変わりがない。
 どこか遠くで目覚まし時計が鳴っている。耳鳴りかもしれない。
 ゆっくり、深く、息を吸い込む。非常に埃っぽい臭気が鼻を衝いてくる。
「マナ?」
 手探りで、すぐ傍らに真名が倒れているのは分かった。闇雲に揺り動かす。
「マナ、返事してっ? ……ねえ、大丈夫? 地震、地震っ」
 夢中でさすっているうち、手のひらで摩擦しているところの布が制服スカート即ちポリ
エステルと羊毛の混合生地であること、その下には手触り良いレーヨン地のアンダーペチ
コートに綿パンツ、さらに小ぶりで滑らかな真名のお尻があるものと分かってくる。
 すべすべすべ。結構余裕あるなぁ、あたし。佳耶は内心で苦笑する。もしもまだ揺れて
いたなら、こんなに平静ではいられなかったかもしれない。ポケットから携帯を出して開
いてもみるが、こんなときに限って電池切れか、最悪は故障のようだ。
 少しして、もぞもぞと動き出すのが伝わってきた。
「………。カヤぁ?」
 探るような真名の声。微かに鼻にかかった感じで、ごくわずかにだけ不安げな塩梅だ。
もう少し動揺してもいいのにね、この子も。佳耶はどことなく不満を覚えながら、声の近
くまで顔を寄せて話しかけた。
「おはようマナ。よかった、平気そう」
 ところが首を振ったような気配がする。
「なに、どっかぶつけた? 痛い?」
「ううん、あたま。頭、ぼーっとする」
 ぼーっとしてるのは普段からだろ、と佳耶は言い掛けたが我慢をしておく。
「風邪かな。もしくは始まっちゃったとか?」
「せーりもちがう。先週おわったばっかだし。実はわたし糖尿なんだけどね、それ関係の
症状っぽい」
193甘やかな暗闇にて (2/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/22(水) 23:57:38 ID:OcfC2+q8
 とうにょう。真名的な発音に忠実を心がけて表記するなら、とーにょー。まるで地獄め
いたアニメの主題歌がリフレインするかのよう。とーにょ、とにょとにょ。
 それが糖尿病という単語に佳耶のなかで結びつくのに、やや時間が掛かった。
「ちょ、ふざけてる場合じゃないって」
「ううん、ふざけてるとかないから。マジでとーにょーびょーなのね」
「聞いてないし、そんなの」
「うん。言ってなかった。学校で知ってるの、担任と保険室の先生ぐらいかも」
 佳耶からは急激に血の気が引いていく。範囲のプリントを丸々間違えたまま数学の予習
を終え、いざ臨んだ試験の答案、その冒頭に記された未知の公式を目にしたとき。つい直
近の痛恨事であるが、まるでそんな肌寒感がある。
「なにそれ……。それさ、マジやばくない? 注射してないの、あんた?」
「や、ごめん、逆。低血糖。ちゅーしゃ効き過ぎてるの。ねえ、甘いものが食べたいよ」
 小腹が空いたから、ぐらいの調子のねだり声を出す。
「ま、待って。待って。カバンになんかあったよ、チョコバーかなんか」
 手で床を確かめていくのは気持ち悪かったが、生憎それどころではない。ようやくして
革製の学生鞄には触れたものの、鈴の音で真名のものだと分かる。
「ああもう! どこだー、あたしのカバンはっ」
「ん。そこにあるじゃん」
「えっ、どっちよ?」
「だからそこ。カヤの右っかわにあるよ。ていうかカヤ、わたし指さしてるの見てないし。
どうしたのさ? ってなにすんの!」
 手を伸ばしたら偶然にも真名の胸だった。反省はしていない。
「ごめんね。わざとじゃないし」
 佳耶は言いながら、しっかりと揉みしだいてその貧しい感触を確かめ、非難の声を浴び
つつ、肩から腕、指先と伝って方向を確かめる。
「こっちか。おっけー、カバンあった。てかさ、暗くて見えなくない? よくみっけたね」
 訊くと、すぐ鼻先で携帯を折り畳んだ音がする。
「あれ。あんたの携帯もだめ?」
 真名は再び首を振る気配。
「……エレベーターのなかだと通じないし、どっちみち」
「あ、そりゃそうか」
「ねえ、カヤさぁ。あなたコンタクトだっけ?」
 妙なことを訊いてくる。
「まさか。実は目いいんよ、超。目医者びびるもん。あたしかマサイ族かってくらい」
「ふむ。それはすごいね」
「おうよ。ほらこれ、チョコあったぞっ」
「お、ぐっじょぶ。……んん? これアーモンド入ってる」
 あろうことか真名は不満げな声である。
「おおい。このシチュエーションで好き嫌いかよっ」
「はい。そうですね。ごめんなさい。じゃ、いただきます……」
「うんうん。それ全部食っていいからね」
194甘やかな暗闇にて (3/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/22(水) 23:58:23 ID:OcfC2+q8
 肩を寄せているすぐ横。包み紙を裂き開く音、アーモンドとチョコレートの匂い。もそ
もそと咀嚼する音もそれに続く。まわりは相変わらずの真っ暗。
 真名の食べているところを見るのは好きだった。妙にお行儀がよくて大人しく、兎のえ
さやりをしているような感覚があった。暗いのがつくづく惜しいな、と佳耶は思う。
 ただ、意外な収穫もある。音だけでもすこぶる可愛らしい。それに真名の背は小さいか
ら、顔を近づけるとコンディショナーのかすかな香りがチョコアーモンドに混じりあう。
「んー。きたきた、効いてきたっ。いいねぇ、糖分がまわってく感触だよ」
 ようやく元気を取り戻してきたご様子。佳耶は苦笑する。
「あんたってほんと細っこいよね」
「うん。おかげでおっぱいさわられると痛いし。肋骨ごりごり当たるし」
「はいはい。ていうか、糖尿の人って漏れなくデブってゆうイメージあったよ、あたし。
ごはん食べたあとハアハア息切らせながら注射してる感じ」
 にひひ、と真名は笑う。
「それはご期待に添えなくて残念。でもよく注射なんて知ってたじゃん?」
「うちのお父さんがそうでさ」
「あら。カヤんちのおじさんてそんなだっけ。ちょっと親近感わくかも」
 くしゃくしゃと包装を丸める音が響き、次いで鞄を開ける音がする。決してポイ捨てを
しないのは感心。けれども、ゴミ箱が見つかるまで律儀に鞄に入れているのがババくさい、
佳耶はいつもそう思っている。真名はきっとゴミ出しにうるさい主婦になる。
「……わたしの糖尿病はね。生活習慣病のと違って、T型なの」
「いちがた?」
「うん。小児糖尿病っていうのね。そのわりに一年生のときぐらいかな、急になったんだ
けど。なんかウイルスとか? そんなのが原因らしくて」
 いかにも難病っぽい語感ながら真名の口調が軽いので、佳耶としても「そうなんだー」
ぐらいの反応を返すことしかできない。
「そうなの。だからむしろ、究極の低インスリンダイエットですよ。もしも注射しなかっ
たらインスリンはぜんぜん出ないし、栄養なんてぜんぶ流れてっちゃう。何日かで間違い
なく死ぬからね」
 死ぬから、を意地悪く強調して、真名はなけなしの体重をかけてくる。
「こわいこと言うなよな。あたしのせいであんた死んだりしたら。死んだりしたらさ……。
ああもうっ、マジでどうすんの?」
「あなたのせいじゃないし。地震? のせいじゃないかな」
「いやいやいや。どっちにしろ死ぬ気じゃん。やめろよなー。そんなことなったら、こっ
ちまで無理だし」
「ふふ。一緒に死んでくれる?」
 佳耶は溜め息をつく。手探りして真名の肩を抱き寄せる。背中まである真名の長い髪は
腕に触るとさらさらして冷ややかで、むやみに心地良かった。
195甘やかな暗闇にて (4/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/22(水) 23:58:52 ID:OcfC2+q8
 会話は途切れていたけれども、気まずくなったわけではない。
 万一の場合の想像に沈み込んでしまっていた。
 順調に持ち上がりも決まって、せっかく高校まで真名と一緒に行けるというのに、ふた
り仲良く写真での入学式になるとしたら情けない。遺影になるようなちゃんとした写真が
あったかどうか。しかし、死んでしまえば学校なんてどうでもいいと言えばいい。
 今日は多分、飼い犬の散歩には間に合わない。それだけで大騒ぎだろう。まして佳耶の
当番が丸々抜けたとしたなら、兄と弟たちのあいだで熾烈な抗争が勃発する恐れありだ。
これは、そこそこ心配。
 あとは、趣味で描いているイラストのことぐらい。そういえば、あれが遺品で出てきた
ら気まずいかな。せっかく運動部を選んでまで外面を取り繕っているのに。これは結構深
刻に気がかり。
 未練執着ときたらこの程度のことしかないのか、とむしろ佳耶は悄然となってしまう。
なんという灰色の女子校生活。
 未練。本当は、ほかならぬ隣にいる真名のことも。だがこんな状況でもあるし、これは
意識すべきではない。
「ごめん。よくない考えごとさせちゃったね?」
 沈黙を破ったのは真名だ。
「うん、別にいいんだけどさ」
 そう言ったあと、佳耶はさらに説明の必要を感じて言葉を続ける。
「なんかこう、最悪の未来が走馬灯のように。あんたとあたしの一周忌ぐらいまで想像し
てたところ。とりあえず腐乱死体で発見は避けたいな」
 真名が一緒なら寂しくはないけど。そんな一言もつけ加えたかったが、自重して口には
出さない。
「そうね……。だいじょぶだよ。ほんとごめん、おどかしすぎた」
「マナはどうなのさ。なに考えてたの」
 訊いても答えたがらないような様子。
「ねえってば」
「うんとね。わたしはね、昔のこととか思い出しちゃってたよ。脈絡もなくいろんなこと。
いろんな人のこと」
「なんだ、あたしより走馬灯っぽいじゃん」
 真名は小首をかしげた気配。
「うん、そうね。わたしもそーまとー。というかね、似たのがあるよ。軍人さんの遺書だ
ったかでさ。三日とろろおいしゅうございました。なんとかがおいしゅうございました。
ってたくさん書いてあるの。おすしとか。いろんな人に宛てて」
「ちょっと、もうおなかすいたの?」
「ちがうってば。いろんな人へのちょっとしたかかわりとか、感謝とか、そういうこと。
そういう人たちに、自分のことをおぼえててもらいたい。でもその手紙の最後にはね、お
父さんお母さんのそばにいたいって書いてあって。ちょうどあんな感じに、わたしもいろ
いろ思い出しながら、やっぱり家族があれだなぁって思ったの。うちはもうお母さんいな
いけどさ。でもそのうえにこんな可愛いわたしまで死んじゃったらね。お父さんかわいそ
う過ぎて、あちゃーって感じだなって。……そういえば、三日とろろってなに?」
「ん。なんだろうね」
「ねえやだ、なんで泣いてるの?」
 佳耶は鼻をすすり上げる。
「あんたが泣かすようなこと言うからだろっ。てか、あちゃーってどういうことだよっ」
「やぁ。そんななったらお父さん、ちょっと笑っちゃうぐらい不幸かなって」
 あきれた返事をする。
「笑うなっての。あんたが幸せにしてあげなさいよっ」
「だねー。でも中学生にはまだ重いよ、お父さんの人生」
「いや、すぐにじゃなくていいから……」
196甘やかな暗闇にて (5/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/22(水) 23:59:22 ID:OcfC2+q8
 空調は止まっている。静かなのはいいが、非常に蒸し暑くなってきた。
 どれくらい時間が経っただろう。
 ブラウスとスカートは畳んで鞄のうえへ。インナーのペチコートワンピースも汗だが、
流石にこれは脱げない。佳耶ほど汗はかいていないのに、真名も同じ格好になっている。
下着姿は楽でいいからと言う。確かにそうだ。ここがエレベーターでさえなければ。
 真名の鞄からなぜか出てきた新聞を床に敷き、ふたりで窮屈に膝を寄せて体育座り。
「静かすぎてあれだよね、救助とかくる気がしないよ」
 真名は嘆息し、気だるげに寄りかかってくる。その肌が佳耶にはひやりと感じられる。
「ちょっと、こんなくっついて。暑くないの?」
「ううん。ちょうどいい。カヤあったかいし」
「………。あんた、体温低いんだね。バランス取れてるってわけ?」
「そうかも」
 すんすん、と真名は鼻を鳴らしつつ、佳耶の胸元あたりでなにかをしている。
「なんかあんた、うちのウィンみたい。こら。あんまりくすぐんないの」
 ウィンというのはフルネームがサー・ウィンストン・スペンサー=チャーチル=桐原。
佳耶の家で飼っているワイヤーフォックステリア種の怠惰な老犬である。
「うん。わたし、これでも汗の匂いにはうるさいのね。カヤの匂いは結構好きだから」
「ちょっ……おま、いますぐあたしから離れろ、変態!」
 それでも暗いなかで眼などを突いてしまっては危ないので、押しのけるのにもやんわり
としかできず。それをいいことに密着したままでいる。本当にまるで、調子に乗った犬の
ような態度。
 無言の攻防をしばらくしていたが、あれえ? と真名が間の抜けた声を上げた。
「なにさっ?」
「いや、ほら。あれって非常電話だよね」
 真名はすっと立ち上がると壁に手を伸ばし、プラスチックの破壊音をひとつふたつさせ
た。おそらく樹脂製の収納箱から受話器を取り出した音。そしてしばらくの沈黙。
「だめ。出ないみたい」
 あっさり諦めて隣に戻ってくる。そしてまた密着。
「かんぺき停電してる感じだねー。ってちょっと、カヤぁ? なにしてんの自分のわきで」
「うう。ほんとに汗くさいしっ。もうやだ、あたし……」
「まあまあ、ごめんて。好きな匂いって落ち着くし、安心するんだよ? だいじょぶ。わ
たしはカヤといると安心なんだから」
「………」
「ていうかカヤ、地震てほんとかな。わたしは揺れとかわかんなかったけど。低血糖のあ
れでフラフラきちゃってたし、それで倒れてたのかと思った」
「………」
「これ、何階あたりだろね。今止まってるのって。また揺れたら落ちたりしないかなぁ」
「………」
 地震のことなんて考えても仕方ないのに。そう思いながら佳耶は黙っていた。
 真名は落ち着くなどと言うが、佳耶の鼻腔をくすぐり続けている甘い匂いはそんなもの
と程遠い。真名の体臭だ。少々の酸味とわずかな汗くささ、薄荷油めいた刺激、それに鮮
明な甘さを含んだ香り。まるでお菓子のようだが、そのくせ生々しい。もしも佳耶が犬な
ら喜んで真名のわきあたりに鼻先を突っ込んでいる。意識をしないように、そう考えると
余計に頭が芯から痺れたようになり、次第に胸も苦しくなってくる。
「ねえ、カヤぁ」
 真名の手が急に伸びてきて、その苦しい胸に置かれた。心臓が跳ね上がりそうになる。
呼気が近い。いつのまにか向かい合わせに真名はいる。大きさを測りでもするかのように
手のひらで胸を包んできたあと、攻勢はわき腹からおなか、ふとももへ。佳耶は反射的に
両腕で躰を隠してしまう。すると、おろそかになった脚のあいだにまで躰を割り込ませて
きた。背後はエレベーターの壁。逃げ場がない。
「またこんないたずらっ……いいかげん、もうやめろよなっ」
 佳耶の威勢がいいのは口調だけで、音量は細くて消え入るばかり。心臓はどうにかなっ
てしまいそうなほどに暴れだしている。なのに真名は佳耶のガードを縫って、おへそのあ
たりやわきの下などを実に的確に、意地悪につついてくる。
「さっきのお返しだよー。このくらいさわらせてくれてもいいでしょ? ていうかカヤ、
元気なさすぎ」
「あ、あんたがテンションおかしいんだって。それにお返しってなにさ。ちょっとおっぱ
い触っただけじゃん」
「んー? わたしのおしり、超なでてたよね? だから、たくさんさわっていいの。てい
うか嬉しくないの? だってカヤは好きなんでしょ、わたしのこと。レズ的な意味でー」
197甘やかな暗闇にて (6/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/23(木) 00:00:09 ID:+FJSnPWV
 ――いわゆる、クリティカルヒット。
「ば、ばばっ、ばかなこと! なに言っちゃってんの、この子っ!?」
 ことここに及び、傍目には面白過ぎる反応しか佳耶はできない。ふふん、と真名が笑う。
「いーから。だってわかるよ、前からばればれだったよ。小学校のとき覚えてる? うち
のかてきょーやってたタっくん。カヤ知ってるでしょ、あの背高い、いとこのお兄ちゃん。
わたしを見るあなたの目、あの人とおんなじだからねー」
 真名は普段通りという感じの間延びした声。だからこそ、一層それは痛痒いなにかとな
って、佳耶の背すじをぞくぞくと這い回る。
「そんなこと聞いてないし。……マジでいま、そいつとつき合ってんの?」
「気になるよね。ふふ。だいじょぶ、過去形だよ。だってあの人、ばかでつまんないから。
中学上がる前にすてちゃった。もちろん超円満にね。今はいいおともだちだよ」
 なんという悪女。ある種の臨界を迎えつつある佳耶の意識が、ぐらりと遠のきかける。
「ねえ。わたしもカヤが大好きだよ。もちろんそれは、ともだち的な意味でだけど。でも
あなたの性癖も込みで、好きでいてあげられるのね」
 そして。振られた、のであろう一言。でも、いくらなんでもこんな惨めな。
「ちくしょう。ありがたいよ、涙が出てくるぐらいな」
「ぐらい、じゃないでしょうに。あなた泣いてるんだから、いま」
 耳元に囁く声は、震えのくるほどに優しい。涙の伝う頬に温かいものが触れる。真名の
唇だ。なんて残酷なのだろう、と思う。突っ張っていた佳耶の腕からはとっくに力が抜け
てしまっている。そうして真名の思うさまに蹂躙されている。
「ふふ、おっぱいふかふかだ。こんなにどきどきしてるし。わたしはカヤみたいに興奮は
してないよ、だって女の子同士だもの。かわいいね、カヤは」
 蹂躙。もちろん実際には、遊び半分に胸などを触ってきているだけだったが。それは躰
そのものより、おもに心を責め苛んでいる。
 陥落寸前――、佳耶は最後の反攻を試みた。
 腕を振り払い真名の肩を掴み、上背で圧倒。そのまま抱きすくめる。そして、たちどこ
ろにひとつ真名の嘘を暴いた。とくとく、とくとく、と。真名の鼓動は、佳耶のものに負
けず劣らず速くて激しい。ふうう、ふう。囚われた衝撃に荒く震えた息を吐いている。こ
れなら、押し返せるかもしれない。
「あたしはね。兄弟でひとりだけ女なのが、そもそも間違いだったと思ってんの。あたし
にとってはおかしくない。好きな子といれば、胸が高鳴ってしかたないんだ」
「うん」
「でもマナだって、すごくどきどきしてるだろ?」
「そうだねえ」
「それって、なんかの証明だと思わない?」
「……うん。だからわたしのこと、好きにしていいよ。それでカヤが良ければ」
 躰を離してまじまじと見つめる。そうしていると、いまさら暗闇に目が慣れたとでもい
うのだろうか、佳耶にも真名の表情がぼんやりと見えてくる。
「そんなことを……。マナ、あたしにできっこないって思ってるよね。それでいて、あん
たはそういうこと言うんだ」
「怒ってる?」
「ああ、怒ってるよ。泣いても許してあげない。目つぶって大人しくしてなよ。今からお
仕置きするから」
 両手で真名の頬を包み込む。息を呑む音がはっきりと聞こえてくる。それでも目は固く
閉じ、一応は観念している気配。わざとゆっくり顔を近づけて、首すじ、ついで耳元に呼
気を当てて。それから唇を重ねていく。とても時間をかけて慎重に。鼻をぶつけず、歯を
立てないように注意を払って。そうして佳耶は真名の唇の繊細な柔らかさを、躰全体の震
えを愉しみながら、機を見計らう。やがて苦しくなり、息継ぎを求めて唇が小さくあいた
ところに、思い切り舌を割り込ませる。真名の舌はびっくりして奥に逃げていこうとする。
「んぐふ、んむぅ? んんー」なにか抗議の言葉でも言おうとしているのだろうが、その
舌に舌を絡ませ、何度も意地悪く音を立てて吸う。突き放そうにも真名は両腕が使えない。
あらかじめ膝で挟まれて完全に押さえ込まれているからだ。強張ったその躰から、徐々に
抗う力が失われてくる。
198甘やかな暗闇にて (7/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/23(木) 00:00:26 ID:OcfC2+q8
 長い報復を終えて唇を離した。流石に真名は半泣き。存分に混ざり合っていた唾液を、
佳耶は聞こえよがしに喉の音を立てて飲み下す。そして露悪的に言う。
「マナの口のなか、なんか甘ったるいのね」
 髪を触ろうと手をやる。それだけで真名がぎゅっと目を閉じるのが分かる。少しばかり
の罪悪感と、それを上回る嗜虐心とが掻き立てられる。形勢は完全に逆転。
「ねえ。甘いよだれが出てきてたねって言ってるの」
「そんなの。……だとしたら、そういう病気だからだもん。しょうがないでしょっ」
 口応えもしおらしい。
「タっくんだっけ。あの人のことなんかも、さっきみたいに挑発して。それでいいように
おもちゃにされたの?」
 今度はこめかみあたりを指でつつく。指先に力は入れず、つとめて優しく。
「おもちゃにされたとかないから。わたしまだ処女だし。たしかめてもいいよ?」
 そう言うと佳耶の胸にすがりついてくる。なかなかの意地っぱりぶり。
「またばかにして。どうしてそんなこと言っちゃうんだか。だいたいあんた、キスだけで
すっごい怖がってるじゃん。どうせ顔真っ赤だろ」
「怖くないよ。カヤにはわたしをおぼえててほしいから。一生忘れられない、あなたの心
のきずのひとつになるの。そのためなら、処女膜の一枚や二枚どうなってもいいし」
 とんでもないことを言い出した。
「それって二枚とかあるの? ていうか、あのねえ。望んでもいないひどいこと、好きな
子にできるわけないだろ。男じゃあるまいし。あんたの見込みどおりにあたしは女で、臆
病で。けだものにはなりきれないの。そもそも膜とか破れないじゃんっ」
 売り言葉に買い言葉。それでもこれは、言い終わった瞬間に後悔が佳耶を襲ってくる。
最後の一言はないだろう、乙女的に考えて。
 ふー。安堵か落胆か、真名は溜め息をついた。
「いやぁ、ちょっとというかー。かなりお下品だね、わたしたち」
「………」
 気まずい沈黙が流れ始めたそのとき。
 狙い済ましたかのように天井から大音響が響き渡り、エレベーターが上へと動き始めた。
 電気が戻ってきたようだ。しらじらとした蛍光灯の白色がたちまち視界を覆い、暗がり
に慣れていた佳耶と真名は眩惑される。すぐに目が慣れてきて明らかになるのは、痴態と
言われても申し開きのできないお互いの姿。
「うわっ、服! ふく、着ないとヤバいぞっ」
 エレベーターは非常運転モードなのか、直近の階にすぐさま停止して扉を開いた。六階
でございます。間抜けな合成音声の案内とともに、夕暮れの薄暗いマンションの廊下が口
をあける。佳耶は咄嗟にブラウスを羽織りつつドアの閉ボタンを押すも、反応はない。そ
れどころか、今頃になって故障通知のアラームが鳴り出した。扉が開いた時点で人と鉢合
わせしなかったのだけは不幸中の幸いだが、これではすぐに誰かが来てしまう。
 スカートに足を通してファスナーを上げ、靴をつっかけて。慌ててブラウスをボタンの
掛け違いになるのはお約束だ。泣きたい気分でまたボタンを外し。
 そうしているあいだにも、佳耶の視界はしばしば霞む。
「なんだろう、これ。あたしの目、おかしいかも」
 軽い眩暈を感じて俯くと、真名が顔を覗き込んでくる。脇を抱えられて扉の外へ出る。
「わかってるよ。念のためだけど、これからすぐに病院行こう? どこかぶつけたのかも
しれないよ。あなた、ずっとまっくらだって言ってたし。一時的に視力があれなのかも」
 そう言って、開いた携帯を佳耶に振ってみせる。携帯の待ち受けには佳耶と真名ふたり
で撮った写真。それを見て佳耶はようやく理解した。真名には真っ暗闇でもなんでもなか
ったわけだ、少なくとも液晶のバックライトで照らし出される程度には。
「うん。明るいとこで見ても、コブとかなってないし。だいじょぶだと思うよ」
 ことのほか優しく微笑みかけられて、佳耶は次第に耳まで赤くなっていく。そう考えて
みれば色々と、実に色々と恥ずかしいことだらけだ。
「だいじょぶだよ」
 口癖を繰り返し、真名はおどけて言う。
「チョコおごってくれたから、そのお礼ってことで。いわゆるえんじょこーさい?」
「やすっ。チョコバーいっこで言うこときくのか、あんたって子は」
 佳耶は苦笑するよりほかない。なにもかもが見透かされていて、手のひらで転がされて
いる気分になってくる。
「じゃあさ、明日もチョコあげる。そしたらマナはまたつき合ってくれるの?」
 真名はいかにも真剣そうな顔で考えて。次は明るい場所で、もう少しだけ上品に。そし
て優しくしてくれるならと条件をつけてきたのだった。
199甘やかな暗闇にて (7/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/23(木) 00:01:37 ID:+FJSnPWV
 長い報復を終えて唇を離した。流石に真名は半泣き。存分に混ざり合っていた唾液を、
佳耶は聞こえよがしに喉の音を立てて飲み下す。そして露悪的に言う。
「マナの口のなか、なんか甘ったるいのね」
 髪を触ろうと手をやる。それだけで真名がぎゅっと目を閉じるのが分かる。少しばかり
の罪悪感と、それを上回る嗜虐心とが掻き立てられる。形勢は完全に逆転。
「ねえ。甘いよだれが出てきてたねって言ってるの」
「そんなの。……だとしたら、そういう病気だからだもん。しょうがないでしょっ」
 口応えもしおらしい。
「タっくんだっけ。あの人のことなんかも、さっきみたいに挑発して。それでいいように
おもちゃにされたの?」
 今度はこめかみあたりを指でつつく。指先に力は入れず、つとめて優しく。
「おもちゃにされたとかないから。わたしまだ処女だし。たしかめてもいいよ?」
 そう言うと佳耶の胸にすがりついてくる。なかなかの意地っぱりぶり。
「またばかにして。どうしてそんなこと言っちゃうんだか。だいたいあんた、キスだけで
すっごい怖がってるじゃん。どうせ顔真っ赤だろ」
「怖くないよ。カヤにはわたしをおぼえててほしいから。一生忘れられない、あなたの心
のきずのひとつになるの。そのためなら、処女膜の一枚や二枚どうなってもいいし」
 とんでもないことを言い出した。
「それって二枚とかあるの? ていうか、あのねえ。望んでもいないひどいこと、好きな
子にできるわけないだろ。男じゃあるまいし。あんたの見込みどおりにあたしは女で、臆
病で。けだものにはなりきれないの。そもそも膜とか破れないじゃんっ」
 売り言葉に買い言葉。それでもこれは、言い終わった瞬間に後悔が佳耶を襲ってくる。
最後の一言はないだろう、乙女的に考えて。
 ふー。安堵か落胆か、真名は溜め息をついた。
「いやぁ、ちょっとというかー。かなりお下品だね、わたしたち」
「………」
 気まずい沈黙が流れ始めたそのとき。
 狙い済ましたかのように天井から大音響が響き渡り、エレベーターが上へと動き始めた。
 電気が戻ってきたようだ。しらじらとした蛍光灯の白色がたちまち視界を覆い、暗がり
に慣れていた佳耶と真名は眩惑される。すぐに目が慣れてきて明らかになるのは、痴態と
言われても申し開きのできないお互いの姿。
「うわっ、服! ふく、着ないとヤバいぞっ」
 エレベーターは非常運転モードなのか、直近の階にすぐさま停止して扉を開いた。六階
でございます。間抜けな合成音声の案内とともに、夕暮れの薄暗いマンションの廊下が口
をあける。佳耶は咄嗟にブラウスを羽織りつつドアの閉ボタンを押すも、反応はない。そ
れどころか、今頃になって故障通知のアラームが鳴り出した。扉が開いた時点で人と鉢合
わせしなかったのだけは不幸中の幸いだが、これではすぐに誰かが来てしまう。
 スカートに足を通してファスナーを上げ、靴をつっかけて。慌ててブラウスをボタンの
掛け違いになるのはお約束だ。泣きたい気分でまたボタンを外し。
 そうしているあいだにも、佳耶の視界はしばしば霞む。
「なんだろう、これ。あたしの目、おかしいかも」
 軽い眩暈を感じて俯くと、真名が顔を覗き込んでくる。脇を抱えられて扉の外へ出る。
「わかってるよ。念のためだけど、これからすぐに病院行こう? どこかぶつけたのかも
しれないよ。あなた、ずっとまっくらだって言ってたし。一時的に視力があれなのかも」
 そう言って、開いた携帯を佳耶に振ってみせる。携帯の待ち受けには佳耶と真名ふたり
で撮った写真。それを見て佳耶はようやく理解した。真名には真っ暗闇でもなんでもなか
ったわけだ、少なくとも液晶のバックライトで照らし出される程度には。
「うん。明るいとこで見ても、コブとかなってないし。だいじょぶだと思うよ」
 ことのほか優しく微笑みかけられて、佳耶は次第に耳まで赤くなっていく。そう考えて
みれば色々と、実に色々と恥ずかしいことだらけだ。
「だいじょぶだよ」
 口癖を繰り返し、真名はおどけて言う。
「チョコおごってくれたから、そのお礼ってことで。いわゆるえんじょこーさい?」
「やすっ。チョコバーいっこで言うこときくのか、あんたって子は」
 佳耶は苦笑するよりほかない。なにもかもが見透かされていて、手のひらで転がされて
いる気分になってくる。
「じゃあさ、明日もチョコあげる。そしたらマナはまたつき合ってくれるの?」
 真名はいかにも真剣そうな顔で考えて。次は明るい場所で、もう少しだけ上品に。そし
て優しくしてくれるならと条件をつけてきたのだった。
200甘やかな暗闇にて (7/7) ◆S4kd5lZr8I :2008/10/23(木) 00:03:15 ID:CBX2LeTr
 長い報復を終えて唇を離した。流石に真名は半泣き。存分に混ざり合っていた唾液を、
佳耶は聞こえよがしに喉の音を立てて飲み下す。そして露悪的に言う。
「マナの口のなか、なんか甘ったるいのね」
 髪を触ろうと手をやる。それだけで真名がぎゅっと目を閉じるのが分かる。少しばかり
の罪悪感と、それを上回る嗜虐心とが掻き立てられる。形勢は完全に逆転。
「ねえ。甘いよだれが出てきてたねって言ってるの」
「そんなの。……だとしたら、そういう病気だからだもん。しょうがないでしょっ」
 口応えもしおらしい。
「タっくんだっけ。あの人のことなんかも、さっきみたいに挑発して。それでいいように
おもちゃにされたの?」
 今度はこめかみあたりを指でつつく。指先に力は入れず、つとめて優しく。
「おもちゃにされたとかないから。わたしまだ処女だし。たしかめてもいいよ?」
 そう言うと佳耶の胸にすがりついてくる。なかなかの意地っぱりぶり。
「またばかにして。どうしてそんなこと言っちゃうんだか。だいたいあんた、キスだけで
すっごい怖がってるじゃん。どうせ顔真っ赤だろ」
「怖くないよ。カヤにはわたしをおぼえててほしいから。一生忘れられない、あなたの心
のきずのひとつになるの。そのためなら、処女膜の一枚や二枚どうなってもいいし」
 とんでもないことを言い出した。
「それって二枚とかあるの? ていうか、あのねえ。望んでもいないひどいこと、好きな
子にできるわけないだろ。男じゃあるまいし。あんたの見込みどおりにあたしは女で、臆
病で。けだものにはなりきれないの。そもそも膜とか破れないじゃんっ」
 売り言葉に買い言葉。それでもこれは、言い終わった瞬間に後悔が佳耶を襲ってくる。
最後の一言はないだろう、乙女的に考えて。
 ふー。安堵か落胆か、真名は溜め息をついた。
「いやぁ、ちょっとというかー。かなりお下品だね、わたしたち」
「………」
 気まずい沈黙が流れ始めたそのとき。
 狙い済ましたかのように天井から大音響が響き渡り、エレベーターが上へと動き始めた。
 電気が戻ってきたようだ。しらじらとした蛍光灯の白色がたちまち視界を覆い、暗がり
に慣れていた佳耶と真名は眩惑される。すぐに目が慣れてきて明らかになるのは、痴態と
言われても申し開きのできないお互いの姿。
「うわっ、服! ふく、着ないとヤバいぞっ」
 エレベーターは非常運転モードなのか、直近の階にすぐさま停止して扉を開いた。六階
でございます。間抜けな合成音声の案内とともに、夕暮れの薄暗いマンションの廊下が口
をあける。佳耶は咄嗟にブラウスを羽織りつつドアの閉ボタンを押すも、反応はない。そ
れどころか、今頃になって故障通知のアラームが鳴り出した。扉が開いた時点で人と鉢合
わせしなかったのだけは不幸中の幸いだが、これではすぐに誰かが来てしまう。
 スカートに足を通してファスナーを上げ、靴をつっかけて。慌ててブラウスをボタンの
掛け違いになるのはお約束だ。泣きたい気分でまたボタンを外し。
 そうしているあいだにも、佳耶の視界はしばしば霞む。
「なんだろう、これ。あたしの目、おかしいかも」
 軽い眩暈を感じて俯くと、真名が顔を覗き込んでくる。脇を抱えられて扉の外へ出る。
「わかってるよ。念のためだけど、これからすぐに病院行こう? どこかぶつけたのかも
しれないよ。あなた、ずっとまっくらだって言ってたし。一時的に視力があれなのかも」
 そう言って、開いた携帯を佳耶に振ってみせる。携帯の待ち受けには佳耶と真名ふたり
で撮った写真。それを見て佳耶はようやく理解した。真名には真っ暗闇でもなんでもなか
ったわけだ、少なくとも液晶のバックライトで照らし出される程度には。
「うん。明るいとこで見ても、コブとかなってないし。だいじょぶだと思うよ」
 ことのほか優しく微笑みかけられて、佳耶は次第に耳まで赤くなっていく。そう考えて
みれば色々と、実に色々と恥ずかしいことだらけだ。
「だいじょぶだよ」
 口癖を繰り返し、真名はおどけて言う。
「チョコおごってくれたから、そのお礼ってことで。いわゆるえんじょこーさい?」
「やすっ。チョコバーいっこで言うこときくのか、あんたって子は」
 佳耶は苦笑するよりほかない。なにもかもが見透かされていて、手のひらで転がされて
いる気分になってくる。
「じゃあさ、明日もチョコあげる。そしたらマナはまたつき合ってくれるの?」
 真名はいかにも真剣そうな顔で考えて。次は明るい場所で、もう少しだけ上品に。そし
て優しくしてくれるならと条件をつけてきたのだった。
201 ◆S4kd5lZr8I :2008/10/23(木) 00:04:59 ID:CBX2LeTr
以上……ってすんません、最後連投規制で荒らし状態になった(><)
20210/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/23(木) 00:25:35 ID:ZlYIn0Xk
GJ!
203名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 00:30:13 ID:xB2ppYzt
エローいwまろーいw

うーむ、投下時に遭遇してたら支援したのに
てかROMってるそこの君、SS投下するときは恥ずかしがってないで支援レスしようぜ
20410/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/23(木) 00:35:58 ID:ZlYIn0Xk
両方ちょっとだけ黒いのがいかにも女の子っぽい
205名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/23(木) 21:45:50 ID:2zAH6+4/
黒い女の子良いなぁ
206sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/10/24(金) 22:29:32 ID:5k+iUhdd
なんか少しにぎわってきましたね。うれしいなぁ。

>>187
短いのにちゃんとまとまってて、しかもエロいw

>>192
狙い通り?w

では、久しぶりに一次創作を投下します。

>>115
「いばらの森奇譚」の主人公に、どうやら友達ができたみたいです。

ではいきます。
207副委員長とあたし(1):2008/10/24(金) 22:35:56 ID:5k+iUhdd

 ──それはたぶん、
 ──どこにでもいるような女子中学生の身に降りかかった、
 ──ほんのすこしの出来事。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『副委員長とあたし』(改訂版)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 あたしが我に帰ったのはどのくらいのことだったろうか。五分。いや、もっと短いな。

 無性に笑いがこみ上げてくる。とにかく誰かに話したくてたまんない。でも、誰がいいだろうか?
残念なことに我が愛すべき保護者たちは不在だし。

 なぜかそのとき頭に浮かんだのは、クラス副委員長であるところの花菱美希の怒り狂った顔だった。

 あれは先週くらいのことだったか。どうしても気分が乗らず学校を無断欠席したことがあった。そしたら彼女は、
それはもうメチャメチャ怒って。放課後、あたしの家までやってくるなり、こう宣言した。

  『明日の朝から迎えに来るからっ!』

 その言葉通り、翌日から彼女は朝になると家に押しかけてくるようになった。もちろんそれは、あたしを無理やり
学校に引きずっていくためだ。最初のうちはすごくイヤだったけど、そのうちアニメの話とかで盛り上がるようになってからは、
さほどでもなくなった。たとえばあたしが今秋から「ガンダムOO」を見始めたのは、間違いなく彼女の影響だったりする。
まあ今のところ受け攻めだのカップリングだのに興味は沸かないが。

 花菱は、背の高さこそあたしと似たようなものだけど、あたしなんかよりずっとスリムな造りで、でも出るべき所は
きっちり出てる、結構可愛い女の子。すっごい色白で、ひょっとして美肌とかしてんのかな。肩にかかるくらいに切りそろえられた
髪の毛に至っては、もうありえないくらい艶やかで、いったいどうやってケアしてるんだろうと時々不思議に思うことがある。
208副委員長とあたし(2):2008/10/24(金) 22:39:50 ID:5k+iUhdd

    ◇

 あの日彼女は『どうしても休みたくなったら私に連絡して』と携帯の番号とメルアドを押し付けていった。
その後、彼女からかかってきたことは何度かあるけど、自分からかけたことは一度もない。面倒なので
アドレス帳には未だに登録していなかった。仕方がないので、とりあえず携帯の着信履歴を頼りにコールする。一回、二回、三回……。

 五回目で彼女が出た。
『はい、花菱です。うれしいな、柊から電話なんて』
「ごめん、今ちょっと話せる?」
『うーん、もうすぐ塾に行かなきゃならないけど。でも十分くらいならいいよ』
「いやまあ、別に大したことじゃないんだけど。実は……」

 と、さきほど起こった事件の顛末を、あたしはかいつまんで話した。笑いの発作を抑えながら。

 それは自宅のリビングで家族共用のPCをいじっていた時のことだ。何かが窓の外で動いたような気がして、
何気なくあたしは顔を上げた。その視界に飛び込んできたのは、ひとりの男の子の姿。ランドセルを背負っているから、
どうやら小学生らしい。背格好から見てたぶん高学年。時間から考えて、おそらく六時間目が終わって
家に帰る途中だったのだろう。そこまではまあ普通だ。

 そいつが、思いっきりズボンを下ろしているのを除けば。

 いったいこんなところで何しているんだろう。最初に沸いた疑問はそれだった。リビングから見える光景は
あたしの住んでいるアパートの裏庭で、その先には小さな山があるという風情。少なくとも小学生の通学路ではありえない。
そいつのことをもっとよく観察しようと、あたしは目を細めた。

 双方にとって不幸なことに、実によく見えた。そいつのオ○ンチンが。しかもその先っちょから黄色っぽい液体が
ほとばしっている所まで、それはもうしっかりと。

 見つめること十数秒。ようやく事態の重大さが飲み込めた。

 こ、こいつ、よりにもよって人ん家の軒先で立ちションしてやがるっ!

 アパートの中からあたしに見られてるとも知らずに、そいつはとても気持ちよさそうに生理的欲求に身をゆだねてた。
やがて液体の放出が終わると、モノをふりふりっと振り、それから衣服を整えて、そいつは何事もなかったかのように
表通りの方へと去っていった。

「……ってわけ。めっちゃ笑えるでしょ?」
 だが残念なことに花菱は大して面白いとは思わなかったらしい。妙に彼女の声が硬い。
『うん、話はわかった。少し待ってて。すぐそっちに行くから』
「えっ。いやでも、これから塾あるんでしょ?」
『そんなのいいから。絶対待ってて。絶対だよ』
 何度も何度も念押ししてから電話は切れた。

 わっかんないなあ。いったい花菱は何をあわててたんだろうか。
209副委員長とあたし(3):2008/10/24(金) 22:45:28 ID:5k+iUhdd

    ◇

 わりと男女問わず人気があるっぽい。頭の回転も悪くない。けっこう空気も読める。保健室の窓からグラウンドで
体育してるのを何度か見かけたけど、いつも花菱は特定のグループの中心だった。そのグループ自体、クラスの中では
ルックスのいい娘ばかり。

 やはり彼女の立ち位置は一軍のような気がする。そもそも立っている場所からして違うのだ。
あたしみたいな、クラスのどこにも居場所のない、最低ランクの人間とは。

 ただ気になることもないわけじゃない。なんだろう、彼女にはいつもどこか醒めたような印象がある。
笑顔自体は絶やさないけど、まるで仮面をかぶっているみたいな感じ。頭の中にあれこれと彼女の顔を浮かべてみる。
そしてようやく理由らしきものが思い浮かんだ。そうか、目だ。彼女の目が笑っていないんだ。

 そこまで考えがおよんだところで、あたしはより重大な懸案事項の存在に気がついた。

「あ、ヤバ」

 少しは部屋、片付けとかないと。「figma柊かがみ」とか思いっ切りまずいし。

 すぐ行くって言ってたけど、どのくらいかかるのだろう。そういえば、あたしは彼女の家がどこにあるかも
知らないんだっけ。再びあたしの頭の中で、彼女の存在が膨れ上がる。

 花菱とは二年のときに同じクラスになった。

 保健室登校をしてるあたしのところに、先生たちが作った自習用のプリントを持ってくるのが、彼女の日課のひとつだった。
だけど一学期のときは、まともに言葉を交わした覚えがない。あれは確か二学期が始まって何日かしたころだったと思う。

  『あれっ、それ「らき☆すた」じゃない?』
  『へえ。花菱、これ知ってるんだ』
  『うんまあ。昔、聴たことあるよ。ニコ動で』

 たまたまあたしが学校に持ち込んでいた「らき☆すた」のコミックに彼女が興味を持ち、それをきっかけに
少しだけ話すようになった。幸い保健室であれば、クラスの連中にとやかく言われる恐れもなかったし。

 意外なことに彼女の知識はアニメにもおよんでいた。まあどちらかというと「銀魂」、「BLEACH」、
「コードギアス 反逆のルルーシュ」、それに「ガンダムSEED」や「ガンダムOO」といった、
なにやら腐女子の香り漂う系統がお好みのようだったけど。

 部屋のヤバそうな品物をクローゼットに押し込みながら、あたしはそんなことを思い出していた。
210副委員長とあたし(4):2008/10/24(金) 22:50:39 ID:5k+iUhdd

    ◇

 十分ほどで花菱はやって来た。それも自転車で。ずいぶんと飛ばしてきたらしい。可愛らしい顔やTシャツが
もう汗びっしょり。気の毒なくらいに息も上がってる。細くて漆塗りを思わせる髪の毛が、何本もおでこに張り付いてる。
あわててあたしは、乾いたバスタオルを探し出してくると彼女に手渡した。

「お邪魔しまーす」
「あ、今家には誰もいないから。遠慮なく上がりたまえ」
 玄関からそのまま自分の部屋に招き入れる。そういえばここに引っ越してきてからもう一年になるけど、
家族以外の誰かを入れるのは初めてだ。

 部屋に入るなり、彼女はコンビニ袋を押し付けてきた。中には無造作に詰め込まれたペットボトルと
何種類かのお菓子が入ってる。『ロイヤルミルクティー』とか『ちょこりんこ2』とか、何気にあたしの好みの
チョイスになっているのが少し嬉しい。

「ささっ、飲んで食べて」
 勝手にあたしのベッドに座って、隣をポンポンと叩く。
「ほら、ここに座る」
「えと、あたしの部屋なんだけど、ここ」と指摘してみる。けど「まあまあ」と軽くあしらわれてしまう。
「そんなことより、ほら。溜め込んでないで話してみ。きっと楽になるから」
「え……? 話が見えないんだけど」
「だって柊、怯えてるでしょ、何かに」
「怯えてる? あたしが? いったい何に?」
 失笑を浮かべる花菱。そんなにあたしはアホなことを言ってるだろうか。
「そんなこと、私にわかるわけないでしょ。だからこうして聞いてるんじゃない」
 そうか、怯えてるのか、あたしは。

 ふうっと深呼吸する。

 甦る。
 暗い記憶。
 思い出したくもない事件──。

 あれは今年の春先、病気で入院してた時のことだった。

 ある日の夜遅く。ふと異様な気配に目を覚ますと、ベッドのそばに下半身を露出した男性看護師が立っていた。

 あまりのショックに悲鳴すら出せなかった。かろうじて半身を起こしたところでがっしりと両肩を掴まれる。
そいつの顔が近づいてくる。五十センチ。四十センチ……。

 あとほんの十センチくらいだったと思う。敵が有効射程距離に侵入。日頃の鍛錬の成果。身体が自動的に反応。
自分の両手で相手の両耳をホールド。軽く頭を後ろに反らせ、そのまま男の顔面に渾身のヘッドバッド。

 鼻血を噴出させながら男は卒倒する。静まり返った真夜中の病棟に信じられないほどの大音響が響き渡った。
人間にはどうしても鍛えられない急所がいくつかある。たとえば鼻もそのひとつ。あたしの苦し紛れの一撃は、
そこを見事にクリーンヒットしていたのだった。

 慰謝料とかはそれなりに貰ったらしい。でもあたしや親たちの不信感はどうにもならず、結局今の病院に転院した。
その看護師がどうなったかは知らない。知りたくもない。

 そんな、もう終わったはずの事件──。

 話を聞き終えた花菱が、あたしのことをそっと抱き締める。
「ねえ柊。こういう時はさ、泣いてもいいんだよ?」
 なぜか花菱の汗の匂いがとても心地いい。優しさに包まれてるって感じがした。

 あたしが落ち着いたのはどのくらいのことだったろうか。三十分。いや、もっと長いな。
211副委員長とあたし(5):2008/10/24(金) 22:55:33 ID:5k+iUhdd

    ◇

「今日はありがと。なんかお礼がしたいんだけど」
「いいよ、別に。そんなつもりで来たわけじゃないし」
「だって塾とかも休んだんでしょ。悪いよ」
「私が勝手に心配して勝手に飛んできただけだもん。柊の気にすることじゃないって」
 ブランド物のスニーカーを履きながら、花菱がひらひらと器用に右手を振る。
「いや、それじゃあたしが引きずっちゃうって。なんでも言って。できることならなんでもするから」
「まあ、そこまで言うなら……」
 しばしの間考え込んでから、ぱあっと顔を輝かせる。
「じゃあこれから、二人っきりの時は『美希』って呼んで」
「は? ……そんなんでいいの?」
「もちろん。最高のお礼だよ、それ。柊には──咲夜にはわかんないだろうけど」
 一点の曇りもない、極上の笑顔を彼女は浮かべていた。人間ってこんなにも嬉しそうな表情が
できるものなのか。妙なところであたしは感心してた。
「わかった。これからは花菱のこと、美希って呼ぶことにする」
 その瞬間、彼女は身体をふるふるっと震わせる。
「ねえ、もう一回名前呼んで」
「美希」
「もう一回」
「……美希」
「もう一回」
「……もういいでしょ?」
「もう一回だけ。これで終わりにするから。お願い」
 そんなやり取りを十回以上は繰り返させられた。

「じゃあ、また明日、朝八時にね。遅刻とか欠席とかは許さないぞ」
 そう言い残すと、花菱は──いや美希はドアの向こうに姿を消した。一人あたしは玄関に取り残される。

 なんなんだろう、このものすごい喪失感は。



 帰ってきた親に声をかけられるまで、そのままあたしは玄関で呆けてたらしい。
212副委員長とあたし(6):2008/10/24(金) 22:58:37 ID:5k+iUhdd

    ◇

 翌朝。
「ね、手、引いてあげよっか?」
「えー、必要ないよ別に。今のところ、そんなに困ってないし」
 最近のあたしはけっこう体調がいいのだ。いちおう念のために杖は持ってるけど、
平地ならほとんど必要がないくらいに。
「ひっど。昨日はなんでもお礼に言うこと聞いてくれるって言ったじゃん」
「それはもう終わった話でしょ」
「ぶー。どうせならキスとかエッチとかにしとけばよかったかな」
 ……待て待て待て。なんか危ないこと口走ってるぞ、こいつ。
「ちょ、美希。おまっ、何言ってんだ」
「ふふ、冗談だって。意外に咲夜って純情ちゃんだね。可愛いな」

 ととっと二、三歩先行してから、こちらに向かってくるりとターン。
 制服のジャンパースカートがふわりと浮き上がる。

「ほら、行こ。遅刻するよ」

 秋の日差し。
 宇宙まで見えそうな青空。
 紅葉のきざしを感じさせる山並み。
 夏の残り香が未だに漂う青々とした草原。
 名も知れぬ鳥が飛び交い、秋の虫が合唱会を開催する田舎道。

 そんな世界の真ん中で。

 美希が、笑ってる。
 あたしのことを見つめながら。
 あたしのことだけを見つめながら。
 あたしだけしか知らない極上の笑顔を浮かべてる。

 そよ風が空を、山を、草原を駆けぬけて、美希の髪の毛に悪戯していく。
 彼女が慣れた仕草でそっとそれを撫でつける。
 その仕草はひどく扇情的で。

 あたしにはそれがとても、この世の光景とは思えない。

 なんだろう、まるでここは──そう、妖精空間とか?



 そんな陳腐な言葉しか思いつけないあたしという存在が、ほんの少しだけ、悲しかった。

  (Fin)

213sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/10/24(金) 23:01:38 ID:5k+iUhdd
以上です。

ありがとうございました。
21410/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ:2008/10/24(金) 23:21:07 ID:g1ehaSEI
おつー
後半のやり取りがいいなぁ
215名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 09:04:33 ID:oDv88r3+
>>213
GJ!!

でもどうしてもこのシリーズは涙が出てしまう。
216名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/25(土) 16:41:27 ID:hv/6lwgE
GJでした
こういうソフトなのもいいねぇ、ニヤニヤしてしまう
217名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/10/31(金) 20:37:11 ID:yWT4zu2m
218名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/03(月) 00:07:30 ID:0K+k2vjH
あげ
219sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/11/03(月) 17:25:12 ID:Jmn9u3tm
どうも。

>>180
以前に投下した「サーニャ/こころのうた」に曲をつけてみたら、
破壊力三割増(当社比)になったような気がしたので、
ニコ動においてみました。

ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm5066749

と、これだけではなんなので、スレ支援を兼ねて。

「ストライクウィッチーズ」の二次創作、今度はエイラのモノローグです。
「サーニャ/こころのうた」とセットになってますので、あわせてお読みいただければと。

2〜3スレほどお借りします。
220エイラ/つばさのうた(1):2008/11/03(月) 17:29:20 ID:Jmn9u3tm
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『エイラ/つばさのうた』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

いつの頃からだろうか。

無傷の撃墜王、などとおだて上げられ、すっかりいい気になっていた。
敵を墜とせば戦いに勝てる。そう無邪気に信じていた。

おとといは三機、きのうは五機、今日は八機。
おもしろいように戦果をあげた。

だが。

墜としても、
墜としても、
墜としても。
一向に減る気配のない敵。
一人、また一人と失われる味方。

気づかぬ間に、
疲れと焦りが、
澱のように溜まっていった。

ある日、避難民の行列を見た。

疲れきった大人。
泣き声すら上げられない幼子。
そんな人たちに共通していたのは、
ひとかけらの希望も残されていない、

濁った眼。

数多くの犠牲者。
そしてそれに数倍する、
おびただしい避難民の列、列、列。

なんとかしなければならない、なんとか。
しかし今の私には、その力がない。

それを見てしまったとき、
それに気づいてしまったとき、
自分の翼の折れる音を、私は確かに聞いた。

それからは酒と女に溺れる毎日だった。
最初は心配してくれていた仲間達も、
やがて愛想をつかしていった。
221エイラ/つばさのうた(2):2008/11/03(月) 17:32:06 ID:Jmn9u3tm



そして私は、サーニャと出会った。



彼女の第一印象。それは、

綺麗な眼。

連想したのは、故郷の蒼い湖。
この瞳だけは絶望で曇らせたくない。そう思った。

彼女と飛ぶごとに、
彼女と言葉を交わすごとに、
彼女と寝食を共にするごとに、

その気持ちは強く、大きく育っていった。

この出会いは、奇跡とかいう奴だろうか。

いや、違う。

全てを傍観している神さま。
何もしない神さま。
無意味な神さま。

くだらない。

神さまなんか信じない。
奇跡なんか必要ない。

戦争。
それは試練。
私に与えられた試練。
人類に与えられた試練。

であるならば、
今の私に必要なもの。
それは、
奇跡なんかじゃない。
神さまなんかじゃない。

今の私に必要なもの。
それは、
信じる心。
折れない心。
くじけない心。

守りたいと願う気持ちが、
人と人との絆が、

力となる。
希望となる。
固い鎖となる。
私を支えてくれる。
仲間を支えてくれる。
222エイラ/つばさのうた(3):2008/11/03(月) 17:35:57 ID:Jmn9u3tm

地球の五十億年の歴史。
生物の五億年の歴史。
人の百万年の歴史。

進化の果てに到達した、もっとも善き物。

その穢れなき想いがある限り。

私に、
魔女に、
そして人類に、
敗北の文字はないだろう。



いつの頃からだろうか。

折れない翼を私は手に入れていた。

私は守りたかった。
この世界を守りたかった。
サーニャのいてくれる世界を守りたかった。
サーニャが愛している人、モノ、故郷。その全てを守りたかった。

今度こそは、

決して引かない。
決して負けない。
決して退かない。

今の私はひとりではないのだ。

仲間がいてくれる。
サーニャがいてくれる。

だから、飛べる。
だから、戦える。
だから、生きられる。

サーニャの存在に、
どれほど支えられてきたか、
どれほど勇気付けられてきたか、
どれほどなぐさめられてきたか知れない。

だが私はこんな性格だ。
面と向かって礼を言うなんて無理。
なによりそれは私の生き方に反すること。

だから私は心の中でだけつぶやくのだ。
万感の想いをこめた、ただひとことの感謝の言葉を。

サーニャ、ありがとう。

  (Fin)
223名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/03(月) 17:45:40 ID:Jmn9u3tm
以上です。

ありがとうございました。
224名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ:2008/11/04(火) 23:00:45 ID:TXzTCdqs
ポエムよりのSSとしては好きな方


前口上があるだけに
「進化の果てに到達した、もっとも善き物。その〜」
にはもうちょい具体的な示唆与えるか、軽く衒った印象表現で補いまくったりした方がいいんじゃないかなと思いました
225sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/11/05(水) 16:47:54 ID:JwaoVeMp
>>224
ご指摘ありがとうございます。
自分もこの部分は「言葉が足りないかも〜」と気になっていました。
どのように直すかは、もう少し考えてみます。

226創る名無しに見る名無し:2008/11/08(土) 20:20:32 ID:IlAoTXF5
227創る名無しに見る名無し:2008/11/11(火) 00:07:20 ID:G9F2xGEu
伝記百合作成中
228創る名無しに見る名無し:2008/11/15(土) 11:42:13 ID:FlUIUmRN
天気百合?
229創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 09:32:49 ID:6g7e1yrH
太陽×雨雲で百合か
230創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 19:08:43 ID:L72AP2AQ
雨「私みたいなじめじめした子、みんな嫌いだよね……。太陽さんだって……」
陽「そんなことないわ!あなたがいないとみんな枯れてしまう。もっと自信持ちなさい、雨雲ちゃん!」
雨「太陽さん……」

こうですか?わかりません><
231創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 19:14:12 ID:fSM/eBzH
陽「あらあら、こんなに濡らしちゃって…いけない子ね」
雨「だ、だってわたし…」
陽「言い訳するのはこのお口?」
雨「んむっ…!」

太陽に近いと乾いちゃうから雨が陽に苦手意識もってるとかいいかも
232創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 19:30:42 ID:L72AP2AQ
>>231
さすがIDがSMなだけあるなw
233創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 19:40:12 ID:AyDHdm1/
雨子ちゃんと陽子さん
234創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 19:43:45 ID:6g7e1yrH
>>231
むしろ雨雲は気にしていないんだけど、太陽が遠慮してあまり近づかない

雨雲「わたし、太陽さんに嫌われてるのかな……」
のコンボで
235創る名無しに見る名無し:2008/11/16(日) 23:18:11 ID:AyDHdm1/
>>231
えろえろですか
236創る名無しに見る名無し:2008/11/17(月) 23:25:44 ID:WiVqCwb0
まさか太陽と雨雲で萌えるとは…
237創る名無しに見る名無し:2008/11/18(火) 01:02:17 ID:IMcqEOVF
腐女子にできて俺たちにできないわけがない!
238創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 18:49:32 ID:SgKEOC6f
月「あなたが最近、太陽に近づく子ね」
雨「お、お月さん…」
月「ふん、どうして太陽もこんな地味な子を…。
あ、もうやだ!何してるのよ!こっちまで雲にかかっちゃったじゃない!!」
雨「ち、違うの!これは!?」
月「違う?ふふん、まあいいわ。償いはしてもらうわよ。
――明日は雨なんだから」
239創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 21:05:06 ID:QevTi5kx
妄想が広がりんぐ
240創る名無しに見る名無し:2008/11/22(土) 00:20:23 ID:Cyyq5mzu
登場人物としては、太陽、月、雨雲か……


実はこう月のことを隠れて想うオーロラとか星とか
241創る名無しに見る名無し:2008/11/22(土) 02:39:57 ID:6hr5SeX0
月はツンデレ、太陽をかってにライバル視して追っかけまわしてる
星は月の後輩、月にあこがれてストーカー→煙たがれる、ドM

とかどうよ?
242創る名無しに見る名無し:2008/11/22(土) 03:54:03 ID:RP0AwVcf
ツンデレの一言で片付けるには惜しいクセがあると信じてる
>>月
243創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 10:38:33 ID:sFzNZ0tU
ようやくアオイシロが届いたぜひゃっほう
244創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 21:27:40 ID:nSgY9HpC
>>243
忙しくて予約しに行けなかった人がやすみんばりのジト目で見てるよ
245sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/11/24(月) 15:49:00 ID:PZML2hO8
久しぶりに一次創作を投下しますね。

>>115-119
「いばらの森奇譚」
>>207-212
「副委員長とあたし」

の続きです。

ではいきます。
246初冬のひととき/終わりの始まり(1):2008/11/24(月) 15:52:03 ID:PZML2hO8
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『初冬のひととき/終わりの始まり』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 十一月も、残すところあと十日たらず。

 冬の兆しを顕す弱々しい陽の光。
 深い青で染め上げられた空に浮かぶ巻層雲。
 ぴいん、という音が聞こえるような、張り詰めた空気。
 彼方の山並みは紅葉の時期を過ぎ、すでに枯れ木の賑わい。
 道を覆い尽くさんばかりの、赤、橙、黄色、茶色の落ち葉のじゅうたん。

 玄関を一歩出たとたん、あたしたちの身体はぶるっと震える。

「寒いね」
「うん」

 短い会話。

「手袋、持ってくればよかった」
「そんなに寒い?」
「うん、まあね」

 不意に美希が、あたしの左手を握り締めると、そのまま自分の胸元へと押し付けた。彼女の胸がむぎゅっと潰れる感触が伝わってくる。

「ちょ……!」
「これであったかいでしょ?」
「ヤバいって。誰が見てるかもわかんないのに」
「ヤバくない。誰が見てたっていいもん」
「ううっ」

 すでにあたしの左腕には、美希の手を振りほどく力は残されていない。昨晩聞いたばかりの美希の切なげな声が生々しく脳裏によみがえり、あたしは頬がかあっと熱くなるのを感じる。

「せめて上着のポケットとかにしてよ」
「何それ、エローい」
 くすくすと美希が笑う。
「胸に手を押し付けるのはエロくないのか」
「下手に隠すのがよくない。こういうのは堂々としてたほうがいいの」
「ほんとかよ」
247初冬のひととき/終わりの始まり(2):2008/11/24(月) 15:55:23 ID:PZML2hO8

 狭苦しい山あいの道。その申しわけ程度の歩道を、あたしたちは一歩ずつ踏み締めていく。

 やがて歩道もなくなり、簡易舗装の道だけが林の間を突っ切っていく。

 ざわざわ。
 ざわざわ。
 ざわざわ。

 北風にあおられた木々のざわめきだけが聞こえる。落ち葉が風に舞い、あたしの頬にぺしぺしとあたる。一枚二枚ならまだしも、何十枚と襲い掛かってくるとなると、なかなかにうっとおしい。

 頭についた落ち葉の欠片を、美希がはらってくれる。

「ありがと」
「うん」

 なおも歩き続けていると、二羽の山鳩が、道のど真ん中で何かをついばんでいるのが見えた。思わず軽口が飛び出す。

「あれ、美味しいかな」
「食べられるの?」
「焼き鳥とか」
「咲、ほんとに焼き鳥好きよね」
 呆れたような声を美希が上げる。

 いつの頃からか、美希はあたしのことを「咲」と呼ぶようになった。そう呼ばれるのは少しだけ心地いい。それは美希だけが知っている、美希だけに許した、あたしの呼び名だから。

「小さい頃、道場からの帰り道でさ。一本七十円の焼き鳥買って、食べながら帰ったんだ。あれは美味しかったなぁ」
「じゃあ今度、作ってあげようか?」
「へえぇ、美希って焼き鳥できるんだ」
「やったことはないけど、細かく切って串刺しにして焼くだけでしょ。道具があればなんとかなると……なると思うけど」
「……期待しないで待ってる」
「ぶー。それは私に対する重大な挑戦ね」

 そんなことを話している間に、山鳩たちは身の危険を感じたのか、さっさと飛び立ってしまった。

 やがて古ぼけた石造りの階段が、あたしたちの行く手を遮る。

「回り道、する?」
「いや。今日は、登れそうな気がするから」
「わかった」

 今日を逃すと、もう二度と登れないから、とは言わなかった。言えなかった。
248初冬のひととき/終わりの始まり(3):2008/11/24(月) 15:59:22 ID:PZML2hO8



 今週の検査の結果はひどく悪いものだった。

 握力や蹴り上げる力の低下もさることながら、重大な懸念材料として浮上したのは肺活量の異常な値。それは先月の三分の一、九〇〇mlにまで落ち込んでいたのだ。ついにあたしの病魔は、肺を動かすための必須の筋肉、呼吸筋をも食い荒らし始めたのだった。

 あたしには二つの選択肢が示された。

 ひとつは即時入院し、人工呼吸器に接続する。出来る限り身体を安静に保ち、リハビリによって筋力の低下を引き伸ばし、延命を図る。

 もうひとつは薬を使って呼吸筋を刺激する療法。この場合、自発呼吸能力は改善され、ある程度は在宅治療も可能だが、その代償として運動能力が損なわれる。

 薬の使用を、あたしは希望した。迷いはなかった。

 一日でも長く今の生活を続けたかった。いや、しがみついていたかった。ネットの向こうであたしに声援を送ってくれる人たちに。自然に恵まれた家に。愛すべき保護者たちに。そして、美希に。

 薬を使い始めて三日。確かに呼吸はめざましく改善された。少し動いただけで息切れするようなこともない。夜中に息苦しくて目が覚めることもない。これはとても助かった。

 もちろん、大きな代償も支払わされた。

 まず左手の肘から先に力が入らなくなった。肩より上に持ち上げることは、もう出来ない。キーボードもしょっちゅう打ち間違える。予測されていた事態とはいえ、これはかなり堪えた。

 次に左足。ひざを持ち上げるのも一苦労だ。ちょっとした段差でもつまずいてしまう。自分ではクリアしてるつもりでも、足がまったく言うことを聞いていないらしい。

 そして今日。右ひざから下の部分で麻痺がはじまった。感覚がすっかり鈍くなってしまったため、地面を踏みしめても不安定なことこの上ない。まるで雲の上を歩いているみたいだ。

 この調子だと、自力で歩けなくなるのは時間の問題だろう。
249初冬のひととき/終わりの始まり(4):2008/11/24(月) 16:03:03 ID:PZML2hO8



 あれは昨日の夜のことだ。あたしは美希に全てを話した。

 その上で彼女に別れを告げるつもりだった。残された者の痛み。心が半分死んでしまうほどの辛さ。そんなものを彼女に味あわせたくなかった。

 だが全てを聞き終えた美希の反応は、実に意外なものだった。

『それは得がたい経験ね』

『だからその経験値、私にも半分わけて』

『もし咲が生き続けるためにこの世に未練が必要なら、私がその未練になるよ』

 もはや突き放すことなど、あたしにはできなかった。

 そしてあたしたちは最後の一線を越えた。大人たちから見ればそれは児戯に等しい睦事だったかもしれないが、あたしと美希にとっては一種の誓約の儀式にほかならなかった。



 あたしたちは無言で階段を登る。

 言葉などいらない。

 この一歩が。
 この一呼吸が。
 このひとときが。

 あたしたちの絆。
 あたしたちの記憶。
 あたしたちの思い出。



 十一月も、残すところあと十日たらず。

 あたしたちの最後の冬が、始まろうとしていた。

  (Fin)

250sakuya ◆GtV1IEvDgU :2008/11/24(月) 16:07:49 ID:PZML2hO8
以上です。

いちおう、咲夜と美希の物語はこれでおわりです。
ひょっとしたら、もう一話くらいできるかもしれませんが、
なにせもう左手があまり言うことを利かないので……。

短い間でしたが、ありがとうございました。
251創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 16:37:07 ID:5HHL/6Ln
>>250
GJ. しかし、切ない(T_T)
# もしや、と思うのは、言わぬが花、なんだろうなぁ……。
252創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 18:19:15 ID:64UiddO9
>>246-250
読んだよーGJだった
こうなってしまうことは必然なのかもしれんけど、悲しいねえ
253創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 21:49:36 ID:nIxmzwdg
>>250
GJでした。
切なくも暖かい話をどうもありがとう
254創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 22:45:23 ID:aAaRtaW4
初心者スレに投下したのだけど投下しますね。
255 ◆cA6dKyFJJM :2008/11/26(水) 22:46:26 ID:aAaRtaW4
「カナコ、なにしてるの」
 フレームの曲がってしまったメガネを手にした私に、サヤカがベッドの上から気怠るそうに声をかけてきた。
「――メガネ壊れた」
「ああ、やっぱり? 昨日なんか踏んだ感じがしたんだ」
「その時に言ってよ!」
「言った所で無駄。『お願い! やめないでぇ〜!』だなんて言ってたし」
 ううぅ、と間抜けな泣き声をあげた私を、サヤカは寝ぼけ眼でブラかなにかを探しながら鼻で笑う。
 いやー、昨日は萌えた燃えた、そう付け足してくるサヤカをにらむけれど、輪郭がぼやけてハッキリ見えない。
 昨日のままだとしたら一糸まとわぬ姿の筈だ。
 サヤカの無駄な肉が付いていない肢体は見馴れているかけれど、良く見えない事で無駄な想像が入る余地が出来る。
 なんだか無駄な妄想――もとい、想像をしてしまいなんだか恥ずかしい。
 そう言えば私も似たり寄ったりの格好だった。その方が恥ずかしい。
 ベッドの上じゃちっとも恥ずかしくないのが不思議だ。
「早く着替えないとまずいんじゃない?」
「そんな事言われても……良く見えないし」
「仕方ないなぁ。私が着替えさせてあげようか?」
「それだけは勘弁して」
 私は壊れたメガネをかけてどうにか着替える。かなり見にくいけど無いよりはマシなレベルだ。
 も同様に着替えている。彼女は凛とした、どちらかと言えばカッコイイ感じの服装を好み、それが似合っているので羨ましい。
 彼女に言わせれば、背が小さい私は可愛いそうだ。服を買いに行けば、彼女が好みのロリ系の服を勧めれる。
 お互いの理想とは真逆のスタイルは恨めしいけど、理想のスタイルのパートナーを見つけれた事は幸せなのかも知れない。
「カナコさぁ、今日どうすんの?」
「昔かったコンタクトしようと思うけど」
 引き出しからコンタクトを探している私に、サヤカはいきなり後ろから抱きついてきた。
「コンタクトはダーメ。だってさ、メガネをしてないカナコを見るのってベッドの上かお風呂だけじゃん。反応しちゃうよ」
「反応!?」
「どう、試してみる?」
 首筋に息を吹きかけながら、サヤカは私の身体をまさぐって来る。
「駄目だって! 遅刻しちゃうよ!」
「ちっ。帰って来たら楽しむからいいさ」

256 ◆cA6dKyFJJM :2008/11/26(水) 22:48:37 ID:aAaRtaW4
「楽しむって何を!」
「そりゃまあ、昨日の続きを。昨日よりも激しく」
 その言葉に激しかった昨日の夜を思い出してしまい、顔がボウッと赤くなるのが解る。
「恥ずかしがる事もないじゃん。昨日はあんなに乱れてたんだから。いや、違うな。いつもだった」
「私を何だと思ってるのよ! 私はね、いつもガマンしてるんだからっ! サヤカを攻めたいって思ってもサヤカが攻めてくるんでしょ!」
「だってねぇ……カナコが可愛いから仕方ないじゃん」
「サヤカも可愛いのっ! 私だってサヤカを気持ち良くしたいんだから!」
「……マジ? ちょっと落ち着きなよ」
 ぴったりと私にくっついていたサヤカが離れる。温かい彼女の体温を名残惜しんで息を吐くと、彼女はクスリと笑った。
「それじゃあ、今夜を楽しみにしますか」
 隙を見せたらひっくり返すけどね、とのたまう彼女の瞳は、多分肉食獣とか猛禽類の物に近いだろう。
 あーあ、なんでこんな人を好きになったんだろ。
 後悔はしないけどね。サヤカは下手な男より上手いしカッコイイし。



投下終了。
257創る名無しに見る名無し:2008/11/27(木) 00:03:37 ID:BvipV6IA
わっふるわっふる
258創る名無しに見る名無し:2008/11/27(木) 22:50:58 ID:ppEac9mC
こういうキャッキャウフフな感じのSSもいいね
259 ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:43:03 ID:EPgIgjRK
ちと長めの奴ですが、百合スレを発見した記念に投下します。
まあベタな学園モノの百合ですが、お暇ならどうぞ。
260 ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:45:31 ID:EPgIgjRK
「月の舞・夜の椿」

●●登場人物紹介●●

朝霧 舞 (あさぎり まい)

都立栗林高校に通う2年生の女の子。
おっとりとした性格で、華の女子高生というのに
どちらかというと一人で過ごすことが多く、日々自分の世界に浸っている。



春日宮 つばき (かすがのみや つばき)

栗林高校に転校してくる女の子。偶然朝霧さんと同じクラスになる。
良家のお嬢様で容姿端麗、成績優秀。
しかし、心の奥には辛い過去の記憶も
261月の舞・夜の椿 ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:47:10 ID:EPgIgjRK
恋愛というものの定義が自分でも時々分からなくなる時がある。
普通の恋愛というものは、男性と女性がお互いを認めあって初めて成立するものだが
私はイレギュラーな恋愛もあっていいと思う。それが、例え女の子同士であっても…

彼女は朝霧 舞。17歳で、都立栗林高校の2年生。
部活動は文芸部で、自分で言うのも何だけど特にこれといって特徴の無い普通の高校生というのが自己紹介。
あえて言うならば、今まで彼氏というものができなかったという女の子。

同じ年頃の女の子たちは、当たり前のように男の子の彼氏を作って
デートしたり、休み時間にイチャイチャしたり、一緒にお弁当を食べたり…
そんな光景に憧れたこともないし、興味を持ったこともない。
少なくとも彼(と彼女)たちは、その瞬間が一番幸せだと感じているのだろう。
だから、彼らを邪魔する権利なんてないし、ここはそっと見守ってあげた方がいいのかもしれない。
舞にとって男女共学のこの高校での学校生活は、毎日がそのような光景との戦いだ。
そもそも、舞にとって彼氏なんていう物は必要ない。
だって、友達と違って異性との交際はとにかく気を遣うし、男の子というと何だか潜在的に怖いイメージがあって、
たまに男の子が話しかけてくれても、こちらから避けてしまってうまくコミュニケーションが取れない事が多い。
彼氏なんか持つよりやっぱり同じ同性同士での友達付き合いのほうが楽しいし、何となく安心するのはなぜだろう。
やはり、本能的に同族同士が寄り合って暮らす方が安心するのだろうか。
この時はまだ女の子同士の付き合いといえば「友情」という形しか知らなかった。
と言っても、その友情でさえ舞にとっては無縁なのかもしれない。近頃の女子高生と来たら、噂話と恋愛が大好物。
流行のファッションや芸能を追いかけ、頭の中は甘いものでいっぱい。
最新の流行に無理してついていくつもりもないし、むしろ自分の進みたい道を進めばいい。
それに最近の女子高生ときたらいつも騒がしくて付き合っていて落ち着かない。
やっぱり、こうやって一人で過ごしている方が一番落ち着くのだ。
そう、こうやって教室の窓側の席でそよ風に当たりながら…

ある日の朝、教室の様子がいつもより少し騒がしいことに気づいた。
普段の他愛も無い会話だったら特に興味も無く無視するところだが、
少し声の大きい男の子が話しているのが嫌でも耳に入ってしまう。
「今日なんか転校生が来るらしいぜ、どんな奴?」
「なんか、女子らしいぜ、じょし!」
「え?マジで?かわいい子だったらいいよな!」

――転校生かぁ。私なんて転校なんかする勇気も無いよ…

そんな事を思っているうちに朝のホームルームが始まる。
先生が入ってきて、今まで方々で賑やかにおしゃべりしていたクラスメイト達も気配を察したのかゆっくりと席へ着く。
いつもは皆が席に着き終わる前に話したい事を自由気ままに話す先生だが、今日は何か様子が違うようだ。
皆が席に着くまで何も話さず、ゆっくりと教室の中を見回すように生徒の様子を窺っている。
やはり、例の「転校生」の話があるのだろうか。
しばらくして、全員が席に着きおしゃべりを止めたのを確認すると、先生はゆっくりと口を開いた。

「皆の中にも知っている人が居ると思うけど、今日からこのクラスに転校生が…」

――やっぱり。先生だってそんなにもったいぶらないでさっさと紹介すればいいのに。

そんな事を思っていると教室の扉から一人の制服姿の女の子が入ってきた。
舞にとって今日という日も、普段のように平凡な一日で終わると思っていたが
彼女が目の前に現れてからは「特別な」一日になった。
262月の舞・夜の椿 (2) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:48:46 ID:EPgIgjRK
すらっと伸びた長身の背に、肩を通りこして腰の辺りまで伸びた美しい黒髪。
そして舞が特に引き込まれたのが見るものをひき付ける神秘的な黒い眼。
その特徴的な姿に、舞は周りの「うわぁ、綺麗。」「すごい…」というざわつきも忘れて、ただただ魅入ってしまっていた。
気がつくと、口を開けたまま彼女の方を見る舞。誰から見ても無様な姿をクラス中に晒してしまっていた。
その光景は、後ろの席の女の子が「朝霧さん、どうしたの?大丈夫?」と声をかけてくれるまで続いた。
とにかく彼女を一目見ただけで、舞の心はときめき、心臓の鼓動が一気に高鳴った。
普通の女性が異性に一目ぼれするのと同じように、舞は彼女の事を他のクラスメイトとは少し違った位置に置いてしまっていたのだ。

肝心の彼女は、先生に促され自己紹介をする所だった。
舞はまだ彼女の名前も知らなかったが、彼女の生い立ちや人間性、趣味思考などをすべて知りたいという欲望に
無意識のうちに駆られてしまっていた。自分ではいけないと思っていても、知りたいと欲する欲望には勝てない。
しばしの沈黙があった後、彼女はその口を初めて開いた。

「名前は春日宮 つばきといいます。年齢は皆さんと同じ17歳。この学校へは家庭の都合で来ました。
 これから皆さんと同じ高校で生活する事を嬉しく思います。どうぞよろしくお願いします。」

現代の高校生の口からはまず発せられないような丁寧かつ簡潔な自己紹介で
さーっと静まりかえる教室。しばしの沈黙の後、ようやく先生が口を開く。
「ありがとう。とても丁寧な自己紹介でしたね。
じゃあとりあえずつばきさんはそこの一番端の朝霧さんの隣が空いているから、そこを使ってね。」

その言葉に思わずドキッとする舞。教室の中には他にも余っているスペースはあるのに
まさか自分の隣にあの転校生が来るなんて。だけど、時は待ってくれない。
先ほど春日宮つばきと名乗ったその彼女はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
転校してきて、初めての教室なのに「つばきさん」は困ったような顔もせず堂々とした顔だ。
その姿に舞は「かっこいい…」とつぶやきそうになる衝動を抑えるのに必死だった。
再度口がポカーンと開きそうになったその瞬間、つばきはすでに舞の隣の席についていた。
すると突然、つばきが舞に向かって話しかけてきた

「これからよろしく。」

――これからよろしく、これからよろしく、これからよろしく…

頭の中で何度もこだまするその声。本当に自分に向けての言葉なのだろうか。
それをも疑いたくなるほど突然の会話だった。いけないいけない。何か言葉を返して
会話を成立させなければ。「こ、こちらこそよろし…」
普段人と会話をする事に慣れていないのに加え、隣にいる彼女のあまりのインパクトに舞の返した言葉は
最後が聞き取れないほど小さな声の物だった。
どうしよう、初めての会話がこんな頼りない会話だなんて。猛烈に後悔の念が襲ってくる。


――私ったら何て取り返しのつかない事をしたんだろう。舞のバカバカバカ…

一人で落ち込んでいる内にホームルームも終わり、いつしか時は休み時間に。
言うまでもなく、転校生の彼女はクラスの他の女の子や男の子に囲まれて質問攻めにあっている。
前の学校はどこだったのか。趣味は何なのか。ボーイフレンドは居るのか…
そんな事を聞いていたようだが、相当な数の生徒に囲まれていたこともあり、彼女の答えまでは聞き取れなかった。
そうこうしているうちにあっという間に1時間目の授業へ。
まだまだ質問したりないという生徒をなんとか席に着かせ、やっとの事で授業を始める先生。
転校してきたばかりでまだ教科書を持っていないつばきは先生から教科書を借り
さも1年前にもこの学校に居たのかと思わせるような落ち着いた表情でサラサラとノートを取っている。

――ああ、あんな人が私の隣に居るなんて信じられない。
263月の舞・夜の椿 (3) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:50:50 ID:EPgIgjRK
今日、朝目覚めたときはこんな事になるなんて、舞は予想もしなかった。
毎日決まったように学校へ行き、何事も無く一日を過ごし、家に帰って寝るという平凡な生活。
そんな舞の人生に突如として現れたつばきという人物。無視したくても無視できない存在。そんな存在が自分の隣にいる。
気がつくと、授業中も、休み時間も、無意識に彼女の事を見つめている自分がいた。
授業中は落ち着いた様子で授業を受け、休み時間になるとまた決まったようにクラスメイトに囲まれて質問攻めに遭う彼女。
そんな事の繰り返しが何度か続いた。
そして時間は昼休み。つばきはまたクラスメイトに囲まれ談笑している。
しかし、すっかりクラスに馴染んだ様子のつばきの輪の中に舞はどうしても加われなかった。
どうしてなのだろう。彼女の事を知りたいと思えば思うほど彼女の側に怖くて近寄れない。
下手に話しかけたりなんかして、嫌われたらどうしよう。
もしそんな事になったら一生後悔するに違いない。
それに、人見知りが激しい舞に初対面の人にこちらから話しかけるなんて絶対できない事だった。
そう、舞にとってつばきは遠い世界の憧れの人。想像の中だけでのお付き合い。
舞としてはとっとと諦めたいが、無意識のうちにまたつばきを見つめてしまう。
相変わらずつばきはクラスメイトの輪の中にあった。

――はぁ、私もつばきさんと仲良くなりたいよ…

心の中でそうつぶやく舞。すると一瞬、つばきの視線が舞の方に向いた。
その目はまるで何かを訴えているようであり、舞はその目から何かを読み取りたかったが、どうしてもそれが出来なかった。
憧れの人が今何を考えているかも分からない。
自分の無力さを痛感した舞は、彼女の視線を避けるようにまた窓の外へ視線を移した。
外はちょうど秋。校庭の落ち葉がはらはらと落ちるのを見て、まるで舞の心も散る葉のように舞う複雑な心境に変わっていった。

いつの間にか放課後になり、清掃の時間。舞と席が近いつばきは、同じ班として一緒に部屋を掃除することとなった。
今日が始まってから、どんな時も舞とつばきは常に近いところにいる。
これもある意味運命なのだろうか。
舞はそんな事を考えてはみたものの、結局休み時間と状況は変わらず自分自身もつばきに話しかけれないまま。
下手すると、こんな日々が卒業するまで続くかもしれない。
その間につばきは別の友達を作りその人たちと仲良く過ごす可能性だってある。
ふと気がつくと、舞は一種の嫉妬のような感情までをつばきに対して抱いてしまっていた。
一方的につばきに対しての思いを募らせていく舞。
つばきに対するあらぬ考えを浮かべては消し、浮かべては消し…
教室という場所が綺麗になる代わりに、自分の心が汚くなっていくような気がして舞は複雑な気持ちになった。
これ以上彼女の事を考えれば自分がダメになってしまう。

掃除も終わり皆が解散し思い思いの場所へ散っていこうとしたまさにその時、
後ろから今日一日ずっと聞いていた声が響いた。

「ねえ、そこのあなた。私のことがそんなに気になるの?」
264月の舞・夜の椿 (4) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:52:52 ID:EPgIgjRK
最初は別の人に投げかけた言葉だと舞は思ったが、部屋には自分とつばきさんしかいない。
一気に心拍数が高くなる舞の心臓。
まさか、私が今日の授業中ずっとつばきさんの事を無意識に見つめていたのが気づかれ、
それが彼女のしゃくに障ったのだろうか。舞はそう思った。
もしそれが事実なら、舞は取り返しのつかない事を彼女にしてしまった事になる。

――ああ、どうしよう。もうダメだ…

舞自身の中で色々な考えが浮かんだが、とっさに言葉が返せない。
すると、あまりにも返事が遅かったのか続けて彼女がまくしたてる

「だってあなた、今日一日ずっと私の事を見つめていたわ。」

つばきは舞をまっすぐ見て、舞がいつ言葉を返してくるのかを待っている様子。
あの澄んだ美しい眼でまじまじと見つめられては、人見知りの舞でなくとも言葉のキャッチボールは難しいだろう。
まるで時が止まったかのような時間が30秒ほどは続き、ついにつばきは痺れを切らしたのか
「何か言ったらどうなの。」と早口でまくしたてる。
もうおしまいだ。舞はどうしたらいいのか分からず、涙が出そうになった。
このまま泣いて教室を飛び出せばとりあえずこの場からは逃げられる。
でも、もしこのまま逃げたら一生つばきに自分の気持ちを弁解する場は与えられないだろう。
舞は、勇気を振り絞って最初の一言を、消え入りそうな声で口にした。

「あ、あの、私が何か…」

やっとの事で彼女と会話を成立させた事で、少し安心した舞は
その場で泣き出してしまうという最悪の事態だけは回避することができた。
だが、顔を紅く染めてモジモジしているという状況に変わりは無く、
今日であったばかりの憧れの人の前で見せたい姿とはお世辞にも言えない状況。
すると、先ほどまで少し不機嫌そうな表情をしていたつばきの表情が少し柔らかくなり
今までの早口とはうって変わってゆっくりと温かみのある口調で彼女は話し始めた。

「私ね、あなたの事がすごく心配なの。
休み時間もずっと一人で何かと戦っているように見える。
今日、私が転校してきたという事でクラスの皆が私を取り囲んで、
好奇心から次々と質問を浴びせかけていた時も、あなたは私のほうをチラチラ見ながら
何かにじっと耐えていたように思うわ。」

舞は、その言葉を聞いて驚いた。
まさかつばきさんが、クラスの中では目立たない私なんかの事を心配してくれていたなんて、夢にも思っていなかったし
それに私のことをそんなに的確に分析していたなんて…彼女の言葉はまだ続く。

「そんなあなたを今日一日見ていて、私もすごくあなたの事が気になったし、あなたの事をもっと知りたいとも思った。
だから、あなたの自分自身について教えてくれる?私だって今日の朝、自己紹介という形で自分自身について紹介したわよね?
それと同じことをしてくれればいいのよ。」

自己紹介と聞いて舞は困った。
舞には特にこれといった特徴も無ければ自慢できる特技や人を驚かせるような特徴も無い。
でも、つばきさんがわざわざ自分だけに「あなたの事をもっと知りたい」と言ってきている。
とりあえず野となれ山となれ。
すべてを振り切って自己紹介しなくては。
265月の舞・夜の椿 (5) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:55:27 ID:EPgIgjRK
「私は朝霧 舞。えーっと、年は17歳。趣味は、ほ…本を読むことかな。
部活は文芸部。あの、本当にこれぐらいしか言える事はないんだけど…」

これで本当に自分のことが分かってもらえたのだろうか。
ドキドキしながらつばきの反応を待つ舞。すると、つばきの表情が一気に笑顔になった。
16年生きてきて、今まで色々な人の表情を見たが、これほど美しい笑顔を見たのも初めてだ。

「そう、それでいいの。
私、あなたが何かをこちらに向かって伝えたがっているとずっと感じていたのよ。
これでようやくすっきりしたわ。」

何はともあれつばきは舞の自己紹介を聞いて喜んでいる様子。
舞は全身から力が抜ける感覚に襲われた。
そして、喜んでくれて本当に良かったと、ホッとしてまたもや泣きそうになる舞に向かって、つばきも何か言おうとしている。

「じゃあ私も自己紹介するわ。名前は春日宮 つばき。年はあなたより1つ年上の17歳。
と言っても同じ学年だから大して変わらないわね。
趣味は…そうね、色々な所を旅するのが好きだわ。それぐらいかしら。
あとそれと、私は一人っ子よ。兄弟はいないわ。
まあ自己紹介と言ってもこれぐらいかしら。まあ大抵の事は今朝の自己紹介でも言ったわね。
これからもよろしく。あ、家はこの近所よ。そうだ、今日は私と一緒に帰らない?」

自分がつばきと同じ1人っ子という環境に妙に近親感を抱いたが、
それよりも突然のお誘いには舞にとって予想外の出来事だった。
ずっと手の届かない憧れの人だと思っていたつばきさんが、今まさに「一緒に帰ろうよ」と誘ってくれている。
特に今日は用事もないし、断る理由は無いが、つばきさんと2人きりで帰る勇気も自分には無い。
それに、帰りながらいったい何を話せばいいのだろう。
ずっと黙っている訳にもいかないし…
でもここで後に引けば今までの努力も水の泡となってしまう。
舞は一世一代の賭けに出ることにした。

「うん、いいよ。」

この二言を口に出すのにどれだけドキドキしたことだろうか。
言葉一つで人生が変わってしまう。そんな事まで実感していた。

「よかった。じゃあ行きましょう。」

相変わらずの笑顔で答えるつばき。
つばきは自分の荷物を手早く鞄の中に入れ、帰る支度をしていた。
舞も帰る支度をしなくてはならないが、友達もあまりおらず、いつも1人で家路についていた舞にとって、
誰かと帰るなんて久々のことだし、しかもその相手はあの「つばきさん」である。
舞はしばらく我を忘れ、ただボーっと立っていることしかできなかった。
やっとの事で舞も鞄の中に荷物を放り込んでその場に立ちすくんでいると
つばきは突然舞の所にやってきて、なんと舞の手をぎゅっと握ったのだ。

「どうしたの?そんな所に立ってないで早く行きましょう。」

まるで進むべき道を案内してくれるかのごとく、つばきは舞の手を握りながら教室の外へと舞を連れ出してくれた。
何百回と通ったこの校舎であるが、今やつばきのエスコート無しでは校門の所までたどり着けないかもしれない。
つばきは、上の空になっている舞を見て心配した末でこのような行動に出たのだが、舞にとってはまるで天にも昇るような気持ち。
校門の前で手を離すまでの数分間の記憶がぽっかり空いてしまっているのもこのせいだろう。
266月の舞・夜の椿 (6) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 22:57:13 ID:EPgIgjRK
それから、学校から500mぐらい離れているつばきの家にたどり着くまで
舞とつばきは色々なことを話した。家族の事、学校の事、自分自身の事…
普段他人とコミュニケーションを取るのが苦手の舞でも、話したい事が次から次へと出てくる。
さっきまで心配していたのが自分でも嘘のように思えると同時に
さきほど交わした短い会話よりも、ずっとつばきの色々な事が分かってくる。
30分前に掃除終わりの教室で出合った時の緊張も解け
気がつくと舞がつばきに対して勝手に抱いていた「手の届かない憧れの人」という大きな壁も無くなっていた。

――もう見つめているだけじゃない!

いつの間にか舞の中で彼女の存在がぐっと身近になっていた。
たまに「あれ、朝霧が今日転校してきたあの女子と一緒に帰ってるよ」という
同じクラスの男の子の声が聞こえてきたが、もはやその声すら気にならなくなっていた。

とてもゆっくり歩いたので、15分はかかっただろうか。
舞とつばきさんはようやくつばきさんの家の前までたどり着いた。
つばきは、住宅街の中にある高い塀に囲まれ、中には木が生い茂る森のような場所で立ち止まったので
「これ、何の建物?」と舞が聞くと「あら、ここが私の家よ」という。
最初はよく意味が分からなかったが、塀の真ん中にある大きな門についているボタンを押し
「つばきよ。今帰ったわ。」とつばきが言った途端、その大きな門が誰が動かしているわけでもなく
勝手にゆっくりと開き、「じゃあまた明日。さようなら」と言い残してつばきは門の中へ消えていった。
さっきの会話の中では特に触れていなかったが、つばきの両親はどうやら相当のお金持ちらしい。
完全に門が閉まり、再び辺りを静寂が包みこむ。
このままずっとこの場に立っていても再びつばきさんが出てくる事もないだろう。
そう思った舞も、ひとまず自分の家に帰ることにした。

帰るために歩きはじめて、舞はようやくつばきの家が学校から見て自分の家とは反対側にあることに気づいた。
わざわざ一緒に帰る事は無かったのだ。
でも、彼女と一緒にすごした30分余りの時間はとても楽しかったという事実に変わりは無い。
夢見心地のまま舞は家までの道をゆっくりと歩いた。
家では何も知らない母親が「おかえりなさい」といつものように迎えてくれた。
舞は平静を装って「ただいま」と答える。ここで何かいつもと変わった様子を見せれば
きっと母親から質問攻めに遭うに決まっている。
もしそうなればきっと彼女の事が母親にばれてしまうだろう。
彼女との出来事は、私だけの中でそっとしまっておいておきたい。
それが舞なりの結論だった。

いつものように食事を済まし、お風呂に入り、自分の部屋へ向かう。
そっと電気を落とし、部屋の中を真っ暗にした後、ベッドに転がりこむと、舞は今日一日の出来事を整理することにした。

いつもと違い今日という1日は実にいろんな事があった。
朝、自分のクラスに転校生がやってきた。その人はとても美しい人で、
彼氏はおろか同性の友達もあまり居ない私の心を大きく動かせる人。
その後、彼女に一言も話しかけられないまま放課後になり、それから突然始まった彼女との会話のやりとりや彼女の表情…
今日、自分の周りで起こった出来事を思い出しながら、舞は同時に色々な事を考えていた。

「明日起きたら、今日起こったことはすべて夢だったっていうオチだったりして…」
「つばきさんは、なんで私なんかに声をかけてくれ、一緒に帰ってくれたんだろう」
「つばきさんは私の事どう思ってるんだろう」

色々なことが頭の中をよぎり、なかなか眠れない。
でも、少なくとも今は新たな人と出会えたこの幸せをかみ締めていたい。

気がつくと、目から涙がこぼれ落ちていた。
今日一日我慢していた色々な感情が一気に噴き出したのだろう。
この涙は、彼女と出会えた幸せで流している嬉しい涙なのか、
これから起こるかもしれない不幸を予期する悲しい涙なのか。
自分でもそれは分からなかった。
267月の舞・夜の椿 (7) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:02:22 ID:EPgIgjRK
翌日、舞の所にもいつもと同じように朝はやってきた。
朝起きて髪をとかし、歯を磨き、制服に着替え朝食を摂る。
毎日やっている変わらない行動だが、なぜか今日は気合を入れてしまう。
あのつばきさんに見られると思うといつもより念入りに身だしなみを整えてしまうのだ。
いつもなら、十分余裕を持って学校に向かうのだが、今日は高校に入って初めて遅刻ギリギリで走って校門をくぐる。
その光景を珍しそうに見つめるクラスメイトたち。でも恥ずかしいなんて思わない。だって学校に行けば彼女に逢えるのだから。
教室に向かう途中「もし昨日のつばきさんとの出来事が夢だったら」と不安になった。

――クラスの中で目立たない私に声なんかかけてくれる訳ない。
それに、あんな突然転校生が来るわけもない。

昨日の出来事がすべて夢のように思えてきた。教室までの足取りも、とても重く感じる。
しかし、教室に足を踏み入れると彼女はそこにいた。

昨日と違って彼女の回りを取り囲んで質問攻めにするクラスメイトたちも
すっかり彼女に対して関心が無くなってしまったのか、今日は自分たちの友人と談笑している。
教室の隅の昨日と同じ机で、一人物思いに耽っているつばき。
その美しさに舞は息をのむと同時に「昨日の出来事は夢じゃなかったんだ」と実感した。

舞は思わず彼女の元に駆け寄り「おはよう!つばきさん」と挨拶した。
普段何も言わずにそっと席につく舞が、元気な声で挨拶したので
舞の周りに居たクラスメイトたちが驚いて会話を一瞬止めたのも勿論舞は気づいていない。

「おはよう。今日もいい天気になりそうね。」

笑顔で微笑んでくれたつばきさん。
昨日、彼女が住む大きな家の前で別れた時のまま接してくれるつばきさん。
舞が昨日寝る前に流した涙は、嬉しくて流した涙という事がこれでようやく分かったのだ。

――もしできるなら、一生この人の側にいたい。

舞はそう思った。

それからというもの、舞とつばきは学校に居る間はずっと一緒だった。
教室の席はいつも隣同士。掃除だって一緒の部屋を担当し、休み時間は教室で一緒に語り合ったり
季節の移り変りを学校の敷地内を2人で散歩しながら感じることもあった。
でも、舞がなにより一番嬉しかったのは、彼女と一緒にお弁当を食べることだった。
今まで1人で食べていたお弁当も彼女の笑顔を見ながら食べれば10倍も100倍もおいしかった。
例え自分が大嫌いな物が入っていても、彼女が居るから頑張れる。2人で食べる昼食の時間は、舞にとってとても幸せな時間だった。

2年生も終盤に近づき、そろそろ修学旅行というある日、つばきは舞に突然こんな事を言い出した。

「ねぇ、今度私の家に来ない?修学旅行も近いことだし、旅行の相談でもしましょう。」

そういえば、あれだけ親しい仲なのに、舞はつばきの家の中には一度も入ったことが無い。
いつも一緒に帰るときに家の前までは行く割には、あの大きな門の中にどういう世界が広がっているのかは舞の中での謎の一つになっていた。
このチャンスを逃す手はない。

「そうだね。つばきさんの家にお邪魔できるなんて、私本当にドキドキする〜」

しかし、つばきはその言葉が面白かったようだ。笑いながらこう謙遜する。

「あら、そう?そんなに大した家でもないわ。」 お金持ちというのは謙遜する人が多いらしい。

もう待ちきれない。でも今すぐって訳にもいかないし、一人で色々葛藤してみてもしょうがない。
舞は我を忘れて興奮してしまっていた。

「じゃあ、今度の土曜日にしましょう。」

舞は二つ返事でその約束にOKを出した。
268月の舞・夜の椿 (8) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:05:56 ID:EPgIgjRK
そして、約束の土曜日がやってきた。この日をどれだけ待ち焦がれたことか。
せっかくの休みの日なのに、前日は興奮してなかなか寝付けず結局今日は朝の6時に起きてしまった。
でも全然眠たくなんかない。だって今日はつばきの家に遊びに行けるのだから。
朝食を手早く済ませ、念入りに朝の準備をし、家を出る。
いつも通りなれた道も、今日は自転車で走るせいかとても短く感じる。
ここで事故なんかしてはつばきさんに逢えない。
はやる気持ちを抑えながら慎重に自転車をこぐ舞の姿は、他人から見ればかなり滑稽な姿に見えたに違いない。

そして、ついにつばきの家の前にたどり着いた舞。邪魔にならない所に自転車を止め、呼び鈴を押す。

ピンポーン…

いったい誰が出るのだろうか。
つばき本人が出れば一番いいが、つばきのお母さんが出たらそれはそれで舞も慌てるだろう。
舞は思わず身構えた。

――つばきさんに似て、お母さんも綺麗で素敵な人なんだろうな…
頭の中で、まだ顔も見たことが無いつばきさんの母親の事を想像しながら玄関の前で待つ舞。
とその時、突然インターホンから声がした

「はい、どなた?」

この人は誰だろう。お母さんかな?

「あの、朝霧ですが、つばきさんとお約束が…」

舞が事情を説明した途端、インターホンの向こうにいる人の声が急に優しくなった。

「あら、舞?どうぞ入って」

良かった。いつものつばきさんだ。ホッと安心する舞。
目の前の大きい門がゆっくりと開く。
門の中にはうっそうと生い茂る森があり、
それに囲まれるようにして大きな道が奥に建っている大きな家まで続いていた。

「まさかこんなに大きなお屋敷だったなんて…」

舞は驚きを隠せなかった。本人はあまり言いたがらないが、つばきは
由緒正しい良家の令嬢であり大金持ちの両親に大切に育てられた箱入り娘。
こういうお金持ちの人の生活を、舞は今までフィクションの中だけでしか見たことがなく、
実際に遭遇したことはなかったが、こうやって自分の眼で見ても
やっぱり舞のような庶民の家とは比較にならない程華やかなのは確かだ。

敷地の中の小道を歩いて家の前までやってくると
家のドアの前につばきが出て舞を待っていてくれていた。

「待ってたわよ、舞」

私服のつばきを舞は初めて見たが、いつも制服と違い私服姿のつばきもとても美しいと感じた。
落ち着いたワンピースのその私服はいかにも「お嬢様」といった感じだ。

「どうぞ入って」という言葉に促されるまま家の中に入る。
つばきの家の中は、それこそ迷路といった言葉がぴったりで
いくつも部屋があり、初めて訪れた人は絶対迷うであろう家だった。
途中、長い廊下でお手伝いさんとおぼしき人ともすれ違った。
やっぱり、これだけの大きい家を管理するのは家族だけじゃ無理があるだろう。
お手伝いさんが居て、沢山の部屋がある大きな家。
今まで本の中だけの話だと思っていたいわゆる「お金持ちの家」はどうやら実在するようだ。
269月の舞・夜の椿 (9) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:07:11 ID:EPgIgjRK
つばきの部屋は家のいちばん奥にあった。学校でもない、普段の帰り道でもない、誰にも邪魔されないこの小さな空間。
部屋のドアが閉まれば、誰も2人の関係を邪魔する人はいない。
完全に2人の世界になったこの場所で、舞は緊張からか何も言えないままその場に立ち尽くしてしまっていた。

「どうしたの?私の部屋の中に何か面白いものでもあるの?」

つばきにそう言われるまで、舞は心がどこかに飛んで行ってしまっていたらしい。
ふと我に帰った舞に、つばきは

「ふふふふ、あなたって面白い人ね。」

どうやら、つばきにとって舞の様子はとても愉快に見えたらしい。

「でも、あなたのそういう所が好きだわ」

本当につばきさんは何を考えているのかよくわからない。舞はいつもそう感じている。

でも、つばきが舞の「おっちょこちょいでどこか抜けている点」を
好きでいてくれているのと同じように、舞もつばきの少し神秘的で、それでいて自分のような人なんかにも
優しく接してくれるという所に惹かれている。
結局2人はお互いの足りない所を補完し合うような、持ちつ持たれつの関係のようだ。

「そういえば、舞は修学旅行の自由行動ではどこに行きたい?」

やっとつばきは本題を切り出してきた。

――そういえば、今日は修学旅行の打ち合わせのためにこうして集まったんだっけ。

舞の高校の修学旅行は、今年も3泊4日の予定で北海道に行くことになっている。
これは舞の高校が創立してから変わらないコースで、冬の北海道でスキーをしたり
札幌で美味しい物を食べたり、小樽で買い物をしたりという、この高校の生徒なら誰もが
3年間の高校生活の中で楽しみにしている重要な行事。
舞も、高校の修学旅行というクラスメイトと一緒の旅ではあるが、
せっかく出逢えたつばきさんと一緒に旅行できるのを本当に楽しみにしていた。
だからこそ、最高の旅にしたい。つばきさんも同じことを思ったのかもしれなし、それだからこそ
わざわざ自分の家に舞を招待して修学旅行の打ち合わせをしようと思ったのだろう。

「私はやっぱりテレビ塔に登りたいな。あと時計台も見てみたいし…」

北海道に今まで行ったことがない舞は、北海道に関する乏しい知識から
思いつく限りの札幌の名所を言ってみた。

「そうね、やっぱり定番はしっかり抑えといたほうがいいわね」

それから、舞とつばきはガイドブック片手に北海道に関するいろいろな話題で盛り上がった。
あそこのラーメン屋さんは美味しい、そっちのお土産屋さんは素敵なアクセサリーが揃っているらしい、
集合場所まではどうやって帰ればいいのか…
そんな他愛もない話がしばらく続いて、そろそろ修学旅行での予定がまとまりつつある時に
つばきさんは突然こんな事を言い出した。

「舞、私ね、どうしても行きたい所があるの。
札幌市内から少し離れた郊外に小さな公園があって、
高台にあるその公園から見える夜景はテレビ塔なんかから見える夜景よりずっと綺麗よ。
だから、テレビ塔もいいけど、もし舞さえ良ければそっちに行かない?」

その後続いたつばきの、その夜景が美しい公園に関する説明があまりにも上手く、最初は札幌テレビ塔に行きたかった舞も
聞いているうちにぜひその公園からの夜景が見てみたくなってきた。
270月の舞・夜の椿 (10) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:08:56 ID:EPgIgjRK
「あの美しい夜景を舞にも見せたいの。私も初めて見た時は感動で涙が出そうになったわ」

そこまで言われてはしょうがない。

「じゃあ、つばきさんが言うその公園に行きましょう。市内からもそう遠くないみたいだし」

つばきのあまりの情熱に押された舞は、ついに折れてしまった。
その時の「ありがとう!」というつばきの表情からも
彼女がどれだけ舞をその公園に連れて行きたかったのかを読み取ることができた。

それから、お手伝いさんに勧められた夕食をなんとか断りながら舞は家路についた。
お金持ちの家というのは、とにかく客人をもてなすことにかけてはことさら熱心なのだろう。

それにしても、つばきさんはなぜそこまで熱心にあの公園を勧めたのだろうか。
舞の疑問はしばらく消えなかった。
ただ単に、夜景が綺麗というだけの理由だけとは思えないあの生き生きとした表情。
何か個人的な思い入れでもあるのかもしれない。
まあ、いくら悩んでもつばきさんが「一緒に行きましょう」と言ってくれている事に変わりはない。

――考えるな舞。修学旅行を大好きな人とエンジョイすればいいのよ。

とりあえず舞はそう自分に言い聞かせることしかできなかった。

それから2週間後。今日はついに待ち焦がれた修学旅行の出発日。

いつものように興奮で眠れなかった舞は、集合場所である学校の校門前に30分も前に着いてしまった。

――ちょっと早すぎたかな…

そう思った瞬間、まだ人もまばらな校門前にあの人の顔を見つけた

「舞も早く来たようね。さては私と同じく昨日は興奮してなかなか寝付けなかったのね?」

その通り。つばきは何でもお見通しだ。
舞が「図星です」という表情をしたようでつばきは笑いながらこう言った

「あなたって、本当に思っていることがすぐ表情に出るのね。すぐ分かってしまうわ」

そんな事を言われて、舞もついつられて笑ってしまう。
2人で笑いあえる、そして今から2人は遠い北海道の地を一緒に踏めるのだ。そう思うと今からわくわくしてくる。
16年生きてきた中で、今が一番わくわくしている瞬間かもしれない。
かくして、無事に北海道に飛んだ修学旅行の一団は、北海道でスキーを体験したり、美味しいものを食べたりと
とにかく一生懸命北海道を満喫した。
スキーの際には、生まれて初めてのスキーに緊張する舞を、つばきは優しくエスコートして
なおかつ華麗な滑りまで見せてくれたのに舞はかなり感激したし、長かった一日が終われば
舞とつばきはホテルの部屋で夜遅くまでいろいろな事を語り合えたのが舞にとっては嬉しかった。
普段あれだけ学校で楽しく話しているのに、このような特別な場所だと、何でもない会話までとても楽しく感じてしまうのだ。

そして、ついに最終日前日、今日はスキーも終わり札幌で自由行動の日だ。
つばきさんが言っていた「夜景が綺麗な公園」がすごく気になるが
はやる気持ちを抑え先日2人で相談したコースを順番に回っていく。
時計台も綺麗だったし、札幌名物のラーメンも美味しかった。
しかしそれらがいくら良くても、一番後に予定しているイベントに比べたらまだまだ。
271月の舞・夜の椿 (11) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:12:31 ID:EPgIgjRK
一通り観光も終わり、つばきはついにこう切り出した。

「もう大体回ったわ。最後の仕上げにかかりましょう」

舞も待ってましたと言わんばかりの調子で「うん、そうだね。」と応える。

するとつばきさんは急に道に止まっていたタクシーに乗り込み、運転手さんに住所の書かれた紙を渡す。
あまりの突然の行動に戸惑う舞に「さあ、早く乗りなさい」というつばき。
普通の高校生ならそうそう気軽にタクシーなんかには乗れないが、さすがはつばき。
お金持ちのお嬢様にとってタクシーは普通の移動手段らしい。
車はどんどん市内の中心部から離れていき、住宅街へと入っていく。
その間も、つばきは複雑な表情で窓の外を見つめている。
舞もなんだか声をかけづらい状況になってしまった。
恐らく20分は走っただろうか。少し小高い丘の上にある小さな公園の前にタクシーは止まった。
つばきは運転手にここで待つように告げると、舞の手を引き公園の中へと進んでいった。
特にこれと言った遊具もなく、所々に木が植えられているだけのシンプルな公園。

「この木の奥に、夜景が一番綺麗に見える場所があるの」

言われるままに2人で木の下を通り、茂みをかきわけてたどり着いた場所。
そこにたどり着いた瞬間、舞は思わず声を上げてしまった。

――きれい…

その場所からは、札幌市内だけではなく遠く離れた街の火までもが綺麗に見渡せた。
冬の澄んだ冷たい空気のおかげで、小さな家の灯り1つ1つまではっきりと分かるぐらいにまで
美しく変貌したその夜景は、誰が見ても感嘆の声を上げるであろう絶景だった。
舞が言葉を忘れその夜景に見入っていると、隣に居たつばきはゆっくりと語り始めた。

「この公園はね、私を産んでくれた母親の実家の近くにあって、その母が教えてくれたとっておきの場所なの」

いきなりそんな事を言われても。舞はよく意味が分からなかった。彼女はなおも語る。

「私を産んでくれた母はとても優しい人で、私のことをとてもかわいがっていたの。
でも、私が中学2年の頃に、重い病気で亡くなってしまったわ。私はとても悲しかった。
あまりのショックに学校にもしばらく通えず、前の明るかった性格とはうってかわって
無口でネガティブなな子に私はなってしまったの。」

つばきの顔がうつむいてきた。そして、表情も今にも泣きそうな顔になっている。
舞はとても驚いた。そんな事今まで教えてくれなかったし、舞も全然そんなこと考えていなかった。
彼女の今の母親に舞は会ったことは無いし、どんな人かも分からないが実の母親では無いようだ。

「いつの間にか父は別の人と再婚したわ。それが今の母親。でも、その人は父が持っている財産目当てで
父と結婚したようなもので、愛情のかけらもない。私が母親という大きな存在に甘えたい時も、
そこに居るのはあの優しい母親ではなくお金の事しか考えていない惨めな人。
お金が欲しい時だけ父に媚びて、欲しいものが手に入るとすっかり冷めてしまうのよ。
そんな事に気づかない父もかわいそうだけど、私だって辛い思いをしてきたわ。
一人娘の私となんか口すら聞いてくれないし、私が毎日家に帰ってきても、父を含め誰も言葉をかけてくれない。
あの人と再婚する前の優しい父はどこへ行ったのかしら。まるでお手伝いさんと2人暮らしをしているようなものよ。
そんな寂しい生活を私は今までずっと送ってきたの」

今まで自分の中に溜めていたものを一気に噴き出させるかの如く
つばきはゆっくりと、それでいて一言一言をかみ締めるようにゆっくりと生い立ちを語った。
272月の舞・夜の椿 (12) ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:18:32 ID:EPgIgjRK
頑張って自分の忘れたい過去を告白してくれたつばきさんに、何か声をかけてあげたい。舞はそう思った。

「今までよく1人で頑張ったね。でもこれからは私がずっとついているよ。」

つばきのようなかっこいい台詞を吐くこともできず、舞は自分なりの言葉でそう彼女を励ましてあげた。
すると、つばきは安心した表情で次々と言葉を重ねた

「実は舞にはまだ言ってない事があるの。
私がこの学校に転校してきた理由は"家庭の都合で"という事になっているけど
本当の事を言うと、あなたと一緒の学校に行きたいと思って転校したの。
皆には隣の市の公立高校から転校してきたってことにしてあるわ。
でもそれも本当は違うの。本当は誠稜学園という別の高校から転校してきたのよ」

彼女が口にした高校の名前は、全国的にも由緒正しいお嬢様学校として知られる超名門の女子高の名前だった。
でも、私と一緒の学校に行きたいって…どういう事だろう。舞の頭の中は大混乱に陥った。

「私がさっき言ったような家庭の問題で悩んでいたときに、偶然家の近くで舞を見かけたの。
どこか垢抜けない様子で、なおかつ今の高校生にはなかなかいない誰にでも思いやりの心で
接することができそうなその素朴な表情に、私は思わず心打たれたわ。
その時の私はとにかく誰かに助けてもらいたかったの。それで、いけない事だとは思いながらも舞の跡をつけてしまったわ。
そうしたら、栗林高校の中に入っていったから、どこの高校の生徒か分かったの。
それで、偶然通りかかった別の生徒に舞の学年を聞いたら私と同じ2年生って教えてくれたわ。
そこで決心がついてしまった。後は両親を説得するだけだったけど、昔と違って自分の子供に関心の無い父親とあの母親のこと。
あっさりとこの高校に転校できてしまって…
本当にごめんなさい。こんな事して舞も私のこと気持ち悪い女だと思うでしょう。
これで、私の事嫌いになってもいいのよ。その覚悟はできているわ。」

ついに彼女は目から大粒の涙を流しながら事の全てを告白した。
そんな経緯があって転校してきたなんて舞はこれっぽっちも知らなかったが、今となってはそんな事どうでもいい。
つばきさんを支えてあげたい。つばきさんを守ってあげたい。つばきさんと一緒に悩みを分かち合いたい。
舞の気持ちは一つだった。

「ううん。いいんだよ。私だってつばきさんの事好きだし、ずっと友達でいたい。これからも色んな事があると思うけど、一緒にがんばろう!」

その言葉を聞いた途端、つばきは「嬉しくて流す涙」を流しながらぎゅっと舞を抱きしめた。

もう彼女には悲しい涙なんて流してほしくない。今まで散々悲しい思いを経験したのだから
これからはもっと嬉しいことにその涙を使って欲しい。

「本当にありがとう。私、舞がいるから生きていける。 舞とならどんな困難だって乗り越えられる。」

「私も、つばきさんを守ってあげたいよ。」

なぜだか涙が流れて止まらない。今まで我慢していた彼女への想いが一気に噴きだしたかのごとく流れ続ける涙。

「ごめんね、つばきさん。今まであなたの気持ちに気づいてあげられなくて」

「いいのよ、舞。ただあなたが側にいてくれればいいの…」

流れ落ちる涙と、彼女の温もり。舞とつばきは少しの間その場で幸せをかみしめた。
273 ◆hPUJOtxtvk :2008/11/29(土) 23:21:41 ID:EPgIgjRK
以上です。
実は更に続きがあって、これからもっと百合百合するのですが
流石にこれ以上は長すぎるので途中で切りました。

最近友人にマリみてを薦められて、半年がかりでまもなく全巻読破です。
気がついたら百合の深みに(ry

本当に長々と駄文を貼ってすみませんでした。吊ってきます。
274創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 01:34:48 ID:aA8Y+kfH
>>259‐273
乙です。一気に読んでしまいました。
続きも是非読みたいです。
275創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 08:17:03 ID:kj6VM2NR
そろそろ保守するね。
276創る名無しに見る名無し:2008/12/11(木) 19:30:18 ID:S55BKSOp
保守とかまだまだ必要ないよ
277創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 01:06:24 ID:ltZsgiEa
でもあんまり過疎ってるとリサイクルされちゃうと思う
278創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 01:11:11 ID:eb+xEO56
ちゃんと住人がいるスレはリサイクルしませんよksks
279創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 01:12:02 ID:Vrqv+e8y
百合はいいものだ
280創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 21:39:19 ID:HCvFFJ1t
まったくだ
281創る名無しに見る名無し:2008/12/18(木) 08:36:06 ID:+21qgDUO
百合が好きだ
年下攻めが好きだ(性……精神的な意味で)
ショートカット攻めが好きだ(もちろん精神的な意味で)
282創る名無しに見る名無し:2008/12/18(木) 11:49:37 ID:Lxjp9ovb
お互いになんとなく意識しあってギクシャクしちゃうのが好きだ
おそるおそる触れあい探りあいみたいな(せ、精神的な意味でだよっ?)
283創る名無しに見る名無し:2008/12/19(金) 21:02:26 ID:BLKyQCpO
百合姫Sコミック発売記念age
284創る名無しに見る名無し:2008/12/28(日) 21:02:43 ID:npAm43gJ
年末保守
285創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 20:26:18 ID:abpY/PEs
おまいら、今年はいい百合に出会えましたか
俺はアオイシロのオサ×やすみんがオブジイヤーでした
286創る名無しに見る名無し:2009/01/01(木) 15:08:46 ID:+ZHUlRf8
ミギーさんに出会えてよかった。
サクヤさんが一番好きだが、決しておっぱいが好きな訳ではない。

という訳で、おめでとうおまいら。
287創る名無しに見る名無し:2009/01/05(月) 18:09:13 ID:nsV+NyR5
ここって地の文あった方が歓迎されます?

VIP形式のSSに慣れてるから地の文苦手なんですが
288創る名無しに見る名無し:2009/01/05(月) 18:45:25 ID:Mf4lRsyi
あなたが書きやすいように書いてかまわないかと
289創る名無しに見る名無し:2009/01/05(月) 20:44:02 ID:nsV+NyR5
>>288 ありがとう。とりあえず投下してみる


女「先生、おはようございます!」

司書「おはよう」

女「昨日借りた本返却しに来ました。これ、すごい面白かったです」

司書「もう読み終わったの?相変わらず読むの早いねぇ」

女「本、好きですから」

司書「気が合うね、私も好きだよ」

女「えっ…!」

司書「本好きが高じて司書になっちゃうくらい、本が好きなんだ」

女「あ、なんだ。そういう意味か……」

司書「なんか勘違いしてたっぽいけど、私変なこと言った?」

女「い、いえいえ」

司書「?」


司書好きだけど、司書で百合ネタ難しい。
290創る名無しに見る名無し:2009/01/05(月) 23:31:40 ID:Kzzym6aB
がんばれ、期待
291創る名無しに見る名無し:2009/01/05(月) 23:45:00 ID:nsV+NyR5
>>290
すみません、これ単発のつもりで書いたんで続きはないんです……
次からはもっと文章練ってから来ることにします
292創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 18:04:09 ID:7332b/4S
じゃあ次回作に期待!
293創る名無しに見る名無し:2009/01/14(水) 00:05:24 ID:C4SobFVt
保守ですわ!
294創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 14:55:08 ID:TWzh7hSV
全く、百合スレはどこも過疎だな
295創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 19:38:36 ID:LGd8aGGJ
まったくけしからんな
296創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 20:09:47 ID:TWzh7hSV
ところで描写はキスくらいまでなら大丈夫なんだろうか。
タラシな女の子を書こうと思うんだけど、線引きが難しい。
297創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 20:19:30 ID:LGd8aGGJ
キスくらい余裕でおっけーだよ
298創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 20:21:22 ID:TpPhVGJP
目的にならなければおkだと思うけどね
299創る名無しに見る名無し:2009/01/26(月) 19:27:36 ID:LOLbxRag
この泥棒猫!
300創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 22:13:20 ID:KuSL2wyj
相手の女の子が腰砕けになる程ねっとりとしたキスシーンを書いてだな……
301創る名無しに見る名無し:2009/01/31(土) 23:15:35 ID:ulwIv8wE
それはもはやエロの領域だと思うぞよ
302わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:49:12 ID:cQU2mC79
はじめまして。>>296ではありませんが、投下させていただきます。
第一話ということで、よろしくおねがいしまっす。
303わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:49:55 ID:cQU2mC79
人間、神に頼るようになったらお終いだ。と、思っていた。
神様の存在なんぞ、縁起が悪い折れた櫛のような心を持ったヤツの言い訳だ。と、思っていた。
そんな青臭く、身なりの整ったオトナが耳にしたら鼻でせせら笑うような考えを持っていたわたしは
彼女との出会いによって、ガーンと頭をぶん殴られるような痛みを感じたのである。

「ごめんね…。ここにいちゃ、迷惑ですか」
「全然」
都会の片隅にある、たった四畳半のわたしの仕事場。雪のように真っ白なケント紙、蓋の閉まったインク瓶、
剣のような鋭さを持ったままのGペン。そして、ここで数多くの物語が紡ぎだされる筈の作業机兼こたつ。に、黒ずくめの少女。
居心地悪そうな潤んだ瞳を光らせて、控えめのボブショートを揺らしお茶をすすり、申し訳なさそうに彼女はこたつに入っている。
その対面にわたし。昨日今日出会ったばかりの少女に目を合わせるのが恥ずかしく、ずっとこたつの台の模様ばかり眺めている自分は
本当に人見知りが激しいヤツなんだと思い知らされる。実際、この少女にかけた言葉は「どうぞ」や「どうしたの」という社交辞令と、
そして、先ほどの「全然」という素っ気無い言葉。深い沈黙だけが、わたしたちをあざ笑う。
こんなネクラで人間嫌いのわたしに人を楽しませることなんかできやしない、と気付いたのは
そびえるだけの山と荒れた畑しかない田舎から飛び出して、漫画描きという生業を都会で始めた頃だったから本当にわたしはバカだ。

「見つからないの?」
「うん。見つからない」
彼女との見た目の印象はわたしにそっくり、ということ。
唯一の違いはメガネを掛けているかどうか。子どもっぽい口調と大人びた身なりの少女はこくりと頷く。
メガネのつるを摘みながら、静かに彼女が頷いた後にわたしも頷く。
こたつの中で折り曲げていたわたしの脚を伸ばすと、彼女の冷たい足にふっと触れ、
汚れを知らぬ滑らかなふくらはぎが荒んだわたしの心を戒める、感じがした。
外は夜、時計は夜と囁き、テレビは人様に媚びるような猫なで声ばかり出しているのでとっくに消してしまった。
人と話すことなんか出来やしないわたしは何も話を切り出せない。
ましてや…神、死神となんぞや…。
304わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:50:29 ID:cQU2mC79
××××××××××××
誰だって、自分のアパートの前に死神が倒れているなんて想像出来るだろうか。
誰だって、自分の世話さえ手一杯のヤツが人の世話をしなきゃいけなくなるって想像出来るだろうか。
わたしだって最初は自分のメガネを疑ったものだ。しかし、現実ってヤツはわたしが描くマンガよりもキャッチーで
不可解なことを引き起こしやがる。物書きの端くれとしては相当悔しい思いだった。
だって…死神ですよ。誰の家の前で倒れているもんですか。わたしだって小市民の端くれなので、そのままにしておくわけにはいかないと思い、
一応声は掛けてみる。本当の所は関わりたくない。黒ずくめの少女はか細い声でわたしにすがりつく。
「…見ませんでしたか?わたしの…チョーカー」
知るもんか。しかし、そんな短剣のような言葉をこの子に突きつけるわけにはいかないので、やんわりと否定する。
それがそもそもの始まりであった。

彼女の名は『ミミ子』と言う。身分は彼女が付けているしろがねのブレスレットで明かしてくれた。
「これは…死神の証です」
そうなんだ。初めて知ったよ。聞き分けのよいオトナの振りをするのは心苦しい。
だが思った。わたしが乾き切った都会で出て初めてまともに話した相手は彼女かもしれない。この街に来てから喋った言葉は
「どうですか?わたしのマンガ」という編集者への挑戦状と、コンビニ店員へ「お弁当温めますか」の答えである「ハイ」ぐらいだからだ。

編集者で思い出した。アイツは悪魔だ。わたしの時間と小さな野望を奪う心なき悪魔だ。
先週。身と金を削り、必死の思いで描き上げたわたしの原稿を悪魔に身売りしてみたのだ。原稿をぱらぱらっと捲っただけでそんな悪魔に「これ、つまんねえよ」と冷ややかな目で見下されたことは一生忘れない。
それ以来、アイツとは気持ちも血も通うことのない上っ面の話ばかりしている。そう、アイツなんか話なんぞ出来ない。
殺伐と乾ききり、人を信じられなくなったわたしに出会ったのが…そう。ミミ子だ。そのミミ子はか細い声で上目遣いをして話しかける。

「あの…。お水を…下さい」
カルキ臭い水ぐらいは分けてあげる。こんな人でなしのわたしが出来ることはこんなことだけ。
305わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:51:02 ID:cQU2mC79
そういえば、こんな言葉を何かの本で読んだ気がする。
『浪速の食い倒れ、京の着倒れ、奈良の寝倒れ』という話。
浪速、京は説明するまでもないお話だが、奈良の寝倒れとは何ぞやということだ。
奈良では鹿が神の使いであり、街に沢山住み着いているのは周知の通り。朝起きて、その神の使いが家の前で倒れているのを見られると
鹿殺しの嫌疑がかかってしまう。その為、街が起き出す前にこっそりよその家に鹿の亡骸をよその家の前に運んでしまうらしい。
こっそり門前に亡骸を置かれた家は迷惑千万。他のヤツらが起き出す前にさらによその家の門前に運んでしまうのだ。
で、最終的にネボスケの家の前に鹿の亡骸がぽーんと置かれてしまって、ジ・エンド。お縄頂戴だ。神になんてことをするのだと。
もしかして、その『ネボスケ』はわたしだったのかもしれない。なんせ神ですからね、ミミ子は。もっとも死んではいない。
その「神の使い」を家に上げる。初めてよその子が自分の家に入った。
蛇口をひねると、バカ正直に透明な水がコップ一杯に湛え始める。ミミ子は黙ってその光景を見ていた。
「はい、どうぞ」
「…ありがとうございます」
わたしのもやつく心をどう思っているのか知らないが、ミミ子はごくごくとカルキ臭い水を飲み干す。

「おいしいですか」
「…うん」
ミミ子はウソツキだ。こんなクスリの香り漂う都会の水を「おいしい」と言う。
ウソツキなミミ子のことがちょっと好きになった。ウソツキは素敵さ、誰をも傷付けないから。
しかし、たった一晩会っただけで彼女のことを『気の置けないヤツ』にすることは出来るだろうか。
いや、できるもんか。人を信じることは自分の全てを誰かに託すことと等しく、そんな無防備な軽はずみはわたしには信じられない。
しかし、そんなわたしの心の内を踏みにじるかのようにミミ子は美味しそうに水を飲む。

「……」
「どうしたんですか」
「…どうしたらいいんですか、わたし」
知るか、と言いたい所だが…そこまでわたしは落ちていない。人間の魂だけは捨てたくない。
それを自分で証明したいが為に彼女をウチに泊めてあげることにした。
306わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:51:35 ID:cQU2mC79
「そういえば…、死神って言ってましたね」
「はい」
「具体的に…何するんですか?」
わたしがこんなにものを喋ったことはそうはない。ましてや、相手への興味のことなんぞ。
無論、ミミ子への興味が募ったということは確かなのだが、わたしの方から歩み寄ることは滅多にないので
この発言の後、少し後悔のような後ずさりできない思いをしているのは否定できないのだ。
そう思いつつ、わたしの足が彼女の滑らかな脚の上をなぞる。

「地上で暮らす者たちと、天界で暮らす者たちと二種類の世界があるのはご存知ですよね」
「いや、知らないです」
「…ごめんなさい」
ミミ子は少し煮詰まった顔をする。わたしが困らせてしまったせいか、わたしは小さな責任を感じた。
実家から送られてきたミカンをそっとミミ子に差し出すと、小さな声で話を続け出す。
「わたしたち、天界の者の糧は地上の者の…」
「者の?」
「…命です」
申し訳なさそうなミミ子の声はわたしにははっきりと聞こえた。その言葉はわたしが描くマンガなんかよりも印象深い。

「それじゃ、一方的に『天界』の人たちは『地上』の人たちの命を取っちゃうんですか?」
「……」
ミミ子の沈黙する顔が想像できる。何故なら、わたしは人と目を合わせられないからだ。ずっと、ミミ子の首筋ばかりを眺めていた。
おそらく、わたしが真っ白の原稿用紙の前にいるときのような顔をしているのだろう。それならば、想像するのは容易なことだ。
だが、いきなり真っ白な原稿用紙が隅々まで描かれた立派なマンガ原稿のように変身させるミミ子。
「地上の者は天界の者の命を糧にしている者も…います」
「そうなんですね…。それじゃ、その『地上』の人って『天界』の人から見たら」
「死神です。しかも…それは無自覚に…」
地上で運のいい人がいれば、天界で運のない人もいる。地上で長生きする人もいれば、天界で若く命を失うものもいる。立派な理屈だ。
かのようなことをいきなりミミ子は立て板に水のように話していた。
そして最後に一言彼女は付け加えた。
「わたしは…、運のない死神です」
307わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:52:16 ID:cQU2mC79
運がないのは人間だけではなかったのだ。
神と名乗るヤツが「運がない」なんて言う言葉をはいているところを聞くと、少し親近感のようなものが芽生え出す。
だって…神がですよ…。こんなお話はちょっと聞いたことはない。
「人事をつくして天命を待つ」「困ったときの神頼り」「触らぬ神に祟りなし」
「神」にまつわることわざ、慣用句を原稿用紙に上げだしたらきりがない。
いにしえの人々は神を人間の力の及ばぬ『絶対的なもの』のように表現してきた。
実際、神々のことを直接的な表現を避けて『それ』、つまり『It』と表現する言語も存在する。そんな神が弱音を吐いている。
「わたし…どうしよう」
失くし物をした迷いネコのような死神が愛しい。

もしかして、この子とは友達になれるかもしれない。
もしかして、この子はわたしのことを分ってくれるかもしれない。
もしかして…。
いや、彼女は「死神」と申したな。わたしの命を奪いに来たのかもしれない。
油断ならないのは変わらない。なのに、彼女は呑気にごくごくとカルキ臭い水を口にしていた。
とうとうわたしもここで果ててしまうのか、しかし煮詰まってしまったわたしの人生なんか誰かの役に立てば御の字だ。
黙って、この死神とやらに命を差し出してやろうか…と、自分の髪の毛先で遊んでいるとミミ子が打ち明ける。
「あれがないと…怒られちゃうんです…。どうしよう」
煮詰まっているのはお互い様のようであると思うと、少し気が晴れる。

「…姉さまから怒られてしまうんです」
「姉さま?誰ですか、それ。上司?」
「みたいなものです」
姉さまとはミミ子ら若い死神のまとめ役。何か不祥事があればヤツから物凄く怒られる、とミミ子は話す。
308わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:52:46 ID:cQU2mC79
卑屈に暮らしている人もいれば、えらぶりっ子してる人もいる。
怒られる人がいれば、怒っている人もいる。
原稿がつまらなかったときのわたしと同じだ。わたしのお世話になっている(と言うか、迷惑を掛けている)編集者は
彼氏なし、酒好き、男好き、スタイル抜群というわたしをまっ逆さまにしたような、今年三十路にお邪魔した姐御さま。
何度かソイツから見たこともないフランス料理をご馳走になったこともある。コンビニ弁当が主食のわたしにとっては
ガキンチョから見たお子様ランチクラスの高級料理である。そんな贅沢品を惜しげもなく奢ってくれる姐御さまだ。
ソイツの期待を裏切ってばかりいるわたしを疎ましいと思っているんだろうな、と常々思いながら一人暗い夜中の四畳半、
80年代の暗いフォーク曲を聴きながらわたしはソイツの凶事を願う毎日であった。
ミミ子はそんなわたしのことを分ってくれるだろうか。

「威張ってるヤツって…別の生き物みたいですよね」
「…そうですね」
「うん」
ミミ子の返事を返したわたしに、ミミ子はミカンをひと房分けてくれた。
ぽんと口に放り込んだミカンはいつもよりか甘酸っぱい気がする。きっとミミ子のせいだろうか。
不思議とミミ子はわたしの気持ちを分ってくれると解釈してしまう。そんなミミ子にさりげなく残酷なことを聞いてみる。

「もしかして…、失くし物が見つからなかったら?」
「……」
「……ごめんね」
この沈黙で分った。ミミ子が死神として動けなくなると、糧を得る手段がなくなるらしい。
彼女を見ていると、こんなわたしでも死神を追い詰めることはできない。すると空気を読んだのか蛍光灯がチカチカと点滅を始める。
この部屋に来てから金がなくて『かえたこと』がなかったからだ。
もう、時計は二つの針を合わせる時間をとっくに過ぎている。
309わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:53:19 ID:cQU2mC79
「寝よう…か?寝ますか」
「…いいんですか」
「いいよ…。いいですよ」
生憎布団は一人分。始めミミ子は布団を拒んだが、わたしのような何も出来ないマンガ描きの為より布団の存在価値は
ミミ子の方にあると思い、わたしは遠慮した。だが、ミミ子があんまり悲しそうな顔をするので…。

「二人で寝ると暖かいね。ここに来てから、誰かを泊めたのって初めてなんだよ」
「そうなんですか」
「くっつく?」
いつの間にか、わたしはミミ子のことを受け入れていた。
ミミ子は死神、わたしはしがないマンガ描き。境遇も違うわたしたちを結ぶのは薄っぺらい掛け布団であった。

どうして知らない子を泊めているんだろう。
どうして…と考え出すと、きりがないのは分りきっている。そのせいか、なかなか眠りの園に陥ることが出来ない。
今頃、あの編集者は何処かの酒場で飲んだくれているのだろうか。きっとそうだ。

ささやかな幸せを感じながら床に入るわたしたちに、土足で割り込むヤツがいる。
ソイツの名前は携帯電話。わたしの生命線でもあり、小憎たらしい悪戯小僧でもある。
最悪なことにその発信元はあの『悪魔』の編集者だと電話の小窓は伝えていた。
「なんだか…呼んでますよ…」
「いいよ。寝よっか?」
「……」
留守番電話に録音される声がわたしにつんざく。
そして、わたしはミミ子にいつのまにか友達のような言葉遣いをしていた。

『おーい!咲たーん!!今、いい所だからきんしゃいよ!えっと…新宿の…』
これ以上酔っ払ったバカ声を聞きたくないので、携帯電話を遠くに放り投げてやった。
部屋の隅に置いてある、くまのぬいぐるみにボディーブローした携帯電話は力なく畳に崩れ落ちた。

310わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/02(月) 00:54:10 ID:cQU2mC79
今回はここまでです。近いうちにつづく…。
311 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 03:47:10 ID:irSagh1d
わぁお
312創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 05:39:33 ID:/t4z9Sst
>>302-310
乙。続きは百合分多めで頼むよ
313創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 13:19:26 ID:gYPk1x+I
投下きてたー
続きwktk
314創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 12:37:12 ID:szqnEjnI
wktk
315創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 20:23:21 ID:o/+4asZV
かわいいのう
316創る名無しに見る名無し:2009/02/04(水) 23:31:36 ID:20D1JYr+
おっ!投下来てた!続きが気になりますなあ、GJ!


どこで吐き出せばいいんだかわからなくて書くんだが、今更カレイドスターにはまった。
すごい百合サイトってすごいよな・・・もう俺の脳内レイそら一色。
317 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:32:21 ID:FOhhgHAY
―私はきっと、寂しかったんだ
  私より先を行く背中にずっと、振り向いてほしかったんだ

この気持ちに気付くまで、遠かった。とても長い時間が、かかった。

下駄箱の前で小百合を待ちながら、私は情けなくひざを抱いていた。
校門の前の時計は四時半を指そうとしている。
いつもなら二人で駅へ向かっているはずの時間だ。
「美月先輩に用があるから、今日は先に帰っていて」
授業が終わって、小百合に帰ろうと声をかけた瞬間、返された言葉。
美月先輩とは、小百合がお気に入りにしている三年生の事だ。
私にはわからないが、周りのクラスメイトには皆それぞれ“お気に入り”と呼べる先輩がいた。
短い高校生活の貴重な二年間を、擬似的な色事で潰してしまうのは勿体無いと思わないのか
彼女達の気持ちが理解出来ない私は、冷淡にもそんな事を考えていた。
その素気なさは、美月という上級生への無自覚な嫉妬から生じたのかもしれない。
小百合が先輩の事ばかり話すようになったのはいつからだったろう。
その度に私は心の中で剥れて、拗ねた気持ちを胸に隠してきた。
小百合が何を口にしても、いつもと変わらない笑顔で通してみせた。
楽しげに先輩の話をする小百合の笑顔を、壊したくなかったからだ。
友達が楽しそうにしていると自分も嬉しい、私の思考は友情に忠実であったと言える。
それは、誰かには誉めてもらえる事なのだろうか?
けれど私は素晴らしい友人だと称えられる為に、自分の気持ちを抑えてきたわけじゃない。
この気持ちが何によって生まれるものなのか、わからないほど幼くて
それを打ち明けた後に訪れる未来が、想像も出来ないほど恐ろしくて
本当にただ、幼稚なだけだった。
318 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:33:14 ID:FOhhgHAY
そういう自分に気付いたのは、今日の放課後。ついさっきの出来事。
小百合の顔を見て、わかった。
“先輩に用があるから”と言ったその表情は、凛とした強い眼差しで
でもどこか頼りなげに頬は赤らんで、この先に待ち受ける運命に挑むような
私にはそんなふうに見えた。
そして実際、その通りに違いなかった。

―告白する気だ

小百合のその瞳を見るまで、私は小百合が本気で先輩に恋しているなんて思いもしなかった。
それに気付かないほど、私は幼かった。
そんな私の幼さを知っているからこそ小百合は、先輩を想ってどんなに切ないかも
今日の決意についても“親友”である私に打ち明けたりしなかったのだ。

自分自身の頼りなさにまた、寂しさを覚えた。苛立ちも、少し。
今、無断で小百合を待ち続けているのは“鈍感な親友”の汚名を返上する為だろうか?
わからない、ただ小百合がどんな未来を歩むとしても
それを一番に見送るのは自分でありたいと望んでいた。
私にはそう望む事しか、術が残されていなかった。
三年生の階へ向かう小百合の背中を見上げながら
“行かないで”と心の内で何度も呼びかけた。
“私以外のものにならないで”そう何度も。
けれどだめだった。声にならない想いが伝わる事はない。
それがわかっているからこそ小百合は、先輩に想いを告げる決意を固めたのだろう。
私のずっと先を行く小百合を、引き止める術はもうない。
後は私の手の届かないゴールを行く小百合を、後ろから見届けるだけだ。
この時既に、私の頭の中では“小百合と先輩は恋人同士になるもの”だと思い込んでいた。
私は本当に、幼稚だ。
319 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:34:03 ID:FOhhgHAY
「藍、どうしたの?」
小百合の声が、私の背中に向かって呼びかける。
ここでこうしていたのは十分やそこら。こんなに早く小百合が降りて来るとは思っていなかった。
本当はもう少し経ってから他の学年の下駄箱に身を潜めて
小百合と先輩が帰っていくところを、こっそり覗き見ようと考えていたのだ。
けれど小百合は今、一人で私の目の前に立っている。
「さ、小百合…あれ、先輩は?」
私の問いに、小百合の視線が少し泳いでいた。
「あぁうん、用事は終わったよ」
語尾が力ない。私は何故小百合がこんなにも寂しそうな顔をしているのか、理解できなかった。
「どうしてそんな顔してるの?」
直接尋ねるしか、この疑問を解く方法はなかった。
小百合は私の無神経さに怒りもせず、ただ一筋、涙をこぼした。
「フラれ、ちゃった…から…」
私が尋ねなければきっと、小百合は笑い顔だけ見せて私と家路までの道のりを共にしてくれただろう。
そんな小百合の強情さが悲しくて、気付けば小百合の事を抱きしめていた。
320 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:36:04 ID:FOhhgHAY
「小百合がフラれるなんて信じられない」
カウンターの窓越しに流れる人々を眺めながら、私は語気を強めて言い放った。
「どうしてそんな事、言えるのよ」
完全に乾いた瞳で、飽きれながら小百合は言葉を返す。その声はまだ湿っぽい。
下駄箱で散々に泣きはらした小百合は、私の手を引いて駅前のこの場所まで目指した。
入学してから二人が通っている古びた喫茶店だ。
少し暗めの店内に、テーブルが五つと、賑やかな交差点に面したカウンターが七席。
外を行く人々と視線が重ならない右端の二席が、私達の指定席で
学校や家では上がらない話題も、この場所だと深く話し込む事がよくあった。
「だって小百合みたいな人に好きになってもらえたら、誰でも嬉しいと思う」
小百合は笑った。
笑ってから、母親みたいな顔をして、私に語りかけてくれた。
「あのねぇ、好きって気持ちは一つしかないんだよ
 好きになってもらえて嬉しい人も、本当の意味では一人しかいないの」
言い終えて、小百合は瞳を伏せる。
その一つを失った心の傷は、今はまだ生々しい。
「じゃあ小百合には先輩一人だけなの?」
もしそうなら、それはとても寂しい事だった。
小百合の中の、たった一人を謳われる先輩が、妬ましかった。
「そうだね、今日まではそうかな
 でももうフラれちゃったから、今日でおしまい
 明日からは好きな人、じゃなくて普通の先輩後輩に戻らなきゃ」
例えすぐに気持ちを打ち消す事が出来なくても
“戻らなきゃ”と言い切る事の出来る小百合を、私はすごいと思った。
321 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:37:20 ID:FOhhgHAY
「焦りすぎ、ちゃったかなぁ」
落ち着いた声で、小百合は振り返る。
「こうしてフラれてみると、先輩の事考えたり、遠くから見つめたりして
 きゃーってなってるだけで幸せだったかもしれない
 特別にしてほしい、なんて欲を張るからこういう事になるんだよね」
「それは欲張りなこと、なの?」
好きな人に自分を好きになってもらいたいと願う事は、きっと自然な事だ。
昨日まではわからなくても、今日の私にはそれが理解出来る。
「だって本当は、楽しい事いっぱいあるんだよ
 クラスで騒いだり、友達と…藍とこんなふうに喋ったりね
 好きな人を恋人にするだけが、幸福じゃないんだから」
失敗したなぁ、と小百合は頭を掻いた。
失恋という深刻な悩みなのに、乗り換えに失敗したみたいに
あっさりと愚痴に零す小百合が可笑しくて、私は笑った。
「でもきっと、今日の事も楽しくなるよ」
笑ってそう口にした私は、やはり無神経だったかもしれない。
告白や失恋の経験もない私が言うべき事ではなかったかもしれない。
でも小百合に楽しくなってもらいたいという気持ちは、誰よりも本物だ。
きっと先輩にも、負けやしない。
「そうだね」
告白という一大事があった今日は小百合にとって朝から緊張したものだったんだろう。
小百合は私の言葉に頷くと、今日一番の笑顔を私に見せてくれた。
322 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:38:13 ID:FOhhgHAY
その日は、小百合が生まれて初めて失恋を経験した日となった。
きっとしばらくは忘れ難い日となって、小百合の胸を痛ませるのだと思う。
けれどもし、今日という日が小百合にとって大人への階段の一つに過ぎないのだとしたら
いつか想い出だけ残って、日にちなんて過去の暦だけを頼りに思い返すものへと変わる。

だけど私は一生忘れないだろう。
この世で一番大切な親友に、想いを抱いたこの日を。
いつかこの気持ちを、素直に伝えられる日が来るのだろうか?
わかるのは、二人が友情で結ばれている間にも
見つけ出せる幸せが、この先も数多く介在しているだろうって事くらいだ。
それらの多くを手にするまで、小百合と想いを通わせる事は、きっとない。
けれど年甲斐もなく未だ幼稚でいる私は
小百合の隣りに寄り添える今を、今生の幸せのように感じているのだった。
323 ◆YURIxto... :2009/02/07(土) 12:40:14 ID:FOhhgHAY
創作って難しいですね…
スレ汚し失礼しました
324創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 14:34:07 ID:zfSkULBV
いい酉ですね
藍の思考がかわいいよー、そしてちょっと切ない
325創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 19:17:51 ID:16VOJHJ2
味があって面白かったよー
この先、藍が今回の出来事と照らしてみて
小百合に告白するのかどうかがすごい気になる
いい話なんだけど、そこはかとなく切ないねぇ…
326創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 19:31:51 ID:g4bren21
いいねいいねー
こういう切なさが百合の醍醐味だと思ってるよ
327わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:28:16 ID:zzft+5xZ
いいなあ、こういうの。お手本にしたいです。

続きが出来上がりましたので投下します。
全3話になりそうです。
328わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:29:06 ID:zzft+5xZ
翌日、わたしたちが目を覚ましたのは世間さまが午前の仕事を終わらせる頃だった。
お日様も高く天に上り、わたしたち二人だけが世間さまに歯向かうような、はみ出しているような、
そんな贅沢でもあり、わたしたちが世間さまからいらない子のような気分がしてきたが、それはそれでいつものこと。
怖いことは何一つない。ただ違うのはわたしの側にミミ子がぴょこんとすわっていることであった。

そういえば、きょうの午後はあの編集者に会わなければならない。気持ちの良い青空だというのに気が滅入ってきた。
とにかく、朝ご飯とも昼ご飯とも言えない目玉焼きを作る為に、フライパンを火にかける。
手のひらで温もりを確認したあと、なけなしのバターをぽんと熱い鉄の上に放り込んだ。くるくる回りながら踊るバターを
視線で追いかけてくんくんとお昼の匂いをかぎながら、布団の上で正座するミミ子に事情を話す。
「あのですね…。今からわたし、出かけたいのですが」
「それでは…わたし…どうしましょうか」
一宿一飯を共にした子とはいえ、わたしとミミ子は他人同士。
この子をウチに置いて行く訳にはいかないと考えると、ミミ子にとっては残酷かもしれない。と言うものも、出て行ってくれと言う勇気もない。
「どうしましょう?」
「どうしましょう」
「どうしましょうって…言われても」
「そうですね…どうしましょう?」
オウム返しにされても困る。
二人で困っている間にフライパンの上のバターは姿を消し、焦げ付いた匂いで四畳半の部屋は満ち溢れていた。

―――ささやかなご飯をとった後、わたしは出支度の為に洗面台の鏡を覗き込む。
と、あることに気付いた。今更なのだが…、そっくりなのである。誰がって、わたしたち二人である。
メガネを除けば地味な髪形といい、悪い目つきといい自分でもどっちがどっちかよく分からなくなった。というのは言いすぎであろうか。
でも、かすかな瞬間そう思ったことは確かなこと。『もう一人のわたし』寄り添うようにわたしの腕に絡み付く。
試しにメガネを外してミミ子と並ぶが生憎何も見えない。メガネをかけ直しながらミミ子に訳を話す。
「わたしですね…極度の近視で良く見えな…」
の、後の言葉が止まった。雀の声がよく聞こえる。
329わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:29:42 ID:zzft+5xZ
「どうしました?」
「あの…わたした、ち?」
鏡がわたしに真実を映さないのか。ミミ子の姿が鏡に存在しないのである。
確かにわたしの横にはミミ子がいる。暖かい温もりも、生きとし吐息も感じると言うのに。
ますますこの子のことが分らない子になったが、わたしと別世界のものなんだと再認識させられる出来事であった。

「あの…わたしだったら外に出かけてきますよ。でも…また今夜も泊めてくださいね」
「そう…じゃあ、夕方6時にここで」
そういえば、ミミ子は探しものの途中だったのだ。例え見つけても、見つけなくてもここに帰ってくるとミミ子は言う。
死神とはいえ、ミミ子は義理堅い。ミミ子の帰宅を許可するとにこりと笑うミミ子。わたしが笑えば同じような顔をするんだろうか。

玄関先で、わたしたちは出かける準備をする。相変わらずミミ子は黒ずくめの服であった。
一方、古着に身を包んだわたしはこれから出版社に向かうのだ。行きたくもないが、行かなければお仕事が回ってこない。
いわゆる『営業』ってやつだ。人と話すことが極端に苦手なわたしにとって最も不向きな仕事。
生きる為にはしょうがないのだが、嫌な場所に乗り込む前なので頭が少し痛い。
「では…。いってきます」
「いってきますね」
ミミ子の手がわたしの髪を撫でる。

初めて親以外の人物から、髪を撫でられた。
わたしの毛先で遊ぶミミ子の笑った顔はあどけない。そのまま指先はわたしの耳をなぞっていくと、
背筋に感じたことのない電気のような感覚が走り、今まで痛かった頭は真上の青空と同じようにすっきりと晴れやかになったのだ。
その上、何だか身体が軽くなったようにも感じる。ミミ子は物足りなさそうな顔をしてわたしの顎に人差し指をのせたが、
わたしの不安そうな顔を見るとやめてしまった。おふざけはおしまい。これからは現実と戦わなければ。

「じゃあ、午後6時に」
「午後6時に」
「会いましょう」
「お会いしましょうね」
330わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:30:21 ID:zzft+5xZ
―――出版社の廊下では古着に身を包んだわたしが、その場の時間から抜き出たようにぼさっと立っていた。
エリートコースまっしぐらに進む同い年位の若人が、時計の針に追われるように横をすり抜けてゆく。

そいつらの人生を否定するわけではないが、何だか悔しい。
マンガを描く人、マンガを読む人。
人を使う人、人から使われる人。
ダメ出しする人、ダメ出しされる人。
わたしだって身なりを整えれば立派な社会人になれるはず。なのに、身と魂を削るばっかりのマンガ家を選んだのは
どうしてだろうか、と時たま考える。ペンは剣より強いが、剣より強いペンで自分自身を傷付けている。

「いらっしゃい、咲ちゃん。ここばうるさかけん、喫茶店にでも行こうか?」
大人の色香漂わせパンプスの音を鳴らしながらやって来た、九州訛りのスーツ女はわたしの担当編集者である。
昨晩の電話のことはすっかり忘れているのだろうか、からっとした明るさでわたしを取り囲むだめだめオーラを吹き飛ばしていく。
「ぜひお願いします」と慇懃に返事をするとこの女に連れられて、小さな大衆的な喫茶店に入った。

席に二人対面で座ると、いきなりこの女は姐御ぶって耳を塞ぎたくなるような話を始める。
彼女はまるで世話役ことが法律であるのかのように、自分のグラスのストローをくるくると回しながら、目線をわたしに合わせるのだ。
「咲ちゃんね。男ぐらい見つけないと、マンガがだんだんだめになるんじゃなかと?」
「いえ、わたし…いりません」
「だめだめ!咲ちゃん、乾ききってるよ!!」
男の人なんかだめだ。
男は獣、男は野生。
331わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:30:57 ID:zzft+5xZ
わたしだって男の子と付き合ったりしたことはある。でも、アイツらはわたしのことを大事にしてくれやしない。
なので殆ど長続きもしないし、記憶にも記録にも残らない。わたしの言語から『男子』を消し去ってやりたいほどだ。
しかし、この女はそんな男のことをまるで天使か神かのごとく、わたしにその『男子』の『すばらしさ』らしきことを説き伏せ続けている。
「男の数だけ、女の子は光るんだよね。わかる?」
そんなヤツとバンバン付き合えと言うのか、この女は。
女の子のことは女の子に任せておけ。男の子なんか、欲だけで生きるバカモノだ。
「咲ちゃんはね、いいもの持ってると思うんだけどね…ばってん、男嫌いがねえ…」
悪かったね。男嫌いで。わたしのジュースだけがぐんぐんと嵩を減らしてゆく。
いざとなったら、頼りになる。男の子は稼いでナンボだの…よくまあ、薄っぺらいことをつらつらと語り続ける。
そんな女郎によく大企業は言の葉を扱う仕事を任せたもんだ。逆に考えれば、嘘っぱちでも
数を重ねれば真実味を増してくるから、一歩間違えればインチキな商売であるからこの女にはぴったりか。

わたしはこの場にいることがいたたまれなくなり、そそくさと席を外そうとする。しかし、この編集者はわたしを引きとめようと必死だった。
頼むから、一人にしてくれ。人間なんぞ大っ嫌いだ。
この女に会いに来たのは他でもない。ただ、わたしの売名行為をするだけなので長居は無用。
「あの…。わたし…」
「ん?いいアイディアでも生まれた?」
「はい」

飲み物を飲み終えると慇懃無礼にお辞儀をし、一目散にわたしは編集者から逃げ出した。マンガのネタが出来たという、嘘っぱちをついて。
わたしの人嫌いもここまでくると、流石のわたしでもおかしいのではないかと思う。
「頼むから、一人にしてくれ」
呪文のように、しの突く雨降る漆黒の夜のような独り言を呟きながら、心地よいお日様の照りつくす街を駆ける。
お日様なんか、嫌いだ。何もかも見えてしまうから。
332わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:31:27 ID:zzft+5xZ
そういえば、ミミ子はどうしているのだろう。
寂しそうにしているのではないか、という自分勝手な想像がわたしを囲む。わたしもミミ子も同じような瞳をしているということは
きっと世間を見る目同じように見えるんだろうか。でも、そんなことは誰も知らない。
と、脳の端くれでミミ子のことを思い出している時のことだった。不運はいきなりやって来る。あの編集者のように。
「うっ!!」
思いもよらない激痛がわたしの丸い頭を襲う。痛い、とても痛い。
膝を付き、折角のスカートをアスファルトで汚し頭を抱えていると、名もなき通行人が声をかけずに通り過ぎる。
いや、誰かが声をかけたのかもしれない。しかし、わたしにはそんな善意溢れるさえずりは鼓膜を通り過ぎていっているようだ。

「とにかく、帰らなきゃ」
その目的は…ミミ子に会う為。唯一つ。

―――脇目も振らずに病み続けた頭を抱えて、街を走り続けたわたしはいつの間にか
わたしの住むぼろっちいアパートに着いていた。
夕方には程遠い昼間のこと。もちろん、ミミ子の姿はない。
人嫌いなはずなわたしのクセに、ミミ子の帰りだけはしっかりと待つなんてわたしは卑怯者かもしれない。
頭の考えるまま動くなんて、男の子のすることと同じじゃないか…と自問自答を繰り返していても仕方がない。
残り少ない冷蔵庫の中から卵を取り出し、プレーンオムレツでも作ることにする。もちろん二人前。
まだまだお日様は天を巡る。
333わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:32:04 ID:zzft+5xZ
日が沈む前に、ミミ子は帰ってきた。
持ち物は出かける前と同じ。しかし、ひどく落ち込んでいる様子ではなく、むしろここに帰ってきた喜びさえ感じる。
「ただいまかえりました…」
振り向くと静かにわたしにミミ子は近づいていた。
くんくんとバターのこげる香りを楽しむかのように、わたしの肩越しにフライパンを覗き込むミミ子。

わたしがこの子に気を許しているのはこの子が『人間じゃないから』なのだろうか。
しかし、理屈なんか捏ねる必要はない。その証拠にミミ子はわたしの話を何でも聞いてくれる。
否定も肯定もせず、昨晩共に過ごしたときに感じたこの子の柔らかな肢体のように受け止めてくれるのだ。
今日あったあの編集者のこと、今までのどうにもならなくつまらない憤り…などなどをミミ子にぶちまけた。
「そうね…、うん」
「そう思ってくれてありがとね」
短い言葉のやりとりはお喋りなヤツからしたら、イライラするだろう。しかし、わたしたちには十分な長さだ。
たったこれだけの言葉なのに、あっけなく救われるなんてわたしは単純な女だ。
単純すぎてわたしの目頭が熱くなる。

「どうしたんですか…」
「いや、何でもないの」
わたしの瞳から零れ落ちる何かをハンカチで拭こうと、わたしがメガネをそっと外した瞬間、唇に甘く柔らかい瑞々しい感覚がした。
メガネを外すとわたしには何も見えないことをいいことに、ミミ子はわたしの唇をほしいままにしていたのだ。
ほんの数秒、一日にしてほんの瞬き。
あの編集者の押し付けがましい話も、わたしには薄暗く見える太陽の光りもこの甘いミミ子の誘いでふっと忘れてしまった。

「ごめん…」
ミミ子はわたしのメガネを奪って、わたしにまだ話しかけたことのない言葉で過ちを詫びる。
タメ口だ。何気ない言葉の力は素晴らしい。

―――春に近づくこの晩も二人で布団に入った。
日が昇ると、わたしはたまにマンガを描き、ミミ子は探し物に出かけ、日が沈むと二人で布団に入る日々。
そして、次の日も、あくる日も…。これが日常の風景と化すまで日にちがかかることは長くなかったのだ。
すっかりこの日々に慣れ切ったわたしはミミ子の正体のことを一時期忘れていた。
しかし、ミミ子のさりげない言葉でミミ子の正体が蘇る。
334わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:32:33 ID:zzft+5xZ
ある日、何気なくマンガを描こうと原稿用紙とにらめっこを続けていると、私自身のことを思い悩むようになったのだ。
白い原稿用紙とは裏腹に、わたしの身体中は黒く濁り混沌としているのが自分でもわかる。
本当にわたしは世間さまに足を向けて寝ていていいのだろうかと。
マンガを描き続けていいのだろうかと。
いわゆる煮詰まっている状態なのだ。嫌なことばかりしか思い浮かばないわたしは人を楽しませることが出来ない。
「誰かの為にならないって…寂しいね」
「大丈夫、わたしは咲さんがいてくれて…うれしいです」
愚痴とも取れる台詞でさえ、ミミ子は受け止めてくれた。すぐに目頭が熱くなるのはわたしの悪いクセ。
涙を拭こうと洗面台に駆け寄ると、後ろからミミ子が付いてくる。
「恥ずかしいな…見ないでよ」
「…わたしに拭かせてくれませんか?」
鏡にはわたしの後ろで笑っているミミ子が映っていた。

ちょっと待て。この間、ミミ子とここで並んだ時にはミミ子は鏡に映っていなかった。
どうして今日はミミ子が映っている。
にこにこと嬉しそうなミミ子に聞くことさえ出来ないわたしは臆病者の極み。
ところがミミ子は鏡越しにわたしに感謝の意を伝える。はたしてそれは世間さまから聞いて感謝と言っていいのかわからない。
何故なら、その言葉は
「咲さんのお陰で長生きできそうです」

以前、ミミ子は話していた。
「わたしたち、天界の者の糧は地上の者の…命です」
その言葉の意味と、先ほどのミミ子の言葉の意味を理解するには時間はかからないだろう。
そんな状況を知らない携帯電話はわたしを呼ぶ。留守電モードの電話からは編集者の女の声が飛びぬける。
「咲ちゃん?大ニュース!!連載、決まったばい!!」

もろ手を挙げて喜んでいい状況なのに、わたしはどうでもよくなった。
連載なんか消えてしまえ。『よい』『悪い』で考えるより、『好き』『嫌い』で考えろ。
ミミ子を喜ばせているほうが、わたしは好きだ。
335わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2009/02/07(土) 20:33:22 ID:zzft+5xZ
今回はここまでです。
次回でおしまいにしたいと思います。

投下終了。
336創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 23:04:01 ID:zfSkULBV
命のやりとりってどことなくエロいよね
337創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 00:12:03 ID:XoNkETVy
おおおおおおお!?
なんかラッシュキター
338創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 00:19:10 ID:uDzoKxil
死神さま一気に読んだ
続き期待してまー
339 ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:42:11 ID:wDDNjtEt
ラッシュということなので、どさくさに紛れて>>272の続きを投下・・・
340月の舞・夜の椿(13) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:44:49 ID:wDDNjtEt
修学旅行から帰り、舞は憂鬱な日々をつばきと共に過ごしていた。
確かに、つばきは良き友人だし、悩みを包み隠さず語り合える親しい仲間だが
いくらお互いの事を認め合えたからといえ、舞は自分でもあと一歩の勇気を踏み出せずに
友情より踏み込んだ関係に戸惑いを隠せないのが現実。
2人で手をつないで歩くのも、クラスメイトの目の届かない通学途中などにこっそりとやっているし
学校の中でもつねに一緒に居るものの、傍から見ればせいぜい「とても仲のいい友達」
その程度に取られる身の振舞い方をしようと、少なくとも舞は努力していた。
そんな舞を見て、つばきはたまに「そんな遠慮しなくてもいいのに」という顔をするが
どうしても素直になれない舞は素っ気無い態度を取ってしまうこともあった。

舞は、もしつばきさんも私と友情以上の関係を望んでいるなら、
むしろこの関係をクラスメイトなどに自慢したと思っている。
機嫌しだいであっちにいったりこっちにいったりする
最近の女の子の軽い友情関係に、舞は少しうんざりしていた。
そう思っていたから、舞の周りにはあまり「友達」と呼べる人が居なかったのだ。
でも、つばきさんは違う。舞の事を本当に心配してくれているし、舞もつばきの事を
もしできるなら命を賭けてでも守ってあげたいと思っている。

だから、「友情」という枠を越えて「恋愛」という篭の中に落ち着きたいと感じていたのは事実。
舞はもう一度つばきの本当の気持ちを直接聞きたかった。
修学旅行で行った札幌の公園で知った彼女の悲しい過去。
そして、自分を追って転校してきたという事実と、「舞がいるから生きていける」という一言。
彼女本人は友情というつもりでその言葉を使ったのに、
舞がまた違った意味でその言葉を受け取ってしまっていたら、もしかしたら彼女に嫌われるかもしれない。
修学旅行から帰ってきてからもその一言をずっと頭の中で繰り返してはみたものの、
どういう意味かは結局理解できず、舞は歯がゆい思いをして辛かった。
このままでは自分までダメになってしまう。

そこで、舞は行動を起こすことにした。
341月の舞・夜の椿(14) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:45:56 ID:wDDNjtEt
静かにゆっくりと時間が流れる、ある日の昼休み。
つばきとの何気ない会話の中で、舞はそれとなくチャンスを窺っていた。

考えに考えた挙句、つばきを「夕日が綺麗なのよ」という理由で
屋上に連れ出し、そこで2人きりになった所で彼女に自分の気持ちをぶつけ
彼女の本当の気持ちを聞きだすという計画を立てたのだ。

自分でも無理があると思った、この「屋上へお誘い作戦」

この高校の屋上は、一応生徒が立ち入ってもいいスペースだが
ヒューヒューと寒い風が吹き荒れる年末という時期柄、殆ど人の出入の無い場所だった。
春や秋などの風が気持ちいい季節には、男の子と女の子が告白しあったり、2人きりのお弁当を楽しんだり
時には喧嘩の現場にもなったりする、生徒達がここぞという時に使うとっておきの場所となっているが
流石にこの時期になると、とっておきの場所は学校の外の暖かい場所へ移るようで
ちょうど訪れた偶然のタイミングに舞は全てを賭けたのである。
だけど、言うまでも無く学校の屋上でデートや告白の経験もないし
長年その場所とは無縁の生活を送ってきた舞は、屋上から夕日を見たことなんて無い。
夕日がきれいという情報も、だいぶ前にクラスメイト達が話していた会話が漏れ聞こえてきたというだけのこと。
綺麗な夕日が屋上から見えるかどうかは全くわからないが、幸い今日は朝から雲ひとつ無い快晴で
もしかしたら真っ赤で綺麗な夕日が見えるかもしれない。

でも、いくら綺麗な夕日が屋上から見えても、つばきさんは自分の誘いに乗ってくれるのかが心配だ。
それなりに深い関係の舞とつばきといえど、突然親友から「屋上で夕日を見ない?」なんて誘われたら
少し戸惑うかもしれない。

ふとそこで、少し前につばきのお家へお邪魔した時の一こまを、舞は思い出した。

──確か、つばきさんが例の「札幌の公園」をおススメした時も
突然の提案に戸惑う私を必死に説得して自由行動でその公園に行くことになったんだっけ。
342月の舞・夜の椿(15) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:47:39 ID:wDDNjtEt
高校生活の中でも一番重要で、一番大切な時間である修学旅行というイベントで
観光地という選択肢を捨てて個人的に思い入れのある公園に大切な人を連れ出すという行為は
相当勇気が必要な決断だっただろう。つばきさんだって勇気を振り絞って私を誘ったのだから
私だって誘えないわけがない。舞は徐々に決心を固めつつあった。

――待っててね、つばきさん。私も自分の気持ちを伝えたいの。

ふと、会話の間が空いたとき、舞は勇気を振り絞って精一杯のアクションを起こした。

「あ、あの、つばきさんっ。屋上から見る夕日って…すっごく素敵なのよ。
 それで、もしつばきさんさえ良ければなんだけど、今日の夕方、一緒に見に行けたらな…って。」

気がつくと、あまりの緊張に舞の小さな体は雨に打たれた子犬のようにふるふると震えていた。
幸いつばきさんには気づかれていないようだが、この言葉を発した後に
自分でも「ああ、もう取り返しがつかない所まで来たな」という事まで悟ってしまったぐらい
今までつばきに誘われるがまま一緒に行動し、自分からあまり提案したことのなかった舞が
このたった一言を伝えられたのはとても大きなことだった。

つばきがどう出るか、固唾をのんでその返事を待っていると
さっきまでのにこやかな表情のまま、彼女はさらりとこう返してきた

「あら、それは素敵ね。今日は何も予定は無いし、私も舞と一緒にその夕日を眺めたいわ」

あまりにも普通な返答にに拍子抜けしてしまい、全身の力がすーっと抜けてしまった舞。
座っていた椅子からするするとずり落ちそうなってしまった。

「だ、大丈夫?どこか具合でも悪くて?」

さっきのふるふる震える様子は気づかなかったようだが、流石にこれはつばきも気づいたようだ。
343月の舞・夜の椿(16) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:49:28 ID:wDDNjtEt
「いや、なんでもないよ。少し寝不足みたいで…やっぱりちゃんと睡眠は取らなくちゃね。」

なんとかその場を取り繕っている内に午後の授業が始まった。

そこからの数時間、午後の授業はまったくと言っていいほど手がつかなかったのは言うまでもない。
ひとまず誰も居ない屋上へ誘うことには成功したものの
実際問題、何を話そうかという点については残念ながら何も考えていなかった。
いっそのこと、単刀直入にこう尋ねようか。

――つばきさん、私たちの関係って、友達じゃなくて"恋人"だよね?

いや、だめだ。
そんな恐ろしいこと私にはできない。
もしつばきさんの考えている事と私が考えている事が180度食い違っていて、つばきさんに嫌われたらどうしよう。
舞は徐々に屋上でつばきに本当の気持ちを聞くという決断が間違いだと思い始めていた。

――舞ったら、私のことをそんな風に思っていたの?女性同士でそんな関係になるなんて…ありえないわ。
もう私のそばに近寄らないでちょうだい。

舞の想像の中のつばきが、舞を軽蔑するような視線でそう吐き捨てる。

――ごめんなさい、つばきさんっ…!

泣き叫びながら許しを請う舞。舞の人生の中で、身内の不幸を除けば一番恐ろしい光景だ。
想像するだけでも、辛い。

気がつくと、授業中なのに目に涙を浮かべる舞。
すぐ隣の席で真面目に授業を聞いているつばきに気づかれないように、そっと涙をふく。
そこで舞は悟った。
やっぱり屋上に行くのはやめにしよう。
344月の舞・夜の椿(17) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:50:59 ID:wDDNjtEt
つばきさんに嫌われるリスクを犯すより、このままやんわりと友達以上、恋人未満の関係を続ければいい。
そうだ、このまま天気が悪くなれば、自分が企画したこの「行事」も小学校の時の遠足のように
やむなく中止となるだろう。そうなれば断る口実を考えなくてもいいので都合がいい。
気がつくと、舞は祈っていた。

――おねがい、どうか少しでもいいから雨よ降って・・・

誰に願いをかけているのかは自分でも分からなかったが、とにかく今は誰でもいい。
よく考えれば、たとえ屋上に行ってもその類の話をせずに、普段通りの楽しい会話だけを済まし帰ってくればいいのだが
さっきの想像の中での光景があまりにもショッキングな光景だったせいもあり
とにかくその舞台となった屋上には行きたくないという気持ちが強かった。

じわじわと迫る放課後、しかし舞の気持ちとは裏腹に天気は雲ひとつ無い青空のまま過ぎていく。

そうこうしているうちに、運命の放課後がやってきた。
鳴り響くチャイム。今日も一日何かをやりとげたという表情で各自の清掃場所へ散っていくクラスメイト達。
「舞、何をボーっとしているの?早く清掃場所へ行くわよ」
つばきさんにそう促されるまで、舞はつばきの話していることが一言も頭の中に入っておらず、上の空といった感じだった。

清掃場所では、舞は教室をほうきで掃く係だったが、同じ場所を何回も何回も掃きつつづける舞に
他のクラスメイトも「朝霧さん、今日はなにか様子が変だね…」と心配している様子。
でも、そんな心配すら気づかないほど舞は何かに囚われていた。
もしかしたら、ここまで緊張するのはつばきさんと出会った時以来かもしれない。
ただ「放課後、屋上に行くのはやめにしよう」と伝えたいだけなのに、舞の緊張はピークに達していた。

気がつくと、清掃も一通り終わり、舞とつばき以外のクラスメイト達は清掃用具を片付け
各自思い思いの場所へ解散しようとしている。
もう、ここで言うしかない。

「そういえば、さっき屋上へ行くって言ったけど、やっぱり…」
345 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 00:52:18 ID:AF7fV2Ia
  
346月の舞・夜の椿(18) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:54:21 ID:wDDNjtEt
舞がそこまで言いかけた途端、つばきさんは嬉しそうな顔でこう言った。

「あら、そうね。早く行きましょう。」

つばきのニコニコしている顔を見た舞は、自分からは断れないことを痛感した。
とりあえず、屋上に行って他愛もない話でやり過ごせばいいんだ。
ゆっくりと、階段を登りながら屋上へと上がるつばきと舞。
つばきにとっては、足取りも軽く昇る階段だったのかもしれないが、
舞にとってはその階段は異常に長く感じられた。
もしかしたら、これが「天国への階段」なのかもしれない…この場に及んでも舞の妄想は止まらない。
そして、舞にとっては長かった階段もようやく終わり、屋上へと通じるドアが見えてくる。

「んっ、ちょっとこのドア固いわね…」

つばきの愚痴と共に、舞台のドアは開かれた。

ついにたどり着いた屋上。冬独特の北風がピューピューと吹き荒れている。
舞も、正直こんなに風が強かったのかと後悔するほどの状況なので
言うまでもなくつばきと舞以外は誰一人として屋上で過ごしている生徒は居なかった。

「ちょっと寒いけど、まあ晴れているから気持ちいいぐらいだわ」

そう呟くつばき。

毎度の事ながら、つばきのプライドはとても高い。
決して弱音を吐かず、じっと我慢しつづける。でも、その我慢も限界に近づいた頃に
舞と言う自分の気持ちを正直に伝えられる「心の拠り所」ができたので、彼女は輝き始めた。
現に今だって、彼女は微笑んでいる。
何気ないつばきの表情の変化を感じ取るのも舞の楽しみの一つだ。
だけど、舞自身は先ほどの教室での出来事のように考えすぎてしまう所があり、どうしてもポジティブ思考にはなれなかった。
347月の舞・夜の椿(19) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:56:50 ID:wDDNjtEt
屋上からは、フェンス越しに大きな夕日が見えていた。
目の前で今まさに沈もうとしている真っ赤な夕日は、まるで舞とつばき2人だけのために
存在しているのかの如く輝いている。

「まあ…! 毎日通っている自分の学校で、こんな綺麗な夕日が見られる場所があったのね」

つばきは、意外な事実を発見した事の感動を必死に舞に伝えようとしている。
だが、隣に居る舞だってつばきと同じ景色を見ているのだから、同じことを感じているはずだ。

――つばきさんったら、あんなに興奮しちゃって。小さい頃のつばきさんもああいう感じだったのかな。

そんな事を思っているうちに、いつの間にか2人は夕日が良く見える
貯水タンクの下のちょっとしたスペースに腰掛けていた。

特に何を話すでもなく、ただ座って夕日を眺める2人。
ここに来て、この場所に座ってからどれぐらいの時間が経っただろうか。
10分、いや、20分かな?もしかしたら1時間かも…
舞は、そろそろ黙っているのが辛くなってきた。

私からつばきさんに何か話しかけるしかないのだろうか。
舞が決心を固めようとしていたその時、突然つばきが口を開いた。

「そういえば、この夕日って、私が小さい頃にこの近くの河原で見た夕日にそっくりよ」

突拍子も無いことを話し出したつばきに舞は少し驚いたが
つばきさんの方からこの微妙な空気を破ってくれたので、舞は正直安心した。
「この近くの河原」というのは、学校から30分ほど歩いたところにある大きな川の河川敷の事だろう。
その川には、普段あまり水が流れておらず、川沿いに遊歩道が整備されている。
街の中の遊び場が減った昨今、あの近辺では子供達がのびのびと遊べる唯一の場所だ。
348 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 00:57:22 ID:AF7fV2Ia
  
349月の舞・夜の椿(20) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 00:59:38 ID:wDDNjtEt
「ふーん、つばきさん程のお金持ちも、小さい頃は普通に河原とか外で遊んでたんだ。
 てっきり家の中でお稽古事とかに追われてるのかと思ってた。」

「あら、失礼ね。確かに習い事には追われていたけど、時間を見つけては外に遊びに行ったりもしていたのよ」

流石はつばきさん。小さい頃から時間の管理もちゃんとできていたんだ。
妙な所に感心する舞。

「ふふふ、つばきさんだって小さい頃は私と同じ、普通の女の子だったんだね」

「当たり前じゃない。もしかして、私が貴族のような生活を送っていたとでも?」

つばきは、笑いを堪えきれない様子だった。
いつもの通りのつばきさんとの楽しい会話。
この調子なら、舞が思っていたことをつばきに探られる心配もないだろう。
せっかく苦労して誘ったのに本末転倒な感じもするが、結局勢いだけで計画してしまった
この「屋上でつばきさんの本当の気持ちを聞き出そう」作戦は
「やむなく作戦変更」という結末で無事終わりそうだ。
作戦の幕引きは、そつなくスムーズに。

「寒いし、そろそろ帰ろうか。つばきさん。」

舞がそう言おうと、口を開きかけたと同時につばきの口からも同じタイミングで何やら言葉が出てきた。
まったく同じタイミングだったので、どちらに発言権があるかは微妙なラインだったが
つばきの声がわずかに大きく、なおかつ張りのある声だったので、
どうやら今回の発言権は彼女にあるようだ。言いかけた一言を途中でのどの奥にしまいこみ、
つばきの言おうとすることに耳を傾ける。

「ねえ、舞。私を産んだ母がまだ生きていた頃に、あの河原には何度も連れて行ってもらったの。
 そこで母から色々な事を教えてもらったわ。生きることや人を愛することの素晴らしさ。
 それに、辛い事があった時の乗り越え方。だからこそ、母を尊敬しているし、心から母の事を愛していたの。」
350月の舞・夜の椿(21) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 01:01:07 ID:wDDNjtEt
ここで、つばきが自分の実の母の話をするとは、舞にとっても予想外の展開だった。
つばきの複雑な家庭事情は、修学旅行でのあの出来事で大体は知っていたが
亡くなってしまった実の母親の人間像までは舞もイメージを掴みかねていた。
とりあえずこの一言で分かった事は、つばきの実の母親はどうやら
彼女の事を大切にしていただけではなく、彼女にとってのよき母親、そしてよき先生として
人生を行きぬくうえでの知恵を授けていたらしい。

「つばきさんのお母さんって、とっても素敵な人だったんだね。」

実際には会ったこともない、今は亡きつばきの母親を想像して思いを馳せる舞。

「母は私に多くの言葉を残してくれたけど、今でもいちばん気に入っている言葉があるわ」

彼女が気に入っている言葉とは何なのか。舞は固唾を飲んでその時を待つ。
そしてつばきは、ゆっくりと口を開いた。

――自分が本当に守りたいと思った人を、心から愛しなさい。

その言葉を聞いて、舞の心臓の鼓動は一気に速くなる。
舞のつばきに対する気持ちが、この短い一言にうまく表れていたのだ。
まさか、つばきさんのお母さんの言葉が私の気持ちを代弁してくれるなんて。
舞の心の中は、感動と驚きが入り混じった複雑な気分で一杯になった。

「いい言葉だね、つばきさん。」

そこから先が続かない。自分が言いたいこと、ぶつけたい想いは沢山あるのに
なぜか言葉に出して伝える勇気が足りないのだ。でも、勇気は使うためにある。

こんな状況なら、いっその事つばきさんに自分の気持ちを伝えよう。
悩んでいる時間なんかない。いつも最悪のシナリオを想像してしまい、一歩が踏み出せない臆病な舞にとっては
屋上へつばきを誘う事の10倍、いや100倍勇気が必要な決断だったのかもしれない。
351月の舞・夜の椿(22) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 01:01:30 ID:wDDNjtEt
舞が決心を固めようとしている間にも、その気配を察したのか
つばきも自分が喋ることを中断し、舞がしゃべりだすのをじっと待っている。
その表情は、まるで小さい子供が何かを伝えたそうにしている際に
その子供の母親が聞き役に徹して笑顔で待っている、その様子にそっくりだった。
舞の言いたい事を聞き逃すまいと、舞の表情を読み取るのに全神経を集中させるつばき。

決意を固めた舞は、大きく深呼吸を1回し、つばきに自分の想いを伝えた。

――つばきさん、私がんばるよ。

「ねえ、つばきさん。
 私、つばきさんの事は前からずっと大切な親友だと思ってるよ。
 でもね、今日はその事についてひと言伝えておきたいことがあるの。
つばきさんが転校してきたあの日、つばきさんが初めて教室に入ってきた瞬間
 私は他の女の子とは違う何かを感じたの。同性の私から見ても、すごく魅力的で
 美しくて、優しそうで…だから、初めて話しかけられた時は、すごくドキドキしたよ。
 私みたいな地味な女の子と友達になってくれるなんて信じられなかったしね。
 それで、修学旅行でつばきさんの辛い過去を知った時に、
 私は “この人を一生かけても守らなきゃ と本気で思ったの。
 その頃から、つばきさんの事を “友達” としてではなく “恋人” として意識するようになって…
 ごめんなさいっ、つばきさん。こんな事言ってつばきさんは私の事軽蔑するよね。
 私の事嫌いなら、嫌いってはっきり言っていいよ。」

一気に、それでいて簡潔に自分の想いをぶつけた舞。

――ごめんなさい。これがお別れの挨拶になるかも…

罵倒される事すら覚悟していた。
もし彼女に嫌われたら、この場で屋上から飛び降りて
天国で彼女が来るのを待とうと本気で思うほど、舞の考えは悲観的だった。
だが、つばきから帰ってきた答えは意外なものだった。
352 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 01:01:37 ID:AF7fV2Ia
 
353創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 01:02:03 ID:uDzoKxil
支援
354月の舞・夜の椿(23) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 01:02:09 ID:wDDNjtEt
「…ありがとう。よくがんばったわね。
自分の気持ちを素直に伝えることができなくて、さぞかし辛かったでしょう。
 あなたがそう思うなら、今までのような友達としてではなく、
ちゃんとした “恋人同士” としてお付き合いしてもいいのよ。
 私もあなたの事を友達以上の関係だと思っていたわ。でも、あなたの気持ちがよく分からなかったの。
 恋人という関係を求めて、あなたに嫌われたら私もすごく悲しいし、
もしかしたらこの先、生きていけないかもしれない。
 だから、あなたから自分の気持ちを表に出してくれて、私…すごく嬉しいわ。
 同じ性別という壁はあるけれど、その壁だって舞となら乗り越えられると思う。
舞だってそう思っているわよね?」

――つばきさんも、私の事を愛していてくれたんだ

うれしい。
この感情のやり場をどこにぶつければいいか舞は分からなかった。

「つばきさんっ、私、私……!」

目から大粒の涙を流しながら、つばきの元へと飛び込む舞。

「もう心配しなくていいのよ、私はずっとここに居るわ」

つばきの胸の中は、温かかった。
まるで母のようなぬくもりで、舞を迎えてくれたつばき。
舞はようやく、落ち着くことができるゆりかごを見つけたのだ。

舞がつばきの胸の中で抱かれて泣いていると、突然つばき本人の腕で胸から引き剥がされてしまった。
さっきまで恋人だと言ってくれていた人の突然の行動に、戸惑いを隠せない舞。

「恋人、でしょ。」
355 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 01:02:44 ID:AF7fV2Ia
   
356月の舞・夜の椿(24) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 01:02:46 ID:wDDNjtEt
つばきは、自分の顔をゆっくりと舞の前まで近づけた。
2人とも、お互いのすべてを受け入れる関係。
もう何も怖いものはない。

くちづけを交わす舞とつばき。
つばきとの初めてのキスの味は、涙が混ざった、少ししょっぱくてほろ苦い味。

つばきの唇はやわらかく、そしてやはり胸の中と同じように温かい。

今までの関係では感じることのできなかった、つばきの本当の愛を
つばきと一番近い場所に居られるこの状態で舞は噛み締めていた。

「行きましょう、舞」

「うん!」

仲良く手をつなぎ、沈みかけた夕日の中へ消えていくつばきと舞。
昨日までの2人と違い、その姿は堂々としていた。

2人の世界は、まだ始まったばかりだ。
357月の舞・夜の椿(24) ◆hPUJOtxtvk :2009/02/08(日) 01:03:20 ID:wDDNjtEt
以上です。異常なまでの長文で申し訳ない。
文章を短くまとめる力って大事ですね。
358創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 01:05:04 ID:uDzoKxil

いい空気感だったのぜー
359創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 14:15:51 ID:nalqDV3o
乙乙
ふたりが結ばれてよかった
360 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:07:18 ID:Egq9GWdx
「なっ…」
夕陽の射し込むドアの前に立った瞬間、私の呼吸は止まる。
「あぁ、水谷さん」
穏やかな声に呼びかけられた時、私はもうその人物に背を向けて駆け出していた。
―なにしてんのこいつら!
私が見たのは部室の机で仰向けに横たわっている名前も知らない後輩と
その身体に覆いかぶさる五十嵐さんの姿。
視界に入ったのは数秒足らずで、うろ覚えだけれど
五十嵐さんの手が後輩の制服の下にもぐり込んでいたような気がする。
―意味が解らない
いくら校舎の隅の、一番閑散とした場所だからって、ドアも閉めずにあんな事しているなんて。
いいや、そんな事よりあんな行為をしている事自体が非常識だ。
身体を重ねているのが何才の女だとか、男だとか、そんな事は関係ない。
私の視界で、あんな目の前で、他人の情事を目撃してしまった事が耐えられない。
さっきまで皆が呼吸をしていた空間で、あんな行為に及んでいた事が信じられない。
求め合う二人だけに耐えられる空気を、一緒に吸い込んでしまったようで
私の胸は、全速力で駆けて高鳴る鼓動の痛みとは別に、吐き気のようなものを感じていた。
―それもよりによって、五十嵐さんだなんて
誰かが問題ではないといっても
一番見てはいけない人物の、その現場を見てしまった気がした。
あの場から離れるほどに、見たくなんてなかったという思いが胸に込み上げた。
361 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:08:35 ID:Egq9GWdx
長い廊下を駆け終わり、校舎から駅までの道のりを駆ける間
どうして忘れ物なんか取りに行ったんだろう、と何度も自問した。
部室のロッカーに置いてきた水筒なんて、一日そのままにしておいても
中の飲み物が傷むだけで、次の日家から注いで来れないだけの話だ。
私はわざわざ門の外から取りに戻った自分自身を呪った。

結局、電車に揺られて家に帰り着いてからも
放課後に目撃してしまった光景は瞼の裏に貼り付いたまま消えず
夜ベッドにもぐり込んでからも、私の安眠をかき乱し続けた。
そして瞼に再現される衝撃の現場よりも、更に強烈だったのは
あぁ水谷さん、という不自然なほど落ち着いた彼女の声。
この一晩で私は何度五十嵐さんの声を再生したかわからない。
あの現場に不釣合いな彼女の柔らかな声に、私はやたら苛立ちを覚えていた。

ほとんど熟睡する事が出来ずに目覚める朝ほど辛いものはない。
何より辛いのは、一晩悩ませた煩いが次の日も悩ませ続けるという事だ。
―どんな顔で会えばいいやら
重い身体を引きずって登校した私は、いつもなら顔を合わせる事のない
校門や下駄箱、階段、廊下の数ある箇所を、注意を払いながら歩いていた。
五十嵐さんとも、他の誰とも目を合わせないように顔を伏せながら
知らずに目の前や横に近付いている事がないよう、神経を尖らせていた。
362 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:09:53 ID:Egq9GWdx
私と五十嵐さんは、同じ学年でも、ほとんど口を利いた事がなかった。
クラスが離れていたので、部活以外で見かける事もほとんどなかったし
部室で顔を合わせても話す理由はない。
私達の間には同じ文芸部の、部員同士だという以外、何も接点はなかった。

文芸部は、私が人生で初めて入った部活だ。
中学までは帰宅部だったけれど、私の入った高校は全員入部が校則として義務付けられていた。
入学式でそれを知らされた時、私はしくじったように舌を打ち付けた。
と言っても、生徒全員が部活動に精励すべしなんていう校則があるはずもなく
やる気のない生徒は文芸部やイラスト部に所属だけして幽霊部員となるのが常だった。
私も同様の理由で文芸部に入ったくちだ。
けれど高校に入ってから、クラスメイトとの会話を億劫に感じ始めるようになった私は
休み時間が至極退屈なものへと変わってしまった。
そんな理由から、常に本を傍らに置くようになる。
本を読んでいれば、話しかけられる事もないし
もし話しかけられたとしても、その会話が長く続く事もない。
本が好きというより、外界から自分自身を断絶してくれる便利な道具として私は利用していた。
そしてどうせ利用するなら面白味のあるものがいいだろうと自然に考えた。
そんな訳で幽霊部員になるつもりで入った文芸部に
頻繁に顔を出すようになったのは今からちょうど一年ぐらい前の事だ。
ここには興味深い本が多く積まれてある。
三年生の先輩や、ほとんど顔を出さない顧問が時々本を入れ替えているようだが
私が手に取った限り、ほとんど外れがなかった。
部員どころか部活動それ自体がやる気のないように見られがちの文芸部だが
文芸、と名乗るだけあって、自分で話を書いている部員も何人か所属している。
そういう人達で作った小冊子を読むのも、ここへ顔を出す一つの理由になっていた。
稚拙な書き出しに失笑する事もあったが、私の求めている面白味は確かに健在していた。

幽霊部員でなくなったと言っても、私は熱心に活動している部員とは明らかに違った。
放課後に顔を出しても、部員の誰とも口を利かずに私は一人本を選び読み耽っている。
次の日の休み時間に読む分の本を選び終えると
それを鞄に入れて、さっさと部室を後にする、それが私の日課だった。
363 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:11:07 ID:Egq9GWdx
私が、部員の誰一人に関心を示さない中で、クラスも違う彼女の名前だけ知っていたのは
彼女の書いた作品を読んだ事があったからだ。
部員の人達が書いた物を読む時、私は一々誰が書いたかなんて意識したりはしない。
別に彼女の書いた作品だけ、ずば抜けて特別に感じられたからでも何でもない。
私が部室で小冊子に目を落としていると、開いたページを後ろから覗き見た彼女が
私の背中に語りかけてきたのだ。
「それ、私が書いたんだぁ」
振り返った時に見た彼女の顔は、今でもはっきりと思い出せる。
既成の言葉では言い表せない、誇らしさと恥じらいを持ち合わせたような表情。
こんなふうに笑う事の出来る人を、私はいいなと思った。
羨むような、憧れるような、ほんの少し温かさを持った、そういう気持ちだ。
この学校に入って初めて出逢った、そんなふうに思える人
それが五十嵐さんだった。
あの時読んだ“子供達が動物園を占拠して戦争を始める”という話は
しばらく私の夢に出て来ては、私の安眠を妨害してくれた。

そんなふうに彼女は、私の意識の隅に住みついて離れないままの存在であったが
それ以降、彼女と親しくなる機会も、親しくなろうという気概も
私の持ち合わせているものでは決してなかった。
彼女と口を利いたのはその時一回きりで、ただの部員同士である関係に何も変化は起きなかった。

そんな中で、私の日課は続いていた。
昨日の放課後も、そんな毎日の一つに過ぎなかった。何ら変わるところはないはずだった。
違ったのは、本を読んだり選んだりしている内に
いつもより帰る時間が遅くなってしまった事と、いつもならするはずのない忘れ物をしてしまった事だ。
いつも忘れるような性格をしていたら、きっと取りに戻る事もなかったんだろう。
帰る時間がもう少し早ければ、あんな場面に居合わせる事もきっとなかった。
でもまさか私が帰る時、最後に残っていた二人があんな事になっているなんて
想像出来るはずがない。最初から想像出来るような思考を持ちたくもない。
364 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:12:21 ID:Egq9GWdx
憂鬱な朝の幕がチャイムごとに開いて
あっというまに午前は午後と入れ替わり、昼休みの時間となった。
午前中、一番安全な教室から一歩も出ずにトイレを我慢してきたがそうもいかない。
祈るように顔を伏せたまま女子トイレに向かい、そして出てくると
待ち構えていたかのように五十嵐さんが、私の前を歩いてきた。
思わず足がすくんでしまった。
トイレの入り口で呆然と突っ立っている事しか出来なくなった私に向かって
彼女は肩を揺らした。
「こんにちは、水谷さん」
今まで部室で顔を合わせても、挨拶などして来なかったはずの人が
今日は私に気付いた途端、柔らかく声をかけて、目の前を通り過ぎていく。
昨日の事なんて意に介さないその微笑みに
私は一晩煮えたぐらせた苛立ちに再び火をかける思いがした。
あの微笑みだ、と確信した。
昨日、私の名前を呼びかけてきた時の彼女の顔が、この視界に入る事はなかったけれど
今見た微笑みがそれと同じものである事に確信が持てた。
その事がまた燃料となって、苛立ちは火を噴くかの如く募り出す。
さすがに同じ事で繰り返し怒りを保てるほど、私は熱い人間なんかじゃない。
放課後にもなると、昨日の事はもういいかと、不思議なほど寛大な気分となって
昨日までと変わりなく、部室へと足を運ぼうとしている自分がいた。
365 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:13:38 ID:Egq9GWdx
昨日のあの時間より、まだ少し夕陽が高い位置にある頃
私は旧校舎の一番隅にある部室の前まで辿り着いた。
廊下を歩いている時から響いていた、何人かのはしゃぐ声に安心した。
もしも昨日と同じ静かな雰囲気の部室だったら
私は中に入る事も出来ずに引き返していたかもしれない。
そして永遠に水筒を取りに行けなくなるのか、と
例え話の簡潔なバッドエンドに、一人笑いを堪えながら室内に足を踏み入れた。

私が来た事に誰も気付かないほど賑やかな室内で
私に向けて来る二人分の視線を、私は皮膚で感じていた。
五十嵐さんのものと、そのお相手である後輩の女の子のものだ。
無視すれば良かったはずなのに、私は後輩の方へじっと視線を重ねてしまっていた。
足先から頭の天辺まで食い入るように眺めていると、彼女の方から視線を外してきた。
そして居た堪れなくなったのか、鞄を抱えるとそそくさと部室から出て行ってしまう。
背中まで伸びた後ろ髪を見つめながら
私は自分が彼女を追い出したような気になって、罪の意識を僅かに感じていた。
しかしそんな罪悪感より胸に蟠ったのは
この場を後にする彼女に対して、五十嵐さんが目もくれていなかった事だ。
「高橋さんもう帰るの?」
廊下ですれ違った部員に、そう話しかけられている声が室内まで届いて
昨日五十嵐さんの下で仰向けになっていた後輩の名が知れる。
人の名前を覚えるのが苦手な私は、すぐにだって忘れる事が出来るはずだった。
なのに頭の中では「五十嵐さんと高橋さん、五十嵐さんと高橋さん…」と
何度も繰り返し、二人の名前が読み上げられてしまっていた。
366 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:14:55 ID:Egq9GWdx
やがて室内の賑わいは一層増していく。
人が増えたのではなく、部員達で何か計画を立てているようだった。
「よーし!今日は月一のお茶会の日に決定だー!」
まるで大人のする飲み会のように、その場にいるほとんどが拳を掲げていた。
あのハイテンションについていけない私は
きっと大人になっても同じように遠巻きで眺める事になるんだろう。
私以外の席についていた全員が、次々に立ち上がり鞄を肩にかけていく。
そんな光景の中、一人だけ帰り支度始めない人影があった。
「五十嵐も来るでしょー」
鞄を置いたままの彼女に、気の強そうな先輩が声をかける。
「先輩、私今日中に読みたい本があるんで、残ります」
「なんだよつれないなー」
そう言って先輩の一人が五十嵐さんの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫で回す。
はしゃいだように笑っている彼女。
彼女の部室での過ごし方は、熱心に読書や執筆をする時もあれば
部員達とだらだら喋り明ける時もあった。
誰にも囚われず、その日自分の好きな事をして、笑いたい時に笑う彼女は
誰の目から見ても皆に愛されている人そのものだった。
先輩達に名残惜しまれる彼女を見つめながら
囚われていなくても人と打ち解ける事の出来る彼女へ、羨望の思いを募らせていた。
この学校で、友達を作れない事を寂しいと思った事はないのに、不自然な望みだ。
はしゃぎ合う部員達の姿をぼんやり眺めていると
程なくして室内に流れ込んだ静寂の重さに私はようやく気付いた。
その場は思いもかけない事態となっていた。
先輩達のお茶会を断ったのは五十嵐さん一人で
それに参加しないのが当然となっているのも私一人。
という事は、私達が二人きりになるのは必然に違いなかった。
廊下まで先輩を見送った彼女が部室に戻る前にこの場を出なければと思ったが
私が立ち上がる前に、この部室の空気は私達二人の物になってしまっていた。
こんなところで呆然と腰かけていないで
部室を出ていく人々の群れに紛れて、私も帰ってしまえば良かったんだ
そう思っても後の祭りだった。
367 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:16:11 ID:Egq9GWdx
「今日も何か読んで帰るの?」
腰かけたまま動けずにいる私に向かって、五十嵐さんは親しげに声をかけてきた。
「えーっと」
正直、今すぐに帰りたかった。
昨日の、あの現場であるこの場所で、二人で空気を共有し合う自信がなかった。
「とりあえず…これを返そうかな」
「見せて」
鞄から取り出した地味な表紙の書籍を、私の手から取り上げると
彼女は隣りの席に腰掛けて、その本をぺらぺらとめくり始めた。
私が何も口に出来ずにいるように、彼女も無言で本に目を通していた。
耳に響いて来るのは、この窓際とは反対側に面しているグラウンドからの
あまりに遠い掛け声と、ページをめくる紙の摩擦音。
時折私達の座っている古い木製の椅子が、きしきしと微かな悲鳴を上げている。
やがてそれらより音量を上げてきたのは私自身の心臓の音だった。
何か口にしなければならない、そう急き立てられていた。
「ご…ご…」
「ん?」
彼女が瞳を上げた時、私はようやく言葉を並べられた。
「ごめん…私のせいで“彼女”帰っちゃったみたいで」
「彼女?」
「た、高橋さん」
「あぁ」
そういえば、といった態度で五十嵐さんは頷いていた。
「別に水谷さんが気にする事じゃないと思うよ」
一番気にすべき本人が、いかにも気にしてなさそうな口調で語りかけてきた。
視線は本に落としたままで“どうでもよく思っているの”を
身体のライン一つ一つから表現しているように感じられた。
昨日目撃された事は五十嵐さんにとって、本気で大した事ではなかったのだ。
そういう神経に、疑念を抱かずにはいられなかったが
目の前の彼女が頬を染めて狼狽えている姿を見たかったかと問われれば、そうじゃないと思う。
あんなに苛立ちを感じていた昨日の声も、昼間の態度も
今私の目の前で平気そうに座っている彼女の姿も
一番しっくり来るというか、他の人とは違う自然な態度というものがこの人にはあるように感じた。
さっきまで逆立っていた自分があまりに間抜けに思えて、私は肩を落とした。
368 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:17:53 ID:Egq9GWdx
この時、自分から持ち出した話題を、すぐに逸らしていれば良かった。
目の前にいる彼女が本を閉じ、次の言葉を口にした瞬間、私は語気を強めて遮った。
「昨日はさ」
「あの!高橋さんと付き合ってることは誰にも言わないから!」
五十嵐さんの口から、昨日の事について触れられるのがなんだかとても怖くなって
自分から宣言して、この件を終了させようと思った。
けれど五十嵐さんから出てきた返事は、話を落着させるどころか
私の中で渦巻いている雑念を一層かき乱すものだった。
「付き合ってる…?」
思いもよらない言葉をかけられたように、目を見開いていた。
そしてその驚きが収まると静かに、けれど心から可笑しそうに、笑い声をたてた。
「水谷さん、誤解してるよ」
誤解とはどういう事か。あんな真っ最中な現場を見て、そんな言葉を鵜呑みに出来るはずがない。
それとも本当に、何か事情があって、二人あの体勢でいたのか。
制服の下から胸に触れる事情が、卑猥な理由以外に何があるのか、私には思いつかなかった。
「誤解ってなに」
嫌でもまた頭の中で再生されてしまう昨日の二人の光景。
高橋さんの腕は確かに、五十嵐さんの首に絡みついていた。
あれを想いを寄せ合う二人の光景じゃないとしたら、何と説明を付けるつもりか。
「私、誰とも付き合った事ないよ」
―意味が解らない
昨日と全く同じ言葉を胸で唱えていた。
誰とも交際した事がないのは私も同じだから別に不思議とは思わない。
おかしいのは誰とも付き合った事ないという言葉が
高橋さんとも付き合っていないという意味に繋がるからだ。
「付き合ってもないのにあんな事するの?」
驚きを隠せずにいる私の前で、五十嵐さんも少し意外そうな顔をする。
「昨日のあれは、高橋さんが好きだって言ってきたから、触っただけだよ」
「触ったって…五十嵐さんの方は好きじゃないんでしょ?」
「うん、でも嫌いでもないし」
ここまで言い切られてしまえば、驚くのも馬鹿らしくなる。
五十嵐さんとはそういう人なのだ。
そう認識し直してみると、不思議なほど心が落ち着きを取り戻してきた。
369 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 01:19:07 ID:Egq9GWdx
部室の両端の机に、山のように積まれた本を二人で物色しながら、会話は続いた。
「高橋さんも、五十嵐さんと同じ考えの人なのね」
想いが叶わない上に押し倒される女の子の心境は、私が考えるところによると絶望そのもので
それを愛しそうに受け入れていた高橋さんも、私にとっては“奇怪な人”に違いなかった。
「さぁね、でも大抵の人はそれで納得してくれるよ
 やる事さえやってしまえば、恋心も熱を失っちゃうもんだよ」
その台詞に似合いの、冷めた笑い浮かべて口にしていた。
大抵の人って、物心ついてから十年ちょっとの間、彼女は一体何人の女に告白されたというんだ。
彼女の顎のラインに沿って揺れている短めの髪は、確かに“格好いい”と表現しても申し分ない。
けれど顔立ちは美麗さと愛らしさを兼ねたような、明らかに“女顔”だ。
女性から黄色い悲鳴を浴びる女性は、決まってボーイッシュな人であると思い込んでいたし
良き後輩、良き先輩として、部員皆の人気者という立場の彼女が
同時に女性から恋愛的な意味で言い寄られてばかりというのは解せなかった。
「そんな単純なものなの」
「十代の恋愛なんて、そこに至るまでのひと悶着が主じゃない?」
この歳になっても恋という気持ちに出会った事のない私には「さぁ」としか答えようがなかった。
わずか十六歳、いや彼女の誕生日を知らないので、もしかしたら十七歳かもしれないが
十代の内に“十代なんて”と言い切れる彼女の気概に、少し感心する。
今日まで一体どういう人生を送ってきたのか、五十嵐さんに対して漠然とした興味が湧いてきた。
そんな思いから、自然と口をついて出た言葉がきっかけとなってしまった。
「五十嵐さんって、この部室そのものみたい」
「え?」
「色んな本を貯め込んで、人に読ませて、また新しい本を取り入れて」
さすがにここに置いてある本の数ほど経験はないんだろうけど、と
彼女に向かって私は笑って付け加えた。
冗談を言ったつもりでいた私は、五十嵐さんも笑っているだろうと勝手に思い込んでいた。
私の身体は机にもたれかけたまま、無防備に背を向け、本の背表紙を眺め続けている。
370360-369:2009/02/10(火) 01:27:06 ID:7wwKpZm2
連稿規制待ちの為一時間ほど失礼しますm(_ _)m
371 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 01:31:51 ID:A2nYR4ba
アト三十分でいけるよ
支援入れるね
372 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 02:05:56 ID:Egq9GWdx
近い本へ手を伸ばそうと向き直った時、息がかかるほど近くに五十嵐さんの身体があった。
掴まれた腕に呆気にとられ、今度は顔まで寄せてきて、私の顔に直接語りかけてきた。
「19人」
「は?」
「私が今まで女の子に触れてきた数」
その言葉と、寄せられた顔を見て、私はようやく悟った。
この人は“来るもの拒まず”なんじゃない。“先手必勝”の精神を持った人なんだと。
「記念すべき20人目は、水谷さんだったら嬉しいなぁ」
そう言って、彼女は私を机に押し倒してきた。
あの夕暮れに、後輩の女の子の身体へ被さっていたのと全く同じように。
昨日より高く、明るさを持った夕陽に照らされて、彼女の亜麻色に近い髪が金色に染められていた。
私はそれをとても、とても綺麗だと思った。
ずっと見ていたいと思うほどに、とても。
「五十嵐さん…」
自分でも驚くほど落ち着いた声で、私は彼女の名前を呼んだ。
その声に答えるかのように、顔を寄せてくる彼女。
373 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 02:07:49 ID:Egq9GWdx
パーン、というには少し鈍い音が響き渡る。
「いたた…」
顔を近付けられた瞬間、私は彼女の頬へ平手を力一杯打ちつけていた。
殴るほど強い平手打ちは、あまり乾いた音を鳴らさない。
じんわりと腫れた頬を左手で押さえながら、彼女の身体はゆっくりと私から離れていった。
そしてさっきまで座っていた場所にもう一度座り直すと、改まった顔で言い放つ。
「拒まれたの、初めてだよ」
この学校の女の子は結構寛大なのになぁ、なんて口にしている。
うちの学校の女どもは全員、色情狂か。
私はまさか毎日顔を並べている同じクラスの女子達も
その19人の中に含まれているのではないかと頭に過ぎって、思わずぞっとした。
けれどそれを確かめる気にもなれない。
19人目である高橋という後輩と抱き合っていた現場を見ただけで私にはお腹一杯だ。
溜息をつきながら、私も五十嵐さんと同じように座り直すと
真隣りの彼女は、傷めた頬をさすりながら、笑いかけてきた。
「水谷さんて、変わってるよね
 この学校で一人だけ違う感じ」
あけらかんとした口調だが、特にばかにされているという気はしなかった。
それでも私はつい、冷たい言葉を放ってしまう。
「しらみつぶしに当たれば私以外にもまだ何人か
 あなたを拒む人がいるはずだよ」
「うーん、そういうところだけじゃなくて」
私の受け答えに噴き出してから、頬へ伸ばした手をあごに当てると、考える仕草を見せていた。
「例えば、迫ってきた私の前に今もこうして座っているところとか」
確かに、と心の中で頷いてしまった。
374 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 02:09:31 ID:Egq9GWdx
「陳腐だけど、こういう時女の子って
 『もういや!顔も見たくない!』とか泣いて駆け出していきそうなものなのに」
五十嵐さんは自分の腕を抱いたまま大袈裟に上半身を左右に揺らすと
“襲われかけた少女”の真似をした。
終始笑っているところが人を小ばかにしているように見えるのも確かだ。
もし私が本当にそういう反応を見せていたとしても、同じように笑って済まされるんだろうか。
そう考えると、醜態を見せなくて良かったという安堵感が込み上げてきた。
もちろんそういう態度というのは条件反射に出てしまうもので
私には同い年の女に迫られたぐらいで
泣き出してしまうような神経は洟から持ち合わせていなかった。
迫られる事自体が初めてなので“ぐらいで”と言い切れるかどうかは確信を持てないけれど。
「あんなに強く打った上に逃げ出しでもしたら
 私の方が悪者みたいじゃない」
「ふふ…じゃあこれでおあいこかな?」
喧嘩をしたのとも違ったはずだけれど、私に向かって手を差し出し、握手を求めて来る五十嵐さん。
「私も謝らないから、水谷さんも謝らなくていいよ」
時間が経つほどに腫れていく彼女の左頬を見ながら、私の方こそ謝るべきかとも思ったが
そう言い切る彼女に甘えて、私は黙って頷いてから、握手に応じた。
そんな私を見て、五十嵐さんは満足げな表情を浮かべる。
しばらく沈黙が流れていたが、彼女は笑顔のままだった。
釣られて私まで笑みが込み上げてくる。
引きつったものではなくて、自分でも不思議なほど自然にこぼれてきた笑みだ。
私の隣りにいる事を楽しんでくれているかのような
そんな空気が慣れなくてこそばゆいけれど、私はこの空気を好きだと思ってしまった。
375 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 02:09:49 ID:A2nYR4ba
   
376 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 02:10:41 ID:A2nYR4ba
  
377 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 02:11:33 ID:A2nYR4ba
 
378 ◆YURIxto... :2009/02/10(火) 02:13:30 ID:Egq9GWdx
>371ありがとうございました

中途半端なとこですが、前半です
後半は今週中に上げます
379創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 02:20:45 ID:WsqF9yoJ
支援出遅れたぜ
水谷さんカッコイイな
380 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 02:22:57 ID:A2nYR4ba
投下乙〜ぅ
381 ◆KazZxBP5Rc :2009/02/10(火) 22:54:32 ID:WsqF9yoJ
投下します
382お姉ちゃんとは違うもんっ! 1/2 ◆KazZxBP5Rc :2009/02/10(火) 22:55:22 ID:WsqF9yoJ
「うーん、今日もいいおっぱいですねぇ。」
「きゃぁっ!」
背筋に寒気が走る。でも、もう慣れてしまった。
「もう、お姉ちゃんっ!」
「油断してるから狙われるんだぞ。」
それは我が家ではよくある朝の光景。
姉のモモはレズビアンで、いままで何人もの女の人と夜を共にしてきた。
私は違う。
私は、ただの普通の女の子。

「ふふっ、アイちゃんったらまた逃げてきたの?」
この子は幼馴染のルイ。ふわふわした感じの性格でなんだか危なっかしい。
「あの悪魔〜、いつか絶対復讐してやる!」
「私はいい人だと思うけどなあ。」
それは猫被ってるだけだよ。
「そういえばさっきモモさんから電話掛かってきてね。」
「なっ、なんて?」
「明日の日曜日、お茶でも飲みに行きませんかって。」
あの悪魔、ついに幼馴染にまで手を出すとは。こんな無垢な子を毒牙にかけるなんて。
「だめっ、絶対だめ!」
「心配しすぎだよ、アイちゃん。」
「だってあいつは!」
「知ってるよ、幼馴染だもん。大丈夫、何かされそうになったらすぐ帰ってくるから。」
そうじゃない。
あいつはこれだと決めた人は絶対に落とす。それだけのテクニックを持っている。
だから最初から誘いに乗ってはいけない。
「心配しなくていいよ。」
ルイ、笑って受け流しているけど、あんただから余計心配なんだよ。

結局、ルイを止めることはできなかった。
そしてさらに悪いことに、私は翌日寝坊してしまった。
既にあいつは家にいない。
急いで服を着て、髪だけまとめてノーメイクで家を飛び出す。
どうか間に合って。
383お姉ちゃんとは違うもんっ! 2/2 ◆KazZxBP5Rc :2009/02/10(火) 22:56:48 ID:WsqF9yoJ
駅前のオープンテラスのカフェで二人を見つけた。
遠くからで会話はよく聞こえないが、ルイは深刻な顔で何か話している。
多分お悩み相談でもしているんだろう。
もう。そういうところから隙を付かれやすいんだから。
少しの間物陰から様子をうかがっていたけど、もう耐え切れない。

途中で私に気付いて驚くルイ。一方、あいつはこっちをちらっと見ただけで、そのままジュースをすすっている。
「お姉ちゃん、今すぐルイを放して。」
「アイちゃん、違うの。これは……。」
もう手遅れだったの? そんな奴をかばう必要なんか無い。何が違うもんか。
ストローから口を離すと、あいつは無茶苦茶な条件を私に叩きつけてきた。
「いいよー。そのかわりアイがルイとちゅーしたらね。」
「モ、モモさん!」
慌てふためくルイ。そりゃそうだ、こんな場所で女同士でキスなんて。自分と同じ基準で考えないで欲しい。
と思っていたのに、いつの間にかルイはすっかり落ち着きを取り戻していた。
「分かりました。」
そう言うとルイは目をつぶって私の前に顔を突き出してきた。
えっと……。
「ちょ、ちょっと待って、何なのよこれ?」
「あんたも素直になりなさいよ。」
「素直にって、私は……。」
言葉に詰まる。迫るルイの唇。ああ、もう、分かった分かった!

ちゅ。

触れ合ったのは一瞬。でもなんだか甘い感触がして、危うくそのまま飲み込まれてしまいそうだった。
「おめでとう。」
あいつが楽しそうに笑って拍手を送る。そしてルイは頬を染める。
「私ね、ずっと前からアイちゃんのことが好きだったの。」
さっきの反応はそういうことだったのか。意外な事実なのに頭は割と冷静だった。
「さっきそれ聞かされて相談に乗ってたのよ。」
「で、何て言ったの?」
「アイもルイのこといつも気にかけてるみたいだから、きっと大丈夫よって。それに、私の妹だしね。」
「わ、私は、お姉ちゃんとは違うもんっ!」
「いい加減認めたら?」
不意にルイと視線が合う。「アイちゃんは私のこと嫌いなの?」って目だ。違う、そうじゃなくって……。
私はルイの手を握って、叫んだ。
「私は、お姉ちゃんとは違って純情なんですっ!」
384 ◆KazZxBP5Rc :2009/02/10(火) 22:57:33 ID:WsqF9yoJ
おわり
385 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/10(火) 23:01:22 ID:A2nYR4ba
純情…そっちかあ
386創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 01:27:31 ID:zj66WJFo
>>378
元々百合っ気が無かった人(ここでいう水谷さん)が、
段々と百合色に染まっていくような話、個人的には好きです。
とにかく、水谷さんと五十嵐さんがくっつくのか、くっつかないのかが気になって・・・
続きをwktkしてお待ちしてます。

>>382
「ちゅ」に萌えてしまったw
387 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:36:03 ID:FGvdoH0i
後編行きます
21レス分あるので、二回ぐらい止まるかもしれないです
すみませんm(_ _)m
388 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:37:31 ID:FGvdoH0i
その日私達はもう、本に手を伸ばす事もせずに
お互いに向かい合ったまま、話を続けていた。
高校に入って、この部活に入って、初めてこんなふうに過ごす放課後だった。
教室でクラスメイトとこんなふうに長い時間話した事もない。
慣れなくて、気も張ったが、私の中で蟠っていたものが流れていくような
そんな時間だった。


その次の日からだ、彼女が廊下ですれ違っただけでも私に話しかけてくるようになったのは。
最初、他の人が近くにいる前で彼女と話をする事にたじろいだが
それも少しずつ慣れてくるようになった。
部活の時も、五十嵐さんは先輩や他の部員達と話をする一方で
時々私のいる隅の席にやってきては、声をかけてくるのだった。
事の発端の当事者である高橋さんは、私と視線が合うだけで帰る事はなくなったが
私が五十嵐さんと話をしているのを見て、すごい剣幕で睨んでいる時があった。
気にも留めない五十嵐さんの態度が伝染ったのか、やがて私も気にしなくなっていた。
それでも、例え彼女と話しをする事に慣れてきても
他の人も聞いているようなところで、私は私の核心に近い言葉を発する事が出来なかった。
それは五十嵐さんも同じであるような気がして、近しい人のように感じていた。

私達は偶然すれ違ったり、部室で居合わせた時位しか話す機会がなかった。
わざわざお互いの教室に訪れたり、一緒に下校するという事もなかった。
私が五十嵐さんと二人きりで話をしたのはこの前の一度きりで
偶然に任せるには、次があるのかさえ検討もつかない。
それでもその機会は、意外とあっさり訪れた。
389 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:38:52 ID:FGvdoH0i
その日もいつもと同じように部室へ足を向けると
閑散とした室内に五十嵐さんの姿だけがあった。
「あ…」
一人座っている背中に声をかけようとすると
その前に彼女は私の姿に気付いて、同時に立ち上がった。
「あぁ良かった、来て」
ドアの前で立ったままでいる私の前までかけてきて、彼女は嬉しそうに笑いかけてくる。
彼女のこんな笑顔を見たのはこの前、話した時以来のような気がした。
「どうしたの一人で…他の人は?」
「うん、今日は部室でぷちお茶会だからって
 ついさっき買出しに出かけたんだ
 私は部室荒らしが来ないようにお留守番犬」
そっか、と頷きながら彼女が座っていた隣りの席に鞄を置いた。
この前と同じように隣り合わせで二人は腰を下ろした。
「珍しいね、五十嵐さんが留守番なんて」
「うん…まぁね」
部員の皆が買い出しに行くのはよくある事で
そこで五十嵐さんが留守番しているところは見た事がない。
いつもは他の部員の人が、遠慮がちに私まで声をかけて頼んでくるか
毎回私に頼むのに申し訳なく感じた時に、大人気ある先輩が代表して残ったりするのだ。
五十嵐さんは、そういう時に一緒になってはしゃいで買物に行くタイプだった。
こないだみたいに読みたい本でもあったのだろうか。
そう思い至ったところで、この前二人で過ごした時間を振り返った。
一緒になって本を物色したりはしたけれど、五十嵐さんはぱらぱらとページをめくるだけで
結局は二人で話をするだけの時間に終わっていた。
―わざと、残ったの?
そんな疑問を持っても、本人に尋ねられるはずもない。
390 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:40:05 ID:FGvdoH0i
五十嵐さんとの会話を続けたまま、この前と同じように今日読んでいた本を鞄から取り出す。
積まれた場所に戻そうとすると、彼女もまた同じように
私の手からそれを取り上げるのだった。
「水谷さんはさ、本が好きなの?」
ぱらぱらと中身をめくりながら、五十嵐さんは尋ねてくる。
その質問は、不自然なものだった。
文芸部に所属していて毎日、本を読み漁りに来ている私に
そんな事を尋ねてくるのは、きっと五十嵐さんをおいて他にいない。
そしてそれを尋ねてきた彼女は
きっと私が“好きだ”と当たり前みたいに口にしない事を理解している。
たった一言の質問で、五十嵐さんがどこまで私という人間を把握してるか、わかり得た気がした。
「好きとはいえないね
 他にする事がないから、読んでるだけだし」
「そっかぁ」
私の情けない返答に、彼女は表情も変えずに頷いた。
なんだかそれに、とても心が安らいだ。
「よかった」
「なにが?」
「それなら、私が話しかけても読書のじゃまにはならないかなって思って」
意外な事に、五十嵐さんは私に声をかけながら自分が
私のしている事の妨げになっていないか心配しているようだった。
あまりに見当違いな気遣いだ。
「それは…」
「違う?」
「いや、じゃまだなんて思ってないよ」
それは確かだった。
けれど私が本に目を落としている時に、五十嵐さん以外の人に声をかけられたとしたらどうか。
私はそういう人との会話を避ける為に、本を盾に利用しているのだ。
そうした、さっき口にした事より更に情けない話を口にしかけて、慌てて仕舞い込んだ。
聞かされても何にもならない話だし
その上“なぜ彼女だけ特別なのか”という疑問に辿りつくだけだった。
自分でもわからない疑問を、他人にぶつけるわけにはいかなかった。
391 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:41:27 ID:FGvdoH0i
「ねぇ、水谷さんはなりたいものってないの?」
途端に話題を変えてくる。これはあまりに唐突な質問だった。
「…考えたこともないな」
本当に、考えた事がなかった。
今五十嵐さんが尋ねて来なければ
その疑問を頭に思い浮かべる事なく一生を終えてたかもしれない。
二年生の二学期の今、受験の準備期を迎えようとしている時に言うには大袈裟な表現だけれど。
「水谷さんはね、司書がきっと似合う」
「ししょ?」
「図書館で本の整理をする人」
「…悪くないかも」
でしょー、と言って嬉しそうに笑っている。
釣られるように私も笑いながら、本当に悪くないと思った。
どうやってなれるものなのかは知らないけれど
この先他になりたいものが見つからない場合は、本気で目指すようになるかもしれない。
「でも水谷さんが司書になっても、私の本は置いてもらえないかな」
「五十嵐さんの本?」
聞き返しながら、五十嵐さんが作家を志している事に、その時気が付いた。
文芸部で小説を書いている部員は、皆趣味として書いていると思い込んでいた私は
それを夢に持つ彼女に驚くと同時に、どこか眩しく見えるような気がした。
しかし五十嵐さんの口から返ってきたのは、更に驚くべきものだった。
392 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:42:40 ID:FGvdoH0i
「私はねぇ、官能作家になりたいんだ」
「かん、のう…?」
「エロ小説家だよ」
そんな下劣な響きに言い換えなくても意味はわかる。
私はそれを夢だと答える五十嵐さんに怯んで、言い返しただけだ。
「この間読んだのは、すごく子供らしい話だったけど」
私は五十嵐さんの書いた話を読んだ日の事を思い出した。
「そりゃあ、部活で出す本にえっちなものは載せられないよ〜」
肩を竦めて笑う。私も少し噴き出してしまった。
つまり五十嵐さんは、家で密かにそういったものを執筆しているという事だった。
「水谷さんが読んだ話の通り、私すごく子供なんだよね
 子供心にそういった事を知り尽くしたいって思ってる」
動物園で動物を従えて戦争を始める子供達、という話の過激さと
そういった行為の過激さは、自分にとって同じものだと、五十嵐さんは語った。
もしかしてこの校内を戦場に換えて見ているのか、と私の頭には過ぎった。
393 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:43:54 ID:FGvdoH0i
「だから…19人と」
「そう」
私の簡潔な一言に、彼女は笑って頷く。
悪びれもしない、その顔を見ていると
本当に悪い事ではないかのように感じられてくるから不思議だ。
五十嵐さんが何をどんなふうに描きたいかは私の理解に及ばないけれど
この歳で、将来を見据えて真剣に勉強している、そういう真面目な面として見る事も出来た。
毎晩塾へ通い、参考書を紐解き続ける受験生とは全く違う勉強だけれど。
「でも普通、それなら男と寝ようとするものじゃないの」
「普通って?」
「いや…ごめん、普通って私にはわかんないけど、なんとなくイメージで」
聞き返されて焦った。“普通”なんて、私が語るにはあまりに遠すぎる言葉だ。
普通の男女の色事なんて、想像にもし難い私は、世間で言う普通からきっとずれている。
自分のそういう部分を鋭く見抜かれた気がして、私は焦っていた。
「私はね、女性の身体を表現したいんだよねぇ
 胸のやわらかさとか、ラインのしなやかさとか」
自分にあるものでも、女性の身体は不思議なことでいっぱいだ
そう、自由研究にでも没頭する小学生のように神妙な顔で述べていた。
「私、女の子が好きなのかな」
今更のように言っている。照れた笑いを見せながら。
私は呆れると同時に、心臓が掴まれたような刺激をわずかに感じていた。
394 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:45:10 ID:FGvdoH0i
「あのね、そういう夢とか、趣味とか、私は悪い事とは思わないけれど
 学校で手を出すのはもうやめなよ
 もし先生に見つかりでもしたら、退学になってしまうかもしれないじゃない」
「心配してくれるんだ」
五十嵐さんは呑気にからかってくる。
純粋に女性の身体について学びたいだけの彼女が
猿の如く場所も弁えずに発情するだらしのない若者として見られるのは
何だか納得がいかない気もした。
五十嵐さんの欲望と理性の割合は、間違いなく理性が圧倒してるのだと
今までの会話で勝手に解釈していた。
けれどそんな心遣いや理解を本人に伝える理由はない。
「私は平穏に日常を送りたいだけ
 人の、そういうとこ目撃するなんて二度とごめんなの」
私の返した言葉に、首を傾ける。その表情から、がっかりしてしまったように見えた。
「水谷さんは、厳しい事言うなぁ」
「悪い?」
「いいや、処女は好きだよ」
途端にカッとなった。恥ずかしさからではなく、胸をついた怒りが脳に達して顔が熱くなった。
この赤面を“うぶな女の子”と捉えられたらたまらなくて、私は黙ってその場から立ち去ろうとした。
鞄を肩にかけたところで、五十嵐さんは事態に気付いたように顔を上げた。
「間違ったこと言った?」
悪びれもしない声が私の背中に響いてくる。
例え振り返っても、彼女に浴びせる言葉が見つからなかった。
自分でもどうしてこんなに怒りが込み上げてくるのかわからなかった。

私は怒りを表した表情を隠したまま、その場を後にするしかなく
彼女も決して追っては来なかった。
395 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:47:00 ID:FGvdoH0i
―処女は好きだよ
あの一言が胸から離れない。
ずっと忘れられずに、怒りに火を灯している。

何故こんなにも苛立ちが収まらないのか
自分でもわからないほど、その日一晩、頭は沸騰し切ってしまった。
新しい朝を迎えて、眉を顰める事がなくなっても
不快な気持ちは、いつまでも胸に侵食し続けている。
心から嫌だった事は、きっといつまでも記憶に残り続けるのだと思った。
誰かの言葉で、こんなに嫌な思いをしたのは初めてだった。

言葉なんて、嫌いな響きのものであったとしても
ただ浴びせられただけで、こんなにも不快になる事はない。
“処女”という言葉は、それだけで人を呼びつけでもしたら
きっと失礼に違いないけれど、私は彼女の無礼さに頭に来たわけじゃない。
あけらかんとした彼女の空気を、心地いいとまで思っていた。
どんな言葉も、あの空気の中で言われてしまえば、ただの笑い事に変わったかもしれない。
でもこの言葉は違う。
あの彼女が、私に向かってそう呼んだのは、明らかに私にとっての侮辱だ。
私は五十嵐さんの中で、数ある女性の中の一人として
自分が格付けされてしまったように感じていた。

女性が好きな五十嵐さんにとって、きっと女性は全て道具だ。
官能作家になる為の、道具でしかない。
その中で処女役の一人として、私が彼女の道具の一つに見られるなんて死んでも嫌だった。
死んでも嫌、だなんて本当に死ぬ事がないから言える事だけれど
死ぬほど嫌なこと、以上に嫌だと表現するにはこの言葉しかない。
私はこの先どう惑わされる事があっても“彼女の道具”になる事だけは避けなければと
「死んでも嫌」という言葉を、未来の自分自身にまで、繰り返し言い聞かせていた。
396 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 02:48:36 ID:FGvdoH0i
五十嵐さんの声に答えないまま、黙って帰った日から
私の毎日は、彼女を避け続ける日々に変わった。
放課後に部室へ寄る事もなくなり、休み時間に本に目を落とす事もなくなった。
部室でなくとも図書室に行けば休み時間を潰す為の本はいくらでも手にする事が出来たが
ページを開いても物語の世界に入る余地なんかなく、私の頭は既に一杯一杯だった。
私があんなにもたくさんの本を飽きもせず読み続ける事が出来たのは
きっと頭の中がいつも空っぽだったからなのだと、この時初めて気付く事が出来た。

避けている間にも、廊下で五十嵐さんとすれ違う事はあった。
ほとんど話をした事がなかった頃には、クラスの遠い彼女とすれ違ったりなんてなかった。
わざわざ私と会う機会を作る為に、こちら側の水道やトイレを使うようになったのか。
そんな自惚れが正解だったのかはわからない。
怒りに火のついた次の日、廊下で挨拶をされても
私は会釈だけして彼女の前を通り過ぎていた。
その日の放課後、部室へ行かなくなってから、もう彼女と廊下ですれ違う事はなくなった。
彼女の方からも私を避けるようになったのか、そう気にかける余裕もなかった。
このまま会わずにいる事でどうなるのか、それすらもわからずに
ただ一日を過ごすので精一杯だった。
397 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:03:30 ID:FGvdoH0i
そんな毎日が続いた、ある日の放課後。
帰りのホームルームが終わり、真っ先に下駄箱に向かうという
新たな日課に勤しむ中、展開は訪れる。
「一週間待ったんだけどさ」
下駄箱で革靴に足を収めようとした時、背中から声をかけられた。
振り向かなくてもその声の主が誰かなんてすぐにわかる。
一晩、繰り返し再生し続けた事まであるのだから。
―五十嵐さん
一週間、という言葉を反芻する。
今日で丸一週間だという事はわかっていた。
あの日が忘れられないように、あの日から何日経ったかは一日毎に頭に刻まれている。
彼女も私と同じように、一日一日を数えていたのか。
「そろそろ怒ってる理由教えてよ」
振り向かない私の前方に回り込んで、五十嵐さんは顔を覗き込んで来る。
段差の下の、靴で歩く為の地面に上履きのまま立っているが何も構うところがない。
私より背丈の高い彼女が今は同じぐらいで、視線がごく自然に重なってしまう。
「怒ってないよ」
色のない、どこにもアクセントのつかない声で返す。
そんな声しか出せなかった。
「水谷さんなのに、嘘をつくんだね」
私なのに、という言葉がどういう意味を持つのか理解出来ない。
とりあえず上履きに足を収め直していると、五十嵐さんは段差に足を上げ
私の身体は校舎の玄関とは逆の方向へ押し込まれる。
「来て」
五十嵐さんは少し乱暴に私の手を取ると
そのまま引っ張るようにして校舎の奥へと歩き出した。
繋がれた手がやけに熱くて、私はそればかりに気を取られていた。
398創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:04:02 ID:SuhYc/yz
399 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:05:09 ID:FGvdoH0i
旧校舎へ足を向けているので、部室に行くのかと思えば
彼女は一階に留まる事なく、一番上の階まで階段を登り続けた。
息が苦しかった。
四階分の階段なんて、少し草臥れるぐらいで済むはずだが
一週間分の胸の痛みに止めを刺すように、体力と精神力が消耗していくのを感じていた。
「ここなら誰もいない」
辿り着いたのは、今は廃部になった天文部の部室だった教室。
空き教室だけあって、他の部活の人間が荷物を置きに来る可能性があったが
文芸部の部室と同じように、廊下には誰の姿もなく、閑散としていた。

「私しか聞いてなければ、水谷さんは話をしてくれるんだよね?」
話をするようになった日々の中で、彼女が友達と歩いていたところで声をかけてきた時に
私が会釈だけして視線を合わせなかった事を、彼女は自惚れのように捉えていた。
その自惚れが、何ら間違いのないところが癪に障る。
「話すことなんてない」
彼女が握ったままの手をはらうと、私は彼女から離れるように身を引いた。
追いかけては、来ない。
「話せないだけでしょ」
その言葉に顔が熱くなる。何故この人は的を得た事を言うのだろう。
逃げるように離れたのに、遠い視線がやけに痛い。
「何に怒ってるかわかんないけど
 水谷さん私の事で気に病んで、ずっと困ってるんでしょ?」
「自惚れないで!」
自分でも驚くほど張り上げた声を出していた。
「自惚れじゃないもん」
拗ねたような顔をして、五十嵐さんは反論した。
「本当の事じゃん」
その通りだった。その通りすぎて、こちらから出すべき言葉が見つからない。
400創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:05:38 ID:SuhYc/yz
401 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:06:18 ID:FGvdoH0i
「あのさ、今私の顔見るのも嫌なのかもしれないけど
 私と会わずに済めば解決する事なの?
 そうじゃないなら、荒療治でも私に解決させてよ」
荒療治ってなによ、と胸の中で呟く。この人は本当に、変な事を言う人だった。
変な言葉ばかりを並べる人。だけれど、その通りの事を言う人。
私の問題を解決出来るのは確かに彼女しかいなかった。
「大体、私が消えて解決する問題でも困る」
切羽詰った声に顔を上げると、本当に困った顔をしている五十嵐さんがいた。
「私は水谷さんと一緒にいたいのに」
「…なんで」
「理由なんて…いないとやだからに決まってるじゃん」
私が知りたかったのは、そういう気持ちが、どういう意味から生まれるものなのかという事だった。
自分でもわからずにいる事を、相手に尋ねるのも無粋なものだ。
私のすべきは、自分の言葉で自分の気持ちを彼女に訴えかけるという事だった。
そう思っても、正確な言葉が出てこない。一週間も考えたのに、わからない。
結局また、尋ねる事しか出来ずにいる。
「他の人と…違うって言えるの?」
「え?」
「その19人と、部員の人達と、クラスの友達と…
 私が違うなんて言えるの?」
言い終えてから再び顔を伏せた。彼女がどんな顔をしているか見る事が出来なかった。
やがて流れてくる沈黙。
今までつらつらと言葉を並べていた五十嵐さんが、今は言葉に詰まっている。
もうこの場から逃げ出してしまいたい気分だった。
402創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:06:27 ID:SuhYc/yz
403 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:07:22 ID:FGvdoH0i
「水谷さんは…」
「やめて」
ようやく言葉を続けようとした五十嵐さんに向かって
私はほとんど睨みつけたような眼差しで牽制した。
彼女の言葉を聞きたくなかった。
彼女の口から私について語られるのが恐かった。
自分から尋ねておきながら、彼女に答えを出されてしまうのを絶望と感じていた。

けれど私の睨みっ面ぐらいで言葉を失う五十嵐さんではない。
私とは対称的に落ち着いた視線で語りかけてきた。
「好きなんだ」
「なに…」
あまりに突然投げかけられた言葉に、私は混乱して、色のない言葉を発する。
「水谷さんと話すのが」
続けられた言葉に、思わず肩の力が抜ける。
張り詰めた空気の中、ようやく息が吸えた気がして、救われた。
「い…五十嵐さんが勝手に喋ってるだけじゃない」
「そう、水谷さんだと自然に言葉が出てきちゃう」
自分でも不思議なんだけどさ、と付け加えながら五十嵐さんは首を傾げた。
「それに答えてくれる水谷さんの言葉も好きなんだよ
 思いもかけない言葉が返ってきても
 飾りがないっていうか、嘘がない安心感がある」
全く同じ事を、私は五十嵐さんに対して思っていた。
その言葉が自分に返って来た事に驚いて、目を丸くする事しか出来なくなる。
404創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:08:03 ID:SuhYc/yz
405 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:08:32 ID:FGvdoH0i
「だから一緒にいたいんだよ、楽しみが無くなるのは嫌だから」
勝手な言葉を、並べていた。でもそれが五十嵐さんらしかった。
この人の自然体は、他の人とは違っていて、私はそれをとても尊いものだと感じていた。
そう思うのなら、彼女の望む通りに頷くべきなんだ。
けれど彼女自身が勝手なように、私にも勝手な想いがある。
私も彼女と同じように、勝手な望みをぶつけていいのか、わからなかった。

視線を重ねたまま、ただ言い澱めていると
五十嵐さんの指が私の指先に触れてきた。
近付かないようにしていたはずなのに、気付けば私の目の前に五十嵐さんが立っている。

顔を寄せてくる五十嵐さんが怖い。
身体を近付けられる事は何も怖くない。
この前みたいに押し倒してきても、また平手を打てばいいだけの事だ。
五十嵐さんは人を押し倒す腕力はあっても、人を無理やり押さえつける神経はない。
そういう面で、信用していた。
私が恐れていたのは、五十嵐さんが今私に向けて心を近付けているのを感じたからだ。
それが誤解だったとしても怖い。
私の心は既に彼女の中にあったからだ。
406創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:09:12 ID:SuhYc/yz
407 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:09:49 ID:FGvdoH0i
「水谷さんだけ違うよ」
顔と顔の距離を十センチまで近付けてから、彼女はようやく私の質問に答えてきた。
「どうしてそう言えるの」
「それなんだよ、水谷さんは説明を求めてくるけどさ
 私はその説明がどうしても苦手なんだよねぇ」
なんていうか、と私の目の前で何度も口にして、顔を両手で隠すように頭を抱えていた。
そんな彼女を見て、悩ませている自分自身に気恥ずかしさを覚えた。
程なくして急に手を下ろすと、たった今覚えたかのように言葉を分け並べていった。
「わたしの…私っていう人生のさ…」
「うん」
「物語があるとして」
「…うん」
「その話の中で、水谷さんが主役なんだよ」
そこまで言われた時、安易に頷く事は出来なかった。
―主役なんて、大役じゃない
出演のオファーを受ける女優の気分ってこんな感じなんだろうかと思い過ぎらせながら
信じられない気持ちを抑えつつ、言葉を舌に乗せる。
「五十嵐さんの人生なんだから、主役は五十嵐さんでしょ」
「うん、私もそう思ってたんだけど
 なんかいつのまにか主役取られてた」
少し困ったように言う彼女の前で、私の方が困り果てる思いだった。
「取った覚えない」
「私も取られるつもりなかったんだけど…
 多分きっと、こういうのを運命って言うんだ」
運命、なんて言葉を使う人と、私は初めて会話をしたような気がする。
ましてやその運命という言葉の意味を、私に向かって投げかけてくる人がいるなんて。
あの現場を見た次の日から、ほんのわずかな期間、言葉を交わしてきただけなのに。
けれどあの少しの会話の中に、重さという質量が被せられていた事は私も感じていた。
そうしてわかったのは、私にとって五十嵐さんは避けがたい人だという事。
彼女と会うのを避けてきた日々も、心の中で彼女を避ける事は出来なかった。
408 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:10:55 ID:FGvdoH0i
私達はまだ、友達にもなっていない。
それでも私のこの気持ちは、運命と呼べるものなのだろうか。
自問しても答える事なんて出来なかった。
「私達はただの、部員同士じゃない」
「そうだね、二人とも16才を過ぎてるけど
 婚姻届にサインしたって世間ではただの同窓生としてしか見られない」
あまりにも飛躍した言葉に唖然としてしまう。
私の反応に首を傾げながら、五十嵐さんは続けた。
「でも要はお互いがどう思ってるかでしょ
 どういう関係かなんて、後から付け合せただけのものだし」
五十嵐さんには歯の浮く台詞だ。
ついこの間、身体だけの関係を幾人もの女の子と築いていた人の言葉とは思えない。
「五十嵐さんは…具体的にどう思ってるの」
「私はね、水谷さんに触りたい
 溜息のこもった声で私の名前を呼んで、私を望んでほしい」
具体的に、と言ったのは私自身だが
まさかここまで直球に欲望を並べられるとは思わなくてさすがに面食らう。
「あなたに研究材料にされている女の子と、同じ事は出来ないよ」
皮肉を込めて、研究材料だなんて言葉を使ってしまった。
使った後で、五十嵐さんの気に障る言葉だったらという考えが過ぎって、私自身が傷付いた。
この人は私の事なんかお構いなしに何でも口にしているのに。
「同じ事じゃないよ」
心配は外れ、変わらない調子の声が否定してきた。
「全然違う…なんていうか、うーん
 うまく言えないなぁ…
 えっちな事ばかり考えてるから、こういう心理的表現には乏しいんだよね」
そういった本を読んだ事はないけれど
きちんと心理描写も出来なくてはだめなんじゃないかと、悩ましげな顔を見つめながら思った。
409 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:12:10 ID:FGvdoH0i
「あー…こういう例えしか出来なくてごめんだけど
 水谷さんがそういう事したくないって気持ちは尊重出来る
 出来ないなら用がないってわけじゃなくて
 もっと違うところでもちゃんと繋がりたいって感じがする
 違うところって一体どこなのかわかんないんだけど…」
本当に、稚拙だ。
けれど子供が一生懸命並べてみたような言い方が
やけに清清しく胸に溶け込んで、心に染み渡ってくる。
私は肩を竦めて笑った。
その顔を見て安心したのか、五十嵐さんが改めて問い返してくる。
「じゃあ水谷さんは?水谷さんは私の事、どう思う?」
直接顔を覗きこんで尋ねてきた彼女に、私は視線を重ねる事が出来ない。
「き…嫌いじゃない」
私の方こそ稚拙に違いなかった。
はっきりと答えられるのは本当に、それぐらいの事しかない。
初めて声をかけられた時も、後輩との現場に居合わせた時も
二人きりの放課後で迫られた瞬間も、彼女の頬を打った瞬間も
怒りと動揺に彼女の前から逃げ出した時も、彼女を避け続けた一週間も
彼女の事を、嫌いだなんて思った事は一度だってなかった。
これだけは確信を持って言えた。

「私が、運命だと思う?」
「そんなの…」
答えられるわけなかった。
けれど“全く感じないか”と問われれば、きっと首を振っていたかもしれない。
「答えたくない」
彼女にとっては、どの程度の重さの言葉かは知らないけれど
私はそんな簡単に運命だなんて口にしたくなかった。
この人だ、なんて簡単に宣言出来るほど単純明快に心は作られてない。
それでも、初めて口を利いた時の事を思い返す。
あの時から、あの笑顔を見た時から、今、私の目の前に立っているこの瞬間さえも
私にとって、五十嵐さんだけが違った。
この学校でただ一人、特別な人だった。
この門の外の何処にも、他に特別な人なんていなかった。
410 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:22:47 ID:u2qmWlHy
  
411 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:36:37 ID:FGvdoH0i
「わかった…じゃあもう片想いでもいいや」
片想いという言葉に違和感を覚えながら、その投げやりな語尾が癪に感じる。
けれど彼女が続けた言葉は、幼い子供のように率直なものだった。
「片想いでも、運命の人を失うのはきついからさ、出来るだけ仲良くしてよ
 水谷さんが嫌な思いする事ないように、気をつけるから」
私の肩を掴んで、必死で頼み事をする。
「気をつけるって何…」
「もう『処女』って言わないとか」
「…ばか」
そう口にしながら、私は噴き出すようにして笑っていた。
私が可笑しそうにしているのを見て、五十嵐さんは満足げに笑っていた。
そうして一緒に笑っている内に気が緩んでしまう。
抑えていたものが一緒に込み上げてしまう。
「水谷さん」
頬をつたう涙を、私は隠そうとはしなかった。
隠したって意味がない事を、私はわかっていた。
目の前で流した私の涙に、五十嵐さんが指を伸ばしてそっと触れてくる。
拭うわけでもなく、雫の伝っている頬をゆっくりなぞってきた。
瞳を上げると、見た事ないほど真剣な眼差しが私の事を見つめていた。
その指先と熱い視線が、とても心地よかった。

二人の距離は影が重なるくらい、近い。
心はそれ以上に近かった。
私が、ずっと重かった腕を上げて、五十嵐さんの腕に手を伸ばした時
その距離は縮まった。
彼女の肩が近付いてきた瞬間、私は瞳を閉じる事も出来ずに
その腕へひたすらしがみついていた。
頬にあった彼女の指先が、私の前髪をかきあげると
唇がそっと額に触れてきた。
それは初めて人に触れられた、柔らかな唇の感触だった。
412 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 03:37:42 ID:FGvdoH0i
「五十嵐さん」
唇が離れて、再び瞳を重ねると彼女の真剣な眼差しは解けて
いつもの笑い顔に戻っていた。
違うのは、上気させている頬だけ。
それを見て、自分はどれほど赤くなってしまっているんだろうと気恥ずかしさを覚え
目の前の肩に涙で濡れたままの顔を埋めた。
受け入れるみたいに彼女の腕が私を包み込むと
緊張感のない声が身体に直接響いてきた。
「今の、私のファーストキスだ」
「…なにそれ」
「キスなんて、初めてしたって言ってるんだよ」
「ウソだ」
19人もの女に手を出しておいて、そんな言葉が通用すると思っているのか。
他の誰と寝ようと、唇だけは本当に好きな人にしか許さない女の話を
勝手に流れてるテレビから煩わしく耳に入ってきた事があるけれど
それを体現している人なんて、いきなり目の前に連れて来られても信じられるはずがない。
私がそう感じた通り、彼女の言う“ファーストキス”は他の人と意味が違うようだった。
「今まで唇に何が触れてきたのかは、よく意識してなかったけど
 こんなに触れたいものが遠いと思った事はないよ
 こんなに触れたいって願った事もない…
 わたし、今日のこと一生忘れない」
どうしてそんな言葉を口に出せるのか。
私が胸に痞えて言い澱めている間に、自制の煩わしさと葛藤している間に
五十嵐さんは、私よりずっと背の高い言葉を並べてしまう。
私なんかが追いつくはずがない。
なのにこの心は彼女の発する言葉を求め続け、焦がれ続ける。
少しは休ませてほしい。もう何も口にしないでほしい。
黙らせたい、その唇を塞いでしまいたい、そんな気持ちに駆り立てられてしまっていた。
413 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:39:52 ID:u2qmWlHy
  
414 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 03:40:42 ID:u2qmWlHy
  
415 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 04:13:26 ID:FGvdoH0i
「ファーストキスはね、唇同士じゃないと、そう呼ばないんだよ」
「…してもいいの?」
尋ねられて、耳まで熱くなるのがわかった。
私の返した言葉はそう捉えられても何ら不自然な事はない。
五十嵐さんは、私の返事を待たずに、もう一度私に顔を近付けてきた。
どうしてこんな言葉を口にしてしまったんだろう。どうして望んだりしたのだろう。
心の準備なんて、まだ出来ていないのに。
私は滑稽なほど全身を硬直させて、視界さえも閉ざした。
私の指に触れてくる彼女の指先が優しくて、それだけが救いだった。
「アサコ」
聞き慣れない下の名前で囁かれて、思わず瞳を上げると
彼女のやわらかな唇が、私の唇の端に一瞬だけ触れてきた。
唇が触れ合った場所は、ほんの僅かで、触れ合ったのはほんの一秒にも満たなくて
それなのに私は全身を魔法にかけられたように、絆されてしまった。
「みゆき、さん」
「名前…知ってたんだ」
「こっちの台詞だよ」
私から名前を呼ばれた彼女は驚いて目を丸くするけれど
彼女に名前を囁かれた瞬間の私の衝迫は、きっと分かち合えるものじゃない。
あの一瞬は、私だけが知っている一生の想い出と変わる。
「浅子も、ミユキでいいよ」
「そっちだって言い馴れないくせに」
可愛くない言葉で返す私にも“美雪さん”は楽しそうに笑ってくれる。
どんなに時間がかかっても、いつかそう呼べるようになろうと
直向な想いが心を照らした。
416 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 04:15:02 ID:FGvdoH0i
しばらく経って、放課後最後のチャイムの音がスピーカーから響き渡ってくる。
部活動に精励している生徒も、居残りをさせられている生徒も、皆下校しなければならない時間だ。
それが今目の前にいる美雪さんとの別れの時を意味していると
急に実感のようなものが湧いてきて、心細さが胸を襲ってくる。
「これから、どうしよう…」
私は道に迷った子供のように呟いて、彼女の制服の裾を握り締めた。
「とりあえず、駅まで一緒に帰ろうよ
 浅子は何線使ってるの?」
毎日使っている電車も、住んでいる街も家も、お互いに何も知らない。
私達はこれから知っていくべき事が、あまりに多すぎる。
今はどこか畏まって聞こえる“アサコ”と呼ぶ彼女の声も
耳に親しんだ頃には、私達はどれだけの気持ちを重ねられているだろうか。
私が彼女を“ミユキ”と呼びかける頃には
二人はどれほどの言葉を心に刻んでいるのだろうか。
どんなに思い巡らせても、二人の未来なんて、何一つ見えてこない。

けれど今は、恋と断言する事も出来ないこの脆い心を
彼女の言葉と指先に絡めて、支えられながら歩いていきたい。
その代わり私は、永遠に彼女の道具に成り下がったりしない事を誓うから。
彼女のくれた運命という言葉を、永遠に守り続けてみせるから。

「浅子」
その手を強く握り返すと、確かめるように私の名前を呼んで、彼女は歩き始める。
とっくに陽は沈み、夜の闇を取り込んだ校舎を進みながら
あの夕暮れに照らされて、小金色に輝いていた彼女の髪を思い出していた。
いつかもう一度、あの時と同じ距離で、瞳に触れる事が叶うなら。
そう、ぼんやりと輝き始めた一番星に、願いを託していた。
417 ◆YURIxto... :2009/02/11(水) 04:19:05 ID:FGvdoH0i
投稿時間も中身も長々と失礼しました
またお邪魔させてもらえたら幸いです
418 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 04:19:12 ID:u2qmWlHy
  
419 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 04:21:36 ID:u2qmWlHy
乙です〜
これはいい百合というか、いい恋愛ものだなあ
雰囲気がすきです、またこういうの読みたいな、なんて
420創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 04:30:21 ID:SuhYc/yz

二人の考え方とかそういうのがいいなあ
421創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 01:04:18 ID:A1Aor86O
乙でしたー

水谷さんも五十嵐さんも、高校生らしからぬしっかりした考えと言うか
自己主張があって、なかなか読み応えがありましたぜ。
422バレンタインデーXxX 1/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:14:00 ID:fS3hpY2v
 逆チョコ、というのが売り出されているらしい。
 らしい、というより、売り出されている。今確認した。
 私は今、バレンタインデーに備えて特設されたチョコレート専門売り場に来ている。
 私の目の前には色とりどりの可愛らしいラッピングをされたチョコレートたちが、
所狭しと並んでいるのだ。
 お菓子業界も必死なのだろう。不景気で女性たちにチョコが売れないからだろうか。
 女性から男性に贈る習慣のバレンタインを、男性から女性に贈るのもアリだというのを
浸透させて、男性からも搾り取ろうというのが見え見えだ。
 こんな戦略に乗る男が果たしてどれだけいるのやら。
 方向性としては間違っていないと思うけどね。
 チョコレートを食べるのは男性より女性の方が圧倒的に多いのだろうから。
 そんなことを考えつつ、私はくだんの逆チョコを手に取った。
 悪い? だって、私だってあげたい人がいるのだもの。
423バレンタインデーXxX 2/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:14:39 ID:fS3hpY2v
「あはははは、それで逆チョコ、ね」
 ころころと笑うその人の顔を見ていると、私の頬も緩む。
 と、同時に恥ずかしくなる。そんなにおかしいことだろうか。
 その人の右手には、私があげたばかりの赤い箱がある。
 一見普通のチョコレートの箱だが、パッケージが違う。文字が裏返しなのだ。
「でも、私は確かに女だけれど、キミだって女の子じゃない。どうして『逆』なの?」
 笑いを止めて真面目な顔つきになってその人は私に問いかける。
 どうして? どうしてだろう……。わからない……。
 わけはない。私のことなのだから。
 
「別に……。普通のチョコレートでも良かったんですけど……ほら、話のタネに」
 赤い箱を見つめながら、私は言った。
 同じく箱を見つめながらも、あまり納得のいっていない顔のその人に、私は更に畳み掛ける。
「ほら、こんなに大々的に宣伝したって、もしかしたら来年以降はないかもしれないじゃないですか。
売れ残りがいっぱい出ちゃって、失敗したって。そして、何十年か経ったら伝説に……」
 
 まともにその人の顔が見られない。とんでもなく恥ずかしいことを言っている気がする。
 私、もしかしてばかなのだろうか。もしかしなくてもばかなのかもしれない。
 
「伝説に? あはは。お宝鑑定団とかに出されちゃったりして?」
 その人の顔に笑みが戻る。
 優しい表情だ。私の心が温かくなる。
424バレンタインデーXxX 3/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:15:07 ID:fS3hpY2v
「ないない。ないよ、きっと。いくら不人気でも来年くらいはやるでしょ」
 が、言うことは厳しい。
 脳の中では私の頭に生えているウサギの耳がしゅんと垂れ下がってしまう。
 
「まあ……。とにかく、ありがとね。まさかもらえるとは思わなかったから嬉しかったよ」
 ウサギの耳がまたぴんと跳ね上がる。
 嬉しいと言ってくれるなんて、私も嬉しい。
 かっこいい人だから、チョコレートなんて好きじゃないのかと思っていたけど、
用意して良かった。心からそう思える。
 
「チョコレートって大好きなんだ。なんか食べると頭と心に栄養をあげてる気分になるじゃない」
 そういう考えをする人とは思わなかった。なんだか可愛い。
 見た目も中身もかっこいいこんな人が、そんな可愛らしい一面を持っているなんて……。
 ますます私の心はその人に惹かれてしまう。
 
「甘いものって、食べるとなんとなく気持ちが落ち着きますよね。女の子の味方!って感じで」
「そうそう! 甘いものは女にとっての栄養源だよね! 特にチョコはそう」
 正に女同士だからできる会話だ。男にはこんな気持ちなどわかるまい。
 どうだ。参ったか。誰というわけでもなく、私は男に喧嘩を売ってみた。心の中だけで、だけど。
 
「あ、そうだ。もらったからにはお返しをしないといけないよね。何が良いかなぁ……」
 空を見つめながら考えているその人の顔を見ると、私の心臓が熱い鼓動を打ち始める。
 私の欲しいもの、それは……。
「そうだ。せっかくバレンタインデーにもらったんだから、お返しはホワイトデーだよね?」
 言えない。すぐには言えない。勇気がないと言えない。恥ずかしすぎて言えない。
「ホワイトデーだったら……クッキー? キャンディだっけ?」
 だけど、今言わなくちゃ、きっともらえない。
 
「クッキーやキャンディなんていりません。それに、ホワイトデーまでなんて待てません」
 言え。今言うんだ、私。
425バレンタインデーXxX 4/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:15:38 ID:fS3hpY2v
「そうなの? じゃあ、何が欲しいの?」
 私の言葉が少し怒っているように聞こえたのだろうか。
 その人はきょとんとしている。少し怯えているようにも思える。
 私の勘違いだったら良いのだけれど……。その人を追い詰めるのは本意ではない。
 
「今……今欲しいんです」
 私はその人の顔を見ずに、辺りを見回した。
 ここは誰も来ない体育館裏。
 あのよく響く声は野球部だろうか。様々な部活動の音が聞こえて来るけれど、ここに近づく足音はない。
 
「だから、何が欲しいの? 私、今あげられるものなんて持ってないけど」
 制服姿のその人は、教科書などが詰まった鞄を開けて中を探してみている。
 それは、ちらっと、さらっとと言う感じで、本気で探しているようには見えないが、
きっとその中は教科書やノートや筆記用具しかないことをよくわかっているからだろう。
 
 私は深呼吸してから、吐き出すように言った。
「キスしてください」
426バレンタインデーXxX 5/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:16:22 ID:fS3hpY2v
 言った。言ってしまった。恥ずかしい。顔から火が出るとは正にこのことだ。
 頬は熱いし、心臓は悲鳴をあげるほど高鳴っている。
 私は目を強くつぶってうつむいていた。その人の顔なんて見られない。
 その人の表情が見たいけれど、見ることなんてできない。
 あきれているだろうか。それとも、怒っているだろうか。はたまた、残念な顔をしているだろうか。
 私はその人が言ってくれる言葉を待った。時が過ぎるのがとてつもなく長く感じた。
 そして……。
 
 あれ? 
 
 その人は何も言ってはくれなかった。だけど、返事はちゃんと返ってきたのがわかった。
 私の唇に、柔らかい感触が当たっていた。
 そう、その人の唇だった。
 その人は唇から私に触れ始めて、次に背中に腕を回した。
 柔らかい。温かい。
 唇も、体も、その人の感触を、体温を伝えてくる。私の中心に向かって。
 
「んっ……!?」
 
 待って、待って。
 これは良いの? こんなことしちゃって本当に良いの? 
 その人は私に当てている唇の角度を変えて、私の口の中に舌を滑り込ませてきたのだ。
 初めて感じるその人の舌は、何の味もしないはずなのに、なぜか甘いと思える。
 これが大人のキスなのだろうか。
 感触は柔らかいけれど、刺激的で、とても……気持ちが良い。
 
 何度か呼吸のために離れたりしたけれど、私たちは長く、長くキスをした。
 本当に誰も見ていないか少し心配になったりしたけれど、やめるにはいたらなかった。
 キスをしながら、その人は優しく私の体を撫でてくれた。
 私もその人を抱き締めながら、ゆっくり、ゆっくりとその人を感じていた。
427バレンタインデーXxX 6/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:17:12 ID:fS3hpY2v
「こんなことで、お礼になんてなるのかな?」
 さすがに周囲が気になってキスをやめたあと、その人が言った。
 
「私は嬉しかったです。十分です」
 感極まるとはこんな状態をさすのだろうか。私にとっては物凄く幸せな時間だった。
 本当に誰にも見られていないよね……。それだけが不安だけれど。
 
「でも、私もしたかったんだよ。もらったのに、私にもご褒美なことがお返しで良いの?」
「良いんです。私だって、嬉しいって言ってもらえただけで嬉しいんですし」
 涙が出そうなのをまばたきでなんとかこらえている私。
 そんな私の頭の後ろにその人は手を当てる。そして引き寄せる。
「もう。可愛いんだから……。そんなこと言われたら私、もっとキミが好きになっちゃうじゃない」
 嬉しい言葉。こんなに幸せな時間が私に訪れても良いんだろうか。
 嬉し過ぎて答えが返せず、私はへらへら笑いながら涙をぬぐうだけだ。情けない。
 
 それからしばらく見つめ合って、お互いの体をちょんっとつつき合ったりしているうちに、
私は大事なことを思い出した。
 思いついたように鞄をあさる私を、その人は不思議そうな顔つきで見つめている。
 見つめるその吸い込まれそうな魅惑的な瞳の前に、私は一つの包みを差し出す。
 
「これ。こっちが本当にあげたかったチョコレートなんです。トリュフなの」
 引きつっていないだろうか。私の笑顔。精一杯の笑顔を作ったつもりなんだけど。
 その人は無表情で、笑顔を返してくれないことに、私の心は不安に陥る。
428バレンタインデーXxX 7/7  ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:18:54 ID:fS3hpY2v
「こんなにもらっちゃって……良いの? だって、さっきもらったじゃない」
「良いんです。500円もしないチョコじゃあのご褒美には足りません」
 その人が気にしているのは、同じ人間からいくつものチョコをもらうことだろうか。
 そんなの、気にすることないのに。私の気持ちなんだから。
 
「遠慮しないでもらってください。手作りじゃないから味は保障しますよ」
 言葉を追加しても、その人は納得しないようだ。なかなか受け取ってはくれない。
 
「キミのだったら、手作りが良かったよ」
「え?」
 ぼそりと独り言のように漏らされた言葉に、私は戸惑う。
 そういう問題だったのか。でも、私は料理になんて自信がない。
 
「冗談。手作りでも、手作りじゃなくても嬉しいよ。ありがとう」
 満面のスマイル。
 私が何より欲しかったご褒美だ。やっと笑顔を見せてくれた……。嬉しい。
 
「じゃ、せっかくもらったんだし、チョコの口移しでも……する?」
 優しい笑顔が小悪魔的なそれに変わる。本当にこの人は……。
 でも、そんなところも含めてこの人が好きなの。私は。
 
「良いですよ。二種類あるけど、どっちにします?」
「良いの? じゃ、トリュフかなぁ……。私、トリュフ好きなんだよね」
「ちっちゃいからすぐに舌が当たっちゃいそうですね」
「そうだね。なんかちょっとえっちな感じがするかも」
「もう……あなたって人は……」
「えへへ……」
 この続きは語るのはやめよう。私の胸だけにしまっておくんだ。
                                           −終−
429蛇足 ◆7103430906 :2009/02/14(土) 17:21:48 ID:fS3hpY2v
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1222782546/149-153
前編のようなものです。
 
バレンタインということで書いてみました。
お目汚し失礼しました。
430創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 20:21:25 ID:AacZQknQ
>>422-429
読みました
バレンタインらしく甘々でござるな
軽いキスで済ませるのかとおもってたら、意外にあれでキャーッてかんじです
XxXってダブルミーニングなのねw
GJでした
431 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:45:10 ID:qnRajsXi
三月の終わり、数週間ぶりに大雪が降った。
夜の札幌駅のホームは、屋根のある部分にラッシュアワーの人々が押し寄せ、犇めき合っている。
私達を通り過ぎていく、家路を目指す人達の横顔。
仕事場から一人家へ帰る人も、親しげな誰かと今から繰り出していく人達も
きっとこれからが一番楽しい時間なのだと思う。
そのどれもが、羨ましく目に映った。

今から一番大切な人との、長い別れを迎える私にとっては。

人波をよけ、寂びれたベンチへ腰掛けた。
私の隣りにボストンバックを置いた順子は、さっと駆け出して自販機の方を行く。
「はい、美咲」
「ありがとう」
程なくして駆け戻ってきた彼女の手から、ホットコーヒーを受け取る。
小銭は出さない。餞別の意味が込められているという事がわかっていたから。
普通は送り出す方が贈るものだけど、二人にとってそんな事は関係ない。
甘味を少しも感じさせないコーヒー缶へ口付けながら
ミルクティーを手に白い息を吐く、この世で最も尊い横顔を見つめていた。
「こんな天気で、止まっちゃわないかな」
「真冬はこんなの日常茶飯事だから大丈夫だよ」
心からの願いを、心配事のように口にしてみる。
私を置いていく彼女は、私の願いに気付かないふりをして、気丈にも南を目指すのだった。
432 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:46:03 ID:qnRajsXi
発車時刻より一時間も早くこの場所に着ていた。
遠い土地を目指す寝台車は直前までホームには入って来ない。
三番線のホームの端には、気の早い旅行者の姿がいくつか覗かせていた。
四年前に二人同じ場所へ立っていた時の事を思い出す。
今とは正反対の気持ちだった。
同じ寝台車へ二人一緒に乗り込んで、高校の卒業旅行にと南へ向かった。
けれどそれが別れの始まりだった。
あの旅から四年経った今、彼女はあの土地で一人暮らしていく事を決めたのだ。
北に残る私を置いて。
二十二年間ずっと、同じ時を過ごした私を置いて。

私達の育った家は、二人が生を受ける前から隣り同士に建っていた。
誕生日が二ヶ月違いの私達は、お隣同士である両親達が仲良かった理由から
生まれた時からほとんどの時を一緒に過ごした。
毎日同じ通学路を歩き、同じ校内で過ごし、家族旅行でも一緒だった。
家族と変わらない存在。
私にとって、いやきっとお互いにとって家族以上の存在だった。
この世でたった一人の、半身だって言える。
嬉しい事があればそれを一番に伝えるのは彼女であったし
悲しい時には、彼女だけがその悲しみを取り祓う事が出来た。
胸にあるものは何でも言い合える、互いにとっての一番の理解者。
けれど、そんな彼女に私は一つだけ口にしていない事がある。
433 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:47:12 ID:qnRajsXi
「美咲の方こそ、帰り気をつけてね
 私が行っちゃうからって吹雪と心中なんて事ないように」
「そこまでするほど、私の世界はじゅんで回ってるわけじゃないから」
笑って嘘をつく。
順子の笑顔を見ていたかったから。
本当は誰よりもずっと一緒にいたいという願いを、私は順子に伝える事が出来なかった。
順子がいなくても日常を過ごしていける、そんな強い自分を見せたかった。
それが強がりだと悟られていても、そんな強がりを見せられる自分でいたかった。

涙ながらの別れなんて、私達には似合わない。
順子と生きてきた時間が、何より幸せだったという想いを、今笑って送り出す事で伝えたかった。

それが、今日まで順子に守られて生きたきた私が
彼女の為に出来る、唯一の事だ。
434 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:48:13 ID:qnRajsXi
ベンチに座る私達の目の前を、小学生ぐらいの子供達が
屋根のついていないホームまで目掛けて駆けていく。
頭上から降りかかってくる雪をものともせずに、小さな雪山を登って遊んでいた。
自然と、幼い頃の記憶が蘇ってくる。

私は、どこか間の抜けた子供だった。
宿題を誰より早く片付ける事は出来ても、翌日それを鞄に入れるのを忘れたり
テスト勉強を難なくこなす事が出来ても、テスト範囲を間違えたりする事が幾度もあった。
おまけに、この土地で生まれ育った割にはひどい寒がりで、雪道を滑らない日はなかった。

二十年以上生きて、ようやくそれらを克服してきているが
その全てが、隣りに順子がいたからこそ乗り越えて来れたものだった。

雪の休日には一歩も外へ出ようとしない私の家のベランダで、順子は大きな雪だるまを作り始め
顔の材料となるものを、窓の向こうで眺めているだけの私に求めてきた事があった。
まだ幼かった彼女の顔が、私に語りかけてきたのを覚えてる。
「雪だるま作らせたらクラスでも私の右に出るやつはいないけどさ
 顔はみーちゃんが作った方がうまくいくと思うんだー」
鼻を赤く染めながら、縁側に手をついて私の事を待っている順子。
「しょうがないなーじゅんちゃんはー」
渋々、といったふうに私は真っ白なベランダへ足を踏み入れていった。
本当は、窓に遮られていた二人の世界が寂しかった
本当は、寒さに臆する事なく外へ飛び出して一緒に遊びたかった
そんな私の気持ちを、いつでも彼女は気付いてくれていた。
素直になれない私の為に、彼女はいつも言い訳を用意して、私に寄り添ってくれた。

寒がりで、まだ小さかった身体には、雪を踏みしめる音すら耳に突き刺さるようで痛い。
それでも、あのひと時は本当に楽しかった。
凍てついた空気の中にも、温もりがある事を教えてくれたのは
他の誰でもない“じゅんちゃん”だった。
435 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:49:17 ID:qnRajsXi
「また、遊びたいなぁ…」
その声に振り返ると、順子の視線も遊んでいる子供達に向かって注がれていた。
「美咲と遊ぶのが、何より楽しかったよ」
照れ臭いのか、私に視線を背けたまま、順子は口にした。
胸から込み上げてきた熱いものが、喉に詰まっているのを感じる。
それは私の方だと、言葉を返したかった。
幸せにしてもらっていたのは、いつも私の方だったと。
「本当に、楽しかったね」
「うん」
私がかろうじて笑って答えると、順子も笑って頷いてくれる。
その笑顔が、私と同じ強がりなんだって事を知っていた。
私が知っているように、順子も私の想いをきっと察してくれている。
今、この北の街に一人残されていく私でも
“今までいてくれてありがとう”と伝えたい気持ちが心にはあった。
けれど、それを口にしてしまえば、本当にさよならになってしまう事を知っている。
もう二度と、彼女の人生に参加出来なくなってしまう事を解っている。
寂しさを口にしない事で、彼女とずっと、繋がっていたかった。
私のそうした想いの全てを、順子は汲んでくれていた。
「ねぇ」
「うん」
「寂しいなんて言ったら、何処にも行けなくなってしまうから」
「…うん」
「だから言わずにおくけど、薄情なんて思わないでね」
こみ上げる涙を飲み込みながら、私は何も言わずに頷いた。
何処にも行かないで、という自分勝手な願いを沈めて、聞き分けのいい振りをする。
でも、嘘じゃない。
彼女の旅立ちを祝う気持ちも。この先の運命へ挑む彼女の背中を応援したい気持ちも。
この世で最も尊い人。
その本人が選んだ生き方だから、私にとってだって、尊い決断。
436 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:50:10 ID:qnRajsXi
『三番線に、列車が参ります』
先程まで、私達と無関係な列車の案内ばかりを繰り返していたアナウンス。
それがとうとう、彼女を奪っていく列車がやって来る事を知らせてきた。
乗車ラインに立つ順子と、そして私。
列車が入る直前に、彼女の横顔に向かって語りかけた。
「たまには、私のこと思い出してね」
本当は毎日思い出してほしい、毎日私の事を望んでほしい
そういった願いを百万分の一まで小さく纏めて、口にした。
「美咲」
警笛の音に紛れながら、順子は私の名を呼ぶ。
同時に、すぐ横にあった彼女の手が私の手を包み込んできた。
並んで手を繋ぐなんて、何年ぶりの事だろうか。
「きっと、毎日会いたくなる」
「うん」
私の百万分の百万、という願いを彼女は察していた。
嬉しさと恋しさが募って、眼前を駆けてきた列車に視線を向けたまま
小さな声で頷く事しか出来ない。
「だから離れていても何も変わらないよ」
順子がそう言い終えた時、六号車のドアが私達の目の前に揺れながら止まった。
音を立ててその扉が開かれる。
二人を別つ、その扉の蒼さを私は一生忘れないだろうと思った。
437 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:51:02 ID:qnRajsXi
「それじゃあね」
その言葉と同時に、彼女の体温が私の手の平から離れる。
列車に乗り込んでから、私の方へ向き直った時
順子は少しだけ泣き出しそうな顔を見せた。
それは私が、今日まで耐えて見せずにいた表情だった。
伝染しないように、今度は私の方から微笑みかけてみせる。
「またね、じゅんちゃん」
彼女の強がりを守りたかった。
今日まで彼女に守られてきたように、せめて最後だけは私が彼女を守ってみせたかった。
そんな私に応えて、順子はもう一度気丈な笑顔を見せてくれる。

『まもなく発車します、ご乗車の方はお急ぎ下さい』
アナウンスと共に、発車メロディーが鳴り響いたその時
順子は私の腕を掴み、ホームの端ぎりぎりまで引っ張って身体を寄せてきた。
呆気に取られている私の耳元へ唇を寄せ、硬い声でそっと呟く。
囁かれた瞬間、それが“二度と忘れられない声になるだろう”という確信だけが胸に過ぎった。

順子の手は、すぐにも私の身体を白線の内側まで押し返し
やがて閉まる扉が、二人の世界を隔てていった。
最後の一瞬まで、絶えず笑顔で送り出そうという誓い。
そう胸に決めていたはずの私は、ただ瞳を丸くさせたまま
ゆっくりと横へ流れていく彼女に、視線を傾ける事しか出来なかった。
その時私の目に映っていた彼女も、口角を下げ
扉の窓に手をついて静謐な眼差しを私に向けるだけだった。
間もなくそれも見えなくなり、加速する藍色の車体だけが私の視界を奪っていく。

歳取ったら、必ずあの家に帰るから
  そうしたら死ぬまで、一緒に暮らそう

目の前で響く列車が駆ける音よりずっと、胸に轟いた最後の言葉だった。
438 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:51:59 ID:qnRajsXi
「歳取ったらって、いつよ…」
列車の姿が夜の闇に見えなくなってから、私は呟いた。
順子のあの言葉は、プロポーズだったのだろうか?
わからない。
いつでも私の理解の範疇にいた彼女は
別れ際になって、解けない疑問を残して行ってしまった。

次に会った時に必ず、問い質してみなければ。
いつ会えるかも約束なんて何もない。
けれど、彼女が自分の人生を自分の為に選び、歩み出したように
私も、そんなふうにありたい。
何より自分の為に生きてみて、その上で彼女を好きなのだと、彼女に伝えたい。
幼馴染だとか、いつも一緒にいたからとか、そんなものを通り越して
その時に初めて、彼女に想いを伝える資格が持てるのだと思う。
次に会えるまでにその資格を得る為、私は立ち尽くしていたホームをようやく後にした。

「もう、会いたくてたまらないよ」
改札へ向かう階段を下りる途中、溢れ出しそうな涙を堪える代わりに
自分にしか聞こえない声で寂しさを口にする。
同じ孤独を順子も今、揺れる車内で耐えているのだと思えば、ほんの少し救われる。
二人にだけ分かち合えるこの孤独が、新たな絆として二人を繋ぐ事が出来れば。
今のこの別れが、二人の人生にとっての新たな始まりだと、信じたい。

駅前の人混みを抜け、吹雪に塗れる道を確かな足取りで踏みしめながら
距離が離れていく今も、彼女に守られている事を感じていた。
雪道を滑らない歩き方も、強風に撒かれない傘の差し方も、全部順子が教えてくれたもの。
何も変わらずに明日からも私を守り続けていくもの。
一人になった今、彼女の愛に包まれているような、そんな気持ちが
心を掠めて離れなかった。
439 ◆YURIxto... :2009/02/17(火) 16:54:41 ID:qnRajsXi
以上です
失礼しましたm(_ _)m
440創る名無しに見る名無し:2009/02/17(火) 21:01:29 ID:HX9tINA7
道民涙目!
レール横にどっさり積もった雪が脳裏に浮かんできて寒くなりながらも、
2人の絆に温もった気分です。GJ!
441創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 04:27:08 ID:TpSIEVk4
GJです!
ホームの情景が目に映るようでした
442創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 08:37:00 ID:j/wWLkRY
百合スレいつの間にか復活してたwwww
443創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 10:38:24 ID:JereSOdY
情景心理描写うまいなー
444創る名無しに見る名無し:2009/02/20(金) 15:43:27 ID:FddCxe7A
こないだ見つけたウェブ漫画
http://projectlily.web.fc2.com/
445創る名無しに見る名無し:2009/03/04(水) 17:04:58 ID:mzkSbwva
保守!
446創る名無しに見る名無し:2009/03/04(水) 17:45:39 ID:gIImpBAt
このスレ波があるよね
447創る名無しに見る名無し:2009/03/04(水) 18:24:39 ID:O3nRH9jr
投下来てる!
448創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 11:46:42 ID:eSAQajOZ
百合の名言が欲しいage
449創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 15:47:25 ID:3wbO7/U5
ふたなりは邪道!
450創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 20:22:36 ID:eKd2SzMm
棒に頼らぬ意気こそ百合の道と見つけたり
451創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 00:46:04 ID:dSOS1AEn
きれいな百合には棘がある
452創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 09:52:51 ID:WtkU8HaN
地球温暖化
453創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 10:27:35 ID:fgjG43mM
桂さん……脱いでくれるかい?
454創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 23:07:39 ID:a7RyZY5C
私たち、女の子同士なんだよ!
455創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 12:56:40 ID:5HumcVII
>>454
「そんなの……関係ない……っ!」
Bの肩を掴むA。押し倒そうとするが、Aにはそれが出来ない。
パシッ!(ビンタの音)
「どうして……Aちゃん……友達だと思ってたのに……」
「……」



まで想像して鬱になった
456 ◆91wbDksrrE :2009/03/19(木) 15:07:45 ID:ZoSvIH7q
「私たち、女の子同士なんだよ!」
 好きだ。その言葉に、彼女は一瞬呆然とした後、叫びを以って応えた。
 叫び声は、しかし小さい。外に届く事は無く、聞き留める人はいない
だろう。誰もここにはやって来ない。ここには、ボクと、彩(あや)しかいない。
「そんなの……関係ないっ……!」
 だからボクは、彼女の肩を両の手で掴んだ。掴んで、引き寄せて、
ギュッと抱きしめて、それで彩にボクのこの気持ちをわかって貰おう
として……でも、それが出来ない。肩を握り締めて……それだけだ。
 肩を掴まれる痛みに彼女が顔をしかめるのを見た次の瞬間、衝撃
がボクの頬を襲い、遅れて乾いた音が聞こえた。その音は、彼女の
叫びよりもずっと大きくこの場に響き、その音に遅れて数秒、ようやく
ボクは自分が頬を張られたのだと理解した。
映ってからだった。
「どうして……香(かおる)ちゃん……友達だと、思ってたのに……」
「……」
 友達。そうだ。ボクと彩は友達だ。
「……友達だから……だから抱き締めたい、彩を。キスだってしたい。
 彩の身体を、ボクの身体で感じたい……!」
「そんなの変だよ! 女の子同士で、そんなの……」
「彩は……嫌、なんだね」
 落胆と安堵が、半分ずつボクの心を満たしていく。
 彩が自分を受け入れてくれなかったという落胆と、彩を抱き締める
事で彼女を傷つけずに済んだという安堵。
「当たり前だよ……なんで……なんでそんな事言うの、香ちゃん……」
 泣き出しそうな顔で、だけれど、真正面から彩はボクを見据えている。
見た目はたおやかな、触れれば折れてしまいそうな女の子なのに、
彩はこんなにも強い。だからボクは……一見して男の子に間違われて
しまいそうな、でも心はひたすらに弱く、脆いボクは、彼女に惹かれて
しまったんだと、そう思う。
「……彩が嫌なら、もう、こんな事……しないよ」
 ボクは、一体どんな顔をしてその言葉を口にしたと言うのだろう。
彩の表情が、嫌悪と怒りで歪んでいた顔が、驚きに取って代わられる。
「変なのは……わかってる。女の子同士で、こんな、好きだったり、
 触れ合っていたかったり……そんなのおかしいって……わかってる」
「……香、ちゃん……」
「でも、どうしようもないんだ……抑え切れないんだ……我慢できなくて、
 それで……それでこんな……」
 答えは出た。彩が、ボクのこの気持ちを受け入れてくれる事は無い
のだという答えが、彼女の口から告げられた。
「……でも、彩が嫌なら、もうしない。もう……彩の前には、現れない」
 抑えきれない想いを、ボクはこんな形であるにせよ、告げてしまった。
もう、元の仲良しなだけの二人には、戻れない。だから、ボクは彼女の
前から姿を消す……そのつもりでいた。
「そんなの嫌!」
 だけど、その覚悟に待ったをかけたのは、その覚悟をさせてくれた、
彩、本人だった。
「そんなの嫌だよ……香ちゃんが、いなくなるなんて嫌だよぉ……」
「彩……」
「女の子同士だから、そんな事するのは変だよ……でも、変でも、
 香ちゃんは嫌いになれないもん! 友達として……大好きだもん!」
 ――友達として。それは救いの言葉だった。残酷で、容赦の無い。 
「……でも」
「私だって……香ちゃんと手繋いだりするのは……好き、だから」
「……彩」
「今日の事は忘れる……忘れるから、だから! だから……また、
 明日から、いつもみたいに、ね?」
 彩は、自分が物凄く酷な事を言ってるのだと、わかっていないのだろう。
 でも、それでも……ボクは、その気持ちが嬉しかった。涙を流す程に。
「……彩が、それでいいなら」
                                     終わり
457 ◆91wbDksrrE :2009/03/19(木) 15:08:05 ID:ZoSvIH7q
ここまで投下です。

こうですか!? わかりません!
458創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 15:26:28 ID:0aZtz7ni
香ちゃん><
百合には悲恋がよく似合うのう
459創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 15:37:51 ID:H+2IRPBL
香ちゃん…(´・ω・`)
460454:2009/03/20(金) 04:48:23 ID:epnhkOUZ
百合の名言と聞いて、適当に書き込んだら
自分の一言だけでまさかこんなに盛り上がるとは・・・w

とりあえず、ボクっ娘もいいですな。
461わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:05:30 ID:5YJW5CAK
間が開きまして申し訳ございません。『死神さまとわたし』の完結篇です。
やっと、お見せできるようなものが仕上がりました。
お忘れの方が多いと思いますので
第一話>>303-309第二話>>328-334と、続けてどうぞ。
462わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:06:41 ID:5YJW5CAK
「どうしたんですか?」
「う、うん!なんでもない!なんでもないの!!」
ミミ子の顔をわざと避けながら、わたしは同じ言葉を二回繰り返した。
そういえば、分っていないときの返事って、大抵「はいはい!」って「はい」を二回繰り返すんだっけな。
一時でもあの編集者のことを忘れたいと思っているときに限って、噂をすれば影なのかわたしの携帯電話が叫び出した。
しばらくすると頼みもしないのに、生真面目なわたしの携帯電話は電話の送り主の声を一言も漏らすことなく記録する。

「…はあ、やっぱり」
そう、あの編集者の声がわたしとミミ子を引き裂こうとしているように聞こえ、なんだか無性に腹が立ってきた。
一方的な彼女の命令はどうしたものか。愚痴を言っていても彼女の誘いは続く。
『とにかく、この間の喫茶店で打ち合わせばするね!時間は…』
彼女の声が明るければ明るいほど、わたしは陰鬱な気分に陥り、さらにミミ子のことが余計に愛しくなってしまうのは
理屈でも理論でも解決できないこと。ミミ子はわたしの顔を覗きながら、申し訳なさそうにささやく。

「やっぱり、わたし…邪魔、です?」
「そ、そんなことないよ!!」
「わたしは咲さんが居てくれるだけで、とっても幸せです。だから…大事なお仕事でしょ?気にしないでね」
わたしを認めてくれた子が言うことだ。
あの女の申し出を断るのはミミ子に涙を流させてしまうことに等しい。
463わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:07:47 ID:5YJW5CAK
―――いつもの喫茶店、窓際の席で編集者の女と対面で座る。
わたしの側にはミミ子は居ない。もしかして一人で寂しくしているのではないか、と思うと
対面の女の声なんぞ、どうでもよくなってきた。無論、わたしの孤独な感情が彼女に伝わることはない。
店内の従業員をはじめ、子連れの主婦、くたびれたサラリーマン、小うるさい女子高生、みん世の歯車に乗って生きているというのに、
それに歯向かって生きているわたしは文句を言える筋合いは一つもない。

確かこの編集者は以前わたしに「恋をしなきゃ!」などと偉そうなことをぬかしていた。
申し訳ないが、わたしは今、それをしているのだろう。ミミ子が居ないということだけで、わたしは乾ききってしまったように感じるからだ。
こんな打ち合わせ、うっちゃって一秒でもいいからミミ子と寄り添いたい。そんな気持ちがわたしのなかで芽生える。
それでも、生え始めた若芽を踏み潰すように、わたしと自分の出世を勝手に前提とした、新連載の打ち合わせを編集者は一方的に叩きつけている。
編集者の声が一瞬止んだと同時に、ガラスのテーブルを手のひらで叩く音が割り込んだ。

「ねえ?聞いとお?」
「は、はい!」
「このチャンスは他になかとよ!秋に載せた短編がアンケートで好評だったから、頑張って企画通したのに…。
あとは咲ちゃんがこれからどうするかってところばい。ねえ…必死になれんと?」

『必死』かあ。必ず死ぬんだ。
死ぬんだったら、ミミ子に魂を取られちゃってもそれは本望だしね。
ただ、私自身あのときの作品以上のものはもう描けないと思う。あのときが私自身の人生のピークだったのだ。
事実、最近何を書いても非常にくだらなくなってしまっている気がする。だから、目の前の女からお説教を食らうのだ。
なのに、それを続けろと?必死になって描きやがれと?できるもんか、そんなもの。必死に死んでやる。

「もしかして…恋しとると?」
「はあ…」
「やっぱり!最近、咲ちゃん調子がいいと思ったら。ま、せいぜいお仕事に影響しないように頑張って!
わたし、咲ちゃんのこと応援しちゃるばい!ね!もう、わたしにナイショで水臭かあ!!」
きっと編集者の脳内にはわたしと見知らぬ男が寄り添っている姿が浮かんでいるのだろう。
しかし、わたしはそんなケダモノには興味はない。美しい花が好きなのだ。なのに、彼女は気付かない。当たり前か。
そう考えると、何故か笑いがこみ上げてくる。肩を揺らしていると対面の女は不思議そうにわたしのメガネを見つめていた。
なんだかばつが悪くなり、わたしが彼女の顔を逸らそうと、窓に顔を向けると背筋が凍った。
わたしの姿が窓に映っていない。
464わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:08:46 ID:5YJW5CAK
もちろん店内の従業員をはじめ、子連れの主婦、くたびれたサラリーマン、小うるさい女子高生、そして編集者の女はしっかりと
窓に反射をしている。当たり前のことが当たり前に見えなくなってしまっているわたしは少し怖くなった。

体に隙間風のような冷たいものがすうっと流れる。そして、わたしは一つの仮説を立ててみる。
ミミ子は元々鏡に映ることはなかった。しかし、日に日に鏡に映るようになってきた。
そして、わたしは窓に反射することがなくなってきた。反射といえ、鏡ほどくっきり映ることはない。
窓に映らないということは即ち、うっすらと鏡に映らなくなってしまっているのだろうか。
今まで窓に反射していたわたしの顔のように。どうしてもこのことを確かめたくなり、椅子を蹴っ飛ばして席を外す。
「咲ちゃん?どこ行くと!」
「ご不浄!」
一目散にお手洗いに駆け寄り真っ先に鏡を覗き込むと、わたしがうっすらと消えかけていたのだ。
正直者の鏡のクセに、生意気にもウソをついている。

そう言えば、ミミ子は言っていた。
「わたしたち、天界の者の糧は地上の者の…命です」
「咲さんのお陰で長生きできそうです」
そうだ、わたしは糧だ。何処かの誰それの血となり肉となるためだけに生まれてきた人間だ。
わたしがマンガを描いて、雑誌に載せる。読者が喜んで買う。金は出版社に降り注ぐ。そして編集者は金と名誉を手に入れる。
なんだ、わたしが今までやってきたことと、ミミ子に対してやろうと思っていることはさほど変わらないじゃないか。
ただ…マンガが描けなくなってしまったわたしはこのサイクルから外されてしまっても、ひとっことの文句も言えない。
もうどうでもよくなってきた。早く、ミミ子の元の帰らなきゃ…。薄っすらと目の前の鏡には半笑いのわたしが存在する。
面白くなったわたしは蛇口を回せるだけ回し、これでもかと水を流していた。当然、水にわたしの顔は映らない。

「けっさくだ、けっさくだよ!あはははは!!何もかもけっさくなんだよ!みんなそうなんだよ!
わたしなんかこれ以上のマンガなんか描けないただの人間ですよーだ!わたしなんか踏み台のために居るようなもんだからねー!
あははっははっははっは!あははっははっははっは!あははっははっははっは!」
喫茶店の狭いお手洗いでありったけの声を上げて、一人洗面台に崩れこむ。
わたしの奇怪な声を聞きつけたのか背後に人が集まる気配がする。
不安げにわたしを見物する人々が鏡の中ではわたしをすり抜けて見えた。
465わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:09:40 ID:5YJW5CAK
無意識によろよろと涙を流しながら笑顔を見せわたしは喫茶店を後にして、ミミ子の待つアパートに歩き出す。
「どうしたと?どうしたと?」
「体調が悪いので…帰らせていただきます。さようなら」
編集者の女は見てはいけないものを見たように目を丸くし、わたしの腕を掴んで引き戻そうとする。
それでもわたしは歩き続けた。歩き続けた。そして、歩き続けた。

どのくらい歩き続けたのだろうか。
そんなことを考えている陽間もなく、歩いていた。
あの女を怒らせてしまったのかもしれない、でも今はあの喫茶店に戻る気力さえない。
とにかく、ミミ子のことしか考えていなかった。見慣れた風景がわたしを迎える。あと、一息。

「いたたたた!痛い!!」
丁度、ウチの玄関に付く頃だった。思いもよらない頭痛が走る。よそ行きのスカートを汚しながら膝を付いてしまった。
目の前が暗い。そう言えば以前もいきなり路頭で、頭が割れる思いがしたような気がする。
長く続くであろうと思った頭痛は意外と短く終わり、朝早く目覚めたばかりのめまいのような感覚にさいなまれながら立ち上がると、
わたしの目の前に居たのは見慣れ小さな女の子、ミミ子だった。
「おかえりなさい…」
「ミミ子!」
救われた。わたしは死神に救われた。
もうこれで、悩むことなんかないんだからね、ははっ。
背後で必死にわたしを現実の世界に引き戻そうとする、銭と男にまみれた女なんか眼中にはないんだから。

「咲さん。みつかりましたよ、探し物。これで、やっとわたしは長生きできます」
白い顔をやや赤らめながら、古びたチョーカーをわたしに見せびらかすミミ子。
適当な言葉も見つからず、こくりと頷くだけで精一杯であった。しかし、ミミ子はわたしには見慣れた憂い顔に戻ると
わたしだけ(きっとそうなんだろう)に向けた告白をした。
「ごめんなさい…。謝らなきゃいけないことがあるんです。実は…この探し物、なくしてなかったんです。
なくしたなんて、ウソでした…。でも、なくしたことにしておければ、咲さんとずっと一緒に青い空を見たり、
布団で暖かく寝たり、美味しい朝ごはんも食べたりできるのかな…って…。わたしのワガママ…許されませんよね」
世間さまが許さなくても、わたしが許すから安心しなさい。か弱き死神さま。
466わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:10:28 ID:5YJW5CAK
ミミ子は瞳をあっけらかんと光り続ける日の光で涙を光らせて、わたしの手首を掴みながら続けた。
「もう一つ謝らなきゃいけないことがあります。それは…」
「それは」
「咲さんの命を頂いたら…もう、二度と咲さんに会えません。ごめんなさい…」
わたしの耳に死神のささやきが吐息交じりで入ってくる。と、同時にミミ子の体温を耳で感じていることに気付いた。
かすかにミミ子の歯の感覚が伝わってきた。わたしが死ぬまでの思い出に、この温かみはけっして忘れない。

「おいしい?」
「はい…咲さん」
全てを捧げてしまおう。全てお食べ。そう、心に誓った瞬間。
ミミ子がわたしを突き飛ばしのたである。わたしのウチの玄関に突き当たると、扉は安っぽい音を立てた。
弾みでわたしは崩れ落ちるように再び膝を付く。目の前にはミミ子の細い脚が見えた。

「ごめんなさい…。もう…帰らなきゃ」
「帰るんだ…。そうね、ミミ子はここの世界の人じゃないもんね」
「…はい。咲さんのお陰で、わたしも命を繋ぐことが出来ました。鏡にはもう咲さんの姿が映らなくなってるはずです。
でも、咲さんも地上での暮らしでキリをつけないといけないことがあると思うので、少しばかり命を咲さんに残しておきました。
残りはどのくらいか…わたしにも分りません。本当に咲さんにはお世話になりました」
おそらく、ミミ子の心遣いでそのように判断したのだろう。
突然、消えて困る人たちも居るんじゃないかと。わたし自身はこの世なんかどうでもいいと思っていたのだが、
冷静に考えるとミミ子のほうがわたしなんかより一枚上手なのではないか。
ミミ子の置き土産を大切に使おうと思う。

「咲ちゃん」
「何?」
「また会いましょうね」
ミミ子は分り易いウソをつく。と、呆れているうちにパタパタとわたしの目の前から消えた。
初めて『咲ちゃん』とミミ子に呼ばれた。そして、『咲ちゃん』とミミ子に呼ばれたのは最後だった。
467わたしの死神さま ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:11:29 ID:5YJW5CAK
わたしは数日間、ウチに閉じこもった。
世間さまとの交流を全て断ち切った。電話にも出ない、外にも出ない。食べ物は出前で十分。
一週間後、予想通り編集者の女が心配してわたしのウチにやって来た。
鍵を掛けていないわたしの部屋に入ってきて一言。
「咲ちゃん?咲ちゃん?どうしたと?連絡が全然とれんとよ?」
編集者は暗い部屋で一人机に向かうわたしを見て失望したのだろうか、と一人で思案。

彼女とわたしは住む世界が違うのだろうか。
人を愛する人、人を愛せない人。
男しか愛せない女、男も愛せない女。
光を好む人、闇を好む人。
まるで水と油が無理に交じり合おうとすることは、サルでも分る事実。
「咲ちゃん?この間から少し変ばい。もしかして…失恋?わたしが相談にのってあげよっか?」
「しつれん…ですね…」

間違っていない。彼女の言うことに肯定すると、お姉さんぶって張り切る編集者が居た。
「やっぱり!!まだまだ若いんだから!こんな失恋一つや二つどうでも…」
わたしは目の前にあったインクに浸したばかりのGペンを握り締めると、彼女の言葉を拒否するように筆先を思いっきり机に叩きつけた。
血のようにインクが新雪のような原稿用紙に飛び散る。もちろん床にも飛び散った。相棒のペン先は言葉を発することなく死んだ。

「ごめんな…さい」
細い声しか出せないわたしは、目の前のインクをウェットティッシュで拭くことしか出来ない。
筆立て、参考資料、机の上、下と随分とインクを散らかしたもんだ。編集者もわたしに手伝いをする。
その途中、どこかで見たチョーカーが机の足元に落ちていた。この間ミミ子が見せてくれたものだ。なぜなら、わたしはこの手の物は持っていないし、
だいいち、よそからこの部屋に上がったものは編集者とミミ子しかいないのだ。予想が確信に変わる。

もしかしてわざと忘れていったのだろうか。ここに取りに戻る為に。それでわざと置いていったのだろう。
わたしにミミ子が「見つかりました」と見せたものはおそらく偽物なのだろう。わたしは本物を知らないから、そのようなことを言われれば
たやすく信じてしまうだろう。そう言えば、最近のミミ子は平気でウソをつく子だったな。

わたしの命があるうちに、ミミ子にまた会えるような気がしてきた。きっと、ミミ子が戻ってくるんじゃないかと。
そして、ウソツキ死神さまは平気でこんな言葉を言うんだろう。
「もう一つ謝らなきゃいけないことがあります。それは…」と。


おしまい。
468わんこ ◆TC02kfS2Q2 :2009/03/23(月) 00:12:14 ID:5YJW5CAK
物語は以上です。
また何時か…。
469創る名無しに見る名無し:2009/03/26(木) 02:07:03 ID:ogei5Q4/
わるい子だなあw
470創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 00:16:25 ID:VfqburCG
美しいものが好きです。もっとSSを!
471 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 18:53:19 ID:o/fB8EtS
「千夏!?ねぇっ千夏でしょ!?」
やかましい渋谷の街を一人歩いていると、更にやかましい声で呼び止められた。
振り返ってみると、その声の主は私と同年代位の面立ちをしていた。
服の系統も私の見知った友人達と大差ない。私より少し、派手めではあるけれど。
「……あの、どちらさまで」
「あたしだよ、福本早苗、小学校一緒だった」
そう名乗った彼女は、どこか誇らしげに胸を張っていた。
「さなえ…」
名前を口にしてから懸命に記憶を巡らせる。
その名前を口にした事が、初めてではないような気もどこかで過ぎったけれど
それはとても曖昧な感覚だった。
ランドセルを背負っていた頃なんて十年も大昔の事だ。
今突然目の前に現れた見知らぬ女性と、その時代とを結びつけるには無理があった。
私は降参したように首を傾げる。
「やっだ、覚えてないの?相変わらず物覚えわるーー」
見覚えのないこの女性は、私が物覚えの悪い子供だったという事を知っている。
という事は、間違いなく私の小学生時代を知っている人物なのだ。
私は、私の知らない人間が私の内情を知っている事実に、違和感を覚えた。
「ま、いいやそんな事は」
私が感じてる事など思いもしない彼女は、あけらかんと言い放つ。
彼女にとって私が彼女を思い出さないのは大した問題でもないらしい。
「ね、今暇?」
「え」
「何か予定あるの?」
「…ないけど」
「じゃあちょっと付き合ってよ!」
その女性は馴れ馴れしくも私の手を引いて、人混の中を突き進んだ。
「え、えぇ?」
私が引き止める間もなく、その時間は始まった。
今この瞬間から、彼女の渋谷観光に付き合わされる事となった。
472 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 18:56:47 ID:o/fB8EtS
「今ねぇ、友達と旅行でこっちに来てるんだ」
交差点に面したビルの三階に来ていた。窓越しのカウンターに腰掛ける。
初めて入るカフェだった。そもそも渋谷にはたまに一人で買物に来る程の用しかない。
一人でこういう賑わった店に入る勇気のない私は、いつも用を終えたらすぐに帰る事が多かった。
今日もそのはずだった。
先程まで歩いていた道を、眼下から見下ろしている事に奇妙な新鮮さを覚える。
「旅行って?」
しばらく窓の景色に見惚れ、彼女の話を聞き流していた。
聞き流してから、旅行という言葉が耳に掛かった。
「あ、今ねアメリカに住んでるの、カリフォルニアに大学に通ってて」
「へぇ」
淡白に頷きながら、内心では呆気に取られていた。
向こうの大学に進むような秀才が私の過去の友人の中でいただろうかと、思い巡らせて
やはり隣りでグレープフルーツジュースを飲んでいる彼女は見知らぬ他人なのだと一人頷いた。
「その友達は?」
「今別行動なの、浅草観光がしたいんだって」
「え、外国人?」
「そうなの、お寺が見たい〜なんて、ベタベタよねぇ」
友人について飽きれるように笑う彼女に合わせて、私も笑った。
けれど外国人と対等に並んで、英語で会話している彼女を想像して、やはり彼女を遠く感じた。
最初は特に感じなかったけれど、こうして見ると顔立ちも
周りで談笑している女性達より秀でて整っているように思えてくる。
この女性は一体、誰なのだろうか。
こんなにも自分とかけ離れた人物が、私と友人であった事が本当にあるのだろうか。
473 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:00:13 ID:o/fB8EtS
「お、やっときたきた」
トレイにケーキを二皿抱えてやってきた店員に、彼女は瞳を輝かせる。
彼女はフルーツミックスタルトに、私はチーズケーキタルトを注文した。
「あれ?イチゴ好きだったよね?」
「え、あ、うん…でもショートケーキは」
「そうだ、生クリームは嫌いなんだよね」
本当に私の事を熟知していた。言い当てられる度に、頭を鷲捕まれる思いがする。
「はい、じゃあこれあげる」
ケーキの上にこんもり乗ったフルーツの中から、苺を選ぶと
それを刺したフォークを、私の口元へ翳してきた。
私は一瞬躊躇って、彼女の邪気のない瞳を盗み見る。
逆らう事の出来ない瞳の色が、そこにはあった。
勇気を出して飛び込むように、私は彼女のフォークを口に含んだ。
嬉しそうに私を見る彼女の視線が痛くて、口の中で砕かれた苺の味は胸の詰まるものだった。
474 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:05:56 ID:o/fB8EtS
それでも小さなケーキを時間かけて平らげた頃には、私達は幾らか打ち解けていた。
いや、彼女は元より砕けている。私の方が、彼女に対して自然体を覚え始めていた。
昔馴染みの友人としてではなく、今出逢ったばかりの同世代の他人同士として。
「へーぇ、じゃあ卒業したら医療関係に進むんだぁ」
「まだ完全に決めてないけどね、でもこのまま行けば…多分」
二年先の将来について話したのは、進路相談の担当者以外で初めてだった。
他人だから打ち明けられた事なのか、それとも彼女は特別なのか。
どちらにしても、自分にとってすら大した価値を持たない将来の話だった。

「ちーちゃんが病院で働くなんて、なんか変なの」
再び頭を鷲捕まれた。私をその名で呼ぶ人物を、私は知っているはずだった。
くすくすと笑いながらそう呼びかけられる感覚が、何故か懐かしい。
「?どうしたの」
「…いや、変ってなによ」
「えぇ、だってちーちゃん、お店屋さんになるって言ってたじゃない
 今も雑貨とか好きでしょ?」
今度は頭ではなかった。心臓を、鷲捕まれたような思いがした。
私がほとんど忘れかけていた事も、彼女は全て覚えているのだ。
「そうだった…」
「なぁに?もう好きじゃないの」
隣りに座っている彼女が、瞳を近づけながら尋ねてくる。知らぬうちに鼓動は高鳴っている。
「いや…」
その瞳から逃れるように、視線を伏せた。
テーブルに置いてあった彼女の携帯が目に入る。携帯の、ストラップに。
猫の形をしたビーズストラップだ。赤い色のそれを、とても可愛いと思った。
何かを可愛いと思うなんて、とても久しぶりの感情だ。一瞬だけ、何かを取り戻せたような気持ちになった。
「今もすごい、好き…」
瞳を上げて呟く。もう一度彼女と視線を交わした。
何故彼女は、そんなにも嬉しそうな顔で笑っているのだろう。
高鳴った鼓動は留まる事を知らない。この高鳴りを、私は知っているはずだった。
475 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:09:21 ID:o/fB8EtS
「ね、雑貨屋さん見に行こう」
邪気のない声と、表情で立ち上がる。
追いかけるように腰を上げた私の手は、彼女の手の中にあった。
彼女は本当に、何者なのだろうか。
カフェから再び人波の行き交う舗道へ繰り出していた。
他の波に飲まれてしまわないように、互いの手を指を絡ませるほどしっかり繋いでいた。
この手の感触を知っている。
離したくなくなるこの尊さを知っている。
なのにどうしても彼女自身の記憶を私の中から見つけ出す事が出来ない。
雑貨屋に入り、商品を見つめながら、店から店を歩きながら、私達の会話は続いていた。
「ね、これちーちゃんが前に持ってたクマに似てない?」
「あぁ…あれね、今どこにいるんだろう…」
「失くしたの?うっわ、あんなに大事にしてたのに
 あたしはちーちゃんがくれたぬいぐるみ、今も大事に持ってるよ
 耳が赤いうさぎ」
「…アカマル?」
「そう!」
会話に上る全ての記憶が共通していた。
アカマルと名付けたうさぎがいた事を知っている。それを誰かにプレゼントした事も。
けれどそれを受け取った人物についてだけ何故か思い出す事が出来ない。
いや、思い出すまでもなく、目の前にいる彼女がその人なのだ。
けれどやはり彼女という人物だけが私の記憶の中から抜け落ちていた。
あけらかんとした喋り方も、甲高い声も、聞き覚えがあるような気がしているのに。
知っている事を、思い出せなくなるなんて、そんな事があるのだろうか。
476 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:12:55 ID:o/fB8EtS
記憶にない彼女でも、共に過ごす時間は楽しく、あっという間に過ぎていった。
私は彼女が自分から話す事以外、彼女について尋ねる事が出来なかった。
誕生日や血液型、どんな子供であったかなど。
それらを知る事が出来れば探していた記憶に辿り着けるような気もしたけれど
それを聞いても尚、記憶から彼女を見つけ出せなかったら、と思うと尋ねる事が出来なかった。
それに彼女自身、私が彼女についてとっくに思い出してると思い込んでるのではないかと思った。
ならば知ったか振りを続けよう。
ただ私が思い出せないだけで、彼女は確かに私の友人なのだ。
思い出せない事よりも、今彼女が隣りにいる事の方を尊く思っていた。
失った時間を取り戻しているような気がする。
本来ならば、いる資格のない彼女の隣りに、私は立っているのではないか。
それでも、今はそこに立ちたい。
彼女の隣りにいたい。
繋いでいる手を、出来る限り長く、離さずにいたい。
どんなにそう願っても、別れの時間は必ず来るんだと思い至った時
私の胸は酷く軋んだ。
477 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:16:22 ID:o/fB8EtS
「もう、七時かぁ」
賑わった繁華街と、反対側に面している公園に来ていた。
途中で一つだけ買ったカフェラテを、ベンチに座って交互に飲み合った。
買ったばかりのそれは熱くて、僅かずつしか口に含めない。
それでも初春の夜は風がまだ冷たくて、唇以外の全てが寒かった。
「近くに、ホテル取ってるの?」
「ううん、友達の家に居候させてもらってる
 学校すぐに始まるから、明後日には帰らなきゃなんだ」
「そっかぁ…」
彼女と居られるのは今日だけだという事をわかっていても
明後日には同じ日本の何処にもいないという事実が、無性に寂しかった。
やがて二人を繋ぐそれも熱を失い、知らぬ間に飲み終えていた。
私達はどちらともなく立ち上がり、公園の中を歩き出した。
その足は駅へ向かっているとも、背を向けてるとも言えず、いいかげんな足取りだった。
「前も、こんなふうに夜の公園で遊んだよね」
「え…」
「ちーちゃん、帰りたくないって言ってさ」
覚えている。今と全く同じ気持ちだった夜が、遠い昔に存在した。
「心配した親が先生にまで連絡して、帰ったら一晩中怒られるは、次の日学校でも怒られるは」
散々だったよね、と彼女は笑った。私は、笑う事が出来なかった。
「だって……」
「だって?」
言い澱んだ私を、少し意地悪そうな視線が覗き込んでくる。
夜の闇の中でも、その真っ直ぐな瞳を確かに見て取る事が出来た。
こんなふうに誰かと見つめ合った遠い夜がある。
あの夜を思い返しても、彼女が隣りにいた事を記憶から探せない。
それでも今の気持ちと重ねて、私はあの心細さを口にした。
「寂しかったんだよ」
ずっと一緒にいたかった。どんな色をした空の下でも、手を繋いで歩いていたかった。
478 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:20:45 ID:o/fB8EtS
「ごめんね…寂しがらせて」
彼女の手が彼女より少し高い私の頭まで伸びてきた。ぎこちなく撫でられる。指先が髪を梳き通る。
今のこの瞬間を、私はずっと待ち望んでいた気がした。
けれど記憶の欠片は、やはり隙間に届かない。
届かないまま、別れの時間はやってきてしまった。
手を繋いで、駅までの道を辿った。
気を抜くと押し潰されてしまいそうな人波の中、嫌でも足早に歩かなくてはならなかった。
やがて辿り着いた改札の前で、私達は手を繋いだまま再び向かい合う。
「地下鉄?」
「どうかなぁ、とりあえず友達に連絡取って、合流してから帰ると思う」
「そっか」
「うん」
甲高く喋っていた彼女の声も、今は語尾が力ない。名残惜しい、と感じてくれているのだろうか。
私は確かに、今を離れ難く感じている。
なのに連絡先の一つも聞けないなんて。
思い出す事の出来ない彼女と、今後も繋がる事は出来ない気がした。そんな資格などないのだと。
多分今日という日は、奇跡のように舞い降りた運命だったんだ。たった一日だけの奇跡。
宝物のような今日も、いつか忘れてしまう事があるのだろうか。
怖いと思った。忘れるなんて。思い出せなくなるなんて。
「元気で、嬉しかったよ」
その言葉と同時に、彼女は私の手を離した。別れの合図だった。
「ありがとう」
彼女から一歩下がって、離れた手を振りかざす。
その時、耳の奥でカンカンという音が僅かに響いてきた。踏切の音だ。
渋谷駅の改札の前で、踏切の音なんて、幻聴にも程がある。
身体を翻し、彼女に背を向けるとその音は一際大きくなっていった。
足を一歩進める毎にまた大きくなる。改札の中に入った瞬間、それはもう犇きと化していた。
耐え切れなくなって、彼女がいた方角を振り返る。
踏切が見えた。遮断機の下りた踏切の向こうに、彼女の小さな背中があった。
今日のものではなくて、遠い昔の後姿。
それは八年前と同じ景色だ。もうすぐ列車が駆けてくる。駆けてきて、私の前から彼女の姿を奪い去ってしまう。
もう二度と、同じ過ちを繰り返してはいけなかった。
479 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:24:07 ID:o/fB8EtS
「さーちゃんっ!さーちゃん!!」
叫んだのと同時に、私は駆け出した。改札の扉なんて私を踏み止まらせるものになり得ない。
あの時二人を隔てた列車に比べたら、こんなものに私達を引き裂く事なんて出来やしない。
私が彼女の前まで辿り着いた時、彼女は待っていたように振り返って私を見つめていた。
「さーちゃん…」
ようやく、彼女の名を呼ぶ事が出来た。その名を口にした瞬間、彼女の全てが、私の中で蘇った。
「やっと、思い出した?」
引き寄せられるように自然に、再び私達の手は繋がれた。
あの時、繋ぐ事の出来なかった時間だった。



八年前、今と同じ季節に、彼女は私の前から姿を消した。
「春休み、一緒に遊園地に行こうね」
叶える事の出来なかった約束だけを残して。

親友同士だった私達は、学校でも、帰ってからも、いつも一緒だったけれど
誰よりも大好きな彼女と、休みの日に二人きりで過ごす時間が、私は一番好きだった。
彼女と初めて行く遊園地を、心から楽しみにしていた。
不安があっても、彼女が隣りにいる中学生活ならきっと楽しいだろうと
春休みを迎えた後の全ての日々を、私は楽しみにしていた。

心の底から、甘え切っていたのだ。
まさか彼女が私の知らない遠い中学へ通う事も知らずに。
480 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:27:31 ID:o/fB8EtS
それを知ったのは、卒業式の日だった。
慣れ親しんだ二人きりの帰り道で、絶望は訪れた。
「一緒に遊園地に行くって言ったじゃん!!」
自分でも幼すぎるとわかっていた。わかっていても叫ばずにはいられなかった。
遊園地なんてどうでもいい。
小学校も、中学校も、全てが消えて無くなったって、ただ彼女の隣りに居られればそれで良かったのに。
私を置いて行ってしまう彼女を非難する事でしか、自分を保てなかった。
二人のすぐ側で踏切の警報機が鳴り響いている。
遮断機が下り切る寸前に、私はそれを潜り彼女の前を逃げ出した。
「出来ない約束ならすんな!!!」
それが私の最後の言葉だった。彼女の言葉を聞いてやる事が出来なかった。
踏切に背を向けた時、苛むほどの罪悪感が私を襲ったけれど、振り返っても私達の間は既に列車で遮られていた。
列車の一、二本なんてすぐに駆け抜ける。
わかっていても、そこで踏み留まり、もう一度彼女の顔を見る勇気なんて、私には持てやしなかった。

ただ幼かったのだ。
幼い心には大きすぎるほどの愛情を、彼女に対し持っていた。
そんな彼女を失う痛みに耐えられるほど、強くもなれなかった。
本当にただ、幼かっただけなのだ。
だから自分の中にある彼女の全てを消した。忘れてしまえばもう二度と失う事はない。
あまりに卑怯な方法で、私は自分自身を守った。
そんな卑怯で、臆病者である私の前に、もう一度彼女は現れた。
私を呼び止めてくれた。私を、覚えていてくれた。友達として。
私にそんな資格、あるはずがなかったのに。
481創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 19:30:29 ID:9r0e8J4r
支援
482 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:31:15 ID:o/fB8EtS
「ごめん…ごめん…」
強く握った彼女の手で、私は泣いた顔を覆った。
いくら謝っても足りない。泣き喚いたって許されない。
そんな私を、彼女は無条件で許してくれる事を解っていたからこそ一層、自分で自分を許せなかった。
「もうちーちゃんてば、泣いて謝らなきゃならないのは、あたしの方だよ」
困ったように笑って、再び私の頭を撫でてくれる。
「あたしがずるかったんだ
 出来ないのわかってて、約束して
 少しでも長く、ちーちゃんの楽しそうな顔が見たくて
 ぎりぎりまで引っ越すこと内緒にして」
私の頬を両手で包み込んで、彼女は口にした。
おそらく彼女は、その言葉を八年間温め続けてきたんだろう。
「本当にごめんね」
首を振った。彼女に非があったなんて、少しも思えなかった。
恨みも悲しみも全て無かった事にして、ただもう一度友達に戻れるならば、他に何も要らなかった。
私にとっての一番は、忘れていた間でもずっと、彼女であり続けていたのだ。

「今度は絶対、約束守らせてね」
「…なに」
「遊園地、卒業したら日本帰るから、そうしたら行けるよ」
「二年後…」
「そう、二年後」
心細さは確かにあった。本当は明日も明後日も彼女の隣りにいたい。
彼女を取り戻した今の私の、素直な願いだった。
けれど八年前の約束を、今度は私が守らなければならない。
「今度は、待てるよ」
涙を拭いて、顔を上げる。強がりだけど笑顔を見せて、彼女に応えた。
「ふふっ…ちーちゃんだいすき!」
「!」
全てが叶ったかのような微笑みの後で、彼女は私に抱きついてきた。
これ以上ないほど近い彼女に、私は心臓の高鳴りを覚えたけれど
再び思い出したのは、彼女の腕の中が何より安心出来る場所だったという事だ。
ぎこちない手つきで、背中へと手を回す。
彼女の肩に顔を埋めながら、返せない言葉を胸の中で唱え続けた。
私も大好き、という言葉を。
483創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 19:32:53 ID:9r0e8J4r
484創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 19:35:33 ID:9r0e8J4r
485 ◆YURIxto... :2009/04/05(日) 19:35:39 ID:o/fB8EtS
身体を離すと同時に、私を包んでいた甘い香りも薄らいだ。名残惜しかった。
私達の脇を抜ける人の波が、時折好奇な視線をこちらに注いでいる。
私は構わなかったけれど、目の前の彼女は更に構うところがない。
「またね」
その言葉と同時に、私の頬を彼女の唇が掠めた。
ほんの一瞬の出来事だ。
私がその柔らかな感触に呆気に取られている間、彼女は人波の中に飲み込まれていってしまった。
残されたのは八年前と同じ約束と、高鳴ったままの鼓動。
それから、コートのポケットの中で知らぬ間に忍ばされていた彼女の連絡先。
小さな紙には走り書きのローマ字が並んでいた。
名前の下の文字列が、住所にあたるのだろう。
帰ったらすぐに手紙を書こう。彼女が家へ帰り着くより早く届ける事は出来ないだろうか。
出来なくても、少しでも早く届けられたらそれでいい。そして少しでも早く彼女からの返事を受け取る事が出来るなら。
例えそれが数週間後でも、数ヵ月後だとしても
今度は待てる。
毎日彼女を想い出したとしても、彼女を恋しがったとしても、待ってみせる。
「さーちゃん…」
二人でいた柱にもたれながら、彼女を攫った人波に向かって小さく呟いた。
半日前にやかましい声で私を呼び止めた彼女の姿は、もうどこにもいない。
ふいに降りてきた心細さから耐えるように、私は唇が触れた左頬へ、手を伸ばした。
指先でなぞるように、触れてみる。途端に顔が熱くなった。

胸の内で唱えるしか出来なかった“大好き”だという言葉も、いつか口に出来たらいい。
家路へと向かうラッシュアワーの列車の中で、私はそう願った。
車内を軋ませる不規則な揺れに右手の吊革で耐えながら
空いた左手は、やはり頬へと伸びていた。
顔の熱さは、そのままだ。
柔らかなあの感触に、私はすっかり絆されてしまっていた。
彼女の心を絆す何かが、私にもあればいいのに。
―今も大事に持ってるよ
明るい声で言ってくれた、今日の彼女の言葉が再生されたその時
確かに感じた。
それはほんの一瞬だけれど、どんな遠い距離も長い年月にも別つ事の出来ない
私達だけの絆だった。
486創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 19:37:12 ID:9r0e8J4r
487471-485:2009/04/05(日) 19:43:47 ID:9/s4XcSv
以上です、失礼しましたm(_ _)m
488創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 20:22:32 ID:9r0e8J4r
乙だよ
やっぱいいなあ
489創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 21:05:04 ID:rz+l8hmp
素晴らしい!
490創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 02:14:51 ID:cjHAZmE7
遠い異国という手の届かない所へ行ってしまう想いの人、切ないながらも
最終的にはお互い理解しあえる・・・なんだかホッとした。
491創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 03:10:31 ID:J90XObvU
これだから百合は止められない
……泣いた
492創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 23:34:48 ID:J/YncGWy
たまには……ね。
493創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 01:07:00 ID:SISJTlCQ
過疎。

某所であらすじ晒したが、ファンタジーっぽい世界で百合なんてどうだろう。
現代を舞台にした百合も大好きだけど
ヨーロッパ、アジア辺りを舞台に繰り広げられる大恋愛とか(資料集めが面倒だけど)
剣と魔法の世界で百合百合してみたり、SFでもう一人の自分が出てくる話とか……
494創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 12:23:59 ID:PpzgkiTy
吸血鬼カーミラのような、レズの吸血鬼が百合ハーレム作る話なら脳内フォルダにあるけどなぁ
文章にできるかどうかが問題だ
495 ◆91wbDksrrE :2009/04/26(日) 21:08:15 ID:NWQC/0LW
『この世界では、剣と剣での勝負が全てを決める』
 その言葉と一緒に剣技を授けられた事を、今までずっと恨んで
いた。こんなもの、女である私には必要ないのに、と。
 なまじ強さを持っているが故に、一目置かれこそはすれ、女性と
しての評価は微妙なものとなり、結果弱い十八になる今日この日
まで男の人と付き合った経験も無いままで……まあ、それはいい。
響く剣戟の中で、今は感謝しているのだから。女である私を守る
為の術を授けてくれていてありがとう、と。
 この勝負に負ければ……私、シイナ・レンバードは、眼前の敵の
“所有物”(もの)となるという事を、戦前に約定として交わしていた。
その約定を現実のものとしない為の力を仕込んでいてくれた事を、
私は、今、この瞬間は確実に感謝していた。
 だが、その力を持ってしても、敵を打ち倒す事は未だできない。
「くっ」
 押し込んでくる敵をいなし、距離を取る。だが、距離を取った
先から、敵は踏み込んで、その距離を潰そうとする。柄の防具で
それを受け流し、何とか距離を取ろうと試みるが、先ほどから
その試みは上手くいっていない。敵の攻撃をいなせてはいるが、
こちらから攻撃に移る事ができないままだ。
「……相性、悪いわねっ!」
 口をついて出る言葉は、そのまま現状を表している。
 剣技の相性は言うまでもない。敵はその両の手に双剣を担い、
短めに仕立てられたそれを竜巻のように振り回す技を仕掛けて
くる。距離を詰めてこそ威力を発揮する技であるが故に、彼女は
私が距離を取ろうとする動きをことごとく潰してくる。
 対して、私が得意とする攻撃は突きだ。距離を取り、引き絞った
腕を腰の回転に乗せて前方へと突き出す事で威力を発揮する
技であり、距離を取らなければその威力は十二分に発揮される
事は無い。故に私は距離を取ろうとするのだが、彼女はそれを
許してはくれない。距離さえ取れば、相手の回避に合わせた
横薙ぎへの派生が、確実に彼女の身体を捉えるのだが……。
 だが、彼女の方も私が距離を取る動きを繰り返している為に
距離を詰めきれず、その技を十分に発揮できてはいない。
 互いに、互いの動きが互いの決め手を封じていた。
 ――千日手。そんな言葉が脳裏をよぎる程に、私達は相性が
悪い。少なくとも私の方はそう考えていた。
 そして、そんな、激しく動きながら停滞しているこの戦いと同じ、
私と彼女の相性の悪さを示す端的な事実が、もう一つ。
「可愛い見た目に似合わず、やるわねシイナ!」
「勝手に名前を呼ばないでっ!」
 私の名前を口にする敵は――彼女、なのだ。
 女であるにも関わらず、私という女を欲する女。それが目の前に
双剣を担っている、敵だ。名はルクレシア・ヴィーブと言ったか。
 彼女が私を欲しているというその事実。それが、私と彼女の相性
の悪さの、何よりの証明だった。少なくとも、私の側からはそう。
496 ◆91wbDksrrE :2009/04/26(日) 21:08:31 ID:NWQC/0LW
「さっさと諦めて、あたしの物になりなよ!」
「お断りですっ!」
 女色、というのだろうか。彼女は、私に一目ぼれしてしまったと言う。
自分の物にしたいと申し出られ、私ははっきりとそれを断った。
 そうして始まったのが、この戦いだ。
「私に、女色の気はありませんっ!」
 叫びを合図に、私は動きを変えた。このままでは埒があかない。
今まで押されるのをいなすだけだった動きを、逆に押し返す為に
力を込め、彼女を突き飛ばそうという動きへと変えて――
「これは百合って言うのさ! 大陸の最先端流行だよっ!」
 ――逆に彼女に身を引かれた。
 まずい。読まれたっ!?
 私は一瞬空足を踏んで体勢を崩す事になり、当然その瞬間を
彼女は逃さない。
「っ……!」
 体勢を整える為には、時間が足りない。彼女の踏み込みの速さは
ここまでの剣戟で十分に理解している。だが、体勢を整えなくては
彼女を迎え撃つ事もできない。
 どうすればいいか。迫り来る双剣の、その嵐のような連撃を前に、
私の思考はそれを受け払おうと考えはするが、追いつけない。
 思考よりも早く到達する双剣に、だがしかし身体は動いた。
「えっ?」
 私は、体勢を整える事を諦めた。考えるより先に、その動きは
自然と身体によって表現され、結果私の踵は彼女の胸板を捉える。
 前方にたたらを踏みそうになったのを踏みとどまらず、私の
身体はそのまま回転するように前へと倒れ、その勢いのまま、
足のもっとも硬い部分を相手の身体に浴びせたのだ。
「ごぉっ!?」
 浴びせ蹴り。そう呼ばれる技は、確実に彼女の身体をとらえた。
 なまじ速い踏み込みが、カウンターとなったその蹴りの威力を増し、
彼女は膝から崩れ落ちた。丁度、みぞおちの辺りに入ったという
僥倖にも恵まれたようだった。仕切り直しどころか、この一撃で
私は完全に彼女の動きを止める事に成功したようだ。
「……チェックメイト」
 何とか立ち上がろうともがき、しかし叶わぬ彼女ののど元に、
私は剣を突きつけた。
「ずっこいよー。剣と剣の勝負なのに、蹴りは無しだろー」
 軽口を叩きながらも、彼女の顔には苦悶が浮かんでいる。
思った以上に、蹴りはいいところに入ったようで、私は何故か
それを申し訳なく感じていた。その必要は無いのに。
「真に剣と剣の戦いであるべきならば、両の足で立つ事は無論、
 両の手で剣を握る事もまた控えなくてはいけないのではないですか?」
「屁理屈だー! ないてやるー! うわーん!」
 ……戦う前よりも、何だか彼女はずいぶんと子供っぽく見え、
何だか私は毒気を抜かれてしまった。
497 ◆91wbDksrrE :2009/04/26(日) 21:08:47 ID:NWQC/0LW
「……でもまあ、戦う前に約束したもんな。仕方が無いし、あたし
 この街を出ていくから、安心しとくれ」
 その言葉に、私はハッとした。 
 私が負ければ、私は彼女の“所有物”になる。
 私が勝てば――彼女は、この街を出る。
 それが戦前の約定だった。だが――
「でも、あんたの一発効いちゃったからさ、明日の朝でいいかな、
 街から出て行くの?」
 ――私は何故か、それを惜しいと思ってしまっていた。
 彼女と戦ったからだろうか。それとも、彼女の表情を、苦悶の中に
浮かぶ悔しさと、そして本気を見たからだろうか。
「その必要はありません。私は……貴方の“所有物”にさえされ
 なければそれで十分ですし、貴方に出て行けといったのは……
 その、言いすぎだったかな、と」
「おや? シイナちゃんもようやくこのルー様の魅力に気づいたかにゃ?」
「そ、そんなわけないでしょう! 私は女性を嗜好する趣味は無いと、
 そう先程も言いましたよね!?」
「じゃあ、好きな奴とかいんの?」
「そ、それは……なぜ貴方に言わなければならないのですか!?」
「ははーん、いないんだ……じゃあ、まだチャンス有り、かな?」
「なんですかチャンスって! そんなものありません! 貴方は
 女性なんですよ!?」
「男だとか女だとか、そんな細かい事どうでもいいじゃーん」
「よくありません! ……やっぱり出て行ってもらおうかしら」
「ああ、ごめんごめん、今の無し! 取り消し! だから捨てないで
 シイナちゃーん! ごろごろー」
 ……本当に、おかしな人だ。
 そんな事を思いながら、私の顔は、自然と笑みを浮かべていた。
「……お友達になら、なってもいいですけど、どうします?」
「まずは友達からって事!? うん、全然オッケー!」
「からも何も、先は無いですから。私達、女同士なんですからね?」
「あたしは気にしないもーん」
「私が気にするんです!」
 叫びながら、私の顔からは笑みが消える事は無い。何か、訳の
わからない心地よさが、心に生まれて消えなかった。
「とにかく、今日からよろしくお願いしますね、ルクレシアさん」
「うん、よろしくねー、シイナ!」
 そうして、その日私に一人友達が増えた。
 彼女が、私にとって友達以上の存在になるのは――まだずっと先の話。

  
                                     終わり
498 ◆91wbDksrrE :2009/04/26(日) 21:09:01 ID:NWQC/0LW
ここまで投下です。
499創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 21:49:42 ID:SISJTlCQ
なんというガチ百合女傑ルクレシア。両刀使いなのか。
GJ!
500創る名無しに見る名無し:2009/04/26(日) 23:42:48 ID:/1BXk7oD
女戦士モノというと、どうしても乳が揺れるクイーンズ何とかって言うアニメを思い出す訳で・・・w
とりあえず、友達以上の関係になる回にも期待。
GJでした。
501創る名無しに見る名無し:2009/04/27(月) 13:59:42 ID:r/9FyKeC
子供っぽい女剣士かわいい
502創る名無しに見る名無し:2009/04/29(水) 09:31:10 ID:lHrtEzz2
普通に主人公が負けちゃった場合を想像したが
ただの官能小説になることに気付いた。
503創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 08:28:42 ID:ry0O/f3F
某漫画の夜一さんみたいに
自宅で飼ってる猫が妙齢の女の子になったりしないかね。
504創る名無しに見る名無し:2009/05/08(金) 23:59:38 ID:pfDlfcMF
荊の城、半身、カーミラ、マリみて
505創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 08:49:29 ID:L+aBgAwF
百合関連のスッドレはどこも過疎だな
506 ◆91wbDksrrE :2009/05/17(日) 19:49:39 ID:eePM9/Oy
『この世界では、剣と剣での勝負が全てを決める』
 その言葉と一緒に剣技を授けられた事を、私は――シイナ・レンバードは、
ずっと恨んでいた。
 でも、数ヶ月前のとある事件で、その恨みは感謝へと変わった。
剣と剣での勝負で、私は敵から自分の身体を護る事ができたからだ。
 敵は、双剣の使い手、ルクレシア・ヴィーブ。彼女は、何を考えたか、
勝負に負けたら私の身を自由にさせろなどという条件をつけ、突如
私に勝負を挑んできたのだ。
 剣戟を交わし、その強さを文字通りその身で味わいながら、何とか
私は彼女を退ける事に成功した。
 本来なら、その時点で私と彼女の縁は途絶えるはずだった。だが、
彼女の無邪気な言動に毒気を抜かれてしまった為か、それとも、彼女
との戦いを、彼女の本気を快いと思ってしまったからか――どちらにせよ、
私は彼女との縁を、再び結びなおす事を選択した。
 友人になろうという私の言葉に、彼女は無邪気に喜んでくれた。
 ――あ、いや、無邪気だったかどうかは、ちょっと断言しかねる、かな?
 でも、縁を結びなおした所で、彼女は旅人だ。聞けば、何か探し物を
しながら、大陸中を旅して回っているらしい。
 友人となれた事、自分と同じ年頃の話し相手を得る事ができた事は、
私も素直に嬉しかった。なまじ剣技などをたしなんでいるばかりに、
私は普通の女の子には……まあ、その……友達と呼べる人が、いない。
 普通の女の子は、幼い頃は親に護られ、歳を経てからは将来を
共にする男に護られる。それがこの世界の常であり、私はそれから
外れて育った女だ。だから、男からは一目置かれていたが、女性……
特に同世代の女の子からは、奇異な視線で見られる事も度々あった。
それが、私が剣技を授けられた事を恨んでいた主たる理由である事は、
否定しようがない。割り切れるようになったのは、つい最近の事だ。
 だからこそ、同世代の、同性の友人を得る事ができたのは、素直に
嬉しかった。できるならば、彼女がいつまでもこの街に留まっていて
くれれば、と……そう思ったのも事実だ。
 他愛の無い会話をしたり、たまに一緒に買い物に出かけたり、私が
作った料理に舌鼓を打ってくれたり、一つ一つがなんだか新鮮で、
嬉しい出来事だった。
 ……でも、彼女は旅人だ。縁を結びなおした所で、それが途切れる
日は、いつか必ずやってくる。
 できれば、そんな日なんか……ずっと、来なければいいのに。
 そう願いながらも、時は瞬く間に過ぎていった。
507 ◆91wbDksrrE :2009/05/17(日) 19:50:06 ID:eePM9/Oy

 ――そして、数ヵ月後――

「……ルクレシアさん」
「あい? 何か用かいシーちゃん?」
「……なんで、まだこの街にいるんですか?」
 ……彼女は、まだこの街にいた。というか、私の家で無茶苦茶くつろぎ、
まるで自分の家かのように振舞っていた。両親が遺してくれた家で、
幸い部屋には空きが沢山あるし、生活費用とかは彼女自身の財布から
出ているので、別に困るようなことは何も無いのだけれど……。
 わずかに怒気をにじませた私の言葉に、彼女は笑って答えた。
「なんでって……シーちゃんがあたしにいて欲しいって言ったから」
「っ……!?」
 思わず顔が赤くなる。
「い、言ってませんよそんな事っ!」
「えー、だって、コンゴトモヨロシクーって言ってたじゃん」
「そ、それは言いましたけど……」
 確かに、今日からよろしくお願いしますとは言った。言ったけど……。
「それがどうしていて欲しいって言った事になるんです!?」
「だって、今日からよろしくって言われたら、あの日からずっと
 よろしくしなきゃ嘘じゃん? それってつまり、いて欲しいって事でしょ?」
「なんですかその飛躍は!」
「……あたしがいたら、嫌?」
 突然、彼女は瞳を伏せ、寂しげな表情を見せた。
 不意を打たれた私は、何故か高鳴る胸と、朱に染まった頬を何とか
落ち着けようと、彼女から視線をそらし、明後日の方向を見やる。
「……それは……その……嫌、では、ないですけど……」
 口から出た言葉は、そんな状況だったから、紛れも無い本心以外の
なにものでもなかった。私は、別に彼女がここにいる事を嫌だとは
思っていない。むしろ……ずっと……。
 でも、それが叶わないだろう事は覚悟していた。覚悟していたのに、
彼女がこの街に数ヶ月もの間留まっている事で、その覚悟が何だか
はぐらかされているように思えて、それで……
 ああ、そうか。今になってようやく、気づいた。私は彼女に八つ当たり
しているのか。自分で勝手に覚悟して、それが無駄にされたように
思えて、腹を立てているだけなんだ。
「……はぁ」 
 自分勝手に彼女を責めている自分に気づき、ため息が口から漏れた。
 しかも、彼女がここに留まり続ける理由は――まあ、解釈はどう
とっていいかわからないにせよ――私の言葉に応じて、なのだ。
 彼女がここに留まっている理由が彼女の言う通りのものならば、
私は旅を邪魔しているようなものだ。そう考えた瞬間、沈んだ心が、
さらにズキンと痛んだ。
508 ◆91wbDksrrE :2009/05/17(日) 19:50:25 ID:eePM9/Oy
「でも……旅の方は、いいんですか?」
 旅立って欲しくは無い。ずっといて欲しい。
 でも、自分のせいで旅を中断して欲しくはない。
 相反する気持ちが心の中で乱れ飛び、その度にズキンズキンと
胸の一番奥が痛むような気がした。
「旅? ……ああ、そうだよねー。確かに旅は続けなきゃいけない
 わけだけど……でもまあ、骨休みも必要じゃん、旅ってさ!」
「……骨休み、ですか……」
「そーそー」
 彼女は私の心を知ってか知らずか、いつものように無邪気に笑う。
 その笑顔を見ていると、あれこれと悩んでいる自分が馬鹿らしく
なってきて、私も釣られて笑った。
「だから、シーちゃんさえ迷惑じゃなければ、もう少しここにいさせて
 もらおうかなー、って……駄目かな?」
「はいはい、わかりました。気が済むまでどうぞ」
「あ、何か怒ってる?」
「呆れてるんですよ……まったくもう」
 言葉とは裏腹に、私の顔から笑みが消える事は無い。
「うーん、呆れ顔もかわいいなぁ、シーちゃんは」
「言い忘れてましたけど……シーちゃんはやめてください! 私だって
 もうちゃんづけで呼ばれるような歳じゃないんですからね」
「へいへーい。わかりましたシイナさま!」
「……さま付けもやめてください」
 そんな風に会話を交わすだけで、沈んでいた心が弾むのを感じた。
 いつの間にか、胸の奥の痛みも消え去っている。
「……本当に、不思議な人ですね、ルクレシアさんって」
「何がー? ……ひょっとして、あたしのミステリアスな魅力に、
 シイナ姫はもうめろめろ!?」
「姫って誰ですか、もう! ……ホントに不思議な……いや、変な人ですね」
「うぉぉう、言い直されたっ!?」
「より適切な言い方にしてみました。……それじゃあ、私仕事に行ってきますね」
「あいあーい。変なお姉さんは留守番しとくよー」
 とりあえず、もうしばらくはこんな他愛の無いやり取りを楽しんで
いられそうだという事にホッとしながら、私は手を振りながら部屋を出た。
 背後の彼女が、どんな表情で自分を見つめているか、気づかぬまま。

続く
509 ◆91wbDksrrE :2009/05/17(日) 19:53:31 ID:eePM9/Oy
ここまで投下です。

>>495-497の続きです。

まさかの続きな上にまさかの続くですが、続きがいつになるかは
さっぱり皆目検討がつかない事を前もって申し上げておきます。

>>500
ぶっちゃけ、ファーストインプレッションはアレです。
510創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 01:11:27 ID:w7BFas3W
これは……なんという気になる引き。
ルクレシアの最後の一文に凄く不安を感じるんだけど
大丈夫……なのか?
511創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 01:14:35 ID:dacvntzr
過疎……?
512創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 15:12:24 ID:wxHYDvyr
もにゅもにゅ
513創る名無しに見る名無し:2009/06/03(水) 00:41:00 ID:r335euwN
百合小説って難しいよな
距離感とか
514創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 02:09:23 ID:Mr0HZtyD
某RO百合小説だめかな。
専門の掲示板にも投稿しているんだけど、向こうは過疎で。
515創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 02:11:50 ID:diwOqAT8
まあ、書くのが難しくて多少稚拙な物語になってしまっても、
持ち前の百合フィルターを通して見れば極上の百合ストーリーになってしまうのが不思議。
516創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 07:31:41 ID:UQ7Wu8s6
妄想なら浮かぶんですけどね
作品という形にするのが自信ない
517創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 20:41:34 ID:9IYE/QsS
俺の妄想が形になったら、全国の百合好きを唸らせられる……
そう思っていた時期が(ry
518創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 00:24:09 ID:Cc1DJmm8
さあ早く形にするんだ
519創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 03:01:47 ID:EWP4eTkn
百合は匂わす程度が良いかもね。
購買層の問題もあるから、踏み切れないかもしれんよ。
520創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 03:02:51 ID:EWP4eTkn
なんという誤爆……
521創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 00:57:20 ID:QBUqB4n8
魔女と女の子の話はあるかね?
522創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 19:38:56 ID:O/ECiWTQ
ユー、書いちゃいなよ。
523創る名無しに見る名無し:2009/06/19(金) 22:31:48 ID:QBUqB4n8
昔、オリジナルストーリースレであらすじ投下したよ。
住民は主人公を男だと勘違いしたみたいだが。
524創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 23:56:14 ID:Phs9tMIH
女の子が大好きな変態女キャラ
(ハァハァ言ってたり、女の子を見ると口説く。しかし、オチは大体バイオレンスなツッコミ)
がシリアスになる……という展開に燃える
525創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 14:22:04 ID:Rt7Z2CTI
それなんてじゅんじゅん
大好きだ
526創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 14:41:51 ID:mRmlWE7E
まりあほりっく思い出した
527創る名無しに見る名無し:2009/06/27(土) 15:43:51 ID:G8rqurRk
>まりあほりっく

ダウト
528創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 11:52:34 ID:l20F6jvn
ああ、変態両刀使い忍者か

大好きですww
529創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 06:13:21 ID:xl+My2HV
白井黒子とかー
530創る名無しに見る名無し:2009/07/05(日) 17:34:31 ID:w3GybWWf
ヒャッコでも居たな
531miki ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:18:45 ID:4vc12yyP
はじめまして。

今日、いわゆる臓器移植法の改正法案が国会で成立したたようですね。

ところでみなさまは、以前このスレに投下されていた、
難病に倒れた少女、咲夜の物語をご存知でしょうか。

>>115-119
「いばらの森奇譚」
>>207-212
「副委員長とあたし」
>>246-249
「初冬のひととき/終わりの始まり」

本日は改正法成立にちなんで、今から一次創作のSSを投下いたします。
咲夜と美希の出会いを、今度は美希視点から書いたものです。

あまり詳しくは書けませんが、これを公開するにあたって、
いちおう関係者からの許諾はいただいてます。

それでは10スレほどお借りいたします。
お楽しみいただければ幸いです。
532あいいろ魔法少女(1) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:25:30 ID:4vc12yyP
恋だとか。
魔法だとか。
もしくは正義だとか。

ばかばかしい。

そんなのはおとぎ話かただの妄想。
さもなければ精神疾患の一種。
本気でそう思っていた。

そう、あの日の放課後までは。
あの霜月の放課後までは。
本気でそう思っていた──

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 『あいいろ魔法少女』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……とか言ってるわけよ」
「何それっ、ありえねー。超ウケるンすけど」
「でしょでしょ。あ、それからさぁ……」

今日も放課後がやってきた。
義務教育という名の拷問を終えた私は、何人かの友人たちと、
うそ寒い学校の廊下を通り抜けて玄関へと向かっていた。

窓の外にはどんよりとした曇り空が広がっている。
地平近くに広がる山並みは今まさに紅葉の盛り。
季節は晩秋、いやむしろ初冬と言ったほうがいいだろうか。

霜月。
それは中学生になって初めて迎える、長く辛い冬の到来を予感させる呪文。

しかたないじゃない。少しばかり感傷的になったとしても。

疎ましい。
何もかもが疎ましい。
気の置けない友人たちのさえずりでさえ、ただひたすらに疎ましい。

「そういやさ、隣のクラスに転入生来たらしいけど、見た?」
「別に興味ないけど。ひょっとしてイケメンとか?」
「残念、女の子だよ。ただこれがめっちゃ可愛いんだって」
「……ひょっとしてあんた、そーゆー趣味あるんじゃなかろうな」
「それが彼氏持ちに対する反応かよ。これでも私は浮気はしない主義なんだぜ」
「リア充氏ね」

ひときわ高い笑い声が巻き起こる。
533あいいろ魔法少女(2) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:30:06 ID:4vc12yyP

何組の誰某がうちの組の何とかに気があるらしいとか。
今年の冬はどんな服がはやるらしいとか。
今日も数学の教科担任はキモいとか。

そんなどうでもいい話が右から左へと流れては消えていく。

──くだらない。

たとえば今の日本の首相が何と言う名前なのか。
たとえば九一一事件が起きたのが西暦何年なのか。
たとえば昨日一日で何人の人命が地球から失われたのか。

この子たちはおそらく、いや確実に知らないのだろうな。

このように、私と彼女たちの間には一生を費やしても決して乗り越えられない、
山のように高く険しい、そして海のように広くて深い断絶が横たわっている。

しかたないじゃない。少しばかり感傷的になったとしても。

ひょっとして、束縛から解き放たれた開放感と倦怠感にあふれているはずの
玄関の向こう側に、何か妙な空気を感じ取ってしまったのは、
そんなやるせない思いを抱えていたからだろうか。

その気配に気づいたのとほとんど同時に、
名前も知らない何人かの男子が私たちの間をすり抜けて、
口々に何かを叫びながら玄関の方に走り去っていく。
そのうちの単語の一つが何故か耳に残った。

ケンカ、ですって……?
534あいいろ魔法少女(3) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:36:00 ID:4vc12yyP

  ◇

開放された玄関から流れ込んでくるヒヤリとした空気に混じる甲高い声、いや、叫び声。
神経がささくれ立ち、胸が悪くなる感じを覚える。

手早く玄関で外靴に履き替え、状況を確かめるために私は外に出た。
わざわざ探し出すまでもない。出入口からそう離れていない校庭の一角から、
すでに無視するのも難しい喧騒が響いてくる。
それをぐるりと取り囲むように人だかりが出来ていた。
三十人、いや、四十人はいるかも知れない。

騒ぎの正体を確かめるべく、私はギャラリーをかき分けて前へと出る。
その中心では二人の女子が口論の真っ最中だった。
いや、その認識はあまり正しくない。
その片方だけが一方的に喚き散らしていたのだった。

一人は三年の先輩。

顔に見覚えがある。確か女バレ──女子バレー部──の元キャプテン。
身長一八〇センチを優に超える巨躯。
おそらくは骨と筋肉だけでできているであろう頑丈そうな身体から、
ごつい手足がにょきにょきと生えている。もし制服を着ていなければ、
男子だと言われても信じてしまいそうだ。
もっとも、あれはいつだったか、部長会議での短い質疑応答だけで、
頭の出来が残念賞だということはすぐにわかってしまったが。

もう一人は見知らぬ制服を着込んだ少女。

「おやおや、例の転入生だ。早くも人気者みたいだね」
誰かが私の耳元でささやくのが聞こえた。
自然、私の眼が吸い寄せられることになる。
535あいいろ魔法少女(4) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:40:56 ID:4vc12yyP

先輩の胸ほどしかない身長だが、精いっぱい背筋を伸ばして相手を
見上げている。それはそれはとても小さく可愛らしい顔だった。
ほんの少しだけブラウンの入った黒髪を惜しげもなくショートカットにしている。

スレンダーな身体にまとっているのは、
鮮やかなまでな藍色で染め上げられたベレー帽、
胸元に校章らしいエンブレムが縫い取られたパレオ、
膝丈くらいの長さのインバーテッドプリーツのスカート。

そこから伸びているのは黒タイツで包まれた
バレリーナのように細くて形のいいふくらはぎ。
そしてとどめはきっちり磨き上げられた黒のローファー。

それらの全てがまるで一個の芸術作品のように、
見事なまでの調和美を見せていた。

おまけに横顔はまるで人形のように端正だ。
どちらかというと柔らかな色をはなつ大きな茶色の瞳。
すっきりと通る鼻すじ。
そして和菓子細工のような繊細で薄い桜色の唇。

唯一違和感を感じたのは右手に握られた鈍い銀色を放つ杖の存在だ。
だが、普通なら雰囲気ぶち壊しになってしまう実用本位のデザインなのに、
彼女がそれを持っているというだけで、
いにしえの大魔法使いのマジックアイテムのように思えてくる。

よく陳腐な表現で、ポスターやグラビアから抜け出してきたような、
などというのを見聞きすることがある。

だけど断言しよう。彼女の容姿を言い表すにはその程度ではとても足りない。

なぜなら、クラスメイトたちは論外として、この学校全体や
このあたり一帯はもちろん、
たとえ比較の対象がタレントやモデルやグラドルであったとしても、
これほどまでに圧倒的な存在感を放つ美少女には
お目にかかったことがないからだ。
536あいいろ魔法少女(5) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:45:44 ID:4vc12yyP

その事実は、田舎の中学でお前はAだの私はSだのという
醜いスクールカーストの順位争いで勝ち上がってきた、
この私の小さなプライドを粉々に吹き飛ばすのに
充分すぎる威力を発揮したのだった。

その私のなけなしのプライドのかけらが最後の抵抗を試みている。

──たかが田舎の中学に登校するのにあんな超本気モードはないだろ。
──あれじゃ上級生に目をつけてくれって言ってるようなもんじゃない。
──何が原因でこんなことになったか知らないけど少しくらい空気読めよ。

ま、その言い分にも一理あるか。
それだけ確認してから以後は一切耳を貸さないことにする。
反省会は家に帰ってからだ。

それにしてもこの見事なまでの好対照ぶりはどうだろう。
なんとなく旧約聖書のダビデとゴリアテを連想してしまう。
依然として先輩は聞くに堪えない罵詈雑言を吐き出し続けているが、
一方の少女はまったく反論するそぶりを見せようとしなかった。

ふと奇妙な違和感を覚える。

逃げるでもなく相手するでもない。
彼女はいったい何を考えているのだろう。
まさか必殺のスリングを放つタイミングを計ってる、とか?

しばらく事の成り行きを見守っていた私は、
泰然とたたずむ少女の口元にかすかに笑みが浮かんでいることに気づいた。
それに対して烈火のごとく怒り狂う先輩にはそんな余裕は微塵も感じられない。

追い詰められているのは果たしてどちらなのだろうか。
537あいいろ魔法少女(6) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:51:02 ID:4vc12yyP

  ◇

とうとう先輩の息が切れた。
肩を大きく上下させて呼吸を整えている。
一方の少女はと言えば、あたかも見知らぬ虫を観察する昆虫学者のように
先輩を冷ややかに見つめていた。

「な、なんとか言ったらどうなの!」
沈黙に耐えられなくなったのか、たまらず先輩が吼える。
それを聞いて、初めて少女が可愛らしい唇を動かす。
そこから、誰もが想像もしない言葉が飛び出した。

「ふーん、背だけじゃないんだ。デカイのは」

にこりと少女が笑う。見かけはあくまでも天使。だが中身は恐るべき悪魔。

──まるで呪文のように。

しばしの静寂ののち。
ギャラリーの一人が堪えきれずに吹き出し。
それをきっかけに爆笑のうねりが巻き起こった。

少女が、先輩の身体と声と態度の大きさを皮肉ったのは
火を見るよりも明らかだったから。

たったの一言で形勢は逆転した。

「な、何が可笑しいのっ!」
先輩が顔を真っ赤にして周りに向かって喚き散らすが、
その愚かな行為はただ笑いの火に油を注いだだけだった。

「こ、の、チビッ。いい気になってんじゃないよっ!」
完全にブチ切れた先輩が少女に掴みかかる。あまりの体格差。
あれじゃひとたまりもない。止めなくちゃ。ひねり潰されてしまう。
私はしかし、とっさの事態に一瞬だけ反応が遅れた。だめ、間に合わない。
そう思ったのと同時に、

周囲に異変が起こった。
538あいいろ魔法少女(7) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 20:55:24 ID:4vc12yyP

少女と先輩以外の世界が静止する。
全ての色が、音が、香りが完全に失われる。

灰色に染まった少女が左手を頭の高さに振り上げる。
先輩の太い腕が苦もなく弾かれる。
そのまま滑るように細腕が横へスライド。
ごつい左手の甲を包むように握る。
同時に左足が右足後方へ。
少女の身体が半分回転。
そのまま左腕を思い切り振り降ろす。

先輩の足が見えない何かに薙ぎ払われる。
身体がくるりと上下に反転。
両の足先が少女の頭よりも高く跳ね上がる。
そのまま背中から大地に叩きつけられる。

刻が動き始める。ゆっくりと。
世界が再び色彩を帯びはじめる。

おそらくは一秒にも満たない時間の間に事の全てが終了した。
付近一帯に響き渡るかのような大音響と地響きに、
ようやく現状認識が追いついてくる。
でも、この眼で見ていたはずなのに、とうてい受け入れられない光景に
驚愕の念を覚えてしまう。
これは映画でもCGでも、もちろん幻や妄想でもない。

吹けば飛ぶようなか細い少女があの先輩の巨躯を左手一本で投げた。
予想もしない事態に、かたずを飲んで見守っていたギャラリーの誰もが震撼する。

だが、まだ悪夢は続く。

追い討ちをかけるように少女が先輩の左腕を異様な形にねじり上げていく。
先輩の口からとうてい人間のものとは思えない悲鳴、いや絶叫が吐き出される。
なんとかその状況から逃れようと必死になってのた打ち回っている。

しかし少女の動作にはまったく情け容赦が感じられない。
先輩の身体が操り人形のように仰向けからうつ伏せに。
その身体をまたいで少女が仁王立つ。
倍近い体重差などまるで感じさせない。
彼女から放射されるすさまじいまでの暴虐。
思わず私は全身に鳥肌が立つのを感じていた。
539あいいろ魔法少女(8) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 21:00:25 ID:4vc12yyP

クスクスと笑いながら少女が口を開く。

「そんなに暴れると腕が折れちゃいますよ」
さらりと恐ろしいことを言う。

「それとも、いっそのこと折っちゃった方が世の中のため?」
その天使のような微笑とは裏腹に、彼女の眼にはあまりにも酷薄な光が宿っていた。

──この娘、マジだ。

この場にいる誰も彼女を止められない。

そう、ただひとり。この私を除いては。

そう確信した瞬間、ようやく私の口から静止の言葉が飛び出した。
「ねえ、今日のところはそのくらいにしておこう」
「どうして止めるの?」
きょとん、とした表情を少女が浮かべる。まるで小さな子どもが昆虫の手足を
バラバラに引きちぎるのを押し留められたような風情だ。
何一つ理解していないその態度に、少しばかりイラッときてしまう。

──莫迦かお前。
──あんたのためだよ、あんたの。

『誰だよアイツ』
『お前、知らないのか? あいつ、花菱だぜ』
『花菱って……あの花菱か?』
『そう、あの花菱さ』
『マジか、あれがそうなのか』
『へへへ。なんだよ、意外に……』

軽く唇を噛んで心の中でいつもの呪文を唱える。
こそこそと物陰でさえずる事しかできない愚鈍な連中の声など、
私の心には決して届くことはないのだ、と。
540あいいろ魔法少女(9) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 21:06:30 ID:4vc12yyP

「転校初日に、そんな莫迦のためにみすみす停学処分なんて食らう必要、
ないんじゃない?」
「そっかなー。これって立派な正当防衛だと思うんだけど」
「押さえ込むまでならね。でも無抵抗の先輩の腕を折ってしまったら、
それはもはや過剰防衛でしょう」
「でもこの人の存在って、将来の禍根そのものだよ」

聞き分けのない幼児を辛抱強く諭す母親の気持ちが少しだけ理解できた気がした。

「それがあなたの正義なの。まるでブッシュみたいな言い草ね」
「マンネルヘイム元帥にも同じことを言ってみたら?」
「確かフィン軍はナチのレニングラード侵攻要請を拒否したはずだけど」
カール・グスタフ・マンネルヘイム。
北欧の小国を超大国の侵攻から守り抜いた不屈の英雄。
残念ながら私の知識も彼女には及ばなかった。
これ以上追求されたらもう対抗できない。どうする。適当に話をそらすか。
いやだめだ。他の莫迦相手ならともかく、こいつにそんなハンパな手は通用しない。
負けを認めたも同然だ。それでは彼女を止められない。じゃあどうすれば……。

ふっ。

一瞬の逡巡ののちに少女が笑みを浮かべた。
さきほどまでとはまったく異質な、何一つ屈託の感じられない笑顔を。

──見透かされた……?

「先輩、運がいいですね。こちらの方のおかげで大怪我しないですんだみたいだから」
そういえば、私は彼女の名前すら知らない。

「花菱、花菱美希。覚えておいてくれると嬉しい」
「私は咲夜。柊咲夜。別に覚えてくれなくてもいいよ」
そう言い捨てると、彼女──柊咲夜は、
なおも低い呻き声を上げ続ける先輩の腕を地面に放り出し、
杖を頼りに校門の方に歩き出す。
私に出来たのは、その後ろ姿をただ見送ることだけだった。

雲が切れた。
すき間からほんの少しだけ藍色の空が顔をのぞかせ、
弱々しい陽の光が地上に一筋の柱を突き立てる。
唐突に、そこから彼女が空へと帰還するイメージが思い浮かんだ。
541あいいろ魔法少女(10) ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 21:11:19 ID:4vc12yyP

恋だとか。

「ちょ、なにあれ」
「あの態度。サイアク」

魔法だとか。

「……ねえ花菱、大丈夫?」

もしくは正義だとか。

「え……あ、うん。なんでもないよ」

そんなのはおとぎ話かただの妄想。
さもなければ精神疾患の一種。
本気でそう思っていた。

放課後までは。
ついさきほどまでは。
本気でそう思っていた。

でも今は違う。

あの少女の傍らに立ちたい。
あの少女と共に肩を並べて歩きたい。
あの少女にふさわしいと言われる人間になりたい。

──何よこれ。何なのよこれ。

恋なのか。
魔法なのか。
もしくは正義なのか。

わからない。

確実にいえることはただひとつ。
ほんのわずかでも気を緩めたら最後。
身体の奥底でうごめく正体不明の感情に。
ひとたまりもなく流されてしまうに違いなかった。

──まるで恋する乙女のように。

(Fin)

542miki ◆v6ZgoGYinIDM :2009/07/13(月) 21:12:16 ID:4vc12yyP
以上です。

ありがとうございました。
543 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:24:45 ID:pvmVjmfB
―君が望むなら、ヒーローにだって何だってなる
  だけど私が本当に与えたいのは、多分そんな力じゃなくて


「…どっちが悲しいかな」
「へ?」
ニュースを垂れ流しているテレビの前で、美幸はぽつりと呟いた。
「ふっといなくなってそのまま永久に戻らないのと、死体になって会えるのと」
私は一瞬、美幸が何を言っているのかと思ったが
それが数分前に流れていた「行方不明の報道」について語っているのだと見当がついた。
「そりゃあ…」
考える振りで、少しの沈黙を置く。答えなんて決まっていた。
「どっちも悲しいんじゃないの」
私の答えを聞いて、美幸はつまならなそうに頷く。
それは美幸の中でもわかり切ってる答えだった。
「だから聞いてるの
 どっちの方がより悲しいかって」
「またどうしたの突然…」
真面目な顔をして聞いてくる美幸に、私は困り果てた表情で応えた。
そういう難しい話は苦手だ。
自分自身の中で芽生えた疑問にすら知らぬ振りをする私に、美幸の疑問は手に余る。
そういう面倒くさがりな私と共にいて、美幸の方こそ面倒じゃないのかといつも思う。
それでもどうして私といてくれるのだろう、というのが
私の中で知らぬ振りをしている疑問の一つでもあった。
544 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:26:43 ID:pvmVjmfB
「どうでもいい事聞いてるって思ってるでしょ」
こたつに入ったまま寝転んでいる私に顔を近付けて、美幸は問い詰めてくる。
「別にそんな事っ…」
口調が突っ返すように荒くなったのは、吐息がかかるほど顔を近付けられたせいだと思う。
家が近くて同じクラスで、いつも一緒にいるだけの彼女の顔が近くなっただけで
何故焦らなければならないのか。
美幸といると私の中で生まれる疑問に際限がない。
そんなもの、いちいち考え込むよりも知らぬ振りをする方が一番に決まっているのだ。
「ただ、考えても仕方ない事じゃないの?」
私は起き上がると、こたつ一つ分の距離に戻った彼女の瞳に向かって問いかけた。
「仕方ないかもしれないけど…でも大事なことだと思うの」
「どういうふうに大事なの?」
一旦伏せていた瞳がもう一度私を見つめ返した時
それは今まで見た事ないほど真剣で真っ直ぐなものだった。

「私は今、冬子と一緒にいられる事をすごく大事に想ってる
 誰かと一緒にいる、って事はすごく重大な事で
 その誰かがいなくなってしまう、って事も同じだけ重大な事なんじゃないかなって
 一緒にいる事と、そうでなくなる事は表裏一体のように思うから…だから
 今一緒にいるなら、いなくなる事も考えなきゃいけないんじゃないかな」
難しい事を並べていた。言葉ではなく、難しい事柄だ。
例えば今、共に暮らしている両親が死ぬ事なんて私は考えたくない。
いつか訪れるに違いない事。
でもまだ中学生の私は、それを遠い国の話のように思っていたかった。
少なくとも、今だけは。
545 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:27:55 ID:pvmVjmfB
「表裏一体なんかじゃない」
美幸の中で浮かび上がる疑問や考えに敵う言葉なんて私に思いつくはずもない。
だけど美幸がさっき述べた言葉の中で一つだけ、私が否定しなければならない事があった。
「私は行方不明になったりしないし、死んだりなんかしない」
「無敵のヒーローみたいな事言う…」
半ば飽きれたような笑いを浮かべる美幸が勘に障った。
例え明日、自分自身が行方を彷徨う事になっても、命を落としたとしても
私は今、紛れもなく心からの言葉を並べていたのだ。
「それが無敵のヒーローなら、私は無敵のヒーローだっ」
そこまで言うと、私は先程までと同じようにコタツの中に入ったまま寝転んだ。

背中を向けた私に、美幸は肩に手を置けるほどそばまで寄ってきた。
「冬子?怒ったの?」
決まり切っている問いを尋ねてくる美幸がわざとらしくて、私は黙り込む。
「ごめんね、別にいじわるでこういう話をしたわけじゃなくて…
 私は冬子にちゃんと確認しておきたかっただけなの」
「…何」
私が半分だけ振り返ると、美幸は母親みたいな顔をして笑い掛けて来た。
546 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:29:32 ID:pvmVjmfB
「私が…私が冬子より先にこの世からいなくなる時は
 ちゃんと冬子に、私の死に顔を看取ってほしいの」
「なに、それ」
「今すぐの話じゃないと思うけどね
 だけど一応希望は早めに伝えて置いた方がいいかなって」
笑った顔のまま美幸は淡々と口にする。
まるでそれが何も悲しい事ではないかのように。
「いやだ、私は美幸が死ぬところなんて見たくない」
考えただけで涙が溢れてきてしまいそうな話に、頷いたりなど出来やしなかった。
そんな話を、何故美幸は笑って口にする事が出来るのだろうか。
「…そう言うと思った
 じゃあ冬子は私が行方不明のまま帰って来ない方がいい?」
「なんでそう…そんなのいやに決まってるじゃん、私は…私は、どっちも絶対認めない」
美幸はまた飽きれたような笑いを見せた。見せながら、私の頭を撫でた。
「しょうがないなぁ冬子は…」
呟いた言葉は弱弱しく、どこかいじらしかった。
まるで明日にもこの指先を失ってしまうのではないかという儚さがあった。
私はたまらなくなって、起き上がりその指を強く掴んだ。
「私の事、子供だと思ってるでしょうっ!」
美幸は驚いた様子で目を丸くする。
私の中には先程から怒りが渦巻いていて、それは今まで感じた事ないような類の高ぶりだった。
547 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:30:29 ID:pvmVjmfB
「怒るに決まってる…さっきから何、なんで私が美幸の前からいなくなる事になってんの
 いなくなるわけないじゃん!私はずっと…ずっとそばにいるのに
 美幸のそばにいられるなら、美幸が生きてそばにいてくれるなら
 無敵の…不死身のヒーローだって何だって、私はなるのに!」
子供じみた事を言ってると自分でもわかっていた。
けれど自分の気持ちを伝える為に、それ以外の言葉は思いつかなかった。
「…やだもう、泣かないで」
美幸は私が掴んでいない方の手で、私の頬に触れてきた。
「泣かしたのは美幸じゃん!」
私は突き放すように美幸の手を離し、両手で自分の頬を拭った。
止め処なく溢れてくる涙を必死に隠していると、美幸はまた私の頭を撫でた。
やっぱり子供だと思ってる、と涙の裏で思った。

「こんなふうに泣くんだってわかってても、でも私はやっぱり冬子に看取られたい」
美幸は私の頭を撫でながら続けた。
「私が生きてる時間も、死ぬその瞬間も、全部冬子のものにしたいから…」
その言葉を聞いた時、私の涙は引っ込んだ。泣いてる場合ではなかった。
「なんだそれ、美幸の時間は…全部美幸のもの、じゃないの」
涙の後だったせいか、私はもごもごと言葉を並べていた。何故だか顔が熱くて仕方なかった。
「私のものである時間を、全部冬子にあげたいと思ってる」
「そ、それって…」
まるでプロポーズじゃないか、と私は続けようとした言葉を仕舞い込んだ。
また笑われるような気がしたからだ。
けれど私が言葉を閉まったまま黙っている間、美幸はただ真剣に私を見つめていた。
思えば私が先程並べた言葉だってプロポーズと何ら変わるところがない。
私は真剣で、美幸も真剣だった。
私は私なりに返事を返さなければならなかった。
548 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:31:27 ID:pvmVjmfB
「おばあちゃんになるまで一緒にいてくれるなら、いいよ…看取っても」
美幸はホッとしたように表情を和らげて、それから少し意地悪そうな目をして尋ねてきた。
「ほんとに一緒にいてくれる?婚姻届も何もなくても」
「なっ…」
ただでさえ熱い顔が、まるで火を噴くようだった。胸はそれ以上に熱かった。
美幸の言っている言葉がもし冗談だったとしても、私は自分自身を留める術を知らなかった。
もしも笑われたら、この胸の熱さが勝手に並べた言葉という事にしよう。
それは限りなく真実に近い言い訳だった。
「婚姻届なんて、そんなのただの紙切れじゃん
 そんなもの…そんなものよりもっとすごいの、私は持ってる」
「すごいのって?」
聞き返されて戸惑った。それは、この心だとしか言いようがなかった。
その真意をどう表したら正確に伝わるかがわからなくて、私は私の心に問いかけた。
この心は、言葉ではなく一つの現象へと私を導いた。
「…!」
549 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:32:20 ID:pvmVjmfB
その瞬間、私の思考は停止していた。
味わった事ないほどの柔らかな感触だけが、私と美幸の唇が重なっている事を証明していた。
唇を離した時、ようやく過ぎってきた思考で馳せていたのは体中が熱いという事だった。
そしてそれは、唇を通して美幸から伝わってきたもののように思えた。
人前で取り乱した事のない美幸が、私以上に顔を赤らめてそこにいたからだ。
今にも泣きそうで、でもそれを堪えているような、そんな必死な顔をしていた。
私の知らない美幸の表情をもっと知りたいと、その時私ははっきりと望んだ。
「…確かに…すごいね」
美幸はようやく唇を開くと、上擦った声で感想を述べていた。
そしてそれ以上言葉を続ける事なく、私自身も言葉を必要としなかった。
唇一つで、お互いの全てを知り得る事が出来たのだ。
何故美幸はこんな私と共にいてくれるのか
ついさっきまで謎のままだった疑問も、今なら解く事が出来る。
ずっと一緒にいたいと、お互いの願いが一つに重ねられているから
いつまでも離れずにいられるのだ。
550 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:33:25 ID:pvmVjmfB
照れ臭そうにお互いの視線を避けてしばらく
美幸が吹っ切れたような満面の笑みを見せながら、私に向かって小指を差し出してきた。
「約束ね」
私は引き寄せられるように同じ小指を差し出し、美幸のものと絡める。
その約束は、間違いなく私の方こそ望んだものだった。
「早死にしたら、許さないからね」
指を絡ませたまま私は、半分脅すような口調で美幸に呟いた。
「うん!」
明日どうなるかも知れない事、永遠がない事、私達は知っていた。
それでも心は繋がっていく。約束は交わされていく。
永遠を信じた時間にこそ永遠は存在したと
後になって思う事が出来るのではないかとその時過ぎった。
そしてその永遠を想う時、私の心には美幸がいてほしい。


たった一人の誰かを想い続ける事は
ヒーローみたいな超人の力をも凌ぐものだと今、信じられるから。
551 ◆YURIxto... :2009/07/21(火) 18:34:27 ID:pvmVjmfB
以上です
失礼しましたm(_ _)m
552創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 18:39:35 ID:rS/gIVbO
ひさしぶり〜!
相変わらず結構なお手前でw乙でしたww
553創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 13:11:29 ID:Lz/faMGg
>>542

美希視点からの話は興味深いと思う
できれば二人がどうやって仲良くなっていくのかも読んでみたい

# しかし、やはり彼女は間に合わなかったのだろうか…
554創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 15:01:02 ID:pHYxmB04
保守
なかなか暇ができなくて書けない


ここって絵でも大丈夫なんだっけ?
555創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 16:23:19 ID:igd5JfFq
もちろんおk!
556創る名無しに見る名無し:2009/08/22(土) 01:57:14 ID:EAfzJfAB
見易いようにまとめでもつくってみようかと思ったけど
後に残るのがよろしくないとかで、まとめは遠慮したい・・・とかあるかな
557創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:09:14 ID:C/gHGne7
俺は一つも投下してませんが
まとめが欲しいであります!
558創る名無しに見る名無し:2009/08/29(土) 23:47:11 ID:U1NBw+Tc
ttp://www1.axfc.net/uploader/Img/so/57477.jpg

予定としてはこんな感じに
希望はあるようだけど、やっぱり作者さんら次第だからなぁ・・・
もうしばらくお待ちします
559創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 13:11:42 ID:Ku/JF2ea
>>558
すまん。俺、2ちゃんの流儀とかよくわからんのだが、
要するに「まとめ掲載おk」とかって作者さんから返事がくるのを待ってるのか?
560創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 22:13:47 ID:nccN+Qyb
今のところね
糧に保管してもいいものか若干気が引けるもんで・・・
それとも先に保管だけして、要請があれば即刻外すといった形のほうがいいかな?
561 ◆91wbDksrrE :2009/09/10(木) 23:01:20 ID:t/eLaKeY
そういう形で構わないんじゃないかな。
そもそも、書いた人が俺みたいにここ見てるとは限らないし。
ちなみに、俺は保管全然構わないっすよー。

そろそろ何か考えるかな。
562 ◆91wbDksrrE :2009/09/10(木) 23:03:00 ID:t/eLaKeY
ああ、俺みたいにここをずっとチェックしてるとは限らないから、
保管了解得ようとしても難しいんじゃないか、って事ね。
何かチェックしてないんだから勝手に保管しちゃえって
言ってるように見えちゃうかもしれないので、一応w

んで、後々チェックしてもらった時に、何か問題があるって事なら
速攻外してあげられるような態勢だけ整えておけばいいんじゃないかな。
563創る名無しに見る名無し:2009/09/11(金) 00:46:08 ID:qo6N6tl1
色々意見どうもです
一応形にはなりましたのでご報告
ttp://ameno-ji.srv7.biz/yurisousaku/

広告の関係上、レイアウトがやや乱れてるのはご愛嬌と・・・
564miki ◆v6ZgoGYinIDM :2009/09/14(月) 21:34:52 ID:ulmRaSkR
すっかり反応が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

>>563
まとめ作業ごくろうさまです!
なお、miki◆v6ZgoGYinIDMとsakuya◆GtV1IEvDgUの作品は、ぜんぶ保管OKです。
よろしくお願いいたしま〜す。

>>559
わざわざご連絡いただきまして、ありがとうございました。
565創る名無しに見る名無し:2009/09/15(火) 21:51:06 ID:wvUd6qdn
慎重になりすぎたせいかいろいろご面倒かけてしまったようで・・・
皆様ありがとうございました
とりあえずは今の体制で進めていきたいと思います

自分もなにか仕上げなきゃなぁ・・・
566創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 01:52:46 ID:oRGh/ZhA
ちなみに俺は書いてるけれど筆が進まなくなった。
プロットから外れたのが痛いわ……。
567創る名無しに見る名無し:2009/09/22(火) 20:09:55 ID:nCIEpkjD
>>523さん
どうしようもなく亀ですが…
ちなみに、どのレスですか? もし差し支えなければ、お教え願いたいです

あのスレは結構面白そうなプロット落ちてるのに、
あまりSS化されてないっていう
実に、もったいないことです
568創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 18:40:19 ID:V3EBt3J9
女が書く百合でもおk?
569創る名無しに見る名無し:2009/09/30(水) 23:46:00 ID:Ag5Mlndn
むしろ大歓迎
570創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 18:51:25 ID:QE0XwJhM
>>567
ストーリースレの>>36だよ。塀の中の女の子の話。
571創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 18:52:33 ID:QE0XwJhM
間違えた。sage。
572創る名無しに見る名無し:2009/10/03(土) 20:15:13 ID:dlgoLwLy
>>570
ありがとうです! この書き込み、ageてなかったら気付かなかったわ
ナイス間違い

たしかに、プロットの時点で「少年」「男性」とは明記していないな
でも、工具持って酒も飲めてワルい連中とも付き合ってる…
となったら、女性は思い浮かばないかも


あのプロット、すごく面白そうじゃないですか?
住人もいろいろアイデア出して…

…でも、あれかな。
いや、これ以上書くのは、例のスレが適切かな

573創る名無しに見る名無し:2009/10/05(月) 02:19:44 ID:6eu0fanw
>>ワル〜
少し柔らかめにすればいいんじゃないかな。プロットだし、変更は可能よ。
要は下町の人情溢れる生活能力のある元気娘と、おっとりおっとりお嬢系の百合だから。

他にも
「おっとりお嬢が話してくれた『魔女の昔話』に出てくる『魔女』が彼女の正体」
とか設定をくっつければ、面白くなるんじゃあないかい。
574創る名無しに見る名無し:2009/10/10(土) 20:08:14 ID:afqSchkN
空から女の子が降ってくるドタバタラブコメの主人公を女の子にして
居候もガンガン増えるけど女の子ばかり……
575創る名無しに見る名無し:2009/10/17(土) 20:08:42 ID:VnurbeFn
過疎
576創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 20:11:55 ID:fGELFIdw
ほしゅ
577創る名無しに見る名無し:2009/10/27(火) 15:03:44 ID:OGtG2y2r
どうも私は口下手で困る
つまりは保守ということだ
578創る名無しに見る名無し:2009/11/03(火) 11:47:35 ID:23JVmEYl
「藍しゃま」
「なんだい橙?」
秋空の満月の下、縁側で二人は暖かいお茶を飲んでいた。

「愛する・・・ってなんですか?」
「・・・どうしてそんなことを聞くの?」
「先生から聞きました。愛するとは、本当は男と女がするものだと」
「・・・そうだね」
「でも、幻想郷には男の人がほとんどいません」
「・・・そうだね」
「それに、私は藍しゃまが好きです。これって変なんでしょうか・・・」
藍は何も言わず、そっと橙を抱き寄せた。
「・・・藍しゃま、暖かい・・・」

月がただ静かに、二人を照らし続けていた・・・
579創る名無しに見る名無し:2009/11/05(木) 00:01:06 ID:bWQePWp/
アヤシロ が 1 たい でた
アヤシロ は こうふん している

「ナミちゃん、愛する……って分かりますか?」
「あいす……?」

ナミ は こんらん している
アヤシロ は ナミ を みて 90 かいふく
アヤシロ の ATK が あがった
アヤシロ の ATK が あがった

アヤシロ は うむをいわさず おそいかかって きた !
580創る名無しに見る名無し:2009/11/07(土) 17:24:35 ID:St86hmQh
仕事が終わったら本気(ry
581創る名無しに見る名無し:2009/11/10(火) 23:19:27 ID:3gbDGC+0
 ギルドに配属になったA。「手先の器用な貴女なら、難なくこなせるだろう」と親友B
から紹介された。Aは針や糸、糊を使った小物の工作が得意で、いつかは自分の店を持つ
ことが夢だった。機織りの母一人の下で育ち、早く楽をさせたいと始めた工作だったけれ
ど、それがこうじて技術を身につけ、大人も真っ青の一品を作ることが出来る。
 毎日を精一杯に過ごすA。ギルドにも、やっと慣れて、持ち前の器用さを利用して、上
手く立ち回っていた。

 ある日、街に「魔女」の噂が立ちはじめる。魔女は人物の影を奪い、奪われた人は影を
追う様に「館」を目指してフラフラ、糸の切れた人形のように歩きだすのだという。魔女
が影を奪う理由も、目的も分からない。そもそも犯人が女なのかも分からない。それでも
「魔女」の存在はまことしやかに囁かれ、ギルドの噂好きも好奇から聞き耳を立てていた。
 親友Bの影が盗まれたのは、そんな時だった。
582創る名無しに見る名無し:2009/11/12(木) 12:55:45 ID:12Uik0aZ
保守age
583創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 12:58:11 ID:x2quh10t
窓を叩く雨の音は段々と強くなっている。
ぽつん、ぽつんとしたまばらなリズムが少しずつ速く、強く、不規則に、ざざざざざざざと大きな音を立て始めるのにそう時間は必要無かった。
風が通るからと少しだけ開けていた窓の隙間も、今はもうぴたりと閉じられている。
雨のせいか湿り気を帯びた空気が肌に纏わりついてくるのが少しだけ不快だ。
狭い部屋の中に、二人分の体温。外は少し肌寒いくらいだったが、閉め切った室内では互いの肌の温もりだけで、十分すぎるほどに心地よい。

「……雨、だねぇ」
「だなぁ」
「んー、雨の日ってさ、濡れるから外に出たくないなーっていう気持ちと、外に出て濡れたいなーって気持ちと、そういうのがせめぎ合う感じだよね」
「かもな」
「……なんでそんなうわの空なの」
「あー、あー、そんなムスっとした顔をするな」
「だって……なんだか最近、いつもそんな表情(かお)してる。何か、あった?」

心配げにこちらを覗いてくる瞳は、透明度100。
綺麗なものだけを見て育ったら、こんな瞳になれるのだろうかと、ふと思う。
同じ女性の目から見ても彼女はとても可愛らしい。
お世辞にも恵まれたボディラインというヤツとはかけ離れた体型をしているものの、幼さを残した体躯は思わず抱きしめたくなるほどに庇護欲をそそられる。
軽く毛先がカールした栗毛はふわりと軽やかで、いつまで撫でていても飽きない。

「何でもないよ」

そうやって、誤魔化しの言葉を投げる。彼女ならすぐに嘘だと気付いてしまうと分かっていても、それでも私は嘘を吐いた。
嘘だ、と彼女は抗議の声を上げた。半ば非難を交えた視線が私を射抜く。
そんなにまじまじと見られたら照れてしまう、などと歯の浮くような台詞で、彼女の関心を遠ざけようとするポーズ。
そのポーズも、嘘なのだ。本当は彼女に全て打ち明けたい。
胸の内を吐露してしまって、楽になりたい。
けれど――それでは結局楽になんてなれないと分かっているから、私は彼女と向き合うことが出来ない。
この言葉だけは、私の中だけで留めておかなければいけないのだ。
素晴らしく甘美で誘惑的で、何物にも代え難い至上の時間を守るために、私は自分の心にも嘘を付く。

私は彼女のことを、愛して――いない。

女の子同士なのだから。中学来の親友なのだから。
理論武装を固めて、自分の心の周りにどんどん装甲板を重ねていく。
胸の内が外に零れていかないように、感情が勘違いを起こさないように、私は心を厚い厚い壁で覆った。
しわくちゃになったベッドスーツの皺を伸ばしながら、真っ直ぐ彼女の瞳を見つめる。
無垢なその瞳に向かって、私はもう一度、何でもないよと笑った。

「何でもなく――ない」

でも彼女は優しくて、そんな私の決意を揺さぶる一言を簡単に口に出してしまう。
そして私は彼女に腕を取られ、大して膨らみもない彼女の胸に、顔をうずめることになる。
584創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 12:59:58 ID:x2quh10t
「何か悩み事があるんだったら、話してほしい。話して楽になることだったらいくらでも私を使ってくれていいし、話して辛くなるようなことだったら、何をしてほしいか言ってほしい。
 そうやって、自分の悩みは自分だけのものだなんて態度……取らないでほしい」

やっぱり彼女は優しいなぁと、顔を見られていないことをいいことに、声も出さずに私は笑った。
優しくて、残酷だ。
私の背中に回る彼女の腕には、彼女からの愛情が込められている。
もし私が本当の想いを吐き出してしまえば、彼女はそれに応えてくれると思う。
少なからず――私が彼女を想っているほどではないにせよ――彼女も、私に対して愛情を持っていてくれている、と感じる。
相思相愛とは言わずとも、告白をきっかけに互いの愛を深め、恋人のような関係になることも、不可能ではないだろう。
そうすれば私と彼女の距離はきっと近くなる。互いの姿がもっと見えてくる。
その先にあるものを、私は怖がっている。
彼女を見れば見るほど、私は自分がいかに足りない存在か知ることになる。
今はそれに憧れて、そして好きになって。でもきっと、今以上にはっきりと彼女を見てしまえば、憧れるだけじゃ済まなくなる。
嫉妬、羨望といった汚い感情が心の奥の澱んだ場所から湧き上がってくるんだ。
男の子と女の子だったら生まれないであろうその気持ちを、彼女に向けたくなかった。
そんな自分勝手な理由で私は彼女に自分の気持ちを伝えられない。
そんな自分もまた、嫌いだった。

しばらく二人とも黙ったままだった。
雨の音だけが部屋に響く。
私はふと、思い立って彼女にお願いをした。
彼女はきょとんとした顔を浮かべたけれど、すぐに笑って、了解してくれた。

ドアを開けると横風に煽られた雨粒が顔に零れ落ちてきた。
きゃっきゃと騒ぎながら、二人で傘も差さずに外へ飛び出していく。

「あーもー、どんなことでするって言ったけど、まさかこんなお願いされると思ってなかった!」


――二人で雨に濡れよう。

私がしたお願いは、それ。
服はびしょぬれ、髪もぐしゃぐしゃだ。
でもそれがいい。こんなに楽しそうな彼女が見れて――私が流す涙も、彼女に気付かれないだなんて、なんていいことなんだろう。
雨よ降れ、もっと降れ。私の心も洗い流しておくれ。

――――
思いつくまま書き散らしてみたら訳の分からない話になったけれど、どうせなので投下。
お目汚し失礼しました。
585創る名無しに見る名無し:2009/11/14(土) 15:35:48 ID:2FrjRd/6
相手はノンケかもしれない……この攻防は燃える。
GJ!
586創る名無しに見る名無し:2009/11/15(日) 20:04:54 ID:4gm40nMW
季節はずれだけど

小さな振動と轟音を伴いながら早くもならない遅くもならない、変わらぬ速度で
走り続ける電車の中でぼんやりと窓の向こう側を見ていた。線路沿いに並ぶ家々
でろくに街並みも見えないつまらない景色を眺めながら随分と陽が延びたな、と
いまさらに感じる。やわらかい橙色が辺りを包む時間が長くなった。

電車に乗ったときから空の明るさはほとんど変わっていない。陽はまだ沈んで
いないのだろうか。もう夜と呼べる時刻だというのに窓の外はいまだに明るい。
それでも周りの人々の表情はきちんと一日を終えたそれで、わたしも綾乃も多分そう
いった顔をしているのだろうと思う。さきほどから窓へと向けていた顔の位置を少し
下げて足元から伸びる自分の影を見やる。そして自分の左肩について考える。
乗り込んでから十分ほどでどうやら寝てしまったらしい綾乃が寄りかかってきたの
が出発した駅から五駅ほど過ぎた辺りで、それからはもうずっとわたしに寄りか
かったままである。熟睡しているのか、首は座っておらずくたりとわたしの左肩
にその頭が乗っかっている。人間の身体の部位で一番重いのは頭だと言われている
がそれは本当なのだと思った。なかば押し付けるようにして乗っているその頭は確
かな重みがある。こんなにも重いものだったのかと驚くほどには重い。
最初は違和感に何度も斜め左の頭を見やったけれどこの数十分ほどでそれにも慣れ
てしまった。身じろぐことも出来ないのが少し気詰まりだったけれどそれもどうで
もよくなってきた。偶に電車が揺れると思い出したように重みと熱が肩口に伝わって
くる。その重みと熱について考える。電車の中に人はいるのに、ここは二人掛けの
座席なんかではないのに、こうしているとどうしてかわたしたち二人だけがこの空
間で浮き立っているように思える。他のものなどはすべて背景で熱を持っているの
はわたしたちだけのように思ってしまう。
目を瞑ると喧騒すら消えてただ肩口の重みと熱だけが現実のもののように感じる。

身体に直接伝わる振動と共に電車が橋へとさしかかった。家々に塞がれていた
景色がひらけて車内が明るくなる。顔を上げると空に浮かぶ入道雲が夕陽に照ら
されてその色に染まって光っている。綺麗だと思った。つい綾乃を起こしたく
なったけれど何と声をかければいいのか分からない。持ち上げかけた手を膝の上
に戻す。そうして迷っているうちに電車は橋を渡り終え、再び街の中に入ろうと
していた。迷わずに起こしてしまえばよかった。もしかしたら起きないかもしれ
ない。でも起きるかもしれない。寝惚けた彼女の頭を軽く叩いて目の前を指差して
やりたかった。一緒にあの瞬間を味わえたかもしれないのに。これじゃあ何だか
わたしが一人ぼっちのようじゃないか。ふいに湧き上がった気持ちの座標をしっかり
と認識してしまうと途端にどうしようもなくなる。さっきとは別の理由で綾乃を
起こしたくなる。と言うよりも起きて欲しい。起きたら、わたしと目を合わせた後、
何も言わずにまた寄りかかってきて欲しい。
その熱でわたしも微睡むから。

「…少し寝ようかな」

口の中でそう呟いて、隣の旋毛に頬を寄せる。
587創る名無しに見る名無し:2009/11/16(月) 00:13:13 ID:BwVRGqZQ
投下GJ!
想像したら凄く和む絵面だ……
いじらしいなぁ、うん
588創る名無しに見る名無し:2009/11/23(月) 14:25:57 ID:b6ATsB+s
GJ!
いいなぁいいなぁ。
589創る名無しに見る名無し:2009/12/06(日) 13:36:31 ID:vgjixF/r
定期
590創る名無しに見る名無し:2009/12/11(金) 23:04:29 ID:UBSrzb2H
定期
591創る名無しに見る名無し:2009/12/17(木) 18:12:33 ID:W8TQX/9O
幼い頃に両親を亡くし祖母に女手一つで育てられた
デブでブスだけど心の美しいヒロインと、ヒロインを
心から愛おしく思う祖母との近親相姦レズってのはどうよ? 
592創る名無しに見る名無し:2009/12/18(金) 21:09:44 ID:RsaBllgp
>>586
今北産業
続きは?
593586:2009/12/19(土) 02:54:26 ID:kOvySegA
>>592
これはこれで一つの話なので続きはないんだ。
日常の一瞬みたいのを書くのが好きだからそのノリで投下した。
また別に何か書きにきたい。
594創る名無しに見る名無し:2010/01/22(金) 19:21:05 ID:PGDMXjyb
>>591
老けXデブ近親相姦レズ・・・(^_^;)
595創る名無しに見る名無し:2010/01/27(水) 23:18:39 ID:8CYLPfoe
「うそ……。」
机の奥から出てきたのは日記だった。
間違いなく、私の手で書かれた日記。
その中には私とあの子が恋人として過ごす日々が綴られていた。
あの子は記憶を失った私を真っ先に助けてくれた友達。
そう。ただの友達だったはずなのに。

このことを問い詰めたら、彼女は寂しそうに笑って言った。
「証拠は全部捨てたはずだったんだけどね。」
それは日記の内容を肯定する返事。
「記憶の無いあんたに、女同士の恋人がいるなんて知ってほしくなかったんだ。」
そんなわけないよ。彼女の気持ちはこの日記を見ていたら分かる。
彼女はきっともう一度……。
だけど、私はどうしたらいいのかな。
今の私にとっても、彼女は特別な存在。
でもそれは恋人とかそういうのとは違うと思う。
なんだか、頭の中にいろんな思いがめぐって、怖くなって、私は彼女の前から逃げ出した。

ずいぶん走ったと思う。
気がつくと知らない風景に囲まれていた。
どこをどう曲がってきたのかさっぱり覚えていない。
建物が、車が、悪意を持った視線で私をにらみつけてくる。
途方にくれていると、どこからか、私のお気に入りの曲が聞こえてきた。
記憶喪失になってから初めて覚えた曲だ。
それは私の体から流れているようで……あった、携帯電話だ。
「大丈夫?」
彼女からだった。優しい声が耳に響く。
「大丈夫じゃないです……。」

すぐに駆けつけてくれた彼女に私は抱きついた。
そして、思いっきり泣いた。
今、はっきりと気づいたことがある。
それは、私たちの関係が“友達”であろうと“恋人”であろうと、私が一番安心できる場所は彼女の傍だということだ。
「まったく、危なっかしいんだから。」
彼女はそっと私の頭に手を置いた。

おわり
596創る名無しに見る名無し:2010/01/27(水) 23:28:04 ID:/kx8x2o9
身体が勝手に……!!
ageてしまう…ッ!
597創る名無しに見る名無し:2010/01/27(水) 23:28:05 ID:84fV29YB
なんだこれは・・・
いいよいいよ
598創る名無しに見る名無し:2010/01/27(水) 23:32:00 ID:Dvck1aNx
百合はいいなぁ……
規制解除記念age
599創る名無しに見る名無し:2010/01/28(木) 09:07:14 ID:RJ7XjRh8
GJと言わざるを得ない
600創る名無しに見る名無し:2010/01/28(木) 18:54:14 ID:ULe8WIdb
背徳と優しさとが同居して、何とも言えない気分になるね。
601創る名無しに見る名無し:2010/01/29(金) 02:07:42 ID:UkBYrINw
投下乙
何か書きたいんだがネタが浮かばない……こういうシチュエーションが読みたいとか、希望ある?
602創る名無しに見る名無し:2010/01/29(金) 10:53:05 ID:CfWjR7xS
>>601
「お姉ちゃん、だめだよ…私たち姉妹なんだよ?」みたいな
603創る名無しに見る名無し:2010/01/29(金) 13:00:31 ID:FOETwm9c
「妹ちゃん、だめよ、私たち姉妹なんだから…」もいいと思うの
604創る名無しに見る名無し:2010/01/29(金) 16:41:49 ID:aEmf8Ggn
二つを混ぜて
「私たち、姉妹なのにこんなこと……」でも
605創る名無しに見る名無し:2010/01/31(日) 11:45:12 ID:qBeWgowy
pinkでや……いや、もっとやれ
606創る名無しに見る名無し:2010/02/02(火) 23:51:44 ID:TkSwrXHI
そうだそうだ
607創る名無しに見る名無し:2010/02/02(火) 23:54:38 ID:HZQdbdpX
バレンタインに期待
608 ◆KazZxBP5Rc :2010/02/14(日) 07:08:28 ID:eQ5dCMsZ
店内には私たちのほかに客はいなかった。
まあ、こんな真昼間に飲みにくる人は少ないだろう。
彼女はよくこんな時間に開いているバーを見つけたものだ。

「明日は寂しい女同士で飲みに行こうよ」
と、メールが入ったのは昨日のこと。
確かに私もこんな日なのに予定もないし、
お酒も好きだし(あんまり飲めないけど)ということで了承した。

いつもはおしゃべりな彼女が今日は口数が少ない。
何もしてないと寂しいのを思い出してしまうので、
話をしないとなると酒が進むのは必然だ。

三杯目のカクテルが空になった。
そのとき、彼女が白い箱を差し出してきた。
「ハッピーバレンタイン」
「これは?」
中に入っていたのはカップケーキ。
「妹にも手伝わせたんだけどね」
「ごめん、私何も……」
「いいっていいって」
彼女は笑った。でもその顔は少し緊張している様子だ。

しばらくの沈黙の後、彼女は意を決したように言った。
「あのさ、それ、友チョコじゃないんだ」
「どういうこと?」
「……本命だよ」
思わず見つめあう形になる。
彼女の、嘘でも冗談でもないまっすぐな瞳。
胸がドキドキするのはお酒のせい?
それとも――
609創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 07:09:34 ID:eQ5dCMsZ
これだけです
610創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 11:39:39 ID:gHRhil42
いいよいいよ
GJ
611創る名無しに見る名無し:2010/02/14(日) 11:44:51 ID:XIzgiKkw
>>608
あっと、これはあっちの続きなのかぁ 乙でした!
612創る名無しに見る名無し:2010/02/16(火) 22:43:31 ID:lPmgLNNT
>>608
GJGJ

R.O.Dのねねねと読子SS二次総合に投下したんだが…
今思えば若干百合気味?なのでこっちにすればよかったかな
判定求む
613創る名無しに見る名無し:2010/02/16(火) 23:41:22 ID:3w3wgA9x
>>612
見てきた
こっちでもよかったと思う

というかR.O.Dを選んだところに惚れた
614創る名無しに見る名無し:2010/02/16(火) 23:54:37 ID:lPmgLNNT
>>613
感謝
次回また二人を書くときはこっちに投下しよう…

マジそれは嬉しい。R.O.Dは世界観やら音楽やら全てに
おいて萌えてしまうそれであのキャラだから自分にとってはタマラン。

615創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:01:22 ID:622dz9ht
妹「はい、チョコレート。どうせあんたなんか一個ももらえなかったんでしょ?」

姉「え?」

妹「別に本命なんかじゃないんだからね! 余ったからお姉ちゃんにあげるだけなんだから!!」

姉「え、っと……」

妹「なによ、なんか文句あんの!?」

姉「……今日、18日だよ? バレンタインもう終わっちゃってるけど」

妹「うっ、うるせえぇぇぇぇいらないなら返せえぇぇぇぇっ!!」

姉「あ、いるいる。いただきます」

妹「最初からそう言っとけばいいのよ……」

姉「ありがとう、これ美味しいね。どこで買ったの?」

妹「……ふんっ、鈍感なお姉ちゃんには教えてあげない!」

姉「えー、何それ。私のどこが鈍感なのよー」



バレンタイン中規制だったので今日投下
616創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:04:12 ID:EjxPFAHb
規制解除おめ
姉妹いちゃいちゃがもっと見たい
617創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:06:13 ID:622dz9ht
早すぎるレスにちょっとビビった

姉妹百合は俺も好きだがネタが……
まぁ思いついたらぼちぼち投下してく
618創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:38:11 ID:622dz9ht
>>615の続き

姉「モグモグ…そういえば、妹の本命って誰なの?」

妹「そんな相手いないし。今年は義理すらあげてないし」

姉「え? このチョコ余り物じゃなかったの?」

妹「うっ……あ、ほら、あれよ。バイト先で廃棄品になるのがあったから、それをもらってきたのよ」

姉「なぁんだ、じゃあコンビニ行けばどこでも買えるチョコなのか」

妹「うぅ……(なんか悔しい……)」

姉「でも、コンビニ製品にしては包装が手作りっぽいていうか、なんかちゃちぃよね」

妹「ぐっ……わ、悪かったわね。私が包装失敗したから廃棄品になったのよ!!(嘘だけど)」

姉「あ……ごめん、もしかして気にしてた?」

妹「うるせえぇぇぇぇ黙って食ええぇぇぇぇっ!!」

姉「あ、はい」
619創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:42:52 ID:EjxPFAHb
妹ツンデレすなあ
620創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:46:44 ID:i6X729+D
姉は気づいてないのかわざとなのか……
621創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:50:38 ID:622dz9ht
>>618

姉「ごちそうさま、美味しかったよ」

妹「こんな量販品で満足するなんて貧しい舌だね」

姉「あはは、お姉ちゃんあんまりいいもの食べてないからなぁ」

妹「甘いものばっか食べてたら喉渇くでしょ。紅茶淹れてきてあげるから飲めばいいじゃない」

姉「なんか、今日の妹優しいね。私は嬉しいよ」

妹「そっ、そんな笑顔で私がたぶらかされると思ったら大間違いなんだから!!」

姉「うん、分かった。分かったから紅茶早く淹れてよ地団駄踏んでないで」

妹「催促しないで、厚かましいんだから!」

姉「ごめんって」
622創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 20:57:38 ID:622dz9ht
>>621

妹「はい、紅茶。砂糖は自分で入れてよね!」

姉「はいはい、ありがとありがと……ん、これも美味し。さすがは妹だね」

妹「誉めても何も出ないからね」

姉「見返りなんかなくていいよ。ほら、いい子いい子」

なでなで

妹「ふぁっ……や、止めろ馬鹿!! 子供扱いすんな!!」

姉「お風呂でシャンプーハットしてるうちはまだまだ子供よ」

妹「ちょっ、何でそれ知ってんの!?」

姉「お母さんから聞きました。中学生にもなって恥ずかしいんだ〜」

妹「う、ううぅ〜〜……(お母さんの馬鹿ぁ…)」

姉「ふふ…」
623創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 21:01:27 ID:EjxPFAHb
子供扱いされて涙目な妹可愛い
624創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 21:10:29 ID:622dz9ht
>>622

姉「可愛いなぁ、妹は。本当に可愛い」

妹「そんなこと言われても、馬鹿にされてるようにしか思えない」

姉「だって、どんなに大人ぶってても、中身は私に甘えてばっかりだった小さい頃そのまんまみたいなんだもん」

妹「私、ちゃんとしてるもん。勉強だってクラスで一番だし、料理だって得意だもん」

姉「うん、すごいよね。けど、あんまり一人で何でも出来るようになって、

  お姉ちゃんの手の届かないようなところには行っちゃわないでね」

妹「なんで? 別に私がどうなろうがお姉ちゃんには関係ないじゃん」

姉「関係なくはないよ。だって私にとって妹は、いつまでも大切なただ一人の妹なんだから」

妹「何それ、キモいし」

姉「うん、我ながらそう思う」
625創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 21:25:52 ID:622dz9ht
>>624

妹「あぁ、キモいキモい。こんなキモい人とは一緒にいたくない」

姉「ひどっ。それちょっと酷くない、妹?」

妹「あぁもううるさい! うるさい姉にはこうしてやる!!」

ムギュッ

姉「ふぇ?」

妹「……大好き」ボソッ

姉「え……ちょ、え? 今なんて?」

妹「うっさい、一回で聞き取れバーカ!!」

姉「あ……行っちゃった」



中途半端になっちゃうけどこれでおしまい。締め方難しいね
626創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 21:51:06 ID:EjxPFAHb

萌えた
627創る名無しに見る名無し:2010/02/18(木) 22:12:43 ID:UJ5IraIu
イイヨイイヨー
GJ
628関西弁百合姉妹だとさ:2010/03/07(日) 21:41:22 ID:cQ+Ych2t
妹「お姉ちゃん」

姉「…何?」

妹「外、雨降ってきたで」

姉「…そうかぁ」

妹「買い物どうする? なんか買いにいかんと、食べるもんないよ?」

姉「…妹、行ってきて」

妹「えー、いやや。なんでうちだけ寒い思いして外出ないとあかんの?」

姉「…私があんた以上に寒がりなの、知ってるやろ?」

妹「そんなん横暴や。それならうちもコタツから出たくないもん」

姉「…ほな、二人で春まで冬眠しよか」

妹「お姉ちゃん、もう世間は三月やで? 春の頭やないの」

姉「…お姉ちゃんの中ではまだ真冬や」

妹「知らんがな」
629関西弁百合姉妹だとさ:2010/03/07(日) 21:53:09 ID:cQ+Ych2t
姉「…人間かて動物なんやから、冬眠してもなんら問題はないはずや。せやから、おやすみ」

妹「何なんその屁理屈。いいから早くコタツから出て仕度して」

ズルズル

姉「…う〜、さぶぃ……」

妹「我慢しなさい。長女やろ」

姉「…長女関係ないがな」

妹「お姉ちゃんはいちいち小言が多すぎる。どっちにしろ買い物には出ないと

  いかんのやからさっさと済ましてしまった方がええやん」

姉「…あかん、やっぱり私は寒いの駄目や。悪いけどコタツに帰らせてもらうわ」

妹「ちょっと、お姉ちゃん!」

姉「…そや、いいこと考えた」

ぐいっ

妹「きゃっ……」

姉「妹、あんたカイロになって私を温めなさい」

妹「何すんの、お姉ちゃん。離して!」

姉「……はぁ、ぬくい」
630創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 21:53:13 ID:hnS0Lu1j
百合とかけまして〜
それと解きます〜その心は〜
どちらも一斗(it)に変えられるでしょう〜
631関西弁百合姉妹だとさ:2010/03/07(日) 22:05:01 ID:cQ+Ych2t
妹「お姉ちゃん、恥ずかしいから止めて」

姉「…誰も見てないから、安心しぃ」

妹「こんなん、誰も見てなくても拷問や……」

姉「…なんや、妹は私の膝の上が不満か?」

妹「お姉ちゃんとべたべたして、不満がない方がおかしいわ」

姉「…いいやないの、たまには姉妹仲良くしたら」

妹「せやかてこんなん、恥ずかし過ぎて死んでしまいそうや」

姉「…逃げようとしても駄目や。あんたには、私を温める使命があるんやからな」

妹「もうっ、しゃーないなぁ。温まったら買い物行くから、それまでの約束やで?」

姉「…あいよ」
632関西弁百合姉妹だとさ:2010/03/07(日) 22:16:04 ID:cQ+Ych2t
姉「……」

なでなで

妹「お姉ちゃん。無意識かしらんけど、私の頭なでるの止めてよ」

姉「…あぁ、ほんまや。なんややらかいもんがあるなぁと思ってたら、あんたの髪やったか」

妹「ざーとらしいなぁ。絶対分かってなでてたやろ?」

姉「…あんたの髪、触り心地いいからなぁ」

妹「誉めても何も出ないで」

姉「…何も出えへんなら、怒られもせえへんっちゅうこっちゃな」

なでなで

妹「勝手な解釈やな……別にいいけど」
633関西弁百合姉妹だとさ:2010/03/07(日) 22:28:41 ID:cQ+Ych2t
姉「……」

なでなで、ぴた

妹「?……お姉ちゃん?」

姉「……くぅ」

妹「寝てるし……ビックリや」

妹「おーい、お姉ちゃん。起きて買い物いくでー?」

姉「……」スヤスヤ

妹「起きへんし。どないしよ…」

妹「……ふぁ。なんかうちも眠くなってきたわ」

妹「……スゥ」
634創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 22:30:13 ID:57AoxMgL
添い寝!添い寝!
635関西弁百合姉妹だとさ:2010/03/07(日) 22:31:21 ID:cQ+Ych2t
結局その日は買い物に行きそびれて、夕飯はコンビニ弁当でした。
ただ、起きた時のお姉ちゃんがやたらと元気で、これからもカイロ役を
頼むと言ってきたのには、正直閉口でした

妹の手記より
636創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 22:33:04 ID:cQ+Ych2t
>>634
ごめん、レス見てなかったから希望きいてあげれなかった……本当にごめん

元ネタはとある漫画の関西弁姉妹です。よければ探してみて下さい

気が向いたらまた投下します

637創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 22:36:50 ID:57AoxMgL
>>636
ちょっと待てw
添い寝キターって意味で書き込んだんだけど違うの?
まあとにかくGJ
638創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 22:42:28 ID:cQ+Ych2t
>>637
膝枕は添い寝なのか…?まぁ一応添い寝で間を補完してみる



妹「お姉ちゃん、コタツで寝たら風邪ひくで? 私ももう買い物諦めたから、ちゃんと布団で寝よ?」

姉「……うぅ、ん」

妹「……あかん、これは本気寝や。テコでも起きへんわ」

妹「なんやもうどうでもええわ。私も寝よ」

妹「……」

妹「そや。お姉ちゃんにばっかり温い目に合わすの癪やし……」

ぎゅっ

妹「お姉ちゃんを湯タンポ代わりに使ったろ」

妹「これでおあいこや。ざまぁみろ、うしし…」



こんな感じで
639創る名無しに見る名無し:2010/03/07(日) 22:51:22 ID:57AoxMgL
自分がよく読んでないと気づいた瞬間であった。ごめんよ
そしてありがとう
640創る名無しに見る名無し:2010/03/25(木) 18:54:20 ID:kI7YIKv1
ho
641関西弁百合姉妹だとさ:2010/04/08(木) 07:20:58 ID:98o5nZSY
妹「お姉ちゃんちょっといい?」

姉「…なんや?」

妹「夕飯の買い物いくんやけど、なんか食べたいものある?」

姉「…特にない」

妹「えー? 何でもいいっていうのが一番困るんですけど」

姉「…大学の課題の提出近いねん。悪いけどそれどころやないの」

妹「あ、そうなん。課題て?」

姉「…人物デッサン描いて出さなあかんのやけど、これがなかなか」

妹「そっか。お姉ちゃん美大生やもんね」

姉「…そや。あんた、モデルしてみいひんか?」

妹「え、うちが?」
642関西弁百合姉妹だとさ:2010/04/08(木) 07:25:06 ID:98o5nZSY
妹「そんなん嫌やわ。絵のモデルなんてこっ恥ずかしいし」

姉「…そこに座っとくだけでええんや。あんたなら、上手く描けそうな気ぃすんねん」

妹「でも、買い物……」

姉「…有り合わせのもんでええやんか。なんなら、店屋物でも取ったらええ」

妹「お姉ちゃんは強引やなぁ」

姉「…それはオッケーちゅうことか?」

妹「仕方ないからな。けど、モデル料は高いで?」

姉「…あとでアイス奢ったるわ。ほな、よろしく」
643関西弁百合姉妹だとさ:2010/04/08(木) 07:28:30 ID:98o5nZSY
妹「ここに座ればいいの?」

姉「…そうや。ほんで、ちょっと顔あげて空を仰ぐように」

妹「こう?」

姉「…そう。バッチグーや。そのまましばらく動いたらあかんで」

妹「バッチグーて、今日び聞かんなぁ」

姉「…ええから、あんたは黙っとき」

妹「はーい。可愛く描いてな」

姉「……」
644関西弁百合姉妹だとさ:2010/04/08(木) 07:32:26 ID:98o5nZSY
姉「……」サラサラ

妹「……お姉ちゃん」

姉「…なんや」

妹「ずっと同じポーズやから、首痛くなってきた」

姉「…我慢しい」

妹「今どの位出来たの?」

姉「…まだ十分しか経ってないやろ。そない簡単に仕上がるんやったら、誰でもピカソや」

妹「そうやけど…」

姉「…いいから、そのままじっとしとき」

妹「あかん、お姉ちゃん本気モードや…」
645関西弁百合姉妹だとさ:2010/04/08(木) 07:37:33 ID:98o5nZSY
さらに十分後…

妹「……」

姉「…あかん」

妹「え?」

姉「…なんか上手くいかんわ」

妹「えー!? せっかくうちが我慢して頑張ったのにー!?」

姉「…妥協したらいいものなんか描けへん。これはやり直しや」

クシャクシャ、ポイ

妹「そんなぁ、酷いわ……」

姉「…そや、閃いたで」

妹「もう。今度は何を閃いたん?」

姉「…あんた、ちょっと服脱いでみんか?」

妹「えっ、えぇ!?」
646関西弁百合姉妹だとさ:2010/04/08(木) 07:42:13 ID:98o5nZSY
妹「そ、それって、ヌードデッサンっちゅうこと!?」

姉「…そない大層なもんやあらへん。肩と背中出してくれればええだけや」

妹「デッサンのモデルになるだけでも恥ずかしいのに、肌見せるなんて嫌や!」

姉「…そない言わんと、な?」

妹「嫌です!!」

姉「…ほなら、仕方ないな」

ズイッ

妹「な、何なん!?」

姉「…お姉ちゃんが、脱がしたるわ」

妹「ちょ…!?」
647創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 19:21:34 ID:DgRRnigo
つ、続きはエロパロ板で!?
648創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 00:36:37 ID:A7xTt/kt
こんな事もあろうかと、エロパロ板には創発板でエロパロというスレがある!
存分に乱れてくれ!
649創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 07:49:45 ID:avFLnm1p
ごめん、さる食らうのが怖くて一日放置しちゃった
夕方までに携帯が規制くらってなければ続き書くよ
650創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 15:27:24 ID:5sZHwrIZ
wktk
651創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 17:10:17 ID:UCEHRHYw
てす
652創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 21:23:20 ID:qGOUhUPn
退廃的百合
653創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 02:25:03 ID:nxW0K7ld
姉「…ほれ、さっさと脱がんかい。ほれほれ」

妹「お、お姉ちゃん止めて!」

姉「…止めへんよー」

妹「いやー! お姉ちゃんにひん剥かれるー!」

姉「…あんまり大きい声出しぃな。近所にまで聞こえんで」

妹「聞こえてたまるかぁ! もういい、もう分かったから。自分で脱ぐからぁ!!」

姉「…なんや、つまらん妹やなぁ」

妹「なんや、お姉ちゃんに手込めにされた気分や……」
654創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 02:34:07 ID:nxW0K7ld
妹「……これでええの?」

姉「…ええよ」

妹「寒っ! 服脱いだらさすがにまだ寒いわぁ」

姉「…あんた、肌真っ白で綺麗やんなぁ」

妹「いいから、はよ描いて。このままやと風邪ひいて脳みそパーになってしまうわ」

姉「…描くけど、胸隠さんとちゃんと出すんやで。そんなポーズ取られたら描きにくうて堪らんわ」

妹「えー!? そしたらおっぱい丸見えやん! それだけは嫌!!」

姉「…そこまで脱いだら一緒ちゃうんかと」

妹「一緒と違う! 全っ然違う!!」

姉「…そうか。妹なら協力してくれると思うたんやけどなぁ」

妹「そ、そんな顔しても嫌なものは嫌やからねっ!?」

姉「……」シュン
655創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 08:25:16 ID:3rbKXMLH
お、俺たちが焦らしプレイされているのか…
656創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 10:39:11 ID:fV+Vi6/6
なんというっ……!
なんという焦らしっ……!
657創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 22:00:33 ID:d7psUIfn
ハァハァ…
658創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 16:36:15 ID:9IGapNWU
姉「……」サラサラ

妹「お姉ちゃん、なんかへこんでない?」

姉「……おっぱい、描きたいもん」

妹「趣旨違ってきてるやん。デッサンを完成させるのが目的やろ、裸はついでや」

姉「…せやかて、隠されると見たくなるのが人情っちゅうもんやろ」

妹「見たいだけかい! もうデッサン関係なくなってるやん!」

姉「…もちろん、妹の綺麗な姿を絵に残したいって気持ちもあるんやで?」

妹「どんな羞恥プレイやそれ。そんなん残されたらうち死ぬで?」

姉「…せやけどなぁ」イジイジ

妹「……もう、仕方ないなぁ。そないイジケられたら、うちが折れるしかないやん」

姉「…おぉ、ほんまか?」

妹「ちょっとだけやで? うちかて恥ずかしいんやから」

姉「…さすがは私の妹、やる時はやる子や」

妹「こんなんで誉められても、嬉しくないんですけど」
659創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 16:43:31 ID:9IGapNWU
妹「…これでいいの?」

姉「…オッケーや。妹の全部が丸見えやで」

妹「お姉ちゃん、変態の人みたいや」

姉「…変態かぁ。もしかしたら、当たらずとも遠からずなのかもしれへんな」

妹「ちょ、お姉ちゃん。怪しいこと言わんといてよ」

姉「…妹がおっぱい見せてくれたおかげで、やる気みなぎってきたからな」

姉「……変態ちゃうな、お姉ちゃんはド変態やわ」

姉「…何でもええわ。これで課題も片がつくし」

妹「早してな。おっぱい隠されへんようになってなおさら寒いんやから」

姉「…わかった。ちょっぱやで仕上げてしまうから、待っとき」
660創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 16:52:00 ID:9IGapNWU
姉「……」

妹「お姉ちゃん」

姉「…なんや」

妹「さぶい」

姉「…膝にストールかけ」

妹「上半身が寒いんや。まだ終わらへんの?」

姉「…あとちょっとや」

妹「早よしてな」

姉「…妹、乳首勃ってへんか?」

妹「寒かったらそうなるわ! 変なこと言うとらんと、早く書き上げて!」

姉「…そない怒らんでも。怒ったら集中力途切れて、終わるもんも終わらんようになるで」

妹「そしたら私、もう黙っとくから」

姉「…あぁ、そうしぃ」
661創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 17:09:25 ID:+kTRoLwx
変態お姉ちゃん万歳
662創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 21:01:25 ID:9IGapNWU
妹「……」

姉「…出来た」

妹「ほんまに? あぁ、良かった!」

姉「…なかなかの出来や。妹に頑張ってもらった甲斐があったで」

妹「ちょっと見して。変な風に描いてたら怒るからな」

姉「…ええで、ほれ」

妹「うわ、乳首までちゃんと描いてある……お姉ちゃん、これほんまに学校に提出するん?」

姉「…そう思っとったけど、なんや妹の裸を人に見せるの勿体なく思えてきた」

妹「なんやそれ」

姉「…妹も嫌がるやろうし、学校に出すの止めとこか」

妹「そしたらうちの今までの頑張りは何やったんや……」

姉「…そない言わんと。ほら、早よ服着ぃ」

妹「せやな……へくしっ」

姉「…あら。あんたほんまに風邪ひいたんと違うか?」

妹「そうかもしらん……へくしっ」
663創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 21:07:22 ID:9IGapNWU
姉「…大丈夫か?」

妹「大丈夫やあらへん。寒い中ずっと裸でおったらそら風邪もひくわ」

姉「…すまんなぁ。ほな、暖めてあげるからこっち来なさい」

妹「……?」

姉「ほーれ、むぎゅ」

妹「お、お姉ちゃん!? 何してるん!?」

姉「…寒い時は人肌で暖めるんが一番ええんやで」

妹「それならそれでえぇから、せめて服着させてぇな」

姉「…もうちょっと。今離したら妹のちっさいおっぱいが当たらなくなるし」

妹「へ、変態やー!!」
664創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 21:25:47 ID:9IGapNWU
姉「…妹の体、ふにふにでやらかいなぁ」

妹「お姉ちゃん、離してよ! いくら変態言うてもこれはないで?」

姉「…ええやん。家族なんやし」

妹「家族でこんなことするんはおかしいやろ!」

姉「…せやけど、こうしてると暖かくないか?」

妹「そら、暖かいけども…」

姉「…せやったら、もう少し温まるまでこのままいたらええ」

妹「お姉ちゃん、強引やな。強引な変態や」

姉「…せやねぇ」
665創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 22:46:43 ID:WL8KGlFd
強引な変態に万歳。
666創る名無しに見る名無し:2010/04/13(火) 01:17:23 ID:FytdYrsj
妹「お姉ちゃんの体、温かいな」

姉「…妹の体はひんやりして気持ちええな」

妹「なんや、姉妹で抱きあってるのって変やな」

姉「…そないなことあるかいな。私はあんたが愛しいて堪らんよ」

妹「うちも、お姉ちゃん好きかもしれん」

姉「…妹も変態やったんやな」

妹「せやね、うちもお姉ちゃんそっくりの変態さんや」

姉「…ええことや」
667創る名無しに見る名無し:2010/04/13(火) 01:18:54 ID:FytdYrsj
長くなってきたから続きはエロパロに投下しようかな
長々とスレ独占してすまんかった
668創る名無しに見る名無し:2010/04/13(火) 22:27:41 ID:yxqHDhfu
もうこの続きとなったらエロしかないもんなーw

GJだったぜ。良い百合だ。
669創る名無しに見る名無し
GJ!エロパロ板で待ってるよー