小説うpスレinメンサロ板

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1優しい名無しさん
メンサロ板 小説うpスレです。

うpする時は名前欄にタイトルと、できればトリップ付けて下さい。
長くなる場合はわかるように番号を。


掌編から長編までどんどんうpしてね。
2 ◆GOZItAWJOQ :2006/09/24(日) 05:28:56 ID:HlMLWx4/
自作の小説をうpすんのかい?フヘヘッヘエヘ
3優しい名無しさん:2006/09/24(日) 05:30:37 ID:vQZCDLjg
感想とか評価とかするスレになるのかなー
4優しい名無しさん:2006/09/24(日) 05:32:07 ID:vQZCDLjg
小説は自作のオリジナルでお願いします。

無断転載禁止で!!!
5優しい名無しさん:2006/09/24(日) 05:32:44 ID:9XQ92kia
みんな、まず言うことがあるだろう
>>1乙!!
6すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/24(日) 05:34:17 ID:RM/Vxdg2
それじゃあとりあえず貼るだけ貼ってみるよ
おいらは休業中なんで、現役文屋のみなさん頑張れ!

短歌なら偶に詠むがw
-----
  僕と悪魔と三つの願い

 古物屋で買った壺を磨いたら悪魔が出てきた。
 尖った耳に鋭い尻尾を持ち矛を携えた古式豊かな格好の彼は、肩凝りを解すような仕草で首を傾げると厳かな態度で僕に語りかけてきた。
「はじめまして。俺は悪魔だ」
「はじめまして。僕は人間です」
 我ながら陳腐な挨拶をしてしまったと自己嫌悪に浸る僕を尻目に、悪魔は飛んだり跳ねたり表情を変化させたり瞬間移動をしたり分裂をしたり気が向くままにはしゃぎまくると、それにも飽きたのかそっと僕に語りかけてきた。
「お前は壺に閉じこめられていた俺を解放してくれたな」
「よく分かりませんが多分そうなんだと思います」
 悪魔は満足そうに頷いた。
「ということはつまり、俺は悪魔の掟に則ってお前の願い事を三つ叶えてやる必要がある」
「本当ですか」
 僕は喜びのあまり舞い踊った。しかし悪魔はそんな僕を諫めるようにこう続けた。
「しかし考えてもみたまえ。今の時代悪魔より人間の方が余程悪魔的な所業をなしている。神の創りたもう自然を破壊し隣人を裏切り私利私欲のみを追求する」
「全くです。世界は狂っている」
 僕がそう同意すると、悪魔はにやりと笑った。
「お前は今同意したな」
「同意しました」
「するとお前は人間が悪魔で悪魔が人間だと認めたことになる。よって悪魔の掟に則りお前は俺の願い事を三つ叶えなければならない」
 僕は飛び上がって驚き悪魔に抗議した。
7優しい名無しさん:2006/09/24(日) 05:35:12 ID:oq931ZVL
>>1
乙です!
8すずきあるみ ◆x1VX1X5/BM :2006/09/24(日) 05:35:20 ID:RM/Vxdg2
「僕にはそんなことできません」
「うるさい。そうしないと俺は魔界に帰れんのだ。まずは金だ。金を持ってこい」
「そんな困ります」
 恥ずかしい話だが僕の貧乏さ加減は人並みではない。そんなことは無理だと必死で反論を繰り返したが、悪魔は聞く耳を持ってくれないので仕方なくなけなしの貯金を手渡した。
「おお金だ。人間の金だ」
「願いは確かにかなえましたよ。これ以上僕にはお金がありません」
「よろしい。満足した」
 僕はほっと胸をなで下ろした。
「次の願いは女だ」
「そんな困ります」
 みっともない話だが僕には生まれてこの方彼女も女友達もいないので、
間違っても悪魔の相手をしてくれるような女性の知り合いなど思いつかなかった。僕のお母さんでは駄目ですかと提案してみると悪魔が怒り出したので、仕方なく彼をトルコ風呂へと連れて行った。悪魔は先ほどの僕のお金を使って小悪魔系の女の子と小一時間楽しんだ。
「よろしい。非常に満足した」
 僕はほっと胸をなで下ろした。
9すずきあるみ ◆x1VX1X5/BM :2006/09/24(日) 05:36:54 ID:RM/Vxdg2
「それでは最後の願いだ。俺は名誉が欲しい」
「そんな困ります」
 自慢するような話ではないが僕自身これまで人の注目を浴びたような経験はまったくない。いよいよ本気で困ってしまったので、とりあえず道行く人に「皆さん、この人は悪魔ですよ、由緒正しき悪魔さんですよ、崇め奉ってください」とやけくそで触れ回った。
 すると幸いにも子供を中心として何人かの物好きな人が悪魔に握手を求めてきた。しばらくちやほやされた悪魔は心の底から嬉しそうだった。
「素晴らしい。大変満足した」
「これで願い事は三つ叶えましたよ。さあもう用事は終わりましたね」
「うむ。これで俺は魔界に帰れる。お前にはお礼に俺の魂をやろう」
 そう言うと悪魔は煙に巻かれて消えた。
 貰った魂は使い道がないので机の上から三番目の引き出しに未だに仕舞ってある。
10すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/24(日) 05:38:17 ID:RM/Vxdg2
あれ、名前欄に題名入れたはずなのにシカトされてる……
いきなり反面教師でごめんね、てへ >>1
11 ◆GOZItAWJOQ :2006/09/24(日) 05:40:56 ID:HlMLWx4/
なかなか面白いぞ
12すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/24(日) 05:46:05 ID:RM/Vxdg2
作者名#トリップ 作品名……て書いたから、作品名がトリップに飲み込まれたんだなw
後続のみなみなさま、気をつけてくれたまへ
13 ◆GOZItAWJOQ :2006/09/24(日) 05:46:47 ID:HlMLWx4/
オレならその単純な悪魔を騙して
我が軍団に引き入れて、我が団員兼友達にする


世間ではまだ「トルコ風呂」って言ってんのか?
14:2006/09/24(日) 05:57:26 ID:vQZCDLjg
>>1です。
作者名『作品名』#トリップ
だとわかりやすくなりますかね?

詩についてだけど、ありだと思います。
小説推奨ではあるけど、詩もどんどん書いてね。
多くなってから、だいたい次スレくらいで分かれればいいや。

たまたま立てたのは私だけど、皆さん好きに使ってください。
15優しい名無しさん:2006/09/24(日) 05:58:24 ID:vQZCDLjg
遅くなったけど
>>6
乙です
16すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/24(日) 06:05:38 ID:RM/Vxdg2
・上質な絵具を紙にぶちまけてなんか満たされなんか虚しい
・身を始めひととなりから心まで全て擲ち神になりたい
・僕のため着飾る君も素敵だが裸の君が一番素敵
・「そのくらい自分で脱げよ」と繰り返しフックひとつも外せない俺
・月に恋して燃えたあの夜更けから地球温暖化が騒がれる
・悔やんでも明日も今日が来ることを止まった時計が教えてくれる

さらっと詠んでみた こういう短歌も個人的には好きなんだけど、みんなはどうかな?
詩は書けないのでしらん まあ民意でなんとなく流れるんじゃないかなー

>>13
いや、いわねえと思うww
試験的に散文詩を投下 これは最近書いた奴かな


隣り合わせの隔世覚醒 右手飛び散ればゲラゲラ笑う笑い上戸
その目に植え付けて見れば 飢餓と困憊が喝采喝采皮肉さ列挙
それでも這い蹲るんだ?何時だって右と左は神のみぞ知る虚無
何処にだって在りはしない母体の続き 引き摺った液と戯れて
落ちましょうよ楽園失墜ね甘美な痛覚残した神経は切れて焦土
もう行き場所が無いのなら 埋葬した地平の波を羽にしてみて
第三の夢幻は第六の幻聴と唯一の魅惑だけを錆びた音色に見て
伸ばした掌 広がっていく睡魔の輪郭を掴み取ったねその果て
投げる言葉も繰り返す懺悔も問う口も涙浮かべる目も朽ち果て
白に流れてく僕の身体だけが反響して貴女の胸を濡らすのです。
赤く赤く厭く赤く銅く赤く垢く緋く赤く赤く赫く濡らすのです。
あぁ尖端が泣く泣く千切れました。貴女に沈みました。合掌。
18優しい名無しさん:2006/09/24(日) 06:37:32 ID:vQZCDLjg
>>16
悔やんでも〜が一番気に入ったー
短歌もいいね。

>>17
これぞメンサロ板って感じだ。
リズムがドドドドッと胸に迫ってくるよ…
19結月 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/24(日) 06:45:34 ID:PYXbwBI8
詩もおkだそうなので投下

『あめのひに』
いきなり あめ が
ふりだしました。

かさを もっていない あたしは

ずぶぬれで なきます。
わんわんないて
なみだも あめも
じょろじょろ ながれて


やがて そらは
なにも なかったかのように

やさしく ほほえみました。


だけど ずぶぬれの私に
不親切な人が やさしく
そうっと かさをだすので


私はまた わんわんじょろじょろと ないてしまうのです。
20 ◆GOZItAWJOQ :2006/09/24(日) 06:51:42 ID:HlMLWx4/
>>19
女の子ならではの詩ですな

実は男 とかいうのは無しな
21優しい名無しさん:2006/09/24(日) 16:51:21 ID:w4VG4n9k
>>6-9
おもしろいね。
文章もうまいんじゃない?
ただ一つ、あえてトルコ風呂って言葉を選んだのに小悪魔系って言葉を使ってしまうのはどうかと。

>>19
雨が止んで放っておけば乾くのに不親切な人はやさしく傘を差し出して邪魔をする。
不親切な人はやさしさのつもりで、回復期に入った人にいらん事をしてそ回復を遅らせてしまう。
見たいな感じで自分は読み取ったんだけど違ってたらゴメン。

それと、あたし→私への変化はどういう意味なのか考えてしまった。
22優しい名無しさん:2006/09/24(日) 16:54:33 ID:U/Op6ilx
>>19
かわいいし、上手い。
言葉を起き変えて表現してるよね。
23優しい名無しさん:2006/09/24(日) 17:15:02 ID:w4VG4n9k
訂正

そ回復→その回復
見たいな→みたいな
24優しい名無しさん :2006/09/24(日) 17:19:48 ID:RS05ssbp
書くのでネタください。
25優しい名無しさん:2006/09/24(日) 17:22:36 ID:w4VG4n9k
>>24
ネタと言われても・・・。
じゃあ偽善をテーマに一つお願いします。
26結月 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/24(日) 18:19:22 ID:PYXbwBI8
レスたくさんついてる〜!

>>20 やっぱり詩文だとわかっちゃいますね。

>>22 ありがとうございます。雨の日に散歩したときにふっと思いついたんです。
27結月 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/24(日) 18:22:13 ID:PYXbwBI8
入りきらなかった…

>>21 読み取って貰えて嬉しいです。
あたし→私になっているのは、"不親切な人"に対して表面的に取り繕ってる様が出ればいいな、と変えてみました。
おもいっきり泣いてる素の"あたし"が手を出してくれた他人に対して"私"というよそ行きの仮面を被ってる雰囲気で。
28時任ミツル ◆9f4ADUxNOg :2006/09/24(日) 20:00:28 ID:t9zMNDvN
駄文で申し訳ないですがずっと昔に書いた詩投下。

ピエロ


ねぇ、

病んでしまうのは、いとも簡単だね。

道端に堕ちている貴方みたいな偽善者が、

僕の中を壊しているんだろうか。

僕は世界中のみんなから嫌われてる、

可哀想な可哀想なピエロだ。

どれだけ取り込んでも僕の躯、

××を拒絶して××を排除する。

こんなに狂っているのにまだ僕の躯、

××に成り下がっておかしくなった××を拒絶する。

多分貴方が僕を壊すからだね、

だって僕は可哀想な狂ったピエロなんだ。

今日はどんな歌を歌おうか?

そうだ、僕が排除した××の歌。

可哀想な可哀想な僕の欠片の歌。
29海『消失』 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/25(月) 00:29:11 ID:+4LjQYDb
逆回転で笑う人の絵姿を眺めていると終日飽きないのです
そうしていると知らぬ間に家の中を電車が通るのです
電車が砂を運んでくるので家の中が埃っぽい
大事な大事な絵に埃が着かないよう日に何度も拭き取るのですが
毎分毎秒電車が来るのでどんどん砂が溜って
部屋も絵も見る影もなく汚れてしまいました
気が付いた時に部屋はすでに茫々とした方形の砂漠で
大事だった絵は砂のどこかへ埋もれて仕舞ったのか
まったく所在が判らなくなって仕舞っていたのでした

>すずきさん
微々力ながら昨日のお返しでつ
久々頭使いますた

酉失敗してないかな・・・
30すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/25(月) 02:35:14 ID:lHbEzD2U
>>29
お返し確かに受け取り
いい感じに病んでるなw 俺にはこういうのは書けそうにない……
俺も過去の病み作品探してこなきゃ つうか執筆できる程度に体調回復しないと
31恭助 ◆xYZgVmlxkg :2006/09/25(月) 09:26:49 ID:xBwRD3rL
初めまして、自分も詩を投下していきます。…大したものではないですが

「夢」

夢は何ですか?

夢、持っていますか?

それは、大きな夢ですか?小さな夢ですか?

明日は見えていますか?

俺は、生きていますか?

もし生きていたら…「ありがとう」と伝えてください。

死んでいるなら…「お疲れ様」と伝えてください。

夢、あるなら捨てないでください。

いつか見た夢…それはかけがえの無い誇りですから。
32咲良 ◆n4Qj9dYgA6 :2006/09/25(月) 10:17:18 ID:urAQhQCK
駄作ですか失礼致します。

「うさぎとカメ」

僕はうさぎ
広い野原を自由に駆け回る

君はカメ
深い海を何処までも潜ってく

僕の耳が長いのは君の声を聞く為なんだよ

僕の目が赤いのは君を想って泣いていたからさ


全く違う世界を見ている君と僕

君はどうしてそんなに自由に泳げるの?
僕は水すら怖いのに

君はどうしてゆっくりとしか歩けないの?
僕と同じ風を感じて欲しいのに


ねぇ
いっぱいお話しよう

僕にしか味わえない感覚
君にしか見えない景色
新しい世界を2人で造り出すんだ


空を飛べない僕達を渡り鳥は嘲笑うかな?

そんな僕の憂いを見透かした様に君は言ってくれたね

「安らげる場所があるのはそれだけで幸せなことよ」


そう
ここは君と僕だけの夢の島

君だけが僕の帰る場所
33恭助 ◆xYZgVmlxkg :2006/09/25(月) 10:50:13 ID:xBwRD3rL
>>咲良さん
温かい詩ですね。感涙しました。すごく優しさを感じました。
34スキゾフレニア・ハーモニー ◆tr.t4dJfuU :2006/09/25(月) 20:38:58 ID:y+yLOApd
無数に千切れた 平面だった立方形は
涙のように 唾液のように 醜く垂れ下がる
何時まで同じ場所を巡り続けているのだろう
何処まで違う境地を目指し続けるのだろう

幾度と無く切り刻んだ 裏切りの傷に
幾度と無く癒し合った 切なさの痕に
幾度と無い結末を

夜の蒼さに怯えていた 朝の眩しさを疎んじていた

期待と失望の狭間で 未来と過去の底辺で
真っ白なこの空間で 時流の波に逆らっていた
喉の奥に詰まっている痛みさえ吊るし上げて

終わる 終わる 終わらせて 始まる理由が無くなるくらいに

途切れたレールの上に立ち尽くす自分が霞んで見えなくなる
夢に堕ちた身体
精神は現実に浮かぶ

人生という遺伝子の自慰は、まだ続いていくのだろう
35優しい名無しさん:2006/09/25(月) 22:33:41 ID:wXoE3U2t
小説というか詩スレになってますよ
36優しい名無しさん:2006/09/25(月) 23:13:10 ID:AHPh1i2U
詩ってどうしても自己満足で独りよがりなものが多くなりがちだから好みも分かれるしね。
でも小説の数が少なすぎるし新スレを立てたら過疎化しそうだ。
37結月『バッグ*1』 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/26(火) 00:50:47 ID:1bogAto5
ではこっそりSS投下
初なので誤字・脱字ありましたら指摘お願いします。
あと、携帯からなんで読みにくかったらすまないです。

------------------
もう何日が過ぎたのだろう。
幾日もこうしている気がした。記憶が深い霧の向こうへと旅立ったかのようにぼんやりしていて、
このままなら空気に同化して"私"が消えてゆける気がした。


「名前、」


声がかすれた。私の名前はなんだっけ。
霧をかきわけて名前を探ろうとしても、ふわふわもくもくと上手にかわして頭の中は一行に晴れる様子は無い。

見回した部屋はゴミや衣服の無法地帯。通勤に使っていた元は黒い革のバッグが、ほこりを積もらせて静かに私を見ている。


…予定、予定は?明日なにか、あったはず。


バッグの視線が霧を晴らしてゆく。何か、何かある。

私は必死にバッグのほこりを払い、すがりついた。
38結月『バッグ*2』 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/26(火) 00:53:32 ID:1bogAto5
けふけふ、こほん、けほん、ずびい。

久しぶりの労働にはしゃぐ鼻と涙腺をなだめ終わる頃には、バッグに代わり仕事用の手帳が私を見ていた。

6月、7月、8月―…
手帳に応えようと手の筋肉を総動員してページをめくる。
段々書き込みが減り、線なのか文字なのか判別しがたいものが増えてゆく。


腕の筋肉がストライキを起こしかけた頃、線が無くなった。


――真っ白。


そんなはずない。
バラバラと一気にページをとばす。
無い。何も無い。
予定が、無い。
行く場所、が無い。

また霧が戻ってきた。
もやもや、もくもく、もやもや、もやもやもやもやもやもや―…


ちら、と光がさした。
バッグはこうなることを見通していたかのようにまた霧を吹き飛ばす。口の奥に見えるのは、携帯電話だ。
39結月『バッグ*3』 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/26(火) 00:56:26 ID:1bogAto5
残る電池は2つぶん。
ホッとさせてくれたお礼にもう少しだけバッグのほこりを払ってやる。


――携帯にはプライベートの予定を登録していたはず。
  困ってるだろうな、メールは後回し、まずはスケジュールを確認することにしよう。
そっと携帯を開く。


「オートロックがかかっています。
ロックNo?」


誕生日だったかな。1218
「パスワードが違います。」
住所だっけ。1614
「パスワードが違います。」
昔飼ってた猫の名前、使ってる化粧品、香水、初期ナンバー、身長、体重、高校の出席番号
「パスワードが違います。」


バッグを見る。助けて、何か出して。
40結月『バッグ*4』 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/26(火) 00:57:45 ID:1bogAto5
バッグは嫌そうに口を開いて待っていた。
構わず手をつっこんでかき回す。ポーチ、財布、文庫本。出てきたものを片っ端から4桁の数字に変換してゆく。

「パスワードが違います。」

私はバッグを逆さまにして振った。何も出てこない。携帯の小窓の日付を手帳と照らし合わせる。真っ白。

何か、何か数字を…
また何度もバッグを振る。こまかな糸屑たちが落ちてゆく。

不意に手にした携帯が震えた。電池が切れたのだ。
ああ、また霧が頭の中にこもってくる。もくもく、もやもや、助けて、もくもく。


バッグは、もう私を見ていない。
41結月『バッグ*5』 ◆ASe2d7wXvo :2006/09/26(火) 01:03:38 ID:1bogAto5
以下自己解説(セルフネタバレ)。
鬱病な女の人の話。
薬の副作用でぼーっとしてる状態の鬱病女性の話。書き手としてはバッグ=友人(や親など)に置き換えて読んでみて欲しいです。
力不足な所も多々あると思うので、感想など貰えれば嬉しいです。
…携帯で改行したのって書き込みだと反映されないんですね。
42すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:21:12 ID:5DngOq2O
ノートに書き殴ってあったの発掘してきた。
俺の処女作。手直ししてないから拙くて悪いけど、小説少ないから勢いであげてみるよ。
よかったらおまいらも勢いで付き合ってくれ。
-----
 実家の炬燵にはいつも蜜柑が置かれている。「日本の冬にはやっぱりこれよね……」と言いながら、飽きもせずに毎年母が買い込んでくるのだ。頬張ると薄皮の下に隠れていた果肉が、ほのかな酸味とほどよい甘みで口の中を満たしてくれる。
 その香味は私がまだ幼かった頃と比べても依然として変わっておらず、口にするたびに当時の記憶が鮮明に蘇ってくる。だから私は、この果物が大嫌いだ。
43すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:23:09 ID:5DngOq2O
 ――おじいちゃん、ごめんなさい。
 小学生になるという人生最初の大きなイベントを前にして、その象徴であるランドセルをあそこまで粗暴に扱っていたのは私くらいじゃないだろうか。誇らしげな罪悪感を思い出す。
 それは正月に祖父の家に立ち寄った際、入学祝いとして買い与えてもらったもので、大いにはしゃぐ私の周りには穏やかな笑みが溢れていた。しかし肝心の私は、
絶好の蜜柑の隠し場所を思いついた喜びが満ちていただけなのだが。
蜜柑は私がランドセルと共に歩んだ、初めての友達だった。

 あの頃から変わらず母は厳格な人間で、ポテトチップスなどの菓子類を買い与えてもらった記憶は皆無だ。
あんな物を食べる人間はろくな大人にならないというのが持論らしく、父の気まぐれさえなければ私は間食の愉悦を知らずに育ったかもしれない。
 そんな母の主張が緩むのが冬という季節で、「これだけは欠かせない」と言いながら段ボール箱単位の蜜柑を買い込んでくるのだ。その至福の山を目にしたときの私の感情と、
何度となく「幸子は子供なんだからそんなにいっぱい食べちゃ駄目よ」と念押しされたときの悔しさを思えば、
そのランドセルの不埒な使用法も免罪してはもらえないだろうか。あるいはこれほどまでに、夢と希望を背負ったランドセルは他になかったのかもしれない。
44すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:24:19 ID:5DngOq2O
 私が子供部屋で、生まれてはじめて四個もの蜜柑を同時に平らげたとき、「幸子! お父さん!」と母の声が聞こえた。
用件を告げずに名前だけを呼ぶのは夕飯の合図だ。本当はもう少し蜜柑とともに時間を過ごしていたかったのだが、蜜柑をランドセルに戻して私は慌てて駆けだした。
部屋まで呼びに来られては困る。そして食卓に並んだコロッケの山盛り具合を前に、せめて四個と言わず二個でやめておけばよかったかなと思った。
 コロッケは母の得意中の得意料理で、その存在感は父の寝ぼけ顔を吹き飛ばすだけの圧倒的な物がある。ご飯もよそわぬうちに思わず手を伸ばしてこづかれるのは、もはやお約束の光景というべきか。
そんな光景を見てお嬢様気取りで「ふふん」と鼻で笑いながら、私はお上品なディナーを開始する。父の血を感じるまでに、三分も要さないが。
45すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:25:22 ID:5DngOq2O
 食事の準備が母の仕事なら、後片づけは私の仕事で、さすがに食前の蜜柑に加えてあれだけの勢いで夕食をかきこんだ私にはそれは過酷な労働だった。
仕事を終えたご褒美に出てくる蜜柑も、その日ばかりは少し味わう余裕がないかもしれない。友達と無為な時間を過ごすのは悲しいものだ――蜜柑、ごめんなさい。
 だが味わうだけの余裕がない代わりに、周囲を観察するだけの余裕が私にはあった。改めて眺めてみれば、同じ蜜柑でも食べ方は家族全員三者三様だ。父は先ほどと変わらぬ勢いで、蜜柑をまさに流し込む。
それを見て「意地汚い」と顔をしかめる母の食べ方はとても丁寧で、優雅な手つきで実を取り出すと、ほろりと口に放り込む。
 そのとき私は初めて母の食べ方に疑問を覚え、ふと問いただしてみた。
「ねえ、お母さん」
「食べながら喋るのはやめなさい幸子」私は蜜柑を慌てて飲み込む。
「……ん、なんでお母さんは蜜柑の白い奴まで一緒に食べてるの?」
「白い……? ああ、筋のこと?」母が試しに一本剥いてみせる。
「そう、それ。筋っていうんだ」
「そうよ。これには栄養が豊富に含まれててね、幸子みたいに苦いからって捨てちゃうのは凄くもったいないことなのよ」母は続ける。
「それにこの苦みが蜜柑の隠し味なんだけど、子供のあんたには分からないかもね」そして穏やかに微笑する。口を開けてくちゃくちゃ咀嚼しながら「そうだぞ」と同調する父に、説得力は皆無だった。
 この白い筋はそんなに偉い奴だったんだ。あまり美味しそうには見えないが――子供と呼ばれた反発もあってか、今までに剥いた筋をまとめて頬張ってみる。そして「うげえ」と思わず汚い声をあげる。
栄養だか隠し味なんだか知らないが苦すぎる。口から戻すとまた母にしかられそうな気がしたので気張って何とか飲み込んだが、そんな私を見て両親とも愉快そうに笑っている。私は慌てて筋を剥いた次の実を頬張って、苦みを流し去った。
私には到底大人の味は理解できない――筋さん、ごめんなさい。私の友達は、大人びた渋みではなくて、やっぱりあの甘酸っぱい笑顔が魅力的なんだと痛感した。
46すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:26:06 ID:5DngOq2O
 そしてそれはその年初めて雪が積もった日のことだった、父の負債が既に返済不能な額に達していることが判明したのは――。
何も知らずに友達と雪合戦に興じていた私だったが、総合成績では負け越しに終わり、不愉快な気分での帰宅だった。雪で冷え切った身体に熱のこもった母の怒声が欲しくて、あえて無造作に扉を開けて「ただいま!」と乱雑に怒鳴り散らした。
冷たく無表情な声で母は「幸子、おかえり」と返した。その声はしゃがれていた。そして入れ違いに言葉もなく父が出て行き、私は母に子供部屋へ行くように命じられる。ランドセルから取り出した蜜柑だけが、私を暖かく迎え入れてくれた。

「幸子!」
しばらくして、いつもと少しだけ違う夕飯の合図が聞こえた。食卓には若干のコロッケが並べられており、母と二人でそれを、処理した。父は夜中に独りでコンビニ弁当を食べていたらしい。
そして両親の怒声を目覚ましにする日がしばらく続いた。私に優しい言葉をかけてくれるのは、ただランドセルに隠された蜜柑だけだった。

 ――パシ。

 ある日、小気味のいい音が我が家に響き、そして時間が止まった。やがて頬を赤く染めた母にだけ時間は再び動きを与え、母を我が家から連れ去っていった。
その夜は父とコンビニ弁当を食べた。雪が降る音が聞こえた。
47すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:26:51 ID:5DngOq2O
 父が買ってくるコンビニ弁当だけでは、育ち盛りの私には満足がいかず、必然的に蜜柑と過ごす時間が増えていった。それ以外に私の飢えを満たしてくれる存在がなかったからだ。
 そしてそんな状況になって初めて、無尽蔵に思えた段ボール箱に住む友達たちも姿を消していくものだということに気付いた。箱の底が見え始めたのだ。
食べ続ければ蜜柑はなくなる、ならば逆に食べなければ蜜柑はなくならないということだろうか。既に飢えを満たしてくれるものは、乾きを満たしてくれるものは蜜柑だけしか存在しなくなった私にとって、それは恐ろしくも素晴らしい発見だった。
 この発見を父にも教えてあげなければならない。私はそう思って――単純に父の声を聞くきっかけが欲しかっただけかもしれないが――寒い玄関で父の帰りを待ち続けた。父に「幸子は凄いな」と褒めてもらいたかった。
やがて幼いまぶたが弱音をあげ始めた頃、ようやく玄関の扉が開く。
「お父さん、お帰り! あのね……」
嬉々として語りかける私を煩わしそうに一瞥すると、父は廊下にコンビニのおにぎりを数個投げ捨てて静かに寝室へと入っていった。その晩私は、蜜柑を三個食べた。
48すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:27:35 ID:5DngOq2O
 そして蜜柑が最後の一個になるまでに要した日数は、片手で数えられるほどだった。父とはあれ以来ろくな会話も交わしておらず、私の存在を唯一受け入れてくれるものの消滅はそら恐ろしいことであった。
私は何に心をゆだねればいいのだ。そして同時に、何故父は私を受け入れてくれないのかと考えを巡らせてみた。
 蜜柑?
 思い返してみれば母が家を出てから、私は飢えの解消を蜜柑に求め続けた。しかし父はいつも寝室から出てこなかったので、おそらく蜜柑をひとつも食べていないだろう。でも本当は父だって蜜柑を食べたかったに違いない。
本当は蜜柑と過ごせずに寂しかっただろうに、私ばかりが蜜柑との時間を独占していたから。父は毎日私に食事を買い与えてきてくれたのに、私は果たして父に何かを与えただろうか。父と蜜柑の時間を邪魔し続け、だから父は怒って声もかけてくれない。
苦しい。どうしてこんなことに今まで気がつかなかったんだろう。最後の蜜柑になるまで、なんで分からなかったのだろう。
ならば私はこの最後の蜜柑を食べていいわけがない。これは父の蜜柑だ。これだけはせめて父の蜜柑なんだ。これを最後に蜜柑がなくなる。寂しい。でもこれは私の蜜柑じゃない。私の蜜柑はもう終わったんだ。
この蜜柑は父が食べなければいけないんだ。父が食べるべきなんだ――ごめんなさい。ごめんなさい。
49すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:28:14 ID:5DngOq2O
結論だった私は決心が揺らぐ前に、最後の蜜柑を手に父のいる寝室へと駆け込んだ。あまりの勢いに驚いた父は、一瞬こちらに身体を向けたが、音源が私であることを確認すると気怠げに体勢を戻した。
「お父さん!」私の声は震えていた。
 ありったけの勇気を振り絞って、私は父の正面へと回り込んで両手を差し出した。
「これ、最後の蜜柑! 最後の蜜柑は、お父さんが食べなきゃいけないんだからね!」
 そんな私の必死の訴えも通じないのか、不思議そうな表情で父は私を眺める。父は怒っているのだろうか。怖い。思わず目を瞑る。怖い。蜜柑が重い。怖い。まぶたが持ち上がらない。どうして父は蜜柑を受け取ってくれないんだろう。
怖い。動機が激しくなる。蜜柑を受け取って「ありがとう」と言って欲しい。怖い。駄目だ。これが最後の蜜柑。助けて。受け取って欲しい。怖い。ありがとう。怖い。蜜柑。助けて。

 重圧に耐えきれず思わず逃げ出してしまいそうになったそのとき、私の手から蜜柑一個分の重さが消えた。それは私にとって贖罪を意味し、まるで天使に祝福されたかのような幸福感が全身を包み込んでいた。
「お父さん――」救われた気持ちに溢れ、穏やかに瞳を開いた私が見たものは、憤怒の表情に崩壊して、握りつぶした蜜柑を私の顔面に叩きつけようとする父の拳だった。
50すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:29:09 ID:5DngOq2O
 父が帰らないまま朝が来た。我が家にはもう何もなかった。
 探し逃しはないかと思って再び家中を徘徊してみたが、空腹感が増しただけだった。
 飢えと、乾きと、孤独が、私の脆弱な身体を押し殺そうとしていた。母が「世界中には、食べたくても食べられない人がいっぱいいる」と言っていたのはいつの日のことだったろうか。
私がご飯を残した日だった。あのときのご飯はどこ。もうない。蜜柑はどこ。もうない。最後の蜜柑は父が潰した。潰すくらいなら私が食べたかった。いや。父は蜜柑を潰したかったのかもしれない。
ならば父は蜜柑を潰して満足したのだろうか。残された蜜柑は私が食べていいんじゃないだろうか。会いたい。食べたい。蜜柑。寂しい。最後の蜜柑はどこ。

 私は寝室の床でぐちゃぐちゃにつぶれてひからびていたそれを拾い上げて、そのまま口に放り込んだ。いくら咀嚼しても何の味もしなかった。最後の蜜柑を飲み込んで、そしてうちには私だけが残された。

 それから母に救助され、病院で目を覚ますまでの記憶は残っていない。母はずっと泣いて謝っていたそうだ。栄養失調でかなり危ない状態だったらしいが、なんとか入学式までには回復し、ランドセルは無事本来の役目を果たせた。
 父と顔を合わせたのはあのときが最後で、正直いつ離婚したのかすら私には分からない。母は結局誰とも再婚しなかったが、祖父の援助もありなんとか私は人並みの青春を送ることができた。
大学に進学した今では母と顔を合わせる機会も、こうして正月と盆だけになってしまったが、今の私があるのも母のおかげだろう――ありがとう。
51すずきあるみ@蜜柑がいた冬 ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:29:43 ID:5DngOq2O
「あら、雪よ」
 そう母に言われて窓の外を覗いてみると、確かに薄暗く染まった空から何かがちらりほらりと降っていた。その光景を眺めていた私はふと思い立ち、蜜柑の実を一粒つまみ上げ、筋を剥かずに頬張ってみた。
苦みをまとった蜜柑の味は確かに、単なる甘酸っぱさに終わらない絶妙な深みのある佳味を有しており、それは私に幸福感とより鮮明な嘔吐感を与えてくれた。
 耐えきれずに思わず立ち上がった私に、母は何気ない顔で「あら、ついでにストーブの設定温度あげてくれる?」と言い放つと、満足そうな表情で次の蜜柑へと手を伸ばした。
52すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/26(火) 01:31:29 ID:5DngOq2O
ふう疲れた。長すぎる行がありますって怒られまくったw
改行が少なすぎるねこの作品、やっぱ慣れてねえ奴くせえ。読みにくくなっちゃってごめんね。それでも読んでくれた人ありがちょん。
53優しい名無しさん:2006/09/26(火) 02:09:29 ID:5DngOq2O
>>結月氏
初と言うのは処女作てことですか? お疲れ様です

とりあえず突っ込みから入りますと、基本作法に則ってないのでチープに見えてしまう箇所が多々あることです
批評サイトだったらいちいち突っ込むけど、ここではそういうのは辞めた方がいいかな?
1000円ほどの余裕があって、文章書くの好きでしたら、一冊くらい入門書を買うだけで文章がぐっとしまると思いますよ

あと個人的には自己解説はアウトだと思います
作中で語りきって、それ以外の部分は読者の想像に委ねるってのが正しい形じゃないかなあと
少なくとも俺は 作品を読む→「?」 解説を読む→「そういう視点か」 再度作品を読む→「なるほど」 という感じだったので、
できれば最初に読んだ時点で世界観を全て受け入れさせてもらいたかったなという気分です

空気や話の回し方自体はメンヘラの味という感じで嫌いではないのですが、上記の理由から
結月氏の作った世界に俺が飲み込まれていくというよりも、結月氏の作った世界を俺が現実世界から眺めているという観点になっちゃったのが残念
是非とも改訂版を作ってもう一度ぶつかってきてほしいなーと思う次第です

分かりにくい文章でごめんね、最近文章離れが激しくて言いたいことうまくまとめらんないや…… 俺も修行してくら
54優しい名無しさん:2006/09/26(火) 02:27:33 ID:1bogAto5
>>53 わかりやすく、すごく参考になります。
処女作品です…詩以外の文は初めて書きました。(かなりビクビクしながらw)
書いていてやっぱり詩書き雰囲気から離脱しきれんなーと痛感しました。ぶちぶち切れてしまうあたりとか…。
明日都会に出かけるので色々参考になりそうな指導書類を本を物色し、小説リベンジしてみようと思います!

付け足しのようになってしまいますが、あなたの文章が好きで小説にも手を出してしまいました。いつかあなたにも自信満々で差し出せる文を書けるよう、を目標に頑張ります。
批評ありがとうございました!
55恭助 ◆xYZgVmlxkg :2006/09/26(火) 03:07:39 ID:hcvWvpjz
短編投下します。つまらなかったら、ごめんなさい。

〜街灯〜第一話〜

言い争いをしている一組の男女。二人の間には醜い憎悪しか感じられない。
…こんな光景を何度見てきただろう。私の元で結ばれ、私の元で別れていった。
「(また、終わるのか?何故、君達は繰り返すのだ?私にはわからない…何故、人と人とが出会い、
 別れを繰り返すのかが)」
女の頬を涙が伝う。こらえきれない嗚咽が漏れている。
「やだっ、やだよ…離れたくないよぉ…ヒック、ウグッ…」
男は煙たそうな表情で女を見つめていた。
「お前のそういう所が嫌なんだよっ!ったく、うぜぇんだよ!」
男は泣き縋る女を突き飛ばし、足早にこの場を去ろうとしていた。女は尚も泣き縋る…
「やだってば…」
女の手は力なく解け、男を止める事は出来なかった。
「(…終わったか、あっけないものだな)」
女はいつまでもその場で泣き続けていた。雨が降り、ずぶ濡れになろうとも彼女はそこに居続けた。
雨の雫で彼女の頬は濡れていた。もう、涙ではないようだ。女はふと上を見上げた。
雨の降る空からは何も見えない。そこには黒い雲が広がるだけ…女は震えていた。
寒さ、寂しさ、恐怖、絶望感…そんな感情が彼女を包み込んでいた。
…どれくらいの時間が経ったのだろう?女はまだ空を見続けていた。力の無い瞳で空を見続けている。
「(死んだのか?)」
女に降る雨の雫が止まった。雨が止んだわけではなさそうだ。女の横には一人の少年が立っていた。
少年は笑みを浮かべ、女に話しかける。
「…風邪、引いちゃいますよ?」
女は少年を見つめると…
「あはっ、新手のナンパぁ?あはははっはあっははっははっはっははっはっはあははっはは、ケホッ、ケホッ…」
「ほらぁ、無理するからですよ。大丈夫ですかぁ?」
咳き込む女の背中をすかさず少年がさする。女は少年を睨みつけ、思い切り手を払い除ける。
「さっ、触んじゃないわよっ!」
「…ずっと見てきたんですよ、今日まで。気持ち悪いですよね?あはははっ…偶然を装って現れるなんて、とんだ卑怯者ですね」
「…へ?」
女の顔が変わっていた。
「ずっと見ていたんです、貴女の事を…ずっと待っていたんです。卑怯だと言われても、馬鹿と言われても…僕は」
少年の口を手で塞ぐと、女は下を向く。女の眼は潤んでいた、一つ、二つと雫が落ちる。
「…知ってたよ、全部知ってた。もう言わなくて良いよ。隣の子でしょ?…でもね、私なんかと関わっちゃ駄目だよ。私は色んな男を見てきた、酷い目にもたくさんあってきた…だけど、また拾ってくれる男を探してる。結局、誰でも良いんだよねぇ…ははは」
少年の顔は曇らなかった。少年は何も言わず、女を抱きしめていた。
「…だから、駄目だって」
「良いんです。未琴さんと一緒に居られるなら…未琴さんが好きなんですっ!」
女…未琴の頬が赤く染まっていく。
「…バカ」
「(不思議なものだな、人間どもの考える事は私には理解出来ぬ。後、何人の人間達をこの下で見ていれば理解出来るのだろう。後、どれだけ見続けることが出来るのだろうか…所詮、動く事の出来ぬ私には理解が出来ぬのだろうか?感情とは何なのだろう…)」
〜街灯〜完
56優しい名無しさん:2006/09/26(火) 16:53:46 ID:tJ+I46Ld
>結月さん
鈴木さんの解説が的確すぎるw
創りたいふいんき(ryは解るんだけど、もっとシャープな表現に持っていけるんじゃないかと
隔靴掻痒の感はあるけれども、ぼんやりして悲しい感じは伝わったですよ

>すずきさん
初々しい感じがなんともw
一文が長く漢字の密度が高いのはすずきさんの持ち味ですね
漏れはこういう日本語が好みなんですが、如何せん今の弛み切った頭では短編ぐらいしか読めないとゆう罠
丁度適量ですた
お母さんが家を去ってからの流れが巧いなぁとつくづく
起承転結がしっかりしているので、安心して読めるですよ

57優しい名無しさん:2006/09/27(水) 00:28:22 ID:5LD7pKbr
>>56 同意wすずき氏は小説だけでなく論文も得意そう。
詩の表現も持たせつつ…なんて考えてたのでよりボヤけた伝わりにくいふいんき(ry になったのかな、と自己分析。
結月味の"小説"になるように模索しながらまた投下したいと思います。感想ありがとうです!
58優しい名無しさん:2006/09/27(水) 02:43:35 ID:ACJFF2Zn
>>恭助氏
お疲れ様です 拝読させて頂きました
詩にしても小説にしても、やっぱみんなメンヘラ的な観点で書いてて個人的には楽しいすw
どのくらい楽しいかというと、あはははっはあっははっははっはっははっはっはあははっはは、て笑っちゃうくらい

さて感想 よろしかったら参考までに
個人的な印象としては、街灯が主役のようで全然必要ないかなあってところでしょうか
まず題名を隠したらイメージが沸かないじゃないですか それがどうかなって点です 別に夜空のお月様が代役をしてもいいだろうし
なんか解説役の便利な第三者って感じがするんですよね ていうか街灯=恭助氏て印象
いっそ街灯の存在を物語から排除してうまくまとめるか、もっと必然性をからめるとかしてみた方がいいんじゃないでしょうか
個人的には話全体の分量をもっと多めにして後者の方が面白くなると思いますけど

59優しい名無しさん:2006/09/27(水) 15:13:46 ID:z3eHd1ZN
>恭助さん
『我が輩は猫である』を近代的でクールに書こうとした感じがしまつ
ただ、語り手である街灯自信の口から出る考察と街灯の観ている出来事の描写との比率がいまいちなので、
>>58さんの言うように街灯の存在意義がぼけちゃったのではないかと思うます
ただ表題に第一話とあるので、プロローグとしてならこのアンバランスな感じはアリだとおも
この先のストーリーでどれだけ街灯が語るのかしら、と言った感じでつ
情景描写はできているので、第二作に期待でつ
60U ◆Sf4YYPJJPE :2006/09/27(水) 15:22:19 ID:nYpZecos
http://life7.2ch.net/test/read.cgi/mental/1158926666
関連スレです、こちらは雑談メインに
61海『クラゲの話』 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/27(水) 15:24:06 ID:z3eHd1ZN
突如ageちゃってスマソ
なんか別スレが立っててそこで落ちちまったようなことが書かれていたのですよ
ついでに夢の覚え書き投下

体を触られて目が覚めた。大した理由もなく人に起こされるのは大変に不愉快である。可能な限り愛らしく、
かつ眠た気に見えるようにキスを返し、恋人の不躾さに苛立ちながら私はまた眠った。

 床にピンク色をしたミズクラゲが落ちている。私はそれを両手で掬い上げるようにして持ち上げ、ぶにぶに撫で回しながら観察を始めた。生きているのか死んでいるのか全く判別はつかなかったが、
目立った損傷はなかった。完品のミズクラゲをまじまじと見る機会など、そうあったものではないので、私はずいぶん感動していた。そして、
ミズクラゲがピンク色をしている理由が全く分からなかった。傷んで変色しているにしては組織はしっかりしていたし、腐敗臭や、潮の香りすらしていなかった。顔を近付けてみると、
チョコレートの匂いがした。予期しなかった甘い香りに全身が沸き立った。
 両手で持っていたクラゲを右手に移し、左手に移し、また右手に移して弄ぶうちに、
両手が体液の様な物でしたたかに濡れた。両手でクラゲを強く挟むと、クラゲは掌から滑り床に落ちた。そして体液の様な物がそこら中に飛び散った。チョコレートと云うよりももう少し水っぽい、チョコシロップの様な匂いが立ち込める。
62海『クラゲの話』 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/27(水) 15:29:58 ID:z3eHd1ZN
 再び頭を撫でられて目が覚めた。眠った振りを続けていると、恋人は私の髪にキスをした。迷惑極まりない。眠たい。

 家の中に変質者がいる。
 どのようにして奴が入ってきたのか全く解らない。奴は私が自分の部屋に居る事を知っている。部屋に走り寄って来て、
ノブを回し、体当たりをしてくる。この部屋はドアに鍵が掛からないので、ドアを懸命に押さえ付ける。ドアは内開きだが、
如何せん力負けしている。床一面にピンクのミズクラゲが落ちているので、いざという時はこれらを投げつけようと思う。おそらく変質者は一般民間人なので、クラゲなんかを投げつけられたら動揺して怯むだろう。
 スウェットのポケットに携帯電話が入っていたのを思い出し、右手で取り出して操作する。110と押して発信しようとするが、1110や100、1100となってしまう。何度となく間違える。さっきクラゲなんかで遊んでいたから、
どうにも手が水っぽくぬらぬらする。漸く110と押す事に成功したが、電話を発信する事が出来ない。電波が届いていないのだ。変質者はドアを開けようと執拗に体当たりをする。とにかく恐ろしいのだが、同時に変質者の偏執的な性欲のことも考えてげんなりする。
 ドアにローションの様な物を1?Pほどもぶちまけられた。驚いて携帯を取り落とす。ドアの隙間からそれを被り、押さえている体が滑る。手が滑り、足が滑る。5cm10cmと徐々にドアが開く。そして奴は私の部屋に入って来る。
 掴みかかって抱き付いて来たので、振り解いたり殴り付けたりしてみたが、全く効を奏さなかった。クラゲのことは思い出しもしなかった。奴は一度離れて、再び私にローションをぶち撒いた。髪がべたべたになって顔に張り付く。床中が滑る。

>>60
thx 漏れの勘違いだったわスマソ
63海『クラゲの話』 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/27(水) 15:32:23 ID:z3eHd1ZN
後ろから抱き竦められ、スウェットのズボンを脱がされた。唖然としている内にターコイズブルーのTバックも脱がされ、奴の手が尻に沿って下降したと思ったら、
膣に指を入れられた。ローションの効果で私が濡れていようといまいと関係がない。しばらく指で掻き回され、下手に動くことができない。引っ掻いたり折り曲げたりできる指よりも、
まだち○こを挿された方が安心だ。内蔵に物を入れられることがどんなに恐ろしいか、こいつのケツをフィストファックして思い知らせてやりたい。
 指が抜かれたので裏拳だの肘鉄だのを試してみるがまるで効果はない。変質者は片腕で私を抱きかかえるだけで私の動きを完全に消去している。ひとしきり暴れながら、
わりともうどうでも良くなってきた。どう足掻いても私はこの変質者には勝てず、ち○こを入れられてセックスをするだろうと思った。そう思っていたら上体を押さえ付けて尻を突き出させられ、ち○こが入れられた。

 私の頭を撫で、恋人は感に耐えないと云う様子で溜息を吐く。頼むからそれは隣の部屋へ行って一人でやってくれ。私は猛烈に眠い。そしてこのまま変質者とセックスをして、相手をいかせて自分もいきたい。

 体がくの字になっているのが不安定なので、両手を振り解いて壁につく。変質者は偏執的に腰を動かすので、段々気持ち良くなってくる。壁に手をついて尻を突き出し、
完全に犯されスタイルになっている。まぁ気持ち良いからどうでも良くなり、次第に殺意や敵意が感じられなくなる。自分は男に対して完全に肉体的弱者であることが実感される。
64海『クラゲの話』 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/27(水) 15:35:34 ID:z3eHd1ZN
そして甘い匂いがする。クラゲからだけではなく、部屋中からチョコレートの匂いがしていた。沢山のピンク色のクラゲの死骸は、
私が何者かに完全に屈服させられていることを喜んでいるのだ。私が望まずに征服されて怒りや絶望を感じながら理不尽な快感を与えられていることを察知し、
喜んで甘いチョコレートの匂いを振りまいている。快感で息が上がって声が出る。私は肉体的快感に弱い。
 突然男は消えた。いいところでセックスが中断されたが、性欲よりもクラゲに対する怒りが湧きはじめる。壁に手を付いて尻を突き出していた体勢からゆっくり上体を起こし、
苛立ちながら部屋の中へ向き直った。足に残っていたスウェットを脱ぎ捨て、深呼吸をすると甘いチョコレートの匂いが肺に満ちた。
 怒りに任せて手近にあったクラゲの死骸を踏み付ける。踵からどんと衝撃があり、クラゲは床の上を滑っていった。匂いが強くなり、私はまたしてもどじを踏んで部屋中のクラゲを喜ばせたようだった。私はさらに苛立ちながら、
いいかげん腹が空いてきた。クラゲの死骸を拾い、立ったままかぶりついた。
 やはりクラゲは水っぽい。一口齧るとだらだら水が溢れた。匂いと同じく水っぽいチョコレートの味がする。あまりに旨いので大口をあけてかぶりついていたら、五口程で一匹を食べ尽くした。まだ食べられそうだったので、
私は次のクラゲに手を伸ばした。二つ目のクラゲを齧りながら三つ目のクラゲに手を伸ばし、両手にクラゲを握りながら私はベッドに腰掛けた。まだ空腹と苛立ちが収まりそうもないので、
こうなったら部屋中のクラゲを食べ尽くそうと思う。クラゲの数は減っていくが、部屋に立ち篭める匂いは変わらない。恐らく私が怒りに任せて行動しているのが嬉しいのだろうが、所詮すべてのクラゲを食べてしまえば、この匂いはいずれ消えるだろう。
65海『クラゲの話』 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/27(水) 15:38:31 ID:z3eHd1ZN
 一通り目に付くクラゲは全て食べ尽くした。三十匹前後はあっただろうか。夢の中とは言えよくも自分がこんなに大量のものを食べたと思う。クラゲから滴った水と先に男にかけられたローション、
自分の体から滲み出た粘液で体中がぬらぬらする。そして自分の体からも甘いチョコレートの匂いがする。私はまだ空腹だ。手に付いたクラゲの体液を嘗め取っているうちに、
自分の手そのものから甘い味がするのだと気が付いた。試しに左手の人差し指を齧ってみると、やはりクラゲと同じ味がした。クラゲを齧った時と同じく異様に血がだらだらと出るが、
自分の血もチョコレートの味がした。引き続き自分の両手を齧る。クラゲよりも濃い味がして、始めから自分の体を食べていれば良かったと思う。手首程まで食べ進むが、不思議と骨が気にならない。ここいらまで手を食べてしまったら、
そろそろ足を食べておかないと後々不便ではないかと思い、右足を腕で無理矢理持ち上げた。私は体が堅い。
 予想に反して足は軽々と持ち上がった。臑と大腿が滑らかに反転して曲がり、あたかも骨が入っていないかのようだった。爪先から足を齧り始めると、
手を食べていた時と同様血がだらだら流れ出た。自分の血でシーツが随分汚れた。こんなに血を流して良く生きているものだと感心する。そろそろ恋人が再び起こしにかかるのではないだろうか。足も手と同様に旨い。右足の膝まで食べ、
左足に取りかかる。齧るとまたもや血が溢れる。貧血ぎみなのだろうか、頭がふらつく。所詮夢の中なので、心行くまでこの目の前の旨いものを貪ろうと決意する。恋人はまだ起こしに来ない。自分の流した血から、
頭痛がするくらい甘いチョコレートの匂いがする。そして夢の中なのに随分と眠たい。
66海 ◆qhO1DoIA1c :2006/09/27(水) 15:43:02 ID:z3eHd1ZN
貼ってみたら予想を上回って大量ですた
長文の貼り方が分かってないので読みにくい改行が多いですが(そして一部下品な箇所がありますが)、みなさんお目汚しに
67U ◆Sf4YYPJJPE :2006/09/27(水) 15:43:31 ID:nYpZecos
>>62
最初はup兼用で立てたんだけどね、タイトルが悪かったらしくこっちが有名になったの
68優しい名無しさん:2006/09/27(水) 15:55:44 ID:z3eHd1ZN
>>67
そうだったんでつか
漏れはこのスレが出来上がる時に居合わせたので何となく使っていたのですが、そちらもちょくちょく覗きに行きますね
69恭助 ◆xYZgVmlxkg :2006/09/28(木) 02:07:39 ID:jnaCeaU5
>>58
的確な指摘ありがとうございます。
確かに、『街灯』の存在の薄さは感じてます。三話目以降に指摘を生かしていきたいと思います。
>>59
相当意識してます。猫が街灯に変わっただけ…とは、思われたくは無いので…気をつけていきたいと思います。
では、第二話…投下します。

〜街灯〜第二話〜

「(あの二人はどうなったのだろうか…幸せという儚い時間でも手に入れたのか。
幸せ…ふふ、私がこんな事を考えてしまうとはな。所詮はひと時の淡い夢。幸せなどそんなものだ。また来る事になるさ…幸せなどない。)」

どれくらいの月日が流れたのだろうか…あれから何組もの人々が別れと出会いを繰り返していった。
―もう、街灯自身…自分を見失っていた。何年、何十年と繰り返される別れと出会い。男女関係からの縺れ合いからの殺し合いもあった。皆、憎み合い、憎悪に満ち溢れた表情で別れていく。そして、今日も

「(さて、見せていただこうか。君達の茶番劇を)」
―街灯の心は、何時しか荒んでいた。考える事を止め、茶番として楽しむ様になっていた。
「(…くだらん、実にくだらん。愛など…幸せなど…全て、妄想であり、幻想に過ぎないというに。繰り返せっ!もっとだっ!もっと私を楽しませろっ!種の保存の為に互いを貪り合うんだっ!)」
「終わったのっ!」
「(何故だ?何故、食い下がる?先にあるのは不幸な結末なんだぞ?)」
「…もう、終わったのっ!いい加減あきらめてよっ!しつこいなぁ…」
半ば、呆れ顔で女が呟いた。ぐっと腕を掴んだまま、何も喋れないでいる男。
「………」
「どうせ繰り返すだけでしょ?戻ったって同じ事じゃないの?」
女は黙ったままの男を見つめ、言葉を続けた。
「(そうだ。所詮、繰り返すだけなんだ…そして、新しい宿主を探せば良い。お前等人間共は、それが似合っている。)」
「もうさ、変わんないって…潔くしとかないと、次なんて見つかんないよ?どうせ…」
「…もう…良い…俺はただ…謝りたかった…謝りたかったんだ…」
女の言葉を遮り、それだけを言うと…男は手の力を緩めていく。そして、うつむいたまま涙の雫を落としていた。
70恭助 ◆xYZgVmlxkg :2006/09/28(木) 02:08:06 ID:jnaCeaU5
「(今度は、男か…見苦しい…実に、見苦しい。くくっ、情け無い男だな。男もあきらめた様だな…今夜はもう終わりか…女が走り去り、男がとぼとぼと帰る情け無い姿が目に浮かぶ。)」
「何で離しちゃうの?いつもみたいに食い下がってくれなきゃ…」
―街灯の思惑とはずれてしまった様だ。その場に残っている女。走り去る様子は見受けられない。それどころか、自分の言葉を否定してしまっている。
「………」
男は、顔を上げてニッコリと微笑んでいた。そう、満面の笑みで…
「ふ〜ん、良いんだね?わかったよ…もう行くから…本当にさよならだからね」
「………」
男からの返事は無い。ただ、優しく微笑みかけているだけだ。
「(未練がましい女だ。自分が出した結論を否定するとはな)」
「…さよなら」
ゆっくりと踵を返す女。もう振り返る事は無いだろう…二人は終わったのだから
「…ミク、ありがとう」
男が発したのは、『さよなら』ではなく…『ありがとう』。
「…え?」
次の瞬間、夜空に『パーンッ』という乾いた音が鳴り響いた。男が最後に呼んだ『ミク』という女が振り返った先に男の姿は無かった。そこにあるのは、元・男だ。手にした銃で頭を打ち抜き、倒れていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
人のものとは思えない絶叫が、辺りに木霊した。ミクは、男の亡骸に縋り付き、泣きじゃくっていた。
「(っ!?)」
一部始終を見ていた街灯も、理解できないでいる。
「何で…?何でっ?」
その問い掛けに応える者は、もういない。
「(何故だっ!?何故…)」
男が何故死んだのか…それはもう、誰にもわからない。「ありがとう」…それだけが全てとでも言うのだろうか。
「(何故だ…何故、自らの命を絶つ必要があるんだっ!?探せば良いだろう…新しい場所を。繰り返すのがお前達ではないのか?)」
街灯は困惑していた。殺し合いはあっても、自害などという結末は初めてだった。
「やだ…冗談だよね?いつもの冗談だよね?…起きてよ。こんな所で寝てたら風邪引いちゃうよ。ねぇ…ヒロ…ヒロ…」
ミクの言葉は少しずつ小さく、力ないものに変わっていく。ヒロと呼んだ肉体を抱きしめ、留まる事無い涙を流す。
「(…もう、帰っては来ないんだ。男は死んだのだ…やめろ…やめてくれ…何故だ、何故だ)」
ミクの呼びかけは、魂を失ったヒロの肉体に届くことは無い。もう、二度と目を覚ますことは無い。
「あはは、帰ろっかっ♪喧嘩なんて、やめ、やめっ!帰ったらヒロの大好きなカレー作ってあげるからね。…帰ろ」
流れる涙は止まる事は無い。涙を流しながらも…必死に取り繕った笑顔。ヒロの肉体を抱きかかえ、ゆっくりと街灯の下から姿を消した。あの二人がここに来る事は二度とないのかもしれない。
「(これが人なのか…?)」
 それから半刻が過ぎ…遠くの方から、サイレンが聞こえた。それが、あの二人に鳴らされた終幕を告げるサイレンなのかは…街灯に知る術は無い。
71U ◆Sf4YYPJJPE :2006/09/28(木) 14:05:53 ID:BvO4YMba
!が大量に使われてる
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
の箇所が気になります、
多くても連続で2つ位が良いかと
72優しい名無しさん:2006/09/28(木) 15:51:57 ID:4sC0+qKa
>恭助さん
語り出した街灯は随分マッドでつねwwww
文章が日本語のセオリーをちょっと逸脱して、フォトジェニックというか読むものでなくて観るものになってる感がします
派手目の効果を狙ったありがち文章が時々引っ掛かるので、もっと自分の言葉で書いて良いとオモ
あと「(は『の方が読みやすい気がするような気もするんだがどうだろう
まぁこれはごく個人的な好みの問題でもあるので、話半分に

内容的に見ると、第一話とうまく繋がった第二話だとおもうます
自分としてはもっと街灯さんて虚無的に淡々とした人じゃまいかと予想していたら、マッド。素敵ですわw
第三話も待ってますですよ
73U ◆Sf4YYPJJPE :2006/09/29(金) 20:14:04 ID:aXzmflMF
あげておく
74優しい名無しさん:2006/09/30(土) 17:15:07 ID:91imGRv7
>>すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ
表現が豊かで,純文学の香りがします。
75すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/09/30(土) 17:15:26 ID:tx4Mk11M
なんか作品読むだけの元気がないので、一応補足だけさせてもらう
!や?は原則として1個まで、その後文章が続く場合には空白を入れます
♪などの記号は用いません

ex. 「なんだって! そんな馬鹿なことがあってたまるか!」

…と―は基本的に2文字1組とし、1文字や3文字以上で使うことはありません

擬音や「……」などの無駄な沈黙は、地の文で置き換えて説明します
絶対ルールというわけではないですが、これをやると安っぽさが一気に5割増しくらいするので、お勧めできません
詳しくはどっかの小説技術サイトとかに書いてあると思います

別に守る必要はない、自由に書くのが一番だという意見もありますが、
一応まっとうなとこに投稿するつもりなら、このくらい守られてないとそもそも批評対象にしてもらえないので一応書いておきました

ええと、どうせ趣味スレだしと思ってたけど、こういう技術的なことも突っ込んだ方がいいのかな?
積極的な批評希望の人は、前もって「技術面も見て、感想は辛口で」とか書いてくれると嬉しいかも
とりあえずその類の書き込みがなかったら、俺は純粋に内容や展開だけに関して感想を言わせてもらおうかと思います

大して貢献してないのに仕切り厨みたいでごめんね

>>恭助さん
街灯は連作だったんですね、そういえば第一話って書いてあったわ
先日の感想はあくまでも「一話をそれだけの完結作品としてみた場合」と捕らえてあげてください
76優しい名無しさん:2006/09/30(土) 19:04:53 ID:bsfuQV5x
>恭介さん
登場人物二人に加え銃が出てきたのことで背景というか、場所の設定が気になりました。
日本なのか、ファンタジーな世界なのか。周りの風景はこれから明らかになるのかな?

お二方が指摘された「!」については、私は普段ライトノベルやネット小説を読むことが多いので、「!」が連打されてたことにはあまりつっかえませんでした。

拙い感想で申し訳ないですが、次はどんな人が出てくるのかwktkしてます!
77優しい名無しさん:2006/09/30(土) 19:30:43 ID:bsfuQV5x
うpスレと間違えて誤爆しましたorz
気づくの遅いよ自分
78優しい名無しさん:2006/09/30(土) 19:32:16 ID:bsfuQV5x
…ごめん……もう何が何だか…ちょっと吊ってくる。
79優しい名無しさん:2006/09/30(土) 21:13:22 ID:h5Y43TNs
昔、書いた稚拙なやつを貼ろうかと迷い中。
批評してもらいたいのですが…ただ、ちょっと、このスレ的には長いかな?
迷惑じゃないでしょうか?
多分、20レス超ぐらいになると思う…。



80U ◆Sf4YYPJJPE :2006/09/30(土) 21:31:41 ID:tjNM6ld9
よいのでは
8179 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:35:02 ID:h5Y43TNs
では…。
よろしくお願いします。
ジャンルは…自分でもよくわからんw
82『Stray Dog』1/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:37:22 ID:h5Y43TNs
四日連続で朝目覚めると同時に、もう死んでもいいだろうという意識が頭に自動的に浮かんだ。
次の朝もそうだった。おそらく明日も明後日もそうだろうとおれは考えた。
それが十三日続いてから、おれはオジイが死んだことを知らされた。

オジイは今年で九十九歳になるはずだった。オジイはいつも横になっていて、
ゆっくりとコマ送りのようにモゾモゾとしか動けなかったし、もう全然喋れなかった。
だけど、その日が来るのを絶対楽しみにしていたはずだ。
毎日オジイの顔を見ていたおれにはわかっていた。

オジイが五十九歳の時に生まれた母親はオジイが年を取るにつれ冷たく厳しくオジイに接していた。
自分がオジイから可愛がられたことを忘れているかのように。おれは何度か母親にそのことについて
気づかせようとしたが、そのたびに家の中の空気が激しく震えて、おれは自分の非力さを嘆いて、
いつも心の中でオジイに謝っていた。

まだ、オジイがおれと会話ができた頃、母親の小さい頃の話をしてくれた。
オジイは口を顔の半分くらいに大きくして笑う。
おれはどれだけ母親が愛されて育ったか何も言わずに感じていた。
オジイの話し相手はおれだけだった。
十八歳年下だったオジイの最愛の妻はおれの母親を生んでから八年後に死んだ。

オジイが死んだのをおれに知らせたのは父親だった。
いつもの気分で目覚めたおれに父親は無表情でそのことを知らせた。
その顔からは何も読み取ることができなかった。
十七歳のおれには、まだ難しかったのかもしれない。

オジイの通夜と葬儀は何の問題もなく終わった。
おれは飾られたオジイの写真を見た時と思っていたより軽い棺を運んだ時と
オジイが焼かれて天国へと昇っていった後の忘れものの骨を箸で拾う時に泣いた。
おれ以外の誰も涙を見せてくれなかった。
83『Stray Dog』2/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:38:28 ID:h5Y43TNs
全てが終わったその夜、父親と母親を中心にオジイのために集まった香典の中身を確認し始めた。
そして、香典の中の金額が判明するたびに感想が語られたり、
感嘆や失望らしき声がオジイがいた家に響いた。
「ちょっと散歩してくる」と言って家から出た。
ただ、誰もおれのその言葉は聞いていなかったと思う。

歩きながら、いつの間にか泣いていた。
オジイが天国へいってから四回目だ。オジイは小さかった頃の泣き虫のおれをたびたび叱ってくれた。
そして、「男はどんな時でも、たとえ独りの時でも涙を見せちゃいかん」といつも最後に言う。
オジイが言うには、隠れて独りの時に涙を流しても自分自身が見ているからダメだってことらしい。
おれは誰にも叱られずに、泣きながらあてもなく暗闇の中を歩き続けた。

オジイが死んだ後も目覚めると同時に感じることは一緒だった。
いや、ますますそれは大きくなってきていた。
両親はふたりとも、もうオジイのことは憶えていない。
いや、もともと存在なんてしていなかったかのように生活しているようにおれには感じられた。
やつらにとっては、四十九日法要とかそんな時だけにしかオジイはこの家に帰ってこないのだろう。

おれは度々、妄想をするようになっていた。
自分の寿命をオジイにあげることができていたら――。
おれの大好きなオジイは九十九どころか百歳を超えて、
長寿の世界記録をつくってギネスブックにだって載ることができたかもしれない。
なんたって二人分も生きるんだから。
それから数秒ほど考えて、気づいた。
仮に文字としてオジイがずっと残ったとしても、おれや両親やオジイを知っている人たちが
みんな死んでしまったら、もう実際の動いていたオジイのことを知る人は誰もいなくなってしまう。
それにもしかしたら、オジイの記録だって、いつかは破られて、
ギネスの記録から消えてしまうことだってあるかもしれない。
おれは悲しくなった。
84『Stray Dog』3/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:40:00 ID:h5Y43TNs
それ以来おれは、前から抱いている、もう死んでしまいたいという気持ちと
最近生まれたオジイのためにも長生きをしなければいけないという相反する
ふたつの気持ちに挟まれ続けながら毎日を窮屈に過ごすはめになった。

おれは十六歳になってすぐの頃に、ふたつのことに気づいた。
まず、おれという人間はどうやら、この人間社会ってやつに
上手く身を隠すことができそうにないってことだ。
要するに社会に適応することはとてつもなく自分には難しく思えた。
だから、将来間違いなくおれは苦労する。いや、苦労って表現は適当じゃないかもしれない。
だが、まあそういうことだ。
そして、もうひとつは十六歳という早い段階でこのことに幸運にも気づいたけれど、
自分が今後どうすればいいかまったくわからないってことだ。
これは、まったくもって不運なことだと言っていいと思う。
世の中には気づかない方がいいってことがたくさんある。
それ以来、おれは自分の将来に怯えるようになった。
もし、死んだらこの不安から解放されるかもしれない。
おれはそう考えるようになっていた。

毎日、死にたいのか長生きしたいのか明確な答えを出せない自分を呪っていた。
日によっておれの中のメーターの針は右へ左へとふれていた。
五十種類以上の死に方を考えた次の日には百歳になった時には、
自分はどう感じるだろうかなどと想像したりしていた。
85『Stray Dog』4/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:41:21 ID:h5Y43TNs
その女の子に出会ったのは死にたい方に針がマックスにふれていた日だった。
学校が終わったけれど家に帰りたくなかったおれは、築後何年なのか
誰もわからないようなビルばかりに囲まれた小さな公園のベンチで時間を潰していた。
おれが座っているベンチから正面に見える、この辺りで一番汚いビルの
細長い出入り口からその女の子は出てきた。
そして、狙いをつけたかのように、まっすぐにこちらへとやってきた。

女の子は今まで見た中で最高に黒くて十分な水分を保持している
少し太めの正真正銘の直毛の持ち主だった。前髪は眉毛をかるく隠すぐらいの長さ。
そして肩のあたりまで伸びているその髪の見事さにおれは目を奪われた。
また、その子は血が通っているとは思えないほどの美しい白い肌の持ち主だった。
今まで可能な限り日光に当らないようにしていたのかと思うほどだ。
だから、その肌の白とのコントラストで彼女の黒髪は余計に
おれに強烈な印象を与えたのかもしれない。

女の子は何も言わずにおれのベンチの横に座った。
おれは自分がどうすればいいのか探し始めた。
立ち去るべきか。何かこの女の子に話しかけるべきか。

女の子は無言のおれに簡単に自分を説明した。
年齢は十二歳で先ほど出てきたビルでおばあさんの手伝いをしているらしい。
おばあさんはそこで占い師をしているとのことだ。ただ、名前は教えてくれなかった。
そして最後におれに訊いた。
「死にたいの?」
86『Stray Dog』4/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:43:01 ID:h5Y43TNs
「今日はそうかもしれない」と、おれは答えた。
すると、「明日は?」と訊かれたので、「明日は長生きしたいと思うかもしれないし、
今日と同じかもしれない」と言った。

なぜおれは自分の正直な気持ちを素直に話したのかわからない。
相手が十二歳の女の子だからだろうか。
ただ、それだけじゃないような気がした。
そして、なぜおれが今日、死にたいと思っていると美しい髪の女の子が
見破ったのかもわからなかった。

おれの悩みを聞いて彼女は、「それってすごく贅沢な悩みじゃない?」と言った。
それから、自分のおばあさん――占い師の元を訪ねてきた人々が抱えていた
さまざまな悩みのいくつかを教えてくれた。

彼女が話してくれたうちのいくつかはおれの興味を引いた。
その話が本当のことなのか発想力豊かな少女の空想の産物なのかは、わからなかった。
ただ、彼女の話を聞いているうちに、おれのメーターの針は
いつの間にか真ん中の位置になっていた。

「あたし、もう帰らなくっちゃ」彼女はベンチから立ち上がった。
それから、もし良かったら自分の祖母に会ってみないか、と言った。
おれは、「ああ」と答えてから続けた。「いつ行くとかは約束できないけど」
彼女は、「いつでもいいよ」と言った。
「いつでもね」
それからおばあさんのいる場所を説明し始めた。
「さっき君が出てきたビルだろう?」
おれは訊いた。
「見てたの? そう、あのビルの三階。まあ、来ればわかると思う。目立つから」
説明を終えた少女はおれを残して例のビルへと消えていった。
後ろ姿の彼女のきれいな黒髪に天使のような光の輪をおれは見つけた。
87『Stray Dog』6/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:44:28 ID:h5Y43TNs
家に戻ったおれはパソコンのモニターの前で長寿の世界記録を調べた。
ギネスが認定している最高齢の記録は、フランスの女性のもので百二十二歳だった。
それまでは日本の男性の百二十歳が記録だったらしい。
ただ、これはギネスが認定したものであって、他の国に百四十歳を超えている人がいるとか、
そんな話もあちこちにあるようだ。もし、オジイがギネスに載るまで長生きをしていたとしたら、
おれがそれを確認するためには、まだ二十年以上も生き続けなければならなかった。
おれはそんなに長い間、自分の中でくすぶりつづける不安に耐えられるだろうか。

学校に行く回数が徐々に減っていった。
いや、正確に言うと、学校に行くということで毎朝おれは家を出るのだが、
実際にそこに到着することは少なくなっていった。
で、今まで自分が行ったことのないような場所を狂ったように歩き回った。
ただ、どこに行っても周りの風景は全部同じようにしかおれには映らなかった。

そこそこ暑い日に、ひとりのおばあさんと出くわした。
そのおばあさんは道端に胸を押さえてしゃがんでいた。
その横をたくさんの人々が通った。若いやつや中年のやつや男や女や――たくさんのやつが。
そいつらは、全員が全員、その道端の老婆の横を何ごともないかのように、通り過ぎて行く。
多分、みんな目が悪いんだろう。

「大丈夫ですか?」
おれは腰をおろして声をかけた。
そのおばあさんはおれを見上げた。その顔はシワだらけだ。
その本数を数えてみたいと一瞬思った。口が小刻みに震えていた。
白目のない小さな眼でこちらを見つめた。それから、何も喋らずに立ち上がった。
おれはその間、何も話さずに、いや、何もできずにそのおばあさんを見守るしかできなかった。
話しかけた相手はゆっくり、本当にゆっくりその場から歩き始めた。しゃがんだままのおれを残して。
多分、あのおばあさんは耳と目が悪いんだろう。
88『Stray Dog』7/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:45:39 ID:h5Y43TNs
時々、オジイの墓に行った。
オジイの墓は家からそんなに遠くない。
自転車で、飛ばせば三十分くらいのところにある。
川沿いの細い道を通り、土手の下みたいなところにおれのオジイの骨はある。
おれはそこに行ったって、何かをするってわけじゃないけれど、
別に他のどこに行ったって同じように何もすることがないから一緒だ。
なら、できるだけオジイの近くにいると感じられる場所にいた方がいいと思い、時々来る。
おれは時々、墓石の前で涙を流した。
字が刻まれた、ただの石の前で。
どんなものでも、何かの理由がつけば、人に涙を流させることができるんだろう。
おれは石を触りながら思った。
石は冷たかった。
オジイも最後には冷たくなった。
おれはまた、泣いていた。
――やはり誰も叱ってはくれなかった。

生まれて初めてタバコを吸った。
どれを買っていいのかわからなかったので自動販売機の前で何分か悩んだ。
それから、たくさん種類があることに苛立ってきた。
そんなおれを道行く人は何度かチラッと見た。何か言いたげな感じで。
ここら辺を通る人たちはみんな目がいいのかもしれない。
それか、人は学生服を着ている人間はよく見えるみたいだ。
89『Stray Dog』8/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:46:43 ID:h5Y43TNs
結局、ラクダの絵がついているやつを買った。
死ぬ前のオジイがそんな感じのを吸っていたから。
なかなかタバコに火をつけることができなかった。
おれはタバコをくわえながら、自分が買ったやつは不良品じゃないかと思った。
数分後に、ようやく気づいた。
どうやら空気を吸い込みながらじゃないとダメだということに。
それまでに四本のタバコを無駄にしていた。
新しい何かを得るにはにはそれなりの犠牲が必要だ。

咳込んだ。
それにまずかった。
それから、頭がクラクラする。
少し、吐き気もしてきた。
何で、昔、オジイが毎日何本も吸っていたのかわからなかった。
ただ、何本か吸っていけば、その内、良さがわかってくるんだろう。
おれは、気持ち悪くなりながら、一本ずつ、箱の中身がなくなるまで我慢しながら吸い続けることにした。
最後の二本を残して――吐いた。
おれは、自分の嘔吐物と残りのタバコをその場に残して、どこかへ行こうとその場から逃げ出した。

気がつくと、おれはどこかの道端に胸を押さえてしゃがんでいた。
まだ、気分が悪い。
少し、顔を上げると目の前にいくつもの靴が見えた。
小汚いビジネスシューズ、派手なサンダル、赤と黒のスニーカー、それから――。
それらの無数の靴は、規則的に動いていた。
その動きが止まることなんてない。
おれは自分が学生服を着ていることを確認した。
90『Stray Dog』9/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:47:45 ID:h5Y43TNs
毎日が不安定だ。
生きたいのか、死にたいのか。
最近、おれの中のメーターは忙しい。
たまには規則的に動いてくれ、とそいつに話しかけた。
ただ、そんな願いを無視するように、針は小刻みに、時には大きく左右に動いた。
最近じゃあ、同じ場所にとどまっていることなんて、ほとんどない。
おれは、そのメーターの動きに気をやるのに、いい加減疲れていた。休みが欲しい。
ただ、無情にも今もメーターは動いている。
今は――ちょっと死にたい方にふれてる。
唯一、おれの中で動きがないのは、不安って感情だけだ。
そいつだけはありがたいことに、最大にふくらんだままだ。
多分、それ以上、大きくなることができないんだと思う。
そして、しぼんだりする気配は全然ない。
おれは、おれを四六時中包み込むそいつにその件に関してだけは感謝した。
ただ、その後におれは、次の姿には進化しないでくれ、とお願いした。
もし、そいつがおれの願いなんて聞かずに進化して、さらにもう一段階進化したら――。
おれは、どうしていいのかわからなかった。
91『Stray Dog』10/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:48:35 ID:h5Y43TNs
犬がいる。
おれがよく通る道に。
おそらく、ノラだろう。
そいつは、おれがその道を通るとひょこひょこと後ろをついて来る。
ただ、ある地点まで来たら、それをやめてその場に座り込み、そこから遠ざかるおれを見送る。
いつも決まっている。
その犬がおれについてくるのをやめるところは。
犬にしか見えない線でも引いてあるのかもしれない。

ある日、おれはいつもの場所で座り込んだ犬の前にしゃがんだ。
それから、この犬が何歳か見当をつけてみた。
何歳だろう? 
犬のすみずみまで見たがわからなった
犬に訊いてみた。おまえは何歳か、と。
犬はおれに向かって吠えた。
答えてくれたんだろう。
ただ、やはりわからなかった。
おれたちは見つめあった。
最後におれは、年齢のわからないこの犬に妙な親近感を覚えた。
もう高齢ですぐにも死ぬかもしれない。
まだ若くて、これからまだ何年も生きるかしれない。
おれに答えてくれた犬は……そんな犬だ。
92『Stray Dog』11/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:49:34 ID:h5Y43TNs
ビルの中は薄暗かった。
そして、今まで嗅いだことのない臭いがした。
エレベーターは壊れていて動かない、と少女が言うので、
おれたちは階段で占い師の部屋へと向かった。
そのフロアは空気より埃のほうが多いような場所でおれは思わず右手を口にあてた。
ただ、すぐにそんなことをしても無意味だってことに気づいた。
周りを見回すと扉が四つあった。そのうちのひとつだけ紫色に塗られていた。
そこが占い師のいる部屋だった。

鉄製の重い扉をおれが開けると少女が横をすり抜けて中へと入っていった。
おれはその後ろ姿をその場で目で追った。
目の前には扉と同じような紫色のカーテンが侵入者を阻むかのようにかかっていて、
部屋の中は全く見えなかった。
少女は、「ちょっと待ってて」と言い、そのカーテンを少しだけ開いて、その中へと消えていった。
おれは待った。

数分ほどして、カーテンから少女の顔と右手が飛び出てきた。
そして、中へ入るように手招きした。顔は初めて見せる真面目な表情だった。
この数分の内に、彼女の年齢がいくつかあがって大人びた女性に変身したようにおれには見えた。
彼女がおれに教えた年齢は本当だったのだろうかと考えながらおれはカーテンの向こうへ進んだ。
93『Stray Dog』12/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:51:04 ID:h5Y43TNs
そこも紫色だった。
その場所は四方を紫色のカーテンで仕切ってつくられた部屋、とでも言えばいいのだろうか。
真ん中にはそれほど大きくない濃い紫色の机があり、
おれの目の前には木製の薄い紫色の椅子があった。おそらく相談者が座る場所だろう。
机の向こうには、ソファがひとつと小さな鉄製の椅子が見える。もちろん色は紫だ。
少女は机の向こう側の小さな椅子へ腰かけてから、おれに目の前の木製の椅子に座るように言った。
おれは床が紫以外の色のベージュであったことにようやく気づいて、
少しほっとしてから指示された椅子に腰かけた。
相談者が席に着いたのを確認してから少女は、「オバアー」と後ろのカーテンの方を向いて叫んだ。
おれはその呼び声を聞いた瞬間、自分の体内を血液がいつもの倍の速さで駆けめぐるのを感じた。

しかし、オバアはオバアじゃなかった。
おれはカーテン越しに少女に呼ばれて出てくる占い師を若くても五十から六十歳。
もしかしたらそれ以上だろうと無意識の内に予想していた。
しかし、実際に目の前に現れた占い師はとても若く見えた。年齢は……予想できなかった。
おれはこの部屋の紫色が何か関係あるのではないかと考えてしまうほど困惑した。
オバアと呼ばれた女性は机をはさんで正面のソファに深く体を沈めた。
94『Stray Dog』13/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:52:00 ID:h5Y43TNs
「ふうん」
それが占い師の最初に発した声だった。
そのつもりはないけれど結果として相談者の席に座ってしまっているおれを見ての感想らしい。
「で、あなたは死にたいの? 長生きしたいの?」
数秒だけの静寂のあとにやわらかい声で彼女はおれに質問した。

紫の部屋は沈黙に支配された。
おれは問いに答えずに無言でいた。
それが答えだから。
こちらを見ているオバアをおれは黙って見つめ返した。
95『Stray Dog』14/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:52:58 ID:h5Y43TNs
「ふうん」
また、オバアは言った。今度の意味はおれにはわからない。
「……なるほど」
オバアは続けて話した。占い師は答えを見つけたらしい。それから、目を閉じて瞑想し始めた。
おれは彼女の横にチョコンといる少女に目をやった。少女は俯いていた。表情は見えなかった。

おれは占い師の瞑想が終わるまで待たなければならなかった。
ただ、それは別に苦痛でも何でもなかった。
徐々におれはずっとこのまま、この状態でいてもいいとさえ思うようになっていた。

「ああ、申し訳ありません」
紫の部屋の静寂は瞑想を終えたオバアの発言によって破られた。
「あなたは相談者じゃなくて、お客様でした」
そう言ってから占い師は魅力的な笑顔をつくってから横の少女をチラリと見た。
おれはそれを見て本当にこのオバアと呼ばれる女性の年齢の見当がつかなくなってきた。
直接訊いてみようかとさえ思った。
今のおれは、この占い師がおれをここに連れてきた少女の姉だと聞かされたとしても信じるだろう。

「お詫びにひとつお話をお聞かせしましょう、お役に立てばいいのだけれど」
オバアは言った。
それから、昔、自分の所に相談に来たひとりの男性の話を始めた。

「その悩める男性がここを訪れた時のことをわたしは今でも忘れられません」
占い師はおれの了解など待たずにその話を始めた。
おれをやさしげな眼差しで見つめながら。
96『Stray Dog』15/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:54:38 ID:h5Y43TNs
オバアによると、その悩める相談者は親の残した遺産を元手に株でかなり儲けたらしい。
男性はオバアに、「働かなくても、人生を楽に十回ほどは過ごせるほど儲けた」と話したそうだ。
ただ、男はその金で土地を買い、マンションを建て――「不動産関係の仕事を手広く手がけた」らしい。
そして、それも成功して、それまで以上の大金を手に入れることになった。
それから、「一日で全体を掃除するのに、いったい何人必要か見当もつかないような家」を建てた。
そして、「何人か憶えてない」ほどの使用人を男は雇って、
次の年には、「以前から好きだった、これ以上望みようのないほどの女性」と結婚した。
さらに次の年には、「とてもかわいい男の子」を授かった――。

黙って聞いていたおれはオバアの話をストップさせた。
そして、訊いた。
そんな誰もが羨むような男がいったいオバアに何の悩みを相談しにきたのかを。
オバアは答えた。
「不安です」

おれは彼女の口から出てきた答えを自分なりに解釈しようとしたが、上手く考えがまとまらずに
数分ほどで白旗を掲げた。そして、オバアの眼を見た。
おれの思考中に黙っていてくれたオバアはゆっくりと口を開いた。
「その方は、突然、自分の財産が無くなったり、減ったりしてしまわないか心配で
心配でしょうがなくて夜も眠れない、と相談にきたのです」
97『Stray Dog』16/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:56:01 ID:h5Y43TNs
なるほど。
おれは納得した。
その、才能か幸運かあるいは両方を授かった男性は短期間であまりにも多くのものを
手に入れてしまって、自分のキャパを超えてしまったのだろう。
それで、どういう経緯でかは知らないが、ここにその問題の解決のヒントを探しに来たというわけだ。
「で、どういうアドバイスを?」おれはオバアに訊いた。
「占った結果、バランスをとるように言いました」
オバアにアドバイスをされたら、誰だって言われたようにするだろう。
時がたつにつれ体をやさしく包んでくれるようなオバアの甘い魅力的な声を聞きながらおれは思った。

その後、オバアは具体的に説明してくれた。
占った結果を踏まえて、まず、多くのものをたくさん持っているから
不安になっているということを男に理解させたそうだ。
そして、まず、財産のいくらかを恵まれない人に寄付したらどうだろうかとアドバイスしたらしい。
そして、男はそのとおりにした。少し不安が減った男が次にやって来た時にとても感謝されたそうだ。
ただ、男はまだまだ不安だとオバアに訴えた。
次にオバアはたくさんある不動産を自分が管理できる程度に減らしたらどうかと言った。
そして、男は自分の使用人たちにそれぞれ、土地といくらかのお金を与えた。
使用人たちは何度もお礼を言って男の元から去って行った。

おれは結論を早く聞きたくて先手を打って訊いた。
「なるほど。それで結局、その男性は幸せに?」
オバアは残念そうに首を横に振ってから答えた。
「わたしの占いでは、彼が幸せになるにはそれで十分だったのですが、
その男性はまたここに相談にやって来ました」
98『Stray Dog』17/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:56:54 ID:h5Y43TNs
三回目にやってきた男はオバアに、「妻がこの先、浮気をするかもしれない」と訴えた。
オバアは何か心当たりがあるのか尋ねた。
男は、「別段、思い当たるところは無い」と答えた。
オバアは占ってみたが特に男の心配が現実になるような結果は出なかったそうだ。
そして、特に心配する必要はないと男に説明したが、なかなか男は納得しなかった。
とにかく「不安で不安で仕方がない」らしい。オバアは根気強く説得したと言った。
男は無言で話を聞いていたそうだ。
オバアは最後に「今まで通りでいいですよ」と言葉をかけた。
男はその言葉を聞いてから帰った。

「ちょっと休憩しましょうか?」
そう言ってから、占い師は少女に飲み物を持って来るように指示した。
それまで全く動かなかった少女は、その声で椅子から立ち上がろうとした。
「いや、もしよかったら休憩は後にして先を続けてもらえませんか」
おれは反射的に思わずそう頼んだ。
それを聞いたオバアは立ち上がった少女の肩に軽く手をかけて椅子に座らせた。
オバアは微かに悲しげな表情を浮かべてからおれの要望に応えて続きを話してくれた。
ただ、その声は先ほどまでのそれとは明らかに違っていた。
「その男性は家に戻ってから……その日のうちに……離婚をしました。
妻と子どもを家から追い出したのです」
おれはオバアが休憩をとろうとした意味がようやくわかった。
99『Stray Dog』18/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:58:00 ID:h5Y43TNs
「今まで通りでいいですよ」
それが男にとってのオバアからのアドバイスだったのだろう。
男は今まで通りに行動したにすぎない。自分の持ち物をまた減らしただけだ。
オバアは続けて、男のその後を話してくれた。
いくらかのお金、不動産、そして莫大な慰謝料を払い家族を捨てた男は
ますます不安の沼の中に引きずり込まれていった。
そして、その後、男は自分の残った財産を全て人に与えたり、寄付したりして全て処分したそうだ。
自分の住む家までも。
最終的に男は『何も持たない男』になった。
望みどおり、何かが無くなったり減ったりする心配をする必要なんて無くなってしまった。

おれはその話から考えた。
『何も持たない男』になったその男は、最終的には自分の中に大きな荷物を
背負ってしまったんじゃないだろうか? 
それを男が処分するのはそれまでと違って、そう容易なことではないだろう。
多分……間違いない。
100『Stray Dog』19/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:58:45 ID:h5Y43TNs
「最後にその男性がわたしのところへ来た時には、彼には財産と呼べるものを
ほとんど持っていませんでした」
オバアは辛そうだった。
「その人はなんて?」
おれは訊いた。
「彼は……小さな声で……長生きしたいと言いました」
「長生き?」
「そうです。自分は長生きをしなければならないと――」
「どうして?」
「……それは教えてくれませんでした」
おれには男の長生きしたいという願望の意味がわかった。
そして……オバアもわかっていたはずだ。

それからオバアは教えてくれた。
実は男の寿命を以前に占って知っていたってことを。
その願望を聞いた時、オバアは目の前の男に残されている年月が頭に浮かんで涙を流したそうだ。
その涙を見て男も察して、占い師に自分の寿命について訊いたらしい。
迷った末にオバアは男にそれを教えた。
自分にも責任があると感じたからだとオバアは言った。
それを聞いた男は悲しむどころか笑い始めたそうだ。
おそらく……おれがその男だったとしても笑っただろう。
他に――何ができる?
101『Stray Dog』20/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 21:59:42 ID:h5Y43TNs
少女が紅茶を運んで来た。三人は渇いていた喉を潤した。
そして、少女が紅茶と一緒に持って来て、オバアに渡していた紫色の紙を
今度はオバアがおれの目の前に置いた。
それは、縦横三センチほどの正方形で何かの御札か護符のようだった。
この部屋と同じ紫色の紙に赤色で何か記号のようなものがいくつか書かれている。
「……これは?」
おれは紫色の紙切れを眺めながら尋ねた。
「それを飲むと長生きができるのです」
オバアは真剣な表情で答えて、音をたてないようにティーカップを置いた。

その紙切れを丸めて飲み込むと寿命が延びるらしい。
ただし、条件があるそうだ。
人にはそれぞれ定められた寿命がある。
この紙を飲んだ人間は、知人がその定められた寿命を全とうする前に
不幸にも――事故や災害などで――死んだ場合に、その知人の本来なら
全うするはずだった残りの寿命が自分の寿命に足されるということらしい。
要するに、不幸な知人が周りに多ければ多いほど紫色の紙を
飲んだ人間の寿命が延びるということだ。
つまり、長生きしたいのなら、いや、永久に生きたいのなら不幸な知人になってくれる人を
必死になって探し続けなければならない――。
笑顔をつくって。
102『Stray Dog』21/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 22:01:10 ID:h5Y43TNs
「わたしは彼にもこの紙の説明をしました。そして、もしよければと言って差し上げようとしたのです」
オバアはおれに紫色の紙の正体を教えてくれた後に、
『何も持たない男』との最後の場面の話を始めた。
「……彼は?」
「出会ってから、初めて……本当に曇りのない笑顔をつくってから、ありがとうと言ってくれました。
そして紙を受け取らずにこの部屋から出て行きました」
おれの問いかけにオバアは答えた。
そして、言った。
「それが彼を見た最後です」


ビルの外まで少女が見送りに出てきてくれた。
「またね」
別れ際に少女は手を振りながら言った。
「ああ」
おれは彼女の顔を見ずに答えて家へと足を向けた。

話し疲れた感じが見えたオバアはおれが帰る時、もしよかったらと例の紫色の紙をくれようとした。
おれはオバアに、「ありがとう」と心から言って、それをもらわずに部屋を出た。
おれは紫色の紙の正体がなんとなくわかった気がした。
オバアが話してくれた男も、あの紫色の紙の正体はわかっていたと思う。
だから、笑顔で、「ありがとう」と言ったんだろう。
紫色の紙は――オバアのやさしさだ。
103『Stray Dog』22/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 22:02:02 ID:h5Y43TNs
おれは家に帰っていつものように仏壇のオジイに向かって手を合わせた。
それから、今日のことをオジイに報告した。
そして、オジイが九十八歳まで生きてくれたことに感謝した。
飾られているオジイの写真がいつもとは違って見えた。

今日、オバアがしてくれた話が事実かどうかなんて考えたりするやつが、もしもいたら
おれはそいつに向かって、「クソッタレ」と言うだろう。
おれはあの話が本当かどうかなんて知りたくもない。
ただ、おれはあの男――結果的に全ての物と人を失った末に最も厄介なものを抱え込んでしまい、
それを処分する方法を探すために長生きをしたいと願った悲しい男が、
自分に残された短い時間でその荷物を捨てることができたかどうかだけは知りたいと思った。
おれは……できたと思う。
なぜなら、男は紫色の紙を飲もうとしなかったんだから――。
104『Stray Dog』23/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 22:02:59 ID:h5Y43TNs
夜になって、おれは幻想的だった今日のあの紫の部屋で過ごした時間の余韻に浸っていた。
しかし、思い返している内に、夢の中での出来事だったようなあの時間は、
死んだ後に焼かれたオジイが煙へと姿を変えて天国へ昇って行く途中に白色から透明になって
見えなくなってしまったように、徐々におれの中から消えていくように感じられた。
明日、あの場所に行ったとしても、もうあの部屋は無くなってしまっていて、
少女もオバアも、いなくなっているかもしれない。

自分を止めるためにベッドにもぐりこんだ。
それから、体の中を何かがグルグルと回って、最後に頭にある考えが浮かんで、
おれはそれを見届けてから決めた。
――明日、あの犬に会いにいこう。
いつも同じ場所で止まってしまう、年齢のわからないあの犬に。
105 ◆AX5Sy3Pedg :2006/09/30(土) 22:04:57 ID:h5Y43TNs
以上です、だらだらと連投すいませんでした。
106『Stray Dog』10.5/23 ◆AX5Sy3Pedg :2006/10/01(日) 00:25:27 ID:q8mELuaQ
※すいませんorz 途中、ひとつ抜けてましたた…。
  追加します。本当にすいません。(10の次です)



「全然来てくれないじゃない」
突然、後ろから声をかけられて驚いた。
振り返るとあの少女がいた。笑顔で。
おれは久しぶりに、声をかけてきた少女と以前に出会った公園のベンチにあの時のように座っていた。
「学校は?」
彼女の質問。
平日の午前中にここにおれがいることに疑問を持つのは当然だろう。
訊かれたおれは、逆に十二歳の少女が今ここにいることに疑問を持った。
しかし、そのことについて訊くのはやめた。人のことを詮索するのはあんまり好きじゃない。
「多分、今、授業中だろう」おれの答えに興味を示さずに少女はおれを誘った。
「よかったら、おばあさんに会ってみない? あなたのこと話したら、おばあさん、あなたに会ってみたいって」
断わる理由を思いつかなかったので、おれはその提案を受け入れた。
107飛田 ◆v1uzAWJfgc :2006/10/01(日) 08:44:33 ID:uo62Kw8C
初めて書込みさせていただきます。

>>◆AX5Sy3Pedg氏
GJです!面白い〜。なかなか読み応えがありました。
昔書いた作品との事ですが、内容に不自然さは無いし、
作法も守られているし、すっきり読ませる印象ですね。
興味を失わず、最後まで「次は?次は?」と追わせて頂きましたw
ひとつの作品として、しっかり成立していると思います。
楽しませて頂きました。乙です。
108 ◆AX5Sy3Pedg :2006/10/01(日) 22:20:25 ID:q8mELuaQ
>>飛田 ◆v1uzAWJfgc氏
わざわざ読んで頂き、ありがとうございます。
途中で抜けていたりして読みにくかったと思います。
申し訳ありませんでした。

これは、一〜二年位前に五つか六つ書いたやつの内の一つです。
一応、自分の好きな、チープな文体w
そして、テンポ感を特に意識して、書いてみたやつなので
「すっきり読ませる印象」と感じて頂けたのは嬉しいです。

わざわざ御感想を頂き、ありがとうございました。
次は飛田さんの作品を楽しみにしています!
109時任ミツル ◆9f4ADUxNOg :2006/10/01(日) 22:48:33 ID:m6T96Cxq
◆AX5Sy3Pedgさま

乙です。
酷く没頭して読んでしまいました。
はやく続きを読みたいという気持ちを煽るのに、
追い立てられるような文章ではないところが凄いと思います。
わたし個人としてはこのような作品は大好きなので、
これからも◆AX5Sy3Pedgさまの作品を楽しみにしています。
素敵な作品を有難うございました。
110時任ミツル ◆9f4ADUxNOg :2006/10/01(日) 23:37:40 ID:m6T96Cxq
変な文章を書く人間ですが、批評お願い致します。

「マリンコニア」

むかしむかし、
綺麗事をいわれたくないと反発していた
あの頃のわたしは。
もう 死んでしまったのかも、しれない。
わたしがいきていくには ああ、なんて窮屈な
鳥篭のような世界
ああ このまま目を閉じたまま、
硝子の瞳の人形になってしまえば、
あるいはしあわせになれたのかも、しれない。
むかしむかし、
よごれてしまう事をおそれていた
あの頃のわたしなら。
111時任ミツル ◆9f4ADUxNOg :2006/10/01(日) 23:38:27 ID:m6T96Cxq
戸惑うのも ためらうのも
疲れてしまったのかも、しれない。
黄昏が流れ込んでくる、窓の外を
冷たい壁に身体を預けて
わたしは何もせずに見つめている
堕天使は地獄におちてしまうのに、
わたしはいまも この白い部屋の中にいる。
むかし 誰かが、
写真のすきなひとは想い出に縋るといった。
触れるものさえないのに
縋りつくことなんて 出来るのかしら

「C'est terrible.J'ai perdu tout.」
112時任ミツル ◆9f4ADUxNOg :2006/10/01(日) 23:39:05 ID:m6T96Cxq

沈みかけた太陽の光が
わたしと繋がった 唯一の手を解こうとするから
わたし、壊れてしまったのかもしれない。
硝子の瞳の人形になってしまえば、
優しい誰かが可愛がってくれたのかもしれない。
どんな明日が待っているかなんて。
わたしはずっと、この壁に身体を預けたまま
あるいはほんとうに、人形になってしまったのかも、
しれない。

いつか飛べるようになると、信じていたのに。

「Au revoir.Belle mémoire.」
暗闇に融けてしまえるようにと、目を閉じた。
113 ◆AX5Sy3Pedg :2006/10/02(月) 01:45:20 ID:2KoI0yv3
>>時任ミツル ◆9f4ADUxNOg氏
御感想ありがとうございます。

時任ミツルさんの作品「マリンコニア」拝読させて頂きました。
洋風にほんのりと『和』がブレンドされていて
静かで霞がかかったような雰囲気を感じました。
色でいえば、乳白色のような…。
自分には、こういう作品はつくれないですね。
追憶、アイデンティティーの喪失・変化についての悲しみ――。
それが綺麗にそしてやさしくも切なく表現されている、と感じたのですが…。
変な解釈だったら、ごめんなさい。

さようなら、美しい思い出――。
(で、いいんですかねw)

最後の二行は
読み終わった後に、余韻が残り、私は好きです。

恥ずかしながら、今まで読んだことのないようなジャンル?なので
的外れな感想でしたらすいません。
それでは…。
114時任ミツル ◆9f4ADUxNOg :2006/10/02(月) 22:57:12 ID:YnhEzSFK
◆AX5Sy3Pedgさま

御感想有難うございます。
変な解釈なんて とんでもない…
短い時間で書き上げてしまったものなので、
読みづらかっただろう、と 思いますが
わざわざ目を通して頂いて、嬉しい限りです
「さようなら、美しい思い出」
はい その通りです
フランス語は苦手なので…
あまり綺麗な日本語に訳せないのですが、
わたしの書きたかった事が、◆AX5Sy3Pedgさまに
伝わっているようなので 安心致しました。
115優しい名無しさん:2006/10/04(水) 10:27:45 ID:URZ2CJbt
期待age
116U ◆Sf4YYPJJPE :2006/10/07(土) 11:07:27 ID:+0xLlRrY
とりあえずあげておこう・・・評価欲しくない人もここにupしていいんですよね
117優しい名無しさん:2006/10/08(日) 22:40:46 ID:O60JEkQ6
テーマか何かもらえませんか?
118優しい名無しさん:2006/10/09(月) 00:42:35 ID:68GnUoAd
>>117
「掲示板」
119U ◆Sf4YYPJJPE :2006/10/09(月) 20:07:50 ID:ZXgwGCCp
この3語を文章内に入れるというテーマで
「パウダー」「バール」「太鼓」
120U ◆Sf4YYPJJPE :2006/10/11(水) 02:56:19 ID:qgamDGqf
あげておく
121優しい名無しさん:2006/10/11(水) 04:19:52 ID:VVLb44lL
http://asia.geocities.com/the_air_world/

なんとなく、このサイトの小説読んで、管理人さんもメンヘラなのかなとオモタ
自殺を題材にした小説もあるし
122U ◆Sf4YYPJJPE :2006/10/11(水) 04:57:16 ID:qgamDGqf
このタイプは構ってなのかわかりにくいけど更新が停止してるから本当にやばそうだ
123すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/10/11(水) 21:56:41 ID:IQPqYNGK
過去の作品見つけた。あくまでもマイペースにうp
確か「約束」がデーマで「指輪」と「アキバ系」をキーワードにしろという掌編コンテストだった気がする
推敲してる間に募集期間すぎてたから投下
-----
    アキバの恋の物語

 私の恋人はいわゆるアキバ系だ。
 そのことを知るまでには幾分かの時間を要することとなる。

 あれは新入社員だった私が大きなミスをやらかしてしまい課長に手を上げられたときのことだった。同僚たちがみんな事なかれ主義で見守る中、
特に親しかったわけでもない彼だけが自分の進退も省みず身を挺して私のことを庇ってくれた。
「どんな理由があろうとも、女の子を殴るなんて行為を許すわけには行きません」
 思えばあのときから私は彼の優しさ・ひととなりに惚れていたのかも知れない。恋は盲目とはよく言ったもので、それは私が彼の独特な口調や行動を意に介さないのに足る条件だった。
 すべてを悟るのは初めて彼の部屋を訪問したときのことである。
 そのときの衝撃は筆舌に尽くしがたい。地平線を埋め尽くすのはナポレオン軍のごときフィギュアの軍勢。自作機という優秀な軍師を三体も抱えた彼らの行軍は一糸乱れず悠然としており、
偉大なる指導者たるDVDプレイヤの再生速度はまさに疾風のごとし。戦意高揚のために掲げられたアニメポスタにカレンダは蛍光灯の光を受けて誇り高く輝いており、傍らには従軍慰安エロゲにギャルゲ。抱き枕までがそっと横たえられている。
 私は目眩を起こしてその場に倒れ込んだ。
「大丈夫! 有紀ちゃん」
 そんな私を彼はそっと支えてくれる。あの日から変わらず彼は優しい。
 私はそんな彼のことが大好きなのに……流石にこれだけはいただけなかった。
「大丈夫、ちょっと立ち眩みがしただけ」
「そうか、怪我もないみたいだしよかったよ」
 彼は私の顔についた汚れを払って、心の底からと思える安堵の嘆息を漏らす。
「それよりもお願いがあるんだけどさ」
「なんだい?」
「このオタクグッズ……処分できない?」
「え……!」
 彼の表情を動揺の色が走る。
「私ってこういうの苦手な人なんだよね」
「そんなあ。いくら有紀ちゃんの頼みでも『萌え』は僕にとってアイデンティティというか生命むしろ魂そのものだし、僕という人格を形成する上でも必須アイテムというか、
要するにこれらを全部片づけろというのは死刑宣告も同然というわけで……」
 彼は顔を真赤にして通常の三倍の速度で語り倒す。
「いいのよ。無理にとは言わないわ」
「認めてくれるってことかい?」
「それはちょっと無理かもしれない。そもそも私はこの部屋に上がる勇気がないし」
 そしてしばらく話し合って、この日は外食をするだけに留めた。
 その影で私は密かに三ヶ月待とうと決心していた。三ヶ月経っても改善が見られないようならば、私たちにはそもそも縁がなかったと割り切って別れよう――そう心に誓った。

 それから二ヶ月と三週間が経過して、私は再び彼の部屋を訪れる機会を得た。
 高鳴る胸の鼓動を抑えてそっと部屋の扉を開くと、そこにはいささか殺風景と評しても構わないくらいに何の変哲もない男性の部屋が広がっていた。ナポレオン軍は壊滅していた。アキバの香りはもうどこにもない。
「あれは……全部仕舞っちゃったの?」
 予想以上の結果に私が思わず問うと、彼は苦笑いしながら答える。
「そうなんだ。実はね、もう萌えなくなっちゃったんだ」
「萌え……どういう意味?」
「なんでだろうね。僕にもあんまり分からないけれども、あの日以来どんなアニメキャラやゲームキャラよりも有紀ちゃんに対してしか萌えを感じなくなっちゃったんだ。そして多分これからもね」
 彼はポケットに手を突っ込む。
「約束するよ。僕は一生君だけに萌え続けるって」
 目頭に思わず熱い物が込み上げてくる。
「グッズを処分したお金で買ったんだけれども、受け取ってくれるかい?」
 そう言って彼はポケットから手を取り出す。そこには指輪が握られていた。
「喜んで……」
 本格的に視界が霞んできたので、涙を拭うために眼鏡を外す。素顔が露わになる。そのとき彼の顔に浮かんだあからさまな失望の表情は、ハンカチをあてがった私の瞳には映らなかった
124優しい名無しさん:2006/10/12(木) 05:08:03 ID:/28JB0ry
>>あるみ氏
いつも投下ありがとうございます。

クサくてベタな恋愛話・・・と思いきや最後のどんでん返し。
O.ヘンリーの影響もろに受けてますね。
どことなく文体も翻訳調。
ただ、どんでん返しに無理があるような気がします。

よくなったらまたしっかり練った小説かいてくださいね。
のんびり待ってます。
125U ◆Sf4YYPJJPE :2006/10/15(日) 21:15:16 ID:eW3niE+p
あげる
126U ◆Sf4YYPJJPE :2006/10/18(水) 18:48:09 ID:6mG3TC4h
あげておかないと消えてしまうな
127優しい名無しさん:2006/10/22(日) 02:57:36 ID:bxCEic5G
保守
128優しい名無しさん:2006/10/27(金) 08:35:33 ID:3DpqkWy8
保守
129優しい名無しさん:2006/10/31(火) 22:34:51 ID:mUK7XH83
130優しい名無しさん:2006/10/31(火) 23:34:54 ID:0rve1xE1
ブーンが精神病になったようですの小説って更新されないのかな
131センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:09:54 ID:ZHWdmQNm
生きた証を残しにきました。お目汚しですみません。以前、恭助という名で投下させて頂いてたモノです。
「街灯」…未完のままで終らせる事になりました。事情により、執筆を断念せざるを得なくなりました。
待っていてくれていた方が…もし、いるのなら、心よりお詫びします。

申し訳ありませんでした。最後に、二つの話を残していきます。
132センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:14:52 ID:ZHWdmQNm
〜途切れた家族〜

 ごく普通な一般家庭の食卓。テーブルの上にはトーストとコーヒーが並んでいた。
「…おはよう」
俺の言葉に返ってくる言葉はなかった。父親らしき男は視線を新聞に向けたままピクリともしない。無造作にトーストを頬張り、コーヒーを流し込んでいる。
「…」
母親は言葉無く、父を見つめた。その視線から逃げていくように、父は食卓を後にした。詳しい事は知らないが、父は会社でもうだつの上がらない窓際社員だそうだ。家でもうだつが上がらず、威厳も無い。
「(ったく、何か言えよ…)」
父は恐ろしく無口だった。父の声を聞いたのはいつの事だろう?もう、何年も昔の事に思えて仕方が無い。その日もいつもと変わらない朝。そんな平穏な朝が音も無く、無常にも崩れていくとは思いもしなかった。
「…行ってくるよ」
「へ?」
珍しく父が口を開いた。今思えば、これが合図だったのかもしれない。そんな事とも知らず、いつもと同じに平凡な生活を俺は望んでいた。
「あら、珍しいわね。お父さんが口を開くなんて…っと、いってらっしゃい」
「…いってらっしゃい(何だよ、喋れるんじゃねぇかよ)」
少しだけ変わった平凡な朝は、こうして終わりを告げた
 その夜、食事を済ました俺は自室にていつものようにくつろいでいた。
「ただいま。母さん、あいつは部屋か?」
少しだけ開いていたドアから帰ってきた父の声が聞こえてきた。
「(っだよ、俺に用でもあんのか?)」
特に反抗していた訳でもないのだが、父の存在は正直煙たかった。呼ばれるのも嫌な気分だった俺はゆっくりと重い足取りで階段を下り、父のいるリビングへと向かった。
「…来たか」
「…声が聞こえたからさ(ちっ!来たかじゃねぇだろ、来たかじゃよっ!)」
父はいつもとどこか違っていた。どこかと聞かれれば返答に困ってしまうが…どこかが違っていた。
「で、何?何かあるんだろ?」
父は普段飲む事のないウィスキーを片手に上機嫌だ。俺に視線を向けると…とんでもない事を言い始めた。
「…父さんな、今日付けで会社辞めてきたんだ」
「へ?ちょっ…」
俺の言葉を無視するかのように父は言葉を続けた。
「だけどな、父さんは後悔してないんだ。お前に黙っていた事は申し訳ないと思っている。まぁ、母さんには話していたんだけどな、はははっ」
「?(って、笑ってんじゃねぇよっ!おいおい、どうすんだよ…)」
黙るしかない俺を尻目に、父は言葉を更に続けた。
「家も買い手が付いている。新しく住む場所も、町も決めてある。反対は許さない。新しい町でもう一度やり直すんだ。もう一度家族を作り直すんだ。文句があるなら出て行くと良い。多少の援助はしてやる。最初だけはなっ!もう一度聞く、お前はどうする?」
「…行くしかねぇだろ(断れねぇつぅのっ!)」
「よしっ!なら決定だなっ?早速、荷物をまとめておけよ。明日、明後日中に出発するからなっ!」
「!!(ちょっ、早ぇよっ!うっわぁ〜、最悪じゃねぇか…)」
そんな事を思いながらも、俺は何も言う事も、する事も出来なかった。俺はそんな中で得もいえない歯がゆさを感じていた。
 
133センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:15:40 ID:ZHWdmQNm
そして、引越し当日…
「(この街とも今日でおさらばか…思えば、何もなかったな)」
「始ぇ、お前にお客さんだ。可愛い女の子だぞ、お前も隅におけんなぁ?ん?」
「え?(女?そんな知り合いいたか?ったく、誰だ?)」
不思議そうな顔をし、玄関へと下りていくと…同じ学校の制服を着た女が立っていた。だが、その顔に見覚えは無い。女に興味が無い訳では無いのだが…
「…えっと(誰だ?誰なんだ?こんな可愛い女うちの学校にいたか?忘れるはずが…)」
「突然来ちゃって、ごめんなさい。でも、今日じゃないともう…」
俺は不思議だった。こんな可愛い女の子が俺の前に現れる事が…
「それはかまわないんだけど…ごめん、誰だっけ?マジでわかんねぇや。ホント、ごめんな」
「えっ、あっ、いえ、良いんです。こうやって話すのは、初めてですから…」
「初めて?えっと…」
「私、ずっと見てたんです。貴方の事をずっと好きだったんです。御手洗先輩…」
「後輩か…一年生?で、名前は?」
「あっ、ごっ、ごめんなさいっ!私ったら…佐伯って言います。佐伯 翔子です」
「佐伯…さ・え・きっ!?もしかして、佐伯先輩の妹さん?」
「兄の事は知っているんですね。ふぅ、そうです…兄は亡くなりました。半年前、交通事故で…私の両親も一緒に」
「…」
俺は言葉を失った。先輩が死んだ事にも驚かされたが、ドラマのような悲劇に見舞われた彼女の境遇に言葉を失ってしまった。俺が沈黙を続けていると、後ろで見ていた父がとんでもない事を口走った。
「始ぇ、話は終わったか?そろそろ出発するぞ…翔子ちゃんも準備出来たよね?」
「いっ?」
「おいおい、何を不思議そうな顔をしてるんだ?聞かなかったのか?」
「…何も」
「…まだ、言ってないんです…ごめんなさい、おじ様」
俺は、益々混乱し始めていた。二人の言っている意味が今一理解が出来ない。
「?(準備ってどういう事だ?…つーか、おじ様って)」
「はっはっはっはっはっはっはっはっは、無理もないな。始、翔子ちゃんは私達の新しい家族だ。ちょっとした訳があってな、引き取る事になったんだ。まぁ、年も近い事だし…仲良くしてやってくれ」
「…」
俺にはもう、どうする事も出来なかった。俺の意見など聞き入れてはもらえないだろう事は、わかっていた。
 四年後、親父の思惑通りにいったかはわからないが…ほぼ自給自足に近い生活の中で、俺達家族は着実に修復されていった。畑を耕す俺の横で、少しだけ成長した翔子が笑顔を見せている。
「(まんまと乗せられたな…)」
俺は戸惑いを感じながらも、不便なこの生活を楽しんでいた。朝日に祝福されていると思いながら…

〜途切れた家族〜完〜
134センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:19:06 ID:ZHWdmQNm
〜桜の涙〜

〜序章〜腐春〜

……グシャ
駅の路地裏。そこから、何かが潰れる鈍い音が微かに聞こえた。二つの影…二人の学生。対照的な姿でそこに存在を示していた。一人は立ちすくみ、一人は頭を踏みつけられ気を失っている。
立っている少年は、表情を変える事無く足に力をこめた。
「…ふぅ」
息を漏らすと制服の内ポケットから煙草を取り出し、火を灯した。
「…ふぅ」
二度目の溜め息。煙草を咥えたまま、気を失っている少年の懐をまさぐった。取り出したのは…真新しい長財布。
「ファイトマネー…ちぃっ、くだらねぇっ!」
自らが発した『その言葉』に、嫌悪感でも抱いたのだろうか…吐き捨てるように唾を吐く。その瞬間…顔が醜く歪んだ。氷のごとく凍てついた顔が、怒りに満ち溢れ歪んだ。まるで、溶け出した氷の中に炎が燃え盛るように。
 彼は、全てを理解していた。全部、わかっているのだ。これがどういう事かも、どんな結末を生むかも…わかっていた。
「…行くか」
奪い取った金を握り締めると、足早に路地を後にする。時刻は、昼を過ぎた所だ。季節は冬。少年の心にも凍てつく冬の寒さと深い闇が覆っていた。少年の心…精神は、完全に腐敗していた。腐敗しきっていた。
 駅のトイレへと向かう少年。手には大きめの鞄が握られている。個室に飛び込み、着替えを始めた。黒いロングコートに身を包んだ姿には、少年の面影は無い。着ていた制服を鞄に詰め込み、外へと飛び出した。
コインロッカーに鞄を押し込み、町の中へと紛れ込んでいく。そして、ある場所へと向かっていった。その場所は、少年の数少ない居場所でもある『パチンコ店』。
…ウィーン…
入り口のドアが開くとともに、けたたましい音楽が耳に襲い掛かってくる。少年は、迷う事無く、スロットコーナーへと突き進んでいた。何台かの様子を見ると、席に着く。そして、慣れた手つきで紙幣を機械に入れ、コインを手にする。
三枚のコインを投入、レバーを叩き、三つのボタンを押す。繰り返しだ。金は…先程、奪い取ったものだ。それを当たり前のように機械へと飲み込ませていく。
 …いったい、何度の繰り返しが行われたのだろうか?店の外は日が傾き、今にも落ちんとしていた。時計の針は、六時四十分を指している。台に備え付けの灰皿は、溢れんばかりになっている。少年は、ふと時計を見上げた。
時刻を確認するなり、増えたコインを運ぶ。換金する為に…
 常識的な事ではあるが、十八才未満の賭博行為は法律にて禁じられている。無論、成人前の飲酒・喫煙もだ。だが、それらを当たり前のように目の前で破られている。その姿は…まるで何かから逃げ出しているかに見えた。
 換金を終え、何事も無かった様に増えた金を握り締めていた。再び、路地裏に転がり込んでいく。そこにはもう、誰の姿も無い。街灯の光…一寸の光すら届かない暗闇だ。そんな闇の中で少年は、潰れた箱に残った最後の煙草に火を灯す。
地べたに座り込み、煙草を貪る姿に若さは…生気すら感じ取る事は出来ない。生きる事も、死ぬ事も『同じ』事だとでも言いたげだ。
 ―煙草を吸い終え、何事も無かったかの様に…いや、むしろ晴れやかだ。まるで、人が代わったかのごとく嬉々とした表情で駅へと向かっていく。

しかし、私服に着替えた時もそうだったが、まるで顔つきが違う。その様は、いくつもの精神が共存しているかに見えた。…これまでの行動は、精神を病んでいるからこその所業なのであろうか…
135センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:25:34 ID:ZHWdmQNm
〜第一章〜変異〜

―ピンポンパンポーン…
「まもなく二番線に、普通列車、浜松行きが参ります。危険ですので白線の内側へとお下がりください」
小さな駅のホーム、機械じみたアナウンスが聞こえてくる。ホームには、学生服姿のあの少年が咥え煙草で立っている。彼はあからさまに避けられていた。
周囲に近づく者は誰一人いない。無論、声をかけてくるものなどいるはずは無い。
他の学生やサラリーマン達が、少年のモラル無き態度にひそひそと声を漏らしていた。煙草を吐き捨て、周囲の者を睨み付ける少年。
その今にも襲い掛からんとする視線に、皆が目を逸らしていた。
…プシュー
電車のドアが開き、誰もが早足で駆け込んでいく。少年も同様だ。少年は、ドアのすぐ横…長椅子の端に腰掛けた。勿論、車内に声をかけてくる者はいない。
―ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!
「普通列車、浜松行き。まもなく発車いたします。尚、駆け込み乗車は非常に危険ですのでおやめください」
―シュー、ガタッ、ガタンッ、ゴトッ…
車内にアナウンスが流れると同時に、列車が動き出す。黙ったまま…流れていく景色をじっと見つめる少年。毎日見ている代わり映えのしない風景。川を、町を過ぎ…電車は進んでいく。
 いくつかの駅を過ぎた頃、車窓からの景色を眺めるのに飽きたのか…視線を逸らしていた。そして、おもむろに鞄から一冊の本を取り出す。本のタイトルは、「冬夏草」。学園を舞台とした恋愛小説だ。
正直、本を読んでいること自体…本の内容が、彼の今までの言動には似つかわしくない様に思えてしまう。
―表情一つ変える事無く、文字を追い続けている。読むというよりは、憶えていっているといった様子だ。その本を読む姿には、先程まで見せていた刺々しい雰囲気は影を潜めている。
文字を追い続けるだけの目からは、異様なまでの冷静さ…冷酷さが見受けられた。
―キィィィィィィィィィィッ、ガタッ、ガタンッ、プシュー
「当車両は、新快速「豊橋行き」との待ち合わせのため、十分ほど停車いたします」
列車内に、停車を告げるアナウンスが流れる。大半の乗客が列車を乗り換えようとする中、少年は微動だにしない。先を急ぐ乗客達を尻目に、本を読み続けている。時刻は、八時二十分。余裕があるとは思えないのだが…それでも時計すら見ようとはしない。
彼は、どこかが違っていた。物が入っているとは思えないほどに薄く潰れた鞄。
長く伸ばされた前髪は、自分の顔どころか…心さえも覆い隠していた。その姿は、『不良』や『ヤンキー』と呼ばれる者達とは違っていた。だが、その目つきは普通ではない。何とも近寄りがたいオーラが発せられていた。
136センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:28:13 ID:ZHWdmQNm
―そうこうしている間に再び列車は走り出す。車両に人気はほとんどと言っていいほど少なくなっていた。彼以外の乗客は…年老いた夫婦のみ。二人は、穏やかな表情で話をしている。老夫婦をじっと見つめる少年。
彼の耳には、会話の内容は聞こえてこないのだが…じっと耳を傾けていた。楽しげに会話を続ける二人を羨むかの様に…
 列車は、彼の目的地へと到着した。駅のホームには…数人の学生が立っている。列車の到着を、今か今かと待ちわびている様だ。
―ガタッ、ガタンッ…プシュー…
列車の扉が開くと共に少年の足がホームに着く。と同時に…見るにも明らかな不良学生が取り囲む。
「…手前ぇが田村か?ちょっと来てもらおうか…話がしたいって奴がたんまりといるんでなっ!言っとくが、逃げらんねぇぜ?」
不良学生の一人が、声を高らかに叫びあげた。金に限りなく抜かれた髪色。腰まで低く吊り下げられた太いズボン。正直、格好良いとは言えない風貌だ。金髪の少年が、『田村』と呼びつけた少年に剥き出しの敵意を突きつける。
が、当の本人は…訳がわからないと言った様子で不思議そうな顔をしている。
…電車に乗っていた時とは、まるで顔つきが違う。少女の様な媚びた目つきで、悪戯な笑みを浮かべている。仕草も心なしか女性っぽく感じてしまう。職業オカマ(演技)のそれとは違う。
そして、開口一番…キーの高い声で高らかに笑いあげていく。
「あははははははははははっはっはっ♪何それぇ〜、新手のナンパァ?つか、マジ?」
田村と呼ばれた少年(少女?)は、敵意を放つ不良少年達を茶化した。彼らは、その言動に怒りをあらわにする。次の瞬間…青筋を額に走らせ、田村に力任せに殴りかかっていく。
「カッチーンっときたねぇ…おらっ!」
大きく振り上げられた拳は…届く事はなかった。拳は…面前で払い除けられ、顎を思い切り手の平で思い切り突き上げられている。…若干ではあったが、金髪少年の体が浮き上がっていた。それ程の衝撃が、金髪少年の体に走ったのだろう。
ゆっくりと、スローモーションの様な動きで崩れ落ちていく。
「あっ…やっば〜、モロ?モロに入っちゃった?ん〜、突然襲い掛かってきたのは君なんだから…正当防衛?って、訳には…いかないみたいね」
相手を気遣いながらも、迫り来る次なる客の気配を感じ取っていた。彼女の背後には、階段。その先をじっと見つめていた。そこからは…数人の不良少年の仲間と思わしき者達が、ざわめきながら降りてきた。
「あきらぁ〜、まだかてぇ?いーかげんに連れてこいやっ!」
「ばーばー(愛知県三河地方の方言で『とても』の意味)遅いげー。はよせなぁ」
「……」
帰りを待ち侘びていたのであろう。苛立ちを募らせながら歩み寄ってくる。
「うっわぁ〜、またまたやっば〜…流石に逃げらんないかなぁ。数多すぎだって!!」
彼女の独り言をよそに、蹲っている金髪少年を新しい団体は取り囲んでいる。
「あきらぁ、何しとんだってっ?」
「うっわー、ばーばーダサいげぇ」
「…ふんっ!」
数は六人ほど…蹲っている金髪少年を手荒く起こしている様だ。中には、蹴りを入れている者もいる。どうやら、視線は彼女から外されている。絶好のチャンスではある。
「えっ?あっ?…チャンスって奴?…逃げちゃおっ!じゃぁねぇ〜んっ♪」
137センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:30:12 ID:ZHWdmQNm
踵を返す田村。不良少年達を尻目に、一目散に走り出した。その姿に気づかれる事も無く、上手く逃げ出す事が……出来ない。逃げ出す直前、一斉に顔を上げた不良少年達は田村を追うが為だけに走り出してきた。
「待てや、コラッ!」
「何、逃げてんだてぇ…あぁっ!?」
「逃げらんねーぞっ、おいっ!!」
「た、田村ぁーっ!!」
迫り来る、敵達。必死の形相で逃げていく田村。
「って…うっわぁー、マジかよ?」
…後ろを振り向き、呟いた田村に…悪戯っぽく笑っていた少女の面影はない。
「…何で?つか、何で追われてんだよっ!ったく、まいったな。……相変わらず…めんどくせぇ事してくれんぜっ!!…ハァハァ…留雨か?…ハァ…ハァ…未琴かぁ?…ハァ…あんのっ、トラブルメーカーがぁっ!!
…ハァハァ…尻拭いは俺かよっ!ちくしょー!!」
全速力で階段を駆け上がり、叫び散らしていた。その内容は、先程までの自分自身を指しているのであろうか…叫んだ名前の中には、女性らしき名前も入っている。
 長く続く橋を駆け抜け、転げるように階段を下っていく。その先に見えたのは、人気の無い駐輪場だ。走り続ける田村の前に一人の少年が立ちはだかる。
「はいっ、しゅ〜りょ〜う!!俺等の連携なめちゃいかんよ?」
……チィッ
立ち止まざるを得なくなった田村は、小さく舌を鳴らす。田村の表情は、再び変化を見せていた。電車の中にいた時と同じ…そう、いつかの険しい顔つきをしていた。今にも飛び掛らんとする目つきで、少年を睨みつけている。
「何だ、手前ぇは…っ!?」
深く、ドスの効いた声を唸らせる。
「なんだぁ?…聞き捨てならねぇなっ!た…っ!?…いっ?ぐあっ!?」
―ガッシャーンッ!!!!!!
激しい落下音とともに少年の言葉は、遮られてしまう。少年の言葉は終わった…いや、終わらされたのである。蛙が潰れるような声を出した主の上には…一台の自転車。突然の出来事に避ける事も出来ず、無様に潰されてしまった様だ。
少量ではあったが…頭から血を流し、気を失ってしまった。
―ザッ…ザッ…ザッ…
足を引きずる独特な歩き方で、倒れこんだ少年に近づいていく。面前にしゃがみこむと、そっと手を伸ばした。伸ばした先は…二本の少年の指。それをしっかりと握り締め…。
―ミシッ…ミシッ…ピキッ……ベキィッ!!!!!!
握られた指は、あらぬ方向へと向いている。本来、曲がってはいけない方向に…指を折った当人は、薄っすらと笑みを浮かべていた。その姿に、恐怖と異常さを感じずにはいられなかった。
「はははははははっははっはははっははははっははははっはははっはっははっはははっははははっはははっははははっはあっはhっはっははははははっはあはあははは!!!!!!!!!」
突如として、狂ったように笑い上げた。折れた指を押さえ、痛みに悶え苦しむ姿を指を指しながら笑いあげる。
「ひっ…ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
あろう事か…田村の足は、折れた指を更に踏みつけた。スニーカーなどではない。鉄板入りの底の分厚いブーツでだ。一切の躊躇を見せず、思い切り踏みつけた。痛みに酷く歪む少年の顔。ニヤニヤと笑い続ける田村の顔。…異常だ。
 その光景を、少しだけ離れた場所で見ている者達がいた。…追いかけて来た不良少年達だ。動く事も出来ず、ただただ傍観するだけしか出来ないでいた。
「おいおい…イカレてるよ…」
「ちょっ、やべぇんじゃ…ねぇの?」
「……」
―地獄絵図…少々行過ぎた表現かもしれないが、少なくとも…傍観する彼等の頭には、その言葉が浮かんでいた。
 当事者の田村は、悶え苦しむ少年に蹴りを入れながら、傍観しか出来ない彼等に笑みを浮かべていた。
138センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:33:54 ID:ZHWdmQNm
〜第二章〜「孤独」〜

 あの凄惨ともいえる出来事から、数日が経過していた。噂というものは早いもの。尾ひれ、背ひれが付いて、瞬く間に知れ渡っていった。だが、田村自身…それに気づく事無く、いつもどおりの登校をしていた。
…彼だけが、『いつもどおりの登校』だった。
「おはよう…前田ぁ?」
朝の挨拶を交わし、誰かの名前を呼んでいた。が、それに応えるものはいない。
「(…ん?何だよ、感じ悪ぃな)」
クラスの者たちは、誰一人として目を合わせ様とはしない。明らかに避けられていた。
「おっ、伊藤ちゃんっ♪これ、返しよくよ。あんがとっ、けっこう面白かったよ」
手には、いつか読んでいた本が握られている。伊藤は、それを受け取ると…少しだけ迷惑そうな顔を見せた。田村が話しかける事そのものが、迷惑だと言わんばかりの態度だ。
「えっ?あ、ああ、そうだった」
ひったくる様に本を受け取ると、あからさまに目を逸らした。
「(あぁっ?おいおい、俺が何かしたか?)」
―異常なまでに静かだった教室内が、田村の登校を起にざわつき始める。
「………」
「…来たよ」
「…よく来れるよねぇ?」
女生徒達が、ヒソヒソと田村の話をしている。その声に気づき、チラチラと見ていると…
―キーンコーン…カーンコーン…
ガラッ、ガラガラガラガラガラガラッ…
「うっし、席着けよー!さてと、早速だが…田村ぁ、ちょっとお前来いや」
入ってきたのは、クラスの担任。身形は…お世辞にも綺麗とは言えたものではない。口許や顎には、汚らしい無精髭が蓄えられ…ネクタイは解け、シャツがはだけていた。その姿からはとても…教師と言うものは想像しえない。
眼鏡の奥に光る目は、明らかに生徒達を見下していた。
 教室に入ってくるなり、田村を呼びつけた。口調はかなり荒々しいものだ。呼びつけられた当人は、不可思議な顔をしたまま席を立つ。そして、長く伸ばされた前髪を両手でかき上げながら、ゆっくりと教卓へと進んだ。
「(…またか、周りの雰囲気といい、やっぱ何かしらやらかしてるみたいだな)」
他の生徒達は、絶対に目を合わせようとはしない。チェスの駒の様に、席に着いたまま真っ直ぐと前を見つめている。微動だにしない。まるで、揃えた様に全員がそうしていた。
「…何すか?」
田村の明らかに好戦的な態度に担任は、眉をしかめ、睨みを効かせた。
「相変わらず…ふてぶてしい態度だな?…ふんっ、とりあえず廊下に出ろっ!」
強い口調のまま田村の腕を引き、廊下へと連れ出した。恐らく、観念しているのだろう。抵抗する事無く、その行為に素直に従った。連れ出される田村を見送る生徒達は、黙ったままで身動きすらしない。
異様と思えるほどの空気が教室内に流れていた。
「さて、何で呼ばれたのか…わかっているよな?やったのはお前なんだろ?答えろ、田村っ!」
一方的な質問に、更に不可思議な表情を見せる、田村。
「何の事を言っているのか…さっぱりわからないんですけどねぇ。まぁ、何かしらの事が起きているんなら…そうなんじゃないんすか?まっ、物的証拠でもあればの話ですけどね?」
肯定も否定もしない…田村は淡々とした様子で語った。その行為は、担任の不信感を更に煽っていた。
139センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:35:52 ID:ZHWdmQNm
「証拠?お前以外に誰がやるっていうんだ?まともに登校すら出来ないクズがっ!!」
まくし立てる担任を睨み付ける訳でもなく、黙ったまま見つめた。ほんの少しだけ…口許に笑みが浮かんではいたが。それは、更なる担任の怒りを買ってしまったようだ。
「おい、何がおかしい?」
「いやいや、一教師たる者が…自身の感情のみで動いているのが面白かっただけですよ。何があったのかは知りませんが、証拠も無いのに決め付けは…」
…ガッ
担任の手は、制服の襟首を強く掴む。ものすごい形相で睨み付けると…
「おいっ!?あまりふざけた態度をとるなよ?絶対に掴んでやる…もういい、教室に戻れや。話にならんわっ!!」
突き飛ばされた田村は、ニヤニヤと笑みを浮かべた。
「へいへい、わかりましたよっ♪はははははっ」
高らかな笑い声を上げながら、教室へと戻っていった。誰も声をかける事は無い。誰も声をかける事が出来なかった。壊れ始めた…壊れた少年にかける言葉など…誰も見つけられない。見つけられないでいた。この日を境に、クラスとの決別が決定的なものとなってしまった。
―少年…田村の心の中には、信じられる言葉も…信じられる人も無くなっていた。一人を…一人になることはわかっていた。いや、望んでいたのだろうか。ただ、落ちていく自分の姿をしっかり受け止めていた。薄れていく記憶、身に覚えの無い行動…彼は気づいていた。
変えることの出来ない現実を叩きつけられていたのだから…認めざるを得なくなっていた。
数々の暴力事件、恐喝、窃盗、不特定多数(同性を含む)との肉体関係等…噂が一人歩きしていた。…いや、噂などではない。全てが現実、事実なのだ。少年の心は、一人歩きしていた。自らの意思とは無関係に動き続けていた。そう、少年の体を使って…
140センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:38:58 ID:ZHWdmQNm
〜第三章〜「ある出会いの形」〜

雪のちらつく肌寒い午後、田村はある場所へ向かっていた。その姿は…まるで、魂の抜け落ちた死人。足元はおぼつかず、目は死んだ魚のようだ。そして、さ迷う様に歩いていた。だが、着実に…目的地を目指していく。
「(もう……行くしかねぇのか…行くしか)」
深い溜め息を吐き、空を見上げた。灰色に染まった空からは、無数の白い粒が降り注ぐ。少年…田村は、目を逸らす事無くそれを見つめた。肩や頭に積もった雪を振り払う事無く、空を見上げ続けた。
……五分ほど立っただろうか…前を見つめ、再び歩き始めた。制服を着ているが、向かう先は学校ではない。そんな田村を…チクチクと刺す様な視線が襲う。無理も無いのだろう、こんな平日の昼間かに制服姿の学生が歩いているのだから。
「最近の子は怖いわねぇ。見た目が普通な方が危ないのかしら?」
「あんまり見ない方が良いわよ。何されるか、わかったものじゃないんだから」
「そうよ。ほら、危ない目つきしてるわ」
「そうよねぇ、家の子にはああはなってほしくないわね」
その声は、あからさまに…聞こえるように発せられていた。数人の主婦達は、チラチラと様子を伺いながらも罵倒を続けた。当の本人はと言うと、それに気づきながらも突き進む。
「(何もしねぇ…何もしねぇよ、馬鹿野郎…)」
冷静ともとれる表情とは裏腹に、激しい葛藤が心の中で蠢いていた。それは…罵倒に対する怒りでもあったが…何よりも、自分の存在や意味に対するものだった。自分が誰なのか、自分の存在は何なのか…それら全てがわからなくなっていた。
彼の心の中には、見えない大きな壁が取り囲んでいた。
…そうこうしている内に、目的地に着いたようだ。そこは、大きな総合病院。自らと向き合うためなのだろうか…
「(ついに来ちまったか…これで俺も…仲間入りか。…このまま生きていても仕方ねぇし…帰るか?…いや、行くしかねぇよな…これ以上あいつを一人にする訳にもいかんしな。…そうだな、行くしかねぇんだ)」
覚悟を決めたのだろう。ゆっくりとした足取りで、受付へと足を伸ばす。
「すいません、ちょっと尋ねたいんですが…」
その言葉に笑顔で受付の女性は応える。様々な人が出入りする、大病院。田村の様に、一人きりで来院する学生など珍しくも無いのだろう。非情に淡々とした対応だ。
「はい、なんでしょう?」
「あっ、っと、精神科ってのは…どこに行けば良いんですかね?」
「はい、精神科…初診ですか?それでしたら、まず…」
「……」
「……」
案内を聞き、そそくさとその場を後にする。そして、案内された場所へと足を向ける。
 精神科の待合室。そこには、様々な顔ぶれが並んでいる。若い子供連れの夫婦や四十代半ばの営業マンらしき男、初老の男性、それに付き添う妻らしき女性…中には、田村よりも明らかに若い者もいる。
「初診の方ですね?お手数ですが、こちらの問診表に記入をお願いします」
声をかけてきたのは、中年の看護婦。笑顔を見せながら一枚の紙を渡してきた。
「わからない事があれば何でも聞いてくださいね。書き終わったら、あちらの受付までお願いします」
紙を手渡されると…
「わかりました」
とだけ、答えた。
141優しい名無しさん:2006/11/02(木) 22:40:57 ID:SZ5Hhfk3
>>センティア ◆xqjbtxNofI氏

(=゚ω゚)ノ ぃょぅ

やっぱり、このスレ見てるって思ってたよ。
恭助さんは…そうだったのか…。

…大丈夫?
あのスレで、復活のカキコ見たときには嬉しかった。
悲しいこと言わずに、もっと作品読ませてよ…。
142センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:44:11 ID:ZHWdmQNm
看護婦の言葉に応じ、問診表に淡々と記入をしていく。

問診表には、次の様な事柄が、質問形式で書かれていた。
@食欲が著しく減っている。
A異性に対し、何も感じられない。
B自分なんて死ねば良いのにと思う。
C常に、気だるさを感じている。
D便秘、下痢を繰り返す。
等の質問が、十項目に渡って書かれていた。回答項目には、『まったくない』『時々ある』『よくある』『ほとんど毎日』の中から選ぶ様になっている。

「(ふぅ…よくわかんねぇな。こんなもん書いて、何がわかるってんだ?…まぁいい、さっさと終わらせちまおう)」
黙々と記入を続け、髪をかき上げる。記入を終わらせ、ゆっくりと席を立つ。
「あの、これで良いすか?」
「ええ、じゃあ…少し腰をかけて、お待ちいただけますか?順番がきましたらお呼びしますので」
問診表を渡し、看護婦と二、三言葉を交わすと…元いた場所へと戻っていく。
「(煙草吸いてぇなぁ…早いとこ終わってくんねぇかな…あぁ、めんどくせぇ)」
 三十分ほど経っただろうか、田村は浅い眠りに就いていた。腕を組み、座ったままゆっくりと息をしている。そんな中、彼の名を呼ぶ声が、待合室に響く。
「…さーん、田村さーん…田村智希さーん…」
自分の名を呼ぶ声に気づいたのか、ゆっくりと目を開け、辺りを見渡す。
「ん…あ、はい…順番回ってきましたか?」
「ええ、一番の診療室へとお願いしますね」
目を擦りながらも、はっきりとした口調でそれに受け答えた。
「はい、一番ですね?」
田村…智希は、心なしか肩を落としている様に見えた。目つきこそ冷静を装っているが、ただでさえ暗い表情に影を落としていた。意を決し、診療室へと入っていく。診療室の中には、若い医者が椅子に腰をかけたまま、待っていた。
智希の書いた問診表から顔を上げ、田村智希に対して微笑んでいる。
「こんにちは。初めまして、医師の早川です。えっと、今日はどうしたのかな?見た所、学生さんみたいだけど…っと、そんな事は関係ないかな。…さっ、始めようかな。出来る限りで良いんだよ。今の状況を話してくれないかな?」
患者に刺激を与えない為の配慮なのだろう。言葉を選び、優しい口調で早川医師は語りかけてくる。智季は、自分の状況をわかる限り話した。記憶の欠乏、身に覚えの無い出来事や知り合いがいるという事、
自らの意思とは別に自分の体を使われてしまっている事など…知りうる限りの事柄を話し続けた。その熱弁を、黙ったままで早川医師は耳を傾けている。
普通に考えれば、眉唾物の話を真剣な眼差しで聞き続けた。
「…そうか。智希君?君についてはいくつか調べなければならない事がある様だ。…ありがとう、辛かったろうに…今日の診療はここまでにしておこうか。これ以上は…君にとって苦痛になってしまうだけだからね。次回の診療日までには力になれる様にしておくよ。
ごめんね、僕もまだ『新参者』なんだ。…互いに焦らず、一歩ずつ進むべきだと思う。智希君、病気と向き合う決心をするのは大変だったんだよね。でも、焦りは禁物だからね。…いくつかの薬を出しておくよ。何か不具合があればすぐに言ってほしい。
じゃあ、次の診療日には、必ず顔を出してね。今日は、お疲れ様」
こうして、初回の診療は終わった。智希が診療室を後にするやいなや、早川医師は小声で呟いた。
「…人格障害か…それもかなり変わっている。…まさかね。でも、もしそうだとしたら?…困ったなぁ」
143センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:47:43 ID:ZHWdmQNm
一人、困惑した表情を浮かべていた。そんな事とは露知らず、智希は晴々とした顔で精神科から立ち去っていた。長く伸びる廊下を、ブーツの踵を鳴らしながら足早に歩いている。靴音は、静かな病院内にひびいていた。
 二つほどの廊下を抜け、階段を降りていく。向かった先は、休憩室内の喫煙コーナー。椅子に腰掛けるなり、いつもどおりの仕草で煙草に火を灯そうとしていた。
…ベシッ!!
煙草に火が灯る事は無い。大きな音が響き、智希の頭が下がる。何者かが智希の頭を叩いていた。その衝撃で、咥えていた煙草を間抜けな顔で落としてしまう。
「…っ痛!?あぁあん?何しやがんだっ!?」
怒りを剥き出しにした顔で振り向くと…そこにはパジャマ姿の少女が立っていた。捲し上げたパジャマから見えるか細い腕には、点滴の瓶が釣り下がっている。彼女は、智季の怒声に負けじと大声を張り上げた。
「何だじゃないわよっ!あんた、学生でしょ?何を吸ってんのよっ!?このバカッ!」
パッーンッ!!
声と共に、更なる衝撃が智希を襲う。抵抗しようにも、相手が病人とあっては…さしもの智希も手が出せないでいた。しかし、智希に比べてかなり幼い…小学生かと思えるほどだ。これでは流石に、悪態をつくのが関の山だろう。
「チッ…」
軽く舌を鳴らすと、少女を睨みつける。そして、怒りに満ちた顔で怒鳴り散らした。
「…っだ、手前ぇはっ!?人の頭をぽんっぽんっぽんっぽんっ殴ってんじゃねぇぞっ!」
だが、まったくもって臆する事無く、呆れ顔で口を開く少女。
「はっ、あんたが殴られるような事してんでしょ?だいたい私は、『手前ぇ』何かじゃないわよ。『さくら』っていう立派な名前があんのよっ!」
少女の言葉は、更なる智希の怒りを煽っているかに見えた。が、智希の顔には怒りではなく、戸惑いがはっきりと見えていた。それは、本気で怒っている少女…さくらにむけられたものだ。
「…だ、だからって殴る事はねぇだろが?さくらぁ?はぁ?誰も聞いてねぇつぅのっ!?」
相手に自分の影を見せまいと必死に取り繕うのだが…自爆している様なものだった。
「はっはぁ〜ん、あんたってば殴られた事が無いわけね?だからそんなに怒ってるわけね」
…図星だった。喧嘩で殴られる事はあっても、怒られるということはもう無くなっていた。それ故、さくらの言葉は智希の心に響いていた。
「つぅーかさ、あんたの名前は?名前くらい教えてよ。これも何かの縁なんだからさっ♪」
さくらの言葉と視線を避けるように、手にした煙草を口に運ぶ。
…ッパーンッ!!
拍手の様な音が、喫煙コーナーへと響いた。煙草は口元に運ばれる事は無かった。
「…人の話は聞こうねぇ?っとに、いいかげんにしなよ。学校で…が、学校で習ってんじゃないの?学校でさっ!」
『学校』…この言葉を発した時、一瞬ではあったが口ごもる。すかさずごまかすのだが、その顔の曇りを感じ取られてしまった様だ。何よりも、彼女の頬には涙が伝っていた。さくらは、それを拭おうとはしない。いや、流している事に気づいていないのだろう。
「…学校?好きじゃねぇな…って、そんな事より…人殴っといて泣いてんじゃねぇぞっ!ったく…」
そう言うと、言葉を詰まらせてしまう。ポリポリと頭を掻きながら、困った顔を見せている。二人の間には、重く長い沈黙が訪れる。
…時間としては十分程度のものなのだが、二人には途方も無く長く感じられるのであろう。気まずい空気が流れていた。さくらは涙を拭い、気恥ずかしそうな顔で立っている。
144センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:49:18 ID:ZHWdmQNm
「……」
「……」
「…ごめん」
さくらの一言が沈黙を破る。その言葉に少しだけ戸惑いながら答える、智希。
「…悪ぃのは、俺だ。ったく、感極まってんじゃねぇぞ」
「?…感極ま…??」
「どうしようもなくなっちまったんだろ?あんま感情を押さえ込むのは良くないぜ?俺みたいになっちまうからよっ♪って、俺が言う事じゃねぇわな。はははっ」
遠い目をしながら、少しだけ自分の事を話そうとしていたのだが…
「…バカ」
「ん?何か言ったか?」
「なぁ〜んもっ!っと、私…戻らなきゃ…また来るよね?つうか、来なさいっ!でも、今度煙草吸ってんの見つけたら…ビンタじゃ済まないかんねっ!」
「ふんっ、わぁーったよっ!…じゃ、俺も行くかな」
「あ、今度来る時は、学校の事をいーっぱい聞かせてねっ!」
智希は、その願いに軽く困った顔を見せてしまう。まともに学校に通う事が出来ない智希にとって、その願いは少々酷なはなしだった。
「…んあ?学校…まっ、話すことがあればな。んじゃ、また来るわ。じゃあな、さくらっ!」
智希は自然と、少女の名を呼んでいた。不器用で無愛想な少年が、ほんの少しだけ笑顔を見せた。
「あーっ!笑ったぁ♪やっと笑ってくれたぁ」
満面の笑みを浮かべ、心底嬉しそうだ。屈託の無い笑顔で、智希を見つめる。
「…じゃあ、またね…えっと」
「智希、田村智希だっ!」
「うんっ!智希ね?覚えたかんねっ♪じゃ…またね、智希っ!今度来る時は何か持ってきてよ?」
さくらは満面の笑みで、千切れんばかりに手を振っている。一方の智希は、振り返ることも無く、背中を向けたままで手を軽く振った。どんどんと離れていく智希に、何時までも笑顔で手を振る、さくら。
小さくなっていく智希を見送りながら、取り残されていく自分自身を感じていた。そして、智希と接する中で、ある事を切望していた。

『学校へ行きたい』

対照的な二人の願いは、決して交わることは無い。手を振るのを止めたさくらの顔は、悲壮感に満ちていた。悲壮感に…
145センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:51:28 ID:ZHWdmQNm
〜第四章〜「届かない、空」〜

 雲一つ無い青空、真冬だと言うのに、降り注ぐ陽射しからは暖かさが感じられる。智希は一人で学校の屋上にいた。周囲に人の気配はない。それもその筈だ。今は授業中、しかも屋上には鍵が掛けられている。
「…ふぅ」
智希は、煙草を手に深い溜め息を吐く。その場所から見渡せるグランドには、体育の授業なのか、たくさんの学生達がいた。皆、楽しげな表情でサッカーをしている。生徒の顔ぶれは…智希のクラスメイト達だ。智希は、一人…取り残されていた。
「…学校か、何を話しゃあいい?サボってる事か?ここで煙草吸って、逃げてる事か?ククッ…ハハハ………何話すんだ…俺は…馬鹿か?…ククク…ハハ…」
自己嫌悪に陥り、何時しか空を見上げていた。空は…どこまでも高く、青く広がっていた。その青はどこまでも続いている…だが、智希の心にはそれすら受け入れがたいものだった。空を見つめていた智希の瞳から一筋の線が伝う。
……ッガン…!!
「クソッ!!」
激しい衝撃音と共に、智希の拳が貯水タンクにめり込む。拳からは薄っすらと血が滲んでいた。そんな事は気にも止めず、何度も…何度も…殴り続けた。拳が真っ赤に染まり、コンクリートの地面に血が滴る。ポタポタと落ちる血を眺めながら…泣いていた。
顔を歪め、嗚咽を撒き散らしながら泣き続けた。決して、痛みから泣いているわけではない。智希の心は、『悲鳴』を上げていたのだ。もう、壊れていたのかもしれない。自分自身を否定し続け、泣き続けている。
「…もう、駄目なのかもな」
果てしなく広がる青い空の下、智希の心に更なる深い闇に覆われていく。
146センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:53:27 ID:ZHWdmQNm
〜第五章〜「少年、少女、二人の変化」〜

 智希は相変わらず、病院に通っていた。無論、自分の治療も兼ねての事だが…一番の目的は、あの少女に会うことだった。今日で何日目になるのであろう…彼は毎日のように通いつめていた。
…コンコン、カチャ…
智希がドアを叩いたのは、四人部屋の病室。そこには、さくらの他に…中年の男性、二十代半ばの男性、三十代半ばの女性といった様々な顔ぶれだった。智希は軽く会釈すると、桜の待つベッドへ向かう。
「よう、元気か?」
「あっ、智希ぃ〜!今日はちゃんと学校行ったの?」
少しはにかみながら声をかける智希に、満面の笑みでさくらは応えた。本当に嬉しそうだ。
「ちっ、第一声からそれかよ?つうか、声がでけぇつぅーのっ。また、俺が怒られちまうじゃねぇか」
智希は、さくらの髪の毛をクシャクシャとかき回しながらニコニコと笑っている。
「だぁーっ!もうっ、子供扱いしないでよねっ!…って、はぐらかさないでよ。学校は?ちゃんと行ったの?ちゃんと答えなさいっ!」
さくらの詰め寄りに言葉を詰まらせてしまう。ポリポリと頭を掻きながら、誤魔化す様な素振りを見せていた。
「…ん〜、行ったような…行ってないよ…」
…ッパーンッ!!
「っとに…何でそんなにいい加減ななの!?そんなんじゃ、ろくな大人になんないんだからっ!最低っ!」
乾いた音とさくらの喚く声が響く。他の患者達は、『いつもの事』といった様子で気にも止めていない。ただ、違っていたのは…さくらの目に大粒の涙が溜まっていた事くらいだ。
智希の前では、初めてではなかったが…他の人がいる中で、こんな事をするのは初めてだった。
「っ痛ぇなぁっ!って…何、泣いてんだよ…」
今にも泣き出さんとするその姿に、智希は戸惑いを隠せないでいた。
「なっ、泣くわけないでしょっ!わ、私はただ…学校へ行ける筈のアンタが行かないって事に腹が立つって言ってんのよっ!!」
必死の形相で奮起する、さくら。その姿と言葉に圧倒され、ただただ…困った顔を見せ、頭を掻き毟る。
「…わぁーった、わかったよっ!明日からはちゃんと行くから(…たぶんな)…だから、怒んなっての!」
「…ほんとに行く?」
智希の顔をしたから覗くように見ている。疑惑の視線を投げかけ、真っ直ぐな瞳でじっと見つめている。智希は、後ろめたさを感じているのか、さくらと目を合わせ様とはしない。
「…嘘なんだ。ふ〜ん、智希は嘘吐くんだぁ」
「だぁーっ!ったく、行くよ。行きますよっ…お前だけには嫌われたくねぇしな…ったく」
智希の言葉が発せられる度に、さくらの表情が穏やかに…そして、自然な笑みが溢れていく。
「私にだけ?ふふっ♪何か…すごく嬉しいなっ」
「…けっ、勝手に嬉しがってろっ!ったく」
悪態をつきながらも、智希は笑っていた。さくらも、心から嬉しそうに微笑み返していた。幸せと言う名の空気が二人を包み込み、流れていく。幸せと思える日々が、二人の間を流れていた。
だが、永遠に続けばと望むほどに…幸せを追えば、追うほどに…時は無常に終わりを告げようとする。
…少しでも長く続いてほしいと思っていても。…二人は望んでいた。この幸せな空気を少しでも長く感じられる事を。
 ここは、さくらが入院する病院の診療室。一組の夫婦が、医師に詰め寄っていた。夫婦の表情は…悲壮感に満ち溢れていた。
「…本当なんですか?嘘だと…嘘だと…間違いだと言ってくださいっ!これじゃあ…あの子が…さくらが」
「申し訳ありません。手は尽くしました…ですが、今の技術では…進行を弱める事くらいしか出来ないんです。…後はただ、待つしか…」
…ガッ
夫と思われる、スーツ姿の男が立ち上がり医師の胸倉を掴む。手を震わせ、何とも言いがたい表情で睨みつけていた。その顔は、絶望に満ちていた。男は、何も言えず…医師に縋る様に脆く、崩れ落ちていく。
147センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:55:06 ID:ZHWdmQNm
「…わかりました。娘さんには、辛い治療になるでしょうが…最後まで、出来る限りの手を尽くしましょう。…ですが、可能性は限りなくゼロに近い…それだけは覚悟しておいてください」
夫婦は、頭をもたげたまま…静かに頷いた。
夫婦は…『さくら』の両親。医師の話や二人の表情から、さくらはもう…長くは無い事が伺えた。しかし、ここでの話は…さくらには知らされていないようだ。さくらは…気づいているのであろうか
 一方その頃、智希とさくらの二人は外に出ていた。外とは言っても、病院の敷地内なのだが…二人は、楽しげに話をしている。それが、限られたわずかな時間だとも知らないまま。
「ねぇ、智希ぃ。最近、よく笑うようになったね?…私といるの、楽しい?」
恐る恐る質問するさくらに対し、屈託の無い笑顔で智希は答えた。数ヶ月前の彼には、とても想像出来ない笑顔だ。
「ん?ああ、そうだな…楽しいよ。お前といれる時だけは…何もかも忘れられるからな。それに、…ん、やっぱ何でもねぇ」
「ああ〜、何だよぉ!言いかけてやめんなよぉ」
「良いんだよ、何でもねぇっつうのっ!…つうか、言わなくても少しは気づけよ…ったく」
「???」
その言葉の意味は、さくらには理解出来なかった。さくらには、未だ芽生えてはいないのだろう…新しい感情は。キョトンとしたまま、『混乱』という二文字を浮かべている。
「まっ、良いさ。何時の日か気づいてくれりゃあよっ!さてと、戻るぞっ?ここは冷えるしな。俺もそろそろ行かなきゃ…」
智希の言葉を止める様に、さくらは腕を…ギュッと握り締めていた。いや、しがみついていた。
「まだ…戻りたくない…まだ、智希と離れたくないよ…」
それだけを言うと、下を向き黙り込んでしまう。時々、嗚咽を漏らすものの…喋り出す気配は無い。一方で智希は苦笑いを浮かべ、困り果てた顔を見せている。とは言うものの、病人をいつまでも寒空の下に置いておく訳にはいかない。
さくらの頭をそっと撫でながら、優しく宥めていた。
「安心しろ、明日も必ず来るさ。だから…今日の所は戻ろうや。なっ?…お前だけには『約束』してやるよ。いつでも、どんな時でも…俺は、さくらの元に現れてやるっ!…それなら、文句はないよな?」
言葉なく頷く、さくら。手を引かれ、静かにゆっくりと歩き始めた。…病院に戻る老化の途中、ある事をさくらは頼み込んでいた。
「…ねぇ、智希ぃ?」
「ん、どした?」
「うん、あのね…部屋に戻ったら、少しだけ一緒にいてほしいんだけど…」
「ん?あっ、ああ、良いけど…どうした?」
「うん…私が眠るまで手を握っててほしいんだけど…駄目?駄目なら…良いよ」
頬を真っ赤に染め、立ち止まる。彼女にとっては、よほど恥ずかしかったのだろう。それでも、一生懸命に話す姿に智希は…何者にも変えがたい愛しさと可愛らしさを感じていた。が、その事を悟られまいと…笑った。
「くくっ、ホントにガキだな?ったく、しょうがねぇな…握っててやるよっ♪」
その茶化す言葉に、少しだけ頬を膨らませている。が、嬉しさの方が勝っているのだろう。すぐさまさくらは、満面の笑みを浮かべていた。
「うんっ!ありがと…私ね、智希の事が大好きなんだよ?知ってたっ!?」
思い切り飛びつき、智希をじっと見つめている。が、当人からの言葉は何も無い。それでも良いと思っているのだろうか、彼女は何も言わずにじっと見つめ続けた。言葉は要らないのだろう、智希は、そっぽを向きながらも耳まで真っ赤に染めていた。
屈託の無い笑顔、積極的な態度、溢れすぎとも思える感情…全ては、彼女の彼女らしい一面だ。智希は、そんなさくらの肩に伸ばした手をそっと引っ込めた。
「(まだ、早ぇよな…まだな)」
…心の中では、荒波のごとき葛藤が暴れていた。さくらのさりげない仕草に『女』を感じながらも、必死に感情を押さえつけていた。
 この日を境に、二人の関係が少しだけ変わる。目には見えないほどの僅かな変化ではあったが…
148センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 22:58:24 ID:ZHWdmQNm
〜第六章〜「すれ違う二人、戻らない時間」〜

 雪のちらつく駅のホーム裏、傷つき蹲っている少年がいた。…その少年は、智希だ。空を見上げ、ブツブツと何やら呟いている。
「…綺麗ですね。ふふ、綺麗な雪だ。はははは、流れ落ちていく血すら美しい…美しい?ふふ、落ちる所まで落ちたものですね。…あぁ、消えてしまいたい。もう、嫌だ」
智希の体を持つ『彼』は、絶望していた。自分が置かれている状況に絶望しきっていた。智希と同様に彼もまた、何も知らないのであろうか…流れ落ちる血を眺めながら、一筋の涙を流す。
血で赤く染まったカッターシャツの袖。傷はまだ、真新しいものだ。
刃傷だろうか、パックリと開いている。傷だけではない。顔やはだけたシャツの胸元からは、いくつもの痛々しい痣がつけられていた。
「…消えるまでは、行けませんねぇ。このままの状態で顔を出してしまうと、要らぬ心配をかけてしまいますからねぇっと…とりあえず、洗いますか…何かと面倒な事になるでしょうから」
痛みを誤魔化す為なのか、少しだけ大きめの独り言を漏らす。その内容は…自分に向けられたものではない。智希に向けられたものか…
彼は、おぼつかない足取りで駅構内のトイレに向かう。傷ついた腕を押さえながらも、涼しい顔で歩いていく。
 そんな頃、少年を待つ少女は…雪のちらつく窓の外を見つめていた。
「…智希ぃ」
病室のベッドの上、少女は深い溜め息を吐く。声の主は、さくら。今までの元気だった姿は、すっかりと影を潜めている。心なしか…痩せ細って…やつれて見える。点滴の瓶を眺めながら、再び溜め息を漏らす。
「何でよ…何で来ないのよ、あのバカッ!智希の嘘吐き…バカ」
ぼやき終えると、頭に巻かれたバンダナを外した。外したバンダナの裏には…彼女の髪の毛が薄っすらと付いていた。強い薬の影響だろうか…バンダナの下に見えた頭は薄く、頭皮が見えていた。自分の姿を手鏡に映し、さくらは大粒の涙を落とす。
広い個室の中に少女の悲痛な鳴き声が響いた。…時は、無常にも終わりを早めようとしていく。
少年と少女はすれ違い…『この幸せが長く続けば』という、少年と少女の願いとは裏腹に時は過ぎていた。

 出会うことの出来ない二人は、同じ雪を見ていた。取り戻す事の出来ない時間が刻一刻っと過ぎていく。
149センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:00:33 ID:ZHWdmQNm
…駅での出来事から数日が経っていた。智希は、深夜の工事現場にその姿を映している。一心不乱にツルハシを下ろす。それが終わると土嚢を積んだ台車を、何度も往復させている。
…アルバイト?
人から奪うことで、金を得ていた彼を何がこうさせたのだろう。やはり、さくらの存在が大きいのだろうか…現場の屈強な男達に怒鳴りつけられながらも…決してキレる事無く働き続けた。雪が降り続ける寒空の下。
体から湯気を立ち上らせ…大量の汗を流し、必死な姿を見せていた。
彼は、生まれ変わったかのように、必死で働き続けていた。
「(もう少し、もう少しだ。これで…やっとあいつに会える。…待ってろよ、さくら)」
 あくる日の夜、智希は一通の封筒を握り締め、とある店に入っていった。
…智希がさくらの前から姿を消して、約三週間。彼の姿は、病院の前にあった。手には小さな箱が握られている。
「…あいつ、怒ってんだろうな。…行くか」
多少の不安を抱えつつも、嬉々とした表情で歩き始めた。その先に、どんな現実が待っているかも知らずに…
…カツッ、カツッ、カツッ…
病室へと続く廊下に、軽快なブーツの音が響く。途中、音に気づいた看護婦が声をかけようと立ち止まったのだが…智希の顔を見た途端、口許を押さえて走り去っていく。
その姿に弱冠の不信感を抱きはしたが、先を急ぐ彼にとっては取るに足らない出来事だった。そう、智希は先を急いでいた。
「……?」
病室にたどり着いた智希は、困惑していた。さくらの姿が無い。それどころか、部屋の住人は全て入れ替わっていた。様変わりした病室の入り口に、一人取り残されてしまう。
「…いねぇな。っかしいな、ここだった筈なんだが…間違える筈は」
なかった。しかし、病室に『さくら』の名札はなかった。すでに外されてしまっている様だ。
「…マジかよ。さくら…?」
状況を把握するやいなや、智希の心に絶望とも思える感情が襲う。状況は著しく変わっていた。まるで、全てが夢だったかのごとく、彼女の痕跡は消されていた…かに思えた。
150センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:02:47 ID:ZHWdmQNm
…ッパーンッ!!!
突如、軽快な音が智希の頭を貫いた。
「っ痛ぇーっ!!だっ、誰…さ、さくらぁー!?」
「『さくらぁー!?』っじゃ、なぁーいっ!!遅い、遅すぎるわよっ!待ってたんだから、ずっと待ってたのにぃ…バカぁっ!!!!」
振り向いた先には、怒りに震えたさくらの姿があった。力の限り智希の頭をはたくと、思い切り怒鳴り散らした。智希の顔を見つめたまま怒鳴り散らす。さくらは…自分でも気づかないほどの大粒の涙をいくつも落としていた。
もう、人の目など気にしてはいられなくなったのだろう。智希の胸に飛び込み、思い切り泣きじゃくった。その姿に躊躇する事無く、片手で…ぎゅっと引き寄せる、智希。
「ったく、泣くなよ……待たせて、ごめんな。…今日は、ゆっくりしていけるからよ。それに…渡したい物もあるんだ」
「…ほんとに?ほんとにゆっくりしていけるの?やだよ…もう、起きたら智希がいないのはやだよぉ…ヒック…お願い…ウッ…一緒にいて…ずっとなんて言わないから…ヒック…ヒッ…出来る限りで良いから…そばにいて…」
さくらの涙は止まる気配を見せない。それどころか、更に溢れていく。必死にしがみつき、泣き続けていた。そんなさくらの体を両手で更に引き寄せ、優しく抱きしめた。一瞬だけ戸惑いを見せたさくらだったが、ゆっくりとその身を委ねた。
「…ここじゃ、目立ちすぎちまうな…場所、変えねぇか?」
「あ…そ、そうだね。…っと、私ね、病室変わったんだよ。しかも、一人部屋なんだよ?ここよりもずっと景色が良いんだぁ…ねぇ、早く行こっ♪」
真っ赤に腫れた目を擦りながら、笑顔を見せていた。そして、力なく智希の手を引く。…先程の張り手もそうだったが…長きに渡る『闘病生活』は、さくらの体を激しく弱らせていた。
「…さくら、あんま無理すんなよ?調子…悪ぃんだろ?」
その言葉通り、さくらの顔は真っ青になっていた。明らかだった…それは、素人目にも十分理解できた。相当弱っている事が…
「…ごめん、ちょっと辛い」
「ったく、担いでやるよ。っと」
そう言うと、さくらの体を抱き抱えた。戸惑う様子を見せず、素直にそれにさくらは従う。首に手を掛け、顔を智希に近づける。
「…ありがとう」
「ん?…で、病室は?」
「あ…えっとね」
案内に耳を傾けながら、ゆっくりと歩き出す。心の中では、初めて抱えたさくらの体に疑問をかざしていた。
「(…こんな軽かったんだな…いや、相当痩せたんだな…ごめんな、待たせちまって)」
あまりにも軽いさくらの体に驚かされながらも、先へ進む。強い振動が伝わらない様に、細心の注意を払いながら新しい病室に向かった。
151センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:04:43 ID:ZHWdmQNm
―「…じゃあ、さくらはもう」
肩を落とし、うなだれた様子で男は口を閉じた。向かい合わせに置かれた三つの椅子。そこには、さくらの主治医、両親がいた。三人の表情は暗い…弱冠のまを置いて、主治医の重い口が開かれる。
「はい…このままでは、もう」
それだけを言うと、主治医は静かに口を閉じた。両親の気持ちを察しているのか、主治医の口からはそれ以上何も語られる事は無かった。さくらの両親は、言葉無く、ひたすら零れ落ちる涙を拭っていた。
152センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:08:13 ID:ZHWdmQNm
―「ここで良いのか?」
「うん、ありがとう。…ちょっと恥ずかしかったんだけど…でも、ありがとう」
お礼を言うと、真っ赤に染まった顔を隠す様に、智希の胸に顔を埋め、ひしっとしがみついていた。二人は、真新しい広い個室へと入っていく。さくらの言葉通り、新しい部屋の窓からは広い景色が見渡せた。それだけ、この部屋は高い場所にあった。
「ったく、大丈夫か?」
「ははっ、大丈夫だよっ♪心配性なんだから、智希は」
力無い笑顔が彼女の辛さを物語ってしまう。ベッドに横たわり、見せる笑顔は…見ているこっちが辛くなるほどだ。
「…ったく、あんま心配させんなよっ?…ん?そういや…頭のそれ、どうしたんだ?」
頭に巻かれたバンダナを指差し、不思議そうに尋ねた。頭をすっぽりと包み込むほどお、大きなバンダナを不可思議な顔で見つめていた。
「言いたくなきゃ、言わなくても良いぜ?似合ってるよっ♪まっ、可愛いとは言えねぇけど…格好良いとは思うぞ」
さくらは、その言葉に涙ぐんでしまう。突然の事に困ってしまい、慌てる智希。
「おいおい、どうしたんだよ?」
「ひっく、うぐ…ひっく…」
喋る事も出来ず、ひたすら泣きじゃくる。そんな姿に、ただただ困った様子で宥めるしかなかった。だが、さくらの涙は止まらない。
「お、落ち着けって…」
智希のハンカチで涙を拭ってくれている姿に気づき、何とか喋り始める。
「うっ…ひっ…うん、ごめんね…ひっく」
「ふぅ、一体どうしたっていうんだ?何か…変だぞ?…お前らしくもない」
留まる事無く溢れ出す涙を拭いながら、泣き出した理由を聞こうとする。が…その質問が、さくらの感情を更に爆発させてしまった。
「ごめん…ごめんね…ごめん…私ね…寂しかったの…ひっく…寂しかった…うぐ…智希に会いたかった…私、我慢したよ?…うっ…良い子にしてたよ?…ひっく…でも、智希は来てくれないし…寂しいよ…もう…ひぐっ…会えないかもって…ひっく…思ってた…
だって…だって…智希来てくれないと…くっ…自分から…自分から…会いに行けないんだもん…うわぁーんっ!!…智希ぃ…ひっく…智希ぃ…うぐっ…ごめんね…ごめんね…智希ぃ」
次から次へと流れてくる涙を拭いながら、さくらは必死に訴えかけていた。自分の気持ちを…抑えつけていた本当の自分の気持ちをぶつけていた。その姿を見ながら、突如として姿を消した自分を恥じると共に、何とも言い表せない気持ちが智希の中に生まれた。
さくらの頭を撫でながら、智希の頬に一筋の涙が伝う。
「良いんだよ、全部俺が悪いんだ。…ごめんな、さくら。待たせちまって…本当にごめん。…そうだ、渡す物があったんだ…ほれっ」
来れなかった理由は告げず、ただひたすらに謝った。そして、鞄の中からある物を取り出す。それは、いつか手にした小さな箱。シンプルに包装されたその箱を、そっと手渡す。さくらは、それを受け取ると…顔を上げ、じっと智希の顔を見つめる。
「開けてみろよ?」
「…うん」
その言葉に促され、少しずつ丁重に包み紙を剥がしていく。中から現れたのは…小さな白い箱。蓋を開けると同時に、さくらの瞳からまた大粒の涙が零れる。
「気に入ってくれるか…わかんねぇけど」
153センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:09:41 ID:ZHWdmQNm
箱の中には、小さな石の付いた指輪。どことなく、可愛らしい装飾がされている。
「…これって…これを買うのにこれなかったの?…バカ…何でよ…何で、私なんかのために」
さくらの言葉を遮る様に、智希が口を開いた。…いや、怒鳴り散らした。
「お前だからだよっ!!!」
窓が震えるほどの大声に、さくらの顔が強張る。
「…智希」
「あっ…悪ぃ、つい大声出しちまった。…すまん」
「ううん…すごく嬉しいんだよ。でも、こんな事してもらったの初めてだから…どんな顔して良いのかわかんなくて…私こそ、ごめんなさい」
傷にまみれ、真っ黒に汚れた手をさすりながら、心からの笑顔を見せていた。いつしか、涙は流れるのを止めていた。
「ねぇ、智希がつけて…智希の気持ち、すごく嬉しい。私、幸せだよ…」
「ん?ったく、仕方なねぇな。ほれ、手ぇ出せ」
指輪は、驚くほどピッタリと収まっていた。その事については、智希自身も驚いている。
「え…何時調べたの?」
「ん?さぁな…おっ、似合うじゃねぇか。可愛いぜ、さくらっ♪(…少し小さかったんだな…痩せてなかったら、はまんなかったぞ。危ねぇ、危ねぇ…)」
真っ赤に頬を染め、下を向いてしまう。その仕草は、女らしく…可愛らしい。
「…バカ」
…そんな幸せなやり取りも長くは続かない。さくらは口を硬く閉ざしてしまい、深く重苦しい沈黙が二人を襲う。言葉を発する事が許されない時間が、二人の心を押し潰そうとしていた。
「…………」
「…………」
長きに渡る沈黙、どれくらいの時間が流れたのだろうか。途中、何度か看護婦の出入りがあったものの、二人は沈黙を保っていた。窓の外は日が落ち、大きな月が二人を照らした。
電気を点ける事すら忘れていた。
「…あのね、智希」
言葉の無い重圧に耐えかねたのか、さくらはすっと沈黙を破る。
「……」
さくらの言葉に反応は無い。さくらは、気にせず、言葉を続けた。
「私ね…こんな風になっちゃったの…見て、私を見て…醜いよね?酷いよね?こんなんじゃ…そばにいてもらえないよね…」
バンダナを外し、薄くなった頭を晒す。髪は、当初の半分以上は抜け落ちていた。自分の姿を晒し、智希の顔をじっと見つめる。今までとは比べ物にならない量の涙を流し、見つめていた。
………ぎゅっ
「……」
言葉は無かった。…必要なかった。智希は何も言わず、ベッドで半身を起こしたさくらを抱きしめた。
「…智希」
智希は、さくらの顔を覆うように静かに唇を重ねた。微かに震えながらも、さくらはその身をそっと委ねた。二人の姿は月明かりに照らされ、長く影を伸ばす。重なり合う二人の影を、引き離す者はいない。
白い壁に囲われた無機質な部屋の中で、少年と少女は…愛を求め合った。何度も口付けを交わし、何度も交わっていく。
それは、少女が触れた『最初で最後の温もり』。時は無常なまでに終わりの音色を奏で始めていた。
154センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:10:31 ID:ZHWdmQNm

…二人の願いは…もう…届かない…
155センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:11:52 ID:ZHWdmQNm
〜第七章〜「本当の…現実」〜

「先生っ!!血圧がっ、血圧が下がっていますっ!」
「こ、このままでは…」
「さくらっ!?さくらぁーっ!!!」
「お父さんっ、落ち着いて…おいっ!酸素マスクをっ!」
「先生っ、先生っ!」
「ICU(集中治療室)へ運ぶんだっ!…ゆっくり、ゆっくりだぞ。ゆっくり運ぶんだ」
病院のある一室だけが慌しく動いていた。数人の医師や看護婦、肉親に囲まれた少女は…手の届かない場所へと運ばれていく。青を通り越し、真っ白になった体が緊迫した空気を更に煽っていた。少女を乗せた担架の横では、声にならない嗚咽を漏らし、泣き出す両親の姿があった。
主を失ったベッドには、少女のものと思われる無数の血痕。ICUに向かう途中、担架から飛び出した少女の左腕…その痩せ細った薬指には、小さな宝石の付いた指輪がはめられていた。運ばれていった少女、それは…
156センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:13:21 ID:ZHWdmQNm
 あの慌しい出来事から数時間が経った夕刻。何も知らない智希は、学校からさくらの待つ筈の病院へと来ていた。だが、さくらの姿を見つけ出す事が出来ない。
「…またか?ったく、今度はどこいきやがった」
彼は、少女との約束を守る為に探し続けた。もう会うことは出来ないさくらの姿を…
うろつき回る智希を見かねてか、中年の男性が声をかける。前にさくらがいた四人部屋の中にいた一人だ。智樹とは直接話した事はないが、挨拶を交わす程度の面識はあった。智希は、それに気づき軽く会釈をする。
「さくらちゃんの彼氏かい?」
その言葉に、少しだけ照れを見せる。
「え?…いや、彼氏って訳じゃ」
「隠さなくて良いんだよ。皆に話していたからねぇ、あの娘が」
「ははは…(ったく、何を話してやがんだ…あのバカッ!)」
頭を掻きながら、照れ臭そうに笑う、智希。
「…で、残念なんだが…もう、ここにはいないんだ」
男の言葉に、智希の顔が豹変する。鬼の形相で睨み付け、ドスの効いた低い声で口を開いた。
「おっさん…どういう意味だ?」
その豹変振りに、全く持って驚く素振りを見せずに…ゆっくりと…そして、淡々とした口調で真実を語り始めた。
「…まぁ、落ち着け。…今朝方な…さくらちゃんが、集中治療室へと運ばれていったんだよ。もう、身内以外は誰も入る事の出来ない場所へとな。面会謝絶ってやつだ。…知っていたんじゃないのか?あの娘の病気の事を」
「いや…知らねぇ」
「えっ?」
男は、不思議そうな顔で智希を覗き込む。再び、確認をするかの様に問いかけるのだが…
「本当に知らないのか?」
「ああ、何も聞いていない。あいつからは…」
声のトーンを落とし、陰りを見せた智希に…一つだけ、答えを求める。
「そうか、知らさなかったんだな。…あの娘らしい。……さてと…どうする?聞くか?」
智希の喉元から、息を呑む音がはっきりと聞こえた。そして、意を決したのか…答えを出す。
「…聞くしかねぇだろ。それしか…」
「そうだな…わかった。…あの娘の病名は…『白血病』だ。その他にもかなりの合併症を引き起こしているらしい」
病名を知り、驚愕した。
「…白血病」
「そうだ、もう長くは…」
……ガッ
「それ以上は…言うんじゃねぇっ!!」
無意識の内に、男の襟首を掴み、叫び上げていた。男は、その手を振り解こうとはしない。強い、力のある目で智希を見つめた。
「そう熱くなるな。…それにだ、私を傷つけた所で…さくらちゃんは戻ってはこんのだぞっ!!馬鹿者っ!!…今はな、祈るしかないんだ。あんな良い娘が死んでいい筈ないだろうがっ!!…ちゃんと戻ってくるさ。
あの笑顔を振り撒きに帰ってくる。…今は待とうじゃないか」
「…すまない」
男に圧倒されたのか、意気消沈してしまう。一言だけ謝罪の言葉を述べると、智希は病院を後にした。
 智希が去った数時間後、一人の少女は…機械に取り囲まれた部屋の中で冷たくなっていた。家族の悲壮な泣き声が聞こえる中で、少女は…さくらは、天に召され、星となった。
薄れていく意識の中で彼女は、何を…誰を想っていたのだろう。それを知る者は…誰もいない。
 
時は、無常だった。愛し合う二人を引き裂き、二度と巡り合わそうとはしない。時間は何も…誰も待とうとはしない。

『原田さくら、享年14歳』

早過ぎる、若すぎる死だった。まだ智希に、この現実を知る術はない。
157センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:15:02 ID:ZHWdmQNm
〜第八章〜「終幕…それもまた、始まり」〜

彼女が天に召されてから、何日が経ったのだろう。何も知らない智希は、足しげく病院に通っていた。いつか会えると信じて…
「…さくら」
まるで、『夢遊病者』の様に、うわ言を呟きながら歩き続ける。そんな異様な空気を放つ彼に声をかける者はいない。フラフラとあの場所を目指して、歩いた。
「さくら…さくらぁ…さくら…」
辿り着いたのは、あの喫煙コーナー。あの日と同じ、制服のままで…
…シュッ…シュッ、シュボッ
制服の内ポケットから煙草を取り出し、火を灯す。だが、あの日の様に止めてくれた少女はもう…いない。誰も…咎める者はいない。
「…ふぅ、待ってるからな…」
何度目の言葉だろうか…彼自身、同じ独り言を繰り返している事に気づいてはいない。『待っている』…そう呟く彼の目には、不確かな希望と力があった。だが、その僅かに残された希望も、力も…一人の男によって、無残に打ち砕かれてしまう。

智希は、全てを知る。

「君が、智希君だね?」
「…え?」
その声に驚き、疑問の顔を浮かべる。振り向いた先に立っていたのは、品のある中年男性。
「さくらから話は聞いているよ。田村…田村智希君だね?すまないが、少しだけ話をさせてもらいたいんだ。時間をいただけるかな?」
自分の名を知る人物に、弱冠の不信感を抱きつつも…言葉に従った。何も言わずうなづき、男の後ろを歩いていく。
「(…何故、俺の名を?それに…さくらまで)」
男に連れられ、到着したのは…病院内の喫茶店。智希は、男の誘うがままに店内へと入っていく。植木に囲まれた、一番奥のテーブル席に着く二人。店内の客はまばらだ。二人以外の客はいない…と言っても過言ではないほどだ。
…二人は、テーブルを挟み、向かい合わせに腰をかける。最初に口を開いたのは…意外にも、智季だった。
「…俺から一つ、質問させてほしいんだが?あんたは、さくらの…」
「そう、父親だ。君が幾度となく病室を訪れていたのは、娘や看護婦さん達から聞いていたよ。何度か見かけはしたんだが…娘と君の仲を邪魔する気がしてね」
「…で、何でまた俺に?」
中々本題に入ろうとしない父親に、痺れを切らし始めたのか…少しだけ苛立ちを見せる。それに気づいたのだろう、父親は慌てた様子で話を戻す。…表情もガラリと変わった。
「…ああ、そうだね。今日は、君に悲しい知らせをしなければならないんだ。…心して聞いてもらえるかな?」
「……」
父親の真剣な眼差しに、口を噤んだ…それを確認すると、ゆっくりと真実を語り始めた。
「…今から私が言う事を、受け入れてもらわなくちゃならない」
グラスの水を一気に飲み干し、意を決した。
「…さくらが死んだ。…私の愛娘は、病気に打ち勝つ事は出来なかったんだ。もう、会う事は出来ないんだ。君と過ごしていた娘は、もういない。…さくらが…娘が…本当に世話になったよ。ありがとう…娘に代わって、私が礼を言わせてもらう。…ありがとう、本当にありがとう」
さくらの父親は…涙を流し、何度も…何度も頭を下げた。
「…俺は、認めたくなかったでけなんすよ」
智希は、静かに呟いた。自分で吐き出す事で、少しだけ表情が晴れる。そして、涙を流す父親に、そっとハンカチを手渡す。
「…おじさん、頭を上げてくださいよ。こんな俺なんかに、頭下げんのはやめてください。俺は…あいつに何も…」
「してくれたよ。あの娘が…さくらがあんな楽しそうな笑顔を見せてくれたのは…君のおかげだよ、智希君。本当に感謝している。…ありがとう、本当にありがとう…」
「…おじさん」
父親の言葉は、智希の心を深く突き刺す。今まで、感謝はおろか、頭を下げられる事などなかった。智希にとって、父親の行為は驚くべき事だった。
158センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:19:45 ID:ZHWdmQNm
 話の終わり際、さくらからの手紙を受け取っていた。これは、智希に送られた手紙の内容である。

『大好きな、智希へ
あらためて手紙で会うのは、何か照れるね(汗)えっと…私ね、智希と出会えてすっごく幸せだよっ!でも、最近来てくれないから…ちょっと寂しいよ→(泣)…私、こんなにも人を好きになった事がなかったから…いつも、一人ぼっちだったし…友達いないから(涙)
 話変えるね。智希、私は智樹に言ってない事があるんだ…すっごく大事な事。(本当に大事なんだよ?)実はね、さくらはもう死んじゃうかもしれないの…もう長くは生きられないのはわかってる。この手紙を読む頃には…私はもういないかもしれない。
(ホントはやだよ、死にたくない…)
けどね、智希に会えて幸せな人生だったと思う。ううん、今でも幸せなんだよ。ずっと幸せでいたいよ。
智希に出会うまで、いつ死んでもいいって思ってた
…だけど今は、死にたくない…死ぬの怖いよ。智希とずっと一緒にいたいよ…でもね、
もしも私が死んじゃっても…智希には生きる事をあきらめないでほしい。私なんかよりもずっとカワイイ女の子を見つけて幸せになって…私はずっと…見てるんだからねっ!幸せにならなきゃ許さないから…許さないんだからねっ!…あとね、一つだけ約束して…
(全部守ってほしいけど…これだけは絶対に守ってっ!)
…私の事を忘れないで。智希の事、忘れたりしないから、ずっと好きだよ。智希の事、大好きだから…
ごめんね、ワガママだけど…忘れてほしくないから…好きなんだもん
あなたのさくらよりっ』

手紙には、彼女の涙らしきシミがいくつもついていた、所々、文字が滲んでしまっている。
「…さくら…さくら…さくらぁー!!!!!!!!!!!」
手紙を手にした智希は、一人泣いた。ずっと我慢していた感情が、悲しみが…涙を伝い、溢れ出していた。人目を気にする事無く、思い切り泣いていた。一頻り泣くと、手紙を握り締めたまま…夜の街へと消えていく。悲しみを紛らわせるものがあるかは、わからない。
だが、智希には、闇に紛れるしか術がなかったのだ。
159センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:21:31 ID:ZHWdmQNm
〜第九章〜「暴走」〜

 智希は、戻っていた。あの、さくらと出会う前の自分に逆戻りしていた。目つきは鋭くとがり、歩き方すら変わっている。その姿はもう、智希ではなかった。別の誰かが再び彼の体を使い、さ迷い始めていた。
「…くくっ、ははははははははははははははっははっははっはっはっ!!!!!…俺は、俺は自由だっ!動く…動くぞっ♪」
意味がわからない事を喚き散らし、それは高らかに笑い上げている。夜…深夜とはいえ、辺りに人の気配がない訳ではない。それを見ている人々は、訝しげな目で避けていく。
ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべる口、焦点の定まっていない空ろな目。どれをとっても『不気味』の一言に尽きる。
「うっはー、すっげー目立っちゃってる?良いねぇー、良いねぇ…この視線…最っ…高っ!!」
それは、周囲の冷たく突き刺さる視線ですら、快楽に変えていた。…深夜を徘徊し続ける、頭のおかしな制服姿の少年には…これでもかと言うほどの痛い視線が注がれていた。
160センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:22:28 ID:ZHWdmQNm
 不思議にも、彼を咎める者はいない。警察もいない様だ。…運だけは、いい様だ。彼の姿は、場所を移し、薄暗い公園にあった。公園のベンチに座り込んだ少年には、先程の印象派ない。だが、表情は険しさを増していた。
今にも飛び掛らんとする目つきで、一点を睨みつけている。
…シュッ、シュボッ…
煙草を咥え、黙ったままで一点を睨み続けている。その目線の先には、数人の若者の姿が見える。にらみ続ける彼に気づいたのか…互いに睨み合っていたのかは、わからないが…少しずつ近寄ってくる。
「…来たか」
どうやら…彼は、若者達を誘っていた様だ。
…ザッ…ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…
徐々に距離を詰めて来る、若者達。それに臆する事無く、睨む事を止めようとはしない。
「…お前、何?何か用事でもあんの?」
「まぁまぁ、目が悪ぃんだろ?…な?そうなんだろっ!?」
…ガッ!!
若者の一人が、腹を目掛けて思い切り力の篭った前蹴りを入れる。
「…ぐふぅ」
蛙をひき潰した様な声が漏れる。不意打ちだったせいか、その蹴りをまともに喰らってしまう。…不意打ちだったからではない…彼は、ワザと避けなかった。
「あっらー、モロに入っちゃったねぇ?」
「何こいつ、本気で笑えるんだけど?ダッセーッ!人に喧嘩売っといて、何これ?マジだせぇ」
「んじゃ、サンドバッグ代わりに遊ばしてもらおうかな?」
…三人の若者達は、楽しんでいた。無抵抗な玩具を見つけ、実に嬉しそうだ。
「(…これで良い。殺してくれ…早く殺してくれ…俺に生きる価値なんてないんだ。…殺してくれ)」
…ゴスッ!ドゴォッ!…ゴスッ!!
執拗に腹部だけを襲う、蹴りと拳。数時間に渡り、無抵抗な玩具に対するリンチは続く。…それを自ら進んで受けていた。大切な人を失い、死を懇願しているのは…智希本人だ。
「(もっとだ。もっと殴ってくれ…俺を殺してくれ。もう…終わりたいんだ)」
全くの抵抗、悲鳴すら漏らさない少年。不気味さを感じ始めた若者達は…力を緩めた。
「…何故、やめる?…殺せ、殺してくれ…」
度重なる暴力に、悲鳴すら上げなかった智希が…涙を流した。一人の若者の足に縋り、涙を流していた。
「おいって…やべぇって…やばいってっ!こいつおかしいんじゃねぇの?」
「お、俺、帰るわ…ごめん」
二人の若者は、その異常さに恐れをなしたのか…足早に立ち去っていく。
「ちょっ、置いてくなって…おいっ、離せよっ!!キメェんだよっ!」
…ドンッ!!
智希の手を振り解き、少しだけ後ずさる。放たれた智希の体は、強くベンチにぶつかる。そのまま…ぐったりと動かなくなってしまう。閉じられた口や鼻からは、黒味がかった血が垂れる。
「嘘…殺っちまった?……やべぇ、やべぇよ。逃げなきゃ.。。うわぁーっ!!」
若者、無様に逃げていく。…死んでしまったのか?ピクリとも動かない。…だが、虚ろな目で逃げていく若者を見つめていた。
「…死んでねぇよ。何でだよ、何で俺だけ残っちまうんだよ…さくら、何でお前が死ななきゃならねぇんだよ。…おれ、無理だよ…生きらんねぇよ。さくら…さくら…さくら…死にてぇよ。…怒られたって良い、死にてぇよ…お前の元に行きてぇよ。さくらぁ…」
手を伸ばし、何度も…何度も…何度もその名を呼び続けた。寒空の下に智希の声が、静かに木霊した。
…ベンチにもたれかかったまま、どれくらいの時間が経ったのだろう。浅い眠りに就く、智希。
161センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:23:41 ID:ZHWdmQNm
「…痛い、何かおなか痛いんだけど…」
意識を取り戻す、智希。目を覚ましたのは…智希ではではない。その口調は、明らかに女。仕切りに腹部の痛みを気にしている。内股でベンチに座り込み、腹を押さえていた。寒さのせいもあってか、震えも見せていた。
「もぉー、何なのよぉっ!痛いし、寒いし…もう最悪だよっ!…痛いよう」
あまりの痛みのためか、泣き出してしまう。女の子の様に泣きじゃくる男の姿は…少々、痛い。そんな少年(少女)の肩を叩く影が現れる。
「…大丈夫?」
彼…いや、今は彼女か。その彼女に声をかけたのは、二十代後半の女性。深夜、それも相当遅い時間だ。大方、コンビニにでも寄った帰りなのだろう。コートこそ着ているものの、隙間からは部屋着と思わしきスウェットが見え隠れしていた。
「…え?あ、うーん…ちょっと…ってか、かなりおなか痛い…」
見た目からは想像しえない口調に、女性は戸惑いを見せる。
「えっと…男の子だよね?」
「ううん、女の子だよっ♪…見た目は男だけど。やっぱし…変?」
上目使いで問いかけてくる少女(?)に、女性はニッコリと笑顔で切り返す。
「良いよっ♪少し驚いただけだからさ。…そんな事よりも、大丈夫なの?」
少女の横に座り、傷ついた体を気にしている。
「あんまり、大丈夫じゃなさそうね…ねぇ、名前聞いても良い?」
女性の優しい言葉に、目を白黒とさせている。見た目は男、中身は女…そんな自分に優しい言葉を投げかけてくれる女性を、不思議そうに見つめ返した。
「…未琴…未琴だよっ」
「うん、未琴ちゃんね?ここじゃ、ちょっと危ないなぁ。また、襲われちゃうかもしれないし…家にくる?未琴ちゃんなら安心だしねっ♪どう?」
あまりにも強引で唐突な提案。正直、困っていた。一応、体は男。それに、いつ代わるかもわからない。
「…折角だけど」
「他人格が出たら危険だから?」
「へ?…な、何で…」
女性の言葉は、核心をついていた。未琴は、その言葉に焦りを隠せないでいた。
「…大丈夫。未琴ちゃんがこんなにも良い子なんだからっ♪」
「で、でもぉ〜」
「ほぉらっ、優柔不断はダメなのよっ!行こっ!」
強引な女性の誘いに、ドギマギとしてしまう。そんな彼女の手を引き、立ち上がらせる。思いのほか強い力に、未琴はよろめいてしまう。
「あっ…」
倒れそうになる未琴の体を支える腕。力強いその腕に、更に驚かされる。
「大丈夫?…ごめんね、力入れすぎちゃった。大丈夫?歩ける?」
「…えっ、あ…」
「ちょっと厳しいみたいね…んー、肩貸すから少しだけ頑張って。すぐだからさ」
「…うん、ごめんなさい」
感極まってしまったのか、優しくされたからなのか…未琴の瞳からは、大粒の涙が零れていく。
「ちょっ、どうしたの?痛む?」
質問に対し、何も言えず、ただただ横へと首を振る事しか出来ない。次から次へと溢れる涙を、止める事すら出来ないでいる。
「…ごめんなさい、ごめんなさい…」
訳もわからず、何度も謝り続ける未琴。暗がりの公園に光る、涙の雫。その姿を何を言わず、抱きしめる。その温もりに安心したのか、涙の雫は…ゆっくりとその動きを止めた。
「…お姉さん…ごめんなさい」
ニコニコと微笑みながら、優しく未琴の頭を撫でている。
「良いのよ。私で良かったら…いっぱい甘えてね。…どう、少しは落ち着いたかな?」
「…うん」
再び溢れそうになる涙を、ぐっと抑えて答えた。
「じゃあ、行こっか?その様子じゃ何も食べていないみたいだし…よしっ、お姉さんがおかゆくらいつくってあげるっ♪後、シャワーも浴びて、キレイにしなきゃね」
「…あのぉ?」
「ん、どしたの?」
未琴の中の警戒心こそきえたものの、不思議だった。いくら自分が行き倒れていたとはいえ…何故、こんなにも優しくしてくれるのか…どうしても、理解出来なかった。
162センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:24:38 ID:ZHWdmQNm
「何で、優しくしてくれるの?」
「んー、未琴ちゃんの事が気に入ったからっ!って、理由じゃだめ?」
「…よくわかんない」
「…だよね。じゃあ…」
女性の声が篭り、顔に曇りを見せる。
「本当の事を話すね。…未琴ちゃんを襲ったのは…実は、私の弟達なの」
「え…そうなの?って、やっぱし襲われてたんだぁ」
「え、覚えてないの…って、そうだよね。…だから、私にも責任があるから…手当てさせてっ!…それに、未琴ちゃんって放っておけないしね。罪滅ぼしって訳じゃないけど…」
「ううん、良いよぉ〜。お姉さんは、悪くないよぉ。お姉さんの事、信じても良い?」
上目使いで女性の顔を覗き込む。その愛くるしい瞳に、ドギマギとしてしまう女性。
「…あ、う、うんっ!信じてっ!…絶対、裏切らないからっ!」
「う〜ん、じゃあ…お姉さんとこ良くぅ〜♪」
声こそ明るく振舞ってはいるが、体の方はボロボロだ。腹部を押さえ、女性の体に寄りかかる。
「…っと、痛かったら言ってね?」
「はぁ〜いっ!」
女性の体に手をかけ、ゆっくりと一歩ずつ歩き始めた。
 月明かりの照らす夜道を、二人の男女が歩いていく。男の方は、時折よろめくものの、真っ直ぐ歩こうとしていた。
「…お姉さん、一つだけ聞いても良い?」
「なぁに?」
言葉を聞く限りでは、女性同士の会話に思える。…が、そこにいるのは…紛れもない男女の姿があった。二人は、仲の良い姉妹の様な会話を続けた。
「あのね、お姉さんの名前…教えてほしいの。命の恩人なんだもん。名前教えて?」
お菓子をねだる子供の目で見つめる。
「名前かぁ…そういえば、言ってなかったわねぇ。…私の名前は」
「名前は?」
「んー、ヒ・ミ・ツっ♪」
「えーっ!!」
口を大きく開け、これまでにないくらいの残念そうな顔で叫んでいる。それを見て、楽しげに笑う。
「あははっ♪冗談よっ、じょ・う・だ・んっ♪ホントっ、面白い娘ねぇ?ちゃんと教えてあげるわよ。私の名前は。『円(まどか)』よっ。覚えてくれた?まぁ、簡単な名前だから…」
「うんっ、おぼえたっ!じゃあ、円姉さんだね?円って名前…すっごい可愛いっ♪良いなぁ、うらやましい…」
明るく振舞っていたのだろう。殴られた箇所が痛むのか、未琴の表情が曇る。
「なぁーに、言ってんのっ!」
…ッパーン!!
「うぐぅ…」
円の豪快かつ、強烈な張り手を喰らい…情け無い声をもらす。その声に、慌てて我に返る。
「ごっ、ごめんっ!…大丈夫?…ホントごめんねっ?」
手を面前に翳し、必死で謝る円。それに対し、弱々しい表情で答えた。
「うん、何とか…でも、ちょっと痛ひ」
「ホントにごめんね?勢いでやっちゃった…痛いよ…ね?」
自分の叩いた箇所をさすりながら、心配そうに見つめる。
「うん…実はかなり痛い…コホッ、コホッ…」
「わぁー、ホントごめん…ちょっとツッコミ入れたつもりだったんだけど…『未琴』って、良い名前なのになぁって思ったから」
「え?」
言葉の意味に戸惑いを見せている。
「だぁーかぁーらぁー、可愛い名前だねって言ってるのっ!」
「…でも」
再び曇る、未琴の表情。
「でも、自分で考えた名前だから…誰もつけてはくれないし…」
円は、少しだけ呆れた顔を見せ、溜め息を吐く。
「もうっ!そんな事はいいのっ!未琴ちゃんは、未琴ちゃんなんだから…自信持ってよ〜私まで悲しくなっちゃうじゃん」
「…円姉さん…自信、持っても良いの?」
「だから、そういうとこがダメなのっ!…っと、アパート見えてきたわ。とりあえず、体をキレイにして、おなかいっぱいにして…それからいっぱい話そっ?って、その前に…傷の手当をしなくちゃね」
「…うん」
アパートの入り口が近づくにつれ、未琴の顔に『不安』が増していく。彼女の脳裏には、あの日の出来事が浮かんでいた。騙され、ついていった…あの日の事が…
163センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:27:12 ID:ZHWdmQNm
 その日未琴は、ある男と会っていた。彼氏…恋人と会っていた。…未琴は、幸せの絶頂にいた。だが、あの日出来事により…無残にそれは、打ち砕かれてしまった。未琴を自分のアパートへと誘い出し、卑劣な行為に及んだあの日によって…
 アパートに誘い込まれた未琴は、男を信じきっていた。何の疑いも持たなかったのだ。アパートの中には、数人の男女がいた。視線は全て、未琴へと注がれている。その中に突き放たれる、未琴。訳がわからず振り向いた先に、優しかった男の姿はない。
 そこには…薄ら笑みを浮かべた、悪い男が立っているだけだ。この瞬間、彼女は悟った。

 『はめられた』のだと…

 時すでに遅し、未琴の体は玩具の如く扱われた。何人もの男女が、未琴の体を貪っていく。
 未琴…いや、智希の体は著しく侵食されていく。恐怖と悲しみに支配された未琴の心は、快楽を感じる事は出来ない。逃げ出す事が出来ない空間の中で…終わる事だけを願っていた。『やっぱり』…未琴は、悲観していた。愛される事のない自分自身を。
 最後まで忘れない…自分に偽りの愛を与えた、あの男の顔だけは…
 
 この日、未琴の性と人に対する感情は、崩壊していった。
164センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:30:02 ID:ZHWdmQNm
 アパートの前に蹲り、未琴は動けないでいた。その姿を円は、心配そうに見つめる。酷く怯え、震える未琴の頭を優しく撫でる。
「…大丈夫、大丈夫だからね」
それ以上は何も言えなかった。…未琴は、顔を上げ、涙ぐんだ顔で円に問いかける。
「円姉しゃん…誰もいない…?未琴をいぢめる人いない?…ヒック…グスッ…円姉しゃん…ヒック…いないよねぇ?」
子供の様に泣きじゃくり、震え続けている。
「…大丈夫っ!私だけだからねっ、二人だけだから…安心して、絶対に…」
円は何も知らない。だが、未琴の涙に…声に…悟るしかなかった。『聞いちゃいけない』そう思いながら…
「ホントに?…ホントに?…うわぁーんっ!」
大声を張り上げ、泣き出す。そして、再び、円の手が…腕が、未琴の体と心を包み込む。泣き声までは止まらなかったものの、何とか歩けるまでには落ち着いた。ゆっくりとした足取りで、部屋へと入っていく。
円の言葉通り、中には誰もいない。それを確信すると、安心した様だ。彼女の顔に始めての安堵の表情を見せる。
「ね?いないでしょ?」
「うんっ、円さんだけ...安心したぁ〜」
「じゃあ、シャワー浴びておいでっ」
「うんっ♪」
…ガタンッ、ガタッ、ガッシャーンっ!!
嬉々とした表情でバスルームに向かった未琴ではあったが…入り口を目前にふらつき、倒れてしまう。
「きゃっ…痛ったーいっ!!」
あっちゃー、見事にすっころんだわね…大丈夫?…うーん、やっぱ一人じゃ無理みたいね。…じゃあ、私が洗ってあげるっ♪」
「えーっ!!…恥ずかしいよう。でも…」
「あはっ、変なことはしないからっ。だ・い・じょ・う・ぶっ♪」
そんな事を言いながら、楽しそうに未琴の服を脱がせていく。その行動の早さに、全く行動出来ないでいた。見る間もなく、一糸纏わぬ裸体になってしまう。
「えっ、あっ…」
「さっ、入ろっか…」
 体の汚れを落とし、食事を済ますと…円の手によって、手厚い手当てが施されていく。体の手当てをされながら…未琴は、自分の事について話していた。その言葉にゆっくりと耳を傾け、時折涙を流す未琴を優しく励ます。
…そして、それまで黙っていた円が、突如として…真実を語り始めた。
「…ねぇ、未琴ちゃん?私の顔に見覚えはない?…何度かあってるんだけど…」
「へ?円姉さんと…?」
いきなりの言葉に、何を言えば良いのかわからないでいる。
「だよね…私が会ってたのは、智希君なんだから…ごめんね…私、本当の事を話さなきゃ」
「……」
未琴は、黙ったまま…真剣な眼差しで、円の話を聞こうとしている。
「(ごめんね…私は、智希じゃないのに…でも、ちゃんと聞くから)」
「あのね…弟達を仕向けたのは、私なの…さくらちゃんが亡くなって、智希君がいなくなって…もう会えなくなるかもって考えたの…だから、智希君がさくらちゃんのお父さんと会ってた昨日…弟に尾行してもらったんだ。
…でもね、傷つける為じゃなかったんだよっ!…もっと早く病院から出ていれば…早退でもしてれば…ごめんね、未琴ちゃん…智希君…ごめんなさい。こんな事しても…智希君は振り向いてくれないよね…私、バカだよね」
黙って話を聞いていた未琴が、首を横に振った。言葉はない。笑顔のまま、円の頭を優しく撫でる。自分がそうしてもらった様に…
「…未琴ちゃん」
…智希の姿をした少女にしがみつき、静かに涙を落とす。
165センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:32:56 ID:ZHWdmQNm
 あくる朝、部屋の中に未琴の姿は無かった。ただ、一通の手紙を残して、消えていた。

『円さんへ
智希はどうあれ…私は、円さんが大好きだよっ!円さんの手料理、すっごくおいしかった。…ずっと、円さんのそばにいたいって思ったよ。
…でもね、私はいつ消えるかわかんないし…円さんのそばには…いれない…ごめんなさい…お仕事、頑張ってくださいね
                                                     さよなら…未琴より』
円は、手紙を握り締め…声を押し殺し、泣き続けた。
166センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:33:39 ID:ZHWdmQNm
〜最終章〜「桜の涙」〜

四月○日
あいつが天に召され、何度目の春が訪れたのだろうか…墓の場所さえ知らない俺は、会いに行くことも出来ず…未だに生き続けていた。

四月×日
あれから…何人と架空の恋に踊らされ、傷つけてきたのか…あれ以上の恋は出来ないと思いながらも…探し続けた。幾度となく、苦しみ…苦しめ…何度も死のうとした。だが、俺は生きている。いや、死ねないんだ。死のうと考えるたびに、あいつの…さくらの顔が浮かぶ。

『約束』

この言葉だけが、俺を引き止める。

四月△日
 数年経ったある夜、俺の失われた記憶は…唐突に戻ってきた。あまりにも多い情報量に、俺は…押し潰されそうになっていた。真実は酷なモノだ。受け止めるしかないのか…

四月□日
 もう…失うモノも、事もほとんどない。これから先、生きていけるのか…生かされ続けるのか…まだ、死ぬ訳にはいかない。まだ、答えを見出せてはいない。

四月●日
 ふと、公園の桜を見た。…桜はもう、散り始めていた。風に煽られ、花びらが舞っていく。春も終わりを告げるのか…

四月▽日
 とうとう、最後の一枚が落ちようとしていた。物悲しく散っていく桜は…涙を流す、あいつを思い出させていた。

四月▲日
 そろそろ…限界なんだろう。俺の体は悲鳴を上げている。

四月■日
 …

小さな部屋に残された日記。血に塗れた最後の一枚は、智希の最後を物語っているのか…それはもう、誰にもわからない。彼の部屋の窓には、しなびた桜の花びらが張り付いていた。それは、流れ落ちる涙の様に…

〜「桜の涙」〜完
167センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/02(木) 23:41:42 ID:ZHWdmQNm
>>141
出来る事なら、生き続けたい。やり残しも山ほどあります。でも…
…すみません。私に残せる作品は以上です。

以上で終わりです。感想など頂ければ嬉しいです。出来る限り読ませていただきます。
長々と連投してしまい、申し訳ありません。…本当にすみません。

最後に、アゲます。
168 ◆AX5Sy3Pedg :2006/11/02(木) 23:53:15 ID:SZ5Hhfk3
>>167
途中で割りこんじゃって、ごめん…orz。
御疲れ様。
作品は、時間をかけて読ませてもらいます。
今は少し混乱してるので…。

多分、今、おれが何を言っても…と思うけど…。
ただ――悲しい。

少しでも、生き続けたい気持ち。
そして、やり残しがあるのなら…
駄目かな?

もっと、このスレで作品うpして欲しい。
おれも久しぶりに書いてみようかな…。
もしよかったら、読んでくれないかな?

ゴメン…なんか、グダグダだ…。


169センティア ◆xqjbtxNofI :2006/11/03(金) 01:03:38 ID:2+ig6V4/
>>168
生活していく術が消えてしまったんです。
もっと生きたい…最後まで往生際が悪いのは、承知してます。
もっと書き続けたい…もっと伝えたい事がたくさんある。

けどもう、無理なんですよ。全て手遅れになってた。まさか…小説と同じ末路を辿る事になろうとは…

すみません、スレ違いですね。…読みたい。読む余裕が欲しいです。
170優しい名無しさん:2006/11/06(月) 17:54:30 ID:xNwdsSvo
保守
171優しい名無しさん:2006/11/10(金) 21:30:23 ID:4+t0Clqr
hosyu-
172優しい名無しさん:2006/11/14(火) 17:57:14 ID:hc9R2Ch0
保守
173優しい名無しさん:2006/11/21(火) 03:24:50 ID:puO+ZwB4
保守あげ
174優しい名無しさん:2006/11/27(月) 03:06:32 ID:A2snmtlo
スナフキンあげ
175鷹羽 賢:2006/11/29(水) 21:27:56 ID:31sDtOGB
思い浮かんだ場面を文章にしたものをupします。断片の寄せ集めですが,
良かったら批評して下さい。
176赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:30:19 ID:31sDtOGB
 この世界は,物質界と神霊界から成る。神霊界は神聖界・精霊界・暗黒界
の3つから成る。神聖界とは天国の事であり,神と天使達の住処である。
暗黒界とは地獄の事であり,魔王と悪魔達の住処である。精霊界とは,
物質界を制御する精霊達の住処である。神聖界と暗黒界は物質界の覇権を
賭けて長い間争い,数多くの植民地が作られた。
 その1つが,エンゲージメント帝国である。暗黒界の悪魔が建国した
この帝国は,一時は物質界を支配するほど栄え,悪魔の血を引く皇族達は,
超人的な力を誇った。しかし,1人の聖者が建国した
ゴールド=グロリアス王国が栄えるにつれて,両国は激しい戦争を
繰り返した。やがて,エンゲージメント帝国は衰え,
ゴールド=グロリアス王国によって滅亡した。皇族達は辺境の岩城に逃れて
抵抗したが,神聖界と暗黒界の契約によって暗黒界に逃れた。
 しかし,第2皇子スカーレット=エンゲージメントだけは杳として行方が
知れず,王国は追っ手を差し向けていた。
177赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:32:08 ID:31sDtOGB
 旧帝国領の辺境。荒涼たる荒野に乾いた風が吹き,砂埃が上がる。
その中を,1人の男が歩いてくる。フードに覆われて,その顔は見えない。
マントの裾は擦り切れて,長い放浪を物語る。腰には曲刀を差している。
その曲刀には金の装飾が施され,漆塗りの鞘に収まっている。
 その男の後方から,土煙を上げて5・6頭の馬が駆け寄ってくる。
それぞれの馬には,鋼の甲冑を着込んだ王国の騎士が騎乗している。
騎士達は男に追い付くと,馬の歩みを緩め,男を取り囲んだ。
 男はフードを取り払った。真っ直ぐで長い真紅の髪が,腰まで伸びている。
肌は雪のように白い。瞳は大きく,栗色である。頬にはうっすらと紅が
差している。唇にも紅が差している。その美貌は,まるで女性のようである。
 騎士達の長が,男に問い掛けた。
「スカーレット=エンゲージメントだな。」
「何の事だ。」
「とぼけるな。その真紅の髪と腰の曲刀が,何よりの証拠だ。」
「俺をどうするつもりだ。」
「王都に連行して処刑する。」
「そう言われて,大人しく連行されると思うのか。」
 一問一答ごとに,緊張が高まる。騎士達は馬を降り,腰の剣を抜いて
構える。男もまた,腰の曲刀に手をかける。
「已むを得ん。斬り捨てよ。」
 騎士たちの長の怒号と共に,騎士達は一斉に男に斬り掛かった。
男の瞳が赤く光り,腰の曲刀が抜かれる。
 次の瞬間,騎士達は荒野に崩れ落ちた。鋼の甲冑が裂けて,鮮血が
噴き出している。男は曲刀を手にしていた。その刀身は漆黒である。
エンゲージメント帝国皇室の家宝であり,鋼の甲冑をも切り裂くこの曲刀が,
この男がスカーレット=エンゲージメントである証拠であった。
178赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:34:44 ID:31sDtOGB
 王国の南東部,旧帝国領との国境近くに広がる大森林。
ワイズ=フォレスト教授の館はその中にある。ワイズは
精霊界の代理人として,物質界における神聖界と暗黒界の勢力の均衡を保つ
者であり,王立大学で教鞭をとるが,王国からは独立して中立の立場を
保っている。
 ワイズの館は2階建ての洋館である。その庭を,1人の少女が箒で
掃いている。肩まで伸ばした栗色の髪,大きな栗色の瞳。美人では無いが,
明るい印象を与える顔立ちである。少女の名はフローラル=フォレスト。
ワイズの孫娘であり,王立大学を主席で卒業したが,就職先がなく,
ワイズの助手として住み込みで働いている。
「フローラル。フローラルはいないか。」
 洋館の中からワイズの声がする。フローラルは箒を置いて,洋館の中へと
入って行く。
 1階のワイズの書斎。フローラルが書斎に入ると,ワイズは机に向かって
書き物をしている。ワイズはフローラルに気付くと書き物を止め,
フローラルの方を向いた。ワイズは白髪の老人であり,白い口髭と顎鬚を
生やしている。緑色のローブに身を包み,傍らには節くれだった杖が
置かれている。フローラルはワイズに問い掛けた。
「何の用でしょうか,おじい様。」
「先日,エンゲージメント帝国が滅亡したのは知っているな。」
「はい。」
「実は,第2皇子のスカーレットが逃亡しており,王国は躍起になって
追っ手を差し向けている。神聖界と暗黒界の契約で,あの男を殺すことは
禁じられているが,王国の連中に見境があるとは思えん。お前には,彼を
ここに連れてきて貰いたい。」
 ワイズは語り終わると,フローラルを2階の物置に連れて行った。
そして,物置から1本の真っ直ぐな杖を取り出して,フローラルに手渡した。
「これは精霊の宿る大木から切り出した魔法の杖だ。スカーレットは
鋼の甲冑を切り裂く曲刀を持っているが,それですらこの杖を斬ることは
出来ない。では,頼んだぞ。」
「分かりました。必ず,彼をここに連れてきます。」
179赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:36:21 ID:31sDtOGB
 旧帝国領。荒野の中に,寒村がある。スカーレットはその中の1軒に身を
寄せている。この寒村は旧帝国への傾倒が強く,スカーレットを
歓迎している。
 スカーレットは村の広場に出る。フード付きのマントを身に纏っているが,
フードは取っている。村の老人が,スカーレットに話し掛ける。
「皇子。他の皇族方が暗黒界に逃げ帰ろうとも,帝国最強と言われた皇子が
居れば,帝国の再興も容易い筈。私共に出来る事があれば,どうぞ遠慮なく
申し付けて下さい。」
「その気持ちは有難いし,無論帝国は再興させるが,まだ時期ではない。
何分帝国軍が四散しているからな。この状態で挙兵しても,王国軍の物量に
圧倒されるのが落ちだ。」
「皇子が号令をかければ,帝国軍の兵士達も集いましょう。」
老人はやや興奮している。スカーレットは反応に困った。
そのとき,村の見張り台の鐘が大きな音で鳴った。この村に侵入者が訪れた
のである。
「何者だ。王国の騎士か。」
「それが,女性1人のようです。」
村全体がざわめく中,1人スカーレットは冷静である。スカーレットは
村民全体に告げた。
「いずれにせよ,俺が目的なのには違いあるまい。お前達では相手にならない
だろうから,家の中に隠れているように。」
そして曲刀を抜くと,冷たい瞳で虚空を睨み,不敵に笑った。
「こいつは,俺の獲物だ。」
180赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:37:48 ID:31sDtOGB
 フローラルが村に入ると,そこには誰もいなかった。乾いた土の道を歩いて
行くと,ほどなく真紅の髪の男が曲刀を携えて立っているのを見付けた。
恐らく,この男がスカーレットであろう。スカーレットは意外だという
表情をした。
「女がこの俺に何の用だ。」
「私の名はフローラル=フォレスト。精霊界の代理人,
ワイズ=フォレストの孫娘よ。」
「どうやってここを嗅ぎ付けた。」
「王国の騎士が死体で発見されたと言う報告を辿れば,簡単なことよ。」
「精霊魔術師が,俺に何の用だ。」
「貴方が神聖界と暗黒界の契約を無視して物質界に留まっているから,
王国は貴方を殺したがっている。しかし,それでは契約違反になる。
だからひとまず,自分の元に連れて来いとおじい様は仰っていたわ。」
「要するに俺を保護する気か。」
「そういうことね。どうする。」
フローラルは軽く言ったが,それは明らかな命令であった。スカーレットは,
それを敏感に感じ取る。
「断る。俺には帝国再興の義務がある。」
「頑固な男ね。仕方ない,力づくで連れて行くわ。」
そう言うと,フローラルは手にした杖を構えた。スカーレットも,それに
合わせて曲刀を構える。そしてこう言った。
「俺と武術で勝負する気か。勝機はないぞ。」
「あまり驕らないことね。やってみなければ分からないでしょう。」
181赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:39:15 ID:31sDtOGB
 大森林,ワイズの洋館。ワイズが休憩をするために外に出ると,
ガタゴトという荷馬車の音が聞こえてきた。見ると,遠くからフローラルが
荷馬車を伴って歩いてくるのが見える。
 荷馬車が着くと,荷台にはスカーレットが魔術の蔦で縛られて,
こちらを睨んでいた。
「貴様がワイズか。この蔦を解け。」
スカーレットは敵意を丸出しにして,ワイズを睨みつける。
「構わん。フローラル,蔦を解いてやれ。」
「しかし,危険ではありませんか。」
「我ら精霊魔術師の前では,如何なる剣士でも赤子同然。それに,曲刀は
没収してあるのだろう。」
「はい。」
「では,問題あるまい。」
その言葉に応じて,フローラルが呪文を唱えると,蔦は燃え上がって
消滅した。すると,スカーレットはフローラルから曲刀を奪い取り,抜刀。
そのままワイズに斬り掛かった。ワイズはそれを節くれだった杖で受けると,
スカーレットを強打した。スカーレットはその場にうずくまるが,
未だ瞳から敵意は消えない。
「まるで狂犬だな。しかし,彼我の力の差は,火を見るよりも明らかだ。
大人しく話を聞け。」
 その話を聞いて,スカーレットは納刀した。とりあえず,話を聞こうと
いう気になったらしい。
「立ち話もなんだから,中で話をしよう。ついて参れ。」
そう言って,ワイズは洋館の玄関へと向かっていった。スカーレット,
フローラルもそれに続く。
182赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:40:09 ID:31sDtOGB

 ワイズの洋館1階,居間。フローラルの入れた紅茶を飲みながら,
ワイズとスカーレットが話をする。
「さて,知っての通りお前の一族は暗黒界へと逃げ帰った。お前1人が
足掻いても,状況は変わらない。時代は帝国から王国へと移り変わっている
のだ。それでもまだ戦うか。」
スカーレットは鞘に収まった曲刀を掲げる。
「これは帝国を建国した悪魔が持っていたという曲刀で,皇位継承の証です。
私の代で帝国を滅ぼしては,祖先に面目が立ちません。」
曲刀を下ろす。ワイズは何か考えているような表情をしている。
「どうしても暗黒界へ帰る気はないか。」
「ありません。」
スカーレットは即答する。ワイズはしばらく考え込むと,こう切り出した。
「実は,今回お前を連れてきたのはお前の一族からの依頼なのだ。
無理をせずに暗黒界に帰って欲しいと。しかし,お前が暗黒界に
帰りたくないというのならば,1つ提案がある。」
「何ですか。」
「わしの弟子にならぬか。」
「弟子,ですか。」
「うむ。正直なところ,お前はわしらの力を欲しいと思っているはずだ。
悪魔の血を引くお前には素質がある。魔術師として,素質がある者を
放って置きたくはない。一族にはわしから説明する。どうだ。」
スカーレットはしばらく考え込み,ゆっくりと答えた。
「分かりました。魔術師の弟子,やってみましょう。」
「うむ。部屋は2階に用意する。フローラルの隣の部屋になるだろう。
フローラル,面倒を見てやってくれ。」
「分かりました。」
183赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:41:24 ID:31sDtOGB
 翌日から,早速魔術の修業が始まった。
「まずは,『目』の習得からね。」
 ワイズの洋館の庭。フローラルが,スカーレットに魔術の基本を教えている。
「『目』とは,『魔力を見る目』のことで,魔術の基本よ。」
 そう言うと,フローラルは1枚の紙を取り出した。スカーレットはそれを
受け取る。何も書かれていない。
「この紙に,何が書かれているか当ててみて。」
「何も書かれていないじゃないか。」
「それを『目』で見るのよ。」
 スカーレットは紙を睨み付けるが,何も見えて来ない。紙を裏側から
見たり,透かして見たりしても,何も見えて来ない。フローラルはそれを
見て言った。
「紙に仕掛けがあるわけではないの。あくまでも自分の『目』で見るのよ。
すぐに出来るようにはならないから,その紙は貴方に預けるわ。」
そう言うと,フローラルは館内に入ってしまった。
184赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:42:50 ID:31sDtOGB
 スカーレットは,四六時中その紙を見ていた。食事のときも,ワイズの
命じる雑務をこなすときも,寝るときもその紙を見ていた。しかし,一向に
何も見えるようにはならない。
「俺には才能がないのか。」
と,スカーレットは思う。ふと,部屋に置いてある曲刀に目が行く。
「そう言えば,最近曲刀を振っていないな。魔術の修業も良いが,
剣術の腕が鈍るようなことはあってはならない。」
 そう思うと,スカーレットは曲刀を手にして,庭に出た。
 外は満月が美しく,庭には月の光が降っている。スカーレットは
その中で,剣術の型の稽古をした。その瞳は赤く光っている。稽古を
しているうち,スカーレットは何かが見えるような気がした。曲刀を
振り続けていると,それらはより明瞭に姿を現した。森の精霊達である。
 スカーレットはそれに気付くと,部屋から例の紙を持って来て,ナイフで
近くの木に留めた。そして,曲刀でその紙を真っ二つに斬り捨てた。
斬り捨てた瞬間,紙に書いてある文字が見えた。その紙には,
こう書かれていた。
「ようこそ,もう一つの世界へ。」
185赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:43:47 ID:31sDtOGB
「スカーレット,スカーレットはいるか。」
 野太い声が,大森林にこだまする。それと同時に,ズシンズシンという
地響きが響き渡る。
「何事。」
 フローラルとワイズは動揺して表に出るが,スカーレットは平然と
紅茶を飲んでいる。そして,煩わしそうに呟いた。
「奴だ。」
それを,フローラルが問い詰める。
「奴って誰のこと。」
スカーレットは,忌々しげにフローラルに説明した。
「兄上だよ。エンゲージメント帝国第1皇子,
レッドドラゴン=エンゲージメントだ。」
186赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:48:10 ID:31sDtOGB
「本当に兄弟なのかしら。」
洋館に到着したレッドドラゴンと表に出たスカーレットを見比べて,
フローラルは呟いた。レッドドラゴンは長柄の斧を持ち,真紅の甲冑に
身を固めた巨人で,スカーレットとは大人と子供ぐらいの体格の差がある。
顔付きも男らしく,骨ばっている。女性のような顔立ちのスカーレットとは,
対照的である。
「母親が違うんだよ。俺は庶子で,スカーレットは嫡子だ。だから,
第2皇子のこいつが皇位継承権を持っている。」
 レッドドラゴンは外見に反した優しい態度で,フローラルに説明する。
一方,スカーレットは冷たい瞳で,レッドドラゴンを見据える。
「何の用だ。暗黒界に逃げ帰った臆病者が。」
表情は落ち着いているが,このような暴言を吐く所からすると,
相当頭に血が上っているようである。レッドドラゴンはこの挑発には応じず,諭すようにスカーレットに説明する。
「お前を暗黒界に連れ戻しにきた。ワイズ教授の下で魔術を修業すると
いうから放って置いたが,このままお前を物質界に置いておくわけにはいかん。」
「全ては帝国再興のためだ。庶子のお前には,帝国の重さが
分からんのだろうよ。」
「スカーレット!」
致命的ともいえる暴言に,フローラルとワイズが声を荒げる。雰囲気が
変わった。レッドドラゴンの全身から,凄まじい重圧が発せられる。
彼もまた帝国の皇族として,幾多の戦場を潜り抜けてきた戦士なのだ。
「仕方ないな。言って分かるような男ではないことは,昔から分かっていた。」
そう言うと,長柄の斧を構える。そして,重々しく宣言した。
「力づくでも連れて帰る。」
 スカーレットもまた曲刀を構える。
187赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:50:50 ID:31sDtOGB
「うおおおお。」
レッドドラゴンの怒号とともに,長柄の斧が振り下ろされた。
スカーレットは跳躍してそれをかわす。
レッドドラゴンの一撃は大振りだが,その破壊力は半端ではなく,
受け止めるのは不可能である。加えて長柄の斧を使っているため
間合いが長く,曲刀で斬り付けるには刃の嵐を潜り抜けなければならない。
スカーレットは間合いを取りそこね,長柄の斧をかわし続けた。洋館の
周りの木々が巻き添えを食らい,斬り倒されて行く。フローラルとワイズは
洋館の中に避難した。
しかし,戦いが長引くに連れて,様子が変わって来た。レッドドラゴンは
重い甲冑を身に纏い,重い長柄の斧を振り回している。当然,次第に疲れが
生じて,動きが鈍って来る。
スカーレットはそれを見逃さなかった。レッドドラゴンの間合いに
踏み込んで斧の柄を斬り落とすと,跳躍してレッドドラゴンの巨体を
一刀両断にした。スカーレットが着地して,続いてレッドドラゴンが
崩れ落ちる。
スカーレットは止めをさすべくレッドドラゴンの元へ歩み寄った。
レッドドラゴンは既に虫の息である。レッドドラゴンは怒りを剥き出しに
してこう言った。
「実の兄すら斬り捨てる狂人め。生かしては置かぬぞ。」
「ほざけ。その体で何が出来る。」
「この身に宿る悪魔の力を解放するのだよ。」
レッドドラゴンはそう言うと,呪文を唱え始めた。
「暗黒界の王の名において命じる。我が身に宿る悪魔の力を,ここに解放せよ。」
 すると,レッドドラゴンの巨体が炎に包まれ,その中から巨大な火竜が
姿を現した。全身は煌びやかに輝く真紅の鱗に覆われている。
 スカーレットは間合いを取った。近くにいれば火竜の牙や爪の犠牲になる。
 火竜は炎の息を吐いた。スカーレットはそれを避け,火竜の胴体を
斬り付けるが,鱗に弾かれて刃が通らない。スカーレットは再び間合いを
取ると,火竜の攻撃を避け続けた。
「竜を倒すには,鱗のない腹を裂けば良かったんだな。」
 スカーレットはかつて書物で得た知識を思い出しながら,火竜の懐に入る
機会を窺っていた。
 火竜が炎の息を吐いたとき,スカーレットはその中をかいくぐって火竜の
懐に入り,その腹を切り裂いた。火竜の血と内臓がスカーレットに降りかかる。
火竜は断末魔の叫びを上げると,その場に倒れ伏した。
 火竜の死体は黒い突風となって四散した。後には何も残らない。
「これで皇族達との縁は切れたな。」
スカーレットは他人事のように呟くと,血振りをして曲刀を収めた。
188赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:51:22 ID:31sDtOGB
 ワイズの洋館,玄関。コンコンと戸を叩く音がする。
「はい。」
フローラルが返事をして出ると,灰色のフード付きマントに身を包んだ女性が立っていた。フードを取ると,金髪碧眼の美女である。
「あの,どちら様でしょうか。」
美女から返事が来るより早く,奥から出て来たスカーレットがその名を呼んだ。
「リリィじゃないか。生きていたのか。」
「はい。お久し振りです,皇子。」
リリィはしっかりとした声で答えた。
189赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:51:58 ID:31sDtOGB
 ワイズの洋館,居間。フローラルが紅茶を入れる中,リリィとスカーレットが話をして
いる。
「それで,俺に何の用だ。」
「皇子に,反乱軍の指導者になっていただきたいのです。」
「反乱軍だと。」
その情報は,ワイズとフローラルが伏せていたため,スカーレットは知らない。しかし,
旧帝国領で帝国の貴族達が王国に反旗を翻しているというのは,周知の事実であった。
帝国一の名門であるダスク家の生き残りであるリリィは,その指導者を務めているので
ある。それを知ったスカーレットは,ためらうようにこう言った。
「しかし,俺はレッドドラゴンを斬った事によって,皇族達とは縁が切れている。それで
も良いのか。」
「保身のために暗黒界に逃げ帰った皇族達は,最早皇族と呼ぶに値しません。例え単身で
も王国に一矢報いようとした皇子こそ,帝国の後継者に相応しい。」
 リリィはそこまで言うと,一旦言葉を止めた。
「無理にとは申しません。皇子がその気でしたら,私達の拠点にいらして下さい。ここに
場所を書いた紙を残しておきます。」
リリィはそう言ったが,その瞳はスカーレットが来ることを確信していた。
190赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:54:13 ID:31sDtOGB
 数日後。黒い軍服に漆塗りの鞘に収まった曲刀を差し,スカーレットが大森林を発とう
としていた。その前に,ワイズが立ち塞がる。
「どこへ行く気だ。」
「反乱軍の拠点です。」
「師として認めるわけにはいかん。引き返せ。」
「どうしても退いて下さいませんか。」
「無論だ。」
「では,仕方ありませんね。」
 そう言うと,スカーレットは抜刀する。
「愚か者が!師に刃を向けるとは何事か!」
「お許し下さい。全ては帝国再興の為……。」
「叶わぬ妄執に身を委ね続けるか……。ならばその迷妄,この場で断ち切ってくれる!」
191優しい名無しさん:2006/11/29(水) 21:56:49 ID:31sDtOGB
 リリィ率いる反乱軍にスカーレットが合流すると,彼らは新生エンゲージメント帝国を
名乗り,皇帝の座にはスカーレットが就いた。新生帝国は勢力を増し,王国と対立するま
でに発展した。王国は新生帝国の討伐を決定し,使者をフローラルの元へ派遣した。スカ
ーレットの姉弟子に,スカーレットの倒し方を尋ねるためである。
192赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:58:23 ID:31sDtOGB
 旧帝国宮殿,謁見の間。外では新生帝国と王国の兵士達が死闘を繰り広げている。そん
な中,スカーレットは1人玉座に座っている。
 謁見の間の扉が勢いよく開いて,12名の騎士達が侵入してきた。聖十字騎士団。神聖
魔術の掛かった聖剣と甲冑で武装した,王国最強の騎士団である。騎士達は警戒している。
ここに来るまでに戦闘がなかったのだ。罠である可能性が高い。
 スカーレットは騎士達の入場を確認すると,玉座から立ち上がって階段を下りた。そし
て,呪文を唱える。騎士達の後方で,バタンと大きな音を立てて扉が閉じた。
「貴様達も察していると思うが,俺は敢えて貴様達をここに通した。何故だか分かるか。」
そう言って,抜刀する。漆黒の刀身が光る。
「貴様達は王国最強の戦力だ。雑兵を当てても,戦力の損失に終わる可能性が高い。よっ
て。」
スカーレットの体から,その美しい外見からは想像も付かない重圧が発せられる。
「貴様達は俺がこの場で始末する。」
その言葉には,虚勢とは思えない重みがあった。かつて1人で1000人の兵士を斬り
殺し,「精霊界の代理人」ワイズをも葬った男である。油断すれば,聖十字騎士団と言
えども全滅する危険性がある。騎士達は聖剣を構える。
「かかれ!」
 団長の怒号と共に,騎士達がスカーレットに斬り掛かった。
193赤毛の皇子:2006/11/29(水) 21:59:11 ID:31sDtOGB
 スカーレットは血振りをして,曲刀を収めた。周囲には騎士達が倒れている。全滅であ
る。まだ息のある者も居るが,もう長くはない。
「他愛無い。この程度か。」
 スカーレットは呆れたように呟くと,軍服の乱れを正す。
194赤毛の皇子:2006/11/29(水) 22:00:08 ID:31sDtOGB
「精霊界の王の名において,草木の精霊に命じる。生と死は円環なり。汝等冬に死して,春に蘇るが如く,この者達を蘇らせ給え。」
  扉の外から,朗々たる呪文が響いてくる。聞き慣れた声だ。謁見の間に草木が生え,騎
士達の傷が癒えて行く。騎士達が立ち上がった。スカーレットは騎士達を見ずに,扉の向こ
う側を見詰めている。
 「蘇生の魔術は禁呪ではなかったのか,フローラル。」
 落ち着き払った声で,扉の向こう側に問い掛ける。
  扉が開いた。そこには,栗色の髪に栗色の瞳をして,真っ直ぐな杖を手にした女性が居
た。
 「師を殺した貴方に魔術師の掟を語る資格はないわ,スカーレット。」
 フローラルは静かだが,力強い声で言った。
195赤毛の皇子:2006/11/29(水) 22:00:54 ID:31sDtOGB

若い騎士の聖剣が,スカーレットの胸を刺し貫いた。鮮血が噴き出る。
「おのれ……。志半ばで倒れるのか……。」
スカーレットは声を絞り出すと,その場に膝を付いた。
「まだだ……。まだ倒れんぞ……。」
 スカーレットはそう言うと,なにやら呪文を唱え始めた。
「危ない!皆下がって!」
 フローラルはそう叫ぶと,騎士達を下がらせ結界を張った。
「暗黒界の王に請願する……。我,志半ばで倒れるのを潔しとせず……。願わくば,この
肉体を地獄の業火で焼き尽くせ……。我,火の悪魔となって,王国を焼き尽くす所存なり
……。」
 途切れ途切れの呪文の詠唱が終わると,スカーレットの肉体は炎に包まれた。炎はスカ
ーレットの軍服を焼き,皮膚を焼き,肉を焼いて行く。焦げ臭い匂いが辺りに立ち込め,
炎は益々勢いを増して行く。
 炎の勢いが弱まると,スカーレットは骨しか残っていなかった。しかし,様子がおかし
い。その骨は崩れ落ちず,2本足で立ち続けている。炎がその周りに纏い付き,真紅の外
套となった。髑髏の上には王冠が乗っている。
 髑髏の瞳に光が宿った。傍らに落ちていた曲刀を手に取ると,抜刀する。暗黒魔術の奥
義によって,自らを火の悪魔と化したのだ。
「何てこと……。」
 フローラルは絶句する。騎士達の表情は,絶望に支配されていた。
「我ハ火ノ悪魔……。汝等王国ヲ祟ル者ナリ……。」
 かつてスカーレットであった悪魔は,顎の骨をカクカク動かして喋る。
196鷹羽 賢:2006/11/29(水) 22:02:43 ID:31sDtOGB
以上です。トリップも番号も付けず,読みづらい文章になってしまって
申し訳ありません。それでは,感想をお待ちしています。
197優しい名無しさん:2006/12/02(土) 07:02:32 ID:gAtf2PBQ
題材の割には文章も少なくてチープに感じられたかも。
文頭に広い世界地図を置いちゃったから、
地図を埋める文句だとか世界設定の描写とかが欲しいような気もした。

ただ、伝えたいのは世界設定じゃなく、物語だと思うし、
そもそも地図を広げずに話を書けばいいんじゃないかなと思ったよ。


失礼した。
198すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/12/02(土) 21:21:12 ID:t/91QmaX
今風邪っぴきでよく読めんが、もしかしてつくばん帰ってきた?
ご令嬢だよー?
199優しい名無しさん:2006/12/02(土) 23:39:17 ID:0MDqVmF+
>>鷹羽 賢さん
乙です。

文章が単調というか、ぶつ切りのように感じられて
流れが悪く、ただの説明文のような印象を受けました。
それから、句読点は「、」がいいと思います。


>荒涼たる荒野に乾いた風が吹き,砂埃が上がる。
>その中を,1人の男が歩いてくる。フードに覆われて,その顔は見えない。
>マントの裾は擦り切れて,長い放浪を物語る。腰には曲刀を差している。
>その曲刀には金の装飾が施され,漆塗りの鞘に収まっている。

上の文を もし自分が書くのなら、素直に――

『荒れ果てた大地に舞い上がる砂埃の中を
フードで顔を隠された一人の男が歩いている。
その腰には、金の装飾が施された曲刀が漆塗りの鞘に収まっており、
擦り切れたマントの裾が彼の長い放浪の旅を物語っている。』

と書くか――

『荒涼とした大地、乾いた風が砂塵を運ぶ。
黄金色の風の中をフードによって顔を隠された男が一人進む。
腰には金の装飾が目立つ曲刀を携えており、風にはためく裾の
擦り切れたマントが彼の放浪の旅が長いことを人々に知らせる。』

のように、書くかな……。
どうでしょうか? 
みんななら、どのように書くか知りたいな……。
200ムキンポ:2006/12/03(日) 10:54:20 ID:nDEypW3j
無闇と他人に文章を改訂されるのは、あまり気分のいいものじゃないと思う。
201優しい名無しさん:2006/12/04(月) 12:53:00 ID:PbIqvpYB
むやみに改定してるわけじゃないんじゃね?
作家に対して、読者が「自分ならこんな表現が好きです」って
感想言ってるだけじゃね?
202優しい名無しさん:2006/12/05(火) 17:39:24 ID:04gxhtIw
何かお題をくれ
203加藤:2006/12/05(火) 19:03:07 ID:8uGx4m3b
文芸社出版賞から一次選考通過の知らせが来ました
204優しい名無しさん:2006/12/05(火) 19:51:02 ID:Q142WBB4
>>203

それって凄いの?
205加藤:2006/12/05(火) 19:59:39 ID:8uGx4m3b
わかりません
206優しい名無しさん:2006/12/07(木) 01:26:35 ID:2xNS+pZO
>>203
悲しいことだけど、文芸社の賞に1次通過とかいうのはあまり・・・
たぶん、2次か3次とかまで通過はするけど、
「残念だったね。でもキミの作品は出版する価値がある」
とかなんとか言われて、協力出版だとかなんとかいうのに誘われる・・・
で、ン○万円とかって言われる。
文芸社のではないけど、こういう傾向の出版社の賞にだして、それやられた。
でも、自分の作品のいいところ言われてちょっと嬉しかったりw

悪い点はひとつも言われなかったから、なんだかなーって感じです。

長文スマソ
207加藤:2006/12/08(金) 21:58:11 ID:o3PMl1jK
新風舎からその話されたことあります
90万で協同出版しないかって
さすがに断りましたが

今回は最後まで残るのを祈るばかりです
208優しい名無しさん:2006/12/09(土) 23:58:10 ID:FZuyEXuK
うーむ、ヒドい話だ
209すずきあるみ ◆hBxajE4gYQ :2006/12/11(月) 04:45:40 ID:VdTArZZI
締め切りに間に合ったらラノベの賞にぶちこむ(´ー`)萌え要素ゼロだけど!
210優しい名無しさん:2006/12/14(木) 22:07:39 ID:j6G8h26P
あげ
211優しい名無しさん:2006/12/17(日) 18:42:37 ID:D0WFIZtD
あげ
212優しい名無しさん:2006/12/21(木) 09:26:21 ID:yLLIQtsY
保守
213優しい名無しさん:2006/12/23(土) 17:55:49 ID:aqPg4Q8p
age
214優しい名無しさん:2006/12/26(火) 16:16:46 ID:6BAztZi5
保守
215優しい名無しさん:2006/12/29(金) 19:37:10 ID:GQu1Vvcq
age
216優しい名無しさん:2006/12/30(土) 20:57:02 ID:K583suGO

217優しい名無しさん:2006/12/31(日) 10:22:03 ID:5CFA3//L
保守
218鷹羽 賢 ◆irTZ1mWXgg :2006/12/31(日) 20:52:24 ID:ILyRUZaX
>>197
設定を固めないと文章がかけないのです。

>>198
すずきあるみ=ご令嬢ですか?

>>199
文章が固いのは自覚しています。ただ,どうしても柔らかい文章が
書けないのです。
219つくば ◆irTZ1mWXgg :2006/12/31(日) 20:57:43 ID:ILyRUZaX
>>199
横書きの読点は「,」です。
220鷹羽 賢 ◆irTZ1mWXgg :2006/12/31(日) 20:59:28 ID:ILyRUZaX
>>219
名前欄を間違えました。申し訳ありません。
221ラビン ◆0jWT6fJoYY :2007/01/01(月) 23:02:07 ID:EcNwdfNU
載せますぜ
2221話:2007/01/01(月) 23:07:59 ID:EcNwdfNU
男は電車に乗っていた。12月だというのに海に向かっている。
男は過去に、海の底に何かを沈めていた。
男はその何かが何だったかを忘れてしまっていた。その何かを思い出すために海へ向かう。
電車から降りると、外の冷たい空気が待ち伏せていたかのように男の顔に突撃した。
「痛いなぁ」
冷たいなぁと言おうとしていたが、痛いなぁになってしまった。
海へは5分も歩けばたどり着ける。男は一度、空を見上げ青い色を眼に焼き付けてから駅の階段を降りた。
「懐かしいなぁ」
男は独りでつぶやいた。

「夏に来たら、もっと濃い匂いがしただろうなぁ」
海独特の匂いがただよう。強弱をつけて吹く風と、それと同時に波の音が響いていた。男は唯一露出してる顔で、海の空気を感じている。
男はひととおり満足すると、歩を勧め海に近づく。そして男はくるぶしより上までを海の中に入れた。
2232話:2007/01/01(月) 23:10:21 ID:EcNwdfNU
「ひぃ!」
海の冷たさに男の口から小さく悲鳴がもれる。
海水がすぐに靴の中に染み込んできた。まだ濡れていない部分にも執拗に迫り、じわじわと繊維の隙間を海水で埋め、そのたびに冷たさは増していく。
「それにしても懐かしいなぁ、でもアレを思い出さなきゃなぁ」
氷のような冷たさの中、男はこの海に来た目的を果たすために、頭の記憶をあさった。
「確か女の人と来たことがあるような・・・」
頭の中で、自分がいて、その隣に自分と同じくらいの年齢の女がいる映像が浮かんだ。
しだいに映像の中の二人が、何かもめているふうな様子になった。
ケンカをしている。二人とも興奮したニワトリのようになってしまっている。
「ああ、みっともないな」
何をケンカしているのか?よくわからないがそんなに興奮しちゃみっともないじゃないか。
「見ていられないな」
仕方なく男は、別のことを思い出そうとしていた。
2243話:2007/01/01(月) 23:15:05 ID:EcNwdfNU
ふと男は、海に沈めたものの輪郭をぼんやりと思い出した。
胴体らしきものに細長い何かが4つ付いており、細長いものはどれもくの字をしていた。
それ以上はよく思い出せないので、男は別の記憶の中を探した。
頭の中に砂浜が映った。その砂浜の上に動く小さなものが見えた。白っぽい体に暗い赤茶色のハンテン模様がついたカニだった。
その4cmほどの小さなカニと砂浜の映像がぼやけ、またニワトリのようになった自分と女の映像が割り込んできてしまった。
「ちくしょう、またか」
内容はわからないが、くだらないことでケンカをしているバカ面の自分など見たくなかった。
嫌だと思っても映像は消えない。仕方なくそのバカ面とヒステリック女を眺めていると、先ほどのカニが動いているのが見えた。
カニはちょうどバカ面をした自分の顔に重なってくれた。
「カニ人間だ。ワハハハハハ」
滑稽な自分の顔は非常に笑えた。しかし何故、頭の中の映像が重なるのだろうか?
疑問に思ったが男は自分の足下で起きてる変化に気付き頭の映像を一時停止させた。
2254話:2007/01/01(月) 23:18:18 ID:EcNwdfNU
沈めたものがこちらに近づいて来ているようだった。
もちろんそれは海のまだずっと深いところで起きていることで、
男には目でそれの姿を確かめることも、耳でそれが出す音を聞くことも出来ない。ただ予感めいたものだった。
沈めたものの輪郭が少しハッキリとしてきた。4つの細長いくの字の他に、ワラワラとただよう長く揺らめくものが見えた。
そこで一度、沈めたものは動きを止めた。
「そうかそうか、ゆっくりでいいからな」
男は近づいてくるものに向かって言った。
そしてカニと自分の顔の映像はまた動き出した。男はカニのほうをじっくりと眺めた。
ふと、カニのハサミが片方だけわずかに大きいのに気付いた。
その瞬間男は、何故カニと自分の顔が重なるのかがわかった。
映像の中の二人は、一瞬だけ見たカニのハサミが、左右でどちらのほうが大きかったかで言い争いになっていたのだ。自分は右だと言い、女は左だと言っていた。
今見ているカニを確かめると、なんと左のハサミのほうが大きかった。
「ちくしょう!」
男は思いっきり悔しがった。もしかして自分が海に沈めたのはあの女かもしれない。
2265話:2007/01/01(月) 23:21:13 ID:EcNwdfNU
男はニヤついた。自分が沈めたものが本当にあの女なら、非常に清々した気分になれる。
「ザマーみろ!」
男は叫んだあと、あることに気付いた。
沈めたものがあの女なら、自分は逃げたほうがいいのではないか?
幸いながら、あれから沈めたものが動く気配はない。
男は今のうちにと、もう少し別のことを思い出そうとしていた。
すると今度は、髪の長い男の姿が頭の中に映った。
誰だっけなぁ、これ?男は記憶の中から、髪の長い男の映像を探した。
そして男の頭に、あの女と髪の長い男が並んでいる映像が浮かんだ。
そういえばあの女、髪の長い男の髪をほめていたな。二人でキューティクルがどうだの、頭皮の脂落としがどうだのとよく話していたな。
そうすると面白くないな、俺なんてカニのハサミの話でニワトリになってコケコケコッコとやった仲なのに面白くないな。結局、俺、あの女が好きだったのかな?
すると海に沈めたのはこっちの髪の長い男のほうかな?でも二人ともいつの間にか姿を見なくなったんだよな。もしかして二人とも沈めたのかな?
もうわかんないな。いっそ、今、海に沈んでる奴に会えないかな?こっちに来ないかな?
2276話:2007/01/01(月) 23:26:17 ID:EcNwdfNU
男の期待に応えるかのように、沈んだものが深い海の底から急速に上昇してきた。
「来た!」
喜びつつ驚きつつおびえながら男は沈んだものがここまで来るのを待った。
「来る!」
男の心臓が高鳴っていた。
沈んだものはものすごい速さで上昇しているのか、海全体がうねりをあげている。
氷と間違うほどに冷たい波しぶきが男の体にかかる。
「来る!・・・来る!」
沈んだものがもう目で確認できるところまで来ている気がした。
男が油断したとき、ひときわ大きくなったうねりが足元をさらい、男はうつ伏せの状態で海の中に倒れ込んでしまった。
男は慌てて立ち上がる。海の中で全身が冷やされ肺が縮こまり、男は数秒の間、息を吸うことができなくなった。
なんとか息ができるようになったときには、もう海には静けさが戻っていた。沈んだものの気配も跡形もなく消えていた。
男は肩を落としため息をついた。
「もう少しだったのになぁ」
そう言うと男は海から出た。身体中が冷えて、歩いても足に地面の感覚が伝わらなかった。
「そうだ、夏にまた来ればいいんだ」
夏なら沈んだものも浮上しやすくなるかもしれないし、こちらから潜って迎えに行くこともできる。
「そうだ、夏にまた来よう。ふふふふふふ」
男は笑いながら、帰りの電車に乗るために駅に向かっていった。
228ラビン ◆0jWT6fJoYY :2007/01/01(月) 23:28:11 ID:EcNwdfNU
終わり
229ウタちゃん:2007/01/02(火) 00:48:10 ID:b/4E0kBs
私はウタちゃん。
歌が下手、でも唄うことが大好き。
ウタちゃんは自分で自分に問いかけます。
「お前さ、何が楽しくて毎日毎日唄ってんだ?」
そしてウタちゃんが答える。
「歌唄ってねーとやってられないから。ストレス発散さ。」

その独り言を聞いていたオバチャンが、ウタちゃんに向かって一言。
「ウタちゃんって見た目可愛いけど、どちらかというと猫より犬よね。うん。」
それを聞いたウタちゃんはキョトンだよ。


その夜、ウタちゃんは金縛りに遭いました。どうやらオバチャンの仕業のようです。
大量の1万円札で縛られてました。
「オバチャンありがとう(>_<)」
終わり☆
230ユウ ◆NUQ.9L/MSc :2007/01/02(火) 00:55:12 ID:b/4E0kBs
小説じゃないですよね(笑)すみませんm(__)m
231ユウ ◆NUQ.9L/MSc :2007/01/02(火) 01:11:05 ID:b/4E0kBs
なるほど。猫に小判とよく言いますが、この物語では犬のおまわりさんにちなんで敬札。つまり札束を敬う犬っぽいウタちゃんのお話だったわけですね〜。よっ、名犬ウタちゃん!
やっぱタイトルは名犬ウタちゃんにします(笑)
232ユウ ◆NUQ.9L/MSc :2007/01/02(火) 01:15:55 ID:b/4E0kBs
本当はウタちゃんの悩ましい心を読みとってもらえたら光栄です。どしどし読みとってください☆
233スナフキン ◆Mhc47gmqgs :2007/01/02(火) 06:03:52 ID:iEGdFw0i
     ,へ
   \/  ヽ    (  )
    _/*+*`、    ( )
  <_______フ    )
    从  ̄ >ノ    〜
     /゙゙゙lll`y─┛ いい作品に出会えるかな?
    ノ. ノノ |
.    `〜rrrrー′
.      |_i|_(_
234優しい名無しさん:2007/01/05(金) 16:20:40 ID:LqvcVQGE
ID:b/4E0kBs
なんて病気?
235優しい名無しさん:2007/01/09(火) 21:34:09 ID:L9Q2opeR
保守
236優しい名無しさん:2007/01/12(金) 23:02:25 ID:mNXCbIM/
保守
237優しい名無しさん:2007/01/13(土) 21:47:56 ID:Dw5YJZ+q
○●○創作文芸板競作祭・女性一人称祭り○●○
女性の一人称で作品を書く競作祭です。

テーマ……女性の一人称
会 場……「アリの穴」 http://ana.vis.ne.jp/
枚 数……10枚以内
日 程……投稿期間 1/14(日)〜1/17(水) 21:59:59まで
     感想期間 一作目投稿〜1/20(土)21:59:59まで
・作者さんは感想期間中一人一票、自作の感想欄に他の作品の中からベストスリーを選んで投票してください。
・読者賞とは別に作者賞を選出します。
・再投稿は禁止とさせていただきます。
・ストック作はご遠慮ください。
・最悪の連続投下も覚悟の上でご参加ください。

◎備 考
・複数投稿は不可です。
・名前欄には「創作文芸板女性一人称祭り」と入れて下さい。
・作者さんは他作品へのできるだけ感想をお願いします。みんなで祭を盛り上げましょう。
・投稿作が多い場合、作品への感想数に極端な差が出る場合がありますが、ご容赦ください。
・あまりにも投稿数が多くなった場合、幹事の独断で投稿を中止させていただく場合があります。
・記名投稿は禁止とさせていただきます。記名投稿された作品は参考作品とします。
http://book3.2ch.net/test/read.cgi/bun/1167638491/
枚数少ないし気分転換にどうぞ
投稿お待ちしてます。

明日から開催です。
よろしくお願いします。
238優しい名無しさん:2007/01/18(木) 04:44:05 ID:vChkT99c
保守
239優しい名無しさん:2007/01/19(金) 16:44:22 ID:634WVpOk
age
240優しい名無しさん:2007/01/23(火) 23:08:19 ID:zUvisazi
保守
241優しい名無しさん:2007/01/25(木) 12:25:28 ID:Siqw5zDR
b
242優しい名無しさん:2007/01/30(火) 18:35:59 ID:QAscVzwy
保守
243優しい名無しさん:2007/02/03(土) 22:30:01 ID:EBt2fX1v
保守ばかりだな。
俺も提供できないんで、似たようなものだが。
244優しい名無しさん:2007/02/04(日) 00:02:30 ID:KUUO5/GC
誰か うぷ
お願いします!
(´・ω・`)
245優しい名無しさん:2007/02/04(日) 09:06:01 ID:nkidwfiF
お題があれば何か書いてみたいです。
246優しい名無しさん:2007/02/07(水) 22:43:05 ID:4I3Oxja9
良スレだと思うんだけど、小説を書く気力が無いのでうp出来ない。
247優しい名無しさん:2007/02/10(土) 20:27:25 ID:/LOZDyIm
私もお題が有ったら書いてみたい。
248優しい名無しさん:2007/02/12(月) 17:06:37 ID:+DA27FjU
>>247
「過去」
249優しい名無しさん:2007/02/14(水) 13:53:34 ID:ULNc7QC5
>>248
了解。
遅筆なので忘れた頃にうpすると思いますが。
250優しい名無しさん:2007/02/18(日) 02:13:36 ID:saJBQxU/
テーマ……三人称(神視点)スポーツ!
       スポーツが絡んでいて三人称(神視点)であればなんでもおk。
       神視点で書くことが目標ですが、厳守ではありません。
会 場……「アリの穴」 http://ana.vis.ne.jp/ali/index.html
     「短小」http://novel2ch.sakura.ne.jp/toukou/kyousaku/tstk1.cgi
      お好きな方への投稿をどうぞ。
枚 数……15枚から20枚
日 程……投稿期間 2/23(金)〜2/25(日) 21:59:59まで
     感想期間 一作目の投稿から3/3(土) 21:59:59まで
     作者投票は投稿締め切り後の2/26(月)〜3/3(土)まで

http://book4.2ch.net/test/read.cgi/bun/1170007033/
251優しい名無しさん:2007/02/21(水) 18:53:12 ID:4c7ygjie
保守
252すずきあるみ 『狂えるパヴロフ』  ◆hBxajE4gYQ :2007/02/24(土) 01:49:52 ID:uSLk+6xj
半年ぶりくらいに筆とってみたよ。
|A≪B≫はAにBというルビを振るというソフト独自の表記。
投稿と投稿の間はすべて改行のみで、段落分けはされていません。
253すずきあるみ 『狂えるパヴロフ』  ◆hBxajE4gYQ :2007/02/24(土) 01:51:18 ID:uSLk+6xj
 私にリスト・カットを教えてくれたのは悟だった。
 中学校を出たばかりで世間のなんたるかも知らない私が考えるに、恋愛とは想像するだけで頬が林檎色に染まるような甘酸っぱい行為で、同時に人生に必要不可欠な|要素《エッセンス》であり、幸福という言葉と同義語であるはずだった。(投稿都合改行)
それに対して「そうでもない」と壮年の男性――悟はそう教えてくれた。恋愛とは崇高なる大人の遊技であり、人生における|戯れ《パスタイム》であり、快楽でしかありえないのだと。その意味は分からなかったが悟が語る愛の言葉を素直に私は信じ込んだ。
 そして幾つもの夜を繰り返した。私は彼を喜ばせるために女としての|技術《テクニック》を磨き、彼は私に私が女であることの喜びを感じさせてくれ、私は坩堝へと墜ちていった。
 それからどのくらいかの月日を経て。彼は最後に。私が単なるセックス・フレンドに過ぎなかったという事実と。深く昏い絶望を教えてくれた。
 病院のベッド脇では両親が「もう二度と――」と顔を伏せており、私はそれに応えて「ごめんね。ごめんね」と涙を零す。その雫は腕に巻かれた包帯の薄い部分へと染みこみ、水滴に込められた私にも把握しきれない私の感情を肌に伝えてくれた。それには温度がなかった。
 思えばそれがリスト・カットの魔が私に交わした最初の挨拶だったのかもしれない。
254すずきあるみ 『狂えるパヴロフ』  ◆hBxajE4gYQ :2007/02/24(土) 01:53:54 ID:uSLk+6xj
 それから。国語教師・柳原悟が逮捕された理由を知っている多くの学生にとって私は格好の玩具となった。(投稿都合改行)
淫売。キチガイ。自殺未遂。語彙に乏しい雑言が聴覚をくすぐる。
 的外れ。私が腕を切ったのは自傷や自殺などという児戯としてではない。|屑への裁き《パニッシュ》としてだ。(投稿都合改行)
そもそもそれにより引き起こされた現状を見てみるがいい。この傷が私の腕に残っている限り奴は永遠に幸福にはなれない。(投稿都合改行)
そんなことも理解できない|子供《ガキ》の戯言など気にもならなかった。
 しかしそんな状況でも裕紀は身をていして私を庇ってくれた。私は何度も拒んだが彼は私への侮辱を決して許さなかった。(投稿都合改行)
その行為が彼にとって苦痛でなかったはずがない。酷く痛み。酷く傷つき。そして彼もまた孤立した。そんな彼に私が惹かれたことは語るまでもない。悟によって汚された私を裕紀は快く受け入れてくれた。
 そして辛くもあり幸せでもあった高校時代が終わりを告げる。私は進学、裕紀は就職という道を選択した。
「これからは今までみたいに呑気にしてらんないけどさ、でもお前が大学を卒業したら――」
 私はその言葉を支えとして大学生活を過ごし、その間に裕紀は職場の同僚を孕ませて結婚した。
 刃先に全神経を集中させる。今度は意識を失うような失敗をやらかしてはいけない。すべての憎悪を傷口に注ぎ込むために。
 カミソリを素早く走らせる。迸る鮮血。激痛と快楽。悲壮感と幸福感。屈辱と至福。あらゆる感情が裕紀への呪詛となり彼の将来に立ちこめる暗雲となる。(投稿都合改行)
それがきっと私にとっての幸福となるのだろう。恍惚のあまり天まで響くような声で鳴いた。
 後日裕紀を襲った不幸を伝え聞いた。私は魔に飲み込まれた。
255すずきあるみ 『狂えるパヴロフ』  ◆hBxajE4gYQ :2007/02/24(土) 01:55:59 ID:uSLk+6xj
 そうして精神的に弱った私は下卑た雄どもにとって与しやすい存在だったのか。出会っては口説かれ。簡単に身体を許しては捨てられていった。(投稿都合改行)
それが果たして何人目の加害者かは腕に刻まれた傷の数を数えてみれば分かる。
「僕は君を絶対に幸せにしてみせる」
 臆面もなくこんな口説き方をしてきた男もいた。翔太。恐らく堅さかサイズか何かの意味だろうと察したので躊躇うことなくホテルに直行したところ、(投稿都合改行)
彼は私をビンタして、無言で抱きしめた。私には何が起きているのか分からなかったが――人肌の温もりを感じるのは実に久しぶりだった。
 それから相当長い時間を私は翔太とともに過ごした。それは私から「抱いてもいい」と言っているのに頑なに拒んで、(投稿都合改行)
珍しくもない公園やら海やらを連れ回す彼の行動に興味を覚えたからかもしれない。あるいはその行為に対してきょとんとする私に困惑して髪をかきむしる彼の仕草が可愛らしげだったからかもしれない。(投稿都合改行)
兎にも角にも相当長い時間を私は翔太とともに過ごした。
 彼がやや興奮気味に私を映画館に誘ったのはそんな日がしばらく続いてからのことだった。どうせ暇だからと二つ返事で承諾したものの、辿り着いた映画館はとても栄えているとは言えず、(投稿都合改行)
上映されている映画も聞いたこともないような代物だった。私はなすがままに客席へと導かれる。スクリーンが明るくなった。
 それはなんてことない映画だった。人を信じる心を失った少女が偶然出会った少年の愛によって幸せになるラブ・ストーリ。ほんとありきたりな物語――まるで私と翔太みたいな。(投稿都合改行)
そのとき初めて彼が連れて行ってくれた公園に降り注ぐ木漏れ日の気持ちよさに気付いた。そのとき初めて彼が連れて行ってくれた海に照る月の美しさに気付いた。そのとき初めて彼が私の心を癒して続けてくれていたことに気付いた。
 私は温かい涙を零しながら彼の耳元でそっと呟く。
「――」
 その日初めて彼と結ばれた。
256すずきあるみ 『狂えるパヴロフ』  ◆hBxajE4gYQ :2007/02/24(土) 01:57:23 ID:uSLk+6xj
 そのことは思い出すたびに身体が火照ってくる。今まで数限りない男性と付き合ってきたが本当に恋人と言えるのは彼が初めてだったかもしれない。(投稿都合改行)
ともすればこれが私の初恋かもしれない。それは頬が林檎色に染まるような甘酸っぱい行為で、今の生活に必要不可欠な|要素《エッセンス》であり、(投稿都合改行)
とても幸福――でなければいけないはずなのに。
 切りたい。
 魔が私に恍惚感を忘れさせてくれない。このままでは私は|審判《パニッシャ》としての資格を失ってしまう。
 何の意味も意義もなくカミソリを踊らせる。それはかつて私が児戯と嘲笑った行為だったが、ひたすら痛みが走るだけで快感も恍惚感も訪れる気配がない。(投稿都合改行)
魔は呟く。もしあの至福を再び得たいのなら――。
 私は翔太に電話をかけた。
「もしもし。こんな時間にどうしたの?」
「気付いちゃったの。貴方って最低ね。別れましょ」
 そして返答を得る前に電源を切った。そうよ。私をこんなに苦しめる貴方って最低。
 私は歓喜に身を震わせながらカミソリを手にした。そう。他人の心を弄ぶ奴は罰せられるべき――。

 気が付くと私は血塗れのカミソリを握ったまま翔太の部屋で、無惨にも腕を切り裂かれた家主を見下ろしていた。
257優しい名無しさん:2007/02/24(土) 02:32:35 ID:CveM8kw2
*:;;;:*ぉまじなぃ*:;;;:*
告られたぃ!!告られたぃ!!告られたぃ!!
・・・この文をそのまんまコピーして違ぅスレに3つ貼り付けると1週間以内に好きな人に告白されます☆
好きな人に告白されたぃなら今すぐ実行しましょぅ★
貼り付けた途端に神が舞い降りて上記作品は一気に旧版になりましたw
とりあえずしばらくは勘を取り戻すことに専念しなくちゃね。
説明するまでもなくパロディで。いちお18禁なんだろうかw
計算してみたら一年以上何も書いてなかったみたいで、筆が堅くて堅くて。
-----

    不思議の国のアルフ

 アルフ。あなたまだはじめてなんですって。
 それなら私の部屋にいらっしゃい。保守的な老体たちが今まで周到に張り巡らしてきた(投稿都合改行)
|ハンプティ・ダンプティの殻《理性やら倫理観やら道徳心やら》を私が砕いていざなってあげる。自由と快楽とに満ちあふれた不思議の国へと――。
 アルフ。あなたも本で読んだことくらいはあるでしょう。不思議の国の|入口の穴《トンネル》は何処に隠されてると思う。
 茂み。あらあら。あなた意外と聡明ね。
 でもそれは決して野原や幹に隠されている訳じゃあないの。偽善者みたいな面をした白兎でも見かけたら射殺してお弁当にしてしまいなさい。答えは下着の中。(投稿都合改行)
知ってるかしら。この世の神秘のすべては人間の脳味噌が詰まってない方に隠されているの。真理は奇怪でグロテスクな容貌をしてそこを拠点に醜く這いずり、(投稿都合改行)
あなたはこれからその虚空へと飛び込むことになるんだけれども――心配は要らないわ。私。検査にはこまめに通う方なの。
 アルフ。現実から解放されて夢想へと落下していく感覚はどうかしら。それは時計で数えればほんの数秒の出来事なんだけれども、今まで生きてきた時間をまた繰り返すほどの重さと厚みがあるでしょう。(投稿都合改行)
当然よ。|穴《トンネル》の内壁には人間という種がこれまで営んできたことのすべてが克明に記載されていてね、あなたはそれをひとつひとつ丁寧に肌で読みとっているの。それは勿論とても疲れることだけれども、(投稿都合改行)
それでもこれほど気持ちいいことは他に挙げられないでしょう。だって知的好奇心の充足には必ず最高の快楽が伴うものなんですもの。
 アルフ。無事底まで辿り着いたみたいね。もう眼を瞑らなくていいのよ。落ち着いて目の前のテーブルをご覧になって。(投稿都合改行)
そこには美味しそうなお菓子が陳列されていて――ラベルにはなんて書かれていたか覚えているかしら。私を食べて。あらあら。あなたやっぱり聡明ね。でも包み紙の剥がし方が分からないようじゃまだまだ半人前よ。(投稿都合改行)
背中のフックに手をかけてご覧なさい。そう。それでいいわ。美味しそうなキャンディがふたつも露わになったでしょう。それには魔法がかけられていてね、舐めればあなた自身がどんどんと大きくなっていくの。ほらね。感じてるでしょう。
 アルフ。疲れたでしょう。ここらで|お茶《ティ・パーティ》と嗜みましょうか。
 別に用意に立つ必要はないわ。だってここにはもうミルクティが用意されてるじゃないの。そうよ。そこで屹立しているしている怒りんぼの帽子屋が被っているそれをひったくれば。(投稿都合改行)
そうね。たっぷり4CCは飲み放題よ。美味しく頂くコツはね。そう。冷めないうちに。
 アルフ。心地はついたかしら。不思議の国はまだまだ何処までも広がっているわ。でもその前に何か聞きたそうな顔をしているわね。
 私に玉が無い理由――それは昔。ハートの女王様に刈られてしまったからよ。アルフ。
260優しい名無しさん:2007/03/03(土) 05:15:54 ID:Hr7pwIUM
age
261優しい名無しさん:2007/03/09(金) 05:39:21 ID:zQiZRWLw
保守
262優しい名無しさん:2007/03/09(金) 08:39:14 ID:9XA499q5
263優しい名無しさん:2007/03/13(火) 23:21:01 ID:K3lC9zoB
保守
264優しい名無しさん:2007/03/18(日) 09:41:53 ID:CoWXR/8W
保守
265優しい名無しさん:2007/03/20(火) 21:28:12 ID:Ope2WN8t
良スレage
266優しい名無しさん:2007/03/25(日) 12:13:17 ID:R2ysSLPD
投稿したいのだが、一向に筆が進まない。
267優しい名無しさん:2007/03/27(火) 08:21:54 ID:344L4pvW
http://ncode.syosetu.com/n6827b/k/

何か出来上がって読み返してみるとウンコッコだと気付いた
クドイ官九朗と呼んでくれ
268優しい名無しさん:2007/03/28(水) 20:00:58 ID:MYc4iz5y
知り合いがいるかと思って見てみたが…
文章の癖から察するにいない感じ。
メンサロ板放浪の旅に出ている者ですw
「過去」というテーマが出てたので即興で何か書いてみようと思います。
269過去 ◆YP8dJbS7cg :2007/03/28(水) 20:05:53 ID:MYc4iz5y
耳の奥底で ぼぉ っという音が
低く地鳴りのように、五分ほど続いた。
嫌なことが起こる前触れのように。
ぼぉ また、聞こえる。
病気になる前も キーン という甲高い音に悩まされた。
いつもいつもそうだ。
そして鬱になる。

無気力になる。

音が、頭の中で鳴り響く時。
何もかもが嫌になってしまう。
270優しい名無しさん:2007/03/30(金) 20:46:08 ID:RZAbQE2G
本スレ落ちちゃったね。
立てられる人いたら、立ててください。
271優しい名無しさん:2007/03/30(金) 21:02:19 ID:4aCFNjwJ
テーマが思い付いても、それを書き始めようと思うと、資料集めで一ヶ月程潰れる。
単位がやばい……


何やってんだ俺と思って途中で辞め、未完作を読み返してみると激しく中二病の香りがするorz
272優しい名無しさん:2007/03/31(土) 21:58:33 ID:oB+XtwCn
アゲ
273優しい名無しさん:2007/04/02(月) 19:56:03 ID:n8suvToj
メンヘルだけど小説を書いている方のスレ
http://life8.2ch.net/test/read.cgi/mental/1175511332/

立てました。
274優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:38:43 ID:pm4WGwL9
Color of ruins 〜廃墟の色彩〜

■序章 目覚め

青銅の錆びの様な淡く暗い、淡く明るい不思議な世界。「カラー・オブ・ルーインズ」での出来事。
その世界は誰にもでもある闇のお話。

雑踏の中、周りを見渡せば同じ暗い服を着た人の群れ。
雨上がりの交差点で同じ暗い服を着た人が、ふと立ち止まり空を見上げ
「まぶしい・・・。」手をかざして「虹がみたい。」つぶやく。

雑踏の中、周りを見渡せば四角い灰色の壁、七色に輝くひかり。
黒く染められた地、幾層にも重ねられた新しいく、くすんだ風の織物の空。
異質な物質の組み合わせが蠢く様に地を這う。 
                       −−−−−そんな夢をみていた。
275優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:39:29 ID:pm4WGwL9

     「・・・セナ」
     「?」
     「ドラセナ!」
ドラセナ「ビーチェ?  、今どのあたりだ?」
ビーチェ「まだ【お城】まで半分もきてない。それより【虹】の燃料みて。」
ドラセナ「またか、一体どれだけボクの眠りを妨げれば気が済むんだい?
     と、このボロ鳥に言っても仕方ないか。近くの街で補給しよう。」
ボロ鳥 「クーン」
ビーチェ「その言い方はよくないわ。私たちの国の唯一の大切な【ツバサ】でしょ?」
ドラセナ「ここからだと鉱業都市バトゥラサートゥクが一番近いな。ビーチェ」
びーちぇ「無視すんな。はぁ、虹?近くの工業都市まで飛んで。」
虹   「クゥーケーーーッ!」

虹と呼ばれた異形の空を飛ぶ乗り物は、夕焼けの空の中で金属音のような声を一声鳴くと身をひるがえし雲の中へと消えた。
276優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:40:07 ID:pm4WGwL9

この世界、カラー・オブ・ルーインズにようこそ。
私の名はアスタリスク。ジョブは賢者になりやすい道化だ。

まず先ほどの2人と一匹を紹介しよう。
少年の格好、名は【ドラセナ】少女の格好、名は【ビーチェ】。二人とも十代半ばといったところか。
そしてこの世界観を象徴するような分かりやすい存在の【虹】。
通称【ツバサ】と呼ばれるこいつに生死があるのかどうか・・・。この世界に存り、主に乗り物として使う。
形は鳥に似ている事が多いかな。カラダは鉱石・金属・木で出来ていて、定期的に燃料補給をしないと動かなくなる。
意志はあるみたいだけど謎な存在だな。

さて、次はこの世界についてお話しよう。
この世界は【セフィーロート】と呼ばれる樹が地上の全てを支配している。
生あるものが活動出来るのは残された空だけ、らしい。この世界は広大で全てを知るものは誰も居ないとか。
街や国、空に広がる山や森は無数にありその全て空に浮いている。
さてさて次はこの二人について、彼らは・・・
277優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:40:46 ID:pm4WGwL9

ドラセナ「じゃ、頼んだよ」
店の男 「あいよ、しかしこれまた古い翼で何処までいくんで?」
ビーチェ「【お城】まで【しるし】を届けに行くの。腕章で気づきなさい。」
店の男 「へぇ、腕章が表す意味は一つだが、最近はどうも行き先が一つとは限らねぇ。噂ですがね。」
ドラセナ「確かにそんな噂もあるようだが、ボクらには関係ない。ビーチェ、宿を探そう」
ビーチェ「え?どんな噂?」
ドラセナ「・・・。」
ビーチェ「無視すんな。はぁ、疲れたー。」

彼らは彼らの国、と言っても普通の街ほどの大きさしかないが、
辺境の国の代表として決められた掟に従い、定期的に【城】まで幼き種の対が王の封書を届ける。
という大役を今回任せられている。そして【城】への旅に出たものは二度と祖国に帰ることは無い。ってもっぱら噂。

では【城】について。
普通【城】とはどの国にも存在するがこの世界では、というかこの辺りでは一つしかない。
何をもって【城】と定義づけているかというと、セフィーロートと繋がっている【城】の事をいう。
そしてその特別な【城】はカラー・オブ・ルーインズでも数えるほどしか無い。なので大抵は【城】で通じるワケ。
さーそれでは私もこの物語の役の一人、説明役はそろそろ終えさせて頂こう。


278優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:41:46 ID:pm4WGwL9

祖国パール・ア・デュラスを発ってから二つ目の紅き月の満ち欠けが丁度一週した。
今日は鉱業都市バトゥラサートゥクで虹の燃料補給の為、一夜を宿で明かす。今夜も四つの月は綺麗に夜空に映えている。
しかし【お城】に近づくにつれ、まるで心に穴の開いたような乾いた枯渇感が増す。
私の影は明らかにビーチェのそれよりも濃くなっている。
影は人を闇にひきずり

ビーチェ「ドラセナ。」

影は人を闇に引きずり込むと言う

ビーチェ「ド・ラ・セ・ナ!」
ドラセナ「ん?何」
ビーチェ「何って、ご飯冷めるよ。ふー、掟の通り日々の出来事を記すのも良いけど、
     折角大役を仰せつかって色んな国を見て回れるのだし、気ばかり張っても。ね?」
ドラセナ「そうだね。だけどビーチェも日々の出来事を記す事を忘れないように。
     【城】ではこの【しるし】を呈出するのだから。」
ビーチェ「分かってるわ。でもーこんな騒がしい酒場で大切な日記を書いたりはしないの。」

ビーチェは事の大きさを分かっているのだろうか。幼なじみとして一緒に育ったけど、日記・・・。
【城】へと旅立つ前は別の説明を受けている。どういう基準で選ばれたのか分からないが、ボクにそんな価値があるとは・・・。

279優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:42:53 ID:pm4WGwL9

赤ゴブリン「これはこれは、同じ腕章を付けた者・・・つまり、我々は同士という訳だ。ハハハハ、キャハハ。
      うーん、なかなかどうしてそちらの坊ちゃんは我々により近い場所にいらっしゃるようだが?」

赤ゴブリンだ。見かけは僕らヒュームに割と近く身長はヒュームの腰ほど、
その名の通り肌は褐色でとんがった耳と鼻が特徴。だがゴブリンはヒュームより、
より闇に属する種族。そして笑い声なのか、時折発する奇声が時にボクを苛立たせる。

ガチャン! あー、ビーチェがフォークとスプーンをテーブルに勢いよく置いた音だ。

「失礼なゴブリンね。食事中に話かけるなんて一体どんな用なのよっ!

ビーチェは何故かより深く闇に属する種族を快く思っていない。あと、少し酔ってる。

「これは失礼。わたくしの名はアグリッセン。セフィーロートの腕章をつけた者の話を聞きたいと思いましてね。」

ゴブリン族、特に赤ゴブリンは陽気で紳士的さらに親しみやすく通っている。
ただ、話し方が大げさで今も身振り手振り更には飛び跳ねて椅子の上に立って喋っている。これじゃまるで道化だ。

ドラセナ「今時セフィーロートの腕章を付けた者など何処にでもいるでしょう。
     この酒場にだってあっちにはゴレムス、向こうの大きなテーブルを囲んでいるのはより貴方の種族に近い
     バルバネッサだ。ボクらは明日早朝にはバトゥラサートゥクを発つ予定。貴方も貴方の使命の為、
     早々に休まれた方が良い。」
アグリッセン「ハハ、キャハハ、夜は長く深い。あなた方はどちらからいらしたので?
       そして何処へ行こうと言うのか?キャハハハ。」
ビーチェ「まず、椅子の上に立つのはやめて。あたし達はパール・ア・デュラスから【お城】へ封書を届けに行く途中。
     翼の燃料補給の為ここに一晩泊まるだけよ。」

椅子の上で一礼して椅子に座りビールを注文するアグリッセン。
280優しい名無しさん:2007/04/04(水) 05:52:43 ID:pm4WGwL9

アグリッセン「パール・ア・デュラス・・・。ここから遥か東の国ですな。さぞ長旅でしたろうに。
       しかしもう後半分の距離。それはそうと実はわたくしも【お城】に用があるのですよ。
       最近やけに【お城】に使いとして出される者が多い。特にここ百年で。」
ビーチェ「見てきたかのようね。アグリッセンさん。あなたの国は?」
アグリッセン「ここより二つの【お城】を超えた遥か先より、三十年かけてまいりました。国の名は言えません。
       わたくしには呪いがかかっていましてね。それを解く手がかりを探しているのですよ。ハハ、キャハハ。」
ドラセナ「アグリッセンさん。貴方ももうすぐ【城】だ。二つの【城】を超えて来たという話は信じがたいが、
     僕らの知る【城】に行けば呪いを解く手がかりも見つかるでしょう。
     さぁ、そろそろ休もう、ビーチェ。」
ビーチェ「呪い?どんな呪いなのよ。」

好奇心の強いビーチェが酔ったら手がつけられない。

ドラセナ「ボクは先に休むよ。」



この酒場で少し話しただけの、赤ゴブリンが実は二つの角を持つブロッケン・アイズ族で、
その後ボクらが【城】で彼を牢獄から救い、逃亡の果てに墜落し【下の世界】世界をみる。



■2章 人と女王 「ボクらは出会い、裏切り、真実と向き合っていく。」 【つづく】

281優しい名無しさん:2007/04/06(金) 00:28:24 ID:c5OB1kBZ
これはひどい
282優しい名無しさん:2007/04/09(月) 05:24:59 ID:VXckIK7Z
保守
283優しい名無しさん:2007/04/09(月) 09:30:28 ID:n6cFHrs1
小説じゃなくて戯曲やんそれ
284優しい名無しさん:2007/04/10(火) 22:03:05 ID:VJqpaXer
まぁ良いじゃない。
285優しい名無しさん:2007/04/11(水) 23:10:52 ID:m4kDpXsq
>>284
やけにおおらかじゃないか。そうだ、>>284は今日からビサイド・オーラカのキャプテンだ!
そう思うと僕はいても立っても居られなくなって、キーボードを叩いていた。
「おーい、海から来た>>284。おまえは今日からびさいd」
その瞬間、視界が紅く二つに割れた。最後に>>284が僕から日本刀を引き抜くのが見えた。
>>284は僕を日本刀で一刀両断にしたのだった。 [完]
286優しい名無しさん:2007/04/16(月) 09:10:03 ID:/6w2kTiS
保守
287優しい名無しさん:2007/04/18(水) 00:00:39 ID:juLBV7DK
カウンセラーと患者の許されぬ恋。
逆転移。
完璧主義なあなたはせめてもの存在を主張しているかに見えた。
あなたが近くにいるだけで顔がほころんでしまう。
他スタッフにこの感情が気付かれると非常にやっかいなことになる。
『プロとして…』どーこうと容赦ない批判が飛ぶに決まってるからだ。
彼はあたしの帰りを駅で待ち潰す日が続いた。
正直嬉しかったのだが、これ以上、譲れないのだ。
プロとして…。
叶えてはいけない恋。
288284:2007/04/20(金) 12:56:26 ID:/GHnB3Cq
>>285
ワロタ
289優しい名無しさん:2007/04/22(日) 22:53:02 ID:q25E5+fZ
保守
290ぴょん♂@どうやら優しい名無したん:2007/04/23(月) 00:12:15 ID:paGh465y BE:672595968-2BP(301)

小説の登場キャラに ぴょん♂ を よろぴく♪
291優しい名無しさん:2007/04/24(火) 21:12:47 ID:qpMiL3hn
どういう小説で、使えばいいのか……。
292優しい名無しさん:2007/04/27(金) 12:45:34 ID:8m2JWlPY
小説を載せたいけど叩かれるから‥。
293優しい名無しさん:2007/04/27(金) 17:05:31 ID:A/ClFez2
>>292
お前創文板で叩かれたとか嘆いてたやつか?
294優しい名無しさん:2007/04/27(金) 23:38:59 ID:8m2JWlPY
>>293そうだよ。
295巫呪 ◆rZG/c0PO3s :2007/04/28(土) 11:17:18 ID:NTTmR8LZ
兄が花を摘んできました。
略奪もこの頃では形骸化していて、相手方に事前に対価を支払い、騎獣に輿を置くといった具合なのですが、兄は文字通り目についた花を無造作に手折ったのでした。
それは廿をいくつかすぎた巫で、十二分に美しいのですが、まったく口をきかず、また満足に歩くこともしませんでした。
のどを焼かれ、足の腱を断たれていたのです。
私はどんな罪人を掠めてきたのかと兄に詰め寄りましたが、兄は神殿で見かけたのだと言うばかり、花を着飾らせて楽器など奏でさせるのでした。
女巫であれば私も目くじらを立てましたが、花は二重に機能を失った男巫であったので放っておきました。
神殿からは巫を返せと幾度も使者を寄越しましたが、兄は対価を置いてきたのだからと譲りません。
私は昼日中から花と戯れる兄に代わって執務をこなしました。
花はあと数年保つでしょう。
その間に、私はゆっくりと兄王を追い落とせばいいのです。
満願成就の暁には花の目を潰して神殿に返しましょう。
巫の呪力とはそうして強まっていくものなのです。
296優しい名無しさん:2007/05/01(火) 00:09:22 ID:gQSK5f0R
ageますよ
297優しい名無しさん:2007/05/05(土) 03:15:10 ID:g5zNDiIH
保守age
298優しい名無しさん:2007/05/11(金) 01:38:56 ID:pRbTFVRO
保守
299優しい名無しさん:2007/05/11(金) 03:20:35 ID:aGobckGz
300優しい名無しさん:2007/05/14(月) 08:23:27 ID:/lcHvKJd
保守age
301優しい名無しさん:2007/05/17(木) 20:20:16 ID:bxKepa9W
保守
302優しい名無しさん:2007/05/17(木) 21:04:28 ID:IUu688Kd
良スレage
303優しい名無しさん:2007/05/19(土) 20:46:57 ID:MCfbC451
age
304優しい名無しさん:2007/05/22(火) 21:01:38 ID:R6aZkdBz
あげ
305優しい名無しさん:2007/05/24(木) 00:52:25 ID:MAisxZuZ
鬱で活字が得意な人って珍しくない?

って裕香、小説を読むこと自体辛くない?

306優しい名無しさん:2007/05/27(日) 11:39:28 ID:V15fQaqE
保守

>>305
↓こっちでどぞー。
メンヘルだけど小説を書いている方のスレ
http://life8.2ch.net/test/read.cgi/mental/1175511332/
307『かたちのかず』1/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:38:22 ID:H4oymoLJ

息を殺し深く潜ったまま、微かに上に見える光を怖れ、
綺麗に飾られた言葉を時には疑い、否定しながらも、無意識にそれを信じて、
簡単なことを様々な方法で難しくしてしまう自分のような人たちへ――。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ペンは回り続ける。
それから、その動きに飽きたのか、ほんの少し止まってから本来の機能を果たすために
持ち主の白い手の中で、また動き始めた。
滑らかに何の迷いもないようにスムーズに直線を、そして曲線を創っていく。
いくらかの時が過ぎてペンは止まった。
そして、机の上に横たわった。
308かたちのかず』2/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:39:07 ID:H4oymoLJ
学校から家に戻ってきた彼は親に言う。
「あそびにいってくるよ」
「はやくかえってくるのよ」
母親は愛しいわが子に声をかける。
彼は、大きく返事をして家を飛び出した。
転がり出るように。

「ナニシテ、アソブ?」
「そうだねえ。なにしようか?」
先に公園で待っていた友人に彼は答えた。友人はどっかりと地面に座り込んでいる。
「そういえば、あいつ、まだきてないね?」
彼は訊いた。
「アァ、オソイナ……マァ、イツモノコトダケド」
無表情で友人は答える。
彼らは今日もいつもの場所で待ち合わせをしていた。
ただ、いつものように問題の遅刻魔は約束の時間を過ぎても、姿を現さない。
二人は、残りの一人を待つ間、今日の学校での出来事などを話したりした。

「ワルイ、ワルイ」
遅刻をしていた友人は約束の時間から二十分ほど遅れてからやって来た。
「マタカヨ。オソイゾ、オマエ」
「マァ、ソウイウナヨ。コンナハナシシテタッテ、ジカンノムダダゼ」
彼はとげとげしい口調で答えた。いつものように反省の色は見えない。
「まあ、いいじゃん。とにかく、なにかしてあそぼうよ。これから、どうする?」
三人が集まった時のいつもの会話が繰り返された。
309『かたちのかず』3/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:39:59 ID:H4oymoLJ
男はぼんやりと眺めていた。愛用のペンは目の前の机の上に
無造作にころがっている。
いくらか、時が動いて、部屋に女が入って来た。
女は男の横に寄ってきて、無言のまま男の近くにある椅子に坐った。
男は女を無言で確認してから、先ほどまでの作業に戻って眺め始めた。
○と□と△が動くのを。
話すのを。
  


三人は横並びで行くあてもなく、動いていた。
「そういえばさ」
突然、○が二人に向かって話し始めた。
「ナンダヨ」
□が訊き返す。
△は黙って、○を見つめた。
「がっこうのちかくのどうろのこうじが、このまえ、おわったじゃん」
「アァ、ソウダナ。デ、ソレガ?」
「いや、それであそこの、『さか』がきれいに、ほそうされたからさ」
○は二人の友人の顔色を伺いながら話を続けようとした。
「オーケイ、ワカッタヨ。オマエノカンガエガ」
□はその話を遮ってから、△の方へ体を向けた。
△にも○の言いたいことはわかっていた。
三人は学校の近くの坂に向かった。
○は嬉しそうに、残りの二人は無表情で。
310『かたちのかず』4/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:41:45 ID:H4oymoLJ
急勾配の坂の上に三人はいる。
「ヨウスガカワルト、ナンダカ、コワイナ」
△が坂の下を覗きこみながら呟く。
「そんなことないよ。それにしても、すごいきれいになったなあ」
○は、その場で跳ねた。
舗装されるまでは凸凹坂と呼ばれていた、その急勾配の坂の表面は
今やステキに滑らかになっていた。
「じゃあ、やろうよ」
○は笑顔で二人に提案した。
□と△はお互いを見合って、無言で会話をしてから、○に同意した。
三人は、これまで、この坂の上から下までの間を何度も競争していた。
それは彼らの遊びの一つだった。しかし、その結果はいつも決まっている。
正確に言うと最下位が○になる、ということがいつも決まっていた。
舗装される前の凸凹坂の上から三人が同時に下へスタートを切っても、
いつも、○は坂の途中の隆起したところや窪んだところによって、
自分の意図しない方向に飛んで行ってしまって坂から飛び出してしまう。
その結果、坂の横の草むらや坂沿いに建っている誰かの家の庭などへ彼は着地してしまう。
その間に、□はゆっくりと着実に、△は少し不安定ながらも自分の体の鋭い先端を
地面に突き刺したりしながらゴール地点を目指す。
今までに、○が最下位以外の順位になったことは今まで一度もなかった。
そして、いつも、この競争で予想もつかない動きをする○を二人の友人は笑いものにしていた。
二人に笑い者にされていた○も、友人たちと同じように笑っていた。
ただ、笑いの種類は違っていた。
311『かたちのかず』5/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:42:55 ID:H4oymoLJ
この坂での、遊びというよりも、この不公平ともいえる競争を
○が自らやろうと提案したことは、これまで一度もなかった。
しかし、舗装されて今や凸凹坂とは呼べなくなった今こそ、この坂での競争で
これまでの悔しさを晴らすいい機会だと考えていた。
○は跳ねながらワクワクしながら想像した、この坂では、今までのようなことはないだろうと。
□と△も○の考えはすぐにわかった。
たまにはいいか、と彼らは考え、○の提案を受け入れたのだ。
二人とも、この舗装された、綺麗な坂での競争の結果はわかっていた。
しかし、○の今までの気持ち、そして今の気持ちもわかるから、この坂の上にやってきたのだ。

三人は黙って横並びになった。
「オマエガ、イエヨ」
□はゴール地点を見つめたまま言った。
「いいの? じゃあ、いくよ」
初めてスタートの合図を言う○は、二人にわかるくらい大きく深呼吸をした。
数秒の静けさ。
「……よーい……どん!」
○と△と□はゴールに向かって、坂へと飛び出した。
312『かたちのかず』6/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:44:39 ID:H4oymoLJ
再び、ペンを手に収めて、彼らを眺めていた男の唇が歪んだ。
その部分以外は微動だにせずに。笑いのサイン。
予想、期待、それから……。
女が無言で椅子から立ち上がり、男を一瞥してから部屋から出て行った。
男は動かない。



5回連続で○が一位になった。
□と△はそのたびに○が、おおはしゃぎで、飛び跳ねるのを見た。
「ナァ、ソロソロホカノコトヲ、シヨウゼ」と△。
「えー、まだ、ごかいしかしてないよ? もっと、しようよ。
さあ、もういっかい、もういっかい」
○は二人に言ってから、また始めるために坂の上に向かって跳ねて行く。
□と△は顔を見合わせて苦笑いをしてから、ゆっくりと動き始めた。

「オイ、モウイイダロ?」
□がかすれた声で○に訊いた。
「えー、もう?」
あれから三人は十四回、新しくなった坂で競争をした。
そして、○が十四回、一位になった。
「じゃあ、あと、いっかいだけ。いいだろう?」
息を切らせながら○は二人の顔を見ながら頼んだ。
太陽が落ちてきて、夕闇が辺りを包み始めた。
三人の間にも沈黙が落ちた、□と△は何も言わずに坂をのぼり始めた。
最後の勝負も○が一位になった。
313『かたちのかず』7/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:45:56 ID:H4oymoLJ
次の日から、○は学校以外で□と△と会えなくなった。
いつも三人で行く場所に行って二人を捜す。
しかし、姿を見つけることはできない。
二人の家に行っても、遊びに行ったとか、塾に行ったという答えを
二人の家族から聞くだけ。
学校で遊ぶ約束をしても、学校が終わったと同時に二人は姿を消してしまう。
○は、色々と想像した。そして、この前の坂でのことを思い出して不安に包まれた。
しかし、学校での□と△の○への態度はこれまでと全く変わってはいない。

「どうして? ぼく、なにか、わるいことした?」
○はある日、思い切って二人に訊いた。
「ナニガダ?」
□の答え。
「だって、いつもふたりとも、がっこうがおわると、いなくなっちゃうじゃないか」
△が□の方をちらりと見てから答える。
「ナニイッテンダヨ、オレタチハ、イツモイルゼ。オマエガ、コナインジャナイカ」
「アア、ソウダ」
□の相槌。
「だって、いつものばしょに、いっても、ふたりともいないし……」
「イルヨ、ナニイッテンダヨ。オマエ、ダイジョウブカ?」
○は、どのように答えていいのかわからない。
「ジャア、キョウ、ガッコウガオワッタラ、マチアワセシヨウゼ」
□が助け舟を出した。
「うん……わかった」
○は弱々しく、同意した。
314『かたちのかず』8/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:47:09 ID:H4oymoLJ
再び男の手によって回転していたペンがそこから飛び出して空を飛んだ。
彼は、それを落着いて目で追った。
それから、ペンの着地した場所とは全然違うところへと目を運んでから、
舌打ちをした。
だるそうに首を傾げる。
右手を数秒間ほど凝視してから男は立ち上がった。
大事なペンを拾うために。



学校から急いで家に戻った○は母親に何も言わずに、
二人と約束した場所へと向かった。
その途中でもしかしたら、二人を見かけるかも知れないと考えたので、
彼は注意深く辺りを見回しながら進んだ。
何人かの□と△を見かけたが、友人の二人とは大きさも違うし微妙に形も違っていた。
そうこうしているうちに○は二人と約束していた公園に予定より早く着いた。
だが、そこには二人はいなかった。

公園はいつものように、子どもたちで一杯だった。
自分と同じ○の子、二人とは違う□の子、△の子、☆の子、◇の子、▽の子。
色んなカタチの子がいた。
○はぐるっと一周。そして、注意深くもう一週した。しかし、二人はいなかった。
○は泣きそうになると同時に、今までにない感情が自分の中に湧いてきて、
暴れだしそうになるのを感じた。
また、二人は約束を守らなかった。
○は待った。二人が来るのを。
約束の時間から一時間が過ぎるまで。
そして、破られた約束に見切りをつけた。
315『かたちのかず』9/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:48:54 ID:H4oymoLJ
「オイ、カエッタゾ。アイツ」
「アァ、ソウダナ」
二人は○が公園を後にしたのを見てから本来のかたちに自分たちを戻した。
▽は△へ、◇は□へと。
「モウ、ソロソロ、イインジャナイカ?」
それまでと、違って□はどっしりと地面へとその体をおろした。
「アァ、ソウダナ。デモ、モウナンカイカハ、イインジャナイカ? ミタカヨ、アイツノカオ」
△は彼独特のトゲトゲしい笑顔をつくった。
「ウレシクテ、チョウシニノルコトクライ、ダレダッテアルダロウ。
コノマエノ、サカノコトハ、モウユルシテヤロウゼ」
「ショウガナイ、ソウスルカ。デモ、オモシロカッタナ。アイツヲダマスノ」
それから、二人で大きな声で笑った。
無邪気に。ただ、無邪気に。
316『かたちのかず』10/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 22:50:50 ID:H4oymoLJ
全てを眺めていた男が動いた。
ペンを鷲掴みにして強く握る。
貧乏ゆすりを始める。
首をぐるりと回す。
男の体は一気に緊張した。
力の抜けていた顔の筋肉はこわばり、頬がみるみる上気して赤くなる。
男はペンを使うために持ち直す。
そして、○と△と□と☆……。
卓上の紙に彼が描いた記号の全てを
塗りつぶすようにそれぞれの上に線をいれた。
激しく、そして素早く。
鼻から漏れる息が激しい。
ペンは走り、踊る。狂ったように。
直線と曲線が絡み合い、白い隙間が埋まる。
きっかり、三分。
男は自分のペンに激しい運動をさせて休憩を与えた。
それから、卓上にそれをゆっくりと置いてから両手で顔を覆って、
椅子の背もたれに体重をあずけて上体を後ろに反らせた。
数秒してから、両手がダラリと落ちた。
続いて、上を向いていた顔がガクッと下へ移動した。
部屋は沈黙に支配された。

写真の中にいるかのように、一ミリも動かなかった男が数分の休憩の後に
再び動き出して右手をゆっくりとペンへと運ぶ。
今度はやさしく握った。
そして、目の前の紙のまだ書き込める場所にペン先を落とした。
317『かたちのかず』11/11 ◆AX5Sy3Pedg :2007/05/27(日) 23:09:59 ID:YmutXz3C
そして、その全ての矢印の先に男は同じものを描き始めた。
全部同じ。
男は慎重にゆっくりと細心の注意を払ってペンを動かして描いた。
全ての矢印の先に同じ長さの『――――』を。
記号たちは、その体をほどいて、全て同じ『一本の線』になった。
そう、ありとあらゆる全ての記号が。

音をたてずに、女がゆっくりと部屋に入ってきた。
先ほどと同じ速度で男の方へと近づき横に立って、男の目の前にある紙を観察した。
そして、男の肩にやさしく手を置いて訊いた。
「大丈夫?」
男はペンを握ったまま、女を見上げた。
「ああ、大丈夫だよ。簡単なことだったんだ……。全て解決したよ」
そう言って視線を一度、紙の上へ落してから言葉を続けた。
「みんな同じだ」
誇らしげな表情。
数秒の静けさ。
「そう……よかった」
紙の上で繰り広げられた物語を確認してから女は口を開いた。
役割を果たしたペンは男の手から離れて机の上に置かれた。
そして男は女の腕にすがるようにして、ゆっくりと椅子から体を浮かせ、顔を彼女の胸に埋めた。
細いけれど、男にとっては世界中の誰よりも力強く感じられる腕が彼を包む。
その光景は、二人が今だけでも『同じ』でいられるための祈りの儀式のように見えた。
318優しい名無しさん:2007/05/29(火) 20:21:49 ID:tJkL3KxV
age
319優しい名無しさん:2007/06/02(土) 01:18:44 ID:M/dm+h+3
  気が付くと昔住んでいた実家の庭にいた。
夢か現か・・・しばし懐かしい空気を味わいたい。
夏の夜だ。鈴虫が鳴いている。毎年、祖父の買ってくる高価な風鈴の音も聞こえる。
ダイニングは庭に通じていて、家族と談笑する自分が見える。

ただ庭に一人立ち、食卓を見つめる。
夕方に雨でも降ったのだろうか、いつもより湿度が高い。
草の匂い。魚だろうか焦げるような匂い。なんて幸せな時間なんだろう。
手を広げて全身で感覚を受け止める。
しばし、鈴虫と風鈴と家族の談笑を目を閉じ其処に浸っていた。

  
  突然、寒くなった気がして目を開けた。
空が明ける。そんな時間だと思った。寒いのか体が体を勝手に抱きすくめる。
誰も起きていないだろう、シンと静まり返った庭先。あたりを見るが何も特別ところは見当たらない。


 
320優しい名無しさん:2007/06/02(土) 01:19:27 ID:M/dm+h+3
 すると、突然雷が鳴った。心拍数が上がる。雷は鳴り止まず、同じように心拍数の上昇も止まらない。
次の瞬間、地面が裂けて伸びて飛び跳ねて家に噛み付いた。
理解した。今日はあの日の夢にいるのだ。冷静に家を見る。
砂で作ったダンゴが落ちて崩れるように、家が倒壊していく。冷静に家を見る。
悲鳴が聞こえた。一階の祖父母が押し潰されてゆく。二階を見た。父が母と妹を守ろうとするが、壁と柱で潰れていく。
それを見た母と妹の悲鳴が聞こえる。冷静に家を見ている。恐怖と悲しみが入り込んでくる、が感情は冷静なまま家を見ている。

  自分を見た。ベッドの上で恐怖で動けない様だ。繰り返し見るコレは、何もできなかった動けなかった自分への罰だ。


  屋根に座って平らになった住宅街を見ている。誰も下敷きになった祖父母を助けてはくれない。
母と妹は骨折・切り傷で済んだ。庭にへたりこんで泣いている。必死に自衛隊の人にかけあっている自分がいる。
幼い自分の話を聞く者はいない。だいぶ時間がたってから従弟のおじさんが来てくれた。父はどこか聞いてる頃だろう。
屋根から見る、人形劇にはもう飽きていた。どうせ次のセリフはわかっている。
父が「大丈夫」というが、下半身がペシャンコになってる。それを見た自分と母と妹が青ざめ取り乱す。
黄色の札を自衛隊の人が父に貼る。もう一度「大丈夫や」というと目を開けたまま父は死んだ。

  
  ここで出番が来た。絶望している自分を慰めてやるのだ。
姿を変える。キレイな虹色の羽を生やす。そしていつものように自分に話しかけ、抱き上げて空を飛ぶ。
なるべくキレイな世界の方向へ。目が覚めるまで飛び続ける。【完】

  

321優しい名無しさん:2007/06/02(土) 22:24:33 ID:okuCxCNa
途中から

「そうでした‥」
広間に残ったサイは聞きなれない呪文のような言葉を唱えると魔法陣は消滅した。
「サイ君、私達も早く!」
エィミーはサイの手を引く、が急に立ち止まりサイに向き直った。
「ごめんね‥サイ君、こういうの嫌なんだよね?」
申し訳なさそうに手を離そうとするエィミーの手をサイが掴む
「いえ、嫌じゃありません。それは相手があなただからです」
エィミーにはそれがサイの告白の言葉にとれた。一生この人を守って添い遂げたい‥エィミーはサイの手を引いて扉を出た。
ラズウェルの足は思ったより早くキラとクロしか追いつけない、ラズウェルは廊下を抜けて城壁に出ると何を血迷ったか例のキラとライアスが潜入に使った扉のレバーを上げた
322優しい名無しさん:2007/06/02(土) 22:26:31 ID:okuCxCNa
「待て!そっちは‥」
洞窟を抜けラズウェルは岩場に出た。下にはキラとライアスが乗ってきた小舟が‥
あと少しのはずがろくに運動した事のない臆病者のラズウェルはキラの姿を見たとたん足を滑らせ岩場から海に落下した。
「この高さじゃ助からないにゃ」
クロが言った。
「当然の報いだよ‥」
キラは廊下に引き返した。
「キラ、王子は?」
ライアスの問いにキラは「死んだよ」と答えた。
その時、背後から「ライアス!主君の仇取らせてもらう!!」
ライアスが振り向くとミスリルで武装した騎士‥知った顔だ。
「カーライル、おまえか?」
ライアスは戦時中、仲間の兵士がこの騎士の恋人を襲おうとした時に知り合い敵同士とはいえ一晩の友情が芽生えたのだ
323優しい名無しさん:2007/06/02(土) 22:28:29 ID:okuCxCNa
「カーライル、やめておけ。今は家族がいるんだろ?」
ライアスの言葉にカーライルは答える
「ああ、あの時の彼女との間に子供が二人いるよ」
それを聞いてライアスは安心すると共にカーライルを説得する
「ザルツカウィの城主ガルフォード家は世襲制ではなく己の力でのみ一代でのしあがった独裁者だ。
民衆の生活や兵士の待遇を見ればわかるだろう?
ガルフォードは己の築いた地位に執着するあまり家族を大切にしなかった。結果、孫も抱けずにどの道この代で終わったのさ。
家族を大切にするんだな」
カーライルはライアスの言葉に「これからどうすればいい‥」と呟いた。
「外ではレジスタンスの連中がモンスターの大群と戦ってるぞ。騎士も負けるなよ
324優しい名無しさん:2007/06/02(土) 22:30:11 ID:okuCxCNa
カーライルは「ライアス、感謝する」と言うと部下を引き連れて街に出た。
「さて、俺達もいっちょゴミ掃除かぁ〜?」
ケネスが言うとクロが
「大暴れできそうにゃ♪」
と嬉しそうに言った。
「やりすぎないようにね」キラが言う。
一行は兵士や民衆に混じりモンスターの残党退治をした。
それは夜から明け方まで続きザルツカウ ィは本当の意味での自由を取り戻した。
ジャックの家で休息を取り明け方キラやライアス達はカーライルとジャックに見送られて街の正門からセルポートを目指して歩き始めた。
岩が多いが広々とした大地、これからは多くの人々がここを通るだろう。
関所も無事通り抜け、夕方にはセルポートに着いた。
325優しい名無しさん:2007/06/02(土) 22:33:38 ID:okuCxCNa
326優しい名無しさん:2007/06/02(土) 22:35:28 ID:okuCxCNa
327優しい名無しさん:2007/06/05(火) 20:49:58 ID:FchWUyhU
上げ
328優しい名無しさん:2007/06/08(金) 18:27:19 ID:f8WVsOAP
age
329優しい名無しさん:2007/06/10(日) 21:23:31 ID:vKrPyhkH
保守
330優しい名無しさん:2007/06/12(火) 19:25:51 ID:QslQVuAr
あげ
331優しい名無しさん:2007/06/14(木) 21:06:15 ID:2nS8jLX1
age
332優しい名無しさん:2007/06/17(日) 21:22:45 ID:aycDZ9ON
age
333優しい名無しさん:2007/06/21(木) 13:54:43 ID:9l7+fgml
保守
334優しい名無しさん:2007/06/23(土) 11:24:21 ID:UrXH6tZs
携帯修理中なので保存させてください。
335優しい名無しさん:2007/06/23(土) 11:30:07 ID:UrXH6tZs
キラ達は帆船に揺られながら北西へ向かう、その地方にはドラゴンが住むという伝説があるのだ。
「ドラゴンかぁ〜一度見てみたいニャア♪
キラの言葉にライアスは「だが見つけてもそっとしておいてやれよ、奴らは今の世の中には数少ない絶滅寸前の生き物だからな。害はないはずだ」とたしなめる。
もっとも巨大な翼を持ち炎を吐くドラゴンにはキラも太刀打ちできないだろうが。
「この辺でいいか」ケネスが森の近くの岸に船を停泊させた。ライアスが地図を見る「この辺に村があるはずだ」
キラは船から飛び降り急ぎ足で小道に入り、エィミーはサイの手を引いて船を降りた。
ライアスとケネスは船を森の中の川に隠す。最近は山賊も多いのだ。
336優しい名無しさん:2007/06/23(土) 11:48:45 ID:UrXH6tZs
小道は右手が森、左手は山脈が続いている。走るキラ、サイとエィミーは遅れ気味だ。
その時、キラの前にグリズリー(大きな熊のモンスター)が。
「うゎニャッ!」油断していたキラはグリズリーの爪で切り裂かれ‥そうになったがグリズリーは一刀両断にされて地面に倒れた。
「大丈夫?猫ちゃん」キラが見上げると鎧をまとった女剣士が。「ありがたニャア」キラは思わず人間の言葉を‥女剣士は剣の柄を握った。
「待って!」エィミーが急いで駆けつける「怪しい者じゃありません。仲間を助けてくれてありがとうございました」
「仲間?この喋る猫はモンスターじゃないの?」
「それにはわけがあるんです」サイが遅れてたどり着いた。
337優しい名無しさん:2007/06/23(土) 12:18:51 ID:UrXH6tZs
金髪のふんわりしたロングシャギーヘアーに銀の鎧、二十代後半くらいの女剣士は
「あなた達、どこから来たの?ここは危ないからとりあえず村へ‥」サイとエィミーを案内した。
「フリューι」モンスター容疑を着せられたままの喋る猫キラは肩身が狭い。
「猫君、みんなが驚くから村でら喋らないでちょうだいね」女剣士が振り向いて微笑むとキラは「はいニャア!」と元気になった。
村は質素な木の家ばかりで馬がいる家もあるが大概が農家で野菜を作っているようだ。「さっきみたいに森からモンスターが出てくる事はめったにないけどこの辺のモンスターは強いわよ」
女剣士は家に入ると剣をテーブルに置いた。
「あの、私はエィミー。こっちはサイ君
338優しい名無しさん:2007/06/23(土) 12:38:49 ID:UrXH6tZs
「そして」エィミーは足元を指差し「キラ」と。女剣士はキラを撫でる「キニャ〜ン♪」。
「私は‥」外が騒がしい。ドアをノックする村人「サライヤ!よそ者を連れてきただろう?仲間に赤い鎧の騎士が!!」「何っ!?」
サライヤは剣を持って外へ出た。窓から外を見るエィミー。ライアス達だ。
サライヤは「紅の戦鬼ライアス‥覚悟!」剣を抜いてライアスに斬りかかった。が、ライアスは即座に回避し剣を抜き応戦した。
サライヤも腕は立つがライアスにはかなわない。剣が地面に落ちる
「くっ‥」サライヤは悔しげに地面に這いつくばった。後ろにいたケネスが手を差しのべる「お姉さん、いきなり危ないよ」わけありだな?」ライアスが問いかけた。
339優しい名無しさん:2007/06/23(土) 13:06:18 ID:UrXH6tZs
夕暮れ時、暖炉の火が燃える。テーブルを囲んだ一行はサライヤの話を聞く。
「16年前の戦争時、私は11才。ザルツカヴィの兵士だった父は私の目の前で殺されたわ。紅の戦鬼ライアス‥あの後ろ姿は忘れない!」サライヤは目の前のライアスを睨んだ。
「戦争ではよくある事なんだ!とっさの事でなければ俺も子供の前で父親を殺したりはしない!!」ライアスはサライヤの目を申し訳なさそうに見る。
目線を逸すサライヤ「私はあれから親戚中をたらい回しにされたわ。ここに来た時もどこにも居場所がなくて‥ある日家を出たの」
サライヤは剣を握る「13才になった私はこの国グリーンフォレスの兵士に志願したわ。いつか紅の戦鬼に復讐する事を誓った。
340優しい名無しさん:2007/06/23(土) 13:19:26 ID:UrXH6tZs
「それで復讐する事は諦めたのかい?」ライアスは子供に話しかけるようにサライヤの顔を見た。
サライヤは「寝首をかくかもよ。気をつける事ね」と言うと席を立った。
「あの‥僕達今夜泊まる場所がないんだけど」キラが空気を読まない発言をした。
「ここに泊まるには2人分のベッドしかないわよ」サライヤは突き放すような言い方だか泊まっていいという事だろう。
「おいっ、俺は遠慮するぜ。命狙われてるのに眠れるかってんだ」ライアスはキラとエィミーの背中を押す。
「男3人どこに泊まればいい?」ケネスがサライヤに聞く。
「私の叔父の家があるから頼んでみるわ。あそこのいとこ夫婦はどう言うか知らないけどね」サライヤは家を出た。
341優しい名無しさん:2007/06/23(土) 13:46:59 ID:UrXH6tZs
「ごちそうさま」「おいしかったニャア♪」サライヤの料理にエィミーとキラは満足したようだ。
「ウフフ、変な猫ちゃんね。あのライアスとかいう悪魔の使い魔かしら?」
サライヤの言葉にエィミーは反論する「ライアスさんが悪魔だなんて誤解は捨ててください!戦争をよく知らない私が言うのもなんだけどあれは仕方がなかった事なんです‥」
キラも「ライアスさんはマヌケだけどいい人だよ」と。
「戦争もよく知らない子供が口を出さないで!」サライヤは怒鳴った。
「ごめんなさい‥」エィミーが謝るとキラも無口になってしまった。
隣のサライヤの叔父のじむの家、ジムは昼間サライヤにライアスの来訪を伝えにきた男だ。サライヤのいとこ夫婦もいる。
342優しい名無しさん:2007/06/23(土) 14:01:09 ID:UrXH6tZs
「ごちそうさん♪」とケネス。都会の若者の態度の軽さに呆れるサライヤの叔母。
階段の前ではいとこ夫婦の子供2人がギャーギャー騒いでいる。
「あんた、紅の戦鬼なんだって?」ジムがライアスに恐る恐る聞く。
「好きで殺したわけじゃない、あなたの兄弟には悪い事をしたと思っている‥」ライアスは頭を下げた。
「サライヤを負かしたって?」サライヤの義理の兄のギルが聞く「ああ、だがいい腕だ」とライアス。
「ギル!サライヤは男を惑わす魔女よ」明らかに嫉妬した風な口をきくサライヤのいとこのメイ。
メイの母親までが「そうよ、魔女なんだからやっつけちゃっていいのよ」とライアスを冗談でけしかける。これがサライヤの家に居づらかった原因なのだろう。
343優しい名無しさん:2007/06/23(土) 19:06:20 ID:UrXH6tZs
ゴミ箱行き
344優しい名無しさん:2007/06/23(土) 19:07:18 ID:UrXH6tZs
こんな駄作いらない‥。
345優しい名無しさん:2007/06/28(木) 01:11:09 ID:2aFuV/wH
保守
346優しい名無しさん:2007/07/01(日) 22:50:58 ID:oJFk0hoS
保守
347優しい名無しさん:2007/07/05(木) 20:47:08 ID:hy4etFiy
age
348優しい名無しさん:2007/07/09(月) 23:38:58 ID:SMRN1Aaa
期待age
349優しい名無しさん:2007/07/13(金) 18:37:26 ID:oRa4ZwMH
age
350優しい名無しさん:2007/07/16(月) 22:36:06 ID:f6BVazHZ
age
351優しい名無しさん:2007/07/20(金) 22:08:12 ID:LiBKizrB
保守
352優しい名無しさん:2007/07/21(土) 14:30:30 ID:5205gHNk
この板でうpしても、ろくに感想もつかないし、空しくないですか?
353優しい名無しさん:2007/07/24(火) 08:39:39 ID:fduZYAqH
保守
354優しい名無しさん:2007/07/25(水) 22:56:16 ID:2Fq/Jp2d
保守
355優しい名無しさん:2007/07/25(水) 23:22:41 ID:jEo6mciA
起きれば、鳥のさえずりが聞こえた。部屋の白壁が青く染まっていて、まだ早朝だということがわかる。嫌な朝だった。全てが生々しく映る。
僕は汗で湿った体を苦労して起こし、扇風機のスイッチを入れた。乾いた風が、汚れた髪をなびかせる。そういえば、昨日は風呂に入らなかった。最近、そういうことが多い。
汚いまま学校に行くわけにはいかない。僕は、まるで別人のように重くなった体を叱咤しつつ、タンスから着替えとタオルをとった。
部屋のドアを開けると、窓から外が一望できる。光が差したばかりの世界は、普通は清々しいのだろう。でも、僕の心はそれを残酷に映すから、清々しくなどない。生々しいのだ。そして、残酷なのは、生きているからだ。

ふと、その窓を開ければ、風はなく、地面を見つめる自分がいた。意味のない毎日を繰り返し、心が病んでいくだけの僕には、死ぬ価値があるのではないか。そんな考えが頭をもたげる。

どうせ役に立たない罪深い僕は、死んでしまって良いのではないか。
356名無しさん@そうだ選挙に行こう:2007/07/29(日) 06:45:34 ID:EudqwuoB
保守
357優しい名無しさん:2007/07/31(火) 14:35:07 ID:+rxm6Yjv
保守
358優しい名無しさん:2007/08/03(金) 13:13:18 ID:6yuGCBn3
保守
359優しい名無しさん:2007/08/03(金) 13:13:45 ID:AnT/8AWb
360☆☆:2007/08/03(金) 13:35:11 ID:0xkfl3JI
言ったじゃない?
アタシに構わないでって・・・
どうして手を差し伸べたりするの?
どうして優しく微笑んだりするの?
アタシはアナタなんていらない
アタシはアタシだけいればイイの
タダそれだけなの
361☆☆:2007/08/03(金) 13:54:14 ID:0xkfl3JI
全部自分が悪い
そう思っても解決方法も思い当たらない
無駄な時間はただ流れるばかり
本当に自分を見てくれて
誰よりもかけがえのない存在だと
思ってくれる人に出会ったら
全部自分が悪いなんて思わないのかな
362☆☆:2007/08/03(金) 14:43:43 ID:0xkfl3JI
この道はいったいどこまで続いているんだろう?
歩いても歩いてもどこまでも続いていく
いつかこの先に何があるのか
見えてくる時が来るのだろうか?
今は一歩ずつ歩いていくしかないんだろうなぁ
363優しい名無しさん:2007/08/03(金) 18:29:57 ID:8Hs9dtMd
稚拙な文章氏ね
364☆☆:2007/08/05(日) 01:20:19 ID:8IMHc0CB
ごろんと横になると心ゾウの音が聞こえる
どうしようもなく情けない日は
その音が生きていることを証明してくれて
少し安心する
いつかは死ぬ、なんてことより
今、生きていることに心から感謝します
そうして生きていきたいと思います
365優しい名無しさん:2007/08/07(火) 16:35:59 ID:1Vw+HQOP
保守
366優しい名無しさん:2007/08/08(水) 08:43:52 ID:KpdJpp1W
>>363
創作板にでも逝けば?
367優しい名無しさん:2007/08/10(金) 09:58:47 ID:HzobTX/C
保守
368夏のともしび1 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/11(土) 01:00:46 ID:2GjNjJCD
 ぼんやりと窓の外を見ていた。
 がらんとした教室、カーテンの影、遠い声。
 今日から夏休み――。 
 でも僕の心には、夏特有の浮き立つような気分も、溢れるような期待もなかった。暑さすらも感じない。僕はあの空と同じ。ただ透明で、からっぽだった。


「ねぇ、知ってる?」
 突然の声。
 振り向くと一人の女の子が立っていた。
 クラスメイトの麻倉いずみだ。
「岬の廃灯台に幽霊が出るって話」
 いずみはくりくりとした焦茶色の瞳を僕に向けている。
「……知らない」
 僕は素っ気なく答えると、また窓の外に目をやった。
369夏のともしび2 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/11(土) 01:05:10 ID:2GjNjJCD
「夜中にね、白い服を着た女の人が泣いてるらしいんだ」
 いずみは僕の前の席に腰を下ろした。
「大昔の色恋沙汰で自殺した女の子の霊らしいんだけどね」
 よくある話だと思う。
「でさ、ウチのクラスの連中がそこで肝試しをしようって言ってるんだ。でもみんなで行っても怖くないからって、二人ずつペアで行動することになって……」
 いずみはそこでいったん言葉を切った。
 風が吹いた。僕といずみの間で白いカーテンが舞った。

「……それでね。一緒に行かない?」

「え……?」
「今日、暇だよね?」
「ひま、だけど……でも――」
「よかった! じゃあ、ウノハナ公園で待ってるから、五時に集合ね!」 
 いずみはそれだけ言うと走って出て行った。
「え、ちょっ、ちょっと!」
 彼女の姿はもう見えない。
 僕はしばらくの間、ただぽかんと口を開けて立ちつくしていた。
370優しい名無しさん:2007/08/12(日) 18:53:12 ID:1yC7VB11
会話ばかりで漫画状態だ
371夏のともしび3 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/13(月) 01:23:36 ID:8pyUw8TS
 家に帰った僕はベッドの上に寝転がっていた。
 スピーカーからは、ピクシーズの曲が流れている。
 ノイズ混じりの乾いたギター、ひりひりした絶叫。倦怠感と、焦燥感。
 
 四時三十分。
 行くべきか、行かざるべきか。
 別に肝試しが怖いわけじゃない。
 あのクラスのみんなのことだって嫌いじゃない。でも、特に仲のよい友人が居るわけでもなかった。
 それは僕が常に他人と一定の距離を取るようにしていたからだ。人はそれぞれ人間関係のバランスの取り方が違う。僕の場合はつかず離れず、相手と深くは関わらない、だ。
 僕にとってすべての人は、電車の窓から眺める景色と同じだ。ただ流れて通り過ぎていくだけの風景のようなものだ。そしてそれは他人が僕を見る目と同じ。僕は石ころや、流れる葉っぱのようなものだ。だからお互い、気にかける必要なんか無い。
 僕はこういう生き方がそれなりに気に入っていた。その方が疲れないから。傷つかないですむから。
 でも、いずみは何かと僕に関わってきた。
 そういえば、入学して最初に会話した相手はいずみだったっけ。きっかけは……ただ単に席が隣だったから、たまたま使っていた携帯電話が同じだったから、好きなおにぎりの具が一緒だったから。そんな感じの、ごくごくありきたりで詰まらないことだったと思う。
  
 彼女との会話はそれなりに楽しかった。
 僕は何となく彼女と気が合っていたのかもしれない。
372夏のともしび4 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/13(月) 01:26:11 ID:8pyUw8TS
 CDが最後の曲を演奏し終えた。
 やはり行くべきか――。
 せめて彼女には話しておいた方が良いのかもしれない。

 僕は起き上がって外出の用意をした。

  
 太陽はくすんだ橙の光を放ち始めていた。
 僕は緩い坂道を走って下った。時折、浴衣姿の人たちを見かけた。今日はどこかでお祭りでもあるんだろうか。
 
 ウノハナ公園に着いたときには、約束の時間を二十分も過ぎていた。
 僕はみんなの姿を探す。
「居ない――なぁ……」
 公園にはクラスメイトらしき集まりは見あたらなかった。すこし遠くにある東屋に浴衣姿の人影を一つ確認できたが、クラスの集まりには到底思えなかった。
 みんな先に行ってしまったのだろう。仕方ない、遅れた僕が悪いのだ。
「どうするかな……」
 僕は空に向かって呟いた。
 
 追いかけるか?
 それとも――。
 
「……帰ろう」

 僕はくるりと踵を返した。   
373佳那:2007/08/13(月) 11:36:24 ID:zn31668X
明日なんて来なければいい
ぞっとそう思ってた
そして今でも
明日の事なんて誰も分からない
ただ思うのは、それ程今日と変わらない
つらく苦しい明日になるだろうという事
明日なんて来なければいい
この世が終わればいい
そう思ってた
この世に生を受けたのがいけない
ただ感じるのは、それでも生き続ける事への罪悪感だけ
消えることは決してないだろう
明日なんて来なければいい
そしたら、この罪から逃れられる
追うもののない、安らかな時に囲まれ、全てを終えたい
374saeko:2007/08/13(月) 21:08:40 ID:vaI30K7i
足りない・・・、何かが足りない
飽きる程遊んでも
吐き気がする程食べても
疲れる程寝ても
満たされない
何かが足りない
「楽しい」と思うのも一瞬
心には何も残らない
何が足りないのかも分からない
毎日何となく過ぎてく
私の心に足りないのは何?
375優しい名無しさん:2007/08/14(火) 10:46:48 ID:V9LLkUoq
age
376saeko:2007/08/14(火) 15:55:57 ID:eJRoFaUS
「自分なんか必要ないと思っている自分」がいるなら必要だと思わせてやればいい
「生きてたって意味がないと思っている自分」が邪魔をするなら生きてる自分に意味があるとつき返してやればいい
「いなきゃいけない自分」になろうと、じたばたしていけばいい
そういうこと
自分が世界戦争の何の役に立つかなんて知らない
自分が死んでも世の中に何の変わりがあるかなんて知らない
そうじゃなくて、そんなんじゃなくて、自分が、どれだけ自分を認めてやれるかってことなんだと思う
377:2007/08/15(水) 07:43:14 ID://tGhP7W
夜中の三時に目が覚めて、そこから寝られず七時半
一体何が悲しいのか
悲しくて仕方ないと思いながら天井をじっと見る
朝日が昇って蝉が鳴いて、一日が始まったら
死にたいはずなのに生きようとする体のせいで腹は減り
何も口にしたくないのに食べる事になる
誰とも話したくないのに誰かに必要とされたいと思う
寂しいと思う
そういう矛盾や下らない考えから出来るだけ目を逸らして
根拠もなく楽しいんだと自分に言い聞かせて日中をすごす
また夜になって一人になって、段々矛盾に浸食される
矛盾を振り切れないまま、消える日を思いながら目を閉じる


夜中の三時に目が覚めてってなんかの歌詞だった気がする
378saeko:2007/08/17(金) 11:02:15 ID:xpraKos1
全部自分が悪い
そう思っても解決方法も思い当たらない
無駄な時間はただ流れるばかり
本当に自分を見てくれて
誰よりもかけがえのない存在だと
思ってくれる人に出会ったら
全部自分が悪いなんて思わないのかな
379優しい名無しさん:2007/08/17(金) 21:03:48 ID:7WUwjRgt
age
380夏のともしび5 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/18(土) 01:24:55 ID:a5IdGOXT
 僕が公園から出ようとしたとき――。
「こら〜っ!」
 聞き覚えのある声が聞こえた。
 足を止めて振り向くと、公園の東屋から一人の女の子が駆けだしてきた。

「ちょっと待てーっ!」
 いずみだ。東屋にいた人影は彼女だったのか。
 いずみは水色の浴衣を着ていて、いつもは下ろしている髪をきれいに結わえていた。
「おそい! 来ないのかと思ったよ!」
 いずみはむくれた顔で僕を睨んだ。 
「ご、ごめん」
 本当にごめんなさい。半分はすっぽかすつもりでした。
「それに、今、帰ろうとしてたでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
 そのとおりです、ごめんなさい。
「本当〜? ……ま、いいか。とりあえずは来たんだし」
 いずみは怒らせた肩をすっと元に戻した。
 僕はくるりと周りを見渡す。いずみ以外のクラスメイトの姿が見えない。
「ねぇ、みんなは?」
「へ?」
 いずみはきょとんとした顔で僕を見た。
「他のみんなはどうしたの? 来てないの?」
「あ、ああ、みんなね! えーと、みんなは……そう、先に灯台に向かったの!」
 いずみは少し慌てたように言った。
「ふーん……」
 先に行ったのか。まさか、肝試し用に何か仕掛けを取り付けているんじゃないだろうな。
「そんなことよりさっさと行こ! 早く行かなきゃ始まっちゃう」
「始まる? 何が?」
「いいから。ほら――」
 いずみは僕の手を引いて歩き出した。 
381夏のともしび6 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/18(土) 01:31:40 ID:a5IdGOXT
 僕たちは公園の傍のバス停からバスに乗った。
 岬の廃灯台へは町を迂回する林道を通っていかなければならない。距離も歩いて行くには少し遠いから、途中まではバスに乗った方がいい。
 僕たちは一番後ろの席に座った。この時間、林道方面へ向かうバスにはほとんど客は乗っていない。  

「……あのさ、何で浴衣なの?」
 僕はいずみの格好について質問してみた。
「何でって……今日は夏祭りだよ? 夏祭りは浴衣でしょ?」 
 そりゃそうだけど、今回は――。
「肝試しに行くんだろ? 浴衣って……」
「いいの! 肝試しが終わったらお祭りを楽しむんだから!」
 そうですか……。
 僕は軽い溜め息を吐いて、窓の外に目をやった。

 バスが林道の入り口に到着した。バスを降りた僕たちは林道を歩いていく。この林道はハイキングコースになっており、道も舗装されている。
 僕たちはハイキングコースを逸れて細い道に入った。道は荒れていたが、踏み石や朽ちかけた木の柵などがあり、昔は舗装されていたのだという痕跡が感じ取られた。この道も灯台も、使われなくなって忘れ去られて、荒れ果てて、いずれは草に飲み込まれていくのだろう。
382夏のともしび7 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/18(土) 01:37:40 ID:a5IdGOXT
 林道を抜けると、ぱぁっと視界が開けた。崖の上に出たのだ。目前には海と灯台が見える。灯台までは一本の道で繋がっていた。
 もうあたりは薄暗くなっている。僕はいずみの手を引きながらその道を歩いていった。
 
 道の途中、ふと、何か白いものが目に映った。
 蔓のような低木に、星の形をした白い花が咲いていた。
 僕は涼しげに咲いているその花に見惚れて立ち止まった。ゆっくりあたりを見回すと、星形の花はあちこちに群生していた。
「綺麗な花だね。なんていうんだろう?」
 僕はいずみに尋ねてみた。
「やまほろしに似てるけど……ちょっと違うね。亜種かなぁ」
 いずみは白い花片に手を伸ばすと、人差し指でそっと撫でた。
「海の近くに咲いてるから、うみほろし――とかね」
「うみほろし――」
 青い夕闇に浮かんだその花は、どこか儚くて、心の隙間に入ってくるような美しさを持っていた。
383夏のともしび8 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/18(土) 02:00:10 ID:a5IdGOXT
 廃灯台の前に辿り着いた。
 
 粛然とした古い聖域。
 近くで見るのは初めてだ。僕はその姿を見上げると、ホッと感嘆の息を漏らした。それは廃墟とは思えない――彫刻のように壮美な灯台だった。
 こんなに美しいものが、見捨てられたのか――。
 僕はほんの少しだけ、哀しくなった。

「あれが入り口みたいだね」
 僕はいずみが指差した先を見た。灯台の白い外壁に長方形の闇が貼り付いている。  
 入り口に扉はなく、誰でも簡単に入れるようになっていた。
 僕たちは慎重な足取りで中に踏み込む。中は細い螺旋状の階段になっていた。人一人が通れるほどの幅だ。僕たちは壁に手を添わせながらゆっくりと階段を上がっていった。
384夏のともしび9 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/19(日) 02:37:28 ID:xSJFeGGW
 少し冷えた空気が肺を満たした。暗闇で先が見えない、足音がくぐもっている。
 ここは外界と遮断された異質な空間。壁の冷たさといずみの手の温度以外に確かなものはなかった。


 ようやく最上部にある点灯室に着いた。
 室内は外壁と同じ白色で、六角形の部屋だった。大きな窓から月の光が差し込んでいる。殺風景な部屋だったが、いくつかの装置はそのまま残されていた。
 僕は部屋の中心に立つと、首をもたげて真上を見た。細長い水銀球を巨大な二枚のレンズが包んでいる。
 ここから発せられる光は、きっとたくさんの船を導く灯火になったのだろう。
385夏のともしび10 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/19(日) 02:38:47 ID:xSJFeGGW
 僕はおかしなことに気がついた。
 点灯室には誰も居なかった。そこには僕といずみ以外は誰も居ないのだ。
「……みんなは? 先に来てるんじゃなかったの? 肝試しは?」
 僕はいずみに尋ねた。クラスで肝試しをすると言っていたはずだ。
 いずみは首の後ろを掻きながら、
「……ごめん……あれ、嘘なんだ」
 と言った。
「嘘?」
「クラスのみんなで肝試しっていうのはデタラメ。ホントはそんなイベントは無いの」
 いずみは目を逸らしながら言った。
「何で、そんな嘘を?」
「ん……普通に誘っても来なかったでしょ?」
「そんなことは――」
 無い――と言いかけて口をつぐんだ。
 最初に教室で誘われたときは断るつもりだった。半分は来ないつもりだった。 
「でも、何でわざわざ……」
 嘘をついてまで?
 ほんの少し沈黙が入った。
「えと……見せたいものがあったから、かなぁ。それに言いたいこともあったし……」
「見せたいもの? 言いたいこと?」
 僕が尋ねると、いずみは真っ直ぐに僕を見た。
386夏のともしび11 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/19(日) 02:41:11 ID:xSJFeGGW
「今日の朝、お母さんから聞いたんだけどね……今週いっぱいで、行っちゃうんでしょ?」
 ああ。
 知っていたのか。
 そう、僕はこの町を離れる。引っ越しをするのだ。
「どうして教えてくれなかったの? 何も言わずに黙って行くつもりだったの?」 
 僕は彼女から目を逸らした。窓から覗く月を見た。
「……別に、関係ないよ」
「関係ない――?」
 いずみは少し声を張った。
「そういうのって、酷くない? せめてお別れくらいは言ってくれても良いんじゃないかな?」
 語気が荒ぶっている。怒っているのか。彼女に怒られる謂れなんかない。
「そんな文句を言うためにわざわざこんな所まで連れてきたのかよ? いい迷惑だ。引っ越しだって急に決まったことだし、教えたくないから教えなかったんだよ」
 酷い科白だ。自分でもそう思う。
「……そうやってすかしてばっかりだと、碌な青春送らないよ。友達だってできないよ?」
 彼女が言った。
387夏のともしび12 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/19(日) 02:49:41 ID:xSJFeGGW
 僕は少しかちんときた。
 知った風な口をきく――。
「友達? そんなの必要ないさ。できたところですぐに別れがやって来る。僕は親の仕事の都合で引っ越しが多いんだ。幼稚園の頃からそうだった。誰かと仲良くなってもすぐに離ればなれ。もう会うこともない。大切な物も時間と共に綻んでいくんだ」
 堰を切ったように言葉が吐き出た。
「いずれみんな僕のことを忘れて、僕もみんなのことを忘れる。そんな哀しいことになるくらいなら初めから友達なんか作らない方がいい!」
 僕の影が揺らいでいる。声が反響している。
「だから、だから僕は、すべての人と上辺だけで付き合った。嘘笑いをして、嘘の相づちを打った。表面を滑っていくような関係だよ、決して中心には届かない。君と過ごした三ヶ月だってみんな嘘さ。僕は君のことなんかどうでもよかった!」
 いずみの頬に、ほそい涙が伝ったのを見た。
 僕はそれから目を逸らした。
「だから……これ以上僕に関わらないで!」
 別れが辛くなる。
 いや、今だって十分に辛いのだ。これ以上傷を増やしたくはない。
「もう、さよならだ!」
 その場に居られなくなった僕は点灯室の外に出た。

388私の中の少年<<1>>:2007/08/19(日) 13:58:48 ID:0YvXE3q9
私の中には一人の少年がいます
私の心や脳の中に住み着いています
たまに彼は私の夢や、頭の中で生々しく生活しています
私はまだ世界を知り始めたばかりで、汚れてない
夏の日差しの中で、陽炎のように揺れています
389私の中の少年<<2>>:2007/08/19(日) 14:01:30 ID:0YvXE3q9
彼は最近良く私の前に姿を現します
彼が言葉を口にした事はまだ一度もありません
でも私には彼の思想の全てが分かります
彼は今、恋をしています
でも彼はこの気持ちが何なのか分からなくて悩んでる
でも私は彼に何も教えてあげられません
ただ、見てるだけ
彼はその彼女に欲情しています
どうしようもない性的欲求
私はそんな彼を、ただ見守っています
390私の中の少年<<3>>:2007/08/19(日) 14:05:46 ID:0YvXE3q9
彼は学校の屋上に腰をかけ空を見上げてました
炎天下の中なんだか彼はすごくちっぽけに見えました
彼の制服のポケットにはいつも一つのナイフ
弱い彼の「鎧」です
そのナイフを取り出して柵に密かに思ってる人の名前を彫りました
彼女の白い首筋
滅多に笑わない彼女がたまに見せる笑顔
八重歯、制服、細い手首、後ろ姿
彼の知っている限りの彼女の全てを思い出し
彼女を僕のものにしたいという抑制できない欲望に
彼は押し潰されそうでした
陽射しがあまりに強すぎたので
391私の中の少年<<4>>:2007/08/19(日) 14:10:14 ID:0YvXE3q9
彼は今日も私の前に姿を現しました
青い空を体ごと感じたくて、線路に寝転がっていました
焼けるような陽射しにさらされた線路が熱くて
それが妙に気持ちよくて、このまま死んでも構わないと
そんな事が夢みたいに頭の中を漂っていました
ふと彼女の事を思ったら、居ても立ってもいられなくなり
思い切り荒地を走ってみたけど
疲れても息が苦しくても目眩がしても
彼女の顔が頭から離れませんでした
392saeko:2007/08/19(日) 14:12:45 ID:0YvXE3q9
むりやり開けたドアは、いつだって悲しみを生むだけ
壊れた幸せ
抹消された思い出
犯した罪
届かない償い
残るのは痛み、傷、悲しみ、瓦礫になった思い
過去を許し、未来を愛したい
けれど
抜け殻になって全てが飛び立った今
どうすればいい?
393優しい名無しさん:2007/08/19(日) 20:07:42 ID:orFUpEtu
合法かどうかはともかく、著作権を放棄する旨の取り決めを交わしてまで
小説を書き込んでるなんて、信じられん。
394優しい名無しさん:2007/08/19(日) 20:52:48 ID:DIA9VtrT
なるほど
395夏のともしび13 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/20(月) 01:48:52 ID:Z8KnjryP
 点灯室の外は円状のバルコニーみたいになっていた。
 日は完全に沈んでいた。月に照らされた海が一眸できる。
 左手の遙か下に見える海岸沿いに、たくさんの小さな明かりが並んでいた。夜店が出ているのだろう。 
 
 もっと、爽やかに別れるつもりだった。
 でも……こんなことになってしまった。

『ねぇ――』
 風に乗ってささやくような声が聞こえた。誰かの気配を感じる。いずみじゃない。誰だ?
 僕はあたりを見回したが誰も居なかった。
『これでよかったの?』
 声は問いかける。
 幻聴か。
 ……これでいいんだよ。どうせ夏が終わる頃には、みんなきれいさっぱり忘れてる。
 僕は心の中で幻聴に答えた。 
396夏のともしび14 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/20(月) 01:50:36 ID:Z8KnjryP
『あなたは怖いのでしょう? 人から忘れられるのが。人を忘れてしまうのが』
 だから、最初から誰の記憶にも残らないように、誰も記憶に残さないようにしてたんだ。それなのに、なのに――。
『そうね、あの子のことは記憶に残る』
 ……大丈夫。今なら、忘れられる。
『あなたはあの子を拒否した。これからもずっとそうやって生きていくの?』
 大きなお世話だ。僕は――。
『流れる景色のように、か。だとしたら、あなたはそれよりもずっと虚しいものよ。あなたは誰の気にも止められない。誰にも愛されない、誰も愛せない。そんな存在に、この世界はいったい何の意味があるの? 何の価値があるの?』
 それは――。
 僕には答えられなかった。元々この世界にも自分自身にも、何の意味も何の価値も感じていない。
『あなたは生きる意味を失った。それは亡者よ。私と同じ』
 同じ?
『あなたは選ぶことができる。不毛な生を続けるか、消えて無くなるか。ここで消えれば、もう思い悩むことはない。永遠になれる』
 永遠――。
 頭がぼうっとする。自分の輪郭が薄い。体が、浮いているようだ。
『さあ、そこから』
 僕は手すりから身を乗り出して下を覗いた。
 闇が集まっていた。闇はふわふわとして心地のいい羽毛みたいだった。
『そこから、ここへ――』
 僕は手すりの上に足をかけた。
 闇が呼んでいる。
 ここから落ちれば、安らかな永遠の中に留まることができるのだろうか。
 
 過ぎ去ることのない、永遠の中に――。

397夏のともしび15 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/20(月) 01:54:37 ID:Z8KnjryP
 突然、ぐい、と襟首を掴まれ、強く後ろに引っ張られた。僕はバルコニーの床に尻餅をついた。
「このばかっ!」
 僕を引っ張ったのはいずみだった。彼女は僕の肩を抱いている。
「死のうとしてたのっ!」
 いずみは濡れた目で僕を睨んでいる。
「なんで、どうして!?」
 彼女は僕の肩を指の跡が残りそうなくらいに強く掴んだ。
 僕は死のうとしていたのか?
 わからない。飛び降りようとしたのなら、やっぱり死ぬつもりだったのかもしれない。でもあの時――。
「声が――」
「声? 大丈夫? 頭打った?」
 いずみは僕の後頭部を探るように撫でた。
「……いや」
 僕は頭を振った。まだ意識が胡乱としている。 
 寝入りばなの夢の中にいるようだ。

 
 ひゅうっ――。

 そんな僕の目を覚まさせるような音が聞こえた。
 大きな爆発音。
  

 目の前の空に、大輪の牡丹が咲いた。


398夏のともしび16 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/20(月) 01:55:29 ID:Z8KnjryP
「花火――」
  
 僕はゆっくり立ち上がった。 
 紅い光が夜空に広がっていた。
「これを、見せたかったの?」
 僕はいずみに尋ねた。
 いずみは立ち上がると、小さく頷いた。
「ここからなら、花火を真正面から見られると思ったんだ――」
 色とりどりの花火が夜空を染めた。美しい光が僕たちを包む。
「……いずみ……ごめん」
 僕はいずみに謝った。彼女にはずいぶん酷いことを言った。
 いずみは微笑んで、僕の手を握ってくれた。
 
 花火はとめどなく打ち上げられた。
 幾百も幾千も。
399夏のともしび17 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/20(月) 01:57:17 ID:Z8KnjryP
 たくさんの花が咲いて、散った。
 ひかりの破片が夜空に溶けていく。
 
 たくさんの記憶が頭に浮かんだ。
 この町で過ごした日々、うみほろしの花、美しい灯台、真正面から見た花火。そして、いずみのこと――。
 別れが来ても、その存在が消えて無くなってしまっても、決して忘れたりしない。僕は強く誓った。
『その気持ちを、大切にしなさい――』
 花火の散る音に混じって、そんな声が聞こえた。
 たぶん、僕にしか見えなかったと思うけど、点灯室の屋根に、白い服を着た半透明の女の子が座っていた。
 
 女の子は澄んだ瞳で花火を見ていた。
400夏のともしび18 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/20(月) 02:04:05 ID:Z8KnjryP
 別れの日。
 いずみは駅まで見送りに来てくれた。 
 列車が駅に到着した。
 僕はいずみと向き合う。二人ともしばらく黙ったままだった。
 
 車掌が甲高い呼び子笛を鳴らした。出発の時間が来たのだ。

 僕は彼女にそっと口づけをする。
「さよなら。いつか、また会おう――」
 
 そう別れを告げて、列車に乗った。
 
 

 列車が走り出す。
 僕は流れる景色を見ている。
 通り過ぎる景色のすべてが、僕の心に焼き付いた。
 





 終り
401優しい名無しさん:2007/08/20(月) 09:41:37 ID:CNP1ouDo
ここに載ってる小説を2ちゃんねるが書籍化して大ヒットしても、
その作品に対して、著作財産権はもとより、著作者人格権も主張できなくなるのだが。
全部2ちゃんねる運営人の手柄になっていくんだけどそれでもいいの?
別サイトに掲載してリンク貼るくらいにしておいたらどうよ?
402烏羽玉 ◆kMXMAxmMl. :2007/08/21(火) 20:16:48 ID:9ISn0Jvx
>>401
わかりました。投稿サイトとか探してみます。
ありがとう。
403優しい名無しさん:2007/08/21(火) 22:37:11 ID:GyVgbKde
あげ
404優しい名無しさん:2007/08/24(金) 14:09:39 ID:2spctxlv
age
405saeko:2007/08/24(金) 21:37:33 ID:gXGCj8O7
その冷えたアスファルトの上で横たわっている
年老いた野良犬よ
そこから聞こえるのは何だい?
噛み付く力もなく
ただ横たわり
きっと君は地球の音を聞いているんだろう
冷えたアスファルトの上で・・・
406優しい名無しさん:2007/08/27(月) 23:34:57 ID:ShQ4K7WH
保守
407優しい名無しさん:2007/08/30(木) 02:20:30 ID:h+faVorw
あげ
408優しい名無しさん:2007/09/04(火) 23:35:12 ID:UcQyupam
保守
409肉棒丸:2007/09/06(木) 22:15:39 ID:JruXgqud
無題

ある日の晩のことである。俺は一体何をしていたのだろうか。
自分が何をしているのかわからない。
「やあ、君はいくつだい?」
そんな声が聞こえた日もあった。それでも田吾作は明日を見つめていた。
ふとした夜には猫の耳を思い出した。あの感覚…忘れていた感覚が田吾作をよみがえらせる。
あの日を思い出すと力が沸いてくる。そう、あの日の夜俺は君の中で勉強に励んだのだ。
「そうかい、それはご苦労なこった。」
後ろから声が聞こえてきた。昨日からうちのアパートの裏に住む犬だ。
「なぜ君は僕を許してくれるんだ?」田吾作は気になっていたことを口に出した。
「それはきみがきみである証拠だからさ。気にしてはダメだ。そうだろう?」犬は意味深に微笑む。
410肉棒丸:2007/09/06(木) 22:16:22 ID:JruXgqud
「そんな関係を求めていたんじゃない!」田吾作は叫んだ。
「そう明日を投げ出さないでくれ。僕は君が好きなだけなんだ。」
田吾作の顔が青くなる。犬が続ける。
「だってそうだろ?君は僕じゃないんだ。君が僕に対して抱いてる感情を踏みにじることは、精神衛生上よくない。」
「かもしれんな」田吾作が微笑む。そして廊下に飛び出した。
窓がある。ここから飛び降りたらどうなるだろうか、そう思いながら田吾作は顔を洗った。
「顔を洗うことに意味はあるのかい?」そんな犬の言葉を無視してトイレに入る。
「君が君でなくなるということは、なにを意味すると思う?」
「冗談はやめてくれ、俺は今忙しいんだ。」そういいながら田吾作は眠りにつく。
「忙しい?それなら僕は君のそばでコーヒーを飲むとしよう。」そう言って犬は窓から飛び降りた。
411肉棒丸:2007/09/06(木) 22:17:29 ID:JruXgqud
負けたのだ。犬は自分に負けたのだ。
そうでなければ明日を捨てたりはしない。そう思いながら田吾作は犬がいれたコーヒーを口にする。
飛行機の音がする。それはとても気分がいい。そうこうしているうちに日が暮れてしまった。
「あの日の少女を覚えているかい?」犬の声が聞こえた気がした。
田吾作は思い直した。このままでは消えてなくなってしまう。
銃を取り出し、自分の肘にあててみた。肘、それが何を意味するのか田吾作にはまだわからない。
ただ肘を選んだのである。コンビニでパンを買うように、だ。
そんな風にしているうちに夜が明けてしまった。このようにして田吾作の1日は過ぎていく。
田吾作自身それを自覚している。ただそんなことはどうでもいいのだ。
問題は食べかけのチーズ、君のいない明日、そして肘を選んだ自分に対しての怒りだ。
「肘…それはとても特別なニュアンスだね。」犬の声が聞こえた。
もちろんそれは実際には聞こえていない。それでもその声は田吾作に勇気を与えてくれる。
つめを切る。とても丁寧に、そしてとても素早く。肘を尊敬している。それだけでいいのだ。
412:2007/09/09(日) 08:36:34 ID:4WXjwGwk
センティアさん
良い小説ですね。
すごく感動しました。
何度読んでも涙が
でてきました。
センティアさんには
幸せになってほしいと
思いました。
センティアさん
今までありがとう
ございました。
すごく幸せでした。
413巫呪 ◆rZG/c0PO3s :2007/09/13(木) 19:37:23 ID:RNsv+T7x
>>295
禅譲の儀式をかたちばかり済ませると、兄はすぐにも花の膝枕で寝入ってしまいました。
もともとこの数年は酒気が絶えぬのです。
花は室内に踏み入れた私の足先を凝と見つめ、兄が手ずから挿してやった髪挿しを引き抜きました。
なんとよくできた呪巫でしょう、後始末まで自分の手でするとは。
「医者を呼べ!」
片目を潰してのたうちまわる花を前に、なすすべもなく兄は泣き喚きました。
「おまえの望みどおり、私は位を退いたではないか。
 何故これに傷を負わせたのだ」
「落ち着いてください兄上、それが自分でしたことです」
兄は酒精の魔力も吹き飛んだと見え、めずらしく明瞭な物言いです。
「新王は先王の客人に対する礼もわきまえぬか」
客人?
この卑しい呪巫ふぜいが、更迭されたとはいえ一国の王たる者の、賓客とは。
私は兄の零落ぶりにあらためて胸を痛めました。
花は傷のために病犬のごとく震え、宮に詰め居った典医どもが駆け付ける間に二度吐きました。
414優しい名無しさん:2007/09/15(土) 10:25:07 ID:tvY7zFpe
保守
415優しい名無しさん:2007/09/19(水) 20:56:40 ID:/8+Etu1G
age
416優しい名無しさん:2007/09/23(日) 06:44:18 ID:x8vg+IkW
保守
417優しい名無しさん:2007/09/27(木) 23:33:12 ID:/XlGTsTf
age
418優しい名無しさん:2007/10/02(火) 23:25:27 ID:XLNKWK+M
保守
419優しい名無しさん:2007/10/03(水) 19:38:45 ID:8hCJPLtB
プロになれないなら意味ないんだろ?
420優しい名無しさん:2007/10/04(木) 20:08:08 ID:CwNczwTH
ここは写しがきくから小説を保存させてください。
421優しい名無しさん:2007/10/11(木) 16:59:56 ID:TnFFiUGP
保守
422優しい名無しさん:2007/10/15(月) 23:23:18 ID:65R/1XMz
あげ
423優しい名無しさん:2007/10/19(金) 14:00:03 ID:/MtRsFoR
保守
424優しい名無しさん:2007/10/23(火) 06:51:23 ID:1GLPjP7U
保守age
425優しい名無しさん:2007/10/25(木) 23:25:26 ID:WzJuMByO
とあるゲームを題材にして作った小説の一部を書くけど、つまらないならつまらないと言ってくれ。



過去は、変えられない。つまりそれによって形成された境遇も変えられない。それがたとえ背を向けて逃れたい境遇であっても。
異議は唱えられる。神様に文句だって言える。なんならどこかの丘にでも登って、大声で叫んでもいい。だが決して振り切ることはかなわない。
そんな時、落ち着く方法は一つしかない。
諦めることだ。
今まで歩いてきた道を全て受け入れ、その場で佇むことだ。この、線の内側で。
境界線の内側で。



『いかなる局面においても、 ハンターは万全の準備を施さなくてはならない』らしい。
ハンターになりたてだった僕に、村長は色々と狩りの必需品をくれたものだ。例えば、傷の治療効果を高める薬草とか、非常食になる生肉とかそれを焼くための携帯道具とか。しかし僕は、切羽詰まった事態になることはとにかく避けてきたもので、使うことは一切なかった。
その結果がこれだ。
ハンターが扱う道具を一概にまとめる道具箱、すなわちアイテムボックスを何気なしに開けると、異様なにおいがそこら中に広がった。村長の贈り物全てが放つ腐敗臭がからみ合い、珍妙なハーモニーを醸し出していたのだ。
(う……)
思わず右手にある木製の引き戸に手をかけ、横向きに開ける。この六畳程度の自室では、またたく間に異臭が充満してしまう。この地方は万年寒いからある程度は保つと思っていたのだが、とんだ見込違いだったようだ。何とも寝覚めの悪い朝戸であった。
いや、待てよ自分。悪いことばかりじゃないはずだ。僕はまだあらゆる面において経験の足りない子供だ。だが、こうして失敗を積み重ねてゆくことによって、生きていく術を身につけていく。
また一歩大人に近づけたな。うん。
「……………」
こんなにも虚しい気分なのはなぜだろう。
「また一歩大人に近づけたな。うん」
口に出して言ってみる。
当然返事は返ってこない。
…さっさと後始末の作業にはいることにした。
426優しい名無しさん:2007/10/27(土) 10:15:11 ID:WGLZptoF
一部すぎて面白いもつまらないもない。
文章上で気になったところはいくつかあるけど。

>道具箱、すなわちアイテムボックスを
言い換える意味なくね? とか

>六畳程度の自室
日本なの? とか

小説の一部はあくまで小説の一部だから、小説全体としての評価は
完成品を読まない限りできないよ。
427425:2007/10/27(土) 12:04:20 ID:Wiul0XrK
確かに一部すぎたな…。
すなわち〜の部分は一応事情があるけど六畳〜の部分は完全にミスッた。全然日本じゃない。
コメントありがとう。
428425:2007/10/27(土) 12:30:57 ID:Wiul0XrK
ごめん、しつこいようだけどミスった部分以外の文はすんなり理解できたかな。
あと最後に生意気にウケ狙ってみたけど、笑えたか白けたか教えてほしい。
書き始めたばかりで自信がないんだ。
429優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:02:41 ID:13GbKIwQ
tooth fairy.
一次創作/暇つぶし/若妻モノ(爆


トウコは、かちゃかちゃと食器を洗っていた。
かちゃかちゃ。
ツルツルした感触を確かめて、次。
面倒臭いと思って始めなければ、それで最後。
でも始めてみれば当然終わりは来るのだった。
朝の冷たい水を感じていた。
今日もいつも通り。
今年で六つの娘を送迎バスの停留所まで送り、そそと帰って来て、トウコを待っていたのは今朝の食卓に座していた、食器達だった。
朝の一分って、すっごい大事なのよねぇ、ね、お宅もそうでしょ?
脳裏にぼんやりと浮かぶお隣のユッコの声に、うんうんと、知らず、頷いていた。
かちゃかちゃ。
確かに朝は忙しい、台所に立つとそこはもう戦場なのだ。
そんな事を考えて、くすりと笑う。
心穏やかでいられる戦場なんて、ねぇ。
つまりトウコは、そう言う事が嫌いではなかった。
きゅっきゅと洗い立ての食器を拭いて、同じ種類ごとに並べる。
こうして一人で食器の整理をしていると、あぁこの食器はあの時の、と考えてしまうので、トウコはもう家の食器の小皿の一つまでも、それがどんな理由で買いそろえられたモノなのか覚えてしまっていた。
ロマンチックな食器はそれこそ偶にしか顔を見せないので、それはそれで、何だかつまらない。
よいしょと呟いておかずが乗っていた皿を棚に戻す。
次はここ、これはここ。
そうやって何処に何があるのか把握している事は、実は凄い事らしく、若いのに偉い(らしい)夫は、夕食の席で、トウコがひょいっと醤油の小皿を探し当てると、ううんと感心して唸ってしまうのだった。
ようやく全ての食器−−二人分−−を片づけ終えて、ふぅと溜息が漏れるのに気付く。
ああ、嫌だ嫌だ、溜息なんて、と思ってすぅっと息を吸い込む。
流しに立って、ふと顔を上げると、ちいさな窓の向こうにはどんよりとした雲が怠惰に寝そべり、暗鬱とした空気を吐いているのだった。
そんな光景を眺めて、当然、良い気持ちになるはずもない。
夫が『忙しい仕事』で家に帰ってこなくなってから、5日めの朝だった。
430優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:05:14 ID:13GbKIwQ
カチリと時計が音を立てる。
トウコは、ごろごろと掃除をしていた。
ごろごろというのはすなわち掃除機を引っ張っているからで、本当はごろごろと鳴っていないかも知れないけれど、何となくその音が好きなのだった。
ごろごろ。
フローリングの床は冷たく、朝もはよからご苦労さんですわねぇ、なんて偉そうな口をきいている。
だって仕方がない。いつだって、さぼっていなくったって、埃がころころしているんだもの。
ころころ。
花嫁修業だと言われて母から家事仕事の半分を任せられた時を思い出す。
やるべき仕事を提示されて、もの凄く憤慨して、何となく外が恋しくなって来ると、母は言ったモノだった。
本当は一つずつ、段々やっていくんだけど、お前は黙ってたってお願いしたって、手伝いやしなかったもの。
本当はみんな、気がついたらお手伝いしているらしい。……だってだって、ねぇ。
でも、日がな一日ぼんやり過ごす娘−−少なくとも母から見れば−−と一緒に家事をしたいって心理は、何となく理解できる。
理解できたし、結婚式はその時には、もう目と鼻の先だったのだから。
このままじゃハルオさん、きっとあきれるわよぉ、うふふ。
嫌だなぁ母さん、そんな事無いよ、多分。
ちょっぴり心配になったあの日のトウコは、縁側でもわっと煙草の煙を吐いていた父に聞いてみたものだった。
ねぇねぇお父さん、あのね、と。
お母さん、お掃除、最初から上手だったの?と。
からからと笑って、悪戯っぽい目で父はトウコを見上げて、口を開いた。
あれは多分夏の日だった。
それでやっぱり、自分とお母さんは、繋がってるんだなぁと思ったモノだった。
それでも母の手際には目を見張ったので、今日までずっと掃除をしてる。
…くたびれてないけど、くたびれていないと何だかいけない気がして、掃除機をぴたっと止めてみた。
ふぅとまた溜息が漏れる。
柱にかかっている時計を見て、そうだ電話しなくっちゃ、と思い出したふりをする。
つるつるになった床を滑って、目立たないところにある電話機を探す。
白い、小さな電話機。
ぽんぽんと数字を押して、向こう側と繋がるのを待つ、待つ、じっと待つ。

「はい」
「もしもし、おはよう。ね、今、大丈夫」
「おはよう、大丈夫だよ」
「えっとね、昨日はねぇ」

決まり切った手順でパズルのピースを填めていく。
幼なじみの夫の声は、何だかかすれて、乾燥した仏蘭西パンを思い出させた。
何回も何回も作り上げたパズルの絵柄を思い出しながら。
ピースを繋ぐ。
夕べはもう熱くて寝苦しかった事。
夕ご飯張り切って作ったんだけど、と言う事……苦笑いして頭を掻いているハル君が見える。
ぱちんぱちんと填め込んでいく。
もう少し、もう少し、いつもの手順で昨日の報告は済んでしまった。
残っているのは、不測の事態。ん、何だか物騒でいけない。

「ああ、そうだ。今日の朝ね、アキコの歯が抜けたの」
「え…へぇ。そっかぁ……はやいね」
「それでね、前に話した事覚えてるかなぁ」
「うーん、何かあったっけ…んん……ごめん、そろそろ時間みたいだから、また次ね」

今日はきっと帰ってこられるよ、と最後にポツンと呟いて、電話は切れた。
そろそろ同じセリフを連続で聞くのは飽きてきたところだった。4回。
ふぅと口から小さな息が漏れて、そろそろお昼ご飯だと思った。
431優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:12:39 ID:13GbKIwQ
もくもくとご飯を食べていた。
本当に黙々と食べていたし、擬音もきっと、もくもくで良いんじゃないだろうか。
だから私はご飯を食べる、もくもくと。
ぬるくなった麦茶をこくこくと飲みながら、むかーしむかしと言うほどでもない以前の事を思い出す。
自分で自分の為に作るご飯は、なんだかいつだってしまりがない顔をしている。
つまりそれは私が自分に甘いって事なんだよね。
うんうんと頷きながら、あきれた顔の夫にそう弁解した事があった。
今日じゃない昔の会社の休み時間に、私を驚かそうと思って黙って帰ってきた夫。
私が食べているものが質素だと難癖をつけて、そのくせメインの魚のおかずだ
けさらっていくのだった。

トコはいっつも分からない事ばっかり言って。
だってほら、自分だけのご飯なんだよ?好きに作れたら、それで自分へのご褒美じゃない。
うーん、そうなのかなぁ。
ハル君に作ってるご飯より、えいようのばらんすが良い事、あるよ。

ししゃもを口に運びながらそう言ったモノだった。
夫の顔は、ぎょっ、と言っていた。
えいようのばらんすが恐い時期なんだって、そう言ってもいた。
もごもごと何か口の中で言ってもいたけど、それは聞こえないから私には関係なかったに違いない。
そして目を逸らしながら、爪楊枝に手を伸ばし、チッチとやりながら、何か名案を思い付いたようだった。

トコは、歯が綺麗だなぁ。

なんの前触れもなくそう言ってきた。いや、爪楊枝に手を伸ばした事が前触れだって言うんだろうか。
そんな殺生な、神様。
だから私は思わず吹き出していたし、飲んでいたのは冷たい麦茶だった。
どうやら私を笑わせると、えいようのばらんすは改善されるらしく、肉が好きだから肉を出せと昔々せがんだ夫は、得意そうだった。

だって、歯、毎日ちゃんと磨いていたモノ。

尊敬のまなざしで見られる。
この土俵で戦ってはまずいと思ったのだろうか、口を手で押さえながら、夫はまた思案した。

んっと……そうそう、俺の家ではさ、上の歯が抜けたら下に、下の歯が抜けたら上に投げたモンだった。
へぇえ…何だかあんまりロマンチックじゃあ、ないねぇ。
ん、なんだいそんなあきれた顔をして。

そうなると、幼い頃、私の家で母がしていた、歯の妖精のお話を、今度は私が得意になって語る番だった。
それは、どれくらい歯を遠くに投げられたか、と言う話から、華やかなりし頃の陸上競技人生を語ろうとした夫には些か不興だったようだ。
でも、知ってるんだもの。
夫の学生時代は、イヤと言うほど。
言うことはないけれど、それくらい。
だって一番近くで見ていた上に、勝利の−−それは両方の−−汗を拭くのは私の仕事だったのだから。
つまり、耳にたこができている上に、夫のしようとしていた話は、私には勝ち目のない遠い乙女の物語に連なるから、ねぇ。
不満げな顔を隠そうともしない夫に、とつとつと、歯の妖精の話を語って聞かせる。
それは欧米の風習らしく、いかにもと思わせるような、微笑ましいセンス。
毎日キチンと歯磨きをして、歯を綺麗に保っていたならば、歯が抜けたその日の夜に、歯の妖精がやって来てその歯を買ってくれる。
枕の下に、そっと入れておくと、次の日の朝には硬貨が代わりに置いてあるのだ。
432優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:16:18 ID:13GbKIwQ


そりゃあまた、なんていうか…うーん、面白いね。
でしょう。私、気に入ってるのよね。
もしかして………アキコにもそう言ってるのか?
だって、女の子が抜けた歯を外で投げてたら、世の中終わりそうじゃない。

俺の家では、と彼が言っていたという事は、彼の家の隣に住んでいた私には、それは世間一般の事実の一つとして脳裏に記憶されているという事だ。
がっくりと突っ伏した夫のソノカオだけはいつまでもきっと覚えている。
自分の幼い頃を何となく踏襲させたそうな、そんな夫だった。
でもねぇ。と私は話を続ける。
何て言うか、その、百円玉だったのよ、それ。と。
不思議そうな顔をして、夫は先を促した。
遠い知らない世界から来ているはずの歯の妖精が、百円玉くれたって、何だか興ざめしたって言うか、ねぇ。
だから私は、アキコの歯が抜けたら、外国の硬貨を置くのだと張り切って言った。
そう、そうかい。
夫は何だか、今度こそ面白そうに、笑っていた。
それは今日からちょっとだけ前の、お話。
もくもくと食べていたご飯。いつの間にかかつかつと、お箸が茶碗の底を叩いているのだった。
433優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:18:34 ID:13GbKIwQ
ぼごーんぼんぼんぼん。
時計が鳴って、私はソワソワと落ち着かなくなる。
今日は外が暑そうだから、日よけの帽子がいるかなぁ、そうだあの麦わらにしよう。
ソワソワしたまま外へ出る準備をして、玄関に添えつけられた鏡の前で、ターンを決める。
鏡の中の私は、岩下さんの若い頃くらいには、決まっていた。はずだ。

ひゅーんひゅんとエレベータが音を立てる。
ちんと音がしてふわっと浮いた感じになる。
何故そうなるのか、不思議で夫に聞いた事があるけど、難しい言葉でしゃべり出したので、その時は夫を、ちょっと変わったインテリアだと思いこむ事にした。
わりかし成功だったと自負している。
カンセイノホウソクと呟くだけの結構可愛い熊に見えるのだ。
それからエレベータって、憎いなぁと、そう思った。
最初は毛嫌いしていたのだけれど、勿論それに乗る事が私には怠惰な気がしてなんだけれども、乗ってみるとなかなかどうして、悪くない。
上から下の目的地に着いた瞬間や、上に登っている最中はそんなに好きでもないけれど、下から登ってきて最後にぴたっと止まる瞬間や、降りている最中は気持ちが良い。
一人宇宙体験、たまんねぇ!と思ったりするのだ。
でもそれはあんまり褒められる事じゃないようで、停留所に迎えに行った時はパタパタと手を振っていた可愛らしい娘も、一緒に乗っていた金髪のお姉さんも、不機嫌だった私の顔がぱぁっと喜色を表した事が不思議でならないようだった。
いつだって自分に自信を持っているけれども、しゅんと肩をすぼめているのも嫌いじゃない。
だから私は娘の手を引いて、自分の城に戻るのだった。

「ママ、今日のお外、とっても熱いねぇ」
「そうね。アキコは一杯遊んだかなぁ」
「うん…うん。でもねでもね、ヒロ君が酷いんだ、アキの歯が抜けたの、笑ったんだよ」
「大丈夫、歯、またはえてくるモンね」
「そうだよねぇ…。歯が生えたら、アキ、美人になって、ヒロ君にすげぇって言わせるんだから」

何だかギクッとしてしまって、もしかしたら義理の息子になるかも知れないヒロ君と、早く仲良くならないといけないと思った。
その彼は夫に似ているだろうな、と何となく思った。
アキコは私にそっくりだと思うのだ。夫も俺に似てると言ってはばからないけれども。
かちゃりと鍵を開けた娘に続いて、手を洗ってうがいするのよ、と言いながら家の中に入った。
434優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:19:54 ID:13GbKIwQ
カッチコッチと時計が呟き続けている。
夫は言っていた、今日はきっと帰ってくる、と。
今日はもう過ぎちゃったじゃないのよ、嘘つき、と手の中の外国の硬貨を弄る。硬貨を握っている事以外は四回目。
電話の話はきっと私が思っていた以上に、私にはボディーブローとして効いていたのかも知れない。
ダイニングテーブルに突っ伏して、午前二時を告げる時計を睨んだ。

トコに睨まれると、足がすくんじゃうねぇ、恐い恐い。

脳みその中の脳天気そうな夫が無性に憎たらしい。
つまんで引き延ばしてゴムみたいにパチンと弾けるところを見てみたい。
でも、そう言われた後にはきっと必ず多分さわさわと頭を撫でられるのだから、弾けて飛んでいって貰ったら困る。
はぁと溜息を吐いた。
倦んでいるのだろうか、と思ってぶんぶんと頭を振った。
トコは心配性だからなぁ、と、私が産まれてから母と同じくらい一緒にいた男の子に言われ続けてきた。
最後に言われたのはいつだっけ、と考えて、一昨日だった事に気付き、何だか私もこらえ性のないヤキモチ焼きなんだと思った。
でもでも心配事の種にそう言われる事ほどムシャクシャする事はないんじゃないかな、ねぇ。
手の中の硬貨は何だか熱くて、それをずっと握っていた事から派生して、今日は歯の妖精にならなくちゃ、とぼんやり思う。
娘は今日も張り切って歯を磨いて、白い可愛らしい袋に歯を入れて、床についた。
でも多分それよりも、いや、あるこうとしたんだけど、4日続けて完全徹夜まがいなんて、学生じゃない私にはきっと、眠すぎた。
私に似てるアキコだから、夫に似ているだろうヒロ君だからこそ。
今こうして眠気と戦って辛いなぁと思っている私のように、アキコがなってしまったらどうしようかと馬鹿みたいに心配したから。
多分そうなのかも知れないけど。
私は歯の妖精にはならなかった。
かたぁい床に尻をついて、ぺたんと壁にもたれて、瞼が落ちた。
435優しい名無しさん:2007/10/29(月) 02:22:28 ID:13GbKIwQ
しゃっきりしゃきしゃきと、目が覚めた。
目覚めは最高に気持ちが良かった。
昨日も一昨日も、その前も、台所の床にタオルケットを敷いて寝ていたから、それは久し振りの気持ちが良い朝だった。
ここんとこ御無沙汰だったダブルベッドに寝ているのに気付いて、まずは時計を睨む。

あ、今日はお休みの日。

ではなくて、私はまずどうしてこんな所で寝ているのか気にしなくてはならないはずだった。
むーと働かない頭を振っていると、がちゃりとドアが開いたので、きゃっと言いながら顔を隠した。

「おはようママ、今日は誰の真似?」
「……」
「モンローはそんな事したかなぁ…ね、ママ、聞いて聞いて!」

やっぱり何だか申し訳なくて、眠ってしまった事には代わりがなくて、私は怠惰な人間なんだと思うと恥ずかしくて、娘にゴメンと言いそうになったので、シーツにくるまったままでいた。

「あのね、あのね、妖精さん、来てくれたよ!ほらほら、見てこれ、えへへー良いでしょ」

あれ、あれあれあれ。
私はぱたんとシーツを顔から剥がす。
まじまじと数時間前まで私の手の中にあったはずの硬貨を見る。
珍しい、名前も良く覚えていない、可愛らしい硬貨。
私に似ているアキコだから、きっと気に入ると思っていたのだ。
えへへと笑いながらベッドによじ登ってくる娘の向こう側の、開いた扉の向こうに、真っ赤になった耳をして新聞を読んでいるふりをしている夫を見た。
夫の座るダイニングテーブルの卓上には、醤油の小皿。
盛られているのは、なんだろう。
娘は、私が何も言わなくても、お手伝いをする、出来た娘だった。

「パパねー大変だったお仕事終わったから、今日からお暇なんだって!」
「へぇ……」
「パパがね、そっと言ってこいだって」

夫に聞こえるか聞こえないかの大声でそれを言う娘。私に似てる。
私は、のそのそとベッドから立って、ソワソワしている夫の傍を通り、おはようといいながら、朝の戦場に向かう。
朝の空気は新鮮で、今日は何だか埃も目立たないよう。
そして後ろを向いたまま、緩んだ頬をつねって、しゃっきりして夫に話しかけた。

「ハル君」
「ま、まぁなんだその…埋め合わせするから、どっか、いこっか」
「ママ、ハル君って、パパ?」
「そうよ、ねぇ」

むぅんと唸って新聞紙で顔を隠す夫。
それが逆さだと指摘する機会は、多分きっともうないだろう。
覚えていてくれたんですねぇーと、何処かの歌を口ずさむ。

「トコのみそ汁が、飲みたいなぁ」
「あー、今日はパパも甘える日?なーんかやーらしいの」

こましゃくれた事を言う、可愛らしい硬貨を握った、ドラマが好きな、私の娘。
赤いランドセルは、今日は準備していない。今日は休日なのだから。
多分にやけている顔を上げる。
ちいさな窓の向こうでは、からりと晴れた蒼空が、夏を迎える準備を整えていた。

「あのねぇ、アキコ、妖精さん、きっとメガネ掛けた熊さんみたいな、あんぽんたんだね」
「ええ!……そんな、それじゃまるっきりパパじゃない」

面白い冗談だと思ったのか、きゃははと笑いながら新聞紙の壁の向こうの夫に飛びかかっていくアキコだった。
今日は、もう夏に近い。 fin.
436優しい名無しさん:2007/10/31(水) 19:40:19 ID:HjakVoXI
読んだら感想書くのが筋じゃね?
まぁ、微妙。以上。
437優しい名無しさん:2007/10/31(水) 19:57:56 ID:LmVCLzle
>>436
同意。
擬音を多用してるのは何らかの効果を狙ってるんだろうけど、正直微妙。
全体的に何が言いたいのか分からない。
438優しい名無しさん:2007/10/31(水) 20:24:08 ID:K5SaRDNS
>>437
それはお前の読解力が無いからジャマイカ?w
漏れは結構好きだがな。
439優しい名無しさん:2007/10/31(水) 20:41:12 ID:mmW4mV8c
>>438
ヒント:メンサロ
440優しい名無しさん:2007/10/31(水) 20:44:33 ID:LmVCLzle
>>438
感想を感想として受け入れられないの?
別に作品を非難している訳では無いし、感じた事を書いただけで読解力が貧弱だなんて言われるのは心外だな。
441優しい名無しさん:2007/10/31(水) 21:12:16 ID:LmVCLzle
>>438
よく見たら読解力が無いって書いてるねw
2ちゃんだからって平気で人の事否定するような事書いたりするのはどうかと思うよ。
>>439にあるように、メンサロだし、ここに来てる人たちなら薬の副作用や病気の症状で、健常者には劣る部分もあるかもしれない。
自分と相手の見解の相違だけで、相手を貶めるやり方は、あなたが傲慢に見えるし、止めた方がいいよ。
あなたにしてみれば軽い一言かもしれないけど、そういうことで傷付く人も、(私を含めて)いるから。
442優しい名無しさん:2007/10/31(水) 22:53:34 ID:mmW4mV8c
なるほど。
443優しい名無しさん:2007/10/31(水) 23:08:30 ID:KdvJ73Fi
掲載する方は批判覚悟でのせてんじゃないの?
私は弱っちいメンヘラだからこそのせられない
444カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/10/31(水) 23:45:17 ID:rye/3RVP
『桃太郎』

「桃太郎、お前は桃から生まれたんだよ。」
そんなアイデンティティーを揺るがす衝撃の事実を聞かされたのは桃太郎が
15歳の誕生日を迎えた日の朝だった。
「マジっすか、おばあちゃま!?俺って植物っすか?」
「ああ、マジんこさ、メーン?お前って果物から生まれてやんの、マジダッセ!」
老婆は少年を罵倒し、あざ笑った。老婆の伴侶であったおじいさんは2年前に野生
動物に襲われて命を落とした。その日、桃太郎は悲しくて一晩中ピアノを弾いた。
でも今日ほど悲しかったことはなかった。桃太郎は泣きながらピアノを弾いた。
「おばあちゃまこそ、野生の動物たちに食われてしまえばよかったのに!」
桃太郎の心の中に怒りのドナウ川が流れた。
その夜、桃太郎はバールのような物を持って家を飛び出した。そして寺子屋の
窓ガラスを壊してまわった。翌日、家に戻ると老婆は見たことも無い巨大な蝉に
捕食されていた。
「蝉って結構おおきいね。」桃太郎はつぶやいた。
                         めでたしめでたし
445カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/01(木) 00:12:11 ID:qFn8/KSc
『桃太郎2』

一人暮らしになった桃太郎の家に、いつしか犬やサルやキジが出入りする様子が見られる
ようになったのは老婆が死んでまもなくからだった。
「何をしているのかわからない」「気味が悪い」近所の村人たちが桃太郎を避けるように
なったのも当然のなりゆきだろう。
ある晩桃太郎は犬、キジ、サルに話した。
「俺、お前らのことぜんぜん信用してねえから!それでもついて来るかい、メーン!」
動物たちは激しく吼えた。
桃太郎はその夜もふたたびバールのような物を持って家を飛び出した。今度は犬、サル、
キジをお供に引き連れての少数精鋭パーティーで。
寺子屋は崩壊した。完膚なきまでに破壊され、火を放たれた。夜空に立ち上る巨大な火
柱を眺めながら桃太郎は超興奮した。
「本当の鬼は人間かもしれないね。」
(デモオレハ植物)桃太郎の心の中でもう一人の桃太郎の声がした。
「でも俺って結構お前のこと好きよ。」犬が犬語で言った。桃太郎は生まれて初めて泣いた。
煙が目にしみただけさ、彼は犬にささやいた。
446カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/01(木) 00:31:44 ID:qFn8/KSc
『浦島太郎』

浜辺で亀が子供たちにいじめられていた。浦島太郎はそれを見つけると急いで
服を脱ぎ捨て子供たちの輪の中に飛び込み、仰向けで寝転んだ。
「俺の亀も頼む!カマン!カマーン、チルドレン!」
子供たちは突然の出来事に戸惑ったが、子供特有の不条理な行動力が浦島太郎
の願いを叶える結論を導き出した。棒切れや柔らかい足の裏で攻められた浦島
太郎の亀は、あまりにも無防備な攻撃性であった。
子供たちの無垢な攻撃を受けるたび浦島太郎は叫んだ。
「ノーコメント!ノーーーーーーーコメント!!!」
夕暮れ、第二次成長期前の子供たちの甘噛み的陵辱を受けた成人男性の悦びの
亡骸がそこにはあった。亀が浦島太郎に言った。
「お前さんは開けてはいけないソロモンの箱を開けたんだね。箱には何が残っ
ていたんだい?」
浦島太郎は最後の力を振り絞って答えた。
「少なくとも、希望なんかじゃなかったよ・・・」
447カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/01(木) 01:01:21 ID:qFn8/KSc
俺、なんでこんなの書いちゃうんだろ・・・もうツラいよ・・・
448優しい名無しさん:2007/11/02(金) 21:26:40 ID:OcRuP7eN
>>446>>447おもシロニャア☆
特に作者のコメントワロスWWWWw
449優しい名無しさん:2007/11/02(金) 21:31:42 ID:OcRuP7eN
>>444>>445ニャンだこリャア〜wwすごいセンスアリャアアァ♪
続編きぼんぬ☆
450優しい名無しさん:2007/11/02(金) 21:57:45 ID:OcRuP7eN
この板には○○板からのストーカーがいるから
僕の小説は晒せニャイι
451カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/03(土) 00:07:42 ID:BLuJxGqs
>>448>>449
ありがとうです。もう少しがんばってみます。
452カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/03(土) 00:33:59 ID:BLuJxGqs
『桃太郎3』
桃太郎は犬とサルとキジと、毎日目的のない生活を過ごした。犬とサルの考えている
事はなんとなく少しはわかる。でもキジばっかりは何を考えているのかわからなかった。
「ねえ、みんな?何か僕らも目的を持ったほうがいろいろアレだろうから何か素敵な案が
あったら僕の気が変わらないうちにどしどし応募してよ、メーン?」
動物たちは激しく吼えて家を飛び出していった。
犬はなんだか分からないけど血だらけになって帰ってきた。返り血がほとんどであったが
自らも少しは傷を負っていた。なんとなく怖かったので桃太郎は何があったのかは聞かな
かった。サルは赤いギターを振り回しながら帰ってきた。そしてギターを窓から投げ捨て
て「キー!」と叫ぶと気を失い2日間ほど起きなかった。
キジは普通に帰ってきた。
「あれ、君だけ何もないわけ?」
桃太郎はキジをなじった。おもむろにキジが口を開いた。
「北極点ぶっ潰してきた。もう終わる、ぜ?」
桃太郎は怖くなってピアノをかき鳴らした。(終わってしまう!終わってしまう!)
そしてバールのような物を持って家を飛び出した。たどり着いた丘の上の寺子屋は以前の
ように無防備ではなかった。それはまさに要塞であり、来るべき破壊者を駆逐するため
通常の学び舎には必要のない火力を備えていた。
「こいつは大仕事になりそうだぜ!」
桃太郎の目が熱く燃え上がった。               つづく
453カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/03(土) 00:39:59 ID:BLuJxGqs
書いているうちにだんだん分からなくなってしまいました・・・。
鬼退治ってどうやって出かければいいんだろう・・・。
454優しい名無しさん:2007/11/03(土) 12:07:03 ID:ubWQPWJe
その迷走っぷりが面白いよ。まじで続きを期待してる。
455優しい名無しさん:2007/11/04(日) 17:55:29 ID:rln89Zxq
>>453君にはファンタジー書きの僕にはニャイ才能があるニャア!
読むたびに腹がよじれワロタニャアのに
謙虚ニャのか迷いっぷりがメンヘルらしく
ニャカニャカ憎めニャアな☆
456優しい名無しさん:2007/11/04(日) 17:58:55 ID:rln89Zxq
つうか、内容がブラックワロスにゃのに
作者の迷いっぷりとのギャップに好感覚えるニャア‥。
457カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/04(日) 21:32:34 ID:RLLmac3Z
>>454 ありがとうです。「また寺子屋に攻め入らせちゃった、ぜんぜん先に進めない。」って
なんだか壁にぶち当たったうえ、この休日は気持ちがダウナーになってしまいほとほとダメでした。
よく考えたらオリジナルの桃太郎だって脈絡もなく鬼退治に出かけてるんだから、とりあえず出発
してしまえばいのかな・・・?

>>455>>456 メルシーです。本当は僕も自分の中にファンタジー小説を書く才能を見出して何とか
電撃文庫とか富士何とかで作家デビューできちゃったらいいなー、とか妄想しているんですが
空想世界にも明らかに現実世界のダメさ加減が反映されているようでどうにもこうにも・・・。あああ・・・
458カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/04(日) 22:04:13 ID:RLLmac3Z
『桃太郎4』
夜の冷たい空気が桃太郎の体をピリピリと刺激した。目の前にある学び舎はかつてのような
2階建ての木造建築とは程遠い、鉄筋コンクリートでできた砲台と清潔な上下水道を備え付けた
学問の要塞であった。
「やあ、やってきたね桃太郎君。うわさ通りの社会不適合ぶりだね。」
頭上から柔らかいがどこか横暴な響きを含んだ男の声が桃太郎に向けられた。見上げると、校舎
の正面3階、ちょうど時計の下の窓から初老の外国人男性が桃太郎を見下ろしていた。
「グーテンターク、桃太郎。私は幕府から当学び舎の校長を仰せつかったナルチスといいます。
あなたは過去2度もこの学び舎を襲撃していますね?あなたには他にやるべきことがあるでしょう?」
ナルチスの整った口ひげ、片方だけのメガネがブルジョワぶってて桃太郎をヒートアップさせた。
「お前の日本語はリバプール訛りがひどくて分からん!」
桃太郎は明らかに諸外国の知識がないことを自ら暴露しながらバールのような物を握りなおし、
「レヴォリューショーン!」と叫んだ。バールのような物の先端にまで桃太郎の怒りが伝わるようだった。
「近すぎる、砲撃は使うな!学童第一部隊、第二部隊は迎撃!幼学年は防空壕に避難!」
ナルチスの指示で寺子屋の中の子供たちが一斉に動きを開始した。
桃太郎はくるりと振り返り、全力で逃げた。(無理だよ!僕にやれるのは人気のない木造建築だけだよ!)
家に帰ると桃太郎は泣きながらピアノを弾いた。桃太郎にキジがささやいた。
「まあ安心しなよ。北極点はまだちゃあんと残ってるんだぜ!?」
うん。桃太郎は小さく頷いたのだった。
459カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/04(日) 22:42:43 ID:RLLmac3Z
『桃太郎5』

桃太郎とお供たちは家でお茶を飲みながら目的の無いまったりとした時間を過ごしていた。
お茶を入れるのは大抵サルの役目だったがサルはそれを苦に思ったことは無かった。
「若干アレね、俺たちもチームとしてのアレが仕上がってきたからぼちぼち何かを世間様って
やつに仕掛けてもいいのかと思うのよ!?」
三匹は無言だった。
「ヘイヘイ!君たちぃ、返事が無いなぁー。ただの屍かーい!?それともデリってんの?メーン!?」
桃太郎は悪ぶってみせたが、
「デリってどうするのよ?家の外でそういう迂闊な発言しないようにね。」
と冷静な犬に諭された。キジが桃太郎の肩に飛び乗り小声で(ディス、ディスだよ!馬鹿だねお
前さんは!)と間違いを指摘した。教えられたことで桃太郎の自尊心はさらに傷ついた。
桃太郎はいつものように泣きながらピアノのところまで行き椅子についた。サルがこの前どこか
らか拾ってきたギターを肩にかけ桃太郎に合図を送った。
「さあ演ろうか!」
物悲しいピアノの旋律とサルの激しいギターリフが家の空気を満たし、揺らした。
(なんだよコイツ!サルのくせにすっげえ上手え!)
一通りセッションが終わるとサルはギターを窓から投げ捨て「キー!」と叫んで
そのまま気を失った。
桃太郎が我にかえったころ、サルがいれてくれたお茶はすっかり温くなっていたのだった。
460カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/04(日) 22:52:53 ID:RLLmac3Z
しまった、寺坊主にも勝てない奴が鬼なんか倒せるわけが無い。
またハードルが高くなった・・・もう鬼退治なんてストーリーいらないか・・・。
461優しい名無しさん:2007/11/05(月) 22:09:50 ID:GZwI+xhs
桃太郎が「レヴォリューション!」と叫んだところと、
サルが「キー!」と叫んでそのまま気を失ったところが、特に笑えたw
この作品本当に笑えるよ。続きをぜひ頼む。
462カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/05(月) 23:13:42 ID:bJ5D/LAS
>>461 サンキューです。僕の出来の悪い小作品を読んでもらえてうれしいです。
もうどこから手をつけたものやら分かりませんが、思いつくまま書いてみます。
463カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/05(月) 23:38:02 ID:bJ5D/LAS
『桃太郎6』
ある秋の日のお昼、サルが郵便受けから大量の投函物を取ってきた。
「あー、ありがとね。ずいぶんポスト見てなかったけど随分たまってたのね。」
桃太郎は部屋でバールのような物を白いポンポンで手入れしていた。鉄製品はこまめに
ケアしないと錆びてしまうのだ。
郵便受けに入っていたのは殆どがチラシだった。桔梗屋の古古米処分セール、マタギの
バイト募集、ピンクチラシなどなど。一枚一枚丹念に確認していたサルがある一枚を
発見し、桃太郎に手渡した。そのチラシは幕府が月に一回発行している公報で《勇者求ム!》
の大きな見出しで始まっていた。
《勇者求ム!
現在 鬼ヶ島ノ鬼ナル輩ドモガ 幕府関係施設ヲ襲撃スル事件 多発。
コノ鬼一味ヲ退治セシメタ者ニハ 金百万両ト粗品(タオル)ヲ
将軍家ヨリ授与スルモノナリ。      幕府治安部》
「ちょっとこれはキツいんじゃないかな。だって鬼って言ったらかなりのマチョメンだろ?
鉄のトゲトゲが付いた棒っくい振り回してパンツ一枚でしょ!?危ないよ。でも百万両かぁ…」
桃太郎がため息をついた。キジは他のチラシを破って巣作りに余念がなかった。
「へっ、百万両だってよ!ここ掘れワンワン、大判小判がザックザック!って、そんな虫の
いい話があるかよ!」
犬が悪態をついて立ち上がると
「ちょっとドングリ採りにいってくる!」
と家を飛び出していった。
464カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/05(月) 23:55:01 ID:bJ5D/LAS
『桃太郎7』
犬はドングリのある林に向かって歩いていた。お寺の前を通り過ぎようとしたとき、
お寺の方から2匹の猫が走ってきた。犬の友達の歌丸とイロハ丸だ。
「どこいくの?」
「ドングリ採りに行くんだよ。一緒に来る?」
「どんぐり!どんぐり!」
猫たちは大喜びした。3匹でドングリのある林まで行き、ドングリを拾ったり落ち葉
の上でゴロゴロしたりして遊んだ。夕暮れまで3匹は無邪気に走り回り、
「もうねむいから、おてらにかえるね。」
と猫たちが疲れたので犬も自宅に戻った。
自宅では桃太郎が泣きながらピアノを弾いていて、サルが気絶していて、キジが紙吹雪を
二人に空襲していた。
犬はドングリがいっぱい入った麻袋を部屋の片隅に下ろし、出来るだけ静かな玄関近くで
丸まって眠りについた。
今頃猫たちは和尚さんにもらったご飯でおなかいっぱいになって寝ているだろう、と犬は思った。
465カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/06(火) 00:01:54 ID:ibkOWDXs
ちなみに桃太郎が「レヴォリューション!」と叫んだら犬が「アクショーン!」と合いの手を入れる
裏設定があります。作品中で登場するかは分かりません。
466カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/06(火) 01:01:02 ID:ibkOWDXs
『桃太郎8』
桃太郎宅のここ最近の話題はもっぱら「鬼退治」についてだった。
「なんで幕府は軍隊出さないのかな?」「うかつに軍なんか出したら
世論がうるさいじゃん。」「で、民間に丸投げなのね。えげつねー。」
桃太郎勢力はどちらかと言うと鬼ヶ島寄りだった。
話題はやがて「百万両を手に入れたらどうする?」に移り変わっていった。
「俺は江戸ッポンヒルズにオフィスかまえるよ。外国馬を購入して、村祭りで
ナンパした姉ちゃんと2ケツして、東海道を馬の速さでつっ走るんだ!」
桃太郎はうっとりした。
「モモちゃんはけっこうクラッシックだな。」キジがつぶやいた。
サルは窓から小判を投げ捨てる自分の姿を想像し、「キー!」と叫んで気絶した。
犬はあまり金の価値は分からなかった。でも霊感は強かった。
「モモちゃん、君には何かしらの霊が取り憑いているよ。」
「やめてよ!俺そういうの弱いんだから。第一、誰かに恨まれる覚えなんてないし。」
桃太郎のテンションが一気に下がった。犬はおもむろにピアノまで歩いていき、静かに
自分だけに見える犬ビジョンを話した。
「このピアノの前の持ち主は8歳の外国人の女の子で、異国の地で不治の病にかかり…」
犬の延髄を桃太郎のピーチチョップが襲った。犬は気を失った。
桃太郎はガタガタ震えながらピアノを弾いた(供養!供養!ガール、ユーゴートゥーへヴン!)
やがてピアノの上にもやもやとした煙が立ち昇り、それはやがて外国人の女の子の姿になった。
「お兄ちゃん、私のためにピアノを弾いてくれてありがとう…成仏してやるぜ、メーン!?
でも時々来るからな!アタイの名前はシェリー!シェリー・トゥルーマンだ!」
桃太郎は気絶した。
キジは眼下に気絶した3人を見下ろしながら部屋の中を飛んだ。
(夜空は深い闇だ。でも、真下にも同じくらい深い闇が広がっているんだ!)
467カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/06(火) 01:09:28 ID:ibkOWDXs
ここまで書いて、キビ団子というアイテムがまったく登場していないのに気がつきました。
もう、いろいろな事がどうでもよくなってきました・・・いろいろつらい・・・
468優しい名無しさん:2007/11/06(火) 01:32:43 ID:GDf9OWxi
おおいに乙彼様。
逐一面白いよ、この作品。俺の判断できることじゃないけど、なんかしらの才能を感じる。
反則かもしれないけど、よかったら君のスペック(年齢とか今までどんな文章修行をしてきたのか)を教えて。
作品が面白いから作者にも興味が出てきた。

>>465の設定にも爆笑でしたww
469カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/06(火) 23:32:15 ID:ibkOWDXs
>>468 グラシアスです。才能・・・もし僕になんらかの才能があるのなら
今こそ開花してこのリアル世界のドン詰まり的状況から自らを救い出して
ほしいものです。神様、どの選択肢を選んでもバッドエンドですか・・・?
僕のスペックは30前半男性・会社員の働きたくないマンです。文章修行という
ほどのことはしていないのですが、他の板で同じような不毛な短編小説を書いたり
していました。そういえば高校生のころ授業も聞かずに「犯罪抑制とチョコレート
の関係」とか意味のない論文をノートの半分くらい書き、友達に提出したりしてい
ました。どんな内容だったのか覚えていません。いつか何かに応募したいな、とも
思いながら生来の行動力のなさがよりいっそう心をドン詰まりへと導いていきます。
どこにこの未熟で不毛な妄想作品を送ればいいのか・・・コバルト文庫は無理っぽい・・・
470優しい名無しさん:2007/11/07(水) 00:23:49 ID:/KzODIHt
スペック公表乙&感謝です。
一人称が僕なのと、作品の良さとは対照的に非常に謙虚なので、
20歳ちょっとの方かと勝手に思ってその文章の才能に嫉妬してましたw
たしかに、文章もしっかりされているし30歳代という年相応の技術の積み重ねを感じさせますね。

他の板でも短篇小説を公開されているとのことですが、
やはりこの板でこんな面白い作品を埋もれさせているのはもったいないと思いますので、
自分は不案内で適切な誘導をしてさしあげることはできませんが、もっと貴方にふさわしいスレを探してみてはいかがでしょうか。
もちろん桃太郎の続きが読みたいのが本音ですが。。w

「犯罪抑制とチョコレートの関係」なんて奇想天外な発想は普通じゃできません。
是非ともなんらかの賞を御取りになって広く作家活動をされることを他人事ながら願っております。
471カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/07(水) 00:26:17 ID:Lrgc7nv/
『桃太郎9』
深夜、桃太郎は浅い眠りから目が覚めた。サルとキジは静かに眠っているが、犬だけは
「フゴゴゴゴ…キュゥ…」とイビキをかいている。
「何でだろう・・・変な時間に起きちゃったなぁ。」桃太郎は布団から出て、ちゃぶ台
の上におかれた瓢箪から水を飲んだ。
「眠れないのお兄ちゃん?子守唄でも弾いてあげましょうか?」
ピアノの椅子に幽霊のシェリーが現れてクスクスと笑った。
「やかましい、子供は寝ろ。もしくは成仏しろ、半透明のマセガキめ。」
「お兄ちゃんだって植物じゃない。日光に当たれば光合成もできるのに、二酸化炭素しか
生産しない引きこもりの桃の出来損ない!」
(なんてこったい、この家にはまともな意味での人間ってやつが一人もいない)
桃太郎はため息をついた。いつのまにか幽霊にも慣れてしまった。
「ねえ、私のこと、もっと知りたくはない?どうして霊なんですかー?とか好きな男性の
タイプは?とか。ちょっと答えられない質問もあるかナー。だって女の子は秘密がいっぱいなの。」
「確かここいらに酒があったはずだが・・・おおっ、あったあった。」
床下収納から酒の入った瓶を見つけると、桃太郎は手酌で飲み始めた。
桃太郎に完全無視されたシェリーはピアノをぽろん、ぽろんと奏でながら歌い始めた。
「らぶみーってんだー らぶみーっどぅー らんらんらんらんらん」
(なんだよ、若干かわいいじゃねえか。)秋の夜長に外国人の女の子の幽霊が奏でるピアノを
聞きながら、手酌酒を飲んだ。
やがて薄い朝日が冷え切った山や畑や川を照らしはじめた。
「じゃあ私、ぼちぼち寝るから。また夜になったら起こすねー。」
シェリーは消えていった。
「てめえが起こしたのかぁ!俺の安眠返せやぁー!」
サルが目覚めると、そこにはピアノに向かって大声で悪態をついている酔っ払いがいた。
(コイツも相当救いようがないな・・・)サルは再び眠りにつくのだった。
472カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/07(水) 00:40:41 ID:Lrgc7nv/
>>470 いえいえ、こちらこそありがとうです。僕の小作品で少しでも面白い、と思って
くださる方がいるのは本当にうれしいことです。そのうち本当に何かに送りたいと思うの
ですが、弱点は物語の出発点と予想した着地点が大幅に違うところです。正直、書いてい
る自分自身もどうなっているのかよく分かりません。毎回物語のつじつまが合いませんが、
こればっかりはどうにもこうにもです。

今回は何やらかわいらしい内容になってしまいました。シェリーのモデルは恐怖新聞(つのだじろう)
に出てきたシェリー・サーマンです。彼女はピアノに取り憑いている悪霊でした。しんぶーん!
473426:2007/11/07(水) 03:51:59 ID:SJorXShv
レスったの忘れててだいぶ経っちゃったけど、まだ見てんのかな。

>>425
書き始めたばかりって言われて納得した。正直すんなり頭に入ってくるほど
こなれた文章ではなかった。無理してるなーっていう感じ。
ウケを狙ってみたって部分だけど、まだまだ小説の世界観と語り手の情報が
読者に開示されてない状態で笑わせようとするには無理がある。
書いてる意味はわかるけど、笑いを誘うには馴染みが薄すぎるとでもいうか。
書き方次第ってのもあるにはあるんだけど。
474優しい名無しさん:2007/11/07(水) 22:08:03 ID:UbmEGUIx
age
475カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/09(金) 00:49:51 ID:38ftMqPA
『桃太郎10』
お寺の境内で猫の歌丸といろは丸は日向ぼっこをしていた。
「ねえうーたん、冬ってどんななのかな?」
「いーたん、ことしの春さきに生まれたぼくらには冬がどんなか知るすべはありません。
しかし和尚さんが座布団をふやしてくれたことから想像するに・・・」
猫たちは考えた。が、わからなかった。
「いぬたんのうちに、遊びにいきましょう」いろは丸の提案で猫たちは出かけた。
猫たちが桃太郎宅についたころ、桃太郎家では寺子屋襲撃作戦会議が開かれていた。
「・・・つまり我々が有利にファーストアタックを決めるためには一気に近距離戦に
持ち込む必要がある。質問のある輩はおるかい?」
「モモちゃん、質問です。キジであるワタクシが寺子屋を襲撃するメリットは?」
「カタルシスの獲得です。青春とは情熱の暴走であると私は理解しています。他には?」
「ギターはおやつに入るんですか?」
「今回の作戦においては食品添加物を含んでいないものはおやつとは判断しません。みな
さん、ちゃんとメモは取りましたね!?」
「お兄ちゃん、意味がわかりません。」
「昼間っから幽霊が出現することをあなたのお兄様は望みません。」
猫たちはしばらく無言で家から洩れる話し声を聞いていた。
おもむろにいろは丸が口をひらいた。
「ねえ、ほんとうに冬ってどんなだろうね。」
もうすぐ猫たちにとって初めての冬がやってくるのだった。
476カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/09(金) 23:08:08 ID:38ftMqPA
『桃太郎11』
トントン。ドアをノックする音で桃太郎たちはハッとした。(しまった、今までの
会話が盗聴されていた!幕府の手の者か!?)桃太郎は小声で仲間につぶやいた。
(いいか、何者かはわからないが相手の出かたしだいではこのまま一気に戦闘に突
入する。まず、俺と犬がグラウンドジャマーを仕掛ける、間髪入れずにキジはミスト
ショットで敵の視界を奪え。サルはディレイアタックで敵の中心を切り崩す。シェリ
ーはサイコフィールドを張って敵勢力の侵入を防ぐ。いいね?)
動物たちと幽霊は無言だった。誰ひとり、指示されている内容が理解できなかったの
だ。(ももちゃん、よく分かりません)キジがみんなを代表するように桃太郎に抗議
した。(みんな、つまり、なんとなくでいいんだ。気持ちでいこう!)
桃太郎はドアを振り返り、音がしないよう注意深く畳の上のバールのような物を手に
取りながら声をかけた。
「はい、どちら様ですか?」
「こんにちはー、ねこです。いぬたんと遊びたくて来ました。」
反逆者たちはお互いに顔を見合わせた。サルが玄関に行きドアを開けると、歌丸とい
ろは丸がちょこんと座っていた。
「きょうはとてもおひさまが気持ちいいです。みんなで日向ぼっこしましょう。」
「しましょう」
歌丸の言葉にいろは丸がディレイした。その日はみんなでお茶を飲みながら庭先で日
向ぼっこをした。
(まだなのか!まだ時は俺に時代を明け渡そうとしないのか!もどかしい!)
桃太郎はバールのような物を太陽にかざした。まぶしい円が冷たい鉄の棒で二つ
に分断され、桃太郎の顔に光と影を作った。
「冬になって雪が降ったら一緒にかまくら作ろうね。」
シェリーに抱かれて猫たちはにゃあとうれしそうに鳴くのだった。
477カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/12(月) 01:37:14 ID:4yuXhqid
『桃太郎12』
朝から続く雨の音だけが時間をみたしていた。桃太郎の家では、持ち前の出不精に悪天候の
追い討ちをかけられた桃ファミリーが非生産的な時間を過ごしていた。各々、自分の居心地
のいい所でそれぞれの妄想や放心にふけっていた。
「そろそろお昼だから何か作ろうか?」
サルがのっそりと畳から立ち上がり、土間へ向かった。土間へ移動しながら壁に掛けてある
ギターの弦をいたずらに指で弾いた。「ジャアァン…」と感情のない鉄の音が響き、硬い余
韻だけを残しながら雨音の中に溶けていく。
「なにか麺もので頼むよ。」
桃太郎はごろりと壁のほうを向いて寝たままの姿勢でサルに言った。
サルは竈にまきをくべながら「はいはい、貴様らの好みはわかってますよ。」と誰に言うで
もなくつぶやいた。竈の少し上にある光取りの窓から雨の音がより強く入ってきていた。
サルの背丈では見えなかったが、きっと柔らかくて冷たい雨が降っているのだろう、と乾燥
した麺をお釜のお湯にぶち込みながらサルは思った。
「俺は日本で一番ソバをうまく茹でる猿さ、猿なりのアルデンテ、猿だけにわかるこだわり。」
サルは歌いながらソバを茹でた。やがて茹で上がったソバをザルに移し、水で洗い、パンパン
と水気を切ってから全てを窓から投げ捨て「キー!」と叫んで気を失った。誰一人、言葉を発
する者もなく時はすぎていった。
家の外で、地面にぐちゃりと広がったソバを冷たい雨が打っていた。
478 ◆HNwyytimus :2007/11/12(月) 19:44:57 ID:xWK8X1lH
アルフェスタは16年前のアルフェスタとザルツカヴィ戦争終結後、アルフェスタ地方(アルフェスタ、ザルツカヴィ、グリーンフォレス、そしてキー半島を含む大国ゼペルトバーグ全土)4国をアルフェスタ地方として平和協定を結んだ。
そして現在、勇者が復活しのザルツカヴィの反乱を食い止め魔王の眷族の暴走をも食い止めたという噂はゼペルトバーグを含むアルフェスタ全土に広がっていた。
これを面白く思わない他の地方の輩がいた。
神は世界に一人でいい‥その企みは遠く東の異国の地、ヤマトをも巻き込んだ。
それは陰の首謀者達不穏分子にとっては都合のよいタイミングであった。
ゼペルトバーグがこの地では最新技術といわれる飛空挺の開発に成功した、それは遠い昔に自国で覇権を争い勝利したヤマトの平穏な日々の中、他国を侵略し領土を拡大させるという天下取りの夢を再び燃え上がらせた。
自国を守るがために他国に宣戦布告の狼煙を上げたのである。
手始めとして秘密裏に飛空挺を破壊するのがヤマト国王が部下に授けた任務だった。
アルフェスタより他国にはこうした未知の人種が存在しており遥か南にはより高度な文明を持つ国家が存在するという。
グリーンフォレスの山奥には今では少数亜人族(エルフやドワーフ、ホビットなど)がひっそりと暮らす村があるらしいが彼らは人間の高慢さに世を捨てたのだ。
果たして神は人間の味方か‥。
479優しい名無しさん:2007/11/12(月) 19:46:49 ID:xWK8X1lH
ゼペルトバーグでは戦争終結で王の演説式典が催されていた。
「皆の者!我々は多くの勇敢な兵士と罪無き一般人の尊き命を失った。
だが!!我々は勇敢な民族でありこの地域では最大の守り神なのだ。
この戦争は愚かではない、この戦争は大義だった。
胸を張れ民衆達よ!!!」
アルファ王の演説に兵士や民間人全てが拍手喝采を浴びせた。
「あの飛空挺はなんですか?」キラが演説台に登り叫んだ。
「俺達も知りたいな」ライアスとサイ、エィミー、ケネス、モーリスも上がってきた。
「余の演説を邪魔するとは!」
アルファ王は怒りを隠せなかった。
「あの飛空挺にはそんな秘密が?」
民衆はざわめき始めた。
480優しい名無しさん:2007/11/12(月) 23:15:15 ID:Nym+KsAg
age
481カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/12(月) 23:21:55 ID:4yuXhqid
tes
482優しい名無しさん:2007/11/12(月) 23:25:10 ID:xWK8X1lH
あげて何が言いたいわけ?
483カマレ ◆e2Rtf2p4o2 :2007/11/12(月) 23:57:36 ID:4yuXhqid
『桃太郎13』
ある晴れた日、桃太郎はキジをお供に川へ出かけた。
「ねえ、鵜にできるのだからキジにだってできるだろ?いま俺たちに必要なの
は動物性タンパク質さ。」
そう言いながら桃太郎はキジの首に縄をくくりつけた。
「ももちゃんも無茶言うなー。」
キジは迷惑そうに答えながらもまんざらではない様子で
「クジラ取ったるぞォ!かかって来いや、この魚類がぁ!」
と気合の声を上げた。桃太郎はあまり細かいところには突っ込まなかった。
川に小船を漕ぎ出して二人は魚を捕り始めた。桃太郎は雰囲気を出すために藁
の腰巻を巻いていたがイマイチその存在意義は分からなかった。
(俺はこの川で拾われた、桃の中身だ。上流には真なる母上や父上がいるのだ
ろうか・・・)桃太郎の心に、まだ見ぬ郷愁のおもいがこみ上げた。
「大漁大漁。」
いつのまにかキジは30匹ちかくの魚を潜っては捕まえ、小船に無造作に放り投
げていた。
「これで締め、っと。」
キジが最後に捕まえたのはまだ小さな山女2匹だった。
「こんなにいっぱい捕れたんだから小さいのはリリースしようよ。」
まだ幾分自分の物思いから覚めきれずにぼんやりした桃太郎が、足元でぷるぷ
ると羽の水をきっていたキジに話しかけた。
「これは猫たちにあげるんだよ、あいつら小さいから。やつ等がくれた野鼠の
お返しさ。」
「へえ、野鼠なんかくれたんだ。君らは野蛮な物食ってるねー。」
「ももちゃんも食べたじゃん。今朝のソテーだよ、きのこと一緒にさ。」
桃太郎は豪快に川へリバースした。(死ね、下流の奴らみんな死ね!)
桃太郎は心の中で吼えた。
「おお、イートアンドリバース!イートアンド消化アンドリバース!」
キジはまぶしそうに内臓がひっくり返るくらい嘔吐している桃太郎を見つめた。
下流のほうで、魚が銀色をまたたかせながらぴしゃりと跳ねる音が聞こえた。
日は傾き、風は少しずつ冷たくなっていくのだった。
484優しい名無しさん:2007/11/13(火) 01:00:20 ID:dH/8Sqo8
晒しあげってやつか?
どうせ俺の小説はおまえのよりつまんねえよ!
485優しい名無しさん:2007/11/13(火) 01:04:40 ID:dH/8Sqo8
ここも文芸板もウンザリだよ!!
486優しい名無しさん:2007/11/13(火) 01:07:24 ID:dH/8Sqo8
誰だって機嫌の悪い時くらいあるのに関係ないスレあげて晒しかよ?
正直お前の小説好きなだけにガッカリだよ。
487優しい名無しさん:2007/11/13(火) 01:09:57 ID:dH/8Sqo8
そんなに自信があるなら文芸板に投稿しろ
誰もが称賛するんだろうな
488優しい名無しさん:2007/11/13(火) 01:11:14 ID:dH/8Sqo8
埋め
489優しい名無しさん:2007/11/13(火) 01:12:02 ID:dH/8Sqo8
490:2007/11/14(水) 17:44:50 ID:pUuKDqhl
『魚と彼と下半身』
http://hp.kutikomi.net/beatrice/?n=column5
酔いどれ躁鬱病未成年の短編小説処女作です。下品です。

早のブログ
http://beatriceuplift.blog122.fc2.com
詩・小説・論文・鉛筆画/神話・芸術・哲学・宗教
宣伝失礼しました!
491メンヘラー(笑):2007/11/14(水) 18:42:31 ID:Uoeo0GQU
私は刹羅(せつら)。良くも悪くもココロは少女の中年ニート40才。
うつとパニック障害持ちのメンヘラーで、尊敬する人は南条あや。
イジメで中2から不登校。世界一醜いので友達はいない。
でも、性格が悪いのはADHDのせいなんだから、
健常者はもっと理解するべきだと思う。
ドクターは薬のリクをきいてくれる良い人だけど、
先日ODしてからリタは出してくれなくなった。
やっぱり健常者だから、本当の私の事なんてわかってくれないのネ(;_;)。

今日もCoccoを聴きながら、希死念慮は神聖な考えのステキなホムペを見て感動してた。
突然父親が私の部屋(スピリチュアルサンクチュアリ)に入ってきた。
「これは生きるための自傷よ!」リスカ痕を見せたらDVを受け、PTSDが悪化した。
「ンぐ!んグ!ぬぬぬぬぬぬ!」気がついた私は閉鎖病棟の保護室に拘束されていた。
さぁ自分磨きがんばろう(笑)。
492優しい名無しさん:2007/11/17(土) 18:30:46 ID:cXA1CmFa
あげ
493優しい名無しさん:2007/11/22(木) 22:34:10 ID:72t5V2vn
あげ
494その日暮らし ◆Pxw9.ioMPw :2007/11/22(木) 23:56:52 ID:y+yOlnmn
『字泳法』

僕は文字を泳ぐことができる。まあ唐突にこんなこと言われても、フツウの人は戸惑うだ
けなんだろうな。でも事実なのさ。仕方がない。
本といっても、その本の持つ目的・ジャンル・洋の東西などによってさまざまに分けら
れる。まあフツウの人は好きな本を好きなときに好きなだけ読むから、本についてそこま
でこだわる必要はないんだけどね。あくまで趣味の範囲だから。でも僕は違う。さっきも
言ったとおり僕は文字を泳ぐ。そりゃこんなチカラが備わる前は僕だって好きな本を好き
なときに好きなだけ読んでいたさ。でも『文字の泳ぎ方』なる本を偶然大学の図書館の一
番カビくさい棚から見つけたことから全てははじまったんだ。
495その日暮らし ◆Pxw9.ioMPw :2007/11/23(金) 00:00:18 ID:y+yOlnmn
『字泳法・2』


 コホン、では本題。文字を泳ぐ、というのは簡単に言えば、その世界の中に入ることが
できるってこと。まあそんなのありがちな話だけど、大事な部分がちょっと違う。フツウ
ならその本の中の登場人物になることができるとかそんな感じかな。けど僕がやることを
わかりやすく言えば役者じゃなくて映画監督とか製作する側のほうなんだ。しかも上映中
の映画を映写機でいじってその都度自分の好きなシーンに作り変えることができるという
風だな。クロール・背泳ぎ・バタフライ。50m・100m・リレー。組み合わせ自由な
んでもござれだ。
496その日暮らし ◆Pxw9.ioMPw :2007/11/23(金) 00:01:30 ID:y+yOlnmn
『字泳法・3』



最初は恋愛小説とか冒険物語ばかり泳いでいた。わかりやすいし、泳いでいて楽しい。
でも一番面白かったのは、泳ぎ終わって現実の世界に戻ってくるとその本の内容が僕の泳
いだまんまの世界になっていることだ。はじめはその事実にただニヤリとしていただけだ
ったけど、その後は有名作品の中を泳いで世間がどうなるのかという反応を見てはほくそ
笑んでいた。でもそこはさすがに大学生。世界をめちゃくちゃにはしないさ。
497その日暮らし ◆Pxw9.ioMPw :2007/11/23(金) 00:02:59 ID:y+yOlnmn
『字泳法・完』


 最近は現実の世界で政治経済や地理歴史を勉強してからその方面の本を泳いでいる。そ
こで、やっとだ。今までなぜ気がつかなかったのか。なんと、歴史をも変えることができ
たのだ。微妙なバランスで保たれているこの世界の歴史にもいくつか歪んだところがある。
僕はそこを慎重に泳ぐのだ。お金って便利だろう?選挙ってまあ合理的だろう?大昔の人
たちは狩りがうまかっただろう?実はぜんぶ僕のおかげなんだぜ。
 おっと、泳ぎに行く時間だ。今日はレオナルド・ダ・ヴィンチさんに絵のレッスンをする
んだ。
498優しい名無しさん:2007/11/27(火) 22:15:50 ID:Yyt0fGwb
age
499優しい名無しさん:2007/11/30(金) 01:46:23 ID:rTaD679s
晒してから一週間、誰も感想言ってくれない………(´・ω・`)
500優しい名無しさん:2007/11/30(金) 05:19:05 ID:1+66SbVy
感想って書いていいのか迷ってた。
アイディアは好きなんだけど、
物語じゃなくて、設定の羅列みたくなってる気がした。
偉そうでスマソ
501優しい名無しさん:2007/11/30(金) 13:53:18 ID:rTaD679s
物語とか小説というか、とりとめのない文章を書いたまでで…恐縮です
とにかく読んでくれてありがとう(´∀`)
502優しい名無しさん:2007/12/05(水) 17:33:38 ID:KgxUsOdP
age
503優しい名無しさん:2007/12/06(木) 09:31:45 ID:BvEqlJu7
面白いと思いますよ
504優しい名無しさん:2007/12/12(水) 19:46:32 ID:pxLQB4UL
保守
505幻想館 ◆LnE1nhdYKk :2007/12/14(金) 03:38:45 ID:4eEwZndr
最近、2ch派生の「テキスポ」というサービスを、ちょっくら利用し始めました。
http://texpo.jp/texpo/index
変なウィルスとかは(多分)付かないのでご安心を。

過去レスであまり寸評をもらえなかった皆様も、改めて利用されてみてはいかがでしょうか?
個人的な意見ですが、文章が切れ切れだと、どうにも感想を付けにくいです。

テキスポは、気軽に文章を書籍形式にまとめられるのが便利ですね。私も捨てネタを投下中です。
ちなみに↓これ。半分以上が私のヤツです。
http://texpo.jp/texpo_book/toc/169
http://texpo.jp/texpo_book/toc/136

登録は無料ですし簡単です。ネタをパクられる危険も軽減すると思います。
動かぬ証拠が公に残りますから。

単に小説を読みたいだけなら、登録さえ不要です。
ただし作者に感想を言う場合は、メール送信以外の手段が今のところないので、
このスレを活用すればいいのではないかと思います。
私以外の作者もメンヘラーですので、このスレに書き込んでいただければおkです♪
(自分のメアドが漏れてもいいというのなら、別に止めませんけれど)
506優しい名無しさん:2007/12/19(水) 23:11:39 ID:aw64gejT
age
507優しい名無しさん:2007/12/20(木) 18:40:17 ID:sfyMsapk
だるい。
508優しい名無しさん:2007/12/23(日) 09:43:13 ID:m7F3lh34
徳宗は豊勝の父邦信の異母弟だった。徳宗の母親は妃大成暉子だが実は暉子と邦信は不倫関係にあった。邦信は12歳の時暉子を押し倒して不倫関係になり間もなく暉子は息子を産んだ。
その後暉子は11人子供を産むが(うち二度流産)初産の娘以外夫か邦信かどちらが父親か自分でも分からなかった。
さらに邦信は容姿が父親に非常に似ていてそれが暉子を分からなくしていた。そして暉子は出産で死にもはや完全に分からなくなった。
このことは徳宗たち暉子の子供たちは完全に知らなかった(このことを今知ってるのは邦信と暉子の侍女のみ)。
豊勝「門主様、俺出家したくないです」
徳宗「せっかくここまで修行や準備を進めてきたのに何を今更」
豊勝「だって俺が出家したらこの寺を相続することになって門主になるから、そしたら門主様は本寺に行かないといけないし」
徳宗「まあ本寺に行けばいつでも会えるから」
豊勝「いや、門主様は出世して偉くなって今の田舎の住職と違って気楽な身分じゃないから全く会えないよ」
徳宗「(豊勝を抱きしめ)そんな大僧正じゃあるまいしかしこまれても困るから」
豊勝「それに本寺には若い僧侶や稚児がたくさんいるからエッチの相手に困らないし首都だからその気になれば女性とエッチも出来るし」
徳宗「あんな出世欲剥き出しで他人に媚を売るばかりのガキどもなんか嫌いだし女を妊娠させたら破門になって王族の身分を剥奪されるのはわかっているから」
509優しい名無しさん:2007/12/23(日) 10:06:03 ID:cOtYI2HF
>>508
途中まで真面目に読んでたけど、いきなり「エッチ」だの「王族」だの、なにこれ。
510優しい名無しさん:2007/12/24(月) 15:04:57 ID:V91H0MX6
一応、保守
511優しい名無しさん:2007/12/29(土) 21:01:32 ID:vyLIdE1q
保守
512優しい名無しさん:2007/12/30(日) 20:47:21 ID:fAIqZ2Ey
暇だ。
513優しい名無しさん:2007/12/31(月) 10:29:45 ID:16bErMhO
age
514 ◆BUgcyz8TzY :2008/01/01(火) 19:18:02 ID:t3Aulryd


街灯に照らされ、自らの存在を示していた



夜空に散っていく、小さな花びら



お前に会うために、生きていた



酒に溺れた俺に、一時の安らぎをくれた



また、会いに行く



515優しい名無しさん:2008/01/06(日) 14:12:50 ID:ky8kIefQ
保守
516優しい名無しさん:2008/01/07(月) 17:50:01 ID:Fr2HbHkg
街灯がぼうっと闇に浮かぶ。光ってこんなに弱かったっけ。黒く塗りつぶされそうな彼らは必死に耐えている。
いつの間に僕は光らなくなってしまったんだろう。人と話すこともやめ、歩くこともやめた。三つくらいの哲学的テーマを持った大きな塊を憂鬱という温度で順次溶かしていっている毎日。これでも満足しているんだが。
一歩進むことでさえ怖い。うずくまったまま顔だけキョロキョロして光を探している。見つけ次第、そいつの存在の否定にかかる。僕はもう闇でいい。闇でいい。闇で。
517優しい名無しさん:2008/01/10(木) 20:39:30 ID:NtxFttEp
518優しい名無しさん:2008/01/11(金) 00:32:34 ID:Fwt4FevR
頭から色んな言葉があふれてくるんだが、書いていいのか
みんな読んでるのか、
519優しい名無しさん:2008/01/13(日) 19:37:28 ID:KnKN6Bc1
age
520優しい名無しさん:2008/01/13(日) 19:51:32 ID:edyVfEIA
>>519
君はなんのためにageたんだ
何か言ったらどうなんだ
521優しい名無しさん:2008/01/19(土) 23:54:33 ID:nuE8EXuX
hosyu
522優しい名無しさん:2008/01/20(日) 19:29:20 ID:6nrgJzo9
>>521
君はなんのためにhosyuったんだ
何か言ったらどうなんだ
523優しい名無しさん:2008/01/24(木) 23:50:32 ID:ZbbfmJyH
捕手
524優しい名無しさん:2008/01/26(土) 03:47:48 ID:Y1S32Azp
「結婚してくれ」
大輔は静かに言った。
和子は黙ったまま手もとのコーヒーを見ていた。
空気の止まった喫茶店。
彼女の一つ一つの動作が、大輔には肌に絶え間なく感じられた。

何分立っただろうか。
いや、それほど時間は経っていないかも知れない。
和子が口を開いた。
「一つだけ、聞いていい?」

大輔は黙ったまま和子の目を見た。
和子は、囁くように言った。
「どうして、全裸なの?」
525優しい名無しさん:2008/01/26(土) 11:41:54 ID:zSU0BAKU
小島よしおじゃないんだから…
526優しい名無しさん:2008/01/29(火) 18:31:29 ID:fmnqy+FH
「そんなの関係ねぇ!!」
激昂したよしおはそう叫ぶと着ていた衣服を脱ぎ捨てた。
屋上から投げ出されたTシャツとジーンズが所在をなくした鳥のように空を舞う。
ある人は手をたたいて笑い、ある人は眉をひそめて立ち去った。
たくさんの人がよしおを見たが、誰一人としてよしおが裸で叫ぶ本当の理由を知らなかった。
知ろうともしなかった。
よしおは自由が欲しかった。
よしおは解放を望んでいた。
だからこそ――、
彼はこの世界に存在するあらゆる煩わしい関係性を否定したのだ。
その行為はそれまでの人類には成し遂げられなかった快挙であり、暴挙である。
「でもそんなの関係ねぇ!! でもそんなの関係ねぇ!!」
彼は叫び続けた。
その声はある種の威厳さえ感じさせ、冬の空に高く高く響き渡った。
527優しい名無しさん:2008/01/30(水) 01:51:24 ID:JYFs6GJJ
>>526
拍手 うまいし、おもしろい
528優しい名無しさん:2008/01/30(水) 20:55:59 ID:pCa4KX/c
>>526
悔しいが確かにおもしろい
529優しい名無しさん:2008/02/04(月) 19:33:44 ID:vbnSunpa
ふむ
530優しい名無しさん:2008/02/05(火) 22:46:15 ID:fQL3NYoA
むふ!
531優しい名無しさん:2008/02/10(日) 23:44:11 ID:lib9IR1y
age
532優しい名無しさん:2008/02/12(火) 22:13:41 ID:SdoTe4vD
あげるならなんか書けよ
俺もう書いたし
533優しい名無しさん:2008/02/12(火) 22:35:26 ID:nj/ZEtjO
焦らない焦らない。
まったり誰かが書いてくれるのを待ってるよ。
534優しい名無しさん:2008/02/17(日) 03:26:38 ID:moT8ZwFf
読むくせに感想書かないからなぁ…
535優しい名無しさん:2008/02/18(月) 04:00:50 ID:q6TYEiCg
この板は、創作活動には向かないよ。
まともな批評や感想が欲しければ、別の場所を探すべきだ。
536巫呪 ◆rZG/c0PO3s :2008/02/18(月) 21:11:11 ID:QGvb8R0C
>>295>>413
私は侍医どもに、傷が重篤なようなら息絶えぬうちに巫を神殿に返すよう命じました。
巫はまだ神殿にその所有権があるのです、王宮で死なれるわけにはいきません。
しかし兄は許さず、そうこうするうち使いもなしに神官が乗り込んできました。
若いのか老いているのか判じがたいその神官は、あたかも気に入らぬ男に娘を掠められたことを悔いる父親のような恨み言を口にしました。
「先王は慈悲によって呪巫を台無しにされた」
寝台に腰掛け、もはや目を楽しませる花とは言いがたい巫の手を握ってやる兄は、たしかに献身的な庇護者でした。
私は神官に、命に別状はないという侍医の見解を伝えました。
さっさと呪巫を連れ帰るようにとも。
「新王は勘違いしておられる」
と神官は私に向き直りました。
「あれはもはや呪巫ではありません」
537優しい名無しさん:2008/02/19(火) 00:12:03 ID:NtEhBm1W
ちょっと空気読まずにごめん。
俺も書きたいんだけど、どうしても1レスにはまとめられないんで
数レスに分けるつもりなんだけど

どれくらい調子に乗って書き込めば連投規制に引っかかるんですか?
538優しい名無しさん:2008/02/19(火) 18:09:06 ID:DnEN5qsg
>>537
秒単位で書き込めば規制に引っ掛かるよ
落ち着いてゆっくり投稿していけばおk
539優しい名無しさん:2008/02/19(火) 19:02:30 ID:NtEhBm1W
>>538
どうもありがとう。
思索してくる
540優しい名無しさん:2008/02/20(水) 21:54:52 ID:sOKgXwOy

その奇妙な騒音のために、俺は大事な睡眠時間を妨げられていた。
きいい、きいい。きいい、きいい。
眠ることが唯一の楽しみだというのに、あれはいったいなんなんだ?
猫か赤ん坊の泣き声みたいに薄気味悪い。
しかし、原因はすぐに思い当たった。
確かめたことはないが、あれはきっと近所の公園のブランコだ。
錆びついた鎖がこすれる音だ。
ということは、風の強い夜にはいつもあれを聞くはめになるのだろうが、
さすがに公園までのこのこ出かけてブランコを縛りつけてくる気にはなれない。
ああちくしょう。近所の連中はあれが煩くないのか?
毒づいていても仕方がないので、俺は耳栓を買ってくることにした。
不快感は消えなかったが、それでも途切れがちな眠りを俺は根性で貪った。

そして、やっと冬が来た。ブランコは雪で埋もれてしまったようだ。
もう泣き声は聞こえてこない。
そうなるだろうとかねてから期待していたのだ。まったくもってめでたいことだ。
だが、なぜか俺の苛立ちはますます募り、またしても例の不眠が始まった。
541優しい名無しさん:2008/02/20(水) 21:58:40 ID:sOKgXwOy

真夜中、温かいこたつ布団からもぞもぞと這い出し、僕は窓の外に積もった雪を
十分ばかり見つめて一つ決意をした。それから身支度を整えた。
フードのついた大きめの真っ赤なコートに黒いゴーグル。清潔な白いマスク。
埃をかぶった黄色と黒の長靴。ここまで完全装備をするのは何年ぶりだ?
手が荒れるのは嫌なので、丁寧にハンドクリームを塗ってから黄色い縁取りのある白い軍手をはめた。
誰かに見咎められたときには、正直に「はい基地害です」と答えよう。
押し入れの中から発掘したプラスチック製のシャベルを持って、僕は自分の部屋を出た。
シャベルは実にカラフルだった。
取っ手は黄色で柄の接続部分は青と赤、先端の尖ったさじの部分は半透明の紫色だ。
いつ買ったのかも覚えていないが、なかなか興味深い配色だ。
豪雪の中でも行方不明にならないためだろう。
542優しい名無しさん:2008/02/20(水) 22:02:04 ID:sOKgXwOy

公園に着くと、ここしばらく降り続いた雪のせいで、やっぱりブランコは埋もれていた。
塗装が禿げかけたピンク色の、フラミンゴの足みたいにコミカルで細長い暴力的なラインの鉄柱。
錆びついた四つの鎖の先が、白い雪の中へと続いている。
異様な明るさに気づいて見上げると、やけに大きな月が分厚い雲の間から覗き出していた。
念のために懐中電灯を持ってきたが、これは必要なかったようだ。
シャベルを斜に構えると、私はせっせと雪を掘りはじめた。
客観性?そんなものに何の価値が?

私はいつのまにか笑い出していた。
ブランコ。フラミンゴ。いやいや。子猫の救出だ。
ぜいぜいと息を切らしながら、私は雪を掘り、突き崩し、削り続けた。
これを終えて家に帰ったら、また耳栓をしてぬくぬくとこたつで眠ってやろう。
どうせ、明日は間違いなく筋肉痛だ。
「ざまあみろ。ばーか」
私は黒いゴーグルと白いマスクを外し、あさっての方角へと放り投げた。
汗で曇りがちな視界の端で、月の光がなんとなく嫌そうに瞬くのが見えた。
543優しい名無しさん:2008/02/21(木) 23:10:42 ID:SZqKCFlT
一人称がコロコロ変わるのは狙っているの?
なんだか不思議で軽やかな文章で面白かったよ
544優しい名無しさん:2008/02/22(金) 02:47:17 ID:fGW8/bbI
>>543
ありがとうございます。
一人称は狙ってみましたがハズしてますね…。
545優しい名無しさん:2008/02/23(土) 23:20:23 ID:SEdRf9++
age
546優しい名無しさん:2008/03/01(土) 20:44:12 ID:kRDnSjym
age
547優しい名無しさん:2008/03/01(土) 21:55:07 ID:o7JHBYxl
今よりも人々の心が互いに親しかった頃、一人の男が新聞配達の仕事をしていた。
彼は毎朝自転車に乗って、家々に新聞を配って回る。
刷り立ての新聞のインクの匂いと共にペダルを漕ぎ出すのは、彼の大きな喜びだった。
娯楽も情報源も少ない時代だったから、新聞を待つ人々も喜びをもって彼を迎えた。
「おはよう」「おはよう」

しかし彼にとって、配達に行くのに気が重い家が一軒だけあった。
第一に、その家は急で長い坂道の途中にある。
しかも坂の上り始めから3分の2あたり、道が右に少し曲がりながら勾配もきつくなる、
ちょうどその位置にあるのだった。
新聞の厚い束を荷台に積んだ自転車で、そこに行くだけでも重労働だった。

そしてその家に住む女は無愛想で、彼にねぎらいの言葉一つ掛けない。
それどころか挨拶すら交わしたことがなかった。玄関先まで出てくるのだが、
いつも暗い眼で彼を見つめ、黙って新聞を受け取ると、そのまま怒ったような顔でドアを閉ざす。
苦労して坂を上ってきた疲れが、そこで彼の全身にどっとのしかかって来るようだった。

ある日、朝から強い風と雨が吹き荒れていた。
横殴りの雨の中を歯を食いしばりながらペダルを踏み込み、彼はその坂の家に向かっていた。
坂の途中で濡れた路面にタイヤが滑り、転びそうだ・・・と思った次の瞬間には、
彼は激しく横転し、新聞の束と一緒に路面に投げ出されていた。

痛みを感じるよりも先に、新聞を拾い集めなければ、と彼は思う。
散らばった新聞に向かって慌てて手を動かすが、大半はもう濡れてしまっていた。
横転の衝撃と情けない気持ちで彼は混乱していた。
あの無愛想な女が一緒に新聞を拾い集めていることに、しばらく経ってから気がついた。
二人は降りしきる雨にいやというほど打たれた。溶け出したインクが濡れた二人の手を黒く汚した。

それから色々なことがあったが、結局二人は結婚することになった。
あなたのことがずっと好きだったけれど、恥ずかしくて話せなかったのだと、女は彼に言った。
長い坂道を自転車で行く苦しみは、彼の忘れらない思い出になった。
恋人同士の語らいも、結婚の喜びも、嫉妬やすれ違いの痛みも、生活していくもろもろの苦労も、
全て両足の筋肉を激しく痛めつける、ペダルの重さから始まったのだ。
548優しい名無しさん:2008/03/02(日) 12:40:33 ID:LXEyCAZX
う〜ん…オチを読まなくても少し読んで先が見えてしまったなぁ
小説というか文章だね
549優しい名無しさん:2008/03/03(月) 01:39:55 ID:urvQnuAk
お約束感が好きな自分としては>>547よかったなあ
ハッピーエンドだしメンヘルネタじゃないし短くて読みやすかった
550優しい名無しさん:2008/03/03(月) 22:49:37 ID:Gyu9DlPz
「それから色々なことがあったが、」にワロタ
そのいろいろな部分を描くのが小説だろうがwww
551優しい名無しさん:2008/03/04(火) 23:27:41 ID:3NHY33Sr
ナミとは学生時代に知り合ったが、毎日の昼休みにランチを共にするほど仲が深まったのは、
お互いの勤める職場が、たまたま同じこのオフィスビルに転居してからのことだった。
欧風家庭料理を標榜するこの店はビルの一階にあって、昼時には私たちと同じように、
昼食にほんの少しでも楽しさを獲得しようと流れてきた、たくさんのOLたちで賑わう。

彼女はアイスカフェラテのグラスをマドラーでかき混ぜながら、最近職場に加入した男子従業員の噂話を続けている。
私はそれと悟られないよう適当に相槌をうちながら、彼女と彼女の周りに漂う雰囲気を脳裏に焼き付ける。
この昼休みの記憶を呼び起こしながら、私は今夜マスターベーションをするだろう。

それでね、知らないなら歌ってやるよなんて言って、歌うんだよ。その大迷惑って歌を。
えー本当に?ウケル。
一瞬課長が怒るかなと思って見たら、課長も笑ってんの。へんな人が来たわマジで。
ナミに気があるんじゃないの?その人。

ここから、少し注意深く彼女を観察する。

なんでよ(笑)。だってナミが話しかけたらさ、そんなにたくさん話したんでしょ。
昨日は怖そうな人が来たって言ってたじゃん。今日はもう歌ってる(笑)。
えーでも、微妙だなー。見た目どんな感じなの?えー、EXILEのボーカル。
いかついね。良さそうな人だけどね。ナミの好みと違うか、氷川きよしだもんね。
顔はね。あー、

この「あー」の後の表情がいいのだ。

あー、あんな可愛くて清潔感ある人いないかなあ。前言ってたコンビニの子は?最近見に行ってる?
行ってない。つうか最近、足がなんかだるくて。コンビニちょっと遠いからさ・・・
何それ(笑)老化?老化もするよー、もうおんなじような資料づくりばっか、残業までさせられてさ。
マッサージしてあげるよ。

瞬間、彼女のふくらはぎの感触を私は思い浮かべる。
柔らかな感情で作られた陶器のような、彼女のふくらはぎ。

マッサージしてあげるよ。ちゃんと蒸しタオルあててさ。
してしてー。そうだ温泉でも行く?ゴールデンウィーク。どうせ予定ないでしょ、あたしもないけどさ・・・

私たちは抱き合うこともなく、それ以前に私が彼女への愛を打ち明けることもなく、いつか会わなくなるだろう。
それでも構わない、このランチタイムの安心で、軽くて、カラフルな愛さえあれば。
そこには幻想も熱狂も存在しない。失望や悩みも。そんな胃にもたれる感情はいらない、たとえ彼女を手に入れられなくても。
重い「恋愛」の言葉を抱えて会いに行くよりも、とびきり丁寧なマッサージを冗談めかしてしてあげた方が、
ナミは喜んでくれるに決まってる。

私は彼女の顔を見る。物問いたげな表情の、明るい瞳と滑らかな白い頬。
昼休みが終われば私たちはそれぞれの職場に戻り、互いのことを忘れてまた数時間、OLとしての仕事をこなす。
552優しい名無しさん:2008/03/07(金) 20:51:31 ID:dXv5LFFA
私にはわかった、すぐわかった。
普段は考えたことなくて気づかなかったけど、その時はすぐわかった。新宿の新し目のビルが多い地区の、ハンバーガー屋で立ってた時。
その時。私って少女?うん少女。強い風が吹いて制服のスカートがヤバくなったけど、抑えるほどじゃないからそのまま立ってた。
ビル風ってやつ。なんとなく風に向かい合うカンジになってたんだと思う。

周囲から視線を感じた。正確には視線じゃなかったかな。他の人が私をどう感じているか、とらえているか、その感じ。
おじさんやおばさんやお姉さんや年上の男たち、同年代の男たちからも、怖れられていることに気づいた。
少女って、怖れられてるんだ。
なんか知らないけど少女じゃない世の中のみんなは、みんなには手の届かない何かと、少女だけが対決できると思ってて、私たちを神聖視してる。
何の意味もなくニヤケてるだけなのに無限の意味を見てたりする。「少女の微笑み」なんて言って。
おおむねキモイかもだけど・・・

ハンバーガー屋の前で、ちょうどそんな感じだった。風と私。私自身の自意識過剰とちょうど良い感じに混ざってた。
周囲の人たちの思いは、午後の赤みが出始めた陽射しに目をしかめながら、風上に向けられてたように思う。

私は気づいたよ。だからこれを武器にすることにした。
バイトの面接にびびってても、きっとバレないし、コンビニ店長はずっと別のこと考えてる。
だからその別のこと相手に面接すればいいんだ。
もてなそうなっていうと悪いけど、地味系な男の人たちは私たちと話すのがきっとうれしい。それを表に出すのは怖れてるけど。
おじさんはそれプラス、頼られたい願望とか説教願望がある。
おばさんとは基本、対抗関係になるのかな・・・でも丁寧な言葉とか挨拶とか良い笑顔をマスターすれば、得できるかも。

いいでしょう?だって私たち、武器なんて他に何もないんだよ。本当に。
553優しい名無しさん:2008/03/07(金) 21:20:15 ID:dXv5LFFA
>>552
何かが抜け落ちた
意味が書きたかったことと変わってる
ここに記録。要再考

「少女には他に武器はない」の意味が強くなってる
そうじゃなくて、少女に抱かれる幻想、それを逆手に取るカッコ良さと不気味さ・・・を書きたかった。
554優しい名無しさん:2008/03/08(土) 22:58:09 ID:CaF28Agr
いい感じにスイーツな文章ですな。
555優しい名無しさん:2008/03/12(水) 19:43:19 ID:Tq14EtfQ
保守
556優しい名無しさん:2008/03/14(金) 23:43:23 ID:qbhj2Jie
age
557優しい名無しさん:2008/03/18(火) 13:25:47 ID:a2fx4kBN
age
558優しい名無しさん:2008/03/25(火) 23:22:57 ID:8GB//8IA
age
559優しい名無しさん:2008/03/27(木) 22:16:26 ID:z7xw80Aj
age
560優しい名無しさん:2008/03/27(木) 23:50:20 ID:xroxu8h4
あげあげ言ってないで、早くうpしなさい!
561優しい名無しさん:2008/03/29(土) 00:36:39 ID:gSEAVqCo
>>560
もうここにはクレクレ厨しか残っておらんよ
書くだけ無駄なんだ…
562優しい名無しさん:2008/04/05(土) 01:09:43 ID:kmKNP44T
age
563優しい名無しさん:2008/04/05(土) 02:03:12 ID:8kg6GQUR
明らかにヘボい奴の方がコメントつきやすい。
ちょっとでも良いところがあるのだと、
俺の方が書けるよ、けっ、と、くさす気持ちが出てくる。なのでコメントがつきにくい。
564優しい名無しさん:2008/04/08(火) 14:40:56 ID:Z9xt53Ss
age
565すう ◆VZpO0svMyk :2008/04/09(水) 03:17:41 ID:S9qhPur6 BE:605441838-2BP(34)
必要のない全レス(年明けてからの分だけ)を試みる。
良い感想を書きたいのだけどうまく書けない。ごめん。


>>514 ◆BUgcyz8TzY
これはやっぱりメンタルを病んで酒に溺れた人の話なのでしょうか。
だとしたらテーマ好きです。
桜には華やかなイメージもあるので、単に酔った若人のようでもあるけれど
そうではないと面白いなあと思います。
もっと知りたい。
というか元旦投稿ですかいw

>>516
街灯に人格が与えられるという点で一瞬スレ冒頭の恭助さんかと思いましたが
違ったらごめんなさい。
とても怖い小説。
個人的には「三つくらいの哲学的テーマ」を具体的に書いても
良いんじゃないかなーと思った。他の文章が読みやすい言葉で書かれてあるので。

>>536 巫呪 ◆rZG/c0PO3s
ちょっと情景描写が分かりにくいところがあるけれど、独特の世界観が好きです。
ダークファンタジー好きとしては続きが気になります。
何となく「私」は女だと思って読んでいたのだけど男なのかな。
あと「巫」はなぜ男なんだろう。

>>540
冒頭が短編ホラーっぽくてどきどきした。ストーリー展開が爽やかで
読後感が良い。特に始まりの1はすごく良いと思う。

>>547
文章とか設定とか良いと思う。言葉遣いも素直で読みやすいです。
「娯楽も情報源も少ない時代だったから」ということは明治時代なのかな。
もしそうなら描写がほしいかも。
でも「それから色々なことがあったが」は唐突すぎてびっくりしたw

>>551
シチュエーションとか観察の仕方とか好みです。
個人的に「ナミ」と「私」の会話部分が地の文と混乱して読みづらかったので、
会話文の冒頭に「――」があればいいなあと思った。あと「(笑)」は。
「?」の後は一文字空白を入れるとか。文の体裁とか気にしてなかったらごめん。

>>552-553
うん。「少女には他に武器はない」の意味が強くなってる。
「少女に抱かれる幻想」とは何だろう。少し「それ」とか「その」とかの
代名詞が多いように感じる。
566すう ◆VZpO0svMyk :2008/04/10(木) 13:26:20 ID://gV8hTb BE:1412695687-2BP(34)
これで落ちたらどうすべ><;
ということでほすage
567優しい名無しさん:2008/04/12(土) 01:27:18 ID:Rjq7mEEj
547=551=552です
>>565レスおつかれさまでした!

547の「それからいろいろあって」は、膝カックン的な効果と、
結婚したという展開への驚きが出るかなと狙ったのですが
どっちも効果不足だったようです。上の方でも拒否反応もらいました

551は構造的に547と同じにしようとしたのですが
書いてるうちに感情移入が楽しくなって、自分ではなかなか良く書けたかなと思ってます
会話の混在具合は、わざとそうしてみたのですが
読みにくいようなら、改善の余地ありですね。

552は、なんか「ある感覚」を書けそうだなと思いたってささっと書きました
しかしささっとなんて書けない対象だと途中で気づき、尻切れとなった気がしてます

過疎ですなあ
上の方でけっこう楽しげにやってた人々はもう去っていったのですかね
568すう ◆VZpO0svMyk :2008/04/12(土) 02:22:43 ID:ujw6C7yt BE:1589282497-2BP(34)
>>567
同じ人だと思わなかったよ

>>547の膝カックン効果はよく出来てると思う
結婚したという展開はある意味自然なので、逆に、膝カックン効果が薄れて
「手抜きした?」というふうに読めてしまったので、拒否反応が来たのかな
膝カックンまでの表現をもっとくどくすると、最後があっさりするのかなー

>>551はすごく良いと思う
こういう小説があったら読んでみたい
一人称小説だから、会話文と地の文の境界が薄くても良いとは思うけど難しいね

過疎っすねw
うむ。気が向いたらなんか書くかなー
569優しい名無しさん:2008/04/12(土) 17:54:50 ID:Rjq7mEEj
>>568
膝カックン効果については、たぶん568の言う通りですね
547はベタベタなボーイミーツガール的展開なんだから、膝カックンも何もないと。
いやせめて結末に何らかの意外性を持ってくるべきだった、かな
551については褒めてもらって感謝です!非常に励みになります
うぷされたら読むよ。俺もまた何か思いついたら書いてみる
570優しい名無しさん:2008/04/17(木) 17:13:55 ID:mrnH282b
age
571バニー1:2008/04/19(土) 00:02:31 ID:mOI2rXqw
 バニー、お前はか弱い。抵抗なんぞ無駄さ。

 俺は金切り声をあげて暴れた。座っていた椅子が倒れ、医者の手から聴診器が飛び、硝子の花瓶が砕ける。駆け付けたジェイムズが太い腕で俺を抱えた。
「デイヴィ、落ち着いて。大丈夫、この人はお医者さんだ。知ってるだろう? グラマースクールからずっと一緒だった、仲良しのスコットだよ」
 赤ん坊をあやすような口調に肚が立ったが、食いしばった歯の間から啜り泣きが漏れるだけだった。
「ジェイムズ、そのまま押さえててくれ。鎮静剤を打とう」
「わかった」
「ノー!」
 薬は嫌だ。俺はもがいたが、ジェイムズは身体全体を使って俺を押さえ込み、素早く袖を捲った。
「ノー!」
 俺は身悶えた。医者の膝が俺の手を床に縫い止め、注射針から血管に吐き気を送り込んだ。ジェイムズの名を呼ぼうとしたが、途中で舌が動かなくなった。奴は黒い目でじっと俺を見ていた。雄牛のように厳つい両肩。癖のある硬い髪。同い年の義弟。
 ――地獄へ堕ちろ。

 数ヶ月前、俺は誘拐された。財産のほとんどは実子のジェイムズが相続したが、養父は著名な富豪だった。養父は既に亡く、爵位を継いだばかりのジェイムズが農園や別荘を売り払い、交渉人を雇った。彼はほとんど言い値を支払い、俺はごく短期間で解放された。

「看護人は?」
「嫌がるんだ。メイドも駄目だ。他人に怯えて」
「君が世話してるのか」
 呆れたような医者の声。同級生のスコット・なんとか。俺は泣き出した。あおのいたまましゃくり上げているとジェイムズが腋の下に手を入れてベッドに上半身を起こさせた。
「夢でも見たのかい」
「お願い」
 俺はジェイムズに縋り付いて訴えた。
「酷いことしないで。いい子になるから。なんでもするから」
 俺は少し離れたところから自分の肉体の行動を眺めていた。

 バニー、諦めろ。お前は子兎、俺達は狩人だ。
572優しい名無しさん:2008/04/22(火) 21:57:18 ID:faqjogme
age
573優しい名無しさん:2008/04/23(水) 01:03:59 ID:+KQwmIPB
ノー!
574優しい名無しさん:2008/04/23(水) 01:51:01 ID:iTvkh+T6
>>573
ふいたw
575すう ◆VZpO0svMyk :2008/04/24(木) 21:45:42 ID:nFNMT/6U BE:706348447-2BP(35)
>>571
設定がいろいろ詰まってて良い感じ。
アイデア面白いと思う。
でも少し読みにくかった。
>「ジェイムズ、そのまま押さえててくれ。鎮静剤を打とう」
↑が医師=スコットの台詞だということとか。
ディヴィが誘拐され、解放されたのに、捕まったまま?なのは何故だろうとか。

> 俺は少し離れたところから自分の肉体の行動を眺めていた。
> バニー、諦めろ。お前は子兎、俺達は狩人だ。
多重人格?

細かなところ。
>あおのいたまま
あおむいたまま?

蛇足。
兎はアメリカでは性欲旺盛のイメージもあるので注意かもだ。
576優しい名無しさん:2008/04/27(日) 04:13:57 ID:9Q9QlEq0
遠くで鐘と笛が鳴ったから、そろそろ食事の時間だ。
僕は妹たちや弟たちを連れて母さまの待つ山の上に向かう。
小さな子供たちは、いったい何が始まるんだろうと目を輝かせている。
僕は右手に一人の妹の、左手に一人の弟の手を持ってから、
その妹と弟からみんなに数珠つなぎに手をつながせて、子供たちを連れていった。
みんなで歌を歌いながら歩いた。

山の上に着くと、母さまはまず僕を褒めてくださった。
それから、山の頂から向こう側の眼下を、ゆっくり指し示された。
そこには父さまの光輝く身体が天空いっぱいに広がって、さらにその下に、
無数の人間たちの小さな姿が、地上に群がるのが見えた。
人間は未曽有の天変地異にさらされ、今まさに右往左往しているさなかだ。
血を流している人間が多いからか、蟻のような彼らの集団は赤みがかって見えた。

やがて父さまの身体が輝きを増すのと同時に、滝のような轟音が辺りに響き渡った。
子供たちは嬉しくて頬を赤くしている。それを見た母さまは優しく微笑み、
二本の腕でみんなを一度抱いた。その抱いた手をほどかれると、もう食べる道具がみんなの手の中にあった。
僕はいただきますを言ってから、大きなフォークを振り上げた。
577優しい名無しさん:2008/04/27(日) 19:21:56 ID:qKDynVje
sage
578すう ◆VZpO0svMyk :2008/04/27(日) 23:56:53 ID:hyPnr6uz BE:1589282497-2BP(35)
>>576
ブラックユーモアっぽくて何か良いね。幻想小説っぽい。
父さま=太陽なのかな。
でもそれ以外が分からなかったorz
解説おねー

>>577
ageてやるッ(・∀・)
579バニー 2:2008/04/28(月) 12:59:49 ID:u/a2qKV5
 ウォートン卿に引き取られたのは十一の時だった。
 俺は卿をペドじゃないかと疑った。卿には血の繋がった息子がいたし、俺は四代遡っても貴族とは関わりの無い馬の骨だ。チャリティならもっと派手な経歴の子供を引き取るだろう。
 母親を脳病で亡くし、のんだくれの父親にも死に別れたというだけの、ありふれた不幸しか持ち合わせない俺に高値がつくはずがない。
「君は優秀なんだってね、デイヴィッド」
 卿の息子のジェイムズは身体の巨きな少年だった。おっとりして誰にも親切だったが、黒い目は感情が読めない。
 差し出される厚い掌、優しげな微笑み、何ひとつ信じられない。
 ――俺はこいつのペットに買われてきたんだろうか。
 父子は係累がない。病がちの父親は、一人息子に自分亡き後の慰めを用意したつもりなのかもしれない。
 ビジネスの駒にも使えるようにと見目好く賢い子供を選ぶ。貰われ子が自分のものだと知っている息子は鷹揚に振る舞う。
 いかにもありそうなことに思われた。
「そんなことないよ」
 俺は努力した。
 母に無視され、父には犯され酒瓶で殴られ、寒さとひもじさを耐えた揚句にこんな侮辱を受けるのなら、相手からなるべく多くを引き出してやらねば割に合わない。
 学校では優等生で通し、屋敷では感謝と愛情に満ちた第二の息子を演じた。ウォートン卿の健康と歓心に気を配り、ジェイムズには時々喧嘩を仕掛けた。
 本気でぶん殴らないように怒気を調節するのは、わざと殴られるより骨が折れた。屋敷で飼っているマスチフよりも俺を愛してるとジェイムズは真面目くさって言った。毎回その台詞で仲直りした。
 卿の正式な養子になった時には大袈裟な抱擁に息が詰まった。
 俺は卿にもジェイムズにも、うまく取り入ったつもりでいた。
580優しい名無しさん:2008/04/28(月) 13:24:25 ID:u/a2qKV5
>>575
感想ありがとうございます。
読みにくくて申し訳ない。
映画見ながらあらすじ書いてるみたいに話の進行に筆が着いていかない感じです。

デイヴィは解放されたけどPTSDが出ました。
今一番重篤な時期です。
多重人格かどうかはわかりません。
それも面白いな。

あおのくという言葉もあるようです。
意味はあおむくと同じです。

>兎はアメリカでは性欲旺盛のイメージもあるので注意かもだ。

はい。
そういう意味です。

たぶんあと3レスぐらいで終わるんじゃないかと思います。
あんまり明るくないかもしれない。
581優しい名無しさん:2008/04/29(火) 02:00:51 ID:mNpNLd9u
>>578
こんばんは。と意味なく挨拶
576はヨハネの黙示録に出てくる「世の終わり」がこんなだったら?と思いながら書きました
自分自身、想像したのは天使たち、
異形としての天使たちの食事シーンという感じ。
罪を悔い改めなかった人間たちが喰われてしまう・・・と。

母さまが二本の腕で抱きしめて・・・のくだり、
たくさんいる子供たちを一気に抱きしめられるってどんな身体?
という異形感を出したかったのですが、よくよく読むと一気に抱きしめてないとも読める。
父さまの光り輝く巨大な身体というのも、
なんかキモチワルイ感じにしたかったわけです。でも太陽との読みもイイ。
すると太陽とはキモチワルイもの・・・?などと言ってみる

小説書いてる人スレに、「落書きみたいに気楽に書けば、書くことは癒やしになるか」
って内容のカキコしまして、試しに落書きみたいに書いてみました。
そしたら隙だらけで、あんま癒やしには、はい。
でもノープランもたまには楽しい。
582優しい名無しさん:2008/04/29(火) 02:11:49 ID:mNpNLd9u
>>580
「バニィ」まずは最後まで完成させられるよう、応援の念を送っときました
謎もあるし、最後まで読みたい
583優しい名無しさん:2008/04/30(水) 19:38:01 ID:md14gGde
舞台が現代でも日本でもない(かな?)から新鮮で面白く読ませてもらってます
続きは気長に待ちたいので、無理せず体調の良い時分にでも書いてください
584優しい名無しさん:2008/05/02(金) 02:59:13 ID:oHKMkBao
「カタリナ・フロウ」


街のまん中にある、あの大きな黒城からご自分が追い出された日なのだから当たり前だけど、
5月1日の民主制記念日には、陛下の機嫌は決まって悪くなった。
(本当は陛下ではなくカタリナ・フロウ氏と呼ばないといけないと言われていたのだが)

いつかの年、その日の夜にお酒を飲んで、ひどい大声を出したことがあったらしい。
革命の後すぐに陛下の家政婦として雇われ、ずっと働いているシャランから聞いた。
あたしはまだ日が浅いし、あたしが働き始めた頃から使用人が夜も泊まることはなくなったから、
陛下が酒を飲むところを見たことはない。

二十歳を過ぎるまで両親と住んでいた家の隣は酒屋で、店先で客に一杯飲ませる店でもあった。
そこでアルバイトをした一時期もある。だからあたしにはなんと言うか、酔っ払いの鑑定眼があると思っている。
そのあたしに言わせれば、陛下の飲み方はまず穏当な方だろう。晴れときどき曇り程度のもの。
朝出勤して顔を合わせたときの様子で分かる。臭うこともなく、顔がふやけていることさえなかった。
陛下は中背で、いつもさっぱりした印象の中年男だ。
家事の合間に廊下ですれ違ったり、部屋に入ってきたりすることがある。
そんなとき、陛下が雑巾の入ったバケツとか洗濯かごとかを、ひっくり返さないように注意して歩いているのが分かる。
そこにそんなものがあるとは思ってもいない、という風を装ってもいる。元貴人としての習慣なんだろう。
でもそれが嫌味じゃないし、もしかしたら元々そういう人なのかもしれない。
他人が働いていることにどこか引け目があるみたいだった。

大声を出していたわけじゃないけど、陛下が他人と議論を交わしているのを見たことはある。
酒の席ではなく午後のお茶の席だった。
あたしは台所から持って行って置き忘れた殺虫剤を取りに、居間に入った。
そしたら陛下がお客さんと会っている最中だったのだ。
ノックをしなかったので何か言われるかなと思ったら、何も言われなかった。
陛下はそういうことが気にならなくなっているみたいだった。

「つまりあまりに形式的に過ぎるんだね」と陛下が言った。
「中央銀行の件にしても今度の増税にしても、政府の言い分はあんまり形式的じゃないか。
まったく血肉が感じられなくって、あれで良く民衆の代表だなどど言うものだね」
お客のおじさんが答えてた。
「いえ陛下、あれが連中にとっては民衆への配慮だということですよ。
何でも国民議会を通さなくてはならないのだから、万事手続きが第一というわけです」
「まったく皮肉なもんだね、僕は何も王政がそうだったと言うんじゃないが、
少なくとも内政での手続きというものは―――」
「そうです、そうなんですがね―――」
おじさん同士、互いの発言に追いかぶせ気味の会話で、訳が分からなかった。
ちょっとまごついたフリをすればそのまま話を聞いていられそうだったけど、あたしは殺虫剤のビンを持って居間を出た。

帰り際、シャランが「今夜は陛下が荒れる日だったねえ」と言った。
それで、飲んだくれる陛下をちょっと想像してみる気になった。
一人でボトルを抱えて飲んで、クダを巻いてるんだろうか。「形式的過ぎるんだよ。チキショウメ」などと言って。
きっと何も食べないで、何も見ないで飲むんだろう。
飲みながら形式的なんて言葉を使う人は、酔うのに自分の頭しか必要ない人だ。
それで明日の朝、あたしたちが出勤したら、そんなことなかったみたいな顔して迎えるんだろうか。

あたしは帰り道の河岸際を歩きながら、それって面白い人生なのかな?って考えた。
街は運河に沿って、古い町並みをどんどん新しい住宅街に作り替えている最中だ。
少し前まで工事の音がうるさくてかなわなかったが、この数年でだいぶ街の形ができてきた。
橋を渡るときの風景の広がりと、新市街への曲がり角から始まる並木道が、あたしは気に入っている。
春の緑が美しい木々の下を歩くと、仕事終わりの解放感も相まって、いつもさわやかな気分になれる。
陛下も、こういう感じの中を歩くことがあるのだろうか。
もう王様じゃないんだし、そういうことは仕方ないとして、もう少し違った5月1日を過ごせばいいのに、とあたしは思った。
街を歩くだけでこんなに気分を変えられたり、そのうち新緑も始まったり、今はすごく忙しい季節なんだから。
585優しい名無しさん:2008/05/04(日) 01:29:46 ID:6Gqc+/1p
小説というか日記というか雑文ですが。改行は適当です。

事が終わってしばらく他愛も無い話をしていると、彼女は少し僕のことについて聞いてきた。
互いのことは詮索しない不文律のようなものがあったが、答えられる範囲で答えていると彼女は急に
「自分は中学卒業だから」と言い放った。呆気に取られる間もなく「なりたくてなった訳じゃないし」と付け加えた。
僕のように優遊と大学を出るのが当たり前のような環境について触れることも適切でないと刹那に巡らせ、
すぐさま茶を濁すように「いろいろあるからね」と返事した。僕から聞いた訳じゃないのに罪悪感のようなものを感じつつ、
友達と二人暮しをしているという彼女の背景について考えてしまった。
帰り途にまたひとつ打ち明けるように「いくつに見える」と訊いてきた。「十九と言っていたからね、
本当はもう少し下かもしれないとは思っていたよ、それにメエルアドレスにはお酒の名前が入っているしね」
僕がそう答えると、もう一度いくつに見えるか訊かずに十七だと云った。
僕が要らぬ事を言ったせいか、「アル中なんですよ」とも云う。
医学的に見てアルコホリズムかどうかなんてのはどうでもよく、酒に逃げないと辛いことを
知ってしまったことのほうが沈鬱にさせた。その歳で家を出て、男に買われながら生計を立てている彼女と、
薬剤師になったはいいが自殺する自分を対比させてしまい複雑な気分になった。
今日のことの礼を言うと、次は遊びでなく会いたいと云ってきた。
別れを惜しむような手練手管を心得ているわけではなさそうで、どうやら僕は相当の変わり者に映っていたようだ。
僕が自殺するつもりだなんて言っても狼狽させてしまうだけだし、事情があってもう会えない旨だけ伝えた。
他人の人生にまで首を突っ込むつもりは無いと答え、彼女は少し残念そうにそれを受け入れてくれた。
586優しい名無しさん:2008/05/04(日) 03:40:00 ID:ugDulU1+
「右手/左手」


「右手で書いて左手で読むんだよ」
「はあ?左手で読む?手で読めるわけないだろこのコンコンチキ」
「なんで私の名前を知ってるの?私、名乗ったっけ?
ふむ。本当に君は、左手で読めないって思っているのかね」
「はい、でももうその話はやめましょうコンコンチキ先生・・・
僕たちは互いの対岸に立っているんです」
「互いの対岸。うまいこと言ったつもり?対岸同士なら同じところに立っているようなものでしょう。
見て。夕陽がこんなにきれい」
「右手で書いて左手で読むんだよ」
587優しい名無しさん:2008/05/04(日) 03:53:53 ID:ugDulU1+
>>585
個人的には好みの内容ではないけど、
「なんか書いておきたかった、書かずにいられなかった感」
があるような気がして、そこは良いと思いました

そういう、引っかかってくる何かに対して、
どこまでも嘘(虚構)を書こうとするのか、どこまでも本当(現実)を書こうとするのかで
地獄の三丁目。もとい、「書く者」としての資質の分かれ目だなあ、
俺は完全に前者だ・・・というようなことも思った。
ある意味どっちも地獄であることに変わりないがなー

感想になってなくてゴメソ
でもそんなことを考えることができてラッキーでした。ありがとう
588優しい名無しさん:2008/05/05(月) 23:00:31 ID:fDgcocEI
age
589優しい名無しさん:2008/05/07(水) 23:20:12 ID:LbGMk77p
>>586
オチ?というか最後がよくわからんです。
なんか国語の教科書読んでる感じ思い描きました。
590優しい名無しさん:2008/05/10(土) 21:20:15 ID:qF+iS9uX
age
591すう ◆VZpO0svMyk :2008/05/11(日) 01:06:23 ID:WIQWIBqq BE:378401235-2BP(35)
>>579-580
映画のあらすじと聞いてなるほどと思いました
>>579とか映画のあらすじが書かれているとして読むとすごく面白いですね
「日の名残り」という小説があるのですが、映画化されてます。
映画化された作品の、映画も小説も両方見ると、また文章に起こすということの
発見があったりするすもですよ。
続き楽しみにしてます。

>>581
こんばんは。
黙示録でしたか!
良いテーマですね。メタファー/パロディ?という技法はとても面白いですよね。
私もそういうのを書いてみたい。
黙示録で描かれたシーンは、最後の日、それまでの日常が日常でなくなってしまう。
太陽もキモチワルイものになってしまうかもしれない。
最後の審判の日、それまでのものはすべて壊されてしまうから。
あってると思います。

>>584
「カタリナ・フロウ」
特定の時代設定はあるのかな。
爽やかなな感じが良いですね。
「あたし」の自由さという点ではよく書けてる気がする。

>>585
面白いね。不思議な話。どこまでがフィクションなのかどこまでがノンフィクションなのか。

>>596
ちょっと混乱した。登場人物は何人?
誰の台詞かよく分からない
592優しい名無しさん:2008/05/14(水) 01:21:00 ID:bT2OBuv6
586です。レス感謝です
>>589
オチよく分からないですね。同感です。というかこれはオチなのか?と思います
特に意味のない会話ですねこれ。
国語の教科書とは、何となく分かります。
というより、小学校くらいの国語の教科書の雰囲気を、589の指摘で思い出すことができました。
「まる・さんかく・しかく」みたいな感じ。ってそりゃ音楽の教科書か

>>591
登場人物は二人らしいです。
混乱するというか、会話として全然成立してないですね。
意味のない会話。
読む人がいたら、読む人なりに何か感じてもらえたらいいと思っていたのですが
書いてるときに一番思っていたのは「テキトーに、ふふん」ということでした。
ああこれでは喧嘩売ってる感じになってしまう。違います
ようするに、なんか面白いこと書けないかなと思いながら
面白さの内容は決めないで、とにかく短く、
書く時間も短くしようと思って書きました。

ご両人読んでくれて感謝age
593優しい名無しさん:2008/05/15(木) 01:03:08 ID:qjDcdFA8
>>585の続き書いてみました。

自分の自殺予定日を逃してしまって以来、生きている実感は皆目無し、歳は二十三のまま、
何日経過したかを数えるだけの日々が続いていた。道具は揃っているが一時のような死を渇望する衝動性に欠けている。
贅沢なもので、僕はまた彼女に逢いたいと思うようになっていた。裏を返すとか、遊廓文化に通ずるような
文章が書ければ面白みも出るのだろうが、そのような才能がないことが悔やまれる。

五月中旬、僕にとって最初の女性であり、最後に会った人になるであろう彼女に連絡を取り待ち合わせた。
放埓な生活を送る彼女が時間に現れることはないだろうという予想は的中し、一時間遅れると連絡が入る。
もっとも、時間を過ぎてでも逢ってくれることを素直に喜んだ。さらに遅れること十五分、急いで見繕いしたことを
窺わせる格好の彼女と目的地へと向かう。時間を守らなかったり、一つ一つ行儀の悪い姿さえも可愛らしく思える
自身の変化に気づく。僕は器の小さい人間だから、寛容になったのではなく淡白になったのだろう。
さして行為そのものが最大の興味でなくとも、冷たくしんねりとした保湿性の合成重合体が体を伝い絡み合う姿は
二匹の鯰のようだったに違いない。
一頻の興奮も次第に落ち着きを取り戻し、無口な僕に無理をさせないように気を遣ってくれるのか、
色々と話しかけてくれる。ただし生い立ちに纏わる言葉が時折翻れた、その瞬間だけ彼女の顔から笑顔が消える。
彼女もまた辛い人生を歩んでいるんだろうとは前回理解していたつもりだったが、僕の結論を引っくり返す一言を漏らした。
「自分の人生悔いもないし、阿呆らしい。一層のこと首でも吊ってやろうかな。」
流石に最後の一言は冗談口を漂わせたが、自傷もない、解離性も境界性も見られない彼女は条件さえ揃ってしまえば
本当に死んでしまいかねないタイプだと分かった。

前回、僕は彼女と対極に位置する存在でありながら、生きる者と死に行く者のコントラストとして捉えていた。
しかし実際には陰陽の性質が互いを引き寄せていたのはではなく、二人は同じ属性だったのである。
駭然を禁じえない素振りを見せながらも、本質を斟酌することに欣快の至りを感じつつ彼女を見送った。
594優しい名無しさん:2008/05/15(木) 01:08:57 ID:qjDcdFA8
>>587
仰るとおり、自己満足的(オナニー)でありながらも
書きたい!という気持ちに駆られて書いたんです…。
>>591 すうさん
フィクション・ノンフィクションは読み手の想像に任せようかなと思ってます。
偉そうなことは言えませんが、ある程度そうした余裕(のりしろ的な?)部分が
あったほうが一人一人イメージする世界があっておもしろいのではないかとw

理系の人間なんで、文章を書くなんて小学校の作文以来ですが
読んでいただいた上に感想までいただけるとは嬉しい限りです。
ひっそり感謝。
595優しい名無しさん:2008/05/16(金) 03:20:43 ID:69qkA3et
>>593
僕の語りに、俺はなんか乗れなかったし、ついていけなかったなぁ。
ところどころ僕がなんでそう思ったのかの理由が俺にはさっぱりわからんのがあった。
そうなると文章が一人歩きしてって「ご都合の展開」を臭わせるようになってると思う。
ちゃんと縦書きに直して読んだから、そこそこまともに読んだつもり。
手厳しい感想になってごめんね。
596優しい名無しさん:2008/05/17(土) 02:03:46 ID:MW96oe8A
>>593
前回より面白く読みました。
ことの本質に迫っていこうとする迫力が素晴らしいと思いました。

〉冷たくしんねりとした保湿性の合成重合体

この表現、素晴らしいと思います。
(最後の一語はごうせいじゅうごうたい、と読みました。
オリジナルなら名詞の発明ですね)

懸念を二つ感じました。

1 既成作品の模倣?

私小説を通じて現実を異界のように描く小説家
(中上健次、車谷長吉、町田康、中原昌也の系譜でしょうか)
の、影響がもしかしたらあるのでは、と思いました。
しかしこれは悪いことでは全くないですよね。
僕自身、好きな小説の模倣から始める自分自身を意識しています。
書くことの初心者としてはむしろ当然でしょう。

しかし一考いただきたいのは、もし模倣だとして、
それがあなたの中でどう位置づけられた模倣か?ということです。
それは次の懸念点につながります。

2 真実はどこにあるか?

ここに書かれているのは、(書かれようとしたのは)
現実を現実として突き詰めた先にある、生々しい本質の世界ではないでしょうか。
しかし主人公の姿勢を深く見てみると、
どうも真実という所を直視できていないのでは?と感じました。

もちろん人それぞれの真実です。
しかし結末の、漢語が多用されるあたり、
実は主人公は、娼婦の生きる現実に圧倒されていたのではないでしょうか?

自分が死のうと思っていた現実より重い現実を娼婦が生きていることを知り、
またその彼女も死を思っていることを知り、
その人と保湿性の合成重合体になってしまった、決して軽くない体験をした。
これらにより、主人公は通りの良い漢語などでは片づけられない、
もっと深い体験の中を生きたのではないでしょうか?

その辺りが出ていないように見受けられるのは、残念と思います。
合成重合体なんて言葉を書いてしまう方なのだから、
言葉で「凄いところ」に迫っていく資質はお持ちなのだろうと思います。
ですから、より真実を怖れずに書くことができるはずです。
これは勝手な提案ですが、小説というより自由詩のような形式も
試す価値があるのではないでしょうか?

生意気なことを書きました。すみません。
でも良いと思ったから、書く内容の方向性について
見つめ直すことをおすすめしたくなってしまいました。
597優しい名無しさん:2008/05/17(土) 16:27:52 ID:EysZBanV
>>595-596
おおお、こんなにコメント頂けるとは幸せです。
手厳しい感想だなんて、そんなそんなwコメントもらえるだけで十分ですよ。

ちなみに保湿性の合成重合体ってのはローションのことですw
ローションの成分調べたら、化学でいうポリマーだったんです。
ポリマーは日本語に直すと重合体なんですね。

僕自身、医学・薬学以外の本は読まないので模倣でないのですが
唯一影響を受けているのは高校の国語で読んだ中島 敦の山月記ですね。
難しい漢字の持つ、イメージを膨らませる潜在力に魅せられた作品でした。
極力、横文字を使わないようにしたのはそのせいです。

内容的には
前半:一見そこそこマシな人生(でも自殺)⇔一見どん底人生(でも強く生きている)
どっちが幸せなんだろなー。
後半:どっちも死にたいと思ってた、傷を舐めあってただけ。
なーんだ、スイーツ(笑)ですねw

後半は自分でも蛇足だなこりゃって思いながら書いた節があるんですけど
やはり、なるべく盛り上げようとする気持ちが出てしまうと輪郭がぼやけてしまうもんなんですね。
いやはや、こんなスレに出会えてよかったです。
僕はもう書かないので他の方の作品も楽しみにしたいと思います。
598優しい名無しさん:2008/05/18(日) 22:30:50 ID:CaVa6c6X
ボンクラ主人公に腹立たしさを覚えるくらい、よく書けてたよ。
面白かった。
599すう ◆VZpO0svMyk :2008/05/19(月) 02:05:50 ID:7xbMJ9bj BE:1362242669-2BP(35)
続きが来てるー!
>>593
うん。>>596さんに同意。前回より面白い。
前回のは「自殺がするから会えない」というのを抱えて淡々と生活してるっていう
ところのみ面白かったけど、今回は展開があったと思う。

ところで個人的に鯰はなんか太い、どっしりとしたイメージなので、ちょっと
ずれてる気がした。
どちらかと言うと蛞蝓の交尾がまさにそんな感じ。

>駭然を禁じえない素振りを見せながらも、本質を斟酌することに欣快の至りを感じつつ彼女を見送った
これはやりすぎな気がした。
600バニー 3:2008/05/19(月) 04:00:10 ID:tfcmh1AG
 略取に遭ったのはミセス・ホワイトのパーティの帰りだった。ホテル暮らしの彼女は郊外の大邸宅ではなく自分の起居するホテルでサロンを開いた。
 いつものように俺は会を早々に失礼して、酔い醒ましに数ブロック歩くつもりで送りは断った。まだ人通りもあり、さして遅い時間でもなかった。
 暖かく晴れたいい夜だった。あの角で乗り物を拾おうと思った矢先、両脇を取られた。抵抗する間もなく、路面の砂粒が星々の光をきらきらと照り返していた。右側の男が囁いた。
「グッド・イヴニング。ところでミスター、貴方のその見事な金髪、よもや紛い物じゃないでしょうな?」

 俺は悪漢どもに殴られ、小突かれ、犯された。髪は不格好に刈られ、ウォートン邸に送り付けられた。
 奴らは俺が抵抗らしい抵抗をしないと言って嗤い、反応が悪いと言っては銃器や刃物や用法も定かでない恐ろしげな器具をちらつかせた。
 俺はやめてくれ許してくれと泣きわめき、張り飛ばされてむせんだ。止めようとも思わない涙がいくらでも流れ、過呼吸を起こすと紙袋を被せられた。
 実家で、養家で、学校で、社会で腹一杯疎外された揚句にこれか。どうしてここにいるのが俺で、誰か他の奴じゃないんだ?
「運がいいな、バニー。俺達はプロだ。いい子にしていれば殺しはしない」
「ごめんなさい、父さん。許して許して許して――」
 俺は音をあげた。子供の頃しばしばそうしたように、肉体はデウス・エクス・マキナの自動操縦に任せ、魂は薄暗がりを漂った。肉体は加害者を父と混同したらしかった。
「バニー、おい、なんだって? こっちを見ろ。俺の目を見るんだ」
 リーダーらしい男が俺の肩を掴んで盛大に揺さぶった。痛い。俺は頬笑んだ。相手は俺を放り出した。
「くそったれ、躾はやめだ! こんなに弱いなんて聞いてねえぞ」 ――誰から?
 微かな疑念が湧いたが、男の剣幕に怯えて俺は小さくなった。もう痛いのは嫌だ。苦しいのも、寒いのも、ひもじいのもだ。
 世の中の幸福の絶対量が決まっているとしても、これじゃ俺の取り分が少な過ぎる。

 あるいは死んだほうがマシだったのかもしれないが、殺されたいとは露ほども願わなかった。ジェイムズが身代金の支払いに応じると知ったからだ。生きられる限りは生きてやる。後のことはその時だ。
 希望が見え出した途端、俺は吐瀉した。熱が出ていた。男達は俺を罵ったが後始末をし、水を飲ませてくれた。二度三度と嘔吐を繰り返したがもはや誰も俺に手をあげず、犯されもしなかった。
601優しい名無しさん:2008/05/19(月) 04:14:12 ID:tfcmh1AG
>>576
タロットの図柄とかトランスミュージックみたいだと思いました

カタリナ・フロウ続き読みたいです。
602優しい名無しさん:2008/05/19(月) 04:25:02 ID:tfcmh1AG
>>582
ありがとうございます。
励みになります

すうさんや他の方もありがとうございます

感想あんまり書けなくてすみません
603優しい名無しさん:2008/05/20(火) 01:51:48 ID:VhXIWa47
カタリナ・フロウ(2)


あたしはまだ普通学校を卒業していなかった。そんな夢をみていた。よく見る夢だ。
まだ15才で、ワンピースに青い上っ張りの制服を着て、でも外見は今のあたしに成長した姿なのが自分でもわかっている。
同級生はみんな大人のあたしより背が低いから、小さな頭の列をいつも見下ろしている。あたしだけ大人だなんて、みんなにはどう見えてるんだろう?
放課後、ある友達と、樟の横の門を一緒に出るところだ。
石畳に二人のエナメル靴が軽い足音をたてている。ときどき足音が一つになるのが楽しい。
でも次の瞬間、突然気づいた──あたしこの子のこと、嫌いで仲が悪かったんじゃなかったっけ。
ほらアイスクリームの屋台で他の子と食べてるとき、通りの反対側を歩いてきたから、
あたしわざと屋台のおばさんにも話かけて、楽しそうなフリして──
途端にとても悲しくなったあたしは、門を出て歩いていくその子の小さな後ろ姿を追いかける。
待って。ごめんね。こっち見て、笑って。
きっとその笑顔は愛らしい、あなたはまだ15才のままなんだから。
その子は振り向いてくれず、あたしも彼女に追いつけない。石畳に靴音が高く響き、女の子の後ろ姿が遠ざかっていく。

目が覚めてから、誰かがドアをノックする音に気づくまで時間が掛かった。
夢で聞いた足音に向けてドアを開くようで、ノブを回すときは少し怖かった。
お屋敷の警備員のハリィがそこにいた。「起きてたのか」と彼は言った。
あたしは言った。「寝てたわよ」
玄関先に立っていたハリィはあたしを見ると少し驚いた様子で、すぐに目をそらした。
いつもは温和な丸顔の眉間にしわを寄せ、この下宿部屋のある二階家の下の街灯の方を見た。
天候を危ぶむ漁師のような表情だった。
あたしはそれで自分が寝間着姿だったのを思い出した。
本当はそうするのも面倒だったけど、いちおう手で寝間着の前を合わせながら、あたしは彼に言った。
「今何時?あなたここで何してるの?なんであたしを起こしたの?」
「今は夜中の一時半で、俺はあんたを迎えにきたところだ」とハリィが答えた。
「こんな時間にすぐドアを開けるのは不用心だぜ、ミナ。今は急いでるからありがたいが、次からは気をつけた方がいい」
「あたしを迎えに?」
「お屋敷で火事があったんだ。あんた方家政婦の手が必要なんだから、すぐ支度してくれよ」と彼は言った。
604優しい名無しさん:2008/05/20(火) 01:55:15 ID:VhXIWa47
>>601をなんか妙に喜び、即うぷしてみました
本当は続きなんかなかったんだけど膨らませて。あと二回ほど行けそうです
明日明後日で書こう。と自分に言い聞かすテスト
605優しい名無しさん:2008/05/20(火) 03:12:37 ID:aBbhTzVs
>>603-604
続きありがとうございます>>601です
ハッピーエンドだといいなあ
書くの早いですね

>>585>>593も女の子幸せになってほしい

右手左手は自分の脳内会話に似ててちょっと混乱しました
606優しい名無しさん:2008/05/24(土) 02:30:01 ID:5RvbIOOS
age
607優しい名無しさん:2008/05/26(月) 22:27:20 ID:HJswG+1T
保守
608優しい名無しさん:2008/05/29(木) 01:03:08 ID:foSjZYoU
小便をしていると自分の脈拍に合わせて裏地の繊維が揺れている。
己の鼓動は内部からではなく空気を伝って中耳を刺激しているようにすら感ずる。

二日ぶりの鮨を受け入れた胃は、早くも忍耐という二文字を忘れかけている。
今日、逝けなかった理由は何なのか、運なのか。いざ吊らんという時に
何百馬力だかの蛙目をした車のエンジン音、親父が帰ってきたではないか。
慌てて仕掛けておいた縄を回収し、何事もなかったかのように厚さ二寸以上の本を広げていると案の定、
部屋に入ってきては飯を食えと促す。
「旨いもんでも食って酒でも飲めば元気も出るだろう。俺にはこんな難しい本は分かりやしない。」
そう捨て台詞を吐くと、母親に遣いを頼んだようだ。異国の言語で書かれているならまだしも、
読まずしてそれを拒絶するなら語る資格はないと軽侮を以って聞き流した。
言葉では僕のことを心配しているだとか、好きに言っているようだが、親父に話しかけられた直後に
調子が悪くなることにも気づいていない。アルコホルは寝酒になっても不眠症を誘発する。
精神依存を形成していたアルコホルも飲めなくなってしまった僕にまだ勧めるとは、
もはや死ねと言っているようにしか聞こえない。

かつての文豪達の自殺は主に分裂病や鬱病と関連しているようだが、概して調子の悪い時期の作品ほど
評価が高いらしい。文学の教養が無い僕に作品自体の批評はできないが、精神疾患なら専門だ。
彼らの常軌を逸した発想や表現力が芸術に映し出されたとき、皮肉にもそれは人々を魅了する。

僕の場合、調子が悪くなると贅沢な猫が飯を要求しなくなることくらいなものだ。
609優しい名無しさん:2008/05/29(木) 01:08:38 ID:foSjZYoU
>>600
バニー乙です。今回は内容がややアレですからみんなコメントしづらいのかな?
随所に現れる台詞が僕は好きですねぇ。

>>603
カタリナ・フロウ乙です。急遽続編決定wとのことなので
深入りコメントは控えさせていただきますが、素材・人物の外見的描写が好きです。

拙いコメントでごめんね。続きができたら、また読み直したいです。
610優しい名無しさん:2008/05/29(木) 01:17:53 ID:foSjZYoU
他に書き殴って捨てるところがなかったので、ここに書いてしまいました。
ゴミだと思ってください・・・。
611優しい名無しさん:2008/06/02(月) 02:12:13 ID:eND6oVrS
>>608
心のアウトラインを文章にすることの第一歩目?のように見えました。
その意味では、すでに一つの形を持っている文章だと思います。
最後の猫の比喩が良い、でもなんかもっと良くなりそうな気がする!
というか、そんな猫が出てくる物語を読みたくなりました笑

自分のことを書きなさい、ただし楽しい嘘を少しだけついて・・・と、
高橋源一郎は小説の書き方を、小学生たちに教えたそうです。
小学生に、といってもこれは簡単な話でも何でもなくて、
小説の書き方のある重要な部分を表現した、至言だなと僕は思いました。

というわけでこの次は、「楽しい嘘少しだけ」を盛り込んでみるのはどうでしょうか?

いろいろと面白いことが起こるかもしれません。
612優しい名無しさん:2008/06/02(月) 02:35:36 ID:eND6oVrS
おおIDがEND
我、世界に終わりを告げる者、最終到着者、
嘆きつつ言祝ぎの歌をうたう者、解放を見る者、
時の外に夢のないことを知る、我は汝。
我はつまり我、個々。
戸惑いつつ完成を試み、終わりを告げようと常に生き続ける、
我ら、生命というこの光ある矛盾。
ならば永遠にこの営みを続けよう、すべて終わりを告げる者たちよ。
真に終わりがもたらされるその時まで。
真に完成がもたらされるその時まで。

はい スイーツスイーツ
613優しい名無しさん:2008/06/06(金) 20:46:16 ID:l59GPX2H
あげ
614巫呪 ◆rZG/c0PO3s :2008/06/09(月) 04:52:52 ID:rojwdJeH
>>295>>413>>536

ただの依代、使い捨ての道具であったはずの巫は、いまや強大な力をもつ呪師となりました。
神殿と王宮を場に、年経た呪巫である自分自身を媒介として、貴人である兄に対して術を敷いたのでした。
兄は禅譲後2年生き、急速病み衰えて亡くなりました。
亡くなる前はすっかり老けてのどは涸れ、目が濁り、足は萎えて呪巫に車台を引かれておりました。
いいえ、周囲の者はあの小さな老人がかつて花のように美しかった巫であり、世話をしていた慈悲深い先王はいまだ健在であると申します。
しかし、私は知っているのです。巫の呪を。
貴人を呼び寄せ、虜にし、互いを入れ替える呪を、この目で見たのです。
兄は忠臣の間に葬られ、巫は兄の顔で上王宮に篭っています。
私はあの無礼な神官を還俗させ、名ばかり夫となしました。
上王宮からじわじわと洩れ拡がる呪を防ぐためです。
呪はやがて王国全土に拡がるでしょう。
私は王として、どんな手段を用いてでも食い止めるつもりです。
さよう、王の務めです。
後悔や心の呵責などは微塵もない。
たとえ私が兄から王座を奪おうと画策したことが――見目好い呪巫を用意するよう神殿に申し入れたことが、すべての元凶だったとしても。
615優しい名無しさん:2008/06/09(月) 23:19:28 ID:rojwdJeH
>>565
男王と呪的に入れ替わる巫は男
男巫に拮抗するのは女王
616優しい名無しさん:2008/06/11(水) 22:39:41 ID:Wr7zBu3g
あげ
617優しい名無しさん:2008/06/15(日) 10:15:21 ID:jUnyPxo2
あげ
618優しい名無しさん:2008/06/16(月) 01:46:05 ID:Aol0zo8Y
無題で未完の可能性大 その1

美麓は―――これが、彼女の名前だ。ミロクと読む―――17才になった年の夏あたりから、
自分の中の「考えを司る部分」が働き方を変えたと感じた。
彼女の整理によれば「考え」はそれまでの、激しさをはらんだ受動性(風に流れる旗のような)の段階を脱して、
揺れ動く万物を確実に捕らえて再構成する、静かで論理的な何物かに、
その形態をシフトしたらしかった。

深夜、眠れずに起き出して、暗い廊下に立つ自分の姿が鏡に映るのを見たとき、
ロボットみたいに、眼が光ってないかな?
と、自分にふざけかけるように彼女は思った。
その想像の中で、彼女の眼が光る様子はこんな風だった。左の眼の、瞳から外れて眼の端に近いあたりの一点が、
高層ビルの頂点に光る赤い光のように、定期的に瞬くのだ。
それはアンドロイド・ミロクがいつでもクールに正確に動作していることの証しだった。

この想像をばかばかしさごと気に入った美麓は、思わず一人、夜の闇の中で笑いを含んだ。
彼女の白い頬には、笑うとえくぼが、片方の頬に一つずつできる。


その頃、高校の同じクラスに転入してきた生徒がいた。
美麓は、彼女の新しい思考システムのためのちょうど良い実験台が現れたと思った。
彼女はこの転入生の動向を予測し観察し、
新しい環境に放り込まれた不確定要素が、どのような運命をたどって集団の中に定位を占めるようになるのか、
その実態をリアルタイムに見届けることにした。
彼女の見込みによれば、それは世界の成り立ち―――少なくとも、世界の一部である現代日本社会の成り立ち―――を、
彼女なりに解き明かす、その第一歩の研究になるはずだった。
夏休みの宿題に提出してやっても良いくらいだ、と彼女は思った。
619優しい名無しさん:2008/06/17(火) 06:40:41 ID:bDhPOkY6
転校生についてもっと知りたい
だって、主人公しか詳しく描写されてないんだもん
620優しい名無しさん:2008/06/21(土) 18:15:47 ID:iY3GGhXa
age
621優しい名無しさん:2008/06/24(火) 16:12:09 ID:N3CouQPb
age
622優しい名無しさん:2008/06/24(火) 20:44:51 ID:JiklcJXp
かなりの少額だけど文章でお金をもらえるようになったのでこのスレへの投下やめます
セミプロの卵だけど頑張るぞー・・・自分を追い込みすぎない程度に・・・
623優しい名無しさん:2008/06/25(水) 20:13:30 ID:vanjIFjT
>>622
おお!
がんばれぃ!
624 ◆BUgcyz8TzY :2008/06/28(土) 01:52:24 ID:/YqHgJqA
>>565
自分が唯一好きになれた場所に咲いている桜の詩です。
アル中だった頃の事を思い出して書きました。
感想、ありがとうございます。
625こまつな ◆DIETsuPOSY :2008/06/28(土) 01:53:18 ID:aBa44b/w
>>622
すごいね!おめでとう!!
626優しい名無しさん:2008/07/04(金) 00:29:53 ID:oIqD5V+E
age
627優しい名無しさん:2008/07/06(日) 22:27:18 ID:cafdODSZ
age
628優しい名無しさん:2008/07/09(水) 23:03:02 ID:DHcA69iN
小説ではないのだけれど、昔、とあるBBSに誰かが晒した短歌。
すごく良いなあと思って記憶しておいたはずが、半年くらい前に、
思い出せなくなっていることに気づいた。

今日、サリンジャー「シーモア ―序章―」の、日本の詩歌に関する記述を読んでいたら
思い出せそうな気がしてきて、一時間くらい掛けて下の句から思い出した。
思い出してみたら、あれこんなだったっけ?と、印象に比べて何でもない歌にも思えたんだけど・・・
でもやっぱりきれいな歌だった。

というわけで、小説ではなく短歌、しかも作者は僕ではありません。
でもここに紹介します。要は記念カキコです。

咲きしより 散り果つるまで見しほどの
花の下にて 二十日へりけり
629優しい名無しさん:2008/07/14(月) 00:11:15 ID:AgV/z4TS
age
630優しい名無しさん:2008/07/17(木) 00:03:20 ID:gAnKzDuR
萌えないエロ小説みたいになってしまう
631優しい名無しさん:2008/07/18(金) 01:21:05 ID:Jo36R30W
萌えないエロ小説

俺はコウのペニスに触れた。
静かな器官は、触れていると静かなまま勃起していった。
コウはうつむいている。自分のへその辺りを見ているようだった。
耳の後ろに赤みが差している。コウの吐息が聞こえる。
俺は、何を考えるべきだろうか?
何を見るべきか。コウは、興奮しているのか?
考えがまとまる前に身体が動いていた。俺は身をかがめ、コウの首筋に唇を当てた。コウが身をよじらせた。
俺よりも小柄なコウの身体を正面から抱きすくめる格好になる。
ペニスに触れた手で、今度はそれを包み、強く動かす。
俺は何を見ている。コウの目だった。潤んで、何も見ていない目だ。
コウが何か囁いたが聞こえなかった。ペニスの先端が濡れてきたのが分かった。
632優しい名無しさん:2008/07/18(金) 23:14:55 ID:HD20jfB5
>>631
萌えますた
633優しい名無しさん:2008/07/20(日) 21:14:43 ID:LsTlLGJk
age
634優しい名無しさん:2008/07/22(火) 04:36:31 ID:3fXMqRpk
>>631
あ゛ああ゛あ゛ー
なんか切なくて萌え
635優しい名無しさん:2008/07/25(金) 02:41:05 ID:iwAJiSlD
キスについて

彼にとって久しぶりに恋人と呼べる女が現れた。
人気のない公園のベンチに初めて二人きりでいる今、
彼は過去に女たちと交わしてきたキスについて思いをめぐらせている。

新しい恋人との初めてのキスをいかに上手く運ぶか、その判断の材料として過去の記憶を呼び起こすのだが、
そもそも、キスに備えて、それを「上手く運ぶ」ために、
こんな考えをめぐらせること自体、何か根本的に間違っているのではないか。そんな気もする。

初めてのキスは気持ちが高まったときに、その自然な気持ちから身体が動くまま、失礼のないように・・・
しかし失礼とはなんだろうか。口中を清潔に、とかそういうこと?
みんな、こんなことをいちいち考えながらキスをするわけではあるまい。
彼は恋愛沙汰から距離を置いていた過去数年間の空白を思った。
新しい恋人の大事過ぎて怖いような肉体が、その空白の向こうにあった。花のように浮かぶ白い唇もそこに含まれている。
空白はあまりに大きく見えた。これを越えていくのか?

待て、たかがキスだろ。彼は内心の動揺を必死に打ち消そうとしている。
十代の小僧でもないのに、もう少しで彼女から逃げ出しそうではないか。
しかしすでに彼と彼女の間には、開演ベルが鳴るような「その瞬間」が発現し、
今彼女は彼の腕の中にいる。抱く者と抱かれる者の顔が、互いに非常に近い位置にある。

彼女は「キスをする顔」を思い描き、息を軽く止め目を閉じた。

「キスをする顔」とは、さまざまな印象の集合による概念存在で、
例えるなら、ある種の部族が崇める原始的な神々の像に似ている。
それは子供の頃好きだったマンガに出てきたキスや、大人になってから観たテレビドラマのキス、
あるいは小説で文章からイメージを得たキス、それら各種キスにおけるヒロインの表情を、
頭の中で無意識に統合し、最適化したものだった。

彼女はこの「キスをする顔」のイメージをロザリオのようにかき抱き、目を閉じる。
彼女にとってはそれで準備完了で、他に思い患うことは何もなかった。
それは確かに祈りに似ていた。かみさま、このまごころをささげます。
かれと、うまくいきたいとおもっています。アーメン。

どきどきしています。かれのうでのなかに、わたしのからだがぜんぶつつまれてしまいました。
かれの喉仏が、わたしの目のまえにあります。
わたしが顔をあげれば、かれの唇とわたしの唇が、しぜんに触れ合ってしまうほど
わたしたちは近い距離にいるのです。
唇でかれを感じたい。でも、私たちは上手くいくでしょうか?
どうかこの想いが、ずっと続きますように。
636優しい名無しさん:2008/07/27(日) 14:24:01 ID:bab0d0MO
>>635
すごい
久しぶりに面白いものを読ませていただいたよ

たかがキス、されどキス
唇が重なりあう瞬間をそれの意味あるもの以上に引き伸ばした描写力に脱帽しました
637優しい名無しさん:2008/07/27(日) 16:57:56 ID:zhGq7AmJ
age
638優しい名無しさん:2008/08/01(金) 14:59:24 ID:bt4M5y4s
>>639
不覚にも勃起した
639優しい名無しさん:2008/08/04(月) 21:08:30 ID:wkV8Qfyq
>635に影響されてキスについて書いてみた

「ねえ…ほんとにするの?」
「だめ、かな?」
 夕暮れの校舎内。窓から差し込む赤の光。人気の無い赤い教室。
 奇妙に現実感を喪失したその場所に、二人の人間がいる。
 一人は少女だ。肩までのセミロング。光を反射する艶やかな黒髪。着ている服はセーラー服だ。靴下を覗けば全身黒色。その中で、夕陽のそれよりなお赤いスカーフが風に踊っている。やはり黒の瞳は、今は憂い気に伏せられている。
 もう一人は少年だ。髪は短髪。少女よりも頭一つ背が高い。着ているのは学生服だ。少女とは対照的に、その瞳は少女の姿を真っ直ぐに捉えている。
「だめ、かな?」
 少年がもう一度言葉を紡ぐ。少女を見据え、言う。
「だめっていうわけじゃ、ないけど…」
 少女は恥ずかしさに目線を逸らす。その頬が赤いのは何も夕陽のせいだけではない。
 少年の言葉が、少女の胸に染み込む。答えてあげたいな。それが少女の気持ちだ。
 でも、言葉は気持ちを裏切って自動的に排出される。
「わたし、はじめてだし…」
「僕もだよ」
 だからじゃないか。少年はそう続ける。少女は思う。確かにそうだと。お互いに初めてだから意味があるのだ。今、この場所でするからこそ意味があるのだ。
 少女は。
 少女は覚悟を決める。少年の気持ちに答えようと思う。だから言う。
「そ、それじゃ…目、つむってて」
「うん」
 少年は瞼を閉ざす。無防備に、少女の言葉を疑う様子もなく。
 それを見て、少女は思う。嬉しいなと。喜びが胸に溢れる。彼はわたしのことを信じてくれる。だから。だからそれに答えないと。答えないといけないと。
「はっ…」
 少女は顔を近づける。愛しい人の顔へと。
 視界一面に広がる顔。長い睫。高い鼻。夕陽の光が顔に陰影を形作る。その顔を見ながら、少女は更に顔を近づける。
「ん……」
 唇が。
 唇が重なる。一つになる。
 温かいな、と少女は思う。彼の体温が伝わってくる。初めてのキスはレモン味だという。わたしの場合はどうなのだろう。
 そんなとりとめもない思考が一瞬で頭を巡り、消える。伝わってくる熱が頭を溶かす。意識が一点に集約される。
「んぅ…」
 少女の意識はただ、唇にだけある。他の感覚は最早ない。それがすべてだ。少女のすべてだ。
 熱に浮かされた思考で少女はぼんやりと思う。
 ああ、キスってこんなに気持ち良かったんだ、と。
 二人は互いの背に腕を回し、抱き合う。唇が更に深くつながる。それを見咎めるものはいない。今この場所には二人しか居ない。
 二人は抱き合う。身動き一つせず、唇を重ねつづける。
 赤い夕陽に照らされて出来る二つの影は、今やただ一つとなっていた。
640優しい名無しさん:2008/08/04(月) 22:42:12 ID:N9DA/A/m
age
641優しい名無しさん:2008/08/07(木) 00:19:14 ID:qV0PPRAm
>>639
改行のタイミングが変わってて良いと思ったよ
つまりリズムが良いのかな?よくわからないけど。
少女は。
って部分とか。

ただすごく超個人的な好みを以下書かせていただいて申し訳ないんだけど、
恋愛対象に向かって、何か性愛行為を求めるときの男が、
「だめかな?」とかそれに類することを言うのが
俺まったくもって受けつけない、嫌なものだと思ってしまう。
これは639の出来とは全然関係ない、好みの問題だけど。なんか。
それのせいで冒頭からうまく入って行けなかったよゴメソ
642優しい名無しさん:2008/08/08(金) 21:08:29 ID:rW7DNkVd
『説教部屋』
 トイレの個室、男は仁王立ちで便器を見下ろしていた。そこにある、自らが産
み落としたそれは、磨き上げられた白い陶器の中でただひとつの異質な存在であ
った。男が舌打ちと共にはき捨てるように言った。
「貴様のような汚れた物質が体内にいたおかげで、俺は仕事でミスをしてしまっ
た。覚悟しろよ、この野郎!」
 バシッ!手のひらに、もう片方の拳を叩きつけて怖い音をたてる。
「祈る神はいるか!?10秒だけ、待ってやる!」
 男の手が非情にも流水レバーに伸びる。その時、隣の個室の壁から、コンコン、
とこちら側にノックする音が聞こえた。
「やめたまえ、うんこに罪はない」
 隣の個室から、落ち着いた男性の声がした。すると、逆側の個室からも、
「そうだ、仕事のミスをうんこのせいにするなんて、大人げないぞ」
 いさめる言葉が、男に届く。
 男は苦々しい顔で左右の壁を交互に睨みつけた。
「偽善者どもめ!お前らはいつでもそうやって、誰が悪いのか曖昧にする
んだ!親のせい社会のせい太陽のせいって!俺が知りたいのは、原因と結
果なんだよ!」
「では、その物質の原因は、いったい何だね?」
 最初の、落ちつた声の主が再び問いかけた。
「それは、君が食したものの結果なのではないかね」
「だから何だっていうんだ!じゃあ、ナポリタンが悪いのか!?イタリア人
が俺の仕事を邪魔したっていうのか!?・・・ゆるさねえっ!」
 男は、右手にありったけの力を込めた。
「アリーヴェデルチッ!」
 水が激しく流れた!渦が、男の過ちを飲み込んでいく。
 もう、だれも声を出すものはいなかった。流れる水の音だけが、沈黙の
上に響いていく。
(海に出れば、いつかお前の生まれ故郷にだって、たどり着けるかも知れ
ないぜ・・・だから、あばよ)
 心の中でつぶやいて、男は個室を後にした。
                        おわり
643優しい名無しさん:2008/08/10(日) 01:09:51 ID:fZlCB0YZ
>>642
特徴のない文章よりは良いんだろうけど
内容がくだらな過ぎる
アリーヴェデルチッ
644優しい名無しさん:2008/08/10(日) 18:30:01 ID:kMPDccBv
先生!叩かれるのが怖くてぅpできません
自分、文芸板でしこまた叩かれましたから‥
645優しい名無しさん:2008/08/12(火) 03:31:36 ID:OIlbL9yV
age
646優しい名無しさん:2008/08/12(火) 05:23:36 ID:+GoUt2Zn
「世界の終わりとオレヒトリダケ・ワンダーランド」

何ヶ月経ったろう。この立派な住みかを持って。数メートルの屋根の下、ヒゲ面がつぶやく。
背後には延々長い棚が並ぶ、その隣にも、その隣にも。人の気配は、、、ない。
棚には一様に大きな袋が置かれている。
その中の一つ、破けて中から何か白い物が零れ落ちたそば、男は寝そべっている。
男は腰を上げ、またそれを貪った。それにしてもただで飯にありつけるとは、こんな片田舎に天国もあったもんだ。

ある日、男が忍び込んだのは米の災害対応貯蓄所だった。そこは米で溢れていた。
おまけに蛇口までしっかりとあって、人はめったに来なかった。
硬い米も、一日の呼吸のエネルギーをまかなうには十分であった。
以来男は毎日を米のベッドの上で過ごした。チンピラの暴行も、住民の蔑視も、もうなかった。
ホームレスだった男はやっと安住の地を手にした。

久し振りに人の顔がみたい。ふと男にそんな衝動が湧いた。男は腰を上げた。そして出口へと歩いた。
足下では米がしゃりしゃりと鳴る。内鍵だ。ドアは直ぐに開いた。

太陽が目を刺す。外の世界はこんなものだったろうか。しばらく、男はあてもなく彷徨った。
片田舎の小さな町だ。あの夏を過ごした広場、あの冬を絶えた公園。

、、、しかし奇妙だった。どこにも人間がいなかった、、、偶然、、、にしてはおかしい、、、
男はしばらく手当たりしだいに街を歩いた。

だが、、、いない、、、
男は民家も当たった。インターホンを連打する。
もし今、人が出て来れば、まず警察行きだろう。この風貌だ。

、、、いない、、、やっぱりいない、、、
男は確かに町にただ一人だった。

、、、一人、、、
不思議だった。数ヶ月前ホームレスだった人間が何の偶然か米貯蓄所の主に。
そして今は世界、いや少なくとも町の主に。
何故かなんて、知らない。どうでもいい。

残飯を漁った日々、糞餓鬼に絡まれた日々、糞尿にまみれた日々、、、嫌な記憶が甦る。
男は自分の中で何かが弾けて行くのを感じた。
止めるものは、、、もう、、、ない、、、
「、、、オレは、、、オレは、、、王ダvsdァーくぁzwsぇdcrfvbyふじこbf」
男は空っぽの町に向けて叫んでいた。
人の顔が見たい、、、もはやどうしてそんな事を考えたのか、、、もうどうでもよかった、、、
「真っ白に、、、、燃え尽きろ、、sssssだffうはwww真っ白にしてややるrrrwさsssおk」

その日男は、日暮れまで米を町にばら撒いた。

意味は分からなかった。
でもそれはきっと彼なりの反抗だった。
搾取されて来た世界を、米という栄養源をばら撒く事で、真っ白に染め上げる、、、
自分は王なのである、、、、、、、
痛快だった、、、、、、、、、、、、、、、、



「木某町、団体様ご一行」と名札のついたバスが相次いで町に帰還したのは、翌朝の事だった。
彼らが真っ先に目にしたもの。
それは米がばら撒かれた町と、道路の真ん中にいびきをかいて寝る一人のヒゲ面だった。

こうして男の小さな革命は"キチガイ"の名を冠して、一枚のキレイな警察書類となったのだった。
647優しい名無しさん:2008/08/14(木) 02:59:06 ID:dBGZy+7b
うおーすげえ緊張。次、俺ら?何これ。ヤバいヤバい。
ちょっとさ、もう一回だけネタ合わせねーか?
いいよもう。ここまで来てじたばたしてもしょーがねーだろ。
そうか・・・
あーウンナンいるよ。すげえ。本物だ。
ちょあんま、顔出すなよ。見切れたらまずいだろ。
大丈夫だって、ちゃんと避けてるから。
大丈夫じゃねえし。水鉄砲かよ。カメラに映るのってほぼ光速ですから。避けられませんから。
あのさ、今日は敬語で突っ込むの無しな。
分かってるよ。
テンポ落ちるからさ、なんとなく・・・お前気に入ってるの知ってるが。今日は無しで。
ああ・・・

おし。そろそろか。
あのさ、ちょっとマジな話良いか?
なに?
俺、お前のこと好きだ。
は?
あの、LIKEじゃなくてLOVE。愛してる。これ、告白。
・・・何言ってんのお前?
気にしないでくれ。・・・ごめん。じゃ行くか。
行けるかよ!気にしないでじゃねーよ。無理だろ。何言ってんの?
お前のこと、好きだ。
だからやめろよ。ネタ?それアドリブで入れるってこと?
いや、マジなんだ。
ちょ・・・なにじっと見てんだよ。
俺、前からずっとお前のこと想ってた。
なんだよ、あんま近寄るなよ。
ずっと言い出せなくて、でも今言わないと絶対後悔すると思って・・・
なんで今なんだよ!今、最悪なタイミングだろ!どうすんだよこの、感情。何この空気。
いや、俺たちの晴れの舞台を前に、俺の本当の気持ちをさ。言っておきたかったんだな。
「だな」じゃねー。だめだ。これだめ。漫才なんてできねー俺。欠席。体調不良で欠席。
欠席って、そんなことできるわけないだろ。
うるさいよ。冷静に突っ込める立場か。お前に発言権ない。本当、どうしてくれんの?これ?
そんなこと言われても、しようがないじゃん。やるしかないだろ。
いや無理。俺絶対無理。
やろうって、ほら。もう呼ばれるって。
最悪。あー最悪、俺。
あ・・・出番。呼んでる。

幕が上がって現れたのは、シルクハットにタキシードといった出で立ちの、昔ながらのヴォードビリアン。
彼は見事なパントマイムとタップの後に、孤独な浮浪者や笑い上戸の派遣社員が登場する、痛快無比な漫談を披露して、
五分間の持ち時間を全うすると、ひときわ盛大な拍手を浴びながら退場した。

観客はその鮮烈さの乏しい芸に物足りなさを少し感じながらも、「たまにはこういうのも良いな」と、
いつも車で通り過ぎるだけの街を天気の良い午後に歩いてみるような、いわば見過ごしてきた幸福を新たに発見するといった、そんな心地良さを、
存分に堪能したのに違いない。
648優しい名無しさん:2008/08/14(木) 22:28:22 ID:n9b0gAMC
age
649優しい名無しさん:2008/08/15(金) 13:40:27 ID:iYBoZGPJ
>>646
どうしてもタイトルで村上春樹のアレを思い出させるけど面白かった
突然手にした権力と存在理由、なのに無意味なことを悟るとそれを遺棄せんとする無為な反抗
フジョーリだね
650優しい名無しさん:2008/08/15(金) 19:46:09 ID:CQH2YZkx
「アノ箱舟」

昔々のことである。ある日、ある星のある村に、それはあらわれた。

その日も村一番の働き者は、まだ日のない畑に誰よりも早くにやって来た。
いつもの草木、まだ眠っている鳥たち。いつもの世界、、、である、、、、、、
、、、、、、が、一つ明らかな異物がそこにあった。
それは気付くというには余りに明瞭で、驚くというには余りに堂々としてあった。
小山ほどの大きさのそれは、銀白色で、そして整った流線形していた。

まもなく村中の者が集まった。槍を手にした若い者に、杖を持った老いた者。さらにその後ろを女たちが囲んだ。
しかしそれは、動かなかった。びくりとも、ひくりとも、ぴくりともしなかった。

ぴんっと張った時がしばらく流れたとき、山の向こうに朝日が現れた。朝日はそれを照らして、そしてそれは影を創った。

「アノ箱舟は神様のものに違いない。」
誰かが呟いた。
「そうよ、私は光を帯びた何物かがあそこからちょこっと顔を出すのを見たわ」
また誰かが言った。
「そういえば俺もだ。幻を見たのかと思ってたけど、やっぱりそうだったか」
「そうだ、神様だ、やっぱり神様のものに違いない」

次の日から村の人々には新しい日課が加わった。それはすなわちアノ箱舟に向かい、そして祈ることだ。
偶然か、必然か、以来村は豊穣を極めるようになった。人々はそれまで以上にアノ箱舟に向かい、そして祈るようになった。

時は流れる。かつての村は町になっていた。町の中心はもちろん、アノ箱舟である。
その頃、町で一つの論争が起きていた。
人はどうあるべきか。祈りは、いかにあるべきか。
「目を閉じるべきだ」と言う者たちがいた。いや、「お辞儀をすべきだ」とまたある者たちは言った。
また別に、「平伏すべきだ」と言う者たちもいた。「くだらない」と言い、笑う者たちもいた。
決着はもちろんみなかった、、、

時はさらに流れる。かつての町はついに国となった。国の中心はもちろん、アノ箱舟である。
国はすさまじく強かった。どこにも負けない信仰があった。やがて星は統一され、人は空へ出た。

あの論争が再燃したのはちょうどその頃だった。
目を閉じる人々は、お辞儀する人々を不敬であると言った。お辞儀する人々は、平伏す人々を不潔であると言った。
くだらないと言い、笑う者たちも相変わらずいた。

やがて論争は紛争に変わった。
目を閉じる人々は平和のために武器を持った。お辞儀する人々もこれは定め、と言い武器を持った。
平伏する人々は神軍を名乗って武器を持った。笑う人々は、やはり笑っていた。
紛争は永く続いた、、、

が、一つの爆発で全ては終わった。アノ箱舟の辺りで、原因はよく分からなかった。
世界は壊れた。

、、、、、人々がビックバン呼んだ、以前。まだ客体と主体がなかった頃の、たった一つのものの世界。
右も左も上も下も、色もない世界、、、
、、、、、、、、、、、、アノ箱舟が浮かんでる、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、今、からっぽのアノ箱舟の戸が静かに開いた。
651優しい名無しさん:2008/08/15(金) 23:10:35 ID:iYBoZGPJ
>>647>>650も同じひとかな?
その上の世界の終わり〜も。

久しぶりに面白いものを読ませていただきました。
茶化した文章がうまいね。
ぜひ他の作品もあれば読みたいな。
652647,650:2008/08/15(金) 23:52:21 ID:CQH2YZkx
>>651
なんという、、、うれしいレスだ、これは、、、ありがとう。
アイデアはまだあるから、またこのスレに書きます、近いうちに。
ニヒルなのをね。
653優しい名無しさん:2008/08/16(土) 00:17:14 ID:Oc5pwouC
647ですが他のやつとは別です。
といふことを断じて主張しておきたくなった。意味ないのにね。
正直、一緒にされたくない感が。

というわけで、マターリできない漏れはこのスレ卒業ーアディオス
654646,650:2008/08/16(土) 00:28:39 ID:k395icP7
>>653
すいません、そですね。間違えてました。
646,650でした。申し訳ない。
655優しい名無しさん:2008/08/16(土) 00:31:59 ID:Oc5pwouC
>>654
ドンマイ
656優しい名無しさん:2008/08/17(日) 00:59:25 ID:l03M3+q4
スレの流れ的にはわからんが良作が続いて嬉しいぞい
応援あげ
657azu ◆hNz8e/hJI2 :2008/08/21(木) 19:31:23 ID:vp7gUnDf
jaあ
お題ください
658優しい名無しさん:2008/08/22(金) 02:44:18 ID:1Na9Z1jk
>>657
生まれ変わり なんてどう
659優しい名無しさん:2008/08/22(金) 13:19:57 ID:FEE3urln
「生まれ変わり」に一票
660優しい名無しさん:2008/08/27(水) 11:05:36 ID:xptwsfwh
何度でも〜何度でも〜僕は生まれ変わっていけ〜る♪
661優しい名無しさん:2008/08/27(水) 11:08:54 ID:yIJGAt1x
今日は8月10日木曜日 携帯からとりあえず把握してみる
662優しい名無しさん:2008/08/27(水) 21:12:59 ID:2N8P05r1
―――「生まれましたよ!」
ままは床(とこ)の上でほっとnoarを飲んだ。
れんげが、春日にやさしく萌えたひだった。

―――「変わってしまったな・・・」
わたしは床(とこ)の上で乾いた皮膚を見た。
りんごが、ひっそりgに負けたときだった。
663優しい名無しさん:2008/08/28(木) 01:29:20 ID:IcMGJkV1
↓よくわかる解説
664優しい名無しさん:2008/08/29(金) 23:40:57 ID:EYdxruHD
解説じゃなくてごめんよ
お題は「生まれ変わり」で
……どうにもマイナス思考だなあ

 クスリを飲んだ。いつもと同じクスリを、いつもと違う分量で。
 酒を飲む。酒で飲む。
 数十分という時間。音楽を掛けて楽しむ。すでに必要なことはしてある。後は楽しむだけだ。それで終わり。それが終わり。
 ヘッドホンから流れる音楽。耳に響くボーカル曲。心を揺さぶる音の羅列。
 それが。
 それが歪む。曲が歪む。高低のリズムが崩れる。引き伸ばされ、短縮され、音がひび割れ、あるいは甘美な音へと変わる。
 立ち上がる。ぐらりと回転する視界。足がもつれて床に倒れる。
「ははっ」
 頭を打ち付ける。痛くはない。痛みはない。ただ倒れたのだという現状の理解だけがある。
 視界は様々な色で彩られている。何かもかもがぼんやりとした輪郭。色の集合。混じり合って戻らない。戻れない。戻れない自分の体。戻れない自分の精神。
「あはははははっ」
 多幸感。してやったのだ、という確信。そうなるのだという理解。何もかもが上手くいく感覚。
 曲が遠くに聞こえる。自分の声が遠くなる。酩酊する意識。ぐるぐると回る部屋の風景。それとも回っているのは自分なのか。
 すべてが曖昧になっていく。境界が朧になる。現実と夢の境界が。此方と彼方の境界が。
 そうか、と思う。これが終わりか。これで終わりか。
 もはやろくに使えない思考で考える。
 悔いはない。これが終わりなのだから悪くはない。
 ふと思う。これが終わりで、もし新しい始まりなのならば。
 次は、思考を持たない存在になりたいな、と。そうすれば悩むこともないのだから。
 意識が、途切れた。

 同時期、とある病院。
「はいっ、もう少しですからね、頑張って下さい」
 看護師が声をかける。女性が力む。数秒という時を経て、それが生まれ落ちる。
「産まれましたよ!」
 看護師が赤ん坊を抱く。体を拭き、呼吸をさせて産声を上げさせる。
「はいっ、どうぞ」
 赤ん坊が女性に手渡される。女性が自らの子供を抱く。嬉しそうに。
 そこには。
 そこには笑顔がある。
 分娩室には喜びが満ちている。それ以外にはない。
 喜びだけが、そこにはあった。
665 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/01(月) 23:41:43 ID:LkjDvkqN
>>664
マイナス思考かなあ?良いと思ったよ
文体がいいね。「同時期、とある病院」っていうのがちょっと唐突に思ったんだけど
もっと研ぎ澄まされたら、もっとかっこいい文体になりそう。
666優しい名無しさん:2008/09/02(火) 18:51:52 ID:qvWKeTys
>>665
ありがとう。すごく嬉しいです
次は文体だけではなく中身もしっかりしたものにしようと思います。

次は長めのでも書いてみようかな…

667 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/03(水) 00:20:34 ID:Eu3vbdEO
>>666
長いのがお好きとは、これはこれは・・・ ククク
文体だけじゃなくて内容も良いと思うですよ
生まれ変わりというと歌舞伎的な、ドラクエ1〜3的な
因縁の物語をどうやって語ろう?って方向になりがちと思うんだけど、
そうじゃなくて、描写の積み重ねで何らかのつながりを感じさせる、
っていうのが成功かと。
(もちろん因縁の物語だって良いものだけどね)
それをやるにあたって、文体がたぶん貢献してる。
描写なんだけどテンションが自然に上がっていくような感じ。

ウィリアム・ギブソンっていう、SFの方で素晴らしい文体の発明をした小説家がいるけど、
もしかして666は好きなのかな?
それかヘミングウェイ。武器よさらばの。
668優しい名無しさん:2008/09/03(水) 01:53:13 ID:5A/k9gSX
>>667
僕としては、664のやつは小説というよりむしろ詩に近いものだと思っています(文体も含めて)。
小説の醍醐味は、やっぱり盛り上げた物語が収束するその感覚にあると思ってるので。
次はそういうのをやれたらいいな、と。

残念ながら、僕はウィリアム・ギブソンもヘミングウェイも読んだことがありません。
不勉強ですね、すいません。
今度時間があったら読んでみようかと思います。
669優しい名無しさん:2008/09/03(水) 03:00:28 ID:Eu3vbdEO
>>668
小説の醍醐味の件、確かに物語の快楽は何ものにも代え難いですね
長めのもの、ぜひ頑張って!
ギブスンだののことは別に気にしないでくだされ
そんなこともあったなー程度の扱いでお願いします
670優しい名無しさん:2008/09/04(木) 19:26:32 ID:W1k4Oqs0
あれ、書き込めない?
671優しい名無しさん:2008/09/04(木) 19:29:46 ID:W1k4Oqs0
書き込めた。失礼しました。長いといいながら長くない話。

 階段を登っていく。夜の学校は不気味だ。
 静謐。沈黙が耳に痛い。反響する足音。気配。背後に誰かがいるような。
 それでも進む。僕は進む。先へと。そのために。
    *
「ねえ、君は生きてるのかな?」
 放課後、そんなことを突然いわれた。
「勿論だよ」僕は返す。
「本当に?」彼女が問う。
「本当だとも」僕はいう。「だっていま、現に会話しているじゃないか」
「そうだね」彼女がいう。「でも幻覚とも会話はできるよ」抉る。
「会話は生きていることの証じゃないよ」
    *
 二階を超えて三階へと到達する。教室。その群れが目に入る。
 暗闇。先は見えない。ふと気が向いた。方向転換。教室へと。
 いつもの教室。違う教室。並ぶ机。教壇から見る風景。対象性。七と六を掛けた数。
 完璧なはずの対称性。完璧だったはずの対象性。いまは違う。欠けている。崩壊した対象性。崩壊した僕の精神。バランスを失った僕の心。取り戻す。一際強く決意した。
    *
「じゃあ何だよ」問い返す。「それはね」一拍。
「それは、そこに自分がいるかどうかだよ」
「自分?」繰り返す。「そこ?」何をいっているんだ。この人は。
「自分というのは意識だよ。脳味噌が記憶しつくる反応の集合体」謳うようにして告げる。
「そこというのは?」「あらゆる場所。此方も彼方も超越したあらゆる場所だよ」
「つまり」僕はいう。「そこで、自分が自分を支配しているということかい?」
    *
 教室を出て階段を登って行く。四階。思い出す。
 あの、先輩…。小さな声。掠れた声。小さな体。部活の後輩。ええっと…。下を向く。頬が赤い。恥ずかしそうなその様子。あ、あのっ…!
 声。それが途中で中断する。どうしたの? 声。美有の声。それを見て彼女がいう。し、失礼しましたっ…! 翻る体。踊る制服。呆気にとられる僕を置いて行く彼女。
 一体あれは何だったのか。わかっているけどもわからない。
 階段を登って行く。階段を登って行く。階段を登って行く。そして踏む、最後の一段。
    *
672優しい名無しさん:2008/09/04(木) 19:32:23 ID:W1k4Oqs0
「正解」にこりと彼女が微笑む。
「状況は流れるよね」唐突。「そうだね。僕らのことは無視してね」追いすがる。
「人は残酷だよね」唐突。「まったくだ」追いすがる。
「君は優しいよね」唐突。「そうかな」追いすがる。
「だから」彼女が告げる。
「だから、君は生きていないんだよ」衝撃。足下が崩れる感覚。
 追憶。記憶の再生。
 ねえ、と誰かがいった。
 助けて。誰かがいった。ここから助けて。叫び声。慟哭。叫ぶ。ねえ。お願いだから。声。声。聞こえる。見る。瞳が。濡れた瞳が。僕を見る。ねえ。声。助けて。叫び声。此処から。
 良心。理性。感情。自分が。僕は。選択肢。選ぶ道。一方通行。
 僕は。
 僕は。
 僕は、どうして。
「それじゃあ、いいたいことはそれだけだから」
 彼女が背を向ける。その姿を僕は見送る。見送ることしか、出来なかった。
    *
 開ける視界。開いている扉。夜空に浮かぶ月。眩しいほどの月。冷たく光を反射するコンクリート。鉄柵。その場所に彼女はいる。
 後ろ姿。風が吹いてたなびく制服。その資格を剥奪された服。
「ここに、来たんだね」「ああ」一拍。「だって、それが必要だから」
「誰のために?」息を吸う。「僕のために、彼女のために」後輩。
 僕は告げる。「そして、君のために」
「――変わらないね、君は」彼女がいう。「ずっと私のことを見てくれてる」
「当然だよ」溜息。「でも、嬉しい」笑顔。「こうして来てくれて、嬉しい」
「そうかい」僕は頷く。一息。「時間だよ」告げる。「そうだね」彼女が頷く。
 僕は近づく。ポケットに忍ばせたそれを取り出す。「ねえ」彼女が問う。
「私は生きているのかな?」いつかの問い。立場の逆転。
「勿論だよ」僕は頷く。「君も僕も」深く頷く。
「ありがとう」彼女が微笑む。「あなたのことを、愛してる。ずっとずっと愛してる。どこまでも」キス。柔らかい感触。離れる。唾液の糸が切れた。
「さようなら」彼女が告げる。「さようなら」僕も告げる。
「さようなら、美有」僕は、ナイフで彼女の喉を切り裂いた。
673優しい名無しさん:2008/09/04(木) 23:45:06 ID:W1k4Oqs0
訂正
○対称性
×対象性
674894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/05(金) 20:15:01 ID:mrBFxTo8
>>671-673
力作!と思いましたよ
そこはかとなく漂う緊張感とか不安みたいなものが良いですね
体言止めの多用と、可読性はちょっと気になりました。
俺自身は内容を、ちゃんとは理解できてないと思います・・ゴメソ
三角関係のことなのかな?
乙です!
675送り火(0/4) すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 02:03:47 ID:UTwIaECF BE:756801656-2BP(35)
テーマ:盆
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/mental/1175511332/
タイトル:送り火
676送り火(1/4) すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 02:04:36 ID:UTwIaECF BE:454080863-2BP(35)
 四辻に立つ電灯が青い稲田を足元だけ丸く切り取って浮かび上がらせていた。
小さな黄色い光は遠く神社まで続く道を照らすほどに強くない。不躾にチカチカと
またたくパチンコ店の明かりは夜中になっても消えることなく、家々の窓から光が
漏れているが、田舎のこの侘しさはどうしたことだろう。
 由宇子は実家に戻るたびに夜の暗さを不思議に思う。向こうではどんなに都心
から離れていもこれほど暗く感じたことがない。
 大気は湿気て暑かったが、夜ともなれば風も涼しく心地よかった。由宇子は昼の
間に掃き清めた玄関に防火用の水の入ったバケツを運んだ。それから乾いた
苧殻(おがら)を重ねてマッチを擦った。
677送り火(2/4) すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 02:05:25 ID:UTwIaECF BE:908161294-2BP(35)
 由宇子が実家に帰ってきたのは昨日の遅くのことで、それから今日一日は
盆の準備をしていた。仏壇を清めて菊花を飾り、母の写真にいつの間にか
うっすらと付いた埃を払う。
 その写真は姉の披露宴の最後に撮られたもので、笑みを浮かべているけれど、
泣きそうだったのを知っている。なので由宇子はその写真を見ると母が笑って
いるのか泣いているのか確かめようとしてしまう。見るたびに母の表情は変わり、
不甲斐ない自分を怒ったり泣いたりしているかに見えて由宇子は不安に駆られる。
 遺影は墓よりも位牌よりも故人を感じられて、それが一年経った頃に色褪せ始め、
そして今は埃が付いていることを奇妙に思う。何とはなしにこの遺影には埃など
付かないと思い込んでいたからだ。
 母が死んでから由宇子はいつの間にか一つの現実から抜け出て、別の現実に
入ってしまっていた。死後もう何年も経つのに由宇子はいまだその中にいる。
もしかすると母が病室にいたときからすでに由宇子の世界は変わり始めていた
かもしれない。迷信深い土地に育ち、思春期を過ぎても長く母に依存していた
由宇子は母を亡くしたことで、かえって現実感を失った。
678送り火(3/4) すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 02:06:16 ID:UTwIaECF BE:454080863-2BP(35)
 最後に病室で母と会話を交わしたのは由宇子だ。
 それは八月十三日のことで、広い一人部屋は奇妙に暑かった。母は暑いと訴え、
由宇子も落ち着かずに空調を下げたりナースステーションに頼みに行ったりしたが、
室内はじっとりと暑いままだった。
 せめてもと雑誌でぱたぱたと母を扇いでいたが、どうにもならない流れを感じていた。
暑さは単なる肉体的なものではなく、空気は圧迫されるように重く、今まで表面上
だけでも静かに保っていた均衡が破られようとしていることに気付いていた。
 午後も半ば、母が
「先生、呼んできて」
 と言った。由宇子は慌てて人を呼び、看護士たちがばたばたと母のベッドを
取り囲むのを、母が自分の元を離れていくのをぼんやり突っ立って見ていた。
そのまま母は意識を失い、それが最期の言葉となった。
 それからどうやって家族に連絡したのか由宇子は思い出せない。記憶は
ところどころ鮮明で一生忘れることもないと思われるのに、いざ一つ一つを
思い返していくと抜け落ちているところがある。
 そして次の日の夕方に母は死んだ。少し休みなさい、と父に言われて家に戻り、
張り詰めていた肩の力をふっと抜いたそのとき病院から連絡があった。
 あのとき力を抜かずに張り詰めたままだったら、母はまだ生きていただろうかと
あとになって罪悪感を覚えたことがあった。いや、母が死んだからこそ力が
抜けたのかもしれないと考え納得し、そんなふうに次第に次第に違う理のなかに
入っていった。
679送り火(4/4) すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 02:07:09 ID:UTwIaECF BE:529760873-2BP(35)
 それは誰かと共有できるものでもなく、論じられるものでもなく、また由宇子も
望まなかったので、魂の存在はただ彼女が感じるままのものであり、そうあって
ほしいと思うままのものだった。
 由宇子は祖母からひとだまを見たと聞いたことがある。
 隣の家の老人が死んだ夜に、その家から出てちょうど電線のあたりにひとだまが
浮いているのを見たと。由宇子はその話を面白いと思ったが、ありふれた怪談の
類だとも内心思っていた。
 
 
 乾いた苧殻はパチパチ弾けてまぶしく燃え始める。その音は松明よりも鋭く、炎の
激しさに驚かされるが、夏の生い茂る庭木の前では頼りない。
 先祖の霊を導くという火は庭木や塀も通して、可視には関わらないのだろうかと
由宇子は思った。他にいくつもの火があっても、ただ一つだけ、その家の火だけを
頼りに帰るのだろうか、とも。
 暗闇に目を凝らすと、炎の影がちろちろと残って人の魂のように思われる。
680送り火(4/4) すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 02:07:58 ID:UTwIaECF BE:1009068858-2BP(35)
以上です。
暗い話ですが、どうぞよろしく。
681 ◆2o7qWWyAAk :2008/09/06(土) 04:53:52 ID:hFPqd/vp
トリップテスト
682 ◆2o7qWWyAAk :2008/09/06(土) 04:55:54 ID:hFPqd/vp
事前に名乗りを上げたわけではありませんが、うpさせていただきます。


「暑いね」
 そう言って、姉が振り返ってきた。
「もうあと1週間ぐらいすれば涼しくなると思うけど」
 適当にそう答えておく。暑いのは夏のせいだけではなく、人いきれのせいでもあるのだろう。
もっとも、僕はどこに行くにもTシャツにジーパンという軽装なので、そこまで暑さを感じることはない。
 あんまり引き篭もっていると良くないから、と姉に言われて、僕は街のお盆祭りに連れ出されているのだった。
 前を行くのは姉と、その婚約者のTさんだ。
「さん」と言っているが、彼は僕と同じ年だ。僕が大学でつまずいている間に、既に立派な社会人になっている。
 僕は2人の後について歩く。第三者的に見て、自分はお邪魔虫なのだろう。
暗い冴えない男がカップルをストーキングしているようにも見えるかもしれない。誘われても来なきゃ良かったかな。
「凄い人出だね。もう少し早く出ればよかったかな。ごめんね、メイクに時間かかっちゃって」
 姉は今度はTさんの方を向いて言った。大した猫撫で声だと思った。

 ふと、遠くからざわめきが聞こえてきた。もともと道行く人々の声で賑わってはいたが、
それとは質の異なるざわめきが広がってくる。
「何か騒いでるね。何だろう」
 ざわめきに混じって、叫び声や怒号も聞こえる。
「あそこに人だかりができてる」
 と、Tさんが前方を指差した。そこに野次馬が集まっているのが見えた。そこがざわめきの発生源となっているのだった。
 近づいていくと、2人の男が取っ組み合っているのが、人垣の間から見えた。いずれもいわゆるヤンキー風の格好をした男だ。
よく見ると、2人のうち一方は知っている顔だった。Kといって、僕のいた高校では、札付きの不良だったやつだ。
クラスの中で弱い立場にある者を、しょっちゅういじめのターゲットにしていた。
僕自身はいじめられなかったが、あることがきっかけで彼とは相当仲が悪くなった。

 この状況を前にして、自分はどうすればいいのか。周りの反応をうかがう。
野次馬たちは無責任な好奇心をもって見守っているだけで、喧嘩を止めようと割って入る者はいない。
 僕は、喧嘩を止めたいが、目立つのは嫌だな、それに喧嘩してるのはあのKだし止めなくてもいいか、などとバカなことを考える。
そもそも自分に喧嘩を止める力がないことに思い至らない。
引き篭もってばかりで、Kなんて怖くなかった頃の体力はなくなっているのに。
 周囲の反応をうかがう時間が、ふいに断ち切られた。Tさんが動いたのだ。
「警察の詰め所に連絡してくる。さっき通り過ぎたところにあったはずだから」
 僕は、警察の詰め所の前を通ったことなんて気づきもしなかった。
姉がいつも「Tはおっとりして見えるけど観察力が鋭いんだよ。人一倍周りのことを見ているんだよ」
と言っていたことを思い出した。そう言えば、さっきもすぐに人だかりの場所を把握していたっけ。
 姉もTさんの尻馬に乗ったか、近くにあった運営委員のテントに連絡しに行った。
 僕はその場に一人取り残される。

 やがて、遠くから、警官隊が人波を掻き分けてくるのが見えた。
 僕は何をしていたのだろう、という思いがふいに湧いた。急に、「自分が止めたいけど嫌だな」
なんて考えていたことが愚かしく思えてきた。
 僕には結局、何もできないじゃないか。見ているだけだったじゃないか。
 写メでも撮ってた野次馬の方が、まだ行動力があるようにさえ思えた。
 たくさんの人だかりの中で、唐突に自分一人が浮いているように感じられた。
683「マボロシ」凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/06(土) 14:34:15 ID:bfSWUDaq
 生まれて初めていたずらでビールを飲んだのが、近所の公園で開かれた盆踊りでのことだった。
 あれは、小学校三年生くらいだったと思う。当然、こんな液体を楽しみに日々の労働に励む大人の気が知れなかったが、大学四年間に思う存分揉まれ抜かれ、社会人一年目となった今となっては、
盆踊り会場となっているこの公園で、踊ったり、踊り飽きて風のように遊んでいる子供たちの姿を肴にビールを飲むまでに貫禄がついてしまった。
 今年の盆踊りは、参加人数だけでいえば、例年より規模が大きかった。というのも、ここら辺の町内会にも少子化の波が押し寄せ、今年はうちと隣の町内会とで、合同で盆踊りを開催したのだ。
 だから、僕らの小さい頃に盆踊りが行われていた公園に、今年は賑わいが訪れることはなかった。
 毎年、この日、うちには親戚連中やその子供やらが大挙して押し寄せる。その中で、同じ目線で身近に話をするのは従姉の明日香くらいなもので、今年の盆踊りも、主に明日香と一年の積もる話をしていた。
 盆踊りから帰ってきて、子供は盆踊りの余韻に浸りながら遊び、若い衆は引き続き飲み、年寄り組みは早々に寝る。それすらも時の流れが潮時を提示すると、居間に残ったのは僕と明日香だけになった。
 僕と明日香で飲みなおしていると、どこからか、賑やかで、懐かしくて、特にこの時期は空気のように当たり前になってしまった音が聞こえてくる。
 明日香もそれに気づいたらしい。ビールを飲む手を休め、
「子供盆踊り、だよね」
 北海道の盆踊りは、子供の部と大人の部とに別れていて、盆踊りの前半は、三世紀くらい前に録音したような音源に合わせて「子供盆踊り」という踊りがとりおこなわれる。
 ――手拍子そろえてチャチャンがチャン。
「誰かが町内会のスピーカーでいたずらしてるのか?」
 しかし、その音楽の輪郭はどんどんくっきりし始め、空気の振動によって聴くそれとはどこか異なる響きを以って僕に迫ってくる。
 今日は飲みすぎたのだろうか。あるいは、僕はすでに酔いつぶれて夢の世界にいるのかもしれない。
そんなことを考えていると、明日香が、
「何か、外が明るくない?」
 窓の外を見ると、この家から、昔の盆踊り会場だった公園に向かう道の辺りが、街灯の灯りとは異なるやわらかな明るさに包まれていた。
 ちょっと見てこよう、と二人で玄関を開ける。

 蛍のような、オーブのような、幻想的な光りがふわふわとあたりを漂っていた。
 
 それらが生物なのか、無生物なのかは分からない。
 でも、これらは、少なくとも僕らごときには知る資格もないような、神聖なものなのだと思う。
 光りは、その公園への道を開けるように舞った。僕も、明日香も、それに従う。
 たどり着いた公園で繰り広げられていたのは、紛れもなく、まだこの町内会が賑わっていて、少ない小遣いを親にねだって出店で遊んで、何もかもが輝いていた、あの頃の盆踊りだった。
 言葉にならない驚きの波が去ったあと、僕は、大人になってこころの奥でずっと眠っていた何かが目覚めるのを感じた。
 無垢な喜び。計算のない幸福。手垢のついていないことばで構成される世界。何でもおもちゃにしてしまう指先。性差や上下関係のきわめて希薄な友情関係。
 確かに、このマボロシが終わってしまえば、この暖かな気持ちを直に感じることは、二度と出来なくなる。
 しかし、子供の頃に見つけた大切な記憶を再び思い出した今、それらは直接目の当たりにしなくても、一生僕のこころに残り続けることだろう。
 明日香は、まだ呆然としている。その明日香に、僕はネコダマシをした。
 きゃっ! と明日香は我に帰る。小さい頃からぼんやりすることが多かった明日香に、僕はよくこうやってからかったものだ。
 いやだ、もう子供じゃないなだから。そういってから、さまざまなことを感じたように、明日香は僕を見る。僕は、その明日香にこの提案をした。
「遊ぶか!」
「うん!」
 今は、ビールよりラムネが飲みたかった。
684凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/06(土) 14:36:34 ID:bfSWUDaq
初うpです
構想から二時間くらいで書いたので粗いかもしれない;
685「むかえ火1/5」900 ◆y4IHbHwTYY :2008/09/06(土) 15:35:38 ID:n6Y+9k87
【BGM推奨】
ttp://jp.youtube.com/watch?v=dkTXYO3Hq3w&NR=1



 それは、8月13日の朝だった。
アパートのドアがノックされ、ドアノブをカチャリとあけると、
外はまぶしくうるさく鳴く蝉の声が聞こえた。
ドア越しには小柄なおじさんが立っているのがかいま見えた。
おじさんは日焼けした顔に深い皺、薄い色のシャツを首元までボタンをとめていた。
肩からかけた鞄と、ピカピカに磨いた革靴が印象的だった。
「すんません、突然ですが今晩泊めてもらえませんか」
「はあ?おれんちに?なんで?」
「娘の安否が気がかりで……私……」
「しらねえよっ」

 俺は靴脱ぎ場のスニーカーを素足で踏んだまま、バタンと勢いよくドアを閉め、大きな音をたててロックをかけた。
「なんだよ、あのおっさん。なんで知らないおっさん泊めなきゃなんねーんだ」
 そう吐き捨てると、昨日送られたままの荷物をまたぎ、ベッドに戻って携帯を手に取った。
着信をみると、メールが一通。お笑いの相方の誠が、新しい仕事を知らせてくれていた。
 
Re)仕事の件
うす。今週、そっちに
ドッキリがいくらしい。
いいリアクションよろしく。

(・-・)/まこと

 最近、ウツのためお笑いの仕事にいけないのを心配してくれて、相方が俺にでもできる仕事をなんとか取ってくれたのだ。
「なんとかがんばらなきゃ」
 薄暗いアパートのはげた天井が目の前にひろがり、手に持った携帯画面だけが頼みの綱だった。
「ひょっとして、さっきのおじさん……」
 連絡の文面を読むと、俺は今しがた起こったことが急に気になり、ベッドの脇にある出窓から外をのぞいてみた。
 出窓の前にはアパートの横脇を通る道があって、首を伸ばすとさっきのおじさんがトボトボと帰っていくのがみえた。
「なんだか、悪いことしたのかな」

 まるめた背中から目をそらすと、出窓に置いたアロマキャンドルの灯がフワリと揺れていた。
686「むかえ火2/5」900 ◆y4IHbHwTYY :2008/09/06(土) 15:37:27 ID:n6Y+9k87
 その日の夕方。気晴らしにパチスロを打って帰宅すると、郵便ポストあたりから俺のアパートに向かって行列ができていた。
やや小柄な老若男女が8〜9人。着物の女性、ランニング一丁の男、防空頭巾の少女などが並んでいた。
「なんですか……この行列」
 俺がそう問いかけると、年配の男女が不安そうな表情で口々に答えてくれた。
「帰るうちがわからなくて」
「とりあえずここに並んでいるんじゃが」
「このへんじゃ、ここしか目印がないのよ」
 着物の女性がオレの部屋の出窓を指差していた。目印とはどうやらアロマキャンドルの灯のことらしい。

「やべえ」
 無用心にも灯をともしたまま、俺は出かける時に灯を消し忘れたらしい。
 行列を尻目にすぐさま部屋にもどってアロマキャンドルの灯をフッと吹き消すと、
さっきの行列がなぜかちりじりと離れていくのが出窓から見えた。
「むかえ火ってことか……ドッキリ、もうはじまってるのかな」

 そうつぶやいてドアを開けて外の様子をうかがうと、
防空頭巾にモンペ姿の少女だけがドア前に立っていた。
 年は16〜17才といったところだろうか。
防空頭巾には「良子」と名札が縫い付けられていて、頭巾から見える顔はすす汚れているようだった。
「そんなとこに突っ立ってないで、はいんなよ。良子ちゃん」
「良子とちがうよ。これ、ねえちゃんの頭巾や」
「そか。お盆で帰ってきたのか」
「うん」
 話をあわせるように少女を部屋に入れたものの何をどう聞いていいかわからなかった。
途方にくれて、俺は味噌汁とタマゴでありあわせのご飯をつくってやることにした。
それでも少女は、うれしそうな顔で夢中で食べていた。

「こんなのですまんな」
「ごちそうやよ。ありがとう」
「うまいか」
「うん」
 少女は目を輝かして食べていた。名前は「清子」といった。
風呂からあがって、あらためて顔をみると、思ったよりも色白で、ほほは豊かで、垢抜けないが愛らしい瞳をしていた。
清子は貸した服をきて、短い黒髪をキチンと整えていた。
俺はだまされたフリをしながら、どんな時代に生きたかを清子に聞いたが、いくら問いかけても返事はなかった。
うなずいたり首を横にふったりが多く、まるで誰かと約束事をして口をつぐんでいるようだった。
「地獄ってどんなとこ?」
「暗くて、臭くて、苦しいところだよ」
「ははは、じゃ、オレの生活のまんまじゃん」
「洞窟で重い石をずっと運んでいる」
「そっか……」
 やっと口を開いたかと思っても清子の真顔にオレは言葉をつまらせた。
687「むかえ火3/5」900 ◆y4IHbHwTYY :2008/09/06(土) 15:39:14 ID:n6Y+9k87
 翌朝、目をさますと、清子は洗面台でゴシゴシと服を洗っていた。
「洗濯機をつかえば?ほら、そこの」
「この機械で洗濯できるんか」
「洗濯物を投げ込んでー、洗剤を量ってー、いれたらボタンをぽん」
 少々やり取りがめんどくさいと思いながら、
洗濯機の使い方、冷蔵庫の説明、掃除機の動かし方を教えると、清子はそのたびに笑顔を輝かせた。

 清子は一日中、食器を洗い、机をふき、テキパキと片付けをしていた。
俺は寝転がってゲームをやっている間に片付くので、都合がよかった。
けれども、勝手にやってこられて、物を動かされて、あれこれ指示されるようになると、次第に腹がたってきた。
好きにしろとばかりに財布と新聞をもってでかけることにした。
「出かけてくる」
「どこいくんや」
「競馬」
「博打はあんまりせんほうがええよ」
 俺はついにイラッときて、清子の肩を突き飛ばした。
「なんだ、おまえ!勝手にやってきて、なんでもいいようにしやがって!
口だしするんじゃねえ!うるせーんだよ!」
ドタッと大きな音をたてて倒れた清子は、俺を見上げながら小さな声でつぶやいた。
「……ごめんなさい」
俺はドアを投げ捨てるように勢いよく閉めてでかけた。



 夕方近くになって、清子にうまいもんでも食わしてやろうと
帰りにスーパーに寄った。
競馬にも勝ったので、米沢牛の大きなパックと発泡酒をたんまり買い込んだ。
その帰りがけに携帯をみてみると誠からメールがきていた。

Re)Re)Re)仕事の件

ごめん。ドッキリの収録は
来週だった(・-・)/まこと
688「むかえ火4/5」900 ◆y4IHbHwTYY :2008/09/06(土) 15:41:06 ID:n6Y+9k87
 買物袋をもって部屋に戻ると電気は消えていた。
部屋の明かりをつけると清子の姿は見えず、部屋は見違えるほど清潔で綺麗になっていた。
きっとイタズラで隠れているんだろうと、押入れの襖をあけてみたが
清子はいなかった。
ただ、服や本などが整理整頓されているだけだった。
「出かけたのかな」
 ふと見ると、テーブルの上にふきんがかかっていた。
ふきんをとると輪島塗の丸盆に皿が置かれ、その上にいなり寿司が三個ならんでいた。
側におかれた手紙を手に取りながら、いなり寿司を一口食べると、懐かしい手作りの味がした。
子供の頃に親戚が集まると、いつもこの味だった。


「口出ししてごめん。がんばらんでもええ。生きてるだけでええんや。
達郎の不幸は、ばあちゃんが持っていくから。泊めてくれてありがとう。清子」

俺は震える手で手紙をクシャクシャとつぶし、畳に膝を落とすと唇を震わせていた。
689「むかえ火5/5」900 ◆y4IHbHwTYY :2008/09/06(土) 15:42:42 ID:n6Y+9k87
 俺はアパートを飛び出し、立ちこぎでチャリをかっとばしてめちゃくちゃに走った。
周囲を見渡すが清子の姿は見えなかった。信号でとまると携帯を取り出し、母親に電話をかけた。
「かあちゃん。おれ。ばあちゃんの名前って清子か」
「達郎?お盆くらい帰らなあかんよ」
「それより、ばあちゃんの名前は何?」
「突然、なに?私のお母さんは清子さんやよ」
「清子さんにねえさんっていた?」
「ああ、良子さんやね。空襲で死んだ人や。
 源次郎さんが赤ちゃんの私を防空壕に運ぶ時にころんで、
助けようと飛び出した清子さんもろとも撃たれたんやよ。
それで清子さんのお姉さんの良子さんが母親がわりで、私を育ててくれたんよ。
良子さんも私が物心つく前に亡くなったって、後で聞いたけどな」
 チャリで走り出すと電話は突然切れた。
周囲を見渡せる歩道橋へ登って、歩く人々の姿を一人ひとり確かめてみた。
清子の姿はどこにもみえなかったが、俺は叫ばすにいられなかった。
「ばあちゃん!いなり寿司なんてコンビニで売ってんだよ!
孫の罪まで……俺の罪まで持っていったら……、いつまでも地獄からでられねえじゃねえか!」
歩道橋の下には車のテールランプとライトがゆっくりと交差して流れ、
道路の向こうには輪郭の大きい夕陽が沈んでいた。
たなびく雲やビルの側面、標識まで西日に染まって色づいていた。
「ばあちゃん。俺、もうちょっと生きてみるよ」
 俺は帰る道すがらそうつぶやいていた。
近所の家の窓からもれる温もりある光と、家族団らんの笑い声が聞こえてきた。


 俺は母親にふたたび電話をかけてみた。
「あ、俺。それから源次郎さんって、どんな人だった?」
「私は、赤ちゃんだったからお父さんの顔を覚えてないんよ。笑顔のやさしい人やったって聞いとるよ」
「かあちゃんに似てるよ、きっと」
街は、すっかり暗くなっていた。

690894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/06(土) 17:34:47 ID:w89qt3QD
死んだ人の声を聞くことができますか(1/4)


盆踊りの翌朝、街の大人たちや子供たちが後片付けのために公園に集まった姿は、なんだか白々とみすぼらしい。
僕は折り畳んだパイプ椅子を束ね、背もたれの下の穴に腕を通して、片手に三脚ずつ持った。
やる気だな、とニシダのおっさんがつぶやいたけど、僕はただ片付けを早く終わらせたいだけだった。
その恰好で用具倉庫の前までふらふら運んで行く途中、街の母親たちがコリタについて噂しているのを聞いた。
コリタは盆踊りの間ずっと、踊りに参加することも、みんなとふざけ回ることもせずに、
用具倉庫のかげにしゃがみ込んでいたらしい。母親たちはそう噂していた。
それを聞いて僕は、両手の荷物が急に重くなったように感じ、パイプ椅子を地面に下ろして一休みしなければならなくなった。
たった5メートルくらい運んだだけなのに。
地面に下ろすとき、誰かに非力と思われるのが嫌だから、音は立てなかった。
パイプ椅子の鉄が接地して、その感触がTシャツにむき出しの皮膚に伝わった。砂地のざらつきを腕で感じた。

コリタは生き物として少し不自然に見えるタイプの美少年だから、普段は他人が放って置かない。
でも僕の知る限り、一日のうち何回かは一人になることがあって、その時を目撃すると、
プラモか彫像かサイボーグが、教室や校庭や居間に間違って出現したみたいに見える。
しかも地面から5ミリくらい浮いてるような感じがする。

僕は昨日の夜、コリタがどうしているか時々は気になっていた。
でも盆踊りをしたり他の友達と遊んだりしていたから、結局はコリタのことを忘れていた。
コリタは用具倉庫のかげにいたのだと知って、
湿った土のにおいのする暗い場所で、楽しむ人々の声を聞きながら一人過ごしたコリタのことを、思った。
すると自分で抱いたそのイメージに、なぜか平手打ちされたようなショックを受けた。
僕の頭の横で本当に、ぱん!と音がしたような、その一瞬は視界が白く全て消えたような気がした。
コリタが用具倉庫の裏の暗いところにいたなんて、まるっきり幽霊みたいじゃないか。

コリタにはミレナという妹がいた。ミレナはおととし、まだ九才なのに病気で死んでしまった。
コリタが一人でいる時は、ミレナのことを考えているのかもしれない、と、僕はこの頃思うようになった。
急にコリタのことが心配になった。心配に思っているような気がしてきた。
今日はどうしているのだろう。みんなに聞いてみたら良いかもしれない。
そう思いながら、六脚のパイプ椅子をさっきと同じやり方で持ち上げて、用具倉庫まで運んだ。
691894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/06(土) 17:42:27 ID:w89qt3QD
死んだ人の声を聞くことができますか(2/4)


用具倉庫の前にはカミカワ・ケンのお父さんがいて、集めたパイプ椅子を台車に積み上げる作業をしていた。
カミカワ・ケンのお父さんは、盆踊りで一きわ張り切っていたうちの一人だ。
子供たちを仕切り、真ん中の舞台の上で太鼓にバチを振るい、
ドラえもん音頭に合わせてソーレと叫びながら、踊りの輪の中で長い手足を動かしていた。
今朝はカミカワ・ケンは(恥を感じているのだろう)隅っこの方でいじけたようにしていて、
大したことは何もしていない。
カミカワ・ケンのお父さんは、昨晩の印象と比べると全体的に一回り小さくなったみたいで、静かだった。

パイプ椅子をどかっと下ろした僕が、あれえコリタがいないなあと言ってみると、
カミカワ・ケンのお父さんはびっくりしたように、コリタ!あいつずっといないじゃないか、どうしたんだと言った。
盆踊りの間コリタがいなかったことに、今気づいたらしい。
でもそのうち、今朝公園に集まる子供たちの中に、そういえばコリタを見かけた、
その時は普通の様子だった、という意味のことを、彼は言った。
カミカワ・ケンのお父さんは、昨晩はしゃぎ過ぎて、きっとぼんやりしているのだ。

用具倉庫を離れて水道のそばに行くと、そこで街の母親たちは噂話を続けていた。
話しているのは、水道のところで食器や調理器具を洗っている二人と、ヨーヨー釣りの後始末をしている二人。
ちょうちんや電飾を整理して箱にしまっている一人と、特に何もしていなさそうに見える一人。合計六人だった。
コリタの噂の後は、バンキョウ・スーパーの最近の値引き商品について、活発な意見交換が行われているようだった。
コリタの様子を、母親たちの誰かが詳しく知っているかもしれない。
しかし、僕がこの会談に割り込み、話をコリタの件に戻して自分の知りたいことを質問するなど、
まったくできないことだ。
そこには小学生と母親たちとを隔てるしきたりのようなものがあるからだ。

僕は、母親たちからは何も得られないだろうと思い、水道のそばを通り過ぎた。
するとそこに、ゴミ袋を持ったコリタの母親が通りかかったのだ。僕にとっては都合が良かった。
コリタの母親は、水道のそばの母親たちに会釈するのと同時に、バンキョウ・スーパーのパンの価格についての
誰かの発言をとらえて、絶妙なタイミングで、その価格はすでに先月の半ばに現れたものだったが
近頃また復活したのだ、という解説を加えた。
会釈と同時にそれだけのことをやってのける、母親たちの能力にはいつも感心せざるを得ない。
僕は、たまたま通りがかっただけだから長居するつもりはない、といった様子の
コリタの母親の去り際をとらえて、コリタどこ?と聞いてみた。
「さっきミニ四駆取りに行くって、家に戻ったみたいよ」とコリタの母親は答えた。
その言葉と、パンの価格についての解説を残して、コリタの母親は悠々と立ち去った。
692894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/06(土) 17:50:07 ID:w89qt3QD
死んだ人の声を聞くことができますか(3/4)


コリタはミニ四駆で遊び、悲しさを晴らすつもりなのだろうか。だったら、一人じゃない方が良い。
僕も自分のアバンテを取って来ようかと思ったけど、その前に他にも仲間に入るやつがいないか確認しようと、
公園の中央に向かった。
そこには盆踊りのために、鉄骨に床板を渡した簡易舞台が設けられていて、
その下に潜り込んで遊んでいる数人の顔見知りの姿が見えたからだ。

トウスケという少年に、この後みんなでミニ四駆で遊ぶことになっているのかどうかを、僕はたずねた。
彼はそんな話は知らない、と言った。
ミニ四駆やるならいいけど、この公園には今大人たちの目があるから、
場所として不適当と思う、という意味のことも彼はつけ加えた。
シンゴという少年が、この近辺にある別の公園の名を挙げ、そこに移動することを提案した。
コリタはそこにいるのか?と僕が訊くと、シンゴは否定した。
コリタの名を聞いたハルミという女の子が、コリタどこ?ちょっと、トウスケ、コリタ呼んで来てよと言った。
トウスケは、コリタがミニ四駆のことなど考えられるはずはない、
そんな精神状態ではないと推測しているようだった。
彼がハルミに否定的な返答を、あいまいな言葉と身振りで示したことで、そう受け取れた。
トウスケがコリタの様子を知っていそうだと思い、僕は彼にそのことを尋ねた。どんな感じだった?
どんなも何も、平静を装ってるけどすぐぼんやりしてしまって、
やっぱり相当苦しんでいる様子だった、と彼は答えた。
妹さんのこと・・・?とハルミが小さく口に出すと、乱暴にカーテンを閉めたような沈黙がその場に現れた。

コリタは、もし妹が生きていたら、昨夜の盆踊りでどんな風に一緒に遊んだだろうか。
コリタ自身は用具倉庫のかげに座って、そのことを考えていたのだろうか。
彼の角度からは、盆踊りの輪や光は見えなかったはずだった。見えたのは用具倉庫の壁だけだろう。
その場にいた四人がそれぞれに、死が早すぎたコリタの妹について考えをめぐらせていた。
というか、僕はそうなんだろうと思っていた。
みんなが同時に、幼い少女の死について考えていたのでなければ、その沈黙が不自然に思えたからだ。
僕自身そのことを(ミレナの死を)考えていたが、僕が得たものは、
何だか白くてふわふわしたものが、笑いながら手を振って去っていくイメージだけだった。

それと同時に、僕はコリタのことも考えていた。
いや、僕にとってはコリタのことが本題だった。
コリタは妹の死を悲しんで、盆踊りに参加しなかったのだろうか。コリタはなぜ、盆踊りに参加しなかったのか。
お盆には死者の魂が還ってくる・・・その伝説を思い出したとき、シンゴが同じことを口にした。
「お盆だから、ミレナちゃんが還ってきてたのかもしれないな」
シンゴはそう言うと、なぜか得意そうな表情をした。
そして足元の砂を意味もなく靴で軽く蹴った。
それは「恰好をつけている」仕草だった。なぜそんなことをするのだろう。
ハルミが、今はコリタをそっとしておくべきだという意味のことを、ひどくたくさんの言葉を使い、長い時間を掛けて述べた。
そこにも何か芝居じみた要素が感じられたが、それにこだわるよりも、
僕は少し前、自分が核心に至る何かに触れたような気がしていた。
意識の端っこにひっかかっているその何かに、なんとか考えを集中させようとした。
だがその感覚をつきつめる前に、場が動き出して、
僕はスクランブル交差点のまん中に放り出されたような混乱におちいった。
会話が先に進んだのだ。
693894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/06(土) 17:55:33 ID:w89qt3QD
トウスケとシンゴ、それにハルミが、それぞれにコリタの死んだ妹について、思い出を語り始めていた。
トウスケは、駄菓子屋のガムについていた当たり券を、ミレナにあげたことがある、
とても嬉しそうだった、と言った。
シンゴは、街で迷子になったミレナと会って、
泣いていた彼女をコリタのところまで送ってあげたことがある、と言った。
兄妹ともに感謝された、ということだった。
ハルミは、夏休みのラジオ体操に、兄妹と共に参加したことを、楽しい思い出として語った。
またラジオ体操そのものの記憶と同時に語ったのは、
夏の朝、ラジオ体操が行われるこの公園に向けて歩く兄妹の、絵のように美しい姿についてだった。
本当に仲が良い兄妹だった、二人歩いているだけで楽しそうで、
光の中で・・・天使みたいってああいう風なのを言うのかも。
ハルミはそのようにドラマチックに語った。

「それで、コリタは?」と僕はみんなに尋ねた。
今のコリタは、どうしている?なぜ盆踊りに出なかったのだろう?
コリタは、かつて、ガムの当たりを嬉しそうに見せに来た妹の頭を、優しく撫でたのかもしれない。
あるいは、迷子の妹が発見されたときは、
不安の重苦しさを押し流していく歓喜に、胸を熱くしただろうか。
コリタとミレナは、ミレナが死ぬ前は夏ごとに一緒にラジオ体操に参加していて、
昨晩コリタは悲しみの中で、その思い出にとらわれていたのか。
そう、今のコリタは本当に、これらの中にいるのか?
みんなはコリタが、これらミレナの思い出の中に沈んでいる、という見解で一致していた。
設計図に引かれた線のように、疑問の余地を持たない態度だった。
「ミレナちゃん、なんで死んじゃったんだろうね」と、歌うようにハルミが言った。

僕はミレナの顔のイメージを頑張って呼び起こしてみた。
ガムの当たり券をもらって喜び・・・迷子になって泣いて、
見つけてもらった後は、コリタの腕の中に一散に走っていく。
夏の朝、ラジオ体操に通う。白い朝に溶け込むような二人の姿。
そして、ミレナは死んでしまう。
それから、コリタの思い出の中に現れる。どんな顔で?
この中の、どれかの顔だったのか。

僕は、ミニ四駆を持って、コリタの家に向かう。
もともと僕は、ミニ四駆を外で走らすのは好きじゃないのだ。汚れるから。
僕のアバンテはなかなか速い。負かしたら彼は泣くかもしれない。あるいは、笑うかもしれない。
ドラえもん音頭が、ばかばかしいくらい明快に辺りに響き渡って、夜空の下にはちょうちんの灯りが連なっている。
踊る人々の影は、だいだい色のライトに照らされてゆらゆら動く。カミカワ・ケンのお父さんが太鼓を叩いている。
そのとき僕はコリタのことを忘れていた。コリタは、用具倉庫のかげにいた。
でも今、僕はコリタを遊びに誘うことを思って、わくわくしている。
何といって声を掛けようかと考えながら、最後の角を曲がった。
694894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/06(土) 17:58:40 ID:w89qt3QD
>>693は 死んだ人の声を聞くことができますか(4/4)
695すう ◆VZpO0svMyk :2008/09/06(土) 20:03:35 ID:L38RMcV6
みんな乙んでれ☆
タイトル間違えたorz
しかも900さんとかぶるっていう…
696あず ◆hNz8e/hJI2 :2008/09/07(日) 08:32:44 ID:u9i1aX2t
生まれ変わり
  生まれ変りたいとおもうことは健太には日常的に起こることだった。
  離婚したあと怒り易くなった母。
 まだ小学生の健太にはその保護を逃れて自活する力はない。
 おはよう母さん。 毎朝水商売で遅くなった母の寝床に声をかけ、自分で
 パンを焼いて学校へ行く。
 その名の通り健康に生まれた健太は、その心も健康だった。
 ただ学校でたまたま読んだ小説にあった生まれ変り。自分が立派な人の
 生まれ変りだと思うのではない。ただ一人で食事している時、家族で食卓を
 囲んでいる幸福であろうこどもに、健太は生まれ変りたいと思う。
 明日起こることは今はまだ分からない。その手で何が出来るかも
 未知数だ。けれど毎朝パンを食べることが出来、母に愛されている健太は、
 やはり生まれ変っても母と父の元に生れ落ちたいと考え、学校に向かうのであった。

  終わり
697おばしゃん:2008/09/07(日) 08:33:53 ID:VwADWouC
髪の毛をそめます。
698あず ◆hNz8e/hJI2 :2008/09/07(日) 08:37:33 ID:u9i1aX2t
自由投稿していいのかな?
699894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/07(日) 14:19:54 ID:CF9mtqAo
>>698
全然良いと思うよ
700優しい名無しさん:2008/09/07(日) 14:32:16 ID:G2O/ROde
僕が君を本当の意味で知ったのは、最近だ。
いつも笑っている君を見ていた。
逆に言えば、君は僕に「笑顔」しか見せてくれなかったんだ。
「笑顔」しか許してくれなかったんだよね。
心なんて開いてなかったんだよね。
そんな真実に今更ぶつかって、なんともいえない虚しい気分だった。
満たされたような、失ったような。
そんな気持ちが僕の全身を廻っていた。

そう、そうだよ。
君の傷口、君の涙。君の哀しみ。
その全部を受け止める覚悟が僕に有ったのなら。
何も考える事なく君を抱きしめたことだろう。
そしてきっと君も、僕の気持ちを判ってくれたことだろう。
「君が大好き」って。
その気持ちだけには嘘じゃなかったのに。
君がたとえどんな闇を抱えていても、嘘になる事なんて、有り得ない。
それさえが嘘だ。

それなのに、
僕はどうして逃げた?
誰かが問う。
僕はどうして彼女を見捨てた。
誰かが答える。

嫌気が指したんだ。
僕にも彼女にも。
信じてたのに全てを見せてくれなかった彼女が嫌いだ。
勝手に一人で期待して自惚れていた僕が嫌いだ。
彼女の全てを受け止められなかった嘘吐きが嫌いだ。
彼女の居心地の良い場所をつくれなかった馬鹿が嫌いだ。

憎らしい。憎らしい。彼女が愛おしくて、全て憎らしい。

もしも、君が他の誰かに全てを見せていたのなら、そいつの事だって大嫌いだ。僕と同じくらい、大嫌い。

決して幸せじゃないけど、死にたくなる程不幸でもない。
波乱万丈でもないけど、たまに波が来たりして。

そう、たとえば君の「全て」を知ったときの感情。
喪失?満足?そんなんじゃない。
君と同じだったんだ。君と同じ傷口が出来たんだ。
初めての気持ち。だけどどこかで見たことのあるような懐かしい傷口。

「君と同じ。」

呟いて笑った。傷口を舐めて、愛でた。
僕の全てを知らない。君の全てを知らない。
知りたいから、知るために。

「明日から、どうしよう・・・。」

憎んで愛して苦悩して、世界で一番人間らしい僕の日常。
701おばしゃん:2008/09/07(日) 14:34:17 ID:VwADWouC
うんこのしみがついてますよ
702優しい名無しさん:2008/09/07(日) 14:39:35 ID:TVAaixkC
(T_T)泣いた;
703優しい名無しさん:2008/09/07(日) 14:57:06 ID:G2O/ROde
>>700
タイトルつけるの忘れてたよ
じゃあ「山田太郎。いつもとおなじ。」
でいいw
704びーの:2008/09/07(日) 20:10:02 ID:tzOsOk7N
きーん、こーん、かーん、こーーん。
下校のチャイムが鳴るなり、僕は
何時ものように、足早に、学校を出た。
夏の日差しも、幾分和らいだ九月の頭。
夕焼け空に、ゆっくりと流れる入道雲。
道行く人たちも、涼しい顔で、歩いている。
一方の僕はと言えば、多分、苦虫を噛んだような表情をしているのだろう。
(あぁ、やだやだ、あんなとこ、一秒でもいたくないよ)
こうやって早足で家に帰るのは、少しでも学校から距離を取りたかったからだ。
別に、学校でいじめられてる訳でも、成績が悪い訳でも、体育が苦手な訳でもない。、
自分で言うのも変だけど「平凡」な、極々普通の高校生と
して、学生生活を送っていると思う。
ただ、あの周りを高いフェンスで囲まれた、コンクリートの無機質な建物
の中で、朝から夕方までいると、まるで自分が、刑務所に入れられた
囚人のような、気分になってしまい、気が滅入るのだ。
それは、授業を受けてる時や、体育で苦手なマラソンをさせられている
時だけじゃなく、クラスメートと休み時間に、冗談を言い合っている時ですら、同じだった。
高校2年生という、微妙な時期もあるのかもしれない。
進学するなり、就職するなり、自分の進路をそろそろ考えないといけない時期。
あまり素晴らしそうではない、将来の事を、考えると、さらに気が滅入ってくる・・・・。
(何か面白いことないかなぁ…、こう毎日がパッっと可笑しくなるような事が…)
僕は、暗い気持ちを振り切るように、家路へ急いだ。
705びーの:2008/09/07(日) 20:29:32 ID:tzOsOk7N
「ふぅ、ただいまあ」
家には、この時間帯、一人っ子の僕を待つ人間はいない。
共働きの両親が、帰ってくるのは
もう少し遅くなってからだ。
それでも、一応「ただいま」
と一声かけてから、家にあがるのが、習慣となっている。
何も言わずに、薄暗い家に上がるのは、なんとなく、寂しいし、
防犯の面から見ても、もし泥棒なんかが盗みに
入ってきてたりしたら、何も言わないよりかは、
一声かけてから、家にあがった方が安全だ。
(お腹すいたなぁ・・・、何か無いかなぁ)
キッチンへ向かい、冷蔵庫の扉に手をかける。

ゴトリ

その時2階から、物音が聞こえた。
(!!)
(泥棒??)
2階は二部屋あり、一つは物置で
一つが僕の部屋だ。
音がしたのは、方向からして、僕の部屋からだった。


706優しい名無しさん:2008/09/07(日) 20:51:42 ID:tzOsOk7N
(泥棒か?  いや、ネコかネズミもしれない、ものが倒れただけかも・・・・)
良い方に良い方に考えつつ、震える声で呼びかけてみる。
「あのーーー、誰かいるのー?」
し〜〜〜〜ん
何も反応は無い。
ゴクリと唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。
(もし、泥棒だったら・・・最近そういう事件多いよな)
最悪の事態は頭をよぎり、僕はゆっくりと玄関へ後ずさりした。
玄関を出る時、2階に向かって声をかける。
「警察を呼びますからねー!、逃げるのなら今の内ですよー」
玄関を開け放したまま、外へ逃げ出し電柱の影から家の様子を伺う。
泥棒だったら、今の一声で逃げ出すはずだ。
だが、15分位待っただろうか、誰も出てくる気配は無かった。
(やっぱり、ネズミか何かだったんだ、こんなとこ親に見られたら恥ずかしいし、戻ろう)
ほっと胸をなでおろし、家へ戻ると、一応念の溜キッチンの包丁を手に取り、
ゆっくりと階段を上った。
707びーの:2008/09/10(水) 10:31:24 ID:1vLZJP55
恐る恐る、自分の部屋のドアを開けてみる。
・・・・誰も居ない。
見慣れた6畳半のスペースには、勉強机とベッド。本棚があるだけだ。
押入れの中も見てみたけど、畳まれた布団が入っているだけだった。
もう一つの、物置として使っている、部屋も確認してみる。
いらない家具や、衣類が入ったダンボール、
子供の頃のおもちゃ、乱雑に置かれた
それらには、軽くホコリが被っている。
シーンと静まり返った、物置部屋には、人間どころか、生き物の気配すらなかった。
「はあ・・・」
大きく、ため息をつくと、さっきまでの心配が急に馬鹿馬鹿しくなってきた。
(物音がしたくらいで、あんなにビビって、なんて気が小さいんだ)
ドタドタと階段を降り、キッチンの冷蔵庫を乱暴に開けると、、
牛乳をパックのままがぶ飲みした。
緊張で乾いた喉が、急速に癒される。
(きっと、湿気か気圧のせいで家が軋んだだけだろ)
飲み終わった牛乳を冷蔵庫に直そうとしたその時、

ゴトリッ!

2階から再び音がして、僕は持っていた牛乳を
落としそうな位驚いた。
(なんだ???)
708優しい名無しさん:2008/09/10(水) 19:28:36 ID:vbON0OmS
びーのさんが書いてる所に割り込む僕…!
気にしないで下さいね

 どうしてだろう――虚脱感が胸の中で渦を巻いている。
 どうしてだろう。どうして、どうして――だ。
 思考が頭の中でぐるぐると回っている。とめどない思考はだから意味がない。考えるだけ無駄だと三崎は思う。けれど思考は三崎の意思を無視して勝手に回り続けている。
 ……思考すらも満足に扱えないのか、俺は。
 そう三崎が思った時だ。
「拓也…どうしたの?」
 声を掛けられた。三崎は声の方向を見る。そこには三崎よりも頭一つ低い少女がいる。
 オレンジのシャツに、青色のフード付きのパーカー。そして白の長ズボン。短く切り揃えられた髪は蒼黒だ。
「晶……」
 三崎は少女の名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
 晶が二度目の問いを放つ。瞼の閉じられた瞳が三崎を見据える。
「何でもないよ」
「でも……」
 眉根を寄せて晶が言う。
「何でもないったら」
 続く言葉を遮るようにそう言って、三崎は晶の髪に手を置いた。子供をあやすようにして撫でる。
「ん……」
 軽い、は、という吐息と共に晶の頬が赤く染まる。それを確認して、しかし三崎は晶の髪を撫で続ける。告げる。
「ほら、行くぞ」
「……」
 赤いままの頬でこくりと晶が頷いた。歩くために三崎は晶の髪から手を離す。あ、と小さく晶が呟いた。
「どうした?」
 三崎が問う。晶はそれに答えない。代わりとでもいうように、三崎の手を握り締める。
「…ダメ?」
 晶が三崎を見上げて問う。
「まさか」
 三崎は苦笑しながら返答した。三崎の方からも晶の手を握り返す。
 柔らかい手だなと三崎は思う。それに小さい手だ。
「行くか」
 二度目の言葉。
「うん」
 晶の返事を受けて、今度こそ二人は歩き出した。
 どうしてだろう――その言葉が三崎の頭を支配していたことは気取られずに。
    *
 何時からだろうか。記憶は最早曖昧としていてその実存すら疑わしい。それでも感覚が依然として告げている。なぜだ、と。理性が叫ぶ。なぜだ、と。
 なぜ。どうしてなんだ。どうして。
 疑問はいつもそこに集約される。その答は今に無くて何時かに在る。
 だから――だから俺は戻っていく。記憶を遡って戻っていく。今でない何時かへと。答を求めて。
    *
「は、ぁッ……」
 声が聞こえる。狭い室内に荒い吐息が響いている。
 部屋は暗い。光源はカーテンの隙間から差し込む月光だけだ。
 その中で三崎は動いている。下には晶がいる。三崎の動きに合わせて晶が声を挙げる。
「ん、ふっ……」
 叫びを噛み殺そうとして、しかしそれは完全には成功しない。閉じられた口から声が零れる。
 三崎の動きが加速して連続する。晶の声も連続する。そして、
「んくっ……!」
 一際高い声と共に晶の体が痙攣した。それに合わせて三崎も体の動きも停止する。
 肌を打ち付けあう音が止んで、代わりに吐息が部屋に満ちる。
 静寂。脱力した体で三崎は見る。晶を。
「拓也……」
 晶が三崎の頬を掴む。引き寄せた。そして次の瞬間にはもう、三崎は晶の体温を感じている。源は唇だ。それを通じて晶の熱が三崎に伝わる。
「……大好きだよ、拓也」
 晶が囁く。その顔は悲嘆とも喜びともいえない表情だ。その顔を見て、三崎は何事かを言おうと口を開き、
 
709優しい名無しさん:2008/09/10(水) 19:30:01 ID:vbON0OmS
「――」
 何も言わずに口を閉じた。晶が三崎の髪に手を伸ばす。
「ねえ……」
 三崎の髪を弄りながら晶が言う。けれどもその続きを三崎は聞いてはいなかった。
 強烈な眠気が三崎を襲っていたからだ。それに逆らうことも出来ずに、三崎の意識は闇へと落ちていった。
    *
 夢だ。これは夢だと理性が告げている。いつもの夢。けれど感触は本物で、だからこれは現実だと感覚が訴える。
 炎。炎だ。息を吸うだけで熱気が肺を焼く。黒煙が体を汚す。けれどそんなことは気にならない。関心はただ目の前にこそ集中している。炎の只中にいる誰かへと。
 イヤ。その誰かが叫んだ。
 どうして。誰かが言った。
 何で。自分が言った。
 どうして。呟いた。どうしてなんだ。
 そこで思考は消え、意識が戻る――その筈だった。いつもなら。
 けれど事態は進んでいく。
 転換。視界が一瞬にして切り替わる。
 暗闇だ。目の前すらも判別できない程の闇がそこにある。そして背後への落下の感覚。
 風だ。風が肌を撫でていく。抗えない。ただひたすらに落ちていく。
 底には何時辿り着くのだろうかと思う。そもそも底はあるのだろうか。
 ふと底の方を見た。光が其処には在った。淡い光だ。ともすれば消えそうな。
 けれど、と思う。あれは光だ。この闇の中に確かに存在する光だ。
 だから。
 だから自分は手を伸ばした。光へと。
    *
 三崎は目を覚ました。音を忍ばせて起き上がる。
 静寂が部屋に満ちている。それを壊さないよう、慎重に三崎は動く。
 気分が悪い。吐き気がする。背中には冷や汗が伝っている。
 酷い気分だった。けれどその気分の因由はわかっていた。
 コップに注いだ水を飲み干す。冷たさが三崎の理性を覚醒させる。
「……」
 空のコップを巧は見つめた。空という事実を認識する。それは自分が中に入っていた水を飲んだからだ。そうでなければ空ではない。
 同じだ、と三崎は思う。
 先程の夢を思い出す。自分は光に手を伸ばした。そして此処にいる。
 同じだ、と二度目の思考。同じだ。空のコップを三崎は置いた。
 そして同じなのだから、俺は確認しなければならない。
 服を着て、ドアへと向かう。開ける寸前に、三崎は部屋へと視線を走らせた。布団の中には裸で寝ている晶がいる。その寝顔は穏やかで当分目覚める気配はない。
 その事を確認して三崎はドアノブを回した。外に出る。
 冬の冷気が肌を刺す。三崎は空を見上げた。
 曇天。雲が厚く覆っている――いつものように。
 どうして。どうしてだろう。三崎の思考がいつもの疑問を作り出す。
 どうして此処には――。
 中断。三崎は思考を強制的に遮断した。
 歩き出す。目的地は、考えるまでもなく決まっていた。
    *
 記憶は何時だって温かくて優しい。
「楽しいね、お兄ちゃん」
 畳の臭いで満ちる狭い部屋で彼女が言った。
「ああ、楽しいよ」
 ままごとをしながら俺が言った。砂場で作った泥団子を皿によそって、蓬の葉で飾り立てる。
「おいしい?」
 彼女が訊いた。
「おいしいよ」
 俺は答えた。
 それは幸せだった頃の光景だ。そうだ、ここは何時だって幸せだ。けれどもそれは見せかけだと俺は知っている。実の上に存在する虚だ。
 俺はそれで満足しない。虚のベールを剥いでいく。
 そうして思い出していく。記憶を遡行してその場所へと辿り着く。
「ねえ」
 彼女が言った。
「どうして」
 彼女が言った。
 
710優しい名無しさん:2008/09/10(水) 19:31:28 ID:vbON0OmS
「どうして」
 俺がいった。
「どうしてなんだ」
 呟きはけれど、掠れて空中に溶けて消える。
 小火だった。ただの小火となる筈だった。なる筈だったそれは、けれど俺の想像を超えていた。
 最初は単純な好奇心だった。好奇心で俺は行動した。ただどうなるのかが知りたかった。
 そうして、結果として俺は此処にいる。
 黒焦げの死体というのを、俺は生まれて初めて見た。
 ねえ。その声が未だに耳にこびりついている。
 どうしてなんだ。呟きが何時までも耳の中で残響している。
 後悔。それが俺を押し潰す。
 俺は――俺はそれに耐えられなかった。
    *
 数年振りに見た家は記憶の中のままだった。焼け焦げた柱。辺りに散乱する瓦。黒い地面。何も変わっていなかった。何も、変わってはいなかった。
「……」
 三崎はそれを無言で眺めていた。現実なのだという実感が胸に湧く。
 そうだ。これは現実だ。これが現実だ。此処でこれだけが変わらない。これだけが。
 どうしてだろう。疑問が湧く。どうしてだろう。どうして、どうして――いるんだ。
「…拓也?」
 声がした。振り向くまでもなく三崎は理解する。これは晶だ。
「どうしたの?」
 問いかけ。三崎に答えを強いる言葉。答えるという行為とその意味。
 晶に背を向けたまま、三崎は考える。これがそうなのか、と。
「拓也?」
 もう一度、晶が問う。拓也、と。名前を呼ぶ。名前を呼ぶ。呼ぶものは何よりも名前でなくてはならないからだと三崎は思う。
 ……俺は、どうするべきなのだろうか。
 思い出す。かつての生活を。そして此処での生活を。
 ねえ、と晶が言った。どうした、と自分が問うた。
 おいしい?と晶が問うた。うまいよ、と自分が答えた。
 ねえ、と晶が言った。どうして、と晶が言った。
 自分は答えられなかった。
 ねえ、と晶が言った。抱いてと言った。
 禁忌。その一語が頭を掠め、けれど自分はそれに応えた。
 それが事実だ。それが全てだ。そしてだから、晶は此処にいて自分も此処にいる。
 だから、だから俺は――
「拓也?」
 晶の問い。その問いに三崎は。
 三崎は。
「ああ、何でもないよ」
 そう、返した。振り向く。
 そこには晶がいる。青のパーカーに白の長ズボンという出で立ちで立っている。閉じた瞼で三崎のことを見ている。
「晶」
 三崎は言う。
「帰ろうか」
「…うん」
 晶が頷いた。三崎は晶へと近づくと手を取った。握る。
「…はじめてだね」
「え?」
「こうして、此処で拓也の方から握ってくれたの」
 そうか、と三崎は一人呟く。そんなことすらしていなかったのか、俺は。
「これからは、出来る限りする。…それじゃ、ダメか?」
「ううん。……でも、それよりも」
 そこで晶は言葉を切る。そして代わりに三崎へと体を寄せる。二人の距離が零になる。
 三崎の視界の中、晶は三崎のことを見上げている。閉じられた瞼で、けれど視線は確かに三崎を捉えている。
 何を期待しているのか、それを三崎は過ちなく理解する。瞼へと唇を近づけた。
「ん…」
 晶が熱を持った吐息を零す。そうしてから三崎は唇を離した。
 は、と短く息を吐いてから三崎は言う。
「行こうぜ」
「うん」
711優しい名無しさん:2008/09/10(水) 19:33:18 ID:vbON0OmS
 赤い顔で晶が頷く。返事を受けて二人は歩き出した。
「……あ」
 しばらく歩いたところで、晶が声を挙げて立ち止まる。どうした、と三崎は尋ねた。
「ねえ、拓也」
「ん?」
「ほら…これ」
 晶が差し出したものを拓也は見る。雪だ。晶の体温で溶けかかった雪がそこにはある。
 空を見上げる。灰色の雲が厚く垂れ込めている。そこから白い雪が降り注いでいる。
「雪、か……」
 三崎は呟く。
「雪だよ」
 晶が言う。
 雪。覆い隠すもの。何もかもを白く染めるもの。それが二人の頭上から降り続ける。
 見る間に雪はその勢いを増していく。全てが白く染まっていく。全てが白く染まっていく。
 三崎はただ、それを眺めている。どうして、という疑問はもう湧かなかった。
「……」
 晶が三崎の手を握る。それの応えとして、三崎は歩みを再開する。
 二人で道を歩いていく。早くも道に積もった雪に二人の足跡を残していく。
 二人。その事実が、今の三崎には心地良かった。そして思う。
 きっとこれからもそうなのだろう、と。

 
712優しい名無しさん:2008/09/11(木) 00:38:40 ID:9SvD0OoM
×巧
○三崎
何と言う誤字……!
これからは気を付けます、本当にすいませんでした
713優しい名無しさん:2008/09/11(木) 14:36:35 ID:8cS0OP30
>>712
GJ
面白かったよ

ただ、ときどき一人称と三人称が混ざりあってるのがちょっと読みずらかったかな
あと、主人公を苗字で呼ぶのは二人の描写と心理描写の距離感を作るため?
714優しい名無しさん:2008/09/11(木) 17:50:39 ID:9SvD0OoM
>>713
ありがとう
一人称と三人称の件については、これから気を付けて行きたいです
あと苗字の件は、実は何にも考えてなかったり……あはは
敢えて言うなら、三人称でも拓也だとちょっと違和感があるかなといった程度です
男性で名前を呼ばれるって、ちょっと特別なことだと思ってみたり
でもそれが713さんの仰ることなのかもしれませんね
715894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/11(木) 19:38:23 ID:hliQMye4
>>700
イイ!これは詩の感じだね
>決して幸せじゃないけど、死にたくなる程不幸でもない。
とか、自分の想いに浸っているだけじゃないのが良いと思った
しっかり客観視してる目線もあるのが。リアル。

>>704-707
いったい何が!何があったのだーーーーッ
続き気になる

>>708-711
すごく良いと思いました
自分の道を着実に歩むことに成功しつつある書き手の書いたもの、って感じがした。
そのまま、そのままゴーです!なんか分からんがそんな気がします

一点、水を飲んで空のコップを見て「同じ」と思うところが、
何と何が同じなのか分かりませんでした。
でも意味の積み重ねで構成されるタイプの作品ではない(=意味の「理解」を必ずしも要求しない作品)
と、読みましたので、それはそれで良いのかも知れません。
ただそういうタイプの作品は、独りよがりの危険といつも隣り合わせと思うので
そこだけご注意いただいて、このままゴーです!また読みたい。
716あず:2008/09/11(木) 19:59:21 ID:LlE6HRuK
世の中には、天才がいるものである。
阿久悠。もう亡くなってしまった彼の歌詞は、なんてことのない日常が、特別なものに代わる魔力を持っている。
勝手にしやがれなんて知らないが、気障な男心があると思う。
冬の旅や北の宿から、津軽海峡やもしもピアノが弾けたなら、ジョニーへの伝言、名曲揃いだ。
熱き心の歌詞では、柄にもなく泣いてしまった。
時代の扉が歌だという彼の詩
春、夏、秋そして冬には白い日が待っている。
幼少時代、まわりは氷に閉ざされていた。けれど家に帰ると、母と、暖かい家族が待っていた。
心の中は熱かった。今は、熱い状態が続く訳ではない。
母さん、ピンクレディーや高橋真理子の歌も、彼が作詞したのだってさ。
なかなかイカすよね、アクユウって。

終わり
717優しい名無しさん:2008/09/11(木) 22:43:46 ID:9SvD0OoM
>>715
褒められると調子に乗りそうで恐ろしい…でもありがとう
前のレスは返信できなくてすいません
でもアドバイスは出来る限り生かせるようにしてみました
(可読性……は失敗している気がしますが)

ちなみにコップの件は、
1.水を注ぐ=火をつける
2.水を飲む=己が妹を死なせる
3.コップが空という事実=此処にいるという事実

で、2と3の間には主人公の認識、という行為があります。
つまり2の行為の結果を認識して3に至るということであり、
けれど現在それが曖昧で「此処」にいるので、これからどうするか決めるために主人公は2の行為の結果の認識が必要不可欠だった、みたいな感じです。

でも解説しないといけない作品ってそれもうダメじゃん、みたいな気はしますね
718凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/12(金) 17:09:44 ID:ay3nQB+O
別スレの企画でここにうpしたのが面白かったのでまた投稿します。
今度は三回に分けます。
前作同様二時間くらいで仕上げたので粗いかもですorz

「聖なる山での一夜」by凍てついたペプシ

全ての者の上に立つものは、全ての者に使えなければいけない。
気の遠くなるくらい昔、私たちの母なる惑星、地球でイエスと言う男が述べ伝えたこの一言を、我が火星王室は代々大切にしている。
 私はこれから、王都郊外の『聖なる山』まで、二日がかりで民に寝食をお世話になりながら目指し、
一夜かけて王室に伝わる聖典を朗読して、来た道を戻って宮殿まで戻ってこなくてはならない。
 そして、ようやく一人前の王族として認められるのだ。
 身にまとうことが許されるのは、ローブだけである。神聖な儀式の一環のため、正装で臨むのだ。
 所持できるのは、腰袋に入れた聖典と金貨だけ。この金貨は、一宿一飯の恩に預かった民に納めるものである。
「アリア、山小屋についてしまえば後はどうとでもなるの。でも、山小屋に着くまでに面倒を見てくれた民への恩義は一生忘れてはなりませんよ」
 母上の言葉を思い出し、豆粒のように遠くなってしまった宮殿を振り返る。
 母上も、私と同い歳の娘のころ、先代女王陛下に同じことをいわれたのだろう。
 「聖なる山の一夜」の儀が始まる。
頑張らなくちゃ。
719凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/12(金) 17:10:50 ID:ay3nQB+O
民の家、とはいっても「聖なる山」まで、儀式で指定されている道にある民家は、この一帯で農業をしているマーク・ヒルフォスターという人の家しかない。
 冷暖房の効いたふかふかなベッドがある高級官僚の家に泊まったところで「聖なる山の一夜」の意味がないのだ。
 夏の暑い日ざしが照りつける中、私の足は軋む音がするくらい疲れている。
 ローブは長袖だが、脱ぐことは許されないし、かえって肌を直射日光に晒すことのほうがリスクは高い。
 ようやく、二マイルほど前方にヒルフォスターの家が見えてきた。
 典型的な農家の一軒家【アグリカルチャー・ドーム】だ。
 私は、前方の農家を前に最後の休憩をすることにして、道端のベンチに腰掛けた。
「そこ、俺の席なんだけど」
 突如聴こえてきた、声変わりでかすれた声が聞こえてくる。
 後ろで、がっしりした体格の、麦藁帽子を被った少年があくびをしながら起き上がるところだった。
 ベンチの後ろの木陰で横になって休んでいたらしい。
「でも、まあいいや。あんた、姫様だろ? 今日うちで農作業と家事を手伝って、飯を食って、あそこの『聖なる山』まで行って戻っていくって言う。俺は農作業が楽になればそれでいいんだ。早く仕事を覚えてくれよ」
「あ、アリアです。今日はよろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる。
 すると、少年は用水路に沈めていたものに刃を入れた。
「食えよ。農作業の前にぶっ倒れられたらかなわないからな」
 少年がナイフで切ってぶっきらぼうによこしたのは、よく熟れて、宮廷晩餐会で食べて以来大好きになった、マーズパイナップルだった。
 水で冷えたそれを一口頬張ると、みずみずしい果汁とさわやかな香りが口いっぱいに広がり、今までの疲れが吹き飛ぶようだった。
「ありがとうございます」
 そのあとに少年の名前を続けようとして、名前を聞くのを忘れていることに気づいた。
 少年はそれを察したのか、相変わらずぶっきらぼうな口調で、
「ケンイチ。ケンイチ・ヒルフォスターだ」
「素敵な名前ですね」
「昔、地球に会ったニホンという国の文献から採った名前だそうだ。こんな名前が素敵だなんて、あんたも相当素敵な価値観をしているんだな」
 そのとき、身体の芯に響く鈍い音がした。
 四歳の頃から仕込まれている、護身術の構えをとる。
 神経は、敵の身体的特徴、それに最も適する体のさばき方を、一瞬でも早く決定することに集中される。
 気絶したケンイチの背後にいる大男は、私を見てこういった。
「姫、今度こいつに、血の小便が出るくらい徹底的に、正しい言葉遣いを叩き込んでおきますから、本日はなにとぞご容赦を」
 大男に抱えられたケンイチの頭には、大きなたんこぶが出来ていた。
720凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/12(金) 17:13:31 ID:ay3nQB+O
「あんた、寝るときもその服なのか?」
「しきたりなんです」
「『しきたり』ね」
そういいながら、前を歩くケンイチが、昼に父親のマーク・ヒルフォスターにゲンコツを食らった頭を痛そうにさする。
 思っていたより、ずっとずっときつかった農作業が終わり、ヒルフォスター家の掃除を済ませ、ご飯をご馳走になってから寝床に入ろうとしたとき、ケンイチに呼び出されたのだ。
 昼間と変わらない足取りで暗い夜道を歩くケンイチのあとを追うのに骨を折りながら、私はあくびをかみ殺す。
 昼の仕事で疲労困ぱいになり、今にも眠りそうだった。
 やがてたどり着いたのは、昼間のベンチだった。
「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ」
 そこはやはり、見た目はなんら変哲のない夜の農道だ。
「ここがお好きなんですか?」
「目を閉じてみな」
 私が理由を問う前に、ケンイチは目を閉じてしまった。
 仕方がなく、私もそれに倣う。
 そこには、音の別世界が広がっていた。
 農道の脇を流れる用水路のせせらぎにあわせるように、さまざまな虫の音が響く。
 時折吹く風がマーズモルトの穂を撫で、電球の切れかけた街灯がジジ、と音を立てる。
 音のプラネタリウムの中にいるみたいだ。
 昼間の疲れが誘発する眠気も手伝って、別宇宙で宇宙遊泳をしているような感覚を覚えた。
 その音の宇宙でふわふわ浮かぶような心地よさに浸っていると、
「あんた、本当に女王なんかになりたいのか?」
「え?」
 目を開け、街灯の薄明かりに浮かぶケンイチの顔を確認すると、彼は目を逸らして星空を見上げる。
「俺は、農民としてこの畑の相手をしながら一生を終える。それを、俺は誇りに思う。
確かに農作業はきついけど、ここで作ったものが他の民の腹を満たすわけだし、何よりこの場所でぼんやりする時間がある。
でも、あんたは宮殿に帰ったら決まった相手と結婚して、女王になれば公務に追われて、何より『しきたり』とやらで、二度とお母さんに会えなくなるんだろ? 
そんな人生で、あんたは満足するのか?」
 夜空には、無数の星が、小さい頃から変わらず瞬いている。
 王立学院での勉強や、護身術の稽古や、やがて二度と母上と会えなくなる「しきたり」にくじけそうになるたびに見上げたときと、変わらずに瞬いている、星が。
「満足しています」
 ケンイチが、再びこちらを見る。
「この『聖なる山の一夜』の儀は、私たち王族の間で大切にされている『全ての者の上に立つものは、全ての者に使えなければいけない』という言葉に由来するものです。
確かに楽な立場ではないけど、母なる地球の最盛期と同じ六十億もの人口を有するまでに反映したこの火星を治めるものとして、私は、さっきあなたがいったように誇りを持って生きようと思います。
そして、民のために生きることが出来て、私は幸せです。
強くて、まっすぐで、王家の人間だからといってこびへつらわず私に話しかけてくれて、マーズパイナップルまでご馳走してくれた、あなたのような人のために生きることが出来て」
 すると、ケンイチははにかんだように笑って「あんたも奇特な人だな」といった。
 ケンイチの笑った顔をみたのは、そういえば初めてだった。
 そして、この笑顔を守るものとしての務めを果たさなければいけないと思った。
 聖なる山で、苦しい気持ちになっても、この夜空を見上げればケンイチの顔を思い浮かべて頑張ることができそうな気がした。

                           完
721凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/12(金) 17:15:55 ID:ay3nQB+O
うp終了です。
普段ラノベ風の作品を書かないので、楽しい反面ボロもでてくるorz
頑張らなくちゃ(何
722優しい名無しさん:2008/09/12(金) 23:45:27 ID:awZFFqFt
>>721
物語の舞台を火星にしたのなら、なにか火星ならではの面白さがほしいですね。
重力が違うわけだから、飛び跳ねると樹を飛び越えてしまうとか。
で、そのために足には重石がわりの靴をはいてるとか。
冒頭部分で火星で暮らしてみたいと思わせるようなインパクトあるシーンを描くと、
物語への興味をかきたてると思います
723凍てついたペプシ ◆PS/2Nwn/yE :2008/09/13(土) 07:09:42 ID:yEsMDaCg
>>722
アドバイスありがとうございます。
確かに、これじゃ火星にした意味がないorz
個人的に、別の星なのに普通な風景+αみたいなのを想定してたんですけど、
いっそ未来の地球(もちろん普通の風景)とかにしたほうがよかったですかね?
724950:2008/09/13(土) 18:20:17 ID:IBc9hVq8
>>ペプシさん、火星については最低でもWikipediaで情報収集が必要
になると思いますよ。「太陽系第四惑星」
「オゾン層がないので宇宙線が降り注ぐ」
「大気の不安定さ」
「たまに強風が吹く」
「強い風が度々吹くので熱気球やグライダーに的している」
「太陽が地球よりも遠い為、太陽の恩恵を地球よりも約6割も少ない」
「枯れた水脈」
「オーストラリアのエアーズロック級の山が至る所に点在している」
などなど、これでもまだまだフィールド描写少ないかもしれない。
一番は、火星を扱った小説を一冊でも読んで描写が欲しいところですね。
725894 ◆wDkpIGVx1. :2008/09/13(土) 19:13:02 ID:KiTIt6A6
>>717
1.水を注ぐ=火をつける
2.水を飲む=己が妹を死なせる
3.コップが空という事実=此処にいるという事実

小説に書かれているのは左辺の内容ですが、
そのとき主人公の内面では、右辺の内容を思っているということでしょうか?

それを、この部分を読むだけでは理解できなさそうです。
でも例えば、一度全体を読み終わった後に
主人公の内面を追おうとして再読する読者には、
「このタイミングで過去と現実の不整合に気づいたのかな?」などと
深読みや想像する面白さがあるかもしれませんね。

解説しないといけない作品はダメかもしれませんが、
>>717で解説してもらったら、「同じ」という言葉のセレクトがまた妙味というか
変わった使い方というか、うまく言えませんが
面白かったのだなあという気がしました。
記憶と現実の不整合が起こっているのに「同じ」というのは面白いです。
とにかくそのままゴーが良いと思います!
726894 ◆wDkpIGVx1.
>>718-720
「王位継承のための試練として、二日間の短い旅をしなければならない王女」
という大枠、面白いと思いました。
なんかwktk感をそそられます。なんでだろ
「短い旅」って面白いですよね。日常から遠く離れるわけではないけれど、
解放感とか、発見があるから。

俺はそこまで火星ということは気にならなかったのですが、
「短い旅」テイストがもっとあって欲しかったかな。
(これは単に個人的に、作者の意図無視でそういうものが読みたかっただけなのです)
ケンイチとの交流自体は「短い旅」にマッチしてて、そこは良いのですが
細部をもう少し膨らませていただいたら大好物だったかもしれません。
自然な流れというか雰囲気というか・・・