「!!」
すぐ近くで不気味なうなり声が聞こえた。
顔を見合わせるアイザックとミリア、と倉庫のガラスがいっせいに割れる。
「ひいいいいいっ!」
頭を抱え逃げ出すアイザックとミリア…それから要も遅れて飛び出す。
可哀想にも祐巳はほったらかしだ。
シロが祐美のコートのすそをくわえて引っ張ろうとするのだが、重くて持ち上がらない。
どうしよう、どうすればいいデシか?
割れたがガラスがじゃらじゃらと音を立てる。
それを見てあることを思い出すシロ、シロは割れたガラス片で自分の手を切ると、
そこから滲む血を祐巳の口元に持っていく
「ちょっとでいいから飲むデシ、これですぐ元気になれるデシ」
鉄の匂いが祐巳の鼻腔を刺激し、喉が動く…ごくりごくり…。
おりしも倉庫の扉がぶち割られ、禍々しいシルエットの魔物が姿を現す。
その時だった。
祐巳の目がカッ!と開いたのは…。
「やった!効いたデシ、さぁ逃げ…」
シロはそれ以上言葉を続けることは出来なかった…なぜならば。
「な…なによあの子…なんなの」
物陰から様子をうかがっていたミリアが呟く。
ゆらりと立ち上がった祐巳の姿、瞳は赤く輝き、髪はまるで静電気を受けたように逆立ち、
顔は謝肉祭のマスケラのように固まった笑顔を浮かべている。
「らあああっ」
終に向かい咆哮する祐巳
吸血鬼の血を受け入れたとはいえ、それが体になじむまでには時間がかかる。
いわば彼女は蛹の状態だった、しかしそこに竜というさらなる異種族の血液が混ざることによって、
彼女はひどく不完全な形で人間とも食鬼人とも違う第三の存在として覚醒してしまったのだった。
祐巳の咆哮に呼応するように終もまた吼え叫び、戦いが始まった。
「ぐるるるる…らあああああっ!」
まずは祐巳が動く番だった、叫びと同時に跳躍、その鋭い動きに終ですらついていけない。
渾身のかかと落としが終の肩に叩き込まれるが硬い皮膚に阻まれ。逆に祐巳の肉体が
機動力についていけず悲鳴を上げる。
それでも祐巳は構うことなく終の体に今度はパンチの乱打を浴びせ続ける。
手の皮膚が破れ、血が拳を染めるが構うことなく、
煩げに尻尾を一閃され、払いのけられるがそれでもゆらりと立ち上がる祐巳、
その姿は終以上にまさに人間離れしていた。
終の、いや生物としての本能が危険信号を送る。
こいつは危険だ、引けと。
理性が少ない生物ほど危険には敏感だ、こうして終は最後のオマケとばかりにもう一声吼えると
そのまま南西の方角へと走り去っていったのだった。
「…?」
それから数分後、祐巳は不思議そうに周囲を見渡す。
私はいったいどうしてしまったのだろう?歩いていて気分が悪くなって…
「あの…ここはどこでしょうか?」
荒れ果てた倉庫内、自分を見つめる幾人かの視線。
掌にぬるりとした感触…血にまみれた己の両手を目の当たりにして悲鳴をあげる祐巳。
「これ私がやったんですか!?、何があったんですか!?」
そしてさらなるアイザックたちの視線が自分に突き刺さる。
お前何者だなんてことしやがる怖いこわいコワイ化け物ばけものバケモノ…
「ちが…ちが…うう」
祐巳の脳裏が赤くスパークして意識が消えた。
「ちっくしょう」
ふらふらと起き上がった潤、おぼつかない足取りで倉庫へと向かう。
そこで彼女が目にした物は、北東に向かい恐るべき速度で走り出す何者かの姿…
「祐巳っ!」
倉庫へ走る潤、そこには何が何だがといった表情で顔を見合わせている3人と1匹がいた。
「おい祐巳、祐巳はどこにいる、おいっ!まさかあのさっきの変な奴にっ」
「あれが…そうだよ、あれが祐巳さんだよ…」
誰かが絞り出すような声で呟いた。
気がつくとそこは海だった。
「わからない、わからないよ…」
海の波に向かって救いを請うように叫ぶ祐巳。
記憶がまるでない、あの目を見たとき…嫌だなと思ってそしたら…
「私どうなっちゃったの?これからどうすればいいの?…助けて…」
【アイザック】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:なんだったんだ、今の
【ミリア】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:なんだったの、今の
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)】
[状態]:健康
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:なんだったんデシか?
【高里要】
[状態]:やや平常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:何だったんだろうか?
[備考]:上着を一枚脱いでいる。
【哀川潤】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:怪しい奴がいたらひっ捕らえる。殺人者がいたらぶっ殺す。
小笠原祥子の捜索 祐巳の捜索
【E‐4/工場倉庫/一日目8:45】
【A‐4/海/一日目9:15】
【福沢祐巳】
[状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ みんなを守ってみせる 聖様を救う 食鬼人のことは秘密
私どうなってしまったんですか?
※祐巳の状態について
自分に対する敵意、悪意を明確に認識した場合、自動的に覚醒・無差別攻撃を開始
覚醒中の記憶は一切保持できません、姿が変わるのは覚醒中のみです。
力(怪力・瞬発力など)は覚醒中のみ使用可
静雄を探したい。セルティのその願いに、保胤は快く了解した。
セルティの話を聞いた限りでは、静雄は彼女の無二の親友らしい。その上、とにかく物凄く強く、味方についてくれれば何よりも心強いそうだ。
この島に保胤自身の知人が一人もいない事を考えれば、同盟を組んだ彼女の友人を探すのは重要事項と言って良い。
夜を明かした海岸近辺から南東の方向へと進んでいた二人は、視線の先に何かが落ちているのを発見した。
「誰かの支給品のようですね」
『一時的に置いてある、とは考えにくいな』
その荷物は木陰や建物の中などではなく、草の間に無造作に放置してあったので、セルティがそう思うのは尤もと言えた。
ちなみに、それはシロちゃんことトレイトン・サブラァニア・ファンデュが中も見ずに置いて来たデイパックであったのだが、彼らがそんなことを知る由もない。
周囲を見渡し、特に罠などでなさそうなことだけ確認すると、袋へとおもむろに手を伸ばした。
『中身を見たほうがいいな。武器や食料が残っているかもしれない』
セルティの提案により、デイパックを空けた二人が最初に目にしたのは全く手付かずの食料だった。
『これだけでも十分幸運だな。…持ち主はどうしているのか知らないが』
言外に、本来の所有者が死んでいるかもしれないとの思いを含ませて、セルティが書き連ねる。
パンとペットボトルを自分たちの荷物に詰め替えるセルティの横で、保胤がデイパックの底に手を入れた。
「まだ何かあるようですが…?」
硬く冷たい板のようなものの感触が手に当たったのに気づきそう呟くと、探り当てた『何か』を指の間に挟み込んで袋の中から摘み出す。
「!」「?」
目を見開くセルティと首をかしげる保胤。二人の反応の差異が、彼らの間に本来流れている筈の年月を如実にあらわしていた。
『静雄の携帯だ』
手元の紙に手早くそう書くセルティ。その書体は先ほどまでと比べると所々荒く、彼女が混乱しているらしいことがよく分かった。
しかし、一方の保胤は平安時代の人間である。いくら彼が聡明とはいえ、1900年代に発明された機械を知っているわけはない。
彼は、不思議そうな顔でセルティに尋ねた。
「この板が一体どうしたのですか?」
『ん…? ああそうか。知らないに決まっているな』
そこから数分、セルティが講師を務める「誰にでも分かる・初めての携帯電話使い方教室」が開かれた。
「…つまり、これを用いれば離れた場所にいる相手とも会話ができる、と?」
『まあ、そう言うことだ』
「信じられません」
こんな板が、とでも言いたげな保胤に、セルティは応える。
『私も信じられないよ…』
セルティは、保胤から渡された携帯電話を震える手で操作した。
その手の中にあるのは、見慣れた平和島静雄のものに間違いなかった。前面の特徴的な塗装の剥げには、確かに見覚えがある。
電話はなぜか圏外ではなく、利用可能地域を示すアンテナが表示されていた。
だが彼の電話帳に登録された番号に手当たりしだい電話をかけてみても、ざぁざぁという雑音が聞こえるばかりで、一向に繋がる気配はない。
しかし、とここでセルティは思った。この携帯電話は単なる外れアイテムなのだろうか?
いや、それはない。このゲームの『主催者』たちがそんな意味を成さないことをするとは考えがたい。
つまり、私の推測が正しければ―。
『聞いてくれるか。この携帯には私の番号が登録されている』
「はい?」
セルティが何を言いたいのか分からない(と、いうかそもそも何を言っているのかもよく分からない)保胤が微かに困り声で返事をする。
『簡単に言うとだな、この島のどこかに恐らく私の携帯がある。その一機とだけ、この携帯は繋がるはずだ。
誰が持っているかは分からないが、相手が話を聞く人間なら、私たちの仲間になるかもしれない』
「私がですか? しかし…」
『仕方ないだろう。私は声が出せないのだから』
そう言うと、セルティは頭部の欠けた自身の首の上を、立てた指で示した。
セルティ本人は普段メールにしか携帯を使わない。しかし、こんなときにメールを打っても誰かに見られる可能性は低い。
その上、たとえ誰かが見てくれたとしても、まともに返信が返ってくるかどうか保証はないし、好きなことを書いて送れるメールでは、偽証も容易い。
それよりは、直接相手の声を聴いて交渉することのできる電話のほうが、同盟を組む相手を探すには都合がよいだろう。
そう思っての決定だったのだが、喋れない自分に電話がかけられるわけもなく、仕方なく保胤に頼むことになったのだ。
『頼む。静雄か、味方になってくれる誰かを見つけたいんだ』
「…分かりました」
セルティのその言葉に、保胤はとうとう首を縦に振った。
未知なる物への好奇心は確かに人と比べて強い方だろうが、千年以上も先の文明の機械など正直奇怪でしかない。
それでも、彼女の頼みが切実であることは分かっていたから、断ることなど不可能だった。
『ありがとう。感謝する』
保胤に優しげな字でそう礼をすると、セルティは、画面を見ながら自分の登録番号を呼び出した。
―鬼が出るか、蛇がでるか、はたまた救いの神が出てくれるか?―
ピ、ピポパポ、ピ。
セルティが指で突起を押すたびに流れる機械音。それらは不意に「プルルルル…」という音の連続に変わった。
『これで、繋がるだろう』
セルティは一言だけそう書くと、持っていた電話を重々しく保胤に手渡した。
【B-2//1日目・07:45】
チーム名『紙の利用は計画的に』(慶滋保胤/セルティ)
【慶滋保胤(070)】
[状態]:正常
[装備]:着物、急ごしらえの符(10枚)
[道具]:デイパック(支給品入り) 「不死の酒(未完成)」・綿毛のタンポポ・携帯電話
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索/ 島津由乃が成仏できるよう願っている
【セルティ(036)】
[状態]:正常
[装備]:黒いライダースーツ
[道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)
[思考]:静雄の捜索・味方になる者の捜索
竜身いや、いまや竜人と化した竜堂終は西へと走り出す。
目の前の森に突入し、木々をなぎ倒しながらも突き進む。
森の破壊される音と時折あげる竜の咆哮は、聞く者の魂を震撼させた。
「今のは竜王の気配!?、まさか…!?」
「悲しみとやり場のない怒りのこもった叫び声だね。世界の敵となる可能性がある。」
「えっ?、藤花ちゃん何を言っているの?」
「えっ。私何か言いました?」
森をぬけ茂みを抜け、草原を疾走し、それでも竜人は止まらない。
現在位置 【E-5/草原/一日目、08:25】
【竜堂終】
[状態]:竜への不完全な変化(精神的にはかなり竜寄り)
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:1.茉理を守る 2.それ以外の一切は動物的本能(攻撃する者は殲滅)
>>400-405(侵食〜Lose Control〜)へ続く
竜人はE-4の倉庫を出た後も西へ西へと走り続ける。
一声吼えると、分厚い空気の膜を体に纏わせ、行く手を阻む木々等をなぎ払いながら突き進む。
遊園地に突入し、アトラクションの一部を破壊し、そのまま海上を突き進む。
しかし、いつ終るとも知れない竜人の暴走も唐突に終わりを告げた。
数百メートルほど海上を進んだ所で、見えない壁のような物にぶち当たる。
竜人は理解した、これが自分達を閉じ込めている檻の柵だと。
再度全力でぶち当たる。膨大なエネルギーをもった一撃。
この世界の界面がほんのわずかに揺れた。
世界の状態を感知できる能力者がいたとして、それでも感じ取れるかどうかという些細な影響。
たった、それだけ。
そして、腕の刻印が冷たい光を発し輝きだす。
刻印の効力で急速に力を減じられ、命の火が燃え尽きた竜人は海に落下していく。
薄れ行く意識の中で、終は長兄の姿を見ていた。
「ごめん始兄貴、なにがあっても暴走して意味もなく破壊して回るなんて、家訓に反するよなぁ。」
「だけど俺許せなかったんだ。こんな世界も、始兄貴の助けになれなかった自分も…。」
「茉理ちゃんを頼むって?嫌だよ、兄貴が自分でやれよ。それに俺はもう…。」
・
・
・
・
気がつくと、砂浜に打ち上げられていた。
「ここはどこだ?俺は…始兄貴に助けられたのか?」
「腹が減ったなぁ。地図も時計も何とかしないと。」
今回の件を仕組んだ相手を許してはおけない。
必ず一発殴らないと気がすまない。
だが自分1人の力では無理ということも身にしみてわかった。
腕の刻印もそのままだ。
茉理を保護し、協力者を探し、反撃の手段を考えないと。
しかしまずは15歳の健康な男子の旺盛な食欲を満足させないといけない。
現在位置 【C-3/浜辺/一日目、09:30】
【竜堂終】
[状態]:通常/空腹
[装備]:ブルードザオガー(吸血鬼)
[道具]:なし
[思考]:1.食料調達 2.茉理の捜索 3.地図や時計などの入手or協力者との接触
間違いました。
×現在位置 【C-3/浜辺/一日目、09:30】
○現在位置 【C-1/浜辺/一日目、09:30】
途中、人識に見つかりそうになりながらも何とかのりきりクレアは城に続く道にたどりついた。
別に人識が強そうだったから闘わなかったわけではない。
闘っても余裕で勝てるという自信はあったのだが、何の理由もなしに人を殺すのはクレアの方針にそぐわない。
それに、闘っていたら無駄に時間と体力を消費することになると考えたのだ。
「この道を行けば城だな・・・シャーネ。今からこのクレア王子が助けに行くぞ!!」
言い終えるのと同時に走り出す。
颯爽と走るクレアの両手には大型ハンティングナイフが握られている。
王子の武器としては合わないが、クレアはまったく気にしていない。
むしろ気に入っているくらいだ。
何しろ自分の結婚相手、シャーネの愛用の武器だから・・・
「そうだ、姫を助け出したらこのナイフは返してやらなきゃな」
大型ナイフを両手に持つ姫。
奇妙な組み合わせだが、これもまたクレアは気にしない。
───普段もキレイだが、ナイフを持っている時のシャーネはさらにキレイに見えるんだよなぁ
などと考えていると、周りを注意していなかったため、誰かと肩がぶつかった。
平和島静雄は歩く。
城から出る時は誰かが入るときに破ったと思われる窓があったので簡単だった。
しかし、出たまではよかったのだが、何処にセルティが居るのか検討もつかない。
とりあえず静雄は城から続く道を歩いて行く事にした。
「糞。イライラする。何で俺がこんな所にこなきゃいけないんだ?」
毒づきながら歩く。
「そうか、臨也か。あいつがまた俺をはめやがったに違いねぇ。あいつが全ての元凶か」
顔に血管が浮いてくる。そうとう怒っているようだ。
「絶対殺す。殺しても殺したりない。殺した後殺すか?それがいい。とにかく死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
抑えきれなくなり、溢れ出てきた怒りを言葉にして表す。
と、最悪のタイミングで静雄に誰かがぶつかった。
相手は走っていたらしく。静雄の肩にぶつかってもとくに気にしないまま走りさろうとした。
だが静雄がそれを黙って見過ごす分けが無い。
「おい待てこらてめぇ!人にぶつかっといて謝りもしないとはいい度胸じゃねぇか!!一回死ね。俺が殺してやるから死ね!!」
尋常じゃない殺気を向けられたので流石に男・・・クレアは立ち止まった。
そして振り返り、
「あぁ、悪い。だが今忙しいからお前にかまってる暇は無い。俺は王子。今から姫を助けに行くんだ。かっこいいだろ?俺」
言い終えるとすぐさま身をひるがえしまた走り出す。
「おいおいおいおいそれだけかよ。全然謝られた気がしねぇ。何だあの顔は、糞。やっぱりあいつから殺す。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」
相手は両手に大型ハンティングナイフを持っていたが、そんなことは気にしない。
静雄はクレアを追い、ただ怒りに身をまかせ城に向かって走りだした・・・・・・
【F-4/城に続く道/一日目7:15】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:絶好調
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:城に行く 姫(シャーネ)を助け出す
【平和島静雄(037)】
[状態]:怒り爆発
[装備]:山百合会のロザリオ
[道具]:デイパック一式
[思考]:あいつは殺す!
コートが波に濡れるのも構わず、祐巳は泣きじゃくっていた。
気がついたら血だらけだったなんて普通じゃない。なにかおかしな力が働いたに違いない。
自分は化け物になってしまったのだ。倉庫の中の彼らの視線がそう言っていた。
じっくり見たわけではないけれどそうに決まっている。
少なくとも好意的じゃなかったのだから、絶対そうだ。化け物に見せる目つきは恐れと軽蔑しかありえない。
祐巳が食鬼人になったことを知っているはずの潤だって、きっとそう思ったに決まっている。
――祐巳っ!
あの駆けだした自分へかけた声のなんと鋭かったことか!
「……どうして?」
涙で枯れた喉は、しゃがれた声しか許してくれなかった。
(私は力が欲しかっただけなのに)
みんなを守る力を、殺すためでも傷つけるためでもない、正しい力を望んだのに。
――何かがおかしい。
あの子爵にだまされたのだろうか、と思い祐巳は慌てて首を振った。
(そんなはずないわ、子爵はいい人だったもの)
――でも、それならどうして?
未だにあふれる涙を拭いながら、祐巳は考える。
しかし、考えても考えてもわからない。
自分は食鬼人については子爵から聞いた話しか知らないのだから当然なのかもしれないが、彼の話と自分の状態とは酷く食い違うのが気になる。
(かつてヴォッドさんの血を飲んだ方は、こんなことにはなっていなかったようだけど……)
祐巳は、はっと思い当たった。
(ひょっとしたら私の身に、子爵も思い当たらない何かが起こったのかもしれないわ)
子爵に会いに行こう。そしてこのことを相談しよう。
食鬼人について知っているのは彼しかいないのだから。
祐巳は涙を拭い地図を確認すると、子爵のいたところを通り過ぎていたことに気付き慌ててかけだした。
【A‐4/海/一日目9:30】
【福沢祐巳】
[状態]:看護婦 魔人化 記憶混濁
[装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 ヴォッドのレザーコート
[道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)
[思考]:食鬼人のことは秘密 私どうなってしまったんですか? 子爵に会いにD-4へ行こう 魔人化したことには気付いていない
「やっぱ僕はあいつらを追いかけることにする」
零崎がトラップに引っ掛った誰かを見に行ってから、出夢くんが言った。
「次の放送であいつらの名前が呼ばれたら寝覚めが悪いからな」
「えー! 出夢くん行っちゃうの?」
ドクロちゃんが残念そうに出夢くんの手を引っ張る。
「もっとボクと○×△やろうよ〜」
「あんな僕が一方的に不利になるゲームなんて二度とやりたかねーよ」
苦笑しながらいう出夢くん。○×△とは、マルバツ(3×3のマスに交互に○と×を書いていき、
同じマークを縦・横・斜めに三つそろえた方が勝ちというあれだ)の改造版で、
○の人はさらに△を書き入れられるというものだ。ちなみに、△は○として扱われる。もちろんドクロちゃんが○だ。
「出夢くん、本当に行くのかい?」
「まぁな、ぎゃはははは!心配してくれるのかい?おにーさん」
出夢くんは、殺し屋とは思えないような笑顔を浮かべて言う。
僕は凪ちゃんに訊く。
「凪ちゃん。君の意見は?」
「出夢の意見ならそうしたらいいと思うぞ、オレは。確かにオレもさっきの奴らは心配だからな」
木の幹に身体を預けていた凪ちゃんは、こちらに歩いてきながらさらに続ける。
「ただし、もし二人を説得できるのならここにもう一度戻ってきてくれ。脱出するにも大人数の方が有利だ」
「ぎゃははは!わかったよ、二人を説得してみる……さて、零崎がかえって来る前に行くとするか。
やっぱり、あいつは好きになれそうにねーや。じゃぁな、炎の魔女におにーさん。それと三塚井、
妹が戻ってきたみたいで楽しかったぜ……あばよっ!」
出夢くんはそう言うと、二人が居なくなった方向に歩いていく。
「あぁそれと。これ、僕は使わないからやるよ」
出夢くんはデイパックの中から細長い何かを取り出すと僕たちのほうに放り投げ、今度は本当に行ってしまった。
「出夢くんって本当に面倒見がいよな………殺し屋だけど」
ぼくはしばらく出夢くんの去った方向を見ていたが、
「あ!エスカリボルグ!」
ドクロちゃんの声に、視線を出夢くんが放り投げたものに移す。
それは、いかにも凶器といった感じの釘バットだった。しかも普通の釘バットではない。たいてい釘バットというものは、
木でできたバットに鉄の釘を打ち込んだものなのだが、ソレはなんと金属バットから釘が生えていたのだ。
よく見ると打ち込まれているのではなく、元からバットに釘が付いた状態で作られたのがわかる。なんて禍禍しい凶器だろう。
「あれ?これエスカリボルグじゃない」
まだ足が治っていないドクロちゃんが、木の幹に背を預けながら左手で釘バットを振り回しながら言った。
そうなのだ、これは後から零崎に聞いた話なのだが、その釘バットの名前は『愚神礼賛』(シームレスパイアス)零崎一賊の殺人鬼
零崎軋識の愛凶器なのだそうだ。
しかしドクロちゃん…まだ右手が治ってないからって左手でそんなに重そうな凶器を軽々と振り回さないでよ。
ぼくは、左足の腱が切れているはずなのに、杖を使えばもう歩けるまでに回復した謎の天使にむかって、心の中で突っ込みをいれた。
しばらく木と木を飛び移りながら、超人的な速さで足跡を追っていた出夢だったが、森を抜けたところで足跡が一つ減っているのに気付く。
「はっ!味な真似をしてくれるぜ」
出夢は言うと、地面に降りて足跡をよく観察する。森の中に少し戻っていったところで片方の足跡――小さいので長門であるということが分かる―
が一つだけ深くなっていることに気付く。まるで二度踏んだかのように。
出夢はそこから少し先の茂みを掻き分けて進むと、やがて一人分の足跡が唐突に始まっているのを見つけた。
「さて、どっちを追うべきか……」
出夢は腕を組み、思考する。
【戯言ポップぴぴるぴ〜】
(いーちゃん/零崎人識/霧間凪/三塚井ドクロ)
【F−4/森の中/1日目・07:00】
【いーちゃん】
[状態]: 健康
[装備]: サバイバルナイフ
[道具]: なし
[思考]:ここで休憩しつつ、トラップにかかった者に協力を仰ぐ
【霧間凪】
[状態]:健康
[装備]:ワニの杖 サバイバルナイフ 制服 救急箱
[道具]:缶詰3個 鋏 針 糸 支給品一式
[思考]:上に同じ
【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
右足はまだ使えません。
[装備]: 愚神礼賛(シームレスパイアス)
[道具]: 無し
[思考]: このおにーさんたちについていかなくちゃ
※能力値上昇中。少々の傷は「ぴぴる」で回復します。
すみません。
>>420は(2/3)です。
あと、
【ドクロちゃん】
[状態]: 頭部の傷は軽症に。左足腱は、杖を使えばなんとか歩けるまでに 回復。
右足はまだ使えません。
は、右足(↑)ではなく右手の間違いです。
ご迷惑をおかけしました。
「祐巳を探してくる」
潤は要の説明を聞くやいなや、短く告げた。
「そ、そんな! 一人じゃ危険ですよ。僕も行きます」
要は震える声で潤を押しとどめる。
確かに暴走した祐巳は怖かった。あの様は化け物としか言いようがない。
しかし、潤をそんな人間の元に一人で行かせるのも抵抗があった。
「そうはいってもね、その二人の面倒を見てやるやつが必要だよ。あの状態じゃあねえ……」
と、潤は座り込んだままのアイザックとミリアを顎で示した。
二人は祐巳の走り去った方向に呆けた顔を向けている。
確かに、このまま放っておくのは危険であった。
その時、
「ブラックだ……」
「ブラックだね……」
赤ん坊が知らない人間を凝視するような顔でぽかんとしていた二人が呟いた。
「あ?」
意味の通らない言葉に、潤は眉をひそめる。
「ブラック発見だな!」
「ブラック発見だね!」
しかしそんな潤には構わず、二人は喜びに満ちあふれた表情で立ち上がった。
「他の隊員とちょっと違う力、危なくなったら助けてくれるさりげない優しさ、
そして何より孤独を求めて走り出すシャイさ加減!」
「どこをどう見てもブラックだね!」
そのまま興奮のあまり二人は踊り出す。
しかしそれは、ワルツ、タンゴ、サンバがごちゃ混ぜになったダンスともいえない奇行であった。
「よし行こうぜレッド、イエロー、ホワイト、グリーン!」
「だれがグリーンだ!」
「知性派はブルーですってば!」
「わ、わんデシ!(ボクはシロちゃんデシ!)」
思わず二人と一匹は首を振る。
しかしミリアは聞いちゃいない。
「よしみんな、リーダー命令だブラック隊員を迎えに行こう!」
「いやあの……」
「聞けっての!」
「おーーーっ!」
レッド隊員の号令に潤と要の抗弁と、ピンクの大声が続いた。
「……あのさ」
こめかみを押さえた潤が呟いた。
「……はい?」
「こいつ等殴っていい?」
「……………………ダメです」
かなり迷って、要は首を振った。
【E‐4/工場倉庫/一日目9:00】
【アイザック】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:待ってろよブラック!
【ミリア】
[状態]:超健康(眠くてハイ?)
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:待っててねブラック!
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)】
[状態]:健康(前足に切り傷)
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:あのお姉しゃんはどうしたんデシか?
【高里要】
[状態]:やや平常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:祐巳は怖いが他のみんなは心配だ
[備考]:上着を一枚脱いでいる。
【哀川潤】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:怪しい奴がいたらひっ捕らえる。殺人者がいたらぶっ殺す。
小笠原祥子の捜索 祐巳の捜索 誰がグリーンになるか
前衛芸術的な装飾の施された小屋の中、シャナは体を横に倒して目を瞑っていた。
やはり、体内に残っていた散弾の与えた負傷の影響は大きかったのだろう。
いくら超人的な回復力を誇るとはいえ、あんな傷を受けたままでずっと走ってきたのだから、彼女が疲弊するのは当然だった。
おまけに、この島内ではもともと持っている力が相当鈍る。少し休息を取らねば、彼女と言えどそのうちばたりと倒れてしまいそうだった。
シャナから少し離れた場所で、リナとダナティアはこれからどうするのかを話し合っていた。
正午まで、とは言っても実質的にあと四時間程度しか残っていない。
その間に少女の探し人についての情報が入る可能性は、正直薄いと言わざるを得なかった。
「だから、この道を…」
リナが口を開いたそのとき、プルルルル…と小屋の中を機械的なメロディが鳴り響いた。
座っていたリナとダナティアがとっさに跳ね起き、小屋の周囲に人影がないかを見渡す。
しかしその音源がもっと近いところにあるのに気づいたリナは、足元に置かれたダナティアの荷物を指差した。
「…ねえ、この音…あんたの袋からするみたいよ」
「…あたくしの?」
困惑した声でそう言って、がさがさとデイパックを探るダナティア。
そこから出した右手に握られていたのは、銀色に光る二つ折りの板だった。
プルルル…という機械音は、どうやらその板から響いているらしい。
「何よ、これ」
「あたくしの支給品だわ。でも、何に使うのかさっぱり」
それは、平和島静雄の物と対になるセルティの携帯電話であり、殺傷力こそないとはいえ仲間を探し出したい者からすれば『大当たり』と言っても良いアイテムだった。
しかし基本的に剣と魔法の世界の住人である彼女にこれが何なのか分かるはずもなく、開始直後に確認した後は、その存在すら記憶から消えていた。
「武器なの?」
「さぁ…」
「ふーん。ちょっと貸して」
困った顔でそう言うダナティアの手からその板を奪うと、リナは閉じていた携帯電話を開いた。
その画面には『平和島静雄』との名前が、時折点滅しながら画表示されている。
「この名前…」
どこかで見たような気がして、慌てて名簿を確認する。彼女のその記憶は正しく、その男の名前は確かにそこに書かれていた。
手の上のものが何なのかはいまだに分からなかったが、リナはとりあえず手当たり次第に表面の突起を押した。
「リ、リナ、危険よ! 爆発でもしたらどうするの」
慌てて止めるダナティアにはお構いなしで、光っているボタンを適当に押していく。
その彼女の指先が、偶然通話ボタンを掠めた。
『…も、もし…もし? …あの、本当にこれで聞こえているのですか?』
突然、謎の板から何かの声が響く。それはセルティが紙に書いた文章を忠実に読み上げる保胤の声だったのだが、そんなことを知らない彼女らには銀の板そのものが喋ったように見えた。
「うわぁっ!」
思わず電話を取り落とすと、二人は仰天して顔を見合わせた。
「い、今、声がした」
「…ええ、あたくしも確かに聞いたわ」
「これもエルメスと同じようなものなのかな?」
「そう…かもしれないわね」
大きすぎる勘違いだ。しかし、『話すモトラド』にそろそろ慣れたところだった二人は、これも『話す何か』なのだろうと勝手に決め付けた。
床に落ちた携帯電話を恐る恐る覗き込むと、リナがそろそろと話しかける。
「あんた何?」
突然の電子音とその後の騒がしさで、シャナははっと身を起こした。頭が重い。どうやら気づかないうちに少しばかりまどろんでいたようだ。
ふと見れば、リナとダナティアは小屋の中央で何かに向かって声を上げている。何事かと二人の後ろから覗き込んだシャナは、彼女たちの視線の先にあるものを見て思わず声を上げた。
「携帯…電話…?」
『目指せ建国チーム』
【G−5/森の南西角のムンクの迷彩小屋で休憩&見張り/1日目・07:45】
【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】
[状態]: 左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。
[装備]: エルメス(キノの旅)
[道具]: 支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル/ 携帯電話
[思考]: 群を作りそれを護る。/正午になれば北上 /この板は一体?
[備考]: ドレスの左腕部分〜前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。
【リナ・インバース(026)】
[状態]: 少し疲労有り
[装備]: 騎士剣"紅蓮"(ウィザーズ・ブレイン)
[道具]: 支給品一式
[思考]: 仲間集め及び複数人数での生存/正午になれば北上 /この板は一体?
【シャナ(094)】
[状態]:かなりの疲労/内出血。治癒中
[装備]:鈍ら刀
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:しばらく休憩後、見張り/正午になっても悠二の情報が入らなければ北上 /どうして携帯電話が?
[備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、腹部体内に散弾片が残っている。
手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険性が有る。
「ミズーさん、大丈夫……?」
大丈夫なわけがない。
俺の方は腿のあたりを抉られただけで弾も残っておらず、既に包帯を巻いて止血したからそれでいい。
だが、ミズーは違う。肩に銃弾が残っているのだ。
「平気……平気よ。大丈夫、わたしは……死なない」
なのに彼女は新庄を安心させようと、気丈に応える。なんていい女だろう。花丸をあげたい。
などとふざけた思考は、主にギギナに関する記憶が満載してある脳内ダストボックスに投げ入れて、俺は救急箱の中身を漁った。
飛び込んだこのビルは、どうやら開店前の雑貨店か何かだったらしい。箱詰めにされた商品が山積みになっており、その中にこの救急箱があったのはつい先程信心深くなった俺へのプレゼントだろう。そう信じておくから次もよろしく神様。
しかし困った。傷口を切開するにしても、道具はミズーの持っているグルカナイフだけだ。麻酔薬なんてしゃれたものもなかった。
どうするか、と悩むうちにミズーの体温が上昇してきた。女の肌に傷が残るのは良くないが、仕方がない。
ミズーの腰元の鞘からナイフを引き抜いて、はたと気付く。こういうときはまず煮沸消毒すべきなのだろうが、火がない。
ライターでも探してくるか、と思ったところで、ナイフに銀色の糸が巻きついた。
「熱っ!」
いきなり加熱されて思わず取り落としかけたが、持ち替えて柄にタオルを巻きつける。
糸はミズーから伸びていた。休憩時の情報交換の際に聞いた、念糸という技だろう。
「それで……」
「分かった。あと、これ噛んでてくれ」
呟くミズーに、タオルを噛ませる。歯を噛み締めて奥歯を砕かないようにするためだ。
麻酔なしの切開など、激痛以外のなにものでもない。
「行くぞ。……新庄は見ない方がいい。できれば耳も塞いで」
「う、うん……」
新庄が横を向いて両手で耳を押さえたのを確認し、俺はナイフを突き立てた。
「――っ、!」
暴れる体を空いた手で押さえつけながら、切り開く。肉を刻む感触など、気持ちの良いものではない。
何とか弾丸を見つけると、ナイフの切っ先でひしゃげた弾丸を引っ掛け、抉り出した。
取り出された弾丸が床に落ち、金属音を響かせる。
「よし……」
一息つく。だがまだ終わっていない。開いた傷口を縫うか包帯で縛るかしなければ。
そこで、またもや念糸が伸びた。
「おい!?」
銀色の糸が傷口を灼く。
「――ぅうぅ、……うっ……!」
肉が焦げる匂い。俺は新庄に鼻を塞ぐように言わなかったことを後悔した。
糸が消えた時、ミズー・ビアンカは気絶していた。
【B-3/ビル一階/一日目/07:55】
【ミズー・ビアンカ(014)】
[状態]:気絶。左腕は動かず。
[装備]:グルカナイフ
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:気絶
【新庄・運切(072)】
[状態]:健康
[装備]:蟲の紋章の剣
[道具]:デイバッグ(支給品一式)
[思考]:1、ミズーが気がつくまで休憩 2、佐山達との合流 3、殺し合いをやめさせる
【ガユス・レヴィナ・ソレル(008)】
[状態]:右腿は治療済み。歩けるが、走れない。戦闘はもちろん無理。疲労。
[装備]:リボルバー(弾数ゼロ) 知覚眼鏡(クルーク・ブリレ)
[道具]:デイバッグ(支給品一式) 救急箱
[思考]:疲れた。眠い。
「う…………」
一条京介が目を覚ました時、一番初めに感じたのは鈍痛だった。
全身をだるさと痛みに支配されつつ、身を起こす。
「……?」
記憶がはっきりしない。
目の前には平原が広がっていて、その平原を続く道のど真ん中で寝ていたようだった。遠くには森が見える。
だが、そもそもなぜ自分はこんなところにいるんだろうか? 確か、学校の屋上にいたはずだったが……。
痛みに顔をしかめつつ、座り込んだまま周囲を見渡し――すぐ傍らで女が倒れているのに気づく。
浅葱色に近い青と白のセーラー服を身につけている、女というには若いセミロングの髪の少女。まるで、そこにいるのが当然であるかのよ
うに倒れていた。
他校の女子生徒と何もない平地にやってきて気絶していたという状況に、京介はますます混乱する。
いつの間に自分は夢遊病患者になったのだろうか。
「おい。起きろ」
とりあえず呼びかけてみるが、返事はない。
「おーい。早く起きないと――」
早く起きないとどうなるのか。そこでようやく、京介は思い出した。
いま京介たちは訳の分からない殺し合いに強制参加させられているのである。
そして、なぜ自分たちは気絶していたのか。
「おい! 大丈夫か? しっかりしろ」
どこからみてもイカれた男が、雷撃をまき散らしながら迫ってくる様子をまざまざと思い出す。
記憶に焼き付けられた、あの狂気の愉悦に満ちた瞳。自分たちを生かしたまま消えるとは到底考えられなかった。
しかしどういうわけか、京介は怪我一つしていない。あの攻撃は全てはったりだったのだろうか。痛みとだるさ、あるのはそれだけだ。
そして、それは目の前の少女――ハルヒも同様であるらしかった。呼吸があるのは、上下する胸が伝えている。
だが、彼女は呼びかけに応じることはなく、近づいてゆすってみても無反応。
呪文で起こそうかと思ったが、今更ながら呪文が使えないことに気づき、京介は落胆した。
もし呪文が使えれば、気絶している人間を起こすことも容易いのだが。
まず、杖がない。それだけではなく、気絶する前に確かめたところ、ここの空間では光流脈の気配も感じられなくなっていた。
京介の能力が制限されたからなのか、それともこの場所自体に光流脈が存在しないのか。
どちらにしろ、呪文が使えないことには変わりない。
豊花と一緒に暮らしているおかげで理不尽には慣れたはずだったが、ここまでくると不平すら出てこなかった。
今回はなぜか助かったものの、次こそは殺されるかもしれない。そして、自分たちを殺そうとしている人間が何人いるのかも分からない。
それなのに呪文は使えない。武器も無い。
これでは、豊花に会うまで生きていられるかどうかも怪しいだろう。
ぐったりとため息をついて、座りなおす。
と、後ろについた手が何かに触れた。からん、と木の棒が転がる乾いた音。
振り向くと、そこには――
「……杖?」
ただの杖ではない。それは紛れもなく玲洗樹の枝だ。光流脈使いが呪文に用いる、まさにそれだった。
少なくとも、あの男に出くわすまで京介は杖を持っていなかったはずだった。というか、持っていなかった。それなりにかさばる玲洗樹の
杖を持っていながら、それに気づかないのは豊花ぐらいのものだろう。しかし、今は目の前にある。
怪奇現象に近い杖の出現に京介は訝しんで――そして気づいた。
さっきまでは無くて、今はあるもの。それが杖だけではないことに。
思わず地面を凝視した。いつもと変わらない、しかしここにあるはずのないその気配。
光流脈が、存在している。
一体、俺たちが気絶してる間に何があったんだ。
座っている大地から感じる光流脈の気配に、京介は騙されたような気分になった。
「流れよ、大地を走る輝く女神。戌より出でて、寅へ沈め。通過、意識不明人体にて発動、回復」
試しに唱えた呪文、それは間違いなく発動した。
地面に光が走り、少女の体を呑み込むように膨らみ、そのまま適当な方向へ進んで消えてゆく。
呪文はここに飛ばされる前と同様の効果を発揮し、まもなく少女が目を覚ました。
「……? あれ? どうしたの? ここどこよ」
身を起こすなり、ハルヒは混乱したように辺りを見渡す。
「大丈夫か?」
「うん。……ちょっと頭が痛いけど」
どうやら、京介の顔を見て状況を把握したようだ。すぐに落ち着いて、改めて問い返してくる。
「あれからどうなったの? あのおっさんはどこ行ったの?」
「さあな。おれが聞きたい」
「なによそれ。あんたがやっつけたんじゃないの?」
「知らない。おれも、いま目がさめたところだ。気がついたらあいつはいなかった」
「いなかったって、なに呑気なこと言ってんのよ!」
さっきまで気絶していた人間とは思えない元気さで立ち上がると、ハルヒは仁王立ちになって指をつきつけてきた。
「あんなヤバそうな奴を放っておいたら、誰か他の人が殺されちゃうかもしれないじゃない! どうするの?」
「どうするの……って、どうしようもないだろ」
銃弾をかわしたあの男の動きは、どう考えても素人のそれではなかった。
ケンカで数の有利をひっくり返せるほどの立ち回りができる京介――普通、一人で4人以上の複数の相手をしても勝ち目は無いものだ――
とはいえ、あの男には及ばないという確信がある。それは、京介が本能的に悟ったことだった。
「どうしようもなくても、どうにかしなくちゃいけないの! もし、あの男があんたの探してる子のところに行ったらどうする気なの? あ
んただけじゃないわ。あたしだって――」
唇を噛みしめてうつむく。そのまま、さっきまでの勢いが嘘のように押し黙ってしまう。
「……わかったわかった」
その様子に、どこかの双子の妹を見たわけではないが。
「殺しをする奴は止めよう」
京介は自然とそう言っていた。
「できるの? さっき、勝てなかったんでしょ?」
「できなくても、やらなくちゃならないんだろ? なんとかする」
自分が言い出したくせに、弱気な口調のハルヒに京介は頷いた。
実際、彼はなぜかやる気になっていた。どういうわけか、止めなければならない、という思いが湧き出してくるのだ。
それは、京介自身から自然と生まれたものであってそうではないのだが、その場にいた二人には気づきようがなかった。
「わかったわ。もし次負けたら、バニーのカッコでSOS団の団員募集ビラ配りに強制参加させるからね、絶対よ!」
泣き笑いのような、形容しがたいひきつった表情で叫ぶハルヒ。さっきの戦いは、負けたことになっているらしい。
らしいと言っても、間違っているわけでもないが。
「……わかったよ」
ハルヒの瞳の奥に、豊花と同じ「否定は受け付けておりません」の掛札を見たような気がして、京介は再び頷いた。
そして、心の奥で付け足す。――次の負けがあったら、その次はないだろうけどな。
※ ※ ※ ※ ※
「じゃあ、さっさと行くわよ。ほら、これ持って」
そう言ってハルヒが差し出したのは、デイパックだった。
「……どこから出したんだ?」
「どこからって、そこに落ちてたやつよ。あたしたちのやつでしょ? もたもたしてると、豊花に会えないんだからね!」
「…………」
ハルヒの言葉に、京介は沈黙するしかなかった。
なかったのだ。デイパックは。さっき見渡した時、デイパックはもうどこにもなかった。襲撃者が持って行ったに違いない。
にも関わらず、いま手渡されてるのは紛れも無く京介のデイパックであった。
「あんた、ひょっとして手品師かなんかか?」
「え? なわけないでしょ。手品師やってる女子高生なんて聞いたことないわよ」
彼女はあっさりと否定した。
では、デイパックはどこから出てきたのか。
無かったものが出現する。これもまた、さっきから起こっている奇妙な現象の一つなのだろうか?
解けない疑問に首を捻る京介には構わず、ハルヒはデイパックの中身を取り出していた。襲撃前にあった、フライパンである。
「……手品師といえば、最初にあの剣士みたいなカッコした人が殺されたじゃない。しかも宙に浮いたままでさ。あれって一体どういう原
理なのかしら」
「さあな」
知るわけがない。呪文なのかとも思ったが、それとは根本的に違う気もした。
むしろ京介としては、ネコ型ロボットの仕業としか思えない珍現象の方が謎なのだが。
ハルヒにとって、京介の返事はどうでもいいらしかった。彼女は構わず続ける。
「そんなことはどうでもいいの。問題はこれよ」
「…………」
自分で振っておいて、「どうでもいい」はないだろう。
とは思ったものの、ツッコんでも無駄なのは先刻承知なので、京介は黙ってフライパンを天にかざすハルヒを見つめた。
「あんなことが出来る連中が配ったフライパンなのよ? なにか特殊な効果があるに決まってるわ!」
「どこからどうみても普通のフライパンだけどな」
「いいえ、そんなわけないわよ。いい? よく見てなさい――」
何故かバットのようにフライパンを構えると、ハルヒは一気に降りぬいた。そして。
ばしゅう、という何かを裂いたような気の抜けた音を響かせて、振りぬかれたフライパンは静止した。
「……え?」
「変ね? 音だけってわけ? 絶対になんか派手なやつが出ると思ったんだけど。薔薇十字騎士団とか安っぽい名前名乗ってるくせに、配る
ものも安っぽいなんて、許しがたいことだわ!」
「…………」
世の中に、振って「ばしゅう」と音を立てるフライパンがあったら、珍品コレクターは喜んで買い占めるだろう。
これ以上ないほど、フライパンから出るにしてはおかしい音だった。
つまり。フライパンからは何かが出たのだ。
……もっとも、ハルヒはそのことに気づいていないようだったが。
「まあいいわ。もっとすごいものが道端に落ちてるかもしれないしね。京介!」
鳴くフライパンを凝視していた京介は、いきなり名前を呼ばれ、慌てて視線を戻した。
「歩く時はちゃんと下を見て歩くのよ! なんか出てきそうなモノが落ちてたら報告すること。光とか、炎とか、雷……はうるさそうね。と
にかく、不思議なものだったらなんでも!」
「見つけてどうするんだ」
「もちろん、それで身を守るのよ」
炎だの光だのを吐くもので身を守ったら、致命的な損害があたりに出そうだが。
……別にいいか。おれはハルヒと豊花と自分自身を守れたらそれでいい。
「じゃあ、さっさと行くわよ! 無駄に時間を食っちゃったわ」
「……待て。そのフライパン、おれに貸してくれないか」
「え? いいわよ」
京介にフライパンを渡すと、ハルヒは颯爽と歩き出した。
「ほら、行きましょ!」
「ん、ああ。いま行く」
ハルヒとの距離が少し離れたすきを見計らって、京介はゴルフの要領で思い切りフライパンをスイングしてみた。
ざしゅん、と先ほどより幾分重い音が響き、何かが地面に叩きつけられる振動が足の裏を伝わって届いた。
音の発生源を見やって、京介は目をみはる。
今まで踏みしめていた土が、スイングの軌跡をなぞる様にざっくりと切れているのだ。
道としてそれなりに踏み固められていた地面を粘土のように切り裂くフライパン。
「どんなフライパンだよ」
うかつに振り回したら、自分の体を両断しかねない。
こんなものをハルヒに持たせたら、それこそ何が起こるかわからないだろう。物騒にすぎる。
「おい、ハルヒ――」
このフライパンはおれが預かっておく、と言いかけて、京介は視線をハルヒに戻し、絶句した。
視線の先で、ハルヒがゆっくりと地面に倒れてゆく。
「おい! どうした」
慌てて駆け寄る。まさか、フライパンの軌跡に巻き込まれていたのか?
だが、ハルヒに外傷はないようだった。ただ、眠るように気絶している。
「大丈夫か? しっかりしろ」
呼びかけても、揺すってみても返事が無い。再び呪文をかけてみるが、今度はなぜか呪文が効かなかった。
もしかしたら、本人の思っている以上に、疲れていたのかもしれない。どんなに妙な言動をしようと、ハルヒは普通の女子高生なのだ。こ
んな過酷な状況の中では、心身ともに予想以上に疲労するものなのだろう。
京介はデイパックをおろすとフライパンを詰め込み、ハルヒをおぶった。
こんな平原では、敵に見つけてくれと言っているようなものだ。人一人を背負ったまま移動するのは危険だが、このままここにいるわけに
も行かない。
おろしたデイパックを再びつかみ、京介は歩き出した。
目指すは、南に見える森。あそこならば、多少身を隠す助けにはなるだろう。
しかし――京介は心のうちで呟いた。
もし襲われても、絶対におれは負けない。たとえ相手を殺してでも、ハルヒは守る。
気概は無い。だが、それは確信であり、必然とさえ思えた。
ほとんど見ず知らずの少女に、なぜそこまで依存しなければならないのか。
結局、京介がそのことに疑問を抱くことはなかった。
【にわかSOS団(涼宮ハルヒ/一条京介)】
【D-8/平野/1日目・9:00】
【涼宮ハルヒ】
[状態]:やや衰弱。気絶中。ガウルン戦での傷は完治。京介に背負われている。
[装備]:なし
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:SOS団の団員を見つける。殺人をさせない。超常的なモノを見つける。E-8経由でE-7へ
【一条京介】
[状態]:健康。ガウルン戦での傷は完治。ハルヒを背負っている。ハルヒの力によって、思考が変化。
[装備]:玲洗樹の枝・鳴くフライパン(大抵のものを切断できる風を発生させることができる)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:ハルヒを守る。ハルヒに有害なものは殺してでも排除する。敵に見つかりにくい場所に移動する。E-8経由でE-7へ
※ハルヒの力が発動したため、ハルヒが望まない限りハルヒを殺すことができません。
また、ハルヒの力で京介が負けることは絶対にありません。
ただし、力が空間によって殺がれているので、力が発動する(ハルヒの都合のいいように事が運ぶ)たびにハルヒは衰弱します。
衰弱によってハルヒが死亡した場合については、次の書き手さんにお任せします。
※ハルヒの力によって、強引に京介が力を発揮できるように空間が作りかえられたため、地下には光流脈が存在しています。
それによって、島で殺人が行われた場合、負の感情の発生にともなう暗鬼(壁状の青い暗鬼)が出現します。
ただし、暗鬼に古泉の力は通用しません。
【残り96人】
「何だったんだ、今のは……」
折原臨也は、マンションからさほど離れていないところを走る謎の女学生を目撃していた。
その速度は、とても常人の出せるスピードとは思えない。
足音が聞こえてくるかと思うほどに、力強く速い走りだった。
「どうやら私達には気付いていないようです。続けましょう」
どうやら子荻は、スコープで彼女を追っていたらしい。
しかし彼女は、すぐに四方の索敵へと戻った。
――化け物はシズちゃんとセルティだけで充分なんだけどね。
臨也は謎の疾走人間に対し、口に出さずにコメントした。
「見つけました」
「またかい? 随分と目が良いんだね」
「視力の問題ではありません。
向こうに倉庫らしき建物があったので、初めから注意していただけです」
南の方を指し示しつつ、子荻はそう説明する。
「人数は四人。……あれは、『オーバーキルドレッド』!?」
「何かあったのかい?」
スコープに映った内の一人にわずかに驚く子荻だが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「……いえ、何も。先程より少々距離がありますが、問題ありません。折原さんは周囲の警戒を」
「解ってるよ。今襲われたら君も俺も危ないからね」
――さて、今度は成功するのかな?
肩膝を立ててスコープを覗き込む子荻を見て、臨也はそう思う。
「おいおい祐巳ちゃん、一体どうしちまったってんだ……?」
哀川潤は、北へと続く足跡――女子高生が走った跡とは思えない――を見て呟いた。
「おっ、足跡が残ってるぞ!」
「これでブラックの行き先もバッチリだね!?」
潤の疑念をよそに、アイザックとミリア――レッドとピンクは外に出ても変わらずはしゃいでいる。
少し離れて、落ち着き無く周囲を見回す要。
その足元にはシロが着いてきている。
「よぉーし、行くぞ皆! ブラック救出作戦だ!!」
「殴り込みってやつだね!?」
「……いつ誰に祐巳ちゃんが捕まったんだ?」
珍しく突っ込む潤を無視して、アイザックとミリアは足跡を追って駆け出した。
「こら、先に行くな! 要を置いていく気か!?」
我先にと駆ける二人に向けて、潤は叫ぶ。
しかし横を見れば、要とシロも二人を追って走り出していた。
「ったく、現状が理解出来てんのか……?」
――いーたんなら、こんなに手ェ掛からないんだけどな……。
ふと、自分が目を掛けていた少年のことを思い出す。
彼女にしては珍しく、一つ溜め息をつき、先を走る皆を追おうと歩き出した。
が、
――見られてる?
潤は、ほんの一瞬視線を感じた。
しかし、どこから見られているのか解らない。
右を見る。森。しかし先ほどから獣の気配すらない。
左を見る。少し先に高架がある。しかし人影は無し。
正面。走る三人と一匹。それだけ。
――倉庫に誰かいたのか?
有り得ない。この自分が、哀川潤が隅から隅まで調べたのだ。
しかし潤は、後ろに振り向いて倉庫の方を見た。
『人類最強の請負人』という存在そのものすら、この島では歪められていたのだろうか。
倉庫へと振り返って一秒後、銃弾が潤の背中に突き刺さり、肺を抜けて右胸から飛び出した。
右胸に違和感を覚え、潤は手を当てる。
滅多に外に流れることの無い、哀川潤の血液。それがどくどくと溢れ出ていた。
「――――なんじゃあこりゃあああああああっっ!!!!」
彼女は悲鳴は上げず、故・ジーパン刑事の断末魔と同じ叫びを上げた。
「どうしたグリーン!? ……うおぉっ!!」
「たっ、大変だよアイザック! 助けなきゃ!!」
叫びを聞いて振り返った三人と一匹。
要とシロは驚き立ちすくみ、
アイザックとミリアは服を血の赤色に染めつつある潤へ駆け寄ろうとする。
「やめろ、――こっち来んな馬鹿!!」
叫ぶ潤。しかし二人は止まらない。
そんな周囲の動きとは無関係に、潤の腹へと次の銃弾が打ち込まれた。
口からも血を流し、膝から地面へ崩れる『人類最強の赤色』。
「アイザック! そこの森に隠れよう!!」
「OK! ミリアは、――要とロシナンテを連れて行くんだ!!」
意識を失いつつある潤を肩で支え、アイザックは森へと急ぐ。
ミリアは立ちすくむ要を抱きかかえ、ロシナンテ――シロちゃんと共に走った。
銃弾は、もう襲っては来なかった。
「今度はどうだった?」
構えを解き、屋上の端から離れた子荻に臨也が声をかける。
「パーフェクトです。――優勝候補の一人を殺害しました」
「そりゃ凄いな。知り合い?」
「ええ、まあ。名前は、……二時間半後の放送の時にお教えします」
「もったいぶるね。俺が信用ならないかい?」
「いいえ。ただ、一つくらい暇潰しになることがあった方がよろしいかと」
自分の知る限りこの島で最強の存在である、『人類最強』哀川潤。
それを倒したことに子荻は安堵し、笑みすら浮かべて見せた。
【残り94人】
【C−4/ビルの屋上/一日目/09:30】
【折原臨也(038)】
[状態]:正常
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)ジッポーライター 禁止エリア解除機
[思考]:周囲の警戒 ゲームからの脱出? 萩原子荻に解除機のことを隠す
【萩原子荻(086)】
[状態]:正常 臨也の支給アイテムはジッポーだと思っている
[装備]:ライフル
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:狙撃対象をスコープで捜索 ゲームからの脱出?
【D−4/森の中/一日目/9:30】
【アイザック(043)】
[状態]:超心配
[装備]:すごいぞ、超絶勇者剣!(火乃香のカタナ)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:グリーンが大変だ!!
【ミリア(044)】
[状態]:超心配
[装備]:なんかかっこいいね、この拳銃 (森の人・すでに一発使用)
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:早く助けなきゃ!!
【トレイトン・サブラァニア・ファンデュ(シロちゃん)(052)】
[状態]:健康(前足に切り傷)
[装備]:黄色い帽子
[道具]:無し(デイパックは破棄)
[思考]:お姉ちゃんが大変デシ!!
【高里要(097)】
[状態]:軽いショック状態
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品一式)
[思考]:潤さんが……!
[備考]:上着は外に出る際に着ました。
【哀川潤】
[状態]:瀕死の重体(銃創二つ。右肺と左脇腹損傷)
[装備]:不明
[道具]:デイパック(支給品入り)
[思考]:気絶中
「涼宮ハルヒの計画」NGということでよろしくおねがいします。
テスト
もいっかいテスト