攻めるも乙女受けるも乙女 林家志弦百合スレ・2

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@秘密の花園
ふたなりは邪道ー!

前スレ
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1111580223/

漫画版スレ
はやて×ブレードその8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/comic/1126800605/
2名無しさん@秘密の花園:2005/11/14(月) 15:37:00 ID:bYEWnPd1
夕歩と2ゲットの座は俺が貰った!
3名無しさん@秘密の花園:2005/11/14(月) 20:28:18 ID:a/XpuBQt
3ゲットした
4名無しさん@秘密の花園:2005/11/14(月) 23:03:28 ID:m9MSDw3J
4ずくゲトー  1乙。
5名無しさん@秘密の花園:2005/11/14(月) 23:09:09 ID:+TRs12S6
>>2
さすが順
6名無しさん@秘密の花園:2005/11/14(月) 23:54:15 ID:jh84RgdS
>>1
おつ。

ふたなりは邪道でもスレ的にはありなんだよね?
7名無しさん@秘密の花園:2005/11/15(火) 00:08:25 ID:XlgQdDPF
>>6……あんまりふざけたこと言ってると、血の小便出すことになるよ
8名無しさん@秘密の花園:2005/11/15(火) 02:14:27 ID:1xLMbny/
8ブ
9名無しさん@秘密の花園:2005/11/15(火) 10:52:07 ID:wWZVzxoM
おお、この新スレで行こう。
>>1
10金色の星:2005/11/15(火) 19:32:10 ID:qDW6pXp+


白いカーテンが、ひらりひらりとひるがえって
ぱたりぱたりと雨がふる



今日で3日目か
朝起きて最初に思ったことはそれ
順と最後に遊んだ日から3日
雨の中走って帰って3日
母親に遊び禁止令を出されてから3日
そう、3日だ
毎日こうして日にちを数える自分に最初は
妙なくすぐったさを覚えたがもう気にしないことにした
そう思いながら顔を窓の方へと向ける
拍子に頭のタオルがぱたりと落ちた
ぱたり ぱたり ぱたり
雨はやむ気配はなく窓からはずっと同じ音
ぱたり ぱたり ぱたり
空はオレンジ色に染まったけれど
それ以外は朝と何も変わらない
ぱたり ぱたり
誰も、こない

11金色の星:2005/11/15(火) 19:33:21 ID:qDW6pXp+

そういえば
前にも同じようなことがあったな
私は熱い頭でぼんやりと思い出す
あれは小2のとき
高熱を出して
このベッドでずっと順の帰りを待っていた
時計とずっとにらめっこ
ドアとずっとにらめっこ
そんなことは何度かあったはずだけれど
それを思い出したのはきっと
その時も今と同じように夕方の雨が降っていたからだろう
そして今と違うのは窓からずぶ濡れで順がやって来たこと
母さんに門前払いされたのだろう順は窓から入ってきて
お見舞いに参りました、姫
と言って私のいつもより幾分弱い突きをくらった
12金色の星:2005/11/15(火) 19:33:49 ID:qDW6pXp+
なつかしいな、と思う
瞬間、体がぴくりと震える
厚い毛布をぎゅっと握る
そのまま抱きまくらのように抱きかかえた
寒い
時計は7時をさしている
…もういいか
私はそう思って鍵の閉まっていない窓へ歩いた
もともと鍵を開けている意味はなかったけれど
閉まった窓からでも入ってこれる
そう、それが忍者なのだから
姫に忠実な、お庭番なんだから
雨だろうが鬼の目があろうが窓が閉まっていようが
そう、入ってくる
力を込めて鍵を閉める
そう
入ってきなさい、順


13金色の星:2005/11/15(火) 19:34:43 ID:qDW6pXp+
「いやーもうちょっとで見つかるとこだったよ」
「いいから、早く拭きなよ」
お庭番はどこまでも姫に忠実だったようで
順は当たり前のようにそこにいた
「大体、鍵閉めたのにどうやって入ってきたの。しかも2階だし」
「いえいえ私の手にかかればたやすいことです、姫」
ごんっ
順の頭が鈍い音を立てた
「いったぁ〜」
「もう……」
自然に顔がほころんできてしまう
私は竹刀を元の位置にもどすと
ベッドに乗って背中を向けてやった
だめだ、顔もどらない
「ゆ、夕歩?」
順はと言うとおろおろと私の名前を呼ぶ
まずい、また怒らせたかなあ
どうしよう
後ろを向いているのに順の考えが手に取るように分かってしまって
思わずくすりと吹き出してしまった
14金色の星:2005/11/15(火) 19:35:35 ID:qDW6pXp+
その後順が首をかしげたのも分かった
そして合点がついたように目をはっと開いたのも
ベッドに乗ってきたのも
お腹に両手を回してきたのも
そして背中に順の体温があるのも
「夕歩……今、笑った?」
「……………」
なぜか今日の順は敏感なようだ
「……笑ってない」
いつもは気付かないくせに
「嘘だ、絶対笑った」
いつもは私が何を言っても何を思っても気付かないくせに
ぱたり ぱたり ぱたり
月には魔力があるというけれど
夕方の雨にもあるのだろうか
確かに窓の外の空は魔のものと呼ぶにふさわしい
明るすぎるオレンジ色をしていた
15金色の星:2005/11/15(火) 19:36:43 ID:qDW6pXp+
笑ってた
笑ってない
笑ったってば
もー何でそんなしつこいの
順と続く言い争い
なぜかいつもと違う順に腹が立ったのも手伝って
私は意地になっていた
順が顔を近付けてきたので引きはがそうとしたのに
順は離れまいと踏ん張る
しかしそれは意外な形で終結した
「……っくしゅん!」
盛大なくしゃみ
それは私のものではなく
雨の中走ってきた順のものだった
「……順、風邪ひいてんじゃん」
「え、違うよ?」
ぱっと私から離れる順
冷たいとは思っていたけど
「大丈夫だって!バカは風邪ひかないって」
「ハイハイハイハイ。それはいいから。頭が熱い。明らかに風邪」
「うう……」
16金色の星:2005/11/15(火) 19:37:04 ID:qDW6pXp+
「…今日はもう帰ったほうがいいよ」
「えー……」
「遅いし」
「…………」
正座で順は黙り込む
「…また、今度会いに来て……ね?」
「また?」
すくりと立ち上がる
「今度って、いつ?いつ?」
「いつって……じゃあ………明日……」
「…明日?」
「うん。明日」
「…うん!分かった!明日だね!絶対明日くるからね!」
「また窓から?」
「うん、窓から」
「鍵閉めるけど」
「大丈夫また開けるもん」
にやっと笑う順
久しぶりに見る笑顔
「……じゃあ、明日」
私は下を向いてそれだけ答える
また明日会える
また、明日
17金色の星:2005/11/15(火) 19:37:41 ID:qDW6pXp+




「ではこれにて退散いたしますので、どうか体にお気を付けて」
「分かった分かった。それは順もだから」
順は窓を開けると窓の枠にひらりと飛び乗った
開けられた窓からは冷たい空気が流れてくる
風ひとつない
「また窓から出るんだね」
「もちろん」
空は相変わらずのオレンジ色
順はそっと窓を降りようとする
「また明日ね」
順のその言葉に答えることはなく
今まさに飛び降りる瞬間の順に私はゆっくりと手を伸ばした
強い風が急にごうと吹いた
伸ばした手は力を失う
18金色の星:2005/11/15(火) 19:38:22 ID:qDW6pXp+



   ああ
   やっぱり夕方の雨には魔力があったんだ


私の視界にはもう順の姿はなく
雨はいつの間にかやんでいて





白いカーテンがひらりひらりとひるがえって
目に映ったのは
明るすぎる金色
遠すぎる金色の星

19あぼーん:あぼーん
あぼーん
20あぼーん:あぼーん
あぼーん
21名無しさん@秘密の花園:2005/11/15(火) 23:25:32 ID:PBwWyz72
>>10-18
(´∀⊂ GJ!!
22名無しさん@秘密の花園:2005/11/15(火) 23:27:54 ID:y557XzED
>>qDW6pXp+
GJ!
いいものをありがとう。
23名無しさん@秘密の花園:2005/11/15(火) 23:35:58 ID:XlgQdDPF
きれいでかわいい話だった。いい!
24:2005/11/15(火) 23:58:28 ID:0vwCMBkr


黙れ、ヴォケ

25名無しさん@秘密の花園:2005/11/16(水) 00:02:59 ID:8GRmkyGG
>>10-18
ポエミィだねぇ。GJ!
26名無しさん@秘密の花園:2005/11/16(水) 01:27:24 ID:SWYWVRjV
オセロの人?一瞬添い寝展開かと思ってしまった・・・
GJ!
27名無しさん@秘密の花園:2005/11/16(水) 01:27:56 ID:XMhZvmob
sage忘れゴメン
28名無しさん@秘密の花園:2005/11/16(水) 01:53:28 ID:++Z3uxrb
新スレバンザーイ
厨房のクソスレ廃棄バンザーイ


         .。::+。゚:゜゚。・::。.        .。::・。゚:゜゚。*::。.
      .。:*:゚:。:+゚*:゚。:+。・::。゚+: Λ_Λ   。:*゚。::・。*:。゚:+゚*:。:゚:+:。.
ウァ━.:・゚:。:*゚:+゚・。*:゚━━━━(:彡ミ゛ヽ;)゚ー、━━━━゚:*。・゚+:゚*:。:゚・:.━ン!!
  。+゜:*゜:・゜。:+゜       / :::/:: ヽ、ヽ、 ::i .      ゜+:。゜・:゜+:゜*。
 .:*::+。゜・:+::*        / :::/;;:   ヽ ヽ ::l .       *::+:・゜。+::*:
゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+::* ̄ ̄ ̄(_,ノ  ̄ ̄ ̄ヽ、_ノ ゚̄ ゜゚ ・*+:。。.。。゚ ゜゚ ・*+:。。.。。
・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*
゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・ ゚ ゜゚ ・*+:。。.。。:+*・

29名無しさん@秘密の花園:2005/11/16(水) 02:16:48 ID:2MeM47jx
わかったからいつまでも引っぱるな
30名無しさん@秘密の花園:2005/11/16(水) 02:24:18 ID:zHZLfmIP
>>10-18
堪能しました
GJ!
31名無しさん@秘密の花園:2005/11/17(木) 19:40:00 ID:Qor0hc37
かなりグッジョブ素敵だ
しょっぱなからイイssだった
32あぼーん:あぼーん
あぼーん
33名無しさん@秘密の花園:2005/11/20(日) 00:40:58 ID:3hOo1z1j
そろそろ、みかどん×いのりんをリクエストしてもよろしいか?
34名無しさん@秘密の花園:2005/11/20(日) 19:04:44 ID:nGTXUBcd
そういや、人気がありそうで、ssみない気がする
HPでも一本しか見たことない
35名無しさん@秘密の花園:2005/11/20(日) 19:30:04 ID:Uo5FHPKV
ハブのSS自体少ないと思うが……。
36名無しさん@秘密の花園:2005/11/20(日) 19:52:56 ID:ixCdbojd
探し方がワルイよ…
実は結構あるぞ。
37名無しさん@秘密の花園:2005/11/21(月) 00:14:18 ID:MHBJOlgj
>>36
マジでか?
俺はハブ同盟しかいかねぇから
他のサイトのSSは知らんのだ
38名無しさん@秘密の花園:2005/11/21(月) 00:19:33 ID:AmVzd9Ha
>>36
頼む、ヒントだけでも教えてくれ。
3936:2005/11/21(月) 01:17:19 ID:kObOj/GX
作品名だけじゃなくてキャラ名とかで検索してみ。
例えば「順」「夕歩」とか。
Googleばっかでもダメ。
gooとかgooのブログ検索なんかも攫うといい。
見つけたサイトのリンク先なんかにもあったりする。
俺も同盟アテにならないから探した。
おまいらもがんがって探してみれ
40名無しさん@秘密の花園:2005/11/21(月) 03:01:28 ID:l9/upZOW
探したけど書き手が10人にも満たないというのは、ちょっと驚き。
41名無しさん@秘密の花園:2005/11/21(月) 17:32:36 ID:MHBJOlgj
ども、探してみる

しかし人気だと思ったのに
書き手が十名満たないとは……。
イラストはぼちぼち見るようになったんだがな
42名無しさん@秘密の花園:2005/11/21(月) 23:28:13 ID:EfAMUi05
百合サーチのハブカテゴリにSS・絵サイト合わせて6つあった。
百合サーチのアドレスが分からんかったらば自分で探してくれ。
43名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 17:23:14 ID:IysQSwQu
一件いいサイト発見したよ
珍しく順綾とか置いてあるサイトだった
44名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 18:45:03 ID:WxA2bTV4
今月号を読んだ勢いで書いたため、今月号未読、コミックス派の方はお気をつけ下さい
45『いつまでも』《1》:2005/11/22(火) 18:49:47 ID:WxA2bTV4
 駆ける。
 駆ける。
 逃げる。
 二人で逃げる。息弾ませて逃げる。
 木々は枯れ果てて、秋の空は晴天。
 もう星奪りは終ったから、何もかも終ったから。
「こらぁ! またんかぁぁぁぁぁぁ!! 」
 吉備桃香の怒声が近づいてきて、次第に離れていく。苦しい呼吸を整えて、雉宮乙葉は笑った。笑い事じゃないよ、キジっちゃん!! 顔を赤くして怒る猿楽未知に背を向けて、彼女は靴を脱いで、裸足で校舎の中に入っていく。
「だって笑っちゃうよ。上履きに履き替えないと、校舎に入れないって思い込んで、目の前を通り過ぎて行っちゃうなんてさ」
 ちょっと横に逸れただけなのに、見失っちゃうなんて猪だよ。一方通行だよ。そんなことを言いながら、雉宮は校舎の奥へと進んでいく。それについて行く足音は、猿楽の足音一つ。
 ――桃香さーん! 鼻血! 鼻血止めてくださーい!!
 走り去っていった桃香を追っているのだろう。犬神五十鈴のか細い声が微かに聞こえて、消えた。
「もう! キジっちゃんったら!! 」
 猿楽の声。怒っている声。その声はついてくる。足音と共に、歩みゆく雉宮についてくる。
ここは特別教室棟。人がいないのか、声がよく響く。キーキー! 騒ぐ猿楽の声。
「もう、キャッキャ騒ぐの止めてくれないか、未知」
 ……。
 ――?
 追ってくる足音が止まったから、雉宮は振り返る。どうした? 未知。
「ん? 」
 どうかしたのかい? いきなり止まって。
「んー」
 未知!
「うん! 」
 それから横並びに、未知は雉宮について行く。仲たがいする前みたいに。喧嘩する前みたいに。だってそれは、仲たがいが終ったからで、喧嘩が終ったからで。未知って呼んでくれたからで。
 とことこ歩きながら、雉宮はまるでそれが当然みたよな口調で。
「さて――もう授業が始まるね」
「うん」
「キミも行かないとね」
「キジっちゃんこそ、授業は? 」
46『いつまでも』《2》:2005/11/22(火) 18:50:22 ID:WxA2bTV4
「あー、私は単位が足りているので問題は無い」
「あたしも無い」
「そ、そうか」
 口篭もる雉宮に、どこ行くの? 猿楽が尋ねると。
「キミには関係ないよ」
 との答え。眉間に皺を寄せる、猿楽。外履きを持ったまま階段を上る雉宮に、未知は遅れじとついていく。
「いつまでついてくるのさ」口を尖らせる乙葉に。
「いつまでも」と猿楽。


                 *

 小学生の頃、暗示の力を、初めて訓練以外で使った。
 かわいいわんこ。呼び名はわんこ。
 友達が欲しかった。人間に試すのは、禁じられてもいたし、怖かった。犬ならいいと思った。
 大陸からうけつがれてきた怪しの術。幼い頃から染みつけられてきた、魔道の法。
「雉宮の子と付き合ったらいかんぞ」
 子供達の間の、暗黙の了解。大人達の影の教え。
 私は知る。
 自分が他人にどう思われているのか。何を恐れられているのか。
 どうして? 私は、人には使わないよ。
 心を操るのは怖いことだから。
 操られるのも、操るのもどちらも。
 けれどみんな離れていく。一人ぼっちで、教室にいる孤独。
 そんな中、あの子と出会った。
 小さなわんこ。どこで見つけたんだっけ。抱き上げたら、濡れて冷たくて、温かかった。寒くて震えていたものね。一人ぼっちで。雨に濡れながら、わんこをつないでいた紐を解いて、つれて帰った。 
 飼っていい? 懇願した。両親に、祖父母に。
 この子の世話をきちんとします。
 学校の勉強もします。
 毎日のお稽古もサボりません。
 許しが出た。
 嬉しかった。
47『いつまでも』《3》:2005/11/22(火) 18:51:10 ID:WxA2bTV4
 かわいい子犬。私の子犬。人懐っこくて無邪気で。家族の中でも道場の中でも、すぐに人気者になった。わんこ、って呼ぶと、尻尾を振った。かわいいわんこ。私のわんこ。
 今まで話もしなかったクラスメイトまで、わんこの話を聞いて家に遊びに来た。
「雉宮さんの犬、かわいいね」
 頭を撫でられたわんこは、その子達にも、シッポを振った。
 私のわんこなのに。

 どうしよう。

 私のわんこが、私のわんこじゃなくなったら。

 どうしよう。
 
 わんこが私を好きじゃなくなったら。

 だってわたしは
 まがまがしい
 きじみやのむすめだから

 だから使った。
 耳のイヤリングを引っ張った。
 暗示の魔術。生けとし生ける者を呪縛する術。
 白い霧が、あたりを包んだ。

 友達が、欲しかった。
 犬ならいいと思った。
48『いつまでも』《4》:2005/11/22(火) 18:51:43 ID:WxA2bTV4
                *

「ちょっと、キミ。なんでついてくるのかな」
 雉宮が振り返ると、猿楽はそっぽをむいて、さあね、と言った。
「確かにキミとはこれからも刃友だし、一緒にやっていこうと思い直したけれど、それは四六時中一緒にいるってこととは違うと思うよ? 」
「でも別に一緒にいてもいいんでしょ? 」
「……! 」
 意志の固い目で睨まれて、雉宮は言葉を失う。あの強い目には、弱い。普段は気が弱いくらいなのに、一度こうと決めると、頑固なところがある。頑固で一本気。そのキーワードは、乙葉にあるキャラクターを思い起こさせる。
「キミのそう言う性格、吉備さんにそっくりだね。やっぱりあの人と刃友になったほうが、よかったんじゃないか? 」
「かもね」
 あっさりと言われて、雉宮の口が強張る。普段はクールな釣り目の少年っぽい顔立ちが、豆鉄砲をくらった鳩のようになる。そんな刃友の姿を見てため息をつくと、猿楽は、ここが目的地? と尋ねた。
「へ? あ? 何を言ってるのかな? 目的地って、何のこと? 」
「キジっちゃん、かっこわるい」
 そんなにキョドらないでよ、自分で言ったことなのにさ。へ? わ私が言った? 吉備さんと刃友になったほうがよかった、なんて悪態。ああ、ええ?
「とにかく、ここが、キジっちゃんが行きたかった場所なの? 」
「え? 」
「授業をサボって、あたしをさり気なく遠ざけようとして、来たかった場所が、ここなの? 」
「ち、違うよ! 」
「じゃあ何で立ち止まるの? 」
 ムカっとする。
 未知の質問には答えないで、背中を向けて駆けだす雉宮。振り切るように、全力で。
 やれやれ。
 猿楽は追わない。
 追う必要は無い。
 ああやって彼女が逃げるのなら、仕方ないのだ。一緒に来れるのは、ここまでだった。ただそれだけのことなのだから。
 彼女は、雉宮の駆けて行った方向に背を向けて、ゆっくりと歩き出す。気にしない。そのままゆっくりと遠ざかる。
49『いつまでも』《5》:2005/11/22(火) 18:52:18 ID:WxA2bTV4

 一人ぼっちの雉宮は振りかえる。追ってきているか確認する。足音は聞こえない。ほっとため息をついて、それから、唇を噛んだ。
 使う者のいない教室棟は静かで、やっぱりここに来てはいけなかったんじゃないかって思う。手にぶら下げていた外履きを廊下に投げ出して、履いた。どうせ誰も見ていない。
 更に階段に足をかける。
「あーあ、せいせいした」
 そっと、呟いてみる。
 途端、先の星奪りの時についたすりきずが、ひりひりした。右手の平もびりびりする。

――あんたはあっちと別れたない思うとんと違うか!

 耳の奥から、幻聴が聞こえる。さっきの立会いの時の、吉備桃香の声。
「でも、台詞が違うよ」
 そう。あの時彼女が雉宮に言ったのは、猿楽が雉宮と別れたくないのではないかという問いかけ。
 猿楽との楔束を解消して、お互いに新しい刃友を作ろうとした計画。それにはきちんと実力があって、かつお互いの性質にぴったり合う者同士である必要がある。
 吉備桃香。彼女は、剣の腕も相当の使い手で、情が厚く一本気、絶対に猿楽を不幸せにするような人間ではない。
 犬神五十鈴。歩く魔界である、彼女の力の上限は不明。その能力は、人の身ならざる力を持つ者が、もっとも正しく理解し導ける。
 
 途中までは、うまく事がすすんだ。
 とてもうまく、すんなりと。
 なぜならそれは、乙葉自身に計画の礎があったから。
 いつ嫌われてまた独りぼっちになってもいいように。

50『いつまでも』《6》:2005/11/22(火) 18:53:26 ID:WxA2bTV4
                *

 わんこに術を使って。
 わんこの中に、疑問はなくなった。
 わんこは私の命じるままに尾を振る。
 わんこは私の命じるままに芸をする。
「よく慣れた犬ね」
 そうみんな笑う。
 私は得意げに、わんこと散歩する。
 お手。お回り。ちんちん。
「よし、いい子だ」
 わんこは私だけを見て歩く。私に従う。
 私のイヤリングが、しりん、と揺れる。
 元々犬の思考は複雑ではないから、簡単過ぎるほど簡単に術は作用しつづける。何日も何日も。いつまでもいつまでも。
 ほら。
 その首輪は、私がつけた首輪だよ。
 クラスメイトの、みんなに囲まれながら、みんなにかわいがられながら、わんこはただ、ただわたしの方だけを見る。私にだけ元気よく尻尾を振る。
「よっぽどこの子、雉宮さんのこと好きなんだね」
 みんな笑う。動物に好かれるなんて、雉宮さんって、本当は優しいんだって言いながら。
 好き。
 好き?

 わんこがわたしのことをすき?

 ある日、私のわんこを、私の知らない名前で呼ぶ女の子が来た。
 迷子になった自分の犬と、同じだという。
「その首輪も、あたしが買った首輪と同じだよ」
 守るもののある彼女の、凛とした答え。
「誰かが、あたしの家の前につないでいたわんこの紐を解いて、つれてっちゃったの」
 私が散歩している姿をみて、もしかしたらと思ったらしい。
51『いつまでも』《7》:2005/11/22(火) 18:53:54 ID:WxA2bTV4
「この子、人懐っこいから、誰にでも仲良くするのよ。きっと寂しがり屋なのね」
 彼女は私の跡をつけてきて、調べているうちに私の家の事も知ったらしい。
「いいから早く、術を解いてよ」
 そう言われて、私は慄然とする。
「あたしの家の犬を洗脳して、連れて行ったんでしょう? いいから元に戻してよ! この化け物!! 」

 雉宮の娘とつきあったらいかん。
 雉宮の娘は、化け物だから。

わんこの目を覗くと、深い深い闇が見える。
 虚ろな目をしたわんこが、じっと私の顔を見ている。
 叩いてみる。
 虚ろな目をしたまま、わんこは尻尾を振る。
 思わず蹴飛ばしてしまう。
 それなのにわんこは、どうしたの? と言う顔で、尻尾を振りつづける。

 虚ろな目をさせて。

 ああ。
 私は。
 なんてことを。

 ほら、やっぱりあんたが洗脳したから、こんなことされても嫌がらないのよ! 本当は嫌だったのにね。無理矢理つれてこられたんでしょ。
 違う。はじめは、暗示なんかかけてない。
 今はかかっているけれど、それは。
 それはやっぱり。

 本当の持ち主が来るのが怖かったから。
52『いつまでも』《8》:2005/11/22(火) 18:54:49 ID:WxA2bTV4

 私はイヤリングを開放する。
 
 白い霧。
 
 ただならぬ雰囲気に、私をののしっていた彼女が止まる。
「な! 何よ!! 何するのよ!!! あたしも洗脳するの? 」
「そんなことしやしないよ」
 私は優しく言ってやる。
「キミの犬なんだろう? キミが迎えに来るまで、大事に保護していただけさ」
「大事に、保護していた、だけ? 」

 そう、大事に保護だよ。

 白い霧が漂う中、私はわんこに向かって微笑みかけた。
 ほら。
 暗示の術、解いてあげるよ。
「よかったね、わんこ。本当のご主人様が来たよ。キミはもう、私から自由だ」
 術を解く。
 わんこにかけられていた暗示を。わんこは私だけが好きという暗示を。私の言うことなら何でも聞くという暗示を。
「ほら、ご主人様のところへ行きなさい」
 イヤリングに潜んでいた、幻を見せる水の精は霧状になり、私の言霊を反響させ、瞬く間にわんこの呪縛を解放する。もちろん手ごたえはあった。わんこは自由だ。暗示からは自由になっている。それなのに。
「こら、私に近寄るな」
 わんこはてこてこと近づいてきて、私の足元にじゃれついた。毎週洗ってやっている体が、ふかふかしてる。雨が降っているときは、家の中で一緒だものね。いつも一緒だもんね。だからとてもきれい。
「いいかい。君の暗示は、もう解けているんだ。キミの、元の飼い主のところに行きなさい」
「だいじにほごしていただけだものねぇ」
 ゆらゆらしながら、彼女は呟いている。焦点の合わない瞳で、こっちを見て。うるさいよ、キミは黙っていて。ほら、わんこ、行け! あっちへ行け!!
 それなのにわんこは尻尾を振る。
 バカだ。犬はバカだから、何がどうなっているのか、わからないのだ。バカだから、術が解けないんだ。
「いけ! いっちゃえ!! 私の事なんか!! 」

 忘れろ!!
53『いつまでも』《9》:2005/11/22(火) 18:55:26 ID:WxA2bTV4

                   *

 猿楽が歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あら? あなた、刃友は? 」
 振り返ると、上級生の人が立っていた。人懐っこそうな笑顔を浮かべて。
「……なんですか? 星奪りなら、もう終りました。ずっと一緒にいる必要なんてないでしょう? 」
「え? ああ、失礼失礼」
 にやにやしている彼女を置いて、猿楽は小走りに進んでいく。変な人、変な人。いきなり呼び止めて、何をいいだすのやら。
「ちょっと待ってよ、お嬢さん」
 肩を捕まれて振り返ると、そっちは拙いんじゃないかなあ、と彼女は言った。
「そっちには、鼻血だしてる怖いお姉さんがいるよ? 」
 その言葉にムカっとする。なんだろうこの人。いきなりわけのわからないことを。睨みつけた猿楽に、彼女は、ほら、そんなに怖い顔しないで、と微笑んだ。
「あなたが用事があるのは、そっちじゃないでしょ? 」
「でも入り口がこっちですから」
「そっちは、むしろ裏口よ。こういうときは堂々と正面から入ったほうがいい」
 そしたら入り口は逆のほうでしょ、とこの学園の先輩は逆方向の道筋を指差した。
「そのまま行ったら、確実に巻き込まれるよ。早くしたほうがいいと思うけどなあ」
「一体何の事です!! 何の関係があって、そんなこというんですか!! 」
「いや、それはほら、通りすがりのおせっかいってもの」
 さっきの星奪り、みてたよ、と彼女が笑う。言われて猿楽の顔は赤くなる。赤くなるけれどそれは恥かしさとかだけではなくて、未知の感情が大きく高ぶった時の印。
「まさかこのまま、帰っちゃうの? 」
「よ、余計なお世話です! あたしがどこへ行こうと、あたしの勝手でしょ!! 」
 カン! とかんしゃく玉がはじけたみたいな声。キンと響いたのを感じて、猿楽、慌てて口を閉じた。その様子を見て苦笑いする先輩。風が吹いて、彼女の長い髪がさらさらと筋になった。
「ごめんね。でもあのまま行ってたら、ちょっと話がややこしくなりそうだったから。それさえ伝えられればあたしはいいの。帰るも、行くも好きにすれば」
 そう言って彼女は、何の未練もなさそうに明後日の方向に歩いていってしまう。急がないとお茶が冷めちゃうなあ、なんて言いながら。彼女の腰につけられた、二本の刀。それがぶるん、と震えたかと思うと、彼女の姿が見えなくなった。
 飛んだ?
 彼女の進んだ辺りは、まだ木に枯葉が残っていたり、常緑樹が混じって立っている林だ。我に返って、猿楽は辺りを見回す。さっきの変な先輩の姿がなくなって、周囲はまた人気が無い。
「フン! 」
 鼻で荒々しく息をして、猿楽は先輩に指差された方向に向かって走り出す。
 背中の荷物と、買ったばかりのドリンクの缶が、一歩踏み出す毎にバタバタして、走りにくい。二人分の荷物は、重くて走りにくい。
54『いつまでも』《10》:2005/11/22(火) 18:55:57 ID:WxA2bTV4

                 *

 ほんの二三年前のことを思い出して、私は青い空の下にいる。
 体育座りをして。
「う、寒い」
 お尻を少し浮かせて、スカートのすそをずらし、もっと深く腰掛ける。スカートを通して感じていた、屋上の敷石の冷たさが、それで少しまぎれた。
 わんこはどうしているだろう。
 どうしてこんな時に、昔のことを思い出しているのかわからない。どこかで未知が叫んだような音がした。きっと空耳だと思う。高い校舎の屋上は、からんと澄んでいるから、勝手に色んな音を拾ってしまうのだ。
 そういえば、今頃だったな。あのわんこを拾ったのも。
 あれから、人に暗示をかけるのを、躊躇わない私がいる。今までの星奪りも、それで容易く勝ってきた。Dクラスなんて、闘っている最中にも暗示を使うための、訓練みたいなものだった。
 化け物なら、化け物の力を使ったらいいのだ。
 だからきっと、猿楽も離れていくだろうと思っていた。なぜなら私は化け物なのだから。そんな術、使わないでよ、とあの子が言った時、予想していた終わりが来たんだな、と思った。

「キジっちゃん! そんな術、使わないでよ! 」
「どうしてさ」
「どうしても! 」
「この術を使う私が、不気味だから? 」
「そんな事言ってないでしょ! でも、術は嫌なの!! 」
「だって今まで、術を使って勝ってきたじゃないか。未知もそれでずいぶん助かってるだろ? 」
「でも嫌なの! だから嫌なの!! 」
「はあん。
私がこの術を使うのは、未知が、自分も暗示をかけられるって思ってるからだ? 自分も洗脳されたら怖いって思ってるからかな? 」
「違うよ! 星奪り、もっと普通にしたいの!! 」
「普通って何さ。私にとっては、言霊を使って闘うのも普通なんだよ」
「そうじゃないの! あたしキジっちゃんみたいに、頭よくないからさ、何か言葉足りないけれど、こんなの刃友じゃない気がする」
「――へえ。未知は私の事、刃友じゃないって思ってたんだ」
「誰もそんなこと言ってない!! 」
「いや! 言ったね!! 言霊使うのは刃友じゃないんだろ! 普通じゃないんだろ!! 」
55『いつまでも』《11》:2005/11/22(火) 18:56:44 ID:WxA2bTV4

 それから彼女は言ったんだ。
――キジっちゃんには、似たような能力を持ってる人のほうが、いいんだよね!
――あたしの刃友は、もっと普通な人でないと、ダメっぽいよ。
 今から考えれば、きっと売り言葉に買い言葉の、そんなやり取りだったんだろう。未知の言うところの普通の星奪りってなんなのかまだよくわからないけれど、未知が私の事を嫌ってないって知って、安心した。
 それでも、私はあの後、一人になりたかった。お互いの誤解を解くために話し合ったりするよりも、私は一人になりたかったのだ。未知と一緒に居たくなかった。
 どうしてか。
 それは――。
「はい」
 ばふっと頭の上から何かがかぶさってきて、視界をふさいだ。そのまま傍らに、温かい何かが腰掛けた。かぶさってきたものをつかんで頭からひきおろすと、ずるり、と長い物がすべっていく感触があって、やがてストン、と手の中に落ちた。私のコートだった。
「あたし、もう今日は帰ろうと思ったから、ついでに持ってきたの。キジっちゃんの荷物」
「あ、ありがと」
「お、お礼なんて言わなくていいの! ついでだし!! だ、大体あたしはキジっちゃんのこと、怒ってるんだからね! 勝手に走って行っちゃって! こんな屋上で! 風邪ひいたらどうするの!! 星奪りに影響するでしょ!! 」
 コート持ってきたのも、刃友が風邪ひかないようにするためだけだもん! そう言って未知は、ぐい、と私に何か突き出した。
「おーいお茶と、午後ティー、どっちがいい? 」
「午後ティーは、ミルク? 」
「当たり前でしょ」
「じゃあ、午後ティー」
 コートを羽織ながら受け取った午後ティーの缶は温かくて、プルトップをあけると、甘いにおいが立ち上った。
 パカコ!
 隣で未知がおーいお茶を開ける。ふー、ふーと吹く音がして、しるしる、と啜る音が聞こえた。私も啜る。しるしる、と音がする。
「ねー、キジっちゃん」
「ん? 」
「あたしバカだからさ」
「ん? 」
「すっごい頭悪いからさ」
「ん? 」
「すごく丁寧に教えて欲しいんだけど」
「うん」
「どうして、あたしが、キジっちゃんが嫌いだなんて、思ったの? 」
「――私に、術なんか、使うなって言ったから」
 ふーん。
56『いつまでも』《12》:2005/11/22(火) 18:57:19 ID:WxA2bTV4
 未知は小さな声で言ってから、言ってないよそんなこと、と呟いた。
「だって、術を使うのは不気味だって」
「そんなこと言ってない」
「雉宮の娘は化け物だって」
「そんなこと言ってない」
 それは、今まで、キジっちゃんが言われてたことで、あたしが言ったことじゃないと思うけど。そう言って未知は自分のコートの襟を合わせた。晩秋の風は寒い。
「あたしが嫌だったのは、キジっちゃんはすごいけど、キジっちゃんが一人で星奪りしてるみたいで、嫌だっただけ」
 未知の言葉に、私はドキンってする。
「私が、すごい? 」
「そう! あたしが、その――役立たずみたいな気がして、嫌だっただけ――。
あ! そう。この前もそれが言いたかったの」
また、ドキン、ってした。何だろう、この感触。
「でもさっき、吉備さんには効かなかったけどね」
 未知は私の言葉には答えないで、あたしキジっちゃんと組んで、すごい嬉しかったときがあるの、と言った。
「何? 」
「キジっちゃんが、飼ってたわんこの話してくれた時」
 今度もちょっと、ドキンとした。
 でもそれはさっき感じたドキンじゃなくて、今さっき自分が考えていたことがダブったことへの、ドキン。
「ああ。
あれは、私にとって、術を使いこなせるようになった、きっかけのことだからね」
「そうだね」
 それから黙って、また二人で缶を口に運んだ。
 もう、少しずつ冷めてきている。それは、風が冷たいからなのか、缶の中身が残り少なくなったからなのか、分からない。けれど甘いミルクティーは、おいしかった。
「あたし、キジっちゃんは、悪くないと思う」
 突然言われて、私は理解できない。何のこと、と聞くと、もちろん犬のこと、と未知。
「だって、その犬、子犬だったんでしょ? 」
「うん」
「雨の中、つながれてたんでしょ? 」
「うん」
「犬小屋は、あったの? 」
57『いつまでも』《13》:2005/11/22(火) 18:58:12 ID:WxA2bTV4
「いや。分からない。でも軒先で、つなぎっぱなしで忘れてたみたいだった」
「そしたら、かわいそうって思うよ、普通」
「違うよ! だって、私はあの犬が欲しかっただけ! 勝手にいい話にするなよ、君は」
 私はむっとして、缶の中に残った午後ティーをあおって、ぎゅっと握る。缶が、べこってへこんだ。
「大体未知は、私をいい人にしておきたいんでしょ? だからそんな風に話を勝手に作って……」
「あたし、キジっちゃんがいい人なんて、一言も言ってない」
 鋭く言い返されて、私は黙ってしまう。未知が強い目で、私のことを睨むから。
「キジっちゃんが、そのわんこを盗んだのは事実だし、それはいいことじゃないし。でもその子犬が寒さで震えていたのを助けたのは、悪いことじゃないでしょ。キジっちゃんが悪くないって言うのは、そこだけ」
「……それでも、私は、わんこに暗示をかけた」
「だから、キジっちゃんがいい人だなんて、言ってないの。でも、キジっちゃんが、自分がいい人でないことを言ってくれたから、いいの」
 未知が何を言いたいのか、よく分からない。まとめると、雨の中、私が子犬を拾ってきたのは悪くないけれど、その行動に問題があったと言う事か。しかし何で未知が、私からそんな話をしてもらって嬉しいのかがわからない。
「何がいいたいの? 未知」
「わからない人はいいです」
「何それ? 私が子犬を救ったとか、そう言う話を聞いて、嬉しかったわけ? 」
「そんなこと言ってません」
「じゃあ、何のことさ」
「キジっちゃんが、弱みを見せてくれたのが、嬉しかったの」
 また、ドキン、ってした。
 今度は、一番初めに感じた、ドキン、に近いドキン。
「弱みって、何さ! 盗んできた犬に暗示をかけて、それを追ってきた飼い主にも暗示をかけて、自分の罪を忘れさせたって言う、罪のこと?! あいにく、そんなこと、もうふっきってるから! 」
「へえ、罪だって、認めてるんだ。暗示」
 ぐ、と言葉に詰まる。そんな私を横目で見ながら、未知はぎゅうっと、缶を握った。
「ふっきってるっていうわりには、暗示をかけるのが悪い事だって、思ってるんだ」
「悪いことでしょ? 」
「悪いことなの? 」
「未知は、どうなのさ」
「キジっちゃんが悪いと思うなら、悪いんじゃない? 」
「未知の意見を聞いてるんだよ!! 」
「あたし、キジっちゃん、好きよ」
 言われて、私は黙ってしまう。ずるいよそんなの。そんなこと言われたら、何も言い返せないじゃないか。黙っている私を見て、未知は微かにため息をついて、信じてくれないならいいけど、と言った。
58『いつまでも』《14》:2005/11/22(火) 18:59:03 ID:WxA2bTV4
「キジっちゃんがどう思おうと、あたしは好きなの。誰かに暗示をかけてる時の、落ち着き払った顔も好き。怪しいセーレーとやらを呼び出して、ほくそえんでるのも好き。悪ぶってるくせに、優しいところも好き」
「で、でもキミ、そう言っても」
「すぐオタオタするところは、嫌い」
 ずばっと言い切られて、私は何も言い返せない。上目遣いに未知の顔を見上げると、彼女のまっすぐな視線があった。顔は真っ赤だ。目が合ったのに気づいた未知が、そっと私の肩にぎこちなく、腕を回した。
「ねえ、考えたんだけど。
もしも本当にキジっちゃんが、あたしを嫌になったら、暗示であたしの記憶、いじっていいよ」
小さな囁きに、私は異様なほど大きく反応してしまう。未知はぎゅうっと肩に回した腕の力を強めた。それは私の反応を押さえ込むためと言うよりも、話しているうちに力がこもってしまっただけのようだった。
「あたし、強くてかっこいいキジっちゃんが、あたしに自分の過去の、すごい弱い部分を話してくれて、すごく嬉しかった。Cクラスに上がったときよりも、何倍も何倍も嬉しかった」
「未知……」
「だから、あたしが嫌になったら、その記憶も消してね。でないと、きっと戻ってきちゃうから。キジっちゃんのところに」
「さ、さっきも言ったろ!? 私はキミと離れたいなんて、思ってない!! 」
「じゃあどうしてキジっちゃんは、あたしに暗示をかけなかったの? 」

 風が吹いた。
 初めて、今日の風が冷たかったんだなってことに気がついた。それなのに身体の寒さは忘れた。

「暗示をかけることを、悪い事だって思っていないなら。それで私と離れたくないなら。どうしてキジっちゃんは、あたしに暗示をかけなかったの? 今まで一緒に貯めた星を手放してまで、どうしてコンビを解消したかったの? 」
「それは、わたしが、みちがもうわたしをきらってるとおもったからで」
 私の声は、小さく細くもろく、冷たい11月の空気に溶けていく。未知はぎゅっと私の肩を抱いたまま、あたしはその答えを知ってるよ、と言った。どうして猿楽に暗示をかけて、雉宮のいいなりにしようとしなかったか、それはね。
「あたしが、キジっちゃんの刃友だからだよ」

 未知の身体、温かい。
 肩に回された腕がぽかぽかする。
 気がついたら、もう片方の手で、頭も抱きかかえられていた。でも、そんなことはどうでもいい。未知がそう囁くのを、私はぼんやり聞いている。犬のこととか、仲たがいのこととか、別にもう気にしていなかったから。なんて囁くのを。
 じゃあ、未知は一体何を気にしてるのさ。
 私の言葉が耳に入ったのか、くすくす笑って、未知が。
「だって、あたし、キジっちゃん泣いてるかと思ったのに」
「なんで私が泣くんだよ! 」
「吉備さんに負けたじゃない」
「負けたからって、泣かないよ」
59『いつまでも』《15》:2005/11/22(火) 19:02:59 ID:WxA2bTV4

 あ、まずい。
 もっと強い、ドキン、きた。

「大体さ、あれだよ! 自分で仕組んどいてなんだけど、あれで勝ってたら、私はキミと刃友を解消しなきゃいけなかったんだよ?! その間違いに気づいたから、手を抜いたんだよ! 」
「へえ。そうなんだ」
「そうさ! 暗示が失敗したのだって、きっと私が無意識のうちに、手を抜いていたに違いないんだ!! だって私の暗示の力は強いんだから!! 」
「知ってるよ。キジっちゃんは、強いもん」
「そうだよ!! か、雷だって! あれだって本当はもっとすごいんだ! 他にも一杯あるんだよ、私には! 五行の下僕がいて、本気でやったら死んじゃうから、手加減しているだけで……」

 どうしよう。
 ドキン、ドキンって、もっと強くなる。
 身体が震える。
 目が、うるうるする。
 そうだね、そうだねって、優しい声がする。
 未知の優しい声が聞こえる。

「だってさ、未知、言ったっけ? 私の故郷では、雉宮は、化け物の家系なんだよ? 外法を使って、人を惑わせて食らう、鬼の家系なんだよ? 私は、その娘で、素質があって、小さい頃からずっとずっと、ずうううっと、修行してきて」
「友達も、いなかったものね」
「そうだよ! 当たり前だよ! 化け物だもん! 友達なんて必要ないよ! わたしばけものだもの! だから、さっきだって、ほんきだったらぁ……」

 かってたんだから――!!

 もう、我慢できない。
 ぽたぽたぽたって、涙がこぼれる。
 今まで自分が培ってきたものが、まるで通じなかった。
 悔しい。
 星は奪られなかったけれど、あれじゃ負けたのと同じで。
60『いつまでも』《16》:2005/11/22(火) 19:04:00 ID:WxA2bTV4
 悔しくて悔しくて、涙が出そうで。だから、さっき一人になりたかったのに。
 今泣いたら、みっともないだけじゃないか!!
 みっともない姿なんて、見せたくなかった。
 無力な自分なんて、見せたくなかったのに。
 今私は、彼女の前で泣いている。一人のときに泣けないで、彼女の前で泣いている。

 未知、未知―。
 私はかっこよくなんてないよ。強くもない。

 泣きじゃくる私に、未知が、大丈夫だよ、と言った。
「大丈夫って、何が」
「次に吉備さんと戦っても、絶対にキジっちゃん、負けないから」
「どうして? 」
「あたしが一緒に、戦うから」
「未知のほうが、私より、強いって言いたいの? 」
「なんでいつもそうやって勝手なこと言うかなあ! 」
 少し怒った声で、ぎゅって抱きしめて。
「だってあたし、キジっちゃんの、地の星だから」
 何があっても、天を護るよ、って。
「あたし、キジっちゃん、大好きだもの。だから、キジっちゃんのこと、守るよ」
「私が、化け物でも? 」
「化け物のキジっちゃんが、好き」
「口が多くて、勝手だよ? 」
「そんなカッコつけのキジっちゃんが好き。でもヘタレなのは嫌」
「……みちぃ」
「でも、泣いてる乙葉は、好き」

 頬と頬が触れる感触。
 未知の頬、ましゅまろみたいに柔らかい。涙で濡れた私の頬が、ひんやりして、それでいて、あたたかい。
「ミルクティーのにおいがする」
61『いつまでも』《17》:2005/11/22(火) 19:08:17 ID:WxA2bTV4
 耳元で囁かれて、くすぐったい。今、彼女がミルクティーのにおいがするってことは、未知からも、おーいお茶のにおいがするかな、って思って、嗅いでみた。
「くすぐったいよぉ。キジっちゃん」
 午後ティーのミルクよりも甘い声に、私は赤面してしまう。彼女の吐息に、イヤリングが揺れる。しりん、しりんって、揺れる。
 抱き合ってる。私たち。
 キスまでいかない、でも、手をつなぐよりも強く絡み合う、私たち。
 大好きだよ。
 未知。
「何か言った? 」
 唇を震わせただけの声に敏感に反応して、未知が尋ねる。
「なんでもないよ! うるさいな! キミは!! 」
 冗談めかして、彼女の耳を噛んだら、キミはやっぱりくすぐったそうに、くすぐったい、と囁いた。

「あのさ」
「ん? 」
「キジっちゃん、もっともっと強くなるよ」
「当たり前」
「あたしも、もっともっと強くなるからさ」
「当たり前」
「もし、またキジっちゃんが泣くときは、あたしが慰めてあげるね? 」

当たり前、って言うのは、なんだか恥ずかしいから、猿楽さん重いよ、いつどいてくれるの、って口を尖らせたら。

62『いつまでも』《18》:2005/11/22(火) 19:08:38 ID:WxA2bTV4
「いつまでも」と未知。

                       (了
63名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 19:32:58 ID:rZ7wE8B8
キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━!!!
64名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 19:52:00 ID:mhr1mz47
書いた人は優しいひとだな。そんな感じする。
GJです。
65名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 20:08:55 ID:ChbqdfE6
ちょっと泣きそうだったよ。
GJ。
66名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 22:32:46 ID:wGFf5Mf5

くだらねーSS投稿してんじゃねーよw

ゴミがwwwww
67名無しさん@秘密の花園:2005/11/22(火) 23:22:18 ID:6YQQlaUr
ミルクティー飲みたくなったw

Σb(´∀`)GJ!
68名無しさん@秘密の花園:2005/11/23(水) 00:46:53 ID:6hDydR1s
キジっちゃん萌ぅぅえぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええぇぇ!!!!!!!
猿雉最高!GJ!
69名無しさん@秘密の花園:2005/11/23(水) 12:38:39 ID:h9afvPFU
正直泣けた。すんばらしい! GJ!
いいね猿雉いいよね!
70名無しさん@秘密の花園:2005/11/24(木) 21:52:00 ID:8kK8E597
祝ドラマCD化
シャバ蔵テラワロスwwwwwww
71名無しさん@秘密の花園:2005/11/26(土) 05:23:23 ID:pj8xTb7H
SSグッジョブ!
いいね、この二人は!!
72名無しさん@秘密の花園:2005/11/27(日) 00:48:24 ID:zdu+k7W0
雉と猿の好感度がぐんぐんと上がっていくのが判るぜ!
GJ!!

某所で白装SSみて来たせいで
白装熱があがった
SSが来るのを待つ
73名無しさん@秘密の花園:2005/11/27(日) 10:20:27 ID:owGqvOK7
あれ?
74名無しさん@秘密の花園:2005/11/27(日) 22:53:32 ID:zdu+k7W0
>>73
 どうした?
75名無しさん@秘密の花園:2005/11/27(日) 23:39:49 ID:owGqvOK7
ううん、なんでもない。
ごめんね心配させて。
76名無しさん@秘密の花園:2005/11/28(月) 12:03:37 ID:bI4uWaQs
>>75
いや、何でもないならいいぞ

それよりも
はやブレ公式サイトみたいなのできたな
ドラマCD情報専門みたいだが
77名無しさん@秘密の花園:2005/11/28(月) 19:01:16 ID:w1Nmy3E6
ドラマCDの情報を、さっき始めて見た。
声優ももう発表されてたけど、皆さんは思ってた通りの人になったでしょうか?
僕は、
はやて=坂本千夏
綾那=林原めぐみ
という、絶対無理なキャスティングで読んでたけど、さすがに全然違った。
78名無しさん@秘密の花園:2005/11/28(月) 20:24:59 ID:+RHalwoN
ひつぎ会長=矢島晶子は思ってた通りでマジびびった
見た目が初期リリーナに似てるなぁとなんとなく思ってたんだ
79名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 01:24:39 ID:fFaVeO4y
豊口めぐみがどっかで来るとは思ってたが
まさか順に来るとは思わなかった。
しかも五十鈴に能登麻美子が来たのは驚いた

……俺は綾那のキャストがどんな声なのか想像もつかん
80名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 02:39:15 ID:QnaQsbar
>>79
ファンサイトや本スレの予想では、綾那が1番鉄板だったみたいよ。

雪野五月の主な出演作
かごめ(犬夜叉)かなめ(フルメタ)ねねね(ROD)タナベ(プラネテス)玲(ぱにぽに)
81名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 06:56:19 ID:+o/fvVqw
綾那にはねねねの声がしっくりくる。
82名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 09:32:01 ID:xa/i8vra
声優の人の声クレヨンしんちゃんしか知らないアニメに無知な俺の中で
ハブドラマCDは今ものすごいことになってる。
83名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 09:33:24 ID:ty3hkClN
能登の呪縛完了…!が聴きたいんだがドラマCDはどこまでやってくれるんだ
84名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 11:08:03 ID:R7Cb0Lfv
能登の声で「呪われるが良いい!!」?
うむ、是非聞いてみたい。
85名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 11:28:04 ID:fFaVeO4y
いっそワンコは銀杏持って呪縛すればいいと思う
86名無しさん@秘密の花園:2005/11/29(火) 15:39:07 ID:R7Cb0Lfv
でも、能登の声で犬ちゃん演じるのは凄く似合ってるな。
変な声に変なしゃべり方、相性バッチリ(w
87不治の病:2005/11/30(水) 19:17:47 ID:L6cMi+Wa
「夕歩…………」
名前を呼ぶだけでこんなにも胸が締めつけられる
体中が熱い 声がかすれる 息が苦しい
もう病気なんじゃないかと思う
細い体を抱く腕に力をこめると甘い声が聞こえてきた
「…順……」
びくりと
心臓が大きく震えた
ああもう病気だ
一生治ることはない
完全な病気だ
88不治の病:2005/11/30(水) 19:18:38 ID:L6cMi+Wa
――今足音しなかった?
直接声には出さなかったけれど夕歩はあたしに目でそう訴えた
――大丈夫だよ、誰も入ってこないから
――……いちいち耳元でしゃべらないで
暗闇の中でのひそひそ話
とっくに消灯時間の過ぎた病室でそれは行われていた
――だって……
――…だってじゃなくて
夕歩がかわいすぎるから
そう答える代わりにまたその唇に触れるだけのキスをする
室内は暗いのに夕歩が赤くなるのがはっきりと分かった
89不治の病:2005/11/30(水) 19:19:04 ID:L6cMi+Wa
腕にすっぽりとおさめた柔らかい体からとくとくと速い鼓動が伝わってくる
あったかい
心地よくて
あたしはそっとその素肌に頬をよせた
「ちょっ……」
――順
あわてて声をひそめる夕歩
その声もどうしようもなくかわいくて
あたしは顔を夕歩の胸のあたりまでもっていって
そのままぐりぐりとして夕歩の柔らかさを堪能した
いい匂いが鼻をかすめる
――……順
本気で慌てだす夕歩
さっきまで抱きしめても顔を近づけても頬にキスしてもパジャマのボタンに手をかけても
そんなことはしなかったのに
今夕歩は全力で抵抗している
90不治の病:2005/11/30(水) 19:19:23 ID:L6cMi+Wa
――順ってば
そろそろ離れたほうがいいかな
そう思った時
――順、くすぐった………あっ…ん……
甘い
ひどく甘い
今まで一度も聞いたことのない夕歩の甘い声が耳に響いて
見上げた先には見たことのない夕歩の顔
かわいそうなくらいまっ赤になっていて
夕歩はばっと顔を隠した
その光景に今の自分たちの状況を思い出して
夕歩と目を合わせることができなくなって
あたしはどうしようもなくなって
固まってしまった
91不治の病:2005/11/30(水) 19:19:51 ID:L6cMi+Wa
どうしよう
どうしよう
全く予想外のできごとにあたしの頭はその言葉だけがぐるぐる回っていた
心臓が破裂しそうなくらいに高鳴っている
…そもそも夕歩はこんなことしたくなかったのかな
突然弱気な考えが浮かんできた
唐突な不安
病気のあたしの頭はそんな中でも夕歩の唇が欲しい
そんなことを考えていた
92不治の病:2005/11/30(水) 19:20:26 ID:L6cMi+Wa
何秒経ったのかは分からない
ひどく長く感じられる沈黙を破ったのは夕歩だった
――…………順
名前を呼ばれてゆっくりと顔を上げる
夕歩と目が合う
――…順、ちょっと
顔、もう少し上げて
後に続く言葉は聞き取るのがやっとの大きさで
あたしはその言葉の意味が分からないままそれに従うしかなくて体を上へとずらした
――…何?
ひそりとそう尋ねる
ー……………
夕歩はというと何かためらっているようだった
――…夕歩?
顔をのぞきこもうとすると口をふさがれていた
唇に夕歩の感触
あたしはその急なできごとにおどろいたけれど
はっきりとこの状況を認識していた
夕歩が、あたしにキスしてる
93不治の病:2005/11/30(水) 19:21:00 ID:L6cMi+Wa
夕歩はあたしの背に両手をまわして一度唇を離したかと思うと更に深く口づけてきた
「…んん……」
耐えきれず声が漏れる
そうとう勇気が要ったのだろう夕歩は離れると小刻みに震えていた
ああ
いとおしい いとおしい いとおしい
目の前の存在がどうしようもなくいとおしい
あたしは片手を頭にもう片方の手を夕歩の手に添えて
そのまま自分から深く口づけて舌を入れて
溶けていった
94不治の病:2005/11/30(水) 19:21:30 ID:L6cMi+Wa
――…じゅん……
もう止められない
熱は増していくだけ
もっと強く感じたい
もっともっと深くつながりたい
こきざみに震える腕
悩ましげな夕歩の顔
夕歩の全てがあたしをふるわせる
――…あっ……じゅん…あぁ……じゅん……
痛いくらいにあたしの手を握りしめる夕歩
堪えきれずまっ赤な顔を隠そうとする夕歩
――やっ…ちょっと……だめ……じゅん…だめ……
―――――あ………っ
最後に見た必死に声を押しころそうとする夕歩は
どうしようもなく艶やかしかった
95不治の病:2005/11/30(水) 19:22:00 ID:L6cMi+Wa
「いや、ですから終電を逃してしまってですね」
「それは分かりましたから。それより親御さんに連絡は?
 そもそも昨日、どうやって病室に入ったのかしら?」
「えーと……それはそのー……ま、窓から」
「嘘はだめです。ここは3階ですよ?」
「はぁ………」
次の日の朝
むくりと起きると横に順はいなくて
看護婦のおばさんにしっかりしぼられていた
「ともかく。今日はもう帰っていいから二度とこんなことはしないように」
「はい!」
ふふ、と思わず笑みがこぼれた
私の姿を見つけると順は照れくさそうに笑って駆けよってきた
96不治の病:2005/11/30(水) 19:22:24 ID:L6cMi+Wa
「やーまいったまいった。早く起きて逃げ出そうと思ったのに」
夕歩の抱き心地がよくてついさー

どすっ

「……夕歩…あたし何か気にさわるようなこと言った……?」
「…心の声が聞こえた」
白い床にうずくまる順
ちょっと加減ができなかったかな
「ふーんだ……どうせまたくるもんね」
「…え?」
順のその言葉に私は目を見開く
小さい声だけれど順は確かに言った
また来る、と
その言葉が頭の中で繰りかえされて
「あたしも、病人だから」
そう続ける順の気持ちが分からなくて
ただ見たこともない笑顔で笑う順に私は何も言えなかった
97不治の病:2005/11/30(水) 19:22:47 ID:L6cMi+Wa
来訪者の去った病室は静かだ
部屋の隅には一本増えた木の刀
私は去っていく刃友の背を見送る

窓からひゅるりと涼しい風が流れてきた
落ち葉が音を立てる
私はそっと白い息を吐いた
もうすぐ秋が終わる
98名無しさん@秘密の花園:2005/11/30(水) 20:10:06 ID:dyprgbGs
甘々ですな。
堪能しました。GJ!
99名無しさん@秘密の花園:2005/11/30(水) 20:36:17 ID:z7110f8u
凄く(・∀・)イイ!!
100名無しさん@秘密の花園:2005/12/01(木) 00:38:14 ID:5dpupiL9
やー、もう風呂上りなのに茹っちゃうーってぐらいGJ!
101名無しさん@秘密の花園:2005/12/02(金) 10:17:58 ID:CWM7lxk+
テラカワイス!!
Gj! Gj!
102名無しさん@秘密の花園:2005/12/04(日) 10:45:06 ID:WEQHx9zx
このスレのキモヲタ
   ↓

。 o 彡川出川三三三ミ〜 プゥ〜ン   
 。 川出川/゜∴゜\ b〜 プゥ〜ン    
 。‖出‖.゜◎-◎゜|〜 ゜  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  出川‖∵∴゜。3∵゜ヽ〜<  踏んだら孕んだ!! 孕んだ振る降る般若だ!! 
。 川出∴゜∵∴)д(∴)〜゜ | フン出る春巻きは無理!! チン毛ちぎり!! よくチョン切れる鋏だ!!
 。出川∵∴゜∵o〜・%〜。   \________________
o 川出‖o∴゜〜∵。/。 プゥ〜ン
 川出川川∴∵∴‰U 〜 プゥ〜ン
。U 〆∵゜‥。 ゜ o\。゜〜。プゥ〜ン
。。/∵\゜。∵@゜∴o| 。o゜。゜ o。 ゜
 /::::∴/:::::::::::‥ ∵゜ | 〜 。o〜プーン
(:::::::: (ξ:  ・ ノ:::・/:| 。゜o 。。
o\::::: \:::::::∴。 (::: | o。゜ o。〜プゥーン
 /:::\::::: \::: ∵゜ ヽ| 。゜。゜
/::::   \::::: \::: ヽ )∴ シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ
|:::∴o゜  \::   ̄ ̄⊇)__ 〜
|::::::: ∴゜∵。\;;;;;;;;;;;(__(;;;・) 〜 モワー
\::::::::::。ξ(;;; );; ) ゜。。   〜
∵\::::::::::::。∵ ) ) ゜o゜ o。〜プーン
。o。。):::::∵゜ // 。o。゜〜プーン
。゜ /::::::::: // 。 ゜
 /:::::  (_(_ 。o

     ↑
    キモヲタ
103名無しさん@秘密の花園:2005/12/05(月) 23:48:38 ID:DjI6nlTG
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画

104名無しさん@秘密の花園:2005/12/05(月) 23:50:28 ID:DjI6nlTG
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画 キモヲタ御用達糞漫画
悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画
悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画
悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画
悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画
悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画悪臭キモヲタ御用達糞漫画
105名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 00:10:22 ID:Z2ckJNlm

怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨
獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐
骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首
吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇
首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔
闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血
魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊
血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦
霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨
苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪
惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅
呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺
滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡
殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲
亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬
悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰
葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死
罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄怨邪
死罰葬悲亡殺滅呪惨苦霊血魔闇首吐骨獄
106名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 02:14:42 ID:ssV8ywp4
(´-`).。oO(厨スレ立てたのに使われなかったヤツかな)
107名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 04:56:54 ID:6VMCntCJ
誤解です。あの厨房スレを立ててブーイングをうけたのはぼくですが、
あのあとはみなさんのご叱責にうなだれ、こそこそとこのスレを
楽しんでおりまして、こんなおそろしいことはできません。。。Orz
108名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 05:26:25 ID:7Z62BkCe
皆が皆決め付けてたりはしないから心配せんでいい
いつもの変な人の定期巡回だから反応せんでいい

109名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 10:02:16 ID:ahKDqdaI
いつも来る定期保守の人だよ
AAを使うのが玉に瑕だが沈む前に必ずサルベージしてくれるんだ
110名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 13:12:57 ID:/UgwENee
しかしもっと品のいいAAにして欲しいものだ。
品性疑われるぞ。
111名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 19:36:29 ID:JaHT+r2J
>>品性が疑われる
まぁ、確かに。ちょっとのろいかと思ってびっくりしたよ

それからSSぐっじょぶ
112名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 23:03:54 ID:EqD2gysV
>>107
よし、じゃあなんであの時あんな真似をしてしまったのか、
SS風に語ってもらおうか。
113名無しさん@秘密の花園:2005/12/06(火) 23:29:11 ID:MA9QKLR/
待てぃ!
むしろ夕歩と順が舐めあってる姿を書くべきだ
114107:2005/12/07(水) 03:34:42 ID:0ReAHgGa
>>112
>なんであの時あんな真似をしてしまったのか
ぼくが厨房だからです。本当に申し訳ありませんでした。
厨の無能者なのでSSとかはどうか勘弁してください。
こうやってひそひそ楽しむだけが能の人間だったのに、
あんな調子こいたことしてしまって。。。orz
魔が差しました
>>113
はい。まさしくそのようなSSを読みたくて、あんなことをしてしまいました。
もはやお願いできた義理ではないのですけれどもどなたかお願いできないでしょうか。
夕歩と順が優しくそうしあうところを、どなたか。。。
>>108
お気遣いいただきまして恐縮です。こんな厨なのに。。。ありがとうございます。
115名無しさん@秘密の花園:2005/12/07(水) 03:43:04 ID:V5njXkVq
なんかちょっとかわいいな
116名無しさん@秘密の花園:2005/12/07(水) 05:59:19 ID:iu9mXG7v
むしろカワイソスw
117名無しさん@秘密の花園:2005/12/07(水) 07:51:12 ID:cY8NrR2w
オッケー許しますって事で
クリスマスも近いし皆でハブキャラのクリスマスでも妄想しようぜ
一番手オレ

順と夕歩のクリスマス
順はケーキのクリームで変なプレイ希望
夕歩はケーキのロウソクで反撃
118名無しさん@秘密の花園:2005/12/07(水) 15:15:28 ID:jaSFzJTi
静久にサンタ衣装を着せ「似合うわよ静久!」ご満悦ひつぎ様
「あのう、私にも何か・・」申し出る帯刀
「ああそう これでも着てなさい」トナカイ衣装を投げ渡すひつぎ様

>>107
疑って悪かった
119名無しさん@秘密の花園:2005/12/08(木) 02:38:17 ID:YkLvdYuk
↑当然、ミニスカサンタだよな!
やべえ、妄想したらおっきおっきしそうになった。
120呪縛 1/12:2005/12/09(金) 18:32:16 ID:GkzUHROG
 ここは、ノイズがひどい。
 アルコールに濁った頭でぼんやり考えた。ここはノイズがひどい。
 人いきれ、タバコの煙、ビールや日本酒のにおい、ときおり肩に触れる毛深い手、なにもかも不快だった。
 順くん、順ちゃんと気安く呼ばれるのも、気に入らなかった。

     *

 あれこれ検査を済ませて、いよいよ十日後に骨髄を採るという日の午後。寮のほうに、父さんから電話が入った。
「順。今度の週末、かいきねがいの宴があるそうだ」
「かいきねがい?」
 聞きなれない単語が頭の中でうまく漢字になってくれず、オウム返しに訊き返してしまうあたし。
「そうだ。さっき、静馬のほうから連絡があってな……」
121呪縛 2/12:2005/12/09(金) 18:33:28 ID:GkzUHROG
 要するに、夕歩の手術の成功と、早い回復を願って、親族一同集まって宴席を持つのだという。あ、なるほど、『快気願い』か。
 正直、パスしたいなっていうのがあたしの感想だった。静馬のおじさま、おばさま以上に、ふだんあまり接することもない親戚たちと会うのが気詰まりなのだ。夕歩はとっくに入院してるから、きっと不参加だし。
「順、おまえはどうする。無理にとは言わないが」
 あたしの気分を察しているのだろうか、いつもの落ちついた声でたずねてくる父さん。
 お気遣い、感謝。心の中で手を合わせつつ、あたしは軽い声で答えた。
「ん、はい、もちろん行きますとも。ひさしぶりのご馳走、楽しみ」
 仮にも久我の娘が、静馬の招きに応じないわけにいかないもんね。
 そして当日、つまり今夜、あたしは父さんと一緒に静馬のお屋敷の門をくぐった。『ほんの二、三時間のことだ、隅っこのほうでおとなしくしてよう』、ひそかにそう考えながら。
 ……で、一時間もしないのに、もうギブアップ寸前なのだった。
122呪縛 3/12:2005/12/09(金) 18:34:19 ID:GkzUHROG
 そもそも、大勢でワイワイっていうのがそんなに好きじゃない。綾那あたりに言ったら笑われそうだけど、あたし、意外と孤独を要求するタイプなのよね。
 それが、気がつくと畳敷きの大広間の上座にちんと座らされていて。「隅っこのほうでおとなしく」どころか、皆にわっと囲まれて、チヤホヤチヤホヤ、まるで見世物のパンダみたいな人気っぷり。
 つまり、夕歩に骨髄を提供するあたしが、今夜の花ってわけなのだった。
 古い家柄だけあって、十五にもなればもう半ば大人扱い。おつきあい程度にでも杯をいただかなきゃいけないし、立場上、笑顔とサービストークも絶やすわけにいかないし。ま、ちょっとした苦行よね。……はぁ。
「いやあ、それにしてもだ」
 あたしのひそかなため息には気付かずに、となりの座の、毛深い手のオジサマが、酒臭い息で同じ話をくり返す。
「順くんが、夕歩さんの移植適合者だとはねえ。偶然というものは恐ろしい。だが、これは幸運な偶然じゃないかね。え、そうじゃないか。主従、近しく付き合っていても、体質まで同じになるわけじゃないからね」
123呪縛 4/12:2005/12/09(金) 18:35:10 ID:GkzUHROG
「あはは、はい、そうですね」
 笑ってうなずいておく。忍法・愛想笑い、だ。この人は、一族のなかでも格の高いほうで、あまり邪険にもできない。
「もしどこかで、血が混じっていたとしても、そうそう適合はしないものだ。私は医者だから、そのことはよく知っている。なあ、順くん、よかったじゃないか。仲のよい夕歩さんを、君が助けるのだ」
「あはは」
「ちょっと、あなた、順ちゃんが困ってるでしょ。お酒が過ぎていらっしゃるわよ」
 笑って仲裁に入ってくれた小母さんも、やはりすこし顔が赤い。みんな、夕歩が治るかもしれないと知ってご機嫌だ。

 ……それとも、夕歩のことなんてそっちのけでご機嫌、と言ったほうがいいのかな。
 この人たち、たしか一度もお見舞いに来てないよね、

 だめだ。
 あたしは頭を振った。
 ここは空気がよくない。タバコの煙とアルコール、にぎやかで、いまいち心の通わない会話。全部がノイズで、よけいなものだ。こっちの気分まで黒くなる。
 夕歩。心の中で呼びかけてみる。あーあ、夕歩。こっちは大騒ぎだよ。
124呪縛 5/12:2005/12/09(金) 18:36:16 ID:GkzUHROG
「……なあ、久我君。君も鼻が高いだろう。娘さんが、この上ない形で本家の役に立てるのだ」
 中年男は徳利片手に、今度は父さんにからんでいた。
 かしこまって頭を下げ、たくましい肩をすくめて杯を受ける父さん。うあ。なんか、自分がしつこくされるより嫌な構図だ。
 反射的に目をそらしたら、静馬のおばさまの顔が視界の隅に入った。
 ? なんだろう、ふだんよりずっと青白くて、目のはしがきつく引きつっていて。

 あ、そうか。

 突然、悟ってしまった。
 この男は、あたしと夕歩の関係を……静馬と久我の間になにがあったか、知ってるんだ。その上で皮肉を言っている。酔ったふりをして。
 そして、ここに集まった“静馬”たちはみな、そのことをわかっているに違いない。
 彼らは、あたしを誉めそやすことで、間接的に宗家の夫妻を侮辱している。
125呪縛 6/12:2005/12/09(金) 18:37:57 ID:GkzUHROG
 なんだか吐き気がしてきた。
 静馬の一族は古いだけに、いろんなしがらみが絡みついている。まるで蛇のように。 
 子供のころ、どんなに走り回って、あちこち、障子や雨戸を開け放ってみても、静馬のお屋敷がいつもどこか薄暗いのが不思議だった。今思えば、それは蛇たちのせいだったのかもしれない。
 嫉妬、虚栄心、憎しみ、執着、もっとたくさんの、陰険な蛇たち。板張りの廊下、階段、花の活けられた広い客間、お線香のにおいのする仏間。蛇は、静馬の家のどこででもとぐろを巻いているのだ、ひんやりと、黒々と。
 この人たち、今、笑顔で杯と毒を交しあっているこの“静馬”たちは、みんなその黒い蛇に支配されている。自分ではそれぞれ、名門・静馬の血を引く家の主だと思ってるだろうけど、じつは、静馬の血が彼らの主で、その静馬の主は蛇たちなんだ。
 彼らは蛇たちにぐるぐる巻きにされてる。

 久我であるあたしも。

 吐き気する、すこし、飲まされ過ぎた。空気が吸いたい。ノイズでも毒でもない、冷たくて甘い、ほんとの空気。
 そのためには、ここを出なくちゃいけない。まわりの大人たちにあいまいに中座を詫びて、あたしは立ち上がる。頭がくらくらする。それでも歩き出す。
 ……視界が暗くなった。体が傾いた。

 あたしたちは呪われている、
 そんな言葉がふと、浮かんで消えた。

 父さんが、あわててあたしに手を差し伸べたけど、間に合わなかった。
 ああ、あたし、倒れる。みっともない。
126呪縛 7/12:2005/12/09(金) 18:38:58 ID:GkzUHROG
 そのとき、小さな手があたしの肩を支えた。
「……なんだか、ナイスタイミングだったみたいね」
 その声に、急に頭がはっきりした。
「夕歩!」
「夕歩さん!」
 あたしと座のみんなが、口々にその名を呼ぶ。夕歩。病院にいるはずなのに。
「なんで中学生の順に、こんなにお酒飲ませてるのよ」
 いつものムッとしたような顔で、大人たちを責める夕歩。だれもが、宗家の姫の静かな怒りに言葉を失う。
 沈黙した座を見渡して、夕歩はフンと鼻を鳴らし、あたしを立たせながら言った。
「順を休ませるから。あとは大人たちだけでどうぞ」
127呪縛 8/12:2005/12/09(金) 18:39:45 ID:GkzUHROG


「夕歩、どうしてここへ……?」
 夕歩の寝室、むかしはよく一緒に寝た布団で休ませてもらって、すこし気分がよくなって。
 あたしは、当然の疑問を口にした。
「べつに。ただ、馬鹿げた宴会の話を聞いて、こんなことになってるかもって思って。外泊許可、もらってきただけ」
 夕歩はまだ不機嫌、というより、かなりカッカきているようだった。
 でも、そんなふうにプリプリ怒る夕歩がおかしくて、なんだかちょっとうれしくて。
「なに、夕歩。ひょっとして心配してくれた?」
「ばか。さっさと寝ちゃえ」
「あっははは」
「……ねえ、順」
 笑うあたしの顔をじっと見つめて、夕歩が急に、沈んだ声で言った。
「どうして出てきたの? 静馬の家の集まりなんて、楽しい思いしないの、わかりきってるじゃない」
「え? だって、あたしは久我ですもの。呼ばれればいつでも参上いたしますわん」
「ちゃかさないで。順のそういうとこ、時々きらい」
「ぐ。き、きらい、ですか……」
 ぐさり刺されて、枕に突っ伏すあたし。
 すると、夕歩がふと歩み寄ってきて、すぐそばに、膝を抱えるみたいにしゃがみこんだ。
 顔を上げると、すごく近い距離で、目と目が合う。ゆ、夕歩?
「……あのさ、順。もういい。もう、つきあってくれなくていいよ」
128呪縛 9/12:2005/12/09(金) 18:40:33 ID:GkzUHROG
 一瞬、頭の中が真っ白になった。
 あなた、もう要らないよ。そう言われたんだと思った。
 でも夕歩は、アルコールにほてったあたしの頬に、冷たい手のひらをあててくれて。
「静馬がどうとか久我がどうとか、気を使うの、もういいよ。
 そういう余計なこと、順はもう考えなくていい。うるさいこと言う人がいたら、私が怒ってあげる」
「……夕歩」
「だって、バカバカしいじゃない。家柄がどうの主従がどうの、そんなことばっか吹き込まれて。しなくていい遠慮して、倒れるまでお酒飲まされて。くだらないよ、こんな、血の……」
 言いづらそうに目を伏せて、続ける。
「呪縛、みたいなの、さ」
 心臓がキュッとちぢんだ。
 呪縛。それは、あたしが辿りついたのとおなじ結論。
 夕歩がなんと言おうと、一緒にいるかぎり、あたしたちは家同士の関係に縛られ続けるだろう、永遠に。呪いって、きっとそういうものだ。夕歩だってほんとはわかってる。
 逃れたかったら、どうする?
 あたしたち、ちょっとだけ距離を置こうか?
 ばかな。でも……
 少しの間、ふたりとも黙っていた。お互い、次の言葉を探すように、あるいは怖れるように。
 やがて、先に口を開いたのは、あたしだった。
129呪縛 10/12:2005/12/09(金) 18:41:20 ID:GkzUHROG
「ねえ、夕歩」
「……うん。なに、順」
「“呪う”ってのはイヤな言葉だけどさ、“縛る”のほうはなんかいいよね。ドキドキする」
「………………………………………………………………………………。は?」
「“呪う”ってのはイヤな言葉だけどさ、“縛る”のほうはなんかいいよね。ドキドキする」
「おやすみ。もう起きてこなくていいよ」
「あっあ、待って待って、聞いて」
 夕歩の腕にあわててしがみつくあたし。振り切って行こうとする夕歩に、
「ねえ、夕歩ってば」
「なによ!」
「こほん。
 えっとさ。これは『呪縛』じゃない、『絆』ってことにしておこうよ」
「……え」
「あたしらの周りにあるもの、いいものも悪いものも全部、あたしらをつなぐ絆って思っておこう。だって、静馬と久我を縛るものが、あたしと夕歩を巡り合わせてもくれたんじゃない?
 だからあたし、そういうの全部引き受けるから。夕歩こそ、あたしのこと心配しなくていいよ」
 かなりいい笑顔で言えた、と思う。
 夕歩と一緒にいられるなら、どんな重荷だってしょってやる、って。
 強がりかもしれない。でも、もしそうだとしても、一生強がり通す。
130呪縛 11/12:2005/12/09(金) 18:42:03 ID:GkzUHROG
 ふりむいた夕歩は、しばらく目を白黒させていたけど、やがて顔を赤くして、怒ったようにつぶやいた。
「順、まだ酔ってる」
「ああっはっは。そ、そうかも」
 クサいセリフに、いまさら照れ笑いするあたし。
 夕歩は、そんなあたしの手をほどいて立ち上がった。
「私ももう寝る。私は客間にお布団敷くから、順はそこにいていいよ」
「えー。久しぶりに一緒に寝ようよ、夕歩ぉ」
「ヤダ。キモい」
「ぐは」
 ふたたび突っ伏したあたしを置き去りにして、部屋を出てゆく足音。
 障子が開いたとき、冷たくて甘い風と、それから、かすかなつぶやきがあたしに届いた。
「…りがと」
「え?」
「ううん。おやすみ」
 そして、障子がそっと閉じる音。
 お布団をかぶりなおして、目を閉じて、それから、あたしはひとり笑った。
 あはは。
131呪縛 12/12:2005/12/09(金) 18:43:51 ID:GkzUHROG
   *

 忍たるもの、気配を殺すくらいお手のものだ。
 客間の障子を音もなく開いて、真夜中、あたしは夕歩の枕元に立った。
 ううん、誤解しないで。別になにをするわけじゃない(ほんとよ?)。ただ、おいとまする前に、ちょっと顔を見たかっただけ。
 あたしの大切な……友達? 家族?
 たぶん一生離れられない。
 やわらかい髪が、寝返りを打った拍子に鼻先にふれて、くすぐったそうに眉をしかめる夕歩。
 それを指先でそっと払ってやって。自然とほころんだ唇を、かすかに動かして、あたしは小さくつぶやいた。
「たしかに呪縛かもしれないわ、これ」
                           (おわり)
132名無しさん@秘密の花園:2005/12/09(金) 18:48:57 ID:WrV3E/Jg
ありがとうGJ心の友よ!!愛してる!タイミングよく、上がった先から読んでたよ
雰囲気が好きだー
133名無しさん@秘密の花園:2005/12/09(金) 20:18:10 ID:4aSrXssA
ちょっとサークルK仮面になって毛深い親父を殴りに――行きたいところだが
こんな演出されてはそうもできんな
134名無しさん@秘密の花園:2005/12/09(金) 21:05:37 ID:kSlx2NSV
グッジョブ!
135名無しさん@秘密の花園:2005/12/10(土) 10:09:34 ID:Bd3h/gDq
オセロのお人とは別人さんなんだねー
グッジョブ、どんどん読ませて欲しいなぁ、また来てね
136名無しさん@秘密の花園:2005/12/10(土) 10:11:42 ID:Bd3h/gDq
ageちまった、許されよorz
137名無しさん@秘密の花園:2005/12/10(土) 11:01:22 ID:RckNkpcA
GJ!

無粋なことを言うようだが…
ドナーって10日前に酒飲んだり宴会とかで好き勝手に物食ったりしていいものだろうか。
夕歩の方も、移植前は極限まで免疫力落とすはずだから外には出られないのではいか。
すまん、そんなことが気になってしまった…orz
138名無しさん@秘密の花園:2005/12/10(土) 11:02:11 ID:RckNkpcA
ああ、しかも脱字……吊って来るよ(⊃Д`)
139名無しさん@秘密の花園:2005/12/10(土) 14:59:15 ID:L4br5x17
じゅんじゅんの語り口がすごくいい。
何より萌えた! GJ!
140襲撃失敗・1:2005/12/13(火) 02:26:03 ID:US4Ub2MA
 夜明けどころか夜真っ盛りだというのに、こいつは何で居るのだろうか。
「ゆっうっほ!」
「……」
 午前零時。お願いだから寝かせてください、と頭を下げたくなるような時刻。普通の中高生は起きている時間かもしれないが、入院中の夕歩は午後九時消灯なのだ。つまりは、寝ていたのを起こされた。
「あのさ――眠いんだけど」
「あたしはぜんぜん元気だけどなぁ」
 窓の外で笑うお庭番。もはや変質者かドロボウか。
 夕歩は苦笑して窓を開けてやると、順は入るや否や、夕歩に抱きついた。
「ちょっと順」
「いやー、なんだか急に夕歩に会いたくなったんだよね」
 確かめるかの様に順。時折こうやって、会いたくなったと順は会いに来る。
 昼間に来い、と言っても――夜来る場合が多かった。理由は――伏せておく。
「なんだか判らないけど、子供ん時の夢見てさぁ。そしたら懐かしくなっちゃって」
 寂しかったわけではなく、何となく昔を思い出して、懐かしくなったから会いに来たらしい。どちらにせよ、順が会いに来たという事には変わりない。
 ふと、頬を触れた順の手が、氷みたいな事に気がついた。
「順――冷たい」
「外は寒かったからねぇ。暖めて」
 とか言いつつ、順は夕歩から離れた。身体を冷やしてはマズイと思ったのか、夕歩をベッドに戻して、自分はベッドに腰掛けていた。
「ちょっと思ったんだけどさ」
「何?」
「真面目な話、学校は大丈夫なの?」
 こうやって会いに来た日は、たいてい遅刻ギリギリくらいに順はここを出発する。
 実際電車の事情とかはわからないが、間に合っているとはあまり思えなかった。
「ああ、平気だよ。綾那が上手く誤魔化してくれるから」
「誤魔化すって……」
「何ていうか、遅刻には変わりないけど、学園抜け出した事はバレてないから大丈夫」
 にかっと順は笑った。
141襲撃失敗・2:2005/12/13(火) 02:28:26 ID:US4Ub2MA
なんとなく――出発前の、綾那の疲れたような表情が頭に浮かんで、消えた。

「あんまり、迷惑かけちゃだめだよ」
「多少のご迷惑は許してくれるって」
「自分勝手」
「そうかもしれない」

 それでも会いたかったから。

 窓の外の月を見ながら、順は言った。照れているようには思わなかったから、単純に外を見ているのだろう。
 逆に、夕歩の方が、気恥ずかしかった。
 顔を見られないよう、ベッドに座っている順の背中に抱きついた。
 やはり冷たかったが、それでもその中に、順の温かさがあるから、差して寒いとは思わなかった。
「冷えるよ?」たしなめる様に順。「身体は温かくしないと」
ずれ掛けていたカーディガンを、しっかりと着せる。でも、夕歩を剥がしたりはしなかった。
「順こそ、防寒具くらいちゃんと身につけてきてよ」
 順は手袋もしていない状態である。唯一見当たった防寒具は、マフラーくらいだった。
「次から温かい格好で来ないと、中に入れないよ」
「えー」
「えー、じゃないよ。この寒空の中、手袋もしないで」
 手を取ってやると、まだ冷たい手が、ピクリと動いた。構うものかとしっかり握ってやると、中でそっと握り返してくれたのが判った。
 しばらくそうやっていると、だんだんと夕歩の温もりが移ってきたのか、順の手に温かさが戻り始めていた。
「大分温かくなってきたね」
「夕歩のお陰かな。でも――」
「?」
142襲撃失敗・3:2005/12/13(火) 02:40:06 ID:US4Ub2MA
 順がにやりと笑った。綾那をからかう時に見せる笑顔だった。
「もっと手っ取り早く温かく方法があるのにぃー」
 夕歩のボタンに手を掛けながら、茶化すように言う順。実際、一個取れた。早業である。
 あまりの事態に顔が真っ赤になって、現状の理解をしている夕歩。やがて意味を完全に理解したのか、ボタンに手を掛けていた順の手を、普通には曲がらない方向へ曲げた。
「あででで」
「折れろ」
「病院で怪我とかマジ洒落にならないのですがああぁああ」
 ぎりぎりと手首を変な方へ曲げてやると、順が身悶えた。本気で痛いご様子である。しばらく拷問をしてから手を離してやると、いたわる様に手を撫でていた。
「フクロウの首みたいになるところだった」
「ばか」
 外れたボタンを留めなおそうとして、やめた。いつも常々、本気で思っていたのだが――からかわれるだけは癪に障るのだ。
 夕歩は意を決したように順を見る。見られたほうは、思わず手を引っ込めていた。
「ねえ、順。本当に止めちゃうの?」
「へけ?」
 ハムスターのアニメキャラのような声を出して、順は目を点にしていた。だが、尚も手を引っ込めている辺り、先ほどの攻撃は痛かったのだと思われる。
 言った言葉の意味を理解しているのか、それとも打ち出されるかもしれない打撃の会費方を考えていたのか。順はしばらくの思案の元、「もう一回お願いします」といった。どうやら理解が出来なかったらしい。
 夕歩は少し困った。
 二回言うのは、妙に気恥ずかしかったのだ。
 出来れば一回言うだけにしたかったのである。
「だ、だから――」
 夕歩は顔の蒸気を感じた。言葉がどんどんしどろもどろになっていくのが判る。
 でも一度言った身としては、やりきらなければ気がすまない。

143襲撃失敗・4:2005/12/13(火) 02:41:16 ID:US4Ub2MA
「止めちゃうのかなって」
「何を?」
 赤くなりながら聞き返す順。そうとう混乱しているらしく、普段ならわかる事に、頭が全く追いつかないらしい。
 なんだか、冗談と言えない雰囲気になってきてしまった。自分自身、妙な興奮状態になってきている。
指の先が痺れたみたいな感覚に襲われて、手に汗をかいていた。
それは――ああいう事をした最中の感覚によく似ていた。非常に動悸が五月蝿いのもよくにている。
「な、なんていうかそれは――夕歩からのお誘いという事ですか?」
 しばらくして、ようやく頭が機能を始めたのか、順は赤くなりながらたずねる。冗談だというなら、今しかない。今以外にいつ言えばいいのか。
 正常な自分の提案を、興奮状態の夕歩は却下した。
 実際は――正常な自分も却下を望んでいたのかもしれない。却下したことを間違いだとは思わなかった。
「――うん」
 消え入りそうな声で言う。先ほどまでのからかってやろうという精神は、当の昔に消えていた。
144名無しさん@秘密の花園:2005/12/13(火) 15:07:23 ID:KpgOL1Mu
>>140-143
グッジョブ!!萌えたぜ(´Д`*)
それはそうと、サイト持ちさん……だよな?いや、気になったから。
145名無しさん@秘密の花園:2005/12/13(火) 17:30:43 ID:VJBGDDCh
夕歩かわいいなーオイ
GJ!
146襲撃失敗:2005/12/13(火) 22:38:20 ID:US4Ub2MA
>>144
サイト持ちは駄目だったか…
すまん、知らなかった
147144:2005/12/13(火) 22:43:33 ID:KpgOL1Mu
>>146
いや、大歓迎。
なんとなく知ってるサイトさんのような気がしたから聞いてみただけ。
気にしないでくれ!
148天地ひつぎ:2005/12/13(火) 23:14:41 ID:BYpIW47I
オッケー許可します!!
149襲撃失敗:2005/12/14(水) 00:03:46 ID:3PvOo5ah
>>147 >>148

あー、よかった
年齢で引っかかることはないと思ったけど
こういう所で規制があったらどうしようかと
真剣に悩んでしまったよ
安心したサンクス
150名無しさん@秘密の花園:2005/12/17(土) 12:50:40 ID:hGjobeZj
     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\                  
    /   ,∨∨∨∨∨       ゴキャァ   /::::::::::::::::::::::::::\ 〜
   /  /  \   / |     \\\  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\  ◎
   |  /   ,(・) (・) |      \\\||:::::::::::::::::|_|_|_|_| / 〜
   (6      ⊂⊃ .| _    \\ \;;;;;;;;;;ノ   \,, ,,/ ヽ 〜プーン
   |    ___l_,|.  \    \\\( 6     *)─◎ ),・∵ 〜プーン ←キモヲタ
   |     \__/ /__  \     彡\ノ\  )))∴( o o)∴),∴ ・ゝ¨〜プーン
      \___/    \  \     |\    )))∵  3 ∵>;、・∵ '  〜
  / _ ` ー一'´ ̄ /   _{   ヽ;;_ \  ヽ        ノ 〜
  (___)     /   .| ゝ〉 〉 〉ノ_   \_キモキモメガキモヲタヲタニートハゲメガワロスVVVV
                |  |           | __|;、・∵:: ;
うるせーエロデブキモヲタ百合ヲタども!! キモメガヲタクがぁ!!うはっはっは!!
もっとか!!もっとかぁ!!!うはっはっはっは!!! キショ!キショ!きんもー☆wwwwwww
うはははは!!百合ヲタキモメガヲタクは消えてなくなれ!!がはははは!!
汚いキモゴミヲタ男どもよ!!ここで遺伝子を絶やすのだ!!消えてなくなれ!!
糞キモ遺伝子!!!暗い部屋でチンポしごいてオナって死んで行け!!!!!!wwwwwwwwwww!!
あぁー臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い臭い!!本と臭ぇな氏ねよオイwww!!
消えろ!糞が!汚いメガネが!!ほらどうした!!気持ち悪いうぉえ!!ww!!
マリみてで抜いて陵辱エロゲーで抜いてキモ同人誌で抜いて百合レズで抜いて妄想で抜いてゲハハ!!!
思い残す事は無いだろww弱虫め!!氏にさらせ!!低脳キモヲタメガネが!! 気持ち悪いわwww
気持ち悪岩♪ キモ岩♪ ほんとキモ岩♪ wwwwwwwwwwww!!!!!!!!!!!
これでもか!!がはは!脳漿散らして死ねw内臓剥き出しにしてさっそく死ね!!!wwww!!!
ああぁはは!!もう聞こえてねぇかwwwぐはははははははははwwwwwww!!!
まるで腐ったミンチ状態wwwwwゲラゲラゲラゲラゲラゲゲゲゲゲララララブフォウオアwwwww
151\____________/:2005/12/17(土) 16:34:51 ID:iQXJMxDX
         V
    _____
   /::::::::::::::::::::::::::\                  _
  /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\             /  ̄   ̄ \
  |:::::::::::::::::|_|_|_|_|           /、          ヽ はぁ?黙ってろデブw
  |;;;;;;;;;;ノ   \,, ,,/ ヽ          |・ |―-、       | 
  |::( 6  ー─◎─◎ )          q -´ 二 ヽ      |
  |ノ  (∵∴ ( o o)∴)          ノ_ ー  |     | 
/|   <  ∵   3 ∵>          \. ̄`  |      / 
::::::\  ヽ        ノ\           O===== |
:::::::::::::\_____ノ:::::::::::\        /          |
152雪の記憶:2005/12/17(土) 17:50:17 ID:trxVW2zG
きゃあきゃあと外から聞こえる声は、いずれも自分と同じくらいの子ども達で
数時間前には自分達もそこにいたことを、かじかんだ手が物語っていた
起きて始めに見たのは順の寝顔
その右腕は私の頭の下へと伸びて、ひんやりと冷えていた
白い球がひゅんと四角い窓をよぎる
ああ、そっか寝ちゃったんだ
私は順の左手へと腕を伸ばした
153雪の記憶:2005/12/17(土) 17:50:50 ID:trxVW2zG
 夕歩、夕歩!外見て外!雪だよ!
 ……雪?
 うん!ね、ね、行こーよ!まだ誰もいないから一番乗りだよ!
休みの朝早くから家を訪ねてきたので何かと思えば、順はそう言って私を引っ張りだした
今年最初の雪
順もそうだったけれど私もはしゃいでた
勢いよく外に出て、順が大きな球をつくるので私はそれよりもひと回り小さい球をつくってそれに乗せた
いきなり球を投げつけてきた順を、ざくざくと雪を踏み鳴らして追いかけた
思い切り球をぶつけてやった
2人で大笑いしながら、いつの間にか雪合戦になっていた
白い世界に点々とつく足跡
それは途中で途絶えた
 夕歩、どしたの?眠い?
 …………うん…
 ありゃりゃ。じゃ、もうそろそろ帰ろうか
目をこする私を見かねて順は足を止め、そう言った
私の50勝51敗
順の背中でうつらうつらとしながらそこまで考えて、私の足跡と一緒に意識も途絶えていった
154雪の記憶:2005/12/17(土) 17:51:11 ID:trxVW2zG
で、一緒に帰って順も寝ちゃったわけか
確かに順も結構激しく動き回ってたし
すー、という順の寝息を聞きながら、朝のことをひとつひとつ思い出す
まったく、はしゃぎ過ぎだよ
順はというとなかなか深い眠りについてしまっているようで、証拠に手に触れてみても反応がない
はしゃぎ過ぎ
そう、自分もそうだったけれど
今日の順は凄くはしゃいでた
ずっと笑ってて、楽しそうに
きゃーという声がひどく遠くから聞こえた気がした
今が何時かはちょっと分からないけど、外が暗くなった今でも遊ぶ子どもは絶えないようだ
私は順から手を離して起き上がり、窓から外を見た
雪は朝よりもいくらか勢いが弱まったようで、はらりはらりと静かに降り
その中でカラフルな服がちらちらと走り回っているのが見えた
しばらくそれをながめると、ベッドの方へと視線を移す
155雪の記憶:2005/12/17(土) 17:51:43 ID:trxVW2zG
やっぱり順が起きる気配は全くない
起きろ、起きろと念じてみたけれど、もちろん起きるはずがなかった
私はふうと息をつくと再び声の方へと顔を向ける
また雪合戦したいな
勝ち逃げされたし
いや、終わらせたのは自分だけど
…………
明日また降るかな
降ったら今度は私が順を誘いに行こう
それでまた雪だるまつくって、雪合戦すればいいや
朝につくった、順曰く愛の結晶である雪だるまは、もうそこにはなかった
多分溶けるか誰かが壊すかしてしまったのだろう
そこまで考えると唐突に、ごうと吹雪いた
あ、と口をついて出た音はそれにかき消されて
私はその場に氷づけ
ぴくりと体が震える
突然思い出す、暗い、この部屋で聞いた泣き声
震えていた
背中は必死に声を押し殺して
でも聞こえた
雪が音もなく降る夜にそれは溶けだして
後から後からぽたぽたと
氷づけになって私はそれを見ていた
雪の日の、溶けない記憶
156雪の記憶:2005/12/17(土) 17:52:07 ID:trxVW2zG
私はふらりと順のところへ戻る。起こさないようにそっとそっと毛布の中に入った
順は氷づけになってしまったみたいに少しも動かない
その背中を見つめて
ゆっくりゆっくり目を閉じる



ねえ、順
明日は私が順を誘いに行くから、また今日みたいに笑ってくれるよね
また明日もあさっても
ずっとずっと


雪が音もなく降る夜に溶けだして
あとからあとからぽたぽたと

私は順の背中を抱きしめた
順がやっと目を覚ました
157名無しさん@秘密の花園:2005/12/17(土) 23:42:07 ID:tvs+Kll/
いいなぁ…おんぶされたいなぁ…
添い寝してもらいたいなぁ…
158名無しさん@秘密の花園:2005/12/18(日) 14:14:08 ID:nf8aBfO7
ぐじょーぶb
添い寝万歳
159名無しさん@秘密の花園:2005/12/18(日) 19:00:52 ID:T7gu3F6D
                           ______
                         /::::::::::::::::::::::::::\
      /~ ̄ ̄ ̄ ̄.\         /:::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
    /          .\        |_|_|_|_|_|_|_|   〜プーン
    (  人,,_____,,入  )       /     \,, ,,/   ヽ  〜 プーン
    | ミ./  -◎─◎- ヽミ |    ( 6 |   ─◎─◎─  |∂)  〜。
    ( 6.     (_   _)    ∂)      (∴∴  ( o o ) ∵∴)  〜。 モワ
    ヽ ∴ )  3  ( ∴ ノ        <∵∵   3  ∵∵ >   〜
      ヽ、   ,___,.   .,,ノ           ゝ    ,_,    ノ    〜
        ヽ.______.ノ            ヽ,_______ ノ   〜。 プーン
       /      \           /       \     〜
      ⊂  )     ノ\,_つ       ⊂.  )    ノ\,_つ   〜。
  百合レズ最高!!Wで俺専用肉便器マンセー!! 今日も精子ぶっかけるぜ ハァハァ…

典型的な萌えヲタ・キモヲタ
●とにかく身勝手で下半身が疼きだすと(悪い意味で)周りが見えない。他人の迷惑を一切顧みない
●他の分野のマニア・オタク(歴史オタクや洋楽オタク)に妙な対抗心を持ち、馬鹿にする
●イケメンの欠点を徹底的に探しだし、ある事無い事尾鰭をつけて罵倒する
●腐女子に対し凄まじいまでの優越感があり、見るや否や煽り荒し釣り連発で絡み倒す
●肉棒がある事、それでオナニーが出来る事を異常に誇りに思っている
●ネット上で「○○タンのワレメにティムポ擦りつけたいにょ〜」「マンコにドクドク中出しィィ!!」「カワイイお口にドピュw」など
 一般人ならキモ過ぎてまず言わない様な無意義な下ネタエロ妄想を本気で連呼する
●被害妄想が激しい。しかし一方では非難されているという認識が全く無い(某半島人?)
●電車の中やホームで周りを気にしないで振舞うため非常にうざがられている
●他人の功績を素直に喜ばず、必ず難癖をつける
●常日頃ネット上のエロパロ漁りを(下半身の赴くまま)効率良く行おうとしている為、パソコンには異常に詳しい
●自分より劣っていると見極めた人間に対して急に強気になる、平気で罵倒する
160名無しさん@秘密の花園:2005/12/20(火) 23:29:16 ID:+1Lxjvt9


いとうえいは死ななければならない

161名無しさん@秘密の花園:2005/12/20(火) 23:40:54 ID:eV1bMQ7o
GJ!!!
なんかもう、誰かを添い寝したくなったよ!
いいSSだった!
162名無しさん@秘密の花園:2005/12/22(木) 03:45:17 ID:/gd9gnV4


いとうえいは死を以って償わなければならない

163『ヤドリギ』《1》:2005/12/24(土) 14:10:30 ID:i5vWZCru
 どうして人は争うんだろう
 どうして憎みあうんだろう
 愛しあうほうがいいのに
 愛しあうほうがずっと

 私につまった愛
 誰か受け取って
 私につまった愛
 誰か感じ取って

 私の想いを、誰か、誰か宿らせてください

 ああ
 宿りたい
 宿りたいなあ――

                       ☆

164『ヤドリギ』《2》:2005/12/24(土) 14:11:00 ID:i5vWZCru
「そんでクロ――」
 無道綾那は、飾り付けられた部屋の中央で言った。周りが黙っているのは、綾那が自分達の代弁者たりえることに気づいていて、それが自分達の疑問を解いてくれるのをひたすら待っているからだった。
 もちろんクロ、事、黒鉄はやての思いつきに賛同した人々も、集った微妙な顔ぶれになんとなく口が開けずにいた。面白がって見ている者は、一人か二人だろう。クロは平気な顔である。
その無邪気と言うか無神経と言うか、あどけない顔をみているうちに、怒りがこみ上げてきた綾那は、床をガン、と蹴って、はやてを怒鳴りつけた。テーブルを叩かなかったのは、山と溢れるご馳走がのっていたからだ。食べ物に配慮するだけの冷静さは綾那にもまだあった。
「お前はいったい何を考えてるんだ! 」
「え? クリスマスパーティーだよ? 」
 しゃべりながらはやては、自分の持っている紙で作った三角帽を、集った人たちに配っている。年末から年始までの約十日間を自宅療養することになっていた静馬夕歩は、受け取った三角帽をしげしげと眺めた。
 ――すごい丁寧に作ってある。
 三角帽を内側と外側交互に見ると、どうやら紙の菓子箱を下地に、ぴかぴか光る色紙を貼って作ってあるらしい。素直に感心して、何となく心が温かくなって、横目でそっと、隣に立つ久我順を見た。
 病院にいると、自分がみんなと離れて一人ぼっちになったことを否応梨に思い知らされる。それなのに順はまるで魔法使いみたいに現れて、夕歩に言ったのだ。
 ――はやてちゃんがクリスマスパーティーやるんだって。夕歩も来ない?
 泣きそうになって、堪えた。友達の心遣いが嬉しかった。年末年始はよほど様態が危険でない限り、病院から自宅療養を勧められる。病院側も人手が足りなくなるし、どちらだって新年は出来る限り自宅で迎えたいではないか。医者も、患者も。
 母さんは、あっさり認めてくれた。順が昨日からずっと頼み込んでくれたらしい。先生の許可が出たらね、と母さんはため息混じりに言った。そして今ここにいるのである。
 パーティー会場は思った以上に手が込んでいた。まず溢れんばかりの紙細工。清潔なカーテンはどこからもってきたのか、垂れ幕代わりになって、チープだけれど宮殿の広間みたいになっている。そして到る所に貼られた銀紙、金紙の星々――。
 寮内にあるレクリエーションルームが、こんなに華やかになるなんて、思ってもみなかった。
 企画したのははやてを始めとした、一年生達と聞いたけれど、きっと順も手伝ったんだろうな。彼女は、こういうお祭り大好きだし。それに――きっと――私のために……。
 ――順、ありがとう。
 そう思って改めて顔を上げると、順はさっきの帽子を胸にあてて。
「うーん。おっぱいミサイルには、やっぱり背が高すぎるな、この帽子――。あ、夕歩、それ貸して。やっぱ二個ないとわかんないよね。
ジャーキーン!
おっぱいミサイルかんせ――ぐおっ! 」
夕歩の足、思い切り順の足を踏み砕く。
165『ヤドリギ』《3》:2005/12/24(土) 14:11:47 ID:i5vWZCru

「クリスマスパーティーは分かってる! どうしてこう言う顔ぶれなんだと聞いているんだ! 」
「え? だって、イブの夜はみんなで楽しく過ごすのが、一般じゃないの? 」
「――もっとささやかにやるもんだと思ってたんだよ……」
「まあまあ、よろしいじゃないですか、綾那さん。はい、蒼ちゃん、あとその刃友の人、帽子帽子」
「――吉備さん、どうしてこうなったか、説明してもらえるわよね――」
 ほら来た! と吉備桃香は思った。でも逆じゃ。聞きたいのはこっちの方じゃ。
 ちら、と目をやった先には、『天地』と書かれたイルミネーションのまぶしいクリスマスツリーと。
『クリスマスパーティー会場様ゑ 天 地 ひ つ ぎ』
『黒鉄はやて様ゑ 宮 本 静 久』
の巨大な花輪が置かれている。そしてそこに立っている面々。にこにこしながらことの成り行きを見ている、宝田りおなと、ふてくされたように明後日の方向をみている鬼史谷桜花。
ささやかにやる、と思っていたのは、桃香も同じなのだ。それがこんなことになっているとは、自分も予想はつかなかった。夢中になって紙飾りを作っていたが、誰を呼ぶのか聞きはぐっていたのは、桃香も同じだったのだ。
「吉備さん」
「は! はい!! 」
 綾那の眼鏡が、きらり、と光る。熱い殺気。星奪りの時ならいざしらず、一般生活を送っている時に、こんな刺激はごめんだ。思わず直立不動になってしまった桃香は、即返して、それから理解した部分に対してゆっくり説明を始めた。
「えー、まず、クリスマスパーティーをしようと、そんな話になりましてな」
「私たち、それはいいって、賛成したんです」
 桃香の声にかぶさって、説明をし始めたのは、犬神五十鈴。確かにワンコの方が、事情は詳しい。何せ、この会場設営と、招待状を送ったのは、はやてと五十鈴なのである。けれどそれと同時に、今苦境に陥った刃友を守ろうと言う確かな意志も、桃香は感じた。
 ――私が、桃香さんのことは、守ります!
 ――そうじゃな、ウチの地の星は、アンタじゃからな。
 思わず口元をほころばせそうになった桃香だが、怒りの塊魂、無道綾那の怒りのオーラに、慌てて言葉をつなげる。
「く、黒鉄の奴、人数が多い方が楽しいとか言い出しまして」
「色々な人に、招待状を送ったんです」
「中にはダメ元で送ったのもあったんですが――」
「幸か不幸か、一部を除いて全員出席。それでこう言う次第にあいなったわけで、なんともはや……」
 五十鈴は、本当は呼びたくなかった人がいる。それはもちろん、桃香の幼馴染でもあった、宝田りおなと、桃香に鼻血を出させた鬼史谷桜花であるが、ついこの間の仕合いでやりあった、猿楽未知と、雉宮乙葉も、ちょっと遠慮したかった。
その雉宮が。
「吉備さん」と声をかけた。
166『ヤドリギ』《4》:2005/12/24(土) 14:12:25 ID:i5vWZCru
「なんじゃ、キジ公」
 話に割って入られて、桃香はこめかみに血管を浮かす。ただでさえ神経を使う会話の最中に、この弁の立つ雉宮の余計なちゃちゃはごめんこうむりたかった。
「さっき、一部を除いて全員欠席、って言ったけど、それを言うなら、数人の欠席者をだしたけれども、これだけの人数が集ったって言った方が……わぷ! 」
 途中で雉宮の口をふさいだのは、猿楽である。さっきまで二人で会場設営を手伝わされていた手は、ノリの跡でぺたぺたしているけれど、そんなことに拘っている暇はなかった。
「……ばか。キジっちゃん、そんな事言う場面じゃないでしょ、今」
「うるさいなキミは。間違った言葉の使い方は、その場で指摘されないと中々なおら」
「もう! この間のことを相殺してもらうかわりに、ここの手伝いをするって言ったんでしょ! 余計なことは言わないで!! 」
 つい先日行った、刃友の取り合いっこ。それは雉宮、猿楽ペアの絆の確認には役に立ったが、桃香と五十鈴にとっては、迷惑この上ない出来事であったことも確かだった。今回はそのお詫びも兼ねての手伝いなのである。
 ――でも。
 二人で小声で喧嘩しあっている、雉宮達を見て、五十鈴は少し羨ましいと思う。
 ――私は、あんなふうに、桃香さんに触れられない。
 だから、人数は多いほどいいでしょ、とはやてに言われた時、はやての上げた名前の人々をみんな呼ぶ気になったのだ。みんなと仲良くなることは、大好きな人と仲良くなることにつながる。そんなふうにもはやては言っていた。
――私も、桃香さんと、雉宮さん達みたいに。ううん、それよりもっともっと仲良く。
そのために、今回の会場設営には、より手を加えたのだ。
みんなが仲良しになるように。
みんなが幸せになれるように。

「ともかく、このバカが、誰彼構わず声をかけたってのはわかった――だが、白装束にまで声をかけていたとは思わなかったよ……」
「無道さん、ちょっと待ってください。私は声をかけられたわけじゃあないわ」
 帯刀洸はそう言うと、小さくため息をついた。
「私は、このレクリエーションルームの使用に、何か不都合が無いか調べる役目。言わばお目付け役として会長にじきじき派遣されただけです」
 ――そして、こんな事をしている間に、ひつぎさまはあの静久めと――。
 会長じきじきの命を受けたよろこびと、邪魔者として厄介払いされた恨みとで心を千路に乱しながら、帯刀はここにいるのである。とは言え、テーブルの上の料理は美味しそうである。愛しいひつぎ様と過ごせない聖夜は、食でごまかそうと思う帯刀だった。
「なるほど。それで今回のあのバカでかい花輪の理由もついたわけだ。――でも、どうせ会長にもこの馬鹿は誘いをかけたんでしょう? 」
「は、はあ、まあ」
 曖昧にうなづく帯刀に、綾那は、ったく、と頭を抱えて、ちら、と部屋の隅を見た。
 染谷ゆかりがいた。
167『ヤドリギ』《5》:2005/12/24(土) 14:12:58 ID:i5vWZCru

「全く、バカが刃友だと、あの無道綾那もどんどんバカになるのね」
 ――気づかれた!
 見ていたことを気づかれた綾那は、ゆかりの鋭い一言に、びくっと縮こまる。
「まあ、クズだった半年前に比べればマシだけど」
「ゆかり! 」
 上条槙は、言葉が激化しそうになる刃友に、声をかける。いつもは物静かな女性、くらいにしか思えないゆかりは、無道綾那が絡むと、とたんに饒舌になる。ゆかりが綾那に対して関心を持つのは、悪くない。けれどこんな形ではいけない、とも思っている。
 ――ほら、無道さん、あんなになっちゃって。
 うつむいた彼女の顔は、眼鏡と髪で影になっているけれど、あれはきっと目に涙がたまりかけている。普段は折れる気配の無い無道だが、ゆかりに対しては別だ。
きっとこの後ゆかりは、こんなバカバカしい事はやってられない、と言うだろう。いつ敵になるか分からないのに、こんな茶番はやってられない、と言って、彼女はここを出て行くに違いない。それは避けなければならない。
――せっかくたくさん人が集っているのに、しらけさせることはないでしょう?
事実、槙が知る限りでも、微妙なメンバーだ。その最も微妙な位置に立っているのが自分達だと言う事も、槙は気づいている。ここでゆかりが去るのは仕方ない。けれどその後に残された人たちのことも考えるべきだと槙は思うのだ。
「あのね、綾那。はっきり言って、こんなパーティーは迷惑なの」
 そら来た!
 綾那だって、そう来ることは理解していた。
色とりどりの会場に、綾那は正直感心した。感動したといってもいい。クロ、お前すごいな、と誉めた。
レクリエーション室は、ニ、三十人くらいの少女がばたばたしても平気なくらいの広さの、小体育館くらいの広さはある。入り口は一つだけだけれど、両開きの扉になっていて、普段は卓球台なんかがおかれているのだ。ここを飾り付けるのは大変だったろう。
――なんか、楽しいな。
ゲーム三昧の無道綾那とは言え、女の子である。どんなにつっぱっていても、こう言う雰囲気は胸がドキドキする。順は夕歩を迎えに行った。楽しいクリスマスパーティーになりそうで、嬉しかった。
けれどパーティー開始直前になって集ってきた人々に、唖然としたのも確かである。何よりゆかりがいたのがショックだった。

――これで、パーティー参加者は、全員集合か?
――んー。あと、サンタさんとトナカイさんかな?
――冗談はいい……。そんでクロ――。お前はいったい何を考えてるんだ!!

きっとゆかりは帰ってしまうだろう。その絶望感、寂しさ、そしてわざわざここに来てしまったゆかりに対しての、ゆかり迷惑だったろうな、と言う後悔の念。そんな物が綾那の脳味噌をがんがんと揺らす。
さっきまで自分を楽しませていた装飾が、不意に子供だましの代物にうつった。かわいいネコの切り抜き飾りが、憎らしかった。
168『ヤドリギ』《6》:2005/12/24(土) 14:14:49 ID:i5vWZCru
「――こんなにたくさんのご馳走まで用意して……」
「ごめん」
「何をあやまっているの? 」
「いや、その、うちのバカが、勝手に」
「モゴモゴ言ってて、よく分からないわ。それに私はあなたの刃友に誘われてここに来たわけじゃないわ。槙先輩に誘われて来たのよ」
 綾那の視線に上条はうなづいた。ゆかりにパーティーの主旨を話さずに連れて来たのは、確かに自分だ。これは上条の賭けでもあった。仕方の無い別れと言っても、やはりもう少し無道が、そしてゆかりが、お互いに向き合う機会を作った方がいい、と思うのだ。
 槙は二人が好きだった。もちろんその好きの比重は今はゆかりに傾くが、それでもやっぱり、二人を取り持ちたい気持ちもあった。
「一緒にクリスマスパーティーを過ごさないかって、言われたのよ。私。
す っ ご く。
嬉しかった」
「ゆかり――」
「だから、私、このパーティーに参加するわよ」
 槙と綾那の目が合った。
 お互いに予想しない答えだったからだ。二人の視線が、自分に集って来たのを感じて、ゆかりはムッと顔をしかめる。
「勘違いしないで。これは先輩が誘ってくれたからよ。それにこんなにたくさんのご馳走、あまったら勿体無いじゃない。寮の夕食も終っちゃったし。私にお腹すかせたままクリスマスをすごせって言うの? 食事が済むまで、いるわ」
「――ゆかり! 」
「その代わり、食事が終ったら、帰るから」
「うん、うん! 」
 場内がほっとゆるんだ。
 実際用意されたごちそうは美味しそうだったし、この会場設営は乙女のわくわくをかきたてるには充分だったから。微妙な顔ぶれの、最も微妙な部分に片がつけば、自分達に関しては適当に折り合いをつけて楽しむことが出来るのだ。
(「勿体つけてないで、参加するって言えばいいじゃんよ。すましやがって」とぶつぶつ言っていた順は、夕歩の手によって誰にも気づかれないうちに静かに、投げ、肘、締めで落された)
「それじゃあ、みんな、乾杯しよー♪
ほら、みんな、帽子かぶってかぶって! じゅんじゅん、起きて起きて! 」
 そんな中何事も無かった風で、シャンパングラスの乗った銀のカートを、押してはやてが言う。めいめいがグラスを手に取る。中に入っているのは、さくらんぼで色をつけたサイダーだ。それでも充分シャンパンの雰囲気が出ている。
「ほいじゃあ、乾杯の挨拶は、生徒会代表の、帯刀さんにお願い致しまして! 」
「あら、吉備さん、いいの? コホン。ええー、本日はお日柄もよく――」
「かんぱーい! 」
「あれ? ちょ、ちょっと黒鉄さん、それ」
「カンパーイ! 」
 長々になりそうだった帯刀の乾杯の挨拶は、はやての一声でかき消されて。
 洸はちょっと苦笑いして後に続いた。
169『ヤドリギ』《7》:2005/12/24(土) 14:16:14 ID:i5vWZCru

                        ☆

 ――微妙ね。
 浅倉みずちは壁にもたれて、楽しそうな面々をみやった。何だかんだ言っても、皆歳相応の少女として楽しんでいる。みずちにとってクリスマスは殆ど意味がない。所詮は企業の販売促進のための、消費者の乱痴気騒ぎにすぎないのだ。
 勿論、場所によっては神聖な日なのかもしれない。大切な誰かが生まれた日なのかもしれない。けれどここは少子化の始まった日本で、おまけに神様は八百万いらっしゃる。その上みずちは神など信じない。
 ――でも。
 蒼も楽しそうだから、いいか、と思う。そしてみずちもそれなりにこの華やかさを楽しんでいるのだ。あの染谷ゆかりは、無道綾那と何か話している。ぽつり、ぽつりとではあるが、そしてそれは傍目には友好的にも思えないが、とにかく話している。
 黒鉄はやては、あの吉備桃香とか言うなまりのきつい女と、ワンコと呼ばれている暗いのかかわいいのか分からない女と、蒼を交えて話をしている。もしかしたらこれから先の余興の相談をしているのかもしれない。
 みんな楽しそうだ。それを自分の楽しさとして感じる事が出来るのは、自分が大人になったのかな、と思って、みずちはこそばゆい気持ちになる。だから。
「何をそんなつまらなさそうな顔をしているの? 」
「え? 」
 みずちが鬼史谷桜花に話し掛けたのは、心底うんざりした顔を、彼女が浮かべていたからだった。
「刃友のところにいってあげればいいのに」
「余計なお世話よ、浅倉先輩」
 迷惑そうな顔をしながら、それでもまだ鬼史谷が帰らないのは、刃友がここにいるからだ。その当人、宝田りおなは、雉宮乙葉と猿楽未知に混じって、笑っている。
「私は、染谷先輩とは違って、もうさっさと帰りたかったのよ」
「じゃあ、帰ればいいじゃない。招待状が来たのは、あなたの刃友だけなんでしょう? 」
「……っ! りおなだけじゃなくて、私にも招待状が来てた!! 」
 むきになって言い返す鬼史谷に、みずちはその美しい口元をゆがめて。
「それじゃあ、自主的に来たんでしょう? 染谷さんみたいに、騙されて連れて来られたわけじゃなし、こんなところでふてくされては、みっともないわよ」
 言い返されて言葉もでない鬼史谷は、ぎゅっと、唇を噛んで浅倉みずちを睨みつける。
 ――あら、子猫みたい。
 みずちは思わず微笑む。いたずらをされた子猫が、必死に爪を立てて怒る姿をテレビか何かで見たことがある。かわいい。
 ――この人、きれいな人だ。
 桜花は真っ赤になって、睨む力が薄れてしまう。とっつきにくい印象を持つくらいきれいな彼女は、とても優しい微笑を浮かべている。なんだか、心があったまるみたいに。
 見詰め合うこと、三十秒。
 その静寂は、順の大きな声によって、破られた。
170『ヤドリギ』《8》:2005/12/24(土) 14:16:58 ID:i5vWZCru
「あー! そこの二人! ヤドリギの下に立ってるー! 」
 はっとして、二人が見上げた上には、小さくつつましい緑がある。順の声にざわめく周囲。
「やどり、ぎ? 」
 刃友のただならぬ雰囲気に眉をひそめる貴水蒼に、得意げに順は知識を披露する。
「そう! クリスマスのときに、壁の一角にこっそり吊るしておくのよ。その下に立った二人は、何があろうとキスしなくちゃいけないの! 」
「――お前、勝手な妄想だけで話してないか? 」
「ひ、ひどいな綾那! これ本当だよ!! ね? 夕歩? 」
「しらない。キモイ」
「そんなんないよ! 夕歩ぉ! 」
 嘘泣きする順は放っておいて、綾那は不機嫌な顔で。
「誰だ、あんな物騒なものをぶら下げたのは。クロか? 」
「あの、私、です」
 か細い声に皆が振り向けば、申し訳なさそうな顔をして、犬神五十鈴が立っている。手には食べかけの、照り焼きにされた鳥の足ののったお皿を持っている。彼女が持っていると、なにやら呪物の道具のようで、不吉だ。
「クリスマスは、私にとって異教のお祭りなので、あまり詳しくなかったから――。調べたら、そんな風習があったみたいで。出来るだけ、クリスマスのパーティーに近づけたくて、それで、わたし……」
 あなたの信じている神様はなんですか?
 そんな疑問が皆の心に浮かぶ。綾那もその一人だったが、それには口をつぐんで、アレ取ってしまおう、と言った。口をつぐんだのは、何か怖い答えが返ってきそうだったからだ。
「え? 」
「あんな物騒なものは、取ってしまおうと言っている。普段ならともかく、ここに一匹の淫魔がいるのに、あんな危険をはらんだ物体を置いておけない。それに生徒会からのお目付け役もいるんだ。迷惑をかけちゃいかんだろう」
「ちょっと! 勿体無いよ、綾那ぁ! 」
「そうだよ! 五十鈴がかわいそうじゃないか! 」
 順の声とかぶって叫んだのは、雉宮乙葉である。彼女の声はよく澄んで、通る。
「五十鈴は、何も知らなかったけれど、みんなに仲良くなって欲しくて、それであれを取り付けたに違いないんだ! 悪意があって行ったわけでもないし、ちょっとしたゲームみたいなものなんだから、そんな風に決め付けるのは――」
「へえ、犬神さんのことは、よく理解しているんだ」
 雉宮の声が、ぴたりと止まる。明らかに静かな怒気をはらんだ声なのは、刃友、猿楽未知の出したものに間違いなかったから。
171『ヤドリギ』《9》:2005/12/24(土) 14:17:37 ID:i5vWZCru
「み、みみみ、未知?! 」
「本当は、犬神さんとあの下に行きたいから、そんな事いってるんじゃないの? 」
「ご、誤解だよ! そもそもこの広い部屋の中で、あそこにいかなければいいだけのことじゃないか! それで済むんなら、別にあそこにおきっぱなしにしておいても――」
「へえ。そうなんだ」
「みちぃぃぃぃぃ! 」
 突如起こった痴話喧嘩に、ため息をついて綾那は。
「ほら、あんな物があると、無用の誤解を生む。あれは取り外したほうがいい」
「でも、でもあれは……」
「あなたには悪いけど、正直集った人も、ちょっとわけありの人もいるし、止めた方がいいと思う。大丈夫、理由は分かったからさ」
「いえ、でも」
 何か言いよどむ犬神の代わりに、いいと思うわ、と言った声がある。
「槙先輩――」
「いいじゃないの、無道さん。さっきの、きじ、みやさん、だっけ? が言ったみたいに、あそこに近寄らなければいいだけだし。それに、もしかしたら、そのヤドリギに頼りたい人もいるかもしれないでしょ? 」
 ね? と言われて綾那は、思わずゆかりを見てしまう。その目が合って、慌てて目を逸らし。
「でも、生徒会が――」
「大丈夫よ。もし会長がここにいたら、この余興を面白がっただろうし、帯刀さんも、それくらいのユーモアは多めに見てくれますよね? 」
「え? 私? 」
 急にふられて帯刀は、ええ、それはそれは、とにこやかに答えた。何故あんなに上機嫌なのか綾那が首を捻る間もなしに、上条は。
「だったらいいじゃないの、無道さん」と言った。
「みんなは、それで、いいの? 」
「いいよー」
「構わないわ」
「ええ、それでも、別に」
 ぱらぱらと上がる手の中、綾那はためらいがちに、ゆかり――。
「いいの? 」
「いいわよ」
「そう」
「絶対にあの下になんか、行かないから」
 そう言われても、綾那は何となく、嬉しかった。綾那だって、あそこには行かない。もしゆかりが一人で立っていても、行かないだろう。でも、それをしてもいいよって言う人達と一緒にいるのが、なんとなく嬉しい。ゆかりが、それを許してくれたことも。
 ――そうか。そう言う象徴としての、ヤドリギなのかもしれないな。
 だったら、このまま見守ろう。今日は聖夜なのだから。これくらいのゲームはいいじゃないか。
172『ヤドリギ』《10》:2005/12/24(土) 14:18:43 ID:i5vWZCru
「さて! そうと決まったら! ヤドリギの下の人は、キス! キス!! 」
「ちょ、ちょっと順――! 」
「えー? どうして? だったらやっぱりキスしないと、ヤドリギの意味が無くなっちゃうじゃん」
 突然声を張り上げた順は、夕歩が目を丸くしても、一向に気にしない。
「そうじゃな! ここはノリに乗って、いってみよー! 」
「ああ! 桜花、すごく美味しいわよ、このシチュエーション!! 」
「あ、ええと、あの、みずちさん。その、わたし気にしませんから。えっとあの」
 三者三様の応援に、周囲もボルテージが上がっていく。
 キ、ス。
 キ、ス。
 その歓声の真っ只中の二人は、静かに唾を飲んだ。
 けどその音はごくり、と聞こえるくらい、大きい。
 熱く見つめあっている鬼史谷桜花と、浅倉みずち。
 瞳が潤んでいる。
 唇が震えている。
 二人はそっと唇を合わせる。

 ぺちゃ、と湿った音がする。
 カリ、と鬼史谷が唇を噛む。
 うん、とみずちがうめいた。

「うはー。何か、熱々なキスだねー」
「おい、順――。あれはそんなに長くしなきゃいけない、きまりでもあるのか? 」
「まさか! 愛し合っている恋人同士ならともかく、普通はほっぺにチュくらいだよ。あたしは綾那とならふぎゅる……! 」
 少し異常な雰囲気に、固唾を飲んで見守るギャラリー(約一名、無道綾那により床とにらめっこ)に、ああ、と小さな叫び声が漏れた。
「――どうしたんじゃ、わんこ? 」
「どうしましょう。あれに、そんな力があったなんて」

 はっ!

 キスを止めて、ヤドリギから離れた鬼史谷とみずちは、汗をぬぐって。
173『ヤドリギ』《11》:2005/12/24(土) 14:19:28 ID:i5vWZCru
「何これ?! 」
「何でこんなことを! 」
 と言った。声が快感に震えている。潤んでいる。顔は真っ赤で、腰が少しゆるい。
 どよめく周囲に、一人泣きそうな犬神五十鈴が、ごめんなさい、と呟いた。
「私、こんな効果だなんて知らなかったんです。そう言って許されることじゃないって判ってますけど……でも、本当です。知らなかったんですぅぅぅ」
「うお! 待て、ワンコ! 嘆くの止め!! 何か黒い! 黒いわ! 空気! 」
「――しかも大きくなったわ、ヤドリギ」
 ゆっくりと落ち着いた声で染谷ゆかりは言った。その言葉に、雉谷はうなづいて。
「五十鈴の、黒いオーラに反応してる。アレはいったい――」
「……ヤドリギです」
 小さな小さな犬神の声は殆ど聞こえない。けれど、それは意図的に聞かないようにしているのかもしれないな、と綾那は思った。そうか、ヤドリギか。ヤドリギなら仕方ないな、と思って、この問題を黙殺したかった。それなのに。
「魔界、なんだって? 」
「この馬鹿、なんで聞こえなかったところをわざわざ!! 」
 不用意に口を開いたはやては抱え上げられて横倒しにされ肩に担がれ。まさにイギリス名物ロンドン橋の様相。いたたた、あやな、あたしなにも悪いことしてない! うるさいこの馬鹿、余計なこといいやがって!!
「つまりあれは、普通人間界に存在しない生物なわけね? 」
 夕歩が尋ねると、五十鈴は涙を拭いて、答えた。

「はい、あれは魔界から来たと言われている

魔界ヤドリギです」
                         

                             (前半終了 続きは明日
174名無しさん@秘密の花園:2005/12/24(土) 21:56:04 ID:4WEyI2hr
>「そうじゃな! ここはノリに乗って、いってみよー! 」
嫌がらせ、確実に嫌がらせです
175名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 00:31:16 ID:bWPqW84A
きめええええええええええええwwwwwwwwwwwwww
176名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 00:38:05 ID:ISJL2ubw
後編に期待sage
177名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 01:35:48 ID:bAO+A36R
とりあえず、誰か綾那のぎこちない喘ぎ声について語らないか??
178名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 07:53:39 ID:bWPqW84A
どんだけ喘ぎ声ネタ引っ張るつもりだよ貴様は
179名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 13:31:02 ID:2yg7NgrN
進行役キタコレ
180名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 19:25:00 ID:eDuGkfiC
ストロベリーシェイクのコミックスの表紙。
www.ichijinsha.co.jp/yurihime_comics/0601/img/cv_sweet.jpg
181名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 21:24:10 ID:UC8dNKpT
>>180
情報乙!
いい表紙だ・・・
182名無しさん@秘密の花園:2005/12/25(日) 23:28:48 ID:M44V66wb
>>180
甘々ですな・・・・・
183名無しさん@秘密の花園:2005/12/26(月) 14:05:27 ID:p/MSNrVL
買いにく
184名無しさん@秘密の花園:2005/12/26(月) 20:10:10 ID:ZhEyEi7p
>>163
続き待ってる!
185名無しさん@秘密の花園:2005/12/30(金) 01:39:21 ID:RXUlIZjB

          シフ   シフ
     _/(   // _/(   //
     ( ョ〕l〉 /7     ( ョ〕l〉 /7
    (^ヽノノ)'ミ〉    (^ヽノノ)'ミ〉
    (_(_(ロミ/〈 (_(_(ロミ/〈
      (レ'^V 、     (レ'^V 、  
       j j^ヽ )      j j^ヽ )
      (´/ (´く     (´/ (´く 
       
        続きまだ〜〜〜♪
186名無しさん@秘密の花園:2005/12/30(金) 08:11:31 ID:GVpIuCxM
>>1
攻めるも乙
受けるも乙
187名無しさん@秘密の花園:2006/01/04(水) 01:12:54 ID:rxzkTnjh
続きまだ〜(´∀`)??
188名無しさん@秘密の花園:2006/01/05(木) 05:06:03 ID:wgArHgcQ
>>163さん
いまさら全部読みました
完璧
キャラ描写とか、設定把握とか、完璧
とても気を使って文章を書く方だと思いました
続き、お待ちしてます
189『ヤドリギ 中篇』《1》:2006/01/06(金) 00:35:15 ID:fpSc+++3
「なあ、わんこ」
「……はい、桃香さん」
「なんであんた、そんなやばそうな物を持ち込んだんじゃ? 」
 魔界、なる単語が出てきて静まりかえった人たちの中、バーテン姿の桃香が刃友に尋ねた。
 勿論その相手、犬神五十鈴もバーテン姿である。白いワイシャツに黒ベスト、蝶ネクタイ。犬神がスカート、桃香がスラックスと言う違いはあれどよくにあっている。
 おもてなしのための格好である。二人でお揃いにしたのだ。今日も張り切って飾りつけしたのだ。それなのに。
 魔界。
 クリスマスパーティーには、もっとも縁遠いはずの言葉である。それなのに今、パーティー会場に仕掛けられていたものの名前は。
 魔界ヤドリギ。
 しかもその魔界ヤドリギとやらは、今や大ぶりの枝となって、飾り付けのカーテンや紙飾りの隙間から顔を出していた。さっきまでそこには何もなかったはずだ。
 異様である。
 風にも吹かれないのにわさわさ揺れている。
 あきらかに成長しているのがわかる。やばそうな物、と言う表現は、ぴったりである。クリスマスパーティーどころではない。
 皆の視線を浴びた犬神は、困ったように目を伏せて、顔を赤くした。元々赤面症なのだ。そしてぽつりと「通販で、買ったんです」
「通販?! 」
「は、はい……。下げておくだけで、みんな仲良くたのしくなれる、魔界ヤドリギって売り文句で」
 そっとベストのポケットから、魔界ヤドリギの入っていた袋を取り出すわんこ。
「ふんふん。――どんなに仲の悪い二人も、あっという間に仲良しさん――か。
 胡散臭い売り文句じゃの」
 肩をすくめて、桃香はその袋を無道綾那に手渡す。赤い開襟シャツに、緑のセーターを合わせた装いは温かみのある組み合わせだ。ふんふん、と袋の字を追って、なるほど、と呟いた。
190『ヤドリギ 中篇』《2》:2006/01/06(金) 00:35:54 ID:fpSc+++3
「確かに、読み方によっては、ただのおまじないアイテムに見えんこともない。――ただ、正直これはもうその範囲を超えてしまっているわね」
「ご、ごめんなさい! こんなふうになるなんて、知らなくって……」
「謝るのは誰だって出来るわ。問題はこれをどうするか、よ」
 犬神の謝罪をはねのけたように見えるが、綾那はそれ以上責任を追及しようとはしなかった。代わりにちらりと順を見る。
「よし! 任せといて、綾那!! 」
 久我順は微笑んでピースサインをする。
「二人で行って、あのヤドリギを外そう!! 」
「そしたらお前と二人であの危険な木の下に行くことになるだろうがっ! お前一人でやるんだよ!! 」
「ええーっ」
 順の肩ががっくりと下がる。白いカシミヤのセーターに合わせた、ワインレッドのロングスカートまでへたったように見える。大人っぽいおしゃれは、夕歩の少女らしい装いと対照的である。
「あたしは綾那と二人で行きたかったのに!! 」
「ふざけるな」
「ちょっと待って、二人とも」
 にらみ合う二人にみずちが割り込む。あのヤドリギの下にいた余韻がまだ抜けきれていないのか、こめかみにうっすら汗が浮いているのがわかる。
「もし一人で入っても、危険だわ。あそこは一人でも何か変な感じだった。おいそれと近寄らないほうがいいわよ」
「ご忠告ありがとう、高倉さん――」
「浅倉よ!! 浅倉みずち! 」
「ああ、ごめん」
 名前を間違えられて声を上げる浅倉みずちに、綾那は素直に頭を下げる。人の顔を中々覚えない自分である。この白いスーツを着た麗人には見覚えがあったが、その記憶は早おぼろげなのだった。
「でも大丈夫よ。何とかできると思うわ」
「あら、ずいぶんと自信があるのね」
 今度はゆかりが口を挟んできて、綾那は少しびくっとした。ゆかりは刺繍の入ったブラウスに、赤いリボンをしている。綾那が一目見たとき『雪の妖精みたいだ』などと連想したのは、勿論秘密である。
「そんなに久我さんは頼りになるのかしら? 」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて……」
「何? 綾那はあたしが頼りにならないと? 」
「いや待て、順、ちょっと黙ってて……」
191『ヤドリギ 中篇』《3》:2006/01/06(金) 00:36:26 ID:fpSc+++3
 帯刀と上条を除けば最高学年の四人が、ごちゃごちゃと言い合っていると「すみません」の声がかかった。
「――私達、行ってみます」
「りお姉!? 」
 宝田りおなの声にまっさきに反応したのは、幼馴染である桃香である。守ってあげなければ、と言う清純な少女の姿とは考えつかない、奇妙な嗜好を持つ彼女の発言。つい最近それで振り回された桃香にとって、それは新たな騒動の引き金にしか思えない。
「ちょっと待って、りおな。今、私達って言った? 」
「そうよ、桜花。私達が、あの木を探りに、行くの」
ぐっと桜花の腕を抱きしめたりおなの、タートルネックセーターのゆるやかな膨らみから、胸元の豊かさがそれとなくわかる。それはダイレクトに肘に触れている桜花にとっては、見るまでもない事実だった。さっと顔が赤くなるのを、怒りでごまかす、鬼史谷。
「ふざけるなっ! 」
「あら? 桜花、赤くなっちゃって。そんなに私のこと、す、き、な、の? 」
 とたん、鋭い平手打ちがりおなの頬ではじけた。
「あ! 」
「りお姉!! 」
 殴られて床に叩きつけられたりおなに、駆け寄る桃香。信じられない、と言う顔をして、うずくまるりおなを見る鬼史谷の手のひらは震えている。
「ももか、ちゃん? 」
「大丈夫か、りお姉?
 こらぁ! 鬼史谷!! 今が大変やっちゅうのに、どうして刃友殴る暇があるんじゃ!! 」
「いいのよ、桃ちゃん」
「よかないわ! ずいぶん大人しうなったって聞いとったけど、やっぱり、そん薄汚い心はそのまんまじゃのう! 」
「いいのよ。これは、私が望んだことだったんだから」
 ぽたり。
 りおなの鼻から零れた赤い血が、唇からあごをつたって、服の上に落ちる。セーターの臙脂色が、その部分だけ、少し濃い染みになり、そのまま馴染んでいく。
 心配そうな桃香をずいっと押しのけて、りおなは立ち上がると、鼻血も拭かずに桜花に向かい合った。ぴん、と張った背筋。りおなの唇が開く。いい声が出た。
「桜花、殴るなんて、ひどいわ」
 鬼史谷の身体が、ひくん、と動く。
192『ヤドリギ 中篇』《4》:2006/01/06(金) 00:37:01 ID:fpSc+++3
 桜花は恐れていた。これから宝田の唇から、どんな言葉が飛び出るのかを。紫のラメ入りのブラウスに、腰にぴったり吸い付いた黒いシルクパンツを履いた鬼史谷は、まるで宝塚の男役のよう。それが今では、初舞台のお笑い芸人のように腰がひけていた。
 そんな鬼史谷桜花に、容赦ないりおなの突っ込みが浴びせられた!

「私。
鼻血が出るほど、あなたが好きなのに!!! 」

「へ? 」

 静寂。

「いや、あの、りお姉――鼻血出たんは、鬼史谷に殴られたからじゃろ? 」
「もう! 桃ちゃん!! オチの前に、説明しないで! 
ほら、桜花! お客さんが白けちゃうでしょ? 突っ込んで!! 」
「――。
 ――――。
……がびょーん」

 冷却。

「バカ! 桜花のバカッ!! ガビョウはどうしたの? 画鋲は!! これじゃあガチョンのインスパイアじゃない! 」
「いや、あの、まさかこんな状況でやるなんて、思ってなかったから――」
「殴ったまではよかったのに! そうだわ! 次は、乳びんた! 乳ビンタで私が鼻血を出す! あのネタで行きましょう!! 」
「いや、あんた、乳ビンタって、それで何をするんじゃ? 」
「いやね、桃ちゃん。それで鼻血を出した私に、桜花が、お前変態かって――。
あ! いけない! ――オチを先に言っちゃ、お笑い剣士、失格よね」

 凍結。
193『ヤドリギ 中篇』《5》:2006/01/06(金) 00:37:33 ID:fpSc+++3
 その固く固く凍りついた空気の中で、ゆっくりと湯気を出し始めた綾那が。
「あんたは、そんなネタをやりたくて、あの木の探索を志願したのか? 」と、問う。
 とても優しい口調なのが、かえって恐ろしい。そんな綾那を見て、はにかんでりおな。
「いえ――。ネタをしたのは、このちょっと熱くなった雰囲気を、少し和らげたくて」
「あの、和らげるどころか、凍りついとるよ? 」
「緊張が張り詰めたときは、笑いがあれば、リラックスしてこの固さも取り除けるかと」
「なんか、余計固くなっとるよ? 」
 こめかみにと拳に血管を浮かべながら、綾那は大きくため息をつき。
「それじゃあ、あの木を調べるって言うのと、鼻血ネタは別なのね? 」と確認すると。
「はい」とりおなが答えた。
「さっき、桜花が浅倉先輩とキスしたのは、あのヤドリギが本当に影響しているのか調べる必要があると思うんです。
それに、もしかしたらさっきのキスは、周囲からはやし立てられた二人が、その場のノリでやったのかもしれませんし。それに、キスだけだったら、それほど問題もないじゃないですか。つまりあそこに近寄らなければいいだけの話ですから」
「でもさ、あれ、魔界ヤドリギとか言うんでしょ? 名前からして物騒なものじゃないかなあ」
 順の指摘はもっともだ。けれどりおなは引き下がらない。
「どんなに見かけが恐ろしそうでも、実際に深いところまで行くと、全く違う姿が見えてくることがあるんです。ね? 桜花」
 りおなにいきなり微笑まれた鬼史谷は、ぷい、と横を向いてしまう。耳たぶまで、真っ赤だ。
194『ヤドリギ 中篇』《6》:2006/01/06(金) 00:38:31 ID:fpSc+++3
「確かに、詳しい情報は必要だと思うわ。カーテンなんかが邪魔になってて、あの木の実態がわからないから、調べる人も必要かも。でも危険よ」
 状況の確認として尋ねながらも、槙は、もし行くならこの二人がベストだと思っている。たかがキス、とは言え、あのヤドリギの魔力でキスしてしまった時、付き合いの短い刃友同士なら絆が壊れる可能性がある。その点、一年生にはやや荷が重い。
 では三年生は――。確かに絆の点では申し分ない。しかしヤドリギの魔力が予想以上に強かった場合、もっとも戦力として期待できる彼女達が欠けるのは避けたかった。Bクラスとは言え、ここにいる三年生が抜群の腕利きばかりのことは事実だった。
 おそらく、鬼史谷にもそのような計算は立っているだろう。それでも計算が立っているのと、進んで行うのとは別である。桜花は槙の言葉にかぶさって、そうだ、と叫んだ。
「りおな、私達が危険に身をさらす必要はないわ。元々はあのバカの刃友がバカなことをしたのが原因でしょう? だったら、あの二人に責任をとってもらうのが、筋ってものでしょう!! 」
「桜花! 」
 睨みつける刃友に対して、一歩もひかない宝田。それは刃友として対等であることを示す態度でもある。空気がひっそりとする。それはさっきの沈黙とは違う緊張からの、静寂。それはりおなの言葉で、自然に、ほどけた。
「桜花は、私とキスするの、嫌? 」

 深呼吸の音がする。
 自分のため以外のことをするのは、嫌いである。自分の思ったとおりにならなければ、力づくでゴリ押ししてきた今までである。不条理だ。不条理極まりない。
「私は、桜花とキスするの、嫌じゃないわよ」
 誰も私はそんなことを、嫌だと言っているわけじゃない。いいように使われるのが、我慢できないだけだ。そう口に出せない桜花は意地っ張りだ。
 目の前には、りおなの真剣な眼差し。刃友のことを信じている強い眼差し。
 バカなりおな。
 キスするの、嫌じゃないなんて。
 私は――。

「いいわ」
 その言葉を聞いて笑顔になったりおなを、鬼史谷は牽制する。
「勘違いしないで。私は別に、キスしたいなんて思わないわ。気持ち悪い。二人で行っても何もないことを証明してあげるわ。さっきは――みんながはやすから、ちょっとのってあげただけよ」
 本当はそんなことないのに、あえて強がって見せる。そうだ、ちょっと行くだけなら問題はない。きゅっと唇をかみ締めると、止めた方がいいわ、と声がした。
「あそこは危険よ。あなたにも判っているでしょう? 少し冷静になって対策を考えるべきよ」
「へえ、それじゃあ先輩は、あそこの木の下で、魔界ヤドリギとやらに操られてキスしたって、認めるんですか? 」
195『ヤドリギ 中篇』《7》:2006/01/06(金) 00:39:47 ID:fpSc+++3
 浅倉先輩の声に、鬼史谷は嘲笑で返す。その癇に障る声に、止めたみずちもカチンときた。
「その可能性も、大いにあるってことよ。私ならなんの勝算もなくあの下に行ったりしない」
「お生憎様。先輩はそうかもしれませんけど、私は遊び半分だったんですよ。それとも先輩、本当は私とキスしたかったのを隠すためだったりして」
あの枝の下に行く危険。それは桜花にもわかっている。だからこそ、やっぱり止めておけばよかった、と言う悔恨は残したくない。止めておけば、と言う提案を断ち切ることで進む、言わば背水の陣。その桜花の強硬な姿勢に。
「そう。そこまで言うならもう止めないわ」と、みずちはにっこり笑い返す。
 てっきにプライドを傷つけられて怒り狂うと思っていただけに、彼女のその反応は意外だった。不思議に思って余裕たっぷりのみずちの顔を見る、鬼史谷。その手を、柔らかな手のひらが包んだ。
「行こう、桜花」
「え、ええ」
 手をつないだ二人は、ゆっくりとヤドリギの下へと歩を進めて行く。
 魔界ヤドリギの枝が、ふるん、と震えた。

「状況はどうなの? 」
 帯刀洸の声がレクリエーションルームに響く。彼女の声は、白装束の一員だけのことはあって、存在感がある。もっともそれは今の彼女の服装が制服のままであり、お目付け役という肩書きが大きく影響しているせいもあるかもしれなかった。
「しっかり、天井にくっついています。どういう仕組みかはわかりませんが、木としっかり融合してますね」
 報告するりおなの、冷静な声を聞きながら、桜花は刃友を頼もしく思う。星奪りでも、彼女は戦いの状況を把握して、的確に桜花を助けてくれる。ぎゅっと握る力を強めると、りおなからも握り返してきた。ぎゅっと。
「この下にいると、何だか胸がどきどきして、呼吸が苦しくなってきます。
 いえ、息苦しさに近いですけれど、ちょっと違いますね。ダイレクトに心に働きかけてくるような感じです」
「りおな、もういい」
 どんなにレクリエーションルームが広いといっても、精々十メートルも離れていない場所にヤドリギはある。それなのに元の位置に戻るには、長い長い距離があるように錯覚してしまうのは、やはりこのヤドリギのせいか? 身体の動きが重くなっている。
 頼もしいりおな、愛しいりおな。
 突然湧き上がってきた意識に、桜花はぶるっと身を震わせる。隣に立つ刃友は、頬をうっすらと上気させてはいるが、いつもの微笑で、それが桜花をほっとさせる。同時に意識のどこかで、危険信号が鳴り始める。どんどん胸の動悸が高まってくる。
「りおな、もう行こう。詳しい説明は向こうですればいい。このままだと」
「このままだと? 」
 無邪気にも見えるコケティッシュな表情を浮かべて、りおなが首を斜めに傾げる。桜花の頬が赤くなる。向こうでこちらを観察している面子にも、悟られてしまっているだろう。ええい、知るもんか! いっそはっきり言うことで、この枝の奇妙さを伝えればいい!
 大きな声で。
「このままだと、私が、みんなの前でキスしたくなっちゃうから、行こうって言ってるんだ! 」
 おお、と静かにざわめいた音が聞こえる。桜花の顔は、完全に真っ赤だ。ほら、もういいだろ、りおな。ぐい、と手をひくと、彼女は静かに微笑んだ。
「そう。桜花は、もう、行きたいのね」
 突如感じる、違和感。
196『ヤドリギ 中篇』《8》:2006/01/06(金) 00:40:22 ID:fpSc+++3
 何故りおなはしっかりと手を握っているんだろう。いや、握るのはいい。どうして握ったまま、ついてこないのかがわからない。押し留められる感覚。
「りお、な? 」
 どうしたの、と尋ねようとした瞬間に、りおなはとてもとても優しい声で。
「桜花、いかせてあげるわ」
 何が起きたか判らなかった。
 判ったのは、自分が今床に這いつくばって、悶えていると言うことだけだ。みぞおちに入ったのは、膝か、それとも拳か? 嘔吐までは起こらなかったが、口中からは激しく涎が流れてくる。
「――あ、ああ。うぇ――え」
 ダメだ。
 いけない!
 必死に意識を保とうと奥歯を噛む。このままだと意識が闇の中に飲まれていくのを感じているから。
 はな。
 と誰かが言っている声が聞こえる。
 鼻、鼻、と。
 鼻?
 今やられたのは、腹だよ。鼻は何ともない。
 身体の力が、不意打ちで萎えているのに思考はグルグル回転する。
「……っ! 」
 急に頭をつかまれて、たまっていた唾液が、たらたらっと口をつたって、落ちた。
「――ったい、よう……」
 喉の奥から搾り出される声。髪の毛を掴まれている。悲鳴をあげそうな痛みに、なんだか下半身が温かくなってくる。お腹がジン、と温まってくる感じ。なんだろう、これ?
「おうか」
 優しい声がして、それだけで身体がひくついてしまう。お尻がぶるぶるっと震えた。自力で立てないほど、下半身に力が入らない。あまい、りおなの声。
 だめだよ、こんなところじゃ。思わず小声で呟く。その瞬間、顔がぐいっと引き上げられた。
「ひっ! 」
 無理矢理上げさせられた目線の延長線上には、いつも通りのりおなの笑顔がある。さっきと変わらぬりおなの笑顔。そしてその頭上に。
 え?
 華?

197『ヤドリギ 中篇』《9》:2006/01/06(金) 00:40:53 ID:fpSc+++3

 床に叩きつけられる。生温かい感触。血だ。鼻から血が出ている。真っ赤な血。それは今見た華の色だ。そして顔に何か押し付けられて、喘ぐ桜花の唇。
「ほら、お舐め」
 柔らかく、独特の臭気を持つ、何か。
 足だ。
 りおなの足先が、顔に押し付けられている。湧き上がる屈辱感。
 ――でも、舐めないと解放してもらえない。
 そうだ。今は、従うふりをして、りおなの足を舐めないと、きっとこの足をどけてもらえない。どけてもらえないと、逃げられない。
 だったら、今は。
「は、ふぅー。……あはぁ。くぅー」
 足の指に、懸命に舌を這わせる、桜花。丁寧に、丁寧に。まるで犬のように。りおなの体臭は、それほどきつくない。だからかえって、足のにおいがすると、変な気持ちになる。息が漏れる。熱い、息が漏れる。
 次第に腰が持ち上がってくる。四つ這いになって、懸命に足を犬のように舐めるたびに。そのまま、膝の辺りまでぬるりと舌が上っていく。りおなの足の付け根から漂う、扇情的な、匂い。
 呼吸が、苦しい。だってずっと、足が押し付けられている、から。だからどうしても、息をつぐときに、鼻からも口からもたくさん息を吸って、まるで匂いを嗅いでいるみたいになる。かり、と甘噛みしたら、りおなが小さな声で、鳴いた。
 ――ほら、私だって、されてばっかりじゃないんだ。
 小さな満足感が桜花の心に湧いてくる。どうだ、と言う気持ちでしゃべっていると、また「桜花」と再び呼ばれた。顔を上げると、りおなの唇が側まで迫っている。
「だめよ、りおな」
「どうして? 」
「だって、足舐めてて、汚――」
「ばかね。汚いわけないじゃない。それとも桜花……」
 そっと囁くりおなの唇。
 私と、キスするの、いや?
 大きな深呼吸、物欲しげな喘ぎになった。
「あ、あぁ、はぁ――」
198『ヤドリギ 中篇』《10》:2006/01/06(金) 00:42:24 ID:fpSc+++3
「――ふぅ」
 今まで痛かったところが、甘く疼いてきて、めまいがする。あ、あ、と意味のない声が、深くなっていく。
「気持ちよくないの? 桜花? 」
「はぁー、はぁー。いい、わ。きもち、いい」
「ほら、みんなに見られてるよ。桜花の変態なところ」
「いやぁ――。そんなの、ら、めぇ……」
「うふふ、きれいなお華、咲いているわよ、桜花」
 ――華?
 何のことだろう。判るのは、りおなのキスが気持ちいいってことだけ。
 ああ、お腹、熱い。
 下半身が、ぱくぱくいってる、気がする。
「いじめてあげる、桜花」
「い……やぁ」
「いやなの? 」
「いやら、ないの。やさしく、いじめてぇ――」
 二人きりで、優しく。
 幼児が母親に甘えるように擦り寄って。けれど実態ははるかにいやらしこんがんする鬼史谷に、目を細めて。
「みっともない顔してるわよ。桜花」
 蔑みの笑顔のりおなは、でも声はべったりと濡れた牝のもの。

「何だあれは」
 呆然と見つめている綾那達一行を尻目に、宝田は鬼史谷を抱きかかえて部屋を出て行ってしまった。いきなり目の前で行われた非日常に、ここにいる全ての人が飲まれてしまったのだ。
 ゆかりの喉元から、ごくり、と音がする。
「華、咲いてたわね」
「ああ」
 ゆかりの呟きに、綾那がうなづいた。
 あのヤドリギの下に二人が立った後、宝田りおなに変化があった。頭の上から何かが生えてきたのだ。何かの芽である。説明にある程度区切りがついたとき、上条が気づいた。
「あれ、木の芽じゃない? 」
199『ヤドリギ 中篇』《11》:2006/01/06(金) 00:43:43 ID:fpSc+++3
 小さく芽吹いたそれは、みるみるうちに二十センチくらいの高さにまで育ち、大きな蕾をつけた。拳には一回り小さいかもしれない。それが、みるみるうちに、咲いたのだ。隣にいる鬼史谷は気づかない。
「華? 」
 ちょうど旋毛の辺りから茎を伸ばしていて、頭の真上で咲いているから、すぐ側から見れば、華が宙に浮いているように見えたろう。
 やがて一蹴されて跪いた鬼史谷の頭からも、にょきにょきと茎が生え出したのだ。緑の芽が。

「待ちぃ! りお姉! りお姉ぇっ!! 」
「だめだよ! 吉備さん!! 」
 扉を抜けて出て行った二人の、後を追おうとした桃香の腕を、猿楽が掴んだ。
「今吉備さんがここから離れたら、いったい誰が犬神さんを守るの! 」
 はっとして見れば、今までの一部始終を見て、凍り付いている五十鈴がいる。もう悪気がなかったといって、済まされる状態ではない。
「わんこ――」
「ごめんなさい、桃香さん。あたしが余計なことしたばっかりに」
 涙でぐしょぐしょになった、五十鈴の顔。桃香に、嫌われることを恐れて震えている、内気で傷つきやすい少女。その顔を見て、小さなため息をついて、桃香。そないな顔されたら、怒ることも出来んじゃろうが。
「大丈夫じゃ、わんこ」
「で、でも……」
「見た限り、命に別状はなさそうやし、今じたばたしても始まらん。とりあえずこんヤドリギの対処法を考えて、りお姉たちのこと考えるんは、それからじゃ」
 ぎゅっと肩を抱いて、指先で五十鈴の涙を拭いてやる。ウチの刃友は、あんたじゃからな。
「はい! わかりました! 」
 ぽろぽろと涙の零れていた目元をごしごしこすって、五十鈴は力強く返事をする。その様子を見ていた順は、パチパチと拍手をした。
200『ヤドリギ 中篇』《12》:2006/01/06(金) 00:44:27 ID:fpSc+++3
「いやー、泣かせるねえ」
「そんなことはいいから、さっさとやっちゃってよ、順」
「はい? 」
 すっかり観客気分の順に、夕歩が不機嫌そうに言う。え? 何を? と状況の把握できていない順に。
「早くあの物騒なものをどうにかして。命令」
「え? って、どうやって? 」
「ほら、これ」
 夕歩が取り出したのは、病院から持ってきた大きな荷物の中から取り出したもの。
「これ使って」
「え? これって」
 夕歩から順が受け取ったのは一本の木刀。受け取った順があまりに怪訝な顔をするので、夕歩がとげとげした口調で。
「もう、忘れたの? 私が無事に退院できるようにって、順がくれたものじゃない! 」
 お化けが怖いと言う夕歩に順がくれたお守り、と言うのが本当のところだが、そんなこと言えるわけがない。何で何も言わないで受け取らないのかな、順は! 喉元まででかかった言葉を夕歩はようやく飲み込んで睨む。それなのに順は。
「あたし、こんな文字彫ったっけか? 」
「え? 」
「確か、南無阿弥陀仏って彫ったような気がするの。漢字で。
それなのにこれはひらがなで……」
「気のせい」
「え? 」
「いいから早くする! 」
 言い合う二人に、槙が、ちょっと待って、と声をかけた。
「どうして遠距離からでないと危険って言っているのに、そんな木刀を使おうとするの? 」
「大丈夫ですよ、槙さん」
 目をぱちくりさせる上級生に、綾那は答えた。
201『ヤドリギ 中篇』《13》:2006/01/06(金) 00:45:20 ID:fpSc+++3
「こいつは変態なので、変態的な攻撃ができるんです」
「な! 綾那! それはひどいよ!! 」
「いいからさっさとして、変態」
「そんなぁ、姫……」
 大昔ならば姫とお庭番の関係に当たる夕歩からも、変態、の駄目押しをされた順は、がっくりと頭をたれてから、片手で髪をかきむしって。わかりました、やります、やりましょう。
 軽妙な口調にも関わらず、木刀を構えた姿は別人のようにりりしくて。
 刀身にひらがなで刻まれた、あくりょうたいさん、の文字。
「せやっ! 」
 風が舞う。風が切る。木刀が踊るたびに、何かが唸りをあげ。離れた位置にあるヤドリギが、びしっ、ばしっと弾けて飛んだ。
「へえ、なるほど。真空の刃で遠くの敵を攻撃するのね、見事だわ」
 ヤドリギをずたずたに切り裂いた順の攻撃に、思い切り棒読みでゆかりが評価した。そしてゆっくりため息をついて。
「増えたけどね」
「増えたな変態」
「ちょっと、あんたら、ひどいよその言い方! 」
 ゆかりと綾那の突っ込みに声を荒げる順だが、染谷はまるで動じずに、そんなことする必要はなかったじゃない、と続けた。
「――何よ、染谷。いちゃもんつけようって言うの? 」
「いいえ。ただ、何をするか判らない物が側にあったなら、それには触れずにこの部屋を出るのが正解じゃないかって思っただけ」
 あ、と誰かが声を上げた。そうだ。何もしないでこの部屋から出れば、少なくともこれ以上はこの変なヤドリギに関わらなくて済んだのだった。けれどゆかりは見逃さない。その提案を聞いて、一瞬綾那の顔が曇ったのを。
「まあ、どちらにしても、もう手遅れね。飛び散ったヤドリギが、入り口を覆っちゃったもの」
 確かにゆかりの言う通りだった。
 順の攻撃に飛び散ったヤドリギは、壁に天井に張り付いて、その勢力範囲を広げている。もうレクリエーションルームの四分の一は、このヤドリギの影響を受け始めているのだ。
 森が広がり始めている。
 その時。
「何か聞こえないかな」
 雉宮が、し、と息を出して、皆に耳を澄まさせた。聞こえます、と一番初めに応じたのは犬神五十鈴。しかし他のメンバーも、こくりこくりとうなづき始めた。もう間違いない。
「お前は何物だ!! この魔界生物!! 」
 人差し指をつきつけて、綾那が大声を上げる。聞こえてきたのは何かの声だ。このメンバーの誰の物でもない、少し高い男性の声。その発生源は、間違いなくこのヤドリギからだ。
 植物がしゃべる。
 そんなバカなことがあるわけが無い。
 けれどこの不可解な状況で、魔界ヤドリギがしゃべるのは予想していたと言ってもよかったろう。そして、その予想通り、この非常識なヤドリギは、やあ。魔界ヤドリギ君だよ、と魔界と呼ぶには何とも気の抜けた声で挨拶した。
202『ヤドリギ 中篇』《14》:2006/01/06(金) 00:46:04 ID:fpSc+++3
『魔法生物じゃないよ。魔界植物だよ』
                        (以下次回 ごめんね長くなってごめんね
203名無しさん@秘密の花園:2006/01/06(金) 00:52:47 ID:oBZnQYPk
次回は成長した魔界ヤドリギが無数の触手を伸ばして、
ハブキャラ達をよがり狂わせるんだよね。そうだよね!
204名無しさん@秘密の花園:2006/01/06(金) 09:20:53 ID:tqWMv9De
そうなったら板違いで削除依頼するから
205名無しさん@秘密の花園:2006/01/06(金) 14:51:46 ID:h3hUNHTP
>>204
綾那乙。
206名無しさん@秘密の花園:2006/01/08(日) 22:09:04 ID:v6wsjZzi
>>202
続きが待ちきれません
207名無しさん@秘密の花園:2006/01/09(月) 16:52:52 ID:arj5vA6G
間に1本挟ませて頂きます
208ふたつの花:2006/01/09(月) 16:53:43 ID:arj5vA6G
「順ってさ、とことん『順』なんだね」
私はそう言いながら雑誌を閉じるとベッドに置いた
目に入ってきたのはそれを持ってきた本人の間抜けな顔
彼女もまた私の隣のイスで読んでいた雑誌を閉じて
へ、という感じでこちらに顔を向けてきた
「何それどういうこと?」
「…前、テレビでやってたの」
テレビはもともとあまり見ない方だけど
こんな何もない病室ではテレビはいい暇つぶしの道具になる
その日もぼんやりとテレビを見ていると画面にその言葉は映し出された
「花言葉特集って」
「花言葉?」
209ふたつの花:2006/01/09(月) 16:55:04 ID:arj5vA6G
順。
「したがう。さからわない」

6月20日
ベロニカ
花言葉「忠実」


「あっはは!こりゃホントにとことん『順』だね」
笑うとこなのかなあ
説明を終えた後で手をうって笑う順を見てそう思った
順はというと何がそんなにおかしいのかまだヒーヒー言っている
「絶対裏切りそうにないよね」
「うん」
落ち着いた後に言う順のその口調はまるで他人事のようで
でもそれにすんなりと私は頷いた
確かにそう思う
聞いたことはなかったけれど
順の名前は多分順のお父さんがつけたんだろう
どこまでもぴったりな名前
おまけに産まれた日までぴったりときた
そういう生年月日とかで決められるものはあまり好きじゃないけど
ただ納得した
ああ順は順なんだって
「ぴったりじゃない?」
にやり、という形容がよく合う笑みを順は浮かべてそう言った
「…うん…………」
その後に言葉が続かなくて
無理に続かせなくてもいいんだけど
なぜか目が泳いでしまう
代わりに順が口を開いた
210ふたつの花:2006/01/09(月) 16:57:19 ID:arj5vA6G
「え、じゃあ夕歩のは何?」
「……忘れた」
「…本当に?」
「…………」
妙に鋭くなったな、と思う
こんな時にだけだけど
「言ってよ」
「だから覚えてないってば」
なぜか詰め寄ってくる順
思わず顔をそらしてしまう
ああもう、ちょっと
心臓落ち着いてってば
「言ってー」
ベッドに乗り上げてくる順
引き下がる気はないらしい
ああ
これはもう言うしかないな
私は観念して浅くすうと息を吸った後
「………私を見て」
「………え?」
きょとん
目を丸くして静止
予想通りの反応に強い口調で
「以上」
そう言うと体全体をを順の反対側に向けてやった
「え、ちょ、ちょっと夕歩」
そのままがばっと布団にもぐる
絶対今の顔なんて見せられない
もう二度と言うもんか
なぜか腹だたしい気持ちになりながら
その花であるガマズミにバカバカと八つ当たりした
211ふたつの花:2006/01/09(月) 16:58:11 ID:arj5vA6G
あ、しまった
花言葉なんてものはいくつかあって
さっき言った以外のものもある
別のものを言えばよかったかな
そう思った後ですぐにそれは駄目だと心の中で勢いよく首を横に振った
だって他のなんてもっと恥ずかしいじゃないか
思い出すと心臓がまた速くなった




6月22日。ガマズミ。
花言葉

私を見て

愛は強し

結合



ぴったりじゃない?

順のその言葉が頭の中で繰り返されて
夕歩は耳まで赤くなった
212名無しさん@秘密の花園:2006/01/09(月) 19:45:20 ID:YsocZ78b
イイヨーイイヨー!
213名無しさん@秘密の花園:2006/01/09(月) 22:14:54 ID:sDMtFGg8
どうりでゆほたんはえろいわけです(*´Д`)ハァハァ
214名無しさん@秘密の花園:2006/01/10(火) 02:05:40 ID:xEYBh/+J
某ファンサイトの人がこれ読んで喜んでたっぽいな。
215名無しさん@秘密の花園:2006/01/10(火) 02:05:52 ID:ZP4ngSKl
かわええ(*´Д`)
216名無しさん@秘密の花園:2006/01/10(火) 18:53:21 ID:JhkK/RDm
GJ!GJ!
惚れた!恋した!
胸キュンしちゃった!
217名無しさん@秘密の花園:2006/01/17(火) 21:03:59 ID:7zHWoeuu
このスレからもいつか職人データとか出てきて
合同で本とか出したりするんだろうか
218名無しさん@秘密の花園:2006/01/17(火) 23:45:37 ID:9GGWvY/1
>>217
そこまで職人の数があるとは思えない。
219名無しさん@秘密の花園:2006/01/17(火) 23:50:54 ID:OjOA2JWe
>>217
そして荒らされブームも去りいつしか過疎スレ
って流れは勘弁
220名無しさん@秘密の花園:2006/01/17(火) 23:56:39 ID:+q1E2iO3
ヤドリギの続きまだですかねぇ?
楽しみにしてます♪〜(*´∀`*)〜〜(*´∀`*)〜♪ワクワク
221名無しさん@秘密の花園:2006/01/18(水) 08:06:44 ID:33uc9cZE
ここのSS(順夕歩が特に好きですけど)はレベル高いなぁ…
職人さんたち、がんばってください待ってます!
222『ヤドリギ 末篇』《1》:2006/01/18(水) 10:16:36 ID:NMGDAOLV
「お前の刃友、ありゃなんだ? 」
「はあ」
 幾つも並ぶ銀の大皿から、無道綾那はピラフを紙の皿に盛り付ける。
銀皿は保温用のランプのおかげで温まっているから、エビピラフはまだ食べごろの温かさだ。他にもある豪華料理の中で綾那がそれを選んだのは、たまたまピラフが目の前にあったからだった。
「ま、なんでもいいけどな。この斬新過ぎる装飾は、いったいどういうことだよ! 」
「それはもう説明したはずですが」
 クール、というより無関心な声で、綾那は盛り終えたピラフを差し出して。
「どうぞ、ジャージさん」
「ジャージさんじゃねえ!! お前らは二人そろって、人の顔覚えらんねーのか!! 」
 しかし彼女はどう見てもジャージさんである。上も下もジャージ。ほかに特徴的なところと言ったら、両耳のピアスと、ジャージの下に着ているドクロのTシャツか。
そのジャージさんの言う、二人そろって、の二人とは、無道綾那とその相方、黒鉄はやてのことに違いない。
 あいつと一くくりか――。
 似た物同士と思われるのも、まあ、なんなので、綾那は自分の記憶力の確かさを披露するために、言った。
「えっと、白服の人ですよね、確か」
「確かじゃねえっ!! 」
「すみません」
 謝られては、それ以上怒ることなど出来ない。それに今ジャージさんをイラだたせているのは、名前を呼び間違えられたことよりも、さっきからの恥ずかしさから来ている。ぐっと怒りを飲み込んだ。
 落ち着け落ち着け。
粗暴に見えてジャージさんは自己観察が出来ているので、怒りにも自制が効くのだ。大きくため息をついて。
「まあ、いい」
 それからジャージさんは受け取ったピラフの山へと、乱暴にスプーンを突っ込むと、ほかほかの一匙をすくい出して、口の中に突っ込んだ。これらの料理は、名実共に天地学園のトップである、天地ひつぎからの差し入れだそうだ。悔しいけれど、旨い。
223『ヤドリギ 末篇』《2》:2006/01/18(水) 10:17:22 ID:NMGDAOLV
 ――この眼鏡は。
 ジャージさんは食べながら綾那を観察する。
 ――どうやら人付き合いに慣れていないようだ。気が弱そうにすら見える。
 一応上級生で、白服と言うこともあるのか、綾那が気を使っている雰囲気が傍目にも感じられる。その様子を浅倉みずちは、へえ、と意外そうな顔をして眺め、久我順はにやにやし、染谷ゆかりはちらとだけ見て、黙殺した。
「まあいい」
 咀嚼が終ってジャージさんがもう一度ため息をつき、ちらりと横目で部屋の隅を見る。
 そこにいるのは、ジャージさんの刃友でもなく、同学年の上条でもなく、勿論お目付け役帯刀洸でもない。
「へえ。ヤドちゃん、色々大変なんだねえ」
『はい。本来なら、求愛行動後、その動物が種を撒き散らしてくれるのですが――。ここではそれもかなわず』
「ごめんね。お手伝いできなくて」
『いえいえ』
「なんのおまかいも出来なくて」
『いえいえ。植物は植物らしい過ごし方で過ごさせていただきますから』
 ジャージさんが見たのは、天井からぶら下がり、この部屋を覆い尽くそうとしている化け物木と和やかに話す一人の少女の姿だった。
 黒鉄はやて。
 クソチビ。ミクロチビ。
 今この部屋にいる、誰もが見ないようにしている元凶に、にこやかに話し掛けているチビ。その光景を見ていると、あのチビはとても大物かもしれない、と言う錯覚にすら囚われる。
「おい、眼鏡」
「はい? 」
「お前の刃友、ありゃなんだ? 」
 奇しくも冒頭の質問に戻ったジャージさんに、綾那は当然のように。
「バカですね」と答えた。
「バカか」
「ええ。認めたくないですが、バカです」
 ジャージさんは、そうか、バカならしょうがないな、と呟いて、ふと、綾那の反応を見たくなった。
「そのバカとコンビ組んでいるお前はどうなんだ? 」
「おいしいタイミングで飛び込んできた人に、言われたくない言葉ですね」
「なにを!? 」
 しかしこれ以上さっきの話を蒸し返されたくないジャージさんは、エビピラフをがつがつ頬張った。
 ――とりあえず、食うだけ食ってやる!!
 ただ飯を食うためだけに顔を覗かせただけなのだから、まずはその目的を果たす。今後のことを考えるのはそれからでもいい。
224『ヤドリギ 末篇』《3》:2006/01/18(水) 10:17:57 ID:NMGDAOLV
 ――それにしても信じられるか、こんなこと?
 こんな事態になっていたと知ったら、自分は絶対訪れなかったろう。大体、食事だけでもと誘われて、ここに顔を覗かせたのだってただの気まぐれだ。十パーセントくらいの低確率を、たまたま自分が選んでしまっただけなのだ。
 本当にそう?
 誰かに話し掛けられた気がして思わず振り向くと、今もっとも顔を合わせたくない人物と目が合ってしまう。目を細めてこちらを観察している祈紗枝に、ジャージさんは思わず怒鳴る。
「何だよ! その目は!! 」
「別に? 」
 ニコニコしながら紗枝はテーブルに近づくと、鳥のからあげを摘まんで、閉じかけた彼女の口に押し込んだ。
「あなたの弟子のクリスマスパーティーだもの。楽しそうでいいなと思って」
 こう言う時の紗枝は苦手だ。上辺とも本気ともつかない笑顔の下に、必ず隠された何かを持っている。タイトジーンズに、オレンジのパーカーは気楽な普段着だが、彼女の本性はそれほど気楽ではないのだ。
やばいな、と思った。
何がやばいと思ったのかわからないが、突如無表情になったジャージさんに、紗枝は何もかも許すような笑顔で接する。
「心配しないで。私もあなたのお弟子さんのパーティーを邪魔する気はないわ」
「そうなのか? 」
「あら、やっぱり弟子のことはかわいいの? ミ・カ・ど・ん」
「その呼び方は止めろおおおおおお!! 」
 ジャージさん、こと、神門玲の叫び声が部屋中に轟く。
 やっぱり来なけりゃよかった!
 けれど後悔先に立たずという奴である。事情を聞く限りでは、こんな事態になったのはほんの二三十分前なのだと言う。
 その前に来て、さっさと食ってさっさと帰っていれば……。
 いや、せめて巻き込まれたとしても、こんな事態になる前にここに来ていたら。
 神門と祈がここを訪れたのは、この魔界ヤドリギなるけったいな代物が、おしゃべりを始めたその後のことだったのだ。

225『ヤドリギ 末篇』《4》:2006/01/18(水) 10:18:46 ID:NMGDAOLV

『企んでるなんて、人聞きの悪いことおっしゃらないで下さい』
 話は少し前に遡る。
 綾那に「貴様、何を企んでいる! 」と決め付けられた魔界ヤドリギは、いささか心外そうに答えた。魔界ヤドリギの声は、微かに何かが擦れあって生じている音のようだ。ビブラートがかかっている。
『魔界のオジギソウは気が荒いので有名ですけれど、魔界ヤドリギは心優しい植物なんですよ。
 私の幸せは、みんなが仲良くなることだけなんですから』
「人の頭に華を咲かせて、無理矢理いちゃつかせるのが仲良し、って定義ならそれもありかもね」
 ゆかりの鋭い突っ込みに、ヤドリギは、そんなあ、と情けない声を出した。
『頭に咲いた花も、華が開く前なら簡単に抜けますし、もし咲いたら、抜けはしませんけれど、仲良しになったらきちんと散ります。身体には影響はないんですよ? 仲良し、いいじゃないですか、仲良し』
 けれど返ってくる殆どの眼差しが否定的なのを見取って、ヤドリギは哀しい声を出す。
『私は素直になれない人に、愛を運ぶだけの、心優しい生き物ですよ? それなのにこんな視線を浴びて……。
 大体私がここまで大きくなったのは、この部屋に満ちた空気も悪いんです。私が大きくなれたのもそのせいです。
 好きなのに好きと言えない心、ちょっとしたことでこじれた関係。そんな冷たいくせに、本当は温かな空気は、まるで私の故郷――。心の凍土、ツンデレ地方を思い出させます。
 私はその中で春を告げる、愛の使者なのに……。ここでの命もとても短いのに。
 どうして人は争うのでしょう? 憎みあうのでしょう? 愛しあうほうがいいのに。 愛しあうほうがずっと――。
 ああ。
 宿りたい。
 宿りたいなあ――』
 さめざめ。
 ヤドリギが泣けるならきっと彼(?)は泣いていたに違いない。眉間に皺を寄せる綾那に、順が囁いた。
「どう思う、綾那? 」
「何と言うかね……。
もしこれがゲームの中なら「とっとと部屋中に広がって、大乱交パーティーになっちまえ! 勿体つけんな、この野郎! 」って思うところだけれど。自分がその渦中に置かれてみると。
絶 対 に 嫌。
って事がよくわかったわ」
「いや、そんなことより、どうして声が塩沢兼人なのかしら? この手の定番だったら、玄田哲章か、もしくは滝川順平ってところじゃない? 」
「あー、なるほど」
226『ヤドリギ 末篇』《5》:2006/01/18(水) 10:19:21 ID:NMGDAOLV
「……ちょっと聞いてみていいかしら? 」
 終わりのなさそうな二人のボケに割り込んで、浅倉みずちは口を開いた。
『はい、何でしょう? 』
「あなた、さっき短い命っていったわよね? 何日くらいもつの」
『残念ながら、明日の朝には枯れてしまうんです』
 このヤドリギの言葉に、皆はほおっと息をついた。一日なら大丈夫、と言うことで初めて余裕が生まれたのだ。
「余計な刺激を受けると、増えるのよね」
『そうですね。飛び散った先が、うまく育てばですが』
「あなたの真下に行かなければ、仲良し、にはならないのよね」
『はい』
「だったら、近づかなければいいだけね。明日の朝まで」
『そんな! いいじゃないですか、仲良し!! 』
 みずちの出した結論に、ヤドリギは叫び声をあげる。その反応で皆の結論は定まった。
つまり危険な場所に近づかなければいいのだ。両手開きの扉の真上には、ヤドリギがすくっているが、幸いレクリエーションルームに備え付けられたお手洗いにまでは、芽は伸びていない。
「私も、聞いていいかしら? 」
『はあ……なんでしょう? 』
 意気消沈するヤドリギに、帯刀が手を上げて尋ねる。
「もし、外から入ってきた人がいたら、すぐに影響を受けるわけよね。あの扉近くに生えてるヤドリギの。入ってきた人は」
『はい。今あの外開きの両手扉は、とてもゆっくり開くように枝を伸ばして、かませてあります。扉を開けている最中に、私の効果が訪れるでしょう。もちろん出て行こうとする人にも同様に。
 ……こんな感じで』
227『ヤドリギ 末篇』《6》:2006/01/18(水) 10:20:08 ID:NMGDAOLV
 こんな感じ?
 魔界ヤドリギの言う、こんな感じとはどんな感じなのかと首を捻れば、すぐにその理由が明らかになる。
「ん、しょ……。重いな、この扉」
 ゆっくり開いた扉に二人の人の影。きょとんとして見つめる室内の住人に、よお、雑魚ども! と声が響いた。
「飯だけ食いに来たぞ、ありがたく思え剣待生諸君! お、帯刀、何がっかりした顔してるんだよ。おまえ」
 しかし満面の笑顔で入ってきた、神門玲の言葉は、そこで中断された。刃友のくちづけによって――。


「私としては、あのまま玲を食べちゃってもよかったんだけれど」
「言っていい冗談と悪い冗談があるぞ、お前」
 結局押し倒された神門を助け出したのは、黒鉄だった。順から借りた木刀を差し出して、ヤドリギの勢力下から、二人を引っ張り出したのだ。
「お、おお。サンキューな」
 木刀にすがりついて助け出されたのは、ややみっともなかったが、それでもこのヤドリギの魔力は恐ろしいことが、自分の身を通じてよく分かった。原因であった一年生をなじっても、何の意味もない。何せ、こんな風になるとは思ってもみなかった、のだから。
 その後は、何の事はない、食事の続きである。何よりまだまだ銀皿の上には料理が残っていたし、食べる以外にやれることは少ない。
 ただ、さっきよりも会話は極端に減っていた。少女達の華やかさは影をひそめ、様子をうかがっている気配だけがある。
「みずちさん、どうしました? 」
「蒼――」
「どうぞどうぞ、よそいますよ。たくさん食べてください」
 そんな中貴水蒼は、明るい調子でみずちの紙皿を受け取って、ローストビーフを何枚も重ねた。さっきまでの出来事を忘れ去ろうとするような給仕に、みずちの心がちくりと痛む。
 ――どんな人とでも仲良くなれる。
 そんな言葉が不意に蘇る。蒼はどう思っているのだろう、このヤドリギのことを。
 黒いフリルのワンピースに、白い大きなエプロン。「メイドさんっぽいでしょ? 」と、パーティーの始まる前に、わざわざみずちに見せに来た、その装い。
「みずちさんには、特別接待しちゃいますね」
 その笑顔は、心の底から、嬉しそうだった。
 今は。今はどうだろう。その下に立てばどんな者とも心を合わせることが出来る、魔界の植物。その絶対的な力を見せ付けられて。
 けれどみずちには、貴水にかける言葉が見当たらない。どんな言葉も嘘になってしまいそうだから。
「ありがとう」
「はい」
「蒼」
「はい? 」
「あなたも、きちんと食べなくては駄目よ」
 本当は、貴水が欲しいのはそんな言葉ではなかったかも知れない。けれど蒼はにっこり笑って「はい」と答えた。
228『ヤドリギ 末篇』《7》:2006/01/18(水) 10:21:34 ID:NMGDAOLV

 雉宮はしゃべり終えると、けげんそうな顔で刃友を見た。
「どうしたの? 未知」
 どうしたもこうしたもない、と言うのが猿楽の感想だ。さっきから、五十鈴五十鈴と彼女のことばかり。
 それは確かに、犬神のことは心配だ。もし自分が似たような境遇に置かれたとしたら、絶望するに違いない。さっき入ってきた白服の人の、髪の毛の長い方に、犬神が飲み物を持って行って、軽くあしらわれたのを見た。それから犬神は真っ青な顔をしている。
「こう言うの、初めてだから、楽しみです」
 そう言って笑ってたっけ、彼女。一緒に紙飾りのわっかも作ったし、おしゃべりもした。この間のこと、ごめんね、なんて言ったりもした。
 でもなんで、キジっちゃんが犬神のことをずっと気にかけてるのよ!
 これは絶対、未知がこの前のことを引きずっているに違いない。刃友の交換作戦にまで発展した、言い争い。それが心の何処かにくすぶっているのだ。
 猿楽本人にもその自覚はある。でも雉宮ももう少し気を使うべきだと思う。
 ああ! もう! 彼女が大変な理由なんて、私だってわかってるってば! 一々説明しないでよ!! だから。
「もういい」
 思わず口をついて出てしまった。こうなると止まらない。未知は短気なのだ。後でこんなこと言ってまずかった、と思っても、まず口が出てしまう性格なのだ。
「キジっちゃんがそんなに彼女のこと心配なら、犬神さんをあのヤドリギの下にでもつれてけばぁ? この前みたいなことにならずに、楽に彼女を手に入れられるよ」
「はあ? 誰がそんなこと言った? 」
「あたしのことならご心配なく。そしたら吉備さ……ももかを連れて、あのヤドリギの下に行くわ。それで万事解決でしょ! 」
 途端、雉宮の顔つきが変わる。
「ああ、そう。やっぱりそうだったんだ」
「な、何よ」
 空気の変わった刃友に、猿楽はしまった、と思う。この前もそうだった。何かの言葉で勝手に彼女はスイッチが入ってしまうのだ。
「よく分かったよ。未知――いや、猿楽さんが、吉備の方がいいと思ってるって事」
「はあ!? 」
「そうだよね。私は彼女と戦って、負けたもんね。どうせ私なんか役立たずだよ」
 そんなことは一言も言ってない。
 けれどこうなってしまっては、彼女に何を言っても無駄だ。第一、猿楽だってこんな時に自分が折れてやりたくなんて、ない。そもそも悪いのはキジっちゃんなんだから! あんなにしつこく、犬神なんて心配するから――。
 いけない。このままじゃ、この前の二の舞だ。一度頭を冷やす必要がある。
「ごめん、キジっちゃん。今、気持ちすれ違ってる。ちょっと後に、別の場所でまた話そう? 」
「あのヤドリギの下、とかで? お手軽な仲直り方法だね」
 決定的だった。
 すごい目で雉宮をにらみつけると、猿楽は誰もいない方向に顔をそむけた。
 泣き顔なんて、見られたくない。
229『ヤドリギ 末篇』《8》:2006/01/18(水) 10:23:31 ID:NMGDAOLV

「帯刀さん」
「何かしら、上条さん」
 帯刀の、少しひんやりした雰囲気が、槙は苦手だ。会長に絶対的な忠誠を誓う彼女は、時折道化を演じて見せるが、それさえも演技なのではないかと思う瞬間がある。
 事務的で、会長の無茶な命令も大抵は可能にしてしまう手腕と精神力。司会やアナウンスの声は、録音かと思うくらいよどみなく平坦で、その癖隙がない。
 頼りになる人だと思うし、嫌いではない。けれど今日は居心地が悪い。権力の象徴たる白装束を、彼女が着ているせいだろうか?
「今の状況、どう思われますか? 」
「どう、と言うと? 」
「いえ。お目付け役として、あまり好ましくない状況なのではないか、と」
 あ、と槙は思わず眉を潜める。
 蔑むような視線の、帯刀。それは上条の無力を笑っているようにも、何かを企んでいるようにも見える。
 どうしてこんな単純なことがわからないのかしら、と言わんがばかりの、目。その中に、少なくとも親しみやすい生徒、と言った雰囲気はない。
「何も問題は無いと思うわ。天井にあった何かが、突然危険な物になった。けれどそれは、命に別条の無い物。近づかなければ何も起こらない、物。そして、明日の朝には消滅する物よ」
「けれど、それはあのヤドリギが言っていることを鵜呑みにしての事です。もしかしたら、何かあるかもしれない――」
「今のところ、いちゃつく、と言う行為以外に、問題点は見出せないわ。いちゃつく、という事は確かに、まあ年齢以上の行為に耽ってしまう事を意味するかもしれないけれど、不純同性交友は、星奪りの禁止項目に入っていないわね」
 一瞬、槙は帯刀の冗談が理解できなかった。それが冗談だと分かったのは、帯刀が冗談よ、と言ったからであって、本当はまだ帯刀の真意が分からぬままであった。
 本当なら、この状態をどうやって脱するかを考えるのは、帯刀のはずである。少なくとも彼女はそう言う性格だったはずだし、特にお目付け役として来ているのなら、生徒たちを危機から救う手段をこうじるべきだと思う。
「大丈夫よ、上条さん」
 槙の心配を見て取ったのか、帯刀洸はうっすらと笑って言った。
「この件が原因で、星の減点や、罰はありません。不慮の事故ですから」
 ――違う。
 そうですか、と相槌を打ちながら、槙は思う。私が知りたいのは、そんな言葉ではない、と。
 帯刀さん。あなたは、何かを、企んでいる。

230『ヤドリギ 末篇』《9》:2006/01/18(水) 10:24:07 ID:NMGDAOLV
 神門玲は食べながら考えていた。この状態から抜け出す方法を。
 実は一つ案を思いついている。やってみるか、どうするか。
 いや。
 こんなところに押し込められて、朝までじっとしているなんていうのは、真っ平だ。とりあえずどうにかして扉を開けられれば、そこから逃げ出すことは容易なのだから。
「よし、扉を開けるぞ」
 ごくごくと水を飲み下して玲が宣言すると、皿を持った少女達の視線が集中した。
「一年生に扉を開けさせる、と言うつもりなの? 」
「ああ、そう言う手段もあったな」
 槙の懸念に、玲は肩をすくめた。
「確かに、その張本人に責任を取ってもらうって手もあるけど、行ったとたんに洗脳されて、扉が開けられなかったら意味が無いだろう? だからその提案は却下」
「でも一人で行かせるとか――」
「二人で何かあるからには、一人でも何かあると思うね、あたしは」
「私もそう思うわ」
「それならこれで、問題は無いな。上条」
 とりあえず誰かを生贄にする、と言うアイデアでない事は分かった。自信家で慎重派の神門が、その上で策があると言うのなら、きっと間違いはないだろう。
「お任せします。神門さん」
「よし、じゃあ全員、こっちに集まれ」


 神門の計画は単純だった。扉に絡んでいるヤドリギを切り裂いて、その束縛がゆるんだ瞬間に、もう一人がすばやく戸を開けて、誰かが外に飛び出す、と言うものだった。
「そして、外に飛び出した人間が、助けを呼ぶんだ。そして、外側から扉を丸ごと外してもらえばいい。そうすれば外に飛び出す事が出来る。
 一瞬ではヤドリギの魔力とやらも効果が無いはずだ。だからわざと扉を開きにくくしているんだと思う」
231『ヤドリギ 末篇』《10》:2006/01/18(水) 10:25:35 ID:NMGDAOLV
「でも、どうやって一瞬で、扉に張りついたヤドリギを切り裂くんですか? 」
 染谷ゆかりの質問に、玲は鼻で笑う。お前、あたしを誰だと思ってるんだ?
「幸いあたしの手元には木刀がある。トレーニングの後、ここに来たからな」
 ここで武器があるのは、強い。更に神門は、吊り下げられた棒を瞬時に撃つ、正確で速い剣撃がある。その自分の能力を見据えた戦略だ。
「問題は、一体誰が戸を開けるかってことだな。戸を開ける人間が一番厄介だ。多分、扉を開けた人間は、外に出られないだろう」
「どうしてですか? ここの扉は外開きですから、開けた人間がそのまま外に転がり出れば……」
「いや、恐らくこの木は、扉に手をかけた人間を、捕まえておこうとするだろう。ほれ。ドアノブのところ、見てみろ」
 言われて見て、ああ、と綾那の口から声が洩れる。ノブのところには、細い細い枝が既に伸びていた。あの枝が腕に絡むとでも? その可能性がある以上、油断できないと言うわけだ。
「もし特別な妨害が無ければ、開けた奴もそのまま外に転がり出ればいい。けれど万が一の事を考えて、扉の守りを壊す者、扉を開ける者、扉を抜ける者の三人が要る」
「すばやくて小さいのが二人もいるわ。それを一気に外へと押し出すのはどうかしら? 」
「却下だ。複数の人間が扉に向かって、まかり間違って詰まってしまってみろ。三人は助けられない」
 三人助ける、と言う言葉にひっかかって、みずちが不審な顔をすると。
「扉に掴まった人間は、あたしが助ける。扉の枝を引き千切ったついでに、もし絡みつこうとした枝があれば、それも切り落とす。
 ……ただ、どこまでやれるかは疑問だ。正直あたしはお前らが言う、ヤドリギの成長、治癒能力を見ていない。第一ヤドリギにその物触れた奴は、いないんだろう? 直接触れられたら、危険だと思う」
「なら、その扉を開ける役を、あたしにやらせてください」
「順!? 」
 夕歩が声を上げた。名乗り出たのは、彼女の刃友、久我順だったからだ。
「ちょっと待って! まさか代わりに私を外に出して欲しいなんて言わないわよね! 」
 沈黙したままの順に、神門は額の髪をかきあげて、そうだな、それは無理だな、と言った。
「自分がやると名乗り出たのは評価するけれど、この場合、最適と思われる人物を選ぶべきだ。あたしはあのクソチビか、チビかのどちらかに――。いや、バカは置いておいて、チビのほうだな……。に、扉を抜けてもらおうと思っている」
「小ささなら、彼女も小さいです」
232『ヤドリギ 末篇』《11》:2006/01/18(水) 10:26:39 ID:NMGDAOLV
「順! 」
 夕歩には、いや、ここにいる人物のほとんどが順の言葉を理解している。順は夕歩の病気が心配なのだ。
 ここ数日、夕歩の調子はは普通の人と同じくらいの状況まで落ち着いていると言う。それがこんな事で悪化してしまうとしたら、居ても立ってもいられないだろう。
「何と言われようと、駄目なもんは、駄目だ。例えその相方が、病人だったとしてもな」
 そう。神門玲は、彼女のことを見たことがある。
「扉に来た途端、万が一ふらついたりしたら、全てがおじゃんになっちまう。はっきり言えば、病人は論外なんだ。
 あたしがこの作戦を考えたのは、理由がある。
 もしあたしが切った枝が増殖したとしても、扉の周りには元々何もないから、それほど大きくヤドリギの拡散しないはずだ。だから今まで通りこの部屋に居て問題は無い。
 誰かが背負って、とか言うのも駄目だ。万が一がある戦いはしない主義でね」
 きっぱり言い終えた後、ねえ、ししょー、と声がした。
「……なんだよ、クソチビ」
「しぐま、病気でも、あたしより強かったよ」
「それがどうした」
「速い動きも見きれる目があるし、受け流す事も出来るし」
「だからどうした」
「だからきっと、大丈夫だよ」
 だからきっと、大丈夫、と黒鉄はやては言った。これは婉曲なお願いと言ってもいいだろう。『お願い』は、聞き届ける事は出来ない。それは完璧な計画に水を差すことになるからだ。
 もし、ししょーおねがい、と言われれば、お前みたいな弟子はいらねえ、と返すことも出来た。しかし黒鉄は、適任は誰か、と言う論理で話を持ってきた。ベストの為の『提案』なら、話は別だ。
「よし。お前のその提案、乗った」
「え?! でも……」
 驚く夕歩に、神門は、何を言ってんだ、と返す。
「お前の腕を信用して、任せると言ったんだ。あたしらの記録を抜いたあのクソチビが、自分よりお前の方が適任だって言うんなら、適任なんだろ」
 か弱い剣待生を脱出させるためなら断るけれど、戦力になるなら話は別だ。
「それに……」
 ふ、とさっきの事を思い出し、玲の顔が真っ赤になる。
233『ヤドリギ 末篇』《12》:2006/01/18(水) 10:28:04 ID:NMGDAOLV

「――玲」
「れ? どうした? 紗枝」
「私、もう、待てないよ」
「な、何の事だ? 」
「――ん」
「ん!? 」
「ん、はあ……。ふふ、キスでこんなになっちゃうなんて。玲、かわいい」
「や、ちょっと、待て、お前、どうしたんだ? 」
「ほら、じたばたしないの」
「あ、はあ……。くぅ! やだ、やめ」
「ん――」
「ふくぅん! ん……。だ、誰か! 助け!! 」
「ししょー! これに捕まって!! 」
「あ、ああ。ん、んん、ぁ、はぁぁん……」

「お前には借りがあるからな」
 神門の言葉に、はやては首をかしげる。カリ? いいんだよ! 余計な事考えねーで!!
「とにかく、実行だ! 扉を、突破するぞ!! 」
 一同が大きく頷いた。
 そう。
 帯刀一人を除いて。

                                     (未完(長すぎるし、時期過ぎているから)にしたいけれど、次回 終編

234名無しさん@秘密の花園:2006/01/18(水) 20:51:18 ID:AkdUa3F1
面白かった。乙です(*´Д`)
235名無しさん@秘密の花園:2006/01/18(水) 21:37:31 ID:l9aFepcI
良かったですo(^-^)o
大変だと思いますが終編も頑張って下さい(o^-')b
めっちゃ帯刀が気になります
236名無しさん@秘密の花園:2006/01/19(木) 04:44:59 ID:WP99U3qH
>>「何と言うかね……。
もしこれがゲームの中なら「とっとと部屋中に広がって、大乱交パーティーになっちまえ! 勿体つけんな、この野郎! 」って思うところだけれど。自分がその渦中に置かれてみると。
絶 対 に 嫌。
って事がよくわかったわ」
「いや、そんなことより、どうして声が塩沢兼人なのかしら? この手の定番だったら、玄田哲章か、もしくは滝川順平ってところじゃない? 」
「あー、なるほど」

このやり取りに笑ったww乙です。
237名無しさん@秘密の花園:2006/01/22(日) 19:59:17 ID:OeuYDn6X
238名無しさん@秘密の花園:2006/01/23(月) 01:54:53 ID:ti/nG++q
>>237
す、すごいな。さすがにびっくりしたぞ。
ある意味いい時代になったもんだな。
239名無しさん@秘密の花園:2006/01/23(月) 07:33:08 ID:5LmVWIIs
やっぱり時代は百合だ。
240名無しさん@秘密の花園:2006/01/23(月) 16:46:07 ID:Zu9H4adx
私の私立大学の入試(2005年度)の英語もすごかった。
1問目の長文から文中でlesbian連発、ある二人のアメリカ人の女性の思いと、異性愛社会との闘いを描いた話だった
241名無しさん@秘密の花園:2006/01/23(月) 17:27:23 ID:icD1rlUq
なんていうか
腹に来そうな内容だ
242名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 04:06:06 ID:E396uSiH
疑問なんだけどここって順×綾那のSSってオッケーだよね?
243名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 06:08:47 ID:Os0MzUBv
激しくOKですハアハア
244名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 06:40:04 ID:E396uSiH
ただ今執筆中だけどそのうち投下します。そのときはよろしくw
245名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 08:27:49 ID:cdWhw96O
>>244
順綾、すごく楽しみです。よろしくお願いします。
246名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 21:23:53 ID:PAFRhpdB
じゃ、順綾すっげぇ待ってるから
会社行かずに待ってるから
247名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 21:58:32 ID:5tiy7/i2
会社は行くように
248名無しさん@秘密の花園:2006/01/26(木) 22:00:59 ID:PAFRhpdB
>>244

SS待ってます!

>>246
会社には行こうぜ
249名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 00:22:07 ID:o6ZpunOu
>>246
会社には行こうよ!
250名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 01:03:53 ID:ReF2JYb/
・・・ごめん。投下するのに後ニ、三日掛かりそうです(汗
その間皆さん会社に行ってくだせえ・・・。
251名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 07:42:23 ID:HskyeT3o
二、三日くらいなら会社いかなくてもいいんじゃね
252名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 14:07:13 ID:WFRLYBtp
買いました、4巻
はやて×ブレード4巻
ところで先生。一枚空白ページがありますが、これは雪の中真っ白に燃え尽きた帯刀でしょうか?

いえ。きっとこれは、いちゃいちゃするキジ×ミチか
いちゃいちゃする蒼×みずちか
いちゃいちゃする宮本×ひつぎの絵を、私のためにじかに描いて下さる下準備ですよね?
ね?
描いて下さるまで、会社行かないで待ってます
253名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 16:19:00 ID:JUlurpuz
>いちゃいちゃする蒼×みずちか

蒼攻めとはクオリティ高いなw

一枚空白ページ、漏れのだけ乱丁なのかと思って焦ったぜ・・
254名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 18:51:42 ID:qCt/irnb
猿雉も中一、加護辻も中一
この年頃は個人差がすごいな
255名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 21:27:20 ID:Z3Dy4rh2
4巻買ったー!
当方コミックス派なんだがキジミチは二人とも喋り方可愛いな

後、あとがきで林家姉さんが間違えて"2005"って書いてんのを必死に"2006"に直してるのを見て噴いた
256名無しさん@秘密の花園:2006/01/27(金) 23:30:29 ID:J5MEiX3g
当方田舎なので4巻が近所の本屋に並ぶまで会社行かないで待ってます。
257名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 00:14:32 ID:PD2/2BwF
>>256
明日はやすみでしょーが
258名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 13:34:08 ID:b2o0fFFj
>>257
そうとも限らないでしょ
259名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 14:38:02 ID:8yS4tHzy
サイン会逝く人いる?
260名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 20:18:10 ID:jv2rt14s
エロパロじゃなくてこっちにスレあったのか。
雉×猿(猿×雉)とかゆかり×綾那とかその内書くかも。
非エロになりそうだけど……。
261名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 21:18:49 ID:KRlJA12S
>>253
皆揃っての乱丁だったら焦らないのか?(w
262名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 21:28:09 ID:RUuA6DPv
>>260
期待しています。とくにゆかり×綾那のほうvvv
263名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 21:36:29 ID:cQVy6Rit
個人的には非エロの方が好きなんで君には大いに期待しているよ。
264名無しさん@秘密の花園:2006/01/28(土) 22:35:18 ID:zJGhdznS
携帯からだとキジが変換出来ない件
というわけで>>260のキジ猿キジに期待
265258:2006/01/29(日) 17:54:36 ID:+a9M8Rzt
あんなこと言ってたら、自分が仕事になってしまいました
本当にありがとうございました
266名無しさん@秘密の花園:2006/01/30(月) 08:49:32 ID:3cXd8vUw
>>260
頑張ってね。ゆかり×綾那はまだ原作であまり出てきてないので、SS読ませてもらうのが
すごく楽しみ。最強の攻めかつツンデレのゆかりと受けオーラ断トツの綾那だし。
267からかうハズが:2006/01/31(火) 02:13:16 ID:GfajonTk

  ゴ ー ー ー ン――――

 星取り終了の合図である、五つ目の鐘が鳴った。
「終わりましたね」
 私が横を歩く槙先輩に言うと、
「うん、そうね」
 と返ってきた。快勝の結果だと思うけど、表情が柔らかい。
 先日の敗戦――私が怪我した時の表情よりも、よっぽど良いと思う。
「勝つには勝ったけど、Aランクでもゆかりに頼ってるみたいで恥ずかしいわ」
「そういうこと、言わないって約束したじゃないですか」
「……はい。ごめんね」
 春に結束した時からたまに出る先輩の言葉が、少し嫌いで、少し嬉しい。
 私と綾那とのいきさつを気にして言ってるのか、素で言ってるのかは判らないけど。

 角を曲がった所で、綾那と刃友が争ってるのが目に入った。
「あ……」
 私の視線に気づいた槙先輩が声をあげた。
 視線の先で、刃友の子が肩を落として去っていく。先に行けとでも言われたのかしら。
 綾那は、彼女のことをどう思ってるのだろう?
 本当に疎ましいと思うなら、彼女は楔束を解消してしまうだろうに。
「……先輩、先に行っててくれますか?」
「ちょっと、ゆかり……」
 綾那の方へ向かおうとする私の肩を、先輩が掴んだ。
「その、私が口を出すことじゃないのは判ってるけど、でも……」
 ――っと。
「大丈夫ですよ」
 最後までは、言わせたくない。
268からかうハズが:2006/01/31(火) 02:14:14 ID:GfajonTk
 肩に置かれた先輩の手を取ってから、振り向いて言う。
「少し突っついてくるだけですから。
早く昇格してくれないと、私達がまた上に行っちゃうかもしれませんし」
「そ、そう? でも……」
 私の言葉にまごつく先輩。
 その姿を見て、何となく――

「先輩、もしかして妬いてくれてます?」

 ――からかいたくなった。
「……は、え、ちょ、ちょっとゆかりぃ……」
 あら。
 あっさり流されるかと思ったら、ちょっと予想外の反応。
 それが楽しかったから、私は先輩の手を取って引き寄せた。
「うわっ」
 すぐ目の前に来た先輩の顔は、私より少し高いところにある。
 掴んだ手は離さないで、私は身長差の分だけ視線を上げた。
「ゆ、ゆかり……?」
 笑ってるけど、ちょっと困ってそうな顔だった。
 それをもっと困らせたくて、私は言う。
「私は、先輩が私を刃友にしてくれたことを、ずっと嬉しく思ってますから。
だから先輩が綾那のことで妬いてるんだったら、
……私、これからは先輩のことだけを見るようにします」
269からかうハズが:2006/01/31(火) 02:15:02 ID:GfajonTk
「…………えーと、ゆ、ゆかり?
私、そういうつもりで言ったんじゃ、ない、はずなんだけ、ど……」
 じっと見つめる私の視線から逃れるように、先輩は目をそらした。
 でも後ろには下がらなかった。まだ目の前にある先輩の顔を、私はじっと見つめる。
 あー、困ってる困ってる。
 ……可愛すぎですよ、先輩。

 でも、……いや、だから、
「――冗談ですよ、先輩」
 私は一歩身を引きながら、先輩に言った。

「どうしたんですか? 星取りの結果、見に行きましょう。
綾那ももう行っちゃったみたいですし」
「はぇ、え、冗談って、ちょっと、……あ、こら待ちなさいゆかり!」
 一足先に歩き出した私の後ろから、声を荒げて先輩が追ってくる。
「あ、でも先輩――」

 先輩が純粋に私を心配してくれていると思うのは、私の思い上がりだろうか。
 思い上がりを元に先輩をからかったのだとしたら、私はなんて女だろう。
 どっちにしても、私は先輩の優しさに甘えちゃっている。ならばせめて――

「――先輩が刃友で嬉しいってのは、冗談じゃない、本当の気持ちですからね?」

 ――先輩と自分の気持ちに、嘘はつかないようにしよう。
270260:2006/01/31(火) 02:19:45 ID:GfajonTk
一体何が起きたんだろう。
綾那をいじめるゆかりを書こうとしたら、手が勝手に槙先輩を……!

槙先輩は一巻の頃はクールなのに、先月号の番外編が可愛すぎますね。
あと出番があっても『ゆかり』ばっか言ってる。
実はこの二人の間には、綾那とゆかり以上に複雑な何かがあるのでは――
と、書いてて思ってしまいました。
そのあたりは、いずれ本家で描いてほしいところです。
あ、後短くてスイマセン。
271名無しさん@秘密の花園:2006/01/31(火) 03:00:49 ID:9PwEYGb+
>>260
GJ!!!!なんか槙先輩がかわいく見えてきた。
272名無しさん@秘密の花園:2006/01/31(火) 03:11:01 ID:wCeTnlRV
(・∀・)イイヨイイヨー
槙×ゆかりのこれからの展開に期待大。
273名無しさん@秘密の花園:2006/01/31(火) 04:25:03 ID:uDFMbYoM
GJ!!槙先輩も良いな〜、と思いつつもゆかり×綾那にも期待しています!!
274名無しさん@秘密の花園:2006/01/31(火) 04:54:32 ID:pza4tudz
>>270
GJGJGJ!!!
275名無しさん@秘密の花園:2006/01/31(火) 09:30:21 ID:5NLFeHO/
GJ!
ゆかりんはホント「攻め」ですな。槙さんはゆかりが可愛くて仕方ないのかも。
あの事件の後、綾那よりゆかりが先に立ち直れたのは、槙さんのお陰が大きいでしょうね。
でも、余裕があればゆかり×綾那も書いていただければ。
ゆかり×綾那、って普通の会話でもエロく感じちゃうんですよ。2人ともお子チャマなんだけど。
276名無しさん@秘密の花園:2006/02/01(水) 00:09:01 ID:0vKDela2
槙先輩スキーの俺にはたまらん出来でした。
GJ!!
277名無しさん@秘密の花園:2006/02/01(水) 12:34:25 ID:oowzpsnK
時期的にバレンタインもののSSとか読みたいな。
実社会でも女子同士でチョコの受け渡しをするのは
そう珍しい事でもない気がするが(?)百合界なら尚の事だろう。
ただ、どっちが渡すものなのかがわからない。
いわゆる「受け」が「攻め」に渡すのか、或いはお互い交換するのか?
278名無しさん@秘密の花園:2006/02/01(水) 13:33:48 ID:DCoGioFF
じゅんじゅんは変な渡し方して夕歩たんにキモイと拒否られそう
ゆかりんは義理ですけどと前置きしなきゃ渡せなさそう
紗枝はいつも不意打ちで渡して反応楽しんでそう
279名無しさん@秘密の花園:2006/02/01(水) 16:08:20 ID:NsU40XKJ
会長は自分から要求する。
わんこは自分にリボンを巻いて、チョコを塗る。

それで引かれる。
280名無しさん@秘密の花園:2006/02/01(水) 17:28:09 ID:d+r0+X7t
>>277
個人的には受け→攻めがスキ
281名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 06:11:02 ID:1wiW/7hF
自分はチョコをいろんな人から貰って困っている綾那を見て
チクリチクリと嫌味を言ってしまうゆかりを想像した。
そんでさりげなく、ゆかり自身は無名で綾那の下駄箱にチョコを入れて・・・・。
282名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 08:50:47 ID:G1BLlQZn
>>280
基本はそうなんだろうけど、この漫画に関しては綾那、みかどんの総受けツートップが
そういうコトに鈍感そうだからな。
会長組とみずち組は受けの方から渡しそうだけど…
283名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 11:19:16 ID:Ejln+iDG
みかどんにチョコを渡そうとする人は全てファンクラブによって始末されるからなぁ
いのりんだけは大丈夫か
284名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 12:39:41 ID:Sn8G1LUp
>>283
ミカどん&いのりんはやっぱりファンクラブ公認の仲なのかな
それともいのりんは実はファンクラブのリーダーで、会員は逆らえないのかな
285いのりん日記:2006/02/02(木) 14:40:24 ID:AC1R3PW4
   ○月×日

 今日、ファンクラブのことで玲に、いかにも「お前が裏で糸引いてるんじゃないか」みたいなことを言われた。ホント、玲ってば失礼。
 私はもちろん、いかにも「裏で糸なんて引いてません」みたいな顔してごまかしておいた。
286名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 21:16:21 ID:5zVj83NS
雉猿はお互い頬染めながら渡すんだろうなあ。

「手作りだけど、キジっちゃんの舌に合わないかも……」
「何言ってるんだよ! 未知が作ってくれたのがマズいわけないだろう!?」

とか言っちゃうんだろうなあ。可愛いなあ……。
287名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 21:31:57 ID:EfW28TrB
>>286
萌えた
288名無しさん@秘密の花園:2006/02/02(木) 23:05:29 ID:VdF/vtoE
>>285
俺も今まではいのりんは腹黒お姉さんだと思ってたけど、
今月号のいのりんの笑顔を見て、腹黒キャラなんかじゃないってことを確信したよ
289名無しさん@秘密の花園:2006/02/03(金) 00:48:59 ID:+98gwR2W
>>283
そしてファンクラブが渡そうとする分は全ていのりんが処分する訳だな。
袋一杯に詰め込んだ大量の茶色い物体を、たまたま通り掛かったたんぽぽ園で
子供達に全部譲ってニヤリと微笑む優しいいのりん。
290贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:18:14 ID:3R4qhdfl
「ねえねえ染谷さん」
「はい?」
 私の前の席で、雑談に興じていた同級生の一人が話しかけてきた。
「染谷さんは誰にチョコ渡すの? やっぱ刃友の人?」
 チョコ? 渡す?
「あなた一体何を、…………あ」
「反応遅いよ。明日は十四日、つまり――」


「バレンタインデー、ねえ」
 教室での会話を適当にやり過ごして、私は寮へ帰る道を歩いていた。
 当たり前の話だけれど、三年の私は、天地に入ってから二度のバレンタインを経験している。
 友達同士で食べ比べたり、刃友に渡すというのは実際に見たことがある。
 聞いた話だと、憧れの上級生にチョコを渡す子もいるらしい。
 白服クラスは一般生からも大量に貰っている、とかなんとか。
 ――綾那とは、そういうことはしなかったわね。
 お互いに、柄でもないと言い合って結局何もしなかったはず。
 でも今の私の刃友は、綾那ではなく、
「槙先輩……」
 中等部と高等部に分かれてしまっている私たちは、星取りがないとなかなか接点が生まれない。
 ――そのわりには結構一緒にいるのよね……。
 考えてみれば、この一年足らずの間に先輩といた時間は決して短くない。むしろ長いかもしれない。
 放課後なんか、私から迎えに行く時もあれば先輩が来てくれることもある。
 最初は『星取りに備えるため』だったのに、いつの間にかそれが当たり前になっていた。
 ――普段のお礼と思えば、そう変な話じゃないわよね。みんなやってることだし……。
 元より先輩は、私にとって感謝しきれないほどの恩人だ。
 寮に戻って手持ちを確認したら、まずは購買に行ってみようか。
291贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:18:49 ID:3R4qhdfl

 ――結局、昨日は学園の外の菓子屋まで足を伸ばしてしまった。
 購買のチョコが売り切れていたからなのだけれども、先輩はどう思うだろう。
 鞄にラッピング済みのチョコを入れたまま、昼休みまで時間が過ぎた。
 どことなくうわついて和気藹々とした周りの雰囲気。
 例年通り、昼食のついでにチョコを食べあう姿もちらほらと見られる。
 でも私はすぐに教室を出て、高等部の校舎へと向かった。


「あ、染谷さんじゃない。久しぶりー」
 高等部内、一年の教室に向かう途中で声を掛けられた。
 誰かと思えば、槙先輩のルームメイトの先輩だった。何度か顔を合わせたことがある。
「お久しぶりです。あの、槙先輩は教室にいますか?」
「やっぱり槙に用事? そうでもなきゃわざわざ来ないよねえ」
 私を見ながら顔をニヤつかせる先輩。
 今日という日の意味を察して、からかっているのかもしれない。
「ええ、用事です。それで槙先輩は……」
 と、先輩は表情をちょっと真剣なものに変えて、口を開いた。

「実はね、あいつ今日授業出てないのよ」

「……それは、どういうことですか?」
 驚きを押し殺して、私は尋ねた。
「それがちょっと変な感じでね。
私が起こそうとしても、ずっと布団かぶってウンウン唸ってるのよ。
枕に顔うずめたり、何度も寝返り打ったりして、奇行?って言うのかなアレ。
挙句の果てに『今日は休む』だからね。マジメ人間のあいつがよ?
でも、病気じゃないっぽいのよねえ。体温計見せてきたし」
 先輩はそこで一度言葉を切った。そして何か考え込む素振りをして、
「……あっ、そうだ思い出した!
そういやあいつ、前にも一度同じ状態になったことがあったわ」
292贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:19:32 ID:3R4qhdfl
 私は二度目の驚きを押さえ込んで聞いた。
「じゃあ、今日はそれの二回目ってことですか? でも、病気じゃないんですよね?」
「うん、確かあの時もそうだったはずよ。
一週間か二週間か、授業には出るけどボーっとしてて、寮では布団の中でブツブツうめいてね。
去年の春ごろだったと思うんだけど、えーと何でああなったんだっけ……」
 先輩が正確な記憶を思い出そうとしてくれているのは、見れば判る。
 でも、私はそれを待っていられなかった。
「先輩、どうもありがとうございました。私寮の方へ行ってみますね」
「あ、そお? もしいたら私の代わりに説教しといてちょうだいね。
突然おかしくなってんじゃねー! ってさ」
 先輩の言葉に愛想笑いを返し、私は早足で寮へ向かった。


 ドンドンドンと、無人の寮の廊下にノックの音が響く。
「槙先輩!? 私です、ゆかりです!」
『ええっ!? ゆ、ゆゆかゆかゆかゆゆかり!?』
 ドアの内から聞こえた声は、なんだか妙に慌てていた。
「? ……入りますよ」
『え、あ、ちょ、うわぁーーーッ!!』
 先輩のわめき声を無視して、私は扉を開けた。
 二段ベッドの下の段、布団が丸く膨らんでいる。
「……槙先輩」
 ビクッ、と布団が動いたように見えた。
 私は、はぁっと溜め息を一つついて、
「聞きましたよ。朝からゴネて外に出なかったそうじゃないですか。何かあったんですか?」
「や、あのねゆかり、そのー……」
「まず布団から出てください」
「……はい……」
293贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:20:09 ID:3R4qhdfl
 先輩は、もぞもぞという擬音がぴったりの鈍い動きで布団から出て、体を起こした。
「……何でこっちを見ないんですか」
 また先輩の体が震えた……ような気がした。
「あ、あのね、ゆかり……」
「何ですか」
「その、ね? ……まさかゆかりが直接来るなんて思ってなかったから、心の準備とか……」
「だから、一体何ですか?」
「うぅ……」
 先輩の口から、どうしようかしら、今日のゆかり機嫌悪そうだしなあ、などと声が漏れている。
 ――誰のせいで、私がこんな風になってると思うんですか!?
 心の中でだけ反論して、私は先輩を静かに見つめる。
 やがて先輩は、意を決した様子で
「ゆかり、こっちに来てちょうだい」
 と私を呼び寄せた。
 ベッドの脇にかがみこむと、先輩の体の影に小さな包みが置いてあるのが見えた。
 先輩はその包みを手に取ると、私の顔を見て、

「……これ、バレンタインのチョコレートなの。受け取ってもらえるかしら」
294贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:20:56 ID:3R4qhdfl
「…………先輩、まさかそれだけのために今まで散々悩んでいたとか言いませんよね?」
「えっ、と……。ゆかり、もしかしてこういうの嫌いだったかな……?」
 本気で顔を曇らせ始める先輩。私はまた溜め息をついて、バッグへと手を伸ばす。
「しょ、正直に言ってくれていいのよ? 迷惑だって言うなら、私自分で食べ――」

「嬉しいに決まってるじゃないですか」

 えっ? と疑問符を浮かべる先輩に、私はバッグから取り出した物を差し出した。
「これ、私から先輩へのチョコレートです。受け取ってくれますよね?」
 自然な微笑み――は、出来てると思う。
 さっきまでのイライラとした気持ちは、もうどこかへ消えてしまったことだし、
先輩の気持ちを知った私の顔は、絶対にほころんでいるはずだ。
「ありがとう、ゆかり。でも私なんかが貰っていいのかしら……」
 ……呆れた。この人は、まだそんなことを言う。
 私はチョコを持った手を少し引いて、
「先輩に貰う資格が無かったら、私だって資格が無いことになりますよ?
先輩が受け取ってくれないと、私もそのチョコを気持ちよく受け取れません」
「確かにそうね。ごめんねゆかり、変なこと言っちゃって」
「今日の槙先輩はずっと変ですから、別に気にしません」
 そう言って、私は先輩へとチョコを差し出した。
 先輩はそれを左手で受け取り、右手で私へとチョコを差し出す。
 私も左手で受け取って、やっと、私と先輩は互いにチョコレートを渡し終えた。
295贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:21:39 ID:3R4qhdfl


「ところで先輩、ちょっと聞きたいんですが」
 何? と先輩が答えたので、私はちょっと前からの疑問を述べた。
「去年の春ごろにも一度、今日みたくおかしくなった時期があるって聞いたんですけど、
一体何があったんですか?」
「え、――って、ええぇっ!? それどこで聞、ってそうか、あの子しかいないわよね……」
 どこでも何も、知っているのは一人しかいない。
 先輩はあっさりそれに思い至ったようで、また変に悩み始めそうな雰囲気になった。
「私に話せないようなことなら、言わなくて結構ですから」
「それは違うわ。話せないことなんかじゃないのよ? ああでもちょっと恥ずかしいかも……」
「言わないならチョコ返してもらいますよ」
「そんなっ!? 待ってゆかり! 言う、言うから!!」
 先輩が自分で恥ずかしいなんて言うから、思わず卑怯な手を使ってしまった。
 先輩はなお逡巡した後で、ゆっくりと口を開いた。

「それって、私がゆかりに楔束を持ちかけた頃のことだと思うの。
あの時は、迷惑じゃないか、余計な御世話なんじゃないかって、私直前まで悩んで――」

 先輩が続きを喋ってるけれど、私の耳には入ってこない。
 びっくりした。まさか先輩が、私を誘うのにそんなに悩んでいただなんて。
 今でもはっきりと憶えている。
 夕暮れの中、まだ周囲から敬遠されがちだった私に話しかけてきた先輩のことを。
 さらっと楔束を持ちかけ、さらっと去っていった。
 『考えておいてくれると嬉しいわ』なんて、あっさり言って。

「――それで、ゆかりもなかなか返事くれなかったでしょう?
その間、ずっと授業も身に入らないし、寮に戻ったら戻ったで色々と不安になるし――」

 ――そうか、先輩も悩んでいたんだ。きっと私以上に。
 ――刃友になる前からもう、真剣に私のことを考えてくれていた……。
296贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:23:10 ID:3R4qhdfl
「今回は、買うまでは悩まなかったんだけど当日になったら急に不安になっちゃったのよ。
それで、――きゃっ!」
 私は、ベッドに上がって先輩に抱きついた。
 先輩の悲鳴を聞きながら、ベッドへと一緒に倒れこむ。
「やだ、どうしたのよゆかり……」
 横になっても離れない私の顔を、先輩が覗き込んでくる。
 私は片手を先輩の頬に当てながら、体を動かし互いの顔を近づけた。
「ゆかり、ちょっと――」
 戸惑う先輩の唇に、軽く口付けて黙らせた。
 と言っても、ほんの数秒で私の方から離れてしまったのだけれど。
「……どうしちゃったのゆかり? 今日はその、すごい、積極的……」
 口元を押さえながら、顔を赤くして先輩が言う。
 私も自分の顔の熱を意識しながら、口を開いた。
「バレンタインって、チョコに限らず『贈り物』をする日なんだそうです。
それで……」
 ああ、ますます顔が熱くなる。でも、もう言わずにはいられない。

「槙先輩から、その、過去の想いを貰ったから、私は、今の私の想いを贈りたいんです。
ホワイトデーまでなんか待てません……」
297贈り物はチョコレートと……:2006/02/03(金) 03:23:42 ID:3R4qhdfl

 言ってしまった。ホワイトデーを待たずに三倍返しだ。
 私は顎を引いて、先輩の顔から目をそらしてしまった。
 先輩の表情は気になるけれども、それ以上に恥ずかしい。
 自分の鼓動の音だけが耳に入ってくる。
 ふと気づけば、先輩が体を起こしていた。
 横を向いていた私の肩を押さえ、仰向けにする。
 ベッドの上の段を見る前に、もう先輩の顔が私の上にあった。

「ありがとう、ゆかり」

 目を閉じると、今度は先輩の方から口付けてくれた。
 唇が離れた後、先輩の手が私の右目の下をぬぐった。
「……ゆかり、泣いてるの?」
 先輩の指の感触で、私は初めて自分が涙を流していることに気が付いた。
 でも、気持ちは全然沈んでいない。何故なら――

「嬉し泣きに、決まってるじゃないですか。槙先輩……」
298260:2006/02/03(金) 03:28:12 ID:3R4qhdfl
 順→綾那→ゆかり×槙
     ↑
    はやて

こんなコメディ物を書こうとしたら、何故か手が(ry
14日まで取っておこうにも、こっぱずかしすぎる出来なので落としてしまいました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
299名無しさん@秘密の花園:2006/02/03(金) 09:24:07 ID:+98gwR2W
やーもう、風呂上がりなのに湯立っちゃうー
GJ!!
300名無しさん@秘密の花園:2006/02/03(金) 20:13:00 ID:B63AORtR
GJ! 可愛くてよかった。

ただ、298みたいなレスは勘弁してください。どうしても綾那や順絡みの話を
書いて欲しかった、ってなっちゃいますから。
スッゴク文章もお話も巧いと思いますので、堂々と槙×ゆかりでこれからも
書いていただければありがたいです。期待してます。
301名無しさん@秘密の花園:2006/02/04(土) 00:10:28 ID:1UV9C3AI
でも、順綾はいつでもOKなので気が向いたら書いてくださいw
302名無しさん@秘密の花園:2006/02/04(土) 00:36:33 ID:qMY1Nrti
俺もちょっと、言い訳みたいなあとがきはなくていいとオモタ
せっかくいい話書いているんだし
303260:2006/02/04(土) 23:23:28 ID:kaXkYCt3
余計なことを書いてしまったようで、申し訳ないです。
もし次があったら、黙って投下したいと思います……。
304名無しさん@秘密の花園:2006/02/05(日) 00:29:38 ID:cOw5Uq8V
元気出せ最萌王
305名無しさん@秘密の花園:2006/02/05(日) 00:57:28 ID:jEYLcjKP
そういや、ヤドリギの人こないね・・・・続きが楽しみなのに(´・ω・`)
306名無しさん@秘密の花園:2006/02/05(日) 23:30:58 ID:jEYLcjKP
マリ見て時代からお気に入りだったサイトが、順綾那の絵を描いていてびっくりしたw
そこのサイトは元々順夕歩が主で、綾那好きの自分としては合わなかったんだけど
もう数ヶ月行っていなかったのに今朝久々行って見たら、TOPの絵がwww
意外と順綾那が好きな人っているのかな?
307名無しさん@秘密の花園:2006/02/06(月) 01:53:44 ID:Nu654MHn
楽しんだのもつかの間、もう順綾那のTOPが変更されていたよ・・・・_/ ̄|○ il||li
早すぎwあと一日は待っていて欲しかった(;´Д⊂
308名無しさん@秘密の花園:2006/02/06(月) 09:41:18 ID:C/uMmOol
俺は逆に順綾だけは苦手なんだよなぁ。
309名無しさん@秘密の花園:2006/02/06(月) 13:20:40 ID:hxmSYAWl
>>306
漏れもそのサイト見たよ。ちょっとエチーな雰囲気の絵だったよね。目隠ししたりして。
ファンサイトなんか見ても、最近確かに、少しずつだけど、順綾が増えてきてると思う。
漏れも綾那スキー(&総受け派)で、特に順綾、ゆか綾(超マイナー的には静綾、夕綾)が大好きだからうれしい傾向だわ。
綾那は1人だとクールでボーイッシュな感じだけど、誰か(特に順かゆかり)と絡むとエロくなる。そこがいい。
順夕が萌えならば、順綾はエロカワイイ、そんな感じ。
順綾は他のCPと比べて深い過去の因縁がない分、普通に友達の少女同士が気軽にじゃれ合ってる感じが楽しい。
310名無しさん@秘密の花園:2006/02/06(月) 19:56:10 ID:Re4dGu9A
>>ファンサイトなんか見ても、最近確かに、少しずつだけど、順綾が増えてきてると思う。

順綾はあんまりいないと思ってたら
最近徐々に増えつつあたったんだなぁ……

漏れとしてはここでゆかり関係ssが見えて大満足なんだが
311名無しさん@秘密の花園:2006/02/06(月) 22:09:42 ID:dUUx4Rbw
おまいら、そういう良サイトはどうやって見つけてきてるの?
ちょっと検索のコツを教えてくれないか?この通り!orz(ドゲザアアア)
312名無しさん@秘密の花園:2006/02/06(月) 23:49:03 ID:tnSVYYiA
>>311
自分は同盟からサイトに飛んで、そこのリンクからまた色々飛んでみたりしてるよ。
他力本願万歳なカンジ。
313名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 02:44:14 ID:plOBqkGu
自分は何故だか、順綾はとても好きなんだけど
順夕歩は苦手・・・・・。
夕歩自体は嫌いじゃないんだけど、順とくっつくって事になると無理だ・・・。
ほとんどのサイトが順夕歩ばっかり書いているから、ある意味辛い(´・ω・`)
314名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 03:18:22 ID:/jAm2CnH
>>313
う〜ん…順夕歩は本編でガチすぎるからな〜
順綾はどつき漫才みたいなノリならいいけど、ガチだとちょっと引くかも(お互いに別に本命っぽい相手がいるし…)
私的には順と綾那は悪友兼ライバルって言う関係であって欲しい。

綾那「あたりまえだっ!!じゃないとあんたからは星奪れんっ!!」
順「あんたが信じろってゆーなら…信じる」

―この辺が萌えっていうか燃え…
315名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 03:57:41 ID:plOBqkGu
何というか、順と夕歩の関係って兄弟みたいな感じだから
ガチだと近親相姦みたいな感じで拒否るんだろうな〜、と自己解析した。
実際に姉妹が居ると、どうも二次元でも近親相姦は拒否してしまう・・・・。
316名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 08:06:56 ID:/ye7rkG1
拒否してしまう気持ちは分かる……。
が、しかしあの二人自身は他人として育ってるし、姉妹としての自覚はないだろう。
ということで漏れは順夕歩に萌えてしまうわけだが。
317名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 10:25:34 ID:G3xkqUrP
というかただの好みで苦手のなんのとうぜーんだよ
318名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 10:46:29 ID:thGtkyps
苦手よりも好きを主張しあった方が平和ではあるね

しかし叩きあいしてる雰囲気はあまりない気がしてたので
うぜーとか、毒を吐くほどでもないよ
落ち着こうぜ
319名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 12:00:41 ID:tGLCTPkH
この流れであえて吐いてみる



ギャグで順が誘い受けして、それに対して綾那が何か(ツッコミでも釘バットでもお仕置きでも)するのが好きだ
それでうっかり押し倒すような形になってお互い「あれ…?」みたいになったりする綾順が好きだ

携帯から妄想垂れ流してゴメンorz
320名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 13:30:24 ID:idbfMdb6
>>319
綾那は攻め手がないからなあ。怒鳴ったり、ドツいたり、バット振り回したりはもちろん「攻め」ではないし。
ただ、順の攻めが誘い受けっぽいってのはわかるな。綾那だけじゃなく夕歩に対してもそんな感じだし。
まあ、順がリードしてあげないと、オコチャマの綾那も夕歩も何もできないだろうとは思うけど。

もし、職人さんで1,2年の頃の綾那、順、ゆかりの話が書ける人がいらっしゃたら、ぜひともお願いします。
特に順とゆかりのカラミがみたい。気のいい順がゆかりのことはえらく嫌ってるみたいなんで、なぜかな?と。
もちろんあの事件のことはあるだろうけど、それだけじゃない気がして。綾那が「夕歩」と呼んでるように
ルームメイトの刃友(しかも2年間)で同級生なら「ゆかり」が普通だと思うし。しかも、順だし。長文、スマソ。
321名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 16:11:10 ID:tIFpgrce
まあ俺はあんまり百合妄想はないな、この作品は

はやてと綾那の二人が好き。二人の仲が気になる
この後連載がすすんで、綾那が「はやて」って呼ぶようになって
はやてにいろんな悩みを伝えられるくらい素直になって
「お前は最高の刃友で、親友だ」って固く手をつないで
「はやての腕の中、あったかい」って甘えて、その胸で泣いて
「ずっと一緒だよ」って指輪を交換しあってくれれば、満足
322名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 16:50:18 ID:4T3kI+M6
>「ずっと一緒だよ」って指輪を交換しあってくれれば、満足

おもっきしソッチ系じゃないっスか!!!
323名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 17:34:13 ID:dw1vUX4V
ワラタ
324名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 21:01:57 ID:2jULd1/x
今ふと思ったんだが、浅倉社長とちはるさんがラブラブになれば、全てうまくいく気がすんだがどうかね?
325名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 21:15:22 ID:27k2b8pQ
>324
現地視察に現れた社長に、「私が体でお返ししますっ……」とのたまうちはるさん。
風俗にでも売り飛ばすか、と考えていた社長は、そのわずかな隙に園の一室へ強制移動。
逃げようとするもあえなくちはるさんに美味しくいただかれ、
さらにそのテクにより骨抜きにされ立場逆転してしまう……。

こうですか? わかりません!
326名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 21:40:29 ID:0j2XsZwg
>>325
ちはるさんスゲーww
327名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 21:47:38 ID:2jULd1/x
>>325
その後よ、その後

やがてたんぽぽ園とちはるさんにメロメロになった浅倉社長は、孤児院の経営にも関わることになる
しかしいかんせん保父さんがみんな、アレな人、のため中々うまくいかない
そこに白服となった黒鉄はやてが、天地学園幼年部に組み込む話を持ってくる
引退した社長はちはるさんとランデヴー。たんぽぽ園園長は、やはり白服になった浅倉みずち

やがて時はめぐり、はやてと綾那はたんぽぽ園の保母さんに
「あたし達の子供達だよ! 」
とはしゃぐはやてに、頬を染めて綾那
「はやて、これ」
「え? 何、これ」

「ずっと一緒だよ、はやて」
って指輪を交換しあってくれれば、満足

328名無しさん@秘密の花園:2006/02/07(火) 22:00:34 ID:fCMFYB31
>>325 >>327
藻舞らに惚れた
329名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 00:21:40 ID:j26Ucxat
どうも最近年取ったせいか、刃友がいないせいか
「二人(みんな)でずっと幸せに暮らしました」
って展開に涙もろくなっているのよ
そんな展開が許されそうなのは、はやてと綾那な気がするんだ

順と夕歩もそうなんだけれど、あっちは主従愛&姉妹愛交じりの、一輝×瞬みたいなイメージがあるんだ

……年寄りでスマン
330名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 06:32:03 ID:ExAOIKSR
某所の日記にこの前の順綾那の絵の続きが載ってめちゃ嬉しかった!!
331名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 10:05:50 ID:QQzr/MRX
そんな事書かれたら見たくて見たくて仕方なくなるじゃないか。
サイトの名前とか行き方とか、なんか教えてくれよ。
332名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 10:18:01 ID:I3/4dHPU
個人サイトの名前を書けるわけがないだろう。
探してみれ。
333名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 10:36:19 ID:QQzr/MRX
その探し方が わかんないんです!(><;)
なんかヒントくれ。
334名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 10:47:03 ID:I3/4dHPU
探し方なんてこのスレの中にいくらでも書いてある。
335名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 11:37:57 ID:340ZoZln
だから個人サイトの話題は避けろってのに…
感想なんてここに書かないで、本人に直接伝えなよ
もしくはチラシの裏にどうぞ。
あと探し方教えてさんははっきり言って全然探す努力してねえ
336名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 13:21:56 ID:+O5+3rSz
教えてクンはgoogleからアク禁くらってるんだよ
337名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 13:27:55 ID:6/sBGfOR
ていうかもう消されてるよー。
338名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 15:25:16 ID:ExAOIKSR
まじだ・・・・・・消すの早すぎだよ(;´Д⊂
この人ってもしかして順綾那嫌いなのかな?
339名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 15:42:52 ID:ExAOIKSR
妄想してみた

実はやっぱり綾那は眼鏡を外した方が強くて、
順があの時はやっぱりあの時の綾那は全力じゃなかったと知る。
ソレが原因で「やっぱり、アレは本気じゃなかったんだね・・・・」となるが
綾那は「違う・・・これは!!」順「もう良い!綾那なんか・・・・綾那なんか・・・知らない・・・・・。」
と半分絶交状態に・・・。


って、なんか綾那と順の会話が「一夜限りだけ関係を持った男女の会話」に思えてきた・・・。
それ以前に、順だったらあの時眼鏡を外さなかったのには何か理由があったんだろうな、って察知できるし
喧嘩とかはしないか・・・・。
と、いうか本当に綾那は眼鏡を外したら強くなるのか?ド近眼だと弱くなる悪寒が・・・・・。
340名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 15:44:00 ID:340ZoZln
ここで騒がれたから消したとか思わないのか?
もうちょっと考えてやれよ…
341名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 16:41:56 ID:R3sMaGp3
騒がれたから消す、ってのもよくわからんのだが。
元々他人に見せる為のものなんじゃないの?
その辺の事情を誰か教えてくれると有り難い。
342名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 16:58:10 ID:/v864eSP
340の可能性もあるし
341の言うことも正しい
結局誰が得して誰が損をするのかを考えると
330が一番悪い
343名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 17:12:59 ID:340ZoZln
誰かに見せるためのものでもあるけど、
誰かに自分の場所ではない所で、
色々言われるために上げてるわけでもないと思うんだ。
俺の意見も推測にすぎないから絶対とは言えないが
基本個人で楽しんでるんだろうから
そっと見るだけに留めてやるのも
閲覧者の礼儀なんじゃないか?
344名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 18:33:50 ID:2dU0frtD
ここが2chだって事を忘れないでおいた方がいいな。
漏れサイトアド2chにコピペされたことあるけど、好意があっても怖いよ。
345名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 18:50:47 ID:nw+QbdLE
本人そっちのけでああだこうだ言われたり、
「順綾那嫌いなのかな?」とか(嫌いなカプの絵なんか描くか?)
「消すの早すぎだよ(;´Д⊂ 」とか(いつ上げようが下げようが
個人の自由じゃね?)好き勝手にグチられたら、さすがに面白くないんじゃ?

344の言うようにサイトアドをコピペなんてもっての他だが、かといって330の
ように「某所の日記」みたいにぼかして書くと331みたいなのが沸くし。
個人サイトの話題は気を付けれ。そこが好きなサイトなら尚更な
(嫌いなサイトなら晒していいと言っているわけではない。念のため)
346名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 21:13:08 ID:fJ5SvK1V
というか某所とだけ書くからいかんよ
普通は検索のヒントとか出す
でなきゃさらにアホが出るからな、今回みたいに
347名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 21:55:35 ID:340ZoZln
それはさすがに釣りっぽいよ…
348名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 21:57:21 ID:J/LnU/8v
ヒントなんて出さなくてもググれはすぐ見つかる。
見つける努力くらいしろ。
サイト閉鎖とかになったら元も子もないじゃないか。
349名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 22:24:45 ID:fJ5SvK1V
俺は別に見たいとも思ってない

話題に出すなら後腐れないような出し方にしろと言ってるだけです
350名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 22:32:39 ID:c7eceU/M
いつまでも引きずっていい話題じゃないな。そこは各々の判断と良心にまかせるしかないだろ。好きサイトなら迷惑をかける可能性があることはしないだろうしな

というわけで夕歩タンかわいいょ夕歩タン
351名無しさん@秘密の花園:2006/02/08(水) 23:51:11 ID:R3sMaGp3
紗枝美しいよ紗枝。
というわけで紗枝玲のベタ甘なのキボン
352名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 00:16:40 ID:EUFP5/b0
ヤドリギの人こないね・・・・。
353名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 00:20:22 ID:zxXZI4pu
紗枝玲って順綾やゆか綾に通じるところがあるよね。
微妙なSっ気とかエロっ気とか、手玉に取っちゃうところとか。
しかし玲が綾那と違うのは、総受けではなく紗枝限定受け。しかも刃友。
つまり互いにそーゆー関係であることを望んじゃってるとしたらこりゃもうワンダホー。
甘いっつーかエロいよね。露骨じゃない、滲み出るエロスってか。

何が言いたいかってーと、思わず妄想膨らんだけど
実際書くにはイメージ的に難しすぎるよね? ってことで一つ。
354名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 00:47:17 ID:I1m1MLc3
本当にすまない
今週中に投下します
待ってない人も、お目汚しすみません
355名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 00:47:59 ID:I1m1MLc3
>>352
本当にすまない
今週中に投下します
待ってない人も、お目汚しすみません
356名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 00:57:19 ID:1ZEpAKE+
おk、猿雉は気合い入れてね
357名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 01:02:44 ID:EUFP5/b0
>>355
急かしておいてなんだけど、頑張ってくれ。
応援してる。
358名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 02:40:43 ID:EUFP5/b0
そういやここって、ふたなりは邪道 だからふたSSって落としたらダメなんかなあ?と疑問に思ったんだが。
359名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 04:11:42 ID:+g8YjuUy
スレが荒れない自信があるならどうぞ。
誰もが納得するふたなりSSだってあってもおかしくはないからね。

上のサイト晒しもそうだけど、そういうことは
なにかあったときに自力で収拾つけられるかどうかで
判断してよ。
360名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 05:13:21 ID:Yiq0BVei
>>358
女子が女子を責める時は―
棒に頼らず己の技で勝負すべし!!!
361名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 05:48:50 ID:EUFP5/b0
>>359
なるほど。んじゃあ、落とすのやめておくよ。
SS書くのは初めてだから上手く書ける自信は無いし
お前のせいでスレが荒れた、みたいな事を言われるのも面倒だし。
主人公の名前を変えてふたなり専用のスレにでも投下するわ。
アドバイス、どうもありがとう。
362名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 10:28:02 ID:EeQzBXjQ
>>360
林家先生(のキャラ)の名言だよな
363名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 10:37:29 ID:+bHxDUGa
つばさの殴りっぷりと、るいの殴られっぷりに激しく笑った >ウルソ
364名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 10:54:21 ID:xq2wLvbh
見目麗しい美女&美少女キャラが豪快に殴られて
だらだらと激しく流血するのは、林家先生だけの持ち味だな…
365名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 12:23:02 ID:Q+Cyonsm
じゃあ俺は>>363の勘違いっぷりに激しく笑った >雪だから
366名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 23:22:09 ID:B9txubWT
最近ちょくちょく
綾夕、夕綾、玲静を見かける
367名無しさん@秘密の花園:2006/02/09(木) 23:58:14 ID:zxXZI4pu
>綾夕
マジディスカ!? 想像できねえ……。
368名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 00:35:07 ID:AuEVR2Ds
>綾夕
夕歩が順以外を相手にするのが想像つかないし
同じくらいにノンケで総受けの綾那が攻めにまわるのも想像つかないな…
369名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 01:06:16 ID:Ncg4NqFY
>綾夕
「助けて綾那」で俺は3杯くらいいけるぜ!
370名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 01:45:58 ID:zfx8dwu9
夕歩が順自慢(?)をしたときの
綾那がものっそい受け受けしい希ガス

371名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 02:26:48 ID:+csNXK5r
>>370
自分も2人とも順が好きってことを前提にそれはあると思うのよ。夕歩の無意識攻めって感じで。
>>368
それも同意。ドラマCDで、もかちゃんやワンコといった下級生に攻められても違和感全くなしの綾那だし。

ただ綾那は百合的にはほぼノンケなんだけど、お姉さん的な人は好きなんじゃないかな、とも思ってる。
372名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 06:19:37 ID:2+ywX+Bu
と、いうか綾那が攻めになれるカップリングは存在するのだろうか?
373名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 08:20:11 ID:Yw3O3arM
綾クロ?
374名無しさん@秘密の花園:2006/02/10(金) 18:37:07 ID:ckYAYEiG
>>366
ってか玲静なんて今月号で初めて絡んだだけやん…
すげー妄想力だなw
375名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 02:00:49 ID:FYpfPPNr
宝鬼のこともたまには思い出してあげて下さい…
376名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 08:23:35 ID:PS+u64IK
>>373
俺も綾クロちょっと見たいかも。
なんていうか「こいつめ、いつもバカばかりしやがって。こうしてやる」
的な流れで綾那がいつもよりやや本気且つエロスな制裁を加えようとしたところ
予想に反し、しおらしくなってしまったクロを目の当たりにして
思わず「年下萌えー!」ってなっちゃう、みたいな。
377名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 12:02:15 ID:vmxXkscP
そうか?俺は逆だな
綾那は剣の先輩として、教えてやれる事はたくさんある。けれど、社交性があってムードメーカーのはやてに学ばされる事もたくさんあると思う
恋愛は人間出来てる方がリードするからな

とりあえず、クロと呼んでいた少女が、本当はクロと呼ばれない少女だったと気付いたときの綾那が見物だ
378名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 13:40:17 ID:BER2XOux
一見能天気で何も考えてないように見えるけど、実は結構人の心の機微に
通じているハヤテに色々される綾那とか
379名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 15:02:51 ID:5V1OpIFU
とにかく、年下萌え、になるかはクロ次第か。そこで綾那が「姉さん萌え」属性であると考える傍証を。
・幼いときから、「おませ」であったろうゆかりにベッタリ。
・事件後、厭世的になっても「姉御肌」な順にだけは心を開いてた。
・出不精なのにたんぽぽ園にはマメに付いて行くのは、ちはるさんに会うため(綾那ちゃんと呼んでくれる唯一の存在)
・「無道さん」と呼ばれるくらいだからほとんど接点が無いだろう槙さんのことを「槙さん」と呼ぶ。(「上条さん」が普通)
・宮本さんに助けられた時、強がってみせる。(普段なら愛想なく「すいません」で終わり)
・年下には全く興味なし。もかチャン達のを見てたのは、はやてや順のお付き合い。

かなり強引な推論だけど。人対応があまり得意そうじゃないので、ゆかりみたいにリードしてくれる人がいいんだろうね。
たんぽぽ園の子ども達と接してるせいか、はやてには>>378な部分があるし、結構しっかりしてるからチャンスはあるかも。
380名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 16:33:42 ID:ql38Dktt
>379
ちは綾……そうかその手があったか……。
しかしバレンタイン合わせで書きたいのもあるしなあ……。
381名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 17:42:46 ID:J6TFqmmz
>>380
>>バレンタイン合わせで書きたいの

詳しく
382名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 18:27:01 ID:ql38Dktt
>381
や、そりゃあ当日までのお楽しみってことで一つ。
383名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 19:17:35 ID:J6TFqmmz
>>382
おけ、把握した
待ってる(´∀`)
384チェリー (1):2006/02/11(土) 19:41:20 ID:lqkmWB+q
まだ秋だけど冬もそんなに遠くはなかった
視界を埋めるのは順の背中
耳を埋めるのは風とペダルを漕ぐ音
鼻はつんと冷えている
…それにしてもどこに向かってるんだろう
キイキイキイ
ゆたりゆたりと自転車を漕ぐ順の後ろ姿を見て、夕歩はそう思った
385チェリー (2):2006/02/11(土) 19:41:58 ID:lqkmWB+q
始まりは、夕歩があたしの買い物に付いて来ると言い出した事
ただでさえ再発が発覚して、明日に仕合いを控えてる身なのに
そう諭したけれど全く効果はなかったようで、夕歩は頑なに付いて行こうとした
最初は反対の一辺倒だったけれど、1時間後には自転車の後ろに夕歩を乗せている自分がいた
それでいいのかお庭番。そう自分でもツッコみを入れつつ驚いていた
多分、夕歩も意識してるんだ
夕歩はあたしの買い物の目的も場所も聞かなかった
多分、同じように意識してるんだ
思わず頬が緩んできてしまう
「……順、着替え終わった?」
「あ、はいっ!ただいま!」
無駄に気合の入った返事。カバンをもった私服姿の夕歩が現れる
明日を境にあたし達は離れ離れの場所で生活を送る
きっと何かしようと思ったんだ
何かしておけば、何かしたって思える
しなければそれまで
買い物だろうがカラオケだろうが食事だろうが何でもいい
何かやっておきたい
2人で
386チェリー (3):2006/02/11(土) 19:42:38 ID:lqkmWB+q
「……ねえ順、まだ着かないの?」
「んー?」
ゆたりゆたり
スピードが更に遅くなった気がした。そもそも順に目的地なんてなかったんじゃないかと思う
風景はといえば町ではなくどちらかというと住宅街。訝しげに見てくる私に気付いて
「あ、ね。ちょっと寄り道していいかな?」
いかにも今思い付きましたという口調でそう言う
「いいけど…。でもどこで…?」
「ここで」
ここって
順の言う「ここ」はただの公園。ブランコとベンチがあるだけの簡素過ぎる公園
時間が時間なので誰もいない
「…ここで何するの」
「いいじゃん。ちょっと休憩休憩」
自転車を止めると、緩い坂になった草原の方へ向かう
なかなか広い。向こうは川になっていた。私は順の後に付いて行く
「んー。誰もいないね」
「そりゃ平日の朝だしね」
「それもそうか」
そう自分で言って、サボりであることを自覚する。今、学園では授業が始まっている頃だろう
さっきとは違うゆるゆるとした風が頬に当たる。かさかさ、と枯れ葉の音がする
順は川沿いに歩き始める。私もその横でゆたりゆたりと歩く。無言で、順の横を歩く
こんなこと、今まで一度もなかったな。何だか不自然な感じがしたけれど違和感はなかった
手が冷たい。小さくはあっと息をかける
順はこちらをちらりと見たようだったけれど、すぐに川の方に目を向けた
こういうところでさ
追いかけっことかしたよね
なぜか他愛のない話をするのが憚られて、頭の中でそれだけ思う
木刀を持ってきてチャンバラごっこなんてしたこともあったな
「あ」
387チェリー (4):2006/02/11(土) 19:43:12 ID:lqkmWB+q
「ん?どしたの夕歩」
急に思い出したように声を出した夕歩にあたしは問い掛けた
「…ここならやりやすいよね」
「へ?」
「昨日言ってたよね。一応と思って持ってきたけど…良かった」
「え?」
「修行」
持っていたバッグを何やらごそごそ。それが妙に大きいとは思っていたけど
まさか本当にそうだとはいや夕歩だったら大いにあり得るとは思ってたけど
細長いそれが取り出された時、あたしがいたところには風しか残っていなかった
「ちょっと夕歩、走ったら危ないって!」
順が逃げるから追いかけてるんだけど
そう言いたげな顔をしながら木刀を片手に、夕歩はあたし目掛けて走っていた
「分かった止まる!止まるから止まって!」
すぐに戻ってくるつもりだったのに。まさか追いかけてくるとは思わなかったのでそう言って止まった
夕歩もそれと一緒に止まって
でもあたしの方は、止まった瞬間つまづいてしまって
そのまま音を立てて
草の上に転んでしまった
388チェリー (5):2006/02/11(土) 19:43:46 ID:lqkmWB+q
「あぃっ……!」
どんっという鈍い音が届いた。湿った土に身体が当たる。鈍い音
…うわ、痛そう。背中打ったな今。
「順っ」
私は名前を呼んで駆け寄る。順はうーっとその場で小さく呻いていた
「大丈夫…?」
「大丈夫大丈夫。全然平気」
ふにゃっと笑って高々とピースサイン。ただし寝転がったまま仰向けで天に向かって
その手がピタリと止まる。そしてはっとしたように
「あ」
「…順?」
どっか痛めた?
その言葉に順はただ首をふるふると横に振る
その後、「あー」という納得したような声を漏らす。手をゆっくりと下ろす
「……順…?」
痛くて起き上がれないのかなと思ったけれど、そうではないらしい
順はごろんと転がってみせると、寝ぼけたような甘えた声を出した
「草の上に寝転がるのって、結構気持ち良いもんなんだねえ」
「……………。…何それ」
思わずツッコんでしまう。んーと呑気にのびをする順
その顔を喩えるなら日向ぼっこをする小さな猫。細めた目に秋の朝が映る
「……濡れるよ」
「濡れたって別にいいじゃん」
「…………。…何か順、猫みたい」
「ネコ?」
「うん」
「うーんそっかー」
「……………」
「……………」
私はしばらく黙った後、その場にしゃがみ込む。そのまま寝転がって、順の横で一緒に猫になった
えへへっという笑い声が横から聞こえた。視界にあるのは空だけ。秋の空はそこで青く凍っていた
白い光が目に染みる
389チェリー (6):2006/02/11(土) 19:44:26 ID:lqkmWB+q
 ねー夕歩
 ん…?
 今のあたしたちって他人から見たら凄い変だよねえ
 …まあ普通の中学生はまずしないよね
 うん
 順を普通の女子中学生と定義していいのか分かんないけど
 えー。あたしはちゃんとした健全な女子中学生でございますよ
そう言ってあたしは拗ねたような顔をしてみせる。さっきからずっと空に向かって喋ってるから顔は分かんないけど
とんでもない、という動作を手でやったら、微かに夕歩の指と触れ合った
 順が健全だったら他の人はどうなるの
 …超健全?
 …自分が他人より健全じゃないって自覚はあるんじゃん
 うっ
あははっと笑う
指先には温もり。少しだけ指を撫でるような動作をすると、夕歩も僅かに動かしたようだった
 でもさー
 ん…?
夕歩の手は冷たい。指先だけそっと握ってみる。反抗するような微量な力を感じる
なんだかそれが可愛く思えて、ちょっとだけ絡ませてみる
夕歩は、むきになっているのか応えているのか何なのか良く分からない様子で指をゆっくりと動かしてくる
 …でも、なに?
 え?
 今、何か言いかけたじゃん
 …何か言ったっけ?
話しながらもその行為は続いていた。やがて完全に無言になる
秋の風がひゅるひゅるとやけに鮮明に耳に届いた
390チェリー (7):2006/02/11(土) 19:45:53 ID:lqkmWB+q
「ありゃーもうすっかり夕方だね」
結局順の買い物というのは、靴だった
今履いてるのはちょっと激しい運動には向いてないかなーっと
それなら最初からもっと動きやすいのにしておけば良かったのに
笑って言う順にそうツッコんでおいた
朝より穏やかな風の中を順と自転車で走る。今はそれから想像できるような爽やかな光景じゃないけど
坂道を私を乗せたまま、うんうんと必死にペダルを順が漕いでいるところだった
「あの…ちょっと降りない?」
「やだ」
「うー…」
ようやく坂道が終わる。あとは下りだ。勢いよく走る。走る
鐘が鳴る
刀を振る
逃げる。飛ぶ。斬る
ふざけてからかって逃げ回って落ち込んでみてまた笑って
明日になればまた、そんな騒がしい学園が待ってる。順を待ってる
ゴ――――――――――――――ン
「え?」
唐突に響く鐘の音
星奪り?
「あ、なんだ。お寺かどっかの鐘か」
それはただの夕方を知らせる鐘だった
「何だびっくりしたー」
毎日聞いているものとは全然違うけれど、それを思い出させる鐘
私はその音をじっと聞いていた
391チェリー (8):2006/02/11(土) 19:48:26 ID:lqkmWB+q
鐘の音が少しずつ小さくなっていく中、夕歩はゆっくりと下の方へ頭を下げる
額を順の背中へ軽く触れさせて、もたれかかるような形になった
順の靴と一緒に買ったマフラーに顔をうずめる
「………ねえ、順」
「ん?」
「……………」
「何?」
「……ごめん。前向いて良いよ」
「………?うん…」
順の顔を見た後、前を向くのを確認して
夕歩は必死に声を押し殺して
 ――……夕歩?
鐘の音が完全に止む
もうそろそろ学校が終わる時間だ
392名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 22:33:22 ID:mx7xgK+v
ぶっちゃけ順夕歩の小説は飽きた・・・・。
393名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 22:45:34 ID:cxl2hlNV
いや、俺はかわいくていいと思う
じゅん×夕歩
いいよいいよー
394名無しさん@秘密の花園:2006/02/11(土) 23:23:30 ID:WXokruC/
話は良かった。
が、視点がコロコロ変わってちょい読み難かった。
苦い事言ってゴメンヨ。
395名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 00:03:08 ID:t06ArK75
下手なSSでも人気のあるカップリングだったら批判されにくいもんだしな。
396名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 00:30:01 ID:sWmLiYsI
おれはこういうの好きだな。というか意識的にやってると思う<視点がコロコロ
職人さんGJ!ありがとう!おかげで良い夢見れそうだ!
397名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 01:02:56 ID:W7CmLoEr
GJ!
順夕歩大歓迎だよ。サンクス

398名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 04:47:29 ID:t06ArK75
この際、順×夕歩以外だったら何でも良い・・・・。
職人さん、SSを投下してくれ。
399名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 05:33:31 ID:qhQc5s7k
自分で書けもしないくせに、
我が儘だけは人一倍っつーのもどうなんだ。
ここに上がる物が気にくわないなら他探しに行くといいかも。

職人さん達は全く気にしないで、ご自分の好きなものを書いて下され。
サイト持ちの方はそちらに上げたほうがいいかもしれませんね、
(順夕じゃなくても)こんなのが常駐してるスレじゃ嫌になっちゃうでしょ
400名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 05:42:51 ID:qhQc5s7k
すまん言い方が柔らか過ぎた。

順夕以外の物ほど、今のこのスレには投下しないほうがいいかもしれん。

というか乞食が消えるまで何も投下しないほうがいいのかも。
401名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 06:46:48 ID:t06ArK75
>>399,400
一人で何必死になっているの?
402名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 06:59:22 ID:t06ArK75
つーかぶっちゃけ最近のここのスレには流れには呆れてきたよ・・・。
いくら職人でも、一回自分で書いたのを読み直して「他人が読んでも平気かな?」位のことは前もってやっておいてくれ。
なんでもかんでも人気のあるカップリングだったらGJもらえるって思わんでほしい。
もうどうでもいいわ、いちいち視点が変わって読みにくい事この上ないSSが投下されようが。
自分は違うスレに行くから好きなだけ下手なSS投下してくれ。
自分が居なくなったら好きなだけ吠えてストレス解消して、次にのSS投下に備えておいてくれ。
じゃーな、
403名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 07:14:58 ID:VgFCxI5C
めでたし   めでたし


<<<<<<<<完>>>>>>>>>
404名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 08:57:37 ID:MPWE/2fk
うわーすごいねこの何様ぶり。しかも書き逃げ。
ここは2chだから叩かれもするだろうけど、めげずにうぷしておくれ。>>職人さん
405名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 10:08:49 ID:/wQvJ5Eg
なんかあっちもこっちも変なのが涌いてる感じだな。

とりあえず>>384GJ!
SS職人は書けない人間にとっては
書いてくれるだけで有難い存在なんだから、これからも頼む。
406名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 10:24:59 ID:hxM8RLxY
視点は別に変わってないが変な雰囲気を作ることに必死になってる感がある
というか終わってないよな?
407名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 14:26:30 ID:d/3tC4sv
>>392
確かに飽きたな。
桃×わんこはまだ新鮮だ。
408名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 15:39:57 ID:m9p5ZTOK
>ふざけてからかって逃げ回って落ち込んでみてまた笑って
>明日になればまた、そんな騒がしい学園が待ってる。順を待ってる
このへん切なくて好き
小説作法はともかく、こういう形にしたかった気持ちもわかる気がする
あまりめげたり、落ち込んだりしてないといいな…
409名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 18:09:24 ID:2HOcvD9f
職人さんは順夕歩飽きたイラネという発言自体はあんまり気にしないでいいと思う。
と言ってもやっぱり(´・ω・`)ショボンとしてしまうだろうけど……。
(視点云々は好き嫌いがあるからこれを考慮するか否かは職人さんの姿勢しだいだが)
あと、同じカップリングばかりよまされて不満だという住人の気持ちも分かる。
しかしこのカップリング飽きたヽ(`Д´)ノというのはもう少し柔らかい表現の方がいいかと。
まあ、SS投下するときは事前に一言あったほうがいいかもな。
お互い気を使っていい雰囲気のスレにしよう。
410名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 19:28:58 ID:qhQc5s7k
読まされて不満、って言うのは少しおかしいかもしれないよ。
ここって元々リクエスト受けて書いて貰うって流れじゃないし、
読むのも読まないのもその人の自由なんじゃないかな。
自分の求めるものじゃ無ければスルーして、
欲しいものがあるならそれだけお願いすればいい。
ただ自分の好みに沿わないからと言って、ただ叩くだけなら
子供と変わらないよ。

こんな議論、18禁の板でするとは思いもよらなかったよ。
411名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 21:09:37 ID:t3yKa8I7
>>410
概ね同意だけど一つだけ揚げ足取りを

pink鯖は21禁だよ
412名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 21:18:16 ID:qhQc5s7k
うわゴメンw

じゃあもっとイカンじゃないですか!!
413『ヤドリギ 終わりの始まり編』《1》:2006/02/12(日) 21:39:05 ID:poQ1DO4R
 神門玲は、手練れだった。
 久我順も、負けていない。
 二人のタイミングは計ったように同時で、かつ正確だった。
 玲の木刀は小刻みにニ、三度痙攣しただけに見えた。その痙攣に、ばらばらとヤドリギの枝が飛び散って行く。その欠けた大きな固まりもまた、宙で弾んで、更に小さく砕けた。
「っ! せぇぇぇぇい!! 」
 扉のノブを回して、順が渾身の力を込める。
 順の頭には三角帽子はとっくに外されて、蒼のつけていたエプロンが巻かれている。どれほどの効果があるか分からないが、頭にヤドリギの欠片がつかないようにする工夫である。一方、神門は自分のジャージを巻いている。滑稽な姿に、笑うものはいなかった。
 ビシ!
 ビシ!!
 弾ける木の音に、扉がきしんで開き始める音。
「そおぁっ!! 」
 一際大きな叫び声。
 扉が、開いた。
 しかし順は動けない。肉に、ヤドリギの枝が食い込もうとしている。
「ゆうほぉっ!! 」
 叫ぶ順。
 けれどそんな声を待つ必要もなく、静馬夕歩は進んでいた。その姿は、扉に向かって飛び掛って行った、先の二人よりもゆっくりである。
 前進する、早歩きだ、ヤドリギの真下に到達、枝が襲う、夕歩はその下で優雅に、舞った。
「へえ」
 祈紗枝が感心したような声を出す。
「上手いものね。受け流したわ」
 もしもスピードに任せて進んでいれば、枝に転倒させられて、絡めとられていただろう。確かにヤドリギは自分の下に居るものにしか影響を与えられない。
 しかし浅倉はぞっとした。ここまで大きくなれば、枝を使って襲う事も出来るのだ。
「夕歩は、冷静だ。これはいけるぞ」
「うん。すごいね」
 綾那とはやてが賞賛するだけのことはある。夕歩は出口に、焦らず、けれど着実に到達しつつある。
「退くぞぉぉ! 」
 神門は順に飛びかかり、絡みつきかかった枝を払い落とした。そして同時に、扉を蹴りつける。扉を更に大きく開かせ、かつ向こう側に飛ぼうと言う策だった。夕歩はもう扉を抜ける寸前だ。もう大丈夫。逆に神門と久我が出る余裕はない。
 バン!
 順もその玲の意図に気づいて、同時に扉を蹴りつける。
「開いた!! 」
 ついに飛び出す夕歩! しかし、その突進は、柔らかい障害物につきあたり、再び部屋に引き戻されるはめになる。
414『ヤドリギ 終わりの始まり編』《2》:2006/02/12(日) 21:39:48 ID:poQ1DO4R
「もう! 一体何してるんですか、夕歩さん! 順さんも!! いくらあなたが今元気だからと言って、何が起こるか分からないんですからね!! いつまでも、かえってこないから、しんぱいに……」
「かあさん」
「ゆうほ」
 バタン。
 再生したヤドリギによって、再び扉が締められた。けれどそれに目を向けるものは誰も居ない。
「わああああああん! だめ!! ゆうほ! ゆうほぉぉぉぉ!! 」
 部屋の中に順の泣き声がこだまする。
 万が一の為に備えていた、祈と槙は、入り口で抱き合い、熱い口付けを交わす静馬親子を、ヤドリギの下から引きずり出した。
「やれやれ、どうしようもないわね、こいつは」
 順の頭にかぶさったエプロンの下で、成長を始めていた華の芽を引っこ抜いて、綾那は大きくため息をついた。

「ふざけんなよ!! 」
 怒り狂っているのは神門である。
 それはそうだろう。せっかく上手く行きかけた計画が、外からの乱入者のおかげでおじゃんになったのだから。
「こんな偶然があってたまるかよ!! タイミングがよすぎるじゃねえか! 」
 怒鳴りまくる神門に、偶然ではないわ、と声がかかった。意外な発言者に、周囲が静まった。ため息交じりに声をかけたのは、来訪者たる、静馬夫人であった。
「これはね、偶然じゃないのよ。この魔界ヤドリギの仕業なのよ」
「……おばさん。あんた適当なこと言ってると、ただじゃおかないよ」
「いいえ、これはこの魔界ヤドリギの仕業だわ。まさか私も、呼ばれていたとはね――」
 魔界ヤドリギのせいだと言い張る母に、口をぽっかり開けて、かあさん知ってるの? と母のキスのせいで腰から下がトロトロになってしまった夕歩が尋ねた。
 そこで初めて皆が気がついた。誰も説明していないのに、静馬夫人が事の成り行きを理解しきっている事に。
「当たり前でしょう? でなかったら、実の娘にあんなキスして冷静なままの母親がいますか。
 第一、順さんも順さんです! お父様から、魔界の生き物についての話をきちんと聞いていないの? 」
「え? いや――忍術は教わりましたけれど、こんなけったいな植物の話は……」
 これが、静馬の守役たる久我の子の言葉とは! 眉間に寄った皺をゆっくり揉み解すと静馬夫人は、これはただ単に媚薬の効果を持つ木ではないのよ、と言った。
「ありとあらゆる可能性を実現させてしまう魔力を持つ、魔界の植物なの」

415『ヤドリギ 終わりの始まり編』《3》:2006/02/12(日) 21:41:35 ID:poQ1DO4R
 静馬夫人の話は、少し信じられないものであった。
「媚薬の効果は、単純に肉体に作用するわけじゃないのよ。可能性に作用するの。
 自分達が過ごしてきた時間の中に、お互いがいちゃついて当然、と思わせる可能性を植え付けるのよ」
「可能性? 」首をかしげる猿楽。
「あの、それは記憶に影響を与えるって事かな? 」
 雉宮の質問に、そう言うわけではない、と静馬夫人が答えた。
「例えば、――こう言う例えはとても嫌だけど、順さんとあなたはルームメイトよね? その付き合いの中には、お互いが忘れているような出来事があると思うの。例えば好きなテレビ番組の話をしたとか、一緒に何かを食べたりとか、ね?
 それはただの日常で、それ以外の意味はほとんどないはずよね。それでその日常の中で、あなた、順さんとキスしたいと思ったことある? 」
「ありません」
「そう。普通はそうよね」
「ちょ、ちょっと! 二人ともそれはないんじゃない! 」
 猛烈な順の抗議に、静馬夫人は冷静に言い放った。
「あのね、順さん。普通、と言うのは例えばあなたが私にキスしたいか、と言い換えてもいいの」
「あ、それは、嫌です」
「でしょ? 私だってまっぴらごめんだわ。
 でもこの木は、そんな私とあなたの関係に潜む、何万分の一しかない恋愛フラグを立ててみせるのよ」
 部屋の中が、静かになった。静馬夫人と久我順の人間関係がどのようになっているか、ほとんどの人間は知らない。けれどその意味するところは十分に伝わった。
 その沈黙を始めに破ったのは、綾那だ。
「――なら、私と順は大丈夫だな」
「え? そんなものに頼る必要もないくらい、私達はラブラブってこと!? 綾那!! 」
「いや。お前とおばさんのことは知らんが、私と貴様との間には一片の恋情などないからな。レイ、いや、ゼロ、ヌルポ」
「ガッ!! 」
「気をつけなさい。そう言う人ほど、ヤドリギは腕をふるいたくなるのよ」
 静馬夫人は重々しく言った。それに対して桃香は、一度咳払いをして問う。
「あ、あ――。けれど、そうなら、こんヤドリギは、どうして可能性を変えるなんてめんどくさいことするんじゃ? 例えば、その……え、エッチな気持ちを高めたほうが手っ取り早いと、ちがうんかの」
「それはよくわからないけれど、私達はこう結論付けているわ。
 魔界の生き物にとって、肉体は所詮入れ物に過ぎないのよ。だからこのヤドリギも、めちゃくちゃに増えているでしょう? 肉体が彼らの本体ではないの。彼らの栄養は、刺激なのよ。特に感情の刺激。
 あり得ない物事が起きた時の人間の心は、彼らにとってとてもいい餌になるみたいなのよ」
「それが、同性同士とか、複数とか、対立しあっている相手とかだと、なお都合がいいっちゅうことですか? 」
「……そう言うことね」
「じゃあ一体、どうすりゃいいんだよ!! 」
 怒りを爆発させる神門に、静馬夫人は一つしかないわ、と言い切った。
416『ヤドリギ 終わりの始まり編』《4》:2006/02/12(日) 21:42:23 ID:poQ1DO4R
「何もしないのよ」
「何もしない!? 」
「魔界の生物の寿命は、この世界では長くないわ。この部屋が魔界化しているならともかく、この学園には結界が張ってあって、いくらヤドリギが成長しても明日の朝までしかもたない。その間みんなで楽しくゲームでもして、さっさと寝てしまうのが手よね」
「お言葉ですけれど、私達そんな悠長なことしたくないです。そんな細かいエピソードまでくわえていったら、来年のクリスマスまで待ってもこの話が終わらないわ」
 祈紗枝の言葉に、静馬夫人は肩をすくめる。
「後はこのヤドリギに、極大の、その手の気持ちをぶつけて急成長させて枯れさせるって手もあるけれど、この人数全てがそう言うことをしても、それだけで半日かかるわ。
 ……それともあなた、それをしたいの? もしかしてあなたが、保有者? 」
 保有者?
 新たな単語に皆が首をひねる。ただそれは余り知りたくなかった事実の一つのようで、夫人に尋ねるのは恐ろしかった。それなのにバカはやすやすとヤドリギに話し掛けて、聞きたくなかった事実を明かしてしまうのだった。
「ねーねー、ヤドちゃん、保有者って何? 」
『ああ、保有者と言うのはですね。私の意思を、他の人達に伝達してくれる、まあ言わば私の協力者みたいなものですよ。
 ただ、今のところあんまり上手くいっていないみたいで。どうもこの保有者は、操りにくいですね』
「あやつりにくい? 」
『つまり、私の手足になるように、軽い洗脳をしかけるってことですね。意識は共有しているんですが、どうも彼女は何かもっと目的があるらしくて……。もっとこの人が積極的に動いてくれれば、うまくいくんですけれどねぇ』
「ね、綾那。そうなんだって」
「だってじゃねえだろ、クロォォォォォォォォ!! 」
 綾那の叫び声が、部屋の中こだまする。その姿を見ながら、上条槙は低い声で呟いた。
「つまり言い方は悪いけれど、この部屋の中に裏切り者がいるってことですね――」
「あら、大変、そういうことになるわね」
「この中の人間全てを、淫らにしてしまいたいなんて考えている人がいるんですね。操られているとは言え」
「そうね。ゆゆしき事ね」
「もし犯人が分かっていたとしても、糾弾できませんね。糾弾者が、お前こそ保有者だ、と言われれば、それを証明する手段は何もないですから」
「そうね。そんな混乱を、裏切り者が狙っているかもしれないものね」
「ところで、保有者がヤドリギの意のままにならない目的って、何でしょうね」
「いやだわ、そんなこと、私がわかるわけないじゃないの。上条槙さん」
「そうですね。失礼しました。帯刀洸さん」
 槙の挑戦的な視線を受けた洸の目と口元が、細い細い三日月になった。その満足げな表情が、ぎゅっと歪む。それは槙も同じだった。原因は、キ――ン、と高い音。
 敵か!!
 ヤドリギの攻撃かと、音源に皆が目を向ければ、そこに立っていたのは、染谷ゆかりだった。
「歌いましょう」
417『ヤドリギ 終わりの始まり編』《5》:2006/02/12(日) 21:43:36 ID:poQ1DO4R
「へ? 」
 見れば、ゆかりの手に握られているのは、マイクである。そのコードの先についているのは、備え付けられてあったカラオケの機器である。JOYの曲もDAMの曲も全曲網羅、あまつさえアニメの主題歌終了歌は、全てアニメ映像を流してくれる改良機である。
 マイクのスイッチは入っているようだ。と言うことは、いまさっきの音はハウリングか。まるでプロレスの勝ち名乗りのような、堂々とした姿勢でゆかりは宣言する。
「食事も食べ終わったし――。ケーキはなかったけれど。お腹は一杯でしょう? そんな時、妙齢の少女達が興じるのはカラオケよ。これしかないわ」
「ゆかり――」
 元刃友であり、ぐだぐだが嫌いなはずの彼女が、カラオケというオヤジ臭い手法で、この場を落ち着けようとしている。
 会社の微妙な飲み会の二次会は、カラオケが圧倒的に多いと言われている。微妙な空気の時は、カラオケが一番なのだ。それは歌っているときは話さなくていいから、という説もあるし、歌うとすっきりするからという説もある。
 どっちにしろ、ぐだぐだの時は、カラオケなのだ。
「勘違いしないで、綾那。私は歌いたいから歌うだけ。誰もあなたや、ましてあなたの刃友の為に歌うわけじゃないんだから」
 ぐい、と綾那に突きつけられたマイク。誰がその誘いを拒めようか? 選曲ノートも見ないで、ゆかりは片手の親指でリモコンを押した。慣れた手つきだった。ピピー、と音がした。曲が登録されたのだ。
「歌うのよ。綾那」
 何の曲が選ばれたのか、そんなことまで綾那は気が回らない。ただ見えているのは、差し出されたマイクである。ゆかりから差し出されている、マイクである。
 ――ゆかり。
 覚悟を決めて、綾那はマイクを受け取った。
 スピーカーから流れてくる、ハモニカの音。その特徴的な旋律に、無道が鳥肌を立てた。
 選ばれていた曲、それは。

 ――虎舞龍より ロード 第一章―― 無道綾那

418『ヤドリギ 終わりの始まり編』《6》:2006/02/12(日) 21:47:21 ID:poQ1DO4R

 微妙な曲での幕開けでも、歌うのはいいことだ。
 やけくそぎみとは言え、すぐにのめりこめるのは若さの象徴と言えよう。何曲か歌ってハイになってきたみんなのはしゃぎぶりに、犬神五十鈴の顔にもようやく赤みがさしてきた。
 その様子を見て、桃香はそっと胸を撫で下ろす。やはり刃友が落ち込んでいるのは気になる。その気持ちが再び自責に変わらないように、桃香は五十鈴に、さっきから気にかかっている事を尋ねてみる。
「ところで、あの二人、なんか様子変じゃないかの? 」
「え? 雉宮さんと、猿楽さんですか? 」
 落ち込んでいて、周囲の細かいところまで気が回らなくなっていた五十鈴が、言われるままに乙葉と未知を見る。二人は辛うじて並んで座っているが、その間には固い壁がある。
「気になりますか? やっぱり――」
「うーん。こないな状態やなかったら、気にも止めんのじゃがのー」
 本当に何のこだわりも持たずに話す桃香に、五十鈴の涙腺は思わず緩む。
「やっぱり、桃香さんは優しいんですね」
「そんなことないよー」
 そっけない桃香の返事。けれど犬神はわかっていた。みんなに優しい桃香さん。頼りになる、吉備桃香さん。きっとそれは誰にでも注がれる優しさで。誰か一人に注がれるものなんかじゃない。
 それはそうだ。犬神五十鈴なんて言う、化け物扱いされていた剣待生を、自分の刃友にしてもいいと思うくらいなのだから。もしかしたら同情なのかもしれない。あるいは、しつこい自分に根負けしただけなのかもしれない。
 それでいい。
 それでもいい。
 わかってたはずなのに、少し哀しい。
「どうした? わんこ」
「え? なんでもありませんよ」
 心配そうな顔の桃香に、大急ぎで元気な自分をアピールする。桃香の優しい声に、自分が許されているような気がして、これから自分がしようと考えている事への決心が揺らぐ。だからぐっと奥歯を噛んで、決心を深めた。
 ――私が、何とかします。桃香さん。
 だから自分が引き起こしてしまったこの事態への罪悪感と収拾する手段の事を、もう少し忘れている事にした。
 魔界の生物を滅する。
 やりきれる自信はあったが、その保証はどこにもない。
「どうした、わんこ寒いんか? 」
 そっと肩に手を回して、震えた身体を抱き寄せてくれる。温かい。
「大丈夫ですよ、桃香さん。次は私の番ですから、武者震いです」
 無理に笑顔を作って、慌てて身体を離す。誰にでも与えてくれる桃香さんの優しさ、それにすがってはいけない。
「わんこ」
「次の曲は、桃香さんのために歌いますね」
419『ヤドリギ 終わりの始まり編』《7》:2006/02/12(日) 21:47:56 ID:poQ1DO4R
 精一杯、笑う。
 もし失敗して自分が失われても、この時の笑顔を、桃香さんの記憶のどこかに残してもらえるように。
 ――精一杯歌います。桃香さん。

――犬神サーカス団より 花嫁―― 犬神五十鈴

 気がついたら、いつも通りの会話なんかをしてしまっていて、腹が立つ。
 雉宮乙葉はまだ彼女を許してはいないのだ。
「ジュース、飲む? 」
「ありがとう」
「ちょっとぬるいね」
「仕方ないよ」
 そこで気がついて、また、ぷい、と無視する。未知――猿楽さんは魔界をきちんと分かっていないから、そんなに五十鈴のことに同情できないんだ、と思い返して。
 魔界ヤドリギ。普通なら、クリスマスパーティーにそんな物騒な名前のものを飾ったりはしないだろう。それはこの世界に、魔界の生き物がいないからなのだ。
 でも、犬神五十鈴は違う。彼女は魔界と共にある。魔界とつながっている蛇口みたいなものだ。肉体を礎にして存在しているこの世界に対して、思念を礎にして存在する魔界は、螺旋の形に捻れて、細い細い糸のような渡り道しかない。
 そことつながっているのが、五十鈴だ。乙葉はそう考えている。五十鈴の心に負の感情が高まると、彼女の中の螺旋が解けて、魔界への道が開かれる。普通の人間なら発狂し、魔界にすりつぶされてしまうだろう。異世界に渡る螺旋のエッジは、鋭く冷たく固い。
 けれど魔界と犬神は一体化している。普通の人間とは違って、魔界がなければ五十鈴は存在できないのだ。そんな五十鈴にとって、魔界ヤドリギを飾るなんてまるで不思議はなかったのだろう。
 ――未知だって、きちんとわかってくれるはずなのに。
 それなのに彼女は、雉宮が一生懸命魔界の説明をしているのに、まるで頓着しないで。
「ああ、犬神さん、大変だよね」
 ですまそうとしている。乙葉は理解して欲しいのだ。きちんと今回の出来事を、自分の刃友に。猿楽が犬神に同情しているのは、わかる。でもそれなら原因までしっかり理解してあげて欲しいのだ。
 ――私達は、特殊な化け物ではないのだから。
 力は遥かに犬神に劣るが、雉宮も魔術をよくする一族である。雉宮はわざと周囲に交わらずに生きてきたが、犬神は違う。明らかに避けられている。よく見ていれば、犬神は周囲に交わりたいのはすぐ分かる。
 なぜ差別されるのか。それは普通の人間が、魔界の力を理解していないからだ。だから雉宮は理解して欲しいのだ。自分の刃友には。犬神五十鈴の事を。
 なんでだろう。
 それは雉宮が、どこかで思っているからかもしれない。犬神や吉備と、友達になりたい、と。それは猿楽も同じだと思っていたし、尋ねれば彼女もそうだと言うだろう。
 ――だったら相手のこと、全部理解しようとするべきだろうに!
 きちんと言葉を理解しさえすれば、誤解も何も起こるはずがないのだ。それなのに、どうしてこんなことになってしまうのか。理解したくないのだろうか。犬神の事を。それと。
 ――私の事を。
「きじ……。ねえ、次、番じゃないの? 」
「ありがとう、み……。うん」
 お互いに名前を呼べないもどかしさのまま、雉宮乙葉は立ちあがってマイクを受け取った。曲目は。
420『ヤドリギ 終わりの始まり編』《8》:2006/02/12(日) 21:49:09 ID:poQ1DO4R

――サザンオールスターズより 愛の言霊―― 雉宮乙葉

「刃友のところに、いってあげないの」
「余計なお世話よ。ね、綾那」
「ああ」
「ちょっと綾那、曲入れるの? 」
「あ、うん。な、何? ゆかり」
「あ、いいわやっぱり。自分で入れる」
「あらあら、染谷さんは、まず誰かに何かしてもらわないと、気が済まないのねー」
「じゅ、順! 」
「……そうね、久我さんの言う通りだわ。
 ご め ん な さ い ね。綾那」
 針のむしろだわ。
 同情したのは、浅倉みずちである。
 無道綾那、久我順の順番で、大きなソファに座っている。みずちの位置はちょうど、彼女達を眺められるくらい斜めに置かれたソファである。
 カラオケの回りに用意された席は、幾つかの小テーブルとソファーで、給仕しやすいようになっていた。給仕しているのは黒鉄はやてと貴水蒼である。
 他一年生組、三年生組、高等部組、のちょうど三つに分かれて各々が座っている。カラオケを中心にして、扇形に開いていると言えば、分かりやすいだろうか。
「うわー、綾那は中島みゆき? 渋いねー。アザミ嬢のララバイ? それともそれとも、地上の星? 」
「あ、いや……。ゆ、ゆかりは何を入れるの? 」
「いいわよ。私自分で入れるから」
「あ、いや、ついでだし、何入れる? 」
「じゃあ、時代を入れて」
「わ、わかった」
「……。
 ねーぇ。ところで浅倉さんは、どんな曲聞くの? 」
 一瞬、順から話し掛けられたことに気がつかず、ぼおっとしていたみずちだが、皆の視点が集まっているのを感じて、少し慌てた。
「あ、ああ。私カラオケ苦手なのよ。歌が下手だから」
「どんな曲聞くのって聞かれたのに、する返事じゃないわよね」
 染谷の容赦ない突っ込みに、みずちは言葉に詰まる。そう、問題は歌が下手な事ではない。歌うのはむしろ好きだ。問題は自分のレパートリーが限られていることにあるのだ。
421『ヤドリギ 終わりの始まり編』《9》:2006/02/12(日) 21:49:40 ID:poQ1DO4R
「別にどんな曲でもいいのよ。綾那だって、変なゲームの主題歌しか歌えないんだから。あ、それなのに中島みゆきなんて珍しいわよね」
 それは微妙だ。
 けれどみずちだって人の事は言えない。よく歌うのは、怪しい金融業を営む実家の、筋者に近い若い衆に合わせた曲ばかりだ。男まみれの、演歌、演歌、演歌である。
 ――シャバ蔵、殺す。
 哀れなシャバ蔵は後でみっちり責めることにして、この状態からどうやって逃れようか。
 悩む浅倉の視線に飛び込んできたのは、無道の助けを求める視線であった。どんな話題でもいいから、この状態から助けてくれと、懇願する綾那。それを見てみずちはため息をつく。
「――白状すると、歌うのは嫌いじゃないの。ただ、レパートリーが親父臭いのよ。演歌とか、そんなのばっかり。だって家業が怪しい金貸しでしょ? 構成員の連中が、あんな曲大好きなのよ」
 すんなりと言葉が出た。あまり胸を張って言いたくなかったけれど、今の無道綾那の姿を見れば、自分の境遇の方がましな気がした。
 ――笑わば笑えよ。
 覚悟を決めて口にしてしまえば、気分はすっきりして晴れやかだ。
 けれども、笑いやあざけりや、偏見があるかと思っていたけれど、そんな反応は欠片も同学年の彼女達からは見えず、かえってみずちはポカンとする。
「それはちょっと気詰まりよね」
 染谷が優しく言った。たわいもない話への同情くらい軽くて、それでいて実感があって。例えるなら、三日間カレーが続いて大変、みたいな話題の、友達への反応のような感じ。
「ああ、親の影響は大きいよね。あたしもわかるなあ、そう言うの」
 久我は、何故かちょっとしんみりした口調で返す。思わず彼女もそう言う悩みがあるのかと思ってしまうくらいだ。
「でもいいんじゃない、歌ってみたら? ウケは取れるかもよ」
 これまた普通の反応の無道綾那。さっきまでの焦りが消えている。標的がみずちに移ったからだろうか?
「けど結構気詰まりよ? 浮くのはわかりきってるし。やっぱり私だって年相応の女の子したいわよ」
「そんなこといったら、綾那なんてどうするのよ」
「そうよ、年相応の女の子ってよりも、痛いヒッキーって言った方がしっくりくるもの」
「……ちょっと待て二人とも。それはあんまりじゃないか? 」
 みずちの言葉に、染谷と久我が盛り上がる。ネタに上げられた無道は、嫌がりながらもちょっと照れた姿が見て取れた。
 ――もしもみんなが普通の高校に入っていたら。
 みずちはふと思う。
 ――このメンバーとも、こんな感じで触れ合っていたかもしれない。
 天地学園は嫌いではない。理想的な場所だと思う。けれど会う場所が違えば、もっと親しくなれたかもしれないではないか。染谷とも久我とも、そして綾那とも――。
 あらぬ自分の世界を想像してしまったのは、可能性を操作する魔界の植物とやらが側にいるからだろうか? 何にせよ、答えは出てこない。目の前におかれたジュースを一息に飲んで、少したわいない話に華を咲かせた。
「あ、あれ、誰が歌うの? 」
 順がふと気づいて皆に問うた。次の曲一覧にある、不吉な題名。一年生のテーブルからも、高学年のテーブルも、誰も出ないでぽかんとしている。
「一年生の、あの子じゃないわよね」
 染谷はぴんときて、大きなため息をついた。
422『ヤドリギ 終わりの始まり編』《10》:2006/02/12(日) 21:50:20 ID:poQ1DO4R
「……綾那が間違えたのね」
「あ、いや、その、見間違えて……」
「いいわ、私、それ歌うから。せっかく綾那が私の為に選んでくれた曲だもの」
 そこからこのテーブルは静かだった。順はそっぽを向き、綾那は下を向き、みずちは染谷の顔を盗み見た。遠慮がちに差し出されたマイクを握って、ゆかりは歌う。

――中島みゆきより うらみ・ます――

「壮絶ね」
 と、いいながら、上条槙の居心地も悪かった。何せここにいるのはSクラスの面子ばかりである。思っていた以上に皆、普通の学生としてふるまっていたが、彼らの心中は計り知れない。
「あれ上条の刃友だよな。いわくつきの」
「はい」
「ずいぶんいい根性してるな。元刃友の前で」
「後で注意するつもりです」
 同学年なのについ敬語を使ってしまうのは、槙の穏やかな性格から出てくる自然なものである。けれどその響きに上下の遠慮が感じられるのは、やはり神門が白服であることを槙が考慮しているせいだろう。そんな上条に、玲は苦笑する。
「別にそんなに緊張するこたないよ。あたしらタメだろ」
「確かに気にしないと言えば嘘だけれど、それほどではないと思うわ」
 少しむっとして、槙が言い返す。穏やかと言っても、彼女も剣待生なのだ。闘争心は人一倍持ち合わせている。ランクの違いで神門を恐れていると思われるのは、我慢できない。
「そうか、そんならいいんだ」
 神門はわりかしあっさりその話を流すと、お前はどう思う? と尋ねてきた。
「――保有者の事ですよね」
「へえ、よくわかったな」
「この席の並びを神門さんが押したときから、その話だと思いました」
 そう。学年順に座ろうと提案したのは、白服からだったのだ。祈、神門の二人にそう切り出されて反対出来る者はそういない。
 保有者――。厄介な状態だ。つまり、この部屋の中をヤドリギでうめ尽くそうと考えている者がここにいるわけだ。まずはそれを捕まえておかないと、徐々にヤドリギは範囲を広げ、気がつけばその淫らな力にとらわれてしまうかもしれない。
「しかし何で私に話を聞こうと思ったんです? 私が保有者かもしれないんですよ」
「それは考えなかったな。まあ、タメだったから」
 いけしゃあしゃあと口にする神門だが、きっと何か確信があったから槙を白だと思ったのだろう。彼女は慎重な女だ。勝ち目のない戦いはしない。
「ならあのご夫人も呼んだ方がよかったのではないですか? 色々知ってそうですし」
「あのばあさんは、自分の娘が無事ならどうでもいい人なんだよ。何度も生徒会室に電話をかけているらしい。静久からもそんな話を聞いた」
「……警戒されるからですね? 」
「何に? 」
423『ヤドリギ 終わりの始まり編』《11》:2006/02/12(日) 21:50:52 ID:poQ1DO4R
 神門の聞き返しに、槙は肩をすくめて見せる。それを見て玲は満足そうな笑いを浮かべた。それは自分の見立てが間違っていなかったことへの、満足の笑いだ。
「わからなければ、仕方ないな」
「そうですね」
「下手なことは出来ないしな」
「そうですね」
 少し間があって、神門はお天気の調子を尋ねるみたいに。
「上条は保有者、誰だと思う? 」
「さあ、私はよくわかりません。ゆかりと一緒にここに来たのは、結構遅くなってからですから。来たときにはもうここにみんな集まってましたし。どんな順序でここのメンバーが来ましたっけ? 」
 槙に話を振られた帯刀は、一瞬子供のような表情をして、それからよどみなくすらすらと答えた。
「そうね、一年生が全部そろってたわ。二年生は貴水蒼一人ね。飾り付けを急いでやって、貴水はひつぎ様の差し入れの、クリスマスのご馳走を誘導してたわ。
 カーテンの取り付けを、吉備桃香、雉宮乙葉が担当して。紙飾りのつげたしと、飾り付けは犬神五十鈴と猿楽未知が。恐らくその時にヤドリギをとりつけたのね。
 黒鉄? ああ、あの子はその場その場で手の空いている人を呼びつけて、テーブルセッティングしたり、このカラオケ用のソファを移動させたり。とにかく隅々に色々飛びまわってたわね。こんなにパーティーのセッティングに慣れてるなんて、意外だったわ。
 無道綾那は久我順、静馬夕歩と一緒に来て、続いて宝田りおな、鬼史谷桜花。浅倉みずちの後で、あなたたち、染谷ゆかり、上条槙の二人が来たのよ」
「すごい記憶力ですね」
「それは、だって。私は生徒会代表ですもの」
「でも何で会長は来ないのかしら? 」
 今まで手元で何かを編んでいた祈が、突然口を挟んできた。
「あの人の好きそうなイベントじゃない? 寮内でクリスマスパーティー。顔くらい出して行きそうなのに、どうして来ないのかしら。それとも後で来る予定でもあるの? 」
「それは絶対にないわ」
 祈の疑問を、きっぱり帯刀が否定する。
「ここにはひつぎ様は絶対に来ないわ。勿論静久も。だから生徒会代表で私がここに来たわけですもの」
「じゃあ、この後、ひつぎや宮本の気が変わって来るなんて、絶対にないんだな? 」
「しつこいわね。無いったら、無いわよ」
 念を押した神門が、それならいいんだ、と呟いた。
「ごめんなさい、やっぱり私、役に立てませんでしたね」
「まあ気にするな」
 槙が謝ると、神門は手をひらひらさせて答えた。
「仮に保有者がわかったとしても、尻尾を出した段階で捕まえないと混乱を生むだけだ。それに今の話で誰かは確定したが、保有者を罠にかけるには、もう少し策を練らなくちゃな」
「え? 」
424『ヤドリギ 終わりの始まり編』《12》:2006/02/12(日) 21:52:28 ID:poQ1DO4R
 槙の頭に、クエスチョンマークが浮かぶ。槙はてっきり、帯刀が保有者だと思っていたのだ。だからその確認が終わりしだい、帯刀を抑えつけるつもりでいた。それなのに神門はゆうゆうと、罠にかける、などと言い出した。
 今まで表に出して言わなかったが、神門も自分も、共通の人物を保有者と認識しているのではないのか?
「だ、誰なの、それは? 」
「それはコレに決まってるだろ」
 神門があっさり指さして見せたのは、帯刀洸。
「コレって何よ! コレって!! 」
「いいじゃねーか。今の話が本当なら、保有者とやらが絶対お前じゃないってわかるんだから」
 帯刀洸が保有者じゃない?
 その言葉に槙は絶句する。
 この神門の態度は、演技なのだろうか。それとも神門が狙いをつけている保有者は、全く別の人間なのだろうか?
「それにしても、あんたずいぶん芝居が上手いな。察しもいいし」
 神門がにやっと笑ってうなづく。
「後は罠をかけるだけだ。ちょっと荒っぽいかも知れないけどな」
「それって、始めからいた人間が怪しいてことですよね? 」
「そうだよ。わかってるじゃねーか」
 今初めから居る人間が、自分がそうだと白状したではないか。
 始めからこの部屋に居なければ、誰がどんな順序で来たかなんて言えやしない。上条としては、その証言を引き出すのが最大の罠だったのに。
 他に保有者の可能性を持つ者がいる、ということである。
 なんだろう。
 わからない。わからない。
 そんな上条槙の思考を破ったのは、祈紗枝の、さあ歌うわよ、の声だった。
「え? 」
「ほら、せっかくデュエットなんだから、歌うの! 」
「え? ちょ、ちょっと待て、キャラじゃないだろ!! 」
「いいから、もう始まっちゃう!! 」
「いててて! わかったから耳引っ張るなって! 」
 あの神門玲が耳を引っ張られてカラオケの機械の前に立たされる。その曲を見て、槙の硬直した思考が、ちょうちょ結びになった。

――ザ・ピーナッツより モスラの歌――
425『ヤドリギ 終わりの始まり編』《13》:2006/02/12(日) 21:53:49 ID:poQ1DO4R

「もうほとんど食べ終わっているのね」
 ぶつぶつ言いながら残った食事を口にしている母に、夕歩は、おいしかったよ、と答えた。
「会長からの指し入れなんだって」
「……そう。冷えててもそれなりに食べられるわ」
「母さん、何も食べてないの? 」
 娘の質問に、少し驚いた顔をして、静馬夫人は、ええ、とうなづいた。
「夕歩さんと一緒に、家で食事をしようと思って」
「あの……父さんたちは? 」
「久我さんと仕事よ。きっと今日は遅いわ」
 そう言いながら、母はもぐもぐとから揚げを食べた。
 静馬夫人は礼儀正しく、また折り目正しい人である。普段はこんなふうに残り物をぱくぱく口にしたりはしない。仮にお腹が空いていたとしても、我慢することが出来る人だ。
「母さん、怒らないのね」
「何を? 」
「こんな事態になって……」
「仕方ないわ。それよりもいざ何かあった時に、強く自分を持てるようにしておかないと」
 母の言葉で、その行動の意味も夕歩は気づいた。
「母さん、何に備えているの? 」
「戦いよ。決まっているでしょうに」
「……戦い」
 母の口から改めてそう聞かされると、不思議な気持ちがした。身体を使った戦いからは、どう考えても縁遠い人である。それにもっと直情的な人だと思っていた。きっと久我の責任を並べて、順を、悪く表現すればだが、もっと罵倒するかと思っていたのに。
「何と戦うの、母さん。あのヤドリギとやりあうってこと? 」
「魔界の生き物と、肉体では戦えないわ。さっきも言ったでしょう? あれを打ち砕けるのは意思の力よ」
「意思? 」
「そう。彼らは感情や、熱や、音、そう言うものを食べるものなの。信号を食べると言っても過言ではないわね。特に植物の魔物は、温度の変化に敏感よ。よほどの高温でない限り、瞬く間にエネルギーにしてしまうわ。
 それに比べて、高位の魔物ほど、色々なものからその栄養を摂取することが出来る……。と言っても、そんなことは今は置いておいていいわ。
 とにかく魔物を打ち破ることが出来るのは、より強い意思だけなのよ」
「倒す、とか、やっつける、とかの意思じゃ駄目なの? 」
「その意思の力を直接ぶつける戦い方なんて、あなたたちは知らないでしょう? 」
 それから夫人は紙コップに注がれたお茶を飲み干して、甘いものはないのね、と小さく息をついた。
426『ヤドリギ 終わりの始まり編』《14》:2006/02/12(日) 21:54:36 ID:poQ1DO4R
「母さんは、戦えるの? 」
「戦わないわ。戦うのは、あの人と、久我さんの仕事よ」
 あの人と言うのは、父のことだろう。夕歩も、静馬の家が本当は何をしている家系なのかは、よくわからない。しかしその一族によりそってきた久我は、恐るべき久我流気法術を使うことが出来る。何故そんな技を伝えてこなければならなかったか。
 ――久我のおじさんの額の、大きな傷。
 静馬の当主を守るためにつけた傷だと聞いたことがあるその傷は、普通に暮らしていてつけられる類のものではない。その相手が魔物だったとしたら?
 ――でも、順の鎌鼬は効かなかった。
 その夕歩の表情を見て、静馬夫人は、順さんの気砲術は通じなかったのね、と言った。
「それは核に当たっていなかったからよ」
「コア? 」
「そう。魔物の意思の力を留める部分を、私達はそう呼んでいるわ。そこを破壊することで、魔物を崩壊させることが出来るのよ。
 ……もっともそれを剥き出しにするには、相当の力を持った術者でなくてはならないし、生半な攻撃ではコアを破壊することは出来ないわ」
「じゃあ、母さんは何をするの? どうやって戦うって言うの!? 」
「だからさっきも言ったでしょ? 何もしないのよ」
 何もしないのが、これからの戦いなのよ。そう言った母は、いつもの母ではなく、全く別の人間の目をしている。心配性の母、静馬の母、大好きな順を目の敵にする母。それとは異なる、戦う女が側にいる。
 ぞくっとした。
 そんな夕歩に気づいてか気づかずか、静馬夫人は食べ終わった食器を置いて、大きく伸びをする。
「そのために必要なのは、体力と、巻きこまれない意思の力よ。夕歩さん」
「母さんは、こんな時に助けてくれる人はいなかったの? 」
「いたわよ」
 でも今はどうしているでしょうね。
「それは父さん? それとも、久我のおじさん? 」
「違うわ。あの人は、真紅の――。
 いいえ。またこの話は今度ね。今は、今のことだけを考えましょう」
 口篭もった母を見て、夕歩はもう少しその話を聞いてみたくなった。ねえ、母さん。しかしその言葉が続くことは決してなかった。
 歌い終わって、大きく息をついた神門玲が、みんな聞いてくれ、と前置きして、洸言ったからだった。
 ――とりあえず、保有者が誰だかをはっきりさせよう、と。

                                   『ヤドリギ 終わりの始まり編』《15》以降、一時間後、投下
427名無しさん@秘密の花園:2006/02/12(日) 23:40:56 ID:MsH2PjcK
『ヤドリギ』
428『ヤドリギ 終わりの始まり編』《15》:2006/02/12(日) 23:42:11 ID:poQ1DO4R

「とりあえず、保有者が誰だかをはっきりさせよう」
 空気がさっと冷えた。同時に、静馬夫人の声が部屋の中響く。
「お止めなさい! 関わらないのが、一番重要なのよ」
「部外者は黙っててもらおうか」
 神門が静かに言い返す。丹田の座った、静かな声である。けれどそれは他の意見も圧殺する迫力があった。
「確かにあの化け物の木に余計なことをすれば、危険なのはよくわかった。あたしだってあれにはもう触れたくないね。でも。同じ朝まで過ごすにしても、危険な裏切り者を野放しには出来ないね」
「裏切り者って――! 」
 反論しようとした貴水の言葉は続かない。それは確かにそうなのだ。本人の気持ちが、操られているとは言え、自分達の身の危険には代わりない。
「確かに本人は操られているだけかもしれない。でもな。充分危ないんだよ、そいつは。あたしだってそんな疑うことはしたくないさ。でも理解しておくことは大切だと思うんだよ」
 神門の言葉にしん、となった部屋に、乾いた声がした。
「面白いですね。生徒会の推理を聞かせてもらえますか? 」
 染谷ゆかりの声である。挑戦的にも思えるその響きに、玲はそっと眉をひそめる。
「推理も何も、単純だよ。あのヤドリギが小さいうちにその影響力をうけそうなのは、実際に準備に関わっていた一年生くらいのもんだろう。
 二年生も手伝いに加わってたって聞くが、そいつは食事の支度にかかりきりだったんだろう? とすればヤドリギとやらの影響をうける確率は低くなる」
 順順に説明しながら、くい、と桃香にむかってあごをしゃくってみせる。
「お前は何をしてた? 」
「あ……。カーテンの飾りつけと、テーブルセッティングじゃ」
「私も。テーブルの板に、足くっつけたり。後、カラオケの準備――。まさか」
 雉宮が、途中で言葉を飲みこむ。その様子を見て、神門は満足げにうなづいた。
「そう。そのまさか。あんたの刃友が、保有者だ。その確率はかなり高い」
 その言葉は、冷静で、限りなく、冷酷であった。
429『ヤドリギ 終わりの始まり編』《16》:2006/02/12(日) 23:42:45 ID:poQ1DO4R

 何が起こっているのかわからない。猿楽未知は、ぽかんとしたまま皆を見て、はあ、と声に出した。
「あたし、が? 保有者」
「そう」
 こっくりと再びうなづかれて、猿楽は一瞬真っ白になり、それから突然心臓が高鳴りだした。
「でも飾りつけは、犬神さんも」
「もしその段階で保有者なら、わざわざ自分に疑いのかかるようなことを言うかな? あれが保有者でない理由は、それだ」
 断定された。
 視界がぼやけた。
 ――違う。あたしは、まだこの人に比べれば全然弱いかもしれないけれど、裏切り者なんかじゃない!
 涙が出そうになって堪えた。目元よりもじんわり滲んだ脳みその中で、雉宮の緊張を押し殺した声が響いた。
「もしそうだとしたら、どうするわけ? 」
「そうだな。近寄らないでもらえば、それでいい。こいつだけ皆から離れた場所に居ればいいだけだ。そして変わりばんこで見張る。愉快じゃない仕事だけれど、それしか手が無い」
「何言っとるんじゃ!! 」
 叫んだのは、吉備だった。
「白装束ん人にさからうんは、本意やないけどな。どうしてそんなこと言えるんじゃ! そないやったら、ウチら一年全員が可能性あるわ! 」
「だから、その中で一番可能性がある人間を指し示したんだろーが……。元はと言えば、てめーの刃友が原因なんだ。ごちゃごちゃ抜かすな」
 ぐっと睨みつけて、はあ、と息を吐き捨てた。大体こんな説明は、苦手なのだ。けれどこの作業こそ、本当の保有者を見ぬくためには必要なのだ。あてはある。確証が欲しいだけ。神門は保有者が猿楽だとは、毛ほども考えていない。
 ――これで奴がどう言う態度をとるか見物だ。
 ところが思いもかけないくらい真面目な声が聞こえて、神門は驚いた。
「ししょー! 」
「な、なんだ、クソチビ」
 真剣な視線である。いつも真剣だが、ことさら今回は真剣だ。何故だ。一体何のために。
 見極めようとする神門に向かって、黒鉄はやては声を上げた。
430『ヤドリギ 終わりの始まり編』《17》:2006/02/12(日) 23:43:43 ID:poQ1DO4R
「確かにそう考えると、みっちーが当てはまるよね。
 だから、あたしを縛って!! 」
「は? 」
 黒鉄の突然の提案に、眉をひそめて。
「そりゃ、別にお前がいいんならいいけど、お前はいいのか? それで」
「よくないけれど、でもこんなに揉めるくらいなら! あたしが代わりに!! 」
 唐突な展開に目を丸くしていた綾那が、大声を出して刃友を殴る。
「バカ、クロ! そう言う問題じゃないだろ!! 」
 そうして神門とはやての間に割ってはいって、無道は白服に対峙した。
「なるほど、確かに先輩方のおっしゃる通りかもしれません。けれど今のところ、保有者のせいで実害が出ているわけではないですから――」
「黙ってろ。今大事なところなんだ」
「……っ! 」
 全く意に介さない神門に、綾那は奥歯を噛む。何かを神門が見定めようとしているのは、無道にも分かっていた。けれどおいそれと受け入れるわけにはいかない。再び言いかえそうとした時、また別の声が割りこんだ。
「まってください! 」
「何? 」
 神門が振り向けば、そこにいたのはこの事件の張本人、犬神五十鈴が立っていた。
「わんこ……」
 吉備は名前を呼んで、そこから言葉が続かない。自分の刃友が、何かどえらい決心をしたのが見て取れたからだ。
「私に、考えがあります」
「なんだ。その考えって言うのは」
 当然の神門の質問に、私が、あの魔界ヤドリギを、封じ込めます、と返事をする。神門は目を丸くして。
「出来るのか。そんなこと」
「私なら可能だと思います」
「どうして今までやらなかった? 」
「危険だからよ! 」
 当然の問いに、静馬夫人が代わって答えた。そんな話にまで発展していたとするなら、止めねばならない。何せ魔界の生き物と言うのは、一筋縄では行かないのだから。
「お止めなさい。相当な術者でも、そのままで魔界と渡り歩くことは危険だわ。それに、魔界ヤドリギの魔力にあたっても死にはしないけれど、魔界ヤドリギを破壊するのは危険よ。まがりなりにも魔界の生き物なのですから」
「そうだ。このオバサンの言う通りだ。あたしは別にあの化け物をどうにかしたくてコンな事言ってるんじゃない。やつらはここまで動けない。けれどだからこそ、あそこに行かせようとする保有者とやらが居るわけだ。
 今ここであれにちょっかいをかける必要はない! 」
 神門まで止めるとは、綾那は思っていなかった。そう、これは彼女の誤算だ。いや、もし彼女があのヤドリギと戦っていなければ、やれ、とけしかけたかもしれない。けれど神門はアレと戦っている。手を出さない方がいい、と知っている。
 その神門に久我順は皮肉な笑いを投げかけた。
431『ヤドリギ 終わりの始まり編』《18》:2006/02/12(日) 23:46:07 ID:poQ1DO4R
「なら、ヤドリギの保有者は、あなたかもしれませんね。神門さん。あなたの言葉で、彼女が行く気になったわけですから」
「なんだと、てめぇ! 」
 今度は奥歯を噛むのは神門の方だ。なぜこうも裏目裏目に出るのだ。彼女の狙いは、保有者の特定だけだったのに。
 けれどもう流れは犬神の決断に任されているだけなのだ。皆がそれに気づいている。
「もういいんです」
 いつも気弱な響きのある、犬神の声。けれど今はふっきれたのかすがすがしい声で、きっぱり言いきった。
「だって悪いのは私ですから」
「わんこ! 」
「桃香さん……」
 力強い歩み、力強い声。そして、強い視線で吉備桃香は、五十鈴の瞳を覗きこんだ。桃香の瞳の中にある、力強い、光。それは犬神の心の奥まで照らす、温かいもの。
「勝算は、あるんじゃな? 」
「……はい! 」
「なら、好きにせえ。ウチはあんたん力、よおけしっとおけえの。あんたが出来るっちゅうんなら、出来るんよ」
 刃友の、信じる、の言葉は、百の味方に値する。反射的に、うなづいていた。犬神五十鈴は。ぎゅっと握られた拳に、力が入った。
「もかちゃん! 」
 そこに必死な黒鉄の声がかぶさる。
「だめだよ、危険だよ!! 犬ちゃん大変なことになるかもしれないよ!! 」
「黒鉄……。
 でもな。ウチは、ウチの刃友、信じるわ。それにお前もウチの刃友の力、しっとーやろ? 」
「うん――。でも、だから……」
 ごにょごにょと口篭もるはやてを横目に、神門は静馬夫人に問い掛けた。
「なあ、おばさん。もし一人であの下に行ったらどうなるんだ? 」
「そうね――。あの枝に絡めとられて、身動きを封じられるわ。そしてゆっくり華を咲かせられるのよ。後は心と身体を好きなようになぶられる。淫らな力が蓄えられていくのよ。
 それをどうにかして抜かないと、その快楽の力に発狂してしまう」
「だめだめ、だめだよもかちゃん! 危険だよ!! 」
 再び騒ぎ始めた黒鉄。けれど神門は驚かなかった。かえって腹の据わった、声。
「……そうか。そんならおもしれえかもしれねえな」
 その言葉に周囲の空気が、ざわ、とどよめく。何故そんな流れになるのか、分からないからだ。けれど驚かない人が後二人いる。神門の刃友である祈紗枝と、Sクラス、帯刀洸。
「何驚いているんだ? もし本当に危ないなら、刃友が止めてるだろうし。自信があるならやってみてもいいんじゃないのか? 」
「ちょっとまってください」
 そこまで話したところで、また声がする。
「ゆかり? 」
432『ヤドリギ 終わりの始まり編』《19》:2006/02/12(日) 23:46:41 ID:poQ1DO4R
 上条は自分の刃友を見る。まさかここでゆかりが口を開くとは思わなかったからだ。何を言い出すのだろう。心配そうな槙を見て、ゆかりはまつげを動かすだけで目配せした。
「保有者の件で、疑問なんですけれど、始めから居たと言うなら、帯刀さんもそうではないですか」
 今まで槙が言い出せなかったことを、何気ない口調で問うゆかりも、上条と同じ考えを抱いていたに違いない。そして、切り出せるのは今しかない。
 もしここで帯刀が保有者であることを証明できれば、犬神がヤドリギに向かうのを止められるかもしれない。この騒動も、保有者への脅威が元で生じたものだからだ。けれど帯刀がそれを認めるわけがない。
「何を言ってるの!? あたしが保有者だとでもいうつもり? 」
「可能性を示唆しているだけです」
 帯刀が保有者、と言う意外な流れに納得しそうな周囲に、神門が頭をかきながら、わりいが、それはねえな、と否定した。むっとして、ゆかり。
「どうして神門さんが、そう断定できるんですか? 」
「だってあたしら、あたしと紗枝と、あと宮本は、パーティーの準備終了直後、コイツと会ってるんだよ」
 突然の種明かしに、ゆかりは開いた口がふさがらない。勿論上条もだ。
「え? 」
「コイツは、あたしらに来るか来ないかを確認して、その後で宮本にも、ひつぎと二人とも来ないことを確認しているんだ」
「……それが、保有者の有無に関係するんですか? 」
 なおも食い下がるゆかりに、神門は肩をすくめる。
「当たり前だろ。もしこいつが保有者だったら、意地でもひつぎをひっぱって来るだろうさ。つまりその段階でこいつはシロなんだよ。この後でひつぎ達が来るなら話は変わるだろうけどな」
「会長とみやもっさんは、来ないよ。
 わたくし達は行かないわ。わたくし達が行けば、皆緊張してしまって楽しむどころではなくなってしまうでしょう? 差し入れはしてあげるから、気にしないで楽しんでらっしゃい。
 って言ってた」
 はやての発言に、神門は鋭い目を向けて、帯刀に。
「……信じていいのか? 」
「大丈夫よ。私も同じ話を聞いていたわ。確か昨日の昼の話だったわね」
「OK。なら、魔界ヤドリギとやらを取り付ける前の話なわけだな」
 それなら決まりだ。帯刀が保有者の可能性は、ねえよ。その断定は、奇妙な説得力を持っていた。もう誰も疑いを挟むものはいない。猿楽が保有者かどうかはともかくとして、帯刀が違うと言うことは、確かなように思われた。
 ――確かに、会長に絶対的な愛を捧げようとする帯刀が、ヤドリギに操られていたとして、天地ひつぎを誘わないはずがない。
 けれどそれよりも槙が衝撃をうけていたのは、神門が保有者と見ている人間が誰だか見当がついたことだ。
 ――なぜ、彼女が保有者だと思ったの?
 ゆかりを見る。染谷ゆかりも同じ疑問にたどり着いたようだ。二人の視線が交わされる。そして、全く同じ標的を見定めた。
 ――なぜ神門玲は、彼女を保有者だと思ったのか?
 そして槙の視線は再び帯刀に――。今や完全に無罪となった帯刀に注がれる。
 動機の無い事を否定された帯刀洸は、口元に手をあてて、平静を保っている。けれどその口元がほくそえんでいるのが、確かに、見えた。
433『ヤドリギ 終わりの始まり編』《20》:2006/02/12(日) 23:47:29 ID:poQ1DO4R

「雉宮さん」
「は、はい! 」
 事のなりゆきに、思考停止状態になっていた雉宮は、犬神に呼ばれて飛びあがった。彼女はいまいち逆境に弱い。とはいえ、今状況が状況である。気を入れなおして、五十鈴に顔を向ける。
犬神のオーラが、高まっているのが分かる。
雉宮の鍛えられた目には分かる。自分で何をするかを決めたときから、彼女の周りから幾重にもオーラが立ち上っている。うかつには触れられない、すごみがあった。
「あなたは、エレメントを高めて力にすることが出来ましたよね。念のために、炎のエレメントを私に流しておいてください」
「え? 」
 この最高の魔力を持つ彼女が、自分の力をあてにしていることに驚いて、思わず聞き返す。刃友の危機に何も出来ない自分の無力さを噛み締めていただけに、その感情はとても新鮮だった。
 炎のエレメント?
 確かに、自分には大陸渡りの精霊術がある。それは犬神のように異世界より呼び出すモノではない。自然の力を呼出して使役する力の集りである。
 そうか。
 犬神の意図するところがわかって、雉宮は深くうなづいた。
「出来るだけ力を温存しておきたいんです。守りを高めるためにも、お願いします」
 頭を下げて頼む、犬神の言葉は雉宮が予想していたとおりのことだった。
 つまり五十鈴は、物質界に具現化したヤドリギの力から身を護る役を乙葉に、異世界からの力を召喚してヤドリギと対峙する役を自分に振り分けようとしているのだ。
 多分、犬神にも、雉宮のような術は使えるだろう。しかし異なる性質の術を同時に使うのは負担になる。
 ――長い時間結界を張るのは無理そうだけれど。
 右手を握ったり開いたりして、雉宮は考える。
 ――短い時間。五分――。いや、十分ならいける。やってみせる!
「わかったよ……。それなら、犬神さん。私も、連れていってもらう」
「キジっちゃん! 」
 思わず声を上げる猿楽を一瞬厳しい目で見て、乙葉はさっと背中を向ける。
「私がどれだけの力になれるかは、わからない。でも少なくとも、犬神さんを一時的になら守ることが出来ると思う。
 本体を叩けば、もう誰も君を疑うものはいないよ」
「そんな……」
 言葉が出てこない、猿楽。疑われるのは仕方ない。自分だって自分が保有者じゃないなんて証明できない。もし明日の朝まで一人でいろといわれても、文句も言わず納得したろう。
 ――でも、キジっちゃんは。あたしを。
「私は、未知が保有者じゃないって、証明できない」
 そう言われては、もう猿楽に言葉は無い。
「そう、頑張ってね」
 そう言って、そっと離れた。そのまま神門の側に立つ。自分が本当の保有者だったらいいのに。そしたらきっと、この人の手に握られている木刀をもぎ取って、大暴れしてやるのに。倒れた人をヤドリギの下に引っ張っていけば、確実に華をつけられるだろう。
434『ヤドリギ 終わりの始まり編』《21》:2006/02/12(日) 23:48:18 ID:poQ1DO4R
 ――っ!
 自分の考えとも思えないような思考に、思わず未知は身体を震わせる。もう、自分が本当に自分であるかさえ、揺らぎ始めているようだった。
――この前みたいなことにならずに、楽に彼女を手に入れられるよ。
 ふと、カラオケ前にした自分のやりとりを思い出して、硬直する。違うよね。そんなことのために行くわけじゃないよね、キジっちゃん! けれど当の猿楽の刃友は、犬神に炎の護りをかけている真っ最中だ。息をついて、終ったよ、と雉宮が言う。
「何も起こったように見えないぞ」
「……視覚に訴える炎じゃないのよ」
 怪訝な顔をする神門に、静馬夫人が答える。
「あの子、ずいぶんな使い手ね。雉宮の名前は聞いたことがあるわ」
「へえ。おばさん、見ることは出来るんだな」
「目はね。鍛えているのよ」
 どこかで聞いたような言葉に、神門は口をつぐむ。答える代わりに、進んでいく二人を見た。術をかけ終わった、と言う雉宮は、犬神の後ろをついていく。犬神の身に何かあったら、術の力を強めるためらしい。
 ヤドリギの勢力範囲に、入る。
 突然、ビッ、と二人の右斜め上くらいが、弾けた。そのとたん、ヤドリギが感心したような声をだす。
『おやおや。ずいぶん丁寧にガードしているんですね』
「あたりまえだよ。君の魔力に負けないようにね」
『私のところに熱を届かせないように、けれども種は全て燃やせるように、ですか』
 それなのに感心した口調もどこへやら、すぐにヤドリギは満足そうにつけ加える。
『なるほどなるほど。雉犬ですか。いいシチュエーションですよ。高まる魔力のおかげで、刃友の目を盗み、睦みあってしまう二人。魔界の性に溺れた二人は、黒い絆でもって――。
腕のふるい甲斐のあるあるカップリングです』
「黙りなさい」
 ぴたり、と、音が、止む。
 全ての動が、静に、なる。
「彼岸の物は彼岸に還るが法。犬神の名を以って命じます。
消えうせなさい魔界の住人」
 光と、闇が、反転、した。
 犬神の、髪が、なびいた。
 螺旋が、逆に、ねじれる。
 無の恐怖、が、形になる。
 絶望の、喜び、死の、愛。
 静かに世界の気がふれる。
 道デナイ道ガヒラカレル。
435『ヤドリギ 終わりの始まり編』《22》:2006/02/12(日) 23:49:29 ID:poQ1DO4R
 ぼう、と燃えた。
 雉宮の炎だ。それは二人に降りかかる魔界の種子だけをはじく炎だ。理の無い世界の中で、唯一理性を保ったもの。物が物であることを、証明する物。
 ヤドリギがねじれている。
 みるみるうちに、変貌していく。
『まさか、あなたは、あの犬神ですか――』
『そうです。もうこうなれば、あなたの抵抗も無駄と知りなさい』
『いえいえ。まだ、まだですよ。あなたの魔界の力では、愛の力は止められない』
 ねじれ、変貌していくヤドリギの姿は、壁に大きな顔を作り出していく。奥二重の美しい顔。男性とも女性ともとれる、整った顔。
 その両の瞳と、額に輝く三つ目の瞳。
 五十鈴は睨みつける。その魔界の顔に。
『あなたの、愛も想いも、この世界から滅しきってみせます』
『いいえ。愛は不変にして永遠。暗黒の力に遥かに勝ります。それともあなたは、その愛を否定するのですか? 』
『あなたの愛は、迷惑です! 』
『いいえ。世界を救うのは、愛です』

 肉体を用いない、魔力のぶつかり合い、そこから発せられる強烈な圧力。目の当たりにして、玲は呟くように尋ねた。
「何で人間の顔なんだ? 」
「え? 」
「なんであいつは人の顔なんかになったんだ」
「心の器を持つ生き物だからよ」
 答えたのは、静馬の母である。
「心の、器? 」
「うらやましいのよ。心と肉体を持った生き物は、この広い世界の中人間しかいない。原始的な喜怒哀楽や、本能的な欲望だけではなく、思考すること自体に喜びを感じられるのは人間だけなのよ」
「あいつらも、そうなんじゃないのか? 」
「魔界の住人は、思考することが存在することと同意なのよ。だから彼らは求めている。不安定な存在から、固定した存在を。その最も理想的な写し身が、人なのよ」
 玲にはよくわからない。けれどもし自分の実体がなかったら。そして仮に自分の形を現すとしたら、きっと一番特徴のある物を作るだろう。それも自分と似たような生活スタイルを持つ物に。そしてその中で一番目立つ部分。それは顔だ。
「けれど、何故今になって、人間の形を作ろうとしているんだ? 」
 玲の質問に、静馬夫人は微笑んで。
「力が拮抗しているからよ」
「拮抗? 」
436『ヤドリギ 終わりの始まり編』《23》:2006/02/12(日) 23:50:12 ID:poQ1DO4R
「そう。犬神さん――。あの子は、すごい魔力の持ち主だわ。末恐ろしいくらい。
 魔界とこの世界をつなげている、か細く冷たい螺旋を引き伸ばし、ねじれを平らにして、それが元の螺旋に戻る力でもって、あの魔界ヤドリギをすりつぶしているのよ。
 電動ドリルの腹を顔の横にくっつけて、ぐるぐる回しているような物だわ。
 それに負けないように、かりそめの実体をより鮮明に作ろうとしているのよ」
「効いて、いるのか? 」
「ええ――。時間はかかっても、この調子で行けばすりつぶせるでしょうね。徐々にこちらが押し始めている。もっとも、あやういバランスだけれど……」
 そこまで話して、静馬夫人は顔色を変えた。
「だれ!? 部屋の温度を上げたのは!! 」
「え? 」
「室温が上昇してる! 早く止めなさい!! 拮抗が崩れるわ! 」
 冬の寒さに、油断した。暖房の温度が上がっているのに気づかなかった。今まで自分たちの見たことのない世界に目を奪われていた剣待生達が、ざわめく。
 彼らはエネルギーを食べる物。
 犬神五十鈴によってその実体を削られかけていたヤドリギは、高まった熱を命一杯吸収している。
「紗枝! どうした!! 何をしていた!! 」
「分からない……。でも、彼女は動いていなかったわ! 」
 叫ぶ声。
 ああ、何をしているんだろう。上条は思う。誰を見ていたと言うのだ。猿楽は勿論、一年生達は最前列で戦いを見守っている。二年生の貴水も同じだ。三年生は――、四人集って顔を寄せ合っている。
 槙も、その現場を見ていなかったから、止めることは出来なかった。
 けれどもう間違いはない。
「全く、無用心な剣待生がいたものね」
 落ち着き払った声。その白装束に似合った、恐れのない声。
「誰かさっき寒いといっていたわ。それで上げておいた暖房の温度が、上がりすぎたんじゃないの? 」
「……その寒いと言っていた剣待生は、誰ですか? 」
「さあ、忘れたわ。私だって何でも覚えているわけではないのよ」
 帯刀洸は眉をひそめて、どうしたものかしらね、と呟いた。
 何を。
 白々しい。
437『ヤドリギ 終わりの始まり編』《24》:2006/02/12(日) 23:50:46 ID:poQ1DO4R

 雉宮乙葉の、肉体と精神はボロボロだった。
 彼女は必死に炎の守りを保っている。けれど犬神から発せられる強力なオーラと、それを包み込み飲み込もうとするヤドリギの魔力との間で、もっとも消耗しているのは雉宮なのだ。
 ――くやしいな。
 けれどここでひくわけにはいかない。その理由の一つは、この事件を起こした犬神五十鈴の罪滅ぼしを手伝いたいからだ。彼女の信頼を裏切りたくない。
 そしてもう一つは、もちろん、乙葉の刃友の疑いを晴らすためだ。今、ヤドリギの手下呼ばわりをされている未知の潔白を証明するためだ。
 ――未知。未知――。みち!
 バラバラになりそうな心の衝撃は、脳を揺すり、思考を揺すり、魂を揺する。
 歪む世界。
 けれどそのたびに、万華鏡のように思い出される景色がある。
 その柔らかい頬。
 癖っ毛の触りごこち。
 すぐに赤くなる頬、照れたときも怒ったときも。
「クリスマスパーティー、楽しみだね! キジっちゃん!! 」
 そして、その笑顔。

 ねえ、キジっちゃん。あたし協力って言葉、好きよ。
 ふうん。私が好きなのは、強力だね。
 やだ。だって、力を合わせれば恐い物なんてないよ。
 バカだなあ、君は。力があるから、守りたいものを守れるんじゃないか。

 含み笑いをする余裕がある自分に、乙葉は驚く。まだやれる。さあ、やって見せてくれよ、犬神五十鈴。あの化け物をすりつぶしてくれ。力を込めて、疲労にどろりと淀んだ目を、ヤドリギに向ける。私はまだやれる。私はまだやれる――。
 目がおかしいのかな?
 虚空の実体が、濃くなる。
 ヤドリギが変貌して、力を増したように見える。
 みんなが騒いでいる。
 うるさいな。集中できないじゃないか。
 思考が本格的にぐらつき始めた雉宮の耳に、犬神の声が聞こえた。
「雉宮さん……」
「……だ…ぃ。…み」
 雉宮の、なんだい犬神さん、と言う声は、精々うめき声にしかならない。けれど心は死んでいない。だって、星奪りの鐘はまだ鳴り終っていないだろ? それなのに何でそんなことを言うんだ。
438『ヤドリギ 終わりの始まり編』《25》:2006/02/12(日) 23:51:51 ID:poQ1DO4R

 え?
 今、彼女はなんて言った?

「雉宮さん、逃げてください」
 そう言われたのだと、頭の中のカセットテープが巻き戻し再生した瞬間、雉宮は強烈な体当たりを受けて、後ろにすっとんだ。
 紙のように舞っている自分。
 世界が二転三転する。そのまま倒れこむかと思ったら、柔らかい何かに受け止められた。
 ああ。
 柔らかい髪の毛の、感触。懐かしい癖っ毛だね、これは。
「キジっちゃん――」
「未知? どうして? ここは――ぶない」
 事態の急変に、乙葉は混乱している。魂と意識の世界から解放されたショックからまだ抜けきれていないのだ。そこに、猿楽のきつい声がふってくる。
「……バカ。どうしたの、こんなになって! キジっちゃんの好きな言葉は、強力じゃなかったの……? 」
「きょうりょく、……たよ? 」
「え? 」
 猿楽に抱きかかえられて、その体重の全てをあずけた雉宮が、子供のような満足な笑みを浮かべる。猿楽の心臓が、ぎゅっとつかまれるくらい、無防備な笑顔。
「きょうりょ――したよ。みちが、ずっとそばにいてくれた」
「バカ!! 」
 バカはないだろう。ひどいな、と思った。けれど実体と切り離されそうな、激しい衝撃の中、確かに未知は自分の側にいた。そのおかげで自分は自分として存在できたのだ。だから、バカと呼ばれても、いいや、と思った。
「みち――」
「なによ」
「…めんね? わたしは、力に、なれなかったよ」
「バカ!! 」
 今度は特大の、バカ、だ。ひどいな。けれど雉宮の頬に、温かい水が注がれているから、なんだか許せる気持ちになった。何がバカなのさ、未知?
「あたしは、きじっちゃんだけがしんじてくれれば、ぜんぜんよかったのに」
「何言ってるんだい、未知。全然、は、否定するときにつかう言葉だよ?
 そもそも君が裏切り者のわけないじゃないか。君は素直すぎるもの。わかりきっていることを、わざわざ言っても仕方ないだろう? 」
 そう言い返したつもりだけれど、多分言葉になっていなかっただろう。急速に遠くなっていく意識の中、雉宮はしっかりと理解していた。
 自分達は、失敗したのだ。
439『ヤドリギ 終わりの始まり編』《26》:2006/02/12(日) 23:52:52 ID:poQ1DO4R
 きっとこの後、皆頭に奇妙な華を咲かせながら、淫らに睦みあっていることだろう。きっとその時は、雉宮は全く別物の何かになっているに違いない。魔界に囚われるとは、そう言うことなのだ。その魔力を屈服させる精神力は、自分には無い。
 でもいいんだ。
 未知が一緒だから。
 側に居てくれる刃友の柔らかさを感じながら、雉宮は暗い闇の中に自らの身を投げ出した。未知の目から零れた涙の粒が、まるで乙葉の涙であるかのように頬を伝っている。

「あああああああああああああ! 」
 叫び声が、部屋を震わせた。
 犬神が雉宮を体当たりで突き飛ばした瞬間、勝負は決した。意識を手放した雉宮は、その光景を見ていない。
 猿楽は見ている。目を背けずに。その姿を。今眠りについている刃友の代わりに。
 戦うものの目で。
 敵の隙をうかがう為に。
「ああ! あぁん!! くふ……ぅ――」
『待ってましたよ。寂しかった一人で』
 身悶える五十鈴に、優しい声がかぶさった。
 部屋の中の変化した温度は、すぐにヤドリギの追加の栄養となった。それを蓄積し、いっきに犬神の結界を押しつぶしたのである。雉宮を突き飛ばしたのは、その結界が潰れる瞬間である。自分を守る余裕は、なかった。
 そして囚われた五十鈴は、宙に浮いている。
 今まで見えなかった雉宮の守りの炎が、実体化していた。
 いや、これはただの火ではない。すでにヤドリギの持つ魔界の思念に犯されている。
 その炎が揺らめくたびに、五十鈴の口元から涎が垂れ、足と手の先が、細かい痙攣を始める。あの炎は。
 淫らな力の具現化した姿だ。
「くうう」
『あなたも寂しかったんでしょ? 大丈夫ですよ。しばらく――明日の朝まで楽しみましょう。二人で』
 声が、悦んでいる。二人とも。五十鈴も、ヤドリギも。
 それでも最後に残った力で、五十鈴は必死に抵抗しているのだ。今まで感じたことの無い、魔界の快楽に身をゆだね無いように。
「か、はあああ。はっはっ、は――――あ」
 みっともない声である。必死に、空気を求めて、喘いで。今まで彼女の周りを取り囲んでいた魔界の圧力は、すっかり消えている。そこに居るのは、高まる性衝動を抑えられず身悶える少女だけ。
 どんなに堪えても。
 もうとっくに華は咲いている。
440『ヤドリギ 終わりの始まり編』《27》:2006/02/12(日) 23:53:38 ID:poQ1DO4R
「く――っ! 」
 飛び込もうとした神門を、祈が無言で止めた。これは罠だ。こんな姿を見せられて、冷静でいられる者は早々居ない。人間が壊れていく様を我慢することなど、出来るわけが無い。そして助けに飛びこんだ者を、次々と餌食にしようとしているのだ。
 ――隙を見つけなければ。彼女を助ける隙を。
 皆の意識が、一点に集中する。
 ヤドリギの一挙一動を注目する。
『大丈夫ですよ、皆さん』
 ヤドリギが、自分に向けられた怒りに気づき、にこやかに話し掛けた。
『どんなことがあっても、この人が最終的に気が触れたりはしません。私は優しい魔界生物です。一晩楽しめば、次の日は何事もなかったみたいに日々を過ごせますよ。
 それに、どんなに我慢しても、皆さんも時間の問題です。皆さんも、彼女の楽しい姿を見て、羨ましくなってきたでしょう? 』
 言われて、ぎくりとした少女が、確かに何人か居る。身体の奥から、熱い何かがこみ上げてくるのだ。乳首が固くなる。腰が重い。そして肌がぞくぞくする。
 何故だ。
 それはヤドリギ言う通り、犬神五十鈴の狂乱を、眺めているせいなのか。
「ああぁん。ああん。いや……め、です――」
『ずいぶんとあなたは魔界に精通してますね。とても懐かしい気持ちになりますよ』
「あ、めえ! ――こんんあ、の、…かしすぎ」
『ほら、イヌガミさん。あなたの……が――になってますよ。……も。汗が……をつたって。もうこんなになっているのを、みんなが見ているんです』
 ぼそぼそと囁くヤドリギの声に、一際大きく五十鈴が反応した。
「あぁん……!! ――でぇ!!! 」
『ほら』
 蜜のように甘いヤドリギの声が、せわしない呼吸の音に混じる。
『何を言ってるのか、もっとよく聞こえる声で、いってごらんなさい』
「あ、あ、ああ。み、ないで――」
 五十鈴の声に、猿楽が唾を飲んだ。
 未知の下着も、濡れそぼっていた。
 闘志に満ちた目は既に潤んでいた。
 そして快楽に震えた五十鈴の絶叫。

「ももかさん、みないでぇ!!! 」

 業! と燃え上がる炎。欲望の炎。
441『ヤドリギ 終わりの始まり編』《28》:2006/02/12(日) 23:54:28 ID:poQ1DO4R

 バン!
 強い音が鳴った。
 皆の歪んだ意識が、覚醒した。
 足音だ。
 足音だ。
 前進する足音だ。
 恐れも無く、さりとて戦略も戦術も無く、ただ前進していく足音だ。

「待て! おまえ!! 」
 誰かが叫ぶ。
足音は止まらない。踏み出したのはほんの数歩だろうに。何キロも先に進むような、力強く激しい足音。
「く! 」
 今まで五十鈴を守っていたはずの炎が、助けの手を拒む。もはや淫らな力の証となった炎は、更に赤く紅く燃える。
 ヤドリギの下にいて、彼女は平気なのか?
 そんなことは無い。もう遠目からでも分かるくらい、黒いズボンが濡れている。水でもかぶったかのような濡れ方だ。腰もこきざみに震えている。快楽が襲っている証拠だ。
 あんな姿を他人に曝すのは、羞恥心があれば誰でもご免こうむるだろう。あの滴る水が何を意味しているかは、皆分かっている。
 そして淫らの証明。
 にょきにょきと伸びだした、快楽の華の芽。
 五十鈴は、自らに近づいて来た人物を見て、驚きの声を上げる。喜びよりも、悲しみの方が大きい。力の均衡が崩れたとき、耐え切れなかった自分が呪わしい。
「だめです! この炎はただの火じゃないんです!! お願い!! 早くここを出て! それでその華を、ぬいて、もら……いひぃん! 」
 身体を貫く快楽に、言葉を振るわせる犬神に、彼女は力強く低い声で、答えた。
「あほう……」

 こんな火なんぞ、効かんのじゃ――。
442『ヤドリギ 終わりの始まり編』《29》:2006/02/12(日) 23:56:02 ID:poQ1DO4R

 吉備桃香の手が燃え上がる。
「――っ!! 」
 熱い。
 痛い。
 そして、気持ちいい。
 立って居られなくなりそうな足を踏ん張って、獣のような声を上げる。腰の奥からびりびりと震える。
 炎の熱さと、真っ白になりそうな快楽。けれど真っ白になるのは、快楽のためではない。
 怒りだ。
「――わんこ」
「ももかさん……。駄目です。早く戻ってください。あぁん! わらしのぉ、ちからで、ここはやどりぎの力がつよくて、……こんな、ふうに、な――。あああ」
「わんこ」
 ぐっと、身体を押し込む。また快楽。桃香の身体を襲う快楽。
 桃香の意識が、軽く飛んだ。
「う――。う! 
あ! あ――あん! ん、はぁぁ!! 」
 ぜえー、ぜえ――。ぜ、ぜ、ぜ。
 桃香の頭に電気が走る。目の前がチカチカする。みっともないくらいの、乱れ方。普通の子供がこの衝撃を受けたなら、失神ではすまない、そんな快楽の塊。膝が落ちる。けれどぎゅっと目を閉じて、戦う。
 そして、また一歩踏み出した、音。
 炎を抜け、刃友の側に立つ、吉備桃香。
「ももか、さん」
「わんこ、むかえに来た」
「ももかさん」
「すまんな。あんたに苦労かけて――」
 そっと犬神に触れる、吉備の指先。けれど犬神はそれを拒む。
「だめです――。もう、私のことは放っておいてください」
「わんこ、何を」
「触れられたら、見られちゃいます――。だ、だから、みないでください」
「なにゆうとるんじゃ! アホウ!! 」
 ぐっと、今度は力を込めて、犬神の腕を掴む。
 とたん。
 桃香の目の前にひろがる、幾重幾多の世界。
443『ヤドリギ 終わりの始まり編』《30》:2006/02/12(日) 23:57:57 ID:poQ1DO4R

 五十鈴が、悶えている。
 桃香の腕の中で。
 口ではいえないような場所を、舐めあっている。
 顔がだらしなく広がっている。快楽に溺れている。
 指が差し込まれ、抜かれ、また差し込まれ。
 あろうことか、男性の生殖器がある桃香や、五十鈴の姿まである。
 セックスのスタイルから、あらゆる性別までが入り混じる、虚構の世界。
 ありとあらゆる、快楽の形の証明。

「わんこ――」
「だから、見ないでって、言ったのに――」
 泣いている。あの犬神五十鈴が、辛そうに、苦しそうに。
「わ、私は、こんなこと、しりません。こんなふうにするなんて、しらない。だから私の思ってたことと違うんです」
「わんこ」
「けれどそれは、いやってことじゃなくて、わたし――。
 ……喜んでいるんです。悦んでいるんです。
 この淫らな可能性を、起こるかもしれない刺激を――。いやだなんて思わないで。
 汚らわしいですよね。汚らしいですよね――。こんな姿、私、桃香さんに見せたくなかった。もう、華だって咲いちゃってるし。わたしは――」
 吉備が顔を近づけてきたので、犬神は口をつぐんだ。その目は怒りに燃えていたから、殴られると反射的に身構えたのだ。しかし彼女は手を上げることなく、一言。
「ウチの頭の、華は咲いとるか」
 と尋ねた。
「い、いえ。芽は出てますけれど、まだ――華は咲いていません」
 そうか、それならええ――。
 そんならええ? その言葉の意味が、五十鈴にはわからない。ただでさえ快楽で脳が麻痺しているのだ。これから起こりえる可能性を、最後の力でねじ伏せて、留めているのだ。
 ――桃香さんが、抱きしめてくれたら。
 ――私が、桃香さんを抱きしめたなら。
 けれどダメだ。絶対に、その可能性を実現させたくなんか、ない。この魔界の生き物の思い通りになんかならない。それが五十鈴の最後の心の砦なのだから。
 とたん、ぐっと抱き寄せられる。思わず固く目を閉じる。残された力を使って、桃香と生じるかもしれない交わりの可能性を否定する。それなのに。
 唇に、何か固い感触。
 これは。
 強張った、吉備桃香の唇。
444『ヤドリギ 終わりの始まり編』《31》:2006/02/12(日) 23:58:50 ID:poQ1DO4R
 触れただけのキスに、五十鈴は大きく目を見開く。どっと涙が溢れる。このキスの御蔭でパニックはおさまった。
 けれど、ヤドリギの魔力が働いてしまったのだ。桃香の頭の華はまだ咲いていない。それももう時間の問題だ。
 ――私が、桃香さんを、無理矢理狂わせたんだ。
 それなのに桃香はにやっと笑って。
「安心せ。わんこ」
「ど、どうしてこんなことを! 今ので、可能性が開かれましたよ。桃香×わんこの、攻めと受け。桃香リード、五十鈴誘い受けです! オーソドックスな流れですけれど、手堅いカップリングで――」
「……何を言うとるんじゃ、あんた」
 吉備の息は熱く、いいにおいがする。香水をつけているような、高級シャンプーをつかったような甘い体臭。けれどその中において、桃香はまるで自分を見失っていなかった。
「いいか? ウチは、今ウチの意志で、あんたにキスしたんじゃ。可能性もなんもない! 」
「あの――お言葉ですが、そういう単純さも、攻めには必要な物で――」
「知るか! あんたとウチは刃友で、天と地じゃが、攻めとか受けとか言う役割はないわ!! そもそも――。
 攻めん恋愛がこの世のどこにあるんかっ!! ドアホウ!!! 」
 静まりかえった部屋。
 ヤドリギでさえ、その動きを止めた。
 チャンスだ。隙が生じた。そう思っても、皆身体が動かない。それは圧倒されているからだ。桃香の迫力に。
「いいか、わんこ。ウチがこれからしようとしておることは、恋愛とは違う――。刃友を守ろうゆう行為じゃ」
「は、はあ――」
「そやけ、あんま、複雑ん考えんと、そんままでおれ」
「は、はい――」
「……それと、ウチは、こういうこと全く経験ないけど、勘弁せーよ」
「は、そ、それは? 」
 何が起ころうとしているのかわからず、目をぱちくりさせる犬神。その目が再び大きく見開かれるのに、さほど時間はかからなかった。
「んー! んんん―――――――っ! んんーっっっ!!! 」
 キス。
 キスキス。
 キスキスキスキス。
 ただ乱暴に吸い付き、吸い取るだけの、強引なキス。
「ぷ――、は、はあはあ、は、あ――。あむ、んちゅ――ああんあ。ん――ん――――」
 息をついで、その上にまた吸い取られるような激しいキス。舌が根から吸い取られるようながむしゃらにキスに、五十鈴はガクガクと激しく震えた。
「んな――。あ、は、はげし――。ん、ちゅ。あんむ。はむ、ちゅ、ちゃ――。あむぅふうん――」
445『ヤドリギ 終わりの始まり編』《32》:2006/02/12(日) 23:59:57 ID:poQ1DO4R
 はあ、は――、は――。
「ん、すご、…ぎます。もう――ん。ん――ん――。くぅ……。あうん。ぺちゃぴちゅ――」
 ――涎と、汗と、震えが止まりません、ももかさん――
 そっと指先が、腰のジッパー越しに触れ、微かに、けれどぎこちなく震えるのに、もう犬神の身体はたまらなくなっている。
「ウチにまかしとき」
「ももか、さん――」
「いすず」
 
 とたん、花びらが、散った。
 同時に犬神を縛っていた炎の結界が、壊れた。

 犬神の身体が、ひくんひくん、ひくんと震える。
 桃香の口の中で、五十鈴の喉の奥から漏れた、おおおお、と言う喘ぎ声が、響いた。
 す、と抱き寄せられて犬神は、抱きかかえられたことに気づきながら、自分の身体が、駆け抜けた快楽のせいで太ももから暴れているのもわかっていた。
 ――恥ずかしい。
 しかし自分を支えてくれる、桃香の腕がいとおしく、嬉しい。
 追いすがろうとする、ヤドリギ。けれど絡みつく細い枝を引きちぎりながら、桃香は足を止めない。
 力強い、足音。
 抱きかかえられたまま五十鈴は、ヤドリギの下から連れ出される。そっと唇を突き出してみると、今度は軽く触れるようなキスを返してくれた。
「まさか、キスだけで、あのヤドリギの華を散らすなんてね――」
 静馬夫人の声が、驚きに震えている。気持ちを落ち着けるために、彼女は右手の親指と人差し指を強く擦り合わせた。その顔を見てにこりとする、吉備。
「満足させれば消えるゆう話を聞いたんで、いけるかもと思ったんですわ――。うまくいって、よかった……」
 力尽きてぐったりしている犬神を床に寝せて、桃香は大きな息を吐く。その後、さあ、行くか――、と覚悟を決めた声。
「行くって、どこへだ? 」
 神門の質問に、吉備は固い声で、きまっとりますでしょう、と答えた。
「あん魔界ヤドリギとか抜かすボケ、ぶっ潰したる――! 」
「正気か!! 」
「正気も正気ですわ――。今なら、ウチは、あんくらいのもん……」
 気合があっても身体がついていかない。今更ながら、身体中から吹き出た体液の冷たさに気づく。同時に目の前が暗くなる。ぐっとふんばってよろけたところを、桃香は思いもよらない人物に支えられて、驚いた。
446『ヤドリギ 終わりの始まり編』《33》:2006/02/13(月) 00:00:45 ID:poQ1DO4R
「久我さん――」
「ももっち。君はよくやったよ。ゆっくり休みな」
「けれど――。あいつんせいで――」
 弱弱しく抗議する桃香に、順はゆっくりと首を横に振って、ダメダヨ、と囁いた。
「もうあれは、気合だけで乗り切れるモノじゃなくなってる。ほら、天井を見てごらん。もう蛍光灯は消えているんだ。それなのにこんなに明るいんだよ? 何故だと思う? 」
 言われるままに天井を見上げる。
 蛍光灯は消えている。ヤドリギは、まず天井の電力を餌にしたらしい。それなのにどうしてここは真昼のように明るいのだろう。目を細めて見つめると、全く別のものが明かりになっていたのが分かった。
 絡まりあう枝と枝。その隙間から丸い実のようなものが生っている。
 ――木の実?
 いや、違う。ぼんやりとだが、見える。
玉の中でうごめくもの。
それは絡まり合う人々の、あられもない姿だった。
「このヤドリギがプレゼントしてくれる、可能性の姿よ――」
 順の冷静な声。けれどそこには深い深い怒りが込められていた。
その怒りを逆なでするような、ヤドリギの声。
 今度は枝や幹を震わせて出した声ではない。ヤドリギの顔にある赤い口が発する、慈悲深く優しい声。
『いくらでも、いくつでも。用意してますよ』
 受けも攻めも、カップリングも設定も――。
 全てを兼ね備えた、それぞれの愛の世界
『あっと言う間に仲良しになれますよ。心配しないで。夢をごらんなさい』
「――っ!! 」
 怒りが再燃して、桃香は立ち上がろうとする。けれど途中まで浮いた腰は、そのまま行き場を無くして、ぺたん、と座り込んでしまった。
 桃香の怒りよりも、もっと強い怒りの力。
 魔術も魔力も、何もかもを押しつぶすような強い怒りの力。
「む、むどう、さん? 」
「見たまえ、ももっち。あれが我々に残された、最後の切り札だ」
 ルームメイトの指差す先には、仁王立ちした少女が立っていた。
 髪が逆立ってきている。周囲がぱちぱちと帯電している。染谷ゆかりが、両手をぎゅっと拳に作った。浅倉みずちが大きく息を吸った。そして久我順は楽しそうに、唇を吊り上げた。

「なんだか腹が立ってきたぞ――」
447『ヤドリギ 終わりの始まり編』《34》:2006/02/13(月) 00:02:57 ID:X6vITBBR

 虎が。
 唸った。

                       (何これ。長すぎるよ何これ。だから遅くとも来週中に終らすよ。本当だよ)
                        次回 『ファイナル編』
448名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 00:25:21 ID:iT0m4WoL
リアルタイムキターーーーー(・∀・)ーーーーーー!


GJです!
それぞれのキャラクターがしっかりとストーリーに絡み合ってて、すごくイイ(・∀・)!!
449名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 01:12:00 ID:Y34MbsZL
まさに
「ナゲッ」
450名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 01:45:38 ID:EWgEXbaw
GJです。
こんなに長いの書けるなんて本当にすごいです。
私なんてレポート二三枚書くだけでヒイコラ言うのに。
職人さんは本当にスゴイ!!
大変だと思いますが頑張ってください。
451名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 01:49:21 ID:dKTt7/BO
ぐっじょ!
長いけど読みやすいし、みんなかわいいですよー
452名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 02:05:33 ID:LkcLf3Z4
なげーよ
紙媒体だと長い文章読むのは全然平気なんだが、ディスプレイだと疲れるな
453名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 02:34:23 ID:3Jyva7z4
そうか?
マメに改行しているしキャラの設定や話の流れが分かりやすくて
かなり読みやすいと思う。
逆にこんなに長く書いているのに、途中で作者がぱにくって意味不明な文にまったくなっていないのが凄い。
GJでした。やどりぎの人。
>>452
もしも、ディスプレイで見るのが疲れるんだったら、プリントアウトでもしたら??
印刷したら、かなり目への負担は変わるし。
454名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 05:01:53 ID:eZ3wzQXT
GJ!!
長いのに面白くて一気に読んじゃったよ。
続き楽しみにしてます!
455名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 11:53:24 ID:JSW2ytjJ
イイヨーイイヨー
キジっちゃんともかちゃんカッコヨスvv

あとヤドリギに呼ばれた静馬夫人ワロタ
ヤドリギのカテゴリには中年女性×美少女(逆可)も含まれるという事か
456名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 12:53:43 ID:Rux9+IGE
読みにくいよ
画面の端に行く前に改行しろ
457名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 13:23:53 ID:a/Ic1NYX
21歳以下は読んだらいけんよ〜
458名無しさん@秘密の花園:2006/02/13(月) 15:37:03 ID:3Jyva7z4
とりあえず、綾那の活躍ップリが楽しみです!!
がんば、ヤドリギの人!
459名無しさん@秘密の花園:2006/02/14(火) 01:02:20 ID:w9mffGSb
さて次回のはやて×ブレードは?

「みずちです
今日はいよいよバレンタイン。蒼は見かけによらず、ビターチョコが好きみたい
みずちさん、コクのあるビターチョコって、いいですよね
って言われたけれど……。私は本当は甘いミルクチョコが好き
でもどんなにビターでも、口移しならとても甘いわね
さて次回は

綾那大いに怒る
白服ですよ
蒼ちゃんの誕生日

の三本です」


ってくらい、蒼×みずちが読みたいです。先生
 ――二月十三日、昼休み。
 私は目的の人たちをテラスで発見した。
 近づこうとすると向こうもこっちに気づいて、あからさまにイヤそうな顔をする。
「なんじゃキジ公。楽しい昼メシの邪魔したらタダじゃ済まさんぞワレ」
「あ、キジちゃんおひさしー」
 そこにいたのは、吉備桃香と黒鉄はやてと、知らない人がもう一人。
 私は、ちょっと失礼します、とその人に挨拶して、空いている席に座らせてもらった。
「キミはいつになったらそういう態度をやめてくれるの? こっちはもうウンザリなんだけどな……」
「あァ? わんこがいのうて強気になっとるんか?」
「怒ったなら謝るよ」
 そう、今は下らない喧嘩をしている場合じゃない。
「何を隠そう、実は君たちに頼み事があってね……」
 少し緊張と恥ずかしさを感じながら、私は話を始めた。

「そっかあ、明日バレンタインだもんね。あたしも綾那のチョコ用意しなきゃ!」
「しっかし、そんなモン普通に渡せばええじゃろうに。んなぁ緊張することじゃなかろー」
「キミたちは気楽そうでいいね。私たちには私たちの事情があるからさ……」
 私が持ちかけたのは、バレンタインについて尋ねられそうな上級生との顔つなぎだった。
 小学生時代の六回のバレンタインは、男女どちらにも渡さず過ごしてきた。
 けれども、今は未知がいる。未知には絶対に渡したい。
 楔束してから今までの感謝の気持ちとか、色々とあることだし……。
 でもやっぱり、渡すことへの不安もある。
 変に思われないかとか、イヤがられたりするんじゃないか、とか……。
 この複雑な感情を相談できそうな相手は、あいにく私の周りにいなかった。
 中学初のバレンタイン。しかも女子校。
 このヘビーな話題を同学年の小娘たちに相談するのはムリがあると思う。
 未知になら何でも相談できるけど、当人に話すコトじゃないし。
 そういうわけで、まあどちらかと言えばわりとそれなりに信用できるこの二人に、
女学生経験豊富な先輩方を紹介してもらうことにしたのだった。
(特に黒鉄さんは、妙な人脈を持ってるらしいしね……)
 色々と誤魔化しを混ぜながら、私はその旨を二人と、
知らない人改め貴水蒼先輩に説明したのだった。
「一年生で上級生が刃友ってのは、なかなかいないからさ。
 それに吉備さんの方は幼馴染が――」
「ちょお待てキジ公」
 ……さっきより幾分不機嫌そうな声+顔で睨まれた。
「一応言っとくがの、ウチの方はパスじゃ。りお姉には会いとーないんでの」
 あーそうか。表向き関係が直ったように見えても、こういうイベントとなると昔のようには付き合えないらしい。
(やっぱり根に持つタイプなんだね、この人)
 思っても顔には出さない。犬神サンが怖いし……。
「それじゃあ貴水、……先輩は、アドバイスとか経験談とかないですか?」
 貴水“先輩”は黒鉄さんの友人だって話だけど、どう見ても同級生にしか見えない。
 でも体格と学年は関係ないから、多少は期待できるハズだ。
 が、
「ごめんね雉宮さん。私は去年の春に転校してきたの。
だから、ここでのバレンタインは私も初めて」
 落胆しそうになる私に、でもね、と貴水先輩は言葉を続けた。
「渡そうかどうか悩める時点で、良い関係を築けてるんじゃないかしら」
「? それは、どういう……」
「その人と浅い関係しか持ってないなら、
あっさり渡したり逆に渡さなかったりで、悩むってことはないんじゃないかな。
わざわざ上級生に相談するほど悩んでるなら、相手がそれだけ大切な人ってことでしょ?」
「えっと、それは……」
 参った。顔がちょっと熱くなってる。
 チビッ子でも先輩は先輩。言霊使いの私の感情を簡単に動かすかぁ……。
 私が口ごもっていると、今度は黒鉄さんが貴水先輩に、
「話はよくわかんないけど、あおちゃんも明日渡すんでしょ? どんなのにする?」
「え゙っ!? え、えええーとみずちさんはビター系かな?
あっでも甘い物嫌いって言ったことないから本当は甘党なのかな? ねえどう思うはやてちゃん!?」
 ――ああ、なるほど。この人も“良い関係”を築けている相手がいるんだね。
 頭と顔が冷めてきた。あまり悩むようなことじゃなかったみたいだ。
 と、貴水先輩と話し合ってた黒鉄さんが、急にこっちを見て言った。
「そうだキジちゃん! あたし専門家を知ってるから、その人に会いに行こう!」
「専門家?」
「その通り! さっそくゴーよレッツらゴォーッ!!」
「あ、ちょっと……! 貴水さん、お話ありがとうございました!」
 礼を言って椅子から立ち上がる。黒鉄さんの姿はもう小さくなり始めてた(元から小さいけど)。
「こらキジ、ウチにも挨拶せんかあ!」
 怒声を無視して、私は駆け出した。

「ハァ…ハァ…ハァ……」
「失礼しっまーっす!」
 しばらく走って着いたのは、中等部三年の教室だった。黒鉄さんがドアを開ける。
 結構な速さだったのに、黒鉄さんは息一つ切らしていない。
 貴水先輩といい黒鉄さんといい、今日はチビッ子に驚かされる日だ……。
「あっ、綾那綾那ぁ。じゅんじゅん探してるんだけど知らない?」
「まず廊下は走るなクロ。そして私とアレをセットにして扱うんじゃない。
……ん? あんたクロのツレ?」
 遅れて教室へと入った私に、声が掛けられた。
 この人は確か、黒鉄さんの刃友、無道綾那だったかな。
 何度か黒鉄さんといるのを見たことはあるけど、直接話すのは初めてだ。
「そうです、私は――」
「――あぁ、何度か見た顔ね。式岸軋騎さんだっけ」
「……雉宮乙葉です。どこぞの殺人鬼とは違います」
「あっそ。で、あの淫魔に何の用? 私は極力関わらないことを勧めるけど」
「ちょっ、悩み相談の専門家じゃなかったの!? ……ですか?」
 まさか淫魔なんて単語を天地学園で聞くとは思っていなかった。
 しかも私は、その淫魔に対面しなくてはいけないらしい。
(でも、これも未知のため……!)
 体が震えるのは、怯えているわけじゃない。これは武者震いだ!
 一人決意を固め直す私の前で、黒鉄さんは無道先輩にまとわりついていた。
「ねぇねぇ綾那! 明日だよバレンタイン! もちろんチョコくれるよね!?
お互いに愛情大盛りのを交換するんだよね!?」
「ヒトの教室で騒ぐなバカクロっ!!」
 ドゴッ! という音と共に、無道先輩のボディアッパーが黒鉄さんに炸裂した。
 いくら小柄とはいえ、中学生を浮かせるアッパーを打つなんて恐ろしすぎる。
(さすが『天地の怒れる虎』……)
「何か言った?」
 慌てて首を横に振る私。
「そ。――まあ確かにあいつなら、バレンタイン関係の相談には向いてるかもね。
屋上に行くって言ってたから、そこのバカも連れてっといて」
 ……説明なんかしてないも同然なのに、鋭い人だ。
「お騒がせしました。屋上、行ってみます」
 教室のドアを閉める時に、無道先輩の顔が見えた。
 パンを手に持ったまま、心ここにあらずといった顔をしている。
(もしかして、あのヒトも悩んでいたのかな?)
 鋭いとかじゃなくて、私や貴水先輩と同じだっただけ、とか。
 まるでバレンタインという言葉に人を悩ませる力が宿っているみたいだ。
(でも、相手がコレじゃ大変だね)
 気絶している黒鉄さんを引きずりながら、私はそんなことを考えた。


 (後編に続く)
465ヤドリギの人:2006/02/14(火) 01:18:10 ID:w9mffGSb
うわー読みやすい
やっぱり携帯電話からでも、読みやすいのがいいですね
私も頑張ります。なんとか……します。ウウ
後編が楽しみです

頑張ってキジっちゃん
466名無しさん@秘密の花園:2006/02/14(火) 01:30:49 ID:dD6SpLsQ
GJでーす
BDの人もヤドリギの人も期待してます。がんがって
467名無しさん@秘密の花園:2006/02/14(火) 01:50:27 ID:dR/C0Pl9
GJ!
あと>>459も地味に好き
468名無しさん@秘密の花園:2006/02/14(火) 11:56:19 ID:Saa+yP2u
>>467
禿同
白服ですよが気になる
469名無しさん@秘密の花園:2006/02/14(火) 13:33:20 ID:5u3N1FgK
>>459
上手い事言うみずちさんが素敵だ。
こんな短文でも余裕で萌えられるほどみずちスキーな自分の為にも是非みず蒼を!
470@:2006/02/14(火) 21:01:14 ID:FePMxei0
 日が暮れて急に冷えはじめた。
 二月の半ば、春はまだきの風の寒さだ。外灯と月が照らす夜の学園を、人を探してあちこち廻りながら、私はかじかむ手を何度もこすりあわせ、息を吐きかけた。
 結局彼女は、校舎の屋上、鐘楼の屋根の上に、こちらに背を見せて座っていた。
 どうやら生徒会権限を使って、閉門後の校舎に入りこんだものらしい。おかげで、見つけるのにずいぶん時間がかかった。
 夜風がヒュウヒュウ通って、彼女の、普段ろくにドライヤーも使っていなさそうな(実際はそんなことない

はずだけど)髪をなぶっている。防寒用のスクールコートに月の光を受けて、ぼうっと浮かび上がったその後

ろ姿が、まるで幻みたいだ。近づくこちらの足音に、気付いているのかどうか判らない。
「玲」
 そっと呼びかけると、私の刃友は、振り返らずに「んお」と答えた。
471A:2006/02/14(火) 21:01:49 ID:FePMxei0
「んお、じゃないわよ。寒くないの?」
 鐘楼の外壁についた鉄ばしごを使って、丸い屋根に登り、玲の隣りにしゃがんで訊いてみる。
 いつからここにいたのか知らないけど、寒くないはずないと思う。コンクリートの屋根にじかに座っている

んだもの、服越しにだって肌に冷気がしみてくるだろうに。
 それにこの風だ。学園で一番高いところを吹きぬける、冷たい、情け知らずの風。
 天地の頂点に立つって、この風に耐えることなのかな。そんなことを、ふと思った。
 玲は玲で、なにやら物思いに耽っているかのように、こっちを見もせずに返事をよこす。
「あー。寒いな」
「……寒いな、って。だったら降りればいいのに」
「いや。寒いけど、風が通って、いくらか気分がいいんだ。それに、ここなら一人になれる」
472B:2006/02/14(火) 21:02:25 ID:FePMxei0
 あは。
 どうやら、物思いでもなかったらしい。予想はしてたけど。
 笑いをかみ殺しながら訊いてみた。
「それで、いくつ食べたの? チョコ」
「五つから先は憶えてねーよ」うんざり顔で、吐き捨てるように、「まだ口の中が甘いぜ。胸がむかむかする


「まあほら、年に一度のことじゃない。そのくらい我慢したら?」
「二度も三度もあってたまるかっ。な、に、が、」
 な、に、が、のリズムできゅう〜っと縮こまって、一瞬、間をおいてから、玲はどかんと爆発した。
「バレンタインデーだあっ!!」
 私は今度こそ声を出して笑った。
473C:2006/02/14(火) 21:03:54 ID:FePMxei0
 私の刃友には、下級生を中心にファンが多い。ユニセックスで一見(ここ重要ね)不敵そうな雰囲気、剣待生として白装束をまとう腕前。人の目を引くのも、まあ無理はない。
 だから彼女が、この特別な日、朝から晩までチョコ片手の少女たちに追われたとしても、そんなに不思議なことではなかった。隠然と存在するファンクラブも、今日だけは乙女たちの恋路の邪魔はしないらしい。追っかける側に混ざってるのかもしれないけど。
 それにしても。
「逃げまわってるのは知ってたけど、捕まったって聞いて驚いたわよ。玲、なっさけなぁい」
「うるせーな。狭いとこで囲まれちまったんだよ」
「囲まれたって、あなたなら抜けられるでしょ。どんな将来有望な剣待生に迫られたのよ」
「剣待生なら、なんてことねえよ。一般生徒だ、問題は」
474D:2006/02/14(火) 21:05:19 ID:FePMxei0
 あ、なるほどね。
 たしかに、ふつうの生徒はある意味、剣待生より恐い。下手に突きのけたり、捌いてかわしたりしたら、転んでケガでもされかねない。だから手荒なことができなかったんだろう。
 そして、ひとつ受け取ったら、全員から受け取らざるを得ず、せがまれてひとつ味見したら、他のに口をつけないわけにもいかなかったのだ、優しき我が刃友は。
「だいたいだな、いいか」
 今ごろ腹が立ってきたみたいに、声をきつくする玲。
「あたしは剣待生だ。いつだって、体調やウェイトを管理しなくちゃいけないんだ」
「…うん」
「チョコなんて、脂肪と砂糖の塊みたいなものを、たらふく食うなんて論外だ」
「うん」
「それにあたしは、同じ甘いものでも『サッパリ系』が好きなんだ」
「飲み物も炭酸系よね」
「いや、それ以前に、あたしは女だ! 女が女にチョコくれてどうする!」
「うん。あのさ、玲」
「なんだよっ」
「それ、その時その場で言ってみればよかったのに」
475E:2006/02/14(火) 21:06:21 ID:FePMxei0
「……。だな。当っちまってわりい」
 はぁ、とため息ついて肩を落とす玲。あら、責めたつもりじゃないんだけどな。
『気にしないで』の合図に手をひらひら振って、私は訊いてみた。
「ねえ。いっそ、一日外出してたらよかったんじゃない? さもなきゃ、ずっと部屋にこもってるとか」
「なんであたしが逃げなきゃならないんだ。逃げたら、負けだ」
 即座に鋭い声が返ってきた。おお、玲かっこいい。
「……でも、来年は考えてみるかな」
 小さく追加。玲、やっぱりなさけない。
「あれ? そういや紗枝、よくここがわかったな。ってか、なにか用か?」
 おやおや。
 わが刃友は、どうやら今頃になって、そんな疑問に思い至ったご様子だ。どうやら、ほんとにダメージが大きかったらしい。
 ふふふ。実はね、玲。そんなかわいそうなあなたにプレゼントがあるのよ。
476F:2006/02/14(火) 21:07:22 ID:FePMxei0
「そうそう、思い出したわ。これを渡したくて」
 私は、懐にさりげなく隠し持っていた『プレゼント』を取り出して、満面の笑顔で掲げてみせた。白地に銀の飾り文字の躍る包装紙で、丸くて平たいものを包み、四ツ端は裏側の真ん中に集めて、大きな、赤いシールで留めてある。
 玲の顔がピキンと引きつった。
「ちょ……まさか、お前まであたしにチョコよこす気じゃないだろうな」
「んっふっふ」
「バカ、やめろ、紗枝の裏切り者ー!!」
 逃げようとあがく玲の襟首を左手で捕まえておいて、右の指先だけで包みを解く。
 現れたのは、直径およそ十センチ強、厚さは平均一センチほどのうすべったい円盤。『老舗の味 ××堂』なる文字入りの透明なビニールに密封された、表面に凸凹のある、飴色のそれは……
477G:2006/02/14(火) 21:08:28 ID:FePMxei0
「……せんべい、か?」
「しょっぱいものが恋しいんじゃないかって思ってね、ちょっと外に出て買ってきたのよ。よかったらどう?」
「おお!」
 とたんに、子供みたいなニコニコ顔になる玲。現金なものだと思うけど、こっちも悪い気分じゃない。
「サンキュー紗枝、そうなんだよ、塩分に飢えてたとこなんだ。マジありがたい」
「そう? 喜んでもらえて嬉しいわ」
「お、たしかこれ、学校のそばのせんべい屋だろ? へえ、『創業明治四十年』か、ずいぶん歴史が長かったん、だ…な……」
 ぴたり。なんの気なしって感じでおせんべを裏返してみた玲の動きが、突然止まった。あ、気付いた。
「……おい、紗枝」いやに低い声を出す玲。
「ん? なになに、なにかしら」天使の微笑みで問い返す私。
「この、せんべいの裏側の、『ミカどんLOVE』ってのは一体なんなんだ……」
478H:2006/02/14(火) 21:09:15 ID:FePMxei0
「ああ。それ」
 天使の微笑みは一ミクロンも崩さずに、はきはき解説してあげる。
「あのお店はね、お願いすると文字入れてくれるのよ、お醤油塗って、海苔貼って。きれいにラッピングまでしてくれて。老舗にもサービス精神は必要よね」
「なにがサービス精神だ」
「激しい競争社会、みんな生き残りをかけて戦ってるのよ」
「なにが、激しい競争社会、みんな生き残りをかけて戦ってるのよ、だ」
「あ、でもね、玲。ひとつ間違ってるわ」
「何だよ」
「文字のあるほうが表よ」
「どうでもいいだろ、そんなことっ!!」
 どかん、またしても爆発する玲。私の胸元におせんべの包みをつき返す。
「こんなもの食えるか。あたしは食わないぞ。返す」
「えー。せっかく買ってきたのにぃ。美味しいわよ?」
「知るかっ。こんなもの食うくらいだったら、寮の食堂で醤油でもすすってた方がマシだ」
 かわいく拗ねてみせても、玲の怒りは収まらない様子。ちょっとからかいすぎたかしら。
「でも玲、食堂ったって、また襲われるだけじゃない? バレンタインデーは、あと三時間ちょっと残ってるのよ」
 指摘してやると、玲は、追い詰められた猫みたいに「ううう」と唸った。
479I:2006/02/14(火) 21:10:09 ID:FePMxei0
 しかたないなあ。
 私はこっそりため息ついて、玲の手からおせんべの包みを取りあげた。
「あっ……」
「『あっ……』じゃないわよ。待ってて」
 左の手のひらにおせんべを平たく寝かせて、袋の上からそっと、右の親指の付け根の丸いふくらみを押し当てる。
 そのまま力を込めていくと、おせんべは、パキリ、あっけなく割れた。
 玲がまた「あっ……」とつぶやく。だから、「あっ……」じゃないってば。
 同じ動作を三回ほど繰り返して、まるい円盤を、程よく砕いてやった。
 ミカどんLOVEの文字も、砕けて消えた。
 それから、ニッコリ笑って、もう一度ビニール包みを差し出す。
「さ、これでいいでしょ。そろそろ点呼の時間よ。こっそり部屋に戻って食べなさいな」
480J:2006/02/14(火) 21:10:54 ID:FePMxei0
 玲は、毒気を抜かれたみたいにしばらく黙っていたけど、やがて、私の手から包みを受け取って言った。
「ああ。サンキュ。貰っとくわ」
 それから、すっと立ち上がって、鐘楼を降りるために鉄ばしごのほうへ足を向ける。
 その背中に、
「玲」
 一言呼びかけて、私は乞うように指を伸ばした。
「……なんだよ」
「私にもそれ、分けてよ。食べたい」
 玲は黙ってビニールを開き、口のほうを私に向けた。最初に指に触れたかけらを引き抜いて、お礼のしるしに微笑んでみせる私。
 玲はひとつうなずくと、左手でおせんべの包みの口をキュッと絞ったまま、危なげなくはしごを降りきった。
 それから、もう一度「サンキュ。じゃあな」とつぶやいて、屋上から降る階段へ続く出口、蛍光灯がほの照らす鉄の扉のむこうに消えていく。

481K:2006/02/14(火) 21:11:34 ID:FePMxei0

「『……チョコレートならともかく、バレンタインにせんべいだなんて、なんの意味もない。『ミカどんLOVE』の文字だって、単に、いつもの冗談、あたしをからかうための思いつきに決まってる。
 なのに何故だろう。
 紗枝の手が、大きな、まるいせんべいを割ったとき、
 せんべいがパキリ、小さな悲鳴をあげて砕けたとき、
 あたしの心にも、一瞬、かすかな痛みが走ったのだ……』」

「なんのモノローグだよ、それは!!」
 扉からひょこっと顔だけ出して怒鳴る玲。あら、聞こえてたの、私のひとり言。玲ったら地獄耳。
「あはは、ジョークよジョーク」
 笑って手を振ってやったら、玲は、まだ文句の言い足りなそうな顔だったけど、
「…お前も早く来いよ」
 とだけ言って扉を閉じた。
 そしてそれきり、もう戻ってこなかった。
482L(終):2006/02/14(火) 21:12:53 ID:FePMxei0
 残ったのは私と、大きなおせんべのひとかけら。
『ん』の右半分と、『L』がまるまる、それから『O』の左端の緩やかなカーブが見て取れた。

 チョコレートならともかく、バレンタインにおせんべだなんて、なんの意味もない。『ミカどんLOVE』の文字だって、単に、いつもの冗談、玲をからかうための思いつきだった。
 なのに何故だろう。
 自分の手が、大きな、まるいおせんべを割ったとき、
 おせんべがパキリ、小さな悲鳴をあげて砕けたとき、
 私の心にも、一瞬、かすかな痛みが走ったのだ。

 あはは。
「なんのモノローグよ、これ」
 自分にあきれ笑いしながら、指でつまんだかけらを口に放り込んで、ポリン、と噛んだ。
 なじみの味のおせんべは、心なしか、いつもより少ししょっぱかった。
483名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 00:09:15 ID:JETFGb6J
おお、GJ!
紗枝切ないな…(⊃Д`)
484名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 00:17:20 ID:0tYK3gUd
乙です!
玲紗枝もええの〜
485名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 00:59:23 ID:n5Efmsr1
超GJ! ……なんだけどタイトル機種依存は勘弁。
486名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 01:14:49 ID:cKQWxiaN
847 名前:カタログ片手に名無しさん[sage] 投稿日:06/02/14 20:49 ID:???
【女子校】お嬢様達の白百合戦争【お姉様】
ttp://news18.2ch.net/test/read.cgi/news7/1139724920/

全寮制女子校で一風変わったバレンタイン戦争勃発。
お嬢様が通う事で有名な女子校で三年生のお姉様を巡って
各家の一流パティシエが集合したそうだ。
参加者の中に居た某グループ企業の令嬢が世界的パティシエを
呼んでいた事から外部にも情報が漏れてしまた。
487名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 01:41:51 ID:61eHXvTg

/news7/    (゚ Д゚ )
488名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 09:28:05 ID:BDpVfTAZ
>>470
GJ!!煎餅割るくだりでは自分の心にも痛みが走りました。
489名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 13:32:35 ID:vvlWWq9v
GJ!!
紗枝玲、ゆか槇、みず蒼が個人的萌えカプ三強だという事に最近気付いてきた。
ああ、でも順夕歩や会長静久もいいなあ・・・。
490名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 19:01:14 ID:vcdNrNCp
ゆかり槙はいいぞ!マジで。
491名無しさん@秘密の花園:2006/02/15(水) 19:41:35 ID:g2t6cVyR
会長静久って凄い好きだけどあんま見かけないなぁ…

 屋上に続く扉を開けて周りを見回すと、一人だけたたずんでいる人がいた。
 まだ寒いこの時期、屋上はあまり人気が無い。テラスと違って遮蔽物がないから、風が吹いていることも多いし。
(変わり者なのかな。確か、天地二刀でやってる久我順さんだっけ)
 学園唯一の二刀流、しかも同ランクってことで記憶に残っていたみたいだ。
「おぉう、じゅんじゅん発見!」
 さっき復活した黒鉄さんが、ダメージを思わせない軽快な足取りで久我先輩に駆け寄る。
 私が歩いて後に続くと、声に振り向いた向こうと目が合った。
「はやてちゃんに、いつぞやの一年じゃない。珍しい組み合わせね」
「うん。あのね、キジちゃんじゅんじゅんに相談したいことがあるんだって」
「ほう、相談……」
 呟いた久我先輩は、じっとこちらの目を見つめてきた。
 無表情に近いその顔に、私はつい一歩後ずさる。
 と、久我先輩は急に目をそらすと、なぜか体をクネクネさせながら、
「ゴメンね、私には夕歩がいるからっ……あと綾那も……勿論はやてちゃんも……っ」
「なんかすっごい勘違いしてないかな、この人……」
 呆れて呟く私の言葉に、黒鉄さんは親指立てて、
「だいじょぶだいじょぶ、いつも通りのじゅんじゅんだから!」
 ……不安だ……。
「そういうことだから、告白以外の相談なら受け付けるわ。愛人関係は状況次第ね」
「いや、だからそういうことじゃなくて……」
 私は、はぁっと溜め息をついて、
「一年の雉宮です。その、バレンタインのことで――」
「あ、チョコくれるの? やー私にもついにファンができたかー。こりゃ綾那に嫉妬されちゃうね!」
 会話が進まないので、私は無視した。
「バレンタインのことを相談できそうな上級生はいないかって黒鉄さんに聞いたら、
専門家がいるってことで……。貴方で間違いないんですよね?」
「なるほど、そーいうこと。にしても疑われちゃうなんてお姉さんちょっとショックー。
こんなに頼れるお姉さんオーラ出してるのに、ねえ?」
「そっかなぁ……むしろ狩人のオーラじゃないかな? じゅんじゅん獣だし」
 ……不安増殖中。本当に大丈夫なのかな……。
「さてと、そろそろマジメに話そっか。で、バレンタインが何だって?」
 顔は笑っているままだけど、雰囲気は少しマトモになってる気がする。
 蛇の道は蛇って言うし、こういう人の方が上手く相談に答えてくれるのかもしれない。
 ……あまりあっさり信用するのも微妙な人だけど。
 でも私は、相談内容を口にした。藁よりはすがり甲斐のありそうな人だと思ったからだ。

「要するに、チョコを渡して変に思われたり、関係が悪くならないか心配だ、ってことね?
いやーまさに青春! まさに思春期! おねーさん羨ましい〜」
 大きな御世話だよ! と言いそうになるけど、話を止められても困るので我慢する。
「ま、刃友同士で渡すのも一般的っちゃ一般的よ。
“刃友”って“親友”とも違う、特別な関係だからね。
いわば友達以上恋人未満?」
「えーでも綾那はあたしのヨメだよ? そんな中途半端な関係じゃないしぃ」
「あのねはやてちゃん。段階を踏んでからヨメにするのが一般的なの。
はやてちゃんみたいに一足飛びの人もいれば、この人みたいにカメ歩きなのもいるわけよ」
「なっ……大きな御世話だよっ!」
 流石に今度は抑えられなかった。
「はは、ゴメンゴメン。でもまーいいんじゃないかな?
アンタら一年はまだまだ先が長いから、そうやってちょっとずつ関係を深めていけばいいのよ」
「…………」
 関係を深めるって、まるで私と未知が恋人みたいな言い方じゃないか……。
 そりゃ未知だってあの時に『キジっちゃんがいい!』って言ってくれたけど、
それは刃友として、って意味のハズだし……。
「……久我先輩」
 ん、なぁに? と気楽そうな声が返ってくる。

「刃友って、一体何なんでしょうか?」
 
 黒鉄さんが、イマイチ理解できてなさそうな顔で私のことを見てる。
 久我先輩は、言葉の定義が聞きたいんじゃないんでしょ? と前置きした。
「んーそうねぇ……。つまらない答えで悪いけど、それは人によって違うんじゃない?
楔束者の数だけ答えがあるし、天と地の考えが食い違うことだってある。
――天と地は一対だけど、その間には大きな隔てがあるの」
 ……言葉を聞いて、きゅう、と胸が詰まった気がした。
 その隔てのせいで、私は未知にあんなことを――
「でもね、その隔てもまた楔束者の数だけ形があるのよ。
天地を分かつ隔てがあれば、それをものともせずに刃友と絆で繋がることもあるわ。
まずは刃友を信頼すること。そして勇気を持つこと。
不安がってちゃダメなのよ」
 ま、気持ちは判らんでもないけどね、と先輩は最後に言った。
「なんかよく分かんなかったけど、じゅんじゅんもスゴいこと言えたんだね!
後輩にアドバイスできる人間だったんだね!?」
「はやてちゃーん、前に聞いた気もするけど、私のことどう思ってるのかな〜? ん〜?」
 ――信頼に勇気、ね。
 都合の良い方向に考えろ、って言ってるだけの気がしないでもないけど、説得力がないわけでもないし。
「久我先輩」
 ん? とこっちを向いてきた。私は頭を下げて、
「ありがとうございます。ちょっと気が楽になりました」
「礼なんていーわよ。でもお役に立てたなら何よりだわ。明日、頑張ってね」
 はい、と私が答えた所で、昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。
「えぇっ、もうこんな時間!? あたし先行くから、キジちゃんじゅんじゅんまたねーっ!!」
 黒鉄さんは、相変わらずのスピードで校舎内に戻って行った。
 私も戻ろうとして、ふと思って質問してみた。
「ところで、久我先輩はどうして屋上に?」
「あーっとね、……私の刃友、今入院してるじゃない?」
 そう言えば、天地二刀に関する噂でそんなのを聞いた気もする。
 マズいことを聞いたかな、と思ったけど、久我先輩は笑顔を浮かべながら言った。
「だから、明日はどうやってガッコ抜け出すか考えてたのよ。
こないだ今まで使ってた脱出ルート潰されちゃったのよねえ」
 あ、チクったら刃友さんに相談のことバラすからね、と久我先輩は笑ってみせた。
「しませんよ、そんなこと。それじゃ失礼します」
 校舎内への扉を開けて、中に入って階段を下りる。
 ――悩み相談の専門家ってのも、あながち間違いじゃないみたいだね。
 授業が終わったら、街に出てチョコレートを買ってこよう。
 もちろん、未知には内緒で。


(今度こそ後編に続く)
496名無しさん@秘密の花園:2006/02/16(木) 01:27:34 ID:mx1ge8p4
俺、雉猿ー
4巻読んだからかも知れんが、あの仲直りシーンは何度見てもニヤけちゃうんだ
だからバレンタインの人の後編が凄い気になるんだ

このスレ見てたら順綾、紗枝玲も気になってきた
節操無しでスマソ
497名無しさん@秘密の花園:2006/02/16(木) 01:34:41 ID:RcFyBe7L
>>470
いいよいいよー
せんべいってところが、紗枝っぽいよね

踊る天地は、完結が楽しみです
待ってます
498踊る(ry:2006/02/18(土) 00:12:15 ID:Bu6T+hdJ
えー、次こそは一編に収めようと思って書いたら、非常に難航してます。
月曜までには投下したいので、気長に待ってもらえるとありがたいです。
499名無しさん@秘密の花園:2006/02/18(土) 00:18:42 ID:Q4wTdOr0
待つよ待つよー
楽しみにしてるので頑張って下さい
500名無しさん@秘密の花園:2006/02/19(日) 01:03:23 ID:1HW+BhkB
今週末にはヤドリギの人来るのかな??
501名無しさん@秘密の花園:2006/02/19(日) 01:07:48 ID:2wsy3tTI
いや、多分来週じゃないか? あの人筆遅そうだし
502名無しさん@秘密の花園:2006/02/19(日) 02:09:25 ID:1HW+BhkB
そっか〜・・・残念だなあ。
あの人のSSが今までで一番楽しみだったから余計に(´・ω・`)

 ――二月十四日、バレンタインデー当日の朝。

 私と未知は、寮の前の広場を朝の待ち合わせ場所にしている。
 今朝の私は、いつもより大分早くそこにいた。
 部屋にいると余計なことを色々考えてしまい、精神衛生的にすっごく良くない。
 そんなわけでベンチに座ってたんだけれど…………

「お、昨日の。雉宮ちゃんだっけ?」
 声を聞き、下を向いていた顔を上げると、そこには、
「――久我先輩、おはようございます」
「おはよ。でも、こんな時間に座り込んで何してんの? まだ七時半じゃない」
「久我先輩こそ、私服でどうしたんですか?」
「昨日言ったじゃない、病院に刃友の見舞い行くって。サボりだから制服はちょっとね。
君の方は、……もしかして刃友の子のこと待ってるの?」
「え、ええまあ……」
「そりゃまたご苦労様ね。それとも、昨日のアドバイスあんまり効果的じゃなかった?」
「いえ、そんなことはありませんって。……あぁ、そうだ」
 私は脇に置いといた鞄を開けて、長方形の小さな包みを取り出した。
「これ、良かったら貰ってくれませんか?」
「え、良いの? 昨日言ってた刃友に悪いんじゃない?」
「その昨日のお礼ですから、お気遣いなく。それとも、はっきり義理だって言った方が良いですか?」
「そこまで言ってほしくはないから、大人しく受け取っとくわ。
じゃあ私は本命のとこ行ってくるから、貴方も頑張ってね」
 久我先輩はそう言って歩いていった。
 私がその後姿を見送っていると、

 ガサッ
「……あれ?」
 茂みが揺れるような音が聞こえたんだけど、近くには誰の影も無い。
 校舎の方から歩いてくるグループがあったから、その足音を聞いたのかも。
 そう思って、私はベンチに座り直した。


 困ったことに、始業時間ギリギリになっても未知は現れなかった。
 仕方ないから一人で登校したけど、どうもイヤな予感がする。
 なのに今日は教室移動が多くて、昼休みになってやっと未知のA組に行く余裕が出来た。
 それで廊下を歩いていると、未知がちょうど教室から出てきたから、声を掛けようとすると、

「キジっちゃんの、―― ば か ぁ っ ! ! ! 」

「え、ちょ、待ってよ未知!」
 なんでか判らないけど、先に怒鳴られて、しかも未知は逃げるように走り出した。
 慌てて私も走り出すけど、いきなりだから結構差を付けられてしまった。
 昼休みの人ごみを掻き分けて走る未知を、私は必死に追う。
 未知は時たま振り返るけど、でも足を止めてくれない。
 人気のない校舎裏まで走ったところで、やっと未知は足を止めてくれた。
「っは――っ! はぁッ……げほっ……」
 膝に手を乗せ前かがみになって、私はえずいた。
 元々、持久力は未知の方がある。実際、今の未知はかがんだ私を見下ろしながら、――え?
「未、知……」
「よく追っかけてきたね。キジっちゃん走るの苦手なのに」
 立って並べば、私の方が目線一つ分未知より背が高い。
 だからいつもは私が見下ろす感じになるんだけど、今回は逆になった。
 見下ろす、どころじゃなくて睨んできているような気もする……。
「で、なんでそんな苦しい思いして追っかけてきたの?」
「なっ!? なんでってそれは……」
 未知の物言いについ大声を出しそうになった。
 けど、今は喧嘩なんかしたくない。未知の機嫌は何でか悪いみたいだけど。
「……朝、待ってたのに未知が来なかったから、気になってそっちのクラスに会いに行ったんだよ。
そしたら未知が急に走り出すから……」
「別に、私がどう登校したって勝手だし、廊下を走りたくなるのも勝手じゃん。
刃友だからってキジっちゃんがいちいち気にすることないじゃん」
「今日は特別、気にする理由があったんだよ」
 何がさ、なんて言った未知に、決まってるでしょ? と返してやった。
 私はポケットに手を突っ込むと、小さな箱を取り出して未知に見せる。
「チョコレート。本当は朝の内に渡したかったんだけど、未知が来なかったから……」
「ヒドいよ、キジっちゃん」
「は?」
 さっきから未知が何を言ってるのか、私にはよく判らない。
 でも、次の一言で私は全部理解させられた。

「そんなこと言ってさ、チョコレート、あたし以外にも渡す人がいたんじゃん」

 ……ああ、そういうことか。
 迂闊だった。いや、何も後ろめたいことはしていないんだけれども。
「広場のとこで、キジっちゃんが笑いながら誰かと話してるの見たよ。
それでなんか渡して。……あれ、チョコなんでしょ?」
「待ってよ。未知はすっごい誤解をしてる」
「誤解って、じゃあ何渡してたのさ!?」
「いや、アレは確かにチョコなんだけど……」
「やっぱりそうなんじゃん! どーしてよ! あたしより先にチョコ渡すような人がいるなんて聞いてない!!」
 未知が凄い剣幕で怒鳴ってくるけど、私は妙に冷めていた。
 ふと、私と未知が本当の刃友になれたあの日のことを思い出す。
 あの時は未知が怒鳴って、私もムキになっていた。
 吉備さんの言葉がなければ、多分楔束を解消していたと思う。
 ここでムキになって言い返したら、きっと最悪のバレンタインになって終わってしまう。
 だから私は――
「ちょっとキジっちゃん聞いて――――きゃっ!?」
「未知の方こそ、ちゃんと聞いてない」
 私は手にチョコの箱を持ったまま、未知を抱きしめた。
 離れようと私の体を未知が押してくるけど、でも私は手の力を緩めない。
「やめてよっ、なんで急にこんなこと……ッ」
「本当にイヤだったらやめるよ。でも、お願いだから私の話を聞いて。
……確かにあの人にチョコは渡したけど、あれはただのお礼なの」
「お礼って、何……」
「昨日、相談に乗ってもらったんだよ。黒鉄さんに悩みが相談できる先輩はいないかって聞いてさ。
その、未知にどうやってチョコ渡すか、私悩んでたから……」
「えっ……?」
 私の体を押していた未知の手が止まった。
「それで、朝たまたま会ったから、余分に買ってたチョコをお礼に渡した。ホントにそれだけだから。
確かに、未知より先に渡しちゃったのは悪かったかもしれないけど」
「判った。判ったからさキジっちゃん」
「未知? ――――ッッ!!?」
「一旦離れてよ……」
 せっかく真剣に謝ってたのに、未知に脇腹をつねられて中断することになった。
 未知の背中に回していた腕をほどいて、私は二歩後ろに下がる。
 お互い離れたところで、未知は私の目を見ると、

「……キジっちゃんのエッチ……」

 ――未知の言葉が、私の心にグサッと突き刺さった。
「エッチって、だってあれは……」
「そんな事情があったんなら、普通に喋ればよかったのに。
キジっちゃんの、エッチ……」
「だって、未知はさっきまで私の話聞いてくれなかったじゃない!?
それに……」
「それに、何よ」
 未知が、さっきまでとは質の違う冷たい目で私を見てくる。
 恥ずかしいから口にしたくはなかったんだけど、私はしょうがなく言うことにした。
「その、……ああした方が、私の気持ちが未知にちゃんと伝わるかなって……」
「――――ッッ!!!??」
 あ、赤くなってる。
 でもさ未知、言わせる方が悪いんだよ。私だって恥ずかしいんだから……。
 未知は何か言おうとしながら、結局何も言わずに、ポケットから小箱を取り出した。
「……じゃあ、今回は特別に許したげるから、はい」
「? はい、って……」
「だからっ、これがあたしのチョコ!
ホントはキジっちゃんにあげないで食べようと思ってたんだけど、ほらっ!」
 私は、半ば押し付けられるようにチョコを受け取った。
 未知の機嫌を損ねちゃいけないと思っても、私は苦笑が隠せない。
「ありがとう、未知」
「どういたしまして。ほら、キジっちゃんもくれるんでしょ?」
「さっきからそうだって言ってるじゃない」
 差し出してきた未知の手に、こっちのチョコを渡した。

「せっかくだから、どこか邪魔の入らないところに行って一緒に食べようよ」
 教室へ戻ろうとした未知に言うと、
「もちろんいいけどさ、その言い方もなんかエッチだよ、キジっちゃん」
「ん? 私はただ未知と二人っきりになりたいだけなんだけどなあ」
「だからさあ――――」
 やっぱり考えすぎてたのかな、と横を歩く未知を見て思った。
 ちょっとアクシデントはあったけど、こうやって未知と一緒にいることができている。
 まあ、考えがどうとか関係なしに大胆なことをしたと思うけど、結果オーライってやつなんだろう。
 私と未知が、今この時を快いと感じられているなら、それでいいはずだから、ね――。
508名無しさん@秘密の花園:2006/02/21(火) 00:49:25 ID:uo/BIm0G
ぐぐぐGJ!!!!!!!!

美しゅうなった喃・・・
509名無しさん@秘密の花園:2006/02/21(火) 09:54:16 ID:IkWEljhn
>踊る天地
激しく乙!
携帯電話からでも読める文章が、やっぱり疲れないで読める範囲だよねー。雉猿も少女少女しててかわいいし
次回作楽しみにしてます
510名無しさん@秘密の花園:2006/02/21(火) 21:49:31 ID:cPtsaOr7
キジっちゃんのエッチ!
鼻血が出そうだよ
511名無しさん@秘密の花園:2006/02/22(水) 01:14:22 ID:60mKw4AQ
キジミチかわいいよキジミチ。エッチなんて言葉の響き、初めて可愛いとオモタ。
GJです。

しかし最近ここが完全にSS投下待ちスレになってる気がする…。
512名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 00:09:33 ID:3K+6nX/0
んじゃ小ネタで、今月分の俺的萌えポイント。

・綾那の「あんたが言うから私は……」
順に依存しまくりなオーラが激しく出てる。

・「…だって…ハズカシーじゃないっすか…」以降のはやて
主人公のくせに脇役化してたのが、ここにきて久々のヒット。
綾那への感情が色々ミックス状態なのが表情に出まくりで良し。

あと、突然順雉なんて電波を受信したけど、
これって先月までの玲静以上に接点ない二人だよなーとか思ったり。
513名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 15:34:48 ID:j7rGb1Ba
今月号のおかげではやて受け度大幅アップ!
今まで鉄板総受けと思われてた綾那だが、これだったら綾那×はやても可能か?
514名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 15:56:06 ID:0t6KgUhb
今、時代は綾クロ。
515名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 17:48:00 ID:cF8YlE6J
もうちょっと大きくなったらねw<綾クロ
516名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 18:42:44 ID:cF8YlE6J
>>512
順が綾那を突き放したのが残念だったな〜w
でもあれだね、「相棒に依存する強さは私の求める強さじゃない」BY綾那なんだよね。
ストイックと思っちゃう。強さ=愛です。
517名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 19:48:10 ID:uSbvrawg
自分も「あんたが言うから〜」にはちょっとドキッとした。
この発言もそうだし、一晩中寝られなかった発言もそうだな。
綾那は順のこと気にしすぎ。
だがそれがいい。
518名無しさん@秘密の花園:2006/02/23(木) 23:05:24 ID:t4njnjWb
そしてそれ以上に順も綾那のことを気にかけてしまう。
だがそれがいい。
519名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 07:29:42 ID:Pu3n+RK3
そうか、制服でも白は透けるのか。
スパッツ履いてたらあまり関係ない気もするがそうか透けるのか。
520名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 08:26:33 ID:vfODd2Ab
>>513-514
綾クロ!連載当初から好きだった俺にとっては感無量だぜ綾クロ!
はやてちゃん…影薄くなってません?
521名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 10:57:53 ID:ojEZcjp0
>>513
あれは、はやての健気攻め、無邪気攻めに今まで無関心だった綾那が少しグラッときた、ってことでしょ。
綾那の場合、受け受けしいのはもちろんなのだが、それ以前に攻めないし。攻める手段も持ってない。
まあ、母性(?)がくすぐられたのは確かだろうけど、それで綾那が百合的に攻めに回ることは無いと思うな。
>>517
あれは可愛かった。じゅん姉の包容力にそろそろ綾にゃんもほだされてきたか。
522名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 12:26:31 ID:JDMwaURk
 綾那と順は、普通の女友達だと思う
 実ははやてに惹かれ始めている綾那に、そっと水を向けて、後はすませている
 綾那に、はやてと一対一の関係を、綾那自身の手で作らせたいところに、順の友情がある

 はやてが綾那に
「いいところ見せたい」と思っているのは
「自分が綾那に認めて貰えているのは剣の腕だけだ」
 と思っているからだと思う
 順もそう考えていた節がある

「力量が対等でないと、綾那の側にはいられない」
 とはやてが考えているのに対して、どうもそうではなさそうだ、と言うのが見えてきた
 つまりゆかりが言うように「距離をおいている」だけで、本心は別のところにある

 そう考えると、綾那×はやては全然射程範囲内!
 むしろはやて×綾那も射程範囲内!!(これは願望)
523名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 14:11:34 ID:YGaMvsNd
>>522
胴囲。順と綾那の間にあるのはやっぱ友情の方だと思う。
順綾SSとか否定するわけじゃないけど、
ハブ本編での順綾路線は俺的にはちょっと無いなぁ。
なんといっても、順の飼い主は夕歩だし。
524名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 15:20:17 ID:IIEvJS1z
夕歩って浮気されたら怖そうだしな…
(まあ、順のほうも夕歩から離れられるとは思わないけど…)
525名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 16:09:42 ID:jezziqGX
>>522>>523
同意。俺も友情だと思う。

>>524
大いに同意
夕歩は怖そうだ。
526名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 16:20:17 ID:IPhxJZGh
夕歩って怒ると無言無表情でひたすら折檻しそうだよな
527名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 17:55:05 ID:z+FpVJO4
順綾派肩身セマスw
まああれだ、オフィシャルなカプじゃないからみんな頑張って妄想してるんだ。
だがそr(ry
528名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 18:27:01 ID:U1QGJgm3
妄想しないで何が二次創作かッ!
529名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 18:35:53 ID:KrlViW64
友情の延長線のラブってのは、ある気がするんだ。かえって
興味本位で乳をもみ合ったり、うなじのにおいを嗅いでみたり
改めて迫られると、拒絶する綾那だけど、自然に流れたら、自分から求めてしまう

みたいな
530名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 19:47:41 ID:IPhxJZGh
大学生になって、飲み会で酔っ払って朝起きたら隣に裸の・・・
これは酒の上の過ちで、おたがいのパートナーには秘密には絶対秘密
もうこのことは忘れようと約束した二人だが、その後もお互い気まずいような
それでいて甘酸っぱい雰囲気が・・・
531名無しさん@秘密の花園:2006/02/24(金) 22:50:38 ID:IAGljkRu
>>527
ソレダ!!
532名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 00:37:33 ID:z04DoAsl
本編はともかく、21禁板百合というか、もっと露骨にレズと言う意味では、順夕よりも順綾の方が有りだと思うんだけどね。
順にとって夕歩は大切な妹であり、かけがえのない至宝だから、あまりハメを外した行動は取れないんじゃないかと。
一方、綾那とはなんでも有りの関係。淫魔の本領を発揮できるって感じ。
例えば、順が夕歩に無理やりディープキスしたり、(Hな意味で)抱いたりは想像できないけど、綾那になら状況が許せば
ありえるような気がする。うまく説明できないけど。
だから、順夕と順綾はベクトルが違うから両立も有りじゃないかと。夕綾含めて、3本立つのもイヤじゃないな。
533名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 00:41:43 ID:N5ej7Aq2
ええい皆のもの、静馬れ静馬れぇい!

ゴメン、言ってみたかっただけ。
534名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 01:48:15 ID:WKkCY6IZ
つまり、順がエロければいいわけだ。
535名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 03:36:20 ID:PXtiQT3c
>>533
やべっ
鼻水噴いたWW
536名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 04:22:03 ID:vFzFdyHI
ちはるさんを!ちはるさんを本編でもっと出して下さい!
ちはるさん×クロとか想像しまくれるシーンをもっと!!
537名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 05:35:24 ID:WKkCY6IZ
順×綾那好きに質問なんだけど
もしも二人のエロSSがあるとして、その場合綾那に眼鏡をかけたまんまで事に及んで欲しい?
それとも裸眼モード?
参考までに教えてください。
538名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 08:28:48 ID:fLa9cM3G
順がそっと外すならアリ
539名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 10:21:14 ID:3m2RQpRC
>>538
ソレダヽ(゚∀゚)ゝ

お互いの熱で眼鏡が曇っちゃって、とか
キスするときに邪魔だからとか
ベタな理由で取るんだな
540名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 11:39:23 ID:tf86vMt0
完全に取っちゃうのはなぁ
キスするときだけちょっとずらすだけがいい
541名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 14:01:04 ID:jl8L2FnK
順は眼鏡の秘密を知ってるわけだから、
「あたしの顔、ちゃんと見えてんの……?」
な展開もオイシイと思うんだが、どうよ?
542名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 14:17:42 ID:vVNQGUKb
綾那って寝てるときは眼鏡どうしてるんだろ…?
543名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 14:18:19 ID:Tz+SzTue
>>542
一巻で外しとる
544名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 14:44:05 ID:Mg77t6d4
うむ
はやてとの結束前夜に一度だけな
545542:2006/02/25(土) 14:52:22 ID:vVNQGUKb
>>543
スミマセン…外してましたね…綾那、別に素顔を見られるがイヤってワケじゃないのか

じゅんじゅんなら「すっぴんの綾那の寝顔が見れるのはルームメイトの特権よねww」
とかいって、こっそり綾那の眼鏡とかかけてそう…
546名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 16:14:00 ID:WKkCY6IZ
それで綾那の秘密を知ったわけか。
547名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 18:39:47 ID:ux+qXsOU
綾那の眼鏡を掛けて綾那の下着を物色しようとしたら、
見え方が変だと気付いたに違いない。
548名無しさん@秘密の花園:2006/02/25(土) 21:28:19 ID:pNphiHW6
>>532
たしかに順綾那だと露骨にエロくなりそうだ。
それはもうネットリとエロエロで。
だが順夕歩でも妄想すればいくらでもエロくなると俺は思う。
549『ヤドリギ ファイナル・発動編』《1》:2006/02/26(日) 12:21:45 ID:a5xHYwh/
――なんだか腹が立ってきたぞ。
 無道綾那の目が燃えている。彼女の心のふいごから吹く風が、怒りの炎を燃している。「綾那――」
 染谷ゆかりが、無道の左脇に立った。順は、立てないままの桃香の側を離れて、綾那の右脇を固める。三人の視線はただ前方に据えられて、動かない。
 魔界ヤドリギ。
 今や天井の半分を覆いつくした魔界の生物。その壁面浮かんだ三眼の人面が、彼女達を艶然と見ている。見て微笑んでいる。無道のこめかみに青筋が浮いて。
とにかく、だ。
「やつの事情がどんなもんであれ、こうやって徐々に弱らされていって、淫乱ピクミンにされるなんてまっぴらだわ」
「一体何をする気だ、眼鏡」
 神門が綾那に問う。慎重策がことごとくかわされた、神門は聞かずにいられない。何をするのかは予想がつく。しかし本当にそれを実施するのか、その覚悟を知りたかった。
 綾那は振り向かない。敵は前面の全面にある。剣士は敵から目を逸らさない。
 何が弱点か、何が効くのかもわからない。それでも綾那は目を逸らさない。
 逸らさずに、虎。
「あの化け物を撃つ」
「勝算は? 」
「ああ言うボスは、赤く光っているところを撃つとダメージになる傾向があります」
「それってまるっきり、無策ってことじゃねーかよ!! 」
 テレビゲームかっての! 神門は毒づく。その通りである。けれど綾那の決意は変わらない。
「……出来ないことも、ないわ」
 静馬夫人が髪をかきあげて、言った。夜もふけてきたからか、髪が脂でごわついてきている。手のひらに残った不快感を振り払って、夫人。
「あれは剥き出しになった核よ。魔界を実体化するために、彼らがさらけ出す存在の結晶。あれを叩ければ倒すことも出来るわ」
「本当なのか? 」
「そうね――。普通は出来ないわ」
 神門の質問に静馬夫人は肩をすくめる。あくまでも可能性がある、ってところね。
「コアを剥き出しにすれば、魔界の力をより具体化することも出来るけれど、弱点もさらけ出すことになる。やすやす近づけさせてはくれないでしょうね。
何よりここには有効な武器が――」
「それなら考えてあります」
 無道綾那はつかつかと料理が満載されていたテーブルに近寄って行き、自分の刃友にむかって言った。
「クロ、少し手伝ってくれ」
「いーけど……、何するの? 」
「武器を作るのよ」
 上に置かれた皿をまとめて床の上に置きながら、綾那は次々と指示を出す。
「誰か、布テープを探してくれない? 飾り付けに使ったと思うから」
550『ヤドリギ ファイナル・機動編』《2》:2006/02/26(日) 12:23:08 ID:a5xHYwh/


 がっしりとしたテーブルは、四本の足を持っている。脱着可能なそれは、鉄で出来た頑丈な物で、重さもゆうに一本が五キロ近くあった。それにぐるぐると布テープを巻いて柄にしたてる。即席の銀の棍棒。
「ふむ――」
 綾那の片手では、やや持て余す。
 補助の手を添えて、振れる。
 速度をあげ振りかぶれば、棍棒そのものの重さを利用してスピードを増せる。だが、敵を打ち倒す瞬間はやはり片手を添えなければなるまい。打撃の衝撃はいかほどのものか? 二三度振って、感覚を掴む。
「――左手は添えるだけ、か」
 何度も固い物にぶつかりあえば、手がいかれてしまうだろう。巻いた布テープは、衝撃を吸収するほどの柔らかさは無い。しかし棍棒の強度はそれなりにあるから、あの枝の攻撃程度なら、何とかしのげるはずだ。
 順が見つけてきた布テープは、三つ。綾那とゆかりとみずちの分である。そして彼女らは巻いている、椅子の足に。戦うために。ただ一心、戦うために。

551『ヤドリギ ファイナル・機動編』《3》:2006/02/26(日) 12:24:20 ID:a5xHYwh/

「みずちさん……」
 貴水蒼は、きつく大きく布テープを巻きながら呟いた。もういいとみずちが言うのに、少しでも衝撃を減らすためと巻いている。一メートル近くあるスチールで出来たテーブルの足が、鈍く光る。天井の禍禍しい星の光をあびて。
 そんな彼女の姿に目を細めて、何? とみずちは問うた。
 問われたからと言って、貴水から答えが返るわけでもない。たださざなみのような独り言。
「あの、その、あたし――――」
「何? 」
 今度は完全に沈黙だ。その沈黙に、みずちはあえて問い返さない。
 本当はみずちだって、言わなければならないことがあるなのだ。事実、彼女の心の奥底では、蒼への申し訳なさが満ち満ちているのだから。
 ――可能性を、根本から覆す魔力を持つ、魔界の生き物。
 ――その罠にかかってしまった自分。
 糸ほどのつながりもない関係にも、新たな絆を作り上げてしまう力。起きてしまった事実すら捻じ曲げるその力は、たまらなく魅力的なはずだ。現在の自分に満足できぬ者なら、なおさら――。
 指に絡ませれば、長い髪がもつれる。みずちはいったいいつから、ヘアスタイルを変えたのだったか。昔は襟元でそろえたボブ。今ではさらさらと音を立てるロングヘア。
 かつて、染谷ゆかりが伸ばしていた髪と、同じくらいのロングヘア。
 過去を振り払うように、さっと浅倉は立ち上げると、ぴたりぴたりと型を構えて見せる。重さを確認しているのだと、貴水にはわかる。
「忘れていないものね」
みずちは微笑んで、蒼も唇の端をあげてしまう。おかしくもないのに、つられて。本当は緊張して、強張っているのに。
「蒼」
「は、はい……」
 声をかけて欲しかったのに、呼びかけられた貴水はかえって、うつむいた。
「わかってるわね。私が考えていること」
「……はい」
「あなたが私の側に立てないのは、残念だわ――」
 あまり残念そうな口調ではないみずちに、嘘ばっかり、と呟いてみる。勿論聞こえるように。浅倉はふふふ、と笑った。蒼の気も知らないで。
「どうしたの? 何をすねているの? 」
「べ! 別にすねてなんていませんよ!! ただ……無道さん達は、どう思うかなって、考えただけで――」
「あら。そんなこと関係ないわ。私達は好き勝手やるだけよ。大体あの人たちだって、好き勝手やるんでしょうし」
「勝手な人たちなんですね」
 蒼の言葉にくすくす笑って、みずち。そうね、本当にそう。
552『ヤドリギ ファイナル・機動編』《4》:2006/02/26(日) 12:25:41 ID:a5xHYwh/
「思念の生き物。可能性を操るヤドリギ――。ふふ、最高よね。
 蒼」
「はい」
 みずちは襟を止めていた赤い棒ネクタイを緩めて、しゅっと引っ張る。解いたネクタイを左手に巻きつければ、それは緋色の蛇のよう。そのまま右手の指先で、ワイシャツのボタンを外せば、その開いた襟元から見える美しい鎖骨。
 象牙色の肌、赤い棒タイが映える、白いスーツ。唇の下には艶やかなほくろ、一点。
 左右に首を傾げる。ぼきき、っと関節の鳴る音。
 蒼もつられて、首を傾げた。ぽきき、と軽い音。その薄い肩にそっと指を伸ばして、ゆっくりと揉み解し、みずち。
「後は任せたわ」
 任された貴水は、諦めてため息をついた。
 蛟の毒は、健在なのだ。楽しそうなみずちさん。
 異世界の魔物と対峙して。
 ぬらり、と白蛇立つ。

 終始無言なまま、調整を終えた染谷ゆかりの手には、銀色の棍棒が握られている。
 重みを打撃に利用でき、振り回すのに都合がいい。案外自分には使いやすい武器かもしれない。
 ふと上条槙の視線に気がついて、ゆかりは視線を上げる。
「がんばってね、ゆかり」
「先輩――」
 ゆかりの視線に上条は、いいのよ、と微笑みかける。
 上条は剣の腕が立つ。ゆかりの刃友でAクラスなのだから、これは公式の事実だ。けれど上条は自分も行くとは言わなかった。どうして来ないんですか、とゆかりには聞けなかった。
 武器はもう一本ある。ゆかり、綾那、みずちの三人が足を一本ずつ持っていっても、一本余るのだ。順は夕歩からあずかった木刀を持っている。武器が足りないわけではない。
「精々あそこで暴れられるのは、四人だわ。それもいい人選だと私は思っている」
「ありがとうございます」
 頭を下げて、けれど誤解されたくなくて、染谷は口を開こうとする。今の刃友は先輩だから。そもそも、何でありがとうございますなんて言ってしまったのだろう。自分の発言ながら、ゆかりには分からない。
 だから言葉にならない。
 自分が何故ヤドリギに向かっていくのか、説明できないでいる。
 そんなゆかりに、槙は優しく言った。
「あのね、ゆかり。勘違いして欲しくないけれど、私が残るのは何も無道さんに遠慮してではないのよ」
「え? 」
 意外な言葉に、染谷は驚く。
 先輩の決断は、自分と綾那とのことを気遣ってのことだと想っていたからだ。
553『ヤドリギ ファイナル・機動編』《5》:2006/02/26(日) 12:27:01 ID:a5xHYwh/
 けれど上条の目の中にある焔を見て、思い当たった。
 そうか。
 先輩は今、もう一人の敵を見据えている。
 保有者――。魔界ヤドリギに協力する者。
 上条槙は、とても敏感な感覚を持っている。その敏感さが、優しさにつながっているのだ。同時にそれは、悪意や戦いの気配への鋭い直感となっている。
 ――先輩は、保有者に備えて残ろうとしているのだ。
 自分の刃友の決意に気がついたゆかりに、槙はこくりとうなづいた。
「この後、きっと彼女は動くわ。今までもそうだった、多分これからも」
「はい」
「私はその、影の脅威を阻止する」
 影の脅威、それは。
 帯刀洸。
 この異変にまるで動揺せず、黙ったまま静観する彼女。
 ――何も問題は無いと思うわ。
 そう言って冷笑する帯刀は、余りに不自然だ。
 ヤドリギの正体が明らかになっても、帯刀はまるでアクションを起こさない。事務能力に長けた、白服、生徒会からのお目付け役。そんな人物が、ノーリアクションと言う事は――。
 アクションを起こさないことが、すでにアクションなのだ。
 彼女は何を待っているのだろう?
 ヤドリギが勢力を伸ばし始めても、まるでそれを喜ぶかのような、余裕、今だって。何故あんなに平気なのか? 危険な物ではない、と知っているかのような振る舞いはおかしい。それとも――。
 ――この状況になっているのが、嬉しいのか?
 上条の肌が感じる。彼女が危険だと。
 ――何か嘘をついている。
 その嘘とは何を指すか考えた時、槙の謎は全て解けた。やはり帯刀こそ、保有者なのだ。
 ――気づかれないように、しなくてはならない。
 神門も祈も、保有者の見当を誤っている。それは多分、帯刀のせいなのだろう。槙の見ていないところであった、何らかしらのやりとりで、彼女達はミスリードされているのだ。
 巧妙なり、帯刀洸!
 魔界ヤドリギも、ずいぶんと上手い人選をしたものだ。少なくとも、帯刀とヤドリギの望みは一致している。そしてそれに気づいたからには、槙の行動は決まっている。
 ――帯刀さんを、止める!
 その強い意志を持つ目は、ゆかりを見ると少し和らいで、上条は愛しい刃友に笑顔をたむけた。
「今回だけは、天と地が逆転しちゃうわね」
 冗談めかした槙の言葉に、ゆかりは真剣すぎるほど真剣な顔で、答える。
「いいえ、違います」
554『ヤドリギ ファイナル・機動編』《6》:2006/02/26(日) 12:27:38 ID:a5xHYwh/
「違う? 」
「はい。私が、先輩をヤドリギの脅威から守るんです。天を守るのは地の役目です。私はあなたの盾になります」
 ゆかりの言葉に、目を丸くして、槙。
「なにそれ。すごい詭弁」
「私もそう思います」
 真面目くさった顔に、思わず上条は吹き出す。ゆかりもつられて吹き出した。
 二人は、笑った。
 ただの少女みたいに。
 共に寄り添って、文句のないパートナーである。信頼しあった仲間である。今までうまくやってきた、と思う。けれどお互い顔を見合わせて笑うなんて、数えるほどもない。
 だから苦境の中の一瞬とは言え、二人とも嬉しかった。
 一しきり笑った後、見詰め合う穏やかな、二つの瞳と一つの瞳。
 だからゆかりも、今度は素直に言えた。
「私も、綾那のために戦うんじゃないんですよ」
「分かってるわよ」
 静かなゆかりの告白に、槙は困ったような顔をしてから、笑った。
「ゆかりは、無道さんの為に戦うんじゃなくて、無道さんの戦いの為に戦うんでしょう? 」
 静かな感動に、身体が震える。
 ――先輩は何でもお見通しだ。
 じゃあどうして戦うの、と問われたら、ゆかりは言葉にするのは難しかったろう。それなのに、上条は当たり前のように、答えを出した。
 泣きそうになる。
 こみ上げる激情をこらえて、それだからこそ強張る身体である。二十歳を越えた大人でも、心を曝け出されれば無力だ。無道綾那の存在は、今だゆかりの中で大きく、そしてその想いとは一言で言い表せない、複雑な物があるのだ。
「ま、き――さん……」
 ようやっと刃友の名を呼ぶゆかりを、上条はぐっと引き寄せた。ゆかりの瞳が大きく見開かれる。引き寄せられたほうも、引き寄せたほうも、予想だにしなかった動きである。けれどその確かな感触に、ゆかりも槙の首筋に甘えた。
 温かい。優しい。そしていいにおいのする、槙先輩の肩。
 その肩越しに、上条が囁く。
たくさん、遊んでらっしゃい、と。
「はい――」
 迷いを振り切った声。
 独眼の鬼、うなづく。
555『ヤドリギ ファイナル・機動編』《7》:2006/02/26(日) 12:28:08 ID:a5xHYwh/

「行け」
「うんうん」
「勝て」
「うんうん」
「負けたら承知しないから」
「うんうんうん」
「もし私が――」
「それは言いっこ無しだよ」
「でも――」
「あたしに任せておいてってば」
「順――」
「なーに? 」
「ヤドリギの言いなりになったら、死刑」
「なんないよ。あたしはやるなら自分の意志で……」
 ――こんな深刻な時にこの馬鹿は!
 いつも通りのやりとりに、半ば呆れつつ安心しつつ、静馬夕歩は刃友を睨んで言った。
「死刑」
 死刑宣告された被告は、わはは、と笑って、白いセーターを脱ぐ。中から現れたのは、真っ赤なブラウスだ。それは灰がかった順の髪が零れて、まるで燃える暖炉のよう。そして夕歩を見つめるその静かな眼光は、青白く燃える炎のよう。
「夕歩、持ってて」
 カシミヤだから大事にね、と言われて、夕歩は大真面目にうなづいた。それは本当によい品物だったから、静馬の姫はそっと抱きしめてみた。柔らかくて軽くて、温かなセーター。それから順の持つ正式な肩書きと、今の自分の肩書きを比べてみる。
 順のカシミヤセーター守にして、静馬姫、静馬夕歩。
 ――悪くないじゃないの。
 そう夕歩は思う。これは確かに大事な役目だ。これは順にとてもよく似合ったセーターだったから。
そして夕歩は順の目の前で、丁寧にセーターをたたみ、丁重に捧げ持って。
「御高命、確かに賜りました」
「何言ってんの、夕歩」
 深深と頭を下げた夕歩に、苦笑いして。
 静馬家御庭番姫守、久我流気放術師範代、久我順。
 妖しの使い手。
 その手にあくりょうたいさんの剣を持つ。
556『ヤドリギ ファイナル・機動編』《8》:2006/02/26(日) 12:29:10 ID:a5xHYwh/

早々に布テープを巻き終わった綾那は、試し振りをしながら、聞き耳を立てていた。神門と黒鉄の話を、である。
「おい。クソチビ。お前どう思う? 」
「あたしは行っても大丈夫、だと思うな」
「――そうか」
 うなづきながら、神門は不安そうだ。
 クロの楽観主義は先天的だ。しかも自分の刃友の力を、無条件に信じている節がある。綾那にとっては、いつものことだ。はやてのその反応は、何ら不安を掻き立てるものではない。
 だからこそ神門の声は、綾那の耳に残った。
――弱気に、なっているのかな。
 それも仕方ない。神門は必死に事態の収拾を図ろうとしているのに、裏目裏目に出ている。
――とすればこの特攻も、やはり無謀に見えるか。
「正直な、あたしはもうよくわからないよ」
 恐らく自分の身は、守れる自信があるのだろう。それなのに無力を感じるのは、自分以外を守ることが出来ないからか。それとも作戦が外れた惨めさからか。
 がっくりとうなだれる神門に、黒鉄が心配そうに声をかけた。
「ししょー……」
「さわんな! 」
 そっと肩に手をかけようとするはやてを、神門は邪険に振り払う。まるで、こうなったのがおまえのせいだ、とでも言わんばかりの拒み方で。けれど神門はその苛立ちを噛み殺して。
「わかんねえ」
 と呟いた。
そんな彼女に、あのね、ししょー、と懇願するような声で話し掛ける黒鉄はやて。
「んー? 」
「あたしね、ししょーはすごいと思うよ」
「……いやみか? それ」
「違うよ! ししょーはすごい。ししょーの考えていることは、多分正しいよ」
 唐突な話の切り替わり方に、綾那の脳味噌から、ハテナマークが点灯する。
 ――何を言ってるんだ? クロは?
 あのSクラスは、失敗しつづけている。自分の立てた計画も推論も、今の段階では全て外れている。扉からの脱出も失敗し、誰が保有者か、と言う謎からも、無用なヤドリギの犠牲者を出した。
 ――結局、誰が保有者かは、うやむやのままだし、ね。
 勿論、猿楽が潔白と言う証拠は出ていない。しかし猿楽は空調の温度を上げていない。猿楽は一番前のほうで、刃友雉宮の戦いを見守っていたのだから。
 空調の操作が、もっとも分かりやすい保有者の行動だっただけに、その一点で猿楽のシロは確定なのだ。勿論前もって温度を上げておく、と言う行動も考えられるが、それならもっと早く、誰かが温度の変化に気がついただろう。
557『ヤドリギ ファイナル・機動編』《9》:2006/02/26(日) 12:30:02 ID:a5xHYwh/
 保有者は、ヤドリギが劣勢になりかかったのを見計らって、室温を上げたと考えるほうが、道理に合う。
 ――それで、なんであのジャージさんが正しいと断言できるんだ、あいつは。
 綾那でなくても首を傾げる問答に反応したのは、やはり神門玲だった。
「……おまえ」
「やだな。そう言う意味じゃなくて……。ししょーは正しい。だからあたしはよくわからないんだ」
「え? 」
「そもそもあたしがいいって言おうとダメって言おうと、綾那は戦うでしょ。ね? あやな? 」
「――当たり前だ。私はやると言ったらやる」
 初めて話し掛けられて、綾那は言葉を返し。
 びゅ――ッカ――。
 試し振りをもう一度。これでもう間違いは無い。テーブルの足の使い方は、憶えた。
「私はここから出たいとか出たくないとか、そんなんじゃないんだ。あいつの態度にムカっ腹が立ったから、ぶん殴ってやりたいだけだ」
「それでこそ、あやな」
 にんまり笑ったはやては、探るような目で見る神門にも笑いかけて。
「だから賛成とか反対とか、出来るとか出来ないとか、そんなんじゃ無しに、あたしは、わからない、としか言わないんだ」
 謎めいた問答の意味は、神門にだけ通じている。彼女のファンクラブが、悩ましげ、と評する二重の目が、驚きにはっきりと見開かれている。
「――おまえ」
「あたしは、何があっても、綾那の力になりたいと思うよ。例え誰が何と言っても」
「お前――」
「ごめんね、ししょー。巻き込んじゃって」
「しかたないだろ、クロ。ヤドリギには獲物をひきつける力があるんだろ? おまえがパーティーをしようって言った事とは別なことだ」
 口を挟んだ綾那を睨みつけて、けれど返答には少し窮し、ようやく出た玲の言葉は。
「あたしは手を貸さないぞ」
「好きにしてください」
「木刀も、貸さないぞ」
「大丈夫です。もう――行きますので、失礼」
「ちょっと! 待ちなさい!! 」
 視線をぶつけ合う二人の間に、顔色を変えて割り込んだのは、白い制服の女だ。なんでそんな危険なことをするの! と、帯刀はすごい剣幕で怒鳴りつける。まるで今から起こる出来事が、自分の身の危険であるかのように。
 ――なぜ今になって、そんなこと言うんだろう?
 今まで落ち着いていたのは、生徒会からのお目付け役という立場からだと思っていた綾那は、その慌てぶりに初めて違和感を感じた。
「何故危険だと思うんですか? 帯刀さん」
 綾那が、ふと思いついたように、尋ねる。とたん、帯刀が、ぐ、と言葉を失った。
558『ヤドリギ ファイナル・機動編』《10》:2006/02/26(日) 12:31:27 ID:a5xHYwh/
「危険というなら、さっきの彼女が向かっていった時の方が、よほど危険だったのではないですか? 」
 彼女と言うのは、勿論犬神五十鈴の事である。ぐったりと横たわる彼女は、まだ目覚めない。快感の余韻に震える身体は、まだヤドリギに犯されていないカーテンを引き下ろして隠してある。
「犬神さんは魔力で戦おうとしていたわ。魔界の生き物には、魔界に合った戦い方が必要だと思ったから――」
「知ってるんですか? 帯刀さん。魔界ヤドリギの事を」
 再び言葉に詰まる。帯刀は言い返せない。綾那はそれを気にするふうでもなく、静馬夫人に問う。
「夕歩のお母さん。あの赤い部分に攻撃しても、意味はないんですか? 」
「……いいえ。さっき言ったとおり、赤い部分は彼らの力を増幅する効果もある分、弱点でもあるの。脳味噌を剥き出しにしていると思ってもいいかもしれないわ。
あの部分を直接攻撃することが出来れば、かなりのダメージを与えられるでしょうね」
「それならやはり、今しかないでしょう。もし帯刀さんが、ヤドリギが倒されて困る、と言うわけでないのなら」
 綾那の何気ない言葉。それに何の裏も策もない分、帯刀は不意をつかれて慌ててしまう。そして不用意に出てしまう、言葉。
「で、でも――。様子を見た方がいいと思うの。後三十分くらい、あのヤドリギを観察して――」
「それは、彼女のようになることを、心配してのことですか? 」
 ヤドリギの魔力に、辱めを与えられた犬神五十鈴。
あの時の、苦悶と悦びに満ちていた五十鈴の顔――。
 ――あんな姿は、他人には見せられない。
 しかし。
 しかし、そんなことよりも、もっと大事な事がある。それは――!
「帯刀さん。私達は、天地学園の剣待生。天地の教えに従うまでです」
 再びヤドリギに向かって姿勢を正し、綾那が言った。
「天地の教え――? 」
「そう――」
 答えはそれで充分だ。
 綾那の後ろに、一人、また一人と剣士が立つ。戦う意志は充分みなぎっている。それぞれの、策に、技に、想いに、全てをかけて。怒れる天地の虎の元に。
 それを迎え撃とうとする、ヤドリギの変態。作られていく防御網。天井から産み落とされる、人型の何か。
「魔界の人型、ね――。あのヤドリギの作り出した、かりそめの姿。
 あれを呼出せると言うことは、あの向こうにはそれだけ魔界の力が満ちていると言うことだわ。
 それでも、行くの? 」
 静馬夫人の問いに、こくり、と綾那がうなづく。これからの戦いの苦難も感じさせない、頭の上下運動。ご飯食べる、と聞かれて、はい、と答えるような、何気ない動き。
 その時、後ろに控えた三人が、同時に微笑んだ。
 順、みずち、そしてゆかり。まるで異なる関わりで、無道綾那と繋がっている三人が、音も無く。
 綾那は目を閉じる。
 すう――。
559『ヤドリギ ファイナル・機動編』《11》:2006/02/26(日) 12:33:09 ID:a5xHYwh/
 深呼吸一つ。それだけで充分。
「ゆかり、順、水木……」
 綾那の声に、三人が応じる。
「いいわ」
「いつでもいいよー」
「……あの、ちょっと――」
 綾那と共に戦う者達。その返事を合図に、虎が、吼えた。

「行くぞ――!」

 駆け出す綾那に続いて、一人、二人。現世から魔界へと、一足飛びに駆け抜ける。
 恐れを知らないように、迷い無く。
 天地の教え。
 それはこの学園の、理にして、全て。


 ――天地の教えは唯一

 ――何時、如何なる場面に於いても退かぬ事

 ――只、前進すべし

「……私は――みずち、よ」

 ――只前進すべし

「わかったわよ、わかったわよ……」


 疑問も、悩みも、恐れも、そして呼び間違いも置いて、駆け抜ける乙闘女達。

 誰がために戦うか、四人の剣鬼!
560『ヤドリギ ファイナル・機動編』《12》:2006/02/26(日) 12:33:51 ID:a5xHYwh/


 魔界に突進した四人を阻んだのは、人型の何かだった。
 天井から垂れ下がる蔦が、人体模型の神経図のような形を作り、やがて奇妙な姿になる。
 緑色の、人間。
 しかしその姿は人のパロディに過ぎない。右腕は大きな棒のようだ。左腕は、右腕が攻撃した時、倒れないよう身体のバランスをとるためだけにあるらしい。頭にあたる位置には、三つの穴がある。埴輪のような顔。それなのに確かにそれは眼球を持っていた。
 ブン!
 右手を振りかぶって、当ててくる。技も何も無い動き。けれどそれは早く重い一撃で、威力を見とった綾那はまず交わした。
 ゴキン。
 嫌な音がする。床を強く打った証拠だ。普通ならその衝撃に痺れるところだが、そんな繊細さは持ち合わせていないのか、このヤドリギの守護者は構わず切り上げてくる。
 ――密集していたら、危険だ!
 皆、戦いに慣れた戦士である。ゆかりと順は、それぞれ左右に飛んだ。乱戦を避けての事である。単純な動きしかして来ないが、進もうとする者を防ぐことにかけては律儀なようだ。何せ、順の走りに追いつく反射神経を持っている。
 ――まずいな。
 枝による攻撃を意識して作っておいた棍棒は、こんな戦いを意図しては作っていない。下手に受け流せば、腕を傷めてしまうだろう。それにどこまでダメージを与えられるかもわからない。
 ――でも、やってやるさ。
 相手を牽制しながら、綾那は立ち回る。速攻で行かなければ、ヤドリギの魔力に犯される危険がある。とは言え無謀な戦いを挑めば、容易く餌食になることは間違いない。倒されて意識を失えば、にょきにょきと即座に伸びてくるだろう。
 ヤドリギの華の芽が。

「八体か――ちょうど倍だな」
 一瞬でその数を見切る神門に、静馬夫人が、いよいよね、と呟いた。
「侵入者を拒むための、物理的な障害。ヤドリギは学習しているわ」
「……なあ、おばさん。あのヤドリギ人間は、人間みたいに考えて行動してるのか? 」
 ヤドリギを守る、守護者の動きは滑らかだ。まるで意志があるかのように――。しかし静馬夫人は、いいえ、と首を横に振る。
「あれはヤドリギから指令を受信して動く、人形に過ぎないの。ヤドリギの命令を個々で解釈して動くから、ずいぶんファジーな認識能力は持っているのでしょうね。
でも各自で考える力は無いわ。だから気をつけて見れば、動きは無個性でしょ? 」
「じゃあ、例えば上段に剣を打ち込めば、同じ体勢のヤドリギ人間はみんな同じかわし方や、受け方をするって言うのか? 」
「そうね。だからこそ魔界ヤドリギは、多くのヤドリギ人間を動かせるし、また戦いに慣れていない人間なら、その正確な動作に足をすくわれる結果になるのよ」
――操り人形ってわけか。
 確かに気をつけて見れば、守護者は似たような動きを繰り返している。突破出来ないのは、相手の能力を計っているからだろう。遠くからでも、あの化け物の力と、人間では有り得ない動きは見て取れた。
 ――安心しな。眼鏡。
 神門は、ヤドリギ人間の動きを観察している。その動きのパターンも、しっかりと憶えている。もし彼女らが全滅したら、自分が打って出る覚悟は、あった。もし彼女らがやられても、神門には自信がある。何せ自分はSクラスなのだから。
 とは言え、さっきから一つの疑問があった。この状況下で出てくる、単純な疑問。それは神門の口を自然について出た。
561『ヤドリギ ファイナル・機動編』《13》:2006/02/26(日) 12:34:51 ID:a5xHYwh/
「でも不思議なんだがな。あんなもんが呼出せるなら、保有者なんて回りくどい手を使わなくても、あいつらを使って自分の居場所に引っ張り込んだほうが早いんじゃねーか?
 あ、でもあれだけの大きさにならないと、呼出せないのか。ってことは、あいつらがやられたら、あのヤドリギ人間をこちらに向けてくるってことだな――」
 質問から、ぶつぶつと自問自答になる、神門の言葉。独り言のようなその言葉を聞いた静馬夫人は、何を言っているのかしら、と尋ねた。
「あれはあくまで自分の身を守るために作り出した物で、獲物を自分の領域に引き込む手段ではないの」
「え? でも、動けない自分の代わりに、動き回れる手下を作った方が手っ取り早いじゃねーか。そもそも保有者ってのはその為に――。
 まてよ? 保有者ってのは、複数いてもおかしくねえよな」
「保有者は一人よ」
 静馬夫人の答えに、神門は困惑する。だってよく考えたら、おかしーじゃねーか。
「協力者は多い方がいいだろ?
 そもそもヤドリギってのは、その力を使って、どんどんカップルを作ってくんだから、やってることはかわらねえだろ。そもそも保有者が接触した人間が、どんどん華を咲かせるようにした方が、効率がいいだろうが」
「それは人間の考え方なのよ」
 神門はその言葉が理解できない。静馬夫人は、そんな神門の姿を見て、微笑む。
「魔界の生き物は、思念の生き物なの。だから物質である人間に影響を与えるのも、手探りなのよ。
 更に、自分を遥かに凌駕する思念にぶつかれば、自分自身の存在もすりつぶされてしまう。例えば犬神さんの魔力は、それを一番純粋に武器化したものなわけ。敵対する感情は、魔界の生き物にとって致命的だわ。
 だから保有者にする為には、自分と同じ望みを持っていないといけないの。その人間一人にしぼって、ヤドリギは協力をあおぐのよ」
「……つまり、この部屋の中の人間で、乱交パーティーをしたいって奴が、保有者の素質を持ってるってわけか」
「魔界ヤドリギの願いは、そんなものなんかじゃないわ」
 静馬夫人は、神門の早とちりをいさめる。
「魔界ヤドリギは、仲良くさせるのが、目的なの。
 ただ社会感とか、人間関係のような、私達人間が生きるために築いてきたシステムは、彼らにはピンと来ない。彼らに肉体は無いから。
 肉体に縛られるために生じる、幾多の面倒は、理解出来ても、実感は湧かないの。
 そして自分達が持たないから、肉体を持つことに憧れる。まして肉体と思考と理性がある者は、なるべくそれを壊したくないと願う。人間と言う存在は、彼らにとって理想の象徴なのよ」
「つまり魔界ヤドリギにとっては、みんなが仲良くして、しかも憧れの肉体を通して愛し合うことは、至高の喜びに思えている、と言うわけね」
 意外な人物の声に、玲は振り返った。祈紗枝、神門の刃友は、話し合う二人とは全く違う場所に視線を向けたままだ。けれど確かにさっきの声は、紗枝のものだった。
 静馬夫人は、紗枝にこっくりとうなづく。
562『ヤドリギ ファイナル・機動編』《14》:2006/02/26(日) 12:35:42 ID:a5xHYwh/
「大抵の保有者は、そんなヤドリギの意志に流されてしまうのよ。だから私達にとって、困った存在になるわけ。保有者は、ヤドリギのために嘘をついたりしないから。傍から見てて、不自然には決して見えないのよ。あくまで自然に振舞うわ。
 そもそも魔界の生物は嘘がつけないの。彼らは思念の存在だから」
 騙すのは、人間だけよ。
 その言葉が、神門の耳にひっかかった。
 騙す、それは自分の欲を達成するために、嘘を本当に見せかけること。欲が無ければ、騙す必要が無い。逆に言えば、騙せない者は欲を持てない。
 思念の生き物が騙すことは、自己矛盾に繋がる。だからとぼけたり、言わなかったりすることで、曖昧にすることは出来るが、嘘をつくことだけは出来ないのだ。
 ――だから保有者のことについても、ぺらぺら答えたのか。

――保有者と言うのはですね。私の意思を、他の人達に伝達してくれる、まあ言わば私の協力者みたいなものですよ。
――私の手足になるように、軽い洗脳をしかけるってことですね。
――意識は共有しているんですが、どうも彼女は何かもっと目的があるらしくて……。
――もっとこの人が積極的に動いてくれれば、うまくいくんですけれどねぇ

 もし騙すつもりなら、保有者なんていない、と嘘をつく方が手っ取り早い。しかし彼らは嘘はつけないから、黒鉄の質問に素直に答えるしか出来なかったのだ。
 犬神との魔力勝負で、人間の顔を模したのも、人間に近づきこの世界に自分を留めようとしたからだった。この世界に留まりたいと言う欲求が、その姿を変えさせたのだ。
「つまり魔界の生き物は、欲望に憧れているんだな。
と言うより、欲望を持っても、壊れない物を求めているんだな――」
「そう。欲望に憧れているから、欲望を叶えようとする。或いは欲望と一体化しようとする」
「じゃあ、あれから逃れる方法は――」
「だから言ったでしょう? 何もしない事しかないのよ。無かったこととして、無視するしかないの」
 夫人の言葉に、神門は悟って、顔を伏せた。

563『ヤドリギ ファイナル・機動編』《15》:2006/02/26(日) 12:36:58 ID:a5xHYwh/
 
 人間は自分達が、常識や、ルールや、肉体に縛られていると考えている。けれど魔界の物にとっては、人間が自分で自分を、常識や、ルールや、肉体に縛り付けていると考えているのだ。
 ――それが可能性を、ほんの少しいじってやるだけで、まるで異なる物に変わる。
 ――異なる物に変わるのに、まるで変わらない。
 羨ましい。
 思念、思考と言う揺らぎやすい物が実体である彼らにとって、自分達と同じように思い考えられるのに、揺らがない肉体や社会を持つ人間は、羨ましい。
 そしてその人間が、ありとあらゆる可能性を体験するのを、見てみたい、感じてみたい。痴態を見せ、嬌態を見せ、心も身体も一緒くたになって、そしてその可能性が無限に変わる様を見てみたい。

「じゃあ――。じゃあ、戦うなんて」
 ――無駄じゃないか!
 どんな状況もヤドリギにとっては望ましいことだ。
 今、ヤドリギが守護者を呼出しているのは、人間と言う存在に憧れる魔界の生き物の願望の形だ。
 そして綾那達が自分に向かってくるのは、強い感情からで、それは同じ肉体を持った仲間への思いやりから来たものだ。
 肉体を持った者達が、激情のまま自分の下にやってくる。それはあの魔界植物にとって、何よりのご馳走に違いない。
 やがて彼女達も、愛、と言う感情に塗りつぶされていくに違いない。彼女らの心に、絆がある限り、華は咲きつづける華である。犬神の華は桃香のキスで散ったが、無限に可能性を与えられつづければ、華は永遠に咲くのだろう。
 そして華の咲いた後は――。小さな種が残って、新たな華を芽吹かせる礎となるのだ。幸せな世界を、与えられつづけるのだ。愛に満ち、エロスに満ちた、ヤドリギの世界を。自分達の意志とは、関係なく!!
 歯を食いしばる、玲。拳は固く握られる。涙が零れて、堪える。
 ――ヤドリギが与えてくれた可能性……。そんなのは、自分が望んだものじゃない!!
 けれど戦うことは無駄なのだ。今こうやって神門が味わっている悔しさでさえ、ヤドリギにかかれば全く別のものになってしまうのだ。こんな神門が、愛に身を委ねて溺れる姿を、ヤドリギは見たくて仕方ないに違いない。
 ――いったい……一体どうすれば。
「無駄じゃないわ――」
 打ちひしがれる神門に、また別の声が答えた。顔を上げる神門の側に近づいていたのは、木刀を持った少女だ。
「夕歩――。あなた、それ……」
 母の声に、夕歩は微笑んで、大丈夫よ、母さん。
「今私が飛び込んで行ったら、順に怒られちゃうわ。セーターを守らなきゃいけないんだから。
違うの。この木刀は、私も一緒に戦っている証」
そして神門に向かって、優しく。
「しゃっきりしてください、先輩。あの赤い部分を叩けば、ダメージになるルールは、ヤドリギがどんな可能性を操れても無効になりません。それは母さんが言っていたから、確かだと思う。変な人形もだしてるし」
「けれど、あんなに大きくなった可能性は――」
「あれはあくまで可能性で、私達が欲しい物じゃない――! 」
 ぴしゃり、と言ってのけた夕歩に、玲は気づかされる。
 この少女がどう言う戦いをしていた少女だったかを。欲しい物を手に入れるために、どんな戦いをした少女だったかを。
564『ヤドリギ ファイナル・機動編』《16》:2006/02/26(日) 12:38:46 ID:a5xHYwh/
「わー。年下に諭されるなんて、玲かっこわるーい」
「な、なんだよ、紗枝!! だったらおまえはどうなんだよ!! あのヤドリギに、絶望しなかったのか!? 」
 またも思いもよらぬツッコミに、顔を赤らめた神門は、自分の刃友を睨みつける。おーおー、泣いたカラスがもう笑っただ、と意にも止めない紗枝は、不意に真顔になって。
「私に聞かないで」
 祈の目は、ずっと一点に釘付けになっている。
 ヤドリギの枝の、びっしりとへばりつく扉。この部屋からの唯一の出口に向かって。
「私は、ダメ。聞かないで。嘘はつきたくないから」
 部屋に入った途端、頭から芽を出して、神門を押し倒した、祈紗枝。
 深い理解力を持つ、冷静な観察者。
 欲しい物は、一番眺めのいい場所。
 二人で立つ、一番眺めのいい場所。
「私の欲しい可能性は、同時に願ってはいけない可能性なの。私が叶えた願いは、私の欲しかったモノを、完全に奪い去る物なの。
 私は欲しいモノを手に入れられないから、絶対邪魔をしてみせる。
 私が手に入れられないものを、手に入れるなんて許せない」
 ――あー?
 神門には、彼女が何を言っているのかよく分からない。しかし、祈が何かを阻止したがっていることだけは、理解して、尋ねた。
「保有者のことか――? 」
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。
 ――でも、玲」
「ん――え? 」
 ――私は絶対に阻止してみせる……。

 囁いた、祈の目。
 玲さえ、鳥肌が立つ本気の光。

                                  夜勤から帰って来たら
                                  『ファイナル・発動編』
565名無しさん@秘密の花園:2006/02/26(日) 12:52:39 ID:yewyAUCO
発動編て・・・全員死んで輪廻転生かガクガクブルブル
ちなみに本当は発動篇が正しい
566名無しさん@秘密の花園:2006/02/26(日) 12:58:33 ID:a5xHYwh/
>>565
げやあああああああ!
ちなみに機動篇も、起動篇が正しい

でもいいの!
何か機動してるの!!
567名無しさん@秘密の花園:2006/02/26(日) 14:03:12 ID:vDDfoN4e
GJ、悪い正直飽きた
568名無しさん@秘密の花園:2006/02/26(日) 17:11:47 ID:T0RuOhrh
グッジョブ
続き待ってますよ
569名無しさん@秘密の花園:2006/02/26(日) 17:19:46 ID:/tQplQbG
GJ。
…なんだけど、いつも思ってたことだけ突っ込ませて

予告したら、出来ればそのとおりに上げて欲しい
無理しないで、絶対に上げられるときだけ予告してくれれば嬉しい
予告されてると、期待してついつい何度も見に来ちゃうから

身勝手言ってスマンと思うが、書き手さんもマイペースでやっていいと思う。
570名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 00:51:05 ID:fZYm68HM
長すぎて読んでない俺の為に誰か3行であらすじ教えて>ヤドリギ
571名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 00:58:45 ID:X6jGBtSl
ヤドリギさんの後ですが、投下させていただきます。
組み合わせは玲とはやてで。
572banana 1/10:2006/02/27(月) 01:01:02 ID:X6jGBtSl
天地学園のジョギングコースに、スポーツバックを肩から提げた2人の影が長く伸びる。
ふたりが着ているトレーニングウェアが、水銀灯の光に白く浮かんでいる。
前に進む背の高い生徒の背中を見つめながら、はやては多少おぼつかない足取りで着いていった。
いつもはぴょこんとひとすじ飛び出している髪の毛も、いまはぐったりとしおれ気味だ。

「し〜しょ〜」
「オラ、情けない声だすんじゃねーよ。ベンチまで着いたら座らせてやっから」
ちょっと足取りを緩めてくれないか、そんなつもりで声をかけたものの
アッサリと断られ、彼女の『師匠』はこちらを振り向くことなくさっさと進んでいく。

「だって、ししょーのトレーニングってあたしにはけっこうキビしいんだもん」
「あのなぁ、トレーニングてのは、真剣にやれば結構きついモンだ。
 いままでお気楽極楽に過ごしてきたお前なんだから疲れて当然なんだよ」
「……おきらくごくらく……イジワルだよししょー……」

イジワル、イジワルとなんども呟きながらがっくりと肩を落とすはやてを見て、
玲はぴきりと青筋を立てる。そのまま後輩の背にばんと強く平手をくれてやった。
「ひゃあ! 痛い!」
「お、もう筋肉痛出てきたか。筋肉痛が出るってことはそこが鍛えられてるって事なんだぞ。感謝しろ」
「ひ〜ど〜い〜よ〜」
「あーあー聞こえねーな」
背中を押された勢いで自分の横に並んだはやてが、叩かれたことに抗議してくるのを両手を塞いで聞き流す。
弟子の騒ぎがひとしきり収まったところで、彼女が持っているメモ書きを指ではじいた。

「ちゃんと分かってるか? AとB、2種類のメニューを一日交代でやんだぞ」
「ういっす。……いっぱいあるから、おぼえきれるか自信ないけど」
「なんだオマエ。メモに書いてやったじゃないか。ちゃんと毎日こなせよな」
「りょうかい、です……」

―― 一般的なメニューなんかじゃなくて、わざわざお前専用のを組んでやったんだからな。
口まで出掛かった言葉を飲み込んで、玲は『弟子』から目をそらした。
573banana 2/10:2006/02/27(月) 01:05:33 ID:X6jGBtSl


ジョギングを邪魔されたのが縁で、自主トレのやり方をレクチャーしてやることになった玲は、
ジョギングコースの脇の草地まではやてを連れて行くと、そこで向かい合わせに立った。
「よーし、じゃあまずはウォームアップからな」
「……うぉーむあっぷ」
はやての語尾に疑問の響きを感じ取った玲。
「英語がわからんのか? 柔軟のことだよ」
「じゅうなん?」
ますます不思議そうに首を傾げるはやてに、玲は底知れぬ不安感を覚えた。

「あー、まず聞いておこう。いくらバカなお前でも、
 運動前と後に柔軟体操をやるって事ぐらいは知ってる、よな?」
「……」
「……」
「……」

沈黙が続く。ひゅう、と足元を通り抜けた秋風がやけに大きく聞こえた。
そんな中、柔軟体操とはなんですか? と問いかけてくる瞳がきらきらとこっちを見ている。
玲は額を押さえて大きくタメ息をついた。
「なんだか、頭が痛くなってきた…」
このバカを置いてとっとと帰ってしまおうか、との考えもちらりと浮かぶが、
先程、負けたくない、もっと強くなりたいと訴えていた瞳に見つめられて、どうにか踏みとどまることにする。

「ええと。だいじょうぶ、ししょー?」
「頭痛の原因に心配されてもな。そんな不思議そうな顔で見るなよ。
 ――ぁあっ、もう! こうなったら一から十まで教えてやるから!
 なんか書くもん、ダッシュで取ってこい! 
 超弩級バカのオマエでも後で思い出せるように、紙に書いて説明してやる!」
574banana 3/10:2006/02/27(月) 01:10:44 ID:X6jGBtSl
そんな会話で始まった一日限りの自主トレ講座。
一般的なトレーニングメニューを教えてやると声をかけたときには、
とりあえず一通り流してやれば十分だろうと思っていた玲だったが、すぐに見通しの甘さを思い知らされた。

玲自身もそうだったが、剣待生として天地学園に入学してくるのは、
いずれも幼い頃から剣道場などで指導を受けている生徒ばかりである。
当然のことながら、スポーツについての基礎の基礎程度の知識は持ちあわせているものと期待していたのだが。

(まさか、柔軟体操っていう言葉すら知らないレベルだとはなあ……)

『弟子』のあまりの無知っぷりに、これからの遠い道のりが思い遣られ心底ゲンナリする。
「いち、にー、さん、しー。……ししょー、こ、こうでいいのかな?」
(まあ、こんなバカだから、自主トレが即座に全力疾走に結びつくんだろうけど)
「違う。ちゃんとハムストリングス…太股の後ろ側を伸ばすんだ。ここだ、ここ」
筋肉の名前を言っても相手が理解してもらえないだろうことにすぐ気が付いて、
玲ははやての脚に手を伸ばした。

ぽん、ぽん。
玲の手のひらが、脚の裏側を軽く叩く。
柔軟体操のひとつひとつに例を示してやり、意識すべき筋肉や関節を触って知らしめる、つもりなのだけど。

「きゃー! ししょーのエッチ!」

ごすっ。
575banana 4/10:2006/02/27(月) 01:14:08 ID:X6jGBtSl
「あまりフザけてると、ぶん殴るぞミクロチビ」
「なぐってから言わないでよししょー……」

フンと鼻を鳴らし、玲は目に涙を浮かべながら体操の続きをするはやての背を見下ろした。
組んだ腕の下で、たった今、はやてを殴ったばかりの拳を開く。
指にはじんじんと痛みが走っているがそれを無視して、手のひらを見つめて、もう一度握ってからまた開く。
(いいな、コイツ)
今しがた触れたばかりの、はやての薄い肌の下で動いていた筋肉の感触が、まだそこには残っている。
柔軟体操をつづけるはやての四肢を、後ろから玲はこっそりと観察し始めた。

やたらと筋肉が肥大した、マッチョな体だというわけではなく、
良く言えばスレンダー、有り体に言うとただの痩せ気味のチビっ子でしかない。
そんな見た目を裏切るような、細い脚に隠された強靭なバネのような弾力、
盛り上がっては消える筋肉のふくらみに、初めてはやての姿を見たときのことを思い出した。

後ろから剣で襲われそうになった自分の刃友のために、十数メートルの距離を一瞬にして詰めて
白羽取りを目論んだはやて。
結局のところ、白羽取り自体は失敗してしまったのだが、
生徒会長の刃友の宮本静久と同等の俊敏さが、玲の脳裏にありありと思い浮かぶ。

(なるほど。チビっこくて軽いのにこんなに良いバネ持ってれば、宮本と同じくらいのスピードがあるのも頷けるな。
 瞬発力は充分、スタミナは…ズバ抜けてるわけじゃなさそうだが、
 15分の仕合いには困らんといったところか。次は柔軟性か。他は? あとは何を見ればいい?)
3年前、中学1年生だった頃の自分よりももっと恵まれた体つき、それが秘めたポテンシャルに玲の心が躍る。
――鍛えれば、きっとコイツは強くなる。
だが、この背の低い1年生は、スポーツについて何の知識も無く、星奪りにおける自分の長所短所すら知らないだろう。
それなのに最下層クラスからBクラスまで伸びてきた目ざましい勢いを思い出して、玲は目を細めた。

576banana 5/10:2006/02/27(月) 01:16:55 ID:X6jGBtSl
先程聞いた、”負けたくない、鍛えないと”と言った時のはやての震える声が、脳裏に甦る。
実際にコイツと剣を交えてみたら、いったいどれほどの気持ちがぶつかってくるのだろう――。

これから彼女の挑むBクラス、Aクラスの壁は、いままでの下層クラスとは比べ物にならない程に厚く、
漫然と自主トレを繰り返すだけの人間が上ってこれるレベルではない。
自分と剣を交える事のできる特Aになるまで、半年か、はたまた一年か。
それともその機会は永遠に来ないのか。

(よし、やってやろう)
1人の後輩をつきっきりで指導するなんて柄じゃないし、
黒鉄はやてが伸びるも伸びないも、それは彼女自身の問題である。
だけど、あまりにも無知な、そして将来有望な後輩の最初の一歩ぐらい、正しく導いてやるのも面白いかもしれない。
(一般的な自主トレなんかじゃなくて、コイツ専用のメニューを組むぐらい、してやってもいいかな)


ひとりで延々と柔軟体操を続けるはやての後ろで、ぶつぶつと呟き続ける玲。
「あ、あの、ししょー」
「……まずは一通り流しながら見てくかな。
 そしたら弱点をカバーするか、長所を伸ばすか……」
「し、ししょう? 柔軟体操、ひととおり終わっちゃったけど」
「……でも、コイツは天だからな。トレーニングの方向性としてはやっぱ……」
「しーしょー」
「……筋力とのバランスは…」
577banana 6/10:2006/02/27(月) 01:18:50 ID:X6jGBtSl
「ししょう、ひとりごとは老化の証拠だって、こないだテレビでやってたよ」

ぴき。

真剣に考えていたところに水を差された玲が、青筋を立ててはやてに詰め寄った。
「おーおー、ごきげんな口を利いてくれるじゃねーか。
 余裕ありそうだなぁチビ助。じゃあ次は体捻転斜前屈伸やってみるか。
 やってみせるから、一回で覚えろよ。失敗したら鉄拳な。まずは――」
「た、たいねんてんしゃぜんくっしん?? え? え?」
「いーち、にー、さーん、しー」
「一回じゃ覚えられないよ! もいっかい、もいっかい! ししょー、タイムタイム!」
578banana 7/10:2006/02/27(月) 01:20:40 ID:X6jGBtSl





「とう、ちゃ、くぅ〜…ぐぇ!」

校舎近くの自動販売機脇に設けられたベンチまでやっとの思いでたどり着いたはやてが、
身を投げ出すようにして転がり込む。
その腹の上に自分のスポーツバッグを投げ出した玲は、ポケットから小銭入れを出すと
手の上でちゃらちゃらと音をさせながら、はやての顔を覗き込んだ。

「チビ助、なにか飲みたいもんあるか。褒美におごってやらなくもないぞ」
「え〜と〜。じゃあメローイエローを…」
「ガキの癖に変なの知ってるな。そんなレアもん売ってるわけないだろーが」
「じゃあ、コーラ…」
「却下。夕メシ前にガキが甘いもん飲んだら虫歯になる」
「ガキガキってひどいよし〜しょ〜」
「だいぶ冷えてきたから、ホットの烏龍茶でいいな」

はやての恨めしげな声を無視してボタンを押すと、
がこん! 自販機の立てる音がひと気の消えた学園内に響いた。
とっくに日が暮れた今となっては校舎もただのコンクリートの塊にすぎず、
街灯と、自動販売機の明かりだけがあたりを照らしている。
579banana 8/10:2006/02/27(月) 01:23:31 ID:X6jGBtSl
「ホラよ」
「ありがとししょー、あちちっ」
気が抜けてぐったりと横になっていたところに放り投げられた缶の熱さに、
あわてて飛び起きて手でお手玉を始めるはやて。
自分のぶんの緑茶を買った玲はその横に座り、平然と缶のふたを開ける。

「あちち、ちっ、ちちっと。――ししょーは熱くないの?」
熱いお茶の缶を持て余していたはやてだったが、
やがて自分が首から提げていたタオルで持つことを思いつき、
ぐるぐる巻きにした缶を両手で持って、やっとのことで口をつける。
それほどまでに熱いはずの缶飲料を平気な顔をして持っている玲の顔を、
はやてが不思議そうな顔をして覗き込んだ。
「ん」
肩をすくめて、玲は自らの手のひらを、はやての眼前に差し出す。

「あ、……あぁ」
無数に走る擦り傷、剣ダコ、つぶれたマメの痕。
どれほどに稽古を積み上げたのか、自分の『師匠』の地位を支えているものが何なのか。
すっかり厚く硬くなっている玲の手のひらに気が付いたはやては、小さく声を漏らした。
580banana 9/10:2006/02/27(月) 01:27:07 ID:X6jGBtSl
「ま、修行の成果ってヤツだな」
「う、うん」
自分の缶に幾重にも巻かれているタオルに目を落とすはやて。
「……っ!」
無言のままはやてがそれを毟り取ろうとしたのを片手で押しとどめて、
玲はごくごくと自分の缶のお茶を飲み干した。

「まったく、本当に単純だなオマエは。
 熱い缶が持てるようになったからって剣が強くなるわけじゃねーんだぞ」
「……はい」
肩を落としてうなづくはやてに、玲はニヤっと笑った。
「ま、ちゃんと自主トレして素振りも毎日こなせば、すぐに手の皮も厚くなっちまうさ。あとはオマエ次第だよ」

しょんぼりと丸まっている肩をぽんぽんと叩いて、玲は立ち上がる。
缶をくずかごに放り投げ、自分のスポーツバッグを肩に担いだ。
「じゃーな、ミクロチビ。
 この先、星奪りで会うかも知れんし会わんかも知らんが、せいぜい頑張れよ」
「え、ししょー。行っちゃうの?」

こちらを見上げてくるはやての寂しげな表情を見て、玲はフンと顔を反らした。
「たりめーだろ。こっちはオマエに付き合ってて、今日の分のノルマこなせてないんだ」
「う、ごめんなさい。……ありがと」
581banana 10/10:2006/02/27(月) 01:31:34 ID:X6jGBtSl
ますます肩を縮こまらせるはやてに、玲は、お、そうだと声を上げた。
スポーツバッグの側面のポケットのファスナーから細長いものを取り出して、はやてに手渡す。
「これやる」
「何これししょう……バナナ?」
右手にバナナ、左手にタオルぐるぐる巻き缶という、なんともおかしな格好のはやてに指を突きつける。

「強くなりたかったら、飲み物や食い物にも気を使えよな。さっき聞いたら、なんなんだメローイエローとかコーラとか」
「あう」
「消費した水分とミネラルを補給するために飲むんだからな。そこんとこ考えて選べよ」
「は、はい」
「あと、バナナな。疲れが取れるから、トレーニングしたらバナナ食っとけ。
 それからメシは好き嫌いせずになんでも食え。ここの食堂はバランスきっちり考えてあるから。分かったな」
「う、うん。分かったよししょー」

早速バナナの皮をむき始めたはやてに、玲は満足そうに笑って歩き出す。
「素直だな」

肩越しに振り返ると、バナナにかぶりついてまるでハムスターのように頬を膨らませているはやてがいる。
そのあまりの単純さ、真剣さを微笑ましいと思うと共に、
彼女がいずれ手強い相手となって自分に挑戦してくる姿が浮かんで、胸の中に好戦的な火が点るのが感じられた。

――その素直さがあれば、オマエは伸びるよ。伸びてみせろよ。
そう呟いて、玲は自らに課したノルマをクリアするために、トレーニングルームへと足を向ける。



天地学園のあちこちにバナナの皮が点在するようになるのは、それから2日後のことであった。
582名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 01:33:03 ID:X6jGBtSl
これで終わりです。どうもありがとうございました。
583名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 01:45:46 ID:fZYm68HM
GJ!オチも本編に繋げてて上手いね。
584名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 04:00:05 ID:mXXDZ8r2
イイヨイイヨー!!!
青は藍より出でて藍より青しとなるか否か!だなw
585名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 09:49:02 ID:4wg1f286
>>572
GJ!
玲はやてもイイなぁ〜
玲はなんだかんだ言って面倒見よさそうだし
586名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 12:05:43 ID:d/CWzPvy
玲・はやて・みやもっさん・もかちゃんの四人って
なんか意気投合したら凄い勢いで突っ走りそう…
もしくは、トレーニングの走りこみの最中とかに4人が鉢合わせしたら
そのまま全員自爆するまで競争したりして…
587名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 12:22:13 ID:Wy2ywN6H
>>586
で、隠しカメラで見てた会長が、また大爆笑するのだなぁ
588名無しさん@秘密の花園:2006/02/27(月) 14:14:26 ID:dm07w6Oq
>>572
玲はやGJ!
体力馬鹿ップルにもえる…!
589『ヤドリギ 発動篇』《1》:2006/02/28(火) 10:43:34 ID:PxuCnr3R
『あなたたちは本当に不可解な生き物ですね』
 語りかけるヤドリギの声は、もはや荘厳な楽の音。何もかも委ねてよいような気持ちにさせられる、温かで優しい調べ。その響きに、思わず剣の力が鈍る。
 向けられたのが敵意なら、何糞と反発できる。しかし安らぎに、思ったよりも人は弱い。
 ――聞くな。聞くな。
 染谷ゆかりは、肉体をいじめるように武器をふるって、守護者を打つ。その円運動は幾重にも重なって、まるで天体図のよう。飛び込んだ四人の中で、最も積極的に攻撃をしているのは、染谷である。
 しかしその激しい剣撃の最中、ヤドリギの声はとどまることが無い。

『私の力を上手に使いましょうよ。
そうすれば過去のしがらみも、未来の苦難も何もなく、幸せな今を作り上げることが出来ますよ。
強く思い願い、あなたたちに記録すれば、何も違和感なく――。
 それとも、その効果が今しかないことを恐れているのですか? 』

 ――いける。やれる。
 ゆかりの攻める盾は、徐々に守護者を退かせている。このまま周りこんで、本体を討つつもりだ。
 心を閉じて、ゆかりは挑む。その偽善の敵に

『大丈夫ですよ。きちんと宿らせてあげます。
私に任せてくれれば、幸せな可能性を。過去にさかのぼって。さっきの二人みたいに。まるで始めから二人でいることが当然みたいに。
 どんなカップリングも想いのままです。どんなシチュエーションも想いのままです。
 ああ、宿りたい』

 あなたの世界に宿りたいなあ。

590『ヤドリギ 発動篇』《2》:2006/02/28(火) 10:44:45 ID:PxuCnr3R
 ――中々前進できない。
 綾那の額に、焦りの汗が浮かぶ。
 ――心の見えない敵は、厄介だ。
 呼吸も無い。心も無い。ただの戦う機械は、綾那の考えている戦いの根本から違う。
 ――順なら、この気持ち悪さ、判るだろうな。
 自分でも何故そう思ったのかは分からない。けれどきっと、自分のルームメイトであり、剣を交えたこともある久我順は、自分と同じ感想を持っているはずだ。
 敵の攻撃は分かりやすい。避けるのも容易い。それなのに打ち倒せないのは、守護者達に何もないからだ。ただ綾那たちの行く手を遮るためだけの、障害物。いや、壁や塀であった方がまだ人間味がある。
 これは、『守護者』と言う記号に過ぎないのだ。
 記号はあくまで記号だ。何のために守るとか、守らねばどうなるとか、そんなものは何も無く、ただ『守る』と言う行為を表しているに過ぎない。だからこれは戦いなんかじゃない。敵ですらない。
 ――つまらない。
 そう思うと、ムカっ腹が立つ。面倒くさい。馬鹿馬鹿しい。それでも魔界ヤドリギをぶん殴る目的を果たすためには、これを突破しなくてはならないのだ。
 ちょうど恋愛シュミレーションで、イベントCGをフルコンプするために、嫌いなキャラまで攻略しなければならないような、そんな苛立ち。
 ――そんならそれで、考え方がある!!
 チャッ、と剣を構える。今まで腕を振り回していた守護者が、ぴたり、と止まった。綾那の動きが、想定されていた形で無かったからである。ぶつぶつ呟く、眼鏡の剣鬼。
 ――始めに挨拶。次にハプニング。デートの誘い。フラグの予感……。
 これからの自分の動きを、全てチャートに並び替える!
 気の進まないリプレイには、機械的な操作が一番!
 本命を落すのは後の楽しみ!!
「でええええええい!! 」
 始めの挨拶と共に、討ちかかる綾那。二体目のガーディアンから襲われるハプニングは、折込済み。そして小出しに、突き合って突き合って突き合って!
『待ってたの。先輩』
 相手のハートを一突き!!
 よろめいて倒れる守護者!
 しかし落したはずの守護者は、すぐに立ち上がる。その頑強ぶりに綾那は舌打ちする。
「――ち!
 こう言う一見あしらいやすそうなバカは、けっこう落しにくいから嫌なんだよ――」
「……何を遊んでいるの、あなた」
「あ、あんたは――」
 す、と後ろに立つ気配に驚いた綾那は名前を呼ぼうとして、口篭もる。名前が出てこない。今一つ憶えにくい名前だと思う。なんだっけか。喉元まで出かかっているのに、言葉が出ない。
そんな疑問を知ってか知らずか、静かな声は次の指示を出す。
591『ヤドリギ 発動篇』《3》:2006/02/28(火) 10:46:44 ID:PxuCnr3R
「いいから、私を背にして戦って」
「背にして? 」
「すぐわかるわ」
 昔感じたことのある、背中にあたる髪の長さ。けれど昔背中合わせに戦ったときの髪は、しなやかなウェーブを描いていた。今背中にあたるのは、腰のあるストレートヘア。目の端に、白い袖が舞うのが見えた。
 白いスーツの浅倉みずちである。
「無道さん。後ろは気にしないで。合図だけ、お願い――」
「わかった――」
 とにかく援護してくれるらしいことは分かった。彼女を追ってきた他の守護者達にも囲まれたが、背後に気を取られずにすむのはありがたい。
「いくぞ! 」
 目の前の守護者が、のろのろと腕を上げたのを見て、綾那が合図を出す。みずちは応えない。ただ髪がなびいた。
 ゴム!
 守護者の一撃が、紙一重で当たらない。
 綾那はかわした勢いで、踏み込む。肩口で突く。安定が失われた守護者が、たたらを踏む。
 二体目の守護者の攻撃を、早い段階で棍棒に当てて、絡めて力を上に削ぐ。
 続いて右斜め上からの攻撃を切り払い、肘で牽制しつつ袈裟懸けに切り下ろす。
 開いた隙間に身体を横にねじこみ、振り向きざまに、背後の敵ののわき腹に切り上げる。
 振り向いた時、綾那の目は驚きに開かれる。
 向かい合ったところには、みずちがいた。
 綾那とまるで同じ体勢で。
 向かい合う綾那とみずち。一瞬そのまなざしが交差して。
「たあああああああああっ! 」
 二人の声が重なって、はもる。
 二人の立ち位置、入れ替わり立ち替わり、互いが相手にしていた守護者を切りつける。
 戦う相手の、突然の変更。単純なヤドリギの戦闘端末は、その事実を理解出来ない。ましてそれが同じ動きで戦うとすれば――
 叩きつけた棍棒は、守護者の肌のぎりぎりを削る。この一撃がとどめではない。剣圧をでもって、体勢を崩すのが狙い。
「せいっ!! 」
 今度は狙いを余さず、突きが守護者の左肩口をえぐった。ムチ、と言う嫌な断裂の感触。これで守護者も、バランスを取る為の左腕は使えない。その証拠に、次の打撃は隣の守護者に命中した。
 ――考えたな。
 ぐっと先に一歩踏み出し、綾那は密かに賞賛する。
 守護者は、ヤドリギに操られた、戦う端末機械である。つまり思考の根は一つなのだ。細かい命令はヤドリギ本体の負担になる。そのため命令は、簡略であればあるほどいい。同じ動きをするものなら、同じ指令で充分なのだ。
 ――だからこそ、突然戦う対象が変われば、混乱する。
 同じ動きなのに、戦う個体が変更している。生じる混乱、その微調整は、確実に隙になる。そこにつけこむのだ。
592『ヤドリギ 発動篇』《4》:2006/02/28(火) 10:47:24 ID:PxuCnr3R
 ただこれは、容易い芸当では無い。互いの動きが大きくズレれば、無道と浅倉を別々の個体として認識し、混乱は生じない。けれどもその動きがぴたりぴたりとシンクロしているため、守護者の知覚をずらすことができるのだ。
 確かに浅倉は、無道の戦いのスタイルを模倣していた。とは言えそれは、模倣にすぎない。同じ動きを真似しようとすれば、そこに必ずズレが生まれる。そう、模倣だからダメなのだ。
 浅倉の手、それは。
 無道綾那の完全なコピー。
 ――二人の無道綾那になる。
 無道綾那の戦いを想像しトレースし、更に自らの身体を完全に支配する。強固な集中と剣の力が必要である。戦いのスタイルを真似ただけでは、到底出来ない芸当だ。
 あの人なら、どうするだろう。
 あの人なら、どうするだろう。
 思考をつきつめ、実行する、冷静に、躊躇なく。自発的に無道綾那の動きが、みずちの身体に湧き上がる。
 一分の隙もなく。
 一厘の狂いもなく。
 今のみずちは、最高にクールだ。

「やるじゃないか」
 再び背中合わせになった綾那の声に、みずちの集中が少しゆらぐ。綾那の声、戦いの興奮に少し上ずって高い。
 ――そろそろだわ。
 その言葉をきっかけに浅倉は、自分の本当の狙いを、実行に移すことに決める。とは言え綾那に誉められたのは嬉しかった。微笑して、みずち。
「コピーでも、役に立つこと、あるでしょ? 」
「で、どうする? このままじりじり近づいていくのか? 」
「それじゃあ、わざわざこんなことする意味がないし、もう私も限界。突破口を開くわ、あやな」
 初めて無道を名前で呼んで、みずちが言った。
 ――すぐ、伏せて。

「みずち! 」

 理解した綾那が、伏せる。
 その頭上を凪ぐ大蛇の尾。
 自分の名前を呼んだのが偶然か、それとも必然か、そんなことはいささかも考えず、みずちは全身をひねり、うねらせ、周囲を取り囲む守護者を一掃する。剛剣である。
 仲間ごとなぎ倒す。
そんな攻撃を予知しておらず、更にこの二人を相手にするためだけの動きに調整を始めていたヤドリギの守護者は、この不意打ちにあっけなく倒された。致命傷ではないが、みずちが駆け抜けるのには充分だ。
593『ヤドリギ 発動篇』《5》:2006/02/28(火) 10:48:05 ID:PxuCnr3R

 ――これは囮。
 ――本当の牙は別にある。

 みずちの狙いは、徐々に近づいていく。
 巨大なヤドリギの顔。
 その額に輝く赤いコア。
「せええええええええええぃっ!! 」
 必殺の一撃!
 けれど核を狙ったみずちの剣は、宙で留まった。

『中々面白い戦い方でした』

 動きを封じられたみずち。
 地面に張られた、網の目のような蔦。それはヤドリギの前にさり気なく置かれた罠である。その側に来たら、瞬く間に敵を絡め取る仕掛け。
 剣をふりかぶったまま、みずちは動けない。
 ――思った以上に力があるわね。
 その巻きつく蔦は、髪の毛のように、ヤドリギの顔から垂れたものだ。
 ますます人に近くなる、ヤドリギの顔。
その三つの目が、光る。
『あなたがどれだけ彼女を思っていたのか、とてもよく分かる――。ほら、見せてください。あなたの願いを。口から語って下さい。
 あなたの望みを叶えてあげる』

 優しい声。
 喜びに満ち溢れた、温かな声。
 ヴウウウウウウウウウウン。
 空気が揺れた。ヤドリギの位置から離れた神門達のところにまで響いたから、それはかなり強い揺れなのだろう。その感触は心地よく内臓まで揺らす。
 それは当然みずちに向けられたものなのだ。
 重い重い口調で、みずちが話し始めた。
「――私は力が欲しかった。誰にも負けない力が」
594『ヤドリギ 発動篇』《6》:2006/02/28(火) 10:49:09 ID:PxuCnr3R
 ヤドリギを撃つために振り上げた身体が、徐々にその力を失っていく。ヤドリギのコアが光る。
 ああ、喜んでいるのだ、と分かる。
 みずちはそれに逆らわず、言葉を重ねていく。それは囁きなのに、部屋の隅々まで聞こえている。
「――星を奪れば、私にも約束される。
 金も地位も、名誉も。その為には、誰にも負けない力が、欲しかった――」
 夢見るような声。戦いながらその声を聞いて、ゆかりはぞっとする。今、この魔界の生き物は、人の心の中に枝を伸ばしている。
 焦点があわなくなり、うつむくみずち。それにむかって、思わず染谷は戦闘を忘れて、声をかける。
「浅倉さん! 駄目!! 負けないで!! 」
 
「……だから無道綾那と刃友になりたかった」

 致命的な一言。
 誰もがそう思うほど、それは真実の響きを持っていた。
 だから貴水蒼が、どんな顔をしているかなんて見ることが出来ない。
 貴水蒼の目からこぼれた涙など、誰も知らないし、知るわけがない。

『だからあんな作戦を考えたんですね? 一瞬だけでも、愛する人の側で戦いたい、そう思ったわけですね? 』
 慈しむような声。全てを明渡した者に、魔界の物は優しい。ヤドリギの声に誘導されるように、浅倉みずちは言葉を重ねていく。
 頭から生えて、伸びていく芽。
 誰の目にも見て取れる、浅倉みずちの華のつぼみ。

「綾那が側にいてくれたらと思った。弱い私を守ってくれたらと思った。その為に彼女の強さを追った」
『心配しなくても、あなたはその今を手に入れられますよ。
彼女があなたの傍らにいる可能性。
彼女を抱き、一体化する喜び。
彼女の記憶に宿る喜びを――』
「……彼女は一人でも、充分、強かった。幾つもの星が、落とされた」
『そう、だからあなたは無道綾那さんと共に戦ったのが、嬉しかったんでしょう? 彼女の側にいたいのでしょう? だからあんな作戦を立てた――』
「いいえ。こんな作戦を立てたのは、あなたに限りなく近づくため。私の牙をあなたにつきたてるため」

595『ヤドリギ 発動篇』《7》:2006/02/28(火) 10:50:10 ID:PxuCnr3R
 気がつけば。
 いつのまにか、みずちは顔を上げている。浅倉の理解出来ない微笑に、ヤドリギはとても慈悲深い声で答えた。
『せっかくいいところまできたのに、そんなつまらないことを言うのは止めましょう? 現にあなたは今まさに華を咲かせようとしている。
あなたでは私のコアを奪ることはできなかったんです』
「いいことを教えてあげるわ。魔界ヤドリギさん」
 全身の力を抜ききって、浅倉みずちは言った。
 恐れることなく、冷静に。
 手から力を抜く。余裕を持って、優雅なくらいに。
 これは囮。
 本当の牙は別にある。
「天の星を奪るのは、私の役目じゃないの」
 そして最高にクールな、みずちの笑顔。

 威嚇をしていた蛇の尾が止まったら、気をつけなくてはならない。
 それは必ず蛇が噛み付く瞬間だからだ。

『うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!! 』
 ヤドリギの真中の目に、深深と棍棒がつきたてられている。
 それはさっきまでみずちが持っていた物だ。その目に牙をつきたてた張本人は、叫び声にやられて、床に転がっている。その身体にぐるぐると巻きつきはじめた蔦の、髪の毛。
 立ち会う敵を次々と切り伏せる順が、一時飛びのき、無敵の盾の如く敵を寄せ付けなかったゆかりが、無我夢中の打撃で何とかその場を切りぬければならなくなるような衝撃の、叫びだ。至近距離で受けた貴水蒼はたまったものではない。

「あいつ、いつのまに」
 呟く玲に、静馬夫人が応えた。
「目の前の出来事なのに、それに気づかないくらい見事に隙をついたのね」
 天の星、貴水蒼。
 黒い牙となりその奇襲。一点穴を穿つ。

「楽しいったらないわね」
 ちょっと顔をしかめた後で、浅倉みずちはくすくす笑った。
596『ヤドリギ 発動篇』《8》:2006/02/28(火) 10:50:45 ID:PxuCnr3R
「魔界の化け物か何か知らないけれど、こんなに簡単にのせられるなんて」
 思念と思考をよりどころにする魔界の生き物。それは心を持つ者に影響し干渉し、その虚ろな姿を広げていく。時とか空間とか、概念にまで巣くっていく恐ろしい物。
 しかし騙すのは人間だけ。
 魔界を出し抜くのは人間だけ。
『……あなたたちは、私の餌になってもらいます』
 起伏も感情も無いヤドリギの声。それは平坦であるだけに、かえってヤドリギの怒りを現している。みずちはくすくすと含み笑い。
「けっこうよ。後は皆が何とかしてくれるわ。その傷、深いでしょう? 」
『ええ。けれどあなたたちは、私を滅しきれなかった』
「違うわ。みんなの見せ場を用意してあるだけよ」
 見せ場?
 見せ場とは何か。浅倉みずちは悔しくないのだろうか。自分がケリをつけられなかったことを、悔しいと思っていなかったのだろうか? みずちの感情が、ヤドリギには理解出来ない。
 ヤドリギにだって、達成感の意味は分かる。皆を救い、自分が救われるために浅倉はここまで来たのに、結局とどめを刺すにはいたらなかったではないか。
 それなのに、何故こんなに満足そうなのか。
 分からない。
 魔界ヤドリギには分からない。
 分からないが、負った傷を癒すためにも、力をつける必要があった。
『あなた達は私の世界の中で、絶え間ない悦びに浸って下さい。あなた達には、あなた達以外の可能性は認めない。それが私の力となるのです』
 縛られたままみずちは器用に肩をすくめて見せた。抵抗は無い。
 彼女らがヤドリギを攻撃をしてきたのは、ヤドリギの手で睦みあうのが嫌だったからではなかったか? それなのに浅倉はあっさりと、ヤドリギの口の中に取り込まれる。続いて蒼も。
 ヤドリギには分からない。みずちの本当の狙いが、一体どこにあったのか?
 理屈に合わない。
 しかし悩んでいる暇は無い。ヤドリギは他の攻撃者に、愛を与える必要があるのだから。

 外界の音が、ぴたりと止んだ。
597『ヤドリギ 発動篇』《9》:2006/02/28(火) 10:52:04 ID:PxuCnr3R
 一方ここは、ヤドリギの中。
 そこは天も地もない、ふわふわした世界。
 真っ暗な世界の中で、けれど互いの姿だけはよく見えた。側に貴水がいるのを確認して、みずちがそっと手を伸ばした。柔らかい蒼の癖っ毛。指先に絡めて。
「ありがとう、蒼。よく私の策について来れたわね」
「あ、当たり前ですよ。私はみずちさんの刃友ですよ。それにしても囮の囮なんて――」
 その話を匂わされた時、蒼は声が出なかった。保有者に気づかれると厄介なので、それこそ雰囲気で察した、と言うだけなのだが。
 その作戦を悟ったとき、声が出なかった。問いただすわけにもいかないし、その為には当のみずちも危険に曝すはめになる。本当は止めたかった。だがみずちの命令は絶対なのだ。
 ぷう、と膨れて見せた蒼に、みずちは微笑んでから、あら、と何かに気づいた。
「どうしたの、蒼? どこか傷めたの? 」
「え? 」
「涙の跡があるじゃないの。それは、どうしたの? 」
 あ、これは、何でも無いんです、と言いかけて、それですみそうに無いみずちの様子に気づく。心配からか、眉間が引きつっている。貴水はそっとそこに手を伸ばして、指先で軽く揉んだ。お母さまみたいな睨み皺ついちゃいますよ、みずちさん。
「だって、みずちさん、かわいそうで」
「かわいそう? 私が? 」
「だって、きっと隠しておきたかったはずなのに。みずちさんの本当の気持ち」
「何? 私が無道綾那を好きだったってこと? 」
 事も無げに口にするみずちに、蒼はにっこりして、違いますよお、と言った。
「それもそうかもしれませんけど――。もっと、それ以上に。
 みずちさんが、無道さんになりたかったんだなあって――」
 
 力が欲しかった。
 誰にも負けない力が。
 金も地位も、名誉も。
 そして誰にも負けない力が。

 剣待生剣術テストの日。
 たった一人で五人抜き。
 無道綾那の太刀回り。
598『ヤドリギ 発動篇』《10》:2006/02/28(火) 10:52:48 ID:PxuCnr3R

 彼女が望んだのは自分ではなかった。
 そして彼女は一人でも、強かった。
 幾つもの星が、落とされた。
 憧れた。望んだ。その側に立ちたかった。いや本当は――。

 私は、無道綾那に、なりたかった。

「蒼」
「はい――」
「よくヤドリギの隙をつけたわ。あなたも成長したのね」
 全く関係ない話題に摩り替えられたのと、誉められたのに目を白黒させて、蒼は、いえ、実はあれははやてちゃんのおかげでもあるんです、と種明かしした。
「あの子の? 」
「はい!
 私が心を決めたとき、はやてちゃんが背中を押してくれたんです。だから迷いなくいけたんです」
「そうなの」
 怪訝そうな顔をするみずちに、蒼は焦って言い訳する。せっかく誉めてもらったのに、その価値が無くなった気がしてしまうから。
「あ、でも行くぞって決めたときに押されただけで、ちゃんと私も気配が読めてなかったら背中を押されても行けなかったわけで……。だから、その――」
「誰もそんな事は聞いていないし、考えてもいないわよ」
 焦った蒼に言い訳すれば、今度は蒼の方が怪訝な顔になる。
では一体、みずちさんは今何を考えていたのだろう。それが気になるのは、あのヤドリギが現れてから、みずちが度々繰り返してきた不可解な表情からだった。
「――何考えてるんですか、みずちさん」
「え? 」
「みずちさんはずー――――っと、私に何か隠してます! 一体なんなんですか? 何を考えていたんですか? 何を悩んでいたんですか? 」
 突然の貴水の質問に、みずちは口をぽかんと開けて、蒼が何を指して尋ねているのかを考える。自分の刃友以外、何もない空間の端から端まで目をやって、最後に目を瞑り。
「あなたは何を悩んでいると思ったの? 」結局聞き返した。
「それが分かったら、聞いていませんよ! 」
「例えば、私が無道綾那と刃友になる可能性を、操って欲しい、とか」
その為にヤドリギを頼りたいから、蒼に罪悪感を持っている。確かにそう考えれば、容易くみずちの悩みの説明になる。けれど冗談めかした浅倉の答えに、蒼は取り合わない。
「真面目に聞いてるんですよ! もう! 」と怒る。
599『ヤドリギ 発動篇』《11》:2006/02/28(火) 10:54:22 ID:PxuCnr3R
「なんでそうじゃないと思うの? 蒼」
「だって、私達の関係は、そんなものじゃありませんから!! 」
「すごい自惚れね――。そんなに私達の関係って、強い? 」
「もう! みずちさんの意地っ張り!! 」
 本格的にむくれる蒼を見て、みずちはすっかり覚悟を決める。本当は恥ずかしくて口にしたくなかったのだが、自分でもしこりになっているのは確かだった。白状すれば少しは軽くなるだろう。
 だから頭を下げて。
「ごめんなさい、蒼」
 いきなり頭を下げられて、蒼は戸惑う。見ればみずちの頬が赤く染まっている。
――あ、かわいい。
そう思ったから、そのまま許してあげたくなったけれど、せっかく話してくれるのだから、まだ怒っているふりをする。ちょっとツンツンして。
「な、なんですか? 」
「私、このヤドリギの下ってこともあったけれど――」
ちら、と視線を上げて、蒼の眉間に皺が寄っているのを見てまた顔を伏せて。
「その……。鬼史谷さんなんかとキスしてしまって」
「そんなこと、ずっと気にしてたんですか?! 」
 思わず大声を上げた蒼に、今度はみずちが憤慨して。
「あたりまえよ! だって、私の刃友はあなたなのよ!! 」
 
 えへへ。

 思わずほころびそうになった唇を、蒼はしっかり結びなおして。
「――許しません」
「え? 」
 眉間の皺をますます深くした蒼に、みずちは世にも情けない顔になる。もう! ばかばかばかばか!
 ――そんな顔されたら、もう我慢デキマセンヨ……。
 だから。
「でももし、私が、みずちさんの華を咲かせちゃってもいいなら、きっと許せると思います」
 と言った時には、蒼はすっかり泣き笑いだった。嬉しくて、おかしくて、愛しくて。
「バカね、蒼――」
 からかわれたと知ったみずちは、もう隠さないで、そっと顎をあげて催促した。襟元から覗く鎖骨が、汗でしっとりしている。赤い唇が濡れている。
その誘いを受けて、もう我慢できないところまで来ている胸の高ぶりを、無理矢理我慢して、蒼はみずちの唇の下のほくろに、触れるようなキス。
600『ヤドリギ 発動篇』《12》:2006/02/28(火) 10:55:07 ID:PxuCnr3R

「いいんですか? みずちさん」
「なにを? 」
「こんな、こと――ぉ。しちゃって――」
「ん―ぅ。あたりまえでしょ――。
 ……!
もう! 話している途中でキスしないで! 」
「はい……。
で、いいんですか? 」
「もう――。二人きりなら……あたりま。
ん。
はむぅん――。は、k……n」

食いちぎるように荒々しくなっていく蒼のキスを、みずちはゆっくり吸い付き味わい、その唾液のべたべたとろとろした感触を楽しむ。
みずちの涎が、顎から喉から鎖骨をつたって。

――そ・う。

 あなたが私の華を咲かせて。


601『ヤドリギ 発動篇』《13》:2006/02/28(火) 10:55:45 ID:PxuCnr3R


 ヤドリギがみずちに意識を向けている最中に、綾那は群がる守護者を殲滅していた。
綾那が戦いながら探った結果、頭部と胸部に強い打撃を与えれば、動きが止まることに気がついたのだ。
 先ほどのみずちの不意打ちで、倒れた守護者一体にとどめを刺した後は、再び合流を計った。弱点さえわかれば、密集して戦う術も心得ている。染谷、久我、無道の三人が、戦いのツボさえつけば後は時間の問題だ。
逆に言えば浅倉、貴水が囮になったおかげで、有象無象のヤドリギ人間を効果的に処分できたと言えるかもしれない。ヤドリギの赤い核に刺さった銀の武器。それは確かにヤドリギのダメージになっていた。
 
「どう思う? 順」
「生きていると思うわ。話を聞く限り、あのヤドリギの餌は、あたし達のエロい気持ちよ。そしたら誰にも邪魔されないところで、あの二人をいちゃいちゃさせてた方が合理的じゃない? 」
「そうか」
 順の言うことももっともだ。
 ヤドリギの中に取り込まれたとしても、あの身体に物質である人間を捕食する能力はないはずだ。思念の生き物が栄養に出来るのは、純粋なエネルギーだけ。静馬夫人はそんな話をしていた気がする。
 とは言え、どうやって攻め込むか。
 木偶人形は始末しても、ヤドリギに近寄れば触手の罠がある。素早く、しかも数が多い。飛び込めばあっという間に、みずち達と同じ運命だろう。
「それで飲み込まれて……。行く先は多分一緒だろうな」
「そうねー」
「そしたら、その、もう、あれかな? 」
「んー? 何? 綾那? あれって? 」
「ばか! 順!! 言わせるな! ……つまりその――おじゃま、だよな」
「おじゃまだねえ。大いに」
「……お邪魔かお邪魔じゃないかなんてどうでもいいわ」
 突っ込みのいない漫才に突っ込んだ、染谷の目が怒りに燃えている。
「こんなヤドリギを用意したのが悪いのよ! クリスマスのイベントってだけなら、普通のヤドリギでもよかったじゃないの!! 余計な設定をつけたのが敗因だわ。
 少しは反省して、さっさと話を進めなさい……」
「でもさ、染谷。こうやって張り巡らされた伏線は、やっぱり一つ一つ解いていかないと、やっぱ気持ち悪いじゃん?」
 ゆかりの癇癪に、涼しい顔で順は答える。この二人が角を突き合せると、綾那は手が出ない。と言うか、つけられない。
 ――時間が無い。
 出来るだけ早く決着をつけたいところだ。今はまだ綾那は芽を出していないが、いつヤドリギの魔力に落ちるかわからないのだから。
 ――どうすればいい。
 再び前方を、ぐっと睨みつける。
 ――このまま行くか!
 その時だった。
602『ヤドリギ 発動篇』《14》:2006/02/28(火) 10:56:49 ID:PxuCnr3R

『どうしてあなた達は私を拒むんですか? 』

 困惑した声が響いた。
 ヤドリギの声に、綾那の出足がくじかれる。言い争っていたゆかりと順も、ヤドリギに顔を向けた。その一人一人の顔を、赤い瞳が追って。
『特に、あなた。じゅんじゅんさんですか? あなたは私を受け入れこそしても、拒む必要は無いでしょう? 』
「え? 」
 いきなり話題に上った順が、驚いてヤドリギを見る。そしてその後の言葉に、また驚かされた。
『私は全ての可能性を覆すことが出来ます。
それは二人の仲だけではないんですよ。あなたと、あなたの愛する人が、全く健やかなまま愛し合える世界を用意することも出来るんです』
「夕歩、が? 」
『そう。病気であった事実を拭い去ることさえ可能なのです。あなた達二人を別つ障害がなくなるのですよ。願うなら、あなたの身体に流れる……』
「黙れ」
 怒りの篭った順の声が遮った。けれどそこから言葉が繋がらない。
 夕歩の病気。若くして死に到る業病。症状が軽いとは言え、決して楽観視は出来ない。治まってもまたいつ再発するか分からない。
 ――もし、夕歩がずっと健康なままの夕歩だったら。
 二人でずっと一緒に遊ぶことも出来たのだ。そしてこれからも出来るのだ。
 そうすれば今日みたいに、病院と家との移動の間にびくびくしながら抜け出すなんてこと、しなくてすむ。どこまでも二人で行ける。
 ――どこまでも、ずっと、一緒。
「確かに、そうかもしれない」
 順がそう呟くだけの魅力が、確かにあった。夢を見るような目で、順は天井を見上げる。そこにはヤドリギの枝に引き裂かれた、黒鉄の部屋飾りと、可能性の星、キラキラ。
 ああ、あった。あんなところに。
 仲良さそうに笑う、二人。
 全裸で。
「それはとても簡単なことよね」
 呟く順に。
「順――」
「久我さん――」
 無道と染谷が、声をそろえて久我に呼びかけた。
 ん? と顔を向けた順の、寂しそうな瞳。その沈痛なまでの暗い色に、綾那は思わず目を背け口篭もり、そしてようやっと、言った。
603『ヤドリギ 発動篇』《15》:2006/02/28(火) 10:57:38 ID:PxuCnr3R
「……私はこの化け物が気に入らない。でも、もしあんたが望むなら、私はこの怒りをおさめるわ」
「綾那――」
「私も」
 す、と手を上げて、染谷が言う。
「これはこんなことをされるのが嫌とか、そんな話じゃないわ。この魔界の植物とは違って、私達は肉体が無ければ死んでしまう。静馬さんを守るためなら、仕方ないわ。あなたの決断に委ねる」
「二人とも……」
 順は何か言おうとした。誰もが、順がヤドリギに懇願すると思っていた。あなたの力を貸してくださいと。夕歩が健やかになるように、と。
 その途端、一際大きな怒号が響いた。

「バカッ! 」
 叫んだのは、夕歩だった。

「ゆ、夕歩! 」
「マジバカ。超バカ。スーパーバカ」
 バカバカと言いながら、ヤドリギの領域に、夕歩が踏み込む。それもヤドリギは予想していたに違いない。新たな守護者が現れ、夕歩に襲い掛かる。
「夕歩!! 」
 次に叫んだのは静馬夫人だ。両手に押し付けられたのは、白いセーター。そして夕歩の手が握るのは、今や一振りの木刀だけ。
 南無阿弥陀仏の刻印の木刀だけ。
 それは襲い掛かる力を削ぎ、動きを無にし、0に還す。
 体勢を崩された守護者が、床に転がる。転がしてまた進む。追いすがる守護者を転がす。起き上がって飛びかかる守護者に、一言。
「――うざい」
 また転がして、今度は。
 瞬殺。
 守護者の首が、飛んだ。
 こんなことは容易いことだ。武器も武器として使える代物だし。本体のダメージもある。何よりずっと動きを観察していた。弱点や動きさえ分かれば、相手ではないのだ。
 少し身体に無理をさせたが、それよりも時間が勿体無い。この変な植物に、あーだこーだ言われただけで動揺しているバカにお灸を据える必要がある。
 木刀をまっすぐ順に突きつけて、夕歩。
「何馬鹿なこと言ってるの。順! 私母さんの前で、順といちゃいちゃするのなんて、い、嫌だからね!! 」
 はっきりした拒絶に、へたり込む順。
604『ヤドリギ 発動篇』《16》:2006/02/28(火) 10:59:02 ID:PxuCnr3R
 ――嫌なのか――。
 そのみっともない姿がまるで我が事のようで、顔を真っ赤にして。
「違うよ! いいたいことはそう言うことじゃなくて、私は!! 」
「分かってるよ、夕歩」
 くす、と笑った。
 笑えるなんて思わなかったけれど、順は確かに笑ったのだ。
 普通に生きていれば絶対に起こり得ない、夕歩の治癒。順が望むだけでそれは叶うだろう。ヤドリギは嘘をついていない。それを出来るだけの力もある。これはそんな夢のような願いを叶える、最初で最後の機会だ。

 ――けれど、それを、あたしは。
「残念だけど、あんたの提案は聞けない」
 ――自ら断ち切るのだ。
 
『何故ですか? 』
 まるで理解出来ない、と言うふうに、ヤドリギが尋ねる。他の面子もそうだ。ヤドリギの領域から外れて、ずっと観察している神門玲も、その結論に仰天している。
 ――すみません、おば様。
 心の中で、素直に謝った。けれどここでヤドリギの提案には乗れない。乗れないわけがある。
 何故なら、順は、久我だからだ。
 深呼吸してから、順はヤドリギに言った。自分のくすぶっている未練も断ち切るために、はっきりした声で。
「確かに、肉体に関して言うなら、あんたの提案は魅力的だわ。でもね。
 久我の剣は、そんなところとは無縁なところにあるの」
『久我の、剣? 』
「そして、あたしと夕歩の星も」
 ヤドリギを見る、順の目。それは憎しみでも怒りでも、まして悲しみでもない。
 憐憫の目。
 哀れみに満ちた優しい瞳。
「気の毒に。あなたは欲しいのね。傷ついていない、精神が。痛みの無い肉体が。
 でも、痛まない、まして傷まない肉体なんか無いわ。だからこそ愛しいの。あなたはそれがわからない」
『けれど、ずっと、何も無く幸せであるに、越したことはないでしょう? あなた達は肉体が無ければ生きられない。だとしたら、その入れ物は丈夫な方がいい――』
 肉体を持たぬ、思念の生き物の問いに、順は答えない。答えない。ただ哀れむだけ。
 かわいそうね、頭でっかちの魔物。

――他人の設定に宿ることしか出来ない、弱い生き物。
605『ヤドリギ 発動篇』《17》:2006/02/28(火) 10:59:43 ID:PxuCnr3R

 一迅の風。
 順が振った木刀。
 そは真の空。邪気を切り裂く久我の妖獣、鎌鼬。ヤドリギの蔦を切り裂く風の刃。
「――夕歩、下がって。ここはあたしの領分だわ」
「来てるわよ。順」
 到る所から伸びてくる蔦。天井から振り下ろされる枝。順はそれを絶ち、裂き、阻む。 夕歩は残ったもう一体の守護者を転ばせたところだ。
「――夕歩」
「かっこいいところ、見せてよね。順」
 相手の打撃力を0にするとは言え、ついさっきまで病院にいた夕歩に、これからの戦いは無理だ。夕歩もそれを知っている。
「かしこまりました。姫」
 ただそれだけ言って、順はもう、振りかえらない。無道と染谷が、無言で順の後ろに並ぶ。強行突破の構えだ。

「いいのか」
「いい」
「ならいい」

 低い囁きの後で、魔界ヤドリギのコアに踏み出していく三人。その姿を見送った夕歩は、安心して力が抜ける。途端、足元が崩れる。
「――あ」
 どっと、玉のような汗が出る。腕と腰に力が入らない。それはヤドリギの下にいるからではなく、短い時間に使った集中力と筋肉が、限界をすでに超えていたからだ。
 転ばされていた守護者が、起き上がった。
 天井の枝も力の抜けた夕歩を襲う。
「夕歩! 」
 母の声が響くか響かないかのうちに、風が、起こった。
 バチン。
 はじかれる音。
606『ヤドリギ 発動篇』《18》:2006/02/28(火) 11:00:15 ID:PxuCnr3R
 夕歩を襲う、ヤドリギの枝の数は多い。守護者もその武器を振りかざす。
 だが、まず、ヤドリギの守護者がずたずたになった。関節と言う関節に、的確な打撃。
 ピシン。
 雨だれが、水溜りに落ちかかったような、軽い音。
 パシン。
 今度は焚き木が火中ではぜる音。
 コキン。
 石と石がぶつかる音。砂利が弾ける音。
 そして。

 ヒュ。

 風が切れる音。
 襲い来る枝と言う枝が、根こそぎ断ち切られる。夕歩の側に立ち、その身を守る黒い少女。ヤドリギの第一陣を退ける。
「ししょーっ!! 」
 声高くかかるはやての呼び声に、皮肉な笑みを浮かべて。
「か弱い剣待生の応援なんぞしたくはないけどな」
 疾風の抜刀。
 Sクラス。神門玲。
「あ、ありがとうございます」
「いいから行け。ここはあたしが食い止める」
 礼を言う夕歩を尻目に、一閃。また、一閃。
 小さくうなづいて、夕歩がバックステップする。けれどそれは、次の戦いの行方を計る為。ヤドリギの領域の外に逃れた夕歩を待っていたのは、白いセーターだった。はい、と押し付けられて。
「広がり始めたわね」と母の声。
「――ごめんなさい、母さん」
 精一杯すまなそうな声を出す娘を、静馬夫人は攻めない。何しろ自分の夫もその腹心の部下も、彼女の言うことなんか少しも聞きはしないのだから。
 ――あの人たちに似ないように育てたはずなのに。
 考えるだけで頭の痛い事はなるべく脳裏から追い出して、静馬夫人は娘に、いいのよ、と答えた。
「それより気をつけなさい」
「え? 」
「天井を見て」
 言われるままに見上げれば、天井から吹き出し始めている緑の物。小さな芽。
607『ヤドリギ 発動篇』《19》:2006/02/28(火) 11:01:40 ID:PxuCnr3R
「――まさか」
 増え始めている!?
 ヤドリギの領域の拡大。このままではここが森になるのも、時間の問題だ。
「ぐっと堪えて、負けないようになさい。もし戦う者を裏切るのでなければ」
「――母さん」
「無視することが出来なければ、傍観者では決していられないのが魔界の力。あの三人の頭から今だに芽が出ないのは、抗う力があるからよ。それだって何時までもつか」
「――じゃあ、このままだと時間の問題って事? 」
「――そうね。必要なのは、言ったでしょう? 戦う意志なのよ」
 伸び始めた蔦、枝。その緑は濃くなり厚い層となり、やがてそこから菌糸のようによわよわしい触手が、地上に向かって伸び始める。夕歩は構える。構えた木刀の先が震えている。もう力が入らない。
 ゆっくりと確かめるように広がる細長い触手が、突然切れる。それは立ちふさがる影のせいだ。
「させない! 」
 残った最後のテーブルの足を握るのは、猿楽未知だ。勢いよく切りつけたはいいが、やはりその武器は未知にとっては重すぎる。そう見て取って彼女は、もはやほとんどがヤドリギの領域に差し掛かった、食器の置かれた床に向かって駆けた。
「てい! 」
 狙いはそこにあるフォーク。掴みざまに、天井に向かって放つ、小さな凶器。縫い付けられた蔦は、一端動きを止める。
「あたしは負けないから! あんな中に入っていけるほど、強くないかもしれないけど。あたしだって天地の剣待生だもん! 」
 ぱっと見て、他に投げられる物が無いか目を走らせる。未使用の、飾りつきの小さなフォークを何本か掴んだ。そして目に止まる一本のケーキナイフ。
 ――ケーキナイフ?
 戦いに使うのには中途半端な長さだ。けれどそれを迷わず手に掴む。みるみるうちに天井が濃い緑と茶の幹の色に染まってくる。この小さな凶器が戦う意志だ。皆が寄り添う最後の防衛線を守り通す為の、戦う意志だ。
 地上に伸び始める枝が、どんどん太くなる。あれはああして、確かめているのだ。抵抗する者を縛るのに、どれだけの力が必要なのかを。そしてその力を自分が持っているのか否かを。
 ズカッ!
 細い枝なら、まだこのケーキナイフで充分だ。急いで夕歩たちの側まで戻る。そして意志を貫こう。たった一人でも!
「先輩! 静馬さん!! 後は任せてください。あたしが少しでも時間を――」
 いきり立って叫ぶ未知に、思いもかけぬ声が響いた。
「そうはいかないな」
「え――? 」
「一人で何もかも抱え込もうとして……。それは本当に君の悪い癖だよ」
「え? 嘘――だって」
 聞きなれた声に、今度は猿楽の力が抜ける。抜けそうになって、また身構える。戦いの最中、気を散らすのは命取りだ。
「そうじゃな――」
 新しく加わった声、未知の側にしっかりと立つもう一人が言う。
608『ヤドリギ 発動篇』《20》:2006/02/28(火) 11:02:29 ID:PxuCnr3R
「あん人たちばかりには、任せとれんわ。ここらで格好のいいところ見せとかんと。
 いけるか? わんこ」
「はい、桃香さん。時間稼ぎくらいなら、なんとか」
 猿楽は振り向けない。
 振り向いたら、きっと涙が零れてしまうから。
「も、もう――。遅かったんだからね! どんだけあたしが待っててあげたと思ったのよ!! 」
 嬉しくて泣き出しそうな心。それを押し留めて、代わりに強い口調で未知は責める。
「キジっちゃんのバカ! 」
「あなた達――」
 今まで倒れ伏していた少女達が立ち上がる様を見て、静馬夫人は声を震わす。必要なのは確かに戦う意志。しかしその満身創痍の身体で何が出来るのか。
 ――その時、新たに現れた、声。

「――天地の剣待生は、筋金入りだ。どうしてこんなところで気に揉むんだい? 」

「あ、あなたは……! 」
「遅くなっちまったね。でもフィナーレには間に合ったみたいだ――。特等席で観戦させてもらうよ」

 静馬夕歩の目が、点になる。
 いつのまにか母の側に近寄って、その肩を抱く女性の姿。
 まずその姿が異様である。赤いつば広帽、赤いマント、そして赤いスーツに、赤いハイヒール。帽子には白い羽根。そして目元には赤い仮面。
 その姿と声に見覚えがあったのか、母は驚いて叫んだ。
「お姉さ……、いや、クリムゾン・ビー!! 」
「……か、母さん、誰なの……、この人? 」
 突然の展開についていけない夕歩が、尋ねる。何事かと振り返った桃香達も目を丸くする。あの帯刀ですら、驚いている。ただ祈だけが、興味無さそうに扉に目を戻した。
 皆の注目を一身にあびる、自称クリムゾン・ビー。彼女はニヒルに笑って、慣れた手つきで煙草を咥えた。
「かわいい子猫ちゃんが危険に陥った時に現れる、正義の味方さ」
「だ、誰が子猫ちゃんですか! 」
 なれなれしい腕を振り払って怒る静馬夫人。おやおや、とオーバーに肩をすくめると、クリムゾン・ビーは雉宮に顔を突き出して。
「火」
「え? えっと――」
「気が利かないねえ――。煙草に、火が欲しかったのさ」
609『ヤドリギ 発動篇』《20》:2006/02/28(火) 11:04:28 ID:PxuCnr3R
 呆れた口調の彼女の齢は、多分四十五、六歳であろう。それ以上いっているのかいないのかはわからないが、静馬夫人より少し年上なくらいか。背は高い。ハイヒールのせいか、百七十センチは越えているだろう。
 ボ!
 自然に煙草が発火して、つ、と煙が上がった。雉宮は戦慄する。こんな芸当は自分には出来ない。いずれできるようになるかもしれないが、まだ出来ないのは確かだった。
 そんな雉宮の驚愕を放置して、マイペースにクリムゾン・ビーは大きく煙を吐いた。
「おやおや、あたしがちょっと顔を出さなかったのを、すねてるのかい? 」
「ちょっとって! あれから十年経ってるんですよ!! 
「何年たってたって、あんたはあたしのかわいい子猫ちゃんだよ。子猫ちゃん」
 そう呼ばれて、ぷい、と顔を背ける母に、夕歩は少しドキドキする。あんな少女のような母の姿を見たことは、自分には無い。
「――あんたは何者じゃ――。どっからやってきたんじゃ」
「そんなことはどうでもいい!! 」
 詰問しようとする吉備に一喝! 機先を制されて黙った桃香を見て、クリムゾン・ビーは笑う。帽子のつばを微かに上げて。
「そんなことより、もっと大事なことがあるんじゃないのかい? 」
「来るよ! 」
 猿楽の声に、桃香は振り返る。
 迫る森。
 ヤドリギの領域。
 中央で戦いを続ける神門のおかげでその侵攻はかなり食い止められているが、それですら時間の問題である。
 ――どうやって食い止める?
 桃香のこめかみに浮いた汗が、零れる。

 刹那。
 クリムゾン・ビーが動いた。

                                             (次回最終決着
610名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 20:10:12 ID:t31Go5OL
GJ!
最終章期待して待ってるお
611名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 21:45:32 ID:uNJw/k73
いい加減ウザクなってきたんだが。
SSスレじゃないぞ此処は。
612名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 22:20:01 ID:smlRzn06
文句たれる前に何か対策考えようとか
提案しようとか思わないのか?
はっきり言って我が儘通したいだけみたいな、子供じみたレスの方がいい加減見てて不愉快なんだが。

今携帯からだから後になるけど、必要なら
ssスレ立てようか?俺以外のどなたかが立ててくれてもいいが。
613名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 22:32:25 ID:1twtYxIa
 ssスレはいらないと思う。つーか、この長いの書いている人がウザいだけで(好きな人もいるのかもしれないが)もう終わるんならいいんじゃないかと
 >>611も、ssが嫌とかじゃなくて、だらだらと続けている節度が無いレス乞食みたいな態度が許せないんじゃないか?
 実際俺もこんな長いのだったら、自分でサイト立てろよ、とか思う。はっきり言ってこの長さは苦痛
614名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 22:45:30 ID:smlRzn06
俺が思うのは、つまんねえ叩き書き込みする位なら
何でスルーするか、何か別の話題振るかできないのかって事なんだよね。
私生活でも大勢で話してて、いきなりお前の話長いウザイ言えるか?
自分の乗れる話題に変えてくか、そうなるまで待てばいいじゃない。

なんでそんなにがっつくんだ?
俺は失礼ながら、ヤドリギは読んでない。
だけど、別に苦痛ではないよ。
単に好みと違うだけだし、楽しんでる人の邪魔をわざわざしようとは思わない。
615名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 22:50:58 ID:eoWa4Us2
1つの原作で、雑談とSSの2つもスレを立てるわけにはいかないだろ。むやみに乱立させると
他のスレの住人からうざがられるだろうし。
616名無しさん@秘密の花園:2006/02/28(火) 23:54:02 ID:KRjidRT4
まあまあ、少し静馬ろうぜ。
長いなうざいなってのは正直、俺も同意だけどせっかく書いてくれてんだし、
楽しみにしてる人もいるかもだし、読みたくない人はスルーしたらいいんじゃないか?

って夕歩が言ってる気がする。
617名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 00:27:07 ID:Ok6VWCKE
だから画面の右端行く前に改行しろやカス
読みにくいんだよ
618名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 00:33:52 ID:MC9rrJho
専用ブラウザ使う頭もないカスは永久に端まで読んでキーキー喚いてなさい
619名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 01:02:28 ID:2Tq/UWcK
たしかに専用ブラウザを使うとかもあるが。
職人さんのほうも改行をもう少しやってくれると非常に読み手はありがたいです。
もちろんそこまで求めるのは贅沢かと思うけど。
620名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 02:31:01 ID:SxrP9nt2
>>618
ヤドリギ自演乙
読んでやってんだから読みやすく工夫してほしいもんだ
621名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 02:50:18 ID:yEaabOip
>>620=>>617もわざわざID変えてまで煽りに来なくてイイヨ

とでも言ってほしいの?
荒れを誘うのとかもうウンザリだから、言い返さないと気が済まない性質の人は
しばらく書き込むの我慢してくれないかな

本当にこのスレの住人ってみんな成人してるの?
どうみてもそう見えない流れなんだけど。

622名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 05:11:34 ID:lMlfiuQP
まあまあ。

漫画板にもスレがあるしこっちはSSが多めでもいいと思うけどね。
読みたくないならNG登録すればいいじゃない。

実は俺もSSはほとんど読んでないんだけど(申し訳ない・・・)
ウザイなんて全然思わないよ。逆にはやての人気が実感できてうれしいよ。
待ってる人も多いと思うし職人さんどんどん投下してください。
623名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 05:26:00 ID:lMlfiuQP
改行はウインドウのサイズを調節すればいいんでないの?
ieコンポもfirefoxもウインドウ幅に合わせて折り返すよね。

スレをhtmlで保存してこれで読むという手もある。
http://www.vector.co.jp/soft/win95/util/se258429.html
めちゃくちゃ読みやすいよ
624名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 07:17:38 ID:C+mIjQk2
結局SSは読んでないんだね君達(w
625名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 10:43:19 ID:zbjNd6a0
いやいやいや、メッチャ読んでますから。むしろそれ目当てでこのスレにいますから。
まぁそんな自分でもヤドリギは読んでない。だってナゲッだから。
でも書いてる人を叩いたりする気は無いので、次回で最終回らしいし
きっちり終わらせるべきだと思います。
SS書いてくれてる職人さん達、これからもどうか書き続けてください。
626名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 12:39:10 ID:g9yXbkEn
読んでる
変なレスのところはスクロール
627名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 13:59:43 ID:UMBx75mO
自分もぶっちゃけss目的できてる。
自分では書けないんで、見れたら幸せだ。
そんだけ。
628名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 15:02:42 ID:+S1EsJQJ
小説スレかと思ってた藁
629名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 18:44:51 ID:Ht027gIC
まーあれだ、みんなマターリしようぜ。
純粋にこのスレ好きだし、雰囲気悪くなるのは悲しい。

とりあえずお茶どうぞ( ・∀・)つ_旦~~
630名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 20:37:38 ID:SDmNpAS0
スレもなやみもわけあおうよって事ですね。
631名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 21:25:34 ID:hcVauzjI
偶に載るSSや短編程度ならともかく長編もどきはちょっと敬遠って感じだな。

>>628
スレタイ嫁。
何処に此処が小説スレって書いてるんだ。
テンプレにも書いてないぞ。

632名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 22:07:43 ID:lMlfiuQP
>>624
忙しくてなかなか読む暇がないんだよ
あとでまとめて読むからいいの。

>>631
NG登録しなさいって。自分ですぐできる事なんだから
自分で解決する。
テンプレを盾に駄々こねてると次スレからテンプレに
明文化されちゃうよ?
633名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 22:08:47 ID:yEaabOip
>>631

意固地にならないでくれないかな。雰囲気悪くなっちゃうから・・・
どこにも何も書いてないって事は、好きに使っていいってことだろ。
一番よくないのは個人の判断で辺に自治しちゃったりすることじゃないのかな。

いい加減この話終わろうよ。ほとんどの人は譲り合おうって気持ちなんだからさ。
ゴネれば何でも思い通りになるとは限らないよ。出来るだけ譲ったり、柔らかめの
当たりでお互い楽しく使おうよ。
634名無しさん@秘密の花園:2006/03/01(水) 22:18:18 ID:o7drQigU
てーか>>628は皮肉じゃね? …って思ったんだけど。

こういうときはデューク・エリントンでも聴いて落ち着こうぜ。
635名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 07:29:53 ID:JUf/M2+l
此処は漫画スレではなく百合スレなんだから色々あってスレが活性化されてるから良しとしようじゃないか。
マッタリ行こうぜ!
636名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 09:19:55 ID:nEz6HfSa
会長のような度量は誰にでも備わるものではないが
ここはひとつ見習っておくべきかも試練
637名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 12:39:29 ID:a1881Nq2
とりあえず会長が、あのヤンチャ坊主的幼少期からどのように
今のようなお嬢様スタイルに転換したのか小一時間ほど問い詰めたい
638名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 17:56:36 ID:swicoaMt
静久に手篭めにされたとしか考えられない。
639名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 19:13:08 ID:f8EKNtW5
以前の静久の口ぶりからして、会長の母親は既に他界してるっぽいから
それをきっかけにガキ大将からは足を洗ったんじゃないかと妄想してる。
640名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 20:38:51 ID:0RWWWf78
ひつぎ母他界説か
静久母といちゃいちゃしてて、娘をかえりみないって事だと思っとるんだが
641名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 21:53:41 ID:iq7OQtEG
>>640
ワロタ
いいなそれ
642名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 23:20:43 ID:mCt+TAIL
すげーな
まだドラマCDランキング2位のままじゃん
643名無しさん@秘密の花園:2006/03/02(木) 23:43:39 ID:a1881Nq2
>>640
確かにタダの上司と部下ってだけなら、他人の娘なんか預からんもんな
644名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 00:33:19 ID:sB3ppAdZ
静久が甘えるひつぎをベッドに運んだ後
静久が何もしなかったとは考えにくい。
645名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 00:41:13 ID:71PraX56
素振りの後で完全にグロッキーだしな
646名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 00:49:22 ID:yfZAoqsa
おいおいおい
静久はひつぎが疲れてる時、わざわざ襲わなくていいくらい、いちゃいちゃしてるよ
そっと添い寝して、ひつぎが起きたら二人で大浴場。泡っこプレイにいそしむのさ
647名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 04:18:30 ID:WH5NchYC
ん?
この流れからすると静久ひつぎなの?
648名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 04:52:32 ID:NiQMxs0M
いや、俺はひつぎ静久だな。
649名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 05:13:47 ID:e7aNzYAT
ひつぎ「わたくしなら、四肢が砕けようが余裕で”攻め”になることができるわ…静久の」
静久「…例えがよく判りませんができると思います」
650名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 09:12:51 ID:j9+4ioSt
どっちでもいけると思うな。静久って時々暴走するし。
651名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 13:19:26 ID:gAhm5EIi
俺もどっちもいけるが基本ひつぎ静久だな
一緒に住んでるし燃料投下も多いし一番妄想しやすいカプだな
652名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 15:07:15 ID:rffE8m3c
漏れは静久ひつぎがオイシイと思う
653名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 16:01:51 ID:shRUgdHM
自分も宮本×会長かな。
まあ悪の華も蒼×みずち、姉妹の方も夕歩×順って嗜好だし。健気攻めと言うか、誘い受けと言うか。
桃太郎も犬×桃だわ。
654名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 17:00:27 ID:2gX9Cmmq
>>653
下克上好き?
655名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 17:17:57 ID:HThzUfxO
会長受けって…
「さあ静久!これが受けというものです。ご覧なさい!!(ビシッ)」
とかって、なんか強そう
656名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 17:54:44 ID:5Cz4LMl7
>>653
君とは仲良くなれる気がする
657名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 17:59:45 ID:sB3ppAdZ
静久はひつぎが眠ってる時だけ強気。でも結局何もできない。
そんなじゅりあの匂いがする。
658名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 22:13:55 ID:QjQlu6fz
ずーーっと何にもなくて、ある日静久が「さわらせて下さい!」とか言いだすんじゃないかと思う。
んで、「ふっ、いいわよ」とかなんとか。
659名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 00:59:56 ID:xKCmGZAw
しかも帯刀が居る目の前でだろ?
660名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 04:35:38 ID:nm8lay98
仁王立ちでズバァーン!と擬音の入りそうな受けだな
661名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 19:31:05 ID:0LRqgAXQ
>>644
もうねその後の事は本1冊が出来上がるくらい
私の中で物語が完成してますよ
662名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 21:08:49 ID:JxsBf5qx
>>661
腹蔵を開いてみよ。朕の前で二心は許さぬ。
663名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 23:58:55 ID:ZlJbCbh1
↑???
664名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 01:00:05 ID:rXm2iO8I
今度の夏にはハブサークルが増えてると良いなぁ
665名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 01:18:01 ID:5jqpfmM+
そういや夏コミ用にノベルタイプのゲーム作ってるとこあったな。順が主役の。
確か同盟から行けたと思う。
同盟と言えば最近入ったとこの猿キジ絵がかなり良かった。
666名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 01:32:22 ID:m68CHg22
このスレさかのぼったら分かって貰えると思うけど、
個人サイトの話題は避けて貰えると有り難い。
667名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 02:17:42 ID:QpyyO95h
>順が主役の。

テラワロスwwwwww
668名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 03:18:47 ID:zxRC9q9B
3巻では綾那はスパッツを穿いてるが、(順に剥かれそうになった時)
1巻では穿いていない。(十六人斬りを達成しはやての横に体操座り)

この事から
669名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 09:14:16 ID:W+kG8N4Q
1,当初はスパッツを描いてなかったが、動きが激しくなってきたのでこれ以上パンツを見せずに描くのは難しいと判断、
  急遽スパッツを描き加えることで解決させた。
2,実は履き忘れていた。
3,読者サービス月間だった。
670名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 11:32:26 ID:1vBokjiB
2でいいじゃないかw
671名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 11:57:44 ID:kcqomuTH
じゃあ俺は4番の
パンティだけで、順に脱がされてしまったので、スパッツで守りを固めた
に一票だな
672名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 11:59:27 ID:kcqomuTH
でも本意は、1に訂正の

Dクラス相手なら、激しい動きをしなくてもらくらく勝てるからスパッツ履く必要がないけれど
ランクアップするに従って、そうもいかなくなったので、スパッツを履くようになった

じゃないかとマジレス
673名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 12:20:21 ID:Zgc/E8dK
 ――2年前

「ねぇゆかり、やっぱり私たち最強じゃない?」
「綾那、油断は禁物だって何度言えば判ってくれるの? それに……」
「何?」
「……ス、スパッツくらいはきなさいよ」
「えー? アレはくと動きにくいから嫌なんだけどなあ」
「いいからはきなさいっ!」

まだ純粋だった頃の綾那とゆかりはベタ甘生活だったに違いない。
674名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 13:40:25 ID:H0lvBLVR
つーか星奪りから離れている間にスパッツ穿く習慣無くなっててよ。
そんではやてと刃友になった直後は穿くの忘れたりしてたんだよ、きっと。
675名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 17:55:40 ID:fysy7BkW
順夕歩SS投下します
676:2006/03/05(日) 17:56:31 ID:fysy7BkW
病室の窓から漏れる鋭い光にあたしは顔をしかめた
早朝の強い光
目覚めたあたしの目はその中にはっきりとした輪郭を捉える
か細い寝息が肌に感じられるほど近い
同じベッドに寝てるんだから当たり前か
本人が起きてたら気持ち悪いと言われそうな笑みをふふっと浮かべる
まだ起きる気配はないようだ
チュンチュンと朝らしい鳥の鳴き声が遠くから届いている
何度か目をしぱしぱとさせると目が慣れてきたので窓の外の空を見てみた
自分が寝てるからそう感じるのかもしれないけど、高い
高い、高い、空
それを自分の目にじっと映す
本日晴天なり
青い青い日曜日の祝福
677:2006/03/05(日) 18:00:48 ID:fysy7BkW
空をしばらく見るとあたしは夕歩の方へと視線をもどした
起きたんならいつ誰が来るか解らないベッドにいる必要はないと思ったけど
寒いし。気持ち良いし
夕歩に光が反射してちらちら色を変えて揺れているのが見える
それのせいかも知れないけどいつもとは違う光をまとっているように見えて
目が離せなくなったから。そんな理由
きれい。きれい
濡れた真珠とか絹とかそういう感じ
滑らかで白い光沢をもっている
夜中に窓から侵入して、おまけにベッドに潜り込んで今は寝顔の観察なんて
まんま変態だけど、でも今はこんな自分の姿を見ても誰も咎めないような気がした
その髪を数本だけ指にすくってみる
光の色が乱れた
やっぱり絹はするすると指を滑って下に落ちてしまう
……………………
さっきより多めにすくって自分の頬へ寄せてみる
その匂いを嗅いで
目をつぶって
感触を味わってみた
……………………
髪から手を離して
そのままゆっくり頬へと手を伸ばす
やわらかくかすかに上下しているそこに
触れる
……………………
―――あ
瞬間、あたしはその感触に夢中になっていた
ああ、
もっと
さわりたい
678:2006/03/05(日) 18:01:53 ID:fysy7BkW
「………ん」
ビクッ
勢いよく手を離した
―――…ああ
――――…びっくりした……
白くてあったかいものを一気に流し込まれたような感覚が口に広がる
血は逆流。それも速さはマッハ
――ああ
――びっくりした
もう一度そう頭で呟いて息を吸って吐く
逆流した血が元に戻っていく
「……んー…………」
「あ、夕歩起きた?」
すうと開かれた目。光を捉えたばかりのそれがあたしの方へ向けられた
「……今、何時」
そのままちゃんと開かない口でそれだけ聞いてくる
時間?
「ん?ああ、何時だろ。8時くらいじゃないかな?」
「そっか……」
そう言うとまた半開きだった目を閉じてしまった
ありゃりゃ。眠いのかな
何となくほっと息をつく
まだ心臓は少し速かった
…まあ休みだしゆっくり寝かせとこう。
病院だから休みも何もないかもしれないけど
679:2006/03/05(日) 18:02:49 ID:fysy7BkW
そこまで考えて何となく
夕歩から顔を背ける
いや別に悪いことしたわけじゃないけど何か心臓に悪いっていうか
いや違うってば違う違う違ういやいや何が違うってば違う
「あっ!」
がばっ
「ぎゃああああっ!」
「……何でそんな驚くの」
「いや、だ、だって急に夕歩が起きるから」
「……そうだけど、だからってそんなに盛大にリアクションしなくてもい…」
「え?」
がばっ
さっきの「がばっ」は夕歩が起きた音で
今度はあたしに布団が被さった「がばっ」
布団によって視界から朝の光が閉ざされる
真っ暗
あたしの頭も闇の中
あれあれちょっと夕歩?一体何……
――あっ
頭の方の闇は簡単に晴れた
680:2006/03/05(日) 18:03:18 ID:fysy7BkW
コンコン
「静馬さん起きたの?」
「あ、はい……」
ドアの開く音が聞こえてくる
「今日の調子はどう?」
コツコツという音が近付く
「あ、大丈夫 です……」
「そう?ちょっと顔が赤い気がするんだけど……熱があるんじゃない?」
「いえ、本当に大丈夫です」
うわ
ちょ、ちょっとヤバいかも
「計ろうか。体起こしてくれる?」
「あ。えっと……」
何がヤバいって
自分が侵入したことが看護婦さんにバレそうなこともあるけど
何より体勢が
上の方で夕歩と看護婦さんの声が聞こえる
あたしの頭は何というか夕歩の胸の位置
しかも面積を小さくするため完全に密着してしまっている
あまつさえ勢いでしがみついてしまい
そのまま動くことができないという
「……起きるの辛いかな?じゃあそのまま計ろうか」
「あ、はい。すみません……」
ああ、マリア様
ってそうじゃなくて
じゃあ神様?
誰でもいいけど何かに願いたい気分だった
………………
……何を?
681:2006/03/05(日) 18:04:09 ID:fysy7BkW

「……終わったよ」
「…………………」
顔から湯気が出そう
っていうか出てる
確実に
看護婦さんは夕歩にいくつか質問をした後出ていった
もちろん質問の内容などひとつも耳に残っておりません
よかったバレなくてよかった
心なしか気付かれていたような気もするけど
「………………」
「………………」
夕歩もあたしも互いに視線が落ち着かずそのままの体勢で
沈黙
「…………順。朝だよー……」
「……うん」
「……起きないの?」
「…………うん」
「…………」
その返答に少したじろいで
やれやれと息を吐いて
ちょっと困ったなという表情になったのが顔を見なくても分かった
あたしが触れている体からかすかな動きが伝わって
頭を
暖かいものが包み込む
682:2006/03/05(日) 18:05:21 ID:fysy7BkW

「……順、体冷たい」
「……うん」
やさしい雲が
耳をなでる
「……順」
「んー?」
やわらかい光に混じる匂いが
鼻腔をくすぐる
「……苦しくない?」
「別にー」
体の下の方が落ち着かない
触れ合っている足
下手に動かすとまた恥ずかしいことになりそうで
動けない
じっと耳を撫でる息と上下するあたたかいものを感じる
やがて夕歩も何も言わなくなり
そっと目を閉じるのを感じた
夕歩に回した腕に力を込める
あたしも目を閉じる

ざあっ――――


683:2006/03/05(日) 18:06:54 ID:fysy7BkW

体の中で熱を含んだ波が産まれる
遠くから音を立ててしっとりと
それは段々と速くなって大きくなって広がって濃くなって
小さな粒の集まりになってひしめき始める
触れ合っている部分に痺れたような感覚
音が、鮮烈に

さあ――――――――――――――――

耳がサッと紅く染まるのが分かった
腕が、首筋が、胸が、腿が、熱い

さあ―――――――――――――――――




ねえ
お願い

誰もこないでもうこないで
誰もこないでお願い
お願いだから
もうこないで



波の音を聞きながら
そんなバチの当たりそうなことを
ずっと
684名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 18:21:47 ID:je4GRiD8
だーかーらー、もう順夕歩SSは飽きたっつってんじゃん。
685名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 18:27:56 ID:m68CHg22
もちろん、性的な意味で。
686名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 18:47:13 ID:FbEkxJYq
>>676
ぐっじょ!
あなたのSSは可愛くてゆりゆりしてて好きです
687名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 19:43:43 ID:IV5QE0O7
ふと思いついて会社の休み時間に書いていたハブのssを添付ファイルで
自宅に送ったのだが届いていない…。
間違って取引先に送ったりしてはいないはずなのだが…。
おそろしい。
688名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 19:44:22 ID:ZZMabs6Z
>>676-686
長げえよ、ウザイって言ってるじゃねえか。
1レスで書き込めないSSは専用のサイトなり作ってそっちでアップしろよ。
689名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 19:46:54 ID:m68CHg22
会社に戻ってすぐ確かめれ(;´Д`)=з
690名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 19:58:33 ID:hYy4Qb2L
>>676、GJ!あと>>673も小gj!
そういや、ゆか綾って見た事ないなぁ。

>>687
取引先の人もハブ読んでるといいネ。
691名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 20:17:51 ID:9Z2AAHp4
>>687
取引先から「もっと読みたいから書いてください」とか伝言あったりしてな。
692名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 22:11:27 ID:HmvX9PfC
>>676
キター!!読んでてドキドキしたw
693名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 23:38:45 ID:QpyyO95h
>>676 GJ!
雰囲気いいなぁ
694名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 00:09:38 ID:OxQ53BC3
>>687
書き上がったらここでも自分のサイトでも良いからうpしてくれよな。
695名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 01:17:10 ID:/+Y4T9Hx
静久を椅子に座らせ後ろ手に1巻の手錠、ハチマキを少しずらして目隠しにして、
ちょっとしたSMプレイに興ずるひつぎさん。in夕暮れの生徒会室

そんな妄想が烈しく脳内を駆け巡ってしまった。今。
やはり俺は会長静久派らしい。
696名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 03:23:40 ID:aru/NLyM
>>676 GJ!
確かに雰囲気はカワイイヨ〜
ただ贅沢をいえば話の主題はなにかをハッキリしてほしかったかな
エラソですまん
697名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 05:19:05 ID:owf8p/CR
>>674
まあ、綾那は時々パンツも穿き忘れてるからな。問題無い。
698名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 05:47:24 ID:wGVIeiJr
順に下着の色を確認されたのが気に食わなくて
心機一転とレースでスケスケな下着を買ってしまいこっそり試着しているところを順に見られる綾那。
699名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 10:16:43 ID:WOSOWd49
>>676
GJ!GJ!
すっげ良かった。
やっぱり順夕が一番好きだ。
700名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 10:18:15 ID:UbBFDkXP
中学生がレースでスケスケか。
時代は変わったな
701名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 13:21:40 ID:OxQ53BC3
>>695
>ハチマキを少しずらして目隠しに

その発想は無かったわ。
702名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 13:34:42 ID:dBijWz4b
ハチマキ長いからさ
ついでに手もしばっちゃえばいいじゃん
703名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 19:11:35 ID:UtoMU9Ct
そして足まで縛って会長にアピールする帯刀。
さらに静久が「私の方がもっと凄いです!」
舐めるような視線で静久を観察する会長。
帯刀放置。
そんな夕暮れの生徒会室。

>>676
遅ればせながらカワイイSSぐっじょぶ!
なんかホンワカした!
704名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 19:24:30 ID:owf8p/CR
帯刀はパーフェクトプランが使えるよ!
705名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 23:09:49 ID:nmjuRddW
帯刀にも相方がいるのだろうか?
706名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 00:38:45 ID:dyvAhheV
何か本スレでも帯刀ネタで盛り上がってたんだけど・・・
キミ達は帯刀を本当に愛してるんだね
707名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 00:56:29 ID:3F8vxNeN
まぁあれだよ、もし俺が玲ファンクラブの会員だったら、
その辺のミーハーファンと違ってもうガチでラブだったろうな。
そんで、そんな俺を心配したり嫉妬したり忙しい俺の刃友。
で色々あって最終的に玲先輩への想いに決着をつけた俺は自分の刃友とくっ付くと。

そんな青春を送りたいなあ。
708名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 03:08:34 ID:JS5doGM4
>>707
これまでの流れガン無視な上、妄想長いけどワロタから許す
709名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 20:40:46 ID:3sZ2REdy
>>707
来年あたりハブがアニメ化して人気出たりしたら
そういうゲーム1本作ってくれないかな。
自分が剣待生として天地に入学して、林家先生描下ろしの
オリキャラ数人の中から刃友を選んでああだこうだ的なやつ。
710名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 21:23:14 ID:LwEHu3as
つまんねえからイラネ
711名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 22:00:09 ID:SHoLDfNq
というかたてわきは県体勢なのか?
712名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 22:01:33 ID:r9t65DZc
「ハヤテ・クロス・ブレード!」…って某、執事漫画の必殺技で出そうな名前だな
713名無しさん@秘密の花園:2006/03/07(火) 23:11:03 ID:TTCMHPZC
>>709
書き下しオリキャラは美味しいな。
夕歩や綾那を攻略、とかそういうギャルゲ路線は嫌だけど。
キャラが相談にのってくれたり刃友同士のノロケ話とか見れたら良いな。
714名無しさん@秘密の花園:2006/03/08(水) 02:38:29 ID:xOJkB16P
格ゲーとかも作れそうだな
715名無しさん@秘密の花園:2006/03/08(水) 12:41:35 ID:/abS+023
初代サムスピみたいなおもいきり殺伐としたヤツな
716名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 19:52:51 ID:KgPCulIQ
韓国人の馬鹿くそやろうサイトが
無断転載っぽいことしてる
717名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 20:41:23 ID:KgPCulIQ
どいうこと?
718名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 20:54:51 ID:zj14Y4gE
どうでもいいんじゃね?
国内でも勝手に雑誌キャプをブログに貼ってるやつ結構いる。
問題ありとなれば出版社側が動くだろ。
俺らがここでどうこう言っても何もならん。
気になるなら、出版社に通報するなりしたほうがいいよ。
719名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 21:14:09 ID:eSBc+z7o
漫画くらい買えばいいのにな
たいして高くもないんだし
720名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 21:37:20 ID:5eac7qLS
何国人でも同じだよ。バカはバカ。そういう人種だ。
721名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 21:46:19 ID:nRWWaqIm
まあ中でも半島人はゴミクズの集まりだけどな。
722名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 21:58:44 ID:zj14Y4gE
ほら変なのが来ちゃったろ。
スレ違いだから終わっとこ。
723名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 22:05:25 ID:1LbNCWGt
つか716=717じゃん
上げてるし、釣りか?
724名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 22:39:17 ID:DkiTW1YT
そうか、忘れてた
もう啓蟄なんだなあ
725名無しさん@秘密の花園:2006/03/09(木) 23:12:35 ID:HdOK2x8U
本スレにも居たけど、以前ふたなりもの書いて
別スレに名前変えて投下したって人、
どこらへんに投下したのかおせーて
名前再変換して読みたいw
726名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 06:04:25 ID:l3olo6QJ
綾那にカス呼ばわりされひつぎさんにもカス呼ばわりされ
さらに綾那とはやてにボコボコにされた傷心の鈴木さんを
相田さんが慰める話が読みたい。
727名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 06:17:22 ID:4cUDytGB
>>726
むしろ鈴木と相田が、汚い勝利の手段を手に入れるため、みずちに弟子入り志願して、困惑する浅倉貴水ペア
728名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 07:44:49 ID:oebuHWTq
そういやヤドリギの人はどうしたんだろ?
あのまま執筆中止というのは何か後味が悪いので
出来れば最後まで書き上げて欲しいんだけれども。
729名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 14:50:33 ID:JQZlIyi1
一編書き上げたあと、感想でも何でもなく、まず
「長い、うざい、携帯で読めるようにしろ、改行しろ」
って文句が出たからな、モチベーション下がってもおかしくないだろうな
ストリートミュージシャンの演奏を聞くための輪の中に割って入って
「うるせぇ、うぜぇ消えろカス」って野次飛ばしたのと同じことしたんだし
730名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 17:06:29 ID:p//WMe1u
>729
>ストリートミュージシャンの演奏を聞くための輪の中に割って入って
この例えもなあ。
不特定多数が集まるスレなんだから、
『駅前の人通りの多いところで演奏やってて、褒められたりウザがられたり』
の方が近い気がする。
731名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 17:46:15 ID:45NxgxP/
>>730
同意。
ヤドリギの人に限らずSS落とす人はそういうリスクを覚悟しておかないと。
褒める人もいるしウザがる人もいるしさ。
まあ、住人がうざいと思ったらスルーすればすむことだが。
注意するにしてもキツイ言葉は避けた方が見た目カコイイ。
みんな21歳以上なんだし、言えば分かる…はず。
732名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 17:54:38 ID:JQZlIyi1
その演奏は、一応そこでやって構わないって許可が下りての話だろ?
不許可でやってたら、そりゃ騒音として排除されても仕方ないだろうけど
SS投下は事前許可が必要なわけじゃないと思うから気にしなかったな
賛否両論があるのは確かだから、そこを否定するつもりはないけど
第一声に「うぜぇ」じゃ、職人離れが進んで結局よろしくないっしょ
733名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 18:50:58 ID:aamims+w
スレ潰しが目的なんだからそんなの聞くわけないでしょ
徹底的にスルーこれ最強。
734名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 19:03:53 ID:gMMaGX9h
まぁそういうわけで、俺はみず蒼SSが読みたいわけですよ。
735名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 19:28:39 ID:l3olo6QJ
蒼は命令されるのが好きなんだよ。みずちさんのコマンド入力待ち状態。
736名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 20:04:27 ID:vDJ1wO1h
思えばヤドリギは長いけど、いろんなカプのエピソードが読めて楽しめたなぁ。

最近脳内で増田ちゃんの株が急上昇中。
もっといろんなキャラと絡んでくれないかな。
737名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 21:18:07 ID:86xggPJA
>>736
夕歩の事を呼び捨てだったりして、本当に普通の女子中学生って感じで可愛いよな
でもBランクっつーことはそこそこ強いんだろうなぁ
Bズは去り際が潔くて好きだ
738名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 00:07:15 ID:2c+9FRsF
ピンクレディーなだけにUFOとは相性が良い訳だネ!

夕歩は増田ちゃんをなんて呼んでるのか気になるな。
739名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 00:23:12 ID:nl9oDjAC
順みたくキャラがどんどん変わっていくのも困るけど
740名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 01:09:02 ID:TK+tPGoS
そうか?じゅんじゅん、最初の方からセクハラ発言多かったような
まぁいきなり増田ちゃんにクソ重い過去が設定されても困るけど。
741名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 01:25:36 ID:iTos3I7R
父親からDVを受けた過去+離縁するものの母子家庭で貧乏生活
あまつさえ天地の寮生活始めると共に母親が事故により逝去
祖父母の家に引っ込むのを良しとせず自己鍛錬と蓄財のために天地に残ってる

とか!
742名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 03:14:28 ID:2c+9FRsF
>>736
みずち組と増田組が仕合したら一石二鳥じゃね?
743名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 03:42:58 ID:nl9oDjAC
>>740
半歩引いた綾那弄り役からどんどん目立ちたがりに
744名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 07:50:21 ID:M9JSVxFW
幽白だって初めはほのぼのタヌキ漫画だったのに最後は魔界編。
全く問題無し。想定内の範囲だ。順にナニが生えても私は驚かない!

しかし、YES!NO!まくら!の順はエロ過ぎる・・・
745名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 10:21:50 ID:hpUzNPMU
ナニならもう生えてるじゃないか。
後頭部の方に。最初の頃には無かったものが。
746名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 15:04:26 ID:C1g8hw+d
小学生時代にも生えてますが?
747名無しさん@秘密の花園:2006/03/12(日) 08:53:00 ID:LI4L/lQF
>>744
タヌキ漫画ワロタ
五十鈴メインの話になったら、ハブも魔界編に突入してしまいそうだ
雉っちゃんが何かいちいち解説してくれんの
748名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 03:37:26 ID:Qn08UbIs
はやブレコミック1巻から読み直してたらちはるさんの全身から滲み出るエロさにヤラれました
志弦先生、ちはるさんをもっと出して下さい・・・orz
749名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 10:20:06 ID:ksfZ3qW9
最終巻では綾那とちはるさんのはやてを賭けた嫁盗り合戦。
750名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 14:32:36 ID:sIoFo51M
>>749
はやてはお婿さん。はやては綾那を「嫁」って紹介してるじゃん。
751名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 15:58:19 ID:eqsaykj6
>>716-721


まあ、この板自体が朝鮮人率過多な訳だがねwww

小生は西洋の血が少々入った日本人だけど


752名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 18:57:22 ID:LipXUbgF
>>750
婿取り合戦かー!!
753名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 20:39:52 ID:M7jHsGX0
ちはるさんのあのエロさはとても子を産んだ体だとは思えない。
754名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 21:11:19 ID:QGeb3OCb
>>753
待て
いつちはるさんが子を成した?
755名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 21:27:47 ID:yq8D5xld
>>753
だって産んでないもん。
男と結婚して子供まで作った人がはやてに求婚するだろうか?
否!する訳がない!
756名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 23:11:36 ID:Cbe9gZOU
ワラタ
757名無しさん@秘密の花園:2006/03/13(月) 23:30:19 ID:oG45VLqy
>>751は以前、炎雪にボッコボコにされて大の嫌中韓派になった元剣待生。
758名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 07:53:57 ID:o9hfFB72
ちはるさんははやてに求婚した時、どっちのつもりだったんだ?
自分は嫁?婿? まあ順当に考えれば嫁だけど、でもしかし・・・



ちはるさんに生えていないという確たる証拠はどこにもない!
759名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 10:03:35 ID:4MQXAMM4
>>758
綾那に「はやてちゃんの嫁は私ですから。私ですから」って念押ししてたから嫁希望なんでしょ。
ちはるさんに生えてるなんてそんなの嫌だ!
760名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 10:54:28 ID:Kr+O0gIu
SS投稿させていただきます。
メール欄に「NG」と入れておきますので、目障りでしたらお手数ですがはじいてやってください。
いのりんミカどんものです。
761小春日和 1:2006/03/14(火) 10:56:06 ID:Kr+O0gIu
 コンコン、コン。

 いくら刃友の部屋でも、断りなしに入ったりはしない。手首にスナップをきかせて、三度、小さく扉をノックした。
 そのまま少し待ってみたけれど、返事なし。耳を澄ませてみても、中からは物音ひとつしない。
 せっかくかわいめの服を着てきたのに、ひょっとして留守だろうか。でも、さっき出会った帯刀さんは、「彼女なら寮に入っていくのを見た」と言っていた。
 冬の初めの、金曜の午後。窓に面していない廊下は、薄暗くて肌寒い。
 冷たい木の扉に顔を近づけて、掌をぺたりと当てて。
 なんだか私、『かわいそうな子』みたいだ、そんなことを思いながら、少しだけ大きな声を出した。
「玲、いる?」
 ややあって、低い声が帰ってきた。
「紗枝か? 入れよ。開いてるぜ」
 なあんだ、いるんじゃない。
 ならノックに応えてくれればいいのに、とも思ったけど、気を取り直して、二、三回、笑顔の練習。
 うん、たぶんいい感じ。鏡の前でチェックできないのが心残りだけれど。
 ひとつ深呼吸、それからドアノブをひねってゆっくり引いた。
 扉の隙間から、淡い金色の光があふれた。
762小春日和 2:2006/03/14(火) 10:57:55 ID:Kr+O0gIu

   *

 扉の真正面、白い壁に大きく切られた窓のすりガラスを通って、優しい陽の光が室内をあたためている。ベッドや箪笥などがない分、ここは寮のほかの部屋より広々として、空気もすがすがしい。
 女の子らしいアイテムは見あたらないけれど、中は意外にきれいに片付いて、掃除も行き届いていた。ここの主は、ワイルドそうでいて、わりと細やかな神経の持ち主だ。
 寮の最上階に十ある個室のひとつ、神門玲の部屋。
『せっかく白服に手が届いたんだから、ひとりになれる空間くらい欲しいわ』
 かつて天地会長にそう要求したのは、Sランカーになったばかりのころの紅愛だった。
 それもそうね、の一言で、男子禁制の寮にどやどやと工事屋さんたちが入って、壁をぶち抜いたり、電気の配線をいじったり、壁紙を張り替えたり。
 それまでの三部屋分のスペースをひとつにまとめて、寝室には埋め込み式のクローゼットにツインサイズのベッド。なんとユニットバスまで備え付けの、ここは言わばちょっとしたスウィートルームなのだった。
 私たち……私と玲は、そのぜいたくな部屋を、それぞれひとつ与えられている。白服の特権なんだろうけど、広いのはともかく、同じ階が静かすぎて、すこし居心地が悪い。
 会長と宮本さんは、そもそも寮には住んでいない。
 改築のきっかけを作った紅愛は、みのりとともに三日前、白服を返上し、荷物をまとめて階下の相部屋へと帰っていった。
 そして、繰り上がりのSランク組も、まだこの階に引っ越してきていない。
 だから今、この中途半端な天上界の住人は、私と玲、ふたりだけなのだった。
763小春日和 3:2006/03/14(火) 10:59:45 ID:Kr+O0gIu
 その玲は、部屋の右手の壁に寄せた勉強机にひじをついて、やや背中を丸め気味に、両のてのひらで包むようにしてなにかの文庫本を読んでいた。入ってきた私に目も向けようとしない。
 窓からのやわらかな逆光を浴びて、白い制服に包まれたその輪郭がほんわり光っている。自分でもなぜか分からないけど、私はしばらく動けずに、黙ってその姿を眺めていた。
 でも、もちろん、永遠にこうしてはいられない。
 四歩半の距離を渡りきって玲の背後に立ち、意識してのんびりした声を出す。
「玲、なに読んでるの?」
 玲は黙ったまま、ちらりと手を動かして表紙のタイトルを私に示した。
「ああ、これね。これ、凶器は氷のナイフよ」
「……推理モノじゃねーよ」
「最後、ネロ死んじゃうのよね。かわいそう」
「『フランダースの犬』みたいに言うんじゃねえ」
「それにしても、ずいぶんマニアックな本読んでるのねえ、意外だわ」
「お前が押しつけたんだろーが、紗枝……」
 あはは。
 反応が楽しくて、ころころ笑ったら、ダークブラウンの瞳がようやくこっちを向いた。
「なにがおかしいんだよ……っつーか、何しに来たんだよ、紗枝。用があるならさっさと言え」
 言葉のきついわりに、強さも張りもない声。
 思っていたとおりだ。今日の玲、すこし元気がないらしい。
 いや、『今日の』じゃない。会長組と紅愛たちの頂上戦に立ち会った日から、ずっとこうなのだ。
 私はため息つきたい気分を飲みこんで、にっこり、ふんわり微笑んだ。
「ねえ玲、ちょっとお買いものにつき合ってよ。せっかくいい天気だし」
764名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:00:32 ID:NMuap5yK
方御さんの意見
 初めまして。方御と言う者です。
 女性がBLを好む理由。
 少し気になったので、似たような意見も多々あると思いますが私的な文を送らせてもらいます。

 私もBL好きなのですが、私が読むのは二次創作モノなんです。
 著作権法違反だ何だと言われますが黙認されているのでそこは見逃してください……

 アンソロジーに限ったことですが、
 好きなキャラ同士がくっついた結果がBLだったという人も多いようです。

 それから、百合について。所謂レズビアンなんですが……
 私の場合ノマカプや、やおいモノは読んでも百合だけは読みません。
 理由はやはり抵抗があるからです。
 その意味では、やはりやおいが他人事という見方ができますね。
 私の同級生に同じようにやおいを愛する子がいるんですが、その子も百合を嫌っています。
 ただ理由が納得できて……・。

 生々しい話になるんですが、百合の場合だと行為が無いから嫌。

 つまり、挿れるだの挿れられるだのというものが無いから駄目らしいです。
 やおいはそれが成立しますので……。
 女性が百合ではなくBLを好むあたりにそういったこともあるのでは??
 まあ所詮パロですのでやろうと思えばできますけどね。
765小春日和 4:2006/03/14(火) 11:01:13 ID:Kr+O0gIu
「買いものだぁ?」
「そそ。それで、ついでにカラオケにでも行かない? 久しぶりに」
「断る」
 にべもなく言って前に向き直り、読書を再開する玲。
「ええ〜? なんでよ。つれないじゃない」
「六限の授業に出るんだよ。それから自主トレ。忙しいんだ、あたしは」
「自主トレって。昨日強めに負荷かけてたから、今日は軽く流す日じゃないの」
 行動パターンを知り尽くした刃友ならではの、鋭い指摘。玲はぐっと言葉に詰まったけれど、
「それでも、行かねえ。悪ィけど気分じゃねーんだ」
 固い声で私を拒んだ。
 その肩から背中のラインが、頑なだった。まるで、泣きそうなくせに救いの手を振り払う駄々っ子みたいに。
 今度こそ本当にため息ついて、私は玲のうなじのあたり、ごつい皮のチョーカーに右の人差し指をひっかけた。
 自分語りじゃないけれど、私はわりと温厚なたちだ。同年代のほかの子に比べても、自分をコントロールする術を知ってるほうだと思う。
 だけど、いくら温厚でも、たまには少し腹が立つこともあるのだ。
 指に力を込めてキュッと引くと、玲は無言のまま、猫みたいに背中を丸めて抵抗した。む、生意気な。
766名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:02:05 ID:NMuap5yK
BL作家志望さんの意見
 はじめまして、BL作家志望の者です。

 個人的な意見になってしまいますが、私は女の争いが大嫌いです。

 相手の足を引っ張り相手を落としいれ、なんとしてでも男を落とそうとする女の根性。
 自分自身女の端くれですが、男に血なまぐさい女の争いを見せずして、
 男の気を引く・媚を売るような器用な真似は出来ません。

 また私は女の内面の醜さに気づくことのできない男も大嫌いです。
 出来れば美少女を書く時には内面の醜さも書いて欲しいものですね。
 リアリティがありませんもの。

 話がそれましたが、BLと言うジャンルの読者層に男性はごく少数なのではないでしょうか。
 作者も女性の方のほうが圧倒的の多いように思われます。
 思うにBLとは女性だけの妄想の世界なのではないでしょうか?

 男たちが小説に男の理想の美少女を創り上げるのなら、
 女性たちは女の理想の男性像と言うものをBLという世界に持ってきたのだと思います。
767小春日和 5:2006/03/14(火) 11:02:34 ID:Kr+O0gIu
(ねえ玲。わかるわよ。会長は嫌になるくらい強かった)
 キュウ。心の中で語りかけながら、もう少し力を入れる。
「く」
 とっさにチョーカーの前側に片手をこじ入れて、首が絞まらないようにする玲。ええ、ええ、私もそのほうが安心して引けるわよ。
(会長は強かった……剣も、心も、桁違いに。弱点なんて関係ないわね、あれじゃ)
 キュウウ。
 引っ張られて、玲の上体がだんだん後ろに倒れてくる。それでも無言で、あくまで視線は本の上。どうせ、内容なんかろくに頭に入ってないだろうに。
(でも、だからって凹んでてもしょうがないじゃない。追いかけるしかないでしょ? 追いかけようよ、二人で)
 キュウウ……
(だからさ、玲、そんな『私一人だけが落ち込んでます』みたいな顔やめて。こっち、向いてよ)
 ……ぐらり。
 バランスがくずれた。椅子の脚、前二本が浮いた。
「あっ、と」「うお」
 ふたり同時にチョーカーから手を離す。このくらいのピンチに対応できないような運動神経はしていない。
 玲は空いたほうの手をのばして、すばやく机の端をつかんだ。
 私は両腕で、椅子の背もたれごと玲を抱きとめた。
 前脚が浮いたまま、椅子は倒れるのをやめた。
 何秒かのあいだ、ふたり、そのままの格好でいた。もう転ぶ心配はない、安定した姿勢。でも、永遠にこのままではいられない。
768名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:02:55 ID:NMuap5yK
榊 悠さんの意見
 私もBLが好きです。最初はちょっと駄目だったのですが、
 徐々に慣れるとその世界観が好きになってしまいます。

 なぜ、女性がBLに惹かれるかという理由ですが。
 絶対に乗り越えられない何かがあり、それでもせずにはいられないという
 微妙な心境が惹かせるのではないでしょうか。
 女性と男性ではこうはいかないでしょう。
 ぶっちゃけた話、駆け落ちでもしちゃえば乗り越えられるわけです。
 ですが男性と男性ではこうは行きません。
 駆け落ちしても超えられないものがある。世間には認められない。

 それでも結ばれよう(?)とする、一途さのようなものが私は好きですね。

 ですが、百合は嫌いです。
 百合はただの「先輩と後輩の愛情関係が行きすぎ」としか感じられないもので。
769小春日和 6:2006/03/14(火) 11:03:37 ID:Kr+O0gIu
 やがて、ふところの中の玲が、低くつぶやいた。
「……紗枝」
 きっと、
『離せ』
 そう続ける気なのだ。
 それより早く、私は驚いたような声を上げた。
「あら、玲、白髪」
「マジか!?」
 あわてて上を向く玲。その頭に右の掌をあててそっと押さえ、微笑む。
「動かないで。抜いてあげるから」
「……。頼む」
 左腕でそっと抱き支えたまま、右の指を動かして、ゆっくり、丁寧に玲の短い髪を梳く。ちょうど、秋、草の実をいっぱいつけて帰ってきた猫にそうしてやるように。
 玲は不思議におとなしかった。うつむき加減なのでその表情は分からないけれど、身体から力を抜いて、私のなすがままに任せている。
(この頭のてっぺんに鼻をくっつけたら――)
 そんな馬鹿げたことを、ふと考える。
(――お日さまの匂いがするのかな)
 そうする代りに、髪の毛を一本つまんで、ピッと引き抜いた。
「つ」
 小さくうめく玲を腕の中から解放し、椅子をお腹でツンと押し戻して、四つ足で立たせてやる。それでおしまい。
770名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:03:56 ID:NMuap5yK
榊 悠さんの意見
 私もBLが好きです。最初はちょっと駄目だったのですが、
 徐々に慣れるとその世界観が好きになってしまいます。

 なぜ、女性がBLに惹かれるかという理由ですが。
 絶対に乗り越えられない何かがあり、それでもせずにはいられないという
 微妙な心境が惹かせるのではないでしょうか。
 女性と男性ではこうはいかないでしょう。
 ぶっちゃけた話、駆け落ちでもしちゃえば乗り越えられるわけです。
 ですが男性と男性ではこうは行きません。
 駆け落ちしても超えられないものがある。世間には認められない。

 それでも結ばれよう(?)とする、一途さのようなものが私は好きですね。

 ですが、百合は嫌いです。
 百合はただの「先輩と後輩の愛情関係が行きすぎ」としか感じられないもので。

引用元 http://www.raitonoveru.jp/howto/46a.html
771小春日和 7:2006/03/14(火) 11:04:36 ID:Kr+O0gIu
「抜けたか? 見せてくれ」
 そう言って玲が振り向く、その一瞬前に、私は指でつまんだ髪をフッと吹き飛ばした。
「あー! 紗枝、お前なにすんだ!」
「なによ。白髪なんて、見たって面白いものじゃないでしょ」
「バカ、それにしたって、せめてゴミ箱に……」
 抗議の声は、途中で小さくなって消えた。
 たぶん、私がニコニコ笑ってたから、怒る気をなくしたんだと思う。
 やがて玲は、口の中で『まったく、お前ってやつは』とかなんとか文句を言いつつ、椅子から立ち上がった。
「買いもの行くんだろ? 着替えてくるから待ってろ」
「あら、六限はどうするのよ」
「フケる」簡単に言い切って、クローゼットのある寝室へ歩いてゆく。「出席日数は足りてる」
「学生の本分は勉強よ? サボりはよくないわ」
「行くのか行かねえのか、どっちだよ!」
 があ、と咆える刃友に、私はやっぱりニコニコと、
「つきあってくれて、ありがと」
 玲は肩をカクンと落とし、もう一度「まったく、お前ってやつはよ……」とつぶやいた。
 それから、すこしだけ笑顔を見せて、扉の向こうに消えていった。
772小春日和 8:2006/03/14(火) 11:05:53 ID:Kr+O0gIu
 ……玲の着替えを待つあいだ、椅子に深く腰かけて、あわい陽の光に目を細めていた。
 腕の中に、ふところのうちに、指先に、まだほのかな温もりが残っているような気がする。
 となりの部屋から届く、ハンガーかなにかのカチャカチャ鳴る音をぼんやり聞きながら、ああ、あたたかいな、と思った。今日は本当にあたたかい。
 やがて扉が開いた。玲はジャケットからパンツから、ついでにチョーカーまで、黒のレザーでまとめてきた。アクセサリーは、すべてシルバー。
「待たせたな。行こうぜ」
「……ねえ、玲」
「? なんだ」
「たまにはもっとフェミニンなかっこしてみない? スカートとか、貸そうか?」
「よせよ。嫌いなの知ってるだろ」
 苦い顔をする玲。私は笑って、それ以上言わなかった。もちろん、玲には今のスタイルが似合ってる。一緒に歩いてて気分がいいくらいに(女の子同士でそんなこと考えるのもアレだけどね)。
「そうだ玲、聞いた? 紅愛たち、剣待生、やめないそうよ」
「そうか……まあ、そうだろな。いっぺん負けたくらいでメゲちまうような連中じゃねえ」
「それでね、中途半端な時期の部屋替えでしょ? ほかに空きがなくて、結局あの二人、同室になったんだって」
「わはははは、そ、そりゃいいや! さぞや、部屋の空気が甘ったるくなるだろうよ」
「あはは」
 ネイルカラーとお菓子の入り混じった匂いが、一瞬ほんとに鼻をくすぐった気がして、私も笑った。
 こうしてずっと話しててもいい。でも、出かけるならそろそろ動き出さなきゃ。
773名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:07:04 ID:NMuap5yK
番組では「男の友情」のテーマで、主人公ニコライとコサックの頭プガチョフのそりの中でのやりとりがピックアップされていたが、宝塚ではしばしば男の友情というものがクローズアップされる。敵味方であったり、本当の同志の間柄だったり、設定はさまざまあるけれど…。
それは宝塚が男役中心の特別な舞台だからだけではなく、女の眼から見た男性を究極なまでに美しく描いているからである。現実の世界でも、女の友情は特に男性が絡むと脆くも崩れ去るものだが、男性の友情は結構深い、本心まで突いたつながりに見える。

そのそりのシーンでのニコライの台詞

「あんたのような男が無残に果てるのを、俺は見たくない」

に、男同士の深いつながりが集約されている。絶対、女同士ではこんな言葉は出ないだろう。男役が美しいのは、娘役を見つめる表情に代表される舞台上の男女の見た目の美しさだけではないのだ。男の友情にも注目してほしい。

http://72.14.203.104/search?q=cache:xAVxm-O3BU0J:diarynote.jp/d/46621/20050211.html+%E7%94%B7%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%8F%8B%E6%83%85%E3%81%AF&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=9
774小春日和 9(終):2006/03/14(火) 11:07:11 ID:Kr+O0gIu
「玲」
「お?」
 手を差し伸べると、玲は、ついつられて、私の手を握りかえしてくれた。
 それを頼りに、反動をつけて椅子から立ち上がる。
「ありがと。さ、行きましょ」
 微笑みかけると、玲は手を離して、「どこぞのお姫様じゃあるまいし」と言った。
「あなただって白馬の王子様じゃないでしょ」
 言い返しながら廊下に出る。いったん自分の部屋に寄って、お気に入りのローヒールのブーツを取ってこなくては。
 後ろをついてくる玲の足音を聞きながら、こんなことを考えた。

 私たちはまだまだ弱くて、会長の剣にも、私たちの未来を押し流す力にも、きっと太刀打ちできない。
 でも今日、なんとなくじゃれあっていただけで、胸のうちの不安とかささくれとか、いつのまにか忘れられたような気がする。
 だから、私たちはふたり一緒がいいのだ。
 一人じゃクリアできない壁も、きっと二人なら越えていけるはず。

「で。まずどこに行くんだ?」
 玲が追いついて、となりに並んで訊いてきた。
(あれ? これって、まるでデートみたいじゃない?)
 ふとそう思ったけれど。口に出したら玲、きっとへそを曲げるから。
 私は笑って、
「ま、歩きながら考えましょうよ」
 とだけ答えた。
(おわり)
775名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:10:20 ID:NMuap5yK
さて、ちょっとくだらない話をしてみよかとおもいまーす( ´∀`)

一部の女性(男性も含)に大人気のボーイズラブ。通称BL。
公共の場では言いにくいので私は時々「乙女の夢」とか「秘密の花園」とか呼んでいます。
何故これが好きなのか問い詰められると答えられません。自分でもよくわかりません。
とあるBL好きの方が言っておられましたが、BLに走る理由は

「男性の浮気癖から、誰にも取られたくないという心理が働きで
他の女に取られるくらいなら同姓で愛し合ったほうが都合がいい」

というのがありました。まぁそれも否定できないことはないんですが(笑)、
いまいちしっくりきません。
調べてみたら、1番ソレっぽい意見がでてきました。
776名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:11:00 ID:NMuap5yK
■『障害と葛藤』の種類が男女の恋愛物とは一風変わっている、というところが人気の理由。
まず、BLの最大の特徴である『男性同士の恋愛』というテーマは、それ自体がもう既に
避けることの出来ない強固な『障害』となって存在しているわけです。
また、男女の関係だと上下関係がでてきます。例えば、
敵に誘拐されたら、助けられるまで囚われたままだったり、主人公が修行してるのにヒロインは呑気に買い物してたり。
あまつさえ「心配」という名の妨害工作をおこなったりされると、ものすごく嫌な気分になります。
主人公がとても素敵な分だけ、ヒロインのワガママに大変がっかりさせられることが多いんです。
しかし、BLの場合、こういう煩わしさがありません。
ヒロイン役の男性が何かしでかしたとしても、「男なんだからテメーでなんとかしやがれ!」と
逆に言い返されたりと、理不尽さがありません。あの対等なシチュエーションが好きなんです。」

■異性の魅力のひとつとして「恋愛しているところ」というのは欠かせないポイントです。
そのキャラが恋愛しているところを見たい。
でも、自分がその相手になるのは不可能ですしだれか他の女の子に取られるのも嫌だ。
そうなると、リアリティのない男性キャラのほうへ自然と流れていくのではないでしょうか。
また、男性同士ならいっぺんに男性二人ぶんの恋愛模様が見られます。一石二鳥です(笑)
777名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:11:42 ID:NMuap5yK
■女同士で真実の友情だの何だの言ったって、結局恋愛が絡めばそんなものは崩れてしまう。
恋愛、つまり異性が絡めば言うまでもありません。
女性の場合それが激しいんです。
女同士は恋愛が絡み、一度大喧嘩してしまうと、それ以降話したりする機会がなくなるんです。
しかし男同士の場合は喧嘩してもすぐに仲直りをしてしまう、そんなイメージがあります。
多分、そんな関係に憧れてるのではないかと思います。
つまりBLとは、女性にとって自分にないものを求めてるのではないかと結論します。
778名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:12:29 ID:NMuap5yK
■たいていの男性は、女のほうが男よりも美しい生き物だと感じています。
きっと、男のみっともなさはよく知っているけれど、女性についてはいまいち無知だからです。
その逆に、たいていの女性は、男性のほうが女性より美しいと感じているのではないでしょうか。
だから、異なる性別の二人、つまり美しいものとそうでないものが結ばれる作品よりも、
美しいもの同士が結ばれる作品のほうが好きだと感じる人が男女共通しているのだと思います。


***
他にも色々ありますが一応これぐらいで。
まぁ確かに私は女性よりも男性の方が美しい生き物だと思っています。
女性みたいにネチネチネバネバしてる関係じゃなく、さっぱりしてる感じがするので。
また、私は前にも言った気がしますが露骨なBLより友情話の方が好きです。
特にオススメなのは「あとり硅子」作品。神です。

あ〜男性の友情はうつくし!うつくし!


引用元
http://72.14.203.104/search?q=cache:eRl5PukV8mAJ:3405.hito.thebbs.jp/Madam/0505+%E7%94%B7%E6%80%A7%E3%81%AE%E5%8F%8B%E6%83%85%E3%81%AF&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=17
779名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 11:14:46 ID:NMuap5yK
呼び方の愛称は、
福山さん⇒福じゅん⇒じゅんじゅん となりました 笑。
この人の声は高いけど「男性」の「高い」ってイメージ。宮田ちょんみたいな
極端に高いってカンジではないw少年役とかに凄いあってますね。
最近注目してる声優さんです(*´∀`*)
トークが面白いんだ!微妙に子悪魔ちっくなトコとかww
以前、この人神谷さんイジめてたw
歌歌えない神谷さんに期待してます期待してますって言ってたよww
ああ、神谷さんも好きですぞー。月詠見たい。
さあじゅんじゅんの話の戻って・・・・。このお方は、燃えというより萌え。
ちなみに「燃え声優」の代表は関智一。私的にw
セキトモも萌えるっちゃあ萌えるんですが。。アポクリのサフィルスとか。
せっせきともが敬語キャラをやってる・・・・・!!かなりびっくりしました。
「そんなあなたが好きですよ」とか悶えたよww
――って、今はじゅんじゅんの話だったわw話よくそれるなぁ。
えー、ドラマCDとかにもよく出ていますね。殆どは下役。・・分かる人だけ分かってくれw
上役もちょっときいてみたーい。ハァハァ(´Д`*(きもい

セイントビースト第26回ラジオ。(宮田幸季、吉野裕行、福山潤)
http://www.animate.tv/asx/r05040013_bnya_nb.asx
無料なのでよければどうぞ(*´∀`*)

じゅんじゅんにいいたいこと。
薔薇の服だけはやめてください(笑

    ↑

じゅんじゅん…
780名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 12:41:36 ID:j8IB5sor
せっかくのSSが台無し
そしてKr+O0gIuさん乙!
781名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 13:42:12 ID:8sHvgs2A
乙!
こういう場合、コピペが終わるまで待った方がいいかもしれんね
ともあれ白服GJ!
782名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 13:56:59 ID:NMuap5yK
方御さんの意見
 初めまして。方御と言う者です。
 女性がBLを好む理由。
 少し気になったので、似たような意見も多々あると思いますが私的な文を送らせてもらいます。

 私もBL好きなのですが、私が読むのは二次創作モノなんです。
 著作権法違反だ何だと言われますが黙認されているのでそこは見逃してください……

 アンソロジーに限ったことですが、
 好きなキャラ同士がくっついた結果がBLだったという人も多いようです。

 それから、百合について。所謂レズビアンなんですが……
 私の場合ノマカプや、やおいモノは読んでも百合だけは読みません。
 理由はやはり抵抗があるからです。
 その意味では、やはりやおいが他人事という見方ができますね。
 私の同級生に同じようにやおいを愛する子がいるんですが、その子も百合を嫌っています。
 ただ理由が納得できて……・。

 生々しい話になるんですが、百合の場合だと行為が無いから嫌。

 つまり、挿れるだの挿れられるだのというものが無いから駄目らしいです。
 やおいはそれが成立しますので……。
 女性が百合ではなくBLを好むあたりにそういったこともあるのでは??
 まあ所詮パロですのでやろうと思えばできますけどね。
783名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 13:57:39 ID:NMuap5yK
BL作家志望さんの意見
 はじめまして、BL作家志望の者です。

 個人的な意見になってしまいますが、私は女の争いが大嫌いです。

 相手の足を引っ張り相手を落としいれ、なんとしてでも男を落とそうとする女の根性。
 自分自身女の端くれですが、男に血なまぐさい女の争いを見せずして、
 男の気を引く・媚を売るような器用な真似は出来ません。

 また私は女の内面の醜さに気づくことのできない男も大嫌いです。
 出来れば美少女を書く時には内面の醜さも書いて欲しいものですね。
 リアリティがありませんもの。

 話がそれましたが、BLと言うジャンルの読者層に男性はごく少数なのではないでしょうか。
 作者も女性の方のほうが圧倒的の多いように思われます。
 思うにBLとは女性だけの妄想の世界なのではないでしょうか?

 男たちが小説に男の理想の美少女を創り上げるのなら、
 女性たちは女の理想の男性像と言うものをBLという世界に持ってきたのだと思います。
784名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 13:58:36 ID:NMuap5yK
榊 悠さんの意見
 私もBLが好きです。最初はちょっと駄目だったのですが、
 徐々に慣れるとその世界観が好きになってしまいます。

 なぜ、女性がBLに惹かれるかという理由ですが。
 絶対に乗り越えられない何かがあり、それでもせずにはいられないという
 微妙な心境が惹かせるのではないでしょうか。
 女性と男性ではこうはいかないでしょう。
 ぶっちゃけた話、駆け落ちでもしちゃえば乗り越えられるわけです。
 ですが男性と男性ではこうは行きません。
 駆け落ちしても超えられないものがある。世間には認められない。

 それでも結ばれよう(?)とする、一途さのようなものが私は好きですね。

 ですが、百合は嫌いです。
 百合はただの「先輩と後輩の愛情関係が行きすぎ」としか感じられないもので。


引用元 http://www.raitonoveru.jp/howto/46a.html

785名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 15:01:31 ID:OyBowubC
>>760
モ・・萌ゥエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!GJ!!
本編の設定も活かしてあって上手いと思いますた。
紅愛とみのり切ねえ・・・w
786名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 15:12:57 ID:p26YAHkO
>>760
良かったー!gj!
玲と紗枝はもちろんだが、紅愛とみのりにモエモエしちゃったよ
787名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 15:42:23 ID:QfBYju7Q
>>760
GJ!!すげー萌えた!
玲紗枝いいよ!なんか紗枝切ないよな!
788名無しさん@秘密の花園:2006/03/14(火) 20:47:03 ID:vzT6flcG
>>760
良かったです!
玲紗枝GJ!!!
789名無しさん@秘密の花園:2006/03/15(水) 00:17:00 ID:GFzoVLZ6
萌えるんだがウザイのが入ったね。
でも、作者さんきにすんな!乙!
790名無しさん@秘密の花園:2006/03/15(水) 02:00:03 ID:4DF7nQ6B
うはぁ、繊細で恥ずかしいなw
大変おいしゅうございました。
791名無しさん@秘密の花園:2006/03/15(水) 10:32:15 ID:94nZSYDg
GJ!
個人的に白服モノで一番モエタ
792名無しさん@秘密の花園:2006/03/15(水) 16:05:23 ID:YrGVGH8m
500KBまであとすこし…
新スレの季節が近いね
793名無しさん@秘密の花園:2006/03/15(水) 16:08:57 ID:YrGVGH8m
あ、あと、コピペとか荒らしはNG登録しちゃえばいいんじゃないかな
とりあえず、ID:NMuap5yKをNGにしたから、>>761-774は快適に読める
794名無しさん@秘密の花園:2006/03/15(水) 23:12:27 ID:8VhExDWr
自動保守マシーンだよ、触っちゃいけない
795石動菖蒲:2006/03/15(水) 23:49:20 ID:uNp5pXqV
>>758-759
2人ともおよめさんに決まってるじゃない
796名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 00:22:15 ID:8PAQn/xN
雉っちゃんはミスった。
未知が「頑張るから今度だけは・・・」と詫びを入れてきた時に
きっちり強気に出ていれば、今頃未知をニクドレイにでもできていたのに!

「私は未知を役立たずなんて一度も・・・」とか甘すぎ。
チャンスをモノにできない雉っちゃんに未知はモノにできないね!
797名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 01:00:00 ID:ZNhcnQuQ
奴隷よりラブラブな相手のほうがいいじゃん
798名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 01:24:42 ID:n2F4jy1/
禿同
非情になれない雉宮クオリティ
つーか、いきなり何の話してんだw
799名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 10:06:20 ID:mwlL/ZUy
キジっちゃんと未知がどうしたら幸せになれるかの話だよ
800名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 11:38:44 ID:vwk4DknK
>>796は未知
801名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 12:02:59 ID:9PcIPBv+
何この雉猿ブーム
俺も混ぜてくれ!!
802名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 13:16:55 ID:n2F4jy1/
>>800
もしそれが事実なら未知は近年稀に見るツンデレだな
803名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 19:46:31 ID:5r4V5X2D
>>802
羞恥の事実
804名無しさん@秘密の花園:2006/03/16(木) 20:56:50 ID:GvEUzVzB
>>799
まずは言葉で。
それが通じないときは身体で愛情を表現する。
これでオケー!
805名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 01:26:10 ID:+Yb8+US8
ヤドリギさんこなくなったね・・・・・・まあ、当然っていったら当然か。
806名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 01:39:01 ID:jvvGdN/h
>>805
次回最終回とか書いてあったから、くるんじゃね?
まあもうほとんどどんな話だったか忘れちまったけど
807名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 01:45:16 ID:+Yb8+US8
まあ、あんだけの量書いて「長い、めんどい」ってレスばっかじゃなあ・・・・。
普通なら書く気失せるわ。
808名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 02:08:15 ID:YwucuhXM
でもそれが正直な感想だからなあ・・・。嘘ついてマンセーしたって意味無いし。
だからって「書くな」なんて言うつもりは
毛頭無いので、ヤドリギの人は是非完結させてくれ。

ああ、夕歩と病院で知り合って友達になりたい・・・。
809名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 02:28:21 ID:+Yb8+US8
でもアレだけ書いておいて一番にそれを言うのはどうよ??
せめてSSの感想を載せてから「ちょっちながいっす」みたいな感じで書けば良い物を・・・・・。
馬鹿な住人の条件反射によってSS書きがまた一人減っくのか。
810名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 02:29:49 ID:+Yb8+US8
つーか、前々から思っていたんだけどここって順夕歩のSS以外あんまり優遇されないね。
ヘタなSSでも順夕歩なら褒められて
上手いSSでも順夕歩でなかったらけなされる。

いっその事ここを順夕歩専用のSSスレにする?(w
811名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 03:02:21 ID:VL5nKcyl
俺はひつぎ×静久とかの他のカプSSも見たいのだが……
812名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 03:11:54 ID:ABavQExW
>>810はこのスレ1000回読めってひつぎさんが言ってた。

じゃあ自分は世界の裏側で順綾希望しときますね。
813名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 03:48:07 ID:+Yb8+US8
だったら職人叩くなよ、といいたい。
例え長いSSだとしても後々その人が自分の好きなCPを小説を書いてくれるかもしれないんだぞ?
SS書いていないやつ等が、職人のやる気をなえさせるようなレスは止めて置くべきだと思う。
814名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 03:54:05 ID:+Yb8+US8
と前々からヤドリギが投下される度に、読まない内から「長い」と文句を言っている人たちに
ムカついていた自分が思っていたことでした。
最近、ここの一部の住人の態度がちょっと行き過ぎているなあ、と思えて・・・・。
ただ読むだけより、書く方が何倍も大変なんだぞってちょっとは理解して欲しい人たちが多かったんで。
815名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 04:26:50 ID:YOz69WTr
>>810ってちょっと前に順夕飽きたとか暴言吐きまくって
住人に反論されたら今度は下手な小説が云々とか言って
完全に頭と終わりで論点がずれまくって、最後に「もう来ねえよ」って
捨て台詞残して他のスレとやらにお引越しした人?

違ってたらゴメンだけど、なんでまだここに来てるの?

あと、それとは関係なく、

>ヘタなSSでも順夕歩なら褒められて
>上手いSSでも順夕歩でなかったらけなされる。

これは一体このスレのどのへん見て言ってるの?
釣りだと思ってるけど、まさかレスの全てをきちんと読まずに書き込んだり
してはいないよね?

釣りだよね???
816名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 04:39:59 ID:YOz69WTr
と、書いたところで、上のほとんどが+Yb8+US8の発言で
なおかつ話に一貫性がないことから自演もしくは釣りってことに
気がついたOTL 
レスしなきゃよかったぜ。寝る。
817名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 05:31:03 ID:+Yb8+US8
>>815
言っておくけどその人とはまったくの別人だよ。
とりあえず、自分は
小説書くことも出来ないやつが、容易に職人のやる気失せるような事な発言は控えて欲しい、
って事をいいたいだけだから。
理解できたカナ?

まあ、結局どんだけいっても分らんヤツには理解できないだろうし。
これ以上話していたら815みたいなやつと泥沼戦しそうだから今日はこの辺りで寝るわ。
818名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 07:42:24 ID:LuE+zich
おまいら夜中になにやってんのw

>>805
間違いなく荒れるネタを振るなよ。静かに待とうぜ

>>808
技術的な指摘ならともかく、気に入らないって時はレスはしなくていいよ。
無反応というのもひとつの評価だ。(反応少ないと職人は超へこみます)
819名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 08:03:02 ID:+vDd4qCw
夕歩が度重なる順のラブコールに絆されてついつい自分から迫ってしまう、
ところが実は順は本当はノーマルで、迫る夕歩に思わずビビってしまう、
夕歩に9999のダメージ、という世にも残酷な物語を思いついた冬の朝。
820名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 10:08:03 ID:E+AyiePP
いいな、それ。
せっつねぇー
821名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 10:10:01 ID:8E/th0gB
>817の人の論調、おかしくね?
職人叩くなって言ったかと思えば、
順夕歩は下手でも云々とか嫌味言ったり、
どう読んでも矛盾してるんだが。
822名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 11:31:49 ID:avtNZ4qp
この話題は無限ループになるからやめようよ
来週にはドラマCD発売だし明るいかつエロい話題で盛り上がろうぜ
823名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 14:31:56 ID:MVERn5mP
>>819
そ、それは悲しすぎるぞ!!w

職人の方も住人の方も気を使おう、ということか。
あんまりルールで縛るのは好ましくないだろうが、職人は落とす時以下のように予告してはどうだろう。
「今から○○(カップリング)のSSを落とします。長さは〜くらいです。
NGワードは××。苦手な人はスルーしてください。」
住人側はとにかくイヤだと思ったらとにかくスルー汁。
「長すぎる」とか「読みにくい」とかは言葉に配慮して発言するのが吉。

俺はこのスレが好きなんだ!住人たちが好きなんだー!
824名無しさん@秘密の花園:2006/03/17(金) 17:40:10 ID:avtNZ4qp
今、>>823が良い事言った!

今月号でもラブラブなはやてと綾那が見られますよーに
825名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 00:18:59 ID:vhV+vC7S
>>823
SSがイヤな人はSSへのレスでスレが埋まるのが嫌と言い出すんだよ、次はw

自分はSS目当てでこのスレにいるので、ヤドリギの人も他の職人さんも待ってます
826名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 02:37:45 ID:PSHamyCF
「蒼、あなた処女?」
「え・・・?」
「処女か、と聞いてるのよ」
「な、なん・・・」
「どっちなの?」
「しょ、処女です・・・」
「聞こえないわ」
「処女です・・・処女ですーっ!」
(ぞくぞくぞく・・・)


浅倉貴水組、暇すぎてヘルシングごっこ。特に他意はない。
827名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 12:23:35 ID:e4jx+Eco
事を終えた後、もう一度蒼に「あなた処女?」と問いかけ、
「ち、違います・・・」と答えさせる方が征服欲の強いみずちさん(俺願望)は
よりぞくぞくしそうな気がする。
828名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 17:49:02 ID:Z9iCgib0
萌えるwww
829名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 18:28:51 ID:8BPmel+E
みずち×蒼って良いもんだな!
830名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 18:33:58 ID:mIJ5SORu
最高のドSとドMのコンビだwwwwwww
831名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 22:30:51 ID:aPWQeXbd
>>825
長編のSSはうざいとは思うが1レスで収まる程度の>>826の様な短編だと読むな。
俺としてはスレで作品についてや無駄話なんかをするのが好きだから、
スレがSSで埋まっていくことには確かに面白くない。
だから長編を載せたいんだったら別スレ立てるか、専用のホムペ作れば良いんだよ。
832名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 22:38:53 ID:chvsoAW9
>>831

悪いんだけどここ、君ひとりだけのためのスレじゃないから。
自分だけの好みで色々思い通りにできるとは思わない方がいいよ。
実際、以前ss専用のスレ立てようかって案もあったのに、スレ乱立は避けようって
話になったからこのままな訳じゃないですか。
ほとんどの人たちが譲り合って使おうよって話してるのに、何故君だけずっとその意見曲げようとしないの?

もうちょっと大人になろうよ。
833名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 23:09:10 ID:lAaKI25Y
ほんとどこのお坊ちゃんだよなー
831こそ自分のホームページ作って、そこに引っ込んでろよなー
みんながお前の好みだけに合わせなきゃいけない義理なんてないっつーのー
ちょっとは我慢しろー
834名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 23:16:56 ID:jBTyArCl
>>831は万年Dランクの剣待生だ!
835名無しさん@秘密の花園:2006/03/18(土) 23:35:48 ID:/A/Tiw5z
く……
蒼×みずちはおらんのか
836名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 00:29:08 ID:iBFqPqnl
>>835
前スレでみずち組のSS何本かあったけど、それは全部蒼みずだった気がする。
まぁ俺は何があってもみず蒼派ですが。
837名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 00:54:57 ID:EI2YXwKh
831はただの荒しでしょ?
スルーしようよ皆…( ´_ゝ`)
838名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 16:14:50 ID:6b4CvVjH
俺もみず蒼派w
839名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 19:10:47 ID:1z6GzoIr
まだ書き込めるかしら。書き込めるなら、次スレは
http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1131901601/l50で代用するか
840名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 19:13:42 ID:8ftKDb7z
>>839
しません。終了。
841名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 19:28:45 ID:1z6GzoIr
>>840
じゃあ新しくスレ立てしないといかんのでは?
842名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 19:32:24 ID:8ftKDb7z
自分は500KBがどうこうってのはよくわからんので、それは他の人にお任せします。
843名無しさん@秘密の花園:2006/03/19(日) 19:48:09 ID:EI2YXwKh
スレタイが特定のキャラが入っているからね。
スレタイはこのままでいいじゃね?
結構気に入っているv
844名無しさん@秘密の花園
確か512KBで表示されなくなってdat落ちだったと思う。

次スレタイトルは
「攻めるも乙女受けるも乙女 林家志弦百合スレ・3」
テンプレは前スレ(このスレ)と漫画板のスレのアドレスのみでええか?
よければ様子を見て立てるぞ。