ぐはあっ
あめえええええwww
今日は草壁さん祭りという事で良いかな?
というわけでキャラ被りスマソ
今年ももう後一月を残すばかりとなった冬の休日。
草壁さんが朝から我が家にやってきた。今日は一日、夜まで一緒に過ごす約束をしていたから。
だらしない男の一人暮らしを見かねた草壁さんは、まず掃除に洗濯にと働いて家中をぴかぴかに
磨き上げた。
俺も庭掃除を申し渡されて、庭に積もった落ち葉を集めたりしたし。
そしてお昼は草壁さんが手料理をご馳走してくれる事になったので、二人でスーパーまで
買出しに出かけたのだった。
◇
「貴明さん、大丈夫ですか? 重くありません?」
「これくらい平気平気。それにこういう時は男が荷物を持つのが当然……ってタマ姉は
言うと思うから。」
「ふふふっ。環さんは向坂君だけじゃなくって貴明さんにとっても本当にお姉さんみたいな
物なんですね。」
「まあね。昔っから俺も雄二もタマ姉には頭が上がらないから。」
そう言いながら、俺は手に下げた荷物を持ち直した。
俺は両手に大きな荷物をぶら下げながら、草壁さんと二人で家路についていた。
辺りは冬の訪れを感じさせる雰囲気で、道端の木々もすっかり葉を落として冬篭りの
準備は万全といった感じだ。
草壁さんもさっきから手袋をしていない手に白い息を吹きかけていてちょっと寒そうだった。
ぴー……
「あれ、何の音だろう……」
「えっと……あれですね。」
そう言って、草壁さんは道の先を指差した。
道の先から軽トラが蒸気上げながらゆっくりとこちらに向かってきていた。
い〜しや〜きいも〜
おいも〜おいも〜おいもだよ〜
ほっかほかの〜おいもだよ〜
独特の節回しの売り声を流しながら、軽トラは俺たちの目の前まで近づいてきた。
「……」
「……食べたいの?」
ちょっとだけ物欲しそうな表情をしていたので聞いてみると、草壁さんはあわてて否定した。
「いっ、いいえ、そんな事ありませんよ。」
「別に遠慮しなくても良いよ焼き芋くらい。暖まるしね。」
「でも……お昼が食べられなくなっちゃいますし。」
そう言って草壁さんは俺が提げた袋に目を向けた。
中には草壁さんが作ってくれるお昼と晩御飯の材料が詰まっている。
そうこうしているうちに、軽トラは横を通り過ぎていってしまった。
「あ……行っちゃった……」
「いっ、いいんですっ。お芋は女の子の敵なんです!」
えらく力を入れて草壁さんが言い切る。
「太っちゃいますし……それに歩きながら大きな口あけて頬張ってるところとか知らない人に
見られちゃうと恥ずかしいじゃないですか。」
「うーん……俺は男だから、そう言うのいまいち解らないんだよな。」
「もっと女の子の気持ちを勉強してください。」
「はい……」
「じゃあ……私はさっきから貴明さんにして欲しい事があるんですけど、解りますか?」
「えっ?」
……草壁さんは俺の顔をじっと見上げている。
まさかこんな人通りの多いところで……キス……とかじゃないよな。たぶん。
散々頭を絞った後で、さっきから草壁さんが何で素手なのかに気がついた。
両手にぶら下げていた袋をまとめて右手に持ち帰ると、左手を差し出す。
「はい、正解です。」
そう言って草壁さんは右手を出して俺の左手を指を絡めるようにしてしっかりと握った。
そのまま二人で並んで歩き出す。
「♪〜」
草壁さんはとても楽しそうに歌を口ずさみながら並んで歩く。
自然と俺も楽しくなってくる。
草壁さんといるといつの間にか心があったかくなる。
それは草壁さんが俺のことをたくさん「勉強」して、俺が楽しくなるようにいつも考えている
からなんだろうと思う。
だから、俺も草壁さんをなにか喜ばせることは出来ないかと考えた。
……そうだ。
◇
美味しいお昼をご馳走になった後で俺は庭に出た。
庭の真ん中には午前中に集めた落ち葉の山がある。
「貴明さん、何やってるんですか?」
俺が庭に出たのに気がついた草壁さんも庭に出てきた。
「焚き火するんだよ。」
「焚き火ですか?」
「そ。これを入れてね。」
そう言って、アルミホイルで包んだ物を見せた。
「あ、」
「芋を焼くんだ。この間タマ姉の所からおすそ分けで貰ったのがいっぱいあるんだ。」
「で、でも……」
「さっきはああは言ってたけど、本当は食べたかったんでしょ?」
「たしかに魅力的でしたけど……」
草壁さんはまだちょっと躊躇しているので、ちょっと後押しする。
「一緒に食べようよ。それに家なら他の人の目も気にならないでしょ?」
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけですよ?」
草壁さんは躊躇しながらも……焼き芋の魅力に篭絡されたようだった。
◇
ぶすぶすと燃える落ち葉の前、草壁さんと縁側に腰掛けて二人で芋が焼けるのを見守り
ながら過ごす。
北風は流石に冷たいけど、今日は天気も良いので日当たりの良い縁側では薄い上着を羽織る
程度でも十分過ごしやすい。
「なんだかこうしていると、お年寄りの夫婦みたいですね。」
「ああ、なんかそんな感じ。 ……ばあさんや、なんてね。」
「じゃあ私は、何ですかおじいさん、なんて。」
「二人で渋いお茶すすったりして。」
「いいですね。あっ……ちょっと待っててくださいね。」
そう言って草壁さんは家の中に引っ込んだ。
10分ほどして草壁さんがお鍋を持って戻ってきた。
「お待たせしました。」
「何してたの?」
「これを作ってました。」
そう言って抱えていたお鍋の蓋を開けて見せてくれた。
中にはクリーム色の液体がなみなみと入っていた。
「甘酒かぁ。」
「こういう寒い時はこれが一番です。」
「でも酒粕なんてあったっけ?」
「さっき夜の粕汁用に買ったのを使っちゃいました。」
草壁さんはそう言ってぺロッと舌を出した。
「じゃあ、夕食のときに困るんじゃないの?」
「また夕方にお買い物に行けば良いじゃないですか。夕方はタイムセールなんかもやって
ますから
丁度良いです。」
「まあ、それもそうか。夕方も買い物デートとしゃれ込みますか。」
「はい。約束ですよ。」
そう言って二人で指切りする。
他愛も無いことだけど、草壁さんは本当に嬉しそうだった。
芋が焼けるのを待つ間、カセットコンロで暖めている鍋から甘酒をカップに注ぎつつ、
二人でちびちび飲んで話をしながら芋が焼けるのを待つ。
特に草壁さんは猫舌なので話の合間にふうふうやりながらで、ほとんど舐めるようなペースだ。
「あとちょっとかなぁ……」
開始から1時間ほど経って、燃え尽きかかっている焚き火を見ながらなんと無しに呟く。
でも草壁さんからの返事がなかった。
「草壁さん……?」
ぽふ。
返事の代わりに軽い重みが俺の肩にかかる。
横を見ると草壁さんはカップを持ったまま俺の肩に頭を預けて眠っていた。
待ちくたびれたのか、はたまた甘酒の飲みすぎで酔いが回ったのか。
どちらにしても起こすのは忍びないので、草壁さんが手に持っていたカップを取り上げて
横に置くと、あとはなるべく身動きしないようにする。
すぐ傍には草壁さんの小さな頭がある。さらさらの黒髪はいつも通り綺麗に櫛が通っていて、
シャンプーのいい匂いがした。
良く見ればまつげも長い。頬っぺたは白くてすべすべ。
寝息を立てている口元は薄く開いていて、薄く化粧でもしているのかつやつやとした綺麗な桜色だった。
春先に再会してからそれなりの時間を一緒に過ごしてきたけど、こんなに近くで見ることは滅多に無い。
まじまじと観察していると、やがて眠りから覚めたのか草壁さんがもじもじと動き始めた。
「ん……あ。」
観察していた俺の目と、草壁さんの黒く澄んだ大きな瞳が合った。
「えっと……」
「あっ、す、すいません貴明さん。あっ、あのっ、私変な顔とかしてませんでした?
変な寝言とか……」
そう言いながら草壁さんは顔を撫で回してあたふたしていた。
それがあまりに滑稽だったので俺は思わず笑ってしまった
「笑うなんて酷いです。」
「あっはッはっ、ごめんごめん。別に変な顔はしてなかったよ。寝言もいってなかったしね。
それに……」
ふくれっ面の草壁さんのご機嫌を取る意味も込めて、俺はさっき見た寝顔の素直な観想を答えた。
「寝顔がすごく綺麗だった……」
「そ、そんなお世辞いってもダメです。女の子の寝顔を観察するなんてルール違反ですよ。」
「別にお世辞じゃないんだけどな……それはそうと、ほら、焼き芋も焼けたんじゃないかな?」
そう言いながら俺は焚き火を指差す。
残り火がまだくすぶっているけど、枯葉の殆どは燃えて尽きて埋めてあった芋のアルミホイルの
鈍い輝きが覗いていた。
◇
軍手を穿いて、枝で燃えカスの中から芋を掘り出して手に取る。
やけどに気をつけながらアルミホイルを剥がすと、少し焦げ目のついたさつまいもが姿を現した。
次々に掘り出して縁側に並べて少し冷ます。
「ちょっと多すぎじゃないですか?」
かれこれ6本ほど並んだ芋は二人で食べるには確かに多い。でも……
「いや、なんかね……予感が……」
「ああっ、タカ君やきいも焼いてる。このみも食べたいよ。」
「あら、大丈夫なんじゃないかしら。まさか二人で全部食べるとか言わないわよねぇ、タカ坊?」
「あ、環さんにこのみちゃん。」
柚原家の庭から顔を見せたのはタマ姉とこのみだった。
「ほら、やっぱりね。こういう事には鼻が利くんだ……いっ、いたたたたた!」
予想通りの展開にそう言うといきなりタマ姉に頬っぺたをつねり上げられた。
「あら、まるで私達がいやしいような言い方ねぇ。私はそんな風にタカ坊を教育したつもりは
無いんだけど。」
そんな俺をあわてて草壁さんがフォローしてくれた。
「ま、まあまあ、環さん。ほら、焼き芋が冷めちゃいますし。」
「……そうね。タカ坊を問い詰めるのは後でも出来るし、ご相伴に預かりましょうか。」
タマ姉とこのみは雄二と春夏さんの分も入れて4本の焼き芋を渡すと、
「二人のお邪魔しちゃ悪いわ。」と言って、このみを連れて柚原家の方へと戻っていった。
残った俺たちは芋を1本ずつ分けて食べ始めた。
火傷に用心しながら芋を折ると、黄金色の身が顔を覗かせて湯気が立ち上がる。
ぱりぱりの皮をむきながらかぶりつくと芋の風味と甘みが口いっぱいに広がった。
「良く焼けてるよ。」
「はい、じゃあ……あっ、熱っ!」
熱々の焼き芋は猫舌の草壁さんにとっては熱すぎたみたいで、かぶりついたとたんに小さい
悲鳴が上がった。
「大丈夫?」
「舌をちょっと……」
草壁さんの舌を見るとちょっとだけ赤みが増していた。
「ちょっと赤くなってるけど……」
草壁さんはなぜかじっと俺のほうを見ている。
「えっと……何?」
「あの……舌を火傷しちゃいましたので……」
……正直、草壁さんが何をしてほしがっているのか見当がつかなかった。
「降参……どうすれば良いのかな。」
「……貴明さんが……冷やしてくだされば直るかも……キス、とか……」
……草壁さんの顔がほんのり赤くなった。目線もちょっぴり泳いでたりするし。
「えっと……じゃ、じゃあ……頂きます。」
思わぬ提案に俺は変な台詞を口走りながら、そっと草壁さんと唇を重ねた。
少しだけ舌を入れて触れ合わせる。
「ん……」
「えっと……こんなもんでどうかな。」
「はい……もう大丈夫です。貴明さんのキス……甘かったですよ。」
そう言ってくすっと笑った。
「それは……焼き芋の味じゃないかな。」
「そうですね。貴明さんが焼いてくださった焼き芋の味です。」
草壁さんはそう言って、今度はふうふうと良く冷ましてから焼き芋にかぶりついた。
「美味しいです。焼き芋屋さんのお芋より。」
「特別な事はして無いけど……」
でも草壁さんは頭を振って、そしてにっこり笑って言った。
「いいえ、貴明さんの愛情の分、焼き芋屋さんのお芋より甘くて美味しいんですよ♪」
〜おまけ〜
草壁優季のお料理教室「ご家庭で出来る美味しい焼き芋の作り方」
ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーん♪
ちゃかちゃかちゃんちゃん、ちゃん、ちゃん♪
「こんにちは皆さん、草壁優季です。」
「アシスタントの河野貴明です。」
「今日はご家庭で出来る美味しい焼き芋の作り方を伝授しちゃいます。
コツは忍耐ですよ。ではまずお芋を用意しましょう。貴明さんお願いします。」
「はい。これですね。」
「はい、今日は紅あずまを用意しました。焼き芋といえば金時が有名ですが、紅あずまなど
多少安めのお芋でも美味しく出来ます。」
「で、このお芋はどうすれば良いのかな?」
「お芋を用意したら、オーブンレンジを準備します。オーブンモードで温度を200度に
設定したら、天板にお芋を載せて入れます。
この時に直にお芋を置いてしまうと、お芋から出た糖分で焦げて天板にくっついてしまう事が
あるので、アルミホイルを敷いておくと良いですよ。」
「よっと……入れたよ。次は?」
「そうしたらタイマーを20〜30分に設定します。時間はお芋の大きさなどにもよりますので、
何度か焼いて感覚を掴んでください。」
〜30分後〜
ちーん。
「30分経ったよ。もう焼き上がり?」
「いいえ、ここでお芋をひっくり返して、あと20分ほど焼きます。」
「まだ食べられないんだね……」
「はい。美味しいお芋を食べるために今はひたすら我慢です。」
〜20分後〜
ちーん。
「今度こそ焼き上がりかな?」
「はい。取り出して確かめてみてください。」
「よっと……二つに折ってみると……おお、見事な黄金色。」
「じっくり火を通す事でお芋のデンプンが糖化して甘くて透き通った黄金色になるんです。
皆さんも試してみてくださいね。とっても美味しいですよ。ではまた。」
ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃんちゃんちゃーん♪
ちゃかちゃかちゃんちゃん、ちゃん、ちゃん♪
味覚の秋には遅いですが、寒くなると美味しい女性に人気の焼き芋ネタで。
焼き芋をはふはふしながら食べる草壁さんは可愛いと思うんだ。
ちなみにタイトルは芋とフレンチキスから。
フレンチポテトでてこないぞと怒らないでねw
あめぇぇぇぇぇ
だがいいw乙
ぐはあっ
草壁さんとお芋食いてえぇ
俺はよっちと食いてえぇ
なんか書いてる内に長編になってきた・・もうSSじゃないよ、これorz
>>543 案ずるな。『河野家にようこそ』は全91話でもSSだ。『桜の群像』も文庫一冊分くらいあるな
書庫さん乙ですm(__)m
この物語はHMX−17三姉妹と愉快な仲間達の平凡な日常を淡々と描くものです。過度な期待はしないでください。
◇ ◇ ◇
「―― ふぅむ、なるほど。わかり申した。由真めに伝えてみましょう。」
チン―― と、来栖川家の執事、ダニエルこと長瀬源蔵は、話し終えるとその古風な電話の受話器を置いた。
直後、パタン、と玄関の扉が開く。「ただいま〜。」 と入って来たセーラー服の少女は、彼の孫娘、由真。
「おお、おかえり。」 源蔵はにっこりと口髭をたたえた口元を緩ませた。
広壮な居間を通って自分の部屋へと向かう由真。
その後姿を目で追い、おもむろに、コホン、と咳払いをしてから話を切り出す源蔵。 「……あー、由真のぉ……」
ピタと由真の足取りが止まる。源蔵の方へ振り向いた。「……ん?何、おじいちゃん?」
「いくつか話があっての。まず、マウンテンバイクの件じゃが」
「あ〜その話はもういいの。じゃ着替えるから」 と言って、また部屋へ歩み出す由真。
「まぁそう言わんでの、聞いてくれんか。」 苦笑しながらなだめる源蔵。
「ん〜もう。」 と、眼鏡に挟まれた眉間に縦皺を寄せ口をヘの字にし、腕を組んで源蔵に向き直った。
「のう由真。もう小僧を許してやってはやれんかの?来栖川電工の方からも補償の話が出とるし、まぁその辺で手打ち
にしてやってはどうじゃの?」
キッと眉を吊り上げる由真。「そういう問題じゃないの。あの、にやけたあいつに誠意を見せて欲しいの。」
肩をすくめる源蔵。「ふむ……小僧、別段にやけてはおらんかったがの。いまいち頼りない気もするが、割と好印象じゃ
ないか。聞けば無理からぬ事情と思うし……ワシもな、若い頃は随分と無茶をやったもんじゃ。」
「なんであいつらの痴話喧嘩にあたしが巻き込まれなきゃなんないのよ!?あいつ、言うに事欠いて、“そういう運命
なんじゃないか”、とか言ってっ!」
「ふ〜む……まぁ、確かにそういう運命じゃたんじゃろう。間違ってはおらんな。」
「―― ちょっとっ!?おじいちゃん!何よそれっ!?」
「いやまぁな……由真、なんでそこまでムキになるんじゃ?……さてはおぬし、実は小僧に惚れとるんじゃな?」
―― ムッキーッ!額の青筋をピクピクさせ、掲げた両手をわなわなと開いたり閉じたりしながら、由真は激昂した。
「ふざけないでよおじいちゃんっ!なんであんなやつ―― もう知らないっ!」
そうして踵を返し、さっさと自部屋に向かおうとする。
「まぁまぁまぁ!ちと待てい。それはさておいての、話は他にもあるんじゃ。」
ム〜……、と、再び不機嫌MAXの表情で、向き直る由真。
「実はの、やはり来栖川家の執事をしとる親戚の源四郎さんから電話があっての。……知っとるじゃろ?」
「……セバスチャン?」
「そうそう。なら来栖川の綾香お嬢も知っとるな?お付きのメイドロボの調子がおかしいとかで、短期間、代わりのメイ
ドを探しておるんだそうじゃ。」
「ふ〜ん。」 さして興味がないといった風に、受け流す由真。
「そこでじゃ……由真、おぬし……メイドをやってみんか?きっと、ダニエルを目指すよい勉強になると思うぞ。」
―― イッ!?と、思わず冷汗をたらしてのけぞった由真。
「長瀬の一族はの、結局皆、来栖川との関わりの中で生きていくしかないんじゃ。それも執事やメイドのような形での。
源四郎さんのご子息もな、執事は継がなかったが、結局来栖川電工でメイドロボなんぞ作っとるようだしのぉ。」
「―― もう、おじいちゃんっ!あたしはダニエルにはならないって言ってるでしょっ!?」
由真はそういってプイッとそっぽを向き、今度こそ本当に居間を後にし、階段をトコトコと登り始めてしまった。
「まぁ、メイドの話はちと考えてくれ。」
由真の後姿に語りかけると、やおら源蔵は胸に手を当て、妄想に耽り始めた。
「さぞかしメイド衣装は似合うじゃろう……おお……小さい頃の、可愛かった由真めの姿が思い浮かぶ……『ダニエル
になる〜。なる〜。なるぅ〜!』 」
◇ ◇ ◇
姫百合宅。
「うわぁあああ〜〜んっ!ウチ、犯されたぁあああ〜〜っ!イルファのアホォおおお〜〜っ!!」
自分の胸に顔を寄せて泣きじゃくる瑠璃の頭を、よしよしと撫でながら慰める珊瑚。
「犯されたって……瑠璃ちゃん、処女奪われたん?」
心配顔で訊ねる珊瑚。しかし、瑠璃はぷるぷると頭を振る。
「う、ううん……大丈夫みたい……前は。……でも、でも……後ろの穴、奪われてもうた……グスッ……」
「う……後ろ……」
珊瑚は絶句し、両手で口を覆って真っ赤な顔になった。 「い……いっちゃん、マニアックやぁ……」
―― ピルルルルッ!
再び鳴った電話が、唐突に場の雰囲気を一変させた。のんびり屋の珊瑚らしからぬ機敏な動作で、受話器を取る。
「はい、姫百合です。―― あっ、おっちゃん。ごめんな〜さっきは途中で忘れてもうて」
―― 予期していた通り、電話の主は、長瀬のおっちゃん。
電話越しに聞こえてくる喧騒は、HM開発課が相変わらずてんやわんやの大騒ぎである事を示していた。
珊瑚は、つい先刻までのイルファの様子を長瀬に話した。くだんのウイルスに感染してしまったのは、どうやら動かぬ
事実と言えそうだった。
“う〜ん、滅多にデータリンクなんて繋がないイルファが、よりによってこんな時に……色んな意味で宜しくない状況だ
な、それは……” と、長瀬の弱りきった声が。
「どんな風にあかんの〜?」 訊ねる珊瑚。
……ざっと受けた説明は、こうだった。
それは市販機の……つまりは、長瀬が作ったAIを載せた機体を主対象として放たれたウイルスで、その症状を惹起
する要因は、主に感覚器への刺激。そしてAIに働きかける幻覚作用もあるらしい。
しかし市販機ならば、当座の対処なら可能 ―― それは、オーナーなら誰でも出来る――
―― 動かないよう命令してしまえばいい。ロボット三原則まで侵食する内容ではないからだ。
三原則を載せてない試作機の娘達も、完成間近の駆除プログラムで対処出来る目処は立っているようだ。
……HMX−17達を除けば……
社外品の、実験段階のAIに及ぼす作用までは把握出来ないのは、さすがに無理からぬことだった。
身体構造は若干のカスタマイズはあってもリオンとほぼ同一なので、感覚器への影響は想定出来るが、繊細なDIA
がどんな反応を見せるのかは、全くもって未知数……
三原則が組み込まれてない事も、リスクを大きくしていた。
「えぇぇ〜〜?おっちゃん、そらあかんやないの〜。」
珊瑚が困惑の声をあげる。もとより、それは長瀬に指摘されるまでもなく懸念していた要素だったが。
兎にも角にも、イルファの居場所の把握と、あと、ミルファとシルファの感染の有無の確認を急ぐよう促がした長瀬。
「うんわかったわ〜。」 と珊瑚。
珊瑚はもう一つの依頼も受けた―― これは少々骨の折れる話で、データリンクシステムに介入し、感染したメイドロボ
達をリモート下に置いて欲しい、というもの。
そうやって押さえておいて、駆除プログラムを一斉ダウンロードしようという目論みだった。HM開発課でもそれは行っ
ているが、いかんせん人手が足りなかった。珊瑚なら10人分は補って余りある。
「うん、任せてや〜。」 と、胸を叩く珊瑚。―― そうして、当該の機体のIDのリストが次々に送られて来た。
瑠璃は珊瑚の隣で目をパチクリさせながら聞き入っていた。やがて珊瑚が電話を終えると、口を開く。
「なぁ……イルファ、ビョーキなんか?」
「うん……」 と、珊瑚。「はようつかまえんと、あかんみたい。」
瑠璃は押し黙り、すこしの間思案していた。それからまた話し出す。
「イルファ、きっと、貴明んとこやわ。」
それを聞き、コクリと頷いた珊瑚。
瑠璃は受話器を握り、プッシュダイヤルを叩いた。番号は―― 河野家 。
プルルルル……プルルルル……20回以上鳴らしたが、まったく応答がない。
「ダメや。誰も取らへん。」
「……変やね〜。しっちゃんそんな横着するような子やあらへんのに〜……みっちゃんも、着いてる頃やと思うし……」
顔を見合わせる双子。不安の渦が広がっていく。
「貴明に直接連絡取ればええんちゃう〜?」 と珊瑚が言ったので、瑠璃はこのみから聞いていた貴明の携帯にかけて
みる。
―― しかしこれも、すぐに留守電になってしまう。 「あかんわ。バイト中なんやろか。」
データリンクに繋いで、イルファ達と連絡は取れへんの?と瑠璃は訊ねたが、珊瑚はかぶりを振った。
「ダメや。いっちゃんはもう繋がらんし、まだ感染したかわからんみっちゃんやしっちゃんに、そんなリスク侵せん。まだ
サーバーにビョーキの元残ってるかも知れへんのに。」
―― すると、瑠璃はスックと立ち上がった。そしてセーラー服の上にコートを羽織る。
「瑠璃ちゃん?出掛けんの〜?」 見上げて珊瑚が訊ねた。
「ウチ……貴明んとこ行ってみる!」
「そらあかんよ〜。またいっちゃんに手篭めにされてまうかも知れへんよ〜?」
て、手籠めって……瑠璃はうつむいて、赤面してしまう。
やおら珊瑚は受話器を取って、プッシュダイヤルを押した。
「―― さんちゃん、どこへ?」
「うん。困った時の環さんや〜。」
◇ ◇ ◇
ようやくバイトを終え、貴明は自宅へと向かい始めた。
もうすっかり、辺りは夜の帳が下りてしまっている。吐く息も白くなり始めた。
「う〜寒い寒い……もう冬になっちまうんだよなぁ……」
コートくらいは準備しとけば良かったと後悔しながら、貴明はバイト先でのサプライズを思い起こした。
―― なんだって、春夏さんがウェイトレスなんかやってんだよ―― っ!!?
ウェイトレスの衣装が似合いすぎ。スカート短すぎ。……はっきり言って、若過ぎ。20代と言っても、多分、誰も疑わ
ないだろう。
ああやって、自分の若さを誇示したいんだろうか……このみも大人になれば、あんな感じになるのかな……などと
思う貴明。
春夏さんがバイトしてるから、このみは今日自炊するためカレーの材料買いに行ったんだな、とふと思い当たる。
……カレー ……そうそう、今日はミルファがカレーを作ると言って、張り切ってたっけ。またシルファと衝突してなきゃ
いいけど……
漂うカレーの香りを想像しながら、貴明は家路を急いだ。
◇ ◇ ◇
「……ン……」
霞のかかった意識の中、ミルファが目覚めると、周囲は漆黒の闇。
あるいは、まだ夢の中にいるのではないかと思われた。
「……フンムゥゥ……っ!?」
口元に違和感を感じる。やや意識が晴れ始めると、それは、『さるぐつわ』だと判明した。
「―― ンム〜〜〜ッッ!!」
声が出せない。体の方はというと ―― 屈められ、尻餅をつかせ足を組まされている状態で、無理矢理狭いスペース
の中に押し込まれているのだった。
手足を動かそうとする。しかし……紐で後ろ手に縛られており、足首も同様だった。
力ずくで、紐を引きちぎってしまおうと力を込めるが―― まるっきり、力が入らない。
“あ〜う〜最小電力モードだよ〜。自分で動けないよ〜。”
目に映る光景は真っ暗だが、ぼやけた頭の中は真っ白になってしまう。
なんで、こんな状況になってしまったのか ――
ミルファは、意識を失う前の出来事を、なんとか思い出そうとした―― 。
――――
数刻前。
バタンッ!と扉を開き、ミルファは買い物袋を抱えて河野家の玄関の敷居を跨いだ。
「じゃんっ!河野ミルファ参上〜〜っ!!ヒッキー!今日の夕食はあたしの出番だかんね。ダーリン必殺カレー!……
いやホントに死んじゃったらやだけど……邪魔するんなら、勝負っ!指先一つでダウンよっ!」
―― 威勢良く駆け込んだものの、シーンと静まり返る部屋の中の様子に、思わず拍子抜け。
「あれ?……ヒッキー、いないの?」
居間に入ると、TV画面にはレ−スゲームが映っており、ゲームオーバーの表示が出たまま放置されていた。
「ふふ〜ん、ヒッキーめ〜、この間負けたのが悔しくて練習してたら、また目を回してバタンキューってわけねぇ〜……
ぷぷぷ、逃げ足だけは早いくせに、運痴なんだから〜。」
ほくそ笑み、その辺にシルファが転がってはいまいかとキョロキョロ周囲を見回すが、その姿はどこにもない。
「―― う〜ん……まっ、いっかぁ。」
ドサリと食材の袋を食卓の上に置き、学校鞄をかかえて貴明の部屋へと向かった。トントンと階段を登っていく。
貴明の部屋のノブを握り、カチリと回してそ〜っと開け、隙間から顔だけ伸ばして部屋の中を一瞥する。
すると……
“ふぅん……んぁぁん……んふぅ……んはぁぁぁ……”
呻き声とも喘ぎ声とも聞こえる、奇妙な音。
ミルファは視界を音のする方向にずらしていく。
……見てはいけないものを見てしまった気がした。
ベッドの上に横たわっているのは、紺色と白の上着に、紫のプリーツスカートの背中。そこから伸びる黒いニーソの
足。
―― そして、金髪のお下げ。
彼女は、貴明の枕を胸元に抱えていた。そしてその手は―― スカートの中の、そのまた白いショーツの中の秘部を
まさぐりながら、くちゅくちゅと淫らな音をさせ、卑猥な言葉を喘ぎ声に混ぜて発しているのだった……。
“んぁ!んぁ!んぅ!ご、ご主人様の、逞しいのれす。んぅ!こっ、壊れちゃうっ!シルファのおまんこ、壊れちゃう!
んぅ!んはぁっ!いっ、いっぱい、らして欲しいのぉっ!んはぁっ!んはぁぁぁっ!”
ミルファは思わず目をかっと見開いた―― ヒッキーが、貴明とのえっちを想像して、オナニーしてる――ッ!?
「……シルファ、あんた……」
突然の声にギョッとして、シルファは寝そべった体勢で顔を入り口の方に向けた。 ―― その視線の先には、呆然と
立ちすくむ桜色のセーラー服に桃色の髪。
「―― ぴぎゃっ!ミ、ミルミルッ!―― ぴぃぃぃぃぃっっ!!みっ、見ちゃらめぇぇぇぇええええっっっ!!」
シルファは羞恥に顔を激しく紅潮させながら、バネが弾かれたようにベッドの上で上体を起き上がらせた。
「……シルファ、あんた、なんなの……?貴明をおかずにして、えっちな事口走ってオナニーなんかして……一体
……」
信じられないという表情で、ミルファは問い詰めた。
シルファはぶるぶるとかぶりを振る。そして、切なく身をよじり、瞳をうるませ、哀願するような眼差しで答えた。
「が……我慢れきないのれす……止まらないのれす……手が勝手に、動くのれす……ご、ご主人様と、え、えっちな
事したいのれす……ご、ご主人様の、太いの、シルファのここに、入れて欲しいのれす……い、いっぱい、突いて欲しい
のれす。いっぱい、いっぱい、熱いの、中にらして欲しいのれす……ミ、ミルミル、シ、シルファも、えっちに交ぜて欲し
いのれす―― ッ!」
それを聞くと、ミルファの表情は和らぎ、そして「ふっ。」と口元を緩ませる。腰に手を当てながら、言った。
「なぁ〜んだ。ヒッキーもやっぱり、貴明が好きなんじゃな〜い。ホぉ〜ント、素直じゃないんだからぁ。」
―― しかしそう言った後、急に表情はキッと険しいものになる。
「……でもダメ。貴明は、あたしにプロポーズしたんだから。命懸けで、あたしを追ってくれたんだから。あたしだけを
好きって、言ってくれたんだから……貴明は、あたしだけのダーリンなのっ!!」
しゅんとなり、恨むような表情でミルファを見据えるシルファ。
「……そう。ミルファちゃんはわがままな子。いけない子ね。折角シルファちゃんがみんなで幸せになりたいって言って
るのに。お仕置きが必要みたいね。」
―― 突然の背後からの声に、ギョッとなり振り向くミルファ。
しかし、その瞬間には、既に彼女の背の急所には指がめり込んでいた。「あうっ!?」と呻いた後、急激に視界が暗く
なっていく。
消え去る視界の中に、最後におぼろげに映ったのは、青い髪――
―― お、お姉ちゃん―― 。
ズルッと崩れ落ち、床に横たわってしまう。
「……はぁ、はぁ……イ……イルイル……ッ!?」
絶え間なく襲い来る欲情に喘ぎ声をあげながら、シルファはその様子を唖然として見つめていた。
「……はぁ……はぁ……うふふ。これで邪魔者はいなくなったわ……さぁ、貴明さんを、快楽のエデンへとお連れする
のよシルファちゃん……はぁ……はぁ……」
イルファの瞳は、妖しい光をたたえていた。
――――
そして今、暗所に拘束されて、うずくまっているミルファ。
彼女はようやく、事ここに至った顛末を思い出した。
窮屈な暗がりの中、頭では必死にもがこうとするが、手足はまったくいう事を聞かない。
“……うぇ〜ん、ひどいよ〜お姉ちゃん……なんであたしがこんな目にぃ〜?”
真っ暗な閉塞感が、彼女の不安を更に煽るのであった。
“うわぁ〜〜んっ!暗いよぉ〜狭いよぉ〜恐いよぉ〜〜っっ!!助けてっ!助けてダ〜リ〜ンッ!!!”
(つづく)
投下終了です。
乙乙
由真参戦フラグかこれは
源四郎の息子って言われて源六朗?こと長瀬のおっちゃんが出てくるのにちょっと時間がかかった
559 :
名無しさんだよもん:2008/12/17(水) 00:22:13 ID:6PAXPmu30
優季ssを書いてくれた方に最大限の感謝を!!!
長瀬のおっちゃんは源五郎だよ。
たしか源一郎とか源三郎とか祐介の父親もセバスの息子じゃなかったかな。
フランクと源之助と源次郎は知らん。
俺はダニエルとセバスチャンの違いがよくわからん。
セバスチャンは芹香が源四郎を呼ぶ時の渾名、ダニエルは来栖川家の執事の役名みたいなの。
最初同一人かとは思ったけど、よく見ると顔も違うね。2年経って髭とか伸びたのかも知れないけど。
長瀬一族は面長な容姿に特徴がある。多分モデルとかいるんじゃ。
してみると由真は母親似なのかも知れんねw
正直面白くない
この人いっつも、後半に一応見せ場は作るけど前半中盤が必要以上に暗かったり退屈だったり
何編かに分けられるとつまらない話ばっかり続くから、次を読む気が失せちゃう
コンパクトにまとめて、一気に落とした方がいいんじゃない?
それはそうと、容量見ると、もう次スレ移行の時期かと思うが
そういやそうだね
とっくに目安容量過ぎてるな
被ると嫌なので一応予告
0時までスレ立て報告がなければスレ立てするわ
自分は、自分が思いつかない、書けない話を書ける人は尊敬します。
そしてクリスマス頃に合わせてSS書いてたら、PC壊れてデータあぼんしましたとさ・・
>>562 セバスチャン=長瀬源四郎
ダニエル=長瀬源蔵じゃなかったっけ?
ちなみに、長瀬源蔵の名前は愛佳シナリオの4月21日のイベントで出てくる
(古い図書カードのイベントね)
>>562 由真は母親の方が長瀬。たしか駆け落ち後和解で父親は婿養子じゃないかねえ。
だから普通に父親似。
「―― うめぇ。これはうめぇと思うよ、由真。」
ハヤシライスを一口スプーンで放り込んで、貴明は率直な感想を述べた。
「ふふ〜ん、当ったり前でしょ♪」
頭にはカチューシャ。胸が強調された黒と白の、丈短めのスカートのエプロンドレスに黒いガーターストッキングが目に
眩しい、メイド衣装の由真が腕を組み得意顔でふんぞり返った。
ム〜……と、不機嫌顔でその様子を食卓の脇の椅子から窺うミルファ。
「ご主人様、シルファのお食事と、ろっちがおいしいれすか?」 これまた憮然としながら、貴明を問い詰めるシルファ。
「いや、その……どっちがと言われても……ははは……(汗)」
答えに窮し、困惑して手を後ろ頭に廻す貴明。
「愚問ね。こちとら執事の家系に生まれて、1×年間、だてに人間やってきたわけじゃないんだから。経験値とか機微
とか、所詮付け焼き刃のメイドロボさん達と比較されるのは不本意よね〜。」
そう言って、由真はニヤリと白い歯を剥き、それがキラ〜ンと光る。
「ムッカ〜ッ!」
「むきゅううううううっ!」
「……しかし由真さ、こんだけ作れるんなら、何も俺んちでメイドの練習なんかする必要ないじゃん?」
貴明が怪訝な顔で訊ねた。
「ひっ……必要あんのよ!相手は来栖川のお嬢様。おじいちゃんに恥をかかせるわけにはいかないの!」
焦ってムキになりながら由真が返す。
「でもさ、そんだけ大きなお屋敷なら、専属のコックくらいはいるよね?調理の心配までする必要ないじゃん?」
―― イッ!?と、貴明の指摘に大袈裟に後ずさる由真。
「それにさ〜、もうセリオお姉ちゃん直ってるって言うし、時間短いバイトでそんなやる事ないんじゃない?」
「そもそもご主人様の舌と、お金持ちの舌じゃ、基準が違うのれす。ま、シルファは優秀なめいろろぼれすから、ろっち
にも対応可能れすが。」
「―― うっさいわねっ!どんな突発事態にも対応出来るよう準備しておくってのが執事の家の常識ってもんなのっ!」
くわっ!と一喝する由真。
「……で、河野貴明。これも食べてみて。」
おもむろに、鍋からスープをよそり、貴明の前にそれをコトリと置いた由真。
それをまじまじと見つめる貴明。
―― どこか漂う、独特の刺激臭。
記憶を失う前のミルファが持参してきた弁当ほどではないが、あれと同種の、危険な雰囲気が感じられる―― 。
「おい由真、これ何だ?」
「何って―― 普通にメキシコ風のスープ。結構練習して、自信あるんだから ―― 四の五の言わずに、さっさと口に
しなさいよっ!」 手を腰にして、顔を突き出す由真。
はいはい……と、不承不承を極力顔に表さないよう気を遣いながら、貴明はスープをスプーンで一さじすくい、口に
含んでみた。
…………
…………
「クワァ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
ややインターバルを置いてから、だらだらと顔中から汗が垂れ、赤くなった後に青くなり、やがて白目を剥いて悶絶
し、椅子ごとバタンッ!と後ろに倒れ込んだ貴明。
「ダッ、ダーリンッ!?」
「ごっ、ご主人様ぁ〜〜っ!?」
ミルファとシルファが慌てて駆け寄る。ぶくぶくと泡を噴いて倒れている貴明。唇が数倍に腫れ上がっていた。
「あちゃーっ……。綾香さん、辛い四川ラーメン好きだって聞いたから、どのくらいが丁度いいか貴明で実験してみた
んだけど……ちょっと、ハバネロ入れ過ぎたかしら。」
そう呟いて、横たわる貴明を一瞥する由真。
「―― まっ、いいっかぁ。骨は埋めてあげるかんね〜河野貴明♪」
(おしまい)
とりあえず埋め
はいはいおしまいおしまい