新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする―――。
ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。
※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。
※一定のレス数を書き込むと投稿規制がかかるので、レス数の多いSSの投下に気づいた人は
支援してあげて下さい。
※コテハン・作家及び作家の運営するサイトの叩きは禁止。見かけてもスルー。
前スレ
ToHeart2 SS専用スレ 17
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1159710063/ 関連サイト等は
>>2
2 :
名無しさんだよもん:2006/12/19(火) 08:02:30 ID:DbYICpea0
3 :
名無しさんだよもん:2006/12/19(火) 08:04:11 ID:DbYICpea0
カーテンが開けられて、朝の日差しがまだ眠っていた俺の目に飛び込んでくる。
思わず布団を被ろうとすると、誰かの手でそれを押さえられてしまった。
「貴明さん、もう朝ですよ。早く起きてご飯を食べてください。学校に遅れてしまいますよ」
そう言いながら、軽く体を揺さぶられる。
「イルファ、もう後10分、いや5分でいいから。もうちょっとだけ、寝かせて」
イルファの手の動きが止む。
ああ、きっとこれは、イルファが俺のお願いを聞いてくれたんだ。じゃあ、お言葉に甘えて、
あと、10分。
けれどベッドの傍らの、イルファの気配はそこから離れようとはしない。それどころかます
ますこちらに近づいて来て。
「朝ですよ、起きてください。私の旦那様」
耳元で囁くイルファさんに、俺は慌てて跳び起きる。
終
4 :
私の旦那様 あとがき:2006/12/19(火) 08:06:15 ID:DbYICpea0
前スレの容量考えず書き込んで大変失礼しました。
新しくスレ立てましたが、何分初めてのことでこれで間違いないかどうか。
リアルタイムで読んでくださってた方、申し訳ありませんでした。
あ、前レスにタイトル付いてない。
>1乙&>4GJ
この後二人きりの時だけ呼び捨て&旦那様になったり、なんて妄想が広がるSSですな
そうでなくとも当分は旦那様ネタで躾けられそうな貴明デラウラヤマシス
>>1乙!
>>4GJGJ!!
あーこんなに悶えるのも久々だ(*´Д`)
最高だった
でもでもでも、俺はイルファさんにはさん付けし続けたい
草壁さんにも
>7
ひょっとしてアンタいつも「久々だ」とか「いつ以来だろう」とか言ってないか?w
しばらく来てなかったから
河野家20話近く進んでるぜ
追いつくのが大変・・・
保守
保守
河野家、鬱展開にもっていって虹の欠片みたくなったらオワリダナ
河野家は明るく閉めたほうがヨサゲ
日曜日の朝。熱も下がって気分爽快! 念のためとタマ姉にちゃんちゃんこを着せられたけど、
まぁそのくらいは我慢するさ。あと、ちゃんちゃんこ持ってきた雄二、ご苦労さん。
優季の作ったフレンチトーストはすっげえ美味くて、おかわりせずにはいられない。食欲がある
ってことは健康ってことだよな、うん。
だけど、そんな俺の浮かれ気分は、その後の出来事ですっかり吹っ飛んだ。
唐突に現れた、由真のじいさん。そしてじいさんはいきなり由真に土下座をし、家に戻ってきて
くれと由真に懇願する。未だによく分からない由真の家出の理由、それは全て自分が悪かったと言い、
由真のいなくなった家の寂しさを訴え、ひたすら家に帰ってきてくれと頭を下げるじいさん。けれど
由真は、自分はずっとここにいるんだと言い、そんなじいさんに帰れと叫ぶのだった。
「……済みませぬが、もうしばらく孫のことをお願いしますじゃ」
玄関。由真のじいさんが力の抜けた声でタマ姉に言う。
じいさんに「帰って!」と叫んだあと、由真は二階に上がり、自分の部屋に閉じこもってしまった。
そんな由真を説得するのは今は無理だと悟ったのだろう。じいさんは諦めて帰ることにしたのだ。
しゃがんで靴を履くじいさん。その背中がやけに痛々しく見えて、俺は――
「なぁ、じいさん、あのさ……」
けれど、その後の言葉が続かない。今のじいさんにかける言葉が見つからない。
そうこうしているうちにじいさんは靴を履き終え、すっくと立ち上がってこちらに振り返って、
「小僧、お主にも頼むぞ。由真のこと」
そう言うじいさんは何故か笑顔で、けれど余計にその辛さが伝わってきて……
「あ、ああ……」
「では」
俺たちに一礼し、じいさんは我が家を後にした。
「どうしたものかなぁ……」
それまでの楽しい雰囲気から一転、居間は緊急会議の場と化した。議題は勿論、由真のこと。
「由真ちゃん、お爺ちゃんが帰ったって言っても部屋から出てこないね」
テーブルに頬杖をつく花梨。
「どうするの、たかちゃん?」
「どうする、って言われてもなぁ……」
考えてみる。ここは優しく接するべきか、それとも……
「って言うか、貴明センパイはどうしたいんスか?」
「どうしたい、って?」
「決まってるじゃないッスか。由真先輩を家に帰したいのか、それとも帰したくないのかッスよ」
「俺は――」
帰したいに決まってるじゃないか。そう言おうとして、だけど俺は言葉を途切れさせる。
俺は、本当に、由真を、帰したいのだろうか……?
「――帰したいに決まってるじゃないか」
疑問は残ったままなのに、やっぱり俺はそう答えてしまった。
「あいつはここに家出して来たんだ。その原因が自分だってあのじいさんは認めて、土下座までした
んだぜ。なら、あとは由真がじいさんを許してやれば万事解決だろ。
それに、みんなだって聞いたろ、じいさんや由真の両親が寂しい思いをしてるって。そんなの聞い
てさ、由真を帰さないワケにはいかないじゃないか。由真はもう、自分の家に帰るべきなんだよ」
……よくもまぁ、思ってもいないことをこれだけ言えたものだ。我ながら感心するよ。
いや、全く思っていないってワケじゃない。じいさんや由真の両親が可哀想だって思ったのは本心
だし、由真が家族と別れたままなのは良くないとも思っている。
けど……
「――ならタカ坊、あなたが説得しなさい」
そんな俺の迷いを見透かしたのか、タマ姉の俺を見つめる視線はやけに厳しい。
「け、けどさタマ姉、俺なんかが説得したって、あいつきっと言うこと聞かない――」
「家に帰してあげたいんでしょ、由真のこと。なら、ちゃんと説得してあげなさい。
大丈夫、タカ坊が本気でそう思っているなら、きっと伝わるわ」
――逃げ出したいとすら、思ってしまう。でも、逃げ場なんてない。
それに、タマ姉のその言葉にほんの少しだけ心が動く。俺が本気で思っている、か……。
こんこん。
「由真、いいか?」
ドアをノックしてそう尋ねても、由真から返事はない。
「いいか? いいな? 入るからな」
散々念を押し、ドアをゆっくり開ける。
由真は――ベッドの上に座り、ぼんやり窓の方を向いている。
「あ、あのさ、由真――」
「何しに来たのよ?」
う、やっぱ機嫌悪そう。でもここで負けてはいかん、負けては。
俺はわざとらしくハァとため息をつき、
「お前だって分かってるだろ、俺の言いたいこと」
「何それ? 全然分かんないんだけど」
「そうかい、なら言ってやる。
お前、何ムキになってんだよ。せっかくじいさんが自分の方から謝りに来てくれたのにさ。
お前はあのじいさんとケンカして家出したんだろ。だったら、向こうが謝ってきたんだからそれで
いいじゃないか。だろ?
なぁ由真、お前もう家に帰ったほうがいいって。お前のお父さんやお母さんも相当心配してるよう
だし、いい加減に――」
途端、由真が振り向き、
「いいって、言ったじゃない!!」
「え?」
由真の言ってる意味がよく分からない。いいって、何が?
「あの晩、あたしたかあきに聞いたよね。あたし、ここにいてもいいよねって!
そしたらたかあき言ってくれたじゃない、好きなだけいろよってさ!」
……思い出した。確かあれは、このみがちゃるとよっちにこの生活のことをバラして、どうしよう
かって相談した日の晩のことだ。由真がやってきて俺に肩もみさせて、そして――
『まだ……、ダメみたいなんだ。あたし、まだ逃げたままだから。
もう少し、このままでいいよね、たかあき? あたし、ここにいてもいいよね?』
『……ああ、いいよ。好きなだけいろよ』
言った。確かに俺はそう言った。好きなだけいろって。
「あれウソだったの!? たかあき、あたしにウソついたの!?」
「い、いや、ウソだなんてつもりは……」
「だったらさ」
それまで怒っていた由真。なのに、無理矢理それを押し込め、笑顔、のようなものを浮かべ、
「もう一度聞くね、たかあき。
あたし、ここにいてもいいよね。いいんだよね?」
――俺は、由真のこの顔がとてもイヤに思えた。由真にこんな顔、似合わない。
いや、こんな顔をさせているのは俺なんだ。由真だってきっとこんなのはイヤなはず。だから、
「……ああ、いいよ」
そう、答えてしまった。その言葉を聞いた由真は、喜びに顔をほころばせ、
「たかあき!」
俺の胸に飛び込んできた。その意外な行動に頭が混乱し、どうしていいか分からなくなる。
そんな俺に由真はぎゅっと強く抱きつき、
「あのねたかあき。――あたし、たかあきのこと好きよ」
それは、唐突な告白。
けれど何故だろう? 俺はその言葉がちっとも嬉しくなく――いや、由真のことは嫌いじゃない。
だけど今は、こんな言葉を由真から聞きたくないと思ったんだ。
その日から、由真の俺への態度が変わった。
朝は由真が優しく起こしてくれて、朝食も弁当も夕食も由真がキッチンを独占し、そして何より、
由真はいつも俺の側にいるようになった。例え優季が「由真さん、貴明さんにくっつき過ぎです!」
と怒っても、「別にいいじゃない、ねぇ」と俺に笑顔。そして俺も、それを許してしまっていた。
正直に言う。俺は、そんな由真がイヤでたまらなかった。
けれども、それを言ったらきっと由真は悲しむ。ただでさえじいさんのことで心が不安定になって
いる由真なんだ。多分由真は俺に甘えて、いや、俺に助けて欲しいんだ。だから俺も、由真に優しく
してあげなければならない。そんな風に考えていた。
けれど、心の片隅にはいつも「これでいいのだろうか?」と言う疑問があって……
それから、数日後のこと。
由真と俺は部屋で二人きり、対戦ゲームで盛り上がっていた。ちなみにゲームは、最近発売された
ロボットものの対戦アクション。
「――あ、たかあき避けるな!」
「知るか、っての!」
サーベル攻撃してきたところを回り込み、
「うりゃ!」
逆にこっちがサーベルでめった切り。由真の機体の耐久度がゼロになり、爆発。
「うわ〜ん、たかあき酷いよ〜!」
コントローラから手を放し、ポカポカ俺の肩を叩く由真。
「おいおい由真、まだゲーム続いてるって」
このゲームは相手の機体を撃墜するだけでは勝利にはならない。双方決められたポイントがあって、
機体が撃墜されるとポイントは減少し、しかしそれがゼロになるまでは機体は何度でも復活するのだ。
既に由真の機体は復活している。
「えへへ、いけないいけない☆
よ〜し、今度こそ本気出しちゃうからね。覚悟しなさい、たかあき!」
コントローラを再び手に、由真が画面に集中。由真の機体がブーストで俺に急接近。
また格闘戦かよ。ったく、ワンパターンなんだっての。まずは由真が斬りかかってくるのを――
「そこっ!」
「え?」
真後ろから攻撃!? しまった、由真の味方機が後ろに回ってたのか!
「とどめっ!!」
そこに由真のサーベル攻撃。俺の機体は爆発。
『ごめんね。でも君なんかが僕にかなうわけないだろ』
由真が選んだパイロットの台詞。む、ムカつく……!
「こっちはまだ一回しかやられてないんだ。調子に乗るなよ!」
俺の機体が復活。よし、仕切り直しといきますか!
「あ〜面白かった! ね、もう一回やろうか?」
「望むところだ」
再戦決定、機体選択画面へ。さて、どうするか? どうせ由真はさっきと同じ高性能な機体を選ぶ
だろうし、こっちもそれに対抗して高性能なのを選ぶか、それとも――
その時、不意に、
「あたし、さ」
由真の呟き。見ると由真は画面を眺めたまま、
「あんなおじいちゃん、初めて見た」
じいさんのことを、語りだした。
「え……?」
「おじいちゃん、来栖川家の執事なの。だからおじいちゃんが頭を下げるところなんて何度も見たわ。
けど、あんな下げ方なんてしたことない。少なくともあたしは見たことなかった。
なのに……あたしがさせちゃったんだね」
「由真……」
「子供のクセに、って言われたの」
「え?」
子供? 何の話だ?
「あたしね、小さい頃おじいちゃんに約束したのよ。おじいちゃんの後を継いで、執事になるって。
あたし自身も結構乗り気だったのよ。つい最近までは、ね。でも」
そこでばたんと床に寝転がる由真。
「なんか最近になって、それに疑問を感じだしたのよね。あたしはホントにそれでいいのかって、ね。
もっと他にやりたいこと、やれること、あるんじゃないかって。でもさ」
寝転がったまま、由真は俺を見て苦笑いし、
「なーんにも思い浮かばないのよ、実際のところ。
執事になるのは気が進まない。けれど、なりたいものが分からない。
そんなの言われたら、おじいちゃんじゃなくたってワケ分かんないよね。だけど、それが今思って
いることなんだって分かって欲しくて、おじいちゃんにそう打ち明けたの。
おじいちゃんもね、きっとあたしのこと真剣に考えてくれたんだと思う。次の日からおじいちゃん、
大学のパンフとか、いろんな資格のガイドブックとかをあたしに持ってきてくれるようになったの。
だけどあたしにはそれが何か鬱陶しくてさ。おまけに」
由真はそこで吹き出し、
「見合い写真まで持ってきたのよ。相手はええと……どっかの医者の息子だったかな?
で、その見合い写真がトドメだったのよね。あたし、キレちゃったのよ。
『いい加減にしてよおじいちゃん! あたしの将来はあたし自身で決めたいの、おじいちゃんは余計
な口出ししないで!』って。そしたらさ、それまでニコニコしてたおじいちゃんも流石に堪忍袋の緒
が切れたのかなぁ」
由真は眉をつり上げ、じいさんの口マネっぽい低い声で、
「『ロクに世間も知らぬ子供のクセに、偉そうな口を叩くでない! わしがお前のためを思って路を
示そうとしているのが分からんのか、この馬鹿者が!!』
そんな風に怒鳴られたら、あたしも頭に血が上っちゃってさ、勢いで家を飛び出しちゃったワケ」
……成る程、そう言うことだったのか。由真が家を出た理由。
「けどまさか、おじいちゃんの方から謝りに来るだなんて思ってもいなかったなぁ。だって」
由真はごろりと寝転がり、こっちに背を向け、
「悪いのはあたしだもんね、どう考えたって。
いくらおじいちゃんがお節介でも、余計な口出しするなだなんて言い過ぎだものね。しかもあたし
は、子供の口約束とは言え、おじいちゃんの後を継ぐって約束してたのに、さ」
「由真、じゃあお前――」
「ホントはね、ずっと前からそれに気付いてた。いつか折を見て、おじいちゃんに謝りに行こう。
そして許してもらえたら、家に帰ろう。そう思ってたんだ。だけど――」
「ここの生活が楽しかったから」
唐突に、背後から声がした。
振り返ると、そこには――
「る、瑠璃ちゃん!?」
いつの間にか、瑠璃ちゃんがいた。瑠璃ちゃんは由真を見つめ、
「ここの生活が楽しくて、貴明や環たち、このみや郁乃たちと一緒にいる時間が楽しくて……
そうなんやろ、由真も、そうなんやろ?」
「瑠璃ちゃん……」
由真が驚いた顔をしているのは、瑠璃ちゃんが突然現れたからだろうか、それとも、瑠璃ちゃんの
言葉に対してだろうか?
少し間をおき、由真は、
「……そうだよ」
ポツリと、そう答える。
「その通りだよ。瑠璃ちゃんの言うとおり。
瑠璃ちゃんや環さんたち、それに愛佳や郁乃ちゃんたちとも一緒で、とても楽しいよ。
それに今は」
不意に、由真が俺の腕に抱きついて、
「たかあきが好きだから。たかあきと一緒にいられて、とても楽しいの」
はにかむ由真。それを見た瑠璃ちゃんは――
つづく。
帰宅が遅れたせいで、投稿が遅れました。
どうもです。第85話です。
この間アク禁で休んだばかりですが、また次週もお休みします。
こんな中途半端で一週休みというのもなんですが……そう言えば去年もそんな感じだったような(^^;
それではみなさん、良いお年を。ノシ
>>24 乙
思ったより欝ってほどじゃないな
むしろ、ちょっとハートフルではないか
>>24乙。
失敬ながら深く考えることなく読んできたけど河野家が俺の生活に結構深く入り込んでいたな
休みになったときなんか一週間が長くなったような感覚に襲われていたよ
職人方も住人もよいお年を。
>>24 乙
デレ期?なんだろうか
鬱というよりシリアスなんじゃ
なんにしろ楽しみ
乙。
これは次回鬱展開の予感・・・
こういうの、鬱とは言わないねえ
そもそも鬱ってのは読み手の受ける感触なわけでね
河野家氏乙。
由真と貴明がやってるこれは連ザIIPlusかな?
こっちは今現在黙々とミッションモード進行中だったり。
河野家乙です
由真に萌えました
河野家さん乙!
…これは瑠璃ちゃんとの勝負フラグだろうか?
出来る限りは穏便に済んでほしいところだが
河野家乙。
キラ様キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
河野孝之に改名汁
あの日、夜の校舎で出会ってから早数年が過ぎた。
その月日は、初めて出会ってからは十数年になる。
俺は今でも彼女と一緒にいる。
共に就職先も決まり、卒論等の諸々も終わって後は卒業を待つのみだった。
そんな状況なので、毎日が日曜日な俺達は、平日の昼という人通りの少なめの商店街を歩いていた。
「ところで、優季」
「どうしたんですか、貴明さん」
正式に付き合い始めてから、草壁さんはやめて下さいと言われ、意識して優季と呼ぶようにした俺。
いつの間にか意識しないで呼ぶようになっていた。
何でダメなの?なんて野暮な質問はしない。
優季は草壁さんだけど、草壁さんじゃないから。もちろん高城さんでもない。
「貴明さん、どうかしました…?」
「ああ、ごめん、ちょっと考え事してた」
「もう、しっかりしてくださいね?」
「うい。で、ホント家で良いの?遠慮しなくていいよ?」
「ええ、久しぶりに二人きりのお茶会でもしましょう」
「まぁ優季が良いなら」
今のは、今日の目的地の話だ。
俺は、ポケットに入ってるものを確認する。
「貴明さん、さっきからどうしたんです?」
「いや、なんでもないよ」
「ウソはよくないです。もしかして…浮気ですか?」
俺は、まさか勘づかれたのかと思い、ヒヤヒヤしたが、違うとわかり、少し安堵の息。
しかし、間もなく明らかに厄介な勘違いをされている事に気付き、慌てて否定する。
「違うって。そんな、裏切るような事はしないよ」
「本当に?」
「うん」
だからこれを用意したわけだし……。
♪♪
色々話しているうちに、我が家に到着。
先にも出たが、家には誰もいない。つまり邪魔もないが、逃げ場もないってわけだ。
余談ながら、両親は今度は海外旅行。数日後には帰って来る予定だ。
「お邪魔します」
律義にもそんなことを言う優季に、俺は苦笑混じりに言う。
「別にいいよ、そんなこと言わなくて」
そんな俺に対し、優季は、
「人に対してだけでなく、その家にあるものに対しても言う言葉だと、私は思うんです」
なんて大まじめに返答。
「そんなもん…?」
俺は、思わず聞いてしまう。
「ほら、貴明さんだって学生時代、誰もいない家に帰って来て、ただいまって言いませんでした?」
俺は昔のときのことを思い出す。
「ん…あぁ、確かに、言っていたかな…」
「それは、家にある物に向かっての言葉なんですよ」
優季の言葉に、俺はひとつの素朴な疑問が浮かぶ。
「それって、癖で思わず、とかじゃなくて?」
「ええ、違います♪」
優季は微笑みながら言った。
なんだかなぁ、とも思ったけれど、優季のそういう発想は、素直にすごいと思った俺だった。
「少し待ってくださいね、今淹れますので」
リビングに着くと、勝手しったる人の家と言わんばかりに、ティーセットの用意をし始める優季。
何度も家に来て、しかもお茶会をやっているため、母さんだけでなく、時々父さんとも一緒にやるときもあった。
両親共に大好評なのは言うまでもない。
なので、優季は俺以上にカップ等の置き場所を知っているだろう。
「なんか手伝えること、ある?」
「大丈夫です、いつも通り座っててください」
「りょーかい」
優季は柔らかな笑みで言ったので、俺は素直に従った。
「♪♪♪〜♪♪♪〜」
優季は鼻歌を歌いながら用意を進めていく。
紅茶の、良い匂いが漂ってくる。
この匂いは……たしか。
「アールグレイ…かな?」
「わあ、よくわかりましたね」
優季がティーカップとティーポットをお盆に載せて、やってきた。
「ん?俺、今、口に出してた?」
「ええ」
「そりゃ恥ずかしいな」
俺は、照れ隠しで笑いながら長柄言う。
「ふふ、貴明さん、可愛いですよ」
その言葉に俺は、優季の額に、こつん、とデコピンをする。
「きゃっ……もう、貴明さん、ヒドイですよ」
「ごめんごめん、つい…」
そういって謝る俺の目の前に、優季の手。
それは、親指と中指で輪を作り、俺の額をこつん、とはじく。
「いつっ」
「ふふ、どうですか?貴明さん」
「やったなー!」
俺は、両手でデコピンの構え。そして、乱れ撃ち。
「きゃ、いや、貴明さん、やめてください」
う、今度はホントにやりすぎたかも…。
「ご、ごめん」
草壁さんは、デコピンを止めた俺を、少し膨れた顔で見つめてくる。
「ほんとにそう思ってるんですか…?」
「う、うん、そりゃもう…」
「では、紅茶が少し冷めるまで、一緒に待ってくださいね♪」
「え゛……」
猫舌の優季にあわせると、俺にはぬるいんだよなぁ……。
「反省、してくれてるんですよね♪」
笑顔で言う優季。
「で、でも、これとそれは話が……」
「反省、してくれてるんですよね♪」
もう一度、同じ笑顔で言う優季。
「はい……」
優季の策略に俺が従う以外に術を持ち合わせていなかったのは、言うまでもない。
♪♪
「もうこんな時間か……」
電気をつけるときにやっと時計を見てみると、もう18時を指していた。
「楽しい間は、時間の進みが早いですよね」
「本当にそうだね」
窓越しに、飲み込まれそうな漆黒の空と、街の明るさに負けじと光っている星が見えた。
「暗くなってきたし、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
俺から切り出したのには意味があった。
「そう……ですね」
俺の言葉を聞き、少し残念そうな顔の優季。
「片付けは後で俺がやっとくから、いいよ」
「戻す場所、わかりますか?」
えーっと…いつも優季が置いてるのは……と。
「ちょっと自信ないけど、多分大丈夫だと思う」
「変な場所におかないでくださいよ?」
優季はさっきの顔のままいたずらっぽく笑う。俺は苦笑でそれに応える。
「さてと、暗いし家まで送っていくよ」
「まだ18時ですし、大丈夫ですよ」
ここは何としても首を縦にふらせないと。
「俺が、優季と少しでも長く一緒にいたいんだ。ダメかな?」
決して嘘ではないけど、真の目的は別にある。
「わかりました、お願いします♪」
残念そうな顔から、一気に綻んだ顔になった優季。
やっぱり優季は笑顔のほうが良いよな……ってなに惚けてるんだ、俺は。
俺は急いでコートを取り優季の方を見ると、既に準備完了だった。
「電気、消しますね」
「ごめん、お願い」
明かりが消えて、暗くなった部屋を後にした俺達は、限界を経由して外に出た。
「んじゃ、行こうか」
「はい♪」
施錠をし、二人一緒に並んで歩き始める。
底なしかと思わせる闇のなか、輝く星の存在で初めて夜空という事が認識出来る。
「そういえば、こんな日の夜の学校で、優季とあったんだよな…」
「そうですね……」
「今思えば、本当に『運命的』……だね」
結局、なんで優季があの日あの場所にいたのかは未だにわからない。
でも、理由が分からないからこそ、『運命的』なんだと思う。
「偶然に偶然が重なった、奇跡に近い確率。
そんな中で出会った私達は、『運命的』としかいいようがないですよ」
同じように夜空を見上げながら言う優季。
「私がが新聞の記事を見なたから。
貴明さんがあの日学校にレポートを取りに行ったから。
雨が降って、誰かがアメオニをやろうと言ったから。
もしこのひとつでも欠けてたら、前に話した昔話の海底にあった都市のように、
私達がこうして一緒にいることはなかっただでしょうね…」
前に話した昔話ってのは多分、漁師の話だろう。いつかに優季が話してくれた昔話。
「あの時優季は、違った未来も見たいって言ってたけど、今回も?」
俺はさりげなく聞く。
「そんなの…」
優季はこっちに向き直る。
「見たいわけないじゃないですか」
「そういってくれて、よかったよ」
笑顔で言ったその言葉を聞き、密かに安堵の息をつく。
そして、それと同時に俺は決心した。
「ねぇ優季、ちょっと時間ある?」
「大丈夫ですよ」
「んじゃ、ちょっと付き合ってくれる?」
「良いですけど、何にです?」
不思議そうな顔で聞く優季に俺は一言。
「秘密」
「言えないようなことなんですか?」
暗くてよく見えないが、優季の顔が少し赤くなった気がした。
「多分想像してるのとは違うよ」
「そ、そうですか…」
そして少し残念そうな顔。
いやいや、そんな顔されても、場所が場所ですし期待されましても…。
♪♪
灯の少ない公園のベンチは、やはり暗い。
でも、星がよく見える。
あの日…優季の事を思い出したあの日の学校の屋上のように。
「優季、あのさ…」
「はい?」
俺は軽い深呼吸を一つ、心拍数の上昇を抑える。
「ヤクソク、覚えてる?」
優季はうーん、と考えて言う。
「遊びに行く約束ですか?」
「いや、違う。すごい昔……十数年前のヤクソク」
「それって……」
優季は、思い当たるものがあったのか、少し驚いている。
「覚えててくれてた?」
「はい…」
―――それは、優季が「高城さん」じゃなくなる前にした、ヤクソク。
『……わ、私……どうなってしまうのかな?
何もかも変わっちゃうし……無くしちゃうし……。
河野くんがいつも呼んでくれた高城さんじゃなくなってしまったら…。
私は……誰になってしまうのかな?
変わってしまった私を、きっと河野くんもわからなくなってしまうんじゃないかな?』
『だったら!
僕の河野って名前をあげるよ、高城さん。
ほら、新しい名字が、気に入らなかったりなじまなかったりした時は、いつだってかえられるよ、これで』
『河野くん!
そ、それって……』
自分はどうなってしまうんだろう、と不安に怯えていた優季に俺がしてあげれた、ただ一つのヤクソク。
そんな大事なヤクソクを、俺はまだ履行していない。
だが時が満ちた今、その履行をするべき時だ。
「これからは俺の名字、使ってもらえないかな…?」
そう言って、ポケットに忍ばせておいた夜空に輝く星と同じ色をした宝石のついた指輪を差し出す。
頭を下げながら差し出しているため、優季の表情はわからない。
時が止まったのかと錯覚するほど長い時間と静寂。
ただ一つわかるのは、優季がまだそこにいるということだけだ。
何も動きがない。静止画をみているような視界。
そこに、初めて現象が起きた。上から、水滴が落ちて来たのだ。
雨か…?と思ってあげた顔にうつる優季の顔。
呆然としていて、頬には涙が伝って落ちた後がある。
「ゆ、優季、大丈夫…?」
「は、はい!」
俺が声をかけて、ようやく我に帰ったような優季。
「すいません、びっくりしちゃって…」
そう言いながら、コートの袖で、涙を拭く。
「本当に、私で良いんですか?」
優季は、俺の目を真っ直ぐに見つめて、言う。
だから俺も、同じように真っ直ぐに見つめ返し、答えた。
「優季以外にはいないよ」
そして俺も、もう一度問い掛ける。
「俺と、結婚してくれないか?」
優季は、俺が今までみたことない程の笑みを浮かべて言った。
「はい」
「ありがとう」
俺は優季を抱きしめた。優季も応えるように返してくる。
突然の別離。そして再会。
数多の偶然が織り成した運命的な出会い。そしてたった1つのヤクソク。
遠くの灯りと月明かりが照らす静寂の中、ヤクソクの履行は、確かに行われた。
44 :
↑の作者:2006/12/29(金) 18:33:10 ID:DLSNik2F0
こんばんは。今年最後は、初の草壁さんでいかさせていただきました。
去年の冬のNY書いていた時期と被ったためか、似たような感じになったような気がします。
後、知ってる方は知ってると思いますが、冬のNY意外にも個々の単語が、
あれに影響されているのに多分気づくかと^^;
草壁さん発挑戦ということで、今まで以上にキャラが違ってるかもしれません。
もし、気に食わなかったりしたらスイマセンです(´・ω・`)
河野家さんの流れの中、失礼しましたー。
一瞬ヤケクソに見えたとか言うのはすごいどうでもいい話だよね
ともあれ乙
だがそれがいい。
限界を経由して?
君達が何を言っているのか解らないよ
クソミソ乙。
結構良い雰囲気の話だったな。
ただ、草壁さんと優季が一部ごっちゃになってる。ま、本編ではずっと草壁さん
だったから仕方ないかもしれないけど。
今週は河野家休みだったのか
「無かったことにして欲しいの」
ささらの最後の言葉はそれだった。
クリスマスまであと1週間、NY行きの準備は万端、後は冬休みを待つだけになっていたあ
る日のことだった。
NYのささらとのコミュニケーションが滞りがちになったのは10月の終わり頃からだった。
それまではお互いにメールや電話でほぼ毎日連絡を取り合っていた。
それがだんだんとささらからメールの返信が遅れるようになり、電話しても留守だったり
時間がないとかですぐに切られたりするようになった。
最近は全くメールの返事は来ず、ようやく電話で捕まえたと思ったらささらの口から飛び
出したのは別れ話だった。
何を言っても返ってくる答えは「わかれて欲しい。貴明さんは悪くない。悪いのは自分」
の一点張り。
せめて理由を説明して欲しかったがそれもかなわず、最後の言葉を残して一方的に電話は
切れた。
冬休みまで待つなんて出来なかった。その足で空港に行きキャンセル待ちをしてNY行きの
便に飛び乗りJFK空港に降り立った。
飛行機の中では一睡も出来なかった。いったいささらに何があったのだろう。単に心変わ
りして他に好きな人が出来たというならそれでいい。
ささらが幸せならそれでいいんだ。でも、もしささらの身に何か良くないことが起きたの
だとしたら、俺は絶対にささらを諦めたりしない。
たとえ何があってもささらの手を離したりはしない。ずっとそんなことばかり考えていた。
>>56 冬休みまで待つなんて出来なかった。その足で空港に行きキャンセル待ちをしてNY行きの
便に飛び乗りJFK空港に降り立った。
飛行機の中では一睡も出来なかった。いったいささらに何があったのだろう。単に心変わ
りして他に好きな人が出来たというならそれでいい。
ささらが幸せならそれでいいんだ。でも、もしささらの身に何か良くないことが起きたの
だとしたら、俺は絶対にささらを諦めたりしない。
たとえ何があってもささらの手を離したりはしない。ずっとそんなことばかり考えていた。
右も左も判らず、言葉も通じない異国の土地、普段の俺ならどうして良いか判らずおろお
ろするだけだったろう。
でも今の俺の心を占めるのはささらに会いたいという強い気持ちだけ。
その気持ちだけででたらめな英語と身振り手振りでタクシーを捕まえてささらの家にまで
たどり着いた。
玄関の前に立ったとたん弱気の虫が起きてきたが意を決してインターホンを押すとささら
の母親が出てきた。
驚いていたが訳を話すとささらの部屋へ案内してくれた。
そこで見たのは変わり果てたささらの姿だった。
どうやらアメリカのヤックはささらには量が多すぎたようだ。
ちゃんちゃん。
>>57 いや、ささらってジャンクフードしか食べられなくてもアメリカでは食べ物に困らないなーとか思ったり
したもんで。
はわわ、コピペミスってる。
一発ネタでこんなミスしてちゃ駄目だろ>自分
>>59 巣におかえり。
ここはあなたが居るべき場所ではないの
>>58 うまい!って言うか途中で止めてやれよささらママ。
そこでささらに合うような筋肉隆々とした男になると決意しなければ
ほしゅ
64 :
名無しさんだよもん:2007/01/08(月) 00:26:00 ID:J9p7VqVrO
ほす
sage忘れたorz
河野家マダー?
そろそろ河野家来る頃か?
二階の部屋に籠もってしまった由真。じいさんは説得を諦め、帰っていった。
このままではいけない。そう思いつつも俺の心には迷いもあって……。けれど俺は結局、由真を
説得するために部屋に行った。
けれど、俺は由真を説得どころか、過去の言葉を引き合いに出され、由真がこのままいてもいいと
認めてしまう。その言葉を聞くなり由真は俺に抱きつき、「好き」と俺に告げる。だけど……
それから数日後。俺と二人でゲームをしていた由真はポツリと語り出す。じいさんの後を継いで
執事になることに疑問を覚え、だけど他にやりたいことも見つからず、ならばとじいさんが色々な路
を示してくれるのにもウンザリで、しまいにはじいさんに子供が生意気な口を叩くなと怒鳴られ、
勢いで家を飛び出してしまった。――それが、由真の家出の理由。
そして由真は、自分が間違っていることもちゃんと分かっていて、いつか折を見てじいさんに謝り、
家に帰るつもりだったと打ち明ける。けれど、ここでの生活が楽しくて、いつしかそれを忘れていた
ことも……。そんな由真の気持ちを言い当て、そして瑠璃ちゃんは――
「ホンマにそれでええの、由真?」
真剣な目で瑠璃ちゃんがそう尋ねる。
「え……、どうして?」
聞き返す由真は、どこかとぼけてる感じ。
「おじいちゃんもお父さんもお母さんも、みんな由真がいなくて寂しい言うとるんやで。
それ放っといて、由真、ホンマにええの?
自分だけ楽しい思いして、家族のことはどうでもええなんて、そんな――」
「じゃあ、あんたはどうなのよ?」
由真の口調が変わった。見ると由真の顔が険しい。
「人のこと偉そうに言うけどさ、あんたはどうなのよ?
大好きなお姉ちゃんと別れて最初はわんわん泣いてたクセに、今じゃすっかりここに馴染んでる
じゃない。あんただってここの生活が楽しんでるんでしょ。たかあきたちと一緒で楽しいんでしょ。
そんなあんたが、あたしのこと言えるワケ!?」
「おい由真! その言い方は――」
「ウチはちゃうもん!」
真っ赤な顔で叫ぶ瑠璃ちゃん。
「う、ウチはちゃうもん! 今かてさんちゃんトコ帰りたい思てるもん!
せやけど、せやけど、ウチらケンカ中やから、だから――」
「ウソ」
「!?」
瑠璃ちゃんの言葉を一言で切り捨てる由真。
「ホントに帰りたいなら帰ればいいじゃない。あの珊瑚ちゃんだもの、きっとすんなり家に入れて
くれるわよ。それで一件落着、何もかも元通りってね。
ケンカとか言ってるけど、それって瑠璃ちゃんが謝っちゃえば済むことじゃないの? ゴメンね、
やっぱり私が悪かったです。これからはイルファも一緒に仲良く暮らしましょ。そう言っちゃえば
済むことじゃない。何がケンカよ、大げさな」
「おい由真!」
違う、それは絶対に違う! そんな簡単な話なら、そもそも瑠璃ちゃんが珊瑚ちゃんと離れる意味
なんてない! そんなことくらい由真だって分かってたんじゃなかったのかよ!?
さすがに頭に来たので、俺は由真を怒鳴りつけようと――
パンッ!
「……え?」
それよりも早く、瑠璃ちゃんが由真の頬を叩いていた。
叩かれ、呆然とする由真。だけどたちまちその顔が怒りに染まり、
「何するのよ!」
「バカにするなぁ!!」
パンッ!
二発目のビンタ。それも、さっき叩いた左頬をもう一度。
この時、きっと由真の中で何かがプチンとキレたのだろう。それまでずっと俺のとなりで座って
いた由真はすっくと立ち上がり、そして、
パンッ!
お返しのビンタを瑠璃ちゃんの左頬に見舞う。それも本気で。
その強さに瑠璃ちゃんはよろけ、倒れそうになる。
「瑠璃ちゃん!」
慌てて立ち上がった俺だが、瑠璃ちゃんは倒れなかった。
叩かれた左頬を痛そうに手で押さえ、たちまちその目に涙が浮かぶ。そして――
「う、うわああああああああああああ!!」
由真に飛びかかる瑠璃ちゃん。その勢いで二人とも床に倒れる。
「こ、この!」
「由真のアホ! 由真のアホぉ!」
由真の上に乗り、泣きながらポカポカ殴りまくる瑠璃ちゃん。
下になってる由真も負けじと殴り返すが、どっちもデタラメに腕を振ってるだけであまり当たって
はいない。その内にバランスを崩したのか瑠璃ちゃんが横に倒れ、二人とも寝転がった状態に。だが
二人はその状態で、今度は、
「うわーっ!」
「このーっ!」
由真の腹や脚を蹴りまくる瑠璃ちゃんと、瑠璃ちゃんのお団子髪を掴んで引っ張る由真。現在の
ところは双方互角といったところ――って、なに呑気に実況してんだよ俺は!?
「お、おい二人とも――」
慌てて止めようとする俺だったが、
ゲスッ!
「ぐえっ!?」
る、瑠璃ちゃん、なんてところを蹴ってくれますか……バタン。
バンッ!
「ど、どうしたのタカ坊!?」
騒ぎを聞きつけたのか、タマ姉たちが駆けつけた。
「わ! 由真ちゃんと瑠璃ちゃんがケンカしてる!」
寝ころんだままで取っ組み合ってる二人を見て驚く花梨。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて――」
慌てて駆け寄ろうとする優季の腕を何とか掴む。ダメだ、優季じゃ止められない。
「た、タマ姉……」
深刻なダメージによる呼吸困難の中、何とか声を絞り出してタマ姉に助けを乞う。
するとタマ姉、しばしじーっと二人を見つめ、そして、
「このまま、やらせましょう」
は?
「な、何言ってんだよタマ姉、止めないとダメだろ……」
そう訴えるが、タマ姉はやけに落ち着き、微笑みさえ浮かべ、
「いいからいいから」
タマ姉に言われ、二人のケンカを止められず、見ているしかない俺たち。
二人のケンカは激しさを増していく。由真が引っ張るうちに瑠璃ちゃんのお団子髪はほどけ、その
逆に瑠璃ちゃんも由真の髪を引っ張り、お互い相手を叩いたり蹴ったり。ほ、ホントに止めなくても
いいのかよ? とタマ姉を見るも、タマ姉はじっと見守るばかり。
けれど、二人のケンカはそんなに長くは続かなかった。
いくら普段俺を殴ったり蹴ったりしてると言っても、由真も瑠璃ちゃんも普通の女の子。ケンカ
慣れなどしてないのだから、体力が長く保つはずもなかったのだ。二人はみるみる体力を失い、段々
と手数脚数が少なくなり、そして二人、手や脚が止まったかと思ったらバタリと倒れ込んだ。
「……はぁ……はぁ」
「……はひ……ふぅ」
息も絶え絶えな由真と瑠璃ちゃん。
「お、終わったみたい、ですね」
「ああ、そうだな」
優季にそう答え、改めて二人を見る。
二人ともボロボロだ。瑠璃ちゃんのお団子髪はほどけ、由真の髪もボサボサ。おまけに二人とも服
がメチャメチャに乱れまくっており、由真に至ってはスカートがめくれてパンツ丸見え(勿論俺は
気付かぬ振りをしてる)。けれど、あれだけ派手に暴れた割には、見る限り外傷はなさそうだ。せい
ぜいお互いの頬が赤くなってる程度。不幸中の幸いと言ったところか。
「ねぇねぇ、たかちゃん」
花梨が小声で話しかけてくる。
「ん、何だ花梨?」
「これって、あのパターンかな?」
「あのパターンって?」
「ホラ、ドラマや漫画なんかであるじゃない。ケンカが終わって大の字に寝転がってと来たら、次は
アレだよアレ!」
『……はぁ……はぁ、や、やるわね、瑠璃ちゃん』
『……はぁ、……はぁ、ゆ、由真も、な……』
『……はぁ、……はぁ、……ふ、ふふふっ』
『……ぷ、くす、くすくすっ』
『『あははははははははははははははは!』』
「いや、ないない」
「ええ〜?」
不満そうな花梨。けどそれはすぐに証明された。
「……も、もう終わり? た、大したことないわね」
「……ゆ、由真こそ、弱っちくて話にならんわ」
「ウソつき。もうヘロヘロで立てないじゃない」
「そっちだって立てないやんか。由真のウソつき」
「別にウソなんかついてないわよ。今は立ちたくないから寝てるだけだもの」
「ホラ、やっぱウソつきやん。ホントに立てないクセに」
「じゃあ、あんたはどうなのよ? 立てるの?」
「……う、ウチは、その……、き、休憩中や」
「何よ、そっちだってウソつきじゃないの」
「ウソつきにウソつき呼ばわりされたない」
「やーい、ウソつきウソつき」
「な!? う、ウチがウソつきなら、ゆ、由真は大ウソつきや!」
「お、大ウソつき!? な、ならそっちは大大ウソつきよ!」
「そ、そんならそっちは大大大ウソつきや!」
「だったらそっちは大大大大ウソつきよ!」
「大大大大大ウソつき!」
「大大大大大大ウソつき!」
……小学生、いや、それ以下だな。
さすがにここまでの低レベルな展開は予測していなかったのか、タマ姉も呆れ気味。
「……ま、放っておきましょ」
その言葉に従い、俺たちは部屋を後にした。
とは言え、やっぱり二人のことが気になって仕方がない俺。
少し時間をおいた後、こっそりと二階の部屋を覗いてみる。すると――
「――あ〜あ、なんかバカみたいだね、あたしたち」
「……うん、せやな」
怒りが収まったのか、それとも単に疲れただけか。相変わらず寝転がったままの二人は口ゲンカを
止めていた。
「瑠璃ちゃん、大丈夫? 血が出てたりとかしてない? 一応、引っ掻いたりはしなかったつもり
だけど……」
「うん、大丈夫。ちょっとほっぺたが熱いだけ。そっちこそ大丈夫なん?」
「顔は……うん、こっちもほっぺたが熱いや。あと脚も痛いかな。散々蹴られたからね」
「あ……、そ、その……」
「ああ大丈夫大丈夫。せいぜい青あざ出来てる程度よ。謝らなくていいってば」
「う、うん……」
……仲直り、してるっぽいな。さっきの花梨じゃないけど、ちょっとベタかも。
「……瑠璃ちゃんには、見破られてたんだね」
ん、見破られてた?
「……うん」
「ま、無理もないか。このあたしがたかあきにベタベタするなんておかしいもんね」
ほんの少し間をおいて、由真はよいしょと身を起こし、
「そう。瑠璃ちゃんの言うとおり。
ホントはさ、お父さんやお母さん、それにおじいちゃんのことが気になって仕方なかった。でも、
みんなと離れるのがすっごくイヤで、それで、自分の気持ちを誤魔化そう誤魔化そうって……
たかあきに甘えるのがさ、一番誤魔化しやすかったんだよね。なんかこう、気持ち的に」
由真、お前……
「でも、もうダメだね。あ〜あ、仕方がないか。こうなったら覚悟決めて――」
「う、ウチも!」
瑠璃ちゃんもガバッと身を起こす。
「ウチも、ウソつきや! 由真のこと偉そうに言えないんや!
ウチ、最初の頃はどうやってさんちゃんと仲直りしよって、そればっか考えてた。けど、ここで
貴明たちと一緒に暮らしてるうちに、いつの間にかそれ考えるのやめてた……
ううん、やめたんやない。考える必要なんてなかったんや。
ウチは今でもさんちゃんが好きや。けど」
瑠璃ちゃんは一呼吸置いて、
「由真も、このみも、郁乃も、えっと……みんなも好き。どっちかだけじゃなくて、どっちも。
きっと、これが答えなんやと思う。みんなみたいにイルファのことも、きっと……」
「そっかぁ……。なら、きっと姉妹ケンカも終わりだね」
由真は天井を見上げ、そして、
「お互い、そろそろ潮時、か……」
そう呟き、瑠璃ちゃんはコクリと肯いた。けど、
「で、でも……ウチ、不安やねん」
「不安? 何が?」
「う、ウチ……、ウチがこの家から出たら、由真たち、ウチのこと……」
「え……?」
瑠璃ちゃんの言葉の意味が分からず、ポカンとする由真。けどすぐに気付いて、
「大丈夫だよ瑠璃ちゃん。うん、あたしと瑠璃ちゃんはずっと友達だよ。
ううん、あたしだけじゃない。このみちゃんも郁乃ちゃんも、それに他のみんなだって、ずっと
瑠璃ちゃんの友達だよ。瑠璃ちゃんさえ迷惑じゃなければ、ね。
あ、あたしは例え瑠璃ちゃんが迷惑がってもしつこくつきまとうかも。何せ瑠璃ちゃんはあたしの
料理のお師匠様だもの。これからも色々と教わりたいし」
「由真……ひっく……」
その言葉を聞いた途端、瑠璃ちゃんが泣き出す。
「ああもう泣かないでよ瑠璃ちゃん」
そんな瑠璃ちゃんを、そっと抱き寄せる由真。
「……うん、でも、ちょっぴり寂しいね。この家を離れるのは」
由真の言葉にコクリと肯く瑠璃ちゃん。
「環さんや花梨、るーこ、優季と離れるのが寂しいのであって、決してどっかのバカが理由なんか
じゃないけど、ね」
再びコクリ。
「でも、学校に行けばまた会えるし、放課後だって休みの日だって会いたければ会えるし。
だから、きっと大丈夫だよ」
4円
コクリ。
「うん、そっかそっか、よしよし」
由真は瑠璃ちゃんの頭をくしゃくしゃとなで、そして、何かを堪えるように上を向く。
なんか……、覗いちゃいけなかったのかもな。
そう反省し、こっそり下へ降りようと――
「たかあき、どこ行くのよ?」
ドキッ!
「な、何故俺がいると!?」
ドアを開けて由真に尋ねると、由真はハァとため息をつきながら目元を手で拭いて、
「さっきからドアが開いてるの分かってたもの。全く、覗きなんてサイテー」
「……ぐずっ、た、貴明のヘンタイ〜」
泣きながら俺を睨む瑠璃ちゃん。
「ご、ゴメン瑠璃ちゃん、由真」
「謝ればいいってもんじゃないわよ。たかあきのバーカ」
「バーカ」
由真の後に瑠璃ちゃんも続き、その後二人はクスクスと笑う。そして、
「たかあき」
とても穏やかな声で、由真は、
「あたしたち、自分の家に帰るね」
そう、俺に告げた。
つづく。
どうもです。第86話です。
>>77さん、支援ありがとうございました。m(_ _)m
新年明けましておめでとうございます。
残り少しではありますが、本年も河野家をよろしくお願いいたします。m(_ _)m
去年に引き続き、新春特別で1ページ増でお送りしました。
それでも予定より話が先に進まなかったりして(^^;
>>79 乙&GJ
河野家が終わったら『小牧家へようこそ』でも・・・(ry
>>79 お疲れ様
ここはドロドロな久寿川家へカモーンで
>>79 乙
『ミソラ家へ、るー』はどうだろう。
スペオペですよ。
>>79 GJ!
完結したら雄二×イルファのも補完して欲しいなと思ってたり…
雄二はイルファに捨てられor貴明に奪われ終了〜
作者的に最初からくっつけるつもりだったっぽいしそういう意味ではあまり妙な展開は期待してないな
同人作者スレが落ちたね
もはや語ることもないし、仕方ないか
るーこが逮捕された。『保護責任者遺棄致死』という長ったらしい容疑で、だ。
どうやらこないだ出てきたミイラ化した男性の遺体にるーこが深くかかわっているらしい。
るーこのやつ、最近学校に来ないと思っていたら人の頭をぽんぽんたたいて
(彼女曰く『シャクティパッド』というらしい)高額な報酬を得ていたようだ。
そんなこんなで最近はテレビでるーこを見ない日はない。テレ東ですら
連日るーこ逮捕の瞬間を流してたりするからことの重大さがわかる人にはわかるだろう。
「はなせ。るーは末期癌患者だぞ。丁重に扱え」
もはや誰もが知ってるこの発言はるーこが逮捕時にした物だ。他にも
「るーはトマト、えび、そば。これ以外には何も食べない。」
「るーはそら豆オンリーしか食べない。」 - 差し入れの「ハンバーグ弁当」を食べながら。
「るーは歯を磨かない、なぜなら口臭がしない。臭くない。」
「るーは風呂に入らない、なぜなら汚くならない。自浄作用がある。」
「るーは24時間、365日起きている。」
「るーは大熊座41番星から光よりはやい光に乗ってやってきた」
等等の各種電波発言は「るー」とよばれ本人いわく宇宙に二億存在する「るー」の中のごく一部に過ぎないとのこと。
『女子高生がカルト!!』という題材もさることながらるーこの凛とした顔立ち、そしてその美貌に似合わぬ電波発言に
マスコミが喰らいついた形で報道は加熱の一途をたどりネット上ではファンクラブもできているらしい。
いや、今テレビでやってたんだけどね。
そういえばサイババに指名された「シャクティパット・グル」であると自称するるーこが記者会見で
「サイババはあなたを知らないと言っています」
と記者に追及された時の「それはサイババの勝手であろう?」という返答は
(殺人事件と疑われているなかで不謹慎ながら)記者から笑いが起こっていた。
裁判では『「るー」によるとミイラ化した男性は発見された時点では生きていた。
被害者はドイツ最高裁の判決文に生きていると記載されており、
これが今では「るー」』だと主張するらしい。
るーこ……何があったんだ?
すみません、初めての書き込みです。るーこショート・ショートSS(略してSSSS)、少しでも面白いと思ったら心に留め、
「あそこが悪いここが悪い」といった意見をお願いします。
もれなく作者鬱の特典がつきます。
っていうかこれが処女作って……(つД`)
とりあえず、るーこでやる意味無いね。
せめて本編中のイベントと絡めて欲しかった。(エイプリルフールとか首チョンパとか)
このショート・ショートなら貴明視点である意味もないね。
内容は全部伝聞なんだし。
原作に対する愛が感じられない…
ID:+3shey7+0が悪い
としか
最初コピペ改変かと思った
つーか何が何だか判らんぞ。
ミイラは貴明じゃなかったのか。
無理に短くする必要ないな
どうもです。只今、第87話を書いてる最中の河野家です。
明日の投稿ですが、都合によりいつもより遅れます。
多分、23時頃になると思います。
わーいいっぱい批判が来たぞおーしくしく。
今更言うと昔「ライフスペース」という宗教団体がありました。
そこの高橋グルの言ってた「定説」が結構「るー」っぽい所があり書き始めたものです。
まずはマイナーすぎるといってもいいネタを使った上に
短すぎて何がなんだかわからないと言うのはネタのみに走った自分の公開オ(以下自粛)でしたね。
>>91さん、手厳しい意見ありがとうございます。確かに「愛」を忘れていました。
>>92さん、ごめんなさい。クオリティ低すぎですね。
これに懲りてこれを元にした話は取りやめます。
次以降はネタに走らずまじめに愛を込めて書こうと思いますのでそのときはどうかよろしく。
話自体が面白ければ、まだ救いがあったが…
例えば、るーこが花梨にインチキ宗教の教祖に祭り上げられて
ドタバタ劇を繰り広げるとかさ
ネタに走るなら、徹底的にやってほしいのです
>97
よし、書くんだ
考えてみる
どうも、
>>97さんの情け容赦の無い愛の言葉に何かに目覚めそうな駆け出しSS作家です。
とりあえず今からるーこへの愛の再確認、ブラインドタッチの練習、
そしてなにより文章力の鍛錬のためToheart2るーこルートを
共通部分からメモ帳に書き写してみようと思います。
と言うわけで百ゲトー?
元ネタ知ってるがだから何?というような意味不明さだな
何がしたかったのかすらわからん
あれ?今日って月曜だよな?
由真の心の迷いは、瑠璃ちゃんにはお見通しだった。だけど、迷いがあるのは瑠璃ちゃんも一緒
だったらしい。そんな二人は口論の末、取っ組み合いのケンカを始めてしまった。
騒ぎを聞いて駆けつけるタマ姉たち。重要な部分を瑠璃ちゃんに蹴られて動けない俺の代わりに
二人を止めてくれるのかと思いきや、タマ姉は静観を決め込む。けどそれは正解だったようで、二人
が体力切れで倒れるまで大して時間はかからなかった。ここで仲直りなら花梨の言うとおり一昔前の
熱血スポ根漫画だったのだが、由真も瑠璃ちゃんも生憎そういうノリではない。身体が動かなければ
次はまた口ゲンカ。けどあまりにそれが低レベルで、呆れた俺たちは放っておくことにした。
少ししてから様子を見に行くと、互いに鬱憤を晴らしきったのか、二人は仲直り。そして、由真と
瑠璃ちゃんは自分の気持ちと正直に向き合う。それはつまり、二人の問題はもう解決の一歩前まで
達したということ。けれど瑠璃ちゃんは、この家を出ると由真たちと疎遠になってしまうかと心配
する。そんな瑠璃ちゃんを由真は優しく抱き寄せ、大丈夫だよと励ました。
覗いていたのが由真にばれた俺。由真は俺に、自分たちがこの家から出ることを告げた。
「そう。決心したのね、二人とも」
俺と一緒に居間に行き、由真と瑠璃ちゃんはタマ姉たちにも家に帰ることを告げる。
「由真ちゃんと瑠璃ちゃん、二人が帰っちゃうんだ。寂しいなぁ」
「そんなこと言っちゃダメですよ、花梨さん」
そう花梨をたしなめる優季も、寂しげな顔。
「それであなたたち、いつ帰るの?」
タマ姉に尋ねられ、だけど二人ともそこまでは決めていなかったようで、うーんと考え込む。
「荷物は大した量じゃないからいつでもいいんだけど……」
――ん? 一瞬由真がチラッとこっちを見たような?
「……やっぱ、今すぐ帰ります」
何故か苦笑いの由真。
「う、うん。ウチも」
瑠璃ちゃんも決心したようだ。
「ええっ、もう帰っちゃうのぉ!? そんな急がなくても、明日でもいいじゃない」
「引き留めるようなことを言うな、うーかり。これは二人の門出だぞ。笑って見送るべきだ」
今度はるーこにたしなめられる花梨。
「分かったわ。ならとりあえず、お家にはあらかじめ電話で知らせておきなさい」
タマ姉に言われ、二人はコクリと肯いた。
由真と瑠璃ちゃん、それぞれ自分の家に電話を掛け、帰ることを知らせる。
由真の場合、
「……あ、おじいちゃん? うん、あたし。
あのさおじいちゃん。あたし、そっちに帰ることにしたから。
……うん、あたしもゴメンね、おじいちゃん。変な意地張っちゃって。……うん、それは会って
から話すよ。
……え、迎えに? い、いいっておじいちゃん! 一人で帰れるから!」
などと断ろうとしたが断り切れなかったようで、結局じいさんが迎えに来ることになった。一方、
瑠璃ちゃんも、
「……あ、さんちゃん? うん、ウチ。
あ、あのなさんちゃん。う、ウチ、えっと……、そ、そっちに帰ることにした。
……うん、え? え、ええって! わざわざ迎えに来んでも……あ、あうぅ」
と、由真同様、珊瑚ちゃんとイルファさんが迎えに来ることになったようだ。
それからしばらくして、夕方。まず迎えに来たのは珊瑚ちゃんとイルファさん。それと、
「何でお前が一緒にいるんだよ?」
イルファさんのとなりには雄二。別に連絡したワケでもないのに、なにゆえ?
「決まってるだろ、瑠璃ちゃんの荷物を運ぶためだよ。こういうことは男手が必要だからな」
などと格好いい台詞を言いつつイルファさんの方をチラチラと。
何となく事情が掴めてきた。雄二のヤツ、夕飯を食わせてもらおうとまた珊瑚ちゃんの家に行って
たな。で、珊瑚ちゃんたちが瑠璃ちゃんを迎えに行くことになって、イルファさんへの点数稼ぎに
自分も手伝うと言ってついてきた、と。
「雄二様には、その、大丈夫ですからと……」
困り顔のイルファさん。けれど雄二は気にすることなく、瑠璃ちゃんの荷物が入ったバッグ二つを
よいしょと抱える。
「なあ、瑠璃ちゃん」
珊瑚ちゃんは瑠璃ちゃんを見つめ、
「どうして、帰る気になったん?」
すると、瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんから目を逸らさず、
「答え、分かったから」
「答え?」
「うん。――ウチな、ここのみんなのこと、好きや。好きに……なれたんや。
それが答えやと思う。ウチとさんちゃんと、それに、イルファ」
「え!? 瑠璃、様……」
不意に名を呼ばれ、驚くイルファさん。瑠璃ちゃんは穏やかな笑みでイルファさんに、
「イルファのことも、きっと好きになれる。今のウチなら、きっと――」
「瑠璃様!」
――驚いた。それがまず、最初に思ったこと。
いきなり瑠璃ちゃんに抱きついた、イルファさん。
「い、イルファ!?」
「る、瑠璃様……、瑠璃様……」
「ちょ、ちょお、イルファ恥ずかしいって! みんな見てるやんか!」
顔を真っ赤にする瑠璃ちゃんだが、イルファさんはイヤイヤと離れようとしない。
「あ〜、いっちゃんに先越されたわ〜」
悔しいな〜、などと言うものの、ちっとも悔しそうに見えない珊瑚ちゃんの笑顔。
「瑠璃様、私、私、頑張ります! 頑張って、頑張って、瑠璃様に――」
「あうぅ〜、が、頑張らんでええから。そのまんまでええから、そのまんまで、な」
「は、はい、私、そのままで頑張ります!」
「あ、あうぅ〜」
ははは、打つ手なしって感じだな。けどなんか、見ているこっちまで嬉しい。
「な、なぁ、貴明」
「ん、どうした雄二?」
見ると、雄二は不安げに、
「もしかして、俺の最大のライバルって……」
雄二の視線の先には、抱きついたまま離れないイルファさんと、お手上げ状態の瑠璃ちゃん。
……案外、そうかもな。
「ま、頑張れ、雄二」
肩をポンと叩く。今の俺にはそのくらいしか出来ないのさ。
「ほな、ウチら帰るな」
玄関の前。みんなで瑠璃ちゃんたちを見送る。
「瑠璃ちゃん」
「貴明、なに?」
ありったけの気持ちを込めて、俺は、
「おめでとう」
「う、うん」
その言葉に瑠璃ちゃんは少し顔を赤くして、コクリと肯く。
「あ、あのな貴明」
「ん、なに、瑠璃ちゃん?」
「その……、お粥また作るって約束……」
「ん? ――あ、ああ、あれ。
いやいや、そんなの全然気にしなくていいって」
空笑いで手を振る俺。すると瑠璃ちゃん、ずいっと近づき、真っ赤な顔で、
「か、風邪ひいたらウチに電話しいや! ちゃんとお粥作りに来たるから!」
る、瑠璃ちゃん……
込み上げる嬉しさ。そして、ちょっぴりの寂しさ――胸が痛い。でも、
「うん」
「瑠璃ちゃん、もうカンペキに貴明のことすきすきすき〜なんやね☆」
「ちゃ、ちゃうもん! そんなんちゃうもん!
さ、さっさと帰るでさんちゃん! ほなみんな、また学校でな!」
慌ただしくそう言い残し、瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんの手を引き、飛び出していった。
――うん、大丈夫。俺はそう確信した。
それから程なく、由真のじいさんもやってきた。
すると由真、じいさんを居間に招き入れ、ソファーに座らせた。そして、
「おじいちゃん、どうぞ」
自分で淹れたお茶をじいさんに勧める。
「う、うむ」
面食らいつつも、茶碗を手に取るじいさん。そして、一口。
「――ほう」
「どう、おじいちゃん?」
少し不安げにそう尋ねる由真。すると、
「まだまだじゃな」
「え、ウソ? ちゃんと淹れたんだけどなぁ」
その評価にやや不満そうな由真。
「茶の湯が熱すぎる。それに、味が薄い。
沸騰した湯を急須に入れ、すぐに茶碗に注いだな。これではせっかくの茶葉が台無しじゃ」
おお、さすがじいさん。執事だけあってお茶にはうるさいな。
「お茶の淹れ方はちゃんと教えていなかったわね。
申し訳ありません長瀬さん。私の監督不行届です」
そう言ってタマ姉が頭を下げる。
「ああいやいや、向坂さんが頭を下げることではありません。単に孫が不勉強なだけですじゃ」
「あ、その言い方ひどーい。
あたし、これでも色々と勉強したんだよ。料理とか洗濯とか掃除とか」
「ほっ、どの程度のものやら」
馬鹿にしたような笑みのじいさん。すると由真、
「むむむ……なら、証明してやるわよ! ちょっと待ってなさい!」
と、息巻いてキッチンへ。何か料理を作るつもりらしい。
「な、なんかおかしな展開になってきたな。
俺、てっきり由真とじいさん、すんなり仲良く家に帰るって思ってたんだけど」
「お茶がいけなかったんでしょう。多分由真、自分の成長を見てもらいたくてお茶を淹れたんだろう
けど、相手が執事じゃ、ねえ」
苦笑いのタマ姉。
「ヤヲイさんにフェルミのパラドックスについて語るようなもんだよね」
全く意味不明な花梨のたとえ話。
「優季のお茶なら満足してもらえるでしょうけど、ね」
「え!? わ、私、そんな、執事さんにお茶だなんてとても!」
慌てまくりの優季。
「茶なら、るーも得意だぞ」
胸を張るるーこ、だが……
以前見た、るーこのパフォーマンス的なお茶淹れ。執事さん相手にあれは、どうよ?
「はい、お待たせ!」
それから約10分後。由真がじいさんに差し出したのは――卵焼きだった。
「ほほう。では」
箸を取り、一口。――じいさんは目を閉じ、モグモグと咀嚼し、飲み込んだ。
「ど、どう、おじいちゃん?」
おずおずと尋ねる由真。だがじいさんは何も答えず、二切れ目の卵焼きを取り、食べる。
そのまま何も言わず、次々と卵焼きを口に運ぶじいさん。そして全て食べ終え、箸を置き、心配
そうな由真の顔を見て、
「由真」
「な、なに?」
「わしはな、塩味の方が、好みじゃぞ」
……全部食っておいて、それかよ。思わず笑いそうになる。
「な、な、なによ! と、年寄りは塩分控えなきゃダメじゃない!」
「糖分の摂りすぎも、な」
「な、なら、全部食べてんじゃないわよ!」
「ふむ」
するとじいさん、顔を横に向け、あごひげをいじりながら、
「いや、なかなかじゃったから、つい、の」
「え……」
呆然とする由真。でも、
「――うん!」
最高の笑顔。――よかったな、由真。
家に帰る由真とじいさんを、玄関まで見送る。
「じゃあみんな、今までありがとう」
「うん、元気でね、由真ちゃん」
花梨の目がウルウル。
「いやだな花梨。明日学校で会えるじゃない」
「う、うん。そうだね」
「向坂さん、それに皆さん。今まで孫の面倒を見てくださって、本当に、有り難うございました」
改まって頭を下げるじいさん。つられて俺たちも「いえいえ」などと言いつつ頭を下げる。
「環さん、これからも色々教わってもいいですか?」
「ええ」
「るーこ、勝負はまだついちゃいないからね」
「無論だぞうーゆま。るーはいつでも勝負に応じるぞ。家に帰ったからと言って怠けるな」
るーこの言葉に不敵な笑顔で肯く由真。
「花梨、あんたもさ、料理とか頑張んなよ」
「うん」
「それから――優季。えっと……、今のうちに謝っておく。ゴメン」
「え?」
「たかあき」
「ん?」
「あたしがいなくなって、寂しくなるだろうけど、我慢しなさいよね。
環さんや優季たちに甘えるくらいなら許してあげるから。それからさ」
何か言い返そうとする前に由真は俺に近づき、耳元に、
「もう分かってると思うけど、あたしがあの時貴明に告白したの、あれはナシにして」
「ああ、分かってるよ」
「その代わり――」
ちゅっ。
頬への、軽いキス。
「これ、お詫び」
そう言ってすぐ離れる由真。
「な!? ちょ、由真さん!?」
優季が驚きの声を上げる。って言うか俺もビックリだよ!?
「あははっ、だからさっき謝ったじゃない、ゴメンって。
じゃ、たかあき、みんな、また明日、学校でね!!」
愕然とするじいさんの手を引き、由真は振り向かず、家を飛び出していった。
俺は――胸がドキドキして、何も言えなかった。
つづく。
どうもです。第87話です。
今回、投稿の時間がいつもより遅れてしまいましたが、もしかしたら今後も時間が遅れる、
あるいは次の日に投稿、なんてことになるかもしれません。
その時はゴメンなさい。m(_ _)m
>>112 乙でした
個人的には良い占め方でホッとしました♪
>>112乙
草壁さん…先越されてばっかだな。一番に本格的なアタックをかましてきたはずだったのに
>>112 乙
他の人はどうするんかな
そういやるーこって何で貴明の家に来たんだっけ?
>>117 住処だった公園が閉鎖され、行き場がなくなったから。
>>117 るーこが根城にしてた公園が工事中のため。
由真と瑠璃が帰ったいま、よんどころない理由で
河野家にいるのはるーこだけなんだよな。
ここで作者の人が「…そうでしたっけ?」
「だぁぁぁぁーっ!!」
季節外れのにわか雨に、俺は慌ててマンションに駆け込む。
学校を出た時には晴れていたのに、ちょっと曇ってきたかなと思っていると、駅前に出
る頃にはバケツをひっくり返したような雨になっていた。
もちろん傘なんて持っていなかったし、お陰で靴も制服もびしょ濡れだ。こんなことな
らコンビニにでも寄って、傘を買えばよかった。
けれど後悔は先に立たず、エレベーターに乗っている間もぽたぽたと床に水が滴り落ち
ていくのを我慢する羽目になっている。
体なんかもう冷え切ってしまって、空調のきいているマンションの中に居るはずなのに
震えが停まらない。腕を組んで、足踏みをしながら何とか体を温めようとしていると、よ
うやくエレベーターが珊瑚ちゃんの部屋のある階に着いてくれた。
扉の鍵を開けようとするんだけど、手が震えてなかなか開いてくれない。ロックが外れ
る音がした時には、本気で救われたような気持ちになった。
「た、ただいま!!」
挨拶もそこそこに、家の中に入る。まずはこの濡れた服を着替えようと部屋に入ろうと
して、自分がずぶ濡れで、今だって廊下に水溜りを作りながら歩いていることを思い出し
た。
「ま、まずい」
慌てて洗面所に向かうと、とりあえず上着もズボンも脱いで下着だけになる。下着も完
全に濡れてしまっているけど、服のまま家の中を歩き回るよりはマシだろう。ちょっと恥
ずかしい気もするけど、家の中、今誰もいないみたいだし・・・・・・そういえば、イル
ファさんどうしたんだろう。いつもなら、玄関まで出迎えにきてくれるのに。
どこかに買い物にでも行ったのかな? この雨に濡れてなきゃいいんだけど。
「へっくしゅん!」
ううぅっ、さむっ。このままじゃ風邪をひいちゃいそうだ。
部屋にもどると、急いで服を着替える。下着も乾いた物に取り替えると、ようやく一息
つけた気がする。リビングも暖房のお陰で、大分暖かくなっていて。
あれ、俺、いつの間にエアコン付けていたっけ?
けれど服を着替えて落ち着くことが出来たのも、ほんの一瞬のことで。一度冷え切って
しまった体はなかなか温まってくれない。温風の前に立っていても、歯の根がかみ合わな
い。
牛乳でも温めて飲もうか、それともベッドの中に入ってしまおうか。問題は、どちらも
今すぐに体が温まるわけじゃないんだよなぁ。
「あ、そうだ。お風呂」
なんで思いつかなかったのか。シャワーを浴びよう。お湯をうんと熱くして。
そうと決まれば善は急げだ。
一緒にお風呂も沸かしておいてあげよう。イルファさんや珊瑚ちゃんが帰ってきたら、
すぐに入れるように。
雨はまだ降り止まないようで、脱衣所にいても激しい雨音が聞こえてくる。後で、迎え
に行ってあげた方が良いかもしれない。多分、イルファさんは商店街だろうし、二人も今頃、研究所からバスに乗って帰ってきている途中だろう。
ただその前に、自分のことを何とかしなきゃ。このままじゃ3人を迎えに行くどころか、
俺が風邪で倒れてしまう。
でも、本当にすごい雨だな。雨音なんて、まるで隣の部屋に雨が降ってるみたいだ。
「え・・・・・・?」
「あ・・・・・・ひゃ──ぁぁぁぁ」
お風呂場の扉を開けると、なぜかイルファさんがシャワーを浴びていた。なんで? ど
うして?
とりあえず
「ご、ごめん」
慌てて扉を閉める。
そうすると、とりあえずシャワーの音だけは小さくなって。ああ、雨音だと思っていた
の、シャワーの音だったんだ。イルファさんの。
イルファさん、驚いた顔してたなぁ。ばっちり、目が合っちゃったし。
何も、服来てなかったし。当然だけど。
前にもこんなこと、あったよなぁ。
「あの・・・・・・」
「あ、その、イルファさん、ごめん。イルファさんが先に入ってたの、気が付かなくて」
お風呂場の扉の陰から、イルファさんの顔が覗いている。曇りガラスの向こうにイル
ファさんのシルエットが浮かんでいて、いけないとはわかっているのに、どうしても今
さっきうっかり見てしまったイルファさんの裸を思い浮かべてしまう。
シルエットだけ、っていうのが、かえってこう想像を掻き立ててしまうと言うか。
「いえ、それは構わない、訳ではないですけれど。貴明さんになら。で、でも見て良いと
は言ってませんからね。次からはちゃんと、確認してください」
「うん、ごめん。気をつけるよ」
ほんと、気をつけないとなぁ。
「ところで。貴明さん、お風呂、入りに来たのではないんですか?」
「あ、うん。そのつもりだったけど、イルファさんが入ってるのなら後にするよ」
支援?
そう言ったとたん、大きなくしゃみが出た。
そう言えば、シャワーを浴びるのに裸になってるし、今だって無意識のうちに足を動
かしてしまっている。
「もう。それでは風邪を引いてしまいますよ。さぁ、どうぞ入ってください」
イルファさんがお風呂場の扉を引いてくれる。
確かにこのままリビングに戻っても、寒いままだし。申し訳ないような気もするし、
ちょっと恥ずかしいんだけど、ここは素直に行為に甘えさせてもらおう。
お風呂場の中に入ると、もう既に湯船にはお湯が張られていた。
「ひどい雨でしたし、貴明さんたちがお帰りになられたら入られると思いまして」
そう言うと、イルファさんは腕をお湯の中に入れて温度を測っている。
いつもだったらその背中だとか、あといろいろ。後姿を目で追ってしまっていたかも
しれないけれど、今日はそれどころじゃない。湯気の立つ湯船の中に、早く飛び込んで
しまいたくて。
「ちょうど良いみたいですね」
洗面器にお湯を汲んで体に掛けると、体が冷えている分、まるで焼けどでもしてしま
いそうなくらい熱かった。
ただ、湯船の中に浸かっても、体の表面はそれこそ痛いくらい熱いのに、なかなか体
の中の方まで温まってくれない。ちょっと、体が冷えすぎたみたいだ。
「お湯の温度、もう少し上げた方がよろしいでしょうか?」
「いや、これくらいでちょうど良いよ。もう少し入ってたら、温まると思うし」
お陰でイルファさんにまで心配されてしまって。本当に、傘くらい買えばよかったな。
と、イルファさんも湯船の中に入ってくる。
上がった水面に、俺はちょっとだけ体を引いた。
イルファさんと一緒にお風呂に入ることなんて、別に今回が初めてって訳じゃないけ
ど。でもいつもだったら珊瑚ちゃんたちも一緒にいたし。それに、あらためて、恥ずか
しそうに前を隠してお風呂に入ろうとするイルファさんなんかを見てしまうと、どうに
も今、自分が照れくさいことをしているんだって言う気分になってしまう。
「イルファさん、どうかした?」
紫煙
しかも、イルファさんは俺のすぐ隣に座って。それどころか、水面に立った波はだん
だんと俺の方に近づいてきて。
「もう、こんなに体を冷やしてしまって。風邪を引かれたらどうするんです」
お湯の中にいても、肌に触れるイルファさんの体温が気持ちいい。
「貴明さんが風邪を引いてしまったら、私だけではなく、瑠璃様も、珊瑚様も。とても
心配するんですから」
「えっと、うん、ゴメン。次からはちゃんと傘、買うことにするよ」
怒ったように言われてしまって。どうもイルファさんを心配させてしまったみたいだ。
よっぽど、俺は寒そうにしているらしい。
それでもようやく、お風呂に入って、それにイルファさんから伝わってくる温もりの
お陰だろう。体の震えも収まってくれた。
「貴明さん。お願いが、あるのですけれど」
「何?」
「あの、実は私も、この雨に当たってしまっていて。それだけなら良かったのですが、
帰る途中に、トラックに水をかけられてしまって。それでさっきも、シャワーを浴びて
いて」
そうして、ちょっと恥ずかしそうに俺のことを見て。
「私のことも、温めていただけますか?」
俺がイルファさんの肩に腕を回すと、イルファさんも、俺の胸の方に体を寄せてくれ
た。
『ただいまー。あ、瑠璃ちゃん、貴明もいっちゃんももう帰っとるよ』
『さんちゃん、そんなことよりも早く服着替えな。風邪引いてまうよ』
玄関のドアが開いて、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんの賑やかな声が聞こえてきた。お風呂
に入ってるだけなお陰で、二人の声がここまで聞こえてくる。
この様子だと、二人もにわか雨に濡れてしまったようだ。
俺はイルファさんと顔を見合わせると。イルファさんも、同じことを考えたらしい。
二人で声をひそめて笑いあうと、お互いの体から離れる。もう、十分暖めてもらった
から。
イルファさんは湯船から上がると、お風呂場の扉を開けて。
「瑠璃様、珊瑚様。お風呂が沸いていますよ。一緒に、温まりませんか?」
終
支援ありがとうございました。
また風呂ネタで、よほど僕はイルファさんとお風呂に入りたいらしい。
>>133 乙乙
お風呂の中で暖めあうって何をする気だったんだ(*゚∀゚)=3
>>133 乙
このあと四人であったまるワケか
……個人的な意見なんだが、「・」を幾つも並べるんじゃなくて、「…」使ってくれた方が読みやすいかも
中黒だとそこだけ太字にしたみたいに見える
勿論スルーしてくれておkだが
自分の家に帰ることを決めた由真と瑠璃ちゃん。それぞれ家に電話をし、由真はじいさんが、瑠璃
ちゃんは珊瑚ちゃんとイルファさんが迎えに来ることになった。
先に来たのは珊瑚ちゃんたち。瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんに、自分は河野家メンバーズのみんなが
好きなこと。そしてそれが答えなんだと告げる。珊瑚ちゃん以外を好きになれた瑠璃ちゃんなら、
イルファさんとだってきっとうまくいく。ここに、姫百合姉妹のケンカは無事終結した。
帰り際、瑠璃ちゃんは俺に、また風邪を引いたらお粥を作りに来ると約束してくれた。――俺には、
その気持ちだけでも充分嬉しくて、だから、ほんの少しの寂しさは押し殺した。
続いて由真を迎えに来たじいさん。そのじいさんにお茶を勧める由真。だが相手は執事。じいさん
から容赦ないお茶のダメ出しを食らい、ならばと由真は、卵焼きを作ってみせる。それを食べたじい
さん、塩味の方が好みだとか言いながらもキッチリ残さず食べ、由真は大喜びだった。
玄関前で由真を見送る俺たち。タマ姉たちと別れの言葉を交わし、けど何故か優季にはいきなり
ゴメンと謝る由真。すると由真、俺に告白したことはナシにしてくれと言い、それに同意した途端、
俺の頬にキスしやがった! あ、あいつ、何て置きみやげを……
由真と瑠璃ちゃんがいなくなったことで、部屋割りを変えることとなった。
今まで由真と一緒に俺の部屋を使っていた優季が、瑠璃ちゃんの代わりにタマ姉との相部屋になり、
結果、俺はやっと自分の部屋を取り戻せたのだ。
「ああ……またベッドで寝られる……」
「なんだか凄く嬉しそうね」
感慨に耽る俺にタマ姉が苦笑する。
「やっぱさぁ、この間の風邪のときに思ったんだけど、人間寝るときはベッドか布団だよ。
ソファーも慣れると寝られないこともないけど、寝心地が違うんだよね、うん」
その寝心地を確かめようと、俺はベッドへと――
「まだダメよ」
タマ姉に首根っこを掴まれた。なにゆえですか?
「シーツと枕カバーを取り替えるから、その後でね」
「いや、別にそのままでも」
「それはダメ。私が由真に怒られるわ」
何故そこで由真の名が? ――ああ、由真が今までこのベッド使ってたってことか。
そして、真夜中。俺は今、自分の部屋のベッドに横になっている。
けれど、なかなか寝付けない俺。自分の部屋なのに、妙に落ち着かない感じがするのだ。
由真と優季が長らく使っていたせいだろうか。この部屋、妙に女の子っぽい匂いが……
特にベッド。シーツとかは新しいのに変えてもらったけど、それでも何となく由真の匂いが……
って、俺、なんかヘンタイっぽいな。いかんいかん。
そう言えば由真と瑠璃ちゃん、今頃どうしているかなぁ。瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんと一緒に寝る
だろうからいいとして、由真、自分の部屋に独りぼっちで、寂しくて泣いてたりしてな。で、あまり
に寂しくて思わず、お父さんとお母さんの部屋に一緒に寝ようって行ってたりして。ププッ。
などと色々考えているうち、いつの間にか寝付いていた俺だった。
翌日。月曜日の朝。校門の前で――
「おっはよ〜!」
「どわっ!?」
ザザーッ!
目の前にいきなり、MTBに乗った由真が急ターンで止まる。
「あ、危ないだろうが!」
「大丈夫よ、ちゃんと計算通りだから」
それはつまり、俺を脅かすのも計算の内ってことか。
「おはよう由真」
「あ、おはようございます環さん! みんなもおはよう!」
朝っぱらからやけにハイテンションだな、由真。
「うわ〜っ! 由真ちゃんその自転車格好いいね!」
「MTBって呼んでよ。どう、花梨も乗ってみる?」
「うん!」
意気揚々と由真と交代し、MTBにまたがる花梨。
「わ、わ、何コレ、ふにゃふにゃするよ!?」
「前後サス付きだからね〜」
「わ、何か面白いかも! よ〜し」
すると花梨、いきなりペダルをこぎ出し、
「笹森花梨、いっきまーす!」
「ってドコ行くのよ花梨〜!?」
何故か校庭に向かって走り出す花梨と、慌てて追いかける由真。
「とりあえず元気そうね、由真」
タマ姉が微笑む。
「ああ」
じいさんと仲直りしたし、あの様子だと両親にもキチンと謝って許してもらえたのだろう。
「ま、よかったよかったってトコだな」
「……あまりよくありません」
不機嫌そうにこっちを見る優季。あの不意打ちキスのせいで昨日からこっち、優季はずっと不機嫌
だったりする。――正直、困ってます。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよーさん」
「おはよう」
「はよーっす」
愛佳、郁乃と、珊瑚ちゃんに瑠璃ちゃん、それと雄二。
「おはよう瑠璃ちゃん。久しぶりの我が家はどうだった?」
俺がそう尋ねると、
「……」
瑠璃ちゃんは何故かむくれ顔で俺を睨む。……え、俺、ヘンなこと聞いちゃった?
「瑠璃ちゃん、ヤキモチ妬いてるねん」
「な!? 何言い出すのさんちゃん!!」
姉の爆弾発言に驚く妹。や、ヤキモチ?
「ヤキモチって、どうかしたの、瑠璃ちゃん?」
「あ、あうぅ……」
このみの質問に、真っ赤な顔で頭を抱える瑠璃ちゃん。
「ヤキモチ、ねぇ」
郁乃、何故ニヤニヤ笑いながら俺を見る?
「ちゃ、ちゃうもん! 貴明関係ないもーん!」
瑠璃ちゃんの大声にみんなが振り返り、たちまち俺たちは注目の的。……いや、もう慣れたけどさ。
「あんな、昨日、花梨から電話あったんや」
「電話?」
と、見るも花梨は未だ校庭をMTBで暴走中。――おいおい、由真のヤツ、止めるどころか後ろに
乗っかって、何やら花梨を煽ってるぞ。
「由真と貴明がちゅーしたって。それ聞いて瑠璃ちゃんカンカンに怒ってるんや〜☆」
「お、お、怒ってなんかないもーんっ!!」
げ、花梨のヤツそんなこと密告しやがったのか!? って言うか微妙に間違ってるぞ、由真と俺
じゃなくて由真が俺の頬に――
「あ、あの、あたしの家にも連絡ありました、それ……」
ま、愛佳の家にも!? って言うか何故それを連絡しまくるのかなあのミステリさんは!?
「あ、いや、その……な。ま、愛佳も珊瑚ちゃんも誤解しないでほしいんだけど、ちゅーをしてきた
のは由真の方で――」
「うわ、格好悪。言い訳してるし」
郁乃の視線がマジで冷たい。
「――ねぇ、タカくん」
「ん?」
背後からこのみの声、それに振り返るより早く、
ぎゅ〜っ!
「ぐえぇ!? ぐ、ぐるじい……」
俺の首にしがみつき、このみは、
「わたし、そんな話、聞いてないよ」
な、何か声が怖いんですけど!?
「そう言えば花梨さん、このみちゃんには連絡してなかったですよね」
「多分、今朝伝えるつもりだったのを忘れてしまったんじゃないかしら。昨日、その方がサプライズ
性が高くて面白いとか言ってた気がするわ」
ちゅ、中途半端に忘れやがって、花梨のヤツ……!
キーンコーンカーンコーン。
「あ、予鈴」
その音でパッと手を放すこのみ。
「タカくん、さっきの話、後でちゃんと聞かせてね。
さ、行こ、郁乃ちゃん、瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃん」
郁乃の車椅子を愛佳の代わりに押し、先に歩いていくこのみ。あ、後で、ね……
「たかあきくん、あたしたちも」
愛佳に急かされたので俺たちも校舎に――って、
「……」
一人、その場に立ちつくするーこ。空を――いや、校舎の一角を見上げている。
「るーこ、どうした?」
だけど、るーこは何も答えない。じっと、同じ所を見たままだ。
気になったので俺もるーこの見ている方向を目で追う。……ええと、よく分からないなぁ。一体
るーこは何を見て――
キーンコーンカーンコー……ザザッ。
ん、予鈴にノイズが混じったぞ。スピーカーの故障か? まぁそんな大して気にすることじゃ――
「――来た」
るーこの、呟き。
思わず振り返る。そして、
「るーこ、どうした?」
もう一度、同じことを尋ねる。すると今度は、
「――何でもないぞ、うー」
そう答えるが、るーこの表情からは何かに驚いてるような感じを受ける。
「本当に何でもないのか? さっきお前、確か『来た』って――」
「本当に何でもないぞ。
それより急げ、うー。このままだと授業に遅れるぞ」
俺から目をそらし、るーこは駆けだした。
ちなみに、校庭を暴走していた花梨と由真だが、その後駆けつけた先生たちに捕まり、散々お説教
された挙げ句、罰として一週間、学校中の草むしりを命じられたそうな。
その夜。
しつこいけどソファーなんかより寝心地満点なベッドでウトウトしかけた時、
「起きろ、うー」
「……ん?」
いつの間にか、俺の部屋にるーこがいた。
「話し相手になれ、うー」
俺の目の前にぺたんと座るるーこ。
「ん〜、話なら明日でもいいだろ。もう寝かせてくれよ」
「ダメだ。今、話し相手になれ」
なんだ? るーこのヤツ、いやに強情だな。
……ま、少しの時間なら、いいか。
「分かったよ。けど、長話は勘弁だからな」
ベッドから身を起こすと、るーこは何故かまた立ち上がり、
すとん。
俺の横に腰掛けた。――やけに距離が近いんですけど。肩密着してるし。
「で、何を話そうか?」
俺がそう尋ねると、るーこは、
「うーは今、寂しいか?」
「寂しい?」
「そうだ。うーゆまとうーるりがこの家からいなくなって、寂しいか?」
寂しい、かぁ。うーん……
「まぁ、なぁ」
頭をポリポリかきながら、俺は、
「朝はそんなでもなかったけど、夕飯のとき、いつもより人数が少ないのはちょっと静かだなって
思ったかな。今日はこのみも来なかったし。でも」
夕食の光景を思い出し、俺は、
「その分花梨が賑やかだったし、うちにはまだるーこたちもいるからなぁ」
特に花梨はいつも異常にうるさかったな。自分たちが草むしりしてるのに先に帰るなんて薄情だ
とか何とか。自業自得でしょうが。
「それに、由真も瑠璃ちゃんも、学校で会えるしな。あまり寂しいって気がしないんだよ」
「そうか」
るーこは足下を見ながら、
「るーは、……寂しいぞ」
「るーこ?」
その声は、本当に、寂しげで。
……思えば、故郷の家族と会うことすら出来ないるーこにとって、我が家で一緒に暮らしてきた
由真や瑠璃ちゃんは、るーこにとって家族の代わり、いや、家族そのものだったのかもしれない。
その家族が家から去っていったのだ。どれほど喜ばしいことであろうとも、それはるーこにとっては
寂しい以外の何者でもない、と言うこと、か……。
るーこを何とか励ましてやりたい。……意を決し俺は、るーこの肩に手を置いて、
「うー?」
驚き、こっちを見るるーこ。顔が熱くなるのを自覚しつつ、俺は、
「あ、あのなるーこ、その、上手く言えないんだけどさ、この家にはまだ花梨だって、優季だって、
タマ姉だって」
肩に置いた手に少しだけ力を入れ、
「俺だって、いるんだから、な」
「うー……」
じっと、俺を見つめるるーこ。――な、なんか凄い心臓がドキドキしてる。
「うー、それなら」
るーこは、
「もし、るーがこの家を離れたら、うーは寂しいか?」
――え?
「る、るーこ、それってもしかして」
朝のことと関係あるのか? そう言いかけ、けれど、不安で言葉に詰まる。まさか、るーこ……
「――冗談だ」
「は?」
「うーをからかっただけだ。気にするな」
「じょ、冗談? な、なぁるーこ、それって本当に冗談なのか?」
するとるーこはすっくと立ち上がり、そのままてくてくとドアの方へ、そしてくるりと振り返ると、
「大丈夫だ、うーは寂しがりやだな。心配するな」
優しい笑みを浮かべた。
つづく。
どうもです。第88話です。
るーこの番です。
多分、るーこ編は次回で終わると思います。
乙です><
Zです><
2です><
じゃない。 久しぶりに、河野家喜多ーーー!!!
しばらく忙しくて読めなかった間に、シリアスにまとめに入ってますね^^;
しかも、この流れだと、るーこは、、、
なんか、来週はお涙頂戴の展開になりそうな悪寒。
せめて、公園の改修工事が終わるぐらいで済めばいいのですが。
Ζです。
るーこが出ていくと、るーこの調査目的?で住み着いた黄色の人も出ていきそう。
閉鎖されたら河野家の続きが…
葉鍵は大丈夫なんだっけ?
152 :
名無しさんだよもん:2007/01/23(火) 16:58:18 ID:jj/9gHNx0
>>150 というか他の方の理由を思い出してみよう。
もう雪崩れ式に・・
第88話の時点で残っているキャラだと、古い順に
・タマ姉…元々は由真への対抗のため、転じて保護者役
・るーこ…寝泊りしていた公園が改修工事(?)
・花梨…るーこの監視役
・優季…貴明が好きなので
でしたっけ? うろ覚えですけど。
るーこ&花梨が河野家を出れば、実質的に優季も
河野家に残る理由がなくなりますね。
タマ姉は最後の一人と一緒に河野家を出るはずだし。
ということは、最後の勝者は、一番近くに住んでるこのみか。
いや、そこで伏兵よっち&ちゃるの出番ですよ?
春夏さんを忘れちゃ困るんだぜ?
大穴で菜々子ちゃんに一票
誰か一人忘れているような気がする
158 :
153:2007/01/24(水) 20:59:26 ID:um2L3Qrs0
>>157 そこで、ゲンジマルだっ!
というか、何?この流れ?w
お前らささらを忘れるなw
まーりゃん先輩が乱入じゃないのか?
PS2準拠だからささらとまーりゃん先輩は最初からいないだろ。
全員還ってふと見たらベッドにクマ吉が置いてあるんですよ
なんだその大穴エンド
桜の群像マダー??
書庫で桜の群像読んでたらいきなりダニエルが出てきて吹いたw
>165
また停まってました(汗)。とりあえず第12話は来週の今頃くらいまでには投下したいです
全22話くらいになりそうで、AD発売前に終わ…延期しまくりそうだから大丈夫かなw
>>167 のんびり待ってますー
最近SSめっきり減ってるから尚更楽しみにしてます
玲於奈かわいいよ玲於奈
んじゃ便乗して、やゆよマダー??
由真と瑠璃ちゃんが我が家を去ったのは、正直言うと寂しい。けどそのおかげで俺は自分の部屋を
取り戻せたワケで。けれどベッドからは由真の残り香が……こう言うと何かエッチっぽいな。
翌朝。MTBに乗って現れた由真はやけにハイテンション。家族と仲直り出来たようでよかったね、
などと思っていたら、逆に朝から不機嫌な瑠璃ちゃん。昨日、俺が由真に不意打ちキスをされたこと
は、花梨によって瑠璃ちゃんや愛佳たちにも伝わっていたのだ! しかも花梨ときたら、このみに
だけは伝え忘れてて、それでこのみ、怒って俺の首を絞めやがるし。
などとやってる内に予鈴が鳴り、さて校舎へ。だけどるーこは何故か立ち止まり、その時俺は予鈴
にノイズが入ったこと、そしてその直後、るーこが「来た」と呟いたのに気付く。
その日の夜。部屋にやってきたるーこは俺に、由真たちがいなくなって寂しいと漏らす。そんな
るーこの肩を抱き、励ます俺。するとるーこは俺に、もし自分がいなくなったら寂しいかと尋ねて
くる。それってるーこ、もしかして……
「冗談だ」と否定したるーこ。
実際、それから数日経ってもるーこは今まで通り俺の家にいて、特に変わった出来事もなく、日々
騒がしくも穏やかな時間が流れた。そして俺はいつしか、不安どころかその台詞すら忘れていた。
だけど。
「明日の朝、この家を出ることにしたぞ」
いきなりるーこがそう告げたのは、土曜日の夕食時。
「る、るーこ!?」
思わず声がひっくり返る。
「いきなりどうしたの、るーこ?」
「そ、そうですよ! いきなり過ぎますよ!」
タマ姉と優季も驚いている。
「急に決まったことだ。仕方がない」
「きゅ、急に決まった? 決まったって、どういうことなんだ?」
るーこの言葉が引っかかり、尋ねずにいられなかった。”決めた”のではなく”決まった”と言う、
その理由が知りたい。
けれど、るーこは何も答えようとはしない。だが俺は諦めず、
「な、なぁるーこ、黙ってないで教えてくれよ。決まったってどういう――」
「言えない」
きっぱりとるーこ。
あまりにもあっさりとした返事。――俺は怒りが込み上げ、
「何だよそれ!? いきなり出ていく、しかも理由が言えないって、そんなのアリかよ!?」
「タカ坊、落ち着きなさい」
思わず怒鳴ってしまったのをタマ姉に咎められる。
そ、そうだな。とりあえず落ち着いて……落ち着いて……
「あ、ああ。るーこ、怒鳴ってゴメンな。
けど、この家を出て、どこに行くんだ? 行くあて、あるのか?」
するとるーこ、何故か黙ってしまう。――何だ?
「るーこ、本当に大丈夫なのか?
俺の家ならいつまでだっていてもいいんだぞ。お前が故郷に帰れる日まで、ずっとここにいていい
んだからな」
「――それは、出来ない」
出来ない? 出来ないって、一体どういう意味……?
そこでふと、あの、ノイズ混じりの予鈴のことを思い出す。そして、その直後にるーこが呟いた、
「来た」という言葉。
「る、るーこ、お前、もしかして……」
「たかちゃん」
それまで無言だった花梨が突然席を立ち、俺の手を掴むと、
「ちょっと、こっち来て」
俺をキッチンから連れ出した。
連れられてきたのは、花梨とるーこの部屋。
花梨はビデオカメラを手に取り、
「たかちゃん、コレ見て」
カメラの液晶画面を俺に向ける。画面に映っているのは、布団を並べて寝ている花梨とるーこ。
「花梨、コレは?」
「昨日の晩の分なんだけど、おかしいんよ」
昨日の晩の分? ……忘れてた、花梨はるーこを監視してたんだっけ。寝てるときもビデオカメラ
で録画してたのか。
「おかしいって、どこが?」
「もう少し、したらね……来た!」
画面を見ると、それまで寝ていたるーこが突然ムクリと立ち上がり、そして、
ザーッ……
「――え?」
突然、画面が砂嵐になる。
「花梨、コレって……」
すると花梨、カメラの早送りボタンを押して、
「この後、ずっと砂嵐のままなんよ。こんなこと、初めてだよ」
確かに早送りの画面を見ても、ずっと砂嵐のままだ。
「寝ちゃってたから何も気付かなかったし……。たかちゃん、夕べ、何か気付いた?」
「いや、何も」
「そう……」
花梨を見ると、真剣な表情で、
「あるいは私たち、”眠ったままにされていた”のかもしれないね」
眠ったままに……つまり、るーこか、他の”誰か”の仕業ってことか。
そして、その”誰か”とは――るーこの、仲間か。
もう、るーこに聞く必要はなかった。
予鈴に混じったノイズは恐らく、るーこの仲間からの最初の連絡。
そして、昨日の夜中。るーこの仲間からの二度目の連絡、あるいは、仲間が直接やって来たのか。
とにかくそこで、るーこが明日の朝、俺の家、いや、地球を去ることが決まったのだ。
……喜ばしいことなのだろう。
元々るーこはこの星の人間ではないのだ。いつかは故郷の”るー”に帰るのだと、るーこ本人が
何度も言ってたじゃないか。ようやくそれが叶う時が来たんだ。
よかったなと、一緒に喜ばなきゃ。笑って見送ってやらなくちゃ。
なのに……
「たかちゃん」
肩に置かれた花梨の手のひらが、やけに暖かく感じられる。――それは多分、俺が今、見た目にも
落ち込んでいるからだろう。
「……参ったな」
「え?」
「いつかはこういう日が来るって、分かってたつもりなんだけどな」
「たかちゃん……」
「でも」
顔を上げ、俺は、
「いいこと、だものな」
笑顔を作る。ちょっと心が痛むけど、笑顔でなきゃ、な。
ぎゅっ。
「――え?」
途端、視界が真っ暗になり、顔には柔らかい感触。――俺は花梨に抱きしめられ、花梨の胸に顔を
埋めていた。
「我慢、しなくていいよ」
「が、ま、ん……?」
「るーこがいなくなるの、辛いんでしょ? だったら、無理して笑わなくたって……!」
そっか……花梨、俺のこと心配してくれて……
俺の頭を抱きしめてくれている、その両腕をそっと離して、
「……大丈夫」
「たかちゃん、でも……」
花梨の顔を見上げて、
「ありがとう花梨、心配してくれて。でも、ホントに大丈夫だからさ。
って言うか、むしろ花梨の方が辛そうな顔してるぞ」
花梨から少し離れ、立ち上がって俺は、
「花梨も俺に抱きついておくか? 俺の方は胸ないから固くて心地悪いかもしれないけどな」
ハハハと笑う。すると、
ぎゅっ。
わ、花梨、ホントに抱きついてきた。
「――ううん、そんなことない。たかちゃんの胸の中、とっても気持ちいい」
「そ、そっか」
驚きと、またも花梨の柔らかさにドキドキする。
「……ふふっ」
「な、なんだよ?」
「たかちゃん、すごいドキドキしてるね」
俺の胸に耳を当てている花梨。
「もしかして今、エッチな気分?」
「ば、バカ!」
慌てて花梨を引き剥がし、
「と、とにかく! これはるーこにとってはめでたいことなんだから、喜んでやらないとな」
「……うん、そうだね」
俺と花梨は居間に戻り、夕食の残りを平らげた。そしてみんなで食後のお茶を飲みながら、
「なぁるーこ、明日の朝だけど、みんなを呼ぼうか?」
るーこにそう尋ねる。
「みんな?」
「このみや愛佳たちだよ。明日の朝、みんなで見送ろうかってこと。
今から電話すれば、きっとみんな来てくれるから――」
「その必要はない」
またも、あっさりとした返事。
「るーこ……」
「うーたちも、見送る必要などないぞ。
いや、見送ることは出来ない。るーは明日、この家からいなくなる。それだけだ」
見送ることが出来ない? いなくなる? どういうことなんだ? ――いや、それ以上に、何故
るーこはこんなにも淡々としていられるのだろうか?
唐突に、しかも一方的に家を出ると告げ、見送りも要らないと言う。まるで他人じゃないか。
俺たちとるーこって、そんな寂しい関係だったのか?
――でも、それでも、
「……そっか。分かったよ」
笑って、見送ってあげなくちゃ、な。
「タカ坊……」
「貴明さん……」
悲しげに俺を見るタマ姉と優季。――参ったな、ちゃんと笑顔を作れてないのかな、俺?
「きっとコレが、るーこたちの流儀なんだよ。正直寂しいけど、るーこがようやく故郷に帰れるん
だから、一緒に喜んでやらないと、な。
るーこ、さっき”見送ることは出来ない”って言ってたけど、それって俺たちが寝ている間に
るーこはいなくなるってことなのか?」
「そうだ」
「そっか。……なら、今のうちに言っておかないとな。
るーこ、おめでとう。それから、今まで美味い飯作ってくれて、ありがとうな」
「タカ坊……、うん、そうね。
おめでとうるーこ。元気でね」
「るーこさん――おめでとうございます。私、るーこさんのこと、忘れませんから」
俺の後にタマ姉と優季も別れの言葉を。花梨は感極まっているのか、何も言わない。
そして、るーこは、
「今まで世話になった。礼を言うぞ」
穏やかな笑顔で、そう答えた。
明日の朝になったら、るーこは、もういない。
支援弾をくらえーっ
そのことで頭がいっぱいで、ベッドに横になっても、俺は眠れずにいた。
いっそこのまま、寝ずにいようか? そうしたら、もしかしたらるーこのことを見送れるかも
しれないな。
よし、頑張ってみるか。まずは眠気覚ましに、コーヒーでも飲むとしよう。俺はベッドから立ち
上がり、部屋を出ようと――
コンコン。
「起きているか、うー?」
「るーこ?」
ドアを開け、るーこが入ってきた。
「どうした、るーこ?」
そのタイミングの良さに、不安を感じる。もしかして俺の企みがるーこにバレた、とか?
「この家での最後の夜だ。話し相手になれ、うー」
「え? あ、ああ」
違うみたいだな。とりあえずるーこと一緒にベッドに座る。
「うー」
俺を見つめ、るーこは、
「るーがいなくなるのが、そんなに寂しいか?」
心配そうな顔。――そんなの、答えは決まってる。
「ああ」
由真や瑠璃ちゃんとは学校でもどこでも会える。けど、るーことはもう二度と会えないかも……、
いや、会えないんだ。……寂しいに決まってるじゃないか!!
叫びたくなるのを、けれど堪える。るーこを引き留めるようなことは絶対にしてはいけない。
「なぁ、るーこ」
「なんだ、うー?」
「たまには、俺たちのこと、思い出してくれよな」
精一杯の、強がり。するとるーこは、
ぎゅっ。
「例え、どれだけ距離が離れても、るーはいつもうーたちのことを――、うーを想っているぞ」
抱きつき、耳元にそう囁く。
抱きしめたい。そしてずっと、抱きしめたままでいたい。そんな衝動に駆られる。……でも、
「……そうか、ありがとうな、るーこ」
そっと、るーこの頭をなでる。
「るーこ、俺もお前のことを忘れないよ。絶対に、だ。
元気でな、るーこ」
「うー……」
るーこは抱擁を解き、
「うーも、元気でな。
特に食には気を遣え。るーがいなくなったからと言って、かっぷらーめんばかり食べていたら承知
しないぞ」
「ああ、大丈夫だよ。俺がそのつもりでもタマ姉あたりが許さないだろうからな」
「……そうだな」
るーこは納得したように肯き、そして、
「安心した。これで、心おきなく行ける。……おやすみだぞ、うー」
俺の額にそっと触れる。――あれ、なんか、眠く……
そして、次の日の朝。るーこの姿は、この家のどこにもなかった。
つづく。
どうもです。第89話です。
>>177さん、支援ありがとうございました。m(_ _)m
かくしてるーこは河野家を去りました。
>>180 河野家喜多ーーー!!!
切ないですな。
るーこシナリオの最後を久しぶりに思い出しました。
もう本当にこれでるーこは戻って来ないのでしょうか?;_;
>>180 乙です……が、俺は信じないぞ!
るーこは必ず戻ってくるはず……
最近SS創作もご無沙汰だなあ……
ネタはあるにはあるけど、うまくまとまらなくて
今度の休みにでも考えてみよ
>>180 乙!
俺もるーこシナリオ思い出して少し泣けてきた(´;ω;`)
次の話でもう全員帰っちゃうのかな
185 :
名無しさんだよもん:2007/01/29(月) 22:29:41 ID:NWMlE3zX0
>>180 黄色の存在を早く消してくれ。読んでてムカツク。
もしかして100話でクローズかなぁ、と思ったり
とにかく乙
書庫徘徊してて思ったんだけど、結構半端なSSあるな。まぁ一般人が言えたことじゃないけど
その書き方は誤解を招くような。
ダブルミーニングのつもりなら別にいいけど。
捕手
自分のサイトに移行して継続したのも結構あるような?<中途SS
「もう、アンタとは口、利かないから」
郁乃の言葉は、少なくともこのみにとっては唐突だった。
「ど、どうして?」
目を真ん丸にして理由を尋ねる。
狼狽えるというより、驚いている表情。
郁乃の方は、さっきから変わらない無表情。
「姉のライバルとなあなあできる程、心広くないから、あたし」
言い切った後、視線を正面に戻す。
「ライバル?」
ぽかーんと首を傾げるこのみ。
いっとき郁乃の様子を伺うが、相手に話を続ける気がないと感じて、慌てて言葉を紡ぎ出す。
「な、なんのライバルなの? ねえ、郁乃ちゃん?」
無視。
「北村来たぞー」
廊下から戻った男子がクラス全員に通報する。
ばたばたと席に戻る生徒達。
「郁乃ちゃん。ねえ、郁乃ちゃん」
周囲の生徒の視線を集めるくらい、食い下がるこのみ。
「……」
郁乃は、長めの瞬きをひとつした。
体は正面を向いたまま、隣人を一瞥する。
「郁乃ちゃん……」
「あんたが、」
笑ったのかしかめたのか、わずかに唇の端を歪める。
「貴明と口を利かなかったら、考えてあげる」
「え?」
このみ、理解不能。
「うーっす、さっさと終わるぞー」
意思の疎通が取れぬまま、9月7日が始まった。
「おーい、チビッコいるかぁ」
昼休みが始まってすぐ、雄二が現れた。
「このみー、お兄ちゃんBが来てるよー」
入り口から呼んだ雄二に気付かないこのみに、クラスメートが声を掛ける。
お兄ちゃんAこと河野貴明、お兄ちゃんBこと向坂雄二、共に面が割れている。
やっぱりクラス中に顔を知られている環が、普通に向坂先輩だったり環先輩だったりするのは格というものか。
「う、うん」
椅子から立ち上がったこのみが、ちらっと隣に目を向ける。
「……」
隣人、我関せず。
4時限目が終わるこれまでの間、二人は会話を交わしていない。
郁乃は明快にこのみを無視する姿勢を取っていたし、
このみはこのみで声も掛けられないでいる。
「どうした? ボーッっとして?」
気がつくと、雄二が側まで来ていた。
「え? ううん、なんでもないよ」
「風邪ひくにゃ早いぞ。気をつけろよ」
口は悪いが過保護なお兄ちゃんB。
「あれ、もしかして、お前が小牧の妹か?」
隣の仏頂面に気がついた。
「……貴方のいう小牧が2−Bの小牧愛佳ならそうですけど、なにか?」
文句あるか、とでも続きそうな態度。ただ、雄二は貴明から予備知識を得ていた。
「いや別に、有名人だからさ」
「それはどうも。それで、用があるのはあたしなんですか?」
「挨拶くらいさせろって。俺は向坂雄二。貴明とはまあダチだ。よろしくな」
「それはどうも」
「ユウくん、どうしたの?」
このみが声を掛けると、郁乃は二人から視線を外す。
「おぉ、そうだった。このみ、今日は昼メシ屋上で食おうぜ。」
外れた視線が、ちょっと戻った。
「久しぶりね。こうやって四人でお弁当広げるのも」
「二学期初だな」
桜吹雪の一件以来、環達が屋上で昼食を食べる事は少なくなった。
貴明と愛佳は、やはり一緒に昼休みを過ごす事が多くなったし、
自然とこのみも、自分のクラスメートと昼食を共にする機会が増えた。
環と雄二が二人で昼飯を食う理由は、あまりない。
「……」
「どうしたの、このみ?」
それでも春夏が気を利かせてこのみに重箱級お弁当を持たせたり−単に作り過ぎたとの説もある−、
今日のように環が新メニューの試食に貴明らを引っ張り出したりといった機会はあって、
そんな時に一番無邪気に喜んでいたのは、このみだったのだが。
「うん……」
「砂糖と塩間違ったんじゃねえノグゲゲガガガ」
「そんなわけないだろ、このみじゃあるまいし」
「うん……」
姉弟のスキンシップにも、貴明の冗談にも反応しない。
「重症ねえ」
「でも食ってるけどな」
元気はなくても、食欲はあるのであった。
どうも盛り上がらなかった昼食会を終え、教室に戻ったこのみ。
郁乃は、そのまま席に座っていた。
「あ……」
やっぱり声を掛けられずに、次の授業を考える。
「国語……あれ?」
机の中に、現国の教科書が見あたらない。
「忘れてきたのかなぁ?」
鞄の中にも見当たらなかった教科書は。
翌朝、机の中で見つかった。
水曜3限、体育。
3年生は校舎外コース、1年生は校庭をマラソン。
「「お疲れ様です! お姉様」」
男子に混じっても相当前の方で戻った環を、2年生三人が出迎えた。
「「流石お姉様。お早いお帰りですね!」」
……パチパチ。
「こ、これも久しぶりね……貴方達授業は?」
「「自習です!」」
……コクコク。
「そ、そう……あら?」
視界の端、1年生が走っている校庭の隅。
見学組の生徒達の中に、環は見知った姿を見つけた。
「このみ、どこか悪いの?」
「あ、タマお姉ちゃん」
三人娘に断りを入れて近づいた環に、このみが気づく。
すぐ側に、車椅子の少女。
「風邪でもひいた?」
「ううん。大丈夫。ただ、体操着を忘れただけだよ」
「忘れた? って、今朝は持ってたじゃない?」
今日の朝、このみは環と雄二と、貴明と一緒に登校した。
その時は、小学生のように体操着袋を振り回す彼女を雄二がからかった筈だ。
「え、えっと、……中身を忘れたですよ……」
「なにがあったの?」
環が口調を強くする。
トラックを走る同僚を見つめたまま、耳だけ会話に向けている郁乃。
「……」
このみは、少し黙って、やがて顔を上げた。
「タマお姉ちゃんには、関係ないよ」
「このみ?」
このみのお株を奪うかのように、環が目を丸くする。
拗ねたり甘えたり以外で、このみが環を拒絶する事は、滅多にない。
「これは、このみの問題だから」
環を見つめる瞳は、少し揺れていたけれど、いつものように素直。
「……そう」
だから頷いた。
「じゃあ、口出ししないわ。でも」
優しく微笑む。
「辛くなったら、甘えていいからね」
「……うん、ありがとうタマお姉ちゃん」
このみの表情が、少し軽くなった。
「じゃ、私は戻るわね」
ぽん、このみの頭をひとつ撫でて、環は踵を返す。
はにかんで環を見送った後、真顔に戻る1年生。
隣の郁乃は、黙って校庭を眺めていた。
次の朝、貴明は春夏から意外な台詞を聞いた。
「ごめんなさいね。あの娘用事があるとかで、先に行っちゃったの」
ひとりで起きたのよ、と追加説明。
「珍しいですね」
「本当にね。風邪でも引いたのかしら?」
「その言い方は酷いんじゃないですか春夏さん」
お迎えが空振りに終わった貴明、雄二達と合流。
「あれ、チビッコは?」
「早起きして先に行ったって」
「なんだぁ、風邪でも引いたか?」
このみはまあ、滅多に風邪も引かない子ではあった。
支援
およそ2時間後、廊下で偶然。
「あっ、このみ、おはよ……」
「っ!」
貴明とばったり出会ったこのみは、くるりと反転して逃げ出した。
「なんだあいつは?」
呆然と貴明。
「……」
その目の前を、車椅子が通り過ぎる。
「あ、郁乃も、おはよう」
「……おはよ」
「このみ、どうしたんだ?」
「……。さあ? トイレじゃない?」
無表情に答えて、郁乃は教室の扉に向かった。
椅子に座って車椅子を畳んでいると、このみが戻った。
教室の扉から少し顔をのぞかせて、中を伺ってから入ってくる。
自分の席に座って、ちらっと郁乃に目をやる。
「……しゃべって、ないよ?」
「……」
「……ダメ?」
ちょっと伏し目。
「…………セーフ」
「えへ〜」
にこーとしたこのみから目を逸らしたのは、主として罪悪感のせいだったろう。
翌日も。
「おはよ……」
だだだだっ。
「……メタルス○イムみてーだな」
「なにとはぐれてるんだか……」
「事情はわからないけど、このみが3日連続で早起きできるとは思えない」
土曜日。経験則に従って、貴明はやはり柚原家に寄った。
「あっ、いい所に来てくれたわ」
出迎えた春夏の表情で、予測が正しかった事を知る。
「このみーっ! タカくん来たわよ起きなさーいっ!」
「……間に合うかな?」
実は貴明も寝坊気味。
「え、ええっ!? タカくん来ちゃってるのーっ!?」
「来ちゃってるわよっ。パン焼いてあるから……」
階段を上がっていく春夏。
間もなく、着替えもそこそこにバタバタとこのみが駆け下りてくる……
いつもなら、そうなるのだが。
「え? なにいってるの? 遅刻するわよ。ほらっ!」
なにやら揉めている。
どどどどっ。
やがて、凄い勢いで階段を下りてきたこのみ。
貴明と目も合わせず、というかあからさまに逸らして、急カーブで食堂へ。
「行ってきますっ!」
食パン咥えてとって返し、靴を引っかけてドアを叩き開ける。
「この……」
すれ違う間に貴明が、み、まで言う暇もなく、このみは出て行った。
目を瞑っていたような気もする。
「ごめんなさいね。なんだか変なのよあの子。先に行って貰えなんて……」
首をひねりながら降りてきた春夏だが、言い終わる前に、
ごいんっ!とド派手な音がした。
「「このみっ!?」」
二人が慌てて玄関を出ると、このみが門柱の前でひっくり返っていた。
どうやら、本当に目を瞑って走ったらしい。
足下に転がった植木鉢を見て、春夏が一瞬眉を吊り上げたが、
口に食パンが刺さったままの愛娘の姿に溜息をついた。
「うぅ……」
「まだ痛いのか?」
「う、ううん、平気だよっ」
そういって、ぺちん、と自分の額を叩いた少女。
「イタタタタ……」
叩いたつもりの手で、そのまま額を抑えてうずくまる。
衝突の後、起きあがるなり再び走り出そうとしたこのみだが、
「ちょっと待ちなさいっ!」
春夏の手により家に強制送還、応急処置。
「タカくん、これ、お願いね」
釘を刺されては逃走を観念したようで、大人しく道中を共にしている。
「昨日おととい早かったけど、クラスでなんかやってるのか?」
「えっ? う、ううん。ただ早く目が覚めたから……」
あからさまに貴明を避けていた割には、別段怒ったりしている様子もない。
「ごめんねタカくん……」
むしろキョロキョロと貴明の様子を伺って、自分が悪い事をしているような態度。
「なに後ろに下がってるんだ? 時間ないぞ?」
「え? ううん、別に」
おまけに、学校が近づくにつれて、妙にこそこそし始める。
「郁乃だったら先に来てるだろ。会う事はないさ」
カマを掛けてみた。
「ふえっ!? い、郁乃ちゃんは関係……」
「あるのか。やっぱり」
「……」
正直者。
「いや、最初は誕生日のことでまだ怒ってんのかと思ってたけどさ」
「そ、それはないよ」
そっちの方は、アイスを奢って貰った時点で消え去っている。
「なに揉めてるのか知らないけど、俺が郁乃と話してみようか?」
「それはダメっ!」
真面目な顔で、このみが否定する。
幼馴染みの剣幕に驚く貴明。
「これは、このみの問題だから、このみが解決するのであります」
決意のですます調。
「うーん、でもなあ」
自分が元凶とは知らない貴明は、首を捻った。
「タマ姉からも、様子がおかしいから見ててくれって言われてるし」
「あ……」
このみは一昨日の環との会話を思い出す。
「愛佳は愛佳で、郁乃がなにか抱えてるって悩んでてさ」
小牧姉妹と幼馴染み三人、双方に関係の深い貴明である。
「まあ、困ったら相談しろよ」
「……」
貴明の言葉にこそ困った顔をする少女。
「いや、無理にとは言わないよ」
優しい言葉にも、少女の視線が下がる。
「ほら、このみに避けられっぱなしなのは、俺が寂しいし」
「ぅぁ」
顔を上げたこのみ。泣きそう。
「あ、あのねっ、タカくんっ!」
「うん?」
「このみがタカくんを避けてるのはねっ」
「やっぱり避けてるのか」
「タカくんが嫌いだからじゃないからっ」
「判ってるよ」
「ホントにホントだから」
「判ってるって」
苦笑しながら、貴明は少女の頭を撫でた。
「イタタタタタ!」
たんこぶの上だった。
「わ、悪いっ、大丈夫か?」
「う、うん、平気だよ」
このみは目尻に涙を浮かべながら笑う。
「だから、タカくんもこのみのこと、嫌いにならないでね」
「んな事あるわけないだろ」
「えへへ……」
遅刻寸前な事も忘れて、校門前で和む二人。
ブロロロロロ……キキッ
そこにやってきた車1台。慌てた様子で急停車。
「ち、遅刻遅刻ぅ〜っ!」
「先行っていいわよ」
「それはダメぇ。間に合うから早く乗って!」
「慌てて押すと危ないって……ん?」
「なにやって……あ。」
「「「「……」」」」
ドタバタと車から降りる姉妹と、貴明達の視線がばっちり出会う。
「おおおおお、おはようこのみちゃん、とっ、貴明くん」
「お、おはよ」
動揺しまくった挨拶を交わす年長者二人。
いっぽう、一年生は。
「あ……う……」
じりじりと貴明から離れるこのみ。
姉の手を借りずに、無言で校門に近づく郁乃。
「おはようございます小牧先輩っ!」
このみはやたら大声で挨拶すると、踵を返して駆け出した。
郁乃はというと、こちらは貴明に挨拶もせず、同じ道を車椅子で辿って行った。
支援
ぴりぴり。
一年生の教室の、最前列のど真ん中。
英語教師橘の眼前に漂う、妙な緊張感。
「……」
ちらちらと右隣を窺って落ち着かないのが柚原このみ。
窺われている小牧郁乃。つんと正面を向いているが、意識は左方向。
周囲の生徒の何人か、おそらくこのみの友人であろう、が、気遣わしげな視線を送っている。
ちょっと入り込めない雰囲気。
「あー、こほん」
しかし教師としては、授業に集中しない生徒を注意しなければなるまい。
「柚原さん、小牧さん……っ!」
ぎろっ。
郁乃はおろかこのみにまで睨まれる橘。
「……なんでもありません」
授業が終わっても、席を立たない二人。
クラスメートも、その辺りの空間を避けて流れているようだ。
と、
ばんっ!
机を手のひらで叩いて、このみが立ち上がった。
「次は古文だねっ!」
返事を求めずに古文の教科書ノートを机に出すと。
「トイレっ!」
これまた大きな独り言を呟いて出口に向かう。
「……」
郁乃は、このみが廊下に出るのを視界の端に収めてから、隣の机を眺める。
5分後、このみが戻ってくると、勉強道具が机上から消え去っていた。
次の休み時間、このみは同じ言動を繰り返した。
数学のノートが消えた替わりに、古文が律儀に戻されていた。
放課後、このみが4回目の「トイレ」に立った間、机に戻される世界史の教科書。
「一日中それをやってたのか?」
掛けられた声に、手が止まった。
声を掛けた雄二を、ぼやっと見上げる郁乃。
「貴明のお使いですか? それとも環先輩? それとも、姉?」
「俺は俺で、チビ助の事は情報が入るんだよ」
「あ、そう」
悪びれた様子もない郁乃。
「保護者が多くて結構ですね」
「……態度わりーな」
雄二の方が首を振る。
「なにをやってるのか知らねーけどさ」
「知らないんなら黙ってれば?」
「っんだとぉ?」
睨む雄二。郁乃は戦闘モードの無表情。
一触即発の空気に、
「ユウくんは関係ないよっ!」
このみの声が割り込んだ。
「これは、このみと郁乃ちゃんの問題であります」
環と貴明に続く、三度目の宣言。
「そ、そうか?」
毒気を抜かれる雄二。
「そうね」
しれっと同意する郁乃。
「おまえが言うな……お?」
このみが、トコトコと近づいてきた。
「そういう事だから郁乃ちゃん!」
「……?」
「ちょっと付き合って貰うです」
「別にあたしはアンタと話すことなんか……」
今度は郁乃が躊躇する。
だが、
「こ・の・み・が・話があるであります!」
握り拳を胸元に締めたまま、ずいっと身を乗り出す。
郁乃が、少しのけぞった。
「う、……わ、わかった」
「じゃあ、しゅっぱーつ♪」
にこーと笑って、机の横に畳んだ車いすを準備する少女。
「じゃあねユウくん」
「あ、ああ」
二人は荷物をまとめると、教室を出て行った。
「あ、あれ? 郁乃?」
「小牧先輩、郁乃ちゃんお借りします」
「タクシーで帰るから」
「え、なに、なに〜っ?」
廊下から聞こえる会話。遠ざかる車輪の音。
「だ、だいじょうぶかなぁ……あれ? 向坂くん?」
愛佳が覗いた教室で、ぼんやりと立っている雄二。
「……」
黙考の後。
「やっぱり、春夏さんの娘だな」
一人納得して呟いた。
「くしゅっ!」
柚原家。台所。春夏。
「いやねえ、風邪かしら、それとも花粉症……今だとブタクサかしら……ブタクサ……豚……」
外見年齢不詳のこのみの母親が体重計に走った事は、本編と何の関係もない。
「……」
先程は迫力に押されて思わず答えてしまったが、
郁乃の「口利かない」宣言は今も続行中である。
あるのだが、
ガラガラガラガラ。
エレベータを降り、昇降口を出て、校門に向かう車椅子。
「……どこまで行く気?」
先に郁乃が降参した。
「このみの、お気に入りの場所」
「だからどこよ」
「行けば判るから」
強引なこのみに郁乃がペースを掴めないまま、校門を出て坂を下りる。
「ちょ、ちょっと待ったぁ!」
「どうしたの、っ、とっ、とぁっ?」
下り坂で前のめった車椅子が加速して、押していたこのみが逆に引っ張られた。
「わわわわっ!」
「っとっ!」
慌てて郁乃がハンドブレーキを掛け、落っこちそうになりながらなんとか停車する。
勢い余ってこのみが郁乃の背中にぶつかる。
「ご、ごめん郁乃ちゃん」
「ん、まあ、大丈夫」
そして郁乃は、急な坂道は後ろ向きに下るものだと教えた。
「むっ、とっ、とっ、とりゃ」
教えに従い、車椅子を支えながら後ろ歩きで進むこのみ。
ふらつく動きに、乗っている郁乃は不安を感じたが、
「……転んだら転んだでいか」
一生懸命な少女の様子に、素直に背中を預けることにする。
ただ、ミニスカートに前傾姿勢で坂道を後ずさる女の子のお尻に、
男子生徒達の視線が集中している事は、押し手が動揺しそうなので言わないでおいた。
坂を下りきってバス停。
「いっつもここから街に出るんだよ」
このみは普通に話しかけてくる。
散々騒いでシカトもないもので、なんとなく郁乃も休戦状態。
「知ってる。あたしは滅多に使わないけどね」
「昔ね、このみが初めて家出したときね、タカくんと遠くに行こうってバスに乗ったんだけど」
「循環バスでしょこれ?」
「うん。二人して同じ場所に戻ってきちゃった」
「バカは昔からバカか……」
街を通ってアイス屋。
「むー」
「なに?」
「このお店のアイスを食べるのは、タカくんがこのみに酷い事をした時が多いんだよ」
「お詫びに奢るのね、この前見た」
「いっつも同じ手でかいじゅーされる自分が情けないのであります!」
「んじゃ許さなければ」
「でもトリプルの誘惑には敵わないんだよ〜」
ぐー。
言ったこのみのお腹が鳴る。
「……」
バツが悪そうに赤面した同級生を、見上げた郁乃からも。
ぐー。
「……」
5分後、二人はヤックで向かい合う。
「タカくん達とは良く来るけど、郁乃ちゃんとお昼食べるのは、初めてだね」
「最初で最後かもね」
「うぅ……」
このみは拗ねた顔をしたが、とりあえず二人とも食欲を優先させた。
公園。
「ゲンジ丸の散歩コースなんだ」
「ああ、みんなが変な犬って言ってるやつ」
「ゲンジ丸は変じゃないよ!」
頬を膨らます。
「それと、タカくんとタマお姉ちゃんと、……あ、と、ユウくんと、近所の子供達と遊んだりするの」
「今一人忘れ……現在形?」
「うん、野球したり、サッカーしたり、タマお姉ちゃんがお話したり……」
「サンマ焼いたり?」
「サンマ焼いたり……へ? サンマ?」
郁乃は無言で、土管の側で煙を上げている少し気が早い秋の味覚と、七輪と猫と髪の長い女の子を指さした。
川沿いを歩きながら。
「春は綺麗だよー。今年はタカくん達とお花見したんだよ」
「知ってる。何度か来たことあるもの」
手術の時の事を思い出して、郁乃は少し苦い表情になった。
橋を渡る。
「あそこの階段の手摺を渡るのがこのみの目標だよっ」
「危ないだけじゃない?」
「タカくんもそういって止めるんだ」
階段の上で、足を止める。
「ここを降りると、すぐこのみとタカくんの家」
「近いの?」
「うん。良く泊まりに来たり、泊まりに行ったり」
「……それも現在形?」
郁乃の声に、少し険。
「うん。でも、そういえば最近泊まってないなぁ」
「そう願うわ」
そして、このみは少し道を戻ると、土手から河原に降りた。
「っ、草が深いったら」
「足、気をつけてね」
草むらはまだ背が高く、車椅子の郁野の視界は悪い。
おまけに地面も土が柔らかく、車輪が沈んで不安定。
「下まで降りる必要があるの?」
「うん」
このみの返答は端的だったので、郁乃は黙って従った。
「ついたよっ!」
「うわ……」
ぱっと草むらが開けて、眼前に川面が広がる。
午後の日差しを浴びて、波間に踊る光達。
「えへへー。この辺りが一番綺麗なんだ」
郁乃の背後から横に進み出て、このみが胸を張る。
「水深の割に流速があるからかしらね。風が抜ける場所なのかも」
「……???」
「……なんでもない。忘れて」
二人して、並んで川を眺める。
話がある筈のこのみは、何か迷っている様子。
口を開いたのは、結局郁乃の方だった。
「で?」
「えっ?」
「ここも貴明と良く来るわけ?」
これまでの話から、既定のつもりで聞いた。
「ううん。タカくんとは来たことないよ」
が、このみは首を振った。
「ふーん、アンタなら真っ先に教えそうなのに」
「ここを見つけた時ね、このみはタカくんとケンカしてたの」
郁乃から視線を離して、水面に目を向けるこのみ。
「だから、ここに来るのはタカくんと顔を合わせたくないとき」
「アンタ達でもケンカするの?」
機嫌を損ねてもアイスで懐柔されるのではないか。
「むー、いつもいつも食べ物でごまかされるこのみではないよ」
大概は誤魔化されるけど。
「でもね。すぐ許しちゃうんだけどね」
「……」
原因がこの子にあっても、貴明は自分が謝るんだろうな。
郁乃はそんなことを思った。
「ずっと、このみはタカくんと一緒にいたから」
「散々聞いた」
あちこち寄り道したのは、つまりそういう事を言いたかったのだろう。
「今でもね」
「やっぱりこのみは、タカくんと話ができないと寂しくなるんだよ」
「昨日も一昨日も、頑張って会わないようにしたけど」
「今朝、会っちゃったらね、凄く嬉しくてね」
「だから、やっぱり、このみはタカくんとケンカはできないよ」
ぽつんと呟いて、このみは言葉を切った。
「だったら、しなければ?」
少し間を置いて、郁乃が答えた。
「アンタと貴明が仲良いのは、十分判ったわ」
「う、うん」
「だから、あたしと口利かなければいいだけの話じゃない」
「そんなの……」
「貴明とは10年来の付き合い、あたしとは会って1週間。迷うような選択じゃないと思うけど?」
「で、でも……」
「アンタだって同級生全員と友達なわけじゃないでしょ? だったら……」
「どうしてそういうこと言うのっ!?」
このみが声を荒げて、郁乃が驚いた顔をする。
「このみは郁乃ちゃんとも仲良くしたいのにっ」
瞳を大きく広げて郁乃を見つめるこのみ。
「せっかく友達になれたと思ったのにっ!」
「なんで、そういうこと言うですか……」
郁乃はその視線を受け止めたが、ややあって少し目を落とす。
「……どっちも欲しがってるから」
ぼそっと呟く。
「え?」
聞き取れなかったか、このみが聞き返す。
「両方欲しがるのは、都合が良すぎるって言ってるの」
顔を上げて、郁乃が言い直す。
「だって、タカくんと郁乃ちゃん……」
「そっちじゃない。貴明のこと」
「?」
内容が理解できずに、このみが目を丸くする。
「どっちもってのはね、幼馴染みの貴明と、恋人の貴明、ってこと」
「こ、こいびとっ!?」
飛び上がりそうな勢いで驚く少女。
「そ、そんなのあるわけないよっ、タカくんの恋人は小牧先輩でしょっ?」
「もしも、姉がいなかったら?」
「それでもっ! タカくんは、このみの幼馴染みだよ。だってずっと……」
「自覚、なかったのね」
「ち、違うってば」
「違わない」
郁乃はきっぱりと言い切った。
「あのねぇ……」
少し呆れたような口調も混ぜて、言葉を追加する。
「転入してからこっちアンタ見てても思ったし、今日のノロケ話でも思ったけど」
「毎日毎日一緒に登下校したり、この年齢になって家に泊まりに行ったり」
「なにかと理由つけては抱きついたり撫でられたりひっついたり」
「男と女がそんなのは、幼馴染みとは言わないの」
畳みかける郁乃。混乱するこのみ。
「そんな事言ったって、だって、だってこのみとタカくんは、ずっと……」
「そういう関係だった? なら結論はひとつよ」
「えっ?」
郁乃は、一呼吸置いて言った。
「アンタは、貴明の恋人だった」
呆然とするこのみ。
「そんなわけ……」
「なくない。アンタが誤魔化してただけ」
「ごまかしてなんか……」
「いない? じゃあ、姉と貴明がくっついたって知った時、何とも思わなかった?」
「え?」
「いつ判ったの? 貴明から聞いた? 二人一緒の所を見た?」
「それは、みんなで紙吹雪を作った時に……」
「アレか……まあいいわ。その時、どう思った?」
「どうって、そんな、屋上から見て、桜吹雪が綺麗で、そしたらタカくんと小牧先輩がいて、二人が近寄って……あれ?」
このみの表情が困惑に変わる。その瞳から涙が溢れ出す。
目を擦る。
「あれ? なんでだろ、涙、ゴミ? 変だよ。あの時も? あれ? なんだろ……」
「それが、答えよ」
郁乃の口調は努めて冷たかった。表情は、少し憂鬱そうだった。
「アンタと貴明は、幼馴染みと同時に恋人同士だった。でも、二人とも自覚がないから、貴明は鈍いから気づかなくて」
「それでアンタは、はっきりさせるのが怖くて、ずっと誤魔化して」
「そのまま、タダの友達のフリをして、やってることは恋人同士で、都合良く楽しいとこばかり摘んでた」
郁乃の口は、この一週間で交われた会話よりも多いくらいの、言葉の量を紡ぎ出す。
支援
「違うよっ!」
このみは激しく首を振って遮った。
「そんなの、郁乃ちゃんに判るわけないじゃないっ! このみにも判らないのにっ!」
「考えなかったからでしょ」
叫びは、即答で跳ね返された。
「考えなくても気持ち良かったから。考えたらそれが壊れるかも知れないから」
「誰も間に入ってこなければ、それで良かったんでしょうけどね」
「あいにく事情を知らない姉が、ずかずか踏み込んで来た」
「簡単に言うとね、このみ」
「うちの姉に、貴明を盗られたのよ、アンタ」
「そんな……、そんなの、違うよ、わかんないよ」
このみの声が震える。
「なんで? なんで? なんでそんなこと言うの!」
「違うのに、そんなわけないのに、このみはそんなんじゃないのに」
黙って見つめる郁乃。このみの瞳に涙が溢れる。
そして、
「郁乃ちゃんの意地悪っ!」
突き刺すように叫ぶと、このみは弾けるように踵を返す。
郁乃の耳から声の余韻が消えぬ間に、少女の背中は川沿いを駆けて遠ざかった。
「……」
そんなこのみを、ぼうっと見送る郁乃。
「……まあ、意地悪だけどさ」
少女の影は、あっという間に小さくなってゆく。
「……足速いな、あの子」
はあっ。
大きなため息をひとつ。
同級生の姿が、橋の向こう側に消えるのを確認して、しばらくぼんやりした後。
ふと、来た道を振り返った。
「う、自走で帰るのか」
土にめり込んだ車輪と、前途に広がる草むら。
降りてきた土手は、確か結構な急勾配だった。
「どうしよう?」
帰路の困難に、今さら頭を抱える。
「まあ、自業自得かぁ」
土手下まで自力で移動して、あとは誰か通りかかるのを待とう。
郁乃が、そんな構想を立てたとき。
「あれ?」
遠くの方から、小さな影がやってきた。
「……このみ?」
ととととっ。
遠ざかったのと同じくらいの駿足で、少女が近づいてくる。
「ご、ごめんね郁乃ちゃんっ!」
あっという間に、郁乃の隣に到着した。
「忘れてた、帰り、一人じゃ、無理、送って、いく、か、ら」
全速力で走り去って、全速力で駆け戻ったのだろう。
息を切らせて、肩が上下に動いて、
そして顔面は、まだ涙でぐしゃぐしゃだった。
「じゃあ、もど、ろ、おろ?」
そんな状態で、このみは車椅子を押そうとして、その足がもつれる。
「うわたっ!」
ごてん、と郁乃の足下にひっくり返った少女。
「あ、ははは、ごめん、と、あ、足が……」
瞳から涙も止まらないまま、笑ったり謝ったり痛がったり忙しい。
「……少し、休んだら?」
心に浮かんだ色々な感情は置いて、とりあえず郁乃はそう勧めた。
水の音、風の音、草の音。
郁乃の足下に寝っ転がったこのみは、両腕で顔を覆ったまま微動だにしない。
車椅子の少女も黙ったまま、川の流れを見やっている。
どのくらいそうしていただろうか。
「……郁乃ちゃんは」
このみが地面から尋ねた。
「ん?」
「郁乃ちゃんは、考えたの?」
「……」
「考えたから、判ったの?」
「……まあ、ね」
郁乃は、ぽんと足を投げ出しては、反動でふくらはぎをレッグレストに落とす。
それを4回ほど繰り返して、また動きを止める。
「この一週間は、アンタの事ばかり考えてたわよ」
ぼそっと、このみの方を見ないで付け加える。
「……そう、なんだ」
このみも、顔を覆う腕をどけずに呟く。
また押し黙る二人。
そのうち、
「……このみ?」
仰向けに体を投げ出している少女の様子を、郁乃が訝る。
反応はない。平たい胸が、規則正しく上下している。
「……寝てるよ、この子」
郁乃は呆れたが、そのまま視線を川に戻した。
まだ夏の暑さが残る河原を、涼しげな風が吹き抜ける。
なんとなく腹が立って、
「なんでこんな爽やかなのよ」
車椅子の少女は、空気に八つ当たりした。
河原に自生する灌木群から、ヒグラシの声が聞こえる頃。
二人の少女は、川岸を離れて家路に就いた。
「今日はごめんね。遅くまで連れ回して」
「う、こっちこそ、ごめん」
自分が間違っているつもりはないが、思わず郁乃も謝り返していた。
「……」
このみは答えない。
「通りまで出れば、タクシー拾うから」
「うん」
郁乃が車を拾うまで、このみは付き合った。
別れ際。
「……みるから」
「え?」
「このみ、考えてみるから」
「……ごめん」
郁乃は、何故だかもう一度謝った。
日曜日、このみは、一日中部屋に篭もっていた。
そして週明け。
貴明のお迎えは、またも空振りに終わる。
「熱ですか?」
「そうなのよ。ここんとこ無駄足が多くてごめんね」
「いえ、でも、風邪ひいた?」
「そうでもないみたいなのよね。おとつい帰って来てから様子がおかしいから心配はしてたんだけど」
「病院に連れてった方が」
「様子を見てね。でも、大丈夫だと思うわ」
「原因わからないんでしょう?」
「うーん、まあ、私のカンなんだけど、この症状は……」
春夏は、少し首を傾げながら言った。
「たぶん、知恵熱じゃないかしら?」
以上です。>198>204>215さん支援ありがとうございました。
うーん……まあ、言い訳はやめときます。
相変わらず出番のない玲於奈ですが、次もこのみが主役です
あ、前回ネタにした郁乃の誕生日、あっさり決まりましたね。しかし3月3日てw
玲於奈は4月20日らしいですが、転校直後で誕生日どころじゃなかったろうな…
字句訂正
>207車いす→車椅子
>211郁野→郁乃
そんなオチwww
GJです!!
あいかわらず会話が多いからテンポがよくてスッキリ読めます。
ただいくのんは捻くれ者でもさすがに教科書隠したりはしないんじゃ・・・
玲於奈の出番が早く来ることを期待してます。
>220です。レスどもです。励みになります。
>221
(知恵熱の話であれば)というか、長さの関係でここがオチになってしまいましたw
修羅場っぽい話でも、あまり暗くはしたくないのでほのぼの感を出したかったのですが
>222
郁乃は敵と見たら容赦しないかなというイメージ(でも経験ないから小学生レベルw)と、
シカトだけでは間が保たないかと思ったのですが、余計だったかも知れません
色々悩みながら書いてるので、こういう御意見はとてもありがたいです
玲於奈は次の後半か次々回……書いてみないと長さがわからないのでなんとも(恥
GJ……!
へっぽこな玲於奈を楽しみにしてる
>>220 待ちわびてましたGJ!です、特に郁乃が行間でも真剣に悩んでいたであろう光景が想像できてすごく良いです。
理由を尋ねてもるーこは何も教えようとはしない。だけどいつぞやの予鈴のノイズ、それに花梨が
見せてくれた不思議なビデオ映像から俺は、るーこが仲間と共に故郷に帰るのだと悟った。
るーこの念願がようやく叶うのだ。引き留めるようなことは決して出来ない。だから、見送りすら
要らないと言うるーこの言葉に、寂しさを感じながらも肯くしかなかった。
夜。眠れずにいる俺のもとに、話し相手になれとやってきたるーこ。こみ上げる寂しさを堪え、
せめてたまには俺たちを思い出してくれと頼む。するとるーこは俺に抱きつき、例えどれだけ距離が
離れようとも、いつも俺たちを想っているぞと言ってくれた。――ありがとう、るーこ。
そして、朝。るーこの姿は、どこにもなかった。
るーこが去ったことで、俺はある決断をした。それは――
「みんな、ちょっと聞いてくれ。話したいことがあるんだ」
朝食の席、俺はそう切り出す。すると、
「待って、たかちゃん」
「花梨?」
「たかちゃんが言いたいことは分かってるよ。けど、これは私の方から言った方がいいと思うんだ」
そこで花梨は少しうつむき、けれど思い直したように改めて俺を見つめ、笑顔で、
「私、自分の家に帰るね」
――そうか、花梨、自分でもそう決めていたのか。
「私はるーこの監視が目的でこの家に来たんだもの。監視対象がいなくなった以上、撤収するのは
当然なんよね。
ホントは、このままずっと、この家に……
う、ううん! 何でもないっ!」
迷いを断ち切るように、パチンと自分の頬を両手で叩く花梨。
「そんなワケだから、笹森花梨、実家に帰らせてもらいまーす!
たかちゃん、環さん、優希ちゃん、今まで色々お世話になりました。それと」
花梨は、何故か上を向いて、
「るーーーーーーーーこーーーーーーーーー!! 聞こえてるかどうか分からないけど、美味しい
タマゴサンド、ありがとねーーーーーーーーーーーーっ!!」
大声でそう叫び、そしてスッキリした顔で、
「よし、これでオシマイっと。
じゃあみんな、私、ご飯食べ終わったら――」
「待って」
花梨の言葉を遮るタマ姉。
「出ていくのは、あなただけじゃないわよ。でしょ、優季」
「はい、そうですね」
寂しげに肯く優季。
「貴明さん、私も、自分の家に帰ることにしました」
「タカ坊、私も帰るわね」
「環さん、優季ちゃん……」
驚く花梨。けど俺にとっては予想通りの台詞だった。だって、
「私がここにいたのは、この家の誰かに貴明さんを取られるんじゃないかって心配だったから。
けどもう、いる必要、なくなっちゃいましたから」
「で、みんなが帰るなら、私の役目も終わりってこと」
優季とタマ姉が笑顔でそう告げる。
「そっか……、じゃあみんな、この家からいなくなっちゃうんだ」
何故か、心配そうに俺を見る花梨。
「うん、そうだな」
「たかちゃん、その……大丈夫?」
「大丈夫って?」
「だって……、由真ちゃんも瑠璃ちゃんもるーこもいなくて、私たちもいなくなって……
いきなり一人になっちゃうんだよ。たかちゃん、寂しくない?」
……全く、花梨はどうしてそう、俺の弱いところを突いてくるのかなぁ。
「じゃあ、さ」
俺は冗談っぽく、
「花梨だけ残ってくれるか?」
「え、えええっ!?」
驚く花梨、そして、
「そ、それはダメです!
もし花梨さんが残ると言うなら、私だって残りますよ!」
真っ赤になって訴える優季。
「なら、監督役の私も残らなくちゃね」
こっちは俺同様、いかにも冗談っぽいタマ姉。
「と、まぁこうなっちまうワケだよ」
俺は花梨に向かって肩をすくめ、
「だから、三人一緒に出ていくのが正解なんだ。それでいいんだよ」
「たかちゃん、でも……」
「大体、本来この家は今、俺一人のはずだったんだぜ。
口うるさい両親が海外に行って、さぁ悠々自適な生活だって喜んでたのに、いきなり由真が家に
押し掛けてきたかと思ったら、あっという間にみんなが住み着いちまってさ。しかも俺以外全員
女の子だろ、正直、いろんな意味で気が休まらなかったよ。
でも、これでようやく普通の生活が出来るってワケだ。まぁ賑やかだったのが急に静かになるのは
最初は違和感とか感じるかもしれないけど、それも時間の問題だよ、きっと」
もしかしたらこんな俺の強がりは、まぁタマ姉は当然として、優季や花梨にも見抜かれているの
かもしれないな。何となく、つらつら述べてる自分が空しい。
「そっか……、うん、分かった」
やや寂しそうに肯く花梨。
「でも貴明さん、いきなり一人になって、本当に大丈夫ですか? お食事とかお家のこととか。
貴明さんさえよければ、私、毎日お食事作りに――」
「いやいやいや、大丈夫、マジで大丈夫だから」
優季はホントにやりかねない。
「俺もみんなの手伝いとかで料理はそこそこ覚えた……つもりだし、掃除や洗濯は元々出来るし」
「本当かしら? たまに様子見に来るわよ」
「ほ、ホントに大丈夫だってば」
タマ姉の目が怖い。……うん、少なくとも掃除はマメにしなくちゃな。
「本当に大丈夫ですか? 私たちがいなくなった途端、毎日カップラーメンなんて食べたり――」
優季の口から出たカップラーメンという言葉に、思わず吹き出してしまう。
「え、私、何か変なこと言いましたか?」
「――いや、さ。実はるーこにも言われたんだ。カップラーメンばかり食べてたら承知しないって。
大丈夫だよ。少なくとも毎日は食べないから。約束する」
「それって、たまには食べるってことかしら?」
う、タマ姉が睨んでる。
「あ、いやその、ホントにたまにだから。
例えばええと……、あ、朝寝坊して遅刻しそうなときとか。何も食べないよりはマシだろ?」
「ふぅん……ま、いいわ」
咄嗟の思いつきで、我ながら今ひとつ説得力に欠ける言い訳だと思ったのだが、幸いタマ姉は納得
してくれた様子。
「あ、そうだ」
優季はポンと手を叩き、
「それなら、貴明さんのためにレシピノート作りませんか?」
「ああ、いいわねそれ」
「さんせーい! るーこから教わった美味しいタマゴサンドの作り方、書いてあげるよ!」
タマ姉と花梨も同意する。レシピノートか、確かにありがたいかも。
「それじゃあ、朝食が終わったら早速作りましょうか」
タマ姉の提案に二人が肯いた。
一冊のノートに、タマ姉、優季、花梨の順に、自分たちのレシピを書いていくこととなったのだが、
一番手のタマ姉はスラスラと10分程度で書き上げると、
「さて、と、次は大掃除ね。タカ坊、花梨、手伝って」
と、優季にノートを手渡した。
「大掃除って、なんで?」
「”立つ鳥跡を濁さず”って言うじゃない。それに、今のうちに徹底的に掃除しておいた方が、後々
タカ坊が一人で掃除するより楽でしょ。
あ、花梨は優季が書き終わったら交替していいからね」
「はーい」
こうしてタマ姉指揮の下、大掃除が始まった。
普段から掃除はみんなでマメにしてたから大した作業にはならないだろうと思っていた俺だったが、
いざ始めてみると照明だの窓枠だのキッチンまわりだの、更にはベッドやタンスを動かし、その下や
裏側まで掃除させられる念の入りよう。なかなかの重労働だ。
「何もここまでやらなくたって……」
空にした冷蔵庫の中を拭きながらそうぼやくと、隣で流し台を磨いていたタマ姉は、
「この家にはひと月以上もお世話になったんだもの、感謝の気持ちを込めて、ね」
「じゃあ、俺は?」
「タカ坊は私たちに世話してもらったでしょ。だからお手伝い、ね」
はぁ、おっしゃる通りですね。
「お待たせしました。花梨さん、交替しましょ」
「うん。じゃあ後はお願いね」
書き終えた優季が花梨と替わり、花梨がやっていた窓拭きを始める。
「さーてと、じゃあ、こっちはこっちで頑張っちゃお〜っと!」
花梨はレシピノートに取りかかる。「たまご、たまご、タマゴサンドをつっくりっましょ〜♪」
なんて歌いながらペンでスラスラと――
コツン。
「こら、手が止まってるわよ」
痛て、タマ姉に怒られた。
正直かなり面倒くさい大掃除だったが、これもタマ姉たちとの生活の思い出になるのかと思うと、
終わったのは夕方だけど、俺にとってはあっという間だった。
「――ふぅ、ま、こんなところでしょ」
ピカピカになった家中を見て回り、満足そうなタマ姉。
「そうですね」
「うん」
優季と花梨も満足そう。
そう、これで、終わりなんだ。後は――
「じゃあ、タカ坊」
微笑み、タマ姉は、
「私たち、そろそろ帰るわね」
「うん、じゃあ」
――寂しい。
「タマ姉」
――辛い。
「花梨」
――不安も、少し。
「優季」
――切なくて、悲しい。でも、
「みんな、今まで本当にありがとうな。
俺、みんなと一緒に暮らせて、本当によかったって思ってる。みんなと一緒に暮らしたこと、俺、
一生の思い出にするよ。
もう一度、言うよ。――本当に、ありがとう」
この感謝の気持ちは、嘘偽りない本心。
だから、笑っていられる。だから、笑ってみんなを見送れる。
由真、瑠璃ちゃん、それにるーこ。それぞれ問題を乗り越え、帰っていった三人。
きっと、同じ。これは、タマ姉たちにとっても門出なんだ。だから――涙は、必要ない。
「タカ坊……」
「たかちゃん……」
「貴明さん……」
……だからさ、必要ないんだけどなぁ。――どうして、三人とも泣いてるんだよ。
「おいおい、大げさだなぁ。明日になったらまた会えるじゃないか」
「……わ、分かってるわよ、そんなこと」
珍しく強がってるタマ姉。
「そ、そうですよね。明日に……ひっく……なったら……」
一生懸命笑おうとして、だけど涙が止まらない優季。
「た、たかちゃん……、あ、明日は……ぐすっ、明日はミステリ研、絶対参加だかんね!」
「ああ分かったよ、花梨会長」
そう答えても、花梨の涙は止まらない。タマ姉も、優季も。参ったなぁ……
ぎゅっ。
いきなり、三人が抱きついてきた。
俺はかける言葉が見つからず、そして三人も俺に抱きついたまま何も言わない。
……せめて、こうしよう。俺は三人を優しく包み込むように――だけどさすがに三人を抱えきる
には手が届かず、真ん中の優季は触れることも――
ちゅっ。
「――え?」
優季からの、頬へのキス。
「――私だって、ずっと、こうしたかったんですよ」
唇を離し、優季が囁く。そして優季は、
「さあ、もう、行きましょう」
タマ姉、花梨の手を取り、そっと俺から離れる。
支援
そしてその手に引かれるように、タマ姉と花梨も俺からすっと離れ、三人は――
「じゃあタカ坊、また明日ね」
「貴明さん、また明日、学校で」
「たかちゃん、ばいばい」
窓の外からは夕焼けの光。俺は、一人きりで居間に佇んでいる。
ふと、テーブルに置かれたレシピノートに目がいき、手に取って開く。
タマ姉の字はとてもキレイで、分量や調理器具の使い方も分かりやすく書いてある。優季も負けず
劣らずで、しかも『分からないことがあったらいつでも電話してくださいね』なんて電話番号まで
書いてある。で、花梨のはUFOだのカッパだの可愛らしい絵が描いてあって――
「タカくん」
いつの間にか、このみが俺の隣にいた。
「このみ、今日はあの二人と出かけてたんだろ。もう帰ってきたのか」
それには答えず、このみは、
「……みんな、帰っちゃったんだね」
「ああ」
このみは俺の手を握り、
「タカくん、あのね――」
何か言おうとするこのみ。空いてる手でその頭をくしゃくしゃとなでてやり、
「心配するなよ、別に落ち込んじゃいないからさ」
するとこのみ、やけに明るい顔で、
「うん、でも大丈夫だよ。だって――」
つづく。
どうもです。第90話です。
>>234さん、支援ありがとうございました。m(_ _)m
次回、『河野家にようこそ』最終話です。
次回か。
長期連載乙と言いたい。
乙
そして、新シリーズ河野家よさらば
>236
乙です〜。100話まで行くと思ってたのに、F91で終わりでつか……つ_T)
あっさり帰るのが花梨らしいっちゃらしいかな
漏れが読み始めたのは40話くらいからでしたが、2年近い長期連載、来週で本当に・・・
とかいいつつ最終話(その7)とかまで行ったら笑う。いやむしろ歓迎w
>>236 乙
今回も面白かった反面、次で最終話となると寂しいな(´・ω・`)
乙華麗
来週で終わりかと思うと寂しいですね・・・
再来週は河野家にようこそZ、第一話・白い先輩になって貰いたいですw
え?
河野家にようこそ はスタートじゃあないの?
その次からは、本格的に 全員告白、争奪&ラブ ストーリーじゃあないの?
>>236 河野家喜多ーーー!!!
っと思ったら、次回で最終回ですか!?
確か連載が始まったのが2年前の春だったはずだから
もう少し続けば、丸2年だったのですが、残念です。
しかし、作中では2ヶ月と経っていないのですねw
「長期連載お疲れさま」の言葉は来週のためにとっておいて
1週間後をwktkしながら待つことにします。
先週「100話で終わりじゃね?」と言いだした者だが、見事大ハズレときたようだwwwww
このみルートか、誰ともくっつかないのか、それとも……
とりあえずPre乙
245 :
名無しさんだよもん:2007/02/06(火) 03:00:53 ID:lNLzpdMX0
とうとう来週で終わりですか……。
さびしいけれど仕方がないですね。
この作者さんのさーりゃんまーりゃんも出る話もみたいですが、
やるとしてもOVAやADの後でしょうか。
河野家も次回で終わりか……
毎週楽しみにしてただけに、寂しい気もするな
毎週月曜はうたらじ&河野家だったもんで
にしても、今回はいい引きだな。最終回をwktkしながら待ってるぜ
個人的に
>>241に同意
>河野家作者
どうせ最後にまーりゃんが出て来て
「河野家の物語はもうちょっと続くからな」
とか言って惑星るーに行ったり、メイドロボと戦ったりするんだろwwwww
。・゚・(ノД`)・゚・。乙だよ
『彼女』はとても優しいヒトだ
それに、自分と同じ境遇でもある
あと、何事も自分の中へと抱えこんでしまう癖がある
だから、頬っておけなくて何度か手助けした事もあった
隠れてに図書の本の整理をしたし
異性と慣れる練習とかもした
そして
『彼女』のおかげで、今こうして由真と一緒にいられる
『彼女』には本当に感謝をしていた・・・
ただ、それだけだった・・・
それだけの存在だったのに
今日は『彼女』と買い物わした。
まあ、これが初めではない。
由真と付き合う前に一度だけ行った事があった。
由真とは違う時間を2人で過ごし、それなりに楽しかった。・・・でも、やっぱり由真じゃなと・・・
そして今は『彼女』と一緒に暮れなずむ帰り道を歩いていた。
前にもこんなフウに2人で帰り道を歩いたな・・・
そんな事を思いながら、雑談に花を咲かせていた。
別れ道にさしかかり。
俺は彼女に別れを言った。
明日、由真に何て言おうか
きっと、由真は不機嫌になっている
言い訳探せるかな
そんな事わ考えながら歩き出そうとした瞬間・・・
刹那に
『それ』はきた・・・
視界わ遮る黒い影・・・
鼻孔を掠める柔らかな匂い・・・
口に広がる甘い味・・・
五感の全てが反応し、脳髄に響かせる・・・
頭の中が白くになって行く感覚・・・
ああ、これは
キスだ・・・
由真と良くやるアレだ。
互いに唇を当てるだけの簡単な行為だが
それだけで、愛してると伝えられ
愛されてると伝わる
最高の愛情表現
でもこれは
由真とは違う感じ・・・
由真は夏草みたいな爽やかな感じだけど
これは春風みたいな柔らかくて甘い感じだ
暗い影が視界から遠ざかり
痺れた唇にまだ柔らかい余韻が残っている。
『それ』は、『彼女』は
小牧だった。
「さよなら」
俺が惚けているのを余所に、小牧はそう一言だけ残し駆け出して行った。
そして俺は、それをただ立ち尽くしいた。
雲民です
1ヶ月間
トエックを受ける練習をしました
覚えていたら幸いです
これからは一週間〜三週間ペースで行かな
あと、予想より短くなります
>252
久しぶりだな覚えてたよ乙。予想はしないから無理せず頑張れ
>>252 久しぶりです。乙
久しぶりだったんで、一瞬何の話読んでるのかわからなかったw
るーこ「狭いぞっ、もっとそっちにつめろ、うー」
俺「いや・・、もともと一つのイスに二人で座るのが無理ぽ」
るーこ「しょうがない。それなら、うーの膝の上に座るぞっ」
俺「ちょ、おま、やめっ!ぐりぐりしたらダメだってば!!」
るーこ「・・・な、なんだか硬いモノがあたってるぞ、うー・・・」
俺「ーーーーーーーーーーっ!!!」
るーこ「るるぅ?るーーーーーーーーーーーっ!!!」
・・・・・
・・・・
・・・
257 :
名無しさんだよもん:2007/02/08(木) 16:41:04 ID:hpddEBZ+0
かもりん「ねぇねぇ、タカちゃん…」
「ん?」
かもりん「あたしたち、恋人同士なんよね・・・?」
「あ、あぁ。そうだ・・・けど…どうか・・・したか?」
かもりん「・・・・・・」
「笹森さん・・・・?」
かもりん「べんとら〜〜〜〜♥」
「な、なんだ?」
かもりん「ね、もう一回言うんよぉ」
「なにを・・・」
かもりん「笹森さんは、俺の物だって」
「いや、そこまで言ってな」
かもりん「べんとらべんとら〜」
>257
?すまんがよくわからん。話としてオチてる?
今日で終わりか…
260 :
名無しさんだよもん:2007/02/12(月) 01:43:05 ID:KlpmDXR20
河野家にようこそ次回で最終回か
時は流れたな…
俺の中では
河野家>>>ヤンマガ≧ジャンプ
だった、作者よ…。
。・゚・(ノД`)・゚・。
河野家の作者って死んじゃうの?
なんで、こんな流れに…w
まあ、でも、もう数時間で「河野家にようこそ」が終わってしまうと
思うと、妙に感慨深いな。
SSなんてあまり読まなかった漏れが、このスレを定期的に
checkするようになったのは、「河野家」のおかげでもある。
でも河野家以外でも単発でSSを書いてくれる可能性があると思えば、次の作品が楽しみじゃないか
と、遠まわしにお願いしてみる
次回からは新連載「河野家にようこそ2」が始まります。
どうもです。作者です。
最終回ですが、ちょっと投稿が遅れます。
21:30〜22:00頃に投稿します。
267 :
新連載作者:2007/02/12(月) 21:47:39 ID:ZwAZGZ3i0
「ハーレムプリンス 河野貴明」を執筆中!
U-1モノはよそでやってくれ
「あ、やっと来た。遅いよ二人とも、どうしたの?」
「いや〜、ゴメンゴメンこのみ。コレ買うのに並んでたから」
「あ! それってこの間のクッキー!?」
「……正解」
「……(ゴクリ)」
「お姉ちゃん、そんな飢えた目しないでよ」
「そそそんな目なんかしてないよぉ!」
「ふふっ、じゃあ紅茶、淹れますね」
「ええ、お願い」
「このクッキーホンマ美味しいもんな〜。楽しみや〜」
「……う〜、ウチ、このクッキーの味盗んだる」
「あれ、そう言えば花梨は?」
「さっき電話が来てましたよ。寄るところが出来たから遅れるって」
「ふぅん。……ねぇ、それじゃあさ」
「花梨さんが来る前にクッキーを全部食べようだなんて酷いよ由真! あたしは反対!」
「……いや、誰もそんなこと言ってないんだけど」
「……お姉ちゃん、自分がそう考えてたからって」
「ち、ちち違うよぉ! もう、郁乃ったら最近あたしに意地悪ばかり言ってる!」
「あたしは元からこうだけど? お姉ちゃん、いい加減妹離れしてくれないかなぁ」
「い、郁乃に嫌われた!? ううっ、お姉ちゃんショック……」
「ま、確かに愛佳はそろそろ郁乃ちゃん離れするべきかもね。
郁乃ちゃんだって友達も出来たし、それにもういい加減子供じゃないんだし」
「……親か姉みたいな台詞はやめてくれませんか、由真先輩」
……ねぇ。
「あ、そうだ、みんなに見せたいものがあるの」
「何ですか、環さん?」
「これ、玲於奈たちからの手紙」
「え、玲於奈さんたちですか!?」
「見たい見たい! タマお姉ちゃん、早く開けて!」
「はいはい、ホラ」
「どれどれ……『拝啓 そろそろ梅雨入りも近いようですが、いかがお過ごしでしょうか』だって。
相変わらず堅苦しいわねぇ」
「ええと……、玲於奈さんたち、元気でいるみたいですね。よかった」
「ええ、本当に」
「環さん、嬉しそうですね」
「当然じゃない、私の大切な後輩たちだもの」
「それだけッスかぁ? ……ひょっとして環さんも満更じゃ」
「何が言いたいのかしら、チエちゃん?」
「ああご免なさいウソですウソ! アイアンクローはもう勘弁ッス!!」
「あ、ここ見てここ」
「どれどれ……、え!? 夏休みになったら遊びに来るって!」
「ホントに!? ――あ、ホントだ!」
「夏休みかぁ……、待ち遠しいなぁ」
「そうですね。薫子さんとまた編み物のお話しがしたいです。
――あ、そうだ。今のうちに何か編もうかな。マフラーくらいなら今からでも」
「いや優季、もうすぐ夏だってば」
……ちょっと。
「うぃーっす」
「あれ、雄二どうしたの?」
「いや、イルファさんが留守だったし、他に行くところもねぇし」
「ああ、そう言えば伝えるの忘れてたわ。ゴメンな雄二。いっちゃん、また研究所に行ってるんや」
「研究所? ま、まさかイルファさん、どこか体の具合が!?」
「ううん、ちゃうよ。みっちゃんとしっちゃんの最終テストの付き添い。
これに合格したらみっちゃんとしっちゃん、うちに来るんや」
「みっちゃんとしっちゃんって、イルファさんの妹さんでしたっけ。
そうですか。そうなると珊瑚ちゃんたちのお家もますます賑やかになっていいですね」
「……」
「ん? どうしたの瑠璃ちゃん、困ったような顔して」
「瑠璃ちゃん、みっちゃんとしっちゃんが家に来たら、ますます家のこと出来なくなる思てるねん」
「う〜、ただでさえイルファの料理に負けてるのに〜!」
「え、そうなの?」
「ううん、そんなことないよ。ただ雄二が――」
「まぁアレだ、瑠璃ちゃんの料理も決して悪くはないんだが、イルファさんの手料理には俺様への
愛情が込められてるからなぁ。ハハハ」
「……あんた、イルファさんの出す料理なら何でもいいんでしょ」
「しかし、そうか今日は妹さんたちのテスト……あ、あああっ!」
「な、何なのよいきなり!?」
「イルファさんの妹と言うことは、め、メイドロボがもう二人……
ど、どうする向坂雄二? イルファさんに加え、更に二人も愛せるのか!?」
「……あんた、メイドロボなら誰でもいいのか」
「うーん、でもみっちゃんはダメや思うで」
「え、どうして?」
「だってみっちゃん、貴明のことすきすきすき〜やもん」
「えええっ!? あ、あの貴明さん、それどういうことですか!?」
……いや、さ。
「そう言えば、そろそろ気になってるんですけど、フライパン、新しいの買いませんか?」
「そうね。おばさまが使っていたのはいい加減古くなってきたものね。
あ、そうだ。だったらついでにおろし金も買い換えましょうか」
「それなら電動のにしませんか? この間TVショッピングで見たヤツ。
上から野菜を入れるだけで自動でガシガシおろせるんですよね。あれ便利そうでいいなぁ〜」
「ダメ」
「ええ〜、どうしてですか環さん?」
「前から言ってるでしょ、料理に手間を惜しむなって。
例えば大根おろしだって、おろし方一つで味も変わってくるんだから」
「うう……はぁい」
「包丁はどうですか? そろそろ切れ味が悪くなってきた気がするんですけど」
「砥石で研ぎましょう。今度家から持ってくるわ」
「へぇ、環さんの家には砥石があるんスか」
「まあね。家の包丁は私が研いでるわよ」
「いや、それがまたこの上なくいい絵になっててなぁ。まさに鬼ババ――」
ぎりぎりぎり。
「あいだだだだだだ!! ウソですご免なさい麗しきお姉様割れる割れる割れる!!」
……だから、さぁ。
「さて、そろそろお昼にしましょうか」
「あ、それならあたしたちが作るッス!」
「え、あんたたち大丈夫なの?」
「あの屈辱の日から、相方共々、特訓に特訓を重ねました!」
「……今こそ、その成果を見せるとき」
「よ、よく見たらよっちもちゃるも、手が絆創膏だらけ……」
「と、特訓って一体どんな……?」
「それであなたたち、何を作るの?」
「はい、カツ丼なんぞ作ろうかと」
「大丈夫ですか? 油で火傷とか……。よかったらあたし、手伝いますよ」
「心配無用ッス愛佳さん。特訓したって言ってるじゃないッスか。
そりゃ最初の内は油にビビリまくりでしたけど、今じゃ全然平気ッスよ。大丈夫大丈夫」
「……カツ担当は私」
「ああ、チエさんが揚げるんですか。それなら安心ですね」
「ガーン! な、何でキツネだけそんなに信頼されてるの!?」
「この前手伝ってたときは手際よかったからね。飲み込みも早かったし」
「ですね」
「さらにガーン! き、キツネばっかり……」
「それじゃあ料理は二人に任せるとして、私たちは準備でも――」
「ちょっと待ってよみんな!!」
「どうしたのタカ坊?」
食器棚の前で振り返り、不思議そうな顔のタマ姉。
「いや、どうしたのじゃなくてさ、何でみんな、ここにいるわけ? しかもるーこと花梨以外全員
揃ってるし! 俺、今日みんなが俺の家に集まるだなんて聞いてないよ!?」
「どうしてって、言われても、ねぇ」
「そうですよねぇ」
由真も不思議そうな顔。俺、そんなおかしなこと言ってるか?
「いや、だってさ、おかしいじゃん。
タマ姉たちが俺の家にいた頃ならともかく、今みんながここに集まる必要なんて――」
「必要とかじゃないよ、タカくん」
「このみ?」
このみは俺のそばに近づき、笑顔で、
「だって、わたしたち、河野家メンバーズだもの」
その言葉にみんなもうんうんと肯く。
「河野家メンバーズなんだから、集まる場所はここだよ、タカくん」
「い、いやそんなの勝手に決められても……」
「このみちゃんの言うとおりだよ。ここは河野家メンバーズの集合場所なんだから。
それに、今日こうしてみんなが集まってるのも、別に事前に打ち合わせてたワケじゃないよ。
みんな、ここに来たいから来ただけ。そうでしょ?」
由真の言葉にまたも全員うんうんと肯く。
……成る程ね。みんなにとってここは最早、たまり場同然ってことか。俺には何の断りもナシに。
……まぁ、いい。それはいいさ。百歩譲って認めるとしよう。だけど、
「なら、もう一つ教えてくれ。
俺は昨日、寝る前に玄関の鍵をかけたはずなんだ。いや、間違いなくかけた。
なのに、今朝起きて降りてきたら、キミら当たり前のようにお茶飲んでたってのは何故!?」
「ああ、だって」
由真はポケットに手を入れ、
「これがあるから」
ひょいと取り出したのは鍵。……まさか!?
「そ、それ、まさか俺の家の!?」
「うん、合い鍵」
な、なんですとぉ〜!?
「お、おいおいそんなのいつ作ったんだよ!?
って言うか、そんなの渡した覚えも認めた覚えもないぞ! 人の家の合い鍵勝手に作るな!!」
「え、これって、あたしたちがここにいた頃からずっと持ってたよ。知らなかったの?」
「え!? そ、そんな話聞いてない――」
「ああ、そう言えばタカ坊には伝えるの忘れてたかも」
「た、タマ姉!?」
「私がここに住むことになったときに合い鍵を作ったのよ。その方が何かと便利でしょ。
勿論、おじさまたちにも承諾を得てのことよ」
「そ、それってタマ姉だけの話じゃ――」
するとタマ姉、悪びれず、
最後くらい支援
「ああ、ついでにと思ってみんなの分も作ったのよ」
「つ、ついでにって、タマ姉……、え?」
タマ姉、今、”みんなの分”って言ったよな。ま、まさか……
俺は居間にいるみんなを見回す、すると全員、ポケットから――
「あ、あたしたちも、持ってたりします……」
優季と瑠璃ちゃん、それにまぁ、このみが持っているのはまだ分かる。
けれど、愛佳に郁乃に珊瑚ちゃん、ちゃるとよっち、俺の家に住んでいなかった連中まで合い鍵を
持ってるのは何故!?
「ど、どういうこと!? な、なんで愛佳たちまで!?」
さすがにこれには納得がいかない。タマ姉を睨むと、
「あー、それは私じゃなくて――」
「愛佳たちの分作ったのはあたしだよ、たかあき」
タマ姉に代わってそう言ったのは由真。
「由真! どういうつもりだよ!?」
「いや、さ。疎外感はよくないなと思って」
「疎外感?」
「同じ河野家メンバーズなのに、あたしや花梨たちだけ鍵持ってて、愛佳たちは持ってないのは、
何か悪い気がして、さ」
「あ、あたしは要らないって言ったんですけど……」
「あ、愛佳それズルイ! 自分だけいい子ぶって、共犯だよ共犯!」
「ひゃう!? ご、ゴメンね由真」
由真に怒鳴られ、ビクッと身体をすくめる愛佳。と、そこへ、
「おっまたせ〜☆」
「あ、花梨やっときた――って」
「るー」
「る、るーこ!?」
か、か、花梨のとなりにいるのは、る、るーこ!?
「るーこ、お、お前、自分の故郷に帰ったんじゃ……?」
恐る恐る近づいてみる。ほ、ホントにるーこなのか?
するとるーこは、さも当然といった顔で、
「何を言っている? るーは”るー”に帰るなどと言った覚えはないぞ」
「え!? い、いやそんなバカな!? あの時確かにお前――」
頭が混乱する。落ち着け、落ち着け……!
まずは必死で思い出そう、あの時のこと。――予鈴のノイズ。花梨が撮ったビデオ。そして、朝に
なったら消えるようにいなくなっていたるーこ。
それに、るーこが消える前の日。るーこは突然『この家を出る』と告げ……あれ?
ちょっと、待てよ。
あの時るーこは、”俺の家を出る”とは言ったけど、もしかして、”故郷に帰る”とは一言も……
「じゃ、じゃあるーこ、お前、故郷に帰ったワケじゃなかったのか?」
そう尋ねると、るーこはやや不機嫌そうに、
「だから、そうだと言っている。るーはずっと”うー”にいたぞ」
「そ、そうか、そうだったのか……」
予想外の展開。嬉しさが込み上げ――だが同時に、
「だったら、そうハッキリ言え!!」
「る、るぅっ!?」
「みんなお前が地球からいなくなると思ってたのに、紛らわしいんだよ!
支援するぞ!
支援だもんよ
引っ越すなら引っ越すでちゃんとそう説明してくれれば、あんな、あんな……」
『例え、どれだけ距離が離れても、るーはいつもうーたちのことを――、うーを想っているぞ』
『るーこ、俺もお前のことを忘れないよ。絶対に、だ』
「だああっ! 何が距離が離れてもだ! 俺の涙を返せぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「……たかちゃん、やっぱ泣いてたんだ」
「――つまり、仲間と接触はしたけど、そのまま一緒に帰らなかったと」
とりあえずみんなでお茶を飲みながら、るーこの事情聴取。
「けど何で帰らなかったの? せっかく仲間と会えたのに?」
花梨がそう尋ねると、るーこはチラッと俺を見た後、
「……う、”うー”はとても興味深い星だ。このまま帰るのは惜しいと思った。だから、調査の
ためにこのまま残ることにしたぞ。
るーパパとるーママには仲間にその旨伝えるよう頼んでおいた。これで何も心配ないぞ」
「じゃあ何で、俺の家を出たんだよ? この星に残るならずっと俺の家で――」
「それは、ダメだ。……る、るーの目的とは異なるし、るーパパたちにも言い訳が……」
「それじゃあ、どこにいたの? 今までずっと学校にも来なかったし」
「新しい住処を買って、色々と支度を整えていた」
「新しい住処って、一体どこに?」
「ここだぞ」
るーこがテーブルの上に置いたのは一枚のパンフレット。高そうなマンションだなぁ――って、
「何か、見覚えが……あ! こ、ここってもしかして……」
「うん、ウチらのマンションやな」
珊瑚ちゃんが肯く。ま、マジかよ!?
「そう言えば隣のおばちゃん、下の階に新しい人が入った言うてたけど、アレるーこやったんか!」
瑠璃ちゃんもビックリ。
「そうか。うーるりたちもあの集合住宅に住んでいるのだったな。忘れていたぞ。
改めて引っ越しソバを持って挨拶に行くから、楽しみにしていろ」
「っておいるーこ! あのマンションすげえ高いんだぞ、お前そんな金どうやって!?」
「仲間がくれた、これなのだが」
るーこがジャラジャラとテーブルの上に置いたのは、たくさんの透明な石。随分キレイな石だなぁ。
「だ、ダイヤモンドじゃないのこれ!?」
タマ姉が驚く。え、これがダイヤなのか!?
「この星ではそう呼ぶらしいな。仲間が他の星で資源調査のために採取したものだが、この星なら
とある場所に持って行けば貨幣と交換してもらえるからと分けてくれたのだ。
だが、この星の価値基準は理解に苦しむ。こんな石コロよりも”ちー”の方が遙かに有益だぞ」
つ、つまり今のるーこは、お、大金持ち……。
ちゃるとよっちのカツ丼も出来上がり、みんなで昼食。
「みんな揃ってご飯を食べるのって、やっぱりいいね」
俺のとなりでこのみが笑う。あ、ほっぺにご飯粒発見。
「こら、ついてるぞ」
取ってやる。――それをパクリ。
「あ、うん、タカくん、ありがとう……」
ん? なんかこのみがモジモジしてる? ……あ、俺、結構恥ずかしいことしたかも。
「……」
「……優季ちゃん、自分でご飯粒つけるのはどうかと」
283 :
名無しさんだよもん:2007/02/12(月) 23:00:35 ID:nTjSyGhnO
携帯からだが支援
なんか感慨をおぼえつつ支援。
珍しく花梨がツッコミ。
「それにしても確かに美味しいわね、このカツ丼」
「ホントホント。ちゃるもよっちも凄いわね」
タマ姉と由真が誉め、その言葉によっちはエヘヘと頭をかき、
「……恐縮です」
おや、ちゃるも照れてる。
「でもホント、みんなで食べるのっていいですね」
「あ、そうだ!」
優季の言葉で何か思い浮かんだのか、由真は箸を置き、手を挙げると、
「はい提案。ねぇ、これからも毎週土曜か日曜、こうやってみんなで集まって、ご飯食べない?」
「うん、あたしも賛成。――あ、でも」
愛佳も賛成するが、少しうーんと考えた後、
「どうせなら、お泊まり会もしませんか?」
「うん、ウチ賛成〜☆」
「あ、今度はあたしも泊まりたいッス!」
「……同じく」
愛佳の提案に珊瑚ちゃん、よっち、ちゃるが同意。
「あたしも賛成。ねぇ郁乃ちゃん、今度はあたしと同じ部屋にしない?」
「いや由真先輩、それ以前にあたし、泊まるとは一言も――」
「泊まりたくないの?」
「……別に、そう言うワケじゃないけど」
お姉ちゃんにそう尋ねられると、断れない郁乃である。
「みんなが泊まるならこのみも泊まるよ! いいよねタカくん?」
「あ、ああ」
まあ、いいけど、さすがにこれ以上は――
「はーい! なら花梨も泊まりまーす!」
「ならば、るーも一晩厄介になるぞ。
また美味い飯を食わせてやる。楽しみにしていろ、うー」
「そ、それなら私も泊まります!」
ああ、花梨とるーこと優季まで、
「さ、さんちゃんが泊まる言うなら、ウチも泊まるもーん!」
「瑠璃ちゃん、ほないっちゃんどないする? 瑠璃ちゃんいないと寂しがるよ」
珊瑚ちゃんにそう言われ、瑠璃ちゃんはむむむと悩んだ挙げ句、
「ほ、ほなイルファも一緒に泊まればええ!」
「な!? い、イルファさんが貴明の家に泊まるだと!?
そ、そんなの黙って見過ごせるか! 貴明、俺も泊まるからな!」
「うーん、みんなが泊まると言うのなら、監督役の私も泊まらないとね」
などとおっしゃるタマ姉さんですが、いい加減数多すぎだってば!
「ちょ、ちょっとみんなストップストップ! そんな一度に大勢泊まれないって!」
大声でみんなに訴えかけると、一同、一斉に俺を見る。そして、
「なら、誰を泊めるの?」
いやに真剣な声で、このみがそう尋ねる。
「い、いや、誰って言われても……」
「ハッキリ決めてください。勿論、私は泊まってもいいですよね?」
「あ、あたしだって当然だよね!」
優季と由真がそんなことを言った途端、他からも自分も自分もと声があがる。
「まぁ、監督役が泊まるのは確定事項よね、タカ坊」
タマ姉のそんな台詞にすら猛抗議の嵐。……はは、もう好きにしてくれ。
最初で最後の支援
カツ丼でふくれた腹をさすりつつ、俺は一人、自分の部屋へ。
居間では今度の日曜日に誰が泊まるか会議中。きっと、すぐには決まらないだろう。
ベッドにゴロンと横になり、窓の外を見る。ああ、いい天気だなぁ。もうすぐ梅雨入りだから、
こんな日は貴重かもしれないな。散歩にでも出かけようかな、ああでもこのまま寝ちゃうのも――
バーン!
「何寝てるのよたかあき! 一人で食後のお昼寝とはいい身分じゃない!」
「ゆ、由真、たかあきくんに八つ当たりはよしなよぉ」
いきなりドアを開け、ずかずか入ってきたのは由真。その後に、何故か郁乃をおんぶした愛佳が。
「何をそんなに怒ってんだよ。じゃんけんにでも負けたか?」
「あみだくじよ!」
いずれにせよ負けたらしい。
「タカくんタカくん、大変だよぉ!」
おや、このみまでやって来た。
「あみだくじで外れたよっちが、当たったちゃるが八百長したって言い出して、それでケンカに
なってるんだよぉ! タカくんお願い、二人を止めて!」
……あみだくじで八百長って何だよ。そんなツッコミを入れたくなるが、
「はいはい、んじゃ行きますか」
ベッドから立ち上がり、このみの頭をポンと叩いて部屋を出る。
きっと、これからも俺は、こんな彼女たちに振り回されるんだろうなぁ。
――ま、それもいいか。
おしまい。
どうもです。最終話です。
投稿が遅れてごめんなさい。m(_ _)m
>>276さん、
>>279さん、
>>280さん、
>>283さん、
>>284さん、
>>287さん、
最後の支援ありがとうございました。m(_ _)m
『河野家にようこそ』、これにて完結です。
読んでくださった皆さん、
今まで、
本当に、
ほんっとーーーーーに、
あ り が と う ご ざ い ま し た ! !
はぁ……、とにかくホントに、書きたいことを書き尽くしました。
この後のことは全く考えていません。
もし、また何か思い浮かんだら投稿するかもしれませんので、そのときはよろしくです。
本当に本当におつかれさまでした。面白かったです。
新しい作品ができたら是非楽しく読ませていただきます!
>>289 長期の連載本当に乙!
河野家らしいラストでしたねw
河野家が終わってしまったのは非常に寂しいですが
これからもすばらしい作品を書き続けてください
よくもまぁこんな長い期間…正直感服しました。
自分自身は途中から読ませていただいてましたが、月曜の夜は楽しみでした。
本当にお疲れ様でした。またいつでも作品を読ませて下さいね。
ものすご〜〜〜〜くっ! 乙! でしたっ!
最後は「そしてまた河野家にようこそを」って感じで良かった良かったつ_T)
充電したら是非また、アイス屋みたいな連作短編でも一話完結ものでも、新作待ってます
294 :
名無しさんだよもん :2007/02/12(月) 23:19:46 ID:K6lZTgzN0
お疲れさん。
でも、本当に終わっちゃうのか…寂しいね
河野家乙です
自分が小説書く真似事してる(一次だけど)からわかるんだが、週一で定量書くってかなり大変なんだよな……
ほぼ二年もそれを続けるとは、お見それしました
そして今から既に次回作にwktkしてます
終わってみると、やっぱり河野家が好きだったんだなあ、と改めて実感。好きな漫画が最終回迎えたのと同じような感覚です
短編でも次の長編でもいいので、次回作に期待しています
個人的にはささらも巻き込んで欲しいなー、とか思ったり思ったり思ったり
作者様、長期にわたっての連載おつかれさまです。
毎週月曜日、とても楽しく読ませていただきました。
またいつか作品を拝見する日がくることを願っております。
いままでありがとうございました。
乙でした
お疲れさんです
お疲れ様でした!
自分は二週間くらい前から読み始めましたが、毎晩深夜まで携帯と睨めっこしてました。一気に読んできましたが、やはり終わってしまうのは寂しいですね。心に穴が開いてしまったような感じです。とりあえず本当にお疲れ様でした!河野家は普通に文庫本にできそうですね!
いやー本当にお疲れ様でした。
らしい最終回でしたね。
楽しかったですよ。
いや
らしい最終回でしたね
と見えて一瞬目を疑った
案の定見間違えでした、本当にありがとうございます。
完結おめでとうございます
最初の頃から見てましたが本当に長い間連載お疲れ様でした。
少し遅くなったけど、最後の河野家、喜多ーーー!!!
一時期リアルタイムで読めませんでしたが、最初から
というか、アイス屋の頃からずっと読んでました。
本っ当ーーっに長期連載お疲れさまでした!
もはや漏れの頭の中では、河野家は公式な
アナザーストーリーであるかのごとく錯覚を覚えていますw
綺麗に終わってめでたしめでたし。
まあ、いやらしい最終回も見てみたかったですけどw
しかし、る、るーこ、紛らわしすぎ^^;
漏れの涙も、ついでに返せー!
それでは、最後に、本当に2年弱もの間、お疲れさまでした。
また充電したら、何かのSSを投稿していただけると嬉しいです。
河野家乙!
第五話ぐらいから見てたけど、本当にここまでの長期連載…感服しました!
俺の脳内では河野家は既に公式設定化ですよ。
これで本当に終わりなのか……実感がわかない('A`)
スッキリ終わったけど、まだどこか続けて欲しいと思ってる自分がいるくらい河野家が好きだったんだなぁ。
長い間、本当に乙でした。
ついでに空気読まずに間違い報告 5の下から5行目がよっちになってますです
305 :
名無しさんだよもん:2007/02/13(火) 02:25:57 ID:rvTXsd8V0
河野家よ永遠なれ!!
やっぱ100話にならなかったかwwwww
乙にょろ!
お疲れ様です!
オレ、河野家が終わったら戦争に行くんだ・・・。
終わったのか。
暫しの別れは寂しいが、また会えるさ。
連載開始前からずっと見てるが、これだけの期間続けるのは
一種の偉業だな。本当にお疲れさんです。
オールキャラ出てくる上にほのぼのした展開のあなたのSSが大好きだ!
>307
死亡フラグが発生しますた。
309 :
名無しさんだよもん:2007/02/13(火) 18:10:58 ID:wTX3aYi00
乙
いいラストでした
乙
・・・これから俺は何を楽しみに月曜日を過ごせばいいんだろう
なぜかこの時期、楽しみにしていたSSが立て続けに最終回を迎える。
おまえらTVじゃねーんだこんな時期に終わんなよw
愚痴終了
おつかれさまでした
このスレでは新参者ですが、投下します。
313 :
もし、トゥハート2のヒロインがさらに積極的だったら1:2007/02/17(土) 21:00:38 ID:ZJ4Re0Zc0
〜朝、自宅にて・貴明side〜
よし、ハンカチも持ったしティッシュも持った。これでタマ姉に小言を言われなくて済む。
それじゃあそろそろこのみを迎えに行くとするか。
『ピンポーン』
あれ?もう来たのか?いつもは俺がこのみを起こしに行くのに。
『ピーンポーン』
ま、あいつも高校生になってるわけだし。毎日寝坊はしないか。
部屋を出て階段を下りると、玄関の向こうに小柄な人影が立っているのが見えた。
『ピーンポーン』
「はいはい。今開けるから待っててくれ」
玄関を開けると年下の幼馴染が立っていた。
「おはよう! タカくん!」
「ああ、おはようこのみ」
相変わらず元気だな。こいつは。
「あれ? もう制服に着替えてるの?」
「いつもこの時間には着替え終わってるからな」
そう。このみが迎えに来ていること以外はいつも通りだ。
「うわー……早いんだね。このみなんか今日は急いで起きてこの時間なのに」
「急いで……ってなんで? 今日学校で何かあるのか?」
今日は学校で何かを行うということは聞いてない。
一年生だけの行事か?
「……えっとね、そのー……そう! 今日はこのみ日直なんだ!」
「日直? ってことは俺を迎えに来てる暇なんか無いんじゃないのか?」
「へ? あ……ち、違うの。えーっと……」
焦った顔を浮かべたかと思ったら、今度はわたわたしだした。
日直なら早く行かせないとな。俺と一緒に行ったら間に合わない。
「俺のことはいいから早く行けって。また明日も一緒に学校行けるだろ?」
「あー、うー…………うん。分かった。先に行くね! じゃーねー! タカくん!」
「おー。気をつけてなー」
日直だから早く迎えに来たのか。
あいつも律儀なんだな。わざわざ起こしてから学校に行こうだなんて。
おっと。そろそろ俺も学校に行かないとな。
ゆっくりしてたら歩いて行くと間に合わなくなる。
「行ってきまーす」
誰もいない家に向かって挨拶をしてから鍵をかける。さ、行くとするか。
〜朝、自宅にて・このみside〜
「んん、タカくぅん。だめだよお・・・・・・はずかしいよぅ・・・・・・」
『ぴぴぴぴ ぴぴぴぴ ぴぴぴぴ』
「あれ? なにいってるのタカくん。ぴぴぴぴ・・・・・・?」
目を開けると目覚まし時計がすぐ目の前にあった。
・・・・・・なあんだ。夢か。ほんとだったら嬉しかったのにな。
タカくんが夜部屋にやってきてわたしに襲い掛かって激しく抱いて・・・・・・
「えへへへへ・・・・・・」
いつになったら襲い掛かってくれるのかな?
ご飯持って行ったときによっちにもらった薬を入れてるのに全然効き目がないみたい。
「今度はもっと強い薬もらっておこっと」
そしたら今度こそ夢が現実に・・・・・・えへへ。
『ピーンポーン』
「はいはい。今開けるから待っててくれ」
タカくんの家の呼び鈴を三回押したらタカくんの声が聞こえた。
(ああ、やっぱりこの声が一番かっこいいよ・・・・・・はっ!)
いけないいけない。つい顔が緩んじゃった。朝からこんな顔してるのを
タカくんに見られたらバカにされちゃう。
玄関から顔を出したタカくんに向かって声をかける。
「おはよう! タカくん!」
「ああ、おはようこのみ」
やっぱりタカくんはかっこいいな。このみより背が高いし、制服も似合うし・・・・・・?
「あれ? もう制服に着替えてるの?」
「いつもこの時間には着替え終わってるからな」
そうだったんだ・・・・・・しっかりしてるなあ、タカくんは。
うん。やっぱりわたしの未来のお婿さんはこうじゃないと!
「うわー……早いんだね。このみなんか今日は急いで起きてこの時間なのに」
「急いで……ってなんで? 今日学校で何かあるのか?」
あ!早起きしたこと、ばれちゃった・・・・・・。
まずい。ごまかさないと。
「……えっとね、そのー……そう! 今日はこのみ日直なんだ!」
「日直? ってことは俺を迎えに来てる暇なんか無いんじゃないのか?」
ああ!またやっちゃった!わたしのバカ!
「へ? あ……ち、違うの。えーっと……」
「俺のことはいいから早く行けって。また明日も一緒に学校行けるだろ?」
「あー、うー…………うん。分かった。先に行くね! じゃーねー! タカくん!」
「おー。気をつけてなー」
「ううううう・・・・・・タカくんと一緒に行けなかった・・・・・・」
今日から少しでも早くタカくんに会うために早起きすることにしたのに、
初日からこれじゃあやる気がなくなっちゃうよ・・・・・・。
・・・・・・ううん。落ち込んでちゃダメ。
お母さんだって「最後まで立ち続けた人が勝者よ!」って言ってたもん。
「うん! 明日こそタカくんと一緒に登校するんだから!」
明日も頑張って早起きするからね!タカくん!
〜登校中、土手にて・貴明side〜
今日はこのみがいないので一人で登校することになった。
なんだか、いつもより寒い気がする。
いつもは話しながら登校してるから寒さが紛れているのかな?
「いつもより寒いっていうのに風の強い土手を通らなきゃならんとは・・・・・・」
そうだ。寒さを感じる前に土手を走り抜ければいいんだ!
よし、そうと決まればさっそくあの階段を駆け上がって――?
あの特徴的な髪型は・・・・・・タマ姉?
「タッカ坊ーーーー! 早く来なさーーーい!」
階段を登ってタマ姉に駆け寄った。
「おはようタマ姉」
タマ姉はカーディガンを着ているとはいえ、スカートはいつも通りの長さだ。
寒くないのかな?それともタマ姉は寒さに強いタイプ?
「おはよ。タカ坊。ところで今日はいつもより遅かったわね。どうかしたの?」
「え? いつも通りじゃん」
そんなに遅かったかな?
いつもここに来る時間だと思うけど・・・・・・。
支援
「そう? ・・・・・・まあいいわ。それより今日は――」
ハンカチとティッシュはちゃんと持ってきた?だろ。
ふふん。今日は忘れずに持ってきたぜ!
すかさずポケットから取り出してタマ姉に見せた。
「ちゃんと持ってきたよ。ほら」
「あら。感心感心。じゃあご褒美にタマお姉ちゃんが腕を組んであげる!」
タマ姉が俺の左腕に飛びついて右腕を絡めてきた。
「うわ! ちょっとタマ姉。やめて・・・・・・」
「照れない照れない」
いや、照れるって!
「いや、その。タマ姉の・・・・・・」
胸が!胸が二の腕に当たってるって!
自分の顔が紅くなるのがわかる。
しかしタマ姉は全く気にした様子もなく、俺の腕を引っ張って歩き出した。
「ほら。早く行かないと遅刻するわよ」
「う、うん・・・・・・」
そこから土手を歩く間ずっと腕を組まされた。
同じ学校の生徒の姿が見えたらすぐに離してくれたけど。
(寒さなんか感じる暇もなかったな・・・・・・)
それどころか、汗までかいてしまった。
せめて雄二がいてくれたらこうはならなかったのに。恨むぞ。雄二。
〜登校中、土手にて・環side〜
・・・・・・・・・・・・遅い。
遅いわねタカ坊。まだ来ないのかしら。
いつも来る時間から一分も遅れてるわ。
「私を待たせるなんて、タカ坊も成長したものね・・・・・・」
そうねえ。今日は罰として腕を組んで登校しましょうか。
うふふ。タカ坊ったら腕を組んだときにいつも真っ赤になるのよね。
可愛いったらないわ。食べちゃおうかしら。
・・・・・・でも、問題はどうやってその状況に持っていくかよね。
多分私が誘っても乗ってくるとは思えないし。
やっぱり強引にいくしかないわね――あら?あの歩き方は・・・・・・タカ坊だわ!
「タッカ坊ーーーー! 早く来なさーーーい!」
私に気づいてタカ坊が階段を駆け上がってくる。
そんなに急がなくても私はあなたから逃げないわよ。
「おはようタマ姉」
「おはよ。タカ坊。ところで今日はいつもより遅かったわね。どうかしたの?」
「え? いつも通りじゃん」
・・・・・・なんですって?一分以上遅れたのにその言い草は何?
どうやら、今日の罰はアイアンクローの方がふさわしいみたいね。久しぶりに本気で――
待って。落ち着くのよ。そんなことしたらタカ坊は気絶しちゃう。
そしたらもちろん膝枕してあげるけど、二人揃って遅刻だわ。
ここは抑えなさい。私。
「そう? ・・・・・・まあいいわ。それより今日は――」
ハンカチとティッシュは?と聞こうとしたら、タカ坊が二つとも取り出した。
「ちゃんと持ってきたよ。ほら」
なんですって!どういうことよ!
タカ坊が用意してるなんてありえないわ!誰が持たせたっていうの!
このみ?春夏さん?それともまさか、恋人!?
そんなの許さないわ。絶対に破局させて――
・・・・・・よく考えたらそれは無いわね。雄二はタカ坊に彼女ができたなんて言ってないし。
じゃあ、タカ坊が自分で用意したってこと?
すごいじゃない!タカ坊も成長してるのね!私の教育の賜物だわ!
「あら。感心感心。じゃあご褒美にタマお姉ちゃんが腕を組んであげる!」
「うわ! ちょっとタマ姉。やめて・・・・・・」
思ったとおり。真っ赤になってるわ。ホント、可愛いわね。
「照れない照れない」
「いや、その。タマ姉の・・・・・・」
うふふ。・・・・・・当ててんのよ。タカ坊。
「ほら。早く行かないと遅刻するわよ」
「う、うん・・・・・・」
そのまま腕を組んで土手を歩いている間、
タカ坊ったらずっと顔を紅くしっぱなしだったわ。
(ああ! もうたまんないわ!)
決めた。今度の土曜日こそキメてあげる。楽しみにしてなさい。タカ坊。
>>318 本当にありがとうございます!
連続書き込みができないということを知りませんでした。
とりあえず二人分書きました。
あとるーこ・姫百合姉妹・花梨・愛華・由真・優季の分も書くつもりです。
PS2版しかプレイしてるからささらは書けないと思います。多分。
>322
乙。しかしこのみに薬物使用はどーだろう? ちゃるなら親父ルートで持ってるかもだがw
ハーレム物は、ハーレムにしてこそ意味があると思うので他キャラも頑張ってくらさいな
〜授業中、夢の中で・貴明side〜
・・・・・・・・・・・・。
「起きろ。うー」
ん?この声は確か・・・・・・
「う――ん? るーこか?」
「そうだ。お前だけのるーだ」
「何を訳わかんないことを言って――あれ?」
なんでるーこが逆さまになってるんだ?
――いや、違う。俺が逆さまになってるんだ!
それにここどこだよ!なんか変な草とか木とか生えてるし!
「どうかしたのか、うー?」
「どうかしてるだろ! なんで俺が縛られてるんだよ!」
なんでるーこはいつも通りなんだ。
もしかして、俺を縛って宙吊りにしたのはるーこ?
「さっき言っただろう。るーはお前だけのものだと」
「・・・・・・うん。言ってたな」
正直言って意味がわからないけど。
「だから、うーもるーのものだ」
「は、はああ?」
意味がわからないうえにどうしてそういうことになっているのかわからない。
?あれ?るーこの雰囲気がいつもと違う?
いつもの観察しているような感じではなく、獲物を見つめるような・・・・・・
「るー達にとっての最高にして禁断の愛情表現、
それは相手の血肉を自分のものにすること」
「へ?」
愛している対象を自分の血肉にする?
それって――相手を食べるってことじゃないか!
そして、るーこの目の前にいる人間は、俺だけ。ということはまさか!
「るーるる るーるる るーるーるー るーるる るーるる るーるーるー
るーるる るーるる るーるーるー るーるる るーるる るーるーるー」
るーこが一歩ずつ近寄ってくる。
そして、不可視の気配がしだいに大きくなっていく。まさか本当に・・・・・・?
「ちょっと待て! 近寄るなるーこ!」
「べっかんこ!」
るーこが俺に飛び掛ってきた!
「うわああああああああああ!」
――あれ?いつのまにか変な草木がなくなってる。
いや・・・・・・ここは教室で、さらに今は授業中だった。
「河野。顔を洗って来い」
先生が怒りを押し殺した表情で俺に喋りかけてきた。
教室から出るときにるーこを見たら、特に変わった様子はなかった。
――うん。あれは夢だ。絶対に。
〜授業中、夢の中で・るーこside〜
あふぅ・・・・・・。つまらないな。うーの授業というのは。
何故同い年の者たちが集まって同時に授業を受けるのだろう。
自分達の家でうーのパパに教えてもらえば良いのに。
――こんなことをしていても意味がないな。
前に座っているうーも眠っている。ならばるーも眠らせてもらおう。
目を覚ましたらそこはうーの教室ではなかった。
懐かしい空気。見慣れた樹木たち。ここはるーの星か?
おや?目の前にうーが逆さまに吊るされて寝ている。
そうか。うーもようやくるーに来てくれたのだな。るーは嬉しいぞ。
「起きろ。うー」
「う――ん? るーこか?」
うーが目を覚ました。寝起きの顔も可愛いぞ。うー。
「そうだ。お前だけのるーだ」
「何を訳わかんないことを言って――あれ?」
「どうかしたのか、うー?」
「どうかしてるだろ! なんで俺が縛られてるんだよ!」
それはるーにもわからない。多分『るー』のお導きだろう。
なんにしても、これは絶好の機会だ。
「さっき言っただろう。るーはお前だけのものだと」
「・・・・・・うん。言ってたな」
「だから、うーもるーのものだ」
「は、はああ?」
照れるな。うー。何も言わなくてもわかっているぞ。
この星に来てくれたということはるーの愛を受け入れてくれたということだろう?
ならば、るーもそれに答えねばならない。
「るー達にとっての最高にして禁断の愛情表現、
それは相手の血肉を自分のものにすること」
「へ?」
驚かなくてもいいだろう。わかっていたくせに。
それでは、さっそくうーを自分のモノにするとしよう。
「るーるる るーるる るーるーるー るーるる るーるる るーるーるー
るーるる るーるる るーるーるー るーるる るーるる るーるーるー」
「ちょっと待て! 近寄るなるーこ!」
大丈夫だ。すぐに気持ちよくなるぞ。うー。
「べっかんこ!」
そしてうーに向かって飛び掛り――
「うわああああああああああ!」
(るー!?)
うーの叫び声に驚いて目を開けると、そこはるーの星ではなく、うーの教室だった。
・・・・・・夢だったのか。残念だ。
まあいい。すぐにうーを自分のモノにしてやる。
待っていろ。うー。
--------------
前日にも投下した者です。
るーこを書いてみました。るーこ好きの方。気分を悪くしたらごめんなさい。
やるな狩猟者www
同床異夢じゃなくて異床同夢かw
D.C.の朝倉純一みたいな他人の夢に潜入する能力があるのか
あるいは予知夢……どっちにしろ貴明ぴーんちw
へへ、いつもの習慣で明日を楽しみに待つオレに気がついてしまった…
少しの間、旅に出ようと思う
放課後やや遅い時間。自分の仕事を終えた少女は、相方に声を掛けた。
「規約のプリント原稿、こんなもんでいいかしら?」
「ええ。問題ないわ」
「新聞部に頼んでたポスターは?」
「金曜日には出来るそうよ」
「そう。増刷しなきゃないから、土曜日はお昼持参ね」
「そうねえ」
「貴女の分も作ってきましょうか?」
「あ……私は、いいわ」
「そう? 遠慮することないのに」
「ごめんなさい。でも遠慮ではないの。判って」
「そう。別に無理強いはしないわよ」
「ごめんなさい」
謝らないでよ。と笑って、夕日が差す窓の外を見る。
「選挙が終われば……もう少しね」
「……」
パソコンの前に座った相棒が、ちょっと俯く。
「気持ちは、変わらないの?」
「ええ」
「そう……」
ふっ、とまた笑って、窓から振り返る。
「大丈夫よ。今年の二年生メンバーも残ってくれるでしょうし、貴女がフォローすれば」
「だといいのだけれど」
「大丈夫よ」
落ち着いた口調で、もう一度繰り返す。
「そうね。信じるわ」
「ん」
「仕事の話は抜きにしても……残念」
「ありがと。ごめんね、勝手な友人で」
「ううん……私の方こそ、貴女にどれだけ助けられたか」
「さて、もう少し頑張りましょう。告示と日程まで作っておかないと」
穏やかな表情で机に戻った。
その1時間ほど前、2−Bの教室に、珍しい来訪者。
「郁乃?」
最初に気づいたのは貴明。
「ええっ? 郁乃が来てるの〜っ?」
愛佳が素っ頓狂な声をあげる。
「わ、小牧さんの妹さん?」
「あんまり似てないけど、可愛いねー」
それを引き金に起きる、ちょっとした雑音。
「ちょっと、頼みがあるんだけど」
そんなものは気にせず教室に入ると、貴明の方に話し掛ける郁乃。
「俺か?」
「わたしじゃないの〜?」
「このみの家、教えて」
「あ?」
訝しんだ貴明に、郁乃はひらひらとプリントを見せる。
「今日このみ休んだでしょ。北村先生が渡すの忘れててさ、期限近いからって」
「俺が届けようか?」
このみの家なら帰り道だし、郁乃が屋外を出歩く大変さは知っている。
それに、先週来の郁乃とこのみの事もある。
貴明の申し出は合理的だったが、
「うーん、あたしが頼まれたから、あたしが届ける」
「心配してんのか?」
「……」
そっぽ。
「春夏さんが大丈夫だって言ってたから、大丈夫だと思うぞ?」
「このみのお母さん? いつ聞いたのよ」
「今朝、このみの家に寄った時に……」
「自分で行く」
「あ、あたしもっ!」
バタバタと話がまとまった。
「わざわざありがとうね」
このみの家。
プリントを届けた郁乃は、このみの母親に労われた。
「いえ、たいしたことないです」
「そんなこと、ないでしょ?」
「……多少は」
春夏の言葉は、同情でなく自然な労りだったので、郁乃も素直に頷いた。
「このみ、どうですか?」
「うん、熱はあるけど、少し疲れただけみたい。休めば良くなるわ」
知恵熱という表現は、さすがに郁乃には使わなかった。
「寝てるかも知れないけど、ちょっと呼んでくるわ」
「いえ、いいですっ!」
慌てて申し出を拒絶する郁乃。春夏はその様子に少し怪訝な顔をしたが、
「そう? せっかくだからお茶でも……」
「姉を外に待たせてますので」
「あ、そうなんだ」
一人では大変だろうと納得する春夏。
「それじゃ、失礼します」
「ありがとう。今度は遊びに来てね」
その返答は保留して、郁乃は器用に車椅子を回転させた。
春夏の見送りを固辞して門の外に出た郁乃を、貴明と愛佳が待っていた。
「ごくろーさん」
「お疲れ様ぁ。このみちゃん、どうだって?」
「疲れたんじゃないかって」
「そ、そうなの?」
無愛想に答えた郁乃に、曖昧に相槌を打つ愛佳。
「考え疲れだろ」
貴明の声に、郁乃が顔を上げて横目を向ける。
「最近、やけに悩んでたからな」
貴明は、郁乃の正面に立ち止まる。
「……」
郁乃は視線を柚原邸の囲壁に逸らして無言。
二人の間の空気が緊張する。
「っ」
車椅子に歩み寄ろうとした愛佳も、留まって息を飲む。
「……それで?」
目線だけを上に向けて、郁乃が促す。
「言いたいことがあるなら、どうぞ?」
病室で初めて出会った時のような声色。
貴明は、渋い表情になる。
どう話を切り出したものか、暫し思案して。
「お前さ」
「ん?」
「このみの事、好きだろ」
「ぶふっ!」
郁乃の仏頂面が吹き飛んだ。
「汚ねえなぁ、吹き出すなよ」
「けほっ、けほっ、あ、アンタって、時々とんでもないわよね」
「いや、お前学校始まってからこのみに拘りっぱなしだし」
嫌いな相手に興味ないだろ、と付け加えた。
「……他人の事はよく見えるか。まあそれでもいいわ。で?」
「で? じゃねーよ。それでなんで俺とこのみが口利いちゃダメとか、そういう話になるんだ」
「ああ、そっち」
すっとぼけて間を取る郁乃。
「それは簡単。アンタがデレデレしてるから」
「なんだよそれ」
今度は貴明が鼻白む。
「見たままを述べたまでよ。アンタの自覚が足りなすぎるの」
「あのな、俺とこのみはそんなんじゃないって」
「だったら、どんなのよ?」
「幼馴染みだし、家族というか、まあ妹みたいなもんだ」
「それだけ?」
「そうだよ」
「本当に?」
「そうだって」
「ふーん、じゃあさ」
問答を繰り返した後、郁乃は簡単に問う。
「このみに告白されたら、アンタどうする?」
「……」
唾を飲んだのは、見守っている愛佳。
「だからさぁ」
貴明は平然、というよりげんなりした声で答える。
「そんなの有り得ないって」
「本気でそう思う?」
郁乃は食い下がる。苦笑いの貴明。
「当たり前だろ。俺はこのみとは10年以上の付き合いだぞ」
「判ってるつもり?」
「ああ。お前が俺に告白するのと同じくらい有り得ない」
郁乃の表情が、かなり険悪になった。
「だから余計な心配しないで、このみと仲直……郁乃?」
がたっ。
貴明の言葉の途中で、郁乃が車椅子から立ち上がった。
支えるものがない路上、足を踏ん張ってよろめく。
「あ、危ないよっ!」
愛佳が慌てて駆け寄るが、目の前に立っている貴明の方が近い。
差し出した貴明の左腕に右手、右肩に左手をかけて体重を支える。
「急に立つなよ……どうした? どっか痛めたか?」
顔をしかめて下を向いた郁乃を、貴明が覗き込む。
次の瞬間。
ふいと顔を上げ、郁乃は貴明の唇に自分の唇を重ねた。
援護射撃
「!」
長くはないが、間違いにするには短くないキス。
愛佳が固まる、二人まであと3歩の距離。
貴明も硬直している、その肩に郁乃が両手を掛ける。
「驚くような事かしら?」
相手の胸に半ば身を預けるような姿勢で見上げる郁乃。
「姉が好きになった人に、妹が同じ感情を抱くのは」
じっと見つめる、見たことのない瞳の色に、貴明は目を逸らせない。
無言でいた時間は、どのくらいだったか。
「あの、そのっ」
貴明よりも先に口を開いたのは愛佳。
「あの、えっと、びっくりだけど、でも、そんな、その、郁乃がそうなら、その、あたしっ……」
「はい、時間切れ」
あっさりと。
郁乃は姉を遮ると、とん、と貴明の肩を突き放すようにして離れた。
すとん、と車椅子に収まる。ブレーキはかけていた。
「冗談よ」
「お、お前、な……っ!」
「なによ。冗談じゃなかったらどうする気? 言った方だって傷つくのよ」
抗議しかけた貴明、郁乃に剣呑な目で睨まれて黙る。
「……」
「アンタはね。彼女持ちにしちゃあ脇が甘すぎるの」
車椅子を回して、貴明から視線を外す。
「姉にあんな顔させたくなかったら、もっとしっかりしなさい」
まだ呆然としている愛佳。郁乃は帰路を促す。じゃあね、と別れの挨拶。
「……今のはお前が元凶だろうが」
「妹の特権よ。姉を困らせるのは」
憎まれ口をばっさり返して、郁乃は後ろ手を振って去った。
それを見送って貴明は、ふと、このみの部屋を見上げたが、窓のカーテンは閉じていた。
火曜日。
「決めたっ!」
このみはパチリと目を覚ますと、ベッドから跳ね起きた。
ぱあんっ! と頬を叩く。
「……」
そのまま停止。
「痛ひ」
ベッドの脇にうずくまる。
気を取り直して起きあがると、うーんっ、と背伸び。
「あれ、眠くないや」
今頃気がつく。身体も軽い。熱はすっかり引いたようだ。
すとんと落ち着いて、薄暗い部屋の入口を見つめる少女。
「……おいち、に、おいち、に」
おもむろにラジオ体操など。
「ちゃん、ちゃん、ちゃ、ちゃ〜らりらっら、ちゃん、ちゃん、ちゃ、ちゃん♪」
段々熱が入る。
「腕と足を曲げ伸ばすうんど〜♪」
第二体操に入って間もなく、部屋のドアが開いた。
「このみ? なにドタバタしてるの?」
「うわぁ!」
ちからこぶる、の体勢で器用に飛び上がるこのみ。
「ちょ、ちょっと目が覚めたから、運動を……」
「あらあら」
目を丸くして、春夏がこのみに近寄る。額と額をごっつんこ。
「ん……熱は下がったみたいね」
「うん。全然元気だよ」
「そう、それはよかった」
にっこりと微笑む春夏。
「ところでこのみ?」
「なあに?」
「いま何時だと思ってるのっ!」
寝なさいなんてねカミナリ落っこちた、午前3時の出来事だった。
この日も、貴明は学校では、このみに会えなかった。
朝はまたやたら早く出たそうで迎えは無駄足。
日中、郁乃の存在に気後れしたせいもあって、一年生のフロアには近づいていない。
昼は、愛佳と共にした。
愛佳は、昨日の出来事を笑って話したが、多少わざとらしかった。
放課後。
昇降口の人混みに、無意識に幼馴染みの姿を探していた貴明は、会いたくない方の一年生と出くわした。
「あれ? いたの?」
しかも顔を合わせるなり、郁乃はそんな事を言う。
「ご挨拶だな」
「んー、いや、このみと一緒かと思って」
「なに?」
不穏な発言に聞き返す貴明。
「あの子、6限サボったから、アンタ絡みかと思ったんだけど」
「なんだって!?」
自分や雄二が絡めばともかく、このみが一人で授業をサボタージュするのは前代未聞。
「朝からずっと黙りこくってたし」
「そういう情報は、早く教えろ!」
いつどうやってよ。と毒づく郁乃を置いて、探しに行こうと下駄箱へ急ぐ貴明。
その下駄箱に、何か挟まっていた。
「果たし状?」
ノートを折りたたんだ手紙に、いつぞやの嫌な記憶を思い出すが、今更そんな筈もない。
<タカく(←二重線で消してある) 河野貴明 御中>
「……俺は会社名か?」
差出人の名前は書かれていなかったが、心当たりは一人。
開いてひっくり返した、その一行目。
<先立つ不こうを、お許しください>
「……河原、広すぎ」
川沿いの道を歩きながらぼやく貴明。
下駄箱でこのみの手紙を開いた時は慌てたが、全文。
<河野貴明 御中>
<先立つ不こうを、お許しください>
<河原で待ってます>
<このみ>
行間に大量の消し痕と塗りつぶし痕。
場所を指定して呼び出しているくらいにして遺書ではなさそうだ。
そうなると。
「……郁乃に変な事吹き込まれたかぁ?」
ともかく、放っておくわけもなし。
貴明は急ぎ足で学校を出て、途中からほぼ駆け足で馴染みの川辺に向かった。
土手の上から、河原を見渡す。
夏の間に伸びた草丈が高いとはいえ、緑に白赤の制服、すぐ見つかると思ったが、
「いないな、このみ」
草原には人の姿は見あたらない。
もっと下流だろうか。だが、このみが河原といったらこの辺りだろう。
「……」
段々、不安。
まさか、いや、このみに限って、しかし、理由もない、でも、あり得ない、と、思う、けど。
「このみぃ! いるかぁっ!」
周囲に人がいないのを幸い、思い切って声を張り上げる。
いるかぁ、るかぁ、かぁ……
結構響いた。いささか恥ずかしい。
返事はない。
「っ!」
貴明は、土手を駆け下りた。
支援
地面に降りると、河原は意外と草深く歩きづらい。
半ば掻き分けるようにして進む貴明。
「おーい、このみーっ!」
呼んでみても反応なし。
「……」
かなり不安。
とりあえず直進。すぐに川縁に出る。左右を見回す。
と、
「あれ?」
右手方向100メートル奥に、白いものが見えた。
「人の足?」
倒れているように見える。
「まさか、このみ!?」
慌てて走る。
近づくにつれ、見覚えのあるスニーカー仰向け。草の合間に覗く白と赤。
「このみっ!」
全速力で転がり寄る貴明。
「どうしたっ! このみっ!」
息を切らしてのぞきこんだ草むらの中。少女は。
「むにゃむにゃ……もう食べられない……」
相変わらず古典的である。
「……」
貴明、息を整える。
「……でもさ」
息が整う。
「夢の中でお腹いっぱい食べられることって、実は滅多にないよな」
誰にともなく呟いた。
「とりぷるぅ……えへへへ……」
このみの寝顔は、まあまあ幸せそうだった。
「うーんっ」
がっちり2時間後、起きあがったこのみは目いっぱい伸びた。
「おはよ」
「あれ……おはよー、タカくん……」
ぼーっと隣に腰を下ろした少年を見やるこのみ。
寝ぼけ眼が、覚めるに連れて丸くなる。
「タカくんっ!?」
「人を物騒な手紙で呼び出しておいて何を驚いとるか」
「うん……ぶっそう?」
人差し指を頬にあて、右に首を傾げる。
「先立つ不孝を、ってのはな、普通は自殺する時に書く言葉だ」
「はれ? そうなの?」
左に傾げる。
「だって、誰かに来て欲しい時にはそう書くと飛んでくるってちゃるとよっちが言ってたよ?」
「あの二人か……」
開いた口がふさがらない貴明。
「ったく、郁乃といい、このみの友達はロクな事ふきこまないな」
その台詞の中の単語に、このみが反応した。
「あっ、い、郁乃ちゃんとお話ししたの?」
声が揺れている。
「昨日な。このみとデレデレするなって説教されたよ」
一部省略して説明。
「ふうん……」
このみの睫毛が少し下がる。
その瞳が、いっとき川を眺めて、そして貴明に向いた。
「あのねっ」
「あのさ」
思い切った口調で出た声を、貴明が遮る。
「あ、いや……えっとさ、まあ今後は少し気をつけようかなとは思うんだ」
貴明の目は、水面に流れている。
「今回は、郁乃が勝手に勘違いして、このみに迷惑かけてるけど」
「え、えっとね」
また、口を開きかけるこのみ。
「まあ、俺も悪かったかなとは思っててさ」
「タカく……」
声は小さく、貴明に届かない。
「俺とこのみがそんなんじゃなくても、確かに愛佳から見たらね」
「あ……」
このみが痛そうな顔をした。
「郁乃には俺から言っておくから」
貴明は気づかない。
「だから、このみは全然気にしなくていいよ」
このみの顔を、見ていない。
「タカくん、このみは……」
「あまりベタベタくっつくのはマズいらしいけどさ」
このみの声を、聞いていない。
そのまま、少女の頭を撫でようと手を伸ばす。
「このみはこのみで、ずっと俺と一緒だった、このみでいろよ」
「違うのっ!」
だが、このみは、その手を振り払って、がばっと立ち上がった。
「タカくん、このみは、このみはね……」
身体ごと貴明に向き直り、少し曲げた両膝に手を当てて斜め上から見下ろす。
「落ち着けって」
貴明は座ったまま見上げた。
「このみね、色々考えたの」
「郁乃が余計な事いうから……」
「そうじゃないよ、そうじゃなくて」
「そうだろ。だって、今まで考えたこともなくって、それで上手くいってて……」
「話を聞いてよっ! タカくんっ!」
このみが叫んだ。
支援?
「さっきからどうして、どうしてこのみの話を聞いてくれないの?」
「だってさ、おかしいだろ! 10年以上も、ずっと一緒だったのに、そんな急に」
「まだ、このみは何も言ってないよ」
「想像つくって」
このみは素直だから、郁乃の言うこと真に受けてさ、と優しく諭す貴明。
「でも、考えたのはこのみだよ」
「いやさ、誘導尋問みたいなもんでさ、そういう前提で考えるから……」
いつまでも迷走する会話を。
「このみはタカくんの事が好きなのっ!」
少女の一言が断ち切った。
「……」
予想していた言葉なのに、貴明はこのみを凝視したまま動けない。
「……ぁ、はぁ、はぁ」
たった一言を絞り出すのに、このみは息を切らせている。
かくっと、少女の膝が折れて地面についた。
「タカくんから見たら、このみは変わらなかったかも知れないけど」
正座のこのみと体育座りの貴明。目線の高さが揃う。
「このみから見たら、タカくんは変わっちゃったんだよ」
一転して、とつとつと語り始める。
「ずっと一緒だったのに」
「タカくんと同じ学校に入って、ずっと一緒だと思ってたのに」
「タカくんは、用事がいっぱいあって、愛佳先輩と付き合って」
「このみは、それでもなにも変わらないと思ってたけど」
「でもね、変だったの。なんだかずっと、胸の中がモヤっとして」
「なんでだろうって、不思議に思ってた」
このみが吐露した感情は、貴明が知らないもの。
「でも、判ったよ」
「やっと、わかったんだよ」
「このみはね、タカくんの事が、ずっと、好きでした」
「そんなの……」
貴明は困惑した。
小さな頃から、当たり前のように側にいたこのみ。
愛佳とつきあい始めても、その関係は変わらなかった。
貴明は、そう思っていた。いや、意識すらしていなかった。
「……えへへ」
貴明が答えないうちに、このみが笑った。
「ごめんね、こんなこと言われても困るよね」
寂しそうな笑顔。昨日、郁乃はなんと言ったか。
経緯はどうあれ、現実に今、どうするべきか。
解が見つからないうちに、このみが再び立ち上がる。
「やっぱり、言わない方が良かったかな?」
ひとつ伸びをする。
「とにかく、明日からは、あまりつきまとわないようにするね」
「このみ……」
どうしたらいいなんて判らない。でも。
「ホントごめんね。急に呼び出したりして」
クルリと反転するこのみ。
「えっと、じゃ、また、明日、ごめんねっ」
「待って、このみっ!」
去りかけた背中が止まる。
「……このみ」
呼び止めた貴明、でも、答えは見つからない。
告白を受け止められるわけはない。
自分の感情も、整理できない。優しい言葉に、意味がある筈もない。
このみの気持ちすら、理解した自信もない。
だけど、だから、貴明は、
「好きって言ってくれて、ありがとう。嬉しかった」
正直な気持ちだけを伝えた。
「……っ!」
このみが振り向いた。
ぽかんとした表情。やがて頬が歪む。
あ、100%泣く、これは。
貴明は、幼馴染みの自信を持ってそう予測したが。
「……えへへ」
少女は踏みとどまって、笑顔を作った。
「ありがとう。タカくんがそう言ってくれて、嬉しいよ、このみ」
悲しくて、嬉しそうな表情。
貴明は、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られる。不意打ちだったら、そうしていたかもしれない。
「たぶんだけどさ、俺もこのみの事、好きだったよ」
その替わりに、今度は少し選んだ言葉をかけた。
「うん」
また崩れそうになって、それでも戻ってくる笑顔。
「ごめんな、鈍すぎたな、俺」
「ううん」
首を振るこのみ。
「このみもドンカンだったので、おあいこだよ」
てへ、と目を細める。
「愛佳先輩は偉いな、ちゃんとタカくんに気づかせたんだから」
「そうだな」
言葉が切れた二人の間を、風が抜けていく。
「……じゃあ、ホントに帰るね。ありがとう」
「ん」
「明日からは、今まで通りのこのみだよ」
「少し、ベタベタ禁止でな」
「うん、べたべた禁止でね」
どの程度守れるものやら怪しいが、半分は気持ちの問題だろう。
「タカくん。今日、来てくれてありがとう」
「どういたしまして」
繰り返すこのみに、貴明は、ようやく自然に笑った。
「あ……」
その笑顔に、ちょっと迷ったようなこのみ。
「?」
ぽやっと見上げる貴明。
「うー……」
少し考えていたこのみだったが。
「てりゃっ!」
突然、身を屈めて、貴明の頬にくちづけた。
「!」
ぱぱっと離れる少女。
「へへー、思い出げっとー」
頬を赤らめたこのみの姿は、すぐに後ろ姿になる。
「タカくん、この場所ね、このみの秘密のお気に入りだったの」
身を翻して距離を取りながら。
「タカくんにあげる! 川がとっても綺麗なんだよっ!」
唖然とする貴明にそんな声を残して、このみは走り去った。
幼馴染みの姿を見送る貴明。
「……」
頬に手を当てる。少し熱い。
「いかんいかん、しっかりしなければ」
首を振る。
目を向けた水面。
「……確かに、綺麗だな」
そこでは、次第に赤みを帯びてきた陽の光が、波に踊っていた。
水から目を離すと、見慣れているようで見たことのない風景。
数え切れないほど訪れ遊んだ、馴染みの河原なのに。
「全然、わかってなかったってことか」
甘さと苦さが入り交じった感情に、貴明は息を吐いた。
その少し前。
「まわれまわれーっ!」
「ホーム無理だ、バックセカンッ!」
「これで1点差っ!」
「ツーアウトツーアウト!」
いつもの公園で、子供達が野球を楽しんでいた。
正確には子供達と、数人の子供とは言い難い人達。
「いい球だったわよ。もう少し低ければセカンドゴロだったかも」
一塁ベース上に、子供以外No.1、向坂環。
「シングルなら上出来だ、後は俺に任せろ」
ピッチャーの子からボールを受け取った、子供以外No.2、向坂雄二。
環が家に戻って以来、この二人が近所の子供達と遊ぶのは、そう珍しい事ではなくなっていた。
「姉貴が終わって、ツーアウト。楽勝だぜ」
「あら、そうかしら?」
マウンドにあがった雄二に、打席で不敵な笑みを浮かべた子供以外No.3、玲於奈。
いつもの放課後の環の追っ掛けから、なんというか、流れで? 参戦。
ちなみに薫子が審判。カスミはベンチで環に声援を送っている。
「お姉様との勝負を他人に任せるような方に、私は抑えられませんわよ」
「ガキに華をもたせただけだ。お前ごときに打たれたら公園の真ん中で素振り1000回してやるぜ」
「なら私は、打てなかったらバット持ったまま町内1周してさしあげましょう」
「ああ、ヘルメットも被ってな」
経緯はともあれ、二人とも負けず嫌いだ。ふつふつと沸き上がる闘志の炎。
どうも、子供より盛り上がっている。
大きく振りかぶり、高々と足を上げる雄二。バットを握る玲於奈の手に力が込もる。
「じぇええええのさいどっっ! すくりゅううううううーっ!」
それは反則球ではなかろうか。
「九条院打法! 極限! 鳩返しーっ!」
だが、玲於奈のバットが一閃し、打球は場外へ消えていった。
私怨じゃなくて支援
決着ついて日が暮れて。
「じゃあねー」
「タマおねえちゃん、ありがとう!」
「お姉ちゃん達も、また遊ぼうね」
「気をつけて帰るのよ」
家路に就く子供達に手を振って見送る環達。
「それでは、私たちもこれで。今日も素晴らしかったですわお姉様」
……コクコク。
薫子とカスミも公園を去る。
「お疲れ様でした」
家の方向が違う玲於奈も別れの挨拶。
「雄二さんも、ごきげんよう」
優越感たっぷりで、公園の中央で素振りをしている雄二に声をかける。
「じゃっく・はずあ・ばっと・あんど・とぅーはーとつー。じゃっく・はずあ・ばっと……」
(ジャックは1本のバットと2本のToHeartを持っている)
虚ろな目でS○K製の金属バットを振る雄二から、返事はなかった。
「さて、私も帰るかな」
夕焼けに染まった公園を見渡す環。
「この風景も、また暫く見られなくなるかしら」
ごく小さく溜息。
と、目の端に引っかかる小さな人影。
「……あら? このみ?」
公園の前の道路を、見覚えのある少女が歩いてきた。
「どうしたあ、チビッコぉ」
雄二も正気に返って声を掛ける。
「あ、タマお姉ちゃん、ユウくん」
このみは、ぼんやりと公園に入ってきた。
「野球してたんだ」
「ええ、このみも誘おうと思ったのに、どこか行ってきたの?」
「うん……」
このみの様子がおかしい事には、環も雄二も、すぐに気づいた。
「どうしたの? このみ、なにかあった?」
「うん……えっとね……」
このみには滅多にないことに、表情が見えない。
だから、次の言葉は、二人にも予想外だった。
「このみね、タカくんに振られちゃった」
「チビ……」
「このみ、あなた……」
「うん、タカくんに、好きだって言ったよ」
なんでもないような声。
「このみ、いっぱい考えたけど、やっぱりそうだって思ったから」
「タカくんに、好きだって、ちゃんと」
「タカくん、びっくりしてたなあ」
「でも、ありがとうって、嬉しいって言ってくれたから」
言葉が進むうちに、その声に感情が浮き上がる。
「だからね、言って良かった」
「言って良かったよ。ユウくん。言って良かったよ……」
語尾が揺れていく。
「そうか。良かったな。チビッコ」
雄二は、静かに声を掛けた。
「えへへ……」
笑みを浮かべる目尻には、涙が浮かんでいる。
「あのね、タマお姉ちゃん。このみ、泣かなかったよ。タカくんの前では、泣かなかったよ」
「そう。立派ね。このみ」
環は、動揺を隠しきれなかったが、それでも微笑んで答えた。
「うん、タマお姉ちゃん、このみ、このみ……」
瞳に揺れる光が、溢れ出す。
「う……ぅ……っ……」
「うぅぅぅぅ……
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
環にしがみついて、このみは泣いた。
幼い頃によくしたように、声をあげて、泣きじゃくった。
環は、黙って少女の肩を撫でる。
このみが泣けば、環が動く。
貴明も雄二もそうだった。
少女の願いは、幼馴染みの手によって、甘やかしすぎなくらい叶えられるのが常だった。
けれど今、環も、雄二も、このみの気持ちを叶える事はできない。
環に出来るのは、少女を優しく抱きしめること。
雄二に出来るのは、少女を静かに見守ること。
貴明に出来たのは、少女を誠実に拒絶すること。
子供の頃からの四人の関係は、変わらないものを含みながらも、大きく変わりつつあった。
そして。
「そっか、このみにも、先を越されちゃったか」
このみを抱きながら、環が胸元で呟いた。
翌朝。
久しぶりに共に登校した貴明とこのみは、校門の前でまたも小牧姉妹と遭遇した。
「あ、お、おはよっ、貴明くん、こ、このみちゃん」
慌てふためいて挨拶の先陣を切ったのは愛佳。
「おはよう、愛佳、あと、郁乃」
やや焦り気味ながら貴明が続く。
そしてこのみ。
「おはようございます。愛佳先輩」
続けて。
「……おはよう、郁乃ちゃん」
おっかなびっくり、でも、しっかりと、このみは郁乃に声を掛けた。
郁乃は、無表情にこのみの顔を見て、貴明の顔を見て、姉の顔を見て。
「おはよう、このみ。あとそこのバカ」
何事もなかったように、挨拶を返した。
頬が少し、赤くなっていた。
以上です。
>337さん>342さん>346さん>352さん支援ありがとうございました
連投規制の他、コピペをミスって時間が空くこともありまして(汗
このみに手間取ったのはともかく、どうも郁乃に囚われ過ぎました
郁乃に関しては、漏れの中でかなり自分勝手な妄想が膨らんでしまっているので、
ADでは一度イメージをリセットしなきゃいけないだろうなと覚悟している次第です
(ミルシルのSS書いてる人たちも同じような気持ちでしょうかね……)
辛うじて全話出場を保っている玲於奈は、次こそヒロインに復帰、かな?
ネタに脈絡ないけどアイアンリーガーマジ名作
>>356 乙です!
郁乃の小悪魔さには驚かされるな毎度
がんがれこのみ。
まだまだチャンスはあるぞ。
目指せNTR。
最後に笑ったもんが勝ちだ。
。・゚・(ノД`)・゚・。
>>356 乙
今回の貴明は正しく愛佳ルートの貴明だったな
誠実で格好いい
正直玲於奈がヒロインだったことを忘れてたのは俺だけでいい
ここから大逆転でタマ姉がNTRだ。
雄二を。
しかし、愛佳ENDなのに愛佳の出番というか見所が少ないのが残念です。
花梨の菊穴から捻り出されたベチャベチャの下痢カレーを玉子サンドにかけて食べるSSお願いします
言い方が悪いけどこう言う、事後処理をきちんとしてくれると
気持ちいいよね。
失恋の話最高。
その後、愛佳と色々あって別れることに。
そして、傷心した貴明をこのみが慰め、このみのことを好きに。
そのとき、このみは
1.付き合う
2.いまさら都合のいいことを言うな・・・と振る
3.実はすでに恋人がいた
どれでしょうかね〜
>356です。感想くれた方ありがとうございます。とても嬉しいです
貴明は自分としては、真面目で優しいけど隙だらけの困った男、
というつもりで書いてたので、格好いいって感想は意外でした
愛佳は、この辺は彼女に貴明を取られた人達の話なので、自然と控えめに、
ってか受難気味です。これ前編なので、もう1話、失恋話にお付き合いください
本当は一気に書きたかったんですけど、郁乃が文章取り過ぎてw
その郁乃は、このみの背中を突き飛ばすと同時に貴明に防衛線を張った黒い奴ですが
自分じゃなくて愛佳のため、とか、貴明を嫌いじゃないのでキスした、とか、
明確には決めてませんが可愛い部分も…が、愛佳を取られた仕返しでこのみを、とか?
>>365 雄二と付き合ってるけど貴明も好きで両天秤にかけちゃうみたいな展開
>365
雄二と付き合ってたけど、貴明が好きなのであっさり乗り換える展開
今日は月曜日。
かつては栄華を極めた日。
言うな。 寂しくなるから…。
>>356 あいかわらずGJです!!
今回は登場人物が多かったのに相変わらずテンポよく読みやすいのは流石です。
貴明の誠実だけど隙、というか鈍感ってところも上手く表現してると思いますし
何より失恋モノを鬱な要素を感じさせずに、それでいて切なく、温かい感じでまとめたところはすごい。
最後のこのみ、環、雄二の掛け合いとか思わずホロリと来そうになりました。
幼馴染っていいなあ・・・
次はタマ姉も決着を着けるんでしょうか?
河野家も終わっちゃった今、楽しみに待ってます。
今後の展開を予想してみる
ある朝、目が覚めると…(中略)…朽ち果てた町並みが(ry
高校に行くと銃持ったおっさんが二人立ってるわけですか。
書庫で桜の群像11話読んでたら、いくのがこのみを拒絶した後、いきなりダニエル出てきてわらたw
この曜日のこの時間にこのスレッに張り付くのが習慣になってしまった俺ガイル
〜昼休み、廊下にて・貴明side〜
キーンコーンカーンコーン・・・・・・
やった。ようやくこの睡眠の蟻地獄から逃れられる昼休みがやってきた。
今日はいつもより疲れたから学食でたっぷりと栄養を補給するとしよう。
さて、雄二は・・・・・・あれ?いない。どこに消えたんだあいつ。
まるで今日だけは存在していないような気がする。
――そんなことあるわけないか。もう食堂に行ったんだろう。
じゃあ俺も学食へ行くか。
「たーかーあーきー!」
廊下で珊瑚ちゃんが俺を見つけて駆け寄ってきた。
珍しいこともあるんだな。珊瑚ちゃん一人なんて。
「珊瑚ちゃん? 俺に何か用?」
「貴明。もうお昼食べた?」
「今から学食に行こうとしてたんだけど」
「それじゃあウチと瑠璃ちゃんとで一緒にご飯食べよ」
二人と一緒に昼食?魅力的なお誘いだけど・・・・・・
「いいの? 俺邪魔じゃあ・・・・・・」
「ええんよ。瑠璃ちゃんも貴明のためにいっぱいお弁当作ったんやから」
ええ?さらに珍しいことが?
瑠璃ちゃんが俺にお弁当を作ってきてくれたことなんて一度も無いのに。
――でもせっかく作ってきてくれたんなら断ることもないよな。
「じゃあ、お呼ばれしようかな」
「うんうん。お呼ばれされてや」
屋上に向かっていると珊瑚ちゃんが話しかけてきた。
「なー、貴明。今度家に来てくれん?」
家って、珊瑚ちゃんたちの家?なんでまた。
「全然構わないよ。でもなんで珊瑚ちゃんの家で?」
「実は今男性の思考ルーチンを持ったCPUを作ってるんよ。
それで貴明にもそれを手伝ってもらおかな、と」
えーっと、思考ルーチンってメイドロボの性格づけになるものだったっけ?
でもそれを手伝うって俺には無理なんじゃ・・・・・・?
「ひょっとして難しいこと? 俺、難しいこと何にもできないけど」
「貴明は何もせんでええよ。寝てるだけで充分や」
ね、寝てるだけ?それって手伝うとは言わないのでは?
ううん、なんだかきな臭い匂いがするぞ。
心なしか珊瑚ちゃんの目も怪しい輝きを放っているし。
「・・・・・・ねえ、本当にそれだけ?」
「ウチは貴明に嘘吐かへんよ」
笑顔で返事をされてしまった。確かに嘘を吐かれたことはないけどね。
――馬鹿だな。俺。珊瑚ちゃんを疑うなんてしちゃいけないことだ。
「じゃあ、今度お邪魔しようかな」
「ほんま!? 約束やで!」
俺の返事を聞いて珊瑚ちゃんは満面の笑顔を浮かべてくれた。
「ほな、早よ行こ。瑠璃ちゃん屋上で待っとるで」
俺は珊瑚ちゃんに腕を引っ張られながら屋上へ向かった。
〜昼休み、廊下にて・珊瑚side〜
瑠璃ちゃんもしょーがないなあ。
貴明と一緒にお弁当食べたいんなら直接誘えばええのに。
まったく。ツンデレさんやねんから。でもそこが瑠璃ちゃんのええとこやね。
貴明も結構ツンデレさんやけどやっぱり瑠璃ちゃんのツン多めのほうが
ウチは好きやな。すきすきすきーや。
そろそろ二年生の教室やけど――あ!おった!
「たーかーあーきー!」
駆け寄ったらなんだか変な顔になりよった。
失礼やなあ。貴明は。それとも照れとるんか?
照れんでもええのに。ウチと瑠璃ちゃんと貴明の仲やんか。
「珊瑚ちゃん? 俺に何か用?」
「貴明。もうお昼食べた?」
まだ食べてへんよね?もし食べとったら瑠璃ちゃん泣くで。
「今から学食に行こうとしてたんだけど」
「それじゃあウチと瑠璃ちゃんとで一緒にご飯食べよ」
「いいの? 俺邪魔じゃあ・・・・・・」
遠慮せんでもええのに。ツンデレの上に遠慮深かったら人生損するで?
「ええんよ。瑠璃ちゃんも貴明のためにいっぱいお弁当作ったんやから」
「じゃあ、お呼ばれしようかな」
「うんうん。お呼ばれされてや」
そうやって素直になるんが一番やで。貴明。
っC
そや!ええこと思いついた!
「なー、貴明。今度家に来てくれん?」
「全然構わないよ。でもなんで珊瑚ちゃんの家で?」
理由なんかどうでもええやないの。
結ばれることが約束されている三人に言葉なんか要らん。
・・・・・・でも貴明は理由聞かんと来ーへんやろな。
しゃーないなあ。ちょこっとだけ教えたろ。最後に何をするんかは言わんけど。
「実は今男性の思考ルーチンを持ったCPUを作ってるんよ。
それで貴明にもそれを手伝ってもらおかな、と」
「ひょっとして難しいこと? 俺、難しいこと何にもできないけど」
「貴明は何もせんでええよ。寝てるだけで充分や」
ほんまは貴明をサイボーグにしてまうのが一番なんやけどね。
でもそしたらツンデレが見られへんからやめとこ。
「・・・・・・ねえ、本当にそれだけ?」
「ウチは貴明に嘘吐かへんよ」
ちょっと怪しまれてもうたかな?たしかに全部を語ってはおらへんけど。
――ばれたらおしまいや。ウチの笑顔を見せて貴明を信じさせんと。
・・・・・・・・・・・・。
「じゃあ、今度お邪魔しようかな」
「ほんま!? 約束やで!」
よかった。成功や。やっぱり貴明はデレ多めやな。
「ほな、早よ行こ。瑠璃ちゃん屋上で待っとるで」
貴明。家に来たらええことしたるから――覚悟してくるんやで?
------
懲りずに投下しました。
珊瑚の言葉遣いが変だと自分でも思いますので、そのときはご指摘をお願いします。
>381
乙。
ここまでの貴明の未来予想図
・薬物漬け
・逆強姦
・食材
・メカ貴明
続きwktk
>>381 乙。
ちょいとしっかりしすぎかも?もっとトロい感じだった希ガス〉口調
でもヒロイン皆黒くてイイヨイイヨー。できればサブヒロイン達も面倒見てやって下され
もういくら待っても河野家はないんだよな・・・・(つд;*)
そういや河野家で結局イルファさんって雄二とくっついたの?
途中読んでなくて分からないんだけど……
嗚呼河野家(つД`)
これといって結末は描かれてないね。
友人としての付き合いが続いてるようだ。
結局、河野家ではイルファさんから貴明に対しては別段恋愛感情はなかったんだっけか
接点がほとんど無いからな。
瑠璃の帰還を遅らせた元凶な訳だし、むしろ他の人より嫌われてるんじゃ。
コナン「あれ?あれれ〜?きのうは河野家のおにいちゃんの日じゃないの?おっかしいな〜?」
バーローwww(´;ω;`)
>389
あんた、あの伝説の工藤太智か!?
〜昼休み、屋上にて・貴明side〜
屋上には瑠璃ちゃんが一人でビニールシートの上に座っていた。
俺の方を振り向いたらすぐに声をかけてきた。
「貴明! 遅いで!」
不機嫌な声で怒鳴られた。
「ごめん。瑠璃ちゃん。珊瑚ちゃんと話してたらゆっくりしちゃって」
「さんちゃんのせいにするんか? 男らしくないで!」
ああ、ごめん瑠璃ちゃん。そんなつもりは無いんだよ。
だからそんな目で睨まないでほしいな。
「瑠璃ちゃん。貴明をそんなに責めんといて。
ウチが歩くの遅いからあかんねん。
それにツンデレさんも程々にせんと、貴明に見放されるで?」
珊瑚ちゃんが瑠璃ちゃんをからかっている。
――けど瑠璃ちゃんってツンデレかな?デレがないけど。
「ウ、ウチツンデレちゃう!」
「ほらあ、それがデレなんやで? 瑠璃ちゃん」
そ、そうなのか?否定するだけでもデレが成立するのか?
それはただ照れているだけなのでは?
「ウチ、ツンデレちゃうねんもーーん!」
瑠璃ちゃんが天に向かって叫んだ。
瑠璃ちゃんの作ってくれた弁当はものすごく美味しい。
すごいな瑠璃ちゃんは。タマ姉と互角の腕なんじゃないか?
俺が夢中になって食べていると、珊瑚ちゃんがウインナーを箸で掴んで差し出してきた。
――それってもしかして、アレ?
「ほら、貴明。あーんしてや。あーん」
「珊瑚ちゃん、俺は自分で食べられるから・・・・・・」
やっぱりそうだった。恥ずかしいからそんなことできないって!
それにそんなことしてたら、瑠璃ちゃんが・・・・・・
「あかんでさんちゃん! 貴明にそんなことしたら! にんしんしてまうで!」
いやいや。さすがにそれだけじゃ妊娠しないって。
瑠璃ちゃんに言っても無意味だけど。
「んーー・・・・・・。ほな、瑠璃ちゃんがやってや」
「へ? ウチ? なんで?」
「・・・・・・貴明にあーん、て。やりたくないん・・・・・・? 貴明のこと、嫌いなん?」
泣き落とし作戦に出たみたいだ。こうなってはもう瑠璃ちゃんに勝ち目はないな。
「う、うう、うーーー・・・・・・貴明! 口開けえ!」
「へえ?! う、うん。あーん・・・・・・」
瑠璃ちゃんの差し出したウインナーを食べる。
「うん。美味しいよ。瑠璃ちゃん」
「あ、当たり前やろ!」
そう言って瑠璃ちゃんはそっぽを向いた。
――あれ?これってもしかして・・・・・・
「あ、瑠璃ちゃん照れてるん〜? やっぱしツンデレさんやなあ」
「ちゃう! 絶対、ツンデレちゃーーう! さんちゃんのアホーーーーー!」
瑠璃ちゃんの大声が昼休みの屋上に響いた。
――やっぱり瑠璃ちゃんはツンデレなのかもしれない。
〜昼休み、屋上にて・瑠璃side〜
すー、はー、すぅぅ、はぁぁ・・・・・・。
ああ、緊張するなあ。やっぱり自分で貴明を呼びに行けばよかったやろか。
待ってる方が辛いわ。ああもう、はよ来いや貴明!
あれ?なんでウチが緊張せなあかんのやろ。なんか最近おかしいでウチ。
今日もなんで貴明のために弁当作ろうなんて思いついたんやろう?
――んああ、もう!ワケがわからへん!・・・・・・と、誰か来よったわ。
あ、さんちゃんや!あと――
「貴明! 遅いで!」
「ごめん。瑠璃ちゃん。珊瑚ちゃんと話してたらゆっくりしちゃって」
ウチに会うよりもさんちゃんと話してるほうが楽しいんか?
その間緊張して待ってたウチの気も知らんと。このアホウ。
「さんちゃんのせいにするんか? 男らしくないで!」
「瑠璃ちゃん。貴明をそんなに責めんといて。
ウチが歩くの遅いからあかんねん。
それにツンデレさんも程々にせんと貴明に見放されるで?」
ツンデレ?!なにゆうとんのさんちゃん!
ツンデレゆうんは男のために弁当作ったり、再会するまでドキドキしたり・・・・・・
――って!それウチのことやないか!
「ウ、ウチツンデレちゃう!」
そんなわけあらへん!絶対に!
「ほらあ、それがデレなんやで? 瑠璃ちゃん」
違うゆーてるやん!ちゃうねん!
「ウチ、ツンデレちゃうねんもーーん!」
貴明とさんちゃんがウチの作った弁当を一緒に食べとる。
さんちゃんはまあ、ウチの料理を毎日食べとるけど・・・・・・
貴明は今日限定やで!もう金輪際作らんからな!
「ほら、貴明。あーんしてや。あーん」
「珊瑚ちゃん、俺は自分で食べられるから・・・・・・」
何しとんねんさんちゃん!それはウチがやろうと――ってそうやない!
「あかんでさんちゃん! 貴明にそんなことしたら! にんしんしてまうで!」
「んーー・・・・・・。ほな、瑠璃ちゃんがやってや」
「へ? ウチ? なんで?」
なんで?なんでウチの考えとることがさんちゃんにはバレてるん?
――確かにやってみたいけど、貴明はウチにされるより、さんちゃんにされるほうが嬉しいやろうし。やっぱりあかんよ。
「・・・・・・貴明にあーん、て。やりたくないん・・・・・・? 貴明のこと、嫌いなん?」
涙目にならんとってや!そんな目ぇされたらもう・・・・・・
「う、うう、うーーー・・・・・・貴明! 口開けえ!」
「へえ?! う、うん。あーん・・・・・・」
ど、どない?美味しい?
「うん。美味しいよ。瑠璃ちゃん」
「あ、当たり前やろ!」
――あかん。めちゃめちゃ嬉しい。なんか泣きそうや。
「あ、瑠璃ちゃん照れてるん〜? やっぱしツンデレさんやなあ」
せやから、違うってさっきからゆうてるやないの!
「ちゃう! 絶対、ツンデレちゃーーう! さんちゃんのアホーーーーー!」
ぜったいにウチ、貴明に対してツンデレやない!
ツンだけや!デレなんか持ってへんのや!誤解すなや貴明!
ーーーーー
投下終了です。
>>384さん。ご指摘ありがとうございます。
>>395 いいツンデレですねw
他のキャラの登場も待ってます。
とりあえずGJ!です
>>391 懐かしいなその名前…
あの時リアルタイムで見てたが不憫でならなかった(´д`)
>>388 イルファさん好きの俺としては雄二とのカップリングは勘弁なんだよな。OVAもそれが心配
でもやっぱり本命は瑠璃ちゃんなんだろうけど
こんな話しても河野家終わったから意味ないけどな・・・・・orz
>>398 別に雄二だろうと貴明だろうと瑠璃ちゃんがいる限り変わらないさ。
というか主人公に感情移入しない派の俺としては雄二の方が全然マシ。
まあ河野家終わったから意味ないけどさ……
それは雄二のなにげない一言から始まった。
「サバイバルゲームって面白そうだな」
昼休みのそんな他愛もない会話。
ただそれだけのはずが、放課後、何故かわからないがテンションの高い二人に引きずられて公園へ。
「えへへ〜、こーゆうのは初めてだよ〜。楽しみだね」
「懐かしいわね、昔を思い出すわ」
なぜかでかいバックを持たされながら環とこのみに公園へ引きずられていく雄二と貴明。その姿はさながら奴隷を引き連れた姫君のようだ。
「あの〜、お二人さん。いったい公園へ行って何をするんでしょう…」
「あらタカ坊、アナタが言い出したのにいまさら何をいってるの?」
「サバイバルゲームなんてこのみ初めてだよ〜」
.....何故サバイバルゲームをやる事になっているんでしょうか。確か今日の昼にその事について話していたような...。けどあの話は雄二とだったし、しかも今度やる、なんて事でもないような…?
「いやぁ〜、貴明がどうしてもやりたいって言うから、姉貴達に頼んで色々と用意してもらったぜ!」
...いつの間にか俺に変な趣味が増えてしまいました。やってくれるぜ雄二くん。
「俺が言ったのは面白そうだな、だ。そもそもやってみたいって言うのは雄二の方だろ」
「細かい事を気にするな!」
...こいつは俺を利用してサバイバルゲームがやりたいだけなのではないのか。相変わらずだな。
「けどいつもの公園じゃ小さくてそんなことできないと思うんだけど」
「駅の向こうにおっきな公園ができたんだよ。木も沢山生えてるの」
「広さ、状況共に申し分ないわね」
そうだったのか。俺の知らない間にここも色々と変わってるんだな
それは雄二のなにげない一言から始まった。
「サバイバルゲームって面白そうだな」
昼休みのそんな他愛もない会話。
ただそれだけのはずが、放課後、何故かわからないがテンションの高い二人に引きずられて公園へ。
「えへへ〜、こーゆうのは初めてだよ〜。楽しみだね」
「懐かしいわね、昔を思い出すわ」
なぜかでかいバックを持たされながら環とこのみに公園へ引きずられていく雄二と貴明。その姿はさながら奴隷を引き連れた姫君のようだ。
「あの〜、お二人さん。いったい公園へ行って何をするんでしょう…」
「あらタカ坊、アナタが言い出したのにいまさら何をいってるの?」
「サバイバルゲームなんてこのみ初めてだよ〜」
.....何故サバイバルゲームをやる事になっているんでしょうか。確か今日の昼にその事について話していたような...。けどあの話は雄二とだったし、しかも今度やる、なんて事でもないような…?
「いやぁ〜、貴明がどうしてもやりたいって言うから、姉貴達に頼んで色々と用意してもらったぜ!」
...いつの間にか俺に変な趣味が増えてしまいました。やってくれるぜ雄二くん。
「俺が言ったのは面白そうだな、だ。そもそもやってみたいって言うのは雄二の方だろ」
「細かい事を気にするな!」
...こいつは俺を利用してサバイバルゲームがやりたいだけなのではないのか。相変わらずだな。
「けどいつもの公園じゃ小さくてそんなことできないと思うんだけど」
「駅の向こうにおっきな公園ができたんだよ。木も沢山生えてるの」
「広さ、状況共に申し分ないわね」
そうだったのか。俺の知らない間にここも色々と変わってるんだな
「もうそろそろ公園ね。...あ、いたいた。もう来てるみたい。」
タマ姉の言葉で公園の方に目を向ける。そこには....
「こんにちは。河野くん、向坂くん、荷物お疲れ様です。」
「たかあき、勝負よ!」
「る〜☆このみちゃん来たで〜」
「ウチも来とるよ」
「うー、この星の戦争ゴッコはなかなか興味深そうだな。」
「お疲れ様です貴明さん」
「やっほータカちゃん。サバイバルはミステリ研の得意分野なんよ!色々と張り切っちゃったよ〜」
俺の知り合いがずらーっと並んでいた。みなさん揃ってなに集まっちゃってるんですか
「...みんな、どうしたの?」
「こうゆうのは大人数の方が楽しいでしょ。このみと雄二に知り合いを集めて来てもらったわ」
「ちゃるとよっちも呼んだんだけど用事があるらしくて呼べなかったんだ〜」
そう言いながら俺達が持ってきたカバンをごそごそと探るこのみ。中からゴーグルとエアガンを取り出す。本当に用意しとるがな
「...一体どこからそんなものを用意してきたの。しかも大量に」
自分で担いできたのだから解るのだが、これにはかなりの量のものが入っている。こんなものをすぐに用意できるのはおかしいと思うが......
「学校にあったのよ。正確にはサバイバルゲーム同好会から一式借りてきちゃった、て訳ね。同じクラスの男子に聞いたら快く貸してくれたわ」
うちの学校にそんな同好会なんてあったんだ......。しかし一声かけるだけでこんなに沢山の備品を貸してくれるとは、恐ろしきタマ姉の人望。
「けどサバイバルゲームなんてやったことないからルールとかさっぱりね。愛佳は?」
「ん〜、エアガンで打ち合う事くらいしか...」
小牧さんも由真もわからないのに来たんだな。それはなかなかに無謀だろ.....
「サバゲーの基本ルールはだな、基本的に敵に撃たれたらダメ。跳弾でも仲間の玉でもエアガンの玉が体に当たったらアウト。死亡扱いで退場。チーム戦とか単独戦とかあって、全滅させるか相手チームの旗を取ったら勝ち。こんなトコだな」
つらつらとゲームのルールを説明する雄二。どっから調べ出して来たんだか......
「下準備は完璧だな、雄二」
「まぁな。問題は相手が女の子ってとこか。やっぱ気が引けるな」
そうか、このメンバーだと女の子相手にエアガン撃つんだな。確かに気が引ける。まぁ雄二やこのみ、タマ姉あたりならどうにかなるかな。
「はっ、言い訳して逃げるは相変わらずうまいわね、腰抜けさん!」
「こいつは例外だな」
あぁ、由真も大丈夫そうだな。なんか遠慮しちゃ失礼な感じもするし。
うわ、雄二と由真がものすごい勢いで睨み合っている。やはり同じ血が騒ぐのだろう、これが火花も散る雰囲気ってやつか。
「それにしてもこんな人数分の道具なんてあるの?いくらなんでも集めすぎじゃないかなぁ」
さすがに十一人分の用意はないだろう。仮にあったとしても六人分くらいじゃないか。ここは前半後半に分けてやるあたりが無難な所か...
「そうねぇ、用意したのはゴーグルと防具が8セットしか無いわね。エアガンなら12セットもあるんだけど」
やっぱり足りないか。さすがにタマ姉でも急ごしらえでこの数は用意できないだろう。やっぱり前後分けてやるのが無難かな
「じゃあ、前半と後半に分かれ...」
「はいは〜い!そんなこともあろうかと花梨ちゃんが家から色々と持って参りました〜!」
そう言いながら笹森さんが足元のバッグからいそいそと取出し始めた。ホントに色々と持ってきてるよ...
「..ん〜、こんな感じかなぁ。ねぇこのみちゃん、足りてる?」
笹森さんの前には、防具セットが4コ、エアガンが5丁、無線が6コ。あげくにスタンガンやら催涙スプレーやらまで置いてある。ちょっと行き過ぎでしょう!
「うん、充分です。笹森先輩、ありがとうございます!」
丁寧にお辞儀するこのみ。別に笹森さんに礼なんて良いと思うけどなぁ。絶対自分が楽しめれば良いと思っているような人だしな。
「い...いや!お礼なんていいんよ。み、皆が楽しめれば持ってきた甲斐があったと思うし...」
案の定、判りやすいリアクション。
「けど、このお陰で皆が一緒に遊べるんですもの、御礼は言わなきゃね。ありがとう」
やっぱりタマ姉はこうゆう所はしっかりしてるな。笹森さん、改まっちゃってるよ。
「さてと、道具も用意出来たところで、チーム分けをしましょう」
防具を一通りつけたあたりで、タマ姉がチームを分けていく。
分けられた結果、俺、このみ、由真、草壁さん、笹森さんチーム。雄二、小牧さん、るーこ、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんチーム。...あれ?
「タマ姉は?」
「私が入っちゃったら奇数になっちゃうでしょう?だから私はジョーカーよ」
「ジョーカー?姉貴の場合は死神って感じあだだだだだだだ!」
タマ姉の悪魔の右腕が雄二を襲う。ゴーグルすら割れてしまいそうな威力に雄二Down。いまさらながら雄二って何で生きていられるんだろう
「私は単独で戦うわ。双方のチームにとっては敵、第3勢力と考えてもらってかまわないわ」
そう言いながら腰のホルスターにハンドガンを2つ、手に1つずつ。計4つの銃を...
「って何丁もってんの!しかもホルスターなんて俺達にはないし!」
「あら、戦いは火力よ。人数的に劣勢なんだからこれくらいは当然でしょう?なんならあなた達も2丁とか持てばいいじゃない」
確かに1人だけのタマ姉にはそれくらいの差は良いかもしれないな
「2丁拳銃...トゥーハンドか。俺と貴明が2丁持ちでいいんじゃないか」
いつの間に雄二が復活してるよ。こいつの蘇生能力は常人を逸脱してるよ
「そうだな。じゃ、俺達が2丁持っちゃうか。使いこなせるかはわからないけど」
「じゃあ後は無線ね。私は1人だからいらないとして、両チームに3コずつ渡すわ。誰が持つかは相談で決めてね」
「るー、ここから先はチームごとの作戦タイムだな。敵に情報を教えるつもりはないぞ、距離をとって会議だ」
そう言ってチーム雄二が公園の奥のほうに向かっていく。タマ姉もひらひらと手を振りながら、雄二達とは別のほうに向かっていき、姿が見えなくなった
「あたしたちも場所を移動しないとね。とりあえず林のほうにいっておこうか」
由真の提案で、木々が生い茂っているエリアへと移動。ここなら見えにくいし、ねらわれることもない。
「貴明さん、私達も作戦会議をしましょう。誰が無線を持つかを考えないと」
他のチームが見えなくなったところで、草壁さんが会議を始めた。他のメンバーも芝生に座って話を聞いている
「このみ無線持ちたーい!」
「私の無線なんだから、ここは花梨ちゃんが持つのが妥当じゃないかな?」
このみと笹森さんが元気よく挙手。このみは新しいオモチャを貰った子供のようなリアクションだな。笹森さんが持つのは異論はないとは思うけど
「ん〜、こうゆうのって作戦決めてから誰が持つか考えたほうがいんじゃないの?」
確かに由真の言う通りだ。テキトーに決めるよりかはポジションを考えてからのほうが必要性が見えてくる
「じゃあ作戦と陣形はどんな感じにしますか?」
「そうだな。このみと由真が前のほうで、笹森さんがその後ろについていく感じ。俺と草壁さんは後方から支援ってカンジかな」
各個人の性格から考えるとこんなかんじの陣形かな。妥当だとは思うが
「うん、悪くないね。さっすがタカちゃん!」
「このみは切り込み隊長であります!」
笹森さんとこのみは賛成のようだ
「そうね。いいんじゃない?銃を2つ持ってるたかあきが後ろにいるのがもったいない気がするけど。笹森さんが後ろでもいいとは思うけどね」
由真が地面に配置の図みたいのを書いていた。フォーメーションとしては悪くないが装備を考えてなかったな
「んー。やっぱ後ろにいる人が無線で指示とかするからさ、笹森さんはそういうの苦手そうな...」
「タカちゃんヒドイ!まるであたしが指示もできないロクデナシさんみたいな言い方じゃない!!」
「いや....さすがにそこまでは言ってないけど...」
「そうですね。私も貴明さんはもうちょっと前に出てもいいとは思います」
草壁さんも由真とは同意見か。なら問題はないかな
「じゃあ笹森さん、後ろからの支援よろしくね」
「まっかしといてよ!!」
自信満々に親指を立てる笹森さん。ここまで自信があるなら信用しても大丈夫かな?
「そういえば、良くみるとこの配置オリオン座に似てますね」
草壁さんが由真の書いた落書きをみながら言った。
「オリオン座って、冬の空に見える星座のですか?」
さすがにこのみでもオリオン座くらいは知っていたか
「確かに言われてみれば」自分の書いた落書きをまじまじと見つめなおす由真
「じゃあ、このフォーメーションの名前はオリオンだな」
そう言いながら無線を草壁さんと由真に渡す。この2人と俺が無線役だ。
「はい。チャンネル合わせといてね。」
後ろでは笹森さんとこのみがイメージトレーニングのような謎の動きをしている。2人とも元気だな
『...ザ..ザー..ーい....ぇるかー...い』
調整しているときに無線から声のようなものが聞こえた。周波数をあわせて、聞き取れるようにする
『...ぉーい。雄二だ。聞こえるか』
「どうした、スパイ活動でもしてるのか」
『違ぇよ。姉貴からの連絡だ。ゲーム開始は17:00ちょうど。時計持ってるか?もってたら俺のと合わせてくれ。16:54:10だ』
「了解。あわせた。あと6分弱だな」
『あと1つ。アウトになった奴は入り口近くのベンチで待機。その間戦いには関与しちゃダメだ。なんせ死人扱いだからな』
「わかった。入り口近くのベンチだな。」
『ぉぅ。じゃあ戦場で会おうぜ!以上!』
ブチッという音と共に、無線から声が聞こえなくなった。
「よし、もうそろそろ開始時刻だ」
残るところ1分弱となり、みんなも陣形をくんだ状態で待機していた。
『とりあえずは遊具がある方向にいってみる?』
無線から由真の声が聞こえる。そういえば攻め入る場所を考えていなかった。
「そうだな。2人の行きたい方向に進んでくれ。俺たちは2人についていくから。草壁さんたちもよろしくね」
『了解しました』
『わかったわ』
時計が開始時刻を回るまであと少し。木陰に涼しい風が流れる。カラスが鳴きながら頭上を飛んでいった。
...3..2..1..0。 秒針が12を指し、カチ、という音と共に、分を示す針は垂直となった。
「よし、いこう。皆慎重にね」
静かに5個の影が動き始める。
夕暮れが迫る中、そのゲームは始まった。
初めまして。初投下っす。至らない点ばかりかと思いますが
寛大な気持ちで読んでいただきたいです。
あと、
>>400.401 重複しちゃいました。スミマセン・・・
流れとしては、みんなと知り合って、だれのエンディングも迎えていない感じです。
みんなある程度は仲がいい、と考えてやってます。(そうでもないと成り立ちませんね)
まぁゲーム一つにこんなに色々やらねーYO、とは思いますが・・・。
我ながら長々しくなってしまいました。
誰がしゃべってるかをわかりやすくするために、変なセリフ回しになっていますが気にしないでください(泣)
あんまりしゃべってない人もいますが気にしないでください(泣)
次はいつできるかも不明です・・・。ぁぁイッパイイッパイ。
なんでもご指摘いただけると幸いです。
お眼汚し失礼いたしました!
>408
乙
みんなでサバゲー? そのまま鳩2バトロワ?(無理かw
ちょっとまだネタが判りませんが、今後の展開を楽しみにしてます
>>408 GJ! 読みやすくて初投下とは思えない。馴れてるなって感じた。
銃とか専門用語が出てこないのもいいよな。そういうのに興味ない人も置いてけぼりにならないし。
この後の展開も何らかのネタを絡めてくるのかネタ抜きで見せてくるのか非常に気になるところ。
とりあえず言えることは、続きカモン!
ああ、それとですね、
>>じゃあ、このフォーメーションの名前はオリオンだな
なにこの格好いい貴明! 素敵! 草壁さんが惚れ直してる横で由真がドン引きしてそう。最高。
しかし華奢な女の子が銃持ってる構図ってよくあるけどTH2では瑠璃以外で考えたこと無かったわ。
盲点だった。どの銃持たせようかと考え出すと止まらん。
ミリオタ初級な俺はデザートイーグル2丁で襲ってくるタマ姉とCz75を両手で抱えて怯える草壁さんを幻視してポヮヮ
>>409 どもです。考えましたよバトロワw死人とかをだしたくないんでやめましたがw
これは元ネタとか全くないっす。全部妄想な世界。自分はネタを織り込むのが苦手と解りました。
>>410 どもです。いやいや褒め殺しですか、そうゆうこと言われちゃうと調子こいて次のも作っちゃいます(;´∀`)
専門用語とかを持ち出すとキリがないですからね。むしろ俺があんましわかってなかったんですが...
しまった、貴明のヘタレ成分を混入し忘れたw多分ヘタレシーンはあんましないかな...。
最近マブラブやったんでそこから想像されちゃいましたよ。これからどうなるかわかったもんじゃないけど
とりあえず、よろしくおねがいします
俺、人数がそろっているSS読むとさ…、思い出しちゃうんだよね。・゚・(ノД`)・゚・。
タマ姉はトゥーハンドというよりもフライフェ
「「おはようございます。お姉様!」」
ペコッ……。
「おはよう」
このみと郁乃が和解した同じ朝。
三人娘のいつもの挨拶に、環も普段どおり答えていた。
「雄二さんも、おはようございます」
貴明が場にいないせいか、玲於奈の口調は幾分か軽い。
「おはよーさん。毎日よく続くなしかし」
感心:呆れ=1:3くらい。
「お姉様のお顔を拝見しなければ、一日が始まりませんわ」
「今日はまた一段と美しくいらっしゃいます」
コクコク……。
「あらそう? ありがと」
さらっと流すところが環。
「そういやぁ、今日はやけに朝風呂が長かっグゲガギグゴゲ」
いつも一言以上余計な雄二。
「あら? 筋肉痛? 情けないわね、あの程度の素振りで」
昨日、公園野球で玲於奈に打たれ、素振り1000回の憂き目にあった雄二ではある。
痛がってるのは、筋肉痛のせいではないと思うが。
「ちゃんと1000スイングしたんですか?」
面白がって玲於奈。
「当たり前だ」
というか、遊びだとて環が約束を破って手抜きなど許すわけがない。
「それはご愁傷様……ところで、雄二さん」
クスリと笑った後、神妙な顔になって玲於奈。
「なんだ?」
「来月の末に、緒方理奈が来ますよね?」
「おう、ちゃんと調べてるのか、感心感心」
雄二の布教の甲斐あって、密かに玲於奈も緒方理奈の新米ファンである。
「でも、チケットが取れなくて」
「だからファンクラブ入れっつったんだよ。優先枠で買えるのに」
「ファンクラブは、会報とか色々郵便物が……」
親に好まれない、ということか。
「あとは出遅れたならヤプオクとか、ネット使えば色々手段はあるぜ」
「そ、そうですか? 良く判りません」
玲於奈、目をぱちくり。
「……仕方ねえな。了解、一枚確保しといてやるよ」
「お願いできますか?」
嬉しそうな顔。その後、やや不安そうな顔。
「えっと、お幾らくらい掛かります?」
申し訳なさそうに尋ねる。
家が裕福でも所詮は学生。その辺は環に財布を握られている雄二も理解できる。
「あー、まあ、ツテを辿って定価ちょいくらいでなんとかしてやらあ」
「ありがとうございます。助かりますわ」
「……あ、ああ」
ニコッと屈託の無い笑みを浮かべる玲於奈に、雄二は一瞬見とれた。
「……私の顔になにか?」
「いや、なんでもねえよ。それよりいいのか? 姉貴達、先行ってるぜ」
環の両側を挟んで、薫子とカスミは10メートルほど先行。
「あっ、いけない」
慌てて追いかける。と、くるりと戻ってくる。
「さっき言ってたヤプオクとかネットって、どこのお店なんですか?」
「は?」
「チケット買えるんでしょう? 今度教えてくださいね?」
また反転して環を追う玲於奈。後ろ姿が、軽やかだった。
ぽけー、と見送る雄二。
「……姉貴も、文明の利器には疎いよな」
九条院のカリキュラムに、OA教育という文字はないのかもしれない。
その日の放課後。
昇降口を出たところで貴明と愛佳が待っていると、郁乃が現れた。
このみも一緒。
「はい、郁乃ちゃん」
下駄箱から靴を取り出して足下に揃えるこのみ。
「……どうも」
「あらら? 仲良し?」
愛佳、ちょっと驚く。
「ん……まあ」
「へへー、土曜日にうちで遊ぶ約束したんだ♪」
「わ、良かったね郁乃」
「しっかし、態度が極端だよなお前は」
貴明、呆れ顔。
「あたしの態度は、あたしの勝手でしょ」
傲然と郁乃。だがすぐにトーンを落とす。
「このみのは、このみのだけどさ」
口のなかでモゴモゴ。いささか負い目があるようだ。
「ほえ? このみ、態度悪くないよ?」
が、言われた方はこんなもの。
「数学爆睡してたくせに」
「そうなのか?」
「むう、寝不足だったんだよ〜」
校門に向かいながら、四人の間を流れる会話。
「ホントに仲良いねえ」
ニコニコと笑いながら愛佳。
「ってことは、ケンカの原因は解消したのかな?」
貴明はどきりとした。
「あ、えっと……その……」
このみが口篭もる。
支援
このみは、貴明が郁乃に説教された事は聞いているが、
その場に愛佳が居た事は知らない。
一方愛佳は、一昨日の件で郁乃とこのみの事情を知っているが、
昨日このみが貴明に告白した事はまだ聞いていない。
「一応、ね」
場を引き取ったのは、既に両方知ってるらしい郁乃。
「細かい事情は、それこそ土曜日にでも詳しく聞くわ」
口を歪めて性質悪く笑う。
「あー、愛佳?」
「はい?」
「土曜日、俺達もどっか行くか」
フォローの必要性を、理屈ではなく感じて、貴明は愛佳を誘った。
「あ……」
ちょっと表情が停まる愛佳。
「そうだね、そういえば二学期になってから遊んでなかったね」
噛みしめるような口調。
「主として誰かさんのせいでな」
これくらいの反撃はありだろうと貴明。郁乃は知らん顔。
「あっ! そうだっ!」
何かを思い出す忙しい愛佳。
「あ、あのねっ、貴明くんっ」
「なに?」
「その、実はねっ、ミセスドーナッツの半額セールがねっ」
「やってるの?」
「今日まで、なんだけど……」
右の拳を口元に寄せて目を逸らす、得意のおねだりポーズ。
「OK、帰りに寄ろう」
貴明は苦笑半分、安心半分で了承した。
「はんがくっ!? ぜんぶっ!?」
しかし、食べるのが好きなのは愛佳の専売特許ではない。
「あっ、その……このみちゃんも、一緒に来る?」
反射的に誘ってしまう愛佳。
「あ、えーっと、ううん。今日はいいや」
が、本心からとは言い難い先輩の誘いを、このみは断った。
愛佳はというと、申し訳なさそうにしながらも、少しほっとした様子だった。
「じゃあ、郁乃ちゃん、また明日」
「ん。またね」
「歯ぁ磨けよ。風呂入れよ」
「宿題ないわよ。そっちは、ご・ゆ・っ・く・り」
「あはは……」
郁乃を車に乗せて、愛佳はその場に残る。
「じゃあ、タカくん、愛佳先輩も、また明日!」
「こ、転ばないでねっ!」
「だいじょーぶぅーわととととっ……」
元気に挨拶して、このみも坂道を駆け下りていく。
その姿が意外に新鮮で、貴明は妙な感慨を覚えた。
「校内で会ったときは、大抵一緒に帰ってたもんなぁ……」
この場所からこのみを見送った事なんて、あっただろうか。
「どうしたの? 貴明くん?」
「あ、いや、なんでもないよ」
行こうか、と促す。
歩き掛けた二人の背中に、声が掛かった。
「タカ坊」
立っていたのは環。
「ちょっと付き合ってもらえるかしら?」
環の表情は普段どおり穏やかでしかし強制力がある。
「ええっと、今日はちょっと用事が」
「30分くらいで済むわ」
「そ、そう?」
貴明がちらっと愛佳を見や、ろうとする前に。
「あっ、わたしならいいよ、ここで待ってるから、行ってきて」
「そうねえ……小牧さんも、一緒に来て貰える?」
愛佳が申し出たが、環は彼女も誘った。
「な、なんの用事?」
怖々尋ねる貴明に。
「んー、ここじゃちょっとねー」
ますます不安になる答えが返ってきた。
環が先を歩いて、一歩後ろを貴明、半歩下がって愛佳。
やってきたのは、裏山の神社。
あまり人気がない。
「この辺は、空気がいいわね」
ようやく立ち止まって、んっ、と伸びをする環。
「結構森が深いし、九条と雰囲気が似てるのかしら」
環は背を向けたまま。
独り言とも、貴明らに話しかけているともつかない。
「……タマ姉?」
不安なまなざしを向ける貴明。
環はリアクションせずにもう一度深呼吸すると、貴明に向き直った。
「タカ坊」
「う、うん?」
「私、九条院に戻ることにしたわ」
口元に、微かに寂しさを漂わせて、環は言った。
誰かが息を飲む音がした。
貴明は、ぽかんと口を開けている。
愛佳は、目を丸くしている。
「あら、寂しがってくれないの?」
環が、ちょっと拗ねた口調で笑う。
「ほ、本気なのタマ姉?」
「ええ、本気よ。再来週の月曜日に転入試験。合格すれば来月から向こうに通う事になるわ」
「来月って、もう2週間ちょっとじゃないか」
「そうなるわね」
来週の会長選挙が終われば、生徒会の仕事も引き継ぎだから、と。
「そっち方面では、小牧さんにずいぶんお世話になったわね」
愛佳に頭を下げる。
「いえっ、こちらこそっ」
激しく恐縮してお辞儀を返す愛佳。
「タカ坊も、色々楽しかったわ。少し早いけど、ありがと」
「そんなこと……でも、大丈夫なの?」
まだ呆然としながら貴明が尋ねた。
「なんだか先生と揉めてたって聞いたけど」
「あら、そういう事を言ったのは、雄二かしら?」
一歩近づく環。
風もないのに、木々がざわめいた。
「あ、い、いや、その……」
「大丈夫よ」
押された貴明を見てくすりと笑う。
「確かに意見の合わない相手はいたけれど、そんなことで学校を替えたりしないわ」
「そう、なら良かった、けど」
貴明が首を傾げる。
「それで今頃戻るくらいなら、なんでウチに来たのさ」
環の目が細まった。
「本当にわかってない、のよねえ」
思いっきり嘆息。
「小牧さん」
二歩近づいて環。
「はいっ!?」
直立不動で愛佳。
「あなたって偉いわね。この朴念仁をなんとかしちゃうなんて」
「なんだよ、それ」
自覚のない貴明は不平を言ったが。
「え、えーっと、そのぅ」
愛佳は困り顔。
「……けっこう努力したかも……」
小声でぽつっと。
「え? 愛佳? それはどうゆう……」
ひょい。
愛佳の方を向きかけた貴明の顔に、環が手を伸ばした。
「へっ?」
正面に直った少年に、更に一歩近づいて。
くっ、と環は、自分と貴明の唇を重ねた。
口づけ10秒。
「つまり、こういうこと。大好きよ、タカ坊」
「……」
神社の境内を、天使が六人くらい通過していく。
六人? 六体? 六位? 六匹?
それはともかく。
「え、え、え、え、ええええええええっっっっ!?」
素っ頓狂な声をあげたのは、愛佳の方で。
貴明はまだ、呆然としていた。
私怨
「あーあ、こんな簡単なら、前の時に無理矢理にでも奪っておけば良かった」
概ね溜息、ある程度の達成感、多少の照れ隠し。
「それとも、あと半年早くこっちに来るべきだったかしらね?」
ちらっと愛佳の方を見る。
「それとも、私じゃ箸にも棒にもかからない?」
これは貴明に。
「そ、そんな事はないって」
「ふーん、じゃあ脈あり?」
意地悪。隣で愛佳があわあわ。
「それは……タマ姉は家族みたいに思ってるけど、俺の恋人は愛佳一人だよ」
「私より、小牧さんの方が上ってこと?」
「比較なんて……」
環の追及に顔を曇らせた貴明だったが、やがて真っ直ぐ環を見て。
「そうだね。俺の中では、タマ姉より、このみより、愛佳の存在が大きいんだ」
自分の気持ちを確かめるように、はっきりと告げた。
しばし貴明を見つめる環。
幼馴染みの少年の背は、今ではもう、彼女よりだいぶ高い。
「本当に立派になっちゃってまあ」
まいったな、と地面に呟いた。
「実は昨日、このみから話を聞いてね」
「……」
このみが何を、どう話したのか、聞く権利は貴明にはないのだろう。
「今日は、気持ちの区切りをつけに来たの」
「そう、なんだ」
静かに語る環に、曖昧に相槌を打つ貴明。これは返答のいらない会話。
が、予定された収束は。
「でも、あきらめられなくなっちゃったな♪」
次の台詞で吹っ飛んだ。
「へっ?」
「だって、タカ坊はこんなに格好良くなって、おまけに相変わらず可愛いんだものっ!」
ぎゅーっ、すりすり。
「は、離して、離してタマ姉っ!」
「あははは、ごめんなさい」
屈託なく笑う環。
笑えない貴明と、もっと笑えない愛佳。
「じょ、冗談はやめてよ」
「心配しないで、二股かけろとか、乗り換えろとは言わないわ」
環は平然。
「当たり前だろっ!」
「小牧さんとうまくいかなくなったら、いつでも待ってるから」
「それもやめてってば」
息を整える貴明。
「だいたい、タマ姉だったら、俺なんかよりずっといい相手が見つかるよ」
そしたら自分のことなんか忘れてもらっていいから、と。
「そうね、もし見つかったら、そうさせてもらうわ」
あまり信じてない口調で、環は答えた。
「ん〜、それにしてもいい男になったわねえ」
環は貴明の全身を眺めて感嘆する。
「……せっかくだから、もう一度キスしちゃおうかしら」
「お話っっ! 終わりですかっっ?」
手を伸ばしかけた環と貴明の間に、愛佳が割り込んだ。
貴明の前で両手を広げて、カバディみたいなディフェンスポーズ。
「ふふっ、そうね。ごめんなさい。時間を取らせて」
環は微笑んで、愛佳に手間の事だけを謝った。
「いえ、いいんです。じゃあ、失礼しますね。行こう、貴明くん?」
「あ、うん、じゃあね、タマ姉……ってでででででっ?」
挨拶もそこそこに悲鳴を上げる貴明。
「愛佳っ、耳っ! それ俺の耳っ!」
「わかってますよぉ?」
にっこり笑って貴明を引きずっていく愛佳。
「痛いっ、痛いってば!」
「引っ張ってるんだから、痛いでしょうねぇ〜?」
語尾が糸を引きそうな口調の後ばっさりと。
「もう。美人にキスされて夢見心地みたいだから、起こしてあげてるのっ!」
「い、いや、あれは不可抗力で……」
「避けてないよねえ。郁乃の時も」
「そんなことは……」
「このみちゃんともキスしたの?」
少し力を緩めて問い。
「いや、このみはほっぺで」
ぎぎぎぎぎ。
「ぐあああああっっっ」
「ドーナツでも食べながら、ゆっくり聞かせて貰ぉうっかなぁあそこんとこ♪」
「ちぎれるっ、ちぎれるぅうううっっ!」
遠ざかる阿鼻叫喚。
「ふう……」
見送って環は、肩で溜息ひとつ。
「さて、と」
腰に手を当てて、前方の林に声を掛けた。
「いつまでも覗き見なんて、趣味が悪いんじゃない? あなたたち?」
「「うわわわわっ」」
「お姉様……」
オズオズ……。
道を挟んで左右の木から、二人ずつ転がり出てきた。
「あらなに? 雄二までいたの?」
向かって左、玲於奈ともつれるように姿を現した弟の姿に呆れる環。
「い、いやまて姉貴、俺は巻き込まれたんだ。話せばわかる、話せば……」
ホールドアップで言い訳する雄二。
「お姉様っ!」
その横をすり抜けて、玲於奈特攻。右から薫子とカスミも。
「え? え?」
「「「お姉様ぁっ! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」」」
雄二に言葉を返す暇もなく、環は三人娘に泣きつかれた。
「ちょ、ちょっと、貴女たち?」
「「かわいそうなお姉様!」」
ヒックヒック……。
さしもの環も、三人に抱きつかれては身動きが取れない。
「ふう……昨日はこのみで、今日はこの娘たちか」
苦笑する。
「どうして泣きつく方にならないのかしら」
「芸風だろ」
雄二が仏頂面で答えた。
「人に頼れない役回りなんだよ。姉貴は」
「そんなものかしらね」
環は、珍しく雄二の意見を否定しなかった。
「さて、私のために泣いてくれるのは嬉しいんだけど」
ひとしきり泣かせた後で、環は三人を引き離した。
少し間を取る。
「お姉様?」
首を傾げる玲於奈。
「あなたたちにも、ひとつ言わなければならない事があるわ」
真剣な表情で、環は切り出した。
「前に、私の事が好きだって、言ってくれたわよね」
頷く三人。
「その気持ちが、今でも変わらないとしての話だけど」
「変わりませんっ!」
「変わる筈がありませんわ」
コクコク……。
「ありがとう。でもね、私は、あなた達の気持ちに応える事はできないわ」
穏やかに、しかしきっぱりと、環は言った。
「もちろん、今でもタカ坊が好きだからっていうのもあるけど」
呆然と見つめる三人娘に、環は語りかける。
「そうじゃなかったとしても、私にとってあなたたちは、良い友人で、可愛い後輩」
「今も、おそらくこの先も、それ以外のものには見られない」
「ごめんなさい」
よろよろと、玲於奈が後ろに数歩下がって、その場にへたりこんだ。
カスミはじっと環を見つめている。寄り添うように薫子。
環の言葉は続く。
「だからね、それでも友人でいてくれるのなら、喜んでお付き合いさせてもらいたいけれど」
「私が九条院に戻るからって、無理に一緒に戻ることはないのよ」
「こっちの水にも慣れた頃だろうし。振り回して悪いけど……」
「そんな事ありませんっ!」
叫んだのは、無口なカスミだった。
「私は、私はあきらめないです! 絶対っ!」
ついさっき、環のために泣いた瞳には、今は自分の涙が浮かんでいる。
「努力します! いつか振り向いていただけるように、努力しますからっ!」
精一杯の声。
「カスミっ!」
「ずっと、お慕いさせてくださいっ!」
薫子の制止も聞かず、背中を向けて走りだした。
「ごめんね、悪い先輩で」
「とんでもございません。お姉様には一点の非もありません」
再度謝る環に、薫子が首を振る。
「全ては私たちの力不足。友人と言っていただいた事だけでも、今の私たちには過分なお言葉です」
言葉は気丈でも、声は揺れていた。
「今日は、これで失礼します」
深々と頭を下げた薫子は、今度は雄二に振り向く。
「雄二様、玲於奈、お願いできますか?」
赤毛の少女は、地面に体育座りでうずくまっている。
「俺かよ」
「カスミの行き先は予想がついていますが、玲於奈の迷子は収拾がつきませんから」
酷評だが、言葉の端には思いやりがある。今は雄二にもわかる。
「それではお姉様、九条院でも、よろしくお願いします」
「試験、頑張ってね」
挨拶に自らの行動宣言を乗せた薫子に、環は激励で応えた。
「じゃあ、私も行くわ」
薫子の姿を見送って、環は雄二に言った。
貴明への告白を覗いていたことは、とりあえず今は不問らしい。
「帰り、遅くなるかも知れないから」
さらっと付け加える。
雄二には想像がついた。
一人で泣くのだろう。人前で弱さを見せない、姉だから。
「ああ。晩飯は適当にする」
努めて簡単に答えた。
「ちゃんと野菜も取りなさいよ。それじゃあ、玲於奈も、また明日」
玲於奈は、かろうじて頷いたが、環が去るまで顔をあげなかった。
私怨
こうして、嵐のような時は去り。
境内には、雄二と玲於奈だけが残された。
そう広くはない空間。
なのだが。
自分が立っていて、足下に玲於奈が座っていて。
空気には、まだ環たちの熱が微かに残っているようで。
雄二は、この世界に二人だけになったような、奇妙な感覚を覚えた。
さてしかし、どうしたものか。
「あー、玲於奈」
こほんと咳払いひとつ。
「俺は居た方がいいか? 帰った方がいいか?」
本人に聞いてみた。
しばらく沈黙。
「……一人にしてください」
顔は俯いたままだが、口調はしっかりしている。
「そうか。じゃあ、俺も帰るぞ」
薫子の依頼もあるし、気にならないといえば嘘になるが、雄二は玲於奈自身の意思を尊重した。
「……お疲れ、ひんっ、様です」
途中で泣きしゃっくりが入る玲於奈。
「そっちこそ。暗くならないうちに、気をつけて帰れな」
声を掛けて、一歩踏み出す。が。
がくん。
足首に抵抗があった。
「玲於奈?」
視線を降ろすと、ズボンの裾を掴む白くて細い手。
「すみません、えぐっ、……帰り道が、ひくっ、わかりません、ぐっ、でした」
ここが学校のすぐ近くだとか、ほぼ一本道だとか、玲於奈には言っても無駄な事だろう。
「りょーかい。落ち着いたら声かけろ」
「申し訳、ひくっ、ありません。ぐっ、15分だけ、えぐっ、待って、ください」
で、15分経過。
「うっく、もう、15分」
経過。
「あと10分……」
「いいから、好きなだけ泣いてろ」
玲於奈の傍らに立ったまま−まだ玲於奈が裾を掴んでいるので−雄二は声を掛ける。
「いくらでも、付き合ってやるから」
結局、玲於奈が泣きやんだのは、1時間45分ほど後だった。
雄二は彼女を一度学校に連れて行き、顔を洗わせてから駅まで送った。
道中、二人は殆ど無言だった。
出会って何度目かの、改札口での見送り。
「なんだか、いつも御迷惑をお掛けしてますわね」
「今頃言うなよ」
「それもそうですね。でも、ありがとうございました」
「……玲於奈?」
「はい?」
「……いや、なんでもない。気をつけてな」
「……はい」
お前は九条院に戻るのか。
そんな簡単な質問を、雄二は口にできなかった。
以上です。>417さん>423さん>430さん支援ありがとうございました
さすがエロゲー主人公! 漏れたちにできない事を(ry
というわけで貴明は3日連続で女の子のファーストキスを……
あう、このみのキスも唇にすれば良かったorz
それで、また懺悔です。
ゲーム本編4月にタマ姉が詳しく九条院の説明をしてくれるのですが、
この部分が私の頭からすっかり抜け落ちておりました
おかげで、あからさまに設定と矛盾する記述が色々ありまして激痛
正直、ここで気がついて良かったっちゃ良かったんだけど、
九条院が絡むSSだっつーになんとも準備不足で情けない限り
乙です!
愛佳テラモエス
いやいや、玲於奈のほうが萌える。
続きが凄い気になるなぁ
気丈な薫子はツボだわぁ
このみのキスは実はもう一度あって、なんとこのみが突然転向することになり
朝、内緒で貴明の寝ているところへキスをしてから、引越しをする・・・
なーんて
二股はいけないっていってるから
このみタマ姉いくの愛佳の4股ならOKじゃね?
ところで書庫の中の人はどうなってるんだろうか。
ここ2ヶ月更新がないと、ちと心配になるんだが
>439
ノ
>>433 GJです!
しかし玲於奈かわいいねぇ…
強がってるけどなんかこう…
こんなにも守りたくなるようなキャラだとはタマ姉シナリオの時は想像もしなかった。
>440
更新乙。そして同時にトップページから河野家が……(ノДT)
>>440 書庫の桜の群像11話からダニエルが消えてるw
中の人乙
「ただいま戻りました」
玄関が開く音と一緒に、イルファさんの声が聞こえる。出迎えると、流石に疲れた様子
だ。
「お帰り。遅かったけど、何かあったの?」
今日はイルファさんの定期メンテナンスの日だった。
本来はメイドロボは、そんなにメンテナンスしなくても大丈夫なように出来ているらし
い。それは最新型のイルファさんも同じで、本当ならこんなに頻繁に研究所に戻らな
くても良いんだけど。
ただ『いっちゃんのデータな、おっちゃんに見せるとおっちゃん、すごい喜ぶんや』と
は珊瑚ちゃんの談。メンテナンスと言うのは口実で、要はDIAの実験機であるイル
ファさんの、データ集めが目的らしい。
そんな理由だから、いつもなら午前中でメンテナンスも終わって、お昼ごろには戻って
きていたんだけど。今日はどう言う訳か時間がかかって、もうそろそろ夕御飯の時間
になってしまいそうだ。
「え、いえ、特に問題になるようなことは、無かったといえば無かったのですが」
なんとなく歯切れの悪いイルファさん。
さっき珊瑚ちゃんから貰った電話では、ただ帰りが遅くなるって言うだけだったし特に
心配もしていなかったんだけど。
まさか、その後でイルファさんに何か、良くないことが見つかったんじゃ。
「いえ、そんな心配していただくようなことじゃないんです。ただその、ボディの調整に、
時間がかかってしまって…」
「どこか、調子の悪い部分でもあったの?」
「悪いと言うか…貴明さんの、せいなんですからね」
イルファさんは顔を真っ赤にして。お、俺、何かした!?
「その、せ、センサーの感度が高すぎて、それがCPUに負荷をかけていたんです。負荷
と言っても瞬間的な物ですから、それほど問題にはならないのですが、念のため、そ
の調整を」
問題が無いのなら良いんだけど。何でそれが、俺のせいになるんだろう。
「だって貴明さん、私が感じやすいの知っていますのに、いつも私のことを虐めて。昨日
だってあんなに激しく。もう少しでブレーカー、落ちてしまうところだったんですよ
」
一体イルファさんが何のことを言っているのか、理解するまでに一瞬間が空いてしまっ
た。
「あ、で、でも安心してください、感度の方は今までと全く変わりありませんから。調整
といっても、あくまでブレーカーの調整でしたので。い、今まで通りしていただけれ
ば、問題は…」
きっと俺の顔は、茹でたタコのようになってしまっているんだろう。目の前の、イルファ
さんのように。
言っていることがどんどん支離滅裂になっていってる。
そしてとうとう、逃げ出すようにキッチンへ。
「い、今すぐ、お夕食の準備をいたしますから。も、申し訳ありません、お待たせしてし
まって──あ、あら?」
「イルファさんっ!?」
振り向いたとたん、バランスを崩すイルファさんを慌てて抱きとめる。
イルファさん、自分で何が起きたのかわかっていないみたいで、俺に抱かれたまま目を
白黒させていた。
「大丈夫?」
「あ、はい、すみませ──あら、あららら」
俺が腕を放すと、また足がもつれて倒れそうになる。今度は横にいたお陰で、すぐに支
えてあげることが出来た。
ただ手を放すとすぐにふらつく物だから、ソファに座るまでずっと抱いてあげていなく
ちゃならなくて、あんな話をしたばかりで少し照れくさい。
「きっと、調整の方にボディが慣れていないんだと思います」
ソファに腰掛けたまま、イルファさんは申し訳無さそうにそう言う。研究所から戻る時
も、研究所の人にマンションの前まで送ってもらったお陰で気付いていなかったみた
いだ。
「バランサーや、歩行用のプログラムにも多少手を加えていましたから」
「じゃあ、研究所に戻らなくちゃいけないのかな。珊瑚ちゃんに連絡する?」
「いえ、これくらいでしたら時間がたてば最適化されますし。大丈夫ですよ」
『珊瑚様がプログラミングしてくれたんですから』そう言ったイルファさんの表情には
珊瑚ちゃんへの信頼がはっきりと浮かんでいて。
自分のことでもないのに、なんでか俺まで嬉しくなる。
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。それでは、すぐにお夕食の準備をいたし
ますから」
けれど、イルファさんがそう言った時は驚いてしまった。
確かにイルファさんの言う通り、さっきの様にいきなり倒れそうになるようなことはな
かったけど。それでもまだ足元が覚束いていない。
「いいって。イルファさんは休んでいてよ」
「で、ですが」
そのままキッチンへ行こうとするイルファさんを押し止めて、ソファに座らせる。
それだって、まるで腰が抜けたみたいにストンと座り込んでしまって、やっぱりまだ調
子が悪いみたいだ。
「いいからいいから。具合の悪い時くらい、ゆっくり休まなくちゃ。無理をすれば、治る
ものも治らなくなるよ?」
それでもイルファさん、何とかして立ち上がろうとするんだけど。俺が肩から手を放
そうとしないせいでなかなか立ち上がれない。
大した力を入れているわけでもないし、それにいつものイルファさんだったら、俺の
手くらい簡単にあしらえているはずなのに。
けれどいくら頑張っても体をよじっても、ソファの上から立ち上がることができなく
て。イルファさんにしてみれば、そのことが少なからずショックだったようで。そんな
イルファさんの様子に顔がにやけてしまうのを我慢できない俺に、拗ねたように上目使
いで見つめてくる。
「も、もう。貴明さん、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
でも、お陰でようやく、イルファさんもキッチンへ行こうとするのを諦めてくれた。
支援
「じゃあ、イルファさんも納得してくれたみたいだし。病気の人は病気の人らしく、
ベッドで休んでいてもらおうか」
普段はやりこめられてばかりのイルファさんを、逆にやりこめられるこの千載一遇の
チャンスに、俺の気持ちもずいぶん大きくなっているみたいだ。
俺のそんな様子に嫌な予感でも覚えたのか、ソファの隅でイルファさんは身を竦ませ
る。
でも、そんなイルファさんの弱々しい姿が、かえって俺の気持ちを昂らせてしまう。
イルファさんに抵抗されないよう、一瞬で。背中に手を回して、足を抱え上げて。一
気に胸のところまで持ち上げる。いわゆる“お姫様だっこ”。
「ひゃ──やぁっ!?」
こちらの作戦通り、ただ呆然と俺になされるがままのイルファさん。気が付いた時
には、もう、俺の顔が目の前に。
「た、貴明さん!?」
「動かないでね。いまイルファさんに動かれると危ないから」
言いたいことがありすぎて、もう何から言っていいかわからない、って言う顔をし
ている。顔も真っ赤にしちゃって。
ベッドに行くだけの、たった何歩かの間だったけど。なんだかとっても楽しくて、
このまま手を放してしまうのが勿体無いような・・・
「貴明さん、は、早く下ろしてくださいは、恥ずかしいです・・・・・・」
後ろ髪を引かれる思いで、イルファさんをベッドの上に下ろしてあげる。さすがに、
これ以上楽しんでいると後が怖い。
「じゃあイルファさん、ゆっくりしててね」
「も、もう」
イルファさん、よほど恥ずかしかったのかベッドに横になったとたん、枕を抱いて
顔を隠そうとする。そんなイルファさんの、照れる様子にまた楽しくなってきて。思
わずまた、イルファさんを抱き上げたくて腕がうずうず
「それでは、申し訳ありませんが。貴明さんのお言葉に、甘えさせていただきます」
支援
「あ、ああ」
なんとなく、もう一度抱き上げるタイミングをはずされてしまった。
「貴明さん、ご飯、ちゃんと作らなくちゃダメですからね。カップラーメンじゃ、許
しませんから」
「わかってるって。これでもここに来るまでは、一人でなんでもやってたんだから」
ただ、そのほとんどがスーパーのお惣菜か、インスタント食品だったのは黙ってお
こう。うん。
「それでは・・・・・・」
と、今度はなんだか笑顔を作って、俺の方を見つめてくるイルファさん。
なんだか、雰囲気がさっきまでとは。
「えっと、他に何か、あった?」
「いえ。ですが貴明さん。私、いまからパジャマに着替えようと思うのですが。貴明
さん、そちらの着替えも手伝ってくださいますか?」
やられた。多分イルファさん、このタイミングを見計らっていたんだろう。
露わになった、イルファさんの白い肩を見ただけで慌てて寝室から飛び出る俺の背
中に、イルファさんの笑い声。
なかなか上手く、最後まで行かないもんだ。
まあ、ゆっくり休んでくれる気にはなったみたいだし、とりあえずは良かったって
言うことにしておこう。
気持ちを切り替えたら、今度はご飯の準備だ。
何を作ろう。イルファさんに釘を刺された手前、適当な物で済ませるわけにも行かな
いし。そもそもイルファさん、瑠璃ちゃんという二人の料理の名人がいるこの家に、カ
ップラーメンなんてものが存在するわけがない。
とりあえず冷蔵庫を開けてみると
「メンがあるな」
なんだかいろいろ、下ごしらえ中の料理がバットの中に入っていたり、使い方のわか
らない食材なんかが並んでいる冷蔵庫の中に。俺でもわかる焼きソバ用のメン。
冷蔵室を引き出してみると、キャベツに、ピーマンを発見。
「焼きソバでもつくるか」
焼きソバなら、失敗もしないだろう。
苦労して包丁や、フライパンを見つけて。俺はここに来て初めて、自分で夕ご飯を作
り出した。
支援
照明を薄暗く落とした部屋の中で、何度目かになる寝返りをうちます。
貴明さんは休むように言ってくださいましたが、そうは言われてもなかなか気になっ
て、なかなか落ち着くことが出来ません。
今も何かを炒めるような音が、扉の向こう、キッチンから。
私との約束通り、しっかりとお夕食を作ってくださっているようです。
ですが、やはり本当は、私がお作りしなければいけませんのに。
とうとう我慢できず、ベッドから下ります。
きっとまた、貴明さんには怒られてしまうのでしょうが。『メイドロボだって女の子な
んだから、無理しちゃダメだよ』なんて。
そんなことを考えると、胸の中が暖かくなるような気がしました。先ほど、貴明さんに
抱き上げられた時のように。あるはずも無い、心臓が高鳴るみたいに。
立ち上がると、さっきのようにふらついたりはせず、体の方もかなり慣れたようです。
寝室から出て、キッチンに向かうと。思ったとおり貴明さんは、フライパンを片手に
悪戦苦闘していました。
「あれ、イルファさん!? 寝てなきゃダメだって言ったのに。それじゃあ良くなるも
のも良くならないよ」
「申し訳ありません。ですが、貴明さんのお料理する音を聞いていると、思わず。それ
に、お手伝いできることがきっとあるだろうと思いましたし」
私がそう言うと、貴明さんは困ったように苦笑を浮かべて。
実際キッチンは、惨状と言うほどではありませんでしたが、切ったキャベツの欠片が
周囲に散らかっていたり、フライパンからこぼれたメンが、床に落ちていたり。
「それじゃあ、片付けの方は私がやりますね」
「えっと、ごめん」
貴明さんが作っていたのは焼きソバでした。周囲が片付く頃には、料理も終わって。
ただ驚いてしまったのは。確かに私や瑠璃様が作るよりは、野菜の大きさもバラバラ
で、炒め方にもむらがありましたが。それでもそれはちゃんと焼きソバで。
「だから言っただろ。俺だって自分の夕飯くらいは何とかなるって」
そういいながらもどこか照れくさそうなのは、私が手伝ってしまったからでしょうか。
「そうですね。貴明さん、お料理がお上手なんですね」
「いや、イルファさんにそんなこと言われるほどじゃ、無いと思うんだけど」
「いえ。きちんと作ってありますし。実は、貴明さんがちゃんとお料理できるなんて知
らなくて。作るとおっしゃっても、冷凍食品か何かだとばっかり」
「少しは俺のこと、見直してくれた?」
「はい、それはもう」
私がそう言うと、貴明さん、嬉しそうに笑顔を見せてくださって。
「それじゃあさ、イルファさん」
「はい?」
「次は、味見をしてみてくれないかな。けっこう、上手くいったと思っているんだけど」
貴明さんはそうおっしゃると、箸を持って焼きソバをひとつまみすると。
「イルファさん。はい、あーん」
貴明さんの作ったお料理は、味のわからない私でも、貴明さんの作ってくださった味
がして。
終
支援くださった方、どうもありがとうございました。
はやくOVAみたいなぁ。
>462
GJ。久しぶりっスね。いつも二人の幸せ感が素晴らしい
それにしても巧く動けないイルファさんって……いいな。
GJ!
最後のセリフが凄くいいですね〜、余韻が凄く綺麗で。
公園の林に動く5個の影。それらは等間隔に距離を取りながら進んでいる。
この公園は、大きく分けて林、遊具、平地、山の4つのエリアに分かれている。それぞれが隣接しており、四方に存在している。
「こちら河野。由真なにか見えたか」
『ううん、まだ何もいない』
林のエリアから遊具のエリアへ移動中のチーム貴明。
由真とこのみが先導し、俺が回りを警戒。後ろの草壁さんと笹森さんは後ろや死角となる部分を警戒。今のところ問題は無い。
『貴明さん、笹森さんが双眼鏡を持っていたそうです』
草壁さんからの連絡。片手に持ってる銃をポケットにねじ込み、腰にぶら下がっている無線を手に取った。双眼鏡か。とりあえず持ってきましたって感じだな。けっこう重宝しそうではあるけど。
「じゃあ笹森さんはそれで遠くを警戒。人影を見つけたらとりあえず連絡して」
『了解です』
当面の恐怖は雄二達ではなくタマ姉だ。単独で動いているからチームの俺たちとは違ってすばやく動けるから、どこから来たっておかしくはない。雄二達も、誰かが単独で動いていたら結果としては変わらないけど、さすがにそ の類の作戦で来るとは思えないし。
『たかあき、もうちょいで林を抜ける。』
「了解。気をつけろよ」
無線を腰に戻し、ポケットから銃をだして構える。前方の由真とこのみが林のエリアを抜け、手近な遊具に身を隠す。
「まだ大丈夫みたいですね」
林を出る寸前で立ち止まっていると、笹森さんと草壁さんが俺に追いついていた。
「今のところはね。笹森さん、なにか見えた?」
笹森さんは双眼鏡で遠くを見ながら、うーん、と唸っている。
「タブンだけど、滑り台の下に1人いるっぽいよ。あとは分からない」
由真たちのいる場所から滑り台との距離はけっこう離れている。銃で撃たれてもあたるとは思えないが、警戒するに越したことは無い。雄二達だとすれば、その後ろに他のメンバーが待機しているかもしれない。
「2人はここにいて、滑り台あたりを観察してて。ほかの人たちが後ろにいると思うから」
「タカちゃんは?」
「このみ達に追いついて、敵を迎え撃つよ。何かあったら無線で」
「気をつけてくださいね」
草壁さんの言葉を聞きながら、このみ達がいる遊具まで移動し、身をかがめる。さすがにまだ相手にはこちらの姿は見えてないと思う。双眼鏡のおかげで一方的に相手の場所を把握できるのはありがたい
「あ、タカくん。どうし..」
「静かに。向こうに滑り台があるんだけど、そこらへんに誰かがいるらしいんだ。」
このみの口に人差し指を当て、声を細くして喋る。
「多分こっちの姿は見られてないから、今のうちに返り討ちにできるかもしれない」
「さすがはたかあき。不意打ちを考えるとは卑怯な奴ね」
「これも立派な作戦だよ。」
こういうゲームで卑怯とか考えてたら、勝てないと思うんだけどな...。
「それで、どうするでありますか」
「そうだな...。敵が1人なら問題ないんだけど、後ろに誰かがいると逆に狙われるかもしれないから突撃はできないし...。相手が移動してる最中に攻撃するってのが安全かもしれない」
相手も連携しているから、ヘタに姿を見せるのも危険だし。
『貴明さん、由真さん。敵は2人、小牧さんとるーこさんです。さっきの滑り台にるーこさん、近くのベンチに小 牧さんが待機してます』
「了解。ありがとう」
「ベンチにもいるなんて聞いてないわよ?」
「状況はいつだって変わってくんだよ。」
しかし厄介なことになった。いつのまにか近づかれているとは。確かベンチは左のほうの近くにあったな。場所的に言えば近いけど、まだどうにかできるかもしれない。
「タカくん、どうするの?」
「2人は滑り台のほうに近づいて、るーこを攻撃して。俺は小牧さんをどうにかする」
「分かったわ」
「了解であります」
2人は滑り台近くの遊具に向かって走りながらるーこに向かって攻撃を開始した。突然の敵の出現と攻撃に、相手 も動揺はしているはず。るーこも小牧さんも二人に向かって攻撃を行っている。
「いまがチャンス、かな」
小牧さんは完全に2人に意識がいっている。この隙をついて奇襲をかけるのがベストだ。
「他に敵はみえる?」無線に向かって静かにたずねる。
『るーこさんの後ろに残りの3人が見えます。このみさん達に迎撃しようと前進中です』
草壁さんが、笹森さんの代わりに状況を説明する。
「じゃあ小牧さんの周りは?」
『手薄ですね。ほぼ孤立状態で、攻撃するチャンスです』
「了解。」
無線を腰に戻す。片手に銃を取り、一呼吸。...良し。
ベンチの見える方向に顔を向ける。その瞳には、髪留めをした少女の背中が映っていた。
―――よし、大丈夫。
ベンチの影に身を落とし、一呼吸を置く愛佳。周りを確認する。滑り台にるーこ、その後ろに雄二と姫百合姉妹が 付いている。
河野くん達がどこにいるか分からない以上、気を張っていなきゃ。あたしはこういうのそんなに得意じゃないから、
足だけは引っ張らないようにしないと。向坂くんの作戦としては、こっちから攻撃を仕掛けて先制しないとダメって言っていたから、
はやく河野くん達を見つけないとダメだよね。
―その時、バンッと滑り台の方向から発砲音が聞こえた。
えっ!?もしかして居場所がバレちゃった......?
―おそるおそるベンチから顔を出す愛佳。そこにはこのみと由真がるーこに対して攻撃を仕掛けている所だった。
.....よかった、まだ私の居場所はばれてないみたい。...けど、るーこさんが大変そうだから、援護してあげない と。
―引き金を引き、由真達のほうに向かい構える。そして
「動かないで...、小牧さん」
背後から聞こえる唐突の命令。愛佳は、ねじ巻き人形のようにゆっくりと後ろに振り返る。
「...ごめんね」
そこには、申し訳なさそうに苦笑いしている河野貴明が、銃を構えていた。
「河野くん....」
トン、と銃口を愛佳の銃に当てる貴明。一呼吸の後
470 :
鈍色な人:2007/02/27(火) 03:27:45 ID:QEES/xo/O
携帯から自分で支援
「小牧さん、アウト」
もう一度、やはり申し訳なさそうに微笑む貴明。驚いている愛佳には、その顔がとても優しく見えた。
「草壁さん、由真。小牧さんはアウトだから攻撃しないでね」
『わかりました。やりましたね貴明さん』
『わかったからこっちも手伝いなさいよ!』
「ちょっと待ってろって」
無線を腰に戻し、片手に銃を構えなおす。
「.....私、やられちゃいましたね」
力が抜けたように銃を降ろす愛佳。それを見て、貴明も構えを解く。
「はぁ。一番最初かぁ、なんか悔しいです」
ゴーグルを取りながら悔しさの入り混じったため息をはき、微笑む愛佳。
「...ごめんね、小牧さん」
「どうして謝るんですか?」
「だってさ。...こうゆうのって怪我とかするかもしれないじゃないか。やっぱり申し訳ない気がして」
――この人はどうして、いつだってこんなに優しいのだろう。
「だから、ごめんね」
謝る貴明に、今度は愛佳が申し訳なさそうに微笑んだ。
「ぜんぜん、大丈夫ですよ〜。こうゆうのって楽しいですし」
ムン、と両手でガッツポーズ。
「それに、怪我なんてしてませんよ。河野くんは私を守ってくれました」
優しく微笑む愛佳。
「守る?」
「はい。河野くんのお陰で、一回も玉に当たらずに済みました」
「いや、俺のお陰とかじゃないよ。ただ打たなかっただけで」
「それでも、私から見れば河野くんのお陰です」
「いや....うん。どういたしまして」
感謝を受け入れおずおずと礼をする貴明を見て、愛佳は破顔した。
「それじゃあ、私はベンチにいきますね。河野くんもがんばって」
「うん、ありがとう」
愛佳は銃を地面に置いて、入り口のベンチのほうに歩いていった。
「守った...ねぇ」
愛佳の置いていった銃を手に取り、ボソリとつぶやいた。
「そんなつもりはないんだけどな...」
『貴明さん、るーこさん達が引いていきます』
無線から突然の報告。冷静になってみれば、由真達の方からもあまり音が聞こえなくなっていた。
「多分、一旦引いて作戦を立て直す気だと思う。由真、追い討ち」
『わかってるわよ!あんたも早く追いつきなさいよ!!』
....怒鳴られてしまった。まったく、由真はうるさいなぁ。眼鏡を掛けて、教室の端っこで静かに本を読むような女の子をすこしは見習って欲しいものだ。
「今向かうよ」
愛佳の残した銃をポケットにねじ込み、片手に銃を構える。
......1個で十分だったな。
両方のポケットに銃を突っ込んだまま、そう思った。
「それじゃ、いくか」
ベンチから由真達がいる所まで走って向かう。
右手に構えた銃を見て、ふと思い出したかのようにセーフティロックを外しながら
>>470 乙。自分でやったんだけど
今回は早め&短めで投下です。今日でさささーと書き上げちゃいました。
俺なんかの作品を良い、なんていってくれた方の為に、ちょいとはりきりました。
けっこうダメかもしれないトコとかあるかもしれないんで、
色々と指摘をお願いしたいところです。
思った以上にながくなるかもしれないッス。
むしろどうなるか分かったもんじゃないです。もうアクセルは暴走ですw
蛇足ですが、今ハマってるのは攻殻機動隊。
・・・そりゃ影響も出ますよね
乙
でも、これって早々に退場しちゃった人は出番が少なそうだな
>475
究極超人あ〜るの光画部室攻防戦よろしく、
腐乱死体役として放課後撃たれた位置について下校時間まで寝っ転がってるんだな
ああ堂々の立ち往生、ってね。
じぇねれーしょんぎゃっぷって深刻だよな……orz
いやいや、あ〜る君はわかるが、死亡者の扱いは記述があるから。
>『あと1つ。アウトになった奴は入り口近くのベンチで待機。その間戦いには関与しちゃダメだ。なんせ死人扱いだからな』
ほしゅ
今更だが河野家終わったんだな…
作者大変乙でありました!!
次回作も期待しとります(・∀・)
向坂家マダー?(AAry
次は河野家XRATEDだろ?
>>482 はいはいグロ描写グロ描写
タカアキ「ただい……ん?」
玄関を開けてすぐにその異様さに気付く。
妙に生臭く鼻を指す匂い。
俺はゆっくりと居間の扉を開け、中を覗く。
――――居間にはこのみがいた。
ソファーに腰掛け、テレビを見ている。しかし何かおかしい。
手を上下に動かしている。
その先を見る。
手には真っ赤に染まった包丁。
さらにその先にはテーブルに仰向けに横たわる優季の姿があった。
自分の喉から声に成らない声が上がる。
俺に気付いたこのみはこちらを一瞥するが、とくに気にも止めず再びテレビへと視線を戻す。
ぐちゃぐちゃぐちゃ……
優季の体が音を立てる。
ごろりと首が折れ、光を宿さない優季の瞳がこちらに向けられる。
このみ「…ねぇ、タカ君。」
ドスンと包丁を優季の体に突き立て、ゆっくりとこのみが立ち上がる。
このみのなく頃に〜皆殺し編〜
もうそのネタ飽きた
>>483を改変
「ただい……うっ!?」
扉を開くとそこは地獄だった。
玄関が真っ赤に染まっている。
足元を覗くと、靴と一緒に春夏さんの頭が置いてあった。
黒かった髪には赤い血がべっとりと付いて、真っ赤に染まっている。
「う……おぉおうぇぇええ」
その光景とあまりの異臭に思わず戻してしまった。
死んだ? 死んでる? 春夏さん? あの春夏さんが……。
と、とにかく……落ち着け、落ち着け、自分に言い聞かせる。
少しして、何とか耐えて、周りの様子を窺う。
どこからかテレビの音が聞こえる。
「……居間に誰かいるのか……。」
無意識に音を立てないように歩いた。
居間へ続くドアに何か違和感がある。
取っ手の部分に、突き刺さるように…・・・人の頭が。
「あ……ああ……あああああああああああああああああぁぁ」
その頭は口でドアの取っ手を咥えるようにして浮いていた。
上が顎で、下が黒髪…・・・。逆さまに…・・・ナッテイル。
強引に意識を振り切って、ドアを見つめる。
ドアにはガラスが張ってあって中の様子が窺えるのだ。
ソファーに腰掛けた……人影……。
その人影がゆらりと立ち上がり、クルッとこちらを振り返った。
笑顔だ。満面の笑みを浮かべる幼馴染がそこにいる。
右手には真っ赤な包丁、左手にはタマ姉の頭を掴んでいる。
ひたひたとこちらに近づいてきた。
真っ赤に染まっている幼馴染――元々の髪色も、黒い制服も赤い。
テレビの音が遠くから聞こえる。
くア とにかく逃げよう
タマ姉が危ない!!
あいつもう許せない!!
今、思い出した。
ドアの取っ手ってドアノブという名称だったな。
A.タマ姉を見殺しにして記憶を残す。
B.タマ姉を救いに戻り記憶を捨てる。
タカアキ「ぐっ!ここは一旦退却だ!!」
俺は回れ右をして部屋を後にした。
タカアキ(…確実。『コーラを飲んだらゲップが出る』のと同じくらい確実にあの場にいたら殺られていた…!!!)
ふと空を見上げる。西の空が闇を強め始める。
タカアキ(まずいな…。夜はこのみの独壇場。無事に逃げ切れるのか?)
ユウジ「………行ったか?」
俺は庭先に植えられた木の陰から顔を覗かす。
…ありのままを思い出す。
『タカアキを驚かすため、居間から侵入しようとしたら中でこのみが人を殺していた……』
頭がおかしくなりそうだった。
そして今しがたタカアキを追ってこのみが玄関から飛び出していった。
ユウジ(おそらくタカアキ一人ならこのみには勝てない。けど二人なら……。)
しばし考える。俺は震える体に勝津をいれ喝を入れ、玄関前に放置してある自転車に跨がりペダルに力を込める。
このみの浴びた返り血か、もしくは包丁から滴るものなのか道路には点々と赤い筋が出来ていた。
俺は走りながら考える。
ユウジ(タカアキは逃げ、俺はこのみを追い掛ける……。
つまり挟み撃ちの形になるな!!)
微かな勝算を胸に俺は友の待つ戦場へと先を急いだ。
マチガタorz
>>483 タカアキ「ただい……ん?」
玄関を開けてすぐにその異様さに気付く。
妙に生臭く鼻を指す匂い。
俺はゆっくりと居間の扉を開け、中を覗く。
――――居間にはこのみがいた。
ソファーに腰掛け、テレビを見ている。しかし何かおかしい。
手を上下に動かしている。
その先を見る。
手には真っ白に染まったスプーン。
さらにその先にはボウルにたっぷりと注がれたコーンフレークの姿があった。
自分の喉から声に成らない声が上がる。
俺に気付いたこのみはこちらを一瞥するが、とくに気にも止めず再びテレビへと視線を戻す。
ぐちゃぐちゃぐちゃ……
ボウルのミルクが音を立てる。
ぽろりと雫がこぼれ、光を宿さないアジの瞳がこちらに向けられる。
このみ「…ねぇ、タカ君。」
ドスンと包丁をくさやに突き立て、ゆっくりとこのみが立ち上がる。
いやいや、くさやに包丁突き立てたらダメだろw
「ただい……ん?」
玄関を開けてすぐにその異様さに気付く。
妙に蠱惑的で鼻を擽る匂い。
俺はゆっくりと居間の扉を開け、中を覗く。
――――居間にはこのみがいた。
ソファーに腰掛け、テレビを見ている。しかし何かおかしい。
手を上下に動かしている。
その先を見る。
手には真っ赤に染まったバイブ。
さらにその先には愛液でたっぷり濡れている秘所。
自分の喉から声に成らない声が上がる。
俺に気付いたこのみはこちらを一瞥するが、とくに気にも止めず再びテレビへと視線を戻す。
ぐちゃぐちゃぐちゃ……
このみのあそこが音を立てる。
ぽろりと雫がこぼれ、抑えることのないこのみの嬌声がこちらに向けられる。
「ぁん…ねぇ、タカ君。」
ドスンとバイブをあそこに突き立て、ゆっくりとこのみが立ち上がる。
久しぶりにSideStoryLinks見たら、また面白いことになっててワロタw
雲民って人かと思ったら別人かよwあの人どこいったんだろう…
「ただい……ん?」
玄関を開くと、そこには春夏さんが立っていた。
「おかえりなさい。タカ君」
と同時に、俺の腰へと手を回し、顔を胸に埋めてから、上目遣いで俺を見つめる。
「ねぇ、タカ君。身体が疼いてしょうがないの。ね、おねがい」
「あーー、だめだよ、お母さん。今日はお母さんの日じゃないんだからね」
廊下からこのみが駆け寄って来た。そして、そのま春夏さんを引き剥がしにかかる。
「このみ。お母さんの邪魔をしないの」
「でも、今日はお母さんの日じゃないでしょ」
そう、今日は春夏さんの日ではない。だから俺は言ってあげる。
「すいません、春夏さん。我慢してください。順番は順番ですから」
「……そう、残念ね」
トンと身体を離して、春夏さんが離れる。素早く靴を履き、出て行く。
「ごめんね、タカくん。毎日忙しいのに」
このみはそう言い残すと、春夏さんを追って行った。
俺はそのままリビングへと移動する。
リビングのソファーには蠢く何がいた。
愛佳と由真だ。
シックスナインの形で互いの敏感なところを舐めあっていた。
「あ、おかえりなさい。貴明くん。あぁん」
「遅いわよ、河野貴明。うぅん、何やってたのよまったく」
「おまえらこそ何やってんだよ」
「だって、貴明くん。ぁぁ毎日相手してくれないんだもん」
「し、仕方がないでしょ。愛佳がやってて言うんだから。んぅ」
「ああ、それはまた今度な」
キッチンに用があった俺はその場を後にする。
キッチンは大変なことになっていた。
瑠璃ちゃん、珊瑚ちゃん、イルファさん、か梨、優季の5人で乱交パーティーとなっていたのだ。
狭いキッチンで5つの裸体が複雑に絡み合っている。
イルファさんの多機能に渡る性グッズがその本領を発揮していた。
今日は彼女ら5人の日でもない。
5人は俺に気づいてなかったので、冷蔵庫から飲み物だけを取って、出て行く。
「貴明さん、酷いです」
小さくイルファさんの呻きが聞こえたが、無視することにした。
再び廊下に出て自室へと繋がる階段を上る。
上りきると、部屋のドアの前にタマ姉が仁王立ちしていた。
「おかえり、タカ坊」
軽いハグとキス。ふわっと良い香りがした。
「今日はあたしの日よね?」
そして、そのままキュッと抱きしめて、豊かな双丘を押し付けてきた。
「残念だけど、タマ姉。今日は違うよ」
それを意に介せず、至って冷静に答える。
「ちぇ、バレたか。最近は色香に惑わされないわね」
「もう慣れっこだよ」
順番を決めて、みんなを平等に愛することにしてどれくらいたっただろうか。
俺の心は次第に壊れていった。
実は今本当に愛しているのは自室で待っているだろう一人だけ。
「ささらやまーりゃん先輩は? ここまで見なかったけど」
「生徒会にバイトよ」
「そう、ありがとう」
「……じゃあ、そろそろあたしは戻るわね」
タマ姉が俺の隣を通り抜けて階段を降りて行った。
寂しそうな背中だった。
俺は自室のドアの前に立つ。
心臓がばくばくいってる。動悸が収まらない。
深呼吸をしてからドアを開ける。
ガチャ……ギィ……バタン。
ベッドの上に腰掛けている愛しい人。
その人はドアの音がすると俺の方を向き、素敵な笑顔で迎えてくれる。
「貴明、おかえり」
俺はその笑顔に応える。
「ただいま、雄二」
――――特別な日が始まる。
久々に素晴らしい作品を読んだ。
殺伐とした流れだったのにここに来て良作がwww
これが本当の雄二エンドか
俺は自室のドアの前に立つ。
心臓がばくばくいってる。動悸が収まらない。
深呼吸をしてからドアを開ける。
ガチャ……ギィ……バタン。
ベッドの上に腰掛けているいい男。
その人はドアの音がすると俺の方を向き、素敵な笑顔で迎えてくれる。
「やあ、おかえり。やらないか?」
俺はその笑顔に応える。
「ただいま、阿部さん…」
――――特別な日が始まる。
河野家終わってからおかしくなったな、このスレ
今、頑張っていくのんSS書いてるお。
たぶん来年の春くらいには完成するお。
>>503 ある程度のレベルのものを書き続けられるやつがいないからな。
そう言うやつはたいがい自分のサイトなりブログなり持ってるからここで出す意味がないし、
たまにサイト持ちで投下する奴がいると、住民からの一斉攻撃。そら出したくないわ。
で、残ったのは一部のモノ好きとヒョーロンカ廚と一発ネタ作家ばかりでしたとさ。
しかしサイト持ちでもろくな新作がないという事実
さすがにネタ切れか?
AD出んことにはなあ
燃料が足りんよ燃料が。
OVAに触発されて、多少気分は上向いてはいるけれど。
アンソロや4コマ見てても似たような話ばっかりだし
ある程度のキャラ同士で固まってるから話を発展させにくいんだろうな
シナリオが一本道だからな。
あそこでああしていたらっていう妄想の余地が少ない。
セリオや綾香のようなキャラ設定が曖昧で妄想の入り込む余地のある魅力的なサブキャラが居れば良かったのだが。
あとはその後を妄想させる材料が乏しいんだよな。
1ではマルチの存在が浩之のその後に大きな影を落としているからアフター物が妄想しやすかったしな。
まあ一番の問題点は主人公がヘタレだって事だけどな。
浩之ちゃんならそのバイタリティと有り余る才能でヤクザの組長から来栖川の当主まで何でもやりこなし
さらに余った体力であかりと子沢山な家庭を作ったり出来るが貴明じゃそういった役柄を演じきれないからなぁ。
未完の話がたくさんあるけど、みんなもう書く気ないんだろうな
ちょっと寂しい
>511
ADが出るくらいサブキャラはいるわけだが
1だって面白い二次創作はほんの一握りだし、その辺に大差はないと思うよ
514 :
名無しさんだよもん:2007/03/08(木) 14:51:17 ID:BS65RMHe0
単純に、その頃と比べてゲーム自体にパワーが無いんだと思う。
1はLeaf出世3作のうちの一つ、2は所詮2だから。
私も未完の話1個抱えてるし頑張って続き書いてみるかなぁ……
盛り上がりがないとやっぱり寂しい。
保管庫に書きかけがある者の1人ですが、最近は書きたいものが浮かばないん
ですよ。それが最近動きがないからなのかどうかはわからないですけど、やっ
ぱFDが出るまではこんな感じかなぁ……
話を書き上げるってのは大前提であると同時に、一番難しいことの一つでもあるからなあ
そういう意味で、河野家を完結させたのはそれだけで作者さんスゲーと思う
鈍色に光るそらマダー
ども。なんか場の流れで終わっちゃいそうだから、いまいち書こうという想いに駆られないよ。みんなも同じようなモノなのか。今投下する可能性が高いのは俺くらいなのか。みんな頑張れ!俺も頑張る!
519 :
名無しさんだよもん:2007/03/08(木) 16:38:02 ID:bW67QGdeO
いいんちょ分が足りない
保管庫に未完の作品がある奴は名乗り出てほしいね
現状どうなってるのか知りたい。書くつもりがあるかないかだけでもいいし
ていうか、どれが終わってないんだ?
521 :
名無しさんだよもん:2007/03/08(木) 18:41:54 ID:BS65RMHe0
素直になれない女の子との日々、滞納中です。
中途に書いたシルファSSも滞納中です。
話のプロットは大体決まったものの、いまいち郁乃との絡みが上手く書けずに
書いては消してをずっと繰り返してます。一応終わらせる気はあるので、これから頑張ります。
>>521 俺が一番続きを気にしてる作品だわ
郁乃は書くの難しそうだしな、気長にwktkしながら待ってます
>521
投げてないと知って安心しました。焦らず取り組んでください
や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動 お泊り編、滞納中。
このみメインで現在作成中なのですが、どうも良い展開が思いつきません。
とりあえず、思いついたら作成して掲載しますので、一応やる気はある事だけは伝えます。
一年前から更新が止まってる虹の欠片を終わらせて欲しい……
>524
のんびり待ってます。
>525
あれは途中で此処から追い出されたSSだから、
サイトの更新が止まろうが、このスレでどうこういうべきじゃないんじゃないか?
モチベーションとかって一旦下りだすと中々元に戻らないですよね
書きたいこと、書きたくないこと…上手く纏まらないというか
一発ネタすら途中まで書いて全削除してしまう俺のはただの怠惰だが
『もう一人の幼なじみ』の作者です。
ホントはあの後もっと続く予定でしたが、なんかあそこで終わる短篇みたいになっちゃったので放置してしまいました。
タマ姉ルートを雄二の視点から見つつ、その裏で起きる雄二×レオナとなる予定でした。
レオナがタマ姉にこだわる理由、雄二の女性に対する態度の理由なんかを書いたり、
他人の恋を応援する珍しく男前なタカ棒を書いたりしたかったのです。
……続きはどうしたものか。
>>505 あ、本当だ。るーこいねーや。
双子以下はめんどくさくて省略してたけど、まさか存在ごと省略してしまうとはorz
530 :
525:2007/03/09(金) 07:53:05 ID:yaH9jSRDO
>>526 そういえばそんなこともあったか…。すまん
俺は昔『向坂家へようこそ』というのを書いていた。
設定的には河野家とリンク(無断で)していて、あの後ゲンジ丸→ダニエル→図書委員長→タカアキの順で増えていく予定だった。
ちなみに
>>483を書いたのも俺です。
流れをおかしくしてサーセンwwwww
>>525 話はサイトの方で完結してるぞ
ところで何で虹のかけらは叩かれてるんだ?
俺は当時このスレにいなかったからわからなかったんだが
自分が女を寝取られたんで腹いせにこのみNTRを書いたから。
それは省略しすぎ。そこまで一方的でもないと思うけど。
まあ一言で言えることじゃないから、当時の事情が知りたければ過去ログでも読んでおいで。
SSの保管庫にも過去ログ保存されてるし。
それに保管庫のSSからも直接過去ログに飛べるから。
SSのタイトル下にリンクが張ってあるだろ? そこからSSが投下されたレスに直接飛べるんだよ。
保管庫の機能を使えば、そのSSが投下された当時の事情が簡単に分かるぞ。
ってなわけで、保管庫の中の人いつも乙です。
>532
名乗り出た以上、お前は折を見て向坂家の続きを書くべきだ
>>536 同意。
>>532よ、貴方は向坂家を継ぐ者として、期待されているのよ!
もちろん、
>>521の素直になれない女の子との日々も
とっても期待してます♪
>>535 ザッと見てきた
まぁアナザーストーリーとしてはありなんじゃないかと俺は思うけど
確かにTH2でやる必要はなかったかもしれないが
今更どうこう言ってもしょうがないけどさ
>>533 完結してなくね?
ラスト直前で絶賛放置中だったはず
目の前に封筒二枚。
「う〜〜〜〜む」
唸る。
「どうしたもんかね」
眺めているのは、A席チケット二枚@緒方理奈コンサート。
「意外とあっさり取れやがったけどなぁ……」
机に肘。両手に顎を載せて。
「アイツ、これ要るのか?」
雄二は悩んだ。
さて、貴明が告白ラッシュを受けた翌週。
学園では、生徒会長選挙が行われ。
「皆さん、本当にありがとうございました」
「短い間ですが、お世話になりました」
久寿川−向坂コンビも退任。
個性的な先代から会長職を引き継いで心配された久寿川だったが、
環という相棒を得て無事以上に職務を全うした。
一方、退任あれば就任あり。
生徒会に併せて、各委員会でも新旧交代となって。
「おめでとう委員長!」
「委員長が委員長就任とはこれいかに」
「いいんちょ委員長」
「SIMPLE1500 THE 委員長」
二年生の教室では、皆にいじめられ、もとい、祝福されている人約1名。
「ぜんぜん、おめでたくな〜い〜!」
御本人は不満な様子。
「だいたい、あたしの名前は委員長じゃないんだからいいんちょいいんちょちょちょいんいん」
「愛佳、噛んでる」
「うぁうぅぅ」
ぷしゅーと空気が抜けて机に頬杖。
「学級委員長転じて図書委員長となる、おかしからずや、ってか」
「転じてないから大変なんだよぉ」
雄二の言葉にふくれっ面。
小牧愛佳、2−B委員長、兼任、(新)図書委員長。
「でも、あの図書委員長が愛佳を後任に指名するなんてな」
(旧)図書委員長は、愛佳が整理していた書庫をCDコーナーに改設する事業を進めて、あいていに言えば愛佳と対立していた。
「むしろ生徒会に入るのかと思ってたんだけど」
そこら辺の事情を知る貴明は不思議そう。
というか、愛佳はそもそも図書委員でなく学級委員。実際、生徒会も愛佳を戦力として計算していたらしいが。
「あのね、書庫の再設置があるからって……」
いったんは全面撤去された書庫だが、どうもCDコーナーは予想以上に金を食う事が判明。
規模を縮小する必要が生じたのと、古い蔵書を処分するのは勿体ないという理由で、その一部が復活することになった。
と、なると。
書庫に愛着がある愛佳だし、事情を知る献身的な働き手は貴重だし、予算も貴重だし。
そんなこんなで。
愛佳と図書委員会と生徒会の思惑が色々飛び交った結果が、この人事らしい。
「そうか。愛佳なら生徒会長も狙えたかも知れないのにな」
「やめてよぉ」
パタパタと手を振る愛佳。
「間違っても生徒会長なんかになったら、貴明くんといる時間がなくなっちゃう」
「……」
「? ……あっ!」
臆面なく言われて沈黙する貴明。気づいて愛佳自身も赤面。級友は「またか」とごちそうさま。
「そ、それはともかくっ!」
愛佳が、あからさまに話題を逸らしにかかった。
「向坂君は? 玲於奈さんとちゃんと話してるの?」
「な、なにをだよ」
急に話題が来たので。慌てる雄二。
環が自分の意志を三人娘に伝えてから、雄二は玲於奈と会っていない。
朝も「一人で起きられる事を証明してやる」と称して環よりも先に登校している。
避ける、というほど接点もない、といえばそれまで。
ただ、今まで毎日顔を合わせていた相手にこうも会わないというのは。
「だって、玲於奈さん達も転校しちゃうんでしょ?」
「……だろうな」
要は、それをはっきり聞きたくなかったのだろう。
が、愛佳はあっさり。
「ここんとこ毎日、三人で図書室に残って勉強してるもん」
ああ、なんだ、そうか、やっぱり。
予想のうちというか、当然のことなのだが、雄二はなんだか。
録画していたサッカーの試合結果を、帰宅するなり子供に聞かされた父親のような気分になった。
翌日の放課後。
雄二は、図書室に玲於奈を訪ねた。
ポケットには、件のチケット。
九条院は外出制限も厳しいと聞いた。
転校すればコンサートどころではないだろう、が。
頼まれた事だし、ファンとして選択肢は与えるべきだろうし、駄目なら他に流さないといけないし。
「さて、いるかな」
学園の図書室は、窓側に間仕切りのない机が並んでいるので、人を探すのは簡単。
「しかし久しぶりだな、図書室なんて」
だのに、意味もなく本棚を眺めてみたりして時間稼ぎ。
そんな事をしていても、三人はすぐに見つかった。
机ひとつ占領して、バラバラと参考書類を広げている。
「よお」
「あ、雄二様」
薫子が顔を上げた。
ペコ……。
カスミは、チラッと雄二を見て会釈だけ。
で、もう一人。
「なにやってんだコイツは」
玲於奈は、机に突っ伏して居眠りしていた。
綺麗な赤毛が、少女の頬を隠して机に届いている。
少し髪が伸びたろうか。
「玲於奈、毎日遅くまで勉強しているようで……」
薫子の説明。
「頭、悪かったっけ?」
「こちらでは30位以内には入ってますわ」
「へえ、それじゃ九条院ってレベル高いのか?」
お嬢様学校で大半がエスカレーター。さほど進学校のイメージはないのだが。
「全体はともかく、外来受験は狭き門です。転入ならば尚更」
定員が少ないため、小学校までで殆ど枠が埋まってしまうという。
「ふーん。姉貴は全然勉強してる様子ねーけどな。それじゃお前らも危ないの?」
ギロッ……。
「九条院入学以来一度も学年トップを譲った事のないお姉様が合格しないわけがありません」
カスミが睨む。薫子が補足。
「私たちの成績に関していえば、私は中間期末とも一桁順位、カスミは連続満点です」
「げ、トップじゃなくて満点かよ」
「家柄がさほどでないにも関わらず、高校外来で合格しているのは伊達ではありませんよ」
全国模試でも上位の常連である成績を買われての入学だったという。
「実は凄い奴だったのか、お前」
カスミをしげしげと眺める雄二。
……。
本人は、その事には興味がなさそうだ。
カスミが九条院に送り込まれたのは、主として両親の意志である。
ただ、彼女は閉鎖的なコミュニティーに途中で入り込めるような性格ではない。
薫子は少し不憫そうな様子で彼女を見たが、雄二は気づかなかった。
「玲於奈も、もちろん戻る時のために勉強はしていましたが、少し話が急でしたので」
話が戻る。
「姉貴も人の都合を考えないからな」
「いえ、常に心構えは怠らないもの。お姉様に非はございません」
「さいでっか。じゃあ、俺行くわ」
雄二は、目的を果たさずに会話を切り上げる。
「玲於奈に用事があったのではないのですか?」
起こしますよ、と薫子。
「ああ、たいした事じゃねーし、勉強と体力回復の邪魔しちゃ悪いだろ」
「伝言でも?」
「いいよ。受験終わったら聞いとくから」
試験は来週だ。必死に勉強している時に、遊びの話でもないだろう。
頑張れよ、と儀礼的な激励。
「ん……」
雄二が立ち去りかけた時、玲於奈が寝返りを打った。
思わず振り返る。
薫子とカスミは、もう参考書に視線を戻している。
玲於奈の赤い髪がばらけて、隙間から白い頬が覗く。
一瞬見とれかけて、我に返った雄二は逃げるように図書室を去った。
金曜の朝、教室の前で偶然、雄二は玲於奈とすれ違った。
「よお」
「おはようござい……けほけほっ」
「なんだあ、風邪ひいたか?」
「少し」
この季節だというのに、制服の上に薄手のカーディガン。
「あんまり、無理すんなよ」
「無理をしないといけない時もありますわ」
雄二は単純に玲於奈の体調を心配したが、玲於奈はムッとした顔をした。
土曜日。放課後。掃除の時間。
「やはり男はグーで勝負するべきだったぜ」
じゃんけんに負けた雄二がゴミ箱を抱えて廊下を歩いていると、
白が基調の女子生徒達の合間に、ふらふらと色が違う娘が歩いていた。
「おい、大丈夫か玲於奈?」
「ふぁ、ひゅうひはん」
セーター着用。酷い鼻声。赤い頬。
大丈夫どころか、確実に悪化しているようだ。
「へんひょ、んぐっ、するので失礼しま……はら」
へこ。
ばさ。
頭を下げた拍子に、手元から参考書が落ちた。
「あ、すみません」
しゃがみ込んで本を拾う玲於奈だったが。
「?」
起きあがってこない。
「おい、どうした?」
「いえ、なんでも……っ……」
勢いをつけて立ち上がろうとした玲於奈が、よろめいて倒れ込んできた。
手を伸ばして支えた雄二。
抱きかかえるような体勢に周囲の視線を気にしたが、腕の中の玲於奈の熱さに、慌ててしっかりと抱えなおした。
「うわー。良く動いてたわねこの子」
体温計を眺めて、擁護教員が呆れる。
「タクシーで返すか、迎えに来てもらうか、とりあえずお家に電話入れてくるわ」
職員室に去る。
玲於奈を保健室に運んだ雄二は、所在なく机の傍らに立つ。
その玲於奈は、カーテンの向こう側。
「雄二さん、います?」
か細い声が呼んだ。
「ああ、どうした?」
「申し訳……こほっ……薫子……に……さい」
「悪い、聞こえねえ」
「こちらに……」
雄二はそろっとカーテンを開ける。
白いシーツにくるまって、玲於奈がベッドに横たわっている。
「すみません。薫子とカスミに、今日行けないと、伝えてくださいませんか?」
囁くような依頼。
「図書室だな? 構わないぜ」
「ありがと……けほっ」
「さっさと帰って寝ろよ」
「本当は、聞きたい問題がありましたのに……」
未練がましそうな玲於奈。
「明日電話で聞けばいいだろ。ついでに言っといてやるよ」
「助かります。えっと……」
玲於奈は上半身を起こして、鞄に手を伸ばす。
「とっ」
目眩を覚えたか、ふらついてベッドに手をつく少女。
さっき体温を測る為に緩めた制服がそのままで、覗いた胸元に雄二はどきりとする。
「これの7問目です」
「うわ、受験用じゃねえか」
鞄から取り出された問題集を見て雄二が驚く。
ぱらぱらめくってみるが、理解不能。
「二人も同じものを持ってますから、ページを伝えていただければ」
「こんなのが出んのか、九条院の転入ってのは」
「例が少ないのでなんとも言えませんが、過去問はこのレベルです」
憂鬱な表情。
「難儀なこったな……頑張れよ」
「心がこもってませんわ」
雄二は同情したが、玲於奈は拗ねた反応。
「んなこたねえけどさ」
「ありますわ」
「……」
雄二の心のどこかに引っかかる所があるのかも知れないし、
玲於奈の側で、雄二には他人事という意識があるのかも知れない。
いずれ、あまり激励の効果はなさそうだった。
@図書室。
「そうですか。ありがとうございます」
事情を話した雄二に、薫子が礼を言った。
「しかし、困りましたね」
「玲於奈、やばそうなのか?」
「実の所を言えば、私も楽ではありません。受かる理由がありませんから」
薫子は間接的な答え方をした。
「お姉様はなんといっても向坂ですし、カスミは別な意味で価値があります」
形は違えど、どちらも学校の宣伝という趣旨だろう。
「売りがないと、多少点数が良くても落とされるってか」
「ですので、作戦を考えています」
玲於奈には内緒にしてくださいね、と薫子。
「私の読みでは、カスミは合格します」
一年時の成績は抜群だったし、こっちに来てからの模試でも名前を残している。
たとえ転入試験で満点が取れなくとも、評価は変わらないだろう。
「つまり、カスミにわざと点を落として貰って、玲於奈と私が近い点を取れば……」
必然的に三人まとめて合格させざるを得なくなる。
「ただし、それも玲於奈がある程度の点数を取れればの話ですけどね」
マージンは、大きくないだろう。
「風邪引いてる場合じゃねえんだな」
「昔から玲於奈は本番に弱いから……」
珍しく口調を崩して、薫子はため息をついた。
「雄二様」
改まって、薫子は雄二を真っ直ぐに見る。
チラッ……。
カスミも参考書から僅かに視線を上げる。
「言いたくはありませんが……」
「あん?」
「万が一の時は、玲於奈を頼みます」
「……知るかよ」
雄二が呟いたのは、薫子の眼前ではなく独りの帰り道。
なんとなく本屋前。
「薫子とカスミは、合格するだろうな」
脳裏に、玲於奈が一人で取り残されるの図。あの性格で友人なんか、できるだろうか。
別に、玲於奈の苦悩を共有したかったわけでもないのだが。
「あんな、日本語に見えねえような問題を……」
雄二の足は、参考書コーナーへ向いていた。
日曜。柚原家。電話。
「ユウくん? 珍しいね。え? うん。家にあるけど? うん。いいよ。じゃあ……」
「ふあぁ〜あ」
「今日は眠そうだねえユウくん」
「お前もだろ」
「このみは今日はじゃなくていつもだよ」
「自慢になるか」
月曜の朝。
環が家を出た後に起きた雄二と、早出の貴明に頼らず起きたこのみが共に登校していた。
「タマお姉ちゃん、試験上手くいくといいねえ」
「落ちた顔は是非見てみたいが、落ちねーだろな。万一こっちに残るなんてなったら最悪だからいいか」
「むー、そういう言い方は良くないよ」
このみの頬が膨らんで、すぐしぼむ。
「あーあ、このみはタマお姉ちゃんと、もっと一緒にいたかったのに」
寂しそうな顔。
「それこそ矛盾してるだろ。一緒にいたいなら落ちた方が嬉しいだろうが」
「タマお姉ちゃんがいなくなるのは寂しいけど、そういうのはダメなのっ」
「へいへい」
そんな会話で学校到着。
「ああそうだ。昨日はサンキュな。返すわ」
「ううん。でもどうしたの? 去年の……」
このみの言葉が途中で止まる。
理由は、雄二が突然足を止めたから。
その、雄二が足を止めた理由。
「な……」
絶句する雄二の前方。
「な、な、な」
校門の手前で。
「なにやってんだお前は――――っ!」
玲於奈がぼんやり立っていた。
支援
「あ、雄二さん、おはようございます」
「おはようじゃねえっ! お前は今日、試験だろうがっ!」
「あ、やっぱり今日でした?」
「今日でしたって……」
周囲の視線に気づく。
「……このみ、先に行ってくれ」
門を入って物陰に避難。
手を引くと、玲於奈は素直に引きずられてきた。
素直というより、無抵抗。
「あのな……」
「だって、おかしいですよ」
雄二が説教を始める前に、玲於奈の方が口を開く。
「まだ、予定の半分も終わってませんのに」
勉強の事か。
「薫子に問題を選んで貰って、量を減らしたのに」
「熱を出して、昨日も半日寝込んでしまって」
「全然、間に合わないなんて」
瞳が潤む玲於奈。
これはマズい。
雄二は既に、彼女の脆さを何度か目の当たりにしている。
「落ち付けよ」
腕を掴んで自分の方を向かせる。
「三人で、ずっと頑張って来たんだろ。大丈夫だって」
「頑張る必要があったのは、私だけですわ!」
風邪声を荒げる玲於奈。
雄二の言葉は、気休めにすらならなかった。
「でも、頑張れなかった」
「昨日、薫子に電話したんです」
「薫子、私を心配してくれて「無理しないで」って。カスミも」
「父も母も、お前の身体が一番だから、九条に戻れなくとも構わないからって」
「でもそれって、諦められてるって事ですよねえ?」
歪んだ顔で嗤う。
追い込まれた人間に頑張れは禁句だが、優しい言葉が希望を奪う事もある。
「どうせ無理なんです。最初から、九条院を出てきたのが」
玲奈は、雄二の腕にすがりついた。
「転入試験だって、頑張ればなんとかなるなんて」
「身の程知らずだったんですよ」
俯いて、ぼろぼろ泣いた。
「そんだけ泣いて喚けるんなら、体調は大丈夫だな」
雄二は、暫く黙って、玲於奈を支えた後、上から声を掛けた。
「……?」
「行けよ」
「雄二さん……」
「ごたくを並べ終わったんなら、とっとと試験受けて来いっつってんだよ!」
「嫌です!」
目を瞑って、下を向いて叫ぶ玲於奈。
「なんでだよ!」
「どうせ合格しない試験なんて、受ける意味がありませんわ」
「やってみなきゃ判らねえよ!」
「判ります」
「だったらなんでっ!」
怒鳴りつける。
「なんの為に、今まで勉強してきたんだよ」
玲於奈の両肩に手を置いて語りかける。
「もったいねえだろ、そんなの」
「勉強したのは、私です。雄二さんではありません」
少女は首を振る。
「雄二さんには、わかりませんわ……」
雄二は、深呼吸ひとつ。
「確かに、お前の苦労は俺には判らねえけどさ」
静かに続ける。
「だけど、薫子もカスミも、お前を応援してるぜ。それくらいは判るだろ」
玲於奈は俯いたまま。
「俺だって、そりゃ他人事だけど、他人事の割には気にしてるんだぜ」
そこで雄二は、ふと気づく。
「そうだ」
自分の鞄を開けて中を探る。
「?」
玲於奈が、不思議そうに顔を上げる。
「おら、これ見ろ」
雄二が取り出したのは、ノート3枚。
「おとといお前ができないって言ってた問題。俺は解いたぜ」
びっしりと書き込み。数学。
「!」
目を丸くする玲於奈。
「本当に?」
玲於奈は、雄二の壊滅的な成績を知っている。
「疑うなら、見てみろよ。姉貴の力は借りてねーぞ」
じっとノートを見つめる少女。
真剣に記述を追ううちに、瞳から涙が消えていく。
と、首を傾げる玲於奈。
「なんだよ。解答は合ってる筈だ」
「どうして、こんなに長いんですの?」
「え?」
が、雄二が言葉を返すより先に自分で答えを見つける。
「……ああ、判りました。公式とか、定理とか、不要なところまで書いてあるんですね」
「そう、なのか?」
「一年とか中学で習う定理まで、中身を記述していますよ」
ふふっ。
やっと、玲於奈の表情に微笑みが浮かんだ。
「うるせえな。わかんねえからチビ助に昔の教科書借りてやったんだよ」
あさってを向いた雄二。
「とにかくっ!」
向き直る。
「難しい難しいったって、所詮はその程度だ」
じっと目を見る。
「いつも数学赤点スレスレの俺に解ける問題が、お前に解けないわけはねえ」
手を振り上げる。
「自信もって、ぶつかって来いっ!」
ばしっと思いっきり、背中をはたいた。
「けほごほっ!」
「だ、大丈夫か?」
やりすぎ。
それはともかく。
「これ、お守りだ。持ってけ」
鞄から、短くなった鉛筆を取り出して押しつける。
「あの俺が珍しくも勉強なんてものをした鉛筆だ。きっと御利益があるぜ」
ぼんやりと受け取ったそれを、手の中に見つめる玲於奈。
「雄二さん……」
やがて返ってきた視線に、雄二は説得の成功を確信した。
ただ、自分が何か言い足りない。
ちょっと迷って、付け加える。
「それでダメだったら、そんときは諦めて俺と一緒に卒業しようぜ」
言った途端、雄二自身の心が軽くなった。
「無責任ですね」
雄二に釣られてか、玲於奈の口調も軽くなる。
「ああ、他人事だからな」
「ふふっ、じゃあ、落ちたら仲間に入れさせて貰いますわ」
「ああ、三馬鹿トリオに加えてやるよ」
「三馬鹿?」
「俺と、チビ助と、貴明だな」
「……絶対、合格します」
「おし、その意気だ。行ってこいっ!」
「はいっ!」
元気に答えて、校門から外に出る玲於奈。
「遅刻すんなよー」
見送りのつもりで声を掛けた雄二。
が、玲於奈が止まる。
ぎぎーと振り向く。
「今、何時でしょう?」
雄二、校舎の時計を指さす。
「あ、あと2時間とちょっとしかありませんわ」
九条院は、確か相当な山奥にあった筈だ。
「た、タクシー代貸してくださいっ!」
「そんなに金ねえぞっ」
焦ったその時。
「玲於奈ーっ!」
聞き覚えのある、声がした。
坂の下から、猛然とタクシー。目の前に停車。
「薫子!? カスミ!?」
車から、茶色と黒が降りてきた。
「やっぱり、ここでしたのね! 行きますわよ!」
グイグイ……。
有無を言わせず。両側から玲於奈を拉致する二人。
「ふ、二人とも、どうして……」
「貴方が待ち合わせ場所に来ないから。家に電話したら出たっていうし」
コクコク……。
「わざわざ戻って……」
「あたりまえでしょう」
「……ごめんなさい……」
また、涙腺が緩む玲於奈。
「泣いている暇はありませんことよ。さあ」
クイクイ……。
バタバタと乗車。
「雄二様、ありがとうございました」
玲於奈を車に乗せた薫子が、雄二に頭を下げた。
「な、なにをだよ」
「玲於奈を励ましてくださったのでしょう? 見ればわかります」
「べ、別に」
「時間がありませんので、今はこれで。行ってください」
くすっと笑って、最後は運転手への台詞。
三人を乗せ、引き返すタクシー。
「頑張れよ〜」
思わず雄二は、手を振って見送った。
「さて、と」
嵐が去って、周囲を見渡しても、ひとっこ一人いない校庭。
「……一限、サボるか」
空は快晴。
「あ、チビ助に教科書返すの忘れた」
1限数学だったこのみへの損害賠償は、アイス屋のトリプル×3回だった。
翌日、放課後。
「タカ坊、雄二」
環が、2−Bの教室を訪れた。
「タマ姉、試験、どうだったの?」
「もちろん、合格したわよ」
貴明に笑顔で答える環。
「そっか、おめでと」
「ありがとう」
少し寂しそうな祝福と感謝。
「うわわ、おめでとうございます!」
愛佳の方が素直に喜んでるかも知れない。色々と。
「いやー、めでたいな。これでやっと姉貴とおさらバババババ」
いつものアイアンクロー。
この光景も、まもなく見られなくなる。
「っつー。いつもより力入ってたぞ」
「在庫処分サービスよ。それより雄二」
「あんだよ」
「玲於奈達が呼んでるから、付いてきて」
「っ」
用件は聞くまでもない。結果報告だろう。
環は知っているのだろうが、直接言いたいと。
「……なに気後れしてるの?」
「してねえよ」
人通りのない特別教室前の廊下で、三人が待っていた。
雄二が近寄ると、薫子に促されて、玲於奈がおずおずと前に出る。
「雄二さん。昨日はありがとうございました」
「おかげさまで、無事合格致しました」
以上です。>550さん支援ありがとうございました
2/17七行目「あいてい」→「ありてい」ですね。
一限と1限とか、最近どうも漢数字の不統一が直しきれなくてこれもすみません。
今回、タイトルも内容も山田南平の『久美子&真吾』からのパクリです
大学受験の主人公を小学生の彼氏が励ますとゆー……15年前の漫画(汗
>>558 乙です!
玲於奈受かったんだ・・・。
ADに玲於奈はいないのはなぜだ!
>>558 いつも乙です。
>山田南平の『久美子&真吾』
「大人になる方法」とかでしたっけ。
15年前・・・・もうそんな経ってるんだ・・・。
最終3巻くらいは現役で読んでたなぁ。
・・・・・・・未だに花ゆめは現役で読んでるけど・・・・・。
>>559 けどそうなると貴明×玲於奈になるから、それはそれで嫌だな。
やっぱ雄二×玲於奈じゃないと。
562 :
558:2007/03/10(土) 23:26:52 ID:GdERETLT0
>560
です。『STEP UP』自体は平成5年。私は学生の頃まとめて読んだんですけどね
前のSS「オトナになる方法」のタイトルの元ネタでもあります。内容は関係ないけど
私は久美子以上に真吾に横恋慕してる同級生の女の子(悦子)が好きだったんですが、
この子が真吾をなかなか諦めなくて、結局フられ切ったのがラス前付近だったのが印象的でした
花とゆめは、今は『お兄ちゃんと一緒』を(爆死)ってスレ違い失礼
>>558 乙です!
玲於奈の可愛さはもちろん今回は雄二の男らしさが何より良かったです。
雄二って軽薄そうに見えて貴明以上に面倒見いいような感じがします。
やっぱり玲於奈だけは貴明じゃなくて雄二ですよ。
続き楽しみにしてます。
由真「別に貴方を責めるわけじゃないけど、あの子が…愛佳が大切にしていた書庫がああいった形で無くなったから…」
その辺りは貴方の方が詳しいでしょ?と言いたげにこちらを一瞥する。
由真「あの時、誰かがそばにいて愛佳を支えてあげれたなら…もしかしたら違う結果になっていたのかもね…」
そう呟き、ふぅと大きなため息を漏らしながら遠い空を見上げる。
俺にはその呟きは後悔とも諦観とも読み取れた。
由真「ねぇ、知ってた?愛佳に妹がいた事。」
俺は首を横に振る。そんなのは初耳だった。
由真「愛佳の妹、郁乃ちゃんっていってね…、小さな頃から身体が悪くて入退院を繰り返していたの。でもね生意気なくらい口が達者で愛佳いつも泣かされてた。私もたまにあの子に連れられてお見舞いに行ってたけど……」
アハハ…、その時の事を思い出したのだろうか少し苦笑いを浮かべる。
由愛「………その郁乃ちゃんの手術が失敗して」
ボソボソと独り言の様に語り出す由真。
由真「………愛佳の心は…、壊れた。」
『心が壊れる』そのフレーズに思い当たる節があり、俺は目をつむり、その当時の事を思い出す。
あれはいつ頃だったか?たしか風の噂に図書館の書庫が壊されてしまったと耳にした少し後くらいだったと思う。
微力ながら小牧の手伝いをして、書庫に出入りしていた自分としては思うところがあった。
それからしばらくして小牧は学校に大きめの人形を持ってくる様になった。
『今日は寝ちゃダメだよ』
『ふふっ、お腹空いたね?お昼は食堂にしようか?』
事あるごとにその人形に話し掛ける小牧。既に彼女には昔の面影は無くその狂気じみた行動に周りに者はついて行けず、一人また一人と彼女の側から去っていった。
そして俺達が三年に進級すると同時に彼女は突然家族の事情で引っ越す事になったのだと…、担任から説明を受けた。
由真「ねぇ、覚えてる?私達が三年に上がる時に愛佳が『家の事情で』引っ越していったの?」
俺はただ、ああと返事を返す。
由真「とっくに気付いてると思うけど、あれは嘘なの。
……ついて来て。」
そう言って、勢いよく立ち上がると身に纏った白衣を翻し『来栖川特別医療研究病棟』と書かれた真っ白な建物へと歩いていった。
俺は黙ってその後に続く。時折、由真の同僚達が挨拶がてらに声を交わしてくるが、軽く手をふり応える程度で歩を緩める事は無く、真っすぐに目的地に向かい進んでいった。
カッン…カッン…カッン…。
由真の履くヒールの音が無機質な館内に響き渡る。
何度目かの角を曲がり終えた頃、ようやく由真が足を止める。
個室の前には『小牧愛佳』と書かれたプレートが掲げられていた。
コンコンコン、と何度かドアをノックして、ゆっくりと扉を開く。
由真「失礼します。小巻さん、今大丈夫ですか?」
貴方はここで待っていて、とジェスチャーをする。
確かに元クラスメイトとはいえ、勝手に入るのはまずいだろうと由真が中にいる家族の方に話をしてくれているんだろう…そう思っていた。しかし…
由真「いいよ、入って?」
室内に入ってまず目に入ったのが大量の人形だった。
大きさ、色、形、様々な物があるが一つだけ共通する事があった。
すべて小さな女の子の容姿をしているのだ。
?「先生…、あの人、だれ?」
由真「あの人は私の友達で河野貴明。まな…、小巻さん知らないかな?」
俺は現状を理解するのに努めた。
ベッドから身を起こしこちらを見る女性、それは自分の記憶の中よりも髪を伸ばしてはいるが間違いなくあの小牧だった。
しかし、俺の事は卒業して何年も経つからともかく…、何なんだ?あの二人の話し方は…。あれじゃあ、まるで――――
由真「本当にっ!本当にあの人の事が分からないの!?ねぇ!!」
愛佳「やっ!!先生…こわい……」
愛佳が身を強張らせ、由真を振り解く。
由真「あっ!?ご、ごめんなさい。先生が悪かったから、ね?ごめんなさい小巻さん。」
そう言って何とか愛佳を落ち着かせると、頃合いを見て俺達は病室を後にした。
続く
うわぁああぁ
メ_|\_ ヾ
メ/ u 。 `ー、__
/// ゚。⌒ 。゚ u /
"///u゚(●) u ゚ヽil←中の人
|||。゚r-(、_,)(●)/i
ヾi //「エェェ、) ゚u/ ノ
//rヽir-r、//。゚/く
メ/ ヽ`ニ"ィ―-′ヾヾ
/((‖))___i |
ヽ_⌒) ̄ ̄ ̄(_ノ\
//______ヽ \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ガリガリガリガリッ
うわぁああぁ
_|\_
/ u 。 `ー、__
/ ゚。⌒ 。゚ u /
/u゚(●) u ゚ヽi←中の人
|。゚r-(、_,)(●)/
ii //「エェェ、) ゚u/
‖rヽir-r、//。゚/i
‖llヽ`ニ"ィ―-′l‖
|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
(_) 小巻って(_)/
ヽ| 何だよ!!!|て。
ノ|______|(゚。
⌒)/⌒Y⌒Y⌒Y⌒ヽ\
。゚・ ゚ ダンッ ゚・
(´・ω・`)ごめんなさい。思い付きで書きました。鬱で記憶喪失です。某ゲームは関係ないです。ごめんなさい。
>566
「由愛」はいいのか?w
郁乃の手術は失敗しても死なないと思うが、君望よりもエヴァのアスカ母思い出した
まあ失敗しても失明するだけだしな。
ごくまれに麻酔事故で死ぬこともあるけど。
桜作者乙!!
また続きを期待しとります。
>>567 うわぁああぁ
メ_|\_ ヾ
メ/ u 。 `ー、__
/// ゚。⌒ 。゚ u /
"///u゚(●) u ゚ヽil
|||。゚r-(、_,)(●)/i
ヾi //「エェェ、) ゚u/ ノ
//rヽir-r、//。゚/く
メ/ ヽ`ニ"ィ―-′ヾヾ
/((‖))___i |
ヽ_⌒) ̄ ̄ ̄(_ノ\
//______ヽ \
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ガリガリガリガリッ
うわぁああぁ
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/ u 。 `ー、__
/ ゚。⌒ 。゚ u /
/u゚(●) u ゚ヽi
|。゚r-(、_,)(●)/
ii //「エェェ、) ゚u/
‖rヽir-r、//。゚/i
‖llヽ`ニ"ィ―-′l‖
|| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄||
(_) ごめん! (_)/
ヽ| (´・ω・`)|て。
ノ|______|(゚。
⌒)/⌒Y⌒Y⌒Y⌒ヽ\
。゚・ ゚ ダンッ ゚・
572 :
素直になれない女の子との日々6話 1/5:2007/03/11(日) 23:06:51 ID:CIAu9z4q0
病院に付き添ってから二週間、郁乃ちゃんは相変わらず不機嫌なままである。
俺のせいだということは何となく分かるのだが、何で怒らせてしまったのか原因がさっぱり分からない。
周りの人に聞いても、口をそろえて
「自分で考えろ」
と言うばかりだし、雄二にいたっては
「お前の惚気話なんか聞きたくないっての」
などという謎な発言をする始末である。病院に付き添って郁乃ちゃんのリハビリを見た、という話の
どこらへんに惚気が含まれているのだろうか。考えれば考えるほど謎は深まるばかりである。
今日も郁乃ちゃんの機嫌は悪いのかなー、とちょっとおどおどしながら待ち合わせ場所に着くと、
郁乃ちゃんたちはまだ来ていなかった……珍しいな、いつも俺より早く来てるのに。
「河野くん、お待たせ」
「おはよう小牧さん。あれ、郁乃ちゃんは?」
「うふふ。ほら、あそこ」
指差した方向を見ると、郁乃ちゃんが杖を突きながら歩いているのが見えた。
「へえ……」
573 :
素直になれない女の子との日々6話 2/5:2007/03/11(日) 23:08:06 ID:CIAu9z4q0
前にリハビリをしているところを見たけど、こんなに早く歩けるようになるとは思わなかった。
きっと病院でのリハビリだけでなく、家でもトレーニングをしていたんだろう。
捻くれてて気づかないことが多いけど、やっぱり郁乃ちゃんは良い子だ。
「驚いた」
「でしょ?郁乃、すごい頑張ったんだよ。『いつまでも迷惑かけるわけにはいかない』って」
「いや、郁乃ちゃんじゃなくて小牧さんに」
「私に?」
「うん。いつもの小牧さんだったら、すっごい心配した顔で『郁乃、大丈夫?
苦しくなったらすぐ言ってね。無理しちゃ駄目だよ』って横でおろおろしてると思う」
「え、え?私、そんなに心配性じゃないですよ?」
「悪いけど、私も絶対反対されると思ったわ。お母さんとお父さんもびっくりして
『愛佳が認めるとは思わなかった』って言ってたし」
「郁乃〜」
実の両親にそこまで言われるとは相当なシスコンぶりだ。ま、分かってたことだけど。
「でも、何でただの杖なの?松葉杖のほうが安定しない?」
574 :
素直になれない女の子との日々6話 3/5:2007/03/11(日) 23:08:36 ID:CIAu9z4q0
「筋肉が無いのが足だけならそれでもいいけど、腕の筋肉も無いから」
「あ……ごめん」
無神経な質問をしたことを後悔するが、後悔先に立たずとは言ったもので今更何の意味も無い。
小牧さんがフォローを入れようとわたわたしているのが余計に気まずい。
何で俺はこう無神経なんだろう。
「別に気にしなくていいわ。仕方ないことだし、そんなこと気にするようなやわな神経してないわよ」
……そういってもらえると助かるは助かるんだが、いちいち棘を出さなくてもいいじゃないか。
フォローしてくれるつもりなら、最後の一言はいらないと思うんだ、うん。
「あんたが余計なこと言ったのは事実だから。少しぐらいの厭味は我慢しなさい」
「……はい」
「い、郁乃〜」
……見た目だったら1歳どころか3歳ぐらい下といってもおかしくない郁乃ちゃんに
やりこめられる俺って一体。朝からへこみまくりでちょっと泣きたくなって来た。
「二人して情けない顔しないでよ。まったく……あっ」
「おっと」
575 :
素直になれない女の子との日々6話 4/5:2007/03/11(日) 23:09:14 ID:CIAu9z4q0
「郁乃ちゃん、大丈夫?」
何かに躓いた郁乃ちゃんを、抱き寄せる。ん?抱き寄せる……
「うわぁ!ご、ごめん!!」
このみが転びそうになったときよくするように、抱き寄せてしまった。
このみは妹みたいなものだからいいけど、郁乃ちゃんは郁乃ちゃんなわけで。
「……別にいいわよ。おかげで転ばなくて済んだんだし」
といってそっぽを向いてしまう郁乃ちゃん。口調は怒ってる感じじゃないけど、その態度
が『怒っています』と雄弁に物語っている。ど、どうしよう。
というか、俺も女の子を一瞬とはいえ胸の中に入れてしまったわけで。顔がどんどん熱くなるのが分かる。
きっと鏡を見たら、ゆでだこのように真っ赤になっている自分の顔を見ることが出来るだろう。
無論、そんな状況で正常な思考なんて出来るわけも無く。
「ほ、本当にごめん!このみが良く転びそうになるのをあんな感じで止めてたから、
つい癖で。こ、このみだったら妹みたいなもんだからこのみも気にしないんだけど!
なんというか、郁乃ちゃんは郁乃ちゃんだし」
口を開けば開くほど自分が言ってることが支離滅裂になっていくのが分かる。
576 :
素直になれない女の子との日々6話 5/5:2007/03/11(日) 23:09:44 ID:CIAu9z4q0
「……本当に、ごめん。言ってくれたら、お詫びは何でもするから」
いくら郁乃ちゃんのことをだ、抱っこしたことがあるとはいえ、それはそれ、これはこれ。
女の子の体に不用意に触れてしまったのは完全に俺の不注意だ。
熱くなった顔から、急速に熱が奪われていく。俺は、なんてことをしてしまったんだろう。
「だから、別に良いって言ってるでしょ」
「…………でも、郁乃ちゃんさっきからそっぽ向いてるし。お、怒ってるなら
怒ってくれて構わないから。悪いのは俺なんだし、変に気を使わなくても」
「っ!……分かったわ、今度何かしてもらうから。とりあえず謝るのやめて。
先輩にぺこぺこ謝らせてる後輩が居る、なんて噂になるのも嫌だし」
……よくよく考えれば、ここは通学路だった。周りを見なくても、視線が俺たちに集まってるのが分かる。
注目を集めてしまったことで、また顔が熱くなる。いたたまれない。
「……ごめん」
「だから、謝らないでって言ってるでしょ!」
「いや、これは状況考えないで謝ってたことに対するごめんだから。今言っておかなきゃと思って」
「義理堅いのは分かったから。これ以上注目集めるのも嫌だし、さっさと行くわよ」
「うん、分かった」
とりあえず、郁乃ちゃんは態度ほど怒っているわけじゃないらしいし、気にするのはやめよう。
うん、気持ちを入れ替えよう。まだ今日は始まったばかりなんだし。
そんな風に前向きになろうと頭の中で色々考えている俺に、小牧さんの
「青春、してますねぇ」
何て声は、もちろん聞こえていなかった。
577 :
素直になれない女の子との日々 作者:2007/03/11(日) 23:15:00 ID:CIAu9z4q0
短いですが6話です。リハビリの意味も込めて短めにしました。
結構長い間進めていなかったので、自分で書いてて地の文の貴明の感じが違うような気がしてます。
ご意見・ご感想がありましたら是非是非お待ちしております。
>>577 GJです、具体的にココはどうと言った感想が出なくてごめんなさい。
GJ!
>577
5ヶ月ぶり大変乙です。郁乃と共にリハビリっスねw そして1話1抱っこ大歓迎
本筋じゃないけど、脇で支える松葉杖の方が腕の筋肉は使わないんじゃないかな?
>>580 逆じゃね?
腕の筋肉が弱いから松葉杖使えないんじゃないの
松葉杖って結構重いし
>脇で支える松葉杖の方が腕の筋肉は使わないんじゃないかな?
腕の筋肉も鍛えなきゃいけないから使わないんじゃない?
583 :
素直になれない女の子との日々 作者:2007/03/12(月) 15:38:27 ID:WeSVP8wq0
脇で支えると言っても前に出すときや足を浮かせるときに腕の筋肉をかなり使いますし、
郁乃の場合は足が動かなくて歩けない、というわけではないので杖ということにしました
(リハビリの時は松葉杖使ってましたけど)そういった『ここはおかしいんじゃない?』
というご意見もお待ちしておりますので、お気づきの点ございましたらよろしくお願いします。
とりあえずsageてください
昨日の小説から全部ageてたみたいですね……_| ̄|○
申し訳有りません。
河野家ないと月曜日さみしいな
もう月曜になったら河野家とか言うのはやめようぜ。もう河野家からは卒業さ。
河野家に縛られて、他を見れなくなっちゃ河野家も悲しむさ。
俺達は昨日に捕われる為に読んでるんじゃなく、明日の新しいSSにGJするためにここに訪れる。
だから、もう過去は振り向かない。思い出は心に宿っていれば、それで充分。多くは語らないさ。
そこに河野家という伝説があった。それが長年このスレを見守ってきた者達が信じるべき事だと思う。
だから...
河野家作者さん、新作期待してます!
>>584 小説本編ならべつにsageなくてもかまわんのではないかと
雑談でageるヤシはウザイが
しかし、まるで荒廃した都市のように静かになってしまった。ここ。
だれか盛り上げれ〜....(他人任せ)
河野家終了前後で河野家以外の状況が変わったかというと、そんなこともないんだけどね
毎週定期的に投下される(しかも楽しい)SSの存在感の大きさだなあ
AD出るまではしょうがないさ。
冬弥「呼んだ?」
そのネタが分かる人がこのスレに居るのかな……
緒方理奈の元ネタなんだから調べた奴も多いだろう。
「雄二、ちょっといいか」
カバンの中からアルミホイルの包みを取り出しながら雄二に呼びかける。
「なんだ?」
「これなんだが」
包みを開くと、中に入っているのは白い塊が数個。市販のホワイトチョコを一度溶かして
金型に流し込み固めたものだ。まあ、要はホワイトデーのプレゼント用のチョコなわけで。
「貴明…」
「な、なんだよ」
何故そこで哀れみの目で俺を見る。
「いくらバレンタインに女の子からもらえなかったからって、男に渡そうとするのはどうかと思うぞ」
「違うっての」
「いやいや、お前の気持ちもわからなくはないがヤケになってはいけない。
いつかはチョコのひとつももらえるようになるさ」
「だから違うって言ってるだろ!」
半ば怒りながら否定の言葉をぶつけると、雄二は手をひらひらさせながら俺に笑いかけた。
「悪かったって、冗談だよ。郁乃ちゃんへのお返しだろ?」
「む…」
「試しに作ってみたから味見してほしいわけだ」
「…わかってるんじゃないか」
雄二はぶつぶつ言っている俺の持つホイルの包みからチョコを一つひょいと
取り上げるともぐもぐと食べ始めた。
「ん、いけるじゃないか。初めて作ったにしては上出来だ」
「そ…そうか?」
「しかしお前がチョコねえ…ああ、恋をすると変わるのは女だけじゃないってことなんだな」
「あ…あのなあ」
ニヤニヤする雄二に対してしかめっ面をする俺。
「なに、悪いことじゃない。好きな子のために頑張るなんてお前も進歩したってことだろ」
「さあな」
「すねるなよ。ああ、俺も彼女が出来ないかな」
俺に彼女ができるなどとはかつては夢にも思っていなかったが、雄二に彼女が出来るというのも想像しにくい。
ルックスは悪くないというかいい方だと思うが、正確に難ありじゃなあ…
「何か言いたそうだな」
「いいや、何も」
そう返しながら俺も一つチョコを頬張ってみる。…うん、なかなかおいしくできたかも知れない。
「あれ、たかあきくん」
「よ、愛佳」
バインダーを小脇に抱えた愛佳が通りがかる。
郁乃は一緒じゃないらしい。別にあいつにコレを見られて悪いわけじゃないが、
あらかじめわかっているよりは知らない方が当日の驚きも違うだろう。
「へえ…これもしかしてたかあきくんが作ったの?」
「まあね。郁乃には黙っておいてくれると助かる」
「だいじょうぶ。これでも口は堅いんだから」
しかし渡す現場にはこっそりと現れて物陰からほくそ笑みながら俺達の
様子を眺めているのだろう。
あと、愛佳は自分で言うほど口は堅くない。うっかり口が滑ってなんてのが
今まで何度あったことやら。今回は黙っててほしいけど。
「ひとつもらっていい?」
「どうぞどうぞ」
ハート型のチョコをぱくり。どうやらお気に召したのか、愛佳嬢はご満悦の表情である。
「うん、すごく甘いですね〜」
「え、特に何か入れたわけじゃないんだけどそんなに甘かった?」
「甘いよお。たかあきくんの愛情がこもってるもの」
「ああ、そりゃ甘いよなあ」
愛佳と一緒になって雄二までニヤニヤして俺を冷やかしている。
ああもう、こいつらはっ。
「郁乃ちゃん」
そわそわ。
「郁乃ちゃん?」
「……」
「い・く・の・ちゃん!」
「ふぁ、ふぁい?」
耳元で大声を出されたものだからびっくりして椅子から立ち上がる。顔を向けるとこのみちゃんが
ちょっとご機嫌斜めであたしを見ていた。…ふむ、そういえば今しがたまで誰かに呼ばれていたような気がする。
「も〜。呼んでも返事してくれないんだもん」
「ごめんごめん。ちょっとね」
「考え事?」
「ん、まあ」
返事をしながらも視線は壁にかけられたカレンダーに向いている。
彼女もその様子を見てあたしが何を考えていたかわかったようだ。
「あ、そっか。お返しに何をもらえるかなって考えてたんだね」
「ちっ、違うわよ」
「明日はホワイトデーだもん。タカくんが何をお返ししてくれるのか気になるよね」
「だから違…」
「郁乃ちゃんは手作りチョコを渡したんだっけ?」
「…うん」
「だったら、もしかしたらタカくんからも手作りのものをもらえるかも」
もはやこれ以上の抵抗は無意味と悟る。口よりもこの顔が、自分が思っていることを語ってしまっていたらしい。
「手作り…か」
「もしもらった時は見せてね?」
「恥ずかしいものでなければ」
まさかマフラーとか手袋とかいうことはないだろう。ペアルックなんていうことになった日には
恥ずかしすぎて表に出られない。…いや、冷静に考えれば貴明の性格からしてそれはないと思うけど。
「なになに、お返しは彼氏の手作りだって?」
「そういえばいくのんも手作りチョコを渡したのよね」
「お互いに手作りのプレゼントだなんて…ああもう、このバカップルはっ」
「あんた達、勝手に盛り上がるんじゃないっ!」
いつの間にやら集まっていたクラスメイト達の騒ぎように、あたしは心の中でため息をつくのだった。
「尾行はなし、と」
周りに誰かが潜んでいる気配はない。
警戒しながらあたしは人気のない住宅街の小道を小走りで抜ける。
「郁乃」
曲がり角の向こうで貴明が手招きする。
もう一度背後を振り返ると、あたしは一気に貴明のもとへ駆けていく。
「…ふう」
「誰もいなかったか?」
「とりあえずは大丈夫そうだけど」
貴明からホワイトデーのお返しをもらうだけだというのに、どうして
こんなに気疲れしないといけないのだろうか。
ああいや、他の子にしてみればこれは十分大きなイベントなのかな。
何しろ教室を出るまでクラスの子達の視線が自分に注がれているのを
ずっと感じていたのだ。
貴明と玄関前で待ち合わせしていた時も、
『じ〜…』
っと複数名の視線がこちらに集まっているのを感じていた。
羨望の眼差しとかちょっと恨みのこもった視線とかいろいろ混じっていて、
背中に悪寒が走ったものだ。
「もう大丈夫かな」
「…だと思うけど」
ぽつぽつと人が通りがかる程度の人気の少ない公園を歩く。
少し奥まったところに置いてあるベンチに二人並んで腰掛けると、貴明は
カバンからリボンのかかった白い包みを取り出した。
「というわけで、お待ちかねのホワイトデーのお返しだ」
「別に待ってなかったけど」
「そうか。それじゃいらないか?」
言いながら引こうとした包みをがしっとつかむ。
「…ありがと」
「素直でよろしい」
あれ…よく見ると、このラッピングの仕方は見覚えがある。
「このやり方、なんかあたしの時と似てない?」
「ん?ああ、ラッピングも全部自分でやったんだ。お前にもらった
チョコのやつを真似したんだけどなかなかうまくいかなくてな」
あたしが全部自分の手でやったから、貴明も同じように全部自分の手で
やってお返ししてくれようとしたらしい。
…と、いうことはやっぱり中身も手作りということ?
「開けていい?」
「ああ。お前がくれたものに比べたら出来はよくないかも知れないけど」
リボンを解いて、包みを開く。
わざわざ貴明がしてくれたのを開くのはなんだかもったいない気がした。
「あ…」
驚いた。
箱の中に敷き詰められていたのはホワイトチョコだけじゃなかった。
形もいろいろの一口サイズのクッキーも一緒に並んでいた。
(これで出来が悪いなんて言ったらあたしのはどうなるのよ)
思わず笑みをこぼしながら心の中で呟く。
並べられたチョコとクッキーの上には一枚の折りたたまれたカードが。
「これは?」
「あ、それは後でこっそり見てくれ。…恥ずかしいから」
「そう言われるとすぐにでも見たくなるのよね」
「いや、それはちょっと勘弁」
何が書かれているのだろう。
やっぱり気になって仕方がないのでちょっと開いてみようかと思ったら。
sien
支援
「隊長、ターゲットを発見したであります!」
「このみん、でかしたああっ!」
撒いたはずの追っ手がやけにハイテンションな声を上げながらこちらへ
走ってくるではないか。
「ちっ、見つかったか。逃げるぞ」
「はいはい。疲れるホワイトデーね」
「まったくだ」
せーの、で二人同時に走り出す。
ふと横を見ると、樹の陰からこちらをにこやかに見つめている人影が一つ。
『がんばってね〜』
手を振りながら実に面白そうにあたし達を見送る我が姉。
どこに逃げてくるかなんてことはこの人にはすっかりお見通しだったらしい。
…まったく、敵わないなあ。
「なあ郁乃、今のって…」
「ま、なんでここにいるのかは後で聞きましょ。とりあえず今は…」
「そうだな。捕まったら逃れられそうにない」
スピードを上げて公園の中を駆け抜ける。
箱を胸の前でしっかり抱きかかえながら、あたしはカードをこっそりと開いた。
――Dear Ikuno.
来年もこうやってお互いに渡せたらいいな。
河野 貴明
郁乃ホワイトデーSSです。
かなり自分設定入ってるので合わない人には合わないかも。
次のSSが来るまでの繋ぎにでもなればと久々に投下しました。
>>602,603
支援どうもありがとうございました。
乙〜。
乙です。郁乃かわいいよ、郁乃。
郁乃SSが投下されるのは本当にうれしい。
608 :
605:2007/03/18(日) 19:59:07 ID:YkuhaLjB0
今更ですが誤字訂正。
(2/6)の正確に難あり→性格に難あり でしたorz
このss見て気付いたんだが
俺、モジモジする郁乃はツボだ。
郁乃かわいいよ郁乃
貴明がベンチにいる愛佳に対応する間、るーこに応戦するこのみと由真。先手を打ったの
は良かった。しかし、なかなかどうして身のこなしが巧みなるーこに対して、苦戦を強い
る2人であった。
「このみちゃん、弾ちょうだい!」
「ぇえ〜っとぉ...、はい!どうぞ!...あ、ユウくんがるーこさんと合流してる!」
あ〜、るーこだけならまだしもバカ雄二まで相手になっちゃキツいって!
「由真先輩、瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんも近づいてきます」
「...ちょっと辛いかもね」
まさかるーこがここまで手強いとは思わなかったわ。サバイバルの訓練でもやってんじゃ
ないの?
「ユウくん、ちょっとは手加減してよ〜!」
「バカモノォ!男は勝負には手を抜かんのだ!」
あのバカも自信満々に何言ってんだか。
『草壁さん、由真。小牧さんはアウトだから攻撃しないでね』
『わかりました。やりましたね貴明さん』
「わかったからこっちも手伝いなさいよ!」
『ちょっと待ってろって』
たかあきの方はどうにかなったみたいね。出来るなら一刻も早くこっちに走って来てもら
いたいものだけど。このまま2対4なんかにされちゃ、簡単にアウトになっちゃうって
の!
「...ったく、愛佳がやられたんだから、ちょっとは動揺しなさいよね...」
「小牧先輩が見つかっちゃったの、気付いてなかったりして〜」
「そんなわけ...」
...ありえる。あいつらから見て愛佳の姿はベンチで見えないし、あたし達の奇襲でそれ
どころじゃなくなってる...
「このみちゃん、するどい!」
「えっ!?あ、ど、どうも?」
このみちゃんの肩にバン、と手を置いて叫ぶ。本人はちょっと動揺してるみたいだったけ
ど。
つまり、アイツ等を混乱させるためには
...
「ベンチに愛佳ほっといて何やってんのよ!バカ雄二!!」
「お前も俺とテストの点かわらないだろ!委員ちょはなぁ...」
何かを叫ぼうとして黙り込む雄二。愛佳の存在を知られてないはずなのに、あたしがそれ
を知っている。そして本人は貴明によって発見されている。それを相手に気付かせれば、
相手が動揺する...と思う。
そこで愛佳の方を見てみると、立ち上がって入り口のベンチに行こうとしている。これな
らあいつらも愛佳がアウトになったことに気付くはず
「あぁ!委員ちょが!?」
フフフ、情けない声をだしおって。バカ雄二達は身を隠してゴチャゴチャやっている。そ
して何かを叫びながら、滑り台から引いていっている。まさに作戦どぉり!
「よし!このみちゃん、追うわよ!」
「はいっ!」
と、体を乗り出しるーこ達を追いかけようとした時。
『貴明さん、るーこさん達が引いていきます』
『多分、一旦引いて作戦を立て直すつもりだと思う。由真、追い討ち』
「分かってるわよ!アンタも早く追いつきなさいよ!!」
全く、いまからやろうとしてるっつーの!...けど、貴明と一緒に行った方がいいのか
な。けど、早く行かないと見失っちゃうし...、あ〜もう!仕方ない
「このみちゃん、申し訳ないんだけど、先にるーこ達を追いかけといてくれない?あたし
は貴明が来たら追いかけるから」
「わかったであります!」
そう言うや否や、このみちゃんは走ってるーこ達の背中を追っていった
「早...」
全速力で駆けていくこのみをボーゼンと見送る由真であった。
「由真、大丈夫か?このみは?」
「先に向かわせたわ。さっき見たけど、このみちゃんて足早いのね」
「あいつはよく走り回ってるからな、俺でも勝てないよ」
元気だけが取り柄みたいなもんだからなぁ。足の早さとスタミナは底が知れない
『たかちゃん、由真ちん、だいじょ〜ぶ?』
「どうにかね」
「由真ちんて呼ぶな!」
『敵さんはね〜、二手に別れて逃走中〜。るーこと向坂くんは見えなくなっちゃった。珊
瑚ちゃんと瑠璃ちゃんはこのみちゃんが追っかけてるからまだ見えてるよ』
無線から笹森さんの声が聞こえる。まだ林近くで観察を続けているようだ
「このみ達はどこらへんにいる?」
『んっとね、まだこのエリアにいるよ。端っこの柱にこのみちゃん。珊瑚ちゃん達は塀み
たいな壁に隠れてる。』
「了解。笹森さん達は雄二を追ってくれないかな」
『大丈夫ですか、貴明さん』
「問題ないって、由真もいるし。そっちも気をつけてね。タマ姉がどこにいるか分からな
いから、いきなりやられるかもしれないし」
『はい、解りました』
『じゃあまた後でね〜』
草壁さんと笹森さんの声を聴き、無線を腰に戻す。
「よし。そんじゃ行くぞ、由真」
「命令するなぁ!わかってるわよ!」
「はいはい...」
このみのいる場所に向かって走る二人。
「そういえばさ」
「ん、なんだ由真」
「たかあきって、こーゆーの得意なの?」
銃を目の高さに掲げる由真
「今日始めてやるのに得意な訳ないだろ」
「そうなんだけどさ。なんてゆうか、自信たっぷりに指示するし、言う事も筋が通ってる
とゆうか...なんか隊長みたいな感じになってるし...」
後の方の言葉は、小声になっていた
「まぁ、みんなの個性を考えたら、自然とどうすれば良いのかわかるって。その作戦をす
るのが当たり前って思うから言うだけだよ」
「ふ〜ん、なんかみんなと仲良しです、って言ってるみたい。たかあきの周りには女の子
が多いしねぇ」
「実際に仲は良いぞ、友達だしな。それと、みんな女の子なのは偶然だろ」
「友達 ...ねぇ」
その時、一瞬だけ俯き、由真が悲しい顔を見せた気がした。しかし、次の瞬間にはケラケ
ラと笑っていた
「ま、いいけど。たかあきに巻き込まれちゃってるせいで友達も出来たし。...それに昔
のあたしじゃ、こんな馬鹿騒ぎできなかったしね」
「昔...?由真みたいな性格ならこんなことやりそうな友達とかいそうだけどな」
「..あ、このみちゃん発見!」
俺の言葉に返事はせず、このみのいる場所に走っていく由真。結局、何が言いたかったの
だろうか。皆目検討もつかないまま、貴明は考えることをやめ、このみ達と合流する
「今はああなんだから問題ないか」
支援
sien
>618.619
支援ありがとうです
>617
4/5じゃなくて5/5っすね。スマン
ども、ケータイから。
今回はみじかめで。とりあえず落としてみようと。
なんか各キャラの性格がぼやけてきている気がする
これ変だ、ってのがあったら指摘おねがいっす
>620
乙。サバゲーは判らんけどなんか楽しそうだ
変なとこというか、由真の貴明の呼び方は「たかあき」で正しいんだけど、
個人的には良く使われてた「あんた」の方がしっくりくるかなぁ。あくまで私見
>>621 「たかあき」と「あんた」の併用で構わないと思う
エッチシーンで貴明を「あんた」と呼んでいる箇所がある
なんか貴明が部隊の指揮を執ってると、どこかの仮面の男を思い出すな。
続き、待ってます。
さっそく由真ちん呼ばわりが活用されてるなw
誰か何でもいいからネタをくれ。小説は書きたいんだがネタが出てこない。
じゃぁイルファさんの試験運用河野家編よろ
郁乃のドタバタラブコメデー!
>>627 ちょっと考えてみます。考えてみる段階だから期待しないでw
>>628 素直になれないを頑張ってラブコメにしようと思います。
やっぱそろそろADの情報出してくれないとモチベーションが上がんないよね
ADの情報がないと、新たなキャラのssが書けないね
だれかまーりゃん先輩のSSかいてー
そういや菜々子のSSとか見た事ないな
>そういや菜々子のSSとか見た事ないな
こないだ書いたがまったくの別人になったから捨てた
あんまり登場してないからキャラがわからんのだよね
口数少ないからほとんど喋ってないしな。
性格が掴めない。
そんな意味ではシルファは無口どころか全く喋らないらしいから書きやすそうではあるけどな。
最初のスレからいる者として、SSスレに閑古鳥が鳴いている状況は悲しい
というわけで、超久々に投下してみる
以下、14レス程度続くのです ↓
私が旅立つ前の、あの日の公園で、タカ坊は私を拒絶した。“タマ姉”でなく、“女”としての私を。
「タカ坊は、生涯ワタシのことを愛しつづけることを誓います。もしワタシたちが離ればなれになることになっ
ても、かならず再会して想いをそいとげることを、ここに誓います」
もしかしたら、彼は幼すぎたのかもしれない。その言葉の意味するところが理解できず、私を“タマ姉”とし
か見ることが出来ず、ついに恐慌を起こして逃げ出したのかもしれない。それは仕方のないことだった。“恋”
については女の子の方が早熟であることは、当時の私もよく理解していたはずだ。それでも、あの儀式に踏み出
したのは、タカ坊ならきっとわかってくれる。タカ坊ならば私を受け入れてくれるはず。そういった根拠のない
自信や自惚れがそうさせたのだと思う。悔しいけれど、冷静に考えてみれば、私は考えが足りなかったのだ。だ
からあんなメチャクチャな別れ方をしなければならなかったのだ。何の根回しもなく、私は直前まで“タマ姉”
として振る舞っておいてから、いきなり「好きです」と言ったところで何になろう。要するに、ただの子供だっ
たのだ、彼も、私も、あの時の想いも。
あれから、いくつもの季節がすぎた。
私はこの街に戻ってきた。それは彼に復讐するためでも、彼を笑うためでもなかった。
天が私に与えた、余白のような最後の1年。その白絹のようなページに彼──河野貴明との想い出を刻みたか
った。それより他に理由などなかった。彼を私色に染めるのもよし。他の色に染まった彼を見守るのもよし。汚
れていたなら、染め直すのもいいだろう。
出来ることなら、私色に染めたかった。再会して彼を抱きしめたとき、心の底からそう思った。背は伸びたけ
れど、彼全体を包む雰囲気、匂い、そして柔弱に見えるほどの柔らかさも、彼は何も変わっていなかった。私の
好きなタカ坊が待っていてくれたのだ。私はそう信じていた。
しかし、悲しいことに、季節はあまりに経ちすぎていた。
支援
彼がそいとげることを選んだのは、MTBを駆るショートカットの女の子だった。何があったかは知る由もな
いが、少しだけ男らしくなったタカ坊は、彼女を積極的にリードしている。彼女は憎まれ口をたたきながらも、
結局いつも一緒に戯れている。総じて見れば釣り合いが取れた、妬けるくらいに微笑ましいカップルだった。
私は彼らを祝福した。タカ坊が立派な男になったことは、“タマ姉”、つまり、彼のお姉ちゃんである私にと
っては、喜ばねばならないことであった。
でも、嫉妬がないと言えば嘘になる。彼らがふたりだけの世界で、ふたりだけのゲームに興じているのを見る
と、いつも胸の端っこをくすぐられる感じがして、私の胸を、精神を、意識を掻き乱す。気がつけば、私はふた
りに背を向けている。祝福すべき現実は見たくない。矛盾に気づくと、私は平静を装ってその場から立ち去る。
やがて、笑みさえ浮かべながら駆け出している。くすぐる何かを振り払うために。“女”であることを忘れるた
めに。“タマ姉”であることを取り戻すために。このみ、雄二、このみの友だち、誰でもいい。お願い、早く私
の前に現れて。私を醜い“女”から“タマ姉”に戻して……。
祝福すべき現実は見たくない。
祝福すべき現実は見たくない。
祝福すべき現実は、見てはならない。
“タマ姉”(または“タマお姉ちゃん”、“お姉さま”)の私は、何かのたびに人の尻を叩いて叱咤するし、
そう出来てしまう。しかし、向坂環という“女”の私は、現実を拭い去るために妄想の中へ逃げ込むことしか出
来ない。もしかしたら、私は、己が作り上げた虚像がいかに脆い物か、女としていかにつまらない存在であるか、
それを思い知るために戻ってきたのかもしれない。私は卑怯だ。卑怯者だ。自嘲は何も生み出さないし、無意味
だってことはわかっているはずなのに、私はありとあらゆる罵言を思い浮かべ、自分で自分を嬲る。
向坂環という“女”は、そうして自らを慰めてきた。あのふたりのキスを見てから、ずっと、ずっと……。
「明晰夢?」
タカ坊のクラスメイトの少女と話しているとき、そんな言葉が飛び出した。
「ええ。ご存じないですか?」と、彼女は訊いた。
「はっきりとした夢……? 見た夢をハッキリと覚えていて、自分の体験としている……そんな感じかしら?」
「さすがですね」と、黒髪の娘は笑った。「夢を見つつも、自分の意識はハッキリしている状態です。それが夢
であることを自覚すら出来て、自分が望んだ通りの行動をとることだって出来るんですよ」
「ふぅ〜ん。例えば、空を自由に飛びたいな、と思ったら?」
「もちろん、自由に飛べます。空を飛ぶ夢って、見たことありますか?」
「あるにはあるけど」と、私は言った。「翼もなく浮いているような状態でね。旋回しようにも、慣性に引っ張
られて上手く曲がれないのよ。姿勢を制御出来ないまま宇宙遊泳をしているみたいで、あまり気持ちのいいもの
ではなかったわね」
「それは、心の何処かに『自分は自由ではない』っていう意識があって、それがそのようにさせているのかもし
れませんね」
私は何も言わなかった。
彼女の言う通りかもしれない。私は、自分で自分を“タマ姉”という器に押し込めている……。
「あっ、ごめんなさい」と、彼女は恐縮して謝った。「差し出がましいことを言ってしまったみたいで……」
「いいのよ。気にしていないわ」私は手を振って言った。「それで、その“明晰夢”のことなんだけど……」
私は彼女から、明晰夢を見やすくなる方法をいくつか聞き出した。訊いたときも、熱心に教えを請うていると
きも、私の意識の陰にはいつもタカ坊の姿がちらついていた。
私も、タカ坊に逢える。フリーの、真っ白なままのタカ坊に逢えるのだ。
明晰夢を見るポイントはいくつかあるが、一番大事なことは「見た夢をすぐに思い出す」こと。目覚めてから
すぐ、夢日記を書くといいらしい。もちろん彼女も実践していて、少しだけ見せてくれた“くずかごノート”は
妄想としか思えないようなポエムな出来事に充ちていた。私は朝が早いから、ジョギングの時間を少しだけ削れ
ば、実践は明日からでも可能だろう。
そして、「明晰夢への意識を高める」こと。見たい夢や、逢いたい人、行きたい場所。そういう夢想で心を満
たし、明晰夢を見たい、明晰夢を見るんだ! と真剣に願う。そして、眠る直前に全部忘れる。これがポイント
らしい。この境地に達すれば、暗闇の隙間に灯るほんの小さな光からでも、夢の世界が宇宙創造ビッグバンさな
がらに想像できるという。これは、今からでも実践可能だった。
タカ坊。タカ坊。柔らかなタカ坊。懐かしい匂いのするタカ坊。私の望むすべてのタカ坊。今夜、私の元へい
らっしゃい。
私の望む、すべてのタカ坊……。
・
・
・
私とタカ坊は、児童公園でふたり、正面から向きあっていた。あのお別れの儀式のときと、同じ構図だった。
違うのは、私もタカ坊も、今現在の姿であるということ。
茜の空の下で、私はタカ坊と手を重ね合わせた。そして、彼の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「タカ坊は、生涯ワタシのことを愛しつづけることを誓います。もしワタシたちが離ればなれになることになっ
ても、かならず再会して想いをそいとげることを、ここに誓います」
私は怖かった。タカ坊は再び私を拒絶して、走り去ってしまわないだろうか、と。でも、私は信じた。成長し
た今のタカ坊なら、聞くだけでもいい、私の言葉に耳を傾けてくれて、正面から受け止めてくれるはずだと。
タカ坊はあの日みたいに逃げなかった。彼は私を真っ直ぐに見つめ、この儀式が冗談でも遊びでも気の迷いで
もないことを理解してくれた。彼は微笑んだ。
「俺は、生涯タマ姉のことを愛しつづけることを誓います。もし俺たちが離ればなれになることになっても、か
ならず再会して想いをそいとげることを、ここに誓います」
私たちは、誓いの口づけをした。私はタカ坊に身体を預けた。多少鼻がぶつかっても構わずに、私はタカ坊の
唇を求めた。口が触れては離れるたびに、ふたりの唾液が糸を引いた。舌を絡めた。それは別の生き物のように
私の舌に絡まり、求めては離れ、探り合い、また激しく絡み合った。そして、どんなスイーツよりも甘い唾液を
私に注ぐ。私は歯の裏を舐める。小さくても、ゴツゴツして、たくましく生えそろった歯。愛おしい。タカ坊も、
私の唾液をじゅるっ、ちゅるるっと音を立てて吸う。「ふはっ」と、熱気を帯びた吐息がかかる。キスだけでこ
んなに興奮するなんて。激しい鼓動が抑えられない。
理屈なんかどうでもいい。彼が、タカ坊が欲しい……!
いつの間にか、私たちは寝室にいて、お互い生まれたままの姿になっていた。どうやって、どんな話をしなが
らここに来たのか、福をどのように脱いだ、もしくは脱がせてもらったのか、それともタカ坊は私が脱がせてあ
げたのだろうか……。
(これって、結構重要な場面なのに……)
彼を求めるあまり、重要な過程をすっ飛ばしてしまった自分に腹が立った。
でも、もう引き返せない。引き返さない。
私たちは再び口を吸い合いながら、お互いの肉体の感触を楽しみあった。
私はタカ坊の顔を真っ直ぐ見ながら撫で回した。そして、彼の表情が可愛らしく反応する様子を楽しんだ。彼
の身体は贅肉が付きすぎず痩せすぎず、適度に締まったタカ坊の胸、そしてお腹。首筋から背中に触れていく。
汗で濡れた指先に肌が吸い付いてくる。お尻を手のひらに包み込み、そして悪戯っぽく谷間を指でくすぐってみ
る。タカ坊は目を蕩かせて息を漏らす。とても可愛らしい。いつまでも触れていたい。
タカ坊は私の乳房を、弧を描くように愛撫する。
「タマ姉のおっぱい、とても大きいね」
「タカ坊のせいで、ここまで大きくなったのよ。男のコだもの……大きいの、好きよね?」
「ああ、大好きだよ」
指先が乳首に触れる。胸がキュッと収縮して、私は思わず声を漏らす。
「お返し」
私もタカ坊の乳首をキュッと摘む。タカ坊は「んっ」と切なく悶える。その可愛さに堪えきれず、彼の顔にキ
スの雨を降らせる。
支援……なのよ?
私のおヘソに、もうひとりのタカ坊がキスをしている。タカ坊の先端は蜜を分泌させて、“の”の字を描くよ
うに、私のお腹をまさぐっている。手で触らなくてもわかる。すごく熱い。ビクッビクッと、彼の魂が脈打って
いる。
タカ坊の愛撫は、胸からお腹、そして下腹部へ移っていった。
その時。私は自分の下腹部に異様、そう、異様としか言いようのない感覚に囚われた。タカ坊の指は、私の性
器に達しているはずだった。しかし、その感触は普通に「触る」とか「摘む」とか「拡げる」とか、そういう感
覚とは全く違うものだった。握られているのだ、明らかに。
握る? どこを?
私は、自分の下腹部に目を移した。
「きゃあああああっ!」
目に飛び込んできたものを見た途端、私は悲鳴を上げていた。
タカ坊が握っていたのは、私の、男性器だった。
すぐ隣にそそり立つタカ坊のペニスよりも長くて太い、醜悪な物体だった。
「タマ姉のペニス、とってもエッチだよ」
タカ坊は優しく言った。何の動揺もせずに。さも当然のように。
(何を言ってるのよ。驚きなさいよ。何笑ってるのよ。私、女の子なのよ。こんなのってないわよ。おかしいわ
よ。冗談じゃないわよ。これは違う。違うの。違う。違う違う違う違う違う違う、違うっ!)
この時の私は、本当にパニックになっていた。当然だ、平然としていられる方がおかしい。
「違う! こんなの違う! 違うのよぉ!」
私は首を振りながら、タカ坊を突き放そうとした。
「こんなの見ないで! 触らないで! 放して! 放して! 放しなさいっ!」
タカ坊は私のペニス(としか言いようがない)を掴み、もう一方の手で私の腰を抱きかかえている。
私はタカ坊を振り解こうとした。突き飛ばそうとした。でも、タカ坊は全く動じなかった。
「放さないよ。放すもんか」と、タカ坊は意地悪な目つきをして言った。
「私の言うことが聞けないの!?」
「嫌なら、どうしてこんなに堅くなってるんだよ? どうしてこんなにビクビクしてるんだよ?」
タカ坊は私のペニスから手を放すと、今度は私の女性器を乱暴に撫で回した。下半身に電気が走り、私は腹の
底から喘いだ。あまりに激しく、足を内股に閉じて座り込もうとしたが、彼はそれを許さなかった。私たちの動
きに合わせて、私のペニスはブルンブルンと跳ね回り、タカ坊や私の腹部を粘液で汚していった。
「見てよ」と、タカ坊は女性器を擦った手を突き出した。彼の指と指との間には、粘液が膜を張っていた。まる
で、水鳥の水かきのように。「タマ姉が出した蜜だよ。もうこんなにグチョグチョじゃないか」
「タカ坊が乱暴にするからよ。こんなタカ坊、私イヤよ」
私はいつしか涙ぐんでいた。
「嘘ばっかり」と、タカ坊は非情に言った。「いつも男らしくしろって言ってるくせに。男がリードしろって言
ってるくせに。こうして欲しかったんだろ? あの告白のときから、ずっとこうなりたかったんだろう?」
「違うわっ、違う違う違う……」
息が詰まった。
かぶりを振り続ける私を、タカ坊は強引に抱き寄せ、キスをした。今までしたどんなキスよりも強く激しく。
灼けた鉄のような舌、マグマみたいに熱い唾液が私に流れ込んでくる。私の口は狂った犬のように唾液をとめど
なく分泌し、溢れかえらせた。私たちの舌は融け合って、別のひとつの生き物になった。タカ坊の唾液が喉の奥
に滑り落ちていく。もう、どうなってもいい。そう思った。
確かに、タカ坊の言う通りだ。私はタカ坊に“男”に目覚めて欲しかった。私をも導いてくれる素晴らしい王
子様になって欲しかった。その為に随分厳しいことも言った。無理難題を言ったこともあった。そのすべては、
このときを迎えるためではなかっただろうか。私を乗り越えたタカ坊は、ペニスを生やした“女”ですらない私
を受け入れ、しかもリードするだけの器量を持った王子様になっていたのだ。喜ぶべきことであった。タカ坊は、
まさしく、私のすべてであった。
私は、自分のすべてをタカ坊に委ねた。タカ坊は私を横たえて、もう一度キスしてくれた。
「挿れるよ」
タカ坊は、私を求めてヒクヒクしているペニスを見せつけながら言った。彼の亀頭は綺麗なピンク色で宝石の
ように光を帯びていた。その先端は、金魚みたいに口を閉じたり開いたりしていて、口を開くたびに蜜が溢れる。
私に入りたくてたまらないらしい。可愛いなあ。今思えば、舌で舐って転がして堪能する絶好の機会だったのだ
が、彼とひとつになりたい一心であった私は、先を急いだ。
タカ坊は私を一息に貫いた。一度、二度、三度と、肉が裂くような痛みが下半身から脳天に走った。あまりの
激痛に身体が強張る。私は泣いた。
「大丈夫? 痛いなら、これ以上は」
「いや……やめないで……」
本心だった。私たちは、ようやくひとつになれたんだ。だから、何があっても、もう二度と引き返さない。
タカ坊はゆっくり腰を動かし始めた。動くたびに、身体の中が、肉が擦れる。粘液がじゅぶっと音を立てる。
彼の手が私のペニスに伸びる。腰を振る動きに合わせて、ペニスをキュッ、キュッと握ってくれている。握られ
るたびに、脳の後ろがキュンとする。
「タマ姉、タマ姉、すごくエッチだよ。好きだ、大好きだ」
タカ坊は私のペニスを上下にしごき始めた。ぶしゅ、ぶしゅ、ぶしゅと粘液が音を立てている。
膣からの刺激は脳を沸騰させ、ペニスからの刺激は胸を熱く膨らませた。タカ坊は、私に刺激という名のガス
を送り込んでいるのだ。身体が軽くなっていく。今なら、空だって飛べそうだ。
「好きっ、わたしも大好きっ。タカ坊のこと、もっと、もっと、好きになりたいのぉ」
タカ坊は抽送(※)を激しくする。同時に、私のペニスをも丹念に磨きあげていく。歓喜の渦が昇ってくる。
身体が融けていく。何もかも、どんなしがらみからも解き放たれて、私は自由になっていく。タカ坊が私を自
由にしてくれる。タカ坊が、“女”でなかった私を、ひとりの“女”にしてくれる。
満たされていく。無限大に、幸せで、満たされていく。
タカ坊、大好き。
タカ坊、ずっと一緒に。
タカ坊、タカ坊、タカ坊、タカ坊────。
タカ坊は、もう一度キスしてくれた。唇よりも、荒い息と流れ落ちる汗が心地よかった。タカ坊の舌は、耳た
ぶを、首筋をくすぐり、やがて私が吐き出した精液の溜まりへと達した。ちゅるちゅるっと私の精液を飲むタカ
坊は、ミルクに群がる仔猫のようだ。顔が、胸が火照ってくる。悶え死にそう。好きよ、タカ坊。
「タマ姉の精子……濃くて、すごくおいしいよ」と、タカ坊は白濁液に塗れて言った。「この中に、タマ姉がた
くさんいるんだよな。タマ姉は全部、俺のものだ。だから、俺が全部飲むんだ」
精液を舐め尽くしたタカ坊は、私の性器──男性器、そして女性器を──丹念に舐め回した。
色素が沈着して大きいばかりの醜いペニス。誰にも見せたことがなかった、肥大した花びら。タカ坊は、私の
鈴口に残る精液を飲み干し、亀頭の根本に溜まっている恥垢、そして泡状の粘液をチロチロと舌を出して、全部
舐め取ってくれた。タカ坊の一生懸命な姿は、見ているだけでとても興奮する。むず痒いような感触が拍車をか
けて、再び幸福に満たされていく。私のペニスが膨らんでいく。タカ坊が私の女の子を舐めている。おしっこが
出るところをくすぐる。血潮が沸き立つ。彼の唇が花びらを咥える。吐息と共に声が漏れる。
私は彼の髪を撫でていた。頭皮は熱く、毛の一本一本が汗にまみれていた。タカ坊は全身全霊で私を愛してく
れていた。愛おしい人。
ああっ、欲しい。欲しいよ。タカ坊のすべてが欲しい。タカ坊が欲しくてたまらない。何もかもが……。
「ねえ、タマ姉」タカ坊がささやく。「他にしたいこと、あるだろ?」
私は頷いた。タカ坊は、私の意志を忠実に反映してくれていた。
そう、私はタカ坊が欲しい。今度は、私が、タカ坊と、ひとつになりたいのだ。
私は何も言わずにタカ坊のお尻を撫でた。汗が溜まったお尻の割れ目に沿って指を這わせる。そして……。
ちゅくっ……。指先が窪みに入っていく。タカ坊が切ない声を上げる。
「私、タカ坊が欲しいの」
私は口に出してしまった。もう、後戻りは出来ない。するつもりもない。
タカ坊はコクッと頷いて、四つん這いの格好になった。タカ坊は、最初からそのつもりだったのだ。
私の鈴口を、タカ坊の菊門に重ねる。そして門の周りの花弁のように取り囲む襞、その一枚一枚に鈴口から溢
れる蜜を塗り込めていく。粘りを帯びた蜜は鈴口を包み、糸を引き、そしてまた鈴口を包み込んで濡らす。キス
してる。私のペニスとタカ坊のアナルがキスしているんだ。
タカ坊のペニスに触れてみる。菊門に分け入ろうとするたびに、彼のペニスは熱を帯びて反り返る。まるで、
水鳥がつがいを求めるように。タカ坊が吹き出す蜜は熱く、私の指の一本一本を求めて吸い付いてくる。秋に咲
く植物のような匂いが、私たちの高鳴る身体と心を優しく抱く。
たまらない。今すぐ欲しくてたまらない。今すぐ、タカ坊のすべてが欲しくてたまらない。
「タマ姉。俺、タマ姉のすべてが欲しいんだ」
タカ坊は白い吐息を漏らしながら言う。
「たかぼおっ……本当にいいの? タカ坊のこと、女の子にしていいの?」
「俺が、タマ姉を受け止める。ようやくわかったんだよ。タマ姉を受け止められるのは、俺だけだってことに。
タマ姉のこと、俺が、ずっと、ずっと、包んでいてあげるから」
もう抑えられない。タカ坊ぉ! 好き! 大好きっ!
私は、タカ坊の中に入っていった。タカ坊は切なく喘ぐ。やっぱり痛いのだろう、イヤイヤをする。目尻には
うっすらと涙を浮かべている。それでも、タカ坊はこんな私を受け入れてくれている。
タカ坊の肉の襞の一つ一つが私自身を優しく温かく出迎えてくれて、そして激しく踊ってくれる。愛おしい。
この世の誰より愛おしい。私もタカ坊の誠意に応える。腰を振る。鈴口で、肉の杖で、タカ坊の身体の中を愛撫
していく。タカ坊の指がシーツをクシャクシャに握る。
「痛いの?」
「続けてよ。大丈夫だから」
「いいの、タカ坊」
「俺は、やっとタマ姉に素直になれたんだ。ようやくタマ姉を、何のしがらみもなく受け入れられるんだ」
タカ坊も腰を動かしていた。私のペニスを求めているんだ。タカ坊の襞がキュッと締まり、私のペニスを抱き
しめる。私も思わず声を漏らす。メス猫みたいに。私は腰でタカ坊を貪りながら、手でタカ坊の身体を愛撫した。
タカ坊全体から高鳴っている血潮を、タカ坊の悦びを、私も感じ取りたかった。彼の乳首は硬く張りつめ、鼓動
は荒れ狂う波濤のよう。ペニスは私を求めて暴れまわる。
私たちの蜜は、私のペニスの根本で泡立っている。むせる匂いがますます私を酔わす。指ですくって舐めてみ
る。蟲を呼び寄せる妖花の匂いが鼻腔を突き、発酵する畜生の味が味蕾を犯す。たまらない。唇へルージュのよ
うに塗ってみる。歓喜に弾む乳房を狐を描くように汚してみる。歓喜の蜜を乳首に含める。
心が沸き立つ。狂ってゆく。私は狂ってゆく。刺激と悦びの中に、ふたりの肉体は融けてゆく。
私のヴァギナはタカ坊を求めて激しく呼吸し、餌を待つ畜生のように涎を流している。
私たちは卑しい獣だ。でも、獣でいい。今、この瞬間だけは。どこの誰にも邪魔はさせない。理性も世の理屈
も道徳も投げ捨てて、ただふたりの獣として愛を交わすのだ。
それでいい。それだけでいい。
「ああっ……たまね、タマ姉っ、たまねえっ」
「好きい! 大好きぃ! タカ坊、タカ坊ぉ、タカ坊おっ!」
私たちはお互いの名前を叫びながら、歓喜の瞬間を迎えた。
・
・
・
結局、それは自慰に過ぎない。そんなものは最初からわかっていることだった。
しかし、この切なさは、このやり切れなさはどうすればいいのだろう。
目を閉じて、心に思い浮かべようとしても、私のタカ坊はもう見えない。たくさん見てきた夢のひとつとして、
夢日記に刻まれているだけだ。
この夢を見た翌日、その次の日、そのまた次の日も、私はタカ坊に抱かれたいと願った。しかし、タカ坊は、
たとえ夢に出てきたとしても、二度と私を抱いてはくれなかった。
その代わり、何故かはわからないが、空だけは自由に飛べるようになった。
支援
一年という季節はあっという間に流れゆく。それは冬を迎えて滝のように加速し、私は卒業の日を迎えた。
卒業式では、卒業生答辞を読み上げた。転入生であった私に答辞を任せるという、ある意味暴挙に思える出来
事は、学園のみんなが私を異邦者でなく、ひとりの友人として迎えてくれたことを教えてくれた。思えば、卒業
式は幼稚園以来。私は小学校も中学も卒業式をしていないのだ。泣かない自信があった私だが、この一年で作っ
たたくさんの想い出、それが去来しただけで私の胸はいっぱいになり、声が詰まった。講堂を覆った静寂を縫っ
て、更なる想い出の渦が、私を飲み込もうとした。
その時だった。
「ガンバレッ!」
男子の声が講堂に響いた。
私は、ふと振り返った。在校生席のタカ坊と目が合った。何かを言いたげに、真っ直ぐに私を見つめていた。
あの声はタカ坊だった。私はそう信じている。
私は、涙を堪えることは出来なかった。しかし、その声援のおかげで、私の声を妨げていた静寂は取り払われ
た。私は答辞を読み上げ、任を全うすることが出来た。
短いつき合いだったクラスメイトたち、そして同輩、後輩の友人たちと記念写真を撮った。やがて、タカ坊や
雄二、このみ、彼らの友人たちがやって来た。
「涙に耐えてよく頑張った。感動した」
タカ坊は戯けて言った。
「絶対に泣かないって、言った通りになったでしょ。あそこで嗚咽してしまったらぶち壊しだもの。そのくらい
は弁えているわ」
私も笑顔で応えた。
「ウソつけよ。最後は泣き声になってたくせに。なあ言っちまえよ、ホントは鼻水をブラブラ垂らしてたんだ
ろ? うえっうぇっ、って」
雄二には、最後のアイアンクロー。最後の“お約束”だ。
記念写真と歓談の後、私はタカ坊を体育館の裏に誘った。タカ坊は拒まなかった。
「どうしたの?」と、訊くタカ坊。
「記念に……制服の第二ボタン、ちょうだい」
私は、わざとしおらしくして言った。
「待ってよ」と、タカ坊は目を丸くした。「卒業するのはタマ姉だろ? そういうのは、普通、先輩とか同級生
から貰ったりするんじゃないのか」
「いいの」と、私は彼を人差し指で制した。「タカ坊の来年の第二ボタンを先にいただいちゃおう、ってわけ」
「相変わらず強引だなぁ」と、タカ坊は苦笑した。
「先に出ていくのは私なんだから、そうするしか仕様がないじゃないの」
「でも」と、タカ坊は言った。「俺のなんかでいいの? タマ姉なら、もっと他にふさわしい男が……」
(私は、タカ坊がいいの。タカ坊じゃないとダメなの)
それはもう、言ってはならない言葉だった。
「くれるの? くれないの? イエスかノーかでお答えください」
私は、タカ坊に強引に迫った。私たちは、しばらく見つめ合った。
「いいよ」やがて、タカ坊は照れ臭そうに笑った。「この1年、タマ姉といられてとても楽しかったよ。俺も、
このみ、雄二、他の友だちだって、きっといい思い出になったはずだよ。そして、死ぬまでずっと、心のアルバ
ムに残ると思う。この俺たちの過ごした季節は」
タカ坊は第二ボタンを差し出した。それは、私の広げた手の中に収まった。真鍮のほのかな温もりがタカ坊の
体温を伝えた……。
「こらぁ、たかあき──ッ! どこにいるのよ──ッ!?」
彼の恋人の声が、窓ガラスにこだました。その瞬間、タカ坊の目が、彼女を求めて彷徨ったのを見た。
私は、ボタンを彼の鼻先に押しつけた。タカ坊は不思議そうな目をしたまま、タコみたいに顔を歪めた。
「タマ姉……? なにやってんの?」
タカ坊はボタンをお手玉しつつも、手の中にどうにか収めた。そして、節穴の目をして訊いた。
「この、甲斐性なしっ!」私は彼の頬をつねっていた。「なに、バカな気を起こしているの? こういうのは自
分の彼女に渡すものでしょう!?」
「タマ姉。俺、まだ卒業してないんだけど……」
「それじゃあ、私が証人になってあげるから、今すぐ前渡ししてきなさい! ほら、駆け足ッ!」
私は彼の尻をポンッと叩いて、彼女の元へと押し出した。
「最後まで“タマ姉”は“タマ姉”だよなぁ。はははっ」
タカ坊は苦笑いしながら、彼女の元へと駆けていった。
私は、彼の後ろ姿を見ながら、ボタンの温もりが残った手のひらに、そっと口づけをした。
向坂環という“女”は、河野貴明にとっては最初から存在しなかったのだ。でも、“タマ姉”は彼の胸に死ぬ
まで刻み込まれている。私にとっても、この瞬間、彼の言葉、ボタンの温もりは、確実に心のずっと奥深くに刻
み込まれていた。
ならばよし。それだけで十分だ。
私は、ボタンを巡ってふざけあうふたりの姿を背にして、歩き出した。
さようなら、タカ坊。
さようなら、タマ姉。
さようなら、私の青春。
誤字脱字、貼り付けミス(これはないと思うが)があったらゴメンなさい
一人称での書きやすさは異常
※ 抽送
某フランス文化用語辞典では≪「抽迭」(ちゅうてつ)が正しい≫と書いてあるが、誤り。
「抽」の意味は(向こう側から)「ひきだす」「ぬきだす」。「迭」の意味は「交替する」。意味を成さない。
「送」は文字通り(こちら側から)「おくる」の意味。これならわかる。
詳細は、館淳一氏のblogにて熟知すべし。
なぜこんなことをグダグダ書くかというと、草壁さんシナリオに「抽迭」という表現があるため('A`)
以上
| あだだだだだ!
私は生えてないわよ | yVdvWKcc0乙!!
〃  ̄ ̄ ̄ ̄|/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ヽ_/', ┌/ ̄ ̄ ニヽ, ヽ
/ ^/ , >― -- 、 /::l ,_ニヽゝ/〃〃 l l ', l l .l ∩
,' / ,' / ヽ /::::}__/`', ', `゙〃l_l.l_ll_ll_l l v l l l .l r⊂二^;
j ,' ,' ,' ,' ∧ ハ /:::::::::::::/ 'J リ'.__ !| ´リ lノヨ j l 人⊂二 )
,' ,' l l /::::', ', /:::::::::::::::\,,./`‐=、ゝ__三ヲ リ ) | ⊂二 l
,' l ! l l ノ::::::; リ|:::::::::::::::::::/ Y l ,l /N リ " ( /
! l ', ヽ!l|/ l:::ノ|ノリ \::::::::/ ∧二.<.ノV /::| {:ヽ
,' l ',\N > ,>'´ /::|_/:::::\__\|__ノ:|
,' l. l |ヾ、、_/ _,,./ /:::::::o:::::::::::::::::::::::::::::|:::::::::::::::l
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,' ト l |::::::::/ / l:::::::::::::o:::::::::::::::::::::::::::::::::::\:::::::::::l
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>>654 乙。
途中で予想外の展開になったけど良かった。
相変わらずと言うべきなのか、キャラ思考が独特すぎてついていけねえw
キャラらしさを無視した一人称って、つまり作家が好き勝手に書いてるだけだし
そら書きやすいだろうけどさあ…
一人称は書きやすくても、表現できない事が多くなる諸刃の剣
659 :
名無しさんだよもん:2007/03/28(水) 15:11:29 ID:rI4djF7TO
雄二「ああ…次はしょんべんだ」
まで読んだ。
>>657 批判するだけじゃなくて、こうしたらいいとか言えないのか?
>>660 >>657はちゃんと書いてると思うが。
もっとキャラのクセを理解しろ、っていう暗喩だろ?
キャラらしさなんてプレイした人の解釈によっていくらでも変わるんだし
自分の中でのキャラと違うってんならスルーすればいいだけのこと
スルー(笑)
なんとなく、657が批判に見えるやつは自分でもSS書いてるっぽい気がする
少しでも批判的なことを言われると思い切り凹むタイプの作家な
つーか自分の中でのキャラと違うって書くことすらNGなのかよ┐(´ー`)┌
批判っつうかただのネガティブな感想だろ
その程度の内容で批判してるつもりになってるのか
あと
>>662の一行目に対して反論しないのなら
>>663への答えは「NG」だとしか言えない
書いてる方から見ると否定的な感想でも貰える方が、少なくとも漏れはありがたい
「つまんね」だけなら煽りだと思って無視できるし、無反応が一番堪えるな
ネガティブな事言いまくって叩く事には何も言わないが、それを見て「こんな事いわれるなら俺はSS書けない」っていう思考が出て来きて、新米SS書きが消えていってしまう気がします。
とりあえず書いてくれた事には感謝せんと。ここが廃れていくのが嫌だから落としてくれた訳ですし
それにss書くのって結構大変だと思いますよ
>654
乙
>>664 熱くなりすぎ少し落ち着け
批判って書いてるのは660で、俺はそれに対して反応しただけだよ
こっちとしては感じたことを書いただけで、批判したつもりなんてないけど?
つーか
>>662の一行目に対して反論って何を言えばいいんだろう
キャラらしさはプレイした人の解釈によっていくらでも変わるって、その通りじゃん
だから俺とお前の解釈も違うわけで、んで俺の解釈では、そのキャラらしさを感じなかった
これだけの話だと思うんだが
別に意見が対立してるわけじゃないし、そもそも議論してるわけでもないのに何言ってんだ(笑)
だからそういうことはチラシの裏にでも書いとけって(笑)
漏れの場合は、当然ながら自分では「らしい」つもりで書いているけど、
読んだ人が「らしい」と思ってくれるかどうかは判らないし気になるので
「らしくない」と思ったらそういう感想をくれた方が助かるけどなあ
670 :
660:2007/03/29(木) 01:02:52 ID:upm/1u3b0
>んで俺の解釈では、そのキャラらしさを感じなかった これだけの話だと思うんだが
そのとおりなんだが、書き手は他人の解釈はわからんからそういわれてもどうしようもないわけで、
それなら具体的に指摘すべきじゃないか、って言いたかった
てか自分が書いたわけでもないのにすまん
いまさらだが654乙です
えっとね、「批判的な煽り」と「批判的な感想」は違うと思うのよ。
で、すべての読み手が的確な指摘を出来るわけでも無いのよ。
そういう時は単なる感想を垂れ流すのも意味があることだと思うな。
極端な話、面白いかツマンネかどっちかと言えば
つまらないSS(´ー`)y-'
まぁ、「俺はこう思う」の応酬をしするだけが、作品批評だと思っているなら、そういう人間は
そうとう幼稚だろうね。
小学校で習わなかった?読書感想文とは「面白い」か「面白くないか」を書くのではなく、
自分がなぜそう思ったのかを自己分析して自分の思考のトレースした結果を書くのものだ、と。
今回の場合で言えば
>>657はなぜキャラ思考が独特すぎてついていけないと「感じた」のか、
自分の感覚を自己分析して書くことが求められる。
作品批評とは、ある意味作品を語ることではなく、作品を鑑賞した自分の気持ちを
分析すること。作品単体には何の価値もない。その作品を読んでわき起こった自分の
気持ちを分析することで間接的にしか作品の価値は評価できないものなわけ。
作品批評してる気になってる人間なんていないと思うが。
>>673は、「どうしてこのスレにそんなことを書こうと思ったのか」自己分析すべき。
まあ657の感想が何の意味も無いことは確かだが。
意味があったかなかったかは作者にしかわからないと思うんだけど?
こういう話が出るといつも思うんだけど、どうして第三者が口出すんだろうね。
SSを書いた作者と、そのSSを読んだ読者、っていう一対一の関係なのになあ。
なんか「そんなこと言ったら作者さんが傷つくだろ!」的な過保護っぷりは気味が悪いよ。
書き手側から言わせてもらうと、こういうのは正直余計なお世話だわ。
擁護(っていうのも変だな)してもらっておいて、こんなことを言うのは裏切りみたいに感じるかもしれないが…。
正直同意
>>680 1.オマエの書くキャラクターは、オレが思ってるキャラクターと違うからツマンネ
2.オマエの書くキャラクターは、オレが○○と解釈しているキャラクターと違いがあるからツマンネ
どっちの感想の書き方が書き手にとってプラスになるんだ?
って話であって別に擁護したいわけではないと思うのだが…
>>682 まあ2の書き方のほうが感想とか書くとき『私はこういうキャラクターだと思っています』とか
自分の意見付けられるし、『そういう見方もあるか』と参考になったりするので2のほうが
役に立つと思う。
こういう話になると流れが速くなるのはここの宿命かなあ…
>>665 無反応は一番きついな。
「ああ、このSSは読んだ人達にとって感想を書く価値もないんだな」って
軽くへこむ。
ただ、そういうのは自分で読み返せばやっぱり何かが足りなくて
つまらないものであることが多いけど。
>>682 俺ならっていう話だが、どっちでも構わないっていうのが正直なところ。
いわゆる「感想」は、書き手(読者側)の意思が重要と思われてるっぽいけど
個人的には受け手(作者側)の受け取り方がすべてだと思うんだよね。
その例でいえば、1の書き方だろうと2の書き方だろうと、参考にできる意見が
含まれていればそれを抽出するだけだから、どっちでもいい。
まあ、
>>683が言うように2の方が役に立つって考える人が多いのはよく分かる。
でも、1は役に立たないからダメ、2のように書けっていうのは違うんじゃないか?
1が役に立つか立たないかは、作者が決めることであって、第三者があれこれ
言う問題ではないんじゃないの、ってことが言いたかった。
これは蛇足なんだけど、
>>673の言うようなカチッとした作品批評をしてくれる
読者の人に、誠実な対応をする作家ってのはホントに少ないんだよね。
誉める内容9割、批判的な内容1割って割合の感想だとしても、1割の方に目が
いく作家が圧倒的に多いっつーか…。
批判も大歓迎とか言っておきながら、いざ批判的な感想がくるとテンプレ回答
一行で返したりなw
別に批判アレルギーが悪いって言うつもりはないが、作家の中には忌憚のない
意見が欲しいって人もいるわけだから(だからこそ2chに投下してるわけだし)
批判=悪みたいに切り捨てようとするのはちょっと止めて欲しいね。
俺このスレでSSの8、9割くらい支援してんだけど
支援しておいてほとんど感想言わない
支援した人が感想しないと寂しい?
>>673 読書感想文をこう書きましょうなんて習わなかった俺は不幸なんだろうか。
感想ってのは良くも悪くも読み手の感情を強く動かした時にしか出ないもんだから、
無反応なら無反応で「ああ、俺の力が足りなかったんだな」と納得することも出来る。
個人的にはGJ、乙みたいなのが一言だけ書かれてるのが地味にきつい。
おざなりな拍手みたいで「本当に読んで言ってんのか?」と勘ぐってしまう。
なんだかんだでこのスレは一つか二つは感想付くからなあ。
自分のHPでSS公開して、数百人以上の人が来てくれたのに、一切感想無かった時なんか
思わずここに投下したくなってしまう。そんな空気書き手の愚痴。
>>685 道理だし、ごせつごもっともだな
ま、発端になってるような
>>657だって「キャラらしさを無視した一人称って…」
としっかり書いてるのに
>>660が絡んだのが問題だったみたいだし
ただ、何が言いたいかと言うと
1.具体性の欠けた批判的な感想が続くとスレの荒廃が加速するよ
2.書き手への感想でも多数の目に入るスレに投下する以上、ある程度内容に配慮しないとスレが荒れるキッカケになるよ
でも、強制するつもりも無いし自治するつもりも無い
大体この流れって廃れかかったどのSSスレでも起きるんだよなぁ…
>>688 メールだと送り難いけど、感想フォームが用意されてるなら感想付けやすいかな
この手の、感想とはかくあるべき論争も、スレの荒廃を加速させるのは往々にしてありがちなんだがなー
>>688 同意。一言感想って、なんか寂しくなるね。とりあえず言っておこうみたいに疑ってしまう(何も言われないよりはマシですが)
ま、感想を書かせるほど心に響くSSを書け、っていう真理?
>>690 まああんまり長く続くのもあれだけど、割と面白い議論ではあった。
週末だし、また新しい話が投下されるといいな。
個人サイトだとフォームでもいいけどWeb拍手が一番お手軽かも
数行程度の感想しかかけないけど…
エイプリルフールネタが出てないか見に来たけど・・・
さすがに3回目だと難しいのかな・・・
TH2SSLinksでも4月1日に出た作品は2つだけか
どっちもエイプリルフール関係ねえけど
向坂家のお風呂は広い。イルファの住む、姫百合珊瑚のマンションもイルファに珊瑚、
それに愛する瑠璃様貴明さん4人が同時に入ったって、体を動かす余裕があるくらい広い
けれど。
総檜造の向坂家のお風呂は、そんな珊瑚のマンションですら霞むほど、広くて立派だ。
そんな庶民離れしたお風呂の中にいるのは、姫百合家のメイドロボのイルファと。両親
のいない今現在、実質向坂家をとりまとめている向坂環。
数日前から、向坂家に泊まりこみのロケテストに来ているイルファ。環とは妙に気が合
うのか。それとも環が彼女のことを気に入ったのか。
こうやって、ふたりで一緒にお風呂に入っては家事のことや、学校での生活など、女同
士で他愛のない世間話に花を咲かせる。
「悪いわね、雄二の相手だけでも大変なのに、背中まで流してもらっちゃって」
「いえ。お二人をお世話するためにこちらにお邪魔をしているのですから、これくらいは
当然です。それに、環様にはいろいろ教えていただいたりしていますから。せめてものお
礼です」
「そう? ん〜、気持ち良い」
イルファに背中を流してもらって、環は体を震わせる。
そういえば誰かに背中を洗ってもらうなんて、いつ振りのことだろう。
「お湯を流しますね」
お湯を、背中に掛けられる。ボディーソープの泡が綺麗に流されて、大きく体を伸ばす。
こんなに気持ちが良くて、もうちょっとやっていてもらいたいくらいだ。
「ありがとう、イルファ。背中流すの上手ね」
「あ、ありがとうございます」
環に褒められたことが嬉しかったのか、イルファの表情も明るくなる。
「家では、あの双子の子たちのことも洗ってあげているの? こんなに気持ちいいんだか
ら二人とも喜ぶでしょ」
「それが珊瑚様はとても喜んでくださるのですが、瑠璃様も貴明さんも、恥ずかしがって
なかなかお背中を流させてくださらなくて。瑠璃様のこと、背中だけとは言わず体の隅々
だって洗って差し上げますのに」
「さすがにそこまでしちゃ、恥ずかしがって当然よ。いくら女同士だからって・・・ん?」
「私と瑠璃様の仲なんですから、そんな恥ずかしがらなくてもけっこうですのに・・・なかな
か思い通りにはなりません、はぁ・・・」
なかなか素直になってくれない瑠璃のことを思い出して、溜息をつくイルファ。一度実
際にさせてもらえれば、間違いなく喜んでもらえる自信があるのに。
そうやって一人悩むイルファを背にして、環もまた悩むことになる。イルファのいい間
違いか、それとも自分の聞き違いか。
でもそのどちらかにしては、イルファの声ははっきりと明瞭に自分の耳に届いてしまっ
たし。
「ちょ、ちょっとイルファ。なんでそこでタカ坊の名前が出てくるのよ」
「・・・・・・え?」
思わず確認せずにはいられない環。けれどイルファから返ってきた反応は、驚きでも焦
りでもなく、何かおかしい部分がありますか? なんて小首を傾げて。
何か変なことを言ったでしょうか。私が貴明さんのことをご存知だったことに驚かれた
のでしょうか? ですが先ほどからも、何度も貴明さんのお名前は出していましたし。
「貴明さんが、どうかなさいましたか?」
「だから、なんで姫百合さんの、しかも背中を流す話をしている中にタカ坊の名前が出て
くるの」
「と、申されましても・・・・・・」
こうイルファに不思議そうな顔をされたのでは、まるで自分の方が間違っている。そん
な気分になってくる。
だんだん、自信もなくなってきた。
まるでタカ坊が、イルファに背中を流させているように聞こえたけれど。きっとたぶん
それは聞き間違いで、タカ坊がよく姫百合さんの家にお邪魔しているとか、そう言う話に
違いない。
まったくタカ坊ったら、女性しかいない家に平気で上がりこむなんて。一度しっかりと
言って聞かせないとだめかしら。
けれどイルファの返答は、あっさりと環の回答を否定するようなもので。
「あ、貴明さんも、気持ち良いと言ってくださいますよ。貴明さんの背中、瑠璃様や珊瑚
様と比べるとやはり大きくて、それに逞しいですし。その分やり甲斐があると言うか。で
すが最初のうちは、私も力の加減がよくわからなくて。瑠璃様にして差し上げるように背
中をこすると、貴明さんったら変な声を上げるんです。『くすぐったいよイルファさん』な
んて」
イルファがそうやって楽しそうに、貴明の背中を流す様子を話してくれるのは結構なの
だが。環としてはとても楽しく聞き流すような気持ちにはなれなくて。
第一イルファは、例えメイドロボとは言え曲がりなりにも女性が、男性とお風呂を一緒
に入ることを問題とは思わないのか。雄二のことを例に出すまでもなく、イルファは十分
に女性として周囲からは見られていると言うのに。
「それは、確かにそうなのですが。でも、その、た、貴明さんでしたら私も恥ずかしくな
い─いえ、恥ずかしいのを我慢できるというか。貴明さんには既に一度、見られてしまっ
たことがありますし、お背中を流している最中は、貴明さんも前を向いていらっしゃいま
すから」
けれど結局は、後ろを向いたとき見られるのよね? とはわざわざ聞かない。
いっそ、人間に奉仕するのはメイドロボの役目です。くらいに答えてくれていた方がよ
ほど気が楽だった。
それをわざわざ、顔を赤らめてまで報告して。もしかしてイルファ、わざと言っている
のかしら。
それで何の得があるのかは、さっぱりわからないけれど。
「で、イルファは今までに何度くらい、タカ坊と一緒にお風呂に入っているわけ?」
「そう、ですね。5,6回ほどでしょうか。瑠璃様たちと4人で入った回数を含めれば、
もう少し増えますが」
「ああ、そう」
姫百合さんも一緒か!!
聞かなきゃよかった。
ああ、タカ坊にはどうやってお仕置きすればいいだろう。その時、ちゃんと理由も教え
てあげるべきなのかしら。
お風呂さえ広くなければ、タカ坊もそんな目に合わずに済んだのに。
終
OVAと直接の関係はありません。
見てたらムラムラ来ただけです。
乙
でも続きが見たい
乙
改行部分と句読点が気になりましたな。あと、台詞以外の文がなめらかじゃないというかなんというか
グダグダ言って申し訳ないっす(-_-;)イルファの描写はなかなかかと
天然のろけイルファさんもいい
タマ姉のお仕置きも見たいであります
向坂家のお風呂で泳ぐこのみの姿が目に浮かんだ漏れは邪道
>>706 「うわぁ〜、タマお姉ちゃんの家のお風呂、いつ見ても大きいね」
「このみ〜、そんなにはしゃぐと危ないわよ」
「うん、気をつけるよ〜」
「本当にしょうがないんだから」
ざっぶ〜ん!!
「はぁ〜、やっぱりお風呂は気持ちいいね」
「そうね。一日の疲れを癒やしてくれるって感じね」
うずうず、うずうず
「うぅ〜ん…」
「どうしたの?このみ?」
「てりゃ!」
バシャバシャ
「こ〜ら、このみ」
「えへ〜。大きなお風呂見てたら、泳ぎたくなっちゃって…」
「もう、このみったら」
こうですか?わかりません><
携帯からなんでテキトーです><
「このみ、大丈夫か?」
このみが姫百合姉妹と柱越しに応戦している。状況からして、双方に脱落者はいないようだ。2対1でやられていないのだからなかなか頑張っている様子ではある。
「あ、遅いよ〜タカくん」
「そんなに遅くないだろ」
「も〜、すごい大変だったんだから〜」
貴明の話しなど聞いちゃいない。このみは手をバタバタさせながら抗議をし始める
「珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんがすっごく強いんだよ。まるで何人もいるみたいなんだか
ら!」
「そりゃ2人なんだから強いだろ」
「違うよ、弾がたくさん跳んでくるんだよ!」
「はぁ?どーゆう」
パンッ!
――バラララッ!
「……事だ?」
「ね?たくさん跳んでくるでしょ?」
自信ありげ自分の意見が事実であることを強調する
――発射音は1回しか聞こえないのに、弾が5、6発は跳んできてる。何丁も銃を持ってるとは思えないし...。珊瑚ちゃん達は何をしたんだ?
「...これじゃあまともにやっても返り討ちにされるわ。たかあき、なんか考えなさいよ」
「無理言うなよ、そんなに軽く名案が思いつくかって」
「使えないわね〜、こうゆう時くらい活躍しなさいよ」
「じゃあ由真ならどうにかできるのか?」
「う.....うるさい!あたしはいいのよ!アンタが考えなさい!」
「なんだそりゃ。...そうだなぁ〜......」
腕を組み、首を捻りながら唸る貴明。
「わからん」
「ちょっと!もっと真剣に考えなさいよ!」
「相手がどうやってあんな攻撃をしてるのか判らないのに対策なんか考えられないって!」
パンッ!
――バラララッ!
貴明と由真の口論を制止するかのような姫百合姉妹からの攻撃。柱に必死に身を隠し、間一髪で回避するこのみ。相手に応戦しようと銃を撃つが、いつやってくるか判らない弾丸の雨にタイミングを逃している
「これじゃ反撃もできないじゃない!」
「こりゃ防戦一方になりそうだな」
「こんなのを休みなく撃たれたら負けちゃうよ」
頬を膨らまし、ご機嫌ななめなこのみ
「休みなく......ん?このみ、珊瑚ちゃん達はこの攻撃を連続でしてこないのか?」
「うん、1回撃ったら次の攻撃までちょっと間があるよ」
「そうか。.....気のせいか威力も普通の攻撃より弱いような...」
「なに、なんか判ったの!?」
身を乗り出して会話に参加しようとする由真
「いや、まだ推測だから絶対じゃないけど。...可能性の内の1つとして聞いてくれ」
貴明はアゴに手を当てながら自らの推理を話し始めた
「珊瑚ちゃん達は、連続で攻撃しないんじゃなくて、できないのかもしれない」
「...?どうして?」
全く解らないのか、このみは腕を組みながら首を捻る
「もしかしたらだけど、あの攻撃をするためには時間がかかるんだ。だから連続で撃てない」
「もし、そう思わせるための策略だったら?」
真剣な顔で疑問をぶつける由真。なかなかにするどい所をつく
「そうかもしれない。けど、そんな事をするなら普通の銃で油断させといて、至近距離で確実にあの攻撃をした方が確実だと思う。それに、あの2人は心理戦とか苦手そうだから」
柱ごしに姫百合姉妹の方を向く貴明
「それも友達だからわかる、ってやつ?」
「かもな」
由真の質問に、貴明は肩を竦めておどけてみせる
「で、タカくん。そうだとしたらどうするの?」
「ああ、1発ごとの間を利用するんだ。あの攻撃をされた瞬間に珊瑚ちゃん達に近づいて攻撃。そうすれば反撃させないでアウトにできる。いまできる作戦はこれくらいだよ」
「って事は、素早くあっちの壁の裏か横に回り込まなきゃいけないわけでしょ」
由真が姫百合姉妹がいる壁を指差す。壁の横にたどり着くには10m程の距離だが、途
「俺もそこまではなぁ....」
目が合った2人は何かの合図をしたかのように、同時にゆっくりとこのみを見つめた
「...?ほぇ?」
2人の視線の意図を理解できないこのみは拍子抜けな返事を返す。そこで、貴明がわざとらしく咳ばらいをしながら
「ごほんっ、...おめでとう!柚原このみ一等兵、君を《姫百合姉妹襲撃特別作戦》の部隊長に任命する!」
いきなり声を上げ、背筋を正しながらこのみの前に立つ。しかして一等兵で部隊長とはこれいかに
パンッ!
――バラララッ!
任命の祝福か、柱には弾の雨が浴びせられる
「え?え?」
案の定現状を理解できかねないこのみ。今回は仕方ないような気もするが
「今回の君の行動は作戦の是非に非常に影響がある。心してかかるように。返事
は!」
「り、了解であります!タカ少尉!」
ようやくノってきたか、背筋を正し敬礼を返すこのみ
「今回の作戦内容は、至極簡単!目標、姫百合姉妹に突撃し、攻撃を中止させるべし!」
「ぃ、いえっさー!」
アメリカ式まで混じる始末である
「よし、では作戦が開始されるまで待機!」
「うぃーむっしゅー!」
もう掛け声の目的すら分からなくなっていっている
「あんた、そんなノリだった?」
由真は横で呆れた表情でその光景を見続けていた
「おまえ達と一緒にいたからな。干渉されたんだよ、由真中尉」
由真に向かって冗談めかしながらの敬礼
「はいはい。少尉、あんたみたいに弱っちぃ部下はあたしみたいな優秀な上官が守ってあげるわよ」
由真もそれに答えるように、笑いながら軽く敬礼
「たのましたよ、上官」
無邪気な笑みを浮かべる貴明。その笑いには行動を楽しんでいるような節すら見える
『やっほ〜、タカちゃん。そちらはど〜ですか』
と、無線から笹森さんの突然の声。別行動中の2人からの連絡である
「ちょっと手強いかな。珊瑚ちゃん達がちょっと厄介な事をやってきててね」
腰から無線を取り、応答する
『厄介な事...ですか?』
今度は草壁さんの声。どうやら2人で無線の応答をしているらしい
「ああ。1回の攻撃で弾が何発も跳んでくるんだ。けど次の攻撃までには時間が開いているから、そこを狙って倒すつもり」
現状を極力解りやすく説明する。何故弾が何発も飛んでくるかはいまだに解らないが
『ふぅ〜ん。聞いた感じはショットガンでも使ってるみたいな風だね』
「ショットガン?」
『
支援する
なに、礼などいらぬ…
『そうそう!大変なんよ!るーこ達を見つけたまではいいんだけど、そしたら!向坂先輩を見つけちゃったの』
『不意打ちされるのが不安なので、誰かに向坂先輩を追い掛けてもらいたいんです』
もし仮に花梨達がるーこ達を攻撃すれば、意識が他に向いている隙に環に攻撃される。やられる可能性はそこまで高くは無いが、用心に越したことは無い
「そっか。このみはそっちにいけないから、俺か由真だな。由真、どうする」
「あたしがいってくるわ。あんたはこのみちゃんを助けてあげなさいよ」
「いいのか?別に俺がいっても」
「上官命令ってやつよ。.....いまどこ?..わかった、いま向かう」
おどけたような口調で命令を下す。言葉の後半は、手に持った無線に向けられていた
「そうか。お前が問題ないならいいんだけど」
「じゃね。しっかり守ってあげなさいよ!」
言うが早いが、颯爽と笹森さんたちに合流しようと駆け出していく由真
「守る...ねぇ」
「タカくん、どーかした?」
「いや、なんでもない。それじゃこのみ一等兵、用意するぞ」
「了解であります!タカ少尉!」
掛声と共に柱の端にギリギリ身を隠すように準備する。
パンッ!
――バララッ!
「いくぞっ!」
「ごー!」
弾雨の号令に合わせ、姫百合姉妹がいる壁に向かって走る2人
2人の耳には、壁の先から発せられる素早い充填音が聞こえていた。
>713
いや、礼をいわせてくれ。ありがとう!です
とりあえずどうでしょう。毎日仕事帰りの15分で作り上げました。今回はつくりにちょっと不安があるかも。投稿も携帯からだし。
話しもながくなってっちゃうし。ストーリーの独り歩きみたいな。広げた風呂敷たためるかな…
ぁー、学生時代ならもっと早くしあげれたの、にー(┰_┰)
>>710 712
ぎゃー 文が途中できれてる…。
こうゆう場合はどうしょう(-_-;)
>716
連投規制が解除されないから寝たかw
切れたのは5/6を投下しなおしてもいいし、6/6に入れてもいいんじゃない?
いずれ携帯から投稿するのは大変だから無理しなさんな。ゆっくり待ってる
>707
GJ。なんか向坂家に貴明とこのみで宿泊ってネタも良さそうだな…
>710
壁の横にたどり着くには10m程の距離だが、途中には子供向けの木馬やシーソーが設置してあり、身軽な者でなければ素早く通過できるものではない
「あたしはちょっと自信ないかも」
>712
「ショットガン?」
『うん、攻撃に使っている銃がショットガンみたいなら、弾の充填には時間がかかるはずだよ。だからタカチャンの作戦は問題ないね』
「そうか。ありがとう、ちょっと自信が出たよ。で、そっちはどう?」
『はい....それが』
言葉が濁り始める優季。そのニュアンスには不安すら感じられる
ごめんなさい。わかりにくいかもしれないけど、上を3/6に下を5/6に追加ッス
「うわぁ〜、タマお姉ちゃんの家のお風呂、いつ見ても大きいね」
「このみ〜、そんなにはしゃぐと危ないわよ」
「うん、気をつけるよ〜……あっ!!??」
私がふと目を離した瞬間に足元を取られたこのみの小さな体は大きく回転し、制御を失った頭を浴槽の縁に激しく打ち付けていた。
―――流れる湯の音が聞こえた。でも私が聞きたいのはそんなものではない。
いつもみたいに笑ってごまかしてほしかった…。
あの屈託のない笑みを浮かべてほしかった…。
「あたた…、大失敗であります」と照れ笑い見せてほしかった…。
けど…、少しづつ浴槽に貯まったお湯が淡いピンク色に変わっていく。
このみが少しづつ溶け出し、流れていく。
動かないこのみ 完
「このみ...大丈夫...だよね」
浴槽が鮮血を覚えるほど、環の中には事実が深く刻まれる
「ほら..早く起きなさいよ」
ぐったりとしたこのみの体を抱き抱える。その腕は人形のようにだらりと地面につく
「もぅ、どうしたの。しっかりなさい」
言葉とは裏腹に、覇気が見られない。目の焦点も合わず、虚ろになりかけている
「このみ、早く起きなさいよ。....ねぇ、起きてよ。このみ、起きなさい!」
肩をゆすりこのみを体を動かす。だが、無情にもその首は力を無くし、死んだ鳩のようにうなだれている
「大丈夫か、姉貴!今でかい音がしたけど。あ、チビスケもか」
浴槽の前に雄二の影が見える。異変を察知して駆け付けたのだろう
「雄二なんでもないわよ。ただこのみがおきないだけだから」
もはや棒読みのような言葉を紡ぐ環
「はぁ?風呂場で寝るなんて、まだまだガキ...」
ふと足元を見た雄二の声がとまる。浴室への扉の下から、うっすらと赤い液体が流れている
「このみがおきないだけだから ほらこのみおきなさい いつまでもねてたら」
「姉貴はいるぞ!」
バァン!
力強く扉を開いた雄二の目の前には、信じたくもない光景が広がっていた。
体の関節がだらりと垂れ、その目には光すら見えないこの
「頼むよ。このみがこんなことになっちまって、姉貴がこんなんなら、俺がバカやってるときに誰が止めるんだよ。誰に勉強を教えてもらうんだよ。...姉貴がそんなんじゃ、おれが泣けないんだよ。....それに。...あいつは、貴明は誰の胸で泣けばいいんだよぉ.....!」
とりあえず色々スマンカッタ(-_-;)
勝手に続いちゃいました
黒も改変もこのスレでは当たり前。今更何を言っとるんだコイツは?(゚д゚)
嫌ならもっと一般の方向けのサイトに行った方がいいよ^^
>>723 そうか?
自分でネタ考えて黒くするならまだしも、
他人の書いたものを元に黒い話を書くのはどうかと思うぞ。
改変とかも笑えるなら良いけど、あんま後味良くないのはどうよって気がする。
しばらくぶりに来て見たら河野家が終わってた…毎週の楽しみが……orz
おそくなりましたが作者様おつかれさまでした
気になったから言うだけなんで聞き流してくれて結構なんだが
投稿された作品に意見なんかを言うのはともかく、
それ以外のレスに意見や批判のコメントをするのはやめた方がいいと思う。
>>722 2chの書き込みに著作権は無いのだよ。(正確には2ch管理側が著作権を有する)
だからコピペ改変は当たり前。2chに書き込んだ時点でそれに同意したとみなされるの。
出た法律厨(;´Д`)
いい歳なんだから他人の気持ちを考えるくらいはしようね
>>726 放置しとけば最低限のレスで済むのに
わざわざオレみたいなのを湧かせたいのか?
もしかして
>>685の人だったらいい加減うざい
685は俺だから726は別人だな、たぶん
お前らもちつけ!!
∬∬∬∬∬∬
つ旦旦旦旦旦旦
と、
>>719を書いた俺がお茶を煎れてみる
「おかげさまで、無事合格致しました」
頭を下げた玲於奈。
雄二は、すぐには祝福できなかった。
「本当に、雄二さんのおかげですわ」
無邪気に玲於奈が続ける。
「実は、三人のうちで私が一番点数が良かったんですって」
その台詞には、雄二はピンときた。
薫子が言っていたとおり、カスミが手を抜いたのだろう。
彼女自身は、カスミに点数を合わせたのかも知れない。
「お守りの御利益があったのかも知れませんね」
そんな事情は知らない玲於奈。
嬉々とした様子。
学力で劣る自覚があるだけに舞い上がっているのか。
薫子とカスミは、珍しくニコニコしている。
環は知ってか知らずか楽しそう。いずれ、三人の合格を喜んでいるのは間違いない。
一人、複雑な表情の雄二。
「……おめでとうは、言ってくださらないんですの?」
拗ねた口調。
「あ? ああ、おめでとさん」
「なんだか、嬉しくなさそうですわね」
雄二の反応が意外だったのか、ややがっかりした表情を見せる玲於奈。
「そ、そんなこたあないぜ」
慌てて付け加える雄二。
自分の態度に、自分が一番困惑している。
玲於奈の合格を喜べない理由は、簡単。
昨朝の激励は本心からのものだったが、「一緒に卒業しようぜ」という言葉も真実だったから。
雄二もその点に自覚がないわけではない。
ただ、苦労して合格した玲於奈に言うことでもないだろうし、恥ずかしい。
だから、ふざけた。
「大体、姉貴がいなくなるのに俺が喜ばないなんて事があるもんかガガガガガガ」
アイアンクローはお約束として。
「ぐふっ、く、くくっ、この暴虐もあと一週間足らずと思えばなんのその」
少し無理矢理、唇を歪める。
「お前らにもずいぶん掻き回されたが、ようやく平穏な日々が戻ってくるというわけだ」
かかっと笑いかけた。
「そ、そういう言い方はどうかと思いますわ」
「なんだよ。喜べっていうから喜んだんだろ。文句あるかよ」
「文句とか、そういうんじゃ……」
「お前らは合格してめでたし、俺は煩いのがいなくなってめでたし。めでたしめでたしだ」
「煩いのって、そんな」
乱雑な言葉は、玲於奈にはショックだったようだ。
「それでは、あの言葉は嘘でしたの?」
「あん?」
「落ちたら一緒に卒業しようぜって、言ってくださいましたのに」
「それは……」
詰まった雄二。環と薫子が、興味深げな視線を向けているのに気づく。
「あ、あんなのは」
口から出任せ、と体面上の言葉を言い掛けて、玲於奈が悲しそうな目になるのに気づく。
「あーっ、くそっ、じゃあどうしろってんだよっ!」
逆ギレ。
「落ちれば良かったのになって、そう言えばいいのか?」
「っ! さっきから、言ってることが支離滅裂です!」
「お前だってそうだろう。妙に浮かれちまってさ」
「どうせ、カスミの温情で受かったくせに」
玲於奈の表情が強張る。
「どういう、ことですか」
「試験さ。お前を合格させるためにカスミと薫子は自分の点を落としたんだよ」
「……本当ですか、カスミ?」
……。
玲於奈に泣きそうな目を向けられたカスミは、無言で雄二に非難の目を向ける。
「薫子も?」
目を逸らす薫子。
「……そうでしたの……」
視線を床に落とす。
「確かに、滑稽ですわね」
「ああ、道化だな。少しは他人の迷惑を考えろ」
「……」
「雄二様っ!」
俯いた玲於奈。抗議の声をあげたのは薫子だったが、反応が返る前に。
「歯を食いしばりなさい、雄二」
環が雄二を殴った。
ゴキッと、かなり容赦のない音。
殴られた雄二は、床に尻餅をついている。冷ややかに見下ろす環。
「ゆ、雄二さんっ!?」
一瞬の空白の後、駆け寄ったのは玲於奈だった。
雄二の隣に屈み込んだ赤髪の少女は、さっきまでの自分の感情は忘れたよう。環を見上げる。
「お、お姉様、いくらなんでもこれは」
「……悪かった」
「え?」
耳元で謝罪の声。雄二が立ち上がる。
「お前らにも、余計な事を言ったな。とにかく、合格おめっとさん」
薫子達にも謝罪すると、雄二は四人に背を向けた。
間もなく環も去って、廊下に残された三人娘。
「……はあっ」
玲於奈は、ぺたんと壁に背をつけて溜息をつく。
その玲於奈に、薫子。
「雄二様が謝ったのなら、私とカスミも謝らなければいけませんね」
「あ……」
「試験の事は私の考えです。プライドを傷つけたのであれば、黙っていた事と併せて、申し訳ありません」
ヘコ……。
「よ、よしてください二人とも」
慌てて玲於奈が首を振る。
「私は御礼を言わなければいけない立場ですわ」
「だったら、雄二様にも怒る筋合いはありませんよ」
答えを予想していたような切り返し。
「それは、そう、思いますけど……」
唇を尖らせる玲於奈。
「なんだか、自分でも良くわかりませんわ」
もう一度首を振る。
「まあ、少し頭を冷やすことです。雄二様と喧嘩したまま、転校したくはないでしょう?」
薫子は、くすりと笑った。
一方その夜。向坂邸。雄二の部屋。
ぱさっ。
「……っきしょーめ」
忌々しげな呟きと共に、床に封筒が投げ捨てられた。
件の、コンサートのチケット。
試験が終わったら渡そうと思って、制服のポケットに入れていた。
「なにやってんだ俺は」
溜息をついて、行儀悪く机に頭を載せる。
「あだだだ」
殴られた顎が痛かった。
水曜日。春には日常的だった環・雄二・貴明・このみの登校風景。
「久しぶりね。こうやって4人で登校するのも」
「いつまでこっちにいられるの?」
「入寮は日曜日よ。土曜日に荷物を入れるから学校は休むけど、一度こっちに戻るわ」
「じゃあ、土曜日にうちで送別会だね」
「ありがと。……このみ、そんな顔しないの」
「だって、だって、タマお姉ちゃん……」
「会えなくなるわけじゃないわ」
「冬休みには、戻ってきてね」
「そうね。そうする」
「春休みもだよ。夏休みも、また一緒に海に行こうね」
「ええ、遊びにくるわ」
「絶対だよっ!」
ようやく笑顔を見せるこのみ。
「俺としては二度と戻ってこなくででででで」
「どうしたのユウくん?」
憎まれ口を叩きかけた雄二は、環に攻撃される前に顔をしかめた。
このみが首を傾げる。
「いや、ちょっと、な」
顎を抑える。まだ痛むようだ。
「「おはようございますお姉様!」」
ペコッ……。
三人娘も登場して、これも久方ぶりの全員集合。
「おはよう」
何事もなかったような環。
雄二は、バツが悪いのか、貴明の向こう側に退避。
玲於奈も環を挟んで反対側に位置取る。
「おはようございます雄二様」
声を掛けてきたのは、薫子だった。
「あ、ああ、おはよーさん」
気後れしながら挨拶を返す雄二。
「昨日は、悪かったな」
先に謝る。
「ふふっ、雄二様は本当の事を言っただけ。謝る必要はありませんよ」
薫子は、何が楽しいのか笑って否定する。
「そう言って貰えると助かるけどさ」
雄二は、ちらっと玲於奈の方に視線を向けた。
「「!」」
玲於奈もこちらを伺っていて、二人とも慌てて目を逸らす。
それを見やって薫子は。
「雄二様、明日の放課後、予定ございますか?」
そんな事を言い出した。
その、翌日の放課後。
呼び出された雄二が校門を出ると、環と三人娘が待っていた。
「雄二、さん?」
「あら、雄二も行くの?」
玲於奈と環は少し驚いた表情。
「なんだよ。俺は薫子に呼び出されただけだぞ」
「ええ、放課後ゆっくりできるのは今日が最後ですから、またカラオケでもと思いまして」
怪訝そうな雄二に、薫子が説明する。
「九条院に戻れば、外出する機会も少なくなりますので」
「それは結構だけど、なんで俺が……」
「雄二様には、色々とお世話になりましたから」
ツンツン……。
カスミが玲於奈をつっついた。
「わ、わかってますわ」
つつかれた玲於奈が、雄二の前に出る。
「雄二さん、先日は失礼しました。改めまして、お世話になりました」
私怨
「あ、いや、俺の方こそ、無神経な発言だった。悪い」
頭を下げ合う雄二と玲於奈。
「なんかちょっと、イライラしてたみたいだわ、俺」
「そうなんですか? 実は私も、なんだか落ち着かなくて。それで」
二人揃って奇遇と笑う。
それを見ていた残り三人。
「……二人とも、本当に理由が判らないんでしょうか?」
「こういう事は、自分で気がつかないとね」
コクコク……。
小声で頷き合った。
このメンバーで行く二度目のカラオケは、楽しいものだった。
環の選曲は相変わらず古かったが、前回と違って屈託がなかった。
薫子は、いつのまにかレパートリーが増えていた。
カスミが、何故か外国の国歌を歌った。
玲於奈。
「いっつまでっも〜♪」
パチパチパチパチ……
「どうですか、コーチ?」
「うし、合格」
「ありがとうございますっ!」
「SODはな。だが、ついてこれるか!」
緒方理奈メドレー。玲於奈と雄二だけでなく、皆で合唱。
その、メドレー最後のSOUND OF DESTINYの途中。
「ララ星が今ひとつ流れて……」
玲於奈が言葉に詰まる。
「どうしました?」
「いえ、その、ひくっ、あれ? おかしいですわ、っ、涙が……」
ボックスを出る頃には、玲於奈の顔はぐしゃぐしゃになっていた。
「すみません、取り乱してしまって」
「いいわよ。私もけっこう、感慨深いし」
謝る玲於奈に、自分も寂しそうな笑顔を見せる環。
「いつの間にか、暗くなるのが早くなったわね。雄二、玲於奈を送っていきなさい」
「なんでだよ」
特に異論があったわけでもないのに反射的に反論した雄二だったが。
「薫子とカスミはうちと同方向でしょ。私に夜道の一人歩きをさせる気?」
環はそれこそ理由にならないような理屈を用意した。
電車は少し混んでいて、出入口の手摺りにつかまる玲於奈と、吊革にぶら下がる雄二。
「すみません。取り乱してしまいまして」
「今に始まったこっちゃねえよ」
「あはは、確かにそうですね」
雄二の切り返しに、玲於奈は口を開けて笑った。
頬にはまだ、涙の跡がある。
「でも、おかげで判ったような気がします」
真顔に戻って玲於奈。
「何を?」
「何故、合格したのに心が穏やかでなかったのか」
雄二は玲於奈を見た。
「寂しいのですね。この学園を離れるのが」
玲於奈が視線を落とす。
しばしの間。
「楽しかったか? こっちは」
「そう、ですわね」
やや俯いたまま、目線だけを雄二に上げる。
「雄二さんも……」
ちょっと躊躇して口篭もってから、言い直す。
「雄二さんがイライラしたとおっしゃるのも、同じ理由だと嬉しいのですが」
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
電車が揺れる。
駅まで送った事はもっと多いが、一緒に乗るのは前のカラオケの帰路以来だ。
雄二の脳裏に、緒方理奈チケットを押しつけた場面が浮かぶ。
「いつぞやを思い出します」
玲於奈も、同じ連想をしたのだろうか。小さく微笑む。
その表情を見て。
雄二は、コンサートの件を話そうと思った。
「あ、そうだ」
ずっと気に掛けていたので、今思いだした、というわけでもないが、そう切り出す。
「なんですの?」
「今度の……」
そこまで言いかけて、チケットを放り出してきたことを思い出す。
別に、現物がなくとも話に支障はない筈なのだが。
「……いや、なんでもない」
雄二は、話を引っ込めてしまった。
「なんでもない事を、気になるように言わないでくださいな」
「そうだな。悪ぃ」
「そういえば、雄二さん?」
今度は玲於奈。
「あん?」
「……いえ、なんでもありません」
「おい」
お返しにからかわれたのかと思ったが、玲於奈は結構真顔。
ただ、何を気にしたのか、自分が言えなかった雄二は聞けなかった。
「まあ、明日だな」
「そうですね。明日ですね」
まだ明日があるのか、もう明日しかないのか。
自分の気持ちも定かでないが。
ともかく雄二は、明日、チケットを渡す事に決めた。
10月1日、金曜日。
環と三人娘がこの学園に通う最後の一日は、つつがなく放課後を迎えた。
「じゃあ、タマ姉、明日の夜に」
「ええ」
明日はいったん入寮した後で荷物整理に戻る予定の環。
夜の送別会は、ささやかながら盛大なものになるだろう。
「ちょっと気合い入らないけど、学校では最後だから」
お世話になりました、と頭を下げる貴明。
「ありがと。ほら、このみ、泣かないの」
「ひぐっ、えぐっ、タふぁ、おひぇえひゃん、ひぇんひへへ」
それでもやっぱり大泣きのこのみ。
「こんなにチビ助が気分出してんだから、この足で九条院に戻って二度と帰って来なくてもグェッ!」
軽口の途中で殴られる雄二。
「こ、拳は反則だぞっ!」
「握りつぶすより殴り飛ばした方が気分がいいのがわかったの。この前のでね」
「……残り時間が短くて助かったぜ」
そんなこんなで時間は過ぎて。
「じゃあ、また明日」
「なるべく、はやく、ひくっ、きてねっ、すんっ」
貴明とこのみは、先に校門を出る。
「雄二は、一緒に帰らないの?」
「ああ、ちょっと用事があってな」
具体的には玲於奈待ち。
その前に。
「向坂さん」
環の見送りに、元生徒会長の久寿川がやって来た。
「短い間だったけど、本当に、ありがとう、向坂さん」
「こちらこそ。お陰で楽しかったわ」
「これ、気持ちだけだけど」
久寿川が、一抱えもある花束を環に渡す。
「あら、ずいぶん大きな気持ちねえ」
笑いながら受け取る環。
「こんなの学校に持ち込んでいいの? 会長さん」
「もう生徒会長じゃないわ」
久寿川も微笑む。
「それもそうね。ありがとう、久寿川さん」
言い直す環。
「……その……できれば、なんだけど」
ささらはそこで、少し頬を染めた。
「ささらって、呼んで」
環は一瞬きょとんとしたが。
「じゃあ、私のことも環、ね。ささら」
ふふっと笑顔を返した。
それで、今度は泣きそうな顔になるささら。
「本当は、環ともっと一緒にいたかったのに……」
「あらあら」
花束を挟んで寄り添う二人の美少女。
「姉貴はともかく、いい絵だねえ。写真撮っていいっすか会長?」
その光景に、カメラを取り出す雄二。
「あっ、その、こ、こちらこそお、お願い」
「いつもそんなもの持ち歩いているの? まあいいけど」
久寿川が照れながら、環が呆れながら許可する。
雄二がファインダーを覗き込んだ時。
「さーりゃん! たまりゃん! お待たせっ!」
やたらめったら元気な声が現れた。
「せ、先輩!?」
ささらが単に“先輩”といったら。
「まーりゃん先輩、なんで此処に……」
環ですら頭を抱える、本名朝霧麻亜子は冗談だそうで、通称個体名まーりゃん先輩である。
「何を言うかウサギさん。さーりゃんが上から下までお世話になったたまちゃんの最期に、あたしが立ち会うのは当然じゃろて」
「さ、最期って、先輩」
「単なる言葉の綾縄掛け縛りじゃよ。たまちゃん、本当にご苦労!」
肩をばしばし。
「ど、どうも」
「できればこれからもさーりゃんの良き伴侶であってくれたまえ」
「は、伴侶はともかく」
掻き回されながらも、環がしっかりと答える。
「ずっと友人です。先輩に言われなくとも」
「向……環……さ……」
言葉に詰まる久寿川。
「それでこそタマちゃんウタちゃん死んだ筈だよナカだしカモちゃん」
先輩は環の手を取ってぶんぶん。
「じゃあ、話がまとまった所で記念写真といこーか!」
懐から取り出す「○○るんですスーパー8000」。微妙に伏せ文字2文字。
「いや、俺が撮ろうとしてたとこだったんだけど」
「お?」
雄二の言に振り向いて、手にあるカメラを観察するまーりゃん先輩。
結構高級機。
「おお?」
自分の手元にあるインスタントカメラと見比べるまーりゃん先輩。
「……」
どごっ!
居合い抜きの要領で、まーりゃん先輩は雄二を木製バットで殴り倒した。
「ふはははは、正義は常に勝つのだよ!」
「こ、向坂君!?」
「大丈夫、みね打ちである」
「どこからそんなものを……」
「バットは漢の標準装備じゃからな。そんなことより、並んだ並んだ」
構える手に雄二のカメラ。
所有者は、いつのまにか近くの茂みに隠されている。
花束抱えた環と久寿川の記念写真は、多少引きつった笑顔になった。
「「お姉様!」」
トコトコ……。
職員室で手続きをしていた三人娘が、校舎から駆けてきた。
「では、さらばじゃ!」
しゅたっ、と消え去るまーりゃん先輩。
「じゃあ、私も此処で」
三人に遠慮してか、久寿川も別れの挨拶をする。
再度、握手を交わす二人。
「すみません、遅くなりました」
最終日も、一緒に帰る約束をしていたようで、薫子が謝る。
ペコ……。
「いいのよ、こっちも色々あったから。……どうしたの、玲於奈?」
玲於奈は、きょろきょろと辺りを窺っている。
「あ、いえ、その……」
環の問いに口篭もった彼女を。
「雄二様は、先に帰られたのですか?」
薫子が代弁した。
「え゛」
環、硬直。
「あー、その、そ、そうなのよ。用事があってね、待ってたんだけど」
まさか、そこに倒れてる、とは言えず。
「そうですか……」
玲於奈はなんとも言えない表情をした。
薫子も、何故だか不本意そうだ。
クイクイ……。
カスミが、その袖を引っ張る。
「あ、そうですわね。参りましょうか」
促されて、校門に向かう四人。
「……」
玲於奈は、未練を残して振り返る。
が、校門を出た途端。
「「「「お待ちしてました!」」」」
少なからぬ人数が、環を待ちかまえていた。
「環先輩、写真をお願いします!」
「向坂さん、本当に行ってしまうのね……」
「お姉様! 最後に握手を!」
「今日は是非、帰り路をご一緒させてください!」
同級生に後輩に、入り混じって殺到する、環に憧れていた生徒達。全員、女子。
その迫力に狼狽える環。
「え? え?」
自分の人気を、自覚していなかったらしい。
とはいえ、三人娘が黙っていない。
「ちょっと! 貴方達、お姉様に触らないでくださいます!」
「お姉様の迷惑も顧みず、図々しいですわよ」
ブンブン……。
が、女生徒達も。
「貴方達は同じ学校に戻るんだからいいでしょう!」
「そうよ、いつもいつもへばりついて、お陰でアタシたちが……」
「今日くらいすっこんでなさい!」
ラストチャンスと一歩も引かない。
「なんですってえ!」
「私たちと貴方達を同列にしないでいただきましょうか」
…………。
喧々囂々。わいわいがやがや。
バス亭への坂道を下っていく大騒ぎ。
転校生、向坂環の最終下校は、なんとも賑やかにフェードアウトしていった。
2時間後。
つんつんと何かでつつかれて、目を覚ました雄二。
「っ……」
「なにやってんの、アンタ?」
「向坂くん、だいじょうぶ?」
小牧姉妹に覗き込まれる。つついたのは、郁乃の手にある木の枝だろう。
「あ、ああ……あ?」
よろよろと茂みから身を起こして、正気に返る。
「姉貴達はっ!?」
「わ、わかんないけど、たぶん、もう帰ったんじゃないかな?」
困った顔で愛佳。
郁乃が、周囲を顎で指す。
見回す雄二。
校庭は既に薄暗く、図書室に残っていた小牧姉妹が最終下校者の模様。
「マジかよ……」
呆然とする雄二の周りを、やたら秋っぽい風が吹き抜けていく。
こうして、環と三人娘は、九条院に戻った。
以上です。>739さん支援ありがとうございました
13/15が二つありますが、後者は14/15の間違いです。
間隔が空いてすみませんでした。年度末で色々せわしなくて…
次もまた間が空くかも知れません。山場になるので。終わりませんが
内容と関係ないけど、喧々囂々と侃々諤々を混同していた今日この頃
「けんけんがくがく」で変換しようとしてましたorz
750 :
名無しさんだよもん:2007/04/07(土) 21:55:33 ID:SAcuhDBF0
goo!!!!!!!!!!
いつの間にかToHeart2 SS の書庫が更新されてるけど
更新履歴とかってないのかな?
まーりゃん先輩ひでぇw。
まあ、最近の雄二はカッコ良過ぎたのでこれでいいのかも。
gj!
乙!一筋縄じゃ行かないね!終わりのながれかと思ったが、また一波!ないすてんかい
書庫の人いつも更新乙
んで、「向坂家のお風呂〜」は「イルファ他メイドロボ」にも入れた方が良いのでは
作者もいつものイルファさんSSの人だし、内容的にも環とイルファ二人のSSかと
さすがまーりゃん!僕らの外道王だぜ!!w
そんなまーりゃん先輩が貴明に動揺しちゃうようなssとかどうよ
いい提案だがその駄洒落はつまらん。
…?どこがどうダジャレ?
動揺しちゃうようなssとかどうよ(う)………?
…あ、あー。なるほど。納得
やばい。まーりゃん先輩が外道にしか見えない。
ああ、最初からか。
むろんゴッデス・オブ・卑怯(←秘境でもいいような気がする今日この頃)
むしろゴッド・オブで
まーりゃん外道すぎクソワロタwwwwwwww
外道・オブ・卑怯でいいよもう
卑怯の道から外れてるなら
正々堂々じゃねーかよ
チラシの裏がSS削除してしまった(´;ω;`)ウッ
初期から続いていたSSサイトがまた一つ減った…
,,,
( ゚д゚)つ|
すべては黒このみSS「暗闇の中で」から始まった・・・
切ない話からドタバタ、鬼畜エロまで書けるいろんな意味で貴重な存在だった
ジャンクションの最終回を俺はいつまでも待ってるぞ
・・・もう練炭を焚いちゃってるかもしれないが
俺もジャンクションの続きが気になってしょうがない
楽しみにしてるSSが更新されないってのは悲しい…
え〜、あそこのくまきちSS好きだったのに
結構たたかれてけどなんだかんだで愛されてたんだな、あそこのSS
俺もあそこのSSに巡り合ったせいでイルファさんにハマり二次創作の世界に足を踏み入れた
なんか寂しいな。ジャンクションだけでも完結させてほしい
あのSSの中でイルファさんが永遠に瑠璃と分かり合えないなんてなんか悲しいぜ
氏の作品で一番好きだったのは、くまきちでもジャンクションでもEasy Come Easy Goでもなく
BBSに書き捨ててあった愛知万博レポートという罠
Easy Come Easy Go、懐かしスw
俺は鬱病との闘病日記が面白かった。不謹慎だが。
SS書きって、精神的に虚弱体質の人が多くないか?
777get!
誰か、書かぬか
書かぬなら 自分で書こう 好きな子を
どんな人でも1本か2本は面白い小説を書けるというからな。とりあえずかいてみるんだ
HMX-17b研究所のとこ、ミルファSS更新してたね。
久しぶりだ。
研究所の影響でミルファが嫌いになった俺みたいなやつ他にいない?w
だからADは楽しみにしてるけど、AD出るまでメイドロボSSは読めないぜ
俺はミルファ好きだったけど研究所でシルファ好きになったw
誰かシルファが報われるSS書いてくれ。
>>782 俺乙w
俺もあそこの影響でミルファ嫌いになったw
代わりに郁乃とイルファとシルファがすごく好きになったが。
まああれだな、特定のキャラが大好きなのはわかるけど、
そういうSS書くときはなるべく他のキャラを出すなということだな。
ただ、あそこの場合、ちゃんとメインのキャラが誰かを読む前にわか
るようにしてくれてるので、読み進めてから感じの悪い思いをしなく
ても済むので助かると言えば助かる。
俺がミルファにいまいち萌えないのは、サイトの中の人のせいじゃないしな。
というか、あそこのSSはTH2のSSだって前もって言われないと何のSSか分からん。
キャラクター傾向のテンプレに当てはめて、話やキャラを書いてるだけだからなあ。
まああの支持率の高さを見ると、ゲームやアニメにハーレム系の話が多いのがよく分かるけど。
結局人気あるんだよな、「そういう話」って。
一番大切なのは「そういう」器で、中身ってのは意外とどうでもいいのかもしれない。
>>784 俺は逆にあそこのSSでイルファがすげー嫌いになっちまった。
なんつーかあそこのサイトのイルファはただ淫乱なだけなんだよな。
置き場のイルファもそうかもしれないけどあっちはシナリオのドタバタ具合いのおかげでまだ許容範囲だけど。
なんかこのへんのSSサイトのせいでイルファがただの淫乱キャラになってしまったのがなんとも……
まあ所詮二次創作なんだし、あんまり目くじらたてんでも。
それもそうだなw
まあSSは好き好きだけど、俺はきっと研究所の中の人が生理的に受け付けないんだろうな。
なんかこう典型的なSS作家!って感じがして、SS以外の部分でうわってなっちゃう。
周りが望んでるから頑張って書きました〜っていう言い方をやらしく感じちゃうんだよねw
>>789 藻前も読んでばかりいないで、書けばいいのに。結構難しくて面白いお( ^ω^)
>788
もうちょっとでhmX
>>787 ID違うと思うけど
>>784は俺だ。すまん、書き方が間違ってた。
あそこのサイトでミルファを嫌いになったのは間違いないんだが、
あそこのサイトで郁乃とかイルファとかシルファとかを好きになったんじゃないんだ。
この三人は別所で萌えた。俺脳内でイルファはお姉さんであって策士。淫乱なんぞ認めない。
しかしここまで研究所が酷評されてると、
>>781は作者が宣伝してるようにしか見えんのだが。
俺も研究所のSSは嫌いだなあ
今回のは読んでて不快になったし
>>789 くずかごノートも思いっきりそれっぽいよね
>>787 このへんのSSサイトのせいで、って言い方はちょいとカチンとくるなあ。
だったら「イルファはこういうキャラだ」って各々の作家が自己主張してればよかっただけじゃないか?
俺は少なくとも淫乱にゃしてねえつもりだし、そうやってひとくくりにされるのはいい気分ではないよ。
ぶっちゃけ策士系のキャラはオチに持ってきやすいから、誰も彼もがこぞってオチにイルファを持ってきたんだよな。
そもそもコレがおかしいって気づいてくれよ。
まあコレはイルファが一番分かりやすいんだけどさ。
話作りやキャラクターの確立って部分で楽をしようとした作家が、先に二次創作の場に出てたイルファのイメージを
テメエのSSにそのまま持ち込んだのが悪かったんじゃないかねえ。
後発のイルファがやりすぎ淫乱すぎだからって、その「先に二次創作の場に出てたイルファのイメージ」までそっちに
くっつけて考えられると、イメージを希釈化された気分になるんだが。
>>793 ごめん、確かに軽率な言い方だった。本当に申し訳ない。
俺が言ってた「このへん」ってのはまさしく今
>>793が言ってた後発のやりすぎてるサイトの事を指してたんだ。
策略、妄想キャラがオチに用いりやすいってのは俺も昔SS書いてたから分かってるんだが、
特定のサイトのロボSSはそれに頼るあまりキャラの偏ったイメージが誇張されてくのがなんか嫌でさ。
あとはハーレムでベタベタさせとけばとりあえずいいかみたいな傾向とか。
ちなみに置き場のイルファは俺的にはキャラ違う気がするが置き場とその作者は好きだぞ。
なんかまめに拍手に返信してるのが好印象。
長くてごめん。
この流れにSS載せられる剛の者はいるかのう……
人が少なくなったとは言え、基本的に住人の性質は変わって無いな。
趣味趣向なんて人それぞれでいいじゃん。
>>796 それを言っちゃおしまいだろ。
さすがに最低限の限度みたいなのがあるんじゃね?
今まで自分が読んだSSのなかに「良いSS」なんて代物が何本あったか思い返せば、
駄作にあたったからといって張り切って叩く無意味さを理解できるだろうよ
読む方はハズレがデフォルトでアタリを引いたら今日はついてる
書く方は自己満足できたら御の字、一人か二人GJくれたらなおラッキー、それがSSじゃね?
文句言いつつも読んでるんだな
読まなきゃ文句言えなくないかな
読まずに文句言える人はいねーよww
>>798 ただの駄作なら叩かれることすらないでしょ、実際に叩かれてる人って限られた人だけだし。
それを無意味というのなら、感想を送ることも無意味かと。実際、感想を送って意味があった試しもない。
所詮どちらも自己満足。で、それを「無意味」と割り切っちゃえるのならある意味作家向きだね。
読む方はアタリを期待して読むんじゃない?
書く方は自己満足は大前提、公開する上での最低限の礼節をわきまえたSSを書くことが最低限。
それで感想が一つでももらえたら御の字。ってとこじゃない?
SSだってファン活動なんだから、同じファンのためにすべきことってことはあると思うよ
空気読む人はSSなんて書かないだろ。
ある意味超オナニー的な行為なんだから。
作者と趣味があえばラッキー、合わなければそういうことで、
って感じで良いんじゃないかな。
たとえば俺はオリキャラが出てきたり、オリジナル設定てん
こもりってSSは嫌いなんだけど、長くSS書いている人ほどそう
いう傾向になりやすく、しかもそういうSSに一定のファンが付
いている現実を見るにつけ、「人の好みは十人十色」という
ことで片付けてる。
804 :
名無しさんだよもん:2007/04/25(水) 11:46:28 ID:JhRbIGV0O
そうやねー。
確かに空気を読むと書く元気がなくなるのは確かだわ。
しかしま、禿しくオナニーなのは書く方も自覚しとるんだが、感想貰えないのも淋しいし、かと言ってがっつり辛口批評食らえば凹むし、同人活動がんばるにはそーいうの吹っ飛ばすだけの元気というか燃料が不可欠ってことだな。
長々と何が言いたいかというと、ADマダー??
正直、どうでも良い話題をよく続けられるものだと思うんだが・・・それだけネタが無いってことか。
批評なら辞める前に本人にちゃんとここが悪いとか言おうよ・・・。
悪いって言っても治す気なかったなら、
致命的にSS嗜好が合わないだけだからスルーしとけばいいじゃん。
>>805 感想送ったことある?
悪いって言って直した人は今のところ見たことないよ
文章が良くなったってやつがいたくらい。作品に良い変化があったやつは皆無
書きたい物を書かせろって思ってるやつらに内容がよくないなんて意見は通じない
スルーすればいいってのは同意だけど、文句いうなっていうのも筋違いっしょ
もうこのスレいらねえだろ
こうまで読み手の悪意が噴出してると
仮にSS投下して「GJ」とかぱらぱら出たとしても
「こいつら本音はなに思ってっかわかんねえな」
って疑心暗鬼になるばっかりだし
そうか?
そういうのは特に気にならん方だが。
SSスレって自己主張が激しい人が居るからな。
>>806みたいに。
なんとも思わないSSにはレスつけないから安心するんだ
あんまりそういう事をgdgd言うと、投下しにくくなるんじゃないかい?
>>807 素直な感想なだけで、悪意ってわけじゃないと思うけどな。
というか、この程度で悪意とか言っていたら、アンケートとか
読めないわけで。
「つまんない」とか「空気嫁」ってのも立派な感想なわけで、
それに対して「もうちょっとオブラートに包んで」とか「もう
ちょっと具体的に」とか言っていたら、それこそみんなおざな
りに「GJ」としか言わなくなるのでは?
で、そういう反応しか返ってこないor期待していないのであれば、
わざわざ公開して反応を見る意味が無いというか、自分的にも
さっぱり成長しないわけで…。
と、結構な大会場で講演+動画をWebで公開された結果、
少しは褒められもした反面内容を叩かれまくった自分が書いてみる。
>>812 ただ、「空気嫁」「つまんない」だけじゃどこが悪いか分からんし、2〜3本ぐらい
書いてもそんな感想だけだったら、確実にここでSS書くことはなくなるだろうな。
普通にサイト運営してSS書いてるけど、最初の頃はここのスレみたいな意味も無く辛らつ
な感想貰ったけど、ある時期過ぎるとそういう感想は少なくなった。
自分に合わないSS書いてるってだけでそんな感想貰うぐらいなら、自分でサイト作って
SS書いてたほうがいいさね。キャラに対する幻想は自分の内にだけしまっててほしい。
「GJ」と「つまんない」「空気嫁」って、同程度におざなりな感想だよな
ベクトルが反対向いているだけで
>>792で出てたくずかごノートってさ、拍手の割りにヒット数少なくない?
一時になって以来ずっとある種の疑念が振り払えない
そんなもん真偽の程なんかわかりっこないから意味ないんだけど、やっぱこれってひねた考え方なんかな
いくらなんでも、それはスレ違いだろ。サイトヲチスレじゃねーんだから。
俺らに聞いて分かるはずもねーし、疑おうと思えば、全てのサイトを疑えるから切りがない。
まぁ、SSを楽しむというごく純粋な視点から見りゃ、ひねくれてるわな。
わかりっこない事を相手を卑しめるように解釈したがるんだから、
ひねてるというよりは、他人を見下す事でしか喜びを感じられない人間みたいな思考だね
逆にそれを知ってどうするの?って感じだよなw
拍手コメントを送る人なんて限られてるわけだし、くずかごに居着いた人がたまたま
コメントを送る人だったってだけだろ。
てか、そんなわかりっこないこと妄想するよりも、あるもので楽しんだ方がいいぜ。
俺が思うに、あそこはコメントのレスがSSよりおもろい。
誉め言葉の捉え方が大げさすぎて、毎回笑わせてもらってるよ。
コメント:あなたの書くメイドロボが好きです!
そのレス:私の書くメイドロボが他のSSよりも素晴らしいと言ってもらえて嬉しいです!
みたいな誇張っぷりを見て、こいつはどんだけポジティブシンキングなんだとw
人生幸せそうでいいなーと思う。
それはちょっと誇張しすぎじゃないかw
まあ、確かにあの幸せっぷりは見てて面白いな
>>815 元別サイトの投稿作家だったから、作家つながりで拍手送ってるヤツいるんじゃない?
ただの読者よりは拍手送りそうだし。
一次創作で小説書いてるから参考になるかわからんが、
自分が作品書いてる人は他の人の作品に拍手メッセージとか具体的な感想送る人が多い気がする
自分が感想欲しいから、他の人にも同じようにしようって思うのか、
それとも多少長い感想書くことを苦と思わないからかわからんけど
>>818 いつもあそこがマンセーコメントばっかに見えてた理由がわかった気がするw
作者レスのせいで錯覚起きてたんだなきっと
まあどんだけ怪しかろうと結局わかりゃしないからな
どう思ってもそういうのは胸にとどめておくのが良かったんだろう
>>817 そこまで大袈裟だとちょっと擁護っぽく見えるからよしといたほうがいいぞ
相変わらずな流れだな…
つか、この流れが慢性的に起きる現状で次スレ要るの?
ss書いてる人がいれば、ここは必要な場所だと思う。だから次スレはたてて損はない
本音を言えば、俺も、せっかく書いたのがどこにもおけなくなる....。
読む側の立場から言わせてもらうとここは存続してほしいかな。
サイト持たない作家の作品も読めるし、作品に対する他の人も感想も聞けるし。
この流れで投下できる奴がいたら尊敬するよ
ソファーに身体を深く沈めながら読書にふける。
この座り心地の良さったらない。少しぼーっとしていればすぐにでも眠気が
襲ってくるのが困ったものだ。いや、別に困らないか。
「貴明、それ何巻?」
「3巻だが」
「あれ?それじゃ6巻はどこにやったのかしら」
きょろきょろと辺りを見回すが、俺が読んでいるのと同じ装飾の表紙の
本は少なくとも郁乃の近辺には見当たらない。
「…ま、いいか。今度また探そっと」
郁乃もこのソファーから動くのが億劫なのかあっさりと諦める。
俺達が揃って読んでいるのは海外のファンタジー小説の翻訳版なのだが、
これがまた面白くてのめりこんだ。
全10巻らしいのだけど、この書庫には8巻までしか置いてなかった。
「しかし、なんでこれが書庫にあったんだ?」
本屋でも何冊も見かけた辺り、希少本というわけではなさそうだが。
その疑問に郁乃があっさりと答えてくれる。
「お姉ちゃんがたまたま読んだそれを気に入ってね、ここで暇な時に読んでたから」
「愛佳が持ち込んだのか」
机に置きっ放しなのもどうかと思い、空いていた棚のスペースに並べたという。
よく見れば他にも世界的に有名な小説…なんだっけ、確かハリーなんとか…とか、
推理小説、恋愛小説など明らかにこの書庫のものではない本が何冊も収めてあるようだ。
「あ、そこのはあたしが持ってきたやつね」
「姉妹揃ってすっかり私物化してるな、おい」
いくら利用率の低い書庫とはいえ、自分達が持ち込んだ本の保管場所に使うのはどうかと思うのだが。
「そんなのは前からでしょ」
「…言われてみればそうだった」
今更な話だ。何しろ愛佳一人でいた頃からお菓子を持ち込んだりティーセットを
置いたりしていたのだから。
そこに俺が加わり、郁乃が加わったと。…あれ、つまり俺も共犯?
「一蓮托生」
「なぜか勝ち誇った笑みで俺を捕まえるな」
もし先生にお茶してる現場を見つかったら俺が盾にされるのだろう。
きっと、いや絶対そうに違いない。
「ふわ…それにしても平和ね」
「そうだなあ」
愛佳は委員会の仕事で夕方までここに戻ってこない。
たまに乱入してくるこのみや由真も今日は来ないし、こんなに平和な時間は
久しぶりではなかろうか。
「今までが騒々しすぎたんだけどな」
「まあね」
こうして二人きりで過ごす時間というのはなかなか貴重だった。
学校でもプライベートでも騒がしい面々に囲まれて、それはそれで楽しいの
だけど、やっぱり二人だけで過ごす時間もほしいと思うわけだ。
「今日は邪魔も入らなさそうだし、夕方までゆっくりできそうだ」
「夕方までっていうのがちょっと悲しいけど」
「…それを言うな」
常に期限付きというのが泣ける。
時間や周囲のことなんて気にせず二人で過ごしていたいものだが、どうやら
そうはさせてもらえないのが俺達の宿命なのか。
「今日はここまでにしとくか」
読んでいたページに栞をはさんでテーブルの上に置く。
残りの時間は郁乃とまったり過ごすことにしよう。
「…ん」
本を置いた途端、郁乃がぽふっと俺にもたれかかってくる。
最初の頃は誰かが見ているわけでもないのにこうされるとちょっと恥ずかし
かったものだが、今は嬉しさしかこみ上げてこない。
「あー、もうちょっと静かな人生を送りたいわ」
「同感」
このみ、愛佳、由真、そしてチエちゃんやミチルちゃんに…まだ何人もいる。
俺達は自分の意思に関係なく騒がしい面々を引き寄せる性質を持っているのだろうか。
「でも…これはこれで幸せ、かな」
「それも同感だ」
郁乃を抱き寄せてさらさらした髪を撫でてやると、目を細めて嬉しそうに微笑む。
――こういう時間は本当に貴重だと思う。
好きな子と二人で過ごせる穏やかで幸せな時間。残念ながら長くは続かないけど
これからもこういう時間は大事にしたい。
「…貴明」
「ん?」
「………」
頬を赤らめながら俺を見つめてくる瞳。
その意味を察した俺は郁乃の願いに応えるべく、顔を近づけ…ようとしたが、
少し思いとどまる。
「どうしたの?」
「いや、いつものパターンだとこういう場面で邪魔されるから警戒を」
「…それもそうね」
ファーストキスを試みた一年前のあの日の出来事から、俺達の恋人的な行動は
幾度となく外部からの干渉によって阻まれ続けてきた。
今までデートやらキスやらがあまりできていないのは、俺達が奥手であるという
以上に外的要因が多すぎるからだ。
「廊下には…誰もいないな」
「窓の外にも誰も見えないわよ」
キスひとつするだけでここまで警戒しなければならないとは。
ある意味、由真以上に不幸を背負っているのかも。
「今度こそ、大丈夫…かな?」
「たぶん」
これだけ注意してても誰かが来るんじゃないかというドキドキ感と、
お互い未だに慣れきれてないキスに対するドキドキ感が入り混じる。
さっきの体勢に戻ってもなかなか動けないのが情けない。
「…ふふ」
「な、なんだよ」
「別にディープキスとかするわけじゃないんだから、思い切ってさっと
やっちゃえばいいじゃない」
「デ、ディ…」
さすがにそこまではやったことがないが、そういう単語が出ると余計に
ドキドキするじゃないか。…したくなってしまうから。
「…したいの?」
「な…何を?」
「あ、や…その、貴明なら嫌…じゃないし」
耳まで真っ赤になって、しかも俺の服の袖をつかみながら小声で呟くその
仕草がやばいくらいに可愛すぎるものだから、俺の心臓の鼓動は破裂しそうな
くらいに速くなっていた。
「い、いいのか?」
「す…するなら早くしないと誰か来るわよ」
き、許可が出たから…い、いいんだよな?
だけどいざとなるとやっぱり動けない。ああ、俺の意気地なしっ!
「ちょっと落ち着いたら?」
「…そ、そうだな」
落ち着いたら?と言う郁乃も落ち着いてはいない。
袖を握っている小さな手が震えているのだ。…こういう時に俺がちゃんと
しないと郁乃をさらに不安がらせるだけだよな。
「あ――」
さっきと同じように郁乃を優しく抱いて髪を撫でてやる。
不思議なもので、こうしていると俺まで落ち着いてくる。
「ん…」
まだ郁乃の手は俺の服の袖を握ったままだけど、震えは止まっていた。
「大丈夫か?」
「うん…もう、平気」
改めてお互いを見つめる。
さっきまでの緊張は消えて、今はただ郁乃への愛しさだけが残っていた。
「郁乃…」
「貴明――」
お互いに顔を近づけながら目を閉じる。
無理にディープキスなんてすることもない。軽いキスでも、ただこうして
触れ合えるだけでも俺達は通じ合っているんだと感じられる。
(何ヶ月ぶりだろうな…)
(すごく久しぶりかもね)
言葉にはしていないけど、お互いにそんな会話を心の中で交わす。
そして、二人の唇の距離は長い時間を越えてようやく触れ合う――
「お待たせ〜!やっと終わったよお〜」
そう思った途端に邪魔が入るのは、やはり俺達の宿命なのか。
「あ、あれ?」
抱き合った俺達を見て固まる愛佳。
もう何度見たことか、この場面。
「愛佳」
「は、はい?」
「…たま〜に、お前がタイミングを見計らって入ってきてるんじゃないかと
思う時があるんだが」
「同じく」
もはやこれは神業の領域だ。
「や、や、いいんだよ?恋人同士なんだから人目なんて気にせずにほら、
ちゅ〜っと」
「「できるかあ――っ!」」
こんな宿命は勘弁してくれ、ほんとに。
480K超えたんで流れ無視で締め代わりに短めの郁乃SSを一本。
郁乃エンド想定で約一年後の話。
こんな流れで投下できるなんてあなたは勇者だ
寝る前にいいもん読めた。
>>832の勇気ある行動に敬意を表するわ。
じゃあトリは久しぶりに春夏さん凌辱SSを頼むわ
>>832 郁乃かわいいよ、郁乃。
しかし、それ以上に貴方は勇気ある神だw
>>835 そちらは、別の意味での勇者が必要だなw
つーか、いつもスレの流れが悪くなったときに投下してくれる人だよな!
ホント神だぜ…。
普段は授業中に手を挙げないのに、先生が
「この問題は難しいけど解ける人いるかなあ〜?」
って言ったときだけ手を挙げるみたいな感じで感動した!
反応薄いな。しかも行動に反応してSSについては誰も触れないのか
>>832 技術的に上手いとか、作家の良さとかが見えるわけじゃないけど
それなりに上手く書けてるって感じかな
SSをたくさん書いてこなれてる印象がある
反面書きすぎてキャラのイメージが完全に自分の世界で確立してるのか
話の中身にキャラらしさが入ってないね。
サイト持ちだとしたらこのSSの前の世界でSSとか書いてるのかな
そういうSSを見てる人なら平気なんだろうけど、いきなり見せられると郁乃っぽくないなって思える
>>836みたいに良いと思う人もいるわけだけど、俺みたく思わない人もいるってこと
オチはいいんだけどそこに行くまでが平坦すぎるかな。もう少しテンポとかに工夫があると面白くなりそう
以上。ま、このタイミングで投下できるくらいだし
それなりに自信あるんだろうというのが納得できるくらいには上手いSSだったよ
>>832 GJ
この流れで投下するおまいに感動した
人によって批評やらなんやらいらないって人もいるだろうから細々とした感想は書かないが、
郁乃ルートがあったら後日談はこんななんだろうな、と思った
批評がいるなら要求してくれれば批評する。いらないならヌルーしてくれ
840 :
832:2007/04/28(土) 07:03:00 ID:lqe17flb0
自信があったからと言うよりはこの流れで投下したらどれだけ
ボロボロに言われるのかという怖いもの見たさからw
>>838 いくら数をこなしたところで成長してないってコトだなあorz
コレ一応続き物だけど、郁乃のキャラが全然合ってないのは理解してる。
ドラマCDとかソフト以外のものは何も持ってないし、本編以外から郁乃の
キャラというものを吸収できてたらまた違ったんだろうけど…
はっきり言われたことはないけど否定派が多いとは思う。
>>839 どの道、書き直しが必要だと思ってるので言ってもらって構わない。
841 :
839:2007/04/28(土) 17:06:18 ID:isaULFtR0
許可が出たっぽいんで、批評みたいなのを(素人意見なので間違ってたらスマソ
……と言っても、自分でわかってるっぽいんで、わざわざ言う必要もないような気がするが
まず、やっぱ郁乃のキャラ。
ゲーム本編からすると、意地っ張りな部分が強いはずなんで、そういった部分を取り入れた方がよかったかも。
尺的に意地を張らせるのが難しいなら、本編でもあったみたいな軽口の応酬とかがあると郁乃らしさが出たはず。
>>838も言ってるように全体的に平坦だから(ほのラブとか甘系なら仕方ない部分はあるけど)、
もう少し波を作ったり、邪魔されたシーンを思い出したりとかで変化を付けてやった方がいいかな。
その変化も、本編の郁乃っぽく何かしら貴明と言い合ったりしたら割と簡単に出せるんじゃないかと思う。
それと、もうちょい貴明の内面を丁寧に描写してやった方がいい(これは好みの問題なのかもしれんが)。
たとえば愛佳が入ってきたときとか、もうちょい貴明が落胆してるのを見せてやった方が効果的だろうし。
結局、SSなんだからもうちょいキャラらしさを意識して書いた方がいい、ってのに尽きるかも。
読みやすい文体だし、話のネタ自体も悪くないと思うんで、もったいない。
キャラを意識して書けば、もっと面白くなると思う。
以上、ラノベ作家目指してる人間の戯言でした
ところで
>>840ってサイト持ちだったりする?だとしたら、なんとなく誰か想像ついたかもしれない
多分俺が定期的に巡回してるサイトだわ
843 :
832:2007/04/28(土) 23:49:22 ID:lqe17flb0
>>841 サンクス。
アドバイスもらえる機会というのは自分にはなかなかないので
貴重な意見でした。
他の用事で思いのほか時間食ったので今から書き直してみる。
あと、サイトは持ってる。もう特定されてそうだけどw
>>842 スレ立て乙。そしてドンマイw
845 :
836:2007/04/29(日) 00:03:49 ID:hqO0zrJG0
>>838 ん。
まあ、郁乃らしさという点では郁乃らしくないかもしれないけど
既に出会いから1年以上を経由してるという設定らしいし、
貴明と郁乃の性格からいって、普段の生活で突っかかるような
ところは既につっかかりきって、ある意味、相手の出方がだいたい
読めてるような状態を想像してたので、さほど違和感は覚えなかった。
もちろん、肝心な部分では意地っ張りな部分を残してるとは思うが、
このような軽いSSでは、その意地っ張りな部分は顔を出す
ほどの尺はないし。
以上、全然SSなど書けない読み手オンリーの感想でした。
一番の問題は、勝手に自分の頭で補完してしまう俺の脳かもw
>>840 そんなわけで、またうpしてくださいw
梅
埋め代わりに…
くずかごノート嫌われすぎだろ…
かつてあそこまで挑発的なコメントが並んだサイトがあっただろうか
拍手送ったやつの中には、間違いなくここの住人がいると見た
あんまいじめんなよ('A`)
コメント来るだけいいじゃん。
俺は応援の気持ちで書いたんだけどな
850 :
840:2007/04/30(月) 18:10:25 ID:b3fWczcG0
>>845 また忘れられた頃に投下します(もう忘れられてるか)。
今更ながら出しゃばる必要は全然なかった気がするけど。
>>847 さすがにここまで言われたことはないな('A`)
今だから言える
俺がイカレた設定の話ばかりを書いていたのは、ネタがかぶるのを防ぐため
見たこともないようなアンソロや同人の「パクリだ」とか言われたらかなわないもの
しかし、やりすぎると激しく叩かれる諸刃の剣
新参にはお勧めしない
まあ正直キャラごとに使いやすいネタってあるからなあ。
そもそも使いやすいキャラってのもありそうだし(俺の友人は珊瑚とるーこは使い辛いと言っていた)。
いつもパクってるわけじゃなきゃそこまで目くじらたてることもないと思うんだが。
漏れは姫百合姉妹は使えない。なぜなら関西弁が書けないからw
っつーか、抵抗なく書けるヒロインがこのみと愛佳くらいだなー
たぶんこの二人は誰にとっても脇でもメインでも書きやすい2強なんじゃないかと
そして、よほど変な書き方しない限り極端な違和感は出ない……と、思う
他に郁乃も妄想し易いんだけど、この子は皆さん解釈バラバラだねー、って感じ
>>853 確かに郁乃、それからイルファさんとかも結構作家によってキャラ違ってくるな。
やっぱサブは妄想の余地が広いから作家個人の解釈が多めに入ってくるってことか。
ところで前から疑問だったんだが姫百合ファミリーのネタが多いのは人数多いとシチュが作りやすいからなの?
有名どころのサイトってだいたい姫百合ファミリーと郁乃多いよな。
ロボの話を書くなら、姫百合姉妹は必須項目
>>854 うーん、俺は作りやすいっていうより、メイドロボを書きたくてTH2のSSを書き始めたクチだからなあ。
姫百合シナリオやったとき、あんだけ美味しい伏線散りばめて回収しないことに怒りすら覚えたw
結局ADのための餌まきだったんだろうなーと今になっては感じるけどね。
郁乃に関しては某倉庫の人の郁乃が可愛かったからってのが自分でも書いた最初の理由かな。
シチュが作りやすいとかそういうのはまったくないよ。
ただ、ささらなんかはEDがあれだから、書きにくい感じではあるけど。
>>856 あれ、俺が居る。
メイドロボ、と言うか姫百合ファミリー物は書きやすかったんでよく書いてたけど
最近、俺珊瑚や俺イルファになって来てしまって困ってる。
逆に書きにくいのは愛佳かなぁ。どうも原作と雰囲気が違ってしまう。
>>857 そういう時は初心に帰って本編をプレイし直すに限る。
859 :
名無しさんだよもん:2007/05/02(水) 18:38:38 ID:5YaG9vY00
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860 :
名無しさんだよもん:2007/05/02(水) 18:40:38 ID:5YaG9vY00
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名無しさんだよもん:
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