葉鍵ロワイアル3作品投稿スレ2

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407氷川村U
「ゆかり………」
貴明たちと別れた後、数件目の民家の中で食料(主に缶詰やレトルト類)を調達中、宗一は定時放送を聞いた。

次々と報告されていった死者の名前。その中には自分のクラスメイトであり友人の伏見ゆかりの名前があった。

「…………」
その名を聞いた瞬間、宗一はただ呆然とその場でつっ立っていることしかできなかった。
醍醐と篁という自身が最も警戒していた敵たちが死んでいたことにも驚いたが、身近な者の死という衝撃の事実には勝らなかった。

宗一の脳内で学校の帰りに皐月と3人でハンバーガーショップに寄りハンバーガーを食べたことや、アイスを食べにいったあのころのゆかりとの思い出がフラッシュバックしては消えた。

(――いい奴から先に死んじまうってことか………)
あのゆかりのことだ。ゲームに乗ったとは思えない。
おそらく運悪く参加者(マーダー)と遭遇してしまったのだろう。

(俺がスタート直後から行動していれば――いや。気持ちはわかるが感情的になるな俺。感情を暴走させてしまうと次は俺が死ぬ……!)
暴走しかけた自分の心を抑えつける。
しかし、それでも「なにが世界NO.1エージェントだ。なにがNASTYBOYだ」などという自責の念がしばらくの間宗一の中に満ち溢れた。


(ゆかりは守れなかった…………だが、皐月たちはまだ生きている。
ならば、必ず守ってみせる。それがゆかりを助けられなかった俺ができるゆかりに対する償いだ………!)
新たな決意を胸に宗一は家を出た。

408氷川村U:2006/10/15(日) 00:01:58 ID:tRv3mHyqO
(食料はだいぶ揃ったし、まずは診療所に戻るとするか)
それに早く戻らないと佳乃が今度は何を言いだすかわかったもんじゃない、と思いながら宗一は診療所を目指し走りだした。
その時だった。宗一が目の前の民家の物陰から殺気を感じたのは。

「!!」
すぐさま宗一も近くの物陰に飛び込んで身を隠した。
次の瞬間には、ぱらららら…という音とともに数秒前まで宗一がいた場所に無数の弾丸が飛んできた。

(マシンガンか!)
すぐさま制服のズボンの腰にねじ込んでおいたファイブセブンを抜き取り、相手に構える。

「やめろ、俺は人を殺すつもりはない!」
まずは威嚇しつつ相手に話し掛けてみる。
話し合いが通じる相手ならば無駄に争いたくはないからだ。

「……………」
相手――太田香奈子はただ無言で宗一を見ていた。

しかし、次の瞬間にはまたしても彼女のサブマシンガンが火を吹いた。

「くっ!」
再び身を隠す。
ほぼ同時に数発の弾丸が宗一の頭をかすめた。

(――やるしかないか?)

409氷川村U:2006/10/15(日) 00:04:15 ID:tRv3mHyqO
 【場所:I−06、07境界付近】
 【時間:午後6時15分】

 那須宗一
 【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式、食料(数人分の量。缶詰・レトルト中心)】
 【状態:健康。目標・皐月たちとの合流。主催者を倒す】

 太田香奈子
 【所持品:H&K SMG U(11/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5、フライパン、懐中電灯、ロウソク(×4)、イボつき軍手、他支給品一式】
 【状態:健康。瑞穂の仇を討つ。瑠璃子を見つけて殺す。現在マーダー化中】
410間隙:2006/10/15(日) 00:12:19 ID:Zp+33B1B0

「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」

その声は突然響き渡った。
死を告げる声が、とつとつと続く。

岡崎直幸という名が呼ばれる。
その姓に古河早苗は眉をひそめた。
岡崎朋也の関係者でなければいいと、そっと祈る。
伏見ゆかりというのは、那須宗一が捜しているという人物ではなかったか。

放送が終わる。
早苗は渚の眠る部屋の扉をそっと開けると、ベッドの傍らに歩み寄り、
愛娘の寝顔を確認して胸を撫で下ろす。
渚が目を覚まさなかったのは幸いだった。
自分ですら胸の悪くなるこの放送を、優しく弱い娘に聞かせたくはない。
そんなことを考えていた早苗の背に、弱い声がかけられた。

「早苗さん……」

いつから起きていたのだろうか、霧島佳乃が不安そうな顔をして立っていた。

「今のって……」
「……ええ。この島で亡くなった方々のお名前です」
「お、お姉ちゃんと往人くんは呼ばれなかったよね? 大丈夫だよね!?」
「はい、わたしもちゃんと聞いていましたけど、お二人の名前は
 出ていませんでしたから、安心してください」
「そ、そうだよね……うん、そうだよね……ありがとう、早苗さん……」

動悸を沈めようとするかのようにシャツの胸元を握り締める佳乃。
411間隙:2006/10/15(日) 00:13:44 ID:Zp+33B1B0

「お母さん……? 何かあったの……?」
「渚……」

眠たげに目を擦りながら、古川渚が身を起こしていた。

「……何でも、ありません。ちょっとうるさくしていたから、
 起こしてしまったかしらね。ごめんなさい、渚」
「そ、そうだよ、なんでもないんだよ、ごめんね渚ちゃん」

早苗の気遣いを察したか、佳乃も調子を合わせる。
そんな二人を不思議そうに見やる渚の後ろから、鹿沼葉子が姿を見せた。

「……? 外で何かあったんですか、葉子さん」

怪訝な顔で問いかける早苗の言葉を無視して、葉子が口を開く。

「いつまで寝ている気ですか、郁未さん」
「……やれやれ、もう少しサボっていたかったんだけどね」

葉子の声に、これまで目を閉じていた郁未が苦笑する。

「あら……皆さん、起きてしまったんですね。
 まだ宗一さんは戻っていませんけど、ご飯はどうしましょうか……?」

そんな早苗の言葉など聞こえていないかのように、郁未はひとつ大きく
伸びをして立ち上がると、傍らに立てかけてあった薙刀を手に取る。

「どうしたんですか郁未さん、いま外に出るのは危険です。
 宗一さんを待つというお話でしたよね……?
 もしかして、今の放送でどなたかお知り合いの方が……」
412名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 00:14:38 ID:tRv3mHyqO
関連
→217
→226
⇔229

補足
・Jルート用、B系も篁死亡ルートなら採用OK

・Jルートは以下にチャート訂正お願いします

不採用
229、261
採用
263、265
413間隙:2006/10/15(日) 00:14:54 ID:Zp+33B1B0
またしても無視。
二度、三度と薙刀の握りを確かめるようにしながら、葉子と目配せを交わす郁未。

「―――じゃ、そろそろ始めましょうか」
「ええ。今の放送を聞いてNASTY BOYが帰ってこないとも限りません。
 早めに片付けましょう」
「郁未さん、葉子さん……?」

さすがに何かがおかしいと感じたか、早苗がそっと渚の手を引いた。
状況が見えない佳乃が、不穏な空気を感じてベッドから立ち上がり、
部屋の中央に佇む。
扉の側に陣取った郁未と葉子、ベッドを挟んで窓側に立つ早苗と渚に
挟まれるような形で、それぞれを忙しく見回す。

「え? え? どうしたのみんな、郁未さんはどっか出かけるの?
 宗一くんはどうするの、ご飯だってまだ食べて、」

佳乃の言葉は、郁未の持つ薙刀の一閃によって断ち切られていた。

「―――!」

ぱくぱくと口を開く佳乃。
声の代わりに、袈裟懸けに斬られた胸からこぽこぽと血の泡が立つ。

「うん、腕の調子も悪くない。
 ありがとう早苗さん、的確な治療だったわ」

血飛沫を上げてゆっくりと崩れ落ちる佳乃の向こう側で、

「佳乃さん……っ! 郁未さん、あなた……!」

人を殺すモノが、静かに早苗たちを見詰めていた。
414間隙:2006/10/15(日) 00:15:55 ID:Zp+33B1B0
ようやく事態を把握したのか、早苗にしがみつく渚の瞳が、
これ以上は無いほどに見開かれていく。

「いや……いや、いや、いや―――!」
「うるさいわね。心配しなくたってすぐに追いかけさせてあげるわよ」

絶叫に、郁未が眉をひそめて声を上げた。
扉を固めるように鉈を下げて立つ葉子が、そんな郁未を横目で見る。

「……郁未さん。悪人気取るのは構わないんですが、あまり周辺の
 注目を集めるのは得策ではないと思います」
「そうね。……ま、それじゃさっさと終わらせましょうか。
 ホントはもう少しあなたで遊んでみたかったんだけどね、渚さん」

そう言いながら、ゆっくりと歩を進める郁未。
優雅とも見える動きで薙刀を構えると、転瞬、一気に間を詰めるべく
駆け出す。

「さようなら……幸せなお二人さん」

渚を庇うように抱きかかえる早苗が目を閉じる暇もあったかどうか、
その背に刃が振り下ろされんとした、その瞬間。

「―――!?」

つんのめった郁未の足を掴んでいたのは、霧島佳乃の手だった。
血と汚物に塗れたその手が、早苗と渚の命を文字通り首の皮一枚で
繋いでいた。
415間隙:2006/10/15(日) 00:16:57 ID:Zp+33B1B0
それは、母としての本能だったのかもしれない。
少なくともその瞬間、古河早苗に迷いはなかった。
瀕死の霧島佳乃を殺人鬼の元へ置き去りにすることも、その足を止める
要因にはならなかった。

早苗は渚を抱いたまま、目の前の窓ガラスへ頭から飛び込んでいた。
幾つも走る鋭い痛みも、流れ出して眼に入る血も、早苗は気に留めなかった。
肩から地面に落ちた衝撃も耐えた。
背後で霧島佳乃が断末魔の悲鳴を上げるのも無視した。
あらゆる感情と感覚を噛み殺して早苗は立ち上がり、渚の手を引いて走り出す。
娘を守る。
ただその一念だけが、早苗を突き動かしていた。

殺意の追走が、背後から迫る。
416間隙:2006/10/15(日) 00:18:18 ID:Zp+33B1B0

 古河早苗
 【所持品:なし】
 【状態:頭部・顔面に裂傷多数】

 古河渚
 【所持品:なし】
 【状態:異常なし】

 霧島佳乃
 【状態:死亡】

 天沢郁未
 【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】
 【状態:右腕負傷(軽症・手当て済み)。】

 鹿沼葉子
 【所持品:鉈・支給品一式】
 【状態:異常なし】


 【時間:午後6時過ぎ】
 【場所:沖木島診療所(I−07)】
 【早苗・渚・佳乃の武器と支給品一式、宗一の水と食料は診療所内】

B−4を除くB系共通 →031 →057 →162 →216
>>402-406
こりゃまた綺麗にカブったね。ってわけで⇔270。
417知らせは銃声とともに(1/3):2006/10/15(日) 00:31:34 ID:+6TaCFKT0
 ――』


「……むにゃむにゃ」


『――


「…うるさいですねぇ、むにゃむにゃ…」


 ――――』


「…むにゃ」




「……すー、すー」







ズドォォ ーン !


418知らせは銃声とともに(2/3):2006/10/15(日) 00:33:55 ID:+6TaCFKT0

「 っ!!」
突然の異質な音に眠気は吹っ飛び、起きあがる。


ズドォォ ーン !


「わぁっ!」
あわててその場に伏せる。
この音は銃声? しかもすぐ近くだ。
逃げなきゃ…と荷物を持ってその場から駆け出そうとしたまさにそのとき!


ズドォォ ーン !


その荷物から銃声が発せられた。




「…はあ」
名倉由依は支給された携帯電話を見ながら一人つぶやいた。
「なんでメールの着信音が銃声なんですか。もっと明るい音楽とかにしてくださいよ…」

少し前に服の調達という大きな問題を解決した由依はあれから自分に与えられた支給品をチェックしていた。
その結果、地図より今鎌石小中学校という所にいるということ。また名簿から友里だけでなく、郁未や晴香といった友人たちも巻き込まれていること。
そしてこの携帯はこの島内ならどこにでも電話及びネットワークがつながるということを知ることができた。
だがここに来るまでに相当の疲労と緊張感があったせいか、そのまま眠ってしまっていたのである。
419知らせは銃声とともに(3/3):2006/10/15(日) 00:36:53 ID:+6TaCFKT0
そして銃声…もとい携帯のメール着信音によって受信したメールをいぶしげながらも確認しようとしているのだが、
「死亡者リストなんて…ふざけてませんかぁ」
メール差出人には主催者とだけ表記されていた。あらかじめこの名前が登録されているからにはいたずらではなく本当に主催者からのものなのだろう。
由依はこのメールを開くのを躊躇した。なぜならそこにもしかしたら姉や仲間の名前が刻まれているかもしれないのだから。

迷ったあげく由依はメールの開封を決意した。開封のボタンを押下すると本文が画面上に展開される。
まずはじめにこのメール及び差出人に対して返信ができないこと、そしてこのメールは朝の6時と夕方の6時に行われる放送で発表された死亡者を掲載するということが書かれていた。
そして数行の空白行が続いた後…死亡した参加者の名前が羅列されてあった。
一行一行画面をスクロールし、新たな死亡者の名前が明るみになる度に息をのむ由依。

――以上
メールはその文を最後に終わっていた。お姉ちゃんも、郁未さんたちも無事だった。だが由依は素直に安堵な気持ちにはなれなかった。
なんせこの数時間の間に10人以上もの人が亡くなっているのだ。その中にはあの血まみれになっていた女の人も含まれているのだろう。
そして残された人々、何より亡くなった人の関係者はどう思うのだろうか。

「……どうしてこんな誰も望まないことが平然と起きるんですかぁ」
由依は誰もいない空間へ向かって問いかけていた。

【時間:1日目18時20分頃】
【場所:D−06:鎌石小中学校内】
 名倉由依
 【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)、
       カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、
       荷物一式、破けた由依の制服】
 【状態:消沈気味、体力は回復。】
 
 【備考:No.169:小っちゃいってことは便利だねっの続き
      由依は放送時眠っていたので放送の内容自体は聞いていない】


問題なければ共通で。
420名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 00:43:11 ID:Um3Aqizd0
郁未みたいな虐殺厨房が知り合いにいるのにそういう反応は変じゃね?
42110:2006/10/15(日) 00:59:06 ID:IKbAE0+O0
やっっっと出来たーーー……
Iルート用珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん。
とにかく今回は凄まじく長い。
まず間違いなく回避要ると思うのでたのんます。
>>393>>399-401
それと新城さんは瑞穂を知らないという流れで行ってたり。
まとめ見て気付いたけど38で確かにみずぴー言ってた。
言ってたけど知らないということで。
422No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:03:01 ID:IKbAE0+O0

あの後可愛くむくれた珊瑚ちゃんに笑って謝って余計にむくれさせて「貴明、いじわるやー」って言われて
瑠璃ちゃんに「さんちゃん泣かすやつはウチがいてこますー!!」って言われながら蹴られて
雄二に「ちくしょおこんなときにまでらぶらぶしやがって」とか言われながら
マルチちゃんに「みなさん、仲がおよろしいのですねー」と言われつつ
新城さんに苦笑いされて「いや、うん……いいの……かな……?」とか言われるハプニングを乗り越えて
皆で手分けして家捜しをすることにした。
小さい家だ。
この人数で掛かればさして時間も掛からず終わる。
で、その結果が目の前に。
「……さて、これでどうしようか」
取り敢えず選定は後回しって事でちょっとでも役に立ちそうなものを集めてきた。
因みに食料系統は冷蔵庫。
流石にここに持ってくるのは阿呆だろう。
包丁二本まな板一枚お玉一本ボウル一つ大鍋一つフライパン二枚、良く分からないちっちゃいおもちゃが沢山、
傘三本ゴミ箱三つ目覚まし時計三つ小さい鏡が二枚に風呂場にあった嵌めてあった大きいのを外して三枚、
分厚い本が四冊にカッターナイフ一本、何故かあった木刀一本と文房具、救急セット。
持ってくるのは大変だというものも動かさないでおいた。
厚くない本が沢山、皿やナイフ、フォークも沢山、着替えも沢山、テレビ。
目に付いたのは概ねこんな所だった。
423No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:04:16 ID:IKbAE0+O0

「……このおもちゃ持って来たの、誰?」
「あ、それ私ですー」
「……なんで?」
「あの、逃げるときにとりゃ〜ってなげつければ逃げられるんじゃないかと」
「……石の代わりに位はなるか」
「でも、持ってくの大変やで?」
「そーだな。わざわざ重り持って歩くこたぁねぇか」
「あぅ〜……すみませぇん……」
「あーあー、マルチちゃん泣かないで」
「そうだぞ貴明!女の子でしかもメイドロボを泣かすとは何事か!」
「泣かしたのお前だろ……」
「この道具、どれ持ってったらいいかねぇ」
「露骨に逸らすのな」
「とにかく、包丁とカッター、木刀は要るんやない?」
「そやね。後は鏡と時計、救急セットはどやろ?」
そして遊んでる間に双子の姉妹が真面目に話を進めていく。
……ごめんなさい。
424No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:04:55 ID:IKbAE0+O0

「こうして見るとさぁ……」
「何?」
「……キッチンって、実は結構凶器が満載なんだなぁ、とか」
そうなのだ。
今回探して見つけたもの半数以上がキッチンからの道具だった。
「そーいやそうだな。キッチンは戦場だって強ち比喩じゃないかもな」
雄二は笑いながら言う。
「そーよ。女の子は大変なんだから」
「はわー、すごいですー。私、お料理が下手で……」
「あはは、まぁあたしもなんだけど……」
「かさも先とがってるから、武器になるんやない?」
「あとは……そやなぁ〜、沙織ももっとるし、フライパンもたてにならへんかなぁ」
またも遊んでいる俺達を置き去りにして進めて行く愛する姉妹達。
……本当、ごめんなさい。
「……えっと、持って行くのはさっき珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが言ってたので良いと思う。どう分けるか考えよう」
「全然考えとらんかったやん」
「……はい。返す言葉も在りません」
425No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:05:28 ID:IKbAE0+O0

「えーとな、フライパンは瑠璃ちゃんと貴明がええと思うねん」
「木刀も貴明でいんじゃね?俺こんなんつけながら木刀で戦えるとは思えねーし」
「じゃあ、あたしと雄くんが包丁かな?瑠璃ちゃん拳銃あるから」
「さんちゃんなんもないよ?だいじょぶなん……?」
「んーと、じゃあウチはこれもらう」
珊瑚ちゃんは救急セットを取る。
「マルチちゃんも何もないよね?」
「あ、はい。ないです」
「じゃあ……大鍋って盾にならないかな?」
「料理も作れるで」
「後はカッターかな。それでいい?」
「はい!」
「後は……ナイフとフォークも一人一本位在るんじゃね?」
「それと、時計と鏡」
「ああそっか。時計三つもいるか?」
「音鳴るし陽動には使えるだろ。どうする?珊瑚ちゃん」
「んーと……ウチと、貴明と、沙織……でええんとちゃう?」
「鏡は?」
「ちっこいのだけでええやろ。さんちゃんと……雄二?」
「これで全部かな」
「割とあっさり決まったね」
新城さんが伸びをする。
426名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 01:06:11 ID:pETLmbWL0
回避

ついでに質問。

Iルートは「一輪の花」、「反旗の狼煙」どっちを採用するルート?
フォローお願い。
427No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:06:12 ID:IKbAE0+O0

そして俺は瑠璃ちゃんに目配せ。
瑠璃ちゃんはかすかに頷いて、
「決めるもん決めたし、ちょっと早いけど夕食にしよ。せっかく食べもんあるんやし」
「そうだね」
「マルチ、手伝ってくれる?」
「はい、いいですよ〜」
マルチちゃんは何の疑いもなく立ち上がって、瑠璃ちゃんについていく。
……ごめん。マルチちゃん。
そして、珊瑚ちゃんたちに向き直って話す。
「おなかすいたねー」
【じゃ、この家探して気付いたこと、これからどうするか、その他口に出せないこと上げていこう】
「瑠璃ちゃん料理上手なの?すごいねー」
【さっき珊瑚ちゃん何か書きかけてたよね?あれは何?】
「瑠璃ちゃんの料理、うまうまやからきっとみんな気に入るよー」
【うん、貴明の工具セット。あれでなんとかなるかもしれへんよ】
「! そりゃ楽しみだ。瑠璃ちゃんの料理、さぞかし旨いんだろうな」
【どういうことだ? あれに何か隠れてたのか? 探した時には見つからなかったが】
「うまいよー。瑠璃ちゃん、いっつもウチに作ってくれてるんやでー。すごいやろー」
【ちゃうよ。あれで、この首輪外せると思う】
「「「!!!」」」
珊瑚ちゃんは唇に指を当てる。
何とか声を抑えて、押し黙る。
……難しい。
428No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:06:49 ID:IKbAE0+O0

って、あれ?
何話してたっけ?
うぉあ……やばい……
「凄いな。あの年でいつも作ってんのか。学校も在るだろうに」
【外せる?凄いじゃねえか。じゃあ、マルチちゃんと瑠璃ちゃん呼んでさっさと外そうぜ】
……ナイス。雄二。
「瑠璃ちゃん、早起きしてつくってくれるねん」
【ううん。まだ、あかんよ】
「あたしにはとても真似できないわ」
【何で?何か問題でも在るの?】
ガチャ
「はわっ」
「えへへ〜」
【うん。いくつかな】
「瑠璃ちゃん、何作ってくれるんだろ。まぁなんでも美味しいだろうけどね」
【一つは分かった。せっかくこうやって気付いたことを隠してるのに、いきなり外敵の無いところで首輪の反応が消えたら意味が無くなる】
「フライパン、あたしの渡せばよかったかな」
【あー、なるほど。貴くん頭いいねー】
ガシャン
「はわわっ」
「いや、別にフライパンは良いだろ。」
【すると、他にどんな問題が?】
「瑠璃ちゃんやったら、どっちでもおいしいの作れるよ」
【うん、あのな】
429No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:07:23 ID:IKbAE0+O0

ガラガラガシャーングワングワングワングワン
「あーもうええかげんにしー! キッチンが壊れるわ!」
「はわっ!ごっごめんなさいですぅ〜〜〜〜!!」
「……」
言葉も、無い。
瑠璃ちゃんにはもう少しがんばってもらおう。
そうこうしてる間に珊瑚ちゃんが書き上げていた。
【ウチの首輪が外せない。鏡見ながらやったら出来んことないかもしれんけど、すごく、あぶない】
「マルチちゃん、そういえば料理が下手って言ってたような」
【そうか。自分の首は難しいか】
「言ってたな」
【なるほどな。確かに先に誰かだけ外すってこともできねぇし。でも、どうする?】
「言ってたね」
【瑠璃ちゃんはそういうことできないの?】
「まぁ、瑠璃ちゃんが作ってくれるし。大丈夫……でしょ」
【無理。少なくとも俺達位には。珊瑚ちゃんが凄過ぎるんだよ】
「期待して待つしかない、か」
【最初、何とかなるかもしれない、って言ってたよな。何か策があるのか?】
「瑠璃ちゃんやもん。大丈夫やよ」
【うん。いっちゃんがいれば。いっちゃんやったら外し方教えれば出来ると思うねん】
430No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:08:40 ID:IKbAE0+O0

「その辺りマルチちゃん誰も信用してないのね……」
【いっちゃんってだれ?】
「いや……はは……」
【9番のイルファさんの事。珊瑚ちゃんが作ったアンドロイド】
「!!」
【珊瑚ちゃんが!?】
危うく喋る所だったようだ。
そうだよなぁ普通驚くよなぁ俺も最初驚いたし。
おーおー雄二開いた口塞がってねぇ。
「珊瑚ちゃん、これからどうしようか?」
【イルファさんを探す、で問題ない?】
「やっぱり、みんなの好きな人を探したらええと思うねん」
【うん。いっちゃんなら、多分だいじょぶやと思うねん。それに、会いたい】
そこで珊瑚ちゃんはちょっと悲しそうな顔をする。
「レーダー在るし、人は探しやすいと思うから……」
【でも、貴明たちにも会いたい人おるやろ?みんな、探せれば】
「そうだね。それが良いかな」
【そうだね。手間は変わらない】
431名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 01:09:22 ID:pETLmbWL0
もういっちょ。

フォローは感想スレで。
432No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:09:37 ID:IKbAE0+O0

未だ呆けている雄二たちの方を見て、問う。
「それで良いか?」
「うん。あたしは」
「ああ……いいぜ」
「分かった。じゃあ、珊瑚ちゃん。そうしようか」
「うん」
珊瑚ちゃんは、心なしか陰った笑顔で答えた。
ふと、雄二の方を見てみると何かを紙に書いていた。
【珊瑚ちゃん、頼む!この島を出たら俺にメイドロボを作ってくれ!】
「……」
返す言葉も見つからない。
俺はその上から二つの文字を置いた。
【却下】

433No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:10:10 ID:IKbAE0+O0

「瑠璃ちゃん、ごはんできた?」
四人で台所の方に向かった。
そこにはぐったりとした瑠璃ちゃんが。
「さんちゃん……うち、やったで……」
「瑠璃ちゃん?瑠璃ちゃん!?瑠璃ちゃーん!!」
「瑠璃ちゃん!?大丈夫!?瑠璃ちゃーん!!」
その疲れ切った顔には安らかな微笑が浮かんで……
ああ、瑠璃ちゃんが……
「そこ、馬鹿やってねぇで出来たんなら食おうぜ」
「やかまし」
しかし瑠璃ちゃんが疲れ切っているのも事実。
早く食べるのも選択肢としては悪くないだろう。
因みに、瑠璃ちゃんが疲れる原因となった少女は新城さんに慰められていた。
「マルチちゃんは食べられるの?」
「ぐすっ……いえ、むりでずぅ〜〜……」
「じゃあマルチちゃんはどうするの?」
「じゃあ……みなさんにお料理をお配りします〜」
「おおおおおおーーーーー!!!!!メイドロボの本領発揮ぃーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「お前、こんな時にまで」
「雄くん……やっぱり……」
「らぶらぶや〜」
「このヘンターイっ!!」
「ぐはっ!!」
434No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:11:00 ID:IKbAE0+O0

エキサイトした雄二の両足の間に瑠璃ちゃんの鋭い蹴りが炸裂する。
男としては……見るに耐えない。
そして後には、己の欲望に忠実足り得た漢の屍が残る。
「南無」
「死んでねぇ……」
「おお。無事か」
「……そう見えんなら……眼鏡掛けろ……」

435No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:11:31 ID:IKbAE0+O0

そんなこんなで夕餉の時間。
瑠璃ちゃん謹製のサラダに麻婆豆腐、焼き魚。
組み合わせはともかく、持ち難いもの、日持ちしないものばかり選んだ辺りも流石だ。
テーブルの真ん中に煎餅の様なおこげの様な形容し難い物体が鎮座している。
よく見ると細い麺のようなもので構成されているようであった。
……食べ物……オブジェ……どっちだろう。
ともかく、瑠璃ちゃんの美味しい料理が冷めない内に頂こう。
「いただきます」
と、みんなで言おうとした時に、それは始まった。

「――みなさん聞こえているでしょうか」

何事かと思いながら聞こえてくる声に耳を傾ける。

「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」

場が、凍る。
誰も何も言えない。
引き延ばされた時間の中。
自分の思考が今の声を理解することを拒む。
聞こえた。
憶えた。
憶えてる。
でも、分からない。
理解が、出来ない。
436No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:12:26 ID:IKbAE0+O0


「――それでは発表します」

続く放送が聞こえてきた。
その瞬間、引き延ばされた時間が戻りさっきの言葉が飲み込めた。
「ちょ……これ……」
「貴明」
珊瑚ちゃんが悲しそうな顔で俺を見つめている。
人差し指を唇に当て、ゆっくり、首を振る。
……頷き返す。
分かった。
『これ』は、聞かないといけないものだ。

「002 藍原瑞穂

007 伊吹公子

013 岡崎直幸

015 緒方理奈」
437名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 01:12:48 ID:pETLmbWL0
438No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:13:03 ID:IKbAE0+O0

これは番号順なのだろうか。
イルファさんはもう大丈夫なのだろうか。
タマ姉とこのみは大丈夫なのだろうか。
ああ駄目だちゃんと聞けちゃんと聞かないといけないものだ。

「018 柏木楓

033 草壁優季」

ガタン!
……番号順に読み上げているのかそれならもうイルファさんは大丈夫なのか
タマ姉の番号はもうすぐだタマ姉は大丈夫なのかタマ姉ならきっと大丈夫だよな
ああでもこのみはどうなんだろう上手くタマ姉や春夏さんに合流出来ているんだろうか
……あれ?
みんなどうしたんだ?俺の方なんか見て。
何でそんなびっくりした顔してるんだ?
放送聞き逃しちゃうぞ?
これはちゃんと聞かなくちゃいけないのに。
「貴……明……?」
「どうしたの?瑠璃ちゃん」
439No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:13:43 ID:IKbAE0+O0


「068 月宮あゆ

092 伏見ゆかり」

放送は続く。
タマ姉は大丈夫だ。
良かった。
「いや……どうしたって、お前が……」
「俺?」
俺がどうした?
俺がどうかしたのか?
「貴くん……泣いてる……」
「え?」
頬に手を当てる。
なんだ?これは
濡れてる
泣いてるって言ってたよな
ああ、じゃあこれは涙か
何で泣いてるんだ?
あれ?それに俺立ってる
いつの間に?
ああ、麻婆豆腐がちょっとこぼれてる。
勿体無い。せっかく瑠璃ちゃんが作ってくれたのに。
440No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:14:23 ID:IKbAE0+O0


「――以上です」

あ、放送が終わった。
まずい。途中から聞き逃してた。
どうしよう。
「貴明……草壁優季、って娘、知ってるのか?」
「? 知らないけど。どうして?」
「だってお前……」
雄二は続きを言いよどむ。
なんだってんだろう。
「貴明……じゃあ、なんで泣いてるん?」
分からない。
何で俺は泣いてるんだろう。
クサカベユウキ。
聞き覚えはない、はず。
一回や二回位は聞いたことも在るかも知れないけど、そんなの他人と変わらない。
俺は何処で泣いたんだ?
草壁優季という名前が出たときなのか?
何で知らないはずの名前で泣いているんだ?
最初から泣いていたわけじゃないんだろう?
本当に知らないのか?
忘れているだけじゃないのか?
忘れてしまうような相手に俺は泣いているのか?
でも、何で胸が痛いんだろう
あああ分からないわからない分からないワカラナイ
441No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:16:47 ID:IKbAE0+O0


あっ

「貴明……」
俺は、いつの間にか珊瑚ちゃんの腕の中にいた。
「貴明……思い出せへんの?」
俺は黙って珊瑚ちゃんの胸の中で首肯する。
「つらいん……?」
「うん……」
多分、今も未だ涙は流れているのだろう。
何だ?
何を忘れているんだ俺は?
「ムリ、せんでええよ」
「う……あ……」
嗚咽がこぼれる。
駄目だ……
分からない……
442名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 01:17:44 ID:Zp+33B1B0
ほいさ
443名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 01:17:52 ID:pETLmbWL0
444No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:18:00 ID:IKbAE0+O0

「瑠璃ちゃん」
「あ……な、なに?」
「瑠璃ちゃんも……」
珊瑚ちゃんが瑠璃ちゃんを手招く。
「……うん」
きゅっ
瑠璃ちゃんも抱いてくれる。
「貴明……」
「う……」
「なんや分からんけど、貴明がつらいのはウチらもつらいから……」
瑠璃ちゃんの声が優しく響く。
「今は、泣いてええよ」
その言葉を聴いた瞬間、俺は泣いた。
今度は、涙を流しているのが自分でも分かった。
声を殺して、双子の姉妹に抱きついて、ひたすら泣いた。
草壁優季が誰なのか、どうして俺が泣いたのか、それは分からなかったけど。
この二人がここにいて、俺を想ってくれるのは確かなことだった。

445No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:18:41 ID:IKbAE0+O0


「……落ち着いた?」
「うん……ごめん」
散々泣いて、一応の平静は取り戻した。
未だ目は赤いだろうし胸の奥は少し痛いけど、多分大丈夫だ。
草壁優季が誰かは思い出せていないけど……
「役得だな。このもて男が」
雄二が茶化す。
こればっかりは返す言葉も無い。
瑠璃ちゃんも俺の隣で赤くなっている。
「うん。だって、ウチも瑠璃ちゃんも貴明のことすきすきすきーやもん」
「……」
雄二も二の句が次げなくなっている。
「と、取り敢えず!この先どうするかもう一回話し合おう?ね!」
新城さんが拾ってくれた。
助かった。
「そうだな。状況が変わった」
雄二は新城さんに目配せした。
新城さんが頷く。
「マルチちゃん。ちょっと、さっき家の中を探した時に散らかしちゃったところ掃除しよう?」
「はい。お手伝いします〜」
……本当ごめん。マルチちゃん。
446No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:19:21 ID:IKbAE0+O0

マルチちゃんが行ったのを確認してから、さっき使っていた紙を瑠璃ちゃんに渡す。
驚いて喋らない様に唇に指を当てながら。
「!!」
やっぱり驚いた。
声は漏れなかったんだ。上等だろう。
でも一番最後のところで少し呆れて雄二の方をじと目で見ていた。
「俺は、草壁さんを知っている人を探したい。……凄く不確定であることは分かっているけど」
「そうだな。不確定だ。いるのかどうかも分からんしな。それでもか?」
「いや、ついでで良いよ。誰かに話を聞ける時に一緒に聞くくらいで」
心のもやを払うために皆を危険に合わせるなんてとても出来ない。
そうだ。大事なものは、ここに、ある。
気付けば、瑠璃ちゃんが紙に何か書いていた。
【気づいたことなら、ひとつある。この家、新しい】
「そういえば、さっきの放送途中から聞き逃しちゃったんだ。教えてくれない?」
【新しい? どういうこと?】
「あ……ウチも、途中から……」
【キッチン見てて気づいたんやけど、流しもどうぐも食器まで新品やった】
「安心しろ……っつってもいいのかわかんねぇけど、姉貴とこのみは無事だった」
【それってどういうことだ?家が新しいと何かあんのか?】
「草壁優季の後はな、椎名繭、醍醐、月宮あゆ、伏見ゆかり、古河秋生、松原葵、森川由綺って名前があった」
【ちょっと待って。もしかしたら、このために建てられた物かもしれへん、ってこと?】
447No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:19:52 ID:IKbAE0+O0

「……俺の知ってる名前は無い。無い、はずだ」
頬に手をやる。
未だちょっと泣いた後は熱いけど、新しい涙は流れていなかった。
「ウチも知ってる名前は無い」
【そこまでかんがえてなかったけど、なんやおかしいな、って】
「そうか。……良かった、な」
【じゃあ、この島はあのクソウサギ達がこれだけの為に用意したもんだってのか?】
「それでも、それだけの人が死んでるんやね……」
【かもしれへん。ウチら、ここに来るまで森の中きたんやけど、一匹も動物見んかった】
雄二も珊瑚ちゃんも沈鬱な顔。
こんな話、カモフラージュのためなんかにしたくない。
していい、もんじゃない。
「ねぇ、それよりさ。せっかく瑠璃ちゃんが作ってくれたんだから食べよう?」
努めて明るい声で言ってみた。
どれほど効果が在ったかは分からないけど。
【で、これからけっきょくどうするん?】
【皆の探し人探しでいいんじゃないか? 後は草壁優季の情報収集。レーダー頼りにしてなるべく知らない人とは会わないようにして行こう】
【悪いな。俺のは本当についででいいから】
【後は、この首輪を外した後にこの島を出る方法を考えな】
食事している時は黙っていても不自然ではないので会話が進む。
……これも会話と言うのだろうか。
448No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:20:45 ID:IKbAE0+O0

【あの兎の言っていた生き残った人を帰すって、本当だと思う?】
「「あっ!!」」
珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが同時に声を上げてしまう。
「仕方ねぇなぁ。慌てて食うからだぜ」
「あ……珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、大丈夫? 火傷しなかった?」
「うん……だいじょぶ。瑠璃ちゃんは?」
珊瑚ちゃんはすぐに気づいて相槌を打ってくれる。
「う、うん。だいじょぶ」
雄二、ナイス。
【正直、考えてへんかった】
【ウチも。あんな、今はちがうよ?ちがうけど、ほんとは、さいしょは】
【ストップ。その先は、言わなくていいよ。この島は、狂ってる。呑まれちゃう事もあるよ。大切な人がいるほど】
「貴明……」
「ん?」
「あんがと」
「いや……」
【俺もそれは考えてた。日本は法治国家だ。こんなことがばれたら何がやってるにせよ唯で済むとは思えない】
【そうだな。こんな大規模で悪趣味な犯罪やらかす奴だ。最後に残った一人を帰すか残すか。考えたくないけど】
【ここまでやる奴が最後の一人を殺すのに躊躇するとは思えねぇ。反吐が出るが、多分、な】
【だから主催者がここに何か俺達が帰る手段を用意しているとも思えない。あるとしたら】
【奴らの帰る手段だろうな。ここが何処かわかんねぇ以上泳いだり筏組んだりで帰れるとは思えねぇ】
【でも、こんな凄い武器ウチらにくれる人たちやで。多分、それ以上に準備してる】
【襲撃は無理、か】
449名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 01:20:57 ID:pETLmbWL0
450No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:21:29 ID:IKbAE0+O0

黙って食べながら解決策を考える。
しかしそう簡単に浮かぶわけも無く。
手元の麻婆豆腐が空になりそうな所で瑠璃ちゃんが何か思い出したように顔を上げた。
【そういえば、あのウサギ、人間とは思えへん人がいる、って言ってへんかった?】
暫し、呆然。
【いっとった。ある程度制限されている、って】
【でもよ。それって本当なのか?能力が制限されるってんな制限されるような能力があるってのか?漫画かよ】
【でも、もし本当でその人達が仲間になってくれて、その制限が解けたら、強力な仲間にならないか?】
【嘘だったらそん時また考えりゃいい、か】
【じゃあ、決まりか?珊瑚ちゃん、それでいい?】
【ええと思う。じゃあ、
 1.いっちゃんたちを探す
 2.帰る方法を探す
 3.(ウサギの言っとったことが本当だったら)すごい人を探して仲間になってもらう
 4.(これも本当だったら)その制限を解く
 この四つ?】
【ただし、三番は本当に信頼できると思った人じゃ無いとまずいと思う】
【そやね。すごい人がさつじんきやったらたいへんや】
【後、あんまりこれ知らない人に見せねぇ方がいいと思う。万一参加者に気付かれている事を気付かれたら最悪ドカンだ】
【それと、もう今日は遅いから、ここに泊まった方がええと思う】
【そうだな。交代でレーダー見ながら見張りを立てたほうがいいだろう】
【それでいいね。じゃあ、新城さんを呼ぼう。新城さんだけ食べてない】
451No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:22:02 ID:IKbAE0+O0

「新城ー!お前も片付けその辺にして飯食っちまえよー!」
「分かったー!」
声が返ってきて暫し、新城さんがやって来た。
マルチちゃんも連れて。
「すごいんだよー。マルチちゃん掃除はちゃんとできるの」
「はいー。おそうじは浩之さんに教えてもらいましたー」
「掃除は終わったのか?」
「ううん。あと少し」
「じゃあ俺がやるよ。マルチ、悪いけどもう少し手伝ってくれねぇか?」
「はい、もちろんです〜」
「雄くん、マルチちゃん襲っちゃ駄目だよ〜?」
「襲うかっ!」
「私、襲われるんですか?」
「襲うかっ!」
「はわっ!」
「うおわっ!悪い!」
新城さんはお腹を抱えて笑いを堪えていた。
……酷いなぁ。
452No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:22:33 ID:IKbAE0+O0

雄二とマルチちゃんがまた掃除に行ったのを確認して、新城さんに紙を渡した。
「……!」
今度はちゃんと声を堪えていた。
【意見は?】
【ない。これでいいと思う】
【それじゃ、決定で】
取り敢えず、紙は珊瑚ちゃんに渡した。
すると、瑠璃ちゃんが珊瑚ちゃんから紙を取って、何かちょっと書き加えた。
すぐに珊瑚ちゃんにその紙を返して、瑠璃ちゃんは赤くなった。
珊瑚ちゃんはちょっとそれを見て、笑顔になって瑠璃ちゃんに頷いた。
それは、一瞬しか見えなかったけど、見間違いじゃなかったらこう書いてあった。
【さんちゃん、あとでふりがなかいて】
そんな瑠璃ちゃんが凄く可愛いと思った。

453No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:23:14 ID:IKbAE0+O0

姫百合珊瑚
【持ち物:レーダー、工具セット、救急セット、目覚まし時計、鏡】
【状態:冷静、僅かな擦過傷、切り傷(手当て済み)】
姫百合瑠璃
【持ち物:シグ・サウエルP232(残弾8)、フライパン】
【状態:やや冷静、擦過傷、切り傷(手当て済み)】
河野貴明
【持ち物:モップ型ライフル、木刀、フライパン、目覚まし時計】
【状態:やや冷静、右腿に打撲】
向坂雄二
【持ち物:ガントレット、包丁、鏡】
【状態:冷静、股間に打撲】
新城沙織
【持ち物:フライパン(カーボノイド入り)、包丁、目覚まし時計】
【状態:やや冷静、健康】
マルチ
【持ち物:大鍋、カッターナイフ】
【状態:健康、掃除が出来て御満悦】
共通
【持ち物:デイパック、水、食料の補給、金属製のナイフ、フォーク】
【時間:一日目午後八時頃】
【場所:I-07の民家】
【状態:イルファたちを探す、帰る方法を探す】
454No.275 双天使:2006/10/15(日) 01:25:50 ID:IKbAE0+O0
426431437442443449感謝
455ひびが広がる(前編):2006/10/15(日) 01:30:43 ID:tRv3mHyqO
瑠璃子が沙織を慰めている姿を見ながら雄二は今の自身を呪った。

(――女にやつあたるなんて最低だな俺って………)

一応フェミニストを自負している普段の自分では考えられないことだ。
普段の自分ならば真っ先に沙織に駆け寄って、いつものノリで沙織を慰めて、ついでに女性から見た自身の男としてのレベルを上げることくらいはしていたはずだ。

(――少しずつみんな心や頭のどこかがおかしくなっていっちまうのかな?)

この島で一番重要なのは生き残ると同時に精神を強く維持することなのかもしれないと雄二は思った。
そう。人は弱いものだ。体も心も―――


「――雄二。それと、みんな……ちょっといいかな?」
「貴明?」
今度は貴明が口を開いた。

「どうしたんですか貴明さん?」
先程とは貴明の様子が少し変であることに気がついたマルチが貴明に聞いた。

「―――俺。みんなと一緒に診療所には行けない………このみたちを探さないと…………」

その言葉を聞いた瞬間、雄二が貴明に詰め寄った。

「な…なんでだよ貴明!?」
まさかおまえまで変になっちまったのか、と雄二が言おうとした瞬間、貴明が話を続けた。

「――草壁優季の……俺の知り合いの名前もあったんだ…………今の放送で…………
俺も今やっと気がついたんだけど……」
456ひびが広がる(前編):2006/10/15(日) 01:31:45 ID:tRv3mHyqO



――草壁優季。その名が放送された瞬間、貴明の脳裏にある記憶の断片が蘇ってきた。

それはまだ貴明が幼かった頃の記憶。

忘れてしまっていた。大事な記憶。

ある少年と少女の……

幼き日に誓った約束の記憶――――


 【場所:I−7】
 【時間:午後6時15分】

 河野貴明
 【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
 【状態:健康】
457ひびが広がる(前編):2006/10/15(日) 01:34:56 ID:tRv3mHyqO
 向坂雄二
 【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。困惑】

 新城沙織
 【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
 【状態:健康。やや精神衰弱】

 マルチ
 【所持品:モップ、ほか支給品一式】
 【状態:健康。困惑】

 月島瑠璃子
 【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
 【状態:健康。診療所へ行く。隙をついてマーダー化するつもり】

 【備考】
・『月島瑠璃子は微笑んでいる。』の続き
・B系デスノあり、Jルート用
・後編は後程
458忌むべき訪問者:2006/10/15(日) 02:07:14 ID:o2lzT65D0
古河秋夫は診療所へ続く道を一心不乱に走っていた。秋夫には是が非でも娘の渚や妻の早苗を守らねばならない理由があった。
先ごろ冗談で上に撃ったマグナムの一撃で、人が落ちてきた事は秋夫にもすぐ分かっていた。そして、それが物言わぬ骸となっていたことにも。
まさか人がいて、しかも死んでいたとは思いも寄らなかった秋夫は動転して思わずその場から走り去ってしまったのだが、後々になってからいかに自分が取り返しのつかないことをしてしまったのかと後悔していた。
拳銃を使って自殺するのは簡単だった。しかし今ここで自分が死ねば、誰が娘や妻を守れるのか。愛する者を守るためにも、秋夫はまだ死ぬわけにはいかなかったのだ。
せめて、無事に妻子が脱出できるまでは。俺を許してくれ、お嬢ちゃん。
息が切れそうなほどの全力疾走。自分の心臓の音以外は、何も聞こえていなかった。
そしてようやく、秋夫の目が診療所を捉えたとき――悲劇は起こった。
「わたしは、わたしは絶対にあなたたちのようにはなりません!」
聞き覚えのある声。娘の声。何を言っているかはわからなかった。ただ、聞こえた娘の悲鳴にも近い声から、何か不吉な、それも最悪の事が起こっていると秋夫は確信した。
S&W M29を握り締め、開いていた窓に登り、秋夫は中を見下ろした。――そして、彼は二度目の絶望を目の当たりにすることになる。
血溜まりの妻の姿。鉈を振りかざし、今にも襲いかかろうとする女性。そして、震えながら、涙を流しながら、それでも気丈に佇む娘の渚。
彼の脳が何か考えるよりも先に、S&W M29の銃口を鉈の女性に向けて――発砲した。


「悔しければ、仇を討ちたければ、生きたければ、……理由はなんでも良いわ。それを手に取りなさい。そうしたら生かしてあげる。取らないならば、あなたもすぐ大好きな人のいるところへ送ってあげる」
天沢郁未が、まだ何が起こったのか分かっていない渚に向けて冷たく言い放つ。渚は母の遺体を抱きかかえたまま、涙を流している。
「…どっちにするか、早く返答を貰いたいものね。…そうね、一分だけ待ってあげる。その時までに決めなさい」
459忌むべき訪問者:2006/10/15(日) 02:07:59 ID:o2lzT65D0
「郁未さん、何もそんなに待つ必要はないでしょう?」
相変わらず不機嫌なまま、鹿沼葉子が郁未に苛立たしげに言う。
「…お別れの時間を与えてあげただけよ。どっちにしろ、那須宗一を片付けたらこの子も殺すから」
郁未がそう言うと、情けですか…それもいいでしょう、と言って葉子が黙りこむ。
一方の渚は、骸となった母の死体を見ながら必死に語りかけていた。
(お母さん、お母さん、冗談ですよね? 冗談だって言って笑ってくださいっ! いつもみたいに笑って、それから…)
必死に揺り動かしても、ピクリとすら動かない母。次第に、渚の心の中を絶望が支配していった。
(お父さんっ、朋也くんっ…わたしはどうしたら、いいんですか?)
混乱する頭で、自分がどうしたらいいのか考える。実際にはそれは数十秒にも満たない間だったが、渚にとっては、それは永遠にも等しい時間であった。
答えをくれる者も、助言をしてくれる者もいない。渚は母と、近くに置かれた鉈を見ながら必死に考えた。
(お母さんは、この人達に殺された…)
眼前に見える、二人の殺人者を見上げる。彼女らは悠然と、渚を見下していた。
(お父さん、朋也くん…ごめんなさいです)
祈りをささげるように、渚が目を閉じた時だった。
「一分よ。返答を聞かせてもらいましょうか」
郁未が一歩詰めよって言った。渚はゆっくりと目を開けて、毅然とした表情で郁未を見た。その眼光に、郁未がわずかにたじろぐ。
「…わたしは、殺し合いをするつもりはありません」
すぐ横の葉子がぴくりと目を吊り上げるのが見えた。
「あなたたちは…あなたたちは、絶対に許す事はできません。ですけど、もしわたしがそこの鉈を取って、あなたたちと殺し合いをすることを選んだら、わたしもあなたたちと同じです。同じ殺人鬼です。そうなったら、お母さんも悲しみます」
渚は一呼吸置いて、そして大声で言い放った。
「あなたたちの思い通りにはさせません! ですからその鉈は必要ありません。お返しします。
わたしは、わたしは絶対にあなたたちのようにはなりません!」
460忌むべき訪問者:2006/10/15(日) 02:09:00 ID:o2lzT65D0
それは二人に対する宣戦布告だった。渚は震えながら、それでも毅然とした態度を崩さなかった。
(これでいいんですよね、お母さん)
より強く、母の体を抱きしめる。気のせいかもしれなかったが、それでこそわたしの娘です、という声が聞こえたような気がした。
この状況に苛立ったのは葉子だった。
早苗といい、この渚といい、どうしてことごとく癪に障ることを言うのか。侮辱されただけにとどまらず、あまつさえ下衆な殺人鬼扱いするというのか。ギリッ、と葉子は奥歯を噛んだ。
――いいでしょう。その宣戦布告、受けて立ちます。
葉子は鉈を素早く引き抜き、薙刀を渡してから郁未に言う。
「郁未さん…この子は、私にやらせて下さい。私の手で仕留めたい」
鬼気迫る葉子の表情に驚きを覚えながらも、郁未は冷静に答える。
「ええ、分かったわ。…それじゃさよならね、古河渚。あの世でお母さんとよろしくやりなさい」
郁未が言い終わると同時に、葉子が鉈を振りかぶる。その時だった。
ズダァン!
激しい轟音と共に、葉子の肩を何かが貫く。痛みに耐えかねた葉子が鉈を取り落とした。
「!? 何者なの!」
郁未が叫び、音のした方向を見る。その窓枠には一人の男が銃を構えて立っていた。
――古河秋夫。彼は額に青筋を浮かべて怒りの形相を露にしていた。
「てめぇ…人様の娘と、妻に手ェ出しやがって! ただじゃ済まさねェぞ!」
島全体に響き渡るような声で秋夫は叫ぶ。秋夫は窓枠から飛び降り郁未と葉子に対峙する。
461忌むべき訪問者:2006/10/15(日) 02:10:01 ID:o2lzT65D0
「お父さんっ!」
「渚は逃げろっ!」
駆け寄ろうとした渚を制して秋夫は言う。そしてちらりと部屋の隅で動いた佳乃を見てから、
「そいつも連れてな。いいか、何かしようなんて考えるな。突っ走って逃げろ」
「で、でも…」
「邪魔なんだよ、さっさと行け!」
冷たく突き放した父の言い方に体を強張らせながらも、渚は佳乃を抱えて逃げる。
「っ、葉子さん、動けるなら追って!」
郁未が言うよりも前に逃がすまいと葉子が肩を押さえたまま追おうとするが、秋夫がもう一発発砲する。それは命中こそしなかったが、葉子の頬をかすめた。
「逃がすと思うか」
郁未は舌打ちしながら秋夫に挑発的に言う。
「実の娘に対して、ひどい言い様だったわね。父親らしくできないの?」
「悪いな。俺はもう人一人殺してんだ。殺人鬼が父親の看板を掲げられるかっての。お互い殺人鬼同士、仲良くやろうぜ」
そして床に転がる早苗の遺体を見る。
(悪りぃな、俺もそっちに行くからよ。…こいつらをやってからな)
「郁未さん…」
葉子が側に来て耳打ちする。
「この男、那須宗一と同等かそれ以上の脅威です。二人で、しかも本気でかからないと命取りになります」
「分かってるわ…予想外だった。まさかこんなにも早く父親が来るとは思わなかった」
「挟み撃ちにしましょう。二対一なら、確実に勝てます」
郁未がこくりと頷き、二人が左右に分かれる。
秋夫は二人を前にしても微動だにしない。むしろ不敵に笑ってみせた。
「殺人鬼二人か。悪くねぇな…地獄への片道切符、てめぇらの命で買ってもらうぞ!」
462忌むべき訪問者:2006/10/15(日) 02:11:02 ID:o2lzT65D0
【時間:午後6時10分】
【場所:I−07】


古河 渚
 【所持品:なし】
 【状態:佳乃を連れて逃走】
天沢郁未
 【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】
 【状態:右腕軽症(手当て済み、ほぼ影響なし)。ゲームに乗っている。】
鹿沼葉子
 【所持品:鉈・支給品一式】
 【状態:肩をケガ。行動には概ね支障なし。ゲームに乗っている。】
霧島佳乃
 【所持品:なし】
 【状態:睡眠中】
古河秋生
 【所持品:S&W M29(残弾数3/6)、ほか支給品一式】
 【状態:憤怒。郁未と葉子の息の根を止めることが目的】

備考
 【早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。『突き付けられた選択』の続き】
463電波紡ぎ:2006/10/15(日) 02:20:26 ID:cX6/RT/R0
 ゲーム開始直後、月島瑠璃子は樹の上に登った。
支給された品は何処かの鍵、戦闘に役立つものではなかった。
見知らぬ他人の生死に特段の興味はない。
安否が気になる人物はいるが、さしあたって知る術はない。
従って、川の流れを眺めながら国の行く末を案じるが如く、
しばらく様子を見ることにしたのだった。

 正午、彼女は封じられていたはずの電波の力が戻ってくるのを感じていた。
この島は、哀しみの電波と狂気の電波に満ち溢れている。
特に、狂気の電波は島の中央部にある山の上空から多く飛んでくる。
あるものは一人生き残るために躊躇いなく他者を殺し、
あるものはその場で協力することにした同胞を無残に殺され嘆き悲しむ。
人が死ぬとき、人を殺すときに発せられる電波はあまり好きではない。
いつしか彼女は、この殺し合いを止めたいと考えていた。
今なら電波が使える。きっと何か出来るはずだ。
464電波紡ぎ:2006/10/15(日) 02:21:34 ID:cX6/RT/R0
 対抗するのなら、同じく電波を扱える兄と祐介に協力を仰ぐべきだろう。
しかし、祐介と拓也が協力し合うことなどありえないことはわかっていた。
あの夜の出来事がまだ後をひいているからだ。
また、兄の拓也は間違いなくゲームに乗っている。
今の彼は、瑠璃子がそばにいないと正気を保っていられない状態である。

 とりあえずは現状を把握すべく、電波を調べることにした。
どうやら祐介は、二人の少女と共に行動しているようだ。
そのうち一人は裏があるようだが、しばらくは大丈夫だろう。
(くすくす、長瀬ちゃん、祐介おにいちゃんなんて呼ばれて微妙に鼻の下が伸びてるね。
後でお仕置きだよ)

チリチリ

(この感覚は……)
「祐介おにいちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
(これは瑠璃子さんの電波……力は封じられているのではなかったのか?
電波が使える?)
465電波紡ぎ:2006/10/15(日) 02:22:18 ID:cX6/RT/R0
 続いて拓也の様子を探る。彼はちょうど、源蔵に吹き飛ばされたところだった。
彼自身の精神状態もだいぶ参っているようである。
止めはさされていないようだが、このままではまずい。
彼女はそちらに向かってみることにした。


 月島瑠璃子
 【時間:午後5時ごろ】
 【場所:H-9】
 【持ち物:鍵、支給品一式】
 【状態:主催者に対抗する、拓也に会いに行く、後で祐介にお仕置き】

→034, →126, →174, ルートD
466名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 02:22:59 ID:5h3xivgI0
無駄なことが好きだな
467間に合った男:2006/10/15(日) 03:48:22 ID:KRgYTy4Q0
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
佳乃の断末魔の悲鳴を聞きながら、早苗はがむしゃらに走り続けた。
後ろを振り返る余裕なども無く、その手に感じる我が子の温もりだけを感じながら。
息が切れ、ガラスで切れた痛みと戦いながらも懸命に走り続けた。

「はぁ……はぁ……」
後ろからは渚の切なそうな声が聞こえてくる。
大人の私でも限界の力で走っているのだ、元々病弱な渚には相当辛いのではないだろうか。
少しスピードを落とし、渚に声をかけようと後ろを振り返った早苗が見たものは、また非常なる現実だった。
佳乃のものであろう返り血を浴び、無表情で、いやどこか冷たい笑顔を浮かべた郁未と葉子が
武器を携えて追ってきているのが映った。

「――!!」
早苗の顔が絶望に染まる。その距離約300メートル。
自身の体力ではすぐに追いつかれてしまう。
どうすれば?どうすれば?どうすれば?
考える間などあろうはずもなく、自分たちに出来るのは力の続く限り逃げることしかなかった。
渚を握る手がギュッと強まり、全力で駆け出そうと足の力を振り絞った。
その瞬間だった。
早苗の身体から流れ落ちる血が腕を伝い流れ落ち、渚とを結んでいた手がヌルリと滑りゆっくりと離れていってしまう。
勢いあまり転倒する渚。
「渚ぁぁっ!」
慌てて駆け寄った我が子の前にみるみるうちに近づいてくる殺人鬼二人。
一心不乱に庇う様に手を大きく広げ、二人の前に立ちふさがる。

468間に合った男:2006/10/15(日) 03:48:52 ID:KRgYTy4Q0
「――鬼ごっこは終わりですか?」
息一つ切らさずに葉子は言い放つ。
早苗は無言で二人の顔を交互に見つめ、睨みつける。
自身に出来る最後の抵抗だった。
「あなたも十分悪人気取ってると思うけど?」
だがそれも二人の前には何も効果が無く、ただ嘲る様に郁未と葉子は笑いあう。
「……それでは今度こそ、さようならですね」
葉子が大きく鉈を振りかぶった。
早苗は目をつむり、死を覚悟する。
「願わくば、渚だけでも助かりますように」となんとも甘い願いを神に祈りながら。

ダァン!

葉子の鉈は振り下ろされることは無く、代わりに一発の銃声が響き渡った。
おそるおそる開いた目には、額から血を流しながら固まった葉子の姿。
その姿がまるでスローモーションのようにゆっくりと地面へと落ちていった。

「――待たせたな、早苗、渚」
忘れることの出来ない、強く優しい声。
何度聞きたいと願ったことだろうか。
早苗の目からはボロボロと涙が流れていた。

倒れた葉子を唖然としながら見下ろす郁未。
銃弾の放たれた方向へ視線を移し、声の主をギラリと睨みつける。
怒りの形相で同じように郁未を睨みつけるその男の名前は――古河秋夫。

469間に合った男:2006/10/15(日) 03:49:35 ID:KRgYTy4Q0
古河 渚
 【所持品:なし】
 【状態:疲労】
古河 早苗
 【所持品:なし】
 【状態:疲労・安堵】
天沢 郁未
 【所持品:薙刀】
 【状態:右腕軽症(手当て済み、ほぼ影響なし)。ゲームに乗っている。】
鹿沼葉子
 【所持品:鉈】
 【状態:死亡】
古河秋生
 【所持品:S&W M29(残弾数4/6)、ほか支給品一式】
 【状態:激怒】

備考
 【早苗・渚・佳乃の武器と支給品一式、郁未と葉子の支給品一式、宗一の水と食料は診療所内】
 【『間隙』の続き】

470継がれる意思:2006/10/15(日) 04:40:34 ID:r8YIk9pW0
折原、そっちは調子はどうだ?
お前は放送で呼ばれなかったしまだ無事だよな?
大体お前、そう簡単に死ぬようなタマじゃないしな。

俺は今、長岡さんや耕一さん、川澄さんや吉岡さんと一緒に平瀬村を目指している所だ。
一癖ありそうな奴ばっかりだけど、ゲーム開始から半日足らずでこんなに仲間が集まったのは、
幸先が良いっていえる事なのかもな。
もちろん裏切られる可能性も考えないといけないけど、今一緒にいる連中は信用出来る………と思う。
勘だけど、何故か確信に近いレベルで、そう思えるんだ。

だけど、今はあまり雰囲気は良くないんだ。放送があって以来、空気が重い。
あの後武器の分配だけは済ませたけど、それ以降会話が無い。
みんな色々と考え込んでるみたいだ。

なあ折原、こういう時こそ俺の出番だよな?
………………………………………………………………………………………………………………

「なあ、長岡さん」
住井護が横を歩く長岡志保に声を掛けていた。
「ん、なに?」

「さっき情報交換の時に何回か、耕一さんの事を変態さんって呼んでたよな?何でなんだ?」

ピクピクッ!!
耕一の顔が引きつる。これ以上は無いというくらい、嫌そうな表情だ。

「なになに?志保ちゃん情報が聞きたいわけ?」
一方の志保は、目を輝かせている。
「ああ、頼む。なんか、面白そうだ」
「あれはねえ、ゲームが始まってすぐのことなんだけど…」
「ちょっと待ったぁーーっっ!!」
慌てて志保を制止する耕一。
471継がれる意思:2006/10/15(日) 04:42:10 ID:r8YIk9pW0
その様は正に、必死である。しかしそれも当然だ。
志保の事だ、色々と脚色して話を伝えるに決まっている。
男の名誉がかかっているのである。

「ん、耕一さんどうしたんだ?」
「いや、あれには事情があってだな……、まあ、とにかくその話題は禁止にしてくれ、頼む」
そういって苦笑いしながら、両手の手のひらを顔の前で合わせてお願いのジェスチャーをする耕一。
「隠し事っスか?面白そうだから聞かせて欲しいッスよー」
「うーん、教えてあげちゃおっかなぁ、どうしようかなぁ」
「勘弁してくれ〜〜」
ニヤニヤしながら聞き出そうとする住井とチエ、必死に制止する耕一。
教えたくてたまらない様子で、ウズウズしている志保。
そしてその話題を気にせずに黙々と歩き続ける舞。
この構図は、10分程続いた。

最終的に耕一は秘密を守り抜いた。
耕一は男の名誉をかけた戦いに勝利したのである。


住井は実の所、
耕一が志保に変態と呼ばれる理由について触れられたいであろう事は予想していたが、
敢えてその話題に触れた。
耕一への嫌がらせというわけではなく、その話題なら場の空気が和むと思ったからである。
住井の試みは成功し、一同の空気は幾分か柔らかくなっていた。
周囲への警戒は怠らないものの、会話をしながら歩き続ける一同。
時折各自の顔に笑顔も浮かんでいた。
472継がれる意思:2006/10/15(日) 04:43:00 ID:r8YIk9pW0
しかし、彼らが街道に近付いてきた時、それは起こった。
「………何か臭う」
マイペースで歩き続けていた舞が、突然口を開いた。
「これは………、血の臭いか!?」
そう言って耕一と舞は臭いのする方向へと駆け出していた。
残りのメンバーも慌てて後を追う。

走った末に彼らの辿り着いた先には、一つの惨劇の結末があった。
倒れたまま寄り添う二人の体。
月宮あゆと、草壁優季の遺体だった。

上から上着をかぶせられていて怪我の状態は把握し切れない。
把握しきれないが、飛び散った血の量からいって、二人とも既に死んでいる事は明らかだった。
「こんな、酷い………。」
住井以外はまだ直接、人の死体を見たことが無かった。
死体を初めてみたショックは大きく、一同は暫くそのまま黙り込んでいた……。

暫くして、諦めきれないのか、耕一が遺体に近付き上着の下を覗き込んだ。
……そしてすぐに表情を曇らせていた。
「片方の子の制服……、私達と同じ学校みたいね」
「そうッスね、放送に私の知り合いの名前は無かったッスけど……」

「……みんな、行こう」
耕一はそれだけ言うと、歩き出した。
みんな、その言葉に従って歩き出した。
このゲームにおいて死者にしてあげれる事は、殆ど無い。
死体を埋めるのは時間がかかりすぎる。
「誰だか知らないけど……、お前達の分も生きてみせるからな」
耕一は一度だけ振り返り、そう言っていた。

そう、今彼らが横たわる二人に対して出来る事は、
二人の分も頑張って生き続ける事だけであった。
473継がれる意思:2006/10/15(日) 04:43:35 ID:r8YIk9pW0

【時間:1日目午後7時頃】
【場所:現在はg-03の街道】

『川澄舞(028)』
【所持品:日本刀・支給品一式(水は空)】
【状態:普通。祐一と佐祐理を探す。平瀬村に向かって移動中】

『吉岡チエ(117)』
【所持品:日本刀・支給品一式(水は空)】
【状態:普通。このみとミチルを探す】

『住井護(059)』
【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式(水は半分ほど)】
【状態:普通。浩平を探す】

『柏木耕一(019)』
【所持品:大きなハンマー・支給品一式(水は三分に二ほど)】
【状態:普通。柏木姉妹を探す】

『長岡志保(071)』
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式(水は三分に二ほど)】
【状態:足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】

・B系共通ルート、関連は47、221
474力の制約(1/2):2006/10/15(日) 11:55:46 ID:1LPMByss0
「ぐ…ぐぁぁぁっ…」
鬼の力から開放された柳川 祐也は、全身を襲う激痛と
脱力感に苛まれていた。

ヨロヨロと近くの木にもたれかかり、跪く。
これが主催者の言っていた能力の制限って事なのか。
チッ…せっかく鬼の力を意のままに使えるようになったというのに
全く持って不便な話だ。

それならずっと鬼の姿でいればいいのか…?
柳川は鬼の姿になるべく、精神を集中しようとする。
…が、全身を襲う痛みに、その集中は邪魔されてしまう。

ククククク…
そうそう都合の良い話など無いらしい。

元は焼場だったのであろう廃墟から、
おそらくは支給品の一部だったのであろう衣服の中で
かろうじて自分が着れるものを探し出し、
人気の無い場所を探して潜伏する。

しばらくすると痛みも多少収まってきたので、
思考を整理する事にする。

今の状況からして、鬼の姿になれるのは、一日の中で
せいぜい1〜2回。しかも、それほど長い時間は無理だろう。
およそ30分からどんなに長くても1時間ってところか。
そして、その後には今のような激痛と脱力感に見舞われるので、
そこで再び変化する事も無理だろう。
つまり、変化が解かれてしばらくは、完全に無防備になってしまうと
いうことだ。多用できるものじゃないな…。
475力の制約(2/2):2006/10/15(日) 11:56:17 ID:1LPMByss0

リー、リー、リー…
虫の鳴き声が静かに独唱を奏でる中で、
柳川は一人、空を見上げる。

倉田…綺麗だな、ここの夜空は。
血みどろの穢れた大地を静かに見守る満天の星空。
その星空に抱かれるように、今は独り…眠りにつく。

『柳川 祐也(111)』
【場所:H−07、元スタート地点の廃墟】
【時間:午後11時すぎ】
【所持品:なし】
【状態:辺りの気配を探りつつ、仮眠】
【能力の制限について:エルクゥ化できる条件は、喜怒哀楽の感情が一定以上に
 昂ぶった時(判断は書き手様にお任せします)。回数は10時間に1回程度で
 1回の変化につき、最大で1時間まで。その後、30分ほどは激痛と脱力感に
 見舞われて無防備になる。】

261「一輪の花」の続きです。
476 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:07:17 ID:k5UulYa80
新作投下します。
ルートはB系、およびJ。276の続きです。
ちょっと長めですのでお暇な方は連投回避をお願いします。
477 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:08:53 ID:k5UulYa80
「この島にいる全ての人に」



「殺人鬼二人か。悪くねぇな…地獄への片道切符、てめぇらの命で買ってもらうぞ!」
言うと同時に秋生は葉子にむけて銃弾を二発はなった。

 ダン! ダン!

一発はそれた。だが一発はよけようとしていた葉子の腹部に命中する。
「がはっ!」
「葉子さん! このっ!」
「ダメです! 郁未さん! 一旦下がって!」
「っ!」
すでに秋生の銃口は郁未に向けられていた。慌てて身を翻し、ベッドに隠れる。銃弾は一瞬前まで郁未がいた空間を貫通し、その背後にあった戸棚を破壊した。
「葉子さん!?」
「だ、大丈夫です」
こっそり向こうを覗くと葉子もベッドの陰に隠れることに成功したようだった。その間に秋生はすばやく弾倉を交換する。二人にとっては予想外に手馴れた早さだった。
(予想以上に手ごわい……)
秋生の射撃能力は葉子の予想をはるかに上回っていた。明かりのない暗がりの中、走る自分に向かって銃弾を当てる。
 昨日まで武器など持ったことがない一般人ならばとんでもない芸当だった。これでは二人で本気でかかっても勝てっこない。
 自分の腹からは血が流れている。幸い、外側に近いので重要な器官に影響はないようだったが。だがいずれにせよこの状態自分のほうが完全に足手まとい。ならば……
「郁未さん、聞いてください!」
葉子はすぐさま、覚悟を決めた。大声で敬愛する人の名前を叫ぶ。
478 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:10:17 ID:k5UulYa80
「なに!?」
「私は、もう助かりません!」
それは半分嘘だった。手当てをすれば、まだ生きられるかもしれない。だが、葉子は郁未を生かすため、あえてそう嘘をついた。
「! そんな!」
「ですから、私がその男の注意をひきつけます。その隙に郁未さん、あなたがその男を倒してください」
「待ってよ! そんなことをしなくても……」
「ぐずぐずすれば那須宗一が戻ってくる可能性もあります。時間はかけられません。それにね、正直やっぱりあなたと戦うのは嫌です。ですから郁未さん。あなたは、生き残ってください」
「……わかった、葉子さん。私、絶対に生き残るから」
「………」
秋生は二人の会話をじっと黙って聞いている。
「郁未さん、私、あなたに会えて本当に良かったです」
「私もよ」
葉子は姿勢を変えてすぐさま走れるような体勢になり、鉈を構える。
「……さよなら」
次の瞬間、葉子がはしりだした。
「葉子さんっ!」
悲しみと苦しみに胸を押しつぶされそうになりながら、それでも郁未は走り出す。葉子より少し遅れて、秋生めがけて薙刀を突き出しながら突進する。
「うわああああああああっ!」
腹の底から雄たけびを上げた。そうすることで秋生の注意が少しでもこちらに向くことを願って。
 だが、秋生は冷静に葉子に狙いを定めて引き金を引いた。ドンっと音がして葉子の体が前に突っ伏せる。だが、葉子は止まらない。右胸に被弾してなおも秋生に向かって走り続けた。
 ドン! 二度目の被弾。今度の銃弾は葉子の眉間に突き刺さり、彼女は倒れた。そして同時に秋生の体も。彼の腹部には郁未のもつ薙刀の切っ先が刺さっていた。
479名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 12:15:08 ID:BpfbM8O40
連投回避
480名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 12:19:29 ID:lfPOhkgG0
>◆elHD6rB3kM
せっかく舞台が整ったのに一番ゴミな奴だけ生き残らせてどうすんだよ
バカか?
リレーを理解しないバカ書き手は迷惑だからマジ死ね
481 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:22:33 ID:k5UulYa80








 郁未は葉子の体を上に向けて、目を閉じさせる。
(ごめんね、私のせいでこんなことになって……)
彼女はきっと長い挨拶は好まない。だからそこでさっさと切り上げて秋生のほうに目を向けた。
「なんでこんなことしたの?」
「……あ? なんだって?」
「なんで黙って葉子さんの計略にはまったのよ」
自分が囮となり、その隙に秋生を倒す、という葉子の作戦。今にして思えば秋生が防ぐ手段はいくらでもあった。
 話している間に葉子を撃ってもよかった。移動しながら攻撃して、二人の攻撃の間隔がなるべく開くようにしてもよかった。手段はいくつもあったのだ。
 だが秋生はそうした手段を一切とることなく、葉子を倒し自分に倒された。
「けっ、これだからガキはわかってねぇな。無粋だろうが。一人の人間が命賭けてまでなんかやろうとしてんの邪魔するなんてよ」
「……あっきれた。救いがたいお人よしね」
「俺は俺と早苗の命を使って渚ともう一人のあの子の命を救う。あいつはあいつの命を使ってあんたを救う。平等だろうがこれで。文句あんのか、この野郎」
「何それ。あんた自己満足のために命を捨てたの。本当にバカね。そんなことで命を捨てる人、あたし大っ嫌いよ」
ふぅ、と秋生はため息をついた。いくら考えても最初の前提が間違っているので答えにたどりつけない生徒を見た教師のように哀れみをこめたため息を。
「いいか、耳の穴かっぽじってよぅく聞けよ、小娘。この世にはな自分の命なんかよりずっと大事なものがあるんだ」
「ふぅん。ご高説、伺おうかしら?」
「それはな、正義だ」
「はぁ?」
郁未は思わず素っ頓狂な声を上げる。この答えはさすがに予想していなかった。
「それはあんただって持ってるはずだ。だから、この殺し合いに乗ったんだろ。一人ひとりの正義は違う。衝突することもあるだろうさ。特にこんな状況じゃあな」
「……多元主義者だとは思わなかったわ」
「そんな小難しい言葉はしらねぇよ」
誰だって自分の正義を持っている。自分の命こそが最優先だというもの、愛しい人の命を守ることを最上の使命と考えるもの、あるいはそれ以外の何かに生きる意味を見出すもの。
482 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:23:51 ID:k5UulYa80
「俺は自分の正義に生きたんだ。てめぇにとやかく言われる筋合いはねぇよ」
「私がこれから二人を追いかけて殺すかもしれないのに?」
郁未は言ったが実際にはそんなことをする気力は葉子を喪ったことでとうになくしていた。
「やれるもんならやってみやがれ、いっとくが渚はおれのちんこが生んだ最高傑作だ。簡単にくたばりはしねぇよ」
秋生をにもなんとなく郁未の心のうちが伝わっているようだった。まったく心配していない様子でそう答える。
「ふふっ、確かにちょっとばかり難儀よね、それは」
軽く笑うと薙刀をもってゆっくりと立ち上がった。
「じゃあね、あたし、もう行くわ」
そういった瞬間、
「おとうさん!」
部屋に入ってきたのは渚だった。心配で戻ってきてしまったらしい。そして目の前の光景を見るや否や、秋生に駆け寄る。
「おとうさん! おとうさん!」
「おう、渚か……って、何で戻ってきたんだ」
「音がしなくなったから、もう終わったのかと思って……」
そう言いながら泣き出してしまう。ふと、郁未はこの子がどういう結末を創造していたのか気になった。自分と葉子が血まみれで倒れている光景だろうか。
 しかし、改めて問うほどの興味ではないその光景を最後に郁未はくるりと後ろを向く。だが、そこにはもう一人の客がいた。
「なんでこんなことをしたの? 早苗さんは……早苗さんはあなたの腕を直してくれた人だったんだよ」
そして部屋の入り口には霧島佳乃がいた。手に持っているのは葉子が持っていた鉈。
「それを返しなさい。それからそこからどきなさい。殺されたくなければね」
すると意外にも佳乃は素直に鉈の柄を差し出してドアを開けた。これには郁未のほうがびっくりした。
「いいの?」
バカだな、と自嘲しながらも思わずそう聞き返してしまう。
「……わたしのお姉ちゃんね、お医者さんなの。お姉ちゃん言ってた。たとえどんな悪人でもけが人や病人ならならその患者の無事を祈って最善を尽くすべきだって。わたしはおねえちゃんの妹だから。だから早苗さんの患者だったあなたの無事をわたしは祈るよ」
「そう、ありがとう」
正直言ってFARGOの一件以来『祈る』なんて言葉は聞きたくもなかったが、郁未はそう素直に頷いた。鉈を取り、戸口へ向かう。
483 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:25:01 ID:k5UulYa80
「でもね」
パン! と乾いた音がした。佳乃の平手が郁未の頬を叩いたのだ。
「でも、許せない! なんでこんなひどいことができるの! 早苗さん、すごくいい人だったのに! あなたを助けてくれたんだよ! なのに、なのにっ!」
何か返答をすべきだろうかと郁未は考えた。だがうまい理由が思いつかず、それを口にしていた。
「それが私の正義だから」
佳乃はその返答を聞いて、ポカンとしていた。その隙に郁未は鉈と薙刀を持って部屋を出ていった。長居しすぎた。早めにここから離れなければ。
「おとうさん!」
今まで渚が黙っていたわけではないだろう。だが、佳乃の意識に渚の声が届いたのはこの部屋に入ってからそれが初めてだった。
「渚、すまねぇな。どじっちまったよ」
「ま、待ってください! 今包帯を持ってきますから」
そう言って立ち上がろうとする渚の腕を秋生はつかんだ。
「いいんだ。もう、俺は助からねぇよ。それより聞いて欲しいことがあるんだ」
「いいえ、ダメです。後にしてください」
「かっ、相変わらず頑固なやつだな、お前は。いいから聞いとけっての」
「はい、私もおとうさんのお話、聞きたいです。でも治療が終わってからです」
互いに引かないふたりの間に佳乃が割って入った。
「渚ちゃん、おとうさんの話、聞いてあげなよ。治療は私がするから」
「……わかりました。佳乃さん、お願いします。おとうさん、話してください」
佳乃は秋生の服をめくると、消毒液をたらして、そこに包帯を巻きつける。といっても見よう見まねだったが。
「ああ、渚。俺な人を殺したんだ」
「え……あの、そこで倒れてる郁未さんといた方のことでしょうか」
「確かにそいつを殺したのもおれだ。でもな、俺はここに来る前に一人、既に殺してるんだ。しかも別に襲われたわけでもなんでもないのに、だ」
「え!?」
これには佳乃もすくなからず驚いた。
484 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:25:40 ID:k5UulYa80
「渚、お前はそんなおれのことどう思う?」
「………」
渚はしばらく黙っていた。いろいろと考えているのだろう。やがて、顔を上げてはっきり言った。
「おとうさんのことだから、何の理由もなく殺したわけではないと思います。でも、ちゃんと殺した人たちの家族に謝ってください」
「……そうだな」
ああ、そうだ。渚はこういう子だから。そんな返事をする。でも自分が聞きたいのはそういうことではないのだ。
「……渚、それでもおまえ、おれのこと、おとうさんて呼んでくれるか?」
「え?」
きょとんとした顔で渚は秋生の顔を見た。それは返答に詰まったからではなく、何を聞かれたのかわからなかったからだろう。なぜなら、
「あたりまえです。人を殺したっておとうさんはおとうさんです。ちょっといじわるなところもあるけどやさしいおとうさんです」
答えが彼女にとってあまりにも決まりきったことだから。
「そうか」
秋生はほっとした。そうだ。渚はそういう返答をする子だ。わかりきってたことじゃないか。いや、だからこそ聞きたかったのだろう。安堵するために
「おとうさん?」
秋生は珍しく、にっこりと微笑んでくしゃりと渚の頭をなでた。
「渚、幸せになれよ」
早苗、今俺もそっちに行くからな。
 手が力なく垂れた。
「おとうさんっ!」





485 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:28:04 ID:k5UulYa80
 どうだ、早苗。かっこよかっただろう、俺は。

 はい、とってもかっこよかったですよ。

 惚れ直したか?

 はい。惚れ直しました。

 よし、それでこそ俺の妻だ。

 でも、秋生さん、渚は大丈夫でしょうか?

 心配するな、あいつももう立派な大人だよ。大丈夫さ。きっと自分を見失わずにやっていける。

 そうですね、岡崎さんもいますし、きっと大丈夫ですよね。

 けっ! あんなガキに何が出来るっていうんだ、まだまだケツブルーなくせに。

 ふふふふふ。
486名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 12:28:13 ID:BpfbM8O40
連投回避
487 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:33:50 ID:k5UulYa80
 さて、早苗。いつもどおり、パンを焼くか。

 はい。実はまた新しいパンを思いついたんですよ。

 ギクリ。

 ……秋生さん。ギクリってなんですか?

 しまった! 思わず口に出してしまったぜ!

 わ、私のパンは、私のパンは作る前から不安をあおるようなパンだったんですねーーーーー!!!!

 ま、待て、早苗ぇーー!! 俺は、俺は超ウルトラスーパー期待しているぞーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! ひゃっほーーーい! 早苗の新作だーーーー!!!





「おとうさん、おとうさん……」
「ひっく、ぐすっ……」
冷たい室内に二人の少女の嗚咽がしばらく反響していた。




488名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 12:34:48 ID:Rqe2OA230
まぁ特に文句をつける気はないが
>>「この島にいる全ての人に」
正直言って俺が一番嫌いな類の話だった
489 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:35:17 ID:k5UulYa80
 渚、幸せになれよ

 その横にいるお嬢ちゃんもな

 岡崎のぼうずも生きるんだぞ

 そして、

 この島にいる全ての人に、幸あれ

天沢郁未
【時間:六時半】
【場所:I-07】
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、精神的に疲労】

霧島佳乃
【時間:六時半】
【場所:I-07】
【持ち物:なし】
【状態:滂沱】

古河渚
【時間:六時半】
【場所:I-07】
【持ち物:なし】
【状態:滂沱】

鹿沼葉子・古河秋生【死亡】

備考
 【早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。秋生の支給品も室内に放置】
490名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 12:35:39 ID:Rqe2OA230
しまった、感想スレと間違えて誤爆してしまった
すまん
491 ◆elHD6rB3kM :2006/10/15(日) 12:37:27 ID:k5UulYa80
>>479
>>486
ありがとうございました。
492選択の時(1/5):2006/10/15(日) 14:06:01 ID:Vw8R+BKr0
美坂香里は焦っていた。
待ち伏せをしていたものの、思ったより獲物はかからない。
自分の出発自体、思ったよりも他者より遅かったようで。
最初の犠牲者を出した後、数時間粘ったがこの様である。

「情けないわね・・・」

今はちょうど、木から降りて人を探すために歩き出したところであった。
それは何故か。

---------栞を探すためだ。

先ほど死者の一覧が放送にて流された。そこに妹の名前はない。
だが、体の弱い栞のことである・・・はっきり言って時間の問題だ。

(栞は私が守らなきゃ、栞は私が、私が、わたしが・・・)

握ったアーミーナイフに力がこもる。
移動中である今は、狙撃銃であるレミントンは鞄にしまった状態で。
香里は護身のためにこの、即戦力になりえる代物を手にしていた。
・・・このナイフは、射殺した河野貴明の支給品であった。

一時間ほど歩いただろうか、少し視界の開けた場所に他よりか少々目立つ木があった。
何故目立つか。

「お前、よくこのトラップ地帯を無事で通り抜けられたな」
「おい女、俺を降ろせ!!」

何とも間抜けな絵面。思わず香里も気が抜ける。
そこには何故か、片足をロープに取られ宙吊りになっている男が二人。
恐らく二人の物であろう荷物は近くに散乱している。
493選択の時(2/5):2006/10/15(日) 14:06:38 ID:Vw8R+BKr0
香里は二人の男を無視して、まずその荷物漁りから始めた。

「あ、てめっ!!俺様の荷物を勝手に漁るなっ」

うるさい。だが、作業を止める気なんてサラサラない。

「レトルトのラーメンに化粧品一式・・・大外れね」
「残念だったな、もう少し早く来てれば銃が手に入ったっていうのに」
「!」
「ただし弾倉だけ」

チャキン。香里のナイフが男のうちの一人の頬に当てられる。

「・・・馬鹿にしてるの?」
「失敬、ちょっとしたジョークだ」
「女、俺を降ろせ!!!」

ふう、と。一つ溜息。
この二人を殺すのは簡単なことであった。
ナイフでメッタ刺し、レミントンで一発。その行為に対するためらいはない。
だが、余裕があるからこそ、香里にはしておきたいことがあった。

「人を探しているの。美坂栞っていう女の子、知っているかしら」

様子をうかがう。二人からの反応はない。

「降ろしてあげる、その代わりの条件よ。教えて」
「その女の特徴は?」
「・・・降ろして欲しいだけ、そのための嘘をつかれるのはごめんだから。」
「成る程」
494選択の時(3/5):2006/10/15(日) 14:07:14 ID:Vw8R+BKr0
ナイフで脅して吐かせる事も一理ある。
だが、ここで変に騒がれ人を呼びつけることも香里は望まなかった、だから。

--------居場所を吐かせた後殺す、栞らしき人影を見覚えなかったようであっても殺す。

これが、香里の出した結論であった。

「会った女の特徴が会えばいいんだな、よし。俺様が見たのは車椅子に乗ったガキと黒い髪のチビと・・・あともう一人、チビだ。」
「・・・最後の人の特徴、もう少し教えて欲しいんだけど」
「覚えてねえよ、とにかくガキだガキ」
「・・・あなたは?」

騒がしい方の男が使えないと分かると、香里は矛先をもう一方の男に向ける。
男は何か考えるようにした後、言った。

「お前と同じ制服のヤツなら、見た」
「・・・それで?」
(む・・・)

香里の表情は変わらない。
・・・正直、男は彼女を舐めてかかっていた。
彼女の探し人、可能性として考えられるのは「家族」か友人だ。
だが、人数で見れば圧倒的に「家族」で参加させられている可能性は低い。
・・・名簿のチェックが同時にできていれば、それは問題にすらならなかっただろうけれど。今の宙吊りの彼には酷なことだ。

(同じ制服のあの女、アレだと思ったんだけどな・・・)

いきなり鞄を投げつけてきたあの少女。
・・・たっく、俺が何をしたと言う・・・。
495選択の時(4/5):2006/10/15(日) 14:07:50 ID:Vw8R+BKr0
「それで?もう、誰にも会わなかった?」
「あと、ポニーテールの女とショートカットの女」
「・・・」
(ダメか。あと何か・・・)
「終わり?」
「いや、あと・・・こう、おかっぱ?みたいな」

すっと。目に見えて分かる、変貌。
香里の表情が、厳しくなる。
(お、ビンゴか)

「その子、髪は何色だったかしら」
「・・・茶」
「服装は?」
「そこまでよく見てねーよ」
「じゃあ、スカートだった?」
「・・・ああ、ズボンではなかったと思う」

そして、これは賭け。
男は実際に会った少女の特徴を、香里に伝えた。

「背は小さい、胸も小さい。年頃は・・・あんたより、少し下に見えた」
「その子よ、その子が栞よ!!教えなさい、どこで見たの!!!」
「まあ待て、ぶっちゃけ俺はその栞って子とすれ違った後数時間もこうしてるんだ。
 地形的にどの辺、と言われても地図じゃあ感覚的に無理だ」
「・・・なんですって?」
「実際に行けば分かる、多分。案内してやるよ」

つまり、本当に降ろせと。これが、男の要求。
実際あれだけ香里の特徴を言い表した男の情報は、香里にとって喉から手が出るほど欲しいものであった。
だが、ここで始末しなかったおかげで後の行動に響くというのも望まない。
選択の時だった。
496選択の時(5/5)・補足:2006/10/15(日) 14:08:24 ID:Vw8R+BKr0
美坂香里
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【持ち物:アーミーナイフ・Remington Model 700Police装着数4 残弾数51、支給品一式】
【状態:迷い中】

国崎往人
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】

高槻
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】

月島拓也
【所持品:トカレフTT30の弾倉(×2)、支給品一式】
【状態:移動済み】

【備考:往人の所持品と高槻の所持品は木の根元に散在、詳細は下記に。
     ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(×3=往人と名雪と拓也と高槻のバッグ)】

(関連・025・176)(Aルート)
(Bルートと違い栞の服装は私服)
497訂正:2006/10/15(日) 14:12:41 ID:g4hRLj/jO
>>495の下から三行目
×香里の特徴→○栞の特徴でした
すみませんでした…
498名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 14:16:09 ID:MMpUVcMA0
月島兄はどうやって移動したんだ?
気がついたのなら二人を殺さないままいく可能性は0だと言っていいだろうに
499名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 16:14:44 ID:JJHMHjsL0
>>498




祐一「決まってるだろう」


「ワープだ」
500名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 16:28:23 ID:nUPnwN1b0
     /::::/|::::::/|::| / ̄``i}、`ー-y┐    <<アルルゥ@うたわれるもの>>ラシのお知らせ
     /::://レV /l/     !l, `¨´/     
.    N//::ハ/::::::|_    _ll,  /|      ・時刻 22:32:00〜22:32:59   (アルルゥの好物のハチミツから32(みつ)
.    M/:/:::::::::::::/.戈テッ、  _. 〈:::::!      
.    |::::::|::::::::::::::| ____7攵kノ::::|      ・コードを貼り忘れないよう注意! (忘れると無効票になってしまいます)
.    |::::::|::::::::::::i:|'´     ,\_ノ:::::::|       PCからコードを取る人は予約から発給まである程度時間がかかりますので
.    |::::::|:::::::::;::i:|  ‐-、 /:::::/:::!       20:56までにコード予約を携帯なら即時発行なので直前でも間に合います
.    |:::::从:::::从:!     /::::::::/i::/       ・対戦相手への攻撃・貶める発言は絶対に書かないで!
.    |/  ヽi、 i> -rく:/:/:;i::/ i/        最萌は己の萌えを競う場であって相手を蹴落とす場ではありません。
-―<\    ヘ   ,ムヽi/i/,i/  ′       ・ラシテンプレは以下の場所にあります
.    \\   \_  } ハ、               http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/vote/1160748302/61-70
      Vハ    ヽ| ハ \_          
      ∨ハ     `l  ハ   `丶、      ・左の帯と上下の枠以外のAAは改変OK。(投票先とコードを忘れずに)
       Vハ   |  ハ       \     ただし投票板は20行制限がありますので注意!
        ∨ハ   |  |ハ   、   \   ・にぎやかし、冷やかしも大歓迎!!
         V ハ  |  |lハ   ヽ/   /   ・凶器、毒薬の持込みはご遠慮く・・・ うわ、何をするやめ! ア゛ーーーー!!
501名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 20:42:28 ID:9eTjIWJi0
245の続き投下です。B関連ルートでお願いします。
連投回避よろしくです
502引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:44:20 ID:9eTjIWJi0
「―――っはぁ、ハァ、う、はぁ―――っ」

 荒げる息を吐き出す深山雪見(109)は、激しく脈動する胸を手で押し留めて息を整えようとする。
 先程の姿見えぬマーダーからの襲撃から数十分、雪見は必死になって逃走していた。
 走っている途中に流れた死者の放送。突拍子もなかった報告に、彼女は唖然と足を止めて聞き入った。
 藤田浩之(089)に春原陽平(058)、ルーシー・マリア・ミソラ(120)、そして川名みさき(029)。 
 彼等の名前が放送で挙げられなかったことから、なんとかマーダーから無事に逃げ遂せたのだろう。
 いや、無事かどうかはともかく、少なくとも死んではいないということだ。
 彼ら四人に比べて短い付き合いでもあった巳間晴香(105)や柏木梓(017)らも同上である。
 ならば、姿無き狩猟者は何処に行ったのか。
 彼ら四人がとりあえず無事に切り抜けたと仮定するのならばいい。
 だが、追撃の手がもしかしたら自分へと迫っていると考え出してしまった時には、既に彼女は必死になって走り出していた。
 何時迫るとも知れない恐怖は、想像以上に雪見の精神を蝕んでいったのだ。
 本当ならばもっと距離を稼ぎたかったものの、彼女の身体は限界寸前まで酷使していたために言うことを聞いてくれない。

(―――みさきは、きっと大丈夫。……藤田君も、付いていたし……)

 雪見はみさきの対する安否のあまり、今も冷静では決していられない。
 浩之がみさきに駆け寄る姿を確認できていなければ、梃子でもみさきをあの場から連れ出す算段であった
 自分の命が惜しくないのかと聞かれたら当然否定するが、みさきを捨ててまで生き永らえようとは思ってない。
 今すぐ戻って浩之達と合流したいが、襲撃者のことを考えると躊躇ってしまう。
 約束したのだ。みさきと必ず会うと。
 そのためには、みさきは勿論のこと、自分だって死ぬわけには行かない。
 だから、雪見もつい慎重になって行動を決めかねてしまう。
 出来ればゲームに乗っていない者、もしくは知人との合流を期待してるのだが。
503引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:45:25 ID:9eTjIWJi0
(澪ちゃんに折原くん……。二人は信用できる筈……)

 上月澪(041)と折原浩平(016)は共に後輩に当たる真柄だが、こんなゲームに乗るとは考えにくい。
 他にも同じ学校の参加者もいるようだが、大概は浩平の関係者。人柄は窺い知れない。
 合流できるならばその二人がいいのだが、そう上手く事が運ぶわけも行かないだろう。  
 参加者総数百二十人。開始から六時間で既に百人を切りそうな勢いで殺し合いが敢行されているのだ。
 ゲームに乗った人間が一人や二人では済まない。これからも増加の一途を辿るのではないか。
 現状一人の雪見にとって、知人以外の人物は全て信用するにも一苦労である。
 何もしなくても軽い疑心暗鬼に囚われてしまうのだ。それが振り切ったとき、人間何を仕出かすか想像もつかない。
 かくいう雪見とて同じこと。そういった思考は彼女の身体も精神も疲れ果てさせてしまう。
 だが、それでは駄目だ。

(こんな所で、こんな所で絶対に死ねない。みさきを一人にするわけにはいかないんだから……)

 みさきという少女の存在が、雪見に生きる活力と負の感情を払拭してくれる。
 心細いが、決してそれを表には出さない。誰もこの場にいなくてもだ。
 演劇部部長としてポーカーフェイスには自信がある。
 気弱な自分を押し殺し、雪見は決心を固めて今までと通りの表情を形取った。
 酸素を欲する自身の身体を制御して、彼女が歩き出そうとした時だ。

「あ〜もしもし。ちょっといいかねお嬢さん」
「―――っ!?」
504引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:46:59 ID:9eTjIWJi0
 まったく予想だにしない角度から、雪見に向かって声が掛かる。
 心臓が一層と飛び跳ねて、慌てて背後を振り返りながら後退った。
 その際、慌てるも拳銃を構えることは忘れない。

「な、なんなの貴女……」
「むー。なんだその珍獣を見たかのよう反応は。失礼だぞぅ」

 雪見の目に飛び込んできたものは、簡素な着物を何故か着込んだ澪と同い年くらいの少女。
 少女―――朝霧麻亜子(003)は雪見の態度に傷付いたとばかりに、頬を膨らませていた。
 銃口を向けられても焦る素振りのない麻亜子の反応に、雪見としても困惑気味だ。
 そんな彼女の状態もお構いなしに、麻亜子は陽気に口を開く。

「まあまあまあ。あたしのことはまーりゃんと呼んでいいぞよ。そっちも名乗ろうよ?」

 ニコニコと友好的な笑みを浮べ、人畜無害そう言葉を掛ける。 
 相変わらず銃口が額へと向けられているというのに、麻亜子は陽気に歩み寄った。
 場違いな麻亜子に気勢を削がれたのか、雪見は止む無く銃口を下ろす。
 この少女は恐らく大丈夫だ。
 襲うのならば姿を見せない内か、もしくは奇をてらったような奇襲をするべきなのだ。
 こんな大股歩きで近寄る彼女に警戒するだけ無駄なのではないかと、その時はそう判断した。
 そして、これ以上牽制しても仕方のない拳銃はポケットに仕舞っておくことにする。
505引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:48:06 ID:9eTjIWJi0
「……雪見。深山雪見よ」
「なぬ、雪見? ならゆーりゃんだ! いや被るな……。ちくしょうめ、雄二の馬鹿野郎っ。ならゆきゆきにしよう決定!」
「はぁ? いや、そんなことはどうでもいいんだけど……」
「気に喰わぬと? 我侭さんめ、妥協しろってことかー! あい分かった。ゆっきーで譲歩しよう」
「……ふぅ。もう何でもいいわよ」

 完全に天真爛漫な麻亜子のペースに飲み込まれて、雪見は小さく嘆息する。
 彼女を困らす一点においては、何処かみさきに似ていた。
 ともかく、接触してきたからには何か目的があってのことなのだろう。
 拳銃を持つ雪見へ物怖じせずに近づいたことも気になるが、それは神経が太いということで納得した。
 
「それで? 貴女はゲームには乗っていないと判断していいのね?」
「うむ。一先ずゆっきーと手を組みたいと思う次第なのだよ。まずは情報交換といかないかね?」

 指を立てて子供が背伸びをするような不釣合いな態度に、少しだけ微笑ましく思ってしまう。
 幾分か残っていた警戒心が、麻亜子の雰囲気にほだされてしまった。

「わかったわ。ゲームに乗っていないなら誰か探しているのよね?」
「その通り。ゆっきーも誰かしら探しているということかな」
「ええ。みさき達は置いといて、折原浩平と上月澪の二人なんだけど……見なかった?」
「みーりゃんなら見たぞ」
「―――えっ!?」

 麻亜子の簡素な一言に、雪見は驚きで彼女を凝視する。
 みーりゃん。麻亜子の付けるセンスのない渾名だが、自分の探し人の名前と近しいものだ。
 恐らく上月澪の渾名なのだろう。
 こんなにも都合良く情報が手に入るとは思っていなかった雪見は、若干動転した様子で聞き返す。
506名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 20:50:46 ID:/nJk5kMe0
連投回避
507引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:52:34 ID:9eTjIWJi0
「み、みーりゃんって澪ちゃんのことよね? 口の利けない子なんだけど……」
「それは正しくみーりゃんだ。小動物のようで猫可愛がりしたいほどだったよー」
「何処にいたの!? 彼女は無事なの? 怪我はしてないのよね? 誰かと一緒にいたの!?」
「なかなかの過保護っぷりだなぁ。まま、とりあえず落ち着きたまへ。質問は一つずつだぞう」

 麻亜子の落ち着いた声を聞いて、雪見は恥ずかしそうに咳払いをした。
 彼女に諌められるのはそこはかとなく悔しかったというのは胸中だけの秘密だ。
 とにかく朗報だ。
 放送で呼ばれておらず、且つ麻亜子の冷静で笑みさえ浮ばせる様子から察するに五体満足でもあるのだろう。
 一つ安堵の溜め息を洩らし、彼女の言うように一つずつ質問することにする。

「じゃあ、澪ちゃんは無事なのよね?」
「元気一杯で困ったほどだ。怖い、いやいや優しいお姉さんも一緒だったからね〜。制服が一緒だから後輩という訳だ」
「部活が一緒なのよ。こう見えてもわたし演劇部部長なんだから。彼女は期待の新星よ」
「……にゃるほど。あたしが煮え湯を飲まされたのも間接的に関わってくるわけだぁ……」
「え? 何か言った?」
「ん? 何か聞こえたのかね?」
「―――いや、ならいいわ」

 ボソリと、麻亜子が呟いたようにも聞こえたが、今は澪が無事な様子に素直に喜びを表す雪見。
 どうやら、ゲームには乗っていない人物と同行しているようなので、それも彼女の不安を払拭してくれる。

「ちなみに澪ちゃんを何処で見たの?」
「この先の、えっと……平瀬村にいたぞ」
508引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:54:02 ID:9eTjIWJi0
 平瀬村という地名に、不安をぶり返した雪見は顔を歪ませる。
 そこは先程まで自分達がいた場所。そして、マーダーに狙われた場所でもある。
 彼女達を狙った襲撃者が一方を追って離脱したのならばいい。 
 だが、追撃を諦めて村に留まっているならば澪が危険に晒されるのではないか。
 つい数分前までは追撃を諦めて欲しいと思っていたのに、澪がいると分かってしまった以上考えが逆転してしまう。
 再び押寄せてきた不安の表情を押し殺そうとするも、青白くなった顔までは決して隠せず。
 それに感づいた麻亜子は気さくに話題を転換する。

「こらこらまーにも質問させたまえ。ゆっきーばかりズルイぞぅ」
「あ、ごめんなさい。わたしが答えられる範囲なら答えるから……」

 雪見の注意が上手くこちらへと逸れたことに、麻亜子は満足気に頷いた。
 この話し合いは、名目上情報交換なのだ。
 一方的に聞いたのでは、不公平であろう。
 そう思ったからこそ、雪見は一先ず思考を打ち切って麻亜子の言葉に耳を傾けることにした。

「さてさて。あたしが探しているのは他でもない! さーりゃんとたかりゃんの二人だー」
「いや、その前に誰よそれ? 本名を言いなさい本名を」
「そんなことも分からんのかー! 久寿川ささらと河野貴明に決まってんじゃん」

 そんな無茶な、そう零す雪見だが、河野貴明という名前には聞き覚えがあった。
 
「……河野貴明って、るーこちゃんが言ってたうーよね……」
「なぬ? どういうことだい?」
「いや、さっきまで一緒にいたるーこちゃん、名簿の最後の子ね。その子が河野貴明を探してたわよ」
「ほほう、ウチの生徒か。して、そのるーこちゃんはいずこに?」
「……はぐれたのよ」
509引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:55:44 ID:9eTjIWJi0
 雪見は先程の平瀬村での一件を麻亜子に説明した。
 貴明を探していたるーことその連れ春原。浩之に、そして親友のみさきのこと。
 この島で起こった出来事を、雪見は一句洩らさず伝えた。
 別に喋って困るような情報でもなかったし、少しでも多くの善意ある人間へ話すことに越したことはない。
 今は真実を語ることでしか、信頼を得ることができないためだ。

「そうかそうか。ゆっきーもさぞ大変な思いをしてきたのだな。大切な幼馴染との別れ……はふぅ。仲良きことは美しきー」
「ちょ、ちょっと大げさよ……。約束したんだから、絶対に再会するって」

 涙まで浮かべて感嘆を表す麻亜子に、流石の雪見も照れ臭くもなる。
 口調はいい加減に感じるも、見た感じ本気で雪見に同調してくれた。
 そんな些細なことで人の心配が出来る彼女は、何処か人情が溢れているように感じ、漠然と信用が出来る仲間になり得そうだと思ってしまう。
 何時までも大げさな反応を止めない麻亜子に苦笑しながら、雪見はハンカチを渡そうと一歩近づく。
 ―――それが、彼女の失敗。

「ほら、いつまで泣いガッ―――!!」

 泣いているの、そう綴ろうとした雪見の言葉が半場で途切れる。
 目を驚愕に広げて、自身に起こった状態を確認しようと目線を下げた。
 ―――喉に突き刺さる長方形の棒のような物。
 辿ると、ニンマリと笑みを浮かべてそれを握る麻亜子の姿。
 
「―――うっ、が、ぁ……」

 完全に喉を潰された。
 なんだこれは。どうして麻亜子がソレを握って笑みを浮かべているのだ。
 混乱した雪見の脳は、ある一つの結果を即座に弾き出した。
510引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:57:02 ID:9eTjIWJi0
(―――最初から、謀られていたの―――っ!!)

 よろりと、後退した雪見へ向かって麻亜子は手に持つ長方形の物―――鉄扇を宙に翳した。
 激情の赴くままに口を開きたいものの言葉が発せない。
 口はパクパクと、およそ言葉ではない掠れたような音声でしか用を成さず。
 ポケットから拳銃を取り出そうとするも、それより速く鉄扇が雪見の顎へと叩き付けられた。 

「―――ぐぁ……っ!」

 確実に命中した顎への攻撃は、雪見の平衡感覚を狂わせる。
 視界が揺れたときには、既に頬が地へと衝突していた。
 かなりの強度を誇る鉄扇の一撃は、顎骨に罅が入るほどの威力であった。
 叫びたいほどの苦痛を感じるのに、決して言葉に出来ないやるせなさ。
 その感情を全て視線に込めて、麻亜子を射殺すかのような眼光で睨みつける。

「ぁ……っぁ、が、きぃ……」
「ふふん。何を言っているのか分からないぞゆっきー」

 怒りを孕んだ視線を受けても何処吹く風、麻亜子は一向に気にせずに倒れ伏す雪見の脇腹を蹴り飛ばす。
 雪見は呻くように痛みを堪えるも、それを蔑ろにするかのように再度爪先で脇を抉る。

「―――ぁ……ぅっ!」
「駄目じゃないかゆっきー。こんな状況下で人を信用しちゃ。全然なっていないぞぅ」
511引き摺られた想い:2006/10/15(日) 20:58:58 ID:9eTjIWJi0
 出来の悪い生徒を叱るように注意を促す麻亜子。
 完全にお門違いなセリフだが、平常な表情で蹴ることを止めない彼女を見ていると背筋が凍る。
 嬲ることを楽しんでいるわけではない。
 本当に罰を与えるかのように、困った顔でそれを敢行している。
 訳が分からなかった。
 先程までの会話はなんだったのか。麻亜子の同情したような感情はなんだったのか。
 平然と暴行を加えているのは何故だ。彼女の同情したような感情はなんなのだ。
 答えはとっくに導き出されている。馬鹿を見たのは自分だということだ。
 最初から麻亜子の演技に気付きさえすれば。
 いや、恐らく彼女のは演技ではないのだろう。普段通りに接して、普段通りに行動しているだけなのだ。
 詰まるとこ、こういった殺伐とした環境に麻亜子が放り込まれたとすれば、彼女がゲームに乗るのは必然ということか。
 元より他人の真柄である麻亜子の行動原理など知るわけもないし、どんな至上目的があるのかも見当もつかない。
 結局は出遭った不運を呪えということになるのか。

(そんなの、絶対に御免だわ―――っ!)

 こんな下らないところで、こんな下らない少女に殺されてなるものか。
 約束したのだ。みさきと必ず再会すると。
 そして、こんな下らないゲームなんぞ皆で協力して切り抜けて、自分達の街へ帰るのだ。
 そう心に誓ったはずだ。
 ならば、こんな所で倒れているわけには行かない。
 歯を食いしばって立ち上がろうとする雪見の姿に、麻亜子は感嘆の言葉を投げかけることを忘れない。
512名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 21:00:02 ID:/nJk5kMe0
連投回避
513引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:00:04 ID:9eTjIWJi0
「おぉ……素晴らしき執念。キミの幼馴染のようにしぶといぞー」
「―――ぇ?」

 麻亜子の一言に雪見は凍りつく。
 ―――しぶとい? どういう意味だ。
 言葉を図りかねた雪見へと、麻亜子が親切にも助け舟を出す。

「んー? 意味がわからなかったのかい? どうしようもないゆっきーだなぁ……
 いやぁ、ゆっきーに会う数分前にさ、ちょっとこう……なんて言うの? グサッとさぁ」
「…………」
「可哀想だったぞみさりゃん。どうして助けてあげなかったんだよぅ。
 何度も何度もゆっきーの名前を呼んでたっていうのにぃー」

 ―――まさか。まさかまさかまさか。
 麻亜子が自分達を襲った襲撃者?
 そんな筈はない。閃光弾が炸裂した時に洩れた声は確かに男だった。
 なら、みさきを殺したと宣言したこの少女は何だ。
 逃げていたみさきを殺して、こちらまで来たということか。
 
(そ、そんな……みさき、嘘でしょ? だって、約束したじゃない……)

 反対方向に逃げたみさきを殺してここまで短時間で来るという荒唐無稽な話を、何故か嘘だと思えなかった雪見。
 麻亜子の雰囲気か、もしくは雪見の状態がそうさせたのか、今の彼女の精神は何処か逸脱していた。
 押し潰すような悲しみが襲い掛かり、そして次の段階へとシフトする。
 雪見の胸の内に、ドス黒い憎悪が沸々と湧きだってきた。

(―――……くも、よくも! みさきを―――!! 殺す……絶対に殺す―――っ!!)
514引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:02:13 ID:9eTjIWJi0
 ギリっと歯を噛み締めて、怨嗟が篭もった憎悪の光を宿らせた雪見が立ち上がろうとする。
 震える身体を突き動かすのは、殺意の感情の一辺倒。
 彼女の理性までもが訴える。
 あの少女は生かしておけない。八つ裂きにしてでも仇を取れと。
 懸命に立ち上がりながら、拳銃に手を伸ばす雪見の姿を見ても、焦ることのない麻亜子は冷然と見下ろす。

「おやおや? 何だかあれだね。生まれたばかりの子馬が必死になって立ち上がろうとする姿に見えちゃうんだな、これが。
 ともかくさ。そんなに無理しちゃ身体に悪いから―――」

 暗い光を灯す雪見の視線を笑みで返して、鉄扇を右手に持ったまま手首のスナップを利かせて扇状に広げた。
 鈍く光る円状の刃を、上体を起こした雪見の背へと事もなく振り下ろす。

「大人しくしてくれると肝要だぞ」
「―――うぁ……!」

 制服を紙か何かのように切り裂き、雪見の肌もパックリと縦に裂ける。
 痛みで彼女は再び力を失ったかのように地へと沈んだ。
 血液が制服を赤へと染めゆくが、それでも致命傷ではない。 
 何故一撃で致命傷をお見舞いせずに、浅く切り裂くに留めたかなどどうでもいい。
 指一本動かす力があるのなら、全てを麻亜子を殺すことに費やす覚悟だ。
 自分が死ぬまで何どでも立ち上がって、麻亜子を無残に殺してやる。
 それまで諦めるわけにはいかないとばかりに、雪見は立ち上がろうとするも―――
515引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:03:47 ID:9eTjIWJi0
「あ〜あ。飽きたからもういいや。ばいば〜い、ゆっきー」

 壊れた玩具を安易に放り投げるような無邪気さに、雪見の怒りも沸点を振り切った。
 何事もなく背を向けて歩き出した麻亜子へと、痙攣する身体を持ち上げて銃口を構えるも、命中するには既に難しい距離である。
 だが、麻亜子は家の角を曲がろうとする間際、チラリと雪見へと視線を寄越す。
 哀れんでいる様で、楽しんでいる様で、そして何処か誘っている様で。
 そんな表情を残して、彼女は家の角へと姿を消した。
 ―――逃がさない。
 何処までも追い縋って、必ず後悔させてやる。
 その一心と執念で笑う膝を強引に従わせて地へと踏み立つ。

(―――逃が、さない! みさきを殺した仇―――っ!!)

 鬼の形相で一歩一歩を踏みしめて彼女は進んだ。
516引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:06:31 ID:9eTjIWJi0
 ****


「それじゃ、その関西弁の女が要注意人物なのね」
「そゆこと。向坂環ってのは正当防衛だから、安心していいと思うわよ」   

 物陰に隠れた来栖川綾香(037)と巳間晴香(105)は現在情報交換の真っ只中。
 お互いの武器を確認し合い、今は綾香の情報を公開中だ。
 情報といっても本当に微々たるものだが、それでもこの島で生きる上では貴重に成り得るものだ。

「後はね、私の知り合いなんだけど―――」

 この島で参加者として放り込まれ、且つ綾香が探したいと思っている者は四人。
 姉の来栖川芹香(038)にメイドロボのセリオ(060)、松原葵(097)と藤田浩之。
 その内の一人、葵は既にいない。
 放送などという神経を逆撫でする様な主催者の行為には反吐が出るほど気に喰わなかった。
 葵はゲームに乗るような人柄では決してなかった。
 なのに死んだのは何故か。決まっている、悪意あるゲームに乗った馬鹿に殺されたのだ。
 綾香は殺し合いに参加するつもりはない。
 だが、マーダーと対峙した時は、自分の手を汚す覚悟も既に出来ている。
 格闘技とは違う、本物の凶器で人の命を奪うのだ。
 覚悟を締めなおさなければ、拳銃の重みに耐えられそうにない。
 少しだけ暗くなった表情を表にだないように、綾香は晴香へと知りうる限りの情報を与えた。
 黙って聞いていた晴香に、次は貴女の番だと話を促す。

「その前に、綾香。わたし藤田浩之とは会っているわよ」
「ちょっとちょっと! 先に言いなさいよね、そういうことは……」
「口出しするのもどうかと思ったのよ」
「あっそ。で、浩之は何処にいたわけ?」
「平瀬村よ。他にも四人ほどいたけど。わたしは飛び出した梓を追ってきたから、それ以降は分からないわね」
517名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 21:07:37 ID:/nJk5kMe0
回避
518引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:08:30 ID:9eTjIWJi0
 平瀬村だとここからすぐ傍だ。
 本来なら芹香が第一優先なのだが、未だ所在が判明できていない。
 ならば、確実に平瀬村付近にいる浩之と合流するほうがいいのではないか。
 一先ず方針を固めた綾香は、今度は晴香の情報に耳を傾ける。
 浩之一行との成り行きや、自分の義兄のこと。 
 そして、柏木梓(017)が少し暴走気味であることなど、浩之以外の情報に関しては彼女にとってあまり意味があるものとは思えない。
 ただ少し気になったことがあった。

「ねえ。この巳間良祐は義兄って言ってたけど、探す気はないみたいね」
「……そうね。長年会いたいとは思っていたけれど、実際会いたくないってのが本音ね」

 自分は少しでも速く姉に会いたいと思っているのに、晴香は矛盾した物言いで綾香の言葉を曖昧にはぐらかす。
 表情を落として呟く姿を見ていると、あまり立ち入ってはいけない事情があるのかもしれない。
 兄弟姉妹が全て仲良しという訳ではないのだから、無理に探させる必要なんてまったくない。
 しかし、お互いの方針に食い違いが出るのならば、晴香とは組む事が出来ないだろう。
 
「ま、いいわ。とりあえず、私は平瀬村に行こうと思うんだけど。あなたはどうする?」

 綾香の提案に、晴香は少し考えて口を開いた。
 
「いや、わたしは遠慮しておく。このまま梓を放っていくわけにもいかないでしょ」
「ふ〜ん。あちらさんは恐らく望んでいないと思うわよ?」
「それでもよ。このまま暴走した梓を見捨てるのも目覚めが悪いのよ」
519引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:09:35 ID:9eTjIWJi0
 小さく息を付く綾香は、仕方ないとばかりに首を振る。
 出来れば着いてきて貰いたかったが、強制させる気は元よりなかった。
 そもそも、梓を行かせたことに対して未練が顔に残っている以上、結果は言わずも分かっていたのだ。
 なんだかんだと言いながら、結局は最初に出来た仲間が心配なのだろう。
 そんな晴香だからこそ、綾香は接触しようと考えたのだ。 
 彼女の存在は惜しい気もするが、それも仕方がない。

「そう。じゃ私は行くけど、あなたも気をつけなさいよ」
「それはこちらのセリフよ。集落は人が集まりやすいんだから、用心に越したことはないわよ」
「はいはい。わかってるって」

 お互いの健闘を笑みを浮かべながら称え合っていた時だ。
 二人の前に、新たな少女が姿を現したのは。
520引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:11:58 ID:9eTjIWJi0
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「ぬぉぉー! そこの御二方ぁー。お助けをーー!」
「ちょ、何っ!?」
「っ! 止まりなさい!!」

 二人に駆け寄ろうとした麻亜子は、綾香が怒声と共に構えた拳銃に驚いて急停止をかける。
 何とか二人の数メートル前で静止出来た麻亜子は内心で愚痴った。

(むむむ……。流石にこんな古典的な方法じゃ信用してくれるはずもないよなー)

 先程まで雪見を嬲っていた素振りを見せず、彼女は飄々と弁解の口を開く。

「なんであちきに銃を向けるんだー! ひどいよひどいよぅ」
「あからさまに怪し過ぎんのよ! 何なのあんたっ」
「そもそも、その着物は何なのよ……」

 綾香に拳銃で牽制され、晴香からは珍妙な生き物を見るかのような視線に晒される。
 彼女達の不躾な質問と目線に失礼だぞぅと、すかさず反論しておく。
 確かに麻亜子の反応はあからさますぎた。
 第一、ふさげた様なセリフと行動が合致しない。
 少し態度を見誤ったかと麻亜子は思うが、それさえも覆す布石が存在しているために問題ない。
 そもそも態度も性格も普段通りと変わりなく、猫を被っている覚えだって麻亜子にはなかった。 

「ともかく話を聞いておくれよぉ……。こんないたいけな幼女が恐怖に震えているのだぞ? 良心ってものがないのかー!」
「自分で言わないでもらえる? それで、あなたは逃げてきたってこと?」
「総じて正解! ぜひぜひこのあたしことまーりゃんに救いの手を授けたもぉー」
521引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:14:36 ID:9eTjIWJi0
 何を言っているのだこいつは、綾香と晴香の感想は一括していいほど同じものである。
 ジロリと、訝しげに麻亜子を睨む。およそ信用が置けないようだ。
 それでも麻亜子は言葉を必死に連ねる。
 相変わらず胡散臭そうに見る二人だが、実の所麻亜子にはあまり関係がなかった。
 彼女の役目は、綾香と晴香をここに縫い付けておくことだ。
 隙を狙って襲撃するわけでもない。
 それ以前に、二人の緊張が緩むことがあっても、最後まで麻亜子を油断なく観察しているため、なかなかに難しい。
 意外と警戒心が高いが、それすらも麻亜子の計算の内だ。
 少なからず、こんな状況下で警戒しない方が愚鈍であるから、彼女達の態度は想定内でもある。
 危機管理のなっていない者ならば、それはそれでやり易いが。
 
 麻亜子には“協力者”が存在しており、それが来るまでの辛抱だ。
 彼女は外面でも内心でも同じ表情を浮かべながら、今度は泣き落としで迫る。

「うぅぅ……。こんなに頼んでいるのに未だ聞き入れてもらえないこの理不尽さ。さては貴様等ゲームに乗ったな!」
「はぁ!? ふざけるのも大概にしないさいよ。謂れのない事実は不愉快よ」

 激情しやすいのか、綾香は眉を吊り上げて麻亜子を鋭く睨みつける。
 島で殺し合いをする輩と同類に見られたくないが故に、彼女は拳銃を敢えて下ろして見せた。
 だが、その綾香の行為に不満なのが晴香だ。

「ちょっと綾香。用心するに越したことはないってさっき言ったでしょ?」
「構わないわよ。こんな子供にどうにかされるほど私は弱くはないわ」
「そうそう。こんな非力な少女なんか片手間で捻られて当然じゃんよ」
「……だから、何自分で言ってんのよ」
522名無しさんだよもん:2006/10/15(日) 21:16:00 ID:Zp+33B1B0
ほいさ
523引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:18:13 ID:9eTjIWJi0
 銃を構えずも対抗手段があると暗に言う綾香だが、晴香はそれでも納得がいかないようだ。
 綾香の自信の程は何処からか。
 麻亜子が推測するに、恐らく近接戦闘が本領なのだろう。
 引き締まった体躯は見るものからすれば洗礼されており、初めて手にする凶器なんかよりは余程信用が置けるのではないか。
 麻亜子がナイフを携えて襲い掛かっても、それより速く長い腕と足が伸びてくるのだろう。
 だが、どうやら綾香は思い違いをしているようだ。
 格闘技で何とかできるほど、このゲームは甘くはない。
 年齢性別、それらの垣根をいとも容易く破壊する前提を、彼女は忘れているのだろうか。

(ま、それはそれで好都合と。さぁてと……そろそろご到着かな)

 麻亜子の態度に辟易とした綾香と晴香だったが、ジャリっと砂を踏みしめる音を耳にした。
 過剰に周囲に気を配っていたのか、二人は即座に反応して各々の武器を構える。
 その隙に、麻亜子を走りだした。

「あわわわっ―――! 来た来た来たよー!!」
「ちょっと! 何勝手に後ろに回ってんのよ!?」
「いいからほっときなさい晴香!」

 混乱に乗じて上手いこと二人の背後へと移動した麻亜子。
 当然、疑い深い晴香は神経質な抗議の声を上げて摘み出そうとするが、今はそれどころでないとばかりに綾香が怒声を飛ばす。
 ゆらりと、物陰から出てきたのは雪見だ。
 鬼気迫る尋常ではない様子に、二人は唾を飲み下す。
 その時になって、ようやく晴香は出現した人物が誰であるかを思い知る。
 別れて一時間程度しかたっていないというのに、彼女のあまりの変貌振りに二の句を告げられずにいた。
 雪見の身に何があったのか、他の人達はどうしたのか。
 聞きたいことが山ほどあったためと、信頼できる人物を見たときに、晴香の警戒までもが緩んでしまった。
 そして、二人の脇から雪見にだけ見えるように顔を出した麻亜子は、おもむろに笑って手を振っている。
 ブチリと、何かが切れた音が聞こえてきた気がした。
524引き摺られた想い:2006/10/15(日) 21:20:19 ID:9eTjIWJi0
「ちょっと、雪見? 一体何が―――」
「―――ぁぁああ!!」

 ―――晴香の声を遮る形で、掠れた怒声と二発の銃声が響き渡る。
 雪見が手に持つ銃口から硝煙があがり、気付いたときには全てが遅かった。
 
「―――ぅ、あぁ……」
「晴香―――!?」

 ガクリと、晴香が膝を落とす。
 一発の銃声は見当違いの方向へ、そして二発目は晴香の腹部へと着弾した。
 腹部から止め処なく血が噴出す様を見て、綾香は完全に気が動転する。
 だが、ふらふらと揺れながら尚も拳銃を構える雪見の姿を見せられて、彼女は現実に引き戻された。
 雪見の目が正気ではない。
 土気色の表情に、常軌を逸した彼女の様子に呑まれそうになるも、綾香は拳を強く握り締めて腰を屈めた。

「アンタ! 晴香を頼むわよ―――っ!」
「お、おう。任せときためへ」

 その返事を聞かないで、綾香は雪見へと踊りかかる。
 晴香のことは心配だ。だが、それ以上に雪見の存在が一番脅威であった。
 様子から察するに、まともな会話や交渉は望めそうにない。
 ならば、動けないように無力化する必要があった。
 無力化という言葉。そこに、自覚の無い綾香の甘さが隠れていることに本人は気付いていない。
 雪見はすかさず銃弾を放つが、それも動き回る綾香へと当たることなく弾は宙を裂くに終わる。
 一挙動で懐に潜り込んだ綾香の拳が、正確に雪見の肝臓を突き刺した。
525引き摺られた想い
「―――か、はっ……」

 女性の力とは思えぬ一撃に、雪見の口から黄色い胃液が滴り落ちる。
 その反応にやったか、と気を抜いてしまった綾香はやはり甘さが抜け切れていないのだろう。
 雪見は倒れそうになる身体は抵抗させずに、綾香の首に自身の腕を巻きつけた。

「え!? ウソっ―――」

 驚愕の悲鳴を道連れにして、雪見は綾香を引き摺り倒す。 
 
 泥沼の戦いになりつつあった二人を麻亜子は横目で眺めつつ、晴香の状態を確認する。
 留まることを知らないように、晴香の体から血液が漏れ出していく。

「ふむふむ。血を止めたらなんとかなりそうかも……」

 臓器は奇跡的に傷付いていないようなので、適切な治療を施して安静にしておけば助からないこともなかった。
 だが、そのつもりはない。そんな知識や技術も元より持ってはいない。
 初めからこういう修羅場を望んでいたのだから、治療するなんてもってのほかだ。
 そして、仕上げがまだ残っている。
 麻亜子は懐から鉄扇を取り出して、苦痛に顔を歪める晴香へと視線を寄せた。

「……痛そうだねぇ。気分はどうかな?」
「―――さ、いしょから、そのつもりだったのね……っ!!」

 晴香の弱弱しい怒声も、麻亜子は笑みで迎えた。