書き手募り上げ
160 :
名無しさんだよもん:2006/10/10(火) 01:25:08 ID:rFwhtOIf0
上げてないし……
KanonはドラマCDあるからなー、あれだとあゆと栞は親しいよ
ただほとんどのキャラ同士が親しくなるし、
美汐とか久瀬辺りがぶっ飛んだ性格になるのが問題だが
162 :
波乱の兆し:2006/10/10(火) 12:46:05 ID:DhVkn+EHO
あれから十分以上が経過した。しかし、貴明たちと宗一はこう着状態であった。互いに相手の出方を伺っているためだ。
(――相手は4人。うち1人はショットガンを持っている。
しかし、ゲームに乗っているものが普通は集団で行動するとは思えないが……)
「おい貴明。どうすんだ?」
雄二が貴明に尋ねる。
「まだ相手が何者か、武器がなんなのかもわからない。もう少し様子を見たほうがいい」
「そ…それなら私が試しに外に出て………」
「だ…だめだよマルチちゃん! 危ないよ!」
貴明たちの向かいの物陰に隠れていたマルチが顔を出そうとしたのを一緒にいた沙織が制止する。
「――ならこうしよう。雄二、これ持っててくれ」
そう言うと貴明は自分の持っていたショットガンを雄二に手渡した。
「え!? 貴明おまえ何する気だ!?」
「俺が試しに外に出て相手に話しかけてみる。それで、もし相手が敵だったらそいつを敵に向かって射ってくれ」
「ば…馬鹿。おまえ死ぬ気か!?」
「そ…そうだよ貴くん! それ凄く危ないと思う!」
「やめてください貴明さん。そういうことはやはり私が……」
「みんながそう言ってくれる気もわかるよ。でもさ。いつまでもこうしていられないでしょ?
こうしているうちに別の敵が来て全滅なんてことになったら洒落にならない」
「そ…それもそうだがよ」
「大丈夫だ。俺だってそう簡単に死ぬつもりはないよ」
そう言って貴明は雄二たちにニッと笑った顔を見せる。
「――わーったよ。でも、間違えておまえを射っちまうかもしれねーからな?」
「サンキュー」
貴明同様、覚悟を決めた雄二はショットガンを握った。
「――来るか……」
宗一も貴明たちの動きを察知して、自分も動こうと一歩踏み出した。
その時……
163 :
波乱の兆し:2006/10/10(火) 12:47:50 ID:DhVkn+EHO
「待てぇい!」
「ん?」
「え?」
貴明たちと宗一の耳に聞き覚えのない男の叫び声が聞こえた。
「だ…誰だ?」
「どこから聞こえた?」
「はわわ…わかりません」
「――!? 見て。あそこ!!」
「!?」
沙織が指差す方へ貴明たちが目を向ける。
そこには沈みかけている夕日をバックに一人の男が立っていた。
――それも、わざわざ民家の屋根の上に……
「……なんだあれは?」
「さあ…」
「このクソゲームのルールに縛られてしまっている愚かなガキ共よ、この俺を見るがいい。
ゲームに乗ることなどなく、ただ愛する妻と娘を守るために自分の信念を貫き通し一直線に前に突き進む男……………
人それを『父親』と言うッ!」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「わ〜。かっこ良いですね〜」
なんとかと煙は高いところが好きとは言うが、まさか本当だったとは、と宗一と貴明たち(マルチ以外)は思った。
164 :
波乱の兆し:2006/10/10(火) 12:51:55 ID:DhVkn+EHO
「………おい! そこのガキ共、なにぼけーっとしてんだよ! ここは『だ…誰だおまえは!?』って聞いてくるのがお約束だろうが!?」
「知るか」
「くっ…最近のガキはマ●ン●ボも知らねえのかよ……
せっかく村を見つけたからダッシュで駆けてきたっていうのによ………」
などといいながら今度は肩で息をする男。
しばらくすると、調子が戻ったのか再び顔を上げて貴明たちにこう言った。
「あー…本題に入るが、おまえら古河渚と古河早苗っていう奴らを見かけなかったか? 妻子なんだが……」
(――古河? 妻子?)
宗一は診療所で早苗から聞いたある名を思い出した。
「おまえ、古河……秋生か?」
貴明たちが男の方に目がいっていることを確認すると、ためしに宗一は男に尋ねてみた。
「!? おまえ、何か知っているのか!?」
すると、男と貴明たちの目が今度は宗一に向く。
「あ。いや……早苗って人なら今この村の診療所に……」
「なんだと!? よおし。待ってろ早苗ぇぇぇぇぇぇ!」
「……………」
宗一からそのことを聞くと男――古河秋生(093)は診療所へと駆けていった。
もちろん民家の屋根から下りて。(しかも、やや飛び降り気味に)
「……なんだったんだ? あのおっさん?」
「さあ……」
取り残された貴明たちはなにがなんだかわからず、ただ途方に暮れるだけしかできなかった。
「――なあ。おまえら」
「あ……」
気がついたら宗一は貴明たちから数メートルほど近くまで来ていた。
気がついた貴明たちはあわてて武器を構える。
「ああ落ち着け。俺はこのゲームに乗っちゃいない」
そう言うと宗一は両手を上げる。
165 :
波乱の兆し:2006/10/10(火) 12:53:09 ID:DhVkn+EHO
――とりあえず宗一は自己紹介とこれまでのことを貴明たちに説明した。
「つまり宗一さんは主催者を倒すための仲間を集めているんですね?」
「ああ」
「貴明。俺たちも一応診療所に行ったほうがいいんじゃないか?」
「まあ…人は多いほうがいいしな」
「あの…」
「ん?」
宗一たちが話していると、背後から女の子の声がした。
振り替えるとそこには物静かな感じのする自分たちと同年代の少女がいた。
「あっ。るりるり!」
「え? この子が?」
そう。今沙織が言ったとおり、彼女こそ沙織が探していた人の1人、月島瑠璃子(067)だった。
「でも、よかった〜。るりるりが無事で」
「うん……あとは長瀬ちゃんたちだね……」
その後、自己紹介などを一通り済ませたあと、瑠璃子を加えた貴明、雄二、沙織、マルチはそろって診療所へ向かっていた。
(ちなみに宗一は「食料調達がまだ終ってない」ということで村に残った)
「こっちは5人。しかも宗一が武器も貸してくれたから、これでまた少し安全になったな」
そう言って雄二は瑠璃子の持っているベレッタを指差した。
「うん。そうだね…」
瑠璃子も自分が今持っている銃に目をやった。
これは支給品の鋏をなくしたという瑠璃子に宗一が貸したものである。
「宗一が言うには診療所は今ゲーム脱出を考えている人たちが集まっているみたいだね」
「さっきのおじさんも今頃診療所で奥さんと再開しているのかしら?」
「もしかしたら浩之さんたちもいるかもしれませんね」
ゲーム脱出への希望が見えてきた貴明たちは診療所へ向かう足が自然と早くなっていた。
166 :
波乱の兆し:2006/10/10(火) 12:54:20 ID:DhVkn+EHO
「あ。月島さん」
「なに…?」
あることに気づいた貴明が瑠璃子の方を見て言った。
「それ予備の弾は無いみたいだから、仮に使うときは慎重に……ね?」
まあ。人殺しの道具なんて俺たちに使うときがあるかなんてわからないけど、と付け足して貴明は苦笑いした。
「わかってるよ河野くん…」
そう言うと瑠璃子はまたベレッタに目を向ける。
(――使うときは確実に使える場所で使わなきゃ………)
この時、瑠璃子の口元がわずかに吊り上がったことに気がついた者はいなかった。
河野貴明
【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
【状態:健康。診療所へ行く】
向坂雄二
【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:健康。診療所へ行く】
新城沙織
【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
【状態:健康。診療所へ行く】
マルチ
【所持品:モップ、ほか支給品一式】
【状態:健康。診療所へ行く】
月島瑠璃子
【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
【状態:健康。診療所へ行く。隙をついてマーダー化するつもり】
167 :
波乱の兆し:2006/10/10(火) 12:58:57 ID:DhVkn+EHO
古河秋生
【所持品:S&W M29(残弾数5/6)、ほか支給品一式】
【状態:健康。ダッシュで診療所へ】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式】
【状態:健康。引き続き村で食料調達】
【時間:午後5時50分】
【場所:I−07】
【備考】
・B系雄二・支給品デスノート&Jルート190、193の続き
>まとめ管理人さま
ルートJを以下のように訂正、更新してください
・209を不採用
・チャートを……216j→217→221→224→225→226(本作)→に更新
「醜悪なるネメシス」
その放送が始まったとき、篠塚弥生は足早に森の中を移動していた。放送を開始したのを機に一休みしようと足を止め、呼ばれた名前を名簿にチェックする。
「……015 緒方理奈……」
彼女が死んだか。脳のシナプスから彼女の画像を掘り起こし、しばし冥福を祈る。だが、その冥福は呼ばれたもう一人の名前に阻害され長くは続かなかった。
「……110 森川由綺……」
呼ばれた名前は、山彦のように、自分の世界で、反響し続けていた。
どこかで覚悟はしていた。こんな状況になってしかも離れ離れになった以上、そうした状況は起こりうるのだと。覚悟はしていたはずだった。
それなのに。顔から血が引いていくのがわかった。そしてそれと裏腹に脳が焼けるように熱い。喉がからからに渇き、足が震えた。
由綺が失われてしまった。あの髪も。唇も。声も。笑顔も。全てが。森川由綺の全てが世界から失われてしまった。
不思議と泣き声は出てこなかった、無論涙も。冷静な自分がそれを止めているのだ。そんなことをしている暇はない、と。泣くのも、悲しむのも、全ては後回しにして……
後回しにして何をする?
自分の世界は森川由綺一色だった。
由綺のために働き、
由綺のために車を運転し、
由綺のために笑い、
由綺のために話をし、
由綺のために歩き、
由綺のために食べ、
由綺のために寝て、
由綺のために息をした。
だが、それはもうできない。できないのだ。残された世界に何があるというのだ。強いて言うなら仇を討つことぐらい……
そう、仇を討つのだ。由綺はどんな思いで死んだのだろうか、悲しみか、苦しみか、それとも何を考える暇もなく死んだのか。
その思いの十分の一でも百分の一でもいい。相手に与えなければ気がすまない。有紀がどれだけ苦しんだか、そして自分がどれほど絶望したのか。
かなうことならばそいつの知り合いを全員並べて一人づつ撃ち殺してから最後にそいつを殺してやりたい。なるべく長く、なるべく苦痛を感じる方法で。
だが、その仇をどうやって探せばいいのか? 皆が戦闘を避けたいこの状況では、自分は殺してないと言い張るはず。
(なら、残念だけど……)
全員殺す。それしかない。なるべく早く全員を殺す。仇が先に討ち取られることのないように。
もし由綺を殺したやつを殺した人間がいたとしたら、そいつも同罪だ。自分が由綺にしてあげられるはずの最後の仕事を奪った人間。それも殺す。
気負う必要はない。それは植物が光合成をするようにごく当たり前のこと。
負担も感じない。それは毎朝の歯磨きのようにやって当然のこと。
全員殺す。由綺を殺した人間を、それから由綺を殺した人間を殺した人間を、そしてそれをさらに殺した人間でも、さらには全く無関係の人間でさえも。
(醜い……わね)
わかっている。由綺がここに幽霊として化けて出てきても彼女は決してそんなことを望みなどしない。これは由綺の仇という名を借りた治療だった。由綺が殺されたという自分の喪失感を慰めるためだけの手段。
それだけのために人を殺す。そう、それだけのために。だが別の言葉を使えば、そうしなければ癒せない傷だった。
由綺の仇が確実に討てたという満足感。それだけを求めて自分は殺戮を繰り返す。間違いなく自分はこの島で最もたちの悪い参加者だろう。
だが、迷わない。自分はそんな控えめな人間ではないのだ。
決して、揺るがない。これは自分が自分であるために必要なことなのだ。
そこにきてふと先ほどの放送への信頼性を考えた。本当に由綺は死んだのだろうか、と。
だが、何を迷うことがある。さすがに全員間違いと言うことはあるまい。もうゲームに乗った人間がいるのだ。
そうである以上、由綺が生きてたとしても彼女が危険にさらされていることに代わりはない。やはり殺してまわるしか自分には道が残されてないのだ。
弥生は一口、水を飲んでから、夕食をはじめた。
既に日は落ちている。参加者はこれからどう動くかを彼女は冷静に考えた。
まず、間違いなく三つある集落のどれかを目指す。家にこもるというメリットはこの状況下では限りなく大きい。今のところそうした気配はないが雨も防げるし、凍える心配もない、水があれば少なくとも体を吹くことができるし、新鮮な食料や暖かい寝床も手に入る。
(そして、)
一方で由綺を殺した人間はどう動くだろうか。忘れてはいけない。全員殺すというのはあくまで手段。目的は由綺の仇討ちなのだ。効率よく動くのに越したことはない。
だが、自分にはなんの情報もなかった。どんな小さなことでもいい。情報が欲しかった。由綺に関する情報が。あるいは由綺に関する情報を持ってない人間がどこにいるのか。となると、
「やはり私も集落へいくのが最良ですわね。最も近いのは鎌石村……」
まずは情報を聞き出す。それから殺す。
荷物をしまい彼女は歩き出した。
右手にはレミントン、唇にはルージュ、背中にはディパック、足元にはハイヒール。
それらは異質でありながら彼女にとっては並列の存在。それは彼女が非日常の人間になった証だった。殺すことと生きることが並列し、どちらも当たり前になる。
おそらく自分が経験した中でももっとも長い夜になることを覚悟し、復讐の女神は北に向かって歩き出した。
篠塚弥生
【時間:18時半頃】
【場所:D-04】
【持ち物:レミントン(M700)装弾数(5/5)予備弾丸(15/15)・ワルサー(P5)装弾数(8/8)・支給品一式】
【状態:異常なし、マーダー化】
ルートはB系およびIとJ 138の続き
172 :
祭りの後:2006/10/10(火) 18:39:28 ID:jJTjGRfcO
ドンッ!!
と外から聞こえる一発の鈍い音。
「なに!?」
広瀬真希は反射的に立ち上がっていた。
花火だろうかとも考えたがそんな楽観的な考えはすぐさま消え、おそらくは銃声だろうと気付く。
「北川、大丈夫かしら……」
数分前、外に飛び出していった割烹着姿の少し間の抜けた男のことを思い出す。
なんとなくだがそれだけでは無い様な気もしたが、そもそも出会って間もないのだ。
――あいつのことは何も知らないわけだし、ま、気のせいよね。
そんなことを考えていると、給湯室から少しはにかみながら遠野美凪が出てきた。
手には先ほどまで作っていたハンバーグ。
それをニコニコと広瀬の前に差し出した。
「……どうぞ」
――この子も無表情だしなに考えてるのかいまいちよくわかんないわね、ってなにこれ!?
差し出されたハンバーグを見て目を丸くする。
お面のように妙にリアルな人間の顔の形をしている。
「これを……食べろって?」
……コクコク。
「……うまくできました」
――いや確かにうまいわよ。なんて言うか、芸術?でもうますぎて逆に気持ち悪いわよ。
ただ固まるしか出来ない広瀬。
173 :
祭りの後:2006/10/10(火) 18:40:50 ID:jJTjGRfcO
気にした様子も無くフォークとナイフを差し出す美凪にとてもそんなことは言えず、ただ黙って受け取った。
「……はぁ」
溜め息が漏れる。とその時だった。
ドンッ! ドンッドンッ!!
と再び銃声、しかも今度は立て続けに三発。
そして何事かと考えるまもなく響き渡る轟音と共に地面が大きく揺れた。
「ななななになになに、なんなのよっ」
軽くパニックに陥りながら美凪の手を引くと、机の下へともぐりこんだ。
慌てふためく広瀬に対し美凪はと言うと、キョトンとした顔で広瀬の頭をなでていた。
「落ち着いてください……はい、お米券」
「……そんなのあとでいいから」
大物なのか鈍いだけなのか、ますます美凪のことがわからなくなり、差し出されたお米券を押し返すと頭を抱える。
建物がまだ余震で揺れている中、落ち着きを取り戻そうとゆっくり深呼吸。
スー……ハー……スー……ハー……、よしおっけ!
それにしてもいまのは揺れはなに?
爆弾でも持ってる奴がいるとかなのかしら……だとしたらたまったもんじゃないわねホント。
胸中には再び割烹着姿の北川の顔が浮かび、そして爆弾で弾け飛ぶ姿が浮かんできた。
「あー、もう!」
174 :
祭りの後:2006/10/10(火) 18:41:30 ID:jJTjGRfcO
フルフルと首を強く振るとその疑念を打ち消すように言った。
だが、一度わいた疑念は簡単には消えずモヤモヤしたものが広瀬の頭をめぐる。
気が付いたときには机から這い出て玄関に向かって走っていた。
玄関のノブを掴み、捻る。
直後、二回目の轟音が襲った。
少し開きかけたドアが勢い良く広瀬の身体にあたり思わずよろけてしまう。
「っとになんなのよっ!」
怯むことなく体勢を整えると、外へと飛び出した。
キョロキョロと首を振ってみるも、注意深く見渡す必要も無く目的の人物は見つかった。
見た感じ無事なようだが、それよりも広瀬の目に飛び込んできたものは爆炎とその下にある……それが何かを認識する前に目を逸らしていた。
えっと……北川のそばには……男の子?あ、肩を抱いてる。怪我してるのかしら?
傍には泣きじゃくった同い年くらいの女の子とそれを必死になだめるポニーテールの子。
向こうからは眼鏡の男……女の子を背負ってるわね、ってあんな子供まで参加させられてるの!?
見てはいけない、何かも考えちゃいけない。
奥底から沸いてくる直感に促され目の前の惨事から必死に視線を避けた。
175 :
祭りの後:2006/10/10(火) 18:43:25 ID:jJTjGRfcO
注意を逸らそうと辺りの様子を窺い状況把握に努める。
「北川っ!」
広瀬の言葉に全員が広瀬を向き、そして北川以外の人間は身を構えた。
――えっえっ?
その剣幕に押され、思わず身じろいでしまう。
「……大丈夫、知り合いだ」
北川の一言に、彼らの緊張が緩まったのが見て取れ安堵する。
「一体何が……」
自分の意思とは裏腹に動こうとする目線を止め、北川の顔に戻しながら言った。
――。
誰も何も答えない。
泣き続ける杏の声だけが、静寂を許さないように時を動かしていた。
英二が背中から芽衣をそっと降ろし、代わりに杏の身体をそっと抱きかかえた。
「――詳しい話はとりあえず後でするとして、どこか安全な場所は無いかな?」
「安全かはわかりませんけど、とりあえず今まで私がいたところならすぐそこに……」
「じゃ、そこにしよう。みんないいかな?」
英二の言葉にただ黙ってうなずく一同。
もはや考える気力も無いのかもしれない。
杏を抱えたまま歩き出す英二。そして「行こう」と促すと小走りに芽衣が並び、みながみなゆっくりとその後を追う。
176 :
祭りの後:2006/10/10(火) 18:44:20 ID:jJTjGRfcO
いつの間にいたのか、消防署の扉の前に立っていた美凪が小さく微笑む。
何も言わず一同を迎え入れ、静かにその扉が閉まるのだった。
共通
【時間:17:00頃】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
【関連:155罪と罰を通るルート】
相沢祐一
【持ち物:SPAS12ショットガン】
【状態:体のあちこちに痛み。若干の吐き気】
緒方英二
【持ち物:予備の弾丸、荷物一式、支給品の中にはラグビーボール状のボタンと少し消費した食料と水とその他】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、荷物一式×2(自分の分と相沢祐一の分)】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
北川潤
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾、他支給品一式、お米券】
【状態:腹部と胸部に痛み。若干の吐き気】
春原芽衣
【持ち物:英二の支給拳銃、荷物一式、支給品の中には少し消費した食料と水とその他】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
藤林杏
【持ち物:なし】
【状態:混乱しつつ泣いてます、精神状態不安定】
177 :
祭りの後:2006/10/10(火) 18:47:42 ID:jJTjGRfcO
広瀬真希
【持ち物:防弾性割烹着&頭巾】
【状況:混乱】
遠野美凪
【持ち物:消防署にあった包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、他支給品一式、お米券数十枚】
【状況:冷静】
【備考】
ラグビーボール状態のボタンは英二が、英二の拳銃は芽衣が回収
北川の携帯電話は転がったまま
杏の持っていたショットガンは祐一の手に
178 :
涙:2006/10/10(火) 22:11:35 ID:JdGxBpRh0
ぱららららら・・・・
太田香奈子のマシンガンが連射される。
「くぅ…、なめんなや!」
パンッ!
今度は別の銃の音。
民家の影に隠れている女、神尾晴子のH&K VP70の銃声である。
香奈子はシュンと離れてすぐに、晴子を発見し、迷うことなく攻撃を仕掛けていた。
しかし、直前に察知され、凌がれた。
晴子は今は民家の物陰に隠れて機を伺っている。
太田香奈子も同じく、近くの民家の影に隠れていた。
既に銃撃戦の経験がある神尾晴子は冷静に状況を分析していた。
(マシンガン持ちが相手はちょっと難儀やな……)
警戒は緩めず、遮蔽物に身を隠したまま辺りを見渡す。
所々に民家はあるが、上手く身を隠せそうな森はすぐ近くにはない。
相手はマシンガンである。
以前と同じように背を向けて逃げ出せば、
間違いなく蜂の巣にされるであろう。
ぱららら・・・・・
またマシンガンの音。そしてすぐさま、香奈子は民家の影から影へと移動し、
お互いの距離を詰めていた。
(焦る事はないわ……距離さえ詰めれば、こっちのものなんだから)
マシンガンによる銃撃は、弾丸のシャワーである。
近距離で放てばほぼ確実に命中する。
焦る事は無い。
ただ冷静に距離を詰めていけば、最後には必ず自分が勝つ。
179 :
涙:2006/10/10(火) 22:12:47 ID:JdGxBpRh0
このゲームのどこかに、瑞穂を殺した者が、必ずいる。
だから、今自分がすべき事は瑠璃子だけでなく、ほとんど全ての参加者。
月島拓也と………………、そして、氷上シュン以外の者を殺す事だけなんだ。
香奈子はそう、自分に言い聞かせていた。
(こらまずいわ……)
晴子が相手の狙いに気付き、狼狽し始めたその時であった。
「駄目だっ、太田さん!!」
「!?」
香奈子が振り返ると、そこには氷上シュンが息を切らし、立っていた。
「なんで追ってきたの!?わたしは瑞穂の仇を討つのよ!」
香奈子は激昂しながら叫んだ。
しかし・・・。
「殺し合いなんて、駄目だよ!死んだ君の友達だって、そんな事願っているわけないよ……」
「……………………」
シュンの目には、またも涙。
どうして彼は、自分以外の者の為にこんなに悲しむ事が出来るのだろう。
「それでも、駄目よ…………。あたしには、瑞穂以外何も無いんだから…………。」
そう、自分にはもう何も無い。
月島拓也は、その愛情を妹以外には注いではくれない。
自分を想ってくれる人は瑞穂しかいなかったのだ。
「……僕じゃ、駄目かい?」
「え?」
思いもよらぬ言葉に、呆然とする香奈子。
180 :
涙:2006/10/10(火) 22:13:51 ID:JdGxBpRh0
「僕じゃ、駄目なのかい?少なくとも僕は、太田さんと友達になれたつもりだよ……」
「………………」
心が揺れる。
彼は、身勝手に振る舞い、挙句の果てには殺し合いに乗った自分の事を、
友達と呼んでくれている……。
香奈子は決心し、口を開こうとしたその時であった。
そんな時であった。
パンッ!
銃声が一つ、こだましていた。
「………………え?」
目の前の光景がスローモーションのように映る。
シュンは、香奈子の目の前で、胸から血を吹き出しながら、倒れていた。
「………堪忍な。うちはまだ、死ぬ訳にはいかへんのや。」
シュンを撃った張本人、晴子はそれだけ言うと、背を翻し走り去っていった。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!しっかりして!!」
香奈子は晴子の方には目もくれずに、シュンの体を抱きかかえている。
その体はまだ暖かかった。
しかし、元々体の弱い彼を即死させるには、先程の銃撃は十分過ぎた。
彼の口が再び開く事は無かった。
彼の笑顔が再び見れる事は、無かった。
「そんな……、そんな…………!」
香奈子はシュンの体を抱いたまま、泣いていた。
嗚咽をあげ、ずっとずっと、泣いていた。
「私、変われると思ったのに……。あなたとなら、真っ直ぐに生きていけると思ったのに……」
香奈子は、後悔の念に押し潰されそうになっていた。
(私は馬鹿だった。私の事を思ってくれる人が現れたのに、私の身勝手な行動のせいでその人の命を奪ってしまった。
きっと彼の命は、彼の人生は、私なんかのより何倍も尊いものだったはずなのに……)
181 :
涙:2006/10/10(火) 22:14:44 ID:JdGxBpRh0
いつ終わるとも分からぬ香奈子の嗚咽は続いてた。
しかし、終わりは唐突に訪れた。
ダァンッ!!
一つの銃声と共に、香奈子の思考中枢は引きちぎられた。
ダァンッ!!
もう一度、銃声。
香奈子の頭は、半分以上が消失していた。
「本当に理解に苦しむ。死んだ奴の事など、放っていけば良いものを。」
そう言って弾の切れたベネリM3を捨て、シュンと香奈子の武器を拾う狩猟者、巳間良祐。
彼は浩之達の残した支給品の一部を拾い、新たな獲物を求め、
自転車に乗り氷川村へとやってきたのであった。
「有効な装備が増えてきたな…。これで効率よく、狩りが行なえそうだ。」
良祐は不敵に笑っていた。
そして横たわる二つの死体には目もくれず、すぐに次の獲物を探しに歩き出していた。
後に残ったのは、氷上シュンと、彼の死体に覆いかぶさるように倒れている太田香奈子の死体。
それに、地面に染み込んだ香奈子の涙だけだった。
182 :
涙:2006/10/10(火) 22:15:16 ID:JdGxBpRh0
巳間良祐
【時間:1日目午後6時30分過ぎ】
【場所:I-06】
【所持品1:89式小銃 弾数数(22/22)と予備弾(30×2)折りたたみ式自転車・予備弾(30×2)・支給品一式・草壁優季の支給品】
【所持品2:スタングレネード(2/3)・ドラグノフ(残弾10/10)・H&K SMG U(6/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5】
【状態:軽い疲労。次の獲物を探している。】
太田香奈子
【時間:1日目午後6時30分過ぎ】
【場所:I-06】
【状態:死亡】
氷上シュン
【時間:1日目午後6時30分過ぎ】
【場所:I-06】
【状態:死亡】
神尾晴子
【時間:1日目午後6時30分過ぎ】
【場所:I-05】
【所持品:支給品一式、H&K VP70(残弾、残り16)】
【状態:軽い疲労。次の標的を探している。】
【備考】
・弾の切れたベネリM3はその場に放置
・シュンと香奈子の残りの荷物は遺体そばに放置
・ルートB系共通、関連は190、196、217
183 :
予想外:2006/10/10(火) 23:35:04 ID:W84+ssXM0
「――以上です」
放送の声が途絶えると、少年(055)は閉じていた瞳を開き、空を仰ぎ見た。
「時間だね」
とうとうこの時がやってきた。出来る事ならば、何人もの人の命は殺めたくは無い。少年とて人の心を持った人間なのだ。
しかし、今更どうしようもない。与えられた任務を遂行するのみだ。理想としては、郁未を殺した人物を最後に少年が殺して終わる。それが望ましいのだが、
「そう思惑通りに進まないのが、このゲームだからね」
先程の放送からも分かるように篁や醍醐と言った歴戦の猛者も命を既に落としている。支給品に恵まれ、常人に比べれば数段高い身体能力を有する少年でさえ例外ではない。
「さて、僕の武器はどんなのかな」
放送が終わるまでは何もしないと決めていたので初めて武器を目にすることになる。
デイパックを開けて、中身を確認する。
「…あれ?」
予想外の支給品に、彼らしくもない声が上がる。
「…おかしいな」
デイパックの中に入っていたのは、戦場携行食、つまりレーションだった。それ以外には何も入っていない。
「強力な武器だ、って言ってたのになぁ…」
レーションを見まわしても、毒入りだとか実は地雷でした、とかそういうオプションはついていない。どこからどう見てもレーションだった。
184 :
予想外:2006/10/10(火) 23:35:42 ID:W84+ssXM0
「…予想外だね」
やる気が失せかけたが、この身一つでも人一人殺ることなど造作も無いことである。少年は気を取りなおして山を下ることにした。まず狙うは銃を持った人間だ。
――これはまったくの偶然なのではあるが、本来の少年の支給品、P−90は手違いで七瀬留美に渡ってしまっていたのである。
もちろん主催者側もゲームが始まってすぐに気がついたのではあるが、回収しようがあるはずもなく、そのまま続行するに至ったのである。
さて、この奇妙な出来事が少年にとって吉と出るか、凶と出るか。
その結末は、誰も知りようがない。
少年
【場所:神塚山山頂(F-05)】
【時間:午後6時】
【持ち物:レーション3つ】
【状況:無差別に攻撃を仕掛ける】
うるせぇうるせぇうるせぇ!
ビービー喚きやがってこれだからガキは嫌いなんだよ!!
あいも変わらず中吊りのままの高槻は心の中で叫んでいた。
どこへ行っていたのか、マナが戻って来るとその直後、謎の声が響き渡り今までの死者が発表された。
それを聞いたマナは力無くその場にへたり込み、大声で泣き出したのだった。
「……おい、なんか言ってやれよ」
顔をしかめたまま、隣に同じように吊られている往人に小さく声をかけた。
「あいにくそう言うのは苦手なんだ」
俺もそうだよ。でもうぜえんだよ。この顔見りゃわかるだろ、察してくれよ!
「――なぁ」
諦めて高槻はマナに向かって口を開く。
涙をぬぐう手の動きが止まり、ギラリと睨みつけながらマナが一言。
「……なによ?」
「ん……と、そのだな」
だからなんで俺様が睨まれなきゃいけねーんだよ、あーめんどくせぇ。
で、なんて言やいいんだ。
やべぇ、まったくもって浮かばねぇ。
「……元気出せよ」
高槻が必死に必死に考えて出た言葉はそれだった。
「あんたに何がわかるって言うのよ!」
だがそれは当然のことながらマナの逆鱗に触れただけの結果に終わる。
「大好きな人が死んだ気持ちあんたにわかる?
そんなノホホンとした顔してるんだからわかるわけないわよね。
内心いい気味だとか思ってるんでしょ、ふざけんじゃないわよ!
……あんたみたいなのがいるから、お姉ちゃんは……お姉ちゃんは……」
機関銃のようにまくし立てたかと思うと、一変して力無く声は小さくなっていった。
――そして静寂
どうしろっつんだよホント!
暗い、暗いぞこの空気。
耐えられん!!
「なぁ」と往人が口を開いた。
おっ、なんか言ってくれるのか?ありがてぇ。
「今度はアンタ?なによ」
「泣いて何かが変わるのか?」
「っ!」
「!?」
非情にも取れる言葉に、マナが往人に銃口を向けた。
一歩間違えれば撃ちそうな、今までに無い形相で睨みつけている。
「確かに俺の知り合いの名前はさっき呼ばれた中に無かった。
だからお前の気持ちはわからない」
往人は自身に突きつけられている銃を気にも留めず、小さく、淡々と語る。
「だが、今こうしてる間にも危険に晒されているかもしれない。
もしかしたらもう死んでいるかもしれない……考えたくも無いことだ。
だからこそ今しなければならないことがある、俺はそう考えてる。
少なくとも俺がお前が同じ立場だったとして、それは泣くことではない、とも」
ドンッ!
「うぉっ!」
マナの持つ銃口から重い音と共に弾丸が飛び出した。
だがそれは当たる事も無く、行き場をなくして静かに天空へと消えていった。
「……冷たい言い草ね」
「慰めて欲しいのか?あいにくそう言うのは苦手でな。思ったことを言っただけだ」
マナは項垂れたまま今にも消えそうに呟く。
「……あたしに何が出来るって言うのよ」
「さぁな、それは自分で考えるしかないんじゃないか?
とりあえずさしあたって出来ることを進言すると、降ろしてくれると非常に助かるな。
さっきも言ったが、俺には今しなければならないことがあるからだ」
マナからの返事は、無い。
何かを考えているのか、再び数秒ほどの沈黙が訪れた。
おもむろにマナが立ち上がる。
変わらずこうべは下げたまま往人に尋ねた。
「一つだけ聞きたいけど、いい?」
「あぁ」
「……アンタは何をするつもり?」
「知り合いを探す、そして守る」
マナは顔を上げて往人の顔をじっと見つめた。
その顔には嘘も迷いも感じられない。
ゆっくりと往人の前に立つと足元に絡んだロープをほどいた。
「いてっ!」
ドンッと頭から地面に叩きつけられ苦悶の声を上げる往人。
「別に信用したとか、そんなんじゃないから」
マナは言いながらも小さく笑うと、往人にそっと手を伸ばすのだった。
国崎往人
【所持品:なし】
【状態:普通】
観月マナ(102)
【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
【状態:普通】
月島拓也
【所持品:なし】
【状態:気絶中】
ポテト
【高槻の支給品】
【場所:F-7西】
【時間:一日目18:30頃】
【関連:→176 →216 ⇔78】
【備考:往人の所持品と高槻の所持品は木の根元に散在、詳細は下記に。
トレカフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(×4=往人と名雪と拓也と高槻のバッグ)】
――まてまてまて!
俺様の存在忘れんじゃねーよ!
出番すらないのに、気絶してる兄ちゃんはまぁ百歩譲ってもだ、参加者ですらない獣でさえ名前載せてんじゃねーかよ!!
なんだ俺様のこの扱いはチクショウ。Dルートあたりにぶち込んで大暴れさせろっつーの!
しっかしこの兄ちゃん、文句ばっかのクセに言うことがかっけーな。
そうか、ああ言えば良かったのか。
……うむ、さすが主人公は違うな。
ぶっちゃけ俺様も好きであんな三流役やってるわけじゃねーよ。
いい加減路線変更して純愛ストーリーでウハウハするのもいいかもしれん。よし、そうしよう。
手始めがこんなクソガキなのが気に食わんが……いかんいかん、この思考がダメなんだな。
選り好みはしちゃいけないってことで、うし。
「なぁ、泣いてなんか変わんのか?」
……あれ、なんでジト目?
「お前の気持ちなんかわかんねーよ」
いやまて、銃は向けるな。
「俺様にはやることがあるからとりあえず降ろせ」
そしてとりあえずこっちくんな。
え、なに?
その振り上げた手はなに?
お、おい待て落ち着け、やめ、やめやめやめ!
バシッ!!
無情にも、乾いた張り手の音だけが林の中にこだまするのだった、めでたしめでた……ふざけんな!
高槻
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】
あれから誰に会うでもなく、目的地であった鎌石村消防分署に到着することができた。
距離的にもそこまでなかったため、時刻もそれほど過ぎていない。
道中、人とすれ違うこともなかった。
知人に会えないのはつらい、だがそれ以上にゲームに乗っているであろう人物に出くわしたことがないのは運がいい。
「開けるよ、七瀬さんは後ろに下がってて」
藤井冬弥は警戒しながら、建物の中を覗きこむ。
その後ろ、七瀬留美は扉の向こうというよりは背後の気配に神経を集中し、奇襲に対する警戒強めた。
中に人気が無いことを確認し、素早く滑り込む冬弥。
留美もすぐ後を追った。
鎌石村消防分署、ここは消防分署と呼ぶにはあまりにも規模が小さかった。
まず、駐車場は大きさからして消防車二台程しか入らないサイズ。
(今はその消防車自体がないので、ただの長方形のスペースになっているのだが)
建物は二階建て、こじんまりとした作りはアパートを彷彿させる。
「夜に外を歩き回るのも危険だし、今夜はここで休みたいところだね」
冬弥の申し出に対し、留美も意見は無かった。
宿直室は小さいかもしれないが、どうせ一人は見張りとして起きていなければいけないのだ。
早速、中をチェックして回る。
誰かが隠れていても厄介である、作業は慎重に行われた。
・・・その時、ふとした異変に気づく。
「・・・あれ、何かいい匂いする」
鼻につくのは、空腹を刺激する食べ物の匂い。
出所は給湯室、ドアを開けるとそれは益々強くなった。
・・・が、当の料理は見当たらず。
むしろ、洗われたばかりであろうフライパンなどが立てかけてある、流しが目についた。
これの指す意味、即ち。
「ついさっきまで、誰かここにいたってこと・・・?」
留美の呟き。
別に話しかけた訳ではないが、冬弥は答える。
「窓を開けていないから、多分それで匂いだけ残っちゃったんだろうね。
・・・うん、食器にも使用感がある。それにこの部屋だけ埃臭さがない。」
一体誰がいたのだろうか。
それを知る術は、今の二人には、ない・・・。
この場所自体に食べ物は置いていなかった。
水道は使えたので、飲み水に困ることが無かったのは幸いだった。
支給されたパンを食べながら、二人は今になってお互いの知り合いなどの情報交換を始める。
「この中で私の知ってる人は、みんな同じ学校っていう共通点があるんです」
「そっか・・・そういう意味では、俺の方は変な感じなのかな」
「どういうことですか?」
「大学の知り合いとか、バイト先で知り合った芸能人とか。何ていうんだろ、あんまりまとまりがない」
「え、芸能人って、もしかして・・・」
「ああ、緒方理奈に森川由綺。二人とも顔見知りだよ」
ガタンッ!留美の椅子が揺れる。
それは、彼女が急に立ち上がったから。
「ま、まさか!あの乙女の中の乙女、キングOF乙女・森川由綺の知り合いに巡り合えるなんて!!」
「ぇ、な、七瀬さん?キングは男じゃ・・・」
「私ファンです、大ファンです!CD買いました、サイン会行きましたっ」
「そ、そうなの?ありがと・・・」
冬弥、苦笑い。
思わず握りこぶしで熱弁していた留美は、その様子ではっとなる。
「え、わ!す、すみません、私ったらつい・・・」
「いやいや。七瀬さんって面白いね」
「・・・・・」
正直、やはりどう対応していいかやりにくい感は残る。
今まで自分の周りにいないタイプの男性であるから、どうしても猫かぶり時の自分の方が前面に出てしまうらしく。
強気に出れないというか、何というか。
(うう・・・むず痒いというか、もう!私にどうしろってのよっ)
留美の葛藤は続く。
その様子を、冬弥は微笑ましそうに眺めるだけであった。
そして、時刻は6時を迎える。
ゴトリ。響いたのは、冬弥の落としたペットボトル。
飲んでいたところだったから、蓋は外れたままで。
床にしかれたカーペットが、ボトボトこぼれる水で塗らされ、そこだけ色が濃くなってゆく。
それはまるで、冬弥の心中を表しているかのようだった。
195 :
補足:2006/10/11(水) 00:48:03 ID:TJIlkLan0
七瀬留美
【時間:1日目午後6時】
【場所:C−05・鎌石村消防分署】
【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式】
【状態:呆然】
藤井冬弥
【時間:1日目午後6時】
【場所:C−05・鎌石村消防分署】
【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、他基本セット一式】
【状況:呆然】
(関連・124・128)(Bルート)
18時。
島の各所に据えつけられているらしいスピーカーから、奇妙に甲高い声が響き渡った。
それは、この島で最初に目覚めた時に聞いた、あの白ウサギの声だった。
『諸君、聞こえるか?
これより死亡者の報告を行う。
2 藍原瑞穂
15 緒方理奈
18 柏木楓
27 河島はるか
31 霧島佳乃
33 草壁優季
34 久寿川ささら
37 来栖川綾香
40 向坂雄二
41 上月澪
42 河野貴明
43 幸村俊夫
45 小牧愛佳
46 坂上智代
52 沢渡真琴
54 篠塚弥生
56 新城沙織
60 セリオ
61 醍醐
63 篁
68 月宮あゆ
77 那須宗一
80 仁科りえ
81 柊勝平
83 雛山理緒
92 伏見ゆかり
110 森川由綺
115 柚原このみ
以上28名、残りは92人となる。
素晴らしいペースだ、これからもその調子でかつての生活への帰還を
目指してほしい。
なお、この放送は12時間ごとに行われる。
次回放送は明朝6時だ、聞き逃さないようにしてくれたまえ。
……それではごきげんよう、君たちの健闘を祈っている』
それきり、声は途絶えた。
198 :
一時の休息:2006/10/11(水) 03:46:41 ID:Vfinn5a60
浩平と彰は鎌石村西部の民家の中で休憩していた。
「おい、大丈夫か?」
折原浩平は心配そうに、七瀬彰に声を掛けた。
浩平の手には、コップに入れられた水。
彰はそれを受け取り、一気に飲み干した。
「ああ、ゆっくりしてたおかげで多少マシになってきたよ。」
「それなら良かった。俺の迅速な治療のお陰といっても過言では無いな」
浩平は得意げだった。
(いや、酒をかけただけじゃないか!)
突っ込もうか迷ったが、ここは素直に礼を言っておく事にした。
「うん、助かったよ。ありがとう」
「ああ。無事ゲームを脱出した暁には、焼肉でも奢ってくれ。」
そう言って浩平は笑った。
「……検討しておくよ。」
そう言ったきり、彰は黙り込んだ。
(変な奴……。でも、きっといい奴なんだろうな。)
自分は美咲さんや冬弥、由綺達以外の者は殺すつもりである。
でも、僕は今目の前にいる男のような奴も殺すのか?
本当にそれが正しいのか?
考えても答えは出そうになかった。
そこで彰は別の疑問を口にする事にした。
「さっきの爆発はなんだったんだろうね」
「分からない。……でも多分、誰かが戦っていたんだろうな。」
爆発音は村の東の方から聞こえてきた。
それだけではなく、銃声も聞こえてきた。
まず間違いなく、誰かが戦っていたと考えていいだろう。
浩平は現場に駆けつけるか迷ったが、自分達の装備を考えた後、断念した。
199 :
一時の休息:2006/10/11(水) 03:47:54 ID:Vfinn5a60
「爆発音の後は辺りは静かになったね。…………誰かが死んでしまったのかな」
「その可能性は否定できないな……。出来れば様子を見にいきたいところなんだが。」
しかし、自分達は武器を全く持っていない上に彰は負傷している。
この状態で現場に駆けつけるのは、自殺行為だ。
長森に漢字テストで勝負を挑むようなものである。
4人掛かりで立ち向かっても長森の点数を上回れるかは怪しいものだ。
あの馬鹿、馬鹿の癖に頭は良いからな。
浩平はそんな、場違いな事を考えていた。
「長森……、無事でいてくれよ……」
浩平がそう呟いた時、突然巨大な音声の放送が辺りに響き渡った。
「――みなさん聞こえているでしょうか。
今から僕は一つの放送をします。
これは今後朝の6時と夕方の6時に1日2回定期的に行われます。
出来るだけ聞き逃さないようにしてください。
あなたがたの大切な人の命に関る問題です」
「これは!?」
「しっ……、とにかく落ち着いて聞こう。」
「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」
………
……
…
「――以上です」
放送が終了した。
200 :
一時の休息:2006/10/11(水) 03:48:52 ID:Vfinn5a60
「そんな……、繭が…………」
浩平は、激しく動揺していた。
繭は優しい女の子だ。
繭がこのゲームに乗る訳が無い。それだけは確信出来る。
大体彼女が誰かと争ったり出来るとは思わなかった。
繭はゲームに乗った者の手によって、一方的に殺されたのだ。
何も悪い事はしていないのに、理不尽に、殺されたのだ。
「…………ちくしょう!」
繭を殺した奴、このゲームに乗って殺人を犯した奴ら……、絶対に許せない!
浩平の心の中に激しい怒りが湧き上がる。
しかし、今は怒りに任せて行動する訳にはいかない。
今こうしてる間にも、長森に危険が迫っているのかもしれないのだ。
今自分が一番にすべき事は、復讐なんかじゃない。
一刻も早く長森を探し出して、守る。それが一番大事な事だ。
それに、住井だ。
馬鹿な計画を色々と思いつく男、でも、一番仲が良かった親友。
二人で組んで色々と馬鹿な事をやってきた。だから分かる。
住井は、普段は馬鹿な事ばかりしているが、いざという時にはこれ以上無いくらい頼りになる奴だ。
アイツなら誰かに殺されるような事は無いだろう。
アイツならこんなクソのようなゲームも、きっとなんとかしてくれる。
それに、アイツは俺の親友だ。行動を共にする相棒として、アイツ以上に頼もしい奴はいない。
アイツと組めば、きっとなんとかなる。
201 :
一時の休息:2006/10/11(水) 03:49:33 ID:Vfinn5a60
そうだ、とにかく急いで長森と住井を探すべきだ。
そうすれば、きっと何とかなる。
……いや、何とかしなければいけない。
絶対にあいつらと一緒に生きて帰るんだ!
「おい七瀬、こうしちゃいられねえ、すぐに出発するぞ!」
方針の決まった浩平は振り返ってそう叫んだ。
「……あれ?」
そこに、彰の姿は無かった。
彼もまた、放送によって突き動かされていたのだった。
202 :
一時の休息:2006/10/11(水) 03:50:28 ID:Vfinn5a60
【時間:1日目18時20分】
【場所:C−03上部】
折原浩平
【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、ほか支給品一式】
【状態:健康。長森と住井を探す】
七瀬彰
【所持品:武器以外の支給品一式】
【状態:右腕に負傷。行動は次の書き手にお任せ】
(関連98・155)(B-2ルート)
203 :
復讐鬼:2006/10/11(水) 04:23:59 ID:UZxaDeVV0
「最悪ね……」
香里はボソリと一人ごちる。
先ほどの弥生との邂逅の結果、状況がわかるまで人の集まるところは危険と判断した香里は
一路鷹野神社に向け、あかり共々山の中を歩いていた。
そんな中流れた死者の放送。
栞を含め、水瀬親子・相沢祐一・北川潤の名前が出なかったことに安堵するものの
その直後に出た名前に絶望をも感じる。
これが本当のことならば祈りは通じなかったということだ。
――森川由綺
聞きたくなかった名前。
あの女性はおそらくゲームに乗っただろう、と深くうなだれる。
そして同じように挙げられた死者と縁の深いものたちも動き出す可能性があるのだ。
緒方理奈も死んでいた。
兄である緒方英二も同じように考えているかもしれない。
そして月宮あゆの名前。
(相沢君の知り合いよね……だとすると彼も直情型だからもしかしたら……)
祐一が銃を持ち暴れまわる姿を想像する。
あながち見当違いでもなさそうな考えに思わず首を振った。
チラリと横に目を見やると隣に立つあかりが顔面蒼白になりながら震えているのがわかった。
「どうしたの?」
言って愚問だったと気付く。
この状況だったら答えは一つしかないではないか。
「葵ちゃん……後輩の……子が……いま」
それだけ言うのが精一杯だったのか直後あかりは駆け出していた。
「くっ」
自分の思慮の無さに腹が立ったものの、すぐさまあかりを追いかける。
だが草木に足を取られ、思うように進めない。
足を取られよろめいたほんの数秒の間に、あかりの背中が遠ざかっていった。
「神岸さん、待ってっ!!」
204 :
復讐鬼:2006/10/11(水) 04:24:44 ID:UZxaDeVV0
叫びも届かず一人その場に取り残される香里。
立ち上がろうと足に力を入れたその直後、彼女の頭に大きな衝撃が走る。
そこには見慣れぬ生き物を隣に携えた一人の女性の姿。
柏木千鶴だった。
長い黒髪をたなびかせながら香里を見下ろすその顔はまるで悪鬼のごとく、そしてその瞳は深い悲しみに満ちていた。
「……な、なに?」
頭ががんがんと揺れる、考えがまったくまとまらない。
千鶴は右手を香里の首に伸ばすと、片手で持ち上げた。
鬼の血は制御されているのにも関らず、信じられない力で香里の首を締め上げる。
香里の足が降り立つ地面を求めて、所在無くバタバタと揺れていた。
「――なんで……もっと早くこうできなかったのかしら……」
締め上げる手にいっそう力がこもる。
必死に逃げようと香里は千鶴の腕を殴りつける。
だがまったく怯む様子も無いその力の前に、抵抗しようとする意識さえ失われていった。
「私がグズグズしていたせいであの子は……楓はっ!」
ゴキッ
鈍い音と共に香里の首が折れた。
口の端から涎がたれ落ちたその死体を、さも興味が無いように投げ捨てるとウォプタルにまたがりあかりの逃げた方向へと視線を送る。
「……初音……梓……そして耕一さん、待っててください……」
そして鬼は再び走り出した。
最愛の家族を守るため、自身の手を血に染めて――。
美坂香里 死亡
205 :
復讐鬼:2006/10/11(水) 04:25:56 ID:UZxaDeVV0
神岸あかり
【時間:18:30頃】
【場所:G-05の北あたり】
【所持品:支給品一式】
【状態:錯乱】
柏木千鶴
【時間:18:30頃】
【場所:G-05の北あたり】
【持ち物:支給品一式・ウォプタル】
【状況:あかりを追う・目的地は氷川村】
【関連:→138 →145】
【備考:香里の荷物はその場に放置】
折原浩平と七瀬彰は鎌石村の西部にある民家を中心に活動していた。
活動内容は主に食料と武器の調達。
「なんとか飯を調達できないか?」
「何か武器になりそうなものが有ればいいんだけれど……」
それぞれの意見から家捜しが始まったが、如何せん彰は怪我人だった為、作業は休憩を挟みながらとなった。
休憩中は情報…主に、探し人についてのやり取りも行った。
もっとも、彰は少女を襲って失敗した事については伏せたままであったが。
「……で、結局見つかったのはこれだけか」
「……そのようだね」
結局、見つかったものは支給品と同じパンがいくつかと包丁が一本。
戦果としてはかなりしょっぱいものである。
水道は活きていた為、飲み水が自由に使えるのはありがたかったが。
「隣の家も見て回ったほうが良さそうだな」
そう浩平が言うと彰も賛同し隣の家捜しもすることとなった。
―――もし、この世に分岐点というものがあったとすれば、まさにこの一言がそれだったに違いない。
他の参加者とかち合わないように十分に気をつけて行動する二人、玄関から出たところで浩平が彰に注意を促した。
門の影に隠れる二人。
だが、次の瞬間、彰は弾かれるように表に飛び出した。
「美咲さん!!」
そう。 そこに現れたのは、迷走し、傷つき、未だ幻覚に苛まれている、澤倉美咲その人である。
だが……
「あ…ぁぁぁ……」
美咲の表情に生気は無く、何か恐ろしいものでも見るような、それでいてどこか虚ろな視線を彰に投げかける。
一歩、また一歩後ろず去りをする様を見て彰は美咲の精神状態が普通ではないことを悟った。
次の瞬間。美咲がその場からその場から逃げ出すよりも、浩平が声をかけるよりも、彰が何かを考えるよりも速く、
彰は美咲を抱きしめていた。
「おい、ここじゃマズい! 中に入るぞ!」
一歩遅れて浩平はそう言うと、元居た民家に美咲ごと彰を引きずりこみ、扉に鍵をかけてようやく一息ついた。
彰は美咲を抱きしめたままである。
「その人があんたの言っていた美咲さんか、普通の状態じゃないようだけど」
「…ああ、そう…だ。っ僕…の一番…大切な人だ……」
何かを堪える様な彰の様子に浩平が訝しがる。
良く見ると美咲の爪は彰の背中に食い込み、容赦なく掻き毟っている。
「お、おい! それ……」
浩平が彰に何かを言おうとしたが、それは彰の言葉によって遮られた。
「…た…ぶん、幻覚っ…剤…何か…投与され…痛っ…ていると……思う……」
「だけど、そんな事を続けてたらあんただって唯じゃ済まないぞ!」
「…構う…っもんか……美咲さん…が…これ以…上…傷…つくより…は万倍…マシだ……」
「…分かった」
浩平は彰の言葉を聞き終えると、一言だけ残して奥の間に姿を消した。
「美咲さん、大丈夫だよ、僕がいるよ」
繰り返し呟く彰の言葉を耳にしながら。
奥の間で、一人になった浩平はバッグからだんごを取り出しては投げていた。
いや、投げるのは退屈ついでであり、主に考え事をしていたのだが。
(七瀬の奴、カッコつけやがって。惚れた女の為なら命だって投げ出せるってやつか?)
(だけど……くそ! …カッコ良いじゃないか!)
(俺はどうなんだ?会いたい奴等はいる。守ってやりたいとも思う。だけど、あそこまで出来るのか?)
浩平の思考はぐるぐる回り、バッグの中に詰め込まれていただんごが遂に最後の一個になった。
「……消毒の準備でもしておいてやるか」
最後のだんごを投げ飛ばしながら浩平は考えるのをやめる事にした。
――――――――――
こわい、こわい、怖い!
逃げる、逃げよう、逃げるんだ……
何か、何かが私を追いかけてくる!
やめて、やめて、やめて!
走る、走る、はしる!
ああ、逃げてきたのに…逃げてきたはずなのに……
前、前からも何かが来る。
逃げなきゃ、逃げる?でも何処に?
つかまる、捕まった。逃げられない。
殺される、殺されるんだ……
やめて、殺さないで、放して!
あ、ああぁぁぁぁぁ……
(二行空け)
とくん……
!!
とくん、とくん、とくん……
ああ……なんて心地の良いリズムだろう。
でも、このリズムは一体なんだろう?
温かい何かが私を包んでいる。
熱のある誰かが私を包んでいる。
誰かが囁く声が聞こえる。
でもさっきみたいな不快感はない。
むしろもっと聴いていたい。
誰の声? 知りたい!
目を開ける? 開けよう!
ああ、光だ… 光が…広がっていく……
――――――――――
私が目を開くとすぐ傍に見慣れた顔…七瀬くんの顔があった。
七瀬くんは私を抱きしめていて耳元で「大丈夫だよ」と囁いてくれていた。
首と手、それに体中の痛みを感じ、手に篭っていた力を緩めると七瀬くんは
少しだけ顔をしかめて、でも直ぐにいつもの顔に戻って「おかえり、美咲さん」と言ってくれたのだ。
七瀬くんに連れられ奥の間に行くとそこはちょっと不思議な光景だった。
丸いものが大量に散らばっていて、その中に一人の男性が……!!
「大丈夫だよ、美咲さん。こいつは信用できる奴だから」
彰は、怯える美咲にそういうと美咲から怯えの表情が消えた。
彰は浩平に美咲を紹介しようとした。が、
「挨拶は後で良いよ。それより先に傷口の消毒と着替えをしたほうが良い。」
そう言われて彰は美咲の傷が結構深い事実を思い出した。
てきぱきと用意されていた布と日本酒で簡単な消毒と止血を行った。
「美咲さん、痛いと思うけどちょっと我慢してね」
「うん、大丈夫だから」
傷口に日本酒がしみるが、美咲は彰に余計な心配をかけまいと痛みに耐えていた。
「折原、ありがとう。 わざわざ準備してくれて」
「いいから背中出せ、消毒してやる 」
言うやいなや浩平は残っていた日本酒を全て彰の背中にぶちまけた。
激痛が走り、大声で叫びそうになるがそこは美咲さんの手前、無様に叫ぶわけにはいかない。
激痛をかみ殺し、一言だけ漏らした。
「……心の準備ってものがあると思うんだけどね」
(2行空け)
自己紹介もすみ、暫くして浩平が口を開いた。
「それで、これからどうするんだ。」
「氷川村に診療所があるらしい。出来れば美咲さんを本格的に手当てしたいと思う」
「一人でも多くの人に私に毒を盛った女性のことを知らしめたいと思ってます」
二人の意見を聞き、浩平は少しだけ考えると、
「じゃあ、俺も同行するよ。 怪我人二人で行かせるのも目覚めが悪いし、道すがら誰かに会うかもしれないしな」
「ありがとう、折原」
「礼はいいよ。 ついでだ、ついで」
浩平はそう言って笑った。
だが……
「――諸君、聞こえるか? これより死亡者の報告を行う」
奇妙に甲高いウサギの声が響き渡った……
【折原浩平】
【所持品:包丁、パン、支給品一式、だんごは放置】
【状態:健康】
【七瀬彰】
【所持品:武器以外の支給品一式】
【状態:右腕、背中に負傷】
【澤倉美咲】
【所持品:無し】
【状態:薬物からは脱却、手と首に深い傷、体中に打撲傷】
【状態:対人恐怖症(彰・浩平以外)薬品恐怖症】
【時間:1日目6:00直前】
【場所:C-03】
Hルート
→98
→171
浩平前から大学生を呼び捨てしてたっけ?
215 :
星空:2006/10/11(水) 16:33:10 ID:EaYNVjlD0
仁科りえは、必死に走っていた。
とうに体力は尽きていたが、恐怖心だけが彼女の足を動かし続けた。
背後からは、もはや狂気の塊と化している姫川琴音が迫っていた。
琴音も体力を相当消耗しているに違いない。
しかし、それでも琴音は笑っている。
かつて琴音だった者は、狩りを楽しんでいる。
もう二人の距離は数メートル程しかなかった。
「ハァ・・・・、ハァ・・・・」
必死に走る。それでも距離は離れないどころか、少しずつ縮まっていく。
琴音は足にダメージを負っているにも関わらず、だ。
死との距離が、縮まっていく。
苦しい。もう息が出来ない。
左腕が凄い痛い。
もう嫌だ、誰か助けて!!
私何も悪い事してないのになんで!?
死んじゃう、このままじゃ死んじゃうよぉ!
嫌嫌嫌嫌ぁ・・!!
混乱する思考。もう声も出ない。
そして・・・・・。
ガシッ
「いやぁぁぁぁっ!!」
死そのものに、肩を掴まれた。
216 :
星空:2006/10/11(水) 16:34:35 ID:EaYNVjlD0
「もうすっかり暗くなりましたね〜。」
「ああ。暗い状況で動き回るのは危険過ぎる。そろそろ今晩の拠点を探さないとな」
柳川祐也と倉田佐祐理は、街道を歩いていた。
どうやってこのゲームを止めるべきか。それはまだ見当もつかない。
このゲームを止めるには、とにかく情報と人数が圧倒的に不足している。
村は人が集まりやすく、情報を集めるのにも仲間を集めるのにも適している。
そう考えるとすぐにでも村に向かうべきだったが、
人が集まりやすいという事は襲撃者も集まりやすいという事だ。
夜に村を探索するのは待ち伏せ等の危険性が高過ぎる。
そう判断した柳川達は、氷川村に近い場所で落ち着ける拠点を探して、
翌日に村へと向かう事になった。
「お前は確か、舞という女と祐一という男を探しているんだったな。どこにいるか、見当はついていないのか?」
「いえ、残念ですが、全く分かりません・・・。スタート時からバラバラだったので・・・。」
「・・・・・。」
暫く沈黙が続く。
佐祐理はふと、空を見上げた。
「はぇー・・・・。この島の夜空は凄い綺麗ですね・・・・。」
感慨深げに、そう口にした。
そう言われて柳川も空を見上げた。
確かに綺麗である。空には無数の星が見えていた。
彼の地元の夜空も都会に比べれば遥かに綺麗ではあったが、
この島から見る夜空に比べると若干見劣りする。
「ふむ・・・。ここ数年、夜空をじっくりと見る事など無かったが、確かに悪くないものだな。」
217 :
星空:2006/10/11(水) 16:36:37 ID:EaYNVjlD0
こんな状況で無かったならもっと良かっただろうにな、
とも思ったがそれは敢えて口にしなかった。
夜空はこんなにも綺麗なのに、辺りはこんなにも静かなのに、
殺し合いは今も変わらず行なわれている。
それがこの島での現実。否定しようのない、非情な現実。
二人は暫く空を見上げながら歩いていたが、突如それは中断させられる事となった。
「・・・・・何だ?」
ザシュ・・・。
ザシュ・・・・。
前方から、何かが聞こえてくる。
前方に何かが見える。
遠くてよく見えない。
「人か・・・?一体何をやっているんだ?」
「ここからだと暗くてよく見えないですねー・・・。」
慎重に近付く。そして、目の前で起こっている事態に気付いた時、
柳川は即座に駆け出していた。
近付いた彼が目撃したのは、凄惨を極める光景だった。
血まみれの少女が、もう一方の少女に、ナイフを突き立てている。
もはや地面に倒れ伏せ、ピクリとも動かない少女、仁科りえの背中に、
何度も何度もナイフを突き立てている。
まるで、スコップで砂場を掘って遊んでいる子供のように、笑いながら、何度も何度も突き立てている。
218 :
星空:2006/10/11(水) 16:37:54 ID:EaYNVjlD0
「貴様・・・・・!!」
声をかけると、姫川琴音は立ち上がり、柳川の方を見据え、ぞくりとするような恐ろしい笑みを浮かべた。
それを見た瞬間、柳川の体全体に凄まじい悪寒が走った。
少女の体躯は小柄であったが、この迫力は自分と同族の者達―――鬼と比べてもまるで遜色が無いのではないか。
見かけに騙されるな。
全力で戦わなければ、確実に殺される。
柳川の体の奥に眠っている鬼の本能が、そう告げていた。
柳川は少女に向け、銃を構えようとした。
その時――
「柳川さん!!」
遅れて佐祐理が、走ってきた。
異常な状況に混乱しているのか、もしくは血まみれの少女の威圧感に気付いていないのか。
恐らく両方であろうが、ともかく彼女は武器も構えず無防備に駆け寄ってくる。
「くるなっ!!」
目の前の女は飛びぬけた戦闘能力も強力な武器も持たない者が近付いていい存在ではない。
柳川が慌てて制止の声を掛けた、その時だった。
柳川が隙を見せたその瞬間に、彼女は一直線に走りこんできた。
血まみれの顔に、歪んだ笑みを浮かべたまま。
狂気の全てを、そのナイフに籠めて。
柳川も馬鹿ではない。十分に距離を取っている筈だった。狙撃するのに何も問題は無いはずだった。
しかし今の琴音の速度は常識では考えられない速度だった。
狂気に憑かれたモノと鬼の、戦いの幕が開ける―――。
【時間:1日目 19:45頃】
【場所:g-9】
仁科りえ
【所持品:拡声器・支給品一式】
【状態:死亡】
姫川琴音
【所持品:支給品一式、八徳ナイフ】
【状態@:狂気、異常筋力。右側頭部出血、左足がドス黒く変色、他細かい傷多数】
【状態A:限界以上の筋力を引き出している為、体中の筋肉がダメージを受けている。18時間半後に首輪爆発】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁/ハンガー/楓の武器であるコルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)】
【所持品A二連式デリンジャー(残弾3発)、自分と楓の支給品一式】
【状態:疲労】
倉田佐祐理
【所持品@:支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品A:八徳ナイフ、拡声器】
【状況:呆然。ゲームの破壊が目的。】
(B系共通ルート、関連は185、199)
訂正
> 倉田佐祐理
>【所持品@:支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
>【所持品A:八徳ナイフ、拡声器】
>【状況:呆然。ゲームの破壊が目的。】
↓
【所持品@:支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状況:呆然。ゲームの破壊が目的。】
鎌石村分署についた藤井冬弥と七瀬留美は、役に立ちそうなものは無いものかと物資を漁っていた。
だがどの部屋にもそれらしきものはなにもなく、所在無く散らばる辞書が誰かがいたような形跡を醸し出していた。
結局有用になりそうなもので見つかったのは、一台のノートパソコンと、誰かの支給品と思われるバックのみだった。
「インターネット環境でもそろっていれば助かるんだけどな」
そうごちりながら、冬弥はノートパソコンの電源をつけた。
「えーっと……結構型が古いな。ん、『参加者の方々へ』?」
デスクトップに置かれたフォルダをためらい無く開き、中のファイルを開いた。
画面上に現れたのは、ロワちゃんねるの文字。
「なんです?これ」
「うーんよくわからないけど、にちゃんねるみたいなものじゃないかな」
由綺の世論を調べるのに頻繁に利用していた冬弥は、慣れた手つきでパソコンを操作している。
スレッドは三つ。
その中の一つのタイトルを見て二人から笑顔は消えた。
――死亡者報告スレッド。
マウスを握る手が震える。
もし由綺の名前があったら、俺はどうする?
そう思うと怖くて開けなかった。
飲み込む唾の音が妙に大きく聞こえる。
心臓がドクドクと全身を打ち付けるように感じて痛いぐらいだ。
「藤井さん……」
留美の言葉にハッと我に帰った。
不安そうに見つめるその瞳が冬弥の精神に幾許かの平穏を与える。
「……ああ」
だが彼の想いもむなしく、無慈悲に審判は下された。
――何故だ何故だ何故だ!
両拳を机に叩きつけながら、やり場の無い怒りをぶつける。
探し人の一人、緒方理奈の名前がそこにはあった。
――なんで理奈ちゃんが死ななくちゃならないんだよっ!!
負の感情で狂いそうになりながら、拳を振るう。
その拳は自身の血で赤く染まりながらも、感じることの出来ない痛みにまた苛立ちは募っていた。
何も出来ずに、ただ留美はその様子を見つめていた。
自分の知り合いの名前は無かった。
そう安堵していた自分を恥じる。
誰かが死んでいるということは悲しむ人もまた、いるはずなのに……。
「!?」
留美は思わず耳を澄ました。
冬弥にも聞こえたのか、拳がようやく止まる。
どこか遠くから聞こえた花火にも似たその音。
そして続けざまに耳を轟音が襲う。
わけもわからず呆然としたまま二人を静寂が包む。
そして再び爆音。
冬弥は気付く。
――誰か戦っているのか?爆弾か?
考えるより早く身体は動いていた。
ライフルを手に持つと扉に向かって駆け出していた。
「くそっ、由綺ぃっ!」
だが飛び出そうとするその身体は、留美によって必死に抱きとめられていた。
「なにするんだ!」
「だめっ!」
冬弥の叫びを無視して今にも爆発しそうなその身体を必死に押さえ込む。
「今の藤井さん……おかしいよ、今にも壊れちゃいそうで、行かせられない!」
「いいから離してくれっ!もしかしたら由綺が……、由綺が襲われてるかもしれないんだっっ!!」
パシッ!
冬弥の顔が揺れた。
留美が涙を流しながら冬弥の顔面に叩きつけていた。
「落ち着いて……くれませんか?」
留美は思わず飛び出していた右手をゆっくりと引っ込め、震えながらそう呟いた。
数秒の沈黙――留美を見つめる冬弥の目は、冷たく光っていた。
「……邪魔するな」
返ってきたのは無機質な言葉と……銃口。
必死の訴えも冬弥には届いてはいなかった。
覚悟を決め両拳に力を籠めると、冬弥の鳩尾に叩き込んだ。
「……ゴッ」
その強力なボディーブローの前に、呻き声と共に冬弥の身体が力なく崩れ落ちていった。
気絶した冬弥の身体をそっと壁に寄りかけると、自身もその場にぺたんと座り込み呟いた。
「……ごめんなさい」
どれだけの間そこにいたのだろうか……外からはもう何も聞こえない。
代わりに鳴り響いたのは謎の青年の放つ死者の放送。
――繭……
気絶した冬弥の手を握り、横顔を見つめた。
――もう『みゅー』って髪引っ張ってくれないんだね……
ただただ悲しかった。
先ほどの冬弥の悲しみが理解でき、自身も爆発しそうな想いに駆られた。
だが行動を起こさせる暇も与えず流れた名前が、留美を戦慄させた。
――森川由綺も死んだ……
この事実を彼が知ったらどうなってしまうのか。
おそらく壊れてしまうだろう、そんな予感がした。
握る手に力がこもる。
「浩平……あたしどうすればいいのかな……」
七瀬留美
【所持品:P−90(残弾50)、支給品一式】
【状態:乙女モード】
藤井冬弥
【持ち物:H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、他基本セット一式】
【状況:気絶中、放送は聞いておらず由綺の死は知らない】
共通
【時間:放送後】
【場所:鎌石村消防分署】
【関連:→89 →124 →155 B-2やJあたりですかね……】
【備考:ノートパソコンや支給品は杏のもの】
爆発音を聞いた智代と茜は、枝や草をかき分けてようやく音の中心付近まで辿りついた。しかし、そこにあったものは爆発によって飛び散ったと思われる小石の類が残っているだけだった。
血痕なども見当たらないことから、恐らく死者は出なかったらしいが…
「…出遅れたということですか、智代」
「そのようだな…投げられた爆弾も、一個だけのようだ」
砂利の飛び散った地面をさすりながら、智代が状況を分析する。
「どうします? 鎌石村の方まで行きますか? それとも最初の予定通り平瀬村まで?」
「…そうだな、平瀬村の方へ行こう。どうやらここにいた奴らは皆うまく逃げおおせたようだからな」
「結果的に無駄足になってしまいましたね」
「いや、そうでもないぞ。こうして死人が出なかったことだけでも確認出来たのだからな」
「…あなたって、ポジティブ思考なんですね」
肩をすくめて、茜が笑う。
「そうでも思っていなければやってられないだろう…私だって女の子なんだぞ。本当なら、誰かに守ってもらいながら行動したいところなのだがな…というか、それがか弱い普通の女の子だというのに…」
ぶつぶつ言っている智代に、ぷっ、と吹き出す茜。
「な、何がおかしい」
「いえ、私の同級生にも智代に似たような人がいるんです。普段は私は乙女なのよ、と公言してはばからない人なんですが、ちょっとイジられると男勝りな地が出てしまうという」
あまり似ていないようで、けっこう似ていた。世の中には以外と同類がいるものだ、と智代はしみじみと思う。
「って、無駄話してる時間はないぞ。さっさと行こう」
「そうですね、行きましょう」
そのまま二人は街道に沿って平瀬村へと向かう。途中で軽く水分を補給したりしつつ、日が暮れる頃にようやく平瀬村付近まで辿り付く事が出来た。
「くそ、以外と遠かったな。茜、まだ大丈夫か」
「はい、今のところは…ですが、多分明日は筋肉痛ですね」
「何だ、普段は運動してないのか」
「か弱い女の子、ですからね」
ムッ、とする智代。まるで私がか弱い女の子じゃないみたいじゃないか。
「失礼だな。こう見えても私は…」
反論しようとして、言葉が出ない。…そう言えば、生徒会長になる前は草野球をやったり、ゾリオンに参加したり、春原を蹴っ飛ばしたりとおよそ女の子らしくないことばかりしている。
「…行こう、茜」
「あれ? 何か言おうとしていましたよね」
「いいんだ、放っといてくれ…」
うなだれながら歩く智代に茜は取り敢えずか弱い女の子、はNGワードに指定しておくことにした。
またしばらく歩くと、徐々に民家が密集している地点まで来た。
「家がたくさんありますね。日も暮れてきましたし、どこかの家で休憩した方がいいと思うのですが」
「そうだな…出来るなら…なるべく目立たないところのほうが…いいな…」
まだうなだれている智代。それでもしっかり意見するところは流石である。
「そうですね…あそこの倉庫あたりならいいのではないでしょうか。何か武器らしいものが見つかるかもしれませんし」
「分かった…それじゃ…行こうか…」
茜はこんなので大丈夫だろうかと思いつつも明日になれば大丈夫だろう、と思って何も言わずにおいた。
放送の時間までは、もうすぐだった。
坂上智代
【時間:午後6時前】
【場所:F−2、倉庫前】
【持ち物:手斧、支給品一式】
【状態:やさぐれている。そのうち復活?】
里村茜
【時間:午後6時前】
【場所:F−2、倉庫前】
【持ち物:フォーク、支給品一式】
【状態:足に軽い筋肉痛。行動には支障なし】
【備考:B−2、B−7ルートで】
「美咲さんっ!!」
「え・・・?」
声は思わぬ方向から。
藤田浩之他四名の元に姿を現したのは、彼等の知人には当てはまらない一人の少年・・・いや、それは容姿だけ。
負傷した右腕に黄色のバンダナを巻いた青年、七瀬彰だった。
「え・・・」
お互い、呆然と見つめあう。
「・・・ちょっと、みさき。何か呼んでるけど」
肩でチョンチョンと、深山雪見が隣の川名みさきの肩をつつく。
他の四人も、揃って彼女を凝視する。
「え、浩平君?」
「違うわよ、多分うちの学校の子じゃない」
「え・・・ごめんなさい、どなたですか?声だけじゃ人の判断が難しくて・・・」
彰は固まっていた。
目の前の集団の様子で分かる情報とすれば、長い黒髪の綺麗な少女が・・・「ミサキ」になる。
それは彰の求めていた「ミサキ」か、否。
(・・・!くそ、迂闊だったか!同名だって可能性を考えつかないなんて・・・)
5対1、敵うはずがない。
ゲームに乗っているとはいえ、ここでの手出しは難しい。
(どうすれば・・・銃ならまだしも、今手元にあるのはアイスピックのみ・・・)
彰が迷っている時だった。
「うー、血の匂いがするな」
「え?!」
薄いピンクの髪の少女、るーこの視線が彰を捕らえる。
その瞳に浮かぶのは、疑惑の眼差し。
戸惑い。ここで下手なことをしてしまえば、一気に分は悪くなる。
彰の額を汗がつたう、だが彼らは思ったよりも呑気な集団であった。
「ホントだ、ケガしてんじゃん。大丈夫なのか」
「血は止まってるみてえだし、平気なんじゃね?」
「・・・ああ、うん。もう平気」
「誰にやられたの?その人、ゲームに乗ったってことでしょう・・・」
るーこ以外の人物は、彼女の台詞の意味を履き違えたのか見当違いのことを尋ねてくる。
・・・正直、しめた、と彰は思った。
急に顔をうつむき加減にし、少し震えながらも語りだす。
「・・・知り合い、だったんだ。直接の面識はなかったんだけど・・・」
「マジかよ?!」
「緒方、英二・・・。眼鏡をかけた、短髪の男だ。注意した方がいい」
「よく逃げられたわね、知り合いじゃあ気を許していたでしょう?」
「はい、まさかこんなことになるなんて・・・しかも、その人小さな女の子を抱えてた。」
突発にしては思考がうまい具合に回転する。
調子に乗った彰は、そのままエピソードを創作した。
「お兄ちゃん、っていううめき声が聞こえました。俺、その子助けられなかった・・・」
「え、おい待て!その子の名前分かるか?!」
「いたっ」
陽平の態度が急変する、力任せに肩を掴まれ彰はその痛みに顔をしかめた。
「おいおい!まさか芽衣じゃないだろうな?!おい、早く言えっ」
「ちょ、いた・・・名前なんて、聞ける状況じゃ・・・」
「春原くん、落ち着いて」
みさきの静かな声。舌打ちしながら離れる陽平、彰の中で彼に対しての殺意が生み出た。
でも、今それを露見するわけにはいかない。
一度深呼吸する、その瞬間に頭を働かす。
(まずいな、あの子が本当にこいつの妹だった場合後の処置がきつい。
かと言って、あいつ等が組んで行動していた場合、こいつ等が合流すればこの嘘は露見してしまう)
結局、彰は自分の殺そうとしたあの少女の特徴を正確に答えた。
陽平の拳が震える、どうやらビンゴだったらしい。
暴走しそうになる春原をるーこはグーパンチで黙らせる、説得も彼女一人が請け負った。
ここらでちょうど良いだろうと、彰は彼らに別れを告げる。
一緒にいた方が安全という声かけもあった、だが彰の目的は彼等と一緒にいては成すことはできない。
別れ際に視線で追ったのは、みさきの姿。
(・・・僕の知ってる「みさき」さんは、無事でいてくれているだろうか)
願わずには、いられなかった。
231 :
補足:2006/10/11(水) 21:31:37 ID:1o60ZNdL0
七瀬彰
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【持ち物:武器:アイスピック、自身と佳乃の支給品の入ったデイバック】
【状況:とりあえずここから離れる・ゲームに乗っている】
藤田浩之
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:折りたたみ式自転車、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
春原陽平
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:スタンガン、他支給品一式(ただし、ここまで来る間に水を少し消費)】
【状態:緒方英二に対し殺意】
ルーシー・マリア・ミソラ(るーこ・きれいなそら)
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:IMI マイクロUZI(残り30発)と予備カートリッジ(30発入り×5)、他支給品一式】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
川名みさき
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:スタングレネード(×3)、他支給品一式】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
232 :
補足:2006/10/11(水) 21:32:38 ID:1o60ZNdL0
深山雪見
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:SIG P232(残り7発)、他支給品一式】
【状態:普通。知り合い・同志を探しに平瀬村へ移動中】
巳間良祐
【時間:一日目午後4時15分】
【場所:G−3】
【所持品:ベネリ M3(残り5発)、他支給品一式、草壁優季のバッグ】
【状態:普通。ゲームに乗っている。浩之たちを追う】
(関連・67・91)(B−4ルート)
この後118に繋げてください
「く…そっ。やっぱ、映画みてぇにはいかねぇか…痛ぇ」
崖から飛び降りた浩之とみさきは地面の上で横たわっていた。もちろん致命傷は負っていないものの、浩之は足を打撲しており一人ではまともに立つことさえ不可能だった。
しかしみさきが無傷だったのは不幸中の幸いといったところか。そのことが確認できただけでも浩之には満足だった。
「ごめんね…私を庇ったせいで」
浩之の手を握りながらみさきが謝る。
「ばぁか、気負ってんじゃねえよ。俺がそうしたかったからそうしただけだよ」
こつんとみさきの頭を小突く。それでもみさきはすまなさそうに体を縮こませている。
「気にすんなってーの。それより、ここから早く離れようぜ。ぼやぼやしてるとあのおっさんがまた狙ってくるかもしれねぇ」
「そう…だね。うん、立てる? 浩之君」
浩之は腰を上げようとしたが、片足がズキズキと痛んで力が入らない。
「悪りぃ…川名、手、貸してくれるか」
みさきの力を借りてようやく立ちあがる。それでもみさきの肩に手を回していないとまともに立っていることさえ出来なかった。
「…痛む?」
「いや、片足で歩く分には問題ねぇ。川名がいてくれて助かったな。もし一人ならこのままぶっ倒れてたままだっただろうな」
「そんな…私がいなかったらきっと浩之君はケガしてなかったのに」
「そーいう仮定の話はナシ、な。…それから、どんなときでも自分の事はいいから逃げて、とかそういうのを言うのもナシだ。どんな絶望的な時でもな、生きることを諦めちゃダメだ。
『死を懇願した時、勝敗は決まる』って言葉もあるからな。だから、いつも必ず生き延びてやるぞォーっ、っていう気持ちでいるんだ。俺もそうする」
浩之の言葉を聞きながら、みさきはなんと輝いていて、強い人なのだろうと思った。この人は、私に勇気をくれる。だから、みさきはただ一言、うん、と頷いた。
「そういや、もう夕方なんだな。今日は綺麗な夕日だぜ」
空の彼方、沈み行く夕日を見ながら浩之が呟く。
「そうなんだ…ね、何点くらいの夕焼けかな」
「んー…55点くらいだな」
「綺麗って言ってたのに、けっこう厳しいんだね」
みさきが意地悪そうな声で尋ねる。すると浩之は笑って、
「確かに、けっこう綺麗な夕焼けだけどな。でも明日はもっと点数の高い夕焼けが見れるぞ。100点満点のな。だから、明日も見られるようにがんばろうぜ」
「へぇ、そうなんだ…うん、がんばろうね」
二人して笑い合う。その時、くぐもった声で若い男の声が聞こえてきた。
「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」
なっ、と浩之が口を詰まらせる。みさきも体を強張らせていた。
男が次々と名前を読み上げていく。そして男がそれを読み終えた時、浩之の顔には絶望の色があった。その雰囲気を察知したみさきが、おずおずと聞く。
「誰か…知り合いの人がいたの?」
「…ああ。後輩だよ。正義感の強い奴でな、こんなバカなゲームに乗る奴じゃなかった」
それきり、浩之は口を閉ざしてしまう。みさきはどんな言葉をかけていいのか分からなかった。
さっきは、あんなに私を元気付けてくれたのに。どうして私は何も出来ないのだろう…
そう思いかけて、みさきはその考えを打ち消す。こんなことじゃいけない。今度は、私が浩之君を元気付けてあげないと。
「浩之君。ちょっとごめんね」
そういうなりみさきは浩之を胸元に抱き寄せる。
「川、名…?」
浩之が困惑した声を出す。みさきはそのままの体勢で言う。
「大事な人が亡くなったら、思いきり泣いていいと思うよ。私には、これくらいしかしてあげられないけど…でもこれなら泣いてるとこ、誰にも分からないと思うから」
浩之はしばらくそのまま押し黙っていたが、やがてゆっくりと顔を離した。
「浩之君…」
「…いや、ありがとな。気遣いは嬉しいけど、涙はまだ流す時じゃねぇ。このクソったれたゲームから脱出できた時、思い切り泣かせてもらう。その時に、な」
浩之の声は、もう元通りのものに戻っていた。みさきはほっ、と胸の内で安心する。
「さ、行こうぜ。ともかく休めるところを探さねーと」
そう言う浩之の頬からは、みさきに気付かれないように流した、一滴だけの涙があった。
藤田浩之
【時間:1日目午後6時過ぎ】
【場所:G−05】
【所持品:無し。それまでの荷物は街道に放置】
【状態:足を打撲。一人では歩けない】
川名みさき
【時間:1日目午後6時過ぎ】
【場所:G−05】
【所持品:無し。それまでの荷物は街道に放置】
【状態:健康】
【備考:B、B−2、B−7ルートで】
236 :
死と少女たち:2006/10/12(木) 00:56:48 ID:SRMGc2cbO
あの後。友人・知人、そしてゲームに乗っていない他の参加者を探すため、久寿川ささらたち4人(正しくは3人と1体?)は鎌石村から別の場所へと移動していた。
「あの……本当にわたしはなにも持たなくてよろしいのでしょうか?」
両手で重そうに自分のバッグを持ち、腰には日本刀をさして歩いている真琴にゆめみが心配そうに尋ねた。
「だ…大丈夫よ。これくらい……」
家を出る際、真琴は食料やら使えそうなものを手当たり次第いろいろとバッグにぶちこんできたのだ。そのため重くなってしまったのである。
「……で。これからどこへ行くの?」
「そうね…無学寺。まずはここを目指しましょうか?」
ささらは地図の一点を指差すと尋ねてきた真琴に答えた。
「ここなら私たちの足でも今日中に着けると思うし」
「そうネ。それに雨風もしのげるかも…………ン?」
「どうかなさいましたか、レミィさん?」
「ミンナ……なんか臭わナイ?」
「臭う?」
レミィがそう言ったので、ささらたちも周辺の空気の匂いを嗅いでみた。
――かすかに妙な臭いがした。
「なんなのこの臭い?」
「これは――血の臭いでしょうか? それとも……死臭……」
「死臭!? それってまさか………」
「たぶんこっちからネ!」
「あ…ちょっと!」
臭いのもとがあると思える場所へとレミィが走りだし、ささらたちもそれに続いた。
237 :
死と少女たち:2006/10/12(木) 00:58:23 ID:SRMGc2cbO
―――先程の場所からは歩けば数分もかからないであろう場所にソレはあった。
臭いの元――それは、この殺人ゲームがスタートしたばかりの序盤に運悪く命を落とした河島はるか(027)の亡骸であった。
「………」
島に来てはじめて間近で見る『死』というものに、ささらたちはしばらくの間言葉が出なかった。
その沈黙を破ったのは真琴のある一言だった。
「お墓……」
「え?」
「お墓作ってあげよう……さすがにこのままじゃこの人も可哀想だよ」
そう言うと真琴は自分のバッグからスコップを取出し穴を掘りはじめた。
「―――そうね。私たちにできることはそれくらいしかないけど………」
「イエス。マコトの言うとおり、このまま何もしてあげないのは可哀想ネ」
「お手伝いします。真琴さん」
それからしばらくの間、真琴、ささら、レミィ、ゆめみ、そしてまた真琴……といった順に交替で穴を掘り、穴を掘る役以外の3人で墓にそえる花などを集めた。
やがて人ひとりは軽く入るであろうサイズの穴を掘り終えると、4人はそこにはるかの亡骸をそっと埋葬し冥福を祈った。
「ごめんね。私たちこれくらいしかできないけど…」
「どうか安らかに……」
「それと……あなたの荷物、悪いかもしれないけど持っていくわね……」
「大事に使わせてもらうヨ……」
レミィの手には、はるかのの支給品が一式入ったバックがあった。はるかの亡骸の近くにそのまま放置されていたものだ。
238 :
死と少女たち:2006/10/12(木) 01:01:21 ID:SRMGc2cbO
「それじゃあ…私たちはこれで……」
「あなたの分まで長生きしてみせるから」
「バイバイ…」
「名前はわかりませんでしたが……あなたのことは忘れません………」
こうして4人は今一度生き残る決意を胸にその場を後にした。
4人が去った後、そこにははるかの墓とそえられた何輪かの花だけがあった。
風が吹き、花が4人に手を振るように左右に揺れていた。
その後、ささらたちが定期放送を聞いたのは、それからまた少し歩いていた時のことである。
【場所:D−07(ただし、ささらたちはすでに無学寺を目指して別エリアに移動している)】
【時間:午後6時過ぎ】
久寿川ささら
【所持品:スイッチ(未だ詳細不明)、ほか支給品一式】
【状態:健康】
沢渡真琴
【所持品:日本刀、スコップ、食料など家から持ってきたさまざまな品々、ほか支給品一式】
【状態:健康】
239 :
死と少女たち:2006/10/12(木) 01:06:39 ID:SRMGc2cbO
宮内レミィ
【所持品:忍者セット(木遁の術用隠れ布以外)、ほか支給品一式】
【状態:健康】
ほしのゆめみ
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【備考】
・放置されていたはるかの荷物はバックごとレミィに。レミィの荷物はゆめみに渡る
・ささらたちは全員無学寺が爆発で吹っ飛んでることを知らない
・B−6以外のB系、Jルート用。014、149の続きです
誰だまだ狐生かしてる奴
折原浩平は鎌石村の探索を開始していた。
まずは爆発音のした方面から調べてみた。
「………これは酷いな…。」
現場には、夥しい血痕。死体こそ残っていた無かったが、誰かが死んだのは明らかである。
しかし、放送時に長森や住井の名前は無かった。少なくとも、彼らではないだろう。
そう考え、浩平は爆発地点の探索は切り上げ、付近の民家や施設を徘徊する事にした。
すぐ近くにあった民家を探索してみたが、役立ちそうな物は包丁程度しかなかった。
「まあ、だんごよりは100倍役に立つけどな。」
と、独り言を呟きつつ、包丁は貰っていく事にしたが。
次に消防分署を調べてみる事にした。
躊躇せずにドアを開ける…………。
「動かないで!!」
声と同時に、こめかみに銃が突きつけられる。
「え、折原なの…?」
両手を上に挙げ、戦う意思が無い事をアピールする浩平の目に映ったのは………。
級友、七瀬留美の姿であった。
二人して、まじまじとお互いを観察しながら固まっている。
このまま固まっていても仕方ないので、気さくに声を掛けてみる事にした。
「よう、久しぶりだな。」
「折原……、折原ぁ…!!」
七瀬が、抱きつこうと飛び掛ってくる。
それを華麗なサイドステップで、ギリギリのところでかわす。
ゴーンッ!!
七瀬が派手に壁に激突する。
かなり、痛そうだ。
七瀬は壁にへばりついたまま、ワナワナと震えている。
「おい、大丈夫か……?」
仕方が無いので、声を掛けてやる。
「避けるな、アホォ!!」
七瀬は即座に振り返り、強烈なツッコミを返してくる。
その鼻は壁にぶつかったせいか、真っ赤になっている。
「おー、これで確信した。間違いない。お前は七瀬留美だ。」
「そんなの当たり前じゃない!気付くのが遅いわよっ………!」
さすがは本家・七瀬だ。ツッコミはお手のものである。
しかし、何故かいつものような覇気が感じられない。
どこか、落ち込んでる節がある。勿論自分も繭の死で落ち込んではいるのだが、七瀬はその比では無さそうだ。
いつものノリで冗談を続けるのはマズい。
「どうかしたのか……?心なしか、落ち込んでいるように見えるぞ。」
「…………。実はね…………。」
七瀬と、情報交換をしあった。伝えた事は、俺が見てきた事や、これからの俺の目的。
分かった事は、七瀬は長森や住井は見ていない事。傍に倒れている冬弥という男は非常に危険な状態にある事。
そして俺も七瀬も、繭を殺した奴やゲームの主催者は許せないという事だった。
「そうか…………。大変だったんだな…………。」
「うん…………。」
「まあ、とにかくお前と会えて良かったよ。お前以上に信用出来る奴は、そうそういないからな。」
「折原ぁ…………。」
……しまった。
七瀬は嬉しそうにこちらを見ている。
はっきり言って、相当恥ずかしいぞ。
「お前なら、どんな強敵が来ても、その身一つで撃退してくれそうだからな。」
照れ隠しにそう言うと、
「んなもん出来るかぁっ!どアホッ!!」
強烈な拳が、俺の頬にめり込んでいた。
「アイタタタ…………。」
「ねえ、折原」
「ん、なんだ?」
頬を抑えつつ、返答する。
「これからどうすれば良いのかな……?」
「とにかく、俺は長森と住井を探そうと思う。それはさっきも言っただろ?」
「うん………、それはそうなんだけど、藤井さんが心配だよ…………。」
七瀬は目を潤わせながら、そう呟いてきた。
……ああ、俺は面倒ごとに首を突っ込もうとしている。
言ってやればいいんだよ、他人なんて放っておけって。
どうせ、その様子だと放送の結果を聞けば錯乱してマーダーになるに決まってるんだ。
島に来る以前は他人だった俺達が世話を焼いてやる話じゃない。
それよりも、俺達には守るべきものがあるはずだろ。
理性ではそう思っていたが、七瀬の悲しそうな表情を見た浩平は、理性とは別の言葉を口にしていた。
「……取り敢えず、そいつは俺がかつぐから一緒に連れて行こう。起きた後どうするかは、そいつが決める事だ。」
こうして俺は、見知らぬ男を背負ったままの移動を余儀なくされる事になった。
共通
【時間:1日目、19:30】
【場所:c-5】
七瀬留美
【所持品:P−90(残弾50)、H&K PSG−1(残り4発。6倍スコープ付き)、ノートパソコン、七瀬と冬弥の支給品一式】
【状態:不安、浩平と一緒に次の村(平瀬村)に向かって移動】
折原浩平
【所持品:だんご大家族(残り100人)、日本酒(残りおよそ3分の2)、ほか支給品一式】
【状態:健康。長森と住井を探す。冬弥をかついでいるので、移動速度はかなり遅い】
藤井冬弥
【持ち物:無し】
【状況:気絶中、放送は聞いておらず由綺の死は知らない】
・ルートB-2、関連は234、238。
245 :
芽衣の決意:2006/10/12(木) 02:55:45 ID:C8rz/qby0
鎌石村消防署のとある一室。
泣き疲れ意識が朦朧としている女の人をソファーに横たえると
私たちは簡単な自己紹介と、今までに起きたことを静かに話し合いました。
でも誰もが口数は少なく、表情に憂いは見られませんでした。
これは殺人ゲーム。
実際のところ目の前にいる人間が本当に今すぐ信用できるかと聞かれたらおそらく誰も出来ないでしょう。
私だって、助けてもらっていなかったら逃げ出していたかもしれない。
だから別れも仕方が無いことだとは思います。
始まりは18:00――どこからともなく聞こえてきた男の人の声でした。
『――みなさん聞こえているでしょうか。
今から僕は一つの放送をします……』
「この声……久瀬?」
相沢さんが顔を上げると、尋ねるように北川さんに視線を送っていました。
小さな声で「たぶん」と頷いたようでしたが二人とも確証は得られなかったようで、それよりも
『これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です』
と続いた言葉に全員が全員固まっていました。
勿論私も。
お兄ちゃんの名前が、英二さんのお知り合いの名前が、そして皆さん全員のお知り合いの名前が出ないことだけを祈って。
『――以上です』
願いは……叶いませんでした。
緒方理奈さんの名前が出たとき、英二さんは震えていました。
表情には出さず、ただ握り拳をぎゅっと強く。
246 :
芽衣の決意:2006/10/12(木) 02:56:27 ID:C8rz/qby0
その直後呼ばれた月宮あゆさんの名前に、相沢さんが叫び、暴れだしました。
「なんでっ、なんでだよ!!チクショォォォォ!!!!」
英二さんと北川さんが必死に彼を抑えてくれていましたが、相沢さんの興奮は収まらずその場にあった机をひっくり返しています。
そして最後に出たその名前に、英二さんがガクッと崩れ押ち、力なく膝を突いてしまいました。
その姿にやっと相沢さんも暴れるのをやめてはくれたのですが、興奮はまったく冷めてない様子でした。
「――私たちどうすればいいのかな……?」
誰も何も言葉を発せない静寂の中、真希さんがポツリと呟いた言葉。
そしてその問いに誰も答えることが出来ませんでした。
「……私たちも殺しあわなくちゃいけないの?」
「それは違う」
真希さんの言葉をさえぎって、英二さん、そして北川さんが同時に立ち上がって口を開きました。
英二さんに言葉を譲り、北川さんは静かに座りました。
「みんなで生きてこの島から脱出するんだ、その方法を探……」
「……そんなことできんのかよ?」
語気は荒いものの、先ほどよりは幾分か冷静に相沢さんが尋ねると
「出来るかどうか、じゃない。やるんだよ」
「……どうやって?」
「……それはこれからみんなで考えるんだ」
「ふざけんなよっ!あんたは悔しくないのか?悲しくないのか?
友達が殺されたんだ、あんただってそうじゃないのか!?」
相沢さんが英二さんの胸倉を掴んで叫びました。
抑えようと北川さんと広瀬さんが立ち上がっていましたが、相沢さんの目からは大きな雫がぼろぼろと、何滴も何滴も零れ落ちて……。
それを見た私たちは動くことを許されませんでした。
ですが英二さんは動じることなく告げます。
「じゃあ僕を殺すかい?」
その言葉に相沢さんの動きが止まりました。
「そしてここにいる全員を殺して、島中の全員を殺して、そして最後に一人立っていれば!
これで仇は取ったとか胸を張って言うつもりかい!?」
「うるせぇぇぇぇぇぇっ!!!」
247 :
芽衣の決意:2006/10/12(木) 02:57:09 ID:C8rz/qby0
相沢さんの拳が振り上げられ、英二さんの顔に叩きつけられ壁に叩きつけられました。
思わず私は英二さんに駆け寄っていました。
唇を切ったのか、少し流れる血を袖で乱暴にぬぐうと英二さんは立ち上がって相沢さんの胸倉を掴みました。
「僕が悲しんでないとでも思われてるなら、それでもいい。……でもな」
掴んだ手をゆっくり離して相沢さんの身体をぽんっと押し
「守りたいものがまだ残っているなら……少しは冷静になれよ、少年」
そう言って私を見て小さく微笑んでくれました。
照れくさくなって思わず顔を背けてしまったけれど、沈んでいた心がなんだか少し落ち着けた気がしました。
「おっさん……わりい、頭に血が上っちまってた、そうだよな」
そう手を差し出した相沢さんは気まずそうに、それでも謙虚に謝罪していたと思ったのですが、英二さんはむすっとしていました。
……なんでだろう?
「そう言ってくれるのは嬉しいが……僕はまだおっさんと呼ばれる歳じゃ無いよ」
――納得。
「で、結局のところこれからどうする?」
と口火を切ったのは相沢さん。
「勿論ゲームに乗って殺し合いなんてするつもりは毛頭ないけど、とりあえず俺は自分の知り合いと、神尾さんの母親を探したい」
「……が、がお」
「僕も今すぐにでも探したい人は数人いるが……今は動くべきではないと考える。
正直君の怪我も軽いわけじゃないだろう?
はやる気持ちはわかるが少し休息を取ったほうがいい」
「でも……つっ」
傷が痛むのか相沢さんは身体を押さえると「わかりました」と座った。
観鈴さんもそれに頷きます。
「君たちは?」
英二さんはクルリと首を回すと北川さんのほうに尋ね、その言葉の終わりを待たずに北川さんははっきりと答えていました。
「俺はもう行きます」
「北川?」
「いや相沢、もう決めてることなんだ」
訝しげな顔を浮かべて言葉を続けようとする相沢さんでしたが、北川さんはそれをさせませんでした。
248 :
芽衣の決意:2006/10/12(木) 02:58:24 ID:C8rz/qby0
「わかった……なにかしらの考えがあるんだろう、引き止めることは出来ない。
だが危険じゃないか?」
「大人数だから安全、一人だから危険って言う方式は当てはまらないと思います」
「まぁ……たしかにそのとおりだ」
「だったら私も行くわよ」
「……コクコク」
真希さんと美凪さんの言葉に誰より驚いていたのは北川さんでした。
なにやら三人で揉めていましたが結局揃って行くことになり、分署を出て行かれました。
結局消防署に残ったのは私と、英二さんと、相沢さんと、観鈴さんと、そしてソファーで眠る女の人。
残された私たちに沈黙が訪れる中、ちょっとトイレにと立ち上がった英二さん。
その様子が気になって、悪いとは思いながらも後をつけてみました。
理奈さんと由綺さんを失っていたことを思い出したから。
でも、後なんかつけなければ良かったとすぐに後悔しました。
――英二さんは一人泣いていました。
泣き声は出さず、拳をただぎゅっと握り締め「すまない、すまない……」と繰り返すばかり。
もしも私に出会わなければ、彼はお二人を助けることが出来たのかもしれない。
そう思うと知らず知らずのうち瞳から零れる涙が止まりませんでした。
涙をぬぐい、そっと相沢さんたちのところへ戻ると、少し遅れて英二さんが戻ってきました。
「とりあえずご飯でも食べて体力の回復でもしよう」
笑顔を見せながら放つその言葉に、私はまた零れ落ちそうになる涙を必死にこらえました。
今は泣いちゃいけない。
私が泣いていいのはお兄ちゃんに再会した時。
それが英二さんの願いであるはずだから。
自惚れかも知れないけれど、そう誓って私は「はいっ!」と答えたのだった。
共通
【時間:18:00過ぎ】
【場所:鎌石村消防署(C-05)】
【関連:→228】
249 :
芽衣の決意:2006/10/12(木) 02:59:02 ID:C8rz/qby0
相沢祐一
【持ち物:支給品一式】
【状態:体のあちこちに痛み。若干の吐き気】
神尾観鈴
【持ち物:フラッシュメモリ、支給品一式】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
緒方英二
【持ち物:支給拳銃、予備の弾丸、荷物一式、支給品の中にはラグビーボール状のボタンと少し消費した食料と水とその他】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
春原芽衣
【持ち物:英二の支給拳銃、荷物一式、支給品の中には少し消費した食料と水とその他】
【状態:疲労はあるものの外傷等はなし】
北川潤
【持ち物:SPAS12ショットガン 防弾性割烹着&頭巾、他支給品一式、お米券】
【状態:腹部と胸部に痛み。若干の吐き気。祐一たちと別離、行き先や目的は不明】
広瀬真希
【持ち物防弾性割烹着&頭巾、他支給品一式、携帯電話、お米券】
【状況:北川に動同行】
遠野美凪
【持ち物:消防署にあった包丁、防弾性割烹着&頭巾 水・食料、他支給品一式、お米券数十枚】
【状況:北川に同行】
藤林杏
【持ち物:なし】
【状態:泣き疲れ睡眠、精神状態不安定】
【備考】
芽衣の持っていた拳銃は英二の手に
祐一の持っていたショットガンは北川の手に
「漫才コンビ再開」の、折原の持ち物に「包丁」を追加お願いします。
ID変わって本人証明出来なくてすいません《まとめの人
「憎悪、別離、邂逅、焦燥、そして殺意」
「あず……さ……?」
なぜ疑問形になってしまったのか自分でもよくわからなかった。目の前にいる人間は間違いなく先ほどまで行動をともにしていた柏木梓のはずなのに。若干、瞳の光が落ち窪んだものになっているほかは何も変わりがない。少なくとも外見上は。
「ああ、晴香? 遅かったね」
平瀬村の一画。そこに柏木梓はいた。こちらに目を向けず、じっと足元を見つめている。
梓の足元には穴が二つあった。人が一人丁度入るほどの穴が二つ。そして傍らには血に濡れた物言わぬ死体が二つ。おそらく一日前までは幸せな暮らしをしていた少女たち。
「……その子が楓さん?」
セーラー服の子に目をやる。すぐにわかったのはもう一人が知った顔だったからだ。といっても知り合いではない。ブラウン管の向こうでよく見た存在、歌手の森川由綺。
「ああ、そうだよ。今埋めるとこなんだ。そっちの子も楓のついでっちゃぁあれだけど、野ざらしにしておくのもかわいそうだから」
梓はそう答える。湖の水面のように平坦な声だった。
「手伝うわ」
「ありがと」
その平坦さが伝染したように晴香の声も抑揚がなくなっていく。
とは言っても既に穴は二人が入れるほどの大きさになっており、晴香がやったことといえば由綺を穴に入れたこととその上から土をかけたことくらいだった。
(そういえば、これどうやって掘ったんだろう)
見たところ、梓の周りにスコップのような道具らしきものはない。既に片付けたのだろうか。
ふと梓を見るとじっと手を合わせていた。その手のあちこちに土がこびりついている。まさか、手で掘ったわけではないだろうが……
やがて、すっと梓が目を開いた。
「もういいの?」
すでに土山から視線を離しあたりを警戒していた晴香はそう問いかける。
「うん」
梓はそう頷き、顔を上げた。そして梓と目を合わせた瞬間、
「!」
わかってしまった。なぜ先ほど梓に対して疑問系で問いかけてしまったのか。梓の目を見た瞬間に悟ってしまった。知っている。自分はこれとよく似た現象を知っている。どこだ? どこでみた?
そうだ、友里さんだ。由依の姉の彼女がロスト体と呼ばれたときのあの感覚。自分は直接ロスト体となった彼女を見たわけではないが、捜索していたときに感じていたあのプレッシャー。
梓の目から、いや全身から放たれている目に見えない何かがあの時の友里と驚くほどよく似ているのだ。人外の気配、としか表現しようのない禍々しさ。
「あ……ずさ……」
思わず一歩後ろに下がってしまう。本能が、彼女に近づくのを忌避した。
「そう、それでいいんだよ」
「な……なに……?」
「晴香。残念だけど、ここでお別れしよ。私は楓を殺した男を追う。そいつを一寸刻みにしなきゃ、あたしは気が収まらないよ」
「………」
晴香は何も言わなかった。否、言えなかったのだ。梓の押し殺した、必死になって押し殺していながらそれでももれ出てしまう憎悪に喉をつかまれていたのだ。
もし梓が自分の感情を爆発させていたら自分は粉々にされていただろう。それは彼女らしくない非現実的な妄想ではあったけど、今の梓の前では今までの自分の常識が全て吹き飛んでもおかしくなかった。
「あいつを……柳川をあたしが殺すことができたらまた会おうな。そしたら改めて一緒にゲームから脱出しよ」
それだけ言って梓は晴香に背を向けて歩き出す。
「………あ…ずさ……あずさっ!」
視線が自分から外れたことでようやく声を引き絞るように出せた。その声にあずさの歩みが止まる。晴香はすーっと深呼吸をした。よし、大丈夫。これでいつもの自分だ。冷静に話せる。
「なぜ、分かれる必要があるのかしら? 私の目的はゲームを破壊するために情報を集めることよ。別に行くあてがあるわけじゃないわ。
その男を捜すのと情報を集めるの、一緒にやればいい。二人でいたほうが何かと便利なはずよ。特に今夜、どこかで休むのなら交代で仮眠も取れるし……」
そこまで言ったところで梓の姿が消えた。否、消えたのではない。知覚できないほど接近していたのだ。
数メートルの距離を一瞬に動き、右腕を伸ばして自分の背後にある民家の壁にこぶしを叩きつけていた。鈍い音がして塀にひびが入る。
「気持ちはありがたいよ。でもね、悪いけど足手まといなんだ」
まるで接吻を交わすように接近する梓の顔。その迫力にまたも晴香の思考は停止してしまう。
「最初にあのふざけたウサギが言ってたろ。人間とは思えない連中がいるって。それは私たちのことなんだ。鬼の血を継ぐ柏木の一族。私たちは鬼の子なんだよ。そして柳川も」
そこまで言って梓は顔を離す。後ろでパラパラと粉が落ちていく音がした。拳を壁からはずしたことによって拳にまとわりついていた粉が落ちたのだろう。
「柳川は眼鏡をかけた長身の神経質そうな男だよ。悪いことは言わない。もし会ったら一目散に逃げるんだ。あいつは本当に危険なやつだから」
「………」
「じゃあね、晴香」
今度はゆっくりと立ち去るようなまねはしなかった。全速力で建物の向こうに消えていく。
「あらら、振られちゃったわねぇ」
「!」
梓が走り去った方向とは反対側からそう声がかけられた。慌てて振り向くがそこには誰もいない。
「悪いけど、立ち聞きさせてもらったの。あんたゲームをどうにかして止めさせようとしているんでしょ。私もなの。一緒に組む気ない?」
「……顔ぐらい見せたら?」
「別にいいんだけど、いきなり撃つのはなしよ」
「撃たないからでてらっしゃい。ただし手は上にあげてね」
「わかった。でもあなたもそのクロスボウをとりあえず下においてくれない?」
反射的に『あなたが出てくるほうが先よ』と言いそうになったがそんなことにあまり時間をかけたくなかったので晴香はクロスボウをことりと地面に置く。過度に警戒する必要はないだろう。もし彼女がやる気なら既に自分は死んでいるはずだ。
クロスボウを置くと、すぐに物陰から一人の女性が現れた。こちらの指定どおり、手を上にあげている。
「紳士的に物事を進めてくれたことに感謝するわ。女の子同士なのに紳士的って言うのもおかしいけどね。私の名前は来栖川綾香。あなたは?」
「巳間晴香」
簡潔にそう答える。
「わかったわ。それで巳間さん、私と組むってことでいいのかしら?」
「それはこれから決める。でもとりあえず情報の交換だけでもしておかない? それとわたしのことは晴香でいいわ」
「そう。じゃあ晴香、情報交換ならこっちも望むところだわ」
「おりょりょりょ、こいつはちょいと予想外だね。まさかまた増えるとは」
朝霧麻亜子は民家の屋根の上から晴香と綾香の様子を見下ろしてそうつぶやいた。ちょうど晴香が綾香に武器の開示を要求したらしく、綾香は服のポケットから銃を取り出しているところである。話し声は聞こえないので推測に過ぎないのだが。
「ふむ、襲撃はあきらめるしかないかねぇ〜〜?」
なにしろ自分の武器は射程がそう長いとはいえない。飛び道具を持つ相手が一人ならともかく二人ではさすがに分が悪い。
「む〜〜〜」
だが麻亜子はあきらめきれない様子で二人の様子を眺める。やがて二人は物陰に隠れて麻亜子の位置からは見づらくなってしまった。隣の屋根に移ればどういう状態か詳しく見れるが、移動するときに音を立ててしまう可能性が高い。
「こりゃどうしたものかねぇ……って、ん?」
視界の端に何か動くものを見つけた。人だ。参加者に違いない。
麻亜子はじっと目を凝らした。こちらに近づいてくるのは銃を持った一人きりの参加者、今いちばん麻亜子が欲しい存在だった。
息を切らしかけながら走ってくるのは深山雪見だった。晴香たちとは建物をはさんでいることもあって互いに気付いていない。
しかも、運のいいことに深雪は走りつかれて疲労しているようだった。うまく不意をついて襲撃すれば勝てるかもしれない。そうすれば銃を奪って眼下の二人を襲撃できる。
「試してみる価値はあるかもにゃ〜〜」
共通
【場所:G-03】
【時間:6時15分頃】
朝霧麻亜子
【持ち物:バタフライナイフ、投げナイフ、仕込み鉄扇、制服、ほか支給品一式】
【状態:着物(防弾性能あり)を着ている。ささら、貴明たちを守るために人を殺す】
柏木梓
【持ち物:不明(次の方任せ)、支給品一式】
【状態:異常なし、柳川を探す】
来栖川綾香
【持ち物:支給品一式、S&W M1076(現在装填弾数6)、予備弾丸30】
【状態:異常なし】
巳間晴香
【持ち物:ボウガン、支給品一式】
【状態:異常なし】
深山雪見
【持ち物:SIG(P232)残弾数(7/7)・支給品一式】
【状態:疲労】
106、153、165の続き
ルートはB系、H、I、J
256 :
痕:2006/10/12(木) 11:31:59 ID:IbS1AHYA0
パンッ!!
咄嗟に発砲するも、当たらない。
銃相手でもまるで怯む事なく姫川琴音は迫ってくる。
柳川裕也と琴音との距離はもうわずか数メートルしか無くなっていた。
「チィッ!!」
キィィィンッ!
柳川は、銃で再度狙いをつける暇は無いと判断し、
銃を捨て出刃包丁でナイフを受け止めていた。
「くぉ・・・、これが女の力か・・・!?」
信じられない腕力――
両腕で包丁を握り締め、柳川は懸命にその腕力に耐える。
「あはははは!つぎはあなただね」
この細腕のどこからそんな力が出てくるのだろうか?
今の琴音の腕力は柳川のそれを上回っていた。
柳川の腕力も鬼の力を制限されてるとはいえ、常人よりは遥かに上であるにも関わらず、だ。
「おにいさんも、はやくしんじゃってよぉ!」
琴音はそのまま異常な腕力で押し込んでくるが、
「・・・なめるなぁ!」
柳川は大声をあげてそれを弾き飛ばした。
佐祐理は動けないでいる。
二人の迫力に気圧されたのもあるが、何より彼女の武器は吹き矢、つまり飛び道具だ。
今使用すれば、柳川に当たりかねない。
彼女に今許された事は、柳川の無事を願う事だけだった。
257 :
痕:2006/10/12(木) 11:33:30 ID:IbS1AHYA0
そのまま斬り合う二人。
殺気を剥き出しにした、一撃一撃が必殺の威力を秘めた、凄まじい斬撃の応酬。
一撃ごとに琴音の全身が軋むが、それでも彼女は止まらない。
琴音の剣筋は稚拙であったが、一撃一撃が、凄まじく重い。
柳川は防戦を強いられていた。
脇腹を狙い振るわれた琴音のナイフを何とか包丁で受け止めるが、包丁が弾かれそうになる。
凄まじい衝撃。
何とか包丁をこぼす事は避けた柳川だったが、
続けざまに琴音のナイフが容赦無く振り下ろされる。
咄嗟に肩からタックルをし、琴音を弾き飛ばす。
どれだけの怪力をその身を秘めていようとも、琴音は小柄な女である。
単純なぶつかり合いなら、体格で勝る柳川に分がある。
琴音は後方に弾き飛ばされていた。
その際にナイフが柳川の背中にかすったが、浅い。
この結果を予測していた柳川は間髪入れずに踏み込み、
体勢を崩した琴音を斬りつける。
ブシャッ!
包丁は琴音の左腕を捉えていた。
傷はかなり深い筈だ。
しかし琴音は全く勢いを落とすことなく即座に反撃の斬撃を返してくる。
「このっ・・!」
それを何とか捌く。
柳川は正面からでは埒があかないと判断し、琴音のなぎ払う一撃をしゃがみ込んで回避すると、
そのまま琴音の足元目掛けて切りつけた。
258 :
痕:2006/10/12(木) 11:34:51 ID:IbS1AHYA0
完全に不意を突くその一撃を、どうにか体勢を低くしてナイフで受け止める琴音。
ブチィッッ!!
「ぎっ!?」
何かが引き千切れるような音がして、
その瞬間、琴音の右腕の力が急激に弱まった。
狂気に任せて限界以上の筋力を引き出し続けた反動で、
遂に彼女の筋肉が耐え切れなくなり、筋肉の断裂が始まったのだ。
そして・・・・
ザシュゥッ!!!
「ぎゃあああああっっ!!」
柳川の包丁による渾身の一撃が、琴音の腹部を捉えてた。
腹部から大量の血を噴出させる琴音。
「相当やるようだが、相手が悪かったようだな・・・。」
柳川は勝利を確信し、一瞬動きを止めてしまった。
しかし、それは油断以外の何物でもなかった。
このゲームにおいて、油断は死を招く。
「うあああああっっ!!!」
「何っ!?」
腹を切り裂かれても、体中の筋肉がボロボロになっても、なお琴音は止まらなかった。
ボロボロの右腕の筋肉を総動員して、体に残された力を振り絞ってナイフを振り下ろす。
ザシュ!!
「ぐぉぉ・・・」
咄嗟に避けようとするも避けきれず、ナイフは柳川の左肩を抉っていた。
「いやぁぁぁ!」
佐祐理が悲鳴をあげる。
259 :
痕:2006/10/12(木) 11:36:25 ID:IbS1AHYA0
しかし、今度は柳川も止まらない。
「う、うおおおぉぉっ!!」
傷を負いながらも、渾身の一撃を放つ。
直後、
ブシャァァァ・・・・
琴音がトドメの一撃を振り下ろすよりも早く、柳川の包丁が琴音の喉に突き刺さっていた
「あ゛あ゛あ゛・・・・」
琴音の喉から血が噴き出している。
彼女の生命そのものが、噴き出している。
断末魔の呻き声をあげ、狂気に支配された少女は倒れた。
彼女の周りには、彼女自身の血による、大きな水溜りが出来ていた。
――――姫川琴音は、ただ死にたくないだけだった。
島に来る以前の彼女は、普通の少女だった。
不思議な超能力は持っていたが、大人しめで、そして優しい、普通の少女だった。
ゲームが始まった後の彼女も、最初は積極的に殺人をするつもりなど無かった。
それどころか、積極的に人を傷つけるつもりすらも無かった。
それがいつの間に、こんな事になってしまったのだろう。
いつの間に彼女は、彼女で無くなってしまったのだろう。
このゲームに放り込まれたときから?
宮沢有紀寧に脅迫されてから?
それは誰にも、本人にすら、分からない。
しかしとにかく、彼女の肉体は、その活動を終えたのだ。
「柳川さん!!大丈夫ですか!?」
「ああ・・、多少傷は負ったが、動ける。問題無い」
260 :
痕:2006/10/12(木) 11:38:13 ID:IbS1AHYA0
「この子は・・・」
佐祐理は、横たわる少女、仁科りえを見た。
その背中は無残に切り裂かれている。
「・・・残念だが、死んでいる。」
「そんな・・・・。」
柳川は二人の少女の遺体を、交互に見やった。
見た目から判断して二人とも17歳付近だろう。
この島に来る以前は二人とも、戦いとは無縁の普通の少女だったんじゃないのか?
そう、自分のような、鬼の力に飲み込まれていた殺人者とは違って。
それが二人揃って、死んでいる。彼女達はもう、学校に行く事も家に帰る事も、何も出来ないのだ。
佐祐理も柳川も、しばらくその場に立ち尽くすしかなかった。
「どうして私達殺し合わなくちゃいけないんでしょうね・・・。」
佐祐理は悲しそうに、本当に悲しそうにそう呟いた。
「そんなもんは分からんな・・・。ただ、やらなければやられていた。」
やらなければやられる。それがこのゲームで唯一の真理である。
その真理に従わない者は、物言わぬ蛋白質の塊になるしかない。
「・・・とにかく、全ての元凶はこのゲームの主催者だ。それだけは間違いない。
俺は、このゲームの主催者を許さない。例えどんなに傷を負おうとも、最後には必ず連中を殺してやる。」
柳川はそう言った後、表情を歪めながら二人の死体を見やった後、
ナイフを拾い上げ、自分の銃も回収した。
そして少し考えた後ナイフを佐祐理に手渡した。
「あの、これは・・・?」
「俺には必要の無いものだ、持っておけ。役に立つ時があるかもしれん。」
それだけ言うと、彼は再び歩き出した。
佐祐理は心配そうに彼を眺めていた。
心にも体にも傷を負いながらも、彼は止まらない。
>>251の内容を一部修正。
「ああ、晴香? 遅かったね」
平瀬村の一画。そこに柏木梓はいた。こちらに目を向けず、じっと足元を見つめている。
梓の足元には穴が二つあった。人が一人丁度入るほどの穴が二つ。そして傍らには血に濡れた物言わぬ死体が二つ。おそらく一日前までは幸せな暮らしをしていた少女たち。
「……その子が楓さん?」
を、
「ああ、晴香? 遅かったね」
平瀬村の一画。そこに柏木梓はいた。こちらに目を向けず、じっと足元を見つめている。
梓の足元には穴が二つあった。人が一人丁度入るほどの穴が二つ。そして傍らには血に濡れた物言わぬ死体が二つ。おそらく一日前までは幸せな暮らしをしていた少女たち。
血痕が点々と続いているところからして、どこかから運んできたようだった。おそらくここの土が掘り返しやすかったので運んだろう。
しかし二人分の死体をどうやって一人で運んだのか……
「……その子が楓さん?」
に修正します。楓たちの死体の位置を考慮するのをすっかり忘れていました。
262 :
痕:2006/10/12(木) 11:50:14 ID:t8agN2yHO
【時間:1日目 20:00頃】
【場所:g-9】
倉田佐祐理
【所持品@:支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品A:八徳ナイフ】
【状況:心配。ゲームの破壊が目的。】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁/ハンガー/コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)】
【所持品A二連式デリンジャー(残弾2発)、自分と楓の支給品一式】
【状況@:左肩に切り傷。腕が動かせなくなる程では無いが、傷はそれなりに深い】
【状況A:疲労。背中に軽い切り傷。ゲームの破壊が目的。】
仁科りえ
【所持品:拡声器・支給品一式】
【状態:死亡】
姫川琴音
【所持品:支給品一式】
【状態:死亡】
237の続き、B系共通ルート。
連投規制に引っ掛かったので携帯から。
柳川かっけー
264 :
ピエロ役:2006/10/12(木) 14:33:57 ID:HcuuJBmv0
「君が、今回の当たり役か」
大きな部屋を離れ、さらに進むと、再びある一室にたどり着いた。
刹那、低い男の声が柚原春夏を迎えた。
「だれっ!?」
咄嗟に支給された武器を構えるも、そこに姿はない。どうやら、スピーカー越しに声が伝えられているようだ。室内には、大きなディスプレイと、それを操作するパソコンがある他は、無機質な金属で一面を覆われていた。
「柚原春夏……君に選択肢を与えよう」
春夏の疑問には答えず、男は続けるが、春夏はそれ以上の追及をやめた。事実、この声には聞き覚えがあったから。――この声は、『主催者』のものだ。
「選択肢ってなにかしら?」
「君が生き残る術と、もう一方は……死だ」
どうやら、会話は成立しているらしい。モニターがあり、ここも監視されているのだろうか。もしかしたらこの要塞内に主催者側の人間もいるかもしれないし、
ここは単純に参加者に与えられたものなのかもしれない。
「……君にはいくつかの武器を与えた。うむ……今手に持っているものだ」
「……あのでっかいガンダムみたいなのも武器なのかしら?」
「あれはただの遊具だ。お気に召したかな?」
「は、は……は」
なんと趣味の悪い嗜好だろうか、と春夏は辟易した。
だが同時に、あれが武器でなくてよかったとも思う。
265 :
ピエロ役:2006/10/12(木) 14:35:00 ID:HcuuJBmv0
「……で、選択肢って? 私は一体どうすればいいのかしら」
「――君には人を殺してもらいたい」
「……嫌よそんなの。人を殺すなんて出来ないわ。それにそれって結局、当初のゲーム内容と一緒じゃない」
「否。 娘が助かるという条件付だ」
「なんですって?!」
春夏の目が光る。
「このみを助けられるってどういうことなの?」
「20時間以内に10人殺して欲しい……無論、それ以上でも構わないが」
「……そうすれば、このみを助けてくれるの?」
「約束しよう」
「……」
信用していいものなのだろうか?
「もし、嫌だといったら?」
「君を殺すさ……この要塞内には、何人かの特殊私兵がいるからね。尚、君が殺害した情報は遂次こちらに送信されるようになっていることを付け加えておく。どうだい?」
「……わかった、やるわ」
偽りはなさそうだ、と判断した春夏は頷いた。そもそも、それ以外の術は用意されていないのだから。
「承諾ありがとう。それではそこの端末から番号を入力し、Enterを押してくれたまえ。番号はこの盟約で助かる人員の名簿番号と同じだ」
春夏は迷うことなく、115を押し、Enterキーを叩く。
「――それでいい。では、よろしく頼むよ、柚原春夏くん。10人殺したらここに再び戻ってきてくれたまえ」
「…………」
「なお、10人を殺すより前にこの施設内への回帰、および他者の侵入を禁ずる。もしこれを破った場合は、君、そして115番の首輪を爆発させるので、施錠には十分注意してくれたまえ」
「――そんなっ!」
266 :
ピエロ役:2006/10/12(木) 14:35:45 ID:HcuuJBmv0
聞いてない! 春夏は動転した。
だが、無常にも男の声が続き響く。
「そして、10人を殺すに至らずに20時間を過ぎた場合は、これも同様に君と115番の首輪を爆発させる。
タイムカウントは既に開始された。それでは頑張ってくれたまえ、柚原春夏くん」
「……」
やるしかない。やるしかないのだ。
殺すしか、助かる術はないのだから。
「尚、今から30分以内にこの施設を退出しない場合も、同様に……」
そんな男の声は、春夏には届いていなかった。
静かに春夏は端末を離れ、部屋を後にしする。
「やるしか、やるしかないわ……」
要塞に隠されたモニター室。
『馬鹿な女だよ……すっかり信じちゃって』
春夏が去った部屋が映し出されたモニターを眺めながら、男は愉快そうに口を開いた。
『10人殺して……本当に助かると思っているのかね』
男は元より、こんな約束を果たすつもりはなかった。これはただ、ゲームの円滑化を図るための一興に過ぎない。
ただ果たす事項は、失敗した場合には首輪を爆発させるということだけだ。
結局、春夏はいいように騙されたわけである。 もとよりこのゲームにおいて命が助かる方法とは自分以外の人間を全員殺すことだけだ。
男はくくっと奥歯で笑う。
【当たり役】=【ピエロ役】
『……もしそれを知ったらどんな反応を示すかのね』
『まぁ精々哀れな道化を演じてくれたまえ、僕の傀儡よ』
『おっと、そろそろ定時放送の時間だ。 まったく、忙しいったらないな』
男の哄笑が、モニター室に不気味に反響した。
柚原春夏
【時間:17:30】
【場所:GH-09交差点の出口を抜けたところ】
【所持品:要塞開錠用IDカード/武器庫用鍵/要塞見取り図/支給品一式】
【武器(装備):500S&Wマグナム/防弾アーマー】
【武器(バッグ内):おたま/デザートイーグル/34徳ナイフ(スイス製)】
【武器(要塞内に放棄):ナタ】
【ゴミ(要塞内に破棄):アヴ・カミュ】
【状況:疲弊、このみを助けるために10人殺す】
要塞
【状況:春夏以外の人物が進入した場合、115番と116番の首輪を爆発(当人に危害なし)】
【殺害数10未満で20時間以内に春夏が戻ってきた場合、115と116の首輪を爆発】
【20時間を過ぎても要塞に戻らない場合、115と116の首輪を爆発】
【20時間以内に10人を殺し、要塞内に戻った場合、ゲーム続行(約束は履行せず)、反抗した場合は同様に首輪爆発】
【20時間以後に他者が侵入した場合は問題なし(しかしIDカードがない場合は進入不可能)】
【ロックは完璧、入り口は島内に複数ある】
【残り時間/殺害数:19時間49分/0人】
※108クジ運 を通るルート
時刻は午後5時50分、放送直前。
折原浩平(016)は森をグルグル回っていた。
「迷った。」
その時であった。浩平のカバンが金色に光る。
『参加者よ、よくぞ我等を生かしてくれた。』
「何っ!?」
『我はだんご大家族の長、だんご大家族(父)である。』
「俺は折原浩平、通称お兄ちゃんだ。」
『了解した、お兄ちゃん。
第一回放送まで我らを欠損することなく生かし続けた者に対し、
ボーナスを授けるのが我の使命だ。』
「ほほう。して、そのボーナスとは?」
『お主の求める人間の元に、我がナビゲートしてしんぜよう。』
「マジか。」
『ただし一人だ。複数にしてしまうとお兄ちゃんだけ有利になりすぎてしまうからな。』
「・・・まぁいい。ありがたいことに変わりはないからな。」
『ではお兄ちゃん、誰を求めるか。やはり、長森・・・』
「椎名繭だ。」
『ほう?』
「こういう時長森長森言ってても芸がないからな。新鮮味も。
今回、俺は繭ルートを経てここに存在することに決めた今決めた。
俺と繭は、彼女の放尿の際発生する音も聞いたことのあるくらい深い仲だ。」
『何と下品な・・・』
「いま俺、痛いこと言ってるね。うん、失言。編集で切っといて」
『そんな機能はない。・・・ふむ、しかしお兄ちゃん。』
「何だまだ文句あるか。」
『いや、椎名繭という女子は、既に絶命しているぞ。』
「マジか?!」
『まぁ、手がない訳ではないが。』
マジか?!!!」
『お兄ちゃん達は気がついていないかもしれないが、
この世界は平行世界で成り立っている。
他の世界に旅立てば、椎名繭の生存するルートもあるであろう・・・。』
「マジか?!!!!!!」
『少々待て、検索する・・・む、何と。』
「どうしたっ。」
『お兄ちゃん、椎名繭の生存するルートは、ない。』
「マジで?!!!!!!!!!」
『端的に一つだけは存在するのだが・・・そこで椎名繭は、奈良カッターや翻訳こんにゃくと戯れている。』
「マジか?!!!!!!!!!!!!」
『ただし、その世界は紡がれていない。
かけら紡ぎの行われていない世界に旅立つということは、お兄ちゃん、
お主がその独自ルートの建設者として世界を成り立たせねばいけないのだぞ。』
「構うもんか。繭が生きているなら、それでいい。」
『そうか・・・では、これをやろう。これは並列世界を行き来するための「装置」だ。
残念だが欠陥品で、宝玉セーブもできなければ片道しか使えない。』
「おお!やった、早く俺を送ってくれ。」
『ちょっと待て、お兄ちゃん。その前に一つ願いがある。』
「何だ?早くしろ3,2,1はい」
『この装置は欠陥品故に、荷物の持ち込みもできないのだ。
即ち、お兄ちゃんが去った際我等はこの場に取り残される。
それは我等にとっては危機的状況だ。』
「それがどうした早く結論言え。」
『我等を古河渚ちゃんの元へ送ってくれ。
彼女の元なら、我等も安心して過ごせるであろう。』
「よしきた、それじゃあ渚ちゃんの元へ出発だぁっ!」
『頼もしいよお兄ちゃんっ。』
「そして、俺は新世界の神になるっ。待ってろよ繭〜。」
『人間って・・・面白っ!』
折原浩平
【所持品:だんご大家族(だんご残り100人)、日本酒(一升瓶)、装置、他支給品一式】
【状態:渚を探す】
【時間:1日目午後6時過ぎ】
【場所:D−02(迷って戻った)】
57の続き
「収穫はこんな感じかな」
「・・・」
氷川村にて行動をしていた氷上シュンと太田香奈子は、周辺民家をくまなく探索した。
時間にして三時間ほど費やしたが、人と接するという機会はなかった。
民家にしても、診療所を含め半分程の建物は鍵がかかっていて中に入ることはできなかった。
「斧みたいな物があれば、ドアを壊すのに適したかもしれないけど・・・さすがにこれじゃあ、ね」
シュン、香奈子の支給武器は共に銃器。
音にしても派手であり、それは危険人物を呼び寄せる餌になってしまう可能性が高かった。
今、二人は村の東部にあたる民家にて休憩をしている所で。
発見できたアイテムは、家庭用救急箱、ロープ、それに懐中電灯など。
荷物になるからということで、救急箱やロープはシュンが受け持つことになった。
「・・・・・・」
香奈子は、内心困惑したままであった。
本当に彼と行動を共にして良かったのか、自分は一人とはいえ人を殺すために動いているというのに・・・
『だから僕は、彼女たちが伝えられなかったことを代わりに伝えてあげるためにさっき言った3人を探している』
彼は死んだ誰かのために動いている。
生きている人に、死者の思いを伝えるために。
なのに・・・それなのに。自分のしようとしていることは、一体なんだというのだ。
月島瑠璃子を殺し、本当に月島拓也は自分の物になるというのか。
(でも、やらなくちゃ・・・先には、進めない・・・)
膝の上に置いた手に力がこもる。
・・・そんな彼女の様子を、シュンは静かに見守っていた。
「ねえ、太田さん」
「え?!」
突然話しかけられ、はっとなる。
向かいの椅子に座っていたシュン、彼の視線は冷静だった。
とまどう。真っ直ぐに射抜こうとするそれは、ひどく居心地が悪い。
思わず逃げるように目を逸らしてしまう香奈子を追い詰めるかの如く、シュンは口を開く。
「太田さん・・・不快に感じるかもしれないけれど、ちょっといいかな」
「な、なに・・・?」
「僕はもう、誰にも死んで欲しくはない。でも・・・君からは強い、暗い思いを感じて仕方ない」
「!!」
ひっ、と息が喉を刺す。
そして、気がついたら目の前に座っていたはずのシュンは隣に来て。
しゃがんで、香奈子を見上げるようにして。
・・・その表情は、真剣で。
「君はね、僕に似ているんだ。いや、正確には僕達、かな。
・・・何となく分かるんだ、背負う物が大きければ大きいほど、願いの叶う可能性が小さければ小さいほど。
人は、心の寿命を縮めていく。・・・太田さん、君の負荷は目に見えるくらい、重いものじゃないのかな」
ドクン。何と言葉に表せばいいのか。
それはまさに、図星。
焦る、思考が読まれていたことで、香奈子はどうすればよいのか分からない状態になり。
「・・・・・・だ、だって、しか、仕方・・・ない、のよ・・・」
漏れ出たのは、震える弁解だった。
「わ、私があの人を、手に入れるには・・・やっぱりあの子は邪魔・・・で、でも・・・」
「何だ、分かってるんだ」
「・・・え・・・・・・」
「『あの子』を殺しても『あの人』が君の物になる訳じゃない。死んだ『あの子』を追う可能性だってあるんだ。
・・・『あの子』と『あの人』の間に、つけこむ隙がない、ということを」
ぶわっ。瞬間、涙があふれ出る。
ボロボロこぼれていくそれを、香奈子は止めることができない。
「そ、そん、な・・・明確に、しないでよ・・・・ぉ・・・」
「ごめん、でもそれが現実であり真実なんだよね?しかも、君はそれに気づいていた。
その上で、何かをしようとしていたんだ。・・・永遠を求めず自らの力で変えられる可能性を信じ、行動を試みる。
僕はそういう、努力して何かを変えようとする人は好きだよ」
・・・伏せかけていた顔を上げる。
目の前には、香奈子を見つめるシュンの瞳。それは優しさに満ちていて。
「僕は君に手を汚して欲しくない。その上に君の望む世界が確立されなかった場合、君はきっとあちらの世界へ導かれてしまうだろうから。
だから・・・痛みはあるだろうけれど、乗り越えていこうよ。力になれないかもしれないけれど、僕は君の味方だから」
・・・彼の言葉は、よく分からない所も多々あった。
だが、瑞穂以外の人から受ける暖かさは久しぶりで。
香奈子は胸の前で手を組むようにし、思いっきり泣き伏せた。
そんな震える彼女の肩を撫で、シュンは零れ落ちる香奈子の雫をもう一方の手で拭う。
・・・こんな時でも、誰かに身を預けようとしない孤独に苛まれた少女。
こんなにも、か弱い少女。
(僕はまだ、こんな形で人を励ますことができるんだね・・・)
--------------えいえんはあるよ。ここにあるよ。
そうだね、確かに存在する。
だけどまだ、彼女を連れて行かないで欲しい。
彼女はきっと、これを乗り越えていけるはずだから・・・。
藍原瑞穂の死は、数十分後に放送された。
だが、香奈子は崩れない。
死者のために努力する、彼の姿が隣にあるから。
だから。
「瑞穂、私はあなたの分まで生きるから・・・生き延びて、あなたと過ごした私の思い出を永遠にするから」
自分を変えてくれた彼と、香奈子は引き続き行動を共にすることを決意した。
275 :
補足:2006/10/12(木) 21:27:02 ID:dnxgZsdh0
太田香奈子
【時間:1日目午後6時】
【場所:I−07】
【所持品:H&K SMG U(残弾30/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5、懐中電灯、他支給品一式】
【状態:脱マーダー化】
氷上シュン
【時間:1日目午後6時】
【場所:I−07】
【所持品:ドラグノフ(残弾10/10)、救急箱、ロープ、他支給品一式】
【状態:祐一、貴明、秋子を探す】
(関連・151)(B-4ルート)
276 :
腐っても悪役:2006/10/12(木) 22:21:40 ID:8J3fyiGF0
オッス、オラ高槻! 今も宙ぶらりんで頭に血が上りそうだけどオラ何だかワクワクしてきたぞ!
…んなわけねぇだろうが。畜生、早くここから下ろしてもらいてぇ。俺様は何度も説得を試みたのだが銃口を向けられるわ貼り手されるわ兄ちゃんは助けてくれねえわでホトホト困り申した。
「…ありがとね。それじゃ、あたしはもう行くから。あなたの荷物は返しておくわ」
ちっこい嬢ちゃんは兄ちゃんのバッグをはにかみながら返した。バッグに俺の食料を詰めこみながら…ってオイ!
「ちょ、俺様の食料入れんなよ! この、泥棒猫がァ!」
「何よ、最低男。捕虜なんだから当然のことでしょ」
「悪いな。泥棒なら俺の得意技だ。こう見えても俺は過去に人様の牛乳を盗んだ事がある」
俺様の直訴はただちに取り下げられた。いつの時代もこんなものである。
「それと、この人はどうするの? まだ気絶してるけど」
「このまましょって行くさ。ここまで連れてきたんだ。今更放っておくわけにもいかないからな」
兄ちゃんはそう言うと、ひょいっと担ぎ上げ、悠然とその場から去っていった。
ああ、結局俺を助けてくれなかった。そういや、あの畜生もどこにもいねぇし…俺って、犬にまで見捨てられたのか?
そんな俺の思いを他所に、ちっこい嬢ちゃんも荷物の整理を始める。…俺もそろそろ何とかしないとヤバい。
「なぁ嬢ちゃん。いい加減ここから下ろしてくれねぇか? このままだとマジでカッコ悪いんだが」
「イヤよ。アンタ、どうせ下ろしても荷物盗って逃げるでしょ」
図星だった。ってか、もう殺し合いなんぞどうでもいいんだがな。支給品が犬だったし。
「ま、誰かお人好しが来てくれることを祈るのね。あたしはその前に誰かに撃ち殺される事を祈ってるけど」
べーっ、と舌を出して毒を吐く嬢ちゃん。くそ、いつか犯しちゃる、このアマ。いや、口には出さないけどな。撃ち殺されたくはないからな。
「それじゃあね。もう二度と会う事はないでしょうけど」
嫌味ったらしく言うと、そのままここを去っていった。
…どうして俺ってこんな役回りなんだよ。支給品は犬だし、このままじゃズガンで情けない死に方だし…泣くぞ。
本気で泣こうかと思っていると、頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。
277 :
腐っても悪役:2006/10/12(木) 22:23:07 ID:8J3fyiGF0
「ぴこっ!」
こ、この声は! まさか、まさか奴は俺を見放さなかったのかっ!
「ポテト、その声はポテトなんだな! ハハハハ! やっぱお前だけは俺の味方だ!」
「ぴこぴこ、ぴこ」
「オーケイオーケイ、もちろん連れてってやるさ! だから早く下ろしやがれコンチキショー!」
体をぶらぶら揺らしながら畜生との交渉を開始する俺。情けない構図だが、こうするしかない。
「ぴっこり」
納得した(らしい)ポテトが器用に降りてきてロープを噛み切る。ブツッ、とロープが切れて俺はまっ逆さまに転落する。
「ぐおっ!…くくくっ、だが俺はこれで自由の身だ。もうこんな扱いとはオサラバだっ!」
手を高々と上げて勝利の雄叫びを上げる。俺の肩にはいつのまにかポテトがいたが、気にしない。俺様は今気分がいいんだ。
荷物は全てなくなってしまった。しかしここでへこたれないのが一流の悪だ。そう、おれは悪役。腐っても悪役なのだ。
「まずはメシだな。その後は…なるようになれだ」
他人と群れるのは俺の好みじゃねえ。俺は俺なりのやり方で脱出口を探すさ。
他人がどうなろうと関係無い。主催者に踊らされんのも好きじゃねえ。俺様が生き残れりゃそれでいいんだ。俺様は一流の悪、だからな。
278 :
腐っても悪役:2006/10/12(木) 22:23:54 ID:8J3fyiGF0
国崎往人
【所持品:トカレフ TT30の弾倉(×2)ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式】
【状態:普通】
観月マナ(102)
【所持品:ワルサー P38・支給品一式】
【状態:普通】
月島拓也
【所持品:支給品一式(往人持ち)】
【状態:気絶中】
高槻
【所持品:ポテト、食料以外の支給品一式】
【状態:健康。一人で脱出口を探す。ゲームには興味なし】
【場所:F-7西】
【時間:一日目18:45頃】
【備考:B系ルート全て】
高槻は悪役じゃないだろ
「うぅ・・・・・・・・・」
雛山理緒は俯きながら歩いていた。
少し前に放送があった。その中には彼女と同じ学校の生徒が一人いたのだ。
それに、昼間の子も、なんという名前の子なのかは分からないが、間違いなく放送で呼ばれただろう。
昼間の出来事の後、理緒は目の前で横たわる少女の分も頑張って生き残ろうと決心し、
少女の荷物、襲撃者が持っていた鋏を回収して、すぐにその場を離れていた。
しかし、最初は意気込んでみたものの、
理緒はこれからどうしたらいいか、全く思い浮かばなかった。
結局彼女に出来る事はアテも無く歩き回る事だけだった。
その上、6時から始まった放送のせいで、彼女はまた落ち込んでしまったのである。
「わたし、どうしたらいいのぉ・・・・。」
うなだれる理緒。
そんな時、視界の端の森に、微かに人影が見えた。
「きゃーっ!だだだ、誰!?」
錯乱しながら鋏を振り回して威嚇する理緒。
「落ち着け、僕は敵じゃない!!」
トンカチを地面に捨て、両手を上に挙げながら、橘敬介が姿を現した。
「・・・僕は人を探してるだけなんだ。戦う気は無い。」
現れた男の落ち着いた物腰、なだめるような口調。
おかげで理緒は、落ち着きを取り戻していた。
「・・・・・・人、ですか?」
理緒と敬介はお互いの情報や目的などを簡潔に話し合った。
「今あなたが言ったような特徴の人は、見ませんでした」
「そうか、君は観鈴や晴子を見ていないんだね・・・・・・。」
「すいません・・・・・。」
敬介は軽く俯いていたが、すぐに顔を上げた。
「いや、謝らなくていいよ。君も大変だったんだしね。」
「ええ・・・。それに今もこの島では、殺し合いが起きてるかもしれないんですよね・・・。」
「ああ・・・、手遅れになる前に急がないと!」
そう言うと、敬介はトンカチを拾い、立ち去ろうとした。
その背中を見送ろうとしていた理緒。
しかし、
「あの・・・、待って下さい!!」
意を決して声をかける。
「なんだい?」
「わわ、私も、連れて行ってくれませんか?」
「駄目だ・・・、僕はゲームに生き残るより観鈴と晴子の捜索を優先するつもりなんだ。
危険すぎる。他の人を巻き込むわけにはいかないよ・・・。」
敬介は険しい表情で、はっきりと、そう告げた。
しかし理緒も引き下がらない。
「でもでもでも、私、これからどうしたら良いのか分からないんです・・・・。
ですから、危険でもいいから連れて行ってください!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「お願い、します・・・。」
泣きそうになりながらも、言葉を続ける理緒。
その勢いに負けたのか。敬介は険しくなっていた表情を緩め、
「・・・・分かったよ。」
微笑みながら、そう口にした。
「本当ですか!?」
理緒は表情を輝かせている。
「ああ。僕は橘敬介って言うんだ、よろしく頼むね。」
「私、雛山理緒っていいます。よろしくお願いします!」
「うん、それじゃ理緒ちゃん、そろそろ行こう。重いだろうし、荷物を一つ持つよ?」
「はい、敬介さん!」
こうして、二人は一緒に平瀬村に向かって歩き出した。
【時間:1日目午後6時30分】
【場所:I-5】
雛山理緒
【持ち物:鋏、アヒル隊長(17時間半後に爆発)、支給品一式】
【状態:普通。アヒル隊長の爆弾については知らない】
橘敬介
【持ち物:トンカチ、支給品一式】
【状況:観鈴と晴子を探す、自分の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置】
・B系共通ルート。関連は143、177
083と205の続き投下です。B、B'ルート。
連投回避よろしくです。
「ふぅ。昼から歩きっぱなしってのも堪えるよな」
「にはは。わたしは歩くの好きだから」
それは羨ましいことで、そう内心で思う相沢祐一(001)は適当に相槌を打ちつつ首を鳴らす。
神尾観鈴(025)は事実、楽しそうではないものの歩みに乱れはない。
故郷が田舎と言っていたのだから、基本的に交通手段の主流が徒歩なのだろう。
かくいう自分も引っ越してきた雪の町は都会とは言い難く、何処かの某従妹のおかげで頻繁に通学ダッシュを敢行していた身。
口では堪えたといいながらも、幾分かは余裕があった。
「ま、何にしても鎌石村に着いた訳だけど……」
「うん。どこにあるのかな」
「一家に一台、そう思いたいがな。まあ、支給品に記憶媒体がある時点でパソコンを示唆しているようなもんだし……」
観鈴の支給品は何の変哲もないフラッシュメモリ。
当然単品では要を足さない。始めからパソコンがなくては使えないのだ。
中に収められているのは勿論データであろう。
パソコンがあって始めて支給品としての真価を発揮するのだから、彼等の目的はそれだった。
集落へパソコンを探し、そのついでと言っては何だが観鈴や祐一自身の探し人を探すといった方針だ。
端末があるということは、何処かに本体があるということにもなる。
確かに武器ともいえない支給品も存在している様子ではあるが、メモリの関しては未知数。
取るに足らない情報だと決め付けるわけにもいかず、もしかしたら優れた情報だと期待もしてしまう。
だからといって、主催者に対抗するための情報が入っていることはないだろう。自身が不利になる物を支給品に加えるはずがない。
よって、ゲームの進行上に有効な代物が入っていれば吉だ。生存率を少しでも上げることができる物ならば歓迎できる。
祐一は知人を探そうと思ってはいるが、闇雲に探したところで遭遇できるかといえば望みは薄い。
観鈴に関してもそうだ。当てもないのに島中を走り回る手間など実際無駄である。
ならば、未確定の支給品に期待したほうが有意義だ。そのついでに探し人と合流できれば僥倖といえるだろう。
「ね、祐一さん。まずはこの分署なんてどうかな……?」
「……鎌石村で個別に名称がついているのは役場と郵便局と、この分署か。地図上でも外観からも目に付くからな……」
「が、がお。そっか……」
「ん、いや。そんなこと言ってたら切りないからな。こういう分かりやすい場所に設置されてる可能性のほうが高いだろ」
祐一は、観鈴が広げた地図を覗き込みながら彼女の提案に頷いた。
一般的な住宅に比べると、局や分署などの方がパソコンを活用する場でもある。
わざわざ明記されているということは、何かしらの物があると一先ず当たりをつけた。
祐一は観鈴に地図を畳ませ、既に目視できる位置にある消防分署を眺める。
「何にしても一番近いからな。だからこそ危ないわけだが……」
「そうだよね。気をつけていかないと……」
「ああ。どちらにしろ屋根を確保しなきゃならんだろ。暗くなる前に早いとこパソコンを入手して寝床も確保しないとな」
「にはは。観鈴ちん野宿でも全然大丈夫だよ」
「逞しいこと言うなよ……」
笑ってブイサインをする観鈴に、祐一は軽く息を付いて苦笑した。
この状況でもお互いが笑って話せるのは、観鈴の明るさのおかげだろうと思う。
緊張の緩和剤となってくれる彼女の存在は、祐一にとってもありがたいものだ。
一人で行動していれば、今頃は緊張と警戒の継続で疲れ果てていたことだろう。
醍醐を殺して観鈴を救った自身の行為は許されることではないが、それでも後悔だけはしないようにしよう。
祐一は一度咳払いし、表情を引き締めて観鈴へと向き直る。
「それじゃ行くか。こっから先は気をつけてな……」
「う、うん。―――あれ?」
「どうした神尾?」
「祐一さん……人がいるよ……」
観鈴が祐一の肩越しに指を指す。
祐一もそれに従い振り返り、指の先を視線で辿る。
消防分署前に、確かに人がいた。
走ってきたのだろうか、顔を伏せて肩を前後に動かしている様子からすると、荒い息を整えているようだ。
身なりからして女性。二人にも見覚えがない制服のため、知り合いという可能性はない。
「ど、どうしよう祐一さん……」
「嫌な所で立ち往生しているな。あそこを通らないと分署へは行けないぞ……」
ちょうど制服の女性がいる場所は分署入り口前。
裏口が存在しない限り、どうあっても入り口を潜るしかない以上、女性との接触は免れない。
立ち去るまで待っても良かったが―――
「―――神尾はここで待ってろ」
「もしかして……」
「接触する。あの人は周囲に気を配っている様子はない。先手を打つなら今しかないだろう?」
「だ、ダメだよっ。危ないし……あの人だって良い人かもしれないし……」
「馬鹿。牽制して話を聞くだけだ。見た感じ何かから逃げてきたようだし、危険はないと思う……てか思いたい」
人を殺した恐怖に錯乱している可能性も捨て切れないが、ここは危険を冒して接触を選ぶ。
仮にゲームに乗った者から逃げてきたのならば、その当人までこの場を嗅ぎ付けてくるかもしれないのだ。
分署に寄り付きたかった祐一達にとって、彼女はあまり嬉しくない誤算でもある。
そのために、まずは彼女を取り込む手段に出た。乗っていない者ならば好都合になる。
逆に彼女が乗っているならば、仕方がない。
今夜は一応留まると決めた村に、マーダーがいることは決して安心できない。
つまり、あの時の醍醐の様に―――
(はは……。殺すってか? 人を殺して高が外れているのは俺の方かもな……)
面倒だから連投回避をしない・・・、
そう思っていた時期が、俺にもありました・・・(AA略
祐一は浮かび上がる自嘲を噛み殺し、それはあくまで最後の手段と自分に言い聞かせて足を踏み出した。
何か言いたげな観鈴をその場に留め、彼は女性に気付かれないように回り込んで接近する。
よほど急いできたのか、未だに不規則に吐き出す吐息が止まる様子はない。
数メートルの距離にまで接近した祐一は、静かに拳銃を取り出して、その背に銃口を付きつけた。
「―――っ!?」
カチャリ、という音に女性―――向坂環(039)は肩を振るわせた。
ようやく落ち着きかけた心臓の鼓動が、再び高鳴る。
頬を滴る冷や汗を煩わしく感じながらも、環は咄嗟に拳銃を構えようとするが―――
「待て。悪いけど動かないでもらえるか。手荒なことはするつもりはないんだ」
「くっ……。直には殺さないってことは、何か目的があってのことかしら……?」
祐一の制止の声に出鼻を挫かれた環は、小さく舌打ちをしながら顔を上げた。
少なからず焦りの表情を浮かべながら精一杯の強がりを言う環に、祐一は軽く首を横に振る。
「そんな大層なことは考えちゃいないが、質問だ。お前は乗ったのか? それとも乗ってないのか」
「乗ってないわ。信用なんか出来ないでしょうけどね」
「まったくだ。こんな質疑応答で分かるとも思ってないけどな」
「……で? 何がしたいわけ貴方」
祐一の間髪入れない返事に、環は眉を顰める。正直やり難いと思ってしまう。
銃口が向けられている限り、彼女も迂闊な行動は出来ない。
彼も自分が有利な立場であることはわかっていたから、ある程度の要求は通ると思っている。
「とりあえず、俺もゲームに乗ってはいないと言っておく」
「信用できないけどね」
「だろうな。とりあえずここは目立つ。移動しないか?」
祐一は環の睨みつける目線と即答を流しつつ、観鈴がいる筈の茂みへと顎でしゃくった。
視線で辿ってみると、そこは人の目が付き難い場所。環は不審気味に眉を潜める。
「ちょっと……言ったそばからそれ? そんな所に連れ込んで何をするつもりかしら……?」
「連れ込むって……また嫌な言い方だな。そんなつもりはないぞ」
「私は、信用できないと言っているのだけれど?」
「……ふぅ。分かったよ、これでいいんだろ」
祐一は小さく嘆息し、構えていた拳銃のグリップを環へと差し出した。
あっさりと拳銃を手放そうとしている祐一。
幾分か冷静さを取り戻していた筈の環も、流石にその突拍子もない行為に唖然とする。
「な、なにを考えているの……? 急に態度を変えても逆に不気味よ」
「我侭だぞお前。とりあえずほらっ。良いから受けとれよ」
強引に環の手に拳銃を握らせ、付いて来いと言わんばかりに背を向けて歩きだす。
ここまでされたからには、彼女もついて行かざるを得ない。
それでも警戒しながら、環は祐一の背へと声を掛けた。
「ねぇ。一体どういうつもり? 私が背後から撃つとは思ってないわけ」
「どうだろうな。大丈夫じゃないのか?」
「私に聞かないでよ。……判断した根拠は何?」
「ま、一言で言えば感だ」
「はぁ? 感って貴方……」
「感だ。そういうことにしといてくれ」
何を言っているのだこの男は、そう訝しむ環の様子が背を向けた祐一からでも充分に感じられた。
祐一とて自身の無防備な行動に納得しておらず、むしろ自己嫌悪に苛まれている。
(ったく。何やってんだよ俺は……。下手したら死んでるぞ……いやマジで)
頭を掻き毟る祐一を眺めていた環は、それが一種の照れ隠しだと唐突に気が付いた。
そう思ってしまうと不思議なものだ。決して信用はしていないが、それでも危機感が若干和らいだのだから。
自分の幼馴染と同じようなお人好しだと思ってしまうと、いくらか親近感も湧くというものだ。
実際は環の幼馴染である貴明とは、ぶっきら棒で、ある意味冷静な祐一は似ても似つかなかったが。
指定された場所へ辿り着いたとき、観鈴が二人の眼前に飛び出した。
「あっ、祐一さん!」
「よう。そっちは問題なかったか?」
「ないけど……祐一さんいきなり銃を突きつけちゃ駄目だと思う……」
「これも結果オーライだろ。気にすんな」
「なに貴方。連れがいたのね。二人で行動しているってことは、少しは信用できそうね」
「ま、そういうことだ」
環から見ても、二人で行動していることからゲームには乗っていないということが分かる。
人の見る目さえ曇っていなければ、祐一と観鈴はどちらかというと反主催者だろう。
ならば、手に持つ祐一の拳銃も必要はなく、環はそれを祐一へとおもむろに付き返す。
どちらにしろ、対等な会話をするならば条件は同じでなくてはならない。彼女とて拳銃を所持しているのだから。
軽く頷いて拳銃を受け取った祐一は、一時的な信用を取次げたことに安堵の息を吐く。
そして、改めて二人に向き直った。
「んじゃ、まずは軽く自己紹介だ。俺は相沢祐一。こっちが神尾観鈴だ」
「にはは。観鈴ちんって呼んでくれると嬉しいかな」
「……それは遠慮するわ。祐一と観鈴ね。私は向坂環、環でいいわ」
項垂れてがお、と鳴く観鈴を置いといて、祐一は本題を環へと切り出した。
観鈴の支給品についてやパソコンを探していること。ついでに自分達の探し人といった情報だ。
環からも先程発見した無残な死体や自分の幼馴染と弟の特徴について。
それぞれが遭遇したゲームに乗っていないであろう人物の名前。この場合、芳野祐介(118)や来栖川綾香(037)などのことだ。
そして、ゲームに乗った女性の特徴を語っていたときに観鈴が反応した。
「え……ホントにそんな喋り方で格好で……」
「そうね。娘がどうのこうの言ってたみたいだけど」
「―――ウソ……お母さんだ……」
確信したように唖然と呟く観鈴。
その言葉に祐一と環は驚きで言葉を失くした。
人違いだと否定したかったが、そんな無責任な言葉を掛けられるはずもなく、三人の間に気まずい沈黙が流れる。
環は襲われた身だが、それでも親の責任を子供にまで擦り付け様とも思わなかったために、敢えて何も言わなかった。
だとすると、一番居心地が悪いのは祐一なのだが、彼も迂闊に声を掛けることはしない。
誰よりもよく知っている母親のことを、何も知らない自分が知ったように言葉を連ねるのは憚かられたためだ。
各々が言葉を濁していたときに、島中に響き渡る声が聞こえた。
『――みなさん聞こえているでしょうか―――』
三人は唐突な展開に、反射的に空を見上げていた。
しかし、祐一にとってその声は聞き慣れたものでもあった訳で。
「これは……久瀬か……? アイツの声がなんだって……」
「知り合いなの?」
「ああ。学校の生徒会長だ」
環の問い掛けに、祐一は眉を顰めながら頷いた。
舞の行いを厳しく糾弾していた声を祐一が聞き間違えるはずがない。
当時、祐一と久瀬は激しく対立していたこともあるが、今では和解している。
いや、和解という表現は正しくない。どちらとも関わらぬよう接しているだけだ。
内心では、お互い忌み嫌ってることだろう。
その男が何故と思うが、彼の声には何時もの神経質そうな張りがないと、祐一は漠然と思った。
だが、死者の発表の一言に全員が息を呑んだ。
そして、放送が終わったとき、環と観鈴は小さく安堵の息を洩らす。
環の幼馴染の名前や、観鈴の知り合いの名前がなかったからだ。
観鈴も母親のことで気落ちしていたが、それ以上に今も生きているという事実は嬉しくも思えてしまう。
だが、決して素直に喜べなかった。祐一の表情が劇的に引き攣ったために。
二人は祐一へとそっと視線を寄せる。
「あの、祐一さん……月宮あゆって……」
「知り合い、なのね」
観鈴は祐一の話の中で一度だけ出てきたあゆという名前が放送で呼ばれたために、彼へ痛ましそうに視線向ける。
様子を察した環も同じだ。
祐一は弱弱しく頷いた。
「あゆ……なんでだよ。なんで……クソっ! またかよ、またアイツは……」
そこまで言葉を吐き出して、祐一は茫然と固まった。
―――また? またってなんだ。
自分の不可解の言葉を反芻する。
あゆの顔、あゆの姿を思い浮かべると何かが頭を掠めた。
視界がぼやけ、ぐるりと風景が曖昧に霞んだ。
脳裏を過ぎったある光景が、祐一の肉体を支配する。
聳え立つ巨木―――純白の雪化粧に小さな少女。
さんさんと降り注ぐ雪が、染まりゆく赤を塗り潰す。
確かに存在した温もりが、冷たい雪と空気に同化していくような喪失感。
「―――な、んだ―――これは……っ」
それらの情景が、祐一の行動を制限して、彼に頭痛を伴わす。
訳も分からない鈍痛に膝をつき、苦しげに息を吐き出して呻いた。
こめかみを強引に突くが、それでも収まりきれず、頭で暴れまわる記憶が彼の意識をも断ち切ろうとする。
連投回避兼訂正。
「少女とおじさん」の
>橘敬介
>【持ち物:トンカチ、支給品一式】
>【状況:観鈴と晴子を探す、自分の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置】
を
橘敬介
【持ち物:トンカチ、繭の支給品一式(中身は開けていない、少し重い)】
【状況:観鈴と晴子を探す、自分の支給品一式(花火セットはこの中)は美汐のところへ放置】
でお願いします。>まとめの人
すいません…。
「え、え……祐一さんっ」
「ちょっと祐一! 大丈夫……っ」
それに慌てて祐一を支えようとする二人だが、その声さえも聞こえていないかのように彼は頭を抱えた。
収まる予兆のない頭痛と、さらに目の奥が焼けるように熱い。
次々と移り変わる情景。何度も何度も繰り返される少女と巨木と雪と赤。
既視感にようで、そしてまったく身に覚えのないことが脳裏を駆け巡っては拡散する。
この数十分間、彼にとっては地獄のようであった。
****
「落ち着いた……?」
「悪い……。もう大丈夫だ」
「もうちょっと休んだほうが……」
「大丈夫……もう、大丈夫だ……」
観鈴の一言をやんわりと断って、祐一は大きく深呼吸をして立ち上がる。
何度も自分に言い聞かせるように呟く祐一の様子を見て、彼女達も口を噤んだ。
尋常ではない様子の彼へと問い質したくもなるが、二人にとって祐一は赤の他人。
なにか踏み込んではならない雰囲気がこの時の祐一にはあった。
「気を遣わせて悪かった。俺は大丈夫だから、とりあえず分署に行こうか」
「……そうね。ほら、観鈴も早く来なさい」
「う、うん」
話を一方的に終わらせて、有無を言わさない態度で祐一は歩き出す。
どちらにしろ祐一の問題。環はこれ以上口を挟むことは諦め、一先ずは意向に従う。
観鈴も、祐一と晴子のことで心配の板挟みに苛まれていたが、二人が歩き出したために思考を打ち切った。
祐一と環に追いついても、依然として会話は生まれない。再び気まずい沈黙だ。
場を嫌った観鈴が、現状打破を狙って小さく拳を握りながら口を開いた。
「あ、あの! 環さんは結局付いてきてくれるの?」
「まあ、一応はそのつもり。この村で夜を明かして明朝に発つわ。それまではいいでしょ?」
「うん。わたし達は勿論大歓迎。そうだよね祐一さん」
「そうだな。とりあえずはパソコンを探させてくれよ。何か役立つ情報が入っているかもしれないからさ」
観鈴の一言が幸を成したのか、自然と会話が流れていった。
そもそも、環は済し崩し的に二人に同行していたのだが、祐一達としては彼女と行動することは本意でもある。
脱出方法を探る祐一は、様々な視点から得た情報を元にして手段を模索しようとしているため、少しでも多くの反主催者と行動しようと考えていた。
この先ゲームに乗った者と争う可能性も無きにしも非ずなのだ。
信頼できる同士を集めることにより、身の安全と本格的な脱出の手段を検討できる。
パソコンさえ見つかれば、明朝に出発するという環に同行してもいいと思っている。
だが、当の環はフラッシュメモリについて胡散臭そうに言葉を零していた。
「ホントにあんな棒みたいな物に情報が入っているの……?」
「……メモリの話をした時から思ってはいたが、お前も機械音痴かよ」
「失礼ねっ。今まで知らなくたって困らなかったわよ」
「わ、わたしも町に普及してないだけだよっ」
環と始めに支給品の説明をした時から思っていたことだ。
パソコンとメモリの関係について話していても、環からは目覚しい反応が返ってこなかった。
むしろ、祐一が求めた応答を適当にして言葉をはぐらかし、曖昧に濁していた。
その反応から分かる通り、一応は無知であることを自覚しているのだろう。
観鈴と揃って、その手に関しては役立ちそうにはなかった。
祐一とて決して詳しいわけではないが、少なくとも一般動作や周辺機器の使い方ぐらいは分かっているつもりだ。
まあ、フラッシュメモリに使い方もないのだが。コネクタを刺すだけである。
低次元の言い争いをしている二人を放っていた祐一は、その歩みを止めた。
―――消防分署前に辿り着いたのだ。
観鈴のおかげで若干硬質した雰囲気が和らいだものの、既に分署の入り口は手の届く位置。
再び緊張に身を固め、三人はお互いの顔を見渡した。
「よし……開けるぞ?」
コクリと二人は祐一の一言に頷いた。
目に付いた窓などは全てカーテンなどで隠されており、中の様子は窺い知れない。
正面玄関から侵入する事に決めた。
扉を開けるのは祐一の役目で、環と観鈴は扉の左右に散る。
環は拳銃を両手で構え、祐一は片手に拳銃とドアノブを持って唾を飲み下した。
三人の心拍数が上がる中、小さく呼吸を静めた祐一が扉を開け放つ。
『相沢祐一(001)』
【時間:1日目午後6時30分頃】
【場所:C−06】
【所持品:S&W M19(銃弾数4/6)・支給品一式】
【状態:普通。パソコン確保のため、分署探索】
『神尾観鈴(025)』
【時間:1日目午後6時30分頃】
【場所:C−06】
【所持品:フラッシュメモリ・支給品一式】
【状態:普通。パソコン確保のため、分署探索】
『向坂環(039)』
【時間:1日目午後6時30分頃】
【場所:C−06】
【所持品:コルトガバメント(残弾数:20)・支給品一式】
【状態:普通。朝までは祐一達と同行】
>>288 >>294 ナイス。
232・転落前執筆者です。
Bルートは消防署と分署の二つがあるのを失念していました;
232は→128ですので、以下を訂正させてください
・二人の位置はC−05・鎌石村消防署
・文章中の、「鎌石村消防分署」というのを「鎌石村消防署」に
(まとめサイト1行目・14行目)
大変失礼しました;
「…きみは何を待っているの」
はじめてその男の子はわたしに話しかけてくれた。
「キミが泣き止むの。いっしょにあそびたいから」
「ぼくは泣き止まない。ずっと泣き続けて生きるんだ」
「どうして…?」
「悲しいことがあったんだ…」
「…ずっと続くと思ってたんだ。楽しい日々が」
「でも、永遠なんてなかったんだ」
つらそうに男の子はそういった。
だから私はこう言葉を返す。
「永遠はあるよ」
そして男の子の両頬を自分の手で挟みこむ
「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」
言って、ちょんとその子の口に、自分の口をあてた。
永遠の盟約。
永遠の盟約だ。
うわぁぁぁぁぁぁーーん……わぁぁぁぁぁぁーーん……
まただ。また誰かが泣いている。
わぁぁぁぁぁーーん……あぁぁぁぁぁぁーーん……
何をそんなに悲しんでいるの?
ああああーーー、ひっ、えぐっ、えっ、あああーーーーん……
瑞佳はゆっくりと目を開けた。
トラブルメーカーの幼馴染のせいでどちらかと言えばちょっとやそっとのことでは動じにくいほうだと自分は思っていた。でも目の前の光景にはさすがに目を丸くせざるをえない。
背格好や雰囲気からいっても自分より4、5歳は年上だろう。いわばいい年した大人が、それも男の人が、あたりの目など全く気にせず拳を幹に打ちつけながら大声で泣いていたのだから。
「………」
しばし呆然としていたが、しばらくしてはっと思い出したようにその男性に話しかける。
「あ、あの……」
とたんにピタリと、というほどスマートにはいかなかったが泣き声の声量ははるかに小さくなった。やがて声を搾り出すようにして、
「……起きたか」
とだけ聞いてきた。顔は相変わらず向こうにむけたまま。
「え、ええ」
ごしごしと目の辺りを拭いて男の人は立ち上がる。結構背が高い。
「みっともないところを見せてしまってすまない」
痛々しいほどに目が充血していた。いまだ瞳に雫をためながらもこちらを見つめてくる。
「い、いえ。あの、何かあったのですか?」
「あ、ああ。今、放送があったんだ」
「放送?」
「そうだ。今までに死んだ人間が読み上げられた」
「あ……」
そこまで言われて瑞佳は気付いた。きっとこの男の人の親しい人が死んだのだ、と。
「死んだ人は伊吹公子さんといって、俺の……一番大切な人だった。世界で一番大切な人だった」
うなだれながら、そう付け加えてくる。
「そう……だったんですか」
瑞佳もようやくそれだけの言葉を口にする。
「あの……本当に何ていっていいのか……」
「いや、その気持ちだけで十分だ。ありがとう」
そのまま二人は黙り込んでしまう。時折、祐介のしゃくりあげる声があたりに響く。祐介はそれすらも必死に止めようとしていて不器用な嗚咽がまざり、結果としてさらに痛々しさを増していた。やがて、
「とりあえず、移動しよう」
と祐介は言い出した。
「あの、大丈夫なんですか」
「ああ、いつまでもこんなことをしているわけにもいかないしな」
「でも……」
「いいんだ。泣いたって何が変わるわけじゃない。それよりも君の安全を確保するほうが先だ」
そう言ってディパックを背負った。
「あ、あの……」
と呼びかけて名前をまだ聞いてないことに気付く。相手も名前を教えてないことに気付いたようだった。
「芳野だ」
「あ、どうも。私は長森です。芳野さんが、その、助けてくれたんですか? あの人たちから……」
「ああ。まあ、そういうことになると思う」
照れくさいのかちょっとぶっきらぼうにそんなふうに返事をした。
「……ごめんなさい」
「? 何故、謝る?」
「だって、私のせいで芳野さんが時間を取っちゃったんじゃないかって、もし私がちゃんとしてたら、その伊吹さんも助けられたんじゃないかって思って……」
言いながら、だんだん自己嫌悪に陥ったのか尻つぼみに言葉が小さくなってゆく。
「……そうだな、あるいはそうかだったもしれない」
芳野はふぅっと息を吐くと空を見上げた。正論だった。確かにこの少女を見捨てて公子を探していれば公子を探し出して守ることができたかもしれない。
「……後悔していない、といえば嘘になると思う。だが、ここで君を放りだして、その結果君が死んでしまったとしたら、それはそれで俺は自分を苛んだだろう。人は神じゃない。何もかも思い通りには行かないんだ」
「………」
「愛する人のために自分の命をささげることは美しいことだ。もし、できるなら俺は喜んであの人の代わりに死んだだろう。
だけどな、愛する人のためとは言っても他人の命を犠牲にするのは俺には美しいことだとは到底思えない。だから、俺はそんなことはしない。それでいいんだ」
言いながらどこかいいわけじみた感覚があった。もし、今のせりふを全面的に受け入れるのなら、結局自分は愛する人の命よりも、自分の哲学、言い換えればエゴ、を優先したことになる。
「言い訳だろうな、これは。俺は結局全てを投げ捨ててもまであの人を守るという覚悟がなかったんだ」
「……でも、そんなの悲しすぎます……だって……」
「どちらにせよ、もう過ぎたことだ。君が気に病む必要はない。もし、どうしても責任を感じるというのなら、あの人の分まで懸命に生きてくれ。そうでなければあの人を犠牲にしてまで俺が君を守った意味がないからな」
「……はい。助けていただいて、ありがとうございました」
瑞佳は思った。きっと自分は間接的に殺人を犯したのだ、と。ならばこの十字架を背負って歩き続けることが自分に科せられた罰なのだろう。無論、これ以上十字架を増やすことは許されない。
「私、生きていきます。ずっと、ずっと。この島で死んでしまった人たちの分まで」
無意識に私はそう宣言していた。何が私をそうさせたのか、よくわからないまま。
「ああ」
いつの間にか、芳野さんは完全に泣き止んでいた。涙の跡ももうない。
「そうしてくれ」
「はい」
しっかりと頷いた。
永遠の盟約。
永遠の盟約だ。
連投回避
芳野祐介
【時間:18時半頃】
【場所:H-09】
【持ち物:Desart Eagle 50AE(銃弾数4/7)・サバイバルナイフ・支給品一式】
【状態:異常なし、やや疲労】
長森瑞佳
【時間:18時半ごろ】
【場所:H-09】
【持ち物:防弾チョッキ(某ファミレス仕様)×3・支給品一式】
【状態:異常なし】
186の続き、ルートはB,B−2,I,J。
題名忘れてました「永遠の盟約」で。
>>304 ありがとうございました。
306 :
幸か不幸か:2006/10/13(金) 04:12:58 ID:Zk793Fqp0
街道沿いに車椅子を押し進む小牧郁乃と立田七海。
「分かれ道だね……どうしよう郁乃ちゃん」
「みんなが集まりそうなところに行きたいけど……鎌石村だと遠回りよね」
地図を広げながら現在位置を確認する。
狙撃された場所、自称ハードボイルドの天パの怪しい男と別れた場所、そしてたった今抜けてきた東崎トンネルを順になぞる。
「こんなことなら最初っから北に行っておけばよかったわ、もう」
疲れがたまっているのか、失敗したなと気落ちする郁乃に七海が少し照れながら声をかけた。
「でもでも、こっちに来たから私達会えたわけですよね」
「ま、それもそうね」
ゆっくりとしたペースではあるが、高槻と別れた後は、幸か不幸か誰とも遭遇することなく進むことが出来た。
自分達の取った選択は少なくとも当たりの部類に入るのではないだろうか、と郁乃は考えた。
「今更村に向かうってのもなんか負けた気がして癪に障るし、この無学寺ってところに向かってみる?」
地図に伸ばした指をツーッと下に動かす。
「もうすぐ陽も落ちるし、ここなら屋根もありそうだしね」
七海が頷くのを確認すると、地図をバックにしまい車椅子の進路を右に向けた。
「――それにしても大丈夫?」
「え?」
「七海ずっと歩きっぱなしじゃない、少し休も?」
ずっと歩きずくめ、しかも車椅子を押しながらだった七海を労い、郁乃が声をかける。
「これぐらい大丈夫ですよ」
「でも……」
「いいからいいから、さぁ行きましょう!」
息が荒くなっているのが目に見えていたのだが、そう言われるとしつこく言うのも逆に失礼な気がした。
「休みたくなったらすぐそう言ってよ?」
「はいっ」
車椅子の身を不甲斐無く思いながら、しぶしぶながらハンドリムを手に取った。
「――そう言えば七海はなにをもらったの?」
地図をしまった時に見えた自分の支給品のことを思い出しそう尋ねていた。
思い出すのもばかばかしくなるくらいの品物で、出来れば永遠に忘れていたかったのだが思い出してしまったものはしかたがない。
307 :
幸か不幸か:2006/10/13(金) 04:13:39 ID:Zk793Fqp0
「もらった?」
良くわかってない様子で頭にクエスチョンマークを出しながら七海は首をかしげた。
「ほら、最初に変なウサギが言ってたでしょ。『武器を渡す、ランダムだ』みたいな」
「あー言ってましたね」
とノンキな顔で微笑んだ。
「そう言えばまだ見てなかったです、ちょっと待ってくださいね」
車椅子を止め、担いだバックを降ろすとガサゴソと中を漁りだした。
「うーんと、うーんと……あ、これかな?」
「なにこれ……?」
「ちょっとわかんないですね」
「説明書は?」
「あ、はいこれです、えーっと、『フラッシュメモリ』?」
七海の手にちょこんと乗る一枚のフラッシュメモリ。
だが二人ともそれが何なのかはわからなかった。
「ちょっと説明書貸して。えーっと、なになに……?
『フラッシュメモリは、ソフトやデータを記録する小さな記憶装置(重量わずか数g!)で、
デジタルカメラや携帯電話、携帯端末(PDA)などのデータ保存用に使われているんだ。
またフロッピーディスクではデータが入りきらないときにデータを持ち運ぶのに使ったりすると便利だよ。
データのやりとりをするときにUSBに直接差し込んで使用してね』
……ですって」
「……つまり、なんなんでしょう?」
「何かしらのデータが入ってることだとは思うけど、少なくとも武器ではないわね……はぁ」
銃をもらっている人間がいたというのに自分達はなんて運がないのだと溜め息がもれた。
――まぁさっき会った自称ハードボイルドもなかなかの外れっぷりだったけど。
高槻のバックからはみ出ていたぬいぐるみの頭を、あれが支給品なんだなと想像して笑いがこみ上げていた。
「郁乃ちゃんはなにをもらったんです?」
興味津々な顔で尋ねてきたその言葉に、露骨に顔をしかめる郁乃。
「やっぱ気になるわよねぇ……あんま思い出したくないんだけど……」
ブツブツと呟きながら一冊の本をバックから取り出し、七海に手渡す。
「……『OGARINA』?」
308 :
幸か不幸か:2006/10/13(金) 04:14:15 ID:Zk793Fqp0
「もう一冊あるわよ」
不機嫌そうに取り出したそれには、今度は『YUKI・MORIKAWA』と書かれていた。
表紙には水着姿で楽しそうに笑う女性がそれぞれ映っていた。
「写真集なんか渡されてどうしろって言うのかしらホント!」
「あ……あはは……」
郁乃の態度に困り果てながら「あ、ありがとう」と申し訳なさそうに頭を下げ写真集を返すと
全く納得がいかない様子で乱雑にバックにしまいこんだ。
「あーあ、こんなんで無事につけるのかしら……」
郁乃の心配も杞憂に終わり何事もなく二人は無学寺に到着した。
ウサギの言葉どおり寺は多少壊れされていたが、想像よりも広い様式になっており無事な部分が多いほどだった。
これなら一晩をしのぐにはちょうどいい場所かもしれない、と二人は中に入るものの
緊張のためか極度の疲れが襲いそのまま倒れこむように眠りについた。
このため二人は大事な放送を聞き逃すことになるのだが、二人の探し人の名前が無かったのもまた強運だったろう。
小牧郁乃
【時間:1日目放送直後】
【場所:F-9無学寺】
【持ち物:写真集二冊、車椅子、他基本セット一式】
【状況:七海と共に愛佳及び宗一達の捜索、休息中】
立田七海
【時間:1日目放送直後】
【場所:F-9無学寺】
【持ち物:フラッシュメモリ、他基本セット一式】
【状況:郁乃と共に愛佳及び宗一達の捜索、休息中】
関連
【130の続き 宗一愛佳貴明の死んでないルートなのでAD以外でお願いします】
Dルート。204「虐待日記」の続きで行きます。
ムティカパを虐殺して気を晴らした神奈は背中の翼で一息に島の上空まで舞い上がった。
(これから、どうするの?)
神奈の意識の中で同居している観鈴が訊ねた。
「決まっておろう。余を千年もの間空に閉じ込めた愚か者どもに神罰を下すのじゃ。おのれ高野山なのじゃ」
神奈は東の空を睨みながら力強く羽ばたいた。
(わっ、ちょっと待って)
「なんじゃ?」
(行くなら、往人さんとお母さんも一緒がいいな……連れてってあげられないかな……)
「何ゆえ余がそのような面倒をせねばならぬのじゃ?」
(だって、往人さん私の友達。お母さんは私のお母さん)
「余の知ったことではないわ!」
(がお……)
しかし、既に怒りの収まっていた神奈は忘れかけていた一族の使命を思い出した。
「ふむ……余も翼人の末裔として幸せな記憶を星に還さねばならん……」
(悲しい記憶だけだと星は生き物を創ったことを後悔して死んじゃうんだよね)
観鈴は神奈と共有している記憶から引っ張り出した知識で語った。
「そうじゃ。余が、そして二代目の翼人が経験した悲しい別れの記憶を癒す母との思い出が必要なのじゃ……」
(いわゆるセカイ系。にはは、観鈴ちん賢い)
「余計な茶々を入れるでない! ……ともかくお前の母を助けねばならぬこと相分かった」
そう言って晴子の気配に向けて滑空する。
(往人さんは?)
「不要じゃ」
(が、がお……)
神奈
【時間:午後4時半ごろ】
【場所:E-03の上空】
【持ち物:ライフル銃】
【状況:晴子の所に向かって降下中】
↑タイトル忘れてた「ずっと、幸せなばしょ…へ」で頼みます。
>>310 神奈は「〜じゃ」は使わないよ。
「〜じゃ」→「〜だ」
>>312 何度聴いたかその言葉
いいかげん「.」つけろってうるさいMOON.厨並にウザい
Moonと神奈様じゃ重要度が桁違いだろうが
長瀬祐介達は、氷川村を歩いていた。
氷川村に着いた彼らはまず村の西部の上半分を探し回ったが、
初音の姉を見つけることはおろか人影一つ、見つけることが出来なかった。
「うーん……。誰もいないね……。」
「そうだね……。」
「もしかすると、みんな警戒して人が集まりそうな場所は避けているのかもしれませんね。」
「確かに、そうかもしれないね。こんな状況だから仕方ないか…。」
「何か情報くらいは得れると思ってたのに、参ったな……。」
そう言って僕は俯いた。
しかし初音ちゃんは気丈だった。
「ううん、大丈夫。お姉ちゃん達は強いし、きっといつか会えるよ!」
本当は彼女が一番落胆しているはずなのに、精一杯の笑顔でそう答えてくれる。
初音ちゃんは本当に良い子だ。優しくて、強くて…。
何としても守り通して、彼女の姉達に会わせてあげたい。
もはや僕にとって、それが最優先事項になっていた。
だから、僕も弱気になってはいけない。
「……そうだね。諦めなければ、きっと何とかなるよね。」
微笑みながら答える。
「一旦休憩しようか。歩き回って疲れただろ?」
そして今は民家の中にいる。
有紀寧と初音はリビングで休憩しており、
祐介は何か役立つ物は無いかと他の部屋を物色しているところだった。
「使えそうなのは、これくらいかな。」
祐介が民家から見つけたのは、包帯、消毒液、それにゴルフクラブだった。
(拳銃や防弾チョッキが置いてあれば心強かったんだけど…、まあただの民家にそんな物騒なものはないよね)
物色を終えた祐介は、リビングへと戻っていった。
「おかえり、祐介おにいちゃん!」
「うん。ゴルフクラブを見つけたんだけど、これは有紀寧さんが持っててよ。」
「え…、でも……。」
「いいからいいから。何もないよりマシだと思うよ。」
「分かりました…、心配してくれてありがとうございます。」
有紀寧は微笑みながら、そう答える。
しかし内心は、毒づいていた。
(全くこの程度の武器で、護身になると思ってるんでしょうか?)
私は絶対に死ぬにはいかない。
死んでしまった兄のためにも、何としても生きて残るんだ。
身の守りは万全を喫したい。ゴルフクラブ程度では明らかに不十分だ。
「ねえ祐介おにいちゃん。これからどうするの?」
「そうだね…。外が完全に暗くなる前に、村の西部の残りの民家や、東部も探索したいかな」
「それが良いですね、真っ暗になった後は動き回るのは怖いです…。」
不安げな表情を浮かべながら答える。
私が演じるべきは、守られる者。弱い女の子。
十分な武装が無いのなら、代わりに彼らを盾にするだけだ。
それぞれの思惑を抱きつつ、彼らが出発しようとしたその時、
「――みなさん聞こえているでしょうか。今から僕は一つの放送をします。」
例の放送が流れてきた。
瑞穂ちゃんが、死んだ。それは僕にとって、かなりショックな事だった。
頭を鈍器で殴られたような、強烈なショックだ。
しかし、今はそれよりももっと重大な事があった。
「そんな………、そんな…………。いやぁぁぁぁぁ!!」
そう、初音ちゃんのお姉さん……、柏木楓の名前が、死亡者発表の中にあった。
「楓お姉ちゃん、どうして……!!」
「こんなのやだ、こんなのやだよぉ……!」
初音ちゃんは泣き崩れている。
「う、うう……。」
有紀寧さんも、そんな初音ちゃんの様子を見て、目に涙を浮かべている。
「うぁぁぁ……。」
初音ちゃんの泣き声は止まらない。それも当然だろう。
道中、彼女の姉の話題を振ると、彼女は本当に楽しそうに姉達の話をしていた。
(よっぽど大好きな、大事なお姉さんだったんだろうね……。)
それなのに、彼女はもう、二度と楓お姉ちゃんには会えないんだ。
そう考えると僕もどんどん悲しくなってきて、
いつの間にか初音ちゃんを後ろから抱いていた。
「ゆうすけ…、おにい、ちゃん…?」
「ごめんね…。」
「え……?」
「ごめんね……。僕がもっと早く初音ちゃんのお姉さん達を見つけられていれば、
こんな事にはならなかったのに……。」
目から涙が溢れてくる。嗚咽が止まらない。
初音ちゃんが僕の手を握ってくる。
「ううん……、祐介お兄ちゃんのせいじゃ、ないよ……。」
「ごめんね、ごめんね……」
祐介と初音は、抱き合いながら泣いていた。
部屋の中に、二人の嗚咽が、ずっと響き渡っていた。
そんな中、宮沢有紀寧は……。
表面上は悲しそうな表情をしていたが、心の中は冷静そのものだった。
(開始から6時間程度で約15人も……。これは、思ったよりも早くゲームが終わりそうですね。)
彼女は冷静に、これからの事を計算していた。
次にどう動くべきか、どうやってもっと強力な武器を手に入れるか、いつリモコンを使うべきか。
そして、この、愚かな盾達をいつまで使うべきか。
そう、私は絶対、死ねないんだ。
『宮沢有紀寧 (108)』
【時間:1日目午後6時10分頃】
【場所:I−6上部、】
【持ち物:リモコン(5/6)・支給品一式・ゴルフクラブ】
【状態:前腕に軽症(治療済み)。強い駒を隷属させる。】
『長瀬祐介 (073)』
【時間:1日目午後6時10分頃】
【場所:I−6上部、】
【持ち物:コルト・パイソン(6/6) 残弾数(19/25)・支給品一式・包帯・消毒液】
【状態:号泣。目的は初音を守りつつ、彼女の姉を探す事】
『柏木初音 (021)』
【時間:1日目午後6時10分頃】
【場所:I−6上部、】
【持ち物:鋸・支給品一式】
【状態:号泣。目的は祐介に同行し、姉を探す事】
・B系共通ルート、関連は174
320 :
310:2006/10/13(金) 16:54:25 ID:7YzHDbhQ0
>まとめの中の人
>>312の指摘した語尾と、ついでに他もちょっと訂正したのを投下します。
よろしく。
ムティカパを虐殺して気を晴らした神奈は背中の翼で一息に島の上空まで舞い上がった。
(これから、どうするの?)
神奈の意識の中で同居している観鈴が訊ねた。
「決まっておろう。余を千年もの間空に閉じ込めた愚か者どもに神罰を下すのだ。おのれ、高野山なのだ」
神奈は東の空を睨みながら力強く羽ばたいた。
(わっ、ちょっと待って)
「なんだ?」
(行くなら、往人さんとお母さんも一緒がいいな……連れてってあげられないかな……)
「何ゆえ余がそのような面倒をせねばならぬのだ?」
(だって、往人さん私の友達。お母さんは私のお母さん)
「余の知ったことではないわ!」
(がお……)
しかし、既に怒りの収まっていた神奈は忘れかけていた一族の使命を思い出した。
「ふむ……余も翼人の末裔として幸せな記憶を星に還さねばならん……」
(悲しい記憶だけだと星は生き物を創ったことを後悔して死んじゃうんだよね)
観鈴は神奈と共有している記憶から引っ張り出した知識で語った。
「そうだ。余が、そして二代目の翼人が経験した悲しい別れの記憶を癒す母との思い出が必要なのだ……」
(いわゆるセカイ系。にはは、観鈴ちん賢い)
「余計な茶々を入れるでない! ……ともかくお前の母を助けねばならぬこと相分かった」
そう言って晴子の気配に向けて滑空する。
(往人さんは?)
「不要だ」
(が、がお……)
神奈
【時間:午後4時半ごろ】
【場所:E-03の上空】
【持ち物:ライフル銃】
【状況:晴子の所に向かって降下中】
意識を取り戻したのは、春原陽平の方が早かった。
「とりゃぁっ!くらいやがれっ」
「くっ!!」
コルトパイソンを構えていた住井護の手を蹴り上げる、それは近くの茂みに落ち、二人の視界から消えた。
「てめぇ・・・ぐふっ」
鬼のような形相で睨みつけてくる住井、だがその間にも春原は行動に出ていた。
渾身の右ストレートが住井の頬をえぐり、彼はそのまま膝をつく。
そのまま押し倒した上で馬乗りになり、春原は勝ち誇ったように住井の胸倉をつかむのだった。
「はん!春原様を舐めんじゃねえっ。逆転ホームランだぜ」
「くっそ・・・」
住井もやられ続ける訳にはいかない。
下から反撃を試みようと・・・
--------『そのまま、目の前のブレザーのボタンを外したの』
春原:「はあ?」
住井:「え、何だこれ!!」
--------『春原の動揺の声、住井は気にせず彼のブレザーを肩から落とすの』
住井:「いや、俺も動揺してるって!」
春原:「さ、寒い・・・」
--------『震える春原の肩はか細くて、これから起こる痛みに彼は耐えられるのか・・・住井は不安になってくるの』
春原:「僕何されるの?!」
住井:「ちょ、何なんだ一体っ、体が動かねえ・・・っ」
--------『・・・む、あっちで何か面白い輩が暴れているの。
一端戦線離脱するの、また覚えてたら遊んであげるの。
以上、唯我独尊、一之瀬ことみちゃんでした。お前等六時間くらいそうしてろなの』
住井:「いっそ殺してくれ・・・」
春原:「さ、寒い・・・」
--------『寒いならお互いの肌で暖めあってろなの』
春原:「ぎゃー!事態悪化っ!!」
住井:「殺してくれ・・・」
324 :
補足:2006/10/13(金) 17:04:25 ID:gHpaNwnd0
一之瀬ことみ
能力「神(書き手)の視点」
『武器として支給された変な薬飲んだらこうなったの。』
住井護
【時間 1日目 午後12時30分頃】
【場所 G−5】
【持ち物 支給品一式】
【状況:6時間拘束(午後6時半まで)】
春原陽平
【時間 1日目 午後12時30分頃】
【場所 G−5 】
【支給品 不明】
【状況:6時間拘束(午後6時半まで)】
コルトパイソンはそこら辺に落ちています
(関連・167)(Aルート)
※70の前の話になります
325 :
人外の戦い:2006/10/13(金) 17:38:29 ID:Zk793Fqp0
「――良かったです」
たった今流れた放送。最後の探し人、河野貴明の名前は呼ばれることは無かった。
イルファは胸をなでおろし、自身にしがみつく姫百合珊瑚瑠璃姉妹を強く抱きしめた。
「貴明無事だったよぉ」
「心配なんかしてもしょうがあらへんて、貴明やもん。簡単に死んだりせえへんよ」
ボロボロと大粒の涙を流しながら呟く姉の頭をなでながら瑠璃は言う。
だが自身も安堵に振るえ、目には小さな雫が浮かんでいた。
「……貴明、どこおるんやろか?」
三人は地図を広げながら、これからの行動を思案していた。
ここから一番近いのは氷川村。
もう陽も暮れかけているし人が集まってきているかもしれない。
だがそれが全員ゲームに参加していないとも限らないのだ。
先ほどの放送がそれを示している。
※
――伏見ゆかりさん
エディの探し人である彼女は死んでいた。
彼の胸中を考えると胸が痛い。
イルファは静かに目を閉じ、そっと黙祷をささげる。
そして醍醐、篁の名前。
エディの言い分だとそうとうやばい連中らしい。
だがその彼らも死んでいた。
※
どれだけの人間が、どんな武器を持って、どんな手段で人を殺そうと狙っているのかがわからないのだ。
安易に村に近づくのは危険にも思えた。
何よりも優先するのは瑠璃様珊瑚様の安全。
だが、貴明を見捨てることなんて出来るわけが無い。
お二人が悲しむ、なにより私だって失いたいはずなんか無い。
イルファは葛藤していた。
どうすることが一番正しいのか……答えが出せない。
326 :
人外の戦い:2006/10/13(金) 17:38:59 ID:Zk793Fqp0
「いっちゃん……」
珊瑚が地図を凝視しながら唸り続けるイルファにおずおずと声をかけた。
「お二人は何も心配しなくてもいいのですよ。絶対に私がお二人を、そして貴明さんを守りますから」
「違うの……瑠璃ちゃんが」
「!?」
珊瑚の言葉に険しい顔で地図から顔を上げ、今まで隣にいたはずの瑠璃の姿を探す。
だがどこにも見えない。
「なんかな、音が聞こえたからちょっと見てくるって……いっちゃんの邪魔したらあかん言うてたんやけど、うち心配で心配で」
「どちらへ!?」
珊瑚の肩を掴んでイルファは叫んでいた。
何をやってるのだ私は。
絶対に守るんじゃなかったのか。たかが数秒?そんなの言い訳になるはずも無い。
イルファの剣幕に少し怯えながら瑠璃の向かった方向へ珊瑚は指を刺した。
ちょうど神社の裏手のほう。
銃と、そして珊瑚の手を取ると、最後まで確認する間もなくイルファは駆け出す。
「瑠璃様ぁぁっっっ!!!」
――彼女は無事にそこにいた。
正確には無事といっていいのかはわからない。
その顔には恐怖に怯えきった表情。
瑠璃のそばには血まみれで倒れている少女。
そしてそのすぐ横には、奇妙な生き物と柏木千鶴が立っていた。
イルファは一瞬にして状況を把握し、銃を構える。
「瑠璃様から離れなさいっ!」
千鶴がゆっくりとイルファに向かって振り返る。
その瞳には何の色もこもってない。
「イ、イルファ……」
今にも泣き出しそうな瑠璃の引きつった顔がイルファの怒りをあおる。
「もう一度だけ言います!離れなさい!!」
その刹那、千鶴がイルファに向かって駆け出した。
327 :
人外の戦い:2006/10/13(金) 17:39:51 ID:Zk793Fqp0
右腕を大きく振り被ると、イルファに向かって叩きつける。
ガシッ!
その一撃をなんとか左腕でガードするも、衝撃にイルファの体勢が大きく崩された。
その隙を見逃さず千鶴はくるりと身体を半回転させると、左足を上げ、その反動でイルファの左後頭部に叩きつけた。
「ぐうぅっ!」
強烈な回し蹴りに、イルファの視界にノイズが走り、膝を突く。
その一瞬の隙をついて、千鶴のターゲットは隣で震えていた珊瑚へと向かっていた。
だが、それに気付くとイルファは震える足に必死に喝を入れ、千鶴の背中へと自身の身体を叩きつける。
捨て身のタックルに千鶴の身体が吹き飛ばされた。
揺れる身体を支えながら、珊瑚をかばうように前に立つ。
「はぁ…はぁ…」
何事も無かったように千鶴は起き上がると、スカートについた土をポンポンと払って静かに笑った。
分が悪い。
二人を守りながらの戦闘だと自分の挙動は30%も出せていないのがわかった。
守るということの難しさに愕然としながらも、イルファは数秒考え、そして叫んでいた。
「珊瑚様っ!瑠璃様っ!」
千鶴に向かってPfeifer Zeliskaを向ける。
怯んだ様子はまったく無い。
「必ず追いつきます!だから逃げてください!」
ドンッ!
放たれる銃弾が千鶴の頬先を掠めて行った。
「で、でも……」
ドンドンッ!
珊瑚の言葉を銃弾が遮り、イルファは二人から千鶴を遠ざけるように銃弾を放ち続ける。
「いこう、さんちゃん!」
瑠璃が珊瑚の元に駆け寄るとその手を掴む。
「……でも、いっちゃんが」
「うちら足手まといなんや、逆にイルファの邪魔してる。だったらいないほうがええ!」
叩きつけられた、まごうことも無いその事実に珊瑚は項垂れながらもコクンと首を縦に振った。
328 :
人外の戦い:2006/10/13(金) 17:40:42 ID:Zk793Fqp0
その手を引き、瑠璃は駆け出しながら叫ぶ。
「イルファ!壊れたら絶対許さんで!待ってるからな!!」
二人の姿が見えなくなるのを確認すると、イルファはキッと千鶴を睨みつける。
「お二人を待たせるわけには行きませんので……ごめんなさい」
そう言いながら銃を向けるイルファへ、冷たい視線を送りながら苦笑いする千鶴。
――守るため……ね。
だが自分も引くわけには行かない、私にも守りたいものがあるのだから。
一匹の鬼と一体のロボットの戦いの狼煙が上がった――。
共通
【時間:一日目午後七時頃】
【場所:鷹野神社(F-6)】
329 :
人外の戦い:2006/10/13(金) 17:41:22 ID:Zk793Fqp0
姫百合瑠璃
【持ち物:デイパック、水を少々消費。携帯型レーザー式誘導装置 弾数3】
【状態:軽い精神的疲労。珊瑚と共に神社から逃走】
姫百合珊瑚
【持ち物:デイパック、水を少々消費。レーダー】
【状態:軽い精神的疲労。瑠璃と共に神社から逃走】
イルファ
【持ち物:デイパック、フェイファー ツェリスカ(Pfeifer Zeliska)60口径6kgの大型拳銃 2/5 +予備弾薬15発】
【状態:神社にて千鶴と対峙】
柏木千鶴
【持ち物:支給品一式・ウォプタル】
【状況:神社にてイルファと対峙】
神岸あかり
【所持品:支給品一式】
【状態:血まみれ、生死不明】
【関連:→95 →235 B関連のルート】
【備考:ルート次第で※部分の編集
エディとイルファが出会っている場合は※内を採用、出会ってない場合は※内カットでお願いします】
「沖木島ではない!?」
「今、日が沈んだの」
「六時三十四分だ。方角は西よりやや南より」
コンパスと時計を見ながら聖はそう言う。その報告を受けてことみはその結果を紙に書き付けた。
「で? これが何になるんだ。いい加減に教えてくれ」
一緒に行動することになってから、マズ二人はお互いが持つ情報を交換した。直後に放送があって互いの知り合いの無事を確認したあとに、急にことみは日が落ちるのがいつなのか記録したいと言い出したのだ。
すでに日は落ちかけていたので疲労もたまっていた聖はその程度なら、と承諾して近くの民家から太陽を観察していた。
だが、ことみは今に至るまで、これが何のための行動なのか聖に説明してはくれなかった。ただ地図と大洋を交互にじっと見ていただけで、こちらの質問にも生返事で返すだけだったのである。
「うん。なんにもならなかったの」
ポカリッ!
「ふざけてる場合か!」
「いぢめる? いぢめる?」
「うるせぇっ! いったいどういうつもりなんでぃ、何の役にもたたんことをさせやがって、ちきしょうめが!」
興奮してべらんめぇ口調になる聖にことみは怯えながらも懸命に自己主張をした。
「ち、違うの」
「ほほお、何が違うのか教えてもらおうか」
「えっと……ひょっとしたら、何かわかるかもしれなかったんだけど、結局何もわからなかったの」
別に何の考えもないわけではなかったらしい。
「何がわかるかもしれなかったんだ?」
「この島の場所」
その答えを聞いて納得する。
「……なるほどな、確かに日の入りの時刻と日付がわかれば、おおよその見当は付くな。で、今日は何日だ?」
「???」
ことみはわからない、という顔をする。聖は嘆息して頭の中にカレンダーを思い浮かべ……あれ?
「ことみくん、今日は何月何日だ?」
「私にもわからないの」
記憶を掘り返しても気付いたらあの小部屋にいたということしかない。それ以前の記憶は七月の下旬ごろでぼやけている。一方で今が四月だと言われても十月と言われても、ああそうかと納得しそうな妙な感覚があった。
「そうだ」
と思いついたことがあって、冷蔵庫を開ける。
「食料の賞味期限をみればおおよそ見当は付くさ」
そういって牛乳パックを取り出す……が、ない。日付表示がなかった。
「どういうことだ、これは」
牛乳自体はありふれた製品だ。聖も時々CMで見かける。だというのに表示がない。横を見るとことみもわけがわからない、という顔をしている、
「ひょっとしたら、なんらかの処置をほどこされたかもしれんな」
「処置?」
「意図的に日付の概念を忘れさせるような何かさ」
「そんなことできるの?」
「催眠術の応用すれば不可能ではない、と思うが……もしそうならこの島の位置はさっぱりわからん、ということになるのか。なんといったかな、あのウサギは。そう沖木島といったか、この島は」
「沖木島の場所なら知ってるの」
「……どういうことだ?」
ことみの言葉に軽く混乱する。
「沖木島は香川県高松市の沖合いにある島なの。人口およそ300人、主な産業は漁業と観光、それから農業。特にミカンの栽培が盛んなの」
「詳しいな。行ったことがあるのか?」
「ううん、ご本で読んだだけ」
「……なんにせよ、そこまで詳しいなら何故いまさら場所の確認なんか……」
言いながら、聖は気付いていた。この子はすこし、いやかなりぼやっとしたところがあるけどバカではない。むしろ聡明だった。そんな彼女がわざわざ無駄なことをするとは思えない、ということは……
「うん。でも、ここは沖木島じゃないから」
「……さっきの話だが何を根拠にそういったのか教えてもらえるか?」
直感で話が長くなりそうなことを察した聖はことみとともに一旦、いままでいた民家から出て村を捜索した。まず第一に佳乃をみつけることこそ、自分の使命。ことみも特に文句は言わずについてきた。
だが、思ったように成果は出ず、手近な民家に忍び込んで体を休めていたところでさきほどの話を切り出したのである。
「根拠はさっきの先生の話なの」
真っ暗な室内で外に光が漏れないように気をつけながらことみはそう答える。
「私の?」
前述したように一緒に行動することになってすぐに二人は情報交換のためにいままで自分が経験したことについて語っていた。そこになにかあったのだろうか。
「先生はさっき無学寺を出発してこの村に来て女の子に会ったって言ったの」
「ああ、確かにな」
この島には寺は二つしかない。ひょっとしたら神社と見間違えた可能性もあったが途中で見た風景や歩いてきた方角から察すると、それが一番自然な答えだった。
「何時に向こうを出発して何時に女の子に会ったの?」
「一時半に出発して三時半ごろだったな」
と、あのツインテールの少女のことを思い出しながらそういう。
「とすると先生が一時半に出発した地点はおおよそここ」
と言って地図上のEとFの間の線と8と9の間の線が交差する部分を指差す。
「で、話にあった女の子とあった場所がここのあたり、仮にここにしておくの」
今度はBとCの間の線と5と4の間の線が交差するあたりをゆびさす。聖が実際に指摘したのはC−5にある十字路近辺なので、ややずれがある。
「この間、約二時間。で、人の歩く速度は舗装された道でおおむね時速5キロ」
聖にもおぼろげながらことみの言いたいことがわかってきた
「なるほど私は海沿いの舗装された道を歩いてきた。だから……」
「そうなの、この間およそ10キロ」
先ほどポイントした二つの点を直線で結び、10キロと地図上に記す。
「すると……この一区間が概ね2キロということがわかるの」
そこでとたんについていけなくなる。
「まて、なんでだ?」
「?」
「なんでいきなりそんな結論がでてくる?」
「ええと、違ってる?」
「いや、違ってるかどうかはわからないが……もう少し順を追って説明してくれ」
ことみはこくりとうなずく。
「三平方の定理を使ったの」
そういって地図上に三角形を描いた。さきほどポイントした二つの点、それからそこから直線をそれぞれ引いた。最初の点からは左に、次の点からは下に。
こうしてEとFの間の線と4と5の間の線が交わった点を第三の頂点にした直角三角形が出来上がる。さらにことみは縦の辺をA、横の辺をBと指定した。当然、斜辺は10キロと書かれている。
「こうすると三平方の定理からAの二乗+Bの二乗=100、ということがわかるの。一方でAとBの辺の比は3対4だからA=四分の三B」
ことみは数学教師のように解説を加えながら説明していく。
「これで後の式を前の式に代入すれば、B=8という結果が出るの。Bはこの地図の四区間分だから一区間は2キロ」
「すごいな、こんな計算を一瞬でしたのか」
「ううん。5対4対3っていうのは計算しやすいから三平方の定理の問題でよく出てくる比の値なの。だからそれを覚えていればそんなに難しい話ではないの」
そういえば、むかしそんな問題をといた気がする。もうすっかり忘れてしまっていた。だが、ここで感心している暇はない。ことみの結論はそこではないのだ。
「それで、続きは?」
「うん。するとこの島の大きさは20キロ×20キロの正方形でようやくおさまる島、ということになるの」
そう言われても、どのくらいの大きさなのかいまいちぴんとこない。
「沖木島はそんなに大きくない、ということか?」
「沖木島の正確な面積は知らないの。でも四国の最大の島は小豆島と言ってそこの面積は153平方キロメートル。だから、それよりも明らかに大きいこの島は沖木島ではないの」
「なるほどな」
もう少し正確に計算しようと聖は分割された升目のうち、海が大半を占める升目を数えた。およそ40と少し、大雑把に言ってこの島の面積は340平方キロメートルということになる。
その結果を伝えると、ことみはうなずいた。
「一番近いのは長崎県の福江島なの」
「福江島?」
「うん。五島列島の中で一番大きな島、面積は326平方キロメートル」
地図の端っこにすらすらと数字を書き出す。
「ちなみにその前後は?」
「大きいほうなら鹿児島県の種子島、小さいほうなら沖縄の西表島、面積はそれぞれ445平方キロメートルと289平方キロメートル」
同じようにそれらの島の名前と数字も書き付けた。
「それだけ離れているのなら種子島ではないだろう。となると福江島か西表島か……」
「でも、福江島なら人口が3万から4万ぐらいいるからそれなりに栄えているはずなの」
「なるほど……」
いくら酔狂な主催者でも建っている建物の大半をつぶして森にしたり平屋にすることははあるまい。となると西表島が濃厚だろうか。西表の面積を丸で囲む。
「西表島の人口は?」
「およそ3000人」
こちらのほうが現実味がまだある。計算結果と50平方キロメートルも違うが、もともと曖昧な計算だ。それぐらいの誤差もあるかもしれない。だが、聖はそこで別の可能性に思い当たった。
「なぁ、ひょっしてここは日本じゃないんじゃないか?」
「あ、それは考えてなかったの」
「ふぅむ……植物の中になにかしら特徴的なのがあればわかるかも知れんが……」
今まで歩いてきてそう目に付くものはなかった気がする。二人して黙りこくってしまうが、やがて先にことみが口を開いた。
「ここが国内にせよ国外にせよ、私はもう少しこの島のことが知りたいの」
自分の計算結果が全くの間違いで、瀬戸内海にいるのなら小さな船でも陸地に着くことができるかもしれない。だが、もし大洋のど真ん中だと言うのならそれなりの装備がないと首輪をはずしても助からないのだ。
「だから、明日のことなんだけど、私はここに行こうと思うの」
そういってことみが指差したのは島の南にある灯台。
連投回避
「ふむ……」
聖は考えた。この村で佳乃を捜索して結構な時間がたつ。それでもみつからない、ということはこの村にはいない可能性が高いのだろう。
一方で灯台の近くにはもう一つ集落がある。地図を見れば診療所まであるではないか。ここにいけば他の参加者の治療もできるかもしれない。ことみの提案に乗るのは悪くない提案だった。
「私も別に異論はない。よし、今日はもう休んで明日の日の出前にここを出よう。いいな」
「うん」
霧島聖
【時間:午後九時ごろ】
【場所:B-4】
【持ち物:ベアークロー、支給品一式、治療用の道具一式】
【状態:健康。明日の四時ごろまで交代で見張りをしながら仮眠を取ったあと、灯台・氷川村方面へ移動する予定】
一ノ瀬ことみ
【時間:午後九時ごろ】
【場所:B-4】
【持ち物:暗殺用十徳ナイフ、支給品一式(ことみのメモ付き地図入り)】
【状態:健康。明日の四時ごろまで交代で見張りをしながら仮眠を取ったあと、灯台・氷川村方面へ移動する予定】
175の続き、ルートはB系、H,I,J
338 :
追跡者:2006/10/13(金) 22:47:28 ID:Qz7/LQcW0
「ちっ、俺が言うのもなんだが、えげつない殺り方だな」
この島の『イレギュラー』とさえ呼べる男、岸田洋介は脳漿がぶちまけられた藍原瑞穂の死体を見て毒づいた。側に鉈が無造作に置かれていたことから、これで殺られたらしい。
「女だったらしいが…これじゃ屍姦さえ出来やしない、クソッ」
唾を瑞穂の死体に吐き捨て、鉈を手に取る。ずっしりと手に響くその重さは、岸田にとって手ごろな得物だった。ポケットにカッターを入れ、鉈を一、二回振ってみる。
「ふん、まあまあだな。これで少しはまともになったか」
ついでに何か役に立つものは無いかとデイパックを漁ってみる。出てきたのは島の地図、方位磁石、参加者名簿といかにも不味そうなパンと水。
「けちくさい主催者だな…ガキの給食か」
無造作にパンの袋を開け、乱暴にそれを平らげた。ついでに水も全て飲む。先程の小麦粉がまだ口の中に残っていて鬱陶しいことこの上なかったのだ。
「さて、パーティ会場に戻るとするか。メインディッシュは…やはり極上の女に限るな、ククク」
か弱い女どもが嬌声を上げて悲鳴を上げるところを想像しただけで、岸田の逸物は固くなるのだった。
邪悪な笑みを浮かべながら、再び岸田は鎌石村へ向けて歩き出す。鎌石村までは、すぐそこだった。
「いいかげん日も暮れてきたわね…で、どうするのお二人さん? このまま森で待機する? それとも宿を探す?」
役場から少し離れた森の中で、相楽美佐枝と小牧愛佳、来栖川芹香はこれからの動向を話し合っていた。
「………」
「え? 野宿は危ないからどこかの目立たない建物がいいって?」
(こくこく)
「ふぅん…で、小牧さんは?」
「えっと…あたしは、来栖川さんに賛成です。建物の方が、隠れるところは多いですし」
「ま、そりゃそうよね。火炎放射器も目立ちすぎるし。そこらへんの家を適当に見繕ってそこで休憩するわよ、オーケイ?」
はい、と言う声が二人から聞こえるのを確認して、美佐枝は森から出るように促した。ずっと森を歩き続けてきたせいで、三人とも服は汚れている。
「はぁ…この服、クリーニングしたばかりだって言うのにねえ」
「あたしもです…どこかで、洗濯できる家があればいいんですけど」
(ふるふる)
339 :
追跡者:2006/10/13(金) 22:48:12 ID:Qz7/LQcW0
「そうですよね…そんなに都合良くはいきませんよね…え、喋りながら歩くと人に見つかりやすい? あっ、ご、ごめんなさいっ」
「…あー、そっか…ごめんなさいね。注意力が散漫になってきたかしらねぇ」
それからは三人とも黙って街路を歩く。…しかし、その後方から一筋の鋭い目線が刺していたのに、三人は気付いていなかった。
しばらく歩いて行くと、町の北の方に一軒の小屋を見つけた。
「相良さん。あの家なんか良さそうじゃないですか?」
愛佳が家を指差しながら小声で伝える。
「そうね…うん、いいんじゃないかしら。来栖川さん、どう?」
(こくこく)
「決まりね。それじゃ行きましょうか」
そう言いながら、美佐枝は懐からマイクロウージーを取り出す。
「えっ!? さ、相良さん、何するんですか!」
愛佳が慌てて美佐枝に詰め寄るが、美佐枝は愛佳のおでこをコツンと弾きながら言った。
「ばぁか、中にもし殺人鬼がいたらどうすんのよ。牽制に使うだけ」
「あ、そ、そうなんですか…」
縮こまりながら引き下がる愛佳。美佐枝はきちんと弾薬が入っていることを確認すると、家のドアにそっと手を掛けた。カギを確認しても、かかっている様子はない。
「二人は下がってて。もし銃撃戦になったら危ないから。特に来栖川さんはね」
手で下がるよう合図すると、二人は美佐枝のやや後ろへと離れる。美佐枝はそれを確認すると、一気にドアを開け放ってウージーを構えた。
しかし、そこはもぬけの空で、荒らされた形跡すらなかった。
「…いない、か。二人ともいいわよ、ここには誰もいないみたい」
再び手で合図すると、愛佳と芹香がそそくさと走ってくる。美佐枝はウージーを下ろし、改めて小屋の中へと入って行く。愛佳と芹香もそれに続いた。
「…しっかし、随分と殺風景な小屋よねぇ。キタナイ部屋よりかマシだけどね」
340 :
追跡者:2006/10/13(金) 22:49:00 ID:Qz7/LQcW0
「………」
芹香は何かを探すようにタンスや台所を熱心に調べている。
「来栖川さん、何を調べているんですか?」
「………」
「えっ!? 食べ物がなにもないんですか!? 缶詰とか、インスタントとかも?」
(こくこく)
「マジ? あっちゃー…目立たないところを選んだのが失敗だったかしらねぇ」
美佐枝が頭を掻きながら嘆息する。芹香はまだ調べながら呟く。
「…えっ、これ全部新品なの? はぁ、道理で新築っぽい匂いがしたかと思えば…」
「建てたばっかりで、食料とかがまだ用意されてなかったんでしょうか?」
わかりません、と芹香が小声で言う。そして、新築にしても包丁や鍋、フライパンまで何から何まで新品なのもおかしいと思います、と付け加えて。
「確かにね…調理器具や小物まで新品なのは、確かにおかしいわね」
「それじゃ、この建物は…」
「意図的に主催者側が建てたって可能性もあるわね。この人数だもの、そんなことをしてもおかしくないわ」
三人の間に、沈黙が佇む。しかしすぐに美佐枝がそれを打ち消す。
「ま、何にしたって有効利用しない手はないわ。食料が無かったら探すまでよ。ここなら、そうそう他の参加者に見つかる事もないだろうし」
「そうですよね。それじゃ、みなさんで食料を探しにいきましょうか?」
そう言って動きかけた愛佳を、芹香が手で制す。
「………」
「えっ? 荷物を持って移動するのは大変だから、荷物の見張り役を残して誰かが食料を探しに出た方がいいって? で、でも…」
「………」
「荷物を持ってると動きも遅くなるし、身軽な方がいざという時にも逃げやすいって? まぁ、そりゃ確かにそうだけど…誰が行って、誰が残るの?」
341 :
追跡者:2006/10/13(金) 22:49:58 ID:Qz7/LQcW0
美佐枝がそう言うと、芹香は愛佳と美佐枝をそれぞれ指差した。
「あ、あたしと、相良さんが探しに行くんですか? でも、それだと来栖川さんが…」
「そうよ。探しに行くならあたし一人でも大丈夫よ」
(ふるふる)
「外の方が危険性は高いから、そちらの方に人数を割いた方がいい? いや、うーん…でもねぇ…」
美佐枝は渋ったが、芹香はぐっ、と指を立てて、万が一誰かが入ってきても、いざとなったらこれで応戦します、と言ってぽんぽんと火炎放射器を叩いた。
「…はぁ。分かったわよ、あなたを信じるわ。それじゃ行きましょ、小牧さん」
「あっ、は、はい…」
まだ少し未練を残しながらも、美佐枝に連れられて愛佳は小屋を出た。
しばらく離れたところで、愛佳が美佐枝に囁く。
「あれで良かったんですか? やっぱり、誰かが戻ったほうが…」
「…あたしもそう思ってたところよ。けどねぇ、あの子、結構頑固そうだったから、取り敢えず言う事を聞いておくしかないでしょ? …それで、小牧さんにお願いがあるんだけど」
「…あたしが、小屋に戻るんですね」
「そ。やっぱり一人より二人の方がいいでしょ? あたしなら一人でも大丈夫だから」
これもあるしね、と言ってウージーを掲げる。
「…分かりました。来栖川さんにはあたしから説明しておきます」
「オーケイ、いい返事ね。それじゃ、後は任せたわよ。パパッと取って、すぐに戻ってくるから」
「はいっ、相良さんも気をつけて下さいね」
「分かってるわよ。それより、早く戻って。ただの杞憂かもしれないけど、何か、嫌な予感がするのよね…あたしが心配性なだけかもしれないけど」
そして自分で連投回避
343 :
追跡者:2006/10/13(金) 22:51:43 ID:Qz7/LQcW0
美佐枝は苦笑しつつ、愛佳の背中を押してやった。愛佳はととっ、とよろめきながらもすぐに走り去っていった。姿が見えなくなるのを確認すると、美佐枝も改めて走り出した。
「ククク、尾行されているとも知らずに、バカな奴らだ」
美佐枝と愛佳が分かれた後、悠然と芹香のいる小屋の前に現れたのは岸田だった。彼は街中で喋っていた美佐枝たちを発見した後、ずっと追跡していたのだ。
「一人になるということがどんなに恐怖になるかということを、身をもって教えてやろうか、黒髪のお嬢さん?」
ぺろりと舌なめずりをしながら、岸田は小屋まで移動する。手には、血濡れの鉈を持って。
「意外と肉付きも良かったからな…楽しみだ。さぁ、楽しい楽しいパーティ、第二幕の始まりだよ〜」
来栖川芹香
【持ち物:バックパック式火炎放射器、愛佳・美佐枝のデイパック】
【状態:やや疲労】
小牧愛佳
【持ち物:包丁】
【状態:やや疲労、芹香の元へと戻る】
相楽美佐枝
【持ち物:ウージー(残弾25)、予備マガジン×4】
【状態:健康、食料を探す】
344 :
追跡者:2006/10/13(金) 22:53:47 ID:Qz7/LQcW0
岸田洋介
【持ち物:鉈、カッターナイフ】
【状態:健康、芹香を狙う】
共通
【時間:一日目午後5時半】
【場所:B−3】
【備考:B−2、B−7ルートで】
ザンザンザンザンザンザンザンザンザンッ!!! ズザザザーッ!!!
仁科りえと姫川琴音の亡骸を弔う倉田佐祐理を、休憩がてら眺めていた時だった。
それは、常人とは思えぬ速さで俺たちの元に駆け抜けてきた。
「はぁ…はぁ…やっと見つけたよ…力が制限されてるとは言っても、
極限まで集中すれば、同じエルクゥ同士の気配ならある程度探れるさ」
息を切らしながら、それ−駆け抜けてきた少女−は怒気を顕にする。
こいつにも見覚えがある。確か柏木の次女だったはずだ。
気配が探れるなんて話は聞いた事がない。その息切れようを見るに、
おそらくは相当探し回ったのだろう。
「何の用だ?柏木の娘。俺には何もないぞ」
「とぼけるなっ!! 楓を…っ、よくも楓をっ!!!」
どうやらこいつは、俺がカエデを殺したと思ってるらしい。
以前の確執から、そう思われても仕方が無い事だが、今回は完全にお門違いだ。
そもそも、これからこのゲームを破壊するという仕事を成さなければならないのに、
こいつに関わってる暇もない。
「人違いだ。あれは俺じゃない。名前は忘れたがよくテレビに出てる娘だった」
「はんっ! 嘘は寝てから言いなよ!! アンタが殺った以外に考えられないね」
…ちっ。やはり説得も無理か…。めんどくさいが、死なない程度に痛めつけておくか…。
すでに柏木の次女−アズサと言ったか−は狩猟者特有のオーラを放ちながら、
いつでもこちらに飛び掛ってくる体勢に入っている。
めんどくさそうに、溜息1つ吐くと、こちらも身構える事にする。
「待ってくださいっ。これは何かの勘違いでは…?」
彼女らの弔いが終わったのか、戻って間もなく状況を把握しきれていない倉田が、
アズサに向かって叫ぶ。
「ん?アンタ誰だい?悪いがアタシは聞く耳持たないよ!!
コイツには前科がある。アタシ達に恨みも持ってるはずなんだ。コイツ以外に誰がいるってんだ!!」
倉田は2人の間に割って入り、両手を大きく広げる。
「この人は佐祐理を守ってくれました。そして、このくだらないゲームを破壊しようとしてくれていますっ。
この人には影があります。佐祐理にも似た悲しい影が…。それに、気丈に振舞っていますが、
この人は今、悲しみを抱えています。そんな人が、貴方の大事な方を殺すとは思えませんっ!」
こいつ…このわずかな間で、どこまで人を見抜いていたのだ…。
隅で怯えているだけの女だと思っていたがな。でも、不思議と悪い気はしない。
「うるさいっ!! それがなんだってんだ。アンタに柏木家とコイツの間の何がわかるっ!!」
アズサは倉田を思い切り跳ね除け、こちらに飛び掛ってくるっ!!
バッと後退し、近くの石をアズサに向かって蹴り上げる!!
そこからさらに飛びのき、再びアズサとの距離を取り直す。
出来れば鬼の力は解放したくは無いのだがな…。
鬼の力を解放したが最後、俺は再び鬼に取り込まれ、殺戮を繰り返すだろう。
それこそが主催者側の思う壺である。
…が、相手が鬼の力を使ってくる以上はやむを得ないか…。
全身の力を抜き、身を禍々しい力に委ねようとする、まさにその時だった。
「くらえええぇぇぇっ!!」
咆哮と共に身を低くし、地を一蹴して飛び掛ってくるアズサ!!
ちっ、回避も出来そうにないか。
攻撃を受け止めるために、銃を抜き放ち、構える!!
アズサの爪と俺の銃が交差しようとした刹那、
「だめえぇぇぇぇぇっ!!!!」
ザシュッ!! ブシューッッッ!!!
肉が引き裂かれ、血の吹き出す音、しかし俺の手には何も感触がない…。
「え!?…あ…あ…」
繰り出されたアズサの右腕に、倉田の体が弾き飛ばされていた…。
さっきまでの膨大な殺気は一瞬にして消えうせ、倉田の元に走るアズサ。
一体何が起こったんだ…、呆然と成り行きを見送る…。
……
「だ、大丈夫か?」
アタシは、自分のやってしまった事を一瞬遅れて把握し、彼女の元に駆け寄る。
柳川への一撃を、この子が割って入り、代わりに受け止めてしまったのだ。
傷自体はわき腹を抉った程度だが、場所が悪かったのだろう。
血が壊れた水道管のように吹き出て、近寄るだけで返り血を浴びてしまう。
これは…もう…助からない…
体がガクガクと振るえ、足に力が入らない。きっと顔面も蒼白だろう。
「すまない…すまない…」
独り言のように繰り返すアタシの頬に、そっと冷たい手が伸びてくる。
「はぇ…柏木さん…でしたね…佐祐理が…勝手に飛び出したのですから…
あなたは何も悪くないですよ…でも…あなたの大事な方を殺したのは…
柳川さんではありません…それをわかって欲しかった…」
「わかったよっ、わかったからっ、信じるからっ!! …今は静かにしてくれっ」
スカートの裾を引き裂き、彼女の脇腹に当てる。
瞬時にスカートが真っ赤に染まるが、それでも押しつける。
止血には至らないが、出血の進行を多少でも遅らせる気休めにはなる。
アタシは…頭に血が上っちまったばかりに、何て事をしてしまったんだ…。
一方的に柳川の仕業だと決め付けていたばかりか、罪の無い子を
この手に掛けてしまうなんて…。
自然と涙が溢れてくる。その涙をヨレヨレと人差し指で拭うと、倉田という少女は気を失った。
その時、背後から言いようの無い悲しみの重圧と咆哮が押し寄せてきた…。
……
ぼうっと倉田の介抱を続けるアズサを見続ける。
体には全く力が入らない。
オレ ハ マタ マモル コト ガ デキナカッタノカ…。
タカユキ モ… カエデ モ… クラタ モ… ダレモ マモレナイノカ…?
オレ ガ マモロウト スルヒト ハ、 ミンナ シンデ シマウノカ…?
自嘲…?自責…?後悔…?
何とも取れない感情が支配する。
チカラ ガ ホシイ…
ヒト ヲ マモレル チカラ ガ…
メノマエ ノ ヒト ヲ ササエル チカラ ガ…
目の筋を、再び涙の雫が走る。
「お…おぉ…おおおおおおおおおおおお……!!!」
星空を見上げ、辺りに慟哭がこだまする。
回避
回避
ドクンッ!!
ドクンッ!! ドクンッ!!
ドクンッ!! ドクンッ!! ドクンッ!!
慟哭は、いつしか咆哮へと変わり、辺りを重圧が支配しはじめる…!!
細胞がきしみをあげて変化し続け、その組織を変貌させる。
体が巨大化し、服を突き破り、ヒトのそれからは掛け離れたモノになる。
「グルルルル…グヲオオオォォォォォッッッ!!!!」
一際大きな咆哮を上げ、その大いなる力を解放する。
いつものような、自我を失うほどの血に飢えた感情は無い。
その手にあるのは、大きな力と深い悲しみ。
俺は…ここにきて初めて、鬼の力を制御する事が出来たのだ…。
「柳川…オマエ…」
アズサの目に恐怖の色が映り、後ずさる。しかし、今はこの娘には興味が無い。
壊れ物を扱うように、そっと倉田の体を抱き上げ、大地を蹴って跳躍する!!!
……
激しい痛みで目が覚める。頭がぼぅっと…それでいてグルグル回り続ける…。
意識を何度も失いかけ、その度に脇腹の激痛で再び目が冷める。
それを何度も、何度も繰り返し、段々と意識を失う時間が長くなる。
わたしの目にはは、とても大きな獣が映っていた。
痛みで間隔はほとんど無いが、どうやら抱きかかえられながら移動しているらしい。
犬でもなく、オオカミでもクマでもない。例えるなら鬼、そう、鬼だ。
ただ、ひとつだけ鬼に見えない点があった。
「…鬼さん、泣いているの…?」
その目には、溢れんばかりの涙がキラキラと月明かりを反射して光っていた。
視界がぼやけて、もうさっきまで見れた、とても綺麗な星空を見る事が出来ないが、
その涙は、その星空のどれよりも美しかった。
鬼は何も応えない。その代わり、抱きかかえる腕にぐっと力が入る。
あははーっ、鬼に抱かれる女の子、か。何だか夢があっていいね…。
体に全く力が入らない分、鬼の腕の優しさが心地よかった。
「鬼さん…、お願いを聞いてもらってもいいですか?
佐祐理の…いいえ、わたしの最後のお願い…」
意識を再び失いそうになる…。お願い、もう少しだけもって…。
「わたしの親友…川澄舞と…相沢祐一さん…この2人を…、そして、
1人でも多くの…ひとたちを…まもって…あげ…て…」
一弥…おねえさん、がんばれた…かな?
もう一弥のそばに行っても大丈夫かな?
もう何も見えない…すごく眠い…舞…祐一さん…ごめんね…。
また…自己犠牲がすぎるよって…怒られちゃうね…。
差し出された一弥の小さな手に、そっとわたしの手をあてがい、
共に野原の道を歩いていく…。
最後に聞こえた鬼さんのうなり声は…なんだか泣き声のようだった…。
……
辿り着いたところは、元は灯台だった場所。
跳躍一閃、海に飛び込み、真っ赤に染まり、冷たくなった倉田の体を
深く、深くに沈めてくる。
この少女は、この穢れた大地には眠らせるべきではない。
生き物の近寄らない岩陰に彼女の遺体をそっと横たわらせると、
再び跳躍し、島へと降り立つ。
貴之…無様だな、俺は。
3人も守りたい人を失わないと、自分の力を扱う事すら出来ないなんてな。
しかし、もう迷わん。俺にはやるべき事がある…!!
この、くだらないゲームを動かすモノ…参加するモノ…ミナゴロシニシテヤル…。
さぁ、狩りの開始だ…!!
誇り高き狩猟者として、1人の少女の願いを受け取った者として、
この力を戸惑うことなく使っていこう…!!
「グオオオオオッ!!!」
何度目かの咆哮を上げ、夜の闇を疾走し、溶け込んでゆく……。
潮の落ち着いた波打ち際に浮かぶは、柳川の涙と一輪の花。
【時間:22:30ごろ】
『柏木 梓(017)』
【場所:G−09】
【持ち物:不明(次の方任せ)、支給品一式】
【状態:動揺、後悔、自責、呆然】
『柳川 祐也(111)』
【場所:I−10】
【持ち物;なし】
【行動:川澄舞、相沢祐一の捜索・保護を最優先とし、ゲームに乗る者の殺害とゲーム自体の破壊】
『倉田 佐祐理(036)』
【状態:死亡】
※この話をお使いになる方へ…
この話以降、柳川はエルクゥの力を殺人への快楽に溺れる事無く、
完全制御出来ます。次回登場時は、人の姿・エルクゥの姿のどちらでも
構わないと思いますが、人の姿である場合、どこかから服を調達してください m(_ _)m
Bルート準拠、痕の続きでお願いします
ほい
なんかキャラの思考と行動が支離滅裂。
間違いなく普通なら総突込みでNGの作品でしょう。
能力制限って点から見ても、さすがにまずくないかなあ?
DルートならOKだけど、それ以外のルートで常時鬼化有りはまずいよ。
話自体は俺は好きだけどね。
あら…やっぱまずいですか…。もし使いづらいようでしたら、
この話はアナザーとして無視してください〜。お騒がせを。。。
エルクゥの力の制限はしたほうが無難かもよ。
話に関しては構わないと思う
>>360 GJ!
潔癖厨どもは気にせずいきましょう
木陰に支給品の食料を食べている少女が一人、その名を川名みさきという。
彼女は今、ゲーム開始時のことを思い出していた──
カチリと音がして、拘束が外される。
「君は目が見えないそうだね。このまま外に出損ねて爆死というのでは
あまりに興がないから、出口までは音声で誘導してやろう」
彼女は音声に従い、支給品を受け取って外に出た。
「これから君たちには殺し合いをしてもらう」
そんな台詞をうわの空で聞きながら、彼女には強く感じていることがあった。
それは──
「うー、お腹がすいたよ〜!」
そう、空腹感である。
時刻は昼飯時、いつもなら学食でカレーの皿を積み上げているところだ。
彼女は出発地点を離れると、素早く支給された食料をあさり始めた。
支給された食料はパンやレーションなど6食分あったが、
大食漢の彼女にかかれば1食で尽きる量である。
3食分程食べたところで、彼女は半球上の物体がディバッグに入っていることに気が付いた。
真ん中の辺りがやや出っ張っていて、飲食店で店員を呼ぶ際に用いられる
ボタンとよく似ている。説明書は付属されていたのであるが、
盲目の彼女には意味がなかった。
「これがわたしの武器? なんだろう、へぇボタンかな?」
「トリビア、雪ちゃんのスリーサイズは上から81・55・83。
へぇ、へぇ、へぇ」
彼女は親友の貧乳を暴露しつつ、そのボタンを連打してみた。
「うわっ」
突如としてボタンから煙が噴出される。
「けほっ、けほっ。煙幕?」
彼女は煙が納まるのを待って、食事を再開した。満腹にはまだ程遠い。
すべての食料を食べ尽くし、水を飲み終えたところで彼女は感想を述べる。
「このパン美味しくないよ。士郎のやつも修行が足りないね」
「士郎?」
「あれ? 誰かいるのかな?」
「やっと気が付いたか」
一陣の風が吹きぬけ、何か布のようなものがはためく音が聞こえた。
このときになって、彼女は漸く目の前の何者かの存在を知覚したのだった。
「──問おう。貴方が、私のマスターか」
「マスターって……何?」
その日、運命に出会う。
川名みさき
【時間:午後1時ごろ】
【場所:G-03】
【所持品:召喚スイッチ(使用済み)、食料と水を除く支給品一式】
【状態:満腹度30%】
アロウン
【時間:午後1時ごろ】
【場所:G-03】
【所持品:マフラー】
【状態:みさきと契約を結ぶ】
ルートD
別にDでなくてもいいんじゃない?
すでに岸田やゆめみやムティカパなんかがいるんだし
>>367 どこまでが許容範囲か解ってない馬鹿は引っ込んでろ
369 :
反旗の狼煙:2006/10/14(土) 02:19:57 ID:1yNltdoZ0
柳川裕也と倉田佐祐理は灯台へ向かって移動しようとしていた。
氷川村からは少し遠いが、他に良い候補場所が地図上にはない。
それに、灯台なら見晴らしも良く比較的安全で、休憩するには最適の場所と考えての事だ。
二人は並んで歩いていた。しかし、佐祐理には心配事があった。
だから彼女は一つの提案をする事にした。
「あの…、柳川さん。荷物を持ちましょうか?」
「ん、何故だ?」
「だって、柳川さん怪我していますし、それに荷物も佐祐理の方がだいぶ少ないですし…」
拳銃二つに、デイパックも二つ。
柳川の荷物は、佐祐理の荷物の二倍程の量があった。
「いや、心配は無用だ。体力は、常人より遥かにあるのでな」
柳川はそれだけ言うと、再び歩き出した。
確かに鬼の血を引く柳川の体力は、常人の数倍はゆうにあるだろう。
しかし、今は彼は怪我を負っている。
ここで無理をする事は、怪我を悪化させてしまうのではないか。
「えいっ」
「む…」
佐祐理は柳川のデイパック(本来は楓のもの)を彼から奪っていた。
そして、それを肩にかけるとそのまま歩き出した。
「おい倉田、心配いらんと言っただろう。無理をするな。」
「あははーっ、こう見えても佐祐理は体力には自信があるんですよーっ」
佐祐理は笑いながらそう言って、荷物を返す事はしなかった。
戦闘とは無縁の生活を送っていた自分は、戦闘に関しては彼の役に立てない。
ならばせめて、こういう時に彼を助けてあげたかった。
「……筋肉痛になっても知らんぞ」
柳川はぶっきらぼうにそう言い放つと、彼もまた歩き出した。
370 :
反旗の狼煙:2006/10/14(土) 02:21:22 ID:1yNltdoZ0
そうしてしばらく歩いていると、彼らは海辺に一つの家を発見した。
「あれは……、海の家、みたいですね。」
「ああ、そのようだな。」
まだ距離は遠く、細かい部分までは見えない。
「はぇー、どうしますかー?」
「取り敢えず、調べてみるか。出来れば村から近い場所を確保したいしな」
そのまま海の家まである程度近付いた時、柳川は突然右手を佐祐理の前に出し、
彼女の歩みを制止し、彼女の前に躍り出た。
「ふぇ、なんですか?」
「…あの家から人の気配がする。それも複数だ。」
「――――!」
佐祐理の表情が強張る。
いつでも撃てるよう、銃を構える柳川。
やがて、海の家のドアが開き、トンファーを携えた女が出てきた。
金髪の、美しい女だった。
しかし柳川は一目でその女が、戦闘慣れしている事を見抜いていた。
「Don't shot,落ち着いて。」
「そう言う貴様は、この状況で随分と落ち着いているようだな。ゲームに乗った者か?」
金髪の女―――リサ=ヴィクセンは肩をすくめながら言った。
「本当に失礼ね、私は戦う気はないわ。殺人鬼扱いされるのは今日で二度目よ」
しかし、その台詞を聞いても柳川は警戒を解かない。
目の前の女が一般人で無いことは間違いない。そう簡単に、信用していいものか?
柳川と、リサの間に緊張が走る。
しかし、それは長くは続かなかった。
371 :
反旗の狼煙:2006/10/14(土) 02:22:30 ID:1yNltdoZ0
「あなたは……、倉田さんですか?」
ドアの影から佐祐理とほぼ同じ服装の少女が姿を出していた。
「ふぇー、そうですけど……。その制服、同じ学校の方ですか?」
「ええ、多分そうだと思います」
少女は無警戒にそのまま近付いてくる。
「初めまして、私は美坂栞っていいます。」
「初めましてーっ、倉田佐祐理です」
佐祐理も少女の様子を見て警戒を解いたのか、同じく近付いて挨拶をしていた。
佐祐理は学校ではそれなりに有名人だった。
生徒会関係の話や、不良少女と認識されている舞との交友関係等、噂になる要素は多い。
学年の違う栞でも、知っているほどだ。
その様子を見て、ようやく柳川も警戒を解き、銃をおろしていた。
「Hu…,やっと落ち着いてもらえたようね。私はリサ=ヴィクセンよ。」
「ああ、悪かったな。俺は柳川裕也だ。」
「All right.とにかく、続きは家の中に入って話しましょう。ここでずっと立っているのは危険よ。」
家の中に戻り、彼らは本題へと入っていた。
自分達の目的、自分達が知っている情報についてだ。
「あなた達、随分と苦労してきたのね…。」
全てを聞いたリサはそう言う他、無かった。
「ふぇ〜、佐祐理よりも、柳川さんの方が何倍も苦労してると思います…。」
佐祐理の言う通りだった。
柳川は、ゲームが始まって10時間程度でもう幾度もの修羅場を潜っている。
自分達は比較的平和だったが、この島では殺人ゲームが確実に進行しているという事を、
リサは再度思い知らされた。
372 :
反旗の狼煙:2006/10/14(土) 02:23:22 ID:1yNltdoZ0
そして同時に頼りになるとも思った。柳川から感じられる迫力は、尋常ではない。
エージェントである自分ですら、目の前の男には勝てるかどうか分からない。
主催者との対決において、これ以上無い戦力になるだろう。
「お互い最終目的は同じようだし、もし良ければ、私達と一緒に行動しないかしら?」
即座に決断し、そう提案していた。
「良いだろう、ゲームを止めるには戦力が必要だからな」
柳川も同じように考えていたのだろう、即座に了承していた。
そうして二人は、握手した。
主催者の打倒を誓って。
この殺人ゲームを一刻も早く終わらせる事を誓って―――。
主催者へ反旗を翻す為に協力する者達は、
各地で確実に増えてきている。
しかし、まだ主催者の正体は全く見えてこない。
彼らの望みは叶うのだろうか?
それはまだ、誰にも分からない事だった。
373 :
反旗の狼煙:2006/10/14(土) 02:24:27 ID:1yNltdoZ0
【時間:1日目午後9時ごろ】
【場所:G−9、海の家】
倉田佐祐理
【所持品@:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【所持品A:八徳ナイフ】
【状況:普通。ゲームの破壊が目的。】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁/ハンガー/コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)】
【所持品A二連式デリンジャー(残弾2発)、自分の支給品一式】
【状況@:左肩に切り傷。腕が動かせなくなる程では無いが、傷はそれなりに深い】
【状況A:疲労。背中に軽い切り傷。ゲームの破壊が目的。】
美坂栞
【所持品:支給品一式、支給武器は不明】
【状態:健康】
【備考:香里の捜索が第一目的】
リサ=ヴィクセン
【所持品:支給品一式、鉄芯入りウッドトンファー】
【状態:健康】
【備考:宗一の捜索及び香里の捜索が第一目的、最終目的はゲームの破壊】
・(ルートK 、K−2。関連は225,246)
・ルートkは新ルートです。ルートの説明はこの後すぐに運営スレに投稿します。
申し訳ない、やっぱりB系共通ルートでお願いします。
詳細は運営スレの
>>48、
>>50のカキコを参照願います。>まとめの人
>>368 気にいらない作品はスルーする事を覚えような。
なんのための分岐制だ。
林の中を駆ける笹森花梨。
彼女は三つばかしツイていた。
一つ目は、彼女の好奇心を擽る言葉が主催者から語られたこと。
彼女は自他共に認めるミステリ好きであり、ミステリを追い求める為ならばどんな事だってやってのける。
今年の夏休みは雨月山の鬼伝説を調べる為に隆山温泉に行くつもりだった。ミステリ研の合宿として。
もちろん部員であるところのタカちゃんは強制参加だ。
二つ目は、支給された得物が猟銃…それも実猟で使い勝手のいい水平二連銃だったこと。
そして弾丸…九粒弾とよばれる散弾が結構な量入っていたこと。
そして、三つ目は……
「あうー、どうして追いかけてくるのよー!!」
彼女の最初の標的が沢渡真琴だったことである。
彼女は最初、林の中に隠れていたのだが、真琴に照準を合わせるほんの少しの物音を
真琴は聞きつけて逃げ出してしまった。
あわてて追いかけるも、木々が邪魔となってなかなか真琴に照準を合わせることが出来ない。
二人の鬼ごっこは暫く続いたが、距離はほとんど縮まることはなかった。
追いかけること数分、急に視界が広がる。林を抜けたのだ。
花梨と真琴の間を遮る物は何一つ、無かった。
「もらった!!」
花梨は躊躇無く引き金を引くと猟銃から放たれた九粒弾が真琴の左半身を貫き、真琴は崩れ落ちた。
銃で狙いを定めたまま血の海に沈む真琴に近づくと、花梨の目の前で真琴の体が狐のそれに変貌を遂げていた。
花梨は全速力の鬼ごっこで息を切らせながら、目の前で起きた現実を確認するように呟いた。
「はぁ…はぁ……主催者の言葉は本当やったんよ……」
「主催者の口ぶりだと、他にもいっぱい居そうだったな……」
「ひょっとしたら人間に化けた宇宙人とかも居るかも……」
「…よし、ミステリハンター笹森花梨、調査開始なんよ!」
花梨はそう言うと、狐が持っていたデイバッグを手に取りその場から立ち去った。
笹森花梨、彼女は三つばかしツイていた。
だから、たった一つの不運に気が付かなかった。
(ちょっと…ウソでしょ……)
(笹森さんがゲームに乗っていたなんて……)
花梨と真琴が疾走していた林の、直ぐ脇の藪から一部始終を見られていたこと。
そして、その見ていた人物が互いに顔見知りである十波由真だったことを……
52 沢渡真琴 死亡
【状態:死体は狐になっています】
【48 笹森花梨】
【支給品:猟銃(水平二連銃)、九粒弾(19発、うち1発装填)、真琴の支給品(不明)、デイバッグ×2】
【状態:軽い疲労】
【70 十波由真】
【支給品:不明】
【状態:驚愕】
【時間:15:00頃】
【場所:D-04、高原池付近】
「はい、これで応急処置は完了よ」
海の家にて協力することになった柳川祐也(111)と倉田佐祐理(036)は情報交換をしつつ、リサ=ヴィクセン(119)の治療を受けて一息ついていた。柳川は包帯の巻かれた左肩を少し動かしながらリサに尋ねる。
「随分と手慣れているようだったが、どんな仕事をしている」
「そうね…正義のヒーロー、かしら?」
「ふぇー、すごいですね…」
佐祐理が感心したような声を出した。
「信じるんじゃない、倉田…貴様、はぐらかすな、本当の事を教えろ」
「あら、嘘はついてないでしょう? このゲームを壊すのは、悪なのかしら?」
軽口を叩きつつ本当のことを教えようとしないリサに、柳川は諦めたように「もういい」と言って隣にいる美坂栞(100)に目を移した。
「おい、美坂とか言ったな。この女は何者なんだ?」
「えっと…正義のヒロイン、じゃないでしょうか」
「Oh、yes! 女なんだから、ヒーローじゃなくてヒロインだったわね」
「ふぇー…かっこいいですね」
柳川は頭を抱える。どいつもこいつも…
「でも、間違いはないと思いますよ。だって、リサさんは醍醐っていう人を知っていましたから。一流の傭兵だったそうです。普通の人だったら、そんなこと知りませんよね」
醍醐…さっきの放送で言っていた奴か。そんなことを知っているとは、やはり只者ではない。まぁ何にせよ、軍事関係の仕事についていることだけは間違い無さそうだな。
武器の取り扱いに関しては俺より頼りになるだろう、と柳川は思った。
「さて、治療が完了したところで、問題が一つあるわ」
真剣な表情でリサが語り出す。何事かと柳川は耳をそばだてる。
「食材がないのよ」
「…は?」
思わず素っ頓狂な声を上げる柳川。
「どうも先客がいたらしくてね。あらかた食べ物を持ってかれたみたいなのよ」
「…くだらん。食料なんぞどうにでもなるだろう。支給品のパンだってある」
バカバカしいという風に、手をひらひらと振る。
「そうでもないですよ。食料はこの島では重要な問題だと思います。お腹が空いてたらまともに行動も出来ませんし、食料を巡って争いが起こるかもしれませんから」
「それに柳川さん、パンは貴重な携帯食だと佐祐理は思います。いざという時の為にパンは残しておいておいたほうがいいかと…」
女性陣二人から反論され、柳川は考えが浅かったかもしれない、と思った。…確かに、どこでも食べられる携帯食は貴重だ。
「それにあなたも気付いているでしょうけど、この島、やけに静か過ぎると思わない? 緑の多い島なのに動物や鳥を見かけなかったでしょう?」
「…そう言えば、確かにそうですねー。普通なら犬さんや鳥さんがたくさんいそうなのに」
それには柳川も気付いていた。食料を取らせない為に意図的に仕組んだとしても、島の動物を根こそぎ狩ってしまったとは考えにくい。つまり。
「…やはりこの島は人工島、ということか?」
「Yes、ましてや貴方の言う『鬼の力』とやらが発揮できないのならね」
それに、ここが世界のどこに位置するのか分からなくさせる狙いもあるし、とリサが付け加える。
「ともかく、この島では食料、特に携帯食は貴重よ。まだ一日目だからあちこちに食料はあるでしょうけど…もたもたしてるとやばいわよ」
「…分かった。で、誰が外に探しに行く? 俺が行こうか」
柳川が立ち上がろうとしたのをリサが制する。
「貴方はまだケガをしているでしょう? 今後の為にも、今は傷の治療に専念するべきよ。ここは私が行くわ」
「リサさん、だったら私も」
「栞もここにいて。夜は一人の方がかえって行動を悟られにくいものよ。特に私は、ね」
含みのある言い方をして、栞を座らせる。
「なら、言葉に甘えさせてもらうが…トンファーだけでは心許ないだろう。これを貸してやる」
柳川が懐からコルトディテクティブスペシャルを取り出し、リサに渡す。
「Thanks、ありがたく借りるわ。トンファーはここに置いておくわね。それと佐祐理、ナイフも借りていいかしら?」
「それは構わないですけど…そんなものでいいんですか」
「ナイフは扱いなれているわよ。物は使いよう、ってね」
佐祐理からナイフを受け取ると、リサは銃の残弾を確認しながら柳川に言う。
「それじゃ、ここは任せたわよ柳川。くれぐれもレディ二人にそそうのないように」
柳川は鼻で笑いながら「百も承知している」と言ってさっさと行けと促した。それを見届けて、リサが夜の世界へ駆け出していく。
その後姿を見つつ、栞が不安そうに言った。
「大丈夫でしょうか、リサさん…」
「あの女なら心配無い。恐らく奴はその道のプロだ。ひょっとしたら、元CIAの隊員だったかもしれんぞ。まあ推測に過ぎんが」
「佐祐理は元GRUの人だと思いましたけど…推測ですけどね」
「は、はぁ…で、でもきっと大丈夫ですよね」
「そんなことより、ここの留守を預かったんだ。武器の確認をするぞ。備えは万全にしておく。…そう言えば美坂、お前の武器は何だったんだ?」
言われて、栞はたった今気付いたように手を合わせた。
「あっ、まだ見ていませんでした。これが私のバッグです」
まだ見ていなかったことに呆れつつも柳川はデイパックを受け取る。それはずっしりとした重みがあった。
「結構重いな…何なんだ」
デイパックを開けてみると、そこには米軍の突撃銃、M4カービンがあった。
「アサルトライフル…ですねー。これって、結構すごい武器じゃないですか?」
「こんな武器だったとは知りませんでした…だからこんなに重かったんだ」
栞が唸りながらM4を見る。
「…まあいい。何にせよこれで戦力は増強だ。留守は十分守れそうだ」
M4を取り出し、構えてみる柳川。まだすこし肩は痛むがどうということはない。M4を置き、その他の武器を確認した後、矢を佐祐理に、デリンジャーを栞に渡して休憩することにする。
そして三人の、リサが帰ってくるまでの長い夜が始まった。
【時間:1日目午後9時半ごろ】
【場所:G−9、海の家】
倉田佐祐理
【所持品:自分と楓の支給品一式、 吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)】
【状態:普通。ゲームの破壊が目的。】
柳川祐也
【所持品@:出刃包丁、ハンガー、鉄芯入りウッドトンファー、M4カービン(残弾30、予備マガジン×4)】
【所持品A、自分の支給品一式】
【状態:治療は完了したが、直りきってはいない】
美坂栞
【所持品:リサと自分の支給品一式、二連式デリンジャー(残弾2発)】
【状態:健康、香里の捜索が第一目的】
リサ=ヴィクセン
【所持品:コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)、八徳ナイフ】
【状態:健康、食料を探す】
【備考:263話の続き。B−10になるのかな?】
倉田佐祐理を抱え、夜の闇に消えた柳川祐也の姿を柏木梓はただただ目で追っていた。
彼女の心は空洞で。
何も、考えられず。
自分の犯した罪と、手にかけた際に起こった人の肉を抉る感覚が全てを麻痺させていて。
だから、彼女は気づかなかった。
周りの様子に、何も気を使うことができなかった。
すれは、即ち。
一つのチャンスであった。
梓の背後には足元を忍ばせた影があり、それはもう真後ろまで来ていた。
だが、梓は気づかない。
先ほどの勢いなら締め付けてやることができたであろう。
だが、今の梓は気づけない。
--------来襲者もそれを知っていたから、臆することなく彼女の背中をとった。
(無様だな)
微動だにしない彼女の襟首に向かい。
七瀬彰は、渾身の力を込めアイスピックを突き刺した。
「っ・・・・・・・ぎゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」
グサッグサッグサッ!
両手でしっかり握りこめ、何度も何度も反復運動を繰り返す。
崩れ落ちていく肢体の様子にも気にせず、その行為をただただ繰り返す。
やがてセーラー服が真っ赤に染まりきるまで首を抉り終わった頃、彰はその手をやっと止めた。
「ふう・・・」
返り血を浴び、気持ち悪くなったのでそこら辺に落ちていた支給品であろう鞄をさぐる。
鞄は計三つ、彰は水の入ったペットボトルを探しそれで顔を洗った。
「・・・ん、やばいな。服にも飛びすぎてる」
上着は黒であったからよかったが、その中は白のインナーであったから。
その赤は、あまりにも目立ちすぎていた。
「何か、代わりの物なんてないかな」
ガサゴソ、荷物をさらに探る。
だが、それは想像以上に良い結果をもたらした。
「・・・何だ?吹き矢にナイフ・・・こっちは銃が二種まで?!
ははっ、本当ついてるな。怖いくらいだよ」
そして、最後。彰は知らないが、それは今目の前で赤に染まっている少女の物。
遠慮なく開けた鞄の中、その中には。
「・・・あはは、はは・・・」
今ならはっきり言える。神はきっと、存在する。
そして、今それは・・・七瀬彰の元に、降臨しているであろう。
今、彼の手には「早間友則なりきりセット」という説明のついた一種の着替えが。
ピンクのシャツに派手なズボン、そしてクロスのペンダント。
彰は血に染まったタートルを脱ぎ捨て、新しいシャツに袖を通した。
ズボンは・・・ここで脱ぎ着する度胸はさすがになく、脇に放置する。
ペンダントは、胸元が寂しいのでついでにつけてみた。
上から自分の上着を羽織るけれど、それでも彰は真新しい自分に生まれ変われた気がしてならなかった。
そう、いつもの地味な自分では決してしないであろうコーディネート。
そこに意味があった。
「僕は変われる、そうだ、僕は変われたんだ・・・」
その表情に、いつもの彰の優しさは微塵もない。
ベルトにナイフをさす、片手にはコルト・ディテクティブスペシャル。
その他の武器は全て鞄へ、食料などもまとめあげる。
当初の目的は美咲を守ること。
美咲以外の邪魔者を殺害すること。
それは美咲のための殺害という名目がついていた・・・が、今は。
今の彰の表情には、佳乃を殺害して悪夢を見たときのような罪悪感は・・・微塵も、なかった。
385 :
補足:2006/10/14(土) 15:56:00 ID:QS9vhdNG0
七瀬彰
【時間:一日目午後11時】
【場所:G−9】
【持ち物:アイスピック
吹き矢セット(青×5:麻酔薬、赤×3:効能不明、黄×3:効能不明)
八徳ナイフ
コルト・ディテクティブスペシャル(弾数10内装弾3)
二連式デリンジャー(残弾2発)
他支給品】
【状況:ゲームに乗っている】
柏木梓 死亡
シャツやズボンはそこら辺に捨ててあります
(関連・240・261)(B−4ルート)
386 :
膠着:2006/10/14(土) 16:09:06 ID:ilGrN7E70
柚木詩子とセリオは街道沿いに鎌石村へと向かって歩いていた。
詩子は放送を聞くまでは落ち着いた様子で、歩くペースも遅かった。
しかし今は明らかに歩く速度が速まっている。
彼女は明らかに焦っていた。
先ほどの放送で、知り合いの名前はなかった。
しかし、放送は詩子を大きく動揺させていた。
「詩子さん。もう少し落ち着いた方が良いと思われますが」
セリオが諌めようとするが、
「落ち着いてられないわよ!もうあんなに、人が死んだのよ!?」
こんな調子であった。
(茜……、どこにいるの……?)
彼女はそれだけを考えていた。
そのまま苛ついた様子の詩子と、それとは対照的に落ち着いた様子のセリオは歩き続け、
ようやく鎌石村に到着した。
その頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
詩子達がまずは民家を調べてみようと歩き出したその瞬間、それは起こった。
「えっ、何!?」
セリオは突然詩子を抱きかかえ、民家の塀に向かって駆け出していた。
直後、ダダダダダ…という音が聞こえ、彼らが元にいた場所の地面と、
セリオの左足の甲の部分の1部が、吹き飛んでいた。
それでもセリオはそのまま走り続け、何とか塀の影まで辿り着いていた。
「くそぅ!」
襲撃者、山田ミチルは悔しそうに叫びながらも、すぐさま姿を隠した。
387 :
膠着:2006/10/14(土) 16:10:23 ID:ilGrN7E70
「危ない所でした、敵襲のようですね。」
セリオはいまだ冷静そのものだった。
「ちょ……、セリオ!大丈夫なのっ!?」
「余裕があるとは言い難いですね。相手はマシンガンを持っているようですから」
「違うわよっ、あなたの足の傷の事よ!」
「私はロボットですから、頭部さえ破壊されなければ致命傷にはなりえません。
それよりも、今は敵をどうするかが重要です。」
落ち着いた様子で、そう告げるセリオ。
センサーを光学から赤外線に切り替え、民家からそう遠くない木の影に隠れている敵を調べる。
>身体能力:女子高生の平均的レベル
>装備:マシンガンの類と推測。危険度レベルはかなり高い
>山田ミチルを脅威的な存在と断定、警戒レベルAへ
>左足損傷チェック........損傷度35%、最高速度での走行は困難、通常歩行は問題無し
状況を分析しつつ、グロック19を構えるセリオ。
その様子を見て、詩子も慌ててニューナンプM60を鞄から取り出していた。
「ちょっと!これからどうするのよ!?」
「相手の隠れている場所と、私達のいる場所との間には効果的な遮蔽物がありません。
先に動いた側が不利になります。」
「それってつまり、このままこうしてるしか無いって事?」
「相手の出方次第ですが、そうなりますね。」
(相手は銃を持っているかもしれない……迂闊には姿を出せないわね)
山田ミチルは木の影に隠れながら考えていた。
(一旦離脱すべき…?それとも、ここで勝負を決めるべき……?)
考えても答えはでない。
詩子達も、ミチルも、動けないでいた。
388 :
膠着:2006/10/14(土) 16:11:07 ID:ilGrN7E70
共通
【時間:1日目、19時半頃】
【場所:c-03】
セリオ
【持ち物:グロック19(椋に支給された銃・全弾装填済み)。予備弾丸13発。支給品一式】
【状態:左足の甲の一部を損傷。専守防衛】
柚木詩子
【持ち物:ニューナンブM60(5発装填)&予備弾丸2セット(10発)・支給品一式】
【状態:緊張、やや疲労】
山田ミチル
【所持品:MG3(残り30発)、ほか支給品一式】
【状態:健康。ゲームに乗っている。】
*関連は121、215。(B-9ルートでは180と関連付け)
*ルートB-9、B-10用。B-10に採用する際は、このままの表記で構いません。
*B-9にこの話を採用する時は、山田ミチルのMG3の弾数を(残り25発)にしてください。
「うそ……嘘、でしょ……?」
新城沙織は己の耳を疑っていた。
信じたくなかった。
「みずぴー……みずぴーが……」
定時放送で藍原瑞穂の死が伝えられた。
この島に来てから、死は身近にあると判っているつもりでいた。
人を殺すための武器も与えられていた。
それでも心のどこかで、死ぬのはどこかの誰かだと思っていた。
何一つ、理解していなかった。
この島では、自分も、自分にとって大切な人間も、死の対象なのだ。
現実が、死に侵されていく。
薄暮の空が夜に染まり往くように。
高校に、通っていた。
友人と、笑っていた。
毎日を、暮らしていた。
そんな日常のすべてが、この島では省みられることなく消えていく。
これまでの自分が、自分と家族と友人とが過ごしてきた日々が、徐々に
現実感を失っていく。
融け落ちる柔らかで優しい思い出の代わりに忍び寄るのは、この島を支配する
鏡写しの倫理。
それは物陰から突き出された銃口であり、見も知らぬ誰かの嘲笑だった。
悪意と殺意とが自分を包み込んでいるように、新城沙織には感じられていた。
そんなものが足元からにじり寄ってくる。
そんなものが背筋を這い上がる。
そんなものが内臓を滅茶苦茶に掻き回す。
だから、新城沙織はただ叫んだ。
何も感じなくて済むように、何も考えなくて済むように。
慟哭で自分を護るように。
「新城、さん……」
河野貴明の声も、沙織には届かない。
心配げに自分を窺う視線も、気遣うようにかけられる声も。
何もかもが悪意に満ちているとでもいうかのように、沙織はしゃがみ込んだまま
ただ激しく首を振る。
「おい、いい加減にしろよ……!」
向坂雄二が苛立った声を上げる。
何を聞いていたのだ、ここでは人が死ぬとわざわざ教えられたばかりではないか、
自分たちは人が集まる場所だと考えてこの村を訪れたのだ、それはつまり、
自分たちを狙う殺意もまたこの場所に集まる可能性があるということだ、
どうして周囲の耳目を集めるような真似をする、動け、歩け、一刻も早く
この場所から移動するべきなのだ―――。
実のところそれは、自分たちが置かれている立場の危うさをまるで理解していなかった
己への憤りの裏返しに他ならない。
それがわかっているから、雄二の心は余計にささくれ立つ。
だが、なおも声を荒げようとした雄二を遮るように一歩を踏み出す影があった。
「大丈夫だよ、新城さん―――」
月島瑠璃子は、しゃがみ込んだ沙織の背を抱くようにしながら声を掛ける。
振りほどこうと暴れる沙織を、瑠璃子はそっと抱きしめる。
「大丈夫。長瀬ちゃんはきっと新城さんを助けに来てくれるよ。
だから、泣かないで」
「るり……」
沙織の嗄れた喉が、ようやくそれだけの言葉を紡ぐ。
背に触れる瑠璃子の身体は、温かかった。
だから沙織は、すぐ近くで自分を映す瑠璃子の瞳におずおずと問いかける。
「祐くん……きて、くれる……?」
「うん。きっと来てくれる。だから、それまでは―――」
それは、
「私が、護ってあげる」
新城沙織にとっての福音だった。
【18:10】
【場所:I-7】
河野貴明
【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
【状態:消沈】
向坂雄二
【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:焦燥】
新城沙織
【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
【状態:衰弱】
マルチ
【所持品:モップ、ほか支給品一式】
【状態:消沈】
月島瑠璃子
【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
【状態:健康】
瑞穂と沙織はlf97以外では面識さえなかったよな?
唯一接触のある瑠璃子さんルートでは最後に記憶消されるし
「あんたら、何やってるんや!」
川澄舞と向坂環、対峙する二人の間に入るよう、一人の女性が飛び出した。
長い髪を一つでまとめ、スーツで決めた一見キャリアウーマンのような出で立ち。
神尾晴子だった。
「いい加減にしいや、アホらし。
ほら、二人ともその物騒なもん早よしまい」
・・・先に戦闘体勢を崩したのは、環だった。
「不利になりそうだし、それなら私は退散するわ」
「待て、逃がさない」
「機会を見つけてまた来るから安心しなさい。・・・だって、気に入っちゃったんですもの」
すっと細められる環の瞳は、舞の手の中の日本刀にピントを合わせていた。
「今度会ったら、それであなた自身をきざんであげる。楽しみに待ってなさい」
呆然、二人のやりとりに晴子はついていけていない。
そしてその時になり、環の足元で伏せている一人の少女の存在にやっと気がついた。
辺りには血の流れた跡、今は止まっているように見えるものの傷は浅くないだろう。
「じゃあね、無様なナイトさん。それとおせっかい焼きのおばさん・・・私の邪魔をした罪は重いわよ。
あんた達のために強力な武器、かき集めてやるわ・・・」
「ちょ、あんた一体・・・」
晴子の言葉を待たず、環はその場を離脱した。
彼女の鬼のような形相、殺意に満ちた表情で、晴子はやっとこの場の状況を理解できたのだった・・・。
「・・・チエ」
環の姿が見えなくなると、舞は前のめりに倒れ伏せている吉岡チエの元に駆け寄った。
抱き起こそうとすると、ぼうっとしていた晴子もさすがに我に返り彼女の手を掴んで止める。
「ちょい待ち、気安く動かしたらあかんっ」
「・・・」
「裂けてるんは首やろ、下手したら傷広がるで・・・それ貸し」
晴子はうつぶせになっているチエをゆっくり自分の膝に上げながら、舞の身に着けいてるケープを指差した。
即座にリボンを解く舞、その行動の素早さには晴子も舌を巻く。
「お!気が利く子はお姉さん好きやで」
「・・・おばちゃん?」
「アホっ、お姉さんや!!・・・それにしても倒れたのが前のめりやったのが難儀やな。
余計に血が出てるさかい、危険度も三倍増しや」
ケープを包帯代わりに巻きつける晴子、舞はじっとその様子を見ていた。
何もできることはない、せめてとチエの手を握る。
・・・温かかった。それは生命の温度。
そう、彼女はまだ生きている。
守れなかった苦悩、でも彼女は生きていてくれた。
「チエ・・・」
「・・・・・・・・ん・・・・・」
舞の呼びかけに対し、うめき声が返される。
「意識はあるんやな、でも動いちゃあかんで。
・・・ん、これだけの出血さかい、輸血も考えなあかんかもな」
「輸血・・・」
「うちらにその処置ができるとは到底思えへんけどな」
晴子の呟きには耳を貸さず、舞はすぐさま地図を広げた。
今いる場所の近くに村はある。・・・だが。
「病院、ない」
「せやな、こっちの・・・氷川村?なら診療所があるみたいやけど」
地図に載らないほどの小さな物ならあるかもしれない、だがそんな所に輸血用の血液があるとは思えない。
いや、まして「診療所」ですら、そんな大掛かり物がちゃんと用意されているのかと、不安要素は尽きない。
だが、行ってみなければ可能性すら存在しないのだ。
「ほな、行くか」
「はちみつくまさん」
「はぁ?」
「・・・」
「あっはは、けったいな子やな〜。そういう変なとこ、うちの観鈴ちんそっくりや」
「?」
「うちは神尾晴子。晴子さんでええよ」
「川澄舞。・・・そっちは、チエ。吉岡チエ」
「そか。じゃあ、チエちゃんの方はうちがおんぶするさかい、ちょっと手伝ってや」
「ぽんぽこたぬきさん」
「はぁ??」
ふるふる。舞は、首を横に振っていた。
その指す意味は。
「私が、背負う」
「アホ。人一人背負うって、死ぬほど疲れるで〜」
「・・・」
舞は頑な態度を崩そうとしなかった。
さすがの晴子も、これにはお手上げで。
「じゃーないな。その代わり交代制やで、あんたが疲れた言うたらうちが代わる、これでどや」
「はちみつくまさん」
「・・・ま、決まりやな。ほな、いこか」
舞、チエの荷物も抱え上げ、計3つになってしまった荷物をしょいながら晴子が先導する。
その後ろを、舞はゆっくりと歩き出すのだった。
背中にはチエ、ずしりとした重みを苦に感じることなどない。
この背中の温もりは、今の舞の守るべき存在そのものなのだから。
川澄舞
【時間:1日目3時】
【場所:G−04】
【所持品:なし(チエを背負っている)】
【状態:氷川村を目指す】
神尾晴子
【時間:1日目3時】
【場所:G−04】
【所持品:武器不明・支給品一式、日本刀・牛丼一週間分(割箸付き)・舞の支給品一式、チエの支給品一式】
【状態:氷川村を目指す】
吉岡チエ
【時間:1日目3時】
【場所:G−04】
【所持品:なし】
【状態:重傷、首の後ろを真横に切られている・氷川村を目指す】
向坂環
【持ち物:バタフライナイフ、爆竹&ライター(爆竹残り9個)、他基本セット一式】
【状況:逃走済み・貴明を探すついでに邪魔者を減らす方向に】
(関連・133)(Aルート)
>>393 その書き手はとりあえず同作品なら友人でいいやって思ってるだけで雫やったことないんだろ
逆に考えるんだ。異次元人編アフターだと考えるんだ
>異次元人編アフター
Iルートはアストラルバスターの準拠ってことか。
あれ?
今までの思考や行動と思いっきり矛盾することにならないか?w
――さすがにそう都合よくは行かないようですね……。
鹿沼葉子が現時点で一番の敵になるだろうと考える人間、高槻を含めFARGOのメンバーの名前が呼ばれることは無かった。
そして先ほど郁未に手傷を負わせた芳野祐介、彼の名前もまた呼ばれることは無かった。
潰しあってくれればそれだけ後になれば楽なのだが、そうそう思い通りには行かないようだ。
そして最大の問題はNASTYBOY……那須宗一の存在だった。
伏見ゆかりと言う彼女の探し人の名前は呼ばれていた。
彼の様子から想像しても、ゲームに乗ってはいないだろう。
同じような考えの人間を集め、なんとか脱出の方法を探そうと考えているに違いない。
そして乗った人間には容赦はしないだろうことも。
ゆかりの死によって間違いなく状況は大きく変わる。
それが自分たちに取ってプラスになるかマイナスになるかわからない以上、ここに長居をするのは危険だと考えた。
「――誰か亡くなられたんですか?」
無言のまま難しい顔をして唸っていた葉子のことが気になったのか、古河早苗がおずおずと声をかけた。
だが尋ねる声にも力はこもっておらず、その顔も蒼白だった。
「いえ、私達の知り合いはとくには……でも早苗さんのほうは」
「渚の……恩師だったんですよ」
早苗はポツリポツリと語り始める。
「学校をお辞めになっても、ちょくちょくうちにパンを買いに来てくださいまして……あ、私達パン屋を営業しているんです……。
結構繁盛しているんですよ、私のパンは人気が無いようなんですけれどね……あはは」
笑う声にも覇気が感じられない。
「渚も先生のことが大好きで、卒業して挨拶に行くのが夢だって……なのに……」
「……胸中お察しいたします」
郁未が聞いたら、なにを甘えたことを言ってるんだと暴れだしそうな話だなと思いながらただただ黙って聞く。
「渚、今の放送を聞いて無いと良いんですが……」
「そうですね……」
葉子には理解できない甘い考えだった。
現実を知らずにすごすことの何が幸せだろうか。
ただ流されて過ごすだけの人生、昔の私。郁未と出会う前の私。それを幸せだと言うのか?
自分の郁未への敬愛の念を侮辱された気がして、殺意が沸いた。
――殺してしまいたい。
だがそれは郁未の手前することが出来ない、とも考える。
彼女は自身の手でこの女性を殺したがっている。
理由はわからなかったが、あからさまな態度がそれを物語っていた。
私は郁未さんのサポート、それ以外で彼女の行動を邪魔をすることは多分彼女はきっと許してくれない。
「ちょっと郁未さんの様子を見てきてもよろしいでしょうか?」
早苗と二人きりでいることが耐えられなかった。
湧き上がる感情をかみ殺し、平静を装いながら早苗にそう言うのが精一杯だった。
「私も渚の様子が気になりますので、中に入りましょうか」
「見張りは大丈夫でしょうか?」
「鍵をかけておけばいきなり入られるということは無いと思いますよ」
一緒にいたくないから出た言葉だというのに、これなら一人でも見張りをしていたほうがいいではないか、と葉子は考えたが
郁未の様子も気になるところだったため、首を縦に振った。
扉を開けようとドアに向き直ると、待ち構えていたかのように扉が自動的に開かれる。
「あら、今呼びに行こうとしていたところ。早苗さん、渚さんが起きたわよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
郁未の言葉に早苗がパタパタと奥の部屋へと駆けていった。
「郁未さん、傷のほうは大丈夫です?」
「ええ、おかげさまで、迷惑かけたわね」
「とんでもないです」
「それよりも放送聞いたわよね?あなたはどう考える?」
「今すぐにでもここを出たほうが良いと」
「よね」
考えることは同じだったようだと葉子は安堵する。
「中にいる三人はどうしますか?」
葉子には一つの考えがあった。
全員殺すつもりの郁未に尋ねるのもおかしな話ではあったが、進言できることはしておかないと自分のいる意味も無い。
「勿論、殺していくわよ」
予想通りの答え、葉子の顔に笑みがこぼれた。
「なんで笑ってるのよ」
「いえ、愚問だったな……と思いまして」
「聞くまでも無いでしょそんなこと」
返しながら郁未も笑う。
一転、葉子がその笑いをぴたりと止めると、真剣な顔で郁未に向かって語りかける。
「ですが、全員殺すのは私はお勧めできません」
「なぜ?」
「那須宗一がいるからです」
葉子は考えをまとめながらゆっくりと言葉を続ける。
「放送に彼の探し人の名前がありました。どう動くかは完全にまだわかりませんが、おそらく彼にためらいはなくなるでしょう。
正直、彼を相手にするのは今の私達には不利と判断しなければなりません。
誰かを殺して私達が消えていれば、間違いなく矛先は私達に一直線に向かってくるでしょう。
その時彼のそばに誰かがいたら?この中の生き残りがいたら彼は必死にその子を守ろうとするのではないでしょうか?
勝機は、そこだと思うのです」
葉子の言葉に黙って耳を傾ける郁未。
普段の郁未なら鼻で笑っていた事だったろう。
だが不可視の力の使えない今、先ほど芳野祐介から負わされた怪我という事実もまた覆せないものだった。
「そうね、確かにそのとおりかも」
そして郁未は少しだけ考え、葉子に尋ねた。
「生き残すのは一人でかまわないわよね?」
「ええ、それで構わないと」
「その一人は私が決めてもいいかしら?」
「どうぞ、おまかせします」
二人はうなずきそれぞれの武器を握りなおすと、奥の部屋へとゆっくり歩き出した。
「――早苗さん、ありがとう、お世話になりました」
入るなり、静かに郁未は早苗にそう告げた。
中には今起きたばかりでまだ少し寝ぼけ眼の渚とその横に座る早苗、そして未だに眠っている佳乃の姿があった。
郁未の言葉に早苗は立ち上がりながら言う。
「もう行かれるんですか?」
「いいえ、逝くのはあなたです」
続けて言う葉子の言葉の意味がわからなかった。
そしてその意味を理解する暇も無く、郁未の持つ薙刀が早苗の身体を刺し貫いていた。
赤く飛び散る鮮血が部屋を包み、隣に座るの渚の顔をも汚していた。
「え……?」
目の前で起こったその事実を、渚の頭は理解することが出来なかった。
母親の身体から生えているモノ。
自身の身体に降りかけられたモノ。
冷たい目で母親を見つめている二人組を、ただ異質なものとして認識するのが精一杯だった。
ゴトリと早苗がその場に倒れこんだ。
郁未が無表情のまま早苗の身体から薙刀を引き抜く。
同時に、せき止められていた血が遠慮なくと言わんばかりに床を赤く染め上げた。
「お母さんっ!」
夢から覚めたように渚の頭がクリアになった。
必死に駆け寄り血にまみれたその身体を抱き寄せるが、すでに早苗は事切れていた。
だが認めたくない現実を避けるように、渚は呼び続ける。
その姿に郁未の苛立ちは募っていた。
「葉子さん、鉈貸してもらえる?」
郁未の不機嫌な様子に多少の不安を覚えるも、殺すのに機嫌の良し悪しなどたいした問題では無いだろうと葉子は黙って鉈を手渡した。
受け取った鉈を郁未は、大きく振りかぶりそして振り下ろした。
鉈は一直線に渚にの身体に向か……いはしなかった。
グサッと、地面に向かって突き刺さる。
それは渚のほんの数cm横。
「……あなたに一つの選択肢を与えるわ」
渚の顔を睨みつけ、冷たく言い放つ。
「悔しければ、仇を討ちたければ、生きたければ、……理由はなんでも良いわ。
それを手に取りなさい。そうしたら生かしてあげる。
取らないならば、あなたもすぐ大好きな人のいるところへ送ってあげる」
共通
【時間:午後6時過ぎ】
【場所:沖木島診療所(I−07)】
古河早苗
【死亡】
古河 渚
【所持品:支給品一式(支給武器は未だ不明)】
【状態:混乱中】
天沢郁未
【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】
【状態:右腕軽症(手当て済み、ほぼ影響なし)。ゲームに乗っている。】
鹿沼葉子
【所持品:鉈・支給品一式】
【状態:特に異常なし。ゲームに乗っている。】
霧島佳乃
【所持品:武器以外の支給品一式】
【状態:睡眠中】
関連
【141と162を通るB関連のルート】
備考
【早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられています】
407 :
氷川村U:2006/10/15(日) 00:00:55 ID:tRv3mHyqO
「ゆかり………」
貴明たちと別れた後、数件目の民家の中で食料(主に缶詰やレトルト類)を調達中、宗一は定時放送を聞いた。
次々と報告されていった死者の名前。その中には自分のクラスメイトであり友人の伏見ゆかりの名前があった。
「…………」
その名を聞いた瞬間、宗一はただ呆然とその場でつっ立っていることしかできなかった。
醍醐と篁という自身が最も警戒していた敵たちが死んでいたことにも驚いたが、身近な者の死という衝撃の事実には勝らなかった。
宗一の脳内で学校の帰りに皐月と3人でハンバーガーショップに寄りハンバーガーを食べたことや、アイスを食べにいったあのころのゆかりとの思い出がフラッシュバックしては消えた。
(――いい奴から先に死んじまうってことか………)
あのゆかりのことだ。ゲームに乗ったとは思えない。
おそらく運悪く参加者(マーダー)と遭遇してしまったのだろう。
(俺がスタート直後から行動していれば――いや。気持ちはわかるが感情的になるな俺。感情を暴走させてしまうと次は俺が死ぬ……!)
暴走しかけた自分の心を抑えつける。
しかし、それでも「なにが世界NO.1エージェントだ。なにがNASTYBOYだ」などという自責の念がしばらくの間宗一の中に満ち溢れた。
(ゆかりは守れなかった…………だが、皐月たちはまだ生きている。
ならば、必ず守ってみせる。それがゆかりを助けられなかった俺ができるゆかりに対する償いだ………!)
新たな決意を胸に宗一は家を出た。
408 :
氷川村U:2006/10/15(日) 00:01:58 ID:tRv3mHyqO
(食料はだいぶ揃ったし、まずは診療所に戻るとするか)
それに早く戻らないと佳乃が今度は何を言いだすかわかったもんじゃない、と思いながら宗一は診療所を目指し走りだした。
その時だった。宗一が目の前の民家の物陰から殺気を感じたのは。
「!!」
すぐさま宗一も近くの物陰に飛び込んで身を隠した。
次の瞬間には、ぱらららら…という音とともに数秒前まで宗一がいた場所に無数の弾丸が飛んできた。
(マシンガンか!)
すぐさま制服のズボンの腰にねじ込んでおいたファイブセブンを抜き取り、相手に構える。
「やめろ、俺は人を殺すつもりはない!」
まずは威嚇しつつ相手に話し掛けてみる。
話し合いが通じる相手ならば無駄に争いたくはないからだ。
「……………」
相手――太田香奈子はただ無言で宗一を見ていた。
しかし、次の瞬間にはまたしても彼女のサブマシンガンが火を吹いた。
「くっ!」
再び身を隠す。
ほぼ同時に数発の弾丸が宗一の頭をかすめた。
(――やるしかないか?)
409 :
氷川村U:2006/10/15(日) 00:04:15 ID:tRv3mHyqO
【場所:I−06、07境界付近】
【時間:午後6時15分】
那須宗一
【所持品:FN Five-SeveN(残弾数20/20)包丁、ロープ(少し太め)、ツールセット、救急箱、ほか水・食料以外の支給品一式、食料(数人分の量。缶詰・レトルト中心)】
【状態:健康。目標・皐月たちとの合流。主催者を倒す】
太田香奈子
【所持品:H&K SMG U(11/30)、予備カートリッジ(30発入り)×5、フライパン、懐中電灯、ロウソク(×4)、イボつき軍手、他支給品一式】
【状態:健康。瑞穂の仇を討つ。瑠璃子を見つけて殺す。現在マーダー化中】
410 :
間隙:2006/10/15(日) 00:12:19 ID:Zp+33B1B0
「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」
その声は突然響き渡った。
死を告げる声が、とつとつと続く。
岡崎直幸という名が呼ばれる。
その姓に古河早苗は眉をひそめた。
岡崎朋也の関係者でなければいいと、そっと祈る。
伏見ゆかりというのは、那須宗一が捜しているという人物ではなかったか。
放送が終わる。
早苗は渚の眠る部屋の扉をそっと開けると、ベッドの傍らに歩み寄り、
愛娘の寝顔を確認して胸を撫で下ろす。
渚が目を覚まさなかったのは幸いだった。
自分ですら胸の悪くなるこの放送を、優しく弱い娘に聞かせたくはない。
そんなことを考えていた早苗の背に、弱い声がかけられた。
「早苗さん……」
いつから起きていたのだろうか、霧島佳乃が不安そうな顔をして立っていた。
「今のって……」
「……ええ。この島で亡くなった方々のお名前です」
「お、お姉ちゃんと往人くんは呼ばれなかったよね? 大丈夫だよね!?」
「はい、わたしもちゃんと聞いていましたけど、お二人の名前は
出ていませんでしたから、安心してください」
「そ、そうだよね……うん、そうだよね……ありがとう、早苗さん……」
動悸を沈めようとするかのようにシャツの胸元を握り締める佳乃。
411 :
間隙:2006/10/15(日) 00:13:44 ID:Zp+33B1B0
「お母さん……? 何かあったの……?」
「渚……」
眠たげに目を擦りながら、古川渚が身を起こしていた。
「……何でも、ありません。ちょっとうるさくしていたから、
起こしてしまったかしらね。ごめんなさい、渚」
「そ、そうだよ、なんでもないんだよ、ごめんね渚ちゃん」
早苗の気遣いを察したか、佳乃も調子を合わせる。
そんな二人を不思議そうに見やる渚の後ろから、鹿沼葉子が姿を見せた。
「……? 外で何かあったんですか、葉子さん」
怪訝な顔で問いかける早苗の言葉を無視して、葉子が口を開く。
「いつまで寝ている気ですか、郁未さん」
「……やれやれ、もう少しサボっていたかったんだけどね」
葉子の声に、これまで目を閉じていた郁未が苦笑する。
「あら……皆さん、起きてしまったんですね。
まだ宗一さんは戻っていませんけど、ご飯はどうしましょうか……?」
そんな早苗の言葉など聞こえていないかのように、郁未はひとつ大きく
伸びをして立ち上がると、傍らに立てかけてあった薙刀を手に取る。
「どうしたんですか郁未さん、いま外に出るのは危険です。
宗一さんを待つというお話でしたよね……?
もしかして、今の放送でどなたかお知り合いの方が……」
関連
→217
→226
⇔229
補足
・Jルート用、B系も篁死亡ルートなら採用OK
・Jルートは以下にチャート訂正お願いします
不採用
229、261
採用
263、265
413 :
間隙:2006/10/15(日) 00:14:54 ID:Zp+33B1B0
またしても無視。
二度、三度と薙刀の握りを確かめるようにしながら、葉子と目配せを交わす郁未。
「―――じゃ、そろそろ始めましょうか」
「ええ。今の放送を聞いてNASTY BOYが帰ってこないとも限りません。
早めに片付けましょう」
「郁未さん、葉子さん……?」
さすがに何かがおかしいと感じたか、早苗がそっと渚の手を引いた。
状況が見えない佳乃が、不穏な空気を感じてベッドから立ち上がり、
部屋の中央に佇む。
扉の側に陣取った郁未と葉子、ベッドを挟んで窓側に立つ早苗と渚に
挟まれるような形で、それぞれを忙しく見回す。
「え? え? どうしたのみんな、郁未さんはどっか出かけるの?
宗一くんはどうするの、ご飯だってまだ食べて、」
佳乃の言葉は、郁未の持つ薙刀の一閃によって断ち切られていた。
「―――!」
ぱくぱくと口を開く佳乃。
声の代わりに、袈裟懸けに斬られた胸からこぽこぽと血の泡が立つ。
「うん、腕の調子も悪くない。
ありがとう早苗さん、的確な治療だったわ」
血飛沫を上げてゆっくりと崩れ落ちる佳乃の向こう側で、
「佳乃さん……っ! 郁未さん、あなた……!」
人を殺すモノが、静かに早苗たちを見詰めていた。
414 :
間隙:2006/10/15(日) 00:15:55 ID:Zp+33B1B0
ようやく事態を把握したのか、早苗にしがみつく渚の瞳が、
これ以上は無いほどに見開かれていく。
「いや……いや、いや、いや―――!」
「うるさいわね。心配しなくたってすぐに追いかけさせてあげるわよ」
絶叫に、郁未が眉をひそめて声を上げた。
扉を固めるように鉈を下げて立つ葉子が、そんな郁未を横目で見る。
「……郁未さん。悪人気取るのは構わないんですが、あまり周辺の
注目を集めるのは得策ではないと思います」
「そうね。……ま、それじゃさっさと終わらせましょうか。
ホントはもう少しあなたで遊んでみたかったんだけどね、渚さん」
そう言いながら、ゆっくりと歩を進める郁未。
優雅とも見える動きで薙刀を構えると、転瞬、一気に間を詰めるべく
駆け出す。
「さようなら……幸せなお二人さん」
渚を庇うように抱きかかえる早苗が目を閉じる暇もあったかどうか、
その背に刃が振り下ろされんとした、その瞬間。
「―――!?」
つんのめった郁未の足を掴んでいたのは、霧島佳乃の手だった。
血と汚物に塗れたその手が、早苗と渚の命を文字通り首の皮一枚で
繋いでいた。
415 :
間隙:2006/10/15(日) 00:16:57 ID:Zp+33B1B0
それは、母としての本能だったのかもしれない。
少なくともその瞬間、古河早苗に迷いはなかった。
瀕死の霧島佳乃を殺人鬼の元へ置き去りにすることも、その足を止める
要因にはならなかった。
早苗は渚を抱いたまま、目の前の窓ガラスへ頭から飛び込んでいた。
幾つも走る鋭い痛みも、流れ出して眼に入る血も、早苗は気に留めなかった。
肩から地面に落ちた衝撃も耐えた。
背後で霧島佳乃が断末魔の悲鳴を上げるのも無視した。
あらゆる感情と感覚を噛み殺して早苗は立ち上がり、渚の手を引いて走り出す。
娘を守る。
ただその一念だけが、早苗を突き動かしていた。
殺意の追走が、背後から迫る。
416 :
間隙:2006/10/15(日) 00:18:18 ID:Zp+33B1B0
古河早苗
【所持品:なし】
【状態:頭部・顔面に裂傷多数】
古河渚
【所持品:なし】
【状態:異常なし】
霧島佳乃
【状態:死亡】
天沢郁未
【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】
【状態:右腕負傷(軽症・手当て済み)。】
鹿沼葉子
【所持品:鉈・支給品一式】
【状態:異常なし】
【時間:午後6時過ぎ】
【場所:沖木島診療所(I−07)】
【早苗・渚・佳乃の武器と支給品一式、宗一の水と食料は診療所内】
B−4を除くB系共通 →031 →057 →162 →216
>>402-406 こりゃまた綺麗にカブったね。ってわけで⇔270。
――』
「……むにゃむにゃ」
『――
「…うるさいですねぇ、むにゃむにゃ…」
――――』
「…むにゃ」
「……すー、すー」
ズドォォ ーン !
「 っ!!」
突然の異質な音に眠気は吹っ飛び、起きあがる。
ズドォォ ーン !
「わぁっ!」
あわててその場に伏せる。
この音は銃声? しかもすぐ近くだ。
逃げなきゃ…と荷物を持ってその場から駆け出そうとしたまさにそのとき!
ズドォォ ーン !
その荷物から銃声が発せられた。
「…はあ」
名倉由依は支給された携帯電話を見ながら一人つぶやいた。
「なんでメールの着信音が銃声なんですか。もっと明るい音楽とかにしてくださいよ…」
少し前に服の調達という大きな問題を解決した由依はあれから自分に与えられた支給品をチェックしていた。
その結果、地図より今鎌石小中学校という所にいるということ。また名簿から友里だけでなく、郁未や晴香といった友人たちも巻き込まれていること。
そしてこの携帯はこの島内ならどこにでも電話及びネットワークがつながるということを知ることができた。
だがここに来るまでに相当の疲労と緊張感があったせいか、そのまま眠ってしまっていたのである。
そして銃声…もとい携帯のメール着信音によって受信したメールをいぶしげながらも確認しようとしているのだが、
「死亡者リストなんて…ふざけてませんかぁ」
メール差出人には主催者とだけ表記されていた。あらかじめこの名前が登録されているからにはいたずらではなく本当に主催者からのものなのだろう。
由依はこのメールを開くのを躊躇した。なぜならそこにもしかしたら姉や仲間の名前が刻まれているかもしれないのだから。
迷ったあげく由依はメールの開封を決意した。開封のボタンを押下すると本文が画面上に展開される。
まずはじめにこのメール及び差出人に対して返信ができないこと、そしてこのメールは朝の6時と夕方の6時に行われる放送で発表された死亡者を掲載するということが書かれていた。
そして数行の空白行が続いた後…死亡した参加者の名前が羅列されてあった。
一行一行画面をスクロールし、新たな死亡者の名前が明るみになる度に息をのむ由依。
――以上
メールはその文を最後に終わっていた。お姉ちゃんも、郁未さんたちも無事だった。だが由依は素直に安堵な気持ちにはなれなかった。
なんせこの数時間の間に10人以上もの人が亡くなっているのだ。その中にはあの血まみれになっていた女の人も含まれているのだろう。
そして残された人々、何より亡くなった人の関係者はどう思うのだろうか。
「……どうしてこんな誰も望まないことが平然と起きるんですかぁ」
由依は誰もいない空間へ向かって問いかけていた。
【時間:1日目18時20分頃】
【場所:D−06:鎌石小中学校内】
名倉由依
【所持品:鎌石中学校制服(リトルバスターズの西園美魚風)、
カメラ付き携帯電話(バッテリー十分)、
荷物一式、破けた由依の制服】
【状態:消沈気味、体力は回復。】
【備考:No.169:小っちゃいってことは便利だねっの続き
由依は放送時眠っていたので放送の内容自体は聞いていない】
問題なければ共通で。
郁未みたいな虐殺厨房が知り合いにいるのにそういう反応は変じゃね?
421 :
10:2006/10/15(日) 00:59:06 ID:IKbAE0+O0
やっっっと出来たーーー……
Iルート用珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん。
とにかく今回は凄まじく長い。
まず間違いなく回避要ると思うのでたのんます。
>>393>>399-401 それと新城さんは瑞穂を知らないという流れで行ってたり。
まとめ見て気付いたけど38で確かにみずぴー言ってた。
言ってたけど知らないということで。
あの後可愛くむくれた珊瑚ちゃんに笑って謝って余計にむくれさせて「貴明、いじわるやー」って言われて
瑠璃ちゃんに「さんちゃん泣かすやつはウチがいてこますー!!」って言われながら蹴られて
雄二に「ちくしょおこんなときにまでらぶらぶしやがって」とか言われながら
マルチちゃんに「みなさん、仲がおよろしいのですねー」と言われつつ
新城さんに苦笑いされて「いや、うん……いいの……かな……?」とか言われるハプニングを乗り越えて
皆で手分けして家捜しをすることにした。
小さい家だ。
この人数で掛かればさして時間も掛からず終わる。
で、その結果が目の前に。
「……さて、これでどうしようか」
取り敢えず選定は後回しって事でちょっとでも役に立ちそうなものを集めてきた。
因みに食料系統は冷蔵庫。
流石にここに持ってくるのは阿呆だろう。
包丁二本まな板一枚お玉一本ボウル一つ大鍋一つフライパン二枚、良く分からないちっちゃいおもちゃが沢山、
傘三本ゴミ箱三つ目覚まし時計三つ小さい鏡が二枚に風呂場にあった嵌めてあった大きいのを外して三枚、
分厚い本が四冊にカッターナイフ一本、何故かあった木刀一本と文房具、救急セット。
持ってくるのは大変だというものも動かさないでおいた。
厚くない本が沢山、皿やナイフ、フォークも沢山、着替えも沢山、テレビ。
目に付いたのは概ねこんな所だった。
「……このおもちゃ持って来たの、誰?」
「あ、それ私ですー」
「……なんで?」
「あの、逃げるときにとりゃ〜ってなげつければ逃げられるんじゃないかと」
「……石の代わりに位はなるか」
「でも、持ってくの大変やで?」
「そーだな。わざわざ重り持って歩くこたぁねぇか」
「あぅ〜……すみませぇん……」
「あーあー、マルチちゃん泣かないで」
「そうだぞ貴明!女の子でしかもメイドロボを泣かすとは何事か!」
「泣かしたのお前だろ……」
「この道具、どれ持ってったらいいかねぇ」
「露骨に逸らすのな」
「とにかく、包丁とカッター、木刀は要るんやない?」
「そやね。後は鏡と時計、救急セットはどやろ?」
そして遊んでる間に双子の姉妹が真面目に話を進めていく。
……ごめんなさい。
「こうして見るとさぁ……」
「何?」
「……キッチンって、実は結構凶器が満載なんだなぁ、とか」
そうなのだ。
今回探して見つけたもの半数以上がキッチンからの道具だった。
「そーいやそうだな。キッチンは戦場だって強ち比喩じゃないかもな」
雄二は笑いながら言う。
「そーよ。女の子は大変なんだから」
「はわー、すごいですー。私、お料理が下手で……」
「あはは、まぁあたしもなんだけど……」
「かさも先とがってるから、武器になるんやない?」
「あとは……そやなぁ〜、沙織ももっとるし、フライパンもたてにならへんかなぁ」
またも遊んでいる俺達を置き去りにして進めて行く愛する姉妹達。
……本当、ごめんなさい。
「……えっと、持って行くのはさっき珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが言ってたので良いと思う。どう分けるか考えよう」
「全然考えとらんかったやん」
「……はい。返す言葉も在りません」
「えーとな、フライパンは瑠璃ちゃんと貴明がええと思うねん」
「木刀も貴明でいんじゃね?俺こんなんつけながら木刀で戦えるとは思えねーし」
「じゃあ、あたしと雄くんが包丁かな?瑠璃ちゃん拳銃あるから」
「さんちゃんなんもないよ?だいじょぶなん……?」
「んーと、じゃあウチはこれもらう」
珊瑚ちゃんは救急セットを取る。
「マルチちゃんも何もないよね?」
「あ、はい。ないです」
「じゃあ……大鍋って盾にならないかな?」
「料理も作れるで」
「後はカッターかな。それでいい?」
「はい!」
「後は……ナイフとフォークも一人一本位在るんじゃね?」
「それと、時計と鏡」
「ああそっか。時計三つもいるか?」
「音鳴るし陽動には使えるだろ。どうする?珊瑚ちゃん」
「んーと……ウチと、貴明と、沙織……でええんとちゃう?」
「鏡は?」
「ちっこいのだけでええやろ。さんちゃんと……雄二?」
「これで全部かな」
「割とあっさり決まったね」
新城さんが伸びをする。
回避
ついでに質問。
Iルートは「一輪の花」、「反旗の狼煙」どっちを採用するルート?
フォローお願い。
そして俺は瑠璃ちゃんに目配せ。
瑠璃ちゃんはかすかに頷いて、
「決めるもん決めたし、ちょっと早いけど夕食にしよ。せっかく食べもんあるんやし」
「そうだね」
「マルチ、手伝ってくれる?」
「はい、いいですよ〜」
マルチちゃんは何の疑いもなく立ち上がって、瑠璃ちゃんについていく。
……ごめん。マルチちゃん。
そして、珊瑚ちゃんたちに向き直って話す。
「おなかすいたねー」
【じゃ、この家探して気付いたこと、これからどうするか、その他口に出せないこと上げていこう】
「瑠璃ちゃん料理上手なの?すごいねー」
【さっき珊瑚ちゃん何か書きかけてたよね?あれは何?】
「瑠璃ちゃんの料理、うまうまやからきっとみんな気に入るよー」
【うん、貴明の工具セット。あれでなんとかなるかもしれへんよ】
「! そりゃ楽しみだ。瑠璃ちゃんの料理、さぞかし旨いんだろうな」
【どういうことだ? あれに何か隠れてたのか? 探した時には見つからなかったが】
「うまいよー。瑠璃ちゃん、いっつもウチに作ってくれてるんやでー。すごいやろー」
【ちゃうよ。あれで、この首輪外せると思う】
「「「!!!」」」
珊瑚ちゃんは唇に指を当てる。
何とか声を抑えて、押し黙る。
……難しい。
って、あれ?
何話してたっけ?
うぉあ……やばい……
「凄いな。あの年でいつも作ってんのか。学校も在るだろうに」
【外せる?凄いじゃねえか。じゃあ、マルチちゃんと瑠璃ちゃん呼んでさっさと外そうぜ】
……ナイス。雄二。
「瑠璃ちゃん、早起きしてつくってくれるねん」
【ううん。まだ、あかんよ】
「あたしにはとても真似できないわ」
【何で?何か問題でも在るの?】
ガチャ
「はわっ」
「えへへ〜」
【うん。いくつかな】
「瑠璃ちゃん、何作ってくれるんだろ。まぁなんでも美味しいだろうけどね」
【一つは分かった。せっかくこうやって気付いたことを隠してるのに、いきなり外敵の無いところで首輪の反応が消えたら意味が無くなる】
「フライパン、あたしの渡せばよかったかな」
【あー、なるほど。貴くん頭いいねー】
ガシャン
「はわわっ」
「いや、別にフライパンは良いだろ。」
【すると、他にどんな問題が?】
「瑠璃ちゃんやったら、どっちでもおいしいの作れるよ」
【うん、あのな】
ガラガラガシャーングワングワングワングワン
「あーもうええかげんにしー! キッチンが壊れるわ!」
「はわっ!ごっごめんなさいですぅ〜〜〜〜!!」
「……」
言葉も、無い。
瑠璃ちゃんにはもう少しがんばってもらおう。
そうこうしてる間に珊瑚ちゃんが書き上げていた。
【ウチの首輪が外せない。鏡見ながらやったら出来んことないかもしれんけど、すごく、あぶない】
「マルチちゃん、そういえば料理が下手って言ってたような」
【そうか。自分の首は難しいか】
「言ってたな」
【なるほどな。確かに先に誰かだけ外すってこともできねぇし。でも、どうする?】
「言ってたね」
【瑠璃ちゃんはそういうことできないの?】
「まぁ、瑠璃ちゃんが作ってくれるし。大丈夫……でしょ」
【無理。少なくとも俺達位には。珊瑚ちゃんが凄過ぎるんだよ】
「期待して待つしかない、か」
【最初、何とかなるかもしれない、って言ってたよな。何か策があるのか?】
「瑠璃ちゃんやもん。大丈夫やよ」
【うん。いっちゃんがいれば。いっちゃんやったら外し方教えれば出来ると思うねん】
「その辺りマルチちゃん誰も信用してないのね……」
【いっちゃんってだれ?】
「いや……はは……」
【9番のイルファさんの事。珊瑚ちゃんが作ったアンドロイド】
「!!」
【珊瑚ちゃんが!?】
危うく喋る所だったようだ。
そうだよなぁ普通驚くよなぁ俺も最初驚いたし。
おーおー雄二開いた口塞がってねぇ。
「珊瑚ちゃん、これからどうしようか?」
【イルファさんを探す、で問題ない?】
「やっぱり、みんなの好きな人を探したらええと思うねん」
【うん。いっちゃんなら、多分だいじょぶやと思うねん。それに、会いたい】
そこで珊瑚ちゃんはちょっと悲しそうな顔をする。
「レーダー在るし、人は探しやすいと思うから……」
【でも、貴明たちにも会いたい人おるやろ?みんな、探せれば】
「そうだね。それが良いかな」
【そうだね。手間は変わらない】
もういっちょ。
フォローは感想スレで。
未だ呆けている雄二たちの方を見て、問う。
「それで良いか?」
「うん。あたしは」
「ああ……いいぜ」
「分かった。じゃあ、珊瑚ちゃん。そうしようか」
「うん」
珊瑚ちゃんは、心なしか陰った笑顔で答えた。
ふと、雄二の方を見てみると何かを紙に書いていた。
【珊瑚ちゃん、頼む!この島を出たら俺にメイドロボを作ってくれ!】
「……」
返す言葉も見つからない。
俺はその上から二つの文字を置いた。
【却下】
「瑠璃ちゃん、ごはんできた?」
四人で台所の方に向かった。
そこにはぐったりとした瑠璃ちゃんが。
「さんちゃん……うち、やったで……」
「瑠璃ちゃん?瑠璃ちゃん!?瑠璃ちゃーん!!」
「瑠璃ちゃん!?大丈夫!?瑠璃ちゃーん!!」
その疲れ切った顔には安らかな微笑が浮かんで……
ああ、瑠璃ちゃんが……
「そこ、馬鹿やってねぇで出来たんなら食おうぜ」
「やかまし」
しかし瑠璃ちゃんが疲れ切っているのも事実。
早く食べるのも選択肢としては悪くないだろう。
因みに、瑠璃ちゃんが疲れる原因となった少女は新城さんに慰められていた。
「マルチちゃんは食べられるの?」
「ぐすっ……いえ、むりでずぅ〜〜……」
「じゃあマルチちゃんはどうするの?」
「じゃあ……みなさんにお料理をお配りします〜」
「おおおおおおーーーーー!!!!!メイドロボの本領発揮ぃーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「お前、こんな時にまで」
「雄くん……やっぱり……」
「らぶらぶや〜」
「このヘンターイっ!!」
「ぐはっ!!」
エキサイトした雄二の両足の間に瑠璃ちゃんの鋭い蹴りが炸裂する。
男としては……見るに耐えない。
そして後には、己の欲望に忠実足り得た漢の屍が残る。
「南無」
「死んでねぇ……」
「おお。無事か」
「……そう見えんなら……眼鏡掛けろ……」
そんなこんなで夕餉の時間。
瑠璃ちゃん謹製のサラダに麻婆豆腐、焼き魚。
組み合わせはともかく、持ち難いもの、日持ちしないものばかり選んだ辺りも流石だ。
テーブルの真ん中に煎餅の様なおこげの様な形容し難い物体が鎮座している。
よく見ると細い麺のようなもので構成されているようであった。
……食べ物……オブジェ……どっちだろう。
ともかく、瑠璃ちゃんの美味しい料理が冷めない内に頂こう。
「いただきます」
と、みんなで言おうとした時に、それは始まった。
「――みなさん聞こえているでしょうか」
何事かと思いながら聞こえてくる声に耳を傾ける。
「これから発表するのは……今までに死んだ人の名前です」
場が、凍る。
誰も何も言えない。
引き延ばされた時間の中。
自分の思考が今の声を理解することを拒む。
聞こえた。
憶えた。
憶えてる。
でも、分からない。
理解が、出来ない。
「――それでは発表します」
続く放送が聞こえてきた。
その瞬間、引き延ばされた時間が戻りさっきの言葉が飲み込めた。
「ちょ……これ……」
「貴明」
珊瑚ちゃんが悲しそうな顔で俺を見つめている。
人差し指を唇に当て、ゆっくり、首を振る。
……頷き返す。
分かった。
『これ』は、聞かないといけないものだ。
「002 藍原瑞穂
007 伊吹公子
013 岡崎直幸
015 緒方理奈」
これは番号順なのだろうか。
イルファさんはもう大丈夫なのだろうか。
タマ姉とこのみは大丈夫なのだろうか。
ああ駄目だちゃんと聞けちゃんと聞かないといけないものだ。
「018 柏木楓
033 草壁優季」
ガタン!
……番号順に読み上げているのかそれならもうイルファさんは大丈夫なのか
タマ姉の番号はもうすぐだタマ姉は大丈夫なのかタマ姉ならきっと大丈夫だよな
ああでもこのみはどうなんだろう上手くタマ姉や春夏さんに合流出来ているんだろうか
……あれ?
みんなどうしたんだ?俺の方なんか見て。
何でそんなびっくりした顔してるんだ?
放送聞き逃しちゃうぞ?
これはちゃんと聞かなくちゃいけないのに。
「貴……明……?」
「どうしたの?瑠璃ちゃん」
「068 月宮あゆ
092 伏見ゆかり」
放送は続く。
タマ姉は大丈夫だ。
良かった。
「いや……どうしたって、お前が……」
「俺?」
俺がどうした?
俺がどうかしたのか?
「貴くん……泣いてる……」
「え?」
頬に手を当てる。
なんだ?これは
濡れてる
泣いてるって言ってたよな
ああ、じゃあこれは涙か
何で泣いてるんだ?
あれ?それに俺立ってる
いつの間に?
ああ、麻婆豆腐がちょっとこぼれてる。
勿体無い。せっかく瑠璃ちゃんが作ってくれたのに。
「――以上です」
あ、放送が終わった。
まずい。途中から聞き逃してた。
どうしよう。
「貴明……草壁優季、って娘、知ってるのか?」
「? 知らないけど。どうして?」
「だってお前……」
雄二は続きを言いよどむ。
なんだってんだろう。
「貴明……じゃあ、なんで泣いてるん?」
分からない。
何で俺は泣いてるんだろう。
クサカベユウキ。
聞き覚えはない、はず。
一回や二回位は聞いたことも在るかも知れないけど、そんなの他人と変わらない。
俺は何処で泣いたんだ?
草壁優季という名前が出たときなのか?
何で知らないはずの名前で泣いているんだ?
最初から泣いていたわけじゃないんだろう?
本当に知らないのか?
忘れているだけじゃないのか?
忘れてしまうような相手に俺は泣いているのか?
でも、何で胸が痛いんだろう
あああ分からないわからない分からないワカラナイ
あっ
「貴明……」
俺は、いつの間にか珊瑚ちゃんの腕の中にいた。
「貴明……思い出せへんの?」
俺は黙って珊瑚ちゃんの胸の中で首肯する。
「つらいん……?」
「うん……」
多分、今も未だ涙は流れているのだろう。
何だ?
何を忘れているんだ俺は?
「ムリ、せんでええよ」
「う……あ……」
嗚咽がこぼれる。
駄目だ……
分からない……
ほいさ
「瑠璃ちゃん」
「あ……な、なに?」
「瑠璃ちゃんも……」
珊瑚ちゃんが瑠璃ちゃんを手招く。
「……うん」
きゅっ
瑠璃ちゃんも抱いてくれる。
「貴明……」
「う……」
「なんや分からんけど、貴明がつらいのはウチらもつらいから……」
瑠璃ちゃんの声が優しく響く。
「今は、泣いてええよ」
その言葉を聴いた瞬間、俺は泣いた。
今度は、涙を流しているのが自分でも分かった。
声を殺して、双子の姉妹に抱きついて、ひたすら泣いた。
草壁優季が誰なのか、どうして俺が泣いたのか、それは分からなかったけど。
この二人がここにいて、俺を想ってくれるのは確かなことだった。
「……落ち着いた?」
「うん……ごめん」
散々泣いて、一応の平静は取り戻した。
未だ目は赤いだろうし胸の奥は少し痛いけど、多分大丈夫だ。
草壁優季が誰かは思い出せていないけど……
「役得だな。このもて男が」
雄二が茶化す。
こればっかりは返す言葉も無い。
瑠璃ちゃんも俺の隣で赤くなっている。
「うん。だって、ウチも瑠璃ちゃんも貴明のことすきすきすきーやもん」
「……」
雄二も二の句が次げなくなっている。
「と、取り敢えず!この先どうするかもう一回話し合おう?ね!」
新城さんが拾ってくれた。
助かった。
「そうだな。状況が変わった」
雄二は新城さんに目配せした。
新城さんが頷く。
「マルチちゃん。ちょっと、さっき家の中を探した時に散らかしちゃったところ掃除しよう?」
「はい。お手伝いします〜」
……本当ごめん。マルチちゃん。
マルチちゃんが行ったのを確認してから、さっき使っていた紙を瑠璃ちゃんに渡す。
驚いて喋らない様に唇に指を当てながら。
「!!」
やっぱり驚いた。
声は漏れなかったんだ。上等だろう。
でも一番最後のところで少し呆れて雄二の方をじと目で見ていた。
「俺は、草壁さんを知っている人を探したい。……凄く不確定であることは分かっているけど」
「そうだな。不確定だ。いるのかどうかも分からんしな。それでもか?」
「いや、ついでで良いよ。誰かに話を聞ける時に一緒に聞くくらいで」
心のもやを払うために皆を危険に合わせるなんてとても出来ない。
そうだ。大事なものは、ここに、ある。
気付けば、瑠璃ちゃんが紙に何か書いていた。
【気づいたことなら、ひとつある。この家、新しい】
「そういえば、さっきの放送途中から聞き逃しちゃったんだ。教えてくれない?」
【新しい? どういうこと?】
「あ……ウチも、途中から……」
【キッチン見てて気づいたんやけど、流しもどうぐも食器まで新品やった】
「安心しろ……っつってもいいのかわかんねぇけど、姉貴とこのみは無事だった」
【それってどういうことだ?家が新しいと何かあんのか?】
「草壁優季の後はな、椎名繭、醍醐、月宮あゆ、伏見ゆかり、古河秋生、松原葵、森川由綺って名前があった」
【ちょっと待って。もしかしたら、このために建てられた物かもしれへん、ってこと?】
「……俺の知ってる名前は無い。無い、はずだ」
頬に手をやる。
未だちょっと泣いた後は熱いけど、新しい涙は流れていなかった。
「ウチも知ってる名前は無い」
【そこまでかんがえてなかったけど、なんやおかしいな、って】
「そうか。……良かった、な」
【じゃあ、この島はあのクソウサギ達がこれだけの為に用意したもんだってのか?】
「それでも、それだけの人が死んでるんやね……」
【かもしれへん。ウチら、ここに来るまで森の中きたんやけど、一匹も動物見んかった】
雄二も珊瑚ちゃんも沈鬱な顔。
こんな話、カモフラージュのためなんかにしたくない。
していい、もんじゃない。
「ねぇ、それよりさ。せっかく瑠璃ちゃんが作ってくれたんだから食べよう?」
努めて明るい声で言ってみた。
どれほど効果が在ったかは分からないけど。
【で、これからけっきょくどうするん?】
【皆の探し人探しでいいんじゃないか? 後は草壁優季の情報収集。レーダー頼りにしてなるべく知らない人とは会わないようにして行こう】
【悪いな。俺のは本当についででいいから】
【後は、この首輪を外した後にこの島を出る方法を考えな】
食事している時は黙っていても不自然ではないので会話が進む。
……これも会話と言うのだろうか。
【あの兎の言っていた生き残った人を帰すって、本当だと思う?】
「「あっ!!」」
珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが同時に声を上げてしまう。
「仕方ねぇなぁ。慌てて食うからだぜ」
「あ……珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、大丈夫? 火傷しなかった?」
「うん……だいじょぶ。瑠璃ちゃんは?」
珊瑚ちゃんはすぐに気づいて相槌を打ってくれる。
「う、うん。だいじょぶ」
雄二、ナイス。
【正直、考えてへんかった】
【ウチも。あんな、今はちがうよ?ちがうけど、ほんとは、さいしょは】
【ストップ。その先は、言わなくていいよ。この島は、狂ってる。呑まれちゃう事もあるよ。大切な人がいるほど】
「貴明……」
「ん?」
「あんがと」
「いや……」
【俺もそれは考えてた。日本は法治国家だ。こんなことがばれたら何がやってるにせよ唯で済むとは思えない】
【そうだな。こんな大規模で悪趣味な犯罪やらかす奴だ。最後に残った一人を帰すか残すか。考えたくないけど】
【ここまでやる奴が最後の一人を殺すのに躊躇するとは思えねぇ。反吐が出るが、多分、な】
【だから主催者がここに何か俺達が帰る手段を用意しているとも思えない。あるとしたら】
【奴らの帰る手段だろうな。ここが何処かわかんねぇ以上泳いだり筏組んだりで帰れるとは思えねぇ】
【でも、こんな凄い武器ウチらにくれる人たちやで。多分、それ以上に準備してる】
【襲撃は無理、か】
黙って食べながら解決策を考える。
しかしそう簡単に浮かぶわけも無く。
手元の麻婆豆腐が空になりそうな所で瑠璃ちゃんが何か思い出したように顔を上げた。
【そういえば、あのウサギ、人間とは思えへん人がいる、って言ってへんかった?】
暫し、呆然。
【いっとった。ある程度制限されている、って】
【でもよ。それって本当なのか?能力が制限されるってんな制限されるような能力があるってのか?漫画かよ】
【でも、もし本当でその人達が仲間になってくれて、その制限が解けたら、強力な仲間にならないか?】
【嘘だったらそん時また考えりゃいい、か】
【じゃあ、決まりか?珊瑚ちゃん、それでいい?】
【ええと思う。じゃあ、
1.いっちゃんたちを探す
2.帰る方法を探す
3.(ウサギの言っとったことが本当だったら)すごい人を探して仲間になってもらう
4.(これも本当だったら)その制限を解く
この四つ?】
【ただし、三番は本当に信頼できると思った人じゃ無いとまずいと思う】
【そやね。すごい人がさつじんきやったらたいへんや】
【後、あんまりこれ知らない人に見せねぇ方がいいと思う。万一参加者に気付かれている事を気付かれたら最悪ドカンだ】
【それと、もう今日は遅いから、ここに泊まった方がええと思う】
【そうだな。交代でレーダー見ながら見張りを立てたほうがいいだろう】
【それでいいね。じゃあ、新城さんを呼ぼう。新城さんだけ食べてない】
「新城ー!お前も片付けその辺にして飯食っちまえよー!」
「分かったー!」
声が返ってきて暫し、新城さんがやって来た。
マルチちゃんも連れて。
「すごいんだよー。マルチちゃん掃除はちゃんとできるの」
「はいー。おそうじは浩之さんに教えてもらいましたー」
「掃除は終わったのか?」
「ううん。あと少し」
「じゃあ俺がやるよ。マルチ、悪いけどもう少し手伝ってくれねぇか?」
「はい、もちろんです〜」
「雄くん、マルチちゃん襲っちゃ駄目だよ〜?」
「襲うかっ!」
「私、襲われるんですか?」
「襲うかっ!」
「はわっ!」
「うおわっ!悪い!」
新城さんはお腹を抱えて笑いを堪えていた。
……酷いなぁ。
雄二とマルチちゃんがまた掃除に行ったのを確認して、新城さんに紙を渡した。
「……!」
今度はちゃんと声を堪えていた。
【意見は?】
【ない。これでいいと思う】
【それじゃ、決定で】
取り敢えず、紙は珊瑚ちゃんに渡した。
すると、瑠璃ちゃんが珊瑚ちゃんから紙を取って、何かちょっと書き加えた。
すぐに珊瑚ちゃんにその紙を返して、瑠璃ちゃんは赤くなった。
珊瑚ちゃんはちょっとそれを見て、笑顔になって瑠璃ちゃんに頷いた。
それは、一瞬しか見えなかったけど、見間違いじゃなかったらこう書いてあった。
【さんちゃん、あとでふりがなかいて】
そんな瑠璃ちゃんが凄く可愛いと思った。
姫百合珊瑚
【持ち物:レーダー、工具セット、救急セット、目覚まし時計、鏡】
【状態:冷静、僅かな擦過傷、切り傷(手当て済み)】
姫百合瑠璃
【持ち物:シグ・サウエルP232(残弾8)、フライパン】
【状態:やや冷静、擦過傷、切り傷(手当て済み)】
河野貴明
【持ち物:モップ型ライフル、木刀、フライパン、目覚まし時計】
【状態:やや冷静、右腿に打撲】
向坂雄二
【持ち物:ガントレット、包丁、鏡】
【状態:冷静、股間に打撲】
新城沙織
【持ち物:フライパン(カーボノイド入り)、包丁、目覚まし時計】
【状態:やや冷静、健康】
マルチ
【持ち物:大鍋、カッターナイフ】
【状態:健康、掃除が出来て御満悦】
共通
【持ち物:デイパック、水、食料の補給、金属製のナイフ、フォーク】
【時間:一日目午後八時頃】
【場所:I-07の民家】
【状態:イルファたちを探す、帰る方法を探す】
426431437442443449感謝
瑠璃子が沙織を慰めている姿を見ながら雄二は今の自身を呪った。
(――女にやつあたるなんて最低だな俺って………)
一応フェミニストを自負している普段の自分では考えられないことだ。
普段の自分ならば真っ先に沙織に駆け寄って、いつものノリで沙織を慰めて、ついでに女性から見た自身の男としてのレベルを上げることくらいはしていたはずだ。
(――少しずつみんな心や頭のどこかがおかしくなっていっちまうのかな?)
この島で一番重要なのは生き残ると同時に精神を強く維持することなのかもしれないと雄二は思った。
そう。人は弱いものだ。体も心も―――
「――雄二。それと、みんな……ちょっといいかな?」
「貴明?」
今度は貴明が口を開いた。
「どうしたんですか貴明さん?」
先程とは貴明の様子が少し変であることに気がついたマルチが貴明に聞いた。
「―――俺。みんなと一緒に診療所には行けない………このみたちを探さないと…………」
その言葉を聞いた瞬間、雄二が貴明に詰め寄った。
「な…なんでだよ貴明!?」
まさかおまえまで変になっちまったのか、と雄二が言おうとした瞬間、貴明が話を続けた。
「――草壁優季の……俺の知り合いの名前もあったんだ…………今の放送で…………
俺も今やっと気がついたんだけど……」
――草壁優季。その名が放送された瞬間、貴明の脳裏にある記憶の断片が蘇ってきた。
それはまだ貴明が幼かった頃の記憶。
忘れてしまっていた。大事な記憶。
ある少年と少女の……
幼き日に誓った約束の記憶――――
【場所:I−7】
【時間:午後6時15分】
河野貴明
【所持品:Remington M870(残弾数4/4)、予備弾×24、ほか支給品一式】
【状態:健康】
向坂雄二
【所持品:死神のノート(ただし雄二たちは普通のノートと思いこんでいる)、ほか支給品一式】
【状態:健康。困惑】
新城沙織
【所持品:フライパン、ほか支給品一式】
【状態:健康。やや精神衰弱】
マルチ
【所持品:モップ、ほか支給品一式】
【状態:健康。困惑】
月島瑠璃子
【所持品:ベレッタ トムキャット(残弾数7/7)、ほか支給品一式】
【状態:健康。診療所へ行く。隙をついてマーダー化するつもり】
【備考】
・『月島瑠璃子は微笑んでいる。』の続き
・B系デスノあり、Jルート用
・後編は後程
古河秋夫は診療所へ続く道を一心不乱に走っていた。秋夫には是が非でも娘の渚や妻の早苗を守らねばならない理由があった。
先ごろ冗談で上に撃ったマグナムの一撃で、人が落ちてきた事は秋夫にもすぐ分かっていた。そして、それが物言わぬ骸となっていたことにも。
まさか人がいて、しかも死んでいたとは思いも寄らなかった秋夫は動転して思わずその場から走り去ってしまったのだが、後々になってからいかに自分が取り返しのつかないことをしてしまったのかと後悔していた。
拳銃を使って自殺するのは簡単だった。しかし今ここで自分が死ねば、誰が娘や妻を守れるのか。愛する者を守るためにも、秋夫はまだ死ぬわけにはいかなかったのだ。
せめて、無事に妻子が脱出できるまでは。俺を許してくれ、お嬢ちゃん。
息が切れそうなほどの全力疾走。自分の心臓の音以外は、何も聞こえていなかった。
そしてようやく、秋夫の目が診療所を捉えたとき――悲劇は起こった。
「わたしは、わたしは絶対にあなたたちのようにはなりません!」
聞き覚えのある声。娘の声。何を言っているかはわからなかった。ただ、聞こえた娘の悲鳴にも近い声から、何か不吉な、それも最悪の事が起こっていると秋夫は確信した。
S&W M29を握り締め、開いていた窓に登り、秋夫は中を見下ろした。――そして、彼は二度目の絶望を目の当たりにすることになる。
血溜まりの妻の姿。鉈を振りかざし、今にも襲いかかろうとする女性。そして、震えながら、涙を流しながら、それでも気丈に佇む娘の渚。
彼の脳が何か考えるよりも先に、S&W M29の銃口を鉈の女性に向けて――発砲した。
「悔しければ、仇を討ちたければ、生きたければ、……理由はなんでも良いわ。それを手に取りなさい。そうしたら生かしてあげる。取らないならば、あなたもすぐ大好きな人のいるところへ送ってあげる」
天沢郁未が、まだ何が起こったのか分かっていない渚に向けて冷たく言い放つ。渚は母の遺体を抱きかかえたまま、涙を流している。
「…どっちにするか、早く返答を貰いたいものね。…そうね、一分だけ待ってあげる。その時までに決めなさい」
「郁未さん、何もそんなに待つ必要はないでしょう?」
相変わらず不機嫌なまま、鹿沼葉子が郁未に苛立たしげに言う。
「…お別れの時間を与えてあげただけよ。どっちにしろ、那須宗一を片付けたらこの子も殺すから」
郁未がそう言うと、情けですか…それもいいでしょう、と言って葉子が黙りこむ。
一方の渚は、骸となった母の死体を見ながら必死に語りかけていた。
(お母さん、お母さん、冗談ですよね? 冗談だって言って笑ってくださいっ! いつもみたいに笑って、それから…)
必死に揺り動かしても、ピクリとすら動かない母。次第に、渚の心の中を絶望が支配していった。
(お父さんっ、朋也くんっ…わたしはどうしたら、いいんですか?)
混乱する頭で、自分がどうしたらいいのか考える。実際にはそれは数十秒にも満たない間だったが、渚にとっては、それは永遠にも等しい時間であった。
答えをくれる者も、助言をしてくれる者もいない。渚は母と、近くに置かれた鉈を見ながら必死に考えた。
(お母さんは、この人達に殺された…)
眼前に見える、二人の殺人者を見上げる。彼女らは悠然と、渚を見下していた。
(お父さん、朋也くん…ごめんなさいです)
祈りをささげるように、渚が目を閉じた時だった。
「一分よ。返答を聞かせてもらいましょうか」
郁未が一歩詰めよって言った。渚はゆっくりと目を開けて、毅然とした表情で郁未を見た。その眼光に、郁未がわずかにたじろぐ。
「…わたしは、殺し合いをするつもりはありません」
すぐ横の葉子がぴくりと目を吊り上げるのが見えた。
「あなたたちは…あなたたちは、絶対に許す事はできません。ですけど、もしわたしがそこの鉈を取って、あなたたちと殺し合いをすることを選んだら、わたしもあなたたちと同じです。同じ殺人鬼です。そうなったら、お母さんも悲しみます」
渚は一呼吸置いて、そして大声で言い放った。
「あなたたちの思い通りにはさせません! ですからその鉈は必要ありません。お返しします。
わたしは、わたしは絶対にあなたたちのようにはなりません!」
それは二人に対する宣戦布告だった。渚は震えながら、それでも毅然とした態度を崩さなかった。
(これでいいんですよね、お母さん)
より強く、母の体を抱きしめる。気のせいかもしれなかったが、それでこそわたしの娘です、という声が聞こえたような気がした。
この状況に苛立ったのは葉子だった。
早苗といい、この渚といい、どうしてことごとく癪に障ることを言うのか。侮辱されただけにとどまらず、あまつさえ下衆な殺人鬼扱いするというのか。ギリッ、と葉子は奥歯を噛んだ。
――いいでしょう。その宣戦布告、受けて立ちます。
葉子は鉈を素早く引き抜き、薙刀を渡してから郁未に言う。
「郁未さん…この子は、私にやらせて下さい。私の手で仕留めたい」
鬼気迫る葉子の表情に驚きを覚えながらも、郁未は冷静に答える。
「ええ、分かったわ。…それじゃさよならね、古河渚。あの世でお母さんとよろしくやりなさい」
郁未が言い終わると同時に、葉子が鉈を振りかぶる。その時だった。
ズダァン!
激しい轟音と共に、葉子の肩を何かが貫く。痛みに耐えかねた葉子が鉈を取り落とした。
「!? 何者なの!」
郁未が叫び、音のした方向を見る。その窓枠には一人の男が銃を構えて立っていた。
――古河秋夫。彼は額に青筋を浮かべて怒りの形相を露にしていた。
「てめぇ…人様の娘と、妻に手ェ出しやがって! ただじゃ済まさねェぞ!」
島全体に響き渡るような声で秋夫は叫ぶ。秋夫は窓枠から飛び降り郁未と葉子に対峙する。
「お父さんっ!」
「渚は逃げろっ!」
駆け寄ろうとした渚を制して秋夫は言う。そしてちらりと部屋の隅で動いた佳乃を見てから、
「そいつも連れてな。いいか、何かしようなんて考えるな。突っ走って逃げろ」
「で、でも…」
「邪魔なんだよ、さっさと行け!」
冷たく突き放した父の言い方に体を強張らせながらも、渚は佳乃を抱えて逃げる。
「っ、葉子さん、動けるなら追って!」
郁未が言うよりも前に逃がすまいと葉子が肩を押さえたまま追おうとするが、秋夫がもう一発発砲する。それは命中こそしなかったが、葉子の頬をかすめた。
「逃がすと思うか」
郁未は舌打ちしながら秋夫に挑発的に言う。
「実の娘に対して、ひどい言い様だったわね。父親らしくできないの?」
「悪いな。俺はもう人一人殺してんだ。殺人鬼が父親の看板を掲げられるかっての。お互い殺人鬼同士、仲良くやろうぜ」
そして床に転がる早苗の遺体を見る。
(悪りぃな、俺もそっちに行くからよ。…こいつらをやってからな)
「郁未さん…」
葉子が側に来て耳打ちする。
「この男、那須宗一と同等かそれ以上の脅威です。二人で、しかも本気でかからないと命取りになります」
「分かってるわ…予想外だった。まさかこんなにも早く父親が来るとは思わなかった」
「挟み撃ちにしましょう。二対一なら、確実に勝てます」
郁未がこくりと頷き、二人が左右に分かれる。
秋夫は二人を前にしても微動だにしない。むしろ不敵に笑ってみせた。
「殺人鬼二人か。悪くねぇな…地獄への片道切符、てめぇらの命で買ってもらうぞ!」
【時間:午後6時10分】
【場所:I−07】
古河 渚
【所持品:なし】
【状態:佳乃を連れて逃走】
天沢郁未
【所持品:薙刀、支給品一式(水半分)】
【状態:右腕軽症(手当て済み、ほぼ影響なし)。ゲームに乗っている。】
鹿沼葉子
【所持品:鉈・支給品一式】
【状態:肩をケガ。行動には概ね支障なし。ゲームに乗っている。】
霧島佳乃
【所持品:なし】
【状態:睡眠中】
古河秋生
【所持品:S&W M29(残弾数3/6)、ほか支給品一式】
【状態:憤怒。郁未と葉子の息の根を止めることが目的】
備考
【早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。『突き付けられた選択』の続き】
463 :
電波紡ぎ:2006/10/15(日) 02:20:26 ID:cX6/RT/R0
ゲーム開始直後、月島瑠璃子は樹の上に登った。
支給された品は何処かの鍵、戦闘に役立つものではなかった。
見知らぬ他人の生死に特段の興味はない。
安否が気になる人物はいるが、さしあたって知る術はない。
従って、川の流れを眺めながら国の行く末を案じるが如く、
しばらく様子を見ることにしたのだった。
正午、彼女は封じられていたはずの電波の力が戻ってくるのを感じていた。
この島は、哀しみの電波と狂気の電波に満ち溢れている。
特に、狂気の電波は島の中央部にある山の上空から多く飛んでくる。
あるものは一人生き残るために躊躇いなく他者を殺し、
あるものはその場で協力することにした同胞を無残に殺され嘆き悲しむ。
人が死ぬとき、人を殺すときに発せられる電波はあまり好きではない。
いつしか彼女は、この殺し合いを止めたいと考えていた。
今なら電波が使える。きっと何か出来るはずだ。
464 :
電波紡ぎ:2006/10/15(日) 02:21:34 ID:cX6/RT/R0
対抗するのなら、同じく電波を扱える兄と祐介に協力を仰ぐべきだろう。
しかし、祐介と拓也が協力し合うことなどありえないことはわかっていた。
あの夜の出来事がまだ後をひいているからだ。
また、兄の拓也は間違いなくゲームに乗っている。
今の彼は、瑠璃子がそばにいないと正気を保っていられない状態である。
とりあえずは現状を把握すべく、電波を調べることにした。
どうやら祐介は、二人の少女と共に行動しているようだ。
そのうち一人は裏があるようだが、しばらくは大丈夫だろう。
(くすくす、長瀬ちゃん、祐介おにいちゃんなんて呼ばれて微妙に鼻の下が伸びてるね。
後でお仕置きだよ)
チリチリ
(この感覚は……)
「祐介おにいちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
(これは瑠璃子さんの電波……力は封じられているのではなかったのか?
電波が使える?)
465 :
電波紡ぎ:2006/10/15(日) 02:22:18 ID:cX6/RT/R0
続いて拓也の様子を探る。彼はちょうど、源蔵に吹き飛ばされたところだった。
彼自身の精神状態もだいぶ参っているようである。
止めはさされていないようだが、このままではまずい。
彼女はそちらに向かってみることにした。
月島瑠璃子
【時間:午後5時ごろ】
【場所:H-9】
【持ち物:鍵、支給品一式】
【状態:主催者に対抗する、拓也に会いに行く、後で祐介にお仕置き】
→034, →126, →174, ルートD
無駄なことが好きだな
467 :
間に合った男:2006/10/15(日) 03:48:22 ID:KRgYTy4Q0
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
佳乃の断末魔の悲鳴を聞きながら、早苗はがむしゃらに走り続けた。
後ろを振り返る余裕なども無く、その手に感じる我が子の温もりだけを感じながら。
息が切れ、ガラスで切れた痛みと戦いながらも懸命に走り続けた。
「はぁ……はぁ……」
後ろからは渚の切なそうな声が聞こえてくる。
大人の私でも限界の力で走っているのだ、元々病弱な渚には相当辛いのではないだろうか。
少しスピードを落とし、渚に声をかけようと後ろを振り返った早苗が見たものは、また非常なる現実だった。
佳乃のものであろう返り血を浴び、無表情で、いやどこか冷たい笑顔を浮かべた郁未と葉子が
武器を携えて追ってきているのが映った。
「――!!」
早苗の顔が絶望に染まる。その距離約300メートル。
自身の体力ではすぐに追いつかれてしまう。
どうすれば?どうすれば?どうすれば?
考える間などあろうはずもなく、自分たちに出来るのは力の続く限り逃げることしかなかった。
渚を握る手がギュッと強まり、全力で駆け出そうと足の力を振り絞った。
その瞬間だった。
早苗の身体から流れ落ちる血が腕を伝い流れ落ち、渚とを結んでいた手がヌルリと滑りゆっくりと離れていってしまう。
勢いあまり転倒する渚。
「渚ぁぁっ!」
慌てて駆け寄った我が子の前にみるみるうちに近づいてくる殺人鬼二人。
一心不乱に庇う様に手を大きく広げ、二人の前に立ちふさがる。
468 :
間に合った男:2006/10/15(日) 03:48:52 ID:KRgYTy4Q0
「――鬼ごっこは終わりですか?」
息一つ切らさずに葉子は言い放つ。
早苗は無言で二人の顔を交互に見つめ、睨みつける。
自身に出来る最後の抵抗だった。
「あなたも十分悪人気取ってると思うけど?」
だがそれも二人の前には何も効果が無く、ただ嘲る様に郁未と葉子は笑いあう。
「……それでは今度こそ、さようならですね」
葉子が大きく鉈を振りかぶった。
早苗は目をつむり、死を覚悟する。
「願わくば、渚だけでも助かりますように」となんとも甘い願いを神に祈りながら。
ダァン!
葉子の鉈は振り下ろされることは無く、代わりに一発の銃声が響き渡った。
おそるおそる開いた目には、額から血を流しながら固まった葉子の姿。
その姿がまるでスローモーションのようにゆっくりと地面へと落ちていった。
「――待たせたな、早苗、渚」
忘れることの出来ない、強く優しい声。
何度聞きたいと願ったことだろうか。
早苗の目からはボロボロと涙が流れていた。
倒れた葉子を唖然としながら見下ろす郁未。
銃弾の放たれた方向へ視線を移し、声の主をギラリと睨みつける。
怒りの形相で同じように郁未を睨みつけるその男の名前は――古河秋夫。
469 :
間に合った男:2006/10/15(日) 03:49:35 ID:KRgYTy4Q0
古河 渚
【所持品:なし】
【状態:疲労】
古河 早苗
【所持品:なし】
【状態:疲労・安堵】
天沢 郁未
【所持品:薙刀】
【状態:右腕軽症(手当て済み、ほぼ影響なし)。ゲームに乗っている。】
鹿沼葉子
【所持品:鉈】
【状態:死亡】
古河秋生
【所持品:S&W M29(残弾数4/6)、ほか支給品一式】
【状態:激怒】
備考
【早苗・渚・佳乃の武器と支給品一式、郁未と葉子の支給品一式、宗一の水と食料は診療所内】
【『間隙』の続き】
470 :
継がれる意思:2006/10/15(日) 04:40:34 ID:r8YIk9pW0
折原、そっちは調子はどうだ?
お前は放送で呼ばれなかったしまだ無事だよな?
大体お前、そう簡単に死ぬようなタマじゃないしな。
俺は今、長岡さんや耕一さん、川澄さんや吉岡さんと一緒に平瀬村を目指している所だ。
一癖ありそうな奴ばっかりだけど、ゲーム開始から半日足らずでこんなに仲間が集まったのは、
幸先が良いっていえる事なのかもな。
もちろん裏切られる可能性も考えないといけないけど、今一緒にいる連中は信用出来る………と思う。
勘だけど、何故か確信に近いレベルで、そう思えるんだ。
だけど、今はあまり雰囲気は良くないんだ。放送があって以来、空気が重い。
あの後武器の分配だけは済ませたけど、それ以降会話が無い。
みんな色々と考え込んでるみたいだ。
なあ折原、こういう時こそ俺の出番だよな?
………………………………………………………………………………………………………………
「なあ、長岡さん」
住井護が横を歩く長岡志保に声を掛けていた。
「ん、なに?」
「さっき情報交換の時に何回か、耕一さんの事を変態さんって呼んでたよな?何でなんだ?」
ピクピクッ!!
耕一の顔が引きつる。これ以上は無いというくらい、嫌そうな表情だ。
「なになに?志保ちゃん情報が聞きたいわけ?」
一方の志保は、目を輝かせている。
「ああ、頼む。なんか、面白そうだ」
「あれはねえ、ゲームが始まってすぐのことなんだけど…」
「ちょっと待ったぁーーっっ!!」
慌てて志保を制止する耕一。
471 :
継がれる意思:2006/10/15(日) 04:42:10 ID:r8YIk9pW0
その様は正に、必死である。しかしそれも当然だ。
志保の事だ、色々と脚色して話を伝えるに決まっている。
男の名誉がかかっているのである。
「ん、耕一さんどうしたんだ?」
「いや、あれには事情があってだな……、まあ、とにかくその話題は禁止にしてくれ、頼む」
そういって苦笑いしながら、両手の手のひらを顔の前で合わせてお願いのジェスチャーをする耕一。
「隠し事っスか?面白そうだから聞かせて欲しいッスよー」
「うーん、教えてあげちゃおっかなぁ、どうしようかなぁ」
「勘弁してくれ〜〜」
ニヤニヤしながら聞き出そうとする住井とチエ、必死に制止する耕一。
教えたくてたまらない様子で、ウズウズしている志保。
そしてその話題を気にせずに黙々と歩き続ける舞。
この構図は、10分程続いた。
最終的に耕一は秘密を守り抜いた。
耕一は男の名誉をかけた戦いに勝利したのである。
住井は実の所、
耕一が志保に変態と呼ばれる理由について触れられたいであろう事は予想していたが、
敢えてその話題に触れた。
耕一への嫌がらせというわけではなく、その話題なら場の空気が和むと思ったからである。
住井の試みは成功し、一同の空気は幾分か柔らかくなっていた。
周囲への警戒は怠らないものの、会話をしながら歩き続ける一同。
時折各自の顔に笑顔も浮かんでいた。
472 :
継がれる意思:2006/10/15(日) 04:43:00 ID:r8YIk9pW0
しかし、彼らが街道に近付いてきた時、それは起こった。
「………何か臭う」
マイペースで歩き続けていた舞が、突然口を開いた。
「これは………、血の臭いか!?」
そう言って耕一と舞は臭いのする方向へと駆け出していた。
残りのメンバーも慌てて後を追う。
走った末に彼らの辿り着いた先には、一つの惨劇の結末があった。
倒れたまま寄り添う二人の体。
月宮あゆと、草壁優季の遺体だった。
上から上着をかぶせられていて怪我の状態は把握し切れない。
把握しきれないが、飛び散った血の量からいって、二人とも既に死んでいる事は明らかだった。
「こんな、酷い………。」
住井以外はまだ直接、人の死体を見たことが無かった。
死体を初めてみたショックは大きく、一同は暫くそのまま黙り込んでいた……。
暫くして、諦めきれないのか、耕一が遺体に近付き上着の下を覗き込んだ。
……そしてすぐに表情を曇らせていた。
「片方の子の制服……、私達と同じ学校みたいね」
「そうッスね、放送に私の知り合いの名前は無かったッスけど……」
「……みんな、行こう」
耕一はそれだけ言うと、歩き出した。
みんな、その言葉に従って歩き出した。
このゲームにおいて死者にしてあげれる事は、殆ど無い。
死体を埋めるのは時間がかかりすぎる。
「誰だか知らないけど……、お前達の分も生きてみせるからな」
耕一は一度だけ振り返り、そう言っていた。
そう、今彼らが横たわる二人に対して出来る事は、
二人の分も頑張って生き続ける事だけであった。
473 :
継がれる意思:2006/10/15(日) 04:43:35 ID:r8YIk9pW0
【時間:1日目午後7時頃】
【場所:現在はg-03の街道】
『川澄舞(028)』
【所持品:日本刀・支給品一式(水は空)】
【状態:普通。祐一と佐祐理を探す。平瀬村に向かって移動中】
『吉岡チエ(117)』
【所持品:日本刀・支給品一式(水は空)】
【状態:普通。このみとミチルを探す】
『住井護(059)』
【所持品:投げナイフ(残:2本)・支給品一式(水は半分ほど)】
【状態:普通。浩平を探す】
『柏木耕一(019)』
【所持品:大きなハンマー・支給品一式(水は三分に二ほど)】
【状態:普通。柏木姉妹を探す】
『長岡志保(071)』
【所持品:投げナイフ(残:2本)・新聞紙・支給品一式(水は三分に二ほど)】
【状態:足に軽いかすり傷。浩之、あかり、雅史を探す】
・B系共通ルート、関連は47、221
「ぐ…ぐぁぁぁっ…」
鬼の力から開放された柳川 祐也は、全身を襲う激痛と
脱力感に苛まれていた。
ヨロヨロと近くの木にもたれかかり、跪く。
これが主催者の言っていた能力の制限って事なのか。
チッ…せっかく鬼の力を意のままに使えるようになったというのに
全く持って不便な話だ。
それならずっと鬼の姿でいればいいのか…?
柳川は鬼の姿になるべく、精神を集中しようとする。
…が、全身を襲う痛みに、その集中は邪魔されてしまう。
ククククク…
そうそう都合の良い話など無いらしい。
元は焼場だったのであろう廃墟から、
おそらくは支給品の一部だったのであろう衣服の中で
かろうじて自分が着れるものを探し出し、
人気の無い場所を探して潜伏する。
しばらくすると痛みも多少収まってきたので、
思考を整理する事にする。
今の状況からして、鬼の姿になれるのは、一日の中で
せいぜい1〜2回。しかも、それほど長い時間は無理だろう。
およそ30分からどんなに長くても1時間ってところか。
そして、その後には今のような激痛と脱力感に見舞われるので、
そこで再び変化する事も無理だろう。
つまり、変化が解かれてしばらくは、完全に無防備になってしまうと
いうことだ。多用できるものじゃないな…。
リー、リー、リー…
虫の鳴き声が静かに独唱を奏でる中で、
柳川は一人、空を見上げる。
倉田…綺麗だな、ここの夜空は。
血みどろの穢れた大地を静かに見守る満天の星空。
その星空に抱かれるように、今は独り…眠りにつく。
『柳川 祐也(111)』
【場所:H−07、元スタート地点の廃墟】
【時間:午後11時すぎ】
【所持品:なし】
【状態:辺りの気配を探りつつ、仮眠】
【能力の制限について:エルクゥ化できる条件は、喜怒哀楽の感情が一定以上に
昂ぶった時(判断は書き手様にお任せします)。回数は10時間に1回程度で
1回の変化につき、最大で1時間まで。その後、30分ほどは激痛と脱力感に
見舞われて無防備になる。】
261「一輪の花」の続きです。
新作投下します。
ルートはB系、およびJ。276の続きです。
ちょっと長めですのでお暇な方は連投回避をお願いします。
「この島にいる全ての人に」
「殺人鬼二人か。悪くねぇな…地獄への片道切符、てめぇらの命で買ってもらうぞ!」
言うと同時に秋生は葉子にむけて銃弾を二発はなった。
ダン! ダン!
一発はそれた。だが一発はよけようとしていた葉子の腹部に命中する。
「がはっ!」
「葉子さん! このっ!」
「ダメです! 郁未さん! 一旦下がって!」
「っ!」
すでに秋生の銃口は郁未に向けられていた。慌てて身を翻し、ベッドに隠れる。銃弾は一瞬前まで郁未がいた空間を貫通し、その背後にあった戸棚を破壊した。
「葉子さん!?」
「だ、大丈夫です」
こっそり向こうを覗くと葉子もベッドの陰に隠れることに成功したようだった。その間に秋生はすばやく弾倉を交換する。二人にとっては予想外に手馴れた早さだった。
(予想以上に手ごわい……)
秋生の射撃能力は葉子の予想をはるかに上回っていた。明かりのない暗がりの中、走る自分に向かって銃弾を当てる。
昨日まで武器など持ったことがない一般人ならばとんでもない芸当だった。これでは二人で本気でかかっても勝てっこない。
自分の腹からは血が流れている。幸い、外側に近いので重要な器官に影響はないようだったが。だがいずれにせよこの状態自分のほうが完全に足手まとい。ならば……
「郁未さん、聞いてください!」
葉子はすぐさま、覚悟を決めた。大声で敬愛する人の名前を叫ぶ。
「なに!?」
「私は、もう助かりません!」
それは半分嘘だった。手当てをすれば、まだ生きられるかもしれない。だが、葉子は郁未を生かすため、あえてそう嘘をついた。
「! そんな!」
「ですから、私がその男の注意をひきつけます。その隙に郁未さん、あなたがその男を倒してください」
「待ってよ! そんなことをしなくても……」
「ぐずぐずすれば那須宗一が戻ってくる可能性もあります。時間はかけられません。それにね、正直やっぱりあなたと戦うのは嫌です。ですから郁未さん。あなたは、生き残ってください」
「……わかった、葉子さん。私、絶対に生き残るから」
「………」
秋生は二人の会話をじっと黙って聞いている。
「郁未さん、私、あなたに会えて本当に良かったです」
「私もよ」
葉子は姿勢を変えてすぐさま走れるような体勢になり、鉈を構える。
「……さよなら」
次の瞬間、葉子がはしりだした。
「葉子さんっ!」
悲しみと苦しみに胸を押しつぶされそうになりながら、それでも郁未は走り出す。葉子より少し遅れて、秋生めがけて薙刀を突き出しながら突進する。
「うわああああああああっ!」
腹の底から雄たけびを上げた。そうすることで秋生の注意が少しでもこちらに向くことを願って。
だが、秋生は冷静に葉子に狙いを定めて引き金を引いた。ドンっと音がして葉子の体が前に突っ伏せる。だが、葉子は止まらない。右胸に被弾してなおも秋生に向かって走り続けた。
ドン! 二度目の被弾。今度の銃弾は葉子の眉間に突き刺さり、彼女は倒れた。そして同時に秋生の体も。彼の腹部には郁未のもつ薙刀の切っ先が刺さっていた。
連投回避
>◆elHD6rB3kM
せっかく舞台が整ったのに一番ゴミな奴だけ生き残らせてどうすんだよ
バカか?
リレーを理解しないバカ書き手は迷惑だからマジ死ね
郁未は葉子の体を上に向けて、目を閉じさせる。
(ごめんね、私のせいでこんなことになって……)
彼女はきっと長い挨拶は好まない。だからそこでさっさと切り上げて秋生のほうに目を向けた。
「なんでこんなことしたの?」
「……あ? なんだって?」
「なんで黙って葉子さんの計略にはまったのよ」
自分が囮となり、その隙に秋生を倒す、という葉子の作戦。今にして思えば秋生が防ぐ手段はいくらでもあった。
話している間に葉子を撃ってもよかった。移動しながら攻撃して、二人の攻撃の間隔がなるべく開くようにしてもよかった。手段はいくつもあったのだ。
だが秋生はそうした手段を一切とることなく、葉子を倒し自分に倒された。
「けっ、これだからガキはわかってねぇな。無粋だろうが。一人の人間が命賭けてまでなんかやろうとしてんの邪魔するなんてよ」
「……あっきれた。救いがたいお人よしね」
「俺は俺と早苗の命を使って渚ともう一人のあの子の命を救う。あいつはあいつの命を使ってあんたを救う。平等だろうがこれで。文句あんのか、この野郎」
「何それ。あんた自己満足のために命を捨てたの。本当にバカね。そんなことで命を捨てる人、あたし大っ嫌いよ」
ふぅ、と秋生はため息をついた。いくら考えても最初の前提が間違っているので答えにたどりつけない生徒を見た教師のように哀れみをこめたため息を。
「いいか、耳の穴かっぽじってよぅく聞けよ、小娘。この世にはな自分の命なんかよりずっと大事なものがあるんだ」
「ふぅん。ご高説、伺おうかしら?」
「それはな、正義だ」
「はぁ?」
郁未は思わず素っ頓狂な声を上げる。この答えはさすがに予想していなかった。
「それはあんただって持ってるはずだ。だから、この殺し合いに乗ったんだろ。一人ひとりの正義は違う。衝突することもあるだろうさ。特にこんな状況じゃあな」
「……多元主義者だとは思わなかったわ」
「そんな小難しい言葉はしらねぇよ」
誰だって自分の正義を持っている。自分の命こそが最優先だというもの、愛しい人の命を守ることを最上の使命と考えるもの、あるいはそれ以外の何かに生きる意味を見出すもの。
「俺は自分の正義に生きたんだ。てめぇにとやかく言われる筋合いはねぇよ」
「私がこれから二人を追いかけて殺すかもしれないのに?」
郁未は言ったが実際にはそんなことをする気力は葉子を喪ったことでとうになくしていた。
「やれるもんならやってみやがれ、いっとくが渚はおれのちんこが生んだ最高傑作だ。簡単にくたばりはしねぇよ」
秋生をにもなんとなく郁未の心のうちが伝わっているようだった。まったく心配していない様子でそう答える。
「ふふっ、確かにちょっとばかり難儀よね、それは」
軽く笑うと薙刀をもってゆっくりと立ち上がった。
「じゃあね、あたし、もう行くわ」
そういった瞬間、
「おとうさん!」
部屋に入ってきたのは渚だった。心配で戻ってきてしまったらしい。そして目の前の光景を見るや否や、秋生に駆け寄る。
「おとうさん! おとうさん!」
「おう、渚か……って、何で戻ってきたんだ」
「音がしなくなったから、もう終わったのかと思って……」
そう言いながら泣き出してしまう。ふと、郁未はこの子がどういう結末を創造していたのか気になった。自分と葉子が血まみれで倒れている光景だろうか。
しかし、改めて問うほどの興味ではないその光景を最後に郁未はくるりと後ろを向く。だが、そこにはもう一人の客がいた。
「なんでこんなことをしたの? 早苗さんは……早苗さんはあなたの腕を直してくれた人だったんだよ」
そして部屋の入り口には霧島佳乃がいた。手に持っているのは葉子が持っていた鉈。
「それを返しなさい。それからそこからどきなさい。殺されたくなければね」
すると意外にも佳乃は素直に鉈の柄を差し出してドアを開けた。これには郁未のほうがびっくりした。
「いいの?」
バカだな、と自嘲しながらも思わずそう聞き返してしまう。
「……わたしのお姉ちゃんね、お医者さんなの。お姉ちゃん言ってた。たとえどんな悪人でもけが人や病人ならならその患者の無事を祈って最善を尽くすべきだって。わたしはおねえちゃんの妹だから。だから早苗さんの患者だったあなたの無事をわたしは祈るよ」
「そう、ありがとう」
正直言ってFARGOの一件以来『祈る』なんて言葉は聞きたくもなかったが、郁未はそう素直に頷いた。鉈を取り、戸口へ向かう。
「でもね」
パン! と乾いた音がした。佳乃の平手が郁未の頬を叩いたのだ。
「でも、許せない! なんでこんなひどいことができるの! 早苗さん、すごくいい人だったのに! あなたを助けてくれたんだよ! なのに、なのにっ!」
何か返答をすべきだろうかと郁未は考えた。だがうまい理由が思いつかず、それを口にしていた。
「それが私の正義だから」
佳乃はその返答を聞いて、ポカンとしていた。その隙に郁未は鉈と薙刀を持って部屋を出ていった。長居しすぎた。早めにここから離れなければ。
「おとうさん!」
今まで渚が黙っていたわけではないだろう。だが、佳乃の意識に渚の声が届いたのはこの部屋に入ってからそれが初めてだった。
「渚、すまねぇな。どじっちまったよ」
「ま、待ってください! 今包帯を持ってきますから」
そう言って立ち上がろうとする渚の腕を秋生はつかんだ。
「いいんだ。もう、俺は助からねぇよ。それより聞いて欲しいことがあるんだ」
「いいえ、ダメです。後にしてください」
「かっ、相変わらず頑固なやつだな、お前は。いいから聞いとけっての」
「はい、私もおとうさんのお話、聞きたいです。でも治療が終わってからです」
互いに引かないふたりの間に佳乃が割って入った。
「渚ちゃん、おとうさんの話、聞いてあげなよ。治療は私がするから」
「……わかりました。佳乃さん、お願いします。おとうさん、話してください」
佳乃は秋生の服をめくると、消毒液をたらして、そこに包帯を巻きつける。といっても見よう見まねだったが。
「ああ、渚。俺な人を殺したんだ」
「え……あの、そこで倒れてる郁未さんといた方のことでしょうか」
「確かにそいつを殺したのもおれだ。でもな、俺はここに来る前に一人、既に殺してるんだ。しかも別に襲われたわけでもなんでもないのに、だ」
「え!?」
これには佳乃もすくなからず驚いた。
「渚、お前はそんなおれのことどう思う?」
「………」
渚はしばらく黙っていた。いろいろと考えているのだろう。やがて、顔を上げてはっきり言った。
「おとうさんのことだから、何の理由もなく殺したわけではないと思います。でも、ちゃんと殺した人たちの家族に謝ってください」
「……そうだな」
ああ、そうだ。渚はこういう子だから。そんな返事をする。でも自分が聞きたいのはそういうことではないのだ。
「……渚、それでもおまえ、おれのこと、おとうさんて呼んでくれるか?」
「え?」
きょとんとした顔で渚は秋生の顔を見た。それは返答に詰まったからではなく、何を聞かれたのかわからなかったからだろう。なぜなら、
「あたりまえです。人を殺したっておとうさんはおとうさんです。ちょっといじわるなところもあるけどやさしいおとうさんです」
答えが彼女にとってあまりにも決まりきったことだから。
「そうか」
秋生はほっとした。そうだ。渚はそういう返答をする子だ。わかりきってたことじゃないか。いや、だからこそ聞きたかったのだろう。安堵するために
「おとうさん?」
秋生は珍しく、にっこりと微笑んでくしゃりと渚の頭をなでた。
「渚、幸せになれよ」
早苗、今俺もそっちに行くからな。
手が力なく垂れた。
「おとうさんっ!」
どうだ、早苗。かっこよかっただろう、俺は。
はい、とってもかっこよかったですよ。
惚れ直したか?
はい。惚れ直しました。
よし、それでこそ俺の妻だ。
でも、秋生さん、渚は大丈夫でしょうか?
心配するな、あいつももう立派な大人だよ。大丈夫さ。きっと自分を見失わずにやっていける。
そうですね、岡崎さんもいますし、きっと大丈夫ですよね。
けっ! あんなガキに何が出来るっていうんだ、まだまだケツブルーなくせに。
ふふふふふ。
連投回避
さて、早苗。いつもどおり、パンを焼くか。
はい。実はまた新しいパンを思いついたんですよ。
ギクリ。
……秋生さん。ギクリってなんですか?
しまった! 思わず口に出してしまったぜ!
わ、私のパンは、私のパンは作る前から不安をあおるようなパンだったんですねーーーーー!!!!
ま、待て、早苗ぇーー!! 俺は、俺は超ウルトラスーパー期待しているぞーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!! ひゃっほーーーい! 早苗の新作だーーーー!!!
「おとうさん、おとうさん……」
「ひっく、ぐすっ……」
冷たい室内に二人の少女の嗚咽がしばらく反響していた。
まぁ特に文句をつける気はないが
>>「この島にいる全ての人に」
正直言って俺が一番嫌いな類の話だった
渚、幸せになれよ
その横にいるお嬢ちゃんもな
岡崎のぼうずも生きるんだぞ
そして、
この島にいる全ての人に、幸あれ
天沢郁未
【時間:六時半】
【場所:I-07】
【持ち物:鉈、薙刀、支給品一式×2(うちひとつは水半分)】
【状態:右腕軽症(処置済み)、精神的に疲労】
霧島佳乃
【時間:六時半】
【場所:I-07】
【持ち物:なし】
【状態:滂沱】
古河渚
【時間:六時半】
【場所:I-07】
【持ち物:なし】
【状態:滂沱】
鹿沼葉子・古河秋生【死亡】
備考
【早苗の支給武器のハリセン、及び全員の支給品が入ったデイバックは部屋の隅にまとめられている。秋生の支給品も室内に放置】
しまった、感想スレと間違えて誤爆してしまった
すまん
美坂香里は焦っていた。
待ち伏せをしていたものの、思ったより獲物はかからない。
自分の出発自体、思ったよりも他者より遅かったようで。
最初の犠牲者を出した後、数時間粘ったがこの様である。
「情けないわね・・・」
今はちょうど、木から降りて人を探すために歩き出したところであった。
それは何故か。
---------栞を探すためだ。
先ほど死者の一覧が放送にて流された。そこに妹の名前はない。
だが、体の弱い栞のことである・・・はっきり言って時間の問題だ。
(栞は私が守らなきゃ、栞は私が、私が、わたしが・・・)
握ったアーミーナイフに力がこもる。
移動中である今は、狙撃銃であるレミントンは鞄にしまった状態で。
香里は護身のためにこの、即戦力になりえる代物を手にしていた。
・・・このナイフは、射殺した河野貴明の支給品であった。
一時間ほど歩いただろうか、少し視界の開けた場所に他よりか少々目立つ木があった。
何故目立つか。
「お前、よくこのトラップ地帯を無事で通り抜けられたな」
「おい女、俺を降ろせ!!」
何とも間抜けな絵面。思わず香里も気が抜ける。
そこには何故か、片足をロープに取られ宙吊りになっている男が二人。
恐らく二人の物であろう荷物は近くに散乱している。
香里は二人の男を無視して、まずその荷物漁りから始めた。
「あ、てめっ!!俺様の荷物を勝手に漁るなっ」
うるさい。だが、作業を止める気なんてサラサラない。
「レトルトのラーメンに化粧品一式・・・大外れね」
「残念だったな、もう少し早く来てれば銃が手に入ったっていうのに」
「!」
「ただし弾倉だけ」
チャキン。香里のナイフが男のうちの一人の頬に当てられる。
「・・・馬鹿にしてるの?」
「失敬、ちょっとしたジョークだ」
「女、俺を降ろせ!!!」
ふう、と。一つ溜息。
この二人を殺すのは簡単なことであった。
ナイフでメッタ刺し、レミントンで一発。その行為に対するためらいはない。
だが、余裕があるからこそ、香里にはしておきたいことがあった。
「人を探しているの。美坂栞っていう女の子、知っているかしら」
様子をうかがう。二人からの反応はない。
「降ろしてあげる、その代わりの条件よ。教えて」
「その女の特徴は?」
「・・・降ろして欲しいだけ、そのための嘘をつかれるのはごめんだから。」
「成る程」
ナイフで脅して吐かせる事も一理ある。
だが、ここで変に騒がれ人を呼びつけることも香里は望まなかった、だから。
--------居場所を吐かせた後殺す、栞らしき人影を見覚えなかったようであっても殺す。
これが、香里の出した結論であった。
「会った女の特徴が会えばいいんだな、よし。俺様が見たのは車椅子に乗ったガキと黒い髪のチビと・・・あともう一人、チビだ。」
「・・・最後の人の特徴、もう少し教えて欲しいんだけど」
「覚えてねえよ、とにかくガキだガキ」
「・・・あなたは?」
騒がしい方の男が使えないと分かると、香里は矛先をもう一方の男に向ける。
男は何か考えるようにした後、言った。
「お前と同じ制服のヤツなら、見た」
「・・・それで?」
(む・・・)
香里の表情は変わらない。
・・・正直、男は彼女を舐めてかかっていた。
彼女の探し人、可能性として考えられるのは「家族」か友人だ。
だが、人数で見れば圧倒的に「家族」で参加させられている可能性は低い。
・・・名簿のチェックが同時にできていれば、それは問題にすらならなかっただろうけれど。今の宙吊りの彼には酷なことだ。
(同じ制服のあの女、アレだと思ったんだけどな・・・)
いきなり鞄を投げつけてきたあの少女。
・・・たっく、俺が何をしたと言う・・・。
「それで?もう、誰にも会わなかった?」
「あと、ポニーテールの女とショートカットの女」
「・・・」
(ダメか。あと何か・・・)
「終わり?」
「いや、あと・・・こう、おかっぱ?みたいな」
すっと。目に見えて分かる、変貌。
香里の表情が、厳しくなる。
(お、ビンゴか)
「その子、髪は何色だったかしら」
「・・・茶」
「服装は?」
「そこまでよく見てねーよ」
「じゃあ、スカートだった?」
「・・・ああ、ズボンではなかったと思う」
そして、これは賭け。
男は実際に会った少女の特徴を、香里に伝えた。
「背は小さい、胸も小さい。年頃は・・・あんたより、少し下に見えた」
「その子よ、その子が栞よ!!教えなさい、どこで見たの!!!」
「まあ待て、ぶっちゃけ俺はその栞って子とすれ違った後数時間もこうしてるんだ。
地形的にどの辺、と言われても地図じゃあ感覚的に無理だ」
「・・・なんですって?」
「実際に行けば分かる、多分。案内してやるよ」
つまり、本当に降ろせと。これが、男の要求。
実際あれだけ香里の特徴を言い表した男の情報は、香里にとって喉から手が出るほど欲しいものであった。
だが、ここで始末しなかったおかげで後の行動に響くというのも望まない。
選択の時だった。
美坂香里
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【持ち物:アーミーナイフ・Remington Model 700Police装着数4 残弾数51、支給品一式】
【状態:迷い中】
国崎往人
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】
高槻
【時間:一日目午後8時】
【場所:F−7(西)】
【所持品:なし】
【状態:宙吊り】
月島拓也
【所持品:トカレフTT30の弾倉(×2)、支給品一式】
【状態:移動済み】
【備考:往人の所持品と高槻の所持品は木の根元に散在、詳細は下記に。
ラーメンセット(レトルト)化粧品ポーチ 支給品一式(×3=往人と名雪と拓也と高槻のバッグ)】
(関連・025・176)(Aルート)
(Bルートと違い栞の服装は私服)
497 :
訂正:2006/10/15(日) 14:12:41 ID:g4hRLj/jO
>>495の下から三行目
×香里の特徴→○栞の特徴でした
すみませんでした…
月島兄はどうやって移動したんだ?
気がついたのなら二人を殺さないままいく可能性は0だと言っていいだろうに
>>498 祐一「決まってるだろう」
「ワープだ」
/::::/|::::::/|::| / ̄``i}、`ー-y┐ <<アルルゥ@うたわれるもの>>ラシのお知らせ
/::://レV /l/ !l, `¨´/
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. |::::::|::::::::::::i:|'´ ,\_ノ:::::::| PCからコードを取る人は予約から発給まである程度時間がかかりますので
. |::::::|:::::::::;::i:| ‐-、 /:::::/:::! 20:56までにコード予約を携帯なら即時発行なので直前でも間に合います
. |:::::从:::::从:! /::::::::/i::/ ・対戦相手への攻撃・貶める発言は絶対に書かないで!
. |/ ヽi、 i> -rく:/:/:;i::/ i/ 最萌は己の萌えを競う場であって相手を蹴落とす場ではありません。
-―<\ ヘ ,ムヽi/i/,i/ ′ ・ラシテンプレは以下の場所にあります
. \\ \_ } ハ、
http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/vote/1160748302/61-70 Vハ ヽ| ハ \_
∨ハ `l ハ `丶、 ・左の帯と上下の枠以外のAAは改変OK。(投票先とコードを忘れずに)
Vハ | ハ \ ただし投票板は20行制限がありますので注意!
∨ハ | |ハ 、 \ ・にぎやかし、冷やかしも大歓迎!!
V ハ | |lハ ヽ/ / ・凶器、毒薬の持込みはご遠慮く・・・ うわ、何をするやめ! ア゛ーーーー!!
245の続き投下です。B関連ルートでお願いします。
連投回避よろしくです
「―――っはぁ、ハァ、う、はぁ―――っ」
荒げる息を吐き出す深山雪見(109)は、激しく脈動する胸を手で押し留めて息を整えようとする。
先程の姿見えぬマーダーからの襲撃から数十分、雪見は必死になって逃走していた。
走っている途中に流れた死者の放送。突拍子もなかった報告に、彼女は唖然と足を止めて聞き入った。
藤田浩之(089)に春原陽平(058)、ルーシー・マリア・ミソラ(120)、そして川名みさき(029)。
彼等の名前が放送で挙げられなかったことから、なんとかマーダーから無事に逃げ遂せたのだろう。
いや、無事かどうかはともかく、少なくとも死んではいないということだ。
彼ら四人に比べて短い付き合いでもあった巳間晴香(105)や柏木梓(017)らも同上である。
ならば、姿無き狩猟者は何処に行ったのか。
彼ら四人がとりあえず無事に切り抜けたと仮定するのならばいい。
だが、追撃の手がもしかしたら自分へと迫っていると考え出してしまった時には、既に彼女は必死になって走り出していた。
何時迫るとも知れない恐怖は、想像以上に雪見の精神を蝕んでいったのだ。
本当ならばもっと距離を稼ぎたかったものの、彼女の身体は限界寸前まで酷使していたために言うことを聞いてくれない。
(―――みさきは、きっと大丈夫。……藤田君も、付いていたし……)
雪見はみさきの対する安否のあまり、今も冷静では決していられない。
浩之がみさきに駆け寄る姿を確認できていなければ、梃子でもみさきをあの場から連れ出す算段であった
自分の命が惜しくないのかと聞かれたら当然否定するが、みさきを捨ててまで生き永らえようとは思ってない。
今すぐ戻って浩之達と合流したいが、襲撃者のことを考えると躊躇ってしまう。
約束したのだ。みさきと必ず会うと。
そのためには、みさきは勿論のこと、自分だって死ぬわけには行かない。
だから、雪見もつい慎重になって行動を決めかねてしまう。
出来ればゲームに乗っていない者、もしくは知人との合流を期待してるのだが。
(澪ちゃんに折原くん……。二人は信用できる筈……)
上月澪(041)と折原浩平(016)は共に後輩に当たる真柄だが、こんなゲームに乗るとは考えにくい。
他にも同じ学校の参加者もいるようだが、大概は浩平の関係者。人柄は窺い知れない。
合流できるならばその二人がいいのだが、そう上手く事が運ぶわけも行かないだろう。
参加者総数百二十人。開始から六時間で既に百人を切りそうな勢いで殺し合いが敢行されているのだ。
ゲームに乗った人間が一人や二人では済まない。これからも増加の一途を辿るのではないか。
現状一人の雪見にとって、知人以外の人物は全て信用するにも一苦労である。
何もしなくても軽い疑心暗鬼に囚われてしまうのだ。それが振り切ったとき、人間何を仕出かすか想像もつかない。
かくいう雪見とて同じこと。そういった思考は彼女の身体も精神も疲れ果てさせてしまう。
だが、それでは駄目だ。
(こんな所で、こんな所で絶対に死ねない。みさきを一人にするわけにはいかないんだから……)
みさきという少女の存在が、雪見に生きる活力と負の感情を払拭してくれる。
心細いが、決してそれを表には出さない。誰もこの場にいなくてもだ。
演劇部部長としてポーカーフェイスには自信がある。
気弱な自分を押し殺し、雪見は決心を固めて今までと通りの表情を形取った。
酸素を欲する自身の身体を制御して、彼女が歩き出そうとした時だ。
「あ〜もしもし。ちょっといいかねお嬢さん」
「―――っ!?」
まったく予想だにしない角度から、雪見に向かって声が掛かる。
心臓が一層と飛び跳ねて、慌てて背後を振り返りながら後退った。
その際、慌てるも拳銃を構えることは忘れない。
「な、なんなの貴女……」
「むー。なんだその珍獣を見たかのよう反応は。失礼だぞぅ」
雪見の目に飛び込んできたものは、簡素な着物を何故か着込んだ澪と同い年くらいの少女。
少女―――朝霧麻亜子(003)は雪見の態度に傷付いたとばかりに、頬を膨らませていた。
銃口を向けられても焦る素振りのない麻亜子の反応に、雪見としても困惑気味だ。
そんな彼女の状態もお構いなしに、麻亜子は陽気に口を開く。
「まあまあまあ。あたしのことはまーりゃんと呼んでいいぞよ。そっちも名乗ろうよ?」
ニコニコと友好的な笑みを浮べ、人畜無害そう言葉を掛ける。
相変わらず銃口が額へと向けられているというのに、麻亜子は陽気に歩み寄った。
場違いな麻亜子に気勢を削がれたのか、雪見は止む無く銃口を下ろす。
この少女は恐らく大丈夫だ。
襲うのならば姿を見せない内か、もしくは奇をてらったような奇襲をするべきなのだ。
こんな大股歩きで近寄る彼女に警戒するだけ無駄なのではないかと、その時はそう判断した。
そして、これ以上牽制しても仕方のない拳銃はポケットに仕舞っておくことにする。
「……雪見。深山雪見よ」
「なぬ、雪見? ならゆーりゃんだ! いや被るな……。ちくしょうめ、雄二の馬鹿野郎っ。ならゆきゆきにしよう決定!」
「はぁ? いや、そんなことはどうでもいいんだけど……」
「気に喰わぬと? 我侭さんめ、妥協しろってことかー! あい分かった。ゆっきーで譲歩しよう」
「……ふぅ。もう何でもいいわよ」
完全に天真爛漫な麻亜子のペースに飲み込まれて、雪見は小さく嘆息する。
彼女を困らす一点においては、何処かみさきに似ていた。
ともかく、接触してきたからには何か目的があってのことなのだろう。
拳銃を持つ雪見へ物怖じせずに近づいたことも気になるが、それは神経が太いということで納得した。
「それで? 貴女はゲームには乗っていないと判断していいのね?」
「うむ。一先ずゆっきーと手を組みたいと思う次第なのだよ。まずは情報交換といかないかね?」
指を立てて子供が背伸びをするような不釣合いな態度に、少しだけ微笑ましく思ってしまう。
幾分か残っていた警戒心が、麻亜子の雰囲気にほだされてしまった。
「わかったわ。ゲームに乗っていないなら誰か探しているのよね?」
「その通り。ゆっきーも誰かしら探しているということかな」
「ええ。みさき達は置いといて、折原浩平と上月澪の二人なんだけど……見なかった?」
「みーりゃんなら見たぞ」
「―――えっ!?」
麻亜子の簡素な一言に、雪見は驚きで彼女を凝視する。
みーりゃん。麻亜子の付けるセンスのない渾名だが、自分の探し人の名前と近しいものだ。
恐らく上月澪の渾名なのだろう。
こんなにも都合良く情報が手に入るとは思っていなかった雪見は、若干動転した様子で聞き返す。
連投回避
「み、みーりゃんって澪ちゃんのことよね? 口の利けない子なんだけど……」
「それは正しくみーりゃんだ。小動物のようで猫可愛がりしたいほどだったよー」
「何処にいたの!? 彼女は無事なの? 怪我はしてないのよね? 誰かと一緒にいたの!?」
「なかなかの過保護っぷりだなぁ。まま、とりあえず落ち着きたまへ。質問は一つずつだぞう」
麻亜子の落ち着いた声を聞いて、雪見は恥ずかしそうに咳払いをした。
彼女に諌められるのはそこはかとなく悔しかったというのは胸中だけの秘密だ。
とにかく朗報だ。
放送で呼ばれておらず、且つ麻亜子の冷静で笑みさえ浮ばせる様子から察するに五体満足でもあるのだろう。
一つ安堵の溜め息を洩らし、彼女の言うように一つずつ質問することにする。
「じゃあ、澪ちゃんは無事なのよね?」
「元気一杯で困ったほどだ。怖い、いやいや優しいお姉さんも一緒だったからね〜。制服が一緒だから後輩という訳だ」
「部活が一緒なのよ。こう見えてもわたし演劇部部長なんだから。彼女は期待の新星よ」
「……にゃるほど。あたしが煮え湯を飲まされたのも間接的に関わってくるわけだぁ……」
「え? 何か言った?」
「ん? 何か聞こえたのかね?」
「―――いや、ならいいわ」
ボソリと、麻亜子が呟いたようにも聞こえたが、今は澪が無事な様子に素直に喜びを表す雪見。
どうやら、ゲームには乗っていない人物と同行しているようなので、それも彼女の不安を払拭してくれる。
「ちなみに澪ちゃんを何処で見たの?」
「この先の、えっと……平瀬村にいたぞ」
平瀬村という地名に、不安をぶり返した雪見は顔を歪ませる。
そこは先程まで自分達がいた場所。そして、マーダーに狙われた場所でもある。
彼女達を狙った襲撃者が一方を追って離脱したのならばいい。
だが、追撃を諦めて村に留まっているならば澪が危険に晒されるのではないか。
つい数分前までは追撃を諦めて欲しいと思っていたのに、澪がいると分かってしまった以上考えが逆転してしまう。
再び押寄せてきた不安の表情を押し殺そうとするも、青白くなった顔までは決して隠せず。
それに感づいた麻亜子は気さくに話題を転換する。
「こらこらまーにも質問させたまえ。ゆっきーばかりズルイぞぅ」
「あ、ごめんなさい。わたしが答えられる範囲なら答えるから……」
雪見の注意が上手くこちらへと逸れたことに、麻亜子は満足気に頷いた。
この話し合いは、名目上情報交換なのだ。
一方的に聞いたのでは、不公平であろう。
そう思ったからこそ、雪見は一先ず思考を打ち切って麻亜子の言葉に耳を傾けることにした。
「さてさて。あたしが探しているのは他でもない! さーりゃんとたかりゃんの二人だー」
「いや、その前に誰よそれ? 本名を言いなさい本名を」
「そんなことも分からんのかー! 久寿川ささらと河野貴明に決まってんじゃん」
そんな無茶な、そう零す雪見だが、河野貴明という名前には聞き覚えがあった。
「……河野貴明って、るーこちゃんが言ってたうーよね……」
「なぬ? どういうことだい?」
「いや、さっきまで一緒にいたるーこちゃん、名簿の最後の子ね。その子が河野貴明を探してたわよ」
「ほほう、ウチの生徒か。して、そのるーこちゃんはいずこに?」
「……はぐれたのよ」
雪見は先程の平瀬村での一件を麻亜子に説明した。
貴明を探していたるーことその連れ春原。浩之に、そして親友のみさきのこと。
この島で起こった出来事を、雪見は一句洩らさず伝えた。
別に喋って困るような情報でもなかったし、少しでも多くの善意ある人間へ話すことに越したことはない。
今は真実を語ることでしか、信頼を得ることができないためだ。
「そうかそうか。ゆっきーもさぞ大変な思いをしてきたのだな。大切な幼馴染との別れ……はふぅ。仲良きことは美しきー」
「ちょ、ちょっと大げさよ……。約束したんだから、絶対に再会するって」
涙まで浮かべて感嘆を表す麻亜子に、流石の雪見も照れ臭くもなる。
口調はいい加減に感じるも、見た感じ本気で雪見に同調してくれた。
そんな些細なことで人の心配が出来る彼女は、何処か人情が溢れているように感じ、漠然と信用が出来る仲間になり得そうだと思ってしまう。
何時までも大げさな反応を止めない麻亜子に苦笑しながら、雪見はハンカチを渡そうと一歩近づく。
―――それが、彼女の失敗。
「ほら、いつまで泣いガッ―――!!」
泣いているの、そう綴ろうとした雪見の言葉が半場で途切れる。
目を驚愕に広げて、自身に起こった状態を確認しようと目線を下げた。
―――喉に突き刺さる長方形の棒のような物。
辿ると、ニンマリと笑みを浮かべてそれを握る麻亜子の姿。
「―――うっ、が、ぁ……」
完全に喉を潰された。
なんだこれは。どうして麻亜子がソレを握って笑みを浮かべているのだ。
混乱した雪見の脳は、ある一つの結果を即座に弾き出した。
(―――最初から、謀られていたの―――っ!!)
よろりと、後退した雪見へ向かって麻亜子は手に持つ長方形の物―――鉄扇を宙に翳した。
激情の赴くままに口を開きたいものの言葉が発せない。
口はパクパクと、およそ言葉ではない掠れたような音声でしか用を成さず。
ポケットから拳銃を取り出そうとするも、それより速く鉄扇が雪見の顎へと叩き付けられた。
「―――ぐぁ……っ!」
確実に命中した顎への攻撃は、雪見の平衡感覚を狂わせる。
視界が揺れたときには、既に頬が地へと衝突していた。
かなりの強度を誇る鉄扇の一撃は、顎骨に罅が入るほどの威力であった。
叫びたいほどの苦痛を感じるのに、決して言葉に出来ないやるせなさ。
その感情を全て視線に込めて、麻亜子を射殺すかのような眼光で睨みつける。
「ぁ……っぁ、が、きぃ……」
「ふふん。何を言っているのか分からないぞゆっきー」
怒りを孕んだ視線を受けても何処吹く風、麻亜子は一向に気にせずに倒れ伏す雪見の脇腹を蹴り飛ばす。
雪見は呻くように痛みを堪えるも、それを蔑ろにするかのように再度爪先で脇を抉る。
「―――ぁ……ぅっ!」
「駄目じゃないかゆっきー。こんな状況下で人を信用しちゃ。全然なっていないぞぅ」
出来の悪い生徒を叱るように注意を促す麻亜子。
完全にお門違いなセリフだが、平常な表情で蹴ることを止めない彼女を見ていると背筋が凍る。
嬲ることを楽しんでいるわけではない。
本当に罰を与えるかのように、困った顔でそれを敢行している。
訳が分からなかった。
先程までの会話はなんだったのか。麻亜子の同情したような感情はなんだったのか。
平然と暴行を加えているのは何故だ。彼女の同情したような感情はなんなのだ。
答えはとっくに導き出されている。馬鹿を見たのは自分だということだ。
最初から麻亜子の演技に気付きさえすれば。
いや、恐らく彼女のは演技ではないのだろう。普段通りに接して、普段通りに行動しているだけなのだ。
詰まるとこ、こういった殺伐とした環境に麻亜子が放り込まれたとすれば、彼女がゲームに乗るのは必然ということか。
元より他人の真柄である麻亜子の行動原理など知るわけもないし、どんな至上目的があるのかも見当もつかない。
結局は出遭った不運を呪えということになるのか。
(そんなの、絶対に御免だわ―――っ!)
こんな下らないところで、こんな下らない少女に殺されてなるものか。
約束したのだ。みさきと必ず再会すると。
そして、こんな下らないゲームなんぞ皆で協力して切り抜けて、自分達の街へ帰るのだ。
そう心に誓ったはずだ。
ならば、こんな所で倒れているわけには行かない。
歯を食いしばって立ち上がろうとする雪見の姿に、麻亜子は感嘆の言葉を投げかけることを忘れない。
連投回避
「おぉ……素晴らしき執念。キミの幼馴染のようにしぶといぞー」
「―――ぇ?」
麻亜子の一言に雪見は凍りつく。
―――しぶとい? どういう意味だ。
言葉を図りかねた雪見へと、麻亜子が親切にも助け舟を出す。
「んー? 意味がわからなかったのかい? どうしようもないゆっきーだなぁ……
いやぁ、ゆっきーに会う数分前にさ、ちょっとこう……なんて言うの? グサッとさぁ」
「…………」
「可哀想だったぞみさりゃん。どうして助けてあげなかったんだよぅ。
何度も何度もゆっきーの名前を呼んでたっていうのにぃー」
―――まさか。まさかまさかまさか。
麻亜子が自分達を襲った襲撃者?
そんな筈はない。閃光弾が炸裂した時に洩れた声は確かに男だった。
なら、みさきを殺したと宣言したこの少女は何だ。
逃げていたみさきを殺して、こちらまで来たということか。
(そ、そんな……みさき、嘘でしょ? だって、約束したじゃない……)
反対方向に逃げたみさきを殺してここまで短時間で来るという荒唐無稽な話を、何故か嘘だと思えなかった雪見。
麻亜子の雰囲気か、もしくは雪見の状態がそうさせたのか、今の彼女の精神は何処か逸脱していた。
押し潰すような悲しみが襲い掛かり、そして次の段階へとシフトする。
雪見の胸の内に、ドス黒い憎悪が沸々と湧きだってきた。
(―――……くも、よくも! みさきを―――!! 殺す……絶対に殺す―――っ!!)
ギリっと歯を噛み締めて、怨嗟が篭もった憎悪の光を宿らせた雪見が立ち上がろうとする。
震える身体を突き動かすのは、殺意の感情の一辺倒。
彼女の理性までもが訴える。
あの少女は生かしておけない。八つ裂きにしてでも仇を取れと。
懸命に立ち上がりながら、拳銃に手を伸ばす雪見の姿を見ても、焦ることのない麻亜子は冷然と見下ろす。
「おやおや? 何だかあれだね。生まれたばかりの子馬が必死になって立ち上がろうとする姿に見えちゃうんだな、これが。
ともかくさ。そんなに無理しちゃ身体に悪いから―――」
暗い光を灯す雪見の視線を笑みで返して、鉄扇を右手に持ったまま手首のスナップを利かせて扇状に広げた。
鈍く光る円状の刃を、上体を起こした雪見の背へと事もなく振り下ろす。
「大人しくしてくれると肝要だぞ」
「―――うぁ……!」
制服を紙か何かのように切り裂き、雪見の肌もパックリと縦に裂ける。
痛みで彼女は再び力を失ったかのように地へと沈んだ。
血液が制服を赤へと染めゆくが、それでも致命傷ではない。
何故一撃で致命傷をお見舞いせずに、浅く切り裂くに留めたかなどどうでもいい。
指一本動かす力があるのなら、全てを麻亜子を殺すことに費やす覚悟だ。
自分が死ぬまで何どでも立ち上がって、麻亜子を無残に殺してやる。
それまで諦めるわけにはいかないとばかりに、雪見は立ち上がろうとするも―――
「あ〜あ。飽きたからもういいや。ばいば〜い、ゆっきー」
壊れた玩具を安易に放り投げるような無邪気さに、雪見の怒りも沸点を振り切った。
何事もなく背を向けて歩き出した麻亜子へと、痙攣する身体を持ち上げて銃口を構えるも、命中するには既に難しい距離である。
だが、麻亜子は家の角を曲がろうとする間際、チラリと雪見へと視線を寄越す。
哀れんでいる様で、楽しんでいる様で、そして何処か誘っている様で。
そんな表情を残して、彼女は家の角へと姿を消した。
―――逃がさない。
何処までも追い縋って、必ず後悔させてやる。
その一心と執念で笑う膝を強引に従わせて地へと踏み立つ。
(―――逃が、さない! みさきを殺した仇―――っ!!)
鬼の形相で一歩一歩を踏みしめて彼女は進んだ。
****
「それじゃ、その関西弁の女が要注意人物なのね」
「そゆこと。向坂環ってのは正当防衛だから、安心していいと思うわよ」
物陰に隠れた来栖川綾香(037)と巳間晴香(105)は現在情報交換の真っ只中。
お互いの武器を確認し合い、今は綾香の情報を公開中だ。
情報といっても本当に微々たるものだが、それでもこの島で生きる上では貴重に成り得るものだ。
「後はね、私の知り合いなんだけど―――」
この島で参加者として放り込まれ、且つ綾香が探したいと思っている者は四人。
姉の来栖川芹香(038)にメイドロボのセリオ(060)、松原葵(097)と藤田浩之。
その内の一人、葵は既にいない。
放送などという神経を逆撫でする様な主催者の行為には反吐が出るほど気に喰わなかった。
葵はゲームに乗るような人柄では決してなかった。
なのに死んだのは何故か。決まっている、悪意あるゲームに乗った馬鹿に殺されたのだ。
綾香は殺し合いに参加するつもりはない。
だが、マーダーと対峙した時は、自分の手を汚す覚悟も既に出来ている。
格闘技とは違う、本物の凶器で人の命を奪うのだ。
覚悟を締めなおさなければ、拳銃の重みに耐えられそうにない。
少しだけ暗くなった表情を表にだないように、綾香は晴香へと知りうる限りの情報を与えた。
黙って聞いていた晴香に、次は貴女の番だと話を促す。
「その前に、綾香。わたし藤田浩之とは会っているわよ」
「ちょっとちょっと! 先に言いなさいよね、そういうことは……」
「口出しするのもどうかと思ったのよ」
「あっそ。で、浩之は何処にいたわけ?」
「平瀬村よ。他にも四人ほどいたけど。わたしは飛び出した梓を追ってきたから、それ以降は分からないわね」
回避
平瀬村だとここからすぐ傍だ。
本来なら芹香が第一優先なのだが、未だ所在が判明できていない。
ならば、確実に平瀬村付近にいる浩之と合流するほうがいいのではないか。
一先ず方針を固めた綾香は、今度は晴香の情報に耳を傾ける。
浩之一行との成り行きや、自分の義兄のこと。
そして、柏木梓(017)が少し暴走気味であることなど、浩之以外の情報に関しては彼女にとってあまり意味があるものとは思えない。
ただ少し気になったことがあった。
「ねえ。この巳間良祐は義兄って言ってたけど、探す気はないみたいね」
「……そうね。長年会いたいとは思っていたけれど、実際会いたくないってのが本音ね」
自分は少しでも速く姉に会いたいと思っているのに、晴香は矛盾した物言いで綾香の言葉を曖昧にはぐらかす。
表情を落として呟く姿を見ていると、あまり立ち入ってはいけない事情があるのかもしれない。
兄弟姉妹が全て仲良しという訳ではないのだから、無理に探させる必要なんてまったくない。
しかし、お互いの方針に食い違いが出るのならば、晴香とは組む事が出来ないだろう。
「ま、いいわ。とりあえず、私は平瀬村に行こうと思うんだけど。あなたはどうする?」
綾香の提案に、晴香は少し考えて口を開いた。
「いや、わたしは遠慮しておく。このまま梓を放っていくわけにもいかないでしょ」
「ふ〜ん。あちらさんは恐らく望んでいないと思うわよ?」
「それでもよ。このまま暴走した梓を見捨てるのも目覚めが悪いのよ」
小さく息を付く綾香は、仕方ないとばかりに首を振る。
出来れば着いてきて貰いたかったが、強制させる気は元よりなかった。
そもそも、梓を行かせたことに対して未練が顔に残っている以上、結果は言わずも分かっていたのだ。
なんだかんだと言いながら、結局は最初に出来た仲間が心配なのだろう。
そんな晴香だからこそ、綾香は接触しようと考えたのだ。
彼女の存在は惜しい気もするが、それも仕方がない。
「そう。じゃ私は行くけど、あなたも気をつけなさいよ」
「それはこちらのセリフよ。集落は人が集まりやすいんだから、用心に越したことはないわよ」
「はいはい。わかってるって」
お互いの健闘を笑みを浮かべながら称え合っていた時だ。
二人の前に、新たな少女が姿を現したのは。
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「ぬぉぉー! そこの御二方ぁー。お助けをーー!」
「ちょ、何っ!?」
「っ! 止まりなさい!!」
二人に駆け寄ろうとした麻亜子は、綾香が怒声と共に構えた拳銃に驚いて急停止をかける。
何とか二人の数メートル前で静止出来た麻亜子は内心で愚痴った。
(むむむ……。流石にこんな古典的な方法じゃ信用してくれるはずもないよなー)
先程まで雪見を嬲っていた素振りを見せず、彼女は飄々と弁解の口を開く。
「なんであちきに銃を向けるんだー! ひどいよひどいよぅ」
「あからさまに怪し過ぎんのよ! 何なのあんたっ」
「そもそも、その着物は何なのよ……」
綾香に拳銃で牽制され、晴香からは珍妙な生き物を見るかのような視線に晒される。
彼女達の不躾な質問と目線に失礼だぞぅと、すかさず反論しておく。
確かに麻亜子の反応はあからさますぎた。
第一、ふさげた様なセリフと行動が合致しない。
少し態度を見誤ったかと麻亜子は思うが、それさえも覆す布石が存在しているために問題ない。
そもそも態度も性格も普段通りと変わりなく、猫を被っている覚えだって麻亜子にはなかった。
「ともかく話を聞いておくれよぉ……。こんないたいけな幼女が恐怖に震えているのだぞ? 良心ってものがないのかー!」
「自分で言わないでもらえる? それで、あなたは逃げてきたってこと?」
「総じて正解! ぜひぜひこのあたしことまーりゃんに救いの手を授けたもぉー」
何を言っているのだこいつは、綾香と晴香の感想は一括していいほど同じものである。
ジロリと、訝しげに麻亜子を睨む。およそ信用が置けないようだ。
それでも麻亜子は言葉を必死に連ねる。
相変わらず胡散臭そうに見る二人だが、実の所麻亜子にはあまり関係がなかった。
彼女の役目は、綾香と晴香をここに縫い付けておくことだ。
隙を狙って襲撃するわけでもない。
それ以前に、二人の緊張が緩むことがあっても、最後まで麻亜子を油断なく観察しているため、なかなかに難しい。
意外と警戒心が高いが、それすらも麻亜子の計算の内だ。
少なからず、こんな状況下で警戒しない方が愚鈍であるから、彼女達の態度は想定内でもある。
危機管理のなっていない者ならば、それはそれでやり易いが。
麻亜子には“協力者”が存在しており、それが来るまでの辛抱だ。
彼女は外面でも内心でも同じ表情を浮かべながら、今度は泣き落としで迫る。
「うぅぅ……。こんなに頼んでいるのに未だ聞き入れてもらえないこの理不尽さ。さては貴様等ゲームに乗ったな!」
「はぁ!? ふざけるのも大概にしないさいよ。謂れのない事実は不愉快よ」
激情しやすいのか、綾香は眉を吊り上げて麻亜子を鋭く睨みつける。
島で殺し合いをする輩と同類に見られたくないが故に、彼女は拳銃を敢えて下ろして見せた。
だが、その綾香の行為に不満なのが晴香だ。
「ちょっと綾香。用心するに越したことはないってさっき言ったでしょ?」
「構わないわよ。こんな子供にどうにかされるほど私は弱くはないわ」
「そうそう。こんな非力な少女なんか片手間で捻られて当然じゃんよ」
「……だから、何自分で言ってんのよ」
ほいさ
銃を構えずも対抗手段があると暗に言う綾香だが、晴香はそれでも納得がいかないようだ。
綾香の自信の程は何処からか。
麻亜子が推測するに、恐らく近接戦闘が本領なのだろう。
引き締まった体躯は見るものからすれば洗礼されており、初めて手にする凶器なんかよりは余程信用が置けるのではないか。
麻亜子がナイフを携えて襲い掛かっても、それより速く長い腕と足が伸びてくるのだろう。
だが、どうやら綾香は思い違いをしているようだ。
格闘技で何とかできるほど、このゲームは甘くはない。
年齢性別、それらの垣根をいとも容易く破壊する前提を、彼女は忘れているのだろうか。
(ま、それはそれで好都合と。さぁてと……そろそろご到着かな)
麻亜子の態度に辟易とした綾香と晴香だったが、ジャリっと砂を踏みしめる音を耳にした。
過剰に周囲に気を配っていたのか、二人は即座に反応して各々の武器を構える。
その隙に、麻亜子を走りだした。
「あわわわっ―――! 来た来た来たよー!!」
「ちょっと! 何勝手に後ろに回ってんのよ!?」
「いいからほっときなさい晴香!」
混乱に乗じて上手いこと二人の背後へと移動した麻亜子。
当然、疑い深い晴香は神経質な抗議の声を上げて摘み出そうとするが、今はそれどころでないとばかりに綾香が怒声を飛ばす。
ゆらりと、物陰から出てきたのは雪見だ。
鬼気迫る尋常ではない様子に、二人は唾を飲み下す。
その時になって、ようやく晴香は出現した人物が誰であるかを思い知る。
別れて一時間程度しかたっていないというのに、彼女のあまりの変貌振りに二の句を告げられずにいた。
雪見の身に何があったのか、他の人達はどうしたのか。
聞きたいことが山ほどあったためと、信頼できる人物を見たときに、晴香の警戒までもが緩んでしまった。
そして、二人の脇から雪見にだけ見えるように顔を出した麻亜子は、おもむろに笑って手を振っている。
ブチリと、何かが切れた音が聞こえてきた気がした。
「ちょっと、雪見? 一体何が―――」
「―――ぁぁああ!!」
―――晴香の声を遮る形で、掠れた怒声と二発の銃声が響き渡る。
雪見が手に持つ銃口から硝煙があがり、気付いたときには全てが遅かった。
「―――ぅ、あぁ……」
「晴香―――!?」
ガクリと、晴香が膝を落とす。
一発の銃声は見当違いの方向へ、そして二発目は晴香の腹部へと着弾した。
腹部から止め処なく血が噴出す様を見て、綾香は完全に気が動転する。
だが、ふらふらと揺れながら尚も拳銃を構える雪見の姿を見せられて、彼女は現実に引き戻された。
雪見の目が正気ではない。
土気色の表情に、常軌を逸した彼女の様子に呑まれそうになるも、綾香は拳を強く握り締めて腰を屈めた。
「アンタ! 晴香を頼むわよ―――っ!」
「お、おう。任せときためへ」
その返事を聞かないで、綾香は雪見へと踊りかかる。
晴香のことは心配だ。だが、それ以上に雪見の存在が一番脅威であった。
様子から察するに、まともな会話や交渉は望めそうにない。
ならば、動けないように無力化する必要があった。
無力化という言葉。そこに、自覚の無い綾香の甘さが隠れていることに本人は気付いていない。
雪見はすかさず銃弾を放つが、それも動き回る綾香へと当たることなく弾は宙を裂くに終わる。
一挙動で懐に潜り込んだ綾香の拳が、正確に雪見の肝臓を突き刺した。
「―――か、はっ……」
女性の力とは思えぬ一撃に、雪見の口から黄色い胃液が滴り落ちる。
その反応にやったか、と気を抜いてしまった綾香はやはり甘さが抜け切れていないのだろう。
雪見は倒れそうになる身体は抵抗させずに、綾香の首に自身の腕を巻きつけた。
「え!? ウソっ―――」
驚愕の悲鳴を道連れにして、雪見は綾香を引き摺り倒す。
泥沼の戦いになりつつあった二人を麻亜子は横目で眺めつつ、晴香の状態を確認する。
留まることを知らないように、晴香の体から血液が漏れ出していく。
「ふむふむ。血を止めたらなんとかなりそうかも……」
臓器は奇跡的に傷付いていないようなので、適切な治療を施して安静にしておけば助からないこともなかった。
だが、そのつもりはない。そんな知識や技術も元より持ってはいない。
初めからこういう修羅場を望んでいたのだから、治療するなんてもってのほかだ。
そして、仕上げがまだ残っている。
麻亜子は懐から鉄扇を取り出して、苦痛に顔を歪める晴香へと視線を寄せた。
「……痛そうだねぇ。気分はどうかな?」
「―――さ、いしょから、そのつもりだったのね……っ!!」
晴香の弱弱しい怒声も、麻亜子は笑みで迎えた。