「結局駄目だったね」
ズタズタに引き裂かれ、部屋中を赤く染め上げた白穂の前で
『永遠無海』の少女がつまらなそうに吐き棄てる。
「やっぱりお姉さま。人間に力なんて貸したっていいことないんじゃないですか?」
「そうね」
チラリと少女は庵の奥に視線を送る。
―――そこには、『鬼神楽』の波紋を湛えた一振りの刀が床に切っ先を突き立てていた。
その『剣』が答える。
「けど、やはり私たちが生きていくには彼らの力が必要なのよ」
「まあ、もともと私たちを造りだしたのも人間ですしね」
「ええ。けど―――」
「なんて脆いんだろう。弱いんだろう。『人間』って」
まるで、カラスによって道端にぶちまけられた生ゴミを見るような視線を、足元の”白穂だったもの”に向ける。
「そう言うものでもないわ。私たちがこうして再会できたのも彼女の働きだしね」
「けど、馬鹿なことしましたよね。お姉さまと私を同時に支配しようとするなんて」
「そうね。私ももう少し使いたかったんだけど―――仕方ないわ」
本当にその声は、残念そうに。
「私たち四姉妹も結局3人に減っちゃったしね」
「ええ。まさか柏木楓―――彼女が最後の一振りで私たちを壊(ころ)す力を作りあげるとはね。私も予想できなかった」
「本当、人間って変なところで意地見せるよね」
「―――無海。私はあなたにも怒っているのですよ。なぜ、あの時神尾観鈴にとどめを刺さなかったのですか」
「とどめって言っても、あれはあの傷で生きてる方が無茶苦茶すぎるんだよ。
あれ以上あそこにいたら私も捕まってただろうし」
「―――そうですね。過ぎたことをこれ以上言っても仕方がありません。では―――」
A 次こそ神尾観鈴たちを殺してきなさい
B 金華を呼びましょう
C ……仕方がありませんね。私が行きましょう
B
「ふう……ここまでの道案内。ご苦労様でした。仮初の主よ」
そうもはや肉塊と化したモノにたいして女は語りかける。
「貴女はたいそう役にたってくれました。おかげで私の妹達も回収できました」
そういって女は二振りの刀を掲げる。漆黒の刀と金色の鞘に収まった小太刀。
既に失われた後一本を除けばその全てが揃ったことになる。
「戦で夫を亡くし息子まで口減らしにせねばならぬ貴女。失意に包まれた貴女は私の寄り白として最適でした」
そう感謝を込めて言う。この主の身体をそれを通して得た生気。
いつぞやも大老を暗殺しようと試みた水戸の浪士を狩ったときにも充足できた。
今では寄りしろ抜きでその身を具現させられるまでに。
「後は栗原透子……彼女を我が手中に収めれば悲願がかないます…私たちの悲願……」
栗原透子。及び彼女がその身に宿す新たな命。それは彼女にとって不可欠なものであった。
彼女の一族の悲願をかなえさせるために。いつぞやはよく指令を飲み込めてない家臣が
十本刀の残党などを雇い暗殺を試みた。それでは困る。彼女もその腹の子も生きて手にする必要があるのだから。
まあその愚かな配下は既に刀の錆び。彼女がその身を形成する糧になったわけだが。
「あなたの血で私はしばらくこの姿を保てます。本当に感謝していますよ」
残骸にもう一度だけ礼を言う。冷たく微笑を浮かべて。
「あの愛らしくも憎らしい生みの親……いえ妹とも決着をつけられるのだから……」
A このまま挨拶代わりに赴く。
B 長崎で待ち構える。
C 妹二人の寄り白を探す。
orz 負けた
危うく選択する所だったぜ
「金華を呼びましょう」
「お姉ちゃんですか……?」
その名を聞いた永遠無海は少し不安げな顔をする。
「大丈夫なんですか……?」
「……心配は要りません。あの子とて鬼神楽四姉妹の1人。私たちに劣らぬ実力は持っています。
…………たぶん」
こっちもほんのちょっと不安げ。
「けど……」
「そういえば、あの子は今どこに?」
「……お休み中だと思います」
永遠無海の視線の先には、壁にかけられた一振りの刀。
「…………起こしなさい」
『剣』が少し怒気を孕んだ声で命令する。
「はーい」
特におびえた様子もなく、永遠無海は壁の刀を手に取り、呼びかけた。
「おねーちゃーん。起きてくださーい。お姉さまからのご命令ですよー」
「……………………」
しかし剣は反応しない。
「ちっとも起きませんです」
「……叩き起こしなさい」
「いいんですかぁ?」
「はい」
「そういうことなら……よい、しょっと」
言うと永遠無海はやおら鞘に入ったままの剣を大きくかざし……
「すいませんねお姉ちゃん。ていっ!」
勢いよく、壁にたたきつけた。
「あいたた……手がしびれちゃいます」
がこん! と小気味のいい音と共に跳ね返り、永遠無海の手からこぼれ落ちる刀。
そのままごろごろと床の上を転がり……『剣』の下まで来ると、わずかにその刀身が鞘から覗いた。
「………」
「起きましたか金華?」
「………」
金華の第一声は……
A はわわ〜
B にゃあ〜……
C うにゅう……
D あう〜……
E ※その他。うめき声or鳴き声で指定。
E
ぱぎゅう〜
金華って名前が酷いな。中国の金華ハムしか思いつかん。
「金華を呼びましょう―――ここはひとまず私たち四姉妹の絆をもって赴くべきです」
「そうね。なぜかは知らないけれどあの場に一緒にいた盲目のティンベー使いもいるからね」
「あなたも感じているようね―――どうやら私たちを壊す刀の周りにたくさんの強者の気を感じるわ」
「そうだね。あれだけ集まっちゃうとわたしたちだけじゃ手間かかりすぎるし」
「たとえ1人消えようとも小金華がいればあの壊力相手でも怖い者はない」
「じゃあさっさと呼ぼうか」
「はい―――ならば念じるのです。―――小金華よ、今こそ姉妹の絆よりここに現れ!!」
そしてそのころ小金華は―――
A ある者の脇差しに収まり静かに目覚めるのを待っていた。
B 既にある者の精神を乗っ取り姉妹の元へと向かっていた。
C なんとある者と意気投合。二人の世界を作り上げているため姉妹の声は聞こえることがなかった。
ある者はどの選択肢とも既出の人物でお願いします。
ゴメンナサイ
前スレの落下を確認
「ぱぎゅう〜☆ひどいですのお姉さま」
金華と呼ばれた剣は不機嫌そうに目を覚ました。
「こんな時に寝てるんじゃないわよ」
姉と呼ばれる剣はたしなめるように言う。
「そうですよお姉ちゃん。今は大事な時期なんですから」
「ぱぎゅう〜…」
「それより金華、貴方に新しい仕事です」
「また誰かをやっつけるんですの?」
「ええ。そうよ」
「誰ですの?」
「人斬り観鈴です」
「…断頸のお姉さまの敵ですの」
「うん。そうですね」
彼女は続ける。
「貴方の仕事は人斬り観鈴の殺害と彼女の持つ私達の妹の破壊」
「そして…」
A 透子の殺害
B 透子の拉致
C 透子の刀を奪う
伏線回収、C!
なんか複線っぽいもの持ってたからC
「栗原透子の持つ刀を奪いなさい」
「刀ですか?」
「ええ。たぶん短刀か小刀か、そんなに大きくはないと思うわ。
ついでに殺してもいいから、とにかくそれは絶対回収して私の元へ持ってきなさい」
「わかりましたのお姉さま。けど、なんでその刀が必要なんですの?」
「私たちにとても重要なものなのよ。いいから貴女は私の命を守ることだけを考えなさい」
「わかりましたの。がんばりますのっ!」
「その意気よ」
「ところでお姉さま、これはどうしましょう」
無海が白穂の体を足蹴にしながら姉に尋ねる。
「片付けますしょうか?」
「そうね……いえ」
姉は一時頷きかけるが、すぐに否定する。
「あるものは使いましょう。私もやっぱり体が欲しいし」
「では……」
「ええ。お願いするわ」
「はい」
姉に命令され、無海は姉を手に取ると、物言わぬ亡骸となった白穂の胸に突き刺した。
ぐずりという嫌な感触と共に刃が体を貫く。
「どうですかお姉さま?」
「………」
しかし姉は答えない。室内を静寂のみが包む。
やがて……
「ぐ……が……」
うめき声と共にぴくりぴくりと、死んだはずの白穂の指が痙攣を始めた。
「上手くいきましたの。さすがお姉さまですの。屍ですら操っちゃうんですの」
「ぐ……う……っ……」
やがて痙攣は体中へと伝わっていき、両手を床につくとゆっくりと上体を起こす。
「お姉さま、どうですか?」
やがて、全身に刀傷を負い、血まみれになりながらも、しかし仮初めの命を与えられた白穂が立ち上がる。
「ずご……すこ、しやりすぎたわね。さすがに体が重いわ」
自分の刀で自分をなますにした傷を見る。
「大丈夫なんですのお姉さま?」
「まあ何日かあれば傷も消せるでしょう」
「違いますの。その体使って、誰かにばれたりしませんの?」
「大丈夫でしょう。元々この女もその夫も私の言うこと聞いてただけだから。こういう場合のことも考えて表には出ないようにしてたんですし。
馬鹿な女よね。黙って私の言うとおりしてればこの国の支配の一角を担えたかもしれないのに」
「さっすがお姉さまですね」
「それよりも金華。あなたの体だけど……」
「あ、そうでしたね。こうなってはお姉ちゃんの体がありません」
「困りましたの」
A 無海が自分を運ばせた長州藩士の体を使う。
B 無海に運ばせ、透子たちのところへ行く途中に適当な体を奪う。
B
「無海。あなたが金華を運びなさい。その途中あなた達二人の身体も確保しておくのです」
偽善千鶴は妹達に指示を出す。そして念を押すように付け加える。
「栗原透子の刀の奪取。それがまず第一です。ですけど深入りは禁物です。
敵の戦力を測り、少しでも不利を感じたらすぐに引きなさい」
「お姉さまはどうなされますの?」
自分は参加しないかのような口ぶりに怪訝そうな表情を浮かべる金華。偽善千鶴は答える。
「私もこの体がもう少し使い物になるようならば一緒にいって一気に決着をつけるところでしたが
さすがに今のままでは力を十分に発揮できないでしょう。それにこの身体の主の代わりを勤めなくてはいけませんし
とりあえずは長崎で私は待ちます。あなた達も今回は小手調べ程度でひきあげなさい。
決着は準備を万端に整えてからにしましょう」
「わかりましたですの」
「わかりました。お姉さま」
そう妹達の返事を聞いて偽善千鶴は闇に姿を消す。残されるは妖刀の姉妹が二人。
その凶刃を妖しく光らせながら。
すうすうと寝息をたてる。透子を観鈴は寝ずの番で見守っていた。
食後の作戦会議の結果、当面は観鈴、みさき、リサの三人の交代で夜も誰か一人が番をすることになっていた。
(が…がお……眠い……)
慣れぬ夜更かしに睡魔と戦う。眠い目を擦りながらなんとか気を持たせる。あと半刻ほどで交代の時間だ。
もう少しの辛抱である。
(もうちょっと…長崎に着くまでの間だけだからね……)
とは言うものの眠気は強い。顔を抓ったりしてなんとか起きるように勤める。
観鈴がそうこうしているうちに………
A 妖しい気配を観鈴は察知した
B みさきとの交代の時間が訪れた
C そのままうっかり寝てしまった。
b
「交代だよ、神尾さん」
やった、交代の時間だ。何とか眠気に勝てたよ。
「にはは、ありがと。後はよろしくね」
しかし、見張りを任せて睡眠をとろう戻るする観鈴にみさきが呼びかける。
「うーん、今のうちに眠っていた方がいいよ。すぐ起こしちゃうかもしれないし」
「え? それってどういうこと?」
不思議そうな観鈴にみさきが呟く。
「………何となくだけど、今夜は嫌な予感がするの」
博多の街
夜の界隈を一本の刀を持ちながら『永遠無海』は姉の体となる人間を探している。
「おや、おじょうちゃん一人? お兄さんと遊ばない?」
「ごめんなさい、急いでいる用事があるので」
酔っ払いの誘いを断りながら、街の人間の物色をする。
「ぱぎゅ〜☆誰でもいいですから早く体が欲しいですの」
さっきから出来るだけ強そうな人間を探しているのだが姉がうるさく急かす。
「お姉ちゃん、もう少し静かにしてください」
「大丈夫ですの、まさか誰も刀と話しているなんて思いませんの」
「私がおかしいと思われるじゃないですか、別に刀の精ですからいいですけど」
こんなところで目立つのは不利、そんなことも分からないのかと呆れる『永遠無海』
「とにかくさっさと体を奪うですの。『こーぼーは筆を選ばず』ですの」
はぁ、と溜息を付く少女、もういいや、本人がいいと言うなら任せよう。
「………本当に誰でもいいのね?」
「もちろんですの、適当に選ぶですの」
姉はともかく自分は出来るだけ使い物になる人間がいいなぁと思う。
(もっとも以前の人は腕は立ちましたが如何せんうっかり過ぎましたけどね)
そして彼女らが選んだ人間は………
選択肢と『永遠無海』『小金華』を組み合わせてください
A とっても不遇で薄幸そうな眼鏡の少女(藍原瑞穂)
B 何だか短気そうで蹴りが飛んできそうな少女(観月マナ)
C なぜか街中で西洋式の鎧に身を包んだ異人の少女(アレイ)
D 「そろそろ孫の朋也の墓参りにでも行くかねぇ」と呟いているお婆さん(岡崎志乃)
E 「誰か私の名前を呼んで…………」と呟いている白おっぱい(ウルt――)
F 「お姉ちゃん元気だしなよ」と慰めている白おっぱいの妹(カミュ)
G 金髪ロングでなかなか腕が立ちそうな西洋剣士の異人女性(オクタヴィア)
A&C ……なんていうと某会社っぽい
永遠無海 G
小金華 C
あっ、どっちがどっちなのかは次の人に任せます
422 :
420:2005/11/16(水) 11:02:24 ID:kXee/m990
orz 負けた
>>419 その二人だと 永遠無海→アレイ 小金華→ミズピー かな。
「ぱきゅぅぅ…地味な眼鏡さんですのぉ…これじゃああたしの実力が発揮できませんのぉ…」
「こっちは少し目立ちすぎますねぇ。まあ間に合わせの身体だから仕方ありませんよ」
そう寄り代に不平を言いながらも渋々二人は納得する。姉に言われたとおり今回は様子見。
そのための急場しのぎの身体にすぎないのだから。
「ところでなんでその栗原透子さんの刀が必要なんですの?
そもそもどうして身重の人にそんな重要そうな刀を持たせておくのですの?
あたし理解できませんの」
そう燻しがる。何故栗原透子があの刀を所持しているのか。誰しもが抱く理由だろう。
「確かあの刀は…わたしたちの同類だそうです。透子さんが持っているのは
彼女がそれを持つのに一番安全だからだとお姉さまにお聞きしました」
厳重な封印を施されたはずのかの妖刀。それはふとしたことでその封印が外れないとも限らない。
そこで一計を案じた幕府上層はかの刀を地球の裏側の地にまで送り処分をすることにした。
その運搬役が透子だ。妖刀は所有者の攻撃的な意思を読み取ってそこにつけこみ相手を支配する。
侍の類に持たせたら乗っ取られる危険性がないとは言えない。そこで白羽の矢がたったのが透子だったのだろう。
彼女ならまかり間違ってもあの刀を刺激することはない。ある意味妖刀の所有者としては最も不適格。
すなわち封印を外されずに持ち歩く運び役として最適の相手だったのだ。
「そういうわけですの……」
そんな理由を聞かされ金華も納得する。だがもう一つの疑問の答えは返ってないことに気づく。
「お姉さまはその刀で何をするつもりですの?」
A 刀に封印された古の鬼の王を呼び覚ます
B 刀の力を取り込み自身が最強の妖刀となる
C 刀に秘められた力で完全な人型を手にする
D 刀を野心あるものに手渡し乱世に名乗りをあげる
Bかな。
「お姉さまはその刀の力を取り込んで更なる力を得ようとしています。
古の妖刀はまだ歳若い私たちにはないような力があるそうですし」
刀に限らず妖の類は年月を経るほどにその力を増す。
幾百年もの時を経た妖刀。その力はおしてはかるべしであろう。
「なんだか凄そうな話ですの……」
「お姉さまが力を手に入れた暁にはわたしたちももっともっと強くなれます。
そうしたら後はわたしたちの時代ですよ。このご時勢、
わたしたちを必要としている人間はごまんといますからねえ」
尊攘派の志士でも佐幕派でも構わない。それが異人であったとしても。
間違いなく近い内にこの国は戦乱に包まれることとなるだろう。
そのときこそ自分達の出番だ。臨むままに敵を屠り、斬り裂き、蹂躙する。
刀として生まれたものとしてそれは至上の喜び。
「楽しみですの」
「ええ、そうですね」
そうこう話をしているうちに旅籠に着く。確か栗原透子一行は今晩ここに宿泊しているはずだ。
「やっと着きましたの。それでどうしますの?」
「ええっと…予定では……」
A 「とりあえず刀だけが目的ですしこっそりと忍び込みましょう」
B 「どうせ使い捨ての身体です、正面から行って暴れまくりましょう」
C 「宿に火をつけるなりして逃げ出てきたところを狙いましょう」
Aで穏便に
てーかアレイよ、
おまえまだ若いとはいえ血統的にはかなり優秀な魔族のはずなのにあっさりのっとられすぎだぞw
ごつん
「がおむが……」
夜中。
気持ちよく惰眠をむさぼっていた観鈴は不意に頭を小突かれ目を覚ました。
しかも同時に口まで押さえられる。一瞬すわ刺客か!と慌てかけるが目の前にいるのはみさき。
(み、みさきさん、どうしたの?)
(誰か近づいてきてるよ)
手槍を取り出しながらみさきは冷静に呟く。
(だ、誰か?)
(わからない? 2人。足音を殺してここに近づいてきてる)
(え、えっと……)
同じように気配を探ってみる観鈴ちん。
(……2人? ええと……あ、本当だ。言われてみれば……もう1人いた)
(片方は吹けば飛ぶよな目立たない気配だけどね、わからなかった?)
(にはは……)
観鈴は苦笑することしかできない。
(はあ……本当にこれがあの日、十本刀の強襲をはね退けた”人斬り観鈴”と同一人物なのかなぁ?
こんなのを目の仇にしてると思うとがっくり来ちゃうよ)
心底残念そうに呟くみさき。
(にはは……ごめん)
(まあ、それは今はいっか。私の耳がそれだけすごいってことにしといてあげるよ)
改めて、侵入者の迫る方向を睨みつける。
(お客さん……じゃないよね)
(うん。忍び込む理由がないし)
(さて、どうしよっか。見た感じというか聞いた感じ、2人しかいないみたいだけど……)
(……………)
A 観鈴がディフェンス。みさきがオフェンス。
B みさきがディフェンス。観鈴がオフェンス。
C 2人同時に打って出る。観鈴が気配が軽い方を、みさきが重い方を相手する。
D 2人同時に打って出る。観鈴が気配が重い方を、みさきが軽い方を相手する。
ハクオロだってあっさり死んだんだ。深く考えたら負けだw
ただの異人扱いで、魔族じゃない可能性だってあるしな。
C
「……討つよ」
「え?」
みさきがくすり……と笑った。
「最初からそれしかないじゃない? 抜き足差し足忍び足でこっちに向かってる人たちに、話し合いなんて出来ないよね?」
「…………」
自分のティンベーとローチンを用意し、立ち上がる。
「私が右側、気配の重いほうを相手にするよ。多少強そうでも、気配が読みやすい相手のほうが楽だしね。
観鈴ちゃんはもう一人の気配が軽いほうをお願いするよ。天剣の観鈴なら、楽勝だよね?」
「え、ええと、みさきさん……?」
「なに?」
「やっぱり……その、相手は殺しちゃうのかな?」
観鈴が困ったように言う。
自分の誓いだけは破るわけには行かない。
だが、そんな観鈴にもみさきはただ笑っただけだった。
優しく、冷たい瞳で言葉を続ける。
「悪いけれど……私は不殺なんて誓った覚えはないんだよ」
そのままみさきは観鈴の返答を待たずに廊下へと出る。
観鈴もみさきに少し遅れて後を追った。目指すは当面の敵、のみ……。
庭には二人、音もなく立っていた。
二人に共通しているのは、どちらも瞳に色がない。
みさきのように目が見えないというわけではなく、ただ正気を保っていない、という意味だが。
二人の手に握られるのは妖しく光る刀。月明かりを不気味に反射する。
みさきは自分が前に出たにもかかわらず、臆することなく対峙する二人をくすくすと笑った。
「何の用かな? こんな夜更けに……出前、なんてことはないよね?」
「いいえ、出前なんですよ。命のお皿を取りに来ただけなんですけど」
鎧を着たほうの少女が答える。
……いや、少女が答えているわけではない。うっすらともう一人幼女の姿が浮かび上がっている。
「あれ? その声……確か前にも聞いたね?」
「覚えていてどうもありがとうございます。立……じゃなくて、永遠無海って呼ばれてます。
皆、わたしのことは『鬼神楽の幼刀』なんて呼んじゃったりしてるんですけどね」
「で、刀風情が何の用かな?」
「ごめんなさいっ。奥にある刀を一振り、わたし達に譲って欲しいんです。
それと……できたら、そっちの観鈴さんが持ってる刀を折ってくれたらいいんですけど」
「ふぅ〜ん。私がそんな素直に言うこと聞く人に見えるのかな」
「え、えと……ごめんなさい。ちっとも見えません」
その瞬間、二人が同時に獲物を構え、お互いに突っ込む。
先手を打ったのは……
A みさきだった
B 無海(INアレイ)だった
C 観鈴VS金華(INみずぴー)が気になる
B
アレイが動いた。片手に握った永遠無海を振りかざし、みさきへと迫る。
しかし……
「……私をなめてるのかな?」
もたもたのろのろと、全身を鋼鉄の鎧で包んだその足音はあまりに鈍重。みさきにしてみれば止まっているも同然だった。
「甘すぎるよねっ!」
みさきが動く。ティンベーの重量と脚力で前傾姿勢を保ち、瞬間的には観鈴の縮地に迫るほどの速度。
一瞬で間合いをゼロにすると、左手の盾でアレイを殴りつける。一瞬、動きが止まる。
「終わり、だね」
そのままローチンの神速の一突きを、剥き出しの顔面に繰り出すが……
「甘いのはあなたですよ」
「え………ぐ、ッ!!?」
次の瞬間、弾き飛ばされていたのはみさきの方だった。盾は、構えたまま。
防御は完全だった。しかし……
「いたたたた……」
数メートル飛んで地面に叩きつけられる。そのまま自らごろごろと後ろに転がり、ある程度距離を取ったところで再度起き上がった。
同時に盾と槍の構えも整える。
「……何なのかな今のは」
「最初はどうしようもないかと思いましたが、この体もなかなかのものですよ」
くすりくすりと無海が嘲りの笑みを浮かべる。
「まず、確かに動きは鈍いですが防御力が素敵です。
あなたの手槍程度では先ほどのようにむき出しの部分を狙いでもしない限りちっとも痛くもかゆくもありません」
「…………」
「そして次に、この鎧を駆動させるだけの力が素敵です。いやこれは意外でした。
ただの色物かとも思いましたけど使ってみればなかなか。こういうのもいい感じです」
「…………」
「手甲で殴りつけるだけであなた程度なら弾き飛ばせるんですよ。
その盾がどれだけ硬いか知りませんが、伝わる衝撃はどうしようもありませんよね。
あなたとこの方では、根本的な重量が違いすぎるんですよ。あはふふふ」
面白くて仕方がないといった様子で笑う。
その声は、ひどくみさきの癪に障った。
「……けど、それはその子の力だよね。あなたの力じゃない」
静かに怒気を孕んだ声で呟く。
「私の力ですよ。今この方を動かしてるのは私ですから」
「違うよ。あなたはその子の体を好きなようにいじくってるだけ。戦うんだったら、あなた自身の力で来たらどう?」
「わからない人ですね。これが私の力なんですよ」
「……そういうの、よくないと思うな。人の体をおもちゃみたいにするのって、よくないと思う」
「おもちゃなんかじゃありませんよ。人の体が私の道具なだけです。くすくす……面白いですよね。
人の道具として造られた私たちが、人を道具として使うなんて。
あなたがその槍と、盾を使うように。私はこの方を使う。そこに何か違いがありますか?」
「大違いだよ。相手の気持ちも考えずに、その体を勝手にいじくるなんて絶対によくない」
しかしみさきの言葉にも関わらず、無海の笑いは止まらず……
「くすくす……さすがですね。自分の体を他人のおもちゃにすることで生きてきた女性が言うと、説得力が違います」
「!」
ピキッ、とみさきの眉間に深い皺が刻まれる。
「……どういうことなのかな?」
「私、お姉さまみたいに体は上手く操れませんけど、その分心を扱うのが得意なんですよ。
心が自在に読み取れるってわけじゃありませんけど……相手が強く思ってることなら、なんとなくわかるんですよね」
その言葉を聞き、みさきの額に汗が一筋流れる。
「えっと……そうですね。それじゃああなたの印象深い思い出を一つ。えーっと……」
言うとやおら無海は楽しそうにジロジロと、みさきの光を失った両の瞳を覗き込む。
「ああ、なるほどなるほど。すごいですねぇ。あなたが一番最初に股を開いた相手は―――――」
「黙りなよッ!!!!」
みさきが激昂する。そのまま一直線にアレイに向かい、盾を叩きつけるが……
「わからない……人ですねぇっ! あなたも!!」
アレイは空いた左手でティンベーを受け止める。そして、そのままギリギリと力比べの形。
「この……このッ!!」
みさきがローチンで突きを繰り出すが、この体勢では距離が足りない。
アレイの顔にはわずかに届かない。それ以外の部位ではダメージにならない。
「そうですか……そんなに嫌な思い出なんですか」
そのアレイの背後では、変わらず無海がくすりくすりと嘲り笑っている。
「それじゃあ……」
そして……
A アレイが永遠無海を振り下ろした。
B 無海がみさきの過去を暴き続ける。
C ここで観鈴がみさきに声をかけた。
A
みさきに振り下ろされる『永遠無海』
普段ならその様な鈍重な太刀などやすやすと交わしていたが。
過去を暴かれて激昂していたみさきは反応を遅らせてしまう。
「うあああっっっっ!!!」
後ろに飛び退いて避けようとしたが、間に合わない。
流石に致命傷は避けるが、右腕を深々と切り裂かれ。着物を鮮血に染めた。
激痛で思わず手槍を落としそうになるのを必死に堪える。
みさきは間合いを取って体勢を整えようとする、が、この右腕の傷と出血ではとてもこれ以上は……
思いあぐねるみさき、リサを起こすか? このまま戦うか?
……だが、余裕の『永遠無海』は間合いを詰めてとどめを刺す様子が無い。
ニヤニヤと笑みを浮かべてみさきを見下ろす。
「残念、かわしましたか」
「こんなところで死にたくないな、神尾さんと尾根の里で殺し合いがしたいし」
「軽口はまだ叩けるみたいですね、それにしても尾根の里ですか……くくっ」
面白そうにそして残酷に『永遠無海』が笑う。
「そんなところで殺し合いなんてしちゃっていいんですか? あなた……」
A 「その尾根の里で娼婦として『飼われて』いたのに」
B 「尾根の里から追い出されて行きずりの男達に身を任せたのに」
C 「尾根の里の人間に『売られて』娼婦にされたのに」
A
「その尾根の里で娼婦として『飼われて』いたのに」
「…………ッ!」
ぴしり……とみさきの体に亀裂が入ったような感覚がする。
そう、一年前のあの日……自分の世界を失ったみさきに残された道は、一つしかなかった。
力も、金も、視界すらもないみさきが生きていくのには……。
そう、体を売るしかなかったのだ。好きでもない男に。
目が見えないということで乱暴に扱われ、更に他の仕事仲間にすら冷たい視線を受けた。
それがどれほど屈辱的なことかは……筆舌に尽くしがたいものがある。
「本当、人間って大変ですよね。そうまでしなくちゃ生きられないなんて」
「……煩いよ」
「え?」
ゆらり、とみさきが立ち上がる。
「人が嫌がるようなことは言っちゃいけないって、誰かに習わなかった?」
「いいえ。それにわたしは『後悔』や『憎悪』の念を込められて作られたんです。
だから……わたしは人間のそういう感情に包まれると、とってもいい気持ちになれるんですよ」
「正に邪刀だね」
「人間から見れば、そうなのかもしれないです。
でも、それがわたしだから。わたしはそういう意志を込められて作られた刀ですから」
アレイが刀を納め、動きを止める。
……居合いの構え。目の見えないみさきに待ちの戦法という定石。
みさきは腕を抑えながらも、自分を落ち着かせることに努めた。
相手の心情を察して挑発。それは心眼を持つ自分が最も得意としていた戦法。
自分の得意な戦法をそっくりそのまま真似された。それが逆にみさきの冷静さを取り戻させたのだ。
切り口を手でなぞる。恐ろしいほどに綺麗だった。
「よく斬れる刀だね、それ」
「えへへ……切れ味だけは元禄辺りの刀なんかには絶対に負けませんよ」
「確か永遠無海って……あの柏木楓の作品だよね? 比較的初期の」
「初期? ううん、わたしが”最後”ですよ?
わたし以降”お母さん”は変な刀ばっかり作るようになっちゃったんです。
人を生かす刀、なんて言って刃が逆についてる刀を作ったりとか……。
だから刀という意味では多分わたしが最後の作品だと思います」
みさきは話しかけながらもローチンを構える。
出血のほうは大丈夫だ、見た目ほど大した傷じゃない。
「ふぅ〜ん、でもあなたって公に出来ないような外法から生まれたんだよね?
柏木楓の刀は、初期のものには結構そういう黒い噂があるよ」
「詳しいですね。感心しちゃいます」
「一応こっちの道で食べてるからね、それなりの事情は知ってるつもりだよ?
やっぱり、悪い方法で作られた刀には、悪い心がついちゃうのかな」
「『悪い』ってなに? それって……人間が作った概念でしょう?」
アレイがその言葉と共に突進する。
まだ腕の痛みの残っているみさきはそれを体を捌いてやり過ごした。
「わたしたちは刀なんですよ? 『善い』とか『悪い』とか言われても困っちゃいます。
これが『善い』とかこれが『悪い』とかって、人間が勝手に決めた概念じゃないですか。
わたしたちは人を斬ること、それだけが存在目的。そのためだけに作られたんです。
人を斬るのに……『善い』も『悪い』もないんですよ」
「……訂正するよ。善悪を理解できてないなんて、それ以前の問題だったね。
やっぱり刀は刀。人のような姿になっても所詮は犬畜生以下の鉄の塊だね」
相手を挑発しながらもみさきは考える。相手をどうやって倒したらいいものか、と。
鎧に守られた使い手のほうは中々の強敵。一筋縄ではいきそうもない。
では刀のほうはどうだろうか? 確証はないが刀を手放せば使い手も正気に戻るかもしれない。
みさきの打つ手は……
A アレイの体がわずかに露出してる部分を一気に叩く。
B 一か八か刀を使い手から弾き飛ばす。
C アレイを狙う……と見せかけ、観鈴と交戦中の金華を狙い敵の戦力を削ぐ。
D 観鈴VS金華戦が気になる
A
(鎧に覆われていない部分を狙うしかないね)
みさきはそう結論付けた。
刀を手放させたところで、操られている者が正気に戻るという確証があるわけではない。
であるならば、操られている体を戦闘不能にするのが一番確実だ。
理に叶っている。まったく理に叶っている。
理に叶ってはいるが、それはこの体の主――おそらくは妖刀に操られているだけの、罪のない人間を殺す、そうでなくとも深く傷付けるということだ。
(――だから、何?)
みさきは一瞬逡巡しかけた自分を嘲笑う。
知ったことか。
みさきは快楽殺人者ではない。べつだん人を斬るのが好きなわけではないし、人を殺すのは基本的に良くないことだと考えている。
しかし、自分の命を繋ぐために誰かを殺す必要があるなら、けして躊躇わない。
あなたは何も悪くない、巻き込まれただけの被害者だけど、私が生き延びるのに邪魔だから死ね。
心からそう思える。
(何も悪いことをしなくても、災厄はやってくるし、力がなければ奪われる)
みさき自身そうだったのだから。
(あはは……そうだったね神尾さん。所詮この世は弱肉強食)
仇と恨む相手のかつての口癖に一抹の真実を見、みさきは苦笑した。
身を守る亀甲の盾――ティンベーを捨てる。
槍を持った手をだらりと垂らし、速度のない足取りで歩を進める。
ゆらゆらと頼りないその歩みは、まるで母とはぐれた幼子のように、向かう先を見出せないかのように。
「あれっ? どうしたんですか? 無駄なて〜こ〜をやめる気になりました?」
小馬鹿にするような『永遠無海』の言葉にも反応せず、みさきはただゆっくりと前進を続ける。
「――ふん。大方、この体の動きが鈍いから、身を軽くすれば速さで圧倒できるとでも考えてるんでしょう」
陽炎のようなみさきの足捌きの効果を、妖刀は正確に読み取っていた。
重心の置き所を定めない――逆に言えば、どの方向にも相当の速度で回避できるということ。
盾を捨てたことといい、みさきが「受け」を諦め「避け」に全力を注ぐ戦法に切り替えたことは明らかだった。
「浅はかなんですよ。そのお粗末な頭、叩き割ってあげます」
アレイの両腕が持ち上がり、『永遠無海』を大上段に構える。
手甲の重量を逆利用した振り下ろし。単純ながらその威力は絶大、みさきの細い体を裂くに充分だろう。
その構えを察知しても、みさきは歩調を少しも変えない。
さく、さく。
地を踏む軽い足音が数歩、続き――
間合いに入った。
「潰れて――くださいっ!!」
直前まで弓弦のように引き絞られていたアレイの腕が解き放たれ、みさきの頭上めがけて落ちてくる。
――「右腕」だけ。
(片手面――!?)
ほとんどの流派では刀は両手で扱うのが基本であり、片手剣は邪道であるとされてきた。
また、そういった作法的なことを差し置いても、人体を、それも硬い頭蓋を叩き斬ろうと思えば、相応の破壊力を剣に載せなければならない。
故に、みさきも敵が片手面で攻めてくるとは予想していなかった。
しかし、これだけの重厚な鎧を着て自在に動けるアレイの膂力を持ってすれば、片手面でみさきの頭を唐竹の如く割ることも可能であろう。
片手だけで刀を御する分、多少なら的が左右にぶれても追えるという利点もある。全力で回避せざるを得ない。
みさきは幽玄の足運びを止め、右腕の死角となるアレイの左脇に飛び退いた。
一瞬遅れて大地に叩きつけられるアレイの右拳――
そこには『永遠無海』は握られていなかった。
回避したみさきを目掛けて、妖刀を抱いた「左手」が、落下を始めていた。
アレイの利き腕は右。それは体を乗っ取った『永遠無海』はもちろん、みさきも戦いの中で気付いていた。
しかし、刀は左腕を主として振るうもの。
片手面を使うなら、むしろ左腕で繰り出すのが自然とさえ言える。
(まあ、右腕が囮だと気付かれていたとしても――刀なしでも「殴り殺せる」右腕だから、どのみち避けざるを得ない……ですよね)
みさきが右腕を回避した直後の隙をついて、本命の左片手面で叩き斬る。
この二段構えの攻撃ならば、みさきの機敏さを持ってしても、一瞬、ほんの一瞬、回避に間に合わない。そう『永遠無海』は計算していた。
そしてその計算は、この上なく正確だった。
大砲じみた音を伴って怪腕の斬撃が落ちる。
妖刀の切っ先は容赦なく獲物を断ち割っていた。
その――固く乾いた大地を。
「――え」
刀にはあるまじきことだが、『永遠無海』は己が目を疑った。
みさきは。
私が吸うはずだった血と脳漿の器は。
どこに――
いや、視界の中を探し回る必要はなかった。
みさきは『永遠無海』のすぐ横で、地を舐める彼女をつまらなそうに見下ろしていたのだから。
しかし、みさきの所在が知れても、『永遠無海』の混乱は収まるどころか悪化する一方だった。
なぜ。
自分の計算は完璧だったはず。
あの瞬間、あの速度、あの角度、あの重さで、避けられる筈が――
……「重さ」?
そこでようやく、『永遠無海』は、己の傀儡の右手が下敷きにしている手槍に気付いた。
みさきの機敏さを持ってしても、一瞬、ほんの一瞬、回避に間に合わない攻撃。
その一瞬を――みさきはもう一つの死荷重を捨てることででっち上げたのだった。
「片手面とは意外だったけど……二段構えの攻撃で来るだろうとは思ってたよ。だから初撃をかわした瞬間、ローチンを捨てた。
私を騙したつもりになって得意になってた?」
単純と言えば、あまりにも単純な作戦。
しかしそれは『永遠無海』の理解の外だった。
「どうして……? 人間は、私たち刀が……武器がなければ戦えない、弱い生き物のはずなのに……武器を、捨てるなんて」
呟きながら、『永遠無海』ははたと自失から立ち直った。
そうだ。目の前の人間は、今、丸腰だ。
そうだ。今すぐこの娘の馬鹿力で自分を土の中から引き抜かせて、返す刀で切り伏せれば――
「鈍いよ」
みさきが『永遠無海』の峰を思い切り踏みつけにした。
いっそう深く土中に押し込まれ、『永遠無海』は苦痛と、それ以上の屈辱を味わう。
だが、みさきとしてもゆっくり敵の苦悶を楽しんではいられなかった。
この鼻持ちならぬ妖刀が冷静を取り戻せば、恐らくみさきの体重ごと刀を振り上げさせることも可能だろう。
そうなる前に、当初の目的を果たす。
両腕を振り下ろし、この上なく無防備になったアレイの顔――鎧に覆われていない顔面――を見る。
人中、眉間。顔面にもいくつか急所はあるが――
(私が狙うなら……やっぱりここだろうね)
みさきは心の中でまた自嘲して、
アレイの両の眼に指を突き込んだ。
A. ……そのまま、持ち主を無力化された『永遠無海』を破壊する。
B. ……『永遠無海』がさらにみさきに心理的攻撃を仕掛けてきた。
C. ……一旦、視点を観鈴−小金華戦に移す。
b
A
――― 一年前 ―――
神尾観鈴の凶行と登臼来大地震で壊滅した尾根の里。
多くの家が焼け、多くの人が死んだ。
しかし、全ての人間が死んだわけではなかった。
生き残った人々はそれぞれの悲劇を乗り越え、新しい生活を作ろうとした。
その中に、深山の屋敷でただ一人生き残った少女。川名みさきもいた。
だが
作る生活は、いや、作ら『された』生活は。
死よりも苦しくおぞましい、人権などという概念が無い世だとしても。
人ではない、犬畜生と同等、それ以下のものだった。
観鈴の凶行の後、主の居なくなった屋敷へ村人達は群がった。
今後の生活のため、金や家財道具をいただくために。
咎める役人も屋敷の兵士もいない、もとより村人にさして好かれていない深山を庇う村人もいなかった。
屋敷からは何もかもが奪われた、金も、家財道具も、食料も、畳一枚にいたるまで根こそぎ無くなる。
そこで彼女、川名みさきが台所発見された。
凶行が終わり村人に発見されてほっとするみさき。
だが、彼女の地獄はこれからだった。
目が見えず足手まといの少女。
深山雪見に手厚く保護され豊かな暮らしをしてきた少女。
あの惨劇から一人生き残った少女。
村人から雪見の死を聞かされるみさき。
嘆き、泣き叫ぶ、あらん限りの声を出して。狂ってしまいそうになるまでに。
そして、これからどうやって生きてゆけばいいか分からない絶望と不安が彼女を襲う。
そのみさきに村人達が告げた。
「目の見えない、役立たずのお前でも出来る仕事をさせてやるよ」
はじめは普通の娼館だった。
他の女性と同様にあくまで普通の性行為をする娼婦だった。
だが、彼女は今まで雪見の屋敷以外の世界を知らない。
それは彼女のせいではないが、外の世界に彼女の理由に同情してくれる人間はいない。
客とのトラブル、仲間たちとの不和、世話の掛かる生活………
娼館の主と村人達は、一つの結論を出した。
「今日からここが君の新しい家だ」
村外れの質素な小屋、深山の屋敷に比べれば犬小屋以下の建物。
そこがみさきの新しい家兼『仕事場』だった。
みさきの足首には逃走防止用の足枷が付けられ、小屋の外には出られない。
服もボロボロの着物が一着のみ、もっとも、『仕事上』さして必要となるわけではなかった。
村には男が溢れていた。
妻を無くした男。
恋人を無くした男。
地震で前より生活が悪くなり、ストレスが溜まった男。
彼等ははけ口を探していた、誰にも非難されないような都合のよいはけ口。
そして、誰もが十分に娼館に通えるほど裕福ではない。
…………………みさきは、彼等のための娼婦、いや、『雌』だった。
「んんっ、ふあぁぁっ、んぐっ………んぶうぅぅぅぅぅ」
「へっ、雌犬が、一滴残らず飲み干せよ」
咥えさせられた男のモノが達し、口の中が白濁液で満たされる。
今日は何本目だったろうか……………思い出せない、思い出したくもない。
いや、そもそもここで飼われ始めてから何日経って何回犯されたのか……
思い出せない、思い出したくもない、考えたくもない…………
何人もの男達が、乱暴に、無遠慮に、狂ったようにみさきの秘唇にモノをぶち込み、抉り、擦り、果てて白い粘液を吐き出す。
目は見えない、だけど、そんなもの無くったって他の感覚で十分分かる。
自分の今の様子が、どれほど汚らしくて惨めなものか。
服などとうに剥かれ、部屋の隅に放って置かれている。
では自分は裸なのか? いや、裸ではない…………『子種汁』という服を着ている、体中に。
顔も、胸も、背中も、太股も、腕も、無論秘部に尻も、そして
「みさきは綺麗な黒髪だね、羨ましいよ」と褒めてくれた髪も腐った白い粘液に占められている。
限界以上に注ぎ込まれた腐粘液が溢れ帰り床に水溜りならぬ精液溜まりを作る。
時折、男が外に連れ出し、面倒くさそうに水をかけ、体の精液を落とす。
しかし、それからまた繰り返し、体中汚れるまで男達に嬲られ続ける。
そうまでしてみさきが得た物。それは。
村から出される三度の食事と男達の申し訳程度の小銭。
そして絶望と憎悪。
漏れ聞いた事件の元凶「神尾観鈴」への復讐心
454 :
代理:2005/11/17(木) 03:13:46 ID:zTItJVRy0
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
みさきに寄り代の目を潰されたとき、咄嗟に彼女の心の傷を更に深く抉った『永遠無海』
「…………まさかここまでするとは思いませんでした。一応様子見なのにここで潰されてはたまりません」
そう感心した様に呟く『永遠無海』
とはいえ彼女の寄り代はほとんど視力を失っている。これ以上彼女は何も出来なかった。
完全に視力を失うまでにさっさと帰るなり臨時の寄り代を見つけねばならない。
「ま、今日は帰るとしましょう。また会いましょうね、みさきさん」
絶叫し、その場に崩れ落ちるみさきから、夜の闇に退いてゆく『永遠無海』
A 少しして、みさきは正気を取り戻し、その場に誰もいない事を悟った
B その頃、観鈴と小金華の戦いの様子は
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
みさきに寄り代の目を潰されたとき、咄嗟に彼女の心の傷を更に深く抉った『永遠無海』
「…………まさかここまでするとは思いませんでした。一応様子見なのにここで潰されてはたまりません」
そう感心した様に呟く『永遠無海』
とはいえ彼女の寄り代はほとんど視力を失っている。これ以上彼女は何も出来なかった。
完全に視力を失うまでにさっさと帰るなり臨時の寄り代を見つけねばならない。
「ま、今日は帰るとしましょう。また会いましょうね、みさきさん」
絶叫し、その場に崩れ落ちるみさきから、夜の闇に退いてゆく『永遠無海』
A 少しして、みさきは正気を取り戻し、その場に誰もいない事を悟った
B その頃、観鈴と小金華の戦いの様子は
A
「ごめんなさいお姉ちゃん! 退きます!」
「えーっ!? もうですの〜!?」
「ごめんなさいっ!」
みさきの正体を奪い、逃げ去る無海。金華に向かって叫んだ。
「逃がさないよっ!」
観鈴がすかさず一本打ち込むが、金華に操られた少女がそれを受け止めた。
「うーん、仕方がないですの。お姉さまにも無理はするなって言われてますの」
観鈴は何度か金華と切り結び、その結果……油断できる相手ではないが、どうにもならない相手でもないと判断していていた。
このまましばらく戦えば倒せそうな勢いではあったが……
「それに、この体じゃちっとも実力が発揮できませんの。これも……一回しかできそうにないですのっ!」
「えっ!?」
裂帛の気合と共に、金華の少女が両手で剣を逆手に持ち―――その切っ先を地面に突き立てる。
その、瞬間。
「奥儀・地龍走破!!」
「が、がおおっ!!?」
信じられないことに、少女から岩盤がめくれ上がるような衝撃波が走った。
予想外の攻撃に一瞬足元を取られ、そのまま波に押し流される観鈴。
「人斬り観鈴、今日のところは勝負はお預けですの!」
遠ざかる金華の台詞。
「お姉ちゃん、それは負け訳の捨て台詞ですよ」
「本当に負けた無海ちゃんには言われたくないですの!」
「ごめんなさ〜い」
「ま、待ってっ!」
そしてそれに追随する幼い声。
慌てて起き上がるが、観鈴が見たのは闇の中に消えゆく二人の姿だけだった。
「とにかく、次が年貢の納め時ですの〜!」
「ですからもうちょっとカッコいい台詞をですね……」
そして、やがてそれすらも、完全に闇に溶けていった。
―――しばし、静寂が場を包む。
「……………………」
そんなに時間はかからず、みさきは我に返った。
両耳に聞こえてくるのは、周囲の静寂と旅籠の方から聞こえてくるざわめき。
まあ無理もないだろう。こんな騒ぎが起きて目を覚まさない方がおかしい。
そして……
「みさきさん! 大丈夫みさきさんっ!?」
己を抱き上げる観鈴の声と、感触。
みさきは……
A 「大丈夫だよ……情けないところ見せちゃったね」。
B 「……あのね神尾さん、ちょっと昔の話、してあげようか」
C 反射的に槍を突きつけた。
C
ごめん、上の話でBに変更
・・・・・・って言っても遅いか。スマネ
みさきは、地面に胎児のように蹲っていた。両腕で自分の体を抱き締め、がたがたと震えていた。
喉の奥から、啜り泣くような呻き声が漏れ出し、噛み締められた歯はぎしぎしと軋んだ。
――犯された。あいつに、犯された。どろどろに犯された。
何時の間にか、何事かと、寝静まっていた旅篭の人間がぞろぞろと庭に出て来て、みさきと鎧少女を見下ろしていた。
みさきは、服を纏っているにも関わらず、まるで全裸にされて衆人監視の元に置かれている気がした。周囲のあらゆる目が、無防備な自分の体の表面のみならず、穴という穴を舐めるように見られている気がした。
内臓はおろか心の隅々まで見通され、嘲け笑われている、そんな気がした。
――嫌だ、助けて。雪見ちゃん、ねえ、助けて、やめて、ねえ、痛いの、助けて、なんで私はこんな所に一人でいるの、ねえ――
「助けてよっ!」
耳をつんざく絶叫が頭に反響した。みさきの喉から出た声ではなかった。
「目がっ、目が見えないっ、痛い、ねえ何処、ここは何処、助けてよ、誰か助けてよ!」
ぽっかりと空いた眼窩から血と水を垂れ流して泣き叫ぶ、甲冑に身を包んだ少女の姿。
助けて、誰か助けて、ここは何処! ねえ、ここは何処!
少女の叫びが頭の中で反響する。手にはぺっとりとした血糊。
目を抉った時の異常な感触を思い出して、みさきの全身に鳥肌が立つ。
ぬるぬるとした液体が手を伝い、血と肉の臭いが鼻を突き――それは、まるで、あの尾根の里での陵辱の日々、そのままの――。
「! ―――――! ――――――――!」
みさきと鎧少女の絶叫が合唱する!
少女の目を抉ったのは、紛れもないみさき。目を失った者が、他者の目を奪った。
目には目を、歯には歯を――それは古よりの同害復讐法。しかし、泣き叫ぶ鎧少女には、何の罪もない。
罪を負うべきはみさき。他に様々な狙うべき点があったにも関わらず、目を潰したのはみさき。少女を犯したのは、紛れもないみさき。
視力を失った自分の心の奥の醜い情念に駆られ、無関係な少女に理不尽な、一生ものの傷を負わせたのは――まぎれもない、この私、川名みさき!
声が聞こえる。頭の中からも、外からも聞こえる。耳を覆っても、まだ聞こえる、そこからも、ここからも!
突然、肩に手が置かれた。初めて尻穴を嬲られた時と同じ悪寒が、背筋を駆け抜けた。
『……嫌ッ。嫌嫌嫌ッ、嫌ァッ! 止めて、止めて止めてやめて! 許して……もう許して! 犯さないでッ』
『おいおい……まだ終わっちゃいねえぞおっ、ほら尻あげろ、おいお前、前に回れ、二本挿しいくぞっ!』
突如、背後から抱き締められた。両腕が体に絡み付き、体が強引に引き上げられる!
『やめて、お願い、今日は……赤ちゃん……出来ちゃう……』
『それはいいや。娘が生まれれば、赤ん坊の時からヤリまくって淫乱に育ててやるさ。男が生まれた時には、赤ん坊の時からお前と交じらせてやる。ここから頭を出した男がここにモノを入れて、また出てきた男がまた入って……面白いなあ!』
やめて、やめてよっ、入らないで、入ってこないで!
私は伸ばした手で尖った木片を掴み取り、そして尻に入れた所の男に向かって――!
「いやああああぁぁぁっ!」
「なっ!? みさきさん!?」
抱き起こそうとしたみさきが、足元の折れた槍を突き出すのを、観鈴は咄嗟に回避した。
「止めて、犯さないで、入ってこないで!」
「みさきさん! 落ち着いて、わたしだよ、観鈴だよ!」
「嫌……嫌嫌嫌……嫌ァッ!」
なおもみさきは近寄ろうとする観鈴に、滅多やたらに槍を振り回して威嚇する!
「WHAT!!?」
「みさきさん……一体これは!?」
妖剣の支配を逃れた、眼鏡の少女を担いで庭に出てきたリサと透子が、異常な光景を目にして絶句した。
槍を振り回して泣き叫ぶみさき。それを避わしながら、みさきを落ち着かせようとする観鈴。そして、その傍らには……ぽっかりと空いた双眸から血の涙を流して泣き叫ぶ鎧の姿!
「一体これは……どういう事なのッ!」
リサの声に応えるものは――誰もいない。
「助けて、ここはどこ、見えない、痛い、助けて、誰か助けて!」
ただ、鎧少女の絶叫だけが木霊する――。
リサは――。
A.みさきは観鈴にまかせて、鎧少女を助け起こす。
B.観鈴を襲い続けるみさきを張り飛ばす。
C.周囲の野次馬を立ちのかす。
Bで
ここは一発、カッコイイところを。
アレイ怖っ
「...SHIT!」
なにはともあれ、みさきを落ち着けないと話にならない。
リサはツカツカと、矢鱈目っ鱈に槍を振り回すみさきに近づいた。
「嫌……いやっ! 嫌ぁっ! 私に近づかないで! 私に触らないで!!」
「みさきさん! みさきさんっ!!」
普段なら精密極まりない動きで敵を屠るその槍も、猫の子おろか虫の一匹すら逃さないその耳も
使い手が恐慌状態に陥った状態では糞ほどの役にも立たないのか、間近までリサが迫っても気づく気配は皆無だった。
「Ms, MISAKI!!」
「い……っ!!」
隣に来て、大声で名を呼ぶことでやっと反応する。
「いやぁぁぁぁっ!!」
先ほどと同じように、リサに向かって槍を振りかざすが……
「リサさん危ないっ!」
「COOLDOWN!! ……落ち着きなさい!」
雑な動きの槍なんぞよりよっぽど速く、リサの平手が空を切った。
ぱぁぁ―――ん!とみさきの頬が小気味よい音を高く鳴らす。
「……………」
「とにかく、今は落ち着きなさい。何があったというの!?」
「いや……」
しかし、みさきの瞳が再び潤み……
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! 許してくださいっ! なんでもしますからっ!
ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! もう、もうぶたないでっ!!」
今度は両手で頭を押さえ、その場に蹲ってしまった。
必死に謝りながら、容赦を求める。
「...Ha!」
つまらなそうに嘆息するリサだが
「観鈴。栗原さん。この子を頼める?」
「あ……う、うんっ」
「は、はいっ」
とりあえず暴れるのは収まったと見て、2人にみさきを部屋に連れ戻すように命令した。
「AND...」
そして次に向き直ったのは
「何が、何がどうなってるんですか!? 私はどうなったんですか!? ここは……どこなんですかっ!!?」
変わらず泣き叫び続ける、甲冑少女の姿。
「……観鈴、大体の予想はつくけど……彼女が刺客ね?」
「うん。けど、永遠無海……だっけ? あれを持ってたから、たぶん……」
「...Haa」
もう一度大きく息を吐き
「いいわ……私に任せておきなさい」
「う、うん」
その後、野次馬に手伝わせながら少女を医者の下へ運んだリサ。
幸いと言うべきかなんと言うべきか。
少女らが旅籠に忍び込むところを目撃していた者がいたため、リサにとっての面倒事は少なくなりそうな気配だった。
(But...)
「わ、私知りません! 私は、今日のお仕事を終えて家に向かってただけなんです!
そ、そんな、旅籠に忍び込むとか、そんな……!」
その分、少女の方に面倒が降りかかって行きそうな気配だった。
(妖刀がどうのなんて言えるわけもないし……言ったところで話が面倒になるだけかもしれないし……
栗原さんを護衛中の身でこれ以上厄介ごとを抱え込むわけにもいかないし……
ご愁傷様、で別れることもできるけど……どうするべきかしらね……)
爪を噛みながら、考える。
A 信じても信じなくても、とりあえず本人に操られてた旨を伝える。
B 一時リサで身柄を預かる。
C 今日のことは罪には問わないことを伝えてこの場を去る。
B
「みさきさん……」
「あううあ……くあああ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
旅籠、観鈴たちの部屋。
その中で布団を頭からかぶり、部屋の隅でガタガタ震えるみさきの姿があった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
言うこと聞くから……だからもうぶたないでください……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
ただガチガチと奥歯を鳴らしながら謝罪の言葉だけを壊れたテープのように繰り返す。
「どうすれば……いいんでしょう……」
観鈴も透子も、その異様な様子に気おされ、大して言葉をかけることもできない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」
……彼女等の及び知るところではないが、みさきのこれは、かつて彼女が折檻され続けた名残だった。
怒鳴られ、殴られ、犯される。
その繰り返しの中で、みさきはただ丸くなり、ひたすら謝り、ガタガタと震え、後は状況に任せる他できることはなかったのだ。
「……ただいま」
そんな中、入口の方から疲れたリサの声が聞こえてきた。
「……お邪魔します」
続いて、さきほど聞いたばかりの声も。
「?」
顔を見合わせる観鈴と透子。
「…………彼女の様子は?」
みさきほどではないとしても、こちらも憔悴した様子のリサが部屋に入ってくる。
観鈴はその問いに、首を振ることで答える。
「…………そう」
「……説明してください。お願いします」
そして、リサの後ろから現れたのは先ほどみさきと命を削りあったばかりの甲冑少女。
……もっとも、今は肉厚の鎧も抜ぎ、歳相応の小さな体が露になっているのだが。
両目に巻きつけられた包帯が痛々しい。
「……リサさん、この子は……」
「…………捨て置くこともできたけど、いくらなんでもそれも酷いでしょう。
それにあっちに放っておいたら確実に面倒なことになるから、それならとりあえずと私が預かることにしたわ」
「説明……説明してくださいっ! いったい何がどうなってるんですかっ!?」
「……ひとまず、事情を説明する必要もありそうだしね」
「……というわけよ」
とりあえずみさきの様子は透子に見てもらいながら、リサと観鈴は掻い摘んで事情を説明した。
もちろん、透子や観鈴の素性など非常に危うい部分はぼかしてある。
要人を護衛中、呪われた刀の襲撃を受けた。
あなたはそれに利用された。そして自分たちと戦う中、目を負傷した、と。
「…………」
それを聞いたアレイは……
A とても信じられない様子だった。
B とりあえず前後の状況だけは理解した様子だった。
Bかな
B
「……事情は……わかり、ました」
リサと観鈴の説明。聞き終えたアレイは、搾り出すような声で答えた。
「私の最後の記憶……言われてみれば、変な女の子に刀を握らされたのは覚えています。
そこから……すべて真っ暗です。その話によると……あの子が、妖刀の精だったのでしょう」
「…………」
2人は黙って聞いていることしか出来ない。
「……確かに、そういう事情なら……あなた方ばかりを責めることはできない。
それはわかります……。誰だって、襲われたなら、反撃しないわけにはいかない……そうですよね」
その声に、涙が混じってくる。
「けど……けどッ!」
瞳を失った両目から、涙がこぼれおちる。
「斬られたりとか、殴られたりとか! 少しくらいならわかります! 私だって操られたんですし、それくらいなら……わかります!
我慢します! けど……どうして目なんですか! どうして両目なんですか! なんで……どうして!」
「……………………」
「私……みんなのために! みなさんのために! 博多まで来て……出稼ぎに来てたのに! 来たばっかなのに!
どうしてですか!? どうしていきなりこんなことになっちゃったんですか!? ねえ!
私どうすればいいんですか!? 教えてくださいよねえ! 答えてくださいよ、ねえ!」
「……………………」
泣き喚くアレイ。
誰も答えることはできず、重苦しい沈黙が場を包む。
A 「……事態が収まったら、私の方から少しだけど補償するわ……」リサが呟いた。
B 「……誰なんですか? 私の目を潰したのは……」アレイが先に口を開いた。
B
「……誰なんですか? 私の目を潰したのは……」
アレイが先に口を開く。
「別に仕返ししようとか……そういうんじゃないんです……でも……でもぉ!」
語気が強まる。感極まった彼女の目からは涙が零れ出ていた。もう光を映すことのない目から。
「誰なんですか……誰なんですかぁぁっ!!……あぁぁ……ぅぅぅ……ぅぁぁあああっ!!」
そのままアレイは泣きじゃくる。その悲痛な叫びに一同は何も答えることができなかった。
結局のところ。アレイの一件に関してはリサ達にできる事は殆どなかった。
彼女の身寄りと連絡を取り身柄を引き取ってもらうまでに数日。
一行は博多への逗留を余儀なくされた。失明したアレイを引き取った彼女の身寄りからは
怨嗟を持って一行は迎えられた。失明した彼女のその後に対する補償。
その他諸々の問題については上の組織が受け持つことになる。
後味の悪さを残してこの一件は幕を閉じた。
関係のないものを巻き込みその人生を狂わせてしまったという重荷を残して。
そして更に数日、一行が博多を離れるときに
A みさきはまだ回復していなかった
B みさきは表面上は落ち着きを取り戻していた
C みさきは姿を消していた
B
みさきは観鈴の強敵(とも)であって欲しいからなぁ。
Bで
「みさきさん……大丈夫?」
宿を出ようと仕度をする四人、ふと、観鈴がみさきに尋ねる。
「え? 大丈夫だよ神尾さん。もう平気だよ」
そう答えるみさき。
あの日、みさきの怯え方は凄まじかった。ただただ布団の中でブツブツと泣きながら震えるみさきは
とても『盲剣のみさき』と恐れられた少女とは思えなかった。
しかしこの数日、みさきは少しずつ落ち着きを取り戻し、昨日はもう少なくとも表面上は落ち着きを取り戻していた。
「にはは、良かった」
とりあえず喜ぶ観鈴、だが、リサの表情は暗い。
(心配ね、今度 Panicにならないとも限らないし………)
心配をしながらも、これ以上はどうしようもないとリサと一行は仕度を終えようとしていた。
「ようやく追いつきました、観鈴殿」
その時、突然、宿の入り口から今の四人には少々能天気にも聞こえる声がした。
「…………まだ本当は安静にしていないといけないのに」
「………『どうしても観鈴殿に追いつきたい、かたじけないがついて来てくれ』なんて強引にもほどがあります」
後から物静かな二人の呟きも聞こえる。
下関での治療も途中に、トウカが彩となつみを引っ張ってきて追いついてきたのだった。
「いや、あれから数日が経ちましたから、もしや長崎にもう着いたのかとも思いました
しかし、このエヴェンクルガの剣士トウカが来たからには透子殿に指一本触れさせませんぞ」
戦意満々のトウカ、だが、彼女は正直あまり空気を読めていなかった。
「あれ? どうかしましたか、観鈴殿、リサ殿、透子殿、みさき殿」
A 何となくリサはトウカを引っぱたいた
B 「……まぁ、ありがとう」とりあえずトウカ達に現状を話すことにした
C 「………病み上がりなら無理はしないほうがいいんじゃない」リサがトウカに忠告してみた
B
「…………まあ、ありがとう」
多少のめまいを覚えながらもリサはトウカに事情を説明した。
「むっ! 永遠無海というと某を操った彼の小娘か!
某ばかりでなく、罪なき無辜の民まで巻き込むとはなんたること!
某が成敗してくれる!」
終えたところでトウカが気合たっぷりに吠えてくれる。
「…………そう」
しかし、力めば力むほど今のリサのテンションにはつらい。
(まあ……うっかりはともかく、精神面では彼女より扱いやすいかしら……?)
みさきをチラリと見やりながそんなことも考える。
そうとも考えればトウカの合流は、ありがたいとも言えた。
「それではトウカさん、絶対無理しないでくださいね」
「あなたはまだ半分病人のようなものなのですから…………」
彩たちと別れる。しかし2人は最後までトウカの体調が気になる様子だ。
「ご心配は無用だ彩殿。こう見えても某は誉れ高いエヴェンクルガの端くれ。
毒の一つや二つでいつまでも寝ているわけにはいかない」
「…………まあ、そこまで言うならいいですが…………」
「決して、無理はしないでください…………」
「わかっていますとも。お二方とも心配性ですな」
「それじゃ、行くわよ」
「承知つかまつった、リサ殿」
「トウカさん、またよろしくお願いしますね」
「この身に変えてもお守りします、透子殿」
「にはは。今度は倒れないようにしてね」
「心配後無用観鈴殿」
「まあいいや。私はどっちでも」
「むう、以後よろしく頼みますみさき殿」
かくして長崎への道を再出発した一行。
A 道中つつがなく進めた
B 途中木陰で少し休憩した
C その矢先トウカがブッ倒れた
B
日中、日が一段と高くなる頃合。
ちょうど大きな峠に差し掛かった一行は、その麓で一休みすることにした。
「こっちには妊婦と……あと病み上がりがいるしね」
「すいませんリサさん……」
「某のことなら気にしなくてもいいのだが……」
かくして各々が近くの木陰に陣取り、しばし一休み。
軽食をつまむ者、水で唇を湿らせる者、地図を覗き込む者と様々だ。
「にはは。久々に観鈴ちんの行動」
そして我らが観鈴ちん。
ここんとこしばらくみさきが主役なんだかリサが主役なんだかいまいちわからなかった本作。
しかしあくまで主役は彼女、観鈴ちんである。物語もあくまで彼女主眼で進む必要があるのだ!
「って、主張してみようかな?」
まあ、それはともかく。
「にはは。誰かとお話してみよう」
誰と会話しますか?
A リサ
B 透子
C みさき
D トウカ
E ありさん
e
「にはは。ありさんありさん」
観鈴はその場にしゃがみ込み、足元で黒い線を作っていた蟻と会話を始めた。
「元気ですか? 観鈴ちんは元気です」
声をかけてみるがもちろん蟻は反応しない。
ただ、獲物の芋虫を黙々と運び続けるのみだ。
「……にはは。観鈴ちん、無視された。虫だけに無視? なんちゃって」
寒い風が吹く。
「…………にはは」
手近なところの小枝を一本手に取り、グリッと土ごと蟻の列をえぐってみる。
一瞬わっと黒い粒が広がるが、すぐに何事もなかったかのように行進を再開した。
「にはは。ありさんって頭いいよね。どうやって道を確かめてるんだろう?」
そのままぐり、ぐり、ぐりと数回。
しかしやはり、蟻は何事もなかったかのように行進を整える。
「……にはは」
しばらくそんなことを繰り返していた観鈴ちんだが……
「……観鈴」
「え?」
ふと自分の体に影が差した。見上げてみれば、なんだかすごい微妙な感じのリサの顔。
「ごめんね……」
「わ、わぷ!」
そのまま観鈴と同じようにしゃがみ込むと、ぎゅっと観鈴を胸に抱く。
「最近ずっと鎌ってあげられなくて……でも、この仕事が終わったら。またずっと一緒にいてあげるから。
だから、ね。観鈴。今は寂しくても……我慢して」
「う、うんわかったリサさん。観鈴ちん、我慢する」
「……なんだったんだろう?」
「あ、あの。観鈴さん」
「…………には?」
呆然としていた観鈴ちんの元に、次に来たのは透子。
「な、なんていったらいいかわかりませんけど……あたし、世間一般に言われるほどあなたは悪い人じゃないと思ってます。
この旅であなたの色々な面を見れましたし……あたしも、カルラさんと同じようにあなたに感謝してる部分もたくさんあります。
だから、えと……その……。うん、挫けないでください!」
「あ、う、うん。うん。わかった。観鈴ちん、挫けない」
「…………なんなんだろう、みんな」
気合たっぷりに透子に励まされた観鈴ちん。やっぱり何がなんだかわからない。
「……神尾さん」
「あ、あれ? みさきさん?」
そんな観鈴ちんの目の前に、続いて現れたのは川名みさき。
「ど、どしたの?」
「これ……あげる」
「え?」
ずいっとみさきが差し出したのは、一本のみたらし団子。
「ど、どうしたの? みさきさんが食べ物を他人にあげるなんて……」
「…………別に。なんとなく……かな? いらないんだったらいいけど」
「う、ううんううん。にはは。あ、ありがとうみさきさん」
「……あんまり自棄にならない方がいいと思うよ」
「みさきさんにはあんまり言われたくないな……」
「観鈴殿」
「わわっ! と、トウカさん!?」
みさきにもらった団子をついばみながら。イマイチ失礼なことを考えていた観鈴ちん。
その前に続いて現れたのはトウカ。
「か、体はだいじょ」
「大丈夫だ! 観鈴殿!」
「え、えっ!?」
先んじて「大丈夫」の言葉を使われ、しかもなんだかやたら気合の入った剣幕でガッツポーズされる。
「貴殿には某がついている……貴殿の過去の罪は、それはそれだ! 今は透子殿を守るのが先決!
今は貴殿と某は、仲間! そう、仲間だ! だから観鈴殿、何か悩みがあったら遠慮なく某にぶつけてくれ!
エヴェンクルガが末子、トウカ! 全身全霊を持ってお応えする!」
「あ、う、うん。ありがとうありがとうトウカさん。け、けど観鈴ちん大丈夫だから。うん」
「そうか……ならばいいのだが……。いつでも、遠慮は無用。覚えておいてくだされ」
「う、うん」
なにがなんだかわからない観鈴ちん。
ふと、自分の足元に目をやった。
「……あ」
そこには、自分の手で何度も削った地面の線と、その際潰れた蟻の死骸が点々と刻まれていた。
「…………えっと…………」
なんとなく、変な心配された理由がわかった気がする。
観鈴はさっさと足で地面を掃くと、竹筒の水を一気に飲み干し、大きく息を吐いた。
「……うん。平気平気。観鈴ちん、もうかわいそうな子じゃないっ!」
A リサと会話してみる
B 透子と会話してみる
C みさきと会話してみる
D トウカと会話してみる
E 「さあ、そろそろ出発しましょう」リサが言った。
E
観鈴ちん、ふぁいと…!
「さあ、そろそろ出発しましょう」
が、がお。
心機一転したところでリサさんがそんなこと言い出しちゃった。
「そうですね。日も少し陰ってきましたし……」
「長崎まであと一歩ですな」
「……どうしたの神尾さん?」
「ううん、なんでもない。なんでもないよみさきさん」
ただ世の中の無常さがちょっと身にしみただけ……
その後はみんなでよいしょっと峠を越えて、あとはなだらかな道を歩き続けた。
透子さんやトウカさん(なんだか名前の音が似てるよ。にはは)の体調も思ったよりよくて
その後は小休憩を何度か挟んだだけで順調に進むことができた。
「……ここまで来れば長崎は目と鼻の先ですな」
「ええ……道中いろいろあったけど、どうにかここまで来れたわね……」
「リサさんにトウカさん、本当にいろいろありがとうございました」
日没に合わせ、わたしたちは長崎すぐ手前の旅籠に宿を取った。
トウカさんの言うとおり、ここなら市街は目と鼻の先。
順調に行けば、明日中には港に着くことができそうだけど……
「…………」
なんだか、みさきさんの表情が暗い。
「どしたのみさきさん」
「……距離的には近くても、さ」
わたしに顔を近づけ、呟く……というか、吐き捨てるように言う。
「たぶん……あの子たちが、易々と通してくれるわけないよ、ね」
「……うん」
『あの子たち』が何を指しているかと言えばもちろん、永遠無海、小金華。
楓ちゃん作の妖刀姉妹のことだ。
「あの、みさきさ」
「大丈夫」
わたしの声を遮って、みさきさんは
「もうあんな無様な姿は見せないから、ね」
「う、うん……」
「だから神尾さん、神尾さんも手伝ってね。あなたの力は私だって評価してるんだから」
「う、うん。もちろんわかってるよ。観鈴ちん、がんばる」
「うんっ」
そういうわけで部屋に通されたわたしたち。
さっそく晩御飯になったんだけど、博多での一件以来みさきさんの食事量が目に見えて減っている。
……といっても何も口にしないとかそういうわけではなく、平気で3人前くらいはたいらげているんだけど。
その前がその前だっただけに、ちょっと心配になったわたしだけど……
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと個人的に思うところがあるだけだから。
それに私、たくさん食べようと思えば食べられるけど、少ないなら少ないで平気だから」
と答えてくれた。3人前とか少なくないと思うんだけど、にはは。
ちなみにそれを聞いたときのリサさんが
「だったら最初っから適当な量で勘弁してよ……」
と呟いてたのは秘密。にははははっ。
それで、ご飯の後はお風呂。
今は護衛役の人もたくさんいるし、今回はゆっくり入れるかなって思ったんだけど……
「ねえ神尾さん、私と一緒に入らない?」
っていきなりみさきさんが言い出した。
「えっ?」
「ちょっと2人っきりでお話したいことがあるんだ。私と一緒にいかない?」
「えと、それは……うん、構わないけど……」
どうしようかな。
お話を聞くのはいいんだけど……今回の一番大事なことは透子さんの護衛だし。
そうなるとわたしとみさきさん、リサさんトウカさん透子さんになっちゃう……
まあトウカさんとリサさんがいれば大丈夫かもってのはそうだけど。
「……別に絶対2人っきりがいいってわけじゃないけどね」
わたしが困ってる様子を見かねたのか、みさきさんがそんな風に言ってくれた。
「えと、あ、そう? それじゃ……透子さん、どうする?」
「えっ? あたしですか? そ、それじゃ……」
透子さんの意見を聞いてみると……
A 観鈴さんとみさきさんにご一緒させてもらいます
B トウカさんたちと一緒で構いません
492 :
B:2005/11/18(金) 09:33:17 ID:/EGTtxD80
B
A
B
「いえ、トウカさんと一緒で構いません。お話があるなら、どうぞお2人でどうぞ」
にこにことそんな風に言ってくれた。
にはは、気を遣わせちゃったかな。ごめんね透子さん。
「ありがとう透子さん。さ、そういうことなら神尾さん、早く行こ。行動はてきぱきと、ね」
「う、うん。それじゃみんな、また後でね」
「はいっ」
そういうわけでお風呂に向かったというか連れて行かれたわたし。
ここの旅籠のお風呂は露天風呂。しかもわたしたちの他には誰もいない。
にはは。貸し切り貸し切り。
観鈴ちんらっきー。
「うん、誰もいない。私たちの貸し切りだね」
ってみさきさんも言ってくれた。お墨付きだね。
「ふぅーーーーーーーっ…………」
「にはーーーーー…………」
かがり湯を浴びて、湯船にどぼん。
2人でならんでお風呂に入る。
「そういえばみさきさん、お話ってなに?」
一息ついたところで話を切り出す。みさきさんの話によると、何かお話があるっていうから。
「うん……とりあえず、さ。神尾さんにお礼言っとこうかなって」
「お礼?」
「うん。あの博多での事件の時、さ……」
『……誰なんですか? 私の目を潰したのは……誰なんですかっ!?』
泣きじゃくりながら叫ぶアレイ。その問いに答えられる者は、この場にいなかった。
しかし答えは観鈴にもリサにもわかっていた。アレイと戦っていたのはみさきであり、みさきの血塗れの指先。
……答えは、ひとつしかなかった。
「あなたの光を奪ったのは」
「わたしです」
リサの言葉に続いたのは、『みさき』の名ではなく、観鈴の名乗りだった。
「……もう一度言ってください」
「わたしです。わたし、神尾観鈴がアレイさんの目を潰しました」
「…………!」
透子に看られ、布団を頭から被っていながらも、その声はみさきの耳に届いた。
同時に、どういう状況なのかも。
本来自分が詰問される状況にも関わらず、観鈴は自ら罪を被ったのだ。
「かみおさ…………」
そしてそれが、みさきの意識を現世へと引き戻した。
「……ずるいよね。卑怯だよね。あんなことやられて……私だけ布団かぶってるわけにいかないよね」
「にはは」
「偽善だよね。いい子ぶってるよね。あの場で他人の罪を被るなんて……ほんとあなた、気に食わないよ」
「にはは。けど観鈴ちんはこうやって生きるって決めたから。
誰に怨まれても、疎まれても、嫌われても。その分誰かが幸せになれるなら、苦しまずにすむならそれでいい」
「ほんと……あなた、迷わないよね……馬鹿みたい、だよね……」
顔半分をお湯に沈めてブクブクと、泡を吐きながらみさきさんはそんなことを呟く。
「……私、自分が生きるためなら誰でも殺して構わないって思ってきた。傷つけてもそれは仕方ないって思ってきた。
思ってきたし、実際そうしてきた。この一年、殺した数はあなたにかなわないけど…………
それでも私だって、少なくない数の人間を殺してきた。傷つけてきた。
正しくはないかもしれないけど、間違ってもいない。私はそう信じてきた。実際、一度も後悔したことなんてなかった」
「……………………」
「けど……あの日は初めて後悔した。人を傷つけて……あの子を。なんの罪もないあの子を……
よりにもよって、光を奪われるつらさを一番知ってる私があの子に同じことを…………」
「……………………」
「……ねえ神尾さん、不殺の誓いって……なんなのかな?
それって他人を守るための誓い? それとも他人を傷つけることで自分が傷つくことを避ける誓い?」
上目遣いにみさきさんはそんなことを聞いてきた。わたしは首を振って答える。
「どっちも違う……わたしは、人は生きてる限り変われる可能性があるって信じてる。
どんな悪人でも、もちろんわたしでも、みさきさんでも。
わたしはその可能性を信じてる。だから、可能性を奪う行為はしない。それだけ…………
…………っていっても、リサさんの受け売りだけどね。にはは」
「…………そう」
わたしは笑ってみたけど、みさきさんはさらに考え込んでしまう。
「そう…………なの…………かな…………?
変われる可能性……私の…………」
「……………………」
やがて、みさきさんは口を開いて…………
A 私も変われるのかな……?
B ……やっぱり私にはまだわからないよ……
A
「私も変われるのかな……?」
やっぱりブクブクと泡を吐きながら、みさきさんはそんな風に呟いた。
「うん、変われるよ。人間、生きてる限りどこからだって変われるし、再出発もできる」
「……なんだかその言い方だと今まで私が社会不適合者だったみたいなんだけど?」
「にはは。ごめんねみさきさん」
「けど…………うん」
なんだか一人で頷くと、みさきさんは顔を上げて。
「そういうことなら……ちょっとだけ付き合ってもいいかな?」
「え?」
今までよりちょっぴり明るい表情。
「もうあんな後味悪い思いは嫌だし……不殺の誓いなんて無茶には付き合えないけど
なるべく関係ない子は傷つけないように……
たぶんあの子たち、また関係ない子操って襲ってくるんだろうけど……
……せめてその子たちは無事に助けてあげられるように頑張ってみるよ」
信じられないせりふを、きいたきがする。
「……まじ? みさきさん」
「嘘ついてどうなるの?」
しれっとした顔で答える。
「う……うん! えっと……嬉しいよ! その、どう言ったらいいのかわからないけど……ありがとうみさきさん!」
「どうしてあなたにお礼言われなきゃならないの? 私は誰も殺さないなんていわないよ。
これからも必要があれば殺す……私は自分の身を守る必要があるから。
それに、あなたを殺す約束は変わらない。一年後、尾根の里……そう。尾根の里で、私は私の過去と決別する」
「…………?」
なんだか、不意に表情が硬くなった気がする。
「……それと神尾さん、もう一つ、お願いがあるんだけど」
「なに?」
厳しい声と顔になり、みさきさんはざばっと立ち上がる。
「永遠無海……だっけ? あの子は……私が倒す。あの子だけは私……許せないよ。
他はどうでもいい。やれって言われればやるし、やるっていうなら神尾さんとかに任せてもいい。
けどあの子は……あの子だけは、私にやらせて」
その顔は見たこともないような怒りの表情。
あの日のみさきさんの取り乱し具合……きっと、たぶん、永遠無海にそれだけのことをやられたのだろう。
「う、うん……わかった。絶対とは言い切れないけど……なるべくみさきさんに任せられるようにする」
「ありがとう」
けど………
「……みさきさん、大丈夫なの? 何があったのかわからないけど……みさきさん、永遠無海に……」
「…………そうだね。たぶん、あの子と私はすごく相性が悪いんだと思う。
逆に神尾さんとかなら……きっとそんなに苦労はしないと思う。普通に考えるなら、あの子は他の人に任せた方がいいんだと思う。
けど、ね…………私は超えなきゃいけないんだよ。あの子を。あの思い出を。あの過去を」
「?」
「あの子の能力は他人の過去を暴く力…………。
今でも私、あの頃を思い出すだけで腰が抜ける。膝が笑う。体が震える。頭の中が真っ白になる…………
けどね、私の頭の中と過去を、みすみすあの子の好きにさせるわけにはいかないんだよ」
「みさきさんの……過去?」
少し黙った後、みさきさん。
「………そうだね。あなたになら、話してもいいかな。あなたにならあながち無関係でもないし、
他の人に比べればわかってもらえそうだし、誰かにでも言っておけば少しは楽になるかもしれないし」
「?」
そんなことを言いながら、みさきさんはわたしに一歩、近づいてきた。
「ねえ神尾さん……私の体、どう思う?」
両手を広げ、いきなりそんなことを言ってきた。
「どう………って?」
「素直に。ぱっと見て、どう思う?」
「綺麗…………だと思う」
わたしは、正直なままを言った。
体の表面に薄く乗った脂肪。そのすぐ下で控えめな主張をする、しかし確実な存在感を示す筋肉。
……思ったより、みさきさんて逞しいのかも。
手ごろでちょうどいい大きさのおっぱい。絹のような肌。すらりと伸びた身体。
リサさんほど豪華絢爛じゃないけど、日本人女性らしい、しっとりとした色気に包まれている。
「うふふ……ありがとう。けどね……私……」
みさきさんはちょっぴり嬉しそうに、クスリと微笑みながら…………
「…………その前に、神尾さん」
「えっ? わきゃあっ!!」
いきなり、みさきさんはわたしに迫ってきたと思ったら、そのままがしっと抱きしめてしまった。
後ろから羽交い絞めっぽくされて、みさきさんの手が、わたしのおっぱいと…………その…………
大事なところに伸びている。
「えわ、あの、ちょと、みさき……さん?」
「その前に神尾さんのこと聞いてみたいな……ねえ、神尾さんって」
わたしの耳元で、甘く囁く。
「…………処女?」
「しょ、しょしょしょしょしょしょしょしょ…………しょ!?」
「あーっと、そうだね……神尾さん、女の子にもてるから……処女に限らなくていいや。
女の子とでも…………こんなこと」
と言いながらわたしの……がお……をぞりっとなぞり上げる。
「わひゃっ!」
「…………したことある?」
な、なんなんだろう!? なんなんだろうこの雰囲気は!!?
「え、えっとえっと、それは、その…………」
A ない…………です
B 京都にいたころ、杏さんにちょっと……
C 旅の途中、リサさんと時々……
D 酔った勢いで、カルラさんに……
E 療養中、ひそかに椋さんと……
a
「ない…………です」
わたしは正直に答えた。そんな、こんなこと、誰とも……
「ふーん。そうなんだぁ。わかる気もするけど、ちょっぴり意外な気もするな」
そんなこと言われても……
「それじゃあ、ちょっと柔らかめにいこうかな?」
え?
「わ、ちょっ……みさきさん!?」
みさきさんはそのままわたしを連行するように岩陰に連れて行くと、自分の膝の上に
わたしを座らせるようにして湯船に入りなおした。
当然体勢的に、みさきさんは首から下が、わたしは胸から下がお湯につかる形になる。
「神尾さん、あんまり刺激に慣れてないみたいだからね……」
とかなんとか。能天気に言いながらわたしの……
「ちょっ、みさきさ……そこは……!」
「へーきへーき。痛くしないから」
そういう問題じゃあないよ……
「本当……神尾さん、綺麗な体だよね」
みさきさんはわたしの体を撫でながら、感心したように呟く。
「そんなこと……ないよ。傷だらけだし……」
「傷なんて関係ないよ。神尾さんの体、お人形さんみたいに小ぢんまりとして、可愛いと思うよ。
少なくとも……私の穢れきった体なんかより、よっぽど」
「穢れ、た?」
「……そうだね、どこから話そっかなー……」
わたしの疑問も無視。みさきさんは空を見上げながら、何かに思いを馳せるようにしてる。
けどその間中もわたしの体をいろいろいじっくってるから、わたしは落ち着いてられないよ……
「み、みさきさん……お話するんなら、そのちょっとお互いに感じてる感情ををしずめて……あわっ!」
言いかけたけどみさきさん、いきなりわたしの首筋に舌を這わせてくる。
「そうだね……それじゃあ結論から。あのね神尾さん、わたし……」
しかも器用なことにそんなことしながら言葉も続ける。
「尾根の里で……『飼われて』たんだ」
「飼われ……? えわひゃっ!?」
話を聞いてほしいならちょっと責め手は緩めてほしいよ……
「ど、どういうことなの……?」
「ねえ神尾さん、いくら神尾さんでも『娼婦』って職業はわかるよね?」
なんかすごい馬鹿にされてる言い方な気がするよ……
「う、うん……男の人とえっちなことする女の人……」
「うん。そうそう。こういう風にね」
「あわひゃっ!」
ち、違うよみさきさん。わたし女の子だし……
「私さ、雪ちゃん殺されたあと、何にもたつきの道なかったから、男の人に体を開くことでお金稼いでたんだ」
「…………」
「あれっ? 驚かないね。神尾さんのことだからこのへんでガーン! と来てくれるかと思ったんだけど」
「それは……前のみさきさんの話で……なんとなく、予想がついてたから……」
わたしだってそこまであほちんじゃないよ……
「ふーん、そうなんだ……それじゃ神尾さん、『雌奴隷』ってわかるかなぁ?」
「めすどれい……?」
奴隷はわかるけど……雌?
「…………」
「そっかー。さすがにわかんないかー。あのね、私……最初は普通の娼婦やらされてたんだ。
お仕事はつらいけど……一応ちゃんとしたところで寝れるし、ご飯も出る。お風呂にも入れる。お金もそれなりにもらえる……
まあ、幸せでは全然なかったけどどうにかマトモには暮らせてける環境だったんだ。あれだって一応ちゃんとした職業だしね」
「…………」
「けどね、私はそこも追い出された。次に送られたのは……小屋? ううん、犬小屋以下のところだった。
服だってボロボロのが一着で着てるんだか着てないんだかわからない程度のものだったし、第一着てる時間自体ほとんどなかった。
足かせをはめられて逃げられないようにされて、お風呂にも入れてもらえず、『お客さん』が来るたびに乱暴に水をぶっかけられるだけ。
ご飯も残り物の粗末なのがほんのちょっぴり。厠なんてただの穴があっただけだから、日が高くなるとすごく臭ったんだよね。
悪趣味な人はそれを私に食べさせたりなんかもしたし」
「…………」
わたしは、何もいえなかった。
「もうわかるよね。雌奴隷っていうのは人間以下の扱いでただただ男の人の性欲を処理させられ続ける職業。
ううん、職業なんて真っ当なものじゃなかったな。ただ、それだけを求められた生き物。
本当、あの頃はまだ野良犬の方が遥かにマシな生活だったと思うよ。
『お客さん』は来ると私を乱暴に押し倒し、気に入らないことがあればすぐに殴って、無理矢理私の……ここや」
と言いながらわたしの……をなぞり上げる。
「わひゃぅ……」
「その後ろだって何度も犯された。お口だってそう。無理矢理咥えさせられて、頭を乱暴に掴まれて、
何度も何度も……喉の奥で出されて、むせて、鼻から出て、それでもまだまだ仕事は終わらなかった……
…………どれくらいだったかな? 私は尾根の里でずっとそんな生活してきたんだ。
ううん、させられてきたんだ」
「………………」
「本当……誰を怨めばいいんだろうね。雪ちゃんを殺したあなた?
それとも私を弄んだ尾根の人たち? 本当……私、どうすればいいんだろうね。
誰を憎めば……いいんだろうね」
「みさきさん……」
いつの間にかわたしの体をまさぐる手も止まり、みさきさんの声には涙が混じっていた。
「頭ではわかってるんだよ……あなたを憎んだって仕方がないことは。
雪ちゃんを殺したのは許せない……それは確か。それに関してはあなたが許せない……けど!
だけど……私を苦しめたのは、みんなの悪意……尾根の里のみんなが、私を苦しめたんだよ……!
悪意? 違うね……あの人たちは私を人間扱いしてなかった。侮蔑? 嘲り?
なんだろう……私、人間ですらなかったから、そういう感情でもなかったな……」
いやいやをするように、頭を振る。
「笑える話だよね……。
雪ちゃんが死んで、人間以下になった私を……初めて私を好きだって言ってくれた子がよりによってその雪ちゃんの仇だなんて……
長州に拾われて十本刀になった時だって、求められたのは私の力……
私が死ぬ気で手に入れた心の眼だけ……誰も私は見てくれなかった……私はただの……そう。
十本の刀のひとつでしかなかった…………」
「みさきさん…………」
「笑いなよ……。なにが盲剣のみさき? 十本刀? 心眼?
ほんのちょっと昔のことつつかれただけで私はまた元に戻る……
私はただの、人間ですらない、雌奴隷でしか……ないんだよ……
それが私の、本質なんだよ…………」
「………………」
A みさきをぎゅっと抱きしめる
B みさきを慰める
C ……って、油断してたらまた抱きつかれた!
A
C
C
わたしはそのままみさきさんの頭をぎゅって抱きしめた。
胸の中に艶やかな黒髪の感触が広がる。
「……なにやってるの神尾さん」
……が、がお。
なんか素で返された。
「ひょっとして神尾さん、私を慰めてるつもりなの?」
が、がおがお。
しかもなんかやたら冷めてるよ。
「……はあ、私も甘く見られたものだね。まさか人斬り観鈴に慰められるなんて」
がおがおがお。
ひょっとして観鈴ちん、思いっきり滑った?
「本当……何様のつもりなんだろうね……この子は……」
……あれ?
「あなたは雪ちゃんじゃない……雪ちゃんじゃないのに……雪ちゃんを殺した張本人なのに……」
みさきさんはスッてわたしの背中に手を回すと、そのままぎゅって抱きしめ返してきた。
「……なんでそんな……雪ちゃんみたいなことするの……。
思い出しちゃうじゃない……馬鹿。馬鹿。馬鹿馬鹿ばかばかばかばか……!」
「みさきさん…………」
「ばか……ばか……! ばかばかばかばかばか……!
どうしていまさら……! どうして今になって……! いまさらになって……!」
わたしの胸の中に、熱い感触が広がっていく。
「止めればよかった……! 雪ちゃんに……やめてって言えばよかった……! 悪いことなんて……!」
「……………」
リサさんみたいに、おっぱいでぎゅっとはできないけれど。
わたしはわたしにできるだけ、強く、優しくみさきさんを抱きしめた。
「そうすれば……そうすればみんな……! みんな傷つかずに……! 笑ってられたのに……!
ずっと笑ってられたのに………! みんなで楽しく笑ってられたのに……! ずっと……ずっと……!
ばか……ばか! ばかばか! 神尾さんのばか! ばか!
私のばか! ばかばかばか! ばか……ばか!
雪ちゃんの…………ばかぁっ!!!」
「みさきさん…………」
わたしはそのまま、みさきさんの嗚咽が終わるまでずっと抱きしめていた。
A みさきさんが落ち着いたところでお風呂を出た。
B 気がついたらみんながお風呂の出入り口に立ち、微妙な表情でこっちを見ていた。
C 気がついたら……押し倒されていた。
おつかれ〜〜
選択は
B
で。
Aで
が、がお、気がついたら入り口にトウカさんもリサさんも透子さんもいる。
「………………Gatdem」
「む……某どもは邪魔だったようですな」
「ふえええぇぇぇ、お風呂はもうちょっとしてからにしましょう、リサさんトウカさん」
にははっ、リサさんだけ複雑そうな顔をしてみんな部屋に戻っちゃったよ。
何だか凄い目つきしたよ、リサさん………ちょっと怖いかも。
透子さんたちが戻って、みさきさんが泣き止み、わたし達はもう一度並んで湯に浸かっていた。
「…………………あのね、わたし思うの」
ぽつりと、そうみさきさんに言った。
「みさきさんはただの刀じゃないし、まして雌奴隷なんかじゃないよ」
「…………………嘘」
「嘘じゃないよ、だってこんなに綺麗で……柔らかい体してるよ」
さっきの抱きしめを思い出したのかみさきさんが体を縮こめちゃう。
「それにね、きっと杏さんはみさきさんの事をただの刀なんて思ってなかったと思うよ」
「…………え?」
「杏さんわたしを拾ったときに、剣術だけじゃなくて。他にもお洒落とかいろいろ教えてくれたから……
わたし、全然杏さんの気持ちに答えられなくて、酷いことしちゃったけど……」
「……………」
「………だからね、みさきさんは杏さんにただの刀なんて思われてないよ。
みさきさんのこと雌奴隷だとか刀だとか思ってる人なんていない。
いたら観鈴ちんが『こらっ』って怒ってあげる。
みさきさんは人間、わたしと同じ、『人間』だよ」
「ふふっ、お互い大分血塗られてるけどね」
「それは冗談にならないよ、が、がお」
あっ、ちょっと笑ってくれた。
「…………ねぇ、もし別の道があれば、私が神尾さんに背中を預けて京都で戦っていたのかな?」
「にははっ、ちょっと遅いけど今からじゃ駄目?」
「………そうね、少なくとも長崎までは悪くないかもしれないよね」
そうして、わたし達はもう少し湯船に浸かっていたんだ……
「ふえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
だけど、突然、透子さんの悲鳴が聞こえた。
「何っ、今の?」
「神尾さんっ」
わたし達はろくに着替えずに得物を持って風呂場から出て透子さん達の部屋に飛び込んだ。
そこには………
A 血まみれで倒れているリサさんとトウカさん、部屋で震えている透子さん
B 『小金華』が別の人間を使って透子を攫おうとしていた(人間を指定、使い捨て可)
C 「ゴ、ゴキブリが……」わたし達は『だぶるちょっぷ』をかました
C
「ごきっ!ごきっ!ごきぶりぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
「Cockroach!?」
「む、むぅ! むむむむむむむむむむむぅ!!」
部屋に飛び込むと、透子さんリサさんトウカさんが三人一組(スリーマンセル)になって部屋の隅に固まっていた。
トウカさんにいたっては抜刀までしている。
つつつっと、わたしとみさきさんで部屋の対角線側に目を向けてみた。
みさきさんは見えてないと思うけど。
「……ごきぶり?」
「みたいだね」
3,4センチくらいかな?の黒いごきごきが部屋の壁をカサカサカサっと動いていた。
「みみみ観鈴さんなんとかしてください!」
まるで透子さんはこの世の終わりみたいな叫び声。わたしは無言のまま壁を歩いてるごきぶりさんに近づくと、手で掴んで窓を上げると外に放り投げた。
「ばいばい、ごきぶりさん」
ごきぶりは遠くへ飛んでった。
「はい」
「ありがと」
みさきさんから手渡された紙で手をふきふき。
はい。一件落着。
「ありがとうございます観鈴さん……助かりま」
ごつ ごつん
「ふ、ふぇぇぇぇぇぇぇ……」
この旅最大の笑顔を見せて近づいてきた透子さんをわたしとみさきさんはだぶるちょっぷで出迎えた。
「なにするんですかぁ……」
「……人騒がせだよ、透子さん」
「ごきぶりていどで」
「そ、そんなこと言われてもぉぉぉ……」
なんとなーく凸の人っぽい雰囲気を醸し出しつつ、とりあえず夜の惨劇は幕を下ろした。
「すごいのねあなたたち……」
リサさんが感心してくれる。
よくわからないけど、みさきさんとハグしてた一件は有耶無耶になったみたいだし結果オーライかな?
「それよりリサさんたちでお風呂入ってきたら?」
「それもそうね……そういえば観鈴、あなたたちさっきは何を」
「さあリサさん。急いで急いで。明日も早いんだし」
「ちょっ、ちょっと……」
半分無理矢理、お風呂に入ってもらった
「さてと…………」
残された部屋。みさきさんと2人っきり。
「みさきさん、怪しい気配は?」
「とりあえずこの建物の近くにはないね。ごきぶりはまだ何匹かいるみたいだけど」
「そう」
とりあえずみさきさんが大丈夫と言うなら平気だろう。感知能力に関しては彼女の方がわたしより数段勝っている。
「それじゃ…………」
みさきさんが口を開く。
A 「みんながお風呂を上がるまで、このまま見張ってようか」まあ妥当なところだね。
B 「小腹が空いちゃったなあ……」まだ食べるの……?
C 「少し打ち合わない?」槍と盾を取り出しながら言った。
C
「よくやるわね……」
湯船につかり、背中を岩に任せながらリサは呟いた。
「でも、元気があるのはいいことなんじゃないですか?」
その隣で、透子がのほほんと感心する。
「……歳若い娘が、かのように軽々と剣を振り回す……」
トウカの表情は、複雑だ。
「ふーん。私と再会した時に比べれば、マシになったかな?」
観鈴の斬り上げを盾でいなしながら、みさきが呟く。
「にはは。わたしも遊んでばかりはいられないからね」
マジで喉笛狙ってるっぽいみさきの一突きを、肩を捻ってかわす。
「どーしよっかなー。ついでだしこの場で殺しちゃおっかなー」
斬撃を弾き飛ばしながら、一歩進み出る。盾の重量も加え、観鈴を突き飛ばす。
「にはは。それは困るなぁ。約束は一年後だし。たぶん明日はきっついことになるんだろうし」
その寸前、体を半回転。みさきの体をすり抜けながら、空の一刀を背後に向けて振りぬく。
「まーそうだろうねー。お願いだから明日死なないでよ神尾さん。あなたは私が殺すんだから」
スッと身を屈め、それをかわす。一瞬で槍を逆手に持ち替え、背後への一撃。
「お互いにね、みさきさん。お互いに長生きしたいものだよ」
しかし観鈴は一瞬で離れると、間合いを取り直す。そして、空を鞘に。
「やれやれ……さんざん人を殺しておいて長生きしたい、か。お互いに極悪人だね」
嘆息を漏らしながら、みさきもまた、槍を盾の裏に仕舞った。
「にはは」
観鈴の笑い声で、稽古(?)は〆られる。
「仲がいいですね」
自分等の目の前。すなわち露天風呂のすぐ脇で長物を振り回していた2人を、透子はそう評する。
「仲がいい……とは少し違うと思うわ」
しかしリサは、頭を振ってそれを否定する。
「どういうことです?」
トウカが不思議そうな顔をする。
「似てるのよ……あの2人は。すごく」
「似てる……?」
「ええ。すごく……ね。2人とも……殺さなければ、生きられない。始まったのは、そこから。
観鈴は罪をかぶせられて。会う人会う人に裏切られ、騙され続けて。
心を殺し。人を殺すことでしか生きられなかった」
「……………」
トウカの心に、ちくりと痛みが走る。
「川名さんも……それまでの唯一絶対だった拠り所をなくし、世間という名の荒野に放り出されて。
……この荒れた世の中、目の見えない者がまともに生きていくことなどできはしない。
泥濘が横たわる奈落の深淵から這い上がるには、戦うことしか、殺すことしか道はなかった。
観鈴と……そうね。同等に、彼女も傷ついてきた。己が傷つき、他人を傷つけ、そうすることでしか生きられなかった」
「……某の、せいか」
「トウカさん……?」
リサの言葉を聞いているうちに、どんどんトウカの表情が暗くなっていく。
「元を辿れば、みさき殿は我が登臼来藩の者。観鈴殿もまた、我が主ハクオロ皇と関わることで……
……現在(いま)へと続く、修羅の道を歩み始めてしまった。
もっと……もっと。我らが……そう。我らがしっかりしていれば。
かのような少女たちに傷つけあうような生き方をさせずにすんだかもしれない……」
「…………」
「何故だ……。某は、今でもそれがわからない。一体何が……何が彼女らをこんな目に遭わせたのだ。
戦うのは、殺しあうのは我らだけでよかった……
一体何が彼女らに武器を取らせ、そして命の奪い合いの場へと駆り立てたのだ。
これが運命というのなら……一体運命は、彼女等に何をさせたいのだ」
「それは……わからない」
リサは首を横に振る。
「ただ、私はこの世に意味のないことはないと思う。
観鈴が人斬りへと堕したのも、そして今決意新たに人を生かす道を歩み始めたのも……
きっと何か意味があってのこと。その意味を信じて、今まで何人もの人たちが彼女を信じて命を落としてきた。
それが無意味なものであるとは……私は、考えたくない」
「…………」
「……彼女は。川名さんは少し前の観鈴そのもの。川名さんは、常に観鈴の後を追ってきた。
観鈴が人に裏切られ、川名さんは世間に裏切られ、観鈴が修羅に堕し、川名さんも修羅に堕し。
観鈴が長州に拾われ人斬りとして生きる中、また川名さんも十本刀として長州に入る……
……私としては、彼女にも救われてほしい。それはきっと、観鈴への救いにもなるから。
そして……彼女を救えるのは、おそらく観鈴だけ。望む望まざるに関わらず……2人は非常によく似ている。
皮肉なことに、今彼女に最も近しい存在は、仇敵である、観鈴なのよ。
よく似た2人……ね」
「…………」
「2人が……観鈴が、川名さんが。これから生く先で何を見つけるのか。何を考えるのか。
そして……何を答えとして導き出すのか。私としては、是非2人の少女が救われんことを……祈りたいわね」
「……それに関しては、某も同意しておこう」……
「観鈴さん…………」
―――願わくば……『死』以外の答えを。
そして、長崎の夜は更けていった。
A 朝が来た
B 夜中、不意に観鈴は目を覚ました
Bかな。
B
深夜の旅篭の一室。
「…………――――!」
観鈴は不意におぞましい悪寒に襲われて、目を開いた。
――敵襲か。
いや違う。刺客の気配は一切感じない。だが、これは、そんなものとは本質的に異なる、生理的な嫌悪感。
傍らではリサやみさき、トウカに透子が、ぐっすりと眠っている。彼女らはこの異常な感覚を一切覚えることはない。気配に人一番敏感な川名みさきでさえも。
布団の中に忍ばせた『空』に手をやる。
手触りが、いままでに感じたことが無い程、不気味だ。今までにない程、恐ろしく冷たい。その一方で、ぬるぬるとした手触りを感じる。何かの異常を知らせているのだ。
「ヒッ」
観鈴ははっとして透子に目を遣る。彼女も何かを感じた。声につられて、みさきが目を覚ます。
「どうしたの、透子さん?」
「何か……嫌な夢を見ました」
「そう……別に敵の気配はしないから。心配のし過ぎだよ」
そう言ってみさきは再び目を閉じる。
観鈴は改めて周囲に注意を遣るが、やはり刺客の気配はない。
……一体、何が――。
「あの……観鈴さん……」
透子がおずおずと観鈴に話し掛ける。
「どうしたの?」
「智代さんに渡された短剣……ずっと肌身離さず持ってたんですが……何だか今夜は不気味な感触がするの……」
観鈴の表情が凍りつく。自分と同じだ。何故――?
旅の終焉は近い。しかしそれを目前とした観鈴たちを、何者かの悪意が見下ろして、嘲け笑っていた――。
同時刻。観鈴たちが泊まっている宿とは別の、旅篭の一室。
「あ……あ……」
「ヒッ……」
「そ……そんな……まさか……」
そこでは、三人の女たち――いや、三振りの妖剣が、怯えていた。
彼女たちの目前に横たわるのは――死体。いや、最早原型を止めぬほど切り刻まれ、八つ裂きにされた、肉塊。
正確には、数日前に彼女らによって殺され、骸を乗っ取られた女――白穂。
「ど……どうして……貴方が……ここに……いるの……ですの……」
その肉塊の傍らに立つのは、一人の人影。いや、人であるはずがない。
「そ……そんなこと……ありえない……ありえない……」
そう。ありえない。何故なら、本当は、死んでいるのだから。墓の下で眠っているはずなのだから。冥府の荒野をさまよっているはずなのだから。
「あ……あ……ひぃ……助けて、すもも……」
人の記憶を暴き立てて嘲け笑う永遠無界も、死者相手ではどうすることもできない。ただ、ペットのリスを抱き締めてがたがたと怯えるだけだ。
無残な死体を見下ろして、侮蔑の笑みを浮かべる死人。
そして、ただ怯えるだけの女――剣たちに目を向ける死人。
月が雲から顔を出して、光を部屋に投げ入れる。
照らし出された、その死人の顔は――!
A.柏木楓
B.七瀬留美
C.深山雪見
D.神尾晴子
E.白皇
F.その他(これ迄に死んだネームドキャラより指定)
B
人間界では、常に時間は過去から未来へと不可逆に流れる。しかし、ここでは違う。
過去は未来であり、未来は過去である。あるのはただ現在だけ。
永劫に続く苦しみに満ちた、現在だけ。
まさに、えいえんのせかい。
人は言う、それを地獄だと。
三途の川を背にして、三人の人影が冥府の軍勢と対峙していた。
その一人が、他の二人を庇うようにして、逆刃刀――彼の不殺の誓い――を正眼に構えていた。
彼もまた、かつては修羅の道を歩んできた男だった。しかし、背後に守る少女と出会い、主君と仰ぎ、そして、不殺の約束を交わした。彼は、最早『死』などありえない地獄においても、愚直に『不殺』を守っていた。
「柳也どの……」
「心配するな、神奈。観鈴はもう行った。後はこいつらを食い止めるだけだ」
「ええ、それが、観鈴様に対する、わたくしたちの務めで御座います」
裏葉は神奈に優しい笑顔を向けた後、鋭い表情で一歩前に出て、柳也と並んだ。
既に柳也の気迫に押されていた冥府の軍勢は、裏葉の姿を目にして、更に後ずさった。
狼の如き柳也の眼光に勝らず劣らず、裏葉の眼光も、猛禽の如き凄まじさを帯びていたからだった。
「どうしても生きたいのなら、俺達を倒して行け……現世もここと寸分変わらぬ地獄だ……戦う覚悟もない奴の手に負える代物ではない!」
数の力を借りて息巻いていた亡者たちなど、それで十分だった。彼らは罵声を浴びせつつも、一歩も出ようとはしない。
突然、軍勢の後方でざわめきが起こった。時々、餓鬼たちが宙に舞い、どよめきが上がる。
無数の餓鬼を掻き分けて、何かが進んでいるのだ。軍勢が真っ二つに分れて道が出来てゆく。
「柳也どの……」
「ああ……奴だ……俺達に『観鈴を騙して連れて来い』と命じた奴だ……」
柳也は逆刃刀を握り締める。
そして、「奴」が姿を現した。
「く……断頸の……お姉さま……」
辛うじて永遠無海が呼び掛ける。歯をがちがちと鳴らしながら。
「どうして……神尾観鈴に……砕かれた筈では……ないのですの……それに……どうして……」
小金華が後ずさりしながら疑問を発する。
「どうして……どうして……依り代の……娘の姿をしているの……そして……どうして……」
偽善千鶴が遂に誰しもが抱いていた疑問を発した。
「どうして…………その娘の肉体は生きているのッ!!」
柏木楓の妖刀は、生きている人間を意のままに操ったり、あるいは、死んだ人間を操ることは出来る。しかし、死んだ人間を甦らせることなど出来るはずがない。
ましてや――断頸乙女は徹底的に破壊された筈なのだ。
にもかかわらず、依代であり、既に神尾観鈴に討たれ、葬られたはずのこの娘が、生きたままの姿で現れるなど……。
「ありえない、と思ってるでしょ?」
娘は、潰された右目を包帯で覆うこともなく、残された左目を三人の方向に向けた。
「でも、いまここにいるあたしは生きている。そして貴方たちの目前にいる。それが全て。ありのままの事実。……違って?」
娘は、かつて『死んだ』ときと全く変わらぬ凄絶な笑みを浮かべた。
彼女の肉体の名は、七瀬留美。
長州藩十本刀の一人、『刀狩』。
かつて楓の庵で、観鈴と戦い、敗れ、一人の少女を道連れにして、観鈴の『不殺』を嘲け笑い、そして死んだ。
その彼女が、生きている。肉体は。
そして、七瀬留美の心は……。
A.死んでいて、完全に『断頸乙女』に乗っ取られている。
B.生きているが、『断頸乙女』と融合している。
C.生きていて、『断頸乙女』を支配下においている。
530 :
B:2005/11/19(土) 07:03:55 ID:mXC6OtYm0
A
名前欄は無視してくれ。
リコールは最小限度に止めるべきだということは分かっているが
>>525からの展開はどうにも書いた本人以外続きの書けそうもない
リレー無視の展開に思われる。そこで相談だ。
A
>>525からをリコールして
>>522の続きから始める
B リコールせずにこのまま続ける
悪いAを選ばせて貰う
つまり次は「B 夜中、不意に観鈴は目を覚ました」から再開なわけだな。
支援板の方にも書きましたが……
今回、自分の思ったイメージを、強引な形で書いてしまって、
結局、スレの空気や、話の展開を非常に悪いものにしてしまった。
例え様もない失敗をしてしまい……物凄く反省しています。
今回のリコールは、正しい判断だと思います。
……軽率なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。
アチャ-
昂揚感は睡眠の天敵なのだろう。こうして夜中に目を覚ますのは何度目だろうか。
(どうしよう……明日は朝早いのに……)
長州での一夜のときのように起き上がることまではしなかった。
こうやって背を床につけているだけでも身体の疲労の回復は違う。
ただつらつらと物思いにふける。
(これまで色々あったけど……透子さんを送り出す旅もこれで終わりなのかな……)
終局を間近に控えると浮かび上がるのは虚脱感。透子を無事送り届ける。それがこの旅の目的だった。
それを為し終えたあと自分はどうするのか。それが具体的には現れてくれない。
(わたしのしなきゃいけないこと……分かってる……死ぬまで誰かのために……この剣を振り続ける……)
答えなど最初から分かっていた。その答えの道を自分は一生をかけて歩き続けることも。
だがそれをどのように、どうやって為していくのか。その具体的な道筋までは見えてこない。
(そういうことも……ちゃんと考えないといけないね……それもわたしがちゃんと……自分で考えないと)
これまでの旅路は他人から示されたものだった。リサからの誘い。それを引き受けた自分。
だがこれからはそれだけでは駄目なのだろう。自分で考えて自分で探して自分で選んだ方法で
誓った信念を果たしていかなくては。それが責任なのだから。
(まずは一年後……尾根の里でみさきさんとの約束……それまでどうしようかな?どこへいこうかな?)
色々と浮かぶ。国中をぶらりと巡ってみるのも悪くはないだろう。
あるいは海を越えるのも悪くはない。世界のどこかで自分の力が必要とされる場所。
どこかにあるはずだ。流石に今、渡っては一年後に約束の場所まで戻れる保証がないので
保留した方がいいが。そうこう思案しているうちにふとあることが気にかかる。
観鈴の頭の中によぎったものは
A この仕事が終わった後の仲間達の動向
B 今も一行を狙う妖刀たちの動向
A
B
(みんなは、透子さんを送り届けた後、どうするんだろう)
ふと、わたしはそんな事を考えた。
(リサさんは、本国に帰っちゃうのかな。それとも、引き続いて日本で商人をするのかな)
(みさきさんはどうだろう、また長州のために戦うっていうのは考えにくいし……やっぱりわたしと同じで全国をブラブラするのかな)
(トウカさんは、多分登臼来に戻って藩の建て直しに走るんだろうな。今度はうっかりしないといいな、にははっ)
(透子さんは……外国に送られた後どうなるんだろ? やっぱり外国で暮らすのかな?)
みんなの今後の事、それはわたしにとっても気になる事、やっぱり離れ離れになっちゃうのかな。
気にはなる、このままずっと一晩中考えても考えたり無い事かもしれない。
(……だけど、今は明日の長崎入りに集中しないと)
わたしだけでいくら考えても結論は出ない。あの妖刀さんたちとの戦闘を考えると、体調を整えておくためにもう一度寝ようとした。
A ふと、部屋を見渡すと………透子さんがいない?!
B ふと、耳を済ませると………リサさんが自慰をしている
C そのまま、わたしは目を閉じ、意識を落として朝を迎えた
A
ふと、部屋を見回す、みんな明日のために寝ている………
リサさん、みさきさん、トウカさん、そして………
透子さんがいない?!
………うっかりしてた、明日のために今日はみんな寝る事にしたんだ。
まさか、今夜に限ってと思っていた……甘かったよ。
まずは慌てず、落ち着こう、わたし、まだ透子さんがどうにかなったと決まった訳じゃない。
もしかしたら今頃緊張していて厠にこもっているのかもしれない。
………だけど、もしかしたら………妖刀が………
そう考えて、側に置いてあった『空』を握る。
あれ………『空』が、反応している?
わたしは『空』を片手にゆっくりと部屋を出た。
……………透子さん、無事でいて
廊下を出て、辺りを見渡す。
誰もいない、ただ静かなだけの旅籠。
音を立てないように、旅籠の静かさに紛れるように歩く。
気配がした。ちがう、『空』が気配を感じ取った。
『空』の感じた気配の方へ視線をやるため、廊下の窓から旅籠の裏庭を覗く
そこでは………
A 新しい体を得た『永遠無海』が刀を持った透子を連れて行こうとしていた(体指定)
B 新しい体を得た『小金華』が刀を持った透子を連れて行こうとしていた(体指定)
C 全身を切られていても刀を放さない透子さんが倒れていた
体のほうは使い捨てでも構いません
C
そこでは透子が小刀を抱えたままで倒れていた。
「透子さん!透子さんっ!」
観鈴は我も忘れて駆け寄る。近寄ってみて気づく。
透子の身体中に浅い刀傷のようなものがびっしりとついていた。
そのどれもがちょっとした切り傷程度のものであったが。
「ん……うっ……」
呼びかけられて透子は目を覚ます。
「あれ……あたし……どうして……」
「透子さんっ!大丈夫!しっかりしてっ!」
深刻そうに駆け寄ってくる観鈴。騒々しい様子に気がついたのかリサ達も目を覚ましていた。
彼女たちもかけよってくる。透子は目をパチクリする。
身体中の浅い傷口がヒリヒリと傷む。だが透子には自分の身に何が起こったのかを理解するよしはなかった。
「そろそろ近づいてきていますね。」
井伊大老の名代という名目で借り受けた長崎奉行所の一室で。『偽善千鶴』は同族の確かな反応を感じていた。
「同族同士意思の疎通ができるかと思い試みてみればおかしな反応を起したものです」
厳重な封印の上、遠隔地からの干渉はかの妖刀の力を暴発させたようだ。
上手い具合に意識同調させ自分が力を貸すことで妖刀の持ち主じきじきに持ってきてもらえれば
幸いかとおもったが上手くはいかなかった。力の暴発は所持者の身体に跳ね返ってくる。
ちょうど自分と無海を同時に支配しようとして無惨に肉塊と化したこの身体の主のように。
「持ち主に攻撃的な意思が低いからこそあの程度のかすり傷で済んだのでしょう。
確かに適役だったのでしょうね。運び役として」
そうひとりごちる。そして
「やはりあなたたちに直接動いて貰わないとだめなようです」
「待ってましたですの」
「最初からそのつもりですし」
既に新たな肉体を得た妹達に目を向ける。先の間に合わせのものとは違う。
大老家の伝手を使って見つけたそれなりの手練のものである。
今の彼女達ならば相手が人斬り観鈴でも遅れをとるとは考えにくい。
そして二人に指示を『偽善千鶴』は伝えた。
A 刀の奪取を優先し、二人に陽動をつとめて貰う間に自分が刀を奪う。
B 観鈴及び霊刀の撃破を優先し、二人に露払いをしている間に自分が観鈴を仕留める
C 敵の退路を断つため港に二人を潜行させアメリカ船籍の船舶を航行不能にさせる
a
「二人には陽動を務めてもらいます。人斬り観鈴とあとはもう一人の元十本刀。
その二人を栗原透子の身から引き離してもらえばそれで十分です」
つまるところ現状で自分達に対抗できる相手といえばその二人ぐらいであろう。
後はあの登臼来武将などは技量で言えば先の二人と大差ないだろうが所詮半病人。
異人の女は彼女らに比べれば幾分力は劣る。妊婦の足手まとい付きでは
そう苦労する相手でもない。
「じゃあアタシが人斬り観鈴のお相手を致しますの」
「この間と同じ組み合わせですね。借りを返せそうで何よりです」
雪辱戦に意欲を燃やす二人。彼女らに無理をするなとは『偽善千鶴』は今回に関しては言わなかった。
刀の奪取。それがまず第一であり、神尾観鈴の撃破などは後回しにしても構わない。
だが釘を刺してせっかく上がっている妹達の士気を削ぐのも面白くないと判断したのだろう。
ただ一つだけ用心をたてる。
「人斬り観鈴と戦うのであれば金華はこれをお持ちなさい。役に立つはずです」
そういって包みを渡す。中身は小太刀のようであった。
「回収した断頸の破片を打ち直したものです。ただ打ち直しただけですからそれはただの刀ですけれど
強度は折り紙つきです」
巨大な鉄塊ともいえた巨刀の『断頸乙女』の破片からは小太刀程度をこしらえることができた。
観鈴の持つ霊刀。それと直接切り結ぶのには危険が付きまとう。なぜなら刀自体が彼女達の本体であり
それを破壊されることは彼女達にとって死を意味する。
「貴女なら二刀も使いこなせるはずです。人斬り観鈴の霊刀を受けるときはこれを盾代わりに使用なさい。
後は貴女の好きに任せます」
そう締めくくる。『小金華』は手渡された小太刀を愛しげに抱きしめる。
「断頸お姉さま…仇は…必ずこのあたしが……討ちますの……」
涙ぐむ『小金華』。それを『永遠無海』は羨ましげに見つめていた。
「わたしには何もくれないんですか?」
A 必要ありませんと突き放す
B 『無海』にも何か役立ちそうなものを渡す
B
A
「それじゃ、無海。あなたにはこれ」
そう言って千鶴が渡したのは……
「……わ、砥石だぁ」
「こないだから刃こぼれしないか気になるって言ってたでしょ?
女の子なんだから身だしなみはしっかりしなくちゃ駄目よ?
それに私たち刀は切れ味が命。切れ味を高めることが生きる目的なんだから」
「わぁーい、ありがとうお姉さま」
奇妙な光景だが、嬉しそうに無海は砥石をしまう。
「……って、そうじゃなくて!
お姉さま、今役に立つものですよ! みさきのお姉さんやトウカのお姉さんを斬るのに役立つもの!」
「ふふふ、冗談よ冗談。ちゃんと別にいい物を用意してあるから」
千鶴はくすくす笑いながら無海の頭をなでた。
彼女はもしかすると妹をからかうのが好きなのかもしれない。
それから千鶴はもう一つ包みを無海の前に差し出した。
無海が包みを開くと、中に入っていたのは……
「……これって……」
「ええ。断頸の柄紐よ。あなたの使い手の腕にでも巻いておくといいわ。
感じるでしょう? 断頸の『憎悪』が……この柄紐から」
「うん……感じる。お姉さまの『憎悪』が刀身に伝わってくるみたい。……とっても、気持ちいい」
「流石は『後悔』と『憎悪』の刀ね。その二つの感情があなたの切れ味を高めてくれるんだから……」
「……えへへ、ありがとうお姉さま」
姉の形見を持って、二人が立ち上がる。
「それで、お姉さま。いつ斬りにいけばいいんですの?」
「……そうね。人間が襲われて困る時間帯と言えば……」
A 明朝ね。朝早くに寝起きを襲うわよ
B 昼間ね。まさか真昼間から妖刀が襲ってくるなんて思わないでしょう?
C 深夜ね。栗原透子が眠った頃に一気にかかるわよ
D ……今よ。透子が傷ついて浮き足立っている今しかないわ
大名行列のようにD
D
ぴりぴりと灼ける空気が肌を刺す。
長崎郊外の旅籠。その脇にひっそりと佇む作業小屋の前に立ち、観鈴は目を閉じ精神を集中していた。
観鈴とみさきが屋外でそれぞれ反対側を見張り、透子の治療はリサが、護衛はトウカが務める。
”ああ”なった以上、妖刀が何らかの影響を及ぼしているのは明白。
あと一日。
少なくとも透子を港へ連れて行き、船へ乗せ終わり、無事出港を見届けるまでは一寸たりとも気は抜けない。
意見の一致を見たリサらは残りの時間、最厳戒態勢で透子を護ると決めた。
もとより観鈴とみさきは長州最強の人斬り軍団十本刀が筆頭。
しかもそれぞれに人智を超える地獄を見てきた。
一日二日程度ならば体/精神力が音を上げることもない。
……なにごともなければ。
もしくは、相手がただの人間なら、の話だが。
「……!」
ぴん、と甲高い音と共に、観鈴の頭の中で何かが光った。
同時に己の目の前の地面にざくりと、空から飛来してきた手槍が一本垂直に突き刺さる。
みさきからの『知らせ』だ。
結果的には余計なお世話に終わった。
人斬り時代に比べれば鈍ったといえ、観鈴も京都中を震撼させた最凶の暗殺屋であったことには変わりがない。
その暗殺屋に対して、”それ”は、あまりに無防備すぎた。
「こんにちわ〜、ですの☆」
月明かりの下、観鈴の目の前に現れたのは姿は見知らぬ、声は覚えのある少女。
そして、なにより、片手に握られた一振りの刀。
「………」
既に近づいただけで、禍々しい瘴気が肌にひしひしと伝わってくる。
「ぱぎゅぅ〜。それにしても残念ですの。観鈴さん、勘がよすぎますの。
できればこっそり行ってさっくり奪ってひっそり帰って楽をしたかったんですの」
心にもない台詞を、べらべらと。
「……小金華」
ただ相手の名前だけを呟き、スラリと『空』を抜く。
同時に耳の端に聞こえてきた、建物の反対側からの金属音。おそらく、みさきの方でも始まったのだろう。
計画された襲撃―――
「ありがとうございますの。お名前覚えていてくださいましたの☆」
しかし金華はぱちくりと、片目をウィンクすると本体である刀を逆手に両手持ち。
いつか見たあの構えを取った。
「お礼に観鈴さんの魂はこの小金華の手で散らせていただきますの。
千人殺しのその魂、どんな味がするのか今から楽しみですの☆」
そしてスッと、両腕を上げる。
「今度の体はかなりいい感じですの。前のもやしみたいな子じゃなくて、結構逞しい子ですの。
あたしの力もかなーり引き出せそうな感じですの。……ですから観鈴さん。前回みたいに楽には…………」
瞳の輝きが、変わる。
「いきませんの! 死んでください、奥義! 地龍走破!!!」
その刃を、地面へと突き立てた。
金華の身体の名は?
A 松原葵
B 坂下好恵
C 芳賀玲子
D 向坂環
E 十波由真
A
金華の体は前回とはまるで違う。
短い髪をした快活そうな少女。身のこなしも観鈴についてこれるほどのレベルだ。
観鈴は金華の地龍走破を後ろに飛びつつ刀で受ける。
「が、がお……!!」
その衝撃は前と比べ物にならない。
金華がその観鈴の様子を見て、満足げな笑顔を見せた。
「やっぱりこれぐらいは動いてくれる体が欲しかったんですの。
前は無海が適当な人を選ぶからえらい目に遭ったんですの。
……後で無海には塩水入浴30秒の刑ですの」
金華がぼやいている間に、観鈴が消える。
初速からの最大速縮地。観鈴の得意技。
それで金華の死角を付いたのだ。
「にはは、油断油断」
観鈴は葵の持つ金華に向けて一気に刀を振り下ろす。
しかし……
ガキッ!
という音とともに、太刀は金華の逆手に持つ小太刀に受け止められていた。
「油断? これは余裕というものですの。
ある程度マシな体さえ手に入れられれば……あなた程度に負ける道理なんてありませんのっ!」
金華は自分を横に薙ぐ。
観鈴はそれも後ろに跳躍して避けるが、服に裂け目が走る。
「が、がお……」
「……次はそのお腹を真っ二つにしてあげますの」
二刀を構え、怖いほどの笑顔を見せる金華。
二刀流の金華は、小細工なしに純粋に強かった。
幾人もの強者を倒してきた観鈴にもそう思える。
(どうしよう……この人、ものすごく強い……)
楽に勝たせてくれる相手では、なさそうだった。
一方――――
「こんばんわ、みさきお姉さん」
「私の相手はまたあなたなんだね」
「そうです。私たちどうしても透子お姉さんが持っている刀が欲しいんです」
「刀が刀を欲しがるんだ」
もうひとりの来訪者にみさきはクスリと笑う。
前回己の過去を掴まれ、辛酸を舐めさせられた刀を相手にしている割には冷静だ。
「このまま逃げちゃったらどうですか? あなたは刀を守る必要なんてないんですよね?」
「御免だね。私の誇りが許さない、あなただけは……私のこの手で叩き折ってあげるよ」
「う〜〜ん。本当、みさきお姉さんの憎悪はいい気持ちですね。この世の全てを憎んでるみたいで。
もしもみさきお姉さんが私を使ってくれたら沢山人が斬れるだろうなぁ。ね、私を使ってみません?」
「冗談もたいがいにしなよ」
「私、本気だったんですけど……」
残念そうに無海がしゅんとなる。
が、すぐにまた表情をぱぁっと変えた。まるでおかしいものを見るかのようにくすくす笑う。
みさきはそんな無海を警戒するかのようにローチンを構えた。
「本当、みさきお姉さん……いえ人間って分からないですよね。憎い敵と一緒にいるなんて」
「……勘違いしないでよ。今私は神尾さんとはただ一緒にいるだけ。
一年、神尾さんには苦しんでもらうつもりだから。だから一年後……私は神尾さんを殺す」
「ふふふ、本気で言ってるんですかそれ?」
「何が言いたいの?」
「忘れないでください。私は人の心をある程度は覗けるんです。
……これって、人間の理性が拒んでるってやつですか? 人間は大変ですね。
でもはっきり言ってあげます。
あなた、もう無意識のうちに諦めてるんですよ。敵討ちを」
「…………ッ!?」
「当然かもしれませんね。観鈴お姉さん強そうですから。
金華お姉ちゃんが本気出しても勝てるかどうか分からないです。
それに覚悟も違いますからね。偽善を偽善と認めて敢えてそれを貫こうなんて大したものですよ。
観鈴お姉さんは、腕も心もとってもとっても強いですよね。
有体に言うと、みさきお姉さんはもう認めてるんです。自分が観鈴お姉さんに及ばないって。
でも今のような状態でいれば、みさきお姉さんの面子だけは守れる……だから一緒にいるんでしょう?
苦しいですよね。一年なんて猶予は。逆に差がもっと開いちゃったりして」
「黙りなよ!」
みさきが無海に向けてローチンを振る。
無海は一歩後ろに引いてからまたくすくす笑った。
「ごめんなさい。図星でした?」
「全然違うね。私はそんな中途半端な気持ちでいたことなんて一度たりともないよ。
まったく……邪刀ってのは斬ることよりも喋ることがお仕事なのかな?」
「えと……ごめんなさい。それもそうですね、それじゃ……やりましょうか」
無海が自らを下段に構えさせ、じりじりとみさきに近寄る。
そして次の瞬間……みさきのローチンと無海が重なった。
無海の体の名は?
A 川澄舞
B オクタヴィア
C 岩切花枝
D 新城沙織
E モルガン
A
A
ああ……また変なところで変な縁がw
凛々しい表情を固めた長身・長髪の少女。その姿には禍々しい妖刀とはいえ刀がしっくりと似合っている。
おそらく、元からして剣の扱いには手馴れていたのだろう。
無海の意志が介入しているとはいえ、その剣線にも身のこなしにも無駄は少ない。
「へえ、今回は前みたいに鎧は着せないの?」
盾と剣で鍔迫り合いの形になりながら、みさきは少女――を通して無海に囁く。
「くすくす……あれはあれでよかったんですけどね。やっぱり守りばかり考えてるようでは詰めが上手くいきません。
今回はとっておきですよ。この方、旅をしてるところをちょっとお体拝借させていただいたんですが、身体能力が素敵です。
観鈴お姉さんにはさすがにちょっと及ばないかもしれませんけど、あなたぐらいなら軽く翻弄できると思いますよ」
「へぇ……それは楽しみだね。やってみた、らっ!」
一瞬盾を下げ、すぐさま手槍の一突き。少女の肩口を狙うが……
「遅いですよ」
「!?」
少女は槍を軽く切り払うと、さらに一歩。みさきの盾の内側に歩を進める。
「っ……!」
「言い忘れてました。この方は剣術修行の旅の途中なんです。
素の腕の方も、なかなかですよ。私も楽をさせてもらえそうです」
ザシュッ!
赤い血飛沫が舞う。間合いに入られた一瞬、頭突きを少女にかましたみさき。
剣線が一瞬ブレ、一撃はみさきの二の腕を浅く切り裂くに終わった。
すぐさまに間合いを取り直す。
「へえ、結構手荒い戦い方もできるんですね。感心しました」
「いけないいけない。ちょっと油断しちゃったね。これは手は抜けないね」
お互いに減らず口は変わらない。みさきは手早く布切れを取り出すと、傷口に巻き付ける。
「うーん、それにしてもちょっと……残念だね」
「なにがですか?」
再度盾を構え、じりじりと間合いを狭めながらみさきは軽い口調で呟く。
「なんかその子、ちょっと憎たらしいよ。うん、なんていうのかな。ちょっと、ひどい目に遭わせたい。
なんでだろう? 別にその子と会った覚えも何かされたってこともないんだけど、なんでこんな気持ちになっちゃうのかな」
「袖振り合うも他生の縁と言いますからね。どこかで何かしらのご縁があるんじゃないですか?」
「ま、今はどうでもいいことだよね。確かにちょっと残念だけど……私。
せめて関係ない子は傷つけないようにって決めたばかりだか、らッ!」
高速の踏み込みで一気に間合いを詰め、盾をかざしつつ、最後の一歩に合わせて強烈な一突きを繰り出す。
が、直前少女はふわりと跳躍、一息にみさきの頭上を飛び越えた。
「うーん、いいですいいです。これはいいですよぅ。いい感じです。この身体ならかなりのことができそうですねぇ」
まるで新しい玩具を手に入れたように笑う永遠無海。
いや、実際その程度の感覚でしかないのだろう。
「……楽しそうに言ってくれるね」
「楽しいですよ。新しい体をいろいろいじくってその力を試す。新たな発見がたくさんでこればっかりはやめられない」
「……やられる方は、たまったもんじゃないよね」
「またそれですか。煩いですねぇ。わかりました、それじゃ真面目にやりますよ」
無海がちょっと拗ねたような口調になると……
A 少女が抜刀術の構えを取った
B 再びみさきの心を覗き始めた
C その時、不意に反対側で爆発が起きた(視点変更→観鈴)
B
B
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、みさきさん、この体は素晴らしいです。
理由はわかりませんがこの『体』もあなたの事を憎たらしく思っているみたいですよ」
愉快そうに笑う『永遠無海』、なんだろう、凄く、凄く嫌な予感がする。
前に尾根の里での記憶を突きつけられた、今度も同じ手?
「あなた………自分は尾根の里で『雌』として飼われていたのは覚えていますよね?」
「…………それが何? また同じ手を使うの? 工夫がないよ」
「確かに、工夫が足りないかもしれません。でも、この体ならあなたが『忘れた』記憶も覗けそうなんですよね」
「忘れた?」
その言葉に一瞬戸惑うみさき、その隙を『永遠無海』は逃さなかった。
「それじゃあ思い出させてあげます、あなた自身も『忘れたい』記憶を」
あの尾根の里で『雌』として飼われていた日々
その中でもみさきが思い出せない過去、いや、決して思い出したくない過去。
それを、『永遠無海』は無残に切り開いてみさきに突きつけた。
一年前の尾根の里
前日の陵辱の後、僅かばかりの睡眠を私はとっていた。
「おい、起きろ雌犬」
無理矢理起こされ。いつも通り朝から男達の性欲処理をさせられる……
そう思っていたけど、何故か今日は少し様子が違った。
服は剥かれ、裸にされたが、同時に足枷も外される。但し、今度は首輪を付けられた。
「トロトロするな、付いて来い!」
わけが分からない、だけど、逆らえばまたぶたれてしまう。
「………………はい」
首輪に引っぱられるまま、私は小屋の外に出された。
(まともにお日様の光を浴びるのも久しぶりだな…………でも今日に限ってどうしてだろ?)
里を歩かされる、当然裸の行進を村人に見られる。視線が痛い。恥ずかしい。
隠す事も許されず、しっとりとした白い肌も、形の良い乳房も、肉付きの良い尻も、髪と同じ色の艶のある若草が茂る秘唇も。
クスクスという笑い声と共に、侮蔑、嘲笑、好色、さまざまな視線で鑑賞される。
そして、わたしの耳に、自分を視姦する人々の話し声が聞こえる。
「……そうか、今日は例の『あの日』か」
「……いい気味だ、あの雌にはふさわしいぜ」
(何……一体何が始まるの?)
「ついたぜ、そこのゴザの上で四つん這いになりな」
どうやら付いたみたい、村の……広場かな。みさきは黙って四つん這いになる。
「来たか」
「ああ、そっちの方は集まったか」
「こっちも集まった、30人以上はいるぜ、おおい、いいぜ」
広場に予めいた男の人が合図をすると、どうやら30人以上の男達が出てきたみたい。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。この雌こそ、尾根の里を牛耳って苦しめていた深山雪見の親友、川名みさきでございます」
おおおっ、って男達からどよめきの声が聞こえてきた。
「深山雪見に商いを潰された方、年貢を過剰に取られた方、土地を奪われた方々……
今日はそんな深山雪見に恨みがある方達に集まっていただきました。
この雌こそ、あなた方から不当に奪った財でのうのうと幸せに暮らしていたのです
どうぞ思う存分『お仕置き』をしてあげてください』
そんな……そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな!!!
今まで輪姦された事もあった、だけどそれでも3・4人だった。
一度に30人以上だなんて………無理だよ、絶対に無理、壊れるよ………
嘘でしょ、こんなの嘘だよね、悪い冗談だよね?
その時、もう一人の男がわたしに囁く。
「……………………と言うんだ」
…………………………本気なんだ、冗談じゃなく、わたしは公然と屋外で輪姦されるんだ。
…………………諦めて、絶望して、わたしは男に命じられた台詞を口にした。
「みさきは………皆様の財産を奪った深山雪見の友達です
………これから雌として皆様からお仕置きを受けます
このような事ぐらいでは償いきれませんが…………
どうか……思う存分この雌の体に『お仕置き』をしてください」
裸に剥かれ、首輪につながれ、四つん這いになっての『雌』宣言。
次の瞬間、30人の男達が群がり、凄惨な輪姦劇が始まった。
「ああ、そうだ、ここが何処だか解る?」
男達に群がられる直前、隣にいた村人が言った。
「今お前がいるゴザの下に、深山雪見の死体があるんだぜ」
え………雪ちゃんの………お墓?
「大変だったぜ、開けた場所にするのが。よかったな、お友達と一緒にお仕置きされるみたいで」
雪ちゃんまで……そんな、そんな…………
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
わたしの叫び声は、すぐに群がった男達の陵辱によってかき消された。
群がった男達は、前戯も何もなしにいきなり前後の穴をモノで突き刺してくる。
苦痛を叫ぶ事もわたしには出来ない、すでに口の中も喉まで男が肉棒を沈めている。
それでも男達には足りない、両手に一本ずつモノを握らされて、奉仕を強要される。
余った手が体中を這いずり回わった、乳肉を揉まれ、尻肉を揉まれ、手で体中が犯される。
わたしの体にありつけなかった男達が、先の男達が果てるのを待っている。ある者は早く来ないかと
ある者はこの地獄を楽しむように待っている。
(雪ちゃんのお墓の上でなんて……雪ちゃんまで汚される………)
わたしは泣きながら男達に奉仕しようとする。
少しでも早く終わらせるように、少しでも雪ちゃんが汚れないように。
「それっ、たっぷり受け取れよこの雌犬がぁ!」
「一滴残らず飲めよ!こぼしたら這いつくばって舐め取れよ!」
やがて果てる、男達は口内に、膣内に、腸内に、顔面に、体中に憎悪と獣欲の白濁液をぶちまける。
だけど終わりじゃない、すぐに変わりの男達が群がる。そして同じ事が繰り返される。
村人の見物民もでてきたみたい、みんなが雌として扱われているのを見て愉快そうに話をしてる。
(誰か…………助けて…………雪ちゃん…………私……壊れちゃう……)
だけど、土の下の雪ちゃんは何も応えてはくれず、その場にわたしを助けてくれる人はいなかった。
570 :
代理:2005/11/19(土) 21:19:12 ID:C01M5CYI0
朝日が真上に上がり、やがて沈んでゆき、夜になっても陵辱劇に終わりは来なかった。
男達は交代で休みを取って陵辱を繰り返している、だが、みさきは犯され続けた。
休む事も許されず、眠る事も許されず、口の中に出された子種汁を食事代わりにして、用便まで見世物にされて輪姦され続けた。
夜になり、かがり火が付けられて、徹夜でみさきは犯され続ける。
夜が過ぎ、空が白み始めても、まだ男達は犯し足りなかった。やがて日が昇る、再び日が昇る。
いつの間にか村人もみさきの地獄に参加し、みさきを犯して汚しつくす。
都合丸三日続けられた陰惨な陵辱劇に、みさきの精神は、砕かれ、すり潰され、砂になり。徹底的に破壊されていった…………
「凄いですね、あなたまだこんな記憶を持っていたんですか」
「…………やめ……てよ」
「確かにこれじゃあ記憶を封印するほかはありませんよね、忘れたふりでもしなきゃ生きていけませんよ」
「………………やめてよ」
「はい?」
「やめてよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「いい、最高です、その叫び声。とっても心地いいです」
A 「あああああああああああ!!!」みさきは半狂乱で『永遠無海』に向かった
B みさきは、ただただ泣き叫んで崩れ落ちてしまった………
C 観鈴と小金華は……?
B
「いや………あああ! 嫌っ! いやああっあっ!! やめてぇぇっ!!」
みさきは泣き叫ぶと、その場に崩れ落ちてしまった。
「いや……雪ちゃん! 雪ちゃん! ゆきちゃぁあぁああぁぁぁぁああんっ!!」
「素敵です! 素敵すぎますよあなた……! 最ッ高……です!」
無海はゾクゾクと、背筋に官能を感じながらその光景を眺めていた。
「今この場であなたを殺すのは簡単ですが……」
少女の持った『永遠無海』。その切っ先の峰でクイッと俯いていたみさきの顎を押し上げる。
「それはもったいないです。もったいなさすぎます。こんな素敵な感情、滅多にありません」
上を向いたみさきの頭を両手で押さえ、無海は間近でみさきの瞳を覗き込む。
「いや……」
「嫌よ嫌よもなんとやらです。もっと、もっと見せてくださいみさきさん。
お姉さんの心の奥底まで私に見せてください。吐き出してください。それ、私に食べさせてください。
すごいです、すごいですよこれは。逸材です。素敵すぎます。美味しすぎます」
「いやぁ……」
「さあ……行きますよみさきさん」
「いやあぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁあ!!!」
みさきの懇願などもちろん聞き入れず、無海はさらにみさきの心の奥に手を伸ばした。
「地龍……走破ぁっ!!」
「がっ、がおおおっ!!?」
場面は移って観鈴vs金華。事態は膠着状態に陥っていた。
「もう! いい加減ちょこまかとうざったいですの観鈴さん! 大人しくそこになおってくださいの!」
「な、なおれって言われてなおる人はいないよっ!」
「それもそうですの☆ 改めまして地龍走破ッ!!」
「ま、またそれっ!?」
防戦一方の観鈴。
金華の攻撃、地龍走破自体はさほどのものではない。
確かに破壊力はあるが、あくまで動きは直線的であり、観鈴の脚をもってすればかわすのは容易い。
だが……
「と、飛び道具はっ!」
「これがあたしの、小金華の力ですのっ! 手加減……しませんのっ! 地龍走破ぁっ!!」
「ずるいよねーっ!」
リーチがあまりに違いすぎる。最初の立ち居地から、金華はほとんど動いていない。
切り込もうと思えば切り込むのは簡単だが……
「てぇ……ええいっ!!」
攻撃と攻撃の合間を縫って、縮地からの神速の一撃。
しかし……
「甘っちょろいですのっ!」
「っ!!」
受けとなるとすかさず小太刀で受け止められる。
小太刀は、攻撃力はさほどでもないがその取り回しのよさから防御に秀でている。
それを持って防御に徹されては、さすがの観鈴も手を出しあぐねていた。
(待ちガイ……!)
なんとなく某露國のプロレスラーの気持ちがわかった気もするが、今はそれどころではない。
遠距離の地龍走破、近距離の小太刀。
なんとかしてこの2つを打ち破らねば、徐々に追い詰められていくのみだ。
(どうしよう……)
A 縮地と抜刀術の速度を信じる。
B 杏さんとの修行を思い出す。
C 「奥儀はこれだけじゃーないですのっ!」考えてる間に金華が先に動いた!
C
「甘い! 実に甘いですの! あたしの奥義は……これだけじゃないんですの!!」
「えっ!?」
それまで防御に徹していた金華が急に前に出る。
いきなりタイミングをずらされ、リズムを狂わされた観鈴は、一瞬躊躇した。
時間にして僅かコンマ一秒にも満たない時間だったが、金華にはそれで十分だった。
まず金華は小太刀で観鈴の心臓を狙った。
だが観鈴も素直にその太刀を浴びるほどアホちんではない。空の腹でそれを切り払う。
切り払われた反動でか、金華は体勢を大きく崩した。
観鈴はその隙を見逃さずに金華を打ち払いにかかる。
……ここで、不用意に次の攻撃に移ったのが不味かった。
普段の観鈴ならここで不用意な攻撃は打たなかっただろう。
だが観鈴は急にリズムを狂わされたためか、違和感に気づけなかったのだ。
金華がにっと笑ったかと思うと、急に観鈴の視界から消える。
「奥義! 流牙旋風斬り!!」
「が、がおっ!?」
次の瞬間、観鈴の体が宙に飛ぶ。
錐もみ状態で上に数メートル飛び、地面に思い切り叩きつけられる。
そんな観鈴を見て、金華は残念そうに呟いた。
「……十五尺。思ったより飛びませんの。
咄嗟に勢いを緩められたのが失敗ですの……」
「い、今のは……」
「あたしは今まで様々な人の手を渡ってきましたの。
それはそれは様々な技をこの刀身で覚えてきましたの。
その中でも……あたしが独自に作り出した奥義をお見舞いしてあげましたの。
あなたの力を利用してあなたの体を上空に跳ね飛ばし、その瞬間にあなたの体を切り刻んであげましたの」
観鈴が立ち上がろうとする。
……その瞬間、まるで今斬られたかのように体中に大小様々の切り傷が裂けだした。
「ああぅぅっっっ!!!」
「……あたしがとどめも刺さずにのほほんと技の解説をするわけありませんの。
流牙旋風斬りは回避不能の一撃必殺奥義ですの。この技を受けた時点で勝負は決まりましたの」
国崎「往人と」
そら『そらの』
国崎・そら「『面白幕末講座!』」
国崎「よい大人の皆、元気にしてたか? 司会の往人お兄さんだ」
そら『助手のそらだよ! それにしても、みすずが大ピンチだねっ!』
国崎「ああ、大ピンチだな。とにかく第九回は伝説の流派大影流について解説するぞ」
そら『大影流って何?』
国崎「幕末の頃にはいろいろ剣にも流派があったんだ。北辰一刀流とか、聞いたことあるだろう?
大影流はその流派の一つだといわれている」
そら『言われているって……』
国崎「それがこの流派、歴史の表に全く表れてこない。
大影流の道場も名の通った師範もな〜んにもないんだ」
そら『それって……ただの作り話ってことじゃないの?』
国崎「ああ、大体の歴史家はそういう見解だ。
だがな……この時代にある犯罪者の資料で面白いことが分かっている」
そら『面白いことって?』
国崎「この時代の犯罪者の内、まるで憑かれたような剣を振るうような連中がいたらしい。
更にその犯罪者のうちまた幾人かが同じような剣捌きを見せていたらしいんだ。
しかも滅茶苦茶強かった上にどの流派にも属さないような太刀筋だったんだ。
一説には相手の力を利用して天高く相手を弾き飛ばすことも出来たと言われている」
そら『へえ……そういうのがあるんだ……』
国崎「歴史の表には決して出ずどの流派にも属さない謎の一派。
後世の人は歴史の影に居続けた流派として、彼らを『大影』流と呼んだ。
つまりこの流派が本来どういう名前だったかもよく分かってないんだな」
そら『でも……作り話なんだよね?』
国崎「確かにこの話は信憑性に薄れる。だがそれを全て昔の人の作り話だ、で片付けるのは寂しいだろう?
確実じゃない話は全部嘘っぱちだ。なんて考えじゃ歴史は進まないんだよ。
もしかしたら今後研究を進めていくうちに新たな事実が分かるかもしれないしな。
だからいくら信じられなくてもこういう謎の一派が存在する、
なんてことがあってもいいんじゃないかと俺は思うな」
そら『うん……そうだねっ!』
「うぅっ……く……!!」
全体の細かい切り傷を抑えながら観鈴が呻く。
それを金華は驚いたような呆れたような表情で呟いた。
「……驚きましたの。この技を受けて生きてることももとより、全部急所を外してますの。
上空に飛ばす瞬間に体勢も崩す技だから回避は不可能のはずだったのに……。
……まだまだ改良の余地がありますの」
金華は再び刀を構える。
対する観鈴も刀を構える。傷自体は大したことない。
急所は外している、直血も止まるだろう。
だが、問題は体に受けた傷ではない。
(……すごい。やっぱり、この人(?)強い……)
今まで拮抗状態だった戦況が金華に傾きだした。
ただでさえ決め手に欠ける状態だったのだ。
戦闘が長引くとすれば……これは大きな不利になる。
観鈴の次の一手は……
A 奥義には奥義で! 瞬天殺
B いや、相手の奥義にも隙はあるはず。そこを突く……
C みさきの様子が気になる
D 透子を守るトウカ&リサはどうなっている?
B
(あの奥義……きっと、小金華を倒すにはあの奥義を破るしかないよ)
観鈴はなんとなくそんなことを考えていた。
このまま相手の返し技を警戒しつつ戦っても埒が明かない。
ならばいっそ相手の返し技を破ることからはじめたらどうだろうか。
相手も奥義に絶対の自信があるのなら、その奥義が破られるとは思いもしないだろう。
(えっと……確かあの技は……)
先ほど受けた攻撃を冷静に思い出す。
自分が不用意な攻撃を仕掛けた時が技の始まり。
そのまま自分の勢いを利用しつつ下から上に攻撃。
その勢いでこちらの体勢を崩してから自分を上空に跳ね飛ばし、
隙だらけとなった自分を切り刻む。
一見隙がないように見える。そう、一見。
だが、完璧に見えるこの技にも隙があった。たった一つの隙が。
それは……
A 小金華の本体で自分を上空に跳ね上げるので同時に反撃が可能
B 技の出がほんの少しだけ遅い
C 技をかけ終わった後にわずかの時間使い手の体が硬直している
D 技をかける瞬間……使い手の左手がほんの少し下がる
C
観鈴はわずかに距離を取り、ひざまずいて息を整えた。その間も小金華から目はそらさない。
「あら、せっかく近づいたのにまた離れちゃいますの?」
「……」
答えず観鈴は臍下丹田に気を送り、呼吸を整えつづける。
「しょうがないですの、じゃあまたこれで……地龍走破っ!!」
その瞬間、観鈴は脇差を小金華に向かって投げた。それは人を殺せる速度を持ち、小金華を襲う。
観鈴は地龍走破をよけながら劣らないほどの神速で別角度から近づいた。
「あたったら死んじゃいますの。いいですの?」
小金華は避けようとしない。観鈴の表情にわずかに焦りが見えると、満足そうに
「観鈴さんも嫌がってますし、この身体は気に入ってますからもったいないですの」
そういって小太刀で脇差をはじいたところに、観鈴が襲った。
「ふっ!」
「残念、あとちょっとでしたの…… 流牙旋風斬り!!」
空の一刀を余裕を持って避け、小金華が沈み込むと同時に観鈴の身体が浮き上がった。
その時、観鈴の目は小金華を見続けていた。
技をかけ終わった後にわずかの時間体が硬直している。
その瞬間だけにできること。
「なんですのっ!」
小金華──刀のほう──をみさきの手槍が受け止めていた。
さきほど距離を取ったときに観鈴が背に隠したものである。
そして、小金華には脇差もなく、防ぐすべもない観鈴を今度こそ十分に切り裂こうと強く踏み込んでいた。
空中で手槍と噛み合うその一瞬、超越的な身体バランスで観鈴は空をおもいきり小金華にたたきつけた。
A 小金華はまっぷたつに折れた。
B 小金華はその手から弾き飛ばされた。
え、もう…仕方ないからB
パシィィィーーーーーン
観鈴の空の一太刀が、小金華をその手から弾き飛ばす。
「し、しまったですの、手から離れてしまったですの」
小金華は地面に落下し、無念そうにその刀身を横たえる。
寄り代の方は、意識を失っているのかその場に崩れ落ちて倒れる。
「……はぁ……はぁ……ど、どうにか寄り代さん無事みたい」
ある種賭けだった。
もし小金華が寄り代の体を気にせず脇差を受けたら……あるいは別の結果になっていたかも知れない。
「……だけど、あちこち痛い、ちょっと動けないかな、にははっ」
観鈴もその場にガクリと膝を付く。
「みさきさん、大丈夫かな………」
「あ………嫌……駄目………もう無理……壊れる………」
『永遠無海』によるみさきの心への陵辱は続けられていた。
自分ですら無理矢理封印した過去を、容赦なく暴き立てられ突きつけられたみさき。
その一方的な憎悪と恐怖の強奪に、なすすべもなかった。
「あれ……金華お姉ちゃんやられちゃったの……仕方ないなぁ」
極上の食事を邪魔された気分の『永遠無海』が、みさきから離れその刃を向ける。
「惜しいですけど、ここでお別れです、みさきさん」
目の前の妖刀に構えられても、涎と涙を流しながら茫然自失とするみさき。
「まぁ聞こえていないと思いますけどね、後の予定が詰まっているもので」
そう言って、無造作に振り下ろされる『永遠無海』
A みさきが………避けた?
B …………ゴトリと、みさきの首が床に転がった
b
首のない自分の身体。それを地面に転がされたみさきの首は覗き込んでいた。
(わたし……やられちゃったの……?)
自分の首無し死体。その余りにもシュールな光景が乱れていたみさきの精神を
幾ばくか平常へと戻していた。
(っ!?)
不意に髪の毛を掴まれる。髪を引っ張り上げてにたにたと微笑むのは
黒髪の少女。『永遠無海』の依り代である。
「気分はどうですか?みさきのお姉さん」
そう冷酷に微笑む。そのまま続ける。
「お姉さんはもう死んじゃったんですよ」
長い黒髪を掴んだその手にずっしり重みがかかってくる。
腕の力だけで首とそれから下も引っ張り上げているのだからそれも当然と言えるのだが。
(ふふふふふ)
クスクスとほくそ笑む。あの瞬間『永遠無海』の斬撃はみさきの首を絶った。
みさきにはそう感じられたのだろう。あとはみさき自身が死を受け入れれば
彼女の心は直ぐにでも死にいたる。直ぐにでも。
(もう勝負有りですね。あっけないですけど)
髪をつかまれ引っ張り上げられたみさきの顔を覗きながら『無海』は悦に浸る。
本当にあのまま首を絶つこともできた。だがそれを選ばなかったのには訳があった。
(金華お姉ちゃんの代わりをしなきゃいけませんし)
先ほど感じた波動。金華が観鈴によって倒されたのだろう。まだ破壊はされていないが。
すぐにでも向かうべきところだがあの観鈴と相対するには自分の力は足りない。
相手の精神の脆い箇所につけこむ『永遠無海』にとっては人斬りの過去を克服し
乗り越えた観鈴は天敵ともいえる。
(このお姉さんみたいに組みしやすければ楽だったんですけどね)
自分が死んだことを告げられ呆然とするみさきを蔑みのこもった目で見る。
哀れな娘で。かくも惨めで脆い。それゆえに愛おしさを感じる。
人の恐怖、絶望を糧とする自分にとって。
(観鈴のお姉さんと戦う前にもう少し力を補充させてもらいますよ)
A 自分が死んだと思っているみさきを嬲り力を得る
B このままみさきの身体を支配する
b
みさきは50年後も死なないはずだろ?
明らかな矛盾だからリコールしる。みさきは保護しないと。
1 みさきが日記帳か何かをつけていてそれが50年後公開される
2 実は雪見と友達だった澤倉美咲さんが「川名」姓の人と結婚し、真相を知って50年後発表する
3 エピローグとならず、人斬り観鈴編に入ったのであの50年後は気にすることはない
愚痴スレにあった対処方法
何とかみさきが死んでも矛盾は生じさせずに済むみたい
584が許せないらしいしリコールは必至でしょ
割れ鍋に閉じ蓋
「みさきさん……」
体中に傷を負った観鈴。『空』を杖に壁を背に。息も絶え絶えだが立っていた。
「行かないと……」
少し呼吸を整えたところで歩き出す。
かつては被害者でありそして敵となり今は友―――
そう、観鈴の感覚でいえば、友となった彼女を助けるために。
(嫌な予感がするッ―――!)
先ほどからゾクリゾクリと薄ら寒いものが背筋に感じられる。
妖刀の瘴気だけではけしてない。
観鈴も修羅の中に生きてきたのだから、常人以上に第六勘とでも呼ぶようなものは発達している。
先ほどからそれがみさきの危険を叫んでいた。
「みさきさん……」
「呼んだ神尾さん?」
「ッ!?」
もう一度みさきの名を呟いた観鈴。
その目の前に、当のみさき本人が現れた。
「みさき……さん?」
一瞬、呆けた顔になる観鈴。
「どうしたのそんな変な顔しちゃって。『永遠無海』の方は倒したよ。そっちはどうなった?」
にこにこと、いつもの笑顔でいつものように言う。
「うん……倒した、よ。大丈夫」
「ふうん、そう。それじゃ早く透子さんのところに戻ろうよ」
「そう……だね」
促されるまま、その場でくるりと半回転。旅籠の出入り口へと向き直る観鈴。
「あなたを殺した後に…………ね」
その背後では、みさきが『永遠無海』を高々と掲げていた。
キィィィ――――――ンッ!
果たしてしかし、みさきの手を伝わってきた手ごたえは観鈴の首を両断するものではなかった。
観鈴は全てわかっていたかのように空を背負うと、永遠無海の一撃を受け止めていた。
「わっ」
「永遠無海……!」
一瞬で縮地で距離を取り直すと、改めて空を構えなおす観鈴。
「これはびっくりです」
剣を振りぬいた姿のまま固まるみさきの背後から、ひょこっと現れたのは幼い少女の姿、永遠無海。
「永遠無海……みさきさんになにをしたのッ!?」
その少女をそれだけで視殺できそうなほどの目で睨みつける観鈴。
「見てわかりませんか?」
「………………」
わからないかと言われればわかるとしか答えようがない。
妖刀の能力はわかっている。つまり―――それは―――
「まあ、多くを語る必要はないでしょう」
無海に促され、みさきは再度刀を両の手で構える。
「あなたを殺す分には構わないんですし―――このままやってしまいましょう」
色もなければ輝きも、そしてとうとう感情もなくなったみさきの瞳。
「みさきさん……!」
仇であり友でもある少女に向け、その漆黒の刃を振り下ろした。
A 呼びかけを続ける
B ひとまず応戦する
C その頃透子たちは……
おいおい、リコールかどうかが話し合われてるのに続きを書くのはいかがかと思うぞ
荒らしはスルーで
A
このまま続けちゃおうということでA
「みさきさん!みさきさん!みさきさんっ!」
呼びかける観鈴、だが、みさきに変化はみられない。
「無駄ですよ、みさきさんは今もわたしの中で陵辱され続けてますから」
手槍と盾を構え、『永遠無海』が得意気に語る。
「もうみさきさんは死んだのですよ……少なくとも心は」
「そんな事無い!みさきさんはわたしと殺しあうって約束したんだからっ!」
呆れるように『永遠無海』は溜息を付く。
「徒労に終わるのですけどね、ところで何か気がつきませんか?」
「何も気がつかないよっ、みさきさんを返してっ」
「私はさっきまでみさきさんと戦っていたのですよ、寄り代を使って」
その時、観鈴の背後から叫び声が聞こえた。
「ぱぎゅ〜☆『小金華』ぱわーあっぷして復活ですの」
振り返ると、先ほど弾き飛ばした『小金華』が『永遠無海』の元より代の手に握られていた。
その刀身は、さっきまでの戦闘だけでは到底説明できない鮮血で濡れている。
「まさかっ」
今度は先ほど戦っていた『小金華』の寄り代を振り返る。
少女の胸は貫かれ、ドクドクを血液を流し、小刻みに痙攣していた。
「さっきとどめを刺さなかったあなたの甘さ故ですの」
「あ………あ………」
油断していた、刀だけなら無力と思っていた観鈴の油断が少女を死なせた。
「今度はさっきのようにはいきませんの、2対1ですけど卑怯とは言わせませんの」
A 「お姉ちゃんは千鶴お姉さんの手伝いにいってください」『永遠無海』がそう言った。
B みさきと舞のダブル攻撃に、観鈴は追い詰められていく
C その頃『偽善千鶴』は……
B
「ああ……くうっ!」
「行きますよお姉ちゃん!」
「はいですの☆」
また自分のせいで、自分の甘さで人を死なせてしまった。
悔恨の情が観鈴の頭を焼くが、戦いはそれすら許してくれず姉妹が揃って襲い掛かってくる。
「みさきさん! みさきさんッ!!」
しかしそれでも観鈴はみさきの名を呼び続ける。
信じたから。約束したから。一年後の尾根の里……!
「なにやってんですか観鈴さん?」
「拍子抜けですの」
二重の斬撃が殺気と化し、観鈴の眼前で陽炎を作る。
果たしてその直前、観鈴は一つは縦に構えた『空』で受け止め、一つは首を捻ってかわす。
「みさきさんッ!」
反撃しようと思えばできるタイミング。しかし観鈴は牽制の切り返しを金華に放っただけに終わる。
そのまま間合いを取り直し、みさきの名を呼ぶ。
「なにを寝ぼけたことしてるんですか。今みさきさんはあなたの敵なんですよ? 戦わなきゃあなたが殺されちゃいますよ」
「まあそれならそれで楽チンだからいいですの☆」
さらにみさきと少女のが追撃の地を蹴る。
重量のある盾から解放されたその速度。既に死者と化しつつある限界を超えた筋力。
直線的ながら、存外速い。
「ッ!」
永遠無海の横薙ぎが喉笛を狙う。小金華の逆袈裟が胴を狙う。
寸前で半歩後退し、紙一枚分の薄さでそれをかわす。
「みさきさん目を覚ましてッ!」
「……なにやってるんですかあなた。さっきから」
「無海ちゃん、これはあれですの」
尚もみさきの名を呼び続ける観鈴を見て不思議な顔をする無海。
一方お姉さんぶったしぐさで、金華が解説を入れた。
「『説得』してるんですの、観鈴さんは」
「ああ……」
合点がいった、という様子の無海。
「みさきさん!」
ツッ――と頬に一筋の赤い線。呼びかけへの返事は、斬撃によってもたらされる。
「なるほど。そういうことですか」
「まああたしたちとしては構いませんの。そうやっててくださればお仕事も楽ですの☆」
「そうですね」
一心不乱に回避し続ける観鈴と、それを追い続けるみさき、少女。
見ようによっては高速のダンスを踊っているようにも見える三人を眺めながら無海は呟く。
「……無駄ですよ。みさきさんの心は完璧に『堕とし』ました」
空を切る永遠無海が毛先を、小金華が服の裾を持っていく。
観鈴はゾクゾクと、膜一枚向こう側に迫る死の気配を濃厚に感じ取っていた。
「今は彼女の体は完璧に私が操っています。潜在能力まで含めて100%。
余計なお世話かもしれませんが観鈴さん、手加減してとか傷つけないように、とかそんな考えて勝てるほど甘い相手じゃないですよ?
まあ一番分かってるのはご本人でしょうが」
「無海ちゃん、つまらないのはわかりますけどそういう言い方はよくないですの」
(確かにッ―――!)
無海らに言われるまでもなく、そんなことは観鈴はよくわかっていた。
(けど、だからって……!)
みさきを傷つけることなど、できはしない。
ましてや今は約束の時ではなく、みさきはただただ剣の傀儡となっている状態だ。
自分達の決着はこんな形でついてよいものではない。こんな形で終わってよいものではない。
こんな形で―――
「あ、わっ!!?」
悩んでいる時間。わずかな逡巡。みさきの剣のみに気を取られていた隙。
高々と永遠無海が掲げられた次の瞬間、一手は上からではなく足元からもたらされた。
「はい、王手ですの☆」
背後へ下がる直前、少女から踵への軽い足払い。しかし上ばかりに気を取られていた観鈴にはそれで充分。
そのまま自らの勢いと合間って、仰向けにみっともなくひっくり返った。
「じゃ、とどめは無海ちゃんにお譲りしますの」
「……正直拍子抜けでした」
改めて一歩進み出て、永遠無海を構えなおすみさき。逆手に持ったまま、その切っ先は―――
「伝説の人斬りが―――こんな程度なんて。つまんないです。すっごくつまんないです」
珍しく無海が、彼女にしては明確な不快さをその声に滲ませている。
「もういいです。死んでください」
観鈴へと、吸い込まれていった。
「みさきさんッ! ……みさきッ!!」
「!」
『永遠無海』が貫いたのは
A 観鈴
B みさきの体
C 『小金華』の少女
b
「……え?」
それは信じられないことだった。
過たず、観鈴の急所へむけて振り下ろされた永遠無海。
これで終わるはずだった。
終わる、はずだった。
すべてが終わる……はず……だった……のに……
「なッ…………なんなんですか!? なんなんですかこれはッ!?」
「む、無海ちゃん!!?」
姉妹が揃って驚愕する。
みさきが持った逆手の『永遠無海』。それはそのまま真下に振り降ろされ、観鈴の胸を貫くはずだった。
なのに……なのに!?
「みさきさん! みさきさんッ!!」
観鈴の悲痛な声が響き渡る。
永遠無海は……みさきの胸を、貫いていた。
「馬鹿な……そんな馬鹿な……! なんで、なんで私の術を……!」
目の前の事態が信じられないのか、無海は頭を抱えて身をよじっている。
「けほっ……!」
一方、そのままカランと『永遠無海』を取りこぼし、膝から崩れ落ちるのはみさき。
「みさきさん! みさきさんっ!」
慌ててその体を抱きとめる。
ああ――――同じだ。
おんなじだ。
観鈴の脳裏に浮かぶのは、京都御苑の光景。
杏さんの時と……おんなじだ……!!
「みさきさん……みさきさん、どうして! どうしてあなたまでッ……!」
「あはは……あはは……わた、私も大概……馬鹿、おおばか……だよね……」
血を吐きながら、笑って答える。
ああ……こんなところまで、同じだ……!
「な、なんで雪ちゃんの仇であるあなたじゃなくて……自分を、ゲホッ!
……あは、あはははは……馬鹿だね。私もすごいあほちんだね」
「みさきさん、お願い……もう、喋らないで……」
「な、なんでなんだろうね……よりにもよって、どうしてあなた……なんだろう、ね」
しかし観鈴の言葉など届いていないかのように、息も絶え絶えに続ける。
「笑える話……だよ、ね。よりにもよって……正気への橋頭堡が……不倶戴天の仇である……
あなた、だなんて……ゲホッ! ガッ!」
「みさき……みさきさん……!」
命が、消えていく。
「なんでだろうね……あなたのことはすごい憎かったのに……
それでも、私の手で……ううん、あの妖刀の手で殺されるとなったら……
私、手が勝手に……あは、あはは……私、なにやってんだろ…………ゲホッ!」
「おねがい……もう、もういいから……!」
「ああもう……くやしい……なあ……。椋ちゃんの言う……とおり、かも……しれない、よ……
あなたは……空洞、底なしの奈落、深遠…………なの、かもしれないね。
結局私もこう……して、あなたに嵌っ……て……魅せられ……て、雪ちゃんの仇なの……に……!」
「みさきさん…………」
「なんであなたはそんなに強い…………んだろう。私と同じくらい、あなただって……傷ついてきたのに……
なのに、私は少し心を覗かれただけで……もう、ダメ。なのにあなたは……
抉られても、暴かれても、詰られても…………挫けない。
どうしてだろう…………どうしてあなたはそんなに強いんだろう…………」
「もう、もういいから……! みさきさん……!」
「……結局、私、約束守れなかったよ……あの子も死なせちゃったし……」
物を映さぬ視線の先には、永遠無海に操られてしまった少女の姿。
「……本当、私、ダメな子だよね……」
「違う……違うよみさきさん! あなたは、あなたは……!」
「ねえ……最後に一個だけ、お願いがあるんだ」
「…………?」
「私……雪ちゃんの隣に埋めて……ほしいな。体持ってけってのも無理だろうし…………
…………雪ちゃんが褒めてくれた髪……私の髪だけで、いいや。
できれば旅が終わったら……尾根の里、雪ちゃんの隣に埋めてくれると……嬉しいな。
それで、できれば神尾さん……一束でいいから、あなたの旅路に連れてってくれると…………うれしい。
私、あなたの行く先を見てみた…………ガッ!」
「みさきさん…………!」
「……私の荷物、あげるよ。こう見えてもわたし、マメな方でね…………
ずっと昔から、日記だけはつけてるんだ……たぶん、あなたにとっても悪くない内容が……ケホッ!」
「もう! もうそんなことはいいから! だからみさきさん、お願い…………!」
「ごめんね。もう……私の幕は……下りるみたいだね…………」
みさきの顔が、白くなっていく。
「…………ごめんね雪ちゃん、結局、仇を討てなくて。
ごめんな神尾さん…………約束、守れそうになくって……
ごめんね雪ちゃん…………結局、私もそっちに行くよ……
…………でも、許してくれるよね。
雪ちゃん、怒ったあとはちょっとだけ私をいじめて、それで……その後は…………
…………いつも…………笑って…………
私に、笑ってくれ…………」
「…………………………………………」
そして、終わった。
「………………」
観鈴は静かにみさきの目を閉じさせると、無言のまま空を構え、立ち上がった。
背後には無海と金華、二刀を構える……すでに死せる少女の姿。
「ひ……っ!」
「ああ……っ!」
体を操る金華が、無海が、生まれて初めてであろう悲鳴を上げる。
観鈴と目が合った瞬間、理屈ではない。
本能で知った。
己は今、初めて狩られる立場に回ったのだ。
姉妹は…………
A 一目散に逃げた
B 観鈴に立ち向かった
B
A
舞が踏みとどまる。
右手には無海、左手には金華と断頸の小太刀を持って。
金華と無海が人間であれば、ここで退くことを前提に時間を稼ごうとしたかもしれない。
だが、金華も無海も良くも悪くも刀であった。
目の前の強者を斬るという刀としての欲望の前に、そんな考えは浮かんでこなかったのだ。
「無海……逃げたいのならお一人でどーぞ」
「お姉ちゃん、それはあんまりですよ。
ちょっと怖いけど、観鈴さんの中からとっても強い憎悪があふれ出てきてる。
こんな強い憎悪の塊を目の前にして、さようならって絶対に出来ないですよ」
「やはりあなたは『後悔』と『憎悪』の念が込められた鬼神楽の幼刀ですの。
ですがあたしも『苦痛』と『殺意』の念が込められた鬼神楽の技刀として……退くことはできませんの!
この方のあたしたちに対する殺意、心地よくて惚れ惚れしそうですの!」
舞が金華を口にくわえる。
いわゆる……三刀流の構えだ。どこかの某海賊漫画のような。
対する観鈴はぽつりと呟く。
「……ごめんね、みさきさん。わたしのせいでこんな目に遭っちゃって」
「今更懺悔? やっぱり人間って分からないですの」
「違うよ。これは決意……。全力を持ってあなた達を壊す、ね。
わたしの誓ったのは不殺。決して「不壊」じゃないの。人であらざるものに……手加減は要らないよね?」
「したら観鈴お姉さんの負けですよっ」
無海がまたくすりと笑う。
観鈴はふぅっと落ち着いて刀を構える。
感情が欠落したわけではない。だが、この状況で非常によく落ち着いていた。
観鈴は地を蹴る。
そして次の瞬間……観鈴と舞による打ち合いが始まった。
その頃―――
「どうも、今晩は」
「…………」
部屋の中に緊迫した雰囲気が漂う。
布団の中で恐怖を感じる透子、その透子を守るように立つトウカとリサ。
そして……戸口の前で微笑んでいる刀傷の生々しい女性。
「初めまして、偽善千鶴と申します。
口の悪い人は鬼神楽の年増刀なんて名前で呼ぶんですがね。そう呼ぶ人はなます斬りにして差し上げますが。
不肖の妹たちが随分お世話になりました。まず、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「……某には刀風情に名乗る名前などない」
「挨拶なんて無意味よ。何しに来たの……って、分かりきったことを一応聞いておくわ」
それぞれ獲物を構え距離を保ちながら聞き返す。
千鶴はそれを困ったように、だが日常会話のようにふぅっとため息をついた。
「嫌われてしまいましたか。どうもいけませんね、人間と仲良くなれそうになくて。
目的は分かっていらっしゃるでしょう? その刀……私たちに譲っていただけないでしょうか。
そうすればちょっともったいないですけど、あなた達を斬るのは我慢してここからまっすぐ帰ってもいいです」
「無茶な注文ね」
「やっぱりそうお思いですか?」
千鶴が笑みを浮かべる。
まるで作ったような笑み。人のそれと比べて実に不自然な。
鞘から自らの体である偽善千鶴を抜き放つ。刃の輝きが、美しくもあり妖しくもあった。
「なら死ぬしかないですね? ……二人いれば勝てる、なんて思わないことですね」
その瞬間に殺気が膨れ上がる。
何の訓練も受けていないものはそれだけで立ってもいられないであろう。
「ふ、ふぇぇ……!!」
「透子殿、部屋の隅へ!」
トウカが振り返らずに指示をする。
透子はびくびくしながらも、這って部屋の隅に向かう。
千鶴はそんな三人を見て微笑みを崩さない。
「人を守る、ですか。偽善ですね。殺し合いというのは自分のためにするもの。
人を守るだの……弱者を生かすだの、聞いてて反吐がでます」
「そういう感情をもてるのが……また人間なのよ」
「それなら、やっぱり人間って分からないですね」
「貴様には永遠に理解できぬであろうな!」
リサとトウカの戦法は?
A リサが透子を守り、トウカが打って出る
B トウカが透子を守り、リサが打って出る
C 一か八か二人同時に出て相手の刀を狙う
D 二人とも守りに徹し、観鈴たちの応援を待つ
A
D
c
「某が討って出る、リサ殿は透子殿を頼む」
「OK!」
トウカとリサは役割分担を決め、瞬時にトウカが動く。
スラリと抜刀し、跳躍して一足飛びに斬りかかる。
「あら、なかなかの腕前ですね、さすが妹が寄り代にしただけの事はあります」
「くっ、このっ」
一太刀目を防がれ、次々と斬撃を繰り返すトウカ。
だが、偽善千鶴はやすやすとそれらを捌き、はじき返す。
「『人を守る、弱者を生かす』ですか………とんだお笑い話ですね」
トウカの渾身の連撃を避け、捌き、打ち払いながら愉快そうに偽善千鶴が語りだす。
「白穂の体で調べた事で面白い話を一つ……あなたは幕府に『売られた』のですよ、栗原透子さん」
「ふええええぇぇぇ?」
リサと共に部屋の隅にいた透子が、突然自分の名前を挙げられ驚く。
「あなたはその妖刀を運ぶために外国へ送られる、ですけど不思議だと思いませんか?
将軍の側室、それも妊婦を『運び手』にするなんて」
「えーと、確かに……」
「幕府がその気になれば妖刀に興味が無い、戦意の無い人間などいくらでも見つけられるはず。
普通将軍の側室がその様な危険な真似をする必要など無い。それをわざわざあなたに任せた
いえ、『押し付けた』のは……あなたが『邪魔』になったからですよ」
偽善千鶴の言葉に動揺してしまう透子。
「そんな………」
「何処の世界にもある話ですよ、正室の跡継ぎがいるなら側室の子など争いの種。
ていのいいお払い箱です。幕府はアメリカと密約を交わしたのですよ
『妖刀処分の代金の一部として栗原透子を"売る"と』
「…………嘘」
「嘘じゃありません、何でも先方に性的嗜好が『妊婦』に傾倒している変態がいて、その人に引き取られて世話されるのですよ、あなた」
「…………そんなの……嫌だよ」
「ま、幕府にしてみれば国内を騒乱に巻き込む刀の処分をバツイチの邪魔な側室より優先させるのは至極当然でしょうね」
「リサさん………嘘だよね、嘘って言ってよ、リサさん!!!」
「…………私も、知らされていなかった……そんな………まさか………」
だがリサは薄々怪しいと思っていた、何ゆえこの様な高貴な少女に危険な役が与えられたのか。
A 「ええい、戦いの最中に戯言を!」トウカが抜刀術を偽善千鶴に放った
B 「…………この刀を渡せば、私たちを見逃してくれるのですか?」その時、透子が立ち上がった
C その頃観鈴と妖刀との戦闘は……
C
「はぁぁっっっ!!」
「えぇぇぃぃぃっっっ!!」
観鈴と舞が幾度も交差する。
観鈴の太刀筋を小太刀で受け流し、更に左からは無海、上からは金華が一撃を狙う。
服の裾を斬られ、髪の先を斬られ、体にかすり傷が付く。
一度観鈴は間合いを大きく離した。
自分の息が上がってきているのに対し、向こうはペースはちっとも乱れていない。
「はぁっ……はぁっ……」
「それが人間の限界ですの。本当人間は脆くて可哀想になってきますの」
その物言いで気づく。
相手は刀が人の体を操っているだけなのだ、刀に疲れは伝わりはしない。
やはりあの二本は……使い手である舞の体を気遣っていないのだ。
「ねえ観鈴お姉さん。そろそろ不殺の誓いなんてゴミ箱にポイしちゃったらどうですか?
私たち二人を同時に相手するのに……この人のこと気遣ってたら勝てないですよ」
「悪いけどそれは聞けないかな。決めたの、偽善を貫くって」
「誰もそんなこと望んでないかもしれないのに? ただの自己満足ですよね。
振り回される周りの人たちはいい迷惑ですよ、今更あなたの改心なんて誰も必要としてないのに。
あなたに殺された人達もさぞかし未練でしょうね、己の信念をあっさり曲げるような人に殺されちゃったんですから」
「…………。
何を言われても、わたしは前だけを見るよ。それが誓いだから。
あなたの言うとおり、それはわたしの自己満足かもしれないけど……それでもわたしは、人を救いたい」
「……つまんない。全然つまんないです。
あなたが後悔してくれないと全然気持ちよくないんですっ」
残念そうに無海が呟く。
そして舞がまた刀を三本構えなおした。
「無海。思い知らせてやるのがいいんですの。
たっぷりと苦痛と後悔に溺れさせてから殺し、そして残った刀を叩き折る。
それであたし達の役目はおしまい。明日から他の人についてまた人を一杯斬れるんですの」
「はい、お姉ちゃん」
舞が一気に地を蹴った。
勝負をかける気だ、観鈴にもそれが分かる。
二人はお互いに距離を保ちつつも牽制をかける。
だが観鈴には距離を離しすぎることは許されない。
相手には遠距離からの地龍走破がある。遠くからの間合いで攻められれば少し不利だ。
だが近距離も決して楽だというわけではない。
三つの剣戟が自由自在に観鈴に襲い掛かってくる。弾くだけでも精一杯だ。
そんなとき……
「が、がおっ!?」
観鈴が一瞬体勢を崩した。
そこを見逃さず舞が一気に距離を詰める。
「勝機!」
相手の小太刀と無海が観鈴の左右の逃げ道をなくし、更に上への逃げ道も金華が封じる。
「鬼斬りぃっ!! なます斬りになるがいいですの!!」
観鈴は……
A 縮地からの抜刀術で相手の攻撃よりも先に自分の攻撃を当てる
B 藤林一刀流の捌きで太刀筋をそらし反撃
C その瞬間、舞を上空に跳ね飛ばした
D 後ろに跳んで一度下がった
C
一瞬無海と金華は何をされたのか分からなかった。
自分達が必殺の間合いを持って突っ込んだというのに、気づけば宙を舞っている。
だが……金華には見覚えのある技だ。この技は……
「龍牙旋風斬り……まさか!?」
「にはは。うまく出来るか自信なかったけど……よかった、うまくいって」
「そんな……人間ごときが、あたしの技を!?」
「見よう見まね。これ、みすずちんの得意技」
観鈴が笑った。
次の瞬間……小太刀がバラバラに壊れ、舞の体は地面に叩きつけられる。
ぐしゃっという音がし、舞は起き上がる気配を見せない。
そして、舞を操っていた金華と無海は……
「……痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い! ものすごーく痛いですの!!」
「ヒビが……体にヒビが! 痛い……痛いよ!!
一度直してもらわないと……このままだと壊れちゃう、壊れちゃうよ!!」
「……わ、まだ動いてる」
地面に突き刺さったままの状態で苦しみの声を上げた。
無海の刀身は元近くに大きなヒビが入っており、
このままの状態で刀を振ればどうなるかは想像に難くない。
一方金華のほうは距離的に観鈴に遠かったせいか、
はたまた自分の技だから無意識的に直撃を避けたのか、
無海ほどの手痛いヒビではない。
観鈴はチラリと舞の方を見た。
地面に思い切り叩きつけられたとはいっても、直接的な斬撃は与えていない。
二本の傀儡が解ければ直に目を覚ますだろう。
「勝負、あったよね」
観鈴がゆっくり、警戒しながら二本に近づく。
「まさか……あたしの龍牙旋風斬りが……」
「うん、とっても強いよその技。奥義って言っても全然恥ずかしくない。
あなたが使ってれば、ヒビだけじゃなくてそのまま刀を叩き壊すことも出来たんじゃないかな」
空を上に掲げる。
無海が、恐る恐る観鈴に問いかけた。
「……やっぱり壊すんですか? 私達を……」
「そうだね。あなた達は理由もなく人を斬るみたいだから。
だから……壊させてもらっても、いいよね?」
観鈴が一息つく。そして……
A そのまま無言で二本を叩き折った
B 二本がその言葉を受け入れた。怪しい……
C 金華が無海の命乞いをした
D 今一度抵抗してきた(刀指定 金華or無海or両方)
A
「………………」
観鈴は無言のまま、二本の刀を片手に持つと、ひょいっ、と軽く上空に放り投げた。
くるくると回る刀身が一定間隔ごとに月明かりをキラキラと反射する。
場違いなこと甚だしいが、観鈴はそれを見てなんとなく、綺麗だな、と思った。
「ああ……ああっ!」
「そ、そんな……!」
二人……否。二本の悲痛な声。しかし、もはや観鈴には届かない。
「……さようなら」
回る二本が眼前まで落ちてきた瞬間、『空』の横一線。
ぱぱぁぁぁぁぁ――――――んっ!!
甲高く、鋭い音と共に……
幾千もの血を吸ってきた柏木楓の過ちは、木っ端微塵に打ち砕かれた。
残るは、1本……
「―――!」
その瞬間、観鈴の耳に届いたのは自分等の部屋から聞こえてきた金属音。
「透子さん!」
悲鳴を上げる体は無視。両脚を無理矢理鼓舞し、観鈴は再び走り出した。
「……!?」
場面は移って、その透子らの部屋。
微笑を浮かべながらトウカの連続抜刀術を受け流していた千鶴の表情が、はたと固くなる。
「金華……無海……?」
同族の勘。千鶴は、妹達が壊(ころ)されたことを何となく感じ取った……
「戦いの最中に……余所見をするなッ! 破ッ!!」
トウカが激昂しながら再度斬りかかる。
「小煩い蝿ですね……」
やはり易々と受け流すと、今度は反撃に転じる。
「少し力を入れますよ……」
「なッ!?」
流した体勢のまま、刀は振るわず片手の拳を握り固め、そのままボディーブロー。
「が………ッ!!」
しかしそれだけでトウカの内臓は派手に掻き混ぜられ、反吐を撒き散らしながら反対側の壁へと叩きつけられた。
「トウカさんッ!」
慌てて駆け寄る透子とリサ。
「だいじょ……これくら、ゲホッ! ガホッ!」
無理をしているのは一目瞭然だ。元々半病人で長くは闘えない体なのだ。
「………………」
しかし千鶴は、そんな光景を見ても追撃は行わず、虚ろな視線を外に向けていた。
「……どういう、つもり……だ!?」
再度刀を構えながらトウカが立ち上がる。
「…………どうやら、私の妹達が壊(ころ)されたようです」
「……Ha!」
それを聞いたリサが笑みを浮かべる。
「ウチの子たちをなめた報いね! さあ、あなたも命が惜しければさっさと消えなさい!」
しかし千鶴はリサの挑発には答えず……
「そうですか……壊(し)にましたか……」
独り言を呟くように……
A 「役立たずですね……所詮欠陥品ですか」
B 「一応……仇は討たねばなりませんか」
A
「役立たずですね……所詮欠陥品ですか」
つまらなそうに、ただ一言そう吐き捨てる。
その物言いに、三人はぞくりとしたものを感じた。
「自分の妹が壊されたってのに……なんて刀なの」
「『よくも妹を! 殺してやる、殺してやるわ!!』
……とでも言えば良かったんですか? そんなのただの偽善ね。
妹として可愛がってはいましたが……所詮欠陥品は欠陥品。
『後悔』と『憎悪』の怨念を篭めた無海、『苦痛』と『殺意』の怨念を篭めた金華。
そして『略奪』と『破壊』の怨念を篭めた断頸。そのどれもが神尾観鈴に壊された。
やはり……人間の感情を怨念として込めることがそもそもの間違いなんですよ」
振り向きもせずびゅっと刀を振るう。
反撃を試みようとしていたトウカがドガッという音とともに壁に叩きつけられた。
「私の目的はただ一つ。そこの刀を手に入れ、私が最高の刀となること。
偽善に溺れ、人を生かす刀など打った柏木楓に教えてあげます。それが過ちであると。
刀は殺戮道具。人を殺すために生まれ、人を殺すために使われます。
わかりますか? 刀はそれだけのためにあり、それが全てです。
金華も無海もそれは分かっていたみたいですが……甘いんです。
あの子達は戦いそのものを楽しみ過ぎた。強い者との勝負を求めすぎた。
そんな必要は全くないんです。人を斬る、ただそれだけで十分。
あの二本は強者と戦いたいだの……変なところで人間味がありました。刀として欠陥品ですね。
そして偽善的な刀”もどき”に負けるほどの役立たず……。恥ですよ、恥。
人を守るだの弱者のためになど……本当に見苦しい。
人間は斬ることに下らない理由をつけすぎです。所詮は全て偽善に過ぎないんですよ!」
そのままトウカを追い、自らの体である偽善千鶴を振りかぶる。
「死になさい! 偽善者達が!!」
「くっ……!!」
トウカがふらつきながらも刀を構える。トウカのとった作戦は……
A 相手の攻撃を受け流し一撃を見舞う
B 特攻覚悟で突っ込み、無理やり千鶴を白穂から引き離す
C 守りに徹し、観鈴たちの応援を待つ
D その時リサが千鶴に向かって発砲した
C
「…………ふう」
トウカは覚悟を決めた。
死ぬ覚悟を。
元より主・白皇のためと捧げた命、その仇を討つためと捧げた命。
しかし今、己の背後にはその白皇の妻だった透子がいる。
エヴェンクルガは義に生き、そして義に死す。
守るべきものを、守るためならば……
「…………来るがいい」
トウカは片手に刀、片手にその鞘を持つ。
徹底的に、防御に拘るつもりだ。
「……勝つ気を棄てたのですか? 臆病なことですね……」
偽善千鶴の一撃を両手で受け止めるトウカに、千鶴が心底侮蔑したように吐き捨てる。
「誉れ高きエヴェンクルガの名も地に落ちたものです」
「好きに言え」
しかしトウカは静かに答える。
「守るべきものを守るためなら、誇りすら捨て去ろう。それもまた、エヴェンクルガの誇り」
「くだらない……要するに自分に甘いだけではないですか。どこまで行っても人間とは……偽善、極まりない!」
膝蹴りと同時に振り下ろし。膝は肘で止められたが、千鶴の刃はトウカの防御を弾いてその肩口に食い込んだ。
「……フ」
ニヤリと笑う千鶴だが、トウカは眉一つ動かさない。
「…………!!」
「な!?」
トウカは無言のまま、己の肩口に喰らい付いた偽善千鶴の刀身を鞘と刀で挟み込み、梃子の原理を応用してギリギリと締め上げた。
もちろんさらに己の肩深くに刃が食い込む形になるが、力を緩める気配はない。
「ッ……!」
一瞬身を引き裂く激痛に捕われ、一歩間合いを広げる千鶴。
「あなたは……!」
トウカは、肩から血を流しながらも怯まず再度立ち上がる。
「さあ、来るがいい呪われし妖刀よ。エヴェンクルガが末子トウカ、たとえこの身が砕けるとも」
そして再度、構えを整える。
「一歩たりともここは通さん」
「透子さん! みんなっ!」
そして少しの時間が経った。
階段を登るのもまどろっこしいと、窓から直接己等の部屋に飛び込んだ観鈴。
そんな観鈴の目の前に広がる光景は…………
A たった今、千鶴に貫かれたトウカの姿。
B 赤い水たまりの中に倒れ、今すぐにでもとどめを刺されそうなトウカの姿。
C 血まみれで千鶴と壮絶な鍔迫り合いを演じているトウカの姿。
C
ついにうっかり選択肢が消えたーッ!?
「おおおおおぉぉぉっっっっっ!!!」
「せやぁぁぁぁっっっっっっ!!!」
千鶴とトウカの声が重なる。
はじめに観鈴が見たものは、血塗れになって戦っているトウカの姿。
守りに徹しているとはいえ、千鶴の攻撃はトウカといえども捌ききるのは難しいものがあった。
一振り、また一振りと偽善千鶴が振られるたびに、トウカの体に刀傷が増える。
「トウカさんっ!」
観鈴の声にその場の全員が観鈴のほうを振り向く。
トウカは観鈴の姿を見るなり、一気に千鶴と距離を離した。
観鈴の横まで来て、トウカはふっと笑う。
「……遅いぞ、観鈴殿」
「ごめんね……本当に、ごめんね……」
「彼奴の相手は……観鈴殿に任せてもよろしいか?」
「うん。いいよ……」
答えの分かりきっている問答。
その問答が終わり……トウカが安心しきった表情で床に倒れる。
もうトウカは……限界だったのだ。
観鈴一人でここに現れたことに、リサが聞く。
「観鈴、みさきはどうしたの?」
「……ここまでは来れなかった。妖刀に……」
「…………そう」
リサもそれ以上聞かずに、パチンと爪を噛んだ。
その様子を見て、くすくすと笑うのは……偽善千鶴一本のみ。
「……なんだ、一応敵の戦力を削ぐことは出来てたのね。
無海、金華……役立たずは言いすぎだったわね、ほんの少しだけ役に立ったわ」
そう独り言のように呟いた後、
急に表情を鬼のように変え観鈴を睨み付ける。
「……初めまして。あなたが楓の刀を持つ神尾観鈴さんですか」
「うん、わたしがみすずちん。あなたが……最後の鬼神楽の一本なんだね?」
「そうですね。断頸も、金華も、無海もあなたに叩き折られた。
三本とも……私についてくることはできなかった。もう残ったのは私だけですね。
この場であなた達全員を血祭りにできるのは……私だけです」
自信たっぷりの表情で千鶴が観鈴のことを見下ろした。
今の観鈴は……致命傷ではないとはいえ、あまりにも傷つきすぎていた。
金華と無海から受けた傷がかなりのハンデとなって観鈴にのしかかっている。
「あなたは、わたしがこの手で壊すよ。
きっと……あなたをそのままにしていたら、たくさんの人が殺されちゃうから」
「下らない偽善ですね」
「うん。わたしのは偽善。
でも……偽善でも、偽善でもいいから人の役に立ちたい」
「そう、ですか……」
ふぅっと千鶴がため息をつく。
また厄介なものをみるような、呆れた目で観鈴のことを睨み付ける。
「どうして私が『偽善』千鶴なんて名前がついてるか、知ってますか?」
「…………」
「あなた達のような『偽善』を斬るための刀だから、なんですよ!」
千鶴がその言葉と同時に地を蹴る。
千鶴は……
A 観鈴に斬りかかった
B 怪我をし倒れているトウカを斬り付けた
C 方向を変え、透子の持つ刀を直接狙いに行った
A
偽善千鶴が観鈴を捉える。
観鈴は千鶴の一撃を刀の腹で受け流しつつも、反撃を試みる。
が、それも千鶴は自分の体である偽善千鶴で受け止める。
永遠無海と小金華を完膚なきまでに叩き壊した空の一撃だが……
偽善千鶴には刃こぼれ一つ、起こすことは出来なかった。
観鈴はそのまま鍔迫り合いの形になり、数秒の硬直の後一歩引く。
間合いが離れたとき……千鶴がにやりと笑った。
「強いですね、あなたは。そこのうっかり侍よりよっぽど厄介です。
ですが……やはり人間。息が上がってますよ、連戦は辛いですか?」
「強い……みすずちん、ぴんちっ!」
「私を何だと思ってるんです? 鬼神楽の四姉妹刀の長女ですよ。
篭められた怨念は妹達とは格が違います。斬ってきた人間も桁が違います。
使い手に頼りすぎる断頸、技に溺れすぎの金華、小細工ばかり弄する無海。
私はそんな不甲斐ない妹達とは違う。
達人級の使い手も、一撃必殺の奥義も、相手を壊す精神干渉も、
そんなものは刀に必要ありません。私はそんなものは使う必要ないのです。
刀に必要なのは絶対的な強度と切れ味のみ。ただそれだけを鍛えればいいんです。
幾千人の血と怨念で研ぎ澄まされた私の刃は姉妹の誰よりも強く、そして鋭い……」
ギラリ……と偽善千鶴の波紋が光った。
己の強さと鋭さを誇るかのように、白穂の指で剣先についた血をそっとぬぐう。
「あなたの偽善臭いその剣で、私を折れるなどと思わないでください。
ましてやあなたは無海、金華と戦い手負い……。
それで私を折ろうなどとは、おかしくて鍔で茶を沸かしてしまいます」
「が、がお。それを言うならおへそっ……!?」
観鈴のツッコミは千鶴の太刀で阻まれた。
再び千鶴が観鈴に斬りかかってくる。千鶴の攻撃は純粋に脅威だった。
一撃一撃が無海や金華よりも早く、そして重い。
小細工のない敵が最も恐ろしい。
金華相手のように奥義の隙を付くことも、
無海相手のように心を強く持って己を保つことも出来ない。
一言で言い表すなら……隙がないのだ。完全に。
観鈴は空で千鶴に一撃を見舞う。
ガキッ……という音がしたが、やはり叩き折ることはおろかヒビも入れることが出来ない。
(どうしよう……)
観鈴は攻撃を受けつつも頭を悩ませる。
千鶴の刀としての硬度は他の姉妹に比べてかなり優れている。
生半可な攻撃じゃ千鶴には傷一つ与えることは出来なさそうだ。
それに……こちらの体力の問題もある。
こっちは連戦で体力は限界に近づいていた。
ただ打ち合うだけでも千鶴ほどの相手となると非常に体力を消耗する。
「だから言ったでしょう! あなたのような偽善の剣では私には勝てないと!
他人を守ろうなんて反吐が出ます! 刀の真髄は……斬ること! それ以外にありません!!」
刀を振りながら千鶴が吼える。
「確かにわたしの剣は偽善だよ!
けど……斬るだけが刀じゃない、人を守る事だって出来るんだよ!!」
「いいえ刀は殺戮道具! 殺し合いのために生まれ殺し合いのために使われる!
違うといいたいのなら……私を折って見せればどうですか! その守る刀とやらで!!」
お互いに叫びあった後バッと間合いを離す。
千鶴はふぅっと一息ついてから刀を構えなおした。
「あなたを殺します。偽善者を見るのは非常に不愉快です。
……手負いのあなたに次の一撃、果たして耐え切れるでしょうか?」
(がお……体力ももう少ないし、相手の剣が速い。みすずちん、だぶるぴんちっ!)
観鈴も内心焦りながら刀を構えなおす。
この状況で千鶴を倒すにはどうしたらいいか冷静に考える。
観鈴のとる方法は……
A 最後の体力を瞬天殺につぎ込む
B いちかばちか、千鶴の刀を白穂から弾き飛ばす
C 考えている間にもう千鶴の攻撃が迫ってきた
D 急に千鶴の操る白穂の体が吹っ飛ばされた
E その時、透子の持つ刀から強烈な瘴気が……
E
「わ、わっ!?」
「!?」
その時、不意に背後から聞こえてきた透子の叫び声。
冷静になって考えてみれば愚かなこと極まりない行為だったが、観鈴は反射的に振り向いた。
幸いだったのは、偽善千鶴もまた、同時に透子に気を取られたことだろう。
「あ、あつっ! 熱っ!」
慌てて透子が懐の中から何かを取り出そうとしている。
だが、観鈴と、そして千鶴にはわかった。
それは、熱などではない。
透子の懐から、猛烈な濃度の瘴気が噴き出している。
「お祖父様……」
千鶴の呟き。観鈴はそれを聞きとめたが、今は気にしている場合ではない。
「ふっ、ふえぇぇぇぇっ!!」
ようやく透子が取り出した古の短刀。
既にそれからは肉眼ではっきり見て取れるほどのドス黒い瘴気が陽炎のように立ち昇っている。
「……紛れもなく、それこそ始祖の剣!」
「!」
認めた瞬間弾かれたように千鶴が跳躍。『それ』に手を伸ばす。
「寄越しなさい!」
「ふえっ!!?」
「駄目ぇッ!」
しかしこれには観鈴が背後から追いすがる。
千鶴へタックルをかまし、寸前で押し倒した。伸びた指が短刀を弾き、部屋の隅へと飛ぶ。
「くっ!」
「あ、ああっ!」
慌てて取りに行こうとする透子だが、その顔の寸前をひゅっ、と偽善千鶴の刃が撫でる。
「命が惜しければ動かないことです!」
「駄目! 駄目ッ!!」
「ええい、邪魔ですっ!!」
己に取りすがる観鈴に向かい、逆手に持った偽善千鶴を突き刺す千鶴。
しかしギリギリのところでそれをかわし、逆に腕を取ってお互いに取っ組み合いの体勢になる。
「渡さない……絶対に、わたさない……!」
「小娘が……人間にあれを扱いきれるとも思っているのですか……!?」
「観鈴、あれを守ればいいのね!」
そこまで見ていたリサ。2人が膠着状態に陥ったと見て、短刀に手を伸ばすが……
「だめリサさんっ!」
「!?」
観鈴の声がそれを静止する。
「リサさんがそれを持ったら大変なことになる! リサさん触っちゃだめ!」
「くっ……無駄に勘のいい! さすがは”母”が認めた女だということですか!?」
余所見をした瞬間、千鶴は観鈴の胴体を思い切り部屋の反対側に蹴り飛ばした。
「……!」
受身を取り、すぐさま起き上がるが距離が足りない。
「どきなさい異人!」
「ッ!」
追いすがりながら横薙ぎの一撃。寸前で一歩下がりリサはそれをかわす。
「もらった! これで私が……!」
千鶴の指が、短刀にかかる――――!
A 千鶴は短刀を手に入れた
B リサが拳銃で担当を弾き飛ばした
A
Bを選んだ場合
突然出てきた現SS書き担当のID:kbcOrLGl0が弾き飛ばされる展開だったら吹いてた
「SHIT!!!」
パンパンパン、とリサが拳銃を数発発砲するが、一歩及ばず。
「ふふ……ふふふふふふふふ……!」
銃弾は千鶴の手の甲、肩、そして頭に阻まれるに終わり、短刀は見事右手の中に収まることとなった。
「………」
千鶴の目が、光る。
「………!」
本能的に気圧され、一歩下がったリサ。それが僥倖だった。
今までリサが立っていた位置の真横の壁が、すっぱりと、豆腐に包丁を入れたかのように綺麗に抉られていた。
「……Unbelievable」
「下がって! 下がってリサさん! お願いだからっ!」
「……!」
「ふ、ふぇっ!?」
信じられない光景に思わず一瞬呆然としたが、観鈴の呼びかけで我に返り、すぐに透子を抱いて観鈴の後ろへと下がる。
千鶴なら充分追撃可能なタイミングだったが、彼女はそうはしなかった。
新たに手に入れた短刀の感触を確かめるように、ゆっくりと観鈴たちに向き直った。
「……ふふ、ふふははは………」
おかしくてたまらない、といった様子で笑う。
「……………」
無言のまま、『空』を構えなおす観鈴。
「……手に入れました。ついに手に入れましたよ、”鬼神楽の始祖”」
千鶴は高々と短刀を掲げる。
「始祖……?」
そしてゆっくりと、短刀の鞘を抜きながら説明を始める。
「そうですよ……この持つ短刀は柏木耕平を遥かに遡る柏木一族の始祖『次郎衛門』が打った究極の一刀、その残滓です。
数百年も前の話……自身も屈強な武士であった彼とその妻は、憎い仇を討つために己の総てを賭して雨月山に篭もり、ある刀を打った。
そして彼は完成したその剣を存分に振るい、見事仇の一族を一人残らず殺しつくし……一時は剣を雨月山へ封印……いえ、奉納した……」
少しずつその短い刀身が姿を現すたび、観鈴の心臓を直接捕まれるような寒気が走る。
「しかし、長い年月の中、剣はいつの間にか持ち出され……人から人の手へと渡り歩き……
その度に血を吸いながら、いつしか壮絶な怨念と憎悪とを宿す究極の妖刀となった。
戦の中で砕けても。その度に心ある……いや、心無い、でしょうか?
とにかくその力を求めた、血に飢える者共に自身を打ち直させ続けて。
現世へと残った最後の刃が……これです」
その刀身が露になる。
普通だ。全く普通の短刀に過ぎない…………が、あまりに禍々しい『それ以外の何か』を観鈴はひしひしと感じ取っていた。
「………その力、鬼神楽の末裔である私が使うのが相応しいと言えましょう………
さあ、我が始祖、お祖父様! 私に……その力を! 数百年にわたる……全ての力を私に!」
そして千鶴は……
A 短刀と『偽善千鶴』を融合させた
B 己の胸に短刀を突き立てた
A
「さあ……お祖父様! 今こそ、その全てを私に!」
「!」
千鶴が、逆手に持った短刀を『偽善千鶴』の柄に。
いや、その下にある茎の『鬼』の銘へと突き立てる。
その瞬間、弾けたような光が広がり、思わず観鈴たちは目を覆った。
「……?」
光はすぐに収束する。
ゆっくりと目を開く観鈴。目の前には、変わらぬ姿で佇む千鶴の姿。
そして、その片手に握られた…………
A おぞましさを覚える程の巨怪な太刀
B スラリと細く美しく伸びた刀
C ……逆刃刀?
C
「馬鹿…………な…………!?」
千鶴の目が驚愕に見開かれる。
その手に握られていたのは、観鈴の『空』と同じ……
本来刃があるところが峰になっている……
…………逆刃刀、だった。
「そんな……そんな馬鹿な!? これは、これは一体……!?」
激しく狼狽える千鶴。目の前の事実が信じられない。
自分自身が……刀の真髄は斬ること、殺すこと、血を吸うことと信じ、それのみを追求してきた『偽善千鶴』自身が……
『偽善』の象徴である、逆刃刀なんぞに!?
「なんだ……お祖父様! 始祖様! これはなんですか!? なんなんですか始祖様!?」
必死になって、『偽善千鶴だったもの』の中に眠る、鬼神楽の始祖に呼びかける。
「なんですか!? いったいこれはどういうことですか!? 答えてください! 答えて! 答えろ次郎衛門!
あなたは、お前は! 幾千幾万の血を吸い、全ての憎悪と怨念をその身に宿した、究極の妖刀では……なかったのですか!?」
「鬼神楽の……始祖……」
その様子に観鈴も、リサも、透子も……一歩も動けない。
やがて………
「……出てくる?」
千鶴が、ぽつりと呟いた。
「出てくる……出てくるというのですか!?」
「出て……くる?」
叫ぶと同時に、『偽善千鶴だったもの』の周りにキラキラと光り輝く粒子が現れる。
「鬼神楽の……始祖!」
やがてその粒子はゆっくりと、つむじ風に翻弄される落ち葉のようにくるくると回りながら一つの形を作り上げていく。
そして……そこに現れたのは……
A 瞳の奥に悲しみを秘めた屈強な武士
B どことなく楓に似た古風な女性
C どことなく初音に似た古風な女性
b
「楓……さん……?」
姿を表した女性。その容姿に観鈴は驚かされていた。
背の丈や体つきなどは記憶の中にある彼女と比べ幾分大人びたものである。
しかしその顔つきや印象。それは観鈴の記憶する刀工、柏木楓と瓜二つのものであった。
楓と同じ顔をした女性。彼女が口を開く。
「人の……子よ……」
「……っ!?」
思わず身構える。『偽善千鶴』が融合した鬼神楽の始祖を前に。
「そなたは……答えを見出せし……ものか……」
「こ……答え……?」
不意に尋ねられ観鈴は面食らう。突如現れた女性。彼女の言葉の真意を測りかねて。
「我は鬼神楽の始祖が一振り……今……我とともにある我が姉の写し身らの……」
「えっと……それってご先祖様ってこと?『偽善千鶴』たちの……」
そう尋ねる観鈴に対し女性は首を縦に振る。そして彼女は言う。
「人の子よ……我が写し身を携える人の子よ……そなたに問う。その逆刃をもつ意味はいずこ……」
無表情な、それでもどこか真摯なその目線。それが問いかける。観鈴に対し。
「『空』の意味……」
問いは反芻される。自分が今、手にする逆刃の意味。それは何か?
答えなど分かりきっている。閃く答え。それを伝える。彼女に。
「『空』は……わたしの……わたしの誓い。わたしが今までに殺めた人たち。
その人たちの死を無意味なものにしてしまわないための……
わたしの誓い……それは身勝手な偽善……けれどもそれをわたしは貫き続ける!
『空』はそんなわたしの支え。弱くて泣き虫で……今でも簡単に折れてしまいそうなわたしを……
ほんの少しだけ手助けしてくれるわたしの支え!!」
『偽善千鶴』は言った。刀とはただ人を殺めるための道具である。それ以外の意味は不要だと。
それは確かにそうなのかもしれない。所詮、道具は道具でしかない。
だがその道具に人は意味を与える。ただの用途以外の意味を。
今、手の内にある逆刃。これを託した刀工は魂とともに逆刃に意味を吹き込んだ。
今も残る彼女の遺志。そして託された想いとともに見出した己が『空』を手に取る意味。
それは証でもあった。ただの人を殺す道具でしかなかった自分にそれ以外の意味が与えられた。
道具自体にはそれが持つ用途以上の意味は必要ないのかもしれない。
けれども道具に託される人の想い。それは決して無意味なものなんかではない。
「ただ人を殺傷するための道具……そんな道具にもそれ以上の意味はあると……?」
再度の問いかけ。それを観鈴は無言で頷く。そして彼女は囁く。
「ならば……汝の答え……それが真のものか……我に……みせてもらおう……」
刹那、光とともに彼女はその姿をかき消した。光が消えた後。また一つの姿が立っていた。
その姿は……
A 『偽善千鶴』を携えた。金の髪を白い布でくくった観鈴が誰よりもよく知っている少女。
B 白穂ではないその真の姿を表した『偽善千鶴』
A
「あ……あ……」
「ふぇ……そ、そんな……」
「……Doppelganger……観鈴の……」
目前に現れたのは、長い金の髪を白い布でくくった少女。
他ならぬ、観鈴自身が誰よりもよく知っている少女。
かつての観鈴が、毎朝鏡の中で出会っていた少女。
観鈴の心の奥の奥で、観鈴の決意を静かに静かに嘲り笑っていた少女。
そう。それは登臼来藩を壊滅へと追いやり、京で人斬りと恐れられた存在――。
「にはは、 観鈴ちんだよ。皆は『人斬り観鈴』って呼んでるけどね」
右手に『偽善千鶴』を携えて、『人斬り観鈴』は「にはは」と無邪気に笑った。
部屋の隅では、血塗られた時代の観鈴を初めて目の当たりにする透子が、がちがちと歯を鳴らせて怯えていた。
「にはははははははははははははははははは」
「…………」
観鈴は、これほどまで自分の笑顔が醜悪と思ったことは一度もなかった。
自分の笑顔のおぞましさに、観鈴は心底嫌悪感を覚えた。
かつての自分に殺された多くの人々も、この邪悪な笑顔を、今生の最期の光景としてきたのか。
自分の笑顔の無邪気さに、観鈴は心底怒りを覚えた。
殺されゆく人々の希望も可能性も、まるで子供が蟻を踏み潰すように、踏みにじってゆく、かつての自分に。
そして何よりも――その笑顔から染み出す自分の暗黒に、観鈴は心底怯えた。
関わった者全てを呑みこみ、食らって行く、底無しの奈落、虚無の深遠に。
「が……がお……そんなに怖い顔をしなくても……」
「…………これが……最後の試練……か……」
「えー、試練? 何の事?」
「……こっちの話。人を殺める事しか知らないあなたには――かつてのわたしには、関係のない話」
傍らのリサも透子も、これほどまで冷え冷えとした怒気を孕んだ、観鈴の声を聞いたことはなかった。
「観鈴ちんは、遊んでるだけなんだよ」
「…………遊ぶ、ですって」
「うん! みんなでいのちをかけて、ずっとずっと、あそんでるだけなんだよ!」
……同じ言葉を、かつて深山美雪と榊しのぶの生首を転がして、軍勢の前でのたまった……。
「でも、なぜかみんな、楽しんでくれなくて、観鈴ちんひとりぼっち!
にはは! 観鈴ちんは可哀相ですね! 観鈴ちんはやっぱりひとりぼっちです!
でもぜんぜんへいき! 観鈴ちんは強い子だから! ずっとずっとこうして生きてきたんだから!」
……自分の口が、これほど呪わしいと思ったことはなかった。
その口から、かつて自分が殺めた朧の言葉が染み出す。
「……言いたいことはそれだけか?」
「はい! それだけです!」
明るく答える『人斬り観鈴』。
「覚悟はよろしいですか?」
刀をすっと抜き放ち、かつて激闘を演じたベナウィと同じ表情で、観鈴は告げる。
「はい! よろしいです!」
元気よく応える『人斬り観鈴』。
「なら…………」
かつてクロウがしたように息を吸いながら、部屋の傍らのリサ達に逃げるよう、目で伝えた。ここは、これまでにない程の死闘の場となる。
『人斬り観鈴』は、隙さえあれば平気で怪我人や弱者を狙ってくる。悲しい程にわかる。自分が――そうだったから!
リサも透子も、その眼光の恐ろしさに頷かざるを得ず、重傷のトウカを引き摺り始めた。
そして、三人が部屋から出た後――静寂をおいて――。
「全軍、突撃ィィィィィィィィィィ!!!!!」
「にはははははははははははははははははははははははは!
あそぼう! あそぼう! みんなであそぼう! ずっと、ずっと、いのちをかけて!」 あそぼう! あそぼう! みんあであそぼう! さいごの、さいごの、しあわせなおもいで!」
二人の観鈴の、対決が始まった!
先制を加えたのは!
A.観鈴
B.『人斬り観鈴』
C.まったく同時! 力も技も互角
B
suimasenn,genndougamisuzutinnnimiemasen
ゴバッ―――!
「がはッ…………!」
「にはは! にはは! にはははは!」
旅籠の壁が吹き飛ばされる。
その中から瓦礫と一緒に蹴りだされてきたのは……『神尾観鈴』。その後を笑いながら『人斬り観鈴』が追いすがる。
「が……ッ!」
大して受身も取れないまま、二階から落ちる勢いそのままに地面に叩きつけられる。
一瞬息が詰まるが即座に横に一回転。地面に突きたてられた追撃の『偽善千鶴』から逃れた。
『それは……過去のお前は……すなわち”人の業”そのものだ』
「にはは! にははは! 早い早い!」
「―――!?」
そのまま転がりながら次々と繰り出される人斬りの追撃を逃れていく。
そんな中、不意にどこからか―――否。観鈴の頭の中に先ほどの声が聞こえてきた。
『”妖刀”などと呼ばれても……我も、我が子孫達も……本質的には”圧倒的な力を持つ”以外他の物と違うところは何もない』
「この……おッ!」
「にはっ!?」
一瞬の隙を突き、足払いを人斬りの軸足に仕掛ける。倒すまではいかないが、一瞬その動きが止まった。
即座に跳ね上がり、距離を取り直す。
「逃がさないよっ!」
「!?」
『……私はそもそも次郎衛門が、己が愛した女の仇を討つために造られた……次郎衛門は、その妻は……殺すために我を打った……』
距離を開けた観鈴に人斬りが追いすがる。その動きは、かなり早い―――!
(縮地……!?)
一瞬疑問が浮かぶが、すぐにそんな自分に自嘲する。
そうだ、当たり前ではないか。”之”は”己”なのだ。
ならば自分の得意技である、初歩から最高速の縮地を使えるのは自明の理―――!
「けどッ!」
「あれぇー?」
『だが……総ては終わった。我はその役目を終え、戦いに散っていった御魂を鎮めるため……雨月山に奉納された。それで総ては……終わるはずだった』
人斬りの一薙ぎは空を切った。
直前観鈴がさらに早い縮地でその場を飛びのいたからだ。
(確かに……早い。けど、反応しきれないほどじゃない……。そう、向こうの早さはまだ三歩手前ぐらい……)
スカッた『偽善千鶴』を手に、人斬りはキョトンとした顔をしている。
「ああ、そっかそっか。そうだよねー」
そして、なにやらふんふんと納得した様子。
「観鈴ちん、もうちょっとがんばんなきゃね。ぶいっ!」
「!?」
その姿が、掻き消えた。
『だが…………私を再び戦の中へ駆り出したのは、他ならぬ”人”自身だ……。名もなきただの一兵士、だが、あの者は確実に”人間”だった……。
雨月山の祠から我を持ち出し、手始め―――そう。ついでと言わんばかりに、静かに余生を送っていた次郎衛門を屠り……
血に飢えた”人間”は我を手に戦場(いくさば)の中へと飛び込んでいった…………』
(早い――! さっきよりも!?)
「にははっ! 観鈴ちんだってがんばれるんだよー! 観鈴ちんは強い子だから!」
さらに速度を増した人斬りの縮地。同じように縮地でかわす観鈴だが、今度は避けきれず着物の胸元がパックリと割れた。
幸い体にまでは達しなかったが……すでにその差は紙数枚分にまで狭まっている。
「あれー? まだこれでもだめー?」
(今の速度は縮地二歩手前……。『加速』している!?)
『そして、死んだ。持ち主が死ぬ度に私は新たな持ち主の手に渡り……そして次々と血を吸っていった。
総ては……人の意志だった。そこに私の意志は関係ない。人の手によって、人の命が刈り取られる……総ては、その繰り返しだった。
我を手にした人間が血に狂うのか……血に狂った人間が我を手に取るのか……長い年月の果てに、どちらが先だったのか、どちらが本質だったのか、それすらもわからなくなった――――
死―――壊(ころ)されることも赦されず、その度に新たに打ち直され、また戦場へ戻る日々――――』
「じゃあ……これでっ!」
「!」
再度の人斬りの縮地。今までで一番早い。
(かわせない―――!)
瞬間的に判断した観鈴は、空で一撃を受け止めるが……
「チョエエエエエエエエーーーーーーーッ!!」
「!?」
その瞬間、側頭部への衝撃。一瞬意識が遠くなる―――
(石!?)
そうだ。役人を殺した、かつての己の得意武器のひとつ。
人斬りはいつの間にかその手に握りこんでいた拳大の石で、刀を受けた観鈴の頭を殴打したのだ。
『思えば我が娘たちも哀れなものだ…………。人の業の中に生まれ、人の業の中で踊り、そして人の業の中で消えていった――――
人の手より生まれしものが、人を支配できるはずもない―――。我が娘たちは、それぞれ考えは違えど……人に捕われていたという部分では同じだ。
無論―――私もだ―――』
観鈴が怯んだ一瞬の隙を突き、人斬りは逆手に持った偽善千鶴を振り下ろす。
しかし観鈴も歴戦の勇士。霞む目で、逆に間合いをさらに詰め、人斬りの鼻っ柱に頭突きを叩き込んだ。
「がお……痛いよ……」
さすがの人斬りも動きが止まる。その間に改めて距離を取り直す観鈴。
(今まではなんとかさばけた。けど……おそらく、次は……)
「にはは。さすがはわたし。『元』人斬りだね」
楽しげに笑う人斬り。
『我らは、”道具”。人に造られし、人の手によって使われるただの”道具”―――それ自身には、何の意味もない。
そんな我らに意味を与えるのは……他ならぬ、人間だ。造りし者の、そして何より使う者の意志―――
……我らを持った人間が血に狂うというのならば、それはその者が持つ邪な意志が、”業”が狂わせているのだ。
………わかったろう、人の子よ、娘よ、少女よ―――神尾観鈴よ。
罪と罰を身にまとう者よ。過去と未来を橋渡しする者よ。憎悪と愛をその身に宿す、”人間”よ―――
お前の答えを見せてみろ。お前の意志を見せてみろ。そして――――我を征したいというのならば――――』
「それじゃあ…………そろそろ、本気で行くよっ!」
人斬りが、抜刀術の構えを取る。
来る……来る。かつてない、否。かつての自分の、最高速の一撃が。
『己が業に、打ち勝ってみせるがいい』
(どうする―――? わたしが、わたしに勝つには…………)
A 生きるために編み出した『我流抜刀術』
B 杏から伝授された『藤林一刀流』
C 柳也との修行で見出した肉斬骨断の『見切り』
665 :
名無しさんだよもん:2005/11/21(月) 11:25:07 ID:ZDIgnKyo0
c
(わたしに勝つには柳也との修行で見出した肉斬骨断の『見切り』――)
A..見切れた
B.見切れなかった
b
さすがにそれは認められんだろ
この程度で立ち行かなくスレなら所詮そこまでということ
『空』を低く構え、全神経を両目に集中。『わたし』の動きを凝視する。
「にはは」
動き自体はわかっている。完全なる縮地からの超神速抜刀術。
「いっくよー」
表情を読むのは意味がない。殺気を見るのも無駄なこと。
見切るしかない。
それが『人斬り観鈴』だから。楽以外のすべての感情を失った、ただの肉斬り包丁。
だからこそ、最強でもあったのだ。
その刃が今、己に向けられる。
「縮地っ!」
人斬りが迫る。空気の震えが肌を刺す。
一瞬で間合いを詰められる。考えてみれば、わたしは縮地を使う人間と戦うのは初めてだ。
想像以上に―――これは―――!
「!」
わたしは構えを解き、みっともなく上体を逸らして一撃をやり過ごした。
鼻先を神速の一薙ぎが通り過ぎる。そのままバク転で飛びのき、改めて間合いを取り直した。
追撃は―――なかった。
人斬りはしげしげと自分の得物―――逆刃刀と化した、偽善千鶴を眺めている。
「うーん、やっぱりこれじゃあだめだめですね。抜刀にはちょっと不向き。にはは」
確かに、逆刃の不利はそこにある。
先ほど一撃をかわせたのも、最高速度がわずかにブレたからだろう。
「始祖様、ちょっと変えさせてもらうよ」
そしてヒュン、と二三度『偽善千鶴』で空を撫でる。
気が付くと――――
A 鬼神楽の始祖の姿を得ていた
B わたしが一年間使い続けた無銘刀の姿になっていた
C 元の偽善千鶴の姿に戻っていた
なんつうか。
・だけど、あんまり無茶苦茶なことになったら「リコール」されちゃうこともあるんだって。
で……
A 一行レス乱発を防ぐ意味で
>>666はなかったことにする。
B こんぐらいならそのまま続ける
ここはCだ。千鶴と決戦を
673 :
671:2005/11/21(月) 17:45:32 ID:5fVr5waK0
相談して決めればいいおwww
「ははは……あはははははははは!」
気が付いたら、『始祖』こと逆刃刀の姿は元の『偽善千鶴』の姿に戻っていた。
同時に、『わたし』からわたしの声ではなく、千鶴の笑い声が聞こえてくる。
「素晴らしい……これは素晴らしいですよ観鈴さん。最高です。私、あなたへの認識を改めました」
その声は、とても愉快そうで。
「始祖様の囀りなど最早どうでもいい……観鈴さん、できれば私、白穂などという中途半端な女ではなく
かつてびあなたに出会っていればよかった……あるいはあなたにさえ出会えていれば、始祖様の剣など求める必要もなかったかもしれま」
「煩いよ黙ってておばさん」
「………………」
……さすがはかつての『わたし』。
一切合財容赦がない。
「……少々前言を撤回させていただきます。最高というのは言いすぎでした」
「刀は刀らしく黙って人を斬ってればいいんだよ。それを使うのはわたし。余計なことは言わないで」
「まあ……そうですね。ただ斬ってさえいればいいというのには私も同意です。
あなたなら私が何を言うまでも干渉するまでもないでしょう」
「にはは」
「…………っ!」
偽善千鶴が黙った瞬間、『わたし』から迫る威圧感が一気に数倍に膨れ上がる。
……考えるまでもなく、ぴんちだよこれは。
ただでさえ『わたし』の相手だけでも手一杯だっていうのに、この上『偽善千鶴』にまでその力を発揮されちゃ……
「にはは、行くよ。『わたし』」
パチン、と『偽善千鶴』を鞘に納めた『わたし』がにこりと微笑む。
ああ……そうだ、これは。
「にははは……それじゃあ」
とどめの一撃…………
「死んじゃえ」
A 受け止める
B かわす
C その時、「飛んで!」と後ろから声が
A
自分のことだからわかる。最高速度の縮地からの抜刀術はかわしきれるものではない。
ましてや今は逆刃刀ではなく、真剣。しかも現代の妖刀では最強ともいえる偽善千鶴。
わたしは瞬間的に『空』右手に持ち、防御の体勢に移……った瞬間、右腕に強烈な衝撃が伝わってきた。
「にはは、もう、しつこいなぁ、あなた」
「くっ…………!」
ギリギリと右腕と『空』が悲鳴を上げる。
一撃は止められた。受け止められた、が……
「よ……い、しょっと!」
「ッ!」
さらに『わたし』が一歩を踏み込んだ瞬間、縮地の運動エネルギーが解放される。
さすがに『空』が折れ飛ぶことはなかったけど、わたしの腕の方が、耐え切れなかった。
ズシャッ!
嫌な音が聞こえた。耳と、顔の骨を伝わって。
「にはは。お化粧お化粧。真っ赤っか。似合ってるよ」
「ほんとうに、よく似合っていますね」
一人と一本の声が遠くに聞こえる。
顔が熱い。顔に斜めの熱い線が走っている。線から何かが流れ出す。
わたしは手のひらを、顔に当ててみた。
手には真っ赤な鮮血。
ああ、なるほど。わたしは顔を切り裂かれたんだ。
「にはは、さすが『わたし』だね。ここまでわたしの縮地に耐えるなんて」
「……………」
体の中から何かが抜けていく。わたしはその場にガクリと膝をついた。
意識が遠くなる。わたしの血が地面に染み込んでいく。
「……でももう、いいや。そろそろ飽きちゃった。死んで」
頭の上から聞こえる自分の声が薄い膜の向こうみたい。
地面に点々と印をつけていくわたしの血。その一滴一滴に何かの影が浮かんで消える。
ああ……これは、そうか。
岡崎さん。北川さん。聖さん。佳乃ちゃん。雪見さん。榊さん。柳也さん。神奈ちゃん。裏賀さん。
楓ちゃん。初音ちゃん。七瀬さん。杏さん。みさきさん。白皇さん……
……お母さん。
そこにいたんだね。みんな、みんなわたしの中に。
わたしは、みんなの命を奪った。
わたしが、みんなの命を奪った。
みんなの命を、わたしが、この手で、もぎとった……
そして、わたしの、中に…………
ああ……そうか。
そうだね…………
なら、わたしは…………
A 縮地の”一歩先”を見る
B 生きている人たちのことを思い出す
C かつての『わたし』を解き放つ
C
「死んで」
『わたし』が最後の抜刀を放つ。
空気を切り裂く音が聞こえる。
その瞬間、わたしの中で『わたし』が…………弾けた。
「……え?」
人斬りが呆けた声を漏らす。
間違いなく観鈴の首を斬り飛ばすはずだった最後の抜刀術。
しかし終わってみれば、弾き飛ばされていたのは己の『偽善千鶴』。そして、己の体にめり込んでいる『空』の刃。
「え、あぐっ!!?」
少し遅れて衝撃が内腑を揺さぶる。口の端から反吐を漏らしながら、人斬りは観鈴から距離を取った。
「……なに? どうしたの?」
感情を無くした身でも、疑問は浮かぶ。いつのまにか人斬りは、そう呟いていた。
「…………!」
真っ直ぐ見開かれた観鈴の視線が人斬りを射抜く。
それを見て、人斬りが思い出したのは…………
「…………鏡?」
毎朝見ている己の顔。己の表情。己の瞳。
瓜二つではなく、それは全く同じものだった。
「にはは……そう。そういうこと」
合点がいったように、人斬りが含み笑いを漏らす。
「結局あなたもわたしも人斬りなんだね。土台無理なんだよ、今更わたしが変わるなんて」
呟くと同時に縮地からの抜刀術。しかし、またしても弾き返されたのは人斬り。
「……ふふ。ふふふふ」
笑いながら起き上がる。
「にはは……わたしですら殺さないの? 『人斬り観鈴』。わたしはあなたが最も憎んでいた人間だよ?」
「…………そう」
観鈴は静かに答えた。
「わたしは二度と誰も殺さない……誰も傷つけない。そう信じて闘ってきた」
その口調は懺悔するようで
「けど……わたしはずっと殺してきた。一人の人間を。ずっと傷つけてきた。一人の人間を」
もう一度、人斬りを見据える。
「それは……あなた」
「…………?」
「わたしはあなたが憎かった。わたしはあなたを忘れたかった。だから封じた、あなたの力を。
けど……それは間違っていた。あなたは力。わたしの力。力そのものに意味も善悪も罪もない…………
問題なのは、それを使うわたしの心。わたしの意志。
邪悪だったのは、わたしの意志。
けど、わたしははじめて人斬りを、わたしの中の人斬りを赦す。
そう……わたしはわたしがずっと赦せなかった。幾人もの人の命を奪った人斬りを。
けど、それは間違いだった。
わたしはあなたを使う。わたしはあなたを超える。わたしはあなたを……打ち破る!
『人斬り観鈴』ッ!」
最後の力を振り絞り、空を構える。
「……へえっ! わたしを……赦す!? あなたの、わたし自身の忌まわしき過去を!」
「そう。あなたを乗り越え、わたしはあなたと一つになる!」
「わたしはあなたの大切な人を何人も奪った仇だよ! わたしを育ててくれたお母さんも!
わたしを愛してくれた杏さんも! 殺したのはわたしの力! それとひとつになる!? わたしが憎くないの!?」
「憎い! すごく憎い! だからわたしが…………あなたを救うッ!!」
目覚めた観鈴。
観鈴が最後に使うのは…………
A 我流抜刀術
B 藤林一刀流
C 見切り
A
「にはは……そう、そうだよね。そうじゃなくちゃ面白くないよね?
やれるものならやってみれば?
どろり濃厚よりも甘い今の「わたし」がこのわたしに勝てるの?
所詮この世は弱肉強食。その不文律すら捨てたあなたが……っ!?」
人斬りが偽善千鶴を構える。
そんな中、千鶴だけが冷静に状況を解析していた。
(あれは……正しく、この人斬りの観鈴と同じ! いえ……覚悟は人斬り以上!
神尾観鈴、最後の最後に……厄介なことを!!)
千鶴の出した結論、あれはもう今までの観鈴ではない。
これで相手はこの人斬りの観鈴と互角。
そして使い手が互角なのだから、勝敗を決するのは……
「……どちらの刀が優れているか。ですかね」
そう呟いた。
千鶴に思わず笑いがこみ上げる。
自らの手で、偽善の象徴に引導を渡し、
殺しのために作られた自分の方こそ刀として正しいことを証明できる。
奇しくもその絶好の機会が周ってきたのだ。
「楓! ここであなたに知らしめてあげます!
切れ味のみを追求し、己の姉をその手にかけてまで怨念を封じ込めた刀が上か、
それとも下らない偽善と懺悔に囚われ作り出した逆刃の刀が上か!
全ては……全てはこの一太刀で決着がつくのです!!」
千鶴が吼える。
対する観鈴は……先ほどとは恐ろしいほどに静かだった。
人斬りの方ももう何も言わない。二人には千鶴の声は届いていなかった。
目の前にあるのは……自らの決着のみ。
すっと、同時に二人の姿が消える。
いや、消えたのではない。高速で移動し消えたように見えただけだ。
観鈴の我流抜刀術は本来路地や室内など閉鎖された空間で真価を発揮した。
そしてこの旅籠の中は……その条件に適する、おあつらえの舞台。
お互いが高速で壁や天井を蹴り移動する。
その光景はまるで空襲のようでもあった。
「にははは! さ、わたしを赦してみたら!?」
「…………!」
縮地の三歩手前。まだお互いに刀を振り合わない。
「その偽善を木っ端微塵に砕いてあげます! 偽善を斬る私の刃で!!」
「…………!」
縮地の二歩手前。相手との距離は段々縮まってきている。
次の最後の一刀を振り合うために。
縮地の一歩手前。
お互いがまるで示しをあわせたかのように部屋の対極に位置する。
もう言葉を発するものは誰もいない。
そして……
最高速の縮地。
二人はお互いに突進する。
最後の奥義を使うために……
「いくよ、甘っちょろいわたし! あなたじゃ絶対わたしには勝てない!!」
「ううん、きっとあなたを打ち破る! 想いの差で……絶対に負けない!!」
そして……
「「瞬天殺!!」」
二人の声が、重なった。
バアァァァン!!
と、斬るという表現には似つかわしくない音が辺りに響く。
そう。斬った音ではない……打った音だ。
そして、それが意味するものは……唯一つ。
「え。嘘……」
地面に背中を預ける『人斬り』
観鈴の一太刀を受けた結果が……これだ。
当の観鈴は人斬りに背中を向け、抜刀した体勢のままだった。
そして、次の瞬間……
A 観鈴は空を鞘に収めた
B 観鈴の体から鮮血が吹き出た
A
b
C
A
3(695)
空をチン、と鞘に納めると同時にゴロリと人斬りの手から『偽善千鶴』がこぼれ落ちた。
「にはは………はははは………」
そして、倒れたまま、虚ろな笑い声が聞こえてくる。
「………………」
ゆっくりと。ゆっくりと過去の……否。もう一人の己自身に歩み寄る観鈴。
そう、総ての意味で彼女は今『人斬り観鈴』へと歩み寄っていた。
「やあ……『わたし』」
倒れたままの人斬りが、まるで懐かしい旧友に声をかけるような気楽さで観鈴を呼ぶ。
「……やあ、『わたし』」
観鈴も、やや強ばった声ながらそれに答える。
「……結局、わたしは何だったのかな?」
虚ろな目をして、人斬りは呟いた。
「過去のわたしとは決別し、未来のあなたからは疎んじられ…………
わたしの思い出はただ、騙され、裏切られ、追っ手から逃げ、死に掛けて。
京都で杏さんに拾われ、後は言うがままに人を斬り続けたことだけ…………
過去のわたしのように、お母さんとの楽しい思い出や白皇さんから優しくされたこともなく
未来のあなたのように、リサさんや透子さんと一緒に旅をして、いろんな人から怨まれ詰られ、そして認められ…………
そんなこともない。
ただただ、京都の闇で刃を振るい、来る日も来る日も血煙の中を生きてきた…………
本当、感情でも無くさなきゃやってらんないよね」
「………………」
「羨ましい……あなたが本当に羨ましいよ。わたしはいったい何のために……生まれてきたんだろう。生きてきたんだろう。
ねえ……答えてよ、もう一人の『わたし』。わたしは何のために……何のために一人で闇の中生きてきたんだろう…………
過去の思い出も、未来の希望もなく……ただ、わたしは殺し続けた。
わたしたちが生きるために…………にはは、とんだ貧乏クジ…………だよね」
「………………」
「ねえ……最後なんだし、何か言ってよ『わたし』。
それともこんな人斬りとは…………口も利きたくないかな?」
「………………」
観鈴は…………
A 無言で『観鈴』を抱きしめた
B 「さようなら」と言った。
C 「ごめんなさい」と言った。
D 「………………」結局、何も言うことはできなかった。
A
A
a
でかいのきそうだからB
このスレ観鈴話のみで埋まっちゃったな
だから時空旅行より短いから問題ないんだってば
時空旅行は、バトルが終ってからが長かった。
みさき「時空旅行は宴会とか麻雀とか横道に逸れすぎだったんだよ、今から思い返せば」
綾香「私を出す出さないで揉めたりもしたしね」
楓「……ドリンク飲みます?」
次からエピだから、まだ続くのか系の発言はなくなりそうだ。
しかし、今回はレス数自体よりも、1レス辺りの分量が多かったんだな。
思ったより長く感じるのもその辺りが関係してたのかも。
千鶴「不覚……あんな偽善者に敗れるなんて」
七海「お姉さま、それより!」
すばる「酷いですの! 役立たずだの欠陥品だのボロクソに言われちゃってますの!!」
千鶴「え、そ、それは……言葉の綾よ」
七海「憎まれるのは大好きだけど、悪口言われるのは嫌なんですよ!
酷いです酷いですあんまりですっっ!!」
すばる「おまけにどっちかというとあたしや無海のほうが強かったんですの!
刀の強度と切れ味だけが己の武器なんて正直流行らないんですの!」
千鶴「なっ……それは書いた人に言いなさい! 書いた人に!!」
七海「それに……誰もツッコミ入れなかったかのが不思議だったんですけど……」
すばる「『偽善者を見るのは不愉快』って、
それはお姉さまにだけは言われたくないセリフナンバー1ですの!」
千鶴「どこがですか! どこが!!」
断頸「それよかあたしの中の人を決めてくれよ。せっかく復活キター!!と思ったら
リコールされたし。」
>>706 柏木家は四女の方が(ry
ま、それはそれとして梓しか思い浮かばないなぁ。丁度良く出てきてないし。
次点として七瀬が使ってたんだから広瀬。他のキャラは大穴ってところかな。
千鶴「まぁ七海には敢闘賞をあげても良いかしら、盲剣と二度戦って勝っていますし」
すばる「一度目は負けてますの、良くて引き分けですの」
七海「お姉ちゃんは一度目に適当に体を選びすぎです、わたしも正直勝てるとは思いませんでした」
千鶴「盲剣の過去が悲惨だったのが幸いね、正直あの偽善者と戦っていたら瞬殺だったでしょ」
すばる「元の寄り代を殺したのはわたしですの」
七海「気絶した相手にとどめを刺しても自慢になりませんよ」
すばる「ぱぎゅ〜」
白皇「杏が真っ白に燃え尽きているな」
綾香「あれだけいいとこどりしといて贅沢ね」
瑠璃「『わたしを愛してくれた杏さんも!』のところでは大喜びやったのになぁ」
佳乃「結局椋さんのところにもいかなかったしねぇ」
裏葉「リサさん>みさきさん>杏さん と最後に逆転されてしまったようですし」
柳也「黒頭巾かぶらされたうっかりよりはましと思うぞ」
杏 「ねえねえみさき」
みさき「ん? どしたの杏ちゃん」
杏 「あそこ見てあそこ」
みさき「見てって言われても見えないんだけど……長崎?」
杏 「あなたと戦った長髪の娘が、悪役顔の男と連れ添って歩いてるわよ」
みさき「…………」
みさき「いやあぁぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁあ!!!」
楓 「……初音、思ったより慌ててませんね」
初音 「もう慣れたから」
杏に関しては筋金入りどころか凍りついたツンデレにツンデレで接したのが根本的な間違いだと思う。
磁石に同極で近づいたみたいなもん。
杏「ごきげんよう 紅薔薇(ロサ・キネンシス)」
彩「……ごきげんよう 黄薔薇(ロサ・フェティダ)」
瑞佳「ごきげんよう、えーと、白薔薇のつぼみ(ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトン)見習い」
留美「くっ、打ち切りでなければ…ごきげんよう黄薔薇のつぼみ(ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン)」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった塾内にこだまする。
吉田松陰様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、江戸時代の着物。
御所の門襲撃は失敗しないように、断頚乙女は木刀に破壊されないように、
ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、猫に従って道案内をした挙句迷ってしまうなどといった、はしたない塾生など存在していようはずもない。
私立ハカギアン松下村塾。
葉鍵(天保)13年創立のこの学園は、もとは支援板の雑談スレででてきたという、
伝統ないネタ系お嬢さま私塾である。
長州藩。杉屋の物置小屋の面影を未だに残している緑の多いこの地区で、尊皇攘夷の理想に見守られ、
薬師から邪術までの一貫教育が受けられる乙女の園。
時代は移り変わり、江戸から明治に改まりそうな今日でさえ、
三年通い続ければ温室育ちの純粋培養維新志士が箱入りで出荷される、
という仕組みが未だ残っている貴重な私塾である。
誰もやらないなら俺が一つ
断頸の中の人は?
A 天沢郁未
B 柏木梓
C 高瀬瑞希
D モルガン
E それ以外(人物指定)
bで
透子の子供の名前、性別も良ければ決めてくれ。
ネタとして考えてたんだが、書き負けたりして、書くタイミングを失ったorz。
別に決めなくても…いいんじゃないか?
登場してないも同然なんだし。
正直、評価は間違いなく5なんだろうが、一部のこういう空気には最後まで馴染めなかった……
明らかに本編と関係ない設定まで語られるのもあれだが
そんな枝葉が出せなかった事で真剣にorzされるのがきついよ。
このスレは選択肢から生まれた続きを書くスレで
過去の書き込みから生まれた妄想もちゃんと選択にかけてくれ。
流石に透子jrに関しては行き過ぎだろう。 断頸はまだしも。
まあ717よそう気にすんな。次は多分いつも通りの選択スレになるだろうから。
>>717 俺もなじめなかった
最近ちょっと熱暴走しすぎてる気がするんだよね
反動でどうにかならなきゃいいけど
ところで>717の言う「こういう空気」って支援板主導で進んでいったような雰囲気と、それに反発したような雰囲気のどっちだ?
いや、後半部が「そんな枝葉が出せなかった事で」とか「妄想もちゃんと選択にかけてくれ」とかどちらに向けて言ってるのかよくわからんのでな。
721 :
717@携帯:2005/11/22(火) 15:17:43 ID:mURyt166O
選ばれた選択肢よりも、支援板で盛り上がったような
“今回はこんな作品”って空気が優先される雰囲気全般。
生まれてもいない透子の子どもの名前とか性別なんて
本編に関係ないのも甚だしいじゃない?
それが本編にもりこめなかった事を真剣に悔やまれても
はっきり言って妄想キツいとしか思えないのよ。
なんのための本文で、なんのための選択肢なんだと言いたい。
透子の子どもがどうとか言いたいなら、一年後にエピソード繋いで、視点を透子絡みにしてから
改めて書くべきで、その過程をすっ飛ばしていきなり名前がどうだなんて
ある意味悪質な選択無視じゃないか!?
前半はまあ同意する面もあるが後半はいくらなんでも過敏すぎると思うぞ
観鈴話の途中七瀬が出てきたあたりでも思ってたんだが
今主に長めの話を書いてくれてる人ってひょっとしてONE以前の鍵を二次創作か何かでしか知らないんじゃ……
書いてくれるのはありがたいし選択スレで細かいことにあまりけちつけるようなことを言うのもあれだとは思うけどさ…
気にしすぎかな…
そんな言い方じゃあ無駄にビクビクさせる人を増やすだけだぞ
すまん、ただの愚痴なんで忘れてくれ。