締め切り最終日の夜なのに静かだな…。
前半で3作品出てきたから今回も期待できるかもと思っていたのだが、大丈夫なのか…?
現状ネタにしたSS思いついてしまいそうだよ
なんか投稿数少ないんで、未完の自作SSをお題に合うようぶったぎって投下しときます。
いちおうオチとテーマはついていなくもないけど、上で書いたような
経緯があるんで伏線は回収しきれてないことをご了承ください。
ONEの茜エンド直後のお話で、6レス予定。
桜雨、ってたしか習った。
春先の雨を昔はそう呼んでたって、古典の授業だかで教わったんだ。そのときはちょっと風流だなって感心したけど――
「また通り雨かよ。ひっさしぶりのデートだってのに!」
言い捨てておもわず苦笑いし、雨宿りのコンビニに駆けこんで一息ついた。その背後で自動ドアが閉まって、行く手をはばまれた雨風がガラス扉を激しくノックする。
いまのオレたちは海坊主みたいに全身水浸しの惨状だった。ぜんぜんカッコわるくて風流どころじゃない。
春雨前線北上中だなんて、デート前の天気予報じゃ聞いてなかったぞ?
(まあ、一年くらいでこいつの雨女っぷりが治りきってたら、それはそれで淋しいかもだけど)
ひさしぶりのお約束な展開に懐かしささえおぼえる。思いおこせば、茜とのイベントはこれまでたいがい雨天決行だった。
そして今日もまた、ご多分に漏れない。
えいえんから一年ぶりに帰ってきたオレの、待ち望んでたデート。
そのビッグイベントはいま、春の気まぐれな空模様にふりまわされてる真っ最中だった。
「急がせちまったな。息が荒いぞ」
夕立の商店街を引っ張りどおしだった、茜のちいさな掌を放した。
……汗ばんだ肌の熱感が、すこし名残惜しい。
「デート用のこんな可愛らしい靴じゃ走りにくかったろ」
「だいじょぶ、です。
……浩平、足、速いですけど、それでもゆっくり走ってくれましたから」
肩を喘がせ、きれぎれに言葉を途切らせる、水がからんだ咳きこみ声。
だけど、そんなさなかにも茜はオレに、恋人用の特別仕立ての健気な微笑を返してくれる。
――ずきん、と心臓がジャンプするのを感じた。
可愛い。そして嬉しい。
昔の失恋もオレとの長い別離ものりこえて、こんなに熱く初々しく……頬を染めていられる茜が。
(ほんとうに、情こまやかに笑えるようになったんだな……一年たって)
「だいぶ濡れちまったな、おたがい」
なんとなく感動して気恥ずかしくなり、でも、そのむずかゆい昂揚感がとても貴重なこの世界での絆にもおもえて、オレはそっとかたわらのおさげ髪を撫でた。
呼吸が辛そうな背中もさすってやり、ひっぱりすぎて赤くなった掌を仕上げにぽん、とはたく。
――ふるふると骨細の肩が震えたのは、全力疾走の息切れのせいだったのか。
「まあ雨脚、すぐに弱まるだろうけどさ。おまえのハンカチって使い物になる? オレのはぐしょぐしょ」
「あ……いえ、ちょっとムリだとおもいます。新品のとっておきの一枚だったんですけど。
……やっぱり。
見てのとおり、ひどいものです」
「しょげるなって。
――しっかしウェットティッシュみたいにぷにぷにしてるな、こりゃ」
つまみだされた、桜の花びらを散らしたシルクのハンカチをつついてみた。
ビニール傘や熱い飲み物やらを店内で物色しながら(こういうのが欲しかったからコンビニ以外には雨宿りできなかったんだ)、ついでに茜の頬もつつく。
……うむ、やわらかくて温かい。
「ひとの身体で、なにを遊んでいるんですか、浩平……」
「いや、おまえが濡れて風邪ひいてやしないか確かめてみた。平熱っぽいから安心かな?」
「……
指の先なんかで、体温が測れるわけありません。店員さんが呆れてます」
「もっと見せつけてやろうか、な?」
「……おばかさんな浩平」
「嫌です、とは言わないんだな。
店員だけじゃなく監視カメラも呆れて眺めてるぞ。こんな札つきの美少女がなんで間抜けづらの野郎と楽しそうにしゃべくってんだ?ってな」
「……折り紙つき、の間違いなんですか?」
「あー、そうだったわ。お粗末さまでした」
「そんなにわたし、浩平の目には楽しそうに映ります?」
「もしかして自覚ない?」
「はい。……楽しいっていう感情がどんなものだったか、思い出せたのはひさしぶりですから」
「ごめんな。なんせ一年ぶりだもんな、オレたち」
一年ぶりのオレたちの再会、そしてデート――。
あらためて感慨にふけったけど、見ず知らずの客や店員の注視を浴びながら交わす話題でもなかった。《永遠の世界》にかかわる出来事は、どれもオレたちのごくプライベートな想い出だから。
そう。茜とオレの別離と再会も、それ以前のあれこれも。
……買ったフェイスタオルの包装をその場で破り、手渡す。
「その話はあとでゆっくり、な。
先に拭きな、ジュース持っとくから」
「…………」
「ん? どうした」
かえってこない返事に、ふと振り返る。
レジの前で突っ立ったまま、物思いにふける風情で茜は手中のタオルを見つめていた。無地のホワイトのタオルで、なんの変哲もない。
?
「もうひとつ、なんか甘いものでも買ってくか? レジ脇にあんまんとか売ってるけど。
あ、それと雨降ったからデートコースも変更しとかなきゃな。
映画館でも冷やかしてみるか。屋根あるし暖房も効いてるしな」
「……ううん。暖房が恋しくなるほど寒くはありませんし、それに」
「それに?」
「それに、映画館よりも訪ねておきたい場所があるのを思い出しました」
「そっか。じゃあ姫のご意向に従いましょ」
訪ねておきたい場所だって? だけどいまさら勘ぐる必要もなかったから、素直に茜を促す。
「行こうぜ。
――雨の雫、おさげから垂れてるぞ。早く拭いとけってば」
「わたしはお姫さまなんですか、浩平にとって?」
「そだよ、もちろん」
おいおい、前振りもなしで妙なツッコミだな。茜らしいっちゃらしいかもだけど。
そんな唐突な問いかけに、だけど思わずはぐらかすのを忘れてうなづいていた。なんて直球な言葉のキャッチボールだ、おたがい。
そしてそのストレートなむずかゆさが気に入ったので、調子に乗って茜の耳許に口を寄せてみる。
ぴくん、と感度のいい仔犬みたいな耳朶が、鼻先でひくついた。
「こ、浩平?」
「ずっとこれまで待たせちまったから、こんどはお姫サマの行きたいところへ訪ねていいんだ」
クサいせりふだけどな、とつけくわえて、さすがにちょっと照れてそっぽを向く。こいつ相手にだけ湧きあがる熱く波打つ優しさが、ふとオレを戸惑わせた。
いつからオレは、こんな小っ恥ずかしい情愛を抱ける男になってたんだろう。
一年間よそで苦労しているうちに、オレの性格もすこし変わったんだろうか?
「もしオレの恋人が、お姫サマじゃない一般庶民の、性根の座ってない女だったらさ……」
「…………」
他人にはきこえないささやき声に安心したのか、茜の華奢な肩の硬直がほぐれる。
「だったら、一年間オレに操を立てて待っていてくれてたわけ、ないだろ?
大きな声じゃ言えないけど、まともに抱かれてもいない、いつ帰ってくるかそれさえもわからなかった馬鹿ヤロー相手にさ」
「……いつか答えましたよ。
私、諦めはわるいほうだって」
ちいさく熱っぽく吐息をついて、茜はオレの胸のなか首をねじり、真正面からオレを見つめた。
「やさしいですしデリカシーもある。
素敵な王子様と結ばれたんだって、あらためて知りました」
「お、王子っつーか、自己診断じゃ側仕えの道化師かなんかだとおもうけどなぁ。これ以上照れさせるなったら」
「わたしなんかがお姫様なら、浩平だって王子様ですよ。チャーハンが作れる王子様です」
くすっと楽しそうに微笑んで(にしてもあの茜が、冗談を飛ばせるようになるとはな!)言い継ぐ。
「おまえは振られたんだって、そうさとしてくれたときの浩平の顔は忘れられません。道化なんかじゃありませんよ。
……拭いてください」
「ヘ?」
「拭いてください、私の身体を、浩平。
……王子様にさせることではないのかもしれませんけど」
「店員が呆れてるんじゃなかったのか?」
さすがに驚いて、オレはじぶんの目が丸くなるのを感じた。あの茜が、公衆の面前でそんな大胆なお願いを? さっきは恥じらって手も繋がせてくれなかったのに?
真意をつかもうとまじまじとその顔を見据える。
たがいの眼差しが絡みあい、そして――ちいさな戦慄が走った。
(あ……)
キっとひき緊まりつつも真紅に染まった、羽二重の濡れたすべらかな頬。
見据えた目に飛びこんできたのは、茜のその面差しだった。
瑞々しく火照った、真摯な頬。
デートを意識したごく薄い化粧が雨で拭いとられたあとの頬――春めいた薫りたつ精気と恋の熱情とを振りまいている素肌だ。魅せられながらオレはそんな印象にからめとられた。
産毛が触れあう至近距離にちいさくわななく、真一文字にひき結んだ口唇。
そして雨に濡れたまつげの下、甘やかに潤み酔いしれ蕩けつつこちらの眼差しを捉えてじっと真直ぐに魅了する黒瞳。
そんなただものじゃない、甘美さと真面目さのふしぎな二面性をかねそなえた情念を、茜はオレに投げかけていたんだ。
(こんな茜は初めて、見た……?)
背骨を熱鉄がつらぬく戦慄。
この真面目さのほうは確かに、以前から見知った茜のものだ。でも――
甘美な、雨あがりの野原みたいに薫って肌身をたかぶらせるこの情念の正体は、でも?
(オレを好きになって、それで女として花開こうとしているんだ)
雲間から光が射すように、洞察が胸に達する。
二度の恋がこいつの真面目な性格っていう土壌を耕し、花を咲かせようとしているんだ――あでやかな大輪の花を。
気づいた真実はそのまま力となった。湯立った風呂に浸かったみたいな安らぎが、総身を満たす。
オレは茜が好きだ。そして茜も、オレを。
オレっていう男を――
(愛してる)
濡れそぼった茜の小さなひたいには前髪がはりついて、ふだんは隠されている栗色の生え際があらわに覗けた。そのせいか、子供っぽさと女らしさが同時に強調されている気がする。
奇妙にアンバランスで、見馴れない印象の茜。
支えてあげたい、そう突き上げるように願う。いまの茜がなにひとつ屈託なく笑ってくれたら、どれほど鮮やかな魅惑を振りまいてくれるんだろう。
育ててあげたい、オレが咲かせた花を。見届けたいんだ、さなぎから孵った蝶を。青空を舞うそのすがたを。
――雨あがりの虹に彩られた空の下、生きてゆく茜を。
(この一年で、変わったのはオレだけじゃなかったんだ……むしろ)
(むしろ、茜こそ)
「オーケイ……」
いまはなにも、気のきいたセリフは口にのぼらなかった。いつものオレなら息をするよりお気楽に、マシンガントークを連発できるっていうのに。
「好きなんだよ、茜……」
私もです――
そうささやきかえされたと思ったのは空耳だったかもしれない。
茜はオレの胸に寄り添って、愛撫とも抱擁とも慰謝ともつかないタオルのうごきに、じっとただ、身をゆだねてくれてたから。
「幸せです、濡れて重くなった髪を乾かしてくれるひとがいるって……」
つぶやいて店員や客の赤面ぶりも知らぬげに、茜はひっそりとオレの肩を抱いた。
以上。
すみません。1時間ほど延長お願いできますか?
作品投下します。
タイトルは 『叶える代償』 で題材はうたわれるもの。20レス超。
カミュに関するネタバレ全開……というか、一度解いた人じゃないと、なんでこうなるのかわかんないのではないかと。
エロ有り、ややダーク系の話ですので、そこら辺もご注意を。
前半のエロ部分だけ読むというのもありかもしれませんが、その場合も若干のネタバレはあります。
人を選ぶSSで申し訳ありませぬ。
月の綺麗な夜だった。
警戒は厳重――とはいえない、どこか緩んだ空気のあるトゥスクルの城。
物々しく槍を立てた兵士達が警備をしてはいるが、全線から遠いためか、それともお国柄か、
真面目ではあっても、警戒心露わと言うのにはほど遠い。
ましてや、空を駆けるもののことにまで、注意が及ぼうか。
ごく僅かな例外を除いて、夜、空を飛ぶ鳥などはいないのだから。
しかるに、それは鳥ではなかった。
黒い翼を持ったそれは、羽ばたきの音を僅かに立てて、城の上層、見張り櫓の役目も兼ねる、張り出しへと降り立った。
月が照らしたその姿は、逆光になっていたが、明らかに少女のそれだった。
「――はぁっ……」
僅かに乱れた熱い吐息。小さな生き物のような赤い舌が、こらえ切れぬといった風情で、唇を舐める。
両手で体を掻き抱くと、見た目には似合わぬ豊かな胸が、押し潰されて、強調される。
その奥は明らかに高鳴る音を立てていた。
す、と音も体重も無にして、足を進める。いや、足すら動かさず、滑るように動く。
その姿は影に溶け、闇に消え、余人の目に触れることを許さない。
外とは一段違った緊張感で警護をしている衛視の目すらくぐり抜け、もっとも厳重に守られた最奥の部屋へ。
上質ではあるが、華美ではなく、宝物はないが、書物は十分に用意された、皇の部屋。
その中央で寝息を立てるのは、当然の如くこの國の皇、ハクオロ。
明かり取りの窓から差し込む青白い光が、眠りの時すらも取れぬ仮面を照らしている。
その足元に、闇に溶けてた翼の少女が、その姿を現した。
「む……」
不意に生じた気配に、ハクオロが身じろぎし、目を覚ます。
まだ半分夢の中にいるのか、やや寝ぼけた視線が少女の姿を撫で回し、やっと驚きに見開かれる。
「……カミュ?」
「えへへ……」
翼の少女――カミュは、なにかに酔いしれた声で笑った。
カミュは、ここの匂いが好きだった。
ここは、彼女が初めてこの城に来たとき、真っ先に訪れた場所。
それは偶然ではなく、本能が導いた必然だったのだろう。
彼女は今、こんなにも、彼の匂いを求めているのだから。
「おじ様……」
いつもの年相応の屈託ない笑顔とは、まるで違う妖艶な笑みを見せるカミュ。
初潮を迎えたばかりの娘とは思えぬ、妖しい蠱惑的な色気を纏っている。
「カミュね……喉が渇いたんだ……」
「……分かった。ほら」
ハクオロの反応は、落ち着いたものだった。
とは言えど、実のところはカミュの術によって動きは封じられ、すでにまな板の鯉ではあるのだが。
「ん……」
カミュはハクオロに覆い被さり、彼の着物をはだける。
舌なめずりをした後、露わになった肩口に軽く歯を立て、すぐに浮かんできた朱の玉を舐め取る。
心地良い塩の味、命の味。
「あは……」
唇をよせ、傷口に吸い付き、溢れてくる朱の流れを、ゆっくりと味わう。
行為の異常性とは裏腹に、流れる時間は穏やかで、母が授乳をしている行為に、雰囲気は似ていた。
ハクオロは目を閉じて、カミュのなすがままに任せていた。
ほとんど動じていないのは、カミュがこうなったのを見たのは初めてではなかったためだ。
先日より何度か、夜更けにカミュが訪れ、喉が渇いたと言っては僅かに血をすする。
異常ではあったが実害はさほどなく、これも種族の差かと、半ば疑問、半ば納得のまま、好きにさせていた。
ただ、その瞳が――青く輝く青玉のような瞳が、
求めるものに濡れたような、紅玉に変わっていたことに、僅かな不安を覚えたが。
はたして、その不安は的中した。予想外の形で。
「ん……」
重なったカミュの体が揺れていた。ハクオロの太腿に股間を当てて、擦りつけるように動く。
さすがにハクオロに動揺が走る。
「こ、こら……」
咎める声に答えは返さず、代わりに舌の動きが淫らになった。
おとなしく吸い付いていたのが、舌で傷口を洗うように舐め取り、唾液と混ぜ合わせる。
痛みよりもくすぐったさ、それに肉の内側に侵入される根元的な恐怖と拒絶が、ハクオロの体に走る。
それとは裏腹に、柔らかさと弾力がこね合わされる感触を、心地良く受け止めてしまう。
平均よりも育った豊かな胸が、はっきりとした密度と重量で、腹の上に押しつけられていた。
「んふ……」
カミュの右手が下へと滑り落ち、服の合わせ目から忍び入って、自らの股間に触れた。
揃えた指が、下着の上から摩擦し、汗と、それ以外の液体によって、しっとりと貼りつく。
指が動かしづらいのか、膝をついて四つん這いになる。その膝がハクオロの足の間へと分け入り、急所へと当たった。
「こら、カミュっ……」
「あはぁっ……」
遮ろうとしたハクオロの声を、唇でふさぐ。血の代わりに唾液をすすり、舌を絡ませる。
淫らな水音が合間で生じ、それよりはもっとささやかな音が、下側からも囁き出す。
指の動きと溢れた液体によって、はっきりと割れ目の形が分かるほどに、下着が食い込んでいた。
指がその筋をなぞり、少しずつほころばせてゆく。
立ち上る淫臭と当てられた膝、粘つくような舌の動きに、ハクオロの男が反応し始める。
股間をまさぐっていたカミュの手の甲が、持ち上がったものに触れた。
「ん……、なんだろ……?」
「あ、待てっ」
泡を食ったようなハクオロの声を意に介さず、着物の裾を割り、下着からそれを掴み出す。
跳ね上がるように屹立したそれが、男の匂いを振りまく。
「ふわ……」
それが、カミュの中の女を刺激した。
ひどく淫らで、汚らわしくて、魅惑的な、心を狂わせる匂い。
カミュはそれを思いきり鼻腔に吸い込み、脳を酔わせる。
「なんでだろ、これ……変な感じ……」
分からないまま、本能のままに、それに顔を寄せる。
「ぬっ……ま、待て、カミュ。それはまずい」
カミュは興味を引きつけるそれを、もっとよく見ようと、体をずらす。
必然、上下は逆になり、カミュの濡れた股間がハクオロの正面に来た。
白い下着は濡れてうっすらと透け、ほころんだ割れ目と、その隙間の肉の色を晒している。
ハクオロの目はその部分に引きつけられ、離れず、否応にもいきり立った。
「あは……なんか大きくなった……」
「う……」
「熱……」
呻きを上げるばかりのハクオロをよそに、カミュはしっかりとそれを握りしめ、手のひらでその熱を存分に味わう。
「熱くて……たくさん血が集まっていて……いい匂いがする……」
熱を求めて、それを擦り始める。先ほどまで自分の股間をまさぐっていた手で、今度はハクオロのものを。
濡れている手は滑りよく、ハクオロとカミュの手を溶けあうように密着させる。
互いの匂いが混じり合って、より濃密になる。
「んふ……」
込み上がってくる欲情を押さえきれず、カミュは唾を飲み下した。
「おじ様ぁ……これ、頂戴ね……」
「ちょ、頂戴って、落ち着け、カミュ。それはっ……っく」
カミュの口が、ハクオロのものを飲み込んだ。
ハクオロの懸念をよそに、カミュはそれに歯を立てるようなことはせず、ただ奥まで飲み込んで、吸い立てる。
ぬるり、ぬるりと、ゆっくりと味わうように飲み込んでは引き、一滴も余さじと舌で唇を拭う。
そしてまたくわえる。
舌が陰茎に絡みついて、匂いの元をこそげ取ってゆく。
口吻という単語を口にするだけで、赤面するほど初な娘なのに、
欲望に根ざした本能が、的確にハクオロを高めてゆく。
「む、う……」
カミュの興奮した鼻息が、陰茎の根元をくすぐった。
右手はハクオロのものを支えているため、今度は左手で、自らを慰める。
下着の中で指の形に布が歪み、溢れる愛液が染みを広げ、零れた分がとろりと太腿を滑り落ちてゆく。
指が微かに割れ目の中に潜り始め、敏感な粘膜に触れるたびに、羽根がばさりと震えた。
ハクオロをまたいでいる太腿が、こらえきれずに左右に振られる。
興奮が高まるに従って、口の動きも、指の動きも激しくなってゆく。
「んっ……ぷあっ……、なんだろ、凄く……気持ちいいよ、おじ様……」
「う、くっ……カミュっ……」
もはや制止の言葉すら上らない。
カミュの口戯と、目の前での自慰とが、ハクオロの忍耐力を打ち崩す。
腰の下に溜まった疼きが、カミュが一啜りするたびに水位を上げてゆく。
カミュも自分の行為とハクオロの反応に、高まる快感の波に抗いきれなくなってゆく。
指の動きは大胆に、激しくなり、高まる水音が部屋の中に響く。
滴となった愛液が、ハクオロの仮面にこぼれ落ちた。
「んっ、おじ様っ……ああっ、んっ……おじ様ぁ……」
息をつぐ合間にハクオロの名を呼び、指で一掻きするごとに、ハクオロをすすった。
「ぬ、うっ……」
ハクオロがもうこらえきれなくなりかけたとき、偶然、カミュの指が掘り起こされた淫核に触れた。
「んっ、んんーーーーーっ!」
鋭い刺激が興奮しきっていたカミュを絶頂に導き、すがるように陰茎を唇で締め付け、吸い上げる。
「う……くあぁっ」
ハクオロのものから白濁が迸った。
熱く苦く、そのくせひどく興奮させる液体が、舌にも歯にも、顎にも喉にも絡んでくる。
カミュはわけも分からず、必死にそれを飲み込んでゆく。
指の動きも狂ったように激しく、余韻を掘り起こす。
下半身から溢れ出す波。口の中に叩きつけられる波。二つの波がカミュの中で荒れ狂い、通り抜けてゆく。
出ていく分を補うように、カミュはハクオロを吸い続け、最後の一滴まで絞り出した。
「は……ふぁっ……」
「……ふぅっ」
カミュが力無くハクオロにのしかかった。時折、快感の残滓がぴくりと体を動かす。
顔は満足げに笑っていたが、まだ名残惜しいのか、やや萎え始めた陰茎を指の中に捕らえている。
しばらくの間、息を整える時間だけが過ぎる。
「おじ様ぁ……」
「……なんだ?」
カミュはうっとりとした、ハクオロは気怠げな声。
「おいしかったぁ、これ……」
「……そ、そうか」
そういわれても、ハクオロも返す言葉はない。叱るにしてもどう言えばよいのか。
やはりウルトリィに相談しなければ……と、すっかり血の気の引いた頭で考える。
「カミュね……」
「っ!?」
だが、カミュの指が、萎えかけたものを再び弄び始め、ハクオロの思考を中断させる。
「これ、気に入っちゃった……」
愛おしげにくちづけし、舌を這わせる。くたりとしていたものが少しずつ固く、身を起こし始める。
「あはっ、おもしろいね……これ」
「こ、こら。もうやめないかっ」
「どうして?」
そんな時ばかり、年相応の子供のような表情になる。
なのに問い返す間にも、陰茎を扱く手は止めない。
「だって、カミュ、喉が渇いたんだもん……。もっとおじ様の、もらってもいいよね……」
蕩けた流し目が笑みの形に歪み、精の残滓を貼り付けた唇を、舌が舐め回す。
初めてハクオロの心を冷たいものが滑り落ちてゆくが、裏腹にカミュの握った部分は熱を高めてゆく。
舌が周囲を這い始めると、たちまちの上に硬さと大きさを取り戻す。
「……ん、……なんか変なの……ふふっ」
カミュは身を起こし、両手で擦ったり、撫でたり、くすぐるようにしたりと、自分にはない器官を弄ぶ。
その度にハクオロが短く声を上げるのが面白いようだ。
女の本能が疼くのか、またいだハクオロの腹の上で、股間をこねるように押しつけて動かしている。
「んん……ね、おじ様」
「ぬぅっ……な、なんだ」
「えへへ……」
含みのある、淫蕩な笑み。
衣擦れの音がしたかとおもうと、彼女の股間を覆っていた下着が、するりとほどけ落ちる。
向きを変え、露わになった部分をハクオロに向ける。
ほとんど無毛のその部分は、肉と襞と、その合間にたたえた蜜を露出させていた。
子供だ子供だとは言っても、その部分だけは女の機能を備えている。
気づかず、ハクオロは唾を飲み下した。
「今度は、こっちに頂戴ね……」
一瞬、その言葉の意味を捉え損ねる。
「――ま、待てっ! それはさすがにまずいっ! もっと自分を大事にするんだっ!」
「……やだぁ」
形式的で陳腐な言葉は、カミュに何の感銘ももたらさなかった。
ハクオロは束縛を解こうと藻掻いてはみたが、指の一本すら動かすことができなかった。
カミュは、手で角度を調整しながら、ハクオロのそれを自分のそこに宛う。
濡れた暖かい粘膜同士が触れただけで、染みこむような快感が走った。
「あはあっ……」
これを飲み込んだらどれほどの快感が得られるのだろう、
ようやく乾きが満たされる、という二つの期待に、カミュの胸が高鳴る。
ほんの少しだけ心のどこかが恐怖を訴えるが、快感に曇った思考の前に掻き消される。
ゆっくりと腰が下ろされていった。
「ん……」
「こ、こら、カミュ。無茶するなっ」
だが程良く濡れ、程良くとろけた肉は、思った以上に容易くハクオロのものを飲み込んでゆく。
狭くはあったが、緊張というものが一切ないためか、それとも体質的なものか、
おそらくはその両方で、カミュはほとんど痛みを憶えることなく、少しずつハクオロを受け入れる。
「ああっ……おじ様の熱いのが、入ってくるよぉ……」
腰を落とすに従って、自分の内が満たされてゆく。
媚肉が擦られるのは単純な快感でもあった。だがそれ以上に、乾いていたものが潤ってゆくのを感じる。
「んく……」
狭い部分に、僅かにハクオロのものが引っかかった。
だがそれも、自分の体重とぬめる愛液が乗り越えて――、
「んああぁっ!」
僅かな疼痛と、衝撃と、征服感と満足感が、カミュの背中を這い上がる。
カミュはぶるりと体を震わせ、仰け反ることでそれらに耐えた。
二、三、息をついて整え、自分の中にハクオロが入り、交わっていることをようやく実感する。
「おじ様……おじ様のが、カミュの中、いっぱいに入ってる……」
歓喜によるものか、痛みによるものか、カミュは涙をこぼしていた。
そして同時に、破瓜の証である鮮血を、一筋、足の間からこぼしていた。
朝の陽光に目を刺され、ハクオロは目覚めた。
血を吸われたせいか、激しく求められたせいか、気怠く、靄が懸かったように頭がはっきりしない。
はたしてあれは本当に現実だったのか、と思いたいが、夢にしてはあまりにも生々しい感触だった。
それに夢精した様子もない――が、布団の上に血痕はあった。もちろん、ハクオロのものではない。
あらためて血の気が引く。娘、というには少々大きいが、嫁や愛妾と言うには幼すぎる相手だ。
皇である自分が、あのような少女に手を出したと知れたら、どれほどの騒ぎになるか。
ましてや彼女はオンカミヤムカイの皇女。政治的な影響もただごとではない。
いや、その前に、このことがエルルゥにでも知れたら……。
森の主であるムックルすら恐れさせる鋭い眼光が、ハクオロを射抜く姿が目に浮かぶ。
あげく、アルルゥには「不潔」と罵られ、ユズハには説明を求められ、トウカは衝撃のあまり出奔するかも知れず、
オボロは呆れ、ベナウィには叱られ、唯一カルラだけは面白がるかも知れないが、何の解決にも成りえない。
ましてや実姉であるウルトリィに、よもや行きつくところまで行ってしまったと言えようか。
相談するどころではない。かと言って、黙り通せるものでもない。
かくなる上は男らしく責任を取り、正式に皇后として迎えるべきなのか――、
と、混乱した思考が明後日の方向へと結論を導きかける。そこへ、
「ハクオロさん?」
「ぬおおっ!?」
もっとも知られたくない人物が現れた。
「や、や、やぁ……エルルゥ。早いじゃないか」
「なに言っているんですか。ハクオロさんが遅いから、起こしに来たんですよ」
不自然極まりない慌てようのハクオロに、エルルゥは呆れた声を返した。
「あ、ああ。最近、政務の疲れが溜まっているみたいだな……あははははは」
ぎこちない笑いに、固い言葉遣い。エルルゥの顔が不審に彩られ、そして布団の一点に目を留める。
「あら?」
「え……、――っ!?」
そこには紛れもなく朱の染みが。仮面の下に、どっと冷や汗が湧いて出る。
「あ、いや、これはっ、そのっ……だな」
決定的な証拠を見られ、言い訳にすらならない単語だけが羅列する。
――が、予想に反して、
「あの、どこか怪我を?」
「え?」
「古傷でも開いたのですか? 見せてください」
薬師であるエルルゥにしてみれば、それは当然の発想だった。
その言葉を足がかりに、策士・ハクオロの頭脳が若干回転し始める。
「あ、ああ、いや……たっ、たぶん、寝ている間に、鼻血でも出したのではないだろうか」
「え?」
「さっきも言ったが、最近政務で忙しかったからな。
疲労で神経が参って、鼻血という形で現れたのかも知れない。まぁ、大したことはないだろう。うん」
でっち上げの言い訳が、すらすらと出てくることに罪悪感を憶えるが、とりあえずごまかすのが急務だった。
エルルゥはやや安堵した表情でハクオロの顔を覗き込み、
「そうですか……うん、もう止まっているみたいですね。でも確かに疲れが溜まっているみたいですね……。
分かりました。ベナウィさんに言って、今日はお休みをもらってきます」
「え、いや、それほどひどいわけでは……」
「だめですよ。無理してハクオロさんが倒れられたら、もっと困りますから。
ずっと色々忙しかったんです。たまにはお休みをいただいても、いいと思いますよ」
「あ、ああ。……分かった」
こういうところでエルルゥは押しが強い。
ましてやそれが、心配から来ているとあっては無下に断ることもできない。
本当に政務の疲労のみが原因であったなら、ただただその心遣いに頭を下げるところだったが。
「それでは私、ベナウィさんにお願いした後、なにか消化のいいものを作ってきますから。
それまで休んでいてください」
「……うむ」
エルルゥの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ハクオロは深くため息をついた。
「これで……本当のことを言い出せなくなってしまった」
見舞いなのか遊んで欲しいのか、噂を聞きつけ、アルルゥと共にカミュがやってきた。
カミュの様子もやはり変だった。が、それは例の吸血衝動に駆られたときと同様のものだった。
疲労のせいか、覇気に欠け、喉が渇いたと言っては、水を飲みたがる。
「なんだか、今日はだるいなぁ……」
と、寝床に伏しているハクオロの横で、同じように布団に転がる。
やはり昨日の記憶はないのか……と、安堵半分、不安半分でカミュを眺める。
「ん」
真似してアルルゥも逆側で転がった。
無邪気な様子は微笑ましいが、かえって昨日の様相との差異が気にかかる。
おそらくは記憶も欠落しているのであろうが、聞いて確かめるわけにもいかない。
ハクオロが悶々とするうちに、朝食の膳を持ったエルルゥが現れ、二人を追い出しにかかった。
「二人ともっ、ハクオロさんは休んでいるんだから、邪魔しちゃダメでしょう。外で遊んできなさい」
「はーい」
「んー……」
不満そうにしっぽをぱたぱたと振るアルルゥ。エルルゥはおとーさんと一緒にいるのに、と言いたげだ。
見かねて、カミュがアルルゥを促した。
「アルちゃん、いこっか」
「ん」
去ってゆくカミュが、少し歩きづらそうにしていたのを見て、一層、血の気が引いた。
やや退屈だが、のんびりとした一日が終わった。
実際の所、ハクオロの心中はのんびりどころか、気が気でない状態だったが。
ウルトリィもハクオロの見舞いには来たのだが、カルラとトウカも一緒で、
あげくトウカと二人してオモチャにされ、相談するどころの騒ぎではなかった。
「ふぅ……」
また今夜も来るのではないだろうか、という不安が、なかなかハクオロを寝付かせない。
月ばかりが無為に傾いてゆく。
――だが、懸念したとおり、来訪者はあったのである。
「ハクオロ皇」
白髪と髭を貼り付けた、恰幅のいい初老の剣士、ゲンジマルが。
「おおおおぉっ!?」
髪の色以外はカミュと共通点のまるでない、ゲンジマルの出現に不意を突かれ、ハクオロは狼狽する。
「いかがなされたか」
「あー……いや、なんでもない」
クンネカムンの女皇、クーヤとハクオロの深夜の密会は、数度に及んでいた。
ゲンジマルがその迎えに来るのも等しい回数で、慣れていたはず……だったのだが。
「クーヤが来たのか……分かった、今行く」
「はっ」
ハクオロは身なりを整え、クーヤとの会合に赴いた。
「遅いぞハクオロ」
「そう言うな。こっちは寝床に入っているんだぞ」
「言い訳は男らしくないであろ」
と、咎めるような口調ではあるが、クーヤはそれほど気分を害しているわけでもない。
ハクオロもいい加減、クーヤのそういった言い回しに慣れていた。
苦笑を一つして、隣の岩に腰掛ける。
皇と皇との非公式会談といった趣だが、どちらかというとクーヤの世間話につき合っているような気分になる。
クーヤは生まれついての皇族とあって、対等な会話ができるという相手自体が少ないのだろう。
それがハクオロにはわかるから、つい、気安くもなるし、甘えさせたくもなる。
時に聞き手に、時に語り手にまわり、政治の話から些細なうわさ話などを交換する。
その話の流れの中で、
「そなた……室は何人いる」
と、いきなり聞かれた。
室――要するに、妾や側室の類だ。今のところはいない。いないはずだった。
が、関係を結んでしまった相手というなら一人いる。
ハクオロは慌てて、脳裏に浮かんだその姿と、その背後に佇むエルルゥの影を追いやった。
「わ、私は独り身だ」
「既に幾人もの室を迎えている好色皇だという話だったが」
――私はそんな風に見られていたのか……。
さもありなん。國は若いが、エルルゥ・アルルゥの姉妹を初めとし、トウカにカルラと女将には事欠かない。
ユズハという庇護者も抱え、今ではウルトリィとカミュという、美人姉妹まで國を訪れる始末。
好色の噂が上らない方がおかしかった。
はたしてクーヤも、ハクオロの否定を真に受けようとしない。
それどころか、好色であることを前提としたかのような提案をする。
「どうだ? 我がクンネカムンから室を迎えてみないか。
健康で、気立てが良く、器量好しで床上手な娘を其方の為に用意しよう」
「……待たんか」
「大丈夫だ、きっとハクオロも一目みたら気にいるであろ」
「そういう話をしているんじゃないっ」
――と、和やかに流れていた空気が、不意に、翳った。
「聖上っ!」
場を離れていたゲンジマルが、真っ先にその気配に気づいた。
刀に手をかけ、二人をかばう配置に立つ。
反射的に立ち上がった二人は、ゲンジマルと同じ方に視線を飛ばした。
そこには月を背負い、黒翼を背負い、紅の瞳を持った絶対者が浮いていた。
「カミュ!」
ハクオロがその名を呼んだ。
クーヤはその名もその正体も知らなかった。
ゲンジマルは名前以外のなにかを知っていた。その苛烈にして底の知れぬ気配の正体を。
彼の身を縛る者が持つものと、同じ種類の気配だった。
押し潰されそうな高圧的な気配に身を晒し、主君をかばう。
が、彼の者に対峙して、はたして無事でいられようか。
手のひらに汗をにじませながら、それでもなお、ゲンジマルは歩を進めた。
カミュはそれを、毛筋ほども気にしていない。
「おじ様……?」
カミュの様子は、昨日のそれとも、また違っていた。
表情というものがほとんど消え去り、
僅かに不思議そうに、怪訝そうに、そしてなにより不愉快そうに、眼前の光景を見下ろしている。
その視線が、クーヤの上で止まった。
不意にその顔に憎しみとも言える感情が浮かぶ。
まるで憶えのない相手からぶつけられる憎悪に、クーヤはややひるんだ。
「なんで……?」
抑えられた怒りがカミュの声に上る。
「なんでその子が一緒にいるの?」
地面が割れる音を立てた。
「カミュはここにいるのに……どうしてその子が一緒にいるの?」
地に落ちていた岩が浮き、カミュの周囲を取り巻く。数個、数十個――数え切れないほどに。
「ずるいよ……あなたのお父様は別にいるでしょ? なんで……」
「な……なにを言うかっ! 余の父上は、すでに亡くなって……」
「聖上! お下がりなされいっ!」
クーヤの反駁を遮り、ゲンジマルが鋭い叫びを上げた。反射的に、ハクオロがクーヤをかばい、前に出る。
それがカミュのなにかを刺激した。
彼女を包む黒い光が、一気に膨れあがる。
「……様をっ、取らないでっ!」
翼の羽ばたきに煽られて、石礫がクーヤめがけて降り注ぐ。
「はあああああああっ!」
裂帛の気合が、ゲンジマルの肺腑から迸った。
剣光一閃。地に叩きつけられた衝撃波が、空すら立ち割るかの勢いで方術を打ち砕く。
まるで空間の断層が作られたかのような凄まじい剣戟に、全ての礫は粉砕され、空しく地に落ちる。
が、その向こうにすでに、カミュの姿はない。
不意に背筋に走る悪寒に、クーヤは振り向いた。
振り向いたときには、すでにカミュが眼前にいた。宙から現れたかの如く、唐突に。
「なっ……」
「なんであなたがっ!」
空を駆ける勢いそのままに、クーヤの喉を鷲掴みにする。
横合いからハクオロが割り込むが、カミュとは思えぬ力と気勢で、止めることすらままならない。
「やめろ、カミュっ!」
「邪魔しないでっ、お父様っ!」
「!?」
いつもとは違う呼び名に戸惑いつつも、必死にカミュにしがみついて、引き剥がそうとする。
だが、それは何の効果も上げられず、クーヤの顔が苦悶に歪んだ。
「聖上っ!」
駆け寄ろうとしたゲンジマルの前に透明な壁が立ち、弾き飛ばす。
「なっ!?」
「邪魔させない……誰にも、あなたにもっ! お父様は、お父様は私のものなんだからぁっ!」
「かっ……あ……」
クーヤの顔が青紫に染まってゆく。
「やめろ、やめるんだっ!」
必死の叫びも、カミュには届かない。ただ冷静に、か細くなってゆくクーヤの呼吸を確認している。
「カミュっ!」
叫んだ声は――ハクオロのものではない。
誰もが弾かれたように天を仰いだその先に、白い翼が広がっていた。
「ウルトっ!」
「はぁっ!」
クーヤとカミュの間に雷撃のようなものが走って、二人を弾き飛ばした。
カミュはすぐに体勢を立て直したが、その周囲を、光の壁が取り巻き、動きを封じる。
「カミュ……あなた……」
その目の前に降り立ったウルトリィを、カミュが激しい憎悪を込めて睨みつけた。
「なんでっ……なんで邪魔するのっ! なんであの子がここにいるのっ!?
お父様のそばにいるのは私だけでいいのにっ! 邪魔しないでよっ!
お父様は……お父様は、私が、私だけが……救ってあげられるんだからぁっ!」
血を吐くような叫びとともに、カミュを覆う闇の圧力が強まる。
対抗するようにウルトリィが印を組むと、彼女を包む光の輝きが強くなった。
カミュの顔が苦しげに歪み、それを見つめるウルトも、また悲しみと苦しみに満ちた感情を浮かべる。
解放されたクーヤは咳き込みながら、その光景を見つめた。その背中をゲンジマルが支える。
「あ……」
カミュが力無げに、ハクオロに向かって手を伸ばした。
その苦しげに歪む表情に、術を行使しているウルトリィの胸が、それ以上に痛む。
「どうして……? 私は……カミュは、お父様を……ああっ……、苦しいよぉ……。
乾くの……。のどが、すごく乾いて……恐いよ、おじ様……、
やだっ、やだっ、やだぁっ……あ、あ、あ、いやだああああああぁっ!」
涙と絶叫と共に、光の壁が砕き割れる。
逆流した力がウルトリィの腕から、血飛沫となって弾けた。
カミュは糸の切れた人形のように、ふらりと崩れ――ウルトリィの腕の中に抱き留められた。
「カミュっ……!」
ウルトリィは痛みにも構わず、強く強く、カミュの体を抱きしめる。
カミュの閉じられる寸前の瞳が、いつもの青い色を取り戻していたことに、僅かに安堵して。
「ハクオロ……一体どういう事だ、これは」
「クーヤ……」
どういう事だと問われても、ハクオロにも事態が把握できていなかった。
様子がおかしいことはあっても、このように他者に殺意を抱いたことはなかった。
それになぜか、カミュは確かにハクオロのことを『お父様』と呼んだ。
カミュの発言全てが、疑問の塊だった。
「私にも……よく分からないのだ。……ウルト、なにか知っているのか?」
びくりと白い翼が震えた。それが答えだった。
「知っていたのだろう、カミュの様子がおかしいこと……。だから今も、こうして駆けつけてこれたのではないか?」
「ハクオロ様……」
振り向いたウルトリィは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。が、その顔が横に振られる。
「……言えません」
「なっ……それはないであろう、余は命を狙われたのだぞ! 何らかの理由があるなら、説明をっ……」
その言葉を腕で遮ったのは、ゲンジマルだった。
横顔に、苦渋の色が見て取れる。
「ゲンジマル……」
クーヤは一旦制止されたことでやや落ち着いたが、それでも険しい表情を隠そうともしない。
命を奪われかけた、というのもあるが、もう一つ、なにか得体の知れない不快感のようなものがあった。
ましてや彼女の糾弾は、筋違いもいいところだった。
ウルトリィが静かに、確認を求めながら語り出す。
「クーヤ様……クンネカムンの女皇、アムルリネウルカ・クーヤ様ですね?」
「う、うむ」
「私はオンカミヤムカイの皇女、ウルトリィと申します。
不肖の妹が無礼を働き、大変申し訳なく思っております。
ですが、申し訳ありませんが、今日のところは黙ってお引き取り願いませんでしょうか……」
「……そなたの妹?」
「……はい」
背を向けたまま、クーヤの顔を見ようともしないのは不敬だとは思う。
が、震える背中を見ると、それ以上なにも言えなかった。
クーヤはため息を一つつき、ハクオロの顔を責めるように眺め、『すまん』という彼の仕草に苦笑する。
「いずれ事情は説明してくれるのであろうな?」
「……誓って」
崇める神が違うから、あえてなににとは言わない。それがかえって、言葉の誠実さを伝えてきた。
不条理だし、不快な出来事ではあったが、これ以上の追及は無用だと、クーヤは自分を納得させる。
「よかろう。またいずれ伺うことにする。ハクオロ、また会おう」
「ああ、とんだことになって……すまなかった」
「まったくだ。いずれこの借りは返してもらうぞ」
クーヤはからかうような口調でそう言うと、ゲンジマルを伴い、去っていった。
最後にちらりと、気を失ったままのカミュを見る。
膨れあがる不安がどこから来ているのか、まるで分からないこと自体が、恐ろしかった。
「ウルト……とりあえず、戻ろう」
「はい……」
ハクオロが気絶したカミュを背負い、先に立って歩き出す。
ウルトリィがその後ろを、言葉もなくついてきた。
短い道中だが、沈黙の重さは耐え難いほどに重い。カミュの寝息が穏やかなのが、唯一の救いだった。
ウルトリィ達の寝室に行き、カミュを床に寝かせる。
外傷はないが、一応エルルゥを呼ぼうか……というハクオロの提案を、ウルトリィは首を振って拒む。
しばし居心地の悪い時間が続いたが、まず、沈黙を破ったのはハクオロだった。
「すまん」
と、土下座付きで。
「ハクオロ様?」
「実はだな……」
覚悟を決め、昨日の……いや、そのずっと前からのカミュの奇行と、自分のしでかしたことを告白する。
ウルトリィは沈んだ表情を隠さなかったが、話を聞くうちに、少しだけ気楽になったような様子があった。
隠し事をしていたという負い目が、僅かなりとも緩和されたからかもしれない。
「黙っていてすまなかった。私が早めに相談していれば、もっと早く手を打てたかも知れなかったのに」
「いえ、私も薄々とは気づいていたのです。ですが……この國の優しさに、甘えてしまっていました」
「甘えた?」
ウルトリィが静かに頷く。
「手は打てたのです。そう……おそらくは、カミュがこの地にいなければ、起こらなかったこと……。
それが、あの子がアルルゥ様や、ユズハ様と屈託なく遊んでいる様を見ると……、
どうしても、引き離す決心がつきませんでした」
オンカミヤムカイに帰れば、どうしてもただ一人の黒い羽根ということと、皇女という立場を思い知らされる。
トゥスクルにいれば、その枷を負わずにすんだ。
偏見というものを持たない友人との触れあいが、どれほどカミュの心を楽にしたことか。
「ですから、責を負うならば、私の方です」
「いや、責を負うならば、それこそ私だ……。なにせ、その……カミュの純潔を、奪ってしまったのだからな」
ハクオロもさすがに言い辛く、顔を赤らめ、咳払いする。
「まぁ……」
「私はカミュに対して、やはり責任を取るべきだろうか」
生真面目すぎるハクオロの、かしこまった顔に、ウルトリィも忍び笑いを漏らした。
が、すぐにその顔に影が差す。
「申し訳ありませんが……明日にでも、この子はオンカミヤムカイに帰そうと思います」
「そ、それは……あまりにも急ではないか?」
「いえ、もう遅すぎるくらいです。これ以上この子を……この國に置いていくわけにはいきません」
その不自然な間に、ハクオロはなにか引っかかるものを感じた。
なにかを言おうとして、言い直したような感じだった。
言いよどむ理由……それは目の前にその対象があるからかと、ハクオロは思い当たる。
「もしかして……原因は、私にあるのではないか?」
ウルトリィは無表情を装おうとして、失敗した。
「やはりそうか……。ウルト、なにを知っているんだ?
それは私の失われた記憶と何らかの関係があるのではないか?
私は何者だ? この取れぬ仮面は何だ? なにがカミュを惑わせ、こんな目に遭わせたのだ?
答えてくれ……」
激昂しようとする感情を懸命に抑えながら、いくつも問いかける。
が、ウルトリィは唇を引き結んで、どれにも答えを返さない。
「ウルトリィ……」
「申し訳ありません……」
ただ、言えぬ、ということだけを答える。
長い沈黙の後、ハクオロは深々とため息をついた。こうなったら、ウルトリィは梃子でも答えないだろう。
そういう芯の強さは、彼女の柔らかな物腰の中にもしばしば感じ取れた。
「そうか……だが、私のせいでカミュがこうなってしまったというなら、ここに置いておかぬ方がいいか」
あるいは自分がここからいなくなれば、とも考える。
カミュやアルルゥ、ユズハが嘆く姿を見るくらいなら、その方がいいと。
だが、仮にも皇たるものが勝手にいなくなるわけにもいかない。
彼を信頼し、命をかけていった者達に、背くことになる。
ウルトリィは無念そうに、本当に無念そうに、膝を強く握りながら呟いた。
「ハクオロ様が悪いのではないのです……。もちろん恨んでも憎んでもいません。
ただ……私は恐いのです。このままここにいたら、私はこの子を失ってしまう……。
私のそんな身勝手で、この子の幸せも、アルルゥ様達の笑顔も奪うのです。
結果的に、この子に恨まれるようになっても……それでも、この子を失うより、何倍もいい……」
静かに眠るカミュの髪を、そっと撫でる。
どうしようもなく愛おしい存在を、自らの手で傷つけるのは、我が身を引き裂くよりも辛かった。
それでも、なにもかも失うよりは――。
「……そうか」
ハクオロは立ち上がった。
「明日、帰るがいい。國元まで誰かに送らせよう」
「はい……」
ハクオロの姿が消えると同時に、こらえきれず、ウルトリィは肩を振るわせ、嗚咽を漏らした。
溢れた涙の滴が零れ、カミュの頬を濡らした。
――あぁ、お父様が、また悲しんでいる。
いつもいつも、あの時からずっとそう。
お父様は自分の無力を嘆いて、取り戻せない時を恨んで、自分自身を憎んで足掻いている。
ごめんなさい、私はお父様の力になれない。
どんなに努力しても、私はお父様の力には届かなくって、願いを叶えることができない。
何度も何度も、繰り返し目覚めては、ただ無為に時を過ごし、繰り返し眠るだけ。
そばにいて、慰めたい。せめて寄り添って、子守歌を聴かせてあげたい。
傷ついた体と心を横たえたお父様が、心安らかに眠れるように。
――なのに。
私の代わりにお父様のそばにいる、あなたは誰?
あなたも、あなたも、あなたも、あなたも。
あなた達はいない。いつまでもお父様のそばにいない。
私みたいに、永遠をお父様のそばで過ごすわけじゃない。
私みたいに 全てをお父様のために捧げるわけじゃない。
なのに、なんであなた達は、そんなにもお父様の心を占めているの!?
ずるい。
そして――もう一人のお父様の匂いを、体に染みつけたあなたは誰?
あなた達は……あれに愛され、飼い慣らされた、奴隷のくせにっ!
奴隷のくせに、奴隷のくせに、弱くて可愛らしいからという理由で、あれに愛された動物のくせに。
私とは違う。私とは全然違う。刻まれも砕かれもバラバラにもされなかった。
ずるい。ずるいよ、そんなにずるいくせに、また。
今度は私からお父様まで奪おうとするの!?
――足りない。
『乾いた……』
お父様の愛が足りない。
『のど、乾いたな……』
欲しいの。もっと欲しいの、お父様。
『おじ様の匂い……』
お父様の愛情を、私だけに注いで欲しい。
『おじ様の血、おじ様の液……』
だって、私が一番お父様のために生きているんだから。
『おいしかったな……』
誰にもお父様は渡さないから。
『おじ様、どこだろ……』
だから、手に入れよう。お父様の全てを。
『おじ様に、会いに行こう……』
代わりに、今度こそ。今度こそ――。
『いっぱい、いっぱい、おじ様で体中を満たしたい……』
お父様の願いを叶えてみせるから。
不意にバネ仕掛けのように起きあがったカミュに、ウルトリィは不意を突かれる。
「おじ様……」
「カミュ、あなた……」
赤い瞳は、ウルトリィのことを欠片も気にしていない。
まるで夢遊病者のように視線を宙にさまよわせ、ただハクオロのみを求めている。
「おじ様、のど、乾いたよ……」
「カミュ、だめっ!」
ふらりと浮き上がったカミュを束縛しようと、ウルトリィが印を結ぶ。
だがカミュの回りに集中した力は、彼女が煩わしげに見ただけで、あっさりと拡散した。
「なっ……」
カミュの中でなにかが切り替わっていた。
「邪魔しないで」
口調から暖かみというものが消えていた。
目を合わせようともせず、用はないから、と通り過ぎようとしたカミュの前に、ウルトリィは立ちふさがる。
「だめっ……、行ってはだめ! カミュ、これ以上ハクオロ様に会ったら、あなたは……」
「あなたも、私からお父様を奪うんだ」
必死の説得にも耳を貸さず、完全に他人扱いの口調に、ウルトリィが愕然とする。
一番恐れていた事態が、目の前に現実としてあった。
かざしたカミュの手のひらに、黒い光が集まる。
とっさにウルトリィも手をかざし、方術を組み立てた。
黒と白と、二つの光が室内に満ちあふれる。
沈黙、光圧、閃光、そして――。
その時、ハクオロは城から少し離れた湖にいた。
気分転換と思考整理をかねてやってきたはいいが、
いくつもの考えと謎が頭に浮かび、解決しないまま澱みのような不安と悔恨だけが溜まってゆく。
もっと上手くやれなかったのか。これからどうすれば上手くいくのか。
いくら考えても答えは出ない。
一番堪えるのが、カミュにアルルゥ、ユズハが、どれだけ悲しい顔をするだろうかということだ。
かける慰めの言葉を考えていると――彼の背後で、黒い光が、明けかけた空を夜に巻き戻す。
「な――!?」
振り向いた先で、黒い閃光の槍が、トゥスクルの城を貫き、空に消えていった。
なにが起こったのか。駆け出そうとしたハクオロの前に、ふっと、前触れもなく現れた影。
「お父様……こんな所にいたんだ」
それはカミュの面影を残していた。だが、明らかにカミュとは違っていた。
ほんの少し、相好を崩した顔は、彼女がカミュの部分を残している証であろうか。
うっとりと、赤い瞳を淫猥に崩して、蕩ける声でカミュと同じ事を言う。
「お父様……私、喉が渇いちゃった……」
なのに呼び方は明らかに違っていた。自分自身の呼び名も変わっていた。
ハクオロの背筋をぞっとしたものが走る。
「お父様の血、お父様の精、お父様の愛情を……私に頂戴。私だけに……」
硬直した体が、草むらに押し倒された。
血の色をした瞳が、同じ色をした舌が、ハクオロを求めて欲情している。
「代わりに私は、お父様の願いを叶えてあげるから……」
ムツミは自分の願いを父の願いに重ね、動けないハクオロの唇を奪った。
>>103-126 『叶える代償』でした。
……こんなに時間かかるとは思わなかった。書くより疲れたような……。
大変待たせて申し訳ないです。おのれ連投規制。
129 :
101:04/04/12 09:07 ID:WRt2RjXB
待っていただいて申し訳ないのですが、完成しないので今回は辞退しようかと思います。
どうも申し訳ありません……
5作品……
まだ読んでないけど、少数精鋭であることを祈ろう。
初めてここで感想を書きます。
>>神社御参拝・水瀬家の場合(水瀬家)
軽い文体が内容に合っていた。
テーマが作品に馴染んでいる。
終わりもほのぼのとまとまっていて、読後感もよい。
ひとつ気になった点は、お願いが叶う人とそうでない人がいる点。
いや、もしかしたら超常的な現象は何も起きていないのではないか、
と思わせる部分もあるが、それを狙っているならもう少し強く誘導
してくれると良かったと思う。二重に中途半端な印象を受けたので。
そのどっちつかずなイメージこそが狙いであるなら、それは成功
していると思える。それが読者に好まれるのかは、私にはわからない。
>>しんけいすいじゃく(観鈴)
とてもよかった。文章はきれいで、展開も自然だと思う。
一点だけ、誤字には注意して欲しい。
ほかの三作品については、それぞれ別々の理由で、
私には評価不能でした。すみません。
今更書き上がったのだが、
メンテ代わりにSS投下したら問題あるかなぁ
最優秀とか、感想は期待してないけど
ちなみに内容は3レスくらい
一応ルール違反だから、別のスレなりトレーニングルームなりに貼ってリンクするのが無難だと思う。
>133
読むから>135にうpしる。
それでは俺も感想。
今回は投稿作品は5作品か、ちょっと少なめだな。次回に期待…したいところだが、次回はCLANNAD、アルあそ、リアライズの発売と重なるから
作品が集まるか不安だな……。
とりあえず今回の作品で気に入ったのは
>>34-51 神社御参拝・水瀬家の場合と
>>70-79 しんけいすいじゃく。
どちらもテーマの「お願い」を作品の展開にうまく生かしていた。対する他の3作品は、文章はともかく、ちょっとテーマの生かし方が弱い気がした。
神社御参拝・水瀬家の場合は、ラジオ「水瀬さんち」を聞いているみたいなほのぼコメディが楽しめた。中身も、ありそうでなかなか無かったネタだと思う。
まあ、俺は真琴のお願いが叶ったのは全部偶然と見ている。祐一に起こった災難、ほとんどは原作でちゃんと起こっているものだし(笑)
しんけいすいじゃく も文章のレベルや最後の展開の仕方、テーマの生かし方は一定の水準に達していたが、確かに誤字は痛い。
また、最後の場面で「マークは違えど…」と書いてあるのに、続けて「マークが合えば…」と書かれているのはちょっと違和感。きちんと見直ししてるのだろうか?
神社御参拝の方がマイナスすべき点が少ないということで、俺は今回は「神社御参拝・水瀬家の場合」を1位にあげておく。
しかし名作とするにはあと一歩。さらなる精進に期待。
>>56-67 smling face
美汐がどうしてそこまで真琴と一緒に暮らそうと思ったのか。そこらへんが描写不足に感じた。それに、「お願い」とはちょっと違う気がする。
レストランでのやりとりは結構好き。特にバイキングで食費浮かそうとする美汐が。(笑)
>>94-99 無題
キザだな浩平…。いくら本人が性格変わったと認めていても、後半のまるで詩人みたいな浩平は違和感が。
茜の魅力はけっこう出ていたと思うが、作品としてはどうにも中途半端な印象が。
>>103-126 叶える代償
原作に準拠しているようで、微妙に異なる展開、俺にはちょっとマイナス評価。なまじ原作が完全に一本道だっただけに、
こういう原作と異なる展開にされると評価が難しくなってしまう。
申し訳ないが「お願い」をテーマに書いたというより、なんだか無理やりテーマを作品の中に持ってきた印象を受けた。
きちんと原作を理解した上で、原作の魅力を引き出そうとして書いているのはよく分かるのだが。
>>84と85
どっちかというと「河島家のジョーク」スレ向きだな。(笑)保守ありがとうございました。
今回のテーマもちょっと難しかったのだろうか? 「卒業」と同じくらいのネタの応用は効くと思っていたのだが。
ともかく参加者のみなさん、お疲れ様でした。
140 :
133:04/04/14 06:47 ID:AEDbAtv/
念のため保守っとく。
昨日今日と感想無いな…5作品なら書くのもそんなに大変とは思えないのだが。
俺は138で感想書いたし。
>>141 俺は感想書くのは最終日と決めてるんで。
まだ読んでもないし。
『叶える代償』
なかなか面白かった。中盤以降の展開は原作の設定が上手く利用されていて、ドキドキもので読み進めた。
カミュのアレに関しては漏れも気になっていたので、興味が合ったということもあるかもしれない。
別に感動するとかビックリするとかいう話じゃないけど、キャラはそれぞれらしく書けていたし、いかにもうたわれ世界だな、と共感できるものがあって良かった。
やっぱり、ハクオロは弱いなぁ。
前半のエロシーンは本編をなぞっただけという感じがするので、もっと工夫が欲しかったと思う。分量は長いけど、あまり惹かれるところがなかった。
それと、出したキャラをフォローしきれていないのも×。特にクーヤとか扱いがどうよ、って感じ。
自分はカミュ贔屓なので問題なく読めたが、読者の中にクーヤ派の人がいたら石を投げたくなるんじゃないかな。
>84、85の小ネタ
乙。
弥生さんは冬弥より由綺を増やしたがるんでは……とつい疑ってしまう漏れは何かに毒されてるかも。
>>34-51 神社御参拝・水瀬家の場合(水瀬家)
雰囲気が軽くて読みやすい。
しかし、雰囲気を重視したためか、テーマがはっきりと見えてこない。
いや、たぶん、その雰囲気がテーマなんだろうけど、やっぱりわかりにくい。
そこに文体故か中だるみ感がおきて、大きくマイナス。
テーマが曖昧であるという原因が、真ん中辺りで中だるみを発生させている気がする。
テーマを明確にして、もう少し短くまとめられたら、好評価できたかもしれない。
>>56-67 smling face(美汐)
超設定キタワァ.*・゚゚・*:.。..。.:*・゚(n'∀')η゚・*:.。. .。.:*・゚゚・*!!!!!☆
この突拍子も無い挿入シナリオの連続・・・狙ってる?
どうもU−1SSのかほりがするんだが。気のせいだな。うん気のせい。
もしかして、これが美汐の夢(願い)だとか、深読みもできるしね♪
>>相沢さんなんて、すぐに人をからかいますし、
>>意地悪をしますし、時間にルーズですし、肘をつきながら食事をしますし、
>>でも大切な約束は守りますし、頼りになりますし、
>>なにより一度は真琴を失いながらも自分の力で立ち直った強い人で…私は尊敬していて…。
こことか現実の祐一とあまりにも剥離して、つじつまがあわず、むりやり好きになっているような気がした。
他にも
>> 「どうしても…駄目なのですか?」
>> そう言ってすがりついた私の腕を、相沢さんは無下にも振りほどきました。
>>「くどいぞ、天野。何度聞かれても返事は同じだ」
あんたらは飲んだくれの親父がいる母子家庭ですか?
二人の関係に違和感がありすぎです。
まあ、色々批判したが、時々、真琴が祐一を引き留めようとしたシーンのような
心にガツンとくるシーンが合ったのは結構良かった。
総括としては、あまり評価は高くできないけど・・・
>>70-79 しんけいすいじゃく(観鈴)
落ちへの持って行き方が秀逸ですし、そして何より、
文章が(゚д゚)ウマー
すらすら読めて、なかなか面白い。
往人さんカッコイイですよ。マジデ俺男だが、掘れてしまいそうだ(変換ミス
このまま往人さんは観鈴に勝ったら、ガブリンチョと食ってしまうったら。
もう、文句無しだったのになぁ・・・
>>94-99 無題(茜)
途中のSSを見せられても、判断に困るというかなんというか。
たぶん、全体を見れば良いものであるという感じは受けるんだけど、これだけでは評価の仕様がない。
>>103-126 叶える代償(うたわれるもの)
最高、最高にエロイ。
そして、読みやすい。最優秀にしたいんだけど、うたわれるもの知らないから、
途中設定がよくわからなかった。
と、いうことで最優秀には「しんけいすいじゃく」を一票入れます。
【告知】
現在、葉鍵的 SS コンペスレは投稿期間を終え、感想期間に入っています。
今回投稿された作品の一覧は
>>130 となっています。
また、
http://sscompe.at.infoseek.co.jp/ss/24/index.html からでも投稿された作品を見ることができます。
期間は、22 日の午前 8:00 までとさせていただきます。
目に留まった作品だけでもいいので、よろしければ感想を書き込んでください。
あなたの一言が、未来の SS 職人を育てるかもしれませんYO!
*次回のテーマは『相談』で、開催は 4 月下旬になる予定です。
早くに書き始めてもらっても構いませんが、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
昨日まで鯖移転知らなくてどうなったかと思ったが、
何事もなく続いてるな。よかったよかった。
『水瀬家御参拝』
初見の感想。「……真琴はガキか?」
いったいいくつだよw
ジャンル的にはコメディに属するのかな?
決してつまらなくはないんだけど、むしろ気分良く読み進められるんだけど、これといって印象に残る場面がない……という感想をもった。
読んでいる最中にはニヤリとした箇所も会ったはずなのに、読後には何にも覚えていなかった。
ネタが弱かったとも言えるけど、やっぱり、日常もので18レスは長すぎたのだと思う。
水瀬家ネタをあちこちで見慣れてしまっているというのもあるのだろう。
もっと明確なテーマとかストーリーとかあると違ってくるのかな。
本編に倣ったという文章は、リズムもよく、読みやすかった。
祐一が所構わずツッコミを入れまくるのには、やりすぎという疑念が拭えないけど。
え、真琴ってガキだよな? (;´Д`)違うの?
ガキというより、行動が支離滅裂だ。
動物並の知性と情緒で人間になろうと背伸びしているのが、
よく表現されたキャラとシナリオだと思った。
真琴については>150氏と同じようなイメージを持ってたんだけど、このSSでは単純に幼いような気が。
酒と酢を間違えるのはいいとしても、手水でうがいとか、五円玉を投げつけたりとか、動物でもやらないと思う……
本編の真琴は一人で買物に行ったり面接を受けたりできるのに、このSSの真琴はそれすらも危うい感じ。
まぁいいや、もういっこ感想。
『しんけいすいじゃく』
素直に上手いと思った。1つ最優秀に推すならこれかな。
お題にも忠実だし、ゲームの種類が神経衰弱なのにも作品上の理由がある。
それにも増して、お願いというテーマの中でキャラが上手く描けていることに感心した。
往人が美化されているような気もするけど、観鈴のほうはほぼ完璧と思う。
いじらしいお願いがもうなんていうか……泣ける。
ほのぼのと銘うっておいて泣かせるとは卑怯だ。
後半以降いきなり観鈴の視点で話が進むので、その部分ちょっと混乱した。
時間不足かもしれないけど、もう少し分かりやすい文章なら良かった。
あと、二人の願いは厳密には一致していないように思うのだけど。
このお願いの仕方では、往人が勝った瞬間にゲームが終わってしまうのではなかろうか……。
「負けたら一枚ずつ脱ぐんだぞ」
「じゃあ、往人さんも」
だったら、一致(・∀・)イイ!! まぁ、一方的に脱がされるのだろうけど(´・ω・` )
「おはようございます、セリオです。いきなりですが、ちょっと不機嫌です」
「せ、セリオさん? どうなさったんですか? あの日ですか?」
「一作目の
>>34-51『神社御参拝・水瀬家の場合』ですが、
突っ込みどころが少なくて、ストレスが溜まったんですこんちくしょう」
「はわっ!? せ、セリオさんが、やさぐれてますー!」
「大体、私は駄目出し型採点方式ですから、こういう隙の少ない作品では語ることがなくて困るっちゅーのに」
「(おそるおそる)えっと、じゃあ満点……なんですか?」
「そこら辺も合わせて説明しましょう。少々語りが入って鬱陶しいかと思われますが、ご了承ください。
まずこの作品、ほのぼのSSでマターリと楽しめ、読後感も良く、テーマにも即死ています」
「セリオさん、即してです」
「たぶん嫌がらせ。ではこれが傑作なのか? 名作なのか? といわれると、違うような気がします。
まず、SSの評価点というものは、コンセプトによる限界があると思うのです。
この作品の場合、ほのぼのまったり系なので、感動点というものがあった場合、そこでの配点はいいとこ5点です。
これは作品が悪いのではなく、目指す物が違うからです。ですが、この感動点、配点が非常に高いのです。
作品全体で、技術点が最高10点くらいだとすると、感動点は30点くらいいくこともあります。
特にKanonなどの鍵系作品の二次創作は、それをより重視して評価される傾向にあります。
この作品にはそれはありません。ですが、そういったものは必要ないのでしょう。
それらの要素を付加するとなると、コンセプト自体から組み直さなければならないでしょうから」
「えーと?(長文なので処理しきれなくなってきた)」
「くわえて、祐一様の一人称形式。これが技術点に限界を与えています。なお、各点数は適当です。
彼は格別語彙の豊富な人間ではないので、どんなに頑張っても配点は十点中五点ほどしかあげられません。
>>94-99の作品が同じように浩平様の一人称形式ですので、失礼ながら引き合いに出させていただきますが……。
技術的にはこちらの作品の方が、表現技法を懲らしてあります。
その代わり、それが浩平様というキャラクターの枠組みから離れ、違和感を与えてしまっています。
仮に七点ぐらい取れる文章技術だとして、その違和感でマイナス三点され、トータルでは劣ってしまっています。
『水瀬家』の作者様が、本気を出したらどれほどの文章が書けるかは、ここからは伺い知れませんが」
「はぁ(そろそろ流しつつある)」
「そんな様々な要素を加味し、この作品コンセプトでは、最高点は85点くらいだと仮定します。
目新しさや、驚き、感動は弱いのですが、ストーリーの骨子はしっかりしていますので、大体これくらいで。
この最高点の中で、キャラクターの描き方や、コンセプトの再現度などによって評価点が決まるのですが……、
するとこの作品は、私的採点ですが、80点を超えてしまっているんです。
85点満点でこれです。だからつっこめません。ストレス溜まります。むかつくぞこのやろう」
「おいおい(雲行きが怪しくなってきたので、とりあえず突っ込む)」
「目を引いたのは、一人称形式で稀にあるのですが、祐一様の口に出したセリフも地の文形式にされているところです。
これが巧妙です。おそらく祐一様のセリフに「」をつけたら、セリフだらけの文になるでしょう」
「……あー、ほんとですね」
「では説明不足か? と言われるとそうでもありません。元々二次創作は一次情報が読者の頭にあります。
くわえて各イベントの大半が、作品内からの引用とあって、各場面を脳内再現することは難しくないのです」
「舞さんと栞さんのイベントだけ、省略されてお二人のセリフもありませんけど」
「ですが、祐一様のセリフ1レス分だけで、大体なにが起こったのか分かってしまいます。
読みやすさでごまかされていますが、意外と長いのでそこら辺の省略はよい判断だったと思います。
それらのイベントを上手く状況に絡め、くわえて『お願い』という行為も存分に利用しています。
水瀬家の方々も、魅力的でいい感じです。いろいろと笑いの小ネタもちりばめてあります。
……どこに文句つけたらいいんだ、んにゃろうめ」
「落ち着け。でも本当にお願い叶ったんですかねー? かなうのなら私もお願いしたいですー」
「はっ、五円玉放り込んだだけで願いを叶えてくれる神様がいるのでしたら、お目にかかりたいですね」
「あうー(TдT) 真琴さんの夢を壊したらいけませんっ」
「強いて言うなら、少し、落ちの部分が微妙に収まりが悪かったような感じがします。
秋子さんでほんわかに持ち上げて、直後に落としたのが原因かも知れません。
あと、突っ込みどころは、まこぴはベッドに放置されていたけどいいのか? ってくらいでしょうか」
「毛布くらいかけてやれよ、って思いましたねー。書き忘れでしょうか。
ところでなんだか少し前で、真琴さんのキャラクターに対して意見が出ていますけど、それはどうでした?」
「私の場合、初見でそういった違和感はありませんでした。それらをふまえた上で、あらためて見てみましたが……、
真琴さんが神様に届けとばかりに全力で投げても、別に不思議じゃないと私は感じました」
「普通、賽銭箱めがけませんか?」
「賽銭箱、という単語を使えば、そこにめがけて投げるかも知れませんが……名雪様は言及していませんし。
彼女にとって願いを叶えてくれる対象は、神社=神様であって、賽銭箱は目に入ってない可能性も高いです。
名雪様がいじめられている真琴様をフォローしたのも、自分の説明不足に気づいたが故のことかも知れません」
「あれ、自己フォローだったのかよ。口をゆすげと言われてうがいするのも、まぁかわいいもんですか」
「灯油ストーブがあっても不思議じゃない北国の部屋の中に、ネズミ花火投げ込むよりなんぼかマシだと思います。
もともと私は違和感を憶えなかったのですから、真琴さんのキャラ範囲内だと個人的には認定できますね」
「……で、セリオさん。もう言いたいことは言い尽くしましたか? なんだかかえって普段より長かったですけど」
「ほとんど持論の展開でしたからね……お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。
傑作でも名作でもない、と言いましたが、これは良作というカテゴリーに分類されるべきものだと思います。
そうですね、最後に一言言わせていただけるとするならば……、
ちくしょう憶えてやがれ、いつかぎたぎたにしてやるからな」
「セリオさん、ジャイアンみたいですー……」
>>56-67 smling face
「一つ前ので褒めすぎたので、次からはビシバシいきましょう」
「(´Д`,,) ……あれで褒めてたんですか?」
「褒めたぞこんちくしょう。……コホン。こちらもKanonもの、一人称形式で、真琴様が出てきますね。
さて、美汐様のお願いは『真琴と一緒に暮らしたい』ということですが、
その願いがどこから来ているのか、その過程が描かれていないのが良くありません。
思い詰めたはずなのに、思い詰めている場面がないのです。
それと、最初に祐一様にお願いしていますが、展開から察するに、お願い内容は同じですよね?
ですが、それを祐一様の一存で決めているのが気にかかります」
「セリオさんが生き生きしてきました……」
「場面転換も少々説明不足で、展開が厳しいかと。1レス目と2レス目の間、遊園地に行くくらいですから、
日付も場所も変わっているでしょうけれど、そういった状況の変化が描かれていません。
仮に変化してないのでしたら、真琴様を呼び出す場面が欲しいところです。
そして、祐一様と一緒に住んでいるはずの真琴様が、なぜか遅れてやってくる。
ここは、遊園地内に設置されたファミレスなどでも良かったのではないでしょうか?
真琴さんがいなかったのも、トイレに行っている間にでも交わしたことにすれば、自然です。
あげく、遊園地の出番はなきに等しいものでした。もう少し自然な状況設定が欲しかったところです」
「楽しそうですねー、セリオさん……」
「いえ別にそんなことは全然ありませんよ。レストランの場面、やり取り自体は楽しそうなのですが、
いくらなんでもバイキングを二人で食べると言うなどと、そんな酷な注文はないでしょう。
これはお金にうるさいというレベルではなく、さすがに常識知らずです。慎み深さがありません。
壊れ型みっしーでしたら、真琴と一緒のお皿をつつける幸せに浸る妄想全開キャラでも良いのですが」
「こんな楽しそうなセリオさん、見たことない……」
「おそらく、本編美汐様の真の願いは、真琴様に幸せになって欲しいことだと思うのです。
それにしては、ここでの彼女のお願いは理不尽で身勝手です。自分を優先してしまっています。あげく、
>「真琴は、もう二度とどこにも行かない。だから、安心して俺たちに任せてくれ」
> 相沢さんはいともあっさりと看破し、たったニ言の言葉で取り除いてくれました。
この程度で解決するなら悩むなこのやろう、なにも変わっていねぇじゃねぇか」
「セリオさん、前にも似たような理由で切れてませんでした?」
「……あったような気がします。解決シーンで肩すかしを食らうのが嫌いなのかもしれません。
この部分、先ほどの食事のシーンと作品イメージが剥離しているのも気になります。
くわえて、どうせなら遊園地で遊ぶシーンでさらに疎外感を味合わせるなどして追い込んだ方が良かったかと。
時間の段差も気になるところでした。食事を終え、これから出かけるか、と思ったら、もう帰り支度です」
「これって、食事の場面が本当に必要だったかどうか、少し微妙ですね」
「一応、例の疎外感など、ないこともないんですが……展開の無理の方が、目に付いてしまいます」
「展開の無理と言えば、最後の方、名雪さんと結婚させる……という捻りできましたね」
「ひねりましたけど、少し収まりの悪い捻り方な気がします。
悪く喩えるならば、若手芸人が微妙なネタでオーバーリアクションして、観客が冷める感じです」
「いや、そこはいい喩え方しろよ。……で、なんで奇跡の『痕跡』なんですか?」
「そんなこと聞かれても」
「まぁ、もうちょっとまとまりよく収められると良かったかと」
「どこを書きたいのか、どんな雰囲気を作りたいのかなどが、アンバランスだったと思います」
>>84 「別の方も言っておられましたが、ジョークスレっぽいですね」
「いちもつなんて日本語使う人、まだ残っていたんですねー」
「そんなに伸ばしてナニに使うつもりなのでしょうか」
「八頭身スレで大活躍するつもりでは?」
「なるほど。さすが耕
>>1様」
「ただいまオプションで、胸増量パーツ発売中ですー」
>>85 「こちらも同じ系統ですが、あのスレを見ていると食傷気味になる、下ネタでないのは好印象ですね」
「浮気相手の目の前で、公然と『私、あなたの彼と浮気してます』宣言する理奈さんとはるかさんがすごいですね」
「口に出しては言っていませんが、そう取れますね、この願い内容からは……。
しかし普通、本命と浮気相手が二人いるから、彼氏を三人に増やそうとは、なかなか思いつきません」
「さすがにはるかさんはどこかぶっ飛んでいますね……」
「二段落ちもいい感じだったとおもいます」
>>88 「またはるか様がぶっ飛んでいますね」
「ネタが懐かしいですー」
「それにしても、彰様にしては大胆なお願いです」
「ドラゴンボールですら叶わないとは、それほどまでに彼と美咲さんのハッピーエンドは困難なのでしょうか」
「よく考えれば、私達も電話一本で配送されて、あなた好みに染め上げられる、都合のいい女神みたいなものですね」
「東京03〜♪ ××××−××××♪ で、即日配送いたしますー」
「ただいまHM-13を購入なさった方は、おまけでHM-12が一体つく所を、どーんともう一体おつけしております」
「お、おまけなんですかーっ!?」
>>94-99 無題
「一瞬、茜様の存在が描かれてなかったので、デートの待ち合わせに急いでいるのかと思いました」
「たった三行で脳内補完入れすぎだ」
「毎度のイベントなら、傘くらい持ち歩きましょう。ましてや茜様には必須アイテムなのですから」
「店の中でいちゃついてるんじゃねーよこのバカップル共、という店員さんの声が聞こえてきそうですー」
「『いい加減にしろ、火点けるぞこの野郎』くらいに、穏当に注意して欲しいところですね」
「いや、それ不穏当です。ところで浩平さんの茜さん賛美歌、すごいむずむずするんですが……」
「フランスに行ってバラくわえて革命でも起こしそうな勢いですね。
すでに引き合いに出してしまいましたが、キザすぎです。どこのポエマーですかと小一時間(略。
……ところで、お願いはどこでしょうか?」
「え? えーと、えーと、あの浩平さんのなにか電波を受けたような、支えてあげたい云々のセリフですね、一応」
「厳しいところですね。お願いを支える土台が弱いです。それにコンビニでやるようなことでもありません」
「ロケーションがまずいですよね、やっぱり。ギャグならいいんですけど、周りに砂吐かせたりして」
「ちょっとシチュエーションの強引さが目立ちます。そこまで盛り上がるほどのことではないと思うんです。
盛り上がるなら盛り上がるで、そこに至る段階を経なければいけないのですが、性急で不自然な感じがします。
未完成品であるという注釈付きで、前後にどのような文章が付随するのかは分からないとはいえ……、
これ単体で評価すると、コンビニでエイエソワールドを展開したバカップルにいちゃつかれた、という印象です」
「ちょっと体が痒くなちゃいました」
>>103-126 叶える代償
「エロですね、エロ、(;´Д`)ハァハァ」
「餅つけ」
「エロイから百点でいいですか? しかもさほど早くないのですよ、ハクオロ様なのに」
「殴るぞ」
「冗談はこれくらいにして、なんというか、興味深い作品ですね。面白い、と言うより以上に。
最初エロばかり8レスで、しかも突っ込んだ矢先にフェードアウトして、どうなることかと思いましたが」
「つっこんだとかゆーな。ゲンジマルさんの登場は、いい意味で不意を突かれましたね」
「ここが原作から離れてゆくキーポイントだったのですが、面白い展開でした。
逆に、ここまでの話がプロローグとしては、長すぎだったかと思います。退屈するというわけではないのですが」
「カミュさん=ムツミさんの行動原理を自分なりに解明してくれた、という意味では、ポイント高いですー」
「そうですね。うたわれの根幹にある、ハクオロ=ウィツアルネミテアの願い。
それを叶えるという彼女の願いを、解釈して再構成して明確にして提示してくれた感じです。
他の作品の願いが、日常に即していた、言うなれば平和的で、基本的に自分の願いであったことに対し、
彼女の場合、懸命に他者の願いを叶えようとしている、その執念めいたものが素敵です」
「言われてみると、うたわれるものという作品の根底に、願いというテーマがあったんですね」
「もう少し早めに、ムツミ様としての自我と願いを強調しておけば、テーマ的にもっと良かったと思います。
それと、うたわれを解いた人限定、と言うところが少々説明不足を助長してしまっているような気がします。
どうせネタバレ入っていますし、ムツミ様の存在と理由を、もう少し説明してしまえば、
初見の方でも楽しめそうに思えるのですが……」
「それと、クーヤ様が放置プレイされてますけど」
「ですが彼女を本気で描くとなると、カミュ様がハクオロ様側についたという形で、
うたわれるものを最後まで描かないといけなくなってしまいそうです。
長耳友達の私としては、クーヤ様の活躍にも期待したいところですが」
「しかしハクオロさんは、皇としての政治問題より、エルルゥさんの怒りの方が恐ろしくていいのかと小一時間」
「正直なところを言わせてもらえれば、もっと上を狙える作品だと思います。
色々な面で。文章技術は確かな方のようですし。
時間が足りなかったのかどうか、少し展開が窮屈に思える箇所がありました」
「評価点と限界点の間に、まだ隙間があると言うことですか。
ところでウルトリィさん……大丈夫なんですかね、かなり強烈な攻撃喰らっていましたけど」
「あれは死にましたね」
「Σ( ̄□ ̄;)!! まっ、まじですかぁ〜っ」
「分かりませんけど。まぁ、いざとなったらウィツと契約すればすむ話ですし。
エルルゥ様が妹のアルルゥ様を救ったように、妹のカミュ様がウルトリィ様を救うべく、契約を――」
「いや、殺したのカミュちーだし。いま、ムツミだし」
「しかし負けてますよね……綾香様と芹香様。主にボリュームで。同じ巨乳姉妹なのに。ちっ、ふがいない……」
「あー、私達も姉妹ですけどー」
「……(じっとマルチの胸を見て)巨乳オプションつけてから出直してこい」
「・゚・(ノД`)・゚・。」
「読み直してみたら、ウルトリィ様の願いも切実ですね。願いポイント1ポイント追加です」
「願いという表記はありませんけど、願いと呼ぶにふさわしい思いだとは思います。追加ですー」
>>140 願い事
「ついでと言っては何ですが、一応こちらも。まずは、楓お姉ちゃんと呼ぶ人は世界に一人しかいないのですから、
別に初音さんの名前の注釈はなくてもよいのでは、と」
「お、いきなりきましたね。でもあってもいいんじゃないですか?」
「いいんですけどw
そこも含めて、『た』、で終わる説明セリフが多すぎです。1レス目、場面転換まで全部がそうです。
なぜ、年末大晦日という特殊な状況で、楓様は梓様の動向を知らないのか、というのも気になります。
それまで初音様と楓様が二人でいたのなら、話題にくらいなるはずでしょう。
つーか千鶴に耕一、初詣くらい一緒に行け。家族だろ。妹達出し抜いて、二人でデートか。おめでてーな」
「一番鋭そうな初音さんが、楓さんの気持ちに気づいていないのも微妙ですー」
「結局、ふられた楓様というシチュエーションを再現してしまっているだけですね。
おそらくこの作品、楓様視点で書いてみた方が良かったかと思います」
「そして心の中で、『ちっ、二人でこそこそしやがって』とか罵るのですね」
「ええ、『みてやがれ、必ず寝取ってやるからな。リアルでホワルバ体験させてやる』……って違います。
そうすれば、願いの内容と迷いと葛藤と矛盾と、そういったものを書けたような気がするのです」
「全般的に、書き込みが浅い感じですね。シチュエーション的には目新しくないので、
せめてもっと掘り下げないと、二次創作としての面白みが出てこないと思いますー」
「短いですしね。このご時世、なにか一つでも目を引く物がないと、痕SSでは通用しません。
自己申告を当てにするのでしたら、4スレという膨大な量を執筆されているのですが」
「どこの大河小説だ、それは」
・総括
「えーと……さすがに、今回はちょっと長すぎました。ごめんなさい」
「セリオさんにしては、素直ですね」
「それでも反省の色も見せず、懲りずに長文書いたりするのですが……。
今回、感想を書いていて思ったんですけど……二次創作には二種類のIFがあると思うんです。
本編の隙間には、もしかしたらこんなことがあったかも知れない、という補完のIFと、
本編とは反する流れだけど、もしかしたらこういう展開があったかも知れない、という仮定のIFと。
どうも私は後者の方が好みみたいです」
「今回のケースだと『叶える代償』が後者ですか」
「そうですね。私達が目新しさ、と言う単語を多用する傾向から考えても、
目新しい度が高くなる後者の方を好ましく見ています。個人の感想ですので、別にそれでいいんですが」
「まぁ新鮮な話の方が、純粋に物語を楽しめますしね」
「どうも感想をつけようとすると、穿った視線で見てしまいがちになりますからね」
「今日はセリオさん、自分語りが多いですー」
「感想のスタンスをすこしばかり示してみただけですが。……長いですけど」
「地面に届くくらいに?」
「さすがにそこまで長いオプションパーツはありませんが」
「やはり開発部に触手オプションを上申するべきでしょうか?」
「確かにそれがあれば綾香様や芹香様、マルチさんから葵様に至るまで、私一人でお相手可能……、
って、なにを言わせますか」
「にはは。それにしても、今回は毒舌と言うよりは、罵声といった感じでしたね」
「……え? どこらへんがですか?」
「自覚ないのか。で、また最優秀は選ばないんですか?」
「そうですね。一番楽しめた、というなら『叶える代償』が楽しめました。
どうなるんだろう、という期待と不安を感じさせてくれましたから。
ですが、作品の隙の少なさと雰囲気の良さでは『神社御参拝(略』に、
テーマの再現度やまとまりの良さでは『しんけいすいじゃく』に劣った感じです」
「帯に短し襷に長しですか」
「いえ、そういったものも加味して、やっぱりトータル評価は『叶える代償』が高いんですけど……。
なんだか違う気がするんですよね。
……正直なところ、私はその最優秀の、『最』の字が気に入らないんですよ。
優秀賞でしたら、毎回二本とか三本とか気楽に推薦してもいいんですが……。
こだわり派としては、最優秀と言うからには、九十点以上は欲しいところですし」
「あんた九十点なんて、めったに出さないだろ」
「だからめったに投票もしないんですよ(苦笑)
それでも、一本でも二本でも、楽しめた作品があれば十分満足ですが。
ですから、最優秀を選ばなかったからといって、
イコール今回のコンペがつまらなかったというわけではないんですよね」
「なんだか悟りを開いた気分ですね」
「それに十本以上になると、感想を書くのも苦労しますから」
「まぁそうなったらそうなったで少しばかり気楽にやればいいんですよ」
「ここまで大量に書いていると、そのうち感想書かないと禁断症状とかおきそうですけれど」
「それでは皆さん、また来週ー」
「では、失礼します」
『smiling face』
このSSの感想を一言で表すと、
>「美汐がこわれたーっ」
ということになるわけで、それはそれでつまらなくはないのだけど、それ以上なんの評価も付け足しようがない気がする。
とにもかくにも、美汐の語り口が大げさ杉ではないだろうか。
この口調でシリアスを語ったとて、あまり説得力を得られない。
いっそ壊れキャラを生かしてギャグに徹したら良かったのに、と思ったりもした。
『茜もの』
これはいい茜ですね。
甘々なワンシーンを切り取ったというところかな。
シチュ設定から言葉づかいに至るまで、全てにおいて格好つけすぎながら、まぁそういう見せ方も、ヒロインを称えるためには有りかと納得した。
未完成なのが残念だけど、茜がかわいいので許すw
今回、数は少なくて心配したけど、気に入ったSSがいくつかあって良かった。
>>151でも言ったとおり、最優秀は『しんけいすいじゃく』に一票。
書き手の皆様、お疲れ様です。
ちと物思うところがあったんで、感想用コテをつけてみる。
ちなみに作品評価において、お題の料理の仕方はほとんど重んじてない。
>>34-51 神社御参拝・水瀬家の場合(水瀬家)
いい意味でマンガやライトノベルふうの作品だな。文章も役者もストーリーも落ちも
どれも軽やかですっきりしていて後味良好だ。
>「がらがらがらがら」
>「……きゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!」(×2)
> またかっ? またなのかっ? お前って奴はーーーーーーーーーげほごほがほごほ。
こういった擬音などを他の大方の書き手が真似したら、赤面するほど浮くだろうなあ。
だけどこのSSではたくまぬ愛嬌でもって充分に使いこなしている。
ただ「柄杓」「早速」といった漢字の多用は、このような軽いSSの場合どうかと思う。
ワープロの変換を直さなかっただけかもしれないけど、ややむつかしめの漢字を
つかうと雰囲気が重くなるんだよね。それはこのSSには合わない。
>>56-67 smling face(美汐)
美汐のボケと妄想と思い込みのデコレーションが萌えという
パン生地を飾り、甘やかなケーキに仕上がっている――って印象。
彼女と真琴が同棲したがる理由がわからないってのはその通りなんだけど、
そのあたり書き忘れている点が逆に愛嬌があるなんて、俺は感じました。
作品中の美汐が魅力たっぷりに書かれているから、多少の欠点は
あばたもえくぼの要領でかえって好感度アップにつながった、というか。
「遊具」なんて物言いや「鳩が豆鉄砲、との例えは古いでしょうか」なんて一文も
おばさんぽくって可愛げがある。ストーリーそのものに勢いもあるし。
> 相沢さんなんて、すぐに人をからかいますし、意地悪をしますし、時間にルーズですし、肘をつきながら食事をしますし、でも大切な約束は守りますし、頼りになりますし、なにより一度は真琴を失いながらも自分の力で立ち直った強い人で…私は尊敬していて…。
> いえいえいえっ、それだけで結婚なんてそんなっ。
あとこの引用箇所! 恋する乙女の妄想(実際は祐一はこんなに格好良くはないわな)に萌えたっ!
頬ずりとか抱っことかいい子いい子とかしてあげたいっ!
……褒めだけじゃなくアラもつついておくか。あー、
>>60以降の物語のヤマが、
どこで行われているかの情景描写がもっとほしい。
舞とともに戦う夜の校舎、栞と想いをぶつけあう雪の公園、あゆとの過去の絆である
雑木林の「学校」みたいに、ヒロインたちの物語を支える印象的な舞台って大事なの。
>>70-79 しんけいすいじゃく(観鈴)
ほのぼのと心を揺り動かされたけど、同時に小粒で線がほそい作品だとも感じた。
なんでそんな感想を抱いたのか? その理由のひとつは、今回の他の多くのSSと違って、
登場人物のおしゃべりがすべてオチを成り立たせるための道具になってしまってる点にあるのでは。
ひらたくいえば、展開に「遊び」が少ない。
>>56-67におけるレストランでの美汐の立ち居ぶるまいや、
>>94-99における二人のいちゃつきみたいな、お題やオチとは直接関わりない枝葉の部分がほしかった。
>>84 「猿の手」のパロディーとも言える小噺だな。
元ネタにおいては洗練された悪意がゾンビと戦慄を産み出していたが、
この小噺においては下ネタが悪意込みで洗練されて笑いを呼び覚ます、と。
楽しめたよ。
>>85 こちらは「猿の手」ってよりは「ランプの魔神」ネタか。
……どちらも超自然の力が絡んでくるんだな。「お願い」ネタとなると。そこが興味深い。
84と違ってこちらは毒は薄いね、良かれ悪しかれ。
>>94-99 無題(茜)
なんか大好き。だってこのカップル、修羅場をのりこえた末の
穏やかさと熱さをそなえているみたいだから。
浩平が気障なのも確かだけど、原作だって七瀬に貯金満額おろしてドレス送りつけたり
(いま気づいたけど、あのドレスの色ってみずかのワンピースとかぶってるのかも)
茜を待って木陰に避難もせずに雨の公園で立ち尽くしたり(そしてファーストキスになだれ込んだり)、
相当なはじけっぷりを魅せてくれるからね。俺としてはオールOK感。
後半部の浩平の詩人みたいな内面独白を書ききるあたり、筆力も相当なものでしょう。
しいて言えば、「原作の浩平もじゅうぶん気障だ」ってあたりをもっと前面に押し出せば、
他の読者の戸惑いももっと減らせたんではないかな。
>>103-126 叶える代償(うたわれるもの)
こまごまと考えた点は多いが、たとえば陰茎って物言いは、
学術用語の色彩がつよすぎて色気が足りないのでは。
それに現代の「小説」でも用いられる呼び方だから、擬古文ふうのこのSSには相応しくない。
怒張とか尤物とか陽根とか奔馬とか逸物とか剛直とか、らしい喩えはいくらでもあると思う。
ようするに勃たなかった(うたわれは未プレイ。よって前半の濡れ場だけ読ませてもらった)
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1080227915/104-108 願い事
うーん。きつい言い種になってしまうけど、書き手氏ってば痕(のヒロインなど)に惚れ込んでる?
もし愛情があるんなら、たとえば
>>34-51みたく原作のイベントを大事に作中に取り込んだり、
>>56-67みたいに俺設定すれすれになるほどヒロインの内面描写を綿密に書き込んだり、
>>94-99みたいに口をきわめてヒロインの美しさを褒め称えたり、もっと何かあるとおもうんだけど。
初音の一人称なのに1レス目に彼女の感情や思考がまったく出てきてないってのは、
書き手氏が初音とフュージョン出来てないって事態を意味しない?
違ってたらごめんね(あと他の作品と比較してしまった点もスマソ)。
最優秀というのではないが、俺評価として「smling face」と無題がとりわけ楽しめた。
この2作品の書き手氏に感謝。
【告知】
ただ今をもちまして、感想期間を終了させていただきます。
投稿された書き手の皆さん、感想をつけてくださった読み手の皆さん、
そして生温かく見守ってくれていた ROM の皆さん、どうもご苦労様でした。
引き続きこのスレでは、今回の運営への意見、書き手の挨拶、
次々回のテーマの決定などを行いたいと思います。
上記のものやそれ以外にも意見が何かありましたら、書きこんでください。
※次回のテーマは『相談』に決定しており、開催時期は 4 月下旬〜になる予定です。
※今回決めるのは次々回のテーマです。お間違いのないように。
感想の中で、評価が高かった作品は以下のとおりです。
『しんけいすいじゃく』
>>145>>165 『神社御参拝・水瀬家の場合』
>>138 ということで、第二十四回の最優秀作品は『しんけいすいじゃく』らしいです。
おめでとうございます。
嫌。
嫌いスレはたぶん君の一年以上前から覗いてたし、
みんなも、わざわざ紹介してくれなくてもおそらく知ってるよ。
すでに以前、それ系がここに投稿されたこともあった……
結果は自分で探して君の目で確認してくれ。
自分でも、書きたくもないし。
そういうネタは、やるなら自分たちのスレの中でやろうよ。
誰でもどこでも面白がってくれると思われても困る。
その手のネタを書くのは勝手だけど、お題にされてもなあ……
とりあえず反対。お題はもっと門戸の広い物がいいや。
>172は、タイトルを「U1」にしてはと言っているんだと思われ。お題じゃなくて。
どちらにしろKanon限定は困るんだけど。
このところ難しいテーマが続いてるし、次は書きやすいのが選ばれるといいな。
え〜、皆様にご相談です。
次回、投稿期間を変更して開催してはどうでしょうか?
ご承知のように 28 日は葉鍵両新作の発売日。加えて大型連休。
ゲームをじっくり楽しみたいという人のためにも、新作でSSを書きたいという人のためにも、日程を変更すると便利かと思うのですが……
思いつく投稿期間案としては、
A.変更なし → 4月末〜5月中旬
B.開始日を遅らせる、長さはそのまま → 連休明け〜5月下旬
C.開始日はそのままで締切を1週間延長 → 4月末〜5月下旬
B案かC案あたりで如何なものでしょうか?
もちろん、この他にもアイデアありましたら、どうぞお願いします。
>次々回テーマ
こちらも募集中です。
参考までに前回には、
「星」「時」「妊娠」「人生」「手紙」
あたりが提案されていました。
開催期間はC案でお願いします。
ちなみに次々回案は「性生活」などいかがでしょうか?
CLANNADは全年齢作品でありながらそういうのが結構あるみたいだし。
葉鍵作品は一部を除いては18禁が原点ですから…
投稿期間って長く取ってもあんまり意味ないような気がしない?
投稿期間中にスレが落ちたら再録とか面倒だし。
おれはくらにゃど買わないからAでもいいけど、Bが無難かなぁ。
自分としては投稿期間は今回の場合>178のように大作買わない人もいるし
逆にそうでない人もいるから、そういった人たちとの摩擦を可能な限り減らすという意味でも
C案を支持します
>>178 投稿期間じゃないとなんとなく書く気がしない、って人も多いっぽい。
総括長くしてもそれこそ意味ないし、C案を支持しときま。
連休中に書く人も多いと思うから、A案でいいんじゃない
まあ、C案が多いのなら、そっちでもいいけど
B案はパスしたい
次のお題に 『家族』 を推薦してみる(=゚ω゚)ノ
親子関係、姉妹関係、その辺りのSSもたまにはいいかと
ちょうどいい機会だから質問するが
このコンペにおいて「piaキャロットヘようこそ」や「piaキャロットへようこそ2」や
「恋姫」や「ビ・ヨンド」や「SNOW」を如何にして扱うかについて考えて欲しいと思います。
特に「pia〜」は葉鍵板の範疇であると管理人(もちろん★の人による)に公言されています
こういうのも出品作品として扱ってもイイと自分は思うんだけどね
俺は思わんな。葱板行け、としか言えんわ。
最近の月厨の侵食だけで、ゲロ出そうなほど腹一杯だってのによ。
「Pia〜」はこの板にちゃんとしたスレもあって、認められているようなので考慮の対象。
個人的には書きたけりゃ書けばいいと思うけど、評価されるかどうかは知らない。
その他は却下。板違い。
全部板違い。例え認められたとしても、俺はスルーするけどな。
というか今更なんでそんな話題なんだ?
pia系、ビ・ヨンドは昔プレイしたが、もうおぼろげにしか憶えてない。
書くなとは言わないが、俺は読まないしレスもできない。
恋姫はどんなゲームかも知らん。
SNOWは未プレイだからわからん。
別にSSなんて読まなきゃいいんだから、書くな載せるなってのは
ちょっと度量が狭い気もするけどね(特にpia系)。認めたところで
現状このレスのつき方では、という気はする。
ちょうどいい機会だから質問するが
このコンペにおいて「STAIRS」や「巫女みこナース」や
「とらかぷっ!」を如何にして扱うかについて考えて欲しいと思います。
つまんね
>185 前回の統括期間にもいた人じゃない?
>特に「pia〜」は葉鍵板の範疇であると管理人(もちろん★の人による)に公言されています
>「Pia〜」はこの板にちゃんとしたスレもあって、認められているようなので考慮の対象。
ソースキボン。板違いスレも常に立ってる葉鍵板だし。
ロカルー談義はよく知らないけど、「葉の全作品」と
長いこと葉そのものといって良かった高橋・水無月コンビの、「PLAYM」作品、
「鍵の全作品」とほぼ鍵スタッフ全員の作品「同棲、MOON、ONE」が
葉鍵板の取り扱い範疇って感じが、住人の空気だったのは間違いないと思う。
板創設以来ほぼ四年間。
182の言うような一部スタッフが関った全作品まで範疇まで含めたら、
じゃあ、プルトップの全作品も扱うのか、アクティブのねがぽじSSもここか、
うだるの下級生2は、YET11氏のジサツに関する101の方法は、
てなことになってしまう。187のネタ同様。
piaキャロが得意だっていうんなら、素直にネギ板にSSスレに投下するのが
ベターなんじゃないかなあ。
183みたいにデテケ!とかってことばかりじゃなくて、
ネギ板のSSスレも常に投稿待ってるし、けっこうマターリした良スレですよ。
出来が良ければ喜ばれると思う。
クラナドとリアライズを必ず買う人ばかりじゃないし、
そういう人も購買組に合わせて投稿を待ってなきゃいかんの? B案、ダメかなあ。
でも、実際にそういう非購買組の人の声がないなら、AやCでもいいか。
自分は今回投稿は未定だし。
>>177 「性生活」(*´Д`)ハァハァ
ストレートすぎる? 「えっちのある生活」ぐらいだったら
非エロSS派の人もあれこれネタ組む余地あるかな。
>>181 「家族」っていままで一度もなかったんだっけ。意外。
それもいいなあ。
葉鍵ゲーにてーま「家族」はド真ん中過ぎていままでなかったのかな?
自分は非購買組になるだろうけど、伸ばしたいという人がいるなら延ばしてもいいと思う。
特に短くする理由も思いつかない。
それに、仮に蔵等SSが投下されたとして、期間を遅らせてあったほうがネタバレ感想も付きやすいのではないかと思う。
ルーツや天いなが寂しかった例もあるからね(あれは購入者数の問題も大きいだろうけど)。
>191
?
非購買組も待つというのがB案じゃないかな
>非購買組も待つというのがB案じゃないかな
それを言うなら、C案だと思うが……
うむむ、文意を読み違えたかな。
非購買組も(投稿開始を)待つのがB案、
非購買組も(投稿終了を)待つのがC案、だね。
自分もC案に賛成。
あと「性生活」に一票
196 :
191:04/04/25 16:53 ID:RzukmeIB
俺が混乱してて間違えました……スマソ
A.変更なし → 4月末〜5月中旬
B.開始日を遅らせる、長さはそのまま → 連休明け〜5月下旬
C.開始日はそのままで締切を1週間延長 → 4月末〜5月下旬
191は「B案だと、未購買組は、ふだん通りにSS書いても投稿を控えて
待ってなきゃいかんの? 別に投稿してもいいんじゃない? C案じゃダメかなあ?」
ってことだね。
もちろん、実際そういう要望を持つ投稿予定者の人がいたらの話、ということで。
B案の場合、連休中の1週間、何をすれば良いので?
好きなことすればいいじゃん。
それとも指示したら何でもやってくれるの?
こらこら、無駄にあおるんじゃない。
このスレでは何をするかってことだろう。
普通に考えると総括期間延長じゃね?
あんまり意味があるとは思えんし、俺もCを支持。
レス返しマダー(AA略
んじゃ、リクエストにお応えして、ってわけでもありませんが、圧縮ありそうなので保守も兼ねて。
今回、「神社御参拝・水瀬家の場合」と「叶える代償」を書きました。あと
>>85と
>>88。
なんか作品数が少ないので、結果的に一人で頑張りすぎた印象。
感想くれた皆さん、読んでくれた皆さん、ありがとうございました。
個別レス、行きます。長いです。セリオさん程じゃないけど。
>>132氏
お願いが叶ったかどうか、って言うのはこの際どうでもいいことだったんで、考えてません。
あえて迷わせるような書き方はしましたけど。
分からない方が、祐一が気にしないのも、真琴が気にするのも、どっちも自然ですし。
そこら辺で惑わせてしまったら申し訳ないけど、そこはあんまりこだわり部分じゃなかったんで。
正確には、この作品テーマは「お願い」じゃなくって「願う」だったんだと、後で思いました。
ただ楽しそうな水瀬家(個人的にwith真琴がデフォ)と、お願いを通じて交流する家族を書くことが目的だったのです。
ただ、ヒロインが真琴か名雪かどっちつかずになってしまったのも、半端な印象を与える原因になってしまったかも。
文体に関してはちと描写しなさ過ぎかという思いもあったんですが、特に問題はなかったようでよかったです。
>>138氏
私はカノラジって聞いたことないんですが、まぁ伝え聞く噂ほど暴走はさせてません。たぶん。
願いに関しては、考えてないとはいいましたが、たぶん偶然でしょう。
神の意志があったとすれば、ちょっと真琴と名雪を一緒に風呂に入れたくらいでw
ついでだから書いときますが、風呂から聞こえてきた「あぅーっ」の声は、
名雪が真琴の髪を洗っているときに、シャンプーが目に入った声です。
「叶える代償」に関しては、ムツミの「どうして私を選んでくれなかったの?」が気になってまして、
選んでいたらどうなっていたんだろうな。というのが元にありました。
だからまぁ、原作と異なってしまうのは当たり前で、それで人によっては評価が厳しくなるのもしかたないっす。
あと、カミュの吸血衝動の解決と混ぜてしまったのも良くなかったのだろうか。
カミュの血が欲しい願いと、ウィツの願いを等価交換させてみた気分だったのですが、中途半端でした(;´Д`)
>>143氏
カミュちーとクーヤ様は、俺のうたわれお気にキャラの双璧なのですが……今回はクーヤ様に涙を飲んでもらいました。
でも事後フォローぐらい入れるべきだったかと、言われりゃ思いました。
でもクーヤ様もなにかあったらムツミみたいに覚醒するのかと言われれば……しないだろうし。するのか?
ディーはこういう展開になった場合、どうするつもりだったのだろう。
エロに関しては……やはりパイずり入れるべきだったのか。
>>85に関しては、残り三人の願いはこうです。たぶん。
弥生「藤井冬弥をこの世から全て抹消してください」
美咲「ふっ、藤井冬弥くんを復活させてくださいっ! 全部!」
マナ「……面倒だから、藤井さん6人に増やしちゃって」
弥生さんは、本物が一人いれば十分でしょうしw
>>144 名無し三田四問氏
そですね。雰囲気重視でそこがテーマです。願いはダシです。家族を描くための。
中だるみしないように色々イベント入れたんですが、逆にそこでも少し独自色を入れても良かったかもしれませぬ。
ただ、本編イベントを違った切り口で見てみよう、と言うのも狙いだったんで……えーと、どうしようもないな、こりゃ。
やっぱり少し長かったかなぁ。書き出したときはもっと短く終わるつもりだったのですが、
書いてみたら意外に長くてびっくりしてしまった。
分からないもの書いちゃってごめんなさい。
エロ最高でありがとうw 逆に知らないから新鮮に見えたってのもあるんだろうなぁ。
>>148氏
真琴っていくつなんでしょう? 俺の中では相当子供なんですが。
結構非常識ですし、やってることは子供のいたずらですし。みそを一袋風呂に入れている時点で(ry
まぁ、正直、本殿直撃は削ろうかな、と思った部分だったりもするのですが。
一応コメディですけど、舞と栞とあゆの三人は、もっと毒を持たせた方が良かったかもしれませんね。
それこそ神罰か、と言うくらいに。そこでメリハリも作れただろうし。
>>153 セリオとマルチの毒舌感想会氏
(長文処理中)えー、長くて読むのも大変だったぞこんちくしょうw 長々とありがとうございます。
まぁあんまりセリオさんほど深く考えて書いていませんが、私の場合。
書きたいものをぽややんと書いてしまったらこんな感じになってしまって。
確かにコンセプトを組み直さないといけないけど、もっと感動点とか毒点とか、上げられそうな気はします。
祐一一人称に関しては、何度か括弧をつけてみたのですが、本当にセリフだらけになってしまって……、
この初心者SSがぁっ! と叩かれるのが恐くて外してみたというヘタレな理由があったりします。
下ネタはどうも苦手なんで。でも、3つの願いを彼氏の粛正に使う由綺もぶっ飛んでると思います。
彰スレのネタに関しては、たまたまそういう流れだったのと、ドラゴンボール愛蔵版の恩恵ですね。
ところでセリオさんお助け事務所の電話番号はいくつですか?
フェードアウトしてごめんなさい。さすがにあれ以上書いたらなにがなにやら分けわかんなくなりそうだったので。
なんかむやみに長くなってしまう部分があるのは悪癖です。
たしかにもちょっとムツミは早めに、それこそ冒頭モノローグでも担当させれば良かった。
悪癖2。どうせ二次創作なんだから分かる人が分かればいいやと説明を放棄しがち。ごめんなさい。
クーヤ様も書きたいなぁ。と、よく考えたらこれがうたわれ初SSでした。いずれなんか書こう。
ウルトリィ様は黒こげですが、まぁなんとか生きているって事にしたいw
でも悲惨エンド一直線ですな、このSSで一番不幸な人です。この方の願いは……考えてなかった、別にw
>>166 合言葉は勇気氏
お褒めにあずかり、恐悦至極。軽いですね、ふわふわと。
だからすぐに印象とか飛んでなくなっちゃうのかも知れません。
たしか真ん中のまこなゆの叫びは、本編テキストからのコピペですw 三点リーダー伸ばしたくらいで。
(×2)は(一秒)みたいに、Kanon本編でも使用されている表現ですので、やりすぎなければいいかな、と。
早速はともかく、柄杓は開いた方がいいかなと一瞬引っかかってました。反省。
ただ商業誌みたいに、開いた文字の上に点々つけられないんで、開くのためらっちゃうんですよね。
ところで先生、「たくまぬ愛嬌」が「たゆまぬ」の誤植であったとしても、やっぱり意味が微妙に通りません(ノ゚∀゚)ノ
毒は薄目です。アクの強いのは苦手で、それは限界だとは思うのですが、
それはそれで良しとか思っているので一生直らないでしょう。
色気が足りない。むぅ、難しいですな。いちおううたわれ世界観と作品イメージを優先してしまったのですが、
本編ではどう書いていたかな……(布教活動中で手元にない)
ペニスとかちん○んとか書くわけにもいかず、アホな悩みに頭をひねらせた末での選択だったのですが。
どちらかと言えば文体自体に問題がありそうな気もします。なんか古文書書いているような気分だったし……、
∧∧ 擬古文……? ギコ文?
( ゚д゚) ゴルァ
こうですか? 分かりません! エロは難しいです。立たせられなくてごめんなさい。
以上です。うたわれSSも初めてでしたが、祐一を書くのってほとんど初めてなくらい、
KanonSSでは無視してきたので、バランスを取りつつ、逸脱させないようにするのに苦労しました。
皆さんお疲れさまでした。では、また。
業務連絡です。
>次回
賛成意見が多いようなので、C案を採用したいと思います。
通常より1週間長い投稿期間になります。
>次々回テーマ
引き続き募集中です。
現在、「性生活(えっちのある生活)」「家族」が提案されています。
以上で特に問題がなければ、
30 日の午前 8:00 より、第二十五回『相談』の投稿に入りたいと考えています。
作者挨拶やテーマ提案を予定されている方は、お早めにお願いします。
今読み返して気づいたが、>169氏の「叶える代償」に対しての感想が、アレの呼び方にしか言及していないのがワラタ
ちなみに、うたわれ本編では肉棒だったと思う。
次々回のテーマはpink鯖の底力を見せるという意味もかねて「性生活」をキボン
hoshu
209 :
気まぐれ猫:04/04/28 23:47 ID:RDkW4r0+
お聞きしたいのですが東鳩の綾香と浩之のssで綾香の高校の文化祭で
浩之と綾香がバンドを組んで歌うっていうSSがあるのですが
どこのサイトに乗ってるかご存知の方いらっしゃいますか?
>>209
(多分)スレ違い!
211 :
気まぐれ猫:04/04/29 01:36 ID:HPr3UUfO
それはわかっているのですがどうしてもさがしているもんで・・
,) くすっ☆ 気まぐれ猫・・・NGワード、と
〃ハヾ
、。l|,,゚∇゚) / ̄ ̄ ̄ ̄/
__/_つ |./自己満足/__
\/____/
テーマを18禁に絞るのはなぁ
結構書きづらいと思うぞ
>213のような心配もあるから、「えっちのある生活」でキボンヌ
216 :
215:04/04/29 17:55 ID:Z/T1Nhbk
あ、はっきり書いてなかったけど、>216は「えっち(ry」への投票ということで。
当方のつたない若書きを読んでくださり、あまつさえ感想までぶつけてくれた方々に感謝いたします。
このたび
>>94-99の茜ものを書き殴った作者です。以下は感想返し。
かなり長文になったので本来はもっと削るべきなんでしょうが、もう締め切り間際……。
>>139さん
ご指摘のとおり、たしかに気障な浩平ですね。氷上もとうてい及ばないくらいだ(苦藁
原作とはかなり印象がズレるその気障っぷりを読み手に納得させるため、
当方としてはありったけの技巧と情熱を尽くしたんですが……どうやら力不足でしたか。無念。
しかし「茜の魅力はけっこう出ていた」と仰ってくれていた部分は、正直ほっとしました。
そのひとことが貰えさえすれば、この手前勝手でカッコつけなSSも、
ひとりよがりの無様な自慰にまでは堕ちていないと思いますので。
>>145 名無し三田四問さん
うーん、耳に痛いご批判。たしかにこの6レスだけでは本編抜きの体験版だけ放って
よこされたようで、読み手としてはどう褒めたりけなしたりすればいいかお困りかもしれませんね。
言い訳を許していただくなら、今回投稿数があまり膨れあがりそうもなかったので、
メンテ代わりというか枯木も山の賑わいというか、そういう意図であえて未完成品に
ちょこちょこと手を入れて投下したって経緯があるんで。まあ所詮は泣き言ですが。
>>159 セリオとマルチの毒舌感想会さん
浩平「おはようございます、オレです。いきなりですが、ちょっと不機嫌です」
茜 「……浩平、その丁寧な口調と眉間のしわはどうしたんですか?
いつもの寝ぼすけのせいで朝ごはんを食べはぐれでもしたんです?」
浩平「毒舌さんの
>>159のレスですが、山葉堂常連の甘党のオレたちカップルへの
感想が辛口なんでストレスが溜まったんですこんちくしょう」
茜 「……あ、口調はいつものやさぐれ純情少年に戻りました」
浩平「だいたいさ、このSS内でのオレってばバカ丸出しの太平楽な道化なんだから、
毒舌さんみたいな駄目出し型採点方式で明快に唐竹割りされると冷や汗もんだっちゅーのに。
自分の間抜けぶりに涙だって出てきやしねえよ(苦笑)」
茜 「眉間のしわも取れましたね。……とすると毒舌さんに腹を立てているわけではない、と」
浩平「芸人が客にむかっ腹立ててどうするって。
んじゃまともにレス返しいくか。まずは
>「毎度のイベントなら、傘くらい持ち歩きましょう。ましてや茜様には必須アイテムなのですから」
との指摘だけど……茜、なんか言いたそうな顔してない?」
茜 「はい。……ええと、その件については>94で伏線が引かれてあると反論してもよろしいでしょうか?
『天気予報でも予測できなかった』『通り雨』なのに傘を準備しておくのは、ちょっと……。
でも浩平との相合い傘っていうのもお洒落かもしれませんね。
ふたりの男女がひとつの傘の下むすばれているというのも」
浩平「そういう美坂家次女みたいなドラマっぽいせりふを吐くから、キザだの背中むずむずだの
フランス(略)革命だのってツッコミ入れられたんじゃないのか?」
茜 「違います。……毒舌さんだけでなく他の方々の感想にも共通してることなんですけど、
キザだっていう批判の9割がたは、私でなく浩平のほうに集中しています。
だから私の責任じゃありません。わるいのは浩平が王子様なせいです。
(……あと、本当にどうでもいいんですけど、フランス(略)革命って聞いたとき
永遠帰還記念に学校の机で凱旋門を積みあげている浩平を想像してしまいました)」
浩平「ったくみんな折り紙つきの美少女には甘々だよなぁ。単にせりふだけを見てとれば、
茜もオレもそのキザっ跳ねぶりはほんといい勝負なんだけどな。
たとえばよ、たぶん大方の読み手さんたちに特に反発食らったのは
>「拭いてください、私の身体を、浩平。
> ……王子様にさせることではないのかもしれませんけど」
>「店員が呆れてるんじゃなかったのか?」
>(以下29行略)
>「オーケイ……」
の部分なんだろうけど、ここなんか明らかに茜がオレを挑発してるシチュエーションでないか?
オレをキザにさせるようそそのかしたのは里村茜サンの側なんだけどな」
茜 「……その『(以下29行略)』が物議をかもしたんだと思いますけど。
ちなみにこの29行って、MOON.の高槻さんのあの大演説とほぼ等しいんですよね、文章量が」
浩平「高槻みたく声に出してあの29行をぶちまけたんならそりゃ店員どもに
火を点けられてもやむなしだけど、オレの心中の呟きにまであれこれ言われるのも、な。
熱愛する恋人と一年ぶりにデートなら、内心のこのくらいのポエマーは許されない? だめ?」
茜 「……詩人はポエト(poet)です。毒舌さんにせよ他の感想人の方々にせよ、
だめとも嫌ともはおっしゃってないようですよ。ただ(本編との印象がずれているので、
たとえ伏線が貼られているにせよ)受け入れられない……とは指摘なさっていますが」
浩平「《受け入れられない》っていう読み手の感受性の違いって話なのか。
それとも《受け入れさせることが出来ない》っていう書き手の腕の問題なのか。
どっちの割合が多いか、難しいところだな。受け入れてくれてる読み手も一応いるし。
……いいかげん長々と延びすぎたし、次いくか」
茜 「次は、お願いはどこでしょうか、とのご質問ですが」
浩平「
>>98 >あの茜が、公衆の面前でそんな大胆なお願いを?
だな。以上」
茜 「はしょりすぎです。いくら感想返しが延びすぎたからって……」
浩平「とゆうてもONE本編だって、説明不足や駆け足な展開はあったしな。その次の指摘は
>お願いを支える土台が弱い
か……濡れて透きとおったブラウスに浮き出たブラひもとか描いてたら、土台固まったかな」
茜 「嫌です(即答)」
浩平「そりゃまあ勝負下着をベッド以外の場所で眺められても困るだろうな」
茜 「……(赤面)」
浩平「あとは『ロケーションがまずい』って意見か。これはまあその通りだろうと納得。
コンビニなんて風情のない場所で見栄を切ってみせるのなら、それを読み手に強引に
納得させるだけの技量が求められる。そしてこのSSの作者にはその技量は、
ゼロではないかもしらんが不十分だったと」
茜 「……でも、あんな場所でしっかり抱きしめてくれたことじたいは、
浩平の気性にもかなっている気がします。
学校の廊下で椎名さんとけんぱをしてあげた横紙破りの勇敢さが、私の彼にはありますから」
>>165さん
お褒めの言葉、身に余る光栄です。
内輪褒めの見込みがない他人から「面白い」の一言をいただくのがどれほどの難事なのか、
それを知るまでにずいぶんと辛酸を舐めてきましたし。
このSSで当方は魅力溢れる茜を描き切りたいと願い、相応の努力も重ねてきましたが、
どうやらその苦労もいくらかは報われたようです。感謝。
>>168 合言葉は勇気さん
こちらも分に過ぎた好意的な感想にあずかり感謝します。
当方も茜と浩平のカップルを愛してるんで、その熱情をいくばくなりとも
伝えられていたとおっしゃるなら、SS書きとしてこれ以上喜ばしい光栄もありません。
>しいて言えば、「原作の浩平もじゅうぶん気障だ」ってあたりをもっと前面に押し出せば、
>他の読者の戸惑いももっと減らせたんではないかな。
う……それは考えつかなかった。その手はあったかもしれませんね。
ただ七瀬へのドレスプレゼントのイベントは、別シナリオになるから
本編補完型のこのSSではちょっと使いづらいし、
茜とのファーストキスのイベントも、個人的に思い入れが強すぎて
SSへの混ぜ込み方に頭を悩ませる羽目になりそうですが(苦笑
以上で感想返しは終わりにさせていただきます。
あと次々回テーマですけど、前回も妊娠がなかなかの票を集めたりして
けっこう需要多さげなんで「性生活(えっちのある生活)」を推しておきます。
それでは皆さんお疲れさまでした。
【告知】
第二十五回投稿テーマ:『相談』
投稿期間: 4 月 30 日の午前 8:00 から 5 月 21 日の午前 8:00 まで。
※新作発売週と重なるため、1週間延長して開催します。
テーマを見て、思いついたネタがあればどんどん投稿してみましょう。
面白い作品だったら、感想がたくさんついてきて(・∀・)イイ!!
もちろん、その逆もあるだろうけど……(;´Д`)
※投稿される方は
>>3-5 にある投稿ルール、FAQ をよく読んでください。
※特に重要なのが
・テーマに沿った SS を*匿名*で投稿する
・投稿期間中は作品に対して一切感想をつけない
※の二点です。他の各種 SS スレとは異なりますのでご注意を。
それでは、投稿開始っ!
# また、次回のテーマは『えっちのある生活』で、開催時期は 6 月上旬になる予定です。
# 「三週間じゃ短すぎて書けない」「テーマが難しい」という方はこちらの執筆に力を
# 注いでもらっても構いません。ただし、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
>>◆eTtAGoKmHQ氏
( ・∀・)ノ 「また通り雨かよ」の、「また」がなければ、傘に対しては突っ込みされなくてすんだんじゃないかなぁ?
思えば茜とのイベントは雨天決行だったって、自分で伏線張って首締めてた気がしますよ?
質問。
発売されたばかりのCLANNADのSS投稿は可能?
ネタバレへの配慮や、未プレイ者がいて評価されないことを覚悟すればOK?
あと、結局リアライズの扱いはどうなるのだろうか?
CLANNADのSSは制限する理由がないんじゃね?
リアライズは微妙だけど、俺はおけーだと思う。
俺もOKだと思う。
ただし、投稿者は感想が一つもつかない可能性があることを
覚悟してから投稿すること。
CLANNADプレイして物凄くSS書きたくなりました。
ただ、重大過ぎるネタバレを持つもの(名前出しただけでアレなもの)はどうしましょうか?
つまり、さらりとスレを見み流しただけでも「うわっ」となるもの。
……目に入っただけでも多分、嫌がれそうですね。
とりあえず、今回のコンペは5月21日までとありますから、CLANNAD関係のSS投稿は、
私的にですが19〜21日あたりにする方が、いいかもしれませんね……。
この辺りなら大体の方はプレイ終わってそうですし。
まあしかし、今も投稿期間。
早くの投稿は読み手さんにも目が付き易そう(読まれやすそう)なので、困りますが。
×スレを見み流しただけでも「うわっ」となるもの
○スレを読み流しただけでも「うわっ」となるもの
失礼。
とりあえず俺はどっちも未プレイなので読むことも感想を書くこともできないな。
この二作品を投稿する人は、少なくとも作品名だけは明記して欲しい。
私も今回は、間に合えばCLANNADで行こうと思ってます。
ネタバレがどうしても入ってしまうので、最終日直前に投稿したほうがいいかもしれませんね。
感想もらえないのは覚悟しておきます。
重大なネタバレに関しては…うむむ……締め切り直前ならば三週間は経っているし、「お願い」と「えっちのある生活」では全然違うから、次回に回すことも難しいでしょう。
なんとか許容してもらえればいいのですけどね。
許容という点に関しては問題ないぞ。
感想スルーされるかどうかは、また別の問題だ。
【告知】
現在、葉鍵的 SS コンペスレでは投稿作品を募集しています。
今回のテーマは『相談』です。
投稿の締め切りは 5 月 21 日の午前 8:00 までとなっています。
思いつくネタがあればどんどん参加してみましょう。
その際に
>>3-5 のルール、FAQ に一度お目通しを。
また、次回のテーマは『えっちのある生活』で、開催時期は 6 月上旬になる予定です。
「三週間じゃ短すぎて書けない」「テーマが難しい」という方は、こちらの執筆に
力を注いでもらっても構いません。ただし、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
うん、喜ばれることはあっても嫌がられることはないと思う >蔵、リア
感想付くかは何とも言えないけど。。。
結構、感想は付くんじゃないかな。
まだ発売して間もないから暫くはネタバレを考慮して投稿は控えた方がいいのでは、という話でしょう。
というか今投稿期間だぞ、なるべく雑談はしないようにしてほしいんだが
hoshu
雑談でもしておかないと落ちそうでw
もうクラナドもいいと思うぞ! 早く読ませてくれ!
……とか、思ってます。
>239
そうなんだよねw
実際5/8日に書き込みのあったスレでさえ落ちてる。
投稿の邪魔になるぐらい雑談や議論が続いて途切れるようすもないなら問題だけれども。
21日締め切りだし、圧縮危険もあったから、まだいいだろ。
・投稿中にも関わらず雑談し始めたる。
・すでに投稿された作品を、雑談の連続で過去ログに流すような事態になる。
・締め切り近くでも続ける。
これらが無ければいいよ。
つか、避難所行けば一発で解決なんだが。
雑談を書き込みたい人は、直前にスレをリロードしてから。
実際、SS投稿に割り込んじゃった例もあるしね。
>・投稿中にも関わらず雑談し始めたる。
こんな例(しかも関西ヤクザ風)はまだいないのはいいところ。
>・すでに投稿された作品を、雑談の連続で過去ログに流すような事態になる。
これは、他のSSスレと違ってあまり心配しなくてもいいんじゃないかな。
締めきり後にいっせいに全SSに感想がつくこのスレの特殊な事情で。
>・締め切り近くでも続ける。
これは俺もまずいだろに同意。
しかし、締め切り日付近にスレ落としてしまったこともあったと思うので、
24時間に一回の書き込みには注意しよw
うぐっ、うぐっ、ほしゅっ、ほしゅっ
保守しとく。
締め切りまであと一週間。大丈夫か職人さんたち!?
保守。
……不安になってきた。
ん、そろそろ貼りましょか。
しかし大丈夫かね、ホントに。予想通り、結構面倒なテーマだよな。
タイトルは上記の通り、『聞いてません』。ホワルバもので5レス予定。
「あの、弥生さん……相談があるんだけど」
由綺が珍しく歯切れ悪く、そしてどこか嬉しそうな様子で、弥生に言った。
「なんでしょうか?」
「……できちゃったみたい」
「――は?」
弥生が珍しく五秒ほど硬直し、そしてどこか呆然とした様子で、ようやく間の抜けた返事を返した。
「だから、その……赤ちゃん」
きゃっ、と小さく声を上げ、赤くなった頬を手で押さえる由綺。
対照的に弥生の顔は蒼白になり、色と共に表情まで抜け落ちる。
スキャンダル発覚、汚れたアイドル、できちゃった婚、引退宣言などと、不穏な単語が弥生の胸中で渦を巻く。
なのに、ああ、なんてことか。由綺の回りにはお花畑が咲いている。
すでに彼女の頭では、甘いウェディングライフと生まれるのは男か女かなどという、
お気楽極楽脳天気な悩み事が輪になって踊りつつ、聖歌を合唱しているのだろう。
同じ部屋にいるのに二人の温度差は、あまりにも違い過ぎた。
――だからこれから先、お腹の子のことも大事にしたいから、あまり派手な振り付けはできないし、
お腹が目立ってきちゃったら衣装映えしないし、病院にも通わなくっちゃいけないから、スケジュールの調整とかも大変で、
やっぱりこうなった以上、冬弥くんと、その、にゅ、にゅ、入籍しなくっちゃいけないし、あ、正式にお母さん達にも紹介しなくっちゃ。
そうなると結婚式とかハネムーンとかも考えないと駄目で、やっぱりアイドルだったら、
ホテルとか借り切って大々的にやらなくっちゃいけないのかな? 一応、貯金なら結構あるんだけど、あの、弥生さん聞いてる?
聞いてなかった。
正確には、耳に入っていなかった。
由綺が甘やかな賛美歌のようにのろけ相談を歌い上げた横で、弥生は必死に乱れまくった思考をフル回転させていた。
やがて、弥生は顔を上げ、無言で由綺の手を掴み、大股で力強く歩き出した。
由綺は戸惑いながらも、ふにゃっとした笑顔を貼り付けて、引かれるままについてゆく。
ついたのは社長室。勢いよく開いたドアの先には、緒方プロダクション社長、緒方英二。
椅子にだらしなく腰掛ける英二に、弥生はつかつかと歩み寄る。
「少々、相談したいことがあるのですが」
「どうしたの弥生さん。恐い顔しちゃって。由綺ちゃんは楽しそうな顔だけど」
5秒後には、英二は難しい顔になっていた。
「マジで?」
「マジですか?」
今さら弥生が確認するのは、よほどショックが大きかった証拠だ。
「マジマジ」
由綺はにっこりとVサイン。頭を抱える二人を、脳天に疑問符を浮かべて眺め、すらすらと説明を並べ立てる。
「最近、生理が不順気味で、もしかしたらって思って妊娠検査キット使ってみたら、陽性ってでたんだけど、
でも冬弥くんをぬか喜びさせるのもどうかなって思ったから、
ちょっと恥ずかしかったけど、病院に行ってちゃんと検査してもらったの。
そうしたら、なんとびっくり、『おめでたです』って。妊娠三ヶ月」
やたら饒舌な由綺の後ろで、天使が景気良くファンファーレを鳴らしていた。
彼女にとって妊娠とは慶事以外の何事でもなく、冬弥ももちろん喜び、周りも祝福してくれると確信しきっている。
元からどこか天然でマイペース気味なところはあったが、極限まで浮かれるとこうも周りが目に入らなくなるとは、
長年つき合いのある弥生や、めったなことでは動じない英二ですら、そのギャップに大いに戸惑い、
そして疑いようもなくなってしまった妊娠という事実に困惑し、苦悩した。
一体、誰がこんな事態を引き起こしたのか……といえば、当然、由綺と、もう一人。
「お相手は、藤井さん……ですか?」
「やだぁ、弥生さん。当たり前じゃない」
弥生の胸中を露とも知らず、あっけらかんと由綺は返す。
膨れあがった怒りのオーラが弥生の髪をざわりと持ち上げる――ような気配を英二は感じた。
「避妊はなさらなかったのですか?」
由綺は、さすがにばつが悪そうに目を逸らし、
「あ、うん……ちょっと計算間違えちゃって、安全日だと思っていたんだけど……。
でも遅かれ早かれ、いずれは、って思っていたし。少し順番違っちゃったけど」
「このことは、藤井さんには?」
「今朝、病院に行ってきたばかりで、まだ会っていないから……。
でも、スケジュールのこととかあるから、とりあえず弥生さんに報告しとかなくっちゃって思って」
「それは幸いです」
「?」
弥生の瞳に暗い影が揺らめいた。
英二と額をつき合わせ、「今のうちに殺りましょう」と、小声で物騒なことを呟く。
目は限りなくマジだった。視線だけで冬弥を殺せそうなほどに。
「いや、落ち着け弥生さん。気持ちは分かるが、この際、殺ってもしょうがないから」
「しかし、殺らないままに放置しては、致命傷になります」
「だけどさぁ、いまさら青年を消してもどうにもならないぜ。由綺ちゃんが、おろせって言われておろすと思う?
青年が消えても、妊娠の事実が消えなければ同じだ。いや、かえってやっかいになる」
ちらりと弥生が振り返れば、由綺はお腹の子になにやら話しかけている。
一瞬、弥生の心がときめきかけるが、すぐに凍てつくような冷たい怒りが、それに取って代わる。
原石から発掘し、磨き上げてきた宝石を、一瞬にして砕かれ、踏みにじられたようなものだ。
マネージャーとしての公的な怒りもさることながら、私憤の部分はそれ以上に大きい。
この点、英二の方が、弥生よりはるかにビジネスライクで冷静だった。
たちまちの内に頭の中でスケジュールを組み替え、
どのようにすればもっとも効果的に、このスキャンダルを利用できるかを思案する。
「――これから先の予定は全部キャンセルだ。下手にすっぱ抜かれる前に、こっちから先手を打って発表しよう」
「ですが由綺さんは清純派アイドルです。急激な路線変更は従来のファンを失いかねません」
「あっ、ひょっとして、これって学生結婚になるのかな?」
「いやいや、だからこそさ。由綺ちゃんは天然でやっているところがある。
下手にこちらの型にはめて方向性を歪めるより、自然にあるがままを晒した方が、いい結果を生むだろう」
「電撃的に婚約発表して、さっさと結婚まですませるおつもりですか?」
「赤ちゃんを育てながら学校に通うのかぁ……いいかも。はるかや美咲さん、どんな顔するかな。ふふっ」
「ああ、そうだ。全国のお母さん方を味方に付けよう。仕事と育児の両立が社会問題として注目を集めている。
そこの所をつつけば、新しいファン層を開拓することも可能だ」
「――しかたありません。計算が合わないと騒がれるのも困りますので、婚約発表は本日の夕方。
挙式は来月頭の連休にしましょう。帝国ホテルなら懇意にしてますから、緊急でも確保できます。
ご両親には私から連絡を。適当に説き伏せておきましょう」
「やっぱり身につけるものは手作りの方がいいよね。美咲さんなら、編み物とか得意かなぁ?」
「よろしく頼むよ。俺は、その間におめでたキャンペーンの内容でも考えておく。
あと、合わせて新曲も作っておかなくっちゃなぁ……さすがにこの手のは畑違いだから、外注するか」
「子守歌でも作りますか?」
「ハネムーンは日本だと騒がしそうだし、海外の方がいいかなぁ。ヨーロッパなんか素敵だよね」
「弥生さん、それ皮肉? でもグッドアイディアだ。いただこう」
「では適当と思われる作曲家をリストアップしておきます。他になにか指示はありますか?」
「冬弥くんに、パパになりましたよって言ったら、びっくりするだろうなぁ。ふふっ」
「青年殴っておいて。俺も殴っとくから」
「かしこまりました」
苦悩と諦観をブレンドした顔で、今後の対策を立てる二人をよそに、
由綺はひたすら、くるくると浮かれまくっていた。
その日の午後、藤井冬弥はいつもの通りADのバイトに入り、会場のセッティングをしていた。
よほど急ぎの仕事らしく、質問を差し挟む余裕もないまま、冬弥は言われるままに配線を繋ぎ、マイクを並べる。
由綺が会場に姿を現して、初めて彼女に関係することなんだと気づいたほどだった。
じきに緊急記者会見が始まり――発表と同時に生じたどよめきが、会場を揺るがせる。
ざわめき乱れる会場の中でただ一人、冬弥だけが彫像のように固まっていた。
すでに婚約はすませたことになっていて、挙式からハネムーン、その間の芸能活動休止期間・再会時期に至るまで、
僅か半日で、一年先まで完璧に立てられたスケジュールが、英二の口から発表される。
その中には母親のイメージを強調したアルバム発売や、2時間ドラマの出演予定まで含まれており、
あまりに手際が良すぎて、妊娠という事実までが、緒方英二のプロデュースなのではと疑わせるほどだった。
戸惑う取材者たちをよそに、由綺は笑顔で質問に答えてゆく。
いつもは返事するまでに、少し考えたり戸惑ったりすることが多いのに、今日は別人のようにはきはきとしていた。
相手の名前は伏せられていたのに、うっかり「冬弥くん」などと発言し、さらに反響を呼んだりもした。
戸惑いと驚愕の内に、記者会見は終わり、この一大発表を記事にしようと、芸能記者たちが飛びだしてゆく。
やがて誰もいなくなったスタジオに、冬弥は一人取り残された。最初から最後まで、ずっと顎は外れっぱなしだ。
寝耳に水、どころの騒ぎではない。
一体、いつの間に自分を取り巻く運命が、こうも嵐のまっただ中に叩き込まれたのか。
不意に、ぽんと肩を叩かれ振り向くと、英二と弥生が立っていた。
「そういうことだから、よろしく」
「そういうことですから、よろしくお願いします」
そういうこと、と言われても、なにがなにやら分からない。
妊娠? マジ? それって俺の子? てゆーか結婚って聞いてないし。新婚旅行にヨーロッパって言われても、
俺、パスポート持ってないんですけど。などと雑多な思考がひたすら混乱を煽るばかりで。
「え、えーと、あの、すみません。俺、一言もこのことについて相談受けてないんですけど……」
英二が笑った。
弥生も微笑んだ。
左右からのボディーブローが完璧にタイミングを合わせて叩き込まれ、冬弥はその場に崩れ落ちた。
最期の最期で文字詰め込みすぎて行数超過した……(;´Д`)
>>248-253 「聞いてません」
でした。では、よろしくお願いします。
なぁに、良くあること。
でもないか。
∧||∧
( ⌒ ヽ
∪ ノ ブラン
∪∪
256 :
保守:04/05/18 02:01 ID:nViHxku5
そのトリップって共通トリップ?
【告知】
現在、葉鍵的 SS コンペスレでは投稿作品を募集しています。
今回のテーマは『相談』です。
投稿の締め切りは 5 月 21 日の午前 8:00 までとなっています。
思いつくネタがあればどんどん参加してみましょう。
その際に
>>3-5 のルール、FAQ に一度お目通しを。
また、次回のテーマは『えっちのある生活』で、開催時期は 6 月上旬になる予定です。
「三週間じゃ短すぎて書けない」「テーマが難しい」という方は、こちらの執筆に
力を注いでもらっても構いません。ただし、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
258 :
名無しさんだよもん:04/05/19 00:23 ID:FUm1JGRT
kokutage
3週間もあると思ってたのに、いつのまにかあと1日。あぅ。
念のため保守。
SS投下します。全48レス文です。ネタバレ要注意のCLANNADのSSです。
題名は『僕と君との協奏曲(コンツェルト)』です。
…雪。
一面、白い世界…。
雪に、世界は覆われていく。
白く、白く世界は閉じられていく。
風は冷たく、吐く息も白く霞んでいく。
今も、雪は留まることをしらない。
どこまでも、限りなく世界を埋め尽くしている。
「…あ」
俺の手を握り締めていた汐の手が力なく、落ちた。
「汐…っ!」
慌てて、崩れ落ちる汐の体を俺は抱き留める。
でも、俺は理解していた。
汐はもう、どこにも行くことが出来ないということを…。
胸の中、確かにあったはずの温もりが、今消えていこうとしていることを…。
最後まで、俺は父親らしいことが出来なかったことを…。
嫌と言うほど、目の前に突き付けられていた。
「ね、パパ…もうれっしゃのなか…?」
汐の声に涙が零れそうになる。
「ああ、もう列車の中だ…」
「…うん」
汐は、力なく微笑んだ。
俺は…雪の降り積もる中、何をしているんだろうか…。
どうして、俺には誰も救えないのだろうか…。
…無力だった。
二人で生きていくと決めたのに…。
あいつと交わした約束を思い出したのに…。
俺には…見ているしか出来ないのだ。
汐の命が失われていくのを…。
「パパ…」
「…何だ?」
「…だいすき…」
汐の言葉に、涙が溢れ出してしまう。
嬉しいはずなのに…。
大切な言葉だったのに…。
俺はろくに答えられないで頷くしか出来なかった。
「ああ、パパもだ…」
胸の中の温もりも消えていこうとしている。
弱っていく命の声に、俺は側にいるぞと汐の髪を撫でる。
もう、何も言わなくていいと思った。
このまま、汐の温もりを感じ続けることが今は大切だと思った。
「パパ、ありがとう…」
汐は、俺に笑い掛けてくれていた。
本当に、嬉しそうに目を細めて微笑んでいた。
「…うん、どうした?」
雪が、空を舞う。
雲の晴れ間から漏れる僅かな光を反射して、雪は輝いている。
「汐、パパに嫌われてもしかたないと思ってたから…」
「……え?」
白く光る雪が、汐を覆っていく。
「でも、パパに嫌われてなくてよかった…」
「馬鹿、俺が汐を嫌うなんて…!」
途端に、言葉が続けられなくなる。
(馬鹿なのは、俺の方じゃないか!)
…汐を不安にさせたのは、誰だ?
…五年間も無視していたのは、
…汐のことを見ない振りを続けていたのは、
一体、誰だ…!
(全部、渚の死を認めなくなかった…俺の弱い心のせいじゃないか…っ!)
でも、俺は…。
いや、俺たちは…。
誰に憚ることなく胸を張れるくらいの家族になれたと思うから…。
今、俺は言葉にすることが出来た。
「パパは、汐のこと大好きだぞっ!」
「…うん」
汐の顔は、嬉しそうに笑顔になる。
ああ、と俺は思った。
もしかして、俺たち家族は…今まで一度も好き≠ニいう言葉を使ってこなかったんじゃないのか…。
じゃあ、俺も汐と同じだった。
俺は、汐の側に居たいと思った。
汐も、俺の側に居ることを願ってくれた。
例え、嫌われているかも知れないという感情を持っていたとしても…。
『…側に居たい…』
五年間の空白は、限りなく重かったのだ。
俺は汐に負い目を感じていた。
汐も五年間も放置されたのだ…愛されてるとの自信を持てなかったのではないか…。
でも、汐を育てるのは罪滅ぼしのためじゃなかった。
…簡単だった。
…何度でも、言葉にしよう。
「パパは、汐のこと大好きだぞっ!」
同じ時間を、同じ場所で過ごしていきたかっただけだ…。
『パパ…だいすき…』
…それなのに。
汐がその言葉を使うのは今が初めてだと言うことが…。
物凄く寂しいことだと思った。
(ああ…おっさんは、恥ずかしいくらい好きだ、好きだ言ってたっけ…)
今、俺は痛感していた。
好きだ、と言うのに…恥ずかしいことなんて何も無いんだ、と…。
「パパは、汐のことはずっとずっと大好きだ!」
だって…。
「俺たちは、家族だろう? 親子だろう!? 俺は、ずっと汐の側にいるぞ」
「…うん」
静かに、汐は目を閉じた。
もう思い残すことは何もないとでも言うかのように…。
雪の中に、埋もれていく。
「汐、目を開けろ」
俺は、必死に声を掛けた。
「旅行に行くんだろ? 俺たちで楽しい旅行にするんだろ?」
「……」
「列車に乗って、風景を楽しんで、動物に触って、美味しいものを食べて…」
「……」
「最後に、あのお花畑に行くんだろ…!」
「……」
「なあ、汐」
「……」
「何か言ってくれよ、汐!」
「……」
「汐…」
「……」
「しお…」
「……」
汐は、俺の呼び掛けに応えようと目を開けた後…。
俺のために笑顔を零して…。
「パパ…汐のこと、生んでくれて…ありがとう…」
また力なく目を閉じた。
「しお――!」
雪はしんしんと降り続けていた。
時間も刻み続けていた。
温もりが消える。
確かにあったハズの温もりが感じられなくなる。
汐は、もう動くことはなかった。
俺がどんなに呼び掛けても返事はなかった。
このまま、終わるのだろうか…。
何もかも、消えてしまうのだろうか…。
「……」
不意に、目の前の風景が途絶えそうになった。
俺も限界なのか、意識を失い掛けたのだ。
でも、俺にはまだやらなくちゃならないことが残っていた。
このまま汐の命を、失わせたりはしない。
『ここの緑が、渚を包み込んだ気がした…』
俺は…何を、思い出しているのだろう。
もう、あそこには病院が建っているじゃないか。
緑は、無くなったじゃないか。
『残してくれることになったよ…病院の隅に、ちょっとだけな』
いや、少し残っていた。
人工に植えられたものじゃない自然のものが…。
馬鹿なことを考えていると思う。
こんなの非現実だと思う。
だけど…。
「連れて行ってやるぞ、パパが、汐を…この町の願いの叶う場所に…」
俺にはもう…縋れるものがそれしかなかった。
山を迂回しなくては来ることの難しかったこの場所も、随分、交通の便が良くなっていた。
確かに、病院に訪れるのに疲れるのでは、話にならないだろう。
が、俺の歩いてきた道は森を切り開いて出来たものだった。
町は変わり続ける。良くも悪くも変化する。
認めたくはない。が、認めなくては前には進めないのも事実だった。
「汐、もう大丈夫だぞ…」
病院の隅の方に残った木を見つける。
庭木じゃない自然のままにある広葉樹だった。
俺は背中に負ぶった汐に声を掛ける。
「ここは、お母さんを救ってくれた場所なんだぞ…」
「……」
しかし返事は無かった。
俺は、ぐっと堪えてまた呼び掛ける。
「汐は…お母さんの子だ…強かった、お母さんの子だろう…?」
涙を堪えて言葉を続ける。
「だから…ここで、汐は治るよ。またどこでも行ける…元気に駆け回れるようになる」
俺は縋るようにして木に触れて泣き付いた。
「…頼む、汐を生かしてくれ。
勝手な願いとは思う。人間は勝手なことばかりして来たと思う。
町を…自然を、食い物にして来たと思う。思うけど、俺はこの町を好きになれたんだ…。
渚が…汐が、俺をこの町のことを好きにさせてくれたんだ。
汐を助けてくれ…誰よりもこの町を好きだった、渚の子なんだ…もう一度、助けてくれよ…」
当然、何も起こらなかった。
汐は今も…目を閉じたままだった。
…救いなんて無かった。
…どこにもそんなもの有りはしないのだ。
「くそっ!」
…分かっていた。
人間に都合の良いことなんて起こしてはくれない。
奇跡なんて起こりはしないのだ。
馬鹿げていたのだ、町の想いに縋ること自体が…。
『すべてのものに感謝した』
『お前が今の話を信じるかどうかは自由だけどよ』
でも今も、俺は秋生さんの言葉を信じている。
『朋也、俺たちは家族だ』
『助け合っていくぞ』
…秋生さんが信じたものだ。
…俺も信じている。
町の想いを信じてみたいと俺は思う。
ここは、町の願いが届く場所だったから…。
だから…。
「俺は、どうなってもいい。汐を、助けてくれ。それが、俺の…俺たち、家族の…願いだ…」
…どうか、届いてくれ。
…この町の願いの叶う場所なら、どうか届いてくれ。
…俺の想いを届けさせてくれ、渚。
「……」
どこからか、声が聞こえてきた。
いや、声というよりは…。
…歌声だった。
「……♪」
世界は、とても優しい音色を奏でている。
雪のように降り注いでいる、光…。
何て美しいのだ、世界は…。
「…んご…だ、ご……ご……」
俺の背中からも歌声が聞こえてくる。
だから…。
俺も大声で一緒に歌うことにした。
「だんご、だんご、だんご…」
昔、懐かしい思い出の唄を…。
「……」
不意に、一際、強い南風が俺の体を薙いだ。
(どうしたんだろう…?)
俺の体が、ばらばらに吹き飛んでいく気がした。
まるでたんぽぽの綿毛のように、風に流される。
どうしてか、どうしようもないくらい眠くなる。
「……」
俺の意識はそこで途切れた。
「…うん?」
雪の中、死んだように目を閉じた少女が目を覚ました。
周囲を見回して、少女は言葉を放った。
「…パパ?」
多分、夢の続きでも見ているのだろう。
何かを求めるように、少女は虚空に手を差し出していた。
「パパ、どこ…?」
どうも、誰かを探しているらしい。
雪の中、隠れているものを見出すかのように手で掻き分けている。
僕には…何の意味があるのか、良く分からなかった。
「……あれ?」
数分後…。
雪に埋もれていた僕に気付いたのか、少女は目を丸くする。
「…パパのロボット?」
少女は不思議そうな顔をして、僕を手に取った。
「無くしたのに…どうして、ここにあるのかな…?」
そんなの、僕は知らない。
ただ、僕はずっと少女の側に居ようと誓ったのだ…。
だから、きっと…。
僕は今も…少女の側にいるんだ。
〜 ある町の物語 〜
―― C L A N N A D ――
蝉の声は夏の訪れを示すものだった。
冷たい冬の日が懐かしいほどに、今、町は夏の陽射しに容赦なく晒されている。
「くわぁ、今日も暑いぜ」
目つき凶悪の男の人が気だるそうに、煙草の煙を吐き出した。
「早苗。飯はまだかー!」
「もうすぐですよ」
優しく諭す声が台所から聞こえる。
「おう。早くしてくれ」
「はい」
男は、少女に視線を移して、にやり、と悪戯っぽく笑った。
「汐、腹空いてるだろ? パンでも食うか?」
「…どのパン?」
「早苗のミラクルレインボーパン」
「……」
「お前に、ミラクルレインボー」
「…いらない」
「け、相変わらず護身に長けてるやんな。もう遊んでやらねーぞ」
「いいもん。パパと遊ぶから」
少女はそう言って、ぎぎぎ、と僕の手足を動かした。
「…パパね」
いかにも胡散臭い顔をして、男が僕を見てくる。
「……」
目が合う。とても凶悪な面構えをしていた。
「はん、このロボットがあのヘタレ野郎とは、お似合いすぎて反吐が出るぜ」
「…いや」
「あん…?」
「…パパのわるくちは、いや」
「おい、汐…ンな顔すんなよ」
「…秋生さん」
朝食をトレーで運んで来た、可愛らしいお姉さんが嗜めるように言う。
「わたしも朋也さんのことを変に言うのは、反対です」
「しかしだな、早苗。病気がちの娘を置いて蒸発する男のどこに、庇う余地があるんだ?」
「朋也さんは、絶対に帰って来ます」
「根拠もねーくせに、よく信じられるぜ…」
「…さなえさん、パパここ」
少女は、僕の体をお姉さんに見せ付けた。
「はいはい、そうでした。朋也さんも朝食…食べますか?」
そんなの、食べられない。
「ぐははは、所詮はロボットか。食えねーだろ、早苗の料理は最高なのにな。ぐははは、俺は食いまくるぜ!」
がつがつ、と男は御飯を掻き込んでいる。
「いただきます」
「はい、頂きましょうね」
…そして。
朝食を終えると幼稚園に行く時間になった。
少女は、僕の体を鞄に詰め始める。
「行ってくるね、あっきー」
「今日もホームラン飛ばしてこいよ」
「うん」
夏の日差しきつい町中を少女は駆けていく。
「じゃあ、秋生さん。暫くお店の方、お願いします」
「おう、愛してるぜ、早苗」
「わたしも愛してますよ、秋生さん」
どうして成立しているのか分からない会話を後に、僕は幼稚園に連れられて行った。
「ついたー」
園内はすでに数多くの子供たちを迎えているのだろう。
門の前まで喧騒が聞こえてきた。
「おはようございます、先生」
髪に装飾を付けた女の先生に、お姉さんは会釈した。
「おはようございます、早苗さん」
「おはようございます、せんせぇ」
「汐ちゃんも元気そうね」
「うん、げんき」
「でも、汐ちゃん。玩具を持ってくるのは関心しないな。いつも駄目って言ってるでしょう?」
少し厳しい目になって女の先生は僕を見てくる。
背中がぞくぞく、とした。
どういうわけか僕は、初めて会った時からこの女の先生のことが苦手だった。
「…パパだもん」
「あはははは、いつ聞いても笑うわね。あの朋也が、このロボットなんだもん。本人が聞いたら何て言うかしら?」
「パパのわるくちは、いや…」
「…え? あれ…?」
「パパはいつも汐を見守ってくれるってやくそくしたの…」
「ご、ごめんね、汐ちゃん」
寂しそうに呟く少女に、女の先生は慌てて繕おうとしている。
「申し訳ありません、藤林先生」
お姉さんが、ぺこり、と頭を下げて謝罪した。
「でも、もう少しだけ…汐の好きにさせてくれませんか?」
「はい、分かっていますよ、早苗さん。園長先生には、またあたしからお願いしておきますね」
「ありがとうございます」
もう一度、頭を低くして感謝の言葉をお姉さんは述べた。
「さあ、行こうか。汐ちゃん」
「うん」
少女は元気良く園内に駆けていった。
「なべー」
大勢の人達に囲まれて少女は笑っている。
僕は、それだけで十分だった。
「これが、お前のお父さん? あはは、変なの!」
今はそうでもないけど…。
春頃は、僕のことで少女は凄く男の子に意地悪されていた。
「かえして、パパをかえして」
「なんでぃ、こんなボロッチィの。こうしてやるよ」
僕は床に叩きつけられて、踏まれたりした。
返して返して、と言う少女の手に渡らないように、たくさんの男の子の手から手に回されもした。
砂場の中に埋められて、隠されたこともあった。
でもその度に、あの女の先生が駆け付けてくれて、少女の味方になってくれた。
僕はとても感謝したものだ。
「皆、お昼寝の時間よー!」
昼食の後に、休息の時間が設けられていた。
パンパンと手を叩いて先生たちが児童に呼び掛けている。
布団を敷き始めている横で、子供達はパジャマに着替えて出していた。
「ねえ、汐ちゃん、隣で寝ていい?」
「うん、いいよ」
二人の女の子の言葉に、少女は頷く。
もう…あの頃とは違う。
今、少女の周りには、数え切れないほどの友人がいるのだ。
少女は、とても人気ものだった。
僕は、誇らしかった。
「……ぐう〜」
寝息が休息所に漏れていた。
騒がしかった園内も今だけは束の間の安息を手に入れる。
「……」
部屋の隅にある机に置かれた僕は、少女の寝顔を見ていた。
胸が温かいものに満たされる。
僕は今、幸せだった。
「…子供達を寝かし付けるのは、ひと苦労ね」
部屋に入って来たのは…。
少女の面倒を見てくれている、髪の長い女の先生だった。
何だか、僕の前まで深刻な面持ちでやって来る。
どうしたんだろう、と僕は思った。
「ねえ…ちょっと付き合って貰うわよ」
園内の休憩室に、僕は連れて行かれる。
「この時間なら、誰も来ないか」
ふう、と息を付く先生。
「これが、汐ちゃんのパパか。まあ、自分でもあほらしいとは思うけど、いいか…」
女の先生の目が、険しくなる。
「朋也! あんた、どこ行ってんのよ! 汐ちゃんを置き去りにして、どこでノウノウと暮らしてるの…!」
突然の怒声に、僕は目を丸くした。
「どっかで女でも作ってるの!? だったら、あたし絶対にあんたを許さないからね!
こんなロボットを父親代わりにしてる汐ちゃんを見て、どういう気持ちになるか、分かる?
こっちまで胸が苦しくなるのよ、ねえ! どうして、どうして汐ちゃんを捨てたの…見捨てられるの?
辛いことがあったのは、分かる。逃げ出したくなる気持ちも…分かる。けど、けどね…。
あんたは絶対に、そんなことしない奴だとも思ってた。
でもね、今の汐ちゃん見てたら、あたし…あたし、不憫で堪らないわよ!」
ぐさっと、僕の胸に何か刺さった。
でも、胸は痛かったけど、僕の身体には何の変化もなかった。
僕の体は、どこも壊れてない。
だから…。
この痛みは気のせいだと思った。
「…ねえ、何か理由あるんでしょう? あたしには分からないかも知れないけど、理由あるんでしょう?
辛くなったんなら、少しくらいあたしが逃げ場所になってあげたのに…。
どうして、相談してくれなかったの? 昔、あの学園生活じゃあ、あたしなんてただの暴力女だったかもしれないけど…。
それは、それは…あんたのこと……好きだったから、素じゃあ話せなかっただけなんだからね…」
ぽとり、と落ちるものがあった。
女の先生の瞳から水が滴り落ちている。
…何だっただろう?
僕は、この水滴の呼び方を知っていたはずなのに…。
これは、とても尊いもののような気がするのに…。
「朋也、殴ってあげるから…早く帰ってきなさいよ……!」
どうしても、僕には思い出せなかった。
「今日もありがとうございました、先生」
「いえ、汐ちゃんは良い子だし手間が掛からなくて物足りないくらいですよ」
お姉さんの言葉に、相の手を打っている。
「さようなら、せんせぇ」
「うん、さようなら、汐ちゃん。あとパパ、今日はごめんね。少し脆かったみたい、あたし」
「……?」
「ああ、いいの、いいの、こっちのことだから」
…この言葉を理解できるのは僕だけだった。
あれから、女の先生はずっと水滴を落とし続けていた。
目が真っ赤に腫れるくらいに…。
でも…。
今はそんなことは微塵も感じさせないほど、女の先生は笑っている。
それは、とても凄いことなんじゃないかと僕は思った。
「さようなら、汐ちゃん。また、明日ね」
「うん」
昼下がりの午後、僕は少女と一緒に帰路に着いた。
278 :
間奏:04/05/21 01:51 ID:o5DPOqM2
時季、夏休みに突入した。
日は長く、時間の流れも穏やかで、僕はいつも少女の側にいることが出来た。
「…えへへ」
僕の手足を動かし、嬉しそうに微笑んでいる。
このまま、少女の笑顔を見ていたい。
楽しい時間は、今、ここにある。
ギィ、ガシャ、ギィ、ギャシャ、ギィ、キシャーーーーーーーーー!
「お、いい音出してんじゃねーか、このポンコツ」
「…ポンコツじゃないもん」
「まあ、それはそれとして、どうだ? 俺の、秋生専用ザクと戦わせてみるか?」
「…ザク?」
「ああ、俺専用のだ。角が三本あるところなんか、渋いだろ」
「…パパのかち」
「ち、この造形美の素晴らしさはガキには分かんねーか」
「…でも、パパの次にはかっこいい」
「ありがとよ。で、どうよ? せっかくの夏休みだし、行きたいとこあるか?」
「…りょこう?」
「ああ、旅行だ。今回は、特別に汐の行きたいところで構わねーぜ」
「…お家にいたい」
「…は?」
「パパといっしょにいたいから…」
「ち、好きにしろ。だがな、汐、俺を甘く見ない方がいいぜ?」
キラン、と男の目が光る。
「早苗、バーベキューセットと子供用プールとウォーターガンの準備だっ!」
「……」
「ハデに行くぜ!」
この日、とんでもないくらい家は水浸しになった。
時間は過ぎるものだった。
夏の暑さはどこかに消えて、町の大気は秋を迎える準備を始めている。
眼を見張るほど紅葉の美しい季節だった。
「秋に生きると書いて、秋生だ。俺に、相応しい季節だぜ」
「きせつだぜ」
「ついでに、スポーツの秋だ。野球にはもってこいの季節だぜ」
「きせつだぜ」
男の後に、少女も目を険しくして続ける。
「……」
…もし、男のように少女の目付きが悪くなったら、どうしよう?
かつて無いほどに由々しき事態だった。
「みてみて、あっきーっ」
途端に、少女は片足をぐいっとあげる。
両手を拳にして重ね合わせてバットを持つ構えを取った。
「さだはる」
「よっしゃー、汐、今日からてめーは、栄えある古河ベイカーズの背番号一だ!」
「おー」
片手を意気揚々と挙げる、少女。
…あまり変なことを教えてほしくなかった。
「秋生さん」
店の方にいたはずの、お姉さんが公園に歩いてくる。
「げ、早苗…」
「家の方に、お客さまが来てるんですよ、秋生さんも会ってあげてください。それに、汐ちゃんも」
「許してくれ、早苗。トリプルレインボーパンは駄目だ…アレは、ヤバすぎるぞ、店頭には並べられん……って、客?」
店、ではなく、家とお姉さんは言った。
この場合は、パンを買うお客様とは別の、普通の来客を意味していた。
因みに件のパンは、初代レインボー、ネオ、ミラクルの味を一度に吟味できる殺人パンのことだった。
「は、そっか…単なる客か、良かったぜ…」
「……秋生さん」
「な、早苗、いつからそこに?」
じわり、とお姉さんの瞳が潤んでいく。
「わたしの、トリプルレインボーパンは…所詮、三色パンの二番煎じだったんですねっ」
誰もそんなこと言ってなかった。
「くそ」
通りに駆けていくお姉さんを見て、男はすぐ店に戻り、件のパンを口に放り込む。
「俺は、大好――」
が、言葉は続かなかった。
叫ぼうとしてパンを租借してしまったのだろう、男は道端に倒れて、泡を吹いている。
…威力も三倍の、恐ろしい殺戮パンになっていた。
「…どうした、主人。こんなところで、寝ていると車に轢かれるぞ?」
店の方から、弱り顔の女の人が出て来る。
この人が、お姉さんの言っていた、お客様だろう。
でも、僕は少し気後れしてしまう。
変人の集う場所とでもいうのか、この家には普通の来客がまず無いからだ。
この間は、とても大変な目にあった。
「YO! YO! アタイ、風子。ナイフ持たせりゃ、一流っぽい彫刻家。手足の付いてる奴は、大体、友達。
…友達? このロボット生意気にも手足付いてますね…でも、風子の趣味じゃないです。ナイフで切り落としましょう」
思い出しただけでも、体が震える。
「主人、聞こえているか…?」
泡を吹いて地面に倒れている人に向かって、聞こえているも何もないとは思うのだけど…。
他の来客同様、この人も変わり者なのだろうか…。
「お、お前に…トリプルレインボー」
「いや、訳が分からんのだが」
困ったように、女の人は周囲を見回し、そして…。
「…もしや」
「……?」
少女の方を見て、懐かしそうに女の人が目を細めた。
「そうか、お前が…岡崎の。ほう、どちらかと言うと、父親似だな、面影がある…」
「…だれ?」
「いや、これは失礼だったな。私は、坂上智代。お前の、両親の友人だ」
「……」
良く分からない、という風に少女は首を傾げるが…。
「…岡崎汐、です」
礼儀正しく、名前を言う。
「うしお、か。ああ…この響き、良い名前を送って貰ったな、うしお」
「…うん」
女の人の目がとても優しく、少女を見つめていた。
美しい手で、少女の頭を撫でている。
「……えへへ」
少女の笑顔を見て、僕は思う。
この女の人は、信頼してもいい人なのだ、と…。
「…久し振りだな、渚」
少女の母親の遺影の前で女の人は恭しく手を合わせる。
数分の黙祷の後、
「…でも不思議だ、私は涙を流せないでいる。本当、どうしてだろうな…」
訃報を知ったのは、もう随分と前のことだろうに、女の人はそのことで悔いているようだった。
「…智代さんは今まで東京の大学にいらしてたんですよね?」
気を使う、というつもりはなかったのだろうが、お姉さんが言葉を掛ける。
「はい、いろいろ勉強したいことがありましたし、自分の目標(ゆめ)を叶えるためにも…必要でしたから」
女の人は、そこで目を閉じた。
「七年間、我武者羅に頑張って来ました…」
「それは、素晴らしいことですね」
「ありがとうございます」
誇らしいことだ、と女の人も胸を張ってみせた。
「夢か…そういうの好きだぜ、俺は」
パンの後遺症から復活したのか赤髪の男も、家の居間に座っていた。
悪戯っ子のように、にやり、と笑っている。
「ああ、渚の父親にそう言って貰えるなら、光栄だ」
「…で、誰だったけ、お前?」
「いきなり、失礼な奴になったな…」
呆れた目付きで、女の人は言った。
「もう、秋生さん。智代さんは、渚の卒業式の時に駆けつけてくれたじゃないですか…」
「…ああ、そうだったか。すまん」
「智代さん、遅れてしまいましたが…当時は、本当にありがとうございました。渚も、とても喜んだと思います」
「…いえ、私なんかは」
どうしてか、女の人は辛そうに顔を下に向ける。
言おうかどうか迷ったのだろう、暫しの間を置いてから女の人は続けた。
「私は、あいつの友人だったのだろうか…」
「…え?」
「実は、岡崎に相談されたことがある。渚を頼む、と。
いや、別に岡崎は、渚の友人になれとか、面倒看てやれとか、言ったわけじゃない。
ただ…渚は、病弱だったから、無理をしそうになったら、止めてやってくれ、と。
本当に、それだけでいいから、頼む、と。そう、岡崎に言われた…」
「ちっ、もっとマシなこと言えねーのかよ、あいつは」
悪態を付く赤髪だったが、目はしょーがねぇ奴だ≠ニでも言うかのように透き通っていた。
そのことが、どうしてか…僕には、嬉しかった。
「…そうだな。当時の私もそう思ったものだ。
渚は、とても良い子だ。言われなくても、私は友人になるつもりだった。
いや、本当に友人になるつもり≠セったのだから、嫌になる。
渚の体が弱いことは、休みがちだったことで、私もそれとなく気付いていた。
当時は、生徒会の任期も切れたことだし誰に憚ることなく、私は…渚の友人であろうとしたものだ。
親しい友人になろう、そのために、そうだな…。
私は出来る限り、渚の面倒を看ようと思った。
渚は体が弱い…だから、私はそうすることが最良だと信じて疑わなかった。
…自分では分からなかったが、当時の私は過保護だったらしい。
傍目から見ても、無論、本人から見ても、な…。
渚に、こう言われた。
『わたしなんかのために、時間を割いてくれてありがとうございます。
でも、わたしはひとりでも頑張れるので、坂上さんの手を煩わせたりはしません。
悲しい日も時にはあるかもしれませんが、朋也くんとも約束しました。
もう、泣いたりはしません。どんなに辛くても、わたしは頑張って苦難を乗り越えて行きます、と。
だから、わたしは大丈夫なんですよ、えへへ』
何を言っているのだろう、と私は思った。
だから、私も言い返した。誤解だ、私は渚の友人になりたいだけなんだ、と。
…笑える話だ。
渚は、後をこう続けてくれた。
「智代さん…」
今にも泣き崩れそうな女の人の肩に、お姉さんの手が優しく乗せられる。
「ありがとうございます、智代さん。渚のことを、そして、朋也さんのことをそこまで想ってくれて…。
智代さんは、二人の掛け替えのない友達です。本当…渚も朋也さんも幸せものです」
「…ぐっ!」
吐露した感情は、限界にまで来ていたのか…。
目を潤ませている、女の人は…すぐに、滴という形でそれを示すことになった。
背中の温もりが、いつまでも女の人を優しく抱き留めていたから…。
「…世話になりました」
夕暮れの町に、幾つも影が伸びていた。
「おう、また来な。歓迎するぜ」
「はい、いつでも来てくださいね、今度は夕食を一緒に頂きましょう」
「ありがとうございます、でも今はまだ…」
言いよどんだが、
「いや、また来ます。近いうちに、必ず…」
神妙に、女の人は答えた。
「大げさな言い方じゃねーか。気楽に遊びに来たらいいんだよ」
「…いや、私には目標がある。これを叶えるまでは、易々とは訪れられない…」
「なに、夢のためか」
男の顔が、にやり、と緩む。
「だったら、仕方ねー」
「ああ、すまない。私は、その目標のために邁進したいと思う。それが、渚との約束に報いる方法でもあるだろう」
「素晴らしいですね、陰ながら…わたしも応援させてください」
「感謝する」
「ただな、夢ばかり見て歩くのも考えものだぜ」
いつになく真面目に、男はそう言葉を落とした。
「偶には、周りを見てみろ。お前はひとりじゃない、それが嫌つーほど分かるだろうからな」
「ああ、心得ている」
「ともちゃん、もうかえるの…?」
「しお…」
少女の言葉に、少しだけ顔を伏せる。
「今日はあまり遊ぶことが出来なかったが、私はまた来る。その時に、泥んこになるまで遊ぼう」
「…うん」
愛しそうに少女の頭を撫でて、
「この町を離れて、七年か…ふふっ、あいつらの子供が、こんなにも大きく育つのだ、涙腺のひとつも緩んで仕方ないか…」
感慨深そうに、遠くを見やる。
「七年か…じゃあ、大分、変わっただろう? この町も…」
「ああ、そうだな。至る所が様変わりしていて、驚いた。便利になるのは結構だが、些か急な変化という気もする…」
「け、丘の上の病院には、俺も感謝してるぜ。山は、今も削られ続けてるけどな…」
「…秋生さん」
「分かってるよ、どうしようもないってことは…」
「…ほう、そのことか。なら、安心しろ」
「…は?」
胸を張って答える女の人を、呆れたように男は見つめる。
「何か、物凄く失礼な顔をされている気がするが…」
「いや、実際そういう顔してんだよ」
「…そうか。では、ひとつヒントを教えてやろう、私は今月で二十五歳になる…どうだ、分かったか?」
「誕生日を祝えってか。任せとけ、ヒューヒュー! 智ぴょん、誕生日おめでとう!」
「何か、物凄く馬鹿にされている気がするが…」
「いや、実際馬鹿にしてんだけどな」
「やれやれ、誰かさんを思い出す反応をしてくれるな。まあ、いい。答えてやろう…私は今月、被選挙権を得るということだ」
「だから、どうした…?」
「鈍い奴だな、つまり私は、この町を守るため市長に立候補すると言ってるんだ」
「なにっ!」
「それは、凄いですね」
男の反応に満足したのか、女の人は何度も頷いている。
「この町の開発事業を調べたところ、面白いことが分かってな。当選すれば、かなりのところまで突っ込めると思う」
「…この町の自然は?」
「自然も…町も人も、私が責任を持って守ろう。私の始まりは、もともとそこからだったからな」
「早苗ーーーーー!」
「はい」
「今日は、ハデに行くぜ!」
「はい」
「智代!」
「…何だ? やぶからぼうに」
「今日は泊まって行け、前祝いやろうぜっ!」
女の人の首根っこを捕まえて、男は家の中に戻ろうとする。
「ま、待て。家に帰らせろ。それに、まだ当選すると決まった訳ではないぞ」
「汐」
「…うん?」
「お姉ちゃんと一緒にいたいか?」
「…うん!」
少女は、満面の笑みで答えた。
「どうだ、お姉ちゃん?」
「く、卑怯な。…分かった、一晩だけだぞ」
「ヒューヒュー、話せるな、智ぴょんは」
「馬鹿もの、智ぴょんとか呼ぶなっ!」
この日、僕はハメを外して嬉しそうにはしゃぐ男の顔を初めて見た気がした。
『いえ、坂上さんは友達ですっ! あ、いえ…坂上さんがわたしなんかで良かったら何ですけど……。
少なくても、わたしは坂上さんのこと好きです。物凄く尊敬しています。
でも、今のわたしでは駄目なんです。これでは、坂上さんの側で楽をしているだけなんだと思うんです…』
そして…どうして駄目なのか、私は訊いた。
…そう、訊いてしまった。何を言われても引く気はなかったのに、これで私は駄目になった。
渚の口から、斯様なことを言わせたことも、かなりのダメージになったぞ。
『坂上さん、朋也くんのこと好きですか?
あ…ごめんなさい、わたし嫌な子です、こんなこと訊くなんて…。
でも、わたしは…。
わたしは…朋也くんのことを好きでいる人に、わたしなんかのことで面倒を掛けてしまうのは…。
とても、酷いことなんだと思うんです。
それに、まだまだ道は続いている。目指すべき場所があるのならそのために邁進しよう。
そう、坂上さんとも約束しました。
だから、坂上さん…。
もう少し、わたしを見守っていてくださらないでしょうか?
至らない点ばかり目立つ、わたしですが…。
人並みの生活を送れるように、わたしは自分の力で頑張りたいと思うんです…』
どうして、気付かなかったのだろうな…。
…私は、馬鹿だった。いや、気付いていたのに、見えなくなっていたのかもしれない…。
ああ、岡崎の言う通りだ。
面倒を看る、とはなんて驕りだったのか…。
渚は、こんにも強い子だったんだ…。
それなのに私は、渚のことを弱い子と見てたから、ああいった対応をしてたんだ…。
…本当に馬鹿だった。
私は、ただ…渚に頼られた時にだけ、彼女の手伝いをしてたら良かったんだ…。
そうやって、学園生活を送っていれば良かったんだ…。
でも、もう…駄目だった。
こんな私では、渚の側に居ることは出来なくなっていた…」
或る休日の、午後…。
「お、今日の昼飯は炒飯と餃子か、いいね…!」
店も暇になる時間帯だったのか、男のズボンの裾が僅かに砂で汚れていた。
また、野球をしていたらしい。
「胡椒は任意ですよ、秋生さん」
「分かってるよ、俺の舌の領域まで高められた炒飯を素人が喰ったら、ただじゃすまねーぜ」
さささ、と自分の取り分に山になるほどの胡椒を掛けていく。
つくづく、何者なのだろう、この男は…。
「…あっきー、すごい」
「お、汐も掛けてみるか?」
「…ちょうせん」
「よし、古河ベーカリー特性胡椒だ、くれぐれも分量には気ぃつけな」
「…わかった」
じゃあ、胡椒のラベルに味の素のシールが貼ってあるのは、一体どうしてだろう…。
『……と、言う訳で、ここが一ノ瀬博士のご自宅です』
「…ん?」
居間で付けられていたテレビに、男は興味を示した。
「あん? ここ近所じゃねーか?」
「…みたいですね」
お姉さんも、相槌を打った。
二人して、テレビに注目する。
「…くちゅん」
その隣では、少女がくしゃみをしていた。
どうやら、胡椒を掛け過ぎたらしい。
『視聴者の皆さんの中には、一ノ瀬博士の両親の事故のことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません』
「これ、生放送か?」
「さあ、どうなんでしょうね…?」
「ち、生ならピース小僧の真似事をしにいったものの…」
「残念でしたね」
「…くちゅん」
笑い事じゃないと思うのは、僕だけなのだろうか…。
とても呑気な家だった。
『しかし、今は亡き両親の研究を引き継ぐという目的のもと、一ノ瀬博士は様々な苦難を乗り越えていったのです』
「両親の夢を引き継ぐか…かあ、いいね」
「立派ですね」
「…くちゅん」
程なくして、件の博士の家がテレビに映された。
…物凄く、庭が荒れていた。
少し、不思議に思う。
この風景を、僕は知っているような気がするのだ…。
(でも…)
…多分、気のせいだろう。
この博士は、何年も外国の大学に留学していた、とあったし、庭が荒れているのは、当然のことかもしれない。
『そして、先日、学会で発表した論文が認められ、博士号を得た一ノ瀬博士は日本に帰国したんですよ』
と、レポーターは捲くし立てて、シーンが切り替わる。
今、テレビに映っている白衣の女の人が、一ノ瀬博士なのだろうが…。
どうも、こちらは録画のようだった。
『…世界は、美しいの』
この言葉を皮切りに、『世界は音色を奏でる』という論文が彼女の口から説明される。
『私達の世界は、無限に連続している世界のひとつの可能性なの。
観測者の存在する世界、これを現実世界というの。でも、世界はひとつじゃなかったの。
世界は、たくさんの美しい調べを奏でているの。
私の世界にはない別の可能性、もしかしたら…私の両親が存在している世界もあるかもしれないの…。
また別の、私が…今の私ではなくて、留学とかが関係なく普通の学生で在り続けた…。
そう、あの坂道をひとりじゃあなく、二人で歩いている世界もあったのかもしれないの…』
あの坂道、これは彼女の思い出から出た言葉なのか…。
司会者も、詳しく聞いたりはしなかった。
『これは、別の可能性。別の世界…。
つまり、同じ時間軸に存在している世界、平行世界の可能性を示しているの。
でも、勘違いはいけないの…。
今話したことは、あくまで可能性の話になるの…。
現在…今の現実に至るまでにあった選択肢のひとつでも違えることが出来るなら、平行世界はそこにあるけど…。
現実世界は、目の前にあるここしかないの…。無いものねだりは出来ないの…。
だから、無限に存在しているはずの平行世界も、現実世界を(b)と置くなら、平行している世界はすべて(b')になるの…。
平行世界に、二つ三つの概念は無いことになるの…。可能性のもとに、すべては同等になるの…。
現実世界は、ここにあるから…。どんな可能性も選択肢も、結果の前では無意味なの…。
今ある世界から、別の世界に行くことなんて魔法でも使わない限り叶わないの…。
現実を見定め、他の世界の可能性に想い馳せることしか出来ないの…。
でもでも、肝心なのはここからなの。
可能性として存在しているだけだった、平行世界を観測する方法は確かにあるの…。
ひとつの世界には、ひとつの願いしか叶わないかもしれないけど…。
ひとつ、またひとつの世界の願いが、琴の調べのように重なり合い、奏で合い、美しい音色になることもあるはずなの…。
時間も空間も、唯一、超えられるもの…。人の願い、想い…誰かを大切に思う、心…。
ひとつの調べが届き、また別の世界のひとつの調べが届き、
やがては、すべての想いが届き奏でる場所…これを、私は…幻想世界(a)と名付けることにしたの…。
この世界は、すべての世界の影となる存在…つまりは――』
「古河さん、会計お願いしますー!」
店の方から、声が聞こえる。
常連客だろう、パンを選んでから店員を呼ぶのは手馴れている証拠だった。
「ち、せっかくの家族団欒を邪魔しやがって…もう少し、待ってりゃあいいのに」
「…秋生さん」
「ぐ、分かってる。ちょっくら、行ってくるぜ」
「はい、じゃあわたしもお供しますね」
「よし、二人で接客するか」
「ええ、そうしましょう」
結局、この二人は彼女の論文に対してそれほどの興味は持てないようだった。
現実をしっかりと見ている、そういうことだろうか…。
…いや、僕もそうなんだけど。
どうしてか、幻想世界という言葉が頭から消えてくれなかった。
「…くちゅん」
「汐、まだ炒飯食ってたのか? ああ、胡椒の掛けすぎだな、こりゃ。店のことはいい、早苗、汐のことを任せる」
「はい。じゃあ、秋生さんは店の方をお願いしますね」
「おう、愛してるぜ」
お姉さんは、少女の口元を濡れタオルで拭う。
「…くちゅん」
「…? 鼻から入ったんでしょうか…?」
「…くちゅん」
「汐…?」
お姉さんが、少女の顔を覗き込んでいた。
そして…。
「…顔、熱っぽくないですか?」
これからの運命を決める一言を、呟いた。
「……」
この日々は、幸せだった。
時間が過ぎるのも忘れてしまうほどに、幸せだった。
だから、僕は…すっかり忘れていた。
もうすぐ、秋は終わるのだ。
そして、この後に訪れる季節は…。
「…くちゅん」
ただ、悲しくて冷たい冬だということを…。
僕は、ようやく思い出していた。
呆気なかった。
楽しい時間は何の前触れもなく消えてしまった。
一ヵ月、二ヵ月、時間だけが過ぎていく。
病状の変化は何もなかった。
良くなる気配も一向にないということだったが…。
…体力勝負では少女の先は見えていた。
誰もが分かっていた。が、誰も明確には言葉にしなかった。
今の小康状態が崩れた時、病状は良化するのか…。
もしくは…。
「…汐」
部屋ではお姉さんがひとり少女を看病していた。
床に伏せる少女を見ているのが辛いのだろう、瞳が潤んでいる。
どれだけ傷心なのか、僕には到底分かないと思った。
「…早苗」
男の声にはいつもの覇気がなかった。
部屋の前で煙草を消して続ける。
「少しは寝ろよ。お前の方が先に参っちまうぞ?」
「…わたしのことは良いんです」
真っ直ぐに少女を見詰めたまま、答える。
男の声音が高まった。
「馬鹿言うんじゃねーよ…俺に、任せとけよ」
「でも、秋生さんこそ寝てません」
今、店のことを男に任せっきりになっている事を言っているのだろう。
男の頬は、見るからに痩せていた。
「俺は、男だ。別に少しくらいの無理はしても構わないんだよ」
「…秋生さん」
首を振って、
「悲しいこと言わないでください…」
悲痛に訴えてくる言葉に、男は顔を伏せるしかなかった。
「…ち、どうすりゃいいんだ」
疲れは互いに隠せないところまで来ていた。
この終わりの見えない看病の日々は、確実に体力を削っていく。
二人の心も疲弊させていく。
限界は、もう当の昔に越えていたのかもしれない。
「パパ…パパ…」
熱にうなされている少女の声に、お姉さんは敏感に反応した。
「汐…パパさんは、ここですよ」
いつも通りに、僕の体を少女に持たせようとする。
だが、今日は違った。
「止めろ、早苗!」
「…え?」
男が僕の体を乱暴に掴んで、部屋の壁に投げ付けた。
「秋生さん! 何をするんですか?」
…本当に何をするんだ。
僕を、少女の側に居させてほしい。
引き離さないでほしい。
(僕は…)
もう遠い昔に少女の側を離れないと誓っていたから…。
でも、男は僕のココロを砕く言葉を吐いた。
「早苗も分かってるだろう? このガラクタが単なる玩具ならこんなことしねーよ。
でも、汐はこんなガラクタをパパなんて呼んでるんだ…!
駄目だろう…ガラクタに縋るなんてな! 汐の父親は、朋也ひとりなんだ…。
…渚が愛した、朋也ひとりだけなんだよっ!」
ああ、何てことを言うのだ、この男は…。
僕は、言葉を無くしてしまった。
「……」
否定の言葉を僕は欲していたのに…。
もう…お姉さんも何も言えなくなっていた。
後は、少女の額のタオルを取り替える作業が続くだけだった。
間隔を短く取り替える上に…氷を浮かんだ冷たい水のせいか、お姉さんの手は酷く荒れている。
男が見るに見兼ねて変わろうとする。が…。
「…秋生さん」
この声に、男の行為は止められる。
「わたし…どうしたらいいですか?」
「…うん?」
自身を卑下した物言いに男の眉根は潜まった。
「…わたしは、何も出来ませんでした。
病気に苦しんでいる渚を見ても、わたしに出来ることはありませんでした。
でも、秋生さんは違いました。
泣くしか出来ないわたしを背にして町に飛び出しました。
闇雲に、町を駆けていました。
…渚を助けてくれたのは、秋生さんでした。
でも、わたしは良かったんです。素直に、喜びました。
秋生さんの妻でいることを、誇りに感じました」
「…じゃあ良いじゃねーか。昔のことを蒸し返してどうなるものでもねぇからな…」
微かに、お姉さんは首を横に振っていた。
「もう、夢を見ることは終わりました。
…いえ、正確には変わりました。わたしの夢は…渚になりました。
あれから、渚の幸せだけを考えました。
今でも、わたしは思います。朋也さんに出会えて渚は幸せだった、と…。
胸を張って言えることが出来ます。渚は、世界一の幸せものでした、と…。
朋也さんになら、渚のすべてを任せられる。
そう…わたしは、思ったんです」
「俺も思った、朋也になら渚を任せられるってな。人を見る目はあるつもりだぜ、俺は。
少しでも渚を不幸にしそうな奴だったら、結婚なんてさせてねーよ」
ただ、男は真摯にお姉さんを見つめる。
お姉さんは儚く…微笑んでいた。
「でも、任せるとは…どういうことなんでしょうか…?
時々…わたしは、感じていたんです。
わたしは、渚の幸せのために朋也さんを不幸にしたんじゃないかな…。
わたしは、背負い続けなくちゃいけない重荷まで朋也さんに押し付けたんじゃないかな…。
本当に、わたしは…渚の母親なんでしょうか…?
もしかしたら…渚をひとりにしてした時、わたしは母親ではなくなっていたのかもしれません。
自分の夢にかまけて渚をひとりにした時、わたしは罪を犯していたのかもしれません。
…わたしの業のせいでしょうか。
どうして、渚は死んだのに…汐は苦しんでるのに、朋也さんは消えたのに……。
わたしは…どうして、わたしは…秋生さんの側でのうのうと暮らしていられるんでしょうか…?
不思議で…不思議で、堪りません」
「…違うぞ、早苗。
俺も、だ。俺も自分の夢のために、家族を犠牲にしていた。悪いのは、俺だ…。
渚を守れなかった俺なんだ…」
「…何も違いません。
…渚のお母さんは誰でもないわたしだったんです!
でも、朋也さんに押し付けました。
苦しみを…痛みを…悲しみを…すべてを朋也さんひとりに、押し付けました。
朋也さんに…わたしが重荷を背負わせました。
わたしは、ただ…。
朋也さんに…恨まれていないかと不安でした。
…でも今は、分かるんです。
だって…わたしが夏休みの旅行なんて企画しなければ…。
朋也さんは渚を失った同じ苦しみを味わわなくても済んだはずです。
…重荷を背負わせることもなかったはずです。
でも、わたしは…また、当事者であることを朋也さんに押し付けてしまいました。
朋也さんが居なくなったのは、わたしのせいなんです…」
力なく吐き出して自虐的に、笑う。
「これで、汐まで失ったら…わたし、生きていく自信がありません」
僕は…。
僕は、何をしてるんだろう…。
この体のまま、何をしているんだろう…。
何も出来ないのは僕じゃないか…。
無力な身体でいる僕じゃないか…。
「早苗、お前は馬鹿だ…」
男は、お姉さんを優しく抱き締めていた。
温もりのある人間にしか出来ないことだ。
僕はそう思った。
「わたし、馬鹿…ですか?」
「ああ、馬鹿だ」
「わたし…間違ってましたか?」
「ああ、間違ってる」
「…信じてもいいんですか、秋生さん?」
「ああ、俺を信じろ…早苗」
憑き物が落ちたように、
「…良かったです」
お姉さんは男の胸に顔を落とした。
「わたしは、間違っているんですね…」
声を潜めるように、お姉さんは涙を零していた。
(そう、あれは…涙だ)
忘れていた。
僕には流せないものだったから…。
男は優しくお姉さんの髪を撫でていた。
これも僕には出来ないことだった。
(…悲しい)
涙を流せないことが悲しいことなんて僕は知らなかった。
…何も知らなかった。
(でも今、僕は…)
すべての記憶を思い出していた。
「早苗…渚は感謝しているよ。朋也もお前のこと実の母親のように慕っていたぜ。
早苗がいるから少しここを離れているだけだ。頼られているんだ、朋也に。
図体ばかりでかい息子だけどよ…俺たちは家族だしな…少しくらいあいつのわがままに付き合ってやろうぜ。
後、断言しておいてやる。早苗がいたから、渚は幸せだった。
皆のお母さんだからな早苗は…汐も朋也も、お前なくして幸せにはなれないぜ。
もちろん、この俺も…」
男の胸の中、お姉さんは大きく頷いていた。
「…ありがとうございます、秋生さん」
「ああ、これからもよろしくな、早苗」
過去を振り返ることは終わった。
後は、前を見てこの現実に立ち向かう気力を持つことだ。
「……」
二人にはそれが出来ると僕は思った。
夜闇に降り注ぐ雪は綺麗だった。
僕は雪を怖いものと認識していたけど…。
現実に降る雪は幻想的に思えた。
「パパ…パパ…」
誰かを呼んでいる少女の声…。
深夜ということもあり連日の看病に疲れている二人は少女の声に気付かなかった。
僕だけに聞こえている。
「パパ…どこ? どこにいるの…?」
苦しそうに誰かを呼ぶ声…。
僕は…。
僕は、ただ…少女を見ていた。
「パパ…」
無意識だろうか…。
布団をどかし四つん這いで床に這い出て来た。
視点合わない少女の瞳…。
「パパ…!」
でも、真っ直ぐに僕の体を見つめている。
(…駄目だ)
僕は、パパじゃない。
君に、僕は何もしてあげられない。
「…えへへ」
苦しいだろうに、少女は微笑んでいる。
僕の体を小さな手に掴んでいる。
「……」
僕は側に居たかった。
少女の側、何も考えずに居るべきだった。
僕は、人形だったから。
何も少女に、出来ないのだから。
(ああ…)
僕は、心なんて持つんじゃなかったんだ。
そう、思い起こすんじゃなった。
(遠い昔…僕は、人間だったなんて…思い出したくなかった)
今、僕は多くのことを理解していた。
どうして、少女の側にいるのかさえも…。
『でも、今日は…』
『たいせつなものをなくしたから…悲しい…』
『パパ…』
僕は、『うん?』と答えていた。
少女よりも高い位置から…。
『もうがまんしなくていい…?』
『さなえさんが泣いてもいいのは…おトイレか…』
『パパの胸だって…』
でも、今の僕はパパなんていいものじゃない。
少女は、僕の胸で泣いたりは出来ない。
僕は、抱き締めてやることも出来ない。
「パパ…」
「……」
どうして、こうなってしまったんだろう?
…願いは届いたんじゃないのか?
…俺は、汐を守れたんじゃないのか?
どうして…。
俺は、こんな姿のまま汐の側にいるんだ…。
「けほ、けほ…」
汐が胸を押さえて咳き込んでいる。
俺は汐の苦しんでいる姿を見るしか出来なかった。
「パパ…」
でも、俺のことを汐はそう呼んでいる。
(…やめてくれ)
俺には何も出来ないんだ。
ガラクタの俺に汐を慰めてやることは叶わないんだ。
…パパじゃない!
…こんなの汐のパパじゃない!
(早苗さん起きてくれ! おっさんでもいい!)
汐が苦しんでいるんだ。
助けてくれ。
誰か。
汐を助けてくれ。
「……」
だが、想い虚しく汐は、倒れこんでしまう。
病院の隅に残った僅かな接点では願いは、叶わないのだろうか?
…届かないのだろうか?
(だったら…)
俺が願いの叶う場所まで届けてやる!
俺が汐を助けるんだ!
瞬間…。
俺の魂はガラクタ人形から抜け出していた。
(…え?)
空中に俺の意識は浮いていた。
汐が見える。
ガラクタ人形を掴んで話さない汐が見える。
俺は、汐の名前を呼び掛けようとした。
でも、俺の目の前に光が溢れている。
今、汐のために出来ることが何もないのなら俺は行くことにしよう。
唯一、俺が汐にしてやれることがそれだったから。
「パパ…!」
でも、俺を呼び掛ける声は確かに、すぐ後ろから聞こえていた。
「…パパ、行かないで!」
(汐…!?)
見えているのか、俺が…。
今は光でしかない、この俺が…。
(汐…)
俺は、絶対に帰ってくる。
お前を助けるために、俺は願いの叶う場所に直接、行ってくる。
(だから…)
「汐、いい子で待ってろよ」
「…やだ!」
「……」
「…パパいないとやだ!」
「大丈夫だ、汐はお母さんの子だ」
「……」
「あの…強かったお母さんの子なんだ…」
「……」
「早苗さんもいる。おっさんもいる。汐は、大丈夫だ」
「…やくそく」
「ん?」
「ぜったいに戻ってくるって…」
「ああ、約束だ…汐」
「…やくそく、だよ」
汐の差し出した小指に、俺も指を重ねる。
途端に、俺を包む光が弾けた。
「……」
光は眩しくてこここら何がどうなっているのか、全然分からなかった。
だが、すぐに光は離散して…どうなっているのか見えた。
目の前にあるのは坂道だった。
「……?」
一瞬、坂の頂上に誰かがいたような気がした。
見えた影は…。
渚だったかもしれないし…。
見も知らない光の少女だったのかもしれない…。
(でも、どちらにしろ…)
俺の向かう場所はひとつだった。
影の主と一緒に…。
さあ、行こう!
俺たちは、登り始める。
長い、長い坂道を。
303 :
汐:04/05/21 02:22 ID:o5DPOqM2
「はあ…」
正門まで二百メートルの所でわたしは息を吐き出した。
溜息じゃない。気合を入れるためだった。
ここからは坂道が続いている。
「……」
道は、今から三年間通うことになる学校に続くものだった。
気合も入ると言うもの。
目的があるなら尚更だった。
両端に咲く桜はとても綺麗に風の中、舞っている。
一度、わたしは目を閉じた。
(うん、大丈夫だ…)
目を閉じても鮮明に今の光景を思い出せる。
わたしは再び目を開ける。
「……え?」
今、坂道を登っている二人の男女が見えた…気がした。
でも、目を凝らしてもそんな二人はどこにもいない。
幻だったのだろうか…。
けど、どうしてか彼女の言った科白が、わたしの耳に残っていた。
誰かは知らないが、胸に響く声だった。
だから…。
わたしは、その問いに答えることにする。
元気良く胸を張って言える。
「この学校は、好きですか?」
「はい、多分…大好きになれると思います」
今はひとりだけど…。
明日は別の誰かと一緒に登れるように願って、わたしは歩み出す。
この桜の舞う、美しい坂道を。
「……」
声が聞こえた。
求めていた声だったのだろうか…。
俺は少しずつ目を覚ました。
「さあ、お連れしましょう。この町に、願いの叶う場所に…」
「……え?」
目の前にいたのは、髪を伸ばした美しい少女だった。
何故だろう。物凄く幻想的に見える。
「…今日は、お目覚めですね?」
呆気に取られている俺を、少女はくすりと笑う。
「…今日は?」
「はい、入学式の日に早速部室に着てみたら、貴方が寝ていました」
「…部室? ここ空き部屋だぞ?」
だからこそ俺は昼寝の場所に使っているのだが…。
「いえ、演劇の部室です」
「…え? いつから?」
「昨日からです。入学式の日に部の申請をしました」
「…で、演劇部か?」
「はい、そうです」
ああ、そっか。
今さっき俺が寝ている間に言ったのは、演劇の科白だったのか…。
少女の科白に、どきっとさせられるわけだ。
「悪かったな。知らなかったんだ。出て行くよ。演劇…まあ、頑張れよ」
「…出て行くんですか?」
「ああ、俺がいても練習の邪魔になるだけだろうし…」
「じゃあ、入部しません?」
「…誰か?」
「あなたが」
「どこに?」
「演劇部にです」
「…俺が?」
「はい」
「どうして?」
「実は…演劇部と言っても部員がまだ、わたしひとりだけなんです」
「……」
「演劇部の再建に、貴方の力が必要なんです」
「いや、会ったばかりなのに、旧知の仲のように言われても」
「じゃあ、相談に乗ってください」
「…え?」
「演劇部の部員、まだわたしひとりなんです。どうしたら、いいですか?」
「部員を集めたらいいんじゃないのか?」
「はい、そうですね。素晴らしい意見です。惚れ惚れします。演劇部は貴方のような人材を必要としています」
「マジかよ!」
「では、入部届けに名前を書いてください」
俺は言われるままに、書いてみた。
「ありがとうございます、演劇部再建第一号さんですね」
少女は、嬉しそうに書類を抱き締める。
「お名前は…大宇宙銀河さんですか。珍しい名前ですね…でも、とても良いお名前だと思います」
「マジかよ!」
「コスモさんと呼んでもいいですか?」
「お前、アホな子だろう!」
「…はい?」
こいつは俺の出鱈目の署名を信じていたようだ。
天然という奴である。
「じゃあ、ギャラクシーさん?」
「偽名だ! 偽名!」
「…え?」
少女は、首を傾げている。
本気で分かっていないようだった。
「つーかさ、今時、演劇なんて流行らねーよ。確か、部として認められるのも三人以上だろう?」
「はい、よくご存知ですね」
両手の平を、胸の前で合わせる。俺は、無理無理と手を振ってやる。
「どうせなら、昼寝部作ろーぜ」
「活動内容は?」
「寝ること」
「昼寝…とても素晴らしいです」
「マジかよ!」
「…駄目なんですか?」
どうして俺が驚いているのか、少女は分かっていないようだった。
「じゃあ、やっぱり演劇部ということで」
「……」
俺は頭を掻きつつ、
「どうして、演劇なんかにこだわるんだ? 他にも楽そうな部活あるだろう?」
わざわざ壱から作る手間を考えたら割りに合わない。
この学園は進学校だ。推薦の運動部を除いたら内心のための部活動でしかない。
少女がどちらなのか興味がないと言えば嘘になるが…。
どう答えてくるか大体の想像は付いた。
「夢なんです」
聞いた科白だった。
まあ、無難なのだが、俺には鼻で笑えるくらいの答えとしか思えなかった。
出会った相手にすぐ夢を語るやつは好きじゃない。
「…少女が、舞台の物語を楽しそうに見物している夢を…わたしは、ベッドの中で毎日のように見てたんです」
「本当に夢かよ!」
「…はい?」
「というか、少女って誰だよ!」
ツッコミどころ満載だった。
「お前、演劇やめて漫才師になれ。相方良ければ良い線いくと思うぞ」
「面白い冗談ですね、えへへ」
邪気のない笑みを作る、少女。
天然には適わなかった。
「少女は、舞台を毎日のように見てたんです」
「…は?」
何を言っているのかと思った。が、すぐに思い出す。
『というか、少女って誰だよ!』
俺の質問に…と言うかツッコミに答えているのだ、こいつは。
「始めは、少女も観客ではありませんでした。
見ている、というのも正確ではありませんね…。
少女は、感じていたんです。毎日、舞台の中で行われる物語を…。
無限にある物語を…蚊帳の外の世界から感じていたんです。
同じ俳優を起用した舞台でも、内容も結末も全然違いました。
舞台に登るなら演じる作品は、山ほどあったんです。
悲しい話も、楽しい話も、たくさん…本当にたくさんありました…。
いつしか、少女に意思が生まれました。
きっかけは、病気に掛かったひとりの女の子を助ける男性の舞台演目でした。
少女は、初めて世界を意識したんです。
舞台を見る側に回りました。舞台を所狭しと走る男性と病気の女の子を見て、少女は思いました」
『頑張れ!』と――応援しました。
「意思を持つのは少女にとっては有り得ないことでした。
少女は舞台の裏側の人間でしたから。
どういう物語の類だとしても、演じられる舞台の台本を初めから持っていたのです。
でも、少女は本気でそう思いました。
結果、物語はハッピーエンドで終わりました。少女の持っていた台本とは、別の結末でした。
新しい物語の始まりです。
それから、少女に変化が起こりました。笑うようになったんです。
多分、数多くの舞台を見ているうちに、意思というものを舞台の人間から分けて貰っていたんだと思います。
勇気付けられた、という表現も良いですね。
でも、少女は…意思が無かった頃には感じなかった想いを抱くようになりました。
寂しい、という感情です。少女は、困惑しました。
周りを見ても、自分の世界には、少女ひとりしか居なかったんですから…。
それに、意思を持つと時間という概念が出来てしまいます。
少女は、その時…初めて生まれたんでしょう。
でも、同時に舞台を失いました。少女は、意識して外の世界を見ることは出来なかったんです。
少女は、記憶をも無くしました。
人間では記録するのは無理なほどの、記憶を持っていたからです。
だけど…。
少女の深層意識の世界では、物語がすでに形を成していたんですよ。
いつか、表の舞台を登れるように…」
ふう、と息を付いて少女は、にこりと俺に微笑んだ。
「ここまでが、序盤です」
「長すぎるわ!」
「でも、わたしも今夢で見ているのが…ここまでなんです」
「知るか!」
「…お気に召しませんでしたか?」
「オチのない世界は怖いわ!」
「残念…」
しかし、少女は全然残念そうには見えなかった。
こちらを見て、先ほどと同じように微笑んでいる。
「この物語を、学園生活の三年間を掛けてわたしと完成させてみませんか?」
俺に、手を差し出し言った。
「みません!」
「そ、そんな…」
自分では殺し文句のつもりだったのだろう、瞳にじわ〜と涙が溜まる。
というか、マジ泣くのかよ。
「待て、俺が泣かしたみたいじゃないか? 泣き止めよ!」
「ぐすぐす…」
何というか女の涙はヤバイくらい来るものがあった。
「わ、分かった。入る! 演劇部に入るから!」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。だから、泣き止め! つーか、泣き止んでる!」
「はい、泣いてません。むしろ、嬉しいです。嬉し泣きならしてもいいです」
「嘘泣きか!」
「…違います。泣く演技です」
しれじれと言う。
…こいつ、質…悪すぎるぞ。
「まあ、あっきーと風子お姉ちゃんに、涙は女の武器だ、と教えられたのは事実ですけど…」
「……」
「癖になりそうな自分が怖いです」
「頼むから止めてくれ」
「はい、止めます。本来、わたしは人前では泣きません。早苗さんに言われました」
知らない名前が次々と…。
付いていけないぞ。
「女の子が泣いていいのは、おトイレとお父さんの胸の中と…」
随分、偏った教え方だった。
「後は…大好きな人の胸の中だけです」
「はあ、そうですか…」
「はい。後、申し送れました、わたしは演劇部部長(予定)の岡崎汐です。宜しくです、銀河さん」
「…あれは、偽名だ」
でも、俺の苗字と同じとはな…もう少し銀河のままでいいかもしれない。
名乗ったら運命とか言われて逃げれそうにないぞ。
「じゃあ、一緒に作りましょうか?」
「…え? 何を?」
汐は、にこりと笑顔で俺の頬を突付いてくる。
どうやら、怒りの仕草らしい。
「さっき言いました。わたしの夢の物語です」
「壮大な物語だな…」
「はい、壮大です。題名だって決めています。夢の中の家族の物語…」
それは…。
− CLANNAD SIDESTORY 僕と君との協奏曲(コンツェルト) END −
大作の執筆&投下、お疲れ様でした。
もう投稿しても大丈夫ですね?
寝る前に投稿しようと思ったら、寝るのが一時間遅れてしまいました…。
CLAMMADのSSです。若干ネタバレあり。ジャンルはいちおうほのぼの。6レス予定。
タイトルは『ナイショの小さな訪問者』、です。
コンコン……
部屋のドアが控えめにノックされる。それを聞いて、部屋の主は外に聞こえない程度に小さくため息をついた。
「はぁ……今日三件目。いつからここは悩める子羊の相談所になったんだか」
コンコン。今度はもう少し強くドアがノックされる。
「はいはい。空いてるわよ。どうぞー」
その声が聞こえたのか、ガチャリ、とドアノブが回され、やがてゆっくりと部屋のドアが開く。
どんな子が入ってくるのか、と待ち構えていた部屋の主だったが、誰も入ってくる気配が無い。
ラグビー部連中の悪戯かとも思ったが、連中ならばあんなノックの仕方はしないだろうとすぐに思い返し、彼女は自分の方から入り口へと近づいていく。
よく見ると、半開きのドアから体を半分だけ出している女生徒の姿を確認できた。おそらく中の様子をびくびくしながら窺っているのだろう。
しかし、あれで隠れているつもりなのだろうか。どう見ても丸見えであった。
「取って食ったりしないわよ。ほら、話があるんなら入ったら?」
呼びかけると、その女生徒はきょろきょろと辺りを見渡す。そして部屋の中にいる人物と目が合うと、びくっ、と一瞬身を竦めた。
その小動物らしい仕草に苦笑しながらも、部屋の主は腕を伸ばして半開きのドアを全開にする。女生徒が入って来易いようにするためだ。
「あ……はい。お邪魔します」
とてとて、という擬音が似合いそうに、ゆっくりと女生徒が中に入ってくる。
そしてぺこり、と小さくお辞儀をすると、背後で開け放たれていたドアを丁寧に閉めた。
「で、何の用かしら?」
「あ、はい。風子、相談があってここに来ました」
「風子? あんたの名前?」
「はい。伊吹風子です」
風子、と自分のことを呼んだ女生徒は、勧められた椅子にちょこんと腰掛ける。
「伊吹風子ね。相談に来たなら知ってると思うけどあたしは相楽美佐枝。……ん? 伊吹?」
美佐枝と名乗った部屋の主も、風子と向かい合って座る。相手こそ違えど、もう何十回となく繰り返した応答だ。すっかり慣れてしまっている。
その美佐江が、伊吹という名に何かひっかかるところがあったのか風子から視線を外して記憶を整理するかのように目を瞑って唸り始める。
「もしかして、伊吹公子さんっていうお姉さんがいない?」
え、と風子がびっくりしたように目と口を大きく開ける。
「おねぇちゃんを、知っていましたか」
「あ、マジで? いや、あたしが高校の頃に教えてた先生なのよ。伊吹なんて苗字そう無いし、あんたと公子先生似てたしね。
そっかー、公子先生の妹さんがあたしんとこに来るなんてねぇ……なんか因縁を感じるわ」
「嬉しいです。こんなところでおねぇちゃんを知ってる人に会うとは思いませんでした。
そうと知ってたら、おねぇちゃんの結婚式に招待していたのですが」
昔懐かしむように、風子が遠くを見る。
「え? 公子先生結婚したんだ。はぁ…時間って流れ行くもんだねぇ。で、その妹の風子ちゃんは何の相談でここに来たの?」
何度目かのため息をつく相楽美佐枝、(ピ―――)歳、独身。
「あっ、忘れてました。風子相談があったんでした」
「その前に一ついい? どこで聞いたの、ここのこと」
「はい。風子のお友達が教えてくれました。ここに来れば悩み事の相談に乗ってくれると」
予想通りの返答に美佐枝は頭を抱える。誰が言いだしっぺかは知らないが最近女子生徒が来る回数がやけに増加していた。
ラグビー部の誰かの彼女か、あるいは春原や岡崎か。可能性はいくつかあったが、結局その噂の大元を突き止めることは出来なかった。
「というわけで、誰にも話せない風子の悩みをここだけの話で発表したいと思います」
「って、マイペースねあんた」
いきなり相談を始めようとする風子のペースにさすがの美佐枝も面食らう。
「では行きます。よく聞いてください」
「はいはい。何でも聞いてちょうだい」
諦めてため息をつく美佐枝。風子は一瞬ぐっ、と拳を握り締め、すぅ、と大きく深呼吸をして叫んだ。
「どうしたら相楽さんみたいにスタイルがよくなれますかっ」
ずるぅ―――っ!! 美佐枝は椅子から滑り落ちた。
「あれ、どうしましたか相楽さん」
椅子から立ち上がった風子が美佐枝の顔を覗き込む。
「……あんたね」
「はい」
立ち上がり、椅子を直す美佐枝を見て風子も席に戻る。
「あたしはスタイリストでも、肉体改造のプロでもないの。なんであたしにそんなこと聞くのよ」
「それは、相楽さんがスタイルがいいからですっ」
次の戦闘に出す選手を選ぶかのように、風子はびしっ、と美佐枝を指差す。
確かに、目の前にいる見た目小学生の少女と比べれば、百人中百人が美佐枝の方がスタイルがいい、と答えるだろう。
「何でも相談に乗ってくれるという話でしたが、スタイルの相談に乗ってくれるかは風子も正直心配でした。でも、実際に会ってみて、やっぱり来てよかったと風子は確信しました。
特にその胸は反則です。確かに風子は他の人より小さいですが、それは風子が小さいのではなくて他のみんなが風子よりちょっとだけ大きいだけです。
ですが、やはりこのままでは風子は永遠にお子様体型と呼ばれてしまいます」
「お子様って、あんたまだ一年生でしょ? 大丈夫、これからいくらでも大きくなるって」
風子の胸元の校章を確認する。緑色の校章は一年生の証だ。
「そうです。風子だってまだまだ大きくなってみせます。でも、実は風子、わけあって今は18歳なのに一年生なんです。見た目は子供、頭脳は大人です。
18歳を過ぎてしまっては、予定通り成長するか心配です。ですから簡単に成長する裏技があったらぜひ教えてください」
「18歳!?」
驚いて風子の頭からつま先までをじっくり見渡す。顔付きといい、身長といい、とても18歳には見えない。
どんなワケがあって二年留年しているのか聞くつもりはなかったが、よほどのワケがこの少女にはあったのだろう、と美佐枝は思った。
「……なるほど。そりゃ焦る気持ちも分からないでもないわ。でもね、あたしは別にいいと思うんだけどねー、可愛くて。
自分じゃそうは思えないかもしれないけど、あんた結構可愛いわよ。仕草と相まって、本当に小動物みたいで可愛いって言うか。
だから別に焦る必要ないんじゃないかしら。そのままの伊吹風子が好きだ、っていう人間も大勢いるでしょうし」
「いえ、大問題です。岡崎さんはよく風子を小さいとからかいます。それはいつまでもほおっておいていいことではありません」
面白くないことを思い出したのか、風子がむっ、と細い眉を吊り上げる。
「岡崎? もしかして三年の岡崎朋也のこと?」
一方、聞き覚えのある苗字に、美佐枝の頭の中にも見知った顔が浮かぶ。
「どうして分かったんですかっ。凄いです、相楽さん、風子の知り合いをみんな知ってるみたいです。よほど縁があるのでしょうか」
今度は驚いた顔で美佐枝を見る風子。表情がコロコロ変わる様が見ていて面白い。
「偶然よ、偶然。岡崎の奴はここに住んでるわけでもないのにしょっちゅう来るしね。しかし風子ちゃんが岡崎と知り合いとはね。
……もしかして彼氏?」
「………!!?」
一気に風子の顔が茹でダコのように赤く沸騰し、固まる。
「ししし、失礼ですっ。岡崎さんが彼氏だなんて最悪ですっ。あ、いえ、本当に最悪というわけではなくて……ぷち最悪といった所です」
そんな分かりやすく本心を隠す風子の焦った態度に美佐枝が思わず笑みをこぼす。
「へー、岡崎にこんな可愛い彼女がねぇ……ホント分からないもんね世の中って。しかし、先こされた春原も気の毒っちゃ気の毒ね。
で、その岡崎の彼女の風子ちゃんは、彼氏のために大人の体になりたいってワケ?」
「違います。岡崎さんはいつも、風子の見た目が子供っぽいことでからかってくるから大きくなりたいんです。
風子、スタイルよくなって、相楽さんみたいな立派な胸になって、岡崎さんをギャフンと言わせてやります」
「あはは。ギャフンとか。そりゃ確かにあんたがあたしみたいな体になるの見たりしたら、あいつ卒倒するわね」
八重歯を覗かせながら美佐枝が豪快に笑う。
「……でもね、風子ちゃん」
しかしその笑いはすぐに真面目な顔に取って代わられた。
「相手が岡崎だから……あたしが知ってる奴だから言うわけじゃないけどさ、それは本当、気にするもんじゃないわよ」
「どうしてですか」
「男ってのはね、本当に好きな子じゃないとそんな風にからかったりできないもんなのよ。ようは、照れくさくて『風子は可愛いなー』
なんて言えないものだから、逆にそれをネタにして反対のことを言ったりしちゃうわけ。
もし、よ? もし仮に、岡崎が『子供っぽい女の子なんてつまらないから俺の彼女になんてしたくねぇよ』なんて言う男だったらどうする?
あんた、そういう奴を彼氏として認められる?」
「最悪です。でも、岡崎さんはそんな人ではないから風子は岡崎さんを好きになりました」
「でしょ。だったら分かるでしょ。あんたは愛されてる。岡崎は、あんたのことを見た目から何から全部ひっくるめて好きでいてくれているはずよ。
だから、あんたはそのままでいいの。岡崎が好きな、自然な伊吹風子でいられるのがお互いにとって一番大切なことなのよ」
美佐枝の優しく諭すような声。風子は納得できたのかコクコクと何度も頷いた。
「分かりました。どうやら風子が間違っていたようです」
「いや、間違う間違わないの問題じゃないんだけどさ。女の子なんだからもっとスタイル良くなりたい、って気持ちも分かるし。
まあともかく、とにかく、現状で幸せならそれ以上の贅沢は野暮ってもんなの。岡崎にからかわれたりするのも本当は嫌じゃなくて、むしろ好きで、そして今のあんたを岡崎が好きなら、
無理してあんた自身を変える必要はないってこと」
「……大人の世界は難しいです」
「いや、あんた大人のつもりじゃなかったの……?」
思わず突っ込んでしまう美佐枝であった。
「まあ正直、そんな簡単にスタイルよくする方法なんてあるわけ無いから言ってるようなもんだけどさ」
「そうだと思っていました」
美佐枝と風子が同時に吹き出し、笑った。
「ま、ノロケ話は勘弁だけど、もし本当に岡崎が泣かせたりしたらいつでも言いに来なさい。
その時はあたしが朋也に強烈なドロップキックかましてやるから」
「ドロップキックですかっ。風子にはとても出来ない大技です。相楽さんは予想以上に戦闘力が高いです」
「あはは、コツさえ掴めば簡単よ。でも確かに、これには体重が乗らないと破壊力は出ないから風子ちゃんにはお勧めしないかな。
って、それじゃまるであたしが重いみたいじゃないのよっ!」
虚空に向けて一人突っ込みをする美佐枝であった。
「それでは失礼します。相談に乗ってもらえて本当によかったです」
椅子から立ち上がり、ぺこり、と風子がお辞儀をする。
「あはは、相談というより、単なる世間話だった気もするけどね」
「あ、忘れてました」
ドアノブに手をかけたところで、風子が振り返る。
「何? まだ何か相談?」
「いえ、これを渡すのを忘れていました」
どうやってしまっていたのか、風子はポケットから星型の物体を取り出した。
「相談に乗ってくれてありがとうございました。お礼というわけではありませんが、これ、もらってください」
そのまま、小さな手のひらに乗せた星型の物体を美佐枝に差し出す。
「うん、よく出来てるわね。これ何?」
それを受け取り、手触りを確認したり、ひっくり返したりしながら美佐枝が尋ねる。
「これは……風子の大好きな……ですね……」
恍惚の表情を浮かべ、違う世界に行ってしまう風子であった。
帰ってくるまで約10分。その間美佐枝がどんなに頑張っても風子を現実に戻すことは出来なかった。
その後風子が帰った後、今度岡崎に風子ちゃんを元に戻す方法を相談しようかしら、と真剣に考えた美佐枝であった。
完
>>313-318 以上です。
というか、
>>312でCLANNADをCLAMMADと書いてしまいました。すみません。
正直、間に合ってよかったです。
それではおやすみなさい。
320 :
名無しさんだよもん:04/05/21 03:21 ID:nbnJdtGe
>CLANNADをCLAMMAD
…失格だな。
CLANNADで春彦・芽衣END後を想定して書いてみました。
タイトルは「Sister again!」
「ったく、なにしに来るんだよ……」
駅前に向かう途中、春彦が不満そう呟いた。
「バレたんじゃないか?」
「何が?」
それだけ心当たりが多いのだろう。びくっと体を震わし、聞き返す。
「立ちションとか」
「えらい地味ですねぇ!」
「でもしたことあるんだろ?」
「それはそうだけど…」
本気にしたのか、少し不安そうな表情になる。
俺は腕組して唸り出した春彦から視線を外し、なんとなく空を仰ぎ見た。
目が潰れそうなほどの快晴。鳴り響くセミの声。典型的な夏の風景だ。
そうやってぼんやりと空を眺めていると、再び春彦が口を開いた。
「…なあ、本当に家に連絡、行ったのかな?」
「何が?」
「僕がこの間、立ちションしたこと」
「はぁ? お前なに言ってんの? その程度で連絡行くわけないじゃん」
「あんたが言ったんでしょうがっ!」
「とんだ言いがかりだな」
「岡ざっ」
「おい、あれ」
抗議の声を上げる春彦を制し、駅構内、券売機の隣を指差した。
そこに居るのは、旅行鞄を地面に置き、柱にもたれかかる芽衣ちゃんの姿。
「お、芽衣じゃんか。もう来てたんだ」
約束の時間を過ぎているから当たり前なのだが、何故だか春彦は意外そうに言った。
「待ち合わせは三時だったっけ? 今は三時過ぎだから普通だろ」
「えっ、でも僕は大体一時間ぐらいは遅れるよ?」
「…………」
そうこうしているうちに俺たちの視線に気付いたのか、芽衣ちゃんは鞄を肩にかけると、片手を振りながらこちらに走り寄ってきた。
「岡崎さ〜ん、おにいちゃ〜ん」
「芽衣ちゃん、前っ!」
が、その途中で、目の前を横切ろうとした人物とぶつかりそうになる。
芽衣ちゃんは慌てて足を止めようとしたが、鞄の重さに負け、そのままの勢いで通行人の方へと――
ぱすん。
「おっと、危ないな。もう少し辺りに注意を払った方がいいぞ」
「あ、えっと、すいません…」
「うん、最初に謝罪の言葉が出てくるのはいいことだ。普段は無闇に走ったりはしないんだろうな」
「え、そんなことまでわかるんですか?」
「ああ。これでも人を見る目はある方だ。なにかに気を取られて走り出したのだろ?」
「はいっ」
「でも、そういうときほど気をつける必要がある。特に今のように重い荷物を抱えているときはな」
「そうですね。本当にすいません…」
「いや、何度も謝る必要はない。私はおまえの…ん、岡崎に春原じゃないか。外で会うとは珍しいな」
芽衣ちゃんがぶつかった相手――智代は、近くにいる俺たちを認めて声をかけてきた。
「どうした? 買い物にでも行くのか?」
「違う。迎えに来たんだ」
「迎えに?」
不思議そうに繰り返し、視線をしばらくさ迷わせた末、芽衣ちゃんの上で止めた。
「知り合いか?」
「妹だ」
無意味に胸を張る春原。
…まあ確かに芽衣ちゃんは誇れる妹ではあるだろうけれども、お前が自慢するものでもない。
「なに、岡崎に妹が居たのか?」
「違うっ、僕の妹!」
春原の台詞を受けて智代は、改めて芽衣ちゃんに視線を戻す。
その視線に気付いたのか、芽衣ちゃんはペコリと頭を下げた。
「挨拶が遅れまして申し訳ありません。初めまして、春原陽平の妹の芽衣と言います。よろしくお願いします」
「…この男になにか弱みでも握られてるのか? なら私に言ってみろ。必ず何とかしてみせる」
「疑うのも無理はないが、正真正銘、春原の妹だぞ」
「本当にこいつの妹なのか? 余りにも似てなさ過ぎるぞ」
「残念ながらこれが現実だ。全く、春原には勿体無さ過ぎる妹なんだがな」
「あはは…よく言われます」
「あんたら何気に失礼なこと言ってますよね!」
「それで春原…ああ、ややこしいな。芽衣は春原の様子でも見に来たのか?」
憤慨する春原を一顧だにせず、智代は感じたであろう疑問をそのまま口に出した。
俺もその辺の事情は聞いていなかったので、同じく黙って芽衣ちゃんの答えを待つ。
「それもあるんですけど、今回は別に相談したいこともありまして…」
言葉を切り、俺の顔を見る。
「え、俺?」
「はい。岡崎さんと…あと、おにいちゃんにも意見を聞いてみたくて」
「芽衣、今僕のことを思い出したかのように付け足さなかった?」
「気のせいだよ」
「そう?」
それ以上追求する気もないのか、春原はあっさりと口をつぐんだ。
「で、俺たちに相談ってなんなんだ?」
「えーと、それなんですが…」
芽衣ちゃんは苦笑いしながら、俺の顔と手に持つ鞄へと視線を交互させた。
「岡崎、芽衣が困ってる。場所を移してやったらどうだ?」
「へっ?」
言われて気がついた。確かに道のど真ん中で相談ってのもないよな。
「じゃあどうする? ってか芽衣ちゃん、今回はどこに泊まるんだ?」
「あ、そうですね」
一拍置き、意味深な笑みを浮かべて俺の顔を見上げる。
「今回も岡崎さんの家にお邪魔しょっかなぁ」
「なにっ」
その言葉に、春原だけでなく何故か智代までもが驚きの声を上げた。
「いや、やっぱさぁ、年頃の女の子が野郎の家に泊まるってのは色々不味いと思うぞ」
「普通の男の子だと心配ですけど、岡崎さんなら大丈夫ですよぉ」
「その根拠のない自信はどっから来るんだ?」
「勘、でしょうか。それに前回お泊りしたときもなんにもありませんでしたし」
「前はそうでも今回もそうだと限らないぞ」
「わたしになにかするんですか?」
「そんな真顔で聞かれても…」
このままだとマズい。言いくるめられそうだ。
何とかしてもらおうと春原を見るも、以前の事件が尾を引いてるのか、口出ししようとしない。
くそっ、どうすりゃいいんだ…。俺がそうやって悩んでいると、助けは意外なところから表れた。
「それは、ダメだ…私が許さない」
何時になく厳しい口調。智代は、何かを確認するかのようにもう一度繰り返した。
「ダメだ。私が、許さない」
「どうしてです?」
普通の少女ならここで頷くのだろうが、そこは芽衣ちゃん、物怖じせずに聞き返す。
「理由、か。色々あるが、一番大きなものは間違いが起こる可能性を見過ごすことが出来ないからだ」
「智代さんは岡崎さんを信用していないんですか?」
「そういうわけではない。あくまで可能性の問題だ」
なんか見えない火花が散ってるような気が…。
それより芽衣ちゃん、最初は俺をからかおうとしていただけのような感じがしたんだが、今はかなり本気だよな。
「でもわたし、泊まるところがありませんっ」
「そうか。なら私の家に泊まれ」
話は終わりだ、とばかりに芽衣ちゃんの鞄を掴みとり、踵を返して歩き出す。
「ほら、さっさと行くぞ」
「え、あ、はいっ」
流石の芽衣ちゃんも混乱しているのか、こちらをちらちらと伺いながら小走りに智代の後を追いかける。
「どうなってんだ?」
「僕に聞かれても…」
後に残された俺たちは、顔を見合わせるばかりだった。
「結局あの後どうなったんだ?」
「え、ああ、寮に電話があったよ。こっちにいる間は智代の家に泊まるんだってさ」
翌日。いつものように春原の部屋を訪れた俺は、扇風機の前を陣取りながら聞いてみた。
「ふーん。で、芽衣ちゃんが言ってた相談ごととやらはどうするんだ?」
「今日の昼にでもこっちに来るからそのときに話す…ってそれよりあんた、何気にいい場所占領してますよね!」
「これ俺のじゃん」
「いつからだよ!」
昼ってことはもう時間ないよな。なんかややこしいことになりそうだし、今日のところは帰るとするかな…。
そう思って腰を上げようとしたところ、測ったようなタイミングで扉が叩かれた。
「あれ、誰だろ?」
こいつ、今自分が話してた内容を忘れたのか?
「たぶん、アレだ。常日頃からお前を慕ってた後輩が告白しにでも来たんだろ」
「マジ? うわっ、なんか照れるよなぁ」
適当に答えると、春原は嬉々とした表情で扉に向かった。
がちゃ。
「はははっ、君の気持ちは嬉しいけど僕にも選ぶ権利があるからね。とりあえずスリーサイズから教え…へっ、智代。僕のことが好きだったのかい?」
「…岡崎。この男はどうかしたのか?」
「海馬でも落としたんだろ」
「そうか」
「そんなわけあるかっ」
「えっと、部屋に入ってもいいですか?」
智代の後ろから現れた芽衣ちゃんが、遠慮がちに聞いてくる。
「ああ、どうぞ。汚い部屋だけどな」
「本当に汚い部屋だな」
「せっかく片付けて帰ったのに。おにいちゃん、自分でも掃除しないとダメだよぅ」
「いきなり来て説教かよ。はっ、もう僕は怒ったからね。二度と掃除なんてするもんか!」
「おう、二度とするなよ。虫がわいて異臭が漂ってラグビー部の連中から苦情が来ても絶対にするなよ」
「いや、気が向いて時間があって暇で暇でしょうがなかったらするかもしれないね」
「お前、ヘタレな」
妹にだけ強い春原を適当にあしらい、その辺にある雑誌を押しのけて場所を空ける。
俺の正面に春原。向かって右、扉側に智代。左、ベッド側に芽衣ちゃんがそれぞれ陣取った。
「智代ん家はどうだった?」
口に出してから、そういや智代の家に行った事ないな、と気がついた。
まあ普通は行かないけどな。さほど親しくない女友達の家には。
「はい。皆さん良いひとで、とてもよくしてもらってます!」
「そう? こいつの前だからって無理してない?」
「そんなことないよぅ。おじさんもおばさんも、それに鷹文さんだってみんな気をつかってくれてるし」
「鷹文さん?」
言葉の中に気になる単語があったので、聞き返してみる。
「あ、はい。智代さんの二つ年下の弟さんです。わたしのひとつ先輩ですねっ」
「なにぃ!」
テーブルをひっくり返さんばかりの勢いで、春原が立ち上がった。
「智代、お前の家、弟が居たのかっ」
「居るが」
「危ないだろうがっ」
「なにが?」
本当に不思議そうな顔で聞き返す。
「だから、年頃の男と女が同じ屋根の下で…」
口を濁す春原に、智代はしばらく考え込んでいたが、そのうちポンと手を叩いた。
「ああ、大丈夫だ」
「なにがっ」
「鷹文はそんなことはしない。するとしても婚約が済んで結納が終わって式を挙げてからだ。そういう風に教育しているからな。だから、その心配は無用だ」
「そんなもの信用できるか! 男はなぁ、チャンスがあれば我慢できない生き物なんだよっ」
「…哀れな男だ。自分がそうだからといって人もそうだと思い込むとは」
智代はそう言って侮蔑をこめた視線で春原を眺めた。
でもこいつ、昨日同じような理由で俺に突っかかってなかったか?
その点が少し気に食わなかったので、軽くからかってみることにする。
「でも案外、お前のような奴ほど恋人が出来ると考え方が変わるんだよな」
「ほう…どのようにだ?」
「そうだな。彼氏とひがな一日中キスしてるとか」
「ありえない話だ…そういう発想をする岡崎こそどうなんだ?」
「俺?」
振られ、咄嗟に芽衣ちゃんの顔を見てしまう。
芽衣ちゃんも恐らく同じ理由で俺を見たようで、目が合うと真っ赤になって顔を伏せてしまった。
「ん? なんだ?」
「…岡崎、お前まさか芽衣とっ」
「つーかお前は見てただろうが!」
「待て。何の話だ?」
訝しげに俺たちを見ていた智代に、春原は大仰な身振りで説明しやがる。
「…ほう、そんなことがあったのか」
「ほっぺただよ、ほっぺた!」
何故か陽炎のようなオーラを立ち昇らせている智代に、必死に言い募る俺。
芽衣ちゃんの援護を期待しようにも、首まで真っ赤にして俯いたまま微動だにしない。
と言うより俺、なんでこんな目にあってるんだ?
結局智代の機嫌を取り戻すまで、さらに十分近くの時間を費やすこととなった。
「それで、相談ってのは?」
ぐったりとテーブルに突っ伏しながら聞き返す俺に、芽衣ちゃんは佇まいを正して向き直る。
「はい。…えっと、その前にお聞きしたいんですけど、岡崎さんは卒業したらどうされるつもりですか?」
「どうって?」
「進学とか、就職とか」
「就職だな」
「理由聞いても…いいですか?」
理由ねぇ。そんなの一つしかないんだけどな。
「俺、頭悪いからな」
「今からでもまだ間に合うだろ。…なんなら私も協力してやるぞ?」
「智代…」
こいつにそう言われると、本当になんとかなるような気がするから不思議だ。
でもいくら勉強してもどうしようもないこともある。あいつが家に、居る限りは。
「遠慮しとくよ。ガラじゃないしな」
「そうか…」
本当に残念そうに呟く智代に、軽い罪悪感を覚えつつも話を元に戻す。
「で、それがどうかしたのか?」
「あ、はい。あと、働くならどこで働きたいとかも教えてもらっていいですか?」
変なこと聞くなぁ。とはいえ、芽衣ちゃんは無意味に人の内情を詮索するような子でもないので、普通に答える。
「特に希望はないな。まあでも現業系になるのは間違いないと思うが」
答えるも、芽衣ちゃんの顔は晴れない。何故かもどかしげな表情でこちらを見ている。
「この町を出るのか?」
「いや、基本的には地元で探すつもりだが。家は出る予定だけどな」
「そうですか、ありがとうございますっ」
連投支援
横から口出ししてきた智代の問いに答えると、芽衣ちゃんは先ほどとは一転、晴れやかな表情で頭を下げた。
「えと、おにいちゃんにも聞いてみたいんだけど…卒業後、どこで就職するの?」
「おいおい、僕が進学する可能性は考えないのかい?」
「あり得ないからな」
「笑えない冗談だな」
「あんたら、キツいっすねぇ」
自分でもその可能性はないと思っていたのか、春原は苦笑いして肩をすくめた。
「おにいちゃん」
「ああ、僕ね。こっちに残ろうかなー、とか考えてるんだけど」
「え、でもこっちに来るときの約束が…」
「うん。その辺はまた今度話そうかと思ってる」
雰囲気から察するに、それなりに深刻な話題なのだろうが、あっけらかんと返す春原を見ていると、ひどく些細な問題に見えてくる。
「それより芽衣。お前の相談はなんなんだ?」
「わたし?」
「お前以外芽衣なんていないだろ」
「そうだよね…うん、うん」
春原の素の突っ込みに、数回頷く芽衣ちゃん。
「進学のこと…じゃないのか?」
と、またまた智代が横から口を挟んだ。
「進学? だって芽衣はまだ中ニだぞ?」
「確かに早い方ではある…でも、早すぎるわけでもない」
春原は「まあそりゃあ…」と呟き、口を閉ざす。
「昨日もずっと私に学校のことを聞いていただろ? 校則や選択科目など、かなり踏み込んだ部分にまで。
あれで私はこの学校に来るかどうかで悩んでいると思っていたのだが…違うのか?」
言葉を切り、芽衣ちゃんの様子を伺う。
それに対して芽衣ちゃんは、申し訳なさそうに眉を寄せた。
「あれはただ、興味本位に聞いてみただけなんです。本当はまたこっちに遊びに来たかっただけで、そのための口実として相談があるようにふるまっちゃって…みなさん、ごめんなさいっ」
深々と頭を下げる芽衣ちゃん。顔を見合わせる俺と智代。そして春原は、少し怒ったような感じで口を開いた。
「…そんな嘘でごまかされると思う? 僕が何年お前の兄貴をやってると思うのさ」
一昨年拾われたから二年じゃないのか?
いつものようにそう茶々を入れようとしたが、そうさせない空気がこの場に流れていた。
「智代の言うとおり、進学、こっちの学校に進むかどうかを相談に来たんだね」
「違うよっ」
「いいや、違わない。岡崎への確認はおいとくとして、僕の進路を聞いた後、急に態度が変わったよな?
あれ、僕が帰らなくて芽衣までこっちに来たら、父さんたちが寂しがると思ったんだろ?」
「……」
「大丈夫。僕が地元に帰るよ。だから芽衣は、好きなようにするといい」
「そんなっ、わたしのためにおにいちゃんが…」
「僕のは元々約束通りだよ。高校三年間、好きなようにやらせてもらったし。でも芽衣は違うだろ?」
「でも…」
とんとん。肩を叩かれる。無視。とんとんとん。さらに肩を叩かれる。ええい、鬱陶しい。無視。
ばんばんばん! 頭が上下するほど激しく肩を叩かれ、仕方無しにそちらの方を見る。すると智代が、いらただしげに扉の方を指差していた。
そこでやっと俺は、智代の意図を理解した。
「春原。俺たちちょっと出てるわな」
「え、ああ、悪いね」
「悪いと思うのなら、きちんと話してやることだ」
俺は芽衣ちゃんに軽く微笑みかけると、智代と連れ立って部屋の外へと出た。
寮の廊下を横切り、玄関先に向かう。
「でもなんで急にこっちの学校に来たいだなんて思ったんだろうな」
俺が何気なく浮かんだ疑問を呟くと、智代は、まるで異星人でも見るような視線を投げかけてきた。
「どうした?」
「…いや。春原の田舎はかなり山奥だと聞く。都会に憧れて出てきたくなっただけかもしれないぞ」
「そうか?」
まるで取ってつけたような言い方に、何か釈然としないものを感じながらも、他に理由も思い浮かばなかったので、曖昧に頷いておくことにした。
「気をつけてな」
「智代さんもお元気で」
智代とつないでいた手を離すと、芽衣ちゃんは一瞬、寂しそうな顔になったが、次の瞬間には輝くような笑みを浮かべた。
「…別にいいんだぞ。夏休み中だし、もっとゆっくりして行っても」
智代の言葉に、芽衣ちゃんは一瞬考えるそぶりを見せたものの、穏やかに首を横に振った。
「いえ、もう一週間もお邪魔してましたし、十分すぎるほど楽しめましたから。これ以上お世話になったら、それこそばちが当たっちゃいますよ」
言外に秘められた意思が伝わったのか、智代は「そうか」と頷くと、芽衣ちゃんの頭を優しくなでた。
それを受け、芽衣ちゃんも気持ち良さそうに目を細めている。
そう、芽衣ちゃんがこの町に来てからもう一週間が経つ。そして今日が、別れの日だ。
結局俺たちは、春原兄妹がどういう話をしていたのか知らない。いや、智代は芽衣ちゃんから聞いてるかもしれないが、少なくとも俺には何も伝えられてはいない。
確かに興味はある。だけど、進んで知りたいとは思わない。本当に必要なことなら春原の方から言ってくるだろうし、そうでないってことは二人で解決できる問題だろうから。
335 :
名無しさんだよもん:04/05/21 03:44 ID:nbnJdtGe
…はっと気がつくと夢だった。
「あいつら、本当の姉妹みたいだな」
「僕は?」
「本当の赤の他人みたいだな」
「それ、どんな関係なんだよ…」
そうやって春彦と馬鹿やりながら眺めていると、ゆっくりと目を開けた芽衣ちゃんと視線が交差した。
「あ、智代さんっ」
「うん?」
芽衣ちゃんは智代を引っ張って電柱の影に隠れると、なにやらひそひそ話を始める。
「なにやってるんだ、あいつら」
「僕のことを噂してるんじゃない?」
「死んでって?」
「なんでだよっ」
最後に智代が芽衣ちゃんの耳になにやらささやくと、芽衣ちゃんはニ、三回頷いた後、こちらの方に戻ってきた。
「ほら、はっきり言わないと。『おにいちゃん死んで』って」
「まだ続いてたんかいっ」
そんな俺たちのやり取りを、芽衣ちゃんは困ったように眺めていた。
「呆れた奴らだな…最後ぐらい普通に出来ないか?」
「これが俺たちの普通なんだよ」
「いや、なんか納得できないんスけどねぇ…」
愚痴る春原を尻目に、俺は芽衣ちゃんへと視線を移す。
「楽しかったか?」
「はいっ」
「なら良かった。じゃあな」
「岡崎さんも…」
お互いしばらく見つめあい、どちらともなく目をそらす。
そして地面に置いていた旅行鞄を抱えると、「おにいちゃんもさよならっ」と言い残し、何かを振り切るようにして駅構内へと走っていった。
「智代、さっき芽衣となに話してたんだ?」
芽衣ちゃんの姿が見えなくなるまで見送ると、春原は待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「それは教えられないな」
「もったいぶらないで教えろよ」
「秘密だ。…なあ岡崎。内緒話を秘密にするって女の子らしいと思わないか?」
「口が堅いのは男らしいけどな」
「相変わらず意地の悪い奴だな…」
「あのー、もしもーし。僕の存在、覚えてますかー?」
「この後どうする? 飯でも食いに行くか?」
「そうだな…そうするか」
「えー、聞こえてます?」
「言っとくけど割り勘だぞ。金ないからな」
「大丈夫。最初から期待してない」
「聞こえてますよね?」
「それも悲しいけどな…。まあいい。ファーストフードでいいか?」
「いや…もっとしっかりした、普通の食事にしよう」
「徹底的に無視っすか!」
「うるさいな。軽い冗談だろうが。なあ、智代?」
「うん…春原、まだいたのか?」
「…………」
「……とりあえず歩こうぜ。そのうちどっか見つかるだろ」
俺は春原の肩を押し、智代の腕を掴むと、商店街に向かって歩き出した。
「ふぅ、今日はなかなかハードだったよな」
「そう? 僕は結構楽勝だったけど」
ケロリとした表情で答える春原。その顔が妙に恨めしい。
「俺は八件回ったけど、春原は何件回った?」
「僕は…午前が四で午後が七でヘルプで二だから…十件ぐらいかな?」
「お前、全然計算が合ってないからな」
茶化しながらも、その体力に今更ながらの驚きを覚える。
卒業後、同じ職場で働き出してから気付いたのだが、春原は技術職に天性の素質を持っていた。
特に体で覚える作業が凄い。一度流しただけでほぼ完全に工程をマスターするほど覚えが早い。
しかし何故か材料の確認などの基礎的な作業を苦手としていたので、いつもは俺がフォローに回っているのだが、今日はたまたま人が足りなくて別々の現場で作業をしていたのだ。
「そ、そんなことはどうでもいいだろっ。さっさと部屋に帰ろうぜ」
「良くはないけどな」
苦笑し、並んで歩き出す。
会社から斡旋されているマンションに二人で暮らしているので、当然、帰る方向も同じになる。
最初に男同士で同部屋、と聞かされたときには、二人とも嫌な顔をしたものだが、慣れてみれば案外気にならなくなるものだった。
家賃も半額ですむし、飯も適当にどちらかが買うか作るかすればいい。彼女でも居れば話は違ってくるんだろうが…。
「ん、電気がついてるぞ?」
「あれ? なんででしょうねぇ」
春原が明らかに僕は知ってるぞ、とのわざとらしい笑みを浮かべた。
その表情が気に食わなかったので、とりあえず一発殴っておき、俺は警戒しつつもドアのノブを開けた。
「お帰りなさい、岡崎さん、おにいちゃん!」
「芽衣…ちゃん?」
すり足で室内に滑り込んだ俺を出迎えたのは、見覚えのある制服を身にまとった芽衣ちゃんの姿。あれは確か…。
「春原、芽衣ちゃんは…」
「先週から晴れて、僕らの後輩だよ」
いや、それはわかる。でも春原がこっちに残ったのに、芽衣ちゃんまでこっちに来ちまうと…。
「お父さんが、言ってくれたんです」
俺の心配を見て取ったのか、芽衣ちゃんが説明してくれた。
「お兄ちゃんが『芽衣がこちらに来たがってる』って伝えてくれて、家族で話し合った結果、女の子一人だと心配だって流れになって…。
それでお父さんが、『陽平があの町に残って様子を見に行くのなら、芽衣が向こうに進学するのも許す』って言ってくれたんです」
誇らしげに春原を眺め、胸に手を当てて語る。
「…………」
「芽衣、誰か来たのか?」
俺がなんと言っていいのかわからずに黙っていると、台所から懐かしい人物が顔を出した。
「智代?」
「岡崎。やっと帰ってきたか」
そう、そこにいるのは正真正銘。転入してきて生徒会長を目指し、そして見事当選し、公約を完遂させ、一時期はテレビでも取り上げられる程有名になっていた一人の少女。
前に芽衣ちゃんが来てからほとんど会わなくなっていたので、まともに話すのは一年半ぶりぐらいになるだろうか。
「お前、なんで…」
智代は今年から大学生のはずだ。となると今の時期、もう引っ越していないと駄目なんだが…。
「なんで、とは?」
「学校だよ、学校。もう始まってるんじゃないのか?」
「ああ。一昨日が入学式だったが…?」
「なら、どうして」
ん、ちょっと待て。あのくそ真面目な智代が講義をサボるとは思えない。となると、
「…岡崎?」
「ああ、悪い。一つだけ確認させてくれ」
「お前と私の仲だろう…遠慮せずにどんどん聞いてくれ」
「いや、一つでいい。お前、どこの大学に進学したんだ?」
「私か?」
そして智代が答えたのは、地元にあるお世辞にもレベルが高いとは言いがたい某私立大学の名前だった。
「なんでっ」
「なんでって…私がそこに通うのになにか問題でもあるのか?」
「勿体無いだろ」
全国有数の進学校だった俺たちの学校で、全科目ベスト3に入る学力。
どんな競技にでもすぐに順応する、卓越した運動能力。
そして人を惹きつける、天性のカリスマ。正直、あんな学校に埋もれていい人材ではない。
しかし、ここにいる俺以外のみんなはそう感じなかったようだ。
「岡崎、そんなこと言ってたらあっこに行ってる奴に失礼だよ?」
「そうですよ、岡崎さん」
「全くだ…」
俺か? 俺が悪いのかっ?
「でも智代の実力だったらいくらでもいい大学狙えただろ? 推薦で都心の国公立とかも十分…」
「興味ないな」
「なんでっ」
途中でさえぎられ、思わず声を荒げる。
「この町にはあの大学しかなかった。そして私は、この町が好きだ…これ以上の理由が必要か?」
「…いや」
真剣な表情での心の奥底からの言葉。今の俺に返せる言葉は、ない。
「そうか。では私からも聞きたい。岡崎…この町は好きか?」
「俺は…」
問われ、回想する。
確かに以前は嫌いだったかもしれない。俺が生まれ、育ち、そして絶望した町。
でも今はどうだろう。
演劇部を復興させようと、一生懸命だった不器用な奴。
人様にヒトデを渡しては、目の前でトリップしていたおかしな奴。
大人しいくせに変なところは強情で、一度思い込んだら一直線だった奴。
乱暴そうに見えてその実優しく、いつも見えない所で妹を優先させてきた奴。
そして、俺の目の前に居る三人。
「嫌いじゃ、ないかな」
俺は思いっきりぶっきらぼうを装って、そう答えた。
――目の前に居る奴らの表情を見る限りでは、その試みは失敗に終わったようだけれども。
芽衣・智代は珍しいな
ていうか春彦って誰だ。
投下します。Routesネタで、タイトルは『フィーバークッキング』
7レス予定ー。
草木も眠る丑三つ時、トカゲも踊る盛り沢山。
広々とした調理台の上には、これでもかとばかりに料理が並べられていた。
見るも種類は数知れず。量もとにかくべらぼうに多い。調理台を埋め尽くす皿、皿、皿。
調理台から視線を移せば、食卓テーブルの上も似たような状態で、これがもしテーブルではなく床だった場合、
足の踏み場もない、と表現するのが相応しいほどの状態であった。
いや、よく見れば床の上にもみっしりと、音がしそうなほどに料理を載せた皿がひしめいている。
見るだけで胸焼けがしそうでいて、だがしかし、美味しそうな料理の数々に舌なめずりをせざるを得ない、その状況。
ピンポーン。
玄関に設置されたチャイムが鳴る。住人の返答を待たずにドアが開かれ、そしてすぐに閉じられた。
上がってくる気配はない。それはそうだろう。なにせ、この料理の大海原は、廊下までを覆い尽くしているのだから。
ベッドの上、風呂桶の中、テレビの上、本棚の空きスペース、パソコンラックの各段、そしてテーブルの下に至るまで。
まさに、足の踏み場もないほどの料理、という前代未聞の状況がそこにはあった。
それを生み出したのは、なんと、たった一人の少女なのである。
「いただきまーす」
玄関先から声が聞こえた。声を聞くだけで、料理を前にしてお辞儀をしている様子が見えるような、そんな声。
さくっ、とかぶりつく音。
もぐっ、と咀嚼音。
ごくん、と呑み込む音。
三つ合わせれば何故だかぺろりと表現されるその音を伴って、その人物はじわじわと台所まで近づいてくる。
かしゃん、かしゃん、と皿と皿を重ね合わせる音が、まるで足音のように迫り来る。
そして、彼女は辿り着いた。
「来たよ皐月ちゃん。大丈夫?」
「ううっ、ありがとゆかり。……でも、悪いけどもっと頑張って」
怪盗料理人、湯浅皐月。何故彼女がこのような状況を招いたかといえば、時はわずかに遡る――。
PURRRRR……、PURRRRR……。
「ふぁい、那須です」
『黙れ阿呆。いつの間に改名しやがったというのだ』
皐月が寝惚け眼で芸のない呼び出し音で鳴りだした携帯電話を取ると、聞き慣れた声が聞こえた。
第一声で他人をアホ呼ばわりするバカなどそうそういるものではない。
にひー、と砕けた笑みを浮かべつつ、皐月は電話の向こうの相手、那須宗一に言葉を返す。
「本日午前十一時二十四分四十一秒、旧姓・湯浅皐月さんはこの度めでたく那須皐月となりましたー、拍手ー」
『いや、お前の妄想はいいから。それより、ちょっと頼みたいことがあるんだが、いいか?』
「あいあい。愛しぃ〜の皐月ちゅわぁ〜んに何でも話してみたまい? ん?」
『……寝てたろお前。いつまでも起きたまま寝言言ってないで覚醒しろー』
いち、にの、さん。
頭の中でそんなかけ声を上げ、皐月は寝惚けた意識を瞬時に覚醒させる。
靄がかった視界と、ピンボケした思考が一瞬にしてクリアになる。
これぐらいの芸当が出来なければ、世界一のエージェントのパートナーとしては失格だ。
「で、なに? 夕食の準備ならいつも通り滞りないけど」
『おう、そのことなんだが、今日の夕飯はとにかくたくさん作っておいてくれないか』
「たくさん? 誰か来るの?」
小首を傾げて訊ねる皐月。電話の向こうの宗一が、ああ、と答えるのを聞いて、さらに重ねて訊ねる。
「とにかくたくさんって言われても、具体的な人数とかわかんないとどうしようもないんだけど」
『それはそうなんだが……正直、最終的に何人になるかもはっきりしない状態でな。俺も困ってるんだ』
「うーん。じゃあ、宗一の見立てでいいから。あたしがどのくらい作ればいいか、宗一が決めてちょうだい」
皐月がそう言うと、電話の向こうで宗一は少し考えた後に答えた。
『よし。……皐月が正直やりすぎたかなー、って思うくらい大量に頼む。材料代も、テーブルの上の財布の中身を使っていい』
それを聞いて、ひょいとテーブルの上に手を伸ばす皐月。
片手で器用に中身を探ると、そこには数え切れないほどの諭吉さんが詰まっていた。
「おおー。やったわねパパ! 今夜はホームランよ!」
『……皐月、やっぱりまたお前は勝手に俺の部屋で寝てたのか』
あ。と慌てて口を抑えるがもう遅い。
そう、皐月が今いるのは、彼女の住み慣れている安アパートの一室ではなく、那須宗一が根城とするマンションの一室。
家主が居ぬ間に堂々と上がり込んで、我が物顔で昼寝をしていたのである。
そして現在。
「それで、ふと気づくとこれは本当にやりすぎたかなー、なんて思っちゃったんだけど」
「なるほふぉ。……ごくん。それで、私に声がかかったわけですか」
二人がかりでなんとか座るだけのスペースを確保して、皐月と、その親友たる伏見ゆかりは顔を見合わせていた。
周囲には、作られてからかなり時間が経っているにもかかわらず、未だに美味しそうな香りを立てる料理の数々。
「とりあえず、貸しひとつと言うことで」
そう言ってにこりと微笑むゆかり。ちなみにこの場合の貸しとは、宗一に対する占有権交渉材料に他ならない。
ぐ、とうめき声を上げるも、素直に頷くしかない皐月。なにしろ自分の作った料理で遭難しかけたのだからそれも当然。
「でも、これだけたくさん作っても、皐月ちゃんのお料理はやっぱり美味しいよね」
「そ、そう? うん、やっぱ料理には自信あるし!」
「入り口そばの麻婆豆腐は渋味が利いてましたし、お風呂場前のカレーは塩気が強めで美味しかった。
そこにあった苺パスタは辛口なのがよかったし、この唐揚げも甘くて美味しい……あれ、どうしたの皐月ちゃん?」
「ううん、気にしないで。一瞬でもゆかりの味覚を忘れてた私のミスだから」
感想が述べられる度に顔を引きつらせる皐月。激辛麻婆豆腐も、ココナッツカレーも、甘口いちごスパも、スパイシー唐揚げも。
どれもこれも、超次元味覚のゆかりにかかっては、まったく別物の料理になってしまう。
いつか彼女に正しい味覚を認識させることは、皐月積年の目標であるのだがそれはまた別の話。
「宗一くんには連絡したんですか?」
「それがあのバカ、いくらこっちから電話しても出ないのよ」
あのバカ、と言う一瞬、宗一の顔を思い浮かべたのか、ほんの少し皐月の顔がほころぶ。
取り出した皐月の携帯電話からは、通話相手の携帯電話が不通の状態にある旨の音声が流れ出していた。
「エディさんやリサさんはどうですか?」
「あ、すっかり忘れてた。それじゃあの日本人離れした二人にも相談してみましょう」
「はい、そうしましょう」
そもそも二人とも日本人ではない、というツッコミは、最後まで発せられることはなかった。
「ソーイチ? 知らねエな。あのバカ、またなんかやらかしたか?」
「どちらかと言えば、やらかしてしまったのは皐月ちゃんのほうです」
「オヤマア。今度はサツキちゃんかよ。まったく、忙しくて飽きないネエ」
「ンー、そうね。私にもちょっと心当たりはないわ。ちょっと残念だけど」
「そうですね、私も残念です。せっかくライバルを出し抜くチャンスですのに」
「フフ……そうよね。本当に残念……」
思っていたより簡単に連絡はついたものの、どちらも芳しい結果は得られなかった。
じゃー、と音がして、トイレから皐月が出てくる。
ゆかりが救助に来るまでずっと我慢していたらしく、一仕事済ませた今、その表情は晴れやかだ。
ちなみに、さすがにトイレの中には料理は置いていなかった。
「お待たせ。エディさんとリサさん、なんだって?」
「二人とも宗一さんのことはわからないそうです。はい」
「そっか。そりゃ残念」
携帯を皐月に返しつつ、ゆかりはにこりと微笑んだ。
「ですけど、お二人ともこちらに来てくれるそうですから」
「げー。二人して私のこと笑いに来るのー?」
――その通りです。でも……ちょっとだけ違います。
思わず口に出かけたその言葉を呑み込むと、ゆかりは再び手近な皿に手を伸ばす。
まめに食べてはいるのだが、元々が室内を埋め尽くさんばかりの量。そうそう無くなりはしない。
ちなみに、冷めても美味しい。
ピンポーン。
「う、来たみたいね。開いてますからどうぞー」
皐月が玄関に向かって叫ぶ。だが、返ってきた声は意外な人物の声だった。
「お、おじゃましまーす!」
「え、七海ちゃん!?」
「失礼します」
「夕菜さんまで。いったいぜんたい、どうしたんですか?」
やって来たのは、立田七海、梶原夕菜の二人だった。
目を丸くする皐月をよそに、皿でひしめく那須邸に、次々と客がやって来た。
「Hi、お待たせ。……ってあら、先客ありなのね」
「ヨォ! ってまあ、こりゃあすげえ。料理の大洪水だ」
地獄の雌狐・リサ=ヴィクセンが、現役最高ナビゲーター・エディが。
「っほ、お邪魔するぞい。うむ、美味そうな匂いじゃの」
「うむ。まったりとしてしつこくなく、鮮やかでそれでいて下品でない。やるではないか」
長瀬源治郎と福原庄蔵の、オールド・デンジャラスコンビが。
「こんばんはー。なんだか知らないけど呼ばれたんで来てみました」
「わ、美味しそうな匂い。なんだかすごくお腹が減ってきた」
骨董店五月雨堂の若旦那と、彼の連れ添いが。
「ごめんください。……あら、面白い顔ぶれですこと」
「たのもう! むう、小僧め、奴には過ぎた部屋に住んでいるようだな」
A級ウォッチ/ジュエルエージェント、高井鈴美が。
そして、狂犬、吊られた男、NASTYBOYストーカー、の異名を持つ傭兵、醍醐が――。
「あんたは出てくるなぁー!」
「ぬおおおおぉぉぉぉ……!?」
五月の暴風が過ぎ去ったとき、そこに歴戦の傭兵の姿はなく、小さなくまさんのぬいぐるみが残っているだけだった。
わいわいがやがや。
一人や二人には広々としたマンションの一室も、総勢十一名ともなれば手狭となる。
次々に訪れる来客に、部屋を埋め尽くしていた料理はひとつ、またひとつと平らげられ、姿を消して行く。
「いやー、やっぱサツキちゃんの料理は最高だナァ!」
「うむうむ。若造には勿体ないわい」
「あ、すもも! 勝手に食べちゃダメだよ!」
「うーん、こうも料理が美味しいと、いい飲み物も欲しいわね」
「それでしたらどうぞ。勝手に作ったワインセラーにいいのがあるらしいです」
「これ、どうやったら作れるのかしら?」
最早半ば宴会場と化した室内を抜け出し、皐月はこっそりとベランダに抜け出した。
いつの間にかマナー・モードにセットし直されていた携帯電話が、ぷるる、ぷるると振動を繰り返す。
皐月は、耳に電話を当てて通話ボタンを押した。
「はぁい、あなたの皐月ちゃんでーす」
『語尾にハートをつけるな、阿呆』
「残念。機種依存文字なのでなるべく使わないようにしているのでした」
『なんのこっちゃ』
電話の相手は、もちろん那須宗一その人である。
携帯電話を耳に当てたまま、皐月はベランダから空を見上げた。すっかり陽も傾いている。
「それで、なに? 料理の方ならバッチリだったけど」
『あー、それだ。そのことなんだがな、ええと、ちょっと言いにくいんだが……』
柵に背を預ける皐月。結わえた髪が風になびく。部屋の中では大勢が舌鼓を打っている。
皐月は、珍しく言い淀む宗一の様子に、ひとつの考えを思いつき、くすりと笑って先手を打った。
「呼ぶ予定だった人、来られなくなったとか?」
『……まいった。その通りなんだ。悪い皐月、お前がせっかく作ってくれた料理、無駄にしちまって』
来られないのも当然だ。
――だってたぶん、宗一が呼ぼうとした人は今、全員揃ってここにいるんだから。
「どうしよっかなー」
悪戯っぽく笑いながら、皐月は再び室内に背を向けて、夕焼け空に目を向けた。
元々、皐月が作りすぎた(と思って)相談すべく呼んだのは、ゆかりだけであった。
そして、ゆかりはエディとリサに連絡して……それからたぶん、他にも手を回したんだろう。
それが、ゆかりかリサかエディか、あるいは他の誰かの悪戯なのかはわからないが――。
少なくとも、みんな宗一とすれ違うようにしてここに来ていたんだろう。そう考えると可笑しくなる。
『本当に悪い。ごめん。……埋め合わせに、ひとつ、何でも言うこと聞くからさ』
「なんでも?」
きらーん。
皐月の目が光る。唇が笑みの形に歪み、さて何をしてもらおうかと、考えを巡らせてはにやける。
そして答えた。とても楽しい、とても嬉しい、でもちょっと恥ずかしいけどそこがいい、そんな埋め合わせ。
「じゃ、返ってきたらハグちてちょー」
『おう。そんなことでいいならいくらでもしてやるぞ』
「ちゅーもして」
『わかったわかった。それじゃ、今から帰るから』
「思いっきりじゃないと許してあげないんだからねー?」
そこまで言って電源を切る。ほどなく、聞き慣れたエンジン音が届きはじめた。
宗一の愛車ミルトの姿が、だんだんとこちらに近づいてくる。
「うふふ」
さて、ドアを開けた瞬間の宗一の顔が、そして誰だか知らないが、これだけ呼び集めた張本人の顔が、楽しみだ。
軽く鼻歌など歌いながら、皐月はベランダから室内へと戻る。
「みなさん! 料理はまだありますからねー。遠慮しないでくださいねー」
甘美な宴はまだまだ続く。皐月の料理が姿を消すまで。
ほどなく、家主の帰宅を示すチャイムが鳴り響く。
そして、そう、メイン・イベントはそれからすぐ後にあるのだ――。
延長希望の方はいらっしゃいますでしょうか?
>>319 CLAM MAD――狂気の和音――
「理想的なパン生地って、死肉のかたさなんだって」
――――古河 渚
「今じゃ鉄パイプの変わりにバット振り回してんだ。
……たまに当たっちまうんだけどな」
――――古河 秋生
「お乳、飲みたいですか…朋也さん?
……家族になれば、飲めますよ」
――――古河 早苗
「星を彫るんです。倒した敵の数だけ。
……この板が、いっぱいになるまで」
――――伊吹 風子
俺達は奏で始める。長い、長い狂想曲を。
356 :
代理投稿:04/05/21 13:59 ID:J2dhu0s8
>>356 どうもありがとうございました。助かりました。
投稿が入り組んでいたので難儀しましたが、抜けはありませんでしょうか。
さて…
>>255さん
>>3のルールにあるように、このスレでは、
>投稿期間終了までは一切感想をつけない。
ということになっていますので…
堅いことを言うようですが、どうぞご協力をお願いします。
『聞いてません』
WA未プレイなので、少しだけ。
SSの最初と最後に、SSのテーマである『相談』が収まっているのはよかったと思います。
しかし、ドタバタの様子は特に面白いとは思えませんでした。
人物相関やキャラの人格を把握していれば、また違った感想になったのでしょうか。
『僕と君との協奏曲(コンツェルト)』
大作お疲れさまです。。
ストーリー自体は悪くなかった気がします。
ただ、それぞれの場面描写・ストーリー展開は難ありと感じました。
特に、全ての背景・心理をキャラクターの長口上で説明するのは、それだけで読む気が殺がれるというものです。
三人称書きで、各章ごとに、それぞれのキャラクターの視座から話を展開していった方がよかったのではないでしょうか。
『ナイショの小さな訪問者』
せめてオチでは一捻り欲しかったです。
二人の会話そのものは、悪い感じではなかったのですが。
『Sister again!』
原作のキャラクターに近いイメージで、登場人物が動いていると感じました。
まずそこがよかったです。ところどころにあるギャグも笑えました。
場面の転換が唐突に感じられる部分があり、ちょっと惜しいという感じです。
その原因のひとつに、智代があまりにも便利に使われているという点があげられるでしょう。
引きの強いラストですが、これはこれでよかったと思います。
智代とのバランスで、もう少し芽衣に元気があってもいいかと思いましたが、これは個人の嗜好が含まれてしまっているかもしれません。
土台のしっかりした良作でした。
『フィーバークッキング』
骨董屋ということはまじアンかな、と思ったらROUTESなのですか。
どちらも未プレイということで、こちらも原作知らずです。
人物相関がさっぱりなのが残念でした。
それでも作品から、皐月のいる環境や宗一との関係などが想像でき、暖かい雰囲気が伝わってきました。
波乱を予感させるラストも楽しいです。タイトルのセンスも良。
個人的良作認定 二作
『Sister again!』
『フィーバークッキング』
みなさん、おつかれさまでした。
このところ板がクラナド一色だったが、このスレ見て安心した、
ホワルバにルーツ……やっぱり葉鍵板だなぁ、と。
……原作知らないという人が続出の悪寒(;゚Д゚)
ホワルバ:やってない
蔵:やってない
Routes:やってない
さて、「ゲームやってない人間的観点」で感想書こうかとも思ったが、流石に48レスは厳しい。
どうしようかねぇ。あははっは。
こやつめ、ハハハ。
ハハハ
ハハ……
にはは…
時期もお題も厳しかったかなあ。いまいちもりあがらんね。
次回はちょっと期待してるから、もちっと賑やかになるといいな。
ホワルバ:芸能界編だけ
蔵:やってない
Routes:バッチリ!
では、感想行きます。
>248-253 「聞いてません」
由綺の壊れ具合が、個人的にツボです。面白かった。
地の文に工夫があって、すいすい読ませる、それだけでも高評価したいと思います。
>甘やかな賛美歌のようにのろけ相談を歌い上げた横で
こういう比喩とか良いね。
困ったのは、物語の分かりにくさ。
中盤、3者が入り乱れて会話しているところでは大混乱しました。
私自身の読解力の無さも原因だけど、もう少し分かりやすく書けそうな気が。
それから、ラストで二人とも笑ってるところから推測するに、英二と弥生って基本的には祝福してるわけですよね。手荒いけど。
途中で「苦悩と諦観をブレンドした顔」とか形容されてたから気になって。
その辺も、わかりにくさを感じた一因かも。
>?? 「僕と君との協奏曲(コンツェルト)」
う〜ん、残念ながら原作を知らない私にこれは無理。
一人称の弊害とも言える、主人公と読者との情報格差が、そのまま出てしまった感じです。
>313-318 「ナイショの小さな訪問者」
これはテーマに直球勝負。
まじめに相談やってるのはポイント高いです。
二人の会話も、性格が対照的ということもあってか、とても分かりやすく面白く読めました。
文字通り世間話をしただけなので目新しさは皆無。
でも、いかにもギャルゲですって感じの台詞回しが上手く決まっていて楽しかった。
萌えSSとしては、十分合格点ではないかと。
>322-330 >332-334 >336-341 「Sister again!」
台詞ばかり目立つなぁ……と思うのは、たぶん私がキャラを把握していないからで、CLANNADをやりこんだひとにはこれくらいで丁度良いのでしょう。
ギャグかと思ってたら意外にシリアスな話でびっくりしました。
難点を挙げるならば、やや話が散漫かな? 芽衣と智代、どちらも書こうとしてどっちつかずになっているような……。
>346-352 「フィーバークッキング」
まさにアルあそおまけシナリオのノリですな。
賑やかで、幸せそうで。
文章も読みやすいし、話は強引だけど登場人物の多さで上手くいった感じだし、皐月のバカップルぷりも楽しいし、Routesをプレイしていないであろう読者に対する細かな配慮も好感が持てて良いです。
しかし、こうまで完成度が高いと、やっぱり強引さが気になってくるなぁ。
料理で部屋中を埋め尽くす皐月とか、それを片付けてしまうゆかりとか、ギャグ狙いとは言え性能強化が過ぎるきらいがあります……。宗一もただの狂言回しになっちゃってるしなぁ(いとっぷじゃあるまいしフォローしてあげようよ)
この辺は、原作をやっていない人のほうが受けがいいかも、と思ったり。
あとそれから、これだけの人数があのワンルームに入れるのか?という根本的な疑問も。
以上です。
今回、難しいテーマだったにもかかわらず、力作を投稿された作者の皆様お疲れ様でした。
文章力だけならどれも十分な水準にあるとさえ思いました。
ただ「相談」というテーマを上手く消化できなかったためか、話運びに無理が感じられるものもあって、そこが分かれ目になったかな。
そう言う私も、今回なんにも思いつかなかったので、あまり強く言えませんです。
次回こそはなんとか。エロは書けないけど、がんばる。
投票だけれど、CLANNADをやっていないので評価対象は実質2作品。
無理に最優秀を選ぶのもどうかと思ったんで、最萌のみ投票します。
というわけで、
私的最萌 「ナイショの小さな訪問者」
次回も期待しています。では。
・聞いてません
ホワルバは未プレイだが、コメディとしてはなかなか面白かった。
他に余計な登場人物は出さず、テンポよく会話を進めているのも評価。
・僕と君との協奏曲(コンツェルト)
よくこれだけの大作を、というのが読み終わってからの感想。
今まで読んだCLANNADのSSでは間違いなく最高の完成度。
他のキャラのアフター補完物としても読めるし、成長した汐も面白い。
しかし朋也がロボットになって汐の傍にいる、というパターンがAIRの往人のパターンと被ってしまい、展開に斬新さがあまり感じられなかった。
それに、テーマ「相談」でここまで書く必要があったのか、というのも気になる。
とはいえそれを抜きにして余りあるだけの完成度を誇っているのも確か。お疲れ様でした。
・ナイショの小さな訪問者
よくも無く、悪くも無く。しかしテーマ「相談」を一番生かした作品だと思う。原作のアフターにあってもおかしくない。
風子と美佐枝という繋がりも新鮮。起承転結もバランスよくまとめているが、問題はオチの弱さか。
・Sister again!
智代と芽衣の絡みも、上の風子と美佐枝同様に見ていて新鮮で楽しめた。
CLANNADのSSの魅力の一つが、原作には無いキャラの繋がりを色々と読めること、にあるかもしれない。
しかし、原作では春原はきちんと田舎に戻って就職しているだけに、どうしてこのSSでは春原が町に残ったか、の説得力が欲しかったかも。
・フィーバークッキング
ルーツは未プレイだが、この作品は楽しめた。
ぞろぞろと人が集まってくるにぎやかな感じ、そして所狭しと並ぶ料理の数々は想像するだけで読み手を楽しませてくれる。
多少やりすぎの感はあるが、コメディならそれくらいやってくれてOKだろう。ただ、せっかくタイトルがクッキングなのだから、もう少し料理の描写にこだわっても悪くないのでは。
それと、あまり「相談」というテーマが感じられなかったのが残念といえば残念。
今回もちょっと寂しい作品数だが、少数精鋭でどれも読み応えが合った。そしてさすがはCLANNAD。発売から一月で三作も投下とは。
いつもはテーマを生かした作品を評価するところだが、今回は群を抜いた完成度ということで
僕と君との協奏曲(コンツェルト)に一票。
【告知】
現在、葉鍵的 SS コンペスレは投稿期間を終え、感想期間に入っています。
今回投稿された作品の一覧は
>>356 となっています。
また、
http://sscompe.at.infoseek.co.jp/ss/25/index.html からでも投稿された作品を見ることができます。
感想期間は、31 日の午前 8:00 までとさせていただきます。
目に留まった作品だけでもいいので、よろしければ感想を書き込んでください。
あなたの一言が、未来の SS 職人を育てるかもしれませんYO!
*次回のテーマは『えっちのある生活』で、開催は 6 月上旬になる予定です。
*早くに書き始めてもらっても構いませんが、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
鯖重いよw
保守しとく。
WAは弥生さん以外クリアー済みだが、蔵もRoutesも遊んでねえなあ。
ま、Routesは絵がストライクゾーンから外れてるんでプレイの機会は今後もないから、
ネタばれを気にせず読んでみます。
>>248-253 聞いてません(WHITE ALBUM)
軽快なテンポで最後まで読み勧められるのが、よい。
>248あたり、地の文と会話の判別がつきにくいのはやや難ありだけど。
あと>253のオチは、あと1行なにがしか加えたほうが良くない?
スローモーションで倒れゆく冬弥がマイクに足引っ掛けて、電源ONなままのマイクが
冬弥の断末魔の梅木をスタジオ中に響き渡らせる、とかなんとか。
いまのままだとオチがほんの少し尻切れトンボ風味。
ついでにどうでもいいけど、由綺を孕ませたのは>13とか>24とかに対する読者サービス?(w
>>346-352 フィーバークッキング(Routes)
読むには読み通したんだけど……個人的に神経に障る文体だ。
> 草木も眠る丑三つ時、トカゲも踊る盛り沢山。
>「あいあい。愛しぃ〜の皐月ちゅわぁ〜んに何でも話してみたまい? ん?」
>「入り口そばの麻婆豆腐は渋味が利いてましたし、お風呂場前のカレーは塩気が強めで美味しかった。
>そこにあった苺パスタは辛口なのがよかったし、この唐揚げも甘くて美味しい……あれ、どうしたの皐月ちゃん?」
このあたりのレトリックの感覚が俺とは合わなかった。
ゲームのシナリオみたいに、優れた声優の演技やBGMに後押しされていたら、
これらの文への印象も変わったんだろうが。
ただ偏見抜きで眺めて、文章力はあるんだろうなとは感じる。
最優秀とかはパスさせてもらうってことでひとつ。
【告知】
ただ今をもちまして、感想期間を終了させていただきます。
投稿された書き手の皆さん、感想をつけてくださった読み手の皆さん、
そして生温かく見守ってくれていた ROM の皆さん、どうもご苦労様でした。
引き続きこのスレでは、今回の運営への意見、書き手の挨拶、
次々回のテーマの決定などを行いたいと思います。
上記のものやそれ以外にも意見が何かありましたら、書きこんでください。
※次回のテーマは『えっちのある生活』に決定しており、開催時期は 6 月上旬〜になる予定です。
※今回決めるのは次々回のテーマです。お間違いのないように。
感想の中で、評価が高かった作品は以下のとおりです。
『僕と君との協奏曲(コンツェルト)』
>>370 『Sister again!』
>>359 『ナイショの小さな訪問者』
>>369 『フィーバークッキング』
>>359 ということで、4作品が横一線のようですので、
最優秀作品は該当なしとします。
ん、誰も居ない…
保守代わりに次々回テーマの希望でも書いとくか。
以前候補にあがってた「If」に一票!
もしアイツが生きてたら、あの時ああしてたら今頃は…
ってな感じでめっちゃ書きやすそうだから。
前にもあがってたけど、クラナドも発売されたことだし、親子や姉妹ものが書いてみたいので
『家族』
を次々回のテーマに推薦してみる
みなさん、いつもお世話になっております。
今回は「ナイショの小さな訪問者」を投下させていただきました。
このSSのコンセプトは、「相談」のテーマを最大限利用したSSを目指したものです。
特にCLANNADは発売後すぐにプレイし、オールコンプしてぜひともSSが書きたくなったので、今回は感想が少なくなることを覚悟の上で挑戦してみました。
もう、CLANNADで「相談」といえば美佐枝さんでしたし。
後は誰を絡ませるか、で少し悩みました。
智代、渚、春原、朋也……それもいいけど、どうせSSなんだから原作では成し得なかった組み合わせにしてみるのも面白い、ということで
一見何も悩みのなさそうで、色々と悩みを抱えているかもしれない風子を選んでみました。
結果的にはあまり中身の無いものになってしまったかもしれませんが、今回はとにかく原作に無いキャラの掛け合いを書いてみたかったので次回にチャレンジです。
感想を下さった皆さん、ありがとうございました。
>>358さん
締め切り間際まで考えて、それでもいいオチがどうしても思いつきませんでした……。
>>368(名無しくん、、、好きです。。。)さん
割と高い評価をいただき、ありがとうございます。
特に萌えを狙ったわけではないですが、原作には無かったこの二人の掛け合いが楽しんでいただけたというのは風子ファンとして嬉しいです。
>>370さん
アフターであったらいいですね、こんな展開。
姉と元担任。という公子さん繋がりがあるのですから、こういうのもありだと思います。
次回はもう少しオチを頑張ってみます。
次々回テーマ…今上がっている「IF」も「家族」もどちらも捨てがたいですね。
私はそのどちらかだったら構いません。どちらでも割と書きやすいテーマだと思いますし。
さて、「えっちのある生活」は果たして私に書けるだろうか……。
業務連絡です。
総括期間に入ってそろそろ1週間になります。
>次々回テーマ
現在のところ、
「If」「家族」
が挙がっていますが、
特に異論がなければ明日一杯でテーマ投票を締め切り、
6 月 7 日の午前 8:00 より、第二十六回『えっちのある生活』を開始したいと思います。
感想投下や作者挨拶などを予定されている方がいらっしゃいましたら、お早めにお願いします。
ども、今回『フィーバークッキング』を書かせていただきました。
コンペは久々の参加でどうなることかと思いましたが、とりあえずは
そこそこの評価をいただけたようでありがとうございます。
参加する毎に原作未プレイと言われるのは既に恒例の感もあるとして、
それでも感想・反応を頂けるのは実にありがたいです。
同一の点を人によって好感・反発と正反対の評価を頂けるのも実に参考になります。
今回は久々のコンペ参加とあって、ノリは感想であったとおり、
『アルルゥであそぼ!』のおまけシナリオのノリです。
ネタそのものはコメディ色強く、ありえなさげな状況を重ねる形となりましたが、
実際に書きたかったのは宗一と皐月のバカップル会話ぶりだったりします。
その点は書いてて自分でもわりと満足できた感じです。らぶ・らぶらぶ。
今回の作品も、(実はほんのちょっとだけ修正して)拙作HPにアップしますので、
気が向いた方はなど検索してくださいませ。それでは。
初めまして。もしくはお久し振りですね。
今回、『僕と君との協奏曲(コンツェルト)』を投稿させて頂いたものです。
主題というのは、相も変わらず難しいですね。
消化するのも、そこから昇華させるのも思い通りにはいかず、まだまだ技量不足といったところでしょうか。
邁進続けるなら、いつか永遠さえ書き切れると信じているのですが、道則はまだ遠いようです。
>>358氏
書き始め、各キャラクターごとの一人称も考えたのですが、私自身CLANNADの全キャラクターを把握しているとは言い難く、
今回は、本編似のシナリオ形式にしてみました。
が、この形式は単なる簡略化というわけでもなく、書くのは思いの外、難しくありました。
力不足を露呈をした感じで非常に恥ずかしい限りです…。
感想、有難うございました。
>>368氏
CLANNADをプレイ後、記憶の片隅でも私の作品を覚えてくましたなら、その時にお逢いましょう。
それまでは、記憶の断片にも残っていたら、嫌です、ですよーっ。
>>370氏
AIRとの兼ね合いは、最早、少女とロボットのコンボを見た私には、この展開で行くことしか頭にありませんでした。
いやはや、暴走の限りを尽くした感のある作品でしたが、気に入って頂けた様で、嬉しいです。なごなご。
感想、有難うございました。
しかし今、自分の作品を振り返りますに、申し訳ないくらい文章に荒が目立ちますね〜。
乗りと勢いで書き綴った感じがそのまま見えて、どうにも駄目です。
また、落ち着いた日にでも改訂しますか……。
ああ…何か、学生時代の試験後みたいですね、これ。
今回は、いつにも増して人少ないような・・・
次回大丈夫かな?
テーマは、「IF」に一票。書きやすそうだという、それだけの理由だけれど。
こんばんは、『Sister again!』の作者です。
GW前にONEとKanonでの二種類のプロットを組み、さあどうしようかと悩みながら何気なくCLANNADをプレイ。
結果、出品作と相成りました。
SSを書く原動力は勢いと萌えだなぁつくづく感じさせられた一幕ですね。…たぶん私だけだと思いますが。
誰を登場させるか、といった点では一切悩みはありませんでした。
物語の中から自分の好きなキャラの一番目と二番目を選び、そしてどう展開させるかを考える。
今回の場合だと芽衣と智代がそうですね。
芽衣を出すと決めた時点で再来訪モノ、智代をサブヒロインに設定した時点で妬かせる&アドバイザー的な役割。
そしてテーマが「相談」なので智也に相談させる。それぞれのポジショニングを決めた時点でおおまかな話の流れは決まりました。
後は執筆するだけだったのですが…色々ありまして締め切りギリギリに。
初期案では春原にも見せ場があり、仕事先の上司としてあの方にご登場願うなど、色々な展開を考えていただけに、その辺りが少し残念かな、とか思います。
要はもっとスケジュールに余裕を持たせよう、との事ですね。要反省。
>>358氏
場面展開の唐突さは急いでいたため…ではなく、私の癖のようです。
書くときにゲーム画面を想像しているので、自分の中だけで完結してしまっているようです。
もう少し不自然感をなくすよう、考えてみますね。
原作に近い、との言葉は本当に嬉しいです。ご拝読、有難う御座いました。
>>名無しくん、、、好きです。。。氏
一応メインが芽衣でサブ、補助的な位置に智代を付けてみました。
話が拡散してしまいましたのは…やはり場面転換の唐突さと自力不足のせいでしょうか?
精進します。
>>370氏
今ゆっくりと葉鍵板を巡回しているのですが、芽衣SSって少ないですね。
地元に帰ってしまうキャラだけに書きづらいとは思うのですが、もう少し数が増えてくれたらな、とか思います。
智代との絡みについては序文に記しましたとおり、完全に自分の趣味ですねw
春原が残った理由に付きましては…三分のニが本文通り芽衣に対する諸々、そして残りが朋也との友情絡みでしょうか。
乱雑ながらも自分を理解してくれる初めての友人に出会えて…との流れなのですが、その辺りは完全に説明不足だったかな、と反省しています。
次々回テーマは、現状では「If」で簡単なイメージは出来ていますが、「家族」に決定してもなんとか考え付くとは思います。
ですので、私としましてはどちらでもOKです。
それでは今回は有難う御座いました。
【告知】
第二十六回投稿テーマ:『えっちのある生活』
投稿期間: 6 月 7 日の午前 8:00 から 6 月 21 日の午前 8:00 まで。
テーマを見て、思いついたネタがあればどんどん投稿してみましょう。
面白い作品だったら、感想がたくさんついてきて(・∀・)イイ!!
もちろん、その逆もあるだろうけど……(;´Д`)
※投稿される方は
>>3-5 にある投稿ルール、FAQ をよく読んでください。
※特に重要なのが
・テーマに沿った SS を*匿名*で投稿する
・投稿期間中は作品に対して一切感想をつけない
※の二点です。他の各種 SS スレとは異なりますのでご注意を。
それでは、投稿開始っ!
また、次回のテーマは『If』への支持が多いようなので、『If』に決定します。
開催時期は 7 月上旬になる予定です。
「二週間じゃ短すぎて書けない」「テーマが難しい」という方はこちらの執筆に力を
注いでもらっても構いません。ただし、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
テーマ『えっちのある生活』SSを投稿します。
元ゲームは『Kanon』。
タイトルは『土曜日のお当番』。
ジャンルはエロ(和姦)。
レス数は14になります。
佐祐理さんの様子がおかしかった。
今日は土曜日だったし、朝食当番も舞だったので佐祐理さんが早起きをする必要はなかったのだが、それにしても随分ゆっくりだった。
顔色はいつも通りなので体調が優れないというわけではないと思うのだが、どうも俺たちと……特に舞とは目を合わせることを避けてい
るように見える。
そして三人でテーブルを囲んで朝食が始まっても佐祐理さんはおかしなままだった。いつもなら積極的に話題を持ちかけて食卓を賑やか
にしてくれる筈なのに、今朝は随分とおとなしい。
何かあったのか、と俺が声を掛けようとした時、
「佐祐理。今晩、祐一を貸してあげる」
ぼそっ、と。その形容がぴったり当てはまるように舞はつぶやいた。
「ふぇ?」
「(何だ?『貸す』って?)」
佐祐理さんは目をパチパチさせて間の抜けた声を漏らし、俺は味噌汁をすすりながら二人の顔を交互に見つめた。舞は表情を崩さぬまま
俺の方を向いて言った。
「祐一。今晩、佐祐理を抱いてやって」
「ぶっ!」
舞の突然の発言に俺は口の中の味噌汁を吹き出した。舞の顔に吹き掛けなかったのが不幸中の幸いだ。
「祐一、汚い」
今日の食事当番が食卓を汚した俺を睨みつける。
「せっかく今日はお味噌汁がおいしく出来たのに」
「お前が変なことを言うからだろ」
「あ、はは……。布巾取って来なくちゃ」
引きつった笑顔を浮かべながら佐祐理さんが立ち上がって流しの方へ向かう。俺もティッシュペーパーを一枚取って口を拭った。
「で、何だ今のは。いや、ギャグならなかなかいいタイミングだったと思うが」
「ギャグじゃない」
「じゃあ何だって言うんだ。自分の男に他の女を抱け、なんて言う女聞いたこともないぞ」
「私だって祐一が他の女の子とそんなことをするのはイヤ。でも佐祐理だけは特別」
舞も一応俺への独占欲は持ち合わせているようなので嬉しかったが舞の発言内容が尋常でないことには変わりない。
「佐祐理もそう。佐祐理が他の男の子とえっちなことをしているのは許せないけど、祐一となら大丈夫……だと思う」
「だから何で佐祐理さんと俺がそういうことをするっていう話になるんだ? 何かあったのか?」
「うん、昨日、佐祐理が……ムグ」
「いやっ、舞。それは言っちゃダメ!」
佐祐理さんは普段なら絶対挙げないような悲鳴を上げて頬はおろか耳まで真っ赤に染め、泣きそうな表情(かお)で舞の口を押さえる。
よほど慌てていたのか、持っていた布巾が舞の顔を擦っている。
舞は佐祐理さんの手と布巾をゆっくり引き剥がすと真面目な顔をして佐祐理さんの目を見つめた。
「佐祐理。佐祐理から私は大切なものをもらった。私に『寂しい』という感情を思い出させてくれた。そして私を寂しさから救ってくれた
」
「……」
「だから今度は私が佐祐理に恩返しする番。私は佐祐理にあんな寂しい真似をさせたくない」
「舞……」
佐祐理さんは複雑な表情のままうつむく。
「何だ? 寂しい真似って?」
問う俺の声は無視された。
「でも舞。そんなのやっぱりダメだよ。舞と祐一さんとは恋人同士なんだよ?」
「私がいいと言っているからいい」
「でも、それじゃ、祐一さんは」
「大丈夫。祐一はスケベだから、条件さえ整えれば知り合ってすぐの女の子とでもえっちするから」
「おいコラ待てや」
とは言え、知り合って3週間で舞と関係してしまった俺はあまり強く否定できないのが哀しい。
「祐一は佐祐理とするのは嫌? 佐祐理とはそういうことをしたい気持ちになれない?」
俺のツッコミをスルーして目を合わせてくる舞。
「い、嫌かっ、て言われたらそれは、その。そういう質問の仕方は卑怯だぞ、舞」
半年も同居していれば、俺だって佐祐理さんのいろいろな姿を目にする。
夏場にノーブラでTシャツ、短パンという扇情的な格好を目にしたときはさすがに目のやり場に困ったものだ。
けれどこれでも、俺は舞の事を考えてこれまで佐祐理さんに手を出したりしなかったのだ。
半年前、俺が水瀬家を出て行く前の晩、名雪から一度だけ抱いて、と誘われたときも心を鋼にして断ったのだし。
そんな気遣いも知らずに舞は俺に佐祐理さんを抱け、と言う。
「訳を訊かせてくれないか」
「……佐祐理」
舞は佐祐理さんを一瞥すると小さく頷いた。
「昨日の晩、佐祐理、お布団の中で一人でしてたの」
「してたって、何を…………まさか」
「うん、今祐一が考えている通りのこと」
「バッ、バカヤロ! いくら俺たちの間柄だってそんなことを暴露しちゃダメだろ!」
「祐一と私の事をカメラに撮っていても?」
俺が怒鳴ったことに舞はわずかに眉をひそめたが、言葉は止めなかった。
「な…に?」
「ごめんなさい! 祐一さん! 私、祐一さんの部屋にデジカメをセットして、祐一さんと舞のえっちを撮ってたの!」
「な、なんだってー!」
両手を畳について深々と頭を下げる佐祐理さん。
昔の某少年漫画の登場人物のような表情をする俺。
ときどき……ときどきってことは1回や2回ではないってことか。そしてその映像を佐祐理さんはオカズに……。
舞と佐祐理さんと俺の三人の同居生活が始まってから半年が過ぎている。
一応、舞と俺は恋人同士ということになっているのだが、休みの日は遊びに行くにしろ、家でゴロゴロしているにしろ大抵三人一緒だから、なかなか舞と二人きりになる機会がない。
また、ラブホテルを利用できるほど経済状況に余裕があるわけでもないから、セックスをしたいときはどうしても佐祐理さんの目を盗みつつ俺たちの部屋で、ということになる。
俺は舞と示し合わせてサインを決め、俺がそのサインを出した夜は舞が佐祐理さんが寝付いたのを見計らって俺の寝室に忍んでくるというシステムを採っていた。
一応舞もサインを出していいことになっていたが、女の子だからなのかさほど執着はなく、向こうから求めてきたことはない。
佐祐理さんによると、結構前からサインに気づき、デジカメをセットしていたそうだ。デジカメは俺たち三人の思い出をとっておきたいから、と佐祐理さんが家から持ってきたものだが、そんなことに使われるとは思わなかった。
俺の性癖のせいで部屋の電気はつけたままか赤玉の状態でしているので撮影もバッチリだったらしい。
舞と俺とが身体を重ねあっている、ということ自体は佐祐理さんに気づかれても仕方のないことだとは思っていた。けれど具体的なスケジュールまで知ってしまうと途端に生々しくなる。
それに気づかず俺は舞とヤりまくっていたのだから、佐祐理さんにとっては生殺しだ。責任の一端が俺たちに無いとも言えない。
「舞も、本当にごめんね」
「私は怒ってない。でも、佐祐理のあんな姿は見たくない。だから、あんなことをするくらいなら祐一を貸してあげる」
「……」
「……」
「だから祐一。佐祐理のためにも抱いてやって」
「俺は……」
「それともどうしてもイヤ?」
「ぽ……ぽんぽこたぬきさん」
俺はかつて思いつきで言った懐かしいフレーズを自ら口にしていた。
「私は今夜『夜の動物園ツアー』に参加するから」
そう言い残し舞は一人出かけてしまった。まったく、不器用なクセにたまに随分と手際よくコトを進めるやつだ。
佐祐理さんと俺はTVでバラエティ番組を眺めていた。しかし、これからのことを考えると番組の内容なんてほとんど頭に入ってこない。
お互いに口を利かないまま随分と時間が経ってしまった。
何と言っても佐祐理さんにとっては初体験なのだ。自分から言い出すなど恥ずかし過ぎるだろう。
物欲しそうに思われても、ここは俺から切り出すしかない。
意を決し、テレビを消すと俺は佐祐理さんに向き直った。
「佐祐理さん、そろそろ……」
「……うん」
幾分頬を紅潮させて佐祐理さんが答える。
「それではよろしくお願いします。祐一さん」
俺たちは居間からふすま一枚隔てた俺の寝室へと場所を移した。既に敷いておいた俺の布団の上に二人して腰を下ろして見詰め合う。
「佐祐理さん」
俺はオーバーに唇を尖らせて軽く突き出し、佐祐理さんに意図を告げる。
佐祐理さんは、うん、と言って身体全体をこちらへ向け、目をつぶった。その肩を抱いて俺は唇を佐祐理さんの顔に近づけ、小さく口付けをする。
ちゅっ。
佐祐理さんと俺のファーストキス。佐祐理さんの芳香が鼻をくすぐり、彼女の色気に華を添える。
手で髪を梳くと佐祐理さんは嬉しそうな顔をした。それがとても愛しくて俺はもう一度キスをする。今度はさっきより強めにし、唇の間から舌を出して佐祐理さんの唇を舐めてやる。
佐祐理さんが驚いたように鼻声を上げたが、それはすぐに収まり、俺の背中に手を回してきた。こんなことをしていると、本当の恋人同士みたいだ。
「祐一さん」
キスを終えた佐祐理さんは着ているスモックブラウスを自分の手で軽く引っ張り、脱がせて、と目で訴える。
俺はそれに頷いて答え、佐祐理さんの協力を得ながらブラウスとストレッチパンツを脱がしていった。
すると身を隠すものはフリル付きのブラジャーとショーツだけになる。白く美しい肌と肉体の曲線に思わず見とれて俺は小さくため息をついた。
「佐祐理さん……綺麗だ……」
「ん、ありがと」
続けて俺は佐祐理さんと向かい合った状態で彼女の背中に手を回し、ブラジャーのホックに触れる。しかし……。
「どうしたの? 祐一さん?」
「いや、あれ? その……あれ? 上手くはずせない……」
「えっ、でも祐一さんは舞のブラジャーをはずしたことはあるんでしょ?」
「いや、舞はスポーツブラかタンクトップしか持ってないから、こういうホック付きのは勝手が分からないんだ」
情けない告白をする俺に佐祐理さんは、ああ、と納得する。魔物退治がライフワークだった舞を恋人にしたせいで、こんなところで恥をかくとは思わなかった。
「それじゃ、祐一さん、今からわたしが自分ではずすから見ててね」
佐祐理さんは身体をまわして一旦俺に背中を向けると、ブラジャーのホックに手を掛けた。俺は学習するためにその部分を斜め上から見下ろす。
「なるほど、そういう仕組みか」
もちろん佐祐理さんのすべすべとした背中も堪能させてもらう。そこにはかつての事件で負った怪我の手術痕も残っているが、むしろそれはいとおしい。
「わかった? それじゃ、一回留め直すね」
と、わざわざ佐祐理さんはホックを元の状態に戻して俺に再チャレンジさせる。
「そうかそうか、わかれば簡単なことだった」
軽口を叩く俺だがそこから先も緊張ものだ。肩紐から一本ずつ腕を抜いていって、そして――。
息を飲んで佐祐理さんの乳房を見つめる。無論、生で見るのは初めてだ。舞ほどの大きさではないにしろ、乳首がツンと上を向いた形のいい乳房だった。
「あんまりジロジロ見られたら恥ずかしいよ」
微苦笑を浮かべて佐祐理さんがたしなめる。どうやら俺がブラジャーはずしに手間取ると言う醜態を見せたために、佐祐理さんもリラックスできたらしい。怪我の功名ってやつだ。
片方の乳房に手を触れて、その丸みと、手のひらにあたるわずかに固い突起の部分の感触を楽しみながら、小さく円を描くように撫でる。
そしてもう一方の手を佐祐理さんの頭の後ろに回してトレードマークの大きなリボンを解き、下に落とした。そのままその手を佐祐理さんの背中にまで下ろして支えにし、ゆっくりとその身体を布団の上に横たえる。
俺はあせらず自分の着ている物を脱いでトランクス一枚になると、体重を掛けないよう手足の位置に注意しながら佐祐理さんの上に覆いかぶさった。
「佐祐理さん」
「ドキドキするね」
「うん」
俺は既に固くなっていた股間のモノの硬度がさらに増すのを感じた。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……。
唇、首筋、鎖骨、乳房、乳首、へそ、と佐祐理さんの身体を縦断するキスツアーは次第に下降していく。さらにツアーを続けるつもりならば衣類が邪魔になる。
俺は佐祐理さんの下着に手を掛けた。
「お尻上げて」
「ん……祐一さんも脱いで」
俺の下腹部がトランクスの中で早く解放してくれと言わんばかりに自己主張していたのが佐祐理さんの脚に当たっていたのが気になっていたのだろう。
俺は身に着けている最後の一枚を脱ぎ捨てて、急角度で硬直するそれを佐祐理さんの目にさらす。もちろんこんな状態のモノを人に見せるのは舞以外では初めてだ。
「わぁー」
「佐祐理さんって男のコレ、見るのは初めて?」
「うん、あ、小さい頃、一弥のは見たことあるけど……全然違う」
そりゃそうだろう。と、心の中でツッコミを入れる。って言うか逆に一弥くんのと同じだ、とか言われたら立ち直れないくらい凹んだけどな。
佐祐理さんは瞳にキラキラと光を灯しながら無遠慮に俺のものを見つめる。既に先端には先走りの汁がにじんでおり、ジロジロ見られるのは恥ずかしい。
「男の人も濡れるの……きゃっ」
「そう。今、佐祐理さんのココが濡れているみたいにね」
照れ隠しの意味も含めて、佐祐理さんの股間に触れて、ちょっとした意地悪を言う。
「祐一さぁん」
困り顔の佐祐理さんが可愛くて、俺は手を離さず、佐祐理さんの性器を布地越しに弄ぶ。
最初は身を固くして心地よさから逃れようとしていた彼女だったが、まもなく自ら快楽を享受するようになった。普段オナニーをしているから慣れるのも早かったのだろう。
頃合を見計らって、行くよ、と耳元で囁き、ショーツを下ろして脚から抜く。佐祐理さんのアンダーヘアは舞のようなふわりと広がった逆三角形ではなく、局部のみを隠すような細長い楕円形だった。
「優しく……ね」
俺は頷いて佐祐理さんの開いた脚の間の割れ目をスッと指でなぞった後、二本の指で花びらを開き、いきり立つ亀頭を埋め込む。
「あっ……」
「もう少しだよ。ちょっとだけ我慢して」
入り口のあたりで少しじらしてから、思い切って腰を突き入れて俺の分身を深くもぐらせた。めりっ、という押し破る感触が伝わってくる。
佐祐理さんが痛いくらいの強さで俺にしがみつき声にならない声をあげる。
その一方で佐祐理さんの膣壁の締め付けが心地よい快感を俺のペニスに与え、同時にゾクゾクっとした快感がそこから背筋にまで伝わってきた。
「佐祐理さん、大丈夫?」
「うん、痛いけど、我慢できる痛みみたい。いいよ。続けて」
佐祐理さんを信じて、ゆるゆるとしたペースで腰を動かし始める。
「佐祐理さん、すごい。佐祐理さんの中、最高に気持ちいい」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
俺は心からの言葉を継げた。佐祐理さんの膣はキュウキュウと温かく俺のモノを包み、女の子一人一人で違う内壁の襞がいたずらっぽく弄ってくれる。
そしてキス。
下半身の方はもはや俺の脳の制御を離れ、最上の快楽を求めて自由に動いている。そしていつのまにか、痛みに耐えるために上げていた佐祐理さんの声が艶っぽく快楽を表すものに変わってきたことに気づいて俺の胸に暖かな満足感が広がる。
(抱いてよかった)
やがて俺は自身の限界が近づいてきたのを感じた。
「あっ、あっ、あっ、あぁん、あっ、あっ」
可愛い泣き声を上げ続ける佐祐理さん。このまま佐祐理さんの襞に可愛がられながら中に出してみたい。
けれど、最高に綺麗な肢体を目の当たりにした俺には、同時に佐祐理さんを汚したいという欲望がムクムクと湧き上がっている。その欲望はダイレクトに俺の肉棒を通じて佐祐理さんの内壁をピクピクと刺激した。
「あっ、ああーっっ」
佐祐理さんが一際大きな声を上げたかと思うと、その両脚が硬直してピン、と伸びるのを感じた。と、同時に俺のモノを締め付ける力が強くなる。
「くっ」
俺は咄嗟に佐祐理さんの中から自分のペニスを抜き取った。
ずびゅっ……。
途端、俺も限界を突破して、先端からこれまでの欲情の集大成である液体が飛び出し、佐祐理さんの身体の上にびちゃりと命中した。
すさまじい快感が腰の奥からペニスの先までを突き抜ける。
びゅっ、びゅっ、びゅっ……。
俺はペニスを手でしごき立て、次々と佐祐理さんの上に精液の雨を降らせる。佐祐理さんは胸を上下させながらぼうっとした瞳でそれを見つめていた。
一戦を終えて大量の水分を消費した俺は喉の渇きを覚え、全裸のまま、台所に行くためにふすまを開けた。すると――、
「うわっ!」
俺は心臓が口から飛び出しそうなくらいの衝撃を受け、悲鳴を上げてしまった。
「どうしたの? 祐一さん」
「舞!」
「舞!?」
ふすまのすぐ向こうにいたそいつは、超スピードでテーブルの陰に隠れたが、苦し紛れなのは明らかだった。
夜の動物園ツアーに行っていたはずの舞がそこにいた。
「舞、帰ってきてたのか」
「うん、ただいま」
開き直って舞が手を上げて挨拶し、こちらの部屋までやってきた。
「舞、見てたのか?」
「見てた?」佐祐理さんも尋ねる。
「……うん、途中から」
顔をそむける舞。
「動物園の方はどうしたんだ」
「行ってきた。帰ってくる頃にはもう終わっているものだと思っていたから」
まあ、確かに俺たちも緊張していて始めるまでグズグズしてたからな。
「でも、まだふすまのむこうからえっちな声が聞こえていたから、つい」
「全然気づかなかったぞ」
「魔物との戦いで気配を絶つ技術が身についていたから」
おい。
「少し佐祐理の気持ちが分かった」
と、照れながら言う舞だったが、布団のそばに落ちている丸めたティッシュを見咎めるとそれを拾い上げた。
「んっ、何?」
舞は俺が撃ち出した白い粘りを指ですくい、おもむろにそれを自分の口に含む。
「おいっ、何してんだよ。舞」
そう言われて俺の方を向いた舞はムッとした表情をしていた。
「祐一、いつもより濃いの出した」
「ぶっ」
「スケベ」
「しょうがないだろ、男ってのはそういう生き物なんだよ」
舞からの許可を得ているとは言え、初めて浮気まがいのことをしてしまった興奮で俺もいつもより濃厚なものを大量に出してしまったようだ。確かにめちゃくちゃ気持ちよかったからな。
「てぃっ」
と、舞は変な擬音を掛け声にすると精液がついたままの状態で俺の顔をつついた。そのままぐりぐりと精液をなすりつける。
「やめろよ」
自分から言い出した話のくせに、やきもちを焼くとはなんて我侭な奴だ。――まあ、嬉しいけどな。
「ふぇー、どうして舞ってば祐一さんのが濃いとかわかるの?」
「それは私が祐一の」
「こら、舞、そこまで赤裸々に語るな。こっちが恥ずかしい」
まるで俺が変態みたいじゃないか。
「祐一、こっちもだらしない」
「えっ?」
舞の指差した先を見ると、俺が飛ばしきれなかった精液がペニスの先端から幹の辺りに垂れてまとわりついている。
「いや、これは今」
「だらしない」
舞は俺のモノに手を伸ばして軽く掴むと、そのまま膝立ちの姿勢になって髪をかき上げ、俺が何かを言う間もなくそれをぱくりと口に含んだ。
「あうっ」
放出したばかりで敏感になっている俺は、舞の軽いタッチにも抵抗できない。舞はぺろぺろと舌を使って白い濁りを舐めあげ、ちゅ、ちゅ、と先端の切れ込みにキスをするように吸い立てて俺のモノをきれいにしていく。
「やっぱりいつもより濃い」
「わ、悪かったな」と精一杯の強がり。
「わ、わーっ」
と小さく歓声を上げたのは佐祐理さん。手で顔を隠しているが、よく見ると指の隙間からちゃっかりと舞の口唇愛撫を観察していた。
「こ、恋人同士だと、そんなことまでやっちゃうんだー」
「佐祐理」
舞はお掃除フェラを中断し佐祐理さんを手招きする。
「え?」
「半分コ」
佐祐理さんは一瞬目をパチクリさせたが、すぐに舞の言いたいことに気づいたようだ。
「あ……うんっ!」
うれしそうな声を上げて佐祐理さんはひざ立ちで布団の上を歩いてくる。
そして二人の美少女は俺のモノを挟んで向かい合った。
「アイスキャンディーを舐めるつもりでやってみて」
と、元女剣士はフェラ未経験の後輩にアドバイスをする。
一番惚れている女と、その女以上の美人の二人から奉仕されるという、この上ない贅沢に俺の興奮が高まる。
力を取り戻してグッと反り返ったのを合図にするかのように舞が、そしてその動きを見て佐祐理さんがその美しい唇で俺のモノを左右から挟んだ。
れろっ、れろっ、れろっ……。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅぱっ……。
俺の弱い部分を知っている舞と、フェラチオ初体験の佐祐理さん。二人の経験の差を同時に味わいながら俺は佐祐理さんの髪を撫で、舞の耳をいじってやる。
以前、舞との行為の最中に悪戯心を起こして耳に触れてやると、そこが舞の感じやすいポイントだったらしく、思いのほか好評だったので、最近では髪を撫でると同時にこういうこともしてやっていた。
くふぅん、と舞が甘い鼻声を上げる。それとほぼ同時に佐祐理さんもため息をつき、それぞれの息が俺の陰毛をそよがせる。
涼しく、くすぐったくて気持ちいい。
すげぇ。俺って、世界一の幸せ者かも知れない。
結果論だが佐祐理さんの上に一回出したのは正解だ。そうでなければこの極上のダブルフェラチオを楽しむ時間が短くなっているところだったのだから。
しかしそれでも射精欲はジリジリと高まっていく。聡明な佐祐理さんは飲み込みが早く、舞が取得した技術をどんどん吸収して俺を喜ばせてくれるからだ。
「ん、そろそろ出る……!」
俺の限界宣言を聞いた舞は、舌使いのスピードを速め、一番感じるカリの裏側を刺激し始めた。
それを見た佐祐理さんも真似をして左右対称の同じところに舌を這わせてくる。
チロチロチロ……。
「うっ」
びゅちゃっ!
本日の2度目の初弾は佐祐理さんの顔に直撃した。
「ゆういちっ」
舞の哀願するような鋭い囁きに俺は彼女の願望を直感し、射出口を手で方向転換して残りの精液を全て舞の顔に浴びせることに決めた。
舞は服を着たままだから汚さないように残りは一滴も漏らさず顔にかけてやりたい。
びゅっ、びゅっ、ぴゅっ、ぴゅっ……。
舞の顔が汚されるたび、背徳的な満足感が腰からじんわりと腰から腹、腹から胸に上ってくる。
ちなみに最初の一撃が佐祐理さんだったのはひいきしたわけではなく、俺が右利きの人間だからというだけの理由だ。
「んーんー」
「う……ん」
二人の悩ましげなため息が聞こえてきた。
しばらくぼんやりと舞は俺のかけたジェル状の液体を指で拭いつつしゃぶっていたが、佐祐理さんの様子に気づくとその行為を中断しその頬を手で挟んだ。
「ん? 舞?」
「目、開けちゃダメ。入ったらすごく痛いから」
そして佐祐理さんにキスができるくらい顔を近づけ、舌を伸ばして俺が放出したものをぺろぺろと舐め取っていく。
「ああ……ん」
けだるげな佐祐理さんの声が上がる。いや、快感の声か?
フェラチオは男だけがイッてしまいがちな行為だが、佐祐理さんは舞に顔中を舐めてもらうということで満たしきれなかった渇きをある程度潤そうとしているようだ。そして目を閉じたまま、舐めてもらうドサクサにまぎれて舞の首に手を回し深いキスをしている。
そんな二人の様子がたまらなくエロチックで、本日2回目の射精の後だというのに俺の体奥は早くも熱を帯び始めていた。
佐祐理さんの顔を綺麗にし終わると、舞は振り返り俺の顔と股間を交互に見つめた。
「祐一、もう一回、いける?」
「え……?」
「祐一のが、欲しい」
舞はそうするのが当然であるかのようにスカートをたくし上げ、俺に中を見せる。その部分は既に濡れてびしょびしょになっていた。
「舞、お前……」
「欲しい」
そう言えば舞の方から誘ってくるなんて初めてだ。舞もまた、いつもと違うシチュエーションに刺激を受けてこんなになっているのだろう。
「祐一」
やばい。俺は心底こいつに惚れてるんだ。
「ああ。やってやろうじゃないか」
そして俺は今日最後のおつとめを成し遂げるのだった。
…………。
目覚めたとき、身体はだるく、何もかもが億劫だった。
ああ、今日は日曜日か。朝食当番面倒だな……と他人事のように思い出して数秒後にハッとする。
止めてある目覚まし時計の時刻表示を見て、俺は慌てて布団から飛び起き台所へ向かった。
「悪い、寝過ごした。……あ」
そこでは既に二人がエプロンを着けて朝食の準備をしていたところだった。
「あ、祐一さん、おはよう」
「おはよう、祐一」
「あれ? どうして? 日曜は俺が当番だよな」
「うん、でも、祐一、昨日は頑張ってくれたから」
「うんうん。昨日の祐一さん、凄かったよねぇ。だから、今朝はサービス」
「そ、そうか……すまない」
頑張った、といっても性欲をぶつけただけなのに、こんな言い方をされると妙に気恥ずかしい。
それに昨夜の出来事が思い出されてしまってさっきから朝立ちが収まらない。
「祐一、佐祐理と相談したんだけど」
「ん?」
「もう、私たちのことは佐祐理に隠さなくてよくなったから、」
「ああ、まあ、そうだな」
「食事当番と同じく、えっちも当番表をつくったの」
「そうか……ってオイ!」
舞が差し出した紙切れを振り払って、俺はツッコミチョップを二人に繰り返した。
―――――――――――――
日 月 火 水 木 金 土
―――――――――――――
舞 佐 舞 佐 舞 佐 両
―――――――――――――
おしまい
>>389-402 以上、『土曜日のお当番』でした。
初めてなもので、一部改行やレスの区切りに失敗してしまいました。
すみません。
作品投下します。
CLANNADSS、タイトルは「べあなっくる」おそらく14レス予定。
18禁というほどではありませんが、15禁程度の表現はあります。ご了承下さい。
「最近、どうもマンネリ化してるみたいなんだ」
「はぁ」
出されたコーヒーを飲みながら、話を切り出す。うん、やっぱり宮沢の入れてくれるコーヒーは美味い。
「それは坂上さんと、ですか?」
「ああ。もちろん、仲が悪いというわけじゃない。むしろ毎日あいつのことを考えてるし、毎日あいつの作ってくれる夕食は美味い。
毎週デートはしてるし、週に三、四回はちゃんと愛し合ってる」
「……それはご馳走様です」
宮沢が恥ずかしそうに頬を染める。しまった、女の子相手にはちょっと刺激が強すぎたか。
「あ、いや、別に宮沢にノロケ話をするためにここに来たんじゃないんだ」
ここは学校の資料室。昼休みに訪れた俺は、いつものようにそこにいた宮沢に相談を持ちかけていた。
「お互いの関係は良好なんだが……智代はヘンに真面目な所があってな。なかなか今まで以上の新しい刺激を求めようとしてくれないんだ」
「はぁ……確かに、坂上さんはもう生徒会長ではなくなったとはいえ、相変わらずみなさんのお手本のような真面目な方ですからね」
そうなんだ。だからあいつと布団の中で愛し合うときも、いつも普通の内容になってしまうのが最近ちょっとだけ物足りない。
そりゃ、あいつの体は何度愛し合っても飽きることなんて絶対に無い。もう俺は智代無しでは満足できないだろう。
でも、俺だって男だ。たまにはちょっと変わったシチュエーションでしてみたい、という願望が無いといえば嘘になる。
例えば、外でするとか、道具を使ってみるとか、そんなちょっとした変化でもいい。きっと今まで以上の新しい発見があるはずだ。
だというのに、智代にそれとなく話を持ちかけてみても全て一蹴され続けてきた。
『そ、そんな恥ずかしいこと出きるわけないだろう!』と言って、顔を真っ赤にして全力で断られた。
そこもまた非常に可愛くはあるのだが、それ以上無理に迫っても蹴り飛ばされそうなのでそれ以上無理強いは出来ないのが辛いところだ。
「そこで、宮沢の力を借りたいんだ。俺と智代のピンク色の生活を一歩前に踏み出すために、宮沢にしか出来ないことを頼みたいんだ」
「なるほど、お話はよく分かりました」
うんうん、と納得したように頷く宮沢。話題のせいか、まだ頬が桜色に上気しているのが可愛らしい。
「つまり、朋也さんと坂上さんのお二人だけではなく、私を混ぜて三人でしたい、とおっしゃってるんですね」
「違うっ!!」
……忘れていた。こいつが天然だったということを。
「あ、でも……その、私そういうの初めてですから……優しくしてくださいね」
「だから違うっ!!」
困ったようにさらに真っ赤になって視線を落とす宮沢。こんな台詞を宮沢の「お友達」に聞かれたら、俺は間違いなく殺される。
何を想像しているのか、宮沢はさっきから恥ずかしがったり嬉しがったり不安がったりと、コロコロと顔を変えながら一人で面白いことをしている。
「おい、戻って来い」
「……はっ」
バンバン、とテーブルを手で強く叩くと、ようやく宮沢は我に返った。
「いいか宮沢。落ち着いて聞け。お前が俺をどんな人間だと思っているかは分からんが、少なくとも俺に3Pの願望は無い」
「えっ、違いましたか」
……もしかして、頼めば協力してくれたんだろうか。それは勿体無いことを……じゃない。頼んだら本当に俺の命は無かっただろう。
「俺が頼みたいのはつまり、宮沢得意のおまじないに、そういう男女の関係を更に一歩前進させ、マンネリ化を防ぐようなものがあればやってほしかったんだ」
「あ、なんだそういうことでしたか」
ホッとしたような、残念そうな、そんな微妙な顔で笑う宮沢。……こいつの性格はまだ掴みきれないな本当に。
「そうですね……ええと……」
愛用のおまじないの本を取り出し、ページをパラパラと手際よくめくって行く。その間に俺は残りのコーヒーを飲み干す。
「あ、ありました」
一分もしないで、すぐに目的のおまじないは見つかったらしい。
「どんなおまじない?」
「ええと、『恋人とのえ…えっちな生活に新鮮な潤いを与えるおまじない』だそうです」
少し恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる宮沢。……なんでそんなおまじないが本に載っているのかは考えないことにしよう。
しかし、なんだ。彼女でもない宮沢にこんなことを言わせるのって、なんだかすごく悪いことをしているような気がする。
……だがまあ、そういうおまじないこそ俺が求めていたものだ。ナイスだ宮沢。
「それでいい……というか、よくそんなおまじないが本に載せられたもんだな」
「じゃあ、やってみますか?」
「頼む」
結果はともかく、宮沢のおまじないの効果は絶対だ。ある意味呪いと言ってもいいそれに頼るのはいささか不安な気もしないでもないが、
俺と智代ならきっと大丈夫だろう。春原じゃあるまいし。
「それでは、両手で握りこぶしを作ってください」
「こうか?」
右手と左手。両方の手をジャンケンのグーのように硬く握る。
「はい。次にそれを頭の上に載せてください。左右の拳の間隔はそれなりに開いて下さい」
「こう……でいいのか?」
言われたとおり、間隔を離して両手を頭の上に載せる。
「OKです。そしたら、呪文を唱えます。そのままの姿勢で、『ハチミツクマサン』と三回唱えて下さい」
「ハチミツクマサン、ハチミツクマサン、ハチミツクマサン……」
……相変わらず、ヘンな呪文だ。
「はい。よく出来ましたー」
パタン、と本を閉じて宮沢が微笑む。
「で、これでどうすればいいんだ?」
「はい。本によると、明日には効果が現われているそうですので、とにかく明日智代さんと会うのを楽しみにしてください」
明日か。即効性の無いおまじないはそういえば初めてだな。具体的にどんなことが起こるかわからないのもそう言えば初めてだ。
何が起こるのかは分からないけど、明日を楽しみにしよう。
「ところで、解呪方法は?」
……忘れないうちに聞いておこう。あくまで念のためだが。
「あ、そうでしたね」
解呪方法と聞いて何の疑問も挟まずに再びさっきのページを探す辺り、宮沢もこれがおまじないじゃなくて呪いに近いと自覚しているのだろうか……。
「あ、ありました。ええと、お尻を出して、『ポンポコタヌキサン』と心の中で三回唱えれば大丈夫だそうです」
なんだか、どこかで聞いたことがあるようなないような呪文のような気がする。
……というか、やっぱ尻は出さなきゃいかんのか。
「分かった。とにかくこんな勝手な相談に乗ってくれて助かった、宮沢」
何はともあれ、宮沢の貴重な時間を割いてまで俺の個人的なことにつき合わせてしまったのは事実だ。
しかも宮沢みたいな純粋な少女にえっちなおまじないなど、下手をすれば俺は鬼畜も同然だろう。
「いえ、他ならぬ朋也さんと坂上さんのためですから」
だというのに、心を和ませてくれる、いつもの温かい笑みを浮かべる宮沢。その微笑みは智代とはまた違った魅力がある。
もし智代と出会っていなかったら、俺はもしかしたらこいつを好きになっていたかもしれないな。
そうだな、今度はエッチなおまじないなんかさせずに、もう少しまともな内容の相談に来よう。
「でも朋也さん、卒業されているのにお昼休みに来るのは危険ですよー」
宮沢、ちょっと苦笑い。そりゃそうだ。俺はもう卒業していて、しかも学生服じゃなくてツナギの作業着でここにいる。
見つかったら即、御用だろう。
「見つからなければ大丈夫だ」
でも、そんなことここでは関係ない。他の奴に見つかりさえしなければ、ここの資料室の主はいつでも温かく迎えてくれるんだから。
笑顔で見送ってくれる宮沢に、上がるところまで腕を上げて感謝の意を示す。そのまま、窓から資料室を後にした。
その夜は遠足の前日のような、期待と興奮でなかなか寝付けない夜を過ごした。
そして、夜が明けた次の日。朝から期待に胸は躍るが、今日も社会人である俺には仕事が待っている。
はやる気持ちを抑え、帰ってからを楽しみにしながら仕事へと向かう。
「岡崎、何かいいことでもあったのか?」
スパナでボルトを締めながら、芳野さんが尋ねてくる。高いところに登って作業をしながら、何気なく世間話が出来るのだから本当に凄い人だ。
「え? どうしてっすか?」
「いや、今日のお前はやけに朝から顔がにやけているからな……正直言ってちょっと怖いくらいだ」
芳野さんの声は若干呆れているようにも聞こえる。しかし俺はそんなに嬉しそうな顔をしていたのか……自分じゃ気がつかなかったが。
だって、あれだぞ? もしおまじないが成功したら、今日は帰宅してから薔薇色の夜が待っているんだぞ?
男としてそれを楽しみにしない男がいようか、いやいない。
「ま、まあそんなとこっす」
「そうか……まあ、浮かれすぎて仕事をしくじらなければ俺は何も言わないが」
いつもそうなのだが、今日はいつも以上に仕事が終わるのが待ち遠しかった。
仕事をいつもどおりの時間に終わらせて帰宅。部屋のドアを開ける。
一昔前のボロアパートのドアは若干錆付いた音を立ててゆっくりと開いた。
鍵が開いているということは、智代はもう来ているという事だ。この部屋の合鍵はあいつしか持っていないから。
玄関には女の子らしい……とは言いがたい、運動性に優れたスニーカー。玄関に上がるだけで、奥の台所からは味噌汁のいい匂いが漂ってくる。
学校帰りにうちに来て、あいつが夕食を作って待っていてくれる。それを思うこの瞬間だけで、一日の仕事の大半が吹き飛ぶのだから不思議なものだ。
さあ、一歩リビングに踏み出せば、制服の上にエプロンといういつもの格好で智代が待っていてくれるはずだ。
「ただいま、智代」
「お、おかえり……朋也」
「……智代?」
確かに、智代はいた。食器を並べつつ、顔を上げて俺にいつもの可愛らしい微笑みを見せてくれる。
しかしその格好がいつもと違うのはどういうわけだろう。
なんで、いつもみたく制服の上にエプロンじゃなく、見慣れた黒をベースとした私服とスカートの上にエプロンを着ているんだろう。
なんで、部屋の中だというのにこいつは毛糸の帽子なんてかぶっているんだろう。
「あ、ああ。ちょっと待ってくれ。ご飯はすぐに炊けるし味噌汁はもう出来上がっている」
智代がすぐに気まずそうに視線を逸らす。おかしい。別にこいつは人の顔をじっと見続けるタイプじゃないが、それにしても今の視線の逸らし方は露骨だ。
「智代……」
「し、仕事は今日も大変だったか? 今日もお疲れ様だな朋也」
おまけにちょっと挙動が怪しい。いつも一緒にいた俺だからこいつの態度の変化くらい嫌でも分かる。
「智代、お前その」
「きょ、今日は肉じゃがだぞ。家庭の味を目指して頑張ってみたんだ。冷めないうちに食べよう。そうだそれがいい」
なんか、どう見ても話を逸らしたがっている。いつもなら俺とゆっくり話をしながら食事の準備をする智代がこんなに焦っているのは珍しい。
……なんか、マンネリ解消どころか逆に態度が怪しくなってないか宮沢?
そうは思うが、もしかしたらおまじないと関係なく智代に何かあったのかもしれない。とりあえず話を進めよう。
「そうだな。食べようか」
「ああ。それがいい。ほらこっちに座れ」
「ところで今日は制服じゃないんだな」
そう言った途端、座布団をぱんぱん、と叩いていた智代の動きがぴたり、と止まった。
「それにどうしたんだその帽子? 部屋の中なんだから脱いだらどうだ?」
ぎぎぎ……と、ゼンマイの切れかけたロボットのようにゆっくりとこっちを見る。頬に浮かぶ冷や汗からして、やっぱりこれが触れられたくない話題だったのだろうか。
「そ、その……今日は学校を休んだんだ。だから今日は制服を着ていない。それだけだ」
「学校を休んだ? 風邪か何かか?」
智代は隠し事はしても、嘘は吐けないタイプだ。いつもなら部屋の隅にきちんと立てかけてある鞄も見当たらないということはおそらく本当なのだろう。
なら、真面目なこいつが学校を休んだというにはよほどの事情があるはずだ。風邪なら今日は無理はさせないで家に帰さないといけない。
「ち、違う。風邪は引いてない。体は大丈夫……うん大丈夫なんだ。だから帰れなんて言うなよ?」
大げさなほどに首を振る。確かに顔色は特に悪そうには見えない。うーん、元気ならいいんだが、それなら休んだ理由がどうしても気になってしまう。こいつがズル休みなどするはずは絶対に無いし、
家庭の事情なら、そもそもうちにだって来れないだろうしな。
どうしよう。ここはやはり恋人として話を聞いてみるべきか。
「じゃあ、その帽子は?」
智代の頭を覆っている、ふわふわとした毛糸の帽子を指差すと智代の顔色が変わった。
「こ、これは何でもない。本当になんでもないんだ」
座ったまま、一メートルほど後ずさり壁を背にする智代。帽子を庇うように両手で掴んでいる姿はまるで子供みたいだ。
……絶対怪しい。
今までに無いほど挙動不審な理由は分からないが、その答えはあの帽子の中にあると見た。ならば、ここは追求すべきか見逃すべきか、それとも強引に見るべきか。
追求しても帽子を取ってくれそうにはないし、見逃すにしてもここまで来たら俺も気になって仕方が無い。かといって腕づくで取ろうとしても天井まで蹴り飛ばされるのがオチだろう。
ならば奥の手。押しても駄目なら引いてみろ、だ。
「智代、愛してるぞ」
布団の中では毎日囁いている言葉だが、この場では十分に智代を混乱させる魔法の言葉となった。
「な、な、な、何を言っているんだ朋也。きゅ、急にそんなことを言われても……その、困るじゃないか。
い、いや、嫌じゃないぞ。むしろ毎日でも聞きたいけれどどうしてそんなことを今ここで言うんだまったく、それは私だってお前のことを愛しているが」
顔を真っ赤にしながら、ダムの決壊のごとく智代が口を開く。帽子を被っていた両手は胸の前で恥ずかしそうに組まれ、体を丸くして突然の不意打ちにすっかり参っている。
……フッフフ。隙ありだ智代。
気配を殺して近づき、まだブツブツと俺への気持ちやら何やらを呟いている智代に一気に腕を伸ばす。そして一気に帽子を奪い取る――――
「あ」
「あ」
そして、二人して同時に声を上げた。
驚きのあまり声を漏らした俺。現実を理解してしまい思わず声を漏らした智代。二人ともその場で固まっていた。
俺の視線の先、智代の透き通るような長い髪が流れている頭上には。
どう考えても今まで見たことのない、動物のような丸い耳が二つ突き出ていた。
「……」
「……」
お互いに無言。炊飯器の蒸気口からご飯が炊けたことを合図する煙が噴き出す音だけが部屋の中に響いていた。
「朝起きたら、生えていたんだ」
俺の向かいに座り、ご飯を盛り付けながら智代がバツが悪そうに口を開く。
「生えていたって、その耳がか?」
智代の頭上には、間違いなく茶色くて丸い耳のようなモノが存在している。犬の耳でも猫の耳でもないそれは、あえて言うなら熊の耳に近い。
漫画なんかでたまに見るネコミミなどよりは小さいが、それはとてもふわふわとやわらかそうに智代の髪を飾っている。
それを見ながら肉じゃがを口に運ぶ。うん、とても美味い。
「そうだ。鏡を見て驚いた。当然だがこれを見て鷹文も驚いていた。……さすがに、それで今日は学校を休んだ。医者にも行けないし、原因もさっぱり分からない」
理由も無く学校を休んだことが残念だったのか、悔しそうに智代が俯く。
……思いっきり心当たりがあります神様仏様智代様。
というか、これがもし……というか十中八九宮沢のおまじないの影響なんだろうけど、本当におまじないの効果だとしたらえらいことだ。
お前のおまじないは生命の神秘すら操るのか、宮沢……? そりゃ確かにこんな耳の生えた智代はメチャクチャ可愛いけど。
……けどまあ、可愛いから別にOKた。
普段からあまり年下の女の子らしくは見えない智代だが、こうして可愛いグッズ(?)の一つでも付けているとそれだけで全然いつもと違って見える。
小さくて柔らかそうな、小熊のような耳を付けてしおらしそうに食事をしている智代は、なんというか、すごく保護欲をそそる。
よく見ると、たまにピクピクと小刻みに反応したり、少しだけ前に垂れたりと微妙に動いているのが分かる。
生えているんだな本当に。
「その……朋也もヘンだと思うだろう。いきなりこんな耳が生えた女の子など……」
だから朋也には見られたくなかったんだ、などと自信なさげに呟く智代。
「なんでだよ。俺はすごく似合っていると思う。とても女の子らしくて、可愛いと思うぞ」
だから、俺の言葉がよほど意外だったのか驚いたように顔を上げた。ぴょこぴょこと熊の耳が嬉しそうに動いたような気がした。
「じょ、冗談は止せ。猫や兎ならともかく、熊だぞ熊。確かに熊も私は好きだが、猫や兎に比べたらどちらかというと怖いイメージがあるだろう」
「何言ってるんだ。そんな小さな耳した可愛い小熊みたいな女の子を怖いなんて思う奴がいるわけないだろ。本当、似合ってるってその耳」
「そ……そんなこと」
口では否定している。しかし頭上の熊耳は正直にぴょこぴょこぴこぴこと小刻みに揺れている。お礼を言うかのように、ぺたん、と折れ曲がったりもした。
智代の本心を露骨に感情を表してくれて面白い。
ん? 待てよ、こういう場合、確か耳とセットになってあるモノも付いてくるものじゃないのか……?
「ところで智代。尻尾は生えたりしていないのか?」
「っ!?」
びくっ、と智代の体が一瞬跳ね上がった。虚を突かれて驚いたようでもあり、核心を突かれて怯えたようでもある。
「そ、その……」
「生えているのか?」
「な、なんだか妙に嬉しそうだな。なんだその期待に満ちた目は」
本能が警告しているのだろう。危険を察した動物の目で智代が一歩後ずさる。
「いや、単に気になっただけだ」
「どう見てもそれだけとは思えないが……聞かれたからには答えないわけにはいかないだろうな。
そ、そうだ……生えている。おかげでジーンズがキツくて、はけなかったんだ」
ゆったりとしたグレーのスカートに目を落とす。ここからでは見えないが、そうなるとあの奥の神秘の世界の先には熊さん尻尾があるのだろう。
……見てみたい。すっげえ見てみたい。
「……朋也。私はどうしたらいい? こんな体になってしまって、朋也はやっぱり迷惑だろうか?」
急にしおらしくなったかと思うと、膝をついたまま下から俺を見上げる智代。捨てられた小動物のような不安げな瞳がどうしようもなく愛らしい。
「馬鹿。なんで俺が迷惑に思わなくちゃいけないんだ」
そっと、智代の頬に手を当てる。一瞬びくん、と反応した智代だが、すぐに落ち着いてされるがままに身を任せてくる。搗き立ての餅のようなぷにっとした感触が気持ちいい。
「でも、こんな体じゃいっしょに街を歩けない」
「心配するな。きっとそのうち元に戻る」
触れている手を上に動かす。人間の耳の表を、そしてそのまま智代の耳の後ろに指先を回し、そっと触れる。智代が微かに声を漏らす。
「で、でも、もし戻らなかったら……」
「その時は、ずっとここにいろ。外になんか出さない。ずっとここに住んでくれて構わない」
本当は解呪すればすぐに元に戻れるんだが、そんなことを言い出せる雰囲気じゃない。智代は真剣に悩んで、俺に受け入れられるかどうか心から不安がっている。
だから、俺もおまじないのことは忘れる。本当に智代に何か起こったときには本心から言おうと思っていた言葉を耳元で囁く。
智代の腕が俺の背中に回される。初めて見る人間相手に擦り寄る小動物みたいに、智代は遠慮がちに俺に抱き付いてきた。
「そんなことを言われると……私は本気にしてしまう」
「本気だ。たとえこの先お前に何があろうと、俺は一生お前の傍にいてやる」
俺を抱きしめる腕に力が入る。俺がここにいるのを確かめるように、強く、ぎゅっと抱き締めてくる。
「……いいんだな? 本当に本当に、本気にするぞ?」
「ああ。本当に本当に本気にしろ」
普段お互いを求め合う時よりも、ずっとずっと長く強い抱擁。それは本当に相手を想う気持ちを確かめるために。
女の子らしい細く柔らかい体が、安心したように俺の体に乗りかかってくる。
「ほら、もっとよく見せてくれよその耳。本当、可愛いしさ」
「……うん」
俺の胸に頭を寄りかける。俺のすぐ目の前には、ちょこんと生えた熊の耳が逃げも隠れもせずに存在している。
そっと、右手でその周りの髪を撫でてみる。
「あ……」
一瞬体を震わせた智代だが、すぐに気持ちよさそうに体の力を抜いてくれる。
その髪をゆっくりと掻き分ける。最上級のシルクのような智代の髪は、触るだけで本当に心地がいい。
耳の周りをゆっくりと掻き分けると、耳の生え際が見えた。人間の黒い髪と熊の薄く茶色い毛がちょうど境界線で交じり合う、不思議な光景だ。
考えてみれば、智代の頭を撫でることはあってもここまで念入りに髪を俺自身の手で梳かしたのは初めてのことだ。
えっちの時だけじゃない。こんな所にも恋人としての新しい発見はあるものだと今更ながらに気が付く。
「触っていいか?」
「優しくするならな」
恥ずかしそうに小さな声で、それでも俺がこれからすることに同意してくれる智代。期待と不安からか、小刻みに震える熊耳の根元をそっと指でなぞってみた。
「んっ」
智代の口から小さな声が漏れる。
産毛の生えたような、柔らかい熊耳と頭の境界線。その線上をなぞる様に人差し指を上下に動かす。
「あ……う」
ひとしきりその感触を楽しんだら、今度は指を横に伸ばしてそのまま上へ。熊耳の全体を指の腹全部で感じるために、つう、と指を垂直に持ち上げる。
ぬいぐるみ以上にふわふわの毛の感触が次々と指の腹を撫でる。反則なくらい気持ちがいい。
「く……ぅん」
俺に抱きついたまま、胸の中で智代がどんどんか弱く、色っぽい声をあげる。俺の指が五ミリも進まない間隔で、敏感な反応を繰り返す。
いつもの強気な智代は欠片も見られない。無抵抗な哀願動物のように、潤んだ瞳で俺を不安げに見上げてくる。
未知の感触への期待と不安、それに快感とくすぐったさ。色々な感情が混じった声を、泣き声のように断続的に上げ続ける。
俺の指は、熊耳の中央からそのまま頂点へ。
丸まった熊耳の頂点を指先でそっと撫で回す。ちょっと力を入れるだけで潰れそうな柔らかさは、既にやみつきになりそうなくらい気持ちがいい。
「や、ん」
そのまま、耳の裏へ。さっきは毛並みに沿って上昇させた指を、今度は毛並みに逆らって下降させる。後から後から、短く柔らかい毛が俺の指の腹をなぞっていく。
手持ち無沙汰の左手も、智代の右の熊耳へ。
「ふあっ」
こっちは、手のひらで全体をゆっくりとこね回す。マッサージするように、優しく、包み込むように。
少しだけ力を入れるたびに、智代がぎゅっと強く俺の背中を抱きしめる。
さらに新しい責め方を思いついた。
ギリギリまで、熊耳に顔を近づける。目と鼻の先にまで接近するふわふわの耳。
それに、「ふっ」と息を吹きかける。強すぎないよう、弱すぎないよう。
「くふっ!」
くすぐったそうに智代が身をよじる。
「と、朋也。駄目だ、それは、感じすぎ……ああっ!」
再度息を吹きかける。駄目だといわれても止めるわけにはいかない。こんな智代はめったに見られないのに、やめてしまうのはあまりにも惜しい。
第一、こんな智代をすぐ傍で見せられては俺の理性もそろそろ限界だ。
……やるか。やりますか。うむ。やってしまいましょう。
耳を弄んでいた両手を離し、智代の体を持ち上げる。
手が離れたことで一瞬名残惜しそうな顔をした智代だったが、持ち上げられた次の瞬間慌てて体を起こそうとした。こら、暴れるな。
「な、何をする朋也」
「いや、続きは布団の上でしようかと」
ぴた、と智代の動きが止まる。そして一秒後、真っ赤になっておろおろジタバタと表情を変化させる。
「ま、待て朋也。こ……この耳を付けたままでするというのかお前は」
「する。というかしたい」
即答した。
「ちょっと待て、まだ夕食の後片付けが」
「明日の朝やればいいって」
「あ、明日の朝って、今夜は寝かさないつもりか!?」
ぽかぽかと背中を叩かれる。だが本気じゃないのか、さっきの攻撃で力が抜けているのか、まるで痛くない。
「まだ私はシャワーも浴びてないんだぞ」
「すまん、我慢できそうにない」
今はただ、とにかくこのままの智代を感じたかった。
耳が生えてて、尻尾が生えてる、そのままの智代の全てが欲しかった。
「嫌か?」
智代の顔を上から覗き込む。肉じゃがに入っていたニンジン以上に顔を真っ赤にして、何か言いたげに口をパクパクさせる智代だったが、
「その……私は嫌じゃないぞ」
結局出てきたのは、智代らしいいつもの肯定の返事だった。
「朋也がどんな私でも愛してくれると言ってくれたからな。……なら、私は朋也に抱いてもらいたい」
恥ずかしそうに追加してくれたおまけの言葉が嬉しかった。
そのままお姫様抱っこの形で寝室へと智代を連れて行く。さながら他人が見れば、今の俺は獲物を生け捕りにした猟師と言った所だろうか。
当然、生け捕りにした小熊は美味しくいただくというわけである。
そして、夜が始まる。
「っ!? み、耳を噛むな! あ、だ、駄目だと言ってるだろ……」
「そうか、智代はこの耳が弱いのか」
「本当に尻尾も生えてるんだな。毛糸玉みたいで可愛いぞ」
「ま、待て……尻尾を撫でるな……んっ……!」
「だ、駄目だっ! 尻尾を舐めるのは反則だ……あああっ!!」
「うわ……ここまで感じるとは」
「んじゃ、入れるぞ」
「くぅんっ! お、大き……」
「な、なんだか……いつもより大きくなっているぞ朋也」
「だって、こんな興奮するシチュエーションそうはないだろ」
「お、落ち着け朋也。もっとゆっくり」
「悪い、止まれそうにないぞ今日の俺」
「そ、そんな……ひゃあっ!」
「朋也っ、朋也ぁ……っ!」
「やべっ! 出る……っ!」
「わ、私も……あ……ああぁ――――っ!!」
「ど、どうしてくれる朋也。朋也のが尻尾にこんなにかかったぞ」
「いや、だって中に出すわけに行かなかったし……とりあえず拭くから」
「ま、待て……い、今触られると……んぅっ! 待て、もっと優しく拭いてくれ……」
「やばい。智代、もう一回いいか?」
「今日はずいぶんと元気だな……」
「や、駄目だ、激しすぎ……」
「だ、だから耳を弄るなと……尻尾も……駄目だ……あっ……駄目、イク…………ふああぁぁっ!!」
「こ、こんなに疲れたのは久しぶりだぞ……って、どうしてまた復活してるんだお前はっ!?」
「そんなにこの姿が気に入ったのか? ……私だけじゃなく、お前まで獣になったみたいだぞ」
「だ、だからって……んっ! 本当に獣みたいに後ろからやる奴が……はぁっ! あ……あるかっ」
「と、朋也っ! 私……もう……っ!!」
……結局、三回戦までしてしまった。
こんな充実した夜は初めての夜以来な気がする。
俺の隣には、既に疲れ果てて一子纏わぬ姿で寝ている智代。規則正しい呼吸に合わせて、胸や熊耳が上下する。
本当に今日の智代は可愛かった。
俺には春原の言う『萌え』とかいう感情とは無縁だと思っていたが、今なら少しだけあいつの気持ちが分かる気がする。
でも、智代が寝ている今のうちにおまじないを解呪しておこう。
明日、元に戻っている自分を見て智代はどう思うだろう。喜ぶだろうか、それとも残念がるだろうか。
どちらにしてもこれ以上智代を不安がらせるわけには行かない。俺としては残念だが、今回はもう元に戻そう。
……けど、こっそりまたいつかやってみよう。
俺と智代の素敵な生活のために。
最後に一度だけ、名残惜しい智代のぬいぐるみのような熊耳をそっと撫でてから、俺は解呪の呪文を唱えた。
完
>>405-419 以上、「べあなっくる」でした。
途中で本文長すぎとか言われて、結局予定を一レスオーバーしてしまいました。反省。
【告知】
現在、葉鍵的 SS コンペスレでは投稿作品を募集しています。
今回のテーマは『えっちのある生活』です。
投稿の締め切りは 6 月 21 日の午前 8:00 までとなっています。
思いつくネタがあればどんどん参加してみましょう。
その際に
>>3-5 のルール、FAQ に一度お目通しを。
また、次回のテーマは『If』で、開催時期は 7 月上旬になる予定です。
「二週間じゃ短すぎて書けない」「テーマが難しい」という方は、こちらの執筆に
力を注いでもらっても構いません。ただし、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
422 :
名無しさんだよもん:04/06/12 04:47 ID:pIhyXmls
まだSSって書いてる人居るんだね。あ、煽りじゃないよ。何か懐かしくて。
マルチSSとか好きでよく読んでたなぁ。After HeartはSSで初めてショック
を受けた。結局、好きになれないSSだったなぁ。
好きなSSはそれこそ沢山あったが、逆にそうした方のタイトルを忘れて
しまっている。そういうもんなんだろうねw
テーマ『えっちのある生活』作品投稿します。
AIRで、タイトルは「バス、ジャック。」
ジャンルはちょっと暗め、18禁です。
風呂っていうものは実に気持ちが良い。ぬるま湯加減の湯船の中で手足を伸ばすのだ。
首を鳴らして、ふと窓に目をやると、すっとした風が顔に当たって、喉の通りのよくなる、
そんな場所なのだ。
「居候ー! はよ、風呂上がれやー。阪神対巨人戦終わってしまうでー!」
・・すぐに人の良い気分を害する。邪魔をするな。俺はいま浸っているところだ。
「悪いけど、タオルがちょうどきれてるんだ。バスタオル持ってきてくれよ」
適当に返事をしておいた。
風呂の手すりを両手で握りながら、楽な姿勢に入った。
「あー! 赤星、そこで打たんかい!! まったく、矢野のタイムリーで
続いとったのにィ! ちょっと観鈴? 悪いけど国崎にタオル持って行ってや!」
居間から声が響く。女って、みんなこうなのか?
昨日の夜もビール片手にメガホンで、チームの一打一投に、一喜一憂、困ったものだ。
そういえば野球って、知らないんだ。ルールがわからない。
友達とも、やったことないんだ。ソフトボールさえも。
・・そうだ。俺は、友達がいないのだ。
古い知り合いは、あの古汚い布製の人形だけ。
今頃、同世代は大学にでもいって、いろんなことを遊びながらステータスアップを
しているのだ。それに引き換え、俺は・・。
あの人形さえ、あの母親さえいなかったら今頃は・・。
俺の人生は滅茶苦茶だ。
母さんも・・ 晴子も・・ みんな、女は嫌いだ!
ガラガラガラ。戸を開ける音が聞こえる。
「何だ?」
不意を突かれて、急に振り向きざまに立ち上がった。
と同時にバサッ、音が鳴った。バスタオルの塊が濡れたタイルに落ちた。
「うわっ、往人さんどうしたの? 突然お風呂から上がって。
わたし、びっくりしちゃうよ。」
目の前に立ちふさがる女、観鈴。
どいつもこいつも腹が立つんだ、人の気分を害して!
「何だ、と聞いてるんだ!」
「往人さん、前、前、でてるよ、おっきいのが・・」
観鈴が顔を真っ赤にして、両手で目を塞ぎながら、しっかりと下を向く。
そうだ、この女がいい。コイツはダメなやつなんだ。女なんだ。
俺の手で、女をメチャクチャにしてやる!
俺は、パジャマ姿の観鈴の肩を鷲掴みにすると、壁までそのカラダを押し倒した。
「い、痛いよ往人さん・・」
唐突な出来事に目を白黒させている顔を肩で覆うと、往人は観鈴の唇を奪った。
舌を入れ、咥内を舐め回す。
「んぅ、ううぅんん、むぐぅ・・」
濡れた身体からポタポタと落ちる、甘い水滴。
強引にパジャマの上着のボタンを毟り取ると、水色のブラに隠れたものが見える。
嫌々をする観鈴の顔を片手で固定しながら、右手でその邪魔なものを剥ぎ取った。
すると、瑞々しい薄いピンクの乳頭がちょこんと露わになった。
「ぷはぁ・・ はぁ・・ はぁ・・、往人さん、ひどいよ・・」
長いこと奪い終えた唇からは、透明な白いものがツーっと糸を引いていた。
観鈴はうつむいて、内股になったまま往人の顔を見ようとはしなかった。
それは男をますます興奮させる結果となるだけで、
往人のソレは実際いつものよりも若干膨張ぎみに勃ってしまっていた。
「女が悪いんだ、女は俺をいつも見ようとしない!」
リズムよく乳房を揉みながら、いつしか手は観鈴の下着へと入っていった。
茂みの奥底で蠢くその指は、軽やかに筋を辿って、少女の中へと突き進む。
小唇口辺りをなでると、ピクっとした反応があった。
「女はいつも俺の気持ちを解ってくれはしない、救いもくれないんだ!」
すると、今までこわばっていた観鈴が突然こちらを向いた。
「違うんだよ・・」
正面きっての少女の気迫に往人は押された。
のけぞる往人を押し倒した観鈴は自ら下着を脱ぎ、下半身を見せ付けた。
しなやかに伸びる、健康的な身体を往人の上に乗せ、馬乗りになった。
「女の子はね、男の子と分かり合えるの」
あまり濡れてもいなかったのか、往人が観鈴の中に簡単には入っていけなかった。
「こうやってね、一緒になれるんだよ」
体勢を変えながら、少女は強引に往人を膣へねじ込んだ。
あまりにも男が大きすぎて、窮屈な少女は、嗚咽を漏らしながらも腰を振った。
「ここのモノをあわせてね、二人で飛ぶんだよ。
私達には、そんな翼があるんだよ。」
繋がった部分を叫びながら、一度引いた身体を一気にあわせる。
「一緒になれればいいっていうのかよ! それが女だっていうのか!」
往人は逆手を取って形勢逆転にすると、正常位で観鈴にせまった。
「13歳の時も14歳のときも15歳のときも俺はママを、待った!
女はいつだってそうなんだ! 自分の好き勝手なことばかり言って、
こっちのことなんてなにも考えちゃくれないんだ!」
ぐるりと膣をかき回すと、とめどない愛液があふれる。
往人の口調の激しさに、半べそをかきながらも少女は答えた。
「二人が分かり合えなくても、翼で飛ぶことはできるんだよ。」
子宮口の奥底で、突き刺さる肉棒と締め付けるヒダが擦れあい、傷つけあっていた
モノたちが、ヌルヌルと愛液で絡み合って強烈に快感を呼び込んだ。
その快感の激しさに一瞬、空を飛んだ気がした。
うっとりとした表情で見つめあう二人。
観鈴は往人の身体を両足で絡み、自ら激しく腰をふった。
パァン、パァン、と風呂に響き渡る蜜の音。
「そうだな、こんなに気持ちの良いことは、男と女でなきゃできない」
そういって一気に突き上げては、ストロークを緩やかにする往人。
「そうだよ往人さん。私達、今分かり合えた気がするでしょ?」
甘んじて往人にすべてを委ねる観鈴。
二人の身体はほんのり紅く染まり、汗で濡れた身体を押し当て、快感に酔いしれる。
そして一気にラストスパートへと駆け上がった。
ズンズンズン、とこれまでなく激しいピストンを繰り返す。
観鈴と往人は痛みと快感で我を忘れていた。
「ああ、イク、イッちゃうよ、往人さん!!!」
「俺も、イキそうだ・・!!!」
ビュルッ! ビュルルルッ! と中で果てる。
ふたりはぐったりとした表情でお互いを見つめあった。
「往人さん、私達いつまでも、一緒だよ・・?」
「ああ、そうだな。」
床に落ちた白いタオル達が重なって、ちょうど羽の生えた天使に見えた。
終わり
恥ずかしながら、投稿させていただきます。
タイトルは『好き、好き、大好き?』
全年齢対象……でしょうか?
16レスを予定しています。
「-いってらっしゃいませ」
ご主人様を玄関にてお見送りする。
毎朝の習慣。
汎用メイドロボである私『HM-13セリオ』。
その私は、今のところこちらにご厄介になって充分な働きをしていると思います。
炊事、掃除、洗濯、etc……。
一般的に家事と呼ばれる仕事は、全て私が引き受けています。
それが私がここに存在する理由なのですから。
しかし、そんな私でも、いまだ達成していないことがあります。
……『ご奉仕』。
それは日頃の家事などもそう言うのだが、この場合は別の意味を示します。
そう、あえて時間を限定するのであれば、『夜のご奉仕』。
人間の根源の欲求に根ざす行為に対応するための機能は、メイドロボにも備わっています。
まだ使ったことは無いので、それがどういうことなのかは分かりませんが。
それでも、私は思うのです。
ご主人様が望むのならば、いつでもこの体を提供する。
それが『女性型』として作られた意義のひとつでもあるのですから。
けれども、ご主人様はまったく私を求めてくれない。
その……キスすらも……まだなのです……。
……どうしてなのでしょう。
とりあえず、分からないことを放っておくのは愚鈍のやること。
私はハイエンドなメイドロボです。
分からないことは、即調べる。
幸い、私には便利な機能もあることですし。
サテライトに接続し、データバンクから必要なデータをダウンロードする。
……。
『実践!四十八手』
『意中の男性を落とす法』
『トップブリーダーの犬の繁殖・育種』
『神聖モテモテ王国』
……。
頭がクラクラしてきました。
まるで頭の中に火がついたよう。
そのデータ量だけで、私のサブメモリは一杯です。
とにかく、『夜のご奉仕』には粘膜的接触が必要なことは理解できました。
私はこの手のことにはまったくの無知なものですから。
何しろ作られてからこのかた、純粋培養で育てられた箱入り娘。
来須川の模範的メイドロボなのですので。
……それにしても、アレがああなってこうなるなんて……私、オーバーヒートしそうです。
何事も、先人を頼れとはよく言ったものです。
未経験者が経験者を頼ることはとても勉強になります。
そういうわけで、サテライト経由で先人達の意見を伺ってみることにしました。
『--酔っ払って帰っていらしたマスターが、私のことを玄関先で押し倒して、そのまま……』
『 ̄出荷直後、電源投入と同時にメンテスーツのまま……いたされてしまいました(ぽっ』
『‐私の場合は、寒い冬の日に添い寝をご所望されたのでベッドに潜り込んだところ……』
『_お風呂でお背中をお流ししていた時、そのままなし崩しに……』
……ふぅ。
参考になるのやら、ならないのやら。
結論としては、こちらがいくらその気になっていても、殿方のリアクションがなければならないということでしょう。
酔っ払って帰ってこられた時に、玄関先で出迎えてメンテスーツのままお背中をお流しすれば、その気になってくれるでしょうか?
……ぶんぶんと頭をふって、その思考を打ち消す。
たとえご主人様がその気になられても、もうちょっとムードというものがあってほしい気もします。
私だって、その、女の子なのですから……。
たとえプログラムでそう設定されているだけだとしても。
私だって少女らしい夢を持ちたいです。
……夢?
機械の私が、夢……?
そんなありえないはずの感情が、こんな悩みの末に生まれてくるなんて。
何となく滑稽で、少し恥ずかしいです。
でも、私だって夢を持ちたい。
変でしょうか……?
さて、とりあえずできる限りの予習はしました。
あとは実践あるのみ。
勝負服に着替え、玄関でご主人様のお帰りを待ちます。
「……」
モーターの駆動係数が上がっている気がします。
人間に例えるならば、心臓がドキドキしている状態でしょうか。
玄関のチャイムが鳴る。
慌ててパタパタとドアに駆け寄り、押し開く。
「ただいま、セリ……お……?」
目をまん丸に見開いて、口をぽかーんと開けるご主人様。
その視線は私の姿に釘付け。
作戦、成功でしょうか。
「……セリオ?」
「-はい?」
「……なんで『裸エプロン』なんかしてるの?」
「-くらっときましたでしょうか?」
「いろんな意味で脱力しそうになったよ……」
そのままご主人様は、ふらふらと部屋の中に入ります。
「セリオ、せっかくだけど、着替えてくれない?」
「-……はぁ」
「セリオ流の冗談なんろうけれど、あまりこういうことはしないでね」
……複雑です。
なぜ失敗したのでしょう?
あの格好ならば、健全な男子たるもの、添え膳食わずにはいられないとデータにはあったのですが。
とりあえず、次の手段でいってみましょう。
ご夕食の前に、お風呂にお入りになるご主人様。
そこへ、新たなコスチュームに着替えた私。
「-失礼します……お背中、お流ししますね」
「…………はぁ?」
再び呆然となるご主人様。
「なぁセリオ……その格好、何?」
「-何と申されましても……いわゆる『スクール水着』というものですが」
何でも、世の男性方はとてもこの格好に惹かれるのだとか。
魅惑のアイテムだと、サテライトの特別データ、通称『長瀬主任の秘密箱』にはあったのですが……。
「なぁセリオ、一体何があったんだ?」
「-しいて言うのでしたら、何も無かったからなのですが」
「……へ?」
とりあえず、その姿のままご主人様のお背中をごしごしと。
でも、予想していたように、がばっと襲い掛かってくることはありませんでした。
この水で濡れ、張り付いたところなど、自分でも色っぽいと思うのですが……。
ああ、それともご主人様は競泳用水着のようなぴったりしたものの方がお好みだったのでしょうか。
リサーチ不足が悔やまれます……。
食事も終わり、私たちも寝る時間。
もちろん、メイドロボの私には充電時間に当たるわけですが。
ご主人様は私のために、専用のベッドと充電設備を備えてくださいました。
けれども、これは今日は使いません。
なぜなら……。
「……セリオ、何でメンテスーツで俺のベッドに潜り込んでくるわけ?」
「-はい、お風邪をおひきになりませんように、暖めて差し上げようと思いまして」
「セリオ、もう六月だよ?」
「-……ダメ……でしょうか……?」
洗浄液で少し潤んだ瞳で、上目使いにご主人様を見つめる。
収集したデータにあった方法。
「分かったよ……ほら」
ご主人様が自分の隣を空けてくださいます。
そこに潜り込む私。
嗅覚センサーが、ご主人様の香りを思い切り感じます。
その途端、何故だか胸の奥がきゅんとしたように感じました。
そんなところに、そのような機関は無いはずなのですが。
少し気恥ずかしく、くすぐったいような感じ。
そんな感覚と、暖かいご主人様の体温を感じながら、いつしか私はスリープモードに入っていました……。
朝。
何事も無く、私は目覚めてしまいました。
結局、昨日一日かけてやったことは、全て『ぱぁ』。
何だったんでしょう……。
もうこうなったら、直接伝えるしかないのでしょうか。
『抱いてください』の一言。
でも、それを伝えるのはとても勇気がいる。
もし、拒絶されてしまったら。
でも、このまま何もない毎日を過ごしていくよりは。
はっきり白黒つけてしまったほうがいいのかもしれません。
ただのメイドロボとしてではなく、生涯のパートナーとしてみてもらいたい私には。
だから私は、その言葉をあるがままに口にした。
朝食の席で。
ご主人様がコーヒーを飲んでいるときに。
ご主人様は、コーヒーを少し噴き出しかけ、そのあと一言。
「俺には……セリオをまだそんなふうには見れないよ」
……そう仰いました。
……そう、仰られたのです。
私の目には、テーブルを拭いているご主人様の姿も、もう映りませんでした。
……私には、抱いていただく資格が無い……。
ただ、その事実に打ちのめされながら。
流されるままにご主人様を送り出し、玄関に佇む。
私には、愛される資格が無い……。
愛していただく資格が無いメイドロボ……。
それは、掃除機や洗濯機と何の違いがあるのでしょう。
何故、私は人型をしているのでしょう。
何故、女性型なのでしょう。
何故、男の方を受け入れられるように作られているのでしょう。
その全てが、否定されてしまったような感覚。
私はドアを開け、ふらふらと外へと出ました。
外は小春日和。
人間の方ならば、きっと心地よく感じるのでしょう。
でも、私はメイドロボ。
そんな感覚は感じられない。
私が人間だったならば、こんな時どうするのでしょうか。
無理やりにでも、相手に迫る?
そんなことはできない。
私はメイドロボ。
主の言葉は、神の言葉。
……逆らえるはずが無いです。
私は行くあても無く、ただとぼとぼと歩き出しました。
街をすれ違う、大勢の仲むつまじい男女。
きっと彼らは、心でも体でも繋がっているのでしょう。
繋がり……。
そう、きっと私はそれを求めていた。
ご主人様の信頼だけではなく、その全てが欲しかった。
愛されているという、確たる証拠が欲しかった。
それが、肉体的な繋がりに向いたということ。
馬鹿な話です。
真にご主人様の信頼を得ていると信じられるのならば、そんなことどうでもいいことなのに。
それでも私は浅ましく、それ以上の関係を求めたのです。
たかが、メイドロボの分際で。
なんて、無相応……。
私は、壊れているのでしょうか。
主人との間に必要なのは、安定した信頼関係。
人間が役に立つ道具を信頼するような。
それだけで充分なはずなのに。
充分な、はずなのに……。
私はそれ以上を求めてしまった。
ご主人様を、困らせてしまった。
そんな私が、あそこにいていいのでしょうか。
さ迷い歩く街の中。
いつしか空は雲に覆われ、そしてやがて天から降るもの。
冷たい雫が、私を濡らす。
そう、これで流し去ってしまおう。
私の想いを。
ご主人様への、私の醜い欲望を。
そんなもの、もう必要ないのだから。
天を見上げ、私はその場にしばらく佇んでいました。
ガタン、ゴトン……
電車が頭上を通過していく。
私はガード下に、その身を寄せていました。
雨は小雨を通り越し、もう土砂降り。
春の雨、春雨でしょうか……。
どこか、温かい雨。
けれどもそれは、私のメモリーの中を写しているようで。
でも、この雨もいつかはやむように。
私の欲望も、いつかは消えることでしょう。
最悪、データを上書きしてしまえば。
私は無欲の存在でいられる。
きっと、ご主人様もそれを望んでいらっしゃる。
そう、欲望なんて持たない完璧な人形を。
辺りは薄暗くなっている。
体内時計では、すでに夕暮れの時間。
目の前を、ずぶぬれになりながら走っていく人影。
傘も持たずに外出したのでしょう。
天気予報を見て、あらかじめ用意することもしない。
それは、愚かな人のすることです。
自業自得。
私はその姿を、ぼーっとカメラアイに写していました。
「……」
突如その人影がこちらを向くと、小走りに駆け寄ってくる。
ここで雨宿りをするつもりでしょうか。
徐々に近づいてくる、ずぶぬれの男性。
そしてその姿が私の目の前に立ったとき、私は言葉を失いました。
「……探したぞ、セリオ」
「外出するのはいいけれど、行き先くらいは書いておいてほしかったな」
体の雫を払いながら、そう仰られるご主人様。
けれどそんなことは無意味なほど、濡れ鼠になってしまっていて。
「-ご主人様……何でこんな……」
「何でって、セリオどこにもいなかったから……」
「-私は平気です。機械ですから、壊れない限りは必ず戻ります」
「そういう問題じゃないんだけどな」
ご主人様は、私の体をぽんぽんと調べます。
「良かった……どこもなんとも無いな……痛いところとか、あるか?」
「-私には痛覚はありません」
「そっか、そうだったな……」
傍目に見ても、安堵するのが分かる。
「……どうしたの、なんかいつもと感じが違うけど」
この人は、何でそんなことに気がついてしまうのだろう。
私が必死で押さえ込んでいるものを。
本当は、今すぐにでもご主人様に飛びつきたい。
そして、私を愛して欲しいと訴えたい。
でも、それはもう封印したのだから。
私はただの機械だから。
だから、ただ一言。
「-お風邪をひく前に、帰りましょう」
家に帰り、ずぶぬれのご主人様のためにタオルと着替えを用意する。
淡々と、自分の仕事をこなす。
それが、私の役目だから。
存在意義だから。
半裸で頭を拭き拭き、こちらへやってくるご主人様。
私はあくまでも冷静に、着替えをお渡しする。
「……何かあったの、セリオ?」
「-いえ、特に何も」
心のうちの叫びとは裏腹に、つむぎだされる言葉。
……愛されたいんです。
……抱きしめられたいんです。
……唇を合わせたいんです。
……体を重ねたいんです。
私の内側は、そんな欲望で一杯で、今にも弾けてしまいそう。
だけど、だめ。
それはご主人様が望んでいないから。
そんな私は望まれていないから……。
「セリオ……どうして……」
「-はい?」
「どうして……泣いているの?」
気がつけば、私はその両目から雫をあふれさせていました。
「-これは……その……何でもないんです」
慌ててごしごしと袖口でこする。
けれども、止まらない。
それどころか、ますます勢いを増してしまって。
「-私……何で……」
「……セリオ」
突如、ご主人様がぎゅっと私を抱きしめました。
その胸のうちで、私は身動きも取れなくて。
ただただ、ご主人様の胸を涙で濡らすだけで。
「……朝のこと、気にしてたの?」
「-……」
「アレはその……今は、抱けないってこと」
「-……今は、ですか?」
そっと胸の中から、ご主人様の顔を見上げる。
「セリオ、まだ俺と出会って間もないだろ?そんな女の子を、汚すなんてできないよ」
「−でも、私は……」
「ストップ」
言いかけた唇を指で押さえられる。
私はそれを跳ね除け、言葉を続ける。
「-私は、ご主人様に、あなたに愛して欲しかった……ただの道具で終わりたくなかった……」
再びあふれる涙。
「-必要とされている証が欲しかった……だから、抱いて欲しかった……私は……っ!?」
突如、唇に触れる暖かいもの。
それは……。
「……」
ご主人様の唇が、私のそれと触れ合っている。
そう気がついた時、私はオーバーヒート寸前になってしまいました。
きっと、顔は真っ赤なことでしょう。
そしてしばらくの口づけが終わり、ご主人様は唇を離す。
「……必要とされている証、伝わったかな」
「-あ……ぅ……」
言葉が出てこない。
何でこんなことをしたのか。
何で私なんかに。
伝えたいことはあるのに、何も言えない。
「セリオにキスするのは、これで何度目かな……」
何度目……?
私には、最初にしか思えない。
「悪いけど、いつも充電でセリオが眠っているときにさ、ついムラムラーとしちゃって……」
悪戯っぽく笑うご主人様。
「あんまり綺麗な寝顔だったから……ごめん!」
「-頭を上げてください。私は……」
そんなこと気にしていない。
むしろ、ご主人様から私に触れてくれた、そのことが嬉しい。
だから、私も思わず自分でも信じられない行動に出た。
自分からご主人様と唇をあわす。
「-……ぅんっ」
長い口づけ。
舌を絡ませ、お互いの体液を交換する。
私はどこでそんなことを覚えたのでしょう。
ただ、メモリーの奥で、そうしろという声が聞こえたように感じたから。
私は酔いしれるようにその行為に没頭した。
私たちは、ベッドに腰掛けていた。
「-私なら……構いませんから。どうかお好きになさってください……」
「でも……」
「-ご主人様、私では、お嫌ですか?」
「そうじゃない、そうじゃないんだ……」
頭を振る。
「そういう事は、セリオがもっと大人になってからって思ってたから……」
「-私が、大人?」
私はメイドロボ。
成長なんて、しないはずなのに。
そう伝えると、ご主人様は苦笑いをしながら。
「体じゃないんだよ。心の問題だよ」
心……?
機械の私に、そんなものは無い、はず……。
「セリオがもっともっと俺と生活をともにして、俺っていうやつを知ってくれてから……」
「それでも、俺という人間を受け入れてくれたなら……その時にって、思ってた」
「ほら、俺って結構ダメな人間だからさ。いつかセリオが愛想つかすかもしれないだろ?」
馬鹿な人……。
私が主人を拒否することなんて、ありえないのに。
こんなにも、あなたのことを想っているのに。
私はただぎゅっと、ご主人様の胸に顔を埋めた。
きっとどうしようもないだろう自分の顔を隠すために。
「-いってらっしゃいませ」
ご主人様を玄関にてお見送りする。
毎朝の習慣。
けれど、いつもとは違う儀式。
……そっと唇を合わせる。
いってらっしゃいのキス。
そして、寝る前にもおやすみのキス。
私たちは、よく唇を合わせるようになりました。
でも、まだそれだけ。
その先には程遠い。
それでも、私は満足しています。
いつの日か、体を合わせることになっても。
私はきっと忘れないでしょう。
あなたと心を通わせたあの時のことを。
そう、あせることなんて無いのだ。
ご主人様は、私を愛してくれることが、分かったから。
だから、こんなに気分がいい。
去っていく後ろ姿を眺めながら思う。
『いつの日か、必ず、あなたを私だけのものにしますから……』
それは、きっと遠くない未来のこと。
私には、確かにその薔薇色の未来が見えた。
>>430-445 『好き、好き、大好き?』でした。
酷評覚悟しています。
自分でもいまいちだとは思いますが……。
どうか生暖かく見守ってやってください。
それでは。
447 :
名無しさんだよもん:04/06/13 07:06 ID:AtH/LgqT
>>447 なんか知らんがこの広告だかなんだかで助かったようだ。えらいぞ。
>>447 お礼にそこに投稿させてもらった。
30分くらいで書いた奴だが……
なんかコンペスレが地味に連日エロ祭りになってる……と
討論スレに報告に行こうと思ったら、討論スレのほうが落ちていた……
>>451 お題がエロいんだからエロ祭りになるのも必然。
と言いたいところだが、明らかに前回前々回より勢いがあるな。
これが若さか。リビドー恐るべし。
今から、
テーマ『えっちのある生活』SSを投稿します。
元ゲームは『To heart』。
タイトルは『』。
ジャンルはギャグ。18禁です。
松原葵の強さといったら、我が高校で知らない者はない。異種格闘技大会で下は空手家から
上はキックボクサーまで全て蹴散らしてしまっている。言わばか弱い女子高生の顔をした凶器が、
ぶらりと高校の廊下を歩き回っているのである。
さて、ある日の4時限も終わる頃葵は、尊敬する師匠でもあり恋ともいうべき憧れを持つ先輩浩之に
呼ばれた。先輩、いきなりどうしたんだろう。も、もしかしてお昼前から先輩と私と二人っきりで。
そして人気のいないところまで出て、先輩ったら、好きだ、葵! お前が欲しい! そんであんなことや
こんなことをしたりして・・ あー先輩ダメですぅ! 周りにまだ人がいるのに・・。
でも、先輩なら許せちゃう・・カナ? ウフフフ♪
わずかな恋心をくすぶらせながら教室に入った葵。目の前で、先輩浩之は一言こう告げた。
「やきそばパンな。あと、コーヒー牛乳も。」
淡い期待を見事に打ち砕かれ、しぶしぶ教室を出る。
昼休みということもあってか、廊下はやけに賑やかであった。
無駄といえば確かに無駄かもしれない。しかしまだ葵はその後の展開を想像しながら気持ちを
再び弾ませていた。
「パンを一緒に食べて、ふたりっきりの教室で、そしてそして・・ キャー、ダメです先輩! ウフフフ♪」
ここを歩いていけばやがて渡り廊下へと出る。例のパンを売っている購買部への橋渡しである。葵は若干小走りで道を急ぐ。
しかし、その斜め後ろを不審に付け回る一人の男がいた。
やたら挙動不審に壁づたいを走り、そそくさと走り出したと思うと、後ろを向いて立ち止まる。
男の姿は、周りにさぞ好奇の目で移ったに違いない。そんな男の存在に、葵はまだ気づくはずもなかった。
押し寄せる小群体を押しのけかき分け、葵はどうにかパンの見える位置までこぎつけた。
部屋は相変わらずぎゅうぎゅうで、本当に窮屈である。後ろのほうで声が聞こえる。
「今日もやきそばパン買えそうにないよ・・ 浩之になんて言ったら・・」
サッカー部のエース、佐藤先輩だ。あの少年の瞳と優しい性格は校内でもダントツの人気がある。
しかし、葵にはそんなことどうでもよかった。頭には、浩之との昼食の後しかなかったのだ。
あともう少しだ、もう少しで先輩のパンが・・ 手をのばそうとした、と丁度その時であった。
「!!!」
スカートの中に何者かがガサゴソ蠢いて進入してくる。
これはどう考えても人同士ぶつかり合ったときの摩擦とか、そういうものではなかった。
たぶん痴漢、というものだ。
「ひでぶっ!!」
葵の右隣にいた男子高校生が、ぐちゃりと音を立てて飛び散った。
恥ずかしくて怖くて声もろくに出ない葵であったが、
人間の身体というものは実に都合よくできているもので、反射というものがある。
葵は無意識のうちにそれを行っていたのであった。
すると、今度はセーラー服の下から何かをまさぐるものがあった。いつも愛用のスポーツブラを
心地よく愛撫しているのだ。人差し指らしきものがそのブラをこじ開けて桃色の柔らかいものに手を
触れたそのとき、
「あべしっ!!」
今度は前方の2,3人が吹き飛んでいった。ショーケースを見事なまで粉々にし、パックジュース
まみれになって倒れる二人。ざわざわ、と周囲が騒がしくなる。
葵は自分の行為に恐怖を覚えつつ、初めて体験した痴漢というものに内心ときめいていた。
周りに知られず、ただ一人誰かが自分を見て、触って、興奮している・・。
そんなことを考えているだけで、体中がなぜか疼いてしまうのだ。
その期待に応えるかのごとく、今度はスカートのしたからパンティーを脱がせようと、手らしきものが
もぞもぞとしている。
「たわばっ!!」
左斜め後ろの群集が、波動によって押しつぶされていた。ぐにゃりと変形したテーブルや穴の開いた
壁には、人がごみのように重なっていた。
性懲りもなく、何かが身体を密着させてくる。今度は今までのと一味違った。
なにか硬い棒のようなものが、背中に当たっているのである。
さきほど脱がされたパンティーを押しのけ、少女の茂みの奥へとすごい勢いで入ってくる。
さしもの葵も、これには仰天して、つい腰を抜かせてしまった。
「こんなようでは敵に打ち勝つことはできんぞ!」
そう、耳元でつぶやくものがあった。振り向くと、そこにはなぜか浩之先輩の顔があった。
浩之は葵の両太ももを抱えると、その強靭な肉棒を天に向かって振りかざした。
強烈な快感が葵を襲う。一気に脱力してしまい、浩之に身を任せてしまった。
「エクストリームは何でもアリの異種格闘だ! 当然、そこには痴漢もレイプ魔もいる!」
え、え、い今までのってぜーんぶ先輩? 浩之先輩? 私、みんなの前で痴漢されちゃって、
犯されちゃってる・・ あああ・・ これって・・ 快感・・!!
ピストンを早める浩之。その尋常ではないトリッキーな動きに、葵は完全に魅了されていた。
「はぁああん、あっ! あっ! ああんっ!」
葵は、これまでの行動を全て回想し、一気に体中が火照ってきた。
そして浩之の顔をもう一度見、そして大量の鼻血を噴射しながらイッてしまった。
「葵、もう一度、修行のしなおしだな! 後で二階のトイレに集合だ!」
葵は倒れたまま、血まみれの顔で幸せそうな顔でうなづいた。
同じ頃、例のサッカー少年も変形した机の上でボロ雑巾となっていた。
「浩之ちゃんのパン・・ パンが・・ うわらば!!!」
終わり
>>454-456 「修行」以上です。
なんか少しテンポとか意識しました
採点とかできたらお願いします・・
458 :
名無しさんだよもん:04/06/14 15:26 ID:p83xiGsl
期待age
【告知】
締め切りまで一週間を切りました。
作品の執筆は計画的に。
今回のテーマは『えっちのある生活』で、締め切りは 6 月 21 日の午前 8:00 です。
また、次回のテーマは『If』で、開催時期は 7 月上旬になる予定です。
「二週間じゃ短すぎて書けない」「テーマが難しい」という方はこちらの執筆に
力を注いでもらっても構いません。ただし、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
ほす
――episode1
浩之「あかり、俺はいいんちょと結婚することにしたぜ。ついでに苗字も保科にする」
あかり「ええっ、どうしてどうして」
浩之「イニシャルが H.H」
――episode2
ルミラ「今回は私が主人公で大活躍ね!」
一同「ええっ !?」
ルミラ「だって私、吸血鬼だもの」
一同「血のある生活 !?」
――episode3
理緒「マッチ売りのバイトですぅ〜。せめて一箱でも買っていってください〜〜」
浩之「それはマッチのある生活」
理緒「じゃぁ大金持ちになった気分で金銀財宝エメラルド。うはうは」
浩之「それはリッチな生活! そうじゃなくて今回はえっちのある生活だ」
理緒「――おじさん、一晩1万円でどう?」
浩之「あんたが言うと洒落にならんからやめれ」
うっかり上げてしまった。ゴメン
浩之は今のままでもH.H名乗っても良いんだが……
保守代わりに突っ込み H.F じゃない?
突っ込むならA.Fだな。
>>465 Huでも「ふ」って読むの。
具体例としては戦前の特急「富士」のローマ字表記は「HUJI」だった。
(現在のブルトレ「富士」は「FUJI」)
【告知】
締め切りまで残り1日くらいです。
最後の追い込みがんばっていきましょう。
今回のテーマは『えっちのある生活』で、締め切りは 6 月 21 日の午前 8:00 です。
締め切りギリギリまたは少し越えて投稿をしそうな方は、
前もってお伝えください。それについて考慮いたします。
また、締め切りを過ぎても即、投稿期間終了というわけではありません。
締め切り間際で他の方の作品と交錯する恐れや、最悪の場合、アクセス禁止が
かかる可能性があります。焦らず、落ち着いて投稿してください。
投稿します。
タイトルは『dear my sister』
月島兄のシスコン……もとい、鬱屈ものです。
10レスくらい予定。
最近、瑠璃子が可愛くなった、と思う。
別に髪形を変えたとかいうわけではないけれど。
彼女も年頃に差し掛かったということかもしれない。
あるいは、僕のほうが成長して、女の子の魅力を知るようになったのかもしれない。
そんな理由なんてどうでもいいけど、とにかく最近、瑠璃子のことが気になって仕方がない。
恥ずかしいことだと思う。
兄としてあってはならないことだとも思う。
でも、否定できない。どうすることもできない。
今日も二人きりの夕食のとき、瑠璃子が箸を上げ下げするのを、つい見とれてしまった。
そのときは、さすがに気付かれて、
「どうしたの?」
というような目で見返されたけれど。
「瑠璃子がかわいいから」とは言えないから、
「口の周りにケチャップが付いているよ」
と言ってごまかした。
そんな僕の気持ちを、瑠璃子は多分気付いていない。
なぜなら彼女はまだ子供だから。
誰かが守ってやらなければならない、子供だから。
叔父さんが帰ってきた。あい変らず酔っ払っているし、いつもみたいに女連れだ。
挨拶もそこそこに寝室へ引き込んでしまう。
この後の展開はお決まりだ。
男と女のアレ、だ。
都合の悪いことに、叔父の寝室と、僕らが今いるリビングルームとは薄い壁を隔てて隣り合っているのだ。
だから、ヤっている声がそのまま聞こえてくる。
いつだって、いつだって……。
僕たちが今よりずっと小さかった頃も聞こえていた。
最初はとても嫌いだった。
なんだか気持ち悪くて、醜くて。
ほんとうに嫌いだった。
この声が聞こえてくると、いつも部屋の隅に縮こまって、瑠璃子の手をつないで震えていたものだ。
……この声に、性的な興味を持つようになったのはいつ頃だろう?
ほんの少し前かもしれないし、あるいはずっと前かもしれない。
本当のところはわからない。
とにかく僕が少し大人になって、叔父たちの趣味に密かな興味を覚えだしたということは事実だった。
同時に、そのころからこの声が嫌いではなくなった。
瑠璃子はまだ、嫌がっている。
声が聞こえてくると、震えるようにして僕の手を握ってくる。
彼女はまだ、僕のような段階に達していないということだ。
そうして、僕と瑠璃子の間に小さな乖離が生まれはじめたときから――それはとても重要ようなことなのだけど――僕の瑠璃子に対する感情も、なんとなく上手くいかなくなってきた。
そして今日も――。
「瑠璃子、あとの片付けは僕がやっておくから、2階へ行っておいで」
僕がそう言った。彼女に隣室の声を聞かせたくないためだ。
瑠璃子はふるふると首を横に振った。
「じゃあ、一緒にテレビでも見ようか」
今度はこくこくと頷く。
本当はテレビなんか見たくなかったけれど、瑠璃子がそう言うんなら仕方がない。
僕らはあまり面白くもないお笑い番組を、隣室の声が聞こえないよう大音量をあげて見ながら時間を潰した。
芸人の下品な笑い声はうっとうしいけど、セックスの声よりよっぽど安心して聞くことができる。
瑠璃子は僕の側に大人しく座っていたけれど、特に震えたり怯えたりすることはなかった。
けれど、それはつかの間の逃避の時間。
番組は終わり、見るもののなくなった僕たちは、また隣室の声と戦わなければならない。
僕にとっては興味深く、瑠璃子にとっては恐ろしい、あの声と――。
瑠璃子が僕に抱きついてくる。
小さな手で僕のシャツを握り、肌を押し付けるようにして身を摺り寄せてくる。
辛い。自分の心を押さえることが。
僕はもう、瑠璃子のことを正面から受け止められるほど、子供ではないんだ。
セックスの意味だって知っている。自分で慰めることも知っている。
女の子にくっつかれて、平静でいられるわけがないんだ。
そんな僕の事情を、瑠璃子は知らない。無理もないけれど。
僕が彼女の圧力から逃れようとしてもがけばもがくほど、反対に一層体を摺り寄せてくる。
行き場を失った捨て猫のように、僕の懐に居場所を求めてくる。
薄い布を隔てて伝わる瑠璃子の温もり。
耳には、男女の交合の声のバックミュージック。
何を言っているのか言葉までは聞き取れないけれど、時に艶かしく、時に囁くような響き。
男の頭の中にするすると入り込んで、本能を刺激するような響き。
ゆっくりと、理性のたがが外れていく。
いつか、僕の両手は瑠璃子の背中に回り。ちょうど胸全体で彼女の体を受け止める形になる。
――このまま彼女を抱きたい。抱いてしまえ。
僕の頭の中で、欲望の声が囁く。
――駄目だ。それだけはやってはいけないことだ。
理性の声が押しとどめる。
瑠璃子はきっと気付かない。気の遠くなるような葛藤。
ふと、隣室からひときわ大きな歓声。頂点に達したのか。
今までの中でも一番興味を引き、そして恐怖を与える声。
腕の中で、弾かれたように瑠璃子がぶるりと震える。
僕の体の中を、股間から脳髄にかけて電流が走る。
生み出された欲望が、塊となって思考回路を流れる。
――ああ駄目だ。抱きたい抱きたい抱きしめたい。瑠璃子の小さな体を力任せに抱きしめて震える唇に口付け唾液を吸って彼女の顔をべちゃべちゃに汚したい。
服をはだけて温かい肌を露出させ膨らみ始めたばかりの突起を撫で回したい。彼女はきっと嫌がるだろうけどその肩を押さえ付け溢れる涙を啜ってやりたい。
僕の体に溜まった白くてどろどろした精子を彼女の体一杯にぶちまけてやりたい。ぶちまけてやりたいぶちまけてやりたい……
最後のほうは、自分でも何を考えているか分からない。
とにかく色んな感情が一度に襲ってきて、僕の理性を一時的に追いやるのだ。
いつか僕は、瑠璃子の体を力一杯に抱きしめていた。とてもやわらかくて、とても温かかった。
「お兄ちゃ……苦しい………よ……」
瑠璃子が抗議の声を上げたけれど、僕は抱きしめる力を弱めなかった。
弱めようにも、彼女の背中に回した手は固くこわばって、僕のものではないかのようだった。
だから、抱きしめ続ける。
そうしているうちに、ゆっくりと、瑠璃子の体から力が抜けていく。
抱かれるにまかせるようになり、ぐったりと体重を僕のほうに預けてくる。
安心しきったような、頼り切ったような光が、彼女の目に灯る。
ああ、人間ってこういうものだ。
大切に思う相手に抱きしめられると、力を抜いて身を任せずにはいられない生き物なのだ。
たとえそれが、どのような事情によるものであっても。
それは、人が自分の身を守るために編み出した術なのではないかと僕は思う。
この時だって。
もし――もし瑠璃子が力を抜いていなかったら、もし少しでも抵抗するそぶりを見せていたら、僕は欲望のままに彼女の体を汚していたかもしれない。
そんな気がした。
けれど、そうはならなかった。何も知らない瑠璃子が、自分で自分を守ったから。
ゆっくりと、熱が引いていった。
僕は、まるで世界から決別するようかのな気持ちで、ようやく瑠璃子の体を引き剥がした。
瑠璃子は肩で息をし、今抱きしめられたことの衝撃が抜けきらないようだ。
僕はそんな彼女の頭を撫でながら、できるだけ淡々とした口調で言った。
「瑠璃子、今日はもう部屋へ戻ろう。これ以上一緒にいると、僕は狂ってしまいそうだよ」
それが正直な気持ちだった。嘘偽りを言ったって始まらない。
「狂うってどんなふうに?」
瑠璃子は彼女なりの当然の疑問を口にした。
いきおい、僕はその疑問に答えなければいけなかった。はっきり言って見当もつかなかったけれど、一生懸命考えて思うところを口にした。
「そうだな……狂うってことは、たぶん僕が僕じゃなくなって、瑠璃子を大切に思っていることとか、瑠璃子を守りたいと言う気持ちを全部忘れてしまうことだと思う」
「それって嫌だよ」
「あぁ、僕も嫌だ。瑠璃子のことはずっと大事にしていたいよ。だから……」
「うん、部屋へ戻るね」
瑠璃子は今度は素直に2階へ上がっていった。
僕は今言った言葉を思い出して、あれは果たして正しいのかと考えた。やっぱりよく分からなかった。
狂ったらどうなるかなんて、実際に狂ってみないと分からない。
とりあえずは、これで瑠璃子が近づかなくなってくれると良いのだけど。
右手を股間に伸ばす。ズボンの上から触ると、そこはさっきの昂ぶりがまだ残っていた。
軽く擦っただけで、それはどろりとした液体を下着の中に吐き出した。
頭の中が真っ白になるような快感と、その後に襲ってくるどうしようもない脱力感。
何をやっているんだ、僕は。
妹に欲情したあげく、彼女を体よく追い払ってオナニーとは。お笑い種だ。
暗く沈んだ気持ちが襲い掛かってくる。
自己嫌悪。世界が嫌になる瞬間。責任を誰かに押し付けたくなる瞬間。
全部叔父のせいだ……
そう思った。この暗く沈んだ気持ちも。瑠璃子と上手く付き合えないことも。
叔父が女を連れこんで、毎晩よがり声を聞かせるからだ。
まだ幼い僕たちに、教えてはならないものを教えるからだ。
そうだ。叔父が悪いんだ……
もう自分でも何がどうなっているのか分からなかった。
考えようとしても、頭が重くて何も考えられない。
とにかく部屋へ帰って寝てしまおうと思った。
よろよろと立ち上がり、自分の部屋へ戻ろうとドアを開く。
と、廊下に出たところで、これも廊下に出てきていた叔父と強かに激突した。
足元がふらふらして、前をしっかり見ていなかったのだ。
叔父も大変に酔っていたので似たようなものだったけれど、虫の居所が悪かったのか血相を変えて僕を口汚く罵った。
何を言われたかは覚えていない。売り言葉に買い言葉で、僕もかなり言い返したのだろう。
ちょうど不満がたまっていたところだったから、あるいは女を連れてくるな、出て行け、くらいのことは言ったかもしれない。
とにかく、そのとき僕の言った言葉は叔父を怒らせるに十分だったということだ。
叔父は暴力を振るった。
気が付けば、僕は右頬を強かに殴られて床に叩きつけられていた。
なおも叔父は僕の上に馬乗りになり、2発3発とパンチを見舞われた。
ごめんなさい、ごめんなさい、と謝ったけれど、許してくれなかった。
どのくらいの時間、殴られつづけたのか……。
「もう止めたら」
優しい、不思議なほど優しい声音が聞こえた。
叔父の連れ込んできた女が、そのときばかりは天使のように思えた。
叔父は言葉に操られるようにして、殴るのを止めた。
僕は彼女が子供が殴られているのに同情して助けてくれたものだと思った。
だから、この救世主の姿を一目見ようと目を凝らした。
彼女は――
彼女は、まるで汚らわしい動物でも見るような目で僕を見ていた。
僕が目を合わせると、彼女は逃げるようにして目を逸らした。見たくないというふうに。
僕は、さきほどの想像が全くの誤りだったことを知った。
彼女は、僕を哀れに思ったのではなく。
叔父が僕に関わることを嫌って手を引かせたのだ。
叔父は何か捨てゼリフを吐いて、女と一緒に出て行った。
僕は廊下にだらしなく転がったまま、動けずにいた。
体のあちこちが、痛みを訴えていた。
動けない。動こうとする気力すら起きない。
ある種の無力感が僕を支配していた。
汚らわしい動物を見るような女の目が、頭から離れなかった。
思い知らされた。
今の僕は、とても弱いと言うことを思い知らされた。
悔しかった。とてもとてもとても……悔しかった。
とりとめもなく、力が欲しいと思った。誰か他人を守るためではない。弱くて傷つきやすい自分を守るための力が。
力さえ手に入れば、僕を取り巻く困難など全て打ち破れる気がした。
そんな、あてのない力を妄想しなければならないほど、僕は打ちのめされていた。
そのまま、どのくらい寝転がっていただろう。
ふと、瑠璃子と目が合った。
僕の大切な妹は、廊下の端から、僕のことを気遣わしそうに見ていた。
その瞳はとても優しくて暖かくて、さっきの女とはまるで違うものだった。
まるで雲の上から僕を救いにきた天使のようだった。
瑠璃子は、その瞳を僕に向けたまま、ゆっくりと僕のほうへ歩いてきた。
軽い足音が、廊下の木の床にタンタンと響いた。
それは天国が、苦しみの一切ない天国が近づいてくる音にも似ていた。
不意に――まったく不意に、僕の心に恐怖が芽生えた。
僕の体が、僕の体の中身が今、全部、瑠璃子に向かって傾斜している――そんな感覚を覚えたのだ。
それは、あながち妄想でもなかった。
殴られた傷の痛みが、引き裂かれた自尊心が、植え付けられた性欲が、彼女を欲していた。
傷を癒してくれる存在を欲していた。
「駄目だ! 瑠璃子、近づいちゃ駄目だ!」
ほとんど狂乱に近い感情のままに、僕は叫んだ。
僕は天使の接近を、心のどこか根本的な部分で拒否していた。
その感情は、いまだ生を欲する人間が天国の招来を拒否する感情に似ているのかもしれなかった。
僕は、生きたかった。できることならまっとうに。
瑠璃子に抱かれたら、その優しい瞳で見つめられたら、温かな体で包まれたら、僕はきっともう戻れない。まっとうな兄には戻れない。
どうしようもなく確信があった。
「駄目だ! 駄目だ!」
僕は、声を限りにして――満足に出ているかどうか疑わしかったけど――叫び続けた。
瑠璃子は、止まってくれなかった。
ゆっくりと僕との距離を縮め、ついに僕の頭を抱いた。
天使のような瞳で僕の目を覗き込み、優しい手で、僕の頭を撫でた。
心が、満たされていく。
苦痛が消えてゆく。はじめからそんなもの存在しなかったかのように。
その蕩けるような快楽に、僕は抗う術を持たない。
瑠璃子はいつまでも抱いてくれていた。
ルリコルリコルリコルリコルリコ……
僕は贖罪の呪文を唱えるように、妹の名前を呼び続けた。
暖かな心の中で。とても満たされた心の中で。
僕は、その奥底に小さな亀裂の生じる音を聞いた気がした。
崩壊の予感になぜか心地良ささえ感じながら、背中をぞくりと震わせた――
投稿終了――
>>470-479 『dear my sister』 でした。
お目汚し、失礼しました。
トウカします。
うたわれるものSS 『ハクオロのいない六月』(わ
長いうえに、堅苦しい文章とややこしい展開の話です。
お時間のあるときにでも、と。
0.プロローグ
トゥスクルとナ・トゥンク両国の国境地帯は、鬱々たる原生林に覆われた険峻な山稜である。
山中を伝う道は細く険しく、走破するのに丸二日か、あるいは三日か。
切り立った山肌が折り重なるように襞をなし、その狭間を縫って流れる幾筋もの渓流が旅人の足を阻む。
旅慣れた商人でさえ往来に苦労するという、文字どおり交通の難所である。
もっとも、この山道はトゥスクルからナ・トゥンクへ通じる唯一の街道であったから、難所とは言え旅人の行き来はそれなりに盛んなものだった。
この辺りの事情が変わったのは、近時ナ・トゥンクで大規模な反乱が勃発してからのことである。
反乱軍が山に篭りナ・トゥンク皇軍に対し抵抗する構えを見せた。
対して、皇軍も大挙討伐軍を派遣してきたものだから、いきおいこの一帯は剣戟が唸り血しぶきの飛び交う戦場と化したのだ。
ナ・トゥンク皇軍には物量があり、反乱軍には地の利があった。
数月を経た今なお戦局は容易に決着せず、時に散発的な、時に本格的な戦闘が繰り返されている。
そんな有様であるから、いつしか旅人の影も絶え、街道には両軍の兵が闊歩するばかりになっていた。
――そして、そのようなある夜。
月さえ出ていない暗闇の夜道をトゥスクルからナ・トゥンクへ、人目を忍ぶようにして越境してきた旅の一団があった。
7、8人の一行の中に、ひとりだけ仮面の男は、トゥスクル皇ハクオロである。
残りは女子供ばかりだが、一騎当千のトウカ、カルラ、法術使いのウルトリィ、カミュなどいずれもただならぬ面々。
反乱軍に助力しナ・トゥンクの皇を討伐せんものと、夜陰ひそかにトゥスクル皇都を出立してきたのである。
時は夜半――
大地は眠りに沈み、山には獣の気配すら絶えている。
先頭を歩いていた道案内役のカルラが、一行を振り返って言う。
「今日はこの辺りで休んだほうがいいですわね。これ以上進むとナ・トゥンクの斥候に発見されるおそれがありますわ。それに――」
一団の中から、ふわぁぁぁ、と気の抜けたあくびの声。
慌てて口元を押さえたのはカミュだった。
「あははは。ちょっと眠くなってきたかな〜、なんて」
それを見たカルラは、決まりですわね、とハクオロを窺うと、片手で道脇の林を指し示した。
「少し分け入ったところに小さな平地がありますの。この人数なら十分な広さだと思いますけど、そこでよろしくて?」
むろん誰に異存があるわけでもなく、こうしてハクオロ一行はナ・トゥンク最初の夜を国境近くの林の中で過ごすことになったのである。
1.エルルゥの夢
唇を存分に蹂躙した舌が、ゆっくりと引き抜かれる。唾液がたらたらと零れ落ちて、口のまわりをべとべとに汚していく。
奇妙な感覚に眉をしかめるが、嫌な気持ちはしない。むしろ、蕩かすような甘ささえ感じる一瞬。
そのことがエルルゥには不思議でならなかったが、それも愛する人のものなればこそだろうかと思った。彼女の性経験はまだ浅い。
唇が胸元に移動する。膨らんだ突起をたっぷりの唾をつけて吸われる。まず右を。ついで左も。
男の片手が股間に伸びる。合わせ目の大きさを確かめるように触られる。
ふと、声が囁く。
――もう濡れているな。
と。
嫌ッ。声にはならなかったが、エルルゥは喉の奥をよじるようにして叫んだ。
触られている芯芽からむず痒いような感覚が体中に広がり、熱を帯びた粘膜が本人の意思に反して滑らかな液体を噴出させてしまう。
その様子に満足したかのように、指が襞を押し広げて侵入する。まだ堅い肉が揉みほぐされ、恥ずかしい液体が塗り広げてられていく。
ただ気持ち良かった。
このまま永遠に時が止まればいいとさえ思った。
いつしかエルルゥは自ら股を大きく開いて、どうぞ入れて欲しいとせがんでいた。
応えて、男がぐいと腰を突き出す。
刹那――
「――痛っ!? 痛い痛い!」
予期せぬ痛みを覚え、エルルゥが悲鳴をあげる。
秘所に潜入した男のものは巨大であった。
それは彼女の知っているものとは、似ても似つかぬ別物であった。
「違う、あなたハクオロさんじゃない」
途端に言い知れぬ不安が彼女を襲う。誰か見知らぬ他人に体を犯されている。
恐怖感が腹の底までこみ上げ、まさに喉から悲鳴となって迸り出ようとしたとき――
「――! はぁ、はぁはぁ………。夢……?」
心臓がばくばくと高鳴っている。溜まりに溜まっていた恐怖感が、冷や汗となって一気に噴き出す。
体の震えを沈めるように彼女はゆっくりと首を回し、そこが眠りに就いたときと同じ寝屋であることを確認し、ようやく人心地を得る。
「夢……なんて……ひどい……」
そして彼女は、隣りに寝ているはずの夫の姿を確認しようとして、
「きゃあぁぁぁぁ!」
今度こそ、悲鳴が声となって迸り出た。
ハクオロが寝ていたはずの床は、がらんとして、人の気配も見えなかったのである。
悲鳴を聞いて、他の寝屋から皆が駆けつけてきた。
「どうしたの、エルルゥ姉様」
「ハクオロさんが……ハクオロさんがいない……」
「主様? 厠か何かではなくて?」
「厠だったらすぐに帰ってくると思うんだけど……」
「あの……今日のお側付はトウカさんでしたよね。あの方に尋ねれば事情が分かるのではないかと」
「そうですわね……トウカ。……トウカ?」
「今、一通り見て来たのですけど、どうやらトウカさんもいらっしゃらないようで……」
「ええ!?」
2.相談
しばらくの後、ハクオロとトウカを除く全員が集まって額をつき合わせていた。
「――で、おじ様もトウカさんもどこかへいっちゃった、と」
カミュの声は、表面こそ平常を装っているが、不安を抱いているのは誰の目にも瞭然であった。ただ、皇女としての気構えが、その発露を押し止めているだけである。
それに比べ、
「ハクオロさん……」
「おとーさん、いない………」
ユズハとアルルゥは、子供心に不安を感じるまま、目に涙を浮かべていた。
「ほら二人とも大丈夫だよ。きっとすぐに帰ってくるから」
「帰ってくる?」
「あ、うん。きっと大丈夫」
「しかし――」
容赦なく口を挟んだのはカルラである。
「寝屋にもいない、厠にしては帰りが遅すぎる、お側付の姿も見えない……これは何らかの事件に巻き込まれたと考えるほうが自然ですわ。ましてや、ここは敵領内。何が起こっても不思議ではありませんもの」
「あ――」
カミュが困惑の表情で押し黙る。状況を判断すると、カルラの言うことが正論であり、大丈夫などという安易な保証は何の意味も持たないのは明らかだった。
かと言って、事件が具体的にどのようなものなのかというと、誰も明確な答えを持たなかった。
さらわれたのか、釣り出されたのか、あるいは他の何らかの意図があったのか。
「まずはっきりさせておく必要がありますけれど、ナ・トゥンク兵が潜入した可能性は」
戦場経験豊富なカルラが、自然的に議長という役回りでエルルゥに尋ねる。
一瞬、エルルゥの体が弾かれたように震える。ナ・トゥンク兵と聞いて、さっきの悪夢が思い出されたのだ。身も知らぬ誰かに犯された夢が。
「――エルルゥ?」
「あ、はい。寝具もそのままでしたし、争った跡もありませんでした。断言はできませんけど、たぶん潜入の可能性はないと思います」
「たぶん? あなた、隣りで寝ていらしたのではなくて?」
「そうなんですけど、思い出そうとしてもあまり良く覚えていなくて……」
エルルゥは少し嘘をついている。
良く覚えていないのは本当だったが、思い出す努力をしたくないというのも本音だった。
敵兵が潜入して彼女の操を奪っていったという可能性など、想像することさえおぞましい。
「ということは、敵が潜入した可能性も捨てきれない、と」
カルラが苛立たしげに歯を鳴らした。
「ひとつ考えたのですが」
黙って聞いていたウルトリィが口を開いた。皆の視線が集中する。
「トウカさんが連れ出したということは考えられないでしょうか? 彼女は我が軍に参じたとは言え、ついこの間まで敵方でしたし、あるいはナ・トゥンク側と結んで何やら良からぬ策を――」
「それはありませんわ」
皆まで聞かぬうちに、カルラが首を横に振る。
「トウカはあれでもエヴェンクルガの一族ですわ。私、戦場(いくさば)であの一族と剣を交わしたことが一度ならずありますけど、あの人たちは主のために命を捨てることこそあれ、主を裏切るような真似は絶対にしない一族であること、この首をかけても構いませんわ」
「では、いったい誰が………」
「それは……」
「もしかしたら、トウカさんはハクオロさんを守ろうとしたんじゃないでしょうか。ハクオロさんに何か事件が起こって、トウカさんは主を守ろうとして一緒に――」
「それもどうかしら」
エルルゥの意見に、カルラは納得できぬげな表情を見せた。
トウカの剣術の腕前を知っている彼女としては、あの凄腕の剣士がナ・トゥンク兵ごときに遅れをとる場面が想像できないのだ。
一座が、再び沈黙に包まれる。
「あの、話し合ってても埒があかないと思うからさぁ、みんなで手分けして探さない?」
カミュが、子供らしく率直な提案をする。
「ん、さがす」
「私も話し合っているより捜したほうがいいと思います……」
アルルゥとユズハも同調する。
子供は戦場を知らないから楽天的なものだとカルラは思った。
見知らぬ敵国で、闇夜に歩き回るなど危険極まりない行為だ。
しかし冷静考えてみれば、他に策が見つからないのもまた事実だった。
「そうですわね、とりあえずは地道に捜すしかありませんか――」
カルラの一言で、議が決する。
「では、私が捜索に行きますわ。地理を知っているのは私だけですし。あと一人……エルルゥ、一緒に来てくださるかしら」
「行きます。連れて行ってください」
「ウルトリィは残って、子供たちを守って頂戴」
「畏まりました。カミュは空から探せる?」
「ん。木ばっかりで難しいと思うけど、一応やってみる」
「アルルゥも行く」
「だめ。もし迷子になったりしたら大変だから、ね」
「ん〜」
3.捜索
そんなこんなでしばらくの後、カルラとエルルゥは山深い夜道を連れ立って歩いていた。
捜索を開始してどれほどになるだろうか。
希望に反してハクオロの手がかりは容易に見つからず、時間と共に焦りだけが増大していく。
夜目を凝らして林を隈なく観察していたカルラが、お手上げ、というように首を振る。
「まったく手がかりなしですわ。これは街道沿いではなくて脇道を探したほうが良いかも知れませんわね。少々険しい獣道ですけれど付いて来られて、エルルゥ?」
「……」
「エルルゥ?」
「………あ、はい、なんでしょう」
「まったく、なんでしょう、じゃありませんわよ」
明らかに間の抜けた、そして心うつろなエルルゥの返事に、カルラががっくりと肩を落とす。
「だいたいあなた、さっきから変ですわよ。主様がいなくなって不安なのは分かりますけど、そういう時こそ気を強く持たなければいけないのではなくて?」
「あ、違うんです、私……」
エルルゥが、とっさに手を振って否定する。
ハクオロがいなくなったことも確かに心配だったが、それと同じくらい、いや、もしかしたらそれ以上に心配なのは、自分が汚されてしまったかもしれないということだった。
それは、あくまで可能性だ。かなり確率の低い。
それでも可能性として一度頭に入ってしまった以上、振り払うことはできなかった。
あるいは思い過ごしかもしれないが、少女の心は取り返しのつかない傷をつけられたように痛むのだ。
むろん、このようなことは同姓であるカルラに対しても告白できることではない。
「違うって、なにがかしら?」
「え、え……と、やっぱり違わないです」
つじつまの合わない答えに、カルラが再び肩を落とす。
「本当にしっかりして頂戴、エルルゥ。主様が心配なのは、あなただけではありませんのよ」
「はい、分かっています……」
「悔しいけれど、主様のもっとも側にいて、あの人のこと良く知っているのは、エルルゥ、あなたなのですわ。あなたが知っていることを話してくれなければ、私たちどう動いていいか分かりませんの」
まるで幼児に噛んで含めるような口調で、カルラが言う。
「知っていること?」
「ですから、主様の考え方とか、行動の癖とか、そのあたりの情報を――。何か突飛なことをする癖とかはなくて?」
「突飛なことはされませんけど、そういえば、人に知らせずに隠れた行動をされることはあると思います。例えば今回なら、トウカさんだけを連れて、何か行動を起こしているとか」
「なるほど、それも可能性――しッ」
不意にカルラが口を噤む。やっと聞き取れるかという囁き声になって言う。
「誰か近づいてきますわ。もしかしたら敵かも――。御覧なさい」
誘われて、エルルゥは闇夜に目を凝らした。
1つの人影が、ちょうど街道を歩いてくるところだった。
4.ハクオロの誤算
一方その頃――
騒ぎの原因となっているハクオロその人は、街道脇の山陰に隠れるような一角に佇んでいた。
カルラとエルルゥが捜索している辺りよりも、ずっと離れた場所である。
別にさらわれたわけでも、連行されたわけでもなく、まさにエルルゥの予想したとおり、自分の意志で宿営地を抜け出してきたのである。
傍らにトウカの姿が見えないことは、エルルゥの予想外であったが。
「――ハクオロ皇」
不意に闇の中から声が聞こえた。
「チキナロか」
「さようでございますです、ハイ。ハクオロ皇にはご機嫌うるわしゅう――」
どこに潜んでいたのか、暗がりから滑るようにハクオロの前へ出てきたその人物は、トゥスクルにも知られた商人チキナロである。
あい変らずの低い物腰で、ぺこぺこお辞儀をしている。
暗がりでよく見えないが、いつものようにその顔には、つくり物のような愛想笑いが張り付いているのだろう、とハクオロは思う。
正直好感を持てる相手ではないが、物資の調達のためとあれば選り好みをしていられないのもまた事実であった。
「すまんな。こんな夜分に呼び出して」
「いえ、お得意様の頼みとあらば昼夜問わず、どこにでも参上いたしますです、ハイ」
「それで頼みのものは」
「ハイ。これにございますです」
チキナロが懐から小箱を取り出し、ハクオロに手渡す。
取り立てて何の変哲もない、木製の小箱である。
「はるばる南方から取り寄せた薬でございます。効能のほどは保証いたします」
「うむ」
中身をちらと改めると、ハクオロは言葉すくなに懐にしまう。
「代は宮殿のほうで支払うということで良いかな」
「それは困りますです、ハイ」
「何?」
まさか支払方法に関してチキナロが異を唱えるとは思わなかったので、ハクオロは驚いて聞き返した。
「困るとはどういうことだ」
「この場で支払っていただきたいということでございます、ハイ。こちらも多額の金を使っておりますゆえ」
「それはそうだろうが、何しろこちらは旅の途中で持ち合わせがない」
「持ち合わせがないとおっしゃる」
チキナロの眼光がするどくなった――気がした。
「ならば、そのお体でお支払いいただきます。抵抗なさらぬほうが身のためかと思いますです、ハイ」
「な――」
ハクオロに反論する間を与えず、チキナロは腰に下げた剣を抜く。
切っ先をハクオロの喉元に向け、じりじりと威圧するかのように閃かす。
ハクオロもまた懐の中の扇子の位置を確かめながら、
「私を脅すというのか」
「脅してはございません。こちらは本気でございますです、ハイ」
突如、林の影からバラバラと5、6人の人影が踊り出てハクオロを取り囲む。
めいめいの手に鈍く光る獲物が握られ、そのそれぞれがハクオロに向けられていた。
「もう一度忠告いたします。抵抗なさらぬほうが身のためかと思いますです」
「くっ――」
5,6人もの手勢を連れているとは予想外だった。
せめてトウカがいれば――と思ったが、それも後の祭りである。
こうなっては多勢に無勢、いたずらな抵抗は意味をなさない。
ハクオロの手から扇子が滑り落ちる。降伏の証。
それを見て、チキナロは満足そうな笑みを浮かべると、
「ではしばらくの間、私たちにお付き合いいただきます」
ハクオロの後ろ手に縄をかけ、一行に指示して連れ去った。
5.発覚
トウカは絶望に暮れていた。
むろん、己の役立たずさについてである。
日頃から失敗は多いほうだが、今夜の失敗は情けないの一言だった。
隠密の仕事だ、とハクオロに同行を求められたまでは良かった。
エルルゥや他のものに知られてはならない用事があるから、密かに警護してほしい、と。
お側付の身として、これを働きどころと意気込まずしてどうしようか。
思わず大声で返事をして、ハクオロに窘められさえしたものだ。
けれど、どうしたことだろう。どうして自分は今、ハクオロとはぐれ、見も知らない山中を彷徨っているのだろう。
捜索をまくためだ、と言って脇道ばかり進んだハクオロに原因があるのか。
ハクオロの背中を追うことばかりに気を取られて、足元の段差につまづいた自分が悪いのか。
暗闇を見通せない目を持って産まれた、エヴェンクルガ族の定めのせいなのか。
与えられた任務さえ果たせない自分に、お側付としての資格はあるのだろうか。
考えれば考えるほど、情けなくなってくる。
状況は完全に手詰まりだ。
ハクオロに追いつくこともならず、さりとて元へ戻る道も分からず、山中で完全な迷子となってしまった。
いっそ腹を切って死んでしまいたいという気持ちさえ抱きつつ、それでも彼女はその責任感の命ずるままに、あてどなくハクオロの姿を捜し求めていた。
と、山中に人の声をトウカは聞いた。
少々遠くらしいが、間違いなく男数人の話し声であった。
エヴェンクルガ族は夜目こそ利かないが、聴覚には人一倍優れているのである。
これは手がかりになるかもしれない。
現金なもので、今や彼女は生まれ持った能力に感謝しながら、息を潜め、暗闇を通して伝わってくる音に全神経を集中した。
――おい、ここはもういいから引き上げろとよ。
――おぅ、今日はずいぶん早いな。何か異変でも起こったか?
――でっかい獲物を捕らえたらしいぜ。
――獲物?
――あぁ、なんでもトゥスクルの皇ハクオロ――
その名前が出た瞬間、皆まで聞かずにトウカは駆け出していた。
間違いなく手がかりだった。これを逃しては悔やんでも悔やみきれないほどの。
方角には自信がある。距離も、全力で駆ければ間に合うだろう。
もう引き上げるところらしいが、おそらくナ・トゥンクの兵だ。
話し振りから察するにハクオロは捕まってしまったのかもしれないが、あの兵達がなんらかの情報を持っていることに疑いはない。
兵の数が分からないのは気がかりだ。人数によっては返り討ちに遭う可能性もないではない。
だが、成功するかどうかは問題ではない。自分は、やらなければならないのだ。
思い立ったらトウカは早い。
電影のような速さで林を駆け抜け、またたく間に声の場所へ接近する。
果たして、ナ・トゥンクの斥候兵であった。
4人の男たちが、任務を終えて一息ついているところだった。
トウカはその前へ踊りこみ、白刃をひらめかせながら大音声で怒鳴る。
「動くなぁァァ!!」
意外な乱入者に、ナ・トゥンク兵は慌てふためいた。
「な、なんじゃい」
「敵だ、奇襲だ。ここは逃げるが先決ぞ」
「いやよく見ろ。相手は女一人だ。取り囲んで返り討ちにすべし」
口々に喚き、剣を取ろうとする兵たちに向かって、先手必勝、トウカは旋風のごとく切りつける。
一番近くにいた兵こそ不運であった。
剣を抜く間もなく喉笛を斬られ、ものも言わずに絶命する。
次いで二人目の男が肩口から胸を斬り裂かれて、絶叫とともに地に倒れた。
その凄まじい迫力に押されて、残りの兵たちが一歩後退する。
「おい、手ごわいぞ」
「あぁ、女と見て侮った」
「ならばどうする」
「よし、お前は戻れ。一人でも本隊にこのことを伝えねばならん」
兵は斥候兵である。命を賭しても情報を伝えるのが先決とばかり、二手に分かれた。
一人が馬に飛び乗り、それを庇うように残りの一人がトウカの前に立って刀を構える。
時間稼ぎ――
とっさにトウカは判断した。向かってくる敵は斬りやすいが、時間稼ぎに徹して守りに入った敵は手間がかかるのである。
その間に、伝令を見失うことになれば厄介だ。
ならば。
トウカの左手が目にも止まらぬスピードで振られたかと思うと、その軌道から矢のように白い切っ先が飛び出す。
それは空を裂き、狙い過たず馬上の男に突き刺さる。
ぐわっ、と不気味な唸り声を上げて男が落馬する。胸元からしとどに血を噴いている。
トウカの投げた刀が、今まさに鞭を入れようとしていた伝令の胸を貫いたのだ。
「畜生っ」
残された最後の一人がしゃにむに斬りかかる。トウカは素早く木の陰に隠れる。
刀を投げてしまったので丸腰になっている。まともに向き合えばトウカといえども勝てる自信はなかった。
そのまま睨み合い――
互いに決め手を欠き、一方は刃の陰から、一方は木の隙間から、じりじりと隙を窺う。
そのまま、どのくらいの時が経過したか。
隙が見えないと判断したのか、刀を構えていた男がくるりと向きを変え、馬に飛び乗ったかと思うと、
「はあっ!」
気合一閃、夜の闇に駆け出していった。
トウカは出遅れた。まさか勝負を放棄して逃亡されるとは思っていなかったのである。
しかし、驚いたのは一瞬のことで、すぐさま林の裏手を調べると、
やはり――
と、会心の笑みを漏らした。
兵が4人もいたのに、馬が1頭しかいないわけがなかった。
6.情報
「だめだめ、お姉様。真っ暗でなんにも見えないよ」
上空を旋回していたカミュが、降りてきて悲しげに首を振る。
「ムックルも分からないって言ってる」
アルルゥも意気消沈した様子だ。
ムックルに匂いを探索させようとしたのだが、いつもとは違う匂い物でも身に付けたのか、はかばかしい効果は上げられなかった。
「でも、怪しいものが入っていなかったということは分かったわね」
「ん。おとーさん、自分で出て行った。どうして」
アルルゥはまだ不安を拭えないようだったが、ナ・トゥンク兵のものらしき匂いが発見されなかっただけでも、いくぶん安堵させるに十分だった。
「自分で出て行ったということは、きっと自分で帰ってくるよ。信じてゆっくり待ってようよ」
「そうね、捜しに行ったお二人もそろそろ帰ってくるころだし、何か報告があるかもしれない」
ウルトリィとカミュは、アルルゥを慰めつつ、捜索部隊の帰りを待つことにした。
そして、どれくらい待っただろう。
不意に、林の奥からガサガサと物音がして――
「あ、帰って来られたようですわ」
「おかえり〜」
「ほら、きりきりと歩きなさい」
「あっ、これ、なにをなさいます。痛い痛い」
「カルラさん、あまり縛りつけては………」
捕虜(?)を1人連れたカルラと、気遣わしげなエルルゥが帰ってきた。
さっそく報告会が開かれる。
「残念ながらハクオロさんを見つけることはできませんでしたけど、代わりにこの方を」
エルルゥが、縄で縛られた男を指して言う。
「この方は?」
「そうか、ウルトリィさんはご存知ないんですね。えと、チキナロさんという商人さんです。トゥスクルの宮殿によく商売に来られます」
「私の刀もこの方に作って頂きましたの」
ぽんぽん、と背中の大刀を叩きながら、カルラが笑う。もっとも目は笑っていないが。
一方、チキナロは明らかに困惑の表情を浮かべていた。
ウルトリィは首を傾げた。チキナロと彼女たちとの関係を図りかねたのだ。
その様子を察して、エルルゥが説明を加える。
「街道でばったり会ったんですけど、なんだか受け答えが怪しくて」
「いえ、違いますです。誤解でございますです、ハイ」
「でも、まともに答えなかったのは事実……」
「主様について何か知らないか尋ねたら、逃げ出そうとするものですから、こうしてふんじばって来ましたの。この男、きっと何らかの事情を知っていますわ」
「ひぇ、痛い、痛いでございますです」
チキナロを縛っている縄を、カルラがきりきりと締め上げる。チキナロが子供のような情けない悲鳴をあげる。
ようやく得心がいったウルトリィが、チキナロの顔を見つめる。
「あなたが、ハクオロ皇を?」
「いえ、違いますです」
「正直に言わないと、貴方の作った刀の切れ味を貴方自身が知ることになりますわよ」
「ひぇっ、脅しても無駄でございますです」
「チキナロさんお願いです。ほんのちょっとしたことでもいいんです。知っていることがあれば教えてくれませんか」
「頼まれても無駄でございますです。私は何も知りませんです」
「おとーさんのこと、教えて」
「うぅ、子供を持ち出しても無駄でございますです」
その後もエルルゥやカルラやウルトリィが、あるいは宥めつ、あるいは脅しつ迫ったが、チキナロの口は堅く、何を尋ねても知らぬ存ぜぬの一点張りで事態は一向に埒があかなかった。
そして、その状態のまま半刻ほどが経過した頃。
「いい加減にしてくださいっ!!」
ついにエルルゥが切れた。
「そりゃあなたは信用を大切にされる商人ですからおいそれと話せないこともあるでしょうけど」
チキナロに額を突き合わせんばかりにして詰問する。
「ですけれどここにいるみんなを見てもまだそんな嘘がつけるんですかカルラさんもウルトリィさんもカミュさんもアルルゥもユズハちゃんもみんなみんなハクオロさんのことを心配していて夜も寝ないで捜しているのに
それなのにあなたはそんなお金だけが大切なんですかだからあなたはああ私もそうですハクオロさんのことを考えるととても心配で心配で……きっとここの人たちの誰よりも心配で……初めてあの人に会ってから
一緒にいる時間長かったから……でもなかなか素直になれなくて……最近ようやく仲良くなれて……それなのに……ひくっ……私……心配で……ひくっ………もうどうしたらいいか……だから……ひくっ
………お願い……します……どうか……ひくっ……教えて………ください……ハクオロ……さん……の……ひくっ……こと……」
威勢のいい声は途中から、嗚咽交じりの涙に変わり。
「お願いします……どうか……お願い……します……」
頭を地に擦り付けんばかりにの懇願に一同は声を失う。
カルラもウルトリィも、その場にいる全員が、エルルゥの演説を聞きチキナロの反応を固唾を飲んで見守っていた。
チキナロは困惑したようにエルルゥの顔と、その頬を伝う涙を凝視していた。
が、やがて、
「済みませんが、このお嬢さん……エルルゥさんと二人きりにして頂けませんでしょうか、ハイ」
誰に言うとでもなく、そう頼み込んだ。
ちょっとそんな勝手な、とカルラが色めきたつ。
が――
「このお嬢さんにとって大切なことなんです、ハイ」
と言われ、さらにはエルルゥからも、下がってくれ、と目で訴えられては、引き下がるしかない。
一抹の不安と少しの嫉妬心は隠すべくもなかったが、そこはぐっと堪え、
「では、あちらで待ちますわ。なるべく早く済ませてくださいな」
それぞれの表情を浮かべた面々を連れて、裏に引き下がっていった。
7.行動開始
エルルゥとチキナロが再び姿を見せたのは、意外にもすぐだった。
「ハクオロさんの居場所が分かったんです」
息を弾ませて報告するエルルゥの声に、一同から歓声ともため息つかぬ声が洩れる。
「今晩ハクオロさんは、チキナロさんと密かに取引をする約束だったらしいです。でも、チキナロさんが言うには、チキナロさんの名前を騙る偽者があらわれたそうで、その人がたぶんナ・トゥンク国の部下で、ハクオロさんは連れ去られたのだろうって」
「なんですって」
意外な事実に、カルラが思わず大声を上げた。
ウルトリィや他のメンバーも、一様に驚きを隠せないでいる。
「で、ハクオロさんが捕らわれている場所は、これは推測ですけど、ナ・トゥンク国境部隊の本隊だろうということです」
「国境部隊?」
「ナ・トゥンク国には反乱軍に対する兵のほかに、いくらかの遊撃部隊が存在しますです、ハイ。今回は、その一部が国境を警備するために動いて、偶然かどうかは分かりかねますがハクオロ皇を捕縛したものと考えられますです」
チキナロが、説明を引き受けるべく前へ進み出る。
と、すかさず伸びたカルラの手が彼の襟首を掴む。
「細かい事情はよくてよ。それよりもその本隊というのがどこにあるのかということが問題じゃないかしら」
「え、ええ。場所は私が存じております。以前、呼び出されたことがありますゆえ。しかしまさか奪い返しにいくとおっしゃるのではありますまいな。小部隊とは言え敵は数十人――ひッ」
よく動くチキナロの口元に、カルラが大剣の切っ先を突きつけて黙らせる。
「細かい事情はいらないと言ったはずですわ。事態は急を要しますの。あなたに訊ねたいことは1つだけ。私たちを案内してくださるのかしら。それともこの剣の切れ味を試させていただけるのかしら?」
凄みさえ漂わせて、カルラが詰め寄る。
「チキナロさん、戦いのことは心配ありません。ここにいる人たちは皆強いですから」
傍らで、エルルゥが自信満々に宣言する。一人ずつ手で指し示し、頼もしい面々を紹介する。
応えて、ウルトリィが指先に大きな光の玉を出現させて見せる。限られたものにしか扱えない、光の術法。
カミュの黒翼がさわさわと鳴り、ムックルが牙を剥き出しにして唸り声を立てる。
「私たちは大丈夫です。それに」
エルルゥは、今度はチキナロに向き直る。
「私たちが行かなくても、あなたは一人で救出に行くつもりだったのではありませんか?」
これにはチキナロは頭を垂れざるを得ない。
彼がもっとも大切にするのは商人の信義である。
過ちとは言え、自らが危険に陥れた客の身柄は、たしかに自らの手で取り戻すつもりだった。
「分かりましたでございます、ハイ。しかし問題が1つありますです。街道を辿ればかなり遠回りになります。できればどこかで馬を手に入れたほうがよろしいかと」
なおもチキナロは慎重であったが――
「それは大丈夫だよ、おじさん」
「はい」
ウルトリィとカミュの有翼姉妹が、さわさわと翼をはためかす。
「最短距離で、行けばいいのでしょう?」
8.解放
うす暗い小屋の中に、後ろ手に縄を繋がれ、ハクオロはふと窓を見上げた。
月のない、墨を溶かしたような漆黒の夜空が、そこにあった。
見張りの兵はどこへ行ったのか。
小屋の外で監視しているのか、あるいは自分を捕らえたことでちょっとした宴会のようになっている本陣のほうへ行ってしまったか。
まぁ、どちらでもいい。
どちらにしろ、自分が独力で逃れる術はないのだから。
判断が迂闊だったことは疑うべくもない。
林の中でトウカを振り切るまでは計算通りだった。
誤算は、あの偽チキナロが予想外に多くの手下を率いて現れたことだ。
もし1対1であれば、いや、悪くとも1対3くらいであろうと予想していたのだが……。
後に残されたものたちのことを思うと心が痛んだ。
エルルゥにアルルゥ、その他、彼の家族とも言うべきものたちが、この暗闇の中、自分を捜しているに違いない。
林の中に置き捨てたトウカはどうしたか。
無事に合流してくれればそれに越したことはないが……。
思えば、なんと酷な仕打ちをしたものか。
なにより一国を預かる皇が、あまりに軽はずみだったかもしれない。
そう批判されても仕方がないことをしでかした。
しかし自分は、少なくともチキナロから取引を持ちかけられたあの日の自分は、どのような危険よりも、ただ一人の大切な人のことを思ったのだ。
エルルゥのことを。
彼女を悲しませたくないということを。
やはり自分は、後悔しているのかもしれない――
なんだかよく分からなくなった思考に翻弄されながら、ハクオロはそれでもなんとか逃れる術はないものかと、辺りを見回した。
と、不意に本陣のほうから喚き声が聞こえた。
「敵襲、敵襲」
「トゥスクル兵だぁ」
「やれ、恐ろしき剣術の使い手じゃ」
「怯むな、敵は一騎ぞ」
兵たちが口々に罵って戦っているようだ。
――あれはトウカか。
やはり私を追いかけてきたか。
と、ハクオロが思いにふける間もなくまた――
「後方から奇襲!」
「林の中から軍勢が湧いて出たぞ」
「不思議じゃ、なんとしたこと」
「トゥスクル軍の挟み撃ちだ。陣を崩されるな」
こちらはカルラやチキナロの部隊であったが、ハクオロはそれを知らない。
とにかく敵本陣が大混乱に陥っている様子だけが感じ取れた。
あぁ、皆が戦っている――。私のために戦っている――。
何とも言えない気持ちが、ハクオロの胸を去来する。
不意に、間近で断末魔の呻き声。おそらく、小屋の警備兵が倒されたのであろう。
と思う間もなく、小屋の木戸ががちゃがちゃと開いて、
「ここにいらっしゃいましたか」
「おじ様、助けにきたよ」
ウルトリィとカルラが姿を見せた。
すばやくハクオロに駆け寄り、いましめの縄を切る。
特に外傷がないことを確かめると、大きく安堵のため息をついた。
話したいことが沢山ある。かけてやりたい言葉もある。詫びなければならないこともある。
しかしいざとなれば、何を言えばいいのか分からなかった。そもそも時間もない。
ウルトリィが手短に戦況を説明する。
ハクオロは黙って聞いていたが、やがて、
「詫びは後でする。今は皆に助力しなければ。お前たちはしばらく休んでいてくれ」
それだけ言い残して、小屋を出て行った。
ウルトリィとカミュは取り残されて。
「ふう〜っ」
カミュが大きなため息をつく。
「疲れた?」
「ちょっと。ずいぶん沢山の人を運んだから」
「そうね、私も疲れたかも」
ウルトリィがゆっくりと肩を回す。カミュも手首の運動をしている。
「ねぇ、お姉様」
「何?」
「おじ様、どうしてこんなことをしたのかな。一人で出て行くなんて普通じゃないよ」
「そうね……私にも分からないけれど」
分からないけれど。ウルトリィには予想があった。
「多分、大切なものがあったのだと思うわ。普通でないことを敢えてしなければならないほどに……」
妹の問いに答えながら、ウルトリィの予想は確信に変わりつつあった。
皇として人の上に立つものだけが持つある種の責任感。それを否定しなければならないときの葛藤。
自分も分かる気がする。
同じ立場に立ったなら、自分は皇としての責任を優先できるだろうか。
不思議なほど冷めた気持ちで、ウルトリィは自分に問うた。
戦局は終わりを迎えていた。
前後両方から侵入したトゥスクルの部隊によって、ナ・トゥンクの本陣は壊滅的な打撃を受けていた。
「今日は機嫌が悪いですから、がんがん行きますわよ。命の惜しくない方は私の前に立ちなさい」
「聖上ぉぉっ! この働きにて某の罪、なにとぞお許しいただきたく――」
「おとーさんいじめたやつ、許さない」
ナ・トゥンク兵は混乱の中に十分な統率を取ることもできず、あるいは討たれ、あるいは風をくらって逃亡し、いつのまにか本陣付近にその姿を見なくなっていた。
その中で、かの偽チキナロもまた、混乱に紛れて落ち延びようとしていたが――
「騒動の張本人が逃げては困りますです、ハイ」
1つの影が、行く手を阻む。
「ひっ、まさか――」
「他人の名前を騙るとは言語道断。あなたが暗躍するせいで、このところ商売の評判が落ちて困っているのです、ハイ」
じりっ、と本物が偽者に詰め寄る。
抜き身の仕込杖が、月光を浴びてきらりと光る。
「代償は少々お高くなりますが、どうぞお支払い頂きたく――」
「ひ、ひえぇぇっ! た、助け――」
夜の林にまた1つ、断末魔の悲鳴が響き渡って消えた。
9.エピローグ
「で、これがその物だ」
ハクオロが、小箱に収められた薬瓶を開いてみせる。
チキナロから正式に手渡されたものである。
戦いはとうに終わっていた。今は後処理の最中である。
他の者はみな作業に出かけ、天幕のうちにはハクオロとエルルゥの2人きりだ。
「これは――膏薬でしょうか」
小瓶を覗き込みながら、エルルゥが訊ねる。
「あぁ、南方で作られる膏薬だ。性器の傷や性交時の痛みに効能があると聞く」
「性器の傷?」
エルルゥが首を傾げる。ハクオロはそっと声を潜めるように、
「エルルゥ、先日気付いたことだが、お前の、その――中に裂け傷があった。おそらく私とまぐわった時に付いた傷だと思うが、けっこう痛むはずだ」
「あ、あぁっ! それで私、あんな夢を」
「思い当たることがありそうだな」
「い、いえ、何でもないです!」
エルルゥは慌てて否定する。エッチな夢を見て発覚したとは、恥ずかしくて口が裂けても言たものではない。
「まぁ、何でもいいが……。良ければ私からの贈り物と思って使ってみてくれ」
「は、はい。それはとても嬉しいですけど、あの、そのためにこんな事を――?」
「このような事、他のものには知らせたくないと思ったのでな。私一人で隠密に済ませるつもりだったが」
「は、あはは……」
「ハクオロさんは……馬鹿です」
「うむ、自分でもそう思う」
「こんな薬のために、多くの人に迷惑をかけて……。本当の本当に大馬鹿です」
そう言うエルルゥの声は、ハクオロを責めながらとても穏やかで。
「でも……ありがとうございます……」
軽く頭を下げながら、エルルゥは帰っていった。
入れ替わりにチキナロが入ってくる。
「ハクオロ皇、このたびは無理難題を聞き入れていただき真に感悦至極――」
「まさか、このような混乱になるとは思わなかったが」
「恐れ入りますです、ハイ。しかしお蔭様で偽者も退治することができまして」
ものは考えようだ。お互いに手際の悪さはあったが、終わってみれば万事良し、といったところか。
「かねての約定どおり、その薬のお代は無料にさせていただきますです。それから今後1月の取引を全て半値に。これは約定にはございませぬが、せめてものお礼とお詫びのしるしでございます」
「うむ、今後ともよろしく頼む」
「ハイ。それはこちらこそお願いしますです」
それでは、とチキナロ一礼して出て行こうとするのを、ハクオロが呼び止める。
「ところでチキナロ」
「ハイ、何でございましょうか?」
「お前は私を皇らしくないと思うか?」
「それは……」
チキナロは皇の真意を訝る。しかし、彼の表情は仮面に隠れて全く窺えない。
「別に怒らぬ。今度のことで率直なところを答えてもらいたい」
「しかし……」
チキナロはなおも躊躇していたが、ハクオロが再度催促すると、意を決したようにハクオロに正対して深深と頭を下げた。
「なれば申し上げます。ハクオロ皇の今回の行動には賛同しかねますです。取引とは言え、自らを囮とするなど、一国の皇として賢明な行為とは申せないと考えますです。もし私が皇の臣下であれば、間違いなくお引止めしております、ハイ」
「そうか……ハハハ」
「これはしたり。お笑いになりますか」
「いや、そなたを笑ったのではない。己自身がつくづく皇に向いていないということを笑っているのだ……ハハハ」
ハクオロのその笑いは自嘲であったか。あるいは、もっと他のものか。
目前のチキナロのことなど忘れたように、しばらく愉快げに笑い飛ばしていたが、やがて表情を引き締めて向き直る。
「さて、やはり私は叱られねばならんようだ。どれ、あの娘たちのところへ行って、さんざ油を絞られてくるか」
その言葉を、ハクオロはまるで楽しい宴会に参加するように言うと、そのまま振り返らず大股に歩き去っていった。
その後姿を、チキナロはある種の感慨さえ抱いて見送った。
――あなたは、わかりませぬ・・・・・・。
誰に言うとでもなく、胸の中で呟く。
長い夜はすでに明け。
水色に澄んだ空が東のほうから、ゆっくりと明らみはじめていた。
>>482-511 以上、『ハクオロのいない六月』でした。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
え〜、延長希望の方はいらっしゃいませんでしょうか?
希望してもよろしいでしょうか。
すいません、せっかく書いたので、参加させてもらいます。
クラナドで汐BAD後の再婚の話。10レスの予定です。
「ぁ……朋也ぁ」
耳元で杏が囁いて、それに応えるように乳房に噛みついた。
首に手が回されて上半身の動きを封じられると、俺は腰を打ち付ける速度を上げて、
そのまま中で果てた。
それからしばらく首筋に顔を埋めながら、入れたままの状態で(コンドームはしているが)、
脱力感に浸る。
(あぁ、またやっちまった……)
全てを失ってから、部屋にこもってそのまま餓死するのを待つような生活をしていたら
杏が出入りするようになって、こうなるまでに時間はかからなかった気がする。
もう身体を重ねた回数すら憶えていない。
その度にもうこれっきりにしようと思って、そのつど性欲に抗えないでいた。
ギャンブル依存症の人間が陥るような、自暴自棄の快楽に似ていると思った。
その後、いつもの週末と同じように、杏は俺の部屋に泊まった。その夜、俺は夢を見た。
殺風景な野原に、渚と汐がいた。
「だんごっ、だんごっ♪」
二人で楽しそうに唄っている。俺も混ざろうと思って、二人に近づいた。
二人は俺に気づくと歌を止めて、微笑んで返した。それからしばらく団欒をしていた気がする。
夢に見た、幸せな記憶。
「これが、パパ」
そう言って汐が前に置いたのは、見慣れただんごのぬいぐるみだった。
「これが、ママ」
その上に、別のぬいぐるみを重ねる。渚は心から楽しそうな眼差しを汐に向けていた。
「これが……」
汐はぬいぐるみを重ねていく。どこかで見た風景だった。
ええと、なんだっけ。ずっと昔、何かで見たような……。あぁ、思い出した。
一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため……。
ガバァッ!と布団を跳ね上げて、俺は上半身を起こした。
心臓がひどく波打っていた。
(冗談じゃねえ……)
今まで生きてきた中で、最悪の悪夢だった。
俺は反射的に、テレビの上に二つ並んだ渚と汐の写真に目をやる。
それはいつもと変わらない微笑みを湛えていた。
「朋也、起きたのー?」
振り向くと、台所にエプロン姿の杏が立っていた。
「大丈夫、顔色悪いわよ?」
「あぁ、ちょっと嫌な夢を見ただけだ」
「そう、ならいいけど……。あのさ、あたし今日先約があって、もう出ないといけないのよね。
朝ご飯作って置いたから、後で食べて」
「おぅ、悪いな」
杏が身支度を終えて出る間際になったとき、ドアがノックされたと思うと、勝手に開いた。
「よぉ、上がるぜ。……ん?」
オッサンだった。杏に目を留めると、ドアの前に立ちつくしていた。
「あ、あたし、もう行くね。じゃあ、また後で」
バツの悪そうな笑顔を浮かべると、杏はオッサンの脇を抜けて出ていってしまった。
取り残された俺と立ちつくすオッサン。気まずかった。
「誰だよ、ありゃぁ……」
「俺の高校の同級で、汐の先生だよ。知らねーのか?」
「知らん。で、そいつがなんで日曜の朝からおめぇの部屋にいんだよ」
「俺の有様を見かねて、昔のよしみで世話焼いてくれてんだ、飯作ったり」
「ふん、それで夜はあっちの世話もしてくれるってか」
「いや、それは……」
いつものオッサンの下ネタだったが、図星を指されて言葉に詰まってしまった。
「……マジかよ」
呆けた表情から、すぐに俺を睨みつけるそれに変わる。
「クッ……羨ましいじゃねえか……」
心底羨ましそうだった。
根ほり葉ほり聞かれそうな気がしたので、俺は話を変える作戦に出た。
「コーヒーでいいか?朝飯もまだだったら、つまんでいけよ」
「ケッ、どうせろくなもん食ってねえだろうと思って差し入れ持ってきてやったのに、
とんだ骨折りだぜ」
オッサンは手に提げていた袋をテーブルに放り投げると、そのまま腰を下ろした。
袋からは大量のパンが、およそあり得ない色彩を覗かせていた。
「で、どうなんだよ」
「……なにが」
「決まってんだろ、女だよ。いいのか。上手いのか」
作戦は失敗だった。
「いや、別に……」
「下手なのかっ!だがそれがいいのかっ!クソォーッ!」
「知らねーよ!」
熱くなるアホ二人。
「よし、小僧。俺も混ぜろ」
爽やかな笑顔だった。
「混ぜるかっ」
「なんだよ、怖ぇのか?『朋也みたいなヘナチンより、秋生様のビッグマグナムの方がずっといいわ!』
ってなるのが、そんなに怖ぇかよ」
「ならねーよ、そんなこと!」
……多分。
「第一、あんたには早苗さんがいるだろうが」
「混ざりてぇのか?」
「混ざるかっ」
「ケッ、誰がおまえみてーな小僧に早苗を拝ませてやるかよ。百年早ぇぜ」
それからオッサンは煙草をくゆらせながら、ふと、窓の外を見て言った。
「小僧、おまえ再婚すんのか?」
「しねぇよ。後にも先にも、俺の妻は渚だけだ」
それは本心だった。オッサンは何か言いたそうだったが、
次に出てきた言葉は全く別の話だった。
「野球、やるだろ。一緒に出るぜ」
休みの昼過ぎには公園でオッサンと子供に混じっての野球が習慣になっていた。
堕落した生活の中で唯一人間らしい時間だった。
目的がない。その点、野球は打つことに集中して、走ることに集中して、
ただ勝ちに集中すればよかった。少なくとも、生活のことは忘れられた。
もともと興味のなかったギャンブルより、経済的で体面もましなだけの話だったが。
バッターボックスに立って、オッサンと向き合う。オッサンは不敵に笑っていた。
「フッ、小僧、今日こそ年貢の納め時だ。おめぇは新魔球『俺が秋生!』で打ち取ってやるぜ」
プロレスの技のようなネーミングだった。どうせ名前だけ大仰な、単なるストレートだろう。
俺が構えると、オッサンはゆっくり振りかぶり、俺はその手元を注視する。
外野の奥に、杏の姿が見えた。見慣れない格好で、男と並んで公道を歩いていた。
ストライク!という声がして、俺は現実に引き戻された。
「テメェ、男の勝負でよそ見たぁ、いい度胸だなオイ!」
気を取られていた事に気づく。
「ぐっ、来い!」
雑念を払って、ボールに集中した。オッサンが投げる。
打ち返すつもりで大きく踏み込んだが、来た球はカーブだった。
今さら止まることもできず、俺は上体から突っ込んで外に逃げる球にバットを当てに行った。
コン、という気の抜ける音がして、俺は一塁に向かって走る。ボテボテのサードゴロ。
横目に一瞬、ボールに向かっていく三塁手の姿が見える。
そして、そのまま一塁に向かってヘッドスライディング。
セーフ、という声がした。あとはやけに静かだった。
ゆっくり起きあがって一塁の上に立ち、辺りを見回す。子供達が、一様に俺を見ていた。
目を丸くして「おー、すげぇ」「ガッツだ」などと口にしている。
「や、やるじゃねぇか……」
オッサンまでが呆気にとられていた。
そこで俺は、子供に混じって一人だけ砂まみれになった自分の格好に気づく。
(なにやってんだ、俺は……)
夕方、杏はまた夕飯を作りにやってきた。
食事の後、杏が洗い物をしている間、俺はビールを片手にぼけーっとテレビを見る。
いつものように内容は頭に入らず、気がつけば生活のことを考えている。
昔のこと、今のこと、将来のこと。
それは強迫観念のように自己嫌悪と恐怖と憂鬱を伴う思考だった。
やがて、洗い物を終えた杏が俺の隣に座る。
「洗い物くらい、俺がやるぞ。ただでさえ飯作ってもらってんだからな」
「いいから、いいから」
「おまえさ、子供ができたら絶対甘やかすよな」
「……へへぇー」
皮肉めかしたつもりだったが、杏はまんざらでもないように照れた笑みを見せて、
俺に寄り添ってきた。
「朋也、しよ……?」
俺はその言葉に反応する性欲を振り払うように、その場に寝転がった。
「悪り、疲れてんだ」
杏は少し不満げに俺を見下ろしたが、すぐに口元を綻ばせた。
「じゃあ、今日はあたしがしたげるから、朋也はじっとしてて」
そう言って俺の下半身に移動し、ベルトに手をかけ始める。
「おっ、おい、ちょっと待てっ」
杏は俺の言葉など聞こえていないように一心不乱にベルトと格闘していたが、
ベルトごと俺の身体が引っ張られるばかりだった。
「待てって言っ……ぐぇっ!」
もの凄い力でベルトを締め上げられ、食べた物を吐きそうになる。
「な、なにっ、なんか文句あるの……あっ」
真っ赤な顔でこっちを向くと、苦しむ俺に気づいて、手を放した。
俺は杏を手で制しながら身体を起こして、落ち着いてから口を開く。
「いや、そうじゃなくてさ……。おまえ、今日、男と会ってただろ」
今更だが、そいつとの関係がどうあれ、やっぱりこういうのはよくないだろ、
という事を伝えようとした矢先。
「あー、あれね。お見合いだったのよ、今日」
と言って笑った。
「椋も結婚したのに、あたしってば浮いた話がないもんだから、
両親が心配しちゃってるのよね。あたしは全然興味ないんだけど、
ほら、その……断る口実もないし……」
上目遣いで俺を見ていた。
「はぁっ……」
俺はため息をついて、壁に背をもたれた。つまり、俺が見たのは偶然ではなかったのだ。
……断る口実。俺と杏は付き合ってるわけじゃないし、
杏も今まで恋人の立場での要求などしたことがなかったが、
この歳でこういう関係で杏の方が結婚を考えているのは至極当然だった。
俺にその気がないだけで、とんでもない勘違いをしていたことに、自分が怖くなった。
それ以上に、そういう遠回しなことをさせている原因が俺にあると思うと、
罪悪感でいたたまれなくなってくる。
だから、つい軽々しく口にしてしまった。
「じゃあ、俺と結婚するか?」
「……うん」
頷いて、杏は泣き出してしまった。その反応で俺は我に返って、背筋が凍った。
取り返しのつかない、重い言葉だったことに気づいた。
家まで送るため、愛着のある街灯の下を二人で歩く。
無言の重圧に胸を締め付けられるようだったが、かといって言葉も見つからなかった。
それを破ったのは杏の方だった。
「あのさ、さっきの話だけど……。あたしの両親に話しても、いい?」
「いや、あと数日、待ってくれ。俺の方にも、その、準備がいる」
「……うん、わかった」
悲しげに俯いてしまった。自分がどうしようもない人間に思えてくる。
再婚がそこまで嫌なわけじゃない。
むしろ、こんな俺と一緒になりたいと思ってくれる人のいることは素直に嬉しかった。
それに将来、歳を取って、親父やオッサン、早苗さんがいなくなり、
本当に一人になったとき、孤独に耐えられる自信もなかった。
その時になってはもう遅いし、これから先、杏以上に俺のことを
理解してくれる人と出会えるなんて、望むべくもなかった。
今はまだ渚と汐のことが引っかかっていても、いつかは一緒になって良かったと
思えるのではないか。
とどのつまり、『渚ほどではないが』という感情で結婚などしていいのかという懸念と、
将来に対する打算との葛藤だった。
かといって、そんな心情を杏に打ち明けるなんてことも、俺にはできなかったし、
したところで何の解決にもなっていなかった。
………。
「で、何だよ、話ったぁ」
その晩、俺はオッサンを部屋に呼び出した。
胡座をかいて煙草に火を付けたオッサンに、単刀直入に伝える。
「俺、やっぱり、再婚しようと思う」
「……そうかよ」
目を伏せて、煙と一緒に吐き捨てるように言った。小さな声だった。
次の言葉を待ったが、オッサンは何も言わなかった。
「やっぱり、気に入らねぇか?」
「俺の気分なんざどうだっていいだろ。テメェの人生だ。テメェが決めろや」
「どうだっていいことあるかよ……」
それ以上、俺も何も言えなくなってしまう。
オッサンはテレビの上に立てられた渚と汐の写真を見ていた。
沈黙の中、俺の視線も自然とそっちに移る。
雨の中、オッサンと泥だらけになりながら野球をしたことを思い出す。
必死だった。渚と一緒になるために、幸せになれると信じて。
そしてあの時、俺とオッサンは家族になった。
一緒に馬鹿なこともやった。渚のパート先に二人で潜り込んだ。
渚が助かるんじゃないかと、町の開発を止めようとしたこともあった。
汐が生まれてからも、迷惑をかけっぱなしだった。
それらを一つ一つ思い返すと、俺のやっていることはあまりに身勝手に思えた。
「……何もかも、変わらずにはいられねェな」
オッサンがぽつりと言った。
オッサンも、俺と同じ事を考えていたのかもしれない。
「そうだな」
「それでも、俺たちは家族だ。それだけは変わらねェ。それさえ忘れなけりゃ、
あとはテメェの好きにしろ。それとな、たまにはテメェの方からも顔を出しやがれ。
早苗が寂しがるだろうが」
ああ、この町の人間は、みんな温かい。でも、俺だって一生懸命なのだ。
誰かを幸せにしたいし、俺も幸せになりたい。そのためには、築かなくてはいけない。
「……子供ができたらさ、真っ先に知らせに行くよ。
抱いてやってくれよ。爺さんて呼ばせるからな」
「ケッ、そんな歳じゃねーぜ……」
酷な言葉かもしれなかったが、俺はそう言うべきだと思ったのだ。
「アッキー、だ」
「ああ……」
それからはずっと無言だった。俺とオッサンの視線の先には、
写真の渚と汐だけがいつまでも変わらない微笑みを湛えていた。
俺はまた生活の事を考えていた。渚と汐の写真は、ずっとここに置いていいのだろうか。
あいつは気にするんじゃないか。結婚式はどうしよう、渚にはしてやれなかった。
子供はいつ頃作ろう。稼がなくてはいけない。
それは相変わらず煩わしい思考だったが、その中にも、
確かに俺は新しい生活に対する興奮を覚えていた。
以上です。延長失礼しました。
>514 受け付けました。
引き続き、延長希望の方はいらっしゃいませんでしょうか〜。
いらっしゃらないようなので、終了宣言〜
531 :
名無しさんだよもん:04/06/22 13:36 ID:2faDLmkm
告知あげ
ほんわかした萌エロ系のSSばっかだと思ってたけど、15禁程度のシチュを組みこんだストーリー重視のものが多かったな。
それはそれで悪くはないが。
・土曜日のお当番(舞・佐祐理)
正直この三人は食傷気味、って言ったら作者の人傷つくかなぁ。
まあハーレムは男の浪漫らしいから、受ける人は結構いると思う。結構エロいし。
あと、佐祐理の自慰とかデジカメとかはちょっと目新しかったかもしんない。結構エロいし。
・べあなっくる(智代)
ありゃ、もう終わり?
てっきり朋也が仕組んだことだってばれて鉄拳制裁、そこからベアナックルってきてると思ったんだけど違うのか。
テーマに対して王道一直線に突き進んだのは評価出来るが、最後の最後でグダグダになっちまってるような気がする。
細かいところでは、智代はなんでそうなったか原因がわからずに一日中不安だっただろうし、これで朝起きて治っててもなんで治ったか、
いつまた再発するかで怯えながら暮らす事になる。
なのに智也は自分のためだけに智代を弄んだのに、まるっきりおとがめなしでまた試したいとかほざいてる。
なんか女を道具扱いして喜んでるやな男の話にしか見えなかった。まあエロゲ・ギャルゲの主人公なんて大概そんなものだけどな。
・バス、ジャック。(観鈴)
修行と同じ人かいな?(下から読んでる)
まあアホ作品。タイトルからして脱力系。
真剣に読むん出なくて流してニヤつくんが正しい楽しみ方かね。
・好き、好き、大好き?(セリオ)
東鳩SS全盛期はこんなSSよくみたなーてな感じで回顧しながら読ませてもらった。
方向性は別だが、メイドロボの是非を問うようなマジもんのSSも多かったな。
んで、そーいったSSは読み手が文学に興味あるほど評価が高くなるんだよな。
そんでもって俺はゲームにしか興味がないタチなんで、この手のオリキャラ様が降臨なさるSSは苦手。
感想もろくでもないものにしかならんと思う。だからパス。
・修行(葵)
アホいSSだなぁ。原作意味ないじゃん!
でもこーいう頭空っぽにして読めるSSは嫌いじゃない。
つか意識して文体を崩してるような気がする。馴れた人のお遊び的なSSなんかね。
・dear my sister(拓也・瑠璃子)
テーマの使い方が一番上手いSS。
内容はもう手垢がつきまくってる感じだけど、雫発売からの年月を考えるとしゃーないか。
・ハクオロのいない六月(うたわれるもの)
なんか突き離したような淡々とした印象を受けた。いまいちキャラの感じている不安とか焦燥とか伝わってこないんだよなー。
三人称の弊害って訳でもないと思うが、エルルゥの一人称かなにかにしとけばもっと臨場感をだせたと思う。
ところでこれ、既存のプロットにテーマを後付けした?
バランスがちょっと悪いよーな。
・生活のこと(CLANNAD)
オッサンSSだな。そう思えるほど秋生がシブい。年の離れた頼れる兄貴、って感じだ。
うじゃうじゃした葛藤を書かずにあっさり流していったのも好印象。
この雰囲気で陰鬱な展開にされても、意外性はあるけど合ってない気がしたんで。
ぶっちゃけ杏とのハァハァ話かと思ってたんで、予想以上な骨太な作りに良い意味で驚いた。
短いながらも内容の詰まった良作。まさに「SS」やね。
最優秀作品は感想通り「生活のこと」
>>263 や、割と本人。
話をどうつなげるか悩んだ挙句、台詞だけでつくったらわけわからんものに……
で、
>>262は無かったことにしてくれると嬉しい。
……つーか梓の喋り方とかよくわかんね。
全作品にレスつける気力もないんで、一つだけ。
「生活のこと」
>>533さんとほぼ似通った感想なんだけどね。
>愛着のある街灯の下を二人で歩く
この一文で、美化するわけでも卑下するわけでもなく電気工朋也のスタンスを
さっくり表すのが良いなあ、と。おもしろかったよ、ありがとう。
536 :
534:04/06/24 00:16 ID:zT3I/Ocg
誤爆しますた。
失礼。
感想書きます。とりあえず2レスほど。
エロ描写が苦手なのは相変わらずです。Clannadをやってないのも相変わらず。
「土曜日のお当番」
今回の投稿作の中では唯一、女の子同士のカラミがあるこのSS。
とりあえず、1人の百合スキーとして謝意を呈しておきます。
正直、佐祐理・舞なんて今更と思ってたけど、読んでみると意外に萌えるシチュでした。
個人的には佐祐理が舞を責める(逆も可)シーンも欲しかったかもだけど、そこまで趣味の強要もできまい(w
さてこのSS、エロSSとしては至極整った出来で、その点は大いに評価したいと思います。
一連の展開が自然というか、無理がないというか。導入からオチまで上手く纏められていると感心しました。
でも同時に、KanonSSとしては駄目かな……と思ったりもします。
作者さんも気付いているのかもしれないけれど、佐祐理さんの口調が違いすぎて別人に思えます。
確かにエロ重視SSということで、祐一も舞も少々性格に改変が入っている。それはある程度容認しますけれど、佐祐理さんのそれは個人的に酷いと思うレベル。
>「ごめんなさい! 祐一さん! 私、祐一さんの部屋にデジカメをセットして、祐一さんと舞のえっちを撮ってたの!」
どこのエロシナリオから借りてきたのですか?と邪推したくなるほどに佐祐理さんの台詞とは思えない(泣
私の佐祐理さんはこんなのじゃねぇ。作者さんは本当にKanon本編をプレイしたのかと小一時間(以下略
素直に判断して、作者さんはSSを書き慣れておらず筆が上手く動いていないのかな……というところですけれど。
「べあなっくる」
原作未プレイの為、作者さんには申し訳ないけれど感想はパスします。
ひととおり読んでみた印象では、なんというか、ビックリな出来事の割にあまり驚いていないのが引っかかるかな。
まぁこの人達はそういう性格なのかもしれないので、何とも言えないけど。
「バス、ジャック。」
いいですね、赤星。檜山でも藤本でもなく赤星ってあたりがもう(w
で、そんな関係ない話は置いといて。
ギャグSSだったのか、これ。シリアス気味に始まるから意外だったよ。
部分部分を見るとそれほど面白くもないんだけど、台詞まわしや文章のつくりに相性の良さを感じる(w
特に後半からのシュールなやりとりと妙に熱いリズム感はハマリ。
普通では嫌われるであろう半角カナや2点リーダも、技のうちかと思ってしまいます。
具体的にどこが優れてると言われれば困るんだけど、とにかく気に入ったSS。
>「ここのモノをあわせてね、二人で飛ぶんだよ。」
こんなお馬鹿な台詞とか。
>床に落ちた白いタオル達が重なって、ちょうど羽の生えた天使に見えた。
こんな不安定な文章が。
とりあえずここまで。続きはまた今度。
>534
えらい気付くの遅いな、おい(w
締め切り過ぎてから、良いアイディアが浮かぶというのは、如何ともしがたいな……
540 :
◆2tK.Ocgon2 :04/06/25 00:58 ID:0m7DOH7M
【告知】
現在、葉鍵的 SS コンペスレは投稿期間を終え、感想期間に入っています。
今回投稿された作品の一覧は
>>529 となっています。
また、
http://sscompe.at.infoseek.co.jp/ss/26/index.html からでも投稿された作品を見ることができます。
感想期間は、7 月 1 日の午前 8:00 までとさせていただきます。
目に留まった作品だけでもいいので、よろしければ感想を書き込んでください。
あなたの一言が、未来の SS 職人を育てるかもしれませんYO!
*次回のテーマは『If』で、開催は 7 月上旬になる予定です。
*早くに書き始めてもらっても構いませんが、投稿は次回の募集開始までお待ちください。
全文コメントは控えさせてもらうけど
「生活のこと」に一票を投じさせてもらう、続きなど作る予定があるなら是非に読みたいもんだ
保守
543 :
名無しさんだよもん:04/06/27 15:02 ID:zvYynv2M
ホッシュアゲ
そんなことより要領がアレなのでそろそろ次スレ立てたほうが正解かと思うのだが
じゃあ立ててくれ、次スレ↓
いや、さすがに感想はこっちでいいんじゃね?
期間がぶつ切りになっちゃうのも気分いいものじゃないし、
レスアンカーとかわけわかんなくなっちゃうし