1 :
名も無き語り部:
レフキー、という都市がある。
人々の夢を奪いつつ、また同時に与え続ける都市。
夢を抱いた若者なら、必ず一度は訪れる都市。
この街を、昔から住んでる人々はこう表現する。
「全てが有り、そして全てが無い街」(ALL AND NOTHING)
皆に伝えたい物語・伝説も数え切れないほどあるのだが、
今回は、『これから』物語を作る(であろう)人々の話を語るとしよう………。
過去ログや関連リンク、お約束は
>>2-5 あたり。
【書き手さんのお約束】
○書き手さん、絵師さん、新規参加募集中!
○ただ、新規参加の方は過去ログには目を通すように願います。
○SSを投稿する際には、どこのパートからのリレーなのかリンクを張っておくと
読み手さんにもわかりやすくなります。
○後書き、後レスなど、文章中以外での補足説明は避けましょう。
SS書きはSSで物事を表現することが肝要です。
○作品の最後に書く補足説明は、作品内の纏め程度に考えてください。
補足説明とは、作品内で書いていない設定を述べる場所ではありません。
○新キャラを登場させる際は、強さのインフレも念頭に置きましょう。
【読み手さんのお約束】
○感想は常時募集中です。今回は本スレ感想スレ統合の方向で。
○書き手叩きは控えましょう。
○指摘や意見は、詳しいほど書き手さんのためになります。
逆に、ただケチを付けるだけでは、書き手さんのためにも、
また他の読み手さんのためにもなりません。
○読んでる内に、新たに書き手さんになりたくなった方は、
【書き手さんのお約束】を参考にして下さい。
○絵師さんも随時募集しております。
〇感想は書き手の教科書であり、燃料です。
活発な感想頂けると嬉しい限り。
はろう、呼ばれてない13人目の魔法使いさんですよー。
とりあえず新スレおめ。このスレは>500になった時、糸巻き車の針に刺されて死んでしまうよ。
7 :
Uスレの1:03/06/14 01:25 ID:ctuhQoKl
新スレ早々に呪われてるしΣ(;´Д`)
ともかくも、おつですー♪
何年ぶりの順調な新スレ移行だろう。
9 :
名無しさんだよもん:03/06/14 02:20 ID:m9pzoUfY
即死判定残ってるかどうかわからないが念の為
呪い云々以前に、早産の為即死。妖精さん大爆笑。
新スレ乙〜。真っ当に移行するとは感無量なり。
とりあえず >5 にワラタ。
ファンタジーにもスパイラルの時代。
おいうr
「聞きたい言うたら、聞かせてくれるんかいな」
二対の瞳に気圧されぬよう、由宇は自分の目に力を込めて言った。
「第一、会ってすぐの他人に話せるワケありの過去。そんなもんあらへん、ちゃうか?」
「そうね」
郁未はそう言って少し表情を崩す。瑠璃子は相変わらずだったが。
「ウチが聞きたいのはネタになるおもろい話や。他人の過去を詮索したいわけやない」
あんま変わらんけどな、言って由宇は歯を見せて笑う。
「そう言うのはちょっと無理ね。面白おかしく聞かせるような話じゃないの」
「そら残念。旅先のちょいと変わった出来事くらいでも、かめへんのやけどなあ」
言って由宇は運ばれてきた追加のエールを口に含む。
「その手の話なら瑠璃子のほうがあるんじゃない?」
チラリと瑠璃子を見ながら郁未は言った。
「ああ、そやった」
元々瑠璃子の話を聞くためにここへ来て、そして郁未に出会ったのだ。
それを思い出して由宇も視線をそちらに向ける。
「さっきも言ったけど、私の話はそんなに面白くないと思うよ」
「まあまあそう言わんと、旅しとるなら何か一つくらいあるやろ?」
「……そうだね、じゃあ」
グラスの中の紫色の液体を瞳に映しながら、瑠璃子は語り出した。
由宇は待ってましたとばかりに身を乗り出して聞く。
「あるところに乗り竜を駆る人達がいました」
(ほう、乗り竜なんて珍しな。ウチら以外で滅多に見いへんで)
「竜を操る屈強な男達に混じって、まだ若い女性が一人いました」
(ふむふむ、紅一点か)
「なんと男達を束ねているのは、その若い女性でした」
(しかもその女がリーダーと……ん?)
「男達に負けず劣らず強暴なその女性には夢がありました」
(…………)
「それはいつか物書きになると言う夢でした」
「待たんかい!」
言って由宇は立ちあがる。
「それウチのことやないかい!」
「面白くなかった?」
無表情のまま言う瑠璃子。
「おもろくないも何も、そんなもん聞くまでもないわ!大体誰が強暴や!!」
「だから面白くないよって言ったのに」
「そう言う問題とちゃうわーー!!」
だが傍から見ている分には、そのやり取りは十分可笑しかった。
その証拠に郁未は笑っていた。
【天沢郁未、月島瑠璃子、猪名川由宇 歓談続行中】
編集サイト259 境界線 からのリレーです。
新スレ第一弾でした。
新規でも以前の書き手でも、もっと人が集まって欲しいですね。勿論読み手も。
しかし仮にも組織のトップがうろちょろしているものでもないよなw
いや、これは
>>16-18の感想というわけでは無いので悪しからず。
age
21 :
名無しさんだよもん:03/06/15 13:27 ID:Y1ZLwtzn
いかんいかん保守しとかんとまだ即死範囲内違うか
即死判定って生きてるのか?
とか言いつつ回避カキコ
>事情聴取
一難去って、しかしこれは事件の始まりに過ぎなかった……ってな風情。
鼠編に次ぐホラー風展開ですが、こういうのも中篇シナリオとして
いい感じですね。しかし御堂、やっぱり顔で損するのね(w
>語り部瑠璃子
ワラタ。やるなぁ、瑠璃子さん。
そして、由宇のとりあえずの返答は「聞かない」と。
当面彼らは別の道を行くことになるのかな?
26 :
交渉人:03/06/16 02:39 ID:KgrVnz8g
ここは盗賊ギルドの最奥、通称“謁見の間”そこに二組の男女が居た。
「御苦労さん。で、首尾は?」
短く労い、浩平は部下からの報告を聞く。
「交渉には応じる。だが先方はこちらの正体を、お見通しのようだ」
岩切はいつも通り、簡潔に答えた。
帝国領土の山賊の名を借りて、さらに仲介を立てて引き取りをする。
これが当初の予定だったが、どうやら通用する相手ではなかったようだ。
「噂に違わぬ才女と言うわけか。ふむ」
何故か英二は嬉しそうだ。
「となると予定変更だな、よし文面は俺が自分で書こう」
言って浩平はサラサラと書類を作成する。
「こんなもんでどうかな?」
出来た書面を見せられた英二は、笑みの形に少し唇を上げた後、真顔になる。
「要求はこれだけで良いんだね?」
「今はこれだけで済ましてやるさ」
言って浩平は深く椅子に座りなおす。
「だが、いずれ奴からは何もかも奪った後で、命乞いさせてやる」
部屋に殺気と怒気が満ちる。だがそれも一瞬のこと、すぐに浩平は軽い口調に戻る。
「それに奴にとっては、結構絶え難い仕打ちだろう?」
言った浩平のその顔は悪戯小僧そのものだった。
「各店には後で話をつけよう。ある意味上客と言えるしな」
「さて誰に行かせようか」
「俺が行こう」
間髪入れずそう答えた英二に、浩平は少々面食らう。
「何も英二さんが行くまでもないだろ」
「なに交渉ついでに、噂の才女を是非この目で見てみたくなってね」
こうなったらこの人は止められない。諦めて浩平は任せることにした。
27 :
交渉人:03/06/16 02:41 ID:KgrVnz8g
「岩切さん一緒についてきてくれ、それとあゆちゃんにも来てもらおう」
まだ居るんだろう?と英二は岩切に確かめる。
「そのはずだ。だが私はともかく何故あゆまで?護衛なら私だけで十分だろう」
本音を言えば何か事が起きた時、あゆの存在はむしろ邪魔になる。
「何、単に知った顔が多い方が良いだろうとね」
英二は岩切を従え部屋の外へ出て行こうとする。
扉の前まで行くと、英二はそこで足を止めた。
「浩平君、よく自制してくれた」
「……俺だって、ギルドを破滅させるような真似はしませんよ」
その声を背中に受けて、今度こそ英二は出て行った。
残された者の内、今まで発言することなく佇んでいた楓が口を開いた。雰囲気を変えたかったのかもしれない。
「……英二さんまた悪い癖がでましたね」
「癖って言うよりありゃ病気だな、職業病。それより楓」
名前を呼ばれ、楓はピクリと体を動かす。
「雇えそうな冒険者は見つかったか?」
「……いいえ」
消え入りそうな声でそう言って、楓は小さく――猫になった。
「ニャア」
誤魔化しは失敗の証。
「後でちゃんと見つけろよ」
特に気にした風でもなく、浩平は苦笑してそう言った。
「……はい」
28 :
交渉人:03/06/16 02:41 ID:KgrVnz8g
* * *
月宮あゆは“王宮”でオドオドと、実際より長く感じる時間を過ごしていた。
“衛兵”達は岩切があゆに、ここで一応待つように言った事を聞いているので、咎めるものは居ない。
それでも落ちつけないものは落ちつけない。
そうしてあゆが、今日何度目かの極度の緊張を強いられていると岩切が英二と共に奥から出てきた。
それを見たあゆは岩切に突進し、緊張から解放される喜びをぶつけた。
「うぐぅ岩切さん!」
「な!月宮!?」
見事にぶつかり、周囲にざわめきが生まれる。
その意味するところは二つ。命知らずなと言う驚きと、岩切が躱せなかったと言う驚き。
「この馬鹿者!!何故お前はそうやって人にぶつかって来るのだ!」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ良い、とにかく行くぞ」
「え、何処へ?」
解放されるとばかり思っていたあゆは、予想外の台詞に戸惑う。
「君も今日会った、篠塚弥生という女性にもう一度会いに行くのさ」
英二は眼鏡を直してそう言った。
「うぐぅぅぅぅ――――――――――――っ!!!」
僅かに時を隔て場所を変え、またも謎の絶叫は響き渡った。
29 :
交渉人:03/06/16 02:42 ID:KgrVnz8g
あゆの肩に手をやり、英二は優しく言う。
「何もそんなに嫌がることはないだろう」
そう言われても、今日一日ですっかり恐怖が染み付いてしまったあゆの心は休まらない。
「心配しなくても君たちは何もしなくて良い。交渉が終わるまで待っているだけだ」
もう恐い目にあわずにすむと聞かされ、あゆはほんの少しだけ安心した。
「それより少し時間もあるし、今の内に軽く食べておこうか」
途端にあゆの顔が明るくなる。
「それなら鯛焼きの美味しいおみ」
「却下だ」
言い終わらせることなく、岩切が遮る。
無難に手近な店に入り、適当に腹に溜まりそうなものを頼んだ。
程なく海の幸のサラダ、スモークサーモン、ジャガイモのスープ、白身魚やチキンのソテー、貝のパスタ等が並ぶ。
新鮮な魚介類が多いのは港町ならではか。
よくよく見れば、それは異様な光景だったかもしれない。
何しろ盗賊ギルドの幹部達――下っ端もいるが――が家族の団欒がごとき夕餉をとっているのだ。
もっともその正体に気づく者は、その場にいなかったが。
「そろそろ頃合か」
食後のコーヒーを飲み干すと英二は立ち上がった。
30 :
交渉人:03/06/16 02:42 ID:KgrVnz8g
腹ごなし程度の距離を歩くと交渉場所の『虎の髭亭』が見えてきた。
三人は扉をくぐり店内を見渡す。
「まだ着いていないようだね」
「確かにそのようだが、顔を知っているのか?」
直接会ったことのないはずの英二が、そう言ったので岩切は疑問を口にする。
「いや知らないが、それらしい雰囲気の女性は見当たらない」
なるほどと岩切は軽く、あゆは妙に感心する。
店に入り飲み物を注文して、待つことしばし――来た。
彼女は店内を見まわすと英二達の方へ歩いてきた。
「お待たせしました。初めまして、篠塚弥生です」
「これは御丁寧に。初めまして、緒方英二です。どうぞ宜しく」
互いに一礼する。
名乗る英二に弥生は少し驚き、聞いてみた。
「偽名、ですか?」
「とんでもない。その必要の有る相手には、名乗ることにしてるんですよ」
そうですか、と特に反応もなくそのまま岩切とあゆに向き直る。
「貴方方は、またお会いしましたね、ですね」
弥生はまた軽く頭を下げる。
(あの距離で私を認識し、覚えているのか)
岩切は無言で、あゆは相変わらずビクビクしながら頭を下げる。
「では奥に行きましょうか」
挨拶を済ませると一行は奥の個室へと足を運んだ。
31 :
交渉人:03/06/16 02:44 ID:KgrVnz8g
「早速ですがこれを」
そう言って英二は書類と高槻の銃を手渡した。弾は抜いてある。
銃は自分たちが、高槻を預かっていると言う意思表示。
書類は保護料、滞在費、迷惑料、手数料の名目で一括してしめて金貨二万枚と書かれた請求書であった。
早い話が身代金なのだが、浩平の悪ふざけである。
「随分と法外な値段請求ですね」
「VIPに相応しい待遇の、正当な対価と考えてもらえると有難いです」
微笑みながらいけしゃあしゃあと言う英二。
高槻に限らず、ギルドは大抵の高所得者の大よその資産を把握している。
この金額は大金には違いないが、彼にとって破滅するには程遠いし、ましてや命と秤にかける額ではない。
「私にはこれを決定する権限は有りません。ですから、一旦ロードの領地に戻ることになります」
「ですが働き掛けることは出来るし、そうするつもりでしょう?」
「ええ」
「それで結構です」
領主が誘拐され、あまつさえ殺されでもしたら、流石に王国は黙っていないだろう。
だがそれを訴えギルドと事を構えれば、高槻は帰って来るかもしれないが、その後に必ず報復される。
逆に提案さえ受け入れれば、全て収まる。現在のギルドはそういう存在だ。
弥生もそれがわかるから、条件を飲ませるべきと判断する。
「ではあなたは一旦領地に戻り、料金を持ってくる。受け渡し場所は、港の倉庫でも使いましょう。
あなたが戻られたら案内を出しますよ」
説明の間、弥生は英二をじっと見つめていた。
「解りました」
そして少々の空白の後、承諾した。
「それと、この一文ですが……」
「彼が戻ったら、その旨を伝えてください」
「はあ……この件については、むしろこちらも助かりますが」
そこにはこう書かれてあった。
――及び高槻卿のレフキー風俗店への出入りを禁ずる――
32 :
交渉人:03/06/16 02:45 ID:KgrVnz8g
「高槻卿に付いては以上です」
「それでは私はこれで失礼します」
弥生はそう言って立ち去ろうとしたが、英二が押し止める。
「まあ待ってください」
「まだ何か?」
用が済んだ以上、長居は無用と言わんばかりだ。
「ええちょっとした質問です」
「手短にお願いします」
「今の仕事の任期はどのくらいですか?」
「私のですか?任期は三年ですから、残り約一年ですがそれが何か?」
英二は大きく頷き、言葉を続けた。
「どうです。それが終わったらうちに――ギルドに来ませんか」
弥生は呆れた。もしかしたら絶句していたのかもしれない。
「あなたさえ良ければ、この件が終わり次第でも構わない。契約破棄による違約金が発生するのなら
それもこちらで持ちましょう!どうです、悪い話ではないでしょう?」
弥生はすっと立ち上がる。
「…………失礼します」
「ああ!篠塚さん!弥生さん!!待って、まだ話が」
「終わりました!」
スタスタと足早に弥生は去っていく。
「弥生さん!弥生さ〜ん!」
英二の叫びは、閉まる扉に跳ね返された。
(情けない、情けないぞ緒方英二)
(うぐぅ、英二さんかっこわるい)
部下二人の心の嘆きは英二には届く事はなかった。
33 :
交渉人:03/06/16 02:45 ID:KgrVnz8g
――盗賊ギルド謁見の間――
「英二さん、目的入れ替わってないだろうな」
「……病気ですから」
遠く離れた一室のため息まじりの声も届く事はなかった。
おまけ――盗賊ギルド地下牢――
「今度は、監禁+放置プレイか?参ったぁぁぁ!俺は、参っったぁぁぁぁ!!」
【篠塚弥生 一旦高槻領に戻ります】
【緒方英二 ふられました】
【岩切、あゆ 英二にちょっと幻滅】
【折原浩平 高槻に少しだけ復讐】
【柏木楓 小さくなってます】
【高槻 レフキー風俗店出入り禁止】
編集サイト318 楓、散る からのリレーです。
新作乙。
なんか、英二がシリアス場面が多かったのでこんな一面がみれてちょっと安心。(w
ところで、弥生が緒方英二の名前に反応したって事はやっぱり英二と由綺も何か関わりがあるのかな。
おお、相変わらずのハイペース。
>交渉人
とりあえず初期からの流れの一つがようやく一区切りというところですか。
いろいろ小ネタも効いててなかなか。高槻への復讐の内容とか。英二の悪癖や
楓の猫かぶりもワラタ。これであゆの長い一日もようやく一段落、かな?
しかし、あゆって意外と下っ端も似合うなぁ。結構美味しい役所なのかも。
そこにあるのは、闇だ。
ただただ救いようの無い空虚なる暗黒。
御使いに憑依された人間の瞳は闇に染まる―――かつて、吉井はそう言っていた。
岡田は乱暴にドアを閉めると、ベッドの上に疲労した身体を横たえた。
将軍クラスの仕官に与えられる、この城でもかなり上位の部屋だ。
普段はあまりありがたいとも思わない岡田だったが、こういう時には感謝の気持ちが湧いてくる。
疲れ切った身体を、柔らかなベッドが受け止めてくれる時は。
冒険者、秘宝、御使い、そして……太田加奈子
太田のどろりと闇色に濁った瞳を思いだし、岡田は握り締めていた拳を緩めた。
ここ数日で、色々な事がありすぎた。
三銃士として厳しい訓練を重ねて来た岡田であっても、全身に蓄積する疲労は隠せなかった。
まだ日は完全に落ちていなかったが、今すぐにでも眠りにつきたい気分だ。
(それにしても……あの御使いは気に入らん。いや、御使いは全部気に入らん)
太田加奈子にしろ、澪=ラルヴァにしろ、あまりに含む所がありすぎる。
恐らく隠し事はひとつやふたつではないだろうし、目的も不明だ。
下手をすれば、自分の不利益になる事だってするだろう。
「…………不利益?」
ふと心に違和感が残り、岡田はのろのろと顔を上げた。
ごろりと身を捻り、天井を見上げる。
「誰にとっての不利益だ……?」
呟きが疲労で濁った脳に入り込み、ゆっくりと浸透する。
「御使いはしょせん魔族だ。奴らは自分達の利益を最優先するし、人間なぞ駒にすぎん」
そう、そしてあの太田加奈子にとっても、自分は駒のひとつなのだろう。
だが、と岡田は自問する。
「奴自身の利益はなんだ? ……何か手柄を立てたからと言って、帝国内の地位が上がるわけでもない。
……そもそも、そんなものを欲しがるとも思えん」
彼らが帝国に潜み、帝国を守護するのも、当然彼ら自身の利益と合致するからに他ならない。
だが、その利益とはなんなのだろうか。
今まで、ソレを信仰するのが当然と考え、何の疑いも持って来なかった。
だが、ここ数日の彼らの行動は、あまりにも異質すぎた。
心に沁み付いた、帝国の“常識”すら揺るがすほどに。
「まさか、我らを使い捨てにするつもりか」
思考が言葉となって零れ落ち、岡田はぎょっと身を起こした。
反射的に周囲を見まわし、自分しかいない事に安堵の溜息を漏らす。
「……使い捨て、か」
大胆なサクリファイス(捨て駒)はチェスの常套手段のひとつだ。
所詮軍人である以上、上層部の指示に従う以外の道はない。
例えそれが、自分の死に繋がるとしても、だ。
岡田は立ちあがって、水差しからコップに水を注いだ。
生温い水でも、喉を通れば乾きを癒してくれる。
空になったコップをテーブルの上に乗せ、岡田は苛立たしげに椅子に腰掛けた。
今まで、自分の役割に疑問を持ったことなど無かった。
それはある意味で、自分の横に吉井と松本がいたからかもしれない。
時に単独行動を取る事はあっても、完全な孤独など無かった。
だが、ひとり生き残され、初めて岡田は迷っていた。
とはいえ、その迷いが向けられていたのは、帝国ではなくラルヴァにであったが。
(……そうだ。御使いどもの利益が、我が帝国と必ず一致すると、誰が保証するというのだ?)
窓の向こうの、黄昏時の空を睨み付け、岡田は大きく息を吸う。
「奴らは危険だ」
下手をすれば、あの冒険者たちよりも。
守護者として崇められ、ガディム神の御使いとして崇拝されてきた“それ”
帝国においては、彼らの存在は、文字通り“天使”に等しい。
しかし、やつらの勝手な行動は、明らかに帝国に被害を及ぼしている。
奴らは味方ではない。
岡田の軍人としての勘が、今はじめて“帝国の常識”に反旗を翻していた。
「……やつらの好き勝手にされてたまるか。私が忠誠を誓うのは、ただ皇帝陛下のみ」
そう、例え“捨て駒”にされるとしても、それはラルヴァではなく、帝国の為に。
夕食を知らせるノックの音が、岡田の意識を呼び戻す。
「今に見ているがいい……ラルヴァどもよ、貴様らの好きにはさせん」
【岡田 ラルヴァに敵対決意】
久しぶりに岡田でした。
帝国の女間者は、予定外の状況に少々苛立ちを覚えていた。
何しろ人の来るはずのない、この街区に次々と侵入者がやってきたのだから。
とは言え目標である倉田佐祐理は、既に確保したも同然。後は闇に紛れてレフキーを立てばいい。
そこへ部下の一人が気を失った佐祐理を抱えてきた。
これで目的は達せられた。だがその前に――邪魔者は排除する。
帝国に逆らう者がどうなるか、その身に思い知らせてやらねばなるまい。
女二人は中々手強いが、我々が全力を以ってあたれば、さすがに敵うまい。
男の方は素手だ。何が出来るものか。
倉田佐祐理と一緒にいた女――確か舞と言っていた――は起き上がろうとしているが、その足元は覚束無い。
ただ、あの剣が気に掛かる。あの輝き、もしかしたらあれは秘宝では?ならば奪うまで。
先ずはあの二人。弱い部分を突き崩すのは戦闘の基本だ。
女間者は命令を下す。
「向こうの女二人を牽制して、その間に舞とか言う女と、あの男を殺れ!」
* * *
口から赤い糸を引き、ややよろめきながらも舞は立ち上がった。
「……佐祐理を、返せ」
「残念だけどそれは無理。ついでにその剣も渡してもらうわ」
その台詞に舞は静かに闘志を燃やす。
「……この剣も、佐祐理も渡さない」
「……お母さんを奪い、佐祐理とこの剣まで奪おうとする……お前達は、私の敵だ」
手の甲で口の端を拭い、舞の瞳は真っ直ぐに女間者を射貫く。
「口は動くようだけど、体はどうかしらね」
女間者は悠然と手で合図する。
オーガの巨体が、再び舞の前に立ちふさがる。
さらに左右や背後にも帝国兵が忍び寄る。
唸りを上げて、オーガはその手に持った棍棒を振り下ろした。
危なげなく舞はそれを躱す。続けて二本の凶刃が左右から閃く。
だが舞はそれを見もせずに、後ろに転がり込むことでやり過ごす。刃は虚しく空を斬った。
間髪をいれずに背後の帝国兵が、しゃがみ込んだ姿勢の舞を斬りつける。
舞は反転しつつ立ち上がりざま下から剣をすくいあげて、それを払いのけた。
一連の動作に女間者は目を見張る。
速さは落ちているし、足元も不安定だ。決して回復したわけでは無いのだ。
それに舞と言う女の体術は、訓練を受けた者のそれではない。それなのにいとも容易く躱した。
まるで相手の動きを読んでいたかのような、今のは一体……
思い当たるのは一つしか無い。あの剣のせいか、やはり秘宝に違いない。
それもおそらくは――インテリジェントソード(知性ある剣)――
彼女がその結論に辿り着いたのと同時に、別の事実も眼前に展開される。
* * *
武器を持たない耕一に、五人の帝国兵が向う。
耕一はそれを見据え、口を開く。
「あんた達が何者か知らないが、あの娘達を置いてこのまま去ってくれるのなら、俺は何もしない」
「おいおい、お前立場を分っていないな」
帝国兵は一瞬呆気に取られたものの、そう言って耕一を油断無く取り囲む。
「退いてくれないのなら、力尽くで通る」
「ほう、どうやって?」
言うが早いか、囲んだ内の四人が各々の武器で一斉に斬り、或いは殴りかかる。
空に飛ぶか地に潜るかでもしなければ、それを避けることは不可能だ。
何と耕一は、左右から来る戦斧と長剣を両手で受け、脇腹と背中を狙った短剣とメイスは当るにまかせた。
すると四人の手にまるで弾力性のある、分厚い壁を叩いたかのような感覚が伝わった。
帝国兵は驚いて耕一を見上げた。
そう見上げたのだ。
耕一の四肢はさっきまでの何倍にも膨れ上がり、体長は三mにも達し、体重は七百kgを優に超えていた。
さらにその全身は体毛に覆われていた。そこには一頭の巨大な熊がいた。
「おー痛」
熊が喋って傷を舐める。その声は耕一のものだった。
化け物。その単語が帝国兵の頭に浮かぶ。
一人攻撃に参加していなかった男が、結印と共に呪文を詠唱する。魔術師だったのだ。
魔術師は魔力を束ねた矢を耕一の顔、いや目を狙って撃ち放つ。
耕一は両腕で顔を隠し、それを跳ね除ける。その衝撃で腕から流れる血が飛沫となって散る。
「怯むな!見ろ、奴も無傷でいられるわけでは――」
「ゴォォァァァ」
熊――耕一が吼えた。同時に腕を振りまわす。
その一撃で戦斧を持った男と、長剣を持った男が吹飛ばされ、派手な音を立てて壁に叩きつけられる。
そして耕一は、先程自分にどうやって通るのか、と聞いた男に向かって言う。
「こうやってさ」
耕一、無理を通す。
* * *
「舐められたものね」
あからさまに牽制しろ、つまり適当にあしらえと言われて晴香は憮然とする。
「事実、ここまでは抑えられてますからね」
淡々と琴音は返した。
実力を以って示す。ただそれだけだ。
「浄化の炎よ、立ち塞がりし全ての穢れを焼き尽くし灰と化せ」
琴音が呪文を詠唱すると、聖なる火柱(セイクリッドファイヤー)が立ち昇った。
一人がまともに、もう一人が腕を炎に包まれる。
通常は死霊や魔などに使われる呪文であるが、炎には違いない。
生ける松明となった二人は地面を転がりまわり、周りの者が急いで火を消そうとする。
他の者は強力な呪文を唱える時間を与えぬように攻めたてる。
琴音は短い詠唱で閃光の呪文を放ち、一人をしばらく無力化させたが、襲いくる者はまだまだいる。
だが、勿論晴香がそれを阻む。
一人の攻撃を剣で受け、蹴りを入れて下がらせる。
さらに別の一人に剣を横薙ぎし、それは避けられたがそのまま追い討ちして、隣の男まで巻込んで吹き飛ばす。
相手は何が起きたか分らなかっただろう。
何しろ晴香のその攻撃は、何も見えなかったし、呪文の詠唱なども無かった。
これが、FARGOのテンプルナイト“パラディン”の力だ。
これが、巳間晴香の――不可視の力――だ。
* * *
油断したと言えばそれまでだが、連中を侮っていた。
帝国の女間者は自らの失策を認めないわけにはいかなかった。
あの男は変身能力、二人組の女は、魔術とは違う何かの力の持ち主。そしてこの舞と言う女の持つ剣。
揃いも揃って異能の力を持つ者ばかりだったとは……思わずギリッと歯軋りする。
始めからそのつもりであれば、まだ対処のしようもあったのだが、今や形勢は傾きつつある。
これ以上は損害が増えるばかり、忌々しいが撤退すべきだろう。
「……でも倉田佐祐理も、その剣も貰っていくわ」
そう呟くと女間者は撤退の準備を指示し、さらに佐祐理を抱えていた部下に何事か指示する。
「舞、だったわね?返すわ、彼女」
女間者がそう言うと、佐祐理を抱えていた部下は舞の方に彼女を放った。
「……佐祐理!!」
地面にぶつかる前に、何とか舞は佐祐理を抱き止める。
その途端、佐祐理の影から何かが飛び出て、舞を斬りつけた。
躱そうとするも人一人受けとめた状態では、それもままならない。舞の背中から脇腹にかけて灼熱感が生じた。
「甘いわね」
女間者だった。言って彼女は、再び佐祐理を舞から引き剥がす。
その時佐祐理が小さな呻きをあげて目を覚まし、その状況に愕然とする。
「舞!?」
剣を支えにして、舞はがっくりと膝をついている。吐く息も荒い。
「やめて下さい!あなた達に従います。ですから舞に酷いことをしないで下さい」
佐祐理は女間者に懇願した。
「その娘が持ってる剣も素直に渡してくれたら、聞いてあげても良いわ。」
「でも時間が無いから待つのは三つ数える間だけ」
気絶している間の出来事だったので、佐祐理には剣がなんのことか分らない。
それでも答えは決まっている。
「舞、その剣を渡してください。このままじゃ殺されちゃいます」
佐祐理は舞に懸命に訴え掛ける。
「……佐祐理も、この剣も渡さない」
「舞!!」
「時間よ」
動けなくなった舞を襲う帝国兵。その内の一人が、飛来した何かの塊を受けて地面を滑る。
それは耕一が投げた樽だった。だがもう投げるものは、彼の傍に無い。
振り下ろされる刃を無視し、耕一は走ったが間に合いそうも無い。
するとそこへ忽然と誰かが現われた。
琴音だ。短距離テレポートで直接舞の横に踊り出たのだ。
「させません」
その言葉に応えるかのように、二人の帝国兵の腕が彼らの意思に反して武器を振るい、自分自身を傷つけた。
忌み嫌う力であったが、こんな時にはこの上なく頼りになった。そんな矛盾を今は心の奥にしまう。
(やはりこの女も異能者か!)
女間者は兵達に距離を取らせ、自分も下がる。
もう一人の女と熊になった男もこちらに向って来ている。
(何処までも邪魔を)
剣は惜しいが流石に最早潮時だと悟り、撤退を始める。
「……佐祐理!」
「舞!」
佐祐理は考えを巡らせる。自分が連れ去られたら、必ず舞は自分を救おうとするだろう。
多分一人で。そしてきっと……
「舞!浩之さん達に相談してください。きっと力になってくれます」
これを知らせたら彼らも巻込んでしまうことに心が痛んだが、舞を暴走させるわけにはいかない。
それに彼らならやはり自分を救おうとするだろう。
彼らを――仲間を頼ろう。
「あなたはもう、一人じゃないんですよ」
「分った佐祐理。必ず皆で佐祐理を助け出す」
「はい、待ってますよ」
そう言って微笑むと、佐祐理は髪を縛っておいたリボンを解いて投げた。
(わざわざお別れさせてあげるなんて、人のこと言えないくらい甘いかもね)
女間者は遠ざかりながらそんなことを思った。
四人が大体集まったところで、ダークエルフが四人を中心に周囲を闇に覆わせる。
さらにそこへ発煙筒を投げ込む。
すぐに明りの呪文で相殺するが、煙までは消せない。
煙が晴れたころには、既に帝国兵は四方八方に散っていた。
「まだ動いては駄目です」
舞は無言で治療呪文をかける琴音から離れて、ふらつきながら歩いて、そして崩れるように膝を着く。
「ほら、怪我は浅く無いのよ」
晴香と琴音が近づく。
そこへ変身を解いた耕一が、何かを拾って舞の前までやってくる。
「これだろ?」
「……ありがとう」
佐祐理のリボンを受け取り舞は、大人しく治療を受けた。
(佐祐理、絶対迎えに行くから)
【倉田佐祐理 帝国にさらわれる】
【川澄舞 背中に負傷し治療中、魔族の剣はインテリジェントソード?(知性ある剣)?】
【柏木耕一 シェイプシフター=熊、何箇所か軽傷】
【巳間晴香 不可視の力】
【姫川琴音 瞬間移動、念動力】
【帝国の女 謎のまま】
編集サイト317 剣の主 からのリレーです
うむ、綺麗に状況が動いたね。
しかし耕一、熊かよw
熊がえらく可愛く思えるのはリーフファンの性だな。
新作キター
3メートルのクマってかなり強そうだな。まあ、最強と言うにはほど遠いだろうし無難なところかな。
あと、服は破れてるだろうから、今の耕一は生まれたままの姿w
あかりと遭遇したら面白そうだな(w<熊耕一
おお、また進んでる。
とりあえず岡田が面白そうなポジションに来たなぁ。
耕一の熊というのは確かに良さげ。なんとなく変身前の
イメージとも合ってるし。
52 :
Uスレの1:03/06/21 00:38 ID:hCp6eSKj
漏れも書かないとなぁ……(笑
さて、先日のアンケートですけど、とりあえずSSリンク
への登録申請は賛否分かれたため見送り、他リレーへの相互
リンク願いのみということでよろしいでしょうか?
明日にでも書き込みしたいと思いますがー。
>52
期待してまつ。
琴音で異能者と言えばやっぱアレを思い出すよな〜。
あれもいろいろ問題あるけど続きが読みたいのは読みたい。
ネタにはなるし(w
アレって超先生の?あー、そう言えばそんなのもあったな。
>密かなる反旗
岡田の自問自答に終始する一編ながら、ラルヴァ編でも
転機になりそうなお話ですね。岡田だけでなく、帝国内部の
彼等をめぐる動きもこれから活発化するのかも。
しかし、岡田ってば最近すっかりシリアス担当ですな。
>帝国VS異能者
とりあえず一言、女間者は誰なんだー!
さて、まずは帝国側がその目的を一応果たした形になりましたね。
女間者の目的と琴音、晴香の目的が違うことが上手く生きたかなと。
耕一については、熊は実際かなり強い動物だし、割といいかも。
う〜む。正体引っ張ってますな。>女間者
吉井は捕虜、松本は脱走中、そして岡田は苦悩中と。
こうしてみると松本の動向が気になる。
松本か。理緒の手引きで脱走したんだっけ。
街の一画にある公園の片隅で、久瀬は物思いに浸っていた。
昼食代わりのホットドッグもあまり喉を通らず、半分ほど食べて残りは鳥たちに与えてしまった。
盗賊ギルドへの繋ぎは、岩切に頼んでおいた。夜にでも連絡が来るだろう。
こちらは特に問題は無い。食欲が出ないのは別の理由だ。
子供達のはしゃぐ姿をぼんやりと眺めながら、久瀬は志保との会話を反芻する。
* * *
「久瀬さんは、あたしが長瀬に引き取られた後に、由起子さんのところから一座に来た人だったわよね」
「そうです。孤児院によく来ていた座長に頼み込んで、入れてもらいました」
志保の家を出て道すがら会話する二人。
「同じ孤児院の出なのに、七瀬とは随分素っ気無かったわね」
「割と早くから僕は一座、彼女は傭兵として外に出て、他の皆と比べればお互い会う機会も少なかったですし、
それに七瀬さんには何故か避けられているようで」
はは、と久瀬は頭を軽く掻く。
「別に避けてはいないと思うわ。ただちょっと苦手なタイプなんじゃないかしら。ほら七瀬って結構直情的でしょ?
だから久瀬さんみたいなタイプとは噛合わないって言うか、接し方が良く解らないんだと思うわ」
何と無く思い当たる節があるのか、久瀬はなるほどと頷いた。
岩切は世間話に興味が無いので黙ったまま、あゆは会話の内容が不明なため、入りたくても入れない。
それでも相変わらずうぐぅうぐぅ言っているところをみると、もしかしたらあれは呼吸音か何かなのかもしれない。
それとも鳴き声だろうか、などと埒も無いことを思いながらも会話を続ける。
「前に会ったのは何時だったかしら」
「例の式で会いましたから、もう三年ですか」
それ以前にも何度か顔を合わせるくらいはしていたのだが、二人は特に会話を交わしたことは無かった。
そんな人物がわざわざ源一郎の名を出して、自分に会いに来たのだから、その理由は一つ。
――長瀬ネットワーク――
「で、何が知りたいの?」
「……一つは折原浩平。彼が今、何処で何をしているのか」
その名に三人はピクリと反応する。あゆの場合はピクリと言うよりビクリとだったが。
「知ってどうするの。源一郎おじさんにでも教える気?長瀬ネットワークの元責任者だったあの人が、
知らないはずないじゃない。それとも由起子さんに?」
「そんなところです」
志保はチラリと久瀬を見ると、何と無くつまらなそうに続けた。
「調べるまでも無く、よく知ってるわ。この街、じゃなくて国ね。レフキー盗賊ギルドの総元締をやってるわ」
「ギルドの……」
その事実に久瀬は少なからず衝撃を受ける。
久瀬と浩平との間には、それほど深い親交があったわけではないが、それでも彼のことを嫌いではなかったし、
浩平と彼の幼馴染の少女が結婚すると決まった時も、冷かしや羨みつつも、心から祝福し幸福を願ったものだ。
だがそれは叶わなかった。
ある事件によって、二人のささやかな幸せは摘み取られたのだ。
そしてそれは波紋となって広がり、周囲の人々にも影響を与えた。
源一郎と由起子、志保や久瀬自身もそうである。
もっと大きな視点で見れば、旧盗賊ギルドよりも遥かに穏健な現在の盗賊ギルドの存在も、なかったであろう。
皮肉なことにそう言った意味では、あの事件は社会に良い結果をもたらしている。
当人達にとっては堪ったものでは無いが。
「後は何が聞きたいの?」
志保の言葉に久瀬の意識は引き戻された。
「眠り続ける……そう、まるで魂を何処かへ置き忘れてしまったかのような人を目覚めさせる。その方法を」
「無いわ。あればあたしが、必ずそれを探し出しているわ」
きっぱりと志保は言う。
「そうでしょうね」
小さく嘆息しつつも、久瀬はそれほど落胆した様子ではなかった。
おそらくは予想していたのだろう。
それでも一縷の望みをかけてみたかった。そんなところだろうか。
「僕が知りたかったのは、その二つです。どうもありがとう」
「役に立てなくて悪かったわ」
「そんなことは……折原君のことが解っただけでも、来た甲斐がありましたよ。じゃあ僕はこれで」
そう言って立ち去ろうとする久瀬に、志保は語り掛けると言うよりは独り言のように呟く。
「瑞佳は……『えいえん』に、行ってしまった訳じゃないの。『えいえん』と現実との狭間でさ迷っているんだと……
思う。そうでなければ、連れ戻せたはず。でもあの娘は、あそこにはいなかった……」
その声は彼女にしては珍しく、途切れ途切れの言葉だった。
志保は沈みそうな気分を、頭を振って気持ちを切り替える。
「ごめん、わけ解んないこと言って」
「いえ、それじゃ失礼します」
確かに久瀬には、志保の言ったことは理解できなかったが、彼女の気持ちは伝わった、と思う。
そしてそれで十分だった。
「久瀬さん!」
志保は久瀬を呼び止めた。
「あたしって結構、諦め悪いのよ。まだ諦めたわけじゃないわ。それと、あいつもね」
言って志保は不敵に笑って見せる。
「奇遇ですね。僕もですよ」
こちらは微笑で返すと、久瀬は歩き去って行った。
* * *
「ギルドの長、か……」
顔を上げ流れる雲を見やりながら、久瀬はそれを小坂由起子に告げるべきか迷っていた。
知らせるのは簡単だ。彼女も現状を知りたいとは思っているだろう。
だがそれを知らせて何になる?反って彼女に余計な気苦労をかけさせるだけだろう。
やはり今は伝えないでおこう。少なくとも他に何か良い知らせが出来てから、それと一緒に伝えよう。
久瀬はそう結論付けたが、実はこの時、既に由起子は源一郎から事の次第を告げられていたのだ。
そして、その後しばらくの間、彼の意識は過去へと誘われた。
* * *
「僕はもっともっと広い世界を知りたいし、見てみたいんだ」
幼さを残した少年、久瀬は言った。
「世界ね〜、それで本ばっか読んでるのか?」
こちらもやはり少年の浩平が返す。
「そうさ。世界には、僕らが見た事もないようなものが沢山あるんだ」
そう言った久瀬のその眼差しは、少年らしくキラキラと輝いていた。
「ふ〜ん。オレはそんなことより今日の夕飯のほうが気になるよ」
そんな浩平の言葉に少しむっとしたのか、久瀬は皮肉気味に言う。
「そりゃ君には外の世界なんて関係ないかもしれないけどね」
「どう言う意味だよ」
その言い方にこちらも少々カチンときたようだ。
「そのまんまの意味さ。君にはもうお嫁さんがいるから、外の世界なんて気にもならないんだろう?」
「な、な、なんだよそれ!誰が誰のお嫁さんだよ!」
「誰ってもちろん長――」
久瀬は最後まで言い終わることが出来なかった。
何しろ浩平が顔を真っ赤にして飛び掛ってきたのだから。
見事なまでの子供の喧嘩である。
そこへ一人の少女が小走りにやってきた。
「あ、こんな所にいた。もう、さがしたんだよ浩平……ってけんかしてるよー!」
浩平を捜しに来た長森瑞佳であった。
「だめだよ。けんかなんてー」
「うっ長森」
駆け寄る瑞佳の姿に浩平の体が思わず固まる。
それを見た久瀬が、言わなければ良いのに余計なことを言う。
「ほら、言った通りじゃないか」
「何だとー!」
「あ〜もう、こうなったら由起子さんを呼んで来るもん」
瑞佳はそう言ってクルリと後ろを向く。
「げっ、それは困る」
「長森さん、ちょっと待った」
このままでは食事抜きになると思った二人は、途端に動きを止めた。
その声に瑞佳は足を止めて振り返った。
瑞佳がじっと見つめるので、二人は引きつったような笑顔を作った。
「二人ともけんかなんてしちゃ駄目だよ。それで何が原因なの?」
瑞佳のその台詞に二人はしどろもどろになる。
「さ、さあ、なんだったかな。それより何か用があったんじゃ」
「あ、そうだよ。みんなで遊ぶ約束だったのに浩平いないんだもん。だから捜しに来たんだよ」
「オ、オレはいいからさ、長森はみんなと遊んでこいよ」
浩平はさっきのことが引っ掛かって、ついそんなことを言ってしまった。
「ええ〜どうして?」
「どうしてもだ」
そんな答えでは納得出切るはずも無い。
「いいもん。浩平なんか来なくても、みんなと遊ぶもん」
機嫌を損ねた瑞佳は口を尖らせて言った。
「な、長森さん。実は折原君は僕も一緒に遊ばないかって誘ったんだけど、僕がそれを断ってそれでけんかに……
ええと、それで僕も一緒にいいかな?」
さすがに気まずかったのか、久瀬は何とかしようと、かなり無理のある言い訳をした。
「もちろんだよ。さあ、みんなまってるよ」
瑞佳は一瞬きょとんとした後、笑顔になるとそう言って走り出した。
少し遅れて浩平と久瀬もその後を追う。
どうやら苦しい言い訳は上手くいったようである。
それとも彼女は気づかない振りでもしてくれたのだろうか。
* * *
時は流れ、少年と少女は成長した。
世間的にはまだまだ半人前だったが、彼らはお互いを終生の伴侶と決め、人々は二人を祝福した。
「長森、オレ……」
「もう長森じゃないんだよ、浩平」
「そ、そうだったな」
どっと沸きあがる笑いと歓声。
式は滞り無く行われ、誓いは幸福を約束するかに思われた。
――だが――
挨拶のため領主の館を訪れに行った新郎が、何故か結婚式の後片付けの最中に現われた。
しかもその腕には新婦が抱えられている。
新婦の腕は力なくだらりと下がり、純白だった花嫁衣裳は所々赤く染まっていた。
「由起子さん。瑞佳が……瑞佳が!!」
静寂を破る浩平のその声に、我に返った人々が慌てて駆けつける。
すぐさま瑞佳は寝台に運ばれて治療を受けると、幸いにも一命を取り留めた。
浩平は瑞佳の傍らに付き添い、献身的に看病した。
けれども何日経っても、彼女が目覚めることはなかった。
高名な医師に見せてもその原因は不明だった。
日に日にやつれてゆく浩平を、由起子を始め皆が心配したが、彼は瑞佳の傍を離れようとしなかった。
さらに数日経って、シーツを代えようとした由起子が、今度は浩平の様子がおかしいことに気づく。
久瀬は知らなかったが、この時浩平は『えいえん』に囚われつつあった。
さらに式の後、ほぼ毎日瑞佳と浩平の様子を見に来ていた志保や七瀬達が、彼を呼び戻したことも久瀬は知らない。
なんとか更なる事態の悪化を防いだと思えた矢先、浩平は復讐に駆られ孤児院を出て行ってしまう。
それに気づいた由起子達が、彼を止めようとしたが、既に浩平は高槻卿の館にいた。
しかし所詮は何の力も持たない少年。高槻の元に辿り着くどころか、門前払い去れる始末。
浩平は悔しさに震え、自分の無力さを呪った。
彼はそのまま孤児院に戻ることなく、力を求めて村を出た。
* * *
高槻卿の館。そこで何があったのか、詳しい事までは判らない。
何しろ浩平は口を閉ざすどころか、その姿まで消してしまったのだから。
そしてもう一方の当事者である高槻は、当然のごとく無関係を装った。
そんなことがあり得ないのは、周知の事実だったが。
そして彼女は今も尚眠り続ける。
「ギルドの長か」
もう一度久瀬は呟いた。
彼がその力で何をするのか、それは明白だ。
だが志保の口ぶりだと、昨日今日になったわけではなさそうだ。
それなのに実行に移していないのは、何らかの心境の変化でもあったのだろうか。
それとももう一つの目的に、その力を注いでいるのか。
気がつくと日は沈み、周りの子供達もいなくなっていた。
「すっかり考えにひたってしまった。早く戻らないと、もうギルドの使いが来ているかもしれない」
そう独り言ちると久瀬は宿へ足を向けた。
【久瀬 宿に戻る】
【長森瑞佳 三年前から眠り姫状態】
編集サイト228 ちょっとした出来事 からのリレーです。
久瀬消失ミステリー解決編とそれに関わる過去でした。
それにしてもまさか一週間もかかるとは…
上手く補完できたでしょうか。
矛盾や疑問に思った点をまとめたつもりですが、間違っていたら指摘して下さい。
まだあったのか
久瀬が普通にいいひとだ……ていうか、普通よりもいいひと?
皮肉屋久瀬萌えとしては少しショックw
久瀬問題ようやく解決だね。
あれ以上こじれそうになくて一安心(志保との会話時期の整合性に一抹の不安は残るけど)
ともかくもおつかれ。
新作乙〜。
久瀬があの孤児院の出とは。浩平ともそこそこ仲良かったみたいだし良い感じですね久瀬。
あと、、瑞佳の現状がようやく判明しましたね。まあ、半分以上予測通りですけど。
がんばれー
保守
73 :
Uスレの1:03/06/29 21:20 ID:S0hgvZGE
すみません、ちと無意味に忙しい。
親会社が一部上場したら、連結決算の子会社まで四半期ごとの決算になるんやね……
例のリンク申請含め、来週中には事を動かしますのでご容赦を。
新作も……
干す
75 :
勢揃い:03/07/01 01:46 ID:NvED/76v
(海を止める、か。発想はともかく……ん?)
「……あの、ところで」
おずおずと何か言い出そうとする彩を見て、源之助は開き掛けた口をまた閉じた。
「……さっきの海を止めるって……何の話ですか?」
彩に尋ねられて、蝉丸は落ち込んでいた気分を無け無しの気力で追い払うと、事の次第を説明した。
突如現われた島に、小型の船で荒れた海を渡り上陸せねばならない、と。
しかしそれを聞いた彩の答えは素っ気無かった。
「……そんな、無理です」
「な、何故?」
折角の案をきっぱりと否定されて、蝉丸は動揺が抑えられない。
「海を止めるなんて……わたしには、無理です」
と言って彩はチラリと源之助を見るので、蝉丸もその視線を追い、源之助に問う。
「ならば」
「私だって無理ですよ」
これまた呆気なく否定される。
「ふみゅ〜ん、だからわかるように言いなさいよ!」
「もう少し詳しく説明してくれる?」
さすがに詠美でなくともこれでは分らない。彼女を軽くなだめ、梓も説明を求める。
「別に難しい理屈ではありません。コップの水を飲み干せても、樽ではそうもいかないだけです」
「なるほど、程度の問題なんだ」
76 :
勢揃い:03/07/01 01:47 ID:NvED/76v
「別に海全体でなくとも、例えば海の上に船が通るくらいの、一本の道くらいなら何とかならないか?」
諦めきれないのか蝉丸は食い下がる。
源之助は少し考えた。
「それくらいなら可能かもしれません、しかし問題が一つあります」
「どんな問題だ?」
「波です。船の底は凪いでいても、周りから被さってくる大波で船が浸水してしまうでしょう」
「ならば波が届かない程度に広げてはどうだ」
「それでは島に辿り着くまでに、彩が倒れてしまいますよ」
「名案だと思えたのだが……」
ついに蝉丸はがっくりとうな垂れた。
その一方で、例によって梓からやり取りの解説を受けた詠美が口を開く。
「じゃあ、屋根つけちゃえば?」
その一言に全員が詠美の方を向く。
「水が入ってこなければ良いんでしょ?だったら船に屋根つければ良いじゃない」
一瞬の間を置いて、その改良案に飛びつく。
「なるほど、その方法なら何とかなりそうです」
「うん、それくらいなら簡単な工事で済みそうだし」
「流石は女王陛下」
「あ、あったりまえでしょう。なんたってあたしは、ちょお偉いくいーんなんだから」
一斉に感心されて、詠美は今や有頂天である。
解決策も出たので会議はここで一旦区切り、詠美と源之助が退出した。
後の細かい指示は梓がすることになる。
77 :
勢揃い:03/07/01 01:47 ID:NvED/76v
「そうなると船を改造するとして、出発は明朝。それまで特務部隊は待機するとして……そう言えば
新城が見当らないけど何処?河島も何時の間にかいなくなってるし……」
そう言って梓はぐるりと室内を見まわす。
「あ……はるかさんは、つまらないからやっぱり部屋に戻る、と……」
申し訳無さそうに彩が答える。
梓は苦笑したが、彩とはるかは会議に出席していたわけでは無いし、内容は隊長の蝉丸から通達するだけだ。
そもそもお茶汲みは給仕がいるし、二人が勝手に会議に入ってくるのがおかしいのだが。
「で、新城は?」
「それが先日から姿が見えなくて……」
やれやれと梓は頭を振る。
「監督不行届きだぞ、坂神」
「申し訳ありません、閣下」
神妙な面持ちで蝉丸は頭を垂れた。
「伝説の迷宮らしいから、万全を期したかったんだけどなあ。仕方ないから五人で行ってもらうよ」
「五人?と言う事は!」
跳ねるように顔を上げる蝉丸。
それを見て梓は大きく頷く。
「光岡と松原の二人が、今日中には戻ってくることになってる」
「おお!それは心強い」
「……あの、どう言う人達なんですか」
梓の言葉から一緒に探索に赴く二人が気になったのか、彩が質問する。
「何だ、まだ教えてなかったんだ」
「何分慌しかったので」
確かにその通りだと梓は納得した。
「少し説明してやりなよ。自分の所属に誰がいるのか分らないんじゃ、困るだろうし」
全くだ。蝉丸はつい後回しにしてしまったことを恥じ入る。
78 :
勢揃い:03/07/01 01:47 ID:NvED/76v
「特務部隊は隊長の俺、副長の光岡、はるか、沙織、葵、そして彩、お前を入れて六人からなる」
蝉丸は彩に簡単な説明を始めた。
「光岡は俺の同期で、頼りになる男だ。葵は未熟な面もあるが、真面目で一本気な娘だ。はるかはまあ、
あの通り捕え所が無い。沙織もまあ、察してくれ……皆腕は悪く無いんだがな」
その言葉は段々と尻窄になっていった。
彩は何と無く、蝉丸がそれぞれの隊員をどう見ているかが理解できた。
二人のやり取りを見るに、光岡と葵と言う二人はその信頼も篤いのだろう。
「坂神の言う通り、腕は立つし気の良い連中だよ。ただちょっと何人かマイペース過ぎるってだけで」
苦笑しながら梓がフォローする。
多分、国風なのだろう。何しろ女王からして、ああなのだから。
「と言うことで、今回は新城以外の五人で任務に当ってもらう。基本装備以外に何か必要な物があれば、
今夜の内に申請しておくように。何か他に質問は?」
しばし蝉丸と彩の返答を待つ。
「無ければ解散」
特に質問が無いのを確認し、梓は解散を宣言した。
「それじゃ明日も早いんだから、しっかり休みなよ。お疲れさん」
梓は軽く手を挙げて、そう言い残すと退室した。
その背に一礼し、蝉丸と彩も部屋を後にする。
* * *
79 :
勢揃い:03/07/01 01:48 ID:NvED/76v
――会議から数時間後――
二人の人影が靴音を反響させ、特務部隊に宛がわれた部屋への通路を行く。
「やれやれ、とんだ無駄足だったな」
「仕方ありませんよ。次に期待しましょう」
溜息まじりに言う男に、隣の少女が明るく答える。
男は少女の前向きさに軽く笑みを浮かべる。
「そうだな。また次があるな」
そう言って扉を開けた。
部屋には三人の男女が居て、彼らは来訪者の訪れに顔をこちらに向ける。
「光岡悟、ただ今帰還」
「松原葵、戻りました。お久しぶりです皆さん」
直立の姿勢で二人はそう告げた。
中に居た蝉丸、はるか、彩が、それを聞いて三者三様に迎える。
「光岡!葵!」
「ん。お帰り二人とも」
「……あ、この人達が……」
「うむ、任務御苦労。とにかく中へ入って座ってくれ」
蝉丸は二人を労い席に招く。
光岡は軽く頷き、葵は元気良くはい、と返事をしてから椅子に腰掛けた。
「疲れているところ済まないが、早速報告を頼む」
二人が座るのを待って、蝉丸は切り出す。
「残念ながら、秘宝は発見できなかった。どうやらガセだったようだ」
「そうか……」
そう簡単にはいかないと分っていても、やはり落胆してしまう。
「すみません」
「無いものは取ってきようが無い。別にお前達のせいではない。気にするな」
その必要は無いと蝉丸は、謝る葵に言い聞かせる。
80 :
勢揃い:03/07/01 01:53 ID:NvED/76v
「んーそうだね。見つけたのに取られちゃったのよりは、ましだよね」
別に責めている訳では無いのだろうが、はるかのその発言に蝉丸はぎょっとする。
「どう言うことですか、隊長?」
これまた邪気の無い質問を浴びせる葵。
「う、それは、つまり……」
詳細は抜きにして、蝉丸は見つけた秘宝を帝国兵に奪われた事を告げる。
「レフキー特務部隊隊長がその場に居て、むざむざ秘宝を奪われるとは……」
「む。面目ない……」
重い空気を何とか払おうと、葵は何か言おうとするが言葉が見つからない。
「……あの、わたしもその場に居たんですが、力になれなくて……その、すみません」
彩のその台詞に蝉丸はきっぱりと答える。
「そんなことはない。彩、お前は良くやった。任務の失敗は俺の責任だ」
「でも、隊長さんも命懸けで……」
そこまで気にされるとは、光岡も思っていなかったので話を少々ずらす。
「女王陛下はこのことを?」
「無論、既に報告してある」
「ならば俺が言うべきことはない。むしろ隊長の行動に対して、批判めいたことを言って申し訳ない」
「いや、責められて当然のことだ」
何処までも生真面目な男である。
81 :
勢揃い:03/07/01 01:55 ID:NvED/76v
これ以上長引かせないように、光岡はそこで話を区切り彩を見る。
「ところで彼女は誰なのか、そろそろ紹介してくれると有り難いのだが」
「む。そうだったな。彩」
そう言って蝉丸は彩に自己紹介を促す。
「あ……長谷部彩です。この度、特務部隊に配属されました。どうぞよろしく……」
「光岡悟だ。ここの副長をしている」
「松原葵です。よろしくお願いします!」
「ん。河島はるか、よろしく」
「いや、お前は知ってるし……」
一緒になって名乗るはるかに光岡は突っ込む。
「差別だ」
突っ込むだけ無駄だと思い今度は無視した。
「彩は自然術と言う術を使う魔術師だ」
蝉丸の説明を聞き、光岡と葵は感心する。今まで特務部隊には、専門の魔術師はいなかったからである。
「光岡は俺と同じで剣術を使う。葵は無手格闘術が得意なんだが……」
そこで蝉丸は葵を見る。
「そう言えば葵。新調した武器の具合はどうだ?」
「はい、良いですよ。金属製なのにそれほど重くなくて、扱いやすいです」
葵は革のベルトに留めてあった棒を、机の上にゴトリと置く。
それは鋼鉄で補強されたトンファーであった。
「普段はこれを使ってます。素手の格闘術はいざと言う時の武器です」
「凄いんですね……はるかさんはどんなことが?」
「ん。私はあまり大した事は出来ないよ」
彩に話を振られてはるかは言った。
「はるかは色々とやれるんだが、飽きっぽいのか何なのか、持っている技術に脈絡が無くてな」
82 :
勢揃い:03/07/01 01:56 ID:NvED/76v
「んー。じゃ、一つ見せてあげる。隊長さん協力して」
少し考えて、はるかは蝉丸を呼んだ。
「何をすれば良いんだ?」
「ちょっとこれの刃の部分を握って」
そう言ってナイフを取り出す。
「こうか?」
手渡されたナイフを素直に持つ蝉丸。
「で、引く」
「ふむ。ぬお!?」「なっ」「わわ」「あ……」
刃を握ったままでナイフを引けば、手が切れる。当然だ。
蝉丸の手の平から血が滴る。
しかしはるかが何事か唱えると、蝉丸の傷はすぐにふさがった。
「凄い……治癒術、ですね。でも、魔術師はいなかった筈じゃ?」
「魔術師って程じゃないよ。かすり傷を治すくらいがせいぜいだったりする」
はるかはそう言ったが、今の怪我はかすり傷には見えなかった。
「実は隊長と副長はちょっと特殊な体の人で、怪我が治り易かったりする。だから私程度の治癒術でも
併用すれば結構治せる。でも他の人はそうもいかないから、なるべく怪我しないようにね」
正確にはその二人以外にも、初期の特務部隊隊員は同様に身体能力や治癒力が高かった。
彼らの体には仙命樹なるものが移植されており、それがその特殊な力の源泉であった。
「何も実演しなくても良いだろうに」
「まったくだ」
何故か蝉丸と光岡は、仲良くテーブルの血を拭取りながら抗議した。
「実際やってみせたほうが分り易いかな、と思って。ごめんね隊長、痛かった?」
もう蝉丸は何も言う気になれなかった。
83 :
勢揃い:03/07/01 01:56 ID:NvED/76v
「あ、そうだ隊長」
まだ何かあるのかと少々うんざりぎみにはるかを見る蝉丸。
「沙織ちゃんから手紙がきてた」
はるかは懐から手紙を取り出すとヒラヒラと揺らした。
「そう言う物は早く見せてくれ」
「ん。ごめん、忘れてた」
受けとって内容を確認する。
『隊長さん元気〜?
あたしは今フィルムーンにいるんだけど、
これからちょっと島に行って来ます。
何でそんな所に行くのかって言うと、
その島って突然現われてどうも秘宝がありそうなの。
そんなわけで期待してて。
と言っても今日か明日一杯は、
足止めされて動けないんだけどね。』
――沙織――
「……この手紙は、どう言う風に送られてきたんだ?」
「城の特務部隊宛てに、普通の手紙と一緒に」
「仮にも機密文書扱いになる書類を、普通の手紙で……」
蝉丸は眩暈を感じた。
「でも大したことは書いてないみたいだし、一応気を使って鳥で送ったみたい」
ちなみにレフキーでは、通常手紙は民間のキャラバンか、伝書鳥によって運ばれる。
鳥の方が遥かに早いが料金は割高で、さらにある程度大きな都市間でしか扱っていない。
84 :
勢揃い:03/07/01 01:57 ID:NvED/76v
「でもこれで上手く行けば、現地で合流できるかもね」
「何の事だ?」
帰って来たばかりの光岡と葵は、島に行くことをまだ知らされていない。
何故かそのことを、蝉丸が何も言わないので、仕方なくはるかが島にある迷宮を探索する旨を伝える。
せめて一日くらいはゆっくり出来る、と考えていた光岡はさすがに疲労を隠せなかったが、これも宮仕え
の悲しさと諦めた。葵の方はそんなことを微塵も感じさせないのは、やはり性格の差か。
「と言うわけだから、出発する時は五人だけど、上手く合流出切れば六人だね」
「そうですね。何があるかわかりませんから、沙織さんもいてくれると心強いですよね」
「くっくくく、ははははっ!」
突然笑い出す蝉丸。
「何を言ってるんだ、はるか?我々は以前も今も五人ではないか」
「……隊長?」
何だか様子がおかしい蝉丸を葵や彩が見つめる。
「我々五人は必ずや秘宝を入手するのだ」
言って蝉丸は高笑いをし始める。
「壊れちゃったのかな」
「精神的疾患の一種だろう。大丈夫だ、一晩ぐっすり休めば元に戻る」
その会話も蝉丸の耳には届いていないようだ。
「葵。一発ガツンとやってくれ」
「え、でも」
高笑いはまだ続いている。
「それが隊長の為だ。それとこのままでは、我々も休めない」
「わ、わかりました……ごめんなさい、隊長!」
葵はトンファーを握りしめ――ガツン、ドササッ
おやすみなさーい。
85 :
勢揃い:03/07/01 01:58 ID:NvED/76v
【光岡悟 特務部隊副長 剣術】
【松原葵 特務部隊隊員 格闘術 トンファー】
【河島はるか 色々出来るが中途半端】
【坂神蝉丸 たんこぶ】
【初期の特務部隊隊員は、仙命樹が移植されていて、身体能力、治癒力が高い】
前スレ915 代償の大きかった発想 からのリレーです
※『代償の大きかった発想』で日付が変わったとありますが、これはちょっとあり得ないと思います。
※蝉丸は志保達と一緒に帰ってきて、その後志保は昼食をとっています。
※となると城に着いたのは午前中で、吉井をおもちゃにした後の食事は昼食でしょう。
※その後会議がすぐ始まっているので、いくら何でもそこまで長引くとは思えません。
※せいぜい延びても夕食時ではないかと。
※この後朝まで何もなければあまり関係ないのですが、念の為。
なんだ、普通に仙命樹採用したのか。
エルクゥが動物に化けるこのご時世に芸のない話だ。
しかし仙命樹は猫も杓子も使い始める人気アイテム。
油断してると帝国謹製仙命樹モンスター(兵)大登場なんてどこかで見た展開もありえるな(w
仙命樹は仕方ないと思うが……
でもまぁ今までそんな素振りや能力すら表現されてないから今更付け足しても、って感は多少。
もうちょい劇的な場面でアピールした方が効果的だったかも。
そんなことより、かなり長いんだけど、もっと短めにできないのかな。
>仙命樹は仕方ないと思うが……
>でもまぁ今までそんな素振りや能力すら表現されてないから今更付け足しても、って感は多少。
今更だからこそ、極端に強くならなくて良いかも。
他の連中に植え付けたりしなけりゃいいんじゃない。
確かにあえてここで書くほどのことじゃないけど。
しかし傷を付けて血とか浴びたらはるかはどうする気だったのか。
どうせなら、はるかにはもっと役に立たない技能が欲しかったと思ったりもする。
かすり傷程度を治せても役に立たないと思うぞw
分類は白魔法ってことでいいんだろうか。
いや、効果が弱いんじゃなくて、効果はあるんだけど役に立たない技能w
蝉丸の頭に花を咲かせたり。
「ぬおっ、なんだこれはっ!」
「意外と目立つね」
「目立ちすぎだっ」
「ひまわりの方が良かった?」
「余計目立つ……って、そういう問題ではないっ!」
「頑張れば五輪くらいまでは咲かせられるけど」
「なぜに増やす」
「んー、見せ物にしてお金を稼」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ!」
93 :
名無しさんだよもん:03/07/03 21:58 ID:b7rjox7z
(さすがにあいつをこのまま、志保の家まで連れて行く訳にはいかないわよね)
尾行者の存在を微かに感じながら、七瀬は思案する。
龍二の尾行が特に下手という事は無いのだが、やはり始めからそれを警戒している者を相手に、
気配を完全に隠し通すと言うのは、中々に厳しい。
(かと言って、そこらの店じゃ誘っても仕掛けて来ないわよね……)
どうしたものかと七瀬が頭を悩ませながら歩いていると、その前方に見覚えの有る後姿が見えた。
「志保!」
七瀬は前を行く人物を呼止ると、小走りに駆け寄る。
呼び掛けられた志保は、足を止めて振り返った。
「あら七瀬じゃない」
近づく七瀬が一人でいるのを見て、志保は軽く疑問を口にする。
「一人みたいね、みんなは?」
「藤田とはさっきまで一緒。医者にあいつの怪我を診せにいって、今は疲れが出たみたいで宿で寝てるわ」
だから他の皆は知らないわ、と七瀬は付け加える。
「そっちも一人ってことは、一仕事終って帰るところみたいね」
「そう言うこと」
一仕事終えたどころか、その後響子の家で茶を啜りつつ、取り留めのない話を延々と続けていたのだが。
「七瀬も来るんでしょ?」
「そのつもりよ」
そこで少し声を落とすと、七瀬は先程よりもやや顔を寄せて囁く。
「実は今、佐祐理さんを連れ戻そうとしてる奴が、あたしを尾行しているのよ」
それを聞いた志保は、きょろきょろと周囲を見回したい衝動を、ぐっと押さえて続きを聞く。
「あたしは適当にうろついてから行くから、志保は先に帰って佐祐理さんを匿っておいて」
「良いけど、それでどうするつもり?」
「相手は一人。だから返り討ちにして、捕えてやろうと思って」
あまり気乗りしない様子だったが、結局承諾すると、志保は一人先に家路をたどった。
一方、七瀬は新しい武器が必要だったこともあり、適当な武器屋を選ぶと、時間稼ぎも兼ねて物色する。
しばらくして店から出てきたが、新しい武器は持っていない。
「乙女に相応しくて良い武器って、案外無いものね〜」
どうやらこの店では、七瀬の眼鏡に叶う掘り出し物は、見つからなかったようだ。
もっともそんな剛と柔を兼ね備えたような物は、そう有るものでは無い。
志保の家に向かおうとして、七瀬はふと気付く。
自分を追っていた気配が、無くなっていることに。
その意味する事に気付いた七瀬は、志保の家に急行するべく走り出す。
迂闊だった。あの男は尾行の対象を、自分から志保に切り替えたのだ。
少なくとも舞は一緒にいるだろうし、先に戻った志保もいるから、そう簡単に佐祐理が捕まる事も
ないだろうが、仲間を呼ばれでもしたら面倒だ。
時間の損失は十分弱か? それだけの時間、あの黒騎士がもたもたしているとは思えない。
実際にはこの時、志保の家はもぬけの殻であったが、そんなこととは露知らず、七瀬はひた走った。
* * *
伯斗龍二は迷っていた。
内容は聞き取れなかったが、七瀬と志保が何やら話した後、二人が別れたからだ。
どちらを追うべきか。
(俺の勘は、あっちのショートボブの嬢ちゃんに、乗り換えろって言ってるんだが……)
今のところ、これはただの山勘である。
単独行は身軽だが、こんな時にはやはり人手が欲しい。
(勘を信じるか、それとも当初の予定通り、おさげの嬢ちゃんを付けるか)
どちらとも追える距離で、しばし決めかねる。
仕方なく七瀬を追おうとした龍二は、そこで彼女が一軒の店に入るのを見た。
この時、龍二の脳裏に単なる山勘とは違う、経験から導き出される瞬間的な思考が閃いた。
(入る前に不自然な間があった。傭兵が武器屋に一々考えてから入ったりするか?
何か他の理由でもあるんじゃないか? ならそれは一体何だ? 時間稼ぎか何かか?
そう言えばさっきの会話、最後の方で何故か体を寄せていたな。もしかしてあれは、
俺の存在に気付いていたのか? となると……)
龍二は結論を出した。
七瀬に見切りをつけ、志保を尾行し始める。
志保はそれに気付いていない。
* * *
「ただいま〜志保ちゃんのお帰りよ。みんな、寂しい思いさせてごめんね〜」
志保は勢い良く扉を開けて、それ以上に勢い良く言った。
「って、セリオも健太郎もいないじゃない」
そのまま客間に足を運ぶ。
しかしそこにいる筈の舞と佐祐理もいなかった。
自室なども見たが、やはり誰もいないようだ。
「結構時間経ってるし、佐祐理さんと舞も起きて四人で食事かしらね?」
「違うな」
突然後ろから声をかけられて志保はギョッとする。
「俺は倉田家の私設騎士団の者だ。失礼だとは思ったが、勝手に上がらせてもらった」
「ほんと失礼よ」
最初の驚きから立ち直ると、志保は強気に言った。
「で、どう言うこと?」
そう前置きすると、龍二は窓に近づいた。
「玄関も窓も開きっぱなしで、窓の側の置物やらが倒れている。それに」
志保にも窓の周りを、見るように促す。
「窓の下に複数の足跡が残っている。おそらく何かに追われて、慌てて逃げた」
「追われるって一体誰に? 佐祐理さんを追っていたのは、あんた達じゃないの」
「そいつを聞きたいのは俺の方だ。どうやら何か厄介事に巻込まれた、ってことだけは確かなようだが」
さらに龍二は続けて言う。
「それに俺は、確かに佐祐理お嬢さんを捜してはいたが、無理やり連れ戻す必要は無いと言われている」
胡散臭い男ではあったが、推理には納得がいくものがあったし、嘘を言っているとも思えなかった。
とにかく今気掛りなのは、佐祐理達の行方だ。舞やセリオは一緒なのだろうか。
しかし足跡を追うのは無理だ。
通りに出たところで、すぐに他と判別がつかなくなる。
何か手掛りになりそうなものを、二人が探していると、そこへ七瀬が飛び込んできた。
「七瀬」
「よう、嬢ちゃん。遅かったな」
鎧姿ではなかったが、その声には聞き覚えがあった。
間に合わなかった。
いや、まだこの男がいるという事は、まだ間に合う。
七瀬はそう判断した。
幸い相手は油断している。
「はぁっ!!」
気合を乗せた七瀬の拳が、鈍い音と共に龍二の腹にめり込んだ。
「ぐっ……今日の俺には、女難の相でも、出てるのかよ……」
うずくまって龍二はそう言った。
「七瀬、言っておくけどこの人、佐祐理さんさらってないわよ」
「え? そうなの?」
呻く龍二に、七瀬はもう一撃加えようとしたが、志保の声に何とか拳を止めた。
【七瀬留美 早とちり】
【伯斗龍二 不幸】
【長岡志保 来なくて良いのに千客万来】
編集サイト290 合縁奇縁
308 期待外れ からのリレーです。
乙〜
100ゲット保守
101 :
名無しさんだよもん:03/07/06 22:54 ID:HyNaRmYs
102 :
名無しさんだよもん:03/07/07 22:24 ID:QYg6vZm6
103 :
ええええ?!:03/07/07 23:09 ID:tYdwr4Hx
ワラタ。>胡散臭い男 確かにそうだ。
しかし、伯斗、何気に美味しいところ持ってくなぁ。
別に美味しくはなかろう>伯斗
>105
いや、関西人的には美味しいところかと思って。 >悶絶ネタとか
黒騎士伯斗の実力は七瀬と同程度って感じ?
頭で勝負するのが本領という感じではあるけど。
>恐らく、七瀬や浩之が襲いかかったとしても、龍二は一瞬でねじ伏せていただろう。
こんな描写が過去にでているが……まぁ今回はギャグだからな……
ああ、そう言えばあったな。確か。
う〜む。ますます食えん奴。
> 「七瀬、言っておくけどこの人、佐祐理さんさらってないわよ」
一応七瀬は部屋の様子から佐祐理達の変事を察したってことでいいのかな?
111 :
名無しさんだよもん:03/07/12 00:00 ID:R44AOImR
112 :
名無しさんだよもん:03/07/12 03:50 ID:R44AOImR
……すみません。
なんか、家庭環境が立て込んでていろいろと……(ごにょごにょ:汗)
え、ええと保守代わりに一つお伺いしたいのですが。
前スレの最後の投稿は何番でしたっけ?
すぐに過去ログ化されると思ったら、未だにその兆候なく……(汗
新しいPCにもかちゅ入れとくべきだったか……
>113
楓、散る (318番)
↓
Time of Arcane Things
↓
代償の大きかった発想
↓
事情聴取
↓
語り部瑠璃子 (本スレ)
という流れ。まあ、御無理なさらず。
ほっしゅ
Д゜)ホシュ
この不均一なペースはいかにもファンらしい。
ハッキリ言ってアメリカなどの多民族国家では黒人の方がアジア人よりもずっと立場は上だよ。
貧弱で弱弱しく、アグレッシブさに欠け、醜いアジア人は黒人のストレス解消のいい的。
黒人は有名スポーツ選手、ミュージシャンを多数輩出してるし、アジア人はかなり彼らに見下されている。
(黒人は白人には頭があがらないため日系料理天などの日本人店員相手に威張り散らしてストレス解消する。
また、日本女はすぐヤラせてくれる肉便器としてとおっている。
「○ドルでどうだ?(俺を買え)」と逆売春を持ちかける黒人男性も多い。)
彼らの見ていないところでこそこそ陰口しか叩けない日本人は滑稽。
保守