葉鍵鬼ごっこ第六回

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1名無しさんだよもん
葉鍵キャラ100名を超える人間達が、とあるリゾートアイランド建設予定地に招待された。
そこで一つのイベントが行われる。

「葉鍵鬼ごっこ」。

逃げる参加者。追撃する鬼。
だだっ広い島をまるまる一つ占拠しての
壮大な鬼ごっこが幕を上げた。

増えつづける彼らの合間を掻い潜って、
最後まで逃げ切るは一体どこのどちら様?
「――それでは、ゲームスタートです」

関連サイト

葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
新サイト(現在は480話まで):http://www.geocities.co.jp/Playtown-Domino/5154/
旧サイト:http://hakaoni.fc2web .com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)

葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/

前スレ
葉鍵鬼ごっこ 第五回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1050336619/

ルールなどは>>2-10を参照。
2鶴来屋会長よりルール説明:03/05/23 17:50 ID:2wi6vJIi
・鶴来屋主催のイベントです。フィールドは鶴来屋リゾートアイランド予定地まるまる使います。
・見事最後まで逃げ切れた方には……まだ未定ですが、素晴らしい賞品を用意する予定です。
・同時に、最も多く捕まえた方にもすてきな賞品があります。鬼になっても諦めずに頑張りましょう。

ルールです。
・単純な鬼ごっこです。鬼に捕まった人は鬼になります。
・鬼になった人は目印のために、こちらが用意したたすきをつけてください。
・鬼ごっこをする範囲はこの島に限ります。島から出てしまうと失格となるので気を付けましょう。
・特殊な力を持っている人に関しては特に力を制限しません。後ほど詳しく述べます。
・他の参加者が容易に立ち入れない場所――たとえば湖の底などにずっと留まっていることも禁止です。

・病弱者(郁美・シュン・ユズハ・栞・さいかetc)は「ナースコール」所持で参加します。何かあったらすぐに連絡してください。
・食料は、民家や自然の中から手に入れるか、四台出ている屋台から購入してください。
・屋台を中心に半径100メートル以内での交戦を禁じます。
・鬼は、捕まえた人一人あたり一万円を換金することができます。
・屋台で武器を手に入れることもできますが、強力すぎる武器は売ってません。悪しからず。
・キャラの追加はこれ以上受け付けません。
・管理人=水瀬秋子、足立さん及び長瀬一族

能力者に関してです。
・一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可。失格です。
・不可視の力・仙命樹など、自分だけに効く能力→可(割とグレーゾーン)。節度を守ってご使用ください。
・飛行・潜水→制限あり。これもあんまり使い過ぎると集中砲火される恐れがあります。
・特例として、同程度の自衛能力を有する相手のみ使用可とします。例えば私が梓を全力で襲っても、これはOKとなります。

  | _
  | M ヽ
  |从 リ)〉
  |゚ ヮ゚ノ| < 以上が主なルールです。守らない人は慈悲なく容赦なく万遍なく狩るので気を付けてくださいね♪
  ⊂)} i !
  |_/ヽ|」
3日本一の2ゲッター:03/05/23 17:51 ID:JNQh47In
         ∧_∧
         < `ш´>  >>1 お前の感じている感情は精神疾患の一種だ。
       _φ___⊂)     しずめる方法は俺が知っている。俺に任せろ
      /旦/三/ /|
    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  |
    | 流鬱百円 |/
4名無しさんだよもん:03/05/23 17:51 ID:2IBPDmgS
4
5参加キャラ一覧:03/05/23 17:51 ID:2wi6vJIi
全参加者一覧及び直前の行動(前スレ最終>>500まで)
レス番は直前行動、無いキャラは前回(前スレ>>499-500)から変動無しです
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
fils:
(【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】)>>161-163
【エリア・ノース:1】>>27-29

雫:
【長瀬祐介:1】>>492-497
【月島瑠璃子】>>430-433
【藍原瑞穂:1】>>331-334
【新城沙織】>>172-175
【太田香奈子:2】>>446-448
【月島拓也:1】>>416-417
6参加キャラ一覧:03/05/23 17:53 ID:2wi6vJIi
痕:
柏木梓>>419-421
柏木楓>>442-445
日吉かおり>>419-421
柳川祐也>>489-491
ダリエリ、
【柏木耕一:1】>>331-334
【柏木千鶴:10】>>397
【柏木初音】>>260-265
【相田響子】
【小出由美子】>>489-491
【阿部貴之】>>499-500

TH:
(岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)>>339-343
(【藤田浩之】、【長岡志保】)>>134-136
(【来栖川芹香】 、【来栖川綾香:1】)>>255-257
(【保科智子】、【坂下好恵】)>>260-265
(【姫川琴音】、【松原葵:1】)>>430-433
(【雛山理緒:2】、【しんじょうさおり:1】)>>370-371
7参加キャラ一覧:03/05/23 17:54 ID:2wi6vJIi
【神岸あかり】>>290-297
【宮内レミィ】>>164-169
【マルチ:1】>>436-441
【セリオ:2】>>446-448
【神岸ひかり】>>492-497
【佐藤雅史】>>172-175
【田沢圭子】>>346-350
【垣本】>>346-350
【矢島】>>462-475

WA:
(【藤井冬弥】、【森川由綺:3】)
(【緒方理奈:6】、【緒方英二】)>>109-111
(【澤倉美咲】、【七瀬彰】)>>370-371
【河島はるか】>>459-461
【観月マナ】>>129-131
【篠塚弥生】

こみパ:
(猪名川由宇、大庭詠美)>>240-244
立川郁美>>339-343
(【高瀬瑞希】、【九品仏大志】)>>390-396
(【牧村南】、【風見鈴香】)>>485-488
(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)>>235-238
(【縦王子鶴彦:2】、【横蔵院蔕麿:1】)>>240-244
8参加キャラ一覧:03/05/23 17:58 ID:2wi6vJIi
【千堂和樹】>>282-285 【塚本千紗:2】>>419-421 【芳賀玲子】>>499-500
【御影すばる】>>149-153 【澤田真紀子】>>446-448 【立川雄蔵】>>277-280

NW:
ユンナ>>305-308 【城戸芳晴】>>489-491 【コリン】>>355-356

まじアン:
江藤結花>>419-421 (【宮田健太郎:1】、【牧部なつみ】)>>229-231
【スフィー】>>305-308 【リアン】>>27-29 【高倉みどり】>>485-488

誰彼:
(砧夕霧、桑島高子)>>149-153 岩切花枝>>258-259 【坂神蝉丸:5(4)】>>258-259
【三井寺月代】>>144-148 【杜若きよみ(白)】>>235-238 【杜若きよみ(黒)】>>212-215
【石原麗子:1】>>436-441 【御堂:7】>>360-367 【光岡悟:1】>>489-491
9参加キャラ一覧:03/05/23 18:06 ID:2wi6vJIi
ABYSS:
【ビル・オークランド】>>149-153

うたわれ:
(アルルゥ、カミュ、ユズハ)>>305-308 ハクオロ カルラ>>360-367 ベナウィ>>462-475
クロウ>>339-343 (【トウカ】、【ヌワンギ:1】)>>305-308 (【ウルトリィ:1】、【ハウエンクア】)>>419-421
(【ドリィ:1】、【グラァ】)>>212-215 【エルルゥ】>>172-175 【オボロ:3】>>416-417
【クーヤ】>>436-441 【サクヤ】>>240-244 【ディー:7(6)】>>164-169
【ゲンジマル】>>212-215 【デリホウライ】>>360-367 【ニウェ:1】>>489-491
10参加キャラ一覧:03/05/23 18:09 ID:2wi6vJIi
Routes:
リサ・ヴィクセン>442-445 (【湯浅皐月】、【梶原夕菜】)>331-334
【那須宗一:1】>459-461 【伏見ゆかり】>305-308 【立田七海】
【エディ】>229-231 【醍醐:1】>485-488 【伊藤:1】>499-500

同棲:
【山田まさき:1】【皆瀬まなみ:2】>390-396


MOON.:
名倉友里>489-491 (【天沢郁未:6】、【名倉由依】)>84-92
(【鹿沼葉子:2】、【A棟巡回員】)>450-458 【巳間晴香】>282-285
【少年:1】>129-131 【高槻:1】>154-160 【巳間良祐:1】>180-183

ONE:
(里村茜、上月澪、柚木詩子)>462-475 (【折原浩平:7(3)】、【長森瑞佳】)>305-308
(【川名みさき:2】、【氷上シュン】)>290-297 (【深山雪見】、【広瀬真希:1】)>390-396
【七瀬留美:1】>462-475 【椎名繭】>154-160 【住井護】>255-257 【清水なつき】>346-350

Kanon:
(【相沢祐一】、【川澄舞】)>84-92 (【美坂栞】、【北川潤:1】)>255-257
(【沢渡真琴】、【天野美汐:2】)>430-433 【月宮あゆ:4(4)】>317-320
【水瀬名雪:3】>370-371 【倉田佐祐理:1(1)】>190-201
【美坂香里:8(7)※注】>446-448 【久瀬:6】>416-417

AIR:
(遠野美凪、みちる) (柳也、裏葉)>477-478 神尾観鈴>462-475
神尾晴子>462-475 霧島佳乃>144-148 しのさいか>360-367
【国崎往人:4】>419-421 【霧島聖】>144-148 【神奈:1】>462-475
【橘敬介】>229-231 【しのまいか】>164-169
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
11参加キャラ一覧:03/05/23 18:10 ID:2wi6vJIi
その他のキャラ

屋台:
零号屋台:ショップ屋ねーちゃん(NW)>>282-285
壱号屋台:ルミラ、アレイ(NW 出張ショップ屋屋台バージョン支店「デュラル軒」一号車)、
弐号屋台:メイフィア、たま、フランソワーズ(NW 同二号車)、
参号屋台:イビル、エビル(NW 同三号車)、

管理:
長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)>>397、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
長瀬源之助(まじアン)>>161-163、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)>>397

支援:
アレックス・グロリア、篁(Routes)

その他:
ジョン・オークランド(ABYSS)、チキナロ(うたわれ)

※注
【美坂香里:8(7)※】
 香里の使用ポイントに関して議論されています。
 感想板の現状把握スレをご参照下さい。
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=5200&KEY=1048595200

鬼のリスト等の情報もこちらに記載されています。
12名無しさんだよもん:03/05/23 18:13 ID:2wi6vJIi
感想・意見・議論用にこちらをご利用ください。

葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ2
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1052876752/
葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/

過去ログ

葉鍵鬼ごっこ 第四回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049379351/
葉鍵鬼ごっこ 第三回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1048872418/
葉鍵鬼ごっこ 第二回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1048426200/
葉鍵鬼ごっこ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1047869873/

その他の情報

※ 三日目明朝から雨が降っております。いつ止むかはまだ書かれておりません。
前スレ>>216「セリオさんの天気予報」
   >>430-433「自身と不安」等をご参照下さい。
※壱号屋台(ルミラ・アレイ)の復旧状況は不明です。
※ ひかり、祐介、神奈、七瀬、矢島に関して、ただいま議論がされています。
結果が出るまでこのキャラ達を書くのは控えたほうが良いでしょう。
13名無しさんだよもん:03/05/23 19:23 ID:2wi6vJIi
失礼しました。
>>5の香奈子
>>7のセリオの使用ポイントが
それぞれ、【太田香奈子:2】→【太田香奈子:2(2)】
【セリオ:2】→【セリオ:2(2)】
に変わります。
感想板のほうをご参照下さい。
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=5200&KEY=1048595200
14逃げ手たち:03/05/23 21:27 ID:mHVFTrbC
詠美 由宇 市街地の施設。ついに縦横の追跡から逃れる。最高の作品を、サクヤに捧げよう。三日目夜明け前。

佳乃 港から逃走。月代と別れる。誰にも頼らずに一人でがんばろう。雨合羽、食料等所持。三日目早朝。

岩切 森の中蝉丸と出会う。三日目朝。

ダリエリ 場所不明。耕一と運命の再会後、夕霧探しを再開。三日目十時くらい。>52-53

アルルゥ ユズハ カミュ ユンナ 二匹 連れ立って雨の森を、いずこかへと駆けている。三日目正午前後。

クロウ 郁美 岡田軍団 森の中にて接触。そのまま合流、同行決定。先客は不明なれど、建物発見。三日目昼すぎ。

高子 夕霧 商店街。すばるの犠牲によりヌワンギから逃走成功。ダリエリを探す。三日目昼過ぎ。

カルラ&さいか 港にて、御堂と交戦。策を見破り、回避。カッパを入手。三日目昼すぎ。

ハクオロ 美凪 みちる 森。D一家と別れる。アルルゥ捜索再開。三日目午後五時。雨強く。

リサ 楓 森。リサ、楓に協力を求め、木のうろの中で睡眠中。楓は木の枝の上で見張り中。三日目深夜。
15鬼 三日目午前中:03/05/23 21:29 ID:mHVFTrbC
サクヤ 縦 横 超ダンジョンに突入させられる。夜明け前。

名雪 理緒 美咲 さおり 彰 太助 ぴろ どこかの小屋。理緒起床。雨漏り発見。他は全員睡眠中。三日目早朝。

まさき 山道。食事完了。まなみを探さなければ。コスプレ服は手放せない。早朝。

巳間 山中。柳川追撃で疲弊。登山道にぶっ倒れる。上を少女たちが飛びすぎていった。早朝。

健太郎 なつみ 登山道を鶴来屋別館に向けゆっくり移動中。ずぶ濡れ。早朝。
エディ 敬介 登山道。追撃戦中、エディ転倒。雨の山に取り残される。早朝。

雪見 真希 まなみ まなみ轟沈。真希気絶。雪見足首捻挫。三日目午前七時。
大志 瑞希 上の三人を救助にあたるかどうかを発端に口論となる。

蝉丸 森の中雨宿り中。岩切と出会う。朝。

冬弥 由綺 七海 川辺。連係プレーで祐介をゲット。朝。

聖 月代 港にて朝食後、佳乃を捜しに出発。現在地不明。現在時刻、朝以降なれど詳細不明。

雄蔵 ホテル付近の森。郁美が楽しくやっていることを知り、安心する。傘をもらう。午前九時。

祐一 舞 郁美 由依 教会付近の森。耕一を捕まえようとするも先を越される。午前十時。

エルルゥ 雅史 沙織 平原の一軒家。雅史エルルゥずぶ濡れ。エルルゥ足を挫く。沙織は寝ている。午前中。
16鬼 三日目午後:03/05/23 21:29 ID:mHVFTrbC

伊藤 貴之 玲子 思い出の湖。玲子さん、マナー違反のカメコに説教をたれる。伊藤謝罪。さて、この先どうなるか? 三日目昼前。

和樹 晴香 零号屋台で食事&作戦会議。退場も覚悟で、鬼も撃沈することにする。晴香は、そのための得物を吟味している。昼頃。

醍醐 南 鈴香 みどり 市街地のマンション。マターリ空気に当てられた醍醐、とりあえず昼食をいただくことになった。三日目昼頃。

宗一 はるか キャンプ場管理所。宗一のレーダー、ご臨終。昼頃。

すばる 商店街。仲間二人を逃がすため敢えて鬼になる。混戦。服を乾かすため屋内へ。昼すぎ。
ビル 相変わらず商店街で背景してる。昼すぎ。

デリホウライ 港の監視所。さいかの仕掛けた罠の数々にことごとく引っかかりずたぼろ。三日目昼すぎ。

御堂 港の詰め所。カルラ&さいかを追いつめるが、結局取り逃がす。とりもち銃残弾無し。

ティリア サラ 超ダンジョン。宝箱を開けたらどかん爆発。焦げ。長瀬源之助が近づいてきている。午後二時。

芹香 綾香 超ダンジョンから脱出。出現場所不明。午後三時。
北川 住井 栞 超ダンジョン。さしあたりの目的を見失い、呆然。栞存在感無し。午後三時。

高槻 繭 海沿いの道の脇にある別荘風建物。疲れのため、二階のベッドで「リ」の字になって爆睡中。午後。

久瀬 オボロ 月島 瑠璃子一行と接触。どたばたの末、月島が改心? 久瀬が疲れきり、教会近くの小屋へ休息に戻る。三日目午後。

佐祐理 海岸付近。晴子一行を襲撃するも失敗。唐辛子弾使い切る。ちょっといい話。午後四時頃。
17鬼 三日目夜以降:03/05/23 21:30 ID:mHVFTrbC
か(略 清(略 砂浜。雨の下傘も差さず、清(略は裸。もうぶち切れですよ。指すま開始。三日目午後五時くらい。
圭子 人のふり見て……。(略地獄脱出。雅史を捜し放浪中。場所不明。三日目午後五時半くらい。

あゆ 灯台。最終兵器に困惑。たい焼きを返してもらいに、香里達を探すことに。夜。

D一家 HOUSE。D、顔をレミィの胸に埋め呼吸困難。三人睡眠中。夜。

瑠璃子 美汐 真琴 葵 琴音 ドライブインにて朝食をとる。作戦会議終了。役割分担決定。四日目朝。
18イベント中:03/05/23 21:31 ID:mHVFTrbC
【マルチ クーヤ 麗子】 超ダンジョン内。麗子、マルチを捕まえ、マルチ、クーヤを捕まえる。描写無しのため詳細不明。二日目深夜。

梓 ホテル付近の森。結花とかおりを逃がすため、自ら囮となる。キャンプ場でまた会おう。三日目午前七時。
結花 かおり 梓の犠牲の下、逃走に成功。キャンプ場を目指す。疲労度激高。
【往人 ウルト 千紗 ハウエンクア】 梓を取り囲んだ。ハウエンクアと、他三人が牽制しあっている。

【智子 初音 好恵】柳也たちを取り逃がした。事後の行動不明。三日目朝。
【みさき】駅の事務所。あかりとシュンを捕まえる。食料無くなりました。三日目朝。
【あかり シュン】駅の事務所。みさきに捕まる。それはそれで良かったのかもしれない。

【ヌワンギ】森の中の小屋。トウカに捕捉される。悲鳴。三日目正午前後。
【トウカ】ヌワンギを捕捉。惨劇の幕を開ける。
【浩平 瑞佳 ゆかり スフィー】クロウらと鉢会うが、追撃は諦める。小屋へ向かう。疲弊。

【耕一 瑞穂】森の教会付近。耕一、夕菜を捕まえる。二時頃。
皐月 夕菜 抵抗空しく耕一一行に鬼にされてしまう。皐月、悔し泣き。

柳川 友里 森。転んでいる。目の前に意味不明な物体が出現し、鬼二人を殴り飛ばしてしまった。三日目夜。
【芳晴 由美子】ウィツ化している由美子、柳川を発見。迫る。
【ニウェ】一番星と化す。
【光岡】一番星と化す。

【香里 香奈子 セリオ 真紀子】森。接近する二人の逃げ手を確認。捕獲のため、各々木陰に潜んでいる。三日目深夜。
柳也 裏葉 香里一行に接近中も、いまだ気付いていない。
19名無しさんだよもん:03/05/23 21:33 ID:mHVFTrbC
スレ立て乙です。

即死防止ついでの、現状リスト投下です。
なお、晴子一行、神奈一行、ひかり及び祐介は、改定待ちにつき、リスト内に入っていません。

そのほかに間違い等あれば、ご指摘をよろしくお願いします。
20clear mine?:03/05/23 21:35 ID:TdKeV4bO
みなさんおはようございます。あれ…こんにちわ、それともこんばんわ? すいません、洞窟の中なので現在時刻がわかりません。
お久しぶりです、美坂栞です。
あ、うわっ、叩かないで下さい! そんなことする人嫌いです! わたし、これでもちゃんと反省したんですから…うう…もう赤汁は嫌です…
えっと、現在わたしは、お姉ちゃんのクラスメイトの北川さんと、その知り合いの住井さんという人と一緒に居ます。
ついさっきまで、綾香さんと芹香さんという双子の方がいたのですが、洞窟を脱出してどこかに行っちゃいました。
それで、北川さんと住井さんはなんだかしょんぼりしているんです。
聞くだけだったら、フラれてしょんぼりしてるって思うのが…普通ですよね。
でも、違うんですよ、この二人。
二人は罠を作るのが上手で、――なんか何度も自爆した覚えがあるのですが…この洞窟を罠だらけにしちゃおう、ということで頑張っていました。
それで、脱出用らしい魔方陣を芹香さんに(黒魔術を使えるそうです。漫画やアニメみたいでカッコいいですね)
いじってもらおうとしていたのですが、その芹香さんにも解析できない魔術で出来た魔方陣だったそうです。
だから、無理だと断念して、芹香さんと綾香さんは行ってしまいました。
早い話が、魔方陣に罠を仕掛けられなかったのが悔しくてしょんぼりしてるんです。
しかも、今までに洞窟に仕掛けた罠が壊されているのを見て、ダブルパンチらしいんです。
21clear mine?:03/05/23 21:36 ID:TdKeV4bO
ようやく、この二人のノリが静まるのかな、解放されるのかな、と思っています。
実はちょっと安心しています。
いえ、多分…きっと多分…悪い人たちじゃないと思うんです、根は。
ただ、暴走しやすくて、ついていけない、というか。
さっきから自爆しまくりでちょっとうんざり、というか。
北川さんもしかして、わたしを助けたことを口実にお姉ちゃんに近寄るつもりなんじゃないかな(絶対無理ですよ…)、とか思ったりというか。
要約すると、助けてくれたことには感謝していますが、流石にちょっとついていくのが辛いんです。
ですから、そろそろ落ち着いてくれるとありがたいんです。
だからわたしは、二人を慰めてみよう、そして罠作りはやめて真っ当な鬼ごっこをするようにと説得を試みることにしました。
――ほっといたら、また暴走するんじゃないか、という危惧を持っていましたので…(確信はありませんが)

「北川さん、住井さん…」
わたしは覗き込むようにして二人を見上げました。
「なんだい、栞ちゃん…」
「嗚呼、燃え尽きた…」
うわ。
いくらなんでも沈みすぎじゃないでしょうか。
それとも暴走しすぎたせいで、反動でこうなってしまったんでしょうか。
半歩ぐらいちょっと引きながらわたしは続けました。
「魔方陣の罠なんて、もういいじゃないですか」
「ああ…そうだね…」
「…もういじる気も起きない…」
極端すぎ、極端すぎです…
なんか何を言っても馬の耳に念仏という奴ですか?
しかし諦めません。この二人の暴走を止めると心に決めた以上は、登場した以上は、諦められません。
「でも、他にやることがあるでしょう?」
そう、これは鬼ごっこ。鬼となった以上は優勝するという目的が。
22clear mine?:03/05/23 21:37 ID:TdKeV4bO
「他にやること…」
「…ああ、そういえば…」
二人は、自分の体にかかった襷を眺めています。
そして、ゆっくりと立ち上がりました。
よし! いい感じです! これで真っ当な鬼ごっこの鬼になってくれれば、わたしも何とかやっていけそうな気がします!
「あったな、そういえば、あの件が」
「そうだな、あの件が」
そうです! 鬼ごっこです! 忘れてるかもしれないけどあなた達は鬼ごっこの鬼なんです!
そして、二人は声をそろえて言いました!
「「俺たちの罠をバラした奴を〆ないとな!!」」
そう、〆る…って、え゛ぇ!?
「ありがとう栞ちゃん! もう少しで俺たちはトラップマスターとしての資格を、意義を、そして誇りを! 無くすところだった!」
「罠というものは誰かがかかってこそその真価が発揮される物! そして俺たちの技術の粋を詰め込んだ芸術作品! それを遊び半分でバラすなど言語道断!」
って、え、え、え、え、あれ、あれ、あれ…?
いや資格とか無いし、意義とか誰も頼んでないし、誇りっていうかそれ埃の間違いじゃって嗚呼くだらない駄洒落ですね、
っていうか芸術ってマッドサイエンティストですかあなた達はってこの場合マッドトラップメーカー?
遊び半分じゃなくて純粋に迷惑だからバラしてるんじゃないかって思うんですけどあああそのあたりツッコミたいんですけど。
「よし! ここは全員がギャグ体質の超ダンジョン! ならば相手を本気で殺す勢いでかかっても問題ないな住者!」
「ここはトラップマスターとしての意地をかけたリーサルウェポンが必要だな北者!」
えぐぅ…ノリノリです。
お姉ちゃん、祐一さん、その他トラップに引っ掛かった皆々様…ごめんなさい、栞は力不足でした…
二人を止める事は出来ませんでした…

そして。
23clear mine?:03/05/23 21:38 ID:TdKeV4bO
「まずはこのワイヤーに潤滑油を染み込ませると言うのはどうだ住者」
「成る程。それで相手を取り囲んで火をつけるというわけか。しかしそれでは命中率が低い。リモコン爆弾というのはどうか」
ロワに、鯖に、勝るとも劣らぬ物騒な話題を繰り広げる北住=地雷原コンビ。
「ふむ、相手に直接取り付けて爆破、か」
「足下や天井、床にばら撒いて近づいたらアボーンというのもまた一興よ」
「斬鋼線もいいかもしれん」
「ダイヤモンドの粒をまぶしたとか言うアレか」
この超ダンジョンに来て完全にサディスト化してしまったらしい地雷原コンビ、物騒すぎる話題を繰り広げる。
「では、屋台に買出しに行くか住者よ」
「うむ、北者よ。栞ちゃんも行こう」
住井が、このノリに呑まれて放心状態の栞を引っ張り上げて立たせる。
「しかし金の問題は大丈夫なのか北者」
「心配ない。先ほどの綾香嬢のポイントがある。これを換金すればよかろう」
「成る程」
そして、ケッケッケ…とまさに悪魔のような笑みを零す地雷原コンビ。
3人は、魔方陣を踏み、再び外に出た。

が。
24clear mine?:03/05/23 21:38 ID:TdKeV4bO
が。

久しぶりに(?)太陽の光を浴びた3人。
すると、北川がポツリと漏らした。
「しかし、よく考えてみれば殺傷能力のある武器が、屋台に置いてあるのか住者?」
「むぅ…そういえば、この鬼ごっこのルールは、致死トラップは反則だったような」
外に出た瞬間、そこんとこに気がつく地雷原。
「どうやら少々暗い環境に居すぎた様だな住者。少し陽にあたるか」
「それもまた一興よな、北者」
そして、先ほどとは比べ物にならない爽やかな微笑(?)を浮かべる二人。
そして栞は。
(――神様、どうかこの無力な栞をお許しくださいぃ〜…もう赤汁は嫌です、頑張りますから、どうか、どうかお許しをぉ〜…)
どうやら、また放心状態の様である。

人の精神と陽光との関係は、かくも不思議なものである。
等と意味の分からぬ言葉で、落とすことにする。

【栞 地雷原コンビを説得しようとも失敗 逆に加速させてしまって放心状態】
【三人 超ダンジョン脱出 地雷原コンビ 正気に少し戻る とりあえず買い出し】
【三日目十六時頃】
【登場キャラ:【美坂栞】【北川潤】【住井護】】
25『clear mine?』作者:03/05/23 21:55 ID:TdKeV4bO
うわ、大ポカだ…
すいません、三日目はまだ雨降ってましたね。
陽の光なんて浴びる事出来ませんね…

書き直します…
>>24久しぶりに(?)外に出た3人。
雨はまだしとしとと降っている。
すると、北川がポツリと漏らした。
「しかし、よく考えてみれば殺傷能力のある武器が、屋台に置いてあるのか住者?」
「むぅ…そういえば、この鬼ごっこのルールは、致死トラップは反則だったような」
外に出た瞬間、そこんとこに気がつく地雷原。
二人は、フッと笑った。
「どうやら少々暗い環境に居すぎた様だな住者。少し頭を冷やすか」
「それもまた一興よな、北者。だが、俺は決してバラした犯人を許しはしない」
「それは同意だ」
そして、二人は空を見上げた。
森の葉に雫が落ち、ぽつり、ぽつりと頬に落ちる。
「こうしてみると、このような雨もまた心地よい」
「こんな感じは久しぶりだな、ああ、今なんか俺たち渋いキャラのような気がするぞ」
「闘い(vsトラップキラー)の前の洗礼だ。存分に心を休めようではないか」
先ほどとはうって変わって爽やかな微笑を浮かべる二人。
雨は、そんな二人を優しく(?)包んでいた。

そして栞は。
(――神様、どうかこの無力な栞をお許しくださいぃ〜…もう赤汁は嫌です、頑張りますから、どうか、どうかお許しをぉ〜…)
どうやら、まだ放心状態の様である。

水音は人の心を癒すことができるという。
やはり、雄大な自然は偉大なり、と。
意味があるようで無いような言葉で、落とす事にする。

【栞 地雷原コンビを説得しようとも失敗 逆に加速させてしまって放心状態】
【三人 超ダンジョン脱出 地雷原コンビ 正気に少し戻る とりあえず買い出し】
【三日目十六時頃】
【登場キャラ:【美坂栞】【北川潤】【住井護】】

27『clear mine?』作者:03/05/23 22:10 ID:TdKeV4bO
>>26

>>24の改訂版です。
スレが立った直後の大ポカ、どうも申し訳ありませんでした。
28そのころのさゆりん:03/05/24 00:02 ID:JQcj1tEQ
さて、旧き(略 と新しき(略 が死闘を始めているそのとき。
彼ら二人につながる人物の一人、倉田の佐祐理嬢はどこで何をしているのかというと。

「あははー。今度こそはちゃんと扱えますよね」
その、肩にひっさげている巨大な物体。
魔法のバトンなどではありえない、まがまがしき物体。
そう、それは、かの有名な個人用対戦車兵器にも似た……

すなわち、網発射装置である。

唐辛子手榴弾を使い切ったため、致し方なく、金に任せて新たな武器を購入しに行っていたため、海辺の休憩所に戻るのが遅れたのだ。
屋台には、他にもいろいろな武器があったのだが、その中からこれを選んだ訳。それは。
「ちょっと値が張りましたけど、こういう扱いやすくて、再利用可能な物の方が、長い目で見たら特ですからね」
そういう訳なのである。
発射された網は、回収し再利用可能なこと。
見た目の重量感・禍々しさの割に、意外と軽量で取り回しやすいこと。
一度に大勢を、一時にまとめて捕らえることができること。
などが、これを選んだ理由だ。
「それに、これならカウンターを喰らう恐れもありませんし」
手榴弾でえらい目にあった教訓もしっかり取り入れているのは、さすがというところか。
29そのころのさゆりん:03/05/24 00:03 ID:JQcj1tEQ
だがむろん、欠点もある。
森のような障害物の多い場所では使いにくいこと。
射程がさして長くないこと。
「とはいえ、それは手榴弾でも同じですからね」
うんうん。と頷く。
これを購入したおかげで、さすがの佐祐理財布も残金が乏しくなってしまったが、それを補えるだけの威力を発揮してくれるものと、彼女は確信している。
「大分出遅れていますからね……残り何人残っているのかは知りませんけど、挽回して見せますよ」
そして、彼女は戻ってきた。
垣本さんと途中で蜂会わなかったところを見ると、彼は別の方向へ向かっていた様ですね。
もう戻っているでしょうか……
戻っていれば、共同作戦を持ちかけることにしましょう。
あのお二人も含めて、四人組で行動すれば、今からでも挽回可能なはずです。
そう策を練りつつ、扉を開ける。
「ただいま……あれ」
そして、其処には誰もいなかった。
「……あれ?」
珍しく、間の抜けた声を出してしまう佐祐理だった。

【佐祐理 網発射装置をポケットマネーで購入】
【網発射装置の概要 射程20Mあまり。
          効果範囲は、運もあるが平均5メートル四方。
          発車後の網は、回収し再利用可。
          見た目はバズーカ砲の様。
          重量は大したことはない。】
【海近くの休憩所に帰還。誰もいないことに唖然としている】

【登場逃げ手 倉田佐祐理】
【三日目午後5時】
30作戦開始!:03/05/24 00:38 ID:JQcj1tEQ
「いやぁ、良い朝だね理奈ちゃん」
「どこが『良い朝』なのよ」
小屋の中。窓から外を見やっている英二。
腰に軽く手を当て、非常に良い顔をしている。そのまま雑誌のグラビア写真にも使えるくらい、きちっと整った姿。
ただ、髪が寝癖でぼさっとなり、
シャツのボタンが、上二つほど外れ、
外は、良い朝どころかしとじめ雨が降っていることを除けば。

「ふむ、まぁ、確かに良い朝では無いかな」
理奈の方へ振り返り、歩み寄り、座った。
「朝ご飯は?」
「材料がないのよ」
「それは困った」
「まるで困ってなさそうな口振りね」
「それが持ち味さ」
「なんでもいいけどさ……」
はぁーとため息をつく理奈だった。

「で、これからどうするつもり?」
「ん? そうだな、他の逃げ手を捕まえに行くのも良いし」
ふん、と頷いて続きを促す理奈。
「ここでずーっと、昨日の続きに興じるのも良い」
「……誤解を招きそうな言い方は止めてよ」
むろん英二は、昨夜の思い出話のことを言っているのだが。
「別に恥ずかしがることじゃないだろう? ははは」
「もう一発、張り、いきましょうか?」
「遠慮しておくよ」
英二は恐れ入った笑いで返した。背中にある、もみじの赤はもう消えただろうか?
31作戦開始!:03/05/24 00:39 ID:JQcj1tEQ
「ま、なんにせよ、食料が無いことにはどうにもね」
「そうよね」
「とにかく何か、食べ物を探しに出るしかないかな。あー。濃いコーヒーが飲みたいよ……」
眠そうに目をこする英二。わずかに、あくびをかみ殺すような仕草を見せる。
「顔、洗ってきたら」
「うん……」
外を見る。この小屋には水道もない。外の雨水で顔洗うか、と思っているころ。
「おー?」
「どうしたの兄さん?」
「いや、あれ」
理奈も窓の外の光景に集中する。森の木々。雨粒。窓枠。寝癖頭。
いらない映像はシャットアウトして。
「あー、あれ?」
理奈も確認した。森の中を歩く、一人の少女の姿。
傘を手に持ち、カッパに身を包んでいる。何か荷を背負っているのか、カッパの背中がふくれあがっている。
たすきは見えない。逃げ手だ。水色のショートカット。左手首には黄色いバンダナが巻かれている。
自分たちには気付いているのかいないのか。時折こちらに視線を向けながら、少し距離を置いて通り過ぎようとしている。
32作戦開始!:03/05/24 00:43 ID:JQcj1tEQ
「独航船らしいね」
「え?」
「護衛艦の姿も無し。かなり豊富な物資を積載しているみたいだ」
「ちょっと?」
なにやら妙な表現で言う兄に、戸惑い問う。意に介することなく、英二は続けて、
「ここは、捕獲すべきじゃないかな? 食べ物を持っているかもしれない」
と、旗艦は僚艦に問うた。
「……山賊みたいね」
「食べ物を得るためなら、強盗にでもなんにでもなるさ」
にやりと笑う英二。わずかに頭を掻くような仕草を見せ、理奈は答えた。
「ま、捕まえない訳にはいかないでしょ? こっちは鬼。向こうは逃げ手。下心を抜きにしても」
「OK。じゃ、早速始めようか」
に、となんとも味のある良い笑みを浮かべて、
「作戦行動、開始!」

とはいっても、二人がかりで無理矢理攻めるだけなんだけどね。

【英二 理奈 独行する逃げ手を発見】
【捕獲のための作戦行動開始】

【登場逃げ手 霧島佳乃】
【登場鬼 緒方英二 緒方理奈】
【三日目朝 森の一角】
33名無しさんだよもん:03/05/24 01:23 ID:qVcR7XQ8
前スレの忘らるる電波の改訂バージョン上げました。

http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=5200&KEY=1049038386&START=67&END=71&NOFIRST=TRUE

一つにまとめるとあんまり長いんで三話に分けて。



疲れた……。
34真の悪人は…?:03/05/24 01:26 ID:bNkHzGy1
「えぅ、いい加減鬼ごっこしませんか?」

もう懲りたのか、すっかり毒が抜けた栞。
しばらく、北川と住井と一緒にいたが出番は――皆無。
しかも、鬼ごっこなどやってもいない。
栞が懲りるのも無理はないかもしれない。

「うむ、俺もそろそろ罠を張り直そうを思ってたところなんだ」

と、この発言は北川。
――走ったりせず、まったりしたい。
北川の本音はこれである。

「そうだな。だが、罠を貼るにも材料がないっ! ということで、逃げ手を捕まえて資金稼ぎだ」

と、住井。
――罠を貼るのもいいが、逃げ手をじわじわと追い詰めるのも面白そうだ。
   折原の様子も気になるしな。
こちらは住井の本音。
見事に考えが違う。
っていうか、トラップキラーはどうした。
栞は動機はアレだが、住井に同意しているようだ。

「多数決――じゃ、不利…いや、面白くないからコインで決めよう」
35真の悪人は…?:03/05/24 01:27 ID:bNkHzGy1
北川が栞は住井の意見に賛成だと確信すると、多数決を止めコインを取り出し提案する。
住井は北川の意見に賛成し、北川からコインを受け取る。
住井は空中にコインを放り…右の手の甲でキャッチした。
そして、すかさず左手でコインを隠す。

「…表」

北川が少し考え、結論を出す。
住井は手を開き、出てきたのは――裏。
住井は俺の勝ちだなと宣言しようとした時。

「シールの手は古いですよ、住井さん。…私もたまにやりましたけど」

さすが、悪人。
同じ悪人同士故に、栞は住井のイカサマを見抜いてしまう。

「イカサマとは卑怯だぞ! …俺がコインをやるよ」

住井は仕方ないか、とあきらめ北川にコインを投げる。
北川が住井からコインを受け取る。
そして、北川がコインを放り、左手の甲でキャッチする。
そして、右手でコインを隠す。
既にシールは剥がされており、確立は五分五分。

「表と見せかけて裏!」

北川が残念だったな、と右手をどかす。
コインは表。

「イカサマはいい加減やめたらどうですか…コインが重なってますよ?
 多分、両面が表のやつと裏のやつを用意したんですよね?
 なつかしい手ですー」
36真の悪人は…?:03/05/24 01:29 ID:bNkHzGy1
北川はちぇっと残念そうにコインをずらす。
表のコインの下から裏のコインがでてくる。
コインを隠していた右手に両面表コインを持っており、両面裏のコインを宙に放ったらしい。
そして、コインが住井に渡ろうとしたとき。

「このままじゃ、イカサマ対決になりそうですから私がコインをします」

栞がコインを受け取り、コインを宙に放る。
栞は住井の意見に賛成なので、当てるのは北川。
右手でコインをキャッチし、左手で隠す。

「裏」

北川の答えは裏。
そして、栞が手をどかすと…。

「表、か」

出てきたのは表。
勝者――美坂栞。
したがって、結論は逃げ手を捕まえて資金稼ぎに決定。

「さっ、外にでて皆を探しますよ」

栞は北川を引っ張って魔法陣から外に出る。
北川にコインを返している栞から邪な微笑みがこぼれる。

――二人とも気付いていない、栞の足元に落ちていたシールの跡のついたコインは何を意味するのか知らないが

[登場鬼 北川潤 住井護 美坂栞]
[3人 とりあえず、逃げ手捜索開始]
37大失態:03/05/24 02:23 ID:JQcj1tEQ
「それにしても惜しかったわね」
「ま、仕方ないさ。巡り合わせだ」
郁未と祐一。森のペンションの中で、先ほどの捕り物の話をしている。
「にしても久瀬のやつ、情報多いよな。どっから仕入れてるんだか」
「それこそ巡り合わせじゃないかしら?」
「お湯沸きましたー」
「カップ麺と、みそ汁……」
そこに聞こえてくる、台所で湯を沸かしていた由依と舞の声。
教会近くでの大捕物から二時間少し経ったか。あれから森の中を適当に歩く内、何故か破壊され、修復中の屋台を発見。
HMシリーズ二台ほども出動し、持ち主共々修復作業に当たっていた。とはいえ、まだまだ完全に直るには手間取りそうだったが。
それはともかく。
その屋台跡で郁未のポイントを一つ使い、食料と飲料、それから雨具を入手して、またさまよっていると、このペンションを発見したのだ。
かなり広さのある建物で、台所もあり、部屋も三つほどある。ベッドも、布団付きで整っていて、これは良い休息場を見つけた、と、喜んだ物だ。
で、現在。
屋台で買ったカップ麺他のインスタント食品を、じゃんけんで負けた二人が調理していたのだ。
「できたって」
「ああ」
立ち上がり、台所に向かう二人。カップ焼きそばの、食欲をそそる匂いが二人の鼻腔を襲う。
「昼飯昼飯、っと」

そして。
38大失態:03/05/24 02:23 ID:JQcj1tEQ
「結構大きい建物だな」
「そうですね」
郁美が乗るウォプタルの手綱を引きながら歩くクロウ。
なぜ歩いているかといえば、もちろん、新たに出来た連れ三人のためだ。
ウォプタルの足に、女子供が付いてくるのは無理だろう?
「ご飯あるといいな」
「あー。疲れた……ゆっくり昼寝したい……」
「岡田、おばさんみたい」
「うるさいわね」
「もう少しで付くね」
岡田。吉井。松本。女子高生三人組は、お腹も空いているし疲れている。
ようやく休憩出来ると喜びながら、ペンションらしき建物へ一歩一歩迫っていく。
が、突然、クロウが三人を手で制する。愛獣の手綱を木の枝に結わえ付け(あの三人に預けておくほど、彼は無謀ではない)、郁美の手を引いて鞍から降ろす。
「しばらくここで待っててくれ。嬢ちゃん達。偵察してくっから。中に鬼がいるかもしれないだろ?」
そこは大木の真下。ここなら雨粒もたいして降っては来ない。
「はい。わかりました」
「お願いしますね」
返事に手を振って、その場を離れていく。武人らしい俊敏な動きで、ペンションの前まであっという間にたどり着く。
「あの人、何者?」
岡田が郁美に尋ねる。
「詳しくは知りません。けど……すごく、いい人ですよ」
そう答える郁美の視線の先で、クロウは、建物の窓という窓をのぞき込みながら移動し、やがて、建物の向こう側に姿を消していった。

そして。
39大失態:03/05/24 02:24 ID:JQcj1tEQ
「腹減ってるとこんなんでもおいしいよな」
「……カップ麺は、おいしい。おいしい物が多い」
「そうですねぇ。最近は、大体どれ食べても結構おいしいですからね」
「一杯六百円のカップ麺よ。ありがたく食べないとばちを当てるわよ」
「お金持ってる人は神様ですか」
ポイントだけどね。
などと談笑しつつ、リビングらしき部屋で昼食に興じていた、そのとき。
「!!!!!」
祐一が突然立ち上がった。何事かと、他の三人が祐一の視線の先を振り返る。
そこには、今まさに走り出そうとする男の姿があった。
「逃げ手だ! 逃がすな!」
そして祐一は走り出す。郁未もその後に続いて、
「え、え、え、わ、待ってくださいー」
状況把握できず混乱しつつも、付いていく由依、
「……もったいないけど」
名残惜しそうに、後ろ髪を引かれながら、舞も続いた。
40大失態:03/05/24 02:25 ID:JQcj1tEQ
「あ、戻ってきた」
「なんか、ずいぶん急いでる……」
「・・・・・・せー」
疾走してくるクロウが、四人に向かって何かを言った。しかし、雨音に阻まれよく聞き取れない。
「何ー? 聞こえないよー」
そう答えるしかない。
「・・・・・っなを   ・・・せー」
もう一度、クロウが言う。今度は少しは聞こえたが、意をくみとるのは不可能。
「何?」
とまどいながら待つ四人の目に、
「げ」
ペンションの扉から飛び出してくる、何人かの人の姿が見えた。
肩にはよく目立つ白いたすき。
「た・づ・な・を・は・ず・せー!」
「手綱をはずせ……分かりましたー!」
ようやく言葉を理解した郁美が慌ててウォプタルの手綱に手をかける。
が、
「固くて外れない……っ」
「何してるのよ急いで!」
「クロウさん、早く早くっ」
「鬼が来るよー!」」
41大失態:03/05/24 02:25 ID:JQcj1tEQ
「ったく! 俺としたことがもっ気をつけとくべきだった!」
無造作に窓の前に姿を見せるやつが、どこにいるんだよ、馬鹿!
おかげで、中にいるやつと、目と目が合っちまった。不注意にもほどがある。
これで捕まったら、大将になんて言われるか。
さって、逃げ切れるかな!

郁美は、まだ手綱をはずせずにいる。
後ろから聞こえてくる四人組が駆ける足音。
心なしか、大きくなった気がした。

【クロウ一行、祐一一行と接触】
【祐一一行、押っ取り刀で出撃】
【岡田軍団はかなり疲れている】
【ペンション内には食事がそのまま残っている】
【郁美 ポイント1つ使用】

【登場逃げ手 クロウ 立川郁美 岡田メグミ 吉井ユカリ 松本リカ】
【登場鬼 相沢祐一 川澄舞 天沢郁未 名倉由依】
42大失態:03/05/24 02:30 ID:JQcj1tEQ
郁美じゃない。郁未だ。
【郁未 ポイント1つ使用】
に変更お願いします。

やっちまった。
43ポスト・ボーイ:03/05/24 02:33 ID:sWlzDTG3
 ――降り止まぬ雨が、暗く沈みがちな気分を更に重くさせる。
「はぁ……」
 その鬱な心の澱を吐き出すかの様に、エルルゥは溜息を吐いた。
 今、エルルゥが着ているのは、膝まである大きな白い薄衣(ブカブカのTシャツ)に、やや厚手の生地の上衣(トレーナー)
だけという、何ともやや情けない物であった。だが、雨と泥で汚れてしまった服は洗ってしまったし、ズボン(ジーンズ)は
あったが、尾っぽを出す為の穴が無かった為、穿けなかったのだ。
 ……いや、溜息の理由は、今の衣服にあるのでは無い。そんな事は寧ろ、瑣末に過ぎる物だ。
 何かすれば滅入った気分も多少は晴れるかも知れないと、この家へ共に辿り着いた雅史から、ガス…火の使い方を
教わり、この家の先客で昨日から何も食べていなかったという、沙織という名の少女の分も含めて食事を作ったものの、
食べ終えて後片付けも終えてしまえば、またやる事もなくなる……再び滅入る心。
「エルルゥさん、お料理上手だねぇ。とっても美味しかったよ♪」
 エルルゥ達がここへ来た時は魘されながら眠っていた沙織せあったが、眠りから醒め、食事を済ませた今は、すっかり
元気であった。晴れ渡る空の様な元気さと陽気さが、彼女の持ち味でもある。
「どうも…」
「……。…エルルゥさん、元気無いね。どこか、具合とか悪いの?」
 明るい笑顔から一転、心配そうに眉を垂れ下げ、こちらの顔を覗き込んで来る。…表情の豊かな人だ――沙織を見て、
エルルゥは好意的にそう思った。
「いえ…、大丈夫です…」
 湯浴(シャワー)で体を温め、食事も済ませ、挫いた足も処置を済ませた。体の方は問題無い。――問題は、心だ。
「大丈夫には見えないなぁ」
 あの時の雅史と同じ様な事を言って来る、沙織。
「――ズバリ、恋の悩みだね、エルルゥさん?」
「っ……」
「あ、やっぱり? 話して話して。悩み事って、誰かにちょっと話すだけでも少しは軽く出来るよ?
 雅史くんは今シャワーだし、あたし達は女同士。気兼ね無く…ね?」
 人によっては、馴れ馴れしい、或いはお節介にも感じるであろう沙織の態度であったが、エルルゥはそう感じなかった。
寧ろ、彼女の親身な優しさが感じられ、エルルゥは溜息を一つ小さく吐いた後、重くはあったものの口を開いた。
44ポスト・ボーイ:03/05/24 02:33 ID:sWlzDTG3
「…すk…………いえ、あの…、大切な人がいて……、あの………」
「ふんふん。いいよ、エルルゥさんの話し易いペースで」
「………その、…その人、その方が、私の知らない他の人と一緒に行動してて、……それが、とても親密そうに様に見えて…」
「ふむふむ…」
「…………私…それを見たら……ヤキモチで胸が一杯になっちゃって……、頭に血が昇っちゃって………
 怒って、その人の事、酷く怖がらせてしまって…」
 言葉にする程、目が熱くなり、涙が溢れそうになる…
「うんうん。解る。解るよー。好きだからこそ、ヤキモチの強さも大きいんだよね」
「すっ…! あ、あのっ……、そんな、そんなんじゃ…」
 顔を真っ赤にして慌てるエルルゥを、沙織はにっこりと笑って見やる。
「でも、好きなんでしょ? 好きだからこそ、他の人と一緒にいると、ヤキモチしちゃうんだよね。
ましてや自分の知らない人と……解る解る。うん…、解るなぁ」
 そう言って、沙織は少し困った様な笑みを浮かべ、頭をポリポリと掻いた。
「…実はさ、あたしも好きな男の子の事、ちょっと怖がらせちゃって」
「まぁ…」
「ご飯食べて落ち着いたら、ちょっと反省した。だから、今度は謝りたいなぁ…って思ってさ」
 てへへ…と笑う沙織を見て、エルルゥの表情も少しだけ和やかに綻ぶ。
「ヤキモチで頬っぺた膨らます前に、ちょっと深呼吸――で、“好きっ♪”って言うんだ。今度はそうする」
「そう……ですね。私も…」
 やきもち焼きで、直情傾向であるのは、自分でもよく解っている。だが、そういう風に感情剥き出しで迫れば、
大半の人は怖がって当然だろう。
「ハクオロさんに、謝りたい……」
 …だが、こんな格好では…。それに、処置したとはいえ、挫いた足はまだ痛むのだ。島の何処にいるのか解らない
ハクオロを探す為に歩き回るには、無理がある。
「……でも…こんな足では…」
「あ〜…」
 沙織は、添え木を当てられて包帯を巻かれたエルルゥの足首を、痛々しげに見た。
45ポスト・ボーイ:03/05/24 02:34 ID:sWlzDTG3
「………(ぽんっ…と手を打って)――じゃ、さ、“手紙”でも書いてみようよ」
「“手紙”……ですか?」
「そう。口では照れ臭かったり何だりで言えない事も、手紙にしちゃえば伝えられる事もあるみたいだしね」
「………でも、誰が届けてくれるんでしょうか?」
「え? それは――」
 ――と、沙織が言い掛けた時、シャワーから上がって来たTシャツにジーンズ姿の少年が、濡れた洗い髪をタオルで
拭きながら二人の元へ戻って来た。
「………? どうしたの? 二人して僕の事じっと見て…」
 黙ったまま凝視して来る二人の少女に、雅史は小首を傾げるのだった。


「……なる程。ハクオロさんって人にこの手紙を…」
 ――あれから、雅史の髪が自然に乾く程の時間が経ち、その間に書き上げられたエルルゥの手紙――家の中にあった
ノートとエンピツで書いた――を見つめ、雅史は静かに呟いた。
「エルルゥさんは、足を怪我してるでしょ? だから、これ以上歩き回る訳にはいかないし」
 沙織は沙織で、祐介を探すという目的がある。
「――ここに、エルルゥさんを独りきりにさせちゃう事になるんだけど…」
「…エルルゥさんは、それでいいの? 直接会った方が…」
 雅史の反問に、エルルゥは静かに首を振った。
「…会えば、また……起こっちゃいそうですし…。それに、この手紙を読んでくれた後の方が、
 …素直に……なれそうな気がするんです」
 手紙には、エルルゥの熱い想いの丈が、溢れ出すままに綴られて――いる訳ではなかった。
 淡々と……否、切々と、静かで丁寧な文字と文体で記された、謝罪と、恋慕の紡ぎ。…却ってそれだけに、ハクオロへの
想いの深さが見て取れる物であった。
 無論、雅史も沙織も、手紙に何が書かれているのかは解らない。解らないが、知る必要も無い。エルルゥがハクオロを
どう想っているのかは、彼女の真摯な眼差を見れば解る事だったからだ。
46ポスト・ボーイ:03/05/24 02:35 ID:sWlzDTG3
「………」
 雅史は、ほんの少しの間、考え込んだ。
 ぶっちゃけてしまえば、雅史にはこの依頼を引き受ける理由が無い。
 …だが、断る理由もまた、無かった。
「――うん、解った。ハクオロさんを探して、この手紙を届けるよ」
「ほっ、本当ですか…!? あ、有難う御座います…! 有難う御座います…!!」
「おおっ!? 流石は雅史くんっ! 漢だねぇっ! 好かったねエルルゥさん!」
 目の端に涙まで浮かべて喜ぶエルルゥを見て、雅史は相好を崩した。沙織など人事であるにも拘らず、エルルゥに
抱きついてまで喜びを顕わにしている。
「…只、巧く見つけられるかどうか…」
「いいんです…。言ってしまえば、鬼ごっこ終了後にでも渡して頂ければ…。
 それに、今は引き受けて頂けただけでも嬉しくて…!」
 遂に、ポロポロと涙を流し始めてしまうエルルゥ。
「……(…これは、ちゃんとハクオロさんに届けてあげないと、エルルゥさんに申し訳ないな)」
 ――決して、“面倒臭い”という考えを浮かべない、遺伝子レベル級にまでの善人がそこにいた。
47ポスト・ボーイ:03/05/24 02:35 ID:sWlzDTG3


 …エルルゥの手紙は、雨に濡れぬ様ビニール袋で三重に包み、水と食べ物と一緒にザックの中へと仕舞い込んだ。
そして、家の中で見つけたカッパを着込む。
「――よし、準備OK」
「んっ。私もOッKだよ」
 沙織も、雅史と似た様な出で立ちだ。ザックにカッパ。持っていないのは、あの手紙だけ…
「…宜しくお願いします」
「――きっと、届けるから」
 深々と頭を下げるエルルゥに、雅史は優しく微笑んだ。
 ――そして、二人の後姿は、エルルゥが見送る中、雨霧のヴェールの奥へと消えていった…



【平原の一軒家より】
【エルルゥ  ハクオロ宛の手紙をしたためる】
【雅史  エルルゥの手紙を届ける為にハクオロを探す(ハクオロの人相はエルルゥから聞き知らされている)】
【沙織  体力回復。祐介の捜索続行。雅史と共に行動するので、森や暗い場所等、苦手な所も捜索可能に(でも怖い)】
【日時:三日目 午後  天候:雨】

【登場キャラ  【佐藤雅史】 【新城沙織】 【エルルゥ】  】
48名無しさんだよもん:03/05/24 08:49 ID:FU62un2E
(・∀・)イイ!
49聞いてオガタリーナ♪:03/05/25 21:54 ID:H01KtQWd
「聞いてアロエリーナッ、ちょっといいにくいんだけど〜♪」
ちょっと懐かしいCMソングを歌いながらスキップスキップ。
この女の子の名前を、霧島のかのりん。
かのりんは、森の一角を一人進んでいました。
お姉さんの聖さんの過保護ばっかり受けてちゃ駄目だ、一人で頑張ろう、ということで一人で逃げています。

雨が降ってきたから、かのりんはさっき友達になった月代ちゃんにもらった雨合羽を着て、傘も忘れずに取り出しました。
さてさて、そんなかのりんが森の一角に見つけたのは小さな小屋。
かのりんは悩みました。
(うーん、休みたいなぁ。でも鬼さんがいたら嫌だなぁ…)
かのりんは月代ちゃんとの約束を思い出します。
『あたし、ぜーーったい、佳乃ちゃんを捕まえるからっ!』
(そうだよね、月代ちゃんとお姉ちゃんが追いかけてくるの待たなきゃね…)
かのりんはうんうん、と頷きました。
(よーし! もうひと頑張りだよぉ!)
かのりんはその小屋から、ちょっと離れて進んでいきました。

   聞いてアロエリーナ♪ ちょっと言いにくいんだけど♪
50聞いてオガタリーナ♪:03/05/25 21:55 ID:H01KtQWd
その時、かのりんの耳にそれは綺麗な歌声が聞こえてきました。
かのりんが歌っていた歌と同じです。
「あれぇ?」
かのりんは首をかしげて、そっちの方向へ進んでいきました。
すると、それはそれは綺麗な女の子が歌っているではありませんか。
ちょっと髪の毛がぼさぼさだけど、ステージに立って歌ったらとてもきらきらしていそうな女の子です。
かのりんは、そっちに近づいてみました。
すると、女の子がかのりんを見て、にっこり笑いました。
「朝早くから、ご清聴ありがとうございます」
そして、ぺこりとお辞儀をしました。
でも、かのりんは、その女の子を知らなかったので、
「君、だぁれ?」
と聞きました。
ぴしっ、とそんな音が女の子から聞こえたような気がしました。
女の子はお辞儀をした姿勢のまま固まっています。
でも、女の子はゆっくりと体を起こすと、
「こちらをどうぞ」
と言って、何かを持ちながら歩いてきました。
かのりんはビックリしました。
女の子は、鬼の襷をかけていたのです。
そして、女の子が持ってきたそれは、まさに鬼の襷だったのです!
「うわぁ、鬼さんだよぉ」
かのりんがそう呟いたまさにその瞬間!
後ろから、白い髪の毛をした眼鏡の男の人が襲い掛かってきたのです!
「うわわ、挟みうちだよ〜」
かのりんはなんとか男の人のタッチをかわすと、精一杯走りました。
「わ〜、君たちを挟み撃ち鬼さん1号2号に任命するよぉ〜」
かのりんは二人にそう言いながら頑張って走りました。
51聞いてオガタリーナ♪:03/05/25 21:56 ID:H01KtQWd
「ああっ! もうっ! こんな余計な作戦しなくてもとっ捕まえられそうだったのに!」
「ちょっとした作戦ミスだよ、良くある事じゃないか理奈ちゃーん。気にしたら負けだって」
「気にするわー!!」
緒方理奈、沸きあがる怒りを抑えきれずに、チェイス中にも関わらず英二に張り手を飛ばした。
それには、理奈を見た佳乃のコメントの一発目が、
『君、だぁれ?』
であったことへのショックが大きすぎて、上手く立ち直れていないことも一因している。
いくらトップアイドル緒方理奈と言えど、TVに興味の無い人種にはあまり知名度が高くないことぐらいは了解していた。
だが、分かっているのと、実際に目の前に現れて言われたのとではショックが違う。
頬には光る雫が落ちているように見えた。雨のせいかも知れなかったが。

「うーん、まさか理奈ちゃんのことを知らない娘がまだいたなんてなぁー…」
緒方英二は、理奈がゴキブリホイホイの要領で、おた縦・横をとっ捕まえた顛末を聞き、それを応用した(?)作戦を敢行したのであった。
佳乃が、鼻唄として歌っていた『聞いてアロエリーナ♪』を聞き取り、それを理奈に歌わせ、
『キャー! 緒方理奈だー!! マジ!? マジー!?』
とか言って舞い上がっているところにサイン入り襷を渡す。(佳乃はそんな口調じゃないけどな)
まぁそういう算段だった。
目の前の少女――佳乃はそれほど芸能界に疎そうにも見えなかったし、上手くいくかと思っていたのだが、のっけから
『君、だぁれ?』
である。
作戦失敗の悔しさもあるが、自分が育てたトップアイドル緒方理奈。
それを知らないといわれるとやっぱりキツかった。自動的に自分のことも知らないってことになるし。
「人を見る目はあると思ってたんだけどなぁ〜」
「全然なかったんじゃないのー!」
チェイス中にも関わらず張り手がもう一発飛ぶ。ああ、両頬が痛い。
52聞いてオガタリーナ♪:03/05/25 21:57 ID:H01KtQWd
「うう…兄さんの余計な作戦に付き合ったせいで要らない恥かいちゃったわよ…」
「落ち着きなよ理奈ちゃーん。また作戦考えるからさー」
もう理奈は反応しなかった。
愛想つかした、そんな感じである。黙々と目の前の少女を追いかけている。
が、目の前の少女も案外足が速い。いや、それはひょっとすると、こちらが雨にぬれている所為かもしれない。
それとも、やっぱりショックは隠しきれないのか、全力で走れないのかもしれない。
「理奈ちゃーん」
もう一度呼びかける。
「理奈ちゃーん…?」
無反応。
ならば。
「聞いてオガタリーナ♪ ちょっと言いにくいんだけど♪」
「だから変な替え歌を歌うなー!!!」
もう一発張り手が飛んだ。

【佳乃 緒方兄妹に挟み撃ちにされるも、なんとか回避してダッシュ】
【緒方兄妹 挟み撃ち鬼さん一号二号に任命】
【理奈 『君、だぁれ?』発言に大ショック 佳乃を追うも同様が隠し切れない】
【英二 『ゴキブリホイホイのような作戦・Ver.2』失敗 チェイス中に平手打ち3発喰らう】 

【登場逃げ手:霧島佳乃】
【登場鬼:緒方理奈 緒方英二】
53名無しさんだよもん:03/05/26 05:57 ID:lqafDXIq
(・∀・)イイ!
「ねぇー、美凪。ちょっと疲れちゃったよ」
「……確かに、ずいぶん歩きましたね」
 Dとの一件から数時間と言ったところか。
その間ハクオロ達は、短い数度の休憩を挟んで雨の森の中を移動していた。
「ハクオロさん……今夜の寝る場所はどうしましょう?」
 美凪は前を行くハクオロに声をかけたが、
(ディー……お前は……) 
 ハクオロは考え事をしていてそれに気づかない。
(愛する人のためか……)
 ハクオロは目を閉じ、首を振る。
(そのために、雨を止ませるか。それは愚かな行為だ)
「ハクオロさん……?」
再度の呼びかけにも、ハクオロは反応しない。
(だが、ディー。私はその愚かさを笑えぬ)
 自分もまた、愛する人のためにずいぶんと愚行、悪行を重ねてきたのだから。
「変態ハーレム男さん……?」
(願わくば、幸せな時を。ディー、私はそれを祈ってるぞ)
 管理者から彼に罰が下されねばよいのだが。
かつての仇敵のためにハクオロはそう、真剣に願った。
 神であるハクオロとはいえ、今まさにこの瞬間、
己の空蝉がふきふきをすべく幼女のかぼちゃぱんつに手を掛けた事等、知るはずもない。
 目を閉じ沈黙を守るハクオロに、なおも美凪は声をかける。
「主人公のくせに三十路越え果たして被り物なんてやってる色物男さん……?」
(しかし、愛する人か……)
 ふと、エルルゥのことを思い出す。
 どうしているだろうか。昨日は散々追い掛け回されて辟易したものだが、
見かけなければそれはそれで寂しいものだ。
「くすん……無視されてしまいましたとさ」
「美凪を無視すんなゴルァ!! えぐりこむように、フン!!」
 リバーブローがハクオロの鳩尾にめり込んだ。
「先程の方達のことを……考えていたのですか?」 
「ああ……そうだ……」
 美凪の問いに、痛みをこらえてハクオロは答える。
「……素敵な人たちでした……まるで家族のようで」
 憧れてしまいます、とため息をつく。
「ん? 美凪はああいうのが好きなのか?」
「……夫婦に娘の三人で川の字になって眠る幸せ……」
「ふむ」
「……に襲い来る借金取りの魔の手……」
「ふむ?」
「……から逃げて家族三人は稚内の地で……」
「稚内って北海道の先っぽだよね」
「パチパチパチ、よく知ってましたねみちる」
「えへへへ」
「……そこで小さな酒場を開く……そんな人生萌え?」
「いや、首を傾げられてもな」
「……ぽっ」
「頬を染められてもな。まあ、借金は確かにあるのだが……」
 ハクオロはため息をついた。アルルゥから財布を取り返さなくてはならないのだが、
この島で一人の人間を探そうとすることがどれだけ困難なことか。
 そもそも、アルルゥが既に鬼なってしまっている可能性だって十分に高い。
「やれやれ、本当にめまいがしてきたな。どこか雨がしのげるところでゆっくりと休むとするか」
 寝泊りできそうな家屋を見つけたのは、それからかなりたってからのことだった。
どうやらこの手の家屋が全くない地域に移動していたらしい。
 平地にぽつんとたっているその家屋は、
(逃げ手の立場としては、あまりよい条件とはいえないのだが……)
 こう見晴らしがいいと、家屋に出入りしているところが誰かに見られてしまう可能性が高くなってしまう。
 とはいえ、特にみちるが疲れてしまっている。雨の夜の視界の悪さを信じるしかなかった。
「明かりがついていないから鬼がいないと考えたいが、念のためだ。
調べてくるからここで待っておくように」
「うにゅ……早く帰ってきてね」
 目をこすって、みちるが答える。
「ああ……借金苦から泥棒にまで落ちてしまう貧乏一家……萌え?」
 目にハンカチをあてて、美凪が答える。
 ハクオロは苦笑すると、
「そうだな。では捕まらないように注意して、早く帰ってくることにしよう」
 そう答えた。

 音を立てないように慎重に扉を開ける。さっと玄関を見回すが靴はない。
 ハクオロは念のために靴を持ったまま家に上がると、忍び足をたてて一階の各部屋を見て回る。
 台所でハクオロは足を止めた。
(誰かが使った後があるな……)
 もっともその誰かが今もここにいるかどうかは分からないが。
 ハクオロはそこでライターを見つけると、懐に入れた。
(後は二階か)
 少し慎重すぎると思うが、用心するにこしたことはない。
「家族のためであるしな」
 美凪の冗談に合わせるようにハクオロは少し笑ってつぶやくと、階段を上がった。
 二階にある部屋は三部屋。右手の部屋に入るが、誰もいない。
が、扇風機が回されていて、一足の靴がそこで乾かされていた。
「……!? これは……!」
 本来ならそこで逃げるべきだった。ハクオロがそうしなかったのはその靴に見覚えがあったからだ。
 慎重に次の部屋を開ける。そこには―――
「やはり……な」 
 ベットに横たわり寝息を立てるエルルゥの姿があった。

 しばし逡巡した後、ハクオロは部屋に入った。
「エルルゥ?」
 ささやいてみるが、相当深く眠っているのだろう。起きる気配もない。
 起きられても困るのだが。
(しかし、寝るのにはずいぶん早い時間だと思うが……)
 ふと、室内のテーブルに何か置かれてるのが目に入った。それにこの匂いは……
(薬草か……?)
 エルルゥの様子を注意しながら、ハクオロはライターをつけた。
テーブルの上にはおそらくエルルゥが持参したのだろう、
特徴のある数種類草花や、それを煎じる器具が置かれていた。
(これは……腫れを引かせる薬草のはずだが……)
 怪我をした自分に対してエルルゥが使ってくれたことが思い出される。
(エルルゥが怪我をして、自分に使ったのか!?)
 胸騒ぎに勝てず、ハクオロは危険と知りながらライターでエルルゥの顔を照らした。
「うぅ……ん……」
 少しまぶしいのだろうか、エルルゥが寝言をいった。だが、それだけで起きる気配はない。
「疲れているのか? 顔色がよくないな」
 その顔に涙の跡があるように見えるのは、ライターの頼りない炎のゆらめきがみせる錯覚か。
 ハクオロは、首を振ってため息をついた。
「エルルゥ……無茶をしたのだな?」
 答えが得られぬことを知りながら穏やかな声でささやきかける。
「全く、二号さんに子供の認知などと美凪の冗談に本気にして……
それで無茶な追い方をして怪我をしたのでは基も子もないだろう……?」
 掛け布団が乱れていることに気づき、それを直そうと手をのばす。
 自然、ハクオロはエルルゥに覆いかぶさる形になる。
「だが、趣味のよい冗談ではなかったな……すまぬ。
どうも私はお前のことを傷つけてしまうな。情けないことだ」
 掛け布団を直してやると、そっとためらいがちにエルルゥの頭に手を伸ばし―――
「触れてしまえば、鬼になりますよ」
 そんな静かな声が、ハクオロの背中に届いた。

「借金に苦しむ一家を見捨てるのは……駄目パパです……」
 いつものように、冗談めかした言葉と裏腹にその声は何の感情も含まれない。
「……美凪か」
 眠っているエルルゥに伸ばした手をひくと、ハクオロはふりむいた。
暗闇の向こうに立つ美凪の表情は見ることができない。
「はい……遅かったので」
「そうか。すまないな」
 美凪は首を振ると、言った。
「エルルゥさんがいらっしゃるならここにはいられないです……食べ物だけゲットしてはやく逃げましょう……」
「そうだな。みちるも待っているしな」
 ハクオロは立ち上がると、依然眠ったままのエルルゥの方に振り向き、
「体を大事にな、エルルゥ。また会おう」
 最後にそうささやくと部屋の外に出た。
「うにゅー! おそーい!!」
「すまんすまん、食料をとってきたからそれで許してくれ」
 プンスカ起こるみちるに、ハクオロは笑って謝る。
「うにゅ……あの家駄目だったのか?」
「はい、先客様がいらっしゃったので」
「そっかー……じゃあ、まだ歩くのか?」
「そうだな……」
 ハクオロは、みちるを抱き上げるとあっと言う間に肩車をしてしまう。
「うにゅー!! おろせー!」
「まあまあ、役割分担だ。私が歩くから、お前は傘をさせ。美凪、行くぞ?」
 肩の上で暴れるみちるを笑ってなだめながらハクオロはスタスタと歩き始めた。
 その光景を見ながら、美凪は口の中でそっとつぶやいた。

……冗談にされてしまいましたとさ

【ハクオロ、美凪、みちる 平地の一軒家で眠っているエルルゥと遭遇、食料を手に入れ他の宿を探す】
【エルルゥ 睡眠中。薬草で足を治療】
【三日目夜】
【登場 ハクオロ、遠野美凪、みちる】
【登場鬼 【エルルゥ】】
60名無しさんだよもん:03/05/27 09:19 ID:LOVbjLt5
(・∀・)イイ!
「ほっ…解けないっ……!」
 泣きそうな顔になりながら郁美が木に結ばれたウォプタルの手綱を解こうとするものの、堅く結ばれているそれは、
解ける気配を見せなかった。クロウが力を込めて結んでしまった事に加え、郁美自身が非力である所為であった。
「あーっもう! 何やってんのよ、どきなさい!」
 もたつく郁美を強引にどかせ、岡田が手綱の結び目に取り付く。
 ――鬼の様な形相で岡田が手綱を木から解くのと、クロウが彼女達の元へ辿り着いたのは、ほぼ同時だった。
「大ポカしちまったぜ!」
 来るや否やウォプタルに飛び乗り、間を置かずに郁美の腕を掴んで騎上へ引き上げる。
「どーせ思い切り目が合っちゃったりしたんでしょ!? どぢっ!!」
 見事に真相を言い当てる岡田に、クロウは返す言葉も無い。バツの悪そうな苦笑を浮かべる彼に、岡田は更に
畳み掛ける様に言い放った。
「二手に分かれるわよ!」
「言われるまでもねぇ! ――巧く逃げてくれよ、嬢ちゃん達!」
「そっちこそ、その子をしっかり守ってやんなさいよね!」
 クロウは手綱を握り直し、ウォプタルを走らせた。――同時に、疲れた体に鞭を打ち、岡田軍団も走り出す。
 束の間、行動を共にした両者は、再会の約束さえ取り交わす事無く、別々の方向へと散開した。
 男の逃げた先に、一匹の恐竜の如き生物と、四人の少女が佇んでいるのが見えた。そして、合流するなり何か
言い合った後、別々の方向へと逃げ出した。恐竜+男と少女、そして、残る少女三人組とに。
「二手に分かれた…!?」
「見て、あの三人組…!」
 祐一と並走する郁未が、三人組の少女達の後姿を見やり、声を上げた。
「この前、せっかく取り囲んだのに逃げられちゃった人達ですね…!」
 そう言ってから由依は、はっとして、舞を横目見る。…が、舞は表情を変える事無く、前を見据えて走っていた。
「…恐竜さんは、足が速い」
「なら、追うのは――」
「――三人組の方よ!」
「雪辱戦ですね!」
「はちみつくまさん。…今度こそ捕まえる……!」
 祐一達四人は、恐竜に乗った二人ではなく、自前の足で走る三人組の方を追跡し始めた。
 ――その三人組の後姿は、体力を大分消耗しているのか、以前追い駆けた時より早くはなかった。
 追い着ける…!――勝利を確信し、祐一と郁未の口元が笑みに歪んだ。

「っ…、ヤバッ…! こっちの方に来た!」
「うぇ〜んっ! 前に苦労して逃げたのに、何でまた同じ人達に追い駆けられるのよぅ〜っ!」
「ううっ…、シャワーと着替えが出来ると思ったのに…」
 苦々しくボヤきながら疾走する、岡田軍団三人娘。だが、今一スピードが上がらない。――体力がそろそろ限界なのだ。
「このままじゃ…追い着かれる――…?」
 再度、チラと背後に迫る追跡者へ目をやる吉井。――追跡者の影は四つあったはずだが…今は、三つ。
 一人、少ない…!?――そう認めた吉井の背筋に、悪寒が奔った。
「岡田っ、松本っ…――ストップ!!」
「なっ、何よ…!?」
 両手を広げて急制動を掛ける吉井に、岡田と松本も、目を丸くしつつ急ブレーキ。
 ガサァっ…!――
 と、急停止した三人の進む先にあった茂みの影から、人影が飛び出して来る。
「ここ迄ね…!」
 不敵に笑う郁未だった。
 三人娘の消耗した体力を見て取り、そして自らの脚力を全開にして脇から追い越し、先回りを果たしたのだ。
後続の祐一達も、三人娘を必要以上に追い立てぬ様、追跡のペースをセーブしていたらしい。
「くっ…! やられた……!」
 程なくして追い着いた祐一達と前を塞ぐ郁未を睨みやり、岡田が呻いた。
「貴女達を取り囲むのは、これで二度目ね」
 ちょっぴり愉悦を表にしながら、郁未。
「一気に3ポイントもゲットですねっ!」
 チャキッ…と、唐辛子噴霧器を構えながら、嬉しそうに由依が微笑む。
「今度は油断しない」
 言葉通り、一切の油断も示さぬ気迫を双眸に込めながら、舞が静かに構えた。
「――さ、天沢。早くタッチしてくれ」
「解ってるわ」
 祐一に促され、郁未が三人娘の方へと近付いて来る。
 ――それを見やった吉井が、微かに目を輝かせた。
「……チームでは、貴女が主にポイントをゲットしてるんだ?」
「そうよ。それがどうかした?」
「天沢っ…!」
 吉井の問い掛けに応える郁未に、祐一がやや咎める様な声を上げる。――以前、そういう風に問い掛ける事で心理的に
揺さ振られ、逃げ手に出し抜かれた事があったからだ。その所為で一時的にチーム内に亀裂が入った。…結局は団結を
深める事になった事件であったが、注意しておくべき事であるには変わりない。
 大丈夫よ――不敵に微笑みながら、郁未はアイ・サインを祐一に送る。…実際、今自分に問い掛けて来ている少女は、
あの時の女性より話術やシビアな心理戦に長けている様には見えなかった。
 …郁未のその認識は、確かに間違ってはいなかった。――だが、それは同時に大きな誤解でもあった事を、彼女は身を
以て知る事となる…
「………岡田、松本。…まだ走れる?」
「…キツイけど、何とか」
「逃げられるの…?」
 苦しげに顔を歪める岡田と不安げな松本に、吉井は、フ…と微笑んだ。
「吉井…?」
 その微笑に松本は何か、ゾっとする物を感じた。不気味であったからではない。――余りにも透明であったからだ。
「“逃がす”――わ」
 呟くなり、吉井は親友二人の腕を引っ掴み、駆け出した。
 郁未の方へと――
「へ――?」
「そんなに欲しけりゃ、くれてやるわよ!」
「「よよよ吉井ィィィーーーー〜っっ!!?」
 軍団での“良識”担当であるはずの吉井、御乱心。彼女に腕を掴まれて走る岡田と松本が、悲鳴を上げた。だが――
「だけど…他の二人はやらせないっ!!」
「どわぁぁあっ!?」
 叫ぶなり、吉井は親友二人から手を放して郁未に突進し、組み付いて地面を転がった。
 ――余りの事に目を見開いて唖然とする、他の祐一チームの面々。
「何してんの! 早く逃げてっ!!」
 唖然としていたのは、岡田と松本も同様であった。――が、吉井に一喝されて我に帰り、一瞬苦悶するかの様に躊躇
するも、背を向けて走り出す。
「にっ…逃がしません!」
 いち早く我に帰った由依が、逃げる二人に唐辛子噴霧器の噴射口を向けた。この雨の中、どれ程効果が減衰してしまう
のか解らないが、何もしないよりはマシである。
「させるかぁっ!」
 あお妙にゴツイ代物が何を吐き出すのか、吉井は知らなかったが、“ロクでもない物”であるに違いないと断定し、素早く
靴を脱ぎ、手首のスナップを利かせて由依に投げ付けた。
 スパこぉぉぉぉんっっ!!――
「きゃんっ…!?」
 吉井の投げた靴は、見事に由依の頭に命中。堅い箇所に当たったか、悶絶して沈む。
「ぐっ…! だったら“不可視”で足元を吹き飛ばして――!」
「させないって言ってるでしょーがっ!」
「あひゃっ…!? あひゃひゃヒャヒャヒャッッ…!! やややめてぇぇ〜んっ!!」
 吉井に馬乗りになられていた郁未が不可視の力を集中させたが、放たれる寸前に吉井からくすぐり攻撃を受け、集束
させていた力を霧散――否、狙いを付けていた岡田と松本の足元の地面ではなく、あらぬ方向へ暴発させた。
 ドカッ! バキバキィッ…!! ドドぉーーーーーーんんんっ!!!――――
 暴発した不可視の力は、逃げてゆく二人の背後の地面や木の枝を吹き飛ばし、そして一際大きな力が、トドメとばかりに
太目の木の幹を爆発させて打ち倒してしまった。
 倒れた木によって遮られてしまった向こう側へ消えてゆく、二人の影を見送りながら、舞がやや呆然としつつ口を開く。
「……また逃げられた」
「――でも、一人ゲットしたわ」
 ちょっと疲れた様な声で答えるのは、相変わらず吉井に馬乗りにされた郁未であった。
「もうどいてくれない?」
「あ、ごめん」
 郁未と苦笑し合いながら、吉井は彼女の上から体を退かせた。そして、立ち上がろうとする郁未に手を貸してやる。
「……こんな捨て身の反撃で仲間を逃がすなんてね」
「…いいのかい? これで優勝は無くなっちゃったけど?」
 追い詰めたはずだったのに逆にしてやられた悔しさからか、少しからかう様な口振りで祐一が言った。
「捕まえようとしておいて、そんな事言うの?」
 逆に咎める様に反問され、祐一は肩を竦めて苦笑する。――それを横目に見やりつつ、吉井は投げた靴を履き直し、
痛そうに蹲っている由依の頭を撫でてやっていた。
「…私達はね、そう簡単に捕まる訳にはいかないのよ。三人が唯の一人になっても、逃げ続ける――…そう決めたの」
「……自分を、犠牲にしても?」
「そう」
 静かに訊ねて来る舞に、吉井は静謐な笑みを以て答える。
「私達だってチームだもの。最後の最後で、私達の誰かが残っていれば、勝ちなのよ」
「…大したガッツだわ」
 吉井に組み付かれて地面を転がった所為で、吉井と同じく郁未もびしょ濡れ泥だらけであったが、その顔に不快の色は
無い。寧ろ、賞賛する色さえ浮かべていた。
「――ね、もし良かったら、私達と組まない?」
「…おーい、天沢さん?」
 祐一が困った風に声を掛けて来るが、黙殺。郁未は、何やら吉井の事を気に入ってしまった様である。
 …しかし、吉井はそんな郁未に、申し訳無さそうに首を振って見せた。
「………ううん、遠慮しておく。ゴメンね」
「そっか…。…じゃあ、これからどうするの?」
「そーね。あの二人を追うわ。付き合い長いから、大体の行動パターンとか行き先が解るし。――で、影からサポートする」
 ――…そう答え、吉井は襷を受け取った後、祐一チームから離れて行った。


「……よし、じゃあ、あの子をこっそりと追跡」
 吉井を見送った後、祐一が静かに提案したが――
「却下」
「それはちょっと…」
「ぽんぽこたぬきさん」
 一斉に拒否されてしまった。
「何でだよ…!? 巧くすれば更に2ポイント追加だぞ!?」
「あのねぇ…、あの子達を落とすのは結構ホネだって解ったでしょ? 深い事情は聞けなかったけど、さっきみたく
死に物狂いで逃げに掛かって来るし、一人は逃げに徹する必要も無くなったから、全力で邪魔しに来るわよ?
 ――言ってたじゃない、サポートに回るって」
「もう靴でドツかれるのはヤですよぅ…」
「…一人捕まえられただけでも、充分だと思う」
「解った解った。手強い相手だって言いたいんだろ?」
「…それに――」
「「「 それに? 」」」
 言い掛けた舞に、皆の目が集中する。
「………もう、ラーメン、のびのびかも…」
「「「 あ゛ 」」」

 ――吉井は言葉通り、親友二人の追跡を開始していた。
「取り敢えずは着替えをしたいわね…。疲れてるけど、休むのは二人と合流してからでもいいか」
 二人の行く先は、何となく予測出来る。着替えを行って多少遅れても、それ程時間を要さずに追い着けるだろう。
 …鬼役となっても、逃げ手をサポートする事は出来るのだ。その事をもっと早く考え付いていれば、雅史との悲しい別れ
をせずに済んだかも知れない…
「――ま、言わぬが花ってやつかしらね」
 鬼役の雅史と行動を共にしていたら、その和やかさで自爆してしまいそうだ。特に松本辺りが。
 ――そんな事を考えてクスクスと独り笑いなどをしつつ歩いていると、木々の間に隠れる様にして、小さな小屋が
建てられてあるのを見つけた。
「………誰も…………いないわね」
 それに加え、何も無い。タオルが幾枚かと、傘が数本。そして――
「………服?」
 髪の箱に納められた、綺麗に畳まれた衣服。
「これ…………“ガ○パレ”の服?」
 思わず唖然とする吉井。衣服――と言うより、コスプレの衣装である。
 …だが、作りはしっかりしているし、使われている生地もちゃんとした物だ。――背に腹は変えられぬ。
 吉井は、小屋の周りに人影が無いのを確かめ、ちょっと顔を赤くしつつ、泥だらけの服を脱いだ。更に、雨が滲みて
びっしょりになった下着類も脱いで全裸に。タオルで体に着いた雨滴を拭き取り、ザックから真新しいブラとショーツを
取り出して身に着け、脱いだ衣服と下着類は畳んでザックにしまった。
 数分後――
 その服をしっかり着込み、髪もいつものタコさんウィンナーヘアーではなく、ポニーテイルにした吉井。
 そして、手鏡で自らの姿を確認し、表情を引き締め――
「…我らは誇り。誇りこそ我ら。…どの法を守るも我が決め、誰の許しも乞わぬ。私の主は私のみ。
 …文句があるなら、戦おう。………………………………――――ブっ!」
 照れ臭さの余り、吹き出して爆笑する、“ガ○パレ”コスプレイヤーが一人、そこにいた。


【クロウ・郁美ペア、及び、岡田軍団  鬼役・祐一チーム【祐一】【郁未】【舞】【由依】に捕捉される】
【クロウ・郁未ペア ウォプタルに乗って何処かへ逃走】
【祐一チーム 岡田軍団を追跡】
【岡田軍団 祐一チームに包囲されるが、吉井の犠牲的行動によって岡田、松本の二名は逃走に成功】
【吉井 鬼化】 【郁未 吉井を捕獲、ポイント+1】
【吉井 他二人をサポートする為に、追跡を開始】
【吉井 “ガ○パレ”の服を入手。着替えてこれを装着】
【吉井 傘を逃げる時のどさくさで失くすが、“ガ○パレ”の服を手に入れた小屋で新しい傘を入手】
【吉井が失くした傘は、クロウと一緒の郁美が持っている】
【祐一チーム ラーメンはどうなった…!?】
【三日目:昼過ぎ〜昼下がり  場所:森  天候:雨】

【登場逃げ手:クロウ、立川郁美、岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ】
【登場鬼:相沢祐一、天沢郁未、川澄舞、名倉由依】
>>61-68
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=5200&KEY=1049038386&START=72&END=77&NOFIRST=TRUE

ちょっぴり直しました。
ラーメンとヤキソバでは違い過ぎるだろ、という訳で…
それと、“髪の箱”ってなんじゃい。…怖過ぎるだろ、という訳で…
容量の無駄遣い、ごめんなさい!
70名無しさんだよもん:03/05/31 02:17 ID:KLsJbHKN
ん〜、取り敢えずメンテです。
71名無しさんだよもん:03/05/31 12:09 ID:FijawJ9G
ガソパレ(・∀・)イイ!
72Jr:03/05/31 17:06 ID:YS6i/jHL
「いいですかさいか。野草の中にも食べれるものはたくさん存在します。たとえば、これなどは────」
 鬱蒼と繁る森の中。そこでカルラがさいかに足下を指し示しながら、何かを教えている。
「基本的に虫食いのある草は人も食べれると思って大丈夫です。虫も毒のあるものはあまり食べたがりませんからね。ただ、例外の中には危険なものも────」
 カルラ先生の食べられる野草講座。彼女を知る者が見れば珍しいその光景もさいかは一切疑問を挟まず、ただ一心不乱に聞き入っている。
「たとえば、これなどは、根の付き方が違う────」
「これは、花びらの部分を摘んで吸うと蜜が甘くて────」
「いよいよわからなくなったら、葉っぱを囓ってみて苦ければ────」

 講義は延々と続く。
 健全な学生諸君ならとっくの昔に居眠りモードに入っているところだ。
 しかし……
 
「……というわけです。わかりましたか? さいか」
「うん。さいか、覚えた」
 さいかは一言一句逃すまいと、カルラの言葉を追い続けている。
 あまりの生徒の熱心さに、自然、カルラの唇からも笑みがこぼれた。
 
「さて、それではそろそろ夕食にしましょうか」
 たっぷり一時間以上の講義の後、やっとカルラは立ち上がった。
 ずっと屈んでいたせいか、身体の節々が少々痛い。2人揃ってうーんと背伸びをする。
 そしておもむろにさいかがカルラに問いかけた。
「今日の晩ごはんはなにかなぁ?」
「さぁ……。大物がかかってればいいのですけど」
 お互いに顔を見合わせ微笑むと、一路目的の場所へと向かう。
「じゃ、早くいこっ♪」
「はいはい」
 手と手を取り合って。
 
 その光景は、端から見ればまさしく仲睦まじい親子でしかなかった。
 
「……せめて姉妹と言ってくださらない?」
 ……はい。ごめんなさい。
73Jr:03/05/31 17:07 ID:YS6i/jHL

『ピィ! ピピィ!! ピィィィィィィ!』
「あ、うさぎさんだ」
「本当、うさぎさんですわね」
 目的の場所へとたどり着いた2人。2人が見たものは、縄に脚をとられて宙ぶらりんになっている、一羽のウサギの姿であった。
 必死に縄をほどこうともがくが、いかんせんガッチリ絡まっていてどうしようもない。
「ウサギが一羽……ですか。悪くありませんね」
 カルラはウサギに歩み寄ると、慣れた手つきで縄をほどく。
 なお一層カルラの手の中で激しく暴れるウサギだが、そこから逃げ出せる望みはほとんど無さそうだった。
 やがて、覚悟を決めたかのように大人しくなる。
 ……が、嬉しそうなカルラとは対照的に、さいかの表情は暗い。
「……さいかの罠、失敗……?」
 罠は2人がかりで設置したものだった。カルラのお手本をさいかが真似しながら、このあたりにいくつか仕掛けた。
 港でデリホウライを苦しませたさいかのトラップ設置術の腕を買い、カルラが教え込もうとしたのだ。
 が、結局ウサギが掛かっていたのはカルラの罠だけであった。
 確かにさいかは筋も悪くなく、カルラの目から見ても悪くないもの作り上げたのではあるが……
「……ほら、さいか。しゃんとなさい。仕方ないですわ、こればっかりは運。第一獲物の数もそう多くありませんし、気を落とさないことですわ」
 確かにこればかりはどうしようもない。
「うう……」
 ちょっと涙目なさいか。わかっていたことではあるが、この子はなにげにかなり負けず嫌いなところがある。
「今夜は私が腕によりをかけてウサギ鍋をご馳走してさしあげますから、だから────」
 ……と、何とかカルラがさいかの機嫌を取ろうとしていた時。
 その時、だ。
 

「ターゲットはっけーーーーーーーーーーーーーーーんですよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

74Jr:03/05/31 17:08 ID:YS6i/jHL
「!?」
「!」
 森の奥から脳天気な叫び声が聞こえた。
 ふり向いた2人が見たもの。それは……
「そこのお二方っ! 申し訳ありませんが、再び佐祐理の理想を掲げるために! 最萌2位のプライドのために! ここで……死んでもらいますよーーーーーーーーーーーーーっ!!!!(※死にません)」
 ……高らかにわけのわからない演説をかます少女。その距離は十数メートル。
 カルラの脚を持ってすれば、何のことはない距離だ。相手が特殊な訓練を受けた者でない限り(そして目の前の少女はとてもそんな雰囲気は持っていない)余裕で逃げ切れる。
 だが……瞬間、少女の持っていた、巨大な筒のようなものが……火を噴いた!
「ふぁいあーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 ドンッ!

「!」
 未知の人物の未知の武器による未知の攻撃。
 さしものカルラも、一瞬動きが鈍る。
「……網!?」
 そう、網だ。
 人知を超えた動体視力を誇るカルラが見たもの。その一瞬の静止した世界にカルラが見たものは、空中に放たれ、徐々に広がっていく一塊りの網だった。
「……シィッ!!」
 ならば捕まるわけにはいかない。いくらカルラといえど、完全に網に捕らえられてはそう簡単には抜け出せない。
 下半身のバネに全ての力を集束し、その場を飛び退こうとするが……
「おねいちゃん!」
 さいかの声が耳に届いた。
 そうだ。今の自分は一人ではない。守らねばならない存在がいる。
 この子を放っておいて自分だけ逃げることなど、誰が許すだろう。否、自分が許さない。
「……さいか! 捕まりなさい!」
 バネの方向を無理矢理逆転させ、さいかの方向へと一足、飛ぶ。
75名無しさんだよもん:03/05/31 17:08 ID:YS6i/jHL
「おねいちゃん!」
「クッ!」
 掴んださいかの腕を思い切りたぐりよせ、自分の胸に抱えこむ。
 受け身の形で地面に落ちたところと……同時だった。
 
 
「やった! やった! やりました!」


 網の直撃を、受けたのは。


【さいか カルラからギリヤギナ流生存術を勉強中】
【カルラ 夕餉用のウサギをゲット】
【佐祐理 網バズーカによって2人を捕獲。明日はホームランだ!】
【3日目夕方から夜にかけて】
【登場 カルラ・しのさいか・【倉田佐祐理】】
76名無しさんだよもん:03/05/31 21:29 ID:z1juzuQD
(・∀・)イイ!!
77雛鳥の囀:03/06/01 01:46 ID:F+f1jsvo
 捕獲網の直撃を喰らったカルラとさいか。
 カルラがさいかを抱きかかえる形のまま2人は転がっていく。
(くっ……! 私としたことが! トウカではありませんに!)
 しかしその間にもカルラの頭に埋め込まれた高速演算装置は現状を分析し続ける。
(網……! 直撃……!! 私はもう遅い……! 解くには時間がかかる……! あの娘がそれまで待ってくれるとは思えない……!)
 
 一瞬、いつかのウルトリィの姿がダブった。
 思わず唇をフッと綻ばせる。
 
(けど……! まだ……! この子は……! この子だけ……は……!!)
 カルラは上腕に力を込め、閉じゆく網の僅かな隙間を作り上げるとそこに向かい、さいかの身体を放り投げた。
「え……っ!?」
 小さいことが幸いした。さいかの身体は網に引っかかることもなくどうにかすり抜け、ふっ飛ぶカルラから離れることに成功する。
 が、その代わり網はさらに厄介な形にカルラに絡みつき、いくらカルラの力を持ってしてもどうにもならぬレベルまで達していた。
 やがて回転を続けていたカルラの身体が木の根にぶつかり、止まる。
 巨乳に網目が絡みついてちょっとえっちぃかもしれない。
「カルラおねえちゃん!」
 反射的に起きあがったさいかが悲痛な叫びを上げる。しかし
「お逃げなさいッ!」
 カルラは一喝。
「け、けど……」
「いいからお逃げなさいっ! 半端なことは考えずに、ひたすらお逃げなさいッ! これは命令です。逃げなさいッ!」
「え、あ、う……?」
 困惑するさいか。彼女にとって、カルラがいないことなど考えられない。
 突然の巣立ちの命令に、ひな鳥はただ狼狽えることしか、できない。
「そうはさせませんよー! あなた方にはここでお二人とも捕まっていただきますっ!」
 佐祐理は打ち終えたバズーカの銃身を投げ捨てると、地を蹴り、2人へと迫る。その距離、10m.
「行きなさいッ!!!」
 一際大きいカルラの檄が飛んだ。さいかは未だ困惑したまま、しかし弾かれるように、脇へと駆け出す。
「逃しませ………いや……」
 その後を追おうとする佐祐理だが、一歩踏みとどまる。
78名無しさんだよもん:03/06/01 01:48 ID:F+f1jsvo
 獲物は二つ。
 逃げる幼女。
 網に絡まった女性。
 ……どちらを優先するか。
 逃げ出した幼女を捕まえ、その後に女性を捕まえれば2ポイントゲット。相手は年端もいかない幼女と完全に網に捕らわれた女性だ。
 難しいことでもないし、一気に2点。悪くない作戦だ。
 だが、最近の佐祐理はケチが付き通しだ。やることなすこと上手くいっていない。
 ならば、ここは確実性を最優先にするべきだろうか。
 思い悩んでいた佐祐理。だが、その決断を下させたのは外部的要因だった。
 
「きゃんっ!」
 べちゃっ!
「さいかっ!!」
 可愛らしい悲鳴をあげ、逃げ出した幼女が木の根に蹴躓き、派手に転んだ。
 頭から地面に突っ込み泥だらけになっている。
「……えぅ……ぐすっ……うううっ……」
 しかも、しかも、その上……
「えぅぅぅぅっ……。うううっ……。ぐすっ、ぐすっ、ぐすっ。痛い……いたい……いたいよぉ! ……いたいよぉ!!」
 ……ぐずりはじめた。その場にへたりこみ、動きそうにない。
 これを勝機と呼ばずに何と呼ぶ。
 鴨が葱背負ってしらたきその他を完全装備した上自分の方に向かってくる以上の好機ではないか。
「決定! お嬢さん! 先にあなたを捕まえさせていただきますよーっ!」
 走る向きを90°ねじ曲げ、一直線にへたり込むさいかへ迫る。
79名無しさんだよもん:03/06/01 01:49 ID:F+f1jsvo
 一方カルラは悔しそうに歯噛みする。
 まさか、こんなことになるとは。
 自分が身を挺して守ったのに……というわけでもないが、見事にさいかは裏切ってくれた。
 だが、さいかを怨むつもりはさらさら無い。それ以上に自分の判断の甘さに腹が立った。
 いくら賢しく、こまっしゃくれていて、手先が器用であってもさいかはまだまだ6歳児でしかなかったのだ。
 その6歳児に、自分はあまりに大きなものを背負わせすぎた。
 子供が、突然一人で逃げろといわれても、こうなるのが必然だったのだろう……。
 カルラは自分の過大評価に対し、ため息を吐いた。
 
「えーん! えーん! えーん! おかーさーん! おとーさーん! まいかー! おねーちゃーん!」
 幼女が泣きわめいている。
 その姿にちょっと罪悪感を覚えつつも、佐祐理はさいかの真後ろに立った。
「それではお嬢さん、失礼しますよ!」
 どうにかして泣きやませるのはとりあえずタッチしてからだ。ひとまず今はこの子を捕まえ、さらに後ろで身動き取れないでいる女性を捕まえてからでも遅くはない。
 とにかく、ポイントだ。今はそれが大切だ。
「安心してください。この後は佐祐理が屋台に連れて行ってあげますから。美味しいものたくさん食べさせてあげますから……」
 とりあえず食べ物で釣ってみる佐祐理さん。卑怯なり。
 が……
「ううん、さいか、そんなのいらない」
 ……ふり向いた幼女の表情は、ケロリとしていた。泣いていた気配など微塵も無い。
「……え?」
「さいか、カルラお姉ちゃんと一緒の方がいいもん」

80名無しさんだよもん:03/06/01 01:49 ID:F+f1jsvo

 佐祐理は気付く。
 自分の足下に、『何か』があることに。
 佐祐理は気付く。
 幼女の足下に、一本の紐が張ってあることに。
 
 そして、幼女は、その紐を……
「えーーいっ!」
 思いっっっっっっっっきり引っ張った。
 
 
「大丈夫? カルラお姉ちゃん?」
 さいかが心配そうにカルラの顔を覗き込む。カルラはまさに雁字搦めと言うべき状態であり、そう簡単には抜け出せそうにない。
「うーん……。このひも、けっこう固いね。ほどくのはむずかしそう……。あ、そうだお姉ちゃん。ちょっとお姉ちゃんのないふ借りるね」
 網目の隙間に手を突っ込むと、カルラの懐から一本の小刀を取り出した。
「えいっ、えいっ、えいっ……」
 一心不乱に、カルラの自由を奪っている原因を切っていくさいか。
「……よく、あんなことを思いつきましたわね……」
 ようやく絞り出せたカルラの言葉は、それだった。
 目の前で起きた出来事があまりに信じられず、しばしカルラの頭脳は停止していた。
「うん。だってお姉ちゃんがおしえてくれたんだもん。自分の作ったわなの場所くらいは、自分でおぼえておきましょうって」
 そう、さいかは自分の罠……動物を捕らえることはできなかったその罠の場所にまで、佐祐理をおびき寄せたのだ。
 わざと転び、さらには嘘泣きまで駆使して……佐祐理を、自分の爪が隠してある場所に、誘い込んだのだ。

81名無しさんだよもん:03/06/01 01:50 ID:F+f1jsvo

「お嬢さーん……助けてくださーい……。もう狙いませんからー……。佐祐理をここからー……下ろしてくださーい……」
 さいかの背後では先ほどのウサギと同じようにされた佐祐理が、スカート丸出しの見事な格好で宙づりになっていた。
「い・や。カルラお姉ちゃんをいじめた人、ゆるさない」
 無情に言い切り、さいかはカルラの救助作業を続行する。
「でも、これでわたしの勝ちだねっ」
「勝ち?」
 突然の場違いな単語に、カルラは目を丸くする。
「お姉ちゃんがつかまえたのはうさぎさん。さいかがつかまえたのはあの人。さいかの方がおっきい。さいかの勝ちっ!」

(ああ……)
 さいかのその言葉を聞き、カルラは一つ理解した。
 己の過大評価すら、さいかに対しては過小評価だったことに。
 そしてもう一つ、思い出した。
 昔、どこかで聞いた老人の言葉を。


『三流の狩人は獲物を罠に追い込む。だが、一流の狩人は獲物を罠へ誘い込むものだ』


【さいか 佐祐理を撃退】
【カルラ さいかに助けられる】
【佐祐理 宙づり】
82兵隊達の夜:03/06/01 02:13 ID:l71AGH49
かくして蝉丸は夜を迎えた。
じっと雨の中を堪え忍び、大木に護られて夜まで来た。
雨はますます強くなっている。例え夜になっても、雨が降っている以上、じっとしているのが最良だと、彼は判断する。
いくら水に強いとは言え、万全の体調にはほど遠い。そんな中無理して動き回っても、戦果を掲げるのは難しい。
そう思っているから、一日中じっと、雨の切れ目を待っているのだ。
森の奥深く。こんな所までやってくる酔狂な参加者は、やはりいないらしい。結局この一日で、出会ったのは岩切一人だけ。
奴は、まだ逃げ続けているのだろうか。
彼女の現状に思いを馳せる。
この雨の中だ。岩切を捕まえるのは、たやすいことではないだろうな。
なるべく、捕まらずにいてもらいたいものだ。
朝に出会ったときに思ったことを反芻する。
五分の条件で、あいつと渡り合ってみたいからな……
83兵隊達の夜:03/06/01 02:14 ID:l71AGH49
正体不明の生物に吹き飛ばされた光岡。今は小屋で休んでいる。
一日を通して動き回り、雨に濡れた体は、さすがに限界を訴えかけていた。
彼がいるのは小さな小屋。屋根と床があるだけの、雨をしのぐことしか出来ない場所だ。
服は全て脱ぎ、床に広げて乾かしている。屋内で火をおこす訳にはいかないから、寒いのはどうにもならない。
それに、少々寒いくらいなら、彼にはどうということはない。
結局、一日を棒に振ってしまったな。と彼は思う。
ああ。あの少女。ユズハという名の娘。美しい娘。思い出すだけで、まだ気が高ぶってしまう。まだ逃げ続けているのだろうか。
鬼として、全力を尽くすこと。それを思い出させてくれた少年。名を聞いたか、どうだったか……
そうだ、あの、自らを天使と名乗った娘はどうしただろうか。誰かを捕まえることが出来たのだろうか。
この遊戯で出会った、幾人もの人々。彼らは今、この雨の夜何を思い、何をしているのだろうか。
蝉丸、御堂、岩切。それにきよみ。皆、どうしているのだろうか。
思い出深き人々に、自分とつながる人々に思いを馳せながら、光岡は一人、夜を過ごしていく。
84兵隊達の夜:03/06/01 02:14 ID:l71AGH49
「げぇーっくちゅん」
御堂はくしゃみをした。
屋根に降り注いでくる雨の音がうるさい。
夜になっても、あの二人に帰ってくる様子はない。
いったいどこまで行きやがったのか。と思ったこともあったが、よくよく考えてみれば、あの二人がここに戻ってくる保証なんて無いということに思い至った。
「けっ」
こう舌打ちしたものだ。
昨日彼が捕まえた、耳尻尾付きの男は、すでに港を去っている。
夕暮れ前だろうか。ペンキに濡れ、服はあちこち破け、打撲・生傷を全身に負った、ぼろぼろの姿で、建物から出てきたのは。
御堂は彼に、自分の策から見事逃れ出た、あの女の向かった方向を教えてやった。
理由は特にない。ただ、彼の目、ぼろぼろになりながらも覇気を失わないその目に惹かれたから、なのかもしれない。
それ以降もそれ以前も、港には人っ子一人現れない。
弾切れになったとりもち銃を整備しようかとも思ったが、工具がないので諦め、
何か食べ物はないかと思ったが、あるだけ全部、すでに食い尽くされ、持って行かれていた。
結局のところすることもなく、ただごろんとベッドに横たわっている。
目を閉じ、彼は何を思うのか。それは、誰にも分からないことであった。
85兵隊達の夜:03/06/01 02:19 ID:l71AGH49
そして、三人全てに共通する思い。
一人でいるのは、これほど辛いものだったのか、ということ。
一人で無為に過ごす時間は、これほどまでに退屈だったのか、ということだった。

【蝉丸 結局一日雨宿り】
【光岡 小屋の中で休息中】
【御堂 港で暇をもてあましている】

【三日目夜】
【蝉丸は森】
【光岡はどこかの小屋】
【御堂は港の管理人詰め所】
【登場鬼 蝉丸 光岡 御堂】
86名無しさんだよもん:03/06/01 05:36 ID:9FcDi/Om
(・∀・)イイ!
87brother and sister,and girls:03/06/01 20:40 ID:UOXOv1MM
雨合羽、傘、食料などの入ったリュック、それらはこの雨の中で行動するには最高の装備だろう。
だが鬼に遭遇し追いかけっこに突入した場合、それは己の行動を制限する荷物へと成り下がる。
加えて今まで歩きづめだった佳乃と十分な睡眠をとり体力は満タンの緒方兄妹。
決定的要因ではないが、それもやはり佳乃にとってはマイナスに働いた。
健闘虚しく、理奈の手が佳乃の肩に触れようとした、まさにその時。

「てぇーーい!」

という声と共に理奈と佳乃の間に何者かが割り込んできた。
振り返った佳乃が見たその人は、
「お姉ちゃん、月代ちゃん!」
「ふむ、どうやら間に合ったようだな」
姉の聖と、この島で友達になった月代だった。
「約束通り捕まえに来たよ、佳乃ちゃん。というわけでえ……それ!」
「うわあ、っと、そう簡単には捕まらないよぉ」
不意打ち気味に伸ばされた月代の腕を危ういところでかわし、そのまま反転して走り去る佳乃と、それを追う月代。
そんな二人を見た聖は「さてと」と言いつつ理奈と英二の方へ向き直る。
「というわけだ。悪いが君たち、あの子たちの邪魔はさせんぞ」
88brother and sister,and girls:03/06/01 20:41 ID:UOXOv1MM
目の前の医者らしき女性は、いつの間にやら右手に4本のメスを構えこちらを牽制している。
目が本気だ。ここであの少女たちを追おうものなら、あのメスを投げる気満々だろう。
まあこの雨の中濡れ鼠になってまで、メスの標的になる危険を冒してまであの娘たちを追う必要はないのかも知れない。
だが。
やはりみすみす目の前で獲物をかっさらわれるのは気にくわない。自分ははこの負けん気の強さで
芸能界における今の地位を築き上げたのだ。
そう考えた理奈は、
「兄さん……後、よろしく!」
それだけ言い残し、一直線に二人の消えた方に向かって走りだす。
「む!」
間髪入れず理奈に向かって飛来するメスが2本。それは聖の狙いと寸分違わぬこと無く、理奈の足元の地面に突き刺さる。
だが理奈は止まらない。
危うくバランスを崩しそうになるがなんとか持ち直し、そのまま二人を追いかけていく。
「クッ!」
理奈を止めるため、慌ててさらにメスで威嚇しようとする聖。だが、
「おおっと、理奈ちゃんの邪魔はさせないよ」
その前に英二が立ちふさがる。
「何故邪魔をする?」
「おかしなことを聞くね。まあ、可愛い妹に頼まれたから、かな。あなたと同じだよ」
「ふ、そうか」
「そういうこと」
姉と兄。共通する立場の二人はそう言葉を交わし、お互い動きを止めるのであった。
89brother and sister,and girls:03/06/01 20:42 ID:UOXOv1MM
(追ってこない……兄さん上手くやってくれたわね)
理奈は心中で僅か、兄に感謝する。
実際、聖は如何にして英二を出し抜くか、英二は如何にして聖を止めるか心理戦の真っ最中である。
直接行動に出ないのはこの二人の性格によるものであろうが、もちろん理奈はそこまでは知らない。
そのまま5分ほど先に進んだ頃、先程逃がした二人の少女がついに視界に入った。
「えい、この!」
「ふふーん、鬼さんこちら〜」
間を木に囲まれた、ほんの少しひらけた場所。そこに少女二人はまるでじゃれあうように居た。
追いかけっこでなくなったのは、あの佳乃という子が疲れで走れなくなったせいかもしれない。
だがそんなことはどうでもいい。むしろ自分には好都合だ。
そのままトップスピードで二人に近づき、
「とったあー!!」
「それ!」
「え、え、わあ!」

バシャーン!

理奈の声と水飛沫の音が、一際大きくその場に響いた。
90brother and sister,and girls:03/06/01 20:42 ID:UOXOv1MM
対峙して10分ほど、未だ聖、英二共に目立った動きはない。
聖の顔に少々焦りの色が生じる。だが、彼らの対峙はその原因となった三人娘の帰還によりあっさりと終わりを告げた。
佳乃の肩に襷が掛かっているのを見て、英二は笑みを浮かべかける。
が、そんな英二を制するように理奈が口を開く。
「負けたわ。殆ど同時だと思ったんだけど、彼女の方が先にタッチしたのが見えたから」
「…そう、惜しかったね」

佳乃に向かって理奈が手を伸ばしたとき、ちょうど月代もその反対側から佳乃を捕まえようとしていた。
突然挟み撃ちにされた佳乃は慌ててしまい、濡れた地面で足をすべらせ転倒。それに勢いのついた理奈と月代も
巻き込まれてしまったのだ。そのせいで三人ともびしょ濡れである。(佳乃は雨合羽のおかげでそれほどひどくなかったが)
だが理奈には見えていた。自分の手が佳乃に触れる直前、月代の掌が佳乃の頭の上にあったのが。
そのまま三人重なって地面に崩れ落ちた。何がどうなったのか混乱する月代に理奈はあっさりと負けを認め、兄の元へ戻ってきたのだ。

「ただいまー……えへへ、捕まっちゃったよぉ」
「そうか、でもよく頑張ったな。まあ風邪を引く前に濡れた体を拭きなさい」
「理奈ちゃんも」
「ええ」
そのまま小屋の中へ向かう佳乃、月代、理奈。それを見ながら聖は英二に一つだけ聞いた。
「いいのか? 随分とあっさり退いたようだが」
「理奈ちゃんはこういうことに関しては本気でやる代わりに嘘もつかないからね。
 下手なこと言ったら僕が理奈ちゃんにひっぱたかれる」
言いながら無意識のうちに頬を撫でて顔をしかめる。雨のおかげか先程もらったビンタの痛みは引きつつある。
わざわざもう一発食らうことはない。兄妹のスキンシップと自分をごまかすのも限度がある。痛いもんは痛いのだ。
彼女たちはお互い笑いながら小屋の中に入って行く。そう、楽しそうに談笑しながら。
負けはしたが、佳乃も理奈も笑っている。もちろん月代もだ。
彼女たちの笑顔につられるように、英二も聖も僅かに笑った。
91brother and sister,and girls:03/06/01 20:43 ID:UOXOv1MM
その後。
月代が今さらながらに緒方理奈のことに気がついてサインをねだったり、そのついでとばかりに聖も愛用の通○閣Tシャツに
サインを書いてもらったり、佳乃が持っていた食料を分け合って食べながら談笑したり、その談笑の最中英二が懲りずに佳乃と
月代に向かってプロデュースの申し出をして理奈のビンタを受け、聖のメスの餌食になりかけたりしたのだが、それはまた、別の、話。



【佳乃 鬼になる】
【月代 1ポイントゲット】
【理奈 ポイントゲットならず】
【服が乾くまでの間、五人は小屋で時間を潰す】
【時間 三日目午前十時頃】
【登場 霧島佳乃、【緒方理奈】、【緒方英二】、【霧島聖】、【三井寺月代】】
92神の怒り:03/06/01 22:32 ID:l71AGH49
「おっ、落ち着けトウカっっ!」
「クケーーーーーーーケケケ!!!」
「ゆ、、ゆかり、右手、押さえてっ」
「クケーーーーーッ!」
「た、た、た、た、助けて、く、れーーぇーーーーぇーーー」

阿鼻叫喚の地獄絵図とはこのことか。
広いとは言えない小屋の中。男か女に襲われようとしている。
それを必死に止めようとしている四人組。
浩平、瑞佳、ゆかり、それにスフィー。
既にスフィーははじき飛ばされ、食い散らかされた食事の残りにまみれ、小屋の隅でぶっ倒れている。
後の三人も、荒れ狂うトウカにまったく歯が立たずにいる。
それも当然か。彼ら三人、所詮は一高校生。優秀な武人であり、なおかつ暴走中のトウカを、止められるような力など持ち合わせているはずがない。
浩平は背後から羽交い締めにし、
ゆかりは右腕に食らいつき、
瑞佳は左腕にすがりついている。
しかし、その程度ではトウカを止められない。
小屋の隅で壁に張り付きおびえるヌワンギへ、一歩一歩近づいていく。
ペットボトルを一本踏みつぶした。キャップがはじけ飛び、べきんと音を立てて本体が微塵と砕ける。
押さえきれない。押さえられない。
心底からのおびえの表情で、許しを請うヌワンギ。しかしその言葉も、トウカの耳には入ってこない。
ああ。さすがは街道の禍日神。怒りに盲目となった彼女には、どんな言葉も届かない。
何をしようと通じない。
93神の怒り:03/06/01 22:32 ID:l71AGH49
「に、逃げろおっさん! 逃げないと殺されるぞ!」
「あ、ひい、ひぃぃ……」
おっさん呼ばわりされたヌワンギ。逃げようとしても、腰が抜けてしまって動けないらしい。
「と、トウカさん、トウカさん、落ち着いて、おちついってぇぇ」
トウカが左腕を大きく振り回し、勢いで瑞佳がはねとばされる。
浩平も必死で止めようとしているが、ずるずると引きずられるばかり。
「うあああぁぁぁ」
ゆかりも吹っ飛ばされてしまった。軽く悲鳴を上げて倒れ込む。

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ」

ついにヌワンギの眼前に迫るトウカ。浩平を後ろに背負い込みながら、ヌワンギにその手を伸ばしていく。
ヌワンギが、天も裂けよとばかりの悲鳴を上げ。
「クケ……ェ……」
そして、トウカの体からふっと力が抜けて、
力無く、ヌワンギに倒れ込んでいった。
「……あ?」
いきなりのことに困惑する浩平。
恐怖のあまり気を失っているヌワンギ。
上半身を起こして、まわりを見渡す瑞佳。
倒れたままのゆかり。
寝息を立てているトウカ。
そして、
「間に合った……」
呪文を唱え終わり、安堵のため息をついたスフィー。
騒動がどうにか収まって後に残ったのは、さんざんに散らかった、食事の残骸だった。
94神の怒り:03/06/01 22:32 ID:l71AGH49
【トウカ スフィーの魔法で眠らされる】
【ヌワンギ 恐怖のあまり気絶】
【浩平 困惑】
【瑞佳 何が起こったの?】
【ゆかり まだ倒れている】
【スフィー 魔法でトウカを眠らせた。安堵】

【小屋の中 食べ物飲み物が散らかり、大変な惨状】

【登場鬼 折原浩平 長森瑞佳 伏見ゆかり スフィー トウカ ヌワンギ】
【三日目正午前後 ホテル近くの小屋にて】
95ブリッツ:03/06/01 22:44 ID:jCXgWpRY
「目標二名、肉眼で確認」
 セリオの言葉に、香里、香奈子、真紀子の三人は首を縦に振った。
セリオと真紀子の手には射出型スタンガンが握られている。
引き金を引いて電極を打ち出すその武器は、
射程が短く一度撃てば再装填に時間がかかると言う欠点もあるが、
それを考慮したとしても強力な武器である。
余談だがこの品、日本では違法だったりする。
 アメリカの警察等で使われているものと違って、
打ち出される電極は相手に突き刺さらないように丸みを帯びており
電流が流されるのは一瞬のことであるが……
「それでも直撃を受ければなんらかのダメージは期待できるでしょう」
 この武器に対してセリオはそう言っていた。
「OK、打ち合わせどおり待ち伏せを仕掛けるわよ」
 香里の言葉に、再度チームメンバーはうなずいた。 

 森の中をいく柳也と裏葉。
「そろそろ今宵の宿を決めたいものですね、柳也様」
「そうだな。昨夜は山中であったが、今夜はどうする?」
「ならば今宵は海の方はということに致しませんか?」
「悪くないな。ところで……」
 やや厳しい声で問う。
「気づいてるか?」
「当然でございましょう?」
 裏葉の普段と変わらぬ声に柳也は苦笑した。
 その涼しい顔の裏で念を高めていることを気づく事ができるのは、俺ぐらいだろうな、と思う。
 柳也と裏葉は互いにうなずくと、
「行くぞ!」
急に踵を返して今来た道を走り始めた。
96ブリッツ:03/06/01 22:46 ID:jCXgWpRY
「―――!」
 驚いたのは香里達だ。待ち伏せの罠にかかる直前に獲物が逃げ始めたのだから。
「クッ! セリオ、真紀子さん、お願い!」
 香里は仲間達に指示を出しながら香奈子と共に獲物の方に飛び出す。
 その背後で、セリオと真紀子がスタンガンを構えた。
ギリギリで射程距離だ。二人の指が引き金にかかる。

 すぐ後ろに迫る相手に牽制の法術を放とうと振り返った裏葉は、
自分達を追わずになにかの装置を構えている鬼を見て眉をひそめた。
(面妖な……よからぬ気配がします)
「柳也様!」 
 裏葉の警告に柳也も振り向き懐に手を入れた。

「な……!?」
 セリオの横で真紀子が驚愕の声を上げた。
今しも引き金を引こうとしたスタンガンが妙な力に引っ張られ、相手の方へ飛んでいったのだから。
だが、セリオの方もそれを止めることはできなかった。
男の方が振り向き様何かを投げてきたからだ。
(金属の円形物。飛来物は硬貨であると推測。正確な投擲。目標はこちらのスタンガン)
 並の人間ではかわせぬその一撃は、しかしそう確認するセリオには通用しない。
セリオは軽くサイドスッテップをふんでその一撃を回避すると再度スタンガンを構えトリガーをひいた。
97ブリッツ:03/06/01 22:47 ID:jCXgWpRY
「……!」
 柳也は目を見開いた。裏葉の法術によって鬼の武器をの一つをこちら側に引き寄せたのはよい。
だが、自分がもう一人の鬼に放った一撃はたやすく回避されてしまったのだ。
(だがしかし、あの武器は何なのだ……?)
 柳也の疑問に答えるかのように、セリオの手から二股になった金属、電極が射出される。
「柳也様……!」
 咄嗟に柳也をかばう、裏葉。その胸に電極が直撃し、
 
バチィッ
 
 火花が散った。

「裏葉.……この馬鹿!」
 倒れる裏葉を慌てて支える柳也。
 その二人に容赦なく先行していた香里と香奈子が飛び掛る。
「ちょっとひどいけど……悪く思わないでね!」
「チィッ……!」
 裏葉を小脇に抱えたまま柳也は香里の手をかいくぐり、横っ飛びに飛ぶ。
空を切る香里の手。一回転して即座に起き上がる柳也。
「往生際が悪いっ……えっ!?」
 慌てて柳也の方を振り向く香里と香奈子であったが、驚きの声を上げた。
 柳也がいつの間にか真紀子の持っていたスタンガンを拾い上げ、こちらに構えたからだ。
「……!?」
 撃たれるのを恐れて、香里と香奈子は反射的に身をすくませる。
 だが、柳也は引き金を引かずに、その隙を利用して裏葉を小脇に抱えたまま走り始める。 
98ブリッツ:03/06/01 22:48 ID:jCXgWpRY
「裏葉、無事か!?」
 走りながら、妻に声をかける。正直、答えが得られぬとは思っていたが、
「馬鹿とは……あまりに心のないお言葉……」
 ヨヨヨと裏葉は柳也の腕の中で泣きまねまでしてくれる。
 ホッと、柳也は安心する。だが、腕の中の裏葉の体にはまるで力がこもっていない。
自力で走ることは無理そうだ。
(逃げ切れるか?)
 相手の動きは見る限り、そう俊敏なものではない。裏葉を抱えたままでも逃げ切れるかも知れぬ。
 あの自分の一撃をよけた、妙な耳飾をした女を除いては、の事だが。

(かなりの運動能力ですね)
 裏葉を抱えたままで闇の中へ消えようとする柳也を、セリオはそう評価した。
(香里様と香奈子様が追いつける可能性は38パーセントと概算)
 相手の能力等のデータを正確に得ているわけではないので当てになる計算でもないが、
自分も追跡する必要があることは間違いなかった。
 セリオはスタンガンの再装填する暇はないと判断。
スタンガンを捨てると、獲物を追い始めた。

 口にスタンガンを咥え、いわゆるお姫様抱っこで裏葉を抱き、柳也は走る。
背後から迫る足音は徐々に遠ざかっているように感じる。
(逃げ切れそうだな……体力が持てばの話だがな)
 いかな柳也といえど、人一人の体重を抱えたままの疾走は体に堪える。
まして裏葉は今、柳也に抱きつくことで自分を支えることすらできないのだ。
(宵闇を信じるしかないか)
 今が夜で、ここが森であることを感謝する。
少し距離が取れればすぐに向こうも見失うかも知れない。今はそれを信じて走るしかない。
裏葉を置いて一人で逃げることなど、柳也の意識に上ることすらなかった。
99ブリッツ:03/06/01 22:48 ID:jCXgWpRY
 だが、その柳也の努力をあざ笑うかのようにすぐ前に人影が現れた。
(回り込まれた? あの女か!)
 思わず歯噛みする柳也。
 後ろからは別の鬼が迫ってきている。
 方向転換をしたところで、あの運動能力を持つ相手に、裏葉を抱えたままで抜くことができるだろうか?
(だが、なぜだ?)
 疑問が浮かぶ。回り込むことができるならば、こちらにタッチすることだって容易なはず…… 
 裏葉が口を開いた。
「得点の集中です」
 わずかなその言葉で、柳也は得心した。そして感謝する。
自分の顔に浮かぶ疑問を一瞬で読み取り、答えをくれた裏葉に。
 
俺はよい妻を持ったな―――
 
ならば、それに応える。柳也は覚悟を決めた。

(かわさずに直進してくる……!?)
 セリオは予想外の鬼の動きに驚く。なぜ、鬼である自分に突進してくるのか。
 このままでは激突してしまう。鬼にしてしまう。

香里ではなく、自分が。

 そのことに気づいた時には、致命的なほどに柳也達が接近していた。
速度を落とす気配もない。
「……!!」
 最後の瞬間、セリオは横に避けた。無理な動きに駆動系が悲鳴を上げる。
 バランサーを駆使して無理やり体勢を立て直して、
視界の隅で獲物を捕らえて、
そして―――
 柳也が振り向き様にスタンガンを構えているのを認識した時に、
 セリオは己の敗北を悟った。
 直後、火花が散った。
100ブリッツ:03/06/01 22:50 ID:jCXgWpRY
「セリオ!!」
「ちょ、ちょっと無事なの!?」
 スタンガンの一撃を受け、倒れるセリオに香里と香奈子が駆け寄る。
「無事です」
 そういって、立ち上がろうとするが、ふらついてしまう。
「ぶ、無事じゃないじゃない!」
 慌てて香里と香奈子はセリオを支え、その場に座らせる。
 電極はよりによって耳のアンテナに直撃してしまった。
そのためセンサーに過負荷がかかり、さらには駆動系を酷使ししている際の衝撃のために
バランサーまで麻痺してしまったようだ。
バランサーの方は一時的なものだろうが、センサーはかなりのダメージを受けてしまった。
各レーダー系に支障が出てしまっている。
 相手がスタンガンを使うと予想していれば、対処のしようもあったのだが。
 とはいえ、そんなことはどうでもいい。
「香里様、香奈子様、追ってください。まだ彼らを捕まる可能性はあります」
 だが、二人は互いの顔を見合わせてため息をついた。
「香里、左ね」
「OK、全く……」
「……?」
 いぶかる、セリオ。そのセリオの両頬を、
ムニュッ
 香里と香奈子がそれぞれつまんで引っ張った。
「……なにふるんでふか? やめてくらはい」
 間抜けな声で抗議するセリオ。
「やめません。ちょっと楽しいし」
「うん、これは新鮮かも」
 ムニュムニュとセリオのほっぺたをいじくる。
101ブリッツ:03/06/01 22:50 ID:jCXgWpRY
「はの、はやくはれらをおふべきでは……」
「あのね、セリオ。そりゃポイントはほしいけどね。
倒れてる人を放っておくほど必死ってわけじゃないから」
 香里の言葉に、香奈子も同意する。
「そーいうことね。のんびりいこう?」
「…………はい」
 うつむくセリオ。二人はそれを見てちょっと笑うと、後ろを振り向く。
「真紀子さんもそれでいいですよね?」
「まあ、しょうがないわね。私のミスもあったし」
 いつの間にかこちらに追いついていた真紀子はうなずいた。
「色々と作戦を練り直す必要があるようね。今回の場合のケースにどう対処するか、とかね」

【柳也、裏葉 逃走成功、射出型スタンガン一丁ゲット】
【裏葉 スタンガンによる一時的なダメージ】
【香里チーム スタンガン一丁ロスト】
【セリオ 駆動系に一時的なダメージ、レーダー故障。程度不明】
【三日目夜 森の中】
【登場逃げ手 柳也、裏葉】
【登場鬼 【美坂香里】、【セリオ】、【太田香奈子】、【澤田真紀子】】
102悪女の再来:03/06/02 00:52 ID:bPGg4Fmq
「うぐっ、たいやき〜」
あゆは森をうろうろと彷徨っていた。
目的は当然、香里に最終兵器を返すためである。
そして、たいやきを取り戻した一心で香里を探していた。
逃げ手でもいい。たいやきはどこ〜と、つぶやきながら歩いていた。
「あっ、栞ちゃん!」
言ってからしまったと思ったが、相手も鬼のようなので気にせず近寄った。
ズルッ
栞の一歩手前であゆは何かにつまずきこける。
足元には…ロープ。
それも黒い。
夜のため、見えにくいロープをピンと張ってあった。
「北川さん、北川さんっ。こんな古い手口でも意外とひっかかるんですよ。
 夜にしか使えませんけど。」
栞が北川と住井に話す。
栞は、ついつい北川達と罠談義で熱中してしまい一番効率的な罠は何かで話し合っていた。
そして、栞はあゆを見つけた時に、罠の効率を分からせるために実演してみせたのだ。
北川達は、ちょっと感心していた。
古典的な罠を案外いけるんだななどと。
気付いていない。
あゆは、ロープに"ひっかかる前"にこけたことを。
そして、最終兵器に傷が入り使い物にならなくなりそうなことに。
「うぐぅ〜、ひどいよ〜」
あゆは当然の抗議をした。
栞達は軽く受け流し、多少話しあったところで解散しようとした。
「あっ、栞ちゃん。香里さん、どこにいるのかな?」
103悪女の再来:03/06/02 00:53 ID:bPGg4Fmq
あゆが最終兵器の持ち主が栞の姉であったことに気付き、場所を聞いてみた。
「お姉ちゃんに何かようなんですか?」
「うん、へんな機械を返したいんだよっ」
栞がちょっと考える。あわよくば、姉に復讐を。
栞にとって、懲りたはずの復讐心が湧いてしまった。
さきほどのインチキ…あれでばれるかどうかのスリルが気持ちよかった。
………ばれなきゃ…いいですよね?
内容によっては北川さん達も同意してくれます。
腐った性根は完全には治らなかったらしい。
「私が返しますよ、どれですか?」
「うぐっ、でも…ボクも返してほしいものがあるんだよ…タイヤキなんだけど…」
もう一息っ。
栞は久しぶりに生き生きした表情で微笑んだ。
「え〜っと…だったら、1万円あげます、これで店でかってください。
 大丈夫です、お姉ちゃんから請求しておきますから」
栞は1万円をあゆに渡す。
あゆは、一万円分のタイヤキを想像してにこっと笑った。
「ありがとっ、栞ちゃん!」
あゆは、栞に最終兵器の袋を渡す。
「何をしたんだ?」
住井が北川との罠会議を終えたのか、栞に質問する。
「これなんですけど…機械といえば武器ですよね。使えると思いましたので交換したんです」
栞は事実を一部、まげて二人に報告する。
住井と北川が袋を除き、栞が袋から機械を取り出す。
次の瞬間、三人とも微笑んだ。
『これがあればっ!』
壊れた最終兵器が何をもたらすのか、今は誰も知らない。

【登場鬼 月宮あゆ 北川潤 美坂栞 住井護】
【最終兵器 壊れる。傷は目立たないが、いつ壊れてもおかしくない】
【栞 最終兵器ゲット。壊れかけに気付かない。】
【3日目 夜】
104名無しさんだよもん:03/06/02 06:37 ID:e6+PpCeU
(・∀・)イイ!
105束の間の健康体:03/06/02 13:57 ID:jTm+uegl
「そんなオチでいいのか…」
 ぽつりと、小さく、女の声。
「元ネタがわからないんだけど?」
「私も」
 比較的大きく、少女の声2つ。
「―――」
 最後の一人は無言。

 処は鶴来屋別館のエントランスホール。
 先のチェイスから30分が過ぎ、ホテルはずいぶんと静かになっている。
 今、ここに残っているのは4人。
 飛び蹴りから地獄車のコンボを食らって死にかけたまなみと、
 地獄車で目を回していた真希と、
 足を挫いた雪見と、
 まなみを治療して真希の目を覚まさせて雪見の足に湿布を貼って例の伝言を再生したHM−13。
 つまりはチェイスで負傷した3人と救護の1人である。
 大志と瑞希は駆けつけたHM−13を確認すると梓たちを追いかけていった。
 追いつけるかどうかは疑問だが、少なくともここに留まるよりはいいと考えたらしい。

「――では、私はこれで」
 治療と伝言を終えたHM−13は、ぺこりとお辞儀した。
「…うん。ありがとう」
「助かったわ」
「お仕事頑張ってね」
 3人は彼女に感謝の言葉を伝え、壊れた回転ドアから去ってゆくHM−13を見送り…
「はあ。ついてないなぁ……」
「そうね。結局逃がしちゃったし」
「…うん」
 その場にごろんと寝転がって、無気力に呟いた。
 先刻のハイテンションはどこへやら。
 やはり脇役及び脇役相応キャラ、激しいアクションは苦手らしい。
106束の間の健康体:03/06/02 13:58 ID:jTm+uegl
「……はぁ」
「疲れた…」
「本当にね…」
 装飾された天井を見上げ、休息を取る3人。
「………」
「………」
「………」
 無言。
 女が3人もいて静かなものである。
「………」
「………」
「………」
 静寂。誰も動こうとしない。
 しかし、止まない雨はないのと同様壊れない静寂もない。
 HM−13が立ち去って、5分程度経った頃だろうか。
107束の間の健康体:03/06/02 13:58 ID:jTm+uegl

 ぐぅ〜。


 誰かの腹の音で、時が動き出す。
「…そう言えば、お腹すいたわね」
 今の腹の音は自分のものではない。だが、今の自分が空腹なのも事実。
 この状況を維持すれば、近いうちに自分も後に続く可能性がある。乙女として由々しき事態だ。
 そう考えた雪見は、さりげなく食事の話題を振った。
「あっちに食堂があるわよ。誰もいないから、自分で作らないといけないけど…」
 こちらはまなみ。さっき朝食を食べたばかりで、満腹度はまだまだ余裕の80%。
「ちょっと早いけど、お昼にしない?」
 で、気丈な振りをしつつ、ちょっと顔が赤い真希。
「悪くないわね」
 どうせ他にすることもない。
 3人はむっくりと起きだして、ふらふらと食堂へ向かう。
「…あら? これ、なに?」
 と、まなみが床から何かを拾い上げた。
「キノコ?」
 雪見がそれを確認して呟く。
「…あ、それ、私の」
 地獄車をやっているうちにポケットから落ちてしまったのだろう。
 それは、昨晩真希がまさきから貰ったキノコだった。
「…なんでキノコなんて持ってるの?」
「ちょっと…まあ、いろいろあったのよ」
 見ず知らずの男から貰ったとは言いづらい。
「ふーん…」
 まなみはプルプルとキノコを揺らしながら、
「これ、食べちゃっていいかなぁ?」
 何故か嬉しそうに、そんなことを聞いた。
108束の間の健康体:03/06/02 13:58 ID:jTm+uegl

 数十分後、食堂。
「完成〜。まなみ特性、キノコリゾットよ」
 3人分の食事が、テーブルに並べられた。
 こう見えてもまなみは主婦である。それも専業主婦である。料理はお手の物だ。
「美味しそうね。いい匂いだし」
 目の前のリゾットを見て、素直に誉める真希。
「……本当に食べるの?」
 出生不明のキノコに対し、少々警戒している雪見。
「食べるの。大丈夫よ、屋台で売ってたものらしいし。ね?」
 基本的にまなみはノリがいい。
 裸エプロンでまさきをお出迎えするくらいノリがいい。
 多少不気味なキノコを食べることなど朝飯前である。
 実際は朝飯後だが、キノコへの興味から半ば無理矢理食べることにした。
 好奇心旺盛な21歳、どんな味がするのか楽しみなのか、にまーっと笑っている。
「大丈夫よ……多分」
 真希としては、屋台で売っていた「らしい」という認識しかないのだが、
 まなみがノリノリなので引っ込みがつかなくなっている。
 まあ、火も通したし大丈夫だろう。
「………毒キノコでも、すぐ救護が来てくれるはずよね」
 雪見も渋々覚悟を決めた。
 バンソウコウとタンコブまみれの顔で嬉しそうな顔をされては断るわけにもいかない。
 飛び蹴りの負い目もあるし。
「それでは」
 まなみが軽く合掌して、
 真希と雪見もそれにならい、
「「「いただきまーす」」」
109束の間の健康体:03/06/02 13:59 ID:jTm+uegl




 ぱくっ。




【まなみ とりあえず治療はしてもらった】
【真希 起床】
【雪見 足に湿布を貼ってもらう】
【まなみ 真希 雪見 とうとう食っちまった…】

【登場鬼 【皆瀬まなみ】【広瀬真希】【深山雪見】】
【登場管理者 『HM−13』】
【3日目 昼前 ホテルの食堂】
110いとっぷの撮影(無駄使い編):03/06/03 15:37 ID:XPO9UWv2
 こんにちは、伊藤です。
 ただいまメモリアルバムに相応しい女性探してます。
「あ、あの娘はどうだい?」
 貴之さんが少し離れた所を指差しながらいいました。
 そちらの方には、背の低い(隣の男がでかいため余計そう見える)貧乳眼鏡っこがいます。
「中の下」
 即座に結論。脳内会議にかけるまでもありません。
 私に貧乳眼鏡属性はないですし。
 27枚という枚数制限の中、青春のメモリアルアルバムを作るという使命がある私は1枚も無駄にすることはできないのであります。
「そうかなあ? 眼鏡ってだけでもかなりの高得点だけど……」
「うーん、俺も嫌いじゃないですけど、個人的に強気元気っ子や、あるいはムチムチおっとり娘の方が……」
「何の話だい?」
 あそこの貧乳眼鏡の隣にいたはずの男が、なぜかそこにいました。
 ……どうやら以前見かけた人のようですね。
 フフッ、もうこの程度では驚きませんよ。
 脇役なめんな。
 貧乳眼鏡もトコトコこちらに向かっているようです。
「アレ、あなたは確か……?」
「あ、君は確か……阿部君……だったよね?」
「って知り合いですか貴之さん。」
 世の中ってのはどこでどうつながってるのか解りませんねえ。
 このナイスガイのことは忘れているようで少しむかつきますが。
111いとっぷの撮影(無駄使い編):03/06/03 15:41 ID:XPO9UWv2
 まあそれはともかく、とりあえず関係を聞いてみましょうか。
「で、どういう知り合いなんですか?」
「ああ、それはね……」

(――説明中――)

「……というわけなんだ」
 大人の事情で詳しくは説明できませんが、どうやら間に柳川さんとかいう人物をはさんだ関係のようです。
「……柳川さんってひょっとして、ホ」
「だめだ瑞穂ちゃん!」
 説明中にきた貧乳眼鏡っ子の発言を、何故か耕一さん(というらしい)が止めました。
「そっそういや、さっきの話だけど……」
 そして慌てて話を変えます。少し気になりますがまあ良いでしょう。
 さっきの事といえば……
「ああ、写真のことですか?」
「写真?」
「ええ、実はかくかくしかじかという訳で」
「なるほどそれで私の写真をとろうとしたわけですね。仕方ありません撮らせてあげます」
 それ、違いますう。
 ……しかしキラリと光った眼鏡の前に口を噤むしかない私。
 ……こ、こわい。
「どんなポーズがいいですか?」
 しかもノリノリですか…
 仕方ない…まあ一枚撮れば――
 …
 …
 …
 …
 ――八枚撮らされました……
112いとっぷの撮影(無駄使い編):03/06/03 15:42 ID:XPO9UWv2
 ――八枚撮らされました……
 だって眼鏡が光るの妙にこわいんですもん!
 ああ、メモリアルが……、私のメモリアルが……
 逃げ手を捕まえてカメラを補給しなくては……
「しかし写真か……面白いな」
 耕一さんはしばらくの間妙に感心し、その後何かに気付いたように質問してきました。
「今まで撮った中に、20歳くらいでナイスバディの金髪外国人女性の写真はないかな?」
「金髪女性……? いや、ないですね」
 それどころか会ってすらいません。
 そんなナイスバディなら私が撮り逃すはずがありませんし。
「そうか。もしあるなら焼き増しお願いしようと思ったんだが……」
「耕一さん……また(怒」
 そうこれ、この凄みに八枚撮らされたんですよ。
「ちがっ、み瑞穂ちゃんだって、そその、かか香奈子ちゃんの写真なら、ほほ欲しいだろ?」
 あきらかに苦し紛れの耕一さんの言葉でしたが、藍原さんはその言葉にハッとしました。
「た、確かに……」
 欲しいんですか……
 しかし、その後の藍原さんの説明を聞く限り、どうやらその香奈子ちゃんとやらの写真もありませんね。
 その事を伝えると、藍原さんは非常に残念そうな顔をしました。
「そうだ!」
 その時、私の才気迸る頭脳に天啓の如く一つのアイディアが浮かびました。
113いとっぷの撮影(無駄使い編):03/06/03 15:46 ID:XPO9UWv2
 耕一さんと藍原さん…いや我が同士達が去っていきます。
 彼らは私の提案、『カメラを買い、私達の目標(湯浅さんと柳川さん)を見つけたなら写真を撮る』を受け入れてくれました。
 湯浅さんの特徴を説明したとき、何故か面食らっていたのが多少気になりますが、まあいいでしょう。
 そして、私達は彼らの目標(リサ=ヴィクセンさんと太田香奈子さん)を見つけたなら必ず撮るといういう訳です。
 これで、湯浅さんの写真が手に入る確率は単純計算で倍になりました。
 しかもうまくすれば、さらに充実したメモリアルが作れそうです。
「よかったね」
 貴之さんも目標に迫れる確率が増えて上機嫌です。
 しかし、私は一つ気になっている事がありました。
「あの……聞いていいですか?」
「ん? 何?」
「あ、柳川さんって……」
「柳川さんがどうしたの?」
「……」
 怖くて聞けねえ!
 「柳川さんって男じゃないですか?」なんて!

【伊藤貴之ペア 耕一瑞穂ペアとの契約『リサか香奈子に出会ったなら写真を撮る』】
【耕一瑞穂ペア 伊藤貴之ペアとの契約『カメラを買い皐月か柳川に出会ったら写真を撮る』】
【伊藤 八枚ほど無駄にフィルムを使ったため、逃げ手を捕まえ新たなカメラの資金としたい。柳川の性別に悩む】
【貴之 ある意味危険な発言】

【登場鬼 【伊藤】【阿部貴之】【柏木耕一】【藍原瑞穂】】
【時間:3日目4時頃 天候:雨】
114110-113:03/06/03 16:03 ID:XPO9UWv2
111の最終行と112の最初の行は同じのありますがただの分割ミスです。
片方消してください。

ミズホゴメンネ
115ターミ姉ちゃん:03/06/03 20:12 ID:aUPVh9Ie
「もしもし……もしもし……」
その声と共に体を揺すられて、巳間良祐は目を覚ました。
「こんな所で寝ていては風邪を引きますよ」
「え…………ええ、ありがとうございます」
寝起きのために頭はハッキリしないが、とりあえず礼を言っておく。
しかし口ではそう言いながら体は何となく身構えている。
あまり褒められた態度ではないが、まあこの島で良祐の身に起こったろくでもない出来事を考えれば、それも致し方ないだろう。
とりあえず立ち上がろうとする。が、雨に打たれながら意識を無くしていたことは良祐の想像以上に彼の体力を奪っていたらしい。
足元がふらつき、良祐は目の前の女性に寄りかかってしまう。
「大丈夫ですか?」
だが女性は嫌な顔一つせず、雨に濡れた良祐の体を支える。
その行為に良祐は、自分の心配が杞憂であると思った。
どうやらゲーム開始早々少女に財布をスられたことがよほどのトラウマになっていたようだ。
良祐は彼女に疑いの目を向けたことを反省しながら
「はい、大丈夫です」
と答えた。と同時に彼女が相当の美人であると気付く。
傘に隠れて見えなかったその相貌はまるで一流の人形師が造形したかのように整っており、細い絹糸を束ねたような黒髪はこの雨の中でも輝きを失っていない。この時点で巳間良祐は(あわよくば彼女と……)などという野望を抱いてしまった。性懲りもなく。
だが、彼の野望は脆くも崩れ去ってしまうこととなる。
「そうですか、ところで一つ聞きたいことがあるのですが」
彼女──篠塚弥生のことをあまりに知らなすぎた故に。
116ターミ姉ちゃん:03/06/03 20:13 ID:aUPVh9Ie
聞けば彼女は昨日からある男を捜しているという。
その男の特徴を聞くが生憎良祐に心当たりはない。
「さあ……ちょっと分かりません。それより……」
これから一緒に行動しませんか、と良祐が続けるよりも早く
「そうですか」
それだけ言って弥生は彼を支えていた手を離した。
突然支えを失い地面と熱烈なキスをかますはめになる良祐。
だが弥生はそんな良祐に一瞥もくれること無く
「行きますよ、相田さん」
それまで後ろにいた響子を促して歩き出した。

「はい……」
響子はそう返事をするしかない。あの男が少々哀れに感じるがそれを口に出しても無駄だと知っている。口に出しても「それが何か?」で
終わりだろう。昨日から万事こんな調子だからだ。
あの脳天気そうな少女が「お兄さん」と言っていた男──千堂和樹を捜して島中歩き回った。
森を抜けた、丘を登った、海にも出たし市街地も探した。
だが彼は見つからなかった。
無論誰にも会わなかったわけではない。だが千堂和樹の居場所を知っている人間は一人も居なかった。
そうこうしているうちに日が沈み、夜になっても弥生は止まろうとしなかった。ようやく休んだ時には既に日付が変わっていた。
だが彼女は僅か三時間で起き出し、まだ日も昇らぬうちから捜索を再開した。
117ターミ姉ちゃん:03/06/03 20:14 ID:aUPVh9Ie
まだ真夜中と言える時間、眠い目をこすりながら同行を拒否する響子に
「特定の人物を捜すのに、あなたの記者としてのネットワークを失うわけにはいきません。
 是が非でも連れて行かせてもらいます」
と言ってのけたのがほんの数時間前のことだ。
普段の弥生ならこんなことは言わないだろう。今は響子も鬼ごっこの参加者である以上、響子の記者として情報網などまったく使えない。
子供でも分かる理屈だ。だが弥生はそんなことにも気付かず、こうして響子を連れている。
思えばその時、いや、もしかしたらもっと前から、弥生は論理的な思考が出来なくなっていたのかも知れなかった。
そんな弥生が雨ごときで止まるわけがない。昨日休んだロッジから持ち出した傘をさし、まったく変わらぬ足取りで今も前を歩いている。
「フ…フフ……フフフフフフフフフ…………」
突然弥生の口から笑い声が漏れる。だが弥生は笑っているという意識もないだろう。その証拠に目が笑っていない。怖い。
相手が見つからない苛立ち、疲れ、睡眠不足、ついでにこの雨の鬱陶しさその他諸々の要因が彼女の理性という皮を一枚一枚むいていく。
なんのことはない、篠塚弥生という冷静沈着な才女でさえ、ただの一人の人間でしかなかったということ。
彼女はロボットでもなければ完璧超人でもなかったということだ。
……彼女をそう評した人間が、もし今の彼女を見たら一体どう思うだろう。
そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えながら、響子は弥生の後に続いた。



【弥生 和樹捜索中 いい感じに壊れかけ】
【響子 弥生についていく(むしろ連れ回されている)】
【良祐 弥生に捨てられる 意識はしっかりしている】
【時間 三日目朝】
【場所 登山道入口】
【登場 【巳間良祐】、【篠塚弥生】、【相田響子】】
118マンイーター・水瀬名雪:03/06/03 21:44 ID:Idt1ugg+
ぽたりぽたりと雨漏りは続く。
理緒は少し悩んだ末、とりあえず雑巾で拭いて、バケツで雨水を受け止めるという応急処置を施す事にした。
ある意味基本。
「とりあえず、みんな起きてからにしようっと…」
この中で唯一男である彰を起こして手伝ってもらおうか、とも思ったがやはり熟睡しているし起こすのは憚られた。
美咲とさおりも同類項。
そして名雪は…
なんていうか、あまりに幸せそうで、思わず半歩下ってしまいそうなほど幸せそうで、起こしたら凄い事になるんじゃないか、と直感して。
やめとこう、と思った。
名雪の側を通り過ぎて。
そしてとりあえず自分の毛布に戻ったその時。
名雪の毛布がもぞもぞと動いた。
相変わらず名雪は、「しゅっこー」等とシュノーケルのせいで妙な呼吸音をたてながら眠っている。
だから目覚めたのは猫の方だろう、と判断した。
すると、猫の片割れ――太助の方が名雪の毛布から飛び出た。
そしてそのまま走っていくのだが――その方向が、バケツの方。
「あ……」
この展開で然るべき落ち。
かたーん、と音を立てて、バケツを太助が蹴り倒してしまった。
まだ殆ど水が溜まっていなかったため、惨事と呼べるほどの惨事にはならなかったことだけが幸いだった。
「はぁ…」
理緒がそう溜め息をついて、起き上がろうとした、その瞬間。
「うー、逃げちゃ、だめだぉ〜」
名雪がごろんと寝返りを打って、そううめいて。
がっしりと、腕をつかまれた。
119マンイーター・水瀬名雪:03/06/03 21:45 ID:Idt1ugg+
そして、
「え」
と、呟く暇もなく、ずざざざざ、と名雪に引っ張られた。
中途半端に起き上がっていたためその力に対抗できない。
いや、普通でも対抗できないであろうほどの強烈な力だった。
「あ、いたいた痛い!」
身体が床を擦る。
そして理緒の身体は、名雪の毛布の中にあっという間に吸い込まれてしまった。
角度によっては毛布に食われたように見えたかもしれない。
「嫌、嫌! 離して!」
聞きようによっては、とんでもない誤解をされそうな悲鳴を上げ、身を捩る理緒。
「けろぴ〜、逃げちゃ、だめだぉ〜」
だが、哀しいかな。意味不明の名雪の呟きと共に羽交い絞めにされてしまった。
もう、抵抗できない。
ていうか、よく見ると、拭かれてもいない鼻水が。
「はなしてぇ〜…汚いぃ〜…汚されるぅ〜…誰か助けてぇ〜…」
と、またもや周囲から誤解されるような悲鳴を上げる理緒。
が、爆睡している誰もが気付く筈は無く。
小屋の中は、至って平和だった。
ごそごそと蠢く名雪の毛布と、ぽたぽたと滴る雨漏り以外は。

そして、名雪以外の全員が目覚めた頃、理緒のボロボロ(?)になった姿を見て驚愕し、名雪を起こそうと悪戦苦闘。
現在も戦闘中(?)である。

【理緒 名雪に羽交い絞めにされて汚れる(鼻水で)】
【名雪 理緒をけろぴーと勘違いして毛布に引き込む 理緒を救助しようと躍起になったみんなに色々されてるが起きない】
【太助 名雪から脱出 バケツを蹴倒す】【ぴろ 名雪の毛布の中】
【彰 美咲 さおり 名雪を起こそうと悪戦苦闘 現在戦闘中】
【雨漏りには騒動の所為で理緒以外気付いてません】
【三日目朝】
【登場鬼:【雛山理緒】【水瀬名雪】【七瀬彰】【澤倉美咲】【しんじょうさおり】】
【登場動物:太助 ぴろ】
120kinoko:03/06/04 04:20 ID:fNlvbIO5
まさきがひょんなことから手に入れ、その恋人であるまなみが調理したキノコ入りリゾット。
キノコ+リゾット。これはある特定の人間にとっては忌むべきものを思い出させる、禁断の組み合わせである。
例えばここにいるのが梓だったら、例えどんな手段をとってでも回避したことだろう。
だがここにいるのはそんなことは露知らない鍵のサブヒロインズ。一応正ヒロインもひとりいるが、まあ気にしない。
ともかく、三人の女性たちはそれを口に運んだ。運んでしまった。


10秒経過──

「……」
「……」
「……」


30秒経過──

「…………」
「…………」
「…………」


1分経過──


「……………………」
「……………………」
「……………………う」


121kinoko:03/06/04 04:21 ID:fNlvbIO5





「美ーーーーーーー味ーーーーーーーいーーーーーーーぞーーーーーーーーーー!!!!」




それは意外にも大変美味しゅうございました。


さて、彼女らが味皇様と化しているとき、鶴来屋別館に向かうグループの影が二つあった。
一つは先のデットヒートから脱落した健太郎、なつみペア。
そしてもう一つはヌワンギの襲来により小屋から飛び出してきたアルルゥ一行である。
「ユズっち大丈夫?」
「…うん、大丈夫……」
「アルちゃん、あそこに建物があるよ! 早く行こ!」
「ひーん、冷たいよぅ……」
ユズハは大丈夫だと言っているがその体は僅かに震えている。何しろ急な逃走であったため傘も何もなく、今も降り続ける
雨に打たれるままだ。なるべく濡れないように気を付けてはいるが、いかんせんまだ小さいアルルゥではその体全てを使って
抱きかかえてもユズハが濡れるのを防ぐことは出来なかった。
そんな中で見つけた大きな建物。あそこなら粗末な小屋と違い、体を拭くものも横になれる場所もあるだろう。
アルルゥたちは迷わずそこに行くことにした。先客が居るかも知れないが構うことはない。
例え、そこにいるのが鬼だったとしても。
122kinoko:03/06/04 04:22 ID:fNlvbIO5
鶴来屋別館、梓によって破壊されたエントランス前。
全身ずぶ濡れになった健太郎となつみはようやく辿り着いた屋根の下で一息ついていた。
だが、そんな束の間の安息は突然混乱へと変わる。
こちらに向かってもの凄いスピードで駆けてくるものがあったからだ。二人は何が起こったのか考える間もなく慌てて避ける。
「キャア!」
「うわあッ!」
その悲鳴の残響音が消える間もなく、少女二人を乗せたムックルがエントランスホールに躍り出る。後に続くカミュとユンナ。
「一体な……」
食堂から何者かがこちらに向かってくるのを見つけ、とりあえず食堂から出てきたまなみたちも、いきなり現れた
縞模様の虎を見て一瞬動きが止まる。
「ムックル!」

ウヴォォォーーーーーンン!!!

アルルゥの呼び声に咆哮するムックル。その雄叫びのあまりの大きさに驚き戸惑う雪見、真希、まなみ。
体中の筋肉が緊張する。へたり込まなかったのは称賛に値するだろう。
だがその隙にアルルゥたちは階段をのぼり、上へ行ってしまう。途中往人が昨日積み上げたまま放置してあったバリケードが
あったが、それも易々と飛び越えて二階へと消えていった。
123kinoko:03/06/04 04:23 ID:fNlvbIO5
「一体何よアレは……」
「四神の一つとして有名な白虎に似てたけど……まさかなあ」
「あ、さっきの」
「どうも、先程は…」
「それになんか羽根生やして飛んでるのも居たわよ」
上から順に雪見、健太郎、真希、なつみ、まなみの台詞である。先刻デットヒートを共に繰り広げた五人は、突然の闖入者に
揃って頭を悩ませる。
「見た感じ襷が掛かってなかったから、逃げ手だと思うんだけど……」
そう、彼らは逃げ手、そして自分たちは鬼。ならばやることは一つなのだが、
「アンタ、あんなのを相手にしたいと思う?」
「嫌よ。冗談でもゴメンだわ」
先程見たあの牙、あの爪。思い出しただけで震えが走る。あんなのに喧嘩を売るなんて死ぬこととほぼ同義だ。
逃げ手は捕まえたい、だがあの虎が居る限りこちらに勝機は薄い。ならどうすればいいんだ。進退窮まったか。
「それより、なんかさっきからいい匂いがするなあ」
だが停滞した空気は場を読まずに発言した健太郎のこの一言で動くことになるのであった。
124kinoko:03/06/04 04:24 ID:fNlvbIO5
階段から一番近いところにある客室にアルルゥたちは飛び込んだ。
急いでタオルを取り出してユズハの体を拭き、一緒にあった服に着替えさせ、ひとまずベットに寝かせる。
「ユズっち、大丈夫?」
心配そうな顔で再び聞くアルルゥ。
「…うん。ありがとう、アルちゃん。カミュち〜とユンユンも」
それにユズハは笑顔で答えた。
ユズハの答えに安堵の溜息を吐く三人。ガチャタラもその答えに安心したのか、ユズハの枕元で丸くなる。
そして自分たちの着替えも終わったその時。
「ヴォフ〜」
突然ドアに向かって歩き出すムックル。
「? ムックルどうしたの?」
カミュの声にも止まる様子はない。半開きになっていたドアを押し開け、そのまま先程の階段を下りようとする。
「ムックル駄目、止まる」
階下には鬼が居る。アルルゥの言葉にとりあえず歩を止めるが、ムックルはまた階段に向かって進み始める。
何度アルルゥが「止まる」と言っても聞き分けない。仕方なくアルルゥが尻尾を、カミュが足を掴んで止めようとするも、
それを引きずりながらムックルはさらに階段の方に向かっていく。
そんな二人と一匹を尻目に、
「なんだかいい匂いがするー」
と、そう呟いたのはユンナであった。
125kinoko:03/06/04 04:25 ID:fNlvbIO5
厨房から持ち出したカセットコンロ。その上に乗っているのは、残ったリゾットの入った鍋。
それをこれまた厨房にあったうちわで扇ぎながら健太郎はニヤニヤと笑っていた。
「……ねえ、一応聞くけど。どういうつもり?」
半眼の真希がそう問いかける。それに対する健太郎の答えはこうだ。
「昔から動物を捕まえるには餌で釣ると相場が決まってるんだよ」
そう言う健太郎の脳裏にはホットケーキを前に目をキラキラさせる居候の姿が浮かんでいた。
一応あの虎を捕まえる作戦として、隙をついて解除した罠の残骸の中で見つけた網(なつみが動きを封じ込める魔法でコーティング済み)で
あの虎を束縛するという作戦をとることにしたのだが。
肝心の虎をおびき寄せる手が、よりによってこんなんとは。
「そんな簡単にいくわけ…」
反論しかけてふと思い直す雪見。彼女の脳裏に浮かんだのは、学食でうず高くカレーの皿を積み上げる自分の親友の姿。
「どうしたの?」
「……案外上手くいくかもね」
雪見の言葉に真希とまなみは「ええ?」と言う顔をするが、これに代わるアイディアも出ないため、結局従うことにした。
126kinoko:03/06/04 04:47 ID:fNlvbIO5
おびき寄せ役、宮田健太郎。(うちわ扇ぐだけ)
囮役、深山雪見及び牧部なつみ。(なつみが魔法でサポート)
捕獲役、広瀬真希及び皆瀬まなみ。(作戦の要)

役者はそろい、幕は上がった。さてこの作戦、吉と出るか凶と出るか。それはまだ本人たちにも分からないのでありました。



【健太郎、なつみ、雪見、真希、まなみ ムックル捕獲作戦開始】
【アルルゥ、カミュ、ユズハ、ユンナ 着替え済み】
【ムックル リゾットの匂いにつられてフラフラ】
【アルルゥ、カミュ ムックルを止めようとするが引きずられる】
【ユンナ リゾットの匂いを感じ取る】
【ユズハ 階段近くの部屋のベットに横になっている。枕元にはガチャタラが】
【時間 三日目昼頃】
【場所 鶴来屋別館】
【登場逃げ手 アルルゥ、カミュ、ユズハ、ユンナ】
【登場鬼  【深山雪見】、【広瀬真希】、【皆瀬まなみ】、【宮田健太郎】、【牧部なつみ】】
【登場動物  ムックル、ガチャタラ】
127黄昏の狂想曲:03/06/05 21:31 ID:BSPKZF9k
 想像を絶する怪異、真なる恐怖に出会ったときあなたはどうするだろうか?
 立ち竦むか? 泣き叫ぶか? 逃げ出すか? それとも勇気をもって立ち向かうか?
 そんなものに出会うことなどありえない、あなたがそう考えるならば、
私はその甘美な認識が崩される日が来ないよう、祈るだけである。 
 だが、そのような恐怖、怪異は確かに日常の裏に潜んでいるのだ。
 これから語る物語があなたにとってよい教訓になってくれればいい、私はそう考えている。
 では、はじめるとしよう。
 昼と夜の境界線、一日で最も混沌とする時間、黄昏時におきた狂気の物語を―――
128黄昏の狂想曲:03/06/05 21:32 ID:BSPKZF9k
「ずいぶんと滑稽なことだな」
 その男の声に、さいかの罠にかかって吊るされていた佐祐理は、
無理に首をひねって男の方をむいた。
「に、逃げ手さんですか〜」
「いかにも」
 ずいぶんと巨躯の男だ。奇妙な仮面を身につけている。
「夕霧さんという女性を知っているか? 高い知性を思わせる広い額と眼鏡を持つ人なのだが。
髪型は可愛らしく三網にしている」
「ふぇ、ごめんなさい。知らないです……」
 佐祐理は顔を赤らめて、両腕を上げてスカートを抑えようとした。
「あ、あの、あまり佐祐理のこと見ないでください……」
 吊るされているためにスカートがめくれてしまいショーツが丸見えになってしまっている。
それだけならまだしも、そのショーツは雨に濡れてしまい、透けてしまっているのだ。
 だが、そんな佐祐理とは対照的に仮面の男は、
「そうか。なら、俺は立ち去るとしよう」
 冷たい声とともに踵を返した。
「ふ、ふぇ〜! ちょ、ちょっと待ってください……捕まえたりしませんから助けてくださーい!」
 その佐祐理の慌てた声に、男は首を振った。
「その格好でいるということは、貴様は勝負に負けたということだろう?
ならばその罰は受けるべきだ」
「で、でもこのままでは風邪を引いてしまいます……」
「健康面に危機が及べば、リズエル達が助けてくれるだろうさ。それまでは自分の敗北をせいぜい噛みしめていることだ」
「そ、そんな〜」
「くどいぞ? 貴様を助けるということは、勝利者ではなく敗北者に肩入れすることになる。
そのような勝負を汚すような事は、エルクゥはしない。もっとも―――」
 男は仮面の下で嘲う。
「貴様に、そんな理屈を吹き飛ばすような女としての魅力があれば別だっただろうがな」
 その嘲笑に佐祐理のプライドは痛く傷ついた。
129黄昏の狂想曲:03/06/05 21:33 ID:BSPKZF9k
「さ、佐祐理だってそんなに自分の事がきれいだって言うつもりはないですけど……!」
 彼女にしては珍しく激昂する。
「ふん、プライドが傷ついたか? まあ、確かに貴様の見目がいいということは認めてやるさ。
だが、貴様には致命的に足りていないものがある」
「さ、佐祐理にですか? いったい何が……」
「眼鏡だ」
「ふ、ふぇ?」
「眼鏡が足りぬ」
 しばしの沈黙の後、ようやく佐祐理にも事態が理解できた。
(えーと、つまりこの人は視力補正の道具に欲情してしまう、
そんなかわいそうな特殊な趣向の持ち主だと……そういうことですか〜!?)
 困る。実に困る。この人がかわいそうな人だとしても、頭に蛆が湧いていたとしても
自分としてはここで助けてもらわねば困るのだ。
(こ、こうなったら駄目もとです)
 佐祐理はスカートを抑えることを諦めて、両手とも親指と人差し指でワッカを作り
両目に当てた。そして言う。
「ほら、眼鏡ですよ〜」
 ものすごく悲しくなった。

 ―――これが狂気の始まりだった。
130黄昏の狂想曲:03/06/05 21:34 ID:BSPKZF9k
「姉さん〜 そろそろどっかに引っ込んでちょっと一服しません?」
 矢島の提案に七瀬は苛立った返事を返そうとして、それからため息をついた。
「……そうね。もうすぐ夜になるしね」
 神岸ひかりを吊橋で取り逃がしてから、
七瀬達は川沿いを雨にぬれたまま彼女を数時間探し続けていた。
 だが夜になれば気温も下がる。健康や体力のことを考えれば一度休めるとこを探して
体勢を立て直すべきだった。
「大分海から離れちまったし、町の方に行きしょか」
「うん、そうしよ。シャワー浴びたいし。
ああ、でも悔しいなぁ。あのおばさん……今に見てなさいよ!」
「まあまあ、そのうちチャンスもあるっすよ……ん?」
 矢島は目をこすった。
「どしたの?」
「いや、なんか光ったような……ほら、あそこでなんか光がチラチラしません?」
 矢島が指した木々の向こうに、確かにチラチラと何かが輝いている。
まるで鏡か何かで太陽光が反射しているようだ。
 雨天のことであるしたいした光度でもないのだが……
「ほんとだ、なんだろ……どうせだし、行ってみない?」
「そうっすね」
131黄昏の狂想曲:03/06/05 21:34 ID:BSPKZF9k
「ダリエリさん、見つからないわね……」
「はい……」
 高子と夕霧は、町中でのヌワンギとの一件の後、町をでてダリエリを探しながら海のほうへ移動していた。
(夕霧さん、ちょっと落ち込んじゃってるわね)
 すばるを犠牲にしてしまったことが響いているのだ。
「ダリエリさんもきっと夕霧さんの事探しているだろうし、すぐあえると思うわ。
どうする? そろそろ夜だし今夜の宿決めてしまう?」
「そうですね。海の方で何か施設とかあったら……」
 だが、夕霧は最後まで言うことができなかった。
高子が夕霧の腕を引っ張って急に走り始めたからだ。
「……高子さん!?」
「鬼よ、走って夕霧さん!」
 そう叫ぶ高子と夕霧の後ろで、
「チャンスよ! 今度こそゲットするわよ!」
「やれやれ、一服はまだ先か」
 七瀬と矢島が飛び出してきた。
 果たして光を反射していたものは何か。それをいうのは野暮というものだろう。
 彼女達は雨の中を走る。

 ―――その先に待つ狂気も知らずに。
132黄昏の狂想曲:03/06/05 21:35 ID:BSPKZF9k
「ほら、眼鏡ですよ〜」
 その女の声に、ダリエリはゆっくりと自分の仮面をはずした。
そして、仮面を握り締め一瞬で破壊する。
「何の真似だ?」
 その低い声と共に。
「ふぇ?」
「何の真似だと聞いている……貴様、眼鏡っ娘を馬鹿にする気か?」
「は、はぇ?」
 まだ己の罪に気づいてないようだ。
「ずいぶんとこのダリエリも馬鹿にされたものだ……!」
 ゆっくりと鬼の力を解放し、吊るされた女の方へ歩み寄る。
「ちょ、ちょっと待ってください〜! 質量保存の法則を無視しながら、なんか人間やめちゃってますよ〜!」
 そう
 こんな屈辱は味わったことがない。
 こんな恥辱は身に受けたこともない。
 ―――だから楽しい。
眼鏡っ娘を貶めたこの女を、この身を焦がすほどの憤怒をぶつけ、叩きつける時がどれほど気持ちよい事か想像もつかない。
壊す。壊す。壊す。少しずつ、一息に、この上なく優しく、痺れるぐらい残酷に、あの命を犯しつくそう。
「い、いやそのモノローグは危険です、色んな意味で!!」
「ころ して や る」
「冒頭の大げさな前ふりのオチはこれですか!! 
助けて〜! 舞〜! 祐一さん〜!! 助けてぇーーー!」
 吊るされた女は逃げることもできなく、ただ泣き叫ぶだけ。
 ゆっくりと、本当にゆっくりとダリエリは歩み寄る。
「舞〜! 祐一さ〜ん! 久瀬さーん!」
 泣き叫んだところで誰も助けに来ない。救いは訪れない。
 
 ―――否、あの漢がいた。

「垣本さーん!!」
 佐祐理の叫びに、まるで見計らったかのように、漢が飛び出してきた。
133黄昏の狂想曲:03/06/05 21:36 ID:BSPKZF9k
 七瀬達と夕霧達のチェイスは続いていた。
 一瞬後ろを見て、高子は歯噛みする。
(どんどん追いつかれてる……!)
 相手は元剣道部と現バスケ部。運動能力の差は歴然だった。
チェイスが長引いてている理由は疲労度の差だが、それも限界がある。
 ふと、斜め前方の方から声が聞こえてきた。何人かが言い争っているような声だ。
(誰か、近くにいるの!?)
 まずい、これが鬼だったら……!
 だが、隣の夕霧が高子に告げた。
「ダリエリさんの声です……! 助けてもらえるかも……!」
 
 ダリエリを前に、飛び出してきた漢はビッとポーズを決める。
「貴様……何者だ?」
「この垣本、貴様などに名乗る名は持ち合わせていない!!」
「あははー……名乗ってますね……」
 ボソッと背後でつぶやく佐祐理を無視して、垣本はノリノリでダリエリに指を突きつけた。
「この漢・垣本が現れたからには貴様の野望もここまでだ!
おとなしく散るがいい!!」
「ホゥ……よく言った」 
 既に人外と化したダリエリはニヤリと笑う。
「垣本さん……すごい度胸です……」
「フ……何を馬鹿なことを。あなたへの愛が俺に勇気をくれるんですよ」
 そういって、垣本が佐祐理のほうを振り向いたのと、
「垣本!! まだ決着は付いておらぬぞ!?」
 清(略が飛び出してくるのが、同時だった。
 そして―――

「眼鏡っ子のオールヌードキタ――――――――――――――!!」
「佐祐理さんのスケスケパンティキタ―――――――――――――――!!」

 二人の漢から熱い血潮(鼻血)がほとばしった。
134黄昏の狂想曲:03/06/05 21:38 ID:BSPKZF9k
「……?」
 七瀬と矢島は眉をひそめた。木々の向こう、ちょっとした広場になっているのだろうか?
 そこで、獲物二人が立ち竦みガクガクと震えているのだ。
 ふに落ちないままに、それでも獲物を捕まえようと二人は広場に出た。
 そして、二人は見た。想像を絶する怪異、真の恐怖を。
 
 雨の中。
 黄昏時。
 逢魔が時。
 人と魔が織り成す、
 血の饗宴。
 木に吊るされた美少女。
 赤く染まる艶かしい肢体。
 凍りついた笑顔。白目をむいて。
 巨躯の異形。
 牙の生えた口、血走った目、荒い息。
 噴き出る血。
 対峙する少年。
 血走った目、荒い息。
 噴き出る血。
 そして眼鏡をかけた少女は、
 一糸まとわぬその体を血に染めて、
 天を仰ぎ、
 濁った目で、
 なにかを呟いていた。
 
どこかで鴉が哭いた。
135黄昏の狂想曲:03/06/05 21:38 ID:BSPKZF9k

【三日目夕方〜夜】
【ダリエリの仮面破損】
【登場逃げ手 ダリエリ、砧夕霧、桑島高子】
【登場鬼 【倉田佐祐理】、【垣本】、【清水なつき】、【七瀬留美】、【矢島】】
136:03/06/06 01:11 ID:0f5zxWcG
「うふふ・・・もう逃げられないからね〜や・な・か・わ・さん」
この巨大な意味の分からない物体も鬼で、自分を狙っているらしい。
そう柳川は確信する。
ならば、この隣にいる少女を突き飛ばし自分を犠牲に逃げてもらうか。
否、それではこの女を手助けした意味がない。
こういった状況を助けてこそ、俺の期待する表情をしてくれるはずだ。
僅かな時間に思考を巡らす。
「あー、柳川さんまた別な女のコと一緒にいる・・・・・・もう、照れ屋さんなんだからぁ」
およそ、理解不明のことを口走る謎の物体。
「ちょっと、私はこの人と何の関係もないんだからね!!」
友理が声を荒げて否定。
「む、私はー柳川さんにー監禁されてー、陵辱されたんだけどー私はあれが柳川さんの愛だって知ってるんだぁー」
もう何言わせるのよぉ、というそぶりの謎の物体。
対してそれを聞いた友里は
「な・・・な・・・な・・・」
「何してるいのよ!あんたは!!」と柳川に叫ぼうとした瞬間、友里の身体が浮遊感に襲われ──
「・・・あれ?柳川さん、何処ー?」


(助かったな・・・)
木々を凄まじい速度で駆けながら、エルクゥの力を解放した柳川は思った。
一番星となったあの二人に追われたままでは、いずれ捕まっていたに違いない。
彼らには、鬼として甘さがなかった。
断言できるが、彼らならば逃走者と話し合うなどという愚は犯さなかっただろう。
事実、柳川はその時間を使って力を解放しこうして逃走している。

「さて、何処へ向うか・・・・・・」
137:03/06/06 01:15 ID:0f5zxWcG
【三日目夜】
【柳川 友里を担いで逃走(エルクゥの力を使っている)】
【友里 柳川に対していいたい事がありそう】
【由美子 おろおろしている】
【柳川 友里は明確な目的地がない】
138名無しさんだよもん:03/06/06 06:18 ID:ZoYnWkTW
(・∀・)イイ!
139灰色の友情:03/06/06 10:03 ID:VswbzOcg
「………」
 悲しい。
 土を伝い、流れてゆく水を眺めながら、
 巳間良祐はそんなことを思った。
 悲しい。あまりにも悲しすぎる。

「………」
 憐れだ。
 女に捨てられ、地面にうつ伏せているその男を見ながら、
 山田まさきはそんなことを思った。
 憐れだ。あまりにも憐れすぎる。

 ふと、2人の目が合った。
 一瞬の沈黙の後。
「そんな目で見ないでくれ…」
 良祐が、言葉を振り絞る。


 ………。
 ……。
 …。

140灰色の友情:03/06/06 10:04 ID:VswbzOcg
「なるほど。災難だったね」
 比較的雨を凌げる木の影へ隠れ、まさきは良祐の愚痴を聞いてやった。
 愚痴というよりは、鬼ごっこが始まってから今までの良祐史というのが正しい。
 自分史がそのまま愚痴になっているから結局は同じことなのだが。
「…そりゃ、色気を求めた俺が悪いんだろうけどな……」
 思い出すうちに鬱になったのだろう。少しは気が晴れたようだが、相変わらず良祐はしょんぼりしている。
「まあそう言わずに。男なんだから、それくらい期待して当然だって」
 買い溜めていたおにぎりを良祐に渡しながら、まさきがフォローを入れる。
「そう言ってもらえると救われるな」
 受け取ってビニールを剥ぐ。良祐が持っていた食料の多くは、雨で駄目になってしまった。
「……悪い。こんなつまらない話につき合わせて」
「別に構わないよ。ただ…」
「ただ?」
「…ちょっと悪いんだけど、俺の愚痴も聞いてもらっていいかな」
 苦笑する良祐。
「ああ、構わない」
 おにぎりを頬張って、答えた。
「助かるよ。――俺、最初はこいつと一緒だったんだけど…ちょっとはしゃぎ過ぎてね」

 言いながら財布から取り出した一枚の写真。
 それには、まさきにべったりとくっついたまなみが写っていた。


 ………。
 ……。
 …。

141灰色の友情:03/06/06 10:04 ID:VswbzOcg
「…なるほど。大変だったな」
 出会ってから、かれこれ数十分。
 互いの傷を洗いざらい吐き出し、綺麗に舐め合った2人は、
 鬼ごっこ有数のクロスオーバー親友と化していた。
「そう言えば…晴香はどうしてるかな…」
「晴香?」
「ああ、俺の妹だ。俺よりしっかりしてるから、心配はしていないんだが…ちょっと気になる」
 財布から写真を取り出して、まさきに見せる。
「妹? その割には、なんだか」
 写真の中の晴香は良祐にべったりとくっついていた。
 ちょうどさっきのまなみのように…兄妹というよりは、恋人のようだ。
 だからこそ良祐も、晴香のことを思い出したのだろうが。
「義妹だ」
「なるほど」
 『義妹』の一言で済ます良祐も良祐だが、納得するまさきもまさきである。
「捕まえたのが高槻だけじゃ、晴香に怒られるだろうな…」
 良祐は少し笑いながら写真をしまい、立ち上がってぐっ、と伸びをした。
 まさきもそれに倣い、それから少し残念そうに言う。
「俺、もう行くよ。鬼ごっこよりまなみの方が大事だから…。それに、無関係の人を巻き込みたくないしね」
「そうか。縁があったらまた、今度は一緒に酒でも飲もう」
「ああ。もしまなみに会ったらよろしく」
「そっちも晴香に会ったら、よろしくな」

 2人、挨拶をして、それぞれ別の方向へ足を進める。
 愛する人に逢うため。自尊心の欠片を取り戻すため。



((――待てよ?))


 だが、突如足が止まった。
142灰色の友情:03/06/06 10:05 ID:VswbzOcg
(あいつ、いろんな女にアプローチをかけてきたわけだから…もし、まなみに会ったら)
(よろしくって、何をよろしくするんだ…あいつは言葉通りの浮気者だぞ。晴香に手を出すに決まっている)
 湧き上がる疑惑。黒い感情。まなみも晴香もいたる絵大爆発しかも初期ver。
「………」
「………」
 2人は同時に振り返る。
(こいつを野放しにするのは危険だ。まなみを喰い…いや、まなみに喰われかねない)
(こいつを野放しにするのは危険だ。くそ、写真なんて見せるんじゃなかった…)
「………」
「………」
「…やっぱり」
「…一緒に行くか?」
「ああ、これも何かの縁だ」
「決まりだな」
 まさきと良祐は、歩み寄ってがっちりと握手した。
 共に左手で。

「ところで山田、傘か何か持ってないか?」
 雨はさらに酷くなっている。木は完全に雨を防いでくれるわけではないから、ここに留まるのは得策でない。
「持ってない。持ってたら使ってる」
「それもそうだな」
「どこかに建物があれば……」
 あいにく、周りに建築物らしきものはない。
「…登るか? 上まで行けば休憩所があるかもしれないし、無くても建物の1つや2つは見つかるだろう」
「そうだな。たいした距離じゃなさそうだ」
 そんなわけで、友情に微妙な亀裂が入った2人組は雨の山道を登ってゆく。

【良祐 まさきを警戒しつつ手を組む。山登り。精神的にはちょっと元気になった。所持品の食料は水浸し】
【まさき 良祐を警戒しつつ手を組む。山登り】
【登場鬼 【巳間良祐】【山田まさき】】
【時間 三日目昼前】
【場所 登山道入口】
143天啓:03/06/06 21:49 ID:LjnAaY2k
「アレー? 柳川サーン、ドコ………?」
 木々の間からその巨体を覗かせているウィツァルネミテア(由美子仕様)
 今彼女(?)は呆然と佇み、どこか遠くの方を見つめている。
「ドコ……?」
「……逃げたんでしょ」
 ようやく、芳晴が口を開けるようになった。
「逃ゲタ?」
「いや……由美子さん、追いつめたのはいいんですけど。捕まえるんならちゃちゃっとタッチしなきゃダメですよ。今みたいに逃げられちゃいますし」
 すでに彼の中では何かが切れてしまっているのか、当たり前のようにウィツと会話を交わすことが可能となっている。
「逃ゲラレタ? 誰ガ?」
「いや、由美子さんが。今。思いっきり。あの柳川とかいうひと、もの凄いスピードで逃げちゃっていきました」
「柳川サン? アア、柳川サンネ。柳川サン、"何処ニ行クノカシラ"?」
「……?」
 芳晴は、そこに存在する日本語の微妙なニュアンスの違いに気付く。
「どこに行くのか……? 逃げられちゃったんじゃないんですか?」
「逃ゲラレタ……? エ? ヒョットシテ柳川サン、アレデ逃ゲテルツモリナノ?」
 両目をハッと開き、心底驚いた仕草。
 ややあって、
「アアン、モウ、ホント可愛インダカラッ、柳川サン。アンナ健気ニ私カラ逃ゲルナンテッ。ゼンゼン無駄ナ抵抗ナノニッ」
 無駄な抵抗、と言い切った。あの速度で走る人間を。
 全力疾走で逃げる人間を。無駄、と言い切った。
 この人は。
「……ということは由美子さん、あの人、見失ってないんですか?」
「当タリ前ジャナイ。ソウネ。アンマリ時間モ無駄ニハ出来ナイシ、ソロソロ追イカケマショウカ」
 そして腰を屈め、ぐぐっと下半身に力を込める。
「シッカリ捕マッテテネ、芳晴君」
「は、はぁ……」
 言われたとおり、ウィツの頭の突起物にしっかりと抱きつく芳晴。
 
 ゴッ!
 
 彼の首が慣性という名のパンチによりあらぬ方向へ折れ曲がるのは、この1秒後の出来事である。
144天啓:03/06/06 21:50 ID:LjnAaY2k
「……逃げきったか」
 漆黒の森の中、女性一人抱えているとは思えぬほどの速度で疾走する柳川。
 ほぼ完璧に鬼の力を解放したその姿は、一見人とは思えぬほどだ。
「……それがあなたの力の秘密ってわけね」
 が、『それ』に抱かれたままの友里は一向に気にする様子もなく、並の女性なら悲鳴をあげるような状況にも憮然とした態度を崩さない。
「そうだ。これが俺の中に眠る鬼の力。その本当の姿だ」
「世界は広いわね」
「……驚かないのか?」
「お生憎様。私だって平々凡々に生きてきたわけじゃないからね。異形の類にはある程度慣れてるのよ」
 チッ、と舌打ちする柳川。
 まだか。まだなのか。この女を唖然とさせることは、これでもまだ無理なのか。
「それより……」
 続いて友里が口を開く。
「なんだ」
「さっきの化け物が言っていたこと。監禁とか陵辱とか、あんまり人聞きのよくないことよ。説明してもらえる?」
「説明、か……」
 返って、詰め寄られる結果になった。
「……というかアレ、あなたのことに見覚えあるみたいだったけど……知り合い?」
 知り合い。……柳川の脳裏に先ほどの怪物の声が蘇る。
 
『柳川さーん』

 ……間違いない。
 動転していたさっきはわからなかったが、あの声は間違いなく由美子だ。
「そういえば、ちょっとまえすれ違ったあなたの知り合いみたいなメガネの娘……。声がそっくりだったわね」
「鋭いな。その通りだ。おそらく、アレと由美子さんは同一人物だろう」
「……どういうこと?」
「理由はわからん。が、何らかの手段で変身手段を手に入れたと考えるのが自然だな。なにせ今この島はまさしく不思議時空。変身アイテムの一つや二つあってもおかしくない」
「……同感ね。まさか、あんな隠し玉まで用意してあったなんて……」
 ここで、友里はもう一つ思い出す。
「……じゃあ、監禁とか陵辱ってのは、まさか……」
「そうだ。本当だ。かつて俺は彼女を拉致し、監禁し、薬を使い、犯し倒した」
145天啓:03/06/06 21:52 ID:LjnAaY2k
「……説明、してくれるかしら?」
 さすがに友里の表情にも嫌悪の色が浮かんだ。FARGOの経験もあるのだろうが、それでもやはり性犯罪というのは女性から見て看過できる話ではないのだろう。
「そうだな。いささか長くなるが……」
「……じゃあ、一つだけ訊かせて」
「なんだ?」
「あなたは、私を襲う気はあるの? 私を追いかけてきたのは、私を犯したいから?」
「……いいや、違う。理由はその長い話の中にあるが、今の俺はその手の『衝動』は抑えられるようになった。
 それに、お前を追ってきたのも……お前の、驚いた顔が見たいからだ。困惑した顔が見たいからだ。お前のその氷細工のような表情を、もっと生気のあるものに変えたいからだ。俺の手によってな」
 ククッ、と含み笑いを漏らす。
「……余計なお世話よ」
 柳川の言葉は信に値すると判断したのか、友里の表情からやや険が取れる。
「……まぁもっとも、お前が望むのならば一晩付き合ってやらぬこともないがな」
 軽くジョークを吹く柳川。
 そして嫌悪に歪んでいるであろう表情を見てやろうと、腕の中の友里を覗きこ────
 
「……柳川さん! 後ろ!!!」
「な!?」
 そこにあったのは『嫌悪』でない。『驚愕』であった。
「なんだと!?」
 首を捻り上を見上げた柳川。その目に飛び込んできたのは────!
「柳川サンッ! ドウイウコトデスカ! 普段ハ温厚ナ私デスケド、アンマリオ痛ガ過ギルト私ダッテチョット怒ッチャイマスヨ!」
 冗談を本気にしてくれた、大神様が迫っていた。
 
「今度ハ遠慮シマセンヨッ! 速攻デ捕マエサセテイタダキマスッ!!!」
 すでに生命体のレベルを超えたその動き。一気に飛び上がって2人の身体に覆い被さると、由美子は右の豪腕を振り上げた。
「ぬおっ!?」
 即座に身を翻しその一撃をかわそうとする柳川だが、チャチな足さばきなどお見通しとでも言わんばかりに、由美子の瞳は柳川の動きを正確にトレースしていた。
「まずい! 避けられん!」
 さしもの柳川も覚悟を決めた、その刹那────!
146天啓:03/06/06 21:53 ID:LjnAaY2k
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 友里が両手をかざし、自分たちの身体の回りにいくつもの『塊』を作り出した。
 一気に収縮した空気が球の中に押し込められ、2人の身体を取り囲む。
「これは!?」
 変化した空気に気付く柳川。だが、まだだ。これだけではあの化け物には全く効果など及ぼさないだろう。
「名倉友里! どうするつも……!?」
「こうするのよっ!」
「な!? ぐおあっ!!?」
 さらに友里がかざした手を振る。同時に2人を囲んでいた球が爆裂し、吹きすさぶ旋風が柳川の身体を洗った。
「ぐ、こ、これはっ!!?」
 秋のつむじ風に翻弄される木の葉のように、柳川は大気の中で踊らされ、やがてドサリと地に落ちる。
「ぐっ……づっ……な、名倉友里! どういうつも……!」
 同行者の突飛な行動に不満を漏らそうとする柳川。しかし、その言葉は途中で遮られる。
「……とりあえず、感謝しておこう」
「どういたしまして。私だってけっこう痛かったのよ」
 そう。不規則な動きに翻弄された柳川の身体は、ギリギリの位置で由美子の一撃をかわすことに成功したのだ。
 
「モウッ! 柳川サンッ! 往生際ガ悪イデスヨッ! イイ加減サッサト捕マッテクダサイッ! ソシテ、私ヘノ愛ノ認知ヲッ!」
「すまないが由美子さん、俺とてまだ身を固める気はさらさらないっ! 今あなたに捕まるわけにはいかないのだっ!」
 声だけ聞けば痴話喧嘩。しかし見た目は化け物同士の決闘。友里はいささか頭痛を覚えたが、今ここで捕まるわけにはいかない。
 とりあえず現状を確認してみることにした。
 最悪。
 それ以外の形容が思い浮かばない状況であった。
 目の前には自分の力など全く及ばない超生命体。しかもその速度は友里の人生におけるレコード更新者である柳川をまるで子供扱い。
 しかもやる気は満々。目の前の男を狙ってやまない。
(……見捨て)
 るわけにもいかない。一応、目の前の男は自分を助けてくれたのだ。
 別に恩義の類を重んじる性格ではなかったが、そこら辺はキッチリしないと"気持ちが悪い"
147天啓:03/06/06 21:54 ID:LjnAaY2k
「怒リマシタヨ柳川サンッ! チョット手荒ク行キマス! 痛イデスケド、我慢シテクダサイネッ!」
 突如目の前の怪物が口を開いたかと思うと、その中に光が集束しはじめた。
 ……やばい。あれはやばい。
 第六感に頼るまでもなく、友里の五感全てがそう叫んでいる。
「チッ……まずいな、これは。名倉友里! ここは俺が何とかする! お前はさっさと逃げろ!」
 予想通りの台詞を吐いてくれた。ならばと友里も準備していた言葉で返す。
「お断りよ。あなたを捨てて自分だけ逃げようなんて気持ち悪くてできたもんじゃないわ。反論は許さないわよ。考えはあなたと同じでしょうから」
「……強情っ張りめが!」
「あなたこそね!」
 一瞬、お互いニヤリと唇を歪め合う。
「ソレジャァァァァァァ! 行キマスヨ柳川サァァァァァァァァァァン! 力ハ抜イトイテアゲマスカラァァァァァァッ! ユミコネミテアキャノン、発射……!」
 集束した光が爆光と化し、2人に迫る……!
 
「くそっ……!」
「ここまで……かしら……?」

 ────いや。
 
『脇腹だ!』
「!?」
「え!?」
『右脇腹へ飛び込め! 奴はそこが死角だ! 急げ!』
 誰かの叫び声が聞こえた。
「柳川さん!?」
「迷っている暇はない。行くぞぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 ────────────!!!!!!!

148天啓:03/06/06 21:56 ID:LjnAaY2k
「……アレ? 柳川サン!?」
 閃光もかき消え、再び森は漆黒が支配する。
 そうして開けた視界。由美子の目の前には、誰もいなかった。
「オカシイワネ……?」
 キャノンの出力は調整した。おそらく全力でぶちかましたら地図上からこの島が消え去るほどの威力ではあっただdろうが、きっちり手加減し、直撃喰らっても吹っ飛ぶぐらいにはしておいた。
 が、目の前にあるのは焼けこげた地面と木々のみである。想い人である柳川の姿は、どこにもない。
「……ドコイッタノカシラ?」
 今度こそ、見失った。
 由美子の視界から、消え去ってしまった。
 
「ゆ、由美子さん……」
 と、頭の上から苦しげな声が聞こえてきた。
「アラ芳晴君、ドウシタノ?」
「いえ、その、急加速はもう少し手加減していただけたらなと言いますか……まぁ、ちょっと、首があらぬ方向にイってしまいましてね」
「アラゴメンナサイ。私ッタラ」
「あ、いや、それはいいんです。次から気を付けてもらえれば。それより、例の柳川さんですが────」
「?」
「……後ろです。しかも、なんか増えてます」


 後ろをふり向いた由美子が見たもの。
 それは、柳川と同行者の女性だけでなく、さらに一人の女性と、子供が加わっていた。
 そして、もう一人、男。仮面の男。
 由美子が購入したのと同じような仮面を付ける男が、そこにいた。
 
「OK,了解しましたハクオロさん」
 友里が、感嘆めいた声を漏らす。
「35000円でアレから逃げ切れるのなら悪くないわ。あなたの知恵、お借りしましょう」
「すまない。この大会が終わったら必ず返すから────」


 戦いはまだまだ終わらない。
149天啓:03/06/06 21:57 ID:LjnAaY2k

【柳川、友里 ハクオロ一行と合流】
【ハクオロ一行 友里たちを助ける。交換条件として35000円を借りれることに】
【由美子 ウィツモード全開】
【芳晴 由美子の頭の上。首が痛いです、ハイ】
【登場 柳川祐也、名倉友里、ハクオロ、遠野美凪、みちる、【小出由美子】、【城戸芳晴】】
150運だめし:03/06/06 23:11 ID:YE2Bweyz
「……かおり、大丈夫?」
「大丈夫、ですぅ」
結花の何度目か分からないその問いに、かおりは頭を上げずに答える。
梓と別れたのがショックだったのか、かおりにあのチェイスについてきたときの力はない。
最もそれは結花も同じだ。前を向くのも億劫で、足どりもフラフラ。頬にかかる髪が鬱陶しい。
あれからかなりの時間をかけてようやくキャンプ場まで辿り着いた。
ここまで他の鬼に出くわさなかったのは運がいいとしか言いようがない。
今の自分たちなら、おそらくなんの抵抗も出来ずにタッチされてしまうだろうから。
(とりあえず、濡れた体を拭いて着替えよう。お腹も空いたけど、まずは横になってから……)
そんなことを考えながら、キャンプ場の中央にある小屋のドアに手をかけたところで
「待って下さい」
何故か小声のかおりに呼び止められる。
邪魔しないでと思うが口に出す余裕もない。代わりに首だけ動かして思いっきりジト目でかおりを見つめる。だが、
「誰か居ます」
その言葉に結花はハッとする。さっきまでのフラフラさ加減が嘘のように、小屋のドアに向き直る
と同時に、小屋の中から「ぎゃちょん」という何かを落としたような音が聞こえてきた。
周りの雨音のせいで中の会話は殆ど聞こえない。だがここで中にいるのは鬼ではないと思えるほど、
結花の思考回路は楽観的ではなかった。
151運だめし:03/06/06 23:13 ID:YE2Bweyz
足音を立てられるほどの元気すらなかったのが幸いした。
二人は小屋の中の人物に気付かれないように細心の注意を払いながら、小屋から最も遠い場所にある
テントの中に避難していた。
運がいいことに、そのテントには毛布と大きめのタオルが置いてあった。どちらも一枚ずつだが贅沢は言っていられない。
「で、これからどうしよう」
下着のみになり毛布にくるまっているかおりに向かって、これまた下着姿で体を拭いている結花が問う。
「梓センパイを待ちましょう。センパイはきっと来ます!」
「…ま、それしかないかもね。どっちみち暫くは走ることすら出来そうにないし」
体を拭き終えた結花が四肢を伸ばして床に転がる。ちなみに下着姿のままだ。若い娘がはしたない、なんて内なるツッコミは
さっさとうっちゃる。疲れてるのだからしょうがない。この上なく説得力のある理由だ。文句は言わせない。
「これは賭けね」
先程脱いだ濡れた服を見ながら結花は呟く。
梓は捕まらずに来るだろうか。梓が来るまで自分たちは見つからずにいられるか。そこまでの運が自分たちにはあるのか。
「服が乾いて、それでもまだ梓センパイが来なかったらその時は私たちが迎えに行きましょう」
結花の思考を読んだかのようにかおりがそう提案する。
自分と梓の全力疾走についてこれる脚力といい小屋の中の人物に気が付いたことといい、もしかしたら
この少女は大したものかも知れない。
血走った目で斧を振りかざしたあの時は別の意味で大したものだと思ったけど。
ともすれば眠りに落ちてしまいそうな意識を些か失礼な思考で繋ぎ止めながら、結花はかおりに「そうね」と返した。
152運だめし:03/06/06 23:13 ID:YE2Bweyz
彼女たちは知らない。
逃げ手にとってみれば少々反則とも言えるアイテムであるレーダーが、自分たちを補足する前に壊れてくれたことを。
彼女たちは知らない。
今同じキャンプ場にいる鬼が、『NASTY BOY』と呼ばれる世界最高のエージェントであることを。
幸か不幸か、勝利か敗北か。
果たして運命の天秤はどちらに傾き、彼女たちにどのような結末を与えるのであろうか。



【結花、かおり キャンプ場に到着。テントの中。服を乾かすため二人とも下着姿】
【キャンプ場中央の小屋にいる人物には気付かれていないと思われる】
【中央の小屋と結花たちの居るテントとの距離はおよそ15メートルほど】
【時間 三日目昼前】
【場所 キャンプ場】
【登場 日吉かおり、江藤結花】
153名無しさんだよもん:03/06/07 06:27 ID:7cShLy4F
(・∀・)イイ!
154美女と野獣×2:03/06/07 23:08 ID:ZcnADEh8
 アダムとイブは知恵の実を口にすることで、楽園から追放された。
そう、人は知恵さえ持たなければ過酷な現実を認識することもなくいつまでも幸せでいられたのだ。
「キュウ」
 妙な呻き声を出して逃げ手の少女のうち、ポニーテールの方が気絶した。
 それを見て、七瀬留美は思った。彼女が心底うらやましいと。 
 ああ、神様今からでも遅くないですから私から知恵を奪ってください。
 七瀬は首を振った。
 落ち着け、落ち着くのよ留美。ちょっと壮大な現実逃避はやめて現実と向き直りましょう。
 人間の知恵ってすばらしいわ。
 いつだって人間は己の叡智で現象を解明し、事態を打開してきたじゃない。
人間は考える葦、我思うゆえに我あり。
 吊るされた美女、全裸の少女、血を噴出す異形、血を噴出す少年(つーかあれって垣本よね)、
この現象にもきっと納得できるような事情があるのよ、きっと。
考えれば何が起こったのかすぐ分かるわよ。
 ……再度、七瀬留美は首を振った。
 眼鏡の少女が吊るされた少女を生贄にしてあの異形を召還して垣本が勇者で戦闘して相打ち。
 とりあえず、思い浮かんだのはこんな仮説だったが、
垣本が勇者なはずはないのでこれは違うだろうと思った。
 ふと、逃げ手の少女のうち、眼鏡を掛けた方がおずおずと口を開いた。
「あ、あの……」
 その声に、異形が反応した。
「……!? ゆ、夕霧嬢……!!」
155美女と野獣×2:03/06/07 23:08 ID:ZcnADEh8
 ダリエリは混乱した。
 突然現れた全裸の眼鏡っ娘に見惚れていた所に、最愛の女性の声が届いたのだから。
振り返ると、果たしてそこには夕霧を含む四人の姿があった。
四人の表情は一様に恐怖に歪んでいる。
「な、なぜここに……!? クッ」
 ダリエリはうめいた。気づいてしまったのだ。己がどんな痴態をさらしているか。
 最愛の女性の前で、別の女性に欲情しているところを見られたのだ、自分は……!
(いや、これも罰か) 
 思えば自分は由美子嬢に目移りもして、決して一途な男とはいえなかった。その罰なのだ。
 だが、ダリエリはもう一つの事実に気づいた。
 彼女達が恐怖に震えているのは、己の異形の姿のせいではないのか。
夕霧にもこの姿は見せていない。
 激しい寂寥感が胸を打った。夕霧嬢は俺を化け物と思い、怯えている。
 激しい安堵感が胸を満たした。夕霧嬢は俺が誰だか分かっていない。
(ならば、このままここを立ち去ろう)
 せめて、夕霧嬢の思い出を汚さぬように。
 さようなら、夕霧嬢。グッバイ、マイラブ。
 だが、踵を返すダリエリにの背中に、夕霧の声が突き刺さった。
「待ってください!
 ……ダリエリさん!!」
156美女と野獣×2:03/06/07 23:09 ID:ZcnADEh8
「待ってください!」
 そういって、飛び出そうとする夕霧の腕を、それまで呆けていた七瀬がつかんだ。
「ちょ、ちょっと危ないわよ!」
 だが、夕霧はそれにかまわず叫ぶ。
「ダリエリさん!!」
 その声に、背を向けたままの異形が凍りつく。
「え? 知り合いなの?」
「な、なぜ……俺のことが……い、いや俺はダリエリなどという名では」
 激しく狼狽しながらも、ダリエリは夕霧の言うことを否定した。
 だが、夕霧は七瀬の手を振り解くと、ダリエリの下へ駆け寄る。
「そんな、ダリエリさんでしょう? 声だってそうですし、そのお面もダリエリさんがつけていたものですし……」
 ダリエリの足元にはさきほど彼が握りつぶしたお面が捨てられていた。
「それにダリエリさんが普通の人とは少し違った方だとは分かっていましたし……
あの、心配してあれからずっと探していたんですよ、私」
「いや、しかし、俺は!」
 なおも否定しようとするダリエリの背に、今度は七瀬の声が届く。
「なんか知らないけど、ここで別人って嘘つくの、ちょっとかっこ悪いと思うわよ?」
「う……」
「ダリエリさん……」
 そっとためらいがちに夕霧の手が、ダリエリの広い背に添えられた。
「麗子さんと会った後、私が不用意に動いてしまって、そのせいではぐれてしまって、
そのことを怒っているのは当然だと思います。
でもどうか、こちらを向いていただけませんか?」
「俺は、怒ってなど……!」
 慌てて振り向くダリエリ。
 眼前には、輝くような笑顔を見せて夕霧が立っていた。
 思わず、ダリエリは夕霧を抱きしめた。
157美女と野獣×2:03/06/07 23:11 ID:ZcnADEh8
「つーか、物理的に輝いているわけだけどな、凸が」
 いつの間にか復活していた矢島がボソッと口の中でつぶやいた。七瀬は矢島をにらむ。
「いいじゃない、ああいうの。美女と野獣って感じで」
「美女ねぇ……まあいいけど。じゃ、一件落着ってことでさっさと行きましょうや、姉さん」
「何いってんのよ、あんたあの人達、あのまんまほっとく気?」
「えー、関わるのやめましょうよ。なんかやばそうっすよ」
 思いっきり嫌そうな顔を見せる矢島。
「駄目。乙女のピンチを見捨てるような乙女はいないわ。
第一垣本ってあんたの友達じゃなかったの?」
「今まさに、友達やめようか検討中なんだけどなぁ……」
 ぶつくさいいながら、矢島は立ったままの垣本によっていった。
「垣本ー、おおーい垣本ー。あーあ、貧血かぁ? こいつ逝っちまってるよ」
 適当に頬をぺしぺし叩く矢島を尻目に、七瀬は気絶したままの高子を雨に濡れぬよう木の下まで運ぶと
(この時点で鬼ごっこのことなど思い出しもしなかった)
今度は清(略の方を取り掛かる。
158美女と野獣×2:03/06/07 23:13 ID:ZcnADEh8
 呆けている清(略に近寄ると、
「えーと、大丈夫?」
 手持ちの荷物をあさってバスタオルを引き出して体を拭く。
「う……ぬ、お主は?」
 呆けていた清(略もそれで我に返ったようだ。七瀬は笑顔で答えた。
「七瀬留美よ。あなたは?」
「うむ、清(略と申す」
「そう。何があったかわからないけど、災難だったわね」
 そういって、服を差し出す。
「とりあえずこれきて、なつきさん」
「……今なんと?」
 凍りついた表情をみせる清(略に、七瀬は首をかしげた。
「どしたの、なつきさん? 遠慮しなくていいわよ。一乙女として乙女にそんな格好はさせられないわ」
「なつきと呼んだか、この私を!! ぬぅ……なんたること!」
 感涙にむせび泣く。
「汚れの漢女と見下げていたが……腐ってもヒロインか! 
こうも平然とタブーを破るとは! なんという貫禄。いや、この清(略感服した!」
「……気にしなくていいからさっさと身体拭いて服着ろなつき」
「うむ、心得たぞ七瀬殿」
(いや、この会話の流れでなぜ留美と呼ばない……?)
 そっちのタブーは破ってくれなかったようである。
159美女と野獣×2:03/06/07 23:13 ID:ZcnADEh8
 体を揺らされる感覚に、佐祐理は目を覚ました。
「あら? 目、覚ました? もうちょっと待ってて。すぐ助けるから」
 それに気づいた七瀬は、そう声をかけてあげる。
「あ……の、 助けてくれるんですか?佐祐理を」
 状況を理解できないのか、そんなことを聞いてくる。
「そりゃ、当然じゃない……えーと、ここを解けばいいのかな?」
「ふぇ、本当ですか? 本当に助けてくれるんですか?」
 必死になって聞いてくる佐祐理に七瀬は苦笑する。
「誰だってそうするって。あーあ、全く、あいつらいつまでいちゃついてるのよ!」
「あ、あの眼鏡を掛けろとかそんな事いわないですよね?」
「なにいってんの……ほら、もう少しで解けるから……!」
「キャッ」
 ふいに体が落下して、佐祐理は目を閉じ短く悲鳴を上げた。
 だが、地面にぶつかる衝撃の代わりに、やわらかい感触が佐祐理を包んだ。
「……?」
 恐る恐る目を開ける。七瀬が尻餅をつく格好で、佐祐理を上に抱きかかえていた。
 落ちてきた佐祐理を七瀬が受け止めたのだ。
 痛みをこらえながら七瀬は笑顔を作った。
「ごめんごめん。危なかったわね。もうちょっと考えりゃよかったわ。もうびしょ濡れ……」
 ガバッという音と共に、佐祐理は七瀬に抱きついた。
「あ、え、ちょっと?」
「ふ、ふぇ、ふぇ……」
 七瀬の胸に顔を押し付けて肩をふるわせる。雨にぬれた体を暖かい感触が包む。
「ふ、ふぇーーーーん」
 その安堵感に、こらえきれずに泣き出してしまった。
「あ、あれ……うーん、参ったなぁ」
 七瀬はボリボリと頭をかくと、それから佐祐理の震える背中に手を回してさすってあげた。
「大丈夫? よっぽど怖いことがあったのね?」
「そうです……ひどいんですよ……グスッ、みんな……」
「うんうん、そうね……」
 頭をなでる七瀬の手の感触が心地よくて、佐祐理はさらに七瀬の胸に顔をうずめた。
160美女と野獣×2:03/06/07 23:14 ID:ZcnADEh8
 適当に垣本の鼻をふさいでやると、矢島はやれやれ、とため息をついた。
視界には抱きあう美女(?)と野獣が二組。
 目を落として、未だ逝ってるままの友人(暫定)に語りかける。
「ま、お前が何狙ってんのかだいたい予想は付くけどさ」
 苦笑いを浮かべる。
「姉さんの漢っぷりは半端じゃないからな。
あちらさんのようにラブラブになるには、まだまだ道は険しいと思うぜ?」


【高子、夕霧 七瀬によって鬼化、高子気絶中】
【ダリエリ 夕霧によって鬼化】
【垣本 気絶中】
【七瀬 2ポイントゲット】
【夕霧 1ポイントゲット】
【登場逃げ手 ダリエリ、砧夕霧、桑島高子】
【登場鬼 【七瀬留美】、【矢島】、【倉田佐祐理】、【清水なつき】、【垣本】】
161シュンの配慮と昼ご飯:03/06/08 01:19 ID:f/Yfv1VV
「おかえりー」
駅舎に戻ってきた三人を、足音と声でそれに気付いたみさきが出迎えた。ベンチに座っているみさき、にっこり笑っている。
時間はそろそろ昼前だろうか。ずいぶんと長い間追いかけていたものである。
「結局逃がしてもぅたわ」
智子が腹立たしげに言った。美咲の座っているのとは別のベンチに座って、大きく息を付く。
「疲れたー。ごめんな川名さん。ずいぶん待たせてもぉて」
天井を見上げるようにしながら言った。本当に疲れているらしい。
まぁ、それも仕方ないか。この雨の中、雨具無しで走り追いかけ、二人を見失った後もしつこく捜索を続けていたのだから。
三人とも、服から何からかなり濡れてしまっている。それでも、捜索した範囲が森の中だけだったのは幸いだった。
開けた場所だったら、どれほどに濡れていたことか。
尚、坂下は戻って早々に、タオルか何かともかく拭く物を探しに、駅のどこかに姿を消している。
162シュンの配慮と昼ご飯:03/06/08 01:19 ID:f/Yfv1VV
「ごめんなさい、みさきさん。ずいぶん待たせちゃって」
初音はみさきの隣に座り、言った。自分のために迷惑をかけてしまった。そのことを心から謝っている。。
「ううん、別にいいよ初音ちゃん。それに、一人だけじゃなかったから」
にっこり笑うみさき。どこか誇らしげな笑みだ。
「え?」
言葉の意をとれず、軽くとまどう初音。
そこへ、
「みさきさん、そろそろできますよ……おや」
初音達は見たことのない少年が、駅舎の奧から現れた。
「だれやあんた」
「うん、お腹空いたよ〜……シュン君、手、引いてくれるかな?」
「はい」
頷いて、
「よろしく。皆さん」
初音と智子に一礼した。二人もつられて一礼を返し、
「いや、だからあんた誰なんやて」
つっこみを入れる智子。激しく頷く初音。漂ってくる食べ物のいい香り。
「詳しい話は、向こうに行ってからにしようか」
とらえどころのない笑みを浮かべたシュンは、座っている空腹少女の右手を取り、立ち上がらせる。
「こっちへ。足下に気をつけて。段差があるので」
「うん。分かったよ」
「二人も来て。昼食がもうすぐできあがるから」
顔を見合わせた二人。とにかくついていくことにする
163シュンの配慮と昼ご飯:03/06/08 01:19 ID:f/Yfv1VV
「あ。神岸さん」
「こんにちは保科さん」
顔を合わせた二人。
連れ三人のことを、みさきから聞いていたあかりと、事情を何も聞いていない智子。反応の違いがここに出た。
駅の事務所。テーブルの上には、レトルトばかりではあるが、それなりに整った食事が並んでいる。
お湯で戻して五分間♪ レンジでチンして三分間♪
便利な世の中である。
「椅子はどこかな?」
「気をつけて」
「なんや、神岸さん、なんでおるん?」
「えへへ」
「お知り合い?」
鳩に豆鉄砲な顔した智子。照れ笑いのあかり。?マークの初音。三人をよそに、みさきは無事椅子に座ることが出来ていた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
トイレタオルを持った坂下がやってきたのは、そのときだった。
164シュンの配慮と昼ご飯:03/06/08 01:20 ID:f/Yfv1VV
「僕は向こうで食べることにするよ。一人の方が落ち着くからね。じゃ、何かあったら呼んでよ」
そう言って、シュンはカップ麺を手に事務所から出ていった。
事務所の机の上に並んだレトルト食品。しかし、ずぶ濡れの三人には、まずそれよりも体を拭くのが先決である。
タオルは事務所にあった。トイレタオルを使わずにすみ、これは幸い。
濡れている三人は、シュンの気遣いに感謝しながら、服を脱いだ。

「はー。川名さん、よぉまぁ。うまいこと」
体を拭きながら聞いたみさきの武勲に、三者三様に感嘆の声を上げた。
「お見事、かな。中に神岸さんたちがいたなんて、気付かなかった」
「みさきさん、凄いね」
照れ笑いを浮かべるみさき。三人の準備が整うのを待ちきれずに、とっくに食べ始めているのはご愛嬌。
「濡れた服、貸して。干しておくから」
あかりが三人の服を受け取り、部屋の隅の床に広げる。ハンガーはなかったから、これが限界。
「何か替えの服とか、あればいいんだけどね」
下着一枚の三人。困ったようにあかりが言う。
「ちょっと寒いけど、まぁしゃぁない。氷上君やった? 彼には悪いけど、このままおるしかないわ」
「そうだな。寒いのも、何か食べればましになるだろ」
(みんなスタイル良いな……)と思っているのは初音。
「柏木さん、どうかした?」
「う、ううん、なんでもないよ」
そして、なにはともあれ、食事が始まる。
下着だけの少女三人と服を着た少女二人が、机を囲んで座る。それぞれに箸やフォークなどを持ち、
「いただきます」
既にいただいている人が一人いるのは、しつこいようだが、ご愛敬。
165シュンの配慮と昼ご飯:03/06/08 01:20 ID:f/Yfv1VV
【あかり 智子 好恵 初音 みさき 昼食開始】
【濡れている服は、事務所の床に広げられている】
【シュンは駅舎のベンチで一人、カップ麺をすすっている】

【登場鬼 神岸あかり 保科智子 坂下好恵 柏木初音 川名みさき 氷上シュン】
【駅 三日目昼前】
166名無しさんだよもん:03/06/08 03:07 ID:aDvmTM/C
(´ー`)y━・~~~
167名無しさんだよもん:03/06/08 12:56 ID:P+q3NMOc
「うぅぅん…みゅ?」
 繭は今まで寝ていたベットからむくりと起き上がる。窓の外を見ると空が茜色に染まっている。
「がぁぁぁぁ…ごぉぉぉぉぉ」
 高槻は繭の横で大きく寝てる。
「……トイレ」
 そう呟きながら繭はベットから降りて、小走りで1階に下りる。
「うー…」
 そのままトイレに飛び込んだ。

「お邪魔しますよー」
 律儀にも声をかけて雅史が建物の中に入る。
「ハクオロさんー? 居ますかー?」
 住宅街に入り込んだ雅史は、さっきからこうして一軒一軒声をかけてハクオロを探している。
「ハクオロさん。すみませんエルルゥさんから手紙を預かってます。居ますか?」
 そう声を出しながら雅史は家の中に入っていった。

「すっきり」
 幸せそうな顔をして繭が手を洗っている。その手をスカートで拭こうと思って…手を止めた
「繭っ! アンタも女の子ならそんな汚いことしない! ちゃんとハンカチで拭きなさい」
 ここに一緒にやってきた七瀬の言葉が思い出された。
「…みゅー」
 ちょっと考えて、ポケットからハンカチを取り出し手を拭いた。
「おじさん、まだ寝てるかな?」
 そうしてトイレから廊下に出たとき、それと出くわした。
168優しきポスト・ボーイ:03/06/08 13:09 ID:P+q3NMOc
 雅史は頭をかいた。目の前にはびっくりした顔を浮かべる繭の姿。
「ごめんね。びっくりさせちゃったね。僕は佐藤雅史、君は?」
 膝を曲げて繭と視線を合わせる。繭は、最初はびっくりした顔を浮かべていたが、雅史の優しい顔を見つめ、おずおずと口を開いた。
「みゅー…椎名繭。」
「繭ちゃんか。よろしく」
 にっこりと微笑む雅史。
「ここには繭ちゃんだけが居るのかい?」
「うぅん。おじさんといっしょ」
 雅史はそれを聞いてちょっと考えるそぶりを見せる。
「所で繭ちゃん。ハクオロって言う人を知らないかい? こういう…」
 エルルゥから聞いたハクオロの特徴をかいつまんで説明する。
「うぅん。しらない」
「そっか…」
 少々残念そうな顔を浮かべる。すると、繭は不思議そうに尋ねた。
「まさしはなんでハクオロって人をさがしてるの?」
 雅史は事情を説明しようとして、にっこり微笑んだ。
「僕はね。郵便配達人…ポストマンかな? ある人にハクオロって人に手紙を渡して欲しいって頼まれてるんだ。
「ゆうびんやさん…」
 その時、何か考え込んでいた繭がいきなり2階に向かって駆け出した。
「繭ちゃん?」
 いきなりの行動に雅史が驚きの声を上げる。
「待ってて!」
 そう言い残して、繭は2階に戻っていった。
169優しきポスト・ボーイ:03/06/08 13:24 ID:P+q3NMOc
 数分ほどして、繭は手に何かを持ってやってきた。
「繭ちゃん?」
「まさし、これを七瀬おねえちゃんにわたして」
 そう言って、手に持っていた紙を雅史に差し出した。
「え?」
「七瀬おねえちゃん、私といっしょにここにきた。だけど、はぐれちゃった。しんぱいしてるかもしれない」
 その時、ちょっと顔を伏せる。
「だから、七瀬おねえちゃんにおてがみ書いた。繭はがんばってるって。しんぱいしないでって書いた」
 そして、雅史の顔を見つめる。
「まさし、ゆうびんやさんなんでしょ? てがみをとどけて」
 心配そうに顔を見つめる繭。雅史は、にっこりと微笑んだ。

「じゃあ、七瀬さんにきちんとこの手紙を渡すね」
「うん!」
 繭の願いを快く引き受けた雅史は今玄関に立っている。あれから七瀬の容貌を聞いてすぐに出発することになった。手紙を先ほどと同じようにビニールで巻いてザックにしまいこんだ。
「じゃあ、七瀬さんを探してみるよ。みつからなかったらごめんね」
 そう言って微笑んだ。すると、繭はポケットから赤いペンを取り出した。そして、ザックに何かを書き込んだ。
「これは…」
 繭が書き込んだのは郵便記号(〒)のマークだった。繭は満足そうに笑っている。雅史は軽く苦笑するとザックを背負った。
「じゃあ、繭ちゃんまたね」
「ばいばーい!」
 繭は、雅史の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

【雅史 繭の手紙を預かる。宛先は七瀬(漢)。容貌は聞いている】
【繭 雅史に手紙を託す】
【高槻 まだ寝てる】
【登場鬼 佐藤雅史、椎名繭、高槻】
【海沿いの別荘風の建物 3日目夕方】
170苦笑:03/06/08 20:54 ID:cBK6jREo
「あっ! 雅史くーん! そっちはどうだったー?」
 待ち合わせ場所に先に着いていた沙織が手を振っている。この辺りは別荘街のようで建物が固まって建っていた。テーマパークとしてオープンしたときはこの辺りは宿泊施設のひとつになるようである。沙織と雅史は手分けしてハクオロを探すことにし、ここを合流地点にした。
「うーん、残念ながら見つからなかったよ。…その台詞を考えると、どうやらそっちも見つからなかったようだね」
「うん。祐君もハクオロさんも」
 はぁ、とため息をつく。その時、沙織は、その時雅史のザックに書かれているものに気付いた。
「雅史君、それ…」
 郵便記号のマークを指差して沙織が首をかしげる。その指差す先を見て、雅史はちょっと照れたように―苦笑した。
「あぁ、これはね…」
 かいつまんで事情を説明する。すると、ちょっと沙織は呆れた様な顔をした。
「雅史君……君って本当に…」
 頭を押さえてやれやれ、とでも言いたげに首を振る。
「断れなくてね。どうしても…なんていうか繭ちゃん、すごく一生懸命な感じだったから」
 雅史は繭の顔を思い出したようで、少しうれしそうに微笑んだ。沙織は
(たとえどんな人でもその手紙は受け取ってたでしょ?)
 と言う台詞を飲み込むのに必死だった。
「まったく雅史君は…」
 呆れ顔だった顔をふっと緩めて―どこか楽しげに、苦笑した。
「でも、それが雅史君のいいところかもね」
 少し、小さな声で呟いた。雅史の耳には届かない。
「ポストマンか…」
「えっ?」
 その台詞は、雅史の耳に届いたようである。
「雅史君は「マン」って感じじゃないよね? どちらかと言うと「ボーイ」って感じかな?」
「…何それ?」
 おかしそうに雅史が笑う。
「混乱と競争がひしめくこの島で、手紙を届ける少年がいた…」
 芝居がかかった口調で沙織が言う。雅史と沙織は少し見つめあった後、二人で笑い合った。

【雅史 沙織と合流。別荘街はあらかた探し終わった】
【登場鬼 新城沙織 佐藤雅史】
【海沿いの道 3日目夕方】
171名無しさんだよもん:03/06/09 00:24 ID:T5YhB35v
「冬弥君……あそこ襷かけてない……」
「そうか」
「頑張りましょう」
 静かにやり取りを交わすアイドル&AD&飲み屋の店員(?)。
「由綺、七海ちゃん……それじゃあ作戦を言うぞ?」
「うん」
「はい」
「あの道は前に通ったことがある。ほぼ一本道だ」
「え、じゃあ作戦の立てようがないんじゃ?」
 七海が疑問を述べる。
 確かにそのとおり、一本道であるなら物をいうのは結局は走力。
 作戦など立てようがない。
「確かにね」
 よくできました、という顔で七海に向かって微笑む冬弥。
「でもあの道はちょっと特殊で、ぐるっと回ってここに出るんだ。
 まあテーマパークならではだね」
「じゃあ私達は……」
「ああ、由綺と七海ちゃんはそこで待ち伏せて欲しい。
 由綺のポイントにできたら理想的だな」
「うん、解った」
「解りました」
 素直にうなずく二人に、簡単な罠の作り方や、捕獲の際の注意点などさらにいくつかの指示を与え冬弥は逃げ手に向き直る。
172待ち伏せ:03/06/09 00:27 ID:T5YhB35v
 醍醐にしごかれた冬弥には既に解っていた。
 あの相手は、まぎれもなく強敵だ。
 こうして見ているだけでも凄みがビンビン伝わってくる。
 たとえここにいるのが醍醐であったとしても捕まえられるかどうかはわからない。
 しかし……

(だからこそ、燃えるのが漢……ってもんですよね。師匠)

 そして冬弥は僅かに片足を屈め、次の瞬間はじかれた様に駆け出した。




 岩切は背後から迫り来る、自分を狙う存在に既に気付いていた。
 その気配から完全な素人でこそないものの、それに毛が生えたような相手であると推定。
 しかしそれにも関わらず、岩切のこれまでを支えそして磨いてきた己の勘は、何故か先程からしきりに警鐘を鳴らしている。
 不思議に思い振り返った岩切は、敵を目に入れ瞬時にその理由を解した。

(ああ、あれは……)

 一見ごく普通の青年、しかし目が違った。
 あれは、あの目は……

(覚悟を決めた、漢の目だ)
173待ち伏せ:03/06/09 00:30 ID:T5YhB35v
 ……面白い。
 かすかな呟きをもらす。
 思えば、あれこそ自分が求めていた相手ではなかったか?
 
 走り出す。
 周囲が水に満ちている今、自分の走力は人が及ぶところではない。
 しかし、それでも手加減をしようとは思わなかった。
 あの相手にそれをするのは侮辱というものだろう。

 相手はこちらのスピードに驚いたようだが、それでも全く躊躇を見せずこちらを追ってくる。
 ……ますます面白い。

(私を楽しませてくれよ……)


【冬弥 岩切追う】
【岩切 それを遥かに凌ぐスピードで冬弥から逃げる】
【由綺&七海 待ち伏せ。簡単な罠の作り方などいくつかの指示を受けている】
【由綺 シェパードマイク所持】
【シェパード『そーいち』 由綺の側に控えている】
【三日目午前】
【天候 雨】
【登場逃げ手 岩切】
【登場鬼 【冬弥】【由綺】【七海】】
174名無しさんだよもん:03/06/10 01:29 ID:pqoUKMsa
こっちも念のため。
しかし最近イベントが連続してるなぁ。
175名無しさんだよもん:03/06/10 14:04 ID:iyQ3hr6d
(・∀・)イイ!
観鈴をベナウィが連れて帰り、晴子も無事にペンションに帰還して、茜、澪、詩子の三人はとりあえずホッと息をついた。
「師匠〜よかった、よかったですよぉ〜!」
詩子が涙を浮かべたりしながら晴子の無事を祝ったりして大変だったといえば大変だったのだが。
そんな騒動もともかく、茜がシャワーを浴び終わり、観鈴が代わりにシャワールームに入っている。
「さて、これからどうするか…やけど」
晴子がバイクの整備をいったん休憩して呟く。
「このままこの場所に居続けるのは危険です。さっきの翼の人がまた来ないとも限りません」
それを聞き取った茜が言う。
「そうですね、この雨の中では誰もが先ほどのように建物の中に避難しようとするでしょう。鬼も然りです」
シシェの世話をしていたベナウィが続ける。
「しかし、足が足りません。シシェも疲れているでしょうし」
殆ど半日以上2人、または3人乗りを繰り返していたため、シシェの疲労が激しい。
今現在ペンションにいるメンバーは、晴子、観鈴、ベナウィ、茜、澪、詩子の6人。
対して移動手段がバイク1台とウォプタルのシシェ一匹。
バイクはどう足掻いても3人が限界。ただしこれは小柄な茜と澪と詩子の3人の場合だ。
大人の女性である晴子が乗るとなると、2人が限界となる。
それにシシェにもこれ以上無理をさせるわけには行かなかった。
「そうですね…」
茜がぽつりとつぶやいて、はぁ、と一同から自然に溜め息が漏れた。
茜は、それからずっと何かを考える風だった。
「どうしたの、茜?」
するとバイクの整備を終えた詩子が、そんな茜を見て訊ねる。
澪も同じく寄ってきて、不思議そうに見上げる。
そして茜は、ふっと目を閉じて、何かを決意したように二人に向かって言った。
「詩子、澪。私達はここで別れましょう」
二人は驚愕に顔を歪めた。
「え゛ぇっ!? 茜、それ本気で言ってるの!?」
『どうするつもりなの?』
茜は一つ息を吐いて、一気に言った。
「このまま私達がついて行っても、ただ邪魔なだけです。晴子さんとベナウィさんの目的は観鈴さんを探す事と一緒に鬼ごっこをすること。
 私達は元々何の関係もありませんし、6人で行動していては逃げられる物も逃げられなくなります。
 私達3人が抜ければ、バイクに2人乗りでもシシェに2人乗りでもどちらでも良くて、行動しやすくなります」
『私達はどうするの?』
澪がスケッチブックを掲げる。
あまり自分勝手な方ではない澪だが、ここまで来たなら優勝もしてみたい。そういう風に思っていた。
「もう一台バイクを探せばいいと思います。商店街か、それとも屋台か」
「そっか…そうだよね…」
詩子が残念そうに呟く。
もう一度、師匠(晴子)のフルターンを見たいと思っていたのだが。
「ですから…」
そこまで茜が言った時だった。
「却下や」
晴子の凛とした声が聞こえたのは。
茜は驚いて振り返った。
「その意見は却下や。別れるなんてつれないこと言いなや。ここまで一緒におったのも何かの縁やろ」
「師匠…」
「それにな、邪魔やなんてそんなことあらへん。ちゃーんと意味がある」
まさか、詩子の弟子入りを本当に許可してしまったのだろうか、とちょっと違う事を茜と澪は思う。
「さっきも言ったやろ、観鈴には友達がおれへん、ってな」
晴子は淡々と続ける。
「あの娘はな、昔っから誰かと仲良うなると、癇癪起こしてもうてな。泣き出してしまうねん。
 ウチかてそや、例外やあらへん。誰かと一緒におると、何故か泣き出してしまうんや。
 だから誰も近くに寄られへん。そのせいで気がつけばあの歳になるまで友達なんて一人もおらへんかった。
 遊ぶもん言うたら恐竜のぬいぐるみとトランプだけ。寂しい娘やで。
 まぁ、つい最近変な居候がやってきたんやけどな」
そこでくすり、と笑った。
「えらい目つきの悪い黒ずくめのとっぽい兄ちゃんでな。無愛想やし、とにかく変なやつやねん。
 どっからどう見ても不審人物やのに観鈴は何を考えたか家に引っ張り込んできてな、クラスメイトや言うんや。
 まぁすぐ嘘や分かったけどな。どうせまた癇癪おこして、どっか行ってまうんやろな、そう思ってたんやけどな。
 初めて観鈴の友達になってくれたんや。
 ウチ、驚いたわ。癇癪起こしてもちゃんと側にいてやってくれたんやからな。
 もしかしたら、そんな奴が他におるかもしれへん、そう思ってこの鬼ごっこに参加したんや」
晴子はそこでいったん言葉を切った。
「ああ、つまらん話でごめんな。ま、つまりや。ウチは観鈴と一緒に鬼ごっこするだけやあらへん。
 観鈴の友達を探してやるんや。ウチと、観鈴自身で。
 それで、あんた達3人はもう、観鈴の友達や。そやろ、観鈴ー」
丁度良く、観鈴がシャワールームから出てきたところだった。
「観鈴、詩子ちゃんたちはもう観鈴の友達かー?」
観鈴は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑って、
「うん、詩子さんも茜さんも澪ちゃんも、ベナウィさんも恐竜さんもみんな友達、にはは。友達いっぱい♪」
そう言った。
「だからや、別れるなんてその意見は却下」
晴子は言い切った。
「んで、早い話がもう一台バイクかスクーターがあったらええ、そう言うことやろ?」
「はい。もう一台あれば、詩子と私と澪の三人乗りでなんとかなるはずです」
澪も茜も、詩子の運転は実の所うんざりなのだが、この際仕方が無いだろう。
「それなら、動くついでに探せばええわ。どうせ屋台で買おう思てもとんでもない値段になっとるやろからな…」
「このバイクは商店街で見つけました。探すなら商店街がいいと思います …ただ、商店街は鬼が多いと思います…」
「そんなのは行ってみるまで分かれへんわ。とりあえず商店街やな。さて、そろそろ行こかー。さっきの羽根の鬼が来る前にとんずらやでー」
晴子が悪戯っぽく笑って言った。
荷物を纏める。ついでに軽い菓子類や、5人分の傘を持ち出す。(何故か茜は例のピンクの傘を持参していた)
「私、恐竜さんに乗ってみたいな…」
観鈴がぽつりと言い辛そうに呟いた。
それを聞いたベナウィは、心得た、とばかりにシシェの鞍に観鈴を乗せ、自身は手綱を引いた。

【晴子 観鈴 ベナウィ 茜 詩子 澪 バイクを探しながら商店街に向かって行動開始】
【晴子 茜 詩子 澪 ちょっといい話】
【観鈴 友達いっぱい、にはは♪ シシェに乗せてもらう】
【ベナウィ シシェの手綱を引いている】
【三日目夕方 雨】
180主の夢:03/06/10 21:21 ID:l46LfFT3
 裏葉を腕に抱き、射出式スタンガンを咥え、柳也は森の中を走る。
(追ってはこぬのか?)
 ずいぶん走っているような気がするし、
追っ手の気配も感じない。
 だが、あの風変わりな耳飾をつけた女の能力は侮れない。
身体能力だけなら間違いなく自分を凌駕している。
裏葉のアドバイスによって向こうの作戦の隙をつき、ダメージを与えたものの、
そのダメージの程度も分からない。
それに追っ手はあの女だけではないのだ。
 だが―――転倒しかけて、柳也は慌てて体勢を立て直した。
(これ以上走るのも無理か)
 女性とはいえ人間一人を抱えて雨の中を全力疾走しているのだ。
いかな柳也といえど限界は近かった。
 それでも柳也は最後の力を振り絞って林を抜け、民家にたどり着いた。
民家の壁に身を預け、裏葉を地面に下ろすと、荒い息をつく。
 幸いにしてここは屋根の庇のおかげで雨がしのげ、地面も乾いている。
もっともここに来るまでに随分と濡れてしまったおかげで、あまりありがたみも感じないが。
181主の夢:03/06/10 21:21 ID:l46LfFT3
「大丈夫か……裏葉?」
「はい、柳也様こそお疲れ様でした」
 裏葉は意識はしっかりしているようだ。だが、その体はまだふらついている。
苦労して立ち上がろうとする裏葉を柳也は手で制した。
「無理を……するな……傷はないのか?」
 呼吸の苦しさを押して、声を絞り出す。
「体が痺れているだけのようです。今しばらくすれば自由に動けるでしょう」
「そうか……」
 つまり、もうしばらくは動けないということだ。
(さて、この家が使えるか否か……運試しになるな)
 柳也は大きく息をつくと、無理やり呼吸を整え、壁伝いに民家の窓に近寄った。
(明かりはついてないとはいえ、もう床についてもおかしくない時間。
鬼がいる可能性は十分にあるな)
 カーテンが閉められて一見しても中の様子は分からない。
 ふぅ、と柳也はため息をついた。窓に近づいてカーテンの隙間から中をうかがう必要があるようだ。
 慎重に気配を消して窓のすぐ前に立ったとき、
カーテンの向こうから声が聞こえた。
「柳也さんですか?」
182主の夢:03/06/10 21:22 ID:l46LfFT3
「……!?」
 名を呼ばれて、柳也は歯噛みした。この声には聞き覚えがある。
「葉子さんか。昨日の昼以来だな」
「はい」
 先日の早朝から昼に掛けて勝負した女性だ。罠にかかった神奈のおかげで勝負は水入りとなったのだが……
 柳也はため息をつくと窓の下にどっかりと座り、壁に身をもたらせた。
(武運、ここに尽きたか)
 この女性の実力は知っている。今の状態の自分ならば捕まえることなど造作もないだろう。
「なぜ、俺だとわかった?」
「鞘鳴りがしましたから。刀を持った方はそうはいないでしょうし」
「なるほどな」
 ここに走ってくる時は、気配をたつ余裕などはまるでなかった。
常人ならばあるいは気づかれなかったかもしれないが、相手が悪かったようだ。
「ずいぶんと呼吸が荒れているようですが……逃げてきたのですか?」
「ああ」
「ならば、まだ鬼にはなってないと」
「ああ」
「それなら、この状況は私にとって絶好の好機ということになりますね」
「まあ、な」
 まあ、それもしょうがないだろうと思う。
(この人には神奈のことで恩があることだしな)
 なんの縁もない者に捕まえられることを考えれば、
あるいはこの巡り合せは幸運といえるかも知れぬ。
 だが、次の葉子の一言は柳也の予想に反したものであった。
「ですが残念ですね。私にはあなたを追うことができません」
183主の夢:03/06/10 21:23 ID:l46LfFT3
「な、なぜだ?」
 ベットのすぐ横の窓、その向こうから届いてくる柳也の狼狽した声に、
ベッドの上で壁に背を持たせる格好で座っていた葉子はクスリと笑った。
「お静かに。神奈さんが起きてしまいます」
「……神奈が?」
「はい。お膝の上で寝てしまわれては身動きが取れません。残念です」
 膝の上に頭を乗せて眠る神奈の髪を戯れに撫でながら、いたずらっぽく葉子は告げた。
「先程まで神奈さんも起きていらして、ベッドの上でおしゃべりをしていたのですが、
今しがた眠ってしまわれました。間の悪いことです」
「そ、そんなことで……」
 絶句するような柳也の様子が届いてきて、なんとなくそれが愉快に感じる。
まあ、正直この雨の中を薄い寝間着で追う気にはなれないという理由もあるのだが。
「なるほど、そのような事情があれば確かに追うことができませんね」
 不意に、窓の向こうで柳也とは別の女性の声が聞こえた。
「……驚きました。まるで気配を感じなかったのですが」
「気にするな、気配をたつことに関してはこいつは妖怪じみている」
「妖怪とはあんまりなおっしゃりよう。裏葉は悲しいです」
 ヨヨヨと泣き声が聞こえてくるが、多分物まねなのだろう。
「裏葉さんですか?」
「はい葉子様、裏葉と申します。先日は挨拶もできず申し訳ありませんでした」
 昨日柳也と一緒にいた女性なのだろう。
「見えぬ相手にお辞儀をしてどうする」
「見えぬ相手にも礼を尽くすというのが誠意です。ね、葉子様?」
「そのとおりです」
「ぬ……」
 やや困った柳也の声。咳払いを一つ。
「しかし、神奈が面倒を掛けてるな」
「いいえ」
 葉子は首を振った。見えぬ相手に首を振っても仕方ないのだが。
184主の夢:03/06/10 21:23 ID:l46LfFT3
 葉子は首を振った。見えぬ相手に首を振っても仕方ないのだが。
「神奈さんとは楽しく過ごせてもらっています」
「葉子様は眠くはないのですか?」
「お恥ずかしながら、今日、妙な時間に寝てしまいまして」
 今頃別室では巡回員も困っているはずだ。
「先程から寝酒というものを試しているのですが、なかなか効果もなく」
 片手に持ったマグカップの中の白ワインをちびちびとなめる。
ワインは巡回員が別の家に食料を探した時に見つけたものだ。
 葉子は今まで酒など飲んだ経験もなく興味もなかったのだが、
眠気を誘う効果を期待して先程からちょっとずつ飲んでいるのだ。
結局、眠気はまだ来ていないのだが、初めて飲むお酒は存外に美味しかった。
 付け加えると、神奈が寝てしまった理由も葉子に付き合ってお酒を飲んだことにある。
無論、少量ではあるのだが。
「酒か。うらやましいことだな」
「あなた方も飲みますか?」
「いや、これから別の寝床も探さなくてはならないしな。遠慮しておく。
少し休んだら、行くさ」
「そうですか。それならばそれまでしばらくお話しませんか? まだ眠れそうにないですし」
 葉子の提案に、柳也と裏葉がうなずいた。
185主の夢:03/06/10 21:24 ID:l46LfFT3
 雨の夜、鬼と逃げ手の窓越しの会話が続く。
「なるほどな。昨日は海にいたのか」
「はい、夕方までつい海で遊んでしまって」
「フフ、神奈様、はしゃいでいらしたでしょう?」
「ええ……はしゃいでいたのは私も一緒ですけれど」
 トクトク、と酒を注ぐ音が窓の向こうから聞こえてきた。
(酒か……確かに一杯やりたいものだ)
 どこかで宿を見つけたら、少し探してみようか? 屋台を見つけられたら言う事はないが。
「とはいえ、不届き者に気づかなかったのは不覚でした」
 少し憤慨した声で、葉子は言う。
「不届き者?」
「はい、海で遊んでいたところを覗かれたんです」
 ムっと、柳也は顔をしかめた。
「……それは許せんな」
「ご安心を、懲らしめておきましたから」
 エディと敬介を捕まえた顛末を語る。
「しかし、今日が雨なのは残念でしたね」
「そうですね。神奈さんは雨の海もよいものだとおっしゃってましたが」
 神奈が一人で逃げ手を捕まえようとした事、ちょっと悔しそうに帰ってきた事、
一緒のベッドでささやかな飲み会をした事など、そんな事が話に出てきて―――
「やれやれ、何はともあれずいぶんと楽しくやっているようだな」
「そうですね。そちらの方はどうでしたが?」
「うるさいのがいなくて、気楽にやっているさ。ニ、三度危ない事もあったがな」
 今までのことをかいつまんで話して―――
「―――裏葉の術がなければ危なかったな」
「なるほど、それは―――」
「食べ物は―――」
 そんなふうに、数刻の間会話は続いて―――
186主の夢:03/06/10 21:24 ID:l46LfFT3
(少し、反応が鈍くなってきたな)
 酔いか眠気か、おそらくは両方なのだろう。葉子の返答が鈍くなってきている。
(頃合か)
 窓の下で自分と並んで座っていた裏葉のほうに目を走らせると、彼女はうなずいた。
どうやらもう動けるようだ。
 二人は立ち上がると、別れの言葉を告げる。
「さてと、俺達はそろそろ行かせてもらう」
「おやすみなさい葉子様。よい、夢を」
「あ、はい。お休みなさい……あ、そうだ」
 なにか思い出した事があるようだ。
「最後にちょっと聴いておきたいことがあるのですが……社殿というのは、なんでしょうか?」
「社殿?」
「はい……先日、昼食の時に神奈さんがおっしゃってたのですが。
優勝賞品を売って、土地を購入し、杜殿を再構築したいと」
「…………」
 柳也と裏葉は顔を見合わせる。しばしの沈黙の後、柳也が問うた。
「神奈はその後もそれを口にしていたか?」
「いえ、その一度きりですが……」
「そうか、ならばただの神奈の気まぐれだ。忘れてくれていい」
「そうですか……分かりました」
 おそらく思考能力も鈍っているのだろう。葉子は素直にうなずいた。
「それでは失礼させてもらう」
「神奈様のこと、よろしくお願いしますね」
「はい。明日あえば、その時は鬼と逃げ手。容赦はしませんよ?」
「望むところだ」
 柳也は静かに笑った。
187主の夢:03/06/10 21:25 ID:l46LfFT3
 家屋を後にして、しばらくたって柳也は口を開いた。
「社殿か……あいつ、そんな事を」
「これは、尽力を果たさねばなりませんね」
「ああ」
 
 そう、神奈は社殿の事など、そんな願いなど忘れてくれてかまわない。
忘れて、ただ鬼ごっこを楽しんでくれればよい。
 主の願いを果たすのは臣下の役目。
ならば―――
「俺達が、勝たねば、な」
「そうですわね」
 雨の中、二人は静かに手をつなぎあった。

【海岸近くの家屋】
【三日目 深夜】
【登場 柳也、裏葉】
【登場鬼 【鹿沼葉子】、【神奈備命】、【A棟巡回員】】
188名無しさんだよもん:03/06/10 21:32 ID:fOf7cITG
スゲク(・∀・)イイ!
189その笑顔の価値:03/06/10 22:33 ID:4yl98gaV
 ――しとしとと雨の音が響く森の中、その音に共鳴するかの様に、しくしくと泣く少女の声が漂っていた。
「泣くな。…泣くなって、松本」
「だって…、だってぇ〜……」
 泣いているのは、岡田軍団三人娘の一角、松本であった。
 それを慰めあやすのが、彼女よりもやや小柄な、岡田である。
 三人娘―― …いつも、三人でいるはずの彼女達。…だが、今は二人分の影しか無い。
 吉井が脱落したのだ。
 それも、複数の鬼達に包囲された自分達を逃がす為、一人犠牲となって――
 …三人を助ける為に一人犠牲となった雅史の一件で、彼女達はこの鬼ごっこ、唯の一人となろうとも全力で逃げると
決意した。だが、一人、また一人と仲間が脱落して行く現実は、少女達の心を強かに打ちのめしていた。
「ふにゅっ…、ふぇえ〜っ……。吉井〜…、よしぃぃ〜」
 吉井のお蔭で鬼達の追撃は振り切ったものの、松本が泣き止まない。――慰めている岡田にしてみれば、やかましく
号泣でもしてくれた方が怒鳴りつけてやれる分、まだマシであった。この様に心底悲しげに泣かれてしまうと、巧い言葉が
思い付かないので、辛い。
「…佐藤君に続き、吉井も逝ったか。一日の内で二名の戦死……なかなかハードな展開ね」
 腕を組んで踏ん反り返りつつ言ってから、岡田は心の中で身構えた。こういう言い回しをすると、「シんでないもんっ、
シんでないもぉんっ!」と、激発して首絞めに掛かって来るのだが――
「……………うぇぇえ〜んっ…、吉井〜…、佐藤くぅ〜ん…。みぎゃぁぁぁぁぁあ〜〜〜…」
 …失敗。激発させて多少の元気を取り戻させようと思ったのだが、余計にヘコませてしまった。
 困り果てて額に手をやる岡田。
190友情:03/06/10 22:35 ID:OXy8j3CB
「………………あ」
 森の中を歩くこと約半時。鬱蒼と繁る木々の間に、吉井は見慣れた2人の姿を見つけた。
 ズブ濡れになりながらも、ゆっくりと歩を進めるその後ろ姿は、いつもよりひどく儚げに見えた。
「…………」
 それを見た吉井は言葉では表しにくい──あえていうなれば、『不自然さ』──そんなような感情を抱きながら、ともかく早く合流しなければならない。
 沸いた感情を自分の思考で端へと追いやり、脚を早めた。
 
「うえっ……ひっ……く。吉井ぃ………」
「……しっかりしなさい」
 後ろから近づく親友にも気付かず、先行する岡田・松本の2人。
 松本は流す涙でその顔をぐしゃぐしゃにしている。が、一方の岡田は冷静な表情を微塵も崩しておらず、いつものままであった。
「吉井……吉井……鬼になっちゃった、かなぁ……?」
「……おそらくね。というかなったでしょうね。なにせ思いっきり鬼と格闘してたんだから」
 岡田の脳裏に鬼に飛びかかっていた吉井の姿と、その瞬間見せた透明な微笑が蘇った。
(吉井────)
 唇を噛みしめ、ズブ濡れの服の裾をキュッと掴む。
「岡田は……悲しくないの? 吉井が……捕まっちゃったのに……私たちを逃がすため……捕まったのに……」
 親友の顔を覗き込みながら、松本の、微妙に非難めいた感情の混じった言葉。
「悲しいわ──悲しい──そう──悲しいわけ──ないじゃない──」
「じゃあ……」
 何か言いかけようとする松本。しかし岡田はそれを遮り、
「けど……けどね……私たちは──だって、吉井は……私たちを逃がすために……自分から……犠牲に……
 私たちを助けるために……自分から……鬼になったんだから──悲しんでばかり──」
 一つ一つ、言葉を選びながら。自分の、煮えたぎるような、ほとばしるような、暴れ狂うような──そんな、御しにくいことこの上ない自分の気持ちを──
 丁寧に、丁寧に──出来る限り、わかりやすく、自分でも、理解できるように──考えて、選んで、口に出す。感情を、言葉という形に──直していく。
 が、その作業は中断される。
「岡田っ! 松本っ!」
「え?」
「へっ?」
 突然の、後ろから自分たちを呼ぶ声。
 ふり向いてみれば、そこにいるのは、駆けてくる、失ったばかりの親友の姿。
191その笑顔の価値:03/06/10 22:35 ID:4yl98gaV
 だが、何れにせよ――
「――ったく! いつまでぐじぐじ泣いてんのよアンタわ!? 普段のお気楽極楽天然娘はドコ行っちゃったのよ!
大体そーいう風にメソメソしてたって仕方ないでしょ! 折角吉井が体張って逃がしてくれたんだから、私達も必死コイて
逃げ続けなきゃイカンでしょーが!! このスカポンタン!!」
 岡田は、こういうやり方しか出来ない。優しく慰めるといった技術は、不得手なのだ。
「ふぇ……そんなにキツイ言い方しなくたっていいじゃない〜…。岡田のバカぁ、アホぉ、イヂワルぅ、ペチャパイぃ〜っ」
「他はともかく最後の言葉だけは気に食わん…! ペチャじゃなくて“小振りで品がある”と言いやがりなさい」
「…品があるお乳……略して“ヒンニュウ”…」
「黙れいいから黙れ黙れったら黙れ。つーか、その言葉は色んな意味でNGよ。シヌりたくなけりゃ、黙らっしゃい」
 ぎう〜…っと、岡田が松本の両頬を摘まんで引っ張った。
「いひゃい、いひゃいい〜っ…。やめへ、やみぇふェぇ〜」
 ……またこれが面白い程に良く伸びる。
 ずっとこうして弄んでやりたい思いに駆られたが、その誘惑を取り敢えず振り切る。
「とにかくさっさと泣き止む! さぁ、逃げるわよっ。付近に鬼がいるかも知れないからね」
 未だにメソメソとしている松本の腕を引っ掴み、岡田は引き摺る様にして歩き始めた。

192名無しさんだよもん:03/06/10 22:36 ID:OXy8j3CB
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと、追いついた……」
 吉井は2人の手前約3Mという位置までたどり着くと足を止め、息を整える。
「よ、吉井……どうしたの? その服。夏に向けての予行練習?」
 とりあえずの松本の第一声。当然対象はガ○パレの制服である。
「……服が、ずぶ濡れになっちゃって……小屋を見つけて、ね。そこで着替えてたら、遅くなっちゃった」
「ううん、いいよそんなこと。それより吉井、私たちと一緒に来てくれるんだよね?」
「うん。もちろんよ。鬼にはなっちゃったけど、これからは2人をサポートするから。あ、そうそう。小屋の中で傘も見つけてね。はい、これ。2人の分」
「あ、ありがとう」
 お互いに一歩ずつ近づき合い、吉井が向けた傘の柄を、松本が受け取る。
「はい、これは岡田の分」
 同じように吉井は、傘を岡田に……
「…………………………」
「……? どうしたの?」
 しかし、岡田は能面のような無表情をたたえたまま腕を組んでおり、吉井の傘を受け取ろうとしない。
「ん? どしたの岡田?」
「…………………?」
 やがて、岡田が口を開く。低い、重い、……怒声を押さえ込んだような、そんな声で。
「吉井」
「な、なに?」
 見たこともない岡田の姿に、吉井は身を強張らせる。

「……何をしに来たの?」

 雨の音が、一際強くなった気がした。
 
 同時刻――
 仄暗い森の中、傘を差しつつ歩く二人連れ。
「……雨が降るとはな。あ〜、かったりぃ…」
「…そうね。只でさえダルい雰囲気に、ヒロのそのやる気ゼロ全開のマヌケ顔が更に拍車を掛けてるわね」
「…喧嘩売ってんなら買うぞ?」
「はんっ。この志保ちゃんの喧嘩は、高いわよ?」
 ゴゴゴゴゴ…――という謎の効果音を背景に、ガンをくれ合い飛ばし合う、浩之と志保の小悪党ペア。
 真っ黒な打算フルスロットルで鬼に成り果てた挙句、殆ど自爆して鬼としての栄光をも獲り逃した二匹である。
 ――が、転んでも只では起きないこの二匹。鬼としての栄光を諦めた代わりに、他の逃げ手をサポートして優勝させ、
そのお零れに与ろうという、なんともセコい事山の如しな新たなる策謀を打ち立てたのである。
 しかし…
「……何でこう、見つからないのよ、逃げ手が…」
「しかも他の鬼連中とも会わないと来てる。ついてないぜ…」
「普段の行いが悪いからじゃない?」
「オマエモナー」
「………」
「………」
 ………――雨音。
 ゴゴゴゴゴ…――再びメンチの切り合いをおっ始める、懲りない二匹。
 ――と。
「――…だぁ〜、まったく、いい加減泣き止みなさいよ。言う事聞かない悪い子は、いつか迎えに来られるわよ…!?」
「ワケ解んないよぉ、岡田ぁ〜…」
 どこからか、どこかで聞き覚えのある声が。
「――…ヒロ?」
「皆まで言うな」
 一瞬足らずの目配せ。
 そして、二匹は声のした方へと走り出した。

 ――所変わって、同時刻。
 “名誉ある戦死”を選び、仲間達を窮地から救った、我等が吉井――
 今は“ガ○パレ”の服に身を包み、髪型もポニテにして“芝○舞”仕様。心構えも何となくそれっぽくなっている為か、
顔つきも凛々しい雰囲気になっていた。
「さてと……早く追い着かなくちゃ…」
 …流石に、喋り方までは変えてはいなかった。この服に着替えた時、ちょっとした台詞を真似て口にしてみたのだが、
余りの気恥ずかしさ故に吹き出してしまったからだ。
 だが、この服は、なかなか良い物だった。何より、スカートではなくキュロットである為、余計な事を気にする必要も無く
派手な動きが出来る。
「その分、サービスシーン的な物が減ったとかいう抗議は、全面的に却下ね」
 森の中、傘を差しつつ走りながら、訳の解らない事を宣う吉井。
 ――程なくして、木々の切れ間に見覚えのある二つの人影を発見した。
「…――っ!?」
 同時に、別の人影二つも、目に飛び込んで来た。そして、その別の人影の誰何よりも先に、鬼である事を示す襷の
存在を脳が認識する。
 短い時間で何度も鬼と遭遇するとは、ほとほとツいていない。吉井の中で、怒りにも似た感情がスパークした。
「岡田ァーーーっ!! 松本ォーーーっ!!」
 走るスピードを上げつつ、吉井は叫んだ。――その声に、岡田と松本、そして鬼の二人も気付く。
「吉井…?」
「――今助けてあげるからねーーーーーっっ!!!」
 吉井のその叫びに、キョトンとして四人が顔を見合わせる。
「…あー、ちょっと待った吉井。オレ達は――」
「――藤田君…!? クッ――…御免っ! 私はっ! 恋よりも友情を選ぶっ!!」
「へ? ――いや、あの、だから」
「とぉっ!」
 ダッシュしながら気合一発。“ガ○パレ”吉井は大きく跳躍した。そして――
「ジャコビニ流星キィーーーーーック!!!」
195名無しさんだよもん:03/06/10 22:38 ID:OXy8j3CB
「な、何って、私は……岡田たちのサポートを……」
「本気で言ってるの?」
 ピキピキと岡田の眉間の皺が深くなっていく。
「ほ、本気って……本気じゃなきゃ、こんなところまでは来ない……」
「そ、そうだよ岡田。吉井は私たちのためにここまで走って来てくれ────」
 松本の取りなしも効果は得ず、岡田は一つ大きなため息を吐くと、さらに続けた。
「私たちの友情は、その程度のものだったの?」
「え……?」
「私はあなたを親友だと思ってた。いや、思っている。そして、これからも思っていたい。あなたは?」
「わ、私だって岡田は親友だと思ってるし、これからも親友でいたいと思って……るよ?」
「嘘ね」
「う、嘘じゃないよ!」
「嘘。あなたの言葉は嘘。だってあなたは私たちを追ってきたんだから」
「え? だって、親友だと思ってるから、2人に優勝してもらいたいと思ってるから、私は────」
「それが嘘だって言ってるのよ! こんなのは友情でもなんでもないわ! ただの────ただのなれあいよ!
 他人のことなんか気にしない、自分たちだけよければそれでいいなんて────そんなの、友達でも友情でもなんでもないわ!」
 強くなったかと思われた雨音を切り裂くように、岡田の怒号が森の中に響いた。
「お、岡田──」
 今まで見たこともないかのような岡田の態度に怯え、松本は一歩後ずさる。
 その時──
 
 ズルゥッ!
 
「おををっ!? ちょっと待て! オレ達はタッチする気は――!!」
「問答無用ぉ!!」
 凄まじい勢いで飛んで来る吉井の流星蹴りを前に、浩之は顔を引き攣らせる。
 避けるしかない…! ――しかし、
「ヒロっ、アビなぁーーーいっ!!!」
「ぬおっ!!? 放せアホ志保ォ…!!!」
 何故か浩之を羽交い絞めにし、動きを封じてしまう志保。次の瞬間――
 め゛しぃ………っ!!
 …と、鈍い音を発てて吉井の流星蹴りが浩之の顔面にメリ込んだのは、言うまでも無い……

「――ごめんっ! ごめんなさぁ〜いっ! 藤田君、大丈夫…!?」
「…平気平気。いちちち…」
 顔面にくっきりと見事なまでに足形のついた浩之に、ひたすら平謝りする吉井。その傍らでバカ笑いする志保。三人から
少し離れた所に、岡田と松本がいた。
 ――あの後、岡田達から浩之と志保の例の作戦の事を聞き(セコイ打算が裏にあるのは口八丁手八丁で隠されて)、
吉井は顔色をまともに変えて平身低頭。浩之は鼻血を流しながらも笑って許してくれたが、基本的に真面目な吉井は、
頭を下げるしか出来ずにいた。
「吉井は悪くねーよ。友達の事を想ってやったんだろ? …つーか、悪いのは寧ろ――」
 ゴキぃッ…!
「っ! …痛ぁッ!!? ――ちょっと、何すんのよ乙女のアタマに!」
「黙れアホ。お前がよけーな事して来なけりゃ、避けられたんだよ…!」
「何よ! ケリくらい気持ち良く受け止めてやんなさいよね!」
「ほお〜…? だったらオレの蹴りを気持ち良ぉ〜く受け止めて貰おうじゃねーか、ああ゛!?」
「バカじゃない? アンタのクッサイ足での蹴りなんか誰が受け止めますかってのー(ぷげら」
 ゴゴゴゴゴ…!
 …ストッパーやクッション役の人間(あかりや雅史)が居ないので、またもや剣呑な眼差を交し合うそんな二人を他所に、
短いとはいえ別離に心を悼めていた岡田軍団は、ちょっとした感動に包まれていた。
197名無しさんだよもん:03/06/10 22:39 ID:OXy8j3CB
「きゃあっ!?」
 一歩を踏み出した先には、半ば泥沼と化した水たまりがあった。
 気づけなかった松本はもろに足を取られ、その場にバランスを崩す。
「松本ッ!?」
 ……が、ギリギリの位置で脇に立っていた吉井が手を伸ばし、松本の身体を受け止めた。
 ────そう。
『受け止めた』のだ。
「────あっ!?」
 一瞬遅れ、今何が起きたのかを吉井は理解する。

「岡田っ!」
 胸に吉井を抱きかかえたまま、吉井は顔を岡田に向ける。
 岡田は表情を変えぬまま、そこに佇んでいた。
「ご、ごめんなさい……。わ、私……」
「……違うわ」
 一瞬の不注意で、松本を鬼にしてしまった。
 吉井は岡田が怒ったのは『この可能性』を恐れてのことだと思い、詫びを入れようとしたが、その言葉は岡田によって遮られる。
「……そう。これは『起こるべくして起きたこと』……けどね、私が怒ってるのはこんなことじゃないのよ……。いえ、『そのこと』に比べたら、この程度のこと……!」
 岡田の怒りは収まらない。憤怒の表情はどんどん険しくなっていく。
「お、岡田……さっきから何を怒ってるの……?」
 松本も自分が鬼になったことなど気にしないかのように、いや、それ以上に岡田の態度のことが気になるのか、疑問をぶつける。
「……まだわからないの?」
「わ、わからないよ……吉井?」
「う、うん。だって、私がここに来たのは……2人に優勝してもらいたいからで……。佐藤君の時に気づけてればみんなずっとにいられたんだろうけど、あの時は気づけなくて……」
「バカぁっ!」
 顔中を口にして、岡田は叫んだ。
「私が怒ってるのはそのことよっ! あなたは! 吉井! あなたは! 佐藤君の気持ちを踏みにじったのよ!」
 それまでとは比べものにならない程の大きな声。
 近くに鬼がいないのは天啓だった。
198名無しさんだよもん:03/06/10 22:39 ID:OXy8j3CB
「え……?」
「あなたは! 佐藤君はこのことに気づかなかったと言った! けどね、佐藤君がこの程度のことに気づけなかったとでも思うの!?
 そんなわけないわ! 気づいていた。当然佐藤君だって考えたでしょう! この程度のこと!
 仲間の一人が! 鬼になった! ならその鬼は!? 他の逃げ手をサポートすれば! 追っ手の鬼の妨害をすれば!
 ええ! 生存率は高まるでしょう! 逃げ切れる可能性も高まるでしょう! 優勝する望みも出てくることでしょう!
 けどね、けどね、佐藤君がそんな卑怯な真似をしたがると思うの!? 彼がそんな姑息な手段をとると思うの!?
 しなかった。ええしなかったわ! 彼は正々堂々! 鬼として! 私たちのもとを去った!
 あなたは! あなたはそんな佐藤君の気持ちを踏みにじったのよ!?
 彼は言った。
『一緒に居られるのはここ迄。残念だけどね』
 彼がどういうつもりでこの台詞を言ったのか。言ってくれたのか!
 わからなかったの!?
 それに、それに仮にその方法で! 私が優勝したとしましょう!
 優勝したと……しましょう!
 それで、私は、どの面下げて佐藤君に会えばいいの? 次会った時、会えた時、私はどの面下げて彼に何て言ってあげたらいいの!?
 優勝は岡田メグミさんです! おめでとうございました!
 やったね岡田さん! すごいよ! よく逃げ切れたね!
 うん! 鬼になった吉井と松本が追っ手の邪魔をしてくれたからね! 助かったわ! 佐藤君も参加してくれればずっと一緒にいられたのにね!
 残念だったね! あの時気づけなかったね!
 私にそんな台詞を吐けと言うの!?
 ええ! 佐藤君は怒りはしないでしょう! 祝福してくれるでしょう! 笑ってくれるでしょう! 微笑んでくれるでしょう! はにかみを返してくれるでしょう!
 張り付いた笑顔をね! 作った微笑みをね! 無理矢理なはにかみをね!
 佐藤君にそんな表情をさせろと言うの!? 私にそんな表情を作らせるつもりなの!?
 吉井! あなたは! あなたは……! 佐藤君を……! 裏切ったのよっ!」
「もう…。何よ、松本。泣いちゃってたの?」
「だってぇ〜…」
 ぐしぐしと泣く松本に、吉井は優しく微笑んでやる。
「泣かないの。また合流出来たんだし。ね?」
「…うん。……えへへ…♪」
 岡田がいくら叱咤激励してやっても一向に泣き止もうとしなかったのに、吉井だと笑顔の一発でこれだ。
 …岡田は、ヤレヤレとばかりに肩を竦めたが、これが役割というものなのだろう。
「――さ、とっととこっから離れよーぜ? 随分騒いじまったからな」
「そーね。鬼の居ぬ間に命の洗濯ってヤツよね」
「使い所を激しく間違えてるが、まぁそんな感じだ」
 一通り取っ組み合った所為か、ほんのりボロボロになっている浩之と志保が、三人を促す。
「そうね。サポート役、宜しく頼むわよ」
「オレに任せろ」
「ちょっとォ、一人でカッコつけてんじゃないわよ。“達”が抜けてるわよ“達”が…!」
「――それはそうと、吉井。イケてるじゃねーか、その服。“ガ○パレ”だろ、それ?」
 志保の抗議を黙殺しつつ、浩之は吉井を見てそう言った。
「え…? そ、そうかな…」
 憎からず想っている人物からの褒め言葉に、“ガ○パレ・舞”仕様の吉井の頬が、仄かな朱に染まる。――が、
「でもなー。キュロットなんだよな、それ。スカートだったら、さっきのキックの時、イイ物が見れたんだが。…残念」
「………(心底悔しがってるよ、をい…)」
 彼らしいと言えば彼らしい台詞に、岡田軍団の三人は何となく不安を覚えずにはいられなかった。
 エスコート役を買って出てくれたは良いが、この二人であるなら、鬼となってしまった吉井と、或いは雅史一人が居て
くれていた方がもっとマシの様な気が…
 いや――と、岡田軍団の団長は思い直した。
 色々と因縁の少なくない人物達であるが、信用しよう。するしかない。
 …何より、散った戦友が、正に“生まれ変わって(笑)”再び戻って来てくれたのだ。このゲーム、何としてでも
逃げ延びねば。――そう思い、じぃ…と見つめていると、吉井がその視線に気付いた。
 そして、フ……と笑う。
 ――彼女のその微笑みは、良い物だ。
 別離から再会までの時間は長くは無かったが、親友の存在、その重みを、痛い程に実感出来た時間でもあった。
200名無しさんだよもん:03/06/10 22:40 ID:OXy8j3CB
「……………………………」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ……!」
 整理もつかないまま、一気に自分の気持ちを吐き出した岡田。
 感情の高ぶりと実質的な酸素不足により、肩を上下させながら息を整える。
 既にその表情は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「うえっ、えうぅ………うううっ……」
 とうとう盛大に泣き出し、その場に崩れ落ちてしまった。
 
「……………………………」
 一方、吉井は答えない。一切の言葉を発しない。うなだれたままのその表情は、垂れた前髪に邪魔されて伺い知ることはできない。
「お、おか……おか、だ……」
 とりあえず、と岡田に駆け寄る松本。背中に手を添えようとして、ハッと我に返る。
 そうだ。すでに自分は鬼なのだ。岡田に触れることはできない────
「吉井……」
 仕方がなく、というよりも。他にすることがないため、吉井に顔を向ける松本。
 ややあって、吉井は立ち上がる。
 その表情は、あえて形容するのなら、『晴れ晴れ』とでも言うのだろうか。
 目を瞑ったまま、顔に張り付いた髪をどかし、後ろに軽くまとめ、そして、
 目を開く。


【岡田、松本  森の中で【浩之】と【志保】に出会う】
【【浩之】、【志保】  森の中で岡田、松本を発見。例のセコい作戦発動】
【【吉井】  森の中で岡田、松本を発見。親友を護る為に、彼女達の傍にいた【浩之】に流星蹴り。直撃】
【岡田、松本、【吉井】、【浩之】、【志保】、合流。鬼役三人は、逃げ手二人のエスコート】
【三日目:そろそろ夕刻  場所:森  天候:雨】

【登場逃げ手:岡田メグミ、松本リカ】
【登場鬼:吉井ユカリ、藤田浩之、長岡志保】
202「友情」書いた香具師:03/06/10 22:41 ID:OXy8j3CB
チョット待て。
今更気付いたが。
これはまさか……
「その笑顔の価値」
>>189 >>191 >>193 >>194 >>196 >>199 >>201


…かぶっていまいますた。
どうしましょう(汗
「ごめん、岡田」
 一言。
「私、バカだった」
 そして一言。
「ごめん、松本」
 さらに一言。
「私、ドジだった」
 一言、一言、ハキハキと、感情を込めて、心からの言葉を、紡いでいく。
「私、普段は2人の無茶を止めてるつもりだったけど」
「なんか、一番無茶苦茶なのは私だったみたい」
 てへっ、と無邪気な笑みを浮かべる。
「でも、そんなバカな私だけど」
「いくらなんでも、そこまで言われればどうにかわかるわ」
「自分が、何をすべきなのか」
「自分は、何をすべきなのか」
「………………岡田」

 いつの間にか、岡田も泣きやみ、顔を無理矢理に整え、吉井と向き合っていた。

「そう。私は、鬼」
「そう。私は、逃げ手」
「なら」
「なら」
「するべきことは」
「するべきことは」
「ただ一つ」
「ただ一つ」
 ビシッ、と岡田に指をつきつける。
「私は、あなたを、捕まえる」
 同じく吉井に指をつきつける。
「私は、あなたから、逃げてみせる」
205名無しさんだよもん:03/06/10 22:45 ID:OXy8j3CB
「そう」
「そう」
「これは」
「鬼ごっこ」
「ルールは」
「それだけ」
「たった」
「それだけ」

 一息ついて。

「そう。私は、鬼」
「そう。私は、逃げ手」

 チリチリと空気が灼ける。
 雨に濡れているにも関わらず、電波など誰も使っていないにも関わらず、空気が、灼けついている。
 だが、それは非常に心地よいものだった。
 
 ──そして静寂は破られる。
 
「……………行くわよ! 岡田! 私はあなたを捕まえる!」
「来なさい! 吉井! 私だってそう簡単には捕まらない!」

 ほぼ同時に2人は駆け出した。
 岡田は森の奥に向かい、
 吉井はその背中を追って。
 
 そう。これは鬼ごっこ。
 逃げ手は逃げ、
 鬼は追う。
 ただ、それだけのこと。
 それだけの……ことだったのだ。
206名無しさんだよもん:03/06/10 22:46 ID:OXy8j3CB
 2人が親友であることは、何も関係がない。
 そして、なんら、影響もない。
 2人は親友。
 一人は逃げ手。
 一人は鬼。
 ただ、それだけのこと。
 
「…………………え? わ、わあっ!? ちょ、ちょっと待ってよ2人ともっ!」

 ……訂正。
 もう一人、追加。
 
【松本 鬼になる】
【吉井 +1】
【岡田軍団 鬼と逃げ手に別れ、鬼ごっこ開始】
【登場 岡田メグミ・松本リカ・【吉井ユカリ】】
207名無しさんだよもん:03/06/10 23:08 ID:yG7VPXbp
「その笑顔の価値」
>>189 >>191 >>193-194 >>196 >>199 >>201

「友情」
>>190 >>192 >>195 >>197-198 >>200 >>204-206


かな?
同キャラかぶり事故とわしかし・・・w
208Trapper's Night:03/06/11 22:27 ID:/hyZBGas
「……どうやら完全に振り切ったみたいだな」
「は、はい……そのよう、ですね」
 あの後……祐一たちに追われ、森の中に逃げ込んだクロウ、郁美、そしてウォプタル。
 全力で逃げたいところではあるが、愛馬の疲労は看過できるレベルではない。
 ある程度離したと思ったところでクロウは降り、その後は手綱を引きつつ後ろを気にして森を進むという行動を取っていた。
 すでにあれからだいぶ時間は経っている。あたりに人の気配はない。
 どうやら連中は完全に振り切り、幸いあたりにも他の鬼はいないようだった。
「にしてもなぁ……俺としたことが。トウカじゃあるまいし。とんでもない大ポカやらかしちまったな」
 雨に打たれながら、クロウは先ほどの自分のミスを思い返す。
「やれやれ、守るなのなんのと言っておきながら、俺がこんなんじゃそれどころじゃねぇな。総大将に怒られちまう」
 自嘲的な笑みを浮かべながら、自分を叱責する。
「そ、そんなことありません……よっ!」
 傘を差しながらウマに跨る郁美は非難めいた声を上げる。
「く、クロウさんは……クロウさんは一生懸命やってくださってます。それこそ、感謝してもしきれないぐらい……。
 クロウさんがいなかったら、きっと、いえ、ずっと前に私は捕まってしまっています。……あのたい焼きお化けに……」
 あゆ、既に完璧物の怪扱い。
「けどなぁ……連中、俺たちを追ってこなかったってことは、たぶん……あの嬢ちゃんたちを追ってったんだろうな」
 脳裏に先ほど出会い、すぐに別れた岡田軍団の姿が思い出される。
「正直……あの嬢ちゃんじゃ連中から逃げきるのはちぃっとキツイと思うんだわ。……捕まっちまってたとしたら、俺の……責任、だよなぁ」
「そ、そんな……」
 猿も木から落ち、河童も時には川を流れるというが、たった一回のミスでもクロウにはかなりのショックであったようだ。
 無理もないかもしれない。戦場では、誰も慰めてなどくれない。一瞬の甘えと一回のミスが、永劫の後悔を伴うことすら珍しくないのだから。
209Trapper's Night:03/06/11 22:28 ID:/hyZBGas
「あ……そ、それよりも……!」
 沈んでしまった場の空気をどうにか払拭するため、郁美は声を上げた。ちょっとわがままかなと思いつつも、努めて明るく。
「そ、そろそろお夕飯の時間……かもしれません、ね。クロウさんは……お腹、空いてませんか?」
「ん? 腹かい? そうだな、そう言われてみれ……」
 自分の腹に軽く手を当ててみるクロウ。それと、同時に、
 
 ビシッ!
 
「!?」
 足下から、何か、浅い、物が切れるような音が聞こえた。
「い、今のは……?」
「やべぇっ! 下がれ! 郁美!」
 勘が叫んでいる。今のはヤバイと勘が叫んでいる。クロウは慌ててウォプタルの鼻っ面をひっぱたくと、その向きを変えさせた。
 一瞬遅れ、クロウの体にグンと異質な力がかかる。
 世界が反転。吊るされた!
「罠か! ド畜生めがっ!」
 だが、この程度はまだ初歩だ。
 クロウは努めて頭の中を冷静にたもち、抜き放った薙刀の刃で自分の足を絡め取る綱を断ち切った。
「クロウさんっ!」
「慌てるな! この程度、どうってこと……!」
 空中で体勢を立て直しつつ、ぬかるんだ地面に膝から着地するクロウ。
 
 ビシッ! ビシッ! ビシッ!
 
「……マジかよ!」
 その場にも、罠は仕掛けられていた。
 しかもゲップが出そうな程、大量に。
 さすがのクロウでも着地点を変えることはどうにも出来ず、もろに全ての罠を発動させてしまう。
「ッッッッ……連鎖か!!! どこの誰だか知らねぇが、えげつねぇ真似を!!!」
 確かに、罠は二重三重に張って初めて功を成すとは言う。
 だが、それはあくまでも仕掛けた立場からの物言いである。
 はめられた方にしてみれば、これほど不愉快なことはない。
210Trapper's Night:03/06/11 22:28 ID:/hyZBGas
「チィッ……マズイなこいつぁ……!」
 四方八方から網、縄、蔓に巻き付かれるクロウ。
 地面に薙刀の柄を突き立て、近くの木の幹を掴んで何とか今の体勢を保ってはいられるが、一瞬でも気を抜けば高々と掲げられてしまうだろう。
「く、クロウ……さん?」
 ウォプタルから降り、一歩クロウのもとへ近づく郁美。
「っ!? や、やめろ郁美! 来るんじゃ……!」
 
 ビシッ!
 
 しかし無情にも、仕掛けてあった罠は郁美をも……
「危ないですわよ、お嬢さん」
 ……が、罠が郁美を絡め取る直前、彼女の体はひょいと誰かに抱き上げられる。
「この罠は、ああいう馬鹿力な御仁の為に作った物。あなたみたいな華奢な娘さんが掛かっていいものではありませんわ」
「へ……?」
 自分を抱く人の顔を見上げる郁美。
 そこには、猫のような耳をした壮麗な女性が、優しげな微笑みをたたえていた。
「危なかったね、おねーちゃん」
 ……ついでに、その肩にちょこんと乗った幼女。
「……っ! そういうことかい……! どっかで見たことのあるタイプの罠だと思ったら……!」
 女性の姿を認めると、クロウがやや安心したような、しかし非難のこもった声を張り上げる。
「情けないですわねクロウ。か弱き女性を守るべき騎士が、そのような姿で」
 だが猫耳の女性は一向に気にせず小馬鹿にしたような笑みをクロウに向ける。
「ああ悪かった悪かった。俺が悪かった。だからさっさとこれを解いてくれよ……。カルラ!」

211Trapper's Night:03/06/11 22:29 ID:/hyZBGas
「……にしても、よくもまぁこんな凄まじい罠をこさえたもんだな」
 無事(?)罠からも助け出され、カルラの案内で罠の中を歩いていくクロウと郁美、ついでにウォプタル。そのルートは複雑極まりないもので、おおよそ知っていなければ無事に通れるものではなかった。
「あら? ギリヤギナの生存術を甘く見てもらっては困りますわ。狩猟、もちろん罠の制作もお手の物ですわよ」
「ああ、そりゃわかってるさ。いつもひでぇ目に遭わされてるからな。けど、そういうことじゃねぇ。純粋な量だ。よくもまぁ一人であんだけの量を作ったもんだな」
「ああ、なるほど。……いくら私でもあれだけの量を一人では無理ですわ」
「……あ? じゃあ、どうやったってんだ?」
「今の私には素敵な助手がいますから」
 カルラは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ああん? 助手? ……どこにいるんだ、そんなヤツ」
 キョロキョロとあたりを見回すクロウ。
「あなたの目の前にいますわ」
「ああん? 俺の目の前? いまここにいるってーのと……俺と、お前と、郁美と、俺のウマと……」
 一人一人、指をさして確認していくクロウ。
 ……と、最後の一人でその指が静止する。
「……ん? どしたの?」
 対象は、郁美と一緒にウマに乗っている幼女。しのさいか。
「……それにしても凄いね、さいかちゃん。カルラさんの罠作りを手伝ってるなんて……。しかも、あんな立派なのを……」
「ううん。カルラおねえちゃんの教え方がうまいだけ。さいかは言うとおりにやってるだけだよ」
「まぁ、さいかったら。お上手なこと」
「……マジかよ……」
 目の前の状況が信じられず、思わず絶句するクロウ。
「あら? 実際あなたが最初に掛かった罠。あれはこの子が作ったものですわ。それに……もう、一人の鬼を屠るという実績も持ち合わせていますことよ」
「うん。鬼のおねーちゃんをやっつけた!」
「…………………」
 沈黙するクロウ。が、彼は一言だけ呟いた。心の中で。
(……カルラジュニア……)
212Trapper's Night:03/06/11 22:30 ID:/hyZBGas
「着きましたわ」
 案内されること数分。四人と一匹は罠地帯の中心までたどり着いた。
 そこには小さな手製のかまどと、そこで火にかけられるウサギ。あとは木の枝を組み合わせて作った簡素なテントが用意されていた。
「お、メシか。ちょうどいいや。ちっともらうぜ」
 こんがりと焼けた四本足の物体。クロウは串にささったそれを手に取ると、おもむろに口の中に……

 ゴス! メシッ!
 
「……痛てえ……」
 カルラの鉄拳がその口に決まった。
「あなた、誰の許可を得てそのウサギを食べようと?」
「なんだよ、ちょとくらいいいじゃねぇか。減るもんじゃ……って、減るもんか。俺たち仲間じゃねぇか」
「あら? 今は優勝を巡って争うライバルですことよ? 敵に塩を送るような真似を、私にしろと? ……私はあるじ様やエルルゥのように甘くはないですわよ」
「ぐっ……」
 言葉に詰まるクロウ。確かに、カルラが自分を助ける義務はない。強制することなど、出来はしないのだ。
 ……しかし。郁美は別だ。自分はまだいい、だが、郁美は。郁美だけには……
「あ……」
 郁美の分だけでももらおうと、口を開き書ける、が。
「お、お願いしますカルラさん……!」
 ……郁美の懇願の方が、先だった。
「あら?」
「クロウさんは、クロウさんはずっと……ずっと、禄に休憩も取らず、ここまで私を守ってきてくださったんです。
 お願いします。私の分はいいですから、お願いですから……クロウさんの分だけでも、それだけでも……」
 泣きそうになりながらカルラに頭を下げる郁美。
「い、郁美……」
 その姿に胸を打たれながらも、そんな願いは承諾することなどできない。クロウは、正反対のことを頼もうと、再度口を──
「そういうことなら。ほらクロウ、これをどうぞ」
 ……おもむろにかまどの裏からもう一羽、こんがり焼けたウサギを取り出すと、カルラはひょいとクロウに投げ渡した。
「……………………………」
 しばしの沈黙。そして、ようやく自分がからかわれていたことに気付く。
「か、カルラてめぇ……! 最初っから二羽あったな! 隠してやがったな!」
「ああら? 何のことかしら。誰も捕まえたのは一羽だけだなんて言ってませんことよ」
213Trapper's Night:03/06/11 22:31 ID:/hyZBGas
 実際、用意されていたのは二羽だけでもなかった。
 それこそ、2人では食べきれない……4人の胃を満たすのに充分な程、食料は確保されていたのだ。
 おそるべし、カルラの生存術。

 とまあ、そんな感じで。時々カルラにクロウがからかわれながらも楽しく晩餐を過ごした一行ではあるが────
 バキバキバキバキバキッ!
「──!」
 やや離れた場所から、木の枝がヘシ折れるような音が聞こえた。
 バキバキッ! バキッ! ベキッ!
 さらに連鎖的に似たような音が聞こえてくる。
「カルラ、これは──!?」
 厳しい視線でカルラに問いかける。
「────どうやら、誰か……罠にかかったみたいですわね。全く、今夜は客人の多いこと────」
「誰だ──逃げ手か──それとも──!?」
 一気に場の緊迫度が増す。そして──
 
「ふみゅ〜〜ん……誰よ誰よ誰よ〜! こんなところに罠なんて仕掛けたの〜! ちょ〜ムカつく〜!!!」
「ええいうっさい大馬鹿詠美! 大きな声出すんやない! 鬼に見つかるやろ! ちょい待ち。今ウチが助けて──」
 バキバキバキバキ!
「のわぁー!」
「なによ温泉馬鹿パンダ! あんたまで掛かってどうするつもりなのよー!」
「しゃ、しゃあないやろンなこと言ったって……。はっ! よっ! トウッ! ……あ、アカン。これ、よう出来とる……。外れんわ……」
「ばかばかばかばかばかー! おおばかー!」
「ええい! うるさいっ! ピーピー泣くんやないっ!」

「……馬鹿か?」
「……とりあえず、鬼ではなさそうですわね」

 一気に緊張は緩みましたとさ。
214名無しさんだよもん:03/06/11 22:31 ID:/hyZBGas
【クロウ・郁美 カルラ・さいかと合流】
【四人は現在カルラ・さいかの仕掛けた罠地帯の中心部】
【罠地帯 カルラかさいかの案内が無ければ抜けるのは至難の業】
【詠美・由宇 どうやらかかってしまったようだ……】
【時間:3日目夜 場所:森の中。カルさい罠地帯中心部 天候:雨】
【登場 クロウ・立川郁美・カルラ・しのさいか・大庭詠美・猪名川由宇】
215名無しさんだよもん:03/06/12 00:10 ID:6hdIj0zp
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216非最終兵器彼女A:03/06/12 02:32 ID:7TWi808b
 美坂香里は悩んでいた。 

「……どう、まだかかりそう?」
 香奈子がセリオに声をかける。
「――――もう暫くお待ちください」
 あちらではセリオが自己診断プログラムを走らせていた。
 多少時間を費やすものの、それによって現在の状態が正確に把握できるらしい。
 損傷がどの程度か時期にわかるだろう。

 こちらでは香里と真紀子で問題点をまとめていた。
 まとめていたのだが。
 ――――厄介だ。
 そう思う。
 いくらこの鬼ごっこが数優位のゲームとはいえ、香里のチームの大半は一般の女性並みの身体能力しか備えていない。
 しかも、スタンガンを一丁失い、『最終兵器』も紛失、戦力の大部分をセリオに頼っている状況だ。
 いまや美坂チームというより、セリオと愉快な仲間達になっている。
 ……いや、それはいい。
 問題は、先のいざこざのためにセリオのレーダー系統に異常が発生していることだ。
 幸い動作制御に直結するセンサー系統にまでは及んでいないようだが、広範囲索敵ができないのでは唯一の武器である
数を頼みに待ち伏せという策も制限されてしまう。
 ますますセリオの個人プレイに頼らなくてはならないだろう。
217非最終兵器彼女A:03/06/12 02:32 ID:7TWi808b
 ――――厄介だ。
 そう思う。
 正直、セリオを酷使してまで鬼ごっこを継続するつもりはない。
 セリオの状態次第では代替案を講じるか、ゲームを放棄するか、決断しなければならないだろう。
 現時点で採れる選択肢は極めて限られているが。
「あれ。あれは―――――」
 そこまで考えをめぐらせていると、香奈子が声を挙げた。
 反射的に、香里は香奈子のほうに振り向く。
 二人の中間にいた真紀子も同じ方向を向いている。
 セリオはまだ自己診断モードだ。
「え? なに?」
 香里が不審気に二人の視線を追った。
 その先には、
 ―――――いた。
 代替案、『最終兵器』
 ―――――月宮あゆ。
218非最終兵器彼女A:03/06/12 02:33 ID:7TWi808b

 
 ―――――結局、『最終兵器』は戻ってこなかった。
「それで……道具を一万円で栞に売り渡したというのね?」
 不自然なほど静か口調で、香里が確認した。
「うぐぅ……で、でも栞ちゃんが返すって……」
 二人の様子に真紀子は半苦笑を浮かべる。
 とはいっても実際のところ、あゆの語った話は笑い事ではなかった。
 最初が取り違いにせよ他人のモノを持ち去っておきながら、それを何故勝手に渡してしまうのだろう。姉妹であろうと
なかろうと、この島にいる以上、特定の人物との遭遇率はきわめて低いことには変わりない。鬼ごっこの参加者で、
しかも獲物を探す苦労を知っている鬼でありながら、姉妹と言う理由で『姉』の場所を聞く感覚もどうかしているが、
妹に渡したから『返した』という発想もまともではない。
 第一、ぼったくり屋台でたいやきに費やした価格は一万では済まないはずだが、なぜ一万円で了解したのだろう。
 口車に乗せられたというより、目先のたいやき欲しさに考えもせず乗ったという表現のほうが正しいのではないか。
 計算高いという『栞』という少女より、行き当たりばったりの『あゆ』という彼女のほうが始末に負えない。
 真紀子にはそう思える。
 それでも苦笑していられるのは、香里が感情を抑えているのがわかるからだ。
 目の前で激昂している人間がいれば逆に冷静になれる。
「うぐぅ……」
 一方の当事者は涙目で香里を見上げていた。
 さっきから話をするたびに”うぐぅ”という言葉が入る。
 自分で話をしているうちに、自身の行動がどうみられるかに気がついたようだ。
219非最終兵器彼女A:03/06/12 02:34 ID:7TWi808b
 ――――子供ね。
 ”編集長”澤田真紀子であれば容赦ない追求で再起不能にしていたに違いない。
 セリオの受けたダメージとチームの背負った問題を考えると、それほど寛大でもいられなかった。
 途中からチームに入った真紀子でもそうなのだから、香里は――――推して知るべしだろう。
「……あっ、ここに栞ちゃんから貰ったお金があるから」
 後でお金を払えば食い逃げでない、という彼女。
 んしょんしょとポケットから諭吉さんを取り出した。 
 それをみて、香里が思わず激昂

「自己診断プログラム、終了。――――――――――――――レーダー系統損傷確認。他、オールグリーン」

 しなかった。
「…………もう、いいわよ。このたいやきも返すわ」
 溜息をつきながら傍らに携えていた紙袋をあゆに手渡す。  
 当然と言えば当然なのだが、この天候。
 紙袋も雨に濡れてしまっていた。
「うぐぅ、ぐちょぐちょだよ……」
220非最終兵器彼女A:03/06/12 02:35 ID:7TWi808b


「セリオ、動けそう?」
 言いつつ、香里はセリオの隣に座る。
「――――問題ありません」 
「……本当に? 無理しているんじゃないでしょうね」
 じっと見つめて問いただす香里。
「香里様、心配して下さるのですか?」
「べ、別にそういうつもりじゃないわよ」
 視線を真っ直ぐ返されて、香里は顔を赤らめてそっぽを向いた。
 向かいで真紀子が苦笑している。
「で、どうするの、香里。また『妹』を探す?」
 香奈子がどこか楽しそうに問い掛ける。
「……正直言って、今は関わりたくないわ。それより逃げ手を探すほうが先よ」
「意外ね。もう少し『妹』さんに拘りがあると思ってたけど」 
「――――事情が変わりましたから。早く終わらせてセリオに正式な検査を受けさせないと」


【香里 セリオ 香奈子 真紀子 あゆに遭遇】
【あゆ 濡れたたいやきゲット】
【最終兵器が栞の手にあることを知る。ただし、栞の存在はスルー】
【時間:三日目深夜】
【場所:森の小屋】
【登場鬼 【美坂香里】【セリオ】【太田香奈子】【澤田真紀子】【月宮あゆ】】
221最終兵器は遍在する:03/06/12 17:37 ID:soUZQle5
 最終兵器とは、強力な武器を、異能の者どもに劣らない強力な力を得たいと望む参加者の間で、自然発生的に生まれた究極の兵器である。
 はじめはジョークに過ぎなかった。
 最終兵器はこの世のどこかに存在するはずの理想の兵器だった。
 しかしそれは当時のまさに『贔屓』と呼ぶに相応しい出番率にウンザリしていた参加者の間で瞬く間に広まって行った。
 最終兵器があればこう使う。最終兵器さえあれば奴らにも勝てる。
 人々はそうやって、少しずつ理想の武器、最終兵器のイメージを固めていった。
 それは高価でややぼったくり気味の値段である。だが無理をすれば買えないこともない。
 それは説明書が英語で書かれており、扱うのには相応の知識が必要である。
 そしてそれはありがたいことに人々の手を渡り歩くのが大好きなのだ!
 最終兵器はこうして、参加者理想の武器のイメージのコラージュとして生まれたのである。
 人々は最終兵器を欲した。故に最終兵器は存在するのである。

222名無しさんだよもん:03/06/12 17:39 ID:soUZQle5
 さて、ここは暗い暗い森の中。木陰で雨宿りしつつ、あゆから買い取った(だまし取ったとも言う)兵器の説明書を読む栞がいた。
 噂通りそこにはズラズラと英単語の山が並びたてており、栞の頭を激しく悩ませる。
 なにせ彼女はかつて艱難辛苦の病弱ロードを生きてきた女。勉学の類は疎かにしていた面も多々あるのだ。
「う〜ん……これ、は……究極……の武器……で……。使う……ため、には……」
 一つ一つ、単語を読み解いていく栞。一応中学の時に一夜漬けで覚えた知識のお陰で、個々の意味はある程度追える。
「えぅ〜……意味が繋がりません……」
 が、当然のことながら高校で教わる文法──グラマーの類はてんでダメである。個々の単語はわかっても、その繋がりが怪しければ正確に意味を把握することは難しい。
「英語の和訳なら俺が知っている。俺に任せろ」
 と、その時。脇から住井が顔を覗かせ、栞の手から説明書をもぎ取った。
「え? 住井さん、英語得意だったんですか?」
「ああ、得意も得意。大得意さ。折原──俺のクラスメイトも、英語の授業の時はいつも俺を頼りにしているくらいだ」
「へぇ……意外です。住井さんて実は凄い人だったんですね。それじゃ、やっぱり英語のテストなんかいつも楽勝なんですか?」
「もちろんさ。そうだな……たとえば昔、問題で出た"The party was concluded three cheers."を"一団は3人のチアガールによって壊滅させられた"と」
「返せ」
 言葉が終わるのを待つことすらなく、栞は住井から取説を取り返す。
「さすがだなマイブラザー。だが俺とて負けてはいないぜ」
 ……続いて、反対側から北川が顔を覗かせてきた。
 果てしなく不安になりながらも、一応、栞は北川にも訊ねてみる。
「北川さん……英語、お得意なんですか?」
「ああ。だが俺のは学校で教えるタイプの英語じゃない。もっと世界に大きく羽ばたくグローバルな英会話だ。
 たとえば、俺は昔アメリカ旅行に一週間ほど行ったことがあるんだが、日程中全ての会話はYesとNoとHau machで乗り切った。さあ俺も手伝」
「黙ってろ貴様ら」
223名無しさんだよもん:03/06/12 17:41 ID:soUZQle5

 役立たずに背を向け、再度栞は単語の列との格闘を再開する。
 その瞳は、かつてないほどに……燃えていた。

(ここで……! ここで……! ここで頑張らなきゃ! ここで頑張って……! この武器を使いこなして……! そして!)

 栞の脳裏に、例の人の顔が浮かび、そして消える。

(お姉ちゃんを……!)



【栞一行 最終兵器のRead meとにらめっこ。だが先行きは果てしなく不安】
【登場 【美坂栞】・【北川潤】・【住井護】】
224名無しさんだよもん:03/06/12 19:36 ID:3J1AfGQN
>日程中全ての会話はYesとNoとHau machで乗り切った。

How much ? じゃないのか?
225名無しさんだよもん:03/06/12 19:43 ID:nNTCbAhn
北川さすがだなwそれで乗り切ったのかw
226名無しさんだよもん:03/06/12 20:41 ID:LxrUx4FX
栞が…
227名無しさんだよもん:03/06/12 21:24 ID:e5Q1fdcc
“ヘ( ̄- ̄ )カモォーン♪
http://homepage3.nifty.com/coco-nut/
228質 vs 量:03/06/12 23:06 ID:YinHx4sw
 ほんの少し雨が強くなった森の中。そこで梓は「闘って」いた。
「ハァ…ハァ……!」
 下がりそうになる顎をあげ、へたり込みそうになる足に活を入れる。
 右斜め後方から男が自分に向かって伸ばしてきた手を、前に出ることでかわす。
 と同時に屈み、手頃な石を拾って後ろの中空に投擲。先程自分が積み上げた木のバリケードを
飛んで越えようとする金髪の女性を牽制する。
「ク……」
「にゃあ!」
 その隙をついてこちらに突っ込んできた少女を体をひねっていなす。
 そして足に力を入れ、鬼の手から逃げるために走る。
「チッ!」
 先程まで自分がいた空間に向かって振り下ろされた黒シャツの男の手が空しく宙を泳ぐ。
「また……そこをおどきなさい!」
「そうはいかないんだよ」
 視界の隅で、なおもしつこく結花とかおりを追おうとした金髪の女性がその進路を妨害した
男に激昂しているのが見えた。
229質 vs 量:03/06/12 23:07 ID:YinHx4sw
 先程からこんな展開の繰り返しだった。
 往人はホテルからここまでの梓たちの走りを見て最早体力は無いに等しいと判断し、この場に残った
梓を往人と千紗が相手し、逃げた結花とかおりをウルトリィが飛んで追いかけるという作戦をとった。
 が、梓はそんな往人たちの作戦を看破し、そうはさせまいと全力で彼らに抵抗した。
 ウルトリィがバリケードを越えようと飛び上がったなら石を眼前に──当たってしまわないように
注意を払いながら──投げて牽制し、横から抜けようとしたなら長めの木の枝を無茶苦茶に振り回して威嚇する。
 そのおかげで未だにウルトリィをこの場に足止めすることに成功してはいるのだが、自分もタッチから逃げながら
彼女を逃がさないという条件は疲弊しきった体には些か辛く、梓は既に足元がおぼつかなくなっている。
 そんな状態の梓に苦戦していることにどうしても焦りが出てくる。だが往人はどうしても
『全員でかかってさっさと梓を鬼にし、残った二人を追いかける』という策をとることが出来ない。
 何故なら梓には目的が二つあるからだ。自身が捕まらないことと、ウルトリィにあの二人の後を追わせないこと。
 ここで全員でかかってしまえば、彼女の目的の一つが無くなる。後は捕まらないように全力で逃げるだろう。
 例えどんなに疲れているとしても、一つの目的に集中されたら、下手をしたら逃げられるかも知れない。
 一方、そんな往人たちとは別のグループであったハウエンクアもただ目の前の女性を捕まえればいいとは思っていなかった。
 何しろ向こうには憎むべき怨敵であるオンカミヤムカイの姫巫女がいる。大いなる父(オンヴィタイカヤン)の名にかけて
おめおめと彼女の目的を達成させるわけにはいかない。
 そんな考えからハウエンクアは梓を気にしつつ、ウルトリィの妨害もしている。
 それを見た梓は鬼が鬼を妨害するのを疑問に思いながらも、彼らの手から逃げ続けていた。

 彼らの戦いはまるで噛み合わない歯車のように、非常に微妙な状態であった。

230質 vs 量:03/06/12 23:08 ID:YinHx4sw

 疲労で余計なことを考えられなくなった梓には、既に時間の感覚というものが失せていた。
 だから、それが果たしてどれくらい時間が経ってからの出来事なのか梓には分からなかった。

「ふはははははははーーーーーーーー!!!!」

 雨の森の中に響き渡る男の声でこの均衡が崩れたのは。

「どうやら間に合ったようだな。今まさに真打ち登場の時は来た! トゥッ!」
 全員がその男に注目する。男の名は久品仏大志。彼は皆の注視を受けながら、いつの間に登ったのか
4メートルほどの木の枝から颯爽と飛び下り……
「ひぎぃっ!」
下に居たハウエンクアを思いっきり巻き込んで着地した。
 余りのインパクトに一瞬時が止まる。
 その空気から最も早く立ち直ったのは梓。それともう一人。
「え、え〜い!」
 木の陰から梓に向かって走る女性──高瀬瑞希。だが梓はそれを紙一重で避ける。
「むう、登場が遅いぞ同士瑞希よ。おかげで千載一遇のチャンスを逃してしまったではないか」
「なんの説明もなくいきなりあんなことやられたら、いくらアタシでも固まるわよ!」
「ちゃんと『我輩が隙を作るから同士はそれに乗じてタッチしろ』と……」
「だからってねえ!」
「怒ることも驚くこともないであろう。我輩と貴様の仲だというのに」
「アンタと以心伝心が出来るほどの仲になった覚えはな〜い!!」
「にゃあー。瑞希お姉さんとメガネの変なお兄さんはなかよしなんですね」
「千紗ちゃん……」
 相変わらずピントのずれたことを言う千紗に最早突っ込む気力も失せた瑞希であった。
231質 vs 量:03/06/12 23:09 ID:YinHx4sw
 彼らの闘いは大志と瑞希が加わったことで、明らかに梓に不利になっていた。
 大志の下敷きにされたせいで、復活したはいいが明らかに動きが鈍ったハウエンクアと、相変わらず梓を出し抜いて
結花とかおりを追おうとするウルトリィ。この二人はまだいい。
 だが残りの四人──往人、千紗、大志、瑞希の波状攻撃をかいくぐることは、いくら伝説の狩猟者である
エルクゥの血を引く梓と言えどそう易々と出来るものではなかった。
 もう休む暇もない。足を止めた時が負ける時だと本能が叫び、理性が判断する。だが疲労が蓄積された足は
意志を無視するかのように止まろうとする。既に自分の肉体すら梓の味方をしてくれなかった。
 そして梓のもう一つの敵である雨が、ついにその牙を剥いた。
 雨のせいで濡れた地面。それに梓は足を取られ、バランスを崩す。
(ここまでか……!)
 その隙を逃すほど甘い連中ではない。倒れそうになる自分に手を伸ばしてくるのは黒シャツの男とメガネの男。退路を塞ぐ女二人。
 だが。
「あんたらの思い通りになんか、なってたまるか!」
 捨て台詞を吐き、最後の力を全て足に込める。彼らの腕から逃れ、梓が倒れ込んだのは。
「え…?」
 高瀬瑞希の胸の中であった。
「よくやったぞ、マイシスター!」
「え、え?」
 いまだ状況が掴めない瑞希と、決着にはしゃぐ大志。
 その横で往人が歯噛みし、千紗が涙目になり、ウルトが羽根を閉じ、ハウエンクアがへたり込む。
 ここに、ようやっと彼らの闘いの幕が下りた。
232質 vs 量:03/06/12 23:11 ID:YinHx4sw
「にゃあぁ、残念です残念です〜」
「まあそう嘆くこともないでしょう」
 まだ涙目で悔しがる千紗を慰めるウルト。その隣には肩に襷を掛けた梓が張り付いている。息はまだ整っていない。
 そんな梓を心配そうに見ているのは瑞希だ。だが梓は苦笑しながら「あたしなら大丈夫だから」という。この
やりとりももう五回目だ。
 そこから少し離れた木の下ではハウエンクアが雨粒から逃げている。濡れた長髪が鬱陶しそうだ。
 そして、別の木の下では大志が往人に得意げな顔をしていた。
「そんなに嬉しがることか? 結局俺もお前もポイントは取れなかったというのに」
「ふ、貴様には同士瑞希を鬼にされた借りがあったからな。あの時もう少し貴様を足止めできていればマイシスターは
 捕まらずに済んだかもしれん。だがこれで借りは返した。この勝負は同士の、つまり我々の勝利だからな」
「チ……」
 往人は言葉を切る。やはりこの男に口で勝つのは無理なようだ。
「残りの逃げ手はどうします?」
 ようやく泣きやんだ千紗から目を離して、ウルトが往人に向かって問う。
 その言葉にぴくりと体を振るわす梓。だが往人は
「いや、もういいだろう。それよりも腹が減った。ホテルに戻って飯だ」
 腹を押さえながらそう答えた。
「では我輩たちも戻るとしよう。いいな、マイシスター」
「ええ。あ〜あ、またお風呂入り直さなくちゃ……」
「アンタはどうする?」
 体はホテルの方に向けながら、首だけ動かして梓に向き直った往人が聞く。
「あたしは……結花たちのところに行くよ。鬼になっちまったけど、約束したしな」
「そうか、じゃあな」
「ああ」
233質 vs 量:03/06/12 23:12 ID:YinHx4sw
 そして、いくらかの別れの挨拶を交わして梓は一人になる。
「はぁ……」
 木にもたれかかり、大きく息を吐く。一人になり、襷に指を這わせたところで改めて自分は負けたんだと実感した。
「惜しかったなあ……ああ、畜生!」
 顔を上げ、思いっきり大きな声で悪態を付く。
 だけど、その口元には笑みが浮かんでいた。自分は全力を尽くした。結花もかおりも、とりあえずは無事に逃げてくれた。
後は道すがら鬼に会ってないことを祈るだけだ。
「よし!」
 頬をパン!とはたき、梓はキャンプ場への道を歩きだした。



【梓 鬼になる】
【瑞希 1ポイントゲット】
【梓はキャンプ場へ】
【往人、千紗、ウルト、ハウ、大志、瑞希はホテルへ戻る】
【時間 三日目昼】
【場所 鶴来屋別館近くの森】
【登場 柏木梓、【国崎往人】、【塚本千紗】、【ウルトリィ】、【ハウエンクア】、【久品仏大志】、【高瀬瑞希】】
 雨雲の所為で暗く淀んでいた空は、陽が落ち始めてから急速に、更に暗く黒くなっていった。
「うあ〜…、もうすっかり暗くなっちゃったよ…」
「明日は晴れてくれればいいんだけどね」
 その暗い空を見上げる、二つの人影。雅史と沙織である。
 元々、体育会系所属のこの二人、行動――歩くペースは速く、かつ、持続的であった。だが、体力に優れてはいても、
特に“その手”の技術は身に付けていない一般人。暗闇に支配されつつある時間帯を歩き続けるには、限界がある。
「懐中電灯とかがあればね」
「…そうだね」
 懐中電灯――その言葉に、雅史は今日の朝方に別れた、あの三人の少女達の事を思い出した。
 ――微かに憂いを帯びた雅史の横顔に気付き、沙織が覗き込んで来る。
「? どうかしたの、雅史君?」
「ん? …うん。懐中電灯、今日の朝まで一緒にいた子達にあげちゃったから、思い出してたんだ」
「…ほうほう。ズバリ、女の子だね?」
 顎に手を当ててキラリと目を光らせる沙織に、雅史は微苦笑めいたものを零した。
「鋭いね。うん、当たり。三人組の女の子達。クラスメイトなんだ」
「へえ〜。今日まで一緒にいたのに、別れちゃったんだ?」
「うん。鬼になっちゃったから」
 …どうせ、その三人を逃がす為に一人犠牲になったのだろう。――沙織のその予想は正鵠を射ていたが、敢えて
口には出さなかった。
「でもさ、別に別れなくたっても良かったんじゃない? 鬼になっても逃げる人に協力する事だって出来ただろうし」
「うん、勿論それも考えたよ。でも、何て言うかな…、あそこで別れた方が彼女達の団結の、より一層の強化に繋がると
思ったんだ。だから、敢えて離れたんだよ」
「おお…! 何かカッコイイなぁ〜…」
 と、思わず感心した沙織であったが――
「――なんちゃって」
 挙げた両手の指先を頭のテッペンに付ける、例のポーズで、雅史。
「…………ブッ…!!!」
 数瞬、ポカーンとした後、沙織は吹き出して盛大に笑い出した。
「っ…まっ、マサっ…! 雅史君!そ、そんな、ぽやや〜んとした顔でしないでよ、そんな事…っ! あははは…!!」
「ははは…。――本当は、別れて暫くしてからそう考えたんだ。鬼になっちゃってからすぐは、鬼になったから皆と
別れないと――っていう事ばかりが頭にあって…」
 正直に言わなければカッコイイままであったのに…。だが、ボケでオチを着けて来るとは、なかなかどうして侮れない。
 沙織は、雅史の声を聞きながら、一頻り笑った。
「………ふぅ…。…鬼になった時、その子達にタッチしようとは考えなかったの?」
 と、訊いてしまってから、沙織はそれが愚問である事に気付いた。彼の性格からして、そんな事を考える筈がない。
「うーん、考えなかったなぁ〜…」
「………だね」
 案の定である。
「鬼役になってもサポートに回る事も出来るなーって考えてて、ちょっと格好悪いけど皆の所に戻ろうかなって
思ってた時に、落とし穴に落ちてたエルルゥさんを見つけて…。エルルゥさん、足を怪我してたし、大分参ってたみたい
だから、何か放っておけなくなっちゃって」
 …まぁ、なんとも彼らしい。
「それに、三人組の子達は、僕がいなくなっても大丈夫だとも思ってたんだ。例え三人の中の誰かが鬼になっちゃっても、
その人は残った子達のサポートに回るだろうし、“三人寄らば文殊の知恵”って言葉もあるしね」
 どちらかと言えば、『文殊』というより『姦しい』の方が近いかも知れない。
「ふ〜ん…。…でも、いいの、それで? なんかヒンボくじばっか引いてる気が」
「そんな事ないよ。結構楽しかったし、それに、今から鬼として頑張っても上位は狙え無さそうだし、――“ポストボーイ”
で頑張るのもアリでしょ?」
 ぽややんとしながらも明るく笑う雅史を見て、沙織も快活に笑い返した。
 いい人だ。ホントに。…というか、いい人過ぎる。神様は彼に多くの美点を与えた様だが、お蔭で彼は自分自身の
幸せを逃してばかりの遠回りな人生を強いられている様に思える。
 彼にはむしろ、神様なんかよりも、お節介な悪魔の微笑の方こそが必要なのかも知れない。
「…(…でも、悪魔になっても、やっぱり人が好過ぎてビンボくじばっか引いてるんだろうなぁ…)」
 そう考えて笑いを堪える沙織を、雅史は不思議そうに小首を傾げて見ていた。

 ――さて、所変ってこちらは、ルミラ、アレイの二人が運営する、壱号屋台である。
 とある事件により、殆ど木っ端微塵に破砕した壱号屋台であるが、本日の日没前に完全復活。修復も終り、移動を
開始しようとしている所であった。
「色々あったけど、まだまだ時間は充分あるわ。遅れを取り戻すわよ?」
「はいっ、ルミラ様!」
 屋台は機動力が命である(…かどうかは定かではない)。張り切るアレイが、力拳をぎゅっと握ったが――
「――でも、何か疲れたわ…。修復作業の所為で睡眠不足だしねぇ…」
 脱力して椅子に腰を落とすルミラに、アレイはズッこけた。
「ルミラ様ぁ〜…」
「…解ってるわよ。でも、疲れたものは疲れたの。何かこう…、ガツン!っとパワーの出るのが欲しいわね。トマトジュース
ばかりじゃ、体が鈍る一方だわ……」
 愚痴っぽい事を言い始めるルミラに、アレイは何となくいや〜な気配を感じ、眉を翳らせる。
「………ルミラ様、駄目ですよ? 参加者の方々に手を出しては…」
「貴女…、――さてはエスパー?」
「やっぱり…。駄目ですよぅ! 怒られますよ!?」
「一人くらいダイジョーブだって。鬼ごっこに支障を来たさない程度にするし」
「でも――」
 屋台店主といより、獲物を待ち構える獣の様になりつつあるルミラに不安を覚えつつあったアレイであったが――
 幸か、或いは不幸か。
「? 屋台? 何で屋台がこんな所に…?」
「あ゛〜…、屋台には、ツラいというか、激辛な思い出が…」
 壱号屋台へ、ひょっこり訪れた客が二人。
「あら、いらっしゃい♪」
「い、いらっしゃいませー(…嗚呼っ、何てタイミングで…)」
 口元に妖しげな薄い笑みを浮かべるルミラをチラと横目に見やりつつ、アレイは礼儀正しく客を迎えた。
「あ、ルミラさんにアレイさん? 二人もお店出してたんだ。あたしが見たのは丸眼鏡掛けたおねーさんだったんだけど」
「ちょっぴりお久し振りですね」
「そうね…。フフフ…♪」
 人懐っこく微笑む二人の客――沙織と雅史は、ルミラの妖しい笑みとアレイの冷汗に気が付かない。
「買い物? 食べ物からキャンプ用品、武器防具、何でも揃ってるわよ」
 屋台の商品棚に納められた道具類やカタログを見、そして互いの顔を見合わせる雅史と沙織。
「え〜っと…、食べ物とかは充分持ってるし…」
「――あ、そうだ、懐中電灯、ありますか?」
「あるわよ♪」
 ゴトリ…――と出されたのは、本格実用物の、高そうな懐中電灯。ルミラが口にした値段も、学生の二人には厳しい
金額であった。
「あの…、もう少し安いのは…」
「大丈夫。まけてあげるから♪」
「はぁ、どうも…」
 妙に熱い視線を投げ掛けて来るルミラに、雅史は小首を傾げながらも礼と微笑みを返す。
「…そうだ、それと、こういう人達、見ませんでしたか?」
 雅史は、手紙を届けなくてはならない事情を説明し、その相手の名前と特徴をルミラとアレイに伝えて尋ねた。
「…知ってるわ」
「……ルミラ様〜…?」
 だんだんと、眼差を妖しげな物に変えつつあるルミラにアレイが恐々と声を掛けるも、ルミラはこれを無視。
「そうねぇ…。でも、見たのは大分前の事だし…、場所はちょっと解らないわ」
「そうですか…」
 ちょっと落ち込む雅史を見て、ルミラは目をきらきらと――否、ギラギラと輝かせる。
「………ふふ、フフフフ♪ でも安心して。ちょっとした『おまじない』を掛けてあげる」
「おまじない…ですか?」
「そう。手紙に込められた相手への想いを用いて、その人のいる場所を探すっていう『おまじない』。
 …まあ、言う通り『おまじない』レベルだから、漠然とした方向しか解らないけど。――どう? なんだったら、
その懐中電灯も、サービスでタダで持って行って良いわよ?」
「ルミラ様…っ!?」
 無視。
 ――ルミラの言葉に、雅史と沙織は再び顔を見合わせた。断る理由は、無い。
「「 是非、お願いしますっ! 」」
「…いいわ。じゃ、ちょっとこっちへ来て…♪」


 ………
「…ま、雅史君、……大丈夫?」
「何とか…。ちょっと眩暈が…」
「あたしの倍、吸われてたもんね…」
「……あの人、吸血鬼でもあったんだよね、そう言えば…」
「すっかり忘れてたね…」
「…じゃ、頑張ろっか…」
「…ちょっとゆっくりめでね…」
 サービスで貰ったスポーツドリンクを飲み干してから、雅史と沙織は再び歩き始めた。
 『おまじない』によって得た、微弱な探知能力を利用して。――足元をふらつかせつつ…

「――さっ! 張り切って行くわよ〜っ!」
 ルミラ様。そのお肌は血色も好く、つやつやタマゴ肌である。
「はい…(――可哀想に、あのお二人…)」
 深い深い溜息を吐くのは、無論アレイである。…が、その溜息は、何処までも空しかった。

【雅史 沙織  壱号屋台を発見】【ルミラ アレイ  壱号屋台、修復完了】
【雅史 沙織  懐中電灯を2本と、手紙の相手を見つける為の探知能力を得る。※探知能力は、微弱な物】
【ルミラ  雅史と沙織に懐中電灯をタダで与え、探知能力を付与。対価として、二人の生血をゴチ(w】
【ルミラ様、体力大回復!】【雅史、沙織 …ちょっと貧血状態】
【三日目。時間は日没直後辺り。場所は壱号屋台。雨はまだ降っている】

【登場鬼>佐藤雅史 新城沙織】
【登場管理サイドスタッフ>ルミラ=ディ=デュラル アレイ  (壱号屋台)】
239人形クジ:03/06/13 22:18 ID:ANAVBH0S
「………お腹すいた」
「言うな、そろそろ店につくからまた買えばいいだろ?」
昼前に祐一一行はラーメンを台無しにし、仕方なく店をもう一度探す方針で島を歩き回っていた。
既に時間は夜。
屋台もいまだに見つからない。
「あれ、屋台じゃない?」
「おっ、やっと飯にありつけるな」
「…お腹すいた」
祐一達は屋台に駆け寄る。
屋台でカップラーメンを4つ購入する。
これで郁未のポイントを一つ消化。
武器ももういらないだろうと判断し、屋台から去る。
「舞、そろそろいくぞ」
「…人形さん」
「は?」
舞が覗いていたさきにあるのはひとつのクジ。
クジには"ここでしか手に入らないない人形が当たるチャンス"と書いてあった。
舞は財布を取り出し、
「…一回」
「毎度〜」
舞はクジを引く。
引いてでてきたのは"超"というひとつの漢字。
「超?」
「はい、これ」
240人形クジ:03/06/13 22:19 ID:ANAVBH0S
 ∧_∧
< `ш´>
 |∪ ∪|
 |θ――θ|
「…可愛いのか?」
「私にはそう見えないわね」
「…♪」
舞はなんだか、嬉しそうに人形を抱く。
といっても、感情の変化を読めたのは祐一だけだが。
祐一は唖然としたが、気を取り直す。
「で、これからどうする?」
 ∧_∧
< `ш´>  < そ ん な こ と い わ れ て も
 |∪ ∪|
 |θ――θ|
「音声機能内臓かよ…」
「…無視しましょう。で、真剣な話、どうするの?」
 ∧_∧
< `ш´>  < ど う す れ ば い い ん だ
 |∪ ∪|
 |θ――θ|
「これ、捨てていい?」
「……だめ」
【登場鬼>相沢祐一 天沢郁未 川澄舞 名倉由依】
【川澄舞 超先生の人形GET。音声機能あり】
【時間 3日目夕方】
241伏兵:03/06/13 23:38 ID:7cLFT07c
「ほ、ホントに人間かあの人!?」
 岩切を追う冬弥の口から思わずそんな言葉が漏れる。追跡を始めてすぐ、二人の差は早くも十数メートルに達していた。
 雨中の水戦試挑躰の身体能力は、やはりADという重労働をこなせる程度の体力だけではとうてい太刀打ち出来る
ものではなかった。しかしそんなことを冬弥は知る由もない。
「ほんの少しでいい、足止めしててくれよ。由綺、七海ちゃん…」
 自分の足の遅さを恨みつつも、恋人と仲間の力を信じてさらにスピードを上げる冬弥であった。

「い、いくらなんでも速すぎませんか、あの女の人……」
 こちらに向かって徐々に大きくなる相手の姿を視認し、七海はそう呟いた。
 由綺はその呟きに息を呑むことで肯定する。
 まだこちらとの距離は十分ある。だがあのスピードの前ではその距離もすぐに埋まってしまうだろう。
 冬弥の姿は見えない。このまま相手の前に出たところで、挟み撃ちという作戦は意味をなさない。それにあれ程までの
速さで走る相手を止める自信もなかった。
 彼女はなおも信じがたいスピードで近づいてくる。途中冬弥に指南され、保険のためにかけておいた簡単な罠を
なぎ倒しながら。
 悔しい。でも仕方ない。あんなのが相手じゃ。由綺が諦めかけた、その時。
「由綺さん、あの……こんなの、どうでしょう」
 一か八かの作戦は、隣に立つ小さな少女からもたらされた。
242伏兵:03/06/13 23:40 ID:7cLFT07c
(やはり、素人相手ではこんなものか)
 目の前にかけられていた罠に繋がる糸を懐の短刀で断ち、岩切は心中でそう呟く。
 あの少年の覚悟も即興で作ったにしてはなかなかの出来の罠も、素人にしてはそれなりに評価できる。
 だが、あくまで「それなり」だ。当たり前だが、とてもあのゲンジマルの足元にも及ばない。
 ──あの眼を見たとき、何かやらかしてくれると思ったが。勘がはずれたか。
 僅かに失望する。
 と、そんな岩切の目の前に一人の女が立っていた。
 由綺だ。
 彼女は岩切がその姿を認めると同時に、岩切に向かって走りだした。
 その瞳は冬弥と同じ決意に満ち、萎えかけた岩切の心に再び火を付ける。
(挟み撃ちというわけか。面白い……だが!)
 岩切は止まらない。反転もしない。ただまっすぐ由綺に向かっていく。由綺も止まらない。そして。
 二人の体が交錯するかという直前。その刹那の間に岩切は極限まで体を低くし、由綺の右側を通り抜ける。
この時、岩切の頭は由綺の腰よりもさらに下にあった。由綺の目には岩切が消えたように映るだろう。
 やはり、甘い。呆然としているであろう由綺を尻目に、もう立ちふさがる者のいない道を走り去ろうとして──

「そーいち!!」

 由綺がポケットから取り出したマイクに向かって叫ぶ。
 岩切のすぐ脇から、その声を受けたシェパードが飛び出してくる。
 岩切の目が驚愕に彩られる。

 それが同時だった。
243伏兵:03/06/13 23:41 ID:7cLFT07c
「くっ!!」
 油断した。まさかこんな伏兵が潜んでいようとは。
 あまりに予想外の出来事に、頭と足が止まりそうになる。普通の人間ならそうなってもおかしくないだろう。突然横から
牙を剥き出しにした犬が飛び出してきたのだから。
 だが彼女は普通ではなかった。帝国陸軍の特殊歩兵部隊に所属し地獄の訓練を受けたその体は、岩切が思考する前に
既に動き出していた。
 思いっきり足を踏ん張り、前に進もうとする力を無理矢理斜め上に持っていく。
 即ち、岩切は跳んだ。
 それを追ってそーいちもジャンプする。だが、その口はあと僅かのところで岩切に届かない。ガチン、という歯と歯の
合わさる音が由綺にも聞こえた。
 そのまま着地する岩切とそ−いち。前方に跳んだ岩切とその場でジャンプしたそ−いちの距離は、両者が着地した時点で
2メートルほど離れていた。
 振り返りもせずに逃げる岩切、追うそーいち。両者の足は互角。つまり、そーいちは追いつけない。
 そして、余裕の色が消えた岩切の前にもう一人の少女が立ちはだかる。
 七海はその小さな体を精一杯に広げ、岩切を通すまいとする。
 だが岩切は表情一つ変えず七海の隣にあった木に向かって跳躍、三角飛びの要領で彼女をやり過ごす。
 そのまま、岩切は雨のカーテンの向こう側に消えていった。
 後には呆然とする七海と由綺、二人の間を行ったり来たりするそーいち、ようやく追いついて「?」という顔をする
冬弥が残された。
244伏兵:03/06/13 23:42 ID:7cLFT07c
 失態だ。
 捕まりこそしなかったが、想定外の出来事に動揺し危機を迎えたのは失態以外の何物でもない。
 あの少女たちは自分たちが負けたと思うかもしれない。これは逃げ手を捕まえる勝負なのだから、そう思って当然だろう。
 しかし、岩切は自分が勝ったとはどうしても思えなかった。
「クソッ!」
 こんな事態に陥ったのは自分が油断していたせいだ。
 雨という自分にとって絶好の条件に知らず知らずのうちに慢心していた。
 あの坂神すら、この雨の中自分を追いかけるのは「無駄」と言った。その言葉で、自分は無意識のうちに調子に乗っていたのだ!
「おのれえ……!」
 腹が立つ。そんな自分に。ここが戦場なら、自分は殺されていただろう。あの素人に毛が生えたような少年とその仲間の少女たちに。
 だが、自分は生き残った。慢心が己を殺すというのなら、もう二度と油断はしない。彼らはそれに気付かせてくれた。
「……感謝するぞ、名も知らぬ少年少女よ」
 それだけポツリと呟き、岩切は鋭い眼光のまま再び歩き出した。



【岩切 どうにか逃走成功。もう二度と油断はしないと決意】
【冬弥、由綺、七海 岩切をとり逃す】
【時間 三日目昼】
【登場逃げ手 岩切花枝】
【登場鬼  【藤井冬弥】、【森川由綺】、【立田七海】】
【登場動物  そーいち】
245名無しさんだよもん:03/06/14 10:12 ID:dm8zU8EF
(・∀・)イイ!
246ミナギロ!:03/06/15 16:44 ID:xQ/m1F5U
例えば。
海辺の砂浜にビニールシートが敷いてあったとしよう。
貴方はそれで何を思い浮かべるか?
レジャーシート、パラソル、水着。典型的な海水浴だ。
しかし、そのビニールシートが何かを被せる役割を果たしていたら、如何か?
そして、その側にいちじく浣腸の殻が転がっていたら? そして花か何かが添えてあったとしたら?
そう、びしょ濡れの身体の上に被さっている可能性だってあるのだ。俗な言い方をすれば、土左衛門だ。
今、ここ、葉鍵鬼ごっこの行われている島にも、そんな物が転がっている。


「ま、さ、し、く……」
ばたり。
それが彼女の最後の言葉だった。
さんざ「雅史君、雅史君」とそれこそ幽鬼の様に呟きまくって島をうろついた挙句、結局砂浜に戻ってきた田(略…もとい田沢圭子はばったりと倒れた。
顔面に砂を思いっきり受けて、糸の切れた操り人形のようにばったりと。
所謂『人の振り見て我が振り治せ』というか清(略vs垣(略の戦闘で、自分のアホキャラ加減を目の当たりにしたショックの上に、このざんざん降りの雨の中を傘も差さず歩いていたのだ。
体力、気力共に尽きて、今田沢K子…もとい田沢圭子は倒れた。
もはやその瞳は何も移してはいなかった。

あ、死んでないけどね。
247ミナギロ!:03/06/15 16:44 ID:xQ/m1F5U
少し時を遡る。
こちらは休み休み森を行くハクオロ・美凪・みちる一行。
「あ…」
そんな時、美凪がある物を発見した。
「んに? どうしたの美凪」
みちるが訊ねると、美凪は木の隙間を見、その先に転がる何かを指差した。
「水死体を発見です」
三人は林を出ると砂浜に出た。
その先にそれは転がっていた。先ほど倒れた田沢圭子の身体である。
鬼の襷をかけているので触るわけには行かなかったが、どうやら気絶しただけらしい。
「美凪…まだ生きているではないか…」
ハクオロが起伏する圭子の身体を見、冷静に突っ込む。
「……しょぼ〜ん……」
何故か美凪は落ち込んだ。そして、いつも通り、
「美凪をいじめるな〜!!!」
みちるのみぞおちがクリーンヒットした。
「見事な水死体ごっこ…萌え?」
沈んだハクオロに美凪が訊く。
「…それはともかく、このまま雨ざらしでは風邪をひくぞ…」
ナギーのボケをスルーし、冷静なツッコミを入れるハクオロ。
「助けようとしても触れれば鬼になってしまいますよ」
相変わらずボケてるのか真面目なのか分からない美凪。
「問題はそこだな。恐らく管理側も放って置きはしないだろうが、流石にこのまま放置するのは問題があるだろう」
慣れてきたのか、ハクオロはすぐに復活した。
「せめて雨だけでも凌げるようにしないとな…」
「そう言うときは、これを使うんです」
そう言った美凪。どこからか青いビニールシートを取り出した。それも人が隠れるくらいでかい奴を。
そしてそれを、圭子の身体に被せた。
「これで雨は凌げるはずです」
248ミナギロ!:03/06/15 16:45 ID:xQ/m1F5U
だがそれは、どう見ても水死体に対する処置にしか見えなかった。
「…………」
ハクオロがツッコミに困っていると、美凪は例の白封筒を出し、
「見事な水死体ごっこで賞、進呈」
圭子の頭の上に乗せた。
そして更にハクオロがツッコミに困っていると、みちるが何かを持ってきた。
「ナギー見つけてきたよー!」
「ナイスです、チルチル」
美凪はぐっと親指を立て、それを受け取る。
いちじく浣腸の殻。
「…何の意味が?」
ハクオロがやっとツッコミを入れる。
美凪は殻をビニールシートの側に置いた。
「ちょっとしたアクセサリです。夏場の海に水死体とセットで落ちています」
そして、田舎の漁師町の娘ですから水死体という物をよく分かっています――と言わんばかりに断言した。
更に、もう一枚白封筒を取り出し、
「もっと見事な水死体ごっこで賞、進呈」
今度はビニールシートの側に置いた。まるで供え物だった。
「処置完了です、行きましょう、みちる、ハクオロさん」
「おー!」
「…処置…?」
納得の行かなそうなハクオロを連れて、ナギーとチルチルは立ち上がった。
「だーれっがこっろしたくっくろびん〜」
ナギーは何故か歌いながら去って行った。
残されたのは、ビニールシートを被せられた田沢圭子と、いちじく浣腸の殻と、供え物のお米券一枚だった。

ちなみに、この後やってきたもう一人の田舎の猟師町の娘、観鈴ちん一行がそれを発見し、
「…お母さん、水死体…」
「…管理側に任せとき…」
というやりとりがあったことは、また別の話。

だれか彼女に愛の手を!!
249ミナギロ!:03/06/15 16:46 ID:xQ/m1F5U
【田沢圭子 ビニールシートを被せられる 側にはいちじく浣腸の殻とお米券一枚 頭の上にお米券もう一枚】
【どう見ても水死体】
【美凪 みちる 圭子を水死体として飾りつけ】
【ハクオロ ツッコミに困る とりあえず移動】
【三日目夕方】
【登場逃げ手:遠野美凪 みちる ハクオロ 神尾観鈴 神尾晴子】
【登場鬼:【田沢圭子】】
250ミナギロ!:03/06/15 16:48 ID:xQ/m1F5U
時間軸は、
>>54-59のレイニィ・レイニィ・センチメンタルの前です。
一応念のため。
251ミナギロ!書いた香具師:03/06/15 16:57 ID:xQ/m1F5U
>>248
×『田舎の猟師町の娘、観鈴ちん一行』
○『田舎の漁師町の娘、観鈴ちん一行』
252名無しさんだよもん:03/06/15 17:32 ID:Luz8A020
>>249
ハクオロは現在柳川一行と合流してウィツアルネミテアと戦闘中です(>>149
過去ログはきっちり読みましょうね。
253逃げ手たち&鬼二日目:03/06/15 23:57 ID:22UTTmoU
岩切 冬弥一行と接触。奇襲にあうものの逃げ切る。自戒を新たに。午前。>>241-244

ベナウィ 観鈴 晴子 詩子 茜 澪
海沿いから、バイクを探しながら商店街へ向け移動開始。観鈴はシシェに乗っている。それぞれ傘を持っている。夕方。>>176-179

リサ 楓 森。リサ、楓に協力を求め、木のうろの中で睡眠中。楓は木の枝の上で見張り中。深夜。

***********ここから鬼二日目*************

コリン 小山の広場。反転解除。以上。夕刻。

ゲンジマル 河原で休憩中。夜。

リアン エリア 超ダンジョン。こわごわ芹香捜索中。マルチ&クーヤと接触。悲鳴を上げて遁走。夜。

マナ 少年 場所不明。休める場所を探すため移動中。夜。

黒きよみ ドリィ グラァ 怪しい老人を見かける。逃げるように河原から移動。夜。

あさひ 白きよみ 彩 森の小屋。休息中。服を乾かしたい。彩、妄想驀進中。あの人を捜そう。深夜。
254鬼三日目 朝〜昼前:03/06/15 23:57 ID:22UTTmoU
サクヤ 縦 横 超ダンジョンに突入させられる。夜明け前。

エディ 敬介 登山道。追撃戦中、エディ転倒。雨の山に取り残される。早朝。

名雪 理緒 美咲 さおり 彰 太助 ぴろ どこかの小屋。理緒、名雪毛布に喰われる。現在総出で救助作業中。朝。>>118-119

響子 弥生 登山道。ただいま和樹を捜索中。良祐と出会い、捨てる。弥生は壊れかけている。朝。>>115-117

冬弥 由綺 七海 岩切と接触。追いつめるものの、今一歩のところで取り逃がす。午前。>>241-244

雄蔵 ホテル付近の森。郁美が楽しくやっていることを知り、安心する。傘をもらう。午前九時。

英二 理奈 月代 佳乃 聖 どこかの小屋。佳乃の持っていた食べ物で談笑中。十時ぐらい。>>87-91

智子 初音 好恵 みさき あかり シュン
駅。昼ご飯開始。シュンは駅舎に一人。他五人は事務室にいる。下着一枚なのが三名ほど。昼前。>>161-165

まさき 巳間 登山道。建物捜して山登り中。友情が芽生えるも、瞬く間に亀裂が入ってしまった。昼前。>>139-142

玲子 湖。マナー違反のカメコに説教をたれる。三日目昼前。

梓 ホテル付近の森。往人そのほかの物量作戦により、逃げ場を失い降参。休息後、キャンプ場へ向かう。昼>>233-228
往人 ウルト 千紗 ハウエンクア 大志 瑞希 梓を捕まえる。空腹のためホテルへ戻っていく。昼。>>228-233
255鬼三日目 昼〜夕方:03/06/15 23:58 ID:22UTTmoU
和樹 晴香 零号屋台で食事&作戦会議。退場も覚悟で、鬼も撃沈することにする。晴香は、そのための得物を吟味している。昼頃。

醍醐 南 鈴香 みどり 市街地のマンション。マターリ空気に当てられた醍醐、とりあえず昼食をいただくことになった。三日目昼頃。

すばる 商店街。仲間二人を逃がすため敢えて鬼になる。混戦。服を乾かすため屋内へ。昼すぎ。
ビル 相変わらず商店街で背景してる。昼すぎ。

ティリア サラ 超ダンジョン。宝箱を開けたらどかん爆発。焦げ。長瀬源之助が近づいてきている。午後二時。

皐月 夕菜 教会付近。抵抗空しく耕一一行に鬼にされてしまう。皐月、悔し泣き。二時頃。

芹香 綾香 超ダンジョンから脱出。出現場所不明。午後三時。

久瀬 オボロ 月島 瑠璃子一行と接触。どたばたの末、月島が改心? 久瀬が疲れきり、教会近くの小屋へ休息に戻る。三日目午後。

伊藤 貴之 場所不明。耕一達と出会う。伊藤のカメラ、無駄使いさせられてしまう。四時頃。>>110-113
耕一 瑞穂 瑞穂は喜んでモデルになってあげた。その後、伊藤とある契約を結ぶ。

デリホウライ 港から、御堂に姉の向かった方向を教えてもらい、そちらへ向かって進む。夕暮れ前。>>82-85

高槻 繭 海沿いの道の脇にある別荘風建物。繭、起きたところを雅史に出会う。手紙を渡した。高槻はまだ寝ている。夕方。>>167-170

祐一 舞 郁美 由依 ?号屋台。超人形を手に入れる。なんだこれは。夕方。>>249-240

圭子 人のふり見て……。(略地獄脱出。雅史を捜し放浪中。場所不明。三日目午後五時半くらい。
256鬼 三日目夜以降:03/06/15 23:58 ID:22UTTmoU
エルルゥ 平原の一軒家。足を治療。眠っているところにハクオロがやってきた。夜。>>54-59

雅史 沙織 壱号屋台。雅史ただいま郵便配達中。懐中電灯&探知能力と引き替えに、ルミラ様に血を吸われて貧血気味。夜。>>234-238

ひかり 祐介 川近くの小屋。机を囲んでお茶をすすっている。まったり。夜。>>改定スレ67-71

北川 住井 栞 森。『最終兵器』のREADMEを解読中。????。夜。>>221-223

御堂 港の詰め所。暇をもてあましている。>>82-85
蝉丸 森。一日を雨宿りで終わらせてしまう。
光岡 どこかの小屋。濡れた服を脱ぎ、裸で横になっている。夜。

ニウェ ウィツ化した由美子さんに吹っ飛ばされて一番星と化してしまった夜のこと。

柳也 裏葉 海岸近く。葉子さんとの夜話。神奈の夢の話。優勝への決意を新たにする。寝床を探しに出発。深夜。>>180-187

神奈 葉子 巡回員 海岸近くの家屋。柳也たちとの夜話。寝酒に酔い、就寝。深夜。>>180-187

香里 香奈子 セリオ 真紀子 森。あゆと接触。たい焼きを返す。セリオ、レーダー使用不能。逃げ手を探しに出発。深夜。>>216-220
あゆ 森。香里一行に出会う。自分の行為を後悔。たい焼きを返してもらうが濡れ濡れ。うぐぅ。深夜。>>216-220

D一家 HOUSE。D、顔をレミィの胸に埋め呼吸困難。三人睡眠中。夜。

瑠璃子 美汐 真琴 葵 琴音 ドライブインにて朝食をとる。作戦会議終了。役割分担決定。四日目朝。
257イベント中:03/06/15 23:59 ID:22UTTmoU
【マルチ クーヤ 麗子】 超ダンジョン内。麗子、マルチを捕まえ、マルチ、クーヤを捕まえる。描写無しのため詳細不明。二日目深夜。

【浩平 瑞佳 ゆかり スフィー】ホテル近くの小屋。暴走したトウカをなんとか止める。正午前後。>>92-94
【ヌワンギ】トウカに襲いかかられ、恐怖のあまり気絶。
【トウカ】禍日神となってヌワンギを襲うも、スフィーの魔法に眠らされる。

結花 かおり キャンプ場のテント内。服は脱いで下着姿。梓を待つ。昼前。>>150-152
【宗一 はるか】キャンプ場管理所。上の二人には気付いていない。さて、これからどうなるか?

【雪見 真希 まなみ】鶴来屋別館。きのこを食した。ムックル捕獲作戦開始。昼頃。>>120-126
【健太郎 なつみ】きのこリゾットを囮に、白虎を捕まえてやろう。
アルルゥ カミュ ユンナ ムックル ムックル、リゾットの匂いをかぎつけて、アルルゥカミュを引きずっていく。
ユズハ ガチャタラ 階段近くの部屋で眠っている。

【高子 夕霧 ダリエリ】森。七瀬によって鬼化。高子は気絶中。夕霧とダリエリは良いムードで抱き合ってる。夕方。>>154-160
【留美 佐祐理 清(略】佐祐理、七瀬の胸で泣いている。清(略はバスタオルを貸してもらう。七瀬に感服。
【矢島 垣本】逝っちゃってる友人の鼻をふさぐ矢島。垣本に一言言うが、聞こえている訳がない。

柳川 友里 窮地をハクオロに救われる。\35000と引き替えに、この場をしのぐために知恵を借りることに。夜。>>143-149
ハクオロ 美凪 みちる 森。ユミコネミテアに襲われる柳川一行と遭遇。
【芳晴 由美子】ユミコネミテア暴走中。芳晴、状況に流されるまま。

カルラ&さいか 森の中。クロウ&郁美と食事中。付近に仕掛けた罠に、何者か二人組がひっかかる。夜。>>208-214
クロウ 郁美 カルラの仕掛けた罠に引っかかる。ともあれ食事中、新たな客人がやってきたらしい。
詠美 由宇 森の中を移動中、良くできた罠に引っかかる。出られない。ふみゅー。
258名無しさんだよもん:03/06/16 00:02 ID:dhSjBMJx
岡田軍団および浩之&志保は、諸般の事情により掲載しておりませんのであしからず。
このチームに関しては、>>189-206が最新です。

以降、このリストは250レスおきに落としていこうと思います。
つまり、スレを大体半分使い切った頃と、新スレ立った直後ですね。
異論あればどうぞ。感想スレのほうにて。
259名無しさんだよもん:03/06/16 03:43 ID:27JWbzUd
お疲れ様。
こうやってみるとイベント突入してる逃げ手多いね。
260名無しさんだよもん:03/06/17 21:39 ID:FO18a6bV
>>252
>過去ログはきっちり読みましょうね。
その言葉そっくり返してやる、>>250見ろ
261今、出来ること:03/06/17 21:59 ID:eDg6lT2f
 半壊したホテルのロビーの、二階につながる階段脇にて。
きのこリゾットの匂いでムックルをおびき出させようとする
奇想天外、支離滅裂、無理難題の作戦は、しかし予想に反して成功しようとしていた。
「ほ、ほんとに来たわよ……」
「来ましたね……」
 蛇行した階段の影から、白と黒の巨体がのっそりと現れる。
現れたのはその獣だけではない。
「ムックル、行っちゃダメ」
「ムックル〜 ダメだよ〜」
 何とかその獣をひきとめようと、犬耳の少女と黒い翼の少女が奮闘している。
だがその努力もむなしく、着実に獣はこちらに近づいていた。
「な、うまく行くって行っただろ……おわ!!」
 得意げにささやいた健太郎が、驚きの声を上げた。
アルルゥとカミュの身体を振りほどいて、急にムックルが駆け寄ってきたのだ。
「な、なつみちゃん!!」
 慌てて逃げながら、健太郎が合図を送る。
「は、はい!!」
 それに呼応して、観葉植物の裏に隠れていたなつみは魔法を発動させ、
 
 バサッ
 
 網をリゾットを前にしたムックルにかぶせた。
262今、出来ること:03/06/17 22:00 ID:eDg6lT2f
「ガフッ ヴォォォォォン」 
 ムックルは驚きの声を上げて暴れ、網に噛み付くが魔法により強化された網はびくともしない。
 網が持つのかどうかヒヤヒヤしていた健太郎達もそれに一安心して、
階段のほうに目を移す。
 そこにはアルルゥとカミュの二人の逃げ手がいた。
「ヴォフ……」
 ムックルも懇願の意を込めて二人を見るが、
「ムックルのばかぁ!」
「ムックル、後でぶっころ」
 アルルゥとカミュはその冷たい言葉ともに背を向け、二階への走っていく。
「キュゥゥン」
 ムックルの哀しげな鳴き声を背に、健太郎達は二人を追い始めた。
 階段を駆け上がってきたアルルゥとカミュに、
「おかえり〜 ねぇねぇこの匂いなに?」
 ユンナはそうのんきな声をかける。
 アルルゥとカミュはそんなユンナの腕を掴むと、
「お、鬼だよ!」
「ユンユン、走る!」
そう言って引っ張り、強引に走らせた。
「うわぁ、本当だ! 鬼だよぉ!」
 振り向いて慌てるユンナを尻目に、カミュはアルルゥに鬼に聞こえぬよう小声でささやく。
「ユズっちどうしよう!?」
 アルルゥは黙って首を振った。
 鬼はすぐ後ろまで迫っている。ムックルもいないのに、今からユズハを起こして一緒に逃げることなんて出来はしない。
「一回逃げて、戻ってくる」
「う、うん。私達があいつらひきつければ大丈夫だよね!」
 ユズハと合流するならば、自分達が鬼たちをひきつけて、
何とかして逃げ切ってもう一度ここに戻ってくるしかない。
 アルルゥ、カミュ、ユンナの三人はユズハのいる部屋の前を通り過ぎて、ホテルの通路を走った。
263今、出来ること:03/06/17 22:01 ID:eDg6lT2f
「結構、あの子達足速いわね」
 二階の通路を逃げる三人と、追う鬼四人。雪見はそれを後ろから見送った。
逃げ手三人は幼い容姿に反してなかなかに足が速いようだ。
「これはちょっと長引くかもね」
 そうつぶやく間にも、三人の逃げ手は別の階段から三階にあがり、
それを追う追っても雪見の視界から消えた。
「さて、どうしようかな」
 足を怪我している自分では、あのチェイスにはちょっと無理しないとついていけないだろう。
もう少し時間がたてば、何とかなったかもしれないが……
「上手く回り込めば、漁夫の利も狙えるかもしれないけど、ちょっと難しいかな……ん?」
 雪見は首をかしげた。客室の扉の一つが半開きになっていたのだ。
「なにかしら……?」

「なんだろう……?」
 アルルゥ達によって着替えさせられ、床についていたユズハであったが、
廊下を走る音などによってすでに目を覚ましていた。
(アルちゃん達、どうしたんだろ……)
何が起こったのかわからぬままなすすべもなくユズハはベッドの上に眠るままだ。
 ふと、キィ、と言う音が扉のほうから鳴った。
「アルちゃん? カミュっち? ユンユン?」
 ユズハは起き上がり、入ってきた人に声をかける。だが、返答を得ることは出来なかった。
264今、出来ること:03/06/17 22:02 ID:eDg6lT2f
(この子、目が見えないのね)
 逃げようともせずベッドの上で座る少女を見て、雪見は軽く驚く。
今、この少女が呼んだ名前は、今健太郎達が追いかけている少女達のものだろう。
ドタドタと上から走る足音が聞こえる。
(なるほどね。この子も目が見えないまま鬼ごっこに参加したのね)
 そして、きっと友達ともに今まで逃げ続けてきたのだろう。
運もあったのだろうが、正直たいしたものだ。
(さて、どうしよう……) 
雪見は口の中でつぶやいたが、実は迷ってなどいなかった。
 もし、この子がみさきだったら――― 
 もし、鬼と逃げ手としてみさきに出会ったら――― 
 どうするかなんて、とっくに決めている。あいつに手加減なんてしてやらない。
 だから、雪見はツカツカとベッドに近寄ると、ポンとその肩に手をのせた。
「タッチよ。残念だったわね」

「あ……鬼さんですか……?」
「そうよ」
 目の前の冷たい声に、ユズハは目を伏せた。
「あの、アルちゃんたちは……」
「今もホテルの中を逃げてるわ。多分、一度鬼を振り切った後で、ここに戻ってくるつもりでしょうね」
「そうですか……アルちゃん達、逃げ切れるといいな……」
 がっくりと肩を落として、ユズハはつぶやく。
「きっと逃げ切れますよね……私と違ってアルちゃん達、色んなことできるし……」
 その一言に、雪見は眉をひそめた。思わず、
「そうかしら? 自分にできる事を考えなかっただけじゃない?」
 そんな一言を必要以上にきつい口調で言ってしまう。
265今、出来ること:03/06/17 22:03 ID:eDg6lT2f
 言ってしまってから雪見は、しまった、と思った。目の前の少女も今の一言にすこし怒った目でこちらを見ている。
「……どういう意味ですか?」
 ユズハの押し殺した低い声に、雪見はガリガリと頭をかいた。
(まあ、いっか。最後まで言ってしまおう)
「えーと……私、友達がいてね」
「……はい」
「そいつも目が見えないわけだけど」
「―――!」
 ユズハの目が驚きに見開かれる。それに構わず、雪見は続けた。
「でも、あいつは自分が何も出来ないなんて事は言わなかったわよ」
「…………」
「例えばこんな場合でも―――
そうね、物音がした時点でバスルームに隠れたりとか、カーテンの裏に隠れたりとか、
そういう事をしたと思うわ」
「あ……」
「そういう結構抜け目のない奴なのよ。見た目はお嬢様っぽくて普段ポヤヤンとしているくせにね」
 詐欺よね全く、と付け加える。
「ユズハにも捕まらないチャンスがあったんですね……」
「まあ……そういうことね」
 雪見はうなずくと再度頭をガリガリとかいた。
「余計な事言っちゃったわね。謝るわ。ごめんなさい」
 雪見はそういうと、背を向けた。
(これからどうしようかな。足の怪我を考えたら追跡には参加できそうもないけど……) 
 そんな事を考えていると、後ろでスゥと、息を飲む音がした。
「……?」
 ユズハの方をふりむくのと、ユズハが全力で叫んだのが同時だった。
266今、出来ること:03/06/17 22:03 ID:eDg6lT2f
「アルちゃーーーーん!! カミュっちーーーーー!! ユンユンーーーーーー!!
ユズハは捕まってしまいましたーーーーー!!!!
 だから、戻ってこないで全力で逃げてーーーーーーー!!!!」

 声をからしてアルルゥたちに、何度も警告を送る。
そして、力尽きたようにドサッとベッドに倒れた。
「ふぅ……疲れました」
 そうつぶやいて、そっと微笑む。
「あなた……?」
「今、ユズハにできる事ってアルちゃん達に逃げるように言う事ぐらいだし……だからそうしました」
「……そう」
「声、届いたかな……」
「届いたんじゃないかしら、きっと」
 もし、アルルゥ達に警告が届いたのならば、確かにアルルゥ達が逃げ切れる可能性は飛躍的に高くなる。
(まあ、健太郎さん達、せいぜいがんばってね)
 雪見は胸中でつぶやくと、
「ねぇ、あなたお腹すいてる? おいしいキノコリゾットがあるんだけど、焦がすのもったいないし、一緒に食べない?」
 そう、ユズハに笑いかけた。
 
【ユズハ 鬼化】
【雪見 一ポイントゲット】
【ムックル 魔法の網にかかる】
【ユズハの声が届いたかどうかは不明】
【三日目昼ごろ、鶴来屋】
【登場逃げ手 アルルゥ、ユズハ、カミュ、ユンナ】
【登場鬼 【広瀬真希】、【深山雪見】、【牧部なつみ】、【宮田健太郎】、【皆瀬まなみ】】
【登場動物 『ムックル』『ガチャタラ』】
267名無しさんだよもん:03/06/17 22:53 ID:bDh8GFyV
リレー小説って、既に書かれた事以前を書いていいのか……
知らなかったよ 260さん、ありがとう。
268名無しさんだよもん:03/06/18 22:18 ID:2uV5O+Nt
いや、感想スレの方も見てよ。
269名無しさんだよもん:03/06/19 01:22 ID:y3PA+b40
ココでくっきりワレメが見れますた♪
http://plaza16.mbn.or.jp/~satchel/idolnowareme/
ここまで美少女だと興奮しちゃう(*´∀`*)ハァハァ
270お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:20 ID:1+w32H/k
 森の中の小道にて。依然降り続ける腹立たしい雨の中を、久瀬はヨロヨロと歩く。
「クソ……なんだって僕は、あんな遠い小屋を合流場所に指定したんだ?」
 己の愚かさを罵倒する。と、泥で足が滑った。
「……!?」
 バシャン、と音を立てて久瀬は転倒する。
「チッ」
 体を包む不快な泥の感触に舌打ちし、起き上がろうとする。が、
体が重くて思うようにいかない。
(こんなことなら、ゆっくり木陰で休んでから移動するべきだった)
 再度己の愚かさを罵倒。
 このまま横になってしまえ、そんな強烈な誘惑を頭を振って否定するが、
徐々に瞼までが重くなってくる。
「じょ、冗談だろう!」
 まさかここまで疲れているとは。
(というか、本当の疲労とはこういうものなのか……
 足元を風 光が舞った〜♪
(いや、しかしここで倒れるのは……!)
 日常にだけ 積もったぶんの奇跡が〜♪
(し、視界が暗くなってきたぞ!! このままでは―――) 
見上げれば雲 遠くへの帰路 幼い日の自分よりもはやく〜♪
(というか、さっきから何の音楽だ!? ED曲か!? 
もうエンディングなのか!? CD100%でセーブデータ残してアンインストールか!?)
 だいぶ意識が混濁してきたまま起き上がれない久瀬に、声が降りかかった。
「オ、オイ! 久瀬か!?」
「大丈夫かい!?」
 灰色の空をさえぎるように、久瀬の視界にオボロと月島の顔が現れ、
小屋への途上で彼らに会える可能性を考えて休まずにすぐ小道に出て移動した、
そんな己の叡智に感謝して―――
久瀬は目を閉じた。
271お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:22 ID:1+w32H/k
 次に久瀬が目を開けたとき、その目に入ってきたのは白い天井と月島の顔だった。
「久瀬君、起きれるかい?」
「月島さん……」
 首を振って意識を少しでもはっきりさせて体を起こす。
「ここは……?」
「街中のアパートだよ。あそこからなら小屋に戻るよりこっちに来た方が早かったからね」
 そう言われて久瀬は自分が倒れた事、倒れる直前にオボロと月島に会えた事を思い出す。
「ここまで僕を運んでくれたのか? すまないな……」
「いや、こちらこそ倒れるまで無理をさせて悪かったね……
久瀬君、お湯を入れたんだがお風呂に入るかい?だいぶ汚れてしまったし。」
「そうだな……うん、入らせてもらうよ」
 正直汚れなんてどうでもよくて、このままもう一度眠りにつきたかったのだが、
あれだけの運動の後は一度体を温めて筋肉をほぐしておいた方がよいと判断する。
 重い体をゆっくり動かして、ベッドからおりると久瀬は口を開いた。
「オボロ君はもう寝てしまったのか?」
「彼も昨日寝ていないようだったからね」
「そうか」
 後でオボロにも礼を言わないと……と、思っていると、外から騒がしい声が聞こえてきた。
272お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:26 ID:1+w32H/k
「だけど悪かったわね、寝ている間に捕まえちゃって」
 七瀬の謝罪に、高子は首を振った。
「こちらこそ情けないです。医療を志しているのに、血液を見て気絶しちゃうなんて……」
「……多分、血をみたから気絶したんじゃないと思うわ」
 あれはなんていうか、そう言うものを超えていたと思う。
 七瀬達は今、町の方に移動していた。既に高子と矢島も目を覚ましている。
「そんで姉さん。これからどうします?」
「そうね……高子さん達はどうするの?」
「私たちはやっぱりすばるさんを探そうと思ってます。ね、夕霧さん」
 高子の言葉に夕霧もうなずいた。
「うん。鬼になってしまったし、だったらすばるさんにちゃんとお礼を言いたいです」
「夕霧さんの恩人ということは、俺の恩人でもあるな。俺もついていっていいか?」
 叶うことなら、いっちゃんと、あるいは柳川とかいう狩猟者の若造と勝負をしてみてもよいと思うが……
「もちろんですよ、ダリエリさん」
「そうか。ありがとう」
 今は夕霧のそばを離れる気はなかった。
273お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:26 ID:1+w32H/k
「それで、七瀬さん達はどうしますか?」
「んー……とりあえず一休みしたいかな。佐祐理さん達はどうするの?」
「佐祐理も一休みしたいです……」
 ぐったりと疲れた顔で佐祐理はいう。
「よろしければ、一息つくまで七瀬さん達とご一緒したいのですが……」
「いいわよ。もちろん」
「光栄っすよ。あ、垣本、お前はこなくていいからな」
「ふざけるな! ちゃっかり佐祐理さんを狙おうたってそうはいかん! 
そういうわけでダリエリ、悪いが貴様との勝負、今はあずけておくぞ!!」
 ビシッとダリエリに指差す垣本。それを見て矢島と佐祐理はボソッとつぶやく。
「いや……それは預けたままにしておけよ……」
「……あまりその人を刺激しないでください……」
 幸いにして、ダリエリは垣本の挑発に乗る事はなかった。
気を取り直して、佐祐理は清(略に声をかける。
「なつ(略さんはどうしますか?」
「うむ……私も一休みしたい。垣本との勝負も付いていないしな」
「それじゃ、こっちに合流ね。じゃあ、どこか休めるところを探そうか」
 七瀬の提案に、佐祐理たちはうなずき、
「では我々は、失礼するぞ」
「お世話になりました」
「また、どこかで」
ダリエリ達は別れの言葉を告げた。
274お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:27 ID:1+w32H/k
 ―――それから、数分後。
「あのアパートとかよさそうじゃないすか」
 矢島が指したアパートは所帯数は少ないが、
一部屋一部屋を多くとってある高級そうなアパートだった。
「うん、いいんじゃない?」
「佐祐理は休めればどこでもいいです〜」
「佐祐理さん!! お疲れでしょうか!? ああ、嘆かわしい。
その可憐なあなたから辛苦を取り除く事ができたら漢、垣本どれだけ幸せな事か!!」
「疲れさせてる原因の一端はウヌにあると思うのだがな」
 ボソっとつぶやく清(略に佐祐理は慌ててフォローを入れる。
「あはは〜っ そんなことないですよ。
ダリエリさんに立ち向かっていった時の垣本さんは格好良かったですよ」
「佐祐理さ〜ん!!」
「その後の鼻血さえなけりゃ、ヒーローだったのにな」
「うぐ……!!」
 そんな感じで、ガヤガヤと騒ぎながらながらアパートの扉を空けて中に入ろうとして、
「すまないね、ちょっといいかな?」
後ろから声をかけられた。
275お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:27 ID:1+w32H/k
「ふぇ? なんですか?」
 振り返った佐祐理の前には、落ち着いた雰囲気の長身の男性が立っていた。襷をまとっている。
「隣の部屋を使っているものだけど、僕の友人が眠っていてね、
起こさないように、静かにしてくれると助かるかな」
「あ……はい。ごめんなさい、気をつけます」
 ペコリと頭を下げる佐祐理に、男は手を振った。
「いや、こちらこそ自分の都合を押し付けてすまないね。
でも本当に疲れているようなんだ。よろしく頼むよ」
「はい、分かりました」
 再度、佐祐理は頭を下げた。
276お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:28 ID:1+w32H/k
「鬼の人達だったよ」
 帰ってきた月島の報告に、久瀬は苦笑した。
「そうか。かえって助かった気分だな。
今ここで逃げ手にあっても、ちょっと追いかける気はしないだろう」
「まあ、そうだね」
 月島も苦笑を浮かべる。
「それじゃあ君達が寝ている間に、僕は食料でも探してくるよ」
「それは……助かるが」
「気にしなくていいよ、君達が寝ている間はどうせ暇だしね」
「そうか。それじゃお願いする。それから……」
 やはり、これは聞いておくべきだと思った。
「月島さん、妹さんのことはあれでよかったのか?」
 少し驚く月島に、久瀬は最後の攻防のこと、あの時遠目から見ていた事を告げる。
「もし僕が能力者を一度でも逃さなければ、最後の土壇場での妨害はなかったんだろうが……」
 申し訳なさそうに告げる久瀬に、月島は首を振った。
「あれで、良かったんだよ。ありがとう、本当にね」
「……そうか」
 フゥ、と久瀬は息をついた。
 なぜ月島がそんな選択をしたのか、完全には分からないけれど、どこか納得している自分がいた。
 それに、もっと悪い結末だってありえたのだ。
「それじゃ、もう行くよ。おやすみ、久瀬君」
「おやすみなさい、月島さん」
 手で口を押さえて、あくびを一つ。
 熱い湯を浴び、そしてベッドに倒れこむ瞬間が今から楽しみで仕方なかった。
277お隣さんとの付き合い方:03/06/20 00:28 ID:1+w32H/k

【三日目 夕方〜夜】
【市街地のアパート】
【久瀬、オボロ就寝 月島は食料探しへ】
【隣室で、七瀬、佐祐理、矢島、垣本、清(略が休憩】
【ダリエリ、夕霧、高子はすばる探しへ】
【登場鬼 【久瀬】、【月島拓也】、【オボロ】、【倉田佐祐理】、【七瀬留美】、
     【矢島】、【垣本】、【清水なつき】、【ダリエリ】、【砧夕霧】、【桑島高子】】
278南海の決戦! 古代怪獣大進撃!:03/06/20 01:01 ID:1enXM6B1
 改めてふり返り、正面にハクオロ一行と愛する柳川を睨みつけるユミコ。開口一番、彼女は叫んだ。
「何デスカアナタ。アナタモ私ノ恋路ヲ邪魔スルンデスカ!」
「残念だがお嬢さん、私も逃げ手であり、個人的な事情もあって彼らを守らねばならない。それに、相手が望んでないのに一方的に自分の気持ちを押しつけるのは感心できることではないな」
「何ヲ言ッテルンデスカッ! 最初ニ私ニアプローチカケテキタノハ柳川サンナンデスヨッ! 柳川サンハ照レ屋サンダカラ、今ハ素直ニナレテナイダケナンデスッ! 関係ナイ人ハ引ッ込ンデテクダサイ!」
「……と、言ってるが」
 ユミコの言葉を受け、視線を柳川に送る。
「(ふるふる)」
 ……首を横に振る。
「後で説明する。それより今は……」
「アーンモウ柳川サンッ! ソロソロ私ノ忍耐モ限界デスッ! コウナッタラ……ミーンナブッ飛バシテ一気ニゲッツサセテイタダキマス!」
 とうとう切れてしまったユミコさん。カッ! と口を開くと、その中に再度光が集束し始めた。
「ウィツァルネミテアキャノン……! 来るか!」
 鉄扇を取り出し、身構えるハクオロ。
「……どうする!?」
「このままじゃ直撃よ!? また脇腹にでも飛び込むの!?」
 慌てる2人。が、ハクオロは顔色一つ変えることなく。
「……お前たち、名前は?」
 静かに、2人に問いかけた。
「……柳川祐也。柳川で構わん」
「友里よ。名倉友里。好きなように呼んで」
「よし。柳川、それに名倉。後ろの2人を抱えて、私に掴まっていてくれ」
「……?」
 ふり向く2人。と、そこには変わらずのほほんとした美凪とみちるの姿が。
「……よろしくお願いします」
「オロの邪魔はするなよ」
 2人はそれぞれ頭を下げると、美凪は友里に、みちるは柳川にしがみついた。
 
「ソーーーーーーーーレジャーーーーーーーーーーーーーー行ィキマァーーーーーーーーーースヨォーーーーーーーーーーーー!!!!!
 ユミコネミテアキャノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…………………………!!!!」
 かけ声と共に、一際ユミコの口が眩しく輝く。
「おい、ハクオロ!」
「来るわよ……!」
279名無しさんだよもん:03/06/20 01:02 ID:1enXM6B1
「……騒ぐな! 集中させろ……! タイミングが重要だ……!」

 爆光の中、ハクオロはシュラン……と優雅に鉄扇を仰いだ。
 
「……………我が名は……大神(オンカミ)、ウィツァルネミテア…………………」

 そこだけ全ての時が静止したかのように、万物が動きを止める。
 
「……………我こそは解放者………………」

 しかし、ユミコの光だけはなおも増大し続ける。
 
「照射ァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!! 全範囲攻撃! カワセルモノナラカワシテミナサイィィィィィィイーーーーーーーーーー!!!!」

 光が、走った。
 
 膨大な熱量を持った光線がハクオロへと迫る。
 
「来た……!」

『我こそうたわれるもの! 本当のうたわれるもの! 汝ら小さき者に崇められ、うたわれるもの! 我が名は……………………!!!!!』

 ハクオロが激昂したのが、同時だった。
 
『ウ ィ ツ ァ ル ネ ミ テ ア !』


「これは……!?」
 柳川は目の前の光景が信じられなかった。
 光が弾け、ハクオロが何か叫んだ次の瞬間……
「星だと!?」
 自分たちの周りに無数の星が瞬いていたのだ。
280名無しさんだよもん:03/06/20 01:02 ID:1enXM6B1
「……!? 下! 下! 下っ! 柳川さん! 下見て! 下ッ!」
「な……!?」
 さらに、友里が示した方向……自分らの、真下を見下ろす。
「……あれは……!? なんだと!」
 眼下には、大海原とその中にちょこんと頭を覗かせる小さな島があった。
 まさか……
「あの島が、会場の島か!? ということは、俺たち……」
 周りの景色と、下の光景が一致する。そして、一つの事実を叫んでいる。
「空を!?」
「飛んでるぅ!?」
 思わず顔を見合わせる。
「喋ルナ! 舌ヲ噛ムゾ!」
「な……お前!? ハクオロ!?」
 さらに続いて気付く。自分らがしがみついている対象に。
 ハクオロの肩を掴んでいたはずの手は、今やユミコネミテアそっくりの巨人の角を掴んでいた。
「お前……あれの親戚だったのか!?」
「後デ説明スル! ソレヨリモ美凪トみちるヲ守レ! 絶対ニ手ヲ放スナ!」
「あ、ああ……!」
 とか何とか言いつつも、
「おお〜、すごい! みちるたち、空飛んでるぞ! 空!」
「……ぱちぱちぱち……おめでとうございます、みちる。そんなみちるに、フライングで賞、進呈……」
 ……当の本人らはまるっきしこの事態を楽しんでいるようであったが。
 
 パッ!
 
「……あ」
 刹那、美凪が差し出した真っ白い封筒が真上に吹き飛んだ。
 いや、違う。自分たちが落ちているのだ。
 放物線の頂点にまで達したウィツァルネミテアの体が、続いて重力加速に従って真下に落ち始めたのだ。
「……お米券、落としてしまいました。がっくし」
「みなぎ、元気出せ」
「しくしく……はい。ありがとう、みちる」
281名無しさんだよもん:03/06/20 01:03 ID:1enXM6B1
「……………………」
「……………………」
 柳川と友里は非常に複雑な表情だ。
 
「上です! 彼らは上に飛びました! 上です由美子さん!」
 一方こちらは地上。一撃を外し、少々狼狽していたユミコさんではあるが、芳晴の指示に従って首を真上に曲げた。
「……ナルホド、アノ人モ私ト同ジ商品ヲ購入シタトイウワケデスカッ! ナラバ遠慮ハシマセンヨ……。キャノン、発射ッ!!!!!」
 再度口を開き、ドン、ドン、ドンと連続して光弾を発射する。
 
「甘イ! 本家ヲナメルナ!!!」
 しかしウィツは空中で微妙に体の軸をズラしながら、自分たちを狙って迫る光弾を絶妙の位置でスリ抜けていく。
 そして、肉眼でもユミコの姿を捕らえられる距離まで迫ったところで……
「次ハコチラカラダ! ウィツァルネミテアキャノン……発射ッ!!!!」
 一筋の閃光を放った。
 
「来ます! 真上! 極太のビームが一つ! 由美子さん、回避運動を!」
 とりあえず今の自分に出来そうなことを考えた芳晴君。出た結論は、ユミコさんのサポート、オペレーターとしての指示であった。
 その判断に基づき、回避を指示したのだが……
「ソノ必要ハナイワッ!!」
「へ!?」
 ユミコさんはその指示を一刀両断に切り捨てると、下半身に力を込め、そのまま垂直に……迫るビームに向け、飛び上がった。
「ちょ、ちょ、ちょ、ユミコさん! これ、直撃コースですよ!?」
「心配シナイッ! 私ニ任セナサイッ!」
 芳晴の呻きなど完璧に無視し、ユミコさんは右腕を振り上げると、
「コノ程度デ……私ノ恋路ヲ邪魔スルコトナンテッ……!」
 そこに集束した力を、ビームに向かい、
「デキナインダカラーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
 振り下ろした!
 
「ナンダト!?」
 さしものウィツも驚愕する。
 下のユミコが愚かなことにビームに向かって真っ直ぐ吶喊したかと思ったら、右手一閃でビームを叩き割ってしまったのだ!
282名無しさんだよもん:03/06/20 01:04 ID:1enXM6B1
「シマッタッ!」
 そのままユミコは速度を緩めず、自分の方向へと直進してくる。
 まずい、このままでは直撃する……っ!!!
「モライマシタ! 柳川サンハ……私ノモノデスッ!!!!!」
 そして、空中で、2人の躰が交錯……!
 
「否ッ! マダダ! コノ程度デ……! A.T.フィールド(仮)、全開ィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
 しかしユミコの右ストレートが叩き込まれる直前、ウィツは自らの眼前に一枚の壁を作り上げた。大神のみが持つことを許された聖なる壁。
 いかなる攻撃をも跳ね返す、その防護壁。……ちなみに名前は仮称である。本気にしちゃイヤン。
 ドン! とユミコの拳が受け止められる。
「ギギギギギギギギギギギギギ…………! ソウ……来マスカ!!!」
「コウ来ルトモ! 我トテ大人シク捕マルツモリナド毛頭無イ!」
 薄い壁一枚を挟んで、2人の解放者がにらみ合う。
「ナラバコチラモ……コウサセテイタダキマスッ! フィールド(仮)全開ッ!」
 神の力に対抗するは、神の力のみ。
 ユミコも同じくフィールド(仮)を発現させ、ウィツの作り出した壁を中和。穴をこじ開け……
「甘イナ! 我ハソレヲ待ッテイタ! 喰ラエィ!」
 ……が、両者の間に穴が空いた瞬間。その瞬間を狙い……

 ドゴン! ドン! ドン!
 
 ウィツの放った数発の光弾が、零距離でユミコの顔面に直撃した。
 
 
 ドォォォォォーーーーーーーーーーーーン!!!!
 
「キャアッ!」
 凄まじき地響きを伴い、ユミコの巨体が森の中に落下する。
「チャンスダッ! 今ノウチニ逃ゲルゾッ!!」
 やや離れた場所に降り立ったウィツは、ユミコのその姿を見やると、速攻で反対側へと走っていった。
「だ……大丈夫なのか!? あの高さから落ちて、由美子さんは……。というより、ルールは……」
 心配げな柳川の問い。
283名無しさんだよもん:03/06/20 01:05 ID:1enXM6B1
「我ト奴ハ二ニシテ一ッ! 同等ノ能力デハナク、全ク同ジ能力ッ! ルールニハ抵触シナイ! キャノンモ手加減ハシテオイタシ、解放者ハアノ程度デ怪我ヲスルホド柔ニハデキテイナイッ!」
 ウィツは吐き捨てるように答えると、さらに加速。島の反対側へと向かっていった。
 
「アツツツツツ……芳晴君、大丈夫?」
 んでこちらは見事に落下してくれたユミコさん。体中に泥を浴びながらも、なんら怪我は一つなく、頭を押さえつつ起きあがる。
「アレ……エート、芳晴君……ドコ……カナァ?」
 んが、芳晴の姿が見あたらない。自分の頭の上にいる間は神の力でコートを張り、守っていたから大丈夫だとは思うが(そうでもなければ飛び上がった瞬間気圧の変化で耳が素晴らしいことになる)
 どこかに投げ出されでもしたら探し出すのは困難だ。ここまで一緒に行動してきたのだから、出来れば最後まで一緒にいたい。
「ヨーシハールクーンヤーイ。ドーコニイッタノカナー?」
 あたり一帯に呼びかけてみる。そして……
「由美子さん起きましたか! あっちですあっち! 柳川さんたちはあっちに逃げましたよ!」
「あ、芳晴君」
 程なく芳晴の姿は見つかった。近くの小高い木に登り、どこか遠くの方を指さしている。
「アッチ?」
「ええ、由美子さんそっくりの巨人に乗ったまま、柳川さんたちは島の反対側の方に逃げました! 早速追いましょう! さぁ早く俺を乗せてください!」
「エ、エエ……」
 何だか変な様子の芳晴。ユミコはそのあたりが多少気になりつつも、とりあえず優先すべきは柳川の追撃ゆえ、芳晴の体を優しくつかみ、自分の頭の上に乗せると芳晴の指した方向を見据えた。
「アッチニ行ッタノネ?」
「ええ。由美子さんを撃墜した後、彼らは猛スピードで島の反対側へ駆けて行きました! でも由美子さんのスピードなら大丈夫! 追いつけます! 追っかけましょう。追っかけてとっ捕まえちまいましょう!
 もうこうなったら俺も覚悟を決めます。地平の彼方だろうとアルカディアの向こうだろうとヴァルハラの先だろうとエデンの西だろうと! どこまでも!
 どこまでも追いかけてやりましょう! あははーだ! もうどーでもいーやなんだっていーやー! 宗教は爆発だ!
 突っ走りましょうどこまでも! 俺はあなたに付いていきます。……行きましょう由美子さん!」
284名無しさんだよもん:03/06/20 01:06 ID:1enXM6B1
 壊れた。
 壊れてしまった。
 とうとう神父である芳晴君ですら、この連続した異常事態には付いていけなくなってしまった。
 壊れてしまった。壊れて……しまったのだ。
「OK芳晴君!」
 が、こっちはとっくの昔から壊れている。
 目を爛々と輝かせると、クラウチングスタートの姿勢を取る。
「ON YOUR MARK......」
「レディー……………」

「「ゴー!!!!!!」」

 旋風と化し、島の中を突っ走る由美子。
 その脳天にしがみついたまま、芳晴は叫ぶ。
 雨に打たれ、風圧で顔はぐしゃぐしゃになりながらも、心の底から、朗らかに、快く、盛大に叫ぶ。
 否、それは叫びではない。宣言だ。
 
「あははははーぁ! 終われ! 終われ! 終わっちまえ! 捕まえてやる! みんなみんなとっ捕まえてやる! 世界中みーんなとっ捕まえてやるんだぁあははははははははははははははは!!!!!!」

 ……戦いはまだまだ続く。

【ウィツァルネミテアVSユミコネミテア 第一ラウンドはウィツの勝利。だがユミコも諦めず、後を追う】
【柳川・友里・美凪・みちる ウィツの上】
【芳晴 ユミコの頭の上】
【芳晴 壊れる】
【登場 ハクオロ・柳川祐也・名倉友里・遠野美凪・みちる・【小出由美子】・【城戸芳晴】】
285名無しさんだよもん:03/06/20 06:02 ID:GJ9TffDe
(・∀・)イイ!
286名無しさんだよもん:03/06/20 10:12 ID:mxFazybX
では、続きは感想スレにて。
287名無しさんだよもん:03/06/21 00:22 ID:08SMD7ji
hosyusyu
288名無しさんだよもん:03/06/21 16:56 ID:pdv07GTz
保守しとくか。
289名無しさんだよもん:03/06/22 01:30 ID:+Tb1qGzJ
290結束と裏切り:03/06/22 03:11 ID:DyT8BiXt
 ホテルの狭い廊下を7人は走る。
 逃げるのはアルルゥ、カミュ、ユンナの三人。
 追うのは健太郎、なつみ、広瀬、そしてまなみの四人だ。
「まちなさーい、あんた邪魔よ!! どいて!!」
「あんたこそどきなさいよ!!」
 狭い通路を少しでも互いより前に出ようと争う広瀬とまなみ。
そのせいでかえって追うスピードが遅くなっている事に気付かない。
「あの人達、なんかもめてるね」
「ん、ヴァヴァア達、醜い」
「んー……でも、引き離しちゃうわけにはいかないんだよねぇ」
 ここで鬼をひきつけないと、ユズハが捕まってしまう。
 このまま追われたまま一階から外に逃げていって、森の中で振り切った後で、
引き返してユズハとムックルと合流する。危険は伴うが出来ればそうしたい。
ただ逃げるだけならば他にも手があるけれど―――
 だが、その考えは甘かったようだ。
 廊下の逃げる先に突然現れた人影に、アルルゥ達は驚く。
「な、なにあの人!?」
 全裸の少女が行く手に立ちふさがっている。
「なつみちゃん、でかした! あれココロだよね?」
「はい……そうです」
 全裸の自分の分身を見られる事に羞恥を覚え真っ赤になりながらも、なつみは肯定した。
 これで通路の両側をふさいだ。健太郎達にとってみればチャンス、アルルゥ達にとってみれば大ピンチだ。
291結束と裏切り:03/06/22 03:12 ID:DyT8BiXt
「や、闇の法術!!」
 威嚇のつもりで放ったカミュの法術がココロのすぐ横に炸裂するが、ココロはそれを一顧だにしない。
「あ、あれ〜? ならこっち!」
 再度闇の法術。後ろを向いて、今度は追いすがってくる健太郎達に放つ。無論手加減はしてあり、狙いも外しているが―――
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
「ズンパンの防御力は世界一ィィィィ!!」
「え? ちょっとぉぉぉ!?」
 先行していたまなみと広瀬は後方の健太郎の腕を掴み、
「「健太郎シィィィルドォォォォ!!!」」
 前に突き飛ばす。
「あああああああぁぁぁぁぁっっ!?」
 チュドーン

「ありがとう健太郎さん、あなたの尊い犠牲は無駄にはしないわ」
「後は私達にまかせといて!!」
「店長さん!! ま、いっか」
「あ、当てるつもりなかったんだけどなぁ……」
 
健太郎、リタイヤ(ドォーーーン)


 さて、健太郎の(無駄な)犠牲によって一時状況が停滞したものの、
ココロによって廊下の反対側をふさがれて依然アルルゥ達のピンチは変わらない。
「ど、どうしよう」
「ん〜」
 とりあえず、まなみ達から逃げているものの、果たして行く手にふさがるココロを抜けるか?
 もう一つ逃げる手段があるが、それは危険な手段であり―――
 だが、アルルゥ達の迷いを断ち切るように、声が聞こえてきた。
292結束と裏切り:03/06/22 03:13 ID:DyT8BiXt
「アルちゃーーーーん!! カミュっちーーーーー!! ユンユンーーーーーー!!
ユズハは捕まってしまいましたーーーーー!!!!
 だから、戻ってこないで全力で逃げてーーーーーーー!!!!」

その声は、とても微かなものだったけど必死さにあふれていて、
三人は驚きながらもうなずきあい、覚悟を決めた。
 そう、そのユズハの警告は確かにアルルゥ達に届いたのだ。
 
「あ、あれ?」
 追う鬼たちは首をかしげた。アルルゥ達が方向を変え、客室に入ったのだ。
「ハッ、追い詰めたわよ!!」
 勝利を確信しまなみ達はアルルゥ達を追って客室に入る。が、そこで驚きに目を見開いた。
「さ、三階よ、ここ……!!」
 狼狽するまなみ達の前で、アルルゥ達は窓枠を乗り越え、外に飛び出した。

「んんぅぅ〜〜〜〜!!!!」
 落下による胃のよじれる感覚に、アルルゥは悲鳴をあげかける。
 だが、それは一瞬の事で、すぐに腕を上に引っ張られ、浮遊感が身を包んだ。
「あ、アルちゃん……重い〜!!」
「危なかったねぇ」
 両脇をカミュとユンナに支えられ、三人は空に浮かんでいた。
アルルゥの重さを支えきれるか否か、不安はそれであったが、辛うじて二人はそれに成功している。
「ユズっちの事は残念だけど……このまま逃げよ」
 徐々に高度を落としながら、カミュは言った。このまま下に下りて、逃げる。
鬼たちが一階から外に出るまでに十分に距離は稼げているはずだ。
293結束と裏切り:03/06/22 03:14 ID:DyT8BiXt
「あ、あいつら空を飛ぶなんて卑怯よ!!」
 窓枠から身を乗り出し、まなみと広瀬は抗議の声を上げる。
もちろんただの人間である彼女達の事、三階から飛び降りることなど出来るはずもない。
 ただの人間であれば、だ。
「二人とも、どいてください!!」
 まなみはロッカーからモップを取り出すと、窓から二人をどかせ、外に飛び出した。

「!? カミュち〜、ユンユン、上!!」
 襲来者の存在に気付いたのはアルルゥだった。
警告に従い、二人は上を向いて、
「……!?」
 モップにまたがり空を飛び、彼女達にせまるなつみの姿に気付く。
「つっ……!」
 慌てて身をよじり、ギリギリでなつみの手を回避できた。
だが―――
「ア、アルちゃん……!!」
 ただでさえ辛うじて支えてきたアルルゥの身体を、その動作で手放してしまう。

 ドサッ

 悲鳴を上げる暇すらなく、アルルゥは花壇の中に落下した。
294結束と裏切り:03/06/22 03:15 ID:DyT8BiXt
「参ったわね」
 一階のロビーで雪見は少し困っていた。彼女の前でムックルが
「グルルルウル……!!」
 網に絡まったまま唸っている。
 別にこの獣に用があるわけではない。だが、彼のすぐ前にきのこリゾットがおいてあるのだ。
 虎穴に入らずんばリゾットを得ず。
 命をかけてまで食べたいものでもないが、あのリゾットをこのまま焦がしてしまうのも惜しい。
「うーん、どうしようかしら……ん?」
雪見は目を上げた。今外で何か落下しなかったか?
「何かしら?」
いぶかる雪見。とりあえず確かめてみようと、少しびっこをひきながら外に移動しようとする。だが、
「雪見、どいて!!」
「抜け駆けはなしよ!! まなみ!!」
 その脇を、上から降りてきたまなみと広瀬がドタドタと駆け抜けていった。

「ア、アルちゃーん!!」
「う、うわどうしよう……」
 飛行したまま狼狽するカミュ、ユンナ、なつみの三人。その三人の下で、
「ん。無事」
 わりとあっさりとアルルゥは立ち上がった。
落ちたのが花壇の中であった事。雨のせいで地面がぬかるんでいた事が幸いしたらしい。
 ホッと胸をなでおろし、カミュはアルルゥを救出しようと、そちらに翼をはためかせる。
(ユズっちが捕まっちゃったのに、アルちゃんまでいなくなっちゃうなんでやだよ……!!)
 だが、そんな思いも空しく、ホテルの正面玄関から飛び出してきたまなみと広瀬が飛び出してくる。
「なつみ、なにやってんの!? その子を止めなさい!!」
「……わかりました!!」
 しばしなつみは逡巡するが、アルルゥが無事である以上鬼ごっこを継続させようと判断したのだろう、カミュの行く手をさえぎるように移動。カミュは、
「じゃ、邪魔しないでよぉ!!」
 辛うじて身をよじり、なつみからのタッチをよけるものの、それでアルルゥとの距離が離れてしまう。
295結束と裏切り:03/06/22 03:16 ID:DyT8BiXt
「ユ、ユンユンなんとかして〜」
「え、で、でも」
 本来ならばユンナはこの場を簡単に制圧させる事のできる実力の持ち主なのだが、
反転した性格が災いして積極的な行動がとれずにいる。
 なつみの魔法と妨害によって、カミュもまたアルルゥに近づけない。
そして、落下の衝撃のせいなのだろう、アルルゥの逃げる足は明らかに重い。
(こ、このままじゃアルちゃんが!!)
 カミュが歯噛みする間にも、刻一刻とアルルゥに鬼の魔の手は近づいていく―――

「うっし、まなみ!! とりあえずあいつを捕まえるわよ!!」
 今度こそ勝利を確信する広瀬。だがすぐ後ろからのまなみの返答は、広瀬の予想に反したものであった。
「そういえば、まださっきの地獄車の借りを返してなかったわね」
「へ?」
 広瀬が後ろを振り向くまもなく、まなみは飛びつきざま腕を彼女の首筋に叩きつけ、
そのまま首に腕を回し、その勢いのまま広瀬の身体を地面にたたきつけた。
俗に言うフライングエルボーだ。
「がぁぁぁぁ!? う、裏切ったわね!!」
「裏切った? 知らんなァァァ 
仲間意識などという便所のネズミのクソにもそのくだらない物の考え方が命とりなのよ!!」
 倒れたまま悶絶する広瀬の頭を容赦なく踏みしだくと、広瀬は動かなくなった。
 
広瀬、リタイヤ(ドォーーン)
296結束と裏切り:03/06/22 03:17 ID:DyT8BiXt
 まなみはノリノリで叫ぶ。
「管理人からの伝言!? 知ったことですか!
『勝利して支配する』! それだけよ……それだけが満足感よ!
過程や……! 方法なぞ……! どうでもよいのだァ ――――ッ」
 腐った顔で腐った事を叫びながら、アルルゥの後を追う。
 アルルゥは必死に逃げようとするが、無理が災いしてその場で転んでしまった。
「……!!」
「ククク、チェックメイトよ!!」
 にらみつけてくるアルルゥを前に、まなみはニタリと笑った。
「実にスガスガしい気分だわ!! 歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分よ!!!」
 いまや絶頂を迎えるまなみ。だが、その後ろで冷たい声が響いた。
「夢の中で歌ってなさい」
「はぇ?」
 雪見は適当に拳をまなみの腹に叩き込み、
「ハウッ」
 まなみも適当な声を上げて、ダウンした。

 まなみ、リタイヤ(ドォーーン)

 カミュ、ユンナ、なつみの空中戦は依然として続いていた。
2対1であるために、タッチする事だけは避けられていたが、アルルゥを助けに行くチャンスも得られないでいる。
(ア、 アルちゃんは!?)
 視界のすみでアルルゥのほうを確認するカミュ。だが、その目に映ったのは、
ウェーブのかかった長髪の女性がアルルゥをタッチする場面だった。
「そ、そんなぁ!!」
 ユズっちに続いてアルちゃんもなんて……脱力感がカミュを包む。
「カミュち〜!!」
 上からユンナの警告が飛ぶ。多分、鬼がこちらに迫ってきているのだろう。
297結束と裏切り:03/06/22 03:18 ID:DyT8BiXt
だが、カミュはそれに反応しない。
(もう、捕まっちゃおうかな……ずっと三人でやってきたんだし、今更カミュだけなんて……)
 だが、そんな諦観を吹き飛ばすかのように、アルルゥが叫んだ。
「カミュち〜!! ここで捕まったら絶交!! ユンユンのこと考える!!」
 言われて、カミュは目を見開いた。
(そ、そうだよ!! ここで捕まったら今度はユンユンが一人きりだよ!!)
 例えカミュが誘っても、ユミナはきっと自分からは鬼にならないだろう。きよみとの約束があるからだ。
だから、ここで自分が諦めたらユミナは一人きりだ。折角友達になったのに……!!
「もらいました!!」
「クッ……!!」
 カミュは身体をひねった。ギリギリでなつみの手が空を切る。
「こ、のぉぉ! 火の法術!!」
 身を翻し火炎を展開。炎によって、なつみの視界をふせぐ。
「め、目くらまし.!? え!?」
 なつみは驚きの声を上げた。炎の中をカミュが突っ切って接近してきたのだ。
「体術の心得だってあるんだから……!!」
「……!?」
 すれ違いざまに黒い翼が一閃される。そして―――
「や、やられたの!?」
 なつみのモップが破壊され、なつみは下に落ちていった。

 なつみ、リタイヤ(ドォーーン)
298結束と裏切り:03/06/22 03:18 ID:DyT8BiXt
「やれやれだわ」
 一度だけグルッと周り、空の向こうへ消えていくカミュとユンナを見送りながら、
雪見はつぶやいた。
 周りを見回してみる。ずいぶんな惨状だ。
「ま、いいか」
 なつみは魔法で身を守ったらしく、たいしてダメージを受けていないようだ。
まなみは自業自得だし、広瀬には足を引っ掛けられた恨みもあるし、
健太郎はこの場にいない事を考えると何かあったんだろうけど、どうせすぐ復活するだろう。なんとなくだけど。
 なにか色々とルールに抵触したような気がするが、
同じ人間として許してもらえるだろう、とかそんな事も思った。
 あえて気がかりな事をあげるとするならば―――
「むーーーーーー」
「そんなににらまないでよ。まあ、勝負なわけだしね」
 頬を膨らませてにらんでくるアルルゥに雪見は苦笑すると、さらに続けた。
「ねぇ、あなたあの虎のことおとなしくできる? おいしいリゾットが焦げてしまいそうなの」

【アルルゥ 雪見によって鬼化。軽度のダメージ】
【雪見 ちゃっかり一ポイントゲット】
【カミュ、ユンナ 逃走成功】
【健太郎、広瀬、まなみ  ダメージ】
【三日目昼ごろ 鶴来屋】
【登場 アルルゥ、カミュ、ユンナ】
【登場鬼 【広瀬真希】、【深山雪見】、【牧部なつみ】、【宮田健太郎】、【皆瀬まなみ】、【ユズハ】 】
【登場動物 『ムックル』『ガチャタラ』】
299名無しさんだよもん:03/06/22 05:56 ID:CeUfc53j
(・∀・)イイ!
「一体何がどうなってこうなってるんだ…」
七瀬彰は、雛山理緒を抱きしめたまま眠る水瀬名雪を起こそうと悪戦苦闘しながら呟いた。
澤倉美咲としんじょうさおりも頑張って参戦するが、てんで起きる気配が無い。
目覚めた時、理緒の毛布に誰も居ない事に気がついたのは美咲だった。
最初は「案外寝起き悪いんだね」などと言って笑っていたが、同時に名雪の毛布が異常に膨れ上がっている事に気がついて、彰が恐る恐る名雪の毛布をめくった。
そして名雪に羽交い絞めにされて、鼻水でぐしょぐしょになった理緒を発見したのである。
理緒は目がイッちゃっていたので、とにかくまず救助することにした。
が、引っ張ってみても理緒の身体は動く気配が無い。一体どのくらい強い力で抱きしめられているのか想像もつかないほどだった。
仕方が無いので、名雪を起こすほうに専念することにしたのだが、これがまた大変だった。
揺する程度では到底起きない。ぺちぺち頬を叩いても当然起きない。
彰は、こうなればびしばし叩こうとも思ったが、愛する人の美咲の前でそれは憚られた。
仕方なく頭をこつんと叩く。やっぱり起きない。
「どうしたらいいんだ…」
RRな台詞を吐いて、彰ははぁ、と溜め息を一つついた。
さおりは既に諦めて、名雪に絡め取られていたが、いつの間にか自由になっていた太助と戯れている。
美咲はそんなさおりをあやしていた。
彰はそんな二人を見て、何故太助が自由になって理緒が代わりにこんな目に遭っているのか、と思った。
「そうだ…」
そこで彰は一つ思いついた。
名雪の猫好きは病的を通り越してもはやイッちゃってるとしか思えない。今ももう一匹の猫を抱いたまま離さない。
ならば、この猫を引き剥がせばどうなるか?
起きるかどうかは少し怪しかったが、今はどんな手段も選んでいられない状況だ(だからといって愛する美咲の前で暴力的な手段は使うわけには行かなかった)。
試しでやってみる価値はあるはずだ。
彰はぴろの尾を引っ張った。
ぴろはその衝撃で目を覚まし、うにゃあと鳴くと名雪の手をすり抜け、毛布から逃げた。
そのままぴろは何故か転がっていたバケツに身体をぶつけた。こん、といい音が鳴った。
――さて、これがどう出るか。
と思った瞬間。
「うー、逃げちゃ、だめだぉ〜」
名雪がうめいたと同時に、彰の右足首をがっしりと掴んだ。
「はい?」
呟く間もなく、彰は見事にすっ転び、床に後頭部を強かに打ちつけた。名雪が足を引っ張ったのだ。

「な、七瀬君?」
「お兄ちゃん?」
ごつん、という鈍い音に気がついた美咲とさおりがそちらを見る。
すると、彰が後頭部を抑えて蹲っていた。
「うにゅ〜、猫さん、ねこさん〜」
寝ぼけているであろう名雪がうめいて、毛布がずりずりと動く。
やがてそれは理緒の毛布を巻き込み、他の毛布も巻き込み、彰まで巻き込み、なんだか分からない大きな塊となっていった。
理緒はもうどうなっているかわからない。
唯一大人の男である彰もやられてしまった。
そしてその塊はさおりにぐんぐん近づいてくる。
一体どこにそんなパワーが、などと美咲は違う事を思う。
「ねこーねこー」
しゅこー、と妙な呼吸音と共にそんな声が聞こえる。
美咲がそこで気がついた。
名雪は明らかに太助を狙っている。そしてその太助はさおりが抱いている。
まずい。
美咲は固まっているさおりを引っ張って立たせた。
そして一歩下がる。
すると名雪毛布は彰を排出し、スピードを上げてきた。
さらに一歩下がる。
すると名雪毛布は理緒まで排出した。スピードが更に上がる。
「ねこーねこー」
毛布が、蠢き、うめいた。
そして毛布の中から手が伸び、庇うように立っていた美咲の足を掴んだ。
ぐいと引っ張られ、美咲はあえなく転倒した。
そして毛布に喰われ、排出された。

さおりは独りぼっちになってしまった気がした。
頼れるお兄ちゃんが倒され、優しいお姉ちゃんも倒され、さおりはひとりぼっちで。
蠢く塊はさおりにぐんぐん近づいてくる。
外は雨が降っている。心なしか雷が鳴っているような気がした。
B級ホラー映画の中にいるような気がした。
「…う、うわぁぁーん!」
さおりは弾かれたように泣いて逃げ出した。
しゅこー、という呼吸音は後ろからにじり寄ってくる。
太助を抱いて狭い小屋の中を逃げる。すると毛布の塊が追って来る。
「うわーん! 来ないで、来ないでー!」
「ねこーねこー」
そして、壁の隅まで追いやられたさおりはあえなく捕まってしまった。
毛布の中に吸い込まれ、思いっきり抱きつかれた。
目の前にはシュノーケルをつけ、鼻水でぐしょぐしょになった顔。
思いっきり強い力で抱きこまれ、さおりの恐怖は極限にまで拡大した。
もうダメかと思った時だった。
「いい加減にしなさい!」
という声と共に、目の前がまた明るくなった。
美咲が毛布を払いのけていた。
身体の小さいさおりはすぐに抜け出すことが出来た。
だが再び太助を奪われ、さおりはぐしぐしと泣いている。
美咲は思い切って、名雪の頬を張り飛ばすことにした。
ぱちーん、と気持ちいい音がする。
だが、名雪は起きなかった。
思い切って往復ビンタを敢行する。
だが、結果は同じだった。
「一体どういう寝相してるのかな…」
美咲が呟いたその時、近くに居たもう一匹の猫がうにゃあん、と鳴いた。
「ねこーねこー」
名雪はそこまで横にごろごろと転がって進む。
と、その動きが途中で止まった。
「うにゅ〜…」
そして、また身体がぶるりと震えた。
よく見ると名雪の身体に雫がぽたり、ぽたりと落ちていた。
美咲はそこで雨漏りに気がついた。
そして名雪は、そこでやっと身体を起こし、
「うにゅー、おはようございまにゅぅ〜…」
目を覚ました。
「ごめんなさい…私、朝はどうしても苦手で…」
遅い朝食の席で、名雪は素直に謝った。
「う、ううん、いいの、ぜんぜんいいの、あはは」
完全に引き攣った笑みで理緒が言う。
「いつつ…」
彰は未だ手を後頭部に当てている。よほど痛かったらしい。
美咲は溜め息をつき、理緒は太助を抱いてもそもそと食事を取った。

兎にも角にも、恐怖は去った。
だがこの小屋にいる限り、この恐怖はまた襲ってくるかもしれない。
彰は、これがもう一晩続くのかと戦慄し、真剣に美咲を連れてこの小屋から脱出する計画を考えていた。
理緒は、これ以上名雪といることに限界を感じた。

【彰 美咲 さおり 名雪 理緒 遅い朝食タイム】
【彰 後頭部が痛い この小屋から美咲を連れてトンズラしたい】
【名雪 猫狂いはとりあえず治まる】
【理緒 名雪に絶縁状叩きつけたい】
【三日目 昼】
【登場鬼:【七瀬彰】【澤倉美咲】【しんじょうさおり】【水瀬名雪】【雛山理緒】】
【登場動物:『太助』『ぴろ』】
305別れと再会:03/06/22 19:37 ID:MNz/3h+n
「アレ、名雪さんまだ帰ってきてないな」
「うん、見回りしてくるって昼すぎにでていったけど…」
「別れるなら今のうちか…」

 美咲、彰、さおり、理緒は、昼飯兼用の朝食をとった後ゆっくりとしていた。
 その間、名雪は周りを見てくると外に出て行った。
 気まずいらしい。雰囲気もどこか反名雪の状態だった。
 それに、名雪も自分のやったことをなんとなく自覚している。
 いくら、寝ぼけていても自分のやったことは悪いと思う。
 ――水瀬名雪が4人の元へ帰ってくることはなかった。

 名雪はその時、森の中にいた。
 猫さんや仲間と別れるのは辛かったが、自業自得と自分にいいきかせて。

「うー、眠いよ〜。あれだけ寝たのに〜」

 外で野宿だけはごめんだ。
 とりあえず、どこか休憩するところを――。
 と、目の前に誰かを発見する。
 そして、後ろを振り向いて声をかける。

「誰かいるよっ」
306別れと再会:03/06/22 19:38 ID:MNz/3h+n

 が、返事は返ってこない。
 何故なら、昼すぎに別れたのだから。
 そして、一人ということを実感していると向こうから声をかけられる。

「あれ? 名雪さんですか?」
「栞……ちゃん?」
「わぁ、会えてよかったですぅ、やっと、まともな現実に帰ってこれた気がします〜」

 向こうにいた誰か、は、栞と北川、住井だった。
 栞は地雷コンビに失礼なことをいいつつ、名雪に駆け寄る。
 栞の手にはちゃっかりとREADMEが握られている。
 名雪に読ませるつもりらしい。
 栞の目が輝いているが、怪しく輝いている気がしないでもない。

「名雪さん、これ読んでくれませんか?」

【美咲、彰、さおり、理緒 移動準備? 名雪から逃げるか相談】
【名雪 既に美咲、彰、さおり、理緒とお別れ。栞と遭遇。READMEを読めるか!? 孤独】
【栞 北川 住井 READMEを名雪に読ませる。一緒に行動する?】
【時間 4日目 夜】
307「マンイーター」 作者:03/06/22 22:30 ID:mHIG5Ie4
>>300-304の「マンイーター水瀬名雪・リローデッド」の改訂版投下しました。
http://jbbs.shitaraba.com/game/bbs/read.cgi?BBS=5200&KEY=1049038386&START=78&END=80&NOFIRST=TRUE

話もタイトルもまるで変わってしまってますが…
308小さな森の木の上で:03/06/23 20:17 ID:zjjHvKwX
「今日はここを宿とするか」
 木の上の随分と大振りな枝の上に寝転がって、岩切はつぶやいた。
随分と蜜に生い茂った葉のおかげで雨はしのげているし、
下からも自分の姿は隠れているはずだ。木肌の硬さを気にしなければよい寝床といえた。
「フゥ……」
 ため息をつく。それなりに疲れているようだ。
 犬を引き連れた鬼の三人組から逃れた後、二度と油断はしないという誓いに従い、
岩切は最大限に周囲に気を配りながら行動してきた。
その甲斐もあり、何度か鬼を見かけたものの相手に気づかれる事なく逃げおおせる事ができた。
 そうして、今は深夜。早朝から降り始めた雨はこの時刻になっても依然として止む気配がなく、
鬼にとっても逃げ手にとっても厳しい天候が続いている。
「私にとってはありがたい事だがな」
 とはいえ朝食用として先程屋台で買ってきた食糧が濡れるのは困る。
岩切は食糧が入った紙袋をもっとも雨に濡れなさそうな場所に移すと、
さらにその上に手持ちの布をかぶせた。
 さらに闇夜にまぎれるように、己の体を黒い外套で包む。
「フゥ」
 それだけの作業を終えると、岩切は再度ため息をつき、目をつぶった。

―――それから、数十分後。
「チッ」
 岩切は舌打ちをして、寝返りを打った。
 疲労は感じているはずなのに、どうにもよく眠れない。妙に気が張り詰めているようだ。
まあ強化兵は無理に眠らなくても数日ならば問題ないのだが……
「ん……!?」
 人の気配に、岩切は息を潜めた。程なくして、
うぐぅ、うぐぅという、奇妙な鳴き声が聞こえてくる。
(面妖な……見知らぬ獣か?)
 眉をひそめて葉の間から下を伺う。岩切の視界に現れたのは、
しかし予想と違って、泣きながら歩く少女の姿だった。
309小さな森の木の上で:03/06/23 20:19 ID:zjjHvKwX
(……鬼か)
 その身にかかる襷を見て、岩切は緊張を高める。どうやらこちらには気づいていないようだが……
「うぐっ、うぐぅ……」
 その少女は岩切の潜む木の幹にもたれかかると、さらにすすり泣いた。
その様子を見るに、どうやらしばらくそこから動く気配はないようだ。
(勘弁してくれ……)
 岩切は顔をしかめた。雨の夜、年端の行かぬ少女の啜り泣きを聞きながら寝るなど、
気分が滅入ってしょうがない。
 移動しようかとも思うが、うかつに動いては下の鬼に気づかれてしまうし、
この少女もすぐに移動するかもしれない。
 そういう迷いから、それからやっぱり何故泣いているのが気になって、
岩切は動けないでいた。
310小さな森の木の上で:03/06/23 20:20 ID:zjjHvKwX
 あゆは、香里達との接触の後ずっと泣いていた。
香里達はそれほど強く怒っていたわけでないし、最後には許してもらえたが、
それはなんていうか、呆れた、というか見捨てた、というかそんな感じだったわけで、
あゆもなんとなく情けなくなって泣いてしまったのだ。鯛焼きも全て駄目になってしまったし。
 雨にびしょ濡れになってしまったこともさらに鬱な気分に拍車を掛けてしまって……
「うぐ、うぐぅ……スン……うぐぅ」
 そんなわけで、あゆは木にもたれかかってうずくまり、泣いていたのである。
 だが、そんなあゆに、頭上から声がかけられた。
「少女、何を泣いている?」
「うぐっ!?」
 驚いて上を見上げるが、夜の闇のせいで声の主を見つけることができない。
「だ、誰?」
「誰だっていいだろう」
 頭上から聞こえてくる女性の声は、不機嫌な、それでいてどこか諦めの気持ちが漂っていた。
なんていうかそれは、しょうがないなぁ、とかそう言う感じで……
「質問しているのは私だぞ。何を泣いている?」
「ボ、ボク、泣いていなんかいないもん!!」
 泣いているところを見られてしまったきまりの悪さから、あゆは赤面して慌てて顔を拭く。
「そ、それに、お姉さんには関係ないよっ」
「関係はあるぞ。お前の泣き声のせいで目が覚めてしまった」
「うぐぅ……ごめんなさい」
 あゆはぺこりと頭を下げた。なんだかんだいって根は素直なのだ。
「まあ、そういうわけで気になってな……さしあたって、お前の名は?」
「ボクはあゆだよ、お姉さんは?」
 迷っているのだろうか、少し間を空けた後返答が帰ってきた。
「……岩切という」
「お姉さん、木の上にいるんだよね。こっちにこないの?」
「悪いが動くのが億劫だ」
 ひょっとしたら逃げ手さんなのかな、とあゆは思った。
でも、あゆも今は誰かを追いかける気にはなれなかった。
 だからあゆも木の下で幹にもたれかかったまま、見えない相手に話しかけた。
311小さな森の木の上で:03/06/23 20:20 ID:zjjHvKwX
「あの、お姉さん……ボクのお話聞いてくれますか?」
「もとよりそのつもりだ」
 ぶっきらぼうな答えが返ってきた。

「フン、なるほどな」
 あゆの話が終わると、岩切はボソッとつぶやいた。
「鯛焼きか、妙な偶然もあるものだ」
「うぐぅ? 偶然?」
「こっちの話だ……で、あゆ。お前はそれで泣いていたのか?」
「うん……香里さん達に悪い事しちゃったなって」
 うつむくあゆ。だが岩切の返答はあゆの予想とは違っていた。
「その事だがな……私に言わせればその香里という女は甘い」
「甘い……?」
「甘すぎるな。考えてみろ、お前とその女は一つの目標を巡る敵同士なのだろう?
ならば武器を奪って何が悪い?」
「うぐぅ……悪いと思うけど……」
「ここが戦場だと考えてみろ。お前は敵兵に銃を奪わないでください、とでもいうのか?」
「えっと、ここは戦場じゃないよ?」
「ま、まあそうだが……」
 あゆの馬鹿正直な返答に、岩切は少し言葉を詰まらせた。
「例えが少し極端になったかもしれないな。
なら、こういう考え方はどうだ? 
その女はお前が捕まえて獲得したかもしれない逃げ手の得点を奪って、その最終兵器とやらを購入した。
なら、お前がその最終兵器を奪うのも、正当な行為だろう?」
「うぐぅ……ちょっと騙されている気がする……」
「そ、そうか」
 頭上の女性はさらに言葉を詰まらせた後、さらに続けた。
312小さな森の木の上で:03/06/23 20:21 ID:zjjHvKwX
「ま、まあ確かに詭弁かもしれないが……な、ならば……えーと……
そ、そう! そもそも敵対している者に対して温情や倫理感を期待している甘さが気に入らんな、私は!
戦いは常に非常!! そこにはルールなど存在しない!!」
「戦争でもせんじほうとか、なんとか条約とか守らなきゃいけない約束とかあるって……」
「お、お前は一体どっちの味方なんだ!!」
「う、うぐ!!」
「い、いや……なんでもない」
 ごまかすような岩切の咳払いを聞いて、ひょっとしてこの人慰めてくれてるんだろうか、
とかそんな考えがあゆに浮かぶ。
「ひょっとしてお姉さん、ボクのことをなぐめようとしてる?」
「そう言うことは思いついても口にするなぁ!!」
「うぐぅ……!! ごめんなさい!!」
 再度岩切は咳払いすると、多少冷静な口調に戻った。
「ま、まあとにかくだ。そう言う考え方もあるということだ。
だから、お前も自分を一方的な悪者と卑下する必要はないぞ?」
「う、うん。でも……」
 まだ納得し切れていないあゆをさえぎるように、岩切は続ける。
「お前がすまないという気持ちを持つならば、私はそれを否定せん。
だが、お前がそんな風に泣いていても誰にも利する事はない。これは確かだと思うがな」
「うん……」
「自分の中で、どうしてもすまないという気持ちがあるのなら、これから頑張って得点を稼いで、
この競技が終わった後で弁償なりなんなりすればいいさ。違うか?」
「うん! そうだね!」
 あゆは立ち上がった。
313小さな森の木の上で:03/06/23 20:21 ID:zjjHvKwX
「ありがとう、お姉さん!」
「フン……あゆ、両手を前に出して、手のひらを上にあげろ」
「こう?」
 岩切の指示に従いポーズをとると、上から紙袋が落ちてきてスッポリとあゆの手に収まった。
「くれてやる。それでも食べてせいぜい精をつけろ」
「うぐ? あ……うわぁ」
 あゆは顔を輝かせた。紙袋の中には鯛焼きが入っていたのだ。
「お、お姉さん。もらっちゃっていいの?」
「どうせ冷たくなった残り物だ。味は期待するな」
「ううん、嬉しいよ!!」
「さっさと行け。私は眠い」
「うん!! ありがとうお姉さん!! おやすみなさい!!」
 あゆはブンブン手を振って元気一杯に礼を言うと、紙袋を抱えて走り出した。

(やれやれ、油断しないと昼間誓ったばかりだというのにな)
 あゆが立ち去った後、再び岩切は枝の上に寝転んだ。
 朝食もなくしてしまった。実を言えば狩猟では得られない、菓子の甘味は楽しみにしていたのだが。
「まあ、いいさ」
 あの少女との会話で、肩の力が抜けたというのも事実だった。
これなら眠れる事もできるだろう。
 慢心は己を殺す。
 が、緊張しすぎても疲労がたまる。
「ままならないもんだな」
 岩切はそうつぶやくと、目を閉じた。

【あゆ、冷えた鯛焼きゲット】
【三日目深夜、森】
【登場 岩切花枝】
【登場鬼 【月宮あゆ】】 
314戦慄のランデブー:03/06/24 23:12 ID:UPl0t6ju
「・・・詳細を聞かせてよ」
 弱められた照明の頼りない光、それの作り出す橙色の暗がりに佇みながら、
そんな事を口にする。
「・・・ゴルゴ?」
「違うわよ」
「つーか、お前誰だ?」
 シャワーを浴びたばかりで下ろしたままの洗い髪に、Tシャツに短パン。ラフな姿でいる
少女を眺めやり、浩之。
「岡田よ。岡田メグミちゃん。つーか、クラスメートと元クラスメートの顔忘れんな」
「髪下ろしてると誰だか分からないわねぇ」
 浩之の傍で椅子に座りながら胡坐をかいている(スカートで胡坐かくなよ・・・)志保が
浩之に同調してそう言うが、岡田は形の良い鼻をフンと鳴らしてサラリと黙殺した。
「本当の理由を聞かせて」
「はぁ?」
「鬼でありながら私達のサポートに回ってくれんのは、ありがたいわ。でも、その動機が今一、ね」
 岡田の言い分に、志保が眉を顰める。
「な、何よぉ、信用できないっての?」
「そうは言ってないわよ。信用ってより、納得したいの。ぶっちゃけ、藤田達を信用するしかないし」
「分かってるじゃない。あんた達の『ナマコロアタウバ』は、あたし達が握ってんだしね♪」
「それを言うなら『生殺与奪(セイサツヨダツ)』でしょ」
 岡田に突っ込まれ、むぐと口をつぐむ志保。
 そんな二人のやりとりを聞きながら、浩之は岡田の姿をしげしげと見ていた。よく見れば、
結構美人であったりする。・・・そんな風にぼんやり見ていると、
 げしっ・・・!
「・・・何だよ?」
「別に・・・」
 志保が蹴りをいれて来たので、剣呑な目付きで睨み返す。何故かちょっぴり唇を尖らせて
顔を反らせる志保。
315戦慄のランデブー:03/06/24 23:12 ID:UPl0t6ju
「・・・信用してくれんなら、それで問題ねぇと思うけど?」
「私は、他の二人みたく甘くはないわよ? 信用うんぬんは別として、藤田達の本当の所を
聞いて納得したいのよ」
 浩之達と合流後、暫くしてから見つけたこの別荘風家屋で休みを取る事にした一行。
びしょ濡れであった岡田と松本は、シャワーを浴びて服も替え、松本は今、別室で吉井と
一緒に休んでいる。
「結局それって、信用してないのと一緒じゃない?」
「かもね。・・・でも、『今さら鬼として頑張るのもなんだから偶然会った級友の逃げ手の
手助けをする』なんてのよりも、納得の行く説明をして貰えるなら、見方も変わるかもね」
「なるほどな。・・・・・・分かった。正直に言うぜ」
「ちょっとヒロ・・・!?」
 止めにかかって来る志保を、浩之は手で制する。
「・・・ま、確かに、手を組んだ動機は不純な物だな。打算ってヤツだ」
 浩之は、正直に言う事に決めたらしい。
「その逃げ手を勝たせて、後でオコボレを貰おうって魂胆だな。早い話」
 端的にだが正直に浩之が言ってしまったので、志保も溜息を吐きながら腹を括った様だ。
「念の為言っておくけど、発案はヒロだからね?」
「・・・つー訳なんで、優勝した時には、ワケマエはオレだけに宜しくな」
「ちょ、ちょっとヒロぉぉっ!?」
 二人のちょっとした寸劇に、岡田は肩を震わせてクスクスと笑った。
316戦慄のランデブー:03/06/24 23:13 ID:UPl0t6ju
「ま、冗談はともかくとして、だ。これで正直に言ったつもりだぜ? 理想は雅史かあかりの
サポだったんだけどな。お前達から雅史の事は聞いたし、この分じゃ、あかりももう鬼だろ」
「・・・佐藤君が鬼になった時、松本のやつ、随分落ち込んでね。吉井が食われた時も・・・」
 笑いを治めた岡田が、今度は顔を伏せてそう言う。
「・・・あんたらって、そんなキャラだったっけ?」
「やかまっしゃい。とにかく、正直な話を聞いて納得が行ったわ。藤田とか長岡って、佐藤君
みたいに根っからのお人好しタイプじゃないからね。何か裏があると思ってたわ。
 あんた達って、下手に善人ぶるより、そーいう方が却って『らしくて』いいわよ。
 吉井と松本も、きっとそう思うわね」
「褒めてんのか、それ?」
「そう聞こえない?」
 複雑な顔をしている二人に、岡田は微笑んだ。
「・・・岡田って、笑うと結構カワイーんだな」
「褒めても何も出さないわよ」
「何だよ? 冷てーな。パンツくらい見せてくれてもバチは当たらねーぜ?」
 浩之のセクハラ発言は、えらい勢いで飛んできたクッションと志保ちゃんキックによって
報いられた。
317戦慄のランデブー:03/06/24 23:13 ID:UPl0t6ju

 その頃、別荘内での彼等のやりとりを、夜闇の中に潜みつつ覗き見る者達がいた。
「・・・丁度良いのを見つけたわ」
「逃げ手が一人に、鬼が二人か」
「見たところ、『同盟』を結んでいるらしいわね」
「俺達とは違った道を選んだ鬼だな」
 木々の合間にある闇に身を潜めながら、そんな言葉を交し合う。
 晴香と和樹のペアだ。
 二人は、逃げ手を追い求めると共に、『鬼潰し』の道をも選んだ、正に悪鬼羅刹的行動を
取る事にした、ある意味危険な二人であった。
 あまりに露骨な『潰し』・・・排除は、ルールに抵触するかも知れない。だが、どこまでが
アウトラインであるのか、実際にやってみなければ分からない。
 ・・・それを見分ける為の、言わば『イケニエ』が、あの別荘の中にいる。
「おあつらえ向きだわ。全員潰すわよ」
 屋台で仕入れた捕獲用の武器・・・とりもち銃を構え、ニヤリと笑う晴香。とりもち銃の他にも
幾つか捕獲用武器をゴテゴテと背負っているので、何というか、もう既に雰囲気はテロリスト
そのものといった態である。
318戦慄のランデブー:03/06/24 23:14 ID:UPl0t6ju
「・・・燃えてるね」
 ギラギラと瞳を煌かせる晴香を見て、同じ様にとりもち銃を持っている和樹が、やや呆れた
風に苦笑した。
「そうね。貧乳小娘如きに鬼にされた鬱憤晴らしも兼ねているからかしらね」
 そう言って、うふふふふふ・・・と、悪夢にいざなう様な声で笑う晴香。・・・和樹は、その第一
の犠牲者となるであろう別荘内の少年少女達に同情した。
 が、
「・・・・・・・っ!?」
 突然、彼の身に得体の知れない悪寒が圧し掛かってきた。
「・・・? どうかした?」
「・・・・・・・いや、何でも、ない・・・」
 急にじっとりとした汗を浮かべ、不安そうに周囲を見回す和樹を、晴香が不審そうに見つめる。
(・・・・・視線・・・?)
 誰かの視線を感じたのだ。それも、只の視線ではない。それは・・・
「何してるの、行くわよ・・・!?」
「ん、あ、ああ。分かった」
 気のせいだよな・・・・・と思い込む事にして、和樹は別荘へ向けて影から影へと早足で
進んでゆく晴香の後を追った。
319戦慄のランデブー:03/06/24 23:14 ID:UPl0t6ju

 ・・・が、和樹の感じた視線は、決して気のせいによる物ではなかった。
 フフ・・・、フフフフ・・・、フフフフフフフフフフフ・・・・・
 突然、底冷えする様な笑い声を、前にいる弥生の背中が発する。彼女の後ろにいた響子が、
顔を引き攣らせて肩を震わせた。
「ど、どうかしました・・・?」
 恐る恐る、響子が声をかける。
「・・・・・見つけました」
 抑揚のない声で弥生が答える。・・・いや、その声は、暗い熱情に奮えているかのように、
響子には聞こえた。
「な、何を・・・?」
 反射的に口に出たが、響子はそれが愚問である事を知っていた。
 弥生が今、探しているものは、只一つ・・・
「千堂和樹・・・・・特徴もぴったり・・・。遂に・・・遂に、見つけましたよ」
 森が途切れた所に建っている別荘。その傍の森の境界線辺りの夜陰に、潜んでいる人影
らしき物がちらりと見えた気がした。だが、気のせいかも知れないし、例え人影であっても、
あれが千堂和樹であるという保障は・・・、というか、この雨降る夜闇の中で、それが誰で
あるか判別できたなら、特殊部隊の人もビックリな眼力であろう・・・
 と、響子が言うよりも早く、弥生は走り出していた。
「あ・・・、ああっ、もうっ・・・!」
 クタクタで、もう体力も限界に近かったが、響子は弥生の後を追った。・・・いや、追わな
ければ後で何をされるか分からない、ジャーナリストとして暴力等に屈するのは恥であるが、
そういった矜持さえ軽く吹き飛ばすほどの怖さが、今の弥生にはあったからだ。
320戦慄のランデブー:03/06/24 23:15 ID:UPl0t6ju

 再び、別荘内。
「・・・ま、私達も必死で逃げるけど、もしもの時は恨みっこなしだからね」
「分かってるわよ」
「岡田も、もう寝ろよ。オレ達が見張ってるからよ・・・」
 と、浩之が岡田を促した時である。
 どばーんっ!!
 突然、別荘の入り口ドアが吹き飛ぶ様にして開かれ、二つの影が飛び込んで来た。
「!?」
 何事かと浩之達が身構えるよりも早く、二つの人影は、持っていたライフル銃の引き金を
引き絞っていた。
 ばんっ! ばんっ!!
 二つの人影・・・晴香と和樹の放ったとりもち弾は、襷をかけている浩之と志保を狙って
いたが、晴香の物は外れ、和樹の物は浩之の肩に引っ掛かるようにして当たっただけで、
直撃はしなかった。
「ちっ・・・!」
 舌打ちする晴香。意外に反動が強く、全くの素人には少々扱い辛い。が、間髪入れずに
第二射を・・・
 撃とうとした時であった。
321戦慄のランデブー:03/06/24 23:15 ID:UPl0t6ju
 新たに、
「っ!!?」
 開け放たれた窓から、
「なっ、何だよ・・・!?」
 別荘内に飛び込んでくるものが。
 すたんっ・・・・・!!!
 ・・・と、浩之達と晴香達の間へ着地し、しゃがんだ状態からゆっくりと立ち上がる、美しい影。
 初めは、浩之達の方を見、そして、ゆっくりと晴香と和樹の方へ振り返る。その体には、襷が。
「別の鬼・・・!? いいわ、いずれにせよ潰す!」
「千堂和樹さんですね?」
 晴香の存在を、いや、ひょっとすると浩之達はおろか、逃げ手である岡田の存在さえ無視
して、その美しい影はそう口にした。
 いきなり名指しで呼ばれ、きょとんとする和樹。
 だが、
「・・・私、森川由綺のマネージャーを務めている、篠塚弥生と言う者です」
 森川由綺・・・その名前を聞いて、その場にいる者達全員が息を飲んだ。只、浩之達と
晴香達の飲み込んだ息の『質』は、全く異なっていた。
 特に、和樹は。
「も・・・・・森・・・川・・・・・?」
 とりもち銃を持つ手が、震えた。
「・・・私は、貴方を、探していました」
 弥生の氷の如き二つの瞳が、煮えた溶岩の様な燐光を伴い、和樹を射抜く。
 その瞳の中に、死神の様な姿を見た気がして・・・
 和樹の手から、とりもち銃が滑り落ち、床の上へゴトリと倒れた。

322戦慄のランデブー:03/06/24 23:16 ID:UPl0t6ju
【浩之・志保、岡田・松本・吉井・・・森が途切れた所にある別荘で休み】
【浩之、岡田に護衛についた真意を話す】 【吉井・松本は別室で休憩中】
【晴香・和樹ペア、浩之・志保、岡田を発見。襲撃】
【晴香・和樹は、吉井と松本の存在を知らない】
【弥生、執念で和樹を遂に発見】 【響子、もうクタクタ・・・】

時間>三日目、日没後
場所>森が途切れた所にある別荘
登場キャラ>【藤田浩之】 【長岡志保】 【吉井ユカリ】
         【巳間晴香】 【千堂和樹】
         【篠塚弥生】 【相田響子】
         岡田メグミ  松本リカ
323名無しさんだよもん:03/06/25 03:32 ID:gzqBAoyY
(・∀・)イイ
324ひとまずの決着:03/06/25 20:42 ID:auORKLvT
 雨の夜、二体の巨獣は旋風と化し島を駆け抜ける。
閃光が走り、地は爆ぜ、叩きつけられる雨は痛いぐらいだ。
もはやその追走劇は人の力の及ぶところではない。
 いや、人どころか―――
「狩猟者たるこの俺でさえ、傍観するしかないとはな」
 前を行く巨獣の肩に捕まる柳川は歯噛みせずにはいられなかった。
上には上がいるとは聞くが、ここまでとは。
 柳川の苦渋の声を聞きとめて、同じようにウィツアルテネミアにしがみつく友里が口を開いた。
「傍観者ですめばいいけど? 捕まったらあなた、ただじゃすまないわよ?」
 柳川は顔をしかめた。背後からは、

「柳川サァァァーーーーーン!! チョットオイタガ過ギマスヨォォォォォォ!!」
「行けぇぇぇーーー!! 進めぇぇぇーーーー!! 吶喊し、殲滅し、塵芥となせぇぇーーーー!!」

 などと、物騒な叫び声が聞こえてくる。
「確かに捕まったらただでは済まなさそうだな……」
「んに、大丈夫。オロをしんじろ、柳川」
「はい……ハクオロさんにまかせておけば全部おっけ〜へちゃらへ〜」
 みちると美凪の言葉に、友里がすこし呆れたようにつぶやいた。
「随分と信用されてるわね、あなた……本当に大丈夫なの?」
「ココマデイワレタカラニハナ」
 その顔に表情などないはずなのに、どこかウィツアルテネミアが微笑んだように感じられた。
「安心シロ。策ハ既ニ考テアル」
325ひとまずの決着:03/06/25 20:42 ID:auORKLvT
「アア!! モウ、往生際ガワルイデスヨ!!!」
 ユミコは苛立っていた。先行する柳川たちに依然追いつけないでいる。
後ろから何度かキャノンを放っているのだが……
「……!!! マタヨケラレタ!!!」
 どうやら実力では向こうの方が上らしい。その事はユミコにも分かった。
仮に能力が同等だとしても、戦闘に対する経験が違いすぎるのだ。
「惜しいっ、由美子さん!!! もうちょっと、左!! さぁ行け、ぶち当てろ!!!」
 芳晴も壊れたなりに頑張ってナビをしているのだが、所詮壊れているためあまり的確ともいえなかった。
「ソレデモ、勝ツノハワタシデスッッ!!」
 ユミコだって計算はしていた。この人知を超える鬼ごっこにこの島は狭すぎる。有利なのは追っ手であるこちらなのだ。
例え戦闘になったところで、相手に直接接触できる分、やはりこちらが有利である。
「コノママイケバ私ノ勝チデス!!」

「コノママ逃ゲテイレバ我ラハ負ケル」
「な、なに!!」
「ナニヨリ、コノママデハコノ島ハサラ地ニナッテシマウシナ」
「そりゃそうでしょうね……で、策ってのは?」
「コノ島ニハ奴ニモ手ヲ出セヌ場所ガアル」
 先程飛んだのは相手の攻撃を避けるためだけではない。そこの正確な位置を知るためだ。
「手を出せない場所だと……? グッ!?」
 柳川は慌てて女性三人の体を支えた。
急跳躍したウィツアルテネミアのすぐ下をユミコの巨大な手が通り抜けていく。
「モウスグダ!! 少シ動キガ急ニナルゾ!!」
 ウィツアルテネミアの警告と共に最後のレースがはじまった。
326ひとまずの決着:03/06/25 20:43 ID:auORKLvT
 ドォンッッッ!!!
 ユミコのタッチを跳躍して回避したウィツアルテネミア。
その着地によって、地響きが鳴り、野鳥が飛んでいく。
「……!?」
 ユミコは目をむいた。着地によって土煙が立ち、一瞬視界がふさがれたのだ。
(ヒョットシテ、攻撃ヲ誘ワレタ……!?)
 その一瞬の隙を付かれて、ウィツアルテネミアが別方向に跳躍する。
 だが、雨の中のこと。起こった土煙もたがが知れている。
「ソノ程度、目クラマシニモナリマセン!!」
 相手が跳んだ方向ぐらいはわかった。この程度では、差が開いたといってもたがが知れている。
 だが、一瞬だけ見失ってしまったのも事実。
そして、ウィツアルテネミア達にとっては――― 否、ハクオロ達にとってはそれで十分だった。
「……!? ソンナァァ……!?」
 ウィツアルテネミアの跳んだ先、ユミコの視界に移るのは、逃げ行く5人の姿。
女性三人を抱える柳川と、既に変身をとき人の姿に戻ったハクオロ。
そして―――ユミコが反応するよりも早く、彼らの姿は消えていった。
「柳川サァァァァァァァァァァン!!!!!」
―――鶴来屋別館の中へと。
327ひとまずの決着:03/06/25 20:44 ID:auORKLvT
 鶴来屋別館内に無事に逃げ込んだ後、念のために何階か上に上がり、
ハクオロたちは手近な客室で一息ついた。
「ふぅ。流石に疲れたぞ」
「お疲れ様でした」
 息を荒げ、どっかり椅子に座るハクオロの肩を美凪が揉む。
「ありがとう、美凪……みちる、平気だったか?」
「全然へーき! ジェットコースターみたいで楽しかったよ!!」
 みちるは笑ってVサインを作るが流石に疲れたのだろう。あまり顔色は良いとはいえなかった。
「でも、考えたわね。正直感心したわ」
「なるほどな。確かにこれならば手は出せまい。あの図体ではこの中には入っていけないだろうからな」
 ホテルの外から、ユミコの慟哭の叫びが聞こえる。だが、叫ぶだけだ。それ以上のことはできない。
「まぁ、そういうことだな」
 無論、この旅館を破壊する事はできるだろう。
だが他の宿泊客がいるかもしれない状況でそんな事をするなどルール以前の問題である。
流石にユミコたちもそれをするほど壊れてはいなかったようだ。
「とはいえ、事態はそれほど好転したわけではないぞ」
 ハクオロはため息まじりに告げた。
「あやつがこの旅館の前に張っている限り、我らは外に出る事ができん。
鬼に追われてもこの旅館の中でしか逃げる事ができない」
 廊下は狭く、挟み撃ちの危険もある。狩猟者でさえここは逃げ手側が不利なフィールドであった。
「ユミコの頭にのっていたあの青年がやってくるかもしれないし、
すでにこの旅館に泊まっている鬼もいるかもしれんしな」
 一連の騒音に気づかぬ宿泊者はいないだろう。
その中に鬼がいれば、そしてその鬼が、その騒音と逃げ手の存在を結びつければ……
 ハクオロは首を振った。
「覚悟しておいた方がよいな。長い夜になるかもしれん」
328ひとまずの決着:03/06/25 20:44 ID:auORKLvT

【ハクオロ一行 旅館内に逃げ込む】
【由美子と芳晴 旅館前。由美子は変身が解けぬ限り旅館に入る事ができない】
【旅館内の宿泊者不明】
【三日目夜】
【登場 ハクオロ、遠野美凪、みちる、柳川祐也、名倉友里】
【登場鬼 【小出由美子】、【城戸芳晴】】
329名無しさんだよもん:03/06/26 08:36 ID:VMvdtTQp
(・∀・)イイ!
330Night Writer R:03/06/26 18:42 ID:Q3o4DZYo
 ──諸民何為ぞ騒ぎ、諸族何為ぞ徒に謀る。地の諸王興り諸侯相議り主を攻め、其膏つけられし者を攻む、曰く、我等其縄を断ち、其鎖を棄てんと──

「……………………………………」
「……………………………………」
 鶴来屋別館前。
 そこに、二つの人影があった。
「…………………ドウシヨウ、芳晴クン……」
 片や、恋する解放者ユミコネミテア。
「……………………………………」
 片や、エリート退魔士城戸芳晴。
 激情に任せて突っ疾っている間はよかったが、いざ目の前の道が断たれてみると、基本的にはただの女子大生である由美子がこれからの展望を定めることができるはずがなかった。
 その巨体を無様に揺らしながら、為す術もなく左右に首を振ることしかできない。
「……コ、コレカラドウシタライイノカシラ……」
 似合わぬほど困惑した声で、芳晴にすがりつく。
「………………………」
 ……が、ある意味幸運だったかもしれない。由美子が、芳晴と出会えたことは。
 そして、ここまで行動を共にしてきたことは。
 そして、芳晴の理性を消し飛ばせたことは。
「……まずは」
 ゆっくりと芳晴が口を開く。
「まずは状況確認が最優先です。由美子さん、このあたり一帯の地形を調べてください」
 滑稽なくらい冷静な口調で、芳晴は命令した。
「エ、エエ……ワカッタワ」

 ユミコは高々と飛び上がるとぐるりとあたりの様子を確認。先ほどハクオロがそうしたように。
 ここは森の奥地。鬱蒼と繁る漆黒の中に、ポツンと切り開かれた広場。
 そして、そこに佇む場違いな建築物。
 地に降り立ったユミコは、見たままを芳晴に伝えた。
「なるほど……」
 感心したような唸りを上げ、顎に手を当てての考えるしぐさ。
「……ア、アノ……ヤッパリ、私モ……人間形態ニ戻ッテ、旅館ノ中ニ入ッタ方ガイイカシラ……?」
 沈黙に耐えきれなかったユミコの提案。が、芳晴は首を横に振り
331Night Writer R:03/06/26 18:42 ID:Q3o4DZYo
「いいえ、それはダメです。今の由美子さんは『前提条件』。俺たちの主戦力であり、同時に切り札であります。
 柳川さんたちも由美子さんが張っている間は建物から出てくることはないでしょう。俺たちはその上での奥の手を持たねばなりません」
 きっぱりと断った。
 そして、さらに数分。
「……よし」
 芳晴は顔を上げ、自分の背後に佇む巨人の顔を見据えると
「由美子さん、近くに屋台はありませんか?」
 と問いかけた。
「屋台? エエットォ………………」
 先ほど見た光景を頭の中に再生する。
「アア、ココカラ少シ南ニ行ッタトコロニ一台アッタワ。今ハ動イテル様子ナカッタ。何カオ買イ物?」
「ええ。……南ですね。ちょっと行ってきます。それと、由美子さんにはもう一つお願いが──」
「?」

 ──天に居る者は之を哂ひ、主は彼等を辱しめん。其時憤りて彼等に言ひ、其怒りを以て彼等を擾さん、曰く、我は彼より立てられて、シオン其聖山の王と為れり──

「……む」
「……客か?」
 由美子が発見したのはイビル・エビル率いる弐号屋台だ。暇を持て余し、まどろみ気味2人であったが近づく人の気配を感ずるとすぐに我に返る。
 そして、木々の間から出てきた人影と目が合う。
 そこにいたのは──
「……芳晴か」
「江美さんの屋台でしたか。ちょうどいい。買い物、させてもらいますよ」
 普段の仕事仲間の城戸芳晴だった。
 
「ほぅ、武器か」
「ええ。ちょっと今追ってる相手が難儀な連中でしてね。建物の中にまで追いつめることは出来たんですが、そこからがちょっと大変でして。
 俺が突撃隊として、あぶり出す作戦で行くことにしたんですよ」
「なるほど……。先ほどの大騒ぎは芳晴たちだったのか」
「え? 気付いてたんです?」
「あたりめぇだろ? あんだけ地響きかましつつ叫びまくってりゃ気付かねぇ方がおかしいぜ」
「それもそうですね。まぁ、どっちでもいいんですが」
332Night Writer R:03/06/26 18:43 ID:Q3o4DZYo
 しかし芳晴は憮然とした態度を崩さない。
「……そうだな、芳晴に扱えそうな武器といったら……このあたりか」
 同時に、芳晴の目の前にどさっと荷物がぶちまけられた。
 一般向けのとりもち銃や唐辛子系兵器、縄の投擲機などに加え、見慣れた……
「へぇ、退魔系の法具まで揃えてあるんですか」
 法衣、聖杯、聖水、聖餅、悪魔祓い用の道具まで一式が取りそろえてあった。
「まぁ基本的にうちは何でも扱っているからな。参加者の中には芳晴を含めた特殊能力者も多いので、一通りは揃っている。
 無論、魔族だけでなく対人・対特殊能力者用に改造されたものだ。殺傷能力は無いがな」
「そうですか。では……」
 その中の一つ。豪華な装飾が施された十字架を手に取る芳晴。
「……なかなかいいものですね。頂いていきます」
「うむ、感謝する。が、さすがに武器の類はかなり高いぞ。その十字架は──」
「ああ、会計はこれで」
 バン、と叩きつけるは鬼ごっこ券。
 約二十万円分の残りがあった、その全部だ。
 当然由美子から受け取ったものだ。柳川を捕まえるためと言ったら一も二もなく譲ってくれた。
「……………………………」
「……………………………」
 見慣れぬ額面の券に、我を忘れ呆然とするイビエビコンビ。
「じゃ、商品は頂いていきますね」
 そんな様子など一向に気にせず、商品を抱えて去っていく芳晴。
 2人が正体を取り戻し、券を抱えて狂喜乱舞するのは芳晴が消えてからたっぷり5分は経ってからのことであった。
 
 ──我命を宣べん、主我に謂へり、爾は我の子、今日爾を生めり。我に求めよ、我諸民を与へて爾の業となし、地の極を与へて爾の領となさん。爾鉄の杖を以て彼等を撃ち、陶器の如く彼等を砕かんと──
 
「ア、芳晴クン!」
 ホテル前でじっと芳晴の帰りを待っていたユミコ。その目の前に、待ち人が現れた。
 が……
「エ……? ヨシ、ハル……クン、ヨネ?」
 思わずそんなことを訊いてしまう。
「やだなぁ由美子さん何言ってるんですか。俺に決まってるじゃないですか」
「エエ、ソ、ソウヨネ……」
333Night Writer R:03/06/26 18:44 ID:Q3o4DZYo
 しかし、ユミコが思わず問いかけてしまったのも頷ける。
 戦闘用法衣に身を包み、胸には儀式用に装飾された巨大な十字架を下げ、片手に聖書を持ち、エリートエクソシスト本来の姿に立ち返った今の彼の姿は
 先ほどまでの好青年然とした雰囲気からは明らかに変貌を遂げている。例えるのなら、『聖なる闘気』。
 戦う神父としてのそんなオーラが、今の彼からは立ち上っていた。
「……デ、コレカラドウスルノ?」
「殴り込みます」
 単純極まりない戦法を、芳晴は告げる。
「俺が殴り込んで逃げ込んだ皆さま方をとっ捕まえてきます。舞台は屋内戦。俺にも十分勝機はあります。
 もし外へ逃げ出したら由美子さん、その時はあなたの出番です。漏らさず確実に捕まえてください」
 戦士の視線でユミコに指令を告げる。その雰囲気には、ユミコもただ首を縦に振ることしか出来なかった。
「……しかし、やはり現状ではまだ戦力に不安が残りますね。俺一人ではあの素早い方々を捕まえるのは難しいかもしれない……。……そうだな、ここは」
 何か決心したかのように意気込むと、芳晴は再度ユミコの頭の上によじ登る。
「飛んでください」
 そしてまたもや、星々の間にまで飛び上がった。
 その放物線が最高点に達したところで、芳晴は胸一杯に空気を吸い、叫ぶ。
 
「カモォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!! エィンジェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ルッ!!!!!!」

 数秒後、どぉぉぉぉ……んと地響きを立て、再び2人は地面へと戻った。
「……? 芳晴クン? 今ノハ……?」
「ああ、仲間を呼んだんですよ。仲間。俺の仲間で、幼なじみで、同業者で、そして……」
 
──くぉらぁぁぁぁ〜〜〜〜! よしはるぅ〜〜〜〜!! ヒトを呼ぶんだったらもっと考えた呼び方しなさいよ〜〜〜〜〜〜!!! あんな大声で〜! 恥ずかしいじゃない〜〜〜〜……!!!!

 遠くの空から、そんな声が聞こえてきた。
「……天使、です」
334Night Writer R:03/06/26 18:45 ID:Q3o4DZYo

「オッケイ! この建物ン中に獲物がいるわけね!」
 プンスカプンプンと飛んできた聖天使コリン。が、状況を説明してやるとそんなことはすぐに忘れ、速攻で狩りに向けて燃え始めてくれた。
「ああ。最低でも5人、この旅館の中に逃げ込んだ。外には出ていない。いや、出れない。捕まえるのにこれほどのチャンスは無い」
 正面にそびえる巨大なビルを睨みつけ、ごちるように解説する。
「ヨーシハールクーン! ガンバッテネー!」
 その屋上からのユミコの歓声。ユミコの仕事は、見張りだ。あそこならば、建物に入る人間も出る人間も漏らさず監視できるはずだ。
 壁は、完璧。
 ならば、あとは攻め上るのみ。

 激しい雨。打ち付ける雨。
 目の前にそびえるのは己を拒むかのような巨大な城塞。
 敵はこの中。
 この、中にいる。
「……………………………」
 静かに、静かに、芳晴の口は言葉を紡ぐ。
 
「我主の御名を唱え、我が言葉、主に届きて、我は大いなる苦しみより救われん。我主を待ち望み、主は我に向く」

 ツカツカと正面玄関に歩を進め、半壊したそれを蹴り開けるようにブチ開く。
 彼ら2人を出迎えたのは、静まりかえったエントランスホール。
 吹き抜けの天井が暗闇の中にまで続いている。
 まるで全てを吸い尽くすかのように。

「……芳晴、気をつけなさいよ。誰がいるのかもわからない。他の鬼の妨害もあるかもしれないわ」
「……わかっている。お前こそ、気をつけろよ。相手はただ者じゃない。生半可なことでは勝てないだろう」
「OK,OK,まっかせなさいって。巨人だか鬼だかかめはめ波使いだか知らないけど、この聖天使コリンちゃんにかなう奴なんていると思う?」
「……フッ」
 少し唇を綻ばせるが、すぐに顔を引き締め、芳晴の聖句は続けられる。
335Night Writer R:03/06/26 18:46 ID:Q3o4DZYo
 
「アドナイ、御身、とこしえに褒め称えられ、栄光に満ちる者の御力によりて」

 ホールの中央。そこに立ち、今は見えぬ天を見上げる。
 
「……AMEN」
 
 ──故に諸王よ悟れ、地の審判者よ、学べ、畏れて主に勤めよ、戦きて其前に喜べよ。子を恭え、恐らくは彼怒りて爾等途に亡びん。蓋其の怒り、速に起らん。凡そ彼を恃む者は福なり──


 長い夜は始まった。
 最後に笑うのは、一体誰か。


【芳晴・コリン 鶴来屋別館エントランスに侵入。とりあえず他の人影は無し】
【ユミコネミテア 現在屋上。あたりを監視中。残金無し】
【芳晴 エクソシストモード全開。退魔具購入済】
【登場 【城戸芳晴】・【コリン】・【小出由美子】・『イビル』・『エビル』】
336名無しさんだよもん:03/06/27 23:59 ID:HHfb7idP
337名無しさんだよもん:03/06/28 13:29 ID:emJ6irTM
ヨシハル(・∀・)カコイイ!
338名無しさんだよもん:03/06/28 20:02 ID:wX4X3nPT
339名無しさんだよもん:03/06/28 20:04 ID:3PWVm3do
モロ動画サンプル
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340山猫と老戦士─襲撃─:03/06/29 04:07 ID:rXpAT0XC
 草木も眠る丑三つ時。
 雨は未だやまず、そのせいで火もおこせない。ここは人の作った光も届かない森の奥深く、周りは
闇に閉ざされ、雨粒が木の葉や地に出来た水たまりに当たり跳ね返る音だけが響く。
 ところが、静寂と漆黒に塗りつぶされたその片隅で、僅かな光が漏れていた。
 その光が二人分の影を作り出す。見張りのために起きていたクロウと由宇の姿がそこにはあった。
「なあ嬢ちゃん、おとなしく寝ててもいいんだぜ。どうせこんなとこに来る奴なんて滅多に居ねえだろうし」
 大きい方の影の持ち主、クロウが言う。実際、夕食後郁美とさいかを早々に眠らせ、詠美が疲れからか脱落し、
カルラが見張りをクロウに押しつけさっさと眠ってしまってから早数時間、人が来る気配など微塵もない。
 それでも由宇は頭を振った。
「クロウはんも聞いたやろ、あの轟音。あんなんとか、もしかしたらもっとどエライもんがこの島をうろついとる
かもしれん。あんさんらと違うてウチらは普通の人間や。注意しすぎるっちゅうことはあらへん」
「そうは言うけどなあ…」
「ゴチャゴチャ抜かしてるとこの懐中電灯抱いたまま寝てまうで。それでもええんか?」
 地面に立てかけておいた懐中電灯をパッと手に取り、クロウに噛みつく由宇。
 この懐中電灯、由宇が昼間偶然見つけた屋台で昼食のついでに一応買っておいたものだ。もっともそのボッタクリとも
言えるような値段に由宇が憤慨し、店員である猫のような娘と喧嘩一歩手前の実に騒々しい値切り合戦を繰り広げたのだが、
とりあえずここでは割愛する。
 夜間戦闘の心得もあるクロウにしてみれば、別に由宇がそうしても構わないのだが、どうせ由宇は納得しないだろう。
数時間程前に出会ったばかりだが、クロウは早くもこの少女の性格を掴んでいた。
 苦笑し、両手を挙げるポーズを取りながら降参する。
「わかったわかった。でも無茶はしない方がいいぜ?」 
「痩せても枯れてもウチは同人作家や。一晩や二晩の徹夜くらいどうってことない。気持ちはありがたく貰とくけどな」
 顔を見合わせ、お互いニヤリと笑みを浮かべる。懐中電灯を定位置に戻し、寒さを感じたのか由宇が腕をかき抱いた
ところで、また静寂が戻ってくる。


 そして、そんな彼らのやりとりを闇の奥から見ている者たちが居た。
341山猫と老戦士─襲撃─:03/06/29 04:08 ID:rXpAT0XC

 時を少し遡る。

 もう日も暮れようかという時刻、デリホウライは姉であるカルラの姿を求めて足を動かしていた。
港で付けられた屈辱の証は、降り続く雨に打たれるままにしてなお消えていない。
服も髪もペンキにまみれ、傷口からは僅かに血が滲み、それでもなお覇気を失わない目で前を睨み付けていた。
 と、肉体とは裏腹に研ぎ澄まされた感覚が何物かの気配を捕らえる。 
「そこにいるのは誰だ」
 足を止め、言葉を投げかける。
 果たして、かの人物はさほど間を置かずに姿を現した。
「お初にお目にかかる。若き皇よ」
 無骨な鎧を着込み一目で業物と分かる刀を携えた、右目に眼帯、左肩に襷を掛けた老人。
「カルラゥアツゥレイの皇、デリホウライ殿とお見受けいたすが」
「……何物だ」
 その風貌から即座に相手がただ者ではないと悟ったデリホウライ、ここが遊戯の場であることも忘れて固い声のまま
相手を問いただす。相手はいつの間にやらこちらに近づき、しかも自分の立場も知っている。油断はならない。
 一方の老人はそんなデリホウライの様子に気付いたのか、肩の力を抜き、
「失礼した。某はゲンジマルと申すもののふにございます」
一礼してそう答えた。
342山猫と老戦士─襲撃─:03/06/29 04:09 ID:rXpAT0XC
「貴公のことはハクオロ殿から聞いております」
 ここは昨晩ゲンジマルが夜を明かした川原。デリホウライの服や体が盛大に汚れているのを見たゲンジマルは
ここに彼を連れてきて洗い流すように薦めた。今の言葉は身なりを整え終わったデリホウライに改めて放った一言だ。
「そうか。俺も貴殿のことはよく知っている」
 目の前に立つのはエヴェンクルガの生ける伝説。そして自分たちの父親を七度に渡る一騎打ちの末打ち倒し、
ギリヤギナの國が崩壊した原因の一端を担う人物でもある。
 だが、いわば親の仇とも言える人間を目の前にして、デリホウライは驚くほど静かであった。
 幼少の頃の出来事で、記憶にないということもある。しかし一番の理由は、國が滅びたのはゲンジマルのせいではないと
理解しているからであった。
 彼の國──ラルマニオヌが滅びたのはギリヤギナであることの驕り故。生来の強さの上にあぐらをかき、弱者を甘く見たが故。
 そこまで考えてデリホウライは不意に気付いた。
 驕り故に負ける、それはつい先刻の自分にも言えることではないのか。姉に認めて貰いたい、その一心で自分は大切なことを
忘れていたのではないのか。
「どうなされた?」
 その声に、デリホウライはハッと顔を上げる。
 見ればそこには気遣うような声を掛けながら、表情に変化はないゲンジマルの姿。
「いや……何でもない」
 反射的にそう返すが、それは嘘だと見抜かれているなとデリホウライは思った。 
343山猫と老戦士─襲撃─:03/06/29 04:11 ID:rXpAT0XC
「では、俺は行く」
 あの後、結局先程自分の身に起こったことを語り、カルラの姿を見なかったかを聞いたが、ゲンジマルは首を横に振るだけで
あった。その他の情報を交換し、語ることもなくなったデリホウライは再び目標に向け動こうとする。
「デリホウライ殿、しばしお待ちを」
「何だ?」
「某も同行してよろしいかな?」
 その言葉にデリホウライは驚きを隠せない。だがゲンジマルはそんな彼の様子を無視して続ける。
「某、カルラ殿と一度手合わせをしたことがありましてな。その決着がお預けになっている状態なのです。
ならば、ここでその決着を付けることも一興かと」
 トゥスクルで「稽古」と表して剣を交えた時の事を語る。その言葉にデリホウライはますます目を丸くしたが、すぐに
平静を取り戻しゲンジマルに一つだけ問うた。
「何故、それを俺に聞く?」
 そう、カルラと決着を付けたいのであればわざわざそんなことを言う必要はない。ゲンジマルほどの手練れともなれば
自分を出し抜くことなど簡単だろう。
 ゲンジマルの真意が掴めず、困惑するデリホウライ。だがゲンジマルはそんな彼にお構いもせずにこう抜かした。
「その方が、楽しいからで御座いますれば」
「……何?」
「昨夜から運がなかったのか、一日逃げ手に出会えずじまいでしてな。そこに降って湧いたように訪れたこの好機。
獲物も、それを追い競う相手も申し分ない。これを逃すなど勿体ないことは出来ませぬ」
 笑みを浮かべながら言う。その言葉にデリホウライは肩の力が抜けていくのを感じた。
 と同時に、自分がいかに張りつめていたかに気付く。確かに自分にはなさねばならぬ目標があるが、戦場のように
張りつめていては空回りするだけだ。ここは遊戯場なのだから。
 そう思ったデリホウライは息を吐き、ゲンジマルと同じような笑みを浮かべながら首肯した。
 ここに、協力でも敵対でもない奇妙な連帯が出来上がった。
344山猫と老戦士─襲撃─:03/06/29 04:12 ID:rXpAT0XC
 そして、舞台は夜の森へと戻る。
 デリホウライとゲンジマル、二人の猛者はカルラとさいかの仕掛けた罠をものともせずに進撃し、今は彼女らの
休む簡易なテントを見下ろせる枝の上にいた。
 由宇もクロウも、その存在に気が付いていない。
(サクヤ、今頃どうしとるんやろか……)
(ありゃあ確かに総大将だったよな……一体何がどうなったんだか)
 降りしきる雨の音はゲンジマルとデリホウライが罠を潰す音を吸収してしまっていた。もっとも、カルラがギリヤギナの
生存術として見事な罠をこしらえたように、この二人の罠の解除術も相当なものだったということもあるのだが。
 ともかく、見張りの二人は彼らの進入を許してしまった。
「では、行くぞ」
「御意に」
 枝上の二人は最後にそれだけ言葉を交わした。そして、二つの影が目標を狩るために疾走する。
 枝がしなり、ガサリという葉の鳴る音に由宇とクロウが身構えたとき、その影は最早すぐそこまで来ていた。
 静寂が破られる。
 まだ、彼らに朝は訪れない。



【由宇、クロウ テントの外で見張り、鬼の進入に気付くが時既に遅し】
【デリホウライ、ゲンジマル 罠地帯攻略、獲物はカルラ、テントに向かって一直線】
【しのさいか、立川郁美、大庭詠美、カルラ テントの中で就寝中】
【時間 三日目26時(四日目午前二時)】
【場所 森の中】
【登場 クロウ、猪名川由宇、カルラ、大庭詠美、しのさいか、立川郁美、【デリホウライ】、【ゲンジマル】】
345中の人たくさん:03/06/29 14:45 ID:G7k4hXDe
ここはとある小屋。
といっても惨状は凄まじく、窓ガラスはぶち破られ、中は飲食物が散らかりまくって大変な状況だ。
原因は街道の禍日神と化してしまったトウカの暴走にあるわけだが。
そのトウカといえば今はぐっすり眠っており、襲われたヌワンギも気絶したまま動かない。
そして吹き飛ばされた伏見ゆかりもそのまま気絶してしまったようだった。
これまでの疲労が溜まっていたのが一因していた。
「どーなったんだ?」
折原浩平は未だ困惑したままポツリと呟いた。
「大丈夫、魔法で眠ってもらったからしばらく起きないと思うよ」
その問いにグエンディーナの魔女、スフィーが答える。
ちなみにその身体は散らかった飲食物の上に飛ばされたので滅茶苦茶な訳であるが。
「スフィーさんって本当に魔女だったんだね。すごいなぁ…」
長森瑞佳が本当に感嘆したような声をあげる。
いつも一緒に行動していた瑞佳だが、スフィーが魔法を使った場面は一度も目撃した事がなかった。
初めて見た本物の魔法に少し感動しているようだった。
「つか、さぁ…どうするよ、これ?」
浩平が小屋の惨事を見回して呟く。
「…ちょっとぐらいは感心して欲しいよ、こーへー…」
スフィーが不満そうに言うが浩平は流す。
「やっぱり片付けないとダメだよ、浩平」
「うへ、めんどくせー…」
という訳で、3人は小屋の片付けを開始した。
346中の人たくさん:03/06/29 14:46 ID:G7k4hXDe
が、
「つかれた、眠いー…」
スフィーが早くも音を上げた。
「俺だって疲れてるんだよ…」
「スフィーさんはもう寝たらどうかな」
それを聞き取った瑞佳がそう薦めた。
「お、おいちょっと待て長森」
浩平は非難の声を上げるが、瑞佳はそれを制した。
「ダメだよ、トウカさんを止めてくれたのはスフィーさんなんだから。それに、浩平は男でしょ?」
だから、と付け加えて
「だから、スフィーさんはもう寝ていいよ。私と浩平と、二人で片付けるから」
スフィーは少し申し訳なさそうにしたが、結局瑞佳のやんわりとしたオーラに頷き、そのまま寝てしまった。
「長森…どういうつもりだ…」
浩平が恨めしそうに瑞佳を睨む。
「言葉通りだよ。さ、続けるよ浩平」
瑞佳はあっさりとそれをかわし、再び作業を再開した。
浩平は一つ息をつくと、結局それに従った。
――ったく、俺には容赦ねぇなぁ…

「クシュン!」
その頃、美坂香里が一つくしゃみをしていた。
347中の人たくさん:03/06/29 14:46 ID:G7k4hXDe
結局、二人で片付けを続けた。
「大分片付いたね、浩平」
「あー、たった二人だからかなり時間食っちまったがな。疲れたぞ全く…」
浩平が溜め息をついて軽く皮肉を言う。
「だって、ゆかりは気絶しちゃったし、スフィーさんはトウカさんを止めてくれたんだもん。浩平も私も何もしてないでしょ?」
「ったく…」
浩平は不承不承、という感じで雑巾を絞る。
「あぅっ!」
その時、瑞佳が何かにつまづいて転んだ。
「あ痛…」
「なんだ、結局お前も疲れてるんじゃないか」
「うー…うん」
瑞佳は膝をさすって立ち上がると、作業を再開した。

「クチュン! …あぅー…」
その頃、沢渡真琴が一つくしゃみをしていた。

結局1時間ばかりかけて片付けが終わった。
「やっと終わった…」
「ありがと、浩平」
瑞佳がやんわりと微笑む。
「ったく…あー、疲れた…俺ももう寝るぞ…」
「了承だよ、浩平」
「キャラが違うぞ、長森…」
浩平がツッコミを入れ、横になった。
「私も眠いや…」
そして瑞佳も、浩平の隣りで横になった。
その姿はさながら、新婚夫婦のようだった。
348中の人たくさん:03/06/29 14:47 ID:G7k4hXDe
「くしゅ!」
その頃、水瀬秋子がくしゃみをしていた。

…声優が多い人も大変やね。

【浩平 瑞佳 スフィー 昼寝】【トウカ 熟睡】【ゆかり ヌワンギ 気絶】
【小屋の片付け完了】
【声優繋がりで3人くしゃみ】
【三日目2時ごろ】
【登場キャラ:【折原浩平】【長森瑞佳】【スフィー】【伏見ゆかり】【トウカ】【ヌワンギ】【美坂香里】【沢渡真琴(この時点では鬼になっていませんが)】『水瀬秋子』】
349マナーは大切にね☆:03/06/30 00:47 ID:hjWowJam
「ふぅ……いいお湯だったぞ」
 清(略は顔を上気させて、浴室から上がってきた。
「一番湯をもらって申し訳ないな」
 湯につかりゆっくりした事でわりと理性を取り戻せたらしい。ペコリと頭を下げる。
「あははーっ、気にしないで下さい」
「そうね。なつきさん疲れてるみたいだったし」
「うむ……確かにな」
 夜通しあっち向いてホイだの、マッパで指すまだのやっていれば確かに疲労もたまるだろう。
風邪を引いていないのが不思議なぐらいだ。
「それではすまぬ。少し寝かせてもらおう」
「はい。適当な時間になりましたら起こしますね〜」
 清(略)が寝室に入っていくのを見届けると、七瀬は口を開いた。
「それじゃ佐祐理さん、次どうぞ。その後あたしね」
「えー! そりゃ横暴っすよ!!」
 矢島がブーイングを始める。彼だって泥まみれで、さっさとシャワーを浴びたいのだ。
「だーめ。レディファーストよ」
「ハァ? 佐祐理さんならともかく、誰がレディだって?」
「まったくだな! お前のような汚れエロインごときと佐祐理さんと肩を並べるなんざ片腹痛いぜ!!
 ささ、どうぞ佐祐理さん浴室へ」
「あんたら……ずいぶん差別してくれるじゃない!!」
 顔を引きつらせてずいっと前に出る七瀬。
「覚悟は出来てるわね、矢島に垣本ぉぉっっ!!」
 その拳が光って唸る!! ……前に、矢島はしれっとして言い返した。
「ストーップ!! いいんですかい、ここで殴るってのは乙女らしくないんじゃ?」
「うっぐぅ……!」
 矢島の言葉に七瀬が顔をゆがめた。 
350マナーは大切にね☆:03/06/30 00:48 ID:hjWowJam
「ほーれほれ、殴らないんですか〜」
「フッ、語るに落ちたなこの漢女!! やはりお前なんざ佐祐理さんの足元にも及ばないぜ!!」
「は、図ったわねぇ、あんたらぁぁぁーーーー!!」
 今までこき使われた仕返しとばかりに七瀬をからかう矢島に、
それに調子を合わせる垣本。七瀬は地団駄を踏むばかりだ。
「あ、あんた達!! お、覚えてなさいよ!!」
「ほらほら、乙女だったら『あなた方、どうか私のことを忘れないで下さい』とか言わないと」
「クゥゥゥ……腹立つー!! 私だって乙女なのにぃ……!!」
「あはは……まあまあ」
 流石に見かねたのか、騒ぐ三人に佐祐理が割って入った。
「良かったら七瀬さん、一緒に入りませんか? そちらの方がお二人をお待たせせずにできますし」
「ん……いいの?」
「お風呂場も大きいみたいですし。良かったらですが」
「そうね。うん、じゃ、そうしよっか」
「ちょっと待てぇ!! それじゃ混浴じゃないか……グハッ!!」
 今度こそ七瀬の鉄拳が垣本に振るわれた。

「まぁ、ちょっと調子に乗ってからかいすぎたかもなぁ」
 血だまりに倒れる友人を尻目に、矢島はつぶやいた。
同じだけ七瀬をからかっといて無事なあたり、この男なかなかに要領がいい。
「ま、いいか。姉さんのことだ。すぐ忘れるだろ」
 既に佐祐理と七瀬はお風呂場へ消えている。
矢島は適当に垣本をつつくと、ご愁傷様、とつぶやいてソファにどっかり座り込んだ。
 と、そこにドンドンと外から扉を叩く音が響いた。
「ん……?」
 めんどくせぇな、とか思いながら、無視するわけにもいかず矢島は玄関にでて、ドアを開く。
「どちらさん?」
 目の前には狐耳の男と、眼鏡を掛けた男がいた。
351マナーは大切にね☆:03/06/30 00:49 ID:hjWowJam
 狐耳の男が口を開いた。
「うるさいんだ……」
「は?」
「貴様らうるさいんだ!! こっちは寝てるんだぞ!!」
 血走った目でその男は激昂する。だが、隣の眼鏡の男がその肩をポンポンと叩いた。
「落ち着け、オボロ君……僕らは隣の部屋を使っているものですが」
(ああ……そういや、隣で寝てるとか言ってたっけ)
 矢島は思い出す間にも、眼鏡の男は続ける。
「そこで睡眠をとろうとしていまして。どうか静かにしていただきたい」
 眼鏡の男の口調は丁寧で落ち着いたものだった。もっともやはり苛立ちは隠しきれていなかったが。
「こんな時間に寝ている僕達にも非はありますが……先住権はこちらにあるわけですしね」
(姉さんからかうときに、ずいぶんさわいじゃったもんなぁ……)
 矢島は頭を下げた。
「いや、悪いっすね。静かにしてます」
「頼みましたよ」
「……分かったな」
 狐耳の男の方はまだ何か言いたそうだったが、眼鏡の男に背中を叩かれ、渋々と引き上げた。

「あああああああーーーいい湯だわーっ」
 掛け湯をして泥を落とし、湯船につかると、七瀬はその快感に思わずそんな歓声を上げてしまい、
次いで顔を赤らめた。クスクスと、体を洗いながら佐祐理が微笑む。
「お、オジサンくさかったかな……今の?」
「いえいえ、そんなことないですよ」
「う……だったらいいけど」
 顔を赤らめたまま、七瀬は佐祐理のほうを見る。
(でもあの馬鹿達の言う事も分かるかも……ほんとにこの人お嬢様って感じ)
 清楚な雰囲気と豊満なプロポージョンを併せ持つ矛盾。
つけている下着もとても高級そうだったのにそれが嫌味に感じさせない。
(綺麗な人って、どこか冷たそうな感じあるけど、この人違うもんなぁ……まさしく、これぞ乙女って感じよね)
 七瀬だって、それなりに自分の容姿には自信を持っていたが、これにはちょっと敵いそうもない。
352マナーは大切にね☆:03/06/30 00:50 ID:hjWowJam
 ちょっと自信喪失して、七瀬はうつむいた。
「ふぇ? どうかしましたか?」
 その様子に気が付いたのか、佐祐理が首をかしげた。七瀬は慌てて手を振る。
「あ、ううん。なんでもないのよ……えーと……さっき醜態みせちゃったなって」
「あれは矢島さん達が悪いですよ。佐祐理は七瀬さんのこと素敵な女の子だと思いますよー」
(佐祐理さんに言われても嫌味になっちゃうなぁ)
「それに、醜態でしたら佐祐理も見せたますし……」
 今度は佐祐理が顔を赤らめる。
「本当に恥ずかしいです……あんなふうに泣いちゃったりして……」
 顔を真っ赤にしてそむける佐祐理に七瀬は、
(あ、ひょっとしてお風呂に誘ったのって二人きりで話を聞いてもらいたかったのかな?)
 とかそんな考えが頭に浮かんで、だから七瀬は、
「いいわよそんなこと。ねぇ、今まで鬼ごっこどうだった?」
 そんなふうに話をふった。

「一体誰がきたんだ?」
「お隣さん。寝てるから静かにしろってさ」
 もう復活したのかよ、とかちょっとそのタフさに感心しながら、矢島は垣本に答えた。
そうして、そこら辺の戸棚や引き出し、冷蔵庫などを開けていく。
「矢島、何してんだ?」
「食糧探し。基本っしょ」
 色々と七瀬とともに家捜しして、どうやらこの鬼ごっこ、食糧がある家とない家の当たり外れがあることが経験的に分かっている。
おそらく、こうやって食糧を探がさせる事によって逃げ手の移動を促進し、
鬼とのエンカウント率を上げ終了までの時間の短縮を図るというのが企画側の意向なのだろう。
「お、お前そうやってせこい事してあの人達にとりいるつもりだろ!!」
「地道な努力といえよな……お、ラッキー」
 どうやらこの部屋は当たりの部屋だったようだ。いくつか食糧が見つかりテーブルの上に積み上げた。
353マナーは大切にね☆:03/06/30 00:51 ID:hjWowJam
「これならこの人数でも一食分にゃ足りそうだな。さて、どうしよっかな。
自分で料理してポイント稼ぎするか、佐祐理さんの手料理を堪能するか」
「お前も佐祐理さんを狙ってるのかよ!!」
「そりゃそうだろ? 姉さんも見てくれは悪くないが、あいにく俺は神岸さんみたいな家庭的な女がタイプだ」
 見つかった野菜を手に取り、水で洗う。
「ちょ、ちょっと待て!! 佐祐理さんを連れてきたのは俺だぜ!?」
「まーな。だが……」
 クイっと親指を寝室のほうに向ける。
「ババを引っ張ってきたのもお前だ」
「グ……」
 言葉を詰まらせる垣本に矢島は続けた。
「まあ、お前はあの眼鏡っ娘なかよくやってれば? 熱い勝負をした仲なんだろ?」
「そうはいかない!! 今の俺は佐祐理さん一筋!! 佐祐理さんの愛を受けて俺は輝く!! 脇役を脱する!!」
「脱脇役を目指してるのは俺だっていっしょだ。活躍の場は俺がもらう」
 野菜の下ごしらえだけでもしとくか、と矢島は包丁で人参の皮を剥きながら答えた。
「そうはさせんぞ!! 出番のもらえなかった南、斉藤、城島……!! お前らのためにも俺は佐祐理さんの愛を射止める!!
というわけで、矢島!! その包丁よこせ!!」
 つかみ掛かってくる垣本に矢島は驚きの声を上げた。
「お、おい!! 危ないって!! 俺包丁持ってんだぞ!」
「この漢垣本!! 危険なぞ恐れぬ!」
「いや、わけわからねーよ!!」
 怒鳴りあいながら包丁を取り合う垣本と矢島。その二人に―――
「諸君らは、ボクシングというスポーツをご存知ですか?」
 冷たい声が届いた。
354マナーは大切にね☆:03/06/30 00:52 ID:hjWowJam
「うわー そりゃその子むかつくわね〜」
「そうですよ! そりゃ捕まえようとしたのは佐祐理ですけど!」
 湯船のなかで佐祐理はプンスカ。今は七瀬のほうが体を洗っている。
「でも、結構ひどいめにあったのね、佐祐理さんも」
「はい……ちょっと不慣れな役どころでした……」
「あはは、汚れ役ってきついもんね」
 そこらへん、実感がこもってる。
「あたしも夕方ちょっと悔しい事があってね―――」
 七瀬と佐祐理の会話は弾んで止む気配がない。
もともとおしゃべり好きな二人である上に、佐祐理にいたっては鬼ごっこが始まってから今まで落ち着いて誰かと話す機会がなかったのである。
 そんなわけで、矢島と垣本のために風呂に入る時間を短縮しよう、なんて目的は当の昔に忘れ去られていた。

「ボクシングは僕も好きなスポーツでしてね……」
 クククと咽喉の奥で笑いながら、お隣の眼鏡の男はズカズカと土足で部屋の中に入ってくる。
「あ、いやー お隣さん?」
 先程見たときよりも、さらに目は血走り、髪はグシャグシャになっている。
「その中でも特にお気に入りのパンチがあるのですよ……」
 ジリジリと近寄る眼鏡の男。だが、今度は狐耳の男がその肩に手を乗せた。
「いや、まあ久瀬、少し落ち着け。気持ちは分かるがな」
 垣本と矢島をにらみつける。
「一体何を騒いでるんだ? その包丁は何だ?」
「あー……」 
 流石にきまずくなって、矢島は包丁を置くと頭をかいた。
「なんつーか、女を争ってるって言うのかな? こいつと」
「そうだ! 愛と出番を手に入れるために戦っているところだ!!」
「なんだか知らないけどな……」
 狐耳の男は頭をかいた。
「貴様ら……自分の都合だけじゃなくて、想い人の都合も考えたほうがいいぞ?」
「オボロ君……?」 
 その言葉に、眼鏡の男が狐耳の男に意外そうな目をむける。
355マナーは大切にね☆:03/06/30 00:53 ID:hjWowJam
「自分の事ばかり相手に押し付けてるとろくな事にならん。俺もそれで少し失敗してしまったし―――
先刻、そうやって想い人に嫌われてしまった奴を見てしまったしな……そいつは最後に思いとどまれたが」
「…………」
 眼鏡の男も思うところがあるのか目を伏せた。
「まあ、俺が口出すことじゃないんだが……」
 自分でも柄にない事を言ったと思ったのだろう、狐耳の男は舌打ちすると、声を荒げた。
「とにかく、静かにしてろ!! いいな!」
「頼んだよ……」
 怒りが滲んだ声で二人はそういうと、外に出て行った。
矢島はそれを見送りながら、頭をかく。
「やっちまったな……相当怒ってんな、ありゃ。とにかく静かにしてよーぜ」
 そういって垣本のほうをむくが……
「か、垣本どうした? 震えてんぞ?」
「ぬぐぐぐ……この漢垣本、目から鱗がおちたぞ!!」
 天をあおぎ、絶叫する。
「そうだ、そのとおりだ!! 出番がほしいなどという自己中心的な思いで愛を射止めようなど笑止千万!!
ありがとう、お隣さん! そのお言葉、しかと受け止めた!!」
「お、おい、垣本、ちょっと」
「今までの俺は、真の漢でなかった!! その愛に邪念があったのだ!!」
「わかった、わかったからちょっと黙って……」
「今こそ俺は真の愛に目覚めた!! この愛こそ真実!!」
 ガチャっと扉が開く。
「ああ、天よ!! この愛を祝福してくれ!! そしてどうかこの俺にあの方の愛を……って、お隣さん?」
 狐耳の男と眼鏡の男はにこやかに笑うと、励ますように垣本の肩に手を乗せた。
 既に矢島は別室に逃げていた。
 二人は互いに顔を見合わせてうなずくと、再度垣本に微笑みかけた。

「で、この折原ってやつがむかくつのよ、ほんとに―――って、あれ?」
 七瀬は顔を上げた。
「今、『シャーッ』とか言う声が聞こえなかった?」
「ふぇ? そういえば佐祐理の見えない角度でボディーブローがえぐりこまれた気がしますねー」
356マナーは大切にね☆:03/06/30 00:53 ID:hjWowJam
―――その後、
ごめんごめん長湯しちゃったわー、と上がってきた七瀬たちは、適度にボコボコにされた垣本に驚き、
いやこいつは気にしないでください、この矢島が下ごしらえした材料で是非とも料理お願いします、と言われ、
そ、それじゃ佐祐理が作りますねー、と佐祐理が料理を引き受け、
その手腕に七瀬は出る幕がないと悟り、仕方ないので、垣本の手当てをしてあげるということになり……
「姉さん、とどめささないでくださいよ?」
「あんたねぇ……こう見えてもあたし、こういうのなれてるのよ? 剣道で生傷が絶えなかったせいだけど」
 部屋からみつけた救急箱を使って、垣本に膝枕をしながら手際良く手当てしてあげる七瀬。それを見て、
(まあ、こうしてれば姉さんも結構いけてんだけどなぁ)
 と矢島は矢島は胸中でつぶやいた。
 膝枕をしてもらっている垣本がそれなりに羨ましくはあった。

【清(略) 熟睡】
【佐祐理 料理中。お隣の人が誰か気づいていない】
【垣本 適度にボコボコ。真の愛に目覚める】
【久瀬、オボロ 睡眠中。隣室の佐祐理に気づいていない】
【三日目夜 市街地のアパート】
【登場 【倉田佐祐理】、【七瀬留美】、【垣本】、【矢島】、【清水なつき】、【久瀬】、【オボロ】】
357解放されし者:03/06/30 01:17 ID:PAEIOSDe
さて、と雪見はアルルゥの手を取って、立ち上がらせる。
少し離れたところで気絶しているなつみを起こそうか、と歩き出した。

──瞬間。

突如、轟裂たる爆発音が響いた。雨に混じり、ぱらぱらぱら、と降ってくる何かの欠片。それはコンクリの固まりらしい。
こつん、と雪見にそれが当たった。雪見とアルルゥ、二人は揃って、突如爆裂したホテルの一角を見やっている。
何階くらいだろうか。高み、壁面に大穴が開いていた。
穴から降ってくる『何か』。人型をした物。オレンジ色の髪を持ったその物体は、雪見たちからほど近い地面にたたき落とされ、砕けた。
雪見は、思わず悲鳴を上げそうになる。しかしそれが、人ではなくメイドロボだと気づき、わずかに落ち着きを取り戻す。
さすがといったところか。アルルゥは平静を保っていた。戦場で、人死を見慣れているだけのことはある。
雪見が目を上げると、もう一人何者かが、穴から飛び出てくるところであった。

──黒く長い髪を風になびかせ、飛び出してくる。

「危ない!」「!」
雪見は声を上げた。アルルゥも何事かを言った。穴から地上まで、かなりの高さがある。落ちたら命はおそらく無い。
しかし女性は、軽々と地に降り立つ。あれだけの高さから落下したというのに、まるで身体に異状は無いらしかった。
358解放されし者:03/06/30 01:17 ID:PAEIOSDe
「……あの……」
雪見、声をかけてみる。おずおずとさしのべるように手を伸ばし、大丈夫ですか? と続ける。
声に反応したのか、女性は雪見の方を振り向き、

その目は、あまりにも恐ろしいものであり、
雪見は、凍り付いたように動けなくなった。

女性は、何も関心無いように雪見から目を離す。何事かつぶやいたようにも見えた。
走り出す。疾走。風のごとき早さ。
一瞬のうちに女性は姿を消して、
雪見は緊張の糸が切れて、腰から崩れ落ちた。

そして、それで終わりではなかった。
穴から続々と飛び降りてくるメイドロボたち。CMなどで見る姿とはどこか違い、装甲や武装のようなものが付属しているように見えた。
「失礼、深山様。アルルゥ様」
その数十体あまり。二人にわずかに一礼すると、女性を追うのだろう。彼女か駆けていった方向へ駆け出していく。
あまりの光景に、雪見も、アルルゥも、呆然とするしかなかった。
359解放されし者:03/06/30 01:17 ID:PAEIOSDe
「足立さん、大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫ですが……この部屋は、もう駄目のようですね」
室内には、破壊された機器、HMカスタムの残骸が、そこかしこに転がっている。
およそ無事なものは、二人の人間以外存在していない。
壁をぶち破ったのは、HMカスタム内蔵の弾薬らしい。いったい何がどうなってそうなったのか、二人には分からない。おそらく誰にも分からないだろう。
「そうですね……沿岸の空母か、本館に戻るしかないですね」
「すみません、このようなことになってしまって」
「足立さんの責任ではないですよ。誰がどうやっても、柏木さんを止めるのは無理だったでしょうから」
沈黙する足立。いろいろな思いと考えが駆けめぐる。
大きく息をついた。
「……ヘリを呼びましょうか。とにかく、本館の長瀬さんたちと連絡を取らないと」
「はい」
答えて、その内で秋子は思う。
とはいえ、今更どうにもならないでしょうね。
HMカスタム十体程度で、どうこうなる人では無いでしょうし……
大きくため息をついた。
本人同士の話し合いで、解決してくれれば良いんですけどね……

【雪見 アルルゥ 上から降ってきた大集団に呆然。硬直】
【千鶴 HMカスタムズの妨害を排除。耕一を捜し、疾駆する】
【HMカスタム十体余 千鶴を追っていく】

【登場鬼 深山雪見 アルルゥ 柏木千鶴】
【三日目 午後十二時半】
360名無しさんだよもん:03/06/30 01:18 ID:PAEIOSDe
ついで。三日目昼時点で、ホテルに絡んでいる面々のまとめ。

屋内組
三階廊下に倒れている健太郎
一室で寝ているユズハとガチャタラ。
エントランスで捕らえられているムックル。

屋外組
広瀬 まなみに撃沈された。
雪見 捻挫中。呆然。
なつみ モップを破壊され落下。気絶。
まなみ 雪見に撃沈された。
アルルゥ 雪見と一緒。

帰還組
森の中、梓を捕まえてホテルに帰還しようとしている。
往人 千紗 ウルト ハウ 大志 瑞希

尚、現時点で例のきのこを確実に食べた人は以下の三名。
まなみ 広瀬 雪見
361手を……:03/07/01 23:06 ID:0EZm+3Bz
海岸側の小屋を離れてから、数十分。
柳也と裏葉は未だに休める場所を見つけることが出来ずにいた。

先程少し休むことが出来たとは言え、柳也は全身疲労困憊。
裏葉も歩けるようになったとは言え、どうにも足取りがおかしい。
普段、足元に障害物があることなど周りには欠片も見せることなくかわして歩いてのける彼女が、
幾度となく体制を崩し、繋いでいる柳也の右手に負荷をかけていた。

本来ならばできる限り早く休みを取るべき状況であったのだが、この雨と、
シュン達と出会った建物、そして先の葉子達のいた小屋のことがあったためであろうか?
知らず知らずのうちに『休める場所=建物』と決め付けてしまい、
ずるずると時間だけを無駄に過ごしてしまっている。
(……そう言えば、しばらく裏葉は言葉を発していない)
それに気がついた柳也は軽く自身を戒め、首をあたりにめぐらせた。

「この雨だしな……なるべく屋根のある場所を、と思っていたが……贅沢はいえぬか」
そう呟くと柳也は、草がはらわれ、人の通る道として用意されている所から道を逸れて、
少し奥まった、先日休んだ場所と似たような風景を目指して歩みを進めていった。
うっそうと繁った長い草と幹の太い木々が立ち並ぶその場所。

「ここで休むとしよう。木を背に座っているならば、そうそう周りからは見つかるまい」
そう言って木の幹に背もたれる柳也。裏葉もその言に頷き、そっと腰を落とした。

「すまないな。もっと暖の取れるような所で、と思っていたのだが……」
「いいえ、雨は凌げますし、それに……」
喋るのが少しつらいのか、呟くようにそう言ったかと思うと
体をモゾモゾと動かし始める。そして、
「このように身を寄せ合えば……暖は十二分に、取れることでございましょう」
柳也の足の間に自らの身を移動し、背中から寄りかかり、
あごを上げ、頬を染めながら、上目づかいで微笑みかけてきた。
362手を……:03/07/01 23:07 ID:0EZm+3Bz
そんな妻の仕草を愛しく感じた柳也は、そっと後ろから抱きすくめてやる。
と、裏葉は幸せそうに顔をほころばせてくれた。
だが、微笑んだと思ったそのすぐ後に少し辛そうに目を閉じてしまう。
「大丈夫か?」
心配そうに声をかける柳也。今日一日無理を通した上に、ずっと雨にさらされていたことを考えると、
楽観することなど出来ない。
そんな彼に、裏葉はまた微笑みを返す。
「大丈夫。……ではございませんね、さすがに」
「な、それならばっ「けれども」
「恐らく、休めば大丈夫でございます。先程のその…柳也様が拾った武具の所為でありますゆえ」
「そ、そうなのか? どこか痛むのか?」
少し安心して、溜め息。けどやはり心配。そんな感情を隠せない柳也。
「そう、でございますね。痺れは取れたのですが、なにやら頭が少々、つきつき、と痛みます。
 あと、吐き気がなかなか治まってくれませぬ」
それは典型的な電気ショックによる後遺症であったが、「電気」など知らぬ二人にそれがわかるはずも無い。
裏葉の方術にはいかずちを統べる術もあったが、それは人に当てれば確実に死に至らしめる技。
当然のことながら人に試したことなど、ただの一度も無かった。

「頭、と胸……いや、腹、か」
何か考えていたように見えた柳也がふいに呟く。そして、
「こうしていれば、少しはましになるであろう」
後ろから抱きかかえていた手をそおっと裏葉の頭と、腹部に当てた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔を真っ赤にして押し黙ってしまう2人。柳也なぞ、自分からしておいて何なのであろう。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
363手を……:03/07/01 23:08 ID:0EZm+3Bz



沈黙を破ったのは裏葉だった。

「『手当て』とは、よう言ったものでございますね」

「?」
意味がよくわからない、と柳也が首をかしげると、それに頷き、裏葉は続ける。
「薬師などいない昔は、手を、このように当てる。
 きっと、それが何よりの治療だったのでございましょう」

「だって、ほら。痛みが、苦しみが、どんどんと和らいでいくのがわかります」
そう言って両の手を、腹部に乗せられた柳也の左手にそっと重ねた。


程なくして、柳也の顔のすぐ下からすうすうと寝息が聞こえてきた。
ずっと笑顔を絶やさず、飄々としていたが、その実、かなり疲れていたのであろう。
当然だ。今日は自分だってきつかったのだ。その上に奇妙な武具に当てられれば。
柳也はそう考えると、自分の胸元にある穏やかな寝顔を見つめた。
「ゆっくりと休め、裏葉」
右手を彼女の頭から離し、自分の左手に添えられた両手の上からさらにかぶせる。
そして、愛する妻の手を、そっと握った。



364手を……:03/07/01 23:08 ID:0EZm+3Bz
周りから見えないと言うことは、自分も周りが見えないと言うこと。
気配に敏感に反応しなければ死を招く――と、そこまで考えてから苦笑する。
(死ってことは無いのだが、な)
結構、いやかなり大変な思いをしているとは言え、これは鬼ごっこ。
まったく何を考えているのだろう。……とはいえ、
「社殿、か」
わがままな主の願い。それが死んでしまう、と言えばあながち間違いでもないのかもしれない。
だから、もう一度気を引き締める。
頼りになる連れ合いが回復すれば、自分もゆっくり休める。
それまでは、自分がしっかりとしなければ。

あと何人残っているかはわからないが、自分達が出会った人数は鬼のほうが遥かに多い。
そう考えると、実は結構良い線にいるのかも知れない。
(もしも、本当に捕まりそうになったときは裏葉だけでも逃がして……)
そこまで考えて、止める。
多分それは間違っているから。
この手を、離したとき。
それはおそらく負けた、ということ。
だから、離さない。『2人』で『神奈のために』何かをするなら、この手を、離してはいけない。
もう一度気を張る。
周りはとてもとても静かで、虫の声や草の鳴らす風音が、
今は周りに何者もいないことを、教えてくれた。


【柳也、裏葉 ご休憩】
【場所 海岸から少し内陸の森の中】
【3日目 深夜(丑三つ時?)】
【登場 柳也、裏葉】
【登場鬼 無し】
365山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:10 ID:G2CI3v5L
 闇夜に溶けて踊る影。一方は枝のしなりを利用して跳び、目標地点まで一気に到達することを狙う。
もう一方はそれとは逆、右足で枝を蹴り左足で幹を踏み込む。左足が落ちる前に右足を前に出し、そのまま二歩で
幹を駆け下りて目標へと疾駆する。
 枝のしなりの反動で葉が鳴る音と、影の一つが地面に降りた際起きた水音がほぼ同時。
 木に繋がれたクロウのウォプタルがその音に即座に反応して鳴き声をあげる。
 僅かに遅れて由宇とクロウが立ち上がったとき、既にゲンジマルとデリホウライの姿は地面に立てかけてあった懐中電灯によって
闇から解放される位置にまで辿り着いていた。
「クッ!」
 クロウの体が反射的に動く。愛刀の柄に手をやり、そのまま鞘からすべらせる。
 頭で考えてやったことではない。夜間。奇襲。ただならぬ強者の気配。守らなければと言う意志。言い訳は後からいくらでも
思いついたが、この時、明らかにクロウの体は相手を屠るつもりで動いていた。
 しまったと思ったときはもう遅い。せめて威力を最小限にしようと刃を返し、右腕の筋肉に全力でブレーキを掛けたところで、

 キィンッ!

 澄んだ音が辺りに響いた。まるで鋼と鋼が打ち合わさった様な──そう、これは戦場で聞き慣れた剣戟の音。
「この様な場所でいきなり獲物を抜くとは、感心しませんな。クロウ殿」
 押し殺した声。見れば刀を鞘から僅かに出し、己の凶刃を受け止めているゲンジマルの姿がそこにはあった。
366山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:11 ID:G2CI3v5L
 バシャン!

 クロウとゲンジマルの刃が澄んだ音を奏でると同時、枝から跳躍したデリホウライが地面に着地したことを告げる水音があがる。
着地した場所は由宇のすぐ隣。
 その時、由宇の脳裏をよぎった思考は二つ。この誰かさんの着地の衝撃によって跳ねた水で服が濡れてしまったこと。そして
その元凶が鬼の襷をしていたこと。
(なんや、これで終わりか。随分とあっけなかったなぁ) 
 突然の事態に体が動かない。なのに思考は嫌になるほど冷静に敗北の判断を下していた。
 ところが、そんな由宇の思考とは裏腹に鬼は由宇の背後──テントに向かって駆け出す。
 浮かび上がる疑問。何故自分を無視して行くのか。いや、そんな事はどうでもいい。あそこには──
「っ! 詠美!」
 意図せず口から出た、相方の名前。その叫びと同時に由宇はいつもの自分を取り戻す。
(何あっさりと諦めとんねん、ウチは! あの大馬鹿と一緒に逃げて逃げて最後まで逃げて、そんでサクヤに最高の
 漫画を見せたるって誓ったんとちゃうんかい!)
「待たんかいコラァッ!」
 懐中電灯をひっつかみ、振り向きざま啖呵を切ってテントへと急ぐ由宇。
 詠美と一緒にこの危機を脱するために。
367山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:12 ID:G2CI3v5L
 クロウが思わず迫ってきた影に向かって鯉口を切ってしまったように、歴戦の戦士の体という物はしばしば持ち主の意志に
反して動くことがある。
 ゲンジマルとデリホウライの襲撃の直前にカルラが目覚めたのも、そんな勘が働いたからかも知れない。
「さいか……起きなさい、さいか」
 寝起き直後の倦怠感など微塵もない。肌が粟立ち、耳がせわしなく動く。体がこうなったとき、それは何かが起こる
前兆だとカルラは経験で知っていた。
 何か、嫌な予感がする。
 そう感じたカルラはとりあえず何が起きてもすぐ動けるように、さいかを目覚めさせようとする。
「……ぅうんんぅぅ〜〜…………なぁに、かるらおねぇしゃん……」
 やはり6才の子供がこんな深夜に起きるのは厳しいのか、目覚めているかどうかかなり怪しい口調でとりあえず返事をするさいか。
 とその時、テントの外からウマの鳴き声がした。
 半瞬遅れて聞こえてくる水音と由宇の怒声。
 そして。
「姉上えッ!」
 由宇の声をかき消すかのように発せられた叫びと共に、デリホウライがその体をテントの中に滑り込ませてきた。
368山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:14 ID:G2CI3v5L
 さて、現状を確認しよう。
 テントと言ってもそこいらに落ちていた木の枝やら何やらで組み上げた簡素な物。当然中は狭く、女四人で雑魚寝しても
スペース的にかなり厳しい物がある。
 そんな中でカルラがいたのは一番奥。そこでまだ半分眠っている状態のさいかを立たせたところだった。
 つまり、デリホウライとカルラ、この両者の間にはデリホウライにとって望まざる存在、要は邪魔者がいるわけで。
「何ですか、こんな夜中……」
「ちょっとぉ誰よ、このくいーんの安眠をぼーがいする……」
「邪魔だ!」
「きゃっ!」「ふみゅっ!」
 デリホウライが発した大声に目を覚まし体を起こした郁美と詠美。
 その肩を掴み、無理矢理押しのけて奥のカルラを目指すデリホウライ。その行為に郁美と詠美は思わず悲鳴を上げる。
 デリホウライがこの二人のために費やした時間は僅か数秒、だがその隙をついてカルラはさいかの手を引き、デリホウライが
飛び込んできたのと反対側から脱出を図る。
「逃げますわよ!」
「う、うん!」
 必要最小限の言葉でさいかを促すカルラ。まだ何が起こったのか正確に掴んではいないがとりあえず頷くさいか。
 その二人の後ろ姿に向かって、デリホウライが必死で手を伸ばす。
 その手が何か柔らかい物に触れ、さいかが「あっ」と小さな声をあげたとき、カルラの体は既に外へと飛び出していた。
369山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:15 ID:G2CI3v5L
「さいか、これをかぶっておきなさい」
 テントから飛び出すと同時にカルラはさいかを抱きかかえ、先程までさいかを引いていたのと反対側の手で掴んでおいた
毛布を手渡す。もちろんこれはさいかの体が濡れないようにするためだ。
「う、うん。あ、あの、カルラおねぇちゃん……」
「しばらく口を閉じてなさい。さもないと舌を噛みますわよ」
 些か厳しい口調で注意するカルラ。
「今度こそ! 逃がしませんぞ姉上!」
 それも無理からぬ事だろう。隙があったといえどたった数秒程度の物、今はすぐ後ろにデリホウライが迫っている。
昼間の時のような余裕はない。さいかには辛いかもしれないがここは全力を出さねばならない。
 一刻も早くあの子を撒かなければ──そんなことを考えていたカルラに向かってさいかが声を掛ける。
「ねえ、おねぇちゃん。あのひとあねうえってさけんでるけど……」
 降りしきる雨、そしてカルラの出すスピードに負けないように大きな声を出すさいか。
「ええ、デリホウライですわ。それよりもさいか、喋ると……」
「でりりんっておにさんだったよね……さいか、でりりんにさわられちゃったんだけど、このばあいどうなるの?」
「え?」
 予期せぬ告白に思わずさいかの顔をのぞき込み、スピードを落とすカルラ。
 その声が聞こえたのかデリホウライも立ち止まる。
 困惑する一同。そこへ、
「それについては私がご説明いたします」
無機質な声が三人の耳を打った。
370山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:16 ID:G2CI3v5L

「詠美!」
 由宇がテントの中を懐中電灯で照らしたとき、そこにいたのは眩しさに目を細める郁美と事態が掴めないのか
頭の上に?マークを3つくらい浮かべながら首を左右に振る詠美の二人だけだった。
 一緒にいたはずのカルラとさいか、それと飛び込んでいったあの鬼の姿がない。
 自分がテントに付くまでの僅かな時間に逃走劇を繰り広げたのだろうか。カルラは危険を察してさいかを連れて逃げ出し、
あの鬼はそれを追っていったのだろうか……。
 いや、そんな当て推量は後だ。由宇は一瞬頭に浮かんだ疑問を振り払うと未だアホの子の様に首を降り続ける詠美に向かって怒鳴った。
「詠美、早よ立ち! 逃げんで!」
「パンダ? 何よぉ、突然出てきて偉そうに…!」
 混乱しきった頭でも因縁の相手への罵倒は出てくるらしい。これはこれで大したものだが、感心している暇などない。
「アホ! 寝ぼけとる場合か! 鬼が来とる、早よせんと…!」
 と、その声を遮るように、由宇の肩に無骨な手が乗せられた。
 振り向けばそこ居たのは見た目かなり高齢でありながらがっしりとした体格を持つ老人、そしてその後ろにはしりもちを付き
後ろ手で体を支えているクロウの姿が見えた。

 あの時──クロウの一撃をゲンジマルが受け止めた後。
「フン!」
 ゲンジマルは間髪入れず受け止めた刀を思いきり上に向かって跳ね上げた。
 つられて上方に流されるクロウの右腕。ゲンジマルはそれによってがら空きになったクロウの懐に入り込み、
胸板に手を当て押し倒してやったのだ。ついでとばかりに左足も刈っておいた。
 結果、クロウは抗う暇すら与えられず転倒。刀を手放し受け身を取ることしか出来なかった。
 その間に悠々テントの中に向かって怒鳴る由宇に近づき、肩に手を置いた──実にあっけない終わり方である。
 あまりにも唐突にもたらされた終わりに力が抜け、地面に崩れ落ちる由宇。
 そこに、管理側のロボットであるHMX−13を引き連れられ、カルラとさいか、デリホウライが戻ってきた。
371山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:18 ID:G2CI3v5L

「それでは説明をさせていただきます」
 まず、と前置きしてHMX−13は言葉を続ける。
「デリホウライ様にタッチされた時点でしのさいか様は鬼になりました。そのため、しのさいか様を抱き上げた
 カルラ様も連鎖的に鬼になります。ポイントはデリホウライ様に1ポイント、しのさいか様に1ポイントが
 加算されます。何かご質問は御座いますでしょうか?」
「あ、あのね」
 その言葉を受けてさいかが声をあげる。
「カルラおねぇちゃんはさいかがおにになったのしらなかったんだから、カルラおねぇちゃんはおににならなくてもいいんじゃ……」
「鬼によるタッチは人命救助時における接触等一部の例外を除き、いかなる場合においても有効となります。
 『知らなかった』というのは例外となりません」
 恐る恐る、と言った感じて発したさいかの言葉を即座に切って捨てるHMX−13。その返事にさいかは泣きそうになる。
「いいんですのよ、さいか」
 だが、そんなさいかの頭に手を乗せ、カルラが穏やかな声で呟いた。
「で、でも……ひっく、さいかの、せい、でぇ〜……」
「いいえ、さいかのせいではありませんわ。確かに、鬼になってしまったのは残念ですけど、それよりもさいかのおかげで
 この鬼ごっこは随分と楽しい物になった。もし、あの時さいかを見捨てて行ったとしても、私はそんなことをした私を許せない。
 これでいい、とは言わないけれど、それでも私は満足ですわ」
 屈んでさいかと目線を合わせ、諭すように言葉を紡ぐ。カルラの顔は笑顔だった。
 その顔に安心したのか、さいかはカルラの胸に飛び込み、大きな声をあげて泣きはじめた。しかしその涙は、自責から来る
ものではなく、ただ悔しいからという年相応の理由だった。
 彼女を捕まえたデリホウライも、事の推移を見守っていた由宇たちも、それを見て穏やかな気持ちになる。
 ところが。
「ふみゅーん! 認めない認めない〜! レディーの寝込みをおそうなんてひきょうな手、クイーンであるあたしが
 ずえったいに認めないんだから〜!!」
 6才児のさいかよりレベルの低い次元のことで泣き喚くやつがここに約一名居た。
372山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:19 ID:G2CI3v5L
「大体なによアンタ! いきなり出てきて勝手に色々決めちゃって! 今までどこにいて何の権利があってそんなこと言うのよぉ!」
「私はゲームの運営をスムーズに行うため、島全体に配備されているメイドロボの内の一体です。この場にはしのさいか様、及び
 立川郁美様というナースコール所持者が二名おりましたので、緊急の場合を考え誠に勝手ながら監視させていただいておりました」
 逆ギレ気味に発した文句に淀みなく答えを返され、怯む詠美。
 擬音で表すなら「しおしおふみゅーん」といった感じだ。
「落ち着き、詠美。ウチらの負けや。悔しいけど認めなしゃあない」
「……なによ、パンダったら良い子ぶっちゃって。こみパでのボージャクナシビトぶりはどうしたのよ」
「……それを言うなら傍若無人やろ。どういう間違え方や」
「な、なによ、このパンダ! パンダ! 温泉パンダァ〜!!」
「ええい、黙らんかい! 大バカ詠美!」

 大体パンダがねえ何やウチのせいやっちゅうんかアンタ心で思うだけならまだしもそれを口に出したら戦争やろああ上等じゃない
 やってやるわよこのこみパのくいーん詠美ちゃん様が温泉パンダなんかに負けるはずがやかましいッ!スパァン!ふみゅっ!

 どこからか取り出したハリセンで詠美のドタマをはたく由宇。
 先程までの穏やかな空気はどこへやら、郁美もクロウも、果てはゲンジマルさえも、このある意味いつも通りの
二人の言い争いに苦笑するしかなかった。
373山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:21 ID:G2CI3v5L
「そしてクロウ様、ゲンジマル様」
 そんな中、一人変わらぬ声で今度はクロウとゲンジマルの名を告げる管理者側のロボット。
「参加者同士の本格的な戦闘は規定により禁止されております。本来ならば管理者権限でお二人を拘束させていただくところですが、
 止める間もなく決着が付いてしまったので今回は厳重注意と言うことで落ち着きました。ただし、再びこの様な事態となった場合
 拘束、あるいは失格も考慮させていただきますのでご注意下さい」
「ああ、わかったよ。悪かったな」
 止める間もなく決着、とHMX−13が口に出したところで思わず苦笑したクロウが、苦虫を噛み潰したような顔で承知する。
 仮にも一國の騎兵衆副長であるクロウ、いくら相手が生ける伝説とまでうたわれたゲンジマルと言えど、さっきのはやはり
些か矜持が傷ついたのだ。
 一方のゲンジマルはと見てみれば、ただ頷いただけだ。こんな対応一つにも余裕ってもんが見え隠れすんのかね、とクロウは
心中で呟き、もう一度苦笑した。

「では、質問がないようでしたら私はこれで失礼いたします」
「あ、はい。お疲れさまでした」
 頭を下げるHMX−13にこちらも頭を下げて見送る郁美。その顔を上げたときふわぁ、と可愛らしいあくびが出る。
 僅か数分で決着が付いたこの勝負、しかし落ち着いてみればそれなりの時間が経っていた。
 後数時間したら夜が明けるだろう。
 それまでもうちょっとだけ眠ろう。
 見渡せば、みんな眠そうな顔をしている。あのゲンジマルもだ。さいかに至っては既にカルラの胸の中で寝息を立てている。
 睡眠のためにテントに入ろうとしたクロウとデリホウライを由宇が叩き出したのを見て、「レディーに譲らんかい!」という
怒声を聞いて、郁美はあくびをかみ殺しながら笑った。


 雨はまだ止まない。だが先程までと比べれば、勢いは幾分弱まったような気がした。
374山猫と老戦士─終劇─:03/07/02 02:22 ID:G2CI3v5L


【郁美、詠美、さいか デリホウライによって鬼化】【デリホウライ 3ポイントゲット】
【由宇、クロウ ゲンジマルによって鬼化】【ゲンジマル 2ポイントゲット】
【カルラ さいかによって鬼化】【さいか 1ポイントゲット】
【クロウ、ゲンジマル 管理者側から厳重注意を受ける】
【由宇、詠美、郁美、さいか、カルラ テントの中で就寝】
【クロウ、デリホウライ 由宇にテントから叩き出される。仕方なく外で就寝】
【ゲンジマル クロウ、デリと共に外で就寝】
【クロウのウォプタル その辺の木に繋がれている】
【場所 森の中】【カルラとさいかの仕掛けた罠はゲンジマルとデリの来た方向にあった物が潰されている】
【時間 三日目27時(四日目午前三時)頃】
【登場 猪名川由宇、大庭詠美、立川郁美、しのさいか、クロウ、カルラ、【デリホウライ】、【ゲンジマル】、『HMX−13』】
375山猫と老戦士─終劇─作者:03/07/02 07:14 ID:G2CI3v5L
あ……しまった、今読み返してみたら
俺とんでもない間違い犯してるわ。
文中の「HMX−13」全て「HM−13」に差し替えて読んでください。
HMX−13じゃセリオじゃねえかよ……。
_| ̄|○ナニヤッテンダオレ……
376名無しさんだよもん:03/07/02 07:57 ID:VM+yK3qQ
(・∀・)イイ!
377名無しちゃん…電波届いた?:03/07/04 22:08 ID:BRQRYa0A
ほーしゅ、します。
378飲み過ぎ注意報:03/07/06 06:33 ID:EEyPO0qm
 既に宵闇が深くなった頃。商店街に近い市街地の一角にて。
「えーと……残念だけど、あなた達の手に入れたバイクってかなりのレアアイテムなの」
 バイクの情報を聞かれたショップ屋のねーちゃんは、
注文されたガソリンをバイクに入れながら申し訳なさそうに答えた。
「……そうですか」
 茜とべナウィはその返答にフゥ、とため息をつく。
「何台この手の乗り物が島においてあるかは私も知らないけれど……二台手に入れるのはちょっと難しいと思うわ」
 一応、どの屋台でもガソリンは用意してあるけどね、と付け加える。
(まあ、予想していたことではあったのですが) 
 どうやら、バイクはただ単に放置してあったものではなく、アイテムとして置かれていたものらしい。
おそらく、一般人が人外の力に抗する為の紛れを起こすために用意されたなのだろう。
 とはいえ、バイクや自家用車といった強力なアイテムが出回ったら鬼ごっこは危険極まりなくなる。
無理なカーチェイスの果てに人身事故、衝突事故などが起こったら目も当てられない。
 だからこそのレアアイテムなのだろう。
「どうしますか? べナウィさん」
 茜のほうもこのことは既に予想していたらしく、たいして落胆してはいないようだ。
べナウィのほうに意見を求めてくるが、既に自分の考えは決まっているらしい。
 そしてべナウィも、その考えに同調していた。
 夕方から夜に掛けて街中を探索していたものの、バイクやそれに準ずるような乗り物が見つかる気配はない。
鬼に見つかる可能性が高くなる事を考えれば、この望みのない探索はすぐに打ち切りたい。
379飲み過ぎ注意報:03/07/06 06:35 ID:EEyPO0qm
「明日になってシシェに体力が戻れば三人乗りもできるでしょうし、
無闇に動く事を避ければ一日持たせる事も可能でしょう。もう、観鈴さんを探すために移動する必要もないですしね。
 今はもう宿を決めて休んだほうがよいと思われます」
 べナウィの提案に茜はうなずいた。
「私もそう思います。それに―――」
 ため息混じりに、カウンターの反対側をみた。
「あんな詩子たち、つれて歩くの嫌です」
 茜の視線の先では、
「おおー 詩子! いい飲みっぷりやね〜」
「いやぁ、師匠ほどじゃないっすよ〜 ほぅーら、澪ちゃん飲んでる〜?」
『た、たすけてなの』
「わ。お母さん、駄目だよ〜 そんな飲ませちゃ……」
 と、まあそんな感じで酒乱二人が暴れていた。
「茜もそんにゃ端っこにすわってないで、こっちにきにゃよ〜」
「嫌です、拒否します、あっちいけ」
『〜〜〜』
「澪、読めません。読みません」
 呂律を怪しく回しながら酒を勧めてくる友人をさりげなく蹴り飛ばし、
後輩の助けを無視すると(巻き込まれたくなかったのだ)、茜はべナウィにささやいた。
「そろそろ宿を探したほうがいいと思います」
「そうですね。身動きが取れないほど酔われても困りますし」
 逃げ手の自分達があまりここに長居するのも良く思われないだろう。
「なんや、移動するんか〜? ほな酒とつまみ買ってこうか」
「二次会すっね〜」
「そうや〜 気合入れてくで〜」
「お、お母さん……」
「ええやん観鈴、のませて〜な〜 今いい気分やねん〜」
 べナウィと茜は顔を見合わせて苦笑した。
380飲み過ぎ注意報:03/07/06 06:37 ID:EEyPO0qm
「それでは、このお酒を二本ずつと、そらからおつまみは……これをお願いします」
「それから何か野菜の切れ端とかもらえないでしょうか?人参のヘタや林檎の芯などでよいのですか」 
 茜の注文に、べナウィが付け足した。 
「シシェのご飯ですか?」
「はい。そこら辺の草木でも良いのですが、シシェにも精をつけてもらわないと。それから―――」
 再度晴子達を見て苦笑する。
「なにか酔い覚ましの薬も買っておいたほうが良いでしょうね」 

「ずいぶんもうかったわね……これで相手が逃げ手じゃなかったのなら、
ここで飲ませてもっと稼ぐことができたんだけど」
 晴子達一行が立ち去って、ショップ屋のねーちゃんがつぶやいた。
「さて、そろそろ移動しようかしら……っと?」
 ガヤガヤと騒がしい声が近づいてくる。程なくして、5人の鬼の姿が現れた。
「おねえさーん! ホットケーキセットー!!」
「私も食べたいですねぇ。いいよね? 浩平君」
「良くねーよ。今日は成果なしだぞ」
 浩平のすねたような声に、グッとトウカが硬直する。
「す、すまぬ!! 某が我を失っていなければ……!!」
「トウカさん、しょうがないよ。私だってバニ夫壊されたらきっと怒っちゃうもん。ね、浩平?」
「あれ? 瑞佳さん、バニ夫って何ですか?」
「えへへ……あのね……」
「う、うるさいぞ!! なんでもない!」
 赤面して照れ笑いする瑞佳に、それ以上に顔を赤くして浩平は怒鳴った。
「とにかくホットケーキは今回はなしだ!!」
「もう注文しちゃったもんね〜 ね、ゆかり」
「そうですね〜 注文しちゃったら食べなきゃダメだよね」
「お前ら……」
 顔に青筋たてる浩平をみて、さらにトウカが縮こまった。
381飲み過ぎ注意報:03/07/06 06:38 ID:EEyPO0qm
「全てはこのトウカの不徳!! こうなったら切腹して……!!」
「ちょ、ちょっとトウカさん!?」
「お、おい! わかった、わかったから落ち着けってトウカ。別に怒ってないから!」
 瑞佳とともに慌ててトウカを押さえつけながら、浩平は心のなかでため息をついた。
 そりゃまあ、時間を無駄にしたのはトウカのせいではある。
逃げ手が少なくなっている今、このロスタイムは致命的だったのかもしれない。
 瑞佳と協力して、気絶しているヌワンギをトウカが起きる前に
小屋からずいぶん離れたところまで担いでいって捨ててくるのも、実に重労働であった。
雨の中であったし。
 だが……浩平は、泣きそうな目で首の折れた人形を見つめるトウカの横顔をチラッと見た。
(けどまあ、こいついい奴だしなぁ……)
 昨晩の自分の無茶な作戦に文句一つ言わず支持してくれたトウカだけに、浩平も怒る気にはなれない。
 それに―――バニ夫を壊されたら自分だってきっと我を失うだろう。
 チェッと浩平は舌打ちした。
「長森、後いくら残ってる?」
「うん、えーとね。これだけだよ」
 浩平の問いに、瑞佳が財布を見せる。浩平の考えが既にわかっているのか、瑞佳の顔がやけに嬉しそうで、
それがなんとなく浩平にはちょっと腹立たしい。
「OK……お前ら、ホットケーキはそれで終わりだぞ」
 浩平の命令にスフィーとゆかりは文句を言いかけるが、浩平は手を上げてそれを抑える。
「残ったポイントは全部トウカの人形の修理費に当てる。お姉さん、これだけあればなおせるだろ?」
 いわれてショップ屋のねーちゃんは眉をひそめた。
「本部に運べば復元魔法を使える人もいるからこの人形も修理できるだろうけど……
それだけのお金を払うなら新しいの買ったほうがいいんじゃない?」
「いいんだ、なおしてくれ」
「浩平殿……!!」
 目を潤ませるトウカを尻目に、浩平は居心地が悪そうに頭をかくと続けた。
「考えてみれば最初に買った食糧がまだまだあるんだから、金なんて必要ないしな。
かわりに、トウカ! これからマジで働いてもらうからな!!」
「心得た!! 浩平殿! このご恩は一生忘れぬ!!」
 ガバッとトウカが浩平に抱きついた。
382飲み過ぎ注意報:03/07/06 06:38 ID:EEyPO0qm
「お疲れ様。どうでしたか?」
「眠ってしまいましたね」
 酔い潰れてしまった晴子、詩子、澪を二階の寝室に運んだべナウィは、
階下に戻って茜と観鈴にそう報告した。  
 酒宴の場となったリビングルームは二人の手で既にきれいに清掃されている
明かりをつけない懐中電灯だけの暗闇の中だというのに、たいした手際の良さだと思う。
 あれから手近な一軒屋をみつけると、そこでも晴子達ははしゃいで飲み続けた。
その結果、彼女達はつぶれてしまったわけであるが……
「うーん、お母さん、いつもはここまで飲んだりしないのになぁ……どうしたんだろ」
(あなたに会えて、あなたにお友達ができそうで嬉しかったのでしょう)
 観鈴の疑問に、べナウィは心の中でそう答えた。
 それが分かっていたからこそ止めるのも無粋と思い、なりゆきに任せていたのだが。
(とはいえ少し羽目を外してしまいましたね。明日に残らねば良いのですが)
 特に、晴子と詩子に巻き込まれる事になってしまった澪が少し気の毒だった。
 普段から慣れているのか上手くかわしていた観鈴と、どうやらザルらしい茜が素面であるのは助かるが。
「……と、うっかりしておりました。シシェに餌をあげないと」
 折角屋台でくず野菜を手に入れた甲斐がない。今頃シシェもお冠だろう。
「あ、べナウィさん。わたしもシシェさんにごはんあげていい?」
「ええ、いいですよ」、
「それでは、私は晴子さんたちをみておきます」
 そういうと、茜は二階に上がっていった。
383飲み過ぎ注意報:03/07/06 06:41 ID:EEyPO0qm
「にはは。いっぱい食べてる」
「今日はシシェもお疲れ様でした」
 ガレージの中、家のほうからとってきた毛布を敷くと、シシェはそこで座りこんだ。
すぐ隣にはバイクも止めてある。
「おとなしいですねっ」
「訓練されておりますから。いざとなれば一般の方を乗せる事も可能です。
全速力でかけさせるのは危ないですけどね」
「賢いんです……!?」
 不意にべナウィに口をふさがれて観鈴は絶句した。その観鈴にべナウィが押し殺した声でささやく。
「お静かに。人の気配を感じました」
 観鈴がうなずくのを確認すると、べナウィは手をはなし、観鈴にガレージの中の物陰に隠れる様に指示すると、シャッターの取っ手から外の様子を伺った。
(なんて……こと!!)
 思わずべナウィは歯噛みする。
 暗闇の向こう、果たしてその目に映ったのは―――
「ここで夕食にするか。長森、料理たのんだぞ」
「うん。任せてだよ、浩平」
「私も頑張りますよー 浩平君」
 晴子達の休む家に入っていく五人の鬼の姿であった。

【三日目 夜遅く】
【市街地外れ、ガレージつきの一軒屋】
【晴子、詩子、澪、泥酔中。茜は素面。二階の寝室】
【べナウィ、観鈴、シシェ、バイク、ガレージの中】
【浩平、瑞佳、トウカ、スフィー、ゆかり 家の入リ口】
【浩平チーム 残ポイント0。食材は豊富に所持。人形を修理に出す】
【登場 里村茜、柚木詩子、上月澪、神尾観鈴、神尾晴子、べナウィ】
【登場鬼 【折原浩平】【長森瑞佳】【トウカ】【スフィー】【伏見ゆかり】】

384雨傘:03/07/07 00:17 ID:n7Rj30k2

ぽつ   ぽつ  ぽつ ぽつ ぽつ

顔に降りかかる雫がだんだんと強さを増す。
先程降り出した雨。木の葉が多少は緩めてくれているようだが、あまり意味は無さそうである。

(なんで、こんな目にあわなきゃいけないのよ……)
鬼になってしまった以上、気兼ねなく建物で休み、あわよくばシャワーも浴びて、
さらには下着の替えなんかもゲットしてゆっくり眠るはずであったのだが……
「う〜、つ〜か〜れ〜た〜」
「? 雨が気持ちいいねぇ(にっこり)」
マナとその連れは、夜もかなりふけてきた今、まだ森の中にいた。


「ちょっと待ちなさいよ。少し休ませて」
前を歩く何にも考えて無さそうな少年を呼び止めるマナ。
少年は屈託のない笑顔でその意見に応じた。
「こんなに歩いたのに、建物が一つも見えないなんて……
 まったく、ずかずか前を歩いているから当てがあるもんだとばっかり
 思ってついていけば……間違いだったわ」
近くにあった木に寄りかかりぶつくさと文句を言うマナ。
「すまないね。僕はどうにも自由に歩き回るってことに慣れてないみたいだ」
それに対し、やはり子供のような笑顔を返す少年。
まるでどこかに監禁でもされていたかのような言い草である。しかも他人事。
「まあ、しょうがないわよね。あなただけが悪いわけじゃないわ、
 黙ってついてきたのは私だし」
「そうかい? そう言ってもらえるなら助かるよ」
マナはその言葉に頷き、空を見上げる。幹の側に近寄っている為、それなりに雨は凌げていたが
一晩中ここに居ることはあまり考えたく無い状況である。

385雨傘:03/07/07 00:17 ID:n7Rj30k2


「む〜。やっぱり移動しないとまずいわよね。なるべく早く雨を凌げる所に行かないと」
そこまで言って溜め息。正直なところ、もう動きたくないというのが本音であろう。
しかしそこで悲嘆に暮れていた彼女に、少年が一言ぽつり、と呟いた。

「雨を遮れば良いのかな?」

マナがその声につられて彼に目を向けると、空に祈るかのごとく両手を広げている少年が目に映る。
その金色のひとみが妖しく輝いているように見えた。
「なに……」
なにをしているのかと尋ねかけた瞬間、『それ』に気が付いた。
(何、これ!?)
少年を中心に何かが広がっていくのが見える。いや、本当は『視えない』何か。
だが、雨の粒がはじける位置がじわじわ広がっているため、その不可思議な力がマナにも視えた。
かなりの範囲までそれは広がり、その神秘的な時間は終わりを告げる。

「さ、これで休憩できるよ」
雨の無い空間で、少年がまた、笑った。

386雨傘:03/07/07 00:18 ID:n7Rj30k2
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉なんか出ない。今目の前でおきた超常的な出来事に少し混乱しているようだ。
とにかく少年の言葉に従い休めるよう、足元の雨に濡れている土を払う。
と、その行為を見ていた少年が、ふいに声をかけた。
「ああ、そうか。ちょっと退いていてくれないかな」
黙って従う。

ズガンッッッ!!!!

その瞬間響く爆音。何がおきたかわからないうちに、眼の前の空間が爆ぜていた。
「これで座れるはずだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やっぱり言葉なんか出てきやしない。
「あれ? ああ、草とか花を吹き飛ばすのは問題かな?
 でもまあ、僕は花にはあまり良い思い出がないし、いいよね」
なんか拍子抜けすることを言ってる目の前の何か。その態度にマナも落ち着きを取り戻すことが出来た。
(べつに、こんなことが出来る人がいてもいいわよね。もともと人間離れした動きしてたわけだし)
それに今朝は猫耳のお兄さんと一緒だったし。きっとこの島にはそんな人がいっぱいいるのだろう。
もしかしたら自分や、従姉や、家庭教師のお兄さんの様な普通の人間がいることのほうが間違っているのかもしれない。
そうやってあれこれ考えているうちに、まだお礼の言葉すら言っていない自分にようやく気が付くことができた。

「ありがと。これでゆっくりできそう」
一言そう声を掛け、地面に座り込む。
そして地面にぺたぺたと手をやりながら
「すごいのね、ほんと。あなたみたいな人がいるなら私が優勝なんて…」
そこまで言って気が付く。何であれだけ動けて、こんな凄い力を持っている眼の前の少年が既に鬼になっていたのだろう?
「ん? どうしたのかな?」
「えと、誰に捕まったのかな〜って」
「僕が、かな?」
こくん、と頷くと、少年は郁未や祐一達との顛末を語り始めた。
387雨傘:03/07/07 00:18 ID:n7Rj30k2


「バッッッッッッッカじゃない?」
聞いて第一声。たっぷりと溜めを作った一撃が少年を襲った。
「そうかな?」
「そうよ、逃げる側なのに真正面から勝負する人なんかいないわよフツー」
マナが聞いたかぎり、この少年の能力なら絶対に逃げ出せたシチュエーション。
勿体無いとしか言いようがなかった。
「うーん、そうかもしれない」
本人は苦笑しているつもりかもしれないが、マナから見れば会心の笑顔にしか見えない表情の少年。
「そうだ、こうしよう。明日からは君が全て指示を出す。僕はそれに従う。
 君は頭が良さそうだ。意外に効率よく捕まえることができるかも知れないよ」
急な意見ではあるが特に反論すべきところもない。マナはその言葉に頷いた。

「それじゃ、もう寝ましょ。明日からはバリバリ捕まえてみせるわよ!」
気合を入れてから数分後。やはりその小さな身体には疲れが貯まっていたのであろう、
マナはすやすやと眠りについていた。
普段の彼女なら眼の前の男に警戒して寝姿などさらさなかったであろうが……それともこの不思議な少年だからなのか。
(なんか彼女、性格がキツイとこ郁未に似ているかもね)
どっちに聞かれても怒られそうなことを考えながら、彼は上着をマナに掛けてやった。
(あと数年したら似たような美人になるかも)
そんなことを考えながら、座ったまま目を閉じる。
不可視の力を使った。
お礼を言われた。
この力を使っても誰も殺さなくていい。
それはなんて素晴らしいコト。
「おやすみ」
目を閉じたまま、何もない空間に声をかけた。
388雨傘:03/07/07 00:19 ID:n7Rj30k2


「なんで、起さないのよっ!!」
「なんでって、昨日何時に起して欲しいって言わなかったからね。
 ほら、僕は君の指示に全部従うって」
「だからって、限度があるでしょう……もうお昼過ぎじゃない!」

再出発。雨はまだやまない。お互い色々複雑な思いを抱え、一晩以上を過ごした場所を後にする。
そして少年は傘を閉じた。


【場所 森の中】
【3日目 昼】
【登場 【少年】、【観月マナ】】
【登場鬼 【少年】、【観月マナ】】
389祝福の采配:03/07/07 22:59 ID:KCN0BsxT
「ほぅ、ここに逃げ込んだのか」
「その通り」
 三日目夜。ホテル、そこの階段の踊り場。
「で、なぜそんな情報を我々にもたらす」
「交換条件さ」
「ほぅ」
 向き合っているのは、九品仏大志、そして城戸芳晴。
「俺らとしては彼らは絶対に逃がしたくないからね……特に柳川さんという、メガネをかけた人は」
「で……我々に協力しろと?」
 九品仏のメガネがキラリと光る。しかし芳晴は臆せず、
「いいや、違う。元よりライバル同士の俺たち。そう簡単に協力など出来ないでしょう」
「確かにその通りだな。ではお前の目的とは?」
 芳晴はニヤリと唇を歪ませながら、
「協力はできなくとも……不干渉なら出来るとは思いませんか?」

「ほぅ?」
「つまりこういうことです。お互い逃げ手を追いつめるのは各々が勝手に追いかける。少なくとも、即興の協力体制よりはそっちの方がいいでしょう」
「なるほど、確かにな」
 昼間、お互いにつぶし合っていた鬼の姿が九品仏の脳裏に蘇る。
「最悪の事態は逃げ手に逃げ切られることです。相手方は相当のやり手、こちら側がつぶし合いをするようし向けてくる可能性も捨てきれません」
「ふむ、確かに。邪魔しあった挙げ句逃げられたら見れたものではないな」
 幸い梓は捕まえることができたが。
「そこで先に取り決めておきたい……『不干渉。なれども邪魔はせず』、追いかけるのはお互いがご勝手に。
 スコアを取りたいのなら自分の能力に全てを賭すこと。邪魔は……お互いに、邪魔は、しない。けして、しない」
 ビシッ、と要求を突き付ける。
 
390名無しさんだよもん:03/07/07 23:00 ID:KCN0BsxT
「つまり……貴様は相手を捕まえるだけの『能力』があるということだな」
 が、九品仏は不敵に笑う。そこに存在する意図を読みとって。
「……そういうことですね。一応、俺も常人の範囲は超えているつもりです」
「なるほどなるほど。一見公平に見える条件を突き付けつつ、その実は己に有利であった、と。交渉の基本だな」
「ですが、あなた方にも悪い話ではないと思いますよ」
「では逆の場合を訊いておきたいな」
「逆?」
「つまり、お互い力尽くで獲物を奪い合う自体になったらどうなるか、だ。お互いにつぶし合う形になったら城戸芳晴、貴様はどうするつもりだ?」
「どうする、ですか……」
 フッ、と鼻で笑いながら。
「破ッ!」
 瞬間、芳晴の気が変わる。
「我が力を無敵のものとなさしめたまえ。我が力を永遠のものとなさしめたまえ。
 アドナイ、御身、とこしえに褒め称えられ、栄光に満ちる者の御力によりて。アーメン!!」
 
 バァァァァァァン!!!
 
 ……芳晴の手から放たれた光球が炸裂し、近くにあった石像が木っ端微塵に砕け散った。
「邪魔だてするというのなら容赦はしません。もちろん、手加減はしますがね」
「……エクソシストか」
「ええ。そう呼ばれることもありますね」

「ようしわかった」
 考えること30秒。九品仏は決断を下す。
「城戸芳晴、その話乗ろう。いいだろう。我らは協力はしないが邪魔もせず。お互いにお互いの力を賭して獲物を捕まえようではないか」
「わかってもらえたようで大変嬉しいですね、九品仏大志さん」
 互いにガッ、と握手を交わす。
「では早速我らは我が仲間の元に戻る。くれぐれも見かけても攻撃はしないでくれよ」
「ええ、お互いに、ね。俺たちは早速探索を開始します。逃がさないようにしたいものですね」
 そしてヒュッと踵を返し、お互いに逆の方向へ。
 
391名無しさんだよもん:03/07/07 23:01 ID:KCN0BsxT
 そのやりとりを黙って見ていた瑞希。去り際に、小声で大志に話しかける。
(ちょっと大志……いいの? あんたもわかってるみたいだけどあの条件、あっちがかなり有利よ?)
(問題ない。こちら方にも能力者はいる。下手に奴と敵対するよりは、ギリギリまで衝突を避けた方が無難だ)

 そして芳晴に対し、コリンも同じように
(芳晴……連中信用していいの? あの顔は絶対何か企んでる顔よ)
(問題ない。こちらとて手の内を全てさらけだしたわけじゃない。いや、俺の力なんてのはおまけに過ぎないんだからな。俺たちの切り札は……)

 天井から、いや屋上から、ユミコの遠吠えが聞こえた気がする。
 
(彼女と、そして……)
 チラリと目線をコリンに送る。
 
(私、ってわけね)

 芳晴の言わんとすることを理解し、コリンは近くの部屋……ドアに鍵の掛かったその部屋の壁に近づき、
(……………)
 スウッと吸い込まれるように中へ消えると、
(……お待たせ)
 十数秒後、中の冷蔵庫からくすねてきたジュースを持ち、再び現れた。
 
(その通り。密室空間における追撃戦……お前の能力に勝るものなど、存在するか)


 ──God Bless you all.


【芳晴・大志間に合意成立 『不干渉なれども邪魔もせず』】
【大志・瑞希 他の仲間のところへ】
【芳晴・コリン ハクオロ一行探索へ】
【他のホテルの面々 不明】
【登場 【城戸芳晴】・【コリン】・【小出由美子】・【九品仏大志】・【高瀬瑞希】】
392嵐の前の静かな夜に:03/07/07 23:27 ID:3stA+ntr
「やっぱり外に張っているわね」
 友里はカーテンの陰から外をのぞき、忌々しげに舌打ちした。巨大な異形の姿が闇の向こうに見える。
「これからどうするの? ずっと篭城している?」
「そうだな……どうしたものか」
「ハクオロさん、大丈夫ですか?」
 荒く息をつくハクオロを美凪が気遣う。ハクオロの疲労は仮面の下からでもうかがうことができた。
「大丈夫だといいたいが……やはりこの状態でウィツアルテネミアの力を使うのは無理があったかもしれんな」
 そんなハクオロを見て、友里が口を開く。
「ねえ、あなたがそんな調子なら、あの由美子って奴も相当疲労たまってるんじゃないかしら?」
「わからん。可能性は高いと思うが、
そもそもなぜあの女がウィツアルテネミアになれるのかもわからないしな」
「少なくとも俺の知る限りでは由美子にあんな力などなかったぞ」
「そりゃ、あんな力がある奴なんて手篭めになってできないでしょうね」
 友里の皮肉にみちるが首をかしげた。
「んに? 手篭めって」
「大人だけが食べられるお米の一種です……みちるはもうちょっとガマン」
(ぱちぱちぱち、美凪、ナイスごまかしだ)
 ハクオロが心の中で賞賛を送った。
「そっか……美味しいのか?」
「ハクオロさんがよく食べています」
「いや、何故私にふる!?」
 割と事実だが。
「へぇ、ハクオロさんってそうなんだ」
「意外といえば意外だな」
「はい……実は私も……(ぽっ」
 顔を赤らめて頬に手を当てる。
393嵐の前の静かな夜に:03/07/07 23:28 ID:3stA+ntr
「んに? 美凪も食べたのか?」
「食べたといいますか食べられたかといいますか……」
「ちょっと待てい!! それ以上は教育にイクナイ!!」
「ハクオロさん……早食い?」
「何故知ってる!?」
「へぇ、ハクオロさんってそうなんだ」
「忍耐力が足りないんだな」
「そこぉ!! なんだその哀れむような目は!?」
「ハクオロさん……必死ですね」
「お前のせいでな……」
 ハクオロはゴホンと咳払いをした。
「ほ、本題に戻るぞ……なぜあの娘はウィツアルテネミアの力を持っている?」
「そりゃ……企画側が用意したパワーアップアイテムとかか?」
「思いつくのはそれぐらいよね。もしそうならもうちょっとゲームバランスぐらい考えて欲しいけど」
「全くだな……私が言うのもなんだが」 
 全員がため息をついた。やがて、ハクオロが口を開く。
「ひょっとすれば、あるいは何か制限や弱点があるのかもしれんな」
「弱点ねぇ……日に当たると灰になるとか、十字架に弱いとか? 後マイナーなところで流水を渡れないとか」
「尾をつかまれると力が出ないとかもありうるな。で、尾を切ると変身が解ける」
「猫に弱いかもしれないわね。それで水を掛けると性別が反転するの」
「……お饅頭に弱いかもしれません……」
「塩をかけるとなんとなく溶ける気がしないか?」
「……お前ら一体、ウィツアルテネミアを何だと思ってるんだ?」
 ジト目でハクオロがつぶやいた。
「普通この場合、時間制限とか疲労増加とかだと思うのだが……」
「確かにそれぐらいが一番ありそうかもな。というか、それぐらいの制限はあって欲しいところだ」
 再度、全員でため息をついた。
394嵐の前の静かな夜に:03/07/07 23:31 ID:3stA+ntr
「それで……これからどうするの? ずっとこの部屋にいるのはまずくない?」
 友里の問いにハクオロは首を振った。
「いや、私達は可能な限りここで休む事にする」
「ハクオロさん……?」
 美凪が首をかしげた。
「それだと、鬼さんに見つけられた時に逃げられません。窮鼠です……猫噛んじゃいます」
「だが、うかつに部屋を出ても鬼から発見される可能性が高くなる。
ならば、いっそのこと覚悟を決めてゆっくり休んだよう方がよいと思う。なにより―――」
 親指でベッドのほうを指す。その先にはいつのまにかみちるが丸くなって寝ていた。
「みちる……」
「今日は色々大変だったしな。それに昨日も寝たのは木の洞だ。よく眠れなかったのかもしれない」
「あ……」
「寝台を使わない、無理な姿勢による睡眠というものは存外に疲労をためるものだ。
美凪、自覚してないようだがお前もな」
「ですが……」
 さらに何か言おうとする美凪にハクオロは首を振った。
「所詮、この鬼ごっこは遊戯だ。そして、遊戯は健康を犯してまでするようなことではないだろう?
ここで無理をして体が害されたら、私はお前の親になんと言えばよいのだ?」
「親……ですか……」
 ハクオロの言葉に、一瞬だけ美凪の唇に笑みが浮かぶ。が、すぐにコクン、とうなずいた。
「それで……これからどうするの? ずっとこの部屋にいるのはまずくない?」
 友里の問いにハクオロは首を振った。
「いや、私達は可能な限りここで休む事にする」
「ハクオロさん……?」
 美凪が首をかしげた。
「それだと、鬼さんに見つけられた時に逃げられません。窮鼠です……猫噛んじゃいます」
「だが、うかつに部屋を出ても鬼から発見される可能性が高くなる。
ならば、いっそのこと覚悟を決めてゆっくり休んだよう方がよいと思う。なにより―――」
 親指でベッドのほうを指す。その先にはいつのまにかみちるが丸くなって寝ていた。
395嵐の前の静かな夜に:03/07/07 23:32 ID:3stA+ntr
「みちる……」
「今日は色々大変だったしな。それに昨日も寝たのは木の洞だ。よく眠れなかったのかもしれない」
「あ……」
「寝台を使わない、無理な姿勢による睡眠というものは存外に疲労をためるものだ。
美凪、自覚してないようだがお前もな」
「ですが……」
 さらに何か言おうとする美凪にハクオロは首を振った。
「所詮、この鬼ごっこは遊戯だ。そして、遊戯は健康を犯してまでするようなことではないだろう?
ここで無理をして体が害されたら、私はお前の親になんと言えばよいのだ?」
「親……ですか……」
 ハクオロの言葉に、一瞬だけ美凪の唇に笑みが浮かぶ。が、すぐにコクン、とうなずいた。
「分かりました……」
「よし。お前達はどうする?」
 ハクオロはうなずくと柳川たちの方に目を向けた。
「そうだな……やはり、まだ休む気にはなれないな。これから状況が変わるかもしれないしな。
どこかに潜むにしろ、もっと逃げやすい場所を探すつもりだ」
「そうね。まだこっちは体力に余裕があるし。
どちらにしても、ここは別行動をとったほうがお互いのためだと思うわ」
「……そうだな」
 友里の言う事はハクオロにも分かった。
 もともとこの鬼ごっこ、逃げ手側にしてみれば人数がいたところでさして有利になるわけでもない。
見張りが立てられる等の利点も確かにあるが、反面、発見される確率が高くなる事、
逃げ手の集中に伴う鬼の集中等、デメリットも大きい。
 さらに、この一件で狙われているのは柳川達である。ハクオロ達は巻き込まれただけだ。
柳川たちの方も別行動をとれば、みちるのように能力的に劣っているものを抱えなくてすむ事になる。
「世話になったわね。一応ライバルなわけだから頑張ってともいえないけど」
「幸運を祈るぞ。あまり無理しないようにな」
「可能ならばそうするさ。そっちも幸運を」
「お近づきのしるしに、お米券進呈です」
 口々に別れの言葉を告げると、約束の35000円をわたし、柳川達は部屋の外に出て行った。
396嵐の前の静かな夜に:03/07/07 23:33 ID:3stA+ntr
 暗闇の部屋の中。ベッドで眠る少女が一人に、ベッドに腰掛ける男女が一組。
「行っちゃいましたね……」
「ああ。行ってしまったな」
「みちる、寝ちゃいましたね」
「寝てしまったな。かわいそうな事をした」
「夜ですね」
「……? それはそうだが」
「大人の時間ですね(ぽっ」
「なんでやねん!」
「ハクオロさん、ちょっとドキドキ?」
「しとらん」
「ガックリ」
 美凪はドサッとみちるの横に横たわった。フゥ、と息を吐く。
「確かにお疲れのようです……みちるのこと、気づいてあげられませんでした」
「慣れぬ状況だったのだ。しょうがないだろう」
「そうですね……」
 しばらくの沈黙の後、ハクオロは口を開いた。
「怖くなかったか?」
「いえ……遊園地のジェットコースターのようでした」
「……いや、私がだ」
「遊園地のヒーローのようでした」
「そうか……」
 また、しばらくの沈黙。
「……力を使った事、気に病んでいるのですか?」
「この力は祝福されたものではないからな。相手がああでなければ使うつもりはなかった」
 ハクオロは嘆息した。思えば先程の美凪に向けた言葉も、
力を使ってしまった自分に対する戒めの意から出たものかもしれない。
397嵐の前の静かな夜に:03/07/07 23:33 ID:3stA+ntr
「ハクオロさん……」
「ん?」
「カマーン」
 バンバンと、美凪は自分の横を叩く。
「カマンベイベー」
「あのな……」
「セクシーポーズ」
「親指の爪を噛むな」
「ハクオロさん、かなりドキドキ?」
「しとらんっちゅーに」
「ガックリ……」
 冗談とも本気とも分からぬため息をつくと、美凪は目を閉じた。そして、つぶやく。
「ハクオロさん……あんな事では誰も怖がったりはしないです」
「…………」
「……エルルゥさんも、そういうと思います」
「……そうだな」
「見張りで起きているのなら、そのうち私に代わって寝てください」
「ああ、だが……」
「ここで無理をされて体を害されたら、私、エルルゥさんになんていえばいいですか……?」 
「……分かった。しばらくたったら代わるとしよう」
「お休みなさい」
「おやすみ、美凪」
 二人並んで眠る美凪とみちるに、そっとハクオロは布団を掛けた。
 
【三日目夜 ホテルの一室】
【美凪、みちる、就寝 ハクオロ、見張り。 35000円ゲット】
【柳川、友里 ハクオロ達とは別行動。部屋の外へ】
【登場 ハクオロ、遠野美凪、みちる、柳川祐也、名倉友里、【小出由美子】】
398世界最強の名の下に:03/07/08 19:55 ID:KTMo2acX
「ふ、あーああ〜」
 テントの中、宗一は起き上がり目をこすった。
「ずいぶん寝てしまったな〜」
 コキコキと首を鳴らし、時計を見る。もう昼を過ぎてしまっている。
『ん、私ねるから』
 などといって、突然昼寝しはじめたはるかにつられてついウトウトと寝てしまった。
 寝るのは好きだ、大好きだ。同じテントで寝ている相棒ほどではないが。とはいえ―――
「ちょっと気合抜けてるかもな、俺」
 この鬼ごっこが始まって以来ろくなことがなく、
さらに高い金だして買ったレーダーが役に立たなかった事が
彼のやる気を萎えさせてしまったのだが……
 とはいえ序盤につまかまったわりにはこの低ポイント。
皐月やリサになにをいわれるか分かったものではない。
「まあ、とりあえず起きるか……」
 顔でも洗いに水場に出るか、と思い外に出る。
 そして、チラっと地面を見て、首を振った。
「……本当に鈍ってるな、俺。大丈夫か?」
 それから、もう一度にテントに戻った。
 ―――はるかを起こすために。
399世界最強の名の下に:03/07/08 19:56 ID:KTMo2acX
「梓センパイ、戻ってきませんねぇ……」
「うん……捕まっちゃったのかな、ずいぶん鬼の数も多かったし」
 キャンプ場の、宗一達とは別のテントでかおりと結花は梓を待っていた。
「体が冷えてきちゃいましたね」
「そうだね。そろそろ服乾いたかなぁ?」
 いくら温暖な島とはいえ、雨に濡れた後下着姿でいるのは確かに辛い。
 かおりは立ち上がった。
「ところで、結花さん。凍えた時は人肌で暖めあうのがよいということは知ってましたか?」
 結花も立ち上がった。
「ところで、かおり。私がハイキックが得意だっていうことは知ってた?」
 ニコッと笑うかおり。
「何をおいても健康って大事ですよね」
 ニコッと笑う結花。
「心配しなくても大丈夫。あたし、水泳で濡れるのはなれてるから」
 ジリジリと近寄るかおり。
「なるほど、濡れ場には慣れていると」
 ジリジリと後退する結花。
「日本語って難しいね」
 フフフ、と二人は歪んだような笑顔を浮かべ、テントの中は急速に緊張感を増していった。
400世界最強の名の下に:03/07/08 19:57 ID:KTMo2acX
「那須くん。私、眠いんだけど」
「あんだけ寝といて何言ってんだよ。少しは鬼ごっこしようぜ?」
「そうだねぇ。ま、いいか。んで、ほんとにここに獲物さんがいるのか?」
 はるかは体をほぐすようにのびをすると、テント場を見回した。視界にはかなりの数のテントがうつる。
「獲物かどうかはわからんが……そこの足跡見てみ?」
「ん? 足跡?」
 宗一が指した先には、雨のせいで泥になっている地面に確かにいくつか窪みのようなものがあるような気がするが。
「足跡なのかな? これって」
「素人目にはちょっと分かりづらいだろうが、間違いない」
「ふーん、そうなんだ。よく分かるね」
「足跡は二組、水のたまり具合から見て、そうは時間がたっていないな」
 宗一は地面にしゃがみこんで、つぶさにその足跡とやらを検分する。
「少し足を引きずっているな。疲れているようだ。このテント場で休んでいる可能性は高い」
「ん。たいしたもんだ」
 素直にほめるはるかに、宗一はバサッと髪をかきあげた。
「ふっ 世界エージェントランキングNO1の実力をなめるなよ?」
「なんかそれ小学生が考えそうな設定だね」
「…………」
「子供のころ、世界最強の上は宇宙最強とか、じゃあ私は異次元最強だとかよくそういう口げんかしたなぁ」
「すまん、ちょっとへこみそうだからそれぐらいにしてくれ」
「おっけー で、どのテントにいるの?」
「そうだな……」
 宗一はスッと目を細め集中した。
 エージェントの観察力と推理力を駆使し、場の情報を集積する。
幾多の戦場、修羅場で鍛え上げてきた直観力が、その情報を元にして宗一に答えを告げる。
それはまるで世界を捉えるような感覚。
(……あそこだ!)
 宗一が指差そうとした矢先、
401世界最強の名の下に:03/07/08 19:57 ID:KTMo2acX
「ちょ、ちょっと! あんたが好きなのは梓でしょ!?」
「梓センパイつれないんですもん! いやそこがまた魅力ですけど、独り身が辛い時だってあるんですよぉ〜!!」
「だからってあたしかぁ!? う、うわぁ!! 来るな!!」
「グフフフ、天国を見せてあげます!!」
 
 テント群の中の一つからそんな騒ぎ声が聞こえ、
「ん。 あそこだね」
 ぽん、とはるかは宗一の肩を叩いた。

 こちらは修羅場の続くテントの中。下着姿の二人の女性が絡まってる。
「い、いい加減にしろ、かおり!! 本気で怒るぞ!!」
「遠慮しなくていいですよぉ〜 ていうか、その姿は誘っているとしか思えないじゃないですか!!」
「なんでやねん!?」 
 結花は強引にかおりを引き剥がすと、牽制としてハイキックを放った。無論当てるつもりなどない。が、
  
 ドガッ
 
「あ、あれ?」
 テントの布地越しに蹴り足に衝撃が伝わった。
402世界最強の名の下に:03/07/08 19:58 ID:KTMo2acX
 再びテントの外。ちょっと時間を巻き戻して……
「いや、足跡から推理したりとか、気配探ったりとか、そういうのの意味って……?」
「なかったねぇ。ま、いいじゃん。さっさとお邪魔しよ」
「いや、待て」
 無造作に件のテントに近づいていくはるかの肩を、宗一はグッと抑えた。
「テントの両側から慎重に接近するぞ」
「ん? 慎重だね」
「プロのエージェントは例えどんな時でも油断はしない。それができてこそ一流だ」
「ふーん……ま、いいや」
 宗一の指示に素直に従い、はるかは騒ぎ声が聞こえるテントの逆側に回る。
(集中しろ……相手の気配を探り、相手の状況を把握する)
 慎重に宗一はテントに近づいた。
 これだけ騒がれたら、もはや気配を探るもへったくれもない気がするが、そこらへんはとりあえず忘れることにする。
(感覚を研ぎ済ませろ……) 
 相手の様子を探るべく、テントの布地に顔を近づかせ……
 顔面に衝撃が走った。

「え……あれ?」
 結花は驚きの声を上げた。
 どうも自分のご自慢の蹴りがテントの外の誰かにクリティカルヒットしたような気が……
「どうしましたか?」
「テントの外に誰かいるみたい!」
 結花は手早く上着を羽織ると、テントの外に顔を出した。
「げ……鬼!?」
「やっほー」
 髪の短い女性がシュタッと手を上げる。その足元に転がる男が激しく気になる。
「鬼ですかぁ!?」
 結花と同じような格好でかおりも外に飛び出す。
「うん、鬼だよ」
 律儀にその鬼は挨拶を返した。
403世界最強の名の下に:03/07/08 19:58 ID:KTMo2acX
 意識が揺らぐ。地面が揺れる。視界が暗闇に包まれ、その中に星が揺らぐ。
 必殺の一撃だった。最凶の不意打ちだった。殺気など微塵も感じなかった。
(負けたのか……俺は?)
 冷たい認識が、心を満たす。
 NastyBoy。世界ランキングNO1を誇るエージェント。幼いころから英才教育を受け、一時は世界を律する力すら持った男。
 その俺が。素人の女にKOされた。信じられるか? 一発KOだぞ? こんな事実がありうるのか?
 もしこれを知れば、リサはどうするだろう。哀れみの視線を向けるのだろうか?
 皐月はどうだ? 罵倒するのか?
 ゆかりはどうだ? 同情するのか?
 姉さんはどうだ? 慰めてくれるのか?
 エディはどうだ? 見捨てられるのか?
 そんな惨めな現実を受け入れるのか、俺は?

 ―――否、断じて否。

 そう、こんなのは嘘だ。こんなことを認めるわけにはいかない。
 俺はプロだ。一流のエージェントだ。そして、プロはいかなる時にも絶望しない。
(そうだ。まだ俺は負けていない……!!)
 その強さを取り戻せ。その誇りを取り戻せ。
 まだ立てる。戦える。
 まだ、やれるのだ、俺は―――!!
 だから、宗一は雄叫びとともに立ち上がり―――

「ん。タッチね」
「はあ、しょうがないか。こんな格好じゃ逃げられないもんね」
「ちょっとうかつでしたね〜 せっかく梓センパイが逃がしてくれたのに」
「うん……梓には申し訳ないことになっちゃったかな」
「ごめんね。でも勝負だからね」

 結花とかおりの肩に手を置くはるかを目にして、世界最強のエージェントは再び崩れ落ちた。
404世界最強の名の下に:03/07/08 19:59 ID:KTMo2acX
【はるか 2ポイントゲット】
【結花、かおり 鬼化】
【宗一ダウン】
【三日目昼すぎ キャンプ場】
【登場 日吉かおり、江藤結花】
【登場鬼 【那須宗一】、【河島はるか】】
405終焉のノクターン:03/07/09 01:07 ID:TKhgSXDj
 ――遅れて別荘の中へ踏み込んだ響子の見た物は、逃げ手の少女を庇う様にして立つ、二人の鬼役の少年と少女。
そして、自分よりも先に窓から飛び込んだ弥生に見据えられ、顔を青褪めさせている青年。それら両者の間で戸惑った
様に銃を構えたまま固まっている若い女が一人…
「…三つ巴ってやつ?」
 その呟きが聞こえたか、弥生と彼女に見据えられている青年以外の者達の視線が、響子へ集中した。――中でも、
銃を構えていた娘は、響子を見るなり鋭い眼光と共に銃口をも向けて来る。
「また新しい鬼…!?」
「ちょちょちょ…!? ちょっと! そんな物騒な物向けないでよ!」
 まさか本物ではあるまいが、碌でもない物が飛び出してくるのは間違いなさそうだ。
 ――だが、響子と銃を構えた娘…晴香のやり取りを全く意に介していないのか、弥生はそちらへ一切気を向ける事も
なく、青年…和樹の方へと、一歩近付いた。
「…以前、貴方が作ったという、『表紙フルカラー・84Pの大作・森川由綺と緒方理奈2大アイドルが監禁、陵辱で奴隷化、
しかもレズシーン有り』なる同人誌について、少々伺いたい事があります」
 静かな、感情の存在を感じさせない声音。だが、和樹は、その冷たい声の中に激しい何かがあるのを感じ取っていた。
 ――はっきりと。
「…当該の本、貴方が作ったという事で間違いありませんね?」
 その迫力に和樹は思わず一歩後退ってしまったが、んぐ…と喉を鳴らしながらも、頷いて見せた。
「…た、確かにその本は、俺が作った物ですね…」
 素直に認める和樹。他にも似た様な本を作っている、もっと酷い内容の物を描いている奴等もいる――という言い訳は
しなかった。
「う、訴え……ますか?」
「それは、私の判断する事ではありません」
 弥生が、また一歩。
「只、知りたいのです。その同人誌、『表紙フルカラー・84Pの大作・森川由綺と緒方理奈2大アイドルが監禁、陵辱で
奴隷化、しかもレズシーン有り』を制作していた時――」
「あ、あまり連呼しないで…」
 しげしげと、事の行く末を見つめている他の人々、それも、女性陣の視線が痛い。特に、この森川由綺のマネージャー
の物は…
406終焉のノクターン:03/07/09 01:08 ID:TKhgSXDj
「…『表紙フルカラー・84Pの大作・森川由綺と緒方理奈2大アイドルが監禁、陵辱で奴隷化、しかもレズシーン有り』を
制作していた時――」
 弥生は、和樹の訴えを完全に無視して、再度言い放つ。
「………貴方の中にあった、森川への気持ちを教えて下さい」
「は……?」
「その時、貴方の中には何がありましたか? 情欲ですか? 邪念…或いは、悪意ですか?」
 和樹は首を傾げたが、弥生の眼差は冷たいながら、どこまでも真摯だった。
「……か、“監禁”とか“陵辱”とか“奴隷化”っていう題名だか内容自体、邪念だらけというか…」
 この場で只一人の逃げ手である少女…岡田が、ちょっぴり顔を赤らめながらポツリと呟く。
「ん〜、どっちかって言うと、悪意じゃない?」
「や、情欲だろ、寧ろ」
 続けて、岡田を他の鬼達から護る様にして立つ二人…志保と浩之がそう口にした。
「――違う!!」
 ギャラリー達の物言いに、和樹は鋭く叫び返していた。
「…確かに情欲はあった。無いと言ったら嘘になるし。それが邪念や悪意と見られる事だってあるとは覚悟していた。
――でも! …一番大きかったのは、『萌え』…なんです!」
「…“萌え”……ですか?」
「そう、『萌え』です。…情欲だけでは良い物は作れない。悪意とかは以ての外……一番大切なのは『萌え』なんです!
トップアイドルが理不尽な欲望達の前に為す術もなく穢されてゆく……綺麗な物、美しい物を汚してしまいたいという
情念――それは、『萌え』に繋がるんです!」
「…只、背徳感を煽る様な性描写を描き連ねただけなのでは?」
「うぐ…――そ、それは、結果的にそうなってしまったというか」
 …本来ならば例の本、アイドル萌え本(ちょっとお色気アリ)として完成するはずだったのだ。実際、ほぼ完成しており、
仲間内からも高い評価を得ていた。――が、「こんなのダメダメ! 売れないとダメなんだからぁ!」…と、某同人女王様
にその原稿を没収されてしまったのだ。
 そして、結局ゼロからの作り直しで修羅場をも乗り切ってしまった為に、トンデモない物が出来上がってしまったという、
何とも皮肉な話…
 あの時の達成感が、こんな形で災厄として巡って来るとは。これこそ正に因果応報…或いは、人間万事塞翁が馬と
でも言うべき事なのか。
407終焉のノクターン:03/07/09 01:09 ID:TKhgSXDj
「……………何れにせよ、貴方は“ギルティ(有罪)”…。覚悟は…宜しいですか?」
「わ…!? わわっ…! ちょ、ちょっと待って…!!」
 弥生が手を伸ばし、和樹へ更に詰め寄った。
 ――その時である。
「話は終った? ――じゃあ、潰れていなさい!」
 ばむ!ばむ!――と、晴香の声と共に、トリモチ銃が爆ぜた。放たれたトリモチが凄まじい勢いで弥生に――
 命中しなかった。弥生は、咄嗟に体を床へ伏せさせ、飛来したトリモチを寸での所でかわしたのだ。
 その煽りを喰らったのが、和樹である。
「むべっ…!!?」
 トリモチは和樹の顔面に見事命中。…彼は床を転がり、壁にぶつかって伸びてしまった。
「ちっ…!」
 舌打ちする晴香。だが、間を置かずに再度弥生に銃口を向ける。彼女の中では、弥生こそが一番厄介な相手と認識
されている様であった。そこへ――
「ちぇすとぉぉぉっ!!」
「っ…!? ああっ!」
 横合いから、志保ちゃんキック炸裂(パンツ丸見え)。晴香の手からトリモチ銃が弾き飛ばされ宙を舞い、立ち竦んだ
ままの響子の足元へと落ちた。
 得物が失くなった。――好機と見たか、すかさず志保に続いて浩之が晴香に飛び付く。相手は女性で、浩之には力も
ある。取り押さえるのは割合簡単だと思ったのだろう。
 しかし、浩之の顔が、次の瞬間驚愕の色に染まった。
「なななっ…!? 何だあっ!!?」
 柔道の要領で晴香の袖と襟元を掴んだはずの浩之の体が、見えざる何者かに持ち上げられたかの如く、宙へ浮かび
上がったのだ。
408終焉のノクターン:03/07/09 01:10 ID:TKhgSXDj
「ちょ、超能力者…!? ――まぢ!?」
「こっ、琴音ちゃんが使うみたいなアレか…!?」
 愕然とする浩之と志保を見て、晴香はニヤリと笑った。
「不可視の力よ。怪我はさせないわ。――大人しくしてなさい!」
「おわぁあっ!」
 ぽーんっと見えざる力で投げ飛ばされた浩之は、ソファーに軟着陸。が、勢い余ってソファーごと転がり、壁との間に
挟まれてしまった。
「キタな! 反則よ反則! そーいうので直接攻撃したら反則よ!?」
「“攻撃”した訳じゃないわ。掴んで来たから“振り払った”だけよ」
 志保の猛抗議をさらりといなしつつ、晴香は体に掛けていた別の得物――サブマシンガンか何かに似た物の下部に
スプレー缶の様な物が付いた銃を構え、自分の顔にはガスマスクを被る。
「そんな言い訳が通る思って――」
「――“通す”わ」
 ガスマスク越しの、くぐもった声。…晴香がガスマスクを被った時点で、志保は彼女が構えた新たな得物の正体を
察するべきだった。だが、頭に血が昇っていた為に、判断が遅れた。――ぶしゅーーっ!!
「わぷっ…!? ぶしっ…!? ヒクしょんっヘクしっ!! なっ、何よコレっ……ファくしょんっ! ハクしょんっ!!」
 唐辛子噴霧器の小型ver.――胡椒噴射器である。大型で小回りの利かなそうな唐辛子噴霧器ではなく、軽さと接近
戦での扱い易さを考慮し、これを選んだのだ。
 胡椒の噴流をモロに喰らった志保は、クシャミを連発しながらのた打ち回った。
「悪いわね」
「ふむぎゅっ…!!」
 苦悶する志保を踏みつけ、その顔めがけて更に胡椒を連射。
「ひぎゃああああああ………っっ!!?」
409終焉のノクターン:03/07/09 01:12 ID:TKhgSXDj
 悶絶する志保を尻目に、晴香は弥生に向き直った。向き直った時には、胡椒噴射器を持たぬ方の手に、また新たな
得物を構えていた。――片腕でも扱えるネットランチャー。小型だが、人一人を捕獲するには充分な代物だ。
「――さ、次は貴女よ。胡椒で悶絶したくなければ、大人しくしてよね」
「………何故、こんな手荒な事を?」
「…あんたが言う、そんな事?」
 先程から床に片膝を着いてしゃがんだままの弥生を見やり、晴香は肩を竦めた。
「さっき、あの同人ジゴロをコロそうとしたじゃない」
「…そんな事はしません」
「……その気マンマンに見えたけど? ま、いいけどね。――じゃあ、潰れて貰うわよ」
「私は…足を挫いてしまいました。暫くまともに動く事は出来ません。それに、他の逃げ手に興味もありません」
「そう。でも、今はそうでも、後々気が変わるかも知れないでしょ? 潰すか潰さないかはこっちが決める事だしね」
 別段、嗜虐的な感情等が沸き立つ事もなく、只淡々と、晴香はネットランチャーを動けない弥生に向けた。
 ――と、
 ばむ!ばむ!ばむっ!…――トリモチ銃が爆ぜる音。
 響子が、足元に落ちていたトリモチ銃わ拾い上げ、弥生の傍に立つ晴香に向けて撃ち放ったのだ。
 ――何故そんな事をしたのか、解らない。弥生の危機――結構じゃないか。これ以上振り回される事もなくなるだろう
し、ここで休みを摂る事だって出来るだろう。何も、無理をして彼女を救う必要など…
 だが、そう思いながらも、体は動いていた。――ここまで付き合って来た為に、ある種の情が生まれていたのかも
知れない。
 ――しかし、響子の友情は、報われなかった。
 撃ち放たれたトリモチは、晴香の体に命中する事無く、寸前で叩き落されたかの様に弾かれてしまったのだ。
「なっ……!?」
「気付いてなかったと思う?」
 響子がトリモチ銃を拾い、構える所を、晴香は視界の隅で認めていたのである。
 愕然とする響子に向け、晴香は無造作にネットランチャーを撃った。――襲い来る蜘蛛の巣の如き捕獲ネットに絡み
獲られ、響子は悲鳴を上げて倒れた。
410終焉のノクターン:03/07/09 01:13 ID:TKhgSXDj
 ネットランチャーは、便利な事に自動装填式らしい。何発入っているのかは解らないが、発射口を弥生に向け直した
時には既に、カコン…と軽い音を立てて次弾が装填されている。
「………勝ち進んでいる時が一番負け易いと言いますからね」
「そうね。油断大敵。勝って兜の緒を締めろってやつかしら?」
「――全くその通りだわね」
「――っ!?」
 背後から声――驚いた晴香が振り返った時には既に、岡田の握ったフライパンは振り下ろされていた。
 くぱああああぁぁんんっ…!
「んぐっ…!!」
 丈夫なガスマスクを被っていたお蔭で一撃での昏倒は避けられたものの、目の中に激しく星が飛び散り、衝撃が頭
の中を貫いた。
「も・いっちょおっ!!」
 くゎぱああんっ!!――今度は振り上げの一撃。晴香の顔からガスマスクが外れて吹き飛び、宙に舞う。
「こっ…このっ……!」
 フライパンアタックで脳を揺さ振られながらも、晴香は不屈の根性で崩れそうになる両脚を踏ん張り、岡田に掴み
掛かろうとした。だが、岡田はヒラリとその手をかわし――
「ちょオッッップ!」
 ごんっ…!――…垂直フライパン。その力は前のニ撃に較べればずっと弱い物ではあったが。
「……………………うぐぅ…――」
 そして、晴香は遂に倒れた。
411終焉のノクターン:03/07/09 01:14 ID:TKhgSXDj


「…やりますね。お蔭で助かりました」
「どーいたまして」
 片手で持ったフライパンで肩をトントンと叩きつつ、晴香の手から落ちた武器を蹴って脇へ寄せている岡田を見やり、
弥生は素直な賞賛を表した。
「鬼を前にまごついたりバタバタするだけが逃げ手じゃないってね。――藤田ぁ、長岡ぁ、生きてるー?」
「……何とかな」
「くっくっくっく…、どーしてくれよーかしらねぇ、この女」
 やれやれとばかりに体の上に乗ったソファーを退かし、立ち上がる浩之。その頭には、でっかいタンコブがこんもりと
出来上がっていた。
 志保は――というと、胡椒攻撃による涙と鼻水の為に目と鼻を赤くさせながら、片手にトリモチ銃、もう一方には胡椒
噴射器を構えつつ、完全にノックダウンさせられている晴香を悪人顔で見下ろしていた。
「取り敢えずフン縛るか」
「超能力者なんでしょ? 縛ったってすぐに逃げ出しちゃうわよ」
「外にほっぽり出す訳にもいかねーだろが。何かロープみたいな物……そーだ、志保、お前のブラジャー貸せ」
 その要求に応えて、無言で浩之の顔面に蹴りをメリ込ませる志保。
 …まあ、晴香の事は、エスコート役(どうも今一頼りない気もするが…)の彼等に任せるとして――岡田は、二階へ
続く階段を見上げた。
 そこには、Tシャツに下着のみといったラフな姿の松本がニコニコ顔で腰を下ろしており、傍には、階段の手摺りに
もたれる様にして立つガンパレコス姿の吉井がいた。――息を潜めて事の行く末を見守っていたのだろう。
「カッコよかったよ〜、岡田ぁ♪」
「私の活躍する場も残しといて欲しかったなぁ。こんなコスプレまでしてるんだし…」
「いーじゃない、別に。あんたは前に充分活躍したでしょ。藤田に飛び蹴りまでくれてたし」
「言わないでよ、それは…」
412終焉のノクターン:03/07/09 01:16 ID:TKhgSXDj

 …ネットに捕らわれていた響子は弥生に助け起こされていた。
「大丈夫ですか?」
「はは…、どうにか」
 どこか自嘲するかの様な苦笑を浮かべながら、響子は乱れてしまった髪を手櫛で整える。
「…柄にもない事するから、酷い目に遭っちゃったわ」
「有難う御座います。助かりました」
「ちょ、ちょっと…、よして下さい。結局、私は何の役にも…」
「いえ……、助かりました。是非、礼を…――有難う」
 生真面目に礼を述べられ、響子は却って照れ臭かった。
 その照れ臭さを肩を竦めて誤魔化し、響子は視線を転じた。――壁際でトリモチを顔にへばり付かせて呻く和樹に。
「………で、彼の事、どうする気です?」
 弥生はそれに答えぬまま、軽く挫いた片足を庇いながら、和樹に近寄った。
「……無事ですか?」
「ぐはっ……な、なん…とか…」
 トリモチを弥生の手でベリベリと剥がして貰い、和樹は酸欠地獄から生還した。が、その先で待っていたのは、
また新たな地獄であったと言うべきか。
「…あう………、こ、コロさないで下さい…」
「そんな事はしません。……取引をしましょう」
「と、取引…?」
「性描写を用いない、森川を題材にした“萌える本”とやらを制作して下さい。それを、件の本よりも多く売るのです」
「お、お咎め無しの、条件ですか…?」
 弥生は、黙したまま頷く。
「で、でも……18禁本と較べたら、萌え本の売れ行きはそんなに…」
「私は、出来るか出来ないかを尋ねているのではなく、やるかやらないかを訊いているのです」
「……やります」
 …どうやら、和樹はシを免れた様であった。
413終焉のノクターン:03/07/09 01:18 ID:TKhgSXDj
「…いいんですか? 法的手段に訴えて吊るし上げる事も出来たのに」
 傍でやり取りを見ていた響子が、弥生に尋ねる。――弥生は、晴香を介抱しながら、怒れる志保にドヤされている
和樹を見やりつつ、静かに首を振って見せた。
「…同人誌という物の雑多性、或いは多様性は、ある程度は知っています。恐らく、森川を題材にした件の本と類似
する物は、他にも数多存在するでしょう。彼一人を叩いた所で焼け石に水……実際、本格的に対処するとなれば、
それを決定するのは私ではありません。それに――」
「それに?」
「――悪意を以て作られたのではないと確認しましたし、件の本について法的制裁を与えた場合、それが逆に森川への
マイナスイメージに大きく繋がってしまう可能性もあります。ですので、これで充分です。…今は、まだ。
 それと、相田さんには、彼と私の約束の第三者的後見人となって貰いますので」
「………なる程」
 響子、感服。キレていた様に見えて、頭の奥は冷静なままであったらしい。…いや、『至極冷静なまま、キレていた』
とでも言うべきか。この弥生という女性、敵に回すべき人物ではないと、響子は改めて思い知った。
「……所で…今日はここで休む事にしますか、相田さん?」
「え…? 本当?」
 弥生の口からその様な提案が出て来るとは。響子は思わず目を見開いてしまっていた。
「私は足を挫いてしまいましたし…、相田さんも相当お疲れでしょう?」
「…そう……ですね」
 弥生が休みを摂ると聞いて、緊張が解けたか、響子の体にどっと疲れが圧し掛かって来る。
 弥生は、離れた所からこちらの様子を窺っていた岡田に目をやり、その視線だけで問い掛けた。
「――いいわよ、別に。私達にタッチしてこなければね」
「そのつもりは全くありません。ご安心を」
「そ。ならいいけど。――シャワー使う? タオルとか、管理側が用意してくれた下着とかも置いてあるわよ」
 シャワールームの方を親指で指し示し、岡田は、ニッと笑って見せた。

 …こうして、戦慄の刻は静かに終焉を迎えたのである。
414終焉のノクターン:03/07/09 01:19 ID:TKhgSXDj


 後日談として…
 本来日の目を見るはずであった“アイドル萌え本”の原稿を詠美ちゃんさまから力ずくで奪回した和樹は、それを
加筆修正し、弥生との約束通りに制作完成させた。
 その本は、和樹の不安と予想に反して、件の本…『…2大アイドルが監禁、陵辱で奴隷化〜』に迫る売れ行きと好評
を博した。――その所為であるかは解らないが、森川・緒方の両アイドルの人気は更にヒートアップ。
 …加えて、そのアイドル本に加筆された『美人マネージャー』の話に食いついた人々が、熱烈な“美人マネージャー
萌え”として濃ゆく萌え上がったとか。
 それはまた、別のお話――

【【和樹】【晴香】 襲撃失敗。ミイラ取りがミイラに。岡田のフライパンアタックで晴香は気絶】
【【和樹】 同人誌について弥生と約束。取り敢えず一命を取り留める。戦意消失】
【【弥生】 同人誌について和樹と約束。取り敢えずその件については終了。軽く足を挫く】
【【響子】 ようやくちゃんとした休みが摂れるとあって、一安心】
【三日目。日没後〜夜にかけた辺り。場所は別荘】

登場逃げ手:岡田メグミ 松本リカ
登場鬼:【篠塚弥生】 【相田響子】 【巳間晴香】 【千堂和樹】
     【藤田浩之】 【長岡志保】 【吉井ユカリ】
415Fly High!:03/07/09 17:15 ID:QhtIBuVG
 彼らは、雨を凌ぐ屋根を求めている。欲を言えば、風を防ぐ壁も欲しい。
 そしてそれは幸運にも視界の中にある。
 大きなホテルだ。
 雨宿りの場所として、最適と言える。もしかしたら食事やシャワーもあるかもしれない。
 ただ、困ったことに――
「…遠いな」
「ああ」
 ホテルは山の麓。というか海岸線の近く。他に建物は見当たらない。
 彼らはたった今山頂まで上り詰めたと言うのに、今度は下山しないといけない。
「到着する前に、雨が止むかもな……」
 良祐はそう苦笑して、ふっと空を見上げた。
「……ん?」
「? どうした?」
「―――なぁ、山田。あれ、何に見える?」
「何って―――」

 ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜。

 遥か上方から何か茶色いものが降ってくる。
 下から見たことが無かったからだろう。2人がそれを屋台だと認識するまで、かなりの時間がかかった。


 とさっ、とその屋台は着地する。
「む? 運がいいにゃ。早速客だにゃ」
「――いらっしゃいませ」

416Fly High!:03/07/09 17:15 ID:QhtIBuVG

「…転移魔法ねぇ……いまいちピンとこないな」
 キムチラーメンをずるずるとすすりながら、まさきがそんな風にぼやく。
 一般人である彼にとって、どうにもこういった非現実的な――たとえ、目の前で起こったことであっても――ことは受け入れにくいのだろう。
「魔法か、興味があるな。不可視の力とは原理が根本から違いそうだ」
 一方の良祐は興味津々だ。
「――空間転移は、この"魔法瓶"に"シュイン"の魔法を詰め込むことで行っています」
 フランソワーズは律儀にも良祐の独り言に付き合っている。
 彼女は注文の受け付けと2人分の料理をこなし、おまけに接客と忙しい。
 ちなみにこの屋台のリーダー格であるメイフィアは絵の中に入って眠っている。交代で睡眠をとっているのだろう。
「魔法瓶って、いつ聞いてもダサい名前だにゃ。そのまんま過ぎるにゃー」
 たまは言わずもがな。その辺でごろごろしている。
 屋台の中では幾分窮屈そうだが。
「…まあ、詳しいことはこの鬼ごっこが終わってからでいいかな」
 話に付き合わせては悪いと思ったのだろう。良祐は早足で食事を終え、席を立った。
「ごちそうさま。あと、傘も貰えるかな」
 まさきも後に続き、ついでに傘を購入する。
「ありがとうございました」
「またくるにゃー」


「…高かったな」
「仕方ないよ」
 食事で体を温めた2人は傘を差し、ホテル――鶴来屋別館へと向かう。
 雨具はあるが、やはり建物の方が体が休まるからだ。


 数分程度、歩いただろうか。

417Fly High!:03/07/09 17:16 ID:QhtIBuVG
「にゃーっ!」
「「!?」」
 後方から、たまの叫び声。
 慌てて振り返ると…。
「なっ!?」
「にゃーっ!? 止めてくれにゃーっ!」
 さっきの屋台が後ろ向きに坂を滑ってくる。
「巳間っ…」
「…止めるぞ!」
 見れば、フランソワーズが引き棒を掴んで綱引きの要領で屋台を止めようとしている。
 2人は傘を投げ捨てて屋台へ走り、すれ違いざま、フランソワーズに倣って引き棒を掴んだ。
 がしっ!
「ぐっ…」
 それで一瞬スピードが落ちる。だが、止まりはしない。
 ずるずると引きずられながら、なんとか良祐がフランソワーズに声をかける。
「おい、何があった!?」
「――引っ張っているうちにバランスを崩しました」
 全体重をかけてふんばるが、まだ止まらない。
「いくら車輪がついてるからって、滑りすぎじゃないか? こんなぬかるんだ道で…」
「私のような非力な者でも引くことができるよう、簡単な魔法をかけてあるので――」
「なるほどな…そこの猫っ! なんとかならないのかっ!?」
「ならないにゃーっ!」
 魔法の効果のためか、引く力が足りないのか、斜面が急すぎるのか、それとも積荷が重すぎるのか…
 とにかく、屋台は止まらない。むしろ少しずつ加速している。

 どうすることもできないまま加速を続け、
数時間前に、この道を駆け抜けた少女たちくらいのスピードになってしまった頃。
「巳間! 前を見ろ…まずいぞ!」
 まさきが叫んだ。
「「!?」」
418Fly High!:03/07/09 17:16 ID:QhtIBuVG
「にゃーっ!? ホテルにぶつかるにゃーっ!」
 屋台はまっすぐ、鶴来屋別館へと向かっている。
「くそっ…止まらない!」
「どうする? いっそあの猫に飛び降りさせて、この屋台は見捨ててしまうか?」
「飛び降りさせるって…このスピードだぞ! あいつはどうなる!?」
「猫だし、何とかなるんじゃないかっ!? 少なくとも、このまま俺達ごとホテルにぶつかるよりはましだ!」
「――ですが、衝突の衝撃で屋台の破片が飛び散るかもしれません。もし近くに人がいたら――」
「最悪、その辺を歩いてる奴を轢いてしまうかもしれないしな…」
「じゃあ、屋台の方向を変えるとか…!?」

 ガコンッ!

「「「「!!??」」」」
 車輪が大きな石に足を取られ、急に屋台がバウンドする。
「まずいっ…」
 同時に後ろの3人の体が宙に浮き…ブレーキとしての意味を為さなくなった。
 屋台は余計に加速する。足が地につかないのでは、進路の変更も難しい。
「――進路の変更もできなくなりました。屋台を見捨てるにしても、今度は私たちの体が地面に叩きつけられてしまいます」
「どうすりゃいいんだ、俺はっ!」
「こうやって猿ように、屋台にしがみ付くしかないだろうっ!」
「――しかし、このままではホテルに―」
「にゃーっ! もう駄目だにゃーっ!」
 もはや打つ手なし。あと数十秒もすれば、ホテルに激突してしまう。

419Fly High!:03/07/09 17:17 ID:QhtIBuVG
 …と。
「ん…うるさいわね……」
 振動と叫び声で目を覚ましたのだろうか。メイフィアが額縁からにゅっと顔を出した。
「にゃっ!? うるさいじゃないにゃーっ! なんとかするにゃーっ!」
「……?」
 寝ぼけ眼で、辺りを見回すメイフィア。
 なんとなく状況がわかったのだろう。少しして彼女は
「シュインの魔法瓶使ったら?」
 それだけ言って、また額縁の中へ潜っていった。
「………にゃ?」
 一瞬、呆然とするたま。
「……にゃっ!? そうだにゃっ! それだにゃっ!」
 それからハッとして、屋台の荷物入れから1本の瓶を取り出し……
「どこでもいいにゃっ! 飛んでいくにゃーっ!」
 そう叫んで、蓋を開けた。


 次の瞬間。
 猛スピードでホテルに突進していた屋台は、遥か上空へと消えていった。






 彼らは、雨を凌ぐ屋根を求めている。欲を言えば、風を防ぐ壁も欲しい。
 そしてそれは幸運にも視界の中にある。
 大きなホテルだ。
 雨宿りの場所として、最適と言える。もしかしたら食事やシャワーもあるかもしれない。
 ただ、困ったことに――
420Fly High!:03/07/09 17:17 ID:QhtIBuVG
「…近すぎる」
「ああ」
「天井も、上に登ればただの床、と」
「切ない話だな…」
 ここは鶴来屋別館
 …の、屋上。
「どうせならもっと他の場所に飛んでほしかったんだが」
「私が魔法瓶を使ったらこんなところに来なかったかもしれないけど…悪いわね。睡魔には勝てなかったから」
「うにゃーっ! このドア、内側から鍵がかかってるにゃーっ!」
「――シュインの魔法瓶が見つかりません――先ほど使ったものが最後だったようです」
「…切ない話だな。女将、一杯くれ」

 彼らは屋上に締め出され、怠惰な時間を過ごしている。
「ぐびぐび……ぷはぁ。まなみ、何やってるかなぁ…」
 まさきがぼやく。まさか今ごろ、下のほうで想い人が女子高生に鳩尾を喰らってダウンしているとは夢にも思うまい。
「ごくごく……ぷはぁ。晴香も、何やってるのやら…」
 良祐もぼやく。
 まさか今ごろ、妹がどこぞの若い男と物騒な作戦を立ていて、
数時間後には女子高生のフライパンチョップでダウンするとは夢にも思うまい。
「――申し訳ありません。元はと言えば、私が一人で屋台を引こうとしたから―」
「あー、気にしない気にしない。お嬢ちゃんは悪くないって。女将、もう一杯」
「そうだな。全員無事だったんだから、良かったじゃないか。女将、もう一杯」
 男2人は雨音と波の音、それからいい女を肴に酒を呑み…。
 緊張の糸が切れたせいもあるのだろう。1時間も経つと、顔を突っ伏して眠ってしまった。
「あら、眠っちゃったわね」
「これからどうしますか?」
「どうするもこうするも、ここから出られないんじゃね…助けが来るのを待ちましょう」
「――そうですね」
「にゃーっ! 退屈だにゃーっ!」
 雨は当分、止みそうにない。
421Fly High!:03/07/09 17:21 ID:QhtIBuVG
【三日目昼頃】
【良祐 まさき メイフィア フランソワーズ たま 屋台ごと鶴来屋別館の屋上で孤立】
【良祐 まさき 飯食って酒飲んで眠った。雨具を購入】
【登場 【巳間良祐】【山田まさき】『メイフィア』『フランソワーズ』『たま』】
422名無しさんだよもん:03/07/09 21:04 ID:NHF+uSor
新作が投下されました…が、容量が478KBです。
投下を考えておられる書き手さんはご注意を!
423名無しさんだよもん:03/07/11 01:17 ID:gzr78hEY
424ライジングサン:03/07/11 19:09 ID:JhsSNeGR
「…………………………」
「…………………………」
 時刻はすでに朝である。
 即ち、4日目朝。
 この鬼ごっこもとうとう三度目の朝日を見るに至った。
 予想以下か、通りか、以上なのか。それは誰にもわからない。
 が、事実は事実として受け止める。4日目の朝日は昇った。またこの島は新たな戦場へと生まれ変わるのだろう。
「……………雨、上がりましたね」
「……………そうですね」
 木々の間から落ちる雫が光を反射し、森の景色をぼんやりと浮かび上がらせている。
 まだ朝と呼ぶにはいささか早い時間かもしれない。実際2人以外の同居人はまだ完璧に夢の中だ。
 2人とも偶然、ほぼ同じタイミングに目を覚ましてしまった。何か、波長のようなものでもあるのだろうか。
 
「……………これからどうしましょうか」
「……………そうですね」
 東の空から浅い角度で朝日が差し込んでくる。
 森の中の小屋……
 そこのベランダで篠塚弥生と相田響子は2人並び、登りゆく太陽を眺めていた。
 雨の中を駆けずり回った昨日。
 だいぶ体力を消耗していると思われたが、一晩寝たらほぼ完璧に復活していた。
 さすがは売れっ子アイドルのマネージャーと夜討ち朝駆けが仕事の記者。基礎体力、疲労に対する抵抗力は一般人とは一線を画している。
425名無しさんだよもん:03/07/11 19:15 ID:JhsSNeGR
「……………篠塚さん?」
「…………………………」
「……………しのづかさん?」
「…………………………」
「……………しーのづかやーよいさーん?」
「……はっ!?」
 呼びかけること数回。ようやっとまともな反応が返ってきた。
「申し訳ございません。少々ぼうっとしておりました」
「それはいいんだけど……どうしたの?」
「……景色に、といいますか。この空間……この島を包む独特な雰囲気。言うなればここの空気。そんなものに酔っていました」
「……空気に酔う?」
 合点のいかない単語に困惑する響子。
「はい。なんと言いますか……森林浴のフィトンチッドとはまた違う……この島を包む空気は、吸っているとなぜか非常に……落ち着く……というより穏やかな気分になれます。
 なぜでしょうか。こんな開放的な、リラックスした気分になれたのは久しぶりです」
「…………?」
 言われて、改めてもう一度胸一杯に空気を吸い込んでみる。
 雨上がりの、しかも朝日に洗われた新鮮な空気。
 なるほど、確かに普段コンクリートジャングルに囲まれ、非人間的な生活をしてる自分の体が、一から洗い直されているようだ。
「……確かに、そうですね」
「この鬼ごっこ、最初はどうなることかと思いましたが……」
 稟とした横顔を上にあげる。
「意外と……」
 唇をほんの少し綻ばせて……
「意外と、悪くないものですね」
 優しく微笑んだ。
 
426名無しさんだよもん:03/07/11 19:15 ID:JhsSNeGR
「へぇ、弥生さんって笑うこともできたのね」
「……?」
 思わず本音を漏らしてしまう。一瞬遅れ、しまった! と口を押さえながら。
「す、すみません……失礼なことを」
「いえ、構いません。それより、笑うこともできた……とは?」
 意外に微笑みを崩さず、質問を返してきた弥生。そんな弥生の様子に響子も安心し、言葉を続けた。
「いや何というか……昨日の弥生さんって、氷の仮面というか……修羅というか……なんだかそういうような、近づきがたい雰囲気持ってたんだけど……
 やっと原因がわかったのよね。それは、昨日の弥生さんはほとんど笑ってなかったからなのよね。笑わない人間に、人間味は感じかったかな……って」
 冷静に考えればかなり失礼なことを平気で言ってのける。しかし、今の弥生は全てを受け止めてくれるような気がした。
「……そう、ですね」
 やはり、微笑みを崩さぬまま、
「確かに……そうですね。……私を、変えてくれたのは、きっと……」
 もう一度空を見上げ、
「この空気と」
 首を曲げて、響子を見据えて
「響子さん」
 平然と言ってのける。
「あなたのお陰かも……しれません」

 ドキッ!
 響子の胸が強く鳴った。
(ちょ、ちょっと……何なのよ、私……)
 思わず顔をそむけてしまう。弥生の顔を直視できない。
(夢見る乙女な年頃じゃないんだから……なに同性相手にドキドキしてるのよ……私は……)
「……どうなさいました?」
 そんな響子の気持ちを知ってか知らずか、弥生はずいっと進み出て、響子の顔を覗き込む。
「お顔が赤いですね……風邪でしょうか……?」
 そのままぴとっと互いの額を合わせる。弥生の整った顔を目の前に押しつけられ、響子は軽くパニックだ。
「だっ、大丈夫ですからあっ!」
 慌てて後ろへ一歩飛び退き、弥生から離れる。
「……?」
「は、はいはい。私は大丈夫です大丈夫ですっ。そ、それより弥生さん、これから……どうしますか?」
427名無しさんだよもん:03/07/11 19:16 ID:JhsSNeGR
 最初の質問を改めてもう一度ぶつける。
「そうですね……」
 そして同じ返答。が、今は違う。今のは生返事ではなく、『考えている』という意味での返答だ。
「やっぱり……森川由綺さん、を探す?」
 弥生の立場を考えれば、そして由綺が参加していることを考えれば妥当な提案。だが……
「……………いえ」
 弥生は首を横に振った。
「昨日の様子を見るに、どうやら由綺さんは十分この鬼ごっこを楽しんでいらっしゃるようです。それならば下手に私が合流してしまうよりものびのびと過ごされた方がいいでしょう」
「…………………」
 思わず目を丸くする響子。やはり今日の弥生は違う。一皮剥けたというか、憑き物が落ちたというか。
「ですから……私は私で、この鬼ごっこを楽しもうと思います」
「鬼ごっこを……楽しむ?」
「はい。鬼になってしまったからには、逃げ手を探し、捕まえます。ゆっくりとこの島の雰囲気を味わいながら」
「け、けど……」
 響子は心配げに弥生の脚に視線を向ける。昨日挫いた脚が一晩で治るとはとても思えない。
「ああ、それなら心配いりません。飛んだり跳ねたりは無理ですが、歩くことくらいなら十分可能です……ほら」
 言うとやおらその場に立ち上がり、あたりを一回りしてみせる。
「確かに走り回っての追撃戦などは無理でしょうが、それはそれで構いません。散歩を楽しみながら、私でも捕まえられる逃げ手を探します」
「へぇ……楽しそうね。私もご一緒させてもらっていいかしら?」
「ええ、もちろんです。一緒に行きましょう」
 今度はお互いに微笑む。
 同じように、優しく微笑む。

428名無しさんだよもん:03/07/11 19:17 ID:JhsSNeGR
「……けど、よかったのかしら」
 場面は変わり、森の中の獣道。ここを響子と弥生の2人は足下に気を配りつつ、ゆっくりと歩いていた。
「善いこと……ではないかもしれませんが、悪いことでもないと思われます。あくまでもこれは勝負事なのですから」
「……ま、それもそうかしらね。麻雀でもポーカーでも嘘──ブラフ、ハッタリの類は立派な戦法の一つだし」
 気持ちよさそうに眠りこけていた岡田たちの姿を思い出す。罪悪感が無いといえば嘘になるが、それでもこれは『鬼ごっこ』という『ゲーム』であり、自分は『鬼』なのだ。
「彼女らは鬼と行動を共にするという作戦を取りました。確かに有効な作戦ではありますが、見返りの大きいものほどリスクは高いものです。
 そのリスクを回避する方法は──目。目利き。相手が信用に足る人間かどうかを見定める眼力。それが重要です。しかし、彼女は信じてしまった。
 私たちを。本来敵であるはずの私たちを安易に信用してしまった──それが、彼女の、失敗です。安易に他人を信用するというのは決して美徳ではありません」
 その言葉に微塵の同情はなかった。ただ無情しかない。
「けど、見つかったら怒られるでしょうねぇ……」
 はは、と苦笑を漏らしながら響子。
「その時はその時です。一緒に怒られましょう。私も付き合います」
 やはり冷静に弥生は言い切る。
「勘弁してよ……」
 頭を抱えながら、2人は進む。一緒に歩く。
 
 
 意外な友情の誕生だった。


【岡田、松本 鬼化】
【響子 +2】
【響子、弥生 小屋を離れる】
【その他のメンバー まだ寝てる】
【4日目朝 雨は上がった】
【登場 岡田メグミ、松本リカ、【吉井ユカリ】、【藤田浩之】、【長岡志保】、【篠塚弥生】、【相田響子】】
429名無しさんだよもん:03/07/12 06:42 ID:R44AOImR
430名無しさんだよもん:03/07/13 11:44 ID:7DeepEGo
新スレッド立てました。

葉鍵鬼ごっこ 第七回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1058064126
431名無しさんだよもん:03/07/17 20:46 ID:shiH8Kqv
432名無しさんだよもん:03/07/19 05:32 ID:JPbxLdPo
43332417:03/07/19 05:34 ID:p/2/2c4l
434名無しさんだよもん:03/07/20 00:03 ID:J1vq+lzv
435名無しさんだよもん:03/07/20 23:52 ID:sxxaD0/D
436名無しさんだよもん:03/07/21 03:07 ID:PYS/u3Sv
437名無しさんだよもん:03/07/21 09:38 ID:zVCSocO4

女子小学生のつるつるタテスジ
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禁断ガゾー(^^;)

438名無しさんだよもん:03/07/21 09:54 ID:vb7B6aky
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439名無しさんだよもん:03/07/27 00:37 ID:l7NsUWuV
まだあったのか…。
440名無しさんだよもん:03/07/28 13:45 ID:HnUkFlZJ
って言うか一ネタぐらい書けそうだ・・・
441名無しさんだよもん:03/08/01 23:06 ID:o9z3+TAa
(`・ω・´)
442名無しさんだよもん:03/08/02 23:24 ID:VoLud7hS
ネタ
443名無しさんだよもん:03/08/03 03:11 ID:EMuTtElQ
444名無しさんだよもん:03/08/03 22:09 ID:JehavvCr
444
445名無しさんだよもん:03/08/04 05:00 ID:0nmC3fE2
446名無しさんだよもん:03/08/05 23:07 ID:io1LJ49E
447名無しさんだよもん:03/08/06 07:16 ID:pF8E7peT
448名無しさんだよもん:03/08/06 16:28 ID:jrIuvPz4
449名無しさんだよもん:03/08/07 03:15 ID:e1lHPylI
450名無しさんだよもん:03/08/08 04:09 ID:fPrQJ8sW
451名無しさんだよもん:03/08/08 21:18 ID:8A0NVF1Q
452名無しさんだよもん:03/08/08 21:31 ID:nYxS9p1T
453名無しさんだよもん:03/08/09 00:02 ID:a19uBsGw
454名無しさんだよもん:03/08/09 08:01 ID:vniDW24G
455名無しさんだよもん:03/08/09 08:02 ID:vniDW24G
456名無しさんだよもん:03/08/09 08:02 ID:vniDW24G
457名無しさんだよもん:03/08/09 08:02 ID:vniDW24G
458名無しさんだよもん:03/08/09 08:02 ID:vniDW24G
459名無しさんだよもん:03/08/09 08:03 ID:vniDW24G
460名無しさんだよもん:03/08/09 08:08 ID:vniDW24G
461名無しさんだよもん