葉鍵鬼ごっこ 第五回

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464ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:36 ID:gpZ0TUac
 灯台の付近には、遮蔽物が無い。
 そこに近付く者は、鬼であろうとなかろうと、誰かに見つかり易いという事だ。
 七瀬と矢島は、灯台付近の遮蔽物が無くなるギリギリ手前の場所、そこにある茂みの影に身を潜め、
観鈴とひかりを注視していた。そう――正に、草食動物を狙う獣の様に。
「……灯台に向かってるわね。絶好のチャンスよ…!」
「中に入れば逃げ場無し…か」
「そう。中に入ったら一気に襲う。そしてめでたく2ポイントゲット…!」
「…あのー、俺の取り分は?」
「ゲーム終了後に話し合いましょ」
 観鈴達からは目を逸らさず、七瀬はきっぱりとそう答えた。
 実際、七瀬は既に1ポイント持っている。今となっては逃げ手も大分減っているだろう。
 ポイント分配は余り得策では無い。取り敢えずは七瀬にポイントを稼いで貰った方が良い。
「…(…そーいや、鬼になったから優勝は無い訳だけど、鬼で優秀だった者にも何か賞品とか出るんだよな…?)」
 ――と、矢島が、どこか楽しげにゆらゆらと揺れる動物の尾っぽの様な七瀬のツインテールをぼーっと見つめながら
考えていると、どこからか、何かの音が近づいて来るのに気が付いた。
「…? エンジンの音…?」
465ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:36 ID:gpZ0TUac
 ―― 一方、灯台の頂上。
 そこには、観鈴達の目から隠れる様にして、神奈が潜んでいた。
「…あれらはここに来るであろ。恐らく、この頂にまで。
 そこで、余が“たっち”だ。下に逃げても、余なら入り口まで一ッ飛び…
 ――何れにせよ、余の勝ちだ。葉子殿達には悪いが、この好機、逃す訳にはいかぬ…」
 独りごちながら、神奈は形の好い唇を歪めて微笑した。
 彼女は、別の鬼チームの七瀬達に気付いてはいないが、七瀬達も灯台で観鈴とひかりを追い詰めようとしているので、
気付いた所でどうしようとはせず、このまま待ち伏せを続けたであろう。
 尤も、七瀬達に追い詰められた観鈴達が灯台の半ばで玉砕してしまう事も考えられるが――
「…さあ、早う来るのだ。そして、あの時の事について、小一時間程問い詰めてやろうぞ。ぬふふふふ…」
 …何となく邪悪で嗜虐的な笑みを浮かべる神奈。
 手薬煉引いて待つとは、正にこの事であろうか。
 そんな折――
「………ん? あの音は…?」
 遠くの方から何かの音が響いて来るのが、神奈の耳に届いた。
466ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:37 ID:gpZ0TUac
 ――その音は無論、観鈴達の耳にも届いていた。
「? バイク…?」
 み゛ぃぃぃぃぃぃぃーーーーんんんっ………!――
「……バイク…あの時見たのと同じ物かしら…? こっちへ………来てるわね」
「………がおっ…!? あれ…!」
 み゛っ、み゛ぃぃーーーーんっ………! ぴっぴー! ぴっぴっぴーー!!
 派手にエンジン音を響かせ、クラクションまで鳴らしながら、雨の中を疾走してくる一台の50ccバイク。
 それに立ち乗りしているのは――
「お母さん…!?」
「あら、本当?」
 声を上げる観鈴に、ひかりは目を見開いた。
 ――幸運な事に、バイクの上の晴子の体には、鬼の襷が掛けられていない。まだ逃げ手として健在であったのだ。
「良かったわね♪ お母さん、まだ鬼になってないわ」
「にははっ! ホントだっ! おーい、お母さぁ〜んっ♪」
 暢気に手などを振る観鈴ちん。…が、やっと再会出来た母親から帰って来たのは――
「アホぉぉぉおおっ! 観鈴っ、逃げぇっ!!」
 ぴぴぴぴぴっぴーっ!!――けたたましいクラクションと、怒声。
「え? え? え?」
 思ってもいなかった言葉が帰って来たので、振った手を固まらせながら、観鈴ちんは頭の上に
でっかい『?』を浮かべて首を傾げた。
 ひかりは――
「観鈴ちゃん! 走って!」
 晴子の叫びで自分達に迫る危機を悟り、観鈴の腕を引っ掴んで走り出す。
 ――視界の端で、二人組みの鬼が茂みから飛び出して来るのを認め、がおがお言っている観鈴を
引き摺る様に更に加速し、晴子の方へと向かった。
467ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:37 ID:gpZ0TUac
「ぐあっ…、気付かれた…!?」
「バイクに乗ってる奴に見られてたんだわ…!」
 舌打ちしながらも、七瀬と矢島の対応は早かった。
 ――ひかりが観鈴の腕を掴んで逃げ出すのと同時に、自分達も隠れていた場所から飛び出して
彼女達を追い始めた。
 七瀬と矢島の脚は、早かった。
 以前にひかりは、広瀬の追撃を振り切った事があるが、その時は単独であったし、追う側の広瀬も
体力をやや消耗していた所為もあった為、割合簡単に逃げ切れたのだとも言えた。
 ――が、今回は観鈴がいる上、七瀬と矢島の体力はほぼ完調だった(充分な睡眠と、七瀬は炒飯お替りまでしている
のだ)。その為、観鈴を牽引しながら走るひかりとの差が、ぐんぐん縮まってゆく。
「逃がさないわよ!」
「…(今気付いたんだが、あれって神岸さんか?)」
 ちらりと見えたひかりの横顔と赤味を帯びた髪の毛を見た矢島は、そんな事を内心で呟いていた。
468ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:47 ID:gpZ0TUac
「――何であるか、あれは…?」
 何やらけたたましい音を鳴らしながら近付いて来る“それ”を見て、神奈は首を傾げていた。
 が、すぐにその顔が強張る。
 ――灯台へ来るはずだったあの二人組の逃げ手が、急に走り出して灯台から離れて行ったからだ。
 加えて、二人から少し離れた所の茂みの影から、鬼の襷を掛けた二人組が飛び出し、逃げ手の二人を
追い始めたではないか。
「なっ…! 何であるかあの連中は!? 余の獲物を横から掠め取る気か…! ――させぬ!」
 少なくとも、観鈴はこの手で捕らえたい。
 そして、あのぷにぷにほっぺをこねくり回してやりたい。小一時間程。
 雨粒を美しく弾けさせながら、神奈は翼を広げる。
 そして、宙へ己が体を投げ出した。
469ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:47 ID:gpZ0TUac
「もっとしっかり走らんかい、アホちん!」
 ひかりに腕を引かれて走る観鈴の傍を通り過ぎながら、晴子はそう叫んだ。
 ――言われた観鈴が、「がお…!」と呻くのが聞こえたが、取り敢えずやり過ごし、晴子は観鈴達を
追撃して来た鬼二人の前へ躍り出る。
 そして、ややハンドルを切ったかと思うや、反対側へ切り返し、ブレーキ。後輪を振り子の様に
スライドさせ、雨に濡れた泥を撒き上げた。
 ずばばぁぁあああっっっ!!――
「ぶわっ…!!?」
 泥を被りはしなかった物の、七瀬と矢島は流石に追撃を止めてしまった。
「くっ…!」
「行かせへんわぁ!」
 ズみ゛み゛み゛み゛ぃぃぃんっ! しゅばばばっ…!!――
 再び走り出そうとする七瀬と矢島に見せ付ける様、晴子はアクセルを吹かし、
その度に後輪を振り回して泥を撥ね上げる。
「…きっ、汚いわよ!?」
「何とでも言うたらええ。可愛い娘の為なら何でもやったるで…!」
 ニィ…っと、白い歯を見せつけ、晴子はワイルドに笑った。
470ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:52 ID:gpZ0TUac
 走り続ける、観鈴とひかり。
 観鈴は、鬼に突撃していった晴子がどうなってしまったか気になって仕方が無かったのだが、その気持ちを
吹き飛ばしてしまいそうな物が、目の前へと躍り出て来た。
 ――恐竜さんである。
「が、がお…、恐竜さんだっ…!」
「――失礼。私、ベナウィと申す者です。神尾観鈴嬢ですね。晴子殿の命により、お迎えに参りました」
 恐竜――いや、ウォプタル『シシェ』に跨ったまま、ベナウィが観鈴に手を伸ばして来た。
 晴子は、囮であったのだ。――観鈴救出の本命綱は、ベナウィ。
 晴子が派手にバイクを駆って鬼達を惹き付けているに、木々の合間を縫ってこっそりと近付いて来ていたのである。
「騎上からで申し訳ありませんが、お急ぎを。お二方を乗せて、ここから離脱します」
「あら、私も乗せてくれるの?」
 片腕だけで観鈴を引き上げたベナウィに、ひかりはたおやかな微笑みを浮かべながら小首を傾げた。
「無論です。観鈴嬢と今迄行動を共にしていた方を放っては行けません」
「でも――駄目よ。私は行けないわ。この子…大分疲れているみたいだし」
 シシェを見やり、ひかりはベナウィに微苦笑を向ける。
 シシェが疲れている事を察して、自分まで乗せて走るのは無理だと判断したのだ。
「多少の無理は承知です。さあ、早く――」
「駄目よ」
 人好さげな面持ちでありながら、ひかりはやはり固く謝絶した。
471ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:53 ID:gpZ0TUac
「ひかりさん…! 駄目だよ。一緒に逃げよ?」
 泣きそうな顔になっている観鈴に、優しい笑みを向けるひかり。
「いいのよ、観鈴ちゃん。それに――」
 ひかりが、そらを指差す。
 ――その先には、雨の中、こちらに向かって飛翔して来る神奈の姿があった。
「私も乗せていたら、きっと逃げ切れない。――さあ、早く。私が囮になります」
「ひかりさん…!」
「貴女は…」
 寧ろ、悲壮な想いさえ覚え、ベナウィはひかりを見やる。
 ――対するひかりは、透明な程な、にっこり笑顔。
「観鈴ちゃんを、宜しくお願いしますね」
「…忝い。――はっ!」
 ベナウィは、ひかりに心からの賛辞と礼を示し、シシェを走らせた。
「ひかりさん…! ひかりさぁん……!!」
 観鈴の悲痛な叫び声を残し、彼等は森の中へと紛れた…
「…さてと。――おーっい、鬼さん鬼さん。私はここよ〜♪」
472ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:54 ID:gpZ0TUac
 神奈は、舌打ちせんばかりの表情でいた。
 森の中へ逃げられては、追跡がし難くなる。ましてや、あの妙な獣――馬か何かの代わりなのであろう。
「あまり離れては、葉子殿が心配するやも……ん?」
 逃げたはずの者が、此方にむかって声を上げ、手まで振って見せている。あの金色髪の娘と一緒に居た者だ。
「ほう…、自ら囮になると言うのか。…面白い。その意気を買うぞ」
 神奈は、森へ逃げた観鈴の追跡を断念し、ひかりに狙いを定めた。が――
「何…!?」
 どう血迷ったのか、ひかりは今迄逃げてきた方――つまり、灯台の方へと再び走り始めたのだ。そちらにはまだ
あの二人組の鬼が居るというのに…!
「何を考えておるのだ…!?」
 ひかりが上空の神奈の真下を走り抜けたので、神奈は翼を広げて減速、すぐさま引き返してひかりを追った。

 バイクを走らせる晴子と、逃げた道を引き返して来たひかりは、間も無くして交差した。
「なっ、何や!? 何でベナやんと一緒に逃げへんねん…!?」
 目を見開いてバイクを急停止させた晴子であったが、ひかりはちらりとこちらを見やり、微笑みながら軽く会釈した後、
森の方へと伸びる小道を走って行ってしまった。
 晴子を追ってきた鬼の二人組も、小道を逃げたひかりとバイクの晴子を見較べ、徒歩のひかりの方が追い易しと
判断したか、すぐに彼女の後を追ってゆく。
「自分から…囮に…!?」
 思わず半ば絶句してしまう晴子。
 一瞬見ただけであったが、人好さげな顔をしていながら、なかなかどうして剛毅な人柄であるらしい。
「………っ!」
 見捨てる訳にはいかなかったが、上空に飛来する神奈の姿を認め、晴子は再びバイクを走らせて逃走を開始した。
 …あの赤毛の女性に申し訳無いと思いながら。
 ――神奈は、晴子の姿も見つけていたが、一瞬だけ逡巡した後、再びひかりの追跡をし始めた。
473ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:54 ID:gpZ0TUac


 ひかりの逃げた小道は、上からでもよく見えた。
 数十メートル先に、ひかりとそれを追う鬼二人の姿が見える。
 この道の先には――
「む…、川があるの」
 雨で増水し、流れの勢いもやや増している川。
 その上に、ロープと木板で作られた吊り橋が架けられていた。
「…あそこで追い詰めるか」
 神奈は翼を堅く張り詰めさせて伸ばし、緩やかに降下しながら加速した。

 運動神経は決して悪くは無い広瀬の追撃から逃れる程の健脚の持ち主であるひかりであるが、今回の相手は、
やはりそう簡単に撒けそうもなかった。
 追っ手である七瀬・矢島ペアとの距離は、確実に縮んで来ている。広瀬との追撃戦時にあった様な余裕は無い。
「待てぇ〜っ!!」
「…(追い付かれちゃうわね…)」
 逃げられる可能性がゼロでない限り、ひかりは諦めるつもりは無い。それを粘り強いと採るか往生際が悪いと採るかは、
人によってまちまちであろうが。
「…(川……? 橋……吊り橋ね…。――賭けてみようかしら)」
 吊り橋を渡らずに川に沿って進む道もあったが、ひかりは迷わず吊り橋の上へ踏み込み、その中心辺りで足を止めた。
474ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:58 ID:gpZ0TUac
「ここまでのよーね!」
「ふふっ、そうみたいね」
 獲物を捕らえる喜びに双瞳を煌かせる七瀬を見て、ひかりも楽しげに微笑んだ。
 ――ひかりのその表情を目にして、七瀬は小首を傾げた。何故か、ひかりはまだ諦めていない様に見えたからだ。
 と、そうしている内に、七瀬達とは反対側、対岸の橋の袂に、神奈が舞い降りて来た。
「――あら、完全に追い込まれちゃったわね」
「…で、あるな。そなたの意気込み、天晴れな程だ。悪い様にはせぬ。観念致せ」
 実際にそう思っていたので、ひかりを見据えながら近付いて来る神奈の面持ちは、敬意を示し、神妙であった。
「ちょ、ちょっと!? この人は私達の獲物よ! 横取りしないで!」
 当然と言えば当然であるかも知れない七瀬の言い分であったが、神奈の言い分は、更に無体であった。
「この者は、余が捕らえる。そなた等は諦めよ」
「なっ…!? ふざけないでよ!」
「七瀬さんっ、七瀬さんっ…! あんま揺らさないでくれよ…!?」
 かち合わせの火花を飛ばしている両者を尻目に、ひかりは荷物の中から何かを取り出し、“それ”を吊り橋の綱に
当て、軽く引いてみた。――効果は充分。
「――はいはい。喧嘩は駄目よ、どちらとも」
 にっこりとそう言って来るひかりに、七瀬は何か言葉を返そうとしたが、固まってしまった。矢島も、神奈さえ、
絶句してひかりを見つめた。
 ――ひかりが、ナイフを吊り橋の綱に押し当てていたからだ。
「“インディジョーンズ”って映画、見たことある?」
「そ、そんな物、どこで…!」
「屋台で買ったのよ。野外調理器具セットの中にあったの。果物ナイフだけど、いい品ね。よく切れるわ♪」
 言いながら、ひかりはナイフを更に綱へ強く押し当てる。――…プツプツプツッ…プツッ……!
「ちょちょちょっ…! …本気!? そんな事したら川に…!」
「大丈夫よ。思ったより流れも急じゃないし。それに、これでもおばさん――」
 綱に押し当てられたナイフが、更に更に、力を強く込められ、動かされた。
「泳ぎには自信があるから♪」
 ――そして、吊り橋の綱は、破滅的な音を発しながら弾け始めた…
475ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:58 ID:gpZ0TUac


【晴子 ベナウィ  観鈴ちん救出作戦発動】
【救出作戦に、詩子、澪、茜の三人は不参加。ペンションで待機】
【神奈  灯台で観鈴達を待ち伏せするも、晴子の出現によって失敗】
【七瀬・矢島ペア  灯台で観鈴達を追い詰めて捕らえようとするが、晴子の出現によって失敗】
【ベナウィ  観鈴を救出。ひかりも救出しようとするが、ひかり自身に謝絶される】
【ひかり  シシェの体力消耗を慮り、共に逃げる事を辞退。自ら鬼を惹き付ける囮となる】
【晴子  囮を買って出たひかりに申し訳無いと思いつつ、逃走】
【神奈 七瀬・矢島ペア  鬼二組は、ひかりを追撃】
【ひかり  吊り橋で七瀬・矢島ペア、神奈に挟み撃ち】
【ひかり  ナイフで吊り橋の綱を切断…】
【三日目 夕刻】

【登場逃げ手  神尾晴子 神尾観鈴 神岸ひかり ベナウィ 柚木詩子 上月澪 里村茜  】
【登場鬼     【神奈】 【七瀬留美】 【矢島】  】
476名無しさんだよもん:03/05/18 13:26 ID:SBfzbQZr
イイ!!
477一本の枝:03/05/18 23:05 ID:HPWB3DP7
「どうやら、振り切ったみたいだな」
裏葉の手を引き、駆けてきた柳也。後ろから追いすがってきた少女たちを、十分に引き離したと見て、足を止める。
森の中。雨降りは森の枝葉に遮られて、さほどは降ってこない。
「……はぁっ。……そのようですね」
柳也の言葉に、ひとつ大きく深呼吸をして、息を整えてから、裏葉が答える。
駅舎の中から飛び出し、森の中、鬼四・五人を引き受けて、かなりの距離を全力疾走してきたのだ。息を乱して当たり前である。
森の木々の下を駆け抜けてきたため、着衣はそれほど濡れていない。疾駆に乱れた服装を整えながら、裏葉が言う。
「あのお二人は、無事に逃げおおせられたでしょうか……」
「さて、な……確かめに戻る訳にもいかないだろう? 俺たちにできることは、もう何もないさ」
「そうですね。……さ、あの子たちが追ってくる前に、疾く移動いたしましょう」
「ま、もう十分に引き離したとは思うが、な。もう大丈夫か? 疲れは」
「この程度、疲れた内に入りませんよ」
ころころと笑い、さ、参りましょうと、柳也の手を引き歩き出す。
「ああ」

周囲に対する警戒は怠らない。森。隠れられる場所などいくらでもある。
「……水の流れる音がするな」
「そうですね」
とりあえず、雨をしのげる場所を探して歩く二人の耳に届く、川のせせらぐ音。
「ふむ……川沿いに歩いてみるか。街につながっているかもしれない」
「それは良い考えです。北に参りますか、それとも南に?」
「……枝で決めるか」
478一本の枝:03/05/18 23:05 ID:HPWB3DP7
適当に枝を一本拾ってしばらく歩く。やがて、川が二人の前に姿を見せる。
その気になれば、歩いて渡れる程度の小川だ。その前に立ち、柳也は枝を地面に突き立てる。
「倒れた向きで、どちらに向かうか決める。で良いな?」
「お好きになさって下さい。私は、柳也様に従うのみでございますから」
「よし」
手を離す。ふらり、と一瞬揺らいだ後、
「南か」
「はい」
枝は、川とちょうど並行に、南の方を向いて倒れた。
川の流れは北から南。下流に向かって歩いていくことになる。
「ふむ、普通、街は下流の方にあるよな」
「ですわね」
「行くか。街でなくても、何か建物が有ると良いんだが」
「そうですね」
そして、二人は川沿いに、木々の傘に入りながら南下を始める。
ぽつりぽつりと降ってくる雨粒。量は少ないが、一粒一粒が大きい。
少しずつ、濡れてくる服と体。
早めに、建物を見つけたいところだな。
柳也はそう思った。

【柳也 裏葉 智子一行を振りきる。川沿いに南下していく】
【智子一行の行動は不明】

【登場逃げ手 柳也 裏葉】
【三日目朝 森の川沿いにて】
479人外2×2+α:03/05/18 23:56 ID:zl5ctGHT
「チッ、しつこい!」
「どうするの? だんだん暗くなってきたわよ!」
 森の中、肩を並べて疾走する2人。柳川と、名倉有里。
 狩猟者と不可視の力を使役するこの2人。常人ならばそう簡単に捕まえるものではない……。そう、常人ならば。
 ……だが、今2人を追っている連中は、人ではあるが、常人ではなかった。
「クカカカカカカ! どうしたどうした獲物ども! 徐々に動きが鈍ってきておるぞ!」
 三大強國の一つシケリペチムを治める皇(オゥルォ)、それでいて最強の狩人、ニウェ。
「捷疾鬼をなめるな! お前たちはここで終わるのだ!」
 旧日本軍の誇る『最強の欠陥兵器』、光岡悟。
 共に、戦場の中を生き抜いてきた猛者である。
 確かに純然たる身体能力で言えば若干柳川たちに分があったが、そこに『技術』という要素が加わると天秤はその傾きをゆるめる。
 ……特に、森の……漆黒の暗闇の中では。
「ああ、確かにマズイな。夜間戦闘になったらこちらが不利だ。連中、どんな手を打ってくるかわからん」
「けど振り切れるモンならとっくにやってるわよ!? このままじゃじり貧よ!?」
「……そうだな」
 柳川は思考を巡らせる。
 手はある。一つ、ある。
 この膠着状態を打ち破る方法が、ただ一つ。
(……ドクン!)
 鼓動が一つ、高く鳴った。
 そう、狩猟者だ。
 柳川の中に眠る狩猟者の力。それを完全に解放するのだ。
 そうすれば迸るエルクゥの力は狭苦しい人間の『肉』を打ち破り、その全ての力を行使できるようになるだろう。
 解放が成功さえすれば、いくら後ろの2人が強かろうとも、所詮人の身。種族を超えた力にはかなわない。
 が……ただ一つ。
(そんな時間が……取れるのか?)
 強大な力を行使するエルクゥ一族だが、そこには一つ、大きな弱点が存在する。
 人間形態の状態から狩猟者たるエルクゥ形態に変身するまでには、やや時間がかかるのだ。
 が、現状、そんなことをさせてもらえる暇は無さそうだった。
 ……柳川の知るところではないが、耕一が捕まったのもそれが原因である。
 
 その時、
480名無しさんだよもん:03/05/18 23:57 ID:zl5ctGHT
「柳川……さんだっけ? 前!」
「前……? あれは!」
 先行する2人の視界に飛び込んできた光景。それは──
 
「あ、由美子さん! あれ! あれ!」
「え……? あ、あれは!」
 刹那、森の中をうろついていた小出由美子と柳川の目が合う。
 
「ゆ、由美子さん!?」
「柳川さんだーーーーーー♪」

 絶叫したのは2人とも同じ。が、そこにこもった感情は正反対であった。
 柳川は『驚愕』、そして由美子は……『歓喜』。
 
「ここで会ったが百年目ッ! 今日こそはっきりさせてもらいますからね!」
「ま、待て待て時に落ち着け! だ、だからあのことは……!」
「問答無用! ……っていうか、私と問答しなさいっ!」
 弾かれたように飛び出す由美子さん。芳晴はすっかり話題に取り残されている。
「す、すまんっ! 今はあなたと話し合っている暇はないのだ……トウッ!」
「なんだかよくわからないけど、まぁ、捕まるわけにはいかないからね」
 しかしながらそこは人外2人。
 事も無げに正面から迫る由美子と呆然と佇んでいる芳晴をかわし、先を急ぐ。
「クカカカカカカカカカ! 横取りはさせんぞ!」
「非戦闘員は引っ込んでいろ!」
 数秒遅れ、ニウェと光岡も2人の間を走り抜ける。

「……あの、由美子さん?」
 地面にへたり込んでいる由美子に、芳晴が遠慮がちに声をかけた。
「先ほどの方は……お知り合いで?」
「…………………………」
 が、返事は無い。
「あの……由美子、さん?」
481名無しさんだよもん:03/05/18 23:57 ID:zl5ctGHT
「あはは〜、そうなのよぉ〜♪」
「………………!」
 やっとふり返った由美子の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
 芳晴は思わず『戦慄』する。
「あの人はね〜、柳川祐也さんって言ってね〜、私の王子様なのよ〜」
「お、王子様?」
「うんうん。私ね、前、あの人に無理矢理手込めにされちゃってぇ」
「て、手込めですか!?」
「そう……あの時の彼は……乱暴だったわ。そしてそれ以上に……激しかったわっ。キャッ♪」
「…………………………」
 ああ、アッチの世界に逝ってるな。
 芳晴は、そう思った。
「不器用な彼のことだから、きっと言葉で上手く自分のことを説明できなかったのね……。ああん、可愛いっ!
 けど、充分気持ちは私に伝わったわ……。彼の熱いものが、私の中に弾けた瞬間……私の赤い実もはじけちゃったのよぉ。ああんっ!」
「…………………………」
「その瞬間からもう私はあの人にfall in love,あの人も私にfall in love,相思相愛とはこのことね!」
「…………………………」
 もう、芳晴には由美子のノロケを黙って聞くことしかできない。
「だけどねだけどね、あの人、すっごい照れ屋さんで……あの夜以来、私のことをどうも避け気味なのよ〜。非道いと思うでしょ? ね? 芳晴君?」
「エエ、オッシャルトオリデゴザイマス」
「なんだか最近は女子高生やどこかの女性記者にも浮気しがちな気配も見られるからね。私も油断するわけにもいかないのよ!」
「ソウデスカ。ソリャヨカッタ」
「さぁ追うわよ芳晴君! 柳川さんをとっつかまえて、私たちの間柄を認知させてやるんだから!」
「トワイエ、アノスピードデオイカケッコシテルカタガタヲドウヤッテツカマエルンデスカイ?」
「ふふーん、それはね……」
 由美子は楽しげな微笑を浮かべつつ、自分のバックを漁る。
「……?」
「これを使うのよっ!」
 取りい出したるは……
「……仮面?」
 目の回りを覆うように作られたらしい、白の仮面だった。
「……なんですか? それ」
482名無しさんだよもん:03/05/18 23:59 ID:zl5ctGHT
「私も詳しくは知らないんだけどね、なんでも、これを付けると変身して、ものすごい力が手に入るらしいわ」
「へぇ……おいくらだったんですか?」
「30万円、税込みで31万5千円ねっ!」
「ブッ!?」
「と言うわけで……由美子、変身ッ!」
 そりゃぼったくりでは……と突っ込もうとする芳晴も無視し、由美子さんはメガネの代わりに仮面を装着。
 
『デュワッ!』

 じゃじゃーん! とどこかの売る虎男っぽい声とともにその場から消える。
「……あれ? 由美子さん?」
 そして、次の瞬間……
 
 どぉぉぉぉぉ…………………………ん!!!!!
 
「のわっ!? わっ!? わっ!?」

 凄まじい轟音と地響きを伴い、芳晴の目の前に巨人が現れた。
「あ……? え? お…………………?」
 呆然とする芳晴。
『……ン? ア、変身成功シタミタイネ』
 ……竜にも似たその巨人は自分の体を確かめると、満足げな呟きを漏らす。
『ナンカ、エ●ァ初号機ミタイネ。モウ少シ、可愛ラシイデザインダッタラヨカッタンダケド……』
 無骨な巨人に、女性の声。
 あまりにアレと言えば、アレだ。
483名無しさんだよもん:03/05/19 00:00 ID:lpsQuitF
「……………………………」
『ア、芳晴クン?』
 既に絶句状態の芳晴に顔を向けると、由美子さん(?)はにっこりと微笑む。
『ソレジャ、ソロソロ追イカケマショウカ?』
「あ? え? あ? う?」
『サァサァ、早ク私ノ肩ニ乗ッテ』
「……………………………」
 既に精神がかなり投げやり状態の芳晴。一切の反論も疑問も挟むこともせず、促されるまま由美子の肩によじ登った。
『デハ、出発シマショウ』
 由美子はもう一度微笑みながら呟く。



『私ヲ抱イタ責任、取ッテモラウカラネ』



【小出由美子 屋台で購入した仮面(315,000円)によりウィツァルネミテアに変身】
【城戸芳晴 状況に流されるまま由美子の肩に】
【柳川 狩猟者に変身する時間がほしい。由美子に捕まったら認知させられていまう、何としても逃げ切らねば】
【由美子&芳晴 柳川を追う】

【柳川&有里・ニウェ&光岡悟 相変わらず追いかけっこ中。後ろから迫る神様には気付いていない】
【登場 柳川祐也・名倉由依・【ニウェ】・【光岡悟】・【小出由美子】・【城戸芳晴】】
484名無しさんだよもん:03/05/19 06:06 ID:x4HmICmz
『デュワッ!』

(・∀・)イイ!
485雨の日の過ごし方:03/05/19 23:40 ID:6UIM6NHP
雅史を鬼にした醍醐は現在森を抜け、市街地へとやって来ていた。
この鬼ごっこの参加者は女性が多い。ならば雨を嫌って室内でおとなしくしている者もいるかも知れない。
そんな考えからここに潜んでいる者がいるのではないかと思ったからだ。
とはいえ一人で全ての家をまわるのは正直言って面倒だった。
だだっ広いこの島らしくそれなりの戸数がある上に、森の中と同じように所々罠が仕掛けられている。
もちろんそんな物に引っかかる醍醐ではない。ないのだが、ハッキリ言って少々うざったい。
「おそらく作成者は独学だな。罠の種類や位置に規則性がない」
廊下に擦り込まれた油部分を飛び越えて呟く。この家でちょうど20軒目の捜索であったが、
いまだ隠れている逃げ手には遭遇していない。
今までの20軒のうち、罠が仕掛けられていたのはこの家を含めて9軒。しかも1軒、トラップハウスとでも言うべき
罠満載の家があり、流石の醍醐も脱出するのに些か骨を折ったほどだ。
そんないらん苦労をしているうちに、時刻は既に正午にさしかかろうとしていた。
「当てが外れたか……む?」
嘆息しつつ表に出た醍醐の目に止まったもの。
それは灯りの漏れているマンションの一室だった。
誰かいるのは間違いない。だがもしそれが逃げ手だったとして、あんな風にあからさまに存在が分かるようなことをするだろうか?
そう考えるとあそこにいるのが逃げ手である可能性は低いと言える。
しかし万が一という可能性もないわけではない……。
「まあ、行ってみれば分かるか」
獲物ならそれに越したことはない。そう思った醍醐は位置を確認し、その部屋に向かっていった。
486雨の日の過ごし方:03/05/19 23:44 ID:6UIM6NHP
(鍵がかかっていない……)
階段を上がって件の部屋の前に来た醍醐は、そのことに疑問を覚える。
(いくら何でも不用心すぎる。やはり逃げ手の可能性は低いか)
しかしやはり万が一の可能性を捨て去ることは出来ない。ドアに耳を当て、中から漏れてくる声を聞くに、
そこにいるのは少なくとも二人、しかもどちらも女だ。
もし獲物であるならこれほど恵まれた状況もない。
だがここでいくら考えていても、その「もし」が本当かどうか確かめる術はない。
醍醐は思考に浮かんだifを追いやり、一気に突入することを決める。

3…2…1……GO!

バン!!

玄関のドアを開け、短い廊下を疾走。2秒とかからずリビングにその巨体を踊らせる。
果たしてその場所にいたのは、鬼の襷を掛けた3人の女性たちだった。
487雨の日の過ごし方:03/05/19 23:47 ID:6UIM6NHP
「…鬼か」
ならば用はない。そうそうに立ち去ろうと踵を返したところで、
 かぷり
何やら足に妙な違和感。視線を向ける。そこには自分の足に噛みついている、白い綿毛のようなものが……
なんだコレは? 自分も長年裏の世界で生きているがこんな珍妙な生き物は見たことがない。
いや、そもそもこれは生き物なのか? 疑惑の物体は尻尾(らしきもの)を振りながら今も自分の足にすがりついている。動いているのだから生き物だろう。
いやいや、動いているとはいえ生き物とは限らない。未だ表に出ていない技術を使えば、こんなモノの一つや二つ創れても……
いやいやいや、例えそうだとしてもこんな所にそんなモノがいるのはやはりおかしいわけで…………
未知との遭遇を前に思考が堂々巡りに陥る醍醐。そんな彼に、
「…………あの〜、こんにちは?」
一番始めに立ち直った南が疑問符付きの挨拶をした。
488雨の日の過ごし方:03/05/19 23:48 ID:6UIM6NHP
「はあ、びっくりしました」
「私も、始めは熊さんが迷い込んできたのかと」
「南さん、流石にそれは……」
まあわからなくもないけど、と何気にひどいことを考えるが口には出さない鈴香。
醍醐は今先客である彼女たちと話に興じている。
別に先程の南の言葉を無視して立ち去ってもよかったのだが、なんとなーくそうするのははばかられたのだ。
あの醍醐をもそのペースに巻き込む空気、恐るべきはお姉さんパワーというべきか。
聞けば彼女たちはこの雨の中、敢えて外に出たりせず『待ち』の作戦をとることにしたという。
即ち、この部屋で待機し誰か雨宿りに来たらそれを捕まえる、という作戦らしい。なるほど、似たようなことを考える人間はいるものだ。方法はあまり理にはかなっていなかったが。
それを醍醐が指摘すると、鈴香はこう返した。
「まあ、来なければ来ないでいいんですよ。ゆっくり出来ますし」
どうやら彼女たちはあまり鬼ごっこに対する欲が無いらしい。やる気はあるのだろうけれど。
それは多分に彼女たちの性格によるものだろう、まあこのまったりとした空間にいればそれも仕方が……

グゴロギュ〜

何となくため息をついた醍醐の腹が盛大に鳴る。彼女たちの作るマターリ空気にあてられたせいか。
思わず顔を伏せる醍醐。そう言えば朝から何も食べていなかったことを思い出す。
「そう言えば、もうお昼ですね」
「フフ。じゃあ、何か作りましょうか」
そう言って南とみどりは立ち上がり、キッチンへと向かっていった。



【醍醐 市街地で雨宿りをしているだろう逃げ手に狙いを定めるも不発。代わりに南たちに遭遇】
【南、鈴香、みどり、ポテト マンションでマターリ。誰か来たら捕まえようか】
【南とみどり、昼食製作開始】
【時間 三日目昼】
【場所 市街地のマンションの一室】
【登場 【醍醐】、【牧村南】、【風見鈴香】、【高倉みどり】、ポテト】
489乱入せしめる解放者:03/05/20 21:24 ID:/669Y93A
「しっかりしろ名倉有里! ペースが落ちてきているぞ!」
「そんなこと言ったって……ねぇ!」
 漆黒の森の中。人のレヴェルを遙か超えた追撃戦は未だ続いていた。
(チッ……拙いな……このままでは……!)
 数歩分友里の先を走る柳川は心の中で毒づいた。日が落ちてからというもの、徐々に名倉有里のペースが落ちてきている。
 逆に追っての2人は──正確には、相対的──柳川たちの走る速度が落ちたため──であるのだが、その脚を早めててきていた。
 それでも、まだ鬼としての基礎体力が勝っている柳川はまだいい。が、基本的には特殊な訓練(ある意味FARGOの精錬は特殊訓練と言えないこともないが)
 などは受けておらず、不可視に頼りきりの友里は限界が迫っていた。
「急げ!」
「そんなこと……言われたって、ねぇ!」
 柳川に手を引かれ、最後の気力を振り絞る友里。
 が、速度が上がったのも一瞬のことであり、変わらず追撃者たちとの差は徐々に縮まってきている。
「………………………………」
「………………………………」
 すでに追っ手の2人は一言も言葉を発していない。
 しかし代わりにその両の眼はギラギラと鈍い光を発している。
 柳川には、わかった。その光は、彼にとって馴染みの深いものであったから。
(狩猟者……!)
 そうだ。今や追っ手の2人は油断も慢心も迷いもなく、微塵も無く、唯々全力を以て──獲物を──必死に逃げる哀れな獲物──を叩き潰さんとする狩猟者──に変貌を遂げていた。
「チッ!」
 再度強く友里の腕を引く。
「……くっ!」
 友里もそれに答え、なけなしの体力と気力を振り絞り地を蹴るが、やはりと言うべきか。大した成果は得られなかった。
490名無しさんだよもん:03/05/20 21:25 ID:/669Y93A
 ざんっ!
 
「な!?」
「しまっ……!?」
 刹那、友里の体が空を舞った。
 跳ね上げた足の裏から泥を派手に跳ね上げ、頭から地面に突っ込む。
(なんてこと……こんなドジを!)
 踏んじばったはずみに、泥沼に近い状態へと化した水たまりで足を滑らせたのだ。
「名倉!」
「……ッ!?」
 が、友里の顔が地面に叩きつけられる直前、柳川の腕が友里の体を受け止めた。
 しかしながら地面スレスレを舞った友里の体を受け止めたのだ、柳川とて姿勢を保ってはいられない。
 そのままもんどり打って倒れると、ぬかるんだ地面の上を派手に転がった。
「「勝機!」」
 当然、この絶好の隙を狩猟者2人が見逃すはずがない。
 逃げおおせる獲物との勝負は、成った。
 しからば、次の戦いは己の隣を走る同業との勝負!
「いかに獲物を追いつめようとも、トドメを刺せねば所詮二流! この勝負、儂がもらうわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「年寄りの冷や水は見苦しいぞご老体! 俺とて負けられぬ理由があるのだ! 退くことはできんっ!!!!」
 全く同時に地を蹴り、全く同じ放物線を描いて倒れる柳川らに迫る。
「その意気やよし! ならば奪ってみせよ! 儂から獲物を奪ってみせるがいい若造がァ!!!」
「言われなくともぉぉぉぉぉぉぉあああああああああ!!!!!!!!!!!」
 
「くっ……ここまでか!?」
 泥にまみれ、胸に友里を抱えながら顔を上げる柳川。
「!?」
 が、その目に飛び込んできたのは……
「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥリャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
 ほとんど殺気と変わらない程の闘気を身にまとう2人の狩猟者……
「チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
 ……ではなく、
「……なんだあれは!?」
491名無しさんだよもん:03/05/20 21:26 ID:/669Y93A
『ヤァァァァァナガァァァァァァワサァァァァァァァン! 見ィツケマシタヨォォォォォォォ!!!!!!!』

「その声は……由美子さん!?」
 懐かしの女性の声を張り上げつつ迫る、白の巨人だった。
 
 ……一瞬で四人に追いついたウィツァルネミテア(由美子仕様)。
 彼女(?)がまずやったことは……
『ソコノオ二人サン、邪魔デス。チョットドイテテクダサイ』
「なんと!?」
「ちょ、ちょ、待……!」
 ドッゴォォォォォォォォン!!!!!!
 豪腕を振りかざし、中空に飛び上がっていた2人の狩猟者を殴り飛ばす。

「このような者まで存在するとは! クカカカカカカ! 面白い、面白いぞここは! 若造! 縁と命があったらまた会おう! その時こそ決着をつけてくれるわ!」
「なんで俺ばっかりこんな目に! きよみさん! ユズハさん! 俺は呪われているのですか!?」

 ……哀れ、解放者のブローを喰らった人間2人は、遙か彼方の空にはじき飛ばされた。
 
 キラーン☆
 
 後に残ったのは……
「……あ、一番星」
 友里の呟きと、
「絶対違う」
 柳川のツッコミだけであった。


【柳川&友里 泥だらけで転んでる】
【ニウェ&光岡 空の彼方に】
【ウィツァルネミテア(由美子仕様)&芳晴 鬼2人を殴り飛ばす。柳川に追いつく】
【登場 柳川祐也・名倉友里・【ニウェ】・【光岡悟】・【小出由美子】・【城戸芳晴】】
492忘らるる電波:03/05/21 01:32 ID:jQ4IwCTH
「……はぁ」
 ため息を、吐く。
「……はぁ」
 もう一度、吐く。
 
 河原にうずくまる彼の名前は長瀬祐介。
 一応、最強の電波使いである。
 
「……はぁ」

 勝負方法にもよるが、本気の戦いになった場合、彼は最強候補の一角にも成りうるだろう。
 
「……はぁ」

 なにせ彼の『能力』は他の参加者たちのそれとは異質すぎる。単純に飛んだり跳ねたりの勝負では、彼に勝つのは難しい。
 ……が、
 
「……はぁ」

 それゆえに、彼の能力は今回のゲームではほぼ使用禁止と言ってもいいほどの措置を喰らい、あえなく今朝方、3人組に捕まってしまったわけではあるが。
 
「……はぁ」

 既に捕まってからかなりの時間が経つ。日もかなり暮れかけてきた。
 にも関わらず、彼はここから動く気配を見せない。
 なぜならば、
 
「……これからどうしよう」

 ……本気で優勝を狙い、序盤から誰とも組まず単独で過ごしてきた彼。
 一時は栞に洗脳されかけたが、その時も幸いなことに(ある意味主催者側に拘束されたのも幸運であったかもしれない)鬼化は避けられた。
 彼は、密かに期待していた。
493名無しさんだよもん:03/05/21 01:33 ID:jQ4IwCTH
「……優勝できるかもと思ってたのに……」

 ……が、状況はすでに終盤。
 軽く電波を走らせて周囲の状況を探ってみても、残っているのはほとんど鬼ばかり。
 こんな時期に鬼になってしまうのは、最も避けたい行為であった。
 
「……沙織ちゃんに追いかけ回されてまで逃げ続けたのに……」

 沙織だけではない。香奈子をも振りきってここまで来たのだ。
 言わば、全てをかなぐり捨て、ここまで来た。
 
「それなのに……」

 中途半端な時期に、捕まってしまった。
 
「……はぁ」

 こんなことなら、素直に最初っから沙織ちゃんと一緒にいればよかったかもしれない。
 こんなことなら、もっと積極的に瑠璃子さんを探すべきだったかもしれない。
 こんなことなら、瑞穂ちゃんに会っておくべきだったかもしれない。
 こんなことなら、香奈子さんと一緒に行ってもよかったかもしれない。
 ……が、全ては後の祭りだ。
 彼は一人。
 否、
 独り、であった。
 
「……はぁ」

 既に何度目かもわからないため息をつく。
 
「……とは言っても、ずっとこうしてるわけにもいかないからな……」
494名無しさんだよもん:03/05/21 01:34 ID:jQ4IwCTH
 このゲームがどのくらい続くのかはわからないが、あと小一時間かそこらで終わるというものでもないだろう。
 とりあえず、こんなところで夜を明かすわけにもいかない。
 適当なねぐらでも探して、あとはゴロゴロと……
 
 ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……
 
「……ん?」

 その時、ふと川の音が変わった気がした。
 常人ならば聞き逃すであろうぐらいの僅かな違和感。
 が、今朝から延々と川面を見つめ続けた祐介には、気付くことが出来た。
 
「何か……流れて……?」

 両目をこらし、流れる水を見つめる。
 
「……え?」

 見えたのは、人の手。
 
「……ちょっと?」

 そして、頭、体、……川に流される、女性の姿。
 
「……うわっ! 女の人が溺れてる!」

 ここに来てようやく、祐介は事態を飲み込むことが出来た。
 
495名無しさんだよもん:03/05/21 01:35 ID:jQ4IwCTH

「だいじょーぶですかーーーーっ!?」
 祐介は川のすぐ端まで飛び降り、大声で呼びかけた。
「………! あ……! ぶ……!」
 女性も祐介の姿に気付いたようであり、手を振って何か叫んでいる。
 ごうごうと流れる水の音にかき消され、何と言っているかはわからないが助けを求めているのは明らかだ!
「……助けなきゃ!」
 即座に祐介は決断した。
 そこには名誉も打算も迷いも無い。今、ここにいるのは自分だけ。あの人を助けることができるのは、自分だけ。
 ならば、己がやらずに誰がやる!
 腐っていた祐介の目にみるみる生気が戻ってくる。
「待っててください! 今助けますからね!」

 速攻で上着を脱ぎ捨てると、大きく深呼吸を三回。
「すーは、すーは、すーは……」
 そしてもう一度荒ぶる水面を睨みつけ、
「……………………!」
 ちょっと迷って、
「いや、ダメだダメだダメだっ!」
 目を瞑り、覚悟を決め、
「……てぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーいっ!」
 鼻をつまんで飛び込んだ!
 
(があっ! ぐっ……ごぉ、ああっ!)
 飛び込んだそばから体中を濁流が洗う。

 くっ、思ったよりも流れがキツイ!
 けど……泳げないほどじゃない!
 ええと……ええと……あの人は……?
 
 ……いたっ! よし、まだ僕の上流だ! 助けられるっ!
 
496名無しさんだよもん:03/05/21 01:36 ID:jQ4IwCTH
 気を抜いたら流されてしまいそうな流れの中を、必死に祐介は進んでいく。
 時期は時期といえ天気は悪い。平時より流れは荒く、そして水温も低かった。
 同年代の男と比べてもいささか……というよりもかなり華奢な彼の身体には負担も大きい。
 しかし……
 
 ……負けるもんかっ!
 
 今の彼を押しとどめることなど誰にも出来なかった。

「……だい……じょうぶ………です、かーーーーーーーーっ!!!」
 やや進み、女性との距離が縮まったところで再度呼びかける。
「あ……は……じょうぶ……から……!」
「ええーーーーっ!? なんですってーーーーーーーーーーっ!!!?」
「から……私は……じょうぶ……!」
 距離が近づくにつれ、徐々に声が鮮明になってくる。
「だいじょうぶですよーーーーーーーっ! 今僕が助けますからねーーーーーーーーーーっ!」

 一歩一歩進みながら、必死に女性への呼びかけを続ける。
 ……そして、とうとう、祐介の耳に声が通った。
 
「ですからーーーーっ! 私はーーーーーーっ! 大丈夫ですーーーーーーーっ!
 それよりーーーーーーーっ! 迂闊にーーーーーーーーっ! 川に入るとーーーーーーーっ! 危ないですよーーーーーーーっ!」
「………へ?」

 返答は、祐介の想像を超えたものだった。
 さらに同時に、

 ツルッ!
 
「うわっ!?」
 ちょうど足下に鎮座していたコケまみれの石を踏みつけ、盛大にコケた。
497名無しさんだよもん:03/05/21 01:37 ID:jQ4IwCTH
 ガッツーーーーーーーーーん!
 
 さらに後頭部から突っ込んだ川底には間の悪いことに手頃な石が。
 強烈な一発を頭に食らい、祐介の意識は急速に遠のいていった。
 
(──────ああ……僕って、バカだ……)

 最後に祐介が聞いたのは、
 
(──────やらなくてもいいことやって、死ぬなんて……)

「あらあら……これは大変……」


 ……誰かの……優しい……声……と……自分を抱き上げる……暖かい……腕……。


【長瀬祐介 ひかりを助けようと飛び込むはいいが、二次遭難。とりあえずひかりをゲット。ポイント+1】
【神岸ひかり 鬼になる。祐介を保護】
【時間:3日目宵の口 場所:川の中 天候:雨】
【登場 神岸ひかり・【長瀬祐介】】
498名無しさんだよもん:03/05/21 02:00 ID:LagTvRh6
**********WARNING**********
現在:491KB です。
残り容量にご注意ください。
******************************
499マナーは守りましょう☆:03/05/21 03:28 ID:D5od1kKi
ハイハイ皆さんお待ちかね。久々登場のいとっぷこと伊藤にございます。
さて、思い出という名のフォトグラフを残すと決意したわたくしと盟友阿部貴之はとりあえず昨日ニジマスをバカ釣りした
湖のほとりにやってきたのですが、なんとそれから対して時間もかからずに一人目のターゲットを発見したのですよ。
ありがとう、何処かにいるゴッドよ。やはり感謝の心は大切。みんなも素直に「ありがとう」を言える大人になろう!
我が心の女神湯浅さんほどではありませんがなかなか均整の取れたプロポーション、ボーイッシュと形容すべき容貌でありながら
濡れた髪を掻き上げる仕草は存外に色っぽいお姉さんです。
まさに被写体第一号にふさわしい、上の上です。よーし、キミに決めたあ〜!!
と、些か興奮気味にシャッターを押したところで

「……なにしてんの?」

ばれました。
「そりゃあこれだけ近づいてフラッシュたけば誰でも気づくって」
うっさい貴之。仕方なかんべ。一番安かった使い捨てカメラ、ズームなんて気の利いた機能はついとりゃせんし、この雨の中
フラッシュたかずに撮ろうものならせっかくの美しい思い出が上手く残せずしょんぼりな結果に終わってまう。
みんな貧乏が悪いんや。世知辛い世の中、神なんていねえよこんちくしょう。
「キミ、どこの人?」
「にゃはは☆ 美しいって私のこと〜?」
む、小声で喋っていた我々の声を拾うとは、お姉さん地獄耳?
「そりゃあこれだけ近ければ聞こえるって」
まあ確かに。見つからないように茂みに隠れていたとはいえ彼我の距離は実は1メートルも無し。
そりゃあ見つかるってもんだ。ハッハッハ……。
500マナーは守りましょう☆:03/05/21 03:29 ID:D5od1kKi
「……」
「……」
うう、沈黙が痛い。
そりゃそうだ。冷静になってみればやってることは盗撮と同じ。明日からあだ名はいとっぷからピーピングイトームにクラスチェンジですか?
って言うか貴之、何故あなたまでそんな目を。フォロー無し? シカッティング(シカトの現在進行形)ですか?
ああ、お姉さんも何だか呆れ顔。その口から出るのは罵倒か、嘲笑か。
「もう〜、写真撮ってくれるのは嬉しいけどそれならそうと一声かけてから! それがカメコのマナー!」
あ、あれ? 怒ってない?
それどころか条件が合えば喜んで被写体になってくれそうな匂いがするんですが。
「ごめんなさい、これからは気を付けますんで、どうかご容赦のほどを……」
「うむ。分かったならよし!」
とりあえず素直に謝ったところお姉さんはイイ笑顔で許しを下さいました。

セーーーフ!!

サンクス! Thanks a lot 神! やはり神は我を見捨てていなかった!
「……伊藤君ホントに調子いいよね」
それを言うな。ツッコミに愛のない人は先生嫌いですよ。


【いとっぷ、貴之 思い出のフォトグラフ作成にかかるもばれる】
【玲子 マナーを知らないカメコに正義の鉄槌】
【時間 三日目昼前】
【場所 湖のほとり】
【登場 【伊藤】、【阿部貴之】、【芳賀玲子】】
501名無しさんだよもん:03/05/21 14:52 ID:LO8Tefq9
次スレが立つまで作品投下禁止ね。
もう限界だよ。
502名無しさんだよもん:03/05/21 19:23 ID:u72TeAIF
さて、キャラ一覧の書き換えでもしてみるか。
終わったらとりあえず避難所にでも貼りますんで。
503名無しさんだよもん:03/05/21 22:25 ID:u72TeAIF
504名無しさんだよもん:03/05/21 22:33 ID:LO8Tefq9
お疲れ。
505名無しさんだよもん:03/05/21 22:39 ID:u72TeAIF
あ、なんか感想スレでやってる。

>>503のは感想スレで話し合われている、問題作品>>492-497の結果も含んでます。
よって、


長瀬祐介
TH
神岸ひかり

この両名の使用は、ちょっとお待ちください。

結果……は、個人的には変わるわけない(変えてはいけない)と思っていますが、
展開が変わる可能性があります。
506名無しさんだよもん:03/05/22 23:13 ID:9Q0b8IW/
一応保守しとく
507名無しさんだよもん:03/05/23 18:16 ID:2wi6vJIi
葉鍵鬼ごっこ第六回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1053679772/

立てちゃいました。リンクが10スレ内に収まらなくて申し訳ない。
リストが不恰好になっちゃいましたし……(鬱
508名無しさんだよもん:03/05/23 18:20 ID:HP/9+x0R
>>507
509鬼 二日目:03/05/23 21:28 ID:mHVFTrbC
コリン 小山の広場。反転解除。以上。二日目夕刻。

響子 弥生 冬弥一行と接触、偽報をもって、修羅場と化させる。夕暮れ。場所不明。

リアン エリア 超ダンジョン。こわごわ芹香捜索中。マルチ&クーヤと接触。悲鳴を上げて遁走。夜。

マナ 少年 場所不明。休める場所を探すため移動中。夜。

ゲンジマル 河原で休憩中。二日目夜。
黒きよみ ドリィ グラァ 怪しい老人を見かける。逃げるように河原から移動。夜。

英二 理奈 どこかの小屋。追いかけっこ終了。小屋の中で思い出話。後、就寝。深夜。

あさひ 白きよみ 彩 森の小屋。休息中。服を乾かしたい。彩、妄想驀進中。あの人を捜そう。深夜。

浩之 志保 教会。作戦会議終了。適当な逃げ手と、手を組むことに。現在睡眠中。夜半。
510名無しさんだよもん:03/05/26 08:45 ID:9gfg+tQJ
511名無しさんだよもん:03/05/26 22:11 ID:Gz3NroFd
512名無しさんだよもん:03/05/26 22:13 ID:Gz3NroFd
関連サイト

葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
新サイト(現在は480話まで):http://www.geocities.co.jp/Playtown-Domino/5154/
旧サイト:http://hakaoni.fc2web .com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)

葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/
513名無しさんだよもん
            < `ヽ  , '´ ̄ >
             ,.    ´ ̄ ` </ー- 、
            //,         ヽ\  ヽ
          '´ / .' / /,       ゙\ヽ.  ゙
          ( !/ i/(( リ |l〈 | ヽヽ.   |ヽ) )  i
           ヽY/!,ィ'il  'Tヽ, l i  l く(ヽ  !
           / l lr1,  ヒ1l | | ,.'  )' ) ノ
            , ' /ヽ´ ー `" ,| l´   ( l !
         i(( {.   ` ーァ く,| |、    ヽト、
         ヽ. ヽ. '77´/ l'´/,! l' ヽ    ノ )
            ゙/ ,'/ /.† ! ! リ ノ 〃ヽ  ( (( 
           〈ヽ. i !/、/|_!.l'(. !i  \ `ー-ヽ
    ,     / ヽ.∧ ヽ./  `,ー ' ヽ.  ヽ  /}   
    lヽヽ._/  /   !      /l_    ヽ.  / .し '´
    ヽ`   ,. '     ,'  ー- /≪フノ    ヽ     二  
       ー-'      /     '´ \`く_,. へ  ` ー 、 ヽ
           /     \ ヽ  ̄ ヽ〉