葉鍵鬼ごっこ 第五回

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1名無しさんだよもん
葉鍵キャラ100名を超える人間達が、とあるリゾートアイランド建設予定地に招待された。
そこで一つのイベントが行われる。

「葉鍵鬼ごっこ」。

逃げる参加者。追撃する鬼。
だだっ広い島をまるまる一つ占拠しての
壮大な鬼ごっこが幕を上げた。

増えつづける彼らの合間を掻い潜って、
最後まで逃げ切るは一体どこのどちら様?
「――それでは、ゲームスタートです」

関連サイト

葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
http://hakaoni.fc 2web.com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)

葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/

前スレ
葉鍵鬼ごっこ 第四回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049379351/

ルールなどは>>2-10を参照。
2鶴来屋会長よりルール説明:03/04/15 01:10 ID:4FLl0oj3
・鶴来屋主催のイベントです。フィールドは鶴来屋リゾートアイランド予定地まるまる使います。
・見事最後まで逃げ切れた方には……まだ未定ですが、素晴らしい賞品を用意する予定です。
・同時に、最も多く捕まえた方にもすてきな賞品があります。鬼になっても諦めずに頑張りましょう。

ルールです。
・単純な鬼ごっこです。鬼に捕まった人は鬼になります。
・鬼になった人は目印のために、こちらが用意したたすきをつけてください。
・鬼ごっこをする範囲はこの島に限ります。島から出てしまうと失格となるので気を付けましょう。
・特殊な力を持っている人に関しては特に力を制限しません。後ほど詳しく述べます。
・他の参加者が容易に立ち入れない場所――たとえば湖の底などにずっと留まっていることも禁止です。

・病弱者(郁美・シュン・ユズハ・栞・さいかetc)は「ナースコール」所持で参加します。何かあったらすぐに連絡してください。
・食料は、民家や自然の中から手に入れるか、四台出ている屋台から購入してください。
・屋台を中心に半径100メートル以内での交戦を禁じます。
・鬼は、捕まえた人一人あたり一万円を換金することができます。
・屋台で武器を手に入れることもできますが、強力すぎる武器は売ってません。悪しからず。
・キャラの追加はこれ以上受け付けません。
・管理人=水瀬秋子、足立さん及び長瀬一族

能力者に関してです。
・一般人に直接危害を加えてしまう能力→不可。失格です。
・不可視の力・仙命樹など、自分だけに効く能力→可(割とグレーゾーン)。節度を守ってご使用ください。
・飛行・潜水→制限あり。これもあんまり使い過ぎると集中砲火される恐れがあります。
・特例として、同程度の自衛能力を有する相手のみ使用可とします。例えば私が梓を全力で襲っても、これはOKとなります。

  | _
  | M ヽ
  |从 リ)〉
  |゚ ヮ゚ノ| < 以上が主なルールです。守らない人は慈悲なく容赦なく万遍なく狩るので気を付けてくださいね♪
  ⊂)} i !
  |_/ヽ|」
  |
3参加キャラ一覧:03/04/15 01:12 ID:4FLl0oj3
全参加者一覧及び直前の行動(前スレ最終>>462まで)
レス番は直前行動、無いキャラは前回(前スレ>>377-379)から変動無しです
【】でくくられたキャラは現在鬼、中の数字は鬼としての戦績、戦績横の()は戦績中換金済みの数
『』でくくられたキャラはショップ屋担当、取材担当、捜索対象担当
()で括られたキャラ同士は一緒にいます(同作品内、逃げ手同士か鬼同士に限る)

fils:【ティリア・フレイ】、【サラ・フリート:1】、【エリア・ノース:1】
雫:月島瑠璃子>>444-452、藍原瑞穂、 【長瀬祐介】>>436-439、【新城沙織】、【太田香奈子:2】>>426-431、【月島拓也:1】
痕:柏木耕一、(柏木梓、日吉かおり)、柏木楓、柳川祐也、ダリエリ、
  【柏木千鶴:10】>>396-397、【柏木初音】、【相田響子】、【小出由美子】、【阿部貴之】
TH:神岸あかり、(姫川琴音、松原葵)>>444-452、マルチ、(岡田メグミ、松本リカ、吉井ユカリ)>>454-462、神岸ひかり、
  (【藤田浩之】、【長岡志保】)>>444-452、(【来栖川芹香】 、【来栖川綾香:1】)>>390-394
  【宮内レミィ】>>413-415、(【保科智子】、【坂下好恵】)、(【雛山理緒:2】、【しんじょうさおり:1】)>>416-420
  【セリオ:2】>>426-431、【佐藤雅史】、【田沢圭子】、【矢島】、【垣本】
4参加キャラ一覧:03/04/15 01:15 ID:4FLl0oj3
WA:緒方英二>>416-420、【緒方理奈:5】>>416-420
  (【藤井冬弥】、【森川由綺:3】)>>436-439、(【澤倉美咲】、【七瀬彰】)>>416-420、【河島はるか】、【観月マナ】、【篠塚弥生】
こみパ:千堂和樹、(高瀬瑞希、九品仏大志、立川郁美)>>422-425、(猪名川由宇、大庭詠美)>>444-452、御影すばる、
  (【牧村南】、【風見鈴香】)、(【長谷部彩】、【桜井あさひ:2】)>>444-452、【芳賀玲子】、【澤田真紀子】>>426-431
  【塚本千紗:2】>>422-425、【立川雄蔵】、(【縦王子鶴彦:1】、【横蔵院蔕麿:1】)>>444-452
NW:ユンナ、 【城戸芳晴】、【コリン】、 (『ルミラ』、『アレイ』)、
  (『イビル』、『エビル』)、(『メイフィア』、『たま』、『フランソワーズ』)、『ショップ屋ねーちゃん』
まじアン:江藤結花、 【宮田健太郎:1】、【スフィー】、【リアン】、【高倉みどり】、【牧部なつみ】
誰彼:(砧夕霧、桑島高子)、岩切花枝、
  【坂神蝉丸:5(4)】、【三井寺月代】、【杜若きよみ(白)】>>444-452、【御堂:6】、 【光岡悟:1】、【杜若きよみ(黒)、【石原麗子】
ABYSS:【ビル・オークランド】、 『ジョン・オークランド』
5参加キャラ一覧:03/04/15 01:15 ID:4FLl0oj3
うたわれ:ハクオロ>>398-399、(アルルゥ、カミュ、ユズハ)、ベナウィ>>440-443、クロウ>>422-425、カルラ、クーヤ、サクヤ>>444-452
  【エルルゥ】、【オボロ:1】、(【ドリィ:1】、【グラァ】)、【ウルトリィ:1】>>422-425、【トウカ】、【ディー:7(6)】>>413-415
  【デリホウライ】、【ゲンジマル】、【ヌワンギ】、【ニウェ:1】、【ハウエンクア】>>405-409、『チキナロ』
Routes:(湯浅皐月、梶原夕菜)、リサ・ヴィクセン、
  【那須宗一:1】、【伏見ゆかり】、【立田七海】>>436-439、【エディ】、【醍醐:1】、【伊藤:1】



同棲:【山田まさき:1】>>380->>383、【皆瀬まなみ:2】>>405-409
MOON.:巳間晴香、名倉友里、
  (【天沢郁未:4】、【名倉由依】)>>454-462、【鹿沼葉子:2】、【少年:1】、【巳間良祐:1】、【高槻:1】、【A棟巡回員】
ONE:(里村茜、上月澪、柚木詩子)、氷上シュン、
  (【折原浩平:7(3)】、【長森瑞佳】)、【七瀬留美:1】、【川名みさき】、
  【椎名繭】、【深山雪見】、【住井護】>>390-394、【広瀬真希:1】>>380->>383、【清水なつき】
6参加キャラ一覧:03/04/15 01:19 ID:4FLl0oj3
Kanon:(沢渡真琴、天野美汐)>>444-452、 (【相沢祐一】、【川澄舞】)>>454-462、【月宮あゆ:4】>>440-443、【水瀬名雪:3】>>416-420
  (【美坂栞】、【北川潤:1】)>>390-394、【美坂香里:8(1)】>>426-431、【倉田佐祐理:1(1)】、【久瀬:4】
AIR:神尾観鈴、(霧島佳乃、霧島聖)、(遠野美凪、みちる)>>398-399、神尾晴子>>440-443、(柳也、裏葉)、しのさいか、
  【国崎往人:2】>>422-425、【橘敬介】、【神奈:1】、【しのまいか】>>413-415


その他のキャラです。

管理:長瀬源一郎(雫)、長瀬源三郎、足立(痕)>>396-397、長瀬源四郎、長瀬源五郎(TH)、フランク長瀬(WA)、
  長瀬源之助(まじアン)、長瀬源次郎(Routes)、水瀬秋子(Kanon)>>413-415
支援:アレックス・グロリア、篁(Routes)


感想・意見・議論用にこちらをご利用ください。

葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/

過去ログ

葉鍵鬼ごっこ 第三回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1048872418/
葉鍵鬼ごっこ 第二回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1048426200/
葉鍵鬼ごっこ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1047869873/

その他の情報

※三日目明朝から雨が降っております。いつ止むかはまだ書かれておりません。
※壱号屋台(ルミラ・アレイ)の復旧状況は不明です。
7名無しさんだよもん:03/04/15 01:21 ID:4FLl0oj3
ところで、換金の状況が良くわかっておりませんので、そこは以前のままにしてあります。

討論スレのURLも>>1に記載しておくべきだったと反省。
8名無しさんだよもん:03/04/15 01:28 ID:92HdYjY/
>1
乙!
9忍び寄る影 【1】:03/04/15 02:50 ID:2p8dftjM
「おはよう、琴音ちゃん。ねぼすけさんだね」
 瑠璃子の声と、鼻をくすぐる味噌汁の匂いに、琴音は覚醒する。
「ん……おはようございます」
 そういって目をこする。
 次第に意識がしっかりしてくる。あの騒動の後、自分達は教会の近くの家屋で一夜を明かしたのだ。
 本当はもっと離れたかったのだが、瑠璃子を背負ったまま夜の森の中を移動する事には限界があった。
(由宇さん達、逃げ切れたかな……)
 別れてしまった仲間たちを心配する琴音に、真琴の元気のいい声が降りかかった。
「おはよー琴音! 朝ごはん食べようよぅ!」
「朝ごはん用意してくれたんですか」
 起き上がると、目の前には葵が調達してきた材料を使った味噌汁とお粥が作られていた。
「はい、美汐さんが瑠璃子さんと作ってくれたんですよ!」
 そういう葵は朝の体操だろうか、演舞のようなものを行っている。
「すごい……私も料理しますけど、ここまではできないです」
「そうですね。瑠璃子さんの料理の腕前には私も驚いています」
「ふふ、たいした事ないよ……お兄ちゃんが教えてくれたんだよ」
「お兄ちゃんって……葵をいじめた悪い奴?」
 真琴の無邪気な質問に、瑠璃子は顔を少し伏せる。
「真琴、失礼ですよ。さあ朝ごはんにしましょうか」
10忍び寄る影 【2】:03/04/15 02:51 ID:2p8dftjM
「駄目だな。やはり痕跡は見つからない」
 オボロは立ち上がると、申し訳なさそうにそう告げる。
「そ、そうなのか。くそ……瑠璃子はどこに……!」
 それを聞いて月島は歯噛みすると、手近な木を殴りつける。
 月島、オボロ、久瀬の三人は今、月島の案内によって、彼と松原葵が出会った場所に来ていた。
「すまないな。せめて雨が降ってなかなければな」
「ぐぅ……!瑠璃子は足を怪我しているんだ。この近くにいるはずだ!」
「落ち着いて、月島さん」 
 激昂しかける月島を、久瀬は冷静な声で抑える。
「もう一度、月島さんが出会ったって言う少女の事を思い出してみてくれないか? どんな細かいことでもいい」
「細かいことと言われても……」
「その少女の容姿とか、どんな装備をしていたのかとか」
「……髪は短くて割と小柄な体だったと思う。瑠璃子とは似ても似つかない腕白そうな奴だったよ。
装備の方は……すまない、ちょっと思い出せないね」
「そうか。出会った時、その子はどんな様子だった?」
「そうだな……」
 月島は目を細めて記憶を探る。
「なんていうか、そう、嬉しそうな……ウキウキした感じ、だったように思えるね……
ねえ、久瀬君。こんな情報で何か分かるものなのかい?」
 月島の疑問にはオボロも同感だったが、それでもあえて黙っていた。
自分ではさっぱり分からないことでも久瀬なら何か引き出せるかもしれないし―――あるいは、
久瀬はこうやって質問することによって月島を落ち着かせようとしているのかもしれない。そんな考えがオボロに浮かぶ。
「情報なんて何が役に立つものか分からないものだからね」 
 久瀬は肩をすくめていうと、さらに質問を続ける。
「その子がこの道をどっちに向かっていたか分かるか? 森から出て住宅街に行く方向? それとも森の奥に行く方向?」
「あっちの方だね。森の奥に行く方向だよ」
「なるほど……」
 それを聞いて久瀬は黙り込む。
11忍び寄る影 【3】:03/04/15 02:53 ID:2p8dftjM
「な、何か分かったのかい?」
「まず仮定として、その少女がその時瑠璃子さんとチームを組んでいたとする」
 久瀬の言葉に、オボロは口を挟んだ。
「それは間違いないんじゃないか? そいつ、瑠璃子って奴の場所を知ってたんだろう?」
「瑠璃子さんとは出会って挨拶しただけで、チームまでは組んでいなかったと言う可能性も考えられるが……
確かに、オボロ君のいうことが一番自然だな。ではこの仮定が無理のないものとして、次だ」
 久瀬はピッと指を立てる。
「では、なぜその少女はその時、単独行動を行っていたのか?
僕は、おそらく食料を調達していたのだと思う。瑠璃子さんが怪我していたことを考えるとね」
「確かにそれが一番ありそうだけどね……例えば鬼と出会ってはぐれてしまったとかは?」
「それでは、その子は瑠璃子さんの場所を知らないはずだ。
合流場所を決めていたとしても、ウキウキとはしないんじゃないかな?」
「ひょっとしたら」
 オボロは意地悪げな笑みを浮かべた。
「案外ただの散歩じゃないか?」
「ま、まあ、それもあるかもしれない」
 久瀬は言葉を詰まらせた。昨日の朝、オボロに黙って散歩に出て行って、
その結果郁未に追い回された挙句ニウェに捕まったのは他ならぬ久瀬なのだ。オボロはそんな久瀬をみて悪戯ぽく笑うと
「でも、まあ食料の調達ってのが一番ありそうだな」
 と、久瀬の意見を肯定した。
「で、でもそれで何が分かるって言うんだい!?」
「あのね、月島さん。その子が向かっていったのは森の奥なんだろう?」
 その言葉で、オボロの頭に閃くものがあった。
「……なるほどな!」
 オボロはいきなり手近の一番高い木によじ登ると、一気に一番上まで行く。
 雨のせいで視界が悪いが、それでも周りの風景を一望することができた。
「オボロ君、どうだ!?」
 オボロの行動の意図を承知していたのだろう。久瀬は木の下から問いかける。
「お前の行ったとおりだな! この道の先には……ほんの数軒の民家となんか妙な十字の飾りがある館しかない!!」
12忍び寄る影 【4】:03/04/15 02:54 ID:2p8dftjM
「どういうことなんだい?」
 まだ合点の行かない月島に対して、久瀬は説明する。
「食料の調達をするなら、普通森の奥ではなくて住宅街の方に向かうはずだ。
だからおそらく、その子は仲間のところに帰る途中だったと思う。
これはウキウキという様子と合致するしね。つまり―――」
「る、瑠璃子は今、オボロ君が言った家か教会のどこかにいると!?」
「今は分からない。あくまで昨日の夕方の話だよ。しかも様々な仮定を含んでいるわけだしね。
だけど昨日の夕方に、この付近に瑠璃子さんがいた可能性は高いし―――」
 久瀬は上を見上げた。視界に灰色の空が広がる。
「この雨と足の怪我を考えれば、瑠璃子さんはそうそう移動できないはず。
オボロ君の見ている家屋のどれかに、今もなお留まっている可能性も低くないと思う」


 窓から真琴は苛立たし気に空を見上げる。
「あうー 腹立つー何で雨なのよぅ!」
「しょうがないですよ、真琴さん」
 葵が真琴をなだめるが、その葵自身、元気をもてあまし気味のようだ。
「うん……参ったね。電波届かないよ」
「この雨では移動しにくいですしね……」
「ですが、この方がよかったのかもしれません。瑠璃子さんの足をゆっくり休めさせる事もできますし」
 葵の持ってきてくれた薬や湿布のおかげで、ある程度の治療をすることはできたが、
やはり瑠璃子の足は腫れ上がっていた。
「葵さんと真琴のおかげで食事にも困りませんしね。ゆっくり雨の音を楽しむのも悪くないですよ」
「美汐、おばさんくさい……」
「感性が上品だと言いなさい」
 ちょっとすねてみせる美汐にクスクスっと笑いの空気が教会の中を流れた。
「よし! じゃあ、真琴さん!! 食後の運動に護身術を教えてあげましょう!」
「ほんと? やるやるー」
 外は鬱陶しい天気でも、団欒の空気は変わらなかった。
13忍び寄る影 【5】:03/04/15 02:57 ID:2p8dftjM
 木から下りてきたオボロに久瀬が質問する。
「オボロ君が見た家屋等を全て虱潰しにしていくとすると、どのぐらいかかるかな?」
「そうだな……3人一緒に動くなら午前いっぱいはかかりそうだな」
「そうか!!なら早く行こうよ!」
 そうせかす月島に、
「ちょっと待った!」
 と、オボロが制止の声をかける。気になることがあったのだ。
「もし、虱潰しの最中に他の逃げ手にあったらどうする?」
「あ……そうだな……」
 久瀬は言いよどむ。明らかにそのことを考えていなかったらしい。
「見逃す手はないだろ? 正直言うとな、久瀬。俺はお前には真剣に優勝を目指してほしいと思っているぞ」
 いまさら自分で優勝したいとは思わないが、どうせだったらユズハのことで恩義のある久瀬に優勝してほしい。
それでこそ、全力で鬼ごっこに挑むと言ったユズハに対して、兄としての面目が立つというものだ。
「そう言ってくれるのは嬉しいが……」
 オボロの言葉に久瀬は戸惑いの色を見せる。しばらくたった後、答えた。
「分かった、ならこうしよう。逃げ手に遭遇したら、捕まえる。
瑠璃子さんの情報を掴めるかもしれないしね。
えーと、月島さんはポイントには興味ないのか?」
「ないね。大事なことは瑠璃子だけだよ」
「そうか。ならポイントはなるべく僕が取るように作戦を立てる。
ただしオボロ君、もし獲物を逃してしまいそうならば躊躇なくタッチしてくれ。
 その結果オボロ君のポイントが僕を上回ったならば、
今度はオボロ君がポイントゲッターになればいいだろう。それから―――」
 不満そうな月島に対し配慮をきかせる。
「あくまで優先は瑠璃子さんの探索だ。
捕獲に時間がかかりそうならばキッパリと断念する。いいね、オボロ君」
「応!!」
14忍び寄る影 【6】:03/04/15 02:57 ID:2p8dftjM
「それから月島さん。改めて言わせてもらうが」
 久瀬は今度月島に真剣な目を向ける。
「ルールはちゃんと守ってくれ。もしあなたが瑠璃子さんや他の人を傷つける事があったならば、僕は即座に降りさせてもらう」
「…………」
 久瀬の厳しい声に、月島は顔をゆがめる。視線が交錯し、場に緊張が走る。
 だが、オボロにはなぜ二人がそんな態度を取るのが理解できない。
「おいおい、久瀬。何大袈裟な事言ってるんだ?」
 笑いながら言う。
「妹を傷つける兄なんていないさ。なあ、月島?」
 オボロにとってそれは当たり前の認識。だが、月島は……
「……あ、ああ。もちろんだとも」 
 オボロから目をそらし、しどろもどろにそう答えた。
 

「真琴さん、筋いいですよ!」
「本当!? 祐一のバカも一発で倒せちゃう?」
「真琴さん、頑張ってー!」
「真琴、程々にしとくんですよ」
 じゃれあう真琴と葵、それを応援する琴音に、優しく見守る美汐。それを見て瑠璃子は思う。
 この楽しい電波がお兄ちゃんにも届けばいいのに――― 

【月島、オボロ、久瀬   教会及びその付近の家屋を一軒一軒しらみつぶし】
【瑠璃子、美汐、真琴、葵、琴音  教会付近の家屋で朝ごはんの後マターリ】
【時間は朝】
15忍び寄る影 :03/04/15 03:10 ID:2p8dftjM
失礼、訂正を。
>>12の下から4行目

「ちょっとすねてみせる美汐にクスクスっと笑いの空気が教会の中を流れた。」

「ちょっとすねてみせる美汐にクスクスっと笑いの空気が流れた。」
に変更してください。
ご迷惑かけて申し訳ない。
16名無しさんだよもん:03/04/15 06:20 ID:RM+NVYlE
(・∀・)イイ!
17カタパルト以外での活躍:03/04/15 19:35 ID:yYi+KuNS
「…誰もいないな…」
そんなことを言っているのは無能でありながらも、
しっかりと計画を立てて本格的に優勝を狙う相沢祐一。
舞には楽しむなどと言っていたが、それは団結力が減るのを恐れて、だ。
郁未が失格になるのを恐れて、「高槻」と呼ばれた男を庇ったが失敗のようだ。
――痛い。
祐一の頭の中ではその言葉が浮かんでは消し、浮かんでは消している状態。
早い話が、痛みを誤魔化そうとしているのだ。
「…祐一、大丈夫?」
そう声を掛けたのは舞。
ほかの人には聞こえないように小声で話している。
「…ああ。大丈…おっ、あれは!」
祐一の視界に見えたのは人。
数時間ぶりに人を見た気がする。
そうなれば、することはただ一つ。
「…舞、郁未。偵察に行ってくれ。店関係なら、唐辛子噴霧器の弾の補充。
 鬼なら状況を判断して仲間になるかどうか聞いてみてくれ。逃げ手なら…捕らえろよ」
相手に聞こえないように小声で話す。
「…了解」
「じゃぁ、行きましょうか」
郁未が舞に呼びかけ、人の見えた方向へ静かに走る。
祐一の指示に素直に従うのは、祐一の信頼故か、それとも団結力が高いのか。
「私はなんで待機なんですか?」
そう聞くのは由依。
18カタパルト以外での活躍:03/04/15 19:36 ID:yYi+KuNS
しかし、祐一は…
「あっ……」
何故か焦る祐一。
由依は、いや〜な予感がした。
久しぶりのセリフなのに…もしかして。
「忘れてた…っていうのは嫌ですよ?」
「そ、それはだなぁ! もちろん、アクシデントは付き物だからなっ!
 逃げ手が来たら俺たちが、足止め…」
祐一の言い訳の途中、足音が聞こえる。
でてきたのは……巳間晴香&千堂和樹。
宿命の再会シーン…または、リベンジの機会だろう。
「今度こそ、足止めだっ!」
祐一が走るが、途中で止まり膝をつく。
不可視の力は予想以上に聞いたらしい。
「さっきの飛んでいた人を見失ったと思ったら…今度はピンチなんてついてないわね〜、わたし」
ドロンコ遊びの途中で神奈を見失ったらしい。
そうとう間抜けだ。
「けど、なんだか逃げられそうだな」
和樹は冷静に判断していた。
男は何故か痛がっているようだ。
逃げられる!
しかし、この場で存在感の薄い奴が場を狂わせた。
「私は無視ですか?」
巳間晴香&千堂和樹の真後ろから現れたのは名倉由依。
「まったく気が付かなかったわ、貧乳だし」
「関係ないじゃないですかっ!」
19カタパルト以外での活躍:03/04/15 19:37 ID:yYi+KuNS
しかし、観念する様子は二人にはない。
そして、二人は逃げるタイミングを見計らい…
「あっ、動かない方がいいですよ? 祐一さんに借りてますから、これ」
由依の手には大げさな機械―唐辛子噴霧器―が握られている。
由依は、これで郁未&舞の帰還をまつつもりでいた。
祐一もダメージが回復してきたらしくゆっくりと二人に近づく。
「仕方ないわね…不可視の力で突破口を開くっ!!」
晴香が、不可視の力を放とうとしたその時――
「待て、けが人に不可視の力なんて放つ気か?」
「だったら、どきなさいよ」
「嫌だ」
――ガキだ。
この場の三人、和樹、晴香、由依は思った。
由依には既に祐一が意外に頑固だということを知っている。
晩飯の取り合いの時に。
だから、由依は祐一を止めない。
それに晴香が怪我人に攻撃を振るうような人物でないことを知っている。
たかが、遊び。
晴香もそうやって許すだろう。
そして…
「祐一、あれ店だったわ」
郁未&舞の帰還。
「そうか、なら後で弾の補充にいくか。郁未、二人を捕らえてくれ」
「晴香、あんた二人に捕まったの?」
20カタパルト以外での活躍:03/04/15 19:37 ID:yYi+KuNS
郁未がふとそんなことを言った。
祐一の不調などとっくに気付いている。
祐一が心配かけないように振舞っているなら自分も気付かない振りをするだけ。
「…貧乳に油断したわ」
「…ご愁傷様」
正直、由依の活躍など予想できなかったが、あえて口を紡ぐ。
怒らせても得などないし、ここは素直に認めておこう。
――由依の初めてのカタパルト以外での活躍を。

【郁未 2ポイントゲット】
【祐一チーム 見つけたらしい店を次の目的地へ。唐辛子の補充を目的に】
【晴香&和樹 鬼化】
【三日目 昼】
21ある出会い:03/04/15 22:27 ID:AozjvIZ5
ことん……ことん
コトン……コトン
氷上は耳に届いた微かな音に、目を開けた。半覚醒の頭に届く、周囲の光景。一瞬自分の居場所がわからない。すぐにああ、と思い出す。
ここは駅のベンチ。木造りの固い寝床だ。向かい側にあるベンチには、あかりが眠っている。
小さな寝息が、静穏の構内にかすかに響く。吐息に混ざるように、遠く聞こえる、規則正しい音。
たん……たん
タン……タン
抜けきれぬ疲労に、体がきしみをあげるが、気力を絞って身を起こす。ゆっくりゆっくり。
寝起きすぐに、急激に身を動かすこと。それがそのまま、命の危険に直結するかもしれないから。
上半身を起こし、小さく、長く息をする。少しずつ暖まっていく体。感覚が全身に行き渡っていく。
そうしていくうちに、背中が痛くなってきた。
「……寝床が悪いかな、やっぱり」
小さく言って、足を地に付ける。軽く身を捻り、背中から肩にかけての凝りをほぐして、
さく、さく
さく、さく
だんだん大きくなってくる音の正体を、確かめに外に出る。
22ある出会い:03/04/15 22:27 ID:AozjvIZ5
真暗の夜。就寝直前に届けられた天気予報は、正しかったらしい。空には雲が厚くかかり、星も月もない。
むろん、この島の中に人工の光はほとんど無いから、周囲は闇に覆われて、見えない。
徐々に近づいてくる音。
足音。
氷上はそれを認知する。恐らく二人か三人。正面の、森のほうからやってくる。
まったく常人な氷上に分かるのはその程度。
どうするか、悩む。鬼か逃げ手か。知り合いかそうでないか。やってくる人々の影すら見えない中で、それが分かるわけが無い。
確かめに行くか。
もし相手が鬼だったら、自分では絶対に逃げ切れない。それは確か。
駅の中で安らかに眠るあかり。彼女がいる方向をわずかに見る。
そう、自分だけ捕まるのは良いとしても、
ほかの人を巻き込むのは、いやだ。
それに、あれだけ良く眠っている、それも女の子を、
「起こすなんてできない」
もちろん、彼女の性格を考えて、起こしても怒ったりしないだろうけれど。そうじゃなくて、単に、
良い起こし方が、分からないから。
基本的に人付き合いがあまり無い氷上には、そんなことは分からないから。
だから、一人で。
近づいてくる人の正体を、探りに行こう。
23ある出会い:03/04/15 22:28 ID:AozjvIZ5
「建物があるな」
「ええ。柳也さま。今宵はあそこで一泊としませんか」
「そうだな。そろそろ日付も変わる。さすがに、今日は疲れた」
駅に近づいてくる、裏葉と柳也。ニウェをまいた後、森の中を迷走するうちに夜も更け、寝床を探していたのだ。
天候が怪しいから。普段なら木々を枕にでも十分眠れるのだが、翌朝、雨に濡れて目がさめると言うのは、さすがに辛いものがあるから。
そして歩くこと、歩くこと。森の中、鬼達をやり過ごしながら、歩くこと、歩くこと。
やがて夜も更け、野宿も仕方ないかと思い始めた矢先の、発見だった。
もう少しで森から抜ける。抜けてすぐにある建物。
──柳也はそれに気付いた。
「誰か」
誰何と同時、条件反射のごとく腰の刀に手をやってしまう。その上に本当に自然な動きで、裏葉がそっと手をかぶせる。
はっと気付く柳也。そう、今は戦ではないのだ。長年のうちにしこまれた反射に、
それに、感じた気配からも敵意は感じられない。
「安心しろ、俺達は鬼ではない。害意は無い」
そう呼びかける。気配が動いて、
「良かった。鬼だったらどうしようかと思っていたよ」
木陰から姿をあらわした、少年一人。飄々とした風体に、安堵の表情がわずかに浮かんでいる。
「あの建物に泊まっているのか?」
「そう。中に連れもいる。そちらも、あそこにいくつもり?」
「ああ。寝床が欲しくてな」
「ご一緒してよろしいですか?」
「かまわないよ。ごろ寝だけれど」
「屋根さえあればどこでも良いさ。慣れているからな」
「分かった。僕は氷上シュン。君達は」
「柳也」
「裏葉でございます」
そして、三人は歩き出した。
24ある出会い:03/04/15 22:28 ID:AozjvIZ5
【柳也 裏葉 駅に到着。氷上 あかりとひとつ屋根の下】
【あかりは睡眠中】
【三日目 午前0時前後】
25名無しさんだよもん:03/04/15 22:29 ID:DhcWg1BH
祐一キモイ
26ある出会い:03/04/15 23:16 ID:AozjvIZ5
なんじゃこりゃ。
>>23
はっと気付く柳也。そう、今は戦ではないのだ。長年のうちにしこまれた反射に、
に続けて、
わずかに苦笑する。
を付け加えてください。
……なんでこんな切れかたしてるんだろう……
27ばたばたと:03/04/15 23:56 ID:AozjvIZ5
「うー。出口はどこですかぁ」
「さっきからうるさいぞ」
さて、こちらは超ダンジョン内をさまよっているマルチ&クーヤ。
「セリオさん、魔方陣の場所も教えていって欲しかったです」
「探していればそのうち見つかるだろうさ」
まぁ、つまりそういうわけで。
配置されていたHM−13にシステムを教えてもらったのは良いものの、肝心の魔方陣の場所をききそびれ、
さてそれがどこにあるのか、暗いダンジョンの中をあっちにうろうろこっちにうろうろとしているのだが、
これがまたぜんぜん見つからない。まぁ探し物は、探してるときに限って見つからないというジンクスもあるし、ね。
「しかし、眠くなってきたな」
「はぁ」
「布団が欲しい……」
「そうですかー」
外はもう夜の九時。眠くなってきていい時間。とくに今日は歩き回っていることもあるし。
「ふぁぁ」
「大きなあくびですね」
「うるさい」
28ばたばたと:03/04/15 23:56 ID:AozjvIZ5
さて、いっぽうこちらは。
「く、くらいですね」
「そう、ですね」
おどおどおどおどと、ダンジョン内を歩いているのは、エリア&リアンの二人。
「エ,エリアさんは、向こうの世界で、勇者さんやってたんじゃないんですかぁ」
「怖いものは、怖いんですよぉ」
おどおどおどおど。
「け、結界、張った人、本当に、この中に、いるんですか?」
「私の捜索魔法が確かなら……いますよ」
ああ。徒労。長瀬源之助の介入によって、まったく見当違いの情報を渡されているとも知らないで。
「うぅ」
「何か、出そう、ですね」
「そんなこと、言わないで、ください」
「そ、そうですね」
てな感じで、歩いていく二人。
29ばたばたと:03/04/15 23:57 ID:AozjvIZ5
で、まぁ。こういうときに限って、両者鉢合わせしたりするわけで。
そう、たとえば、曲がり角を曲がった瞬間とかに。
それで、一瞬お互いに硬直した後、

「はわわーーーー」
「うひゃぁぁ」

「ひゃーーー」
「きゃーーー」

なんて叫び声あげて、両者ともに反対方向に突っ走っていってしまったりするわけで。


つまるところ、凡人の来るところじゃないってことかね、しかし。

【リアン&エリア こわごわ芹香捜索中】
【マルチ&クーヤ 魔方陣はどこー? 眠いぞ】
【超ダンジョン内 二日目午後九時】
30聖防衛戦:03/04/16 01:41 ID:gcHT5p/V
 さて、状況を確認しろ霧島聖。
 目の前には馬鹿笑いを上げつつ他人様の家の戸をぶち破ってくれた無礼者。
 そして私の背後には我が愛しの佳乃と迷い鬼の三井寺君。まぁ、彼女はとりあえず平気だろう。
 男は鬼のたすきを掛けている。そしてこの態度。やる気満々だな。うむ、鬼ごっこらしくなってきた。
 っと、感心している場合ではなかったな。遊びとはいえ、真剣にやらねば興も殺がれるというものだ。ここは如何にして逃げ切るかを考えなければ。
 男の手にはライフルと思しき銃が一丁。まぁ実弾が入ってるとは思えないが、あまり愉快でないものが籠められていることは確かだろう。
 喰らいたくはないな。とはいえ男はぶつける気満々なようだが。
 
「1,2,3匹! ヒュゥ! こいつぁついてるぜ!」

 などと叫びつつ私に照準を定めてくれた。
 さて、如何にすべきか。懐には虎の子睡眠薬メス。男に投げつけることは容易い。
 だが、さすがにそれはまずいな。急所を外す自信はあるが、この争乱状況下、絶対とは言い切れん。怪我でもさせると後々面倒そうだ。

「死ねや! 通天閣!」

 死ねとはまた穏やかでないな。しかも我が朋友の通天閣に向かって。浪速でそんなことを言ったら怒られてしまうよ、乱入者君。
 
 バン!
 
 おおっといかん、腹部に銃弾の直撃を受けてしまった。なるほど。鉛玉の代わりにとりもちを発射するわけか。なかなか面白い武器だ。興味が尽きないね。
 ……などと冷静に分析している場合ではなかったな。壁に打ち付けられてしまった。これはなかなか剥がれそうにない。さて、どうしたものか。
 
「よっしゃ! 一匹殺った! さァ次だ!」

 ふむ、私はこの状態で放置しても大丈夫だと判断したか。なるほど、確かにな。動きを封じた私に構うより、先にまだ自由を謳歌している2人を狙うのが上策だろう。
 だがね乱入者君、さすがにそれは私が許さないよ。
 
「乱入者君、一ついいかね」
「ああ、なんだ? ちょっと待ってろ、こいつらとっ捕まえたらいくらでも相手してやるから……」
「なに、手間は取らせない。君は視力はどのくらいある?」
「ああ? 視力ぅ? 知るかンなモン、ま、目は俺の最大の武器だからよ、生半可じゃねぇことは確かだな」
31聖防衛戦:03/04/16 01:41 ID:gcHT5p/V
「ふむ、視力に自信あり、と。だがね乱入者君、人の目は意外に不便に出来ているものなのだよ」
「あ? テメェ、何を言って……」
「シッ!」

 ガシャン!
 
 甲高い音を立て、机の上に置いてあったスタンドの電球がメスの直撃を受け、割れる。
 ふむ、手首のスナップだけでどうなるかと思ったが、存外上手く行くものだな。
 
「な、て、テメェ!? 何しやがる!?」
「何とは何か。電球を割ったのさ。何も見えまい」
「ば、馬鹿な!? 強化兵の、強化兵のこの俺が暗闇なんかに!?」
「強化兵とは何かわからんがね。君も生物なら瞳孔という名の楔から逃れることは出来んよ。収縮していた瞳孔が拡大するには、相応の時間がかかる。
 三井寺君、佳乃君、起きているかね」
「は、はい! な、何事ですか!?」
「うわぁ、まっくらだよぉ。どうしたの?」
「ど、ど、ど、どこだ!? 何処にいやがる!?」

 ふむ、目を覚ましていたか。結構結構。
 
「鬼の急襲を受けた。三井寺君、今君の目の前でおそらく無様な踊りを踊っているだろう男がそうだ。君が突き飛ばして、逃げたまえ。おおっと、佳乃を連れていくのを忘れずにな」
「は、はい……って、あなたは御堂さん!?」
「その声は蝉丸ン所の小娘か! ゲーック! まさかテメェと鉢合わせすることになるとはな!」
「知り合いかね。まぁ今はどうでもよろしい。佳乃、準備は出来ているかな?」
「う、うん……あたしはいいけど……お姉ちゃんは?」
「私は少々身動きの取れない状況下にあってね。残念ながらここまでだ。佳乃、後は一人で行きなさい」
「そ、そんなぁ……」
「まぁそういうな。何も取って喰われるわけでない。それに可愛い子には旅をさせろと言うしな。佳乃、少し自分の足で外の世界を見てくるがいい」

 などと話しているところで。
 
「えーいっ! 月代タックル!」
32名無しさんだよもん:03/04/16 01:42 ID:gcHT5p/V
「ゲーック! やりぁがったなこの小娘! だが馬鹿め! これでテメェも鬼だ!」
「ううん、大丈夫だよ。私、元から鬼だから」
「………………………なんだとぉ!?」

 どうやらあちらは上手く行ったようだな。
 
「お、おねぇちゃん……」
「そんな悲しそうな顔をするな(見えないが)。たまにはこういう別れもいいだろう? ドラマみたいで、素敵ですよね」
「あはっ、お姉ちゃん。それはお姉ちゃんのセリフじゃないよぉ」
「フム、そうだったか? 突然頭の中に閃いたんだがな。まぁいい、行きなさい佳乃。私の屍を越えていけ」
「お姉ちゃんを超先生2号に任命するよぉ」
「それはひどいな」

 そこでピシャリと音がした。
 おそらく、佳乃が自分の頬を自分ではたいたのだろう。
 
「わかった。それじゃ、お姉ちゃんの死は無駄にしないよ! ガンダム、佳乃、行きますっ!」
「ああん! 待ってよ佳乃ちゃん!」
「くれぐれも佳乃に触るなよ〜……!」

 ……ドタドタと、騒がしい2つの足音が扉の方向から聞こえ、小さくなっていった。
 
「ケッ、結局捕まえたのはテメェだけか。ついてねぇな」
 暗がりの中から、御堂君のつまらなそうな声と共に私の方へ伸びる手が現れた。
「まぁそう愚痴るな御堂君。こんな絶世の美女をモノに出来たんだ。もっと喜びたまえ」
 私の首にたすきを掛けながら、呟く。
「だから見えねえんだっての」

【御堂 聖をゲット。ポイント+1。とりもち弾一発使用】
【聖 鬼になる】
【佳乃&月代 撤退】
【時間:3日目明け方 場所:海岸詰め所 天候:すぐにでも雨が降る】
33妄想と情熱のあいだ――:03/04/16 22:00 ID:NMwELzE2
「すっかりあめこんこんだね、かるらおねーちゃん」
「そうですわね…」
 森の中、大木の洞に隠れる様にして佇む、カルラとさいか。
 早朝にハクオロ一行と挨拶を交わして別れた二人であったが、その時から既に降り出していた雨が、
ここへ来てややその足を早め出したので、暫く木の洞で雨宿りをしていたのであった。
 …が、こんな所を鬼にでも見つけられては、色々と厄介である。
 一人身であれば、雨が降ろうとどんな隠れ方も出来ようが――
「……さいか、やっぱりあしでまとい?」
 申し訳無さそうに眉を垂れ下げながら見上げて来るさいかに、カルラは優しく微笑んでやった。
「そんな事ありませんわ。…フフ、子どもが大人に気を遣ってどうするのです。
 もっと甘えて下さっても構わないのですから」
 そう応えるカルラに、さいかは頷き、えへへ…と笑った。
「…それより、体の方は問題なくて? 寒くはない?」
「んー……ちょっぴりさむくなってきたかも…」
 雨が降って来るに伴い、気温も下がって来ているらしい。
 ――カルラは、上に羽織っていた上衣をさいかに着せてやってから、洞の中で彼女を待たせ、
周囲の様子を窺う為に外へと出て行った。
34妄想と情熱のあいだ――:03/04/16 22:02 ID:NMwELzE2
 …少しして戻って来たカルラだったが、その美貌や艶髪が雨に濡れてしまっていた。
 恐らく木の頂にでも登って周囲を見渡して来たのだろう。――それを目にしたさいかが、うーんと唸る。
「かさとかがあれば、あめこんこんでもへーきなのにね」
「傘……そうですわね。屋根のある場所へ行くか、最低でも雨具を手に入れたい所ですわ」
 濡れた顔を手で拭い、額に張り付いた前髪を掻き上げる。
 無造作であるのにどことなく気品があるのは、カルラであるが故か。
「――森を抜けた向こうの方に、何か建物が見えました。海も近い様ですし、恐らく港か何かでしょう。
 そこへ行ってみましょうか」
「あまやどり?」
「ですわね。雨具があったら、それも拝借しておきましょう」
 建物のある場所へ行くのは、リスクが大きい。
 何より、この天候の所為で人も集まり易くなっているだろうし、森の中同様に罠だらけという事も
充分過ぎて在り得るが。
「暫く雨の中を走る事になりますが、我慢出来ますわね、さいか?」
「うん、だいじょうぶ。……でも、みなと………わなとかないかなぁ…?」
「例えあっても、引っ掛かる程間抜けではありませんわ」
 微笑んで、カルラはさいかの小さな頭に、ぽん…と手を置いた。
35妄想と情熱のあいだ――:03/04/16 22:03 ID:NMwELzE2

 ――同刻…森の中。
「……これでは、姉上に御見せ出来る顔が無い…」
 暗く湿った雨の空と同様に、鬱気に沈んだ顔でブツブツと呟きつつフラフラと歩くのは、
御堂に捕まったデリホウライである。
 失意の彼は、あの後、鬼として他の逃げ手を追う事も無く、途方に暮れていた…と言うより、
姉のカルラにどう言い訳をしようかと、その事ばかり考えていたのだ。
「…駄目だ……。どう取り繕おうと、縦回転は免れそうも無い…」
 ぶっちゃけた話、縦回転は構わない。そんな事よりも、カルラの失望を買う事の方が、ずっと恐ろしかった。
 カルラの失望した表情を想像して、苦悩に頭を抱えるデリホウライ。
 鬼として撃墜数を稼げば、或いはカルラの失望を買わずに済むかも知れないが、
テンパっている今の彼は、そこまで頭が回らない様だ。
「……仕方が無い。姉上に逢って、正直に伝えよう。こうやって埒も無く懊悩しているよりも、いっそ縦回転の方が…」
 そう重苦しく決心し、顔を上げた時だった。
 ――森の木々の上、枝から枝へと跳んで行く人影が。
「あれは!!――」
 見えたのは一瞬であったが、間違い無い。最愛の女性――姉のカルラだ。
 …ほんの一瞬でそれを見分けられたのは、ギリヤギナとしての眼力か、はたまた“愛”故であるのか。
 とにかく――
「姉上…!」
 デリホウライは、枝から枝へと跳びながら疾走するカルラの後を追い始めた。
36妄想と情熱のあいだ――:03/04/16 22:06 ID:NMwELzE2

 さいかは、カルラの背にしがみ付きながら、猛スピードで流れて行く森を眺めていた。両手でしっかりと抱きつき、
かつ、紐で結ばれている為に落下の心配も無いので、彼女の顔に怯えの色は無い。
 寧ろ、このスリルある光景を楽しんでさえいたし、カルラの背中が温かくて心地好かった。
 ――…と、そんなさいかの耳に、何か叫ぶ声が聞こえた。
「? ……かるらおねーちゃん」
「…解っていますわ」
 無論、カルラの耳にもそれは聞こえている。
『……姉上ぇーーっ………!!』
 聞き覚えのある声。――舌打ちこそしなかったものの、カルラは柳眉を顰めた。
「…あんなに大声で叫んだら目立って仕方ありませんのに」
 そう呟くカルラの顔は、何となく怖い物になっているんじゃないかな…?――と、さいかは思った。
 高い位置にある木の枝に着地し、カルラはそこで立ち止まって振り返る。
「――姉上っ…!」
 程無くして、追い着いたデリホウライが眼下に姿を現す。――その彼が、鬼の襷を掛けているのを認め、
カルラは、やや冷たく目を細めた。
「…捕まったのですか、貴方は」
 再会の喜びを表すでもない、寧ろ冷淡な程のその眼差と言葉に、デリホウライは出鼻を挫かれて呻いた。
「これはっ…その…」
「――まさか、何か言い訳をする為に私を追って来たのですか?」
 図星を衝かれ、更に呻くデリホウライ。
「あ、姉上…」
「言い訳は無用です。…何れにせよ、私達はこれで敵同士――ですわね」
 カルラの浮かべた不敵な薄い笑みを目にして、三度呻く、ギリヤギナの若き皇。
 …そんな二人のやり取りを、言わば蚊帳の外で眺めやっていたさいかは、カルラの背に居ながら思った。
 ――カルラお姉ちゃん、からかって楽しんでる…
「――てっ、敵同士だなんてっ…姉上、そんなっ…!」
「何か言い分があるのなら、後で伺いましょう。鬼となったなら、鬼としての役割を果たしなさい。――では」
「ま、待って下さい、姉上! ――も、もし、俺が姉上を捕まえる事が出来たならっ!」
 立ち去ろうとしていたカルラは、必死な顔で訴えて来る弟を再び見下ろした。
37妄想と情熱のあいだ――:03/04/16 22:08 ID:NMwELzE2
「――捕まえる事が出来たらっ…、俺を…俺を! …一人前の男として、認めてくれますか……!?」
 意外な――いや、いかにも彼らしいと言うべきか、その言葉に、カルラは目を見開き、そして、楽しげな笑みを
その美しい顔に刻んで見せた。
「…考えておきましょう」
 その微笑を目にしただけで、デリホウライは救われた気持ちになった。受けた雨滴が湯気となる程に顔を上気させ、
瞳を、陽の光を受けた宝石の様に輝かせる。
 …そうやって暫く恍惚としていたデリホウライであったが、ハっとして我に還った時にはもうカルラの姿は木の上になく、
既に遠く離れつつある後姿を見て、慌てて自分も走り出した。
「姉上、逃がしません! ――貴女は俺の…! 俺のモノだぁぁっ!!」
 先程、失意に昏く沈んでいた双眸には今、ギラギラとした光が燃える様に宿っていた。
 ついでに、鼻血も。


「……さっきのひと、おとうとなの? かるらおねーちゃんのこと、“あねうえー”って」
「ええ、そうですわ」
「…ええっと、じんぶつそーかん……じゃなくて、けーしそーかん……じゃなくて…」
「?」
「う〜――…あ、“きんしんそーかん”ってやつ?」
「……どこで憶えて来るのです、そんな言葉を…?」
「えっへん。さいか、あたまいいもん。みみどしまだし」
 自分で言っているのでは、世話が無い…――カルラは、苦笑するしか無かった。


【カルラ・さいか組  森でデリホウライと遭遇】
【デリ、一人前の男として認めて貰う為、カルラを捕まえる事を激しく決意】
【カルラ、デリに捕まるつもりは無論全くナシ。油断も手加減も一切ナシ】
【カルラ・さいか組は、雨宿り、もしくは雨具を探しに、森から見えた港を目指す】
【港まで、そんなに遠くは無い】
【三日目 午前中】
38誤算:03/04/16 22:25 ID:GPZC2B/Y
「マイシスター、上だ!」
クロウが手すりを飛び越えたのを見た大志は瞬時に上に逃げる判断を下した。
二手に分かれれば必ずどちらを追うか迷う時間が生まれる。
そして、たとえどんなに思考する時間が短くとも、クロウならその分距離を稼げる。むろん自分たちも。
「クッ」
大志の思惑通り、往人は一瞬躊躇した。だが逆に言えば躊躇は一瞬だった。
「ウルト、千紗! 外にまわれ、非常階段だ!!」
どうやらクロウ達は仲間に任せ、自分はこちらを追ってくるつもりのようだ。
その判断は大志が思っていたよりもはるかに早かった。
「ちょっと、上に行ってどうするのよ!」
大志に向かって瑞希が問う。
追ってくる足音はすぐ近くで聞こえる。
振り向く間も惜しいので正確には分からないが、おそらく一階分のリードもないだろう。
「案ずるな、ちゃんと策はある。とりあえず五階まで戻るぞ」
答えながら走ってずれたメガネをクイと直す大志。「キラーン」とレンズが光ったように見えた。
39誤算:03/04/16 22:26 ID:GPZC2B/Y
五階に到着した大志、そのままスピードを殺さずある客室へ飛び込む。
瑞希をせかし、彼女が部屋に入ると同時に鍵をかける。
「どういうつもり? これじゃ逃げられないじゃない」
「言ったであろう。策はある、と。それは……これだ!」
「それって……」
「マイシスターも知ってはいるだろう。緊急脱出用のスロープだ」
言いながら何故か慣れた手つきで脱出の用意をする大志。
「地図を見たとき、念のためこれのある部屋もチェックしておいたのだ」
「じゃあ何で最初から使わなかったのよ」
「郁美嬢が居たからな。まあ鬼ごっこに参加している以上スロープに耐えられないほど
 弱いとは思えんが……余計な負担はかけないに越したことはないであろう」
普段の言動は常人どころかヲタクの間でも異彩を放っているが、こういうところは
わきまえているのが久品仏大志という男だ。
40誤算:03/04/16 22:27 ID:GPZC2B/Y
その時、

ドン、ドン!

「おいコラ、鍵掛けるなんてアリか! 開けろこの野郎!!」
「フ、笑止! 貴様も逃げ道をふさぐために階段にバリケードの一つくらい作ったであろう!
 ならば、我々が鬼から逃げるために部屋に立てこもっても、それを責められる道理はない!」
往人の抗議に屁理屈で返す大志。
実際往人がバリケードを作ったかどうか大志は知らないのだが、この予想は当たっていたりする。
相手に二の句を継げさせない尊大な物言いは大志の特徴だ。つきあいの長い和樹や瑞希なら
「ハイハイ」と流すところだが、この何故か自信満々な大志の口調に押され、往人は言葉に詰まってしまった。
そして何故か意味不明なスキルも持っている男でもある。この僅かな言いあいの間に、既に用意を終えてしまってたりする。
「よし、完成だ。先に降りるがいい、マイシスター」
「うん」
ドアの外の鬼は静かになってしまっている。
今から全速力で外に出たとしても、間違いなく自分たちがスロープで降りる方が早い。
瑞希が無事地上に降りたのを見て、大志は己が勝利を確信した。
41誤算:03/04/16 22:28 ID:GPZC2B/Y
だから、大志はその音に疑問を持ってしまった。

ガチャ

そんな音がドアの方から聞こえ、何事かと振り返ってみたのと、

「ほいタッチ」

その声と共に目つきの悪い男に触れられたのはほぼ同時だった。

「惜しかったな、だがこれも勝負なんでな」
そしてスロープを降りようとする目の前の鬼。
「待て、一体どうやってドアを開けた」
「俺も、普通の人間じゃなかったってことさ」
それだけ言い残して、その男は視界から消えた。
そう言われても、一体あの男がどんな手段でドアを開けたのか大志にはまるで分からない。
想像することは出来ても確証を得ることは叶わない。
『方術』と言う存在を彼は知らないのだから。
いや、肝心なのはそんなことではない。作戦は失敗し、そして……
「これで吾輩も鬼になってしまったと言うことか」
下を見ると、同志である瑞希がぽかんとした顔で襷を掛けられ、自分たちを鬼にした男が
非常階段の方に去って行くところだった。


【大志、瑞希 鬼になる】
【往人 2ポイントゲット】
【クロウ&郁美、ウルト、千紗がどうなったかはお任せ】
42鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:45 ID:/YQq30ic
「バイクー…」
「鯛焼き…」
『なの』
雨が降っている上、バイクをかっぱらわれたため動くに動けないでいた茜、澪、詩子の三娘は、何となしに浜辺の休憩所で暇を持て余していた。
といっても、何故か茜は何所からかピンク色の傘を差して、砂浜で佇んでいたりするのだが。
「うーん…バイクがないとどうにもならないよー…」
詩子ちゃんはこれからの行動について真剣に考えているのに。
「鯛焼き、また食べたいです…あの味はなかなかでした…」
『なの』
茜さんはピンク色の傘に見返り美人という基本スタイル(?)で砂浜に立っていて、先ほど晴子から貰った鯛焼きの余韻に浸ってるし。
「澪…さっきから何をやっているのですか?」
『こうでもしないと忘れられるの…先輩こそ意味不明なの…』
澪は相変わらずの速記で、スケブを掲げているし。
43鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:45 ID:/YQq30ic
「やっぱりあの草むらでないと調子が出ません」
一体何の調子なのか分からないが、茜が傘をたたんで休憩所に戻った時、ブロロロロ…というもはや彼女達にとって御馴染みの音が響いてきた。
「あれ…?」
詩子が気付く。間違いない、あれはさっきかっぱらわれたノーヘルのエンジン音だ。
『なの』
「澪…同じネタを連続で続けるのは萎えますよ」
『開くページ間違えただけなの…』
茜と澪は妙な会話を繰り広げる。茜、久しぶりに美味な鯛焼きを喰らった事と――ひょっとすると雨のせいで――変にテンションが上がっているらしい。
「ひょっとして、あの人バイク返しに来てくれたのかな?」
詩子が休憩所から少し顔を出す。
「鯛焼き…」
茜は何か変な期待をしているらしい。
『先輩…ちょっと変なの…』
澪が言う(書く)が、茜がスケブの方を見ていない。
「あ、やっぱりあの女の人だ」
そして、遠目に詩子が晴子を確認する。その顔はとても嬉しそうだ。
「鯛焼き…まだ残っているでしょうか…」
茜も微笑して嬉しそうにそちらを眺める。だが論点が微妙にずれていた。
『先輩…やっぱりどこかおかしいの…』
そして澪のツッコミは、茜が一切反応しないため、スルーされ続けた。
(喋れないのは辛いの…ツッコミが届かないの…浩平の相手は…辛そうなの…)
この時澪は自分のハンデを痛切に感じたが、動機が不純だった。
44鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:46 ID:/YQq30ic
「でも、50ccのバイクであそこまで出来るなんて…凄い…」
詩子がまだ遠い晴子の方を眺めながら呟く。
「そうなんですか?」
茜がそれを聞き取って尋ねる。
「だって、よく考えてみれば砂浜なんてオフロードでフルターンなんて並じゃないわ。しかも雨が降っているのよ…」
どこか遠い目で詩子が答える。
「確かに危険ですね」
茜が同意した瞬間、大分近くなった晴子が、スピードを殺さず段差から飛び降り、砂塵を巻き上げ派手に着地した。
そしてそのままターンしてこちらに向かってくる。
「危険です…」
『滅茶苦茶なの…』
「おぉー!? す、凄い!」
茜と澪が呆れたような目をしたが、詩子はそこで目を輝かせ、歓声を上げた。
そして、晴子がフルブレーキで思いっきり砂塵を巻き上げ横滑りしながら到着したのを見るや否や、詩子の目にある決意が浮かんだのだが、茜と澪は巻き上げられた砂塵が目に入ってしまったので、それに気がつかなかった。
45鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:48 ID:/YQq30ic
ベナウィがすぐに追いつき、晴子はバイクを降りた。
「良かったわー、あんたら、まだここに居たんやな。借りとったバイク返しにきたで、おおきにな。おかげで振り切れたわ」
晴子がニカッ、と笑って3人にバイクを突き出す。
『どうもなの…』
二度目とはいえど、流石に恐竜にまたがった従者を連れた爆走ライダー晴子に、澪はまだ少し引き気味だった。
「鯛焼き、とても美味しかったです」
茜は、もうそんなことには頓着した様子も無く、ぺこりとお辞儀をする。
「ん、律儀な娘やな。最近の若い奴には珍しいでー。って、ウチもまだまだ若いっちゅうねん!」
晴子はノリノリで御馴染みの一人ボケツッコミをかます。
(典型的な大阪のオバちゃんなの…)
澪は思ったが、声には出さなかった(っていうか出せないし)。
茜は、彼女達が鯛焼きの包みらしき袋を持っていないことから、もう鯛焼きが残っていないことを悟り、その顔は自然いつもの無表情に戻っていた。
(残念です…)
ひょっとして、彼女もそれなりに鯛焼きの亡者なのか。あゆ程強かではないにしろ。
「それじゃあ、ウチら行くなー。ベナやん、すまんけどまた頼むわー」
そして晴子が振り返って、ウォプタルの方へ歩き出そうとした、その時。
「待ってください!」
詩子が呼び止めた。
その目がもの凄く輝いている事に、初めて茜と澪は気がついた。
晴子が詩子の方に振り返り、その目の輝きに一瞬居候の目が被り、一瞬引いたが、そこは晴子さん。すぐに立ち直り訊いた。
「なんや?」
すると詩子、輝きまくる瞳で晴子を見つめ、とんでもないことを言い出した。
「私を、弟子にしてください!」
46鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:49 ID:/YQq30ic
茜と澪は思いっきり固まった。
ベナウィは、詩子を見て少し不思議そうな顔をした。
そして、当の晴子は――いかな晴子さんといえど、いきなり弟子とか言われても何のことか分からず、少し固まった。
「弟子って…何のや?」
「もちろん、バイクのです!」
そこで茜と澪は思いっきり顔を顰めた。
ベナウィは、ああ、と納得した風だった。
晴子は、少し沈黙した。
「私、貴女の技術を見て凄く感動しました! あ、私柚木詩子っていいます! 私も貴女のような格好良いライダーになりたいんです! お願いします!」
詩子は、一気にまくし立てると頭を深深と下げた。
そんな詩子の姿をじっと見て、晴子は訊ねた。
「詩子ちゃん、あんた、どんくらい乗ってるねん?」
詩子は頭を上げると、晴子の目をしっかり見据え、はっきり答えた。
「まだ半年ほどで、スクーターですが、街中毎日乗り回してます! 街で私に勝てる人はいません!」
――茜は思い出す。昼休みになると毎日のように自分の学校にいきなり現れる詩子のことを。そして、浩平や澪と昼休みいっぱいふざけ倒す詩子のことを。
学校は大丈夫なのか――何度訊いた事だろう。
学校の距離はあまり離れておらず、スクーターに乗っているとはいえ、いくらなんでも午後の授業に間に合わないんじゃないか。ひょっとしてサボっているのではないのか――何度心配した事だろう。
だが、詩子は『大丈夫、大丈夫』と言っており、実際単位に問題は無い――と。
そんな茜をよそに、詩子と晴子はバイクの話題で盛り上がる。
――茜は想像した。
昼休みが始まるや否や、爆音と共に、いきなり現れる詩子――そして裏口のアスファルトに残るタイヤ跡――
そして昼休みが終わるや否や、爆音と砂塵を巻き上げ、去っていく詩子――
「嫌です…」
ぽつり、と呟くと茜は、澪をゆっくりと振り返った。
「止めましょう…澪…」
すると同じような想像をしていたのだろう。俯いていた澪も、ゆっくりとかぶりを振った。
が、時既に遅し…
47鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:50 ID:/YQq30ic
「んー…まあええやろ。弟子っつーのはちょい微妙やけど…とりあえず付いて来るか?」
晴子が根負けしたように、詩子に告げる。
「はい! 師匠!」
詩子は、まるで大河ドラマで剣豪に付いて来る少年のような口調で、大声で言った。
「あ…」
『あ…なの』
茜と澪は止めようとするがもう遅い。
「ベナやーん、この娘たち連れて行っても構へんかー?」
「私は別に構いません。むしろ娘さんを探すのに、好都合では?」
ベナウィも同意してしまう。
「やったー! 茜、澪ちゃん! 私、頑張るからね!」
詩子が茜と澪の方を見、心底嬉しそうにはしゃぐ。
「嫌です…」
茜の呟きは詩子には届かない。
「では師匠! 行きましょう!」
詩子、晴子の方に向き直り、そう促す。
「師匠はやめい。晴子さんや。神尾晴子…そういや、自己紹介もしてへんかったなぁ…あっちの恐竜に乗った兄ちゃんがベナやん」
「いや、ベナやんは如何かと」
「んで、そっちの二人は?」
晴子が茜と澪に向き直る。
「里村、茜です…」
『上月澪…なの…』
もう何かを、いや何もかもを諦めた表情で自己紹介する二人。
自己紹介もせず、勢いで師弟関係を結ぼうとする詩子の強かさというか無謀さに溜め息をつく茜。
「嫌です…」
先ほどのバリバリ飛ばしまくる詩子の運転がさらに荒れるのか、と想像して一瞬戦慄する澪。
『勘弁して欲しいの…』
そして、気がつけばいつの間にかウォプタルの背中に乗っており、もう腹を括るしかない、と。
この二人はそんな悪人には見えないから…まあ大丈夫だろう、と。
そして、詩子の暴走が止まってくれますように、と。
思った。
48鬼ライダー詩子への道:03/04/16 23:51 ID:/YQq30ic

【茜&澪&詩子 晴子&ベナウィと合流】
【詩子 一方的に晴子と師弟の契りを結ぶ】【晴子はそれほど乗り気ではない】
【茜 鯛焼き食べたいです…→ 嫌です…】【澪 暇なの…→ 勘弁して欲しいの…】
【晴子&ベナウィ 観鈴捜索を再開】
【三日目 6時ごろ 雨】
49飛べ:03/04/17 00:27 ID:pAw3rMAM
えぐ、えぐ。
澪じゃないよ。

ユンナは一人、半泣きながら、森の中を漂っていた。
徐々に日の暮れていく、夕闇に暮れる森の中。
ユンナは一人、とぼとぼと、歩幅も小さく歩いていた。
(私は、鬼になっちゃったから、もう一緒に行けない)
(ユンナ、泣いてないの)
(がんばって。私は、あなたに優勝してほしい。私の代わりに)
(泣いてないで。大丈夫。きっとあなたなら優勝できるから)
(馬鹿言わないの。自分から鬼になるなんて、馬鹿)
(ちゃんと優勝して、私に商品を渡しなさいよ?)
(大丈夫。大丈夫。きっとあなたなら優勝できるから)
やっぱり……ダメだよ。一人は……いやだよ。なんか……いやだよ。
思い出されるのはきよみの言葉ばかり。
思い出されるたびに、泣きそうになってくる。

そして、そんな状態の逃げ手など、鬼にとっては格好の餌食、そのもの。

──女か。泣いておる。ふん。貧弱そうであるな。
つまらぬ──が。
えり好みしてもおれまいな。好成績を残すには──つまらぬ獲物でも、狩っておくしかあるまい。
──つまらぬ。本意でない狩りほど、心躍らぬものはないわ。
50飛べ:03/04/17 00:27 ID:pAw3rMAM
とぼとぼ歩くユンナに、ニウェは死角から迫っていく。たやすい、あるいはそう見える相手であっても、油断はしない。それが狩りの鉄則。
気配を消し、音もなく近づく。野生動物であっても、たやすくは気付かれまい、静音の移動。
しかし、女はそれに気付く。
それは、ユンナが本来持つ、冷徹かつ鋭敏な、戦闘感覚。
「……っ!」
振り向いたユンナと、ニウェの目があった。一瞬驚愕する老武人。まさか気付かれるとは思っていなかったから。
奴の能力を見誤ったか! しかし、良い。ならば、面白い狩りとするまでのことよ。
そして駆ける。まだそれなりに開いていた距離、本来なら慎重に詰めていくつもりだった距離、瞬く間に力強い走りで詰めていく。
静から動への、あまりにも素早い転換。変貌。
そして──ユンナは恐怖を感じる。
いけない──いけない! つかまっちゃうよ!
悲鳴は喉の奥につまって、体は動きたくても動けなくて。
あきらめの感情が、心の内を支配しそうになって。
──だめ。だめだよ。きよみと約束したから。絶対優勝するんだって!
そう言って別れたんだから!

──そう。本来なら。
ユンナが捕らえられることなど、滅多なことでは起こりえないのだから──
51飛べ:03/04/17 00:28 ID:pAw3rMAM
「──よくよくついておらぬわ」
そうニウェは舌打ちする。何とも悔しげに、無念げに。
そう、本当についていない。目の前で、後少しで捕らえることができた獲物が、
いきなり空へ、夕暮れ迫る空へ飛び立っていってしまったのだから。

【ユンナ 反転したままなれど、意地でも逃げ切ると決意】
【ニウェ 舌打ちして別の獲物を探しに行く】
【二日目夕刻 森の中】
52ダリーといっちゃん:03/04/17 00:46 ID:n/5TURaz
「いっちゃああぁぁーーーん!」
「ダリィィィーーーー!」
 唐突に再会した耕一とダリエリ。
 二人は互いの名を唐突に呼びあいながら唐突に近付いていき、

 パン! パン!

「何してるんですか、あんた等は!」
 そして瑞穂突っ込みが入った。
 しかし最強エルクゥ二人は頭を抑えながらもまるでめげず、むしろ良くぞ我が意を汲んでくれたと言わんばかりの笑みを浮かべ口を開く。
「「感動の再会」」
 まぎれもなくアホだ。
 瑞穂は確信した。

「……まさかこんなキャラだったなんて」
 軽いショックを受ける瑞穂。
 まあLF97での耕一しか知らないのであれば無理はない。
 あの時の彼は、ちょっとした豆知識も見せる頼れる兄貴分だったが、それは仮の姿である。
 本来の彼は従姉妹をからかう為に社会の窓(古いな)から指を出す男であり、エロ本を見た従姉妹にセクハラする男であり、そしてエルクゥの勘で千鶴の料理を見分ける男なのだ
 つまりはアホキャラ。
 
「さて、しっかりと瑞穂嬢の心もつかんだところで…」
 つかんでないつかんでない。
 瑞穂はプルプル首を振る。
 しかしダリエリはまったく気にせず続ける。
「頼みがあるのだが…」
53ダリーといっちゃん:03/04/17 00:48 ID:n/5TURaz
「ああ解った」
 ダリエリの頼みは、夕霧を見つけたら教えて欲しいというものだった。
 耕一はそれを了承する。

「では俺は夕霧嬢を探す。頼むぞ我が生涯の宿敵よ」
「ああ、見つけたらな」
「……ところで、いっちゃんならエディフェルとリネット、どちらを選ぶ?」
「……はあ?」
「いやっ、たいしたことではない! ではまたな!」
 慌てて去っていくダリエリ。


 耕一…女の子にはいつも誠実にね。

 母の言葉を頭に浮かべる耕一。
「……両方って一瞬思った俺は外道かなあ…母さん?」
「外道ですね、鬼ですね、畜生ですね」
「そんなこといわれても…」

【ダリエリ 夕霧探し 2号仮面所持】
【耕一 1号仮面所持 ダリエリとの約束 ちょっと凹む】
【瑞穂 耕一にちょっと幻滅】
【午前10時くらい?】
54Dの食卓〜葉の系譜〜:03/04/17 02:02 ID:Zoh7IhkD
 洞穴の薄暗がりの中、絡み合う2人の男女。
 男が荒い息づかいと共に、幼い少女にのしかかる。
 伸びた男の手が少女の躰に触れるたび、甲高い悲鳴が漏れ出てくる。
 うす桃色の小さな唇、亜麻色の輝く髪、未だ開花の時は遠い小ぶりな胸、しなやかに伸びた細い手足、透き通るように白い肌──
 男は一分も逃すまいと、獣欲の赴くまま少女の全てを弄んでいく。
 制止を求める少女の悲鳴。だが、結果としてそれは男の加虐心をそそらせることにしかならなかった。
 いやらしく唇を歪めた男は、とうとうその手を、少女の、最も秘匿とする部分にまで────
 
「わきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!! や、や、や、や、やめてでぃー……きゃきゃきゃきゃきゃ!!!」
「ええい暴れるな! やりにくいではないか!」
「そっ、そっ、そっ、そっ、そんなこといわれ……うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!!」
「騒ぐな笑うな暴れるな! 風邪引いても知らんぞ!」
「だ、だ、だ、だ、だったらでぃーこそもっとじょうずに……きゃっきゃっきゃっきゃっきゃっきゃっきゃっきゃっきゃ!!!!!」
「お前がくすぐったがり過ぎるんだ!」

 諸君、久しいな。
 私の名前はD、汝ら小さきものに崇められうたわれるもの、ウィツァルネミテアでもある。ついでにオンカミヤムカイの哲学士だった気がする。
 そしてさらに……
 
「くきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!!」

 ……今私の腕の中で奇妙な笑い声を上げている幼女。こいつの父親でもある。と思う。
 
「だから暴れるなと言っているだろうが! 濡れたまま放っておいたら風邪引くぞ!」
「だ、だってぇ、でぃー、てのうごきがいやらしいんだもん!」
「いやらしいとはなんだ! これでも私は一生懸命やってやってるんだぞ!」
「け、けど……くくくっ……で、でぃーのてが……あひゃひゃひゃひゃ!!! く、く、く、くすぐったいよぅ!」

 何という幼女だ。せっかく私が親切丁寧にやってやっているというのに。
 先ほど一瞬でもこいつを見直した私が馬鹿だった。やはり幼女はわがままだ。
 仕方がない、ここは少々灸を据えてやるか。
 しかしそうだな、お仕置きとはいえ、何をしたものか……
55Dの食卓〜葉の系譜〜:03/04/17 02:03 ID:Zoh7IhkD

・ふきふきする
・ふきふきする
・ふきふきする
・ふきふきする

 はい決定。
 
「ええい! あんまりお痛が過ぎるとふきふきするぞ! ふきふき!」
「ふ、ふ、ふきふき? なぁにそれ?」
「ふむ、知りたいか」
「うん、しりたい」
「そうか、ならば教えてやろう。いいか、まずはお前のここを……」

 と言いながら、まいかのカボチャパンツに手をかける。
 
「わひゃっ!?」
「……どうした?」
「だ、だって……ぱんつ……」
「……はぁ。いいかまいか、これはパンツを脱がさなければ出来ないことなんだ。それとも止めておくか? 私は別に構わないが」
「う……うう……」

 クックック……。自分で言いだしたこと、嫌とは言えまい。
 
「へ、へいきだよっ! まいか、ぜんぜんだいじょうぶだもん!」
「よぉし、よく言った。ならば、行くぞッ……!」

 カボチャパンツの両端に指をかけ、一気に下に……!
 
「Hi! みんな! ご飯できたよ!」

 ぐっはぁ!?
56Dの食卓〜葉の系譜〜:03/04/17 02:03 ID:Zoh7IhkD

「あ、れみぃおねぃちゃん」

 まいかはトテトテトテとレミィの方に歩み寄っていく。おのれ……もう少しだったものを……。
 
「きょうのごはん、なーに?」
「ウン、昨日の残ったカレーを使ってカレーコロッケ作ったよ。美味しいよ」
「うわーい」

 カレーコロッケ? 初めて聞く料理だな。
 
「ところでまいかちゃん、裸ん坊だね。Dに拭いてもらった?」
「うん! まいか、いいこにしてたよ!」

 嘘こけ。
 
「それで、これからでぃーにふきふきしてもらうとこ!」
「……フキフキ?」

 ドキッ。

「……D?」
「い、いや、その……ち、違うんだ。か、軽いスキンシップを取ろうと思って……だな」

 まずい。非常にまずい。
 レミィの視線が突き刺さるようだ。このままでは……今まで築き上げてきた私のイメージが、瓦解してしまう。
 何とか……何とかしなければ!
 
「あの、その、それはだなぁ!!」
「FUKIFUKIって、なーに?」
「………………………」
57Dの食卓〜葉の系譜〜:03/04/17 02:04 ID:Zoh7IhkD
 ……はぁ、助かった。
 
「あー、まあ、ふきふきとはだな。男と女の間で行う軽いレクリエーションのようなものだ。そんな大したものじゃない。
 そんなことより。さ、まいか、レミィ、早く食事にするぞ。せっかくの料理だ。冷める前に頂こうではないか」
「あ、うん。そうだね。おねぇちゃん、まいかのぶんはいっぱいおおねがいね!」
「ハイハイ、ちょっと待っててね。Dはどのくらい?」
「私も少々多めにもらおうか。今日は動き回って、少し疲れた」
「OK...はい、どうぞ」
「うむ、ありがとう」

『いただきまーすっ!』
 パン! と全員で手を打ち、食事は始まった。

「ねぇねぇ、D」
「ん? なんだ?」
 しばらく経って、私がみそ汁を啜っている折、突然レミィに話しかけられた。
「Dに言っておきたいことがあるんだけど……」
 何やら遠慮がちだ。様子がおかしいな。
「なんだ、お前らしくもない。言いたいことがあるならはっきりいえ」
「ウン……それじゃあ……」
 そしてレミィは、いつもの笑顔で、
 
 
「あんまりえっちなこと、しちゃダメだよ」


 ブハッ!!!

「でぃー! きたない! みそしるはくな!」
 
【D一家 夕食中。今夜はカレーコロッケ】
【時間:3日目夜 場所:D邸宅 天候:???】
58狐の縁 【1】:03/04/17 03:00 ID:/Vlot98G
「NASTY BOY」――― 無茶苦茶小僧の異名を持つ、ランキングトップの若きエージェント。
「地獄の女狐」 ――― 任務達成率100パーセントを誇るアメリカの切り札。
 この二人のトップエージェントの邂逅は、互いに予期せぬ形で訪れた。
「リサ!?」
「宗一!?」
 雨の中、間合いにして20メートルといったところか。
「ん?知り合い?」
 宗一の後ろではるかがそう聞いた時には、リサは既に踵を返して駆け出していた。
 アクシデントにいかに早く対応できるかでエージェントの資質が問われるというのならば、
この時はリサが宗一を上回ったといえる。
「クッ……! 待て!」
 出遅れた―――そう歯噛みして、宗一はリサの後を追った。

(SHIT! よりによって宗一なんて!)
 疲労が体を蝕んでいるのが分かる。地面を蹴る事に、傷めた足に激痛が走る。
 いつもだったらこの勝負を楽しむことができただろう。逃げながら気の利いた挑発の一つでもしてやるところだ。
だが、今はそんな余裕はない。ほとんどまともに寝てないところを
数時間も強化兵に追い掛け回され、ようやく逃げ切れた矢先なのだから。
(短期決戦しかない!)
 スタミナ勝負に持ち込まれたら自分が負けるのは火を見るより明らかだった。
 一つだけ有利なことがあった。リサが転送された地点は御堂とのチェイスが始まった場所のすぐ近くだったのだ。
ここの地形は、既に詳しく調べて熟知している。
(柏木千鶴にやったように罠を利用するか……?)
 いや、それは難しいだろう、とリサは判断する。罠の感知能力に関しては千鶴と宗一は比較にならない。
しかも今は、あの時とは違って明け方。暗すぎて正確に罠を発動させる自信がない。
 そしてなにより、今のリサにあの時の集中力はなかった。
(OK……!Nastyな手だけど、あれしかないわね!)
 リサは覚悟を決めた。
59狐の縁 【2】:03/04/17 03:01 ID:/Vlot98G
 リサを追走しながら、宗一は相手を観察する。
(あいつ、相当無理してるんじゃないか?)
 リサにいつものキレがない。第一あのリサが軽口の一つも叩かずに逃走に専念しているのがおかしい。
 このまま追いかければ、自分が勝つ。宗一はそう確信する。
 と、森を抜けて、視界が広がった。目の前にはつり橋。そう高い所に掛けられたものではなく、
せいぜい川面まで5,6メートルと言ったところか。
 リサはこのつり橋の存在を知っていたのだろうか、躊躇なく渡りはじめてあっと言う間に中央付近に到達する。
「って、嘘だろ……!?」
 宗一は、自分の目を疑う。リサがつり橋の手すりを乗り越えたのだから。
 慌てて駆け寄ろうとする宗一にダイブ直前のリサが叫んだ。
「お連れのガールフレンドはいいの!?」
 一瞬硬直する宗一。その宗一を尻目に、リサは川にダイブする。
「Good BY! NastyBoy!!」
 そう言葉を残して。
 リサに続いてダイブするべきか、宗一は迷う。はるかがこの追走劇について来れないのだ。
はるかがリサとエンカウントしたところで動かなかったらまだいい。だが、もしはるかも下手にこちらを追いかけようとしていたら―――
ここで自分がリサを追うと、リサが指摘したとおり、はるかとはぐれてしまう可能性が高くなってしまう。
 どうする―――そう悩んでいる間にも、川を泳ぐリサの姿は見る見る遠くなっていって視界から消えた。
「全く! どっちがNartyだよ!!」
 負けたか……そう悟り、宗一は毒づいた。
60狐の縁 【3】:03/04/17 03:02 ID:/Vlot98G
(追ってこないわね……)
 川から身をあげ、なんとか土手に体を引きずり、倒れこむ。
 予想はしていたことではあった。結局、あいつは女に甘いのだ。
(だけど……参ったわね。本当…に、限界……)
 ダイブに十分な水深があることぐらいは既に調べておいていたが、それでもこの時間帯の水泳は体に響いたと見える。
いくら温暖な島とはいえ今は明け方、一日で最も冷え込む時なのだから。
体が冷えてまるで自由にならない。しかもこうしている間にも雨は容赦なく体力を奪っていく。
 フッと視界が暗くなる。
(嘘でしょ……ここまで疲労がたまってたなんて)
 プロとして信じられない失態だ。足に怪我をしている状態で、連続して強敵にめぐり合った不運があったとはいえ。
 ここで気絶したら致命的である。管理者によって医療室送りか、鬼にあっさり捕まるか。
 リサは辛うじて木の洞を見つけ、そこに体をうずめる。だがこれだけではまるで不足だ。
体を乾かすこともできなく、実を隠すことすらも満足にできていないのだから。
 しかし、これが限界だった。
(フフ……次に目を覚ました時は、点滴つきで暖かいベッドかしら?それとも襷つきで……)
 最後の思考すらまとまらずに、リサの意識は闇に落ちた。
61狐の縁 【4】:03/04/17 03:03 ID:/Vlot98G
「ん……」
 暖かい感触と、いい匂いが覚醒しかけたリサの意識をもう一度闇に甘く誘う。
「う……ううん…ん」
 色っぽい声と共に、リサは寝返りを打つ。と、その様子を見ていたのか、
元気溌剌一直線!といった声が降りかかった。
「あ、ね〜ね〜! 起きたよ〜!」
「真琴、静かにしなさい。もっと休ませてあげないと」
「あう〜……」
 そのやりとりでもう一度寝ていいのだと、リサはぼんやり思う。だが次の瞬間にはリサは覚醒していた。
「……!? あなた達は!?」
 体を起こし周りを見るリサ。キャンプ用の小屋のベッドの上に自分は寝かされていたようだ。
全裸の上に毛布をかぶせられている。
 目の前には自分より一回り若い5人の少女がいた。全員襷は身につけていない。
その中で一番年長者と思われる少女が口を開く。
「起きてしまいましたか。もう少し休まれた方がいいのでは?」
「いえ……もう十分よ。ここはどこ? あなた達は誰なの?」
「落ち着いてください。残り物で申し訳ありませんが、
お味噌汁とお粥があります。よかったらどうですか?」

 彼女―――、美汐の用意してくれた朝食は、暖かくて本当に美味しかった。
ミソスープも悪くないものだと実感する。
 朝食の合間に、自己紹介が行われ、事の顛末が語られた。
 彼女達はチームを組んで逃げているということ、月島拓也という人に追われているということ、
ここを本拠地にしてしばらく留まっているという事、水を汲みに来た葵と琴音も自分が発見され、
ここに連れられたということ。
 時刻は今午前10時らしい。4時間ほど自分は寝ていたことになる。
62狐の縁 【5】:03/04/17 03:10 ID:/Vlot98G
「どうですか? 服の方、合いますか?」
 彼女達が用意してくれた服は、まあ正直ものすごく胸がきつかったのだが、
慈悲の心を込めてリサは言った。
「ええ、大丈夫、ピッタリよ。ありがとう」
「胸がきつそうだよ?」
「真琴……お黙りなさい」
「あうー!」
 真琴の耳を美汐が軽く引っ張る。
「リサちゃん? おかわりどうかな?」
(リ、リサちゃん……?)
 実に新鮮な響きだ。
「あ、ありがとう、瑠璃子。いただくわ。でもいいの?こんなに親切にして。
一応私、あなた達のライバルなんだけど?」
「ライバル? あ、そっか。そうなるんですね!」
 葵の声に、あ、そうだったね〜、みたいな空気が流れる。こいつら、のんきだ……本当に。
「でも、いいじゃないですか。困った時はお互い様ですよ!」
「そうですね、気にしないでください」
「…………」
 暖かいな、とミソスープをすすりながらリサは思った。朝食や毛布や服や空気や笑い声が。
 だから、思った。ここにはいられないな、と。きっと私はここになじめない。
 なぜなら私は地獄の女狐なのだから。
63狐の縁 【6】:03/04/17 03:11 ID:/Vlot98G
 なぜなら私は地獄の女狐なのだから。
「ありがとう。おいしかったわ、本当に」
 そういって、リサは立ち上がる。
「この借りはいずれ……」
 返すわ、と言おうとして、フッとリサは自嘲した。何をお返しできるだろう。
せいぜい、自分が鬼になった時に見逃してやることぐらいだ。
「いえ、世話になったわ。お礼を言わせて。ありがとう」
「あうー……いっちゃうの?」
 かわいい子だな、と思う。なんとなく子狐を連想させるのはどうしてだろうか。自分とはまるで似つかないのに。
「Sorry,真琴。美汐、ご飯美味しかったわ。葵、琴音、助けてくれてありがとう。瑠璃子……」
 そう言って、今更ながらに彼女が足に怪我をしていることに気づく。
(できることが一つあったわね)
「足、怪我しているわね。見せてくれないかしら?」
 瑠璃子の足をよく見る。なかなかうまい処置がされているが、リサは包帯を解いた。
「これやったの、誰かしら?」
「私ですけど……うまくないでしょうか?」
「いえ、上手だと思うわ。でもこういうテーピングの仕方もあるの。覚えておいて」
 そういって、あえてゆっくり包帯を瑠璃子の足に巻く。
64狐の縁 【7】:03/04/17 03:11 ID:/Vlot98G
「どう?」
「……ありがとう、リサちゃん。動きやすくなったよ」
「すごいですね!勉強になります」
「Thank You、そう言ってくれると嬉しいわ」
 リサは微笑むと、自分の足でもう一度実演し、そして立ち上がりドアに向かう。
「せめて雨が止むまでここにいたらどうでしょうか?」
「ん……それもいいけど、やっぱり行くわ。服はいつか返すわね。
本当にありがとう。Good By!」
 
 (そういえば、エニシって言葉が日本にはあるのよね)
 小屋を背にして、森の中を歩きながらリサは思った。
 このエニシがどう働くか分からないけれど……でも暖かかったわ、本当に。

【リサ 逃走成功。美汐達に介抱される】
【瑠璃子 リサに治療されて足が動かしやすくなる】
【時間は午前10時】
65罪は一瞬、罰は一生(1/5):03/04/17 08:13 ID:W/I9i9gi
 それは、なかなかシュールな光景に思える。
 小雨の舞う朝の海岸で、正座して向かい合う若い男女。
 これで愛の語らいなどをしていればまだ格好がつくのだが、
「いいですか、あなたはFARGOという宗教団体の職員をしていました。言わば聖職者ですそれが覗きなどとぶつぶつ…」
「………」
 女は説教中、男はしょんぼり。
 巡回員が葉子に捕まって以来、小一時間どころか数時間にわたり説教が続いている。
「あなたには乙女の純情というものがわかっているのですか? わかっていないのでしょう。わかっていれば覗きなどぶつぶつ…」
「………」
 もう乙女なんて年じゃないだろ。
 ――普段の巡回員ならそう突っ込むだろう。無論心の中で。
 しかし、今の彼はとてもそんな精神状態では無い。
 水に濡れ、潮風とまだ少量ではあるが雨に晒されたことによる体力の低下。
 そして、恐怖――捕まった瞬間に受けた粛清によるもの――と長時間の説教ですっかり参っている。
 心ここにあらずと言った感じか。

66罪は一瞬、罰は一生(2/5):03/04/17 08:13 ID:W/I9i9gi
 ………。
 ……。
 …。

 ―――久しぶりだな。
 ん、調子? 駄目だな。もう捕まっちまった。
 しょうがないだろ、相手は完全体のA−9だぞ。
 そう。あいつだよ。ハムスターパジャマの。
 …懐かしいな。未だにハッキリ覚えてるぜ。ピンクの生地にハムスターの絵がびっしり、そして白パンツ。
 パンツだよパンツ。それにあの子供っぽいパジャマ。
 かあぁぁ…たまらんなぁっ!
 ――って、なんだよ。その憐れむような目は。実際憐れんでるんだろうけどな。
 そりゃ毎日毎日ヤれるだけヤれたお前等にとっちゃどうでもいいことだろう。
 だがな、違うんだよ。
 何が違うんだ、だと? わからんのか?
 B棟巡回員、よく、聞け……。
 俺があの時感じていた感情は性的興奮の一種じゃない。
 しずめる方法は…
 ……じゃなくて、だ。とにかく違うんだよ。エロじゃないんだ。
 ほら、なんというか、あれだ。胸に来るもんがあるだろ?
 あの真面目で無口で信心深くて、聖女絶好調の女がハムスターだぜ? そして白パンツ。
 しかもちょっぴりパンツが喰い込んでてなぁっ…!
 いいだろ? 萌えるだろ? エロとか関係なしに萌えるだろ?
 萌えない?
 ったく…これだからお前等はっ…。
 …とにかく、あれは…
 あれは…

67罪は一瞬、罰は一生(3/5):03/04/17 08:14 ID:W/I9i9gi
「私の着替えを覗きたいと言うのなら、許可を得て下さい。それが礼儀と言うものです」
「………あれ、は…」
「最も、私が許可を出すかどうかは別問題です。それは勘違いしないように」
「…あれは……いいものだ!!」
「―――」
「………」
「―――名無しさん。『あれ』とは、何のことですか?」
「何って、そりゃ、A−9のパンツ――」
「―――」

 ごすっ。


 それは、なかなか奇妙な光景に思える。
 小雨の舞う朝の海岸で、正座する女と転げまわる男。
 女は拳を振り上げ、男は頭を抱え。
 つまるところ葉子が脳内会話中の巡回員の頭に拳骨を繰り出したのだが。

「〜〜〜〜〜ッ!!」
「貴方と言う人はっ…今まで何を聞いていたのですか!」
 何も聞いていませんでした。
「いてぇっ、いてぇっ、痛いっ…お前、不可視の力を使っただろうっ!」
「使いました。使いましたが、自業自得です」
「俺は一般人だぞぉっ…手加減しろっ!」
「十分手加減しました。でなければ、今頃貴方の頭は粉々になっています」
「ぐぅぅぅぅっ…」
「いいですか、あなたはFARGOという宗教団体の職員をしていました。言わば聖職者ですそれが覗きなどとぶつぶつ…」
 葉子は説教を再開する。
「……うぅ…」
「あなたには乙女の純情というものがわかっているのですか? わかっていないのでしょう。わかっていれば覗きなどぶつぶつ…」
 話の内容が完全にスパイラルしているのは気のせいだろうか?
「……もう、勘弁してくれぇ…」
68罪は一瞬、罰は一生(4/5):03/04/17 08:15 ID:W/I9i9gi
 ―――と。
 バサバサと、大きな羽音が聞こえた。
「葉子殿、用件は済んだかの?」
 雨を気にしたのか。暇を持て余し、適当に見回りをしていた神奈が戻ってきたようだ。
 巡回員にとってはまさに救いの神。これがきっかけで説教が終わるかもしれない。
「――そうですね。まだ言うべきことはありますが」
 葉子は少し考えた後、久々に頬の筋肉を緩め
「今は鬼ごっこを優先させましょう。いつの間にか終わっていた、なんてことになってはつまらないですからね」
 説教の終了を宣言した。
(やった…助かった……)
 安堵からその場に倒れ込む巡回員。
 しばらくここで休もう――
 そう決めて全身の力を抜き、疲労の回復に努めるが…
「…何をしているんですか、貴方は」
「ふむ。不思議な男だの」
 葉子たちが立ち去る様子はない。
 もう俺に用は無いだろう…そう思いながら、彼は顔を上げる。
「―――え」
 巡回員の視界には、自分に向けて差し出された葉子の右手があった。
「行きますよ」
 つまりこれは。
「仲間は多い方が有利ですからね」
「うむ。これも何かの縁。よろしく頼むぞ」
 彼が、葉子に軽蔑されていると思っていた彼が、有能な人間として認められたと言うことだ。
 葉子の手を掴み、立ち上がる。
 疲れているが耐えられないほどではないし、精神的な疲労は今のやり取りで吹き飛んだ。
「――ああ。俺からも、よろしく」
 いつまでも腐ってはいられない。名誉挽回のチャンスじゃないか。今 動かないでいつ動く。
 俺は不可視の力も使えないし、空も飛べない。だが、何かできることがあるはずだ。
「では行きましょう。雨が降っていますから、雨宿りできる場所へ移動します」
「うむ。出発だの」
69罪は一瞬、罰は一生(5/5):03/04/17 08:15 ID:W/I9i9gi
 3人は仲良く、元気に歩き出した。
 特に巡回員の気合の入りようは尋常ではなく、先陣を切っている。
 これから彼は、頼れる男として、彼女たちを導いてゆくだろう――


 ――と思いきや。
「鬼ごっこが終わったらさっきの続きです。あと5時間は付き合ってもらいますよ」
「―――」
 巡回員、再び沈没。
「頼りない男だの」
「全くです」
 砂浜にずるずると跡をつけ、
 葉子と神奈は、巡回員を引き摺りながら歩いてゆく。

【葉子、神奈、A棟巡回員 動き出す。どこか雨宿りができる場所へ】
【巡回員 ぐったり】
【3日目早朝 まだ小雨】
【海岸】
70山崎渉:03/04/17 15:38 ID:ocEBuI9Z
(^^)
216.73.176.146 , ip-216-73-176-146.hqglobal.net , ?
71人形劇、開始:03/04/18 01:13 ID:LONCuvHM
 折原浩平は内心、とても焦っていた。
 屋台で朝食を食べてから、みんなが眠そうなのだ。
(そりゃ、昨日あんなに夜遅くまで街を探索してたんだ、眠いのも無理ないさ、
 でも、雨が降っている今がチャンスなんだ。きっと逃げ手は雨露を凌げる建物の中に隠れる。そこを襲えば──)
 しかし、そのことを口には出さなかった。
 今そんなことを言えば、メンバーのことをまるで考えていない無能リーダーの烙印を押されることぐらい浩平でも想像がつく。
 代わりに、一人元気なトウカに話しかけ、場の雰囲気を変えてもらうことにした。

「トウカはいつも張り切ってるな。あんなに活躍して疲れてないか?」
「なんの。これしきのことで根を上げる某ではありませぬ。
 この聖上の人形に賭けて誓う。浩平殿に鬼の優勝を!」
「サンキュウ、トウカ。ところで聖上の人形ってなんだ?」
「某のこの手の中に………………無い」
 トウカが手を握ったり開いたりした後、顔面蒼白で自分の服を調べ出した。
 それでもやはり、人形は見つからなかった。
「某の命より大切な人形が……ク、クケーーーーッ!!!!!」
72人形劇、開始:03/04/18 01:14 ID:LONCuvHM
 トウカは雨に濡れるのにも構わず、必死で人形を探し始めた。
 お人好しの長森達も、眠い目を擦りながらトウカと一緒に人形を探す。
 
(そんなに大事な人形なら落とすんじゃねえ。探すなら自分一人で探せ)
 浩平は内心で毒づいたが、もし口に出すとトウカはマジで切腹しかねない。
(こんな所で人形探しなんて、大幅なタイムロスだ……まてよ?)
 浩平にいいアイデアがぴかっと閃いた。

「トウカさん、もしかしたら昨夜街の中で落としたんじゃないかな?」
(ナイスだ、長森。よくぞ俺の言おうとしたことを言ってくれた)
「しかし街の中で人形を落としたとすると、この雨の中、探し出すのは困難を極める。
 皆にそんな苦労をかけるわけにはいかぬっ!」
「気にするなよ、トウカ。俺達仲間じゃないか……」
「浩平殿──」

 トウカには悪いが、浩平は人形なんか探す気はさらさら無かった。
(昨日の街での探索から、だいぶ時間が経っているからな。
 きっとまた、何人か逃げ手が街に入りこんでいるはずさ。
 そいつらと会ったら人形探しはウヤムヤにして、鬼ごっこの再開だ。
 なあに、トウカがゴネだしたら屋台で新しい人形でも買ってやればいいさ。
 単純なトウカのことだ。古い人形のことなんてすぐに忘れるさ)

 このときの浩平は、トウカの人形にかける情熱を、軽く……あまりに軽く見すぎていた。
 
73人形劇、開始:03/04/18 01:14 ID:LONCuvHM
 一方そのころ、街の奥にある目立たぬ家から、雨ガッパを着た三人組が出てきた。

「すいません、高子さん、すばるさん。ダリエリさんを探すのを手伝ってもらって」
「気にしなくていいですの、夕霧ちゃん。きっとすぐに見つかりますですの」
 その言葉を聞いた高子は、この子達なら本当にすぐに見つけてしまうかも……と思った。
 なんというか、今この子達には不思議な運がある。今までもうまく鬼を避けていたし、昨日だって幽霊騒ぎで押入れの中に隠れいたおかげで、家の中に侵入した鬼に気が付かれずにすんだのだ。

「夕霧ちゃん、ダリエリさんはこんな感じの方ですの?」
 すばるが夕霧に人形を見せる。
「……仮面を被ってるところは似てますが、ちょっと落ち着きすぎてるというか──
 すばるさん、その人形、どうしたんですか?」
「さっき道に落ちてたのを見つけましたの。雨に濡れてとっても可哀想でしたの。
 とってもカッコいい人形だから、すばるとっても気に入りましたの」
「すばるちゃん、ちょっとその人形に見せてくれるかしら?」
 高子はすばるから人形を受け取ると、どんなものか調べ始めた。

「手彫りの人形みたい……とても良く出来ますわ。
 裏に相合傘が書いてある……トウカ・聖上?」
「わあ、すばるにも、もっと良く見せて欲しいですの」
「すばるちゃん、その人形は多分他の参加者の物ですから、そのうち返さないとだめですよ」
 
 高子はすばるに人形を渡した。すばると夕霧はきゃっきゃと言いながら人形で遊んでいる。
 それを見ながら高子は自分にもあんな時代があったわね、と思いちょっとしんみりした。
74人形劇、開始:03/04/18 01:15 ID:LONCuvHM
「さあ、楽しい人形劇の始まりですの」
 すばるはまるでどこかの大道芸人のように、人形を夕霧の前で振り回し始めた。

「夕霧嬢はこのダリエリが守るですの、フシャーーッ」
「すごい、なんとなく似てます。すばるさんはダリエリさんを知らないのですよね?」
「お褒めに預かり恐縮ですの。では、ご期待に答えて。
 ダリエリ流最終奥義、地竜走破!」
 すばるは人形の頭を掴み折り曲げた。
 しかし木彫りの人形がそんな負荷に耐えられるはずもなく──

 パキン、コロコロコローーー。
 首が折れて雨の中を転がっていった。

 すばるは慌てて人形の頭を拾うと、ぐりぐりと胴体にねじ込んだ。
「ぱぎゅう〜、ちょと縮んでしまいましたの……
 夕霧ちゃん、このことは高子さんには内緒にして欲しいですの……
 後でちゃんと接着剤でくっつけておきますの──夕霧ちゃん?」

 夕霧の反応がないのを不信に思ったすばるが振り返ると、夕霧と高子が男に絡まれていた。
75人形劇、開始:03/04/18 01:18 ID:LONCuvHM
「そこの凸と非処女っぽいデカチチ女、動くんじゃねえぜっ」
 鬼のタスキをかけた男が乱暴に夕霧と高子を罵った。
「あなたは悪人さんですのね。成敗っ!」
 すばるが夕霧と高子を守るように男の前に立つ。
「なにが『ですの』だ、このバカ女。
 いいか?このヌワンギ様の汚名挽回をどこかにいるエルルゥと全国一億人のファンが待ってるんだ。
 ザコはさっさとやられちまいなっ!
 なんなら抵抗してもいいんだぜ、オレに触れても構わねえならな」
 (大影流柔術は相手に組んでかける技がほとんど──進退極まったみたいですの)
 
 ジリジリと近づいてくるヌワンギ。
 
 さらに少しづつ街に近づいてくる浩平チーム。

 果たして、すばる達三人はこの窮地を乗り切ることができるのだろうか?


【折原浩平 トウカ 長森瑞佳 スフィー 伏見ゆかり 
 トウカの聖上(ハクオロ)人形を探しに街へ】
【御影すばる トウカの聖上(ハクオロ)人形を壊す。ヌワンギに狙われてピンチ】
【砧夕霧 桑島高子 ダリエリを探している。ヌワンギに狙われてピンチ】
【ヌワンギ すばる、夕霧、高子を追い詰めている】
【ビル・オークランド 出番は無かったが雨の中、街の背景として固まっている】
【街 昼近く】
76編集サイト”管理”人:03/04/18 01:27 ID:adINJegt
少しだけ更新しました
明日はもっとがんばります
77小屋にて:03/04/18 02:14 ID:VAARkTh7
「ここまで逃げりゃ、大丈夫だろ」
さすがに息の荒いクロウ。それも当然、いくら軽いとはいえ、少女を一人背負ったまま、半時間のマラソンだ。
いかに歴戦の武人と言え、疲れないはずがない。
「えと、あるがとうございます。クロウさん。色々ご迷惑」
「気にするなって。俺が好きでやってんだから」
上気した顔に笑みを浮かべて、豪快に笑ってみせる。そして床に手をつき、
「とりあえず、しばらくはここで待ちだな。ウルトのねぇさんが探してるかもしれんし」
ここは森の中、一軒の小屋。建設目的は分からないが、おそらくこの鬼ごっこのためだけに作られたのであろう、突貫工事の小屋だ。
立てこもるには頼りないが、巧く枝葉の影に隠れるように立てられているため、上空からは見つけられまい。
後は地上から発見されたときだが……
ま、なんとかならぁな。

小屋の中には、いろいろな物資が置いてあった。
これからここに潜んでいるにせよ、どこかに移動するにせよ、一食分の食料と、毛布が確保できたのは大きい。
毛布を運ぶための背負子もあった。毛布だけでなく、郁美を負ぶるときに役立つだろう。
徐々に暮れる日、暗くなってくる小屋の中。照明器具はなぜか無く、暗くなるに任せる他無い。
とはいえ、隠れ潜むにはかえって好都合だ。
瓢箪から駒。偶然にも、良い隠れ場所を見つけることができたのかもしれない。
78小屋にて:03/04/18 02:15 ID:VAARkTh7
「そういえば、あの子、置き去りになっちゃいましたけど、大丈夫なんですか?」
「ああ、あいつか? そうだな、夜が更けた頃に迎えに行くか」
「どうして夜更けに?」
「今すぐじゃ、鬼三人が待ち伏せてるかもしれないだろ。それに、夜闇の中の方が、動きやすいしな」
「そうですか……」
「ま、大丈夫さ。最悪、一日二日放っておくことになっても」
あいつは、俺の相棒なんだからな。

【クロウ 郁美 逃げ切った】
【夜が更けてから、ウォプタルを迎えに行く】
【森の小屋】
79chase!:03/04/18 03:19 ID:PNudQ2go
始まりは偶然だった。

「ちぇっ、降ってきちまったか……」
「雨宿り出来るとこ、探さなきゃいけませんね」
「どうする、梓? 一度キャンプ場戻る?」
「そうだな……」

「あーあ、降って来ちゃった。どうしよ。屋根のある場所行くか、
 屋台見つけて傘でも買うか……」

いや、似たような台詞を吐くこの二人が出逢ったのは、ある意味必然だったのか。

「「「…………」」」
「…………」
逃げ手、柏木梓、江藤結花、日吉かおり。
鬼、広瀬真希。

逃走劇が、始まった。
80chase!:03/04/18 03:20 ID:PNudQ2go
柏木梓は不正やハンデといったものが好きではない。
だから出来ることならこの鬼ごっこ、鬼の力など使わずに勝ちたいと思っていた。
そんなものに頼らずとも、陸上で鍛えた足には自信があったし、まあそもそも
千鶴や楓ほど完璧に力を制御できるわけではないというのも理由だが。
ともかく、梓を先頭に結花、かおりも快調に飛ばしている。
だが敵もさる者、追いつかれる様子はないが、代わりに差は広がりもしない。
(こりゃあ振り切るのは案外時間かかるかもな)
そして、そんな彼女らのチェイスを視界におさめたものが、一人。

「さっきの男に食料少しとられちゃったし……ここはしっかり捕まえとかないとね」
深山雪見だった。
81chase!:03/04/18 03:21 ID:PNudQ2go
「あーあ、なつみちゃんを捕まえてからこっち、まったく誰にも会わなくて
 結局三日目を迎えてしまった俺は運がいいのか悪いのか」
「もの凄く説明口調ですね、店長さん」
「このくらいやらないと存在感が出ないんだよ」
などと聞きようによってはかなり悲しい台詞を吐くのは五月雨堂店主、宮田健太郎。
だが運命の瞬間とはいつも何の前触れもなく訪れるものだ。この男の場合は特に。
「うわあ!! …とっとっと……」
「な、何だあ?」
突然目の前に現れた二人組を、体をひねってかわす梓。
触れはしなかったものの流石にバランスを崩し、地面にうずくまる格好になる。
そこへ、
「チャンス!」
草むらに隠れながら三人と並行するように走っていた雪見が、好機と見て梓に手を伸ばす!
だが梓は「フッ!」というかけ声と共にさらに沈み込み、クラウチングスタートの要領でダッシュ、
雪見と他二名を置き去りにする。
逃走劇は先頭に結花とかおり、やや遅れて梓と雪見、そしてその後ろに真希という形になった。
そして、
「出番の匂い! なつみちゃん、追うぞ!」
「は、ハイ!」
宮田健太郎及び牧部なつみ、参戦。
82chase!:03/04/18 03:22 ID:PNudQ2go
「なつみちゃん、魔法であいつらの足、止められないかな? 木の枝を折って目の前に落とすとか」
「走りながらだと上手く当てる自信ないんですけど……」
「いいよ、やっちゃって!」
「……わかりました」
器用にも走りながら呪文を詠唱するなつみ。
そして
「えい!」
その両手から放たれた力の奔流は見事に

ヒューン…………

「…………」
「だから自信ないって言ったんです……」

そして明後日の方に飛んでいった魔法は
「出口はどこだろうねえ……」
「雨も降って来たし、最悪ダヨ……」

ボムッ!

海岸から森を抜けて家のある方に向かおうとして、しっかりと道に迷っていた
エディ&敬介の近くの木に着弾した。
「な……何が起きたんだ……」
「アッチの方から光が……Look!」
エディの声に目を向けた敬介が見たのは、こちらに向かって走ってくる三人の逃げ手、
そしてそれを追う鬼の姿であった。
逃げ手も二人に気づいたのか、進路を左に変え、すぐに敬介の視界から消える。
その時咄嗟に敬介が発した言葉。
「お、追おう! エディ君!」「of course OK!」
それはこの逃走劇という舞台に上がるためのものであった。
83chase!:03/04/18 03:23 ID:PNudQ2go
走る、走る、走る。
ただひたすらに彼らは走る。
逃げるは三人、追うは六人。
人外の力も、チームによる駆け引きもこの劇には存在しない。
勝つために必要なもの、それは豊富なスタミナと適切な判断力、そして運。
それら全てを併せ持ち、勝利の女神の微笑をその手に掴むのは果たして、誰か。



【梓、結花、かおり 逃走中】
【広瀬・雪見・健太郎、なつみ・エディ、敬介 追跡中】
【時間 三日目、雨が降り始めたころ】
【場所 森の中】
84鬼と力と情報と 【1】:03/04/18 05:14 ID:qN4eKjQb
 雨の降りしきる森の中の小屋では、耕一と瑞穂が遅い朝食をとっていた。
 ダリエリと別れた後雨宿りの出来るこの小屋を見つけたのだ。
「瑞穂ちゃん、飯作るのうまいなぁ」
「そうですか、エディフェルさんやリネットさんとやら程じゃないと思いますよ」
「……瑞穂ちゃん冷たいね……」
 瑞穂ちゃん、先ほどからご立腹。
「いや、でもうまいって。梓や初音ちゃんにも負けていない!」
「へぇ、他にもそんな女性がいらっしゃるんですか。お盛んですね」
「み、瑞穂ちゃん……ん?」
 言葉をきって耕一は窓を見る。
「どうしましたか?」
「ん……森の方で何か見えた気がしたんだけど……気のせいかな?」

「髪の短い女が1人いたな。当たりかもしれないぞ」
 木の後ろから、オボロは小屋の窓を伺う。
「ほ、本当か!? オボロ君」
「落ち着いて、月島さん。まだ決まったわけじゃない」
 実を言うと可能性は低い。久瀬の推理を当てにするならば、ショートカットの女性は二人以上になる。
 教会付近の家屋を虱潰しにすること、約2時間。今までは逃げ手も鬼にも出会わなく、久瀬自身ちょっと自分の推理に自信をなくしかけていたりした。
「相手の容姿まではちょっと分からないが……どちらにしても相手は、逃げ手だ。捕まえるぞ」
「分かったよ……3方向から同時に踏み込むのかい?」
「そうだな……」
 久瀬は小屋の形を確認する。見る限り今まで回った小屋と同じ間取りのようだ。室内に侵入する手段はまず表口に裏口。
 それだけではなく、今獲物のいるリビングルームには大きな窓が、南側に二枚、
東側に一枚取り付けられている。
 要するに、三人だけでは全ての出入り口を抑えきれないという事だ。月島の案では逃げられる可能性がある。
「いや、もう少し工夫しよう。オボロ君、彼女達に気づかれないように屋根に登れるかい?」
85鬼と力と情報と 【2】:03/04/18 05:18 ID:qN4eKjQb
「いやー見ましたか、あの晴香さんの悔しそうな顔! 賓乳賓乳いうからですよね!?」
「それ、もう5回は聞いたわよ。ご活躍には感謝してるけどね」 
 得意げにしゃべる由依に、郁未と祐一はうんざりした視線を向ける。
「全くだ、耳にたこができそう……ん、どうした、舞?」
「あそこ見て」
 舞の指差す方向を見る祐一一同。木々の向こうに、
小屋らしきものが見え……その屋根の上に一人の男が上っているのが見えた。しかもその男、襷をつけている。
「あいつ、何してるんだ……?」
「……多分、捕物の最中よ! ひょっとしたら獲物を横取りできるかもしれないわ。
舞行くよ!!」
「はつみつくまさん!!」
 郁未と舞が、小屋に向かって駆け出した。

86鬼と力と情報と 【3】:03/04/18 05:19 ID:qN4eKjQb
 ガチャッと表口が開く音と、ドタドタとした足音に、耕一達は反応する。
「え、なに?」
「鬼だ、逃げるぞ!!」
 はたして、表玄関からのほうから鬼の男が一人現れた。あまり敏捷な動きではない。
(これなら逃げられる!)
 そう確認する余裕が耕一にはあった。瑞穂はすでに裏口の方に向かっている。だが、
「残念だったね!」
「えっ!?」
 時間差をつけて今度は裏口から眼鏡をかけた男が飛び込んでくる。
裏口の扉に手をかけようとしていた瑞穂がこれに反応できるはずも無く、あっさりとタッチされた。
(誘導された!?)
 耕一は歯噛みした。だが、まだ逃走経路はある。窓だ。
 裏口から来た鬼は、瑞穂が邪魔になってスタートダッシュが遅れている。
これならば逃げ切れる。瑞穂ちゃんには悪いけれど―――
 だが、耕一が窓の人つを開け放った瞬間、最初に来た男が叫んだ。
「南側、奥の窓だ!!」
「応!!」
 それに応じて、もう一人の鬼が、上から飛び降りてきて、耕一の前に立ちふさがった。
「な!?」
 耕一が驚愕する間に、鬼達は完全に獲物を包囲した。
87鬼と力と情報と 【4】:03/04/18 05:20 ID:qN4eKjQb
 表玄関からきた月島に注意をひきつけておいて、裏口に誘導し、時間差をつけて久瀬がそちらからも襲撃する。
 さらに、月島は相手がとろうとしている逃走経路を確認して、どの窓にも一瞬で移動できる場所
―――屋根の上だ―――に配置されているオボロにそれを告げる。
 それが久瀬の立てた作戦であった。
「嘘だろ……ここまでかよ」
 相手の男は観念したようだ。
 久瀬達が知るはずも無いが、狩猟者には一つ大きな弱点がある。
その力を完全に解放するためには少し時間をかける必要があるのだ。
今回、その時間が与えなれないのは火を見るより明らかだろう。
 これで捕物は終わり。そのはずだった。だが、久瀬の作戦にはミスがあった。

 バアンッ

爆音が鳴り響き、水しぶきと共に地面が爆発する。
「な、なに!」
 一瞬、注意がそれる。そして―――
「し、しまった!?」
 オボロが叫んだ。隙をつかれて、獲物がオボロの脇をすりぬけ外に向かって駆け出したのだ。
「オボロ君追え!!タッチしろ!」
 久瀬の叫びに応じて、オボロも飛び出す。
「耕一さん頑張って!!」
 その瑞穂の声に、一瞬、久瀬の注意が向けられる。
(耕一―――その名前どこかで……)
 そう、それは確か、昨夜の屋台で―――
88鬼と力と情報と 【5】:03/04/18 05:21 ID:qN4eKjQb
 すさまじいスピードで、ダッシュをかける耕一とオボロ。
と、その時その横手の森からから、黒髪の少女が飛び出した
「川澄さん!?」
 そう、これが久瀬の失策。オボロを屋根に上げてしまったがために他の鬼に見つかりやすくなってしまうという事。
「グウッ」
 耕一は舞を見て、無理やり方向を変える。だが、舞は囮だった。
「もらった!」
 向きを変えた耕一の正面から、天沢郁未が飛び出してくる。
言うまでの無い事だが、先ほどの爆発、彼女の不可視の力によるものである。
 逃げる耕一、追うオボロ、迎える郁未。
 オボロと耕一の距離が縮まるよりも早く、郁未と耕一の距離が縮まっていく。旅人算の法則だ。
 耕一は覚悟を決める。
(もう方向は変えられない!跳躍してあの女を抜く!!)
 郁未は勝利を確信する。
(勝てる! 抜かせなければ私の勝ちよ!!)
 オボロは歯噛みする。
(駄目だ! 追う以上こちらが一歩遅れる!)
 久瀬はほとんど何も考えずに叫んだ。
「初音さんの事で話がある!!」
「―――え?」
 従妹の名前を呼ばれて、跳躍寸前の耕一の注意が一瞬久瀬に向けられて―――
次の瞬間、二つのタッチの音が同時に―――少なくとも久瀬にはそう聞こえた―――鳴り響いた。
89鬼と力と情報と 【5】:03/04/18 05:23 ID:qN4eKjQb

 すさまじいスピードで、ダッシュをかける耕一とオボロ。
と、その時その横手の森からから、黒髪の少女が飛び出した
「川澄さん!?」
 そう、これが久瀬の失策。オボロを屋根に上げてしまったがために他の鬼に見つかりやすくなってしまうという事。
「グウッ」
 耕一は舞を見て、無理やり方向を変える。だが、舞は囮だった。
「もらった!」
 向きを変えた耕一の正面から、天沢郁未が飛び出してくる。
言うまでの無い事だが、先ほどの爆発、彼女の不可視の力によるものである。
 逃げる耕一、追うオボロ、迎える郁未。
 オボロと耕一の距離が縮まるよりも早く、郁未と耕一の距離が縮まっていく。旅人算の法則だ。
 耕一は覚悟を決める。
(もう方向は変えられない!跳躍してあの女を抜く!!)
 郁未は勝利を確信する。
(勝てる! 抜かせなければ私の勝ちよ!!)
 オボロは歯噛みする。
(駄目だ! 追う以上こちらが一歩遅れる!)
 久瀬はほとんど何も考えずに叫んだ。
「初音さんの事で話がある!!」
「―――え?」
 従妹の名前を呼ばれて、跳躍寸前の耕一の注意が一瞬久瀬に向けられて―――
次の瞬間、二つのタッチの音が同時に―――少なくとも久瀬にはそう聞こえた―――鳴り響いた。
90鬼と力と情報と 【6】:03/04/18 05:36 ID:qN4eKjQb
 刺すような、静寂。三人は雨の下、彫像のまま動かない。
 久瀬は三人のほうに向かいながらおずおずと口を開く。
「どっちが、勝ったんだ?」
 その問いに、郁未はフッと笑った。
「やってくれるわ、久瀬君」
「な、なにがだ?」
 とまどう久瀬。その久瀬の肩に、オボロの手がポンとのせられた。
「勝ったのは俺だ、久瀬。お前のおかげでな」
「僕の?」
 理解できない久瀬に、今度は耕一がふてくされたように説明する。
「お前の一言で俺の動きが一瞬止まった。そのせいでほんのわずかだけ、
追いかける速度と迎える速度の差が縮められちまったんだ。
見て分からなかったのか?」
「……分かるわけ無いだろう?」
 どこかあきらめたような調子で久瀬はつぶやいた。
「そうか。じゃあ、結局は運かもな……初音ちゃんのことはどこで、聞いたんだ?」
「昨日の晩の屋台で、たまたま初音さんがあなたの事を話しているのを耳にしたんだ」
 郁未のほうを向く。
「天沢さん、あなた達がボイコットした美坂さんの祝勝会でのことだよ」
 全く情報なんて何が役に立つものか分からないものだな、と付け加える。
「なるほどね。情報差で負けちゃったというわけか」
 どちらかというと痛み分けなんだがな、と久瀬としては思う。結局ポイントの集中が出来なかったわけだから。
 耕一達の心情を考えて口にはしなかったが。
「昨日追い掛け回しちゃった事の、リベンジってところかな?」
「冗談を言わないでくれ、仕返しをするような度胸など僕にあるはずも無い」
 郁未の軽口に、久瀬はそう応じた。
91鬼と力と情報と 【7】:03/04/18 05:37 ID:qN4eKjQb
【久瀬 1ポイントゲット 通算5ポイント】
【オボロ 1ポイントゲット 通算2ポイント】
【耕一 オボロによって鬼化】
【瑞穂 久瀬によって鬼化】
【教会付近の小屋】
【時間は10時半ごろ】
92鬼と力と情報と :03/04/18 05:39 ID:qN4eKjQb
ごめんなさい。焦ってしまって、【5】を二回送信しまいました。
申し訳ない。
93名無しさんだよもん:03/04/18 08:51 ID:87F3WVIK
痛快に面白い
94名無しさんだよもん:03/04/18 20:14 ID:eLUoXxzg
>>75
汚名は「返上」だと思うんだが…。
原作で間違えて使ってるとか、そういう設定があるんだったらスマソ。
95名無しさんだよもん:03/04/18 21:47 ID:P8/wnkzp
>>94
感想スレで作者本人が、ヌワンギらしさを出すためにわざと使ったと。
9694:03/04/18 22:08 ID:eLUoXxzg
>>95
そっちは見てなかった。サンクス
97最悪の訪問者:03/04/19 00:51 ID:MshoDa07
「それでその女の子が何か投げたんだけど、お父さんに当たっちゃって。「あ」って思ったら今度は爆発して
 投げた女の子が転がってて……よく分からないけど逃げてきたの。でもあの鬼さん大丈夫だったかなあ……
 あ、そう言えば観鈴ちんとその子、声がちょっと似てた。にはは、凄い偶然」
「そう、そんなことがあったの」
私はね……と、今度は自分にあった出来事を聞かせる。
それを観鈴は目を輝かながら聞いていた。
本当にこの子は楽しそうに喋り、楽しそうに聞いてくれる。
(あの子にもこんな頃があったわね──)
ひかりは少しだけ、自分の娘のことを思いだしていた。
とは言えその姿は大分小さい、およそ小学校低学年くらいの時の姿であったが。
(あかりに妹を作ってあげるのも良いわねえ……それとも孫の方が先かしら)
外は未だシトシトと降り続く雨。
だがひかりと観鈴の居るこの家は、今間違いなく島の中で最も平和な空間だった。
98最悪の訪問者:03/04/19 00:53 ID:MshoDa07
「揺れますよー」と告げてから起こる地震がないように、「鳴りますよー」と告げてから鳴る電話がないように。
静寂というものは突然破られるものである。

バターン!!

「俺は、まいっ……たぁぁ……」

「みゅー……」

音の正体は正面玄関のドアが倒れた音。
そしてドアの上に折り重なるように寝そべっているのは、濡れ鼠の上二日目の朝から
何も食べていないために空腹でぶっ倒れた高槻と繭であった。
降り出した雨で目を覚ました二人は、食料を求めて彷徨う内にここに辿り着いたのだ。

「あらあら、どうしたんですか?」
「見れば分かるだろぉう…食い物をよこせぇ…」
「みゅー、おなかすいたー」
「でも、私は逃げ手であなたは鬼ですし……」
「なら食い物くれたらすぐに出てってやる。タッチはしない。これでどうだぁ……」
嘘だ、とひかりは確信した。
女として、母としてxx(ピー!)年生きてきた末に身に付いた勘が告げている。
すなわち、『この男は約束を守る男ではない』と。
「が、がお、可哀相……ひかりさん、お料理作ってあげよう?」
だが観鈴はまだまだ未熟らしい。もっとも、この愚直なまでの優しさが彼女の良いところでもあるのだが。
ひかりはしばらく考えたあとフゥ、とため息を一つ付き、
「仕方ありませんね。とりあえず、お風呂に入ってきて下さい。突き当たりにありますから」
この──弱っているとはいえ──最悪の訪問者を迎え入れた。
99最悪の訪問者:03/04/19 00:54 ID:MshoDa07
擦れ違うときも十分距離をとり、観鈴を背中に隠すことも忘れない。
ついでに頭の中で逃走経路を確認しておく。
出口として使えるのは正面玄関、勝手口、庭に出るための大きな窓の三つ。
二階もあるが、自分と観鈴はそこから飛び下りることなど出来ない。身を隠すならともかく
基本的には袋小路、逃走時には使えないだろう。
鬼が追ってこられないように拘束する、という手もあるが、果たして彼らに一切触れずに
動きを封じることなど可能だろうか。

さて、どうしたものか。

(最悪私が捕まったとしても、観鈴ちゃんだけは逃がしてあげないとね)
「ひかりさーん」
厨房から観鈴が呼ぶ声がする。
とりあえず料理を作ろう。油断と信用は決してしないよう心に誓い、ひかりはフライパンを手に取った。



【ひかり、観鈴 昼ご飯作り開始】
【高槻、繭 一緒にお風呂!?】
【ひかりは高槻のことを欠片も信用していない】
【時間 三日目 昼過ぎ】
100女3人で姦しい。では4人では?:03/04/19 00:58 ID:SvINut2j

 森を包む闇。降り止まない雨。
 唯一光ある、零号屋台には相変わらず捕獲用武器を物色する、
 美坂香里と太田香奈子の姿があった。


「また唐辛子噴霧器にする?」
 噴霧器のタンクに手をおきながら、香奈子がいった。
 幸いにして在庫はまだあるようだ。補充セットも含めて。
「却下」
 にべもなく答える香里。
「? どうして?」
「あれで結構重量あるのよ。噴霧式だから射程も短いし」
「……なんでそんなもの使ってたのよ」
 最初見たときから重いだろうとは思っていたが、そんなものを背負いながら走り回っていた
のだろうか。呆れたように呟く香奈子に香里は口元を歪めて返した。
「決まってるでしょ。栞を捕まえてからじっくり――――」
101女3人で姦しい。では4人では?:03/04/19 00:58 ID:SvINut2j


 その向かいでは、並んで座るセリオと澤田真紀子が二人の様子を眺めていた。
 真紀子の前にはおでんがある。
「……まあ、唐辛子噴霧器は使い物にならないわね。この雨の中じゃあ」
 屋台のひさしから手をかざす。
 外は相変わらず雨が降り続けている。
 まだ止む様子はない。
「――――澤田様は如何なさいますか?」
 横のセリオが見上げた。
 彼女と香奈子には射出型スタンガンがある。
「私? そうね。私にはこれがあるから、いいわ」
 掌に金属の塊を転がしながら、真紀子が答えた。
「それより、貴女。この雨がいつまで続くかわかるかしら?」
「サテライトサービスへのアクセスが制限されていますので、私にはわかりかねます」
 現在のセリオは、HM-13の機能の要であるサテライトサービスの使用が制限されている
状態にある。サテライトキャノンなど人工衛星そのものの機能は使えない。
 気象衛星からのデータ受信もそれに含まれているようだった。
「……そう。残念だわ」
102女3人で姦しい。では4人では?:03/04/19 00:59 ID:SvINut2j
 残りのはんぺんをつまむ。
 接続不可でなく、機能毎に使用権限を選択しているのであれば、来栖川が全面的に
サポートしているということだろう。
 つまり、セリオの機能は”ゲーム”中回復することはないとみた方が良い。
「……ですが、現在までの観測と蓄積から計測することは可能です。信頼性は相当落ちますが。
少々お待ちください。――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――完了しました。
概算になりますが、明日の降水確率は 64.0027%。誤差±0.3」
「……ちなみにそれの信頼性はどの程度?」
「現状では結果抽出に必要なファクターが限られていますので――――そうですね、下駄を
転がして予測するよりは高いかと」
「それは、素敵な予測ね」
 真紀子は破顔した。
103女3人で姦しい。では4人では?:03/04/19 00:59 ID:SvINut2j

 
「消火器なんて武器になるのかしら?」
 在庫に含まれている消火器を取り出しながら、香里が行った。
 何の変哲もない消火器だ。非常用ではないようだが。
「…………」
「なら、トリモチ銃なんてどう? 当たれば一発でポイントゲット! これは美味しいわよ〜」
 と、天候にも拘らずノリノリなショップ屋ねーちゃん。
「普通の女子高生に扱えるとも思えないけれど」
 醒めた眼で答える香里。
「やっぱり噴霧器でいいんじゃない? 狙いもそこそこに、周囲一帯に振りまけばいいわけだし」
「……威力もないのよ。顔庇われたり、後ろ向かれたらどうしようもないでしょう」
「ならこれなんかどう? まだ誰も持ってないんだけど」
 と、ショップ屋ねーちゃんが示したソレ。
 香里と香奈子は顔を見合わせた。
104女3人で姦しい。では4人では?:03/04/19 01:01 ID:SvINut2j


「――――買い物は終わりましたか? 香里様」
「ええ。勿論」
 香里が証拠とばかりにさっと袋に包まれたものをみせた。
 例の噴霧器ではないようだった。
「……それ、何?」
 訝しげに訊く真紀子に、香里は笑みで返した。
「さて。それでは皆さん……」



「――――ゲームを終わらせに行きましょうか」



【香里・香奈子・セリオ・真紀子 出発】
【香里 何か手に入れたらしい】
【場所 零号屋台】
【時間 三日目夜】
【天候 雨】
105柳川で生こう!:03/04/19 04:15 ID:ByVIHwnG
 鬱蒼と繁る森の中、そこを一人の男が歩いていた。
 いや、『歩く』というのはあまり適当な日本語とは言えまい。その様子を最も的確に表す言葉……
 それは、『徘徊』であろう。
「…………ああ……」
 情けないうめき声を漏らす。
 彼の名前は柳川祐也。泣く子も黙る警察官であり、同時に柏木の一族、エルクゥの末裔でもある。
 その実力は柏木耕一には一歩譲るものの間違いなく島内では最強クラス。優勝候補の一角と言っても過言ではないだろう。
 ……もっとも……
「うう…………」
 ……今の彼は、どこからどう見てもただのヤバイ薬極めた兄ちゃんでしかないのだが。
 
106名無しさんだよもん:03/04/19 04:15 ID:ByVIHwnG
「疲れた……」
 死んだ魚のような目をかすかに開き、柳川は森の中を徘徊する。
 昨夜の巳間良祐とのデッドヒート。結果を言えば、柳川の勝利であった。
 だが、勝負内容は余裕とはほど遠い。ギリギリの戦いであった。
 いくらエルクゥといえど、疲れるモンは疲れる。そして、彼の疲労はすでにピークを越えていた。
 ただでさえほとんど休み無く動き回り、高槻を追いつめたと思ったら天蓮華の熱い一撃。間断なく今度は良祐とのチェイスだ。
 彼でなければとうの昔にぶっ倒れていただろう。最後に残った一絞りの体力も、良祐戦で全て使い果たしてしまった。
「……疲れた……」
 再び同じ呟きを漏らす。
 顔から生気は消え失せ、濡れた髪がへばり付く。一張羅のスーツもとうの昔に雨で現れてズブ濡れだ。
「うぐぅ……」
 今の彼なら、誰でも勝てる。そう、たとえ一般人であろうと、女であろうと、子供であろうと……みさき先輩のような致命的な障害を持つ者でも。
 それ程までに今の彼は、疲れ果てていた。
 どっからどう見ても優勝候補の一角には見えない。
「休ませてくれ……」
 体は必死に休養を求めている。一眠りすればまた元の体力が戻り、狩猟者としての力を行使する事ができるだろう。
 だが……
「なんで雨なんて降るんだよ……」
 野宿は別に平気であるが、さすがに雨に打たれながら眠るわけにはいかない。
 風邪を引きかねないし、第一ほとんど体力など回復しない、いや、トドメを刺されて衰弱死……野垂れ死にという可能性もある。


「それだけは……避けたい」


 もはや、彼の体を突き動かしているのは精神力のみであった。
 
【柳川 良祐との追撃戦には一応勝利。ただし、体力の限界貴乃花状態】
【森の中を徘徊中。とても怪しい。寝床探し】
【場所:森の中 時間:2日目昼ごろ 天候:降雨】
107名無しさんだよもん:03/04/19 04:20 ID:ByVIHwnG
訂正

×【場所:森の中 時間:2日目昼ごろ 天候:降雨】
            ↓
○【場所:森の中 時間:3日目昼ごろ 天候:降雨】
108名無しさんだよもん:03/04/19 05:22 ID:waBEvbvj
(・∀・)イイ!
109memories:03/04/19 14:55 ID:MshoDa07
「山ーをこーえー谷をこえー ひたすら僕を追ってきたー オガタリーナが追ってきたー♪」
「妙な歌うたってんじゃないわよー!!」
やあ皆さん元気かな?
今最も熱い男、敏腕音楽プロデューサーの緒方英二だ。
訳あって逃亡中の身なので走りながら失礼するよ。ちなみに追跡者は皆さんご存じ、我が妹にして日本最高峰のアイドル、緒方理奈だ。
しかし理奈ちゃん、ハットリ君を「妙な歌」とはいただけないな。あれはドラ、Q太郎、パーマンと並んで藤子SFの人気巨頭の
一つなのに……それともこれがジェネレーションギャップというやつか? 確かに理奈ちゃんはリアルタイムで見ていないが……
いやはや、まだまだ若いつもりだったんだけどねー、って
「おっ、と」
思考が横道にそれていても体はちゃんと目の前の木を避け、足元の石を飛び越える。
海千山千の芸能界で生き残ってきた俺にとって、思考と行動を分断することなどたやすいことさ。
とはいえ……
(そろそろヤバイかなあ)
タイトなスケジュールをこなす仕事柄、それなりに体力はあると自負しているが、いい加減限界に近づいている。
(本当に年ってことかねえ……)
夜の帳も降りて久しい時刻、果ての無いように思われた追いかけっこの果てが見えてきていた。
110memories:03/04/19 14:56 ID:MshoDa07
そして均衡は崩れた。
理奈は英二のスピードが落ちてきたと見るやいなや思いきりタックル、本場アメリカのアメフトばりにブッ倒したのだ。
それは約半日を費やした追いかけっこにしてはあまりにもあっけない幕切れだった。
「いやはや、とうとう捕まっちゃったねー。まさか理奈ちゃんがここまでやるとは正直思わなかったよ」
疲れた顔だが爽やかに言う英二。それに対して理奈は、
「まったく、何が『捕まっちゃった』よ。途中から本気じゃなかった癖に」
どこか憮然とした表情でそう返した。

「……どういうことかな?」
「言葉通り。だって私途中で何度か兄さんのこと見失ったこともあったけど、少し先に行くと止まってたんだもの。
 逃げようと思えば逃げられたでしょ。あれがわざとじゃなくて何?」
「アレは小休止だよ、小休止」
「……じゃあそう言うことにしといてあげるわ。で、お兄様の処分ですけれど……」
スゥ、と目を細める。口調は凍るように冷たい。次に出てくるのは死刑宣告か。
「楽しかったからいいわ。考えてみたら兄さんとこんな風に遊んだの、もの凄く久しぶりだし」
違った。うって代わって破顔一笑。それはブラウン管では決して見せない、心からの笑顔だった。
それを見て、英二も笑った。
いつもの綽々とした笑みではなく、心の底から、思いきり声を出して笑った。
111memories:03/04/19 14:57 ID:MshoDa07
怒れる妹と恐怖する兄という構図で幕を開けた追いかけっこ、だが二人はいつしか楽しんでいた。
何のしがらみもない子供の頃に戻ったように。
敏腕プロデューサーとトップアイドルではなく、ただの兄と妹として。
そして二人は丁度いい具合に近くにあった小屋の中で、夜遅くまで思い出話に花を咲かせた。
思いっきり遊んだ今日の余韻を引きずるように。

まあ思い出話をしている最中、昔兄に酷い目に遭わされたことまで思い出した理奈が英二に何発か
張り手を食らわしたりしたのだが、これもまた一つの兄妹愛の形と言えなくもない……かもしれない。



【緒方英二 鬼になる】
【緒方理奈 1ポイントゲット】
【場所 どこかの小屋 そのまま就寝】
112賭けの宣告:03/04/19 17:12 ID:IDLYslgX
 鬼気。
 まさしくそう呼ぶにふさわしい張りつめた空気が、霧雨の中に立ち上る。
 楓の静かだが強い眼光に、包囲しているはずの初音、智子、坂下が、逆に気圧されていた。
 ましてや初音は、姉をよく知るが故に、かえって動けない。
 無口で表情の変化に乏しい楓だが、初音はその奥に隠れた優しさや暖かさを知っていた。
 自分勝手で気まぐれに見えるのも、意志が強く、その真意を容易には悟らせないがためだ。
 そのポーカーフェイスは、心の奥底に眠る、一種酷薄とも言える感情を隠すのにも役立っていた。
 楓に良く被せられる、「猫のような」という形容詞。
 そう、猫は残酷なのだ。
 閃いた笑みが、数では勝る初音たちを圧倒した。その先に見えるのは一瞬の死か、力尽きるまで弄ばれる運命か。
 いまや、狩るものと狩られるものは立場が逆転――いや、本来の力関係に戻っていた。
 楓が軽く首を傾げただけで、びくりと三人が反応する。
「くっ……このぉっ!」
 耐えきれず、坂下が挑みかかった。
 なまじっか、腕に自信があり、鍛練を積んでるが故に、自分よりも頭一つ小さい少女に怯えることに、我慢ができない。
 自分よりも強い相手だ、ということはひしひしと肌で感じていたが。
 とは言っても、鬼ごっこであることは忘れず、その腕を掴もうと手を伸ばす。
 楓は動かない。
 掴んだ――そう確信したはずのその手はあっさりと空を切る。
 たたらを踏んだ坂下との間にミリ単位の隙間を挟んで、くるりと体を入れ替えすれ違う楓。
 まるで、昔模範演舞で見た、武道の達人の柳じみた体術のように、無駄のない、流麗な動き。
 そして目で追うのも困難なほどの、掻き消えたような凄まじい速さ。
 驚愕する坂下とは裏腹に、楓は鬱陶しげに髪に付いた雫を払っていた。
 楓はこと、スピードに関しては、千鶴よりも――おそらく、現存するどのエルクゥよりも――優れている。
 振り下ろされる千鶴の本気の攻撃の間に、割って入れるほどに。
 ましてや、ただの人間相手に後れをとるはずもない。
 自分の人間としての限界を見せられた坂下は、冷や水を浴びせられたように、蒼白となった。
113賭けの宣告:03/04/19 17:12 ID:IDLYslgX
 見開いた目で凝視する坂下を、逆に恐ろしく冷たい無表情で見下ろす楓。
 背中を向けられている初音と智子も、一見無防備に見えるその後ろ姿に、襲いかかる気になれない。
「さ、坂下さんっ! そのまま逃げ道をふさぎっ! いくら速くっても囲んでしまえばタッチするくらい……」
 その智子の声を聞いて、はた、と気づいたように楓が僅かに顔を上げる。
「――忘れてた」
「……え?」
「そういえば、これ、鬼ごっこだったね――リネット」
 かつての名前で呼ばれた初音が、ぴくりと身を震わせる。
 後ろ姿が恐ろしかった。
 振り向いた楓はきっといつもの笑顔を見せてくれる。そう信じたいのに、信じられない。
 ただクスクスと始まった笑い声と、恐怖の色を濃くする坂下の表情だけが、初音の願いを裏切っていることを想起させる。
 楓が誰にともなく呟いた。
「賭けをしようか?」
「……賭、け?」
「私はこのゲーム、最後まで捕まらない。絶対に逃げ切ってみせる。もしも逃げ切れなかったら私の負け。でも」
 楓は言葉を切り、ゆっくりと振り向き始めた。
「もしも、私が勝ったら――」
 笑みの形を刻んだ口元が、その影に見える。
「あの人は、永遠に私のもの……」
 深い色を宿した瞳が、静かに初音を射抜いた。
 どこか常軌を逸した、陶然とした表情。
 初音は後ずさり、ぬかるみ始めた地面に力無くへたり込む。
 その様を、いかにもおかしそうに楓は眺め、
「それじゃあ、私は逃げるね」
 ふっ、と。
 体重がないかのように軽やかに跳躍し、易々と智子と初音の上を通過し、水音さえ跳ねさせずに、走り出した。
 初音たちは、呆然とそれを見送る。
114賭けの宣告:03/04/19 17:13 ID:IDLYslgX
 やや進んで、
「うー、みんなほっとくなんてひどいよお〜。いったいどうしちゃったのかな?」
 と、ネットに包まれた蠢く物体が宙に浮かんでいるのを見つけた楓は、なんの気まぐれか吊している木の枝に飛び乗り、
「下りたい?」
 と、尋ねた。
「誰か知らないけど、下ろしてくれると嬉しいな」
 なにも知らないみさきは、不意に現れた助けの手に驚きもせず、お願いする。
「――いいよ」
 楓は短く答え、爪を振るった。
「ん?」
 小さくなっていくみさきを見て、楓は目を笑みの形に細め――はっ、と目の色を変える。
 枝を蹴って飛び降り、地面に激突する寸前で千切れた縄の端を、ギリギリで掴んで止めた。
 そして、そっと地面に下ろす。
「ひゃんっ」
 濡れた地面にくっついたみさきが、変な悲鳴を上げた。
「すみません。私は逃げ手だから、後はお仲間に助けてもらってください」
「あぁ、それじゃ仕方ないね。私が言うのも変な話だけど、無事を祈っているよ」
「ありがとうございます。では」
「じゃあねっ」
 ぺこりとみさきに一礼すると、楓は再び走り出した。
 遠くなってゆくパシャパシャという足音に向け、窮屈な恰好のまま、みさきが手を振る。
 そこに、ようやく智子たちが駆けつけた。
「川名さんっ、平気か!?」
「お尻が冷たいよ〜」
 いつもと変わらぬ様子のみさきに、ほっと胸を撫で下ろす。
115賭けの宣告:03/04/19 17:14 ID:IDLYslgX
「ううー、濡れちゃったよ。どこか雨宿りできるとこに行きたいな」
「そやね、雨も強くなってきそうやし……屋台でも見つけるか、あの森の詰め所にでも戻るかせんと」
「賛成。どっちにしろ一息つきたいわ……」
 どっと疲れた様子の坂下も、力無く賛同する。
「……」
 無言でうつむいたままの初音に、みさきが目聡く――というのも変な話だが――気づく。
「どうしたの、初音ちゃん?」
「ううっ、楓お姉ちゃんが……」
 涙ぐむ初音を、なにも分かってないみさきが、よしよしと宥める。
 胸にすがりついてしゃくり上げる初音の背中を、優しく撫でる。
「大丈夫大丈夫、何とかなるよ」
「川名さんがゆーても説得力あらへんな……」
「ホントね」
 うんうんと頷きあう智子と坂下。目の当たりにしたものでなくては、あの恐怖は分かるまい。
「ひどいよー。せっかく慰めてるのに」
「せやかて、事情聞いてないやろ。まぁ、道すがら説明するわ。初音ちゃんも辛いとこ悪いけど、な?」
 智子に促され、こくりと頷く初音。目をゴシゴシと擦ると、やや痛ましいが、それでも笑顔を作って見せた。
「ごめんなさい。もう、平気です」
「うんうん。えらいえらい」
「せやから川名さんが……ええわ、いそご」
 四人はやや急ぎ足で、小屋への戻り道を歩き出した。
 ふと、坂下が思いだしたように呟いた。
「ところであの人、負けたらどうするのかしら」
 一瞬訪れる沈黙。
「――賭けが成立しとらへんやないの」
 智子が座った目で、楓の消えた虚空を睨みつけた。


【楓 逃走成功。勝手に賭けを挑むが、条件不十分。覚醒モードから通常モードに立ち返りつつあるが、やる気は失われていない】
【初音、智子、坂下、みさき とにかく雨宿りできる場所へ。最悪、森の詰め所にまで戻る。森の詰め所は055レモン銃参照】
【時間 3日目早朝】
116名無しさんだよもん:03/04/19 17:23 ID:IDLYslgX
しまった。文が足りてねぇ。
楓は木の枝とみさきを包んでいるネットを繋いでいる縄を切断。
みさきはネットに包まれたまま落下。掴まれたのは、その繋いでいる縄のみ。
で、115に入る前に、智子たちによってネットから解放してもらったと。
書かなくても分かってくれる範囲だとは思うけど、文が足りないのは事実なんで。失礼。
117名無しさんだよもん:03/04/20 03:32 ID:7aWzlMp2
(・∀・)イイ!
118名無しさんだよもん:03/04/20 21:17 ID:bwGAFnk1
hoshu
119Fox and Fox:03/04/20 22:19 ID:G94NO2Lo
 久瀬は考える。
 かなりの時間教会の回りの小屋を探索したが、望みの一行……瑠璃子らの姿は見あたらない。
 まぁその間にも優勝候補の一人である柏木耕一を確保できたから、大金星と言えば大金星なのだが。
 しかし、いくらスコアを上げようとも目標が達せられなければ意味はない。
 意味は、ないのだ。
 
 耕一は置いてきた。
 彼は自分が捕まったのがまだ信じられないでいるのだろう。しばしただ呆然としていた。
 狙いの人間ではない以上、必要以上に関わりを持つ理由も意味もない。
 郁未一行と別れた後、久瀬らは再び探索を開始した。
 
「……久瀬、これからどうする」
「そうだな……」
 一行はひとまず教会から少し離れ、おおよその小屋を見渡せる位置まで下がった。
 もし視界内の小屋に動きがあれば、ここからならわかるはずだ。……例えば、出発する、とか。食料を確保する、とかのだ。
「……まだ反対側の小屋は探していない。そっちに行くか?」
 だが、霧の中に浮かぶ小屋たちに何ら一切動きはない。人がいる気配もまるでしない。
「悪くはない。しかし……」
 久瀬は徐々に自信を失っていた。
 元来、ここを調べ始めたのも月島の僅かな記憶を頼りにした、不安定な推理の結果だ。理が通っていないこともないが、それでもまだ不安要素の方が大きい。
「ああ……瑠璃子……なぜだ。僕らは……僕らは結ばれているはずではないのかい……?」
 一度は落ち着いた拓也だが、あまりに焦らされた所為かまた少しずつ混乱状態へと足を踏み入れてきていた。
 第一、久瀬の疲労も徐々に蓄積していた。本人も自覚するかしないか、微妙なところの、しかし一番厄介な種類の疲労が、だ。
「……一回、方針を練り直した方が……」
 
 ……その時だ。
 
120名無しさんだよもん:03/04/20 22:20 ID:G94NO2Lo
「シッ!」
 オボロが低い唸りを上げ、2人の口を塞いだ。
「な……? どうし」
(静かにしろ……誰かいる! 近くに、だ!)
 瞬間オボロは狩猟モードへと変貌を遂げ、己の気配を殺しつつ敵を探るという戦場では最もありふれた、しかし難しい技を平然と発動させる。
(だ、誰か……? 鬼か? 逃げ手か?)
(瑠璃子か!?)
(わからん……! だが、『誰か』がいることは確かだ! ……どうする、久瀬?)
(決まっている。不確実な探索より確実な接触だ。逃げ手ならばこれほどついていることは無い……。鬼ならそれはそれで情報を得れるかもしれない。とにかく、調べるぞ)
(ああ……瑠璃子だろうか……瑠璃子なのかい……?)
(わかった……。ならばまず、俺が先行する。2人は少し後からついてきてくれ。発見されたら面倒だ。お前たちでは気配も消せないしな)
(了解。頼りにしてるぞ、オボロ)
(任せろ)

 そしてオボロが『気配』の方向に慎重に歩を進め始めた。
 その数歩後ろを、久瀬と拓也の2人もゆっくりと追っていく。
 せめて、邪魔だけにはならないように。だが、捕獲するとなればすぐ動けるように。
 素人は素人なりに、玄人の足を引っ張らないように。
 久瀬が考えていたのは、そんなことだった。
 
 そして……
 
(……久瀬)
 オボロの唇が動いた。声には出さないが、言っていることはだいたいわかる。
 親指をグッと立て、

(ビンゴだ)
121Fox and Fox:03/04/20 22:21 ID:G94NO2Lo
 オボロの視界に入ったのは、一人の金髪の女……。
 リサ・ヴィクセン、その人だった。
 その肩にたすきは……掛かっていない。鬼ではない。すなわち、逃げ手だ。
 彼らに幸いしたのは、森はオボロの庭、だということだ。
 世界を股に掛けるエージェントだろうとも、オボロは森の中で人生の長きを生きてきた。
 森における狩りにおいては、オボロの方が一日の長がある。
 ……オボロが彼女先に発見出来たのも、そのためだ。

(……了解。問題ない。……作戦を開始する)
 声には出さないものの、久瀬は2人に命を送る。

(応!)
(わかったよ……)

 雌狐VS雄狐。
 果たして、勝負の行方は。
 
【久瀬一行 リサを発見】
【時間:昼ごろ 場所:教会から少し離れた場所 天候:降雨】
122名無しさんだよもん:03/04/20 22:46 ID:dzRX7RnH
すげee
http://shesgota.com/miotakaba/
過激eroアニメの洪水をハケーン

123名無しさんだよもん:03/04/20 23:20 ID:TJjBZd0w
「……耕一さん?」
「…………………」
「こーいちさん?」
「…………………」
「こーいちさーん、大丈夫ですかー?」
 2人残された小屋の中、瑞穂は必死に耕一への呼びかけを続けていた。
「…………………」
 だが突然の事態に未だ己を失ったままの耕一は、何ら反応を示さない。
「……困りました」
 眉をひそめ、心底困った様子の瑞穂。
「何か、何か強力なショックを与えるようなものは……」
 キョロキョロと小屋の中を見回し、適当な物が無いか見繕う。そして、一つの『物』が視界の端にとまった。
「あ、あれはよさそうですね」

 閑話休題。

「よい……しょっと」
 瑞穂は、消火器を装備した。
「……………………」
 耕一は、呆然としている。
「ええーいっ! 香奈子ちゃん直伝っ!」
 瑞穂の攻撃。
 
 ドゴッ!
 クリティカルヒット!
 耕一の後頭部に256のダメージッ!
 
「あおえじうtえjがb0r9うぎあー0ぶjぽなえ89hj!?!?!?!」
 耕一は悶絶しているっ!
「み……瑞穂ちゃん? と、と、と……突然何をぉ!?」
「目が覚めましたか?」
「目?」
124名無しさんだよもん:03/04/20 23:21 ID:wwGbLTBo
sage
125遅れた胎動:03/04/20 23:21 ID:TJjBZd0w
「…………そうか。俺は……捕まったのか」
「はい……残念です」
 やっと我に返った耕一は、自分にかけられたたすきを確かめて一つ息を吐いた。
「……情けないなぁ、楓ちゃんに会わせる顔が無いよ……」
 頭を抱え、苦悩する。
「あ、あの……」
 しかしずっとそんなこともしてられない。瑞穂は遠慮がちにも、耕一に声をかけた。
「……これから私たち、どうしましょう」
「どうしましょうと言ってもね……」
 ゆっくりと顔を上げる。
 
「やっぱ、こうするっきゃないよね」
 耕一はパッと瑞穂を抱き上げると、ドアを開いた。
「え?」
 笑顔のまま、瑞穂に告げる。
「鬼になっちゃったからには仕方ない。鬼として頑張って他の逃げ手を捕まえよう」
「つ、捕まえると言いましても……とりあえず、どうします?」
「んん……そうだね……」
 さっきとはうって変わり、楽しそうに頭を抱える。
「俺たちを捕まえた彼ら。名前、何て言ったっけ?」
「確か……久瀬さんとか」
「久瀬君か……よしっ!」
 そしてそのまま外へと駆け出す。駆け出すとは言え、その速度は常人を遙かに凌駕しているのだが。
「どうするんですか?」
「彼らはどうやらノリノリみたいだからね。幸先いいスタートを切るために、彼らの『ノリ』をちょっと拝借させてもらうのさ」
「?」

【耕一&瑞穂 鬼としての活動スタート】
【久瀬の『ノリ』をもらう】
126女性の味方:03/04/20 23:29 ID:2jGmVQAX
 耕一は呆然していた――
(鬼になったということは、合法的に女の子にタッチャブル…… イイ!)
 ――ように見えて実は全然気にしちゃあいなかった。
 リーフのエロ親父たる痕の耕一。
 お気楽な男である。
「こ、う、い、ち、さ、ん」
 ビクゥ!
 耕一のアホ心理をかなり読めるようになった瑞穂は、声に凄みをこめながら耕一に呼びかける。
 最強のエルクゥとはいえ、耕一自身はその手の凄みにとてつもなく弱かった。
 そりゃもうリーフ主人公でもハクオロに並ぶくらいに。
(俺ってヨワヨワ?)
 ヨワヨワである。
 悔しけりゃあ、千鶴さんに逆らってみろ。

「で、どうします耕一さん?」
 耕一をやり込めた雌豹は、その迫力を和らげ問いを発する。
「う、うん、やはり鬼になったからにはやることは一つでしょう」
 ちょっと後遺症の残っている耕一。
「鬼の優勝を目指すのですね?」
「違う」
「なぜです? 耕一さんなら今からでも……」
「いや、逃げるならまだいいんだけど、女の子捕まえるのに鬼の力を使うのってかっこ悪くない?」
「まあ、多少……」
「そこでだ!」
 一瞬間をおき、ポーズを付け。
「ズバリ女性の味方ってのはどうでしょう?」

【耕一 女性の味方宣言】
【瑞穂 戸惑う】
127126:03/04/20 23:30 ID:2jGmVQAX
かぶったー!
すまぬアナザーへお願い。
128名無しさんだよもん:03/04/21 00:40 ID:0xkbWzeL
129信念:03/04/21 00:52 ID:x/LRIF9J
日が沈み、夜が訪れる。
「……よし、行くか」
自分の能力をフルに使えるようになるまで休息を取ることにしていた蝉丸は、自分の血に潜むモノが
活発に蠢くのを感じ、立ち上がる。
闇は己の味方、今から太陽が出るまでは自分の時間だ。
(負けんぞ、悟ちん)
と、蝉丸の超感覚が何物かの接近を察知した。
気配を断って立ち止まる。およそ一分ほど経ったであろうとき、闇から一人の男が姿を現した。
「ふん、今度は鬼か。どうやら今日のワシはとことんついてないらしい」
身の丈ほどもある大剣と鎧を付けた白髭の男。
この時、二人はお互いに相手がただ者ではないことを察知した。
蝉丸は仙命樹による超感覚で、ニウェは己の信ずる闘争の本能で。
「形は若いが出来るようだな、小僧。お前が獲物であれば、或いは面白い狩りができたものを」
「狩りだと?」
「そう。ワシにとって強者を狩るのは何物にも代え難い悦びなのだ。
 この様な些末な遊び場にいるのも、相手によっては極上の狩り場となるからだ」
蝉丸はほんの少し眉を細める。あの凄惨な戦争を経験した蝉丸にとって、闘争本能に忠実な人間と
いうのはあまり歓迎できる人種ではない。
束の間、緊迫した空気が流れる。
が、それは新たな人間の登場で霧散することになる。
「人を、探している」
そんな言葉を掛けてきたのは、胸に幾つもの傷を持つ学ラン姿の男だった。
130信念:03/04/21 00:53 ID:x/LRIF9J
「人?」
「ああ、俺の妹だ」
そう前置きし、雄蔵は郁美の特徴を話す。
しかし蝉丸に思い当たる節はない。横に振られた首に雄蔵は肩を落とす。
一方、ニウェはそんな雄蔵を見て嘲笑を浮かべる。
獲物を狩るためだけに思考が向いている彼は、雄蔵の何かを守るというスタンスが理解できないのだ。
「何が可笑しい」
鋭い眼差しでニウェを睨む雄蔵。だがニウェは答えない。瞳が、口の代わりに意志を伝える。

──弱いものは脱落するのみ。

雄蔵も退かない。力のこもった視線をニウェに返す。

──そうだ、だから弱い物は守らなければならない。

二つの意志が交錯する。
「俺は貴様のような輩から郁美を守るために此処にいる」
「ワシは狩りを楽しむために此処にいる。貴様のような甘い小僧になど用はない」
言葉にすることで、さらなる力が意志に乗る。再び流れる緊迫した空気。
が、それはまたもや新たな人間の登場で霧散する。
「アンタ、見かけによらずタフねえ……」
「そうでもないよ、流石にちょっと疲れた」
現れたのは三人にくらべてあきらかに小さい男女のペアだった。
131信念:03/04/21 00:55 ID:x/LRIF9J
「あれ……もしかしてお邪魔だったかな?」
飄々とした様子でどこか抜けたことを言う少年。
興がそがれたのか、ニウェは「フン」とだけ残して闇に消えていった。
雄蔵もそれに続いてこの場から消える。彼にとって重要なのはあくまで妹を見つけること。
意地の張り合いで時間を潰すのは本意ではない。
あとに残ったのは蝉丸、少年、そして
「何かあったの? 随分切羽詰まってたみたいだけど」
初対面の人間に恐れもせずタメ口をきくマナ。
「いや……大したことではない」
そう言いつつも、蝉丸はとりあえず何があったか語る。マナの眼が聞きたいと訴えていたからだ。
「おじさんたち、でかい図体して大人げないわねえ。鬼ごっこなんて楽しめればそれでいいじゃない」
「そうだね、あんまり出番無いけど」
「うるさいわね! 見てなさい、明日こそ誰かとっ捕まえてやるんだから!」
少年に膝蹴りを浴びせつつ気合いを入れるマナ、それを苦笑して受ける少年。
「じゃあね」と一言で別れを済ませ、じゃれ合いのような雰囲気を残しつつ、彼らもその場を去っていった。
ほんの十分ほどのやりとり。だが蝉丸は此処にも様々な思惑があることを知った。
狩る者、守る者、楽しむ者。
だが、譲るわけにはいかない。彼は存外負けず嫌いなのだ。
(負けんぞ、悟ちん、そして──)
あの連中にも。
決意も新たに、蝉丸は夜闇の中を歩き出した。



【蝉丸 撃墜王目指して始動】
【ニウェ 獲物を探す、休むことは頭にない】
【雄蔵 郁美捜索続行】
【少年、マナ 休める場所を探す】
【時間 二日目夜】
132Round-One:03/04/21 01:10 ID:9xWTXTnX
 隠行は完璧だった。
 実際、今だって彼女は、草むらの陰から窺う雄狐の存在には気付いていない。
 注意は一瞬たりとも向けられていない。
 勘。
 だからそれは、言うなればエージェントの勘だ。
 雌狐は危機と好機が同居する場所に身を置き続けてきた。まだ子狐であったときからその生の半分以上をだ。潜った死線など数えたくないほどにある。
 そうして蓄積された経験が、希にある種の予感となって告げるのだ。
 生と死、勝利と敗北を分けるボーダーラインの存在を。
 だから彼女は駆け出した。理屈ではない、理屈よりも確かなモノを理由に。
 鬼達が行動を開始する、その直前だった。
 鬼達は初動のタイミングを崩された。

133Round-One:03/04/21 01:10 ID:9xWTXTnX




(なぜだ?)
 オボロは自問していた。
 ぎりぎりまで近づき、不意をついて彼が先陣を切る予定だった。だが作戦開
始まで後一歩か二歩という距離で、獲物が突如走り出したのだ。
 予想外だが、気配を悟られた様子はない。ということは、疑惑を確信に変えるための揺さぶりか。確証あってというわけではないだろう。
 ここで誘いに乗らなければ、捕獲率はグンと上がる。彼はそう判断した。
 優れた戦士である彼のみが、その判断を可能としていた。
(ばれたか!?)
(くそ、追いかけないと!!)
 だから後ろの、疲労し判断力の低下した二人には、リサが鬼に気付いて逃げ
出したとしか思えなかった。焦ってオボロより先に飛び出す事だけはしなかっ
たが、動揺は紛れもなくに大きな気配の乱れを作ってしまった。
 巡航速度に達していたリサが一瞬だけ振り向き、覗いていたオボロの視線と
交錯する。
 今度こそ確実に感づかれたか!!
 急激にトップギアへと引き上げられた速度に、オボロもまたそれを認識。
 一気に茂みから飛び出すと追走体勢に入った。

 第一ラウンドは、雌狐の第六感が雄狐の技巧に優ったようだった。

 
【オボロ達とリサ チェイス開始】
【スタートダッシュはリサが大きくリード】
【時間:昼ごろ 場所:教会から少し離れた場所 天候:降雨】
134勝利のためには手段を選べ:03/04/21 01:47 ID:3jPx8LE7
「ちくしょう……テメーとは絶対にいつかケリつけてやるからな……」
「なによ……それはこっちのセリフよ……このバカヒロ、アホヒロ、エロヒロぉ」
 浩之vs志保。第65535回罵り合い王者決定戦。時間切れ引き分け。
 目覚めてから小一時間、二人の舌は留まる所を知らなかった。日頃から口喧嘩が絶えないくせに、よくもまぁ、これほど罵詈雑言のネタが次から次へと出てくるものだ。
 まあ、むしろ日頃の成果の賜物なのかもしれないが。
 二人を見下ろす祭壇の神像も、心なしか呆れているように見える。

「…ゼイゼイ」
「…ハァハァ」
 静けさを取り戻した教会に、しばし二人の荒い息遣いが響く。
 やがてそれも落ち着いて、まず口を開いたのは浩之だった。
「さーて、誰かさんのおかげで一気にトップに踊りでる計画もおじゃんになっちまったし、次の手を打たないとな」
「何よ、まだやる気? だいたい……」
 再びヒートアップしそうな志保を遮って問い掛ける。
「んで、お前はこれからどうすんだ?」
「どうもこうもないでしょ。鬼になったんだから。朝になったら誰か捕まえに行くわよ」
「ってことは、優勝は諦めるんだな」
「どうゆう意味よ!」
 またまたヒートアップしかける志保。どうも、まだ完全に気持ちが切り替わってないらしい。
「いいから落ち着け。よく考えてみろ、ゲームが始まって丸二日だぞ。もうかなりの人数が鬼になってると見て間違いねーだろ」
「そんな中で、普通に鬼をやって勝てると思うか?」
「それは……」
135アホ復活:03/04/21 01:47 ID:tdE1QfnU
「成る程、人の鬼ごっこて面白いね」
 耕一は大木の上で、隣の瑞穂に向かって言った。
 その目には人の限界に近い速度で失踪するリサ、そしてそれを超えるスピードで追っているオボロ、そしてそれに遅れてついていく月島と久瀬が映っている。
「お、あんなところに罠が、凄いなあの人。お、避けた。何? 二段重ねか?」
「凄いですね……女の方なのに……」
 リサの技術に感嘆の声を上げる二人。
「オボロさん、穴に捕まっちゃいましたね」
「いや、オボロ君の役目はきっとアレでいいんだ。木の群集地帯にあの人を追い込んだ。
 袋のネズミだ。見事な作戦だな。
 きっと仕上げは後ろから来た月島君と久瀬君が……なにぃぃ!」
 耕一は驚愕した。
 リサは跳んだ――いや飛んだ、背後の木を足場にして。
 久瀬の頭上を高く、美麗に。
 伸身……二回。
 タンッ……
 見事な着地。
 久瀬は慌てて振り向くがすでにリサは走り出している。
 どんどん離れていく距離。
「すげえ……」
「凄いです……」 
 感嘆の声しか出ない二人。
 そしてリサは見事逃げ切った。
136勝利のためには手段を選べ:03/04/21 01:47 ID:3jPx8LE7
「まず無理だろうな。これから必死こいて走り回っても、一人か二人捕まえられればラッキーってとこじゃねえか」
「じゃあどうするってのよ。あんただって条件は同じでしょ」
 志保の問いかけに、浩之は余裕の笑みで答える。
「頭を使うんだよ、あ・た・まを。自分が優勝できなきゃ、他人を優勝させればいいんだよ」
「何よそれ。誰かとチームを組むっての? それこそバッカみたい」
「これまでにポイント稼いでるチームにノコノコ行って、『仲間にしてくださーい』なんて頼むわけ? そんなの相手にされるわけないじゃない」
 志保の口調は心底呆れた風になる。しかし浩之の余裕は崩れない。
「バーカ。誰が鬼の仲間になるって言ったよ。いいか? これは鬼ごっこだ。つまり、最後まで逃げ切ったヤツが優勝なんだよ」
「それで?」
「まだわかんねぇのか。要するにだ、誰か逃げ手と手を組んで、そいつの逃走を徹底的にサポートしてやろうってんだよ」
「鬼に触れたら鬼になる。だから、逃げ手はどうしても不利になるわけだ。でも、一旦鬼になっちまえば、体を張ってでも他の鬼を止められる」
「そうやってフォローしてやる代わりに、優勝賞金を山分けしてもらうと。こういう寸法だ」
「なるほどねぇ。ヒロにしちゃ冴えてんじゃない」
「俺にしちゃってのは余計だ。まあいい、この計画実行するにも多少の人手は必要だからな。お前も来いよ」
「おっけー。ところで、組む相手に心当たりあんの?」
「いや…明日会ったヤツに話を持ちかけてみるさ。できればある程度気心の知れた相手がいいんだけど、琴音ちゃんたちは多分もうムリだろ。話を聞いてもらえるかもわからねぇし」
「あかりか雅史が残ってれば話が早いんだけどな。まあ、その辺は明日だ、明日。今日はここで休もうぜ」
 浩之はそう言って近くの長椅子にゴロンと転がる。
「ヒロと二人っきりぃ? 志保ちゃんの寝顔がキュートだからって襲うんじゃないわよ」
 そう言いながらも、志保が寝床に選んだのは浩之の隣の椅子だった。

【2日目夜半 教会】
【浩之:せこい戦略立案 志保:それに乗る】
137アホ復活:03/04/21 01:50 ID:tdE1QfnU
「凄かったですね、耕一さん……あれ? 耕一さん? 耕一さん?」
 隣からいつの間にか姿を消した耕一に戸惑う瑞穂。
「どうやって降りればいいんですかあ……」


 その頃リサは、猛速で追いかけてきた男と対面していた。
 まあ言わずと知れた柏木耕一であるが。
 その耕一からあの柏木千鶴以上の脅威を感じるリサ。
(Shit! 逃げ切れない!)
 米国の切り札をもってしてそう感じる程、目の前の男は飛びぬけていた。
 まったくの自然体であるのに、そこに隙を見出せない。
 生半可な罠や作戦では、到底太刀打ちできそうもない。
(それでも諦める訳にはいかない!)
 相手の呼吸を読む。
 体のバネをためる。
 そして作戦を練る。
(Let's……Go!!)
「あの――」
 タイミングを外されるリサ。
 相手の気配に敵意が全く感じられなかったが故だ。
 敵はあまりに恐ろしいのに、あまりに朴訥に過ぎた。
(Why!? 獲物を前にしてこんな気配でいられるの?)
 そんなリサの内心には構わず耕一は続けた。
「サイン頂けませんか?」
138アホ復活:03/04/21 01:51 ID:tdE1QfnU
「リサさんを捕まえたのですか?」
 瑞穂は帰ってきた耕一がやたら上機嫌な為、獲物を捕まえたに違いないと思った。
「見て見て、瑞穂ちゃん。サインもらっちゃった」
「……ということは捕まえたのですね?」
「なにを言うんだ? 女神を捕まえられるわけ無いじゃないか」
 そんなことは心外だといわんばかりの耕一。
「………」
「イテッ、いてッ、痛いよ瑞穂ちゃん」
「ということは、サインを貰える位近づいて、わざと逃がしたということですか?」
「えっと、だって、それは…」
「そ う な ん で す ね !」
「……ハイ」
 シュンと小さくなる耕一。
 そんな耕一を見た瑞穂は気付かれないよう微かに笑みを浮かべた。
「ふぅ、しょうがないですね。女はいつも苦労するというわけですか」
「まことに申し訳ありません、つい」 
「……次はちゃんとやるんですよ」
「ハイ」
 どうやらいつもの調子が戻ってきたようだ。

【久瀬&月島&オボロ リサをのがす】
【耕一 同上、しかしリサのサインをもらう】
【瑞穂 耕一をしかる】
【昼頃】
139アホ復活:03/04/21 01:52 ID:tdE1QfnU
割り込みすいません。
140名無しさんだよもん:03/04/21 02:16 ID:tdE1QfnU
すいません、みずぴーの台詞の「リサ」を「あの人」に訂正お願いします。
まだ知らないはずだ
141狩猟者の借り:03/04/21 04:14 ID:G7AnUvxQ
 重いまぶたを無理やり押し開けると、木造の天井が見えた。
「ああ、目が覚めた?」
 その声に、柳川痛む首を横に曲げる。ストレートの長い髪の女性がこちらを見ていた。
ややきつめの視線が印象的だ。襷をつけていないという事は逃げ手なのだろう。
 柳川の顔に浮かんだ疑問を読み取ったのだろうか、女性はわりと冷めた声で続ける。
「雨の中、木陰で倒れてたあなたをここまで引っ張ってきたのよ」
 言われて柳川は身を起こした。まだ身体は重いが……まあ動ける事は動ける。
窓から外を見る。まだ日は落ちていないようだ。
それほど長く倒れていたわけでもないらしい。
「お前が助けてくれたのか?」
「お前って……失礼ね。名倉友里よ」
「ああ、すまん。しかし何故助けてくれたんだ? 逃げ手同士ライバルだろう」
「ライバル? 行き倒れなんてやってるあなたごときが?」
 からかってくる友里。ムッと柳川は顔をしかめる。
「まあ、同病相哀れむってやつかな。私も昨晩倒れちゃったし」
「……人のことをいえないじゃないか」
「おあいにく様、私は自力で立て直したわよ。朝方、雨が降ってきたときには泣きそうだったけど」
 どうも軽くみられてるようだ。いや、ほとんど浮浪者のような格好で倒れていれば無理のない事であるが。
 いかんな、と柳川は思った。己の中の狩猟者が、こんな出来事は許せないといっている。
「それに、私が倒れたのは強敵とやりあった結果だしね」
「俺だってそうだ」
「へぇ? あなたそんなに強いんだ?」
「まあ、これぐらいだな」
 そういって、その場で跳躍する。
「……!?」
 慌てて背後を振り返る友里に、すでにその背後に着地した柳川は子供っぽい満足感を覚えた。
142狩猟者の借り:03/04/21 04:15 ID:G7AnUvxQ
「目で追えただけでもたいしたものじゃないか」
 実は筋肉痛が痛いRRなわけだが、そこら辺を根性でごまかしてニヤリと笑った。
「ちょ、ちょっと待ってよ! えーと……」
「柳川だ」
「柳川さん! こんな事ができるあなたを、気絶するまで追い込むなんてどんな奴なのよ!?」
「……わりと普通の奴だった」
「へ?」
「いや、別に力を使わないでも逃げられると思ったんだ。俺は警官で向こうは学者のような奴だったし」
「はぁ。」
「だが、奴は頑張った。限界以上に頑張った。おそらく奴も度重なる苦境を乗りこえてきた男なのだろう。俺にはそれが感じられた」
「ほぉ」
「そして、俺は思った。これに答えてやらねば狩猟者として名がすたると。
力を使えば俺の負けだと」
「で?」
「奴との戦いは長きにわたり、互いに死力を尽くしたが、最後には俺が勝利した。どうだ、お前と一緒だろ?」
「つまり、予想以上に相手が粘ったので、ついムキになっちゃったと」
「……そうともいう」
「アホね」
「アホか」
「二重にね」
「二重とは?」
 柳川の問いに、友里はため息をついた。
「今ここでこんな能力を見せる事ないじゃない。体力が戻るまでは、弱い振りして相手に頼るのが利口な方法でしょ?」
 なるほど、利口な手だ。
(フン、そんなお利口な狩猟者などいるものか)
 そんな手を使う奴などもはや狩猟者ではない。
143狩猟者の借り:03/04/21 04:17 ID:G7AnUvxQ
「さて、じゃあ、水と食料は適当においとくから、せいぜい療養してね」
 友里はそういうと、戸口に向かう。
「俺に頼らないのか? お前もまだ体力は戻ってないんだろう?」
「……遠慮しとくわ」
「自分が万全でない時は、強い奴に頼るのが利口な方法だといってなかったか?」
「じゃあ、私も利口じゃないんでしょ。そうね、最初はあなたとチームを組むつもりだった。本音を言うとそのつもりで助けたわけだしね。
だけど柳川さんは強すぎるし、これじゃ本当に頼ってしまう事になる。
……それじゃ折角力を身につけた甲斐がないわよ」
「ほう」
「そいうわけで、失礼するわ」
 そうして、パタンとドアが閉められた。

 一人にされて、柳川は軽く身体を伸ばす。まだ身体は重かったが、動けないというほどではない。
 ……どうもああいう強気な視線を前にしていると、柳川の中の狩猟者が騒ぎ出す。
無機質なせリオを前にしては感じなかった事だ。
 ようするに、狩猟者にとって好みなのだろう。ああいう女は屈服させたくなる。
いや、まさか実際にそんな事をするわけはないが……
 いや、面白い考えが一つある。実に子供じみて悪趣味な考えだ。
「ククク、確かにムキになってるかもな」
 名倉友里を気付かれぬように追跡して、有事の時にその身を守ってやる。
 友里はその時、間違いなく嫌がるだろう。その顔を見物するのが一興というものだ。
 おまけに今回の借りも返せる。一石二鳥の手じゃないか。 
 柳川はもう一度ニヤリと笑うと、疲れた身体に鞭打って、名倉友里の追跡にかかった。


【名倉友里  復帰。少しお疲れ】
【柳川祐也  友里のストーキングを決意。メンタル面が狩猟者モードに少し偏る。少しお疲れ】
【森の中の小屋】
【三日目午後】
144布団の中の約束:03/04/21 15:33 ID:5MMcjQHD
 島の中央へ、中央へと。月代と佳乃が息を切らして駆ける。
 佳乃は月代に良く付いてきていたが、やはり僅かとはいえ仙命樹を宿した月代にはかなわない。
「ちょ、ちょっとたんまだよぉ」
「あ、ごめんごめん。飛ばしすぎた?」
 三歩ほど行き進んでから、慌てて佳乃の元に戻る。
 佳乃はまるで親友の夕霧のように、膝に手を付いて喘いでいた。
 夕霧に比べれば、五倍ほど長くついてこれたが。
「月代ちゃんを対抗リレークラス代表一号さんに任命するよぉ……」
 佳乃は息も絶え絶えの中、任命式だけはきっちり行った。
 月代は苦笑しながら、大きく上下する佳乃の背中をさすろうとして、はた、と気づいて慌てて手を止める。
 こんなにも近くにいるのに、触ることすらできないのが、どうにももどかしい。
 肩に掛けられた襷が、強くまとわりついているようだ。
 そう、月代と佳乃は敵同士なのだ。後僅か、夜が明けた後には。
「……どうしたの?」
 佳乃が黙ってしまった月代を不思議そうに見上げる。
「あ、うん……ちょっと。なんだか……せっかく友達になったのに、このまま別れなくちゃいけないのが、なんだかちょっと……」
「……そうだねぇ」
 自分がちょっと腕を伸ばせば、佳乃は自分と同じ鬼になる。佳乃が自分に触ってくれてもいい。
 そうすれば、少なくともこの鬼ごっこが終わるまでは一緒にいられる。
 優勝はできなくなるけど、きっと1人より2人の方が、ずっと楽しい。
 あるいは、鬼としての役割なんか放棄して、一緒に逃げるのを楽しんでもいい。
 いずれにせよ、このまま別れると言うことに、抵抗がある。
 まさか昨日の精神的疾患が残っているわけでもないだろうが。
 悩んでいた顔を上げると、佳乃が真っ直ぐにこちらを見つめていた。
 佳乃はどう思っているのだろう。月代は喉が張りついたように声を出せないでいる。
 やがて佳乃が、口を開いた。
「あのね……」 
 ぽつり、と2人の間に最初の雨粒が落ちた。
145布団の中の約束:03/04/21 15:33 ID:5MMcjQHD
 雨が降り始めた。
 雨音に叩かれる詰め所の窓ガラスを、御堂は苛立たしげに睨みつける。
 幸いギリギリで建物の中に避難はできたが、これでしばらくは身動きがとれない。
 詰め所に入り込んでくる湿気も苛立ちを増加させる。
 そんな御堂を、むしろ楽しそうに眺めながら、聖は悠然とお茶を飲んでいた。
「強化兵か……なかなか興味深いな。よかったら、このゲームが終わった後に、少々調べさせてもらいたいが」
「けっ。冗談じゃねえぜ。身体を好き勝手にいじくり回されるのなんざ、ごめんだ」
「そういうな。ひょっとしたら君のおかげで医学が飛躍的に進歩し、見知らぬ人から感謝の雨霰を受けるかも知れないぞ。
 志願か強制かは知らないが、せっかくそんな身体になったのだから、もう少し前向きに活用したらどうだ?」
「なんで俺が他人のために、自分の身体を提供しなけりゃならねぇんだ」
 居心地悪そうに机を指で叩く御堂。
 人権がどうの、同じ鬼だろう仲良くやろうだの、あまりに聖がやかましいのでとりもちをとってやったのだが、
こんなことなら張りつけたままにしておけば良かった。と思っても後の祭りだ。
 聖は聞き流す御堂にかまわず、医学の発展がどうのと言い続けている。
 ――二人を逃がしてから、十分も経った頃だろうか。足音が、一つだけ聞こえた。
「うわ、うわ、うわ、うわ」
 と、泡を食ったような声と共に、月代が駆け込んできた。
 最前、スコールのように叩きつけてきた雨のせいで、全身びっしょりと濡れている。
「うひゃー、まいったぁ」
 猫のように首を振りながら、雨粒を振り払う月代。飛んできた水滴を、御堂が慌てて躱す。
「こ、こら、ちかよるんじゃねぇ」
「あ、ごめんごめん。聖先生、バスタオル下さい」
「うむ」
 手渡されたバスタオルで、わしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜる。
 壁にぴったりと張りつきながら、御堂が聞いた。
「おい、あの小娘はどうした?」
 くわん。といい音を立てて、聖の手にしたフライパンが、御堂の顔面を直撃した。
「小娘とはなんだ。人の妹を捕まえて。が、その件に関しては私もいきさつを聞いておきたいな」
「はい、佳乃ちゃんはですね……」
146布団の中の約束:03/04/21 15:35 ID:5MMcjQHD
「――やっぱり、私は一人で行くよ」
「うん……」
 やっぱり。
 出会ったのはつい昨日。
 月代から見れば海に落ちたところを助けられ、風邪をひいたところを看病されと、恩を感じる理由は十二分にある。
 だけど佳乃側にはなにもない。それは寂しいけれど、仕方ない。
 そう思っていた。けれど。
「あのね。あたしも月代ちゃんとは一緒にいたいよ。友達だもんね。
 夜更かししてお話ししたのも、一緒にご飯を食べたのも楽しかったよ。
 でもね、お姉ちゃんが言ってた。自分の足で、外の世界を見てこいって。
 ……あたしはいつもお姉ちゃんに甘えてばっかりで、それで今回もお姉ちゃんが捕まっちゃって。
 だから、月代ちゃんと一緒じゃ、いけないと思うんだ。誰にも頼らずに、1人で頑張ってみたい。
 あ、でもでも、月代ちゃんよりお姉ちゃんの言葉の方が大事って言うんじゃなくって、うーん、なんて言ったらいいのかなぁ……」
 佳乃は一生懸命言葉を探すが、上手く見つからないで悩んでいる。
 ただ、そのつたない言葉とそこに込められた心は、月代にも伝わった。
「えーと、だからねぇ……」
「うん――分かった」
「え?」
「鬼ごっこなんだから。2人とも鬼だったり、逃げ手だったりじゃ、遊べないよねっ」
 佳乃はぱっと顔を輝かせて、
「うんうん、そうだよおっ」
「あたし、ぜーーったい、佳乃ちゃんを捕まえるからっ!」
「そうは問屋が下ろさないよおっ」
 そして、2人は声を合わせて笑い、月代はすっきりとした顔で、
「じゃあ、あたし、一旦聖さんの所に戻るね。それから佳乃ちゃんを追いかけることにするから」
「ふっふっふ。その間にあたしは一目散に木の葉隠れしてしまうのだぁ」
「うん。それじゃ、また後でっ!」
「うんっ、月代ちゃんが追いかけてくるの、楽しみにしてるよぉっ!」
 そして佳乃は駆け出し――月代は来た道を戻り始めた。
147布団の中の約束:03/04/21 15:36 ID:5MMcjQHD
「――って、言うわけです」
「ゲーック! バカじゃねえかお前。問答無用で捕まえちまえっ」
「ば、バカじゃないよっ! そりゃ、ちょっと学校の成績は良くないけど……」
「バカだバカ。お前も小娘も2人揃って脳天気な……」
 ガン、と今度は御堂の脳天をフライパンが痛打する。
「佳乃……立派になって」
 天を仰いで感涙する聖。それが急に険しい顔になって、
「――む、そう言えば。三井寺君はびしょ濡れだが、まさか、佳乃も雨具を持っていかなかったのか?」
「いえ、大丈夫です。あたしの装備、全部渡しちゃったんですよ。荷物になるけど、誰かに会ったとき、便利だろうからって」
「うむ。三井寺君は気が利くな。今度ただで人間ドックに入れてあげよう」
「あ、いや、あたし健康体だからいいです……」
「そう言う人間に限って、チェックを怠り、ぽっくり逝ってしまう場合が多々ある。どうやら念入りな調査が必要なようだな……ふふふ」
「そーいうことでなくって……」
 知り合いに医者がいるから、普段からチェックはされているという意味だったのだが。
 そんなことを話していると、昨夜、布団の中で、佳乃とした会話を思い出す。
「――あ、そうなんだぁ。うちの近くにも海があってね、山もあってね、とってもいいところなんだぁ。今度ご招待するよぉ」
「ねぇねぇ。なんかあたしたち、環境が妙に似通ってない? 適度に田舎だったり、診療所関係者だったり」
「わわっ、運命の出会いだよぉ」
「あははっ」
 そして、鬼ごっこが終わったら、一緒に遊ぶ約束をして。病人が夜更かしするなと聖に怒られて。
 だけど今は、この鬼ごっこという遊びを楽しもう。離れてはいても、同じゲームの中にいるのだから。
「さて、それでは朝食をとったら、佳乃を追跡するとするか」
「はいっ、行きましょうっ!」
「ふふふ……佳乃、お姉ちゃんが今行くからな。そうそう、御堂君のとりもち銃にも期待しているぞ」
「……ばっ、俺は行かねぇぞっ! 雨の中外に出るなんてごめんだからなっ!」
「そう固いことを言うな」
「そういう問題じゃねえっ!」
「あははははっ」
148布団の中の約束:03/04/21 15:37 ID:5MMcjQHD
【佳乃 1人で島の中央方面へ向かう。装備 雨具(傘とカッパ)、食料などを2人分】
【月代 聖 御堂 海岸の詰め所。朝食をとったら佳乃を追う予定。ただし、御堂は不明】
【三日目早朝】
149場外乱闘:03/04/21 22:55 ID:x/LRIF9J
足を一歩前に進める。すると相手も一歩後退する。
じわり、じわりと隙をうかがいながら、ヌワンギはすばるたちと対峙していた。
(この人……隙がないですの)
大影流という武芸の使い手であるすばるをもってして、無事に逃げられる可能性は低いと
思わせるほど、ヌワンギは気迫に満ちていた。
(もうあんな無様な負け方はゴメンだからな)
ヌワンギの脳裏に浮かぶのは自分をボール一つで転ばせた男の姿。
(今度は油断しねぇ。この三匹は俺様の獲物だ!)
皮肉にも、彼が一番嫌いな「敗ける」と言う経験が、彼を僅かながら成長させていた。
(……仕方ありませんの)
呼吸を短く一つ、それですばるは覚悟を決めた。
「(夕霧ちゃん、高子さん、すばるが合図したら後ろに走ってくださいですの)」
「(だ、大丈夫? すばるちゃん)」
「(何とかなりますの!)」
ヌワンギが息を吸い、さらに一歩近付こうと左足を微かにあげた、その瞬間。
「今ですの!」
すばるの叫びと共に反転し、走りだす夕霧と高子。
「ハッ、逃がしゃしねえよ!」
それを見て走りだそうとしたヌワンギを、すばるは自ら体を張って止めた。
「ここは通しませんの!」
「な!? テメエ、離しやがれ!」
「そうはいきませんの! 夕霧ちゃんはダリエリさんと会うっていう目的がありますの! その邪魔はさせませんの!」
「そんなの俺様の知ったことか! クソ、このアマぁ!」
大影流は柔術と銘打ってはいるが、地竜走破のような遠当てから寝技まであるため、実質総合格闘技に近い。
そのため当然立ち技も修めている。柔道のように組み合いながら、すばるはヌワンギをくい止めていた。
すばるが自ら鬼になったのを肩越しに振り返って見た夕霧と高子は、このまま逃げていいものか一瞬思案する。
だがすばるの気持ちを無には出来ないと思い直した。心の中で感謝し、再び走りだす。
言葉こそ無かったが、三人はお互いのために死力を尽くすことを決めていた。
150場外乱闘:03/04/21 22:56 ID:x/LRIF9J
一方、こちらはトウカの人形を探すため商店街にやってきた浩平一行。
「あ、あそこに誰か居るよ!」
最初にそれを見つけたのはスフィーだった。
彼女が指さす方に目を向けた一行が見たものは、鬼の襷を付けた男と彼と組み合っている少女、
そしてそれに背を向けて走っている二人の少女だった。
「二人、逃げてるみたいだね」
「よし、あいつらを追うぞ! トウカ、いいか?」
浩平の言葉にトウカは僅か、思案する。
(あの人形は某が何よりも大切にしてきたもの……いや、しかし……)
これは好機だ。もしあの二人を浩平が捕まえれば、浩平のポイントは9ポイント。大台に
あと一歩となり、鬼としての優勝は限りなく近くなる。
戦場で個人の感情に流されて好機を逃すのは愚の骨頂。そのことを知っているトウカは
人形への想いを一時心の奥に押しやり、浩平に向かって頷いた。
「よし、いくぞトウカ!」
「御意!」
その返事に浩平は笑みを浮かべ、二人は彼女たちめがけて走りだした。
151場外乱闘:03/04/21 22:57 ID:x/LRIF9J
誰かが獲物に向かっている。
それを認めたヌワンギはすばるの拘束を解こうと、より一層力を込める。
「離せって言ってんだよ、コイツ!」
「キャアッ!」
いかにすばるとはいえ、その体は小柄な女子高生のものでしかない。
ヌワンギに力任せに暴れられ、すばるはついにしりもちをついてしまった。
が、それがヌワンギの運の尽きだった。

パチャン

その小さな音と共にすばるのポケットから小さな人形がこぼれ落ちる。
それは、首と胴体が無惨にも離れたハクオロの人形。

そしてそれを見逃すほど、トウカの人形への情熱は甘いものではなかった。

突然立ち止まるトウカ、それを見て自分も足を止める浩平。
獲物を追撃しようと走りだしたヌワンギが、突然止まったトウカにぶつかり、声を荒げる。
「ってえな! 邪魔すん……」
彼は最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。
トウカの、いわば障気とも言うべきものにあてられてしまったから。
152場外乱闘:03/04/21 22:58 ID:x/LRIF9J

「…………お主か?」

「お主が…………おヌしガ…………」

「────クケェェェーーーーーーーーーー!!!!」

壊れた人形を見て暴走スイッチが入ってしまったトウカ。逝っちゃってる眼でヌワンギに振り向く。
それはとても怖かった。さすがかつて『街道の禍日神(ヌグィソムカミ)』として噂話になっただけのことはある。
今の彼女の姿は、まさにその名に恥じないものであった。いや、本来なら恥じるべき名なのだが
自分がそのような噂の元になっていることなどトウカは知らない。幸せなことに。
そんなトウカの視線に真っ正面から射抜かれたヌワンギはたまったもんじゃない。
彼に出来ることと言えば、もう一つしか残されていない。
「ヒ、ヒィィーーー!!」
それ即ち逃げること。豚のような悲鳴を上げて。
「クケェェェーーーーーーーーーー!!!!」
そしてまるで本能が命ずるままのような動きでトウカはそれを追う。
「あ、おいトウカ!」
それを見て困ったのは浩平だ。トウカは戦力としてもムードメーカーとしてもなくてはならない、
チームの要である。暴走したまま消えられてしまっては、この先彼女もチームもどうなるか分からない。
「ああもう、世話の焼ける! 追うぞ!」
思わず本音がこぼれた浩平についていく瑞佳、スフィー、ゆかり。
パシャパシャと足元の水を跳ねさせ、彼らはその場から走り去っていった。
すばるも呆然としていたが、とりあえずびしょ濡れになった服をどうにかしようと再び家の中に入っていった。
153場外乱闘:03/04/21 22:59 ID:x/LRIF9J
そして、乱戦が繰り広げられた場所に取り残された男が一人。
「あの人形を壊したのは彼ではないんだがな……」
だがそんなつぶやきは誰も聞いちゃいない。
「……どうすればいいんだ」
壁にもたれて腕組みをしつつ呟く様は、誰かが見ていれば様になったかもしれない。
むろん、誰も見ちゃいなかったが。



【すばる 鬼になる 服を乾かそうと再び家の中へ】
【夕霧、高子 逃走成功 ダリエリを探す】
【ヌワンギ 1ポイントゲット トウカから逃げる】
【トウカ 暴走 ヌワンギをロックオン】
【浩平、瑞佳、スフィー、ゆかり トウカを追う】
【ビル 相変わらず風景】
【時間 三日目 昼過ぎ】
154ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:01 ID:16WLAtjG
 …在り合わせの材料で作った料理を卓へ並べるひかりの顔は、些か固い物となっていた。
 ――あの男からは、確かに“毒気”を感じたのだ。共にいた少女は良い子そうであったが…
「ひかりさん?」
 気が付くと、観鈴がおタマ片手に小首を傾げていた。
「ん? なーに、観鈴ちゃん?」
「あの人達の服、びしょぬれだから、乾かしてあげないと…」
「そうね……替えの服を用意してあげないと」
 男の方は最悪我慢して貰ったとしても、少女の方が可哀相だ。ひかりはクローゼットの中を調べ、そこで男物の
スラックスとシャツ、そしてやや大きめのTシャツとオーバーオールを見つけた。
「女の子の方は、Tシャツとオーバーオールでいいですね。…ちょっと大きいかも、だけど」
「その辺は元の服が乾くまで我慢してもらいましょ」
 下着に関しても、三枚ン百円な特売品の物が置かれていたので、特に問題は無いだろう。実際、ひかりも観鈴も
シャワー後、置かれていた特売下着のお世話になっていたりしている。参加者の大半が女性であるが為の配慮で
あるのだろう。多分。
 ――食堂で観鈴を待たせ、ひかりは替えの服を持って浴室の方へと向かった。
155ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:01 ID:16WLAtjG

「………?」
 脱衣所には、誰も居なかった。二人分の、雨でぐっしょり濡れた服が脱いで置いてある…
「あら、一緒に入っちゃったのかしら…?」
 と、ひかりが小首を傾げた時、
『みゅー、おじさん、頭洗う手が乱暴』
『頭はこう、ガァーッ!と洗うのが気持ちいいのだ』
『ハゲるよ?』
『やかましぃ〜っ!』
 ……一緒に入っている様だ。
「…あらあら」
 万が一、“何かが起こったりしたら”、ひかりはすぐさま、フライングクロスチョップで突貫をキメる事にした。
「……フライパンも必要かしらね…?」
 替えの服を置き、濡れた衣服を回収しながら一人ごちていると――
『よぉ〜し、流すぞぉ、洗い流してやるぞぉ〜』(ジャバジャバ…!
『みゅ〜』(どぽどぽ…
『俺様の頭を洗ったシャンプーが抵抗空しく洗い流されてゆくぞぉ〜』(ジャバジャバ…!
『みゅ〜』(どぽどぽ…
『洗う為だけに利用され、用が済んだら下水へサヨナラとは、ククク、嗜虐的な憐れみを誘うぞぉ〜?』(ジャバジャバ…!
『みゅ〜』(どぽどぽ…
『俺は参ったぞぉ〜…』(ジャバジャバ…!
『みゅ〜』(どぽどぽ…
『……………って、コラ小娘』(ジャバッ…!
『みゅ?』(どぽ…
『洗い流す傍からシャンプーをかけて寄越すんじゃないいぃ〜っ! 流しても流しても泡が取れんではないかぁ〜!?
 俺は参ったぞぉ〜っ…!!』
『あははははっ♪』
 ………いや、むしろ弄ばれているのは、あの男の方であるらしい。
 ひかりは思わず、笑みを零していた。
156ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:02 ID:16WLAtjG
「あらあら、大丈夫ですか?」
『みゅ?』
 浴室のアコーディオン式の扉が少し開き、その隙間から繭が顔を覗かせる。
 濡れて垂れた髪が可愛らしい繭に、ひかりはにっこりと笑って見せた。
「新しい服、ここに置いておくからね? 濡れた服はハンガーに掛けて乾かしておくから」
「うん。ありがとう、おねえさん♪」
「ふふふっ、どう致しまして♪ ――ご飯も出来上がってるから、早く上がっていらっしゃいな」
「うん!」
「おお〜っ、礼を言うぞ〜…おおお゛っ!? 目がっ! シャンプーが目に思い切りぃぃっ! 俺は参ったぁああっ!!」
「みゅ〜! おじさん、シャンプーが目に入った時は、リンスを鼻から入れて目から出すと良いんだって」
「そうか! ならば早速…!――って、アホかあああああっ!!」
 …そんな声を背中で受けつつ、ひかりは困惑した様な微苦笑を浮かべていた。
 勘が、“あの男は危険”と告げてはいるのだが、それにしてはどうにも間が抜けているというか何というか…。無論、
油断するつもりは無いが。

 濡れた衣服をハンガーに掛け、適当な場所に干しておき、それから食堂へ戻る。――食堂では、観鈴が行儀良く
椅子にちょこんと座って待っていた。
「ひかりさん、あの二人は?」
「そろそろ上がって来る頃よ。――観鈴ちゃん、取り敢えず何時でも逃げられる様にしておいてね?」
「え? でも、タッチしないで出て行くって、あの男の人が…」
「うーん…、所詮は口約束だしねぇ…」
「がお…。で、でも、言葉だけでも、約束は約束」
「…そうね。どんな形であれ、約束は約束。…でもね、悲しいけれど、そう思わない人もいるのよ、観鈴ちゃん?」
「………あの人は、約束を破る人なの…?」
 寧ろ、悲しそうな眼差で反問してくる観鈴を、ひかりは優しく見つめ返して微笑んだ。
「おばさんの勘だとね。…ふふっ、でも、おばさんも勘違いする時もあるから」
「…にはは、観鈴ちんも、たまに勘違いするときあります」
157ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:02 ID:16WLAtjG
「ふふっ…。ま、とにかく油断しちゃ駄目よ? 私達は逃げ手で、あの人達は鬼なんだから。
 観鈴ちゃん、まだ捕まりたくはないでしょう?」
 その言葉に、観鈴はコクコクと頷いた。鬼となっても、他の逃げ手を捕まえられる自信など無い。
「――ぬはははっ! さっぱりして来てやったぞぉ! どうだっ!?」
「みゅ〜っ♪」
 ――と、無意味にフン反り返りながら、高槻と繭が風呂から戻って来た。体が温まったお蔭で、多少元気になったらしい。
「おお、美味そうなメシだぁ!」
「みゅっ、いい匂い♪」
「――フフっ、さぁ、こちらの席へどうぞ?」
 ひかりに促されて席へ着いた高槻と繭は、箸を掴むなり、何かに取り付かれたかの様に料理を食べ始めた。高槻など、
喉を詰まらせて二度三度死に掛けた程だ。――その凄まじい食いっぷりに、ひかりはいつものままだったが、観鈴ちんは
些か唖然としてしまっていた。

 食事をして人心地ついた高槻は、珍しくも(?)自分の名を述べ、改めて礼を告げた。…相変わらず尊大ではあったが。
「あらあら、色々と順番が狂っちゃったわね」
「まったくだぁ。改めて礼を言うぞ、神岸と神尾。FARGO再建の暁には、二人を手厚く迎え入れてやるぞぉ。――って、
 コラ小娘、お前もちゃんと礼を言え〜っ!?」
 ぽむっ…と、高槻に手を頭へ置かれた繭が、ぷうっと頬を膨らませていた。
「みゅっ…! 小娘じゃないもん、“繭”だもんっ!」
 …恐らくこれ迄、“おい”だの、“お前”だの、“小娘”だのと呼ばれていたのだろう。今迄は気にしていなかったのだろうが、
ここへ来て、ひかりや観鈴がちゃんと名で呼ばれてた事に、ヤキモチを覚えたらしい。
「マユだかサナギだか知るかぁ〜っ! 大体お前は俺にくっ付いているだけだろうがぁっ!」
「みゅ…」
 言い返された繭の目に、涙がこんもり。――それを見たひかりと観鈴が、繭から高槻へ、視線を揃えて動かす。
「…泣かせてしまいましたね、高槻さん」
「…泣かせちゃったね、高槻さん」
「ぐはぁっ!? 俺か!? 俺が悪いのかっ!? 俺は参ったぞぉぉっ!!」
 にっこり笑顔と困った笑顔、そしてこんもり涙に追い詰められ、高槻は頭を抱えた。
158ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:03 ID:16WLAtjG
「機嫌を直せぇっ! 呼び方なんぞどうでもよかろうがぁっ!?」
「みゅっ!」
 涙目のまま、繭はプイッと顔を逸らせる。すっかりご機嫌斜めだ。
 ――それを見たひかりと観鈴が、繭から高槻へ、やはり視線を揃えて動かす。
「…怒らせてしまいましたね、高槻さん」
「…怒らせちゃったね、高槻さん」
「ぬがぁぁっ!? 俺はどうすればいいんだぁぁぁっ!!?」
 再び頭を抱える高槻。そんな彼に、ひかりがにっこりと笑って見せる。
「そんなの簡単な事ですよ。――“繭ちゃん”って呼んであげればいいんです」
「馬鹿者ォォォッ! “ちゃん”付けなんかで呼べるかコッパズカシイっ!」
「じゃあ、“繭”だけでもいいじゃないですか? ――いいわよね、繭ちゃん?」
 高槻から顔を逸らせたまま、繭はひかりの言葉に小さく頷く。
「ほら、高槻さん。呼んであげて下さいな」
「うぐっ…! ――ま…、…マ……、………ま゛…………――って、出来るかぁっ!!」
「あらあら♪ ――ほら、繭ちゃん見て見て、高槻さんたら、恥ずかしがって顔が真っ赤よ?」
「にはは、ホントだ。トマトみたい♪」
「みゅ…」
 ちろっ…と、繭は高槻を横目に見やる。
 …高槻は、何か苦悶するかの様な表情で繭を見下ろし、その顔を赤く染めていた。
 非日常というか非常識というか、ともかくそんな塊の様な男だ。それが、常識的、或いは日常的な、ほんの些細な事が
出来ず、躊躇し、悶え苦しんでいるのだ。ある意味、憐れとも言えるが。
「今日会ったばかりの私達には普通に言えたんだから、繭ちゃんにだって言えるはず…」
「でっ…、出来んものは出来んっ……!!」
 観鈴の言葉を振り払うかの様に言い放つ高槻の声は、どこか弱々しかった。
 ――その次の瞬間、決定的な事が起きた。
159ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:03 ID:16WLAtjG

「………」
 ぽろぽろぽろっ……!――
 ――声も無く、繭の大きな瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
「「 ―― あ 」」
「っ……ぬっ…ぐっ……ごぁぁあああっ!! 分かった解った判ったぁぁあ!! こうなりゃヤケクソだぁ! 幾らでも
 呼んでやるっ! ――コラ、繭! めそめそすんな繭! 泣いて俺を困らせるんじゃない繭! 泣き止まないともう
 二度と呼んでやらんぞ繭! 聞いてるのか繭――」
「みゅ〜っ!!」
「ほぬわぁぁぁあっっ!?」
 突然、繭は弾けた様に飛び上がり、高槻に抱きついた。そして――ドターンッ!…と、椅子ごと後ろへ倒れ込む。
「あら、大変っ…!」
「がおっ…! 高槻さん、繭ちゃん、大丈夫!?」
 流石に心配になって、ひかりと観鈴は腰を浮かせて、倒れた二人を覗き込んだ。
「みゅ〜っ、みゅ〜っ♪ 高槻おじさんっ♪」
「…俺は参ったぞぉ〜……脳震盪起こしそうな程になぁ〜……」
 引っ繰り返り、繭に腹の上へ馬乗りされながら、ウンザリした様子の声で高槻が呻く。
「……いい加減俺の上から退けぇ〜っ…!! いつまで乗ってるつもりだぁ…!?」
「みゅっ、“退きなさい繭”って言ってくれなきゃ、退かないよ、高槻のおじさん?」
「…あ〜………………、…退け、繭。――つーか、だったらお前も俺を高槻様と呼べぇっ!? おじさんは止めろ!」
「みゅ? ……じゃあ、高槻のおっさん♪」
「どあれぇぐあおっさんだゴルァァァああっ!?」
 妙なやり取りを繰り広げる妙な二人組を見やり、ひかりと観鈴は顔を見合わせ、可笑しげに笑った。
160ひかりの誤算 高槻の誤算:03/04/22 00:06 ID:16WLAtjG


『その後もね、楽しい時間は続いたんだよ。にはは♪』 ―― ゲーム終了後の、観鈴の手記より

 …その後、ゲーム終了後に観鈴が書き記した手記によると、彼等はあの後も暫く、何事も起こさぬままに談笑を
続けたという。その会話の中で高槻は、やはりひかりが予想していた通り、約束を反故にして隙を突いてタッチする
気でいたらしい事を告白している。…だが、行動に移さなかったのは、繭との件のやり取りで士気やテンションを
ごっそり失ってしまったからであるらしい。
 結局、ひかりの勘は、半分当たっていて、半分は外れていた訳だ。繭という、ある種の不確定要素的存在がなければ、
ひかりが勘取った通りの好ましからざる未来が展開していたのだろう。繭という誤算が、プラスに作用したのだ。
 …やがて、繭がウツラウツラと“舟”を漕ぎ出したのを見た高槻が、「参ったぁ〜…!」などと喚きつつ、二階部屋に
連れて行ってしまった。暫くしても戻って来ないので、ひかり達が様子を見に行くと、高槻と繭は、ベッドの上で
『リ』の字などを作りながら、すっかり眠ってしまっていた。
 その様子を見たひかりと観鈴は微苦笑を交し合い、二人が目覚めた時の事を考えて新たな軽い食事を作り、
食堂の卓に上へラップを掛けて置いておいた。
 ――そして、自分達の出発の準備を整え、家捜しの末に発見した、傘と違って手を塞ぐ事の無いポンチョタイプの
レインコートを着込み、雨の中、再び逃げ手としての行動を開始したのである…



【ひかり・観鈴ペア  高槻・繭ペアに昼食を作る】
【高槻・繭ペア  ひかり・観鈴ペアの作った料理を本能全開で平らげる】
【高槻 繭  一時喧嘩状態に陥るも、高槻がポッキリ折れて仲直り】
【高槻  ひかりを騙してタッチしようと画策していたが、繭に士気を大幅に削られ、頓挫】
【高槻・繭ペア  疲れて爆睡】
【ひかり・観鈴ペア  高槻・繭ペアが目を醒ました時の為に、軽めの食事を作り置く】
【ひかり・観鈴ペア  別荘から離脱。ポンチョタイプレインコートを手に入れ、雨の中へ】
【三日目 午後 雨は午前中よりもやや強くなっている】
161爆発の予感:03/04/22 00:07 ID:REtKYh3l
「おかしい」
「なにがだ、北川」
ダンジョン内を探索している地雷原ズ以下五名。
突如として北川が立ち止まり、一言言った。
「住井よ、我々はこのダンジョン内を罠で埋めたはずじゃなかったか?」
「ああ。……そうか」
「ああ。そうだ」
「二人だけで納得してない。なんの話してるのよ」
綾香のつっこみ。二人の意味不明なノリと、全てを諦めている栞の、醸し出す雰囲気に合わず、ついてきたことを後悔している彼女の言葉は、冷淡というにふさわしい。
「罠がない」
「ないんだ。罠が」
それに答える二人。まったく同時に、別々の表現で同じ意味の言葉を吐く。
「勘違いとか」
「それはない」
「どこに罠をしかけたか、全て記憶しているからな」
「……馬鹿……・」
ぼそりとつぶやく一言は、慌てる男どもの耳には届かない。
その場に立ち止まった二人は、次善の策を相談し始める。
「誰だ、俺たちの芸術を取り払ったのは」
「うむ、たやすく解体できるものじゃないはずなんだが」
「いつか出会った罠解体師か?」
「ありうるな」
「もしそうなら、今度こそ〆なければ」
「まったくだ、住者よ」
「うむ。北者よ」
ぬっはっは、と唱和する。
そんな、かなり不気味ーな光景を見て、綾香は思った。
ついてくるんじゃなかった。と。
162爆発の予感:03/04/22 00:07 ID:REtKYh3l
「まったくやれやれですよ」
所変わって、ここでなにやら作業をしている老人がいる。すなわち彼は長瀬源之助。
このダンジョンの制作者である。
「人の作った芸術作品に、いたずらなんかしないで欲しいものですね……」
ぶつぶつ言いながら、北&住のしかけた罠を解除して回っているのだ。
「源之助さま、罠を発見しました。解除行動に移ります」
ダンジョン各所に配置されたHMシリーズも全力動員である。
アホほど仕掛けられた、異様に手の込んだ罠の数々。犠牲も多くだしながら、作業することウン時間。
すでに、全体の八割以上を北&住の呪縛から解き放つことに成功していた。
「さて……あとはこのあたり一帯ですね」
しばしば地図を確かめながら、メイドロボ十体を引き連れて歩き始める源之助。
遠く、激しい炸裂音が響いたりした。
「……この先ですか。誰か、不運な方がおられるようですね」
ため息をついた。
私が望んでいたのは、こんなのではなかったのに……
163爆発の予感:03/04/22 00:08 ID:REtKYh3l
「……サラのバカ……」
「悪い……ティリア……」
そして、爆発の起こったその現場では、見事に焦げ上がった勇者様ご一行が、口から煙を出していたりする。
「もう、絶対宝箱には手出さないからね……」
「頼まれても出さない……」
そして二人は、前世紀の漫画のように、ひょーっと音を立てて、直角に倒れていった。

【北川 住井 罠を解除した犯人に怒りを燃やす】
【綾香 うんざり。後悔】
【栞 相変わらず。芹香 ぼー】
【源之助 メイドロボ軍団を引き連れて罠解除。行く先にティリア&サラ】
【ティリア&サラ 宝箱を開けたらどかん。焦げ。もういやだ】
【超ダンジョンの各所 三日目十四時頃】
164Dreamwaver:03/04/22 03:06 ID:HP3ez3kR
 諸君、久しいな。
 私の名前はD。解放者ウィツァルネミテアの分身でありオンカミヤムカイの哲学士だったこともある気がする。
 今私はどこだかわからない場所にいる。気付いたらここにいたのだ。
 我が家はどこだ? レミィは? まいかは? 我が帰るべき場所と人々はどこに消えたのだ?

「……ん?」
 キョロキョロとあたりを眺めていた折、不意に目の前から2つの人影が現れた。
 私は2つともに見覚えがあった。その者らは……

「……お久しぶりですね、ディー」
 白と、
「うんっ! 元気だった? ディー!」 
 黒の翼を羽ばたかせる、
「お前たちは……」
 2人の我が教え子だ。
 その名は……
 
「白おっぱいと黒おっぱいか」

「水の術法1! 2! 同じく風1! 2! てりゃそりゃ光光光!」
「土! 火! 闇! ってゆーかむしろムツミ化! ザクザク斬るよザクザク!」
「うわっ! いたっ! いたっ! う、嘘だ嘘! 冗談冗談ジョークジョーク! 落ち着け落ち着け静まりたもう! 落ち着け2人とも!」
「次元の低い冗談は嫌いです」
「セクハラ発言だよ。もう」
 はぁ、はぁ、はぁ……。全く、頭の固い連中だ……。
 
165Dreamwaver:03/04/22 03:06 ID:HP3ez3kR
「……で、何の用だ。こんなところで」
 こんなところは言っても、私はここがどこなのかもわからないのだが。
「はい、実は今日はオンカミヤムカイの哲学士であり、我が師でもあるディー、あなたに重要なお話があるんだよもん」
 ……ん?
「そう! ディーにとっても悪くない話だと思うんだよもん!」
 ……ちょっと待て。
「お前たち、そのだよもんというのは……」
「人の話はちゃんと聞く! そう私たちに教えたのはあなたなんだよもん! 黙ってるんだよもん!」
「……はい」
「では、改めて……」
 ウルトはコホン、と一つ咳払いをすると、
「簡単に言えば、私たちはあなたに改宗のお誘いに来たわけなんだよもん。実は先日、私たちはウィツァルネミテアを脱会したんだよもん」
「うんっ! 大神の正体もわかっちゃったし、戦ってる理由もすごくくだらないものだったからさ。何か、あそこにいるのが馬鹿らしくなっちゃったんだよもん。
 私の中のムツミも『……好きにすればいいんだよもん』っていうふうに大賛成してくれてるんだよもん!」
「はい。さらに同時に私たちは各国の國師とも密かに連絡を取り合い、各皇に改宗を勧めているところなんだよもん。今のところかなりの国で色よい返事がもらえているんだよもん」
「うん。それに、ウィツァルネミテアを禍日神とするクンネカムン。あそこのクーヤちゃんも悪くない返事くれたんだよもん」
「はい。事態は着々と良い方向に進んでいます。新たなる我らが神が全土を統一する日も遠くないかと思うんだよもん」
 ……頭痛がしてきた。なんだ? こいつらは何を言っている?
 レミィ風に言えば……
「What are you talking about?」
「簡単なことですよ。今まで私たちの大陸に平和が訪れなかったのは、根本的理由として解放者と大いなる父の2つの対立が挙げられるんだよもん」
「うん。だから全くその2つと関わりが無である、新しい宗教が必要だったんだよもん」
「それは……?」
「それは……」
「それは……」

166Dreamwaver:03/04/22 03:07 ID:HP3ez3kR

『……永遠はあるよ』

「だよもん教!」
「新しい世界をクリエイトする!」
「永遠からの提供でお送りしております!」

『……ここに、あるよ』

「そーかそーか、それはよかった」
「はい、だよもん教の教えは素晴らしいんだよもん。今までの私の人生は何だったのだろう、と目から鱗が落ちることが多々あったんだよもん」
「うん、それにカミュと同じぐらいの歳の子もたくさんいるんだよもん。いっぱいお友達作っちゃったんだよもん」
「それに教祖様自身がまだ小さなお子様で、カミュと年齢も大して変わらないんだよもん」
「へへっ、実はもうお友達になっちゃってたりするんだよもん」
「それはよかった」
 ヒラリと踵を返し、
「じゃあな。達者で暮らせ」
 付き合ってられん。

「逃しませんッ! カミュ! 捕まえるんだよもん!」
「ラジャーなんだよもん! ディー! 待つんだよもん! 大人しく入信するんだよもん!」
「ぬあっ!?」
 し、しまった! いきなりカミュに捕まってしまった!
「はっ! やっ! とっ……!」
 ……ぬ、抜けん! なんだこの力は!? これが本当にカミュなのか!?
「甘いよディー! カミュね、だよもん教に入った時からすでに教祖様に新しい力を与えられてもらったんだよもん!」
「あ、新しい力……だと!?」
「うん。気がつかない? ディーの背中に当たってる、カミュの胸……」
 ぽよん、ぽよん、ぽよん……
 た、確かに……。言われてみれば心なしか……
「入信して一ヶ月でね、10cmも大きくなったんだよもん! 怪しげ通販の体験談もびっくり! すごい効果なんだよもん!」
「……それが力とどーゆー関係があるんだ!」
167Dreamwaver:03/04/22 03:08 ID:HP3ez3kR
「ディー細かいことにうるさいんだよもん! そんなこと言ってると女の子にモテないんだよもん!」
「いい加減だよだよもんもん五月蠅いぞ! そろそろお前がカミュなのかどうなのかわかりにくくなってきた!」
「ぷんすかぷんぷん怒り心頭! 非道いよディー! そんなこと言ってると……お姉様!」
「はい……」
 ガッ、とカミュに後ろを向かされる。すると、そこにあったのは……
 たゆん、たゆん、たゆん……
「……あんまり見ないでほしいんだよもん。恥ずかしいんだよもん……」
 ウルトが、両手でも隠しきれないほどの胸を抱えていた。もう、なんというか、ウォーターベッド、って感じだ。
 
「ディーを入信させるようにって教祖様にキツイご命令を頂いてるんだよもん! だからどんな手を使っても入れさせてもらうんだよもん!」
「ど、どんな手……だと?」
「そう……例えばぁ……!」
「なっ!?」
 突然カミュに背中を押され、前のめりになってバランスを崩す!
 だが目の前には地面でなく! ウルトの3ケタオーバー行ってそうなたわわな胸が! 自然……!

 ぽよんっ!

「あんっ!」
 ぬおがぁぁぁぁぁっっっ!?
「そらそらそらそらディー! 入るって言うんだよもん! 言わないともっとスゴイことしちゃうんだよもん!」
 い、いや! それはむしろ本望っていうかなんてゆーかぬぐわぁぁぁぁぁぁぁ!?
「はぁ、はぁ、はぁ……どうですか、ディー……?」
「い、いや、(・∀・)イイ! ……じゃなくてなんてゆーかその、なんだ。ウルト、貴様もまさか入信して……」
「……はい。30%ほど……ボリュームがアップしました……。いかがでしょうか……」
 さ……さんじっぱーせんと……! ええと、私の目見当によるとこの前が(ピー)cmだったから、1.3を掛けて……。
 ……うおおおおおおおおお!!!!!!
「そらそらそらそらそらそらそらそらディー! 早くしないともっとお姉様やカミュの胸であんな事やこんな事やスゴイ事いっぱいしちゃうんだよもん! 早く入るって言っちゃうんだよもん!」
 っていうかこんなことされたら誰も最後まで入るなどと言わんだろうに!
 
 ……と、ここで私は重要なことに気がついた。
168Dreamwaver:03/04/22 03:09 ID:HP3ez3kR
 すひゅー(二酸化炭素吐いた音)
 はひゅー(二酸化炭素吸った音)
 すひゅー(二酸化炭素吐いた音)
 はひゅー(二酸化炭素吸った音)
 すひゅー(以下同じ)
 はひゅー(こっちも同じ)
 ・
 ・
 ・
 
 ……い、息が……息が出来ない……。
「ほらディー! 早く言っちゃうんだよもん! 『私はだよもん教に身も心も捧げます』って!」
 ぐいぐいと私の後頭部を押してくる。ウルトの胸の中に。
 ま、まずい……ますます息が……。
「はぁ……ディー。確かに、お気持ちはわかります……。私とて、最初は不安でした……。けど、入ってしまえばどうということはありません。
 何事も、最初の一歩は辛いものです……。しかし、その一歩を踏み出す勇気を持たねば人は変われないんだよもん……」
 い、いやねウルト。お前がいいこと言ってるのは認めるが、それ以前に……空気……空気を吸えねば……私の人生……ここで終わってしまうのだよ……
「さあディー! 一緒に叫ぶんだよ! じーーーーーーーくっ、だよもん!」
「はいご一緒に! じーーーーーく、だよもん!」
「だよもん! だよもん! だよもん!」
「だよもん! だよもん! だよもん! だよもん!」
 だよ……
 だよ……
 だよ……
 も……
 まずい……酸素が……足りな……い……。


169Dreamwaver:03/04/22 03:10 ID:HP3ez3kR
 ……その頃、D邸宅内では。
「くかー、くかー……。うーん、うーん、でぃー……あんまりばかなことするな……」
「Zzzz.....まいかちゃん……D……。明日は晴れるとイイね……」
 ……寝相の悪い2人に挟まれ、
「があっ……ふがっ……ぬがあっ……!」
 後頭部をまいかの体に、顔面をレミィの胸に押さえ込まれて呼吸困難に陥っているDの姿があった。

 羨ましいような、デンジャラスなような。
 
【D 現実世界でも夢世界でも呼吸困難。しかし傍目から見れば少し羨ましい】
【D一家 就寝中】
【3日目夜】
170名無しさんだよもん:03/04/22 06:16 ID:Cl17rBcL
(・∀・)イイ!
171名無しさんだよもん:03/04/22 17:07 ID:o+55I9T7
D、夢でオパイスキーの本領発揮ですか。…いいわぁ、実にアホや。
最初「またDかよ!」と思ったけど、こんなアホなの読ませられたら仕方ないわい。
ところで130%ウルトって…エイケソ級?いくらなんでもそれは。
 夜明け頃から降り出した雨に濡れる森の中、とぼとぼと歩く人影一つ。
 ハクオロを追跡していた、エルルゥである。
 …今、彼女の身の上にある状況は、逆立ちをして見ても、良い物とは言えなかった。ハクオロ達を見失ってしまうし、
途中で躓いて足は挫くし、挙句の果てにはこの雨だ。足を挫きながらもハクオロを探し続けていた彼女の服も体も、
既に雨でぐっしょりと重く濡れてしまっていた。
「……(…どこか、休める場所を探さないと…)」
 疲れと、体の冷えと、空腹で、意識が少しずつ茫洋として来ている。歩く度に意識を刺激する足の痛みが、或いは、
最後の砦であるのかもしれない。
 …不運と言う物は、更に不運を招く物であるのだろう。森の道はぬかるみ、足元は泥だらけ。休もうにも付近に家屋
などは見当たらず、人の気配も無い。その上――
「…あ……、あの木の洞…。…あそこで、少し休もう……」
 歩く先にある巨木の根元に、雨露を凌げそうな洞があるのを見つけ、エルルゥはふらつく足をそちらへと進める。
「―――」
 ――と、数瞬、意識が飛んだ様な感覚。
 気がついた時、エルルゥは、濡れた土の壁に囲まれていた。…落とし穴に落ちたのだ。
「………」
 悲鳴も、悔恨の呻きさえ出ない。エルルゥは、泥だらけになってしまった自分を呆然と見やり、屋根も何も無く、只々、
雨を受け入れるだけの穴の口を見上げた。
 虚ろな眼差には、暗く濡れた森と、途切れ途切れの暗灰色の空しか映らない。
「……ついて、ない…」
 ようやく出た言葉は、弱々しく、今にも消え入りそうな程。そして、自虐的な迄の何かを多く含んでいた。
「…私が、すぐにやきもちを焼くから、いけないんですね…」
 服は泥まみれ、体はびしょ濡れである為か、エルルゥは開き直ったかの様に――いや、諦めたかの様に、泥濘に
腰を落として膝を抱え、細く呟いて笑った。乾いた笑み。しかし、雨は絶えず彼女を濡らす。
「……ごめんなさい、ハクオロさん…。怒ったりしませんから…、鬼ですけど、タッチもしませんから……」
 エルルゥは、抱えた膝頭に顔を埋める。
「只……貴方に会いたい…」
 だが、その呟きは、誰にも届かなかった。

 ……暫くして、上の方で何かが動いた様な気配。
 エルルゥは、力無い動きで顔を上げ、上を見上げた。
「――大丈夫?」
 穴の上――その縁の所に、誰かが傘を差しながら立って見下ろしている。
 柔和な顔立ちをした少年…エルルゥの知らない顔だ。誰だろうか?……だが、虚脱状態の為か、エルルゥは、一時的
な失語症に陥ってしまっていた。唇を震わせるも、声が紡ぎ出されない。
「……」
 少年は、小首を一つ傾げて、何処かへ行ってしまった。
 …見捨てられたらしい。――そう思ったエルルゥは、あの少年に毒づく事も無く、また乾いた笑みを浮かべた。
 そんな、暗く沈み込むエルルゥの目の前に、細い蔓に結ばれて下ろされて来た物があった。――傘だ。
「……?」
「丈夫な縄みたいな物を見つけて来るから、それまでその傘を差して待っててくれる?」
 再び見上げれば、そこには先程の少年が。
 …彼が差していたはずの傘が無い。今、蔓で下ろされて来た物がそうなのだろう。
「…あ、あの……」
「暫く我慢しててね?」
 エルルゥが傘を掴み、素直に差すのを見るや、名も知らぬその少年は雨に濡れながらにっこりと微笑み、そう言った。
そして、声を返す間も無く、再び姿を消してしまう。
「………」
 傘によって、体を打っていた雨が無くなる。それだけでも、軽い安堵を覚える。…その所為か、やや茫洋としかけていた
意識が、少しずつ明るくなってゆくのを感じた。
「…あの人は」
 ――先程の言葉からすると、穴から引き上げてくれる気でいるらしい。
「どうして…」
 そんな事をするのだろう…?――と、すっかり鬱気に取り付かれているエルルゥは、ネガティブな想いを抱いていた。
 自分は、嫌な女だ。やきもち焼きだし、カッとなって頭に血を昇らせるし、ガンコだし……好きな人を怖がらせてしまうし…。
 私は…、私は――
 しゅるるるっ…!
 何かが穴の中へ落ちて来る。――縄だ。あの少年が何処かから見つけて来て、ここへ垂らしたのだろう。
 だが、エルルゥは縄に触れようとはしなかった。足を挫いているので登れる自信が無いし、何より…
「――お待たせ」
 と、気が付けば、あの少年がエルルゥの傍に立っていた。上から縄を伝って降りて来たらしい。
「……あ、あの…」
「話は上に上がってからにしよう? さ、僕の背中に掴まって」
「…でも、私、泥だらけですよ…?」
「服は洗えばいいけど、風邪を引いたら厄介でしょ? さ、早く」
 何の躊躇いも無く、少年は背中を差し出して来る。――この善意には、応えない方が失礼だろう。エルルゥは申し訳ない
と思いつつ、少年の背中に体を預けた。。
「ん、よし…。じゃ、登るから、しっかり掴まっていて?」
「はい…」
 エルルゥを背負った少年は、意外にしっかりとした手付きと足取りで、縄を伝って登ってゆく。
 程なくして、足を滑らせる事も無く、二人は穴の上へと辿り着いていた。
「あの…、私、エルルゥと言います。…傘、お返しします。有難う御座います…助かりました」
「僕は佐藤雅史。礼はいいよ。誰が通っても助けたと思うし…。――傘はそれ一本だけだから、エルルゥさんが使って」
 柔和なその顔立ちの上に浮かべる、温かな笑み。…その表情から、エルルゥは少年の――雅史の為人を見た。
「――でも、悪いです。穴から助けてくれただけでも…」
 それでも傘を返そうと歩み寄って来るエルルゥの動き…足の運びを見て、雅史が顔を曇らせる。
「エルルゥさん、足、怪我してるの…?」
「あ――…これは、……大丈夫です」
「大丈夫には見えないけど…」
「大丈夫です」
「足の怪我は甘く見ない方がいいよ? 捻挫とかだったら、ちゃんと処置しないと癖になるし――」
「本当に大丈夫ですから…!」
 思わず声を荒らげてしまったエルルゥ。――今ここで、これ以上、こんな、裏表の無い善意に触れてしまったら、
泣いてしまいそうだった。それに、これ以上甘えてしまったら、ハクオロに申し訳が無い様な気がしたのだ。
 ――雅史は、少し驚いた様に目を見開いていたが、また優しく笑って見せた。
「ごめんね…。――でも、とても平気そうには見えないよ。せめて、ちゃんとした屋根のある場所まで、一緒に行こう?」
 ――その微笑が、これまで堪えて来ていたエルルゥの涙の堤防を、溶かすように壊してしまった。
 …ぽろぽろと、エルルゥの双眸から涙が溢れ出し、雨と共に流れ落ちてゆく。
「……う…」
「エルルゥさん…」
「…―――……ご、ごめんなさい……、すぐに、止めます……から」
 だが、一度流れ出した涙は、言うほど簡単には止められそうもなかった。


 …その後、恐らく落とし穴を始めとした罠が数多く存在しているであろう森を抜け、エルルゥと雅史は、平原にぽつねん
と建っている一軒家を見つけ、そこで休む事にした。
 傘を差しつつここへ来たとはいえ、落とし穴でのやり取りで二人とも、もう雨でびしょ濡れだ。早く乾かさなければ本当に
風邪を引いてしまう。
「ここで休もう。そろそろ寒くなって来たし…。エルルゥさん、大丈夫?」
「…はい。大丈夫です…」
 風呂かシャワーでもあればいいのだが…――と思いながら、雅史が家のドアに近付いた時、
「…あれ? ちょっと開いてる…」
 小首を傾げる雅史。今はもう逃げ手では無いので、鬼に対する心配は無用だが、罠の可能性はある。…取り敢えず
エルルゥを待たせて、雅史は開き掛けのドアに手を掛けた。
 そして、そっと隙間を覗き込むと――
「…うう〜………ヒドいよ祐くん……独りに…しないで………」
 玄関には、髪の長い少女が一人。何やら夢に魘されながら、倒れていた――


【エルルゥ  夜通しハクオロ一行を捜索するも、見失う。挙句、足を挫き、雨に降られ、落とし穴に落ちて泥まみれ】
【雅史  森の中で落とし穴に落ちているエルルゥを発見。これを救出。代わりに、全身雨でびしょ濡れ】
【エルルゥ・雅史  森を抜けて平原へ。そこで休めそうな一軒家を発見】
【一軒家の玄関には、沙織が倒れていた】
【三日目 午前中 雨 平原にある一軒家】
176老兵は死せず……:03/04/22 23:21 ID:1w7G/AC1
 黒い外套を羽織った女は、鬱蒼とした森の奥へ奥へと駆けていく。
 水を被った後の彼女は、今までと完全に別人だった。

 歴戦の武人、ゲンジマルは現状を推理してみた。
(……日光を遮る衣服。木々の枝で日陰になる所ばかりを走る逃走路。
 あの逃げ手は何らかの理由で日の光を避けておる。
 そして、湿った空気を敏感に感じ取り、的確にそちらに向かって走っていく。
 さっき水を被ったことからも間違いない。
 彼女の得意とするものは――――水中戦)

 無論、ゲンジマルほどの腕であれば、女が水辺に着くまでに勝負を決める――
 あるいは水辺から遠ざけるように逃げ手を御すことも難しいことではない。
 ――しかし。

(この老骨の血が沸々とたぎるわ。見てみたい、あの女が水の中でどのような動きをするのか?
 某の若いころなら、そんな滑稽な考えは一笑に付しただろうが……
 敵の土俵に上がり、なおかつ勝利する。それでこそ真の武人だと思うとはな……
 やはり、某も老いたということか…………)

 ゲンジマルがそう考えたとき、いまだ女の名前を知らないことに気が付いた。
 逃がすにしろ捕まえるにしろ、好敵手と認めた者の名前を知らぬのは惜しい。
「某はクンネカムンの大老、ゲンジマル。貴公の名は何と?」
「……帝国陸軍特殊歩兵部隊所属、岩切花枝」
 女はフフッと微笑しながらそう答えると、待ち望んでいた彼女の舞台、川の中へと身を躍らせた。
177老兵は死せず……:03/04/22 23:23 ID:1w7G/AC1
(流石にここまでは追ってこないか……ゲンジマルとやら、意外とたいしたことはない)
 
 水戦試挑躰の岩切にとって、川の中はまさに水を得た魚だった。
 人間とは思えぬ、いや魚人でも驚くほどの速度で、ぐんぐんと川を下っていく。
 
少しすると、岩切は水面からバシャバシャと異音がするのに気付いた。
(――まさかゲンジマルが石を投げているとも思えないが?)
 その音は少しづつ確実に岩切へと近づいてくる。
 不思議に思った岩切が水面に顔を出すと、信じられない光景を目撃した。

(――そんな馬鹿な!あの男、水面を走っている!!)

「右足が沈む前に左足を出し、左足が沈む前に右足を出す!
 これを高速で繰り返すことにより、水の上を走ることを可能にする。
 これぞ、エヴィンクルガ族、秘奥義中の秘奥義。水上走法ッ!!」
「おのれーっ」
 岩切はゲンジマルに呪いの言葉を吐くと、今までのバタ足からクロールに似た高速泳法に切り替えた。

 岩切の全力泳法でさえ、水面を走るゲンジマルには分が悪い。
(冷静になれ。戦場では心を乱した者から死んでいく……
 それに、世の中には完全な物など無い。
 必ずや、あの男の水上走法にも弱点はある――)

 バシャバシャとゲンジマルの水を蹴る音が、岩切のすぐそこまで迫ってきていた。
 
178老兵は死せず……:03/04/22 23:24 ID:1w7G/AC1
 ゲンジマルが岩切に正に追いつこうとした時、ついに岩切は水上走法の弱点を見つけた。

「ゲンジマル!貴様、右手と左足が同時に出てるっ!!」
「な、なんとっ!?」

 岩切に指摘され、慌ててフォームをチェックするゲンジマル。

「花枝殿、それは普通ではないのかな?」
 ゲンジマルがそう気づいたときにはもう遅かった。
 左足が沈む前に出すハズの右足のことを忘れていたゲンジマルは、
 ぶくぶくと川の中へと沈んでいった……

「助けてくれ――ッ!!某、泳げないことを、すっかり失念しておった――ッ」
 手足をバタつかせながら、川下へと流されていくゲンジマル。
 川岸に立った岩切は、それを敬礼しながら見送った。

(我が強敵『とも』ゲンジマルよ、安らかに眠れ……
 そして誓おう。この岩切、必ずや優勝し、貴公の英霊を靖国に弔わんことをッ!)
 決意を新たにし、黙祷を捧げる岩切の目から、
 ツツ――と一筋の、雫が流れた。

【岩切花枝 ゲンジマルとの死闘に勝利 優勝の決意を新たにする】
【ゲンジマル 川下に流されていく】
【川岸 二日目夕方】
179老兵は死せず……作者:03/04/22 23:59 ID:1w7G/AC1
誤字を修正させていただきます。
>>177
誤 これぞ、エヴィンクルガ族、秘奥義中の秘奥義。水上走法ッ!!」
正 これぞ、エヴェングルガ族、秘奥義中の秘奥義。水上走法ッ!!」

指摘してくれた方、どうも有難う御座いました。
180ハードルを越えて:03/04/23 00:55 ID:JbBUdmk6
「……ははっ、燃え尽きたぜ……真っ白に……」
巳間良祐。もとFARGO研究員にして、とある少女の兄である。
彼。一人の刑事を追い続け、疲れ果て、ついに崩れ落ち、燃え尽きていた。
ここは山中の登山道。登り口からわずかに行ったあたり。
うぐいすが鳴き、青々とした木々が美しい、緑に覆われた山である。
そんな山森で、登山道のど真ん中で、木々の息吹を体に受けながら、巳間は倒れていた。
魂が抜け出てきそうなほど、見事に。

そして。

「っっっっっっっっっっりゃぁ!」
走ってくる少女たち。第一陣に二名。第二陣に一名。
さらに第三陣に二名が競り合いながら。
そして第四陣に男女のカップルが。
おまけに第五陣、男二人組が。
猛烈なデッドヒートを繰り広げながら、登山道へと駆けてきていた。

「梓せんぱーい、かおりはどこまでもついていきますよーーーぉ」
「結花ー、がんばれー」

「逃げ切ってみせるわよっ」

「後から来たくせに、人の獲物を横取りする気!?」
「後も先もないでしょう、先に捕まえたもの勝ちよっ!」

「なつみちゃん、大丈夫?」
「店長さんこそ、息上がってますよ」

「Wait Wait!!! 逃ガシマセーン」
「脇役の意地ををを!」
181ハードルを越えて:03/04/23 00:56 ID:JbBUdmk6
最先頭を走る梓、そのわずかに後方に付くかおり。梓は余裕綽々。かおりは愛の力で。
数秒遅れて結花。まだまだ余裕があるらしく、またこの状況を楽しんでいるらしく、顔にはほんのりと笑みが。
さらに数秒遅れて広瀬と雪見。互いに相手を牽制しつつ駆けているため、徐々に結花から離されていく。
競り合う二人のわずか後方に健太郎となつみ。運動不足な店長さんと、ごく普通の女子学生。体力的につらいつらい。付いていくのが精一杯。
そして、最後尾ながらも確実に差を詰めていく、ジョンと敬介。さすがといえばさすがであるか。

まずそれを見つけたのは梓。行く先に、ぶっ倒れている一人の男。
「飛ぶ!」
「へ?」
男にかけられたたすきを確認し、ハードル越えの要領でひょい、と飛び越えていく。かおりもそれに続き、上り坂を駆け上がっていく。
「結花、気をつけて!」
「いわれなくてもっ」
答えて結花も軽く越えていく。スピードもそのままに山道突入。
182ハードルを越えて:03/04/23 00:57 ID:JbBUdmk6
にやりと笑う広瀬。
徐々に離されていくことに気付いた二人は、妨害工作を中断して疾走している。
そしてハードルを越
「今だっ」
ジャンプしようとする瞬間を見計らって、右手で雪見を突き押す。バランスを取りきれず、雪見は横のめりに体勢を崩し、
「ったっ」
転ぶ。雪見を後目に、軽く巳間を飛び越えた広瀬は、
「だっさ」
一言残して追撃続行していく。
「……なんですってっ」
かちんと来た雪見、即座に立ち上がろうとし、
「だっ」
何者かに足を引っ張られて、うつぶせに転ぶ。
その横を駆け過ぎていく健太郎となつみ。その一瞬後に駆け去っていく男二人。
「何かした? なつみちゃん」
「ちょっと」
そんな会話は雪見には届かない。原因不明の転倒にもめげず、
「待ちなさいよっ!」
一声吠えて、両手を地に付き、勢いよく立ち上がって土を払うのもそこそこに再び走り始める雪見。
すりむいた膝が、少し痛んだ。
183ハードルを越えて:03/04/23 00:58 ID:JbBUdmk6
順番こそ入れ替わったが、追撃戦はまだまだ続く。
山道に入って、スタミナの消耗はさらに激しくなる。
さて、逃げ切るか、追いつかれるか。結末はまだ見えない。

【九人は山道に入っていく】
【梓 かおり 結花  広瀬 健太郎なつみ エディ敬介   雪見 の順】
【雪見負傷】
【三日目早朝】

一人置き去りにされたハードルは、
「……うるさいな……」
地に伏したまま、寝ていた。

【巳間 登山道登り口で沈没】
【寝ている】
184名無しさんだよもん:03/04/23 01:07 ID:JbBUdmk6
>>181
の五行目。
ジョンとあるのをエディに変えてください。
なんでこんな間違いを……

すいません。
185或る報告書:03/04/23 03:28 ID:FIJxs4RV
この報告書は、200X年某日開催された通称『葉鍵鬼ごっこ』三日目・管理分室において
発生したある事態の顛末を記録したものである。

            (中略)

当文書は合衆国・日本政府及び、来栖川グループ、鶴来屋間で締結された協定105に基づき
作成されるものであり、日本語・英語・ドイツ語・フランス語訳がそれぞれ用意される。
事態の性質上機密保持レベルはsecret(極秘事項)とし、以後20年記録開示請求は却下するものとする。
なお書式はF−012に準拠。

関連文書:CF-045 SS-04 DA-221 GA-044 GA-047 HC-03
映像記録:IR-358 IR-370
186或る報告書:03/04/23 03:29 ID:FIJxs4RV
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

11:32>
 来栖川サテライトサービス・SS-007:監視対象人物「K.K」、
 同サービス・SS-141:監視対象人物「L.V」に接触。
 (来栖川SS及びSSについては関連文書SS-04参照)

11:43>
 監視対象人物「K.K」、同監視対象人物「L.V」
 物理的接触及び『襷』確認されず。
 
同刻>
 管理者「T.K」の要請により、当映像データを映像解析班に転送。

11:53>
 映像解析班より管理室へ解析結果報告。
 該当映像、解析結果:「Lisa Vixen」。

187或る報告書:03/04/23 03:30 ID:FIJxs4RV

11:54>

     管理者T.K、暴走。

同刻>
 管理者補佐「A」、事態収拾を目的として補佐権限により
 暴徒鎮圧用HM−13カスタムモデルを二十機投入(同機スペック詳細は関連文書HC-03)。

12:01>
 管理分室、機能27%停止。
 管理補佐「A」、状況「J」発生と認定。
 管理室に緊急支援要請。
 
12:08>
 前記HM-13、三機沈黙。四機中破。
 管理室補佐「A」、サテライトキャノン使用許可を申請。 
 
12:11>
 管理分室、機能51%停止。
 SC使用許可申請、却下。

12:15>
 同管理者「A.M」到着。
 
同刻>
 接触。
―――――――――――――――――――――――――――――
188或る報告書:03/04/23 03:30 ID:FIJxs4RV
以下、top secret(最高機密)指定。
閲覧には最高指定の機密閲覧権限要。


【柏木千鶴 水瀬秋子 足立副会長】 
【場所 管理分室】
【三日目 昼頃】
189名無しさんだよもん:03/04/23 04:12 ID:xTtuQ37n
(・∀・)イイ!
場所は、海岸近くの休憩所に移る。
小雨が降ってきたので、垣本が気絶したままの倉田佐祐理、田(略、清(略、を頑張って移動させた。
このままでは風邪をひいてしまう――あくまでそういう思考である。彼は漢なのだ。
1/3の下心など持ち合わせてなどいない…はず。
ただ、田(略と清(略は全裸だったので、誰かに見つかれば間違いなく痴漢と間違われ逃走――または攻撃されることは、想像に難くなかった。運良くそういうことは無かったけれど。
「そういう事情だったんですか…どうもすみませんでした」
昼頃になって、ようやく佐祐理は目を覚ました。
そして、自分が痴漢と勘違いした相手――垣本が、そういうつもりではなかったことを聞いて、佐祐理は素直に謝った。
「いえ、いいんですよ倉田さん。確かにあの状況では勘違いしても無理はないでしょう」
対する垣本は――間違いなく垣本である――彼とは思えないほど恭しいというか、下手に出た口調で返答する。
垣本は、か弱き乙女を守る漢なのだから。
出すぎた態度は失礼に当たるというものだろう。
…多分。
「目を覚ましませんね…」
佐祐理が気絶したままの田(略と清(略を見つめ、心配そうにポツリと呟く。
二人は荷物を持っていなかった。仕方が無いので、今は休憩所の長椅子に、布団をかけて寝かせてある。
佐祐理が自分の荷物から着替えの下着を着せたので裸ではないが、やはり少し目に余る格好。
垣本が余計な欲情を出さないように、との配慮だった。
てことはつまり佐祐理は垣本を完全に信用していないのではないか…? という疑問はさておき。
「とりあえず、屋台を探して服を買ってあげましょう。このままではあまりに不憫です」
佐祐理がこれ見よがしに万札をびらりと5枚。もちろん佐祐理に自慢するつもりなど毛頭無い。
「それはつまり、俺が屋台を探して買って来い、とのことですね?」
垣本がその意を汲み、受け取る。佐祐理は頷いた。
「了解しました。行ってきます」
垣本はその場を離れ、屋台を探しに休憩所から出て行った。
佐祐理は垣本が出て行ったのを確認すると、フゥ、と息を吐いた。
「やっぱり、痴漢しそうな人には任せて置けませんしね。ちょっと勿体無いですけど、仕方ないですね」
ヒデェよ佐祐理さん。
そして、あははー、と笑った。
そのとき、爆音――あの音はバイクのエンジン音――が聞こえてきた。
ひょっとして逃げ手では――そう判断した佐祐理は、思わず休憩所を飛び出した。
そして何故かもう一度、あははー、と笑った。
一方こちらは、師弟関係を結んだ晴子&詩子とその従者であるベナウィ&茜&澪グループ。
けたたましい爆音を響かせるノーヘル。一台しかないので晴子がハンドルを握り、その後ろに詩子が乗る――つまり二人乗りだった。
そんでもって晴子さんは飲酒運転。詩子さんは無免許。
明らかに交通法違反だったが、それを咎めるものは誰も居ない。
『交通法違反なの…』
いや、いた。澪が、いた。揺れまくるので字が滅茶苦茶だった。
が、しかし。
「澪…無理です。今の詩子には何も通用しません…」
諦めモードの茜さん、ふぅ、と一息つく。酔っ払った澪の文字をも解読出来る彼女であるが、雨ざらしの上にミミズがのたくったような漢字まで解読できるのは、ある意味賞賛に値する。
どちらにせよ、筆談である澪のツッコミは、あまりに弱かった…
「ところでベナウィさん、何のためにあなた方は動いていたのですか?」
茜がウォプタルを操るベナウィに訊ねる。
なんだか久しぶりにちゃんと名前を呼ばれたなぁ、などと思いつつベナウィは答える。
「ああ、それは、あちらの晴子様の娘さんを探していたんです」
「娘…さん?」
茜と澪はバリバリ飛ばす晴子の方を見る。その顔立ちはどうみても若い。先ほどの――典型的な大阪のオバちゃん――という態度を差っぴいても、20代前半といった所だろうか。
となると、その娘は、平成生まれが筋である。
だが、ベナウィが続けた言葉は二人を驚愕させた。
「ちょうど、貴女方ぐらいの御歳だそうで」
「…本当ですか?」
「はぁ…そうらしいですよ」
怪訝そうに訊く二人を見て、ベナウィは、“義娘らしいですが”という言葉を呑み込んだ。
いくら納得できそうになくても、簡単に人に打ち明けていい話ではないだろう。
「しかし、それだと、砂浜なんて開けた場所を探すのは無意味では? もし逃げ手だったらこんな所に居るとは思えませんが…」
茜が当然の質問を投げかける。なかなか聡明な娘だ、と思った。
「娘さんは、海があればそこに居る…だそうです」
“アホちん”という言葉は敢えて伏せた。親が認めても、まだ面識も無い娘にそのような形容詞をつけるのは失礼だろう。
『飛ばしてたら見つからないと思うの』
揺れる状況でずれまくる腕の力を総動員して書いた、最小限の文字で澪が訊ねる。
「いえ、大丈夫でしょう。いつもあのスピードで飛ばしている方なら、動体視力もなかなかの物だと思います」
それに、とベナウィは付け足した。さっきよりもすこし小さめの声で。
「あの方は立派な女性です。きっと、最愛の娘を見過ごす、などということはなさらないと思いますよ」
「しっかり聞こえとるっちゅーねん。恥ずかしい事言ってくれるわ」
晴子はベナウィの呟きをしっかり聞き取り、そう漏らした。
「最高です! 師匠! やっぱり私の目に狂いは無かった! ところでその娘さんの特徴は!?」
超ハイテンションでノリノリな詩子さんは、まるでインタビュアーのような口調で尋ねる。
「だから師匠はやめいっちゅーねん。長い栗毛を白いリボンで縛っとる。がおがお言っとって、にははと笑うのがが観鈴ちんや」
「はぁ…がおがお…にはは…」
詩子は不思議そうな顔をした。妙な口癖だと思った。
「どろり濃厚シリーズの自販機でもあったら確実やと思うんやけどな。観鈴ちんはあれが大好物やから」
それを訊いた詩子は、一瞬自失しそうになった。どろり濃厚シリーズ…まずいと評判のあのジュース…何故かこの島の商店街にも存在した。
あの味は忘れられない…茜が薦めて来るコーヒーぜんざいアイスクリームや、蜂蜜練乳ワッフルに匹敵する…マズさというか…食べにくさというか…
「ウチもあれは嫌いやけどなー」
晴子がそう言って、詩子は安堵した。もし一緒に食事する時に薦められたら…と思ったのだ。
まあ、その後屋台で食事する時、尋常でない量の酒を勧められて、耐え切れずダウンすることになるのだが、それはまた別の話。
(おらへんなぁ…ウチの読み、外れたか…?)
晴子は、バリバリ飛ばしつつも、内心焦っていた。
別に観鈴が鬼であろうと逃げ手であろうと特に問題は無い。問題は観鈴が一人でいる、という可能性だった。
誰かと同行、またはチェイスの最中ならそれでいい。だが、観鈴の性格と運の悪さ(…)から考えて、一人で行動している可能性は十分にあった。
それではこの鬼ごっこに参加した意味が無い。観鈴が誰かと一緒に遊べる事。それが最重要事項だった。
発見して、せめて自分と一緒に鬼ごっこを楽しむ。それが目的だった。
(あのアホちんなら砂浜のどっかに居るはずなんやけどなぁ…)
溜め息を一つついた。バイクの爆音にかき消されるほど小さい物であったが。
だが、その瞬間。
『…ははー…』
聞こえた。間違いなく観鈴の声。
笑い方や、トーンが少々違うような気もするが、あの声を聞き逃すとは思えない。
晴子は、一気にアクセルをかけ、ベナウィに向かって叫んだ。
「ベナやん! おった! あの笑い声は間違うない! 観鈴や!」
晴子は、バイクのスピードを落として叫んだ。ベナウィは心得た、という風にウォプタルのスピードを落とした。
「師匠! ついに発見したんですね!?」
「笑い声なんてしましたか…?」
『なの』
おね三娘は、それぞれの反応を見せた。(澪はいっぱいいっぱい)
(もの凄いスピードです…でも、逃げ手ですね)
佐祐理は木陰に身を隠して雨を凌ぎながら、残り2つの七味手榴弾を構えた。
手榴弾の自爆芸がもはやこの鬼ごっこでの佐祐理さんの持ち芸だが、そんな物はさっさと返上したい。
この雨では七味が炸裂しても湿気でそれほど飛散はしないだろう。そんなことは分かっている。
とりもち銃だってスタンガンだって装備している。だが、これらはあのバイクと恐竜(…?)にあまり効果があるとは思えない。
そして、意地だ。ここまで来るともう意地だ。
(最後ぐらい真面目に活躍してくださいよ…)
ぎゅっ、と手榴弾を握り締めた。
真実、もう勘弁して欲しいのと忌々しいのが半分半分で、ここで全部使い切ってしまいたい気持ちも、あった。
その手に青筋が浮かんでいた。
そして、相手のスピードが落ちるや否や、タイミングを見計らって砂浜に飛び出し、ピンを抜くとバイクめがけて手榴弾を投げつけた。
間髪入れず、もう一個を恐竜の方に投げつけた。
「あははー! 絶対逃がしませんよー!!!」

「観鈴やない!?」
晴子は、突然現れ、妙な制服を着た少女のその声に驚愕した。
――さっきの笑い声はこの娘の物やったんか!?
それにしてもあまりに似すぎている。いや、まるで同じと言っていいだろう。
「あれって…手榴弾!?」
後ろの詩子が、少女が投げた物体を認めて大声を上げる。
このゲームにおいて、殺傷力のある武器は反則のはずだ。だから中身は当然火薬ではないはず。
だが、だからといって中に何が詰まっているか分からない。
――まずい、このスピードやったらかわされへん!
目の前の少女はかなり低いコースを投げ込んできた。まるで野球ボールのように。
このままだと命中する。何か対処方法は無いか。
そして、一つの方法に思い当たった。
(――なら!)
晴子は、一気にエンジンを噴かすと、最高速まで加速した。
佐祐理の思惑はこうだった。
突然目の前に人が現れて手榴弾なんて物を投げれば、止まってくれると思ったのだ。
相手に手榴弾の中身が七味唐辛子などと分かる訳が無く、動揺するだろう。あのスピードなら事故も起こさないはず。
そして七味の中身に相手が悶絶している間にタッチする。
そういう算段だった。
そういうわけだったので、いきなりバイクの方が最高速まで加速したのを見て、佐祐理は一瞬訳が分からなくなり、自失した。
(何故!?)

詩子はいきなり飛んできた手榴弾に我を忘れそうになった。
スピードが落ちたせいで、テンションが下がっていたのが原因だった。
だが、一気に晴子がスピードを上げたおかげで、すぐに気がついた。
「師匠!?」
一体何をしようというのか。
「詩子ちゃん! しっかり掴まっときや!」
言われるまま、詩子は晴子の腰を腕をまわしてがっしり掴んだ。自然跨る足にも力が入る。
そして、一瞬。
もの凄い重力がかかった。砂の地面がすぐ顔の近くにあるような気がした。
吹っ飛ばされそうな程の遠心力に耐える。
こぃん、と何かを弾き飛ばしたような音が、後輪のあたりから聞こえた。
そして気がついたときには、目の前に手榴弾を投げた女の子が腰を抜かしていた。
砂塗れで。
晴子が一気に加速したのを見て、茜と澪も驚愕した。
一体何を考えているのか。詩子が乗っているのに。乗り捨ててしまえばいいのに。
そう思った。
だが、次の一瞬に起こったことが、コマ送りのフィルムを見ているかのように見えた。
晴子が右にハンドルを切った。
そして一瞬で左にハンドルを切り替え、ブレーキをかけた。
ズザァーッ、という砂を滑るような音と共に、雨で湿った砂が巻き上げられ、女の子に降り注いだ。
バイクは見事に女の子の手前で横滑りをしながら止まった。
女の子は腰を抜かしてへたり込んでいた。
手榴弾は、と思い出すと同時に、丁度左手あたりの休憩所らしき建物から、ボン、という音と同時に赤い煙が立ち上った。
どうなったのか、よく分からなかった。

ベナウィは、とにかく目の前に飛んでくる手榴弾にのみ集中した。
女性が投げた物にしては案外スピードがあったが、ベナウィにとってたいした威力ではなかった。
抜刀し、峰で海のほうに弾き飛ばす。
軽い手ごたえと共に、手榴弾はあっけなく海に落ちた。
そして晴子の方を向き直ると、ちょうど彼女がフルターンを決めたところだった。
ベナウィには、晴子の意図が理解できた。
要は、バイクそのものをバット代わりに、後輪で手榴弾を打ち飛ばしたのだ。
そのついでに、相手の少女を牽制する。そういう算段だったのだろう。
事実、それは成功した。
相手の少女は砂を被って、その場にへたり込んでいた。

飛ばされた手榴弾がなにやら建物らしき場所に落ちたのを見て、あそこに誰も居なければいいのだが…と思った。
「スマンなぁ、ついやりすぎてもうたわ。大丈夫か?」
晴子が少し佐祐理から距離をとり、改めて聞いた。
「ふ、ふぇぇー…ビックリしたです…怖かったです…」
佐祐理は、まだそこにへたり込んでいた。
「ま、いきなり手榴弾投げつけられたからなぁ…もうあんな事せん方がええで。次はホンマに轢いてしまうかもしれへん」
晴子が優しく諭すように言うと、佐祐理はこくん、と頷いた。
「申し訳ありませんでした…」
何故か謝った。謝らないといけないような気がしたから。
「にしても、アンタ本当に観鈴の声とソックリやなぁ…」
「観鈴?」
佐祐理は首をかしげた。
「ウチの娘や。長い栗毛を白いリボンで縛っとる。がおがお言っとって、にははと笑う、変な娘や。声はアンタに本当にソックリやな」
「え、それってまさかあの娘…」
佐祐理は思い当たる。自分がずっと付狙っていた少女。佐祐理の自爆芸を確かな物にした少女。
「知ってるんか?」
「はい…佐祐理も一度狙ったんですけど…逃げられてしまいました…あなたの娘さんだったんですね。すみません…」
例えどんなに恨み(※逆恨み)が深くても、母親だというこの女性を前にして、やはりなんとなく謝らなければいけないような気がした。
「狙った…?」
「はい…それから、ずっと探していました…どうしても捕まえたくて…」
そう。自分は七味手榴弾で悶絶している所を捕らえようとしていたのだ。冷静に考えれば許されることではない。
そして、それを逆恨みして延々と付狙う…とんでもないことのような気がした。
どんな叱責が待っているだろう。この女の人(大阪のオバちゃん)に延々と叱られるのか。
だが、帰って来たのは意外な言葉だった。
「そっか。ならそれでええ。どんどん追い掛け回してやってくれへんか?」
「え?」
「あの娘はな、昔っから友達おれへんかってん。なんでか人と一緒になると泣き出してもうてな、それで誰も近寄れへんかった。だから鬼ごっこなんて多分したことあれへんねん」
思い出す。もういない弟との悲しい思い出。一緒に遊びたかったのに、遊べなかった、悲しい思い出。
「多分な、今も一人やと思う。ひょっとしたらずっと一人かも知れへん。トロいしな、もう鬼になってしもとるかもしれへん」
佐祐理があの娘に出会ったのは昨日の夕暮れ。あれからそろそろ一日経とうとしている。
「見つけて…もし鬼だったらどうするんですか?」
「そしたら、逃げ手と鬼として鬼ごっこしたるねん」
「逃げ手だったら?」
「一緒に逃げる。それで鬼ごっこ完成や。だからな、アンタ――佐祐理ちゃんも、観鈴ちんを見つけたら精一杯追いかけたってな」
晴子はニッ、と笑った。
佐祐理があの娘――観鈴を追いかけていたのは私怨だ。それも逆恨み。
だから追いかけるのは、ちょっと理不尽な気がしていた。それでも、そう言う事情なら、そんなことをわざわざ告げるのは野暮だろう。
そう思い佐祐理は晴子の顔を見上げて、
「はいっ」
笑った。
腰はまだ砕けて動けなかったけれど。
そして、晴子たちはどこかに行ってしまった。
少しして、佐祐理も立ち上がり、歩き始めた。
言い訳かもしれない。それでも、あの娘のために、私は追いかける。純粋な鬼ごっこの鬼として。
佐祐理の顔には決意が満ち溢れていた。

『いい話だったの』
「そうですね」
澪と茜が相変わらず揺れるウォプタルの背中でそんな会話を繰り広げる。
二人は、ちょっとだけ晴子を見直した。
「でも、あのバイク技を詩子が身につけるのは…嫌です」
『なの…』
そして詩子は。
「感動しました! 師匠ー!! 私、どこまでも付いていきますからねー!!!」
テンション最高潮。
【佐祐理 晴子公認で観鈴を追う】【七味手榴弾 全弾使い切る】
【茜 澪 晴子を見直す】【でも詩子の弟子入りは嫌です】
【詩子 フルターン…覚えたかな?】
【三日目午後4時ごろ】


ところで、忘れられていた人たちはというと。

「さ、佐祐理さーん!!!」<垣本
いつの間にか佐祐理が居なくなって、万札を握り締めながら絶望に打ちひしがれる垣本と。
「誰がンなことじや゛がったんじゃい! でめぇか!? ごだえんがこのや゛ろ〜!!」<清(略
「め、めが〜、はなが〜、のどが〜、ひりひり〜…」<田(略
まともに晴子さんの打ち返した唐辛子手榴弾の餌食となった略コンビが右往左往していたとさ。

【垣本 三兎を追うもの一兎も得ず→二兎を追うもの一兎も得ず】【お釣はお駄賃(1万円ほど)】
【清(略 唐辛子手榴弾の餌食 ブチギレ】【田(略 唐辛子の餌食 右往左往】
202泣いた天使がもう笑った:03/04/23 22:39 ID:nfqFB17+
「えぐっ、えぅぅ……うえ…ッ……」
ユンナは相変わらず泣きながら森の中を歩いていた。
きよみと別れた心細さに加え、怖そうなおじいさんに捕まりそうになったのだ。おまけに日も暮れてきた。
反転したユンナの寂しさは頂点に達しようとしていた。そんなときは些細な音でも過剰に反応してしまうものだ。
がさ、という茂みからの音に、ユンナは一瞬体も思考も止まってしまった。
(だ、誰……? いや、いやだよう……また怖そうな人だったら……)
足と翼が恐怖で震える、でもいざというときのために逃げる体勢は崩さない。
自分はこんな所で捕まるわけにはいかないから。
果たして、そんなユンナの目の前に現れたのは、イタチのように白くてふわふわ浮いている
小動物──アルルゥとはぐれたガチャタラであった。

「……か、」
か?
「かわいい〜〜〜〜〜!!」

……それは例えるなら芳賀玲子が初めてドリグラを見たときに発した叫びに似ていた。
各々の心に宿ったものはまったくもって正反対であったが。
ユンナはガチャタラを抱きしめ、頬ずりし、目をあわせて「一緒にいこ?」とお願いした。
ガチャタラがそれを理解し、聞き届けたかどうかは分からない。
だが、その夜ユンナは泣きながらではなく、穏やかな微笑さえ浮かべながら眠った。
怖い怖い鬼さんに見つからないように木の上で、ガチャタラを優しく抱きしめながら。


【ユンナ ガチャタラと遭遇、木の上で就寝】
【時間 二日目深夜】
203家族の肖像:03/04/23 22:41 ID:nfqFB17+
「ガチャタラー」
「ガチャタラー、どこー?」
ユズハと合流し久瀬チームから逃げ出したアルルゥ一行は、いつの間にかはぐれてしまったガチャタラを探していた。
今も小雨がぱらついている。早く見付けて屋根のある場所に行かないとユズハの体に悪いかもしれない。
アルルゥとカミュは少し焦っていた。
「こっちでいいの?」
「ヴォ」
アルルゥの問いに自信を持って答えるムックル。
そしてそこから少し行った木の下で、ムックルは足を止めた。
上を向くムックル、つられて目線を上にするアルルゥとカミュ。
そこにはガチャタラを抱きしめて思いっきり震えている白い羽根持ちの女の子が居た。
「あー、怯えちゃってるねえ……」
カミュはそれを見てこの娘がムックルを見て怯えていると一目で分かった。
女の子三人を乗せてのしのし歩く白虎の姿はかなりの威圧感がある。
カミュはそんな女の子の恐怖心を取り除こうと、にっこり笑って言った。
「怖くないよ。私はカミュ、あなたは?」
「…………ユンナ」
その答えに、カミュはより大きな笑みを返した。
204家族の肖像:03/04/23 22:44 ID:nfqFB17+
「へぇ〜、この子の名前ガチャタラっていうんだ」
「ん、そう。アルルゥがつけた」
「可愛いなあ〜、ね、この子ガッちゃんって呼んでいい? それともタラちゃんがいいかな?」
「そ、それはやめた方がいいと思うな……」
「ん? なんで?」
「何でと言われると困っちゃうんだけど……」
あれから凄い勢いで仲良くなったユンナとアルルゥ一行は、共に森の中を進んでいた。
ユンナはまだ少しムックルが怖いのか、少し離れて飛んでいるが。
しかしアルルゥたちの焦りはさらに増していた。屋根のある建物が見つからないのだ。
木の陰で雨宿りしてもいいのだが、やはりユズハのことを考えると屋根のある場所に避難したい。
それにいつ鬼たちに見つかるかも分からない。
喋りながらも周りへの注意を怠らないアルルゥたちであった。

「あ、あれクロウさんのウマじゃない?」
森の中で木に繋がれたウォプタルを見つけたのはカミュだった。
すぐ近くに簡素な作りだが小屋もある。それを見て彼女たちはそこに隠れることを決めた。
今、クロウが鬼でないと言う保証はないが、彼ならユズハの為を思って見逃してくれるかもしれない。
彼女たちは休息を求めてその小屋のドアを開ける。
そこには、
「昨日はうまく行きましたね!」
「見張りの嬢ちゃんが爆睡してたからなあ」
昨晩のウォプタル奪還作戦を振り返っているクロウと郁美がいた。
205家族の肖像:03/04/23 22:50 ID:nfqFB17+
「ねえねえアルちゃん、ユンナちゃんにもあだ名付けてあげようよ」
「あだ名?」
「うん、カミュたちは仲良しだからお互いにあだ名で呼び合ってるんだ。
 アルルゥはアルちゃん、ユズハちゃんはユズっち、カミュはカミュち〜って呼ばれてるの」
「へぇ〜、いいなあ」
「ユンユン」
「ユンユン……あはっ、可愛い!」
電波たれながし、あるいはどっかの動物園のパンダのようなあだ名だが、本人は気に入ったらしい。
「それじゃあ郁美さんは、クロウさんのウマを助けるために夜中に……?」
「はい、何だか初めて病院を抜け出した時みたいにドキドキでした」
一方、穏やかではあるがユズハと郁美も話が進んでいるようだ。
雨に濡れるのが嫌いなムックルも小屋の中にいる。そして彼女たちはそれによりかかり、ムックルの温かさを感じている。
ユンナも郁美もムックルとも打ち解け、まるでアルルゥたちと昔からの友達のように話に花を咲かしている。
ガチャタラはユンナとアルルゥの間で楽しそうにじゃれついている。
そこは年頃の少女たちが織りなす、賑やかで楽しい空気で満ちていた。
206家族の肖像:03/04/23 22:51 ID:nfqFB17+
「おーおー、賑やかだねえ」
小屋が狭い&見張りのために外にいたクロウは、中から聞こえる嬌声に思わずそんな声を漏らした。
メンバーは少し違うが、トゥスクルの日常を思い出す。
出会ったばかりとは思えない、まるで家族のような穏やかな空気。
この穏やかな空気を、守ってやりたいと思う。
(総大将が強いわけだぜ)
家族を、國を守るために無類の強さと智力を誇る総大将──ハクオロのことに頭が向く。
と、そのとき目の前の茂みの奥からガサリ、と何かが動いた音がした。
クロウは咄嗟に身構える。
もしも鬼だったらどうするか……
そこまで考えてクロウはニヤリと笑った。
(どうもこうもねえな。あの娘らのために体張れるのは俺だけなんだからよ!)
万一のために備え、愛用の大剣を構えたところで、その人影が姿を現した。



【アルルゥ、カミュ、ユズハ、ユンナ、郁美、ムックル、ガチャタラ 小屋の中でお喋り】
【クロウ 小屋の外で見張り 人影に気付いている】
【人影は誰かはお任せ】
【時間 三日目 午前9時頃】
207名無しさんだよもん:03/04/24 05:53 ID:pEAV0iBY
(・∀・)イイ!
208原稿をめぐって:03/04/24 18:12 ID:Sim+2YKP
サクヤは茂みの間から二人の鬼の様子を伺う。
「むぅ……大場詠美はどこに隠れたのでござるか?」
「あっちだな、あっちが怪しいんだな」
「同感でござるよ、オジャパマン」
(うそぉ……) 
 サクヤは歯噛みした。二人が示すその先には、まさしく詠美と由宇が休んでいるところがあるのだ。
「ううむ、眠いんだな」
「弱音を吐くな、ヤング同士! 全ては大場詠美の生原稿ゲットのためでござる!」
「承知してるんだな!! 頑張るんだな!!」
 もう、夜が明けるまで間もないというのに縦と横のテンションは上がる一方だ。
 檄を飛ばす二人の声を背にして、サクヤは詠美達の休んでいる場所へ先回りした。

「由宇さん、詠美さん、おきてください。あの人達来ちゃいますよ〜」
 木を背に互いにもたれるようにして眠っている二人を、サクヤは起こす。
「ん……ほんまか、サクヤ」
 先に起きた由宇にサクヤはうなずく。
「そうか……クソッ、ほんまにしつこいやつらや」
 教会の一件から続く縦と横との逃走は長期戦になっていた。何度か彼らを振り切り
身を隠す事に成功したのだが、なぜかその度に彼らはこちらを見つけてしまうのだ。
向こうは男性、こちらは女性。移動能力は負けてしまっている。
209原稿をめぐって:03/04/24 18:15 ID:Sim+2YKP
「ほら詠美、起きんかい。逃げるで」
「ふみゅ……またぁ?」
「ほら、さっさと起きる!! サクヤは寝てないんやで?」
 サクヤがいなければ、あっさり捕獲されていただろう。詠美達が休んでいる時に寝ないで見張りをし、
縦と横の気配を察知していち早く一行を移動させているのはサクヤなのだから。
「うん……ありがとうね、サクヤ」
 素直に礼をいう詠美の顔色は悪い。1時間も眠れないで移動を繰り返していれば無理もでる。
それでもいつもと違って詠美は泣き言を言わなかった。
(この人たちにとって生原稿って大切なものなんだなぁ……)
 サクヤはその様子を見て思った。
「あたしは平気ですよ。こう見えても、最強といわれるエヴェンクルガ族の端くれですから!」
 本当は、単に血を引いているだけで身体能力は最弱と知られるシャクコポル族のものであったが。
(でもこういうのって、心意気の問題だよね)
 そう思い、サクヤは自分を励ます。
 実際、彼女にはトゥスクルの皇の寝所に忍び込むだけの実力がある。
まあ、トゥスクルはそういうところが結構適当な国ではあるが。
210原稿をめぐって:03/04/24 18:15 ID:Sim+2YKP
「だけど、あの人達何でここまであたし達を追ってこれるんでしょうか?」
 周囲に気を配って歩きながら、サクヤは疑問を投げかける。
「オタクとしての嗅覚やな。たまにおんねん。そういうことに異様な勘を見せる奴」
「ふみゅ……わたしのせいだね……」 
 柄に無く責任を感じる詠美に、由宇は肩をすくめた。
「まあ、生原稿やるとたきつけたのはウチやしな。それに正直いうと悔しいねん。
あいつらが狙っとるのはウチの原稿やない、あんたのや」
 ポンっと詠美の頭の上に、手をのせる。
「だからな、誇りに思っとき。あいつら、マナーは最悪やけど眼力はある。あんたの原稿にはそれだけの魅力があるんや」
「あ、でもあたし、由宇さんのも面白いと思いますよ!」
 サクヤはすでに二人の原稿を読ませてもらっていた。
「あたし、全然詳しくないですけど、なんていうか、由宇さんが楽しんで、
そして思いを込めて描いてるなぁって伝わってきます! 完成したら是非続きを読ませて下さい」
「ああ! それって詠美ちゃん様が温泉パンダにまけてるってことぉ!?」
「え? えっと、そんな事無いですよ。あ、でも、ええと、あえていっちゃいますと、
ここはとても上手く書いているのに、ここの絵は手を抜いてて残念だなぁとか、そんな事を思っちゃったり……」
「ほぉ……あんた見る目があるなぁ。感心するわ」
「ふ、ふみゅーん。サクヤのくせにちょお生意気〜 いいわよ! この原稿手直しして
ギャフンといわせてやるんだからぁ!!」
「あ、あはは……楽しみにしてますね……」
 ふと、サクヤは上を向く。
「どしたん……クッ、雨か」
 ポツリポツリと水滴が上から降ってくる。
「あかん! 原稿水にやられてしまうかもしれへん!」
「それも大事ですが……雨の中歩くのは体力的に危険ですよ」
 かといって、うかつに近くの家に雨宿りする事も出来ない。
縦と横がこちらを察知しているというならば、最悪逃げ場をなくすことになる。
「もう少しで市街地に着きます。そこで広めの建物を見つけましょう」
211原稿をめぐって:03/04/24 18:16 ID:Sim+2YKP
「雨が降ってきたんだな」
「むぅ、これは好機でござるぞ。必ずあのヤングウーメンは雨宿りをするはず」
「あ、あっちの施設からオーラを感じるんだな」
「うむ、生原稿までもうすぐでござるな」

「なんやねん、超ダンジョンってのは」
 施設の中、超ダンジョンに転送される魔方陣を前にして由宇は呆然とつぶやいた。
「再度ご説明しましょうか?」
「質問をしたんやない、呆れとんのや!」
 HM-13に対して、疲れからか由宇は苛立った声をだす。
「でもちゃんすなんじゃない? うまく行けばあいつらまけるかも!」
「そうかもしれんけどな。このダンジョンはウチらには厳しすぎるで」
「そうですね。おじいちゃんみたいな人ならどこで会っても同じですけど、
ねこっちゃさんのような人ならまるで違います」
「そやな。こっちが傷つかないと考えられて全力で攻撃されたらたまらんわ。
原稿がパーになってしまう」
 思案する由宇に、外の様子を伺っていたサクヤが警告する。
「あの人たち、ここに来るみたいですよ! 逃げるなら早く逃げないと!」
 どうする? 体力の限界を承知でこの雨の中を今までのように逃げるか? 
それとも危険を承知で超ダンジョンに逃げ込むか?
 決断にかけられる時間は、残されていない―――

【詠美、由宇、サクヤ 施設の中の魔方陣の前】
【縦と横 施設の入り口】
【時間は明け方前】
【雨が降り始めた】
212侍魂:03/04/24 23:55 ID:oKHDa14L
「プハッ! ゴホッ、…………ふぅ」
岩切との勝負に惜しくも敗れたゲンジマルは大分下流の方まで流されていた。
流れはほぼなく、足元の石はかなり小さい。もう少し川に沿って下れば海に出るかもしれない。
ゲンジマルはとりあえず川原に上がり、しばらくの間そこを拠点とすることにした。

パチッ、パチッ、っと火の中で枝の爆ぜる音が響く。
マッチもライターも無かったが、彼の手に掛かれば空手であることなどさほど問題ではない。
少々時間はかかりはしたが、難なく火を起こした。
火の勢いはやや大きい。川に落ちてびしょ濡れの服を乾かす為だ。
燃えさかる炎を見ながらゲンジマルは思う。クーヤは、サクヤは無事だろうか。
この島には自分をも上回る使い手がいる。そんな連中を相手にして無事に済めばいいが……いやいや、これは鬼ごっこだ。戦ではない。
あの子らが楽しんでいればそれでいい。
全力を出して遊ぶことの楽しさを、自分は彼女に教わったのだから。
213侍魂:03/04/24 23:55 ID:oKHDa14L
意識はこれまで出会った相手へと向く。

ニウェ、天沢郁未、岩切花枝。

いずれも強敵であった。
この島には彼らのような、或いは彼らをも上回る猛者がいるのだろうか。
そんな輩を全力を持って相手する……自然、笑みが浮かぶのが自分でも分かった。
目線を炎から遥かな夜空へと移し、ゲンジマルは仁王立ちで星空に明日の奮闘を誓った。





……褌一丁で。



嗚呼 漢一匹ゲンジマル 褌一つ腰に巻き 遠い夜空に強敵(とも)を思う──
214侍魂:03/04/24 23:57 ID:oKHDa14L
そんなゲンジマルの様子を木の陰から見ている者がいた。
「…………何よ、アレ」
「何と聞かれましても……」「返答に困るのですが……」
ユンナと別れて以降、何となく行動を共にしていたきよみ(黒)とドリィ、グラァだった。
「あのお爺さん、あなた達の知り合い?」
「いえ、」「その……」
「何か耳が普通の人間と違うし、そうかと思ったんだけど……
 うわ、何か泣いてるし……ホントに知らないの?」
「はい」(ちょ、ちょっとドリィ!)(この場合仕方ないよ、グラァ……)
きよみ(黒)の訝しげな視線に即答するドリィ。
慌ててグラァがたしなめるが、ドリィは少しすまなそうな顔をしただけだ。
褌一丁仁王立ちで、何故か涙まで流す老戦士……端から見たらかなり怪しい。むしろ怖い。
ちなみにこのやりとりは双子ならではのアイコンタクトで行ったため、きよみ(黒)には伝わらなかった。
「まあいいわ、行きましょう。何となくお近づきになりたくないし」
「「はい……」」
((ゲンジマル様、申し訳ありません……))
そして三人はその場から遠ざかっていった。
215侍魂:03/04/24 23:57 ID:oKHDa14L
三人の足音も気配もなくなった頃。
ゲンジマルはいそいそと乾かしていた衣服に手を伸ばした。
エヴェンクルガ族の中でも『生ける伝説』とうたわれるゲンジマル、普段なら自分に向かってくる気配などすぐに
分かるのだが、夜空を見ながら強敵(とも)に思いを馳せていたために、いささか気付くのが遅れてしまった。
感極まって涙がこぼれるまで意識を飛ばしていたのは流石にやりすぎだったか。
その発達した聴覚のおかげで彼らの話も聞こえていた。が、その声を背中に慌てて服を着るのは
あまりにも格好が付かないと思い、彼らが立ち去るまで動かなかったのだ。
その頬がほんの少し赤く見えるのは、炎の照り返しのせいだけではあるまい。
もう誰も見ているものはいないのに少々焦って服を着るその背中は、心なしか先刻より随分小さく見えた……。



嗚呼 孤高のサムライゲンジマル 涙は己の胸に秘め 迷わず行けよ 漢の花道──



【ゲンジマル 川原で休息中】
【きよみ(黒)、ドリィ、グラァ 川原から遠ざかる】
【時間 二日目夜】
216セリオさんの天気予報:03/04/25 01:22 ID:OjfKhV+a
「気象庁のデータバンクにアクセス……リンクしました」
「気象衛星の監視データおよび各種データ……ダウンロード完了」
「分析開始します」

 ・ ・ ・ ・ ・

「分析完了しました」

「明日の降水確率──
 0時〜3時までは90%
 3時〜6時までは50%
 6時〜9時までは20%
以降はほぼ0%となりました」
「最高気温──26℃」
「最低気温──11℃」
「東〜南東の穏やかな風でしょう」
「明日の朝には雲は晴れ、青空がのぞいていることと思われます」
「昼以降は雲ひとつ無い快晴──暑さすら感じる陽気となるでしょう」

「今夜半までは激しい雨が降り続くでしょう」
「山岳部では、崖崩れ」
「川の増水等に留意下さい」

「明日以降は天気は安定すると思われます」

「ほいご苦労さん」
HM−13の各所に取りつけられたコードを引き抜きながら、彼女の生みの親は言った。
「雨も今晩だけっかぁ。さて、天気予報は当たるかね?」

【天気予報でした】
【四日目の天気です】
【気象庁のデータが元なので、外れるかもしれません】
217ブロークン・アロー:03/04/25 02:28 ID:O7PveclS
「Shit! 何なのあの子? 追跡術も気配の絶ち方もまるっきり素人なのに!」
「うぐぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜! 待つんだよ〜〜〜〜〜〜!!! ボクのたい焼きになるんだよ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「たい焼きならもう充分持ってるでしょうっ!」
 森の中。駆け抜ける2つの人影。
 一ツ、雌狐リサ・ヴィクセン。
 一ツ、たい焼き亡者月宮あゆ。
 すでにこの島で幾度と無く行われた、ありふれた追いかけっこの一つ……
 が、実力差を考えればこの勝負、結果は見えていた。世界をまたに駆けるエージェントと、奇跡の生き霊。
 どう見てもリサの方が……
「……なんでああ無意味に脚だけは早いの!」
「待てぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!!」
 ……とも言い切れなかったりする。
 
 時は少し遡る。
「お姉さんっ! ボクのポイント全部、たい焼きにお願い♪」
「全部? はいはい」
 メイフィア率いる参号屋台で大量のブツをゲットしたうぐぅ。ホクホク顔で森の中に戻り、焼きたてのたい焼きを頬張っていた折、
「フゥ……。今日は色々と忙しかったわね……。とりあえず、屋台で一休みでも……」
「ううん、やっぱりたい焼きは美味しいよ。よーしっ、もっともっと参加者を捕まえて、たくさんのたい焼きを……」
 ある日、森の中。
 
 ばったり。
「あ」
「え?」
 工作員と生き霊は出会った。
 
「……Escape!」
「わ! わ! わ! ちょ、ちょっと待って!」
 こうして、即座に身を翻したリサと、速攻でたい焼きを口の中に突っ込んだ月宮あゆの追跡劇はスタートした。

218ブロークン・アロー:03/04/25 02:28 ID:O7PveclS
 一方その頃、
「さて、とりあえずどうしたものかしら」
 新兵器を詰めた紙袋を小脇に抱えながら、香里は呟いた。
「目的によります。最優先事項が参加者を狩り尽くすことならば」
「今すぐにでも行動を開始するのが得策、よね」
 その一歩後を続くセリオと香奈子が言葉を続ける。
「ただ、もう夜も遅いし私たちもあまり体力に自信がある方とは言えないわ。他の参加者の中には、鉄人と呼ばれるような人々を軽く凌駕する能力を持つ方も多いようだし」
「現在の天候は雨です。この中を移動するとどうしても体力は消耗するでしょう。……私は平気ですが」
「そうよね……」
 香里は爪を噛みながら、
「今夜のところはどこか適当な建物を見つけて休むとしましょうか。正直、私も結構疲れてるし」
 クスリ、と香里が笑った。
 他の面々は香里のそんな表情は久しぶりに見た気がする。そんな、無邪気な笑みは。
「そうね。反対しないわ」
「私も賛成」
「私もです」
 満場一致。進路は決定。
「じゃ、とりあえず市街地の方にでも……」
 ……その時だ。
 
 Pi!
 セリオのレーダー装置に、アラート音が鳴った。
「……他参加者接近中! 1ツが1ツを追撃中!」
「え!?」
 香里の瞳の色が豹変する。
「なら追われてる方は逃げ手ね! 接触までの時間は!?」
「ダメです! 間に合いません! 3,2,1……コンタクト!」

 そして、木々の割れ目から現れたのは──────!

219ブロークン・アロー:03/04/25 02:29 ID:O7PveclS
「鬼の一団!? Shit!」
 リサだ。濡れ鴉ならぬ濡れ黄金色の髪をなびかせながら、森の隙間を駆け抜けるように現れ出でる。
「逃げ手……! 香奈子! セリオ! 真紀子さん!」
 即座に香里は叫び、捕獲を指示する。だが……
「甘いッ!」
 リサはターンと地を蹴ると、一際大きく跳躍、近間の木の幹を蹴りつけ三角飛びの要領で一行の頭上を飛び越えた。
「チッ! させないッ!」
 負けじと追いすがる香里だが、そこは地力の差。伸ばした指スレスレを美しくたなびく金髪が通り過ぎ、次の瞬間には森の闇へと吸い込まれていた。
「目標、ロスト。北東に逃走」

「……やれやれ」
 濡れた髪を整えながら、香里は嘆息を漏らす。
「もう少しだったのに」
「仕方ないわよ。突然のことだったし」
「そうね。それにあの動き、人外とまではいかないけど、相当訓練された人間のものだわ。正面勝負じゃ、私たちの勝ち目は無いわね」
 口々に反省、慰め、あるいはそれに類する言葉を紡ぐ人間3人組。が、一人セリオはリサが現れた方向を眺めていた。
「……どうしたのセリオ?」
「……美坂様」
 訝しげな香里の問いに、セリオは首をギギと動かして、
「ん?」
「そこ、危ないです」
 と一言警告。そんなセリオの言葉と同時に、現れた。
「うぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
 奇声を発しつつ、紙袋を抱えたうぐぅが疾風を伴って。
 
 どっごぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……ん!!!!!!

220ブロークン・アロー:03/04/25 02:30 ID:O7PveclS
「痛ッ!」
「うぐあっ!」
 小気味よい音が森の中に響き渡った。
 お互い、直前まで気づけなかった2人。香里とあゆは、モロに正面衝突してしまう。もんどりうって倒れこむ。
「香里っ!」
「……あなた、大丈夫?」
「え、ええ……だ、大丈夫よ。ちょっと、尻もちついちゃったけど……」
「う、うぐぅ……ご、ごめんなさい。前見てなくて……」
 即座に香奈子と真紀子が駆け寄る。が、幸いにもどちらも怪我は無いようだ。
「ああ、気にしなくていいわよ。それよりあなた、鬼ね」
「え? ……あ、うん。あ、皆さんも……?」
「ええ。残念ながら。お互いに、ね。ポイントにはなりそうにないわ」
「あ! それより!」
 あゆにしてみれば呑気に話し込んでいる暇は無かった。今は猛チェイスの真っ最中なのだから。
「ね、ねえ! ここに来なかった!? 逃げ手で、金髪ですごい脚の早い人!」
「ええ、来たわよ。あっちの方にいったわね」
 素直にリサが消えた方向を指さす香里。
「ありがとう! ボクの名前は月宮あゆ! それじゃあね! ボク急いでるから!」
 足下に置いていた紙袋をひっ掴み、あゆもまた森の闇へと消えていった。
 
「……忙しない子ね」
 あゆを見送った香里は、腕を組んで一つため息を漏らす。
「それより香里、『アレ』、袋から出しておいたら? さっきみたいな緊急時、袋に入れたままだと役に立たないわよ」
 香奈子の言葉。なるほど、一理ある。ていうか十理ある。
「それもそうね」
 香里も素直に頷くと、袋の口を開き、中に手を突っ込んだ。
「一体何を購入したの?」
 訝しげな編集長。香里は、子供が……小学生が友達に新しいゲームソフトを自慢するような、そんな無邪気な微笑みを浮かべつつ、
「フフフ……驚かないでよ」
 ゆっくりと手を袋から抜いていく。
「これが……私たちの……」
 ゴクリと固唾を飲んで見守る一同。
221名無しさんだよもん:03/04/25 02:31 ID:O7PveclS
「リーサル・ウェポン……」
 そして、とうとう最強兵器が……
「じゃじゃーーーーーん!」

 現れた!
 
「………………ねぇ香里、一つ突っ込んでいい?」
「お願い。勘弁して」
「私には、それは武器でなく、ただのたい焼きにしか見えませんが」
「……キツイこと言うわね、あなた」
「事実です」

【香里一行 『最終兵器』喪失。大量のたい焼きゲット】
【あゆ たい焼き喪失。『最終兵器』ゲット。ポイントは全額換金】
【リサ 逃亡】
【時間:3日目夜 場所:森の中 天候:降雨】
222深夜の逃走劇:03/04/25 18:52 ID:1K918Jys
「さて…そろそろでますか?」
 葉子一行は、一時的に雨を凌ぐ為に休憩していた。
 時間はわからないが、既に夜である。
「…もう深夜だぞ…せめて朝まで待たないか…」
 小一時間どころか、数時間の説教がよっぽど精神的に疲れていたらしい。
 A棟巡回員が文句を言うが、現在のA棟巡回員の立場は弱い。
 ちなみにA棟巡回員の持っている時計は2時をさしている。
 A棟巡回員は、時計の時間をこまめに合わす方ではないから大体その辺りという判断でしかないが
 それでも、深夜には変わりない。
「なんで今からでるのだ?」
「逃げ手の皆さんはおそらく睡眠を取る場所を探しているでしょう。だから――」
「寝込みを襲うのだなっ」
 A棟巡回員の一言に、葉子はじーっと冷たい視線を送る。
 慌てた様子でA棟巡回員は
「お、俺は変なことなんて考えてないぞ」
 と、フォローするが葉子の視線は治まりそうにない。
 A棟巡回員は仕方なく話題を変えようと出発を施す。
「そ、それより、そろそろ出発しないか?」
「…そうですね」
「うむ。それでは出発だの」
223深夜の逃走劇:03/04/25 18:53 ID:1K918Jys
 丁度、雨も止み葉子一行は海岸を離れ森に辿り着いている。
 森では複数の罠が解除したあとがあり、既に罠は少ないだろうと判断し回りを見渡しながら進む。
「誰もいないな…」
「余はお腹が空いたぞ」
「…そうですね、屋台でも探します――かっ!」
 葉子は木に向かって不可視の力を放つ。
 木は折れ、誰かが降りてくるのが分かる。
 ――どうやら、外したらしい。
「追うのだっ」
「…次は当てます」
 木の上で休んでいた女性―リサ―と葉子一行のチェイスが続く。
 不可視の力で、葉子は勢いをつけ早く追いつこうとしているが相手は世界をまたに駆けるエージェント。
 だが、互角に見えたが、少しづつ差は開いている。
「…仕方ありませんね、A棟巡回員さん、ちょっとこっちに」
「?」
 何か嫌な予感がしつつなんとか葉子に追いつく。
 そして…
「カタパルトっ」
「やっぱりかっ!!」
 リサは軽く避けるが、その間に葉子と神奈は差を追い詰めている。
 葉子とリサの差はほとんど無くなり、タッチの直前で――地面が破裂した。
224深夜の逃走劇:03/04/25 18:54 ID:1K918Jys
「獲物は貰ったわっ」
「…漁夫の利?」
「気にするな、舞」
 横から出てきたのは、舞と祐一と地面を破裂させた張本人、郁未。
「郁未さん、人の獲物を横取りするのは関心しません」
「これも目的のためよ」
「これだから、背徳者は…」
「余計なお世話よっ」
 郁未のこのセリフがきっかけとなり、葉子と郁未の不可視の対決が始まった。
 この島で既に2,3回も経験しているだけに、郁未の方が少し押している。
「舞、祐一…あと、由依。あの人の足止めをっ」
「神奈さん、あの人は頼みました」
 A棟巡回員はカタパルトで飛ばされたが、実はこの先で待ち伏せしている。
 その事実は、リサはわかっている。
 リサは、巡回員のいない方向へ曲がるが、そこは行き止まり。
 川を渡るにしても流れは速い。
 少なくとも、一般人は渡らないほうがいいだろう。
 祐一、舞、神奈はついにリサを追い詰める。
 先に、リサに近づいたのは神奈。
 そして、声がリサに近づいたと同時に聞こえた。
「これでも喰らえっ」
 その声は祐一。
 手には補充の完了している唐辛子噴射機。
 リサの付近を中心に赤い霧が覆う。
(おそらく、これで二人とも動けないはずっ)
 そして、しばらくして郁未と葉子が近づいてくる。
 郁未が勝負に勝ったようで、葉子は少し自制している様子。
「さて…ゲットさせて貰おうかしら」
225深夜の逃走劇:03/04/25 18:54 ID:1K918Jys
 郁未の声と赤い霧が晴れるのはほぼ同時。
 赤い霧が晴れ、姿を見せたのは一人。
 ――神奈。
「どうやら…逃げられたようね」
「ちっ…まさか逃げられたとは思わなかった…」

【時間 深夜(巡回員の時計によると3時半くらい。だが、信用できるかは微妙)】
【リサ 逃亡。ある程度の休息はとっている】
【葉子&郁未 不可視の力多用。多少疲れる?】
【A棟巡回員 一人離れた場所に】
226名無しさんだよもん:03/04/25 20:37 ID:9aei6Cy1
(・∀・)イイ!
227訂正:03/04/25 21:02 ID:vduToZhJ
185-188「或る報告書」

>管理者「T.K」→管理者「C.K」

> 管理者補佐「A」、
> 管理補佐「A」、状況「J」発生と認定。
> 管理室補佐「A」、サテライトキャノン使用許可を申請。 

管理者補佐「A」
に統一。

お手数ですが、編集サイト管理人の方、訂正お願いします。
228名無しさんだよもん:03/04/25 21:11 ID:OjfKhV+a
(・A・)イクナイ!
229実況中継:03/04/26 01:59 ID:7/PD0+SY
さぁさぁやってまいりました。
戦闘を駆けるは柏木家の次女、爆裂パワーの柏木梓であります。
それに追随して日吉のかおりんが爆走しております。彼女の本来持つ身体的能力を考えると、これは大金星でありましょうか。愛の力と言うべきでしょうか。
二人に四メートルほど置いて続くは、ミスホットケーキ、honeybeeの看板娘、江藤結花であります。まるで衰えない駆ける速度、水泳で鍛えた体力はさすがと言うべきでしょうか。
しかし追っ手も負けてはおりません。
江藤選手の後方、五メートルほど開けまして駆けるは、広瀬の真希嬢であります。クラス番の意地を見せるのか。広瀬真希。
そしてエディ選手、なっちゃんにけんちゃん、雪ちゃんと続いております。
最後尾は橘の敬介殿。見た目は若作りでも所詮は中年か、体力が限界に近づいているようであります敬介選手。
おーっとここでエディ選手が抜け出た! 広瀬嬢の妨害をするりとかわし、一気に抜き去りました。さすがはエージェント、優れた身体能力です。
みるみる江藤選手との差を詰めていきますエディ! さぁついにこの追いかけっこに決着が付くのでありましょうか!

あー、っと、これは、これはどうしたことか!

転んだっ! エディ転倒しました! まともに顔面から落ちていきました! 泥まみれです! 何とも惜しい! もったいない!
しかし、まるでアホの子です! 観客の皆様静粛に! どうか落ち着いてください!
さぁ、広瀬、骨董二人組と、転んだエディをここぞとばかりに抜き去っていきます。深山選手にも置いて行かれました!
肩で息をする敬介選手、立ち止まり、相棒に手をさしのべます。置いて行かれた男二人、これは心温まる友情の光景といえましょう。

【敬介 エディ 脱落】
230実況中継:03/04/26 01:59 ID:7/PD0+SY
さて、ここで、先頭グループは下り坂に突入していきます。
逃げ手三人、細心の注意を払いながら駆け下っていきます。
あれは鶴来屋別館でしょうか、木々の切れ目から、巨大な建物がのぞいております。
そこに向かうこととしたのでしょうか鬼娘、後方のホットケーキ娘に身振りで指示しております。結花嬢、頷きました、交渉成立の模様です。
広瀬、健太郎、なつみ、雪見、と下り坂道に入って参りました。わずかなバランスの狂いすら、命取りになります雨でぬかるんだ土道の坂。

各選手、順調に駆けております。
なかなか差が縮まっていきません。下り坂に入り逆にペースは落ちているのですが、返ってそれが災いしておるようであります。
んーーー? ここで雪ちゃんが勝負に出たーーー!
体勢を前傾姿勢として、猛奪取を賭けます深山選手! ぐんぐん差を詰めてゆきます、骨董品コンビを抜き去り、先ほど転ばされた怨敵に迫る迫る!
抜き去ったーーー! 妨害を行う暇すら与えず、一息に抜き去りました深山選手、江藤結花、後方を振り返り、顔色を変えます。
何事か言い放ちます。先頭を走る二人、その声に振り返って、

血相を変えました柏木梓!

江藤選手、前傾姿勢で突っ込んできます! 無茶か無謀かあるいは勝算あってのことなのか!
そのすぐ背後から、演劇部部長も驀進して参ります! 足に追った擦り傷もなんのその、これまでのうっぷんをまとめて晴らすかのごとき、雄々しき姿であります!
これは慌てる先頭二人! 一瞬躊躇の後、梓、かおりと続けてダーッシュ! 山の、ぬめった、泥の、下り坂道を、四人の少女たちが駆け抜けていきます!
いやいやまだまだ早計でした! 広瀬真希選手、傲然と後を追ってまいります!

残る二人は……おっと、これはいけません。
なつみ選手、泥に足を取られたのでしょうか、しりもちをついております。尾てい骨をうったのでしょう、苦悶の表情を浮かべています。
宮田のけんちゃん、相方に手をさしのべます。ずぶぬれに濡れた二人、歩き始めました。どうやら、追撃は断念した模様です。 
おそらく、山裾にそびえる建物に向かうのでしょう。

【健太郎 なつみ ずぶぬれ。雨の山中を、鶴来屋別館に向かう】
231実況中継:03/04/26 01:59 ID:7/PD0+SY
さぁ、こちらは脱落者続出にも気付いてはおりません、追うものと追われるもの、食うか食われるかの激しいチェイスが続いています!
無謀・無茶・命知らず・いくつもの形容が可能でありましょう。この五人、足が壊れることを考えていないのでしょうか。
めちゃくちゃな暴走ぶりであります。

…………いや、これは……

失礼いたしました。
当方、観察眼に過ちがあったようでございます。
単に、勢いがつきすぎて止まれなくなってしまったようでございます……
悲鳴らしきものが上がりましてございます。

【五人、止まれない】
【梓かおり  結花  雪見   真希 の順】
【徐々に近づいてくる鶴来屋別館】
【三日目早朝 山 雨天】
【五人ともいい感じに濡れている】
【雪ちゃん軽傷中】
232名無しさんだよもん:03/04/26 02:43 ID:JJoA/kLh
 ぴーんぽーんぱーんぽーん♪
 作者様の、お呼び出しです。

【「深夜の逃走劇」作者様、貴殿の作品にアナザー行きを望む声が上がっております。
 つきましては、本日(4月26日)の零時(終日)までに何らかの見解を感想スレに書き込むようお願い申し上げます。
 何の反応もいただけないようですと、深夜の逃走劇の処遇は『葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレの議論結果に一任される形となります』
 では、よろしくお願いいたします】

 なお、感想スレのURLはこちらです→http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/l50

 作者様の、お呼び出しでした。
 ぴーんぽーんぱーんぽーん。
233いとっぷの思い出:03/04/26 02:43 ID:mm/kjknr
 さてみなさんお久しぶりです。
 いとっぷで御座います。
 あっ、3カメさんもっと下から、そうその角度で。
「大丈夫? 3カメどころかカメラなんて一台もないよ」
 うっさい貴之、水を差すな。
 お前にはカメラを独占したいという欲望はないのか?
「いやそれ程……」
 く、音楽活動やってるくせに。
 ……まあそれはさて置き、私はどうにか湯浅さんに例の事実を知られるのを食い止めました。
 情状酌量の余地が東京ドーム分くらいある悲しい事件でしたが、やはり私に責任はないと神が言ったに違いありません。
 おお神よ……サンキューな。
 お礼はしっかりと言って置きましょう。
 もしかしたらああいう事件を再び起こしてくれるかもしれません。
「それで湖とか川とかによく行ってたんだね」
 ………
 ……まあしかし、私も弁えてきました。
 出番が少ない、影が薄い、小物と言われて幾星霜。
「いや、君まだ新入りだし」
 この雨、そして我が手にあるこの使い捨てカメラ。
 これがどういうことかわかるか我が助手よ?
「誰が助手? 記念写真でも撮るの?」
 そうまさに記念写真ですよ!
234いとっぷの思い出:03/04/26 02:44 ID:mm/kjknr
 この雨の中でも、外を歩いている美少女達&美女達はかなりいるはず!
 そして、雨に濡れぴっちりと肌に張り付いた衣服は、マニア垂涎、俺も垂涎、なんと全裸の1.5倍のエロチックさ!(世界一のエージェント調べ)
 脇役だし優勝は狙いません。
 ただ参加記念をちょっといただいていこうという訳だよ。
「どんな訳……」
 さらに湯浅さんのそんな写真でも取った日にゃあ、伊藤家の家宝間違いなし!
 どうだね、貴之さん。君も手伝ってみないかい?
「……え、でも」
 何なら、君好みの子の写真も撮ってあげるよ?
「………」

 ガシィ!(腕を組む音)

 ハッハッハッそれでこそマイ同士。
 では行くぞ! 我らの光を目指して!
「……とりあえず、それやめない?」
「そうですね。疲れるし」

【いとっぷ 使い捨てカメラ所持 思い出のピクチャー作成提案】
【貴之 いとっぷの提案に乗る】
【三日目朝】
【雨】


 雨だ。
 雨が降っている。

 雨の本性は濡れること、火は燃えること、夜の一大原因は太陽が見えなくなること
 とはいうけれど。

 あさひときよみ、そして自分の姿を見る。
 突然の雨で、見事なまでの濡れ鼠ができあがっていた。
 あさひなど、半分涙目になっている。
 その気持ちはよくわかる。
 髪は水を吸って重くなっているし、顔に貼りつく感触が不快を増幅させているから。
 服など下着まで……。
 ……ともかく。
 雨宿りをと小屋を見つけたものの、ここから動けそうにない。
 厄介なことに雨雲の方も当分は役目を忘れてくれないようだ。


 いやな、ゲームだ。
  

 彩は思う。
 

 けれど、同じこの空の下にあの人がいる。
 父と似た懐かしい匂いのするあの人。
 そちらの現実では遠い存在になってしまったあの人が。


 夜の帳が下り、随分経つ。
 もうすぐ日も昇るだろう。
 雨もいつかはやむ。
 あの人はいま何をしているのだろうか。 

 
 そういえば、この状況――――。


 彩の脳裏にある情景が思い浮かんだ。


 夜の闇と降りしきる雨の中、佇む自分。
 ずぶ濡れの自分に駆け寄る彼。
 PC版だと、その後は彼の部屋で――――


「……あ、あの、彩さん? どうかしました? 顔赤いですけど……」
 あさひが心配そうに声をかけてきた。
 こんな場所で風邪でもひいたら……、と思ったのだろう。
 確かに下手に風邪をこじらせでもしたら、肺炎になりかねない。
 濡れている為か或いは夜の為か、季節に似合わず肌寒くもある。
「……いえ、なんでもありません……」
 かぶりを振って否定する。
 まさか、隣であんなことを考えていたとは考えもしないだろう。
 あんな……。
 あん……。


 ……と、ともかく。
 ともかくだ。
 絶海の孤島。
 非日常的な現実。
 状況に翻弄される男女。 
 何が起こってもおかしくない。
 上手く立ち回ればもってこいのシチュエーションではないか。
 フレッチャーも言っている。「恋と戦争においてはあらゆる戦術が許される」と。

 
 となれば、今しなければならないことはたったひとつ。
 

 ――――そう。あの人を探す。


【彩 妄想驀進中】
【あさひ きよみ(白) 服を乾かす思案】
【場所 小屋】
【時間 二日目深夜〜三日目早朝前】
【天候 雨】
239訂正2:03/04/26 02:52 ID:c8pjn85e
185-188「或る報告書」

>【水瀬秋子 柏木千鶴 足立副会長】

【水瀬秋子 柏木千鶴 足立社長】でした。
なんどもすみません。
240いつか、約束:03/04/26 04:20 ID:s187cd/p
 時間は明け方より数時間前。雨の降り始めた頃。街中の施設の一室で、
由宇は彼女らしくなく思案していた。
 目の前には超ダンジョンとか言う得体の知れない場所につながる魔方陣がしかれている。
これを使用すべきか否か。迷っている事はそれだった。
「あの人たち、もうきちゃいますよ! 逃げるなら早くしないと!」
 サクヤの警告に、由宇は顔をゆがめる。
 超ダンジョンに入らなければ、今までの逃走が続く。もう体力も限界なのに。
 超ダンジョンに入れば、実力だけがものをいう(原稿が)危険な場所に赴く事になる。自分達は人外の力を持たないというのに。
(迷っとるのか……?ウチらしくもない。こういうのはノリで決めんと!)
 だが、疲れが頭にきているのか決断が出来ない。かなりの貴重な時間を費やした挙句、由宇はは重い口を開いた。
「苦肉の策かも知れんけど……一つ試してみたいことがある」
241いつか、約束:03/04/26 04:21 ID:s187cd/p
「ようこそ、テレポートルームへ。この魔方陣は、特殊エリア、超ダンジョンの入り口と
なります」
 数分後、魔方陣の部屋に入ってきた縦と横に、HM-13 の無機質な声が響いた。
「ううむ……面妖な装置でござるな」
「ん……何か落ちてるんだな」
 HM-13の説明を聞きながら、横は魔方陣の中に落ちているものを拾い上げる。
「薄刃カッターなんだな」
 普通の100円カッターより高価なものであり、刃が薄い分細かい作業に向いているカッターである。
 刃を覆う握りも100円カッターよりも重たいもので出来ている。
「猪名川由宇の匂いがするんだな」
「むぅ……もしややつらはここからダンジョンに逃げたのではなかろうか」
早く追いかけないと見失うぞ!」

『よし……うまく行きそうや』
 魔方陣の部屋の、縦と横が入ってきたものとは別の入り口の影。
室内の様子を伺っていた由宇達は、その縦の声に安堵のため息を漏らした。
 彼女達は超ダンジョンに入らなかった。かわりに、カッターを魔方陣に追いとくことで
自分達が、超ダンジョンに逃げ込んだと見せかけたのだ。
『温泉パンダのわりには冴えてるじゃない。詠美ちゃん様が褒めたげる』
『これでゆっくり休めますねー』
 これで縦と横が超ダンジョンに入れば、自分達は完全に彼らをまいたことになる。
少なくともかなりの間、彼らに追われることは無いだろう。
242いつか、約束:03/04/26 04:23 ID:s187cd/p
 だが、次の横の台詞に三人は凍りついた。
「おかしいんだな。このカッターまるで傷がないんだな。
この重さのものをコンクリートの上に落としたというのなら、傷の一つもつきそうなものなんだな」
「落としたのではなく置いたといいたいのでござるか? むう……確かに大場詠美はまだ近くにいる気がするぞ」
「ダンジョンに行くのはここを調べ上げてからした方がいいと思うんだな」
(小細工が過ぎたか……ほんまウチらしくなかったわ)
 まさか今まで道具を大事に扱ってきた事が裏目に出るとは。
こんなことなら、さっさとどこかに逃げたほうがましだった。
『今ならまだ逃げられます。いきましょう!』
『ふみゅ……また走るのぉ?』
 一度は休めると思っただけに、この落胆は大きい。詠美の顔色はもはや蒼白になっている。
『原稿とられたくないやろ? さっさと行く!』
 こうなった以上、一刻も早くここから立ち去る。由宇はそう考え、詠美の腕を引っ張る。だが―――
「ふみゅ!」
「な!」
 決して、由宇は強く引っ張ったわけではなかった。かといって、詠美が不注意だったわけでもない。
 ただ、詠美は、あるいは由宇も、あまりにも疲れすぎていた。
 由宇が引っ張った拍子に、詠美の足がもつれ、由宇にのしかかり、
ドテッという音とともに、二人は転倒する。
 その音は当然部屋内の縦と横にも聞こえていた。こちらを振り向いた縦と横と、転倒した由宇と詠美の目があう。
243いつか、約束:03/04/26 04:24 ID:s187cd/p
(終わったな―――しまらん結末や)
 ここで気付かれたのでは、もう逃げられるはずが無い。
「ふみゅ……ごめんなさい……」
(悪いのは、ウチや。あんたはよう頑張った)
 謝る詠美に、由宇は返答する気力さえもてない。
「見つけたんだな!」
「原稿頂くでござるよ!」
(勝手にせい……ウチらの負けや)
 起き上がろうとする努力も見せず、由宇は観念した。
(せめて、サクヤ。あんたはちゃんと逃げ。まだ体力あるやろ)
 だが、そんな諦観を吹き飛ばすように、
「武神ゲンジマルが孫、サクヤ参る!!」
 サクヤの裂帛の声がその場を切り裂いた。
 その声と同時に、すさまじい速度で倒れている詠美と由宇の間を駆け抜け、
今しもこちらに駆け寄ろうとしていた縦に体当たりをかけ、
「な、何をする……!!」
 縦を魔方陣の中に押し戻し、
「は、放すんだな!」
 縦と、未だ魔方陣の中にいた横の腕を掴み、
「なーんて、こんな事いったらお爺ちゃんに怒られちゃいますね」
舌を出してにっこりと笑うと、
「―――転送してください!!」
と、叫んだ。
244いつか、約束:03/04/26 04:24 ID:s187cd/p
「了解しました。縦王子鶴彦、横蔵院蔕麿、サクヤの三名を超ダンジョンに転送します」
HM-13の金属の声とともに、三人の身体が光に包まれる。
「な、なにしよるん!」
「サ、サクヤぁ……」
 狼狽する由宇と詠美。その二人に、サクヤは鬼二人を押さえつけたまま微笑む。
「今夜はゆっくり休んで、すてきな作品を作ってくださいね。
そして、いつか私に見せてください」
 理不尽な転送に抗議する縦と横、なおも微笑むサクヤ。
その三人の輪郭がぼやけ、そして消失した。
「約束しちゃいました」
 そんな悪戯っぽい声をのこして。

「うそぉ……サクヤいっちゃったの」
 呆然とつぶやく詠美の横で、由宇は立ち上がると、自分の頬をガツン、と殴る。
「ゆ、由宇?」
「ほんま、どうかしてたわ。諦めてしまうなんてな」
 もう一度、自分の頬を殴ると、由宇は詠美の腕を引っ張り起こした。
「詠美。凹んでる場合やあらへん。今日は休んで、そして、最高の作品を描こ。
それをサクヤに見せたろやないか」
 詠美は、しばらく沈黙した後、
バチンッと自分の頬を叩いた。
「分かったわよ。見てなさいサクヤ。こみぱクイーンの本気、見せてやるんだからぁ!!」

【由宇、詠美 疲労困憊。市街地の施設、魔方陣の部屋】
【サクヤ 縦によって鬼化。超ダンジョンへ】
【縦 一ポイントゲット。超ダンジョンへ】
【横 超ダンジョンへ】
【時間は三日目明け方前。雨が降り始めた頃】
245名無しさんだよもん:03/04/26 05:42 ID:LF+PU/kM
カナリ(・∀・)イイ!
246飛べ耕一:03/04/26 13:54 ID:Ww2eRBn2
「瑞穂ちゃん」
「どうしました?」
「さっきから鬼にしか会わないのは何でだろう?」
「多分、鬼の方が圧倒的に多いからじゃないですか?」
「やはりそうか……」
 そうなのである。
 耕一はそのエルクゥの五感をフル活用し、人の気配を見つけるたびにそこに向かっているのだが、今だ出会った逃げ手はリサ=ヴィクセンのみ。あとぜんぶ鬼。
 いかにエルクゥといえどもいないものを捕まえることはできない。
 エルクゥパワー全開で島を走り回れば話は別かもしれないが、この雨の中世話になった瑞穂を置いていくわけにもいくまい。
「そうだ。耕一さんジャンプできますよね?」
 何か思いついたのか、いきなり質問する瑞穂。
「ん、ああ。自慢じゃないが俺のジャンプはちょっとしたもんだぜ」
「遠くまで見えるんですよね?」
「うん。確かに視力も上がってるかな? ってまさか……」
 うすうす瑞穂の言いたい事を察する耕一。
「跳んでください」
「やっぱり……」

247飛べ耕一:03/04/26 13:55 ID:Ww2eRBn2
「というわけで行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 軽い挨拶を交わし、
「せい!」
 耕一は飛び上がった。
 雨の滴を、弾き、砕き、散らしながら、放たれた弓矢のごとくどこまでも上昇する。
「雨の日にやると、目が痛いんだよなこれ」
 そんな文句を言いながらもぐんぐん上り続け、ついに運動エネルギーが0となる瞬間が来た。
 跳んだ地点の近くにあった大木を完全に下方にし、ぐるりと辺りを見回す。
 鬼の視力にはそれで十分だった。
「えっと、襷がかかってないよう見えたのはあっちとあっち」
 落ちながら、得た情報を吟味し整理する耕一。
「やっぱ雨であまり視界が良くないな、とりあえず二つか」
 そして体のバネを生かし軽やかに着地。
 あれだけの高さから降りたにしては衝撃が少ない。
 慣れたのだろうか?
「お帰りなさい」
「ただいま」
「どうでしたか?」
「うん、見つけた。行こうか」

248飛べ耕一:03/04/26 13:56 ID:Ww2eRBn2
「……今の見た?」
「……人が飛んでましたね……」
「……世の中には凄い人もいるんだねー」
「……凄いとかそういう問題かなあ?」
 夕菜と皐月、二人は親交を深めていた。
 ある意味では敵とも言えるべき二人であるが、皐月のサバサバした性格と夕菜の包み込むような性格がマッチしたのであろう。
 今ではおねしょが直った年や、試験の得点まで教えあった間柄だ。
 ……宗一の。
 それはさて置き、皐月の優れた視力は今の飛んでた人物が確かにこちらを見たのを捕らえていた。
「夕菜さん急いで移動しましょう。
 さっきの人、間違いなく一瞬こっちを見てた」
「あ、うん、そうだね。鬼に見つかったらダメだもんね」
「はい、あの人が鬼だとしたら、きっとすぐにここにやって来ますよ」

「実はもう来てたりして」

 瞬時に反応し夕菜を後ろに庇う皐月。
 先程は遠目であったが、飛んでいた男に間違いない。
 しかも鬼の襷をかけている。

「悪いけど捕まえさせてもらうよ」

【皐月&夕菜ピンチ】
【耕一&瑞穂 皐月&夕菜発見】
【三日目 午後二時】
249人外 2×2(ツーバイツー):03/04/26 20:24 ID:FZAy1QOS
光岡は焦っていた。
朝方自分よりもはるかに撃墜数を稼いでいる学生二人を目の前にして俄然発奮したはいいが、肝心の獲物が見つからないのだ。
時間ばかりが虚しく過ぎていく。太陽は見えないが、周囲は徐々に薄暗くなってきていた。
このままではいかん……ユズハさんや蝉ちゃんに合わせる顔が……いや、焦るな。
戦場では自分を見失ったものから命を落とす。焦りは己を殺す。落ち着いて、周りを見ろ──。
心の中で呟き、深呼吸をした矢先、視界に何かが飛び込んできた。
一人の女。襷は掛けていない。逃げ手だ。
「……よし」
逃がすわけにはいかない。
慎重に、死角から近づいて一気にしとめる!
体勢を低くし、草むらに隠れるようにして光岡は女──名倉友里に近づいていく。


……
………今!

獲物を自らの間合いに入れた瞬間、光岡は駆けた。パシャッ、という水を蹴る音にこちらを振り向く女。
なかなか反応がいい。だがそれだけだ。逃げる暇もかわす暇も与えない。
──とった!
だがそう思った瞬間、伸ばした手は虚空を切る。見ればやや先の方で、女を抱いた男が着地したところだった。
250人外 2×2(ツーバイツー):03/04/26 20:25 ID:FZAy1QOS
そのとき名倉友里がみたもの。凄いスピードで迫ってくるなにか。
そのとき名倉友里が感じたもの。一瞬の浮遊感。
そしてようやく落ち着いたとき、友里は先程別れた男──柳川祐也に抱きかかえられていた。
「ちょ、ちょっと何よあなた!」
「何よとは随分だな。せっかく助けてやったというの、に!」
答えながらまた跳ぶ。会話の隙をつこうとした光岡の手から逃れ、間合いを広げる。
「……とりあえず、あの鬼がまた来ない内に下ろして」
ひどく不機嫌そうな顔で友里が呟く。
その顔を見て、柳川は己の心に楽しさが広がるのを自覚した。
それが外にも表れたのだろう、柳川が刹那見せた子供っぽい笑い顔に、友里は一層不機嫌になる。
「意外と性格悪いわね、あなた……」
「何のことだ」
そんな楽しそうな顔して何のことだもないものだ。
「顔がにやけてるわよ」
と、思いっきり嫌みったらしい口調で言ってやったところで光岡が姿を見せる。
む、と少し意外そうな顔をした柳川にほんの少し溜飲を下げて、友里は走りだした。
251人外 2×2(ツーバイツー):03/04/26 20:27 ID:FZAy1QOS
「しつっこいわねあの鬼!」
意識を集中し、地面を爆発させる。水と泥が舞い上がり、鬼の視界は遮られる筈。その隙に撒こうと全力で走る。
にもかかわらず、あの鬼を振り切れない。そのことに友里はいささか苛立っていた。
「落ち着け。あの鬼、おそらく何らかの訓練を受けている。しかも警察より本格的な奴を、だ。
 幸い身体能力はこっちの方が上のようだ。お前の力なのか知らんが、無駄うちせずに逃げることに集中しろ」
「そんなことよりあなた、何で当たり前のように私の隣走ってるのよ」
柳川は答えない。何というか、本当にいい性格をしている。
だが、そんな男でも言っていることは的確だと友里は分析した。
あの男も身体能力は大したものだが、厄介なのはむしろその追跡能力の方だ。
不可視の力による目くらましにも怯まず、走りやすい足場を選んで追ってきている。
生憎とこちらは『力』持ちでも、何らかの専門訓練を受けたわけではない。
駆け引きを打ちながらの逃走戦ではこちらが不利だ。
ならばどうするか。出てくる答えは単純明快。

あの男が追いつけないくらいのスピードで逃げ切る!

が、友里の思惑は出し抜けに現れた一人の男のせいで崩れることになった。
252人外 2×2(ツーバイツー):03/04/26 20:28 ID:FZAy1QOS
「楽しそうだな。儂も混ぜてもらおう」
そんな声がしたのはすぐ後ろ。慌てて振り向いた友里は見た。
それは柳川の背後から迫る、一人の老人。今度はその肩に襷が掛かっているのが分かった。
咄嗟に不可視の力を近くの木にうつ。自然ではあり得ない力を幹に受け、ひしゃげ折れる木。
しまったと思ったときにはもう遅い。
直撃コース。このままではあまり面白くない事態になる。
軌道をずらすため、再び力を木にぶつけようとする。
だがその必要はなかった。

「ムゥン!」

裂帛の声と共に、自分めがけて倒れてくる木を一刀のもとに切り捨てるニウェ。
ずぅん、と重い音が辺りに響くのと、光岡が追いついたのがほぼ同時。
一瞬だけ、静寂が生まれる。
その一瞬で、ニウェはこの場に会した人物を吟味する。

あのゲンジマルを捕らえた少女と同じような力を使う女。
昨夜まみえた白髪の男と同じ感覚を持つ小童。
そして、人の身をしていようと隠しきれないほど強く、人にあらざるモノの匂いを放つ男。

──ひどく、楽しいことになりそうだ。

獲物にも会えず夜を越し、雨が降ってきたときは流石の自分も立ち止まった。
だが、休息もそこそこに再び獲物を探し歩いた甲斐があったというものだ。
かつて無い狩りの予感に、ニウェは身を震わせた。
253人外 2×2(ツーバイツー):03/04/26 20:29 ID:FZAy1QOS
「クカカカ! 儂を楽しませてみろ、小僧!」
「俺とユズハさんのため、おとなしく鬼になれ、女!」
何やらむやみに燃えている二人の鬼の叫びを聞き、友里は呟く。
「……ねえ、これ鬼ごっこよね?」
「ああそうだ。で、何が言いたい?」
「……いいわ。愚痴ったところで状況が変わるわけでもないし」
言ってまた目くらましのために不可視の力を後ろの地面に叩き込む。
だが、派手に上がる水しぶきなど意にも介さず、二人の鬼はこちらを追ってきていた。
「ハードね、まったく」
そう言う友里の顔は、笑っていた。

人の身には過ぎたる、不可視の力をその身に宿す女──名倉友里。
伝承の鬼、真なる狩猟者の血を受け継ぐ男──柳川祐也。
大切なものを守る、そのために仙命樹を受け入れた戦士──光岡悟。
己の本能に忠実に生き、大国の頂点に立つ老皇──ニウェ。

彼らの逃走──否、闘争は始まったばかり。
雨が、また少し強くなった気がした。


【友里、柳川 全力で逃げる】
【光岡 全力で追う ターゲットは友里】
【ニウェ 全力で追う ターゲットは柳川】
【時間 三日目夕暮れ】
【場所 森の中】
254名無しさんだよもん:03/04/26 23:12 ID:7/PD0+SY
「深夜の逃走劇」作者様、貴殿の作品にアナザー行きを望む声が上がっております。
残り時間が一時間を切りました。早急に反応なさらないと、深夜の逃走劇の処遇は『感想・討論スレの議論結果に一任される形となります』

なお、PC不調、休養等の理由で書き込みできなかった場合でも、そのような事情は考慮するものではありません。
よろしくお願いいたします。
255ごめんなさい:03/04/27 22:12 ID:omvj2fQ4
「……あった」
そこにあるのは魔法陣。床面に描かれた、正体不明とも見える文様だ。
「さぁ、こいつをどうにかしてくれ」
早速芹香に振る北川。いつもの無表情のまま、じっとその模様を見つめる芹香。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え? すみません、原理がさっぱり分かりません、って?」
こくり。綾香の翻訳に頷く芹香。
「分からないって」
驚く罠仕掛け二人組。
「君も魔法使いなんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は召還や占いなどが専門で、こういうのは専門じゃないんです」
こくり。
「……じゃぁ、これどうにもならない?」
こくり。
「解除するとか、変な罠仕掛けるとかできない?」
こくり。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
じっと見つめ合う二人。
256ごめんなさい:03/04/27 22:12 ID:omvj2fQ4
「……そうか」
「・・・・・・」
「そうなんです」
「どうするよ、北川」
「……どうするもこうするも……」
「えーと、よく分からないけど、それじゃあたしたちはお役御免ってことで良いかしら?」
尋ねる綾香。この二人のノリにいい加減うんざりしていた彼女にとっては、別れる良い機会だ。
「お役御免……でいい……かな……」
心底落胆している様子の二人。住井のつぶやきに、北川も小さく頷く。
内心でガッツポーズの綾香。
「ごめんね、お役に立てなくて。じゃ、また縁があれば」
とか言って、さっさと芹香を引き連れて魔法陣に乗ろうとする。
「・・・・・・・」
「食事、ありがとうございました、って」
「・・・・・・・」
「今度、こういう系統の魔法についても勉強してみます、って」
ぺこり。
一礼する芹香。手を振る綾香。魔法陣に乗った二人の姿、やがてかき消えて、
しん、と静寂だけが残った。
257ごめんなさい:03/04/27 22:12 ID:omvj2fQ4
【芹香 綾香 ダンジョン脱出】
【北川 住井 さしあたりの目的を見失い呆然】
【栞 相変わらずセリフすらなし、いっしょにいることはいる】
【三日目一五時くらい】
258男と女:03/04/28 22:57 ID:Z/HO9atZ
雨降る森。
木々が深く生い茂り、雨粒は地まで届かず枝葉に溜まる。
時折、溜まった水滴が地に落ちていく音。男の鋭敏な聴覚が捕らえるのみ。
そう。静かな森。周囲に誰一人として存在しない、男一人の森。
銀髪の男。目を閉じ、じっと木にもたれかかるのみ。
眠っているのか、あるいは死んでいるのか。微動だにせず、じっとただ居るのみ。
気配を消し、隠形を保ちながら、男はただじっと。

そっと、男の目が開いた。ただそれだけの動作で、死人とも見えた男が、一瞬にして生気を帯びる。
ざわり、と吹く風。これから起こる邂逅を暗示するかのような。
ざわり、と鳴る藪繁み。女の影が差し見える。
「……岩切……か」
男が言った。
「ふ、坂神、おまえが捕まるとはな」
女が答えた。
「おまえは、まだ逃げ続けているのか」
「むろん。私がそうたやすく捕まるものか」
がさりと藪が鳴り、女が姿を現す。
「坂神、どうする。私を追ってくるか?」
「無駄なことはしない。この雨の中、おまえを捕まえることなど出来はしないからな」
「そうか」
女は微かに笑う。憫笑か、嘲笑か、あるいは自嘲なのか。
それは誰にも分からぬこと。
259男と女:03/04/28 22:57 ID:Z/HO9atZ
「なんの用なのだ、岩切」
「おまえの姿が見えた。だから来た。それだけだ」
「そうか」
「特に何か用があったわけではない」
「そうか」
「もう行く。油を売っていても仕方がない」
「そうだな」
そして歩き去ろうとする女。

「──御堂と光岡」
男がぽつりと言った。女はそれを聞き取り、足を止める。
「捕まっていない強化兵は、おまえだけだ。岩切」
「──だからどうした」
「気をつけろ。この鬼ごっこ、我々とても悠々としてはいられないぞ」
目を閉じたまま、男は独り言のように言葉を紡ぐ。
「──そんなこと、とっくに知っている。初日から、この身をもって体験している」
くくっ、と笑い、女は雨中に去っていく。

息を細めつつ、男は思う。
「──岩切。願わくば」

歩き去りながら、女は思う。
「坂神よ、願わくば」


「五分の条件で、貴様と──」


【森】
【三日目朝】
【蝉丸雨宿り中】
260耳を澄ませば:03/04/29 01:22 ID:vrNVK3gF
「お、あの建物なら休めそうだな」
「そーやな……駅みたいやな」
楓との一方的な賭けを持ちかけられてから数時間、智子達は雨宿りできそうな場所を探して歩き続けていた。
「食べ物があるかもしれへんで、川名さん」
「あ、本当? 良かったね、ゆっくり休めるよ。初音ちゃん」
「あ……そうですね」
 顔を輝かせるみさきに、初音はうかない返事を返す。
(うーん、まだ落ち込んでるのかな)
 泣きやむことはしたものの、依然として初音の表情は暗い。
みさきはジメジメした気分を振り払うように明るい声を出す。
「暖かいお茶飲んで、朝ごはん食べようよ。私お腹すいちゃったよ」
「あんたがお腹へらしとるのはいつものことやん」
「全くだな」
 みさきの意図に気づいたのか、智子と坂下もみさきをからかって会話を弾ませようとする。
「うー、智子ちゃんひどいよー」
「本当のことやろ。まあでも、初音は料理上手やしな。それは楽しみや」
「そうだな。いい食材があるといいね」
「……そうですね。任せてください」
 初音は笑ってそう答えたものの、その笑顔にはやはり、まだ少し無理があった。
261耳を澄ませば:03/04/29 01:24 ID:vrNVK3gF
「ごちそうさまです」
「馳走になった」
 空の皿を前に手を合わす柳也と裏葉にあかりは笑って手を振ると、
「ただのインスタントですから。気を使わないでください」
と答えた。
 駅の事務所で宿を共にしたシュン達と柳也達は、インスタントラーメンで朝食を終えたばかりだった。
「はい、お茶です」
「ありがとう、神岸さん。だけど、やっぱり雨は止まないな……」
 シュンはお茶をすすりながら、眉をひそめて窓から外を見る。
「確かに鬱陶しい天候だな。お前らはこれからどうするのだ?」
「傘もあるし、昼ごろになったら移動を開始しようと思ってる。あなた方は?」
「同じところで潜んでいるのは性に合わんしな。そろそろ移動しようと考えている」
「神奈様は例え雨の中でも鬼としての役割を果たそうとお考えになるはずですし」
 妻の言葉に、柳也は苦笑する。
「まあ、そうだろうな。俺達も付き合ってやらないと」
「そういうことですね。よろしければ、氷上様達もよろしければご一緒しませんか?」
 裏葉の提案に、シュンもあかりも首を振った。
「気持ちはうれしいけど、僕ではあなた方についていくことはできないよ」
「わたしも、かな。自分のペースでゆっくりしようと思います」
「そうか……!?」
「……厄介なことになりそうですね」
 突然、柳也と裏葉の顔がこおばる。
262耳を澄ませば:03/04/29 01:25 ID:vrNVK3gF
「どうかしたでんですか?」
「伏せろ。誰か来るぞ」
 あかりの問いに柳也は厳しい声で答えると、注意深く窓から外をうかがう。
「鬼だな。4人だ。俺達には気づいていないようだが、こちらに来ている」
「この近くで雨宿りができるところは、ここだけだからね」
シュンは顔をゆがめて答えた。
駅の事務所の入り口は一つだけ。人が出入りできるような窓も今見ている窓だけだ。
どちらを使っても鬼達に気づかれないように外に出ることはできなく、追いかけっこは避けられそうにない。
「……ここまで、かな」
 あきらめかけるシュン。だが、柳也はその肩に手を乗せた。
「あきらめるな。俺達で機を作る」
263耳を澄ませば:03/04/29 01:26 ID:vrNVK3gF
(あれ? 人がいるのかな?)
 建物(事務所らしい)の壁に手を当てて歩いていたみさきはそう思った。
壁を伝って、中から微かな呼吸の音や、鼓動の音、そういった人の存在感を感じる。
「んー、気配って言うのかな。こういうの」
「ん、どないしたんや? 川名さん」
 みさきの方を振り返りながら、智子は事務所の扉のノブに手をかけ、扉を開いた。
 転瞬。
「な……!?」
「え……!?」
「キャッ!?」
「な、何?」
 扉を開いた瞬間を狙われたかのように、視界を青いものが覆われ、それが体にかけられた。
「な、なにこれ!?」
 青い布―――ブルーシートによって急に視界と体の自由を奪われ、少しパニックになる4人。
覆いをはずそうとそれぞれが勝手な方向に引っ張るために、覆いを跳ね除けるのが一瞬遅れる。
「くっ! お前ら……!」
 それでもいち早くブルーシートから抜け出した坂下の目に映ったのは、
窓から外に逃げようとする一組の男女。たすきはつけていない。逃げ手だ。
「ま、待て!」
 そちらに手を伸ばすまもなく、二人の姿は外へ消える。
「なめたことしてくれる!!」
 そのころには智子達もブルーシートの下から脱出していた。
雨の中を駆ける二人を追いかけようとするが、一瞬躊躇する。
ここで追いかけたら、着いてこれない者が一人いる。
264耳を澄ませば:03/04/29 01:26 ID:vrNVK3gF
 だが、その躊躇を読み取ってみさきは叫んだ。
「追いかけて! 捕まえて、少しでもポイントをためようよ。 私はここでまってるから!」
 何のためにポイントを貯めるのか……わざわざ口にしなくても智子と坂下には分かった。
楓との賭けに勝つためだ。
「分かった! 任せろ!!」
「みさきさん、待ってて下さいね!」
「昼までには戻る!! あの二人捕まえたるわ!」
(二人……?)
 智子の声に疑問を抱くみさき。だが、その疑問を口にする前に智子たちの走る音は遠くなっていった。


(ついてないな。あの人だけ残るなんて)
 ロッカーの中で、シュンは入り口のほうを隙間から伺っていた。
 そこには、母校の制服を着た少女がじっと突っ立っている。
 三年生に盲目の生徒がいると聞いたことはあるが、まさかこのようなところでその人に会うとは。
(せっかく柳也さん達が囮になってくれたのにね……)
 単に逃げたいのなら、あんなことをしなくても普通に逃げて走力に任せたらいい。
それなのにあんな手段をとって鬼の目と鼻の先をかすめたのは、
事務所に隠れているシュン達から目をそらさせて柳也達を追跡させるためであった。
 シュンは一緒にロッカーに隠れているあかりの顔をチラッと見る。
 その視線に、あかりはコクッとうなずいた。
 それを見て、あきらめちゃだめだね、とシュンは思う。
 囮になってくれた柳也達のためにも。
そして、
『神岸さん、柳也さん達についていったほうが、逃げられる可能性は高いんじゃないかな?』
 そういったシュンに対して、
『氷上君? この雨の中に出て行かせるなんてひどいと思うよ?』
 そんなふうに怒った振りをしてくれたあかりのためにも。
(大丈夫、機会はあるさ。あの人は目が見えないのだから……)
265耳を澄ませば:03/04/29 01:28 ID:vrNVK3gF
(二人……? 変だよ……部屋の中にいた人もっと多いと思ったんだけど……)
 吹き込んでくる雨が背中を叩くにもかかわらず、みさきは相変わらず戸口から動かない。
(気のせいだったのかな? でも、今も……)
 無駄だと分かりながら、みさきは周りを見渡すかのようにゆっくりと首を振る。
(誰かに見られている気がするよ……)

【柳也、裏葉 駅の事務所から逃走開始】
【初音、智子、坂下 柳也達を追う】
【シュン、あかり 事務所のロッカーの中に隠れている】
【みさき 事務所の戸口に立っている】
【事務所の出入り口は 戸口と窓の二つだけ】
【三日目朝】
266耳を澄ませば作者:03/04/29 01:37 ID:vrNVK3gF
ごめんなさい。文章が抜けてます。

>>262 8行目と9行目の間に、
どちらを使っても鬼達に気づかれないように外に出ることはできなく、追いかけっこは避けられそうにない。
「……ここまで、かな」

柳也達なら問題が無いのだろうが、雨の中での全力疾走は自分の身体にはかなり厳しい。


267耳を澄ませば作者:03/04/29 01:37 ID:vrNVK3gF
の一文を加えてくださいな。
268it's a cruel world. Can't you see?:03/04/29 03:22 ID:H2TpfdhO
 森の中−−少女はふと足を止める。
「あれ? …わたし、何やってるんだっけ?」
 ふと、思案。 そして思い出す。
「そっか。 逃げてるんだった」
 そう、追っ手から身を潜め、森の中を往く。 連れは二人。その二人は…誰だったか。
 何故、突然こんなに記憶がぼやけるのか。
「誰も居ない…にはは、観鈴ちん、また一人ぼっち」
 乾いた笑顔を作る。

「観鈴」
 突然後ろから呼ばれる。−−振り返ると、見知った顔。
「往人さん!」
 喜んだのも束の間、その姿に微妙な違和感を感じる。
「えーと、その襷は?」
「何を言っているんだ。 今は鬼ごっこの最中だろうが…これは鬼の証だろう」
 そうだった。 何故忘れていたのか。
 改めて自分の姿を確認する。 襷はつけていない。
「にはは、往人さん鬼なんだね。 よーし、逃げるぞー!」
「逃がしはしないさ。 なんせ、お前を捕まえればこのゲームは終了だ」
「ええっ!?」
 しまった。 いつの間にかゲームは終盤に突入していたらしい。
269it's a cruel world. Can't you see?:03/04/29 03:22 ID:H2TpfdhO
「みんながお前を狙っているぞ。 まあ、俺がここで捕まえてしまうからどうでもいい事だがな」
 往人が懐から何かを取り出す。 …あれは!
「逝け! 主よ!!」「ぴこ?」
 気合い一閃、往人はその毛玉を観鈴に向かって蹴り飛ばしてきた。
「ぴこぴこ〜〜〜!?」「が、がおおおぉ〜!?」
 恐怖によって縮み込んだのが幸い、裏庭の主は観鈴の頭を掠め、空の彼方へと消えた。
「わ、わわわわっ」
 往人の本気を感じ取り、観鈴は後ろも見ないで走った。

 それから…
「観鈴お姉ちゃん! つーかまーえ…」
「かみかみ、にげるなぁぁぁ!!」
「あはは〜っ 今度こそ逃がしませんよー?」
「鬼の襷、進呈です」
「Freeez! いや、止まらなくてOKだヨ?」
「おおおおおっにげるなあああぁぁぁぁ!! 逃げると参るぞぉぉぉ!?」
「全く益体ない」
「みゅ〜♪」
「観鈴ちん、でんじゃらすぴんちっ!」
 色々あった。

「が、がお…みんな、酷いよ…」
 なんとか追っ手を振り切り、草むらに隠れることが出来た。
「ふふっ、大変そうね。 観鈴ちゃん?」
 が、すぐ後ろから笑い声。
「ひかりさん!」
「ごめんね、私もつかまっちゃったの」
 ひかりの横には、ひかりに良く似た少女が立っている。
「鬼になっちゃったけど、娘にも会えたし。 これから私たちは休憩してくるわ」
「がお…」
「泣いちゃダメ、頑張って優勝するのよ?」
 そして、ひかりは去っていった。
270it's a cruel world. Can't you see?:03/04/29 03:23 ID:H2TpfdhO
 上手く逃げれば逃げるほど独り。
「がお…なんだか、あんまり楽しくないよ…」
 想像していた鬼ごっこと違う。 もっと、楽しくゲームに参加できるものだと思っていたのに。
 と、ドコドコと聞き覚えのある音が近づいてきた。
「よぅ、観鈴!」
「お母さん!」
 赤いモンスターに跨り、晴子が呼びかけてきた。

「ふっふふ〜、とうとう逃げ手もウチと観鈴だけになってまったなあ〜」
「ええっ? 残りの逃げ手ってお母さんだったの?」
「そうや、ウチがそんな簡単に捕まるかいな」
 ニカッと笑う、笑顔が眩しい。
「お、お母さん、わたし、もう駄目だよ。 捕まっちゃうよ…一緒に逃げよ?」
「何言ってるんや、ウチと一緒に逃げたら、永遠に鬼ごっこが終わらへんやんか」
「で、でも…わたし、もうダメ」
「観鈴ちんは強い子や! 大丈夫、一人でもなんとかなる!」
「がお…」
「おっ、追っ手が来よるな。 ほな、頑張って逃げや〜」
 そう言い残し、母もまた去っていった…
271it's a cruel world. Can't you see?:03/04/29 03:23 ID:H2TpfdhO
「がお〜、が、がお〜」
「観鈴ちゃん、観鈴ちゃん」
 誰かが揺さぶっている…起きなきゃ…
「ううー…ひかりさん?」
「どうしたの? ずーっとがおがお言っていたわよ?」
「う、ううん…なんでもないです」
 そう、ここは海辺の飲食店。
 鬼を残して出発し、今後の対策を考えようと立ち寄ったのだった。
「そう? ふふっ流石に観鈴ちゃんも疲れてるのかな?」
「うん…多分。 にはは」
 笑顔を作る。 大丈夫、あれは夢だった。

「ふふ、でね、起き抜けに悪いんだけど、ここを離れましょ」
「あ、何かあったんですか?」
「現在進行中よ、ほら」
 ひかりが窓の外を指差す。
 遠目に見ると、砂浜にへたり込んだ鬼が居た。
「ついさっきまでバイクに乗った逃げ手も居たんだけどね、暫く何か喋っていて、今去っていったわ」
「バイク…」
 夢にバイクが出たのは、それのせいかな。
「あの鬼さん、全身砂まみれだから。 多分どこかの建物に入るわよ」
「ここも危ない、ですね」
「多分、ここが一番危ないわ。 裏の街道から、こっそり逃げましょ」
272it's a cruel world. Can't you see?:03/04/29 03:23 ID:H2TpfdhO
 元々荷物は多くない。
 私たちはすぐに建物を離れる。
「これからどうしようか?」
 歩きながらひかりさんが訊ねてくる。
「さっきのバイク、追いかけてみる?」
 夢を思い出す。 ちょっと心に引っかかりが…
「さっきは言わなかったけど、そのバイクに連れが居たの」
「連れ、ですか?」
「ええ。 遠目だけど、恐竜に乗った…」

【ひかり&観鈴 小休止終わり。今後はどうするか?】
【あゆ >>217「ブロークン・アロー」へ】
【3日目 昼をだいぶ回った頃】
273it's a cruel world. Can't you see?:03/04/29 03:32 ID:H2TpfdhO
「ついさっきまでバイクに乗った逃げ手も居たんだけどね、暫く何か喋っていて、今去っていったわ」

「あの子の他にバイクに乗った逃げ手も居たんだけどね、暫く何か喋って、今去っていったわ」
に修正。
RRイヤン。
274再会、なるか?:03/04/29 23:07 ID:vrNVK3gF
「葵、大丈夫?」
「大丈夫ですよ、真琴さん。少し重いですけど、私鍛えてますから」
 葵は水を満たしたポリタンクを担ぎなおすと、傘を差してくれている真琴に微笑んだ。
 葵と真琴は今、昼食用の水を汲みに出かけていた。
小屋のほうでは今頃美汐達が料理の下ごしらえをしているはずだ。
 本来ならば、朝に葵達が組んできた分で昼食の分も間に合うはずだったのだが……
「美汐、お茶飲みすぎよぅ」
「まぁまぁ。でも美汐さんってお茶入れるの上手ですね」
 一度沸騰させたお湯を適温まで冷まし、茶葉にあわせた時間で浸出させ、
濃さが均一になるように人数分の湯のみに少量ずつ何度も繰り返してお茶を注ぐ。
無論、湯飲みはあらかじめ熱湯を注ぐことによって温めている。
 そんな作業を当たり前のようにやってしまう美汐は―――
「大人っぽいですね、憧れます」
「行き遅れのお局みたい」
 真っ二つに意見が分かれた。
「あはは、ひどいですね、真琴さん。美汐さんにいっちゃいますよ……あれ?」
 ふと小道の向こうをみると、三人ほどの人影が見える。
 慌てて真琴と共に木の後ろに隠れて、もう一度人影のほうを伺うと……
「―――月島さん!?」
「え、あれが葵を襲った悪いやつ?」
「はい、そうです……」
 あのときの恐怖を思い出し、少体が震える。
「こちらには気づいてないみたいだけど……」
「この道の先は、私達の小屋です。今のうちに先回りしてみんなに知らせましょう!!」

275再会、なるか?:03/04/29 23:08 ID:vrNVK3gF
「駄目だな。ここも外れだ」
「そうみたいだね……瑠璃子、どこにいったんだ……」
 教会付近のキャンプ小屋で、月島はため息をつく。
 時刻は正午を回ってしまっている。途中の捕り物でロスタイムがあったにせよ、
まだ調べていない教会付近の小屋はもう数少ない。
「これからどうしようか……久瀬君? 大丈夫かい?」
「あ、すまない……」
 月島に言われて、レインコートを着たままの久瀬は突っ伏していたテーブルから身を起こす。
慌てて目をこするが、その顔色の悪さは隠しようもない。
「大丈夫か?」
 そう言って久瀬を気遣うオボロも本調子とはいえないようだ。
体力では久瀬とは比べ物にならないほど頑強なオボロとはいえ、やはり彼もほとんど昨夜寝ていないのだから。
「ああ、大丈夫さ……すまないな、月島さん。僕の考えは間違えだったのかもしれない」
 気弱に謝る久瀬に月島は首を振った。
 確かに、瑠璃子のことは大切だ。なによりも、絶対に。それは決して変わらない。
 だが、彼らに無理をさせて自分の目的に付き合わせることに、少し罪悪感めいたものを感じる。
 久瀬もオボロも打算があって月島の探索に付き合っているのだろうし、それは分かっているが、
それでもそれだけではこのような無理はしないだろう、とも思う。
(僕は、少しがむしゃらに瑠璃子を追いかけすぎたのかもしれないね……)
 単独ではなく複数で行動していることが、月島の狂気を薄れさせていた。
276再会、なるか?:03/04/29 23:11 ID:vrNVK3gF
「仕方なさいさ。少し安もう」 
 月島はそういうと、なにか食べるものはないかと、戸棚を空ける。と、急須が見つかった。
(茶葉でもあればお茶がいれられるが……水を汲んでこなくてはならないね)
 そんなことを思いながら、なんとなくその急須を手に取る。
急須の暖かい感触が雨にかじかんだ手に心地よい。
「―――!? 暖かいだって!?」
「どうしたんだ?」
 ただならぬ月島の様子に、久瀬とオボロは億劫そうに近くによる。
「こいつを触ってみてよ!! 暖かいだろう!?」
「確かに……だけどそれが何か……そうか!」
「ついさっきまでこいつでお茶をいれた奴がいたってことか!?」
「だいぶ慌てて逃げたようだね。ほら」
 月島が空けたダストボックスには、切られただけで調理されなかった生野菜がそのまま捨てられていた。
 慌ててオボロは外に出て、木に登る。
「―――いた!! 逃げ手が5人だ!! 髪が短い女が3人、一人は怪我しているみたいだな!
歩き方が変だぞ!!」
 木から飛び降りると、オボロはニヤッと笑った。
「多分、当たりだ。だいぶ距離をあけられているが、あれじゃ道のないところは歩けないだろう。
今からなら追いつけるぞ!」

【拓也、オボロ、久瀬  瑠璃子達を追走】
【瑠璃子、真琴、美汐、葵、琴音 教会付近の小道を逃走】
【三日目昼ごろ】
277兄の思い:03/04/30 00:56 ID:2OdnXhwh
がさり。藪を鳴らして出てくる男。
ずちゃっ。雨に濡れた靴が、水たまりを踏みつけて水音を立てる。
雨に濡れた男。がたいのでかい、筋骨隆々の男。

ぶん。雨に濡れた刀を一振り、水滴を払う。
ざっ。右足を一歩引き、体重を左に乗せる。
雨に濡れた男。目元に刀傷のある、筋肉質の男。

「……鬼か」
言う。刀は向けない。相手は丸腰。
「妹を捜している」
答える。刀にも怯まない。男は丸腰。
「妹?」
「ああ。桃色の髪、大きなリボンを付けている。中学生だ。見なかったか」
「……それを知ってどうする」
「見つけだす。妹は病を抱えているからな。兄である俺が護らねばならない」
心当たりは、ある。ありすぎるほどに。雨に濡れたリボンは解いて乾かしているだろうが。
「……おまえは鬼だな」
「ああ」
聞くまでもないことを聞くクロウ。刀を握る手からは緊張が抜けているが、別の緊張が全身を包みつつある。
「おまえの妹が、まだ逃げていればどうする」
「ならば──妹に尋ねる。俺と一緒に来るか、逃げ続けるか」
「逃げ続けると言ったならおまえはどうする」
「──そのときは──そうだな、木陰からでもこっそりついていくか」
思わず苦笑する。見た目こそ雄大だが、なんのことはない。中身は妹思いの一人の兄か。
278兄の思い:03/04/30 00:56 ID:2OdnXhwh
「知っているのだろう? 妹のことを」
巌のごとき表情は崩さず、尋ねる雄蔵。雨に濡れ続けていることすら意に介さないまま。
「ああ。この小屋の中にいる」
刀を納め、答えるクロウ。相好をわずかに崩して、軽く笑って。
「中にいる。他にも五・六人いるけどな。誰にも触れないと約束するなら、入っていっても良い」
「……そうか。楽しくやっているのだな」
ちょうど聞こえてくる少女たちの笑い声。雄蔵は軽くほほえむ。いわく言い難い表情だ。
「遠慮しておく。楽しくやっているのなら、それも良い。俺が出しゃばり過ぎるのも、良いとは言えないだろう」
わずかに遠い目をし、言う。後半は誰に言うとでもない独白。クロウは返事をせず、続きを待つ。
「俺は去ろう。今は。郁美が楽しんでいるのなら、それで良い」
「良いのか?」
「ああ。会えば、無理矢理連れて行ってしまうかもしれないからな」
クロウ苦笑。
「それに、おまえという良い保護者もいる。安心だ」
「そんなにあっさり信用していいのかい」
「人を見る目はあるつもりだ」
「そうか」
279兄の思い:03/04/30 00:56 ID:2OdnXhwh
「ひとつ約束してくれ」
「なんだ」
「絶対に、俺の妹を、郁美を見捨てるな」
「言われるまでもないさ。ここまでずっと一緒だったからな。ここまで来たら、一蓮托生さぁ」
「そうか」
そして歩き始める。雨に濡れた体。風邪でも引かないかと心配になるほど。
「ちょっと待て」
クロウが声をかける。立ち止まる雄蔵。振り返ると、小屋の戸を開けてなにやら中と離している男の姿。
二・三のやりとりの後、扉が閉まり、
「ほれ」
傘が飛んでくる。雄蔵はそれを受け止め、差す。
「すまない」
「かまやしねぇよ。あと十本くらいあるからな」
「そうか」
そして、森の中に入っていく雄蔵。
と、ふと立ち止まる。振り向き、
「そうだ」
「ん?」
「郁美に、手を出すなよ。もし、出したら、殺すからな」
最後の最後に物騒な一言を残して、彼は去っていく。

「……殺すってか」
そして笑った。
280兄の思い:03/04/30 00:57 ID:2OdnXhwh
「……クロウさん、さっきの傘はどうしたんですか?」
「わりぃわりぃ。風で飛ばされちまってな」
その後──昼食の時にそんな会話があったが。
クロウは、訪ねてきた男のことを、一言も言わなかった。
なんとなく、それをあの男が望んでいると、そう思ったから。

【クロウ以下少女大勢、昼食開始】
【クロウと雄蔵の邂逅は九時頃。雄蔵は森に入っていく】
【昼食開始時刻──十二時過ぎ】
281名無しさんだよもん:03/04/30 02:33 ID:PxHU5d17
(・∀・)イイ!
282中盤の鬼は -DEAD OR ALIVE-:03/04/30 05:49 ID:4VKKgGMZ
 雨の中の零号屋台。

「で、どうする?」
 晴香はこんにゃくに手を伸ばしながら、並んで座っている和樹に尋ねる。
 先刻鬼にさせられた後、先をどうするかの相談をかねてとりあえず食事を、ということになった。
 というか、たかだか貧乳程度の不意打ちで鬼というオチはないだろう。
 だが、それは言っても仕方ないことだ。
 済んだことなのだから。
 これからどうするか――――、今、晴香の頭にあるのは先のことだった。
 このままリタイアではあまりにつまらない。
「このままリタイア……とか?」
 疲れたような生気のない声でうっつぶしている和樹。
 彼も大概うんざりしていたらしい。
 頭で否定していたことをそのまま言われて、晴香が睨みつけた。
「ちゃんと考えなさいよ……。こういうのはどう? 今から仲間を探すのよ」
 人差し指を立てて、心持ち胸を張る。
 屋台に来るまでに考えていたのだろう。
「……仲間?」
 和樹は首を晴香の方に向けた。
 ついでにねーちゃんにおでんの追加を注文する。
 やる気はなくてもお腹はすくものだ。
 頼まれもしないのに晴香の分まで注文してしまうところが優柔不断な彼らしいといえば彼らしかった。
「今トップを狙えるチームであれば、今更仲間を増やすとは思えないけど」
「逆よ、逆。加わるのは鬼ではなくて、逃げる方」
 和樹の瞳に理解の色が浮かんだが、すぐに失望に変わる。
「それは……どうかなぁ」
283中盤の鬼は -DEAD OR ALIVE-:03/04/30 05:50 ID:4VKKgGMZ
「……なによ。なにか問題ある?」
 それなりに自信のあったのか、提案にのってこない和樹にいらだたしそうに凄む。
「まずは、信頼の問題。逃げ手が鬼を信用してくれるかってことだけど……」
 ねーちゃんの差し出した皿からきんちゃくをひとつつまんで口に入れる。
「それは……やってみないとわからないわ」
「うん。これはどうしようもない。というか、場合によっては解決しようのある問題だからとりあえず
置く」
 と、一息。
「もう一点。そもそも鬼同士の妨害行為が許されるか」
「当然可能でしょ。逃げ手相手だって結構やってたわけだから」
 いくつかの鬼とのやりとりを思い出す。
 鬼ごっこといえるものはなかった。少なくとも一般にアレを鬼ごっことはいわない。 
「――――そうかな? 参加者の中には一般人を害することのできる力を持つ人だっている。あるいは
能力以上に中身がまともじゃない人も混じっているかもしれない。特殊な能力がなくても、ゲームで
興奮して”つい”やってしまうっていう性格の人もいるだろう。鬼ごっこというシンプルなゲームに
これだけのコストをかける人たちだ。暴力行為に発展しやすい妨害が発生するかどうかくらいのことは
想定範囲内だと思う。もちろん、そうした事態への対処法も講じてあるはず」
 続けながら、和樹は麦コーラを注文する。
「…………」
 思い当たる節があるのか、考えこむ晴香。
 和樹の注文には気づかない。
「更にいうなら、鬼が一定数に達して逃げ手が捕まりにくくなるという状態が継続した場合、かなりの
可能性で起こりうる事態がある」
「……何?」
「鬼同士の潰し合いだよ」
284-DEAD OR ALIVE-:03/04/30 05:51 ID:4VKKgGMZ



「はっきりとはわからないけれど、参加者の数は150〜180程度のはず。開始から三日目、残っているの
は1/3〜1/4くらいだろう。だとすれば、特定の鬼が逃げ手に遭遇する確率は極めて低い。鬼の絶対数は
増える一方で、逃げ手は減少するんだからね。鬼の総数が一定のラインを超えてしまうと、鬼の間で
ポイントがばらけてしまう可能性の方が高い。いわゆるパイの奪い合いだね。なら、今からポイントを
稼ごうという鬼はどうするか」
「……競争相手を減らす」
 晴香は唇をかみ締めた。
 なんて――――迂闊。
 こんな単純な方法があったなんて。
「ご名答。――――鬼は隠れる必要がなく逃げ手を追わなければならないから、テキトーにうろついた
としても鬼同士の出会う確率はかなり高い。逃げ手に遭遇するより、はるかに」
 くいっと、麦コーラをあおる和樹。
 そのせいか随分饒舌だ。
「ポイントがそれなりにばらけているとして、現在鬼の獲得数トップは10〜15程度だと思う。この作戦
なら今ポイントゼロの鬼でも十分にトップを狙える」
「なんというか、……エゲツないこと考えるわね、あなた」
 晴香が感心したような、呆れたような、複数の感想が織り交ざった声を挙げる。
「でも、効果的で確実だよ。そして、だからこそこの作戦は採れない。賭けてもいいけどそうした事態
も想定範囲内のはず。でないと、参加者の身の安全が図れない」
「……何らかのペナルティが科せられるってこと?」
「多分、ゲームの進行に影響の無い程度の措置―――――例えば、退場とか終了まで監禁とかあたりだ
と思うけど。同じ理由で晴香の策も採れない。鬼同士の妨害行為は禁止されているだろうから」
 屋台の周囲をみる。
 薄暗い森。降りしきる雨。
 まだ止む様子はない。
285中盤の鬼は -DEAD OR ALIVE-:03/04/30 05:51 ID:4VKKgGMZ
「―――といっても、このまま残っても仕方ないし。いっそあえてやってみるのもいいかもしれないね。
仕上げなきゃならない原稿も残ってるし。退場させられたら、その分早く帰れる」
「……殴るわよ、ドージンジゴロ」
「その呼び方、いい加減やめてほしいんだけど」
「とにかく。ペナルティを科せられるというなら、残された手段はひとつね」
 要請を黙殺してニヤリと不敵な笑みを浮かべる晴香。
 妙に確信的だ。
 和樹はいやな予感がした。
「ラインを見極めに行こうじゃない。どの程度でペナルティになるのか、その辺の鬼を妨害して試して
みるのよ。必要な程度の妨害がセーフであれば、私の策で。でなければ、別の策を考えましょ」
「……逃げ手は探さない?」
「なに言ってるの。和樹の考えが正しければ、逃げ手を探してても鬼には会える。鬼でも獲物。逃げ手
でも獲物。実にシンプルね」
「……なんというか、無茶苦茶だと思うのは気のせいかな」
「でも、効果的で確実よ」
 先ほどの和樹の言葉を奪って、立ち上がった。
「じゃあ、必要なエモノを揃えましょうか」

 そう、ここは零号屋台。
 食べ物から捕獲武器。その他よくわからないものまで揃っている謎の屋台だ。
 そして目の前にいるのは、満面の笑みをたたえるスマイル0円のショップ屋ねーちゃん。
 『ショップ』で『屋』という謎のねーちゃんだ。

「……やれやれ」
 和樹はそっと溜息をついた。



【和樹 晴香 逃げ手を探しつつ、鬼も探す】
【場所 零号屋台】
【時間 三日目昼頃】
286名無しさんだよもん:03/04/30 13:37 ID:PxHU5d17
麦コーラ(゚д゚)ウマー
287朝食タイム:03/05/01 01:32 ID:wy0WCPdS
「おはよう」
「おはようございます」
「グンモーニン、諸君」
「おはよ」
「おはようございますぅ」
「……おはよう」
「おはよー」

七者七様のご挨拶から、鬼ごっこ三日目の朝が始まる。

「うう、千紗、こんな豪華な朝ご飯食べるの久しぶりですよ」
「パンにスクランブルエッグ、ポタージュスープ……ご馳走だな」
貧乏人二人。

「さすがはまいしすたぁ。良い朝食だ」
「……なんか、珍しいこと言うわね」
同級生二人。

「さ、ウルトリィ姫、どうぞ」
「ありがとうございます、ハクエンクア様」
王侯二人。

「……」
蚊帳の外一人。

涙を流して手を合わせて、心底ありがたそうに食べる、千紗。
犬のようにがつがつと、食べれるときに食べておけ精神の権化、往人。
やたらに無意味にマナー正しく、食器も綺麗に使う、大志。
自分が作った朝食、皆に喜んでもらえてけっこう嬉しい、瑞希。
おかわりいかがですか、ささ、こちらもどうぞ、ハクエンクア。
姫君らしい清楚な食べっぷり、なぜか給仕もいる、ウルトリィ。
そして一人蚊帳の外、まなみ。
288朝食タイム:03/05/01 01:32 ID:wy0WCPdS
鶴来屋別館の大食堂を七人で独占して、にぎやかな朝食タイム。約一名話の輪に入れず鬱屈している人もいるが、まぁ気にせず気にせず……
八人分の朝食も、早々に消えていく。
何者かが、七人が各々個室で眠っていた間に、ホテル各所に罠を仕掛けていったらしく、厨房で料理をするのにも一苦労だった。
その甲斐あってのこの朝食。苦労が報われたこの朝食。各々楽しんで食べている。
食事を作ったのは瑞希だが、罠の解除は全員作業。全員に楽しむ権利があるのだよ。

いやまぁ、同じ頃どこぞの部屋では、その罠を仕掛けた馬鹿者二人が、朝っぱらから宴会を行っているわけだが。

さらに同じ頃、某会長と某社長が請求書をしたためているわけだが。

そんなことはこの七人には関係ない。
とにかく、厨房からエントランスへ至るまでの道筋の罠は解除して、
(一部犠牲も出たりしたが)
この建物を拠点に、このゲームを有利に運ぶことができるようになったのだ。
瑞希・大志。
往人・千紗・ウルトリィ。
ハクエンクア・まなみ。
この三グループ、各々協力して事に当たることはすでに決まっている。
一緒に行動するわけではないが、情報交換やらなんやら、と言ったことでの、協力体制だ。
最終的に、見つけた逃げ手を、どのグループが捕まえるかは、運と成り行き次第。
それぞれ思惑もあるが、とにかくこの場は同志七名。たのしくやろうではないか。
289朝食タイム:03/05/01 01:33 ID:wy0WCPdS
そして──この建物めがけて突進してくる五名の少女たち。
山坂道を下り、勢いがつきすぎて止まれなくなった、不運なのか自業自得なのかどっちとも取れる五人組。
この大旅館への到着まで──十分を切った。
さぁ、この十二人は一体どういう展開を迎えるのか──?

【鶴来屋別館の七名、現在朝食中】
【山道を駆け下ってきた五名、もうすぐ到着する】
【なお、ホテルのどこかにバカ二人が居るが、当然この十二人には絡んでこないので】
【現在三日目 午前七時過ぎ。雨】
290Silent Walk:03/05/01 17:16 ID:8TLx4LC8
 駅の事務所の戸口でドアを閉めることすらせずに、みさきはただずむ。
(誰かいるのかな……視線を感じるよ……)
 ゴクリ、と息を呑む。その音がやけに大きく感じる。
(いるとしたら逃げ手さんだよね) 
 だとしても、だからどうだというのだろう。
例え逃げ手が側にいたとしても目の見えない自分が捕まえる事など―――
(無理だよ……)
 みさきだって鬼を捕まえたいとは思う。楓との一件で沈みがちなチームの空気を明るくするためにも。
(でも、やっぱり無理だよ。だいたい逃げ手さんがいるって保障もないし)
 今抱いている疑念も、その根拠はただの勘でしかないのだ。
(だけど―――)

(あの人、入り口から動かないな)
 ロッカーの隙間からシュンは部屋の状況をうかがう。
ちらっと同じロッカー内にかくれているあかりに目を向けると、
彼女も同じ疑問を抱いていたのか首をかしげる。
 そして、シュンの耳元に口を、ほとんど触れるぐらいに近づけて、
「私たちのこと、気付いているのかな?」
 そうささやいた。
291Silent Walk:03/05/01 17:17 ID:8TLx4LC8
 耳に吐息を感じそのことでシュンは、彼女とわりと密着した状態にいることを思い出して柄にもなく赤面した。
 暗くてよく分からないが、あかりのほうも少し顔を赤らめているような気がする。
(そんなこと考えている場合じゃないんだけどね……)
 シュンは気を取り直すと、あかりにとささやき返した。
「ドアのところにいられると困るんだけどね……窓の方から逃げる?」
 この事務所から出る方法は二つ。普通にドアから出入りするか、柳也達がやったように窓から出るかだ。
 ドアのほうをみさきに封じられている以上、後は窓しかないわけだが……
(でも、危ないかもしれないな)
 みさきのいるドアと窓はせいぜい5,6歩ぐらいしか離れていない。
しかもそれだけでなく、この間の直線上には歩行をテーブルや椅子といった邪魔するようなものがおかれていないのだ。
 腰の高さまである窓から二人の人間が外に出るというのはよほど運動能力が無い限り一瞬ですむという動作ではなく、
しかも音も無くやりとげるというのはかなりの難度だ。
 つまり、窓から出ようとして音を立てれば、飛び掛られて捕まえられてしまう可能性もある。
 目の見えない人がそんな大胆な事をするとは思えないが……
 思案するシュンであったが、そうこうするうちにみさきに変化が現れた。
292Silent Walk:03/05/01 17:18 ID:8TLx4LC8
「んーきのせいかなぁ」
 そんな事をつぶやきながら、ドアを閉めようとする。
「あれ? 閉まらないよ……」
 柳也が智子達にかぶせたブルーシート(工事現場などで敷かれている物だ)が引っかかってしまっているのだ。
みさきは一度外に出て、ブルーシートを引っ張り室内に入れようとする。
(だいぶ苦戦しているみたいだね……)
 隙間から見ているので良くは分からないが、そんな簡単な動作でさえかなり手間どっているようだ。
(大変なんだね、あの人も……)
 そんな同情がシュンの心に浮かぶ。
 たどたどしい手つきでかなりの時間をかけた後、ようやくみさきはドアを閉めた。
 そして今度は、
「窓、開いてるのかな? 雨がふりこんじゃうよ」
 風でも感じ取ったのだろうか、みさきは今度は手探りでまっすぐ窓のほうに向かうと、
柳也達が開けっ放しにした窓を閉める。
 そして、たったこれだけの動作で神経をかなり使ったらしく、
「フゥ」
とため息をつくと、その場にへたり込んだ。
「氷上君、どうしよう? ドアからはどいてくれたけど……」
「そうだね……」
 これで逃げやすくなったのは事実だ。窓から外に出るより、
ドアから外に出たほうが時間もかからなく音も立てにくい。
 だが、依然としてあの人が二つしかない出入り口の一つを抑えているのは偶然なのだろうか?
 シュンは頭を振って、疑念を払った。
 あまりぐずぐずしている暇は無い。柳也達の足を考えれば、すぐにでも鬼を振り切ってしまう可能性がある。
 そうなってしまうと、あの人の仲間が帰ってきてしまうのだ。
 みさきもその位置で仲間を待つつもりなのだろう。窓の下の壁を背にして、
座り込んだままスナック菓子のようなものを取り出すと、口に運び始めた。
(川名さんが窓からどくのを待っているわけには行かないか) 
 相手は目が見えないのだ。逃げることは難しくないだろう。
 だから、シュンはあかりに一度強くうなずいた。
293Silent Walk:03/05/01 17:19 ID:8TLx4LC8
 ロッカーを開ける音は、慎重にやったつもりだが、それでもいやに大きく聞こえた。
「……!!」
 慌ててみさきのほうを見るが、みさきは気付いた様子もなく相変わらずスナックをつまんでいる。
 シュンとあかりは顔を見あわせて、少し微笑みあうと、あかり、シュンの順にロッカーから外にでた。
 そして、一歩一歩慎重に音を立てないようにドアのほうに向かう。
 ロッカーからドアまで忍び足で歩いてせいぜい20歩といったところか。
 たったそれだけの距離がひどく長く感じる。
ザーザーという雨の音と、ガサガサというお菓子の袋がなる音、そしてポリポリという租借音。
それらの音が、かえって部屋の中の静寂を際立てているような気がした。
 走りたくなる誘惑が沸いてくる。
(焦るな……大丈夫なはずだ。気楽に行こう)
 有利なのはシュン達なのだから。仮に気付かれても、逃げる余地はまだある。
 注意深くみさきのほうを観察するが、依然みさきはあさっての方向を向いたままお菓子を食べ続けていた。
 ふと、シュンの心に憐憫の念が浮かんだ。
(こんなに近くに、ほんの数歩のところに僕らがいるのに、この人は捕まえるどころか気付く事さえ出来ないんだ)
 この事を後で知ったら、この人はどう思うだろう。
 悔しいと思うんだろうか?
 それとも、仕方ないよと、あきらめてしまうんだろうか。
 シュンは首を振った。
(いや、これは失礼だよね)
 こんなふうに同情されるのがこの人にとって一番辛いはずだ。
自分だって、そんな思いを何度もしているのだから。
 ドアまで後数歩。全力で逃げ切ろう。

(だけど―――)
 この島に来る時に持参しておいて、最後のとっておきとしてとっておいたポテトチップスを食みながら、みさきは思った。
(ただの勘だったとしても、私だけは私のことを信じてあげないと駄目だよね)
294Silent Walk:03/05/01 17:19 ID:8TLx4LC8
 ドアまで後数歩。そこで最後の難関があった。みさきが引き込んだブルーシートが
ドアの前に広がっていたのだ。
 普通の床に比べればブルーシートの上は音を立てないように歩くのは少し難しくなる。
 これも、ただの偶然なのだろうか? 二人はそう思うが、もう戻れないのも確かだった。
(私、行くね)
 唇だけ動かして、あかりはそう伝える。
シュンがうなずいたのをみて、あかりはなるべく皺のないところを踏む。
一歩、二歩……だが、その二歩目を踏んだ瞬間、

パリッ

と、何かを割ったような音が、ブルーシートの下から聞こえた。
一瞬、凍りつくあかりとシュン。彼らがみさきの方を向くよりも早く、
「ごめんね!!」
 そのみさきの叫びと同時に、みさきはブルーシートの端を力いっぱい引っ張り、あかりの足元がすくわれた。
「キャッ」
「く……!」
 転倒しかけるあかりを慌ててシュンは支えるが、
忍び足のために無理な姿勢になっていたために支えきれず、その場で尻餅をついてしまう。
(お、起き上がらないと!)
 だが、そうする間もなく、かなりの早足で手探りしながらみさきが近づいてきて、
あかりの足につまずき、
「あ、あれ?」
転倒して、

ゴツン

 シュンに豪快なヘッドバッドをかました。
295Silent Walk:03/05/01 17:20 ID:8TLx4LC8
「い、痛いよー…目がチカチカするよー…」
 涙目になってみさきは額をさするが、我に返ると、
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」
 と謝った。
「あ、はい。私は大丈夫ですけど」
「あ、よかった〜 一応転ばせるところには周りに何もないということは確認していたけど……
もう一人いるよね。そちらは大丈夫ですか?」
 シュンは黙ったまま、ブルーシートのほうを見る。その下には、ポテトチップスが散らばっていた。
(なるほどね……位置を特定できるように罠を張ったのか……)
 ドアからどくことで、ドアのほうに逃げ手を誘い、音をさせる罠としてブルーシートの下にポテチを散らばせ、
音がしたのと同時にブルーシートの端を引っ張って盲目のみさきでも捕まえられるように、転倒させる。そこまでは分かる。
「あ、あのひょっとして気絶させちゃった……?」
「氷上君……?」
「……ききたいことがありますが」
「え、あ、無事だったんだね。聞きたい事って?」
「僕たちに最初から気付いていたんですか?」
「うーんと、そうだね……」
 相変わらず額をさすりながら、みさきはいう。
「確信はなかったよ。でも私ね、勘はいいほうだと思うんだ」
 笑顔でみさきはいうが、それは目が見えなくなることで発達した能力だ。
「それにね、おかしいとは思ったかな。先に逃げていった人たちがいたよね」
 柳也達のことだ。
「その人たち、こんな布を用意して私達かぶせるってことは、かなり前から私達に気付いていたってことだよね。
 だったら、そんなことしないで普通にすぐ逃げたほうがいいんじゃないかなって。
 だから、ひょっとしたら私達の目をひきつけたかったんじゃないかなって思ったの」
「あ……なるほど」
296Silent Walk:03/05/01 17:22 ID:8TLx4LC8
「……この事務所の出入り口が二つしかないというのは、どうして分かりましたか」
 そのシュンの問いに、みさきは首を振った。
「分からなかったよ。……そうだね、最初に逃げていった人達が、
開いていた窓から逃げていったのは分かったよ。
そっちのほうから音がしたし、こんな雨の日に窓を開いている人はいないしね。
 でも、他に出入り口があるかどうかまでは分からなかったよ」
 ラッキーだったよね、と舌を出す。
「それでも、罠をはろうとしたんですか?」
「もし他にも出入り口があったら、私にはもう捕まえようがないからね。駄目元、かな」
 しばらくシュンは黙ると、ポツリと言った。
「……すごいですね」
「そ、そうかな? かなり行き当たりばったりだと思うんだけど……」
 作戦そのものは確かにそうだ。あまりにも偶然性が高すぎる。
いくつかの仮定の上に成り立っている上に、うまく罠を張れたかどうか、みさきには確認する手段すらないのだから。
 すごいのは、自分の勘に殉じ、暗闇の中でも真剣に逃げ手を捕まえる事を考え作戦を立てた。その事だ。
「僕らの負けだね。神岸さん」
 しょうがないね、と笑うシュンに、あかりも
「うん、そうだね」
 と同意した。
 自分達は、盲目であることにしか目がいかず、この人を見くびりすぎていた。
 捕まえられた事はやはり悔しいけれど……
(捕まえてくれたのが、あなたでよかったよ。川名さん)
 静かにシュンはそう思った。

【シュン、あかり 鬼化】
【みさき 2ポイントゲット】
【駅の事務所、三日目昼ごろ】
297Silent Wal:03/05/01 21:33 ID:8TLx4LC8
すいません。今頃気付きました。
時間は三日目、朝ですね。
298名無しさんだよもん:03/05/02 01:30 ID:XoMOmqp8
「朝食タイム」
ハクエンクアじゃなくてハウエンクアだと思うんだが・・・
299朝食タイム作者:03/05/02 20:51 ID:dgduGEHD
思いこみって怖いです……
ハクエンクア、をハウエンクア、に訂正してください。
300Home Alone:03/05/03 01:15 ID:YMLGgzbt
「逃しませんぞ姉上!」
 一度は視界から消えた己が姉、カルラ。
 彼女の姿をデリホウライが見つけるのに、そんな大した時間はかからなかった。
「あら、意外に足が早くなりましたわね」
「フフフフフ! 俺を昔の俺と同じに思わないでいただきたい! ……ん?」
 僅かな違和感。
 カルラの姿を認めたデリの頭の隅に引っかかった、小さな小さな差異。
「……なるほど」
 だがそれはすぐに合点がいった。
「あの童女は逃がしましたか! なるほど、貴方らしい。だが、好都合! 足手まといを抱えた貴方を捕まえても何の感慨も沸きません!」
 嬉しそうな高笑いと共に、再度加速するデリホウライ。
 ……が、カルラは、
「……フッ」
 と嘲笑とも取れる微笑で返礼した。


 一方その頃、さいかは。
「とぅ〜るーるる〜♪ る〜る〜りら〜♪ るる〜るる〜り〜ら〜♪ ここがいいかな〜?」
 カルラと別れ、一足先に港にたどり着いていた。
「おじゃましま〜す」
 一つの建物(港の監視所か何かと思われる)の扉の前に立ち、ドアノブを回した。
 幸いにも鍵は掛かっていなかったようで、そのまま扉は開く。
「けっこうひろいね〜……」
 中は見た目以上に広く、大雑把に並べられた机や、営業に使うのであろうか色々な機材が大雑把に梱包されたものが立ち並ぶ、雑然とした状況であった。
「ふっふっふ……これはいろいろつかえそうだね」
 乱雑に詰まれた箱の中身を漁りながら、さいかは小悪魔のような笑みを浮かべた。

301名無しさんだよもん:03/05/03 01:15 ID:YMLGgzbt
「フッ、フッ、フッ……」
「ハッ、ハッ、ハッ……」
 そして部隊は姉弟対決に戻る。
 降りしきる雨の中、森を駆け抜ける二つの人影。
 戦闘民族ギリヤギナ同士の対決。常人から見れば、まさに二匹の獣が疾走するかのような、その速度。
 そんな中でも、2人はお互いの様子をしっかりと見定め、己の状態と照らし合わせて作戦を練りあっていた。
(思いのほかスタミナもついている……)
(行ける……行けるぞ! 俺の体力は決して姉上にもひけをとっていない! 純粋な格闘ならばともかく、触れるだけでいいとなれば……俺にも、勝機が!)
 格闘の実力はともかくとして、確かにデリホウライも身体能力はかなりのものであった。
 カルラの表情から徐々に消え行く笑みが、なによりそれを象徴している。
(正面勝負では持久戦になりそうですわね……)
 チッと舌打ちしつつ、
(ならば、ここは作戦通りに……)
 一気に加速すると、当初の目的地である港へと歩を進めた。
「ムッ!? 逃がしませんぞ!」
 当然のごとくデリも歩を早め、ぴったりとその後をくっついていく。

「さいか! さいかどこにいますの!? 返事なさい!?」
 コンクリート張りの小さな港。
 そこの中心に立ち、カルラは大声を張り上げた。
「さいか!」
「ここだよ! かるらおねーちゃん!」
 呼びかけること数回。近くの建物の屋上から、さいかの返事があった。
「さいか! 首尾は!?」
「じょーじょーだよ! はい……これっ!」
 大声で答えつつ、一本のロープをカルラに投げてよこす。
「よくやりました」
302名無しさんだよもん:03/05/03 01:16 ID:YMLGgzbt
「姉上!」
 追いついたデリが見たのは、ロープをつたってスルスルと建物を上るカルラの姿。
「おのれっ!」
 慌ててデリも後に続き、ロープに飛びつく。が……

 ごすっ。
 鈍い音が、デリの頭から聞こえる。

「が……っ……!」
 デリを出迎えたのは、レンガ片だった。
「ご苦労様。さいか」
 手際よく屋上に登ったカルラがレンガを振りかぶるさいかに労いの言葉をかける。
「うん、さいかがんばったよ」
「ええ、いい子ですわね」
 と頭を撫でつつも、空いた手で手すりとロープの結び目をほどくことは忘れない。
 ほどなく、下からどさっと音が聞こえた。


「おのれ姉上! 小細工を!」
 頭にでかいコブを作り、落ちたときに打った腰をさすりながらデリが毒づく。
「だが姉上! もはやあなたに逃げ場はない! そこはもはや袋の鼠だ!」
 周りに大きな建物はない。後は自分が建物内部に突入し、屋上まで駆け上がればカルラと言えども逃げ場はないはずだ。
「判断を過ったな姉上ははははは! では……突撃……ッ!」
 そして鼻息荒く、一気にドアノブを……!

「さいか」
「なぁに? かるらおねーちゃん」
「入口にはどういう細工を施しまして?」
「うん。まず、どあのとってには……」

303名無しさんだよもん:03/05/03 01:16 ID:YMLGgzbt
 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

「あっつぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ノブを握った瞬間、強烈な灼熱感がデリの掌を襲った。
「っつっ! っつっ! っつっ! っっっっっっっっ!!!!!!」
 声にならない叫び声を上げ、その場に悶絶するデリ。
 慌てて近くの水溜りに掌を突っ込み、もう一度ノブを見る。
「あれは……?」
 よく見ると、雨粒が当たるたび小さくジュッ、ジュッと鳴っている。
「……罠というわけか。おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 とかくギリヤギナという種族は短気で単細胞で猪武者だ。特に、デリのそれは筋金が入っていた。
 当然、罠とか謀略といったその手のものは非常に苦手であり同時に、嫌いでもあった。
「見損ないましたぞ姉上! あなたがこのような小賢しい戦い方をなさるとは!」
 激昂したデリは、そのまま扉に向かって飛び蹴りを……

「さいか」
「なぁに? かるらおねーちゃん」
「他に入口には何か細工を施しまして?」
「うん。どあをあけると、そこには……」

 ドッゴォ!

 デリの蹴りが決まり、鍵もつがいもぶっ飛ばしてドアは破られた。
「姉上ぇ! 逃がしませ……おおおおお!?」
 が、床に足を着いた瞬間、世界が縦回転した。いや、床の上の『何か』に足を滑らせ、自分の体が回転しているのだ。
「な、またもや縦かいて……!」
 ゴスッ!
「〜〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 お次は後頭部を床に強打し、頭を抱えてその場に転げまわる。
304名無しさんだよもん:03/05/03 01:17 ID:YMLGgzbt

「パチンコ玉?」
「うん。とってもあるきにくいんだよ」
「なかなかおもしろい仕掛けですわね……」
「それだけじゃないよ。ころんだら、おつぎはうえから……」

 どばっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 続いて真っ赤なものがデリの頭上から降り注いだ。
「な、なんだ!? なんだこれは!? ま、前が見えん! 真っ暗だ!? 光はどこに行った!?」
 前が見えないのは当然である。真っ暗なのも当然である。
「ま、またもや罠か! おのれ卑怯なマネを!」


 ……ペンキを浴びると同時に、思いっきり頭がバケツにはまったのだから……。


【カルラ&さいか 港の監視所屋上】
【デリ 罠の嵐に大苦戦】
【監視所内 さいかお手製の罠が山ほど】
【時間:三日目昼 場所:港監視所 天候:雨】
305昼飯時の惨劇:03/05/03 01:33 ID:inNjkqSW
「ユズっち、これ食べる」
「ありがとう、アルちゃん」
この雨の中、クロウが買い出してきた昼食。たこ焼き焼きそばお好み焼き。それに焼きめし飲み物たっぷり。
クロウ 郁美 ユンナ アルルゥ ユズハ カミュ。それに二匹のペット。この大所帯。小屋はあまりにも狭い。
アルルゥは寝転がっているムックルの背に乗って、たこ焼きをつまみながら、時々ユズハにあれこれ渡している。
ユンナとカミュ、郁美はあれやこれやと談笑しながら、食料をつまんでいる。
クロウは……焼きめしと酒。お銚子一本ちびちび飲みながら、被保護者たちの楽しげな様子を、微笑しながら見ている。
外から聞こえてくるのは雨だれの音。小屋の中でのおしゃべりに、水を差すものはなにもない。
にぎやかな、少女たちの会話。ちょっと疎外感のあるクロウだが、まぁ、端から見ているのもそれはそれで面白い。

そして──そういうときをねらい澄ましたかのように、争乱というものが大手を振って突撃してくるのだ。
306昼飯時の惨劇:03/05/03 01:34 ID:inNjkqSW
突然扉が開く。運命の扉。争乱と混乱と怒濤と活劇の始まり。
「た、助けてくれっっっっ! 殺されるっ!」
飛びこんできたのは一人の男。表に繋いであったウォプタルを見て駆け込んできたのだが、
「……ヌワンギ」
「あ、アルルゥ!」
「逃げろっっっ!」
中に居るアルルゥ他、知り合い数名に、一瞬動揺して動きが止まる。
その一瞬の隙を見逃さずクロウ。ヌワンギの肩からかけられたたすきを発見。全員に激を飛ばす。
そしてその声に、真っ先に反応したのはムックル。一声、周囲を圧する轟哮を発するや、アルルゥを乗せたまま、ユズハを甘咬みすると、窓をぶち破って外へと駆け出していく。
一瞬遅れてカミュ。ガチャタラを抱き、翼を広げてムックルの後を追うと。
むろんこの間にもクロウは動いている。轟哮にヌワンギが怯んだ所に、手に持っていた銚子の酒を、鬼の顔面にぶっかける。
視界を失い狼狽の度を増すヌワンギ。窓をぶち破る騒音と同時に、郁美を抱きかかえたクロウは入り口付近に立ちつくすヌワンギの横を駆け過ぎ、外へ。
さらにユンナ。カミュに遅れること数秒、ムックルがぶち割った窓から外へ飛び出し、先行するカミュの後を追っていく。
結果、ヌワンギがようやく視界を回復させたときには、小屋の中に残っているのは食い散らかされた昼食の残飯と、ペットボトルが数本。
そして──

「マデェエエェェエエエエエエエエエェェエ」

わずか後方から響いてくる、死告の雄叫び。

後ろを振り返りたくても、すぐさまここから逃げ出したくても、恐怖のあまりに体が動かない。
雨に濡れた体。疲れた体。雄叫びが徐々に迫ってくる。
彼は、声にならない悲鳴を上げた。
307昼飯時の惨劇:03/05/03 01:34 ID:inNjkqSW
一方、外へ逃げ出した四人組は。
外は雨。ムティカパにとっては地獄の環境。
外は雨。病を抱えるユズハには、辛い寒さ。
外は雨。空駆ける翼も、雨粒に勢いを衰えさせる。
彼女らの向かう先には、なにが待っているのか。

そして、残る二人。
「ちっっっっ!」
ヌワンギを追ってきた禍日神を追ってきた、浩平一行と鉢合わせしてしまったクロウと郁美。
とっさにウォプタルの手綱を操り、百八十度旋回転の妙技を、鬼達に見せつける。
そのまま彼方へ。雨、森、という二重の悪条件をものともしない巧みな手綱捌きで、森の奧へと駆け進んでいく。
浩平もめげずに後を追おうとするが、瑞佳とスフィーにたしなめられ、断念する。睡眠不足の上にここまでトウカを追って駆け続けてきたのだ。女性陣の疲労は限界を超えている。
いや、彼自身、いい加減体力の限界に来ているということも、あるのだが。

クロウは相棒の背に乗り、風を切って行く。むろん、昨日のホテルとは逆方向へ。
「しまった」
「どうしたんですか?」
風を切りながら走るウォプタルの背。その上で、クロウがつぶやいた。雨の寒さに震えながら、郁美が問う。
「あの四人に──あのでかい建物の方には近づくなと言うのを、忘れてたぜ」
軽く舌打ち。しかし今更どうすることもできない。
昨日、愛獣を奪還しに行った後は、ホテルには近寄っていない。だから、あそこにまだ鬼たちが潜んでいるかは、分からない。
しかし、それでも。忠告はしておくべきだったと、クロウは臍を噛む。
もちろん、四人がホテルへ向かったかどうかまでは分からないのだが。
308昼飯時の惨劇:03/05/03 01:34 ID:inNjkqSW
ともあれ──クロウ達は、死地より脱した。
あとは、郁美の体が冷える前に、新たな雨宿り場所を見つけるだけだ。
クロウにしがみつく郁美、寒さに体を震わせる。
疾走する獣に乗って、さっきまでの隠れ場所から、遠く去っていく二人。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ」
遠く、男の悲鳴が聞こえた気がした。

【クロウ 郁美 森の奧へ。雨宿りできる場所を急いで探す】
【アルルゥ以下四名+二匹 悪条件の中を、いずこへか向かって逃走中】
【ヌワンギ、トウカに捕捉される。惨劇の始まり】
【浩平 瑞佳 ゆかり スフィー 疲労限界。惨劇の小屋まで後少し】
【小屋の状態 昼食の残りがまだかなりある。クロウ達が見つけた物資も手つかずのまま】
【三日目正午前後。雨。森】
309名無しさんだよもん:03/05/03 03:24 ID:A/HMITgM
(・∀・)イイ!
310名無しさんだよもん:03/05/03 05:55 ID:WI4cJ3lC
うお、先に書かれてるし…。まあいいや

(・∀・)イイ!
311名無しさんだよもん:03/05/03 07:12 ID:v0o6mOPX
ドラえもん?
312名無しさんだよもん:03/05/03 11:09 ID:gF4IufWN
スネ夫?
313名無しさんだよもん:03/05/03 12:33 ID:cjI4ZFXa
葉鍵鬼ごっこ感想・討論スレ
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049719489/
314名無しさんだよもん:03/05/03 13:38 ID:U8La+u5f
出来杉?
315名無しさんだよもん:03/05/03 21:46 ID:l77vPCyz
スネ吉?
316名無しさんだよもん:03/05/04 01:22 ID:lI6ivSax
何事?
317最終兵器彼女:03/05/04 02:55 ID:kWuspcan


「うぐぅ……」

 暗がりの灯台の階段に座り込む影があった。
 ――――月宮あゆ。
 食い逃げ犯にして、奇跡を起こす少女である。

 つい先ほどまで彼女はリサ・ヴィクセンを追撃していたが、結局まんまと逃げられてしまった。
 たいやきで釣られてブーストアップしたもののやはり基本スペックの差はいかんともしがたい。
 健闘したとはいえるだろうが、正面切って追いまわして捕まえるのはさすがに無理だ。
 しかし、彼女をいま絶望のふちへ追い込んでいるのは、そのことではなかった。

 ぽたり。ぽたりと、雫が髪から頬を伝う。
 ただでさえ動きにくいダッフルコートがしっかり水を吸ってしまっていた。
 重量加算で、機動力半減。動きにくさは倍増だ。

 しかし、問題はこれでもない。 

 リサが視界のはるか先へ消えた後、朝から降り止まない雨と空腹感に耐えかね、雨宿りが出来そうな
場所でそろそろ食事にしようと思ったのだが―――― 

「たいやき……なくなってるよ」

 そう。あれだけ買い込んだはずのたいやきが見事に消えていたのだ。
 ポイントをすべてつぎ込んでホクホク顔で抱え込んだたいやきが。
 代わりにあゆの手にあるのは、アレ。
 香里たちが入手した、『リーサルウェポン』である。
318最終兵器彼女:03/05/04 02:56 ID:kWuspcan




 事態は深刻だった。
 ポイントはありったけたいやきにつぎ込んでいる。
 つまり、もうたいやきを買うことはできないということだ。
 実のところ問題の本質はこれから先食事しようにもそのための金銭がないということなのだが、あゆの
なかでは、手元にたいやきがないという次元の問題とイコールにされてしまっていた。
 いまにはじまったことではないが、何事に対してもいきあたりばったりなのがよく表れているといえる。

 ひとしきりうぐぅうぐぅと唸った後、あゆはがさごそと紙袋をあさり始めた。
 この中にたいやきが隠れている可能性も―――――まぁ、ゼロではない。
 とても低いが。限りなく低いが。ほぼ皆無だが。
 ゼロではない。
 しかし、アレのほかに入っていたのは、小冊子だった。
「説明書、かなぁ?」
 首をかしげながら、その説明書らしきものを開く。
 が――――

319最終兵器彼女A:03/05/04 02:57 ID:kWuspcan
「うぐぅ……こんなの読めないよ」

 紙袋に同封されていたのは、確かにアレの説明書ではあった。
 開発者たちが懇切丁寧に細部までこだわって作成し、開発部のマネージャーと営業部のコンサルタントが
初心者向けにアレンジしたものだ。
 これを読めば10やそこらの子どもでもアレを扱うことができる。
 ――――但し、英語版だった。
 実は平易な短文が並んでいるだけなのだが、他の参加者ならまだしも義務教育もろくに終了していない
あゆに読めるはずも無い。
 ショップ屋ねーちゃんが他の人に売っていなかった理由はこのへんにあるのかもしれない。
 思わず涙腺がゆるみそうになったが、ぐっとこらえる。
「と、とにかく。やってみることにするよっ!」
 ぐるんと腕を振って、あゆはテキトーにいじりまわしはじめた。
320最終兵器彼女A:03/05/04 02:57 ID:kWuspcan
 




 ――――数分後。





 案の定、何の変化もない。
 誤使用を避けるためか、定められた手順を踏まなければ動かない仕様らしい。
 或いは、単にあゆが不器用すぎるだけかもしれないが。
 どちらにせよ、あゆに使えないという事実に違いは無かった。
 どれだけ便利で有用な武器でも使えなければ意味が無い。
 たいやきのほうが空腹を慰めるだけマシだった。
 なにより好みだから。
 まさしく、猫に小判。豚に真珠状態。
 この場合、うぐぅに最終兵器というべきか。
 

「うん! たいやきをとりかえすことにするよ!」
 更に数分悩んで、あゆがたどり着いた結論は結局それだった。


【あゆ 香里一行を探すことにする】
【最終兵器 未だ詳細不明】
【時間 三日目夜】
【場所 灯台】
【天候 雨】
321名無しさんだよもん:03/05/04 03:16 ID:plonKEaU
クリスティーネ剛田?
322逃げ手たち1:03/05/04 12:24 ID:lI6ivSax
マルチ クーヤ 超ダンジョン。魔方陣はどこー? リアン&エリアと接触。悲鳴を上げて激走。二日目夜。>>27-29

詠美 由宇 市街地の施設。ついに縦横の追跡から逃れる。最高の作品を、サクヤに捧げよう。三日目夜明け前。>>240-244

佳乃 港から逃走。月代と別れる。誰にも頼らずに一人でがんばろう。雨合羽、食料等所持。三日目早朝。>>144-148

楓 森。初音と賭をする。エディフェル消えるがやる気は失われていない。いずこかへ移動中。三日目早朝。>>112-115

岩切 森の中蝉丸と出会う。三日目朝。>>258-259

岡田軍団 森。正体不明のノリと力で祐一一行の包囲を突破。いずこかへ遁走。三日目午前中。

ダリエリ 場所不明。耕一と運命の再会後、夕霧探しを再開。三日目十時くらい。>>52-53

アルルゥ ユズハ カミュ ユンナ 二匹 連れ立って雨の森を、いずこかへと駆けている。三日目正午前後。>>305-308
クロウ 郁美 森の奥深くへ。ウォプタル騎乗。雨宿りできる場所を探す。三日目正午前後。>>305-308
323逃げ手たち2:03/05/04 12:24 ID:lI6ivSax
高子 夕霧 商店街。すばるの犠牲によりヌワンギから逃走成功。ダリエリを探す。三日目昼過ぎ。>>149-153

晴子 詩子 海岸。バイク二人乗り。佐祐理に襲撃されるが撃退。ちょっといい話。観鈴捜索再開。>>190-201
ベナウィ 茜 澪 海岸。佐祐理に襲撃されるが撃退。ウォプタル三人乗り中? 三日目十六時頃。>>190-201

ひかり 観鈴 海辺の飲食店での休憩終了。レインコート着用。バイクに乗った逃げ手を発見。探すか? 三日目午後。>>154-160

ハクオロ 美凪 みちる 森。D一家と別れる。アルルゥ捜索再開。三日目午後五時。雨強く。

リサ どうにかあゆから逃げ切った。三日目夜。場所不明。>>317-320
324鬼二日目:03/05/04 12:25 ID:lI6ivSax
コリン 反転ジュースにより反転中。小山にいる。反転している時間は不明。昼

玲子 きよみに反転させられて、ドリ&グラを無視。が。しばらくして我に返り愕然。二日目午後三時。

名雪 理緒 美咲 さおり 彰 太助 ぴろ どこかの小屋。彰帰還。名雪猫狂い。食事開始。夕刻。

留美 矢島 海の近くの小屋一階にて、シャワーを発見。七瀬、浴びにいく。食事済んだ。夜。
リアン エリア 超ダンジョン。こわごわ芹香捜索中。マルチ&クーヤと接触。悲鳴を上げて遁走。夜。>>27-29

マナ 少年 場所不明。休める場所を探すため移動中。夜。>>129-131

ゲンジマル 河原で休憩中。二日目夜。>>212-215
黒きよみ ドリィ グラァ 怪しい老人を見かける。逃げるように河原から移動。夜。>>212-215

麗子 超ダンジョン。ダリエリを見失う。メガネはどこ……? 深夜。

英二 理奈 どこかの小屋。追いかけっこ終了。小屋の中で思い出話。後、就寝。深夜。>>109-111

あさひ 白きよみ 彩 森の小屋。休息中。服を乾かしたい。彩、妄想驀進中。あの人を捜そう。深夜。>>235-238
325鬼三日目 夜〜早朝:03/05/04 12:26 ID:lI6ivSax
浩之 志保 教会。作戦会議終了。適当な逃げ手と、手を組むことに。現在睡眠中。夜半。>>134-136

芳晴 由美子 場所不明。ダリエリと遭遇。午前五時。

南 鈴香 みどり ぴこ 市街地。爆音に目がさめて、注意しようと思ったら周りに鬼が三人。あらあら。午前五時ごろ。

サクヤ 縦 横 超ダンジョンに突入させられる。夜明け前。>>240-244

宗一 はるか 川のそば。リサを取り逃がす。雨宿りできる場所を探しに行くか? 明け方。>>58-64

聖 月代 御堂 港の詰め所。とりもち銃残弾一。朝食後、佳乃を捕まえに行こう。御堂は不明。早朝。>>144-148
葉子 神奈 巡回員 海岸。葉子さんの説教により、巡回員沈没。引きずられながら、雨宿りのできる場所へ。早朝。小雨。>>65-69
まさき 山道。食事完了。まなみを探さなければ。コスプレ服は手放せない。早朝。
巳間 山中。柳川追撃で疲弊。登山道にぶっ倒れる。上を少女たちが飛びすぎていった。早朝。>>180-183
健太郎 なつみ 登山道を鶴来屋別館に向けゆっくり移動中。ずぶ濡れ。早朝。>>229-231
エディ 敬介 登山道。追撃戦中、エディ転倒。雨の山に取り残される。早朝。>>229-231
326鬼三日目 朝〜昼:03/05/04 12:27 ID:lI6ivSax
醍醐 海岸近くの森の中の小屋。雅史を捕まえる。捕まえたことを後悔。八時ごろ。雨。

伊藤 貴之 場所不明。使い捨てカメラを購入。思い出のアルバム製作決意。朝。>>233-234
蝉丸 森の中雨宿り中。岩切と出会う。朝。>>258-259

エルルゥ 雅史 沙織 平原の一軒家。雅史エルルゥずぶ濡れ。エルルゥ足を挫く。沙織は寝ている。午前中。>>172-175

雄蔵 ホテル付近の森。郁美が楽しくやっていることを知り、安心する。傘をもらう。午前九時。>>277-280

祐一 舞 郁美 由依 教会付近の森。耕一を捕まえようとするも先を越される。午前十時。>>84-92

和樹 晴香 零号屋台で食事&作戦会議。退場も覚悟で、鬼も撃沈することにする。晴香は、そのための得物を吟味している。昼頃。>282-285

すばる 商店街。仲間二人を逃がすため敢えて鬼になる。混戦。服を乾かすため屋内へ。昼すぎ。>>149-153
ビル 相変わらず商店街で背景してる。昼すぎ。>>149-153

ティリア サラ 超ダンジョン。宝箱を開けたらどかん爆発。焦げ。長瀬源之助が近づいてきている。午後二時。>>161-163

芹香 綾香 超ダンジョンから脱出。出現場所不明。午後三時。>>255-257
北川 住井 栞 超ダンジョン。さしあたりの目的を見失い、呆然。栞存在感無し。午後三時。>>255-257
327鬼三日目 夕方〜夜:03/05/04 12:29 ID:lI6ivSax
高槻 繭 海沿いの道の脇にある別荘風建物。疲れのため、二階のベッドで「リ」の字になって爆睡中。午後。>>154-160

垣本 清(略 田(略 海岸近くの休憩所。中に唐辛子弾乱入。爆発。修羅場。午後四時頃。>>190-201
佐祐理 海岸付近。晴子一行を襲撃するも失敗。唐辛子弾使い切る。ちょっといい話。午後四時頃。>>190-201

香里 香奈子 セリオ 真紀子 森。あゆ&リサのチェイスに接触。衝突。最終兵器とたい焼きが入れ替わる。夜。>>217-221
あゆ 灯台。最終兵器に困惑。たい焼きを返してもらいに、香里達を探すことに。夜。>>317-320
D一家 HOUSE。D、顔をレミィの胸に埋め呼吸困難。三人睡眠中。夜。>164-169
328イベント中 朝:03/05/04 12:30 ID:lI6ivSax
梓 結花 かおり 山下り道。駆け下り、勢いがつきすぎて止まれない。鶴来屋別館まで後少し。三日目午前七時。>>229-231
【真希】 追っ手第一号。たぶんきのこ所持。やはり止まれない。
【雪見】 追っ手第二号。目指せ食料補充。やはり止まれない。
【大志 瑞希】鶴来屋別館。朝食中。梓達が接近してくることには、気付いていない。気付くかどうか? >>287-289
【往人 ウルト 千紗】往人&千紗、豪華な朝食に感激。
【ハウエンクア まなみ】ハウ、ウルトの給仕。その内心やいかに。

柳也 裏葉 あかりとシュンをかばうため、駅の事務所から逃走。三日目朝。>>260-266
【智子 初音 好恵】二人を追っていく。
【みさき】駅の事務所。あかりとシュンを捕まえる。食料無くなりました。三日目朝。>>290-297
【あかり シュン】駅の事務所。みさきに捕まる。それはそれで良かったのかもしれない。

【冬弥 由綺 七海】川辺。連係プレーで祐介をゲット。朝。
【祐介】 川辺。連係プレーにしてやられる。
329イベント中 昼以降:03/05/04 12:30 ID:lI6ivSax
カルラ&さいか 港の監視所屋上。さいか、監視所を罠屋敷に変貌させる。三日目昼。>>300-304
【デリホウライ】港の監視所。さいかの仕掛けた罠の数々に翻弄されぼろぼろ。

【ヌワンギ】森の中の小屋。トウカに捕捉される。悲鳴。三日目正午前後。>>305-308
【トウカ】ヌワンギを捕捉。惨劇の幕を開ける。
【浩平 瑞佳 ゆかり スフィー】クロウらと鉢会うが、追撃は諦める。小屋へ向かう。疲弊。

瑠璃子 美汐 真琴 葵 琴音 教会付近。久瀬一行から逃走中。月島兄を確認。三日目昼ごろ。>>274-276
【久瀬 オボロ 月島】 教会付近の小屋。五人の少女たちを発見。追撃開始。瑠璃子未確認。月島以外は、かなり疲労が溜まってきている。

【耕一 瑞穂】森の教会付近。耕一、飛んで逃げ手発見。即行で追いつめる。三日目午後二時。>>246-248
皐月 夕菜 森。耕一に追いつめられている。進退窮まったか

柳川 友里 森。併走中。背後からやる気満々の鬼二人。闘争開始。三日目夕暮れ。>>249-253
【ニウェ】 全力で追撃中。
【光岡】 全力で追撃中。
330名無しさんだよもん:03/05/04 12:33 ID:lI6ivSax
もしかしたら、感想スレを見ていない人もいるのでは、と思い、こちらに投下しました。
リンクの無いキャラは、第五回に登場していないということです。

本文が長いです規制にひっかかったため、細分化させていただきました。

間違い等あれば、指摘よろしく。
331せめて抵抗を:03/05/04 17:46 ID:sTvV+EoT
 夕菜を後ろにかばったま、皐月は目の前の男女をにらみつける。
(こんなのあんまりよ!! どうしようもないじゃない……!!)
 さきほど遠めに見た人間が、わずかな会話の後に目の前にいる。
あまりに理不尽すぎる展開に皐月は歯噛みした。 
「悪いけど捕まえさせてもらうよ」
 その声と共に耕一と瑞穂が近づいてくる。
(ったく、ここまでね)
 皐月は観念し目を閉じる。だが、その皐月の後ろで夕菜が耕一達の後ろを指差して叫んだ。
「あ、後ろにUFOが!!」
「…………」
 呆れる皐月達。無論、耕一たちは振り向かない。
332せめて抵抗を:03/05/04 17:46 ID:sTvV+EoT
「あ、あれ〜 駄目? そ、それじゃスーパーマントが!!」
 必死に叫ぶ夕菜をみて、皐月はなにもかも馬鹿らしくなって、肩の力が抜けた。
(……そうね。ちょっとは抵抗でもしなくちゃ、かっこつかないわよね)
「いや、お姉さん。あのさぁ……」
 唖然としながら、耕一と瑞穂は歩いて間合いを詰めてきた。
 その様子に、夕菜は慌てながら、無駄な努力を繰り返す。
「え〜と、チョコパンマンが!!」
「ゆ、夕菜さん……そんな古典的な手にひっかかる人なんて……!?」
 皐月は息を呑み、耕一たちの後ろを凝視する。
「……?」
 ただならぬ皐月の様子に、後ろを振り返る耕一と瑞穂。
(引っかかる人がいるのね……)
 まあ、ちょっと後ろを向かれたって身体能力の差を考えれば逃げられるはずもないのだが。
 向こうだって意識の裏にそれがあるから油断しているのだろうし。
(けど、一泡ぐらいはふかせてやるわ)
 もう目の前に迫っていた耕一達に飛び掛る。
 まさかこっちに来るわけもないだろうと思っていた耕一の反応が遅れ、
「え?」
 皐月の手が、未だ振り返ったままの瑞穂の肩に触れ、
「皐月ちゃん?」
 夕奈のほうに手を伸ばし、肩に触れるギリギリのところで手のひらをキープする。
 そうして、耕一たちのほうを見て、ニヤッと笑った。
「動かないで!! 動いたら私が夕菜さんをタッチするわよ!!」
333せめて抵抗を:03/05/04 17:47 ID:sTvV+EoT
「さあ、どうする? ポイントゲッターはあなたのほうよね?
このままじゃ一ポイントも手に入れることはできないわよ!!」
 お得意の下目使いで自分にむかって啖呵をきる皐月に、ポリポリと耕一は頬をかいた。
(別に俺がポイントゲッターになったわけじゃないんだけどね)
 いや、でも事実上はそうなってしまうんだろうな、とも思う。
「はぁ……よく考えますね」
 耕一の隣で瑞穂が感心したような声を出した。
 耕一も同感だった。こっちの油断もあったとはいえ、この状況でとっさによく考えたものだと思う。
(負けず嫌いなんだろうな、この子)
 自分が鬼になっても、こちらに一泡吹かせたいのだろう。
 さて、どうしようか。いまだに夕菜にタッチしていないという事は、皐月には夕菜を逃すアイデアがあるのかもしれない。
それとも今アイデアを考えている最中なのか。
(正直、そのアイデアってのを見てみたいんだけどな)
「下手に動かないでね。いくらあなたでも私より先に夕菜さんにタッチはできないでしょ?」
 牽制しながらジリジリと下がっていく夕菜と皐月。相変わらず皐月手は夕菜に触れないギリギリのところでキープされている。
(けど、ごめんな。さっき一人見逃したばかりなんだ)
 だから、耕一は答えた。
「できるよ」
「え?」
 皐月が顔に疑問を浮かべるより速く、耕一は移動し、皐月の手をゆるく掴み、夕菜にタッチした。
334せめて抵抗を:03/05/04 17:47 ID:sTvV+EoT
「俺、完璧に悪役だよなぁ……」
 悔し涙を浮かべる皐月とそれをなぐさめる夕菜を遠目でみながら、
耕一はつぶやいた。
「まあ、しょうがないですよ。こっちだってポイントは分散しちゃったわけですし」
「そうなんだけどね……ああ、かわいい人達だったからお近づきになりたかったんだけどなぁ」
 瑞穂の蹴りが容赦なく耕一の脛にめり込んだ。

【耕一 夕菜ゲット】
【瑞穂 皐月ゲット】
【皐月、夕菜 鬼化】
【三日目 二時ごろ】
335名無しさんだよもん:03/05/04 21:32 ID:qD4H2b1I




 田 原   総 一 郎  !!



336狙撃者:03/05/04 21:56 ID:lI6ivSax
「よしそこまでだ、動くな!」
と、カルラの耳に、男のだみ声が届いた。
さすがはカルラ。奇襲にもまったく動じることなく、悠然とその声の方を向く。
一方で、さいかを抱きかかえ、瞬転の状況変転に備える。
声がしたのは左横にある建物から。一階建ての小さな建物、そこの窓から、黒光りする銃口がのぞいていた。
「よぉ。動くなよ。動いたら即座に撃つ」
標的がこちらに気付いたことを確認し、再び声を発する。圧倒的優位を誇示するような、声。
ぎらつく目。口元に浮かぶいやな笑み。しかしその銃口は一線にカルラを捕らえている。
「浅はかだなぁ、他に鬼が居る可能性を考えなかったのかよ」
「……そうですわね」
ふっ、と笑うカルラ。
気を抜いたわけではない──決して。デリホウライに気を払うあまり、周囲への配慮がおろそかになった、それだけのこと。
あの子も腕を上げたものですわね。そう思った。
「カルラおねぇちゃん……」
不安げな声を上げるさいか。腕の中で、顔を見上げる幼女に、カルラは優しい笑みを返し、
「大丈夫ですわよ。わたしに任せておきなさい」
そう言った。
そう。確かに自信はある。
追い込まれているとはいえ、彼女の身体能力は尋常者をはるかに上回っている。
向こうの要求に応じる振りをしている内に、必ず隙ができるはず。
その隙を見逃さず、逃げればいい。そう考えている。
しかし──男は、ただ銃口を向けたまま、なにも言おうとしなかった。
雨は淡々と降り続いている──
337狙撃者:03/05/04 21:56 ID:lI6ivSax
御堂は、屋上に立つ女に銃口を向け続けている。
外はひたすら降り続く雨雨雨。
あらゆる生物にとっては、恵みとなるこの雨も、この男にとっては生死に関わる環境。
外に出るわけにはいかない。
聖と月代は、朝食後、佳乃を捜しに港から去っていった。
御堂は一人。今は一人。愛銃一挺だけが友。
期せずして現れた女と幼女。隣接する建物の屋上に立ち、何事か話していた。
御堂に、見逃すことなどできるはずがない。
しかし、捕まえるために、外に行くことはできない。
だから、この策を選んだ。

濡れてくる体。服全て、下着まで浸透し、皮膚までぬらしてくる。
「寒いよ……カルラおねぇちゃん」
「……なにを考えているのですか……」
強靱な肉体を誇るギリヤギナ族。カルラにとっては、この程度の雨、どうということもない。
しかし……さいかには辛い。あまりにも、辛い。
「はくしゅん」
カルラは、表情をわずかにゆがめる。奴は、いったいなんのつもりなのか……
338狙撃者:03/05/04 21:57 ID:lI6ivSax
御堂は、女が見せた優れた能力を見ていた。
強化兵たる自分にも、勝るかもしれない瞬発力。それに、おそらく実戦で鍛えられた、優れた判断力。
下手にあれをしろ、こっちに寄れ、などと言って、女を動かすのは得策ではない。そう御堂は判断した。
銃から銃弾が出るのであれば、そこまで神経質にはならなかっただろう。
この銃はただのとりもち銃。発射から弾着までのタイムラグは、かなりのものがある。遠距離狙撃の精度にも、不安が残る。
わずかに照準が外れた、その隙を見逃さず、脱兎のごとく逃げ出されてしまう可能性は、十分に考えられるから。
だから、御堂はあえて、獲物にねらいを定めたまま放置する。
彼の性格にはそぐわない、待ちの手を打ったのだ。
降り続く雨。屋外でただ立たされている女の体力を、確実に奪っていくはず。
いや、女が弱る以前に、連れの幼女が耐えられまい。
十分に弱ったところに、降伏勧告を出すつもりなのだ。
だから、ほどよく時間が経つまで待つ。ひたすらに待つ。
軍人である御堂には、待つことはそれほどの苦痛ではないから。

【カルラ さいか 屋上に釘付け】
【御堂 ただひたすらに待ち】
【時間動かず三日目昼。港】

その一方で。デリホウライは。
「うぉおおおおおおおおおおお」
生傷を体中に負いながらも、ようやく上った二階から、瞬く間に一階へ転落させられていた……

【デリホウライ 苦戦中。一階に逆戻り】
339エスコート・ナイト:03/05/04 22:36 ID:o8/IUUbV
 雨の森を疾走する、大きな影。恐竜の様な姿態――ウォプタルだ。
 その背にあるのは、二つの人影。クロウと、その体にしがみ付く郁美である。
 恐々と開かれた郁美の瞳の中、森の風景が急速に流れて過ぎてゆく。
「もうちょっと我慢してくれ、嬢ちゃん」
「は、はい…! 大丈夫です…!」
 手綱を握り、巧みにウォプタルを操るクロウの言葉に、健気にそう返事をする郁美。
 自分の体にしがみ付く郁美の体が伝えてくる震えは、恐怖や緊張による物だけではないだろう。――早く、雨を凌げる
場所を見つけ出さなければならない。クロウは、目元を更に鋭く引き締めた。
 二人の人間を乗せて、大きな獣は仄暗い森の中を走り続ける――

 ――その頃…
「ぬあ〜…、寒い〜、シャワー浴びたい〜、着替えたい〜」
「…岡田、五月蝿い」
「いざ探すとなると、屋根のある場所ってあんまり見つからないね〜。私も早く着替えたいよ。パンツまでびしょ濡れだし」
 傘を差しながらも何故か全身が雨に濡れている、岡田・吉井・松本の三人娘である。
 …先刻、かなり無理と無茶をして鬼チームの包囲網を突破した彼女達であったが、その時に体力と共にツキ迄使い込ん
でしまったか、その後、雨宿りや隠れられそうな場所を見つけられないまま、森を彷徨い続けているという次第であった。
 が、これ迄別の鬼に捕捉されていないのは、まだツキに見放されていないという事だろうか。
「………とにかく、早く建物なりなんなりを探さないと。もうお昼頃だし…ハラ減ったわ」
「確かにね…」
340エスコート・ナイト:03/05/04 22:37 ID:o8/IUUbV
「…わぁっ!? 何でこんな所におっきな穴が…!?」
 三人の歩く先に、大きく口を開けた穴が鎮座していた。
「ふむ。落とし穴の様ね」
「誰がどう見てもね〜」
「…もしかして、森中に仕掛けられてるのかしら、こういうの?」
「だとしたら、ついてるね〜私達♪」
「我等岡田軍団には、サトーマサシという守護英霊が――」
「………佐藤君はシんでないよ、岡田ぁ(ゴゴゴ…」
「微笑みながら怒らないでよ松本…!?(怯」
「あーもう、早く行くわよ二人ともー」
 ――と、落とし穴の傍でそんなやり取りをしていた三人の耳に…
 ドドドパキッパキッ…ガサガサガサッドドド……!――
 …何か大型で重量のあるモノが走ってくる音――重い足音と、茂みを突き抜けて来る音が、森の奥から響いて来る。
「……何…?」
 三人娘は互いの顔を見合わせ、そして音のして来る方を凝視した…


「……誰も追って来ねぇな…」
 ウォプタルを駆ったまま、肩越しに後ろを見やるクロウ。
「そろそろ少し足を遅めるか…」
 ――と、ウォプタルの体力も考えて足並みを落とそうとし、大きな茂みを突き抜けた時である。
『わきゃあぁぁぁああああっっっ!!???』
 茂みの向こう側に佇んでいた三人の少女達が、突然現れたウォプタルの姿を見て悲鳴を上げた。
「ぶつかる…!?」
「クッ…!!」
 小さく悲鳴を上げる郁美。――クロウは表情を強張らせながらも、手綱を引き、ウォプタルの足を強引に停止させる。
 ――が、
「きゃあぁぁぁっ…!?」
 跳ね飛ばされなかったものの、運悪くウォプタルの正面に位置していた一人の少女――タコさんウインナ型のヘアスタイル
をした少女が、大口を開けていた穴の中へ落ちてしまった。
341エスコート・ナイト:03/05/04 22:37 ID:o8/IUUbV
「ああっ、吉井〜!?」
「うあ…、…しくじったぜ」
 困り果てた表情を浮かべ、クロウは額に手を当てた。
「ちょっとぉ! いきなり飛び出して来て、何て事してくれんのよ!!?」
 水色髪のツインテール少女が、元々鋭いのであろう目元を更に鋭く険しくさせて、憤慨の色をはっきりと向けて来る。
「悪ぃ悪ぃ。まさか人がいるとはな」
「言い訳はそれだけ…!? だったらあんたの所為で穴に落ちた吉井を早く助けなさいよね!」
 いきなり現れたウォプタルに驚きはした物の、乗っているのが人間と解ってか、ツインテール――岡田は、臆するどころか、
指を突きつけて更にクロウに迫って来た。
「威勢の良い嬢ちゃんだな。そんなおっかない顔しなくても、ちゃんと助けるって」
 苦笑を浮かべながら、クロウはウォプタルから降り、郁美も下ろしてやる。
「ちょっとの間、この子を傘に入れてやってくれねえか?」
「いいわよ。さっさと助けてやって」
「あの…、お邪魔します」
 おずおずと身を寄せてくる郁美を、岡田は体をずらして傘に入れてやる。その間、岡田は郁美に見向きもせずクロウを
睨みつけていたが、傘の大部分を譲った所から見ると、案外親切な人物なのかもしれないと、郁美は思った。
「吉井〜、大丈夫〜?」
 穴の縁にしゃがみながら見下ろす松本が、下に落ちた吉井に声を掛ける。
「…大丈夫………とは、言えないかも…」
「どうかしたの〜…!?」
「……見事に泥まみれよ…」
 恨みがましい――と言うより、うんざりといった風の声が、穴の中から返って来た。
342エスコート・ナイト:03/05/04 22:38 ID:o8/IUUbV
「済まねぇな、嬢ちゃん。今、縄を下ろしてやるからよ」
 クロウが穴の中を見下ろすと、胸から下を泥だらけにさせた吉井が、やや据わった眼差をこちらへと返して来ていた。
「――そいつに掴まってくれ。後はこっちで引っ張る」
 ウォプタルに結びつけた縄を穴の中へと降ろし、吉井がしっかりと握るのを見て、クロウは“相棒”にゆっくりと縄を引かせる。
 …程なくして、穴の中から脱出した吉井を見やり、松本が同情の笑みを浮かべた。
「泥だらけだね〜、吉井」
「だからそう言ったじゃない…」
「全く申し訳無ぇ、嬢ちゃん。もっと注意してりゃあ良かったぜ」
「………いいです、別に。元々雨に濡れてたし…。…………これでそっちが鬼だったら、泣きっ面に蜂だった」
「それはこっちだって同じだぜ。ま、嬢ちゃん達が鬼だったら、穴に落ちようがさっさと逃げてたけどな」
 屈託無く笑うクロウに、吉井も力無く笑い返した。

 ――森の中を歩く、小集団。傘を差して歩く岡田と松本。ウォプタルに乗りながら傘を差しているのは、吉井と郁美。その
ウォプタルの手綱を引いて少女達を先導する様に歩くのは、クロウである。
「…あんまりくっつくと、泥が付いちゃうわよ?」
「大丈夫ですよ。背中の方はぜんぜん綺麗ですから」
「本当ならクリーニング代とか慰謝料とかを請求してるトコよ? お人好しの吉井に感謝しなさいよね」
「ははは…、解ってますって、嬢ちゃん」
 一人傘を差さずに歩くクロウであるが、岡田になじられようが、彼女達の持っていた傘のお蔭で郁美が濡れずに済む
ので、上機嫌であった。
「…(さっき、賑やかな娘さん達と別れたばかりだってのに、またこんな嬢ちゃん達と一緒になるとはな…)」
 どうやらこのゲームにおいて、自分の身の上に“『護衛騎士』の星”の様な物が訪れているらしい。
 面倒くさい――とは、勿論思ったりしない。婦人の護衛は、男としても武人としても本懐である。
「…(――ま、とことん頑張らせて貰いましょっかね)」
「あ〜、建物があるよ〜♪」
 松本が明るい声を上げる。
 彼女が指差すその先――森の中にひっそりと佇む、建物の姿が見えた。
343エスコート・ナイト:03/05/04 22:38 ID:o8/IUUbV


【クロウ 郁美  森の中を疾走中に岡田軍団と遭遇】
【岡田軍団  森の中、口を開けた落とし穴の傍でクロウ・郁美ペアと出会う】
【吉井  驚いて穴の中へ転落。…泥まみれ】
【吉井救出後、取り敢えずチームを組む】
【森の中 建物を発見。先客不明】
【三日目 昼過ぎ】
344名無しさんだよもん:03/05/04 22:43 ID:qD4H2b1I

ルビー・モレノ

345名無しさんだよもん:03/05/05 05:41 ID:x3iQK7wM
(・∀・)イイ!
346リスタート・清(略):03/05/05 20:10 ID:KI1TIQri
「では、佐祐理さんを探しにいくぞ同士よ」
「なんでんな展開になるんじゃい」
「お水…無い?」
上記の発言は、上から垣本、清(略)、田沢圭子である。
ちなみに田沢圭子は垣本の買ってきた服を、なんとかやっとこさ着る事が出来(なんせ悶絶してたから)、理性とともに田沢圭子という本来の名を取り戻した。
どうも服が人間として最低限のアイデンティティらしい。
あのハイテンションというかトリップというか暴走は恥辱から来ていたのか?
もう今となっては謎である。

「何を言うか。あのくらいでトリップしていては目立つ事など到底出来ようはずも無い」
トリップしていた時の方が存在感があったと思う。
「………まぢ?」
うん。ていうか服着ろお前。パンツ一丁じゃねぇかよ。
「何、色気のあるネタのほうがハァハァしてくれる奴がたくさん居ろう」
もう勝手にしなさい。

「何をしている同士、清(略)よ」
「地の文と会話。ていうか同士呼ぶな」
「相変わらず不条理ね」
発言順番は先ほどと一緒である。
垣本、とにかく今すぐにでも佐祐理さんを探したい。
清(略)、目的などない。目立てればそれでいい。
田沢圭子、最早性格が変わっている。かなりの修羅場を潜り抜けてきたせいだろう。
「何を言うか。ここで出合ったが三年目。『影の薄い脇役』という同士だ」
「あたしは正規ヒロインよ。願い下げだわ」
「台詞が意味不明よ、そんな日本語無いわ。何よ三年目って」
347リスタート・清(略):03/05/05 20:11 ID:KI1TIQri
「しかし佐祐理さんは何所に行かれてしまったのか」
「折原浩平は今何処。奴が居れば我が輝く季節へ正規ヒロインであることを証明できると言うに」
「雅史君はどこにいるのかしら。こんなパーティー願い下げよ」
雨の降る中を三人で傘も差さずに歩く。目的の人物が三人バラバラ。意味も無く共に行動している。
「ヒロインが居てこそ輝くのが脇役というもの。このチャンス逃してなるものか、急ぐぞ同士よ」
「しかして奴は長森瑞佳や七瀬留美などと行動をともにしている可能性も無きにしも非ず。奴等を如何にして排除するか。それが問題か。急ぐぞ垣(略)よ、田(略)よ」
「はぁ…雅史君…届かぬこの想い。探すわよ二人とも」
会話がかみ合ってないぞお前ら。
「嗚呼、佐祐理さんはこんな奴等よりも数段美しいというに…いや、佐祐理さんの美に敵う物が果たしてこの世にあるだろうか。否、断じてあるはずが無い!」
「川名みさきや上月澪、里村茜などは別にパーティーを組んでいる可能性が高いか。椎名繭は度外視しても構わぬだろう。深山雪見や柚木詩子、広瀬真希などは論外か」
「……」
どうした田沢圭子。
「ごめん、私この不条理会話スパイラルから逃れていい?」
田沢圭子、離脱。
どうもこのノリについていけなくなったらしい。
348リスタート・清(略):03/05/05 20:11 ID:KI1TIQri
「………」
「………………」
どうした、残りの二人。
「なんだ垣(略)って」
「今頃気付いたか愚か者よ。ていうかなんだヒロインが居てこそ輝くのが脇役って。我はヒロインだと言って居るだろうが」
「何を言う。無個性のヒロインなどヒロインにあらず。眼鏡ッ子であるだけで生き残れると思っていたか。笑止」
「フッ、それを言うならこちらも言わせて貰おう。貴様などがあの倉田佐祐理とつりあうとでも思うておったか。それこそ笑止よ」
「自らの佐祐理さんとの差異を自覚しておるのか? その程度の矜持も持ち合わせずヒロインなどと片腹痛いわ」
一瞬、時が止まった。
「…貴様、ただ一言だけのキャラであろう?」
「それがどうした?」
「恐れ多くも輝く季節へ正規ヒロインにタメ口を叩くというのはどういうことか? 返答次第では容赦せぬぞえ」
「クックック…ククク…ハーッハハハハッハー!!! これは恐れ入った! ヒロインというのは相手が認めてこそ、いや物語の中で重要なウェイトを占めてこそヒロインというのだ!
 無個性キャラの矜持など知らぬ存ぜぬ! ましてや他作品のヒロインなどと笑止! そのようなことも分からぬ愚か者とはな! これは笑いが止まらぬわ!」
垣本は――いやもう訳わからなくなってきたので説明すると、垣本→清(略)→垣本→清(略)の順番を繰り返してるのである――到底漢とは思えないというか、他作品の脇役のネタを使って清(略)の言い分を笑い飛ばした。

ぷっつーん。
田沢圭子のそれより、幾分かショボい音を立てて、清(略)の何かが弾けた。

(わ……
 私は…キレた…)

そして清(略)は、吼えた。ありったけの力を込めて吼えた。
その闘気に答えるかのように、清(略)の身にまとう物が弾けた。そりゃもうバリバリと。
折角佐祐理さんのくれた超高級ブランド物の下着だったのに。

「垣(略)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
「(略)を付けるな無個性野郎ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」
349リスタート・清(略):03/05/05 20:12 ID:KI1TIQri
「表に出るが良いわ! 貴様如き雑兵我が拳で粉砕してくれる! そして誰とも知れぬ異国でのたれ死ぬが良い!」
「ハッハー! これは面白い! どちらが雑兵か思い知らせてくれるわ! 貴様の貧弱な拳など我が超肉体には知らぬ通じぬ! 貴様が俺の哀れな踏み台となるのは神話の時代から決まっていたのだ!」


最初からここは表である所の砂浜で、妙に電波な単語を吐き散らしながら二人は対峙する。
清(略)のアバレモードは留まる所を知らない。この鬼ごっこ始まって、二人目の相手は同じ東鳩のキャラである垣本。
垣本がいつのまにか妙なキャラに育ってしまったのは、このときのためと言っても過言ではないのかもしれない。
清(略)には東鳩に何か妙な運命が仕掛けられていたのだろうか。
いずれにせよ神の仕掛けし運命の歯車は、再び動き出したのだった。
そして始まった勝負。二人は両の拳を突き出した。
使うは己の運と勘。
集中すべきは己の両手の親指のみ。
叫ぶ合言葉、そして数字が飛び交う。
その数字と立てる指が2度揃いし時、両の腕は弾けるのだ。

「指すま3!」(びっ!)
「指すま0!」(びっびっ!!)
「指すま2!」(びっ!)
「指すま4!」(びびびびっ!!!!)

そして二人の死闘は…
「同じネタが続くと面白くないわねぇ」<秋子さん
「右に同じですね」<千鶴さん
「もうこういうことばかり勘弁して欲しいです」<足立社長
管理人室のこういう事情によってカットされたため、正確な記録は残っていない。
だが、以後この戦いは、
「激!新神話百日戦争指すま ヴァージョン1.395302」と呼ばれ伝説となった、らしい。
350リスタート・清(略):03/05/05 20:13 ID:KI1TIQri
【清(略) キレる。こんどはこっちが全裸】
【垣本 受けて立つ 嘲り笑い?】
【三日目午後5時くらい?】


「あ…アホだわ…あんなアホやってたの私…」
田沢圭子は、二人を見て、かつての自分をフラッシュバックさせ脱力した。
「やってられんわぁ…」
そして、脱力しながらずりずりとその場を離れていった。
「雅史くーん…どこー…」
そして36分ほど「雅史君、雅史君」と呟きながら彷徨って、不意に立ち止まった。
やっぱこういうときは、アレでしょう。
久しぶりに、いっとけ。

ど う し た ら い い ん だ…

【田沢圭子 (略)地獄脱出】
【雅史を求めて彷徨ってる】
【雨ざんざん降り】
351名無しさんだよもん:03/05/05 23:53 ID:SJHUdP6A
 春めく今日この頃。世間はゴールデンウィークであり、よってシゲオもまた一般的な連休
に身を投じるーーーはずであった。
「カズオっ! これは一体なんだ?」
 うららかな五月の夕暮れにシゲオの叱責が響く。いち早く波乱を察知した妻のシズエは、あ
らあらイズミヤ行かなきゃ、と言って愛犬チョースケと共に家を抜け出した。
「何とか言ったらどうなんだ! だまってちゃわからんだろ!」
 そんな父にシゲオは反抗的な態度で、目も合わせようとしない。今年29歳子供扱いされ
るのはウンザリなのだ。
「全く・・・・・・」そういってシゲオは息子カズオの部屋を見渡した。カラーボックスと上半分取り外し
た学習机におびただしい数の雑誌と漫画が命がけで張り付いている。壁は総天然色のポスタ
ーで埋め尽くされ呼吸困難のために壊死寸前のありさまだ。
 シゲオの目が止まる、学習机の上、パソコンのモニタに映る拙い絵、カチューシャそしてなぜか羽の生
えたリュック、六倍角のフォントが『あゆたん』とレイアウトされ、リターンキーを待つカーソルが我関せずと点
滅を繰り返す。
 シゲオの頭にかっと血がのぼる。くちびるが震え拳が握られる。
「29にもなって恥ずかしくないのか!」      
 息子にいう言葉ではなかったのかも知れない。
 思わずいってしまった言葉にシゲオ自信驚き、二階の部屋を後にした。
 始めて本気で息子を怒鳴ってしまったのだ。
352名無しさんだよもん:03/05/05 23:53 ID:SJHUdP6A
 台所でひとりシゲオは落ち込みまくっている。
 悲しい時いつも分かち合う愛犬チョースケは妻シズエがイズミヤに連れていってしまった。半額の
冷めた焼き鳥が好物なのだ。ちなみにシゲオの好物は駅前の屋台で買うタイヤキである。
 後悔半分と怒りが冷めて何とか筋の通った理屈をこねくり回す事後処理の半々で、一方
今後気まずくなるであろう家庭への不安がシゲオの頭脳を攪拌していた。
「ふぅ」
 結論は出ないが溜息は出る。シゲオとて世間を戦い抜いてきたいっぱしの戦士、溜息一つ
で乗り切る術を心得てはいたが、こと『このこと』に関しては経験不足であった。
 息子カズオと上手くやってる、ここ半年そう思っていた矢先の出来事であった。
「・・・・・・親父」
 いつの間に降りてきたのだろう、息子カズオが階段の下にいた。
「悪かったな、俺、隠してるつもりはなかったんだ」
 そういって机に歩み寄った息子カズオが差し出したのは一冊の本だった。いや厚さ5_程
のコピーを綴じた冊子だった。
「・・・・・・」
 総天然色の表紙には『秋子さんが診てる』の文字。診療台の縛られたカチューシャの少女がむ
りやり得体の知れない物を食わされそうになっている絵だ。
「俺の・・・・・・同人誌だ」しぼり出すようにいう息子シゲオ。
「・・・・・・同 人 誌 ?」
「ああ・・・・・・同人誌だ」胸を張る息子シゲオ。彼は許しを求めてるんじゃない事がシゲオにも
わかった。彼が求めているのは理解なのだ。
ーーーそれでも
「断じて認めん」
ーーーいった。
「アユタンに酷いことするそんなドジンは父さん断じて認めん!」
353名無しさんだよもん:03/05/05 23:53 ID:SJHUdP6A
イズミヤの駐車場、ポールに繋がれたチョースケはシズエを待っている。
チョースケには予感があった。
 今日はご馳走にありつける、そんな予感が。
「チョースケーおまたせー」そういってシズエが戻ってきた。ご馳走を持って。
「今日はね、父さんシゲオに男の話があるんだって。だから公園よってこうねえ」
 チョースケは少し悲しい。今日はご馳走なしかも知れないから。
「チョースケ好きな焼き鳥あるからね」
 しっぽを振り回すチョースケであった。
354名無しさんだよもん:03/05/05 23:53 ID:SJHUdP6A
 夕暮れの公園にはシズエとチョースケのほかは誰も居なかった
 チャンスとばかりにション便を掻けまくった(シズエにではない)チョースケは冷めた焼き鳥に食らいつ
いている。
「父さんねえ、夕べすっごい緊張してたんだよチョースケ。『こればっかりはいわんきゃなら
ん!』ってね。アユタンに酷いことするのは許せないって。まして自分の息子がそんな本描く
なんてって」
 シズエはよくチョースケにこんな事を話す。チョースケにはよく判らないがそんな時ご馳走にありつ
けることが多い事は知っていた。
「間違ってないよねチョースケ、父さん間違ってないよね」
 そういってシズエがチョースケの頭を撫でる。チョースケは唸り声で答えた。横取りされると思った
のだ。
「でもねホントはちょっと悔しいんだ、父さんアユタンアユタンってさあたしよりアユタンの方がいい
のかしらって」
 チョースケと二人の時は女学生気分に戻るシズエであった。
 6時のサイレンがなる。
 チョースケはこれを聞くと狂ったように吠えたくなるので吠えまくった。
「かえろチョースケ、父さんに駅前でタイヤキ買ってね」
 まだ吠えたりないチョースケを引きずって家路につくシズエであった。
 買い物袋にはすき焼きの材料がたっぷりある、家族でスキヤキを囲めばきっと大丈夫、何よ
り親子なのだから。
 ーーーそれに
 密かに100コーナーで買ったカチューシャを今夜ベットで付けてみようともくろむシズエであった。
 熱い夜になりそうだ。
  おしまい
355”復帰”です:03/05/06 01:10 ID:+8meof5V
「あらあら……いけません……」
口調だけだと誰だか分かるまい。
「ちゃんと片付けないと……」
ここは、小山にある小さな広場。
「ごみ箱は……あちらですね」
とある参加者が、悠長にも広場に転がるごみやくずの掃除をしているのだ。
肩からかかった白いたすきは、その女性が鬼であることを示している。
「よいしょ……よいしょ…・・・」
量はぜんぜん少ない……むしろ、気にするほうがおかしいほどなのだが、それでも、この鬼には見過ごせないことのようだ。
「これで……全部ですね」
服にちりがつくのを厭うたのか、へっぴり腰でやっていたから、時間がえらくかかってしまった。
「少し休んで……それから行きましょう」
でも、どこへ?
「お腹がすきました……食べ物を探さないと……」
木陰のベンチに座る。小さく独り言。この先の予定について、考えているようだ。
二十分ほど経ったか。
立ち上がろうとして、
「あ……」
こけた。
緩やかな傾斜になっている地面を、二転三転する。とっさに受身を取れず、ころころと転がって、
「痛い……」
仰向けになって、寝転ぶ状態になった。

そして
356”復帰”です:03/05/06 01:10 ID:+8meof5V
「……いたたたた……あれ? 私、なにしてたんだろう」
コリンが眠りについて、コリンが目を覚ました。
「ユンナは? あれ?」
記憶が混乱している。
「……まぁ、いいか。とりあえず、行こう」
もちまえのさばさばした性格がここに現れている。適当と言っても良いが。
ともかく……コリン、復活である。

【コリン 反転解除。反転中の記憶はあいまい】
【二日目夕方 小山の広場】
357名無しさんだよもん:03/05/06 01:14 ID:+8meof5V
ところで、上のあれは誤爆か?
それとも単なる荒らしか?
358名無しさんだよもん:03/05/06 01:24 ID:KYruP13j
>>357
まあ、その辺は避難所等で。
359名無しさんだよもん:03/05/06 03:40 ID:Zh85tWkF
>357
本人の自演?
360兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:29 ID:u2fkGskb
 …なるほど――カルラは内心で独りごち、唇の端を歪めた。
 ――“奴”は、こちらが弱るのを見計らい、一気に捕らえに来るつもりなのだろう。或いは、降伏を勧めに来るか…
 何れにせよ、持久戦。…根比べとでも言うべきか。
「……(…それも、さいかを“見て”の作戦ですわね)」
 崩し易き箇所を突く、冷徹な作戦、計画だが、堅実なやり方でもあるだろう。カルラは、卑怯な――とは思わなかった。
 銃を構えたまま、微動だにしない男を見据え、カルラも微動だにしない。
 …そして、五分。…十分。…十五分。………――
 ――両者とも、やはりぴくりとも動かない。…只、さいかだけが不安げに身じろぎし、相変わらず下の方で
のた打ち回っているデリホウライの喚く声、そして、徐々に体温を奪ってゆく雨だけが、時が動いている事を示していた。
「……(兵士――ですわね。それも、よく訓練された…)」
 ぴたりとこちらに狙いを着けたまま全く動こうとしない銃口と男を見て、カルラは静かに賞賛した。よく訓練され、熟練した
技術を身に付けた軍人――兵士という者は、ある種の芸術品でもある。…但し、血塗られた芸術ではあるが。
 雨の音が、場を静かに包み、濡らす。さいかがもう一つ、くしゃみをした。
 …さいかを抱いたまま、ここから地上へ飛び降りる事は出来る。かなり無茶ではあるが。――だが、その僅かな時間だけで
男はあの武器でこちらを狙い撃ちに出来るだろう。狙い撃ち…。……撃つ――か。
 …ふと、カルラは思った。
「……あの武器…」
「…あれは、“てっぽう”だよ。ばーん!っていって、てつのたまとかがでて、ひとにおおけがさせるの」
 知っている。火薬の爆発力によって鉄の礫を飛ばす――細やかな手入れと管理が必要だが、強力な武器だ。
「……なるほど…」
361兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:29 ID:u2fkGskb
「でもね、あれはほんもののてっぽうじゃないとおもう…」
「あら、何故ですか?」
「だって、ほんものなら、うたれたらさいかもかるらおねぇちゃんもしんじゃうよ? しななくてもおおけがしちゃうし」
 そうなれば、このゲームは中断。もし何のお咎めも無く続行されるのであれば、鬼ごっこではなく、只の殺人遊戯だ。
 …となれば――
「………“あれ”から飛び出るのは、鉄の弾などではなく、もっと別物――」
 恐らく、こちらの動きを封じる類の物であろう。…現に、銃口は、さいかではなく、カルラに狙いを定めている様だ。
 だが、それならば尚更、何故撃たない? 自分であれば、撃っている。さっさと撃って動きを封じ、タッチしに来ている。
また、彼のあの集中力などから見るに、射撃の技量は相当な物であるはずだ。――なのに、何故撃たない?
 …撃てない理由でもあるのか? それとも――
「……いっそ賭けてみるのも、手――ですか…」
「かるらおねぇちゃん…?」
 小首を傾げながら見つめて来るさいかに、カルラは優しく微笑んで見せた。
「………さいか。あの方は何故、早く撃ってこないのかしら? 例えあれに人を傷付ける程の威力が無いにせよ、
 早く撃って我々の動きを封じるべきではなくて?」
「うーん…。…たぶんね、うてないりゆうがあるんだよ」
「…どんな?」
「たまがないからうてないとかいうこともあるかもーだけど、あんなにはなれたところから“はったり”かけてきても、
 あんまりいみないとおもうから、きっとたまはまだはいってるよ」
「あら、弾があるのなら、尚の事撃って来ないはずが無いのではなくて?」
「きっと、ばしばしうてるほどのこってないんだよ……もしかすると、あといっかいぶんくらいしか」
「………。――下のデリホウライと組んでいるという可能性は?」
「でり…? ああ、かるらおねぇちゃんのおっかけ? うーん、ないとおもうよ。だって、でりりんはずっとおねぇちゃん
 とおいかけっこしてたんだし、てっぽうのひとはさいかたちがここへくるまえからみなとにいたんだよ。
 れんけいしてるんだったらもっとまえからいっしょにうごいているはずだよ」
 カルラは、また微笑んだ。さいかは、聡い。――その頬を優しく撫で、カルラは自分の頬と触れ重ねさせた。
362兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:30 ID:u2fkGskb
「…有難う、さいか。貴女の助言で、踏ん切りが付きました。――賭けに出ます」
「おねぇちゃん…?」
「あちらは、私達が疲れ果てて根を上げるのを待っているのです。撃ってこないのは、持ち弾の残りが少ない事と、先程の
 私とデリホウライの追いかけっこを見ていた所為でしょう。手札が少ないのは、無駄撃ちの出来ないあちらも同様…」
 ――男は、動かない。カルラに狙いを着けたまま。
「……動いて、誘います。最悪……貴女が撃たれる可能性もありますが………その覚悟は宜しくて、さいか?」
「うん」
 さいかの返事は、意外なほどにはっきりとしていた。
「このままじゃ、“じりひん”だもん。“しちゅうにかつをもとめる”――だね」
「…上等です」
 小さな握り拳を作って見事なほどの覚悟を見せたさいかに、カルラは、極上の微笑みを以て答えた。


 ――御堂は、まるで彫像の様に、銃を構えたまま動かずにいた。
 狙撃の構え。あれ程苛立たせていた窓から入り込んでくる湿気さえ、その集中力の前には無に等しい。
 …狙いは、あの女だ。
 幼女の方を撃つ事も考えた。標的には変わりないからだ。しかし、例え幼女の動きをトリモチで封じても、あの女ならば
抱え上げて共に逃げる事も出来るであろうと判断した。その上、トリモチ銃の残弾は一発。おいそれと撃つ訳にはいかない。
あくまで降伏させ、こちらへ来させるのが望みだ。
 …――御堂は、やはり動かない。相手が根を上げるまで、何時間でもこうしているだろう。
「………。……」
 そんな彼の鋭い双眸の中で、女にしがみ付くようにしていた幼女が、下に降ろされ、しゃがみこむ。根を上げ始めたか。
案外早かったな…などと、御堂は心の中でほくそ笑んだ。
 が――
「………!」
 女が動いた。
363兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:31 ID:u2fkGskb
 ゆっくりと、御堂から見て右手の方へ。幼女はそのままだ。
 ――見捨てる気か。それもまた、選択の一つだろうが。
 女が、更に動く。
「動くな! 撃たれてぇのか!?」
「撃ってみなさいな」
 不敵に微笑む女――カルラのその声と表情で、御堂は自分の策が半ば破られた事を悟った。
 …見抜かれた。――撃たない…いや、撃てない理由を。直に攻め入る事の出来ない理由を。それらを正確に察する事は
出来ずとも、『その理由』があるのだと読み抜かれた時点で――
「チッ…! ――だったら、最後の一発、あの“猫の小僧”の為に使ってやるか…!」
 猫の小僧――デリホウライの事である。実際は猫というよりトラなのだが、彼を捕らえた時、彼の顔を洗う仕草を見て
天候の崩れゆく気配を察したので、御堂の中では“猫の小僧”となっていた。
 狙撃の標的は変わらず、女。命中すれば、残る幼女の手では女をトリモチから解放する事は出来ない。…下の方で何やら
のた打ち回っている“猫の小僧”に置き土産を進呈する事が出来るだろう。
 ………いや――
「…上がって来れるのか、あの小僧は?」
 先程から建物の下の方から聞こえて来る声や騒音からして、すっかり頭に血が昇っているらしい。
 冷静に、慎重になれば、避けられなくはない罠であろうに…――尤も、それを考慮しての作戦でもあった訳だが。
「……ケッ。そこまで面倒見切れるかよ…。女が逃げるより早く――」
 ――女が走り出す。
 御堂は――
「――そこまで上がって来な、小僧」
 絶妙なタイミングで引き金を引き絞った。
364兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:31 ID:u2fkGskb


 ――しゅぱぁんっ!!
 …と、景気の良い音を響かせて、カルラの肢体が回転して吹っ飛んだ。
 そのまま、彼女の体は雨に濡れた床を滑り、支柱の一本に激突する。
「かるらおねぇちゃん!!」
 悲鳴じみた声を上げるさいか。
 しかし――
「………なんて声を上げているのです、さいか」
 笑みを含んだカルラの声が、雨の中に響いた。
「おねぇちゃん…!」
 駆け寄ってくるさいかに、カルラは微笑みながら左手を振って見せた。
「だいじょうぶっ!?」
「ええ、勿論。――しかし、トリモチとはちょっと予想していませんでしたわ」
 そう言って微苦笑を浮かべるカルラの右腕と肩の辺りに、トリモチがべったりと付着していた。
「これでうごきをとれなくするつもりだったんだね」
「その様ですわね」
 自由な左手でトリモチを無造作にベリベリと剥がしながら、カルラは自分を狙撃した御堂を微笑みつつ見やる。
「――もう撃って来ないのですか?」
 暢気に話しかけられた御堂は、不機嫌そうに口元をひん曲げた。
「ゲーック! 解ってるくせに聞いてくんじゃねぇ! 弾が無ぇんだよ弾が! それで最後だったんだよ!」
 さいかの読み通りである。カルラの傍に佇む幼女は、えっへん、それを聞いて薄い胸を反らした。
「やっぱりね。そーだとおもってた!」
365兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:32 ID:u2fkGskb
「紙一重で直撃を避けやがって…! 可愛げの無ぇ女だぜ、まったくよォッ!」
 心底苦々しげに呻く御堂に、カルラは艶やかに微笑して見せた。
「可愛げだけで渡って行けるほど、剣奴の世界は甘くなかったものですから♪」
「下の“猫の小僧”に置き土産程度に手前の動きを封じてやろうとしたんだが、このザマだ…!」
「…あら、貴方、デリホウライの事をご存知なのですか?」
「ハッ! あの小僧を捕まえたのは俺だぜ?」
「そうだったのですか…。なら、私まで貴方に捕まったとあれば、姉弟揃って情けない事になっていましたわね」
 カルラの言葉に、御堂は僅かに目を見開く。
「…フン、何でぇ、手前ら身内同士か。道理でその耳と尻尾、見覚えがある訳だぜ」
 苦々しげに口にする御堂。尚更、策を破られてしまった事が悔やまれた。
「………追い掛けて来ないのですか?」
「……さっさと行っちまいな。俺はもうやる気が失せた。雨が止むまで暫く休むぜ…――あばよ」
 カルラの問い掛けには答える事無く、御堂はそう言って建物の奥へと引っ込んでしまった。
「…ふふ。では、私達も行くとしますか」
「うん。…ごるごのおじさーん! ばいばぁーい!」
『ゲェーーーーーーック!! 誰がゴルゴだゴルァァァァアアッッ!!?』
366兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:33 ID:u2fkGskb


 …一方、我等がデリホウライ氏はといえば――
「あ……姉上〜…」
 一階の床で大の字になり、ボロボロになって伸びていた。
 カルラ達と御堂が静かな勝負を繰り広げている間、彼はさいかの仕掛けた罠にこれでもかと言う程に引っ掛かりまくり、
独りで喜劇王じみたドタバタを繰り返していたのである。
 倒れている彼の傍には、大きな金ダライ。底の中心辺りが見事に凹んでいる。――それが、『トドメ』であったらしい。
 ……もう少し冷静になれば、カルラとさいかをゲットする事も出来たのだろうが…
「姉上〜………貴女は…オレの…………おれの〜…」
 完全にグロッキー状態である彼の顔を、カルラとさいかが覗き込む。
「やりすぎちゃったかな?」
「まだまだ、甘いくらいですわ」
「なんかちょっぴりかわいそー。けっこうはんさむさんだし……かるらおねぇちゃん、ちゅーくらいしてあげたら?」
「こんな染料まみれの顔に口づけなどしたくありませんわ。それに、鬼になってしまうではないですか」
「あ、そっか。じゃあ、まだまだおあずけだね、でりりん」
「………聞こえているのでしょう、デリホウライ?」
「う……あ、姉上…」
 薄っすらと開いた目に、姉の美しい笑顔が映る。
「まだまだですわね。――先程、貴方を捕まえたという方に出会いました。私も、あと少しと言う所まで追い込まれました。
 なかなかの手練れた方でしたわ。あの集中力――貴方も少しは見習いなさいな」
「あ…姉上〜……」
「……でも、途中までの追いかけっこは、楽しかったですわ。成長しましたね。私は嬉しいですわよ、デリホウライ…」
 ゆらゆらと、デリの手が動く。
「おねぇちゃん、かっぱがあったよ〜? これであめもだいじょうぶい♪」
「解りましたわ、さいか。――また後で会いましょう、デリホウライ。取り敢えずはその染料を落としなさいな(クス」
 デリの手が、カルラの居た場所を掴むが、そこにはもう誰もおらず、甘い残り香が仄かに漂うだけだった。
367兵士の策―― ――戦士の賭け:03/05/06 23:33 ID:u2fkGskb


【カルラ・さいか組 御堂の奇襲及び策に追い込まれるが、辛うじて回避】
【デリホウライ さいかの罠に喜劇王級なまでに引っ掛かりまくり、グロッキー。ボロボロ、ペンキまみれ】
【御堂 策、破れる。カルラさいか組を逃がす。トリモチ銃残弾ゼロ】
【カルラさいか組 カッパを手に入れる】
【三日目 昼過ぎ 港】【カルラ達は港を出て何処かへ】
368名無しさんだよもん:03/05/07 01:24 ID:5CA+LN6r
(・∀・)イイ!
369名無しさんだよもん:03/05/07 02:11 ID:sY5NDRSz


ボリビアーン


370小屋の罠:03/05/07 23:39 ID:zX5Y2lZp
「……くー」
「……うー」
眠る、幾人もの少女たち。
「すー……」
「はぁ……」
小屋の中で、床にごろごろ並んで寝ている。
ベッドの上には誰もいない。みんながみんな遠慮しあって、結局誰もベッドに入らなかったのだ。
だから、みんな床に。毛布は人数分あったのが幸い。三人の少女、一人の幼女、一人の青年が、床にごろごろ転がっている。

「しゅこー。しゅこー」
約一つ、意味不明な呼吸音。名雪。猫二匹を毛布の中に抱いて、幸せ満面で眠っている。
それはそれは、もう、本当に幸せそうな寝顔である。
ああ。思わず踏みつけたくなるくらいに。

さおりと美咲。さおりは、美咲の胸の中で、安らかに眠っている。太助を取られてぐずっていたのだが。
やはり、美咲のようなタイプは子供に好かれるのだろうか。

理緒。毛布にくるまり眠っている。特記事項無し。

彰。これも特記事項無し。夕食は美咲の料理に、涙を流して喜んでいたものだが。


……それに最初に気付いたのは、理緒。
バイトのおかげで、朝に強い彼女は、まだ外が薄暮の頃合いに、すでに目覚めかけていた。
だから、その音にも敏感に反応できた。
371小屋の罠:03/05/07 23:40 ID:zX5Y2lZp
ぽたり

ぽたり

ぽたり

雨だれの音。
外で降る雨音に重なって、ずいぶん近く、大きく響く、水の落ちる音。
むくり、と理緒は身を起こす。ふるふると頭を振って眠気を追い払うと、音のする方向へ、まだ暗い小屋の中を、手探りでゆっくり進んでいく。

ぽたり。

理緒の頭に、一滴の水。
上を向く。その鼻頭に、またも水滴。
「……雨漏り?」
そう。雨漏りである。
ぽたり、ぽたりと、小屋の隅に、間断なく雨粒が、落ちていた。
「……どうしよう」
他の皆はぐっすり眠っている。
起こして、皆で相談しようか。
それとも、一人で対応しようか。
悩む理緒だった。

【理緒 起きる。雨漏り発見】
【他の全員はぐっすり睡眠中】
【三日目早朝】
372名無しさんだよもん:03/05/07 23:47 ID:wOrCtvBQ


ギャバソ

373名無しさんだよもん:03/05/08 02:10 ID:3JklXNp/
(・∀・)イイ!!
374たどり着いたのは:03/05/09 00:04 ID:Py0+oQc2
「やれやれ助かったな」
「そうだねー」
ここは島の南側。キャンプ場。
二日目に梓&結花が発見したのと同じ場所である。
リサを取り逃がして以降、川沿いに南下していった宗一とはるか。
雨にうたれながらもどうにか、屋根のある場所にたどり着くことができた。
管理所に入り、暖房をかけて毛布を取り出し、湯を沸かして白湯をいただく。
そうこうしているうちに、雨に冷えた体は少しずつ温もって、人心地をつくことができた。
ずぶ濡れの服は、全部脱いで吊るし、乾かしている。
だから、二人は今下着一枚。毛布にくるまっているから、半裸の姿は隠されているけれど。
「ぬくまるねぇ」
毛布から手だけ出して、白湯の入ったコップを持ちながら、はるかが言った。
「そうだな」
それに答える宗一。こちらは毛布から出ているのは頭だけ。
「こうしてるとさぁ」
「うん」
「遭難したーって気分出てこない?」
「……遭難はしてない」
「うん。そうだけど。気分気分。これで、外が雪だったら気分出るんだけど」
「雪だったら、今頃無事で済んでるかな」
「うん。そうかな」
などど、まったり会話をしながら、服が乾くのを待っている。
両手で持つコップ。いつもの、どこかぼんやりとした眼差しで、どこか遠くを見ながら、はるかは言う。
「暇だね」
何とも言えず、苦笑する宗一だった。

【宗一 はるか キャンプ場に到着】
【服は全部乾かし中】
【三日目朝】
375名無しさんだよもん:03/05/09 00:08 ID:IDrLZs7I


むーんうぉーく
376名無しさんだよもん:03/05/10 21:44 ID:9UnctERe
保守 
377迎撃、追撃:03/05/11 01:06 ID:nS4QmR3v
「瑠璃子さん、大丈夫ですか?」
「うん……大丈夫だよ、琴音ちゃん」
「で、でもやっぱり、この速さで走るのは辛いのでは……」
 だが、瑠璃子は首を振った。
「そんなことないよ。それにこのままだとお兄ちゃんが来ちゃうよ。すぐ近くにお兄ちゃんを感じるもの」
 瑠璃子が兄の接近を察知してから、彼女達も可能な限りの速さで移動しているのだが、
彼女の足の怪我が枷になっていた。
 道を外れてどこかに隠れる事も考えたが、この忌々しい雨のせいで道には足跡がついてしまっているために確実ではない。
「……やっぱり、私だけ残るよ……お兄ちゃんがほしがっているのは私だし……」
 瑠璃子の言葉に、美汐は首を振った。
「瑠璃子さん。その事は考えないようにしましょう」
 琴音も同意見だった。
 確かにこのままでは確実に捕まえられてしまう。
道が舗装されて枝分かれしているところまで行き着ければ、分からないが、この速度ではそれも難しいだろう。
 しかし、月島拓也の妹に対する執着心は、美汐や葵の話を聞く限り度を越えている。
彼が瑠璃子と出会ったとき、瑠璃子が彼を拒んだ時、何が起こるかわかったものでは
ない。
しかも、彼は電波という危険極まりない能力を持っているのだ。
 管理者の監視を考えれば物理的な危険はないのかもしれないが、
兄の凶行と退場の場面に瑠璃子を一人で立ち向かわせるというのは……
(あまりに、ひどすぎます)
 琴音の見る限り、瑠璃子も兄の事を心の奥底からは嫌ってないように見える。
きっとそんな場面に出くわすのは辛いはずだ。
 だから琴音は決意した。
378迎撃、追撃:03/05/11 01:07 ID:nS4QmR3v
「私が残って、月島さん達を追い払います」
 軽く驚きを見せる一行に、琴音がさらに言う。
「私の能力は月島さんたちは知らないはずですし……道のそばに隠れてうまく能力を
使えば出来ると思います」
 本当は怖いけれど、自分の能力で危機を脱せるのなら、頑張ろうと思う。
「で、でも、危険ですよ!!」
「うん、そうだよ。危ないよ……」
 琴音の提案に反対する、一同。だが、美汐の静かな声がそれを制した。
「……確かにそれしかないでしょう」
 それから、琴音のほうを向いて、わずかに微笑んだ。
「琴音さん。良かったら私もご一緒させてもらいませんか?
何かの役に立てるというわけでもないのですが」
 美汐の申し出に、琴音は迷う。自分の提案のために美汐を危険な目にはあわせたく
ない。
―――だけど、やっぱり一人は不安だった。
「……お願いします」
「だったら、私も!」
「葵さんは、もし何か力仕事が必要になった場合に備えてくれたほうが良いと思いま
す。
真琴、しばらくお別れですが、いい子にしているんですよ」
「あうー……美汐と琴音、行っちゃうの」
 美汐の手が真琴の頭にポンと乗せられた。
「しばらく別行動をとるだけです。なにも犠牲になろうとかそんなことは思っていませんよ。
琴音さんが月島さん達を追い払ったら、すぐに会えます」
「……ごめんね。琴音ちゃん、美汐ちゃん」
 謝る瑠璃子に、琴音は首を振った。
「美汐さんのいうとおりです。犠牲になるつもりとかないですし、気にしないでくだ
さい。
―――ここまで頑張ったんです。みんなで逃げきりましょう」
379迎撃、追撃:03/05/11 01:11 ID:nS4QmR3v
 別れる前に合流場所等の簡単な打ち合わせをして、
琴音と美汐は小道の側から少し離れたところ、
道全体を見渡せるような茂みの中にかくれ、追っ手を待った。
 さほど待つ事もなく―――こんなに余裕がなかったのかとぞっとするぐらい早く、
走ってくる音が近づいてきた。
「来ましたね」
 緊張した声で琴音はささやく。
 琴音は一時期自分の力を嫌っていた。この力で周囲の人を傷つけた事があるからだ。
だが今から自分はこの力を、傷つけるとは言わないまでも、
相手を不快な目にあわせるために使わなくてはならない。
 ふと、美汐が手を握ってきた。
 美汐のほうを見ると、美汐はチラリと微笑を返した。
(美汐さん、やっぱりあなたがいてくれてよかった)
 琴音も美汐に対して微笑み返すと、意識を集中させた。

「ど、どういうことだい……これは?」
 泥や木の葉、小枝といったものが浮かび上がり、自分達を囲んでいる。
 その異様な光景に、月島たちは足を止めた。
「……非常にいやな予感がするのだがな」
 今まで走ってきたために息を切らせながら、久瀬はつぶやく。
 その言葉を肯定するかのように、浮かんできた物体が月島たちに襲い掛かった。
「ちっ……!! お前ら下がれ!!」
 それにいち早く反応したオボロがマントで払う。だが、
「下がれと言われてもね……! 後ろからもきているよ!」
 月島のいうとおり、四方八方からは泥や木の葉が飛んでくる。
「落ち着いて! ルール上、害はないはずだ……うわっ!?」
 レインコートごしに久瀬の頭に泥が浴びせかけられる。
380迎撃、追撃:03/05/11 01:13 ID:nS4QmR3v
「……い、いくら害はなくても、実に不愉快だ」
「愚痴ってる場合か!! 月島、久瀬、俺と背を合わせろ! 正面に来た奴だけでも払ってくれ!!」
 忙しくマントを振りながらオボロが叫ぶ。
「分かった! 目だけは絶対守ろう!! それさえ無事ならなんとかなる!」
「それはそうだが、これじゃ瑠璃子を追いかけられないよ……!」
 背をあわせる三人に容赦なく泥つぶてが襲い掛かる―――

 その様子を見ながら、琴音も月島と同じように歯噛みした。
(ちょっと攻撃したら、パニック起こして逃げてくれると思っていたのに……)
 だがそうするかわりに、彼らは陣形をつくり冷静に対処している。
 琴音の疑問を読み取ったのか、美汐がささやいた。
「もしかしたら、彼らは琴音さんと同じような能力をすでに知っているのかもしれませんね」
 そうかもしれない、と琴音も思った。
「とにかく、足止めにはなっていると思います」
 自分の能力で人がいやな目に会うのはこっちだって苦しいけれど―――
「このまま続けます……!」

 荒い息をつきながら、久瀬は叫んだ。
「月島さん、これは瑠璃子さんの能力なのか!?」
「いや……! 瑠璃子にこんな能力はないよ。誰が別の人のもじゃないかな」
 美汐の推測は当たっていた。
 もし、この現象が全く未知のものであれば、少なくとも久瀬と月島はパニックに襲われていたはずだ。
ルール上自分達が傷つく事はないというのは、理屈だ。普通はそんなことに頭が回らないだろう。
 だが幸運な事に、琴音達にとっては不運な事に、彼らはすでに天沢郁未の能力を目にしていた。
知っているか知らないか、この現象の裏に能力者がいることを前提とできるか否か。この差は大きい。
381迎撃、追撃:03/05/11 01:14 ID:nS4QmR3v
 この事と、そして二度にわたってチームとして獲物を追いかけた事、
この二つのおかげでで、月島達は互いにかばいあいながら身を守り、状況を分析しようとすることができた。
「全く関係のない奴が…クッ、やってるって事はないよな」
「ないだろう。襲われる理由がない」
「なら、足止めのための伏兵……危ない!」
 久瀬の眼前で月島は泥玉を受け止めた。
(まずいね……久瀬君の動きが鈍ってるよ……)
 月島はあせる。
 もともと疲労が蓄積されているところで、雨の中こうやって攻撃され続けているのだ。
もうだいぶ長い時間、ここに足止めされてる。
 まさか伏兵に迎撃させてまで逃げようとするなんて―――
「瑠璃子……そこまで僕を拒むのか……」
 だが、その一方で思う。自分はそれだけのことをしたのかもしれないと。
「月島、落ち込んでる場合かよ! クソッ、せめて能力者の場所が分かれば!」
「確かにこのままでは……グ!」
 もともとふらついていたところに受け止め損ねた泥玉を頭に受け、
久瀬はよろめくと泥に足ををとられ、転びかける。
「クッ……!」
 なんとか体勢を立て直しそうと足を動かし、数歩つんのめると、
小道の脇に生えていた木に身をあずける事で転倒を免れた。

「あ、あれ……?」
「ひとり、木の裏に隠れてしまいましたね……」
 小道の真ん中で奮闘する二人の姿ははっきりと見えるが、もう一人がここからでは見えない。
「真琴達のほうへ行こうとすれば、姿を見せるはずです」
「そうですね。もうちょっと時間を稼げれば、きっと……!」
 琴音は汗ばむ額を手でぬぐうと、再度意識を集中した。
382迎撃、追撃:03/05/11 01:15 ID:nS4QmR3v
「大丈夫か、久瀬!」
「あ、ああ」
 久瀬は木にもたれて荒い息をつく。
「すまない、すぐ戻る」
 再び仲間達と背を合わせようとするが、疲労が一気に出たのか足がすぐに動いてくれないようだ。
 それでもなんとか戻ろうとする久瀬を見て、月島は歯噛みした。ここまでなのか……
「久瀬君、オボロ君。残念だけど、一度……?」
 退こうか、と言おうとして月島は奇妙な事実に気づく。
「……おかしいよ、久瀬君! 君だけ攻撃を受けていない!!」
 その一言に、久瀬とオボロが目を見張った。
 確かに、泥つぶてと木の葉は月島たちにのみ向かってきて、
木にもたれている久瀬は無視されている。
「僕が……見えてない?」
「その木のせいで死角になっている、そういう方向にいるって事か!?」
 それならば―――
「久瀬、行けるか?」
「無理だ、といいたいが」
 ずれた眼鏡を中指で押し上げると、ニヤリと笑う。
「折角ここまで無理をしたんだ。どうせなら悔いの残らないようにしようじゃないか」
 その言葉に、月島も揺らぎかけた覚悟を決めた。
「……そうだね、そのとおりだ」
 とにかく瑠璃子に、一度会おう。
「よし……壱、弐の―――」
 オボロはマントを払いながら、手近な木の実を拾い上げる。
「散!!」
 その声と同時に、月島と久瀬が走り始めた。
383迎撃、追撃:03/05/11 01:15 ID:nS4QmR3v
「え……!?」
 別々の方向へ走り始めた二人を見て、琴音は驚く。
 月島は小道を瑠璃子達がいる方向へ、そして死角になっていた木の裏から飛び出してきた久瀬は
小道からこちらの方向に走ってくる。
(ど、どっちを……!)
 一瞬の迷い。その間隙を縫うように、残ったままのオボロが木の実を投げつけてきた。

ヒュン!

 別にそれは彼女達を狙ったものではない。いるだろうと思われる方向にあてずっぽうに投げられたものだ。
無論、その木の実が誰にも当たらないようにオボロは見えている樹木を的にしている。
 だが、その投擲のあまりの鋭さに、琴音と美汐は、
「キャ……!」
 短い悲鳴と身じろぎ、そんな反応をしてしまう。
 そして明確な位置は分からないまま、琴音達の方向に走ってきた久瀬はそれを聞き逃さない。
「そこか!」
 今度ははっきりと琴音達の隠れている茂みのほうへ走ってくる。
「ツッ……!」
 慌てて久瀬に向かって泥玉を走らせるが、完全に害意がないことが見切られているのだろう。
久瀬は顔面を腕でガードしたまま、がむしゃらにこちらに走ってくる。
「……ここまでですね!」
 美汐は琴音の腕を強引につかんで立ち上がらせた。
「止むを得ません! こうなったら彼だけでもひきつけましょう!!」
「わ、分かりました!」
 琴音は唇をかんで走り始めた。
(ごめんさい、みんな。どうか逃げ切ってください!)
384迎撃、追撃:03/05/11 01:16 ID:nS4QmR3v
(やはり逃げるか……)
 茂みから飛び出た二人の少女は森の中に駆け出す。
 そして自分はそれを追わざるを得ない。ここで彼女達を自由にしたら、また同じ妨害をされるからだ。
 だから久瀬は仲間達に叫んだ。
「僕はこのままあの子達を追いかける! 合流はさっきの小屋で!!」
「分かった。こっちは任せろ!」
「久瀬君、無茶はしないでよ!」
 可能ならば、そうしたいものだ。そう胸中でつぶやくと、久瀬はふらつく体に鞭打って琴音達を追い始めた。

【瑠璃子、真琴、葵 小道を逃走】
【琴音、美汐   森の中へ逃走】
【月島、オボロ 瑠璃子達を追走、琴音達よってタイムロス】
【久瀬  琴音達を追走。疲労困憊】
【両チームとも合流場所は決めている】
【三日目午後】
385名無しさんだよもん:03/05/11 06:47 ID:prgOOqzH


こぶ平のおなにー
386動画直リン:03/05/11 06:54 ID:sT0eJTk9
387bloom:03/05/11 07:05 ID:sT0eJTk9
388名無しさんだよもん:03/05/11 07:31 ID:wxq6bY+6
公開オナニーもそろそろ息切れか
389名無しさんだよもん:03/05/11 08:30 ID:y8HynECQ
「うどらぁぁぁぁぁー!!!」
「あーずーさーせーんーぱーいー!!!」
「と、止まれないー!!!」
「待ってー! 待たんかー!!」
「この出番逃してなるものかー!!!」
朝っぱらから、ずだだだだだ、と鶴来屋別館に向かって駆ける暴走機関車5名。
上から柏木梓、日吉かおり、江藤結花、深山雪見、広瀬真希。
既に彼女等の足はセーブが効かず、フル稼働のままどうにも止まらない。
走るー走るー俺ーたーちー♪
…失礼。
とにもかくにも、5名は鶴来屋別館のエントランスまであと100mを切った。

その頃、当の鶴来屋別館では、大食堂を占拠してわいわい楽しく朝食をとっている六人がいた。
高瀬瑞希、九品仏大志、国崎往人、塚本千紗、ウィルトリィ、ハウクンエア。
いや、実はもう一人居る。一人蚊帳の外でもそもそと。
皆瀬まなみ。
やはりというかなんというか。不憫。
まなみは会話にも参加できず、一人うら寂しく窓際で黄昏ていた。ふぅ、と溜め息をつく。
(所詮あたしの扱いなんてこんなモンなのさ、フン)
ついでにやさぐれる。たそがれロンリー。いやどうでもいいが。
だが、場所が窓際だというのが幸いした。
(…ん?)
気付いた。この別館に向かって猛突進する5人に。
しかもよく見るとそのうち3人は逃げ手だ。
まなみは一瞬戸惑った。只今暢気に朝餉を食らっている6人にこのことを伝えるかどうか。
特に今まで一緒に行動(嫌がらせ)していたハウクンエアに。
だが…
(でも、見つけるだけ見つけて他の人に奪われたら…)
黒い思念がまなみの中を駆け巡る。
(そうよ、どうせあたしのキャラなんて、他の人にしてみたら屁でもないんだわ…絶対そうよ!)
被害妄想被害妄想。
ならばどうするか。
そんなもん決まっとる。
まなみは、スッと立ち上がると食堂を抜け出した。
やるべきことなど一つ。
(一気に三人ゲットよ!)
抜け駆け。

「…あれ?」
「どうした、まいしすたー瑞希よ」
「一人…足りないような…」
それに対してハウクンエアは、ああ、と一つ手を打った。
「僕と一緒に行動してた子なら、さっき出て行ったよ」
どうにもまなみの存在感は薄いらしい。名前で呼んでやれよ。
「そんなことはどうでもいいだろ。おかわりくれないか」
往人、あっさりと話題転換を仕掛ける。
「あ、はいはい」
「にゃあ、千紗にもくれるとありがたいですー」
瑞希は、嬉々としてポタージュを注いだ。
もうまなみのことは忘れていた。

さて、もうエントランスまで50mを切った爆走5人組。
「ちょ、ちょっと! どうするのよ梓ー!! ぶつかるー!!!」
どんどん急接近するエントランスを凝視しながら、結花が悲鳴を上げる。
「あたしだってどうしたらいいか分からないー!!!」
梓もつられて悲鳴を上げる。
「あずさせんぱーい! 私は梓先輩を信じてますよー!!!」
かおり、愛の力でトリップ。愛は盲目?
かといっても、減速しようにも足は止まらないし、出来たとしても後続の雪見と広瀬に捕まるからそうする訳にも行かない。
「もう…こうなったらぁー!!!」
梓が何かを決意したように叫ぶ。
「こうなったらー!!?」
「こうなったらどうするんですか先輩!?」
「実・力・行・使・!!!」
梓は二人を無理矢理抱きかかえると、今残る最後の両脚の制御を行使して、無謀にも更に加速。そして鬼の力を解放する。
そしてエントランスの回転扉が目前に迫ったその時。
「うどらぁぁぁああー!!!」
梓は跳ねた。そして渾身の…
ズガァァァァーン!!
跳び蹴り。
壮絶な破壊音と共に、回転ドアは吹っ飛んだ。
そりゃ、あの勢いと三人分の体重と梓のパワーとエルクゥの力が働けばこうなるわな。
その反作用で少しだけ失速した三人は、更にもう一度跳ねて、エントランスホールの黄金の装飾の柱を蹴り飛ばた。
弾かれて少し転がって、三人はやっと止まった。
見事な装飾の柱に見るも無残な痕が残ったが、そんなことを気にする気にはならなかった。
「と、止まった…」
「あ、足が痛いです先輩…」
「死ぬかと思ったぁー…」
三人は安堵の息を吐く。だが、まだ安心は出来ない。後ろから二人追ってきている。
「さ、逃げ…」
梓が二人を促して逃げようとした、まさにその刹那だった。
「もらったぁあああー!!!」
全く持って予測しなかった方向――ホテルの中から鬼の襷をかけた少女が、勢いよく駆け込んできたのだった。
いける!
勢いよくダッシュしながら、まなみはそう思っていた。
あれだけ爆走していたのだ。脚に負担がかかっていないはずが無い。
梓達だけを見据え、手を伸ばす。
後一歩。後、一歩だった。
悲劇は、突然襲ってきた。
突然右頬に、強烈な打撃が襲い掛かってきた。

チャンス!
雪見はそう思っていた。
さきほどまでは止まれないことに恐怖を感じていたのだが、梓たちがエントランスの回転扉を丸ごとふっ飛ばして失速したのを見、
これはチャンスだとばかりに思考が鬼ごっこモードに再び戻ってしまったのである。
ランナーズハイ、とでも言うべきか。
こんなハードな鬼ごっこなんて無いし。
ともかく、さぁいざ捕まえん。
そんな感じで、雪見は踏み込んだ。三歩で飛び込んで捕まえるつもりだった。
いち、にぃのっ…!
だが、ニ歩目を踏んだ瞬間、突然持ち上げられるような感覚に襲われた。
その原因は、地雷原コンビの仕掛けたトラップだった。
確かにまなみ達はエントランスのトラップは解除したが、なにせここまで広いエントランスの床だ。
見落としの一つや二つは、やはりあった。
そしてその見落とした一つを、雪見は踏んでしまったのだった。
しかし、それはあの地雷原コンビも、ただのノリで作ったような代物。
バネ床。
踏むと、ビックリ箱よろしく、びんよよょーん、とばかりに床が跳ね上がるのである。
『…何の意味が?』と訊かれたら、『ただのノリだ』と答えること請け合いのトラップである。
…だが、この時ばかりはえらくヤバイ状況を作り出してしまった。
雪見がバネ床を踏んだのは左足。そして右足は、予想外の状況で混乱した雪見の脳が折りたたんだ状態のままになっていた。
そして、その時いきなり目の前に走りこんでくる女が見えたのである。
ヤバイ、と思ったときはもう遅かった。
バキィッ……!!
そんな鈍い音を立てて、雪見の右膝が――跳び膝蹴りがまなみの頬に食い込んだのである。
ヤバイ。
真希がそう思ったときは遅かった。
目の前で同じ逃げ手三人を追っていた、自分と同じ学校の先輩がいきなり飛び上がったと思ったら、鈍い音と共に、その跳び膝蹴りの餌食となっている鬼の女が目に入った。
その身体は宙を舞っている。
ていうか。
自分はその身体の着地点に向かって突っ込んでいるのが。
分かってしまって。
ヤバイと思ったが、もうダメだった。
視界がブラックアウトした。
ゴロゴロ転がっているのがなんとなく分かった。

ぐっはぁ…
まなみは、跳び膝蹴りをまともに頬に喰らい、そんな声にならない悲鳴を上げた。
頭が理解できなかった。なんでいきなり跳び膝蹴りが飛んでくるのか。
自分の身体が宙を舞っているのがなんとなく分かった。
だが、それで終わりではなかった。
着地するかというその瞬間、更に別の衝撃が全身を襲った。
そして更に、まるで自分の身体が車輪にでもなったかのようにゴロゴロ転がっている。
訳がわからなかった。しかも、何故か腹部に当たる物があり、背中が床を擦るたび腹を圧迫するのである。
そしてそれから解放されたと思ったとき、再び身体は宙を舞っていた。さっきよりも数倍激しい勢いで。
何度か床に擦られた後、何か硬い物に背中がぶつかってやっと止まった。
気持ち悪くて、死にそうな感じだった。
梓達三人は、それを呆然と眺めていた。
ホテル内からいきなり鬼が襲ってきたと思ったら、今までチェイスを繰り広げていたピンクの髪の女が跳ね上がって、その跳び膝蹴りがくだんの鬼の頬に食い込んだ。
そして蹴りを入れた女はそのまま落下。
吹き飛んだ女は、その身体が地に付かんと思ったその瞬間に、もう一人自分を追いかけてきた緑髪の鬼の身体にぶつかった。
そのままゴロゴロ転がっていったのだが、どういう按配でか、腕と腕が絡みあい、今まで自分達を追ってきた方の折り曲げた片膝が、くだんの鬼の腹部にあてがわれていたのである。
…いわゆる、地獄車ってやつ?
まあ単なる事故だし、完璧な地獄車ではなかっただろうけど。
そしてその腕がはずれた時、まるで水切りをする石のような勢いで吹き飛ばされた鬼の身体は、ゴロゴロと床を転がり、植木鉢にぶつかって止まった。
目の前で繰り広げられた鬼三人のストリートファイト(?)にしばし唖然とする三人。
ピンクの髪の鬼は、着地の際に足をくじいたのか足を抱えてうずくまっている。
緑の髪の鬼は、地獄車で目を回したのか、仰向けになったまま動かない。
そしていきなり現れた鬼は、植木鉢のそばでピクリとも動かなかった。
――つーか、もしかして死んだか?
しかし、どうすればいいか分からず固まっていた三人の耳に届いたのは、たくさんの駆けてくる足音。
「どうした!? 何があったのだ!?」
変な眼鏡の男が現れた。鬼の襷がかかっている。
しかもその後からぞくぞくと鬼が現れて。
三人と、目が合った。
「逃げ手か…?」
変な眼鏡の男が梓達を見て、呟いた。
「あは、あはは…」
三人は、ごまかし笑いを浮かべながら立ち上がり、後じさる。
「ならば捕まえるまで! いくぞまいしすたー!」
恐らくリーダーなのであろうその男が指示を出し、自らも駆け出す。
それを聞いて梓達も踵を返すなり、脱兎の如く逃げ出す。
だが、足がなかなか言う事を聞かず、逃げ切るのは難しいかと思われた。
「あんたこの状況放っておく気!?」
しかし、後から現れた釘バットを持った女がそれを殴り倒した。
「しかし鬼になってしまった以上は優勝を目指す以外ないぞまいしすたー瑞希よ」
「それでもこの状況を放っておくのはどうかしてるわよ!」
そんな口論を始めたので、少し余裕が出来そうだった。
だが、残りの人間も自分達を追い始めたので、やはり気を抜く訳には行かなかった。
再びチェイス開始。

ちなみに、諸悪の根源である地雷原コンビは、宴会の騒動で、エントランスの扉が吹っ飛ばされたことにすら気がついていなかったという。

【梓 かおり 結花 雪見&真希をなんとか振り切る(?)】【今度はホテル内の人間に追われるハメに】
【雪見 跳び膝蹴りの着地に失敗して足をくじく】
【真希 地獄車(もどき)の影響で目を回してばたんきぅ】
【まなみ 抜け駆け失敗】【口の中を切ってる 体中擦り傷 吐きそう 動けない マジでヤバイかも】
【大志 瑞希 口論】【他の4人は三人をチェイス開始】
【地雷原コンビ 宴会真っ最中】
その頃、管理人室では。
「あらあら…大変ですね。ちょっとこれは救助が必要ではないでしょうか、足立さん?」
まなみの惨状を見て、秋子さん。
「そうですね…救助班を派遣します…よ…(また壊れた…修理費が…)」
足立社長、エントランスの修理費の心配もしつつ同意。
それに気がついたのかついていないのか千鶴さん。
「それにしても梓ったら…こちらの予算も考えて欲しいですね…」
そこに、救助班のHMX−13が現れる。
「あ、ちょっと待ってください」
それを秋子さんが呼び止めた。
「はい、何で御座いましょう」
「皆瀬まなみさんへの伝言を。起きたら伝えてもらえるかしら?」
秋子さんがニッコリ笑って千鶴さんのほうを見る。
「承りました。それで、何と?」
HMXが問うと、秋子さんは千鶴さんにぼそっと耳打ち。
所謂、“ネタ合わせ”
千鶴さんが了解したように頷くと、秋子さんはHMXの差し出したマイクに向かってこう言った。
「まなみさん、抜け駆けはいけませんよ」
そして千鶴さんにパス。
「仲間は大事にNE☆」
年甲斐も無く、千鶴さんはやってのけた。
「そんなオチでいいのか…」
そして足立さんのツッコミは、奇しくもそのネタの原典と同じだった。

【まなみに対して救助班(メッセージつき)が向かっております】
【年増(禁句)二人 ネタ合わせは完璧?】
398名無しさんだよもん:03/05/11 19:14 ID:964GrQUX


ひよまんひよまん!
399名無しさんだよもん:03/05/11 20:30 ID:mwYjLKY6
ウィルトリィ→ウルトリィの間違いじゃないか?
400名無しさんだよもん:03/05/11 20:37 ID:EJ9q7nz4


ひょまん→ひよまん

401名無しさんだよもん:03/05/11 22:44 ID:vcVUcJ18
ハウクンエア→ハウエンクア
これもだな
402信じる心:03/05/12 18:31 ID:t2yNFxgd
『おかしいですね…』
 ピンチの時ほど冷静に…
 美汐は今置かれている状況を、逃げながら冷静に考える。

 追われはじめてから数分…。確実に距離は詰められているものの、思っていた程接近は早くない。
 男と女…。特に運動に自身があるわけでもない私達に簡単には追いつけない状況…
『おそらくは疲労…。それもかなりピークに達しているのでしょう…』
 活路はある…とは言え、自分たちも決して万全ではない上に、琴音の超能力の反動もいつ襲ってくるかも判らない。
『…危険な賭けになりますか』
 しかし今、自分たちがチームから脱落するのは絶対に避けなければいけない。
 自惚れではなく、状況を冷静に見るとそれは火を見るよりも明らかだ。
 ―――それに
「………真琴と約束しましたからね…」

「え?何か言いましたか、美汐さん」
「いえ、なんでもありません…。それよりも琴音さん…少しの間、彼の視界を防ぐ事は可能ですか?」
「え?」
「少しの間でいいのです」
「それは多分…。顔すれすれに何かを飛ばせば反射的に…」
「わかりました…。それで充分です」
403信じる心:03/05/12 18:33 ID:t2yNFxgd
 くそっ…。
 満足に動かないこの身体が恨めしい。
 確実に間合いは詰めているが、いつ限界がくるか…
「それでも逃がすわけにはいかないんだよ」
 
 目前を走る少女達を捕まえるまでは…

 …と、なにやら彼女たちの走るペースが落ちる。
 限界?いや…何かを話している様子。
『何か打ち合わせている?…仕掛けてくるか?』
 少しペースを落として、身構える。
 彼女たちが足を止めてこちらを振り返った。
 その時、何かぴいんと周囲の空気が張りつめる。

『来るっ!』

 瞬間、泥玉が数個顔面をめがけて飛んできた。
「ちっ」
 顔面を腕でカバーして走る。
 幸いこの攻撃は一回辺りの持続時間は長くない…。
 この攻撃を耐えしのぎ、今、ペースを上げれば間合いを詰めるに充分な―――

 ぐちゃっ

「なにっ?」
 ペースを上げようと踏み込んだところに、足下の泥が他の場所とは違う…明らかに故意的な深いぬかるみがあった。
 ―――しまった。
 最初の攻撃で体勢を充分で無くされた所に、予想外のぬかるみ。
 そこに疲労も手伝って身体の踏ん張りが利かず、あえなく転倒してしまった。
404信じる心:03/05/12 18:33 ID:t2yNFxgd
「…まず、顔面すれすれに泥玉をいくつか飛ばせてください」
「え?でも、それは…」
「はい、通用しないのは解っています…。ですからいいのです」
「え?」
「泥玉に攻撃性が無いのは彼も承知…」
「そうとなれば、今度は私達が能力を行使する為に足を止めたところを見逃す筈はありません」
 こくり。
 美汐の言葉にうなずく。
「先ほど、泥玉をガードしたまま走り始めたように…むしろ、更にペースを上げてくるかもしれません」
「そこに時間差で少し手前の足下にも泥玉をとばしてください」
 なるほど、美汐の言いたい事はわかった…
 けれど…
「…失敗したら」
「………更に距離を詰められてしまいますね」
「………………わかりました」
 迷っている暇はない。
 どうせこのままでは追いつかれてしまう。
 それならば―――
「ご自分の能力を信じてください」
 そして美汐の一言に力づけられる。
 ………あなたと同じチームで良かった…
「美汐さんのアイデアにも…ですね」
 にこっ。

 自分と、自分を信じてくれる人を信じて。
405信じる心:03/05/12 18:33 ID:t2yNFxgd
 ばしゃぁ〜っ
 久瀬がぬかるみに足を取られて派手に転んだ。

「やった」
「こっちです」
 その隙を見逃さず美汐が琴音の手を引っ張り、横にそれて暗い森の深部に入っていく。
 ―――これで見失ってくれれば…
 出来る事はやった。
 後は運を天に任せて、ただひたすらに走り続ける…

【天野、琴音 森の深部に分け入り、合流場所を目指し逃走中】
【久瀬    転倒。更にダメージ。疲労度UP】
【三日目午後】
406名無しさんだよもん:03/05/12 21:30 ID:elh87yv5


ジム・キャリーの爪の香り

407名無しさんだよもん:03/05/12 22:08 ID:hij8dXnT

OnoMaのメコスジ、
http://www.ono-mayumi.com02.com/
アコムCMの小●真弓、食い込み画像

408名無しさんだよもん:03/05/12 23:02 ID:uPQ0ycs3
409bloom:03/05/12 23:04 ID:Cian+jYc
410最終局面:03/05/13 01:11 ID:DUqdm84s
 後ろから聞こえるバシャンッという音に、葵は振り返った。
「……瑠璃子さん!?」
 転倒したらしい瑠璃子に真琴と共に慌てて駆け寄る。
「瑠璃子ぉ……大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
 だが、瑠璃子の顔色は悪い。
ただでさえ歩きにくい下り坂の森道が、足の怪我を悪化させてるのだ。
「ごめんね、泥つけちゃった」
「そんなこと気にしてる場合じゃ……!」
 焦りから声を荒げてしまう葵と対称的に、真琴は笑顔を作って
瑠璃子を助け起こすと、瑠璃子の荷物の一つを背負った。
「真琴、これ持つね。もうちょっとだしがんばろ!」
 その真琴の声に葵は、自分は修行が足りないな、と思う。
正直、最初にあった時は真琴はもっと幼い人だとばかり思っていたけれど。
「そうですね。もう少し行けば舗装された道路に出ます。そこまで行けさえすれば!!」
「そうよ。あんな奴らなんかにぜったい負けないんだからぁ!」
「うん……がんばるよ」

 そうして、三人は森道を走って、走って、走った。決してその速度は速くはなかったけれど――――
「見えました、あの道路です!」
 葵の声に瑠璃子と真琴の顔が輝く。
 今まで走ってきた森道が、自動車も通れるような舗装された道路につながっている。
 ここまで来たら、足跡も付かないし、道も枝分かれしている。
すぐに身を隠せるような小屋や施設だって見つかるだろう。
「やったね、瑠璃子!」
 瑠璃子は、真琴の弾む声に笑顔を返そうとして、そして青ざめる。
「そんな……お兄ちゃん」
 そんな瑠璃子のつぶやきと同時に、森道の奥から、鬼が二人が走ってきた。
411最終局面:03/05/13 01:12 ID:DUqdm84s
ここまできて……
 月島とオボロに迫られて、三人の心に絶望が生まれた。
 鬼達の様子もひどいものだ、体のあちらこちらに泥や木の葉が付着している。
「お兄ちゃん……」
「ようやく会えたね……瑠璃子……」
 感極まった声で月島はジリジリと前に出る。
「瑠璃子さん! 諦めちゃ駄目です……!」
 こうなったら、せめて自分が足止めしようと、葵が月島たちのほうに飛び出した。
 二人まとめてタックルして、わずかでもいいから時間を稼ぐ!
 だが――――
「甘い」
 ポン、と月島とは別の鬼の手が、葵の肩にのせられた。そしてそれだけで、
(う、動けない!?)
 決して強くは肩には力が加えられていない。にも関わらず、
自分はいくら動いても自分はその手をはずせないだろうと分かった。
(体術のレベルが……違いすぎる……?)
「悪いな。色々あってこっちも苛付いてるんだ。下手に動くなよ?」
 その鬼の言葉に、葵は動くこともできなく、ただ睨みつけることしかできなかった。
 月島はそんな葵の様子をチラりと見ると、再度瑠璃子の方を向く。
「瑠璃子……なんでだい? さっきの妨害といい今といい、なんでそこまでしてこの兄を拒むんだい?
足だって悪くなってしまってるじゃないか……」
「そんなの、あんたが悪いことするからに決まってるじゃない!!」
 瑠璃子を背にかばいながら真琴が叫んだ。
「悪い事? 妹を守ろうとするのがそんなに悪い事かい? 
信じてくれ、僕は本当にお前を守りたいだけなんだよ?」
「お兄ちゃん、その答えは前に言ったはずだよ……!!」
 瑠璃子の言葉と同時に、森の中から数匹の蛇や昆虫が湧き出てきた。
依然月島を撃退したのと同じく、瑠璃子が電波で操ったものだ。
412最終局面:03/05/13 01:13 ID:DUqdm84s
 だが、前回とは違って、月島は動じなかった。そして、
「甘いと言った!」
 幾筋かの閃光が走り、月島に襲い掛かろうとしていた蛇や昆虫を全て叩き落してしまった。
 月島はそれを当たり前のことのように受け入れると、
瑠璃子に悲しげな視線を向ける。
「ありがとう、オボロ君。
ほら、無駄な抵抗だよ瑠璃子……あきらめて、全て僕にまかせるといいんだ」
「オボロさんって言いましたよね!」
 月島を守るためにオボロが手を離してくれたおかげで自由になった葵は、
瑠璃子と真琴をかばうように二人の前に戻ると、オボロの方に叫んだ。
「何でそんな人に従ってるんですか? その人は危険です!
その人はつい昨日、ひどいことをして捕まったりもしたんですよ!?」
 葵の声に、オボロは苦笑いを浮かべると、言った。
「ひどいことならお前らだってやってるだろ? あの妨害とか。
それに俺もこの展開には個人的に興味があるんだ」
 それから、ボソリと付け加える。
「俺には、月島がそんなに悪い奴だとは思えないしな」
 その発言に反論しようと葵と真琴が声を張り上げようとするが、
「うん、そうだね。そのとおりだと思うよ」
 瑠璃子がそれにオボロに賛成した。
「る、瑠璃子……!」
「お兄ちゃんは悪い人じゃないよ。そんなこと、私が一番よく分かってる」
「瑠璃子、じゃあ!!」
 顔を輝かせる月島に、瑠璃子は手を上げて制した。
413最終局面:03/05/13 01:14 ID:DUqdm84s
「お兄ちゃん。私のこといつでも守ってくれるのは感謝してるよ……
でもお兄ちゃんはいつも私を守っていたから、
私以外のことを考えられなくなっちゃって、そんなお兄ちゃんだから――――」
 一度言葉を切って、静かに言った。
「私は逃げるんだよ」
 それから、仲間達の方に謝る。
「ごめんね、真琴ちゃん、葵ちゃん。私、諦めたくない」
「もちろんよ!」
「はい!」
 無駄だと知りながら、葵は月島とオボロに構えを取った。
 その葵の前で、月島は呆然と天を見上げて、つぶやいた。
「瑠璃子……お前はそこまで――――」
 だが、そのつぶやきが終わる前に、ゴウッという音と共に、
泥球と木の葉が月島とオボロを襲い始めた。

「幸運でしたね」
 美汐の言葉に、琴音はうなずく。
 かなり遠い距離ではあるが、その視線の先には琴音の妨害を受けている鬼二人と
それを機に逃げようとしている瑠璃子達の姿が見えた。
 二人は久瀬を振り切った後、合流地点のある方向へ走っていた。
 方向は正しかったのだが、森から抜けたと思ったらそれは数メートルの高台の上。
いかにしてその下にある舗装道路まで行こうかと思案していた時に、
舗装道路の先に瑠璃子達の姿を見つけたのだ。
「大丈夫ですか?」
 気遣う美汐に琴音はうなずくが、その額には汗玉が浮いている。
先ほどの迎撃とは違って距離がありすぎるのだ。
「もう少しで、瑠璃子さん達を逃がせます! がんばります……!」
 気力を振り絞る、琴音。だが、その背後から声が降りかかった。
「悪いが、そうはいかない」
 その冷たい声と共に。
414最終局面:03/05/13 01:15 ID:DUqdm84s
「……振り切ったはずです」
 能力を行使している琴音をかばうようにして美汐は久瀬を睨みつける。
「一度はね……だが、足痕が付いていた」
 背中で呼吸をしながら、久瀬はいう。
「それに、森の中は意外にそう自由に動けるものじゃないらしい。
意識して歩かない限り、移動ルートは限られるそうだ」
 友人に教えてもらったのだがね、と付け加える。
「君達が向かう方向は予想していた。君達が瑠璃子さん達と合流することは分かっていたし、
合流地点というものは普通逃げていく方向の先に決めるものだからね」
 言われて美汐は唇をかんだ。確かに合流地点は瑠璃子達が逃げている方向の先にある。
ここで瑠璃子達を目撃できたのも全くの幸運と言うことではないのだ。
 呼吸するのも苦しそうだが、久瀬は冷たい目をしたまま美汐たちを睨む。
「なぜ、不意打ちをせずにわざわざ姿を現してこんな自慢話をしていると思う?」
 ややあってから美汐は答えた。
「……私達に、あの妨害をやめさせるためですね?」
「そのとおりだ」
 美汐達が逃げようとすれば、妨害は中止しなくてはならない。
走りながら、この長距離で妨害をつづける余力は琴音にはないだろう。
 逆に言えば、美汐たちを鬼にしてしまっては、久瀬にはもう暴力以外に
琴音の妨害をとめる手段はなくなってしまう。美汐達に逃げる必要がなくなるからだ。
(……この人も必死なんですね)
 久瀬の足はガクガク震え、呼吸も落ち着く様子がない。
この距離でさえ、美汐達に逃げるチャンスは十分にある。だからこそ、この駆け引きが成立する。
「時間がない! 鬼なって妨害を続けるか、妨害をやめて逃げるか決めてもらう!」
 久瀬はそう叫ぶと、こちらに向かって駆け出した。
(残念ですが、選択肢はその二つだけではありません!)
 正直、この人がポイントよりも仲間の目的を優先させたことは驚いた。
だが、それはこっちだって一緒なのだ。
415最終局面:03/05/13 01:16 ID:DUqdm84s
 美汐は久瀬にタックルを掛けた。すでにヨレヨレの久瀬はこれに止められてしまう。
「な、なに!」
(真琴、ごめんなさい……!)
 美汐は心の中で約束を守れなかったことを詫びると、琴音のほうに叫んだ。
「私がこの人を抑えます! この場を離れてから、妨害を再開してください!」

(久瀬……能力者を逃がしてしちまったのか!?)
 飛んでくる泥球を跳ね除けながら、オボロは顔をしかめる。
 やむをえないと思う。彼の疲労を考えれば。
「くそ、あと一歩だってのに!」
 オボロは毒付く。本当に後一歩なのだ。
瑠璃子の足の怪我を考えれば、まだ近くにいるはず……!
「……!?」
 オボロは目を見張った。妨害が止んだのだ。
(久瀬、お前のおかげなのか?)
 確信はもてないが、これなら追いかけられる。
「月島、行くぞ!!」
 そういって、飛び出そうとするオボロの腕を月島がつかんだ。

(僕は阿呆か!?) 
 美汐に押さえ込まれたまま、久瀬は自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
策そのものは間違えてないと思う。
 だが、おしゃべりが過ぎて、相手に考える時間を与えてしまった。
 しゃべることで少しでも自分の体力を回復させようと思っていたのだが……
(だが、まだチャンスはある!) 
 琴音がこの場から逃げ出したために、一時期ではあるが妨害が止んでいる。
いつ再開するとも分からないが、その間に月島達が瑠璃子達を捕まえてしまえば……!
 だが、久瀬は仲間達のほうをみて、愕然とした。
 妨害が止んでいるのにもかかわらず、追いかけないのだ。
 遠目からはよく分からないが、腕で顔をぬぐっているようだ。
(目をやられたのか? 馬鹿な、月島さんならともかくオボロ君まで……?)
416最終局面:03/05/13 01:18 ID:DUqdm84s
「私達の勝ちですね」
 久瀬を押さえつけたまま、美汐は勝ちを宣言した。
その視線の先では、琴音による攻撃が再開され逃げていく月島達の姿があった。
 美汐の息は荒い。いくら疲弊しているとはいえ、女性が男性を押さえつけていたのだから。
「そのようだね……放してくれないかな?」
 一方、久瀬のほうは既に脱力してしまっていた。その声にも、もはや緊張はない。
「君の仲間は追いかけないよ。というか、今にも気絶しそうなんだ」
 美汐はしばらく久瀬のほうを睨んでいたが、やがて力をぬき、
「同情はしませんよ?」
 そういって、久瀬から手を放す。
「ひどいな……まあ、仕方ないか。今度からはもっと和やかに鬼ごっこをしたいものだ」
「それに関しては、同意です」
 久瀬と美汐は顔を見合わせて力なく笑った。
「まあ、色々ありましたが……失礼しますね」
 美汐は立ち上がると、すこしふらつきながらその場を去ろうとする。
その背中に、久瀬の声が届いた。
「ええと、僕の友人から君の友人に伝言があるんだが」
「……?」
 妙な言い回しに、首をかしげる。
「すまなかった、と言っておいてくれないかな?」
 言いたいことがよく分からないが、美汐は一度うなずいた。
417最終局面:03/05/13 01:18 ID:DUqdm84s
「あれでよかったのか?」
 オボロの問いに月島はうなずいた。
「ああ。あれ以上瑠璃子を追えば――――瑠璃子の足が悪化してしまうからね」
 きっと、そうなっても瑠璃子は自分から逃げることをやめないだろう。
 だから、一度妨害が止んだ時、月島は頼んだのだ。目をやられたふりをしてくれと。
 月島は、静かに目を閉じると自分に言い聞かせるようにつぶやく。
「妹を傷つける兄なんていないさ。そうだろう?」
 オボロはしばらく黙っていたが、そうだな、とうなずいた。
 そして、一転して明るい声を出す。
「月島、お前の妹さ……きれいだったな」
 それから、ニヤッと笑って付け足した。
「もちろん、ユズハほどじゃないけどな」
 月島は少しの間黙っていたが、ニヤリと笑い返すと言った。
「ハッ、冗談はよしてくれたまえ! 瑠璃子にかなう女性などいるものか!!」

【瑠璃子、真琴、葵 …… 葵、オボロによって鬼に。合流場所へ】
【美汐 …… 久瀬によって鬼に。琴音と別れ、合流場所へ】
【琴音 …… 美汐と別れ、合流場所へ】
【月島拓也、オボロ …… オボロ1ポイントゲット。現在3ポイント。美汐達のいた小屋へ】
【久瀬 …… 1ポイントゲット。現在6ポイント。美汐達のいた小屋へ。疲労MAX】
【三日目午後、教会周辺の森の出口】
【登場/ 月島瑠璃子、松原葵、天野美汐、沢渡真琴、姫川琴音】
【登場鬼/ 【月島拓也】、【オボロ】、【久瀬】 】 
418名無しさんだよもん:03/05/13 01:20 ID:WVrjXzlK


日報乙!

419身を捨てて:03/05/13 01:53 ID:iXJFnzyD
森の中を駆けていく、七人の男女。
先を走る三人は、すでにして疲れ切っているらしい。
足はがたがた震え、『走る』と『よろめく』の中間点にいる。
一人、比較的まともな女性が、相方達を叱咤しているが、おそらく、そう長くは保つまい。
追っ手達も、それを分かっているのだろう。
あえて短兵急にケリをつけようとせず、向こうが走れなくなるまで、小走りで追いながら、待つ。そういう作戦のようだ。
──いやそれとも。
三対一で、牽制しあっているというのもあるのだろうか。

梓は考える。
後ろから迫ってくる、四人の鬼たち。
黒Tシャツの、がら悪い男。
羽根をはやした、金髪の女性。
小さい、必死の形相で追ってきている、少女。
そして──どうにも特徴にかける、男。
誰にしても、体力全快の、元気な連中らしい。

それにたいしてこちらはどうだ。
かおりも、結花も、雨濡れて、足はがくがくになり、体力的にも限界に来ている。
鬼の力を持つ自分からして、さっきの滅茶のおかげで、足がかなりやばい状況だっていうのに。
自分の両横を駆けてる二人。
かおりは、息を切らせて、崩れかけている。
結花の、駆けるフォーム。もうバラバラになっている。
後ろから追ってくる鬼たち。どんどん迫ってくる。
もう、一刻の猶予もない。
420身を捨てて:03/05/13 01:54 ID:iXJFnzyD
つまりは、まだ余裕のある自分が、足止めをすればいいって事。

「結花」
「……何っ」
「キャンプ場で、待ってて」

そして梓は立ち止まり、森の木に、強烈な蹴りを入れる。
比較的細い木を選んだためか、あっさりとその木は根本からへし折れて、
「梓っ」
ずずん、と、森の細道をふさぐ。
「良いから行って! 後から行くから!」
「先輩っ!」
「ちゃんと逃げ切りなさいよ! 捕まったら、承知しないからね!」
などと言う間に、もう何本か木を蹴り折り、バリケードを高く、厚く変える。
追っ手達もさすがに驚いたのか、足を止めた。
結花と、かおり。しばらく躊躇したものの、やがて意を決して、小走りで去っていく。
421身を捨てて:03/05/13 01:54 ID:iXJFnzyD
梓は不敵に笑う。

さって。強気なことを言ったけど、ここから逃げ切れるかしらね?
後ろには、自分で作ったバリケード。
鬼四人は、いつのまにか自分を、ぐるりと遠巻きにする態勢に。
森の中。
雨は降り続いている。
鬼の一人、黒Tシャツの男が、梓に突っかかっていった。

【結花 かおり 森の中を、逃げていく】
【梓 逃げ道は見つかるのか】
【往人 ウルト 千紗 ハウエンクア 梓を囲んだ】
【ホテル付近の森 三日目早朝】

【登場逃げ手 柏木梓 日吉かおり 江藤結花】
【登場鬼 国崎往人 塚本千紗 ウルトリィ ハウエンクア】
422名無しさんだよもん:03/05/13 02:31 ID:81FjuEZy


ぷーちんとぶーたんどっちが好き?
423結束:03/05/13 09:43 ID:A+zqGAPS
 月島達を一応は撃退した形となり、合流地点としていたドライブインに集まり建物の中で一息つく。
 もう辺りも暗くなってきた。
 瑠璃子の足の事もあるし、今日はここで休む事に決める。

「瑠璃子さん、足を見せてください」
 そう言って琴音が瑠璃子の足の包帯をほどく。
 後ろから葵が覗き込んで、程度を確認した。
「あ、少し腫れちゃってますね。それにテーピングも少し緩くなっているみたいです。
 巻き直したほうが―――…あ」
 テーピングに手を伸ばしかけて、自分が鬼になっている事を思い出し慌てて手を引っ込める。
「くすっ、私が代わりに巻き直しますから、葵さんが指示してください」
 琴音が葵の指示を受けながらてきぱきと治療を行っていく。

「さて、私と葵さんが鬼になってしまったわけですが…」
「え〜?もう美汐と一緒に居られないの?」
「ごめんなさい…、私とお兄ちゃんのせいで…」
「いえ、私がそうしたかったのですよ」
「そうですよ瑠璃子さん。私達は全然後悔してないですよ」
 葵の明るい声に瑠璃子の表情も少し和らぐ。
424結束:03/05/13 09:44 ID:A+zqGAPS
「私達は後悔していません。ですが鬼と一緒では瑠璃子さん達に迷惑が―――あ…」
「くすくす…なら、こうしたらいいんですよ」
 瑠璃子が美汐の手を取った。
 それがどういう意味なのか…逃げ手が自ら触れたとしても、ルールはルールなのだ。
「瑠璃子さん…」

「そうだよ」
 がばっ。
 真琴が抱きついてきた。
「真琴?」
「鬼か逃げ手なんて関係ないわよぅ。美汐に触れないって事は、当分撫でて貰えないって事でしょ?
  そんなの我慢できるわけないじゃない」

「葵さんもですよ」
 琴音が葵の手を取る。
「琴音さん…」
「頼りにしているのですから、一緒にいてくれないと困ります」
「チーム内で方針が違うのも困りますしね」
 琴音の言葉にくすくすと笑いながら瑠璃子が続ける。

「よ〜し、今度はいっぱい捕まえるわよ」
「そうですね」
「………はい、みんなで頑張りましょう」

********************************************************************************
【美汐 瑠璃子、真琴ゲット +2、葵 琴音ゲット +1。テーピングを補強の為少量使用】
【瑠璃子、真琴、琴音 鬼になる】
【時間:3日目夕方】
【場所:ドライブイン建物内、前:舗装道路、後:ゆるやかな山の斜面】
【登場:月島瑠璃子、沢渡真琴、姫川琴音、【松原葵】、【天野美汐】】
********************************************************************************
425名無しさんだよもん:03/05/13 14:28 ID:TuFJxWli


ぽいずん♪
426名無しさんだよもん:03/05/13 17:53 ID:QXAv9y09
(・∀・)イイ!
427名無しさんだよもん:03/05/14 01:52 ID:dM5lEPX7
華音全滅?
428名無しさんだよもん:03/05/14 02:12 ID:gUXdS0p/
全滅だね。雫もね。
ところで誰か、感想スレの次スレ立てられる人いない?
429名無しさんだよもん:03/05/14 10:51 ID:kVJg8pJf
とりあえず感想スレの次スレ立てました。
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1052876752/

あとはよろしくです。
430自信と不安:03/05/14 15:01 ID:YeAhEFjr
 4日目の朝…未だ空は雨模様。
 美汐が用意した朝餉を食べながらしばしの団欒にふける。

「食材が豊富だったのと、素材の良さに助けられただけですよ」
 料理の腕を賞賛され、照れながら謙遜する美汐。
「結構食べ物残ってて良かったね。それにしても大きな冷蔵庫だったわね」
 真琴が感心したように言う。
「ええ、かなり充実したドライブインだと思います。
 食材もまだ充分ありますし、営業中をそのまま開放したと言うところでしょう」
「シャワーも使えましたからね」
 葵が嬉しそうに言う。
 年頃の女性ばかりのチームにとってこれはかなり重要な事である。
 まして、体を動かす事の多い彼女にはかなり切実な問題だろう。

「長期戦になるのなら、ここを中心にして活動するのもいいかもしれませんね」
「そうですね、天候も思わしくないですし」
 琴音の言葉に美汐が答える。
「私達の体力温存にもいいですね」
 葵が軽く食後のストレッチ運動を始めながらそう言った。
 確かにこれから迎えるであろう修羅場にこれは大きい。
431自信と不安:03/05/14 15:01 ID:YeAhEFjr
「それで、これからどうするかなんだけどね…」
 食器を洗って片づけた後、瑠璃子が本題を切り出してきた。
「私達は構成的に攻め手として恵まれているよね」
 瑠璃子の言葉に皆うなずく。
「それで役割分担を決めて思うんだけど、どうかな?」
「いいと思います。そうすると葵さんに得点を集めるのですね?」
 さすがに理解が早い。やっぱり美汐ちゃんだね。
「え?わ、私ですか?」
 びっくりする葵に美汐が答える。
「機動力だけなら真琴の方が上でしょう。
 ですが、葵さんの方が相手の行動に対する反射神経…体さばきは上です」
「うん。今も残っている逃げ手だから何かの才能を持っている人達だと思うからね」
 瑠璃子が補足して説明する。
 その言葉を受けて葵はぶるっと震えた。
 それはそれだけの才能を押さえ込むだけの働きを期待されているという事に他ならないからだ。
432自信と不安:03/05/14 15:01 ID:YeAhEFjr
「そうすると真琴は何をすればいいの?」
「そうですね、真琴は煽動です」
「ようどう?」
「ええ。まず琴音さんの超能力で相手の足を止めてもらいます」
 こくりと琴音がうなずく。
「それで?」
「ですがルールで直接的な攻撃は認められていませんから、効果は薄くなります」
 美汐の頭には先の月島チームとの一幕が鮮明によぎる。
「それで真琴ちゃんが葵ちゃんのいる方向に相手を追いやるんだよ。挟み撃ちだね」
 瑠璃子の言葉にやっと納得がいったか真琴がうんうんとうなずく。
「美汐ちゃんには司令塔役をお願いするね」
「………わかりました」
「くすくす、やっぱり頼りになるよ、美汐ちゃん」
「そ、そんな…買いかぶりすぎです。瑠璃子さんもお願いしますね」
 美汐は頬を少し赤く染め、ぷいっと顔をそむけた。
「うん、役割はわかってるよ」
 そんな仕草に微笑みながらそう答えた。
433自信と不安:03/05/14 15:02 ID:YeAhEFjr
「う〜、それなら真琴の点も葵にあげればよかったかなぁ」
「それを言ったら私もだよ。あの時は仕方ないよ」
「そうですね。あの時はあれで良かったんですよ」
 真琴と瑠璃子の言葉に琴音が応える。
「そうね。よし、これから頑張るわよ…って、あ、そう言えば瑠璃子の足はどうなの?」
「処置が良かったからかな?もう普通に歩くには余り気にならないよ」
「そっか、じゃあ万全の体勢ねっ」

 …そして盛り上がる一同の横………
 一人緊張して震える葵に気づく者はまだ居なかった…
********************************************************************************
【時間:4日目早朝】
【天候:雨、未だ止む気配無し】
【場所:ドライブイン建物内、前:舗装道路、後:ゆるやかな山の斜面】
【状況:食事中、作戦会議。食料有り。役割分担完了。葵緊張中】
【登場:【月島瑠璃子】、【沢渡真琴】、【姫川琴音】、【松原葵】、【天野美汐】】
********************************************************************************
434名無しさんだよもん:03/05/15 09:43 ID:v+CkxhV1
煽動?
陽動?
それとも扇動?

何か違うような気がしたので一応
435名無しさんだよもん:03/05/15 15:45 ID:Ki40eJh1
>>434
ごめんなさい。

真琴の台詞
×「ようどう?」
○「せんどう?」

です。
漢字を書き換えたのに、読みを書き換えていませんでした。

それと
×「それで役割分担を決めて思うんだけど、どうかな?」
○「それで役割分担を決めておきたいと思うんだけど、どうかな?」

コピペ作業→送信の際に失敗。
読む際に補完して頂けるだろうと放置でしたがついでに。

訂正をしたらば投下した方がいいですか?
4361/3のエアホッケーな感情:03/05/15 21:01 ID:M9T9UzfN
「はわわ〜!」
「わひゃあ〜!」
 ここは忘らるる迷宮、超ダンジョン。
 何が超なのかはわからないが、誰かが呼んだからそう呼ばれるのだろう。
 んなこたどうでもよろしい。
「はわわわわ〜!」
「わひゃあああ〜!」
 暗いダンジョンの中を、疾走する2つの小さな人影。
「お化けですぅ〜! たたりです〜!」
 片や、科学技術の粋を凝らして創造されたメイドロボ、HMX-13マルチ。
「余はぁ〜! 余は何もしておらんぞー!」
 片や、極東の三大国家が一つ、クンネカムンが皇、アムルリネウルカ・クーヤ。
「はわわわわ〜!」
「わひゃはああ〜!」
 ……とはいえ、端から見れば怯えた2人の少女でしか、ないのだが。
 
 しばし脱兎のごとく走り続けた2人。
 たっぷり数分間走り続けたところで、先に体力の方が音を上げた。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「はぁ、ふぅ、ひぃ……疲れましたぁ」
 少し息を置いたところで冷静さが戻り、改めてあたりの状況を確かめる。
「逃げ……きった、のか?」
「はい……どうやら、追っては来ていないようですね。助かりましたぁ」
 はぁ、と大きく息を吐くマルチ。
「なんだ、情けないのぅマルチ。あれしきのことでそこまで怯えきってしまうとは」
「ううっ……すみません」
 自分のことは棚に上げて説教を垂れるクーヤと、棚に上がった話題に気付かず素直に謝ってしまうマルチ。
「……いや、まぁ、気にするな。結果的には逃げ切れたのだし、よしとする」
「はい、ありがとうございますっ」
 さすがのクーヤも、そこまで素直になられてはフォローを入れざるをえなかった。
 
 ……そんな折……
437名無しさんだよもん:03/05/15 21:03 ID:gDa+xIdr


ぽうっ!
438名無しさんだよもん:03/05/15 21:03 ID:M9T9UzfN
「……こんばん」
「わひゃぁふほぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
 突如の耳元の囁きに驚き、素っ頓狂な叫びとともにクーヤがマルチに抱きつく。
「わ!? わ!? わ!? どうなさったんですかクーヤさん!?」
「うううううう後ろ後ろ後ろ後ろ後ろに何かいるるるるるるるるるるるるるる!!!!!!!!」
 泣きつきながらもクーヤが指をさす。そこには……
 
「……なんか、化け物にでも会ったかのようなリアクションね……。先生、ちょっと傷ついちゃうわよ」

 ……ある意味、どんな化け物よりも質の悪い、超設定の塊。『それ』がいた。
 
「ど、ど、ど、どちらさまですか?」
「あら、あなたは来栖川のメイドロボね? こんばんは、初めまして。私の名前は石原麗子」
「あ、私はマルチといいます。よくご存じですね〜」
「まぁよくCMで流れてるから、ね」
「光栄です〜。研究所の方々の苦労も報われたというものですよ」
「それにしても……本当に人間そっくりね」
「よく言われます」
「耳のカバーが無ければ人間と見間違えるほどだわ」
「ありがとうございます。きっと皆さん喜んでくださいます」
「今度診療所の方に一台入れてみようかしら?」
「あ、お医者様なんですか? ちょうどよかったですぅ。実はこれ、機密情報なんですけど、今度新発売の私の妹には看護機能の充実が図られる予定なんですよ〜。
 ただいまなら特別セール期間中につき、本来ごひゃ……」

 と、そこまで言いかけたところで、営業活動中のマルチを突然の衝撃が襲った。
 一瞬で景色が後ろに流れていく。
 
「わ、わ〜!? く、クーヤさん、何を……?」
 マルチの腕をひっ掴み、クーヤが通路の奥に向かって駆け出したのだ。
「お前こそ何を呑気に話し込んでいるのだ! あの女の肩を見ろ! たすきを掛けているぞ! 鬼のたすきだ! あの女は鬼だ! 逃げるぞマルチ!」
「そ、そんなこと言われましても……。営業成績を上げるには第一印象が大切だと主任から……」
「後にしろッ!」
439名無しさんだよもん:03/05/15 21:03 ID:vKsaTLai
440名無しさんだよもん:03/05/15 21:04 ID:Sq5DbI+r


はっ!
441名無しさんだよもん:03/05/15 21:04 ID:M9T9UzfN
「ふぅ……」
 一つため息とともに、メガネの位置ををクイッと整えた。
「さて……やっと鬼ごっこらしくなってきたわね」
 走り去る2人の後ろ姿を眺めながら、麗子は考える。
「どうしたものかしら……」

A 全力で追う!
B 普通に追う。
C 手加減して追う。

「……まぁ、ここはCってところね」
 
 
 
 
 
 そして5秒後、あえなくマルチは捕まった。
 
 
 
 ついでにクーヤも。
 
 
 
【麗子 ポイント+1】
【マルチ 鬼になる&ポイント+1】
【クーヤ 鬼になる】
【時間:2日目深夜〜3日目朝方 場所:超ダンジョン 天候:???】
【登場 【石原麗子】、マルチ、クーヤ】
442かりそめの同盟:03/05/16 02:28 ID:YpnjiKlL
「まったく……何なのよ、本当に!」
リサは苛立っていた。今日一日で宗一をはじめ数々の、しかも相当の力を持った鬼に追われたせいだ。
休息をとっても体力が完全に戻る前に新たな鬼に補足され、追い回される。おちおち眠ることもできやしない。
(一人で行動してるとこういうとき困るのよね)
もう自分の運の悪さを恨むべきか、結局捕まらなかった悪運の強さに感謝すべきかも分からない。
「悪運って何よ。実力よ、実力」
浮かんだ馬鹿な考えを声に出して否定し、馬鹿なことをしているな、と苦笑する。
とにかく、これ以上鬼に見つかる前に安全に休める場所を探さないといけない。
そのために森を抜けようとしたところで
「こんばんわ」
いきなり横から声を掛けられた。
(……本当にどうかしてるわ)
いくら疲弊しているとはいえこれほどの接近を許すなど、一流といわれたエージェントとしてはあり得ないミスだ。
声のした方を向く。そこにいたのは自分とは正反対な、ショートの黒髪が印象に残る少女だった。
だがその肩に襷は無い。どうやら鬼ではないようだ。
自分の運もまだまだ捨てたものじゃないと思い、リサはまた苦笑した。
443かりそめの同盟:03/05/16 02:29 ID:YpnjiKlL
森を出て5分ほど歩いたところに止まっていた屋台。二人はそこで食事をとりながら話をしていた。
同じ名字ということでリサが切り出した柏木千鶴とのチェイスの話は、楓を随分と驚かせたようだった。
「千鶴姉さんから逃げ切ったのですか?」
「ええ。かなり苦労したわよ、彼女には」
その後も二人の会話は途切れることはない。エージェントとして交渉術にも長けているリサのおかげだ。
「ところで楓さん、ものは相談なんだけど」
ふと、リサが話の流れを変える。
「ちょっと協力しない? 正直な話、鬼の数も増えてきて一人じゃ全然休めないのよ。
 お互い十分な休憩の取れる……そうね、夜明けまで。それまで一緒にいましょう。
 どう? 悪い話じゃないと思うけど」
その提案に楓はしばし思案する。
日中動き回っていたリサと違い、楓は昼間森の中のある場所から動かず、体力を温存していた。
しかしいつ現れるとも知れない鬼を警戒していたため、神経はやや疲れていた。
雨の夜。行動している鬼は少ないとは思うが油断は出来ない。そこへ行くと安心して睡眠をとることが出来る
リサの申し出はありがたいものと言えた。
森の出口で見かけたときはつい声を掛けてしまうほどふらふらだったのだが、食事をして体力も幾分回復した今なら
彼女は心強いパートナーとなるだろう。それは先程の話からも明白だ。
「わかりました。そういうことなら」
言って楓は右手をリサに差し出す。リサも笑ってその手を握り返した。
444かりそめの同盟:03/05/16 02:31 ID:YpnjiKlL
「ここ?」
「はい」
その言葉にリサは視線を上げる。楓がリサをつれてきたのは森の中、見上げてもてっぺんが見えないほどの大木の下だった。
「私は昼間、この枝の上でじっとしていたんです」
「なるほど……これくらい大きな木なら少しくらいの雨露、簡単に防げるし周りも見渡せる。
 それに人は雨に降られるとまず屋根のある場所を探そうとするものだしね」
「はい。それで、寝る場所は……」
「この木のうろの中、でOK?」
「はい」
樹齢数百年はあろうかという大木。枝はしっかりしているのでその上で寝ることも出来ないこともない。だが、数時間の睡眠で
しっかり体を休めるためには、やはり横になった方がいい。流石に四肢を伸ばすことは出来ないが、
女性が一人寝られるくらいの大きさの洞が根元にあった。
「嫌ではありませんか?」
「うーん、本音を言うとどこか小屋でも探してそこで眠りたいけど、そう都合よく空っぽの小屋が見つかるとは思えないし。
 私たちが鬼なら空き小屋にこだわる必要はないんだけど」
背に腹は代えられないって言ったかしら、と先程屋台で買った傘の下でリサは笑う。
ちなみに傘を持っているのと反対の手にはタオルや毛布、明日の朝食用に買った携帯食などが入った袋を下げている。
「やはり、勝ちたいからですか?」
周りの地面が少し盛り上がっているせいか、そのうろの中は濡れてはいない。だがお世辞にも快適とは言えない場所だ。
そんな場所で寝ることをあっさりと決めたリサ。普通ならもう少し躊躇っても良さそうなのに。
それを疑問に思った故に出た楓の質問に
「Yes、私にも世界トップクラスのエージェントとしてのprideがあるから」
笑顔を崩さずに、リサ。
「あなたは?」
出し抜けに聞き返す。いや、その口調は聞き返すと言うよりも確認のそれに近い。
勝ちたいのはあなたも同じでしょう、と。
「私は……女としての意地、でしょうか」
詳しいことは話さない。だが、楓の言葉にリサは得心した、とばかりに頷いたのだった。
445かりそめの同盟:03/05/16 02:34 ID:YpnjiKlL
「ではリサさん。どうぞ、お先に休んで下さい」
「Thanks、お言葉に甘えさせてもらうわ」
そう言って木のうろへと入るリサ。それなりの長身を持つリサだが、何とか入れたようだ。
雨の夜の森。周りは闇に閉ざされている。まるで降っているのは雨ではなく黒い絵の具で、それが世界を
黒く塗りつぶしているのかと錯覚せんばかりの、漆黒。
昼間ならまだ見えたであろう木の根元の洞も、今は闇の中。常人にはそこに穴があることも、ましてやそこに
金髪の美人が寝ていることも分からぬだろう。
これなら見張りもいらないかも知れない。だが、楓は楽観しなかった。
この島には明らかに常人の尺度を超えた者が数多くいるのだから。
差していた傘を閉じ、地面から四メートルほど上にある枝に一飛びで乗り移り楓は辺りに気を配った。



【楓 枝の上で見張り開始】
【リサ 木の根元のうろで就寝】
【時間 三日目深夜】
【場所 森の中の大木】
【登場 リサ・ヴィクセン、柏木楓】
446まちあわせまちぶせ:03/05/16 04:10 ID:5S7Q7nqO
 先の入れ替え事件から、既に二十分が経っていた。
 香里たちは現在、近くの木々に身を寄せている。
 彼女たちは待っていた。
 

 遭難事件などでは、実際に遭難した人間は自力で脱出を模索するより、おとなしく同じ場所で待ち
体力を温存。救助隊の発見を待つのがベターとされている。
 彼女が戻ってくるのを待つべきだ。
 入れ替えが発生した後、香里はそう考えた。
 追跡していない以上、アレがどこへ行ったのか自分たちにはわからない。
 だが、取り違えをしたあの子――――あゆのことだが―――が逆ルートを辿れば、そのままここへ
たどり着くのは容易い。仮にあゆがあの袋の中身を確かめて、英語版の解説書を読めたとしても、
たいやきの方を選ぶだろうという点について、香里は微塵の疑いも抱いていなかった。
 たいやき。
 彼女たちにとっては只のスナックに過ぎないが、あゆには魔法の言葉だ。
 あのたいやきへの執着心は常軌を逸している。
 いまごろはこちらへ向かっていることだろう。
 香里は手元の袋を抱き寄せた。
 冷たい雨の中、袋は容赦なく濡れつつある。なかのたいやきの温度もそれほど感じられない。
 香奈子はいっそ食べてしまったらどうか、と提案をしたが、他の三人にあっさり却下された。
 主に量が多すぎて処理しきれないという理由のためだが、あゆが戻ってきたときにたいやきがないことで
余計ないざこざを起こしたくないという意図もある。
 たいやきくらい買いなおせば良いのだが、この状況下まともな理屈が通じないこともありうるからだ。
 なにより食べたくもないものを食べて代金を支払うというのはあまりにナンセンスだろう。
 来るのを待って、ただ渡せばいいのだから。
 そう。香里はそう考えたのだ。
 ――――編集長が次の一言を言うまでは。
「ねえ。素朴な疑問なのだけれど、……さっきのあの子、自分の通った道を憶えているのかしら?」
447まちあわせまちぶせ:03/05/16 04:11 ID:5S7Q7nqO


「――――香里様、如何致しますか?」
 しばしの沈黙の後、セリオが香里を促した。 
 向かいの木にもたれていた香奈子は何も言わない。
 それもそうだ。
 真紀子の疑問が事実であれば、置かれている状況はあまり好ましいものではない。
 たいやき少女に合理的な行動が期待できないのなら、ここに留まっても時間の浪費で終わる可能性の
方が高い。最悪、時間を無駄にした上、最終兵器は使えないものして行動しなければならなくなる。
 自分たちも、一応花も恥らう少女だ。……まあ、少なくともチームの半数くらいは。
 その自分たちが、鬼ごっこのルール内とはいえ手ぶらで参加者たちと渡り合えるか。
 ――――どうみてもNOだろう。 
 香里は決断に迫られていた。
 このままあゆを待つか。
 偶然の遭遇に期待しながら、行動するか。
 今から屋台に戻って、新たに道具を調達するか。 
 そして彼女が下した決断は――――


 先の入れ替え事件から、既に二十分が経っていた。
 香里たちは現在、近くの木々に身を寄せている。
 彼女たちは待っていた。
 あゆを、ではない。
 セリオに搭載されている対人レーダーは、現在北の方角からの接近者の存在を示していた。
 その数二名。鬼かどうかは定かではないが、逃げ手なら捕まえる。
 そして、また別の逃げ手を探す。運がよければ、あゆにも遭えるだろう。 
 香里はそう決断した。


「―――捕獲対象を肉眼で確認」
 暫し後、セリオが静かに呟いた。
448まちあわせまちぶせ:03/05/16 04:12 ID:5S7Q7nqO
【香里・香奈子・セリオ・真紀子 待ち伏せ】
【柳也 裏葉 まだ気づいてない】
【時間:三日目深夜 場所:森 天候:雨】
【登場 【美坂香里】【太田香奈子】【セリオ】【澤田真紀子】 柳也 裏葉 】
449名無しさんだよもん:03/05/16 14:49 ID:xdi1FhDl
(・∀・)イイ!
450みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:31 ID:OJlPf6MR
 雨の中、灰色の海。その海岸沿いの道を晴子達は移動していた。
晴子と詩子はバイクに二人乗り、他の三人はウォプタルに三人乗りだ。
 と、べナウィは己の愛馬を一度止め、しばらく息遣いなどを観察した。
「……シシェを休ませる必要がありますね」
「三人で乗るのはやはり辛いのでしょうか?」
「はい、長時間はやはり。それに乗馬に慣れないあなた方も疲れたでしょう」
「(こくこくこくこく!!)」
 激しく澪が頭を縦にふる。彼女の場合、乗馬の疲れに加えて字が上手くかけないということもある。
「無理をすれば、日暮れまで持たせる事も可能ですが……」
 申し訳なさそうに言うべナウィに、晴子は笑って首を振った。
「そんなに焦って観鈴を探しているわけやないしな。どっか休めるとこ探そ」
 その晴子の後ろで、詩子が声を上げた。
「あ、それなら師匠! いい考えがありますよ!」

 
 同時刻、同じ道路のかなり後方を、観鈴とひかりの二人の逃げ手が歩いていた。
「うーん、恐竜さん見つからないですね」
「まぁ、向こうのほうが速く移動しているでしょうしねぇ」
 もとよりこちらも、別に必死に追っているわけでもない。
移動するにしてもなにか目標があったほうがいいだろう、ぐらいのものだ。
 と、観鈴がポンっと、手を打った。
「観鈴ちん、ナイスアイデア!」
「ん? どうしたの?」
 問われて、観鈴は指を刺した。砂浜が終わった向こう、ちょっとした岬の先に灯台が見える。
「あの灯台に登ってみるのはどうですか?」
451みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:32 ID:OJlPf6MR
「灯台ですか?」
 詩子の提案に、茜は首をかしげた。
「うん。いい考えじゃない? あそこに登れば砂浜を見渡せるよ! 観鈴さん、見つけやすくなるんじゃないかな?」
「それは確かですが……」
 いいよどむ茜にかわって、べナウィが答えた。
「ですが、不利な点もあります。
 まず、灯台というのは袋小路に陥りやすい構造をしています。特に上に登っているときなどは。それから―――」
 目を細めて、灯台のほうを観察する。
「灯台の周りに遮蔽物がないため、遠くからでも灯台に近づく人物を目視できます。
さらに、灯台は岬の先に立っているため、逃げ場所にも自由が利かない」
「つまり、もし灯台に入るところを鬼にみられたら、かなり不利になる、ということです」
 べナウィの後をひきついで、茜がしめくくった。
「そっかー……いい案だとおもったんだけどなぁ」
 残念そうにつぶやく詩子に対して、べナウィは少し笑顔を見せて答えた。
「ですが、利点があるのも事実です。そうですね、シシェを休ませて機動性が復活したのなら、
日が落ちる前ぐらいにちょっと冒険をしてみても良いでしょう」


「そうね、それはいい考えだと思うわ」
 観鈴の提案に、ひかりは同意した。
 灯台に登るデメリットぐらいは承知していたが、
(そこまでビクビクするのもねぇ……)
 それに、灯台に登るというのはありそうでなかなかない経験だ。年甲斐もなく、ちょっとワクワクする。
雨が降っているのは残念だが……
「じゃあ、ちょっと距離があるけど、行きますか」
「はい!!」
452みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:33 ID:OJlPf6MR
「では、葉子殿、おやすみなさい」
「神奈さん、申し訳ないです」
 海岸沿いの家屋の一室、ベッドの上に横たわった葉子は神奈にあやまった。 
 朝からはりきって逃げ手を捜してみたものの、成果はなかった。
そのうちに、徹夜してお説教していたために、眠気がこらえなくなり、しばらく仮眠しようという話になったのだ。
 巡回員のほうも、別室ですでに眠りについている。
「気にするでない。身体は大事にせねばならぬしな」
「はい……それではお言葉に甘えて……おやすみなさい」
 起こす時間を指定すると、葉子は目を閉じた。
(ふむ、しかしこれは暇になってしまったの)
 窓から、海のほうを見る。
(雨は億劫だが……散歩にでも出るか)
453みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:34 ID:OJlPf6MR
「あーもう、ついてない! 逃げ手逃げ手にあえないじゃない!」
「ていうかさぁ、姉さん。 やっぱり砂浜に逃げ手はいないんじゃないすか?」
 怒り声をあげる七瀬に、矢島がなげやりに突っ込んだ。
「うーん、そうかなぁ。でも家とかたまに調べてるわよ?」
「そんな思い出したようにやるんじゃなくて……もうちっと計画的にやったほうがいいんじゃねーの?」
 言葉を詰まらせる七瀬に、矢島はさらに突っ込む。
「つーか姉さん、なんで海沿いにこだわるんすか? 市街地とか山のほうとかに行ってもいいんじゃないかと」
 その問いに、七瀬はうつむいて小声で答えた。
「……乙女にしか出来ない技だからよ」
「はぁ?」
「だ、だからぁ! 夕暮れのビーチで追いかけっこするのって、ちょっとロマンチックじゃない!? だからよ!」

(待て待て〜)
(ウフフフ、捕まえてごらんなさ〜い)
(言ったなぁ、こいつぅ? アハハハハ〜)
(ウフフフ、こっちよ〜)

「何年前の少女マンガだよ……第一、女は追われる役じゃないすか」
「うっ……」
「それに、この天気じゃ夕焼けってのも……」
 灰色の空を見上げてみる矢島。と、空の一点に目を留める。
「……姉さん、最近の乙女ってのは空を飛ぶんすか?」
「なに言ってるのよ……? なに、あれ?」
 矢島の視線の先には、ふよふよと海の上を飛ぶ鬼の少女の姿が見えた。
454名無しさんだよもん:03/05/17 20:34 ID:KNh2OQC2
ぼるじょあ
455みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:35 ID:OJlPf6MR
 ふよふよと、神奈は空を散歩する。
「うむ、雨の海もなかなかに趣があるものだ」
 昨日は晴天の海や日の沈む海に感動したものだが、これはこれでなかなかに悪くないと思う。身に滴る雨水を差し引いたとしても。
「しかし、雨の中飛ぶのもちと疲れるの」
 あの場所で翼を休めるか、と灯台のほうを見る。と、その灯台に近づいていく二人の女性の姿が見えた。
「あ、あれは昨日の薄情な女ではないか……!」
 先日の昼ごろ、落とし穴にはまっていた自分を見たのにもかかわらず助けてくれなかった女だ。依然として逃げ手でいるらしい。
 千賽一隅のチャンス、と心沸き立つ神奈であったが、迷う事があった。
「葉子殿達に知らせるべきか……?」
 葉子が床についてから、まだ一時間も立っていない。起こすのは酷という気もする。
 だが、知らせないのはちょっと抜け駆けのような気もする。葉子なら許してくれるとは思うが……
 一人では心もとないが、葉子達のところに戻っては時間をロスしてしまうという点も迷いどころである。
「むぅ、どうしたものか……」


「あの子、なに見てるんでしょうね?」
「さぁ?」
 空飛ぶ少女は自分達のさらに向こうをじっと見ているようだ。
七瀬と矢島は、その視線を追って首を反対側にむける。
「灯台みたい……矢島、あれ!」
「獲物っすね」
 ちょうど灯台の入り口にはいる二人の逃げ手の姿が見える。
 矢島は再び少女のほうへ注意を戻す。
「こっちには気付いてないみたいだが……こいつは獲物の取り合いになるな。
行きましょう姉さん」
「オーケイ!!」
 七瀬と矢島は、少女に気付かれぬように注意しながら灯台のほうへ向かって走った。
456みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:36 ID:OJlPf6MR
 砂浜と灯台の岬をはさんで港に近いほうのペンションで、晴子達は休む事に決めた。
 べナウィは車庫にシシェをいれ、布でその身体をふきとると、ペンションの中に入った。
「食料などは見つかりましたか?」
「んー、ついてへん。何もないなぁ」
 晴子の言葉に、詩子と澪もうなずく。茜はシャワーを浴びにっている。
「そうですか……それなら私は周辺の家屋を探してきます」
『鬼さんとか、危なくないいの?』
「慎重にいけば大丈夫でしょう。すぐ戻ります」
 そういって、べナウィは踵をかえすと、雨の中に消えた。
『べナウィさん、働き者なの』
「ほんまや。あんたら、将来ああいう男を捕まえると楽できるでー」
「なるほど、ああいう男を捕まえろ、っと」 
 晴子の言葉に、詩子は律儀にメモを取る。晴子はそんな詩子に苦笑する。
「ま、楽してばっかりやと駄目人間になってまうけどな。
よし、じゃあウチらはシャワー前にバイクの整備をしよか。雨の中、ずいぶん無茶な運転したしなぁ」
「ラジャーです、師匠!!」
 ビッと、詩子は敬礼すると、バイクを止めてある車庫に移動しようと、外に出た。
ふと、灯台の方をみる。
「あれ、師匠。灯台のほうに人がいますねー」
「そうか……なっ!?」
 晴子は絶句した。雨の中、遠目からだが間違いない。
「観鈴やないか!」
「あれが……!? 師匠、あれ!!」
 今度は、詩子は別方向をさす。その指の先には、灯台に向かって走る二人の鬼の姿。
「あっちも!」
 さらに向こうには、空に浮かぶ鬼の少女の姿があった。
「観鈴ちん、ダブルピンチやな……! さて、どないしたものか」
457みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:37 ID:OJlPf6MR
【観鈴、ひかり   灯台へ】
【晴子、詩子、澪  灯台近くのペンション。観鈴チーム、鬼2チームを目撃】
【茜 同ペンションでシャワー中】
【べナウィ ペンション周辺の家屋で食料探し】
【神奈  観鈴チーム発見、七瀬チームに気付いていない】
【葉子、巡回員 海沿いの家屋で仮眠】
【七瀬、矢島  観鈴チーム発見。灯台へ】
【登場逃げ手  神尾観鈴、神岸ひかり、神尾晴子、里村茜、上月澪、柚木詩子、べナウィ】
【登場鬼  【神奈】、【鹿沼葉子】、【A棟巡回員】、【七瀬留美】、【矢島】】
458みんな集まれ灯台へ:03/05/17 20:57 ID:OJlPf6MR
【三日目夕方前】
459南無阿弥陀仏:03/05/18 01:25 ID:HPWB3DP7
「うーん」
キャンプ場の管理所にて。
はるかは、梁に吊してある服が、きちんと乾いたかどうか確かめていた。
当然、毛布は床にはがれ落ちて、下着姿をさらすことになっている。
宗一は体を逆側に向けて、丸太様の壁を見つめているのは言うまでもない。
「うん、大分乾いてきた」
「そうか」
「もう着れると思うな。よっと」
ごそごそ、がさ、と服を引きずり降ろす音。こそかさ、がさ、しゅる、もぞごそ。
しばし後。
「いいよ、そーいち。こっち向いても」
「ん」
そして宗一も服を引き下ろして、
どさ。
ズボンのポケットから、何かが落下した。毛布の上に落ちて転がる。
「……あ」
そこにあったのは、初日に購入以降ほとんど使っていない、人捜しレーダー。
「そういや、こんなものもあったなぁ」
「何これ」
はるかが拾い上げる。服を着直している宗一を横に、丸い何かをためつすがめつする。
「レーダーだ、それ。変にいじくらないでくれよ。使用回数……あと二回くらいしかないんだから」
460南無阿弥陀仏:03/05/18 01:25 ID:HPWB3DP7
「ふーん。……これ、防水になってるのかな?」
「……」
確かに、ポケットの中に入れていたとはいえ、かなり濡れたことは間違いないだろう。
「この雨でぶ壊れてたりしてさ」
ありうることである。
「……試してみるか」
貸してくれ、と服を着終わった宗一が言う。ほい、と渡そうとして、はるか。

ぎゃちょん。

巧い具合にタイミングが外れて、二人の手の中からするりと床にこぼれ落ちた。
しかも、なにやら非常に怪しげな音。
「……」
毛布でない、固い床にもろに落下したのだった。
「……しらない」
「おい」
非難の視線で見つめる宗一。ふふん、と鼻歌交じりのはるか。
「お茶とか、入れてくれると嬉しいな」
「自分でやってくれ」
レーダーを拾い上げ、スイッチを入れる。ざざ、と乱れた画面が表示されて、
ぱ、っと綺麗な画面が現れた。
「おー。ちゃんと動いた」
宗一の肩口から、きちんとのぞいていたはるかが、ちょっと嬉しそうな声を上げる。
しかし。
461南無阿弥陀仏:03/05/18 01:26 ID:HPWB3DP7
ざざざざざあ。
あっという間に画面は再び乱れて、
ぶつん。
「消えたよ」
宗一、再びスイッチを押すが、もはやうんともすんとも言わなかった。
連打する。反応があった。
スイッチが外れた。
「……何でだよ」
かくして、少年は大きくため息をつくのだった。

「ところでさ、あつーいお茶いれてくれないかな。白湯は飽きたから」


【宗一 はるか 服を着る】
【宗一のレーダー ご臨終。再起不能】

【登場鬼 宗一 はるか】
【三日目昼前。キャンプ場の管理所】
462ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:35 ID:gpZ0TUac
 ――晴子は腕を組み、数瞬、黙考した。
「――しゃあない。観鈴ちん救出作戦発動や」
「はいっ、師匠!」
 彼女ならそうするであろうと思っていた詩子は、笑顔を輝かせて頷く。
「んっ。作戦を巧くいかすには、ベナやんが必要や。呼んで来てくれるか?」
「了解っ!」
 きりっと答えた詩子は、ベナウィが消えた方へと走っていった。
「さて、澪ちん。澪ちんと茜っちはここで待機や。しの字が戻って来たら三人でここに隠れてるんやで?」
『わかったの!』
「よし。じゃ、シャワーしとる茜っちに報告しといてな」
 ぽんと澪の頭を軽く撫で、シャワー室へと向かう彼女を見送りつつ、詩子とベナウィの帰りを待った。
 ――やがて、ベナウィを連れて戻って来た詩子は、晴子からベナウィと二人だけで観鈴を救出に向かうと告げられ、
戸惑いの色を露にした。澪と茜はともかく、三人で観鈴ちん救出作戦を行うとばかり思っていたのだ。
「師匠、でもっ…!」
「あかん。あんたも澪ちんとここで待っとき。バイク借りてく上でこんなん言うのはあれやけど、この作戦にはスピードが
必要なんや。三人ではあかんねん」
「――晴子殿。お急ぎを」
 ベナウィが促す。
「解っとる。――ええな? ここに大人しく隠れてるんやで? 最悪、うち等が捕まりそうになってもな」
「…解りました。…――でもっ、絶対に戻って来て下さいね…!?」
 何やら目に涙まで浮かべて言ってくる詩子を見やり、晴子は苦笑した。今生の別れでもあるまいに。
「泣きなや。ま、よう見とき。――ほな行こか、ベナやん」
 晴子と詩子のやり取りを深い眼差で見つめていたベナウィは、静かに頷いた。
 間もなくして、バイクに乗った晴子とシシェに跨ったベナウィは、詩子の見送りを受け、雨に煙る中へと進んでいった。
 ――観鈴ちん救出作戦、開始である。
463ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:35 ID:gpZ0TUac


「大分近付いて来たわね」
「わ、結構大きいっ、高いっ…!」
 灯台に近付きつつある、観鈴とひかり。
 近付くにつれ、その灯台の高さと大きさがよく解った。
 これなら、上から見る景色はかなり好い物であろう。
 改めて、天候が崩れている事が悔やまれた。
「上の方は風がありそうね。飛ばされない様に気をつけないと」
「にはは。羽根があったら飛べるのに」
「ふふっ、そうね」
 長閑な二人。
 彼女達は、まだ気が付いてはいなかった。
 ――鬼が、既に彼女達の傍にまで近付いて来ている事を。
464ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:36 ID:gpZ0TUac
 灯台の付近には、遮蔽物が無い。
 そこに近付く者は、鬼であろうとなかろうと、誰かに見つかり易いという事だ。
 七瀬と矢島は、灯台付近の遮蔽物が無くなるギリギリ手前の場所、そこにある茂みの影に身を潜め、
観鈴とひかりを注視していた。そう――正に、草食動物を狙う獣の様に。
「……灯台に向かってるわね。絶好のチャンスよ…!」
「中に入れば逃げ場無し…か」
「そう。中に入ったら一気に襲う。そしてめでたく2ポイントゲット…!」
「…あのー、俺の取り分は?」
「ゲーム終了後に話し合いましょ」
 観鈴達からは目を逸らさず、七瀬はきっぱりとそう答えた。
 実際、七瀬は既に1ポイント持っている。今となっては逃げ手も大分減っているだろう。
 ポイント分配は余り得策では無い。取り敢えずは七瀬にポイントを稼いで貰った方が良い。
「…(…そーいや、鬼になったから優勝は無い訳だけど、鬼で優秀だった者にも何か賞品とか出るんだよな…?)」
 ――と、矢島が、どこか楽しげにゆらゆらと揺れる動物の尾っぽの様な七瀬のツインテールをぼーっと見つめながら
考えていると、どこからか、何かの音が近づいて来るのに気が付いた。
「…? エンジンの音…?」
465ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:36 ID:gpZ0TUac
 ―― 一方、灯台の頂上。
 そこには、観鈴達の目から隠れる様にして、神奈が潜んでいた。
「…あれらはここに来るであろ。恐らく、この頂にまで。
 そこで、余が“たっち”だ。下に逃げても、余なら入り口まで一ッ飛び…
 ――何れにせよ、余の勝ちだ。葉子殿達には悪いが、この好機、逃す訳にはいかぬ…」
 独りごちながら、神奈は形の好い唇を歪めて微笑した。
 彼女は、別の鬼チームの七瀬達に気付いてはいないが、七瀬達も灯台で観鈴とひかりを追い詰めようとしているので、
気付いた所でどうしようとはせず、このまま待ち伏せを続けたであろう。
 尤も、七瀬達に追い詰められた観鈴達が灯台の半ばで玉砕してしまう事も考えられるが――
「…さあ、早う来るのだ。そして、あの時の事について、小一時間程問い詰めてやろうぞ。ぬふふふふ…」
 …何となく邪悪で嗜虐的な笑みを浮かべる神奈。
 手薬煉引いて待つとは、正にこの事であろうか。
 そんな折――
「………ん? あの音は…?」
 遠くの方から何かの音が響いて来るのが、神奈の耳に届いた。
466ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:37 ID:gpZ0TUac
 ――その音は無論、観鈴達の耳にも届いていた。
「? バイク…?」
 み゛ぃぃぃぃぃぃぃーーーーんんんっ………!――
「……バイク…あの時見たのと同じ物かしら…? こっちへ………来てるわね」
「………がおっ…!? あれ…!」
 み゛っ、み゛ぃぃーーーーんっ………! ぴっぴー! ぴっぴっぴーー!!
 派手にエンジン音を響かせ、クラクションまで鳴らしながら、雨の中を疾走してくる一台の50ccバイク。
 それに立ち乗りしているのは――
「お母さん…!?」
「あら、本当?」
 声を上げる観鈴に、ひかりは目を見開いた。
 ――幸運な事に、バイクの上の晴子の体には、鬼の襷が掛けられていない。まだ逃げ手として健在であったのだ。
「良かったわね♪ お母さん、まだ鬼になってないわ」
「にははっ! ホントだっ! おーい、お母さぁ〜んっ♪」
 暢気に手などを振る観鈴ちん。…が、やっと再会出来た母親から帰って来たのは――
「アホぉぉぉおおっ! 観鈴っ、逃げぇっ!!」
 ぴぴぴぴぴっぴーっ!!――けたたましいクラクションと、怒声。
「え? え? え?」
 思ってもいなかった言葉が帰って来たので、振った手を固まらせながら、観鈴ちんは頭の上に
でっかい『?』を浮かべて首を傾げた。
 ひかりは――
「観鈴ちゃん! 走って!」
 晴子の叫びで自分達に迫る危機を悟り、観鈴の腕を引っ掴んで走り出す。
 ――視界の端で、二人組みの鬼が茂みから飛び出して来るのを認め、がおがお言っている観鈴を
引き摺る様に更に加速し、晴子の方へと向かった。
467ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:37 ID:gpZ0TUac
「ぐあっ…、気付かれた…!?」
「バイクに乗ってる奴に見られてたんだわ…!」
 舌打ちしながらも、七瀬と矢島の対応は早かった。
 ――ひかりが観鈴の腕を掴んで逃げ出すのと同時に、自分達も隠れていた場所から飛び出して
彼女達を追い始めた。
 七瀬と矢島の脚は、早かった。
 以前にひかりは、広瀬の追撃を振り切った事があるが、その時は単独であったし、追う側の広瀬も
体力をやや消耗していた所為もあった為、割合簡単に逃げ切れたのだとも言えた。
 ――が、今回は観鈴がいる上、七瀬と矢島の体力はほぼ完調だった(充分な睡眠と、七瀬は炒飯お替りまでしている
のだ)。その為、観鈴を牽引しながら走るひかりとの差が、ぐんぐん縮まってゆく。
「逃がさないわよ!」
「…(今気付いたんだが、あれって神岸さんか?)」
 ちらりと見えたひかりの横顔と赤味を帯びた髪の毛を見た矢島は、そんな事を内心で呟いていた。
468ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:47 ID:gpZ0TUac
「――何であるか、あれは…?」
 何やらけたたましい音を鳴らしながら近付いて来る“それ”を見て、神奈は首を傾げていた。
 が、すぐにその顔が強張る。
 ――灯台へ来るはずだったあの二人組の逃げ手が、急に走り出して灯台から離れて行ったからだ。
 加えて、二人から少し離れた所の茂みの影から、鬼の襷を掛けた二人組が飛び出し、逃げ手の二人を
追い始めたではないか。
「なっ…! 何であるかあの連中は!? 余の獲物を横から掠め取る気か…! ――させぬ!」
 少なくとも、観鈴はこの手で捕らえたい。
 そして、あのぷにぷにほっぺをこねくり回してやりたい。小一時間程。
 雨粒を美しく弾けさせながら、神奈は翼を広げる。
 そして、宙へ己が体を投げ出した。
469ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:47 ID:gpZ0TUac
「もっとしっかり走らんかい、アホちん!」
 ひかりに腕を引かれて走る観鈴の傍を通り過ぎながら、晴子はそう叫んだ。
 ――言われた観鈴が、「がお…!」と呻くのが聞こえたが、取り敢えずやり過ごし、晴子は観鈴達を
追撃して来た鬼二人の前へ躍り出る。
 そして、ややハンドルを切ったかと思うや、反対側へ切り返し、ブレーキ。後輪を振り子の様に
スライドさせ、雨に濡れた泥を撒き上げた。
 ずばばぁぁあああっっっ!!――
「ぶわっ…!!?」
 泥を被りはしなかった物の、七瀬と矢島は流石に追撃を止めてしまった。
「くっ…!」
「行かせへんわぁ!」
 ズみ゛み゛み゛み゛ぃぃぃんっ! しゅばばばっ…!!――
 再び走り出そうとする七瀬と矢島に見せ付ける様、晴子はアクセルを吹かし、
その度に後輪を振り回して泥を撥ね上げる。
「…きっ、汚いわよ!?」
「何とでも言うたらええ。可愛い娘の為なら何でもやったるで…!」
 ニィ…っと、白い歯を見せつけ、晴子はワイルドに笑った。
470ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:52 ID:gpZ0TUac
 走り続ける、観鈴とひかり。
 観鈴は、鬼に突撃していった晴子がどうなってしまったか気になって仕方が無かったのだが、その気持ちを
吹き飛ばしてしまいそうな物が、目の前へと躍り出て来た。
 ――恐竜さんである。
「が、がお…、恐竜さんだっ…!」
「――失礼。私、ベナウィと申す者です。神尾観鈴嬢ですね。晴子殿の命により、お迎えに参りました」
 恐竜――いや、ウォプタル『シシェ』に跨ったまま、ベナウィが観鈴に手を伸ばして来た。
 晴子は、囮であったのだ。――観鈴救出の本命綱は、ベナウィ。
 晴子が派手にバイクを駆って鬼達を惹き付けているに、木々の合間を縫ってこっそりと近付いて来ていたのである。
「騎上からで申し訳ありませんが、お急ぎを。お二方を乗せて、ここから離脱します」
「あら、私も乗せてくれるの?」
 片腕だけで観鈴を引き上げたベナウィに、ひかりはたおやかな微笑みを浮かべながら小首を傾げた。
「無論です。観鈴嬢と今迄行動を共にしていた方を放っては行けません」
「でも――駄目よ。私は行けないわ。この子…大分疲れているみたいだし」
 シシェを見やり、ひかりはベナウィに微苦笑を向ける。
 シシェが疲れている事を察して、自分まで乗せて走るのは無理だと判断したのだ。
「多少の無理は承知です。さあ、早く――」
「駄目よ」
 人好さげな面持ちでありながら、ひかりはやはり固く謝絶した。
471ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:53 ID:gpZ0TUac
「ひかりさん…! 駄目だよ。一緒に逃げよ?」
 泣きそうな顔になっている観鈴に、優しい笑みを向けるひかり。
「いいのよ、観鈴ちゃん。それに――」
 ひかりが、そらを指差す。
 ――その先には、雨の中、こちらに向かって飛翔して来る神奈の姿があった。
「私も乗せていたら、きっと逃げ切れない。――さあ、早く。私が囮になります」
「ひかりさん…!」
「貴女は…」
 寧ろ、悲壮な想いさえ覚え、ベナウィはひかりを見やる。
 ――対するひかりは、透明な程な、にっこり笑顔。
「観鈴ちゃんを、宜しくお願いしますね」
「…忝い。――はっ!」
 ベナウィは、ひかりに心からの賛辞と礼を示し、シシェを走らせた。
「ひかりさん…! ひかりさぁん……!!」
 観鈴の悲痛な叫び声を残し、彼等は森の中へと紛れた…
「…さてと。――おーっい、鬼さん鬼さん。私はここよ〜♪」
472ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:54 ID:gpZ0TUac
 神奈は、舌打ちせんばかりの表情でいた。
 森の中へ逃げられては、追跡がし難くなる。ましてや、あの妙な獣――馬か何かの代わりなのであろう。
「あまり離れては、葉子殿が心配するやも……ん?」
 逃げたはずの者が、此方にむかって声を上げ、手まで振って見せている。あの金色髪の娘と一緒に居た者だ。
「ほう…、自ら囮になると言うのか。…面白い。その意気を買うぞ」
 神奈は、森へ逃げた観鈴の追跡を断念し、ひかりに狙いを定めた。が――
「何…!?」
 どう血迷ったのか、ひかりは今迄逃げてきた方――つまり、灯台の方へと再び走り始めたのだ。そちらにはまだ
あの二人組の鬼が居るというのに…!
「何を考えておるのだ…!?」
 ひかりが上空の神奈の真下を走り抜けたので、神奈は翼を広げて減速、すぐさま引き返してひかりを追った。

 バイクを走らせる晴子と、逃げた道を引き返して来たひかりは、間も無くして交差した。
「なっ、何や!? 何でベナやんと一緒に逃げへんねん…!?」
 目を見開いてバイクを急停止させた晴子であったが、ひかりはちらりとこちらを見やり、微笑みながら軽く会釈した後、
森の方へと伸びる小道を走って行ってしまった。
 晴子を追ってきた鬼の二人組も、小道を逃げたひかりとバイクの晴子を見較べ、徒歩のひかりの方が追い易しと
判断したか、すぐに彼女の後を追ってゆく。
「自分から…囮に…!?」
 思わず半ば絶句してしまう晴子。
 一瞬見ただけであったが、人好さげな顔をしていながら、なかなかどうして剛毅な人柄であるらしい。
「………っ!」
 見捨てる訳にはいかなかったが、上空に飛来する神奈の姿を認め、晴子は再びバイクを走らせて逃走を開始した。
 …あの赤毛の女性に申し訳無いと思いながら。
 ――神奈は、晴子の姿も見つけていたが、一瞬だけ逡巡した後、再びひかりの追跡をし始めた。
473ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:54 ID:gpZ0TUac


 ひかりの逃げた小道は、上からでもよく見えた。
 数十メートル先に、ひかりとそれを追う鬼二人の姿が見える。
 この道の先には――
「む…、川があるの」
 雨で増水し、流れの勢いもやや増している川。
 その上に、ロープと木板で作られた吊り橋が架けられていた。
「…あそこで追い詰めるか」
 神奈は翼を堅く張り詰めさせて伸ばし、緩やかに降下しながら加速した。

 運動神経は決して悪くは無い広瀬の追撃から逃れる程の健脚の持ち主であるひかりであるが、今回の相手は、
やはりそう簡単に撒けそうもなかった。
 追っ手である七瀬・矢島ペアとの距離は、確実に縮んで来ている。広瀬との追撃戦時にあった様な余裕は無い。
「待てぇ〜っ!!」
「…(追い付かれちゃうわね…)」
 逃げられる可能性がゼロでない限り、ひかりは諦めるつもりは無い。それを粘り強いと採るか往生際が悪いと採るかは、
人によってまちまちであろうが。
「…(川……? 橋……吊り橋ね…。――賭けてみようかしら)」
 吊り橋を渡らずに川に沿って進む道もあったが、ひかりは迷わず吊り橋の上へ踏み込み、その中心辺りで足を止めた。
474ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:58 ID:gpZ0TUac
「ここまでのよーね!」
「ふふっ、そうみたいね」
 獲物を捕らえる喜びに双瞳を煌かせる七瀬を見て、ひかりも楽しげに微笑んだ。
 ――ひかりのその表情を目にして、七瀬は小首を傾げた。何故か、ひかりはまだ諦めていない様に見えたからだ。
 と、そうしている内に、七瀬達とは反対側、対岸の橋の袂に、神奈が舞い降りて来た。
「――あら、完全に追い込まれちゃったわね」
「…で、あるな。そなたの意気込み、天晴れな程だ。悪い様にはせぬ。観念致せ」
 実際にそう思っていたので、ひかりを見据えながら近付いて来る神奈の面持ちは、敬意を示し、神妙であった。
「ちょ、ちょっと!? この人は私達の獲物よ! 横取りしないで!」
 当然と言えば当然であるかも知れない七瀬の言い分であったが、神奈の言い分は、更に無体であった。
「この者は、余が捕らえる。そなた等は諦めよ」
「なっ…!? ふざけないでよ!」
「七瀬さんっ、七瀬さんっ…! あんま揺らさないでくれよ…!?」
 かち合わせの火花を飛ばしている両者を尻目に、ひかりは荷物の中から何かを取り出し、“それ”を吊り橋の綱に
当て、軽く引いてみた。――効果は充分。
「――はいはい。喧嘩は駄目よ、どちらとも」
 にっこりとそう言って来るひかりに、七瀬は何か言葉を返そうとしたが、固まってしまった。矢島も、神奈さえ、
絶句してひかりを見つめた。
 ――ひかりが、ナイフを吊り橋の綱に押し当てていたからだ。
「“インディジョーンズ”って映画、見たことある?」
「そ、そんな物、どこで…!」
「屋台で買ったのよ。野外調理器具セットの中にあったの。果物ナイフだけど、いい品ね。よく切れるわ♪」
 言いながら、ひかりはナイフを更に綱へ強く押し当てる。――…プツプツプツッ…プツッ……!
「ちょちょちょっ…! …本気!? そんな事したら川に…!」
「大丈夫よ。思ったより流れも急じゃないし。それに、これでもおばさん――」
 綱に押し当てられたナイフが、更に更に、力を強く込められ、動かされた。
「泳ぎには自信があるから♪」
 ――そして、吊り橋の綱は、破滅的な音を発しながら弾け始めた…
475ロックンロール・マザーズ:03/05/18 05:58 ID:gpZ0TUac


【晴子 ベナウィ  観鈴ちん救出作戦発動】
【救出作戦に、詩子、澪、茜の三人は不参加。ペンションで待機】
【神奈  灯台で観鈴達を待ち伏せするも、晴子の出現によって失敗】
【七瀬・矢島ペア  灯台で観鈴達を追い詰めて捕らえようとするが、晴子の出現によって失敗】
【ベナウィ  観鈴を救出。ひかりも救出しようとするが、ひかり自身に謝絶される】
【ひかり  シシェの体力消耗を慮り、共に逃げる事を辞退。自ら鬼を惹き付ける囮となる】
【晴子  囮を買って出たひかりに申し訳無いと思いつつ、逃走】
【神奈 七瀬・矢島ペア  鬼二組は、ひかりを追撃】
【ひかり  吊り橋で七瀬・矢島ペア、神奈に挟み撃ち】
【ひかり  ナイフで吊り橋の綱を切断…】
【三日目 夕刻】

【登場逃げ手  神尾晴子 神尾観鈴 神岸ひかり ベナウィ 柚木詩子 上月澪 里村茜  】
【登場鬼     【神奈】 【七瀬留美】 【矢島】  】
476名無しさんだよもん:03/05/18 13:26 ID:SBfzbQZr
イイ!!
477一本の枝:03/05/18 23:05 ID:HPWB3DP7
「どうやら、振り切ったみたいだな」
裏葉の手を引き、駆けてきた柳也。後ろから追いすがってきた少女たちを、十分に引き離したと見て、足を止める。
森の中。雨降りは森の枝葉に遮られて、さほどは降ってこない。
「……はぁっ。……そのようですね」
柳也の言葉に、ひとつ大きく深呼吸をして、息を整えてから、裏葉が答える。
駅舎の中から飛び出し、森の中、鬼四・五人を引き受けて、かなりの距離を全力疾走してきたのだ。息を乱して当たり前である。
森の木々の下を駆け抜けてきたため、着衣はそれほど濡れていない。疾駆に乱れた服装を整えながら、裏葉が言う。
「あのお二人は、無事に逃げおおせられたでしょうか……」
「さて、な……確かめに戻る訳にもいかないだろう? 俺たちにできることは、もう何もないさ」
「そうですね。……さ、あの子たちが追ってくる前に、疾く移動いたしましょう」
「ま、もう十分に引き離したとは思うが、な。もう大丈夫か? 疲れは」
「この程度、疲れた内に入りませんよ」
ころころと笑い、さ、参りましょうと、柳也の手を引き歩き出す。
「ああ」

周囲に対する警戒は怠らない。森。隠れられる場所などいくらでもある。
「……水の流れる音がするな」
「そうですね」
とりあえず、雨をしのげる場所を探して歩く二人の耳に届く、川のせせらぐ音。
「ふむ……川沿いに歩いてみるか。街につながっているかもしれない」
「それは良い考えです。北に参りますか、それとも南に?」
「……枝で決めるか」
478一本の枝:03/05/18 23:05 ID:HPWB3DP7
適当に枝を一本拾ってしばらく歩く。やがて、川が二人の前に姿を見せる。
その気になれば、歩いて渡れる程度の小川だ。その前に立ち、柳也は枝を地面に突き立てる。
「倒れた向きで、どちらに向かうか決める。で良いな?」
「お好きになさって下さい。私は、柳也様に従うのみでございますから」
「よし」
手を離す。ふらり、と一瞬揺らいだ後、
「南か」
「はい」
枝は、川とちょうど並行に、南の方を向いて倒れた。
川の流れは北から南。下流に向かって歩いていくことになる。
「ふむ、普通、街は下流の方にあるよな」
「ですわね」
「行くか。街でなくても、何か建物が有ると良いんだが」
「そうですね」
そして、二人は川沿いに、木々の傘に入りながら南下を始める。
ぽつりぽつりと降ってくる雨粒。量は少ないが、一粒一粒が大きい。
少しずつ、濡れてくる服と体。
早めに、建物を見つけたいところだな。
柳也はそう思った。

【柳也 裏葉 智子一行を振りきる。川沿いに南下していく】
【智子一行の行動は不明】

【登場逃げ手 柳也 裏葉】
【三日目朝 森の川沿いにて】
479人外2×2+α:03/05/18 23:56 ID:zl5ctGHT
「チッ、しつこい!」
「どうするの? だんだん暗くなってきたわよ!」
 森の中、肩を並べて疾走する2人。柳川と、名倉有里。
 狩猟者と不可視の力を使役するこの2人。常人ならばそう簡単に捕まえるものではない……。そう、常人ならば。
 ……だが、今2人を追っている連中は、人ではあるが、常人ではなかった。
「クカカカカカカ! どうしたどうした獲物ども! 徐々に動きが鈍ってきておるぞ!」
 三大強國の一つシケリペチムを治める皇(オゥルォ)、それでいて最強の狩人、ニウェ。
「捷疾鬼をなめるな! お前たちはここで終わるのだ!」
 旧日本軍の誇る『最強の欠陥兵器』、光岡悟。
 共に、戦場の中を生き抜いてきた猛者である。
 確かに純然たる身体能力で言えば若干柳川たちに分があったが、そこに『技術』という要素が加わると天秤はその傾きをゆるめる。
 ……特に、森の……漆黒の暗闇の中では。
「ああ、確かにマズイな。夜間戦闘になったらこちらが不利だ。連中、どんな手を打ってくるかわからん」
「けど振り切れるモンならとっくにやってるわよ!? このままじゃじり貧よ!?」
「……そうだな」
 柳川は思考を巡らせる。
 手はある。一つ、ある。
 この膠着状態を打ち破る方法が、ただ一つ。
(……ドクン!)
 鼓動が一つ、高く鳴った。
 そう、狩猟者だ。
 柳川の中に眠る狩猟者の力。それを完全に解放するのだ。
 そうすれば迸るエルクゥの力は狭苦しい人間の『肉』を打ち破り、その全ての力を行使できるようになるだろう。
 解放が成功さえすれば、いくら後ろの2人が強かろうとも、所詮人の身。種族を超えた力にはかなわない。
 が……ただ一つ。
(そんな時間が……取れるのか?)
 強大な力を行使するエルクゥ一族だが、そこには一つ、大きな弱点が存在する。
 人間形態の状態から狩猟者たるエルクゥ形態に変身するまでには、やや時間がかかるのだ。
 が、現状、そんなことをさせてもらえる暇は無さそうだった。
 ……柳川の知るところではないが、耕一が捕まったのもそれが原因である。
 
 その時、
480名無しさんだよもん:03/05/18 23:57 ID:zl5ctGHT
「柳川……さんだっけ? 前!」
「前……? あれは!」
 先行する2人の視界に飛び込んできた光景。それは──
 
「あ、由美子さん! あれ! あれ!」
「え……? あ、あれは!」
 刹那、森の中をうろついていた小出由美子と柳川の目が合う。
 
「ゆ、由美子さん!?」
「柳川さんだーーーーーー♪」

 絶叫したのは2人とも同じ。が、そこにこもった感情は正反対であった。
 柳川は『驚愕』、そして由美子は……『歓喜』。
 
「ここで会ったが百年目ッ! 今日こそはっきりさせてもらいますからね!」
「ま、待て待て時に落ち着け! だ、だからあのことは……!」
「問答無用! ……っていうか、私と問答しなさいっ!」
 弾かれたように飛び出す由美子さん。芳晴はすっかり話題に取り残されている。
「す、すまんっ! 今はあなたと話し合っている暇はないのだ……トウッ!」
「なんだかよくわからないけど、まぁ、捕まるわけにはいかないからね」
 しかしながらそこは人外2人。
 事も無げに正面から迫る由美子と呆然と佇んでいる芳晴をかわし、先を急ぐ。
「クカカカカカカカカカ! 横取りはさせんぞ!」
「非戦闘員は引っ込んでいろ!」
 数秒遅れ、ニウェと光岡も2人の間を走り抜ける。

「……あの、由美子さん?」
 地面にへたり込んでいる由美子に、芳晴が遠慮がちに声をかけた。
「先ほどの方は……お知り合いで?」
「…………………………」
 が、返事は無い。
「あの……由美子、さん?」
481名無しさんだよもん:03/05/18 23:57 ID:zl5ctGHT
「あはは〜、そうなのよぉ〜♪」
「………………!」
 やっとふり返った由美子の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
 芳晴は思わず『戦慄』する。
「あの人はね〜、柳川祐也さんって言ってね〜、私の王子様なのよ〜」
「お、王子様?」
「うんうん。私ね、前、あの人に無理矢理手込めにされちゃってぇ」
「て、手込めですか!?」
「そう……あの時の彼は……乱暴だったわ。そしてそれ以上に……激しかったわっ。キャッ♪」
「…………………………」
 ああ、アッチの世界に逝ってるな。
 芳晴は、そう思った。
「不器用な彼のことだから、きっと言葉で上手く自分のことを説明できなかったのね……。ああん、可愛いっ!
 けど、充分気持ちは私に伝わったわ……。彼の熱いものが、私の中に弾けた瞬間……私の赤い実もはじけちゃったのよぉ。ああんっ!」
「…………………………」
「その瞬間からもう私はあの人にfall in love,あの人も私にfall in love,相思相愛とはこのことね!」
「…………………………」
 もう、芳晴には由美子のノロケを黙って聞くことしかできない。
「だけどねだけどね、あの人、すっごい照れ屋さんで……あの夜以来、私のことをどうも避け気味なのよ〜。非道いと思うでしょ? ね? 芳晴君?」
「エエ、オッシャルトオリデゴザイマス」
「なんだか最近は女子高生やどこかの女性記者にも浮気しがちな気配も見られるからね。私も油断するわけにもいかないのよ!」
「ソウデスカ。ソリャヨカッタ」
「さぁ追うわよ芳晴君! 柳川さんをとっつかまえて、私たちの間柄を認知させてやるんだから!」
「トワイエ、アノスピードデオイカケッコシテルカタガタヲドウヤッテツカマエルンデスカイ?」
「ふふーん、それはね……」
 由美子は楽しげな微笑を浮かべつつ、自分のバックを漁る。
「……?」
「これを使うのよっ!」
 取りい出したるは……
「……仮面?」
 目の回りを覆うように作られたらしい、白の仮面だった。
「……なんですか? それ」
482名無しさんだよもん:03/05/18 23:59 ID:zl5ctGHT
「私も詳しくは知らないんだけどね、なんでも、これを付けると変身して、ものすごい力が手に入るらしいわ」
「へぇ……おいくらだったんですか?」
「30万円、税込みで31万5千円ねっ!」
「ブッ!?」
「と言うわけで……由美子、変身ッ!」
 そりゃぼったくりでは……と突っ込もうとする芳晴も無視し、由美子さんはメガネの代わりに仮面を装着。
 
『デュワッ!』

 じゃじゃーん! とどこかの売る虎男っぽい声とともにその場から消える。
「……あれ? 由美子さん?」
 そして、次の瞬間……
 
 どぉぉぉぉぉ…………………………ん!!!!!
 
「のわっ!? わっ!? わっ!?」

 凄まじい轟音と地響きを伴い、芳晴の目の前に巨人が現れた。
「あ……? え? お…………………?」
 呆然とする芳晴。
『……ン? ア、変身成功シタミタイネ』
 ……竜にも似たその巨人は自分の体を確かめると、満足げな呟きを漏らす。
『ナンカ、エ●ァ初号機ミタイネ。モウ少シ、可愛ラシイデザインダッタラヨカッタンダケド……』
 無骨な巨人に、女性の声。
 あまりにアレと言えば、アレだ。
483名無しさんだよもん:03/05/19 00:00 ID:lpsQuitF
「……………………………」
『ア、芳晴クン?』
 既に絶句状態の芳晴に顔を向けると、由美子さん(?)はにっこりと微笑む。
『ソレジャ、ソロソロ追イカケマショウカ?』
「あ? え? あ? う?」
『サァサァ、早ク私ノ肩ニ乗ッテ』
「……………………………」
 既に精神がかなり投げやり状態の芳晴。一切の反論も疑問も挟むこともせず、促されるまま由美子の肩によじ登った。
『デハ、出発シマショウ』
 由美子はもう一度微笑みながら呟く。



『私ヲ抱イタ責任、取ッテモラウカラネ』



【小出由美子 屋台で購入した仮面(315,000円)によりウィツァルネミテアに変身】
【城戸芳晴 状況に流されるまま由美子の肩に】
【柳川 狩猟者に変身する時間がほしい。由美子に捕まったら認知させられていまう、何としても逃げ切らねば】
【由美子&芳晴 柳川を追う】

【柳川&有里・ニウェ&光岡悟 相変わらず追いかけっこ中。後ろから迫る神様には気付いていない】
【登場 柳川祐也・名倉由依・【ニウェ】・【光岡悟】・【小出由美子】・【城戸芳晴】】
484名無しさんだよもん:03/05/19 06:06 ID:x4HmICmz
『デュワッ!』

(・∀・)イイ!
485雨の日の過ごし方:03/05/19 23:40 ID:6UIM6NHP
雅史を鬼にした醍醐は現在森を抜け、市街地へとやって来ていた。
この鬼ごっこの参加者は女性が多い。ならば雨を嫌って室内でおとなしくしている者もいるかも知れない。
そんな考えからここに潜んでいる者がいるのではないかと思ったからだ。
とはいえ一人で全ての家をまわるのは正直言って面倒だった。
だだっ広いこの島らしくそれなりの戸数がある上に、森の中と同じように所々罠が仕掛けられている。
もちろんそんな物に引っかかる醍醐ではない。ないのだが、ハッキリ言って少々うざったい。
「おそらく作成者は独学だな。罠の種類や位置に規則性がない」
廊下に擦り込まれた油部分を飛び越えて呟く。この家でちょうど20軒目の捜索であったが、
いまだ隠れている逃げ手には遭遇していない。
今までの20軒のうち、罠が仕掛けられていたのはこの家を含めて9軒。しかも1軒、トラップハウスとでも言うべき
罠満載の家があり、流石の醍醐も脱出するのに些か骨を折ったほどだ。
そんないらん苦労をしているうちに、時刻は既に正午にさしかかろうとしていた。
「当てが外れたか……む?」
嘆息しつつ表に出た醍醐の目に止まったもの。
それは灯りの漏れているマンションの一室だった。
誰かいるのは間違いない。だがもしそれが逃げ手だったとして、あんな風にあからさまに存在が分かるようなことをするだろうか?
そう考えるとあそこにいるのが逃げ手である可能性は低いと言える。
しかし万が一という可能性もないわけではない……。
「まあ、行ってみれば分かるか」
獲物ならそれに越したことはない。そう思った醍醐は位置を確認し、その部屋に向かっていった。
486雨の日の過ごし方:03/05/19 23:44 ID:6UIM6NHP
(鍵がかかっていない……)
階段を上がって件の部屋の前に来た醍醐は、そのことに疑問を覚える。
(いくら何でも不用心すぎる。やはり逃げ手の可能性は低いか)
しかしやはり万が一の可能性を捨て去ることは出来ない。ドアに耳を当て、中から漏れてくる声を聞くに、
そこにいるのは少なくとも二人、しかもどちらも女だ。
もし獲物であるならこれほど恵まれた状況もない。
だがここでいくら考えていても、その「もし」が本当かどうか確かめる術はない。
醍醐は思考に浮かんだifを追いやり、一気に突入することを決める。

3…2…1……GO!

バン!!

玄関のドアを開け、短い廊下を疾走。2秒とかからずリビングにその巨体を踊らせる。
果たしてその場所にいたのは、鬼の襷を掛けた3人の女性たちだった。
487雨の日の過ごし方:03/05/19 23:47 ID:6UIM6NHP
「…鬼か」
ならば用はない。そうそうに立ち去ろうと踵を返したところで、
 かぷり
何やら足に妙な違和感。視線を向ける。そこには自分の足に噛みついている、白い綿毛のようなものが……
なんだコレは? 自分も長年裏の世界で生きているがこんな珍妙な生き物は見たことがない。
いや、そもそもこれは生き物なのか? 疑惑の物体は尻尾(らしきもの)を振りながら今も自分の足にすがりついている。動いているのだから生き物だろう。
いやいや、動いているとはいえ生き物とは限らない。未だ表に出ていない技術を使えば、こんなモノの一つや二つ創れても……
いやいやいや、例えそうだとしてもこんな所にそんなモノがいるのはやはりおかしいわけで…………
未知との遭遇を前に思考が堂々巡りに陥る醍醐。そんな彼に、
「…………あの〜、こんにちは?」
一番始めに立ち直った南が疑問符付きの挨拶をした。
488雨の日の過ごし方:03/05/19 23:48 ID:6UIM6NHP
「はあ、びっくりしました」
「私も、始めは熊さんが迷い込んできたのかと」
「南さん、流石にそれは……」
まあわからなくもないけど、と何気にひどいことを考えるが口には出さない鈴香。
醍醐は今先客である彼女たちと話に興じている。
別に先程の南の言葉を無視して立ち去ってもよかったのだが、なんとなーくそうするのははばかられたのだ。
あの醍醐をもそのペースに巻き込む空気、恐るべきはお姉さんパワーというべきか。
聞けば彼女たちはこの雨の中、敢えて外に出たりせず『待ち』の作戦をとることにしたという。
即ち、この部屋で待機し誰か雨宿りに来たらそれを捕まえる、という作戦らしい。なるほど、似たようなことを考える人間はいるものだ。方法はあまり理にはかなっていなかったが。
それを醍醐が指摘すると、鈴香はこう返した。
「まあ、来なければ来ないでいいんですよ。ゆっくり出来ますし」
どうやら彼女たちはあまり鬼ごっこに対する欲が無いらしい。やる気はあるのだろうけれど。
それは多分に彼女たちの性格によるものだろう、まあこのまったりとした空間にいればそれも仕方が……

グゴロギュ〜

何となくため息をついた醍醐の腹が盛大に鳴る。彼女たちの作るマターリ空気にあてられたせいか。
思わず顔を伏せる醍醐。そう言えば朝から何も食べていなかったことを思い出す。
「そう言えば、もうお昼ですね」
「フフ。じゃあ、何か作りましょうか」
そう言って南とみどりは立ち上がり、キッチンへと向かっていった。



【醍醐 市街地で雨宿りをしているだろう逃げ手に狙いを定めるも不発。代わりに南たちに遭遇】
【南、鈴香、みどり、ポテト マンションでマターリ。誰か来たら捕まえようか】
【南とみどり、昼食製作開始】
【時間 三日目昼】
【場所 市街地のマンションの一室】
【登場 【醍醐】、【牧村南】、【風見鈴香】、【高倉みどり】、ポテト】
489乱入せしめる解放者:03/05/20 21:24 ID:/669Y93A
「しっかりしろ名倉有里! ペースが落ちてきているぞ!」
「そんなこと言ったって……ねぇ!」
 漆黒の森の中。人のレヴェルを遙か超えた追撃戦は未だ続いていた。
(チッ……拙いな……このままでは……!)
 数歩分友里の先を走る柳川は心の中で毒づいた。日が落ちてからというもの、徐々に名倉有里のペースが落ちてきている。
 逆に追っての2人は──正確には、相対的──柳川たちの走る速度が落ちたため──であるのだが、その脚を早めててきていた。
 それでも、まだ鬼としての基礎体力が勝っている柳川はまだいい。が、基本的には特殊な訓練(ある意味FARGOの精錬は特殊訓練と言えないこともないが)
 などは受けておらず、不可視に頼りきりの友里は限界が迫っていた。
「急げ!」
「そんなこと……言われたって、ねぇ!」
 柳川に手を引かれ、最後の気力を振り絞る友里。
 が、速度が上がったのも一瞬のことであり、変わらず追撃者たちとの差は徐々に縮まってきている。
「………………………………」
「………………………………」
 すでに追っ手の2人は一言も言葉を発していない。
 しかし代わりにその両の眼はギラギラと鈍い光を発している。
 柳川には、わかった。その光は、彼にとって馴染みの深いものであったから。
(狩猟者……!)
 そうだ。今や追っ手の2人は油断も慢心も迷いもなく、微塵も無く、唯々全力を以て──獲物を──必死に逃げる哀れな獲物──を叩き潰さんとする狩猟者──に変貌を遂げていた。
「チッ!」
 再度強く友里の腕を引く。
「……くっ!」
 友里もそれに答え、なけなしの体力と気力を振り絞り地を蹴るが、やはりと言うべきか。大した成果は得られなかった。
490名無しさんだよもん:03/05/20 21:25 ID:/669Y93A
 ざんっ!
 
「な!?」
「しまっ……!?」
 刹那、友里の体が空を舞った。
 跳ね上げた足の裏から泥を派手に跳ね上げ、頭から地面に突っ込む。
(なんてこと……こんなドジを!)
 踏んじばったはずみに、泥沼に近い状態へと化した水たまりで足を滑らせたのだ。
「名倉!」
「……ッ!?」
 が、友里の顔が地面に叩きつけられる直前、柳川の腕が友里の体を受け止めた。
 しかしながら地面スレスレを舞った友里の体を受け止めたのだ、柳川とて姿勢を保ってはいられない。
 そのままもんどり打って倒れると、ぬかるんだ地面の上を派手に転がった。
「「勝機!」」
 当然、この絶好の隙を狩猟者2人が見逃すはずがない。
 逃げおおせる獲物との勝負は、成った。
 しからば、次の戦いは己の隣を走る同業との勝負!
「いかに獲物を追いつめようとも、トドメを刺せねば所詮二流! この勝負、儂がもらうわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「年寄りの冷や水は見苦しいぞご老体! 俺とて負けられぬ理由があるのだ! 退くことはできんっ!!!!」
 全く同時に地を蹴り、全く同じ放物線を描いて倒れる柳川らに迫る。
「その意気やよし! ならば奪ってみせよ! 儂から獲物を奪ってみせるがいい若造がァ!!!」
「言われなくともぉぉぉぉぉぉぉあああああああああ!!!!!!!!!!!」
 
「くっ……ここまでか!?」
 泥にまみれ、胸に友里を抱えながら顔を上げる柳川。
「!?」
 が、その目に飛び込んできたのは……
「ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥリャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
 ほとんど殺気と変わらない程の闘気を身にまとう2人の狩猟者……
「チェストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
 ……ではなく、
「……なんだあれは!?」
491名無しさんだよもん:03/05/20 21:26 ID:/669Y93A
『ヤァァァァァナガァァァァァァワサァァァァァァァン! 見ィツケマシタヨォォォォォォォ!!!!!!!』

「その声は……由美子さん!?」
 懐かしの女性の声を張り上げつつ迫る、白の巨人だった。
 
 ……一瞬で四人に追いついたウィツァルネミテア(由美子仕様)。
 彼女(?)がまずやったことは……
『ソコノオ二人サン、邪魔デス。チョットドイテテクダサイ』
「なんと!?」
「ちょ、ちょ、待……!」
 ドッゴォォォォォォォォン!!!!!!
 豪腕を振りかざし、中空に飛び上がっていた2人の狩猟者を殴り飛ばす。

「このような者まで存在するとは! クカカカカカカ! 面白い、面白いぞここは! 若造! 縁と命があったらまた会おう! その時こそ決着をつけてくれるわ!」
「なんで俺ばっかりこんな目に! きよみさん! ユズハさん! 俺は呪われているのですか!?」

 ……哀れ、解放者のブローを喰らった人間2人は、遙か彼方の空にはじき飛ばされた。
 
 キラーン☆
 
 後に残ったのは……
「……あ、一番星」
 友里の呟きと、
「絶対違う」
 柳川のツッコミだけであった。


【柳川&友里 泥だらけで転んでる】
【ニウェ&光岡 空の彼方に】
【ウィツァルネミテア(由美子仕様)&芳晴 鬼2人を殴り飛ばす。柳川に追いつく】
【登場 柳川祐也・名倉友里・【ニウェ】・【光岡悟】・【小出由美子】・【城戸芳晴】】
492忘らるる電波:03/05/21 01:32 ID:jQ4IwCTH
「……はぁ」
 ため息を、吐く。
「……はぁ」
 もう一度、吐く。
 
 河原にうずくまる彼の名前は長瀬祐介。
 一応、最強の電波使いである。
 
「……はぁ」

 勝負方法にもよるが、本気の戦いになった場合、彼は最強候補の一角にも成りうるだろう。
 
「……はぁ」

 なにせ彼の『能力』は他の参加者たちのそれとは異質すぎる。単純に飛んだり跳ねたりの勝負では、彼に勝つのは難しい。
 ……が、
 
「……はぁ」

 それゆえに、彼の能力は今回のゲームではほぼ使用禁止と言ってもいいほどの措置を喰らい、あえなく今朝方、3人組に捕まってしまったわけではあるが。
 
「……はぁ」

 既に捕まってからかなりの時間が経つ。日もかなり暮れかけてきた。
 にも関わらず、彼はここから動く気配を見せない。
 なぜならば、
 
「……これからどうしよう」

 ……本気で優勝を狙い、序盤から誰とも組まず単独で過ごしてきた彼。
 一時は栞に洗脳されかけたが、その時も幸いなことに(ある意味主催者側に拘束されたのも幸運であったかもしれない)鬼化は避けられた。
 彼は、密かに期待していた。
493名無しさんだよもん:03/05/21 01:33 ID:jQ4IwCTH
「……優勝できるかもと思ってたのに……」

 ……が、状況はすでに終盤。
 軽く電波を走らせて周囲の状況を探ってみても、残っているのはほとんど鬼ばかり。
 こんな時期に鬼になってしまうのは、最も避けたい行為であった。
 
「……沙織ちゃんに追いかけ回されてまで逃げ続けたのに……」

 沙織だけではない。香奈子をも振りきってここまで来たのだ。
 言わば、全てをかなぐり捨て、ここまで来た。
 
「それなのに……」

 中途半端な時期に、捕まってしまった。
 
「……はぁ」

 こんなことなら、素直に最初っから沙織ちゃんと一緒にいればよかったかもしれない。
 こんなことなら、もっと積極的に瑠璃子さんを探すべきだったかもしれない。
 こんなことなら、瑞穂ちゃんに会っておくべきだったかもしれない。
 こんなことなら、香奈子さんと一緒に行ってもよかったかもしれない。
 ……が、全ては後の祭りだ。
 彼は一人。
 否、
 独り、であった。
 
「……はぁ」

 既に何度目かもわからないため息をつく。
 
「……とは言っても、ずっとこうしてるわけにもいかないからな……」
494名無しさんだよもん:03/05/21 01:34 ID:jQ4IwCTH
 このゲームがどのくらい続くのかはわからないが、あと小一時間かそこらで終わるというものでもないだろう。
 とりあえず、こんなところで夜を明かすわけにもいかない。
 適当なねぐらでも探して、あとはゴロゴロと……
 
 ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……
 
「……ん?」

 その時、ふと川の音が変わった気がした。
 常人ならば聞き逃すであろうぐらいの僅かな違和感。
 が、今朝から延々と川面を見つめ続けた祐介には、気付くことが出来た。
 
「何か……流れて……?」

 両目をこらし、流れる水を見つめる。
 
「……え?」

 見えたのは、人の手。
 
「……ちょっと?」

 そして、頭、体、……川に流される、女性の姿。
 
「……うわっ! 女の人が溺れてる!」

 ここに来てようやく、祐介は事態を飲み込むことが出来た。
 
495名無しさんだよもん:03/05/21 01:35 ID:jQ4IwCTH

「だいじょーぶですかーーーーっ!?」
 祐介は川のすぐ端まで飛び降り、大声で呼びかけた。
「………! あ……! ぶ……!」
 女性も祐介の姿に気付いたようであり、手を振って何か叫んでいる。
 ごうごうと流れる水の音にかき消され、何と言っているかはわからないが助けを求めているのは明らかだ!
「……助けなきゃ!」
 即座に祐介は決断した。
 そこには名誉も打算も迷いも無い。今、ここにいるのは自分だけ。あの人を助けることができるのは、自分だけ。
 ならば、己がやらずに誰がやる!
 腐っていた祐介の目にみるみる生気が戻ってくる。
「待っててください! 今助けますからね!」

 速攻で上着を脱ぎ捨てると、大きく深呼吸を三回。
「すーは、すーは、すーは……」
 そしてもう一度荒ぶる水面を睨みつけ、
「……………………!」
 ちょっと迷って、
「いや、ダメだダメだダメだっ!」
 目を瞑り、覚悟を決め、
「……てぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーいっ!」
 鼻をつまんで飛び込んだ!
 
(があっ! ぐっ……ごぉ、ああっ!)
 飛び込んだそばから体中を濁流が洗う。

 くっ、思ったよりも流れがキツイ!
 けど……泳げないほどじゃない!
 ええと……ええと……あの人は……?
 
 ……いたっ! よし、まだ僕の上流だ! 助けられるっ!
 
496名無しさんだよもん:03/05/21 01:36 ID:jQ4IwCTH
 気を抜いたら流されてしまいそうな流れの中を、必死に祐介は進んでいく。
 時期は時期といえ天気は悪い。平時より流れは荒く、そして水温も低かった。
 同年代の男と比べてもいささか……というよりもかなり華奢な彼の身体には負担も大きい。
 しかし……
 
 ……負けるもんかっ!
 
 今の彼を押しとどめることなど誰にも出来なかった。

「……だい……じょうぶ………です、かーーーーーーーーっ!!!」
 やや進み、女性との距離が縮まったところで再度呼びかける。
「あ……は……じょうぶ……から……!」
「ええーーーーっ!? なんですってーーーーーーーーーーっ!!!?」
「から……私は……じょうぶ……!」
 距離が近づくにつれ、徐々に声が鮮明になってくる。
「だいじょうぶですよーーーーーーーっ! 今僕が助けますからねーーーーーーーーーーっ!」

 一歩一歩進みながら、必死に女性への呼びかけを続ける。
 ……そして、とうとう、祐介の耳に声が通った。
 
「ですからーーーーっ! 私はーーーーーーっ! 大丈夫ですーーーーーーーっ!
 それよりーーーーーーーっ! 迂闊にーーーーーーーーっ! 川に入るとーーーーーーーっ! 危ないですよーーーーーーーっ!」
「………へ?」

 返答は、祐介の想像を超えたものだった。
 さらに同時に、

 ツルッ!
 
「うわっ!?」
 ちょうど足下に鎮座していたコケまみれの石を踏みつけ、盛大にコケた。
497名無しさんだよもん:03/05/21 01:37 ID:jQ4IwCTH
 ガッツーーーーーーーーーん!
 
 さらに後頭部から突っ込んだ川底には間の悪いことに手頃な石が。
 強烈な一発を頭に食らい、祐介の意識は急速に遠のいていった。
 
(──────ああ……僕って、バカだ……)

 最後に祐介が聞いたのは、
 
(──────やらなくてもいいことやって、死ぬなんて……)

「あらあら……これは大変……」


 ……誰かの……優しい……声……と……自分を抱き上げる……暖かい……腕……。


【長瀬祐介 ひかりを助けようと飛び込むはいいが、二次遭難。とりあえずひかりをゲット。ポイント+1】
【神岸ひかり 鬼になる。祐介を保護】
【時間:3日目宵の口 場所:川の中 天候:雨】
【登場 神岸ひかり・【長瀬祐介】】
498名無しさんだよもん:03/05/21 02:00 ID:LagTvRh6
**********WARNING**********
現在:491KB です。
残り容量にご注意ください。
******************************
499マナーは守りましょう☆:03/05/21 03:28 ID:D5od1kKi
ハイハイ皆さんお待ちかね。久々登場のいとっぷこと伊藤にございます。
さて、思い出という名のフォトグラフを残すと決意したわたくしと盟友阿部貴之はとりあえず昨日ニジマスをバカ釣りした
湖のほとりにやってきたのですが、なんとそれから対して時間もかからずに一人目のターゲットを発見したのですよ。
ありがとう、何処かにいるゴッドよ。やはり感謝の心は大切。みんなも素直に「ありがとう」を言える大人になろう!
我が心の女神湯浅さんほどではありませんがなかなか均整の取れたプロポーション、ボーイッシュと形容すべき容貌でありながら
濡れた髪を掻き上げる仕草は存外に色っぽいお姉さんです。
まさに被写体第一号にふさわしい、上の上です。よーし、キミに決めたあ〜!!
と、些か興奮気味にシャッターを押したところで

「……なにしてんの?」

ばれました。
「そりゃあこれだけ近づいてフラッシュたけば誰でも気づくって」
うっさい貴之。仕方なかんべ。一番安かった使い捨てカメラ、ズームなんて気の利いた機能はついとりゃせんし、この雨の中
フラッシュたかずに撮ろうものならせっかくの美しい思い出が上手く残せずしょんぼりな結果に終わってまう。
みんな貧乏が悪いんや。世知辛い世の中、神なんていねえよこんちくしょう。
「キミ、どこの人?」
「にゃはは☆ 美しいって私のこと〜?」
む、小声で喋っていた我々の声を拾うとは、お姉さん地獄耳?
「そりゃあこれだけ近ければ聞こえるって」
まあ確かに。見つからないように茂みに隠れていたとはいえ彼我の距離は実は1メートルも無し。
そりゃあ見つかるってもんだ。ハッハッハ……。
500マナーは守りましょう☆:03/05/21 03:29 ID:D5od1kKi
「……」
「……」
うう、沈黙が痛い。
そりゃそうだ。冷静になってみればやってることは盗撮と同じ。明日からあだ名はいとっぷからピーピングイトームにクラスチェンジですか?
って言うか貴之、何故あなたまでそんな目を。フォロー無し? シカッティング(シカトの現在進行形)ですか?
ああ、お姉さんも何だか呆れ顔。その口から出るのは罵倒か、嘲笑か。
「もう〜、写真撮ってくれるのは嬉しいけどそれならそうと一声かけてから! それがカメコのマナー!」
あ、あれ? 怒ってない?
それどころか条件が合えば喜んで被写体になってくれそうな匂いがするんですが。
「ごめんなさい、これからは気を付けますんで、どうかご容赦のほどを……」
「うむ。分かったならよし!」
とりあえず素直に謝ったところお姉さんはイイ笑顔で許しを下さいました。

セーーーフ!!

サンクス! Thanks a lot 神! やはり神は我を見捨てていなかった!
「……伊藤君ホントに調子いいよね」
それを言うな。ツッコミに愛のない人は先生嫌いですよ。


【いとっぷ、貴之 思い出のフォトグラフ作成にかかるもばれる】
【玲子 マナーを知らないカメコに正義の鉄槌】
【時間 三日目昼前】
【場所 湖のほとり】
【登場 【伊藤】、【阿部貴之】、【芳賀玲子】】
501名無しさんだよもん:03/05/21 14:52 ID:LO8Tefq9
次スレが立つまで作品投下禁止ね。
もう限界だよ。
502名無しさんだよもん:03/05/21 19:23 ID:u72TeAIF
さて、キャラ一覧の書き換えでもしてみるか。
終わったらとりあえず避難所にでも貼りますんで。
503名無しさんだよもん:03/05/21 22:25 ID:u72TeAIF
504名無しさんだよもん:03/05/21 22:33 ID:LO8Tefq9
お疲れ。
505名無しさんだよもん:03/05/21 22:39 ID:u72TeAIF
あ、なんか感想スレでやってる。

>>503のは感想スレで話し合われている、問題作品>>492-497の結果も含んでます。
よって、


長瀬祐介
TH
神岸ひかり

この両名の使用は、ちょっとお待ちください。

結果……は、個人的には変わるわけない(変えてはいけない)と思っていますが、
展開が変わる可能性があります。
506名無しさんだよもん:03/05/22 23:13 ID:9Q0b8IW/
一応保守しとく
507名無しさんだよもん:03/05/23 18:16 ID:2wi6vJIi
葉鍵鬼ごっこ第六回
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1053679772/

立てちゃいました。リンクが10スレ内に収まらなくて申し訳ない。
リストが不恰好になっちゃいましたし……(鬱
508名無しさんだよもん:03/05/23 18:20 ID:HP/9+x0R
>>507
509鬼 二日目:03/05/23 21:28 ID:mHVFTrbC
コリン 小山の広場。反転解除。以上。二日目夕刻。

響子 弥生 冬弥一行と接触、偽報をもって、修羅場と化させる。夕暮れ。場所不明。

リアン エリア 超ダンジョン。こわごわ芹香捜索中。マルチ&クーヤと接触。悲鳴を上げて遁走。夜。

マナ 少年 場所不明。休める場所を探すため移動中。夜。

ゲンジマル 河原で休憩中。二日目夜。
黒きよみ ドリィ グラァ 怪しい老人を見かける。逃げるように河原から移動。夜。

英二 理奈 どこかの小屋。追いかけっこ終了。小屋の中で思い出話。後、就寝。深夜。

あさひ 白きよみ 彩 森の小屋。休息中。服を乾かしたい。彩、妄想驀進中。あの人を捜そう。深夜。

浩之 志保 教会。作戦会議終了。適当な逃げ手と、手を組むことに。現在睡眠中。夜半。
510名無しさんだよもん:03/05/26 08:45 ID:9gfg+tQJ
511名無しさんだよもん:03/05/26 22:11 ID:Gz3NroFd
512名無しさんだよもん:03/05/26 22:13 ID:Gz3NroFd
関連サイト

葉鍵鬼ごっこ過去ログ編集サイト
新サイト(現在は480話まで):http://www.geocities.co.jp/Playtown-Domino/5154/
旧サイト:http://hakaoni.fc2web .com/
(IP抜き対策にスペースを入れてあります)

葉鍵鬼ごっこ議論・感想板
http://jbbs.shitaraba.com/game/5200/
513名無しさんだよもん
            < `ヽ  , '´ ̄ >
             ,.    ´ ̄ ` </ー- 、
            //,         ヽ\  ヽ
          '´ / .' / /,       ゙\ヽ.  ゙
          ( !/ i/(( リ |l〈 | ヽヽ.   |ヽ) )  i
           ヽY/!,ィ'il  'Tヽ, l i  l く(ヽ  !
           / l lr1,  ヒ1l | | ,.'  )' ) ノ
            , ' /ヽ´ ー `" ,| l´   ( l !
         i(( {.   ` ーァ く,| |、    ヽト、
         ヽ. ヽ. '77´/ l'´/,! l' ヽ    ノ )
            ゙/ ,'/ /.† ! ! リ ノ 〃ヽ  ( (( 
           〈ヽ. i !/、/|_!.l'(. !i  \ `ー-ヽ
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    ヽ`   ,. '     ,'  ー- /≪フノ    ヽ     二  
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