葉鍵的 SS コンペスレ 7

このエントリーをはてなブックマークに追加
311304
>こんぺの大賞にならなくても

ゴメン。対象。
312名無しさんだよもん:03/03/25 00:09 ID:hx4vOO2s
ふぅむ。。。みんな、今回は長いのかな?
失敗したなぁ。

今から投稿します。
名雪SSで、全17レス予定。
3131/17:03/03/25 00:10 ID:hx4vOO2s
 会話が途切れて生まれた沈黙を埋めるように、羽音を立てて鳥が樹から飛び去っていった。
黒い羽を広げる不吉な鴉を追って、三人はぼんやりと空を見上げた。全てを吸い込むような、
見渡す限りの青。慈悲を持たない太陽が中空を切り取っている。
 鴉は別れを惜しむかのように二度旋回すると、老婆の嗄れ声のような鳴き声をあげて、
姿を消した。

「でもさ……」
 地面に落としてしまった言葉の切れ端を探すように何かを言い掛けた北川は、香里に
意思のある視線を向けられて、代わりに微かな息を吐いた。初夏の風に煽られて、それは
すぐに大気へ同化していく。

 手を額に翳して感情のない透明な瞳で空を見据える名雪と、穏やかに歩き続ける香里と、
口を開いては思い直したように閉じる北川と。
 湖の底にあるような彼らの静かな沈黙は、随分と間延びした予鈴の響きによってその役目を
終えた。北川はぎこちないパントマイムのように左手の腕時計を確認して、後ろを歩く二人を
急かし立てる。
「ほら、もう本鈴との競争だぞ」
「ねぇ、北川くん」奇妙に抑揚のない口調で、名雪は唐突に言った。「さっき、でもさ、って
言った後、何を言おうとしてたの?」
「ああ……でもさ、水瀬さんも早く起きられるようになったよね」
「そうかな?」
「そうだよ。だって、前までなら俺たち必死になって走ってたじゃん。もう相」
「あのね名雪」斧で鎖を断ち切るように、香里が早口で北川の言葉に被せた。「あたしたち、
実は今朝委員会の会合が入ってるの。悪いけど、先行ってていいかしら?」
「今から?」
「ごめんね。ほら、行くわよ」
 まごつく北川の腕を引っ張って、香里は速足で歩き出した。
3142/17:03/03/25 00:11 ID:hx4vOO2s
「どうしたんだよ急に? 委員会なんて……」
 名雪から幾許か離れると、香里は北川に冷徹な一瞥をくれて言う。
「あなたは、あんなことを今の名雪に言ってどうなると思うの?」
「え? どうなるって」
「そんなこともわからないくせに、名雪に話し掛けないで」
 冷たい水を浴びせるように北川に畳みかけると、香里は唇を噛み締めた。呆然とした北川は、
のろのろと顔だけで後ろを振り返った。名雪は歩きながら物思いに耽るように空を眺めている。
左耳を掌で包み込むように押さえて、たった独り、どこにも寄る辺がない捨て猫に似ていた。

 ぼそぼそと北川は呟いた。「でも、ホントに早く起きられるようになったよ。相沢はもう――
いないのに、さ」
 その言葉は誰も受け取る者がいないまま、雨上がりの泥の中に埋(うず)もれていった。



           『シンデレラはもういない』


3153/17:03/03/25 00:12 ID:hx4vOO2s
 毎日変わり映えのしない教師の細細(こまごま)とした連絡事項を聞き流して、名雪は隣に
目をやった。カーテンの隙間から差し込む木洩れ日が机の上に複雑な紋様を描いている。
誰もいない空白の席。噴火を止めた火口が大きな穴をつくっているような、一ヶ月前に開いた
その不自然な空間に対し、皆がどうして平然としていられるのか名雪にはわからなかった。
 時の流れに押しやられて過去の引き出しに仕舞われた記憶は、そのうちに思い出すことも
されずに、風化していく。いつかは話題に上ることすらなくなってしまうのだろう。名雪は微かに
頭を振った。左耳が痛みをじわりと漏らし始める。

 強い風が吹いたのか、樹々の葉がざわめき、紋様も机の木目に溶けるように形を変える。
教師が喋っている。時計の針が進む。誰かが何かを言って、教室がどっと笑う。開いている
窓から風が吹き込む。教師が黒板に書く。時計が進む。誰かの話し声がする。時計が進む。
教師がプリントを配る。時計が進む。誰かが大声で叫ぶ。時計が歪む。また皆が笑っている。
時計がねじれる。時計が――
 幸いにして、がたん、と大きな音を立てて名雪が椅子を倒して立ち上がったのは、教師が
「じゃあ、解散」と言ったのとほぼ同時だった。床に椅子を軋ませて、他の生徒たちも櫛の
歯が抜けていくように教室から散っていく。名雪は緩慢に時計を見つめた。極めて速く時が
進んでいるようにも思えたし、殆ど何も動いていないようにも思えた。

 地球が廻っていることを人間は感知できないように、時計の針が進もうが進むまいが、
大して違いはないのだろう。幾何学上の問題でしかない。時は相対的なものだ。苦痛を耐え
忍ぶ奴隷は一時間が何日にも感じられることだろうし、愛を紡ぐ恋人たちにすれば一日が
本当に二十四時間なのか疑いたくなるのだろう。
 そして、今の名雪にはどうでもよいものだった。一ヶ月前のある日から、時は全ての意味を
失った。小川が石を避けて流れるように、苔の生えた石がその場に踏み止まるように。
3164/17:03/03/25 00:13 ID:hx4vOO2s
「なにか」不意に、後ろから声がした。「……なにか、あたしに」
 ウェーブがかかった髪を指先で弄りながら、香里は振り向いた名雪に同じ台詞を繰り返した。
 綱渡りをするようなか細い声だった。声帯を震わせることなく、水面に薄い波紋を立てる
ことを躊躇うように呟く香里は、けれど名雪に視線を合わしていなかった。

「あのね、香里」
 小さな花に生まれた小さな夜露に触れるようなやり方で、名雪は香里に言う。しかし、それは
続く言葉を持たずに宙に浮いた。拒絶するように目を伏せている香里に気後れしたのか、
言うべきことが見つからなかったせいなのか、そもそも何かを言う気がないのか。
 名雪は自分でもよくわからないことに僅かに苛立ちを覚えながら、親友の顔を見ていた。
伝えたい言葉は山ほどあるはずなのに、何をどのように言おうか考えるとひどく損なわれて
しまう種類の話だった。
 文字盤の上を歩み続ける秒針だけが、行き場のない教室の中で進むことを止めなかった。
結局はそれすらも同じ所の堂堂巡りであることに気づくはずもなく。

 数瞬か、数分が過ぎた。
「ごめんね」
 口を開いたのは、香里が先だった。まるで勝手に舌が伝えた言葉を確認するように、香里は
傍目からもわかるほど喉で唾を飲み込んでから、言った。
「今日は、部活があるから先に帰ってて」
 名雪は曖昧に頷いて、チャンスを逃してしまったことを知った。荷物の整理を始めている
香里に、教室のドアをくぐりながら「じゃあね」と挨拶したが、彼女は重石が乗せられているかの
ように最後まで視線をあげなかった。
3175/17:03/03/25 00:14 ID:hx4vOO2s

 帰りがけに寄った商店街の花屋で、名雪はマリーゴールドの鉢植えを買った。これにしようと
決めていたわけではなかったが、華やかに店先の一角を飾っている、プランターに植えられた
そのオレンジ色の花は名雪の心を強く惹いた。
「これはね、お嬢ちゃん。太陽の花と呼ばれているんだ」
 鉢植えに土と肥料を詰めながら、花屋の店主は相好を崩して言った。いい花を選んだね、と
朗らかに笑う彼の顔を直視できずに、名雪は店内をぐるりと見渡した。

 落ち着いた雰囲気の花屋だった。フィルターを掛けられた蛍光灯が花を柔らかく照らしている。
ごてごてと無駄な装飾がついた飾り棚を天井から吊るすこともなく、プランターは花の色調を
考えてお互いに引き立てるように並べられていた。

「なんだか独特の匂いがするだろ。これに病み付きになる人もいるらしい」
 ふと、カウンターの下に貼られた手作りのポスターが目に入った。店主が自分の子供にでも
書かせたのかもしれない。クレヨンで丁寧に塗られたトラックと、日本地図。踊るように跳ねた
拙(つたな)い文字。
『全国どこでも送料無料でお届け致します。あなたの大切な人へ、大切な日に、心が込められた
花を贈ってみませんか?』
 名雪は、思わず笑い出しそうになった。全国どこでも。だったら、この冷たい地面の下にいる、
静かに眠っている、とっても大切な人へも配達してくれるのだろうか? ええ、一度は結婚の
約束までしたんですよ。だから是非とも彼に両手一杯の花束を。
 出来の悪い冗談だった。脳は笑みをつくろうとしたが、頬の筋肉が拒んでいた。三度目の
アンコールがかかった歌手がよくやるような、舞台から下りることを願っていながら仕方なしに
笑う顔を、名雪はショーウィンドウに反射して映る自分に発見した。
 熱を帯びた左耳が、疼く。

「これ、誰かへのプレゼントかい? ラッピングしてあげようか」
 店主はマリーゴールドが移植されたシンプルな鉢植えをそっとカウンターに置いた。間の悪い
問いに、名雪は唇だけの笑みを零した。
「いえ……」ゆっくり息を吐く。そう、まだ喋れる。「でも、包んでください」
 店主は一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐに作業に取り掛かった。
3186/17:03/03/25 00:15 ID:hx4vOO2s

 制服をクローゼットに掛けると、名雪は捧げ物を持つようにそろそろと階段を降りていった。
桃色の小振りなリボンが胸元の辺りで揺れている。
『水はあまりあげすぎないように。結構丈夫だから、日当たりのいいとこに置いときゃ花はどんどん
咲くよ。鉢植えから庭へ移してみるのも面白いね』
 気のいい店主の言葉を思い返しながら、名雪はリビングの椅子に座って慎重に包装紙を
解いていく。机に敷かれた新聞紙の上の鉢植え。色鮮やかに染まった頂上の花弁がゆっくりと
姿を現してきた。

 大きな二階建ての家に、包装紙の立てるがさがさという音だけが空ろに響いている。一人の
住人を失った家は自身も一部を喪失したかのように茫漠としていた。名雪はテレビをつけようか
とも考えたが、止めておいた。
 誰もいない、ダムに沈んだ廃村のような家にただいまを言うことにももう慣れた。結局のところ、
一年かそこら前の状態に戻っただけのことなのだ。人の適応力というのも、不思議なものだと
名雪は思った。そこにいるのが当たり前だと勝手に信じていた者がいなくなって、少し昔へ
返る。それだけのことだ。
 それだけのことなのに。

 この家を探しても、学校を探しても、この街を探しても、どこにも祐一はいない。もう、いない。
 腹の奥底、自分でも覗くことができない深遠から昇ってくる感情は、押し止めようとする喉の
防御壁を突き破って、激しい嗚咽となって名雪を襲った。埋め立てられてヘドロに汚された
海のような、腹を出してコンクリートの海岸を撥ねる銀色の魚のような、形容しがたい心の
叫びだった。どうにもならない哀しみの行き付く先になにがあるのだろう?

 包装紙から可愛く顔を出したマリーゴールドだけが、名雪を見ていた。空っぽの家の中で
名雪は目の前のテーブルを思いきり叩いた。鉢植えが微弱な振動を伝えるが、それは何も
答えてはくれない。
 名雪はやがて泣き疲れて、テーブルに体を預けて微睡んだ。とても優しくて、とても懐かしい
夢を見た。
3197/17:03/03/25 00:15 ID:hx4vOO2s

 くすくすと名雪は笑った。名雪に腕枕をしている祐一が「ひっでぇなぁ……」と情けない声で
言ったのを聞いて、ますます、腹を捩るようにして笑った。
 ベッドのスプリングがそれに合わせて、ぎしぎしと上下に揺れた。ベッドが笑うとしたら、こんな
風に笑うのだろうというような、心地よい揺れ方だった。卓上灯が温かみのある黄色の光を
二人に投げかけていた。
「足の親指の爪? それだけが俺の存在理由か」
「うそうそ、そんなことないよ」
「それじゃあ、どこだ」
 名雪はしばらく小首を傾げる仕草をした。じっくり考えるんだ、と変に重々しい声で祐一は
囁きながら、白いシーツに無造作に散らばっている名雪の髪を右手で梳いた。

 他愛のない恋人たちの会話は、月がゆっくりと空から滑り落ちてゆく頃まで続く。連綿と、
永遠に続くのだという根拠のない充足感に満たされて。時は確固たる足取りをもって、夜の
時間を刻み続けていた。
「やっぱり、全部かな?」
「うっわ、ずりいなぁー」
「そんなこと言ったって、わたしばっかり、さっきから……。じゃあ祐一は、どこなの?」
「名雪のか?」
 名雪は頷いて、祐一の胸に体を預けた。いい匂いがする、と名雪の頭上で祐一が呟いた。
厚い胸板の中から脈打つ心音が聞こえる。自身の心臓の音と、祐一のそれとが緩やかに
リズムを重ね合わせていく。このままいけば、きっと二人は溶け出していって一つのものに
再構成されるのだ。名雪は夢想してみるが、それはちっとも嫌な想像ではなかった。
3208/17:03/03/25 00:16 ID:hx4vOO2s
「ほら、やっぱり出てこないじゃない」
 名雪は軽く頬を膨らませて祐一を見上げた。すると、祐一は悪戯っぽく鋭い口笛を吹いた。
「あるさ、ある。俺は、名雪の耳が好きだな」
 思いもよらぬ台詞に口を半開きにする名雪を尻目に、祐一は「一番好きだ」と念を押すように
言った。
「え、えっと、耳?」
「そうだ。耳だ。このナイーブな曲線。マシュマロみたいな耳朶から螺旋を描いて鼓膜へと
繋がっていくことなんか、人体の神秘を感じるな」
 名雪は無言で祐一の胸を打った。祐一が咳き込む。
「いて、いてっ、いてッ! 冗談だって、いや、嘘じゃないんだけど、言い過ぎた」
「……ホントに耳なの?」
「うむ。なんというか、見てるとワクワクしてくるんだな。ほら、なんかの小説でなかったっけ?
100%の耳を持つ女の子の話。あんな感じ」
 果たして、これは喜ぶべきことなのか。名雪は道端で得体の知れぬ落し物を拾った時の
ように、一頻り悩んだ。
「そんなに考え込むなよ。大した意味はないさ。耳も好きってだけの話だ」祐一は肩をすくめる
仕草をすると、名雪の耳に口を寄せる。「それに、こうするのが好きだってこともある」
 祐一が名雪の耳朶を唇でつまんだ。小さく伸ばした舌先でアイスクリームにするかのように
舐められる。息が耳の内部に入ってきて、名雪は体を縮めた。

「ほら、もう顔が真っ赤になってる。名雪は耳が弱いんだよな」
 名雪は目をきつく瞑って、これから再び押し寄せるであろう波に耐える態勢を取った。祐一が
耳に触れるたびに、体が魚のようにびくんと跳ねる。耳に甘い囁きが送り込まれるたびに、
天井のない階段を昇っていく。耳はそれ専用の器官であるかのように、祐一が与える刺激を
忠実に快楽へと変換する。
3219/17:03/03/25 00:17 ID:hx4vOO2s
 それは、かつてはなんでもなかった夜のことであり、今日のような日には望むべくもない夜の
夢だった。
「おいおい、どうしたんだよ」
 行為を止めて、祐一が名雪を抱きしめる。祐一の指が頬を撫でて、名雪は自分が涙を
流していることを初めて認識した。夢は既に二度とはかからない魔法が解けた後だった。
狂ったパースで描かれた祐一の歪んだ腕の中で、名雪はせめて夢が覚めないことを願った。
 もう起きなくてはいけないことは知っていたのだけれど、諦めることができずに、希望が存在
しない抵抗を名雪は続けていた。


「名雪」
 遠くから柔らかな声がする。背中を優しく叩かれる。
 ふと、肩に薄い温もりを名雪は感じた。星の欠片のような残滓があった夢は完全に終わりを
告げて、ぼやけた視界に凛として生えているマリーゴールドが目に入った。包装紙は跡形も
なく片付けられている。
「そんなところで寝ていると、いくら夏でも風邪を引くわよ」
 穏やかに微笑む母を呆けたように名雪は見つめて、それからいつのまにかカーディガンが
背中にかけられていることに気がついた。目を擦りながら礼を言って、カーディガンを羽織り
直す。くしゃみが、一つ出た。

 秋子はテーブルに食器を並べて、鉢植えを端に除けた。
「このマリーゴールドはあそこの花屋で買ったの?」
 名雪は頷いて、少し言い淀んだが、結局言った。「ほら、もうすぐ一日だから」
「そう……ね。そうだったわ」秋子は壁にかかったカレンダーの日付を確認するように指で辿る。
「今日で、一ヶ月になるのね。やっと、と言うのかしら。もう、と言うのかしら」
 名雪にはどちらの表現が正しいのか、わからなかった。たぶん、どちらでも正解で、どちらも
適当ではないのだろう。そもそもこのような問題に完全なる解答は与えられるのだろうか。
本当に与えられるべきなのだろうか? 答えに何の意味があるというのだ。

 複雑に絡み合っている裏路地に入り込んだような思考を放棄して、名雪は椅子から立ち
上がった。掛け時計の針は七時十分前を差している。
「晩御飯の用意、手伝うよ」と名雪は言った。
32210/17:03/03/25 00:19 ID:hx4vOO2s
 コーンスープをスプーンですくって、口元に運ぶ。まるで自己の意志を持っているかのように
瞼が頑強に閉じていこうとする名雪には、そんな簡単な動作でも困難なことだった。スープを
テーブルに零して、慌ててティッシュペーパーで汚れを拭き取ることが四度目に達した時、
秋子がため息をついた。
「あのね、名雪。やっぱり夜は寝ないと体に毒よ」
「眠ろうとは思うんだけど……。でも、でも、学校には遅刻していないよ」
「学校で寝てたら、本末転倒じゃない」秋子は顎に手を添えて、困ったような笑みを浮かべた。
「気持ちはわかるわ。けれど、もう……もうすぐ、一ヶ月になるんだから、せめて今日ぐらいは
きちんと寝てちょうだい」
 名雪は軽く首を縦に振ったが、その約束が守られないであろうことは名雪自身が一番
承知していた。ごめんなさい、と心の中で呟く。

 夜のしじまが辺りを覆っていた。どこかから犬の細くて物悲しい遠吠えが聞こえる。太陽が
沈んでしばらく経ったのだろう、陰影が消えた庭の植木は悄然として何かを引き寄せている
ようにも思えた。
 カーテンを閉めに席を立った秋子が、帰りしなに蛍光灯のスイッチを押した。二、三度点滅
しながらついた白色光は、ガラスに囲まれた蝋燭のようにひどく弱々しげに見えたが、部屋の
隙間にひそかに忍び寄っていた暗闇をしっかりと追い払っていく。

 ふと思いついたように、秋子が後ろの時計を見上げた。名雪もつられて時計に目をやる。
七時二十五分。名雪はぱちぱちと瞬きをして、それから猛然と食事に取り掛かった。
 ロールキャベツとコールスローをハムスターのように口に詰め込んで、アイスティーで喉に
流し入れる。秋子が愁眉を寄せて、「そんなに無理して食べないで」と吐息交じりに言った。
 目の前の食器を空にすると、口の動きだけでご馳走様を伝えて、名雪は椅子を蹴飛ばす
ようにして立ち上がった。
「もう……。片付けておくから、今日はなるべく早く寝なさいね」
 一応眉にしわをつくってみるものの、秋子の目じりは幼児をあやすような笑い方をしていた。
 七時二十九分。口中のものを咀嚼し終わった名雪は、電話の子機を取って足音も素早く
二階に上る。自室に篭って内鍵をかけて、七時三十分。

――そして、シンデレラは妖精の魔法を待つ。
32311/17:03/03/25 00:20 ID:hx4vOO2s
 手に握った子機が家中の静寂を掻き乱すように鳴った。ワンコールするかしないかのうちに、
名雪は外線ボタンを押した。押し寄せる波のように粗いノイズ音の奥から途切れ途切れに声が
漏れ聞こえてくる。いつもかかり始めは電波の調子が悪い。名雪は耳に神経を集約させる。
「……ゆき、名雪」
「聞こえたよー」
「俺だ。元気か? 学校には遅刻してないか?」
「それ、昨日も訊かれたよ」
 名雪は笑った。電話口の向こうで祐一も苦笑するのがわかった。そんなことでさえも、名雪の
心は春の陽射しを浴びているかのようにぽかぽかと暖まる。苔のついた時計の針が、軋んだ
音を立てながらもゆっくりと廻り始めていく。

「あのね、祐一。今日はお花を買ったんだよ。マリーゴールドっていうの。太陽の花。お祝いに
ちょうどいい名前だよね」
「そうだな、お祝いか」祐一が大きく唸り声を上げた。「やっと、一ヶ月になるんだよな」
「もう一ヶ月、って言うのかな。この一ヶ月長かった? それとも、短かった?」
「そりゃ、両方だな。そんな答えなんて、どっちだっていいさ。大事なのは一ヶ月が過ぎたことだ」
 きっと祐一はいつものように肩をすくめているのだろう。思い浮かべてみて、しっくり想像に合う
ことに満足して名雪はベッドに寝転がった。受話器を頭と肩で挟む。
「そうだよね……何時ごろになるの?」
「んっと、こっちを出るのがそっちの時間で明日の朝八時だから」
 名雪は指折り計算してみる。
「まるまる二十四時間かかるんでしょ。日本に着くのはあさっての朝?」
「そうだな。親父たちは寄るところがあるらしいけど、俺は名雪の家に直行するから、秋子さんに
よろしく言っといてくれ」
「うん。でもやっぱり、二十四時間って長いよー。もっと早くに来れないの? 地球を掘ったりして、
がんばればきっと……」
「無茶言うなよ」祐一が笑う。「こないだから、名雪はそればっかだな」
「だって、遠いんだもん。地球儀で調べたよ。ちょうど日本の真下なんだから、できるよー」
「あのなぁ……」
32412/17:03/03/25 00:23 ID:hx4vOO2s
 名雪はベッドから天井を見上げた。届かないことはわかっているのに、手を伸ばしてみる。
「さっきの、マリーゴールドを買ったお花屋さんでね。日本全国無料配達します、っていう広告が
あったんだよ。どうして世界万国じゃないんだろう」
「そりゃ、な」
「遠いからだよね? 普通のお店でも採算が取れないぐらい遠いから、配達できないんだよね。
そう思ったらなんだか泣けてきちゃって」
「ふぅん……」
 祐一が欠伸と共に相槌をうつ。
「な、なんて気のない返事だお! 欠伸なんて言語道断だよっ!」
「あのな」祐一が呆れたような声を出した。長い長いため息を一つ。「俺は起きたばっかなんだ。
もう休みに入ってるのに、毎日毎日朝七時半に起こされるこっちの身にもなってみろ。それに、
名雪の“泣けてきちゃって”っていうフレーズは、それこそ昨日も一昨日もその前の日も、この
一ヶ月間ずっと聞いてきたぞ。欠伸だって出たくなるっつの」
「……だって、泣きたくなるんだもん」
「今日は学校と花屋と家の三回? ついでに俺が出てくる夢を見た?」
「よくわかったね」名雪は拍手をした。
「そりゃ、毎日聞かされてりゃパターンぐらい読めるわい」
 含み笑いをして、名雪は言った。「じゃあ、祐一は今日わたしの夢を見た?」
 んぐ、と祐一が蛙の潰れたような声を出す。電話口の向こうでは絶対に顔を赤くしているに
違いないと名雪は思った。こう見えて結構可愛いところがある人なのだ。
「パターンぐらい読めるよ。どうせエッチな夢でしょ」
 うむ、とか、むぅ、と祐一が漏らしたいささか不明瞭なうめき声を肯定の印ととって、名雪は
くすくすと笑った。祐一が「ひっでーなぁ……」と情けなく言ったのを聞いて、ベッドの上で腹を
捩るようにして笑った。言った祐一も笑っているのが聞こえる。
「わたしの今日見た夢はね、こんな風にして、二人で笑う夢だったよ」と名雪は言った。 
「そっか。あさってになったら、電話越しじゃなくても笑い合うことができるようになるさ」
「うう……でも待ち遠しいよ。地球を掘って会いに来てほしいよ」
「そうだな、そうしたら半日早くつけるかもな。その空いた時間で、何をしようか?」
 顔を綻(ほころ)ばせる祐一の表情がありありと浮かぶ。
32513/17:03/03/25 00:24 ID:hx4vOO2s
「まずいちごサンデーを一緒に食べて、それから公園に行って、デパートにも行って」
「手をつないで歩いて、喫茶店で二人でお茶して」
「それから、それから……」
 真夜中は恋人たちのためにある。カーテンの隙間から覗く月が家々を優しく照らしていた。
きっと祐一の方は月の兄である太陽が見守ってくれているのだと名雪は思う。夜は穏やかに、
さらさらと崩れる砂時計のように更けていく。


 愛を紡ぐ恋人たちにすれば、一日が本当に二十四時間あるのかどうか確かめてみたくも
なるのだろう。
 ベランダに留まった気の利かない小鳥が喧しく囀(さえず)る。名雪は枕を窓ガラスに投げて
威嚇し、電話口で声を張り上げて掻き消そうとしたが、いつものようにそれは無駄なことだった。
「お、もうそっちは朝か。またずいぶんと話し込んじゃったな」
「まだ、大丈夫だよー」
「もう家出るまで時間ないだろ。ちょうど十二時間違うんだから、わかるって。それに俺もあと
三十分ちょいで空港に向かわないといけないし」
「うー」名雪はしばらく喉を唸らせていたが、やがてしぶしぶ言った。「じゃあ、いつものやって」
「またか?」
「また。学校にちゃんと行くことができるオマジナイ」
「しょうがないな……ちゃんと耳を当ててろよ」

 名雪は目を閉じて、黒に塗り潰された暗闇の中で祐一が目の前にいるところを想像する。
ごくりと息を呑むような音が聞こえて、それからくぐもった息と軽い舌の音。耳を啄(つい)ばむ
ような軽いキス。電話と数万キロの距離とが二人の間に挟まっていることさえ考えなければ、
それは恋人の間に交わされる完全なる甘いキスだった。
32614/17:03/03/25 00:25 ID:hx4vOO2s
「ほら、これでいいか?」
「うん。でも、もう一回」
 これやるのすごい恥ずかしいんだぞ、とぶつくさ文句を言いながら、しかしなかなか嬉しそうに
笑って、祐一は名雪の耳にキスの雨を降らせた。
「ありがとっ。これで充分だよ」
「ん。それじゃあ――」つかの間の沈黙。「またあさってかな?」
「ちょうど土曜日だし、待ってるから、なるべく早く来てね」
「ああ……じゃな、好きだよ、名雪」
 わたしも、と名雪は言って、電話を名残惜しげに切った。今となっては時間は立派な敵へと
変貌していた。目覚し時計を腹いせに指先で弾いて、部屋を出る。急激に襲ってきた眠気に
大きく伸びをして、名雪は石のように固まった肩や腰や首の骨を鳴らして階段を降りた。


「まったく」秋子がコーヒーをキッチンから運びながら言う。「今日も朝まで起きてたのね」
「ごめんなさい……」
 名雪は食卓に軟体動物のようにだらしなく寄り掛かっていた。ひっきりなしに欠伸が口をつき、
瞼はやはり、制御しようとする意志も及ばず独りでに閉じていく。
「ほら、眠気覚ましにコーヒーを飲んで、そろそろ学校に行きなさい」
 名雪は舟を漕ぐついでに頷いて、伸びをする拍子にコーヒーを啜る。学校には毎日きちんと
行かなければならない。それが祐一との約束だった。キスを受けた左耳がどくんと脈打つ。
今日も、大丈夫、一日頑張れる。愛おしい赤ん坊の頬にするように耳をそっと指先でなぞって、
名雪は「ごちそうさま」と言った。
「はい、行ってらっしゃい」秋子が玄関まで見送りに来る。
「今日も遅刻しないよー」
 そうね、と目を細める秋子を背にして、名雪は玄関の扉を開けた。
32715/17:03/03/25 00:26 ID:hx4vOO2s


                          Ω


 空に構える太陽は昨日と同様に勤めを真面目過ぎるほどにこなしていた。少しぐらいは
手加減してくれたっていいのに。香里はそう思うと、首を振った。太陽には悪気もないことは
知っている。文句を言うのはお門違いなのかもしれない。
 ……けれど、それにしたって。

 隣を歩く北川が、香里の気持ちを知るや知らずや、「あ、水瀬さんだ」と声を弾ませた。
「おはよ香里、北川君」
 前を歩いていた名雪が邪気のない笑顔で振り返る。
「おはよう。今日も早いね」物思いに沈んでいた香里の一瞬の隙をついて、学習しない男の
異名を欲しいままにする北川が言った。「相沢はいないのに。頑張ってるよね」
 視線で茹で上げようかというほどに香里は北川を睨みつけたが、もう遅い。昨日は香里が
――特に放課後、名雪の潤んだ瞳に決意が流されそうになったが、よく耐えた――ありと
あらゆる手段を使って名雪を防いでいたこともあるのだろう、獲物を狙う猟犬の目を爛々と
輝かせた名雪が、堤防が決壊した激流のように喋り出す。
32816/17:03/03/25 00:27 ID:hx4vOO2s
「うんそうなのわたしもよく起きれるなぁと思っているんだけどね毎夜祐一から電話がかかって
くるんだそういうのって電話代がバカにならないじゃない一度訊いてみたことがあるんだけど
そしたら祐一はお金なんかよりも俺は愛する名雪と話したいんだって普段はそんなこと絶対
言わないんだけど電話だと言えるのかなでもやっぱり照れちゃったなあの時はともかく毎夜
かかさずかかってくるんだよそれでいつも朝まで話しちゃうんだけどいつも話題が尽きないの
こういうのって相性があるよね祐一とわたしはたぶんホントに相性がばっちりなんだと思うよ
それで朝になるとね祐一がいつもしてくれることがあるの何だと思うああわからないよねあのね
実はわたしの耳にねそのねほらキスをしてくれるのうわ言っちゃったよそれも一度や二度じゃ
ないのそういえばねこの間祐一がわたしの耳は大好きだって言ってたんだけどそういうのも
あるのかな魅力的な耳なのかなでも祐一はわたしの全部が好きだって言ってたしそれは耳も
体ももちろん顔も全部愛してるってことだよねなんだか恥ずかしいなそれでね耳にキスをする
んだけどそれはもちろん電話越しなの頬とか唇に実際にされる方が嬉しいのは決まってるん
だけど現実は祐一は日本にいないんだし適わない望みだからこれで我慢してるんだけど
そういう健気なところも好きなポイントだぜって祐一が言っててまたわたしは顔赤くするの
それでいつも耳に電話の子機を押し当てて祐一がキスするんだけどわたし思うんだよ祐一の
キスってなんだか甘い感じがするの砂糖みたいに甘いとかそういうことじゃなくてなんていう
のかな気分的な問題だよ甘いジュースに体が溶けるような気分になるの祐一はそんなこと
ないだろうって言うんだけどでもわたしは祐一は妖精さんみたいな魔法の力を持っているん
だと思うななんだか素敵だよねキスの味ってよくミントの香りとか言う人がいるけどわたしは
キスの味はストロベリーじゃないかといつも思ってるんだあれ電話越しでわかるわけないと
思ったでしょそうだよ間に電話があるんだけど祐一とわたしの仲だからこういうのって意外と
わかっちゃうんだよ耳からねストロベリーの甘さが入り込むの香りって鼻だけで感じるものじゃ
ないよこないだ耳にも感覚器官があるんだなって実感したんだどうしてかっていうと」
32917/17:03/03/25 00:28 ID:hx4vOO2s
 北川はメドゥサに魅入られたかのように固まっている。
「ごめんね、名雪」香里がやっとのことで口を挟む。まさか、その電話越しのキス話は確実に
二桁に達するほど聞いたわよ、とは言えず。「今日はあたしだけ委員会なの。先行ってるわ」
「今から?」
「そうなの。でも代わりに北川君がたっぷり名雪と相沢君との耳にまつわる話を聞きたいって」
「え、俺が」ぎぎぎ、と棺に入れられるミイラのような顔をして北川が振り向いた。
「じゃあねー」
 香里は全速力で校門に向かって駆け出した。後ろで北川の声にならない悲鳴が聞こえた
気がしたが、自業自得だと思った。

 祐一が親の都合で一ヶ月間、地球の反対側である南米に行くことになったと知った時は、
確かに教室中が安堵に包まれた。世紀末と恐怖の大王が一度に来たような顔をしている
名雪には悪いが、傍迷惑なほどに所構わずいちゃついている彼らにはぴったりの冷却期間
だと、香里ですら思った。
 けれど――。火山は休火山のままで。ぽっかり開いた噴火口は隙さえあれば溶岩を吹き
上げる。この分では、祐一が帰ってきたらクラスはどうなることやら、香里は想像するのも
悍(おぞ)ましかった。

「それでねいちごサンデーを沢山二人で食べた後にね公園に行くのもちろん手はつないで
だよ一緒のベンチに座ってねきっと祐一はわたしの顔をまじまじと見てそっと耳にキスすると
思うなやっと実物にキスできたとか言ってね想像するだけで顔赤くなっちゃうな……」
 まだ、後ろでは機関銃のようなトークが続いているようだった。
 鐘が鳴ったら帰ってしまうシンデレラは、もういなくなる。シンデレラは明後日からは永久に
お城で王子様と暮らすのだろう。世界の全てを合わせたよりも多くの幸福の中で。
 それがいいことなのか悪いことなのか、親友との友情と、自分の精神衛生上の観点とを
天秤にかけて、できることならどこか遠い所へ鴉のように飛んでいってしまいたいと、香里は
暫(しば)し空を仰いで悩むのだった。
330 ◆ulzqt5y0qA :03/03/25 00:30 ID:hx4vOO2s
>>313-329
以上、『シンデレラはもういない』でした。
長文失礼しました。
331名無しさんだよもん:03/03/25 01:37 ID:LdgLfK99
いまからお借りします
キャラは来栖川姉妹&セリオ
タイトルは『幸せな空の色』です
332<幸せな空の色 1/10>:03/03/25 01:39 ID:LdgLfK99
 お互いの顔は、吐息がかかるくらいにまで近づいていた。
 息をつめて、相手が次にすることをじっと待っている。
 ――女の子の匂いがする。
 主導権を握ることに慣れきっているせいで、こうして受け身になってみるとひどく落ち着かない気分だった。
 さながら、標本用のピンで留められたように無防備な状態。
 これは、なんというか――。
 けっこうエッチだ。
「…………」
 すぐ側で、可聴域ぎりぎりの微かなささやき声が発せられた。
 それは吐息と混じり合い、そっと耳にかぶさってくる。
「あン」
 こらえきれず、私は思わず声を――。

 ――いや、冗談だってば、冗談。

 真顔できょとんとされても困る。
 ――というか、こっちが恥ずかしいじゃない。
「あぶないから頭を動かすな……でしょ? ゴメン」
 ここは姉さんの部屋の、床に敷かれたホットカーペットの上。
 この優れモノのアイテムは、寒がり屋の姉さんに気を利かせてセバスが持ち込んだものだった。
 その真ん中に、膝を崩した芹香姉さんがちょこんと座っている。
 そして、寝そべった私の頭は姉さんの膝――というか、太ももに支えられていた。
 ようするに、ひざまくらというヤツである。
「あんまり気持ちがよくって……ね」
 冷えた窓ガラスから暖かい光が射し込んで、部屋のなかを淡い春の色に染めている。
 土曜日の昼下がり。そろそろエアコンがなくても平気な季節。
 こうなったきっかけはよく憶えていない。
 最初に言いだしたのはたぶん私だろうけど。
 私と姉さんとセリオの三人は、なぜか揃って耳掃除に興じている。
333<幸せな空の色 2/10>:03/03/25 01:41 ID:LdgLfK99
 私たちの隣で、セリオは興味津々といった風にこっちを覗き込んでいた。
 勉強熱心なのはいいけれど、耳そうじ習得の第一ステップはリラックスすることじゃないだろうか。
 ――この子らしいけど。
 天性のほのぼのムードを発する姉さんと対比すると、なんだかおかしい。
 それにしても――。
(んー、気持ちいい)
 姉さんのスカートに顔をうずめたまま、私は上目づかいに視線を動かした。
 すぐ目の前には、抱きしめたら折れてしまいそうなウエストのラインがある。。
 ぴっちりした薄手のセーターがゆるやかにカーブを描いて、上へ行くにしたがって傾斜を増していく。
 その先に、切れ長の目尻が少しだけ下がっているのが見えた。
 趣のある竹製の耳かきをつまんだまま、芹香姉さんは困ったように首をかしげている。
「…………」
「あ、やめないでやめないで。今度はいい子にしてるから」
 ごろんと転がって駄々をこねてみる。
 あ、床もけっこう気持ちいい――。
 なんてバカなことをやっていると、姉さんは脇に置いた小箱を開けておもむろにガーゼを取り出した。
 雪みたいに真っ白な布で耳かきを包むと、きゅっとひねってから脇に置く。
 それから姉さんは私の方を見て、ちょいちょいと指先で膝の上を示してくれた。
「さんきゅ。大好きよ、姉さん」
 床のカーペットは暖かいし、姉さんの脚は柔らかいし、いい匂いがする。
 でも、本当に心地がいいのはこういうときの呼吸だと思う。
 ふたりともテンポはまるで違うのに、タイミングはぴったり合っている。
 肌触りのいいスカートに顔をうずめて、すりすりと――。
「…………」
 ――う、視線が痛い。
334<幸せな空の色 3/10>:03/03/25 01:43 ID:LdgLfK99
 傍から見ると、私と姉さんのやりとりはあまり噛み合ってないように見えるのかも知れない。
「これが耳掃除ですか……私に習得できるのでしょうか」
 さっきから真剣に私たちを観察していたセリオが、少し戸惑ったようにつぶやいた。
 無理もない気がする。さっきからちっとも耳かきが動いていない。
「じゃれてるだけだから、これを無理に真似することないわよ」
「これは耳掃除ではないのですか?」
「うーん。耳そうじって、耳を綺麗にすること自体はあんまり重要じゃないかもね」
「……複雑です。それでは耳掃除の最優先事項はなんなのでしょうか?」
「安心できる相手と一緒にいられること……かな」
 セリオが考え込んでいたのは、ほんの数秒のことだ。
「お互いのデータを持つ者同士の、経験から得られる安心感。そう解釈します」
 この子たちアンドロイドの瞳は、いつだって真っ直ぐだ。
 うん、セリオは今日も可愛い。
「ふふ、耳そうじは奥が深いのよ」
 そこで私はちょっと気まぐれを起こした。
 どうということはない、単なるいつもの思いつき。
「ねえねえ、セリオ」
「はい、綾香さま」
 この娘はリアクションは控えめだけど、感度は普通の人よりはるかに良好なのだ。
「セリオも耳そうじしてあげよっか?」
 いつもの調子で口にする――。
 その後のリアクションはちょっと見物だったと思う。
 セリオは驚くということがないから、びっくりしたのは私の方だった。
 二つの耳カバーを両手でしっかりと押さえて、セリオは素晴らしい反応速度でのけぞるように半歩さがる。
 まるで刺客に襲われた時代劇の人みたい。
 状況に取り残されてるのは、ぽかんとした顔の私と、そもそも何が起きたのか分かってない姉さん。 
「ちょっとセリオ……どうかしたの?」
335<幸せな空の色 4/10>:03/03/25 01:45 ID:LdgLfK99
 最初は冗談かと思ったけど、そんな様子でもなかった。
 なにより、セリオはそういうジョークをやる子じゃない。
(――やってくれたらお赤飯なんだけどね)
「私の音響感度は正常です。現時点でのフィルタ洗浄は必要性を認められません。
ましてマスターにこんな場所をお見せするなど……」
 いったいどんな場所なんだろう。
 しっかりと脇を絞めて、両耳の着脱式パーツをかばう少女の図。
 少し訂正。このパターンは時代劇じゃなかった。
 どちらかといえば、自分の立場を利用して使用人に迫るエロな御主人さまというところ。
 もしかすると乙女のピンチなのかも知れない。
「いけません、綾香さま。内部機構への不用意なアクセスは漏電の恐れがあります」
「いや、そうじゃなくてね」
 じりじりと。
 おそらくは誤差一センチ以下の精度で、寺女の制服を着たメイドさんは私の指先から距離を取る。
 ――やるわね、セリオ。
 もしここから最速のタックルに移ったとしても、脳を揺らされて温熱カーペットに沈むのは私の方だろう。
 そう思わせるだけの間合いを、セリオは三次元的にキープし続けていた。
 問題は、その行為に何の意味があるのかサッパリ判らないことだけど――。
 姉さんはといえば、さっきの和んだ雰囲気そのままに、私とセリオを交互に見ていた。
 もちろん、姉さんにミリ単位でのスペースの奪り合いなんて分かるはずがない。
 相変わらずのマイペースで、セリオが運んできたお茶なんかを飲んでいる。
336<幸せな空の色 5/10>:03/03/25 01:47 ID:LdgLfK99
「ユーザーが勝手に内部を開けた場合は保証の対象外になる可能性が……」
「なに言ってるのよ」
 いまさらだけど、ちょっと心配になってきた。
 今までにこんなことは一度だってなかったことだ。
 セリオのことはよく知っているつもりだったから、逆に不自然さが際立って見える。
 ――それで、少し焦ってたのかも知れない。
 何の前ぶれもなく、姉さんの手が私の二の腕に置かれた。
 ふるふる。
 姉さんはこういうときのタイミングまで絶妙だった。
 いまさらのように、自分がずいぶん余裕のない表情をしていたことに気づく。
 私はゆっくり肩の力を抜いた。
「耳のカバーを取りたくないんでしょ? 無理強いなんてしないわよ」
 ここまで真剣に隠しごとをされたのは初めてだった。
「ごめん、セリオ。困らせるつもりはなかったの」
「そんな綾香さま……申しわけありません」
 つまらないことで取り乱したのかも知れない。
 これはたぶん、セリオがまた成長したということなんだろう。
 気を取り直して三人でお茶を飲んだけど、あまりよく味わう気になれなかった。
(――冷めてる)

 ****
337<幸せな空の色 6/10>:03/03/25 01:48 ID:LdgLfK99
「あの子の羞恥心……ですか?」
 HM開発チームの女性研究員は、吟味するように私の言葉を繰り返した。
 定期的にやってくる運用試験アンケートとは別に、私はときどき開発スタッフから個人的に話を聞かれることがある。
 いくつかの質問に答えた後で、私は先日の疑問をぶつけてみたのだ。
 本来なら機密事項だと前置きしながらも、その人は快く話を聞いてくれた。
「ぜんぜん気にしないようでいて、すごく女の子っぽいところもありますよね」
 普段の私なら、自分からこういう話を切り出すことはない。
 あの子の内面は、直接自分で知るべきだと思うから。
 ただ、ひとつだけ確認しておきたいことがあった。
「社会生活に必要なモラルという意味なら、一通りのことは教えてありますよ」
「必要って……どの程度までが必要の範囲なんですか?」
 重ねてした質問に、その人はちょっと考えるような仕草をした。、
「そうですね。たとえば公衆の面前で服を脱げと言われたら拒否すると思います」
 それはそうだろうけど。
 これはもう少しデリケートな話だと思う。
「そういう露骨なのじゃなくて。たとえば身体の一部分を見られるのを嫌がるとか……」
 スマートな縁なし眼鏡の下で、女性スタッフは眠そうな目をしばたたかせた。
 そして、何かに思い当たったように真剣な表情になる。
 急に声のトーンを落として、ひそひそ話のような話し方になった。
「つまり、“そういうこと”を要求された場合にどういう反応をするか、ということですか?」
「うーん、そういうことになるのかしらね」
「なるほど、そういうことですか」
 したりとばかりにうなずいて、その人はとんでもないことを言いだした。
338<幸せな空の色 7/10>:03/03/25 01:49 ID:LdgLfK99
「たしかに、あの子は“そういうこと”もできるようになっています。
お嬢さんなら大丈夫だと思いますが、あまり無茶をしないであげて下さいね」
 そう言って目許を押さえる女性スタッフは、一人娘を嫁がせる母親の表情をしていた。
 ――って、ちょっと待ってほしい。
「無茶って何のことよ」
「ですから、お嬢さんがあの子に……」
 おっとりした良識派に見えたのに――。
 いや、むしろ落ち着いていて説得力がある分だけ始末が悪い。
「絶対に何か勘違いしてるわよ」
 相手が穏やかな微笑みを崩さなかったことで、私はからかわれたことに気づいた。
 優しいまなざしは、いまのが悪意のない冗談だったことを示している。
 気をつかわれたのかも知れないけど、いまはあまり冗談を聞きたい気分じゃない。
 そのときの私は憮然とした顔をしていたと思う。
「セリオはいつも冷静だし、言うべきことははっきり言う子よ。でも、この前はどう考えてもあの子らしくなかった」
 思わず声が高くなった。
 どうがんばっても、私の立場では解らないことがある。
 どれほど心配に思っていても、他人に判断をゆだねるしかできないことが。
 あの子と関わりを持とうとする限り、決して無縁ではいられない“ロボットとしての彼女”の話――。
「お嬢さんが何を心配しているのかは解ります。少なくとも、あの子の思考プロセスに異常はありません。
それは保証できます」
 掛けている眼鏡を外して、女性は何かを確かめるように私の目を覗き込んできた。
「――ですが、それはあの子の判断が常に正しいことを意味するわけではありません。
完璧を要求されるロジックは、むしろ脆弱とさえ言えるかも知れない」
 硬質の表情が顔をのぞかせて、初めてこの人の本音が見えた気がする。
339<幸せな空の色 8/10>:03/03/25 01:52 ID:LdgLfK99
「セリオが何をするにしても、あの子が自分の考えで判断したことなのね?」
「そう思っていただいて結構です」
 それで気分が軽くなった。
 聞きたいことはすべて聞けたと思う。
「それだけ聞ければじゅうぶんです。ありがとう」
「もうよろしいんですか? 次の定期メンテナンスで問題点を調べることもできますよ」
 好意はありがたかったけれど、私は首を横に振った。
「申し訳ないけど、後はあの子と私の問題だから……」
 女性は一瞬だけ目を丸くして、それから静かに微笑んだ。
「いいえ、お役に立ててよかった」
 そう言って、彼女は手にしていた眼鏡をゆっくりと掛け直す。
 銀のフレームが整った両耳に載せられるのを、私は落ち着いた気持ちで眺めていた。
「でも、別にさっきのが“冗談”でなくなっても構わないんですよ。あの子が新しい体験をするのは歓迎ですから」
 いったいどこまでが冗談なのやら――。
「勘弁してよね」
 それから冗談めかして言われたことにも、私は口に出しては何も答えなかった。

 ――少し、あなたに嫉妬しました。

 私も同じ気持ちを持ったことを、この人ならとっくに分かっていると思ったから。
 少しこそばゆい思いでお礼を言って、私は別れの挨拶だけを口にした。

 ****
340<幸せな空の色 9/10>:03/03/25 01:53 ID:LdgLfK99
 ラテン語で“青い石”という意味の名を持つその石は、昔から幸せを呼ぶとされていたらしい。
 なんでも古代エジプトでは、金と同等以上の価値を持っていたとか。
 ――と、これはその道の専門家である姉さんの受け売りだ。

 セリオが改まった様子で話を切りだしたのは、定期メンテナンスのために研究所に行く二日前だった。
「軽率な行動でした。“これ”を身につけようと考えたことも、それを報告しなかったことも」
 耳のカバーを着けていないセリオを見るのは久しぶりだった。
 うつむき加減のその姿は、告解を受けるキリスト教徒のように神妙に見える。
 告白を聞くのは神父さんでもマリアさまでもなかったけれど。
「何ごとも経験でしょ? よく似合ってるわよ。そのピアス」
 ――真相なんてこんなものだろう。
 セリオの可愛らしい両耳には、濃い青色の石が左右一つずつ光っている。
 石の色や大きさ、フレームの金色も、お世辞抜きで感心するほどよく似合っていた。
「でも、別に隠すことなんてなかったじゃない。びっくりしたんだから」
 わずかに逡巡する素振りを見せたけど、セリオの返答は素直だった。
「綾香さまが親しくなさっている男性から、こんな形で物をいただいてしまって……」
 ――なんだ、そういうこと。
 考えてみれば、セリオが何のきっかけもなく一人で装飾品を買ってくるとは思えない。
 “あいつ”にとっては親切心以外の何物でもなかったんだろう。
 悪気はおろか下心さえもなかったと思う。いつもそうだ。
「私が気を悪くすると思ったの?」
 ――こんなささいなことで。
 ――あなたを責めるとでも思った?
 少しだけ胸が痛い。
「いえ、綾香さまや芹香さまが気を悪くなさるとは思いません」
「だったらどうして――」
 少し意外な返答に、私は思わず聞き返していた。
341<幸せな空の色 10/10>:03/03/25 01:56 ID:LdgLfK99
「一般的なメイドロボの行動として問題があったからです。
いくら寛容なマスターに恵まれたとしても、それに甘えることは許されません」
 つまり、データ収集のために装飾品を身につけたことが、個人に仕えるメイドロボとしては不適切だったということだ。
 実験機と召使い。
 そんな二律背反の末に、この子はとっさに判断を停止してしまったらしい。
 ――もちろん、私はどちらのセリオも望んではいなかった。
 それでも、この子は私のことをちゃんと解ってくれていたのだ。
 メイドロボが想定する“一般的な御主人様”と、“セリオのマスター”との間に違いが生じてきている。
 出会ってから今日まで積み重ねてきた、私たちの時間の結果だ。
 これは喜んでいいことだと思う。

 ――そんな風に考え事をしていた。

 だから、セリオの口から『耳そうじ』という単語が出てきたとき、私は間抜けな顔で聞き返してしまった。
 正直な話、私は発端となった耳そうじのことなんてほとんど忘れかけていたのだ。
「理想的な耳そうじを遂行するためには、強い信頼関係が必要だとうかがっています。
お二人に隠しごとをしていた私に、その資格があるとは思えません……」
 ずっと気にしていたんだろうか。
「馬鹿ね」
 あくまで真剣なセリオには悪いけど、ちょっと苦笑してしまった。
 ひたむきなこの子と、それを受け止め切れないでいる自分の両方に対して。
「信頼っていうのはね。そういうのも全部含めて相手が好きだってことなのよ」
 でも、その後に続いたセリオの言葉を聞いて、私は苦笑するのに失敗した。
 この子は今度も真剣だったから――。

「――私は、綾香さまの耳そうじをしてもいいのでしょうか?」

 私の返答は――まあ、言うまでもない。
 TKOで私の完敗というところ。

342 ◆IxdrHWXiqo :03/03/25 01:58 ID:LdgLfK99
>>332-341
以上
『幸せな空の色』でした
343 ◆prFZ01FgdY :03/03/25 02:06 ID:SFQ9VVTB
投稿します。
タイトルは『十八の夜』。13レス予定しています。
HM−13、つまり量産セリオの話です。
主人公は普通の男の子です(オリキャラ、というには個性もなければ名前もないので)。
ではよろしくお願いいたします。
344『十八の夜』(1/13):03/03/25 02:07 ID:SFQ9VVTB
「あなたの耳が見たい」
 十八歳になった日の夜、僕は彼女にそう告げた。

 彼女の耳は白いカバーで覆われている。
 機械的なそのデザインは、身にまとったやや古風なメイド服と対照的だ。
 それはセンサーになっているだが、それよりも人間と区別をつけるためという意味が大きい。
 それが無ければ人間と全く見分けがつかない。彼女はアンドロイドなのだ。
 来栖川製のメイドロボ、HM−13型・通称セリオ。それが彼女だ。

「私の耳を、ですか?」彼女は表情を変えないが、当惑しているのかもしれない。
「それは……なぜでしょうか」

 メイドロボにとって耳カバーを外すことはタブーとなっている。
 ロボットと人間の区別がつかないと社会に混乱をきたす恐れがあるからだ。
 もしメイドロボが耳を見せるとしたら、それは本当に信頼できる人間にだけだ。

「あなたの全てを見たいから」覚悟は決めていたはずなのに、口にするのはすごく勇気がいる。
 頭に血が昇るのを感じながら、思い切って言った。
「あなたが好きなんだ、セリオさん。……もちろん、一人の女性として」

 彼女は僕の母親代わりだった。本当の母は早くに亡くしたので覚えていない。
 親父は僕の世話やその他、家事一切をまかせるためにメイドロボを買った。それが彼女だ。
 それ以来、僕は彼女を本当の母親と思って慕ってきた。
 何年かして、親父も事故で亡くなった。遺産は残してくれたけど、僕は一人ぼっちになった。
 それからは、家族と呼べるのは彼女しかいない。
 僕が成長しても、彼女は年を取ることなく、いつまでも美しいままだ。
 僕の中にはやがて、家族に対する愛情とは別の憧憬が募っていった。
 『セリオ』というのはもともと製品の愛称なのだが、僕にとっては特別な存在を指す名前となっている。

 その彼女に僕は今、愛を告白したのだ。
345『十八の夜』(2/13):03/03/25 02:08 ID:SFQ9VVTB
「私はあなたのそのような気持ちを受けるべき存在ではありません」彼女は言った。
「私はメイドロボですから」
「そんなことは関係ない。ロボットは人間と愛し合うことはできないというの?」
「そんなことは……ありませんが」

 そう。人間とロボットが恋をしてはいけないということはない。
 ただし十八歳未満の人間と関係を持つことは法的に禁じられている。
 だから僕は今日まで待ったのだ。

「だったら、あとはあなたの気持ちだけが問題じゃないか」僕は言った。
「それとも……僕のことは好きじゃないの?」
「いいえ、そんなことはありません。あなたは親切ですし、素晴らしい人だと思っています」
 彼女はしばらく間を置いてから、目を逸らしがちに言った。
「……あなたに愛されることは、私にとっては大きな喜びだと思います」

「本当?」僕の心は歓喜に包まれる。
 今の言葉は、つまり僕の想いを受け入れてくれるということだよね?
「それじゃあセリオさん……その耳カバーを取ってみてくれない?」
「しかしそれは……」彼女はなおも躊躇した。
「僕はメイドロボとしてじゃなく、人間としてのあなたが見てみたいんだ」

 ロボットとして命令に従って欲しいんじゃない。対等な存在として愛し合いたい。
 それは僕の一人よがりかもしれないけど……
 でも、せめてロボットであることを示すその耳カバーを取って欲しい。
 僕にはそれが、人間とロボットを隔てる壁に見えるのだ。

「メイドロボはみだりに耳を見せてはいけないのです」
「わかってるよ。でもぼくの前でだけならいいでしょう?」
 彼女はしばらく考えこんで、
「やはり、お見せするべきではありません」
「どうして?」
「あなたがショックを受けるかもしれないからです」
346『十八の夜』(3/13):03/03/25 02:08 ID:SFQ9VVTB
 ショック? どういうことだろう。
 メイドロボは細部まで人間そっくりに作られている。もちろん耳もだ。
 見たことはないけど、彼女の耳も人間と同じはずだ。
「ショックなんて受けないよ」
 むしろ、人間そのものに見えて自然なはずだ。
「これを見ると、あなたは私を嫌いになるかもしれません」 
「どうしてぼくがセリオさんを嫌いになるの?」
「…………」彼女は黙り込む。
「ねえ、セリオさん。何があっても驚かないから」もう一度言ってみた。
「どうしても、あなたの耳が見てみたいんだよ」

「……ご命令なら」しばらくの沈黙のあと、彼女は答えた。
「命令なんかしてないよ!」そんなつもりじゃない。僕はただ……
「……お願いしてるんだよ。僕の気持ちを受け入れてくれないかな」

「わかりました」彼女は決然と言った。
「どうか驚かないでください」
「う、うん」
 彼女のその態度は、よほど大きな決断をした後のように思えた。
 今ごろになって、僕の心に得体のしれない不安がよぎった。

 彼女はます、右のカバーに手をかけた。
 カチリとロックをはずす小さな音がして、そっとカバーが外される。中から耳が顔を出した。
 それはどこも変わったところのない、綺麗な耳だった。

 いささか拍子抜けしていると、彼女はもう一方のカバーに手をのばしてロックをはずした。
 おそるおそるといった感じで、ゆっくりとそれが外される。
「!!」
 そこから姿を表した耳を見て、僕は言葉を失った。

 彼女の左耳は、何物かに噛み千切られたように、下半分が欠けていたのだ。
347『十八の夜』(4/13):03/03/25 02:09 ID:SFQ9VVTB
「セリオさん……その耳は一体……」
「…………」彼女は俯いて答えない。
「何があったの? いつ、どこで……」僕は完全に混乱していた。
「誰に……誰にやられたの?」
「旦那様に……です」彼女はつぶやくように答えた。

 彼女が旦那様と呼ぶ人物……
「親父に?」
 彼女は頷いた。
「だけど、親父はもう十年以上も前に死んだじゃないか」
 彼女はそれから何度か定期的なメンテナンスを受けに行っている。当然そんな大きな傷はすぐに見つかるはずだ。
「どうして治してもらわなかったの? それに第一、なんで親父はそんな事をしたの?」
 目を逸らす彼女を揺さぶるようにして、僕は尋ねた。
「旦那様は」ようやく彼女は口を開いた。「私を抱いてくださる時に、耳を噛む癖があったのです」

「…………」
 それは僕にとって、まさに雷に撃たれたような衝撃だった。
 親父が、彼女と……寝ていた?
「ある時、旦那様がはずみで私の耳を噛み千切ってしまったのです。もちろん修理することはできますが、私はそうしたくありませんでした。なぜなら……」

 やめてくれ。もう聞きたくない。
 僕は部屋を飛び出すと、玄関で靴を履いて外へ駆け出した。
 背中で僕を呼ぶ彼女の声がする。
 僕はその声が恐ろしいものであるかのように、ただ必死で逃げようとした。
348『十八の夜』(5/13):03/03/25 02:10 ID:SFQ9VVTB
 夜の町をあてもなく歩いた。
 いつの間にか公園に辿り着いていた。幼い頃、彼女に連れてきてもらった場所だ。
 彼女との思い出が心をよぎる。
 いつも優しくしてくれて、綺麗で、何でも知っていて、何でも出来る彼女。
 多分、普通の子供が母親に抱くよりもずっと強い憧れを、僕は彼女に向けていた。
 『大きくなったら結婚して』なんて、無邪気に言ったこともあったけ。
 でも、その時だって、彼女は親父のものだったんだ。

 そうか。きっと彼女は、今も親父が好きなんだ。
 耳を修理しなかったのだって……きっと親父との思い出だからからだろう。
 彼女にとっては、僕は親父の息子であるという、ただそれだけの存在なのかもしれない。
 そりゃ、親父だって男だ。綺麗なメイドロボがいれば手を出すかもしれない。
 でも、そんなことは考えもしなかった。
 僕は彼女を崇拝するあまり、勝手な思い込みをしていたのだ。
 僕が……子供だったっていうことだろうか。

 夜の公園でしばらく苦い物思いに耽っていると、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、彼女がいた。耳にはちゃんと元通り、あのセンサーカバーがついている。
「……よくここにいると分かったね、セリオさん」
「──衛星で探索させていただきました」
 そういうことか。携帯かなんかの電波ですぐに捜せるんだな。
「そのような薄着では風邪を引いてしまいます」彼女はコートを持ってきてくれていた。
「ああ、そうだね……ありがとう」
 もう頭も冷えた。コートを羽織ると、僕たちは家路についた。
 帰り道、僕たちは一言も話さなかった。彼女は何を思っているのだろう。
349『十八の夜』(6/13):03/03/25 02:11 ID:SFQ9VVTB
「私のことが嫌いになりましたか?」家に着いてから、彼女は僕に聞いた。
「そんなことはないよ……」嫌いになんかならない。彼女のことを遠く感じて、悲しいだけだ。
「不愉快な思いをさせて申し訳ありません。耳はすぐに修理いたします」
「そんな必要はないよ。親父との思い出を大切にしたいんだろ?」なんか、棘のある言い方になってしまった。
「そうともいえますが……いえ、そういう事とは少し違います」
「じゃあ何?」
「耳は……メイドロボにとって特別なパーツなのです」

 彼女は説明してくれた。耳のパーツの形成は製造の都合上、手作業になっているらしい。
 型から作るのではなく、手やへらを使って樹脂から造形する職人がいるそうだ。
 つまり、同じ耳は二つとない。人間の指紋が一人一人違うように。
 同じに見えるメイドロボでも、耳だけは一体一体微妙に違うのだ。

「ですから、私は持って生まれた自分の耳を大切にしたかったのです」彼女は言った。
「たとえ傷がついても、それが自分が生きた証として残しておきたいと思いました」
「そうだったのか……」
「しかし、それは私のエゴでした。明日にでも修理を依頼して……」
「駄目だよ!」僕は慌てて言った。
「そのままでいい。別に直す必要なんてないよ」
 なんだか恥かしかった。彼女を追い詰めるほど、ぼくは醜態をさらしていたのか。
 彼女の意思を尊重したいと、あれほど思っていたのに……
「僕、そのままでもあなたのことが好きだから」
 僕は真っ直ぐに彼女の瞳を見た。そこに感情は見えないけど……
350『十八の夜』(7/13):03/03/25 02:12 ID:SFQ9VVTB
「でも、あなたがまだ親父のことが好きなら、僕はあきらめるよ」僕は続けて言った。
「その時は……今まで通りの関係でいてくれるよね?」 
「……好き、という気持ちがどういうものか、実は私にはよくわかりません」彼女はしばらく考え込んでから言った。
「しかし……旦那様との思い出も大切ですが、今の私のマスターはあなたです」
 彼女は僕の目をじっと見つめて、さらに言った。
「今の私に一番大切なのは、あなたです」

 僕は、彼女を強く抱きしめた。
 彼女は、僕を受け入れると言ってくれたんだ。僕も彼女を受け入れたい。
 彼女は好きという気持ちがわからないと言った。それでもいい。僕を大切だと言ってくれたんだから。
 それとも、メイドロボだから主人を大切に思う、ただそれだけのことなのだろうか。
 それは単なるプログラムにすぎないかもしれない。人間の愛とは違うのかもしれない。
 それならそれでも構わない。僕はそんな彼女を受け入れたい。
 彼女の全てを。

 僕たちは唇を重ねた。
 初めて触れる彼女の唇。柔らかく、あたたかい。
 こうして触れ合うことを、何度も何度も夢見てきた。十八になるこの日まで。
 もっと彼女とと一つになりたい。
「好きだよ、セリオさん。大好きだ」他に言葉がみつからない。
「はい」彼女は頷いて言った。
「どうか私を愛してください」
351『十八の夜』(8/13):03/03/25 02:13 ID:SFQ9VVTB
 彼女は服を脱いだ。
 はらりと衣が床に落ちると、彼女の裸体が室内の淡い光にさらされる。僕は息を飲んだ。
 それは幻想的なまでに美しかった。
 首から肩にかけての優美なライン。豊かで整った形の乳房。鋭く引き締まったウエスト。なだらかな腰の曲線が、すらりとした脚へと続いている。
 優雅な曲線と曲線が、互いにリズムを持って引き立て合っている。まるで天上の音楽だ。
 まさにそれは人工の美の極地といえるだろう。
 彼女を設計した人物は天才だと思わざるをえない。偉大な芸術家のみが、この高みに達しうるだろう。

 その美しさは僕に気後れさえ感じさせた。
 この非のうちどころのない美に対して、自分があまりに惨めに思えたのだ。

「耳のカバーはどういたしましょう」彼女が聞いてきた。
「行為の邪魔になるかと思いますので、取ったほうがよいかと」
「あ、ああ、そうだね」彼女の即物的な言い方に、なんだか調子が狂ってしまう。
 彼女は耳カバーを外すとテーブルに置いた。
 再び姿を表した彼女の耳と、傷のあと。もちろん今度は驚いたりしない。
 この傷も彼女の一部なら、それさえも好きになりたい。今はそう思っている。
352『十八の夜』(9/13):03/03/25 02:14 ID:SFQ9VVTB
 僕も裸になり、ふたりでベッドに入った。
 二つの身体が重なり、肌と肌が絡み合う。
 彼女の胸の先が擦れるのが、妙にくすぐったく感じた。

 唇をむさぼるように重ねながら、彼女を愛撫した。
 首筋も、背中も、太ももも。手の平で彼女の全身を味わうかのように。
 首筋に口づける。彼女の肌はどこも滑らかで、無味のはずなのに何故か甘いような気がした。
 柔らかい弾力を持った胸。その先にツンと尖った突起が可愛らしい。
 先端を口に含む。他より少し硬い弾力。ぼくはそれを極上のお菓子のように丁寧に味わった。
 彼女は僕の頭を撫でてくれる。まるで子供みたいでちょっと恥ずかしかった。
 でも、彼女にこうして甘えるのは、昔に帰れたようで本当は嬉しい。
 赤ん坊になったような幻想を抱きつつ、しばらくは彼女の乳房に無心に縋りついた。

 彼女はさっきから僕に身を任せてじっとしている。
 彼女も少しは感じてくれるのだろうか。心配になって、ちらりと彼女の顔を見た。
 表情はいつもの通りだが、頬には少し赤みがさしている。
「とても気持ちいいですよ」目が合うと気遣うように言ってくれた。「でも……」
 しかし、僕の方は、いまだ十分な態勢となっていない。力ない状態のままだ。
「ご、ごめん。……おかしいな」
 まだどこか、気後れしているのかもしれない。何しろ彼女は、母親みたいな存在なのだ。

「大丈夫です。私におまかせください」
 僕を仰向けに寝かせると、今度は彼女が僕を愛撫してくれた。
 体のいたるところを、彼女の手が優しく撫で、あるいは舌が這う。
 火照った肌は敏感になっていて、その愛撫はとても心地よい。
「どうかリラックスして、私のことを感じてください……」
 彼女の囁くような声は、子守唄のように心を溶かす。
 まるで、海に浮かんで波にたゆたっているような気分だ。

 やがて彼女は、僕のものを口に含んだ。
353『十八の夜』(10/13):03/03/25 02:14 ID:SFQ9VVTB
 彼女の口の中は温かい。優しく包まれているようだ。
 彼女の舌が僕をくすぐる。
 それは羽のように軽やかで、しかもねっとりとした動きだった。
 その淫靡な感覚に、僕の中の官能はあっという間に高まっていった。
 彼女の口の中で、僕のものは次第に大きくなっていく。
 彼女が口を離したときには、それはすっかり逞しくなっていた。
 
「失礼いたします」
 彼女は僕に跨った。
 僕のものを手に取って、自分のその部分に当てた。
 そこは少しだけぷっくりと膨らんでいて、縦に一本の筋が穿たれている。
 その光景は神秘的でも淫猥でもあり、とても魅力的だ。
 彼女は自らじらすように、僕の穂先でその割れ目をなぞった。
 それから位置を定めると、彼女は少しずつ身を沈めていく。

 彼女の中に入っていく。彼女の中を押し拡げながら。
 やがて最も深い部分に到達した。二人が局部はぴったりと密着する。
 彼女と完全に繋がった。
 幼いころからずっと一緒だった人。憧れだった人。
 その彼女と今、こうして一つになっているのだ。
 心の隙間という隙間が埋まって、満たされていくのを感じた。
354『十八の夜』(11/13):03/03/25 02:15 ID:SFQ9VVTB
 しばらくはそのまま一体感を味わっていた。彼女の中は熱く、とろけそうだった。
 それから彼女は動き始めた。彼女のお尻が、淫靡に円を描く。
 悩ましげなストロークに合わせて、柔らかな襞が僕のものにまとわりつく。
 長い髪がさらさらと揺れる。それは僕の心をますますくすぐった。

 腰の動きに合わせて、彼女の乳房は上下に揺れている。
 あまりにも魅惑的な光景。僕はそれに手を伸ばした。
 柔らかい彼女の胸をやや強く揉んだ。完全に興奮した状態の僕には、力の加減があまりできない。

 彼女の白い肌は上気して、桜色になっている。彼女も感じてくれているんだろうか。
 彼女の顔を見た。頬を染めて、少し切なそうなその表情。
 もともと彼女は殆ど表情を変えない。まして、こんな色っぽい顔など想像もしなかった。

 母親のように優しくて、時には叱ってもくれて、困った時にはいつも助けてくれた彼女。
 いついかなるときも落ち着いている、そんな彼女を僕はどこか神聖視さえしていた。
 その彼女が、僕と性の快楽を共有している。なんだか、夢の中の出来事のようだ。

「セリオさん、セリオさん……」
 彼女の名を何度も呼んで、その体を強く抱いた。
 もう僕は達しようとしていた。
「好きだよ、好きだよ、好きだよ……」
 馬鹿になったように何度も繰り返しながら、僕は彼女の中を熱いものをたぎらせた。
 それは後から後から沸いてきて、彼女の中へ迸る。
 もっと、もっと彼女の中を僕で満たしたかった。
 まるで、そうすることで自分の想いを彼女に注ぎ込めるかのように……
355『十八の夜』(12/13):03/03/25 02:16 ID:SFQ9VVTB
「ご満足いただけましたか?」
 彼女が聞いてきた。でも、あまりそういう言い方はしてほしくない。
「……セリオさんは?」
「私は……幸せ、だと思います。しかし私のようなロボットが相手で、あなたはご満足でしょうか?」
「僕も幸せな気分だよ。あなたがロボットかどうかなんて関係ない」
 人間とロボットの違いなんて、どうでもいいことだ。僕には彼女しかいないんだから。

 彼女をまた、力いっぱい抱きしめた。
 髪から耳が覗いていた。右耳。傷のないほうだ。
 なんとなく、その耳たぶを噛んでみた。
 ちょっとコリッとした感覚で、なかなか気持ちいい。
 彼女はちょと切なそうな吐息を漏らした。それがとても可愛い。
 先程までの灼けつくような渇望とは全く違う愛おしさが、僕の中に満ちていた。
 このまま、彼女を抱きしめて眠りたい。
「ねえ、セリオさん、このままいっしょに寝よう」
「はい」
356『十八の夜』(13/13):03/03/25 02:17 ID:SFQ9VVTB
 幼い頃の夢を見た。
 彼女との、他愛のないやりとり。
  ──どうして、セリオさんとはけっこんできないの?。
  ──残念ですが、法的には人間とロボットは結婚できません。
  ──ほうてきでなくてもいいから、ぼくセリオさんとけっこんしたい。
  ──そうですね、愛し合って一緒に暮らせば、実質的に結婚しているのと同じかもしれません。
  ──うん。だからぼくがおおきくなったら、けっこんしよう。やくそくだよ。
 ええ、わかりました、と彼女は指切りしてくれた。
 そしてそのあと、ぽつりと呟いた。
  ──でもあなたが大きくなったら、そんなことは忘れてしまうでしょう……

 そこで目が覚めた。まだ夜中だった。
 彼女は僕の隣で寝ている。正確にいうとスリープ状態になっている。
 彼女は充電時以外に睡眠を取る必要はないけど、今は僕に合わせてくれているのだ。

 僕はまだあの約束を覚えているよ、と心の中で話しかけた。
 声をかけたら、小さな声でもすぐに起きてしまうだろう。
 今は、寝顔を見ていたい。

 耳カバーのないその姿は、まさに人間そのものだ。
 ロボットであり、メイドさんであり、母親であった彼女。
 でもこれからは、彼女はぼくの恋人だ。
 髪の間から、耳の傷が見えた。
 僕はこの傷も、それにまつわる思い出も、全てまとめて彼女を愛したいと思う。
 彼女は僕の想いを完全には理解できないかもしれないけど……
 それでも、理解しようと努力してくれるだろう。そんな彼女だから、僕は大好きなのだ。

 ちょうど窓から指しこんだ月の光が、彼女の外した耳カバーを照らして反射していた。
 今まで、ロボットと人間との壁を象徴するように思えたそのカバー。
 しかし今の僕には、その冷たい無機質な光さえもなぜか優しく、愛おしく感じられた。
357 ◆prFZ01FgdY :03/03/25 02:18 ID:SFQ9VVTB
『十八の夜』でした。
ありがとうございました。
358名無しさんだよもん:03/03/25 02:20 ID:EoODfIAz
今から投稿します。タイトルは『名前』
20レスを予定しています。
キャラクターを傷つける話が苦手な方はスルーしてもらった方がいいかもしれません。
359名無しさんだよもん:03/03/25 02:24 ID:EoODfIAz
すみません、文の切り方がまずかったようで、数レス伸びそうです。
それでは改めて。
360『名前』:03/03/25 02:24 ID:EoODfIAz
 蝉の声もやかましい八月の午前中。
 日に数本しか運行しないくたびれた路線バス。
 うだるような真夏の暑い日差しの中、黒々とした煙を吐き出しながら、舗装されているというのにでこぼこした山道をひた走る。
 クッションの薄い座席はその揺れを吸収しきることが出来ず、長時間過ごすには少々座り心地が悪い。加えて備え付けの大きな扇風機が懸命にその老体を鞭打ってはいるが、悲しいことに努力に見合った効果を上げているとは言いがたかった。
 それでも見渡す限りに広がる深い緑の陰になっているために、窓を開けることでどうにか耐えられる暑さで済んでいる。
 開け放たれた窓からはむっとするような草木の匂いや蝉の声が、まるで叩きつけられるように車中に入り込んでくる。その強い匂いは、だが今の俺にとっては不快なものではなかった。そういった慣れない環境は、都会から離れ、旅路に着いているという実感を与えてくれる。
 そして何より傍らに先輩がいてくれることが、俺の気分を高揚させてくれた。
361『名前』:03/03/25 02:25 ID:EoODfIAz
 高校を卒業して初めての夏。
 先輩の両親が出張で遠くへ行かなくてはならなかった為、俺の提案で住み慣れた街を離れ、二人きりで旅行に来ていた。
「折原君と一緒なら」
 普通なら反対されるところをご両親からこう言われて、俺がどれだけ嬉しかったかちょっと口では説明しきれないほどだった。
 せっかくの旅行だ。観光地に行きたいところではあったのだが、彼女は景色というものに触れることが出来ない。だから綺麗な空気と新鮮な料理を楽しんでもらおうと、有名な観光地を避けて田舎の浜辺に行くことにした。
 まあ、その方が旅費も安く済むなんて野暮なことは秘密だ。
 候補に挙がったのは由起子さんの古い知り合いが住んでいるという海辺の町。話によると観光地ではないがなかなか新鮮な海の幸が味わえるらしい。
「浩平君と旅行かぁ。今から楽しみだね」
 今の街からほとんど外に出たことのない先輩は、旅行の話が決まってからずっと嬉しそうにしていた。そんな彼女を見てると俺もつられて心が弾んでしまう。
 期待に応えないわけにはいかないな……そう決意して、でも何が出来るのかわからなくて悶々として、結局いつもの通りが一番という結論に達して、今日がその旅行の日。
 朝一番で支度して、いくつかバスを乗り継いで、今はそろそろお昼という時間になろうとしていた。
362『名前』:03/03/25 02:26 ID:EoODfIAz
 バスが進むにつれ木々の切れ間がだんだんと多くなる。そこから吸い込まれそうなほど青い空やまばらな家並み、そして待ち望んでいた海がちらほらと顔を覗かせていた。
「おっ、ようやく少し見晴らしのいいところに出たな。そろそろ着くぞ」
 俺の言葉に反応して、うとうとと夢うつつ気味に頭を垂れていた先輩がその顔を上げる。
「……もうそんな時間なんだ。どうりでおなかが空くわけだよ」
「はは、先輩の場合いつもだろ?」
「わ、ひどい。そんなことないよ、私だってそんなに……あ」
 あくび混じりに話していた先輩だったが、何かに気が付いたのだろう。その可愛らしい小さな鼻を動かして、しきりに何かのにおいを嗅ぎだした。
「ん?」
「これ、海の……潮の香りかな」
 先輩の言葉に促されるように辺りのにおいをかぐ。すると、強い草の匂いに混じって微かな塩気が混じっているのに気が付いた。
「ほんとだ。こんなところまで届くんだな」
 バスの中ではよくわからないが、おそらく海から風が吹き付けているのだろう。
「うん。なんだかとっても不思議なにおいだね」
 そう言って光を映さない目を細めて微笑む。
 幼い頃に視力を無くした先輩は、まだ海というものがどんなものか知らない。見当違いの方向を見て物珍しそうに鼻をひくつかせる姿は、彼女には悪いがとても可愛らしかった。
「先輩、そうやってるとなんだか犬みたいだな」
「えっ、いぬー!? 浩平君またそういうこと言うー」
「ははは」
 ぽんぽんと俺の胸板を叩く先輩。もちろん本気で叩いているわけではない。俺達はそうやっていつものように、気安いもの同士の掛け合いを楽しんでいた。
 楽しいひと時。過ぎていく時間が惜しくなるほど、俺は幸せだった。

 もうすぐ海に着く。
 先輩も喜んでくれているし、きっと楽しい旅になる。
 海に行ったら何をしよう。先輩は泳げないだろうけど、浮き輪でも買って海水浴でもしようか。先輩は海の水が塩辛いということを知っているのだろうか。もし知らなかったなら、口にした時にどんな顔をするだろう?
 ここに来るまでに頭の中で何度も反芻した考えを、自分でも呆れるほど浮かれた気分でもう一度繰り返す。
363『名前』:03/03/25 02:28 ID:EoODfIAz
「浩平君」
 先輩の顔を見ながらそんなことを考えていると、ふと、少し神妙な顔つきで先輩が俺の名前を呼んだ。
「うん? どうしたんだ、先輩」
「ずっと言いたかったんだけどね、その先輩っていうのやめようよ。もう学校は卒業したんだし」
 それは初めてではなく、確か前にも言われたことのあることだ。
「んー、ってもなあ。先輩は先輩だし、今更名前では呼びにくいよ」
 実のところ、一時は名前で呼ぼうとしていたこともあった。だがどうにも気恥ずかしくて、やっぱりそのまま先輩と呼んでいる。
「じゃあ私も浩平君のこと折原君って呼ぶよ?」
「……それは嫌かも」
 先輩の綺麗な声で「浩平君」と呼ばれるのはとても気持ちがよくて、俺はその呼ばれ方を凄く気に入っているのだ。
「ね。だから」
「んー」
 気恥ずかしさと、それからほんのちょっぴり意地悪をしてみたいという気持ちから、俺は言葉を濁しつつ窓外に視線を逸らす。
(なんと言うか……こういうことは、こう、改まって言われると恥ずかしいんだよな)
「だめかな」
 車内には俺達以外に客の姿はなく、がらがらで貸切の状態になっていた。そんな中で先輩は、のしかかるようにして俺に迫ってくる。
 狭苦しい二人掛けの座席でそんな体勢になられると、いやでも胸の膨らみが俺の肩にぶつかってしまう。
 そんな格好は人がいないとはいえやっぱり恥ずかしい。ただでさえ暑い車内、加えて先輩の体温で俺は汗だくになってしまった。
364『名前』:03/03/25 02:29 ID:EoODfIAz
(こんなところでその体勢は反則だぜ、先輩)
「せっかく旅行に来てるんだし、ね?」
 そう言って先輩は俺の首に腕を回してきた。彼女は目が見えないせいか、ときどきこういう場所で凄く大胆な行動をとることがある。
 恥ずかしくてくすぐったくて、笑いながらしょうがないな、なんて言おうとした瞬間。
 唐突にそれは起こった。

「うわっ!?」
 突然運転席の方から男の野太い悲鳴が聞こえたと思った途端、鼓膜が破れるかと思うほどのブレーキ音が静かな山道に響き渡る。
 何が起こったのかなどと考える暇もなく、大きなもの同士がぶつかるような激しい音が鼓膜を震わせた。
 それと同時に車全体が急停止し、どんっ、と腰の辺りに突き上げるような衝撃がくる。俺はつんのめるようにして身体が前に押し出され、肩の辺りに物凄い痛みを受けて意識を失った。

 意識を失うその瞬間。
 先輩の方を見ていた俺の網膜に、頭から前の座席に凄い勢いで激突する彼女の姿が映しだされた。
365『名前』:03/03/25 02:30 ID:EoODfIAz
「う……」
 意識が戻るまでどれだけの時間が過ぎただろうか。俺は何かが燃える音と肌を焼く熱い空気とに我慢できなくなって目を覚ました。
 まるで靄がかかったようにぼんやりとした目で辺りを見回す。赤く染まった景色が飛び込んでくるが、混乱した頭には何が起こっているのかよくわからなかった。
「いてぇ……くそ」
 少しづつ意識が戻るにつれ、肩口から頭にかけて鈍い痛みが走る。手を当ててみると激痛で呼吸ができなくなる。打撲か、下手したら肩あたりを骨折をしているかもしれない。首も少し傾けるだけで痛んだ。鞭打ちにでもなったのだろうか。
 そうか。さっきバスが急に止まって、それで俺は――
「――っ! 先輩っ!」
 さっき見た光景を思い出し、混濁していた意識が一気に覚醒した。慌てて傍らに視線を向けるが、視界が赤く染まっていてよく見えない。もどかしさで目をこすってみたら、手に何か生暖かい液体がこびりつく。どうやら自分の血が目に入っていたようだ。
 その量を見て鳥肌が立つが、今はそれより先輩のことだ。衣服で目の辺りを拭くと少しだけ視界が利くようになる。そして探す必要も無く傍らに倒れる先輩を見つけた。彼女は座席にうずくまるようにして倒れている。前の座席に激突し、そのまま崩れ落ちたようだ。
「先輩、大丈夫か!?」
「ん……」
 軽くゆするとうめくような声が聞こえた。呼吸はしている。大丈夫だ。すぐに意識のない先輩を抱き起こそうとする。
「ぐっ……!」
 痛めた肩に激痛が走り、危うく先輩を取り落としそうになってしまうが、もう片方の腕で何とか持ちこたえられた。ゆっくりと彼女の上体を起こす。
(うわ……)
 座席と激突した個所であろう額は綺麗に割れ、緩やかに血が吹き出ていた。先輩の長く艶やかな黒髪は自身の血でべったりと濡れ、小振りな顔に幾筋もへばりついている。
(このままじゃやばい、なんとかしないと)
 状況を把握しようと周辺に視線を向けて、俺は改めて事態の異常さを思い知ることになった。
366『名前』:03/03/25 02:30 ID:EoODfIAz
 乗っていたバスが燃えていた。
 運転席の方は大きくへしゃげ、無残につぶれている。俺達はどうやら最後部の座席だったおかげで衝撃がやわらいだらしい。フロントガラスの外には一台の車が、無残にへしゃげて潰れているのが見えた。
(事故か……正面衝突だな)
 向こうの車はガソリンに引火してしまったのか、完全に火達磨になっている。こちらはまだそこまで被害が及んでいないようだが、相手の火が飛んできたのか、車内のあちこちに火の手が上がっていた。
 あの様子では運転手も向かいの車の人間も恐らくは生きてはいないだろう。救急車などが来ていないのは思いのほか意識を失っている時間が短かったのだろうか。
(とにかく車外へ……このままじゃ危ない)
 すでに火は座席シートに引火して、髪を焦がしそうなぐらいすぐ近くまで迫っていた。床も古めかしい木製だ。俺の意識が戻るのがもう少し遅かったらと考えるとぞっとする。
(くそっ!)
 無事な方の腕で先輩を抱えて逃げようとするが、俺にも事故のショックがあったのだろう。利き腕でないこともあり、左腕が震えて上手く力が入らない。それに彼女は頭部に傷を負っている。あまり揺らしたりするのは危険に思えた。
 苦心の末、脇の辺りから頭部にかけてを抱きかかえるようにして持つと、無理やり引き摺って移動を始めた。脚の辺りが擦り傷だらけになってしまうだろうが、この際我慢してもらうしかない。
367『名前』:03/03/25 02:31 ID:EoODfIAz
 火事場の馬鹿力というのだろうか。俺は片手一本で先輩のことを引き摺り、なんとか車外にまで脱出することに成功した。
「先輩、大丈夫か先輩」
 事故現場から安全そうな場所まで離れ、彼女を静かに地面に横たえると、なるべく頭を揺らさないように体をゆすりながら呼び掛ける。
「……ごほっ」
 咳き込むようにして先輩の口から息と共に少量の血が漏れた。座席にぶつかった時に喉か肺を傷つけたのだろうか。それとももっと重要な器官を……
「早く救急車を呼ばないと」
 思い立ってポケットの中の携帯電話を見るが、当然のように圏外であった。
 バスに無線がついているのかもしれないが、すでに運転席のあたりは火に覆われてしまっている。そもそも使い方もわからない。
 車通りもあまり無い山道、この燃えている車以外にほとんど車など見なかった。街からもまだ距離があり、発見してもらうまでにどのぐらい時間がかかるのか想像も出来ない。
 ただ待つだけではどうしようもないので、とにかく携帯電話の電波が届く位置まで歩こう、そう思った時。
「―――っ!」
 打ち上げ花火のようなどーんという重い音と共に、背中を灼く熱い風が背後から吹き付けてきた。
 とうとうバスのガソリンに対向車の火が引火したようだ。間一髪、と言うほどではないが、俺が先輩のように意識を失ったままだったら今もあそこにいたわけで、少しだけ自分自身に感謝した。
「……熱い……」
「先輩?」
 今の爆発の衝撃で目が覚めたのか、先輩がゆっくりと目を開ける。
368『名前』:03/03/25 02:32 ID:EoODfIAz
「よかった、意識が戻ったんだな」
 この目を開けるという行為は、まだ目が見えいていた頃の名残なのかな。
 先輩の意識が戻ったという安心感からか、そんな不謹慎なことを考えた。
「痛いよ……浩平君……どこ……?」
 俺を求めて宙をさまよう彼女の右手を捕まえると、両手でしっかりと握り締めた。
「ここだよ先輩。いま救急車を呼んで来るからな」
 その手を先輩はしっかりと握り返してくる。
「浩平君……」
 だが、彼女の様子がおかしい。もう片方の手で喉のあたりを押さえると、しきりに咳をするのだ。
「どうした? 喉が痛むのか?」
 俺の問いかけにも答えず、ただ咳を繰り返す。それに連れて再び血が噴き出すが、彼女にはそれを気にする様子は無い。
「おかしいな、どうしたんだろ……」
「先輩、あんまりやると喉を痛めるぞ」
 落ちつかせようと握り締めた両手に力をこめると、喉を押さえていた左手で俺の手を撫でてきた。
「浩平君、だよね?」
「そうだよ。さっきから話してるじゃないか」
「悔しいな、声が出ない……」
「……何を言っているんだ?」
 さっきから先輩は俺の事を呼んでいるし、その声は喉の血のせいか少しくぐもっていたが、しっかりと俺の耳に届いている。
 先輩はその言葉にも応えず、ただ苦しそうな表情をするだけだった。
 どうも会話がかみ合わない。というか、先輩に俺の声が聞こえていないような気がする。
 聞こえていない……?
「冗談だろ……やめてくれよこんな時に」
 まさか。いや、そんな馬鹿な。
「浩平君、意地悪しないでよ。お願いだから返事して……!」
 だがそんな願いとは裏腹に、痺れを切らしたようにはっきりと先輩が言った言葉は、俺のくだらない想像を肯定するものだった。
369『名前』:03/03/25 02:33 ID:EoODfIAz
 燃えるバスの熱気が伝わってきていると言うのに、背筋に寒気が走る。
 車の燃える音がうるさいとはいえ、目が見えない分彼女の聴覚は鋭敏だ。こんな近くで話す声が聞き取れないとは思えない。
「先輩、まさか、耳が」
 思わず声が震える。
 先輩の顔に浮かぶ混乱した表情、繰り返す咳、俺の声に対して反応してくれないこと。それらが指し示す結論は、俺には一つしかないように思えた。
 そして先輩が突然はっとしたように目を見開くと、喉を押さえていた方の手で耳を覆った。
 もし俺の推測が正しいなら、自分の声だけでなく、咳の出る音すら聞こえていないということに気がついてしまったのだろうか。
「と、とにかく医者だ」
 自分自身を誤魔化すようにそう言うと、
 耳の事だけでなく額からの出血も馬鹿にならない。これまで車が通る気配も無かったし、とにかく人里に向かって歩いてみよう。携帯が繋がるところまで歩けば救急車が呼べる。
「すぐ戻るからな。動かないでくれよ」
 そういって手を離そうとしたが、先輩は俺の手を握ったまま離そうとしなかった。
「先輩……」
 不安なのだろう。俺の手を握る手は大きく震え、それほど強くない力で俺の手を懸命に握っている。出血のせいもあってかその顔からは血の気が引き、唇まで真っ青になってしまって痛々しいほどだ。
 どうしよう。こんな状態の先輩を一人で置いて行っていいのだろうか。
「……できないよな、そんなこと」
 仕方が無い。どの道ここにいても事態がよくなるとは思えない。俺は先輩を出来るだけ慎重に起こすと、肩で支えながら立ち上がった。彼女は驚いて少し抵抗してきたが強引に立ち上がらせる。
 片腕では抱きかかえる事なんて到底出来ないので、肩に担ぐようにして歩いてもらう事にした。幸い体を痛めてはいなかったらしく、よろよろと頼りなくはあったが歩く事はできそうだ。
「いくぞ。しっかり掴まってろよ」
 そんなこと俺が言うまでも無く、先輩は歩きづらいほど抱き付いている。怪我のせいかその体は熱を帯び、血と汗の湿りや照りつける夏の太陽とともに俺の体力を奪う。
370『名前』:03/03/25 02:37 ID:EoODfIAz
「くそ。これじゃどこまでもつかわからんぞ」
 やはりあの場で留まって車が通りかかるのを待つべきだったか。
 そう思った時。視界の端、緑に覆われた遠くの山道で動くものがあった。
 見間違いかと思って目をこすったが、それは確かにそこにいた。そして少しづつこちらに近づいているようだ。
「車だ。こっちに来る。助かったぞ、先輩」
 担いでいる先輩に声を掛けるが、先輩は黙ったままだった。気絶しているのではないかと思ったが、その目はちゃんと開いていた。
 俺は先輩の返事を待たず、空いている右手を車に向かって振ろうとするが、怪我をした右手は動いてはくれない。どうせこの事故現場が見えないはずはないので、多少もどかしいがここに到着するまで待つことにした。

 車を待つ間にも先輩の呼吸は乱れ、温かい血が俺の肩に染みを作る。
(はやく、早く来てくれ……!)
 実際はそれほど長い時間ではなかったのかもしれないが、俺には気が狂いそうになるほどのもどかしさを抑えられない。
 その白いミニバンはこちらに気付いたのか、近づくにつれ徐々にスピードを上げる。
 そして俺達の目の前で、軋むような制動音とともに急停止した。
「おいっ、大丈夫か君達っ!」
 運転席から白い服を着た髪の長い女の人が降りてきて、俺達の方に駆け寄ってきて、それで俺は安心してしまって……
「あ、おいっ! 重いじゃないか! 気絶するならせめて車に乗ってからに……」
 そんな声を遠くに聞きながら、俺の意識は闇へと落ちていった。
371『名前』:03/03/25 02:38 ID:EoODfIAz
 くすくす

 きみがわるいんだよ
 ほら
 またひとり
 きみのせいでおかしくなった

 くすくす


 頭の中に響く少女の声。
 嫌な、思い出したくも無いその声は、俺の心にできたばかりの傷を深く抉った。

 そう。俺のせい。
 俺が旅行になんて誘わなければ。
 ―――ちがう。それは原因じゃない。
 原因はもっともっと前。
 こんな俺がこの世界に戻ってなんてこなければ―――
372『名前』:03/03/25 02:39 ID:EoODfIAz
「―――おい」
 体を揺さぶられて唐突に意識が戻る。すると、目の前に目つきがきつい女性の顔があった。
「大丈夫か? うなされていたようだが」
 よく見るとその女性は、先ほど車から降りてきた人のようだ。
「ここは……先輩は?」 
 体を起こそうとするが、右手から肩にかけてギプスのようなもので固定してあって、思うように身体が動かせない。
 だがそれ以上に、肩と首の辺りが猛烈に痛んだ。
 俺の様子に気がついたのだろうか。目の前の女性が心配そうに口を開く。
「君が意識を失っている間に手当てした。彼女が心配なのはわかるが、君自身骨折と脱臼が併発している重症患者なんだ。あまり無理はするな」
「でも……」
 なおも動こうともがくが、肩を細い腕でそっと抑えられてもう一度横になった。
「彼女なら隣で眠っている。大丈夫だ。命に別状は無い。今はゆっくりと休め」
 横になってみると、冷静に今いる場所が見えてきた。
 病院かどこかだろうか。無機質な真っ白い壁、面白みのない真っ白な天井。そして程よい冷房の効いた部屋で、清潔そうなベッドに横になっていた。
 右隣を見てみると、同じように白いベッドに先輩が横になっている。眠っているのだろうか。
「あんたが運んでくれたのか」
「ん? ああ、そうだ。酷い事故だったし本当はもっと大きな病院に運びたかったんだが、あそこから大きな街の病院まで運ぶのでは彼女の額の出血が心配だったものでな。とりあえずうちに運んだ。小さな病院だが必要な設備はそれなりにある」
「うちって……あんた医者なのか?」
「そうだ。大変だったんだぞ? 一人で君達を運ぶのは」
 そうか。白い服と思っていたのは白衣だったんだな。
 ……医者っていうものは、病院の外でも白衣を着るものなのだろうか?
「ん? どうかしたか?」
「いや、いい。通りがかってくれて助かった」
 冗談を言う場面でもない。俺は喉まででかかったその言葉を飲み込んだ。
 白衣よりもむしろ、その合わせ目から覗くTシャツの柄が気になったが……
373『名前』:03/03/25 02:40 ID:EoODfIAz
「警察にも連絡しておいたから、今頃は事故現場に行っているだろう。何せ山道だからな。私が通りかからなかったらどうなっていたか」
 それを考えると背筋が凍る。あそこで意識を失ったということは、とても先輩を抱えて動き回ることなど出来なかっただろう。
「命の恩人だな。礼を言うよ」
「礼か。それは出世払いできちんともらうとしよう。それより、彼女のことなんだが……」
 怜悧な美貌の割にどこかとぼけたところのあった女医が、不意に真剣な顔をした。
「彼女、盲目なのは昔からだな?」
「……ああ」
 彼女が何を言いたいのかは大体想像がつく。
「では、耳が聞こえないということはなかったか?」
 後に続いた言葉も、ほぼ俺の予想通りだった。
「いや、いままではちゃんと聞こえていた」
「そうか。やはりこの事故のショックなのだな」
 予想は出来た。でも、だからと言って望んでいたわけではない。
「君が知っているかどうかはわからんが、今彼女は全聾と言っていい状態になっている。精神的なショックから来るものなのか肉体的なものなのかはわからんがね」
 ……ああ。やはりそうなのか。
 そうではないかと思っていたが、頭のどこかでまさか、と思っていた。いや、思いたかった。現実として捉えたくなかったと言ってもいい。
 だが医師にはっきりと告げられて、それがどうにもならない現実だと思い知って、きりきりと胸の奥が痛む。
「辛そうだな」
 辛い?
 辛いだって?
 馬鹿言うな、辛いのは俺じゃなくて……
374『名前』:03/03/25 02:41 ID:EoODfIAz
「彼女、さっきは少し錯乱していてな。鎮静剤を打っておいた。しばらくは泥のように眠っているだろう」
「……」
 俺は何も答えられなかった。
 どうして?
 どうして先輩ばかりがこんな目にあうんだ?
「事故が事故だ。生きていたというだけでも幸運だと思ってくれ。……君も、彼女も」
 言葉は耳に入っては来るが、俺の意識を素通りして行った。
「君にも鎮静剤を打とう。あんなことの後で多少なりとも興奮しているだろうからな。ゆっくり眠るといい。今は、何より睡眠が大事だ」
 ふと見ると、女医が座る椅子の傍らには既に注射具が用意されていた。
「その前に君達の連絡先を聞かせてくれ。親御さんに連絡しなくてはいけない」
「連絡先……しまった」
 問われて俺は先輩の両親は出張で連絡がつかないことを話した。
「先輩なら知ってるかもしれないけど……」
 こんな事態になるなんて思っていなかった。先輩が知ってるだろうからと思い、わざわざ聞く気になれなかったのだ。
「聞く手段が無い、か。仕方ないな。とにかく君の実家に連絡しておこう。ところで、君の名前は?」
 聞かれるまでそんなことすら言っていなかったというのを思いだし、少し苦笑したい気分になった。
「折原浩平だ。叔母と一緒に住んでいるから、その人に連絡をして欲しい」
「折原……」
 と、俺の名前を聞いて女医が少し驚いた表情を作る。
「まさかその叔母というのは、由起子さんか?」
 そうして俺は、由起子さんの知り合いと言うのがこの町で開業医をしていると言っていたのを思い出すことになった。
375『名前』:03/03/25 02:43 ID:EoODfIAz
「由起子さんはこちらには来ないそうだ。川名さんのご両親の連絡先を調べてくれるらしい」
 電話から戻ってきた女医―――霧島聖が電話の要点を告げる。
「そうか。仕方ないな」
 彼女の話では、俺達がここにくることは由起子さんから聞いてはいなかったらしい。
 いきなり行かせて驚かそう……そんな風に考えていたのだろうか。
「あの人には昔お世話になってな。連絡をくれれば迎えに行ったのだが」
 今更過ぎたことを言っても仕方が無いが、由紀子さんのいたずら心がどうしようもなく恨めしかった。
「とにかくその辺はあの人に任せよう。君ももう眠りなさい」
 そしてギプスの合間から器用に鎮静剤を打たれると、なんだか頭がぼおっとしてきた。
「すぐに効き目が出る。彼女のことは、目が覚めてから考えよう」
「そう……だな……」
「諦めることは無い。まだ一時的なものである可能性も残っている。事故のショックで精神的におかしくなっているのだとしたら、時間が経てば元に戻る可能性も……」
 疲れが溜まっていたのだろう。俺の意識はすぐに、今日何度目かの闇に落ちていった……
376『名前』:03/03/25 02:45 ID:EoODfIAz
 停止を告げる電子音が鳴り、次いで金属質な制動音と共にバスがその動きを止める。
 そしてすぐに空気が抜けるような音がして、二人しかいない乗客を追い出そうとバスがその大きな口を開いた。
 それと同時にむっとする熱気が押し寄せ、この老いぼれたバスの大して意味も無いと思っていた扇風機がいかに有難いものだったかを痛感させられる。
「着いたのかな?」
「ああ」
 おそるおそる、でも嬉しそうに歩く先輩の手を取り、ゆっくりと降車口を降りる。
 バスから出た瞬間、真夏の焼けるような日差しが俺達の網膜と肌を焼こうと容赦なく照り付けてきた。
「凄いな、雲ひとつないぞ」
 料金を払って降車口を降りると、すぐ目の前にちょっとした砂浜が広がっている。
 バスの中より日差しはきつかったが、それでも風がある分いくらか過ごしやすく思えた。狭苦しい車内から開放されたということも気分をよくしているのかもしれない。
 ここは観光地ではないだけあってそれほど壮大とはいえない眺めだが、今は清々しいほどに澄み渡る青空のおかげでとても綺麗に見えた。
「おお、なかなかいい眺め」
「ほんと?」
「ああ。90点だな」
「すごい。あ、でも満点じゃないんだ」
「そうだな。あの風景の中に先輩が立ってれば100点かな」
 涼しげな白い服装と日差しを避ける為の麦藁帽子、そしてそれを纏った先輩は、きっとこの風景によく映える。
「もうっ、浩平君ってば冗談ばっかりだよ」
 そうやっていつものようにからかってみせると、先輩は頬を染めて恥ずかしそうに微笑む。
 そのはにかむような笑顔は、この笑顔を見られただけでもここへきてよかったと思わせるほど、俺の心に涼やかに染み渡った。
377『名前』:03/03/25 02:46 ID:EoODfIAz
 先輩に指示して履物を用意してあったサンダルに履き替えさせると、彼女の手を取って焼け付くような熱さの砂浜を歩く。
「わ、なにここ、足元がものすごく熱いよ」
「ここはしょうがないんだ。がまんがまん」
 焼けた砂が足にまとわりつくのが不快だが、そんなことは構わずにずんずん歩く。
「熱いっ。……浩平く〜ん」
「がまんがまん」
 砂浜の熱さで涙目になる先輩を宥めながら、どうにか波打ち際へと辿り着いた。
「着いたぞ。ここが海だ」
「足元が熱くなくなってる……」
 波打ち際の濡れた砂はそれまでのような熱さがなく、先輩の小ぶりな足を優しく包み込んでいる。
 足元に小さな蟹が、まるで挑発するかのように通りすぎて行った。
「きゃっ!?」
 と、押し寄せてきた波が先輩の足にかかり、彼女は突然襲ってきた冷たさに悲鳴をあげた。
「ははは、それが海だよ、先輩」
「びっくりした〜」
 驚きの表情は、しかしすぐに笑顔に取って代わられる。
「浩平君、気持ちいいよー」
 幾度か波に触れ、慣れてしまったら子供のようにはしゃぎだす先輩。
 海に触れるのが……いや、新しい世界に触れることのほとんどなかった先輩は、本当に子供のようなものなのかもしれない。
378『名前』:03/03/25 02:47 ID:EoODfIAz
「あんまりはしゃぐと転ぶぞー」
「平気だよー。……わっ」
 波打ち際を歩き回り、突然の波に足をとられて転びかけたりする。
 まんま小さな子供だな。そう思った俺は、ひとつ忘れていたことを思い出した。
「そうだ先輩、ちょっと来て」
「?」
「こっちこっち」
 先輩が声を頼りにこちらに歩いてくる間に、海水に右手を浸す。
「なにかあるの?」
 すぐ近くにまで来た先輩の肩を、優しく、でも力強く空いた左手で掴む。
「え?」
「先輩……」
 驚いて身を固くする先輩に、俺は真剣な声で囁いた。
「浩平、君……?」
 先輩は俺の意図を汲んでくれたのか、頬を染めて形だけ目を閉じ、少し背伸びをするようにこちらに顔を近づけ……

 ぴと。

「わわっ!? ……なにこれ、しょっぱい〜〜!!」
 そんな先輩の唇の隙間から、海水で充分に湿らせた指を口の中に入れると、飛び上がりそうなぐらいオーバーに驚いてくれた。
「ははっ、それが海の水だよ。びっくりした?」
「びっくりした? じゃないよっ! 浩平君のばかっ!」
「いいじゃないか。生まれて初めてだったんだろ? 海水の味」
「そういう問題じゃないよっ!」
 涙目で俺の体を揺する先輩がいじらしくて可愛くて。


 そして、唐突に目が醒めた。
379『名前』:03/03/25 02:48 ID:EoODfIAz
「……なんだよ」
 ぼんやりとした頭で周りを見る。
 闇に目が慣れてくると、月明かりに照らされてどこか現実感を欠いた映像が網膜に飛び込んできた。
「どこだよここ……」
 今まで見ていた輝かしい景色とは違う、壁まで真っ白な、清潔そうな、でも無機質な何もない部屋。
 開け放たれた窓からは、やかましいぐらい蝉の声が響いてきた。
 そこで俺は真っ白いベッドに寝ていて、隣のベッドには……
「―――ふざけんなよ、畜生っ!!」
 そこには鎮静剤を投与されて静かに眠る先輩がいた。薄く幕がかかったような意識が急速に現実に引き戻され、握り締めたこぶしを力任せにベッドへと叩きつける。
 戸外にまで響いてしまいそうなけたたましい金属音がたつと同時に、こぶしに鈍い痛みが伝わってきた。
 予想外に響いた音に自分自身驚いてしまって、慌てて先輩の方を見る。

 だけど、すぐ近くで寝ている先輩にはそんな大きな音すら聞こえていなくて……
 綺麗な寝顔を伝う汗がとても苦しげで……

 俺はいてもたってもいられなくなって、薄い夏用のシーツを固定されていない左手で払いのけると、先輩の寝ているベッドの傍らに歩み寄った。
 清潔そうな白いシーツからはみ出した彼女の手を取ると、自分の胸元で握り締める。
「なんで……」
 静かに眠っている先輩。
 月明かりに青白く浮かび上がる先輩の綺麗な顔。傷のせいか、よくみると頬の辺りは紅く染まっている。
 こうして寝ていると、額に包帯を巻いている以外は以前と何も変わらないのに。
「なんで、俺じゃなくて先輩なんだよ……!」
 こんな、こんな旅行になんかつれてこなければ。両親と一緒に出張先に行っていれば、こんなことにはならなかったんだ。
 頼む、治ってくれ。諦めるなってあの女医も言っていたじゃないか。
「そうだろ、先輩……!」
 やるせない思い。届かない願い。
 自然と涙がこぼれ、先輩の手を握る左手を熱く濡らした。
380『名前』:03/03/25 02:50 ID:EoODfIAz
「……浩平、君……?」
「起きたのか?」
 その涙のせいか、眠っていた先輩が目を覚ました。
 俺は咄嗟の思いつきで先輩の手を自分の首にやり、痛むのも構わず頷いた。
「やっぱり浩平君なんだね」
 ギプスで固定された首はほとんど動かなかったが、それでも先輩に意思は伝わったようだ。
「私ね、耳も聞こえなくなっちゃったみたい。浩平君の声も、自分で何を言ってるかも聞こえないんだよ」
 どうすることも出来ず、先輩の手をより強く握り締める。
「痛いよ、浩平君」
 どうやら強すぎたらしく、先輩が苦悶の表情をみせたので手の力を緩める。
 ほっと小さなため息をついて、先輩はもう片方の手も俺の左手に添えた。
「もうお鼻ぐらいしか残ってないよ。さっき浩平君が言ってたみたいに、犬みたいにくんくんしなきゃいけないのかな」
 笑えない冗談。それは精神の平衡を保つために、魂が上げる悲鳴。
「でも悔しいな。もう浩平君の声、聞けなくなっちゃう。名前で呼んでもらいたかったのに、今そう呼んでもらっても私……」
「先輩……?」
 気丈に話をしていた先輩の言葉が、自身の嗚咽に掻き消される。
「怖いよ浩平君、私、どうなっちゃうの……!?」
 怖いと言う。当然だ。いままで聴覚は、先輩が持つ、ほとんど唯一と言える頼みの綱だったのだから。
 励ます言葉すら先輩には届かない。何も出来ない自分が狂おしいほどもどかしくて、俺は彼女を抱きしめる。
381『名前』:03/03/25 02:52 ID:EoODfIAz
 最初は驚いた先輩も、すぐに抱擁を返してくれた。
「わかる……浩平君の匂い……」
 そうだ。
 俺を触って欲しい。犬みたいに匂いをかいで欲しい。
 こんなにも、狂おしいほどに求めている俺を感じて欲しい。
 そして俺はどうしようもなく先輩を求め、彼女はそれを受け入れてくれた。
 病院の一室だということも忘れ、ただ獣のようにお互いを感じることに没頭する。
「浩平君……」
「みさき……みさきっ!」
 恥ずかしがっていて、つまらないことにこだわって、ついにそう呼んだことは無かった。
 あんなにも呼んで欲しがってたのに。こんなくだらないことで俺は一生後悔しなくてはいけないのか。
 悔恨の念と、自責の念をぶつけるように、いつに無く激しくみさきを抱く。傷だらけで熱を持った身体はべっとりと汗に濡れ、互いのそれが混じってえも言えぬ感覚を呼び、俺は何度も何度も、飽きることなく彼女を愛した。


 そうだよ。前に言ったじゃないか。俺はお前のペナルティを一緒に背負うんだ。
 くだらないことだなんて俺には言えないけど、お前ならきっといつかそう思える日が来るさ。
 決して諦めない。いつか治る時を信じて、一緒に歩もう。
 それが例え果ての無い道だとしても、二人なら歩いて行けるさ。
 なあ、みさき――――
382名無しさんだよもん:03/03/25 02:54 ID:EoODfIAz
終わりです。
お約束ですが、連続投稿に引っかかって遅くなったことをお詫びしておきます。

……寝よ。
383 ◆5gBzt3IZQg :03/03/25 04:44 ID:wXiw4/Sk
なんとなく朝は渋滞の予感がするから、早めに投稿しておこうかな。
15レスくらい?

直球の、東鳩 浩之×綾香いちゃいちゃエロSSです。
 RRRRR……
 藤田浩之邸の、電話が鳴った。
 その音に反応して、廊下から現れて。
 玄関で、受話器を取ったのは。
 長い髪のすごくきれいな、……裸の女の子だった。
 パンツもなし、靴下すらなしの、すっぽんぽん。
 そのまま平気顔で、玄関で電話に応答している。
「こぉら綾香っ。勝手にウチの電話出てんじゃねー!」



 かちゃり、と受話器を置いた私に、浩之はまだ文句を言ってきていた。
 自分も裸でなんか前にぶらんぶらんさせて怒っても、迫力がいまいちねえ。
「お前なあ……。そんなカッコでよ……」
 たしかにお尻も毛も丸出しだけど。
「玄関はしっかり鍵かけておいたでしょ」
「いやでも、人んちの電話に勝手にだなあ」
「ちなみに相手は、最近ニュースになってる悪徳新興宗教の勧誘だったわよ。
興味、ある?」
「……ない」
「んもー、『今日は一日めいっっっっっぱいする。他のことしない』って約束
でしょ? 電話ぐらい切っておきましょうよ」
「そ、そりゃまあ……そうだけどよ」
「留守電にしておけば後で全部聞けるから平気よ。ほら、ほら。さっさと戻り
ましょ」
「うう……、お、押すんじゃねえ」
 私は二階の浩之の寝室まで、浩之を押し上げる。目標ベッド。
 そう、ふたりでめいっぱいする予定の、今日の約束とは。
 せっくすです。
3852/15:03/03/25 04:45 ID:wXiw4/Sk

 ぷはっっ、と口を離して、一言言う。
「浩之って、ほんとうにこれ好きなのね〜」
「男は……たいてい好きじゃねーかなあ……」
 ふふっ。言い訳して。恥ずかしそうな顔♪
 一息ついて、また行為を再開する。
 フェラ──口でしてあげる愛撫を。
「ん……む……ん…ん…ん」
 ちゅちゅっと唾液の音がたつ。私の唇と、浩之の棒状のアレの間から。
 まえ偶然鏡に映った、してる最中の自分の顔を見たら、ちょっと……洒落に
なんないわね、というぐらいエロだったので、自分のほうはいまどんな顔して
んだろとかそういうことは、あまり考えないことにする。
「うお……上手え……」
「ぷ、は……。ふふふ、なんでもコツを呑み込むのは早いでしょ?」
 唇から出した舌の先っぽで、ちろちろ舐めながら、言う。
 えへへ。そんなせつなそうな目で見るなよ。

 浩之との関係がHありになってから、ふたりはそれはもう、夢中だった。H
の楽しさに、お互いの、肉体に。
 でも、束縛だらけのこっちの身の都合がつかなくて、なかなか、ボットーす
るってほどの時間は作れない。
 それに、現役高校生よ? パワーもやる気もマンマンだから、せっかく付き
合いだしたんだし、浩之といっしょに行きたいとこや、いっしょにやりたいこ
となんか、山ほどありまして。私的には。
 どこに行ってもなにをしてもこんなに楽しい相手だから、Hばかりしてたん
じゃ、もったいないような気がするのよね。
 なもんで、その埋め合わせじゃないけど、私がまる一日空いた日、浩之のご
両親も家を空けてる今日、もうまるまる一日Hしちゃおう!って話になったわ
け。
 なんか、欲望全開で……ちょっとアレだけど。
3863/15:03/03/25 04:47 ID:wXiw4/Sk

 私の唇より熱い“おにくのかたまり”が、浩之にちゅっちゅっと快感を送り
込む。
「んっ……う……うあ……くっ」
 男の子も、気持ちいいとこんな可愛い声を出してくれる。実際Hしてみるま
で全然知らなかった、嬉しい発見だった。
 この年までいちおうきれいに守ってきたこのカラダを、好きな人に好き放題
されるのも、すっごく興奮するけど……、こうして、逆に相手を気持ちよくさ
せるのも、好き。攻め好き。
「んぐン」
 裸の胸を急にくりくりっと浩之にいじられて、声が出てしまった。手つきは
優しいけど。
「胸もいいか? 綾香」
「ぷは。OK」
 胸で挟んでこすって欲しいわけね。好きだなあ、浩之。
 鍛えてるわりに、意外と浩之的に好評らしいサイズ程度はある自慢の胸を、
自分でふわふわと持ち上げて、浩之のえっちな肉を囲む。
 ぴとっと、肉の間に湿ったかんしょく。独特の、カンショク。
 浩之はこれ好きだから、今日もいつしてあげようかな、と思ってたんだけど
……あんまり女の子のほうから、ねえ。Hの時、次これ、次これ、って言って
やり出すのも、恥じらいがなくてあれかなあと思って。浩之の好みもあるし。
 でも、リクエストが来たんだから……。
「じゃあ、これ使うわよー」
 じゃーん、という感じでベッド脇の私のバッグから乳液を取り出した。たら
たらら〜と、自分の胸と、その間からはみ出てる浩之くん(命名:私)に垂ら
す。
 なんか乳液の減りだけ早い女、来栖川綾香。……てへ。
 今日はこの日のために、双方、こんないろんなアイテムを用意して、準備万
端だったりするの。
3874/15:03/03/25 04:49 ID:wXiw4/Sk
 ゆるやかにスムーズに、挟んだ浩之のそれの両脇を上下してしごきだす、ふ
たつのお肉。潤滑液は、効果抜群みたいだ。素ですると、胸の薄い皮膚が、す
れて赤くなったりするしね。
「うああ…………!」
「ふっふっふ♪ そんなに気持ちいい?」
「このカンショクは……柔らかくて、ぬるぬるで、な、なんか、他では味わえ
ねえっつーか……。そこに魔法かけられてるみたいだ……!」
 うっ……。お、思わず笑い出しそうになってしまう。そんな面白い感想言わ
ないでよう。でもそうか。ほんっとにキモチいいんだなー。一度私もされるほ
うを体験してみたいなー。

 今日は、朝一で浩之邸前にビシッと馳せ参じた。(おじいさまや、セバスの
視線を巧みにすり抜けて)
 玄関ベルの音で、からりと二階の窓を開けた浩之に、ビッと片手を上げて
“おはよう!”の挨拶をする。笑顔と笑顔で出会った朝。天頂を目指す朝日が、
屋根越しに眩しかった。
 そんな爽やかな朝から実はもう、……二回戦が終了してたりして。
 一回目は、ぱたんと浩之の部屋のドアを閉めてから、そのままなだれ込むよ
うに。
 そして二回目はふたりでお風呂に入ったあと。
 最初からお風呂しなかったのは理由があって、乾いた皮膚と、お風呂してす
ぐの潤った皮膚とでは、触られた時の感触が違うんだよね。もちろん、今日会
う前にもうシャワーは一度家でしてきてたけど。そのへんは、油断なしで。
 お風呂での反省は、なんか、「明るいうちにふたりでするお風呂」っていう
初めての時間が楽しくって、はしゃぎすぎてしまったかなーってこと。しまいには、浩之の背中をこすってあげながら、大声で陽気に歌い出してしまったり
したし……。
 どうも、浩之が事前に「彼女とふたりきりでお風呂。若いふたりが、裸で…
…」ってのに対して持っていた夢とは、そうとうのギャップがあったらしい。
ゴメンなさい。
3885/15:03/03/25 04:50 ID:wXiw4/Sk
 いちおうフォローとしてお風呂でもたっぷり触りっこもしたけど(私はちゃ
んといきました)、反省して、二回目以降はなるべくエッチで淫靡な展開を…
…と努力はしてるつもり。

 そんなわけで、電話のハプニングで中断していた三回戦目は、ベッドの上で、
私が浩之のを一旦解放、浩之の頭のほうに私の下半身を持って行くという、浩
之の提案による新たな展開に突入していた。
 えーとほら……シックスナイン、てやつ。
 藤田浩之さんは、ほんとうにエッチな奴です。いま浩之の目の前で丸見えだ
し、きっと私。しかもまだ明るいしねえ……。
 ぺろぺろと、目の前大アップのお互いの性器を口で舐め合う私たちが、卑猥。
とても、卑猥。
 こんなようすをビデオ撮られて脅迫されたらきっと、脅迫者はこれで一生食
べていけるよ。
 ってぐらいに。まじめに、恥ずかしい。
 でも、こんなふたりだけの秘密が、Hってやつの楽しさで、面白さだよね。
 浩之だけには、もう見られてもいい。
 恥ずかしいけど……、見られたい。
 そして、どんなにみっともない格好で、恥ずかしい行為でも、遠慮しないで
気持ちよくなっていいんだ。それが、浩之と私、ふたりだけの秘密なら。
 面白くて楽しいことはなんでも好きだけど、愛する人とのHは、これまでの
人生でその中でもベスト3に入るなあ。きっと。まさにいまハマり中。怒涛の
マイブーム到来中!だ。表だって他人にそう言えないのが、難点だけど。
 私は浩之のの先のほうの乳液をティッシュでふき取ると、身体を反らして、
も一度胸で挟み、きれいにした先っぽを口で愛しはじめた。これは身体柔らかくて、胸がある程度ないとできない。
 浩之は、なかなか慣れてきてるから(Hに。私にも)、巧みに私の下のほう
を、ツボを突いた愛撫で責めてくる。特に、クリトリスを。ヘタだったら、痛
いか、かゆいかだけで済むんだけど、そこを上手く責められちゃったら……女
の子はちょっともう、たまらない。
「んんー…。んっ! ぐっ! んんう、んんう!」
3896/15:03/03/25 04:52 ID:IvC9Cbfz
 あったかいのを咥えたままなのでくぐもってるけど、声が我慢できない。股
間が撥ねるような刺激を私に送ってきて、こっちの動きが止まってしまう。
 自分も気持ちよくなりたくないんですかー、浩之さーん。
 と、なぜか丁寧語で内心ツッコミしてしまうほどだ。
 ぐるりぐるりと舌を回されると、あまりの刺激に同じ動きで腰を逃がしてし
まう。浩之の目の前でいまどんな光景が繰り広げられているか、想像もしたく
ない。うう……。
 前回、愛撫されながら鏡に映してふたりで私のそこを見た時の光景が、甦る。
(繰り返しますが、藤田浩之さんは、ほんとうにエッチな奴です。好奇心で許
可してしまった私も私かな。……そうですか……)ふたりであの日みつめた、
明るい日の光の下できらきらと粘液を輝かせながらうごめいていたそのピンク
色したいきものは、私の欲望を集めていつの間にかひそかに咲いていたかのよ
うに、いやらしかった。
 隠れていた私の欲望を、浩之に、文字通りこれまでずっと見られてしまって
いたんだ。そんな気がした。やっと今頃それに気付いて、私、ほんとになにも
かも浩之に許しちゃったんだ、と胸がぎゅーっと熱くなった。恥ずかしさとか、
好き!とか、そんないろいろで。
 こっちも責めなきゃ、責めなきゃ。私たちのHは、お互いの性格上、なぜか
いつも勝負になっちゃいがち。だからいまも、こっちの攻撃も、と思うんだけ
ど。
 今日の私のそこはすごい。マッチで火を付けられたみたいに、腰を逃がした
くてたまらない。それほど刺激が熱い。それが一秒も止まらずにうごめく。浩
之の舌の愛撫だ。
 だめ。今回の行為は、浩之の圧勝に終わりそう。もう、来ちゃうよ。
「んぐぅーっ! んーっ、んーっ、んーっ! ん──! ん──────!!」
 がしっと、肘と膝で必死に浩之にしがみつくことしかできない状態で、私は、
いった。咥えたまま。
「はぁっ……。……イェイ! 俺の勝ちぃ」
 身体を火照らせながら震える私に、私のお尻を撫でながら勝ち誇る、浩之の
そんな声が聞こえた。
 ちょっと悔し……。
3907/15:03/03/25 04:53 ID:IvC9Cbfz

 一息ついたあと私も口で浩之が終わるまでしてあげた。で、その後、そろそ
ろお昼にしようってことになった。
 キッチンに立つ。
「綾香もメシなんて作れんのか? ホントに」
「馬鹿にしないでよ?」
「おーし、期待するぞ。恋人にご飯作ってもらうって、男の夢のひとつだから
なあ……」
 と、浩之は前になにかぶらぶらさせながら、キッチンのテーブルで待つ。ま
だ裸だ。
 私も相変わらず生まれたまんまのすがただった。
 これがもうひとつ今日の約束。
 誰もいない、誰にも会わない。ふたりだけの一日。
 だから今日は一日ふたりで、裸のままで過ごすの。
 馬鹿みたいでしょ? でもいいのよ。
 ただ、いまは少し例外適用時間らしい。
 私は、裸にエプロンって格好だった。浩之の希望で。
「おお〜。ほんとにすると、こんな風になるんだなあ」
 馬鹿……男の子って本当〜に馬鹿。
「なんつーか、エプロン越しの鎖骨とか、腕の下からのぞく脇腹とか、……う
お、裸の背中のラインとか。すげーエッチだ……。セクシーだっ」
「あんまりじろじろ見過ぎないでよねー」
 でも可愛いけどね。こんなので本気で喜んでる、男の子って。あは。
 私も悪ノリして、わざわざ家からエプロン持って来ちゃったし。まあ、さす
がに浩之のお母さんのエプロン借りて、こんな馬鹿はできないから。
 で、15分後。
「サンドイッチかよー……」
「あら。お昼なんてこんなものでいいじゃない」
「でも、もーちょっと、期待してたんすけど……」
「それでも具はちゃんと火を使って作ったわよ。本格的なのは、今度また、裸
じゃない時に、ね」
3918/15:03/03/25 04:55 ID:IvC9Cbfz
 埋め合わせになるかどうかはわからないけど、運んできた紅茶は、この前浩
之が好きだって言ったアール・グレイだ。私のを家から持ってきたやつ。ティ
ーセットは浩之んちにもあるしね。
「まあ次に期待するか。いただきます」
「え? 次は浩之が私に作ってくれる番でしょう。いただきま〜す」
「なに」

 こうして午前中たっぷりエッチしちゃったから、さすがに少しお休みが入っ
た。
 また裸でベッドの上で抱き合ったけど、なんとなくふたりともそれで満足し
ちゃって、髪を触ったり、見つめ合って笑ったりしながら、いつの間にか、そ
ろってシーツにくるまってお昼寝してしまった。
 窓から、あったかい春の終わりのお昼の日差しと温い風が、ゆったり入り込
んで来ている。
 私は、浩之のベッド、浩之の腕の中で、まるでママに抱かれて眠った子供時
代みたいに、安心して眠った。

「…………」
 いま、何時だろう?
 浩之の部屋の天井が見える。
 いびきで、目が覚めた。もちろん、隣の人の。
 浩之はそれはもう、安心しきった寝顔で、よだれまで垂らしてがーがー眠っ
ている。
 外はまだ夕景になってはいない。時計を見ると、もうすぐそうなるかな、と
いう時間ではあったけど。
 ふ……と安心してと息をつくと、暖かいシーツと浩之の腕の中に、また戻る。
 痺れるだろうに、いつの間にか腕枕してくれていた。私の彼氏は、いい奴だ。
 目が冴えちゃったので、二度寝はあきらめて、時間を持て余す。
 浩之の寝すがたを観察することにした。
 安心しきっちゃってまあ……。緊張感ないこの顔。人には見せらんないわね。
 私的にはオッケーだけど。ていうか。
3929/15:03/03/25 04:56 ID:IvC9Cbfz
 可愛いよ。
 私と同じで、私が相手だから、安心しきってこんな顔で眠れるんだよね……。
そう思うことにする。
 そのほうが、私の恋も昂ぶるし。ふふ……。
 ……などとまったりしているのにも次第に飽きてくるので、ついつい無防備
な浩之の寝すがたを、いろいろ探検してしまう。
 まずおもむろに鼻の穴に指を入れてみたくなったんだけど、息が止まったら
即目覚めそうなのでやめた。
 じゃあ乳首でも触ってみよっかな。私のを触るのは大好きな藤田浩之さん。
ご本人はどんな反応を示すんですか?
「ん……んん……あァん……」
 ぷははーっ! な、なにこの可愛い女の子みたいな声っ!
 お、面白い……。
「あう……う、うう……ん……」
 寝顔に微妙な反応を浮かべながら身悶える、浩之。
 弱点、発見。
 これは今後のお付き合いで生かせる局面がありそうね。
 もっとないかな〜。弱点!

 そして十分後。
「うひ……くはっ……。んん!? ……な、なにやってんだ綾香ぁ〜っ!」
「あ、ごめんね。起こしちゃったかしら? ぐふふふふ……浩之さんの弱点を
いろいろ発見しちゃった〜」
「弱……うお、うほ」
 かかとをしゃわしゃわ〜と微妙微妙な指さばきでこすってあげると、浩之は、
聞いたこともない声で反応する。
「乳首でしょ〜。脇腹。脚の付け根。うなじ。つむじ。あご。肩甲骨(けんこ
うこつ)の下。たまたまの下。けっこう変なところでいろんな反応するなあ。
男の人も、実は性感帯のかたまりなのね!」
「うぉひっ! や、やめろっ!」
39310/15:03/03/25 04:58 ID:IvC9Cbfz

 それで十分後。
「…………っっ!!」
 浩之は、四つん這いで私にお尻の穴に指を入れられながら、あそこを手でし
ごかれて、激しく放出していた。
「ああっ……!」
 どぷっ、どぷっとシーツの上に大量にほとばしる男の子の快感の証しが、私
をも、激しく、興奮させる。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「はぁ、はぁ、はぁっ……!」
 ふたりとも、激しい行為に息を切らし、汗で肌が輝いていた。
 ……って。
 あれ? なんでこんなことになったんだっけ……。
「あ、や、か……!」
「え? え?」
 浩之が怒ってる。なんか、涙目だし……。
 あ、ははは……。やすらかに寝入ってた浩之を……犯しちゃった、かな? 
私。てへ。
「てへじゃねえ〜〜っ!」
「きゃあぁぁぁぁぁっ!」
 ヘッドロックで固めると、浩之はぐりぐりと私の頭頂部にげんこつを押し付
けた。
「なぁにが弱点発見だぁっ!」
「ご、ごめんなさい〜! お、面白くって、つい……」
「人の身体をおもちゃにするんじゃねぇ〜〜〜!」
「わああああぁぁぁっ!」
「おしおきとしてだな」
「あう」
 浩之は私を押し倒した。
「おまえの弱点も新たに発見してやるっ! 泣くほどのやつ!」
「いやぁぁぁーっ!」
39411/15:03/03/25 04:59 ID:IvC9Cbfz
 まずは脇の下をくすぐられた。
「くすぐったい」
「……もっと乱れた反応しろよ」
「それほどじゃないかなあ」
「くそ」
 指は脇腹に移動する。
「うひひ」
「お、笑った」
「そりゃそうよ」
「でも、そのぐらいか?」
「ふっふっ。私、くすぐりには強いのよん。もっとしてみる?」
「くそ」
「あっ……」
 浩之は乳首を優しく揉みしごいてきた。
「ここは効くだろ〜」
「そりゃ……。ていうかそこは新発見もなにも、いつも感じてるわ」
「そりゃそうだな。ぬう……」
 おへそ。腰骨。内腿。
 膝(ひざ)裏。足の裏。かかと。
 私の反応はどこも、浩之を満足させないようだった。
「あっ」
 裏返される。
「こっちならどうだ!?」
39512/15:03/03/25 05:01 ID:qHGJKdJe
 まずはうなじを吸われた。
「ん……気持ちいい……」
「くそ。ふつうに気持ちいいじゃダメなんだ」
 耳。
「…………」
「女って耳が敏感じゃねえか?」
「……私は、どうだろ」
 次は背骨のラインを、触れるか触れないかです──っと指を走らされる。
「んっ」
 ぷるぷるっと身体が震えた。
「そこはけっこう、弱点かも……」
「おーし」
 それからするっと、お尻の間に指が入ってきた。
「あっ! そこはちょっとっ!」
「ダメだってか?」
「あたりまえでしょう!」
「だったら自分もするんじゃねえ! さっきのことを思い出せっ!」
「ああ──っ!」
 初めて、浩之にお尻の……を触られてしまった。あああ。
「んん……」
「どんな感じだ?」
「……へんな感じよう」
 指を動かすな。
「んん……!」
「ほう……けっこう微妙な反応するなあ」
 にやりと浩之が笑った。
 なんか、今後変なことをされそう。心配……。

「じゃあ、結果発表いくぞ」
「私の弱点の?」
「そう」
39613/15:03/03/25 05:02 ID:qHGJKdJe
 浩之は、自信ありげだった。
「綾香。おまえは耳がすっげえ弱いんだろ」
「!」
 なんで?
「なんで? そんな激しい反応はしなかったわよ」
「ああ。でも反応はなくてもな、耳の時だけほんのちょっと無言になったろ?
 特にガマンしてた証拠のはずだ」
「う」
 鋭いね、浩之……。やはり侮れない男だわ。
「というわけで、このあとこれからた〜っぷり耳を責めさせてもらうぞ」
「う、う……」
 ふー、と息をかけられる。指でこちょこちょと、襞(ひだ)や耳の穴にちょ
っかい出される。
 でも、私は無言で我慢したわ。
 三秒ぐらい。
「ふひ、ふぅわ。や、や・め・てぇ…………!」
「このぐらい。俺の恨み思い知れ」
 付き合いだしてから、ここまで耳をいじられたのは、初めてだ。
 手足をジタバタ動かして必死でもがくけど、上からのしかかられてしまった。
「おお、すごい暴れっぷりだな」
 脱出しなきゃ。でも、あまりにあまりなそこの過敏さのせいで、身体に力な
んか入んないよ。やばい。まじめにやばい。
「にゃあぁぁぁ──っ!!」
「お、初めて聞くぞ、こんな綾香の声!」
「ひぃぃぃ……っ。ふにゃっ」
「……面白い……」
「ひ、ひうっ、ね、わ、わかったでしょ!? さっきの私のきもちもっ」
「ああ、わかった。こりゃノるなあ……」
「だ、だったら、だったらもう怒ってないっ!?」
「おう。少しはおさまった。……でも面白いから、続行」
「人でなし──っ!!」
39714/15:03/03/25 05:04 ID:qHGJKdJe
 浩之は唇と指で両方の耳を刺激し続ける。
「! !」
 さらに空いた手で、私のあそこまで刺激し出した。
「! ! ! ! ! !」
 上と下の刺激で、もうわけわかんない。
 死にそう。苦しい。
 やめて、助けて。
 それしか考えられないよう。涙出てきた。
 股間に持った熱が弾けるのが、解放の合図だった。
 ふるふるふるふるふる、と全身が震えた。
「……………………」
「いったか……」
 ふいー、と、浩之も息をつく。

 この日は、そのあとも何回もHしたけど、結局どのHよりこの耳をやられた
時が、一番強烈だった……。



 そして。
 また別の日。
 明るい太陽が降り注ぐ公園の、大きな木の下に、私たちふたりはいた。
 木の影の下、草の上に浩之があぐらをかいて、その脚に私は頭を乗せ、寝そ
べっている。
 ふだんと、逆ね。ふだんは私のほうが浩之に膝まくらしてあげることが多い
んだけど。浩之、私の膝まくら好きだし。
 でも、こういうのも悪くない。気持ちいい。
 ただし。
「もう、やめてよ……」
「へっへっへ」
39814/15:03/03/25 05:05 ID:qHGJKdJe
 浩之が耳をいじってなきゃなあ……。あう。
「せっかく知った数少ないおまえの弱点だからよ」
 嬉しそうだなあ。
「時々こうやって確認しとかないと」
「ダメ」
「俺の弱点なんかおまえは何倍も知ってるだろ。しかも、そっちも相変わらず
嬉々として責めてくるじゃねえか。おあいこおあいこ」
「でも、ダメ! うううう」
 我慢の許容点を超えた耳のこのむずむず感。私もそろそろ反撃しよう。
 けどきっと、こういうことの積み重ねなんだろうな。付き合うって。
 相手のいいところや、かっこいいところだけじゃなくて。こういうバカなこ
とや、くだらないことも、小さなことも、いっしょにいる間、発見し続けて。
相手のことをどんどん知っていくのが、誰かと付き合っていくってことなんだ
ろう。
 それはけっこう幸せなことだ。それがわかる。
「あとさ。おまえにしちゃわりと珍しいこういう時も、ちょっと可愛いよな…
…とか思ってるから。見たいんだよ」
 ……。
 ちょっと恥ずかしそうな顔で、また幸せの後押しをするようなことを絶妙な
タイミングで言うし。この男は。
 そんなセリフでつい、頬が火照るまで我慢してしまった私は。

 ちょっと漏らしちゃったのでした。
399名無しさんだよもん:03/03/25 05:08 ID:qHGJKdJe
>>384-391
以上。レス間行空けなしでお願いします。
連続投稿、1分10秒ごとにやっても、6回目にはひっかかっちゃうなあ……。
おかげで17レスに20分以上もかかるし。

STONE HEADSの「SEX FRIEND」が遊べないので、いじけてこんなの書いていました。
(*´Д`)シタイトキハシタイ オンナノコモ-

↓これ
http://www.stoneheads.co.jp/
400 ◆TANG0ZIdn2 :03/03/25 06:07 ID:jTdw0+SB
「めぐりくる春」

5レス。痕SSです。
401めぐりくる春 1/5:03/03/25 06:07 ID:jTdw0+SB
 病室は、新しい生命の到来を言祝(ことほ)ぐ華やいだ空気に満ちていた。
 ベッドに静かに身を沈めている、母親、千鶴。
 優しく付き添うふたり。夫、耕一。そして、千鶴の妹、楓。
 彼らの視線の中心、千鶴の右脇にちょこんと座を占めた赤ん坊が、この部屋の主役だった。
「ついさっき、眠ったんですよ」
「ああ」
「可愛い……」
 ようやく顔が皺くちゃからつるりとした皮膚になりつつある。第三者が見ても、いかにも可愛らしい顔になった。
 もっとも、そうなる前から父親と母親は、やれ女の子らしい可愛い顔だ、ここはお父さん似だ、お母さん似だ、とうるさかったのだけれども。
「姉さん。……ちょっと触っていいですか」
「起きちゃうよ」
「いえ、いいんです。気をつけてね、起こさないように。楓」
 うなずいた楓は、そおっと手を伸ばした。
 耕一も、楓の器用さは知っているから、結局はそれを見守った。
 白く柔らかな指が、そっと、赤ん坊の耳に触れる。
 指先に温もり。
 楓の顔に、ふわっと喜びの笑みがひろがった。
 千鶴も微笑んだ。
 耕一は、かつては見られなかった、少女のそんな表情に、あらためて心動かされているようだった。
 乳児の耳を、にこにこしながら触る楓。
「楓ちゃん……この子の耳が好きなの?」
「好きにさせておいてください……」
 父親の声にそう言い、微笑ましそうに妹を見守る千鶴。
 楓は、愛おしげに優しく、起こさないように、泣かせないように気をつかいながら、眠っている子の耳を撫で続けている。
 遼遠たる過去の残映に、思いを馳せながら。
402めぐりくる春 2/5:03/03/25 06:09 ID:jTdw0+SB



 愛人の手つきは、優しく女の耳をなぶった。
「…………」
 目を閉じ、頬を少し染めながら、女は受け入れていた。
 女の耳は、不思議な形をしていた。
 先端に、尖り。
 丸いはずの、その場所に。
「主(ぬし)の耳は、不思議な形をしているな……」
 閉じていた女の目が、うっすらと開いた。
 申し訳なさげな瞳。
「気に、なりますか……?」
 黒ではない、不思議な色の瞳。
「次郎衛門」
 次郎衛門、と呼ばれた若い兵法者は、愛する者に答える。
「いや。ただ、見たままを言っただけだ。気に障ったのなら、すまぬ」
「私の耳は、あなたのような……あなたたちのような物ではありません」
 目を床に落とす。
「それが、思い知らせます」
「…………」
「いくら睦み合っても。抱かれても。私たちの現実を」
 いまも合い争い続ける、異種族であることを。
「私……目も、耳も、あなたがたとは違う」
「目は、海の向こうの紅毛人なども、そなたのように黒ではない目をしていると聞くぞ」
 粗末な小屋の破れた屋根から見える、星空を仰ぐ。
「なにも……星から来たそなたたちだけが……」
 冬の闇空に、星々はまたたく。
「そういう目の色というわけではない」
「では耳が、です」
403めぐりくる春 3/5:03/03/25 06:10 ID:jTdw0+SB
「おい……」
 次郎衛門が、女の小さな頭を懐に抱き寄せた。
「俺は気にしてなどいない。耳の形など。耳などどんな形だろうが、俺はお前でなければだめだ。俺はお前を恋うたのだ。耳の丸い女などが他に何人いようと、お前がいなくては俺は意味がない」
「次郎衛門……」
 きゅっと女が男の着物の胸を掴む。骨を砕き、巨木をも切り倒す恐るべき力を秘めながら、いまのその手は、ただ震えるか弱い少女の物としか見えない。
「次郎衛門……嬉しい」
 次郎衛門は微笑んだ。
「でも、私たちの違いを気にしているわけではないのです。その違いが、いずれなにをもたらすのかが恐い。幸をもたらすのか、不幸をもたらすのか」
「…………」
「私の同族はまだ、あなた方を殺すことしか考えていない」
「…………」
「でも、離れられない。離れたくない」
「ああ」
「次郎衛門。私。私の姉、妹。私のしたことが、いずれ皆に不幸をもたらすとしたら……そんなことを考えたら……」
 はらはらと女の頬を涙が伝った。
「恐いの……」

 そして後、女は死んだ。
 女の、姉ふたりも、死んだ。
 次郎衛門は女のための復讐の鬼と化した。
 女の同族たちも、次郎衛門の計略によって皆、黄泉路を辿った。
 すべてが終わったあとは、女の妹がただひとり、異郷の荒野に立ちすくんでいるばかりだった──。
404めぐりくる春 4/5:03/03/25 06:11 ID:jTdw0+SB



 楓の目に、いつか涙が浮かんでいた。微笑んだまま。
「楓ちゃん?」
「楓」
「あっ」
 慌てて、楓は涙を拭いた。
「どうしたの?」
「い、いえ……ただ……」
 驚いている耕一の顔を見た。
 とても剣風吹きすさぶ殺戮の荒野でなど生き残れそうもないような、呑気な顔。
「ふふ」
 笑いながら、泣く。
「この子、きっと幸せですよね」
「あ、ああ。きっと」
「きっとなんの心配も、ないですよね」
「ああ。大丈夫。俺が守るよ」
「私たちみんなで、守るから」
「うん」
 もう一度だけ触った。赤ん坊の、丸い耳を。
405めぐりくる春 5/5:03/03/25 06:13 ID:jTdw0+SB



 さきにひとり病院を出ると、まだ開花には早い、つぼみのままの桜並木の下を、楓は歩いた。
 心の中で誰かに語り掛けながら。
 あなたは不幸を生み出しただけじゃないわ。こうして、いまのみんなの幸せを生み出した。
 いまは、みんな幸せ。
 あなたが出逢い、幸せを願っていたみんな、みんなが、幸せ。
 時間はかかったけれど。
 見上げると、まだ空気は肌寒いのに、日差しは強く楓を射た。
 現代の次郎衛門さんとの恋は実らなかったけど、でも、それは我慢してね。きっとあなたも、自分より、みんなが幸せのほうが嬉しいよね。
 そして、幸せと希望の象徴のような、あの子の罪なき無垢な寝顔を思い出す。
 私もいつか、子供……欲しいな。
 そんなことを初めて思ってしまった。
 でも、それにはハードルがいろいろ。
 誰かと結婚しなきゃ。誰かと、恋愛しなきゃ。その相手をみつけなきゃ。
 初恋の人以外の相手なんて考えたこともなかったけれど、いま初めて、そう思えた。
 季節は変わる。
 冬はもう、終わった。
 春から始まる自分の新生活に思いを馳せながら、楓は、枝に鈴なりの桜のつぼみの下を、無言の希望と意気込みとともに歩いた。
406名無しさんだよもん:03/03/25 06:14 ID:rZH4FvhC
>>401-405
以上です。
407名無しさんだよもん:03/03/25 06:23 ID:raEH6weB
すげえ、今日だけですでに100レスもある・・・。
408壁に耳あり:03/03/25 06:40 ID:vO1uAcDO
今から15スレ投下します
『痕』
Hあり
409壁に耳あり その1:03/03/25 06:40 ID:vO1uAcDO
『壁に耳あり』


 えーっと、Bがここに来るから、Aは方程式を使って値を出せると。
 皆が寝静まった頃、あたし、柏木梓は一人自室で大学の受験勉強に勤しんでいた。
 あれ、変だな。答えが合わない。どこかで間違えたのかな。
「……ぁあ、そこはだめえぇぇ〜〜〜……」
 ああ、ここで間違えたのか。答えが合わない筈だ。
「……はぁぁぁぁぁ、もっとやさし…ぁああぁっ」
 よしばっちり。じゃあ、次の問題はと。
「……いぃ、そこ、感じる……」
 これはちょっと、難しそう………。
「……あぁ、あぁ、ぁああああああああっ……」
 ベキィッ!
 あたしは手に持っていたシャープペンシルを思わず握りつぶした。
「……いぃ、いく、いっあぁああああああああっ!」
 ベシィッ!
 罪の無い教科書を絨毯の上に投げつけた。
 やってらんねぇ〜〜〜〜〜〜!
 あたしは嘆くと同時に、ベッドの上に倒れ込んだ。
「……ぁぁあ、ふぁああ………」
 相変わらず隣の、千鶴姉の部屋からは淫らな喘ぎ声が、フルボリュームで聞こえてきた。
 しかも、これで二晩連続。
 あたしは枕に顔をうずめ耳を塞いだが、千鶴姉のアノ声は耳の奥まで遠慮無しに届いた。
410壁に耳あり その2:03/03/25 06:41 ID:vO1uAcDO
 耕一と千鶴姉がお互いを愛し合う関係になった事に、あたしはすぐに気がついた。声には出さなくても二人の視線を
見ていれば、なんとなく判る。
 あたしとしては、二人が何をしようが知ったことではない。
 でも、よりによって隣の部屋で、なぜあんな事するのよぉ〜〜〜〜〜〜。
 あたしは今まで、こんなに部屋の壁が薄い事に気がつかなかった。
 あたし達四姉妹の部屋は同じ廊下にあり、庭に向かって一列に並んでいた。長女、千鶴姉の部屋が廊下の一番突き当
たりになり、そこから、二女のあたし、三女の楓、四女の初音と並んでいる。そのため、千鶴姉の部屋の声は、あたし
の部屋が一番良く聞こえた。
 それにしても、なんちゅうはしたない声をだしているのだろう。
 あたしは男女が愛しあうところなど、見たこともした事もない。それがよりによって、実の姉の喘ぎ声を夜が明ける
まで聞くハメになるなんて。
 そりゃ、千鶴姉は仕事が大変だろうし、毎日あれだけ偽善ぶっていればストレスも相当貯まるだろう。だからといっ
て、自室でやらなくてもいいだろうに。
 きっと、耕一の馬鹿が『たまには気分を変えて、千鶴さんの部屋でしたい』なんて言いだしたに違い有るまい。
「……ふぁ、はぁ、ぁああああぁ………」
 もう、耳栓しても聞こえてくる。
 あたしはなんとなく、体が火照って来るのを感じた。
 あんな声を聞いていると、嫌でもエッチな気分になっちゃう………。
 カチャ。
 ジーパンのベルトを外し、ジッパーを下げると、下着にそっと指を当てた。
 濡れてる……。
 白い布地のアソコに当たる部分が、しっとりと湿り気をおびていた。
 着替えなきゃ。
 あたしはジーパンを脱ぐと、ショーツに指をかけ、ゆっくりと降ろした。
 やだ。糸を引いてる。
411壁に耳あり その3:03/03/25 06:42 ID:vO1uAcDO
 納豆のように粘りのある分泌液が、下着とあたしのアソコの部分を繋いでいた。
 下げ物シートを下着に敷いておけばよかったと後悔した。
 こんなに濡れちゃった……。
 あたしはベッドの上で仰向けになると、目をつむり、割れ目の部分に恐る恐る人差し指をあてがった。
「んっ!」
 いきなり敏感部分に触ってしまい、声が漏れる。
 小さな突起部分、クリトリスというのだろうか、そこは熱を持ち少し触れているだけで体に刺激が走る。
 指をさらに下のクレバスの部分に潜り込ませると、そこは更に熱く、ぬめぬめとした粘液が、大事な穴の中からあふ
れ出していた。
 なにやっているんだろう。あたし。
 姉のアノ声を聞きながら、オナニーしているなんて。
 情けないような、切ないような気持ちになりながらも、指はアソコの部分を愛撫し続けていた。
 クチュ、クチャ、クチュ。
 右手の指で、クリトリスの両側を寄せるように圧迫しながら、左手の指で膣口の周りを、円を描くようになぞる。
 気持ちいぃ。
 気持ちいぃよぉ。
 指の動きが次第に加速していく。
 止まらない。止められない。それどころか、もっと気持ちよくなりたいという思いが沸いてくる。
「……ぁあ、あん、んふぅ……」
 隣の部屋から聞こえて来る千鶴姉の、気持ちの良さそうな声。
 中に入れると、もっと感じるのだろうか。
 あたしは多少の恐怖心と、多大な好奇心をから、ゆっくりと人差し指を膣口の中に差し込んでいった。
 少しだけ痛かった。
 そろりそろり更に奥へと指を入れ、中をさすってみる。
 変な感じ……。
412壁に耳あり その4:03/03/25 06:42 ID:vO1uAcDO
 ざらざらとした肉ヒダが、進入した異物を押しだそうとする。
「ぁっ!」
 指を上の方、クリトリスの裏側に有る部分をなぞった時、今までに感じたこと無い刺激が体を駆け抜けた。
 その部分を刺激する度に、腰が浮かび上がるような、えもいわれない気分になっていく。
 いぃ、感じちゃう。
 指がキュッと締め付けられる。
 呼吸が荒くなり、体中が熱く、汗が全身に吹き出していく。
 あたしの指はまるで別の生き物のように性欲を貧欲に貪り続けた。
「と、止まらない…………あ、ぁああっ!」
 快楽の洪水と共に、頭の中が乳白色に満たされていった………。


「耕一さん、ケチャップを取ってくれません?」
「はい、千鶴さん」
 耕一が手に持っていたホークを降ろし、赤い液体の入った容器を手渡した。
「…………ちゃん。ねえ、梓お姉ちゃん」
 あたしは一瞬自分が呼ばれている事に気がつかなかった。
「あ、あぁ、何か呼んだ? 初音」
「このオムレツ、お塩入れた?」
「多分、入れたと思うけど、ちょっと自信がない」
 あたしは腫れぼったい瞼を擦りながら答えた。
 正直いって眠かった。
 誰かさんのおかげで、ここ二日程の睡眠時間の合計は5時間をきっていた。その為少し起きるのに遅れ、朝食のおか
ずが一品減ってしまった。おまけに急いで作った結果、味付けもいまいち良くない。
「ふぁああ」
413壁に耳あり その5:03/03/25 06:43 ID:vO1uAcDO
 あくびもさっきから際限がない。
「梓お姉ちゃん、大丈夫?」
 いつも優しい初音があたしの事を気遣ってか、不安そうな瞳で見つめていた。
「う、うん。ちょっと受験勉強を張り切りすぎただけだから」
 さすがに夜明け近くまで、自慰行為に耽(ふけ)っていたなんて、口が裂けても言えなかった。
「梓、がんばるのもいいけど、体壊しては駄目よ」
 千鶴姉がぬけぬけと言いたい事を言う。
 誰のせいで眠れなかったと思っているのよーーーーーーーーー!
 心の中で叫びたい衝動をぐっとこらえた。
 口には出さなかったもものの、あたしは思わず千鶴姉を睨みつけてしまった。
 千鶴姉は何が気に障ったのか判らないらしく、微笑んだまま首を横に傾げた。
 不思議にも千鶴姉は睡眠不足には見えなかった。夜明け近くまで、まぐわっていたにもかかわらず。肌を見るとむし
ろツヤツヤしていた。耕一から精気を搾り取ったのだろうか。流石に耕一の方は少し眠そうな顔をしていた。だがこの
男は朝食を食べ終えた後、何も用事はない。これから学校に行って授業を受けなければならないあたしとしては、腹立
たしい事この上ない。
 さて、どうしよう。
 あたしはコーンスープを口にしながら考えた。
 このまま何も言わなければ、今晩も三日続けて隣の部屋で、愛の営みをやらかすような気がしてならなかった。
 しかし、なんて言えばいいのだろう。
 正直面と向かって『隣の部屋でエッチな事するな』とは、恥ずかしくて言えなかった。
「ごちそうさま」
 いつものように、楓が一番に食べ終え席を立った。
「俺もごちそうさま」
 耕一が続いて席を立つ。
 そうだ。
414壁に耳あり その6:03/03/25 06:47 ID:vO1uAcDO
 あたしは良い考えが頭に閃いた。
「初音、後始末はあたしがするから、あんたさっさと学校に行きな」
「うん。ごめんね」
 初音は素直に言うことを聞くと、鞄を手に取り部屋を出た。
 遠い学校に通っているにもかかわらず、朝食の後片づけを手伝ってくれる初音にはいつも感謝していたが、
今日はいて欲しくなかった。
 ようやく、千鶴姉と二人きりになれた。
 千鶴姉はのんきにテレビを見ながら、食後の珈琲にミルクを入れスプーンでかき混ぜていた。
 話すなら今だ。
 あたしは覚悟を決めると口を開いた。
「なぁ千鶴姉、あたしが今年大学受験をする事は知っているよね」
「ええ、もちろんよ」
「それで、その、深夜に集中して勉強したいの」
「あまり、無理しすぎないようにね」
 千鶴姉を笑顔であたしの問いに答えた。
 さすが亀姉。あたしの言いたい事に気づいていない。
「千鶴姉、あたし夜は静かなほうが気が散らなくて勉強がはかどるの」
「そうね」
「だから……その、今夜から静かにして欲しいんだけど……」
「判ったわ。楓や初音にも私から言っておくわ」
 その言葉を聞いた瞬間、あたしの中で何かがきれた。
「妹達より、千鶴姉がうるさいんだよ!」
 思わす大きな声で怒鳴りつけてしまった。
「私が?」
 糾弾された本人は首を傾げていた。
415壁に耳あり その7:03/03/25 06:47 ID:vO1uAcDO
 本当に気づいていないらしい。この女はどれだけどんくさいのか。怒りが沸々と込み上げてくる。
 あたしが文句を言おうとした時、
「………あっ」
 千鶴姉が思い出したかのように声をもらした。
 口に手を当てたまま、千鶴姉の頬が、耳たぶが、うなじがとたんに赤く染まっていった。
 どうやら、あたしの言いたいことが漸(ようや)く飲み込めたらしい。
「ねぇ、梓、もしかして……聞こえていたの?」
 攻守を変えて、今度は千鶴姉が恥ずかしそうにあたしに聞いてきた。
「聞こえた」
 あたしは端的に一言答えた。
「ご、ごめんなさい。まさか聞こえているなんて………」
 千鶴姉は気まずさからか、両手の人差し指をチョンチョンとつつく仕草をした。
「と、とりあえず、私は今夜仕事で遅くなるし、耕一さんも疲れているみたいだから、今夜はしないと思う……」
「誰も、そんな予定なんか聞いてちゃいねぇーーーーー!」
 バンッ!
 あたしは思わず、拳をテーブルに叩きつけた。テーブルに載っていた珈琲カップが、カチャリと音を立てた。
「ご、ごめんなさいぃーーーーーーーーーー」
 千鶴姉は逃げるように部屋を出ていった。
 まったく。
 あたしは思わず溜息をついた。
 これで今夜から静かになるだろう。
 あたしはとにかく勉強に集中できればなんでも良いのだ。


 え〜っと、この文法だと、主語がどれだっけ。
416壁に耳あり その8:03/03/25 06:48 ID:vO1uAcDO
 時刻は午前1時。
 あたしは遅れた二日分をとり返すため必至だった。
 確かこの動詞は受動態だから、これであっている筈。
「……ぁぁぁぁ、ぅぁぁ……」
 ………え……。
 辞書をめくる指が思わず止まる。
 今、何か聞こえたような。
 あたしは耳をすませた。
「……んふぅ、ふぁぁぁ……」
 それは紛れもなく女の喘ぎ声だった。
 ベシィッ。
 買ったばかりの罪のないシャーペンを、あたしは思わず握りつぶした。
 千鶴姉の馬鹿―――――――――――っ!
 何が『今夜はしないと思う』だよぉーーーーーっ!
 あたしは頭を抱えた。
「……ふぅ、ん、ぁぁ……」
 確かに昨日よりは声は小さめだった。しかし、あたしの耳に届いてしまうのであれば、大声だろうが小声だろうが大差などない。
 この恨み、晴らさずにおくべきか。
 あたしはどうしてやろうかと思案しつつ、声の聞こえてくる後の壁を睨み続けた。
 …………………ん、うしろ?
 昨日までアノ声は、前の壁、つまり千鶴姉の部屋から聞こえてきた。それが後ろから聞こえてきたということは…………。
 楓の部屋か聞こえてきた?!
 あたしは空いた口が塞がらなかった。
417壁に耳あり その9:03/03/25 06:49 ID:vO1uAcDO
 ちょっと待って。ちょっと待って。それってどういう事?
 思わず気が動転してしまう。
 落ち着け。落ち着け。落ち着けあたし。
 頭を振って呼吸を整える。
 楓の部屋からアノ声が聞こえてきたと言うことは…………。
 予想その1。千鶴姉と耕一が楓の部屋で、エッチな事をしている。
 予想その2。耕一と楓がエッチな事をしている。
 予想その3。楓が千鶴姉とエッチな事をしている。
 予想その4。楓が初音とエッチな事をしている。
 予想その5。楓が大きな声で独りエッチをしている。
 考えられ可能性はこれくらいだろうか。
 予想その1。まず楓がわざわざ自分の部屋を二人に貸すとは思えなかった。それに部屋を変える動機があまり考えら
れないから、多分違うと思う。
 予想その2。耕一は千鶴姉がいながら、楓に浮気をするだろうか。それも同じ屋根の下で。もしするとしても、普通
どこか別の見つからない場所でするだろうし。
 予想その3。楓にレズっけなんてあったっけ?かおりじゃあるまいし。そんな素振りなど見せたことが無いから多分
違うと思う。
 予想その4。これは予想その3と同じ理由で選択肢から消去。
 予想その5。うーーーん。楓がオナニーするかどうかは知らないけど、あんな大きな声でするかなぁ。今まで楓の部
屋からそんな声を聞いた記憶がない。
 以上の事から予想すると、予想その2の『耕一と楓がエッチな事をしている』という可能性が一番高いけど、いまい
ち確信が持てない。
 今回は声が小さいこともあり、壁越しでは誰の喘ぎ声か判らなかった。
 部屋の前まで行って、ドアに聞き耳を立てればハッキリと判ると思うけど…………。何が悲しくて、身内のアレの声
をじっくり聞かなきゃならないんだっーーーーーーー!
418壁に耳あり その10:03/03/25 06:50 ID:vO1uAcDO
「……あぁぁ、あぁぁ、ふああああぁぁ……」
 隣から聞こえてくる声がだんだんと早く、大きくなっていく。
 やだ……。
 あたしはそっと自分の胸に手を当てた。
 乳首が固くなってる。
 そっと触ってみた。
「んふぅ」
 気持ちが良かった。
 もう少し優しく揉んでみた。
 股間が濡れてきたような気がする。
 右手をそっとショーツの中に忍ばせた。
 今日もこれ以上勉強が出来そうになかった。
 何やっているんだろう。あたし………。


「なぁ梓、今日の朝食、なんかこう……」
「嫌なら食べなくてもいいんだよ、耕一」
 あたしはにべもなく耕一に意見を無視した。とはいえ、確かに今日の朝食は手抜きと思われても仕方がなかった。
 結局昨夜も夜遅くまで起きていたため、朝寝過ごしてしまった。運の悪いことに、いつも早起きの初音も、あたしと
同じくらい起床が遅かった。
 とりあえず、味噌汁だけは作ったものの、他は納豆、冷や奴、味海苔、明太子、昨日の夕食に出した肉じゃがなど、
あり合わせのもの出すだけで精一杯だった。
 あくびも昨日と同じように、ご飯を食べながらでも出てくる始末だった。
 さて、どうしたものか。
 あたしはまず楓を観察した。
419壁に耳あり その11:03/03/25 06:50 ID:vO1uAcDO
 楓はいつもの早いペースで朝食を平らげていた。千鶴姉とは違った意味で、何を考えているか判らないところがる。
とりあえず、特に変わったところは見つけられなかった。
 耕一も食欲旺盛にご飯を口に運んでいる。こちらもへんな素振りを見せていない。
 あたしは迷った。
 皆のいる前で『楓、あなた昨夜何していたの?』と聞くわけにもいかず、千鶴姉とは違い、二人きりになっても話辛い。
 何か良い手は無いかと思っていた時、初音が眠そうに口を開けた。
「ふわわあぁ」
 見ると顔にくまができていた。
 よくよく考えると、初音の部屋もあたしと同じように、楓と部屋が隣合わせになっている。もしかしたら初音もアノ声
の為、眠ることが出来なかったのだろうか。
 それだ。あたしはいい方法を思いついた。
「ねぁ、初音。あくびばかりして昨日はよく眠れなかった?」
 あたしは皆に聞こえるように、大きな声で言った。
「う、うん。ちょっと」
 心なしか初音の白い肌に赤みが差したようにように見えた。
「実はあたしも昨夜ねむれなかったのよね。うるさくて」
「ごちそうさま」
 楓は逃げるように部屋から姿を消した。
「俺もごちそうさま」
 耕一も慌てて後を追った。
 二人の重要参考人の行動はあからさまに怪しく思えた。
「わ、わたしもごちそうさま」
 気まずいのか初音も席を立つ。
420壁に耳あり その12:03/03/25 06:55 ID:vO1uAcDO
 千鶴姉だけが何の事か判らない顔をして………判らない振りをしているだけかもしれないけど、のんびりと日本茶を
飲んでいた。
 ちょっと露骨だったかな。
 結局昨夜、楓の部屋で何があったのかは不明だった。正直知りたくもなかった。
 とにかく、夜さえ静かになればなんでもいいのだから。


 静かだった。
 その日の夜はとても静かだった。
 時折外で鳴いている虫の鳴き声が聞こえるだけで、両隣の部屋からは何も聞こえなかった。
 単語や数式がするすると飲み込むように頭の中に記憶されていく。ふと気がつくと3時間以上机に向かって集中して
いた。
「あーー、流石に疲れた」
 あたしは両手を頭の上にあげ、座りながら背骨を伸ばした。
 このペースでいけばなんとかなるかな。
 あたしが目指している大学は、少しだけ偏差値が足らなかった。でもこのままがんばれば、耕一と同じ大学に………。
 そこまで考えて、少し鬱な気分になった。
 耕一は千鶴姉のことを愛している。
 実のところ志望大学も、耕一がいるからという理由だけで、同じ大学に決めていた。
 耕一のこと好きだったのにな……。
 あたしが耕一の事を好きだという事に気がついたのは、何時の頃からだろうか。
 昔は単なる遊び友達だった。でも時が経つにつれ、アイツの側にいたいと思う自分がいた。
 耕一はあたしの事を女としてみているのだろうか。いずれにしても、告白する勇気もタイミングも逃してしまった。
 耕一はこの家が気に入ったのか、夏休みが終わるまでこっちにいるらしい。もしかしたら、大学を辞めてコッチに住
むとか言い出すかもしれない。
421壁に耳あり その13:03/03/25 06:55 ID:vO1uAcDO
 そんな事になったら、あたしも受験辞めて地元で就職しようかな………。
 あたしはハットして、頭(かぶり)を振った。
 何考えているんだろう、あたし。
 とりあえず、冷たい物でも飲もうと麦茶を入れている容器に手を伸ばした。
「あれ、もうないや」
 1リットル入れる事の出来る、ガラスの容器は中身がカラッポになっていた。
 しょうがない。下の冷蔵庫からお代わり持ってこよう。
 あたしはガラスの容器を手に取り、部屋の外に出た。
 ガチャン。
 闇の広がる廊下にドアの閉まる音が響き渡った。
 あれ、そういえば…………。
 ふと、あることが気になった。
 各部屋に取り付けられている扉は、締める度に大きな音をたてた。その為自室にいても音のする方向から、誰が部屋
に入ったのか大体の見当がついた。
 しかし、今夜はドアの閉まる音を聞いた記憶がない。もしかしたら、まだみんな1階にいるのだろうか。こんな深夜に? それとも、あたしが勉強に集中して音に気がつかなかっただけだろうか。
 まるで、心に棘が刺さったように気になった。
 あたしは千鶴姉のドアの前に立つと、ゆっくりとノブを回した。ノックしようか悩んだが、寝ていた場合起こすのは
悪いと思い、黙ってドアを開けた。
 部屋の中は無人だった。
 綺麗にベットメーキングされたシーツが、この部屋の主がまだ戻っていないことを告げていた。
 次にあたしは初音の部屋を覗いてみたが、同じように誰もいない。楓の部屋も同様だった。
 あたしは頭をひねった。
 もしかしたらみんな居間にいるのだろうか。
 静まりかえった廊下を進み、居間を覗く。
422壁に耳あり その14:03/03/25 06:56 ID:vO1uAcDO
 誰もいない。
 台所は? やっぱり誰もいない。
 あたしは電灯のスイッチを押した。
 一瞬まぶしさで目が眩む。
 冷蔵庫の中から、冷えた麦茶の入った容器を取りだし、代わりにカラッポの容器に水と麦茶のパックを入れ、冷蔵庫
の中に戻した。
 再び部屋のスイッチを押して明かりを消すと、麦茶の入った容器を手に、もと来た道を引き返した。
 それにしても、みんなどこにいったのだろう。
 こんな深夜に揃って出かけるとは思えない。
 まさか?!
 あたしは耕一の寝室である、和室のある方向に目を向けた。
 もしかして、千鶴姉も、楓も、初音も、耕一の部屋に………。
 思わずつばを飲み込んだ。
「ま、まさか、そんな事ないよな」
 あたしは誰に言うでもなく独り呟くと、自分の部屋に戻った。
「勉強しなきゃ。こんなに静かなんだし」
 心の中で不安と動揺でゆれていた。
「冷たい麦茶でも飲んでがんばるか」
 どうして、あたしだけひとりぼっち……。
「英語は終わったから、次は数学かな」
 もしかしたら四人で……。
「えっとこの関数はどうやって解くんだっけ」
 勉強にしようとするあたしの頭に、三日間の喘ぎ声がよみがえってくる。
「しゅ、集中しなきゃ、今年受験なんだし……」
423壁に耳あり その15:03/03/25 06:58 ID:vO1uAcDO
 耳の中にこびりついた、アノ快楽を貪る歓喜の声が幾度となくリフレインし、四人の四股が絡み合う妄想と頭の中で
結びついた。
 ベキッ!
 新しいシャープペンが、再びあたしの握力によって握りつぶされた。
 パンッ!
 持っていた教科書を床に投げ捨てた。
 バッーン!
 勢いよく部屋の扉を開くと暗い廊下に飛び出した。
 あたしは、耕一の寝室目指して月明かりの照らす廊下を駆け抜けた。
 気になる。
 気になる。
 何をやっているのだろう。
 きっと耕一の寝室でトランプをしているに違いない。さもなくばどこかに出かけたのだ。
 でも………。
 もし耕一の寝室から、アノ声が聞こえたら。
 もしみんな、産まれたままの姿で、お互いの体を求め合っていたら。
 その時あたしは………。
 あたしは………。
 廊下の角を曲がる。
 耕一の寝室が見えた。
 室内の明かりは消えていた。
 寝室の前に辿り着くと同時に、躊躇なく和室の障子を開けた。
 そこで、あたしが見たものは…………………………………………。

<終わり>
424壁に耳あり 終了:03/03/25 06:59 ID:vO1uAcDO
以上です。

結局1日、徹夜して書き上げるハメになりました。
本当は、一日前に投下したかったのですが。
とりあえず、1時間ほど眠れるかな……。
後の人もかんがれー
425名無しさんだよもん:03/03/25 07:34 ID:PumbUvbW
うぃ、がんがりますた。
これから投下します。タイトルは『サツキ・ザ・ワイルドキャット』
Routes皐月エンド後のお話です。
未プレイの方はネタバレにご注意。
 それを見たとき、伸ばしかけた手が止まった。
 なにか得体の知れないものが、そこにあった。一見、カチューシャのようにも見えるが、それにしては変なおまけがついている。三角の。2つ。繊維性のふわふわとした素材。皐月は、見慣れないアイテムに首を傾げる。
 昼下がりの秘密基地に二人以外の人影はなかった。宗一は、情報収集だといって朝から出かけたままだ。どうやらミッションの佳境らしいが、詳しいことは教えてくれなかった。
 彼から切り出さない以上、皐月に手助けできることはなく、そのことを歯がゆく思っていた矢先、エディから連絡があったのだ。
『新アイテム作ったから、ちょっとオイデ』
 と。その言葉を聞いて、飛んできた……のだが。
 端から端までくるくると眺め回したあと、ようやく皐月は口を開いた。
「高集音イヤホン……だよね?」
「ソ! オラッチのお手製、世界に1個の貴重品。録音・解析なんでもござれ、サツキちゃんのために、三日三晩徹夜したんだからネ! あ、徹夜したことソーイチには内緒。からかわれると困るからネ〜」
 自慢げにまくしたてる。飄々とした口ぶりながら、言葉の隅々に自信がうかがえるのもいつものことだ。
 もう一度、見る。やっぱり普通の形ではなかった。
 エディの言うとおり、性能は素晴らしいのだろう。彼の手によるというアイテムが実に良く活躍するのを、これまで皐月は何度もその目で見てきた。自身、彼のアイテムに助けられたことも数知れない。今回も、きっと役に立つものだろう。
 その思いは、なかば確信に近い。全面的に信頼してもいいはず、なのだが。
 ……この形は。
 エディの手に差し出されたそれは、どう見ても、猫耳。お祭りとかで、ちょっと目立ちたがりな女の子の頭についている、あれ。
 確かにかわいいし、イベントでは盛り上がると思うけれど、普通の女の子がつけるものでは決してない……と思う。あたしは普通の女の子、のつもり。
 こんなものを、つけろっての?
「あれ、どーしたのー。お気に召さない?」
 形状以外はお気に召すんだけど。
「だって恥ずかしいじゃん!!」
「見た目を気にしちゃ、働けないヨ」
「普通の形でも十分でしょ」
「猫の耳はいいんだヨ〜。人間の3倍良く聞こえる」
「……本当は?」
「ソーイチの趣味」
 ……見当ついてはいたけれど。あ、心の奥に今何かどす黒い感情。
「いや、フツーはヘッドホン型で十分なんだけどネ、ソーイチがどうしてもって言うからネ」
 膨らむ。どんどん大きくなる。
「指示通りに、ピンと尖ったヤツをネ」
 そろそろ手に震えが。こめかみに痙攣が。
「それから、尻尾も用意したから、そっちは夜にでもソーイチにつけてもらってネ」
 ――エディさん、今あなた危険です。
「じゃあ、オラッチはこれから仕事だから。ソーイチによろしくネ〜」
 察したか、返事も待たず、一目散に駆け去る。歴戦の経験、野生の本能、その早業たるや天下一品。でなきゃ、一流エージェントのナビは務まらない。彼の前では、いかな皐月とてまだまだ駆け出しのヒヨッコに過ぎない。
 そんな彼女には、かわいい子猫が良く似合う、と思ったのか? 宗一。
 だが、今の彼女は。
 ……卓上に残された猫耳集音機を前に、一人、肩を震わせている。
 体の中を、熱いものが駆け回っている。のたうつような奔流が、次々に湧き上がっては弾けている。
 想い。あいつへの想い。
 この怒りにも似た感情が、本当は愛しさの裏返しだと分かっている。
 でも、彼女は素直になれないから。

「この、ド変態ーーーーーーーーっ!!!」
 夕方、帰ってきた宗一をさんざん殴り倒した。
「あんたなぁ、あたしを何だと思ってるっ!」
「ドロボー猫」
 ガスッ!
「押しかけ妻」
 ガスガスッ!!
「暴力魔人」
 ガスガスガスッ!!!
「どれも間違ってないと思うが……」
 ガスガスガスガスッ!!!! キーン!!
 声もなく崩れ落ちる宗一。
 おまけにデザートとばかり、もう2、3発叩き込む。
 お客様、コースは以上。食後のコーヒーはミルクでよろしいですか。
「……ブ……ラ……ック……」
 うん、まだ生きてる。我が旦那、タフだねー。
 冗談には聞こえない感想を洩らしつつ、
「りょーかーい」
 スキップを踏むように駆け出す皐月。
 ちょっと賑やかだけれど、このくらいの騒ぎは、ここではいつものことだから。
 ほどなく部屋に広がるフレーバー。彼女の手には、2つのカップ。
「熱いよ、気をつけて」
 ようやく起き上がった宗一に1つを手渡して、
「サンキュ」
 二人で飲む。
 豆は皐月流ブレンド。一億単位の金を自由にできるくせに食費にはケチくさい旦那のために、苦心して作り出したそれは、安くて、美味くて、いい香り。そう、例えるなら家庭の味。妻の味。
 二人で味わう1杯は、湯浅家の至福の一時。
「……って、ちょっと待てぃッ! なんで湯浅家やねん!!」
「えへ。あたし、そーいちの奥さん」
「結婚しとらんわ!!」
「今にするー」
「言ってろ」
「照れない照れない。そーいち、らぶー」
 宗一の腕を、ぎゅうっと抱きしめる。
 こんな一言をひと暴れしなきゃ言えないのがわれながらおかしいけれど、伝わるならそれでいいんだと思う。あたし達がちょっと不器用な人間だってこと、分かってる。
 だから高めたテンション、最高潮の今ならあいつも素直に応えてくれるはず。
 その言葉を期待して、待つ。
「らぶは分かったから、猫耳つけてみてくれ」
 ……どうして気の利いた一言が言えませんか、この人は。
「今日、エディにもらったろ?」
「マジで言ってる?
「大マジ」
「……土下座しろ」
「は?」
「あたしに恥ずかしい格好させたかったら、土下座してお願いしろって言ってんの!!」
「……んなことできるかっ! このバカ!!」
「バカぁ!? フンっ! あんたが頭下げるまで絶対に付けてやらないもんね!! 明日エディさんにお願いして作り直してもらおうっと」
 嗚呼、皐月は思う。コイツに甘い言葉を期待したのが間違いだった。売り言葉に買い言葉、せっかくのムードがぶち壊し。
 そっちがその気なら、それで結構。今宵は派手に血の雨降らせてやろうじゃん、とか思っていると。
「……皐月様」
 あっさりと宗一の口調が変わるのだ。
「何? 土下座する気になった?」
 あえて挑発的に言ってみるも、
「申し訳ございませんでしたあれを作り変えられたらボク生きていけませんなにとぞ不肖そういちにそのネコミミお姿をお見せいただけませんでございましょうか」
 我意に介せず。床に這い蹲るようにして口上を述べる宗一。まさに懇願。あーあ、男って嫌だね。すぐに落ちるんだから。
 彼の背中を眺める皐月の顔に、複雑な表情が浮かんで消え、
「そこまで言うなら是非もない。特にお主だけに見せてやろう。余の寛大さに感謝するが良いぞ」
 いや、すぐに落ちたのはこっちか。
 ――弱いなあ、あたしも。
 われながら、もう苦笑するしかなかった。
「ははっ、ありがたき幸せ」
 涙を流さんばかりに平伏している宗一に、
「じゃ、夕食の後で」
 ちょっとだけお預けを食わせて、キッチンへ向かった。

(暗転)
―※―※―※―

 『ラディッシュ』の営業はとうに終了していた。正面ドアには硬い錠が下ろされていた。裏へ回った。よろめくように裏口から入ってきた皐月を、マスターが驚いた顔で迎えた。
 こんな夜更けに一人で訪れるのは、普通ではなかった。
 マスターが秘密基地への扉を開けようとするのを、皐月は弱弱しく手で制した。そのままのろのろとフロアへ向かう。
 フロアに人気はなく、真っ暗だった。机や椅子がただ黙々と居並んでいた。その光景がいっそう寂しさを際だたせた。見たくないものを見てしまった気がして、目を背ける。
 カウンターの一角に照明が点った。吸い寄せられるように、皐月はカウンター席に座った。暗いフロアを見なくてすむだけでも、ありがたいと思った。
「……今晩は、どうしましたか」
 マスターの声音が優しかった。差し出されたホットドリンクを口にすると、いくぶん気持ちが落ち着いた。
「置いてけぼり……だよ……」
 上手く声が出なかった。無理に出すと、涙が混じったような声になりそうだった。
 事件は、夕食の直後に起きた。食事の後片付けを終えて、約束どおりさあこれから、というとき、宗一の携帯電話が鳴ったのだ。ミッションのヤマが今夜半に迫っているという、エディからの報告だった。
 宗一は、ワリィ、朝まで帰れない、とだけ言い残してすぐに出て行った。結局、猫耳姿を見せる暇もなかった。連れて行ってくれと言うと、言下に断られた。彼の様子から、大きな仕事であることが察せられた。
「宗一、一人で行っちゃったよ……」
 このところは、訓練代わりと称して皐月も一緒に連れて行かれることが多かった。内心、ようやく彼のパートナーになれた、と喜んでいたのだが、それが甘い考えだったことを思い知らされた。
「あたし……役に立てないのかな……」
 愚痴に過ぎないと分かっていた。口にしても始まらないことだと分かっていた。
 それでも、誰かに聞いて欲しかった。マスターなら聞いてくれそうな気がした。
「車の運転もマシになったのに……銃の腕も上がったよ……悪者の2、3人だって倒せるよ……宗一のためなら……なんでもやるって……死んでもいいって言ってたのに……」
 胸のつかえを吐き出すように、皐月はしゃべり続けた。マスターがただ静かに聴いてくれている。その優しさが嬉しかった。
 そのまま、どれくらいの時間が過ぎたろう。皐月が顔を上げたとき、マスターは天井を見上げていた。彼の目線が、ラディッシュの広い天井をさ迷っていた。
 入り口のドア付近から秘密基地のある奥のほうまで、ずうっと眺め渡した後、ゆっくりと口を開いた。
「……私がここのマスターを任されたとき」
 その声は、静かで、優しかった。普段の男気あふれる態度を見ているだけに、意外だった。彼の違った一面を見た気がして、皐月は背筋を正した。
「忘れないでおこうと、心に決めたことがありました」
「なに?」
「ここが、あなた方の居場所だということ」
「秘密基地のこと?」
 それだけではなく、とマスターが首を振る。
「あなた方が集い、笑ったり、語らったり、泣いたり、愚痴をこぼしたりできる場所。裏の世界に生きる人たち達の大切な居場所。……それを任されたんだということ」
「そういえば……マスター、昔はエージェントだったんだよね」
「今もそのつもりです。この大切な場所が失われないよう、守る。それが私に与えられたミッションと言えるかも知れません。たとえ誰の指示でなくても」
「……」
「はは……格好つけすぎましたか?」
 ちょっと照れたようなマスターの言葉を、皐月はぶんぶんと首を振って否定する。
「あたしもなにか……分かる気がするよ」
「なんだかんだ言っても、宗一さんは、あなたを必要としています。そのことにあなたが気付くのなら」
 いつのまにか、マスターの唇に笑みが浮かんでいた。そう、あいつが守って欲しい居場所、あたしがそれに気付いたならば。
「今に、依頼があるはずです」
 確信に満ちた口調で、言った。
 ……その言葉に応えるかのように、着信音が鳴った。
 音を聞いて、皐月は弾かれたように立ち上がる。マスターが、ほらね、といった表情で彼女を見ていた。
 食い入るように画面をチェックする。間違いない。宗一からのメッセージ。今朝日の出時に帰るから迎えに来てくれ。たった、それだけの内容なのだが。
 血の巡りが早い。瞬時に体の隅々にまで酸素がいきわるような、高揚感。体が、行動を求める。
 考えるより先に、口が動いた。
「マスター、コーヒー!」
 その声に、先ほどまでの悩みはもうなかった。
「飛び切り濃いやつ、朝まで眠くならないように、って早っ!!」
 湯気を上げるカップが既にカウンターに用意されているのを、皐月は驚きの目で見た。
「宗一さんとは、長い付き合いですから」
 マスターが事もなげに言うのを聞きながら、一気に飲み干した。飲みやすい温度まで計算されてるのは、さすがというべきか。
「ご馳走様!」
 出口へ駆け出す皐月を、
「あ、皐月さん」
 マスターの声が呼び止める。そして、
「居場所を守るのは大切な仕事です」
 静かに、力強く、言った。
 その言葉に大きくうなずいて、皐月は夜の闇に駆け出した。

―※―※―※―

 ガレージからミルトを叩き起こすと、その運転席に滑り込む。黒いシートが皐月を柔らかく受け止めた。
 皐月は自分の車を持っていない。エディも出かけたまま連絡が取れないとなれば、ミルトを借りるしかなかった。
 起動キーを預かっていた。宗一に見守られてだが、運転経験も何度かあった。性能は信頼している。
『...check...check...OK. Welcome, Miss Yuasa...』
「あー、御託はいいから日本語でしゃべれー」
 こいつに世界26カ国語を話せるようにしている宗一の意図は、いまだに良く分からないけれど、今はそんなことを問い詰めているときではない。
『……失礼。今晩はお一人で?』
「そ。宗一を迎えに行くよ」
『了解。到達目的地、到着時間、経路の設定を……』
「はいはい、これ読んで!」
 ミルトの受信機に、携帯のメモリーデータを転送する。
『pipi. データ読み取り中…完了。目的地、新潟県柏崎。到着予定時間、5:30am... オートモード起動します……』
「それ却下! あたしが運転するの」
『……』
「なぜ黙る!!!」
 その理由は、自分でよく分かっているのだけれど。
 深夜のハイウェイは気持ちいいものだ。テールライトの美しい赤。窓を流れる街明かり。そして心地よい排気音。北へ向かう交通量は少なく、思い通りの走行を妨げない。
「へへへー。そーいち待っててねー」
 ニコニコ顔でハンドルを握る皐月。
『……』
「なに黙ってんのよ」
『……せめて辿りつくことを祈ります』
「なにそれ。そりゃあ、この前の練習でちょこっと擦ったり、ミラー割ったりしたけどさ」
『…………』
 いやな記憶を思い出したか、ますます沈黙するミルト。
「今度はダイジョブだって! 人間、一度事故れば二度とは事故らない」
 説得力がないのは、エディのバニッシュの惨状を見なくても、一目瞭然なのだが。
『心配です』
「かわいくなーい」
 ミルトは自分に正直だった。
『ところで』
 口調が変わる。
「……分かってる」
 バックミラーを覗き込む。ずっと一定の距離を保って黒いセダンが1台追いかけてきていた。
『浦和から尾いています。車種判別できません。おそらく改造車』
「人数は?」
『前部座席に2人、後部は良く見えませんがおそらく1人』
「敵だと思う?」
『Yes』
「よし、振り切るよ!」
『I see』
 掛け声一つ、アクセルを踏み込む。力強いエンジン音。みるみる回るスピードメーター。150km...180km...200km...街明かりは筋に、やがて一本の帯に。 皐月には車の詳しい知識がない。ただ直感のままに、アクセルを踏み込み、ハンドルを切る。
 夜のハイウェイに、車は少ない。日本が誇る高規格道路を、ひたすら飛ばす飛ばす。皐月にとっては未知の領域。いつしか陥るトランス感覚。
「この感覚、悪くない……」
 うっとりとエクスタシーに浸る皐月を、だが、
『駄目です。まだ尾いてきます』
 無常にもミルトの声が現実に引き戻す。
「え〜、なんで」
『相手も改造車。高速内では振り切れません』
「まじ?」
『……マジです。次の指示を』
 皐月は大きく息をついた。いい調子だったのに、と一人愚痴る。
 ミルトの高速度で振り切れないのなら、ハイウェイ内での勝負は無理だ。となれば一旦、平行道路に降りて、加速性能とハンドル捌きで勝負を掛けるか。
「次のICで降りる。街中でまこう」
『……』
「ひょっとしてイヤ?」
『いえ、了解。ICまであと5km。高崎の市街図用意……』
「あ、あたしの腕信用したんだ」
『……できる限りのサポートを致します。いざとなれば私が運転』
「かわいくないこと言う」
 今夜の皐月の使命は、海から帰ってくる宗一を、待ち受けること。帰着予定は日の出ごろとのことだったが、彼のミッションの進行具合によっては、何時間も待つ必要があるかもしれなかった。
 得体の知れない車についてこられるのは迷惑だ。できるだけ早いうちに、まいておきたかった。
 迷いなく、ICの出口に向かった。
『皐月さん、ここからが本番』
「OK……気合入れるよ!」
 ETCをフルスピードで抜け、そのまま寝静まった街中へ爆音を響かせる。小路をうねり、民家の軒下をかいくぐり。近所の住民には迷惑だろうなぁ、とは思いつつ、
「このスピードに尾いてみろーー!!」
『Pi...pipipi!!』
 どう考えても、この状況を楽しんでいる二人。市街地を通り過ぎ、黒いセダンが追ってこなくなったあとも、彼女らのスピードが落ちることはなかった。

―※―※―※―

 潮の匂いがした。
 市街地を外れ、丘をいくつか越えた先、山影に隠れるようにして、目的の入り江があった。 こんなところまで道が通じているのが不思議に思えるほど、人里離れた場所だった。それは同時に、裏で動く仕事にはもってこいの場所だということでもある。
「早く着きすぎちゃった。あいつらのせいだよ」
 半分以上言いがかりの文句を付けながら、道端にミルトを止めた。
 エンジン音を消すと、あたりは驚くほど静まり返った。
 小さな浜が、静かな波音を立てていた。
「何時?」
『pipi... 現在4:00am... 日の出まで2時間』
「ありがと」
 ドアを開けて、外に出た。慣れない長時間の運転は、予想外に体に堪えていた。軽い運動で体をほぐすのに、しばらく時間を費やした。
 風は弱かった。海辺では、昼は海からの、夜は陸からの風が吹く。今の時間、丘を通り抜けてくる風は木立に邪魔されるのか、皐月のたっている浜までは届いてこなかった。
 予報では、夜半から風が強まると言っていたが、遅れているのだろうか。そんなことを考えた。
『pipi...バッテリー保存のため、ライトを消します。よろしいですか』
「あ、うん。おやすみ」
 ミルトのヘッドライトが落ちると、あたりは月明かりばかりの闇になった。
 闇の中に、砂浜が青白く浮かび上がった。その向こう、暗い海の中に、白い波頭が浮かんでは消えるのが見えた。
 1つ、2つ。皐月はその数を数えようとして、すぐに止めた。数え切れるわけがなかった。波の連なりは見渡す限りどこまでも続いている。
 そのさらに向こうは、真っ黒に染まって何も見えなかった。ただ広がる闇。海と空の境目すら、黒の中に溶け込んで定かではなかった。
 その闇の中にいるであろう宗一のことを、皐月は思った。
 こうして帰りを待つのは、今まではエディの仕事だったのだろうか。それとも、迎える人もなく一人で帰っていたのだろうか。この暗い海で仕事をすることも、それを待つことも、ひどく孤独な感じがした。
 やるせない気持ちになって、皐月は頭を振った。過去のことはどうだっていい。今日、宗一を迎える役目があたしに任されたのなら、あたしは何時間でもここであいつを待つ。それだけのことだ。
 だから、宗一。安心して帰っておいで。暗い海の向こうに、そう呟く。
 耳を澄ませた。波の音が聞こえた。打ち寄せる波。返っていく波。どこか遠い場所の響きを運んでくるその音。
そこに海がある。どこまでも続く波の向こう、そこに宗一がいる。今聞こえている波の音の何分の一かは、あいつの発した音を含んでいる。きっと。そんな気がした。
 ふと、昼にもらった猫耳のことを思い出した。高集音イヤホン、人間の何倍もの性能で音を聞き分けるとエディが言っていた。今、使ってみようか、と思った。
 ミルトのトランクに積んできたそれを、取り出す。装着は簡単だった。手で触ると、まさに猫耳グッズのようだった。鏡がないから分からないが、さぞかしそれらしく見えるのだろう。
 リモートコントローラを手にして海辺に立った。とりあえず、自動サーチ。無用なノイズになる音は拾わない。なかなかの高機能。
「聞こえるかな……」
 海に向かって耳を澄ませる。はじめは、ザザーン。ザーン。波の音。そして。
 ブロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!
「なんじゃあ〜〜」
 どうやら排気音を拾ったらしい。慌ててスイッチを切る。
 ……もしかして。
 振り向いた丘の上、暗闇を切り裂くようなヘッドライト。頂から下ってくるのは、
「うわ、追ってきたよ」
 紛れもなく、先ほどカーチェイスを繰り広げたセダンだった。月明かりにその黒い体を浮かび上がらせながら、一直線にこの海岸へ近づいてくる。さっきまいたはずのその車。偶然ここへたどり着いたか、いや、恐らくは。 急いでミルトを起動する。
『逃走が派手すぎました』
「やっぱり」
 考えてみれば、あれほどぶっ飛ばして人目につかないほうが不自然だった。あの車が追跡してくるに十分な情報を残してきたのだろう。
 ただ、今はそんな過去のことを言っている場合ではなかった。こうしている間にも、セダンはこちらへ迫ってくる。黒光りするボディに、明らかな敵意が感じられる。
『今なら浜沿いに抜けられます。ここは一時撤退を』
 ミルトの意見はしごく正論。だけど、ここであたしがやるべきことは。
「迎え撃つ」
 トランクを開け、中を探る。
『不利です。相手は複数』
「だって、あいつがここへ帰ってくる」
『あなたに何かあっては、ご主人様が悲しみます』
「そういう問題じゃないの。わかってよ」
 ――居場所を守るのは、大切な仕事です。
 頭の中を、その言葉がよぎる。
 あいつはここへ帰ってくる。そのとき出迎えるのは、あたしでなければならないのだ。
「ミルト!!」
『……左手に雑木林。日の出まで2時間弱。ご武運を』
「サンキュ。なに、林の中へおびき出して、罠の1つや2つにでも引っ掛ければなんとか」
『皐月さん、相手はもう目の前に』
「へ?」
 言われて目を上げれば、その視界を灼くヘッドライト。開いたドアから、一目で荒事師とわかる男達が1人、2人駆け出てきた。
「はやいっての!!」
 身を翻し、雑木林へ駆け出す。近い。5秒もあれば潜りこめる。
「ミルト、あんたは隠れてて」
 言い終わらぬうちに、走り出すミルト。不意をつかれた男たちの動きが一瞬、止まり、次の瞬間、
 パン! パン!
 足元で土が跳ねる。
「うゎ、いきなり撃つかぁ?」
 背をかがめ、転がるようにして暗がりへ駆け込む。林の入り口までの距離が、遠く感じられた。なんとか滑り込んだ。
「オイ、撃つな、当てるな」
 狼狽した声が聞こえた。
 どうやら命が目的ではないらしい。となると拉致か傷害か。
 いや、奴らの目的はどうでもいい、と頭を振った。捕まる前に叩くだけだ。皐月は、唇を結んだ。

―※―※―※―

  林の中は奥深く、暗かった。月が出ているとはいえ、目前の木立がわずかに見分けられるかどうかというところだった。陰になっている部分は、まったくの暗闇だった。
 皐月はその影の1つに身を潜めた。少し遠く、男達の声が聞こえた。何を言っているのかは聞き取れなかった。
 相手の出方を待つというのは初めてだった。皐月の性格からして、自ら仕掛けていくことが普通だった。
 それが今回は違う。状況を掴みきれない不安が、まとわりついてくるようだった。
 大きく息を吸った。3つ数えて吐いた。いくらか気持ちが落ち着いた。神剣を探して夜の街を走り回っていた日々を、体が徐々に思い出しているようだった。
 胸ポケットを探った。100万ボルトスタンガン。大の男も一瞬で気絶させられる優れものだ。ただ、スパーク音と閃光がネックだった。闇夜のゲリラ戦にはあまり使いたくなかった。
 男相手に接近戦をする気もなかった。なんといっても力が違う。組まれたらおしまいだろう。それよりは、飛び道具に頼るほうがいいと思った。
 今夜のチーフスペシャルは麻酔弾装填、消音仕様。頼もしいその感触を、皐月は右手に確かめた。弾は5発。この暗闇の中で、確実に当てることだけが課題になる。
 辺りは予想外に暗く、携帯用の暗視スコープは、ほとんど役に立たなかった。猫耳イヤホンを付けたままであったことをありがたく思った。コントローラーのスイッチを入れた。
 皐月は慎重に物音を探った。3人の足音が聞き分けられた。荒々しく草を踏みしだきながら、それぞれ分かれて捜索しているようだった。その中の1人が皐月から十数歩の距離まで迫っていた。
 陰に隠れたまま、目で様子を探った。人型が闇の中に浮かんで見えた。それがゆっくりと近づいてくる。気付かれている様子はなかった。皐月は目を閉じて呼吸を5つまで数えた。目を開けたとき、男は数歩の距離まで迫っていた。
 皐月は飛び出した。一瞬遅れて男が身構える。その腹に向けて撃った。麻酔弾が的確に吸い込まれた。
 男の足が土を蹴った。突き出された拳が、皐月の肩を掠めた。反射的に身をかがめた。目の前の足を払った。男の体が崩れた。
 男は崩れながら手を伸ばした。その動きに切れはなかった。麻酔弾が利きはじめたようだった。皐月は難なく身を避けると、その腹を蹴り上げた。男が低い呻きをあげた。顔に肘を振った。鈍い手応えとともに男の体が地面に叩きつけられた。
 起き上がってこないのを確かめてから、皐月は駆け出した。ぐずぐずしている暇はなかった。他の2人の足音が迫っているのを、猫耳が捉えていた。
 足音は、さっきまでと比べていくぶんひそやかなものになっていた。仲間の1人がやられたので、警戒しているに違いなかった。
 皐月は慎重に距離を探った。男達はまた二手に分かれたようだった。2人とも、皐月から同じ距離ぐらい離れたところを歩いていた。どちらかが近づいてくるまで、隠れて待つことにした。
 月が雲に隠れ、しばらくしてまた姿を現した。さっきより傾いているように見えたが、どのくらい時間がたったのかは分からなかった。あたりは深い闇に包まれていた。
 男達はなかなか近づいてこなかった。さっきから同じところをぐるぐる回っているようにも思えた。それでいて次第にその輪を狭めているような気がした。
 このまま男達に囲まれるのは避けたかった。この場を動くことにした。辺りを探った。視界の片隅に、1人の姿を捉えることができた。その男はこちらに背を向けていた。
 罠かもしれないという心配はあった。だが、ここは勘に従うべきだと考えた。一瞬の躊躇の後、皐月は駆け出していた。
 男が振り返った。皐月は止まらず走った。男が身構える。それに向かって一発撃った。威嚇。それで十分だった。男がたじろぐ隙に、皐月はもう駆け抜けていた。
 追ってこようとする男に、もう一発撃ち込んだ。男の動きが止まった。当たってはいない。しかし、距離を稼いだ。そのまま少し走ったところで皐月は後ろを振り返った。
 男は木の陰に身を隠したようだった。その姿を視界には捉えられなかったが、潜むような息遣いが、猫耳を通して聞こえてきた。場所まで特定できた。
 すぐにも襲い掛かりたかったが、攻撃手段がなかった。横合いから、もう1人が次第に近づいてきているのが聞こえた。焦った。
 皐月は、挑発気味に数歩踏み出した。男が動き出した。木の陰から陰へ、すべるように移動していく。流れるような動きだった。銃を構えたが、狙いを付ける暇はなかった。すぐにあきらめて、駆け出した。
 次の瞬間、男の体が目の前にあった。
 皐月は草を薙ぐように右足を振り出した。男が身を引いた。爪先が男の腿を打った。
 男の拳が突き出された。皐月は飛び跳ねるようにしてそれを避けた。もう一度、右足を振った。今度は男の脛を捕らえた。男の表情がゆがんだように見えた。
 銃が使える距離ではなかった。だが、接近戦が不利とか言っている場合でもなかった。相手を倒したほうが生き残る。ただ、それだけだと思った。
 皐月は右腕を振り上げた。男は左手で受けた。銃身が二の腕をしたたかに打った。男の体勢は崩れなかった。そのまま男の右手が突き出された。よける暇がなかった。固い拳が、皐月の顎を捕らえた。鈍い音が響いた。
 一瞬、何が起きたのか分からなかった。頭が真っ白になったと思う間もなく、皐月は尻から地面に落ちていた。男が近づいてきた。とっさに振り上げた右手を掴まれた。
 腕力の差を思い知らされた。皐月には男の手を振り解けない。そのまま捻りあげられた。腕が悲鳴をあげるように軋んだ。何か叫んでしまいそうになるのを、必死の思いで耐えた。
 皐月は男の表情をうかがった。もう夜明けが近かった。林の中は次第に明るくなっていた。男の表情もかすかに読み取れた。その唇に笑みが浮かんでいるような気がした。
 男は皐月の腹を蹴り上げた。靴先が深くめり込んだ。皐月の目が見開かれた。その口から言葉にならない息が漏れた。捻られた右手から、チーフスペシャルが力なくこぼれ落ちた。
 それを見て、男が手を離した。糸の切れた操り人形のように、皐月の体が崩折れる。その体が、後ろから掴まれ、引き上げられた。
 もう1人の男だった。その顔を見る余裕は、皐月にはなかった。痛みが全身を駆け巡っていた。
「手こずらせやがる」
 その声が、どちらの男のものかすら良く分からなかった。
 後ろから突き飛ばされた。皐月は肩から地面に打ち付けられた。
 それを最後に、林の中が静まった。地面に這いつくばるような格好で、皐月は自分の呼吸の音を聞いた。それはひどく乱れていた。
 体から急速に力が抜けていくのが分かった。今までにない感覚だった。戦意を失うとはこういうことなのか、と思った。
 男達はしばらく息を整えているようだった。林は夜明けを迎えていた。猫耳イヤホンがそれらの音を良く集めた。彼らの息使いに混じって、小鳥の囀る声や虫達の飛び交う音が聞こえてきた。
 その中に遠く、波の音が混じっているような気がした。
 その音は、皐月に何かを思い出させた。あきらめてはいけないものがあることを知った。両の目に力が宿った。一度消えかけた火が再び燃えがってくるのを、彼女は感じた。まだ、終わっていない。そう思った。
「おい――」
 男の一人が皐月のシャツを掴んで立ち上がらせようとした。抵抗して動かなかった。
 男が身を乗り出した。
 それを待っていたかのように、皐月は転がった。不意をつかれた男が姿勢を崩した。
 皐月は跳ね上がった。手にスタンガンを握った。男の腹に押し当てた。閃光が放たれた。男の体が地面に落ちた。掴まれたままのシャツのボタンが半分ほど、ちぎれて飛び散った。胸元に涼風を感じた。
「テメェ!」
 もう1人の男が殴りかかってきた。一回転するようにして避けた。男の腕を取った。腹に膝蹴りを入れた。男が低い呻きを洩らした。男はもう一方の腕を伸ばしてきた。飛び退って離れた。
 体の前でスタンガンを構えた。男も身構えたまま動きを止めた。互いに間合いを警戒しながら、睨み合いになった。
 空はかなり明るくなっていた。男の姿が、肉眼ではっきり見えた。皐月の姿も、男にはっきり見えているはずだった。
 皐月の姿に何を思ったか、男の唇が歪んだ。
「子猫ちゃん、かわいいねぇ。アンタの趣味かい」
「うるさい!!」
 この期に及んで挑発する余裕が男にはあった。それが皐月は悔しかった。少しだけ宗一のことを思った。ここで引くわけにはいかなかった。
「あたしは……負けないッ!!」
 自らを鼓舞するように、一歩を踏み出した。
 男の拳が飛んだ。皐月の脇腹を捕らえた。下半身に痺れるような痛みが走った。かろうじて踏みとどまった。
 右手のスタンガンを突き出した。男の肩先を掠めた。軽く当たったか、男の体がよろめいた。
 皐月は力強く踏み出した。スタンガンを振り下ろした。その手が空を切った。男は転がって避けた。転がりながら、足を振り上げた。皐月の右手を捕らえた。スタンガンが宙へ跳ね上げられた。
 その軌道を皐月は追った。男も同じ考えだったのだろうか。くるくると回転しながら落ちてきたそれを、皐月の手と男の手が同時に掴んだ。
 時として、勝負には運というものがある。この場合は、皐月の運が男のそれを上回っていたというべきか。
 とっさの時点で、皐月が掴んだのはグリップ側だった。男は電極側だった。
 その体勢で、目線が合った。男がニヤリと笑った――ような気がした。
 閃光が放たれた。男の体が、力無く地面に落ちた。

―※―※―※―

 寝転がっている男3人を縛り上げて、皐月はようやく息をついた。
 他に追手の気配はなかった。林の中が再び静かになった。梢の高くがざわざわと鳴るのが聞こえた。風が出てきたようだった。
 終わった。と、皐月は思った。特段の感情は沸いてこなかった。まるで思考回路が痺れてしまったようだった。
 その状態で深く考えようとすると、体の疲れが噴出しそうだった。宗一を迎えに行かなきゃ、と、それだけを思った。日の出まで、もう時間が無かった。服の乱れを手短に直すと、勢いをつけて立ち上がった。
 チーフスペシャルは簡単に見つかった。拾って、林の入り口まで戻った。夜じゅう走り回った林も、明るくなってから見れば、なんということもない深さだった。
 林の入り口から海が見えた。男たちの車が乗り捨てたままにされていた。人の気配は感じられなかった。宗一の姿もまだ見えなかった。
 まだ間に合う。
 海岸で出迎えられることを、少しだけ嬉しく思った。皐月は大きく一歩を踏み出した。
 その時だった。
「待ちな」
 油断があった。銃口が頭に突きつけられていた。
 皐月は言われるままに立ち止らざるを得なかった。
「随分と暴れてくれたじゃねぇか」
 感情を押し殺したような声が響いた。咄嗟に何か言おうとしたが、言葉が出なかった。
「だが……しょせん素人は素人だな。最後にポカをやる」
 男の声にかすかな笑いが混じっていた。嘲りには聞こえなかった。捕らえた獲物を前に、ただ笑っている――そんな気がした。そのことが悔しさを煽った。
 待ち伏せられているとは考えつかなかった。林に入った奴らで全員という思いがあった。油断だった。軽率な判断を悔やんでみても遅かった。
「その物騒なものを、こっちにもらおうか」
 チーフスペシャルもスタンガンも取り上げられてしまった。猫耳イヤホンは外されなかったが、コントローラーを取り上げられた。男はそれらを慎重に改めて、ポケットにしまった。
 改めて、銃口を突きつけられた。金属質の冷たさが、皐月にもはっきりと感じられた。背骨の芯まで冷やされるようだった。
「……すぐにでも撃ち殺してやりてェところだが」
 男の声は、感情を押し殺したものに戻っていた。血の気が引くのが皐月自身にも分かった。
「上からの命令でよ。とりあえず車まで歩いてもらおうか」
「……どうする気」
「そこまでは知らねぇ。俺たちゃ命令を受けるだけよ。……まぁ、最後は、バラされて売られるか、ツメられて沈むか、……なんにしろ、もうまともなお天道様は拝めねぇと覚悟を決めるこった。
 若いのに気の毒だが、こっちも仕事でよ。……恨むんなら、テメェの未熟を恨むんだな」
 男が皐月の頭を銃口で小突いた。押されるように、1歩、2歩、歩き出した。海岸までの距離が、やけに短く感じられた。
 ふと、宗一が助けに来てくれることを考えた。海のほうを見やった。それらしい影も形も見えなかった。もう約束の時刻を過ぎている。彼の身に何かあったのではないかと、それが心配だった。
 皐月はのろのろと歩いた。1歩進むごとに、足取りは重くなった。
 水際まで歩いたとき、とうとう足を止めた。
 この場所で、何時間でも待ってやると決意したのが、ずっと遠い昔のことのように感じられた。こんなことになるなんて思いもしなかった。
 波の音も、潮の匂いも、そのままだった。ただ、海へ向かう風だけが強くなっていた。宗一にとっては逆風だ。そんなことを、沈みきった気持ちで考えた。
「オイ!」
 いらだった様子で男が声を上げた。頭がコツコツと小突かれた。
 足を上げようとした。その一歩がどうしても踏み出せなかった。この場所から離れる一歩が、宗一との距離を限りなく引き離してしまうような気がした。それくらいなら。
 くるり、と海のほうへ向き直った。
「何してる! 撃ち殺されてぇか!」
 男の怒号も、もう気にならなかった。
「……撃ちなさいよ」
 男のほうも見ずに答える。吹きつける風が背中を押して、海に押し出されそうだった。顔を上げると、目に水平線が映った。
 ――ごめんね、宗一。
 海と空が交わるその場所に向かって、皐月は言葉を紡いだ。
 ――この場所、守れなかったよ……。あたし……最後で失敗しちゃったよ……。……でも、宗一なら……きっと許してくれるよね……。がんばったな……って……ほめてくれるよね。約束の……猫耳……も……見せられなくてゴメン……。
 風が一段と強くなった。皐月の乱れた髪が舞った。引きちぎられたシャツがひらめいた。猫耳が遠くの風の音を捕らえていた。
 ――あたし……素直じゃ……ない……けど……今なら……言えるの。宗一。
 胸を張って、大きく大きく息を吸う。そして、一気に、吐く。
「大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 風は追い風。進路良好。
 ここからなら、あいつへのメッセージを届けてくれそうな気がした。
 これでいい。自分の心に頷いて、振り返った。
「……さ、撃ちなさいよ」
 目を閉じる。もう何も考えない。

「クックックックッ……」
「……!?」
 あれ、撃たれない? それに、なにこれ、男の口から含み笑い? 不審に思った皐月が、彼の顔を覗き込もうとしたそのとき、
『ヤリスギーーーー! サツキちゃん、ビビってオシッコチビっちゃうヨ!』
「エディさん!?」
『ウッシャッシャッシャッシャ……』
「わ、わりぃ……皐月」
「そ、そーいち!?」
「そ、俺」
 笑いながら帽子を取る男。その顔は間違いなく宗一。
「これ、どういうこと?」
「実は……」
 4人目の男と見えたのは宗一その人で、ちょっとからかったつもりだったこと。皐月が尾けられたのは予想外だったが、宗一達が帰ってきたときにはもうコトが終わっていて、こんなイタズラを考えたということ。ま、笑って許してくれ、ということ。
「そーいち……そーいちねぇ……(怒怒」
 そんな説明で、皐月が納得するわけもなく。
『オオ。サツキちゃん、顔が赤いヨ』
「あたしがこーんなに苦労したってのに、あんたは……あんたは!!」
 今度は、ほんまもんの怒りで肩を震わせている。
「ま、猫耳姿もたっぷり見れたし」
「見るなあーー!!」
 先ほど取り上げたコントローラ。そのボタンを宗一が押す。キュルキュル〜〜。
「巻き戻すなあーー!!」
 もう一度押す。
『大好きだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!』
「再生するなあーーーー!!」
 真っ赤な顔で、皐月が殴りかかる。それを宗一が笑って受け止める。
『ひゅーッ! 見せつけてくれるネエ』
 エディが冷やかす。
 宗一の笑いとも悲鳴ともつかぬ声が、早朝の海岸に響いた。その声も、風がさらっていった。
451名無しさんだよもん:03/03/25 08:22 ID:PumbUvbW
以上でおしまいです。レス間の行開けは無しでお願いします。
時間かかってすみません……
1レス伸びてすみません……
>>444は、(19/25)の誤りです。すみません……

では。次の人に。
452 ◆28qsaJNT.c :03/03/25 08:30 ID:HhkYCGH8
締め切り延長希望の方はいますか?
453名無しさんだよもん:03/03/25 08:42 ID:hIANL4gy
9時ぐらいまで待って下さい…一つ投稿できそうなんで。
454 ◆28qsaJNT.c :03/03/25 08:45 ID:HhkYCGH8
【告知】

ただ今をもって、投稿期間を終了させていただきます。
参加された書き手の皆様、どうもご苦労さまでした。

それでは、これから感想期間に入ります。
投稿された SS について感想、討論などをご自由に行ってください。
期限は 4 月 1 日の午前 8:00 までとさせていただきます。

以下が、今回投稿された作品一覧です。

>>180-188 voice(浩平・みさき)
>>205-209 検索結果は耳(To Heart)
>>240-244 柏木家の夜(痕)
>>247-250 きみのみみのみかた(圭子)
>>265-270 耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上のアンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答(梓)
>>289-301 空に響く君の声(こみパ)
>>306-307 お約束劇場・耳編(痕)
>>313-329 シンデレラはもういない(名雪)
>>332-341 幸せな空の色(芹香・綾香・セリオ)
>>344-356 十八の夜(セリオ)
>>360-381 名前(浩平・みさき)
>>384-398 こんなふたりですけれど(浩之・綾香)
>>401-405 めぐりくる春(痕)
>>409-423 壁に耳あり(梓)
>>426-450 サツキ・ザ・ワイルドキャット(皐月)

なお、今回投稿された作品一覧は
http://sscompe.tripod.co.jp/
からでも見ることができます。
455 ◆28qsaJNT.c :03/03/25 08:46 ID:HhkYCGH8
すいません >454 は取り消しの方向で……
>453 氏の作品を待ってから、改めて投稿終了とします。
456名無しさんだよもん:03/03/25 08:55 ID:hIANL4gy
ある言葉を知ってないと意味がわからないかも…その時はスマソ。
では、今から浩之・綾香・セリオのToHeartSS『犬耳』を投稿します。

後、待ってもらったのに面白くなくてスマソ。
457犬耳1/7:03/03/25 08:55 ID:hIANL4gy
今日は日曜…何もする事がなく、リビングのソファーに寝転びボーっとしている俺。
「はぁ…何か面白い事ねぇかなぁ…」
非常に退屈している。
別に家に一人というわけではない…遊びにきている奴もいる。
と、いうか…一応恋人とメイドロボだ。
「…………」
パリパリ…パラッ(スナック菓子を食べる音と雑誌をめくる音)
「……」
ジ〜〜(コッチを見続ける)
…………はぁ……
「なぁ、人の家に来てまで本を読むか?」
「…………」
…パリパリ(無視したようだ)
「……」
ジ〜〜(監視?続行)
コイツらは…マイペースというか…おおらかというか…
「……」
ピシィー(ページに折り目を付ける)
「綾香……お前、俺の雑誌に折り目を付けるな」
「ん?なんで?…欲しい物探す時便利じゃない」
訪問者&恋人である綾香は不満げな声を出し、俺をジト目で見る。
っつーか、お前が便利でも俺の雑誌に折り目はつけるな。
「綾香様、私も浩之さんの雑誌に折り目を付ける行為はどうかと思います」
その綾香をセリオがジト目…ではなく、冷静な目で見る。
「……駄目?」
「「駄目(です)」」
「な、何もそこまで断言しなくても…」
458犬耳2/7:03/03/25 08:56 ID:hIANL4gy
俺とセリオの言葉にショックを受けたのか、俯き加減で雑誌をめくり、
「えいっ!!」
ピシィー
「だから折り目をつけるなぁっ!!」
懲りずに同じ事をする綾香。
「良いじゃない、お前の物は私の物、私の物は私の物って…」
「某ガキ大将か…お前は」
「?…何の事か理解できませんが…」
セリオ…お前は知らなくて良い…
「それにしても…お前って俺の雑誌にばっか折り目付けるよなぁ…」
「そう?…う〜ん…考えてみたらそうかも…」
考えるまでもなく、そうだと俺は思う。
俺の家で綾香が雑誌を読めば、必ずと言って良いほど折り目がある。
「でも、浩之だってそうでしょ…ドッグイヤーぐらいあるんじゃない?」
ドッグイヤー……?…犬の耳…?
「ドッグイヤーとはページの端を折ると犬の耳に見える事から、
本に付けられた折り目を指して言われる言葉です」
説明ありがとうセリオ。
「そうだなぁ……あると言えばあるかも…」
ファッション誌、週刊誌、漫画雑誌…
気になる所は大体折り目を付けてるような…エロ本もな。
「ちょっと浩之の部屋を探してみましょうか」
「はい、お手伝いします」
何故か笑顔で二階へと向かおうとする綾香と、
その後ろをチョコチョコと歩くセリオ。
「ま、待てぇ!!」
止める俺の言葉を聞く前に、綾香とセリオは二階へと上がっていった…
仕方ない…俺も上に行くか…変なもの見つけられる前に…
459犬耳3/7:03/03/25 08:57 ID:hIANL4gy
俺は急いで階段を二段飛ばしで上がっていき、二階の廊下へ…
だが、そこではセリオが仁王立ちで待っていた。
「申し訳ありません、綾香様の申し付けですので…ココは通せません」
「いや、ココ…俺の「問答無用です」家って…そうか…」
どうしたものか………ん?そういえば…
俺の頭に名案…というより、迷案が浮ぶ。
正直、成功するか不明だし、可哀想な気もするが…俺の名誉の為だ。
「行かせるつもりが無いなら…コチラにも考えがあるぞ、セリオ!!」
俺はセリオの右側(俺にとっては左)に出来ている隙間を狙って走る、
「浩之さんは目的の障害となる存在と認識、これより排除します」
長瀬のおっさん…ロボット三原則違反だとは思わないか?
俺の思いを知るわけもなく、セリオの右膝が俺の鳩尾目掛けて飛んでくる、
それを左膝を軽く上げてガード、両手をおもむろにセリオの頭部へ…
カチャ…
そして、ソレを外した。
「敵将セリオ、討ち取ったりぃ!!」
俺はセリオの耳カバーを両手に持ち、高らかに宣言する。
「?……あっ!!…あぁ…」
マルチと同じく耳が恥ずかしいのか、セリオは両手で耳を押さえる。
さすがに顔は赤くなってないが、焦っているように見える。
「コレは賭けだった…マルチと同様に耳を見られるのが恥ずかしいと感じるか…
俺とあの馬面の勝負だったんだ…」
誰に言うわけでもないが、俺は呟いた。
さて、セリオは耳を隠して廊下にぺタリと座り込んで俺を見ている。
少し睨んでるように見えるのはセリオが俺を見上げているからだろうか…
とにかく、ドアへの通路は開かれた…俺は急ぐように自室の扉へ向かう。
そして…………ドアノブを回した…
ガチャッ、ガチャッ…ガチャガチャガチャガチャガチャ……ガチャッガチャッガチャッ!!
「ふっ、将軍浩之…討ち取られたりぃ…」
なぁ、綾香……鍵をかけるのは反則と思わないか?
460犬耳4/7:03/03/25 08:57 ID:hIANL4gy
俺はドアを開けるのを諦め、セリオに耳カバーを返し、
セリオに少々説教され(セクハラと同様とかなんとか…)、のんびり廊下に座っていた。
そんな時、
カシャンッ、カチャッ、
鍵を開け、ドアを開け、両手一杯に本を抱えた綾香が廊下に出てくる。
足が上がり気味なのは、足で鍵とドアを開けたからだろうか?
「あ〜、疲れたわ…少しベッドで横になればよかったわね…」
そういう綾香の顔には満面の笑みが…
「な、なぁ…そんなに俺の部屋に本あったっけ?」
「さぁ?ベッドの下には無かったし、本棚の後ろにも無かったわね…」
コ、コイツ…元々エロ本を探すつもりだったな…
「まぁ良いわ…それじゃあドッグイヤー探しといきましょう!!」
何故コイツはこんなくだらない事で盛り上がれるんだ?

とりあえず一階へと戻る事にした俺達、大量の本は俺が持つ事になった……何故?
まぁ、そのチャンスを生かしてヤバイ本はこっそり隠そうとしたが…
前には綾香、後ろにはセリオが固め、俺の行動を監視し続けるのだった。
「はいはい、無駄な努力はしちゃ駄目よ」
無駄っていうな。
「ご安心下さい、私は成年誌がありましても不愉快は感じませんので…」
「…あんまりそれ…慰めになってないぞセリオ…」
「セリオはセリオで気を使ってくれてるのよ」
その使い方をもう少し過激にしてくれ…綾香の行動を止めさせるとか…
まぁ、良いけどね…
「でも本当に安心して良いわよ」
「?」
「そんな知らない仲ってわけじゃないでしょ?」
だから余計に恥ずかしいんだよ…
461犬耳4/7:03/03/25 08:58 ID:hIANL4gy
「さぁ、始めるわよ!!」
綾香が雑誌を神経衰弱のようにバラバラに広げる…女性の全裸な表紙の本も所々にある…
「えーっと、まずはコレから…」
綾香は自分の足元にある本の折り目の部分を開く。
「コレは……一年前に発売されたシルバーリングのネックレスね…」
「あぁ、結局俺は買わなかったけどな…」
「何故ですか?」
セリオが疑問に…思ったかは不明だが、とりあえず聞いてくる。
「……金が無かったんだ…あの頃は親が家に何回も帰ってきてたから、仕送りが無かったし…」
セリオは『そうですか』と言い、頭をペコリと下げた…もしかして同情されてるの?俺…
綾香は興味なさそうに『ふーん』と言いながらもう一度その本を見る。
「この本にドッグイヤーは一つだけみたいね」
パンッと勢い良く閉じ、自分の横にその本を置く。
そしてまた次の本を取っていく…

「あ、このゲーム少し前に発売されて流行ってたわね…」
「確か初版が一日で全部完売されてニュースにもなったよな…買わなかったけど」
「今も根強い人気のネットゲームですね、主任も現在進行形でプレイ中です」

「んー…これはテディベアーセット…?…こんなの買うの?」
「いや、それはあかりが欲しがってた奴だ…確か買ったはず…」
「マルチさんも一時期欲しがっていました、私も…少し欲しかったです…」
「「…へ、へぇ…」」
「……何か?」

「え、えっと…コレは…ウレタンのレガースとナックルと、サンドバッグの通販ページね」
「あぁ、お前の影響受けてな…自分専用を買っておこうかと…今悩んでる所だ」
「それでしたら以前綾香様のご使用になっていた物をお譲りしますが…」
「私もその方が良いと思うわよ…手に馴染むと思うし…」
「お、そうか?んじゃ今度持って来てくれ」
462犬耳6/7:03/03/25 09:00 ID:hIANL4gy
一通り見終わった後、
「ん〜〜あんまり面白いモンじゃないわね…」
綾香が山積みになった本に肘を置いて、だらけながら言う。
「あのなぁ…」
コメカミがピクピク動いているのがわかる。
「ま、ココからはちょっと楽しくなりそうだけど」
そして成年誌……つまりエロ本を手にとって俺に笑いかける。
「ふっ…それはどうかな…」
意味もなく強がってみる俺。
そんな俺の仕草が面白かったのか、さらに笑いながら…本を開く。
表紙が某AV女優の奴は……あんまドッグイヤーは無かったはず…
「あ……コレは………モザイクが多めね」
何て感想だ…
「モザイクが多めって…それぐらい普通だろ」
「そうでもないわよ、アッチじゃ無いのが普通だし…最初モザイクのかかった本見た時笑ったわよ」
「綾香様、その言葉は女子校生には不適切かと思われます」
セリオ…お前の意見に賛成。
「そう?女子校じゃ当たり前だと思うけど…」
そんな綾香はまたも別の雑誌を取る。

「あ、放尿シーン…こういうの好きなの?」
「そ、それは魔が差したんだ!!」
「ご安心下さい、私は気にしません」

「SMも好きなの?」
「そ、それも…」
「浩之さんは良く魔が差す人なんですね」

俺のプライドが…プライドがぁ…
463犬耳7/7:03/03/25 09:01 ID:hIANL4gy
俺の自尊心が傷つけられ…ボロボロになった所で…最後の一冊。
これが…………一番ヤバイものだったりする(お約束)
古本屋で見つけた一冊なのだが……良くあるパーツ撮りの物だ。
「ん?表紙だけだとソフトな感じね…」
いや、全体的にソフトなのだが…足だけ、唇だけってのが…非常にヤバイ。
そんな事を知らない綾香は…問答無用でドッグイヤーの部分を開く。
「ん…ん゛?…足……よね」
「あはははは…はは…」
「足フェチですか?」
違う!!それは綺麗だなって…ほ、本当だぞ!!
珍しくドッグイヤーが二つあるその本の…最後の一つを開く。
「…あ、あれ……開けない」
「う゛!!」
まぁ、あれだ…あれ…張り付いたって奴だ…
「ほ、ほら、無理矢理だと破れるからな…」
俺はどうにかその本を取ろうとするが、
「駄目よ、気になるじゃない」
本を抱き抱えられた。
「頼むソレだけは!!」
「ふふっ…セリオお願いね」
「はい、ページには傷を付けず開きます
止めろぉぉぉっー!!!!

「…理解不能です…」
「……(激しく自己嫌悪)」
「…あ、アンタに…こんな趣味があったとは…」

その日から…俺に耳スキーという仇名が付けられた…( ;´Д`)いやぁぁぁぁぁー!
464名無しさんだよもん:03/03/25 09:05 ID:hIANL4gy
終わりです、間違えて犬耳4/7を二回やってしまいました、申しわけ無い。
では、終了してください。
連続投稿規制辛い!!
465 ◆28qsaJNT.c :03/03/25 09:08 ID:HhkYCGH8
改めて、締め切り延長希望の方はいますか?
9:20 まで待ちます。
466 ◆28qsaJNT.c :03/03/25 09:21 ID:HhkYCGH8
【告知】

ただ今をもって、投稿期間を終了させていただきます。
参加された書き手の皆様、どうもご苦労さまでした。

それでは、これから感想期間に入ります。
投稿された SS について感想、討論などをご自由に行ってください。
期限は 4 月 1 日の午前 8:00 までとさせていただきます。

以下が、今回投稿された作品一覧です。

>>180-188 voice(浩平・みさき)
>>205-209 検索結果は耳(To Heart)
>>240-244 柏木家の夜(痕)
>>247-250 きみのみみのみかた(圭子)
>>265-270 耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上のアンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答(梓)
>>289-301 空に響く君の声(こみパ)
>>306-307 お約束劇場・耳編(痕)
>>313-329 シンデレラはもういない(名雪)
>>332-341 幸せな空の色(芹香・綾香・セリオ)
>>344-356 十八の夜(セリオ)
>>360-381 名前(浩平・みさき)
>>384-398 こんなふたりですけれど(浩之・綾香)
>>401-405 めぐりくる春(痕)
>>409-423 壁に耳あり(梓)
>>426-450 サツキ・ザ・ワイルドキャット(皐月)
>>457-463 犬耳(浩之・綾香・セリオ)

なお、今回投稿された作品一覧は
http://sscompe.tripod.co.jp/
からでも見ることができます。
467名無しさんだよもん:03/03/25 12:11 ID:0MyKGSFf
>>466
>>258も。
468名無しさんだよもん:03/03/25 16:01 ID:EoODfIAz
24日の8時からの12時間で11本か……それまでが約二週間で5本。
やっぱみんなぎりぎりまで推敲してるのね。
それはそうと、今回主催の引退宣言のせいかみんな力入ってた気がする。
469名無しさんだよもん:03/03/25 21:18 ID:IvC9Cbfz
>>407
作品数多いし、長編も多いね。

>468
やっぱりそう思う?
自分も一周年記念&◆28qsaJNT.cさんラストということで、ひさびさに気合が入ってしまった。
みんなもそうだったんだろうか。

でも自分は、その肝心の気合入れるはずの作品を落としてしまったのだが。(駄目じゃん)

一周年分感想とかって、予告通りほんとにしてくれる人いるかなあ。
470名無しさんだよもん:03/03/25 21:18 ID:IvC9Cbfz
>やっぱみんなぎりぎりまで推敲してるのね。
投稿する一秒前にでも、もっと面白いことやいいことが思い付くかもしれないし。
現に自分は投稿したあとも、本文見るたびにがんがん直しが入る……。
逆に言うとやっぱり締め切りがあるっていうのが、投稿するいい区切り、
作品を作るいいモチベーションになってるかな。
この定期的な締め切りがなきゃ、去年SS十○作品なんて書いてない。きっと。
471名無しさんだよもん:03/03/25 22:09 ID:lc+v5ddt
うわ、長いのが多い……

保管所はまだ稼動してないのかな?
472名無しさんだよもん:03/03/25 22:41 ID:lc+v5ddt
「検索結果は耳」 >205-209

 面白かった。
 こういう素でやっているようなシュールさは好きだ。
 独特のノリとか、自分には絶対に書けないな、と思わせられる。正直うらやまスィ。


「柏木家の夜」 >240-244

 こりゃまた直球。
 微妙にひねくれてて笑いました。
 Rでは妄想CGなくなっちゃったのかー。
 もっともそのころから貧乳のバーニィは変と思っていたけれど。


「きみのみみのみかた」 >247-250

 こういうタイトルを見ると、重なった文字を抜いて暗号解読をしたくなります。
 「気の野方」?
 ……それはさておき。失礼だけど、また言わしてもらおう。
 中途半端ネタが分からん、と。困った。
473名無しさんだよもん:03/03/25 22:43 ID:lc+v5ddt
>472 ラスト1行訂正。

 中途半端にネタがわからん。困った。
474名無しさんだよもん:03/03/26 00:52 ID:u1TF+4pQ
新着レス200近くってどういう事よこれ?
とりあえず最初の5個ぐらいを読んでの感想だけでもちょこっと書いておこう。

一番面白かったのは、
『検索結果は耳』>>205-209
文章がとにかく面白い。
ネタが濃すぎて「耳」というテーマは薄いんだけど。

惜しかったのが、
『耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上のアンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答』 >>265-270
ネタはかなり面白いけど、やっぱり電話の聞き返しと独り言で構成される展開の強引さが、
度々目に付いてなかなか入りきれなかった。
あとはオチをちょっと引っ張りすぎかな。
長くなると粗が目立ってしまう感じでもったいない。
475名無しさんだよもん:03/03/26 12:28 ID:aPWl/dfe
今回、さすがに全部に感想を付ける人が減るかもね。
俺はいつもピックアップして付けてるからいいんだけど。
476名無しさんだよもん:03/03/26 21:13 ID:f6D8JYQb
いや、数が多いのはいいんだけどさ。
量がどれも半端じゃないねぇ。
一本平均11レス弱って一体……。

よ、読めるかな。
477柏木家の夜:03/03/26 23:46 ID:o8K9ejCp
SSに合わせ、初めて絵を描いてみますた。
ついでに見てもらえば幸いです。
全然似てないってのはご愛嬌で(w

CG職人さんレベルの絵が書けたらなぁ・・・。

ttp://banaga.axisz.jp/cgi-bin/hakagi/img-box/img20030326235223.jpg
478名無しさんだよもん:03/03/27 00:31 ID:GrVYZ03n
今回は「マルチ祭り」になるという予想は大ハズレですた。
しかしみんな気合い入ってるね。
期間中に感想付け終わるかなあ。

>>180-188 voice(浩平・みさき)
第一印象:折原浩平も丸くなったものだw
淡色系の作品といえるかな。
地の文がシンプルなのもスタイルの問題でしょう。
ただ、優しくほのぼのと仕上がってる反面、
かなり描写が絞られてるから素っ気ない印象が残ってしまう。
「音(声)でコミュニケーションするしかない」という状況を逆手に取って、
恥ずかしいことをしゃべらせようとするネタはなかなか面白かった。
いい話ではあるんだけど、ちょっと欲がなさすぎるような気はするね。
一カ所でもいいからねちっこい描写か刺激的な展開を入れると、読み物として引き締まると思う。
それを狙わないのもスタイルといえばスタイルだけども。
あと、「擽る」は辞書引かされたよw


>>205-209 検索結果は耳(To Heart)
第一印象:ワラタ
不条理ギャグに対して、欠けてる部分を指摘する意味はあるのでしょうか。
やりたい放題かと思わせて実はやられ放題ですね。
面白かったです。
でも、「耳」である必要がぜんぜんないような。
479名無しさんだよもん:03/03/27 00:32 ID:GrVYZ03n
>>240-244 柏木家の夜(痕)
第一印象:妹ズのコメントが妙に怖い
ウサ耳の耳なのね。
絵的には非常に面白いし、一点突破的なネタとしてはいいと思う。
本編屈指の盛り上がりシーンを使ったにもかかわらずオーバーラップがないのは個人的に残念。
まあ、ライトな萌え作品ならこれもアリかな。
この作品に課題があるとしたら動機付けだと思う。
バニーさんになったことと、ラストのハンティングの二点に説得力がほしい。
このままだと理由はあるけど行動するきっかけにはならない感じ。
ぜひやきもちなどの萌える動機(直接的なきっかけ)を。


>>247-250 きみのみみのみかた(圭子)
第一印象:Go To〜で見た気がするキャラ
申しわけないんだけど田沢さんというキャラはよく知らない。
セリオとの関係も判らない。
正当な評価はたぶん無理…と前置きしよう。
他人からはつまんないことに見えても、本人にとっては深刻かも知れない。
身体の悩みと異性の悩み。
地に足の着いた描写から見えてくるのはごく普通の女の子だね。
心理の流れにも行動にも違和感がなくてするすると了解できる。
描写には過分や不足は感じられない。ちょうどいい。
時節柄タイムリーな「春を思う時期」って風情です。
けど、それ以上はバックグラウンドを知らないのでどうしようもない。
困った。

…とりあえず今日はここまで。
480479:03/03/27 22:28 ID:GrVYZ03n
続き逝きます。

>>258 無題
第一印象:
四コマ的なシチュエーション。
力技で色々やれるのがこのスタイルの強みかも知れない。
こういうのはもっと在ってもいいな。
感想というのはあんまり書けないが。


>>265-270 耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上のアンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答(梓)
第一印象:綱渡り
梓がアホすぎて笑いますた。
あそこまでやってバレないとでも思ったのか。
何も地雷原でステップを踏むことはないだろうに。
作品としてみると、手持ちのネタをしっかり使い切ったという印象かな。
工夫の余地がないわけじゃないけど、こういうドタバタは勢いでしょう。
全編セリフというのも目先が変わって面白い。
481名無しさんだよもん:03/03/27 22:31 ID:GrVYZ03n
>>289-301 空に響く君の声(こみパ)
第一印象:揚げ物(オリーブ油)
よくまとまってるね。
書き慣れてるようだし技量もある様子。
テーマの処理に関しても、おいしいネタを良い場面で使えてると思う。
話の展開としては落ち着き気味だけど、本編を持った二次創作としてはアリでしょう。
あとはもう少し表現を抑えるようにするといいかな。
筆をセーブせずに素で書いたようなところが、いささか脂っこく感じる。
一人称の張り付き型心理描写だから余計そう見えてしまう。
ミスというより、あえてそう書いたような気もするが。

>>306-307 お約束劇場・耳編(痕)
第一印象:梓はどんな耳だったのか…
考えてみれば鬼なんだからツノの方が自然だ。
千鶴さんはきっとツノがよく似合う。むしろ動物の方が不自然だ。
でも別に自然じゃなくていいや。
258もそうだけど幕間でこういうのやってくれると和む。

>>313-329 シンデレラはもういない(名雪)
第一印象:ちと長いって
最初の1レス分を読んだ時点ではギャグ作品だと思った。
普通は作った「溜め」をどのタイミングで解放するかが重要だけど、
この作品はある意味潔いほどの傍若無人ぶり。
読者は香里の立場を強制疑似体験させられる。
もう少し読者受けを考えてプロット組んだ方がいいと思うが、
個人的には嫌いじゃなかったりして。
最後まで読んでみたらやっぱりギャグだった。

ひとまずここで。
482名無しさんだよもん:03/03/27 23:44 ID:XAUTS0ot
>>467も加えてまとめ直し。

>>180-188 voice(浩平・みさき)
>>205-209 検索結果は耳(To Heart)
>>240-244 柏木家の夜(痕)
>>247-250 きみのみみのみかた(圭子)
>>258    無題(祐一・美汐)
>>265-270 耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上のアンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答(梓)
>>289-301 空に響く君の声(こみパ)
>>306-307 お約束劇場・耳編(痕)
>>313-329 シンデレラはもういない(名雪)
>>332-341 幸せな空の色(芹香・綾香・セリオ)
>>344-356 十八の夜(セリオ)
>>360-381 名前(浩平・みさき)
>>384-398 こんなふたりですけれど(浩之・綾香)
>>401-405 めぐりくる春(痕)
>>409-423 壁に耳あり(梓)
>>426-450 サツキ・ザ・ワイルドキャット(皐月)
>>457-463 犬耳(浩之・綾香・セリオ)

まだ読めねー。
483名無しさんだよもん:03/03/28 00:03 ID:mAsEF8+e
>84 :葉鍵日報 3/25(Tue.) :03/03/26 00:11 ID:ExNhAmK7
> 【本日の書き込み数上位10本】
>
> 葉鍵的 SS コンペスレ 7 (+163)
> http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1045985789/311-n

出来事スレより。すごかったね。

でも、読むだけなら一時間半×2日ぐらいで
読めたよん。全部くまなく。
484 ◆28qsaJNT.c :03/03/28 00:32 ID:7cMQwcU+
>467
失礼しました。
>482
再度、投稿作品のまとめをありがとうございます。

それと業務連絡ですが、◆28qsaJNT.c は、これを最後に進行役を降りさせていただきます。
当初は、今回の総括期間まで務めるつもりではいましたが、事情が変わりまして、
そこまで務める時間がなくなってしまいました。
感想期間の途中という中途半端な時期になってしまい、申し訳ありません。
色々と述べたいことはあるのですが、作品の感想の邪魔になるので申し上げません。
ただひとつだけ、一年間どうもありがとうございました。

それでは ◆HMX73059.I 氏、引き続き、進行の方をよろしくお願いします。
485名無しさんだよもん:03/03/28 00:37 ID:uwtglLOZ
うわ、今日ラストですかΣ(´Д`) 突然な……。
一年間もつかれさまでした。ほんとにありがとうございます。
この後ももし機会がありましたら遠慮なくご挨拶&一参加者として来てくださいね。
486名無しさんだよもん:03/03/28 00:54 ID:9yHyaCaQ
◆28qsaJNT.c氏、お疲れ様でした。
春は、出会いよりも前に別れの季節なのだと実感します。
でも485さんの言う通り、また来てくださいね。
氏の行く道に幸あれ〜。
487名無しさんだよもん:03/03/28 01:07 ID:zRN9wrH6
今まで本当にありがとうございました。
氏の提案のおかげで漏れのSSスキルも大分上がりました(ような気が)。
今後も是非是非、投稿者などとして参加されることを願います。
488名無しさんだよもん:03/03/28 01:47 ID:Pj/7n3YY
挨拶したいところですが、このスレが今謝辞で埋められる事は氏の本懐ではないでしょう。
続きは統括期間にでも。

とにかく◆HMX73059.I 氏、よろしくお願いします。
489名無しさんだよもん:03/03/28 13:57 ID:ME1rr2qy
mentei
490 :03/03/28 23:40 ID:1WNXqvtv
【告知】

現在、葉鍵的 SS コンペスレは投稿期間を終え、感想期間に入っています。
今回投稿された作品の一覧は
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1045985789/482n
となっています。
また、
http://sscompe.hp.infoseek.co.jp/ss/11/index.html
からでも投稿された作品を見ることができます。

目に留まった作品だけでもいいので、よろしければ感想を書き込んでください。
あなたの一言が、未来の SS 職人を育てるかもしれませんYO!
491490:03/03/28 23:47 ID:1WNXqvtv
下のリンク間違えました。
運営者用のテンプレなんか使うんじゃなかったな。
スマソ
492名無しさんだよもん:03/03/29 00:27 ID:74kl/s0g
>258
今回のテーマとの関連ということでは、一番だろう。
湯水のごとく垂れ流されるネタには、ある種爽快感すら覚えた。
敢えてヒネリがないのも確信犯だね。
……美汐が可愛かった。
それだけで、このSS(?)には十分と思う。

「耳かき(以下略」 >265-270
試みは面白いけれど……ラストへのまとめかたが惜しい。
最初の部分は流れるような出だしで、会話のやりとりとか、よく考えられていると感心した。
引っかかったのは、喘ぎ声が出てくるところから。大事な演出なんだけど、やはり読みにくい。
早々と犬の正体が割れたこともあって、その辺りで先に読み進もうとする意欲が弱くなってしまった。
最後はどうせ千鶴姉が怒り狂うのだろうということも予想できたしね。
全体的なバランスからして、読ませどころを間違えたかなーという印象。
入れるもの=耳かきというメタファーは良かったと思う。
ま、とっさの言い逃れ以上の何者でも無かったわけだけど。もう少し絡んでくるかな、と期待していた。
タイトル。「一般解答」の前に「柏木家的」をつけたほうがいいと思います!(w

「お約束劇場・耳編」 >306-307
いや、ありえないし(w
こんなことまでもやらかす「柏木家の能力」マンセー。
お約束の展開、楽しめました。
>初音「梓お姉ちゃんもはえちゃったの?」
このセリフ、なんかエチィ。
493まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:25 ID:U8z3j5tk
美汐「お邪魔いたします。今回も感想を携えて参りました」
真琴「あれ? やめたんだと思ってたわよぅ。前回、書かなかったし」
美汐「単にこの書き手が忙しく、文章にまとめられなかったのです」
真琴「じゃあ、暇になったんだー」
美汐「いえ、現実逃避しているようですね」
真琴「……あぅー、いいのかなぁ……」
美汐「私たちには関係ありませんから。
   では感想を書かせていただきます」


○Voice >>180-188
真琴「最初からいいお話だったぁ。きっとね、みさき、浩平の声だったらどんなに離れてても聞こえるのよぅ」
美汐「私も話はいいと思いました。けれど気になるところがいくつかあります」
真琴「……また重箱の隅、突っつくのぉ?」
美汐「性分ですから。
   まず一つ目。ONE本編と、折原さんの帰還するシチュエーションが変わってしまっていること」
真琴「でも、ああいうシチュエーションにするのが、一番効果的よぅ」
美汐「確かに効果的かもしれません。けれどそのために本編の話を変えるのは、どうかと思います。
   二つ目。みさきさんほど盲目の期間が長ければ、人の歩く足音だけでその人物を特定できると思います」
真琴「えっ、そんな事出来るの?」
美汐「はい。私も真琴の足音なら分かりますよ」
真琴「えーっ?」
美汐「跳ねるように元気のいい音がします。それに一歩ずつ微妙にテンポが変わるところが、真琴らしいですよ」
真琴「ふーん、そうなんだー……」
美汐「三つ目、テーマの問題です。『耳』、というより、『音』のSSになってしまっています」
真琴「あぅ、確かに……」
美汐「もう少し、耳そのものについて書き込みがあったら、また印象は変わったかもしれませんね」
494まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:26 ID:U8z3j5tk
○検索結果は耳 >>205-209
真琴「あぅー、なんか中途半端、っていうか……」
美汐「そうですね。ギャグは繰り返すのが基本、といいますが、それが滑ったとでもいうのでしょうか」
真琴「うーん、お約束にすぎ、なのかなぁ」
美汐「レミーさんは銃を乱射し、智子さんはタイガースの話で逆上し、マルチさんは……
   むしろそれだけで改造というのは無茶すぎて笑えません」
真琴「それに最後があっけなさ過ぎ、っていうか……ギャグになってない、っていうか……」
美汐「結局、SSでありがちなToHeartの世界に、『ear』という単語を持ち込んだだけ。
   独自要素が何もないのです。これで笑えと言うのは酷というものでしょう」
真琴「真琴も全然面白くなかったの……ごめんね」

○柏木家の夜 >>240-244
真琴「えと、これって……?」
美汐「痕のシーンを覚えていないと、一寸意味不明なSSですね。
   本編で千鶴さんが柏木さんのところに訪れてそのまま肌を重ねるシーン直前の、いわば改変コピペでしょう」
真琴「コピペなのぉ?」
美汐「はい。自分で書かれた部分は最後の段落のみです」
真琴「あぅーっ、手抜き手抜きーっ」
美汐「とはいっても、この場合その改変部分を元の文章と重ねて楽しむものですから。
   こういうのも一つの手段ではありますね」
真琴「うー、真琴、そこまで覚えてわよぅ」
美汐「そうですね、上級者向き、とでもいうのでしょうか。理解してもらえる読者を限定してしまいそうですね」
真琴「でもなんで、ばにぃがぁる、なの?」
美汐「確か……痕の全エンディングを見ると、そういうおまけCGが表示されたはずです。
   千鶴さんだけでなく、四姉妹みなさん登場していたはずです」
真琴「あーっ、それが最後のところの『なんで妹たちも〜』ってところに繋がるのね?
   あぅーっ、そんなのわからないわよぅっ」
美汐「まぁ痕フリークのためのSS、とでもいいましょうか。
   ともかく、このSSも『耳』がテーマとしては、少し弱かったと思います」
真琴「テーマがうさぎだったらよかったのにねっ」
495まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:28 ID:U8z3j5tk
○きみのみみのみかた >>247-250
美汐「ここに来てようやく『耳』に正面から向き合ったSSが登場ですね」
真琴「でも……田沢圭子って、誰?」
美汐「誰って……ああ、そうですね、彼女はゲームには登場しませんでした」
真琴「じゃあアニメ版の人なんだー」
美汐「いえ、ドラマCDの人です」
真琴「あぅーっ、そんなの知らないわよぅ」
美汐「そういうマイナーキャラだからこそ、自分で色々設定を付加できるというメリットもあります。
   おそらく、自分の耳にコンプレックスを持っている、というのも筆者のオリジナル設定でしょう」
真琴「でもそれで、セリオが自分の耳の写真を送ってくるのに、どういう意味があるの?」
美汐「確か、メイドロボの耳カバーについては色々と設定があったと思います。
   人間と間違えられないようにつけている、とか。
   メイドロボにとって、それを見せる事は恥ずかしい事だ、とか。
   あ、これはPS版の追加設定でしたか」
真琴「ロボットなのに恥ずかしいの? へんなのー」
美汐「私もそこまで詳しいわけではないですから……」
真琴「ということは、自分も頑張って恥ずかしいのを我慢したんだから、あなたも頑張ってね、
   って写真を送ってきたってことなんだー。やっとわかったー」
美汐「基本知識がかなり必要で、これも上級者向け、なんでしょうか。
   話自体は良くできていたと思います。読みやすかったですし」
真琴「でも、恥ずかしがったり、自分からこんな写真を送ったり、セリオって本当にロボットなの?」
美汐「一般的にSSでは、メイドロボもかなり人間味がかかった描かれ方をしますが、これもその一端、ということでしょうか」

>>258
真琴「……耳年増……」
美汐「失礼な事、言わないでくださいっ」
真琴「……って、何?」
美汐「…………真琴は一生知らなくてもいいことです。言葉の意味も、実際の内容も」
真琴「あぅーっ、気になるーっ」
496まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:29 ID:U8z3j5tk
○耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上のアンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答 >>265-270
真琴「あぅーっ、タイトル長いーっ」
美汐「……一応意味はあるようですけれどね」
真琴「えーっ、そうなの?」
美汐「私の考察が間違っていなければ、ですけど。あまり説明したくはありませんが」
真琴「ぶーぶーっ」
美汐「さて、このSSですが……」
真琴「ずーっと梓の一人言なんだもん、あんまり面白くなかったわよぅ」
美汐「私はそこが面白かったですよ。電話のこちら――梓さんとその周辺――で起こっている事と、
   千鶴さんの言葉を想像すると、ですけどね」
真琴「あぅー、そういうの苦手……あ、その、本当は……えっち、なことしてる、ってのはわかったけど」
美汐「それをとっさに耳かきとなぞらえるところが、この話のもっとも面白い点であり、重要なところでしょうか。
   つまりそれが知覚的メタファーである、と」
真琴「……よくわかんないけど……そうなんだぁ」
美汐「ただ残念なのは、精神構造上のアンチテーゼであるところの千鶴さんの問いかけを説明するために、
   梓さんの台詞が説明的になっている部分があることでしょうか」
真琴「ふーん……(もはや聞いてない」
美汐「特に最後の方は説明が少々くどかったと思います」
真琴「……で、最後はどうなっちゃったの?」
美汐「その問いかけは彼らにとって酷なものでしょう……ただ……」
真琴「ただ?」
美汐「姉の恋人を自分の部屋に連れ込んでおいて長電話する方も迂闊でしたね、と思いまして」
497まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:30 ID:U8z3j5tk
○空に響く君の声 >>289-301
真琴「……それでこの”さようなら”って、誰の声だったの?」
美汐「さて、誰の声でしょう」
真琴「あぅー、美汐にもわからないんだぁ……」
美汐「そうですね……なんといったらいいのでしょうか。これもそうですが、他にも気になる点がたくさんあるお話でした」
真琴「ふんふん、例えば?」
美汐「それが私自身にもよくわからないんですよ」
真琴「えー、どういうことよぅ」
美汐「なぜか読後、すっきりしませんでした。でも自分でなぜだか分からないのです」
真琴「美汐らしくないー」
美汐「一つ言えるのは……予定調和が気になったのかもしれません」
真琴「よてーちょーわ?」
美汐「郁美さんは心臓の手術をして、治っていて、でもそれを千堂さんは知らずにいて、
   でも彼女のことを思って書いた同人誌はノンフィクションと言われるほどその状況に合致していて、
   感想をもらえなかったと落ち込む横で瑞希さんはその事実を知っていて、
   でも最初に千堂さんにかけた言葉は今までで一番良かったという言葉で――」
真琴「あぅーっ、ストップストップーっ、本当にわけわかんないわよぅ」
美汐「……すみません、でも本当によくわからなかったので……。
   真琴はどうでしたか?」
真琴「えと……あんまり面白くなかったわよぅ。
   だって、ずーっと和樹がいじいじしてて、場面が変わらないんだもん。
   そしたら、勝手に自分で納得しちゃうし」
美汐「説明不足だったのでしょうか?」
真琴「うん、そうかも」
美汐「……だそうです。あまり意味のある感想にならず、申し訳ありませんでした」
498まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:31 ID:U8z3j5tk
○お約束劇場・耳編 >>306-307
美汐「……これは……?」
真琴「どしたの?」
美汐「これとまったく同じオチの話が、アンソロジーコミックに載っていました」
真琴「……あぅー、偶然じゃない?」
美汐「そうかもしれません。どちらにしろ、二レスに分けるほどのものでもないかと」

○シンデレラはもういない >>313-329
真琴「あぅーっ! だーまーさーれーたーっ!」
美汐「耳元で叫ばないでください。気持ちはよく分かりますけど」
真琴「祐一、死んじゃったんだと思うわよぅ、この最初の方っ!」
美汐「実に見事でした。私もすっかり騙されました。ただ少しやりすぎな気もしますけれど。
   一ヶ月、期間限定で居なくなっているだけですのに」
真琴「でもそれって、名雪が祐一の事をそれだけ好きだ、ってことになってるんじゃないのかなぁ」
美汐「……そうかもしれませんね。
   仕組みを知ってから最初から読み直すと、作者が実に念入りに仕掛けを考えていた事がよく分かります」
真琴「香里が心配してたのは、のろけを聞かされること、とか……」
美汐「『耳』が出てくるから、無理やりテーマである言葉を持ってきたのかと思っていましたが……」
真琴「電話越しのキス……ロマンチックよねぇ」
美汐「とはいうものの、読んでいくと疑問がいくつか出てきたので、せっかくですから聞いてみましょう」
真琴「……また重箱の隅……」
美汐「どうもこの話ですと、毎日、日本時間の夜七時半から明け方まで名雪さんと祐一さんは電話での逢瀬を楽しんでいる、と。
   ……ではなんで、相沢さんは地球の反対側にいるのでしょう?」
真琴「え、親の都合、って……」
美汐「この話の通りならば相沢さんは、現地時間の朝七時半から夜まで、ずっと電話しているのですよ。
   相沢さんの両親にどういう都合があるにしろ、その目的が果たせなかった事は想像に難くないですね」
真琴「一日、電話してるだけで終わっちゃうね」
美汐「他の仕掛けが見事だった分、この設定が少し気になりました」
499まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:31 ID:U8z3j5tk
○幸せな空の色 >>332-341
真琴「耳掃除だけの話だと思ったら、またセリオの耳が出てきたー」
美汐「しかもこちらと『きみのみみのみかた』では、メイドロボの耳に対する設定が微妙に違うようですね。
   お陰で少し、混乱してしまいました」
真琴「でも、このセリオもなんか人間みたいね」
真琴「そうですね。同じような状況になったら、普通の人間のメイドでも困る状況でしょう。
美汐 そのような反応をロボットがする、と言うこと自体がこのSSの最大のテーマなのかもしれませんね」
真琴「でもこのプレゼントしてくれた人、なんでイヤリングなんて渡したんだろ?」
美汐「そうですね、綾香さんは純粋な親切心で、と言ってましたが、本当に親切ならこういう処理に
   困るものを渡すというのも変な気がしますね」
真琴「もしかして……」
美汐「なんですか?」
真琴「セリオの耳を見たかった、とか……?」
美汐「それはそれで、面白い解釈かもしれませんね」

○十八の夜 >>344-356
真琴「あぅー……またセリオの話よぅ」
美汐「でも今まで話とは違い、こちらのはHM−13……量産型の話ですね。そして主人公はオリジナル」
真琴「なんかね、セリオの話って、独特の設定が多くていっつもわかんなくなっちゃうの」
美汐「以前の「旅」の時のお話もそうでしたね」
真琴「あれはお話自体が感動的だったからよかったけど……こういうの、苦手ー」
美汐「男の人の感情というのは、女性からは理解しにくい部分がありますからね」
真琴「それに、えっちの描写、ここまでいらないわよぅ。今回のテーマ『耳』なんだし……」
美汐「全てにおいて中途半端だった、という感じでしょうか。テーマの使い方はよかったと思うのですが……」
500まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:32 ID:U8z3j5tk
○名前 >>360-381
真琴「……これで終わりなのぉ?」
美汐「そんな酷な事はないでしょう」
真琴「非道すぎるわよぅ、なんで目の見えない人、耳まで聞こえなくするのよぅ!」
美汐「インパクト、と言う面では確かにそういう選択はよかったと思います。
   目の見えない人が耳まで聞こえなくなる。それはどれほどの恐怖でしょうか。
   けれど――」
真琴「そこでおわっちゃうんだもんっ!」
美汐「重要なのはこの後、でしょう。このあと二人がどういう選択をし、この苦難を乗り越えていくのか。
   話として読みたいのはむしろそのような部分なのです」
真琴「一体何が書きたかったのよぅ」
美汐「まったくです。この様に書き手の意図が見えないSSは、私は好きではありませんね」
真琴「真琴も嫌いっ」

○こんなふたりですけれど >>384-398
真琴「あぅー……」
美汐「なんとも赤裸々と言うか……
   けれど綾香さんの一人称のためか、淫靡という雰囲気はなかったですね」
真琴「あぅー、なんでそんなに客観的にみれるの?」
美汐「……慣れです」
真琴「!?」
美汐「さて、このコンペに対するSSとしてみると、テーマの使われ方が弱かったです」
真琴「えー、でもその、耳で……あれだし……」
美汐「その耳、ということが出てきたのは話も3/4が終わったところ。
   しかも状況から展開がたやすく予想がつくものとなっていました」
真琴「確かにそうだけど……」
美汐「もっと全体を短く……極端にいうと、前半はまったくいらないのではないでしょうか。
   綾香さんが午睡から起きるところからはじめても、簡単な状況説明位で十分だと思いますし」
501まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:33 ID:U8z3j5tk
○めぐりくる春 >>401-405
真琴「何かセツナイお話ね」
美汐「楓さんが耳を撫でるのは、過去の記憶として耳の違い、
   すなわち生き物としての違いで辛い思いをしたことを思い出したから。
   と、耳自体を痕本編の設定に繋げる発想はお見事でした」
真琴「でも、そこから盛り上がらなかったのよぅ」
美汐「そうでしょうか。楓さんの静かな決意が伝わってきたと思いますよ。
   派手さはありませんでしたけどね」
真琴「耕一も千鶴にとられちゃうしね」

○壁に耳あり >>409-423
真琴「梓、かわいそー」
美汐「そうですね、毎晩隣からそう言う声が聞こえて来るという状況は、ぞっとしないものです」
真琴「違うわよぅ。最後、梓だけ仲間はずれだったんでしょ?」
美汐「……さて、どうなのでしょう」
真琴「ほら、この四姉妹、梓だけ仲間ずれなところ、あるし。
   もしかして……耕一ってひn――」
美汐「それ以上言うと狩られてしまいますよ」
真琴「(ガクガクブルブル)」
美汐「物語としてみると……どうなのでしょう。一番面白い部分を読者に委ねてしまっているのは残念です」
真琴「えーっ、だってこれ、四人でえっちなことしてるの、間違いないわよぅ」
美汐「そう、ほぼ確定なのです。このため、物語が今ひとつ盛り上がらずに終わってしまっています。
   なにしろ、一番盛り上がるのは、このふすまを開けた後の修羅場だと言うことが読者には分かってしまっていますからね」
502まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:34 ID:U8z3j5tk
○サツキ・ザ・ワイルドキャット >>426-450
美汐「誠に申し訳ありません、こちらのSSは感想の書き手がRoutes未プレイのため、控えさせていただきます」
真琴「あれ? でも……あ、ほら、Routes、持ってるしインストールもしてあるわよ?」
美汐「けれど、セーブは最初の選択肢のところで止まってます」
真琴「あ、ほんとだ」
美汐「他にも……SNOWも同じ状況の様ですね」
真琴「こんな感想書く前に、遊べばいいのに」
美汐「本人にも色々な都合があるようです」

○犬耳 >>457-463
真琴「へーっ、本の折り目ってドッグイヤーって言うんだー」
美汐「……確かに辞書にも載ってますね。そう言う単語を持ち出すのが帰国子女の綾香さんだというのも、
   彼女らしいところです」
真琴「でも真琴、本に折り目とかつけないわよぅ」
美汐「そうですか? 料理雑誌の今度作りたいところを折っておくとか……」
真琴「あ、あはは、ははは……あぅー、料理、苦手だもん」
美汐「……真琴、漫画以外も読んだ方がいいですよ」
真琴「あぅー、で、お話の方だけど……」
美汐「そうですね、そのドッグイヤーだけで終わらず、途中でセリオさんの耳カバーをとってみたり……」
真琴「一番最後の『耳』とかね。……でも人の耳で興奮するなんて……浩之、変態?」
美汐「まぁ人の趣味はそれぞれですから。でもそういうオチがあるならば伏線は張って欲しいところでした。
   例えば、セリオさんの耳カバーを取ったところで、彼女の耳の形状について細かく述べてみるとか」
真琴「あー、確かに突然だったわよぅ。その分インパクトはあったけど」
美汐「それを気づかせずに張るから、伏線というのですよ」
503まこみし感想隊 ◆h0FvjjPsdY :03/03/29 01:35 ID:U8z3j5tk
○総括
真琴「なんかセリオの話が多かったね」
美汐「メイドロボの耳、というのはねらい目だったようですね」
真琴「でもそれなら、なんでうたわれるもののが一本もなかったの?
   あれってみーんな獣の人だから、獣の耳の話とか出てくると思ったのに」
美汐「そうですね……それは、そこにあることが当然だからじゃないでしょうか」
真琴「あぅ?」
美汐「そこにあるのが当然、というものを一本の物語として仕上げるのは難しいものです。
   それより、そこにある理由や、原因などに特別な設定があった方が、物語として
   つくりやすいのではないでしょうか」
真琴「あぅー、そっかぁ……」
美汐「……今思いつきましたが、どうして彼女たちに獣の耳がついているのか、というのを、
   プロジェクトX風にやったら面白そうでしたね。
   『その時、研究員は決断した。うさぎだ。うさぎしかない』と言った具合に」
真琴「……美汐、あれ、好きなの……?」
美汐「……地上の星、いい歌ですよね」
真琴「…………(口ずさんでいる」
美汐「…………(口ずさんでいる」
真琴「そ、それで今回のゆーしゅー作品だけど……」
美汐「私は『シンデレラはもういない』をあげさせていただきます。
   ものの見事に騙されてしまいましたしね」
真琴「あぅー、真琴も悔しいけど『シンデレラはもういない』よぅ」
美汐「おや、真琴もですか」
真琴「だって他に、『あははっ、よかったーっ』って笑えるの、なかったんだもん。
   ほのぼのするのとかはあったんだけど……」
美汐「今回はテーマ自体が単純だった分、その使い方に皆さん苦労された、といったところでしょうか」

以上
504名無しさんだよもん:03/03/29 01:37 ID:uGNL16yS
リアルタイム乙ー。
俺も感想書かなきゃ……。
505名無しさんだよもん:03/03/29 01:45 ID:74kl/s0g
「シンデレラはもういない」 >313-329

……やられた。
とんでもなくあざといプロットを、情感溢れるヘビィな文章でごまかし尽くしたSSだな。
(しみじみと)泣ける、(くすりと)笑える。(ネタばらしで)びっくり、(終盤の爆発が)清清しい。
作者さんの意図したであろうことは、十二分に伝わったのではないか。
あえて文句を付けるとしたら、テーマ(耳)との関連性くらいか。
あとはもう……好みの範疇だろうな。そこで賛否二分される気はするけど。
ともかく、作者さんが自分のやりたいことを確かな技術で存分にやってのけた快作。イイ!


「めぐりくる春」 >401-405

これまたイイ!
雰囲気物好き、楓好きの自分としては、うれしいね。
淡々と静かに、でもしっかりと流れる描写が心地よい。
もう少し読みたいな、と思わせて幕切れするのがニクイ。
……ところで、テーマとの結び付け方には、もう少し説得力が欲しかったな。
506 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 10:45 ID:72ienZu5
>>180-188 voice

作者のみさき先輩に対する愛着を、強く感じる作品。
浩平の帰還話ということで、目新しさは無いものの、作りが丁寧で
纏まっており、引き込む力がある。文章も簡潔で、読みやすい。
気になったのは、リフレインによるラストで、「友達だったら、普通の
人としては扱わないのか?」っていうところか。

>>205-209 検索結果は耳

別にキャラが壊れていようが、不条理だろうが構わないのだが
表現したい事の効果を増すための手間がおざなりになっている。
色々な点が気になって、本来笑えたであろうネタ(改造手術を
受けて平気な顔をしている浩之とか)で笑う事ができなかった。
507 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 10:45 ID:72ienZu5
>>240-244 柏木家の夜

千鶴さんがバニー姿になるという不可思議状況には惹かれたが、
いかんせんオチがそのまんまというか、期待通りというか。
>なんで妹達もいたんでしょうかね
耕一の妄想CGに妹たちが含まれていることを、何で千鶴さんが
知っているのだろう?ここだけやけにメタ風味で、ラストに繋げる
きっかけとするには、少々苦しい気もするのだが。

>>247-250 きみのみみのみかた

田沢圭子……東鳩はプレイしたけど記憶にございませんな。
何だかとてもSSらしいSSで、ストーリーのメリハリさが弱いのだが、
主人公の初々しさや、セリオの友人を勇気づけるための頑張りなど
は、手慣れた感じではあると思う。それが圭子というキャラに合って
いるのかは分からないけど。
508 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 10:46 ID:72ienZu5
>>265-270 耳かきにおける知覚的メタファー及び精神構造上の
アンチテーゼに対する概念的諸問題への一般解答

アイディアは面白い。しかし、梓の台詞のみというただでさえ読み手
が理解しにくい構成に、その文章表現が適合しているかは疑問。
最初の方は期待感のある展開であったが、梓がはあはあ喘ぎ過ぎて、
間延びしているし、流石にオチがわかってしまうだろう。もう少し分量を
削った方が、キレが増すと思う。あるいは真相の隠し方の問題か。

>>289-301 空に響く君の声

状況説明、心理描写がすごく丁寧で、まるで積み木を一個一個積み
上げて行くような感覚。和樹が瑞希に再度感想を求めた辺りで、なんで
そんな二度手間するんだろうと思ったら、この展開。場面転換からのラスト
も自然で、お見事。導入部でミスリードの伏線を張っているのが、また
憎たらしい。難を言えば、同人をやめるやめないで、引っ張り過ぎだし、
場面がなかなか動かないのが辛い。
509 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 10:46 ID:72ienZu5
>>306-307 お約束劇場・耳編

千鶴さん、やっぱりオチ要員ですか……。もう不憫で不憫で。
笑ったけど。梓の耳の種類を特定しないのは、梓に対する嫌がらせ?

>>313-329 シンデレラはもういない

またダーク物か、思っていたらラストでびっくり。最初の方を読み返すと、
序盤から意地悪な仕掛けを張りまくっていて、思わず感嘆と苦笑が。
描写も精密で、長いのにも納得の17レスだろう。ただ、原作の印象から、
祐一は人前でいちゃつくようなタイプには思えなかったので、後半の展開
はちょっと疑問なのだが、これは見解の相違かな。中途でタイトルを
挿入する手法も、今回はタイトル自体がトリックなのでグッド。
510 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 13:37 ID:4Pekw7cK
>>332-341 幸せな空の色

セリオの不思議な行動とその解明という、ある意味王道な話の作り方を
しているが、安定した手腕を誇っている。特に結末はスッキリしていて、
感心。鳥頭の自分はセリオに耳があった事すら忘れていたので、真相
にも驚き。プレゼントした浩之は、見えないお洒落をさせるような人間とも
思えず、来栖川姉妹の反応が知りたかったというところか。

>>344-356 十八の夜

これは青春の初々しさよりは、痛々しさを感じる作品。好きな異性は
他のオトコのモノでしたってあたりが特に。前半の雰囲気はセリオ物に
しては珍しく淫靡。ただ、噛み千切るのはやり過ぎな気もするが。
セリオらしさは上手く表現できていると思うし、全体として無難にまとめ
ている。後半の予定調和をいかに演出力で盛り上げるかが課題かな。

>>360-381 名前

うーん、微妙。ハンデのあるみさき先輩を主人公が守っていくという
原作のスタンスに対して、更に状況を悪化させることに作品上の
どんな意義があるのか、いまいち良く分からなかった。みさきが
精神的再建を果たさぬまま終わっているので、救いが無いのが残念。
511 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 13:37 ID:4Pekw7cK
>>384-398 こんなふたりですけれど

ひたすらやりまくるだけの話だが、明るさに満ちているので、あまり
嫌味を感じない。こいつら、バカっていうか、若いっていうか……。

>>401-405 めぐりくる春

生まれてくる子供にも、やがては鬼の宿命と戦わなければ
ならない……。そんな悲壮感の仄かに漂う作品。
過去の回想はもっとボリュームを多くすれば、良かったと思う。
あっさりした終わり方と相俟って、盛り上がりもイマイチ。

>>409-423 壁に耳あり

相変わらず不遇な梓だが、繰り返しシャーペンを握りつぶしたり
不可解な状況に頭を悩ませるあたりの演出は面白い。
このラストは敢えての選択であったろうという事は理解できるのだが
修羅場であれ、肩透かしであれ、何らかの決着が読みたかったと
いうのが正直なところ。ちと消化不良。
512 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 13:38 ID:4Pekw7cK
>>426-450 サツキ・ザ・ワイルドキャット

Routesは未プレイで、LeafのHPくらいでしか情報を知らないから、
突っ込んだ感想は無理ぽ。と、スルーしようと思ったが、一応
読んでみたら結構面白かった。ストーリーの構成能力が非常に高い。
プレイしてたらベスト3には入っていたであろう良作。それにしても
皐月って、槙村香みたいになっちゃうんだ……。

>>457-463 犬耳

ドッグイヤー、フェティシズム、耳カバーと、これでもかとテーマに
真っ向勝負を挑んでいるあたりが好印象。傑作という域までは
行かないが、全編軽いノリと、ほのぼのとした笑いに包まれていて、
楽しく読める作品。
513 ◆DIkaNSOFOg :03/03/29 13:46 ID:4Pekw7cK
今回はセリオが大人気。また、1周年ということもあり、最近では
珍しいほどの投稿量で、かつ力の入った作品の多かった回でした。
気に入った作品が多く、ベスト5候補が10作ほどありましたが
泣く泣く切りました。順位はこんな感じで。

第1位 空に響く君の声
第2位 シンデレラはもういない
第3位 幸せな空の色
第4位 十八の夜
第5位 壁に耳あり
次点 耳かき(略)

長文失礼&◆28qsaJNT.cさんお疲れ。
514名無しさんだよもん:03/03/29 19:54 ID:x7dYPVSR
◆28qsaJNT.cさん、お疲れさま。

◆HMX73059.Iさん、この機会ですので要望しておきますが、今後のSS保管は
いまの保管サイトのhtmlの「文字部分だけ色付きで囲み」という形式じゃなくて、
2chみたいにふつうに薄地の背景に本文黒字で保管して欲しいんですが、
どうでしょうか。
515『名前』作者:03/03/30 02:19 ID:m0LEnYnP
>保管サイト管理人様
申し訳ありません、自作を読み返して気付いたのですが、
>>369に脱文がありました。
レスの中央少し上の
>自分自身を誤魔化すようにそう言うと、
で終わっている一文。これは
>自分自身を誤魔化すようにそう言うと、少しだけ冷静になって今の状況を考え始めた。
となります。
保管サイトに移す前に修正していただけると助かります。
516481:03/03/30 16:40 ID:7AkhQj/e
間が空いちゃいました。続きです。

>>332-341 幸せな空の色(芹香・綾香・セリオ)
第一印象:消毒脱臭漂白済み
正統派キャラ萌え作品というのかな。
アク抜きされた構成で居心地のいい予定調和に向かう流れ。
そういう雰囲気はオチであるラストのセリフまで一貫してるね。
読みやすく口当たりはいいんだが、どっちかというとマンガ同人誌的なノリに近い。
どの場面にも執着せずスイスイ進むから、さっぱりしてる反面重さには欠ける。
狙ったところに必要な要素を置いた結果なんだろうけどね。
このスタイルの作品だと重くないのは長所と言うべきか。
あと、石のエピソードを出す必然性はあまり感じなかった。

>>344-356 十八の夜(セリオ)
第一印象:静かだね
本編との関連が希薄な作品。それは別にいいとして。
長年の想いを告白してからわだかまりが解けるまでが作品の急所だと思う。
セリオというのは元来扱いの難しいキャラで、
ロボットとして描こうとすると人間側の一方通行になりがちで、
反応を引き出そうとすると人間的にならざるを得ない。
どう書いたとしても違和感を覚える読み手が出てしまうんだな。
この作品は前者のイメージが強く、最後までそれが壊れない。
ライトでもダークでもいいから、どちらかに転がしてカタルシスを作るとよかった。
想いが変わらず反応も変化がないようだと構成として寂しい。
517名無しさんだよもん:03/03/30 16:41 ID:7AkhQj/e
>>360-381 名前(浩平・みさき)
第一印象:交通事故に逢った=野良犬に噛まれた
重すぎず軽すぎずで、描写はちょうどいい。
長編でも短編でも苦にならない読みやすい文だと思う。
文章表現のバランスは今回一番いいかも知れない。
しかしストーリーに目を転じると、この展開を選んだ理由がよく分からない。
運命を呪うには「綾」が必要だし、乗り越えるには転換が必要になってくる。
訪れた運命が重ければ重いほど、それを受け切るだけの書き込みが要るはず。
これだと通り魔に刺されたような理不尽な後味の悪さが残ってしまう。

>>384-398 こんなふたりですけれど(浩之・綾香)
第一印象:求道者
狙いがシンプルな分、穴がほとんどないね。
エロいしキャラに違和感はないしエロい。
もう少し短くてもいいと思ったが、中だるみはないし途中が無駄というわけでもない。
なかなか安定的な作品だと思う。
欲を言えば、ラストのテーマ絡みのネタにひとひねりあったら申し分なかった。
長さがあるだけに、オチで目先が変わると読後感がすっきりしそう。

>>401-405 めぐりくる春
第一印象:無難
冬→春、本編→アフター、前世→現在、の重ね合わせは目新しさはないが後味がいい。
「春」にはふさわしいのかも知れないが、多少淡白な印象が残るね。
現在と前世にイメージの連鎖はあるけど、相互の具体的なつながりはあまり強くはない。
このへんはすっきりしすぎでちと物足りない気がするな。
軽いネタを軽やかに仕上げた感じか。
この作品に関してはもう一要素ほしかった。
でも、読み手を抵抗なく引き込む手腕には確かなものがある。
518名無しさんだよもん:03/03/30 16:42 ID:7AkhQj/e
>>409-423 壁に耳あり
第一印象:結末がすげえ気になります
展開が速いからそれほど長さを感じさせない。
話作りというかストーリーテリングの技術はなかなか見事。
謎で読み手の注意を引いて、それを受けて展開する流れに無駄がない。
賛否ありそうなのはラストだけど、この選択は無難と言えなくもないか。
いくつか予想できる結末のうち、どれを確定しても多少の角が立つ気がする。
寸止めで読み手に丸投げしたのは、あざといけど不正解とまではいえない。
それによって別のモヤモヤが起きるのも事実だが。


>>426-450 サツキ・ザ・ワイルドキャット(皐月)
第一印象:ルーツやってみるか
本編を未プレイなので、その意味では評価不能。
読んで思ったことをいくつか。
所々でやや文章が荒れ気味なのが気になったが、
話の造り自体は押さえるべきところを押さえている。
結構な長尺を破綻なくまとめてオチまで導いてるね。
知らないなりに面白かったよ。
519名無しさんだよもん:03/03/30 16:43 ID:7AkhQj/e
>>457-463 犬耳(浩之・綾香・セリオ)
第一印象:何やらとりとめがないような
あっけらかんな綾香を唖然とさせるほどの耳画とはどんな代物だったのか。
さておき、この作品はネタ、描写、構成のいずれもがちと平坦に見える。
テーマをちりばめてスムーズに読ませるのは評価できるが、
一本のSSとしてどこに着目するかを考えると弱い。
ギミック一つ追加するだけでだいぶ印象が変わると思う。
雰囲気や明るいノリは押さえてると思うんだが。


以上。
優秀作品の推薦は基準に困るのでやめときます。
締め切り後に居並ぶ長編の数々を見てビビリましたが、
狙いが意欲的で読ませる力を持つ作品が多かった。

惜しいと思った作品が二個。
「名前」と「シンデレラはもういない」。
前者は構成のバランスの悪さのせい。
そちらを練り直せば化けてくれそうな気がする。
後者はネタは悪くないのに長さばかりが目についてしまった。
ここまで大仰な描写をするのは未熟か確信犯のいずれかだと、
最初の時点で思ってしまったから。
520名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 19:05 ID:ypbW4N1M
ここからコテで感想書きます。4レス予定。
ちなみに、ここまでには>472>492を書きました。
あと、>477
 肝心の耳の部分が切れてるじゃん!

それでは、行きます。
521名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 19:06 ID:ypbW4N1M
「こんなふたりですけれど」 >384-398
(*´∀`)アマー
角砂糖を15個ほど溶かしたガムシロップを一気飲みしたような味わいですね。
あけすけで湿り気のない描写も、綾香であればこそピッタリとはまっている気がします。
こういうの好きです。存分に堪能させていただきました。
ひたすら萌萌、萌x15。ああ、反作用で頭がズキズキするよ……。
最後の纏め方もいい。優等生的な話題を振っておいて、ストン。
欠点としては、話に深みが足りないということくらいでしょうか。
15レスということを考えると、終始浮ついた調子なのは少々ダレます。
1個のSSとしては、もう少し話にメリハリがつくといいかも知れませんね。

「壁に耳あり」 >409-423
そこで終わるな、終わるなああああああ!!
いくら時間切れでおネムな頭だったとしても、この始末は酷いですよ、お兄さん(あるいはお姉さん)。
お話自体は面白かった。繰り返しというギャグの基本も抑えてるし。
梓の言動にも作為的なところがなく極めて自然で、それでいて狙い通りの結末に読者を誘導できているのは、
見事の一言ですね。
梓を除け者にすることの受験勉強という理由とか、外の雰囲気を察知させるための麦茶のエピソードとか使い方が上手い。
それだけにね……。最後がね……。
15レス目が明らかに薄く、時間がなかったことを窺わせるんだけど、それでもなんとか。
極論を言えば、なんらかのオチを一行つけるだけでも違ったと思うんですよね。
>……それからのことは覚えていない。ただ、次の日から、夜が平和になった。
とか思いついてみましたが、やはり何かしらの締め方が欲しかったところです。

「サツキ・ザ・ワイルドキャット」 >426-450
長い話だけど、ストーリーがしっかり展開されていて面白かったです。途中で何度か目先が変わるけれど、全体的な分量を考えれば、個人的にはそれで良かった。
内容はアクションというか、作者さん楽しそうに暴走してるなあ、という印象。このSSでの皐月はかわいいというより、燃えですね。本編とはまた一風変わった感じで読めました。
構成的には、オチの割に前フリがちょっと長いかな。前半でネタを詰め込みすぎのようにも見えるけれど、Routesをプレイしていない人向けでしょうか。
522名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 19:08 ID:ypbW4N1M
続いてセリオものの感想行きます。
セリオは私の苦手キャラ。このスレで彼女の話を随分読んだし自分でも書いてみたけれど、いまひとつ萌えないし理解できないんです……。
というわけで、感想読まれる場合はその点割り引いてください。

「幸せな空の色」 >332-341
 普通にいい話という印象です。
 描写が丁寧だし、種明かしも意外性があって良かった。最後の纏め方もきれい。
 全体的に作者さんのキャラに対する愛情が伝わってきて、好感をもてます。
 ただ、セリオの行動基準がよく分かりませんでした。
 最初耳を見せることを嫌がっていたのに、最後ではあっさりごめんなさい、と。
 その過程で、彼女にどのような心境変化があったのか?
 綾香が色々調べまわっていたこととは、関係なかったのでしょうか。

「十八の夜」 >344-356
 このSSでのセリオは聖母のようなイメージ。美しい話。
 憧れと甘えと好奇心と。斜め上を見上げているような視点が若さを感じさせ、18の夜というタイトルにも合って、いい感じでした。
 特にラストの夢の話が良かったです。会話自体はどこかで見たようなものだけど、物語にすんなり入りこんで、見事な纏めになっている。
 欠点は、地味なところでしょうか。最初から最後まで淡々としてるし、メリハリも弱いし。
 なんというか、大学の講義を連想しました。すごくいいことを喋ってるんだけど話し方のせいで眠くなってしまう。ある程度、話術というものも必要ですよねー。

「犬耳」 >457-463
 申し訳ありませんが、いまいちテキストのノリが合いませんでした。
 一番印象に残ったのが、RR炸裂「全部完売」という言葉だったりします…。
 これはゲームノリのテキストですね。面白い掛け合いだけど、残念ながら今回、綾香セリオは、もうお腹一杯です。一番最後に投稿されたのが仇になってしまった感じ。
 3点リーダーはもう少し削ったほうがいいんじゃないかな。このSSのようなギャグはテンポ良く読みたいところだけど、3点リーダーがあるとそこで一々詰まってしまいます。間を取るなら別の方法がいいな。
523名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 19:09 ID:ypbW4N1M
引き続き、今度は元ネタが分かってないSS行きます。ONE、コミパ、圭子さん。

「voice」 >180-188
 読んでいるほうが恥ずかしー。「擽り」は読めませんでした。
 個人的には、雪見と先輩がいちゃついているシーンが良かったです。
 終盤の展開は、やや唐突な印象。視点が変わっているのも、理由がいまいち分からず。
 ラストもベタすぎ? せっかくなんだから、気の利いた台詞で締めて欲しかった。

「きみのみみのみかた」 >247-250
 圭子さんはドラマCDの人でしたか。まこみし氏の感想を参考にして、>472に追加します。
 ちょっと前フリが長いですね。3レス目までが前フリで、話が動くのはようやく4レス目になってから。
 また4レス目も、セリオのメールが唐突な印象。
 前フリの部分はモノローグだったり人物説明だったりするわけだけれど、ここに動きのある伏線エピソードを投入してはどうだったでしょうか。
 圭子さんが耳のことでからかわれているシーンとか、そこへセリオが仲裁に入るとか。

「空に響く君の声」 >289-301
 自分の話をしてなんだけど、私は「瑞希」とくれば苗字に「春日」をつけてしまう人間なので、そっちのイメージに引きずられてしまいました。
 ただ、そのイメージで読むとメチャクチャはまりました。漂う寂寥感がイイ! 小難しい文章も良く合ってる。
 内容的にはちょっと疑問かな。前半でさんざん悩んだ割に、解決があっさりというのが腑に落ちないです。最後の2レスで主題が変わっちゃってない?

「名前」 >360-381
 文章は上手いんだけれど、話の展開の意図が良く分かりませんでした。
 事故にあってからが話の本筋なのだから、前半を削っても後半に力を注ぐべきだったのでは。
 ラスト、浩平がようやく前を向いたところで切れてしまっているのが残念です。
 その後、歩き出すことが難しいのでしょうに。
524名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 19:10 ID:ypbW4N1M
以上です。◆28qsaJNT.cさん、お疲れさまでした。作者の皆さん、どうもありがとうございました。
今回は長いのが多かったけれど、どれも丁寧に書けていて読むのが苦痛になりませんでした。感想もスイスイ書けましたし。
最優秀は迷いに迷った結果、「シンデレラはもういない」に。癖が強すぎるとは思うけれど、それも作者さんの持ち味を発揮した結果と解釈しました。作者の狙いがよく見えて、しかもそれが十二分に成功しているという点を評価したいと思います。

というわけで今回は、
 私的最優秀「シンデレラはもういない」
 私的最萌 「こんなふたりですけれど」
上記2作の作者さんには特に感謝を。次回も面白いSSが集まりますように。


/////////////////////////////////

ついでに、一周年謝恩企画。今までで強く印象に残っている3作をピックアップしてみました。

 第三回「五月雨堂奇譚」 テーマ:雨
  このスレでは空前絶後のホラー。そのころ私はまだ葉鍵板にいなかったのだけれど、後で読んでみて鳥肌が立ったことを覚えている。ちゃんと最後に種明かしされているのもいい。
 
 第六回「バッヘルベル砲」 テーマ:絶体絶命
  ギャグではこれがツボにはまった。本編を巧妙にパロりつつ、暴走気味のペースで駆け抜ける。そのスピード感は抜群。最後でクラッシュするのも技のうちか。
  まあ、私はタイトル見た瞬間に噴いたのだけど。

 第八回「キッスのアドバイス」 テーマ:キス
  全12回の最萌。おにゃのこ同士のキスは好きなんです。
525名無しさんだよもん:03/03/30 19:12 ID:E9opyNVf
これまたリアルタイム乙ー。
……書かなきゃ。
526名無しさんだよもん:03/03/30 19:13 ID:E9opyNVf
ってあれ?
シンデレラへの感想がない気がするんだけど……。
527名無しくん、、、好きです。。。:03/03/30 19:30 ID:ypbW4N1M
大変失礼をばいたしました。

>520 他に書いた感想レス>472>492に、>505を追加してくださいませ。
528 ◆2KSrmDuOF. :03/03/30 21:45 ID:m0LEnYnP
 他の人の感想を見てから感想を書くのは邪道かもしれないけど、好評を博しているようなのでちょっと読んでみました。
 もともと最優秀を推したりする気は無いのでご勘弁のほどを。

>>シンデレラはもういない

 ……残念です。
 装飾が多いのに、それに関してそれほどくどさを感じさせない表現、細やかな心理描写、美しさすら感じる情景描写。
 どれも光る物があり、悲劇として惹きこまれるのに充分でした。
 惜しむらくは、というより悔しいのは、後半を際立たせる為に用意された前半に俺が魅力を感じすぎてしまった事。
 このまま悲劇に没入させてほしい、地の底で眠る祐一を儚んで名雪と共に泣いていたい、そんな想いを見事に裏切った11レス目以降は、見事と思うと同時に嫌悪感を抱かせてくれました。
 一見無神経な言動に付き纏う違和感……その裏に何かありそうな北川の言動は何の裏も無い素のもので、親友の悲痛な心理を汲んでいたと思っていた香里が実はただ呆れていただけ。
 そして秋子さん登場以降、悲しみを堪えて涙を流していると思っていた名雪が実は嬉しさにほくそえんでいた……
 最後の名雪の壊れと併せて、結局只のギャグに伍した……という表現はあまりに不適当かもしれません。このどんでん返しを痛快と思われる方も多いでしょう。
 でも、どうしても俺はそういう印象が勝ってしまいました。
 前半に魅力が無ければ後半が引き立たず、後半がなければ誤読を誘うという狙い自体が成り立たない。
 全くの好みで申し訳ないですが、俺はこの手法が嫌いなのでしょう。
529 ◆2KSrmDuOF. :03/03/30 21:53 ID:m0LEnYnP
 文章面の細かい所では、「名雪は」などの人物名を多用しすぎているところとその用法が気になりました。
 言い辛いですが、名詞をはさむ事により本来挟まれるべき表現を誤魔化している、そんな使い方が多かったように思えます。
 例えば
>ふと、肩に薄い温もりを名雪は感じた。
 ここは
>ふと名雪は、肩(にかかる、を覆う)薄い温もりを感じた。
 などとすると表現に膨らみが出ると思います。
 語調的に途中に挟んで敢えてリズムを崩しているとか、そういう技法的な使い方をしている印象を受けなかったので、他が巧い分少し気になりました。
 この辺がしっかりしていれば多用されていてもそれほどしつこさは感じないはずですし、省ける部分も見えてくるのではないでしょうか。

 ……俺、なんか偉そうですね(汗
 出過ぎた長文失礼しました。
530名無しさんだよもん:03/03/30 21:59 ID:pQd6sf+z
>>522
>セリオは私の苦手キャラ。このスレで彼女の話を随分読んだし自分でも書いてみたけれど、

どの作品ですか? よろしかったら。
531 ◆2KSrmDuOF. :03/03/30 22:59 ID:m0LEnYnP
 まあ何と言うか、とりあえず一言。

 耕一、ええ度胸やのーw

 いやもう、細々したところ抜きで楽しませてもらいました。コテコテのお約束ですが、やはりいい物はイイということでしょうか。
 ペットとか言われて耕一がどう思ったかとか、なんか色々想像して一人でにやけてましたw
 最後の二行は既に千鶴さんご到着後として解釈していいのかな? 握りつぶしていたのは携帯電話でしょうか。

 難点としては、長すぎる、という声が聞かれますが、俺はそれより梓があまりに早く、千鶴さんが怒り狂っていることを気取ってしまったというのがよくなかったのではないかと思います。
 というより必死に誤魔化そうとする彼女をもう少し見ていたかったと言うかw
 ああいう状況に立たされると、明らかに相手に悟られているのがわかるという状況でも、本人としてはまだ誤魔化せていると思いこもうとするものです。
 千鶴さんにはそれを逆手にとって修羅場に着くまで誤魔化された振りをしていて欲しかったですね。逃げられないように。怒り狂ってそれどころではないのかもしれませんがw

 それから犬が耳かきなんて明らかにありえない事を持ち出すところは、梓のうろたえ振りを伝えようとわざと使ったのでしょうが、コンペのテーマに直結していたためさすがに強引な印象がありました。別のテーマの時だったら活きたと思います。
532 ◆2KSrmDuOF. :03/03/30 23:01 ID:m0LEnYnP
 しまった、コピペミス。
 >>531の前にこれを入れてください。



 そして拾い読み。

>>耳かき(略

 タイトルの意味を考えるのが面倒なので、普通のギャグ物として読みました。
533名無しさんだよもん:03/03/31 04:07 ID:SLVpNDoh
自分はひねくれて投稿の逆順にいってみよう(w
批評っていうほどじゃない単なる感想だよん。
あまり相手に気をつかわないで書いた、読んだそのままのナマの印象(反応)でつ。

改稿等する時便利かな、と思って誤植誤変換等も指摘しますが、よけいなお世話かなあ。


>>457-463 犬耳(浩之・綾香・セリオ)

男の部屋に入ったらエロ本を探す。
あの、女子全員が装備してるっぽいアビリティは
なんとか国連で条約で禁止されて欲しいものです。今年度中にでも(´σ`)

>ウレタンのレガースとナックル
詳しくはないけど、さすがに男と女じゃサイズが違ったりしないんですか?
>「敵将セリオ、討ち取ったりぃ!!」
天地を喰らう懐かスィ……(゚Д゚) あの棒読みは、ウチトラだったんだろうなァ…

最後の顔文字も、わかるけど、もうちょっと浩之っぽい方が良かったかな。

三人が同時に喋って“「「「」」」”とか、
そういえばSSではちょくちょく見るね。SSならこういうのもアリ、か。
>「いや、ココ…俺の「問答無用です」家って…そうか…」
なんかは、一字空けした方がわかりやすいかなーと思うんだが、他の人はどう思うんだろう。

テーマは変化球、来ましたねこういうの。
しかもオチにも耳が来て。なかなかグー。文章も読みやすかった。
534名無しさんだよもん:03/03/31 04:07 ID:SLVpNDoh
>>426-450 サツキ・ザ・ワイルドキャット(皐月)

>>433 8レス目
> 血の巡りが早い。
>>437 12レス目
>「このスピードに尾いてみろーー!!」
ちょっとこの二文は違うかな。

>>440 16レス目 
>たか、いや、恐らくは。 急いでミルトを起動する。
謎のスペースが。

原作未プレイにつき、わからないところ。
主人公たちの行動や感情の動きがプロにしては……、とか、序盤の怒りと暴力→
一方的ラブラブ→怒り→ラブラブの激変と変わり身の早さが
当たり前のように流されてるとか。でも、この辺は原作準拠かもしれないしなあ。
未プレイ者が多い原作のSSは、できればキャラや設定の説明も多少配慮してくれると
嬉しいかも。あ、でも「未プレイなのに読まれても……」と言われれば
申し訳ないですとしか言いようがないです……。

ここでは意外なジャンル、力作の長めのアクションもの。これはいい。
原作未プレイでもそれなりに楽しめる。
文章もしっかりしてるし。ただ、文章鮮やかってとこまで行ってれば、さらにいい。
あと、もっとさくさく読み進められれば。けっこう頑張って読みました。

SSや二次創作をきっかけにその作品に手を出してみた人の例は多いので、
不利だろうけど、プレイ人口少ないタイトルのSSも、これからも書かれ続けることを期待。
535独断と偏見@星付:03/03/31 12:46 ID:IZkrof/l
上から順番に、独断と偏見でつけた感想です。
えらく亀レスですが、>>60さん
>スルーした作品にも、技術だけでもいいんで(できればテーマも)★つけてくれないかなあ、
>とか思うです。
 色々と考えてみましたが、やはり元ネタが全く判らないのは感想をつける上で大きな
足枷になるかと思います。それによって星が左右される可能性もありますので、申し訳
ありませんが、原作を知らないSSは全部スルーにさせて下さい。
 というかそもそも、そんな大層なものでもないような気がします。


『voice』>>180-188
 全体的にSSを書き慣れておられない印象を受けました。地の文の三点リード多用しかり、
唐突な視点変更しかり。他にも気になった箇所はありましたが、この二点は非常に大きな
マイナスポイントになりました。
 いい話であることは判ります。ただ、表現する技術が多少覚束ないために、ストーリーに
感情移入することが出来ませんでした。主人公の独り語りで進めるのではなく、描写に
力を注ぐと読みやすくなるかと思います。

技術:★(三点リードはなるべく控えめに、ここぞという時に使った方がぐっと引き立ちます)
構成:★(7レス目の視点切り替わりで大混乱しました)
設定:★(永遠帰還ネタはお腹一杯。目新しいものがないと……)
テーマ:★★(うぅむ。ありふれていることは否めません。良い話なのですが)
総合:★(みさき先輩の一人称で7レス目から始めて、回想しながらストーリーを進めて
      いけば纏まるかもしれません)
536独断と偏見@星付:03/03/31 12:47 ID:IZkrof/l
『検索結果は耳』>>205-209
 シュール。
 他に言い様がないですねえ。雅史が独特の味を出しています。声に出して笑うことは
しませんでしたが、口元が緩んだのも事実です。これを同基準で採点することに意義が
あるのかどうか、真剣に考えたSSでした。

技術:――(評価不能。悪い意味ではなく)
構成:★★★(ステップアップしていくリフレイン。単調と見るかは微妙な線)
設定:★★(雅史がearを度忘れするのはさすがに、とも思いましたが、
         >浩之「まあ細かい事は気にするな。ご都合主義って言葉知らんのか?」
         機先を制されました。言うことなし)
テーマ:★(ほとんど関係ないですね)
総合:★★★(ある意味、別次元の★三つ)


『柏木家の夜』>>240-244
 本編の愉快なパロディー。発想自体は面白いものがありますが、落ちが尻すぼみに
なってしまった印象です。5レス目の妹達の質問攻め、というのも状況をいまいち把握
しかねますし、そもそも唐突な切られ落ちというのは味気ないものかと。画竜点睛を欠いた、
纏まりきれていないSSでした。

技術:★★(パロ部分はともかく、最後の方に説明不足の気があります)
構成:★★(落ちが残念)
設定:★★★(上手く組み合わせています)
テーマ:★★(小細工なしの直球勝負をどう見るか)
総合:★★(話に今一つ乗り切れませんでした。パロディーには、もっと上手いやり方も
       あるかもしれません)
537独断と偏見@星付:03/03/31 12:48 ID:IZkrof/l
『きみのみみのみかた』>>247-250
 タイトルから想像出来る通り、全体に温かみのあるSSでした。彼女たちの“明日”を
読んでみたくなる終わり方にも好印象。筆が立つ作者さんかと思います。ほのぼのSSと
いうものは、こういうように書くべきなのでしょう。セリオの耳カバーという誰でも思いつく
ネタを別方向から絡めたあたりにも、手馴れておられることが窺えます。無理やり難を
言えば、纏まりすぎている感があることでしょうか。あくまでも、無理やりなのですが。

技術:★★★★(雰囲気が好き)
構成:★★★★(普通はだらだらと描写しがちなのですが、回想を巧く挿入し、それを
         避けています)
設定:★★★(サブキャラ、しかもほとんど設定が判らないキャラを主人公に据えるのも
         作戦の内ですね)
テーマ:★★★(メイドロボネタ=−1、田沢圭子の耳ネタ=+1)
総合:★★★★(ほのぼのとしては理想的。同系統、第八回の『しあわせになる方法』を
          連想しました)


無題>>258
 一息つけました。『みみから出た錆』を真面目に想像したら怖くなりましたが。
538独断と偏見@星付:03/03/31 12:49 ID:IZkrof/l
『空に響く君の声』>>289-301
 情景描写は秀逸であり、内面を描くことにも優れているSS。しかし、説明過多とでも言うの
でしょうか、反復表現が所々に見受けられました。これは完全に好き嫌いの問題であり、
作者さんに独自のお考えがあるのならこの文体を貫いた方が良いかと思われますが。
それと、三点リードは文章のごまかしに繋がる恐れがありますし、ストーリーの流れが澱んで
しまうので、多用は避けた方が無難でしょう。
 耳に関しての瑞希の謎々は心に残るものがありました。これをもっと前面に押し出して
みるのも面白いかもしれません。結局自ら会いにいったのは郁美の方ですし、テーマの
扱い方が些か中途半端なように思いました。
 ところで、瑞樹が一回場面から消えて、また戻ってきますが、わざわざそうした意図がよく
判りませんでした。和樹が回想するための時間稼ぎだとしたら、それはちょっと頂けません。
構成を工夫して、登場人物の動きに説得力を持たせることが肝要ではないでしょうか。

技術:★★★(好みではありませんが、言葉は豊富。三点リードはマイナスポイント)
構成:★★(ずっと動きがないのが痛い。ラストの2レスは落ちが見えたので、工夫が欲しい
       ところです。瑞樹の行動に関しては作者さんの考えを聞いてみるまでは、点を
       引くわけにはいかないですね)
設定:★★(特記すべきことはないでしょうか)
テーマ:★★★(耳の使い方はなかなかですが、SS全体で見ると印象が薄いかと)
総合:★★★(一般的な平均レベルよりは遥かに上ですが、趣味に合いませんでした。
         もっと短く収めることが出来たような)


『お約束劇場・耳編』>>306-307
 幕間の“お約束”なお話。梓に何の耳が生えたのか、気になってしょうがありません。
539独断と偏見@星付:03/03/31 12:50 ID:IZkrof/l
『幸せな空の色』>>332-341
 落ち着いた雰囲気が漂うSS。硬質な文章一辺倒ではなく、くだけた小ネタも挿入して
あったりと確かな技量を元に書かれたものかと思われます。
 ただ、何となく好きになれないSSでした。なぜだろう、とずっと考えていたのですが、
多分こちら側に問題があったのでしょう。セリオと綾香のSS、特にセリオがロボットだから
云々と悩み、研究員やらが出てきて含蓄のある言葉を喋り、結局は大団円。そんな話は
たっぷり読んだことがあるために、おそらく結末まで予定調和のように見え、純粋に楽しむ
ことが出来なかったからだと思います。誤解を怖れずに言えば、「二番煎じ」ということに
繋がるのかもしれません。導入部分や締め方にはセンスが感じられるために、なおさら
残念なのですが。

技術:★★★★(終始安定した筆力)
構成:★★★(うーん……山や谷がないというのか、それとも単に自分が予想していた
         通りに進んだせいなのか。ラストの一文はなかなかでした)
設定:★★(特筆すべきことはありません)
テーマ:★★★(メイドロボネタ=−1、耳掃除を基盤にした信頼関係確認への回帰は
          上手い)
総合:★★★(これまたごめんなさい。ストライクゾーンが狭いのでしょうか……)
540独断と偏見@星付:03/03/31 12:50 ID:IZkrof/l
『十八の夜』
 一つの、量産型セリオシリアス、またはオリキャラの切ない成長話として見るには遜色ない
出来なのですが、出し所を誤った印象を受けました。テーマ:耳にこのネタはあまりにも
ストレート過ぎますし、後半部分がテーマからどんどん離れていってしまったように思います。
SEXの描写ではなく、むしろそれを避けて(出来れば耳をもっと絡めて)主人公の気持ちの
変化を描いてこそ、価値があるのではないでしょうか。プログラムでもいい、主人を大切に
思うだけのことでもいい、僕は彼女の全てを愛するという主人公の想いに今一つ感情移入
出来なかったのにも、その辺りに理由がありそうです。
 ところで、本SSの最後の段落、
>ちょうど窓から指しこんだ月の光が、彼女の外した耳カバーを照らして反射していた。
>今まで、ロボットと人間との壁を象徴するように思えたそのカバー。
>しかし今の僕には、その冷たい無機質な光さえもなぜか優しく、愛おしく感じられた。
 ここには感心いたしました。『ロボットと人間との壁を象徴する』耳カバーが『優しく、愛おしく
感じられた』のは、彼女の全てを受け入れる覚悟が出来たから。導入部分で、主人公が
耳カバーを取ってくれ、と頼むシーンに見事に答えを与えています。だからこそ、後半部分が
惜しく思えるのも事実ですけれど。心情の変化への動機付けが薄く、さらに中盤以降は
蛇足のようなものになってしまっているかと思います。

技術:★★★★(今回は全体のレベルが非常に高いです)
構成:★(6、7レス目あたりでこのSSの主題は終わっているのでは)
設定:★★★(オリキャラですが、なかなか意欲的な設定)
テーマ:★★★(メイドロボネタ=−1、ラストの三行=+1)
総合:★★★(個人的には好きな部類に属するのですが……。どこか別の場所で、テーマ
         とは関係なしに読みたかったです)
541独断と偏見@星付:03/03/31 12:52 ID:IZkrof/l
『名前』>>360-381
 あいたたたた……。このSSの狙いは何だったのでしょうか。ダーク、それ自体が目的では
ないことは多少前向きな終わり方から判ります。しかし、じゃあ何だ、と訊かれると返答に
困ります。意地の悪い言い方をすれば、これはプロローグに過ぎないのではないでしょうか。
この後、彼ら二人が如何にして生きていくか。それを描き切ってこそ、話の筋に意義が
生まれますし、キャラへの惨い扱いに対して納得する人も出てくるのでは。基本的にBAD
ENDにはHAPPYENDよりも明確な理由付けが必要なために、それが不足していると
思われる現状では拒絶反応を起こす人しか現れない恐れがあります。
 それと、些細なことですが、自身の声の振動は頭蓋骨を伝わるために、耳が聞こえなくても
9レス目のみさき先輩のように声が出ないと勘違いすることはないのでは。

技術:★★★★(文章に関しては文句なし)
構成:★(落ちが落ちになっていません)
設定:★(理由が欲しいかな)
テーマ:★★★(……まさかとは思いますが、テーマが耳だから聴力を失わせたわけでは
          ないですよね)
総合:★★(ダークSSは難しいですねえ。続きを是非とも長編なりで書いて欲しいところ)


『こんなふたりですけれど』>>384-398
 タイトルは面白いですが、これもペース配分を間違った感じのSS。綾香スレに投下したら
まずマンセー評価を受けるでしょうが、如何せんここは耳がテーマのコンペです。前半は
思いきってカットした方がバランスが良くなるかと思います。その代わりに、もっとねっとりと、
ねちっこく、耳を使ったHを(具体的には抜けるレベルまで)描いてみるのも一計ではない
でしょうか。

技術:★★★(微かに引っ掛かる箇所がありました)
構成:★(展開が読めました。前半はちょっとだれます)
設定:★★(取り立てて書くことはありません)
テーマ:★★(何らかの捻りが欲しいところではあります)
総合:★★(エロを狙ったのか、ほのぼのを狙ったのか、どっちつかずな印象でした)
542独断と偏見@星付:03/03/31 12:59 ID:IZkrof/l
『めぐりくる春』>>401-405
 空気は未だ冷たいながらも、世界は確実に春へと進んでいく。設定は好みなのですが、
何処となく梗概を読んでいるような感覚を覚えました。無駄を一切省いた構成と言うべきか、
展開を急ぎ過ぎたと言うべきか。回想シーンのどこかにワンテンポ、落ち着かせるところが
欲しかったです。また、描写が説明から脱却しきっていないことも一因かもしれません。
こちらの心に深い情感が届く前にSSが終わってしまったよう。他のSSの長さを分けて
あげたいところです。

技術:★★★(描写と説明は似て非なるものです)
構成:★★(全体的に長くして欲しいか。冗長にしろということではないのですが)
設定:★★★(この面白くなりそうな設定を生かしきれてない印象)
テーマ:★★(どうしても耳でなくてはいけない、ということではないように思います)
総合:★★(料理はやはり、料理人の手を入れてなんぼでしょう。……自戒を込めて)


『壁に耳あり』>>409-423
 最後の暈し方は賛否両論生まれるかと思いますが、どうも読者を納得させるレベルまで
には達していないように見えます。暈すということは、読み手に結末を想像させるということ
なのでしょうが、現時点では明らかに三人ハーレムENDに辿り着くようにしか、SS中に
情報が与えられていないのではないでしょうか。単にトランプをやっていました、という落ちは
誰も考えないのでは。この終わり方を維持するためには、ノーマルENDへの示唆が等量に
SS内に必要だと思います。

技術:★★★(目立った粗はないでしょうか)
構成:★(起承転結の転結、序破急の急を欠いた印象。尻切れとんぼに見えます)
設定:★★(良くも悪くも二次創作の設定)
テーマ:★(耳……というよりも声ですね)
総合:★★(最後まで書き切るか、読者を迷わせる情報を入れて下されば、もっと面白く
       なるかもしれません)
543独断と偏見@星付:03/03/31 13:00 ID:IZkrof/l
『サツキ・ザ・ワイルドキャット』>>426-450
 ご多分に洩れず、私もRoutesは未プレイなのです。よってとんちんかんな感想になるかと
思いますが、スルーしっぱなしってのもあれなので一応。
 バランスの良い描写や、戦闘シーンではセンテンスを短く区切り臨場感を出していること
など、地力はある方でしょう。文章に関してはそつがないように思います。テーマという観点から
見ても、多少猫耳である必然性が薄いお話だとは思いますが、ラストで再生機能を活用して
みたり、皐月の気力を奮い立たせる役目を果たしてみたり、上手く絡めています。
 キャラクターの描写は、ってやっぱ無理。無理です。原作知らなきゃ感想書けません。
ごめんなさい。全体的に欠点の少ないSSです。気になったところと言えば、戦闘シーンで
視点がぶれている箇所があったり、男達の目的が結局判らないことですね。おざなりな感想で
申し訳ありません。


『犬耳』>>457-463
 ほのぼの話。ただ、それだけだという感覚も無きにしもあらずです。ドッグイヤーというネタを
使うんでしたら、最後の耳写真を本物の犬の物にしてみたりすると浩之の変態度が際立って
いいかもしれません。
 全体を通して、後一歩という印象を受けました。導入から落ちまであまり捻らずに、一直線に
書かれたように見えます。どこかに突き抜けるものが欲しかったところです。

技術:★★(三点リードの多用はやっぱりマイナスです)
構成:★★(高いところから低いところに水が流れた印象)
設定:★★(特に言及することなし)
テーマ:★★★(メイドロボネタ=−1、折り目=+1)
総合:★★(ちょっと印象に残りにくい感じです)
544独断と偏見@星付:03/03/31 13:01 ID:IZkrof/l
以上。
メイドロボネタに関しては、ここまで被るのは明らかにコンペという場においてはマイナス
要素になっているかと考え、あえて全部に−1点をつけました。
今回は長いわりに、読ませる力を持ったSSが多かったように思います。文章好きである
自分には嬉しい限り。ただ、前回も言いましたけど……みんな、もっと早めに投稿しましょう。
是非とも。

最優秀賞は、柔らかな文体である『きみのみみのみかた』を推します。
優秀賞はかなり迷いましたが、欠点の少なさとラストの鮮やかさで『幸せな空の色』に。
特別賞は申し訳なさ一杯の『サツキ・ザ・ワイルドキャット』。
545独断と偏見@おまけ:03/03/31 13:02 ID:IZkrof/l
一周年ということにより、年間部門賞の発表です。
これもやっぱり独断と偏見で選んでいます。思い出してみると、結構懐かしかったり。

年間技術賞 :第六回『生贄』       第十回『空と君のあいだに』
年間構成賞 :第十回『柏木家の初夢』 第四回『真夏の夜の 冬の夢』
年間設定賞 :第十一回『パンツ物語』  第三回『発露』
年間テーマ賞:第五回『逃げ水と』    
546独断と偏見@おまけ:03/03/31 13:03 ID:IZkrof/l
講評。
年間技術賞『生贄』
 コンペスレを通じて、随一かと思われるエロ度。しかし、それに飽き足らず「生贄」という
タイトルに示されているような、背景構成のレベルの高さとラストの余韻。お世話になった
ことがある身とすれば、いの一番にこれを挙げるしかないでしょう。当時は自分はあまり
評価していなかったものの、後で読み返して後悔しきりになったSSでした。

同『空と君のあいだに』
 文章力が優れている作品は他にも多々あれど、このSSには独特のセンスが感じられます。
やや荒削りな面も目に付く時はありますが、むしろこれにおいてはプラスになっている側面も。
体言止めや尖った比喩の多用等、本作者ならではの文体が目立ちます。突き抜けた
ものを持つSSは、やはり良いものだと実感しました。

年間構成賞『柏木家の初夢』
 掲示板という場を上手く利用して、一レスごとに視点を切り替えるという面白い試みをした
SS。キャラに合わせて文体も変化させている辺り、芸が細かいというべきでしょうか。導入や
締め方に文句がないわけではないのですが、この発想とそれを実現する能力の高さに
惹かれました。

同『真夏の夜の 冬の夢』
 擬声語を大変上手く配置した印象を受けました。これもまた、新鮮な発想力が光るSS
です。残念なのは、擬声語とは言い切れない言葉も僅かに混ざっていることなのですが、
初読時の驚きが強かったために、選ばせて頂きました。名雪の困惑を想像すると、今でも
口元が緩みます。
547独断と偏見@おまけ:03/03/31 13:04 ID:IZkrof/l
年間設定賞『パンツ物語』
 「よう。俺はパンツだ。ふざけちゃいないぜ。正真正銘のパンツ様だ。」冒頭の部分ですが、
これだけでも読者を世界に引きずり込む力があるかと思います。こんな主人公、誰も思いつき
ません。単なるギャグかと思いきや、本編とも絡めたストーリーテリングもさることながら、
やっぱり設定の面白さに尽きるのではないでしょうか。

同『発露』
 文章力も高く、構成も一級品な「五月雨堂奇譚」と重なってしまったがために、埋もれて
しまった感もあるSSです。切ない試作機の想いと、長瀬たちの研究者魂。読者を深い余韻に
浸らせてくれるのは、この試作機の設定に依るところが大きいかと思われます。哀しくなる
わけでもなく、かといって笑うわけでもなく。これをTRUEENDと呼ぶのかもしれません。

年間テーマ賞『逃げ水と』
 第五回は豊作の回でした。発想の「居酒屋にて」、卓越した文章力「決別」、構成が面白い
「嘘の世界」などなど。いずれも最優秀になってもおかしくないSSなのですが、本作品は
圧倒的な力をもって最優秀を掻っ攫ったように思います。段違いの描写力、独自性のある
設定、どれを取っても素晴らしいのですが、特に、テーマである“嘘”を非常に巧く使った
曼珠沙華の暗喩が印象的です。
548独断と偏見@おまけ:03/03/31 13:05 ID:IZkrof/l
以上です。
 迷うSSは多々ありました。ネタが被っていることに気付いて、一度書いた感想を涙を呑んで
消したり、高いレベルでバランス良く構成されているために逆に名前を挙げ辛かったSSも
あったりします。
 過去ログを読んでいる内に、第一回第二回の試行錯誤な辺りも思い返されました。
28qsa氏のキャラが今よりくだけた感じだったことも面白かったですね。今まで一年間、
本当にありがとうございました。そしてHMX氏、これから宜しくお願いいたします。
549 :03/03/31 15:09 ID:xH+7YScr
【告知】

現在、葉鍵的 SS コンペスレは投稿期間を終え、感想期間に入っています。
今回投稿された作品の一覧は >>482 となっています。

感想期間は明日の午前 8:00 までとなっていますので、
まだの方はお早めにお願いいたします。
550533-534:03/03/31 17:16 ID:EZM5EXRx
「このSSは意図がわからない」という意見多数だったので、
先にこれを取り上げて、自分なりに受け取った意図とともに感想を書いてみます。

>>360-381 名前(浩平・みさき)

ちょっとしたこと、その時は気にも留めなかったこと、
だが実はそれが後に大きな悲劇を呼び、取り返しがつかなくなってしまう……
そういう悲劇を描こうとしたのだと思う。
ほんのちょっとした照れで「名前で呼ぶ」ことを躊躇していたせいで、
後にそれが永遠に叶わなくなってしまうという悲劇。
誰にも罪はないのに、運命の残酷さ、みたいな。

例えば、「明日はお弁当作ってあげて食べさせてよっかな。あいつの夢だった
みたいだし。でも明日じゃ急だから、本人に明日直接リクエスト聞いてからにしよっと。
キキーッガシャン。でもあいつは次の日交通事故で死んでしまった。
あたしのほんの少しの躊躇で、あいつにお弁当食べさせてあげることは
もう永遠にできなくなっちゃったんだ──」みたいな。
ちょっと違うけど痕の千鶴トルゥーENDラスト(耕一の回想)とかも近いかもしれません。
551名無しさんだよもん:03/03/31 17:17 ID:EZM5EXRx

このネタ、個人的にはいいと思う。
けど、やっぱり最終レス5行で前向きに転換できるような小さいネタじゃないよ、これって(w
それにキャラを理不尽に(天の配剤なんですが)傷つける話だから、
その時点で読み手(キャラが好きなこと人たち)に抵抗感や反感を持たれがちだし。
現実の運命は時に残酷なのは事実だが、
「お話」の中ではやはり、ストーリー構成の中で読者をすとんと納得させて欲しいのも人情。
(「因果応報」なんかも、そういう求めに応じて多用されてるんだよね。「お話」では)

自分がこのネタを思い付いてSS書くとしたら……う〜む、「悲劇」がテーマであることを
際立たせるために、も少し短くして、ラストも「もう名前が聞こえない」その瞬間で
終わらせるか……バスの黒煙と熱風を背中に感じながら、もう届かない名前を
涙とともに大声で呼び続ける祐一、終わり、みたいな。これでも読者受けは辛いかな〜。
このネタはネタとして、それを、読者を納得させられる別のプロットに
組み込む「ネタ」として使用するのがいいのかもしれない……

でも、文章力、構成力と、キャラに対する思い入れも(自分は)感じるし、
力作で、書き手さんに力量を感じるのは間違いないところですよ。
事故シーンも迫力あったしね。
前回の感想には「不幸もの書くならもっと説得力を」「不幸もの書くならまずその不幸を
目の前で凄惨に無惨に描き切ってみればあ?」という意見があった。(個人的に後者は挑発っぽく感じたが)
ひょっとしてそれに対する解答なのかとも思ったが、
より高い評価、より多い読者の感動を得たいなら、
力の入れ所はそこじゃなかったのかも…とも思った。

>>372、13レス目「併発」は病気にしか使わないのでは。
>>368、9レス目の最後の行、>>381の20レス目4行目はちょっといやな感じが。
>>381 ひょとして、やっちゃってるんだろうか。無理、いや、それは無理。この重症で。
552名無しさんだよもん:03/03/31 18:04 ID:xH+7YScr
◆HMX73059.I氏いますか? そろそろ次スレを用意したほうがいいと思うのですが。
553名無しさんだよもん:03/03/31 18:52 ID:2PCba59b
Cafestaは、日本初のコミュニケーションポータルサイト
無料会員登録で、もれなく商品券が貰えるキャンペーン実施中!!
http://camellia16.%66c2web.com/cafesta.html
554名無しさんだよもん:03/03/31 19:19 ID:SO/dq+p2

同意。感想期間中に500KB超えそうなので、そろそろ次スレの準備よろ。

>543
>最後の耳写真を本物の犬の物にしてみたりすると浩之の変態度が際立って
>いいかもしれません。

いくらなんでも、そんな変態は聞いたことがありません(w
555533-534:03/03/31 22:00 ID:k3bi5tF8
感想、続き。

>>409-423 壁に耳あり(梓)

下げ物シートって言葉があるのか……覚えとこうかなあ。

誤植。>>417 > 考えられ可能性は >>421 > あたしはハットして、
>>412 > 耕一が手に持っていたホークを

>今から15スレ投下します
どうでもいいけど、このあとどんな大変なことになるんだろうと(w

痕は、耕一があっさり姉妹どんぶりしちゃうSSがほんとに多いね(w
これは痕ファンの人たちにはデフォで、共通認識なのかな。
プロパーの痕ファンじゃない自分は個人的にはひくけど。

事件が起こっていることによって生じた周囲の様々な結の描写がいいね。
楓の部屋で喘ぎ声がした翌朝は、その隣の初音も寝不足、とかそういうところ。
シャーペンとかオナニーとか繰り返しのギャグもいい。毎回折られるシャーペン、
それ自体に小ネタを仕込むと、もう一つ笑いが取れるかも。小技ですが。

エロSSじゃないから、最初の梓のオナニー描写は省いて、その分短くしてもいいかな。
エロも狙うなら、毎晩梓が違ったオナニーをするとか、エスカレートしていくとかいう手も
あるだろうね(w

狙いはいいから、あとはそこへどう運んでいくかっていう技術的な問題だろうなあ。
ラストが不評だけど、個人的にはこういう破綻や崩壊、カタストロフで終わりそうな話は
ここで締めっていうのも、常道のひとつだと思うけどね、俺は。
556名無しさんだよもん:03/03/31 22:00 ID:k3bi5tF8
>>401-405 めぐりくる春(痕)

>>402の最後あたり、会話文と地の文のリズムが気になる。つっかかるような…。
>>403の最後も、説明っぽくて、わかるけど、もう少し他の書き方も考えて欲しかった。

ああ、こちらはでも、失恋したらさっぱりとあきらめて他の相手を探す痕SSだな。
ハーレムもネタとして十分アリだと思うけど、個人的にはこういう前向きなやつが好み。

短いのはいい。その中で描きたいことも描けてると思うし。
文章も達者だし。だが、味のあるところと説明くさいところがそれぞれあり、一長一短。
でも「短いね」で終わっちゃうというか、読後感はやはり食いたりないんだな。
5レスでも人を感動させる作品はあると思うから、
難しいと思うけどさらにその高みまで頑張って欲しい。


>>384-398 こんなふたりですけれど(浩之・綾香)

誤植はないけど、>>389の回想から現在への文章のつながりが良くない。

文章は、上手いね。一人称だけど、キャラがそれらしいし、読みやすいし。
ラストの締めなんかも小技がきいてる。
ただ、長いとは思ったな。苦痛じゃなかったけど。
起伏がしっかりしてるともっと面白くなると思ったけど、
でも、お昼寝マターリから逆レイプへの流れとかはワロタし。

おお。エロエロSS……と思ったら、違うのかな。後半のいちゃいちゃがメイン?
いや、前半からいちゃいちゃはしてるか。
後半もエロければ素直に「エロいー」って読後感で終わったんだけどね。
557 ◆HMX73059.I :03/04/01 00:34 ID:ATlZ1sw8
今回の作品をHPの方にアップしました。
作業が遅れましたことをお詫びいたします。

>>514
今回は前回までに近い形にしております。
次回からどうするか等は、いくらか考えはありますが、総括期間になってからということで。

>>515
修正しておきました。

>>490 >>549
ありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願い致します(w

>>552
とりあえず
ttp://sscompe.tripod.co.jp/temp.txt
に用意してみました。新スレ立ては感想期間終了後を想定してます。
558533-534:03/04/01 00:59 ID:Vyg1uOrE
>新スレ立ては感想期間終了後を想定してます。

む。このあと自分と、あともう一人ぐらい全感想付けたら
容量的にやばいかな〜と思ったんですが、大丈夫かな。
559 ◆HMX73059.I :03/04/01 01:22 ID:ATlZ1sw8
>>558
締切間際に気合いの入った全感想が来るのは大歓迎だと思います。
とりあえずその時用に
ttp://sscompe.tripod.co.jp/temp2.txt
を用意してみました。
560名無しさんだよもん:03/04/01 05:41 ID:ka+VP+t0
『シンデレラはもういない』 >>313-329
……なんというか、文章技法がいささか暴走してるって印象を抱いてしまった。

・構成力の高さ
・マリーゴールドなどの小道具の使い方
・印象的なフレーズの挿入の遣り口(『――そして、シンデレラは妖精の魔法を待つ』みたいな)
・作者の世界把握の確かさ(3レス目みたいなカーテンからの木漏れ日や葉擦れのざわめきを
 きちんと感じとり、描写するのは案外簡単じゃない)

その他いくつもの技巧は、たしかに見事としか言えないが……。

優れた技術ゆえに、書き方にある種の初々しさが欠けてしまっている気がする。
そして、このSSが登場人物として選んだのは、熱愛の只中にいる初々しい恋人たち。
その二者の乖離に激しい違和感と反発を覚えてしまった、というのが本音。

あと16レス目は、雫の太田さんの例の台詞から狂気を連想してしまってちょっと、ね。
『僕と、僕らの夏』や『サフィズムの舷窓』ではこの手の萌え長広舌が印象深かったが、
あれらは声優の演技力が群を抜いていたり、途中に適度に合いの手が入ってたりしてたが。
それと同じことを声も句読点もまともな改行も無しでやられると、のろけ話の甘やかさより先に
かつての筒井康隆みたいな狂いっぷりを思いだす。たとえは悪いが『読者罵倒』とかさ。

まあ、俺のような感じ方はたぶん少数派だと思うので、別に気にする必要もないかもだが。
561名無しさんだよもん:03/04/01 05:41 ID:ka+VP+t0
『名前』 >>360-381
路線バスってさ、現実では案外事故起こさないものじゃないかな。
バスの運転手は、車の運転で飯を食っているプロだし、
多人数の乗客の命を預かっている身だから、安全にはことのほか気を使う。
会社側もそのあたり神経質だろうし(事故ったら賠償金の問題とか色々生じる)。
さらにいえば、単なる営利企業ではなく地域社会と密着している商売だから、
行政からのチェックも時に入ったり。まあ重箱の隅だが。

以下本題。
前回・前々回コンペの事故がらみSSと同じ書き手なのかはわからないが、
それらのSSよりも、「逃げ」の印象が相当に薄くなっている。なくなったわけじゃないが。
(書き手が別人だったなら、比較してしまって済まない)
なぜそう感じたのかというと、主な理由はふたつ。

・事故った現場での浩平とみさき先輩の言動を、きちんと書こうとしている。
・以前の諸作品に比べて、ラストをあまりきれいごとにまとめていない。

だが不満点もある。もっとも首をひねったのは、この点。

・先輩の陥った悲劇の重さに比して、浩平の取り乱しっぷりがまだ足りない。
・特に事故シーンにおいて、作品世界に流れる空気が十分に描写できてない
 ガソリンが揮発する臭気、運転手の肉や髪が焦げる悪臭、骨折時に覚える麻痺や脂汗など。

「ラストを放りっぱなしにするな」って感想がいくつかあったが、
俺はこのままでも悪くないと思うね。救いや希望や未来へ向かっての努力なんてものを
むりにつけくわえてほしいとも思わない。十代の少年少女にそんなものが持てるのかも判らないし。
ただ、ラストに至るまでの描写に、この展開にふさわしいだけの重みが足りず、
それゆえに感想人に「作者の意図が見えない」と文句をぶつけられている気はする。
562 ◆HMX73059.I :03/04/01 08:00 ID:ATlZ1sw8
【告知】

ただ今をもちまして、感想期間を終了させていただきます。
投稿された書き手の皆さん、感想をつけてくださった読み手の皆さん、
そして生温かく見守ってくれていた ROM の皆さん、どうもご苦労様でした。

引き続きこのスレでは、今回の運営への意見、書き手の挨拶、
次々回のテーマの決定などを行いたいと思います。

上記のものやそれ以外にも意見が何かありましたら、書きこんでください。

※次回のテーマは『桜』に決定しており、開催時期は4月上旬〜下旬になる予定です。
※今回決めるのは次々回のテーマです。お間違いのないように。
563 ◆HMX73059.I :03/04/01 08:11 ID:ATlZ1sw8
というわけで、新スレを立てて移行しようと思ったのですが、
ウチのホストでは今回はスレ立てできないようです。
申し訳ありませんが、どなたかお願いできませんでしょうか?
テンプレは
ttp://sscompe.tripod.co.jp/temp.txt
に用意してあります。


>>561
さらに重箱の隅ですが、自分の地元の路線バス会社、日本最大級の規模なんですけど、
数年前「15日(だっけ?)連続事故記録」かなんか達成してました(w
564 ◆DIkaNSOFOg :03/04/01 08:37 ID:hdNAdxwW
了解。スレ立てます。
565 ◆DIkaNSOFOg :03/04/01 08:44 ID:hdNAdxwW
葉鍵的 SS コンペスレ 8
http://wow.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1049154107/
立てますた。
566474:03/04/01 11:47 ID:qOZiNges
おつー、結局期間内に読めなかったよ。
567名無しさんだよもん:03/04/01 12:37 ID:IXHi6pWr
まずは新スレおめ。
今回は内容が濃かったね。これからもこういう感じでいきたいものです。

総括期間だし、無粋を承知で細かいことを指摘。

>>520
一応コテばれに類することなので、次からは総括期間まで我慢された方がよろしいかと。

>>561
作品の書き手を類推して評価するのはスレの主旨に反します。
想像するのは構わないと思いますが口にしない方がよいのでは。


失礼しました。
568名無しさんだよもん:03/04/01 21:14 ID:dWs5Rm4U
>567
感想書きのコテバレは関係ないだろ。。。
569名無しさんだよもん:03/04/01 21:59 ID:VLIwvOlf
うむ。関係あるのは作者さんだけです。
570名無しさんだよもん:03/04/01 22:18 ID:PzlEhOuN
>>520
>あと、>477
という部分は、
「自分は『柏木家の夜』を書きました」
といってるようなものだと思うのですが。
571名無しさんだよもん:03/04/01 22:24 ID:ijhsIznF
そろそろ移動しましょうや

>570
それは477(の絵)に対しての感想だと思われ
「肝心の耳の部分が切れてるじゃん!」って
572名無しさんだよもん:03/04/01 22:27 ID:PzlEhOuN
なるほど。勘違いしますた。
573名無しくん、、、好きです。。。:03/04/02 01:26 ID:egGganxR
わ。誤解を招く表現があったことをお詫びします。

私としては、>571さんが指摘されたとおりの意図で書いたつもりでした。フォローありがとうです。
が、確かに>570さんのように解釈されるのも当然の文章でしたね。
次から気をつけます。


>530
書いたものの投稿されませんでした。
あまり上手くない出来でしたし、同じ回に他の(より自信のあった)SSを投稿したこともあって。

……ま、自信どおりの評価がいただけるとは必ずしも限らないんですけどねー。
574名無しさんだよもん:03/04/07 15:23 ID:L9QyKWO7



激エロ美少女の排便、排尿、大量浣腸(無修正)
http://www.prettyhips.net/yukari/
575名無しさんだよもん:03/04/09 18:07 ID:H9eViZGC
      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      |    http://www.media-0.com/www/dvd01/index1.htm
       レヽ__ムラさん白石ひとみだね__________________
   ∧_∧        ∧_∧    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (  ・∀) / ̄ヽ  (´Д`; ) < http://www.media-0.com/www/dvd01/index1.htm
   (   `つ 日 凸 ( つ つヽ  \___堤さやかもいいかも__________
   (_ ⌒./   凵ヽ | | | |ヽ.凸|   |
   「  (_/Y     ヽ _(__) | |\|   |
jh
576 :03/04/12 02:24 ID:lwL+zQ+Z
577名無しさんだよもん:03/04/13 21:11 ID:BOmBb4mb
578名無しさんだよもん:03/04/15 00:56 ID:N3l4IDiA
めんて
579山崎渉
(^^)
24.237.68.63 , 63-68-237-24.gci.net , ?