「ぶっ! ……なっ、男娼!?」
「そう。興味ない?」
「げほっ、ごほっ……あ、あんた、意味わかってるの!?」
詩子の口から出た思いもかけない単語に、思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまうところだった。
この子はそんなあたしを見ても微笑んだまま眉ひとつ動かさない。
わが友人ながらたいした女だと思う。
「何でいきなり……詩子、そんなに男に困ってたの?」
「あはは、違うわよ。私は全然興味ないし」
久しぶりのオフ。
友人の詩子と買い物をした帰りに喫茶店でお茶をしていたんだけど、その彼女がいきなりとんでもな いことを言い出した。
「あ、別に留美に男娼になれって言ってる訳じゃないからね」
「当たり前でしょ……冗談でも怒るわよ」
この子は柚木詩子。
高校時代にちょっとしたことで知り合いになり、それ以後友達として時々会っている。
いい子なんだけど、どうも少し限度を知らないというか、冗談がきつすぎるというか。
下手に乗せられるとあとで取り返しのつかないことになったりする。
とにかく困った子なのだ。
「留美、折原君と長森さんがちゃんと付き合いだしてから、なんだか元気がなかったじゃない」
それでいて見るとこ見てたりする。
やな感じにあなどれない女なのよね。
582 :
581:03/05/26 14:02 ID:Shh1Gc9r
「……ほっといてよ」
「だからたまには発散させるのもいいかと思ってね。結構イイ男が揃ってるらしいよ?」
折原の馬鹿が瑞佳と付き合いだしたのは、あたしが詩子と知り合ってしばらくたってからだった。
どうでもいいことだったはずなんだけど。
何事もなかったかのようにからかってくる折原に、あたしは一度、耐えられなくなって本気で怒ってしまった。
それからはちょっと微妙な距離が開いてしまって、結局ぎすぎすしたまま卒業し、就職して今に至っている。
瑞佳は今でも友達として会ってる。誰にでもやさしい、とってもいい子だ。
でも時々、そういうところに息が詰まりそうになる時がある。
詩子はそんなあたしをよく見ていたみたいだ。
「余計なお世話。大体、なんだってそんなホスト遊びなんて」
「ちがうちがう。『男娼』。ホスト遊びみたいに貢いだりするのとは別よ。完全にこっちが優位なの」
「ふぅん……」
なんだか盛り上がってる詩子に生返事を返す。
あたしだってそりゃ、ぜんぜん男に興味がないわけじゃない。
でもやっぱり初めては好きな人と……なんて女の子らしく思ってたりもするのだ。
……柄じゃない、かな……
583 :
581:03/05/26 14:03 ID:Shh1Gc9r
「でさ、留美も知ってるでしょ? 葉鍵楼」
「え? でもあそこって……」
詩子が口にしたのは、ほとんど国にも公認になっている、この辺だけでなく全国的にも有名な高級娼館の名前だった。
噂では、凄い美人の女主人が一代で築き上げたとかなんとか。
建物の古めかしさともあいまって、いわくつきの場所としてこの辺住んでいる人も近寄りがたい場所となっていた。
「男の人が……その……しに行くところじゃないの?」
「普通はそうなんだけどね」
詩子はあたしの肩をつかんで引き寄せると、辺りに聞こえないように耳打ちしてきた。
「ここだけの話なんだけど、そこに別館があるらしいのよ」
吐息の熱さが感じられるぐらい耳の近くで囁く。
この子が周囲を気にするなんてよっぽどのことなんだろう。あたしは話の内容より、むしろそっちのほうが驚きだった。
「会員制だし、口コミでしか伝わらないから知ってる人は少ないけどね」
「ちょっと待ってよ。そもそもそんな高いところ、あたしが行けるわけないじゃない。……行く気もないけど」
しまった。余計なことを付け足してしまったせいで、なんだか取り繕っているような感じになってしまった。
案の定、詩子が少しだけ身体を離していやーな目でこっちを見ている。
「ほうほう、留美さんは料金がご心配ですか」
584 :
581:03/05/26 14:04 ID:Shh1Gc9r
にやにやと、いたずらっぽくこっちを見る詩子の目は、なんだかセクハラ親父みたいでちょっと嫌だ。
この子の中では、あたしはもう興味津々という事になっているんだろう。
そういう子だ。
「でも大丈夫。紹介状があれば格安で済むらしいよ」
そういってハンドバッグから一通の封筒を取り出して見せる。
ちょっと古風で高そうな封筒。確認するまでもないだろうけど、それが紹介状ってやつなんだろう。
「紹介状って、なんでそんなもの詩子が持ってるのよ」
「ある人から貰ったのよ。あたしと留美、それから茜の分もね」
「あたしと里村さんも? どういうこと?」
「さあ? その人の話だと、なんか、なにかで選ばれたらしいよ」
「選ばれたって……」
眉唾な話。
一昔前に流行った「あなたは選ばれました!」っていうダイレクトメールみたいなものだろうか。
手当たり次第に発送してて、抽選とか言って全部当たりなあれ。
「まあ、試しに行ってみてもいいんじゃないかな。留美もいい加減男を知ってもいい頃だし」
余計なお世話、ってさっきほど流暢に言うことが出来なかった。
……もう二十歳なのよね、あたし。
やっぱり興味はあるわけで、いい男が揃ってるなんて聞くとちょっと心が揺らぐわけで。
「……ちょっと試しに覗くだけよ?」
だからそんな嬉しそうに笑うなー。
「大丈夫大丈夫。折原君には黙っておくから」
それも余計なお世話……もう突っ込むのも疲れちゃった。
「じゃあこれ、留美の分。あたしは興味ないんだけどねー」
その紹介状は、見た目の薄さに比べるとずいぶんと重い。
きっといい紙を使っているんだろうな、なんて思ってたら。
「もっと艶っぽい、いい女になって帰ってきてね」
ちゅっ
「……んなっ!?」
すっとあたしに顔を寄せた詩子は、いきなりあたしの頬に唇をつけた。
「んふふー。ごちそうさま。じゃあねー」
こっちが講義するまもなく、とっとと席を立って行ってしまった。
ハンドバッグを振りまわしながら、嬉しそうにスキップなんてしてる。
「あの噂、もしかして本当なの……?」
去って行く詩子の後姿を見つめていたら、ふと噂を思い出した。
あの子が里村さんとそういう関係にあるって噂。
前に折原から聞いて、今までまさか、と思っていたんだけど。
「うう、ちょっと身の危険……」
そして呆然とキスされた頬を押さえていたあたしの目の前には、詩子が頼んだ紅茶とケーキの分が未払いの伝票だけが残されていた。
……ほんと、あなどれないわ。
586 :
↑:03/05/26 14:08 ID:Shh1Gc9r
>こっちが講義するまもなく、とっとと席を立って行ってしまった。
講義じゃないや、抗議だ。シッパイ。
実にイイ
新境地だ
あー俺駄目だ、詩子と七瀬が友人な時点でまともに見れない。
作中でつく嘘は一個だけにして欲しい。
>>589 藻前はこのスレにいる必要性がないと思われ。
とっととログ消してカエレ!!
>589
嫌SSスレで思い切り愚痴るが良い。
おかしなやつ……
舞台設定がONEまんまで、詩子と七瀬が友人だったら、嘘一個だから平気なのか?
そもそも、作中で嘘一つだけはついていいの意味を、額面通りに受け取りすぎだな。
世界観前提の嘘の中に両者とも含まれるから、なんの問題もないのだが。
文章を文章通りにしか読めない香具師って嫌SSスレにたまにいるねえ。
他のレスが結構面白いのに、急に冷めちまうみたいなの。
アンアンだけのエロSSみたいなもんか?
>593
エロゲー的なエロの方が好きだが、
ここはエロ風味の話を楽しむスレだとおもてた。
葉鍵キャラが男娼にメロメロにされるのいいなあ。
昔のAVで逆ソープ天国ってあったんだけど、かなり好きだったし。
うおおお、葉鍵野楼がついに・・
597 :
581:03/05/28 00:17 ID:F6jmdz1c
風俗スレからこっちに来て、スレが行き詰まってたみたいだったからネタ振ってみた。
葉鍵楼別館とか百合系なんて設定もいいかなーって思ったんだけど。
SS書き達の食指をそそらせる事が出来たかどうか。
桜は散った、か…
599 :
名無しさんだよもん:03/05/30 17:04 ID:R6XUkuP/
春頃にまた咲きますよ
600 :
_:03/05/30 17:05 ID:igRf3QLO
601 :
ももえ:03/05/30 20:49 ID:w+MjKosy
書きたいのだが時間無い…
書く意志がある人がいるだけでも有り難い
郁未のSS希望でス…
605 :
名無しさんだよもん:03/06/02 13:59 ID:EfNZVx0X
:長谷部悠作 ◆QaQ4.DcHqQ :03/05/26 20:58 ID:F1pjJf3b
>>120 長崎にイベントあるのは知ってるけれど、とてもじゃないが行く気にはなれんなw
ヲタ友人で福岡までいってるやつがいるけれど、正直キモイ。
まぁそいつからバンバンエロゲコピーしてもらってるからどうでもいいけれどねww
長谷部悠作 ◆QaQ4.DcHqQ :03/06/02 19:44 ID:ZdtbHMd8
とりあえず君たちの絵とSSが僕は見てみたいなぁ(´,_ゝ`)プ
僕は論より証拠、な人間なんで。
もちろん俺なんか太刀打ちできないくらい凄いものが並ぶんでしょうね。
まぁここから下は「おぃおぃ、来ないって話じゃなかったのかYO!」
って並ぶんだろうけれどね。
悔しかったら僕の意見にきちんと反対して見せたらどうですか?
ちなみにSSは面白いと今日初めて言われました。
どうやら少しずつ評価はあがってきているらしいです。
あ、絵や文章晒せないやつは俺に文句いうなよ。
だってそんなの
チ キ ン 野 郎 だ か ら な !!(w
長谷部悠作 ◆QaQ4.DcHqQ :03/06/02 20:43 ID:ZdtbHMd8
俺の作品は既に認められてますが何か?
長谷部=風子
608 :
581:03/06/04 00:05 ID:TOLrbOpA
次の週末。
会社が終わり、さあ明日は休みだ、という日の夕方。
紹介状に付いていた簡素な地図を手に、あたしは愛用の赤いminiで町外れの山道を走っていた。
初夏の陽射しもこの時間になるとだいぶやわらいでくる。少し開けた窓から入り込んでくる涼気がうっすらと汗ばんだ肌に心地よかった。
この車を母からもらった時には、折原に「似合わない」といって久しぶりに散々馬鹿にされたことを思い出す。
もちろんぶん殴ってやったけど、今思い出すとあれがそういう気兼ねないやり取りをした最後だった気がする。
親のお古だし故障してばかりのぽんこつで、何度も手放そうとしたけど、結局あたしはこれに二年近く乗り続けていた。
「もしかして留美、もう一度折原君に構ってもらいたいんじゃないの?」
詩子にそんなことを言われて怒ったりもしたけど、あながち間違ってはいないのかもしれない。
609 :
581:03/06/04 00:06 ID:TOLrbOpA
高校時代の話。
折原が瑞佳と付き合いだしてすぐ、あたしも一人の男の子と付き合いだした。
……ううん、付き合おうとした、って言った方がいいのかもしれない。
まだ猫をかぶっていた頃。彼は折原と対照的にとても優しい、一般的に言う「いいひと」だった。
でもその関係は長くは続かなかった。猫をかぶるのに疲れた、ということもあったけど、しばらくしてあたしは彼に言われてしまったのだ。
「七瀬さんって、折原の話ばっかりするよね」
……そんなことない、と、うまく言うことができなかった。
折原と喧嘩したのはその頃。
瑞佳と幸せそうにしているあいつに「彼」とのことをからかわれて、あたしはついに耐えられなくなってしまったのだ。
折原の事を怒鳴りつけ、それからしばらくは本気で無視を決め込んだ。
……怒鳴った時、あたしは何を考えてたのか自分でもわからない。でも多分、あたしはその時泣いていたんだと思う。
優しい人と穏やかに過ごす時間。そんなものは、最初からあたしには似合わないものだったのかもしれない。
結局「彼」との関係は、キスどころか名前で呼ばれることすらないまま自然消滅してしまった。
あたしはそれから猫をかぶることをやめ、遅まきながら剣道部に入部し、インターハイベスト16入りっていう、なんだか半端な成績を残すことになる。
あたしを見るみんなの目は少し変わったけど、前よりも心地よいものになっていた気がした。
ただ折原だけは、喧嘩したことが原因か、単にからかい甲斐がなくなったのかはわからないけど、それまでほど頻繁にちょっかいを出してこなくなっていた。
それから「彼」とは一度も会ってないし、誰とも付き合ってはいない。
折原はあいかわらず瑞佳にべったりだったし、瑞佳も傍目に恥ずかしくなるほどあいつを溺愛していた。
そしてあたしはそんな二人を……
610 :
581:03/06/04 00:07 ID:TOLrbOpA
(何考えてるんだろ、あたし)
はあっ、とひとつ大きなため息をつく。
だめだ。薄暗い山道を一人で走っていると、どうしてもヤなほうに考えが行っちゃう。
これから行く場所が場所だけに、不安になってたのかな。そんな事を思う。
気がつくと陽もかなり落ちていた。窓から入り込む涼気はいつのまにか肌寒いくらいになっていて、あたしの不安を一層掻き立てる。
今走っている道の周りは背の高い木々に覆われていて、少し離れただけで視界が閉ざされるようなところだ。
話には聞いていたけど……街からかなり離れているとはいえ、この辺にこんな場所があったという事実にちょっとびっくりしている。
人の気配なんてもちろんないし、木々が揺れて立てるざわざわという音がエンジン音に混じって聞こえてくる。
(やだなあ。お化けでも出そう)
そんな事を思ってから、とっさに「あたしだって女の子なのよ!」って言葉が浮かんできた。
……うぅ、なんか折原と詩子に洗脳されてるような気がするわ……
気分転換に音楽でも聴こうと思ってステレオに手を伸ばした時、木々の切れ間から「それ」が視界に入ってきた。
(なるほど、あれね)
深い緑の合間から覗く建物の姿は、噂で聞いていたものよりずっと迫力がある。
近づくにつれ少しづつ外観が目に入り、その思っていた以上の威容に圧倒されてしまうほどだった。
(あたし、ほんとにあそこに行くの……?)
自分でもちょっと信じられなくなってきた。
611 :
581:03/06/04 00:10 ID:TOLrbOpA
なだらかな坂を降り、少し低くなっているところに入り口っぽい門があった。
そこは結構開けた場所になっていて、よく見たら高級そうな車が何台かとまっていた。多分駐車場なんだろう。
その門もまるでどこか大きなお寺のようなどっしりとした構えだった。
左右に二本づつある黒くて太い柱。その柱に挟まれるようにして、なにかいかめしい表情の像が左右に配置され、威嚇するようにこちらを見つめている。
門の中央には金色の文字で「葉鍵楼」と大きく書かれ、あたしは道を間違えたわけではない事をようやく実感できた。
そしてその門の前に立ち、ちょっと間抜けなぐらい口をあけながらその時代がかった建物を見上げる。
外見はまさに「楼閣」というのがふさわしかった。
よく手入れされているとわかる漆塗りの柱、さりげなくあしらわれた高級そうな装飾品。
ちょっと意外だったのは、使っている材料や赤っぽい漆塗りの外見にしてはそれほど華美な印象がないってこと。落ち着いた上品な佇まいだと思った。
建物の全体像は周りの木々の陰になっていて、ちょっとうまく把握できない。でも相当大きい建物だということだけはわかる。
こんな山の中によくこれだけのものを造れたな、なんて変に感心してしまった。そんな状態だからこそ別館なんてとんでもないものが秘密にできるのかもしれない。
(でも、なんだか静か過ぎるのよね)
ああいうことをする場所なんだし、こんな大きなお店(?)なんだし、週末の掻き入れ時のはずなのに。
建物からはなんだかほとんど人の気配が感じられない。
街でその手の店の前を通ると、うるさいくらいの呼び込みが男の人を引っ張り込もうと躍起になっているのに。そんな俗なものを思い浮かべたことが失礼に感じられるほど、粛々とした重い空気がこの辺りを支配している。
それはやっぱり「超」がつくほど高級と呼ばれるだけはあるってことなのかな。
ちょっとだけ気後れしちゃって、あたしはしばらくその門前で立ち尽くしてしまった。
くぅ、引くな〜
続きキボン
娘の視点からっていうのが新鮮でいいですねえ
何だろう、凄くワクワクする。
ワクワク
新鮮
617 :
581:03/06/09 10:51 ID:Aks+iRai
気がつくと周りはどんどん暗くなってきちゃってる。
黒い影みたいになった木々は何とも言えない不気味な感じで、風で揺れてさわさわと音を立てる枝はまるでなにか得体の知れない生き物みたい。
ばさばさっ
「わっ!?」
突然、どこか近いところで鳥が飛び立つ羽音がする。カラスかなんかだろうけど、姿が見えないからむやみに気持ちが悪かった。
段々不安になってきたあたしは、ここまで来たくせにもう帰ろうかなんて思い始めていた。
(そうよ。もともと詩子にからかわれたようなものだし。なんだってあたしこんなところまで来ちゃったんだろ)
不安と、乗せられてのこのことこんなところまで来ちゃった自分への情けなさとで、なんだか悲しくなってきた。
(欲求不満……だったのかな、やっぱり)
あたしだって健康な女の子だ。たまには身体の芯が疼く時もあるし、自分を慰める時だってある。
そんな時思い浮かべるのは、見せびらかすようにいちゃついてた、あいつと瑞佳のキスや抱擁。
……駄目だってわかってはいるんだけど。
そういう時、事が終わった後はつくづく自分が嫌になる。
「はあっ」
余計に悲しくなってついため息なんて出しちゃった。
ここに来たのも、未練を断ち切りたかったのかもしれない。
……でも、やっぱりそんな方法は間違っている気がする。
「帰ろ」
今度ははっきりとそう思って、踵を返そうとした時だった。
618 :
581:03/06/09 10:56 ID:Aks+iRai
ぽっ
聞こえるか聞こえないかぐらいの微かな音と共に、視界に橙色の光が入り込んできた。
光りの元を探そうと辺りを見まわすと、門の向こう、本館との間にある石畳の通路の両脇に、たくさんの石燈篭が並んでいるのが目に入る。
そのうちの一つ、一番手前の燈篭に突然火が入っていた。
「わあ……」
最初は一つだけだった明かりは、見ているうちにゆっくりとその数を増していく。そしてついには一番向こう、建物の手前まで全部の燈篭に明かりが灯されていた。
どういう仕組みで灯されたのかわからないけど、暖かい独特の光は自然の火による物みたいだ。
周りにはもちろん電灯なんてない。そのせいで薄暗い燈篭の明かりがやけに明るく感じられた。
この場所を囲むように生い茂る木々にその柔らかな光が届くと、真っ黒な影でしかなかった木々がぼおっと再びその姿を現す。
まるで去っていった何かが帰ってきたかのように、寂しげなこの場所に暖かみが生まれていた。
人気の感じられなかった建物も下から照らされる形になり、薄暗い夜の闇にその大きな身体を誇示する。真っ暗だった窓にも一斉に明かりが灯り、建物全体が息を吹き返したようだった。
まるで今にも覆い被さって来そうな、そんなどこか怖い不思議な美しさ。
なんだかおとぎ話のワンシーンみたいで、とっても綺麗な光景だった。
(綺麗……)
あたしは幻想的なその光景に、思わず帰ろうとしていた事も忘れて魅入られてしまった。
619 :
581:03/06/09 11:00 ID:Aks+iRai
しばらく呆然とその光景を見ていたら、なんとなく小さな違和感を感じた。
なんだろう?
そう思って注意して見渡すと、違和感の元はすぐに見つかった。
燈篭に照らされた通路の奥……建物の入り口のあたりに、人影のようなものが見えたからだ。
(ここの従業員の人かな?)
ここから建物までは少し離れているので、薄暗い灯篭の明かりだけでははっきりと姿が見えない。建物の明かりは逆光になってしまう。
それでもよく目を凝らしてみると、その人影はまだ若い男の人に見えた。
背の高い、黒いタキシードのような服を着た、背の高い男性。
(あれ……?)
ふと、よく見えないはずなのに、彼の目だけがはっきり見えた気がした。
燈篭の光を反射しているのか、その瞳は赤っぽい色をしていて、まるで暗闇で見る猫の目のように輝いている。
その目を見つめていたら、あたしはまるで明かりに誘われる蛾のようにふらふらと彼のほうへ歩いていってしまった。
620 :
581:03/06/09 11:04 ID:Aks+iRai
近づいてよく見ると、やっぱり若い男の人だった。
短く切りそろえた髪、造りの大きな目鼻立ち、その顔に浮かぶ優しげな柔らかい微笑。
独特の野性的な眉毛が目に付く、ちょっとだけ子供っぽさを残した感じのカッコいいお兄さんだった。
あたしが目の前まで来ると、その人は深々と大仰に頭を下げた。
「いらっしゃいませ。私は当館の支配人で、柏木耕一と申します」
よく通る声。顔を上げた彼の目は、さっきみたいに不思議な感じはしなかった。赤っぽく光って見えた瞳はやっぱり光を反射してたのかな。
そんな彼の目を見て、ふとあたしは我に返った。
(……あたし、なんで、いつの間にこんなところまで……
吸い込まれるように門をくぐってからここまで、どうやって歩いたのか全然覚えていない。なんだか夢でも見ていたような気持ちだった。
「七瀬留美さんですね」
狐につままれたような顔をしていると、カシワギさんがまるでお待ちしていましたと言わんばかりにあたしの名前を呼んだ。
621 :
581:03/06/09 11:07 ID:Aks+iRai
またやっちまった。
>>619 誤)背の高い、黒いタキシードのような服を着た、背の高い男性。
正)背の高い、黒いタキシードのような服を着た、がっしりとした体格の男性。
RRどころじゃないねw
期待sage
キタキタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!
同じく期待sage
梅雨に入っても桜が綺麗だ…ここは桃源郷か…?
いえ、それは幻覚です
sag
保守!!
するな!!
なんでさ
630 :
名無しさんだよもん:03/06/16 19:45 ID:UE3MoPT7
?
春高楼の
梅雨の華とくれば紫陽花だろ。
と、意味不明な遅レスで保守してみる。
ホシュしとかんと落ちそうだねえ。
もう
ぬるぽ
ガッ
キテネ━━━━━━(´・ω・`)━━━━━━ !!!!!
まだまだ期待
639 :
581:03/06/22 22:22 ID:sy1Jo/0y
「そうですけど、その、どうしてあたしの名前を?」
あたしはここに来るってことを誰にも話してない。
詩子にだって今日行くなんてことをわざわざ教えたりはしてないのに。
それにまるであたしのことを前から知っていたみたいな口振り……
「中からあなたがいらしているのが見えて、取り急ぎお出迎えにあがりました。紹介状はお手元に届きましたでしょうか?」
カシワギさんはあたしの質問に答える代わりに、貼り付いたような笑みを浮かべたままそう言った。
やっぱりあたしの事を知ってるんだ。つまりあたしは、本当に何かで選ばれたってことみたい。
慌ててポケットから厚めの封筒を取り出す。それをカシワギさんに差し出そうとすると、彼は片手を上げてそれを制した。
「ご本人に届いているのならそれでいいのです。それは、只の通知に過ぎないのですから」
さも当然の事のように言う。
実際、紹介状は簡素な内容だった。あたしの名前と「ぜひお越しください」という意味の文面、それからここまでの簡単な地図。
詩子から貰ったものでなければ、そしてあんまり認めたくないけど全然興味がなかったなら、ダイレクトメールと一緒にごみ箱行きだったと思う。
「別館にお客様がいらっしゃるのは久しぶりのことでございます。今宵は是非とも楽しんでいってください」
カシワギさんはそう言って、音も立てずにあたしに道を開けた。
640 :
581:03/06/22 22:25 ID:sy1Jo/0y
カシワギさんが横にどいたことで、その先にある光景が目に飛びこんできた。
石畳が途切れた先、通路の突き当たりに、これまた大きくて立派な玄関がある。
その開け放たれた扉の奥には広間があり、中央に水墨画で龍の絵が描かれた屏風が飾られているのが印象的だった。
(あれ……?)
その絵を見た瞬間、ふっ、と眩暈に似た感覚にとらわれて、背中を押されたような感じがした。
そしてあたしはその感覚に引っ張られながら、前につんのめるように建物の中へと足を踏み入れていたのだった。
中に入ると、あたしは明るいけど優しい光に包まれていた。
まず驚いたのは、蛍光灯ではなくランプのようなものが沢山備え付けられていて、広間を不思議な暖かい光で照らしていること。ひょっとしたらこの建物、電灯は使ってないのかもしれない。
それからちょっと中国っぽい外観とは違って、内装が意外に和風なことにも驚いた。
木張りの床は顔が映りそうなぐらい磨き上げられているし、奥の廊下には襖が並んでいて、その上の欄間にはなにか猫みたいな動物が彫られているように見える。
広間には屏風のほかに大きな風景画や観葉植物などが飾られてる。壁自体は白っぽいけど、少し橙色の光のせいかどこか暖かみがあった。
外で感じたように押しつぶされそうな威圧的な感覚はなく、むしろ安心する感じがする。
詳しいことはもちろんわからないけど、なんだか高級旅館とか料亭みたいな雰囲気だと思った。
641 :
581:03/06/22 22:32 ID:sy1Jo/0y
「お気に召していただけたでしょうか」
唐突に後ろから掛かるカシワギさんの声。
気に入るというより……場違いな気がしちゃったわよ。
「それではさっそく係の者に案内させます。
おーい、初音ちゃーん」
「あ……!」
あたしが動揺……というか緊張して何も言えないでいるうちに、カシワギさんが奥の誰かに向かって呼びかけていた。
その声はなんだか慇懃な第一印象とはかけ離れた、ちょっと優しそうな安心する声で。
ひょっとしてこっちがこの人の地なのかな、なんて思ったりした。
(……っと、なんかもう帰るなんて言い出し辛くなっちゃったわね)
なんだかここの雰囲気に呑まれているうちに、いつのまにか引き返せないことになっちゃってるっぽい。
(まあいっか。乙女は度胸よ。せっかく来たんだから楽しんであげようじゃない)
お金のこととかどんなことをするのかとかどうしてあたしが選ばれたのかとか、聞きたいことはいっぱいある。
(きっとなんとかなるわよ。何せあたしは選ばれたのよ?)
ちょっとヤケクソ気味に開き直ると、あたしは高校時代に剣道の試合の前によくやったように、軽く頬を叩いて覚悟を決めた。
……うぅ、でもやっぱり心細いよぅ……
こんなもんで七瀬はバージン捨てんのかな・・・
とはいえ客側にまで魔法再生みたいなご都合主義かまされるのもなんだが。
もう、女の子側の心理を上手く書ける人だということを望むだけだな。
七瀬の根は初体験相手とか気にしちゃう方だと思うんだが。
かといって、ここで失恋相手のコピーが出てくるのもどうかと思うけどな。
確かに先の展開を必死に潰そうとしているレスですな。
んなもん最終的にエロけりゃいいんすよ、エロけりゃ。
そんな風に後先考えないでいるから荒れてこんなになったんだろうに
まだ終ってないのに後先を考えるというのもどうなんだか。
それに荒れた理由は、文句言うだけでネタもSSも落とさないヤシが増えたからだろ。
>>642 魔法再生とかコピーとか、意味がわからないんだけど。
七瀬の根が云々は同意。
>>645 お、潰しに来た人必死ですね?
後先を考える、と言うのと、書き込んでいる人の邪魔をする、と言うのは
根本的に違うわけですが、そのくらいは理解した方がいいですよ。
第一、今荒らしに来ているのは他ならぬあ・な・た。
黙って書き上がりを待って感想なり批評なりってのが大人の態度ではないですかねぇ?
荒らすのなら書いたあとの方が楽だろ(w
モノさえ書かれてしまえばあとは書き手なんざ用済みなわけだし
後はどうとでもしてくれってこった(w
作品が投下されるとひと悶着あるのがここの特徴だな、
まぁそれも期待の現れってことで・・・
次から何事も無かったようにどうぞ↓
(´・д・`) ア?
(´・皿・`) イ!
(´・∀・`) シ☆
(´・U・`) テ♪
655 :
名無しさんだよもん:03/06/24 15:38 ID:rDhc6WSG
(´・_・`) ル…
(´・o・`) ノ?
<丶`∀´>ニダ!
(゚д゚)ポカーン
なんかワラタ
よく生き残ってるなw
ボエ
662 :
名無しさんだよもん:03/06/29 17:49 ID:AiLzoeay
終
663 :
名無しさんだよもん:03/06/29 17:51 ID:yk1jwV+Q
保守。
肌蹴た和服萌え
665 :
名無しさんだよもん:03/07/04 01:07 ID:HfMNQdXk
保守ヽ(`Д´)ノ
666 :
名無しさんだよもん:03/07/05 06:17 ID:qshkczdL
ネタが無いなら1スレ消費すんな。糞スレケテーイ(・∀・)
∀・)つT
J
667 :
名無しさんだよもん:03/07/05 06:53 ID:Ty2/1rQJ
いつまでも保守保守保守保守保守……………やってられるかー!!
(ノ`Д´)ノ ┫ ゚・∵ ガチャーン!!
670 :
名無しさんだよもん:03/07/08 08:24 ID:9Y4hiliV
>>1から順に見て、SSかっ飛ばして感想だけ見るとその痛さに、笑いと鳥肌がたつ。
過度の作者マンセーカキコが半端じゃなく痛ぇYO!
ドリフが来た時はマジ寒気がたった。これで自意識過剰の長谷部がのこのこときたら最凶だったのにw
この葉鍵板の中で一番痛いスレですなここは( `∀´)y━~~ ゲラゲラ
>>670 ヲチャーのヒエラルキーでも最下層に位置する、『触るヲチャー』のようですな。
ともあれ、
ヲ チ ャ ー は ヲ チ ス レ に 帰 れ
ドリフきてたん?
閉店の時が近づいている…。
さようなら
さようなら
さよおなら
誰かの声が聞えた気がした。
みんなが寝静まった夜
窓から外を見ていると とてもすごい物を見たんだ
みんなは誰も笑いながら 2chの見過ぎと言うけど
ボクは絶対に絶対に 嘘なんて言ってない
常識と言う眼鏡で 僕たちの世界は
のぞけやしないのさ夢を忘れた 萌え人は
私たち極悪非道のアストラルバスターズ。
ネタもないのに、メンテするわよ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
_ _ ノ >>¥<<
, '´ ヽ '´ `´ ヽ . ´ ̄ ヽ
〈 从リハ))〉 !iノリノ)))〉 ! 从ノリ)〉
`(l‐O_0ノ ((∩し^ヮ゚ノァ ノli(! ゚ ‐゚ノ
(( ⊂)水∩ )) ヽ)i水!つ)) ((つ水!つ))
く」」_〉 く/_|〉 くノ_ハ〉
しヽ.) (./し' しヽ.)
そろそろ打ち止めかな
mu
蛍の光が流れてきますた
ん
んんー
圧縮で残りましたな…。
生き残ったのか…
俺がひよまんぐらいストーリーを書ければやるんだが、ただの泥臭いエロ^2しか書けねえ品。
689 :
jo:03/07/21 13:42 ID:Uqx5KK8/
いにしえの『或る名無し ◆MaKoP/qBSE』との盟約に基づき、SSを投下させてもらいます。
登場人物 楓 初音 耕一
合計 2スレ
初音は部屋に入った瞬間、異臭と惨状に思わず足を止めた。
部屋は八畳ほどで床はタイル張りになっており、奥に湯船が、手前はマットプレイが出来るようになっている。
安っぽいピンク色のマットの上には、ロープで拘束された初音の姉、楓が失神していた。
浣腸をされたらしく、お尻の辺りから大量の茶色い排泄物が床に広がり、性器からは白濁の汁を垂れ流していた。
初音は一瞬たじろいだが、すぐに部屋の中に足を進め掃除を始めた。
まず、姉を拘束しているロープをほどき、シャワーで汚物を洗い流した。
続いて、使いきりビデ(膣内洗浄器)を姉の中にゆっくりと差し込む。ポンプになっている部分を押すと、洗浄液と共
にドロリとした精液が膣口から吹き出した。
「……ん……」
異物を差し込まれた不快感からか、閉じていた楓の瞼がピクリと動いた。
「大丈夫? 楓お姉ちゃん」
「………え……」
まだ意識がはっきりとしないのか、視線が宙を彷徨った。
「あれ……、私……お客様を相手にしていた筈じゃ……」
「お客さんなら、もう帰ったよ」
「え………ええっ!!」
「一応、満足していたみたいだよ、楓お姉ちゃん」
仕事を最後までこなせなかった責任感からか、楓はバツの悪い表情を顔に浮かべた。
「最近、気合いが足りないんじゃないか。楓ちゃん」
楓は不意に聞こえてきた男の声に、ビクリと体を硬直した。
「耕一お兄ちゃん……」
見ると、葉鍵楼の支配人である耕一が、扉からこちらを覗いていた。
「接客中に気を失うとは、仕事に責任感を持ってくれなきゃ困るよ」
耕一は突き放すように、冷たい口調で言い放った。
「そんな、ひどいよ耕一お兄ちゃん!! 楓お姉ちゃんは、がんばって…」
楓はすっと腕を上げ、自分を養護する初音に『黙れ』と指で合図をした。
「確かに、気合いが足りないかもしれません」
上半身をゆっくりマットから起こしながら楓は答えた。
「そうだね、楓ちゃん。最近たるんでいると思わないかい?」
「はい。最近たるんでいる思います」
「接客中に失神するようでは、困ると思うかい?」
「はい。こんな事ではいけないと思います」
耕一は、ふむと顎にをさすりながら頷いた。
「楓ちゃん、君を調教し直す必要があるね」
「はい。耕一さんに、調教……される必要があると思います」
「わかった。あとで俺の部屋に来なさい。二度と失神などしないよう鍛え直してあげる」
「はい……」
楓は去りゆく耕一の背中をうっとりとした熱い眼差しで見送った。体はすでにピンク色に上気していた。
初音はこれから行う痴態を想像し、顔を赤くする反面、姉に対し嫉妬している自分に戸惑いを覚えた。
692 :
jo:03/07/21 13:56 ID:Uqx5KK8/
以上、『アイのかたち』でした。
693 :
jo:03/07/21 14:09 ID:Uqx5KK8/
本来の形式(客とキャラが寝る)とは別に、事が終わった後を書いてみました。
変化球ではありますが、こういう裏方的なものが個人的に好きなもので(^^;
おお、ひさかたぶりにSSが・・
イイなぁ
久々の作品乙!
耕一のキャラが違うような気がするが、これはこれで。
696 :
名無しさんだよもん:03/07/23 01:07 ID:WGioTOS0
( ̄ー ̄)y━・~~~
保守
メンテ
維持
700
701 :
名無しさんだよもん:03/07/31 15:49 ID:amuFFeYr
上げてやる
702 :
名無しさんだよもん:03/07/31 22:57 ID:4pTsfBEk
……保守…ってもイイのだろうか?
705
いいかげん静かに眠らせてあげようよ……
保守
709 :
名無しさんだよもん:03/08/06 23:33 ID:U4nWddxG
おとしちゃだめだろこのスレは・・・つーわけでage
710 :
名無しさんだよもん:03/08/06 23:35 ID:SqF1oUdJ
風俗スレで連載SS落としていたものですが。
やっぱり葉鍵楼ネタじゃないと落としちゃダメですよね。
一時期姉妹スレっぽかったので、関係なくはないのかなぁ、と思ったのですが。
>>712 過去ログ見れば解ると思うけど、そっちは嫌だという人も居たからね。
微妙かも。
ここで荒れるともうアウトだし・・・
いや・・・とっくにアウトでいまさらか(w
最後のロウソクのきらめきになるのもいいかもね。